第二次世界大戦でティーガーの車長だったけど質問ある?(没年:1944年) (味噌帝国)
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原作開始前
第一話:私を戦車で連れてって
娘は。私の一人娘は。いつから壊れてしまったのだろうか。
私は娘に言った。「戦争は、愚かだ。こちらが血を流して得るのは血塗れた領土と、悪評と、拭えない禍根だけだ」
「皆、ヒトラーが醸造し、我々が熟成させたワインに酔っているだけだ。酔いは直に醒める。賢いお前なら分かるだろう? 千年帝国など、夢のまた夢だと」
娘はドイツ軍の所属だった。本来であれば私のやっている事は自殺に近かったのだろう。戦争に否定的な親が子に売られるなんて、当時はよくあった事だった。
だが、娘はこう答えた。「確かに、そうだ。私は酔っているに違いないだろうね。但しそれは、生来のものさ。私は富にも、千年帝国の栄光にも、ヒトラーにも酔ってはいない」
そして娘は笑顔でこう言った。
「私は、どうしようもないくらいに戦車が大好きなんだ」
何故━━娘は平和な、それこそ戦争が過去となった時代に生まれてくれなかったのか。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
私がなぜこの世界に転生したかは分からないが、やるべき事は、人生を楽しむ事だと分かっていた。
前の人生は、今思えば酷く退屈だった。何となく皆と同じように過ごして、勉強して、就職して。そうした苦労の先には幸福が待ち受けていると信じていた。
しかし私は何も得られなかった。最期は地下鉄のホームで突き飛ばされて、それで終わった。25歳だった。理由なんて大して無かったのだろう。誰かのストレスの捌け口として死んだのだ。
私は前世で得られなかった充実を、戦車に求めた。
実に━━実に奇妙な事だが、この世界は、戦車を運転するのは、女性が当たり前なのだ。
銃をとり、脚を使い、地を駆ける栄えある戦士が男。
鋼鉄の獣を操り、男達を支援する頼もしい存在が女。
男女それぞれの役割が、お互いを支えあっていた。歩兵は機関銃を積んだ戦車が怖いし、戦車は爆弾を抱えた歩兵が怖い。互いが互いを必要としていた。別にフェミニストになった覚えは無いが、前の世界よりは女性の立場が強いのは単純に嬉しかった。
戦車に惹かれた私は、そのまま軍に志願した。1939年、私は23歳だった。
訓練は過酷だったが、優秀な成績を修める事が出来た。私は車長として戦車を指揮するのが得意だった。戦車を操るのは楽しくて仕方が無かった。弾丸を弾いて突き進む様が、キャタピラで塹壕や地面を踏破する様が、主砲で敵陣を粉微塵にする様が、平和な日本に生きていた私にとっては新鮮で、素晴らしい体験に思えた。
いつしか『戦車バカ』の異名が付いたらしい。『戦車バカ』。うん。いい響きじゃないか。
実戦で初めて乗った戦車はⅢ号突撃砲。仲間のドイツ兵に随分信頼されていた戦車だった。
最初の任務はダンケルクだった。ビーチに追い詰められた連合国軍はバリケードなどで抵抗したが、それを吹き飛ばすのが私達戦車部隊の役目だった。
たくさんの敵兵を機関銃で殺したし、何人かは主砲で土嚢ごと粉微塵にするよう指示もした。人を殺したのは初めてだったし、戦車の恐ろしさも知った。
でも仲間達は皆私の功績を賞賛した。その後も敵戦車を破壊する度に歓声が上がったし、私の階級も上がった。
悪くない気分だった。転生という訳の分からない事に巻き込まれた私は、半ばヤケになっていたのかも知れない。
足掛け三年を暴れ回った。各地に転属されたりもして、ソビエトとも戦った。Ⅲ号突撃砲以外にも様々な戦車に乗った。周りからすれば私はベテランだ。ときには小規模な戦車隊を率いる事もあった。
燃え盛る戦車から必死の脱出をしたり、ティーガーに乗って四両のKV-Ⅰ相手に大立ち回りも繰り広げた。数多の死線を潜り抜けてきた私はいつしか敵にも味方にも色々と恐れられた。
だが…………やはり、やはりドイツは負けるのだろう。私は今、歴史の転換点に立っている。
その場所は━━━
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1942年9月5日
「隊長? なに書いてるんですか? 遺書ですか? 隊長らしくもない」
「…………いや、今年見かけたいい男のリストよ。強い人が私の好みなんだけどな~」
「……そんなんだから『残念美人』とか言われるんですよ。戦争で男漁りをする胆力があるのなんて隊長だけです」
「やめろ。その言葉は刺さる……」
パタン、と手帳を閉じた隊長はヘラヘラと笑った。だが私は知っている。隊長がこういう態度を取るのは心に余裕がない時だ。
「……そこまで、この戦場は不味いですか」
「ハッキリ行って底なし沼だよ。ここは」
スターリングラード。それが私達の今いる戦場だ。市街地中心から少し離れた広場に私達は停車している。
「防衛ならともかく、市街に攻め込むのに戦車を持ち込むなんて馬鹿のやる事さ。少し前の味方さんの爆撃やらで街は瓦礫と、穴と、敵さんの掘った地下道だらけだ。いつどこからダイナマイトが降ってくるか分かったもんじゃない」
「……上は何を考えてるのでしょうか」
「知らないさ。多分もう一押しだと思ったんだろーね。……ま、私はそんなにせっかちじゃないからな。一眠りするとするかな」
「ちょっと、隊長! 「おやすみ~」…………はぁ……」
隊長が横になった瞬間にはもう眠っている。「すぐに寝て、あ、ヤバいなと思ったらすぐに起きて行動する」という野生動物みたいな睡眠を隊長はする。
隊長の寝顔はそんな物騒な行動とは裏腹に、クウクウと寝息をたてる様子は、やはり一人の女性だった。『悪魔』『戦車バカ』『鬼才』と恐れられた『レナ・シュヴァルツ大尉』(26歳)は、普段の態度こそ褒められたものでは無いが、車長としての実力とカリスマ性は本物だ。
私━アナ・ベッカーは隊長と一年共に戦車を乗り回しているが、未だに隊長の事を掴みきれずにいた。
子供のように気ままな人に思えて、老人のように経験は豊富で、夫人のように大胆で、淑女のように繊細な人だ。
不思議な人だ、と思う。でも私はこの人がそばに居るから、この戦争を今まで生きられているのだと思う。
スターリングラードは、今は9月。この時は知らなかったが、ソ連は反攻の準備を着々と進めていたのである。
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1942年11月
寒い。
寒すぎる。
ソ連は寒い。ティーガーのエンジンまで凍りそうな寒さだ。うっかりその辺の銃や柱に素手で触ると、指がペッタリとくっついてしまうらしい。手袋は必須だ。
できる範囲で暴れ回った私達だが、敵のゲリラ兵が危険で、迂闊に戦車を動かせない。今ではティーガーが機嫌を損ねないように整備するので精一杯だ。この広場━━なんという名前かは忘れた━━には今憔悴しきったドイツ兵達が身を寄せあっている。
敵さんは外側でバンバン対空砲を撃ってるし、アホみたいにスナイパーが湧いてるし、補給は来ないし、寒いし、敵が多すぎるし……
「…………ねえアナ、遺書はもう書いた?」
「それ戦車の外で言わないで下さいよ。私は10枚書きました。もう暗唱出来ますよ」
「あぁいつも『私の自慢の弟へ』から始まるヤツ?」
「他人の遺書を見ないで下さい!」
横で一緒に整備しているアナの士気はまぁ高い。私の頼れる右腕、という訳だ。操縦士としての技量はピカイチだ。
勿論他にもあと3人、このティーガーの乗員はいる。砲手のエマ、装填手のグレータ、通信士のヘルガだ。今は3人とも外で見張りをしている。
エマは少しのんびりした性格だが、相手の戦車の弱点を的確に穿つエースだ。この間、敵の戦車の砲身に見事命中させた。
グレータは寡黙で、装填手なので当然力持ちだ。装填速度は普通だが、恐るべきはその耐久性。戦闘している最中は全く装填スピードが落ちない。
ヘルガはおしゃべりだが、盗み聞きが上手い。無線を2台用意し、1台を自軍、もう1台を相手の無線の盗聴に使っている。正直な話ヘルガに助けられた場面がいくつもあった。
今まで5人でどんなにヤバい戦場も乗り越えてきた。何十台も戦車を破壊してきた。だから。
━━突然、仲間がいなくなるなんて、考えた事も無かった。
ガルパン要素は薄めですがもう少ししたらちゃんと原作に関わるから許して
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第二話:レナ・シュヴァルツは歪である。
あと言い忘れてましたが主人公はガルパン知りません。死ぬまで戦車の魅力に気づかなかった悲しき乙女です。
1942年11月19日
『北部から敵の戦車部隊! こちらの戦力は不足している! すぐに応援を頼む!』
「おいお前ら! 急げ! ティーガー直してすぐ行くぞ! 畜生、ソ連軍めバカスカ大砲撃ちまくりやがって……」
遂にソ連軍が大規模な反撃を開始した。後にウラヌス作戦と呼ばれるこの戦いに負ければ、ドイツ軍は完全に包囲される。まだ北部からのみだが、時間が経てば恐らく南部からも敵は来るとレナは予想した。
「隊長! 履帯交換完了しました!」
「弾薬の用意完了!」
「追加の装甲も準備完了です!」
レナの記憶が正しければ今北部にいる部隊は対戦車兵器を持っていないし、戦車は38tしか居ないらしい。ソ連の戦車部隊の前にはハッキリ言ってカスである。だが南部にはまだ他の隊の戦車もあると知っていたレナは、取り敢えず北部の支援に行くことに決めた。
「エンジン良し! アナ! 戦車出せ! 多分動く!」
「はい! 『バルルルルルガコッ』…………隊長?」
戦車は少し進んだ後、嫌な音と共に止まった。明らかにエンジントラブルである。
「…………みんな降りろ! 押すんだ!」
「「「「ふざけてる場合ですか!」」」」
何だか締まらない出撃となった。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「隊長? T-34がパッと見100両近くいますよ?」
砲手のエマが報告する。ソ連はこの作戦の為に大量の戦車を割いているのは確かだ。後に分かる事だが、この日ソ連が北部の攻略のために稼働させている戦車はおよそ200両だった。
「だいじょーぶ! 教えた通りにやればティーガーは無敵だ!」
「あれですか? 1対1を100回やれば済むとかそう言うつもりですか?」
エマの冷静なツッコミにより、車内に静寂が訪れる。
「…………よしアナ! 配置に移動する! 遠距離からちまちまやるよ!」
「…………まぁ、二年前の『敵戦車を押して川に落とせ』とかよりはマシか…………」
「マジですかアナさんそんなことあったんですか」
「マジよヘルガ」
ティーガーはゆっくりと移動を開始する。街の外周辺りに、丁度車体下部が隠れるくらいの盛土を作ってあるので、そこに陣取る作戦だ。
砲弾を装填したグレータがポツリと呟いた。
「勝てるでしょうか、私達」
「…………グレータ。勝つとも。生き残れば、それは私達の勝ちだ。どんな負け戦でもね。ずっと私はそうやって戦ってきたさ」
嘘だ。とレナは言ってしまいたかった。スターリングラードのドイツ軍が一体どういう結末を迎えたのか、レナは知っていた。負けたドイツ兵は殺されるか、身一つで極寒の大地に放り出された。
それに生きる為に戦ってきたのでは無い。レナにとって戦争の勝ち負けは関係ないのは確かだが、生き残るのが重要かと言われれば言葉に詰まった。レナは戦車にさえ乗れれば十分だったが、その事を決して口には出さなかった。
『
周りはどうだ。皆祖国の為や、復讐の為、家族や友人を守るため。立派な理由がある。レナは自分が『目的』ではなく『手段』を理由に戦うどうしようも無い人間だという事は理解していた。
レナが父親にこの理由を話した時、失望したような、酷く同情するような目で見られた。だから、
「…………隊長? 準備完了です。いつでも合図を」
エマに急かされる。気がつけばもう街の外周に出ていたらしい。ソ連戦車が遠くに見える。38tはロクな抵抗も出来なかったらしい。迫り来る敵戦車にこちらの歩兵は半ばパニックだ。レナは余計な考えをそこで捨てた。いつもと同じだ。楽しめ。レナ・シュヴァルツ。
「あぁごめん。じゃ、始めよっか。目標! 正面の敵戦車! 撃てっ!」
「了解!」
エマがティーガー自慢の56口径88ミリを撃ち始める。ティーガーは素晴らしい戦車だった。レナが自分の大好きな戦車は何かと聞かれれば、それは断然ティーガーだった。
「撃破! 次!」
「砲塔旋回右20度! 撃て!」
強力な主砲はどんな戦場でも頼りになったし、分厚い装甲板は戦車を斜めに傾ければ大抵の敵の砲弾を弾いた。レナはティーガーに乗るのが楽しかった。
「撃破! 次!」
「砲塔左10度! 撃て! ヘルガ! 敵歩兵に注意して!」
「了解です!」
「隊長! そろそろ敵戦車が向こうの射程距離に入ります!」
「1ブロック後退する! アナ、戦車出して! 敵にケツをつつかれないようにね!」
「了解!」
「場所は教会前! あそこならさっきと同じ戦法が取れる! 出来るだけ敵戦車のヘイトを稼ぐよ!」
死は怖くなかった。どうせたまたま拾った第2の人生。命の価値はレナにとっては低い。ならば━━━
私が恐れているのは何だ?
「…………! 敵爆撃機! こっちに突っ込んでくる!」
「アナ! 全速力で回避して!」
「ダメ! 間に合わない! 全員ショック体勢!」
一瞬の気の迷いにより発見の遅れた爆撃機が、私達の頭上に爆弾を投下した。
主人公は内面ではシリアスタイムでも外面は陽キャを取り繕うタイプ。何故かは後々書くと思います。
だから本格的に精神がヤバくなるとより一層冗談とかの頻度が増す。
そしてそこを指摘すると精神がボロボロ崩れていくのでそっとしておいてあげましょう。
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第三話:通信手の死
皆様のお気に入り登録と感想と評価に一喜一憂しております。
「━━━━! ━━━!」
隊長は、よく冗談を言う。能天気というか、自由というか。そんな言葉があの人にはよく似合っていた。それは、どんな戦場にいても同じだった。
「━━ろよ! 誰が━━いいって━━━━!」
でも今のレナ隊長は、違った。よく見えないけれど、わかる。隊長は必死だ。一体何があの隊長をあんなに焦らせるのか。よく見てみたい気がする。
「誰か━━救━━━! ━止血━━━!」
「隊長━━━敵━━━!」
「━━━殺━━━!」
そこまで考えて、気がついた。自分の、頭が。腕が、胸が。痛い。苦しい。
「…………あ…………」
爆撃の犠牲になったのは、わたしか。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「ヘルガ! しっかりしろ!」
「隊長! 敵戦車沈黙!」
「よくやったエマ! アナ! 後方の拠点まで下がる! そのまま行けるか!?」
「大丈夫です!」
ヘルガがやられた。その事実がレナの心に重くのしかかった。爆弾は丁度ティーガーの右前方より少し前━━即ちヘルガの座っていた場所の近くに当たった。
爆撃が逸れ、殆ど至近弾だったのは不幸中の幸いだった。爆弾の威力は装甲によって随分減衰したようだが、それでも人1人に重傷を与えるには十分だった。装甲に爆弾が当たり、装甲裏の金属が飛散しヘルガを傷つけたのだった。
ティーガーは右前方がひしゃげたが、走行は出来た。戦闘の継続は危険だったし、なおかつヘルガの状態が酷い。すぐに衛生兵に見せなくては危険だった。
「…………あ…………たい……ちょ……」
「! 喋るな! 今何とかするからな!」
悪い夢であって欲しかった。
「…………ごめん……なさ………………」
「ヘルガ! 耐えろ! お前じゃなきゃ誰が無線をやるんだ!」
声から力が無くなり。
「………………」
「…………ヘルガ?」
声すら聞こえなくなり。
「…………」
静寂が訪れた。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
その夜、ヘルガを埋めた。何も無い野原だったが、春か夏になれば、きっと花が咲くとグレータが言った。ヘルガが愛用していた無線機も隣に埋めた。
そしてスターリングラードでドイツ軍は負けた。故障したティーガーで頑張ったが、ソ連軍の攻勢に押され最終的に爆破処分し、レナ達は命からがらスターリングラードから脱出した。
そして寒々とした3月が訪れ、レナ達のスターリングラード攻防戦は終わった。
その後新しい戦車━━またもやティーガー戦車だった━━を手に入れたレナはその後も戦い続けた。通信手の補充の打診があったが、レナはそれを頑なに拒んだ。
偶に1人で無線を弄る時に、レナは周波数をめちゃくちゃにしてヘッドホンを付けて目を瞑った。
望む声は、聞こえて来なかった。
6月に連合軍が上陸する頃には、レナは一見回復したように見えた。前のように冗談を言うようになり、敵戦車も多数撃破した。連合軍の間でもレナの操るティーガーは有名になり、恐れられた。
しかしアナやエマ、グレータには理解できた。レナはやはり前とは違った。ヘルガの死を経て決定的に何かが変わった。
3人からすればレナは以前は戦場に喜んで行くようなイメージがあった。毎日が楽しいような、そんな様子だった。
だが今のレナにはそれは無い。いつもと変わらない態度だったが、そこには喜びは無い。
レナ自身は、自分があんなに好きだった戦車に打ち込めない理由が何となく理解できた。
レナは理解していた筈だった。戦争という物の恐ろしさを。人の命の脆さを。彼女自身が今まで何百人も殺してきたのだから。
レナは死を何処か遠いものとして捉えていた。2度目の人生。自分の命は軽いものだった。なぜならもし死んでも、次があるかもしれないのだから。無かったとしても、もう十分だった。大好きになった戦車を楽しむ為に、戦争に参加した。
敵兵の命もまた、彼女の中では意味の無いものだった。戦車の外側に刻まれている印は今まで破壊した戦車の数であり、その裏では何人も死んでいる。敵の命は、単なる成績でしか無かった。
如何に転生した身とは言えども、元は平和な日本の唯の女性に過ぎなかったレナには、命に対して極力鈍感になるしかなかった。無理を承知で堪えていた。
それがヘルガの死で壊れてしまった。
もう命に鈍感な自分には戻れない。これ以上部下を死なせないために、自分が何をするべきかレナは理解していた。
分かりにくいかも知れませんが
簡単に言うと『戦車の楽しさ』と『仲間の死の辛さ』の間で板挟みになっちゃったんですね。前までは意識しないようにしていたけどヘルガの死でどうしても意識してしまうようになった。
ところでこの時期のドイツ兵、それも連合軍側の戦車ぶち壊しまくった奴等がどうやったら生き残っていられるんでしょうね(ニッコリ愉悦顔)
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第四話:最後にして最高の作戦
戦車は1人では動かせない。
いや、動かすことだけは出来る。だが私のティーガーは、人員が5人揃って初めて真価を発揮する。
そして私は戦車が大好きだ。つまるところ━━
━━仲間は、何よりも大事な存在だ。
ヘルガ。
君は最期に私に謝ったけれど、謝るべきだったのは私だ。
絶対にアナとグレータとエマの3人は死なせない。例えどんな手を使ってでも。
それが私の車長としての、最後の役割だ。
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1944年7月末
路上にレナ達のティーガーが停まっていた。アナ達3人が戦車を整備している。司令部から戻ってきたレナが石段に腰掛け、書類を確認する。空を味方の戦闘機が飛んで行った。6月に連合軍が上陸して以来、状況は芳しくない。
レナにアナが声をかける。
「隊長、出撃命令ですか」
「そうだよ。ノルマンディーに上陸していた連合軍が本格的な攻勢を開始した。この先の街を防衛している味方の火力支援と、出来るだけ多くの敵戦車の破壊が私達の役割だ」
「防衛任務、という捉え方で間違いないでしょうか」
「まぁそうなるが、お偉いさん曰くドイツ軍は守備では無く、あくまで前進するそうだ。向かう先が崖とは知らずにね」
ハハ、とレナは小さく笑う。
「きっと私達が1両破壊してる間に2両は戦車を作ってるんだろーね」
勝てない、とレナは言外に言っていた。だがその割にはレナの顔は悲観的では無いように見える。
「隊長は、怖くないんですか?」
「何がだい? そりゃ私はか弱い少女だからオバケは━」
「死ぬのがです」
アナの直球な質問に、聞き耳をたてていたエマとグレータの手が止まった。ヘルガの死後は意識してこの話題について避けていた3人だったが、アナはどうしても聞きたかった。
「隊長は、どうしていつもそんな風に強くいられるんですか?」
アナの手は、震えていた。アナは自分が何故今生きているのか不思議でならなかった。もしかしたらスターリングラードで死んでいたのは自分かもしれない。今日死ぬかもしれない。明日死ぬかもしれない。そんな不安感が日に日に増していた。
そんなアナの両手を、レナが優しく握る。
「…………誰だって怖いさ。死ぬのはね。でも私にはもう、それよりももっと怖い━━いや。死んでも良いくらい大事なものが出来たのさ」
「…………隊長、それは━━」
それは何ですか、と聞こうとした瞬間。無線機から通信が流れ出した。
『━━こちら鉄橋前! 敵の戦車部隊がこちらに向かっている! 戦車の増援を要請する!』
「おっと味方のナースコールだ! のんびりしている暇は無さそうだ! 出撃するよ!」
「っはい!」
4人は急いで戦車に乗り込む。アナがレナを見ると、レナは何かに安心したような、そんな笑顔だった。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「敵戦車!」
「エマ、任意のタイミングで撃ってよし! グレータは装填頑張って! アナ、敵に装甲を抜かれないように!」
ティーガーが街中を駆ける。街の外周の敵戦車を1両ずつ撃ち抜いていく。素早く、そして足回りの負担を極力少なくしながらアナが戦車を巧みに操る。彼女の操縦技術は今、全盛を迎えていた。
敵戦車であるシャーマンの砲弾は、尽く外れるか弾かれるかで無力化されていた。アナが車体を斜めにしてティーガーの装甲の向きと砲弾の向きを調整することで弾いているのだ。ティーガーは未だ動けている。
エマの砲塔はそんなアナの激しい運転にピッタリと合わせ、敵戦車を撃破していた。ティーガーにとっては狭い道だが、砲塔が壁につっかえる事も無い。
建物に挟まれた狭い路地から、正確な砲撃を行っている。
グレータの装填は滞りを知らない。激しい運転の中でも両足をしっかり地につけ、心地よい音と共に装填をこなす。普通の装填手であれば転ぶか、砲弾を取り落とすくらいはしているところだ。
「2階に敵の対戦車ランチャー! そろそろ側面から迂回してきてた奴が出てくるよ! 気をつけて!」
レナはまるで上から街を観察しているかのように、敵戦車の動向を予想していた。敵の観察、心理の先読み、挑発、牽制、誘い込み。あらゆる方法を駆使して敵を理想的な位置から各個撃破していた。
4人は口には出さなかったが、今までにないほどの一体感を感じていた。自分達が戦車に乗ってきた中で、今が自分にとって最高の技量を発揮していると断言出来た。
鉄橋の守備隊がまだいるのかも分からない。少なくとも今この地点を守っているのはティーガー1両のみ。
そんな状況だからこそ。4人は思う存分、戦車を満喫していた。そうして戦車を20台程倒した頃。
「グレータ、残弾は?」
「今装填してる分を入れて、残り5発です」
「エマ、一旦射撃やめ。防衛線を放棄する。司令部まで下がるよ」
流石に砲弾が無ければ防衛のしようもない。レナ達が撤退しようとした瞬間、レナを謎の寒気が襲った。レナの勘だが、狙われている。
「アナ! 全力で前進!」
「っ!」
次の瞬間、ティーガーのいた地点に砲弾が着弾した。側面からの砲撃。エマはすぐに頭の地図から、敵戦車の位置を割り出す。
レナが戦車から顔を出して確認すると、やはりいた。見た目こそシャーマンに似ているが、これは━━
「ファイアフライ……!」
虎殺しの蛍が、こちらを見ていた。
そろそろ死にます(大胆な告白)
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第五話:虎と蛍、レナ・シュヴァルツの最期
サブタイトルが『城之内死す』みたいになってますが気にしません
「あのティーガー、まさか
「隊長? 知っているんですか?」
「ここ最近連合軍の補給線をめちゃくちゃにしてる奴よ。生き残りの話だと相当手際が良かったらしいわ。あくまで予想だけど、ソ連軍と戦ってたヤツがこっちに移ったのかしら」
「……仲間が随分やられたようです」
「敵討ちね。奴の進撃は、ここで止める」
「そろそろだと思ったよ」
「隊長? なんですか?」
「いや、何でもない。アナ、奴の側面に回り込む。エマ、残りは私の指示で撃ってくれ」
レナは一度、静かに深呼吸する。真の正念場はここからだ。あちらは万全なファイアフライ、こちらは致命的なダメージは貰っていないとはいえ、ダメージの蓄積したティーガー。だが乗員の士気は高い。
「さあ、最後の一仕事だ。全員無事ここから脱出するよ」
「隊長? 相手はそう簡単には許してくれそうにありませんよ?」
「グレータ、砲弾に『ごめんなさい』って書いとけ。戦車の中にぶち込めば相手も読んでくれるだろうよ」
ハハハ、と車内で四人の笑い声が響く。そう言えば戦車に乗っている間は、みんなこうやって笑うのが我々の日常だった。
私がめちゃくちゃな作戦を提示したり、アナはそんな私に苦言を呈し、グレータが柄にもなく冗談を言ったり、エマはそんなグレータを小突いて。そしてヘルガはいつも笑っていた。例えそれがどんなに無茶な状況でもみんな楽しんでた。
そうか。気づくのが遅かったなぁ。
「ねぇみんな、最後に一つ聞きたい事があるんだけど」
「何です?」
この戦車に乗る奴は皆。
「戦車は好きかい?」
「「「勿論!」」」
私と同じ、戦車バカだったんだ。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
いきなり家の隙間から飛び出した傷だらけのティーガーが砲塔をこちらに向ける。ファイアフライはすかさず撃つが、ティーガーは巧みな操作でこれをいなす。弾は明後日の方向に飛んで行った。こちらの弾も惜しくも跳弾だ。
「そこの道路に入って! スモークも!」
「了解!」
素早く小道に入り、スモークで道の入口を塞ぐ。これで暫くは時間稼ぎになるはずだ。
「追ってきてはいないか……やはりストーカーは相手にしないのが一番だな」
「撒けそうですかね?」
「モテる女は辛いよ」
全速力でティーガーは道路を進む。この道を進めば広場に出る。そこから更に道を進めば、味方の勢力範囲に入れる筈だ。
だがそうは問屋が卸さない。広場に出たティーガーを衝撃が襲う。広場にはあのファイアフライ。砲弾を受けたティーガー内部の装甲がまるで散弾のようにレナを襲った。
「ぐぁぁ!」
「隊長!」
「っ、問題、無い! 側面を晒さないように前進!」
ポタリ、とレナの血がグレータの足下に落ちる。予想よりも結構やるじゃないか。レナは歯を食いしばり、しっかりと正面を見据える。ファイアフライの2発目の攻撃がくる。グレータが装填。
「撃て!」
「……駄目です! 弾かれました! 敵の装甲はかなり厚い!」
「何だと!」
レナは知らない事だったが、前線で暴れまわったレナ達を撃破すべく、何両か『特別な』ファイアフライが作られていた。正面装甲は厚く、出力も上げ、各所に改良が施されている。対してこちらの残弾は残り3発。これで仕留めきれなければ、生き残れない。
それに、時間もない。レナは自身の脇腹に手をやる。流れ続ける血。さっきの怪我が予想よりも深い。レナが限界を迎えるのはもう間もなくだった。
路地に退避したティーガーに、ジリジリと詰め寄るファイアフライ。打開策は、あった。皆も、自分に命を預けた。ならば、後は実行するだけ。レナはこの勝負の方針を既に固めた。
「再度攻撃する。背後をとるよ」
「隊長無茶です! 撤退しましょう!」
「それさ」
「…………?」
「連中も同じことを考えているさ。
逆を言えば、奴の不意を付くには今しかない。この場を引こうとすれば、敵の追撃で間違いなくやられる。
「チャンスは一度きりだ。気合い入れて行くよ!」
「「「了解! ご指示を!」」」
「
それは、レナ達の一世一代の大博打だった。
戦車の弱点として最も分かりやすいのが後部だ。前部に比べて装甲は薄く、エンジンの積んである部分である。当然そこを攻撃されればどんな戦車でも容易く撃破される。あらゆる国の戦車乗りにとって常識だった。
だからファイアフライはもし突然ティーガーが出てくれば、反射的にティーガーの
だがもしその時、もしも、
「車体を旋回! このままバックで奴の隣にくっつく!」
更に旋回し、装甲を斜めにとる。直後に車体に振動と、甲高い音。レナの博打は、大当たりだった。ティーガーの装甲は、ファイアフライの砲弾を弾いた。
「敵の砲弾を弾きました!」
「砲塔旋回! 撃て!」
「敵戦車から煙! 装填急いで!」
敵の装填の隙に敵戦車の隣に並ぶ。そのまま後ろを取ろうとするも、『そうはさせるか』と敵もバックする。だが間に合わせない。
敵戦車の後ろには、広場の噴水。噴水に阻まれ、ファイアフライはこれ以上下がれない。
レナの宣言通り、ティーガーはファイアフライの背後をとった。レナは叫ぶ。
「撃て!」
「撃破!」
ファイアフライから火が上がる。そして、レナ達は勝利した。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
ボロボロのティーガーの前ハッチから、アナが飛び出す。砲塔部に登ると、そのままハッチからレナを引きずり出した。後からエマ、グレータも出てくる。レナはぐったりとして動かず、とめどなく流れる血は止まらない。アナが声を掛ける。
「隊長! しっかりしてください!」
「…………全員、無事?」
「はい、隊長」
辛うじて意識はあるレナは、口から血を出しながら全員の顔を見る。勝利したが、生き残れなかった。だがレナには後悔は無かった。自分の部下が生きている。車長としての役割を全う出来たと感じた。
「…………さっきのアレ、いいアイディア、だったでしょ? アレ、いつかやろうって、いつも、考えてたんだ」
「~~~っ! こんな時まで、隊長は! 止血します! 黙ってください!」
レナは精一杯ニヤリと笑う。それをエマが叱咤する。レナは戦車を思う存分楽しめた。最後の死闘は緊迫した命のやりとりだったが、終わってしまえば楽しかったという感想がレナからは出てきた。
「いや、もう……自分でも……わかるよ。私は……助からない……」
「嫌です! 隊長らしくもない! 目を開けてください!」
目を閉じたレナに、グレータが焦りの声を上げる。レナはゆっくりと三人に指示をした。
「この後の判断は……アナに……任せる。でも……私のわがまま……を……聞いて……欲しい」
「全員……生きてくれ……降伏しても良い……国外に……逃げても……いい……」
「君達は……私の大切な……仲間だから……もし……死んで……私の墓参りに……来ないなら……許さない……から……」
「それと……ヘルガに……きちんと……墓を建てて……あげて……」
「あぁ、でも……もしも、
「もっと……五人で……戦車を……
レナは、意識を手放した。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
そして、時は流れ、世界は変わる。
ドイツは戦争に負けた。
戦争は終わり、世界が目覚しく変わる中。1950年代に、ある一つの文化が生まれた。
安全性を追求した戦車を使った、戦車戦を模した女子の為の競技。それは世界中で広まり、多くの人が熱中した。
即ち━━━『戦車道』である。
発案者であり、国際戦車道連盟の会長でもある
『戦争は恐ろしいものですが、私の昔の
それでも戦車道でならば、戦車は戦争や死といった事から分けて楽しむ事が出来るはずです。
そうして戦車道が広まった世界で。
「みほ! あたらしい戦車がきたよ! みにいこう!」
「うん! おねえちゃん!」
少女達の物語が幕を開けようとしていた━━
その前に。
「あれ? 何処だここ? 私死んでなかったっけ?」
とあるドイツの街で、軍服姿の少女が草むらから起き上がった。
過去パートはこれでほとんど終了です。お疲れ様でした。
次回は1回主人公のスペック確認したらいよいよガルパン時空に絡ませます。過去パートよりも主人公が生き生きするように書きますのでお待ちください
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ガルパン時代突入
第六話:復活
という流れになります。最悪紹介は飛ばしてもらって構いません。
あと感想やお気に入り登録や評価をして下さった方々、本当にありがとうございました。赤評価とかナイチンゲール×進撃の巨人のやつ以来ですね
☆ステータス
名前:レナ・シュバルツ
年齢:25(1回目)+28(2回目)=?
性別:女性
最終階級:中佐(←二階級特進済み)
好きな物:戦車と仲間、それに小粋なジョーク
嫌いな物:爆撃機と地雷と野砲陣地。戦車の天敵。
得意な事:戦車
苦手な事:戦車以外の事では無自覚ポンコツ
☆説明
ドイツ軍に所属している戦車兵。最近二階級特進した。やったね。戦車が大好きすぎて暴れまわってたらいつの間にかここまで昇進した。本人は階級には興味が無い。
戦車兵の中では相当な古株であるため、戦闘時のカンはピカイチ。強さで言えばガルパンの登場人物の中でも上位に位置し、1on1なら無類の強さを誇る。スターリングラードや上陸した連合軍との戦いで鍛えられた為、多対一の戦いも得意。
最終的な戦果の正確な数は分かっていないが、この世界のドイツ軍の中でトップだと言われている。故に『スターリングラードの猛虎』『黒髪の悪魔』『鬼才』『撃破王』等の二つ名が後世に広まってしまった事に、本人は未だ気づいていない。
逆に大人数を指揮した経験はほぼ無いため、大規模な作戦を練ったりすることは不得意。局地的な盤面での危機を切り抜けたりする事の方が得意と言える。
性格は陽気な印象があるが、その実は胸の中で深く物事を考える節がある。故に過去の中途半端な自分を後悔しているし、ヘルガの死を非常に重く受け止めている。また、過去の経験から、仲間や部下に対する思い入れは人一倍強い。ヘルガの墓参りには近々行く予定。
という訳で本編です。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「……やっぱ生きてるなぁ……」
ムニムニと自分の頬をつねりながら、レナは自身の置かれてる状況を徐々に理解し始めた。死んだと思ったら生きていた。あの状況から回復したとは考えにくいし、それならば目覚めるのは病院の筈だ。辺りは草原と、青空と、遠くに見える街。
「……まずは情報収集だな! ここは何処で、今はいつなのか!」
なんせ日本(2010年)→ドイツ(1916年)という前例を体験している。ここがベトナム(1955年)であってもおかしくは無かった。ナチスの次はベトコンか。
しかし周りは平和そのものだ。破壊跡も、戦車の残骸も、目障りな爆撃機の音も無い。心地良い風が吹き、草についていた雨露が落ちた。久しく浴びていなかったマイナスイオンにレナの頬が緩む。ボロボロの制服の上着を脱ぎ、草原に再び寝転がる。
ふと体を見てみると、若干縮んでいた。高校生くらいの体格になっている。怪我もすっかり治っていた。だがレナは「まぁそういう事もあるか」と雑に流した。
戦場で疲れた体を癒すため、暫く昼寝をするとしよう。そう思った矢先、それは聞こえた。
(戦車のエンジン音! 不味い!)
のんびりムードのレナも流石に焦った。数は分からないが、何台かこちらに向かってくる。レナは上着を急いで着て、適当なポーズで寝転がった。
(とにかく今は死んだフリ作戦だ! まずいまずい!)
戦車はゆっくりとこちらに近づいて来る。シャーマンだ。多分着替えた瞬間は見られていない筈だ。このままやり過ごす!
………………(キュラキュラキュラ……)
…………(キュラキュラキュラ……)
……(キキィ……)
「あの~大丈夫で「両手を挙げてそこを動くなぁ!」何事!?」
声を掛けられた瞬間レナは行動した。素早く立ち上がると戦車に上り、ハッチから体を出した哀れな搭乗者にしがみつく。
「私の体には爆弾が括りつけてある! (※そんな物は無い)これでも誇りあるドイツ軍人! (※あまり誇りもない)命の一つや二つ惜しくはないわ! (※惜しい)」
「いや私もドイツ人なんですけど!?」
ハッタリをかましたレナは端的に言って混乱していた。シャーマン=敵の方程式が完全に定着していたために、シャーマンから顔を出すドイツ人少女に対して戸惑いを覚えた。だがレナは一度やると決めた事はやりきるタイプだった。
「何だこいつは!」
「敵のチームのスパイか!? 隊長を離せ!」
「くそっ離せー! 大人数でなんて卑怯だぞー!」
レナはあっさり捕獲された。後に冷静になったレナが知ることでは、ここは21世紀のドイツで、戦車道なるものの練習試合中で、レナのせいで練習試合は中止になった、という事だった。
そしてこの事は後に『試合に乱入した挙句に死体のフリ作戦を敢行した少女がいた』という珍事件として、戦車道の歴史に新たな一ページを刻んだとか。
おふざけが過ぎるようですがガルパン時空では基本このテンションで行きます。でもギャグとシリアスの均整はとるようにするのでシリアス好きな人は許して
たまにはこういうのもいいですね
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第七話:六十年越しの再会
いやほんと皆さんありがとうございました
あと誤字訂正嬉しい…うれしい…
この高校では戦車道なるものに相当に力を入れているらしい。レナは敷地を見渡しながら思った。多少簡略化されているとは言え戦争当時の戦車を忠実に再現した戦車道用の戦車、演出用の戦車ダミー、設備の充実した整備場など、高校というより訓練所だった。
シャーマンの上に腰掛けながらレナはそう思った。隣にはパンターや三号、KV-2やチャーチル等様々な戦車が勢揃いだ。さながら戦争博物館である。レナは内心とてつもなく興奮していた。
あの事件の後レナは別室に連れていかれたが、戦車道の関連施設を見てみたい一心で抜け出してきた。胸には『見学許可証』と書かれたプレートを下げているが、部屋に落ちていた適当な物でレナが手作りしたものである。すれ違った学生には全くバレなかった。チョロいもんである。
何故か名前を聞かれた時に胸を張って「レナ・シュバルツだ!」と答えると何だか生暖かい目で見られてしまうのが気がかりだった。
ともあれレナは非常に満喫している。しているのだが…
「見て…あれが…」
「あぁ…死んだフリ作戦の…」
「自分の事をレナ・シュバルツだと思ってるらしい…」
「コスプレって奴かな…?」
学生達のこちらを見る目は冷たい、というか若干の哀れみが込められていた。黒歴史はもう二度と消えそうに無かった。穴があったら入りたい。
「いっそ殺して…」
仕方が無かったじゃないか。練習試合をめちゃくちゃにしたのは悪いが、こっちも生きるので必死だったのだ。とレナは内心呻いた。彼女らだって同じ経験をすれば同じ行動を…とっさに…取る…筈だ…多分…。
レナは頭を振って自分の残念な思考を止める。とにかく今の自分はドイツ軍人では無く唯の高校生(16)である以上、これ以上の特異な行動は慎み、怪しまれない様に優雅な美人としての行動を…
「いたわ! コラーッ! 待ちなさーい!」
「絶対逃げきってやる!」
しないことに決めた。教師らしき人間が複数の戦車道選手と追いかけてきた。よく見たらレナが人質にした選手がいる。顔がこわい。レナは走り出し、戦車置き場を抜け、長い廊下を駆ける。
「はぁ…どこか…隠れる…場所…あった!」
レナはドアが開きかけだった一室に飛び込み鍵を掛ける。暫くして足音は遠ざかっていった。上手く撒いたようだ。
ふぅ、と一息ついたレナは部屋をみる。どうやらお偉いさんの部屋のようだ。
落ち着いた雰囲気の部屋の中央には机と沢山の資料と筆記用具。だがどれもしっかりと整頓されており、持ち主の几帳面さが伺える。棚には戦車関連の本に、ケースに入ったティーガーの模型に………写真………
「あらあら、誰かいるのかしら?」
部屋の奥、別の扉から優しげな声がかかるが、レナの目線は写真に釘付けだった。白黒の古い写真に写っているのは、
「今お茶を持って行ってあげるわ。何だか外が騒がしいみたいだけれど、何が………」
そしてこれが本物ならば、今この場にいる声をかけてきた、お茶を持ったこの老婆は。
「………アナ?」
「………隊長?」
実に、約60年ぶりの再会だった。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「………つまり死んだと思ったらいつの間にか演習場にいて、
「ぐうの音も出ない…」
レナは俯きながら机を挟んでアナと対面した。絵面が完全に『校長先生に怒られるやんちゃな女子生徒』である。
レナが聞いた話だとアナは今…戦車道の偉い人らしい。具体的には戦車道関連では多分世界で一番権力がある。更にこの学校の理事長を務めているらしい。相当歳をとっている筈だが、本人曰くまだ元気とのこと。
「うぅ…あんなに可愛かったアナが…ことある事に『隊長! 好きです!』って言いながらカルガモみたいに付いてきてたアナが…立派になって…」
「記憶の改竄があるみたいですね? やっぱりただのコスプレイヤーでしたか?」
「イイエナンデモアリマセン…」
いつの間にか先程の優しげな雰囲気は消え、レナのよく知るアナのそれに戻っていた。具体的にはレナの作戦にダメ出しする時の表情だ。
アナはレナより歳下だったはずだが、レナの歳を追い越していた。何を言っているのか分からないと思うが悲しい現実だった。レナの頭はアナには上がらない。
ここでレナは気にはなっていたが聞けなかった質問を投げかける。
「…グレータや、エマは生きているのか?」
「………戦争は無事生き延びましたが、去年に二人とも…逝ってしまいました。二人とも最期まで何も変わっていませんでしたよ」
「………そうか」
レナは複雑な気分だった。三人は確かに生き延びた。戦争でその命を散らす事は無かった。確かにそれは喜ばしい事だが…
仲間の死は。辛い。いつどんな時でも。自分の無力さを痛感する。
「全く隊長は…本当に何も変わっていませんね」
「?」
レナは顔を上げる。いつの間にかアナが隣にいた。
「私はもうしわくちゃのおばあちゃんです。隊長はあの時私達を守ってくれた。だから私は今こうして生きています」
「…そんな事は無い。私は徒に君達を危険に晒した」
「撤退すればあそこでジリ貧でしたよ。戦車戦にはこれでも詳しくなったつもりです。………それで隊長はあんな無茶をしたんでしょう」
アナが優しげな表情で、レナの頭を撫でる。
「とにかく、隊長は救えなかった人間にばかり目を向けて、
━━あなたはいつだって、私の憧れの隊長ですよ」
レナは顔を背けた。そうでもしないと、自分の頬を伝う物を隠しきれなそうだったから。アナはそんなレナを抱きしめた。ココアの香りが、ほんのりと甘かった。
レナ「ところで戦車道以外何やってたの?」
アナ「隊長についての本を出しました」
レナ「えっ」
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第八話:いざ、極東へ
とか悩みつつ投稿です
あとようやくガルパンキャラと絡ませる事に成功しました
「隊長、実は頼みたい事があるのです」
「何だい? この学校の戦車道の選手をしごきあげるとか?」
「それはもう十分にやらせていますよ」
あの後レナはアナと一緒にお茶を飲みながら話をしていた。戦車道の詳しい知識についてや、自分が思ったより有名人になってしまったらしい事について、遺言通りヘルガの墓を整備し、今もスターリングラードのあの場所にあるという事などだ。アナから頼み事を振られたのはそんな折だった。
「留学するつもりはありませんか?」
「留学?」
「はい。隊長には日本に行って貰います」
お茶を飲んでいたレナはアナから意外な言葉を貰う。日本。レナの
「今、日本の戦車道はその規模を縮小させ始めています。しかし数は限られていますが、世界的に見ても注目すべき選手もいるのです。更にニシズミ、シマダ等の戦車道の流派を発達させた家や、学園艦という島国ならではのシステム。失われるには惜しい」
「協力は惜しまないつもりだけど、私が行って何になるんだい? 何をすればいいかな?」
「暴れ回ってください」
「えぇ……」
この上なく不安かつ分かりやすい指示だった。
「要するに、隊長には戦車道選手として日本で活躍して欲しい訳です。隊長、実は日本語出来るでしょう?」
「なんでバレたの!?」
「寝言でたまに出ていましたよ。こっそり私調べてたんですから」
「えっ怖……」
つまりレナが寝ている隣で、アナは寝言をしっかり記録、解読をしていた訳だ。軽くホラーである。レナは自分の部下にストーカーの気質がある事に今更ながら戦慄した。
それはともかく、レナにとっては願ってもない話だった。戦車道なるものにはかなり興味がある。絶対にやりたい。話を聞いた限りだと、『安全性』と『戦車戦の面白さ』が両立しているらしい。レナにとってはまさに理想だった。
「日本の戦車道に新しい風が必要なのです。隊長の留学は日本の学生にとっての刺激になるでしょう。丁度日本のある高校から交換留学の打診も来ています」
「場所はどこだい?」
「━━━黒森峰女学園。この学校とも深い繋がりがあるところです」
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
春である。その後暫くして身の回りの事……戸籍とか住む場所とかの手筈を整えたレナは飛行機で遥々熊本にやって来ていた。
名前が『レナ・シュバルツ』のままだと相当目立つらしいため、アナの名字を貰って『レーナ・ベーカー』という偽名を拵えた。だがレーナでは発音もしにくいので、レナは気に入っていなかった。
アナが『私と隊長が同じ名字……これは実質……いやおばあちゃんと孫とかもアリ……』とか言っていたのをレナは幸運(?)な事に聞いていなかった。
「いやぁ、この感じ凄く懐かしいなぁ……桜だよ桜……ビールが欲しいねぇ……でなきゃ桜に失礼だよ……」
熊本。ドイツのハイデルベルク市と友好都市提携が締結されている。あとは阿蘇山と熊本城しか知らない。あとくま〇ン。
久々に見た桜を懐かしみながら、レナは熊本市内を歩いていた。軍服以外を着て歩くのは随分と久しぶりだ。ちなみにジーンズにTシャツというラフな格好だ。Tシャツは空港で買った白地に赤字(ラグランパ〇チ)でデカデカと『戦車道』と書かれたカッコイイTシャツである。(レナ主観)
「ママーあの人変なTシャツ着てるー」
「しーっ! 見ちゃいけません!」
道行く人が顔とTシャツのギャップに驚愕していたがレナにとっては些細なこと。タクシーを捕まえて、自動で開いたドアに謎のノスタルジックを感じながら港へ向かった。
過ぎ去っていく景色は平和そのものだ。街並みは1944年のドイツとはまるで違う。ビルが並び、商業施設や娯楽施設が壁に沢山の広告を出しながら営業している。道を歩く家族やサラリーマン、彩りに溢れた街。
「平和っていうのは良いものだね。そんな中で戦車道が出来るなら尚更」
港でタクシーを降りたレナは黒森峰女学園を探す必要は無かった。ひと目でわかる程の大きさの空母。グラーフ・ツェッペリンをモデルとしたそれが『学園艦』だ。デカい。
船の上には街と思われる物や、外周を取り囲むように設置されたアウトバーン、それに森のようなものまで見える。デカい。
そしてデカい。アナに聞いていた話から予想した学園艦の10倍はデカい。ここまでの造船技術があってどうして日本は戦争に負けたのか問いただしたくなった。
「そう言えばこの世界の乗り物は頭がおかしいんだった……完全に油断していた……」
レナはもう学園艦については「そういうもの」として受け入れる事にした。もう知らん。
「……まぁでも、退屈はしなさそうだな!」
レナはずんずんと学園艦の中に入って行った。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
西住まほは、困惑していた。
いつものように学校から帰宅した後に、黒森峰女学園の女子寮に帰ろうとした矢先、道端の桜の木の根元に何かが、いや誰かが寝転がっているのを見かけた。
短く切った綺麗な黒髪に、日本人離れした顔立ちをした美少女だ。読者の皆さんはご存知レナ・シュバルツである。周りにはスーツケースと、画面の割れたスマホに、くしゃくしゃになった観光案内地図と地面に書かれた『SOS』の文字。黒森峰製のノンアルコールビールの缶が散乱した歩道の上で気持ち良さげに眠っていた。完全に酔っ払いのそれである。
(……まさか道に迷ってヤケになってその場で酒盛りを始めたとかじゃ無いだろうな)
因みに当たりである。レナは戦車以外ではポンコツであった。縮尺がめちゃくちゃな観光案内程度の地図は戦車乗りであるレナを混乱させた。アナに貰ったスマホは階段で落としてしまい今に至る。
普通ならば関わり合いを避けるか警察に電話をするような相手だが、まほは基本的にお人好しであった。寝転ぶ不審者に近づく。
「………あの、こんな所で寝ると風邪を引きますよ」
「んー、アナ、もうちょっと寝かせて……」
どうやら寝ぼけているようだ。まほを誰かと勘違いしている。大きな欠伸をして、モゾモゾと起き上がる。
「んぁっ!? 黒森峰の生徒さんかな? 学園の女子寮に行きたいんだけど、どっちだか分かる?」
「案内した方が良いでしょうか? ……まぁすぐそこですけど」
放っておいたら明日の朝も彼女を見かける羽目になりそうだ。そう考えたまほはエスコートしてあげる事に決めた。
「んー、ありがとう。お名前は? 私はレ……レーナだ」
「………まほです」
これが、後に日本とドイツの戦車道界に名前を轟かせる2人の、初めての出会いだった。
桜の木の下には死体が埋まっていた、という訳です。
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第九話:二匹の虎①
黒森峰に朝が来た。人々は仕事に向かったり、学校に行ったり、朝から家事を頑張ったりしている。いつも通りの朝。
しかし、黒森峰女学園の今日の朝は一味違った。何やらドイツから留学生がやってくるらしい。まほも話には聞いていたが余り気にはかけていなかった。
しかし昨日の一件から意識せざるを得なくなった。まさか昨日道端でビール缶を散乱させながら眠りこけていたあのレーナなる人物がこの学校にやってくるとは余り考えたくなかった。
「転校生ってどんな人だろうね?」
「きっと強さと凛々しさを兼ね揃えた美人さんだよ! ドイツ人だし!」
「優しい人だといいなぁ……西住さんはどう思う?」
「…………サア、キットイイ人ナンジャナイカナ…………」
どうか勘違いであってくれ。具体的には転校生の姉だったとか、赤の他人だったとか…………でないと変な期待を抱いているクラスメイトが浮かばれない。
「はい、じゃあ今日は転校生を紹介します! 『レーナ・ベーカー』さん! 入ってきてください!」
あぁ━━━(諦め)
「皆さんこんにちは! レナ・シュん"ん"っ! (咳払い)レーナ・ベーカーです! 今日からよろしくお願いします!」
彼女はその真っ直ぐな目で、堂々と教室に入り、流暢な日本語で元気に挨拶をした。その凛々しい姿にクラス全員が驚き、感嘆した。
だからクラスの全員が、彼女の手に持つカバンから大量の黒森峰ビール(
まほは都合良く空席になっていた自分の真後ろの席を見て溜め息をついた。最早レーナとの縁は確定的なものになった事が実感できた。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
授業も終わり、まほにとって一番楽しい時間がやってきた。放課後の戦車道の時間である。
『まほ、昨日はありがとう。お礼にアメあげるよ。べつに要らない? そう……』
『やっぱり日本の桜は綺麗だね! 校庭のほら! あそこのとか凄く立派!』
『あ、その本……戦車の戦術指南書? あっ! ちょっと隠さないでよ!』
どうやら自分は転校生に気に入られたらしく、随分と話しかけられた。レーナは明るく、活発だ。自分とは真反対な性格だが、どこが気に入られたのかまほには分からなかった。
「それよりも、早く高校の戦車にも慣れなければ……」
……とは言え、まほならばすぐにでもその実力を遺憾無く発揮する事になるだろうが。高校に上がる前から、西住流のまほには期待が集まっていた。高校でもすぐ隊長の座に就任するだろうという声が大半だった。現に今、まほは一年生にして車長だ。
まほが格納庫横の扉を開けると、聞き覚えの有りすぎる声が聞こえてきた。
「戦車乗りたいんですけど! 良いですか!? ティーガー戦車が良いです! あ! やっぱマウスがいいかな!? え? だめ? あ! まほ! 戦車道ってどうすれば」
「取り敢えず落ち着くんだ」
レーナが先輩方を相手に何やら訴えていた。どうやら戦車に乗ってみたいらしい。まほは詰め寄るレーナの目を見た。戦車を目の前にして、子どもみたいに目を輝かせている。
「戦車道が好きなのか?」
「うん! 私は
嬉しそうに語るレーナに少したじろいだものの、まほも少しだけ共感していた。自分や妹のみほも小学生くらいの時はこんな感じだったのかもしれない。
「まぁ、その、なんだ。良かったら私達の戦車に乗るか?」
「良いのかい!?」
「…………少しだけだぞ」
まほが自分のティーガーを指差して提案すると、レーナは喜んだ。その後二人で乗り込んだ。乗り込んだ途端に、レーナの顔つきが子どものようなそれから、戦車乗りの顔つきに変わった事に驚いた。
計器、配線、弾薬庫やただの板まで、様々な所をじっくりと真剣に見ている。まほはその時点でレーナがただの戦車好きではない事を感じ取った。彼女は戦車に対して『真剣』だった。
「ここはこう……それでここは……
「…………満足はしてなさそうだな」
「
戦車道に対して情熱的な人間をまほは多く見てきたが、レーナのそれは一味違った。レーナは言動から察するに、
手馴れた様子でティーガーを点検していくレーナ。
「家に戦車でも有るのか?」
「まさか。ただ、戦車には一家言あるのさ! ね、動かしても構わないかい?」
「他の乗員も呼んでこよう」
まほはレーナに対して協力的になっている自分に驚いた。レーナの真剣さは、同じく戦車道に真剣なまほの好感を生んだようだ。
……もしかしたら、レーナも同じだったのかもしれない。まほが戦車乗りだということにどこで気づいたのかは分からないが。雑誌やテレビかもしれない。まほはそう考えた。
「
「ん!? 呼び捨て! やっと呼んでくれた!」
「…………早く行くぞ」
「ね! もっかい呼んでよ! 日本に来て初めてそう呼ばれたよ!」
この不思議で、お喋りな転校生の実力を推し量ってみたい。そう思いながらまほはハッチを閉めた。
主人公の好きな物→戦車、ビール(NEW!)、桜(NEW!)
主人公の友達→まほ(NEW!)
主人公をまほパイセンと同期にしました。
感想欄に2次大戦の戦車乗員についてのいろいろとか使えそうなネタを書いてくれると喜ぶし勝手にネタをパクリます(乞食)
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第十話:二匹の虎②
皆さんの感想や評価を静脈注射して生きてます
あと各話タイトルでダサかった物をいくつか修正しました
戦車道の名門たる黒森峰の訓練には、いくつかのプランがある。その内の一つがあらかじめ指定された目標を攻略していき、そのタイムを計る訓練。所謂タイムアタックである。レナはそれに挑戦した。
まほは装填手として、レナが指揮する様子を見ていた。一番車長の様子を見やすいからだ。
美しくはなかった。
華やかでもなかった。
機械的かと言われれば、それも違った。
レナの操る戦車は、自由自在に訓練場を駆け巡る。その様はまるで彼女の性格を表しているようであった。洗練された動きで、伸び伸びと草原を駆ける馬のようだった。
「次! 装填急げ! そしたら座標12-8まで前進、砲塔を右に40度旋回! 行進間射撃だブレーキ踏むなよ! 隠したって無駄だ出来るんだろう!」
「実力的に出来るギリギリを攻めている……なるほど、そうすれば乗員の成長も早まるだろう」
「まほさんは感心してないでレーナさんを止めて下さい! レーナさん結構スパルタです!」
短時間で乗員の性格を見抜いた彼女の指示は的確だった。出来る範囲で最短のルート、角度、タイミングで的の前に躍り出て、撃破していく。まほの戦車の事を、まほよりも早く乗りこなしていた。
乗員の出来る限界を見極め、それに限りなく近い難度の操作を要求する。言うなれば弦だ。限界まで引き絞れば、矢はより遠くに飛ぶ。
「乗員もよく見てるんだな」
「人間と同じさ。
「……レーナ、私は、そういうのに慣れてない……///」
「ドイツの女の子ってみんなこんな感じなんですか!?」
赤面してしまうような例えだったが、なるほど道理ではあった。だがそれをこの短時間でやるのかとまほは驚愕した。
「よく
まほは全体を盤面のように見て、あらゆる戦術を把握し、敵の動きを予測したり、味方の動きをコントロールすることは得意だ。そこにも『敵を知り、味方を知る』という原則はある。
だがレナのそれはまた違う。戦術や常識とは関係無く、自分の目に見える、或いは知っている情報をリアルタイムで活かし、自分の戦車が次に取るべき行動を常に考えている。反面チーム全体には目が届かず、隊長としてはまほと比べれば力不足かもしれないが、彼女が車長を務めればこれ以上の安心感は無いだろう。
「砲塔左90度! スピードそのまま、合図で撃って! 3、2、1、はい今!」
「……命中!? 嘘でしょ!? なんで今の当たるの!?」
「……的が真横に来たら撃てば良い話じゃない?」
「距離と! 速度を! 考えて! 下さい! 普通当たりません!」
「ぶつくさ言わない! 装填! 砲塔正面! 操縦手! 道なりに進んで!」
矢継ぎ早にレナは指示を飛ばす。まほも装填が忙しい。
「レーナ、本当に戦車道は初めてなのか?」
「戦車道
まほは奇妙な違和感を抱いた。五年。まほは小さな頃から戦車に乗っていたし、レナの言い分もおかしくない。だが実戦の経験は
「砲手さん、狙うなら砲塔と車体の隙間か履帯にするんだ。常日頃からそこを狙うようにしないと実戦で困るよ。ティーガーは足が遅いから最悪逃げられるし、敵の装甲に弾かれる時だってある。少ない砲弾で敵を無力化するのがベストなんだから」
「この人細かいなぁ……」
「なんだとぉ! 私は戦車に対してはいつも真剣だ! 山猫みたいに注文も細かくなるさ!」
「何で宮沢賢治なんて知ってるんだろう……」
(宮沢賢治はともかく、やはりレーナは実戦経験者だ。一体何処で戦車を教わった?)まほはやはりそこの違和感が拭えなかった。
「よし! 砲塔左に10度! 撃て!」
最後の的に命中し、無事にレナの試乗が終わった。驚くべきタイムだ。黒森峰の先輩を遥かに上回るタイムだった。まほすらここまでのタイムは難しかった。
「素晴らしい! まほ、こいつは良いな! エンジン、照準器、砲塔回り、流石の精度だ! 皆もありがとう! 欲を言うなら多分あと30秒は縮まるぞ!」
「キツイ……なんで……普段の訓練より緊張するんだ……」
「自己ベストだけど……レーナさん……凄い指揮だった……」
(成程……これは『戦車に一家言ある』どころの話ではないな……)
まほはレナの実力を正しく評価出来ていた。車長としての高い適性、何処で積んだかは分からないが豊富な経験、性格面も癖は有るが戦車道を履修する者は変わり者が多いから問題なし。そして戦車に対する強い情熱。
まほのレナに対する意識はとっくに『変人』から『戦車道女子』に変わっていた。そして西住流の人間以外で初めて出会った、特筆すべき実力者。それはつまりまほにとって━━
「『ライバル』か。悪くない」
「まほ! 何やってんの! ビール開けるよ! 記録更新の祝杯だ!」
「戦車の上でビール開けないでくださいレーナさん! あー! 零した!」
「この子もきっと飲みたがってるよ!」
「……やっぱりただの変人かもしれないな……」
そうして黒森峰の一日は終わる。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
帰り道。夕陽が傾き、巨大な学園艦がオレンジに染まっていく中を、レナはまほと並んで女子寮へと帰っていた。
二人は色々な事を話した。熊本の事、黒森峰の事、家族や仲間の事、そして勿論、戦車道について。
「ティーガーは私の最高の相棒さ! ずーっと乗っていたし、あの厚い装甲に何度も助けられた!」
「ふふ、でもパンターも良いぞ? 私の一番のお気に入りだ。自分が隊長になったら優先的に配備するつもりだ」
「ははは! 見かけによらず随分な性格だ! まぁ、やり過ぎないようにね!」
二人は互いに良い友人を得た。自分と同じ戦車道の実力者で、戦車が好きな女の子。意気投合にそうは時間はかからなかった。
「レーナ、今後良かったら戦車道の戦術について色々教えようか?」
「! 喜んで! こちらこそ戦車での戦闘について君に指南しよう!」
互いに切磋琢磨しあい、互いを教え合うことを約束したのだった。
そしてまほは直ぐに隊長に就任し、レナも戦車道の選手として注目を集めていく事となるのであった。
作者「まほパイセンのライバルというポジに収まった主人公!二人とも切磋琢磨して黒森峰を引っ張っていってね!そして何だかんだでしほさんに認知されて二人は結婚するんだ!」
アナ「は?(威圧)」
(ヒント:西住流のスタンスをもう一度整理してみよう)
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第十一話:二匹の虎③
レナの転入から暫くの月日が経った。今日は紅白戦だ。黒森峰チームを二分した練習試合。戦車道は踏んだ場数がその場で経験、ひいては実力となる。
重戦車群が整然と隊列を組みながら進む。向かうは敵戦車群。全戦力を敵陣の弱い場所に集中させ、防御陣形を食い破り、そのまま敵のフラッグ車まで一直線。それが電撃戦であり、黒森峰、ひいては西住まほが最も得意とする戦術だ。
だが電撃戦では、いたずらに猛進するだけでは全ての防衛線を突破できずに行き詰まり、立ち直った敵軍により包囲される危険がある。戦車道が盛んな学校相手であれば特にそうだ。サンダース、プラウダ、聖グロリアーナ。それらの学校であればまほの電撃戦にも耐えうるだろう。
だが今のまほはその対策として一つの解を得た。つまりは
その
『レーナ、頼んだ』
『おうさ
編隊から外れた数台の内の1台のティーガーから、元気な声が聞こえ、派手に主砲が敵戦車に向けて放たれた。
「まずは1台目撃破! 次弾装填、砲塔右20度! 撃て! 通信士! 機銃を撃ちまくって出来るだけ気を引かせろ! 味方本隊に向かわせるな! 唾をはきかけるみたいに挑発しろ!」
援護に来ていた敵側のパンターが挑発に乗り、3台こちらに向かってくる。狙い通り。ティーガーを後退させ、味方本隊から引き離す。
「馬鹿が正面から突っ込んで来るぞ! 右側の奴を撃ち抜け! 運転手、アクセルの準備! すれ違いざまに他をやる!」
「レーナさん! 敵が分散しました! どっちに進みますか!?」
「右の撃破した方に向けてアクセル全開! 砲塔旋回準備しといて、撃破したら直ぐに回して!」
レナのティーガーは特別製だ。足回りやエンジンを魔改造した結果、普通のティーガーはカタログスペックで整地での最高速度は40km/hだが、レナのティーガーは最高45km/hを記録している。
突如突っ込んできたティーガーに驚いたパンターが、レナの戦車を攻撃しようとする。が、レナ達の方が僅かに早かった。既に撃ち抜いたパンターを盾にして、残りを手際よく片付ける。
「撃破!」
「Gut! そのまま前進だ!」
味方も上手いことやっている。敵を引き付け、決してこちらを無視させない。本隊の移動もこれで十分楽になっただろう。
「噂には聞いていたけど、こんなに忙しいとは……」
「お疲れ様。ま、これも教育の一環さ。
一帯の敵を片付けて、一息ついた乗員から声が漏れる。なんせレナのティーガーは『修練場』という別名がつく程に忙しい。矢継ぎ早に繰り出されるレナの指示を完璧に遂行しなければならないが、慣れれば命令に忠実な素晴らしい乗員が誕生する。
一年生にしてレナは他の生徒を指導する、言わば『教育係』になったのだ。良くも悪くも黒森峰は実力至上主義。一年生と言えどもレナの実力が放っておかれる訳も無かった。
それにレナにとってはピッタリの役柄だった。戦車の技術については言うまでもなく経験も知識もある。戦術についてはまほに劣るが、それなりに勉強はしたので数台で連携が取れるくらいにはなっていた。
少し、昔のことを思い出した。
戦争末期にはレナのような熟練の戦車兵は殆ど消えていた。新兵は皆戦車に慣れる前に死んで行った。レナはそれほど戦闘が激しくなかった時代から乗っていたので経験を積めた。ある意味幸運だったと言えるだろう。
今になってから後続の教育に力を入れるとは。少し自嘲気味に笑った。自分だけ戦車で目一杯暴れていれば良かったと思っていたあの頃、1942年以前とは大違いだ。
自分以外にもきちんと目を向けるようになったのは、やはり……
『……Tut mir leid,Helga』
「? 何て言いました?」
「ん、何でもないよ。さて、休憩もしたところだしそろそろ行こうか!」
「え、休憩っていつしました……?」
「……? 今一息ついたじゃん。ほら早く別の敵の増援の足止めに行くよ」
「うぇぇ……鬼だこの人……」
そうして何やかんやで今日の紅白戦は、まほとレナのチームが勝利を収めた。やる前から『クジ運が悪すぎる』と敵チームから文句が出ていたのは仕方の無い事だったろう。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
試合終了後、いつもの様にノンアルコールビール片手にブラブラしていたレーナは、バンカーの片隅で何やら書類に書き込んでいるまほを見かけた。
「まほ、いや、隊長? まぁいいか。何してるの?」
「! ああレーナ、少し今日の反省をな。レーナは今日の戦果も凄かったじゃないか」
「ふふふー今日は頑張ったからな! ま、最後は結構危なかったけどね! でもやっぱり戦車道は良いものだ!」
「……ああ、そうだな」
歯切れが悪くまほが返事をする。
「どうしたの? 何か悩み事かい?」
「……レーナ、やはりこの作戦は君への負担が大きすぎる気がする」
当然の事だが、レナが増援を食い止める役割をしようとすれば、どうしてもレナが不利な状況に陥る。あくまでも別働隊である上、本隊に戦車の台数が無くては意味が無い。レナは少数精鋭の気質があるがそれでもまほは、やはり不安だった。
「確かにこの役割を買って出たのは君だ。そこを否定するつもりは無い。だが負担が大きければ失敗の確率も高くなる。やはりこの作戦は使えはしまい」
まほの言っている事は理論上正しい。囮の役割を果たす以前に素早く撃破されればそれは無駄だ。西住流の教えに反する。更に言えばこれはレーナという強力な人材がいる事で成り立つ戦術。個人の技量に大きく左右される作戦に価値などない。
「大丈夫だよ。ちゃんと引き際は弁える。無理そうだったら本隊に合流するさ。なぁに、直ぐにそんな心配を吹き飛ばしてやるさ!」
「……レーナ……」
だがまほはそれ以前に、もっと
「それで仲間が助かるなら、私は本望だね」
レナはバンカーを後にする。まほは、その言葉が何故か胸にずっしりとのしかかった。まほはぽつりと呟く。
「レーナ。君は何故自分を大事にしないんだ」
レナの戦績表がその手には握られていた。まほは知っている。レナの戦車だけが他の戦車に比べて異様に被弾が多いこと。毎回練習試合が終わる度にレナの戦車はボロボロだ。彼女が自分から率先して激戦地に飛び込んでいくからだ。
まほには、それを評価すべきか、咎めるべきか分からなかった。
この時点で彼女の性質を理解できていなかったことに、後のまほは酷く後悔することになる。
主人公は『仲間』は大切だと学びましたがその中に『自分』は全く勘定に入れてません
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第十二話:かわいい後輩
挿絵貰ったので約束通り駅前で新宝島を踊った
砂埃を巻き上げながらあいつがやって来る。重戦車にあるまじき速度でやって来る。陣形から離れたそいつは新兵のヤケクソではなく、ベテランによる
一度主砲が火を吹けば戦車から白旗が上がる。遮蔽物、地面の凹凸、敵味方の射線、太陽光、あらゆる物を利用し巧みに敵陣に食い込み、そのまま突き破る姿。
まさにそれは黒森峰の誇る二人の逸材の内の一人。レナ・シュバルツの戦車道だった。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
黒森峰の月日は飛ぶように過ぎる。まほを隊長とした黒森峰チームは例年通り全国大会に出場。見事な電撃戦、又は包囲戦を展開し試合を勝ち進んだ。当然レナも出撃した。
結果は大勝。まほが指揮し、レナが突き崩すという戦法が攻守共に良く働いた。全国大会の優勝という有終の美を飾った三年生は引退、レナ、まほ達は二年生になった。
まほは元々だが、レナも戦車道界隈では有名人となりつつあった。殆ど単騎で防御陣形を崩したり、増援部隊を引き付けたりする様子から『黒森峰の破城鎚』とか『鉄砲玉』とか色々と好き勝手呼ばれる様になった。
ともあれ二年生である。レナは依然戦車道にまっしぐらだった。授業が終わればバンカーへとまっしぐら。戦車にいち早く乗り込み訓練を始めるか、バンカーの一角でまほのみならずOBや先輩や後輩、はては他校の生徒とも戦車戦や戦術について討論していた。
レナはメキメキと実力を伸ばしつつある。戦車兵としては半ば完成された実力を持っていたレナだったが、指導する立場としての見解を深められたし、大規模な戦術もいざ学んでみれば奥深い。
誰の命令にも縛られない、仲間と戦車道を楽しめるこの時間が、レナは誰よりも好きだった。
「戦車道には人生の大切な全ての事が詰まっているのさ(ポロロン)」
「そうらよね~! や~わらひもわかいころはたいふぇんでさ~いまがたのひくてたのひくて~(ゴキュゴキュ)」
いつだったか学園艦にいた見知らぬ少女もそう言っていた。たしか彼女とは戦車道について意気投合して、公園のベンチでささやかな乾杯をして……ビールを飲んでいたので記憶があやふやだが、なぜか何かの楽器の音が耳に残っている。
そして。二年生になった以上後輩も出来た。今レナは新入生の歓迎会と黒森峰戦車道の紹介を兼ねたイベントに参加していた。黒森峰の戦車道を見に来た新入生をレナは見渡す。何人かは西住流の教えを受けている経験者のようだが、中には戦車に全く触れたことも無かった人もいるはずだ。
というかなんというか庇護欲が湧いてきた。なんだあのぽわぽわした感じのまほそっくりの子は。あそこの目つきの悪い銀髪の子も内心緊張気味なのが見て取れる。みんなかわいい、とレナは早くも後輩に対して可愛さを感じていた。
「かわいいなぁ~新入生ちゃん達……まほ、これからもっと戦車道が面白くなるよ」
「そうだな。ん、そう言えば話していなかったか。新入生の中には私の妹もいるんだ」
「なんと……あの子か。ってことは西住流?」
「……まぁそうだ」
名簿を見ると栗毛のぽわぽわがまほの妹の『西住みほ』で、銀髪の子が『逸見エリカ』らしい。新しい仲間だ。レナは名前をしっかりと覚えた。
楽しみだ、とレナは思った。未経験とは戦争においては弱さだが、戦車道においては常識に縛られない自由さと爆発力を併せ持つ。おっかなびっくり歩むヒヨコは果たして闘鶏となるかフライドチキンとなるか。可能性の塊である彼女らは実に愛らしい。
もし新入生の中に光る奴がいたら自分の戦車に乗せてやろう。そして文字通り手取り足取り全てを叩き込む。と静かにやる気を燃やすレナはやはり黒森峰に来てから他人への教導が好きになっていた。
レナの方を見た何人かの新入生が固まり、目を逸らす。何やら良くないオーラが溢れ出すレナからは目も逸らしたくなる。レナの噂は新入生の間にも知れ渡っていたからだ。
黒森峰生曰く、『凄腕だがビールジャンキー』『面倒見が良すぎる』『戦車バカ』『美人ではある』『美少女の皮を被ったバーサーカー』『戦車道版ターミネーター』『無自覚スパルタ』などの冗談じみた話を真顔でされた一年生の心境は穏やかでは無いだろう。
一年生の内心を露ほども知らずレナは会場を後にする。今日は戦車のメンテナンス中の上、一年生の対応の邪魔になるから練習は出来ない。取り敢えず体力作りだ。レナは足早にグラウンドに向かった。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
みほは去っていく上級生の背中を見ていた。姉であるまほと親しいドイツ人の少女。直ぐに彼女が「レーナさん」だと分かった。西住流の後継者である姉をして「凄い奴だ」と言わしめる少女、らしい。
綺麗な人だな、と思った。ロングの黒髪に薄い青の瞳。まるで本物の軍人のようにキチッと着込まれている制服が、彼女の見た目を一段と引き立てていた。
みほはまほからよく彼女について話を聞いていた。姉の入学早々『友達が出来た。すごい奴なんだ!』と興奮冷めやらぬ様子のメールを送られた身としては、彼女が姉と仲良くしているならいいことだろう、というのがみほの考えだった。
まほは西住流ということもあって、友達は多いというわけでもない。一定の距離を置かれてしまうのだ。だが彼女は違う。まほとレナは戦車乗りとして互いを尊敬し合っている。少し羨ましかった。
友達が欲しかったみほは、先ずはあの人と仲良くなってみようと心に留めておいた。
━━そしてその後、グラウンドでトレーニングと称して両手にティーガーの履帯の束を持って延々とスクワットをするレナを見て、みほは後ずさりする事になる。
我気付小説閲覧数十万突破!謝謝那須!
さりげなく主人公のプロポーションを書いておく事で更なるファンアートをあなんでもないです
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第十三話:雛と虎
二、三日して、戦車道の履修が決定した黒森峰新入生の前に現れたのはレナだった。レナは黒森峰の中でも折り紙付きの実力者として知られている。西住流とは全くの無縁でありながらも独学で実力を伸ばし、日本の戦車道において注目されてきた。
故に新入生の目も自然と期待に溢れた物になる。ついに
「黒森峰にようこそヒヨコ共。早速戦車に乗りたがっている奴もいるだろうがそうは問屋が卸さない。
レナの発言に何人かから驚きの声が上がった。例年はマニュアルを読みつつ上級生と共に戦車を動かす、もしくは上級生の戦車に同乗するのが通例だ。だがレナはそれすらさせないというのだ。
つまりそれは「未だ未熟だ」と言われている事に他ならないのだ。レナ程の実力者からそう言われるのは仕方ない事かもしれないが、それでも黒森峰生である以上プライドはあった。
「質問よろしいでしょうか」
「良いだろう。なんだ?」
新入生の一人が挙手をし、立ち上がる。レナはそれを少し感心したように見ていた。上官の指示に対して自分の意見を言えるとは中々骨があると見た。軍隊であれば殴って終わりだが、今の自分達は高校生だ。上官への反抗はレナにとって大いに結構だった。
「戦車に乗せない理由は、私達が未熟だからですか」
「そうだ。まだ戦車には乗せない。安全講座からスタートだ」
「……っ! 何故ですか! 私はこれでも戦車道は中学の頃から「
レナは発言を遮る。有無を言わせぬ気迫に新入生はたじろぐ。
「確かに君たちの殆どは経験者だ。自分の実力が黒森峰でどこまで通用するのか。それをいち早く知りたいという気持ちはよく分かる。だが私はこう警告しよう。
レナの目が厳しい物となる。そこには黒森峰のエースとして、いや、あらゆる戦場を戦車で駆け抜けたベテランとしての重みがこもっていた。この場にいる者にはその重圧の正体は分からなかったが、皆が耳を傾けていた。
「慣れってやつは恐ろしい物だ。何度も経験している戦車道だが、いくら安全に配慮していても事故は起きる。怪我をする。場合によっては死人まで出かねない。危険な競技だ、という事を忘れてはいけない」
黒森峰生にとって、彼女の最も特異な点とは、「選手の安全に対して一切の妥協をしない」という点だ。無茶な作戦や行動をとる戦闘スタイルとは裏腹に、安全面では絶対に譲ろうとしない。
「君達には消火器の管理・点検、応急処置、救難信号及び人命救助、災害時における行動など幅広く身につけてもらう。これらを疎かにするようならば黒森峰の戦車道に君達は不要だ」
そして彼女にとって戦車道は生き甲斐だ。そんな競技で死人が出る? それは駄目だ。レナは亡きヘルガに誓ったのだ。私の仲間はどんな事があっても助けると。
「では君達の黒森峰戦車道はここから始まる。全員期待しているぞ?」
「「「っ! はい!」」」
「ふ、いい返事だ。昔を思い出すよ」
ニカッと笑ったレナを見て新入生達は胸をなで下ろす。だがこの後生涯忘れられない一週間を過ごす事になる━━
「お前! なんだその髪は!
「消火器に穴が空いている事に気づかないとはな! バーベキューでもお望みか!? 第二分隊全員で消火器抱えてグラウンド五周だ!」
「ドライバーが一本ないぞ死ぬ気で探せ! 見つかるまで帰さないからな!」
「止血! 気道確保! 呼吸の管理! 循環器管理! 温める! 搬送! 全て叩き込む! 人工呼吸程度で顔を赤らめるな! もっとスゴいことやってやろうか!?」
「不要なキューポラからの顔出しは控えろ! アイドルじゃ無いんだぞ!」
「おい! しっかり睡眠は取れ! 眠れないならほら! ボコぬいぐるみだ! え? 要らない? じゃあみほにあげるか」
後に新入生達はこう語る。「日常生活で指差し確認をするようになった」「今なら人命救助が出来る」「消火器をみると条件反射で点検してしまう」「忘れ物がゼロになった」━━と。
そしてレナは一週間後、虚ろな声で「指差し確認、止血が優先、睡眠は力……」と呟く新入生達を前に満足気に頷き、戦車搭乗を許したという。
黒森峰戦車道安全マニュアル
レナが主導となって作成した戦車道安全マニュアル。黒森峰独自のもので初心者にも分かりやすい説明とカラー写真付きのマニュアル。
所々にデフォルメされたニコニコ顔が優しく解説を入れてくれるが黒森峰生には「笑顔な訳が無い」「悪魔の微笑」などと不評。
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第十四話:エリカは激怒した
皆はちゃんとプロットを作ろうね!
「……レーナ?」
「(ガサガサッ)……あ! まほ! 取り敢えず今から新入生の教育メニューを考えようと思う。まずは体力作りの為に塹壕を3km分掘らせて……」
「今隠した物はなんだ」
「……ジャックダニエル……」
「レーナ」
「はい」
「正座」
レナはドイツ人らしからぬ慣れた様子で堂々と正座をする。まほがボトルを回収し、『没収した酒』と書かれた金庫にしまう。金庫はもうすぐ満杯になりそうだった。
「……あんな人がどうして……?」
普段から凛々しい隊長が珍しく呆れ顔を向けているのが『レーナ・ベーカー』であり、エリカが苦手とする人物だった。戦車道女子は大なり小なり変わり者が多い。彼女も例に漏れず、アルコールジャンキーという特性を抱えていた。故に知名度は黒森峰でもトップクラスである。
レナの事はエリカも試合の映像を見た事があったし、僅か数両の戦車で敵の増援部隊を押し留める程の実力は確かに尊敬に値する。だが仮にも黒森峰の実力者がアルコールジャンキーだったとは露ほども考えていなかった。噂も多少の誇張はあるだろうとエリカは考えていたが誇張でも何でも無かった。
黒森峰生ならばそれ相応の振る舞いが要求されるべきだが、彼女の態度はそうではない。エリカはレナのそこが不満だった。
何を隠そう、エリカはレナが苦手だった。
そして例の一週間に渡る安全講座も原因だ。嫌という程叩き込まれた救命知識と技能は、命に関わるような重大な事故が未だ起きていない戦車道においては必要ないと言える。西住流からしてみれば『不必要』な事であり、そんな事をする暇があれば演習の一つでもしろ、というのがエリカの見解だった。
たが知れば知る程に、レナが真剣に戦車道を考えているからこそ、ここまで安全にこだわるのだとエリカは分かってきた。それは今まで勝利至上主義の西住流しか知らなかったエリカにとっては、非常に複雑な心境にさせられた。
エリカ自身は彼女のやりかたは間違ってはいないとは思っていた。チームメイト……特に隊長のまほや西住みほ、レナ等の実力者が怪我でもすれば大会での優勝から遠ざかる。当たり前の理屈だ。そういう風に見ればレナのやっている事は正しい。
だがレナは明言こそしていないが、
西住流と黒森峰が積み上げてきた勝利の歴史を一体なんだと思っているのか。黒森峰生として、連続優勝の歴史に名を残したいのは当たり前だろう! とエリカは声を大にして言いたかった。
気にくわない。
気にくわない。
そんな奴がどうして隊長と仲良くしているんだ。あの人に並び立つべきなのはもっと西住流を理解している
気にくわない。
どうして、どうして、どうして━━!
「……はぁ。絶対に認めてやるもんか……」
気づけばエリカは手に持っていた空き缶を握り潰していた。エリカはこれが唯の嫉妬だと分かっていた。だがこのままレナを見ているとどうにかなってしまいそうだったのだ。
そんなエリカの様子を、まほは見逃していなかった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
そして翌日。エリカは荒れていた。
「何故ですか隊長!」
「エリカ。既に私及び上級生が決めた事だ。君が何故嫌がるかは知らんが、私は君にとってこれが最善だと考えた」
今日黒森峰の新しい編成が決定した。まほが把握している一年生の実力に基づき決定した編成はエリカにとって良いものではなかった。一つは同じ一年生の西住みほがいきなり副隊長に抜擢された事。いくら西住流と言えども、だ。そしてもう一つが━━
「それでも! よりによって『この人』の配下なんて!」
「『この人』という言い方は無いだろう。キチンと『先輩』とか『レーナさん』とか呼んでくれ。
「レーナ、頼んだぞ。エリカもしっかりな」
エリカがレーナの下に配属された事だった。がっくりと項垂れたエリカが呟く。
「……私では力不足という事なの……?」
「力量は関係無いさ。一年生にしては君の腕は確かだと思うよ? ただまほはこれがベストだと考えたんだ。焦ることは無い。結果を出せばいいのさ」
レナの答えはエリカには納得いくものではなかった。憧れの隊長の側で戦いたい。その思いとは裏腹に自分はその立場からどんどん離れていく。そんな焦りがエリカにはあった。故にエリカは声を荒くして言う。
「私は隊長を心の底から尊敬している! すぐにアンタ━━あなたを追い越してやる! 隊長の隣に立つのは私です!」
「あぁ成程! そこまでの憧れか! それなら怒るのも━━いや、分からないな」
「何がおかしいんですか! これは私にとって━━」
「いや何、他人への憧れが君の戦車道なのか。素晴らしいな。特に具体性も主体性も無いってのがまたいい」
「━━っ! このっ……」
突然のレナの問いにエリカは面食らった。目の前のレナが何を言っているのか一瞬分からなかったが、すぐに理解し顔を真っ赤にする。悪態を吐きそうになったが耐えた。
「まほに憧れているのか? 確かに彼女は素晴らしい戦車乗りだとも。だが気を付けなよエリカ。憧れという感情は人を盲目にさせる。今の君のようにね」
エリカはレナの言葉に拳を握り締める。が、耐えて口で反撃する。
「私は隊長の背中を中学の時からずっと追いかけてきた! それについてあなたにとやかく言われる筋合いは無い!」
「頑固は美徳だよ。だが年長者の意見にも耳を傾けてほしいものだね」
「知りません! とにかく私が隊長の傍に立つにはあなたではなく隊長の戦いぶりをよく見る必要があるんです!」
「そうカッカしない。私だって自分で言うのもなんだが上手いぞ? 少なくとも君よりはな」
喋りながらスカートの中から酒瓶を取り出したレナにエリカは怒りが限界だった。納得いかない。こんな、アルコールジャンキーの、変人の、減らず口の部下になったなんて矢張り何かの間違いだ。
こと戦車道では喧嘩早いエリカは気づけば口を開いていた。
「……さい」
「ん?」
「私と戦車道で勝負しなさい! 私が勝ったら私の転属をあなたに要求します!」
突然の宣戦布告にレナは一瞬キョトンとしていたが、ニヤリと笑う。
「良いだろう。君がそう望むなら受けて立とう」
その笑顔は、まるでイタズラが上手くいったかのような、そんな顔だった。
※主人公が若干煽り気味な理由は後から書きます。エリカへの誹謗中傷の意図はないからガルおじはその手の包丁を床にゆっくり置いてくださいお願いします何でもしますから
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第十五話:エリカは激怒した②
『やぁまほ、今年の新入生についてだろう? 分かるさ。まほの言いたい事は』
ケータイからレーナの声が聞こえる。彼女はまほにとって親友であり、良き相談相手だ。彼女と話していると不思議と落ち着くのだ。それは親友だからというよりは、レーナのアドバイスの的確さからだろう。
「私は、エリカがこのままで良いのか悩んでいる。彼女が私に好意━━まぁ、憧れを持っているのは私だって分かる」
『ふむ。あまり良くないな。憧れは理解とは程遠い感情だ。本人のやる気に繋がるなら結構だが、彼女の視野は随分狭いらしい』
「……私はエリカを拒絶など出来ない。だがこのままにも出来ない」
『違う違う、この場合まほの側からの拒絶はなんの意味も成さないさ。大切なことはもっと別にある。私はそれをエリカに教えなきゃならない。ま、先輩の威厳って奴を見せなくっちゃあな』
同い歳の筈なのに、まるで祖母や祖父と話しているようだ、とまほは思った。大人びている、という訳ではないが、彼女の発言には経験によって確かに裏打ちされた重さがある、とまほは感じていた。
『なに、部下の教育は私の得意分野さ。心配いらんとも。大将らしくドーンと構えてなさい。堂々としているっていうのは意外と大事な事なのさ』
「……ただふんぞり返るだけの指揮官になるつもりは無いぞ」
『まさか、誰もそんな事は思ってないよ! とにかくエリカは心配いらないさ!』
力強い言葉だ。レーナはいつもまほの心の支えになってくれている。
「ありがとうレーナ。明日も頑張ろう」
『勿論! Gute Nacht!』
通話が終わる。彼女の元気な挨拶が、まほの心の不安感を和らげてくれる。いい気分だった。笑顔で床に就く。まほはレーナに対し大きな信頼を抱いていた。
或いは━━
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
エリカの宣戦布告から2日たった。
「ルールの確認だ。3対3での殲滅戦形式、細かいルールは実際の試合ルールに則って行う。制限時間無制限。使う戦車は自由だがチームメイトとしてほぼ未経験の一年生を使う。あくまで平等だ。それでいいかな?」
「すぐにその余裕をひっぺがしてやりますよ」
「言うねぇ~じゃ、エリカちゃんが勝ったら所属部隊の変更を打診するって事でよろしく。まほ隊長もそれで構わないかな?」
「異論はない」
野次馬が集まる中、二人は向かいあって握手を交わす。エリカは雪辱を晴らそうと息巻いている。対してレーナは一見余裕の表情だが、目はエリカをしっかり見ていた。
そしてその様子を見るギャラリーの中にはまほとみほの姿があった。みほは首を傾げながらまほに話しかける。
「お姉ちゃん、どっちが勝つと思う?」
「そうだな、本人達の能力に限って言えばレーナに分がある。彼女の単独での戦闘能力は既に全国でも指折りだ。1対1ではエリカはほぼ確実に負ける。だが個人の実力だけで覆せる程戦車道は簡単じゃない」
まほはレーナに絡まれて、或いはエリカに叱咤されてビクビクしている一年生達を見やる。殆ど全員が、小規模ながらも試合を経験するのは初めてだった。
「チーム戦、それも新兵を率いての戦闘だ。互いに動きづらくはなるだろう。それにレーナも実力は付けてきたとはいえ、戦術的な実力ではエリカが上だ」
「うん、エリカさんは西住流門下生の中でも実力が飛び出てるよ」
エリカはみほやまほに比べれば一歩劣りこそすれど、全国的なレベルでみれば低くはなく、寧ろ高い部類に入る。対してレーナは未だ戦術は勉強中の段階だ。エリカには及ばない。それはレーナとて承知の上だ。たとえどんな小規模な戦闘でも、個々の技量では無く、戦術や数が戦局を左右することはレーナ自身が良く知っている。戦争末期にレーナが活躍したのは単に強かったからではない。最後の戦い以外はゲリラ戦や敵兵站の破壊に尽力し、対戦車の場合砲兵との連携を徹底したからだ。それでも戦局を変えることは叶わなかったが。
「だがレーナは今までそれを乗り越えてきたんだ。戦術だけ完璧ならば戦闘が上手くいくとは限らない。彼女は身をもってそれを教えてくれた」
「確かにレーナさんは強いけれど、戦局をひっくり返せる程なの?」
「いや、注目すべきは戦術でも、実力でもない。みほもしっかり見ておくと良い。彼女の戦い方を」
「そんなに期待されると参っちゃうな~!」
レーナはティーガーのキューポラから二人に笑顔で手を振る。対してエリカはしかめっ面でレーナを見つめていた。
「じゃ、配置に着いたら連絡する。合図は誰か頼むよ」
そして、エリカの異動を賭けた戦いが始まった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
今回の試合は広い野原での戦闘になる。練習用に設置されているコンクリートの障害物やデコイがあるものの、比較的視界は通りやすい。だがそれなりにある起伏は照準を不安定にし、走行を不安定にさせる。それらの要素を前提にどう作戦を立てるか、そこが重要なポイントだ。
エリカは双眼鏡で周囲の様子を伺う。今回の編成はエリカ側はティーガー1両にIV号戦車が2両だ。レーナ側の編成は知らされてないが、エリカはほぼ同じ編成だと考えていた。エリカはフラッグのティーガーに乗車して今回の戦いに挑んだ。エリカとしてはまず一番の脅威は当然レーナだった。下手をすると彼女一人に全滅、なんてことも有りうるからだ。ならば敵の大将を囲んで叩くというシンプルかつ最適な答えをエリカが出すのも当然だった。
会敵までに二分もかからなかった。砂塵を巻き上げながら味方のIV号戦車2両が配置に向かう。即席の突破陣を組み上げたエリカは1両の敵ティーガーが丘に陣取るのを確認した。敵のIV号戦車2両もスモークを焚きながらこちらに向かってきている。強引に詰めるつもりだ。
確かに高い場所から戦況を把握する分には良いが、レーナは味方2両にこの場を任せて、自分は有利なポイントから攻撃するつもりだと、エリカは考えた。あのティーガーにはレーナがいる。彼女さえ倒してしまえばほぼこちらの勝ちだった。
だからこそ電撃戦だ。エリカは矢継ぎ早に指示を飛ばして2両の敵IV号を味方のIV号1両に任せる。戦果は期待していない。ただ2両を敵ティーガーから引き離し、時間が稼げればそれでいい。捨て石だ。
「フラッグのティーガーを追う! 増援が来る前にさっさと片付けるわよ! 運転手はもっとスピード出して!」
「これ以上は出ません!」
「馬鹿! アクセル踏み込めって話じゃないのよ! 走る場所を選べって言ってんの!」
エリカはイラついていた。矢張り遅い。これではあのムカつく先輩には勝てない。あのヘラヘラした態度のアイツに一発ぶち込まないといけないのに。激情がエリカを支配していた。ティーガーからこちらに砲撃があるがお構い無しに駆ける。
「エリカさん! 味方から離れてます! スピード落としましょう!」
「気合い入れて走るよう発破かけなさい! グズは戦いに要らないわ!」
「うわっ! 撃ってきました!」
「運転手! 障害物の裏をまわるのよ! とにかく動き続けて! 護衛役のIV号は無視よ無視! どうせ素人、何も出来やしない!」
予想通り敵からの砲撃は掠りもしない。矢張り素人だ。こちらが動いてるなら当たらない。そして味方もエリカに何とかついてきてるようだ。全て順調だった。このままエリカ達がティーガー1両相手に接近戦を挑めるまで近づければほぼ確実に勝つだろう。
「待ってなさいよ……絶対に許してやるもんか……後悔させてやる……! そして私こそが隊長の隣に相応しいことを証明してやる!」
遂に距離は30メートル迄になった。ティーガーがスモークを焚いていたが無意味だ。勝てる。エリカはそう確信した。すかさず砲撃。砲塔にダメージ。逃げるティーガーを追い詰める。
「撃ちまくりなさい! 2両で袋叩きにしてやる! 楽しみね! アンタが悔しがるのを高笑いしながら見てやる!」
岩陰に隠れたティーガーを相手に砲弾が襲う。エリカに攻勢を緩めるという選択肢は無い。貧弱だった幼少期に西住流に憧れた。そして電撃戦の如くここまで駆け抜けてきた。今だってそうだ。彼女を倒して、隊長の横に立ち、そして━━━
━━━
何か大事なことに気がついた気がした次の瞬間、エリカは強い衝撃に驚愕した。金属が何かと激しく擦れる音だ。
「こんな時に衝突!? 一体何が━━」
「エリカさん!
「はぁ!?」
信じられない報告だ。有り得ない。そこに居るはずがない。《3両目の》IV号戦車はエリカに食らいつき、その砲塔をエリカの味方に向け、撃った。
「後続のIV号戦車がやられました! 後方の1両は生きてますが━━」
『エリカさん! こちら後方! こちらの戦車の内1両はダミーです!
「後退━━」
衝撃と共に、エリカのティーガーから白旗が上がった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
隊長。私だってやれます。あなたの隣に立ちたいんです。
駄目だ。君の意思だけを尊重する事は出来ない。
ならば! もっと、もっと強くなれば! あなたは私を認めてくれますか! あなたの背中に追いつけば!
……
最近のあなたはそういうばかりだ!
アグネス……私はただ……
もういい、私の目標は
アグネスは死んだ。命令を無視し敵の戦車大隊に単騎で奇襲を挑み、12両撃破の大戦果を上げた。
彼女が誰の真似をしたかなんて、私には分かりきった事だった。
出てきた瞬間死んじゃうアグネスちゃんかわいそう
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第十六話:エリカは激怒した③
完結はするようにしますがあんまりダラダラ長くなるのは避けたいのです
「……負けた」
試合終了後、夕焼けの中エリカはバンカーの裏で一人コーヒーを飲んでいた。今の時間なら誰も居ない。今日の試合がフラッシュバックする。激情に駆られたままフラッグ車を叩きのめす事だけを考えていたために簡単な偽装も見抜けず、まんまと敵の策略にハマってしまった。
「……隊長に失望されたかしら……」
「……っ隊長ぉ……! どうかっ……嫌ぁ……!」
噛みしめた歯の間から、やがて嗚咽が迸り出る。ポロポロと落ちる涙が地面を濡らす。その時、足音と共に彼女が来た。音のする方を赤く腫れた目できっと睨む。憎き相手、レーナがそこにいた。
「理想の自分は時に自分自身を否定する存在になる……。探したよエリカ」
「……何ですか。負けた私を笑いに来たわけですか?」
「笑うものか。負けた相手を嘲笑していいのは恋愛と戦争だけだ。戦車道は誇りある競技だからな」
レーナはエリカにとって謎が多い人物だ。黒森峰戦車道のエースであるドイツ人留学生。何故か日本にやってくる以前の記録は殆ど無い。普段は筋トレか酒ばかりに夢中なふざけた先輩だが、今のレーナの顔は真剣そのものだった。
「まほに憧れてるんだな。まほは強いからな。特にどんな局面でも動じる事無く対処し、自分たちの得意な攻めで敵を食い破っていく様は確かに魅力的だろう」
「……ええそうよ。だから私は隊長の隣に立ちたい。隊長の戦術を学ぶ必要があるのよ。それなのにアンタはッ!」
レーナはエリカを見据えて、この後のエリカを大きく左右する質問を放った。
「エリカ、君は『西住まほの模造品』になりたいのか? 『逸見エリカ』ではなく?」
エリカはその質問に直ぐには答えられなかった。レーナはエリカの隣に腰掛けた。
「エリカ、君の思考は『まほならこうする』とトレースしたものだ。確かにそれでもある程度は強くなれるだろう。だがいつか
「どういう……いや、そんなはずは……」
「違わないさ。『西住まほ』だけを真似ていても『逸見エリカ』はそれ以上強くなれない。エリカ、君の戦術は理性ではなく、感情での攻勢だ。それが西住流に合わない理由でもあり、同時に君の強みでもある」
確かにエリカは自身の実力が伸び悩んでいる事に苦しんでいた。エリカが停滞するだけ、まほとの差が開き、周りがエリカに追いつく。それが焦りを産み、精神面で致命的な隙を見せることになるのだ。
言ってしまえば
「より幅広い視点から様々な戦術を手に入れ、自分の気に入った技術を自分で再構築しろ。何故こうした? 何故こうしなかった? 敵をどう動かした? もっといい方法は無いか……ってね」
「……つまり、隊長の技術を
「自分の物にする、という事だからな」
夕陽がレーナの顔を照らす。どこか遠くを見ているような、そんな表情だった。レーナは話を続ける。
「
「…………」
「でもさ、だからこそ私は今ここにいる。なんでも自分の物にして喰ってきたから『レーナ』は強いんだ」
レーナはエリカの目をじっと見る。エリカはその場を動けなかった。悔しかったが、エリカはレーナの言うことが正しいと認めざるを得なかった。
「私の部隊に来たまえエリカ。技術の盗み方を教えよう。そして君はたらふく喰うんだ。君が、『逸見エリカ』という最高の戦車乗りになるまで、私は喜んで君に教えよう」
エリカは目の前で手を差し出した彼女に、戦車乗りとして本心からの畏怖を覚えた。一体彼女は自分をどうするつもりなのか分からなかった。だが彼女の目の奥には、見覚えのある銀髪が砲弾飛び交う中を奮戦する様が見えた。エリカは自身の実力を伸ばすために一旦はレーナの部下という立場に甘んじようと決意した。たとえ相手が酒飲みの戦車バカであろうとも。
エリカはレーナの手を握り、それからこう返した。
「後悔しないことね。私を今日この場で立ち上がらせた事を。私は隊長やみほだけじゃなく、いつかアンタの技術も、経験も、知識も全部食い尽くしてやる。なんだってやってやるわよ」
結果はレーナの予想以上だった。エリカはきっと素晴らしい戦車乗りになれると確信した。
「うん。やはり戦車道は素晴らしいな」
「いきなりなんですか」
「うんにゃ、何でもない。さ、戻るよエリカ。シャワー浴びて汗流そ!」
エリカとレーナは立ち上がり、夕陽を背に歩く。こうして、後に『黒森峰の《猟犬》』と呼ばれる逸見エリカは生まれた。
━━━━━━━━━━━━━━
※投稿遅かったからお詫びのサービスシーン※
黒森峰女学園の戦車道設備は非常に充実している。その多くは戦車のためのものだが、シミュレーター、トレーニングジム、休憩所や作戦室など、生徒の為の設備も用意されている。その一つにシャワールームがある。
なにせ花も恥じらう女子高生なのだ。誰が家まで汗臭い状態で帰りたがるのだろうか。いや、誰もそんなことはしたくない。だから皆ここで汗を流すのだ。
シャワールームに隣接する更衣室でエリカとレーナの二人は制服を脱いでいた。二人とも味気ないスポーツタイプの下着だった。
「お腹の傷……大丈夫ですか? 昔の試合の最中に怪我を?」
「まぁそんなトコかな。エリカも十分気をつけてなよ。……あのファイアフライは強敵だったからなあ……」
エリカはレーナの身体をまじまじと見つめる。しっかりと鍛えられ、引き締まったボディの所々に、
「……その……あー、なんだ。昔不注意で砲弾の空薬莢で火傷したんだ」
「……そうでしたか」
「む。エリカの腹筋凄いな。努力の結晶だねぇ」
「ちょっと! 勝手に触らないでください!」
話題を逸らすために腹筋を触ろうと後ろから手をまわすレーナと、身を捩り逃げようとするエリカ。そして二人はバランスを崩し、そのまま倒れてしまう。そしてそれと同時に今までランニングをしていた新一年生数人がシャワールームに入場してしまう。
人の少ない夕方に汗だくの下着姿で互いに床で絡み合ってしまっている美少女二人を目撃した新入生は耳まで真っ赤にし、仲間と顔を見合わせそして━━
「「「お邪魔しましたごゆっくりどうぞ!」」」
「「誤解だ━━━!」」
盛大な勘違いをしてしまった。
翌日、エリカとの関係をまほにハイライトの消えた目で問い詰められたレーナがいたとかなんとか。
タイトルを『エリカ、キレた!』にしようか迷いました。
外出自粛なのでひたすら家でボクササイズしてるエリカを想像しながら僕も筋トレしてます
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第十七話:川の向こう
最近百合ばっか書いて調子乗ってたから今日はマジメくんです。タイトルでほぼ察してくれたかと。
今年の全国戦車道高校生大会における黒森峰女学園の勢いは凄まじい。西住姉妹という隙の無い指揮役に、稀代の実力者であるレーナ・ベーカー、更には黒森峰入学以来レーナの下で恐ろしい成長をつづける逸見エリカ。その他のメンバーも実力と忠実さを両方とも持ち合わせた、正に鉄壁の布陣。黒森峰が十連勝の栄冠を手にするのは、最早誰の目にも明らかだった。
勝ち進んだ黒森峰はいよいよ決勝戦を迎える。大雨にも関わらず観戦する人々の歓声と、実況と解説の場繋ぎのトークの中、選手用のテントで試合前最後のミーティングが行われた。 顔を合わせる全員がやる気に満ち溢れた表情だ。士気は高い。だが一人だけ……レーナだけは不安そうな顔をしていた。エリカが訝しげに問いかける。
「急な雨とはな……あまり良くない。全員戦車の防水加工はきちんとすませてるな?」
「問題ありません。……
「……いや、緊張というかなんというか……」
「……まほ、すこし提言したい」
「どうしたレーナ、遠慮なく言ってくれ」
「ありがとう。……この雨だ。この布陣のこの川沿いの私の部隊と、山に近い部隊は別の配置に移すべきだ。増水と土砂崩れが起きたら事だ」
レナにはこれから何が起こるかは分からなかったが、不安要素はできるだけ潰したかった。
「山の部隊を下がらせるのは賛成だ。この雨だ。戦車で泥だらけの斜面を登ろうとしても悪戯に燃料を減らすことになる。プラウダの戦力も重戦車が中心だ。山は登れまい。それに今日は視界も通らない。山を確保するメリットは確かに無いだろう。代わりにこちらの高台は早めに確保しよう」
他の二、三年生も同意しているようだった。しかし━━
「だが川は駄目だ。レーナ、君には何が何でもこの川を確保して欲しい」
「……まぁ、そうなるか」
「あぁ。この川の周辺をいち早く確保できれば橋を渡って敵側へと容易に進軍できる。逆に取られてしまえば敵と川を挟んで撃ち合うことになりかねない。そうなれば攻勢は困難になる」
レナはまほの言い分が理にかなっているのは重々承知だ。それに対して反論もしない。これは単なる第六感だ。私がとやかく口は出せない。更にプラウダは強敵だ。まほだって勝ちたいだろう。
「……分かった。期待に応えよう」
「うん。よろしく頼む」
結果レナは自身の不安を頭の片隅に留め、試合に集中する事にした。
そして、戦車道界隈を大きく揺るがす大事件が起きることになる。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
「隊長! レーナ車から連絡! 雨で川岸が崩落し、一年生の戦車が一台川に落ちたとの事!」
「落ち着いて報告しろ。どの車両だ?」
「赤星車のようです!」
試合開始から暫くして。川の確保に向かっていた部隊がトラブル、いや致命的な事故に巻き込まれた。戦車の水没自体は過去に何度か事例はある。黒森峰の戦車が水没するのは初めてだったが、他校の事例ではいずれも助かっていた。戦車道用の戦車の安全面を考慮した水密性ゆえである。だからまほはこう指示を
「全車そのまま作戦を続行。赤星車の救助は大会側に任せる、と伝えろ」
了解、という返事が次々と返ってくる中、二両の戦車からのみ返事が無かった。まほが不審に思っていると、信じられない通信が入ってきた。
「ったっ隊長! レーナ車より通信! 『車長が赤星車乗員の救助に向かった』と!」
「何だと!?」
まほは一瞬、無線手が一体何を言っているのか理解出来なかった。レーナの戦車が、それも黒森峰の実力者が、事実上作戦を放棄?
「レーナ車の乗員にレーナを止めるように指示しろ!」
「了解です!」
素早くまほは地図を見る。敵のスタート位置から考えれば、もう川に敵部隊が到着していてもおかしくない。プラウダもこの川の重要性を分かっている筈だ。落下した赤星車、車長が作戦を放棄したレーナ車は戦力にカウント出来ない。残存勢力はみほと、数台の戦車のみ。確実に勝たなければならないこの局面において戦力が不足している。
「副隊長車より通信! プラウダ高校が川に到着した模様! 現在交戦中……な!? 副隊長まで救助に向かったと!」
「なんだって!?」
車長というまとめ役がいなければ戦車の戦闘力は激減する。まほの動揺は頂点に達した。が、西住まほとして、ここで自分まで作戦を手放す訳にはいかない。鉄の理性で以て、自らの動揺と不安を押さえつける。
「……川は放棄する。川の部隊は全員本隊と合流させる。そう伝えろ。これからプランCで行く。予定の配置に着け」
「了解、副隊長とレーナさんは……」
「……恐らく失格にはならない。なんとかこちらに合流して貰わなければ……」
まほは理解していた。レナが仲間思いで、みほは優しすぎるという事を。片や親友、片や妹だ。だがこの大事な局面で私情を挟むようなタイプだとは思ってもいなかった。
そう。まほはただ知らなかっただけだ。仲間の危険というものがレナ・シュバルツにとって最大の弱点であり、彼女の心に刻まれた最も深い傷だということを。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
戦車道とは何か。当然『戦車』を突き詰める『道』である。戦車道はその特性上様々な人間がいる。理屈、数の暴力、勇気、ノリ、火力、スピード、博打、奇策、情報戦、ロマン……と、中には戦争中ならば考えられないような戦法や主義を以て戦う者もいる。
戦争を経験した、そして戦車が大好きな私にとってみれば、それはとても素晴らしい事だ。意外で、有り得ない、そんな戦術も戦車も認められ、それを考えた奴らと戦いが終わったあとに握手ができ、笑いあえる。アナが作り上げたこの素晴らしき戦車道を、戦車が大好きな仲間たちを、決して失いたくない。そう。
だから私は、迷いなどしなかった。自分の選択にも後悔はしない。ただ━━
━━親友を裏切った代償は、きっと償いきれない。
雨の降り注ぐ中を必死の形相で駆ける。耳元のイヤホンから聞こえる制止の声は、イヤホンを捨てたことで収まった。
確かに赤星達は無事かもしれない。赤星車と連絡が取れないのは無線が故障しただけかもしれない。だが、
近くの丈夫な木にロープを掛け、自身の腰にもロープを結んだ私は躊躇いもなく川に飛び込んだ。酷い濁流だ。沈みかけの戦車の横の緊急用のハッチを開けようとするも、水圧で開かない。危険だが仕方なく戦車によじ登り、上部ハッチを開く。中に赤星達がいる。浸水はしているが取り敢えず無事だ。だが時間が経てば完全に沈んでしまうだろう。
「全員無事か!?」
「レーナさん! 全員無事です!」
「落ち着け。出血は無いな。よし。取り敢えず全員戦車の上に出るんだ。浸水するぞ」
手を貸しつつ、なんとか五人全員を戦車の上に移動させる。川の流れはより勢いを増す。寒さと、水に対する無意識下でのパニックは危険だ。すると川の対岸に何故か副隊長━━みほが居るのが見えた。ビックリしてケータイで連絡する。
『みほ!? 何でここに……試合は!?』
『私も助けに来たんです! 今向かいます!』
『待ってくれ! 木に括りつけてあるロープが分かるか? 今から赤星達を全員ロープで送る! 手を貸してくれ!』
私の身体に括りつけたロープを赤星達に掴ませる。このロープは対岸の木を周り、最終的に私の手元に来る。私がロープを引けば赤星達と私自身が岸に送られる仕組みだ。みほの助力もあれば全員を岸に送るのは不可能では無い。
「全員落ち着いて息をし続けろ! 浮くことと、ロープを離さない事に集中するんだ!」
みほと息を合わせてロープを引き少しずつ、少しずつ岸に近づいていく。ロープが身体に食い込み、手の皮が破れ、激痛が走る。絶対に救うんだという意思だけが私を動かしていた。
「レーナさん! 危ない!」
だから、みほの悲痛な叫びが聞こえた時、私は咄嗟に反応出来なかった。右肩に衝撃と鋭い痛みが走る。折れた木が、私の肩、頬、肘、首に━━━
私は、そこで意識を手放してしまった。
前回と雰囲気違いすぎて心臓マヒ起こした
ちょっと注釈
・原作ではフラッグがみぽりんですが今回うろ覚えだったのでフラッグはまぽりんです。面倒だから修正しません
・水難事故の際は川に飛び込まず岸から出来ることをしましょう。オリ主は覚悟キマってたので無事(?)ですが普通出来ません。真似しないでね。
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第十八話:喪失①
作者「はい……」
私は戦車が好きだ。言うまでもなく。戦車道だって当然そうだとも。だが世の中というのは、それだけで上手く廻るものではないらしい。勝てば驕りが、負ければ軋轢が生まれる。
私はどうしたらいいのだろうか。黒森峰は負けた。矛先は誰に向く? 先ず私、それは別に構わない。だが他に向くのは嫌だ。黒森峰の皆は良くやった。ただ今まで味方していた運にそっぽを向かれただけ。
戦争の勝ち負けなんて、サイコロを転がした結果で決まるのだ。私たちに出来ることは、嫌な目が出ないように祈るか、勝率の高いサイコロを用意するか。それでも尚敗北は来る。容赦なく。仕方ないことだ。
だがそれで世の中は納得しない。努力が足りぬ、意識が足りぬと騒ぎ立てる。負ければ償いを求められる。だから私は、
私を、すり潰すことにした。
▼△▼△▼△▼△▼△▼△
準優勝という結果は黒森峰にとって最悪だった。黒森峰の名前に泥を塗ったのは一体誰なのか、そんな話題が生徒間だけでなくメディアにまで取り上げられた。
矛先はレーナに向いていた。優勝を逃したのは彼女の独断での勝手な行動が試合の大事な局面で失敗に繋がったという批難が相次いだ。そしてそれはレーナに近しい人間であればあるほど、我慢ならない誹謗中傷だった。
毎日のように戦車道に熱中していたのは誰か
勝ち負けにはこだわらないとか言っている癖に、黒森峰が勝利する度に嬉しそうにシャンパンを開けていたのは誰か
仲間の戦車に不具合が無いか、真剣な顔で何度も確認していたのは誰か
それを知っているならば、間違ってもレーナを批難する人間などいない。
渦中の本人は現在入院中だった。川に落ちたチームの五人はレーナとみほの手によって助けられたが、流木に押し流されたレーナは下流200メートルの地点で岩に引っかかっているのが見つかった。本人は気絶していた。もし身体の向きが悪く、水が口や鼻から大量に流れ込んでいれば、溺死していてもなんらおかしくは無かった。医者にも安静にしているよう言われている。
そして、全てを聞かされ、今の状況を全て理解したまほは。
「レーナ、起きたばかりで悪いが話がある」
「……はい」
「歯を食いしばれ」
西住まほは、キレた。
その時どういう事を話したのか。今となってはもう二人ともよく覚えていない。泣きじゃくりながら、互いに分かってもらおうと必死にぶつかり合うばかりで。
「どうして! どうしてなんだレーナ! そんなに仲間が大事か! 君は、君はどうなってもいいのか!」
「大事さ! これだけは譲らない! 譲るものか! 彼女たちの命が危なかった! 戦車道で、みんなに怪我なんてして欲しくない!」
「その結果がこれだ! 君はもう黒森峰には戻れない! 昨日、みほは黒森峰を離れる事が決まった! 私はもう嫌だ! レーナまでそうなったら耐えられない!」
「私がどうなろうと、どうだっていいだろう!」
二人の少女が互いに激しく言い争う。互いの主張はどちらも相手を守ろうとするもの。故に噛み合わず、衝突し━━
割れた。
「もう……出ていってくれ。まほ」
「……っ! わからず屋!」
まほが出ていき、病室のドアが乱暴に閉められる。床には涙の跡が残った。
「……ごめん」
震える声でそう口に出したのはどちらだったか。どうにせよ、相手には聞こえていなかった。
△▼△▼△▼△▼△▼△
レーナの居ない生活。それはまほにとって、予想以上に苦痛だった。誰もいない机が嫌に視界に止まる。普段なら後ろが騒がしい筈なのに、今日は嫌に静かだ。空虚がまほの心に重くのしかかる。
どうすれば良かったのだろうか。レーナのあり方は出会った時から全く変わっていない。彼女は勝利よりも仲間を選ぶ。そんなことは分かりきっていた。長い付き合いだ。しかし今回の彼女の身の張り方は些か度が過ぎている、とまほは考えた。
分からない。
彼女はなぜあそこまで必死になるのか? 彼女に何と声を掛ければ良かったのか? レーナはこれからどうするつもりだ? 何か彼女について根本的な部分を理解できてないのではないか?
『簡単な話だ西住まほ。お前は間違えたんだ』
背中にベッタリと何かが張り付く。冷たく、硬く、食い込むような痛みを感じる。まほの肩を掴んだその手からは、血が涙のように滴り落ちていた。少し軽薄そうな、だが恐ろしい声がする。後ろを振り向けない。
『今更そんな自問自答をせずとも、お前は知ってただろうが。彼女は仲間を救う為なら自分を殺すぞ? 知っててお前は放っておいたんだ。大丈夫だと、問題ないと』
「……あ」
声が震える。そうだ。私は気づいていた。レーナの危うさに。そんな私をみて、ソレは笑った。だが掴まれた肩からは怒りが伝わってくる。
『手遅れになってから病人相手に怒鳴り散らして、友人としての務めをそれで果たしたつもりか? 笑えるな』
もっと早く、止めてやれば。レーナは、あんな━━
『そうだな。手遅れにならずに済んだかもな』
「━━え?」
手遅れとはなんだ。嫌、そもそも
『━━
そんな声を、聞いた気がした。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
目が覚める。吐き気がした。
着替えて、食べて、また吐きそうになった。
携帯電話には、着信が一件。かけてみた。
レーナが消えたそうだ。今度こそ吐いた。
こころがいたい
耐えられないから清涼剤代わりのおふざけ↓
はい、ここがルート分岐です。まぽりんの精神状態は全ルートの中でも指折りレベルで最悪です。幻覚イベは滅多に見れないですからね…。ですのでここからは落ち着いてまぽりんを陰ながらケアしなくてはなりません。
取り敢えずまずやるべき事は話し合いです。少しづつでも構わないのでやんわりと「まぽりんは悪くないよ」という事を伝えて行けばちゃんと持ち直して……
あれ?なんかこれ別ルート入ってません?着信?
え?主人公失踪?
え?トロフィー?【お前のせいだ】?は?
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第十九話:踏み込む
生来飽きっぽい性格なのでいつまで投稿が続くかわかりませんが、何とか完結させたいと考えています。
作者がこんなノリなので気楽に見てもらえればと思います。
勝利か、仲間か。その天秤の前でまほが選んだのは勝利だった。少なくともレナの目にはそう映った。
違うのだと、声を大にして言いたかった。
西住まほは、戦争を知らない。レナが積み上げた死体の数を知らない。レナがなぜ酒に溺れるようになったのか知らない。
レナ・シュバルツは、まほの心配が分からない。名家のしがらみが理解できない。西住まほにのしかかる流派の期待を知らない。
とどのつまり、彼女たちは互いを理解しているつもりで、最も深い部分に互いを触れさせなかった。なぜなら触れさせればどうなるか分からなかったからだ。まほに戦争の話を打ち明けてもきっと苦しめるだけ。レナは流派に縛られるなんてきっと嫌がる。互いにそう思った。それで今まで上手く行ってしまっていた。
結果がこれだった。
まほはレナを失った後も、大会の事後処理を行わなければならない。西住家のみならず黒森峰OBへの説明、部活内の騒動の仲裁、学業……まほは未だ高校生。イレギュラーへの対処だけでも精一杯だ。今の彼女に、レナを探す余裕は無い。
しかし、まほにはできなくとも、できる人間はいた。
重荷を捨て去った彼女が。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
すっかり夜になっていた。空は暗く雲がかかり、星は全く見えない。雨が降りそうだ。エリカは速足で歩く。エリカは地道な聞き込みによりレナの居場所を掴んだ。
レナは埠頭近くの寂れたバス停のベンチに座っていた。点滅する蛍光灯の下にレナがいた。蛍光灯が時折暗転するたびに、彼女の口元に火が見える。タバコだ。
顔は間違いなくレナだ。間違いなく。だがその雰囲気は普段のレナとは全く異なる。上手く表現できないが、レナが自分とは隔絶した、遠い場所にいるような感覚だった。彼女が今着ているのは本当に黒森峰の制服だろうか?暗転した蛍光灯の下の彼女は、まるで昔見た映画の、草臥れた軍人――
その時レナと目が合った。蛍光灯が再び付き、黒森峰の制服を着たレナの制服が顕わになる。レナは困ったような、誤魔化すように歪な笑みを浮かべた。レナが口を開く。
「自分勝手だと思ってるよ」
「それが悪いことだなんて毛ほども思っていないですよね?」
「手厳しいな」
「……タバコ、吸うんですね。」
「あぁ。何もかも投げ出したくなった時、こいつを吸うんだ。好きな銘柄じゃなくてもね。」
エリカがレナを見つけることはそう難しいことでは無かった。皆が血眼になって探す中、エリカはレナがこういう時どうするか知っていた。酒だ。それも誰もいない静かな場所で。エリカはそんなレナを見て尚、まほに連絡を入れていなかった。いつでも連絡は入れられる。だがそれは今ではない。そうすれば多分今度こそレナは消える。夢幻のように、最初からいなかったかのように消える。そんな危うさを今のレナからは感じた。今は問わねばならないのだろう。何故かと。だが。
「すまないエリカ、まほには私がここにいることを秘密にしてくれないか。私はもう、みんなとは一緒にいられない。」
憔悴した様子のレナ。彼女も限界が近いのだろう。
踏み込めない。
二人の間に敷かれた点字ブロックを乗り越えられない。
はっきりと口には出さないが、レナは今エリカを、まほを、他人を拒絶している。何故かはわからない。だが大事なことだ。遠目からでも隔絶したイメージを抱いたのは、きっとその表れだ。しかし、理由も聞かずに彼女を放っておくのは嫌だった。
次に自分が紡ぐ言葉が分岐点になる。エリカにはそんな確信があった。慎重に言葉を選ばなければならない。
「先輩は……どうしてあそこで……優勝を……」
いや違う。間違えるな逸見エリカ。エリカはそう自分に言い聞かせた。ここで間違えたらすべてが終わる。
踏み出すんだ。手を差し伸べるんだ。あの日、先輩が私にしてくれたように。
「いや、聞かせてください。先輩が抱えていることを。思っていることを私に全部吐き出してください。」
「!」
「あなたは私をたかが後輩と思ってるかもしれませんが、私にとってあなたはいつか超えるべき競争相手です。それに――」
エリカは一歩踏み出し、レナに手を差し伸べる。のしかかるようにぶ厚かった雲が、いつの間にかどこかへ消え、月明かりが差し込んだ。
「――友達、でもあるんですから。頼られないのは、嫌です。レーナさん。」
レナは、泣いていた。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「戦車はさ、人殺しの道具だと思うかい?」
「戦車がもとはそういう用途で作られていたことは否定しませんが、少なくとも今の戦車道は殺し合いではありません。」
「そうだね。少なくとも今はそうだ。」
レナは語り始めた。エリカは隣に座り、レナの顔を見る。レナの表情は晴れやか、とまでは言えないが、先ほどよりははるかに良い表情をしていた。
「戦車はたくさん人を殺すためのものだった。けれど忌み嫌われていたわけじゃない。当時は最新鋭の機械の塊だったんだ。それにあこがれた人も少なくない。」
レナも戦車を見るたび、その威容に圧倒されたものだった。
「戦車が大好きな人のために、今の戦車道の礎を造ってくれた人がいたんだ。」
「それは……ドイツの」
「そう、アナ・ベーカー。実は友達なんだ。彼女とはよく話してたんだ。二人とも戦車が大好きだったからね。」
アナはレナが戦車が大好きなだけであって、戦争が好きなわけではない、ということをよく知っていた。レナがそのギャップに苦しんでいたことも。だから戦後、現代の戦車道を整備した。
「戦車道は殺し合いではないんだ。誰も、戦車道で人が死ぬことなんか望んでいないんだ。だから駄目なんだ。戦車の中でこれ以上人は死んじゃいけないんだよ。」
「友達が、そう願ったから、ですか。よほど大切な友達なんですね。」
「ああ。彼女の為ならなんだってするさ。」
戦友が築き上げた戦車道を、戦車道に掲げた願いを、守り続ける。それこそがレナの決めた生き方だった。
「……ちょっと待ってください。なら先輩は何故敵陣に仲間と共にむやみやたらと突っ込んだり、危険を冒すようなマネを?」
「あー、その、なんていうか、さ」
急にレナが口ごもる。
「ほら、自分で言うのもなんだけどさ、私って強いし、大抵は何とかなるし、最悪私だけ死んでも他全員生き残らせる自信あるしどうとでもなるだろうって」
「は?」
エリカからドスの効いた声が聞こえる。レナは恐怖でエリカを見れなかった。多分見たことない顔してる。
「エリカさんそんな怖い声出してどうしたのやだなぁ女の子なんだから」
「先輩?」
「はい」
エリカにがしりと襟をつかまれた。
「先輩の自己犠牲は誰も望んでいません。先輩が過去に何をしたか知りませんが、死ぬことは何の解決にもなりません。」
「聞かないのかい?私が過去に何をしたのか。」
「聞きません。先輩が抱えている物は、私が考えているよりもずっと大きいようですし。それは先輩が話したくなったらでいいです。」
「ですがなるべく早くお願いします。少しずつで構いませんから。」
エリカは、涙目になっていた。レナは申し訳なくなった。こういう場面でふざけてしまうのはレナの昔からの悪い癖だった。
「……ごめん。エリカの言う通りだ。いつか話せる日が来たら話そう。未だ、エリカに全部話していいのか迷ってる。」
「……まぁ良いでしょう。さ、もう遅いですし帰りますよ。今日はチームのみんなと楽しくお話できそうですね?」
「うへぇ……」
二人は歩き出す。
「これからどうするつもりですか。」
「まほと話すよ。謝って、私の考えをきちんと話す。まほの考えをきちんと聞く。もうみんなに心配かけるような行動はやめる。後はなるようになるさ。」
「……上手くいけばいいですが。」
まほ達の待つ学園艦へと、二人は急いだ。
これエリカルートのフラグ立ってね?
あと今更告白するんですけど作者ガルパンエアプです。二次創作と公式サイトとPixivからだいたいこんな話だろうとアタリをつけて描いています。
そろそろ本格的に原作見ないと話が分からなくなってきたので今からガルパン履修します。すみません。
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第二十話:積み上げてきたモノ
西住しほは今までの人生で経験した中で一番奇妙な事態に遭遇していた。
まほとみほの二人が神妙な顔で座っている。これはまあいい。というより予定ならこの二人しかいないはずだったのだ。
ちら、と庭に目をやるとまず一番に目に入るのは見るも無残なまでに荒らされた枯山水と、不埒にもその上に堂々と居座るバイク(BMW・R75)(サイドカー付き)である。車体はひしゃげ、まるでどこかの屋敷の壁を大ジャンプで超えてきて庭に突っ込んだかのような有様だった。そのサイドカーから這い出た逸見エリカが口元を押さえ必死に吐き気を我慢している。
そして一番目につくのはバイクから降りたドイツ軍服に身を包んだ女。真っ直ぐ、ズカズカとこちらに歩いてくる。後方のエリカが何やら呻いているが聞く耳を持たないようだ。
庭で見事な敬礼を取った彼女は笑顔で私と相対した。しほは頭の中で彼女のパーソナリティを整理する。
レーナ・ベーカー。黒森峰女学院2年生。西住流では無いがその腕前は良いと認めざるを得ない。既に多くの大学が彼女に目を付けている。しかし経歴は謎が多く、出自までもがはっきりしない。世界戦車道協会会長アナ・ベーカーの親族という説が有力だが、彼女からは明確な回答は無い。
「とりあえず、その物々しい恰好は何なのか聞いてもいいかしら」
「すみません。私が持つ制服の中で最も格式の高い制服がこれだったもので。」
性格は明るく、曲がったことを嫌う。未成年飲酒や喫煙など素行に問題はあるがチームメイトからの信頼は厚い。直情的で友人の為に何をしでかすか分からない怖さがある。……ここまで頭のネジが飛んだ人間とは思わなかったが。
「おや、自己紹介がまだでした。レーナ・ベーカー。まほさんの友人です。本日は大変荒っぽい訪問になり大変申し訳ありません。」
「……西住しほです。取り敢えず中に上がって下さい。中で話しましょう。」
取り敢えず話を聞かねば何をされるか分からない。この爆弾のような女を家に入れるしか無かった。
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
レナが通船により学園艦に戻った時、何やら騒ぎになっていた。いや、一瞬失踪したレナが帰ってきたのもまぁ驚かれたがそれ以上の事態になっていたようだ。西住流家元、西住しほが隊長及び副隊長を呼び出したのだ。ついでに黒森峰にも家元が来るらしい。黒森峰メンバーの反応は様々であった。
「このタイミングで呼び出し!?いや当然か……でも今は……」
「てゆーかこっちにも来るんでしょ!?」
「それってさぁ!説教の後折檻…ってコト!?」
「わァ……ぁ…」
「泣いちゃった!!」
OBからの説教というものは学生の身である彼女たちからしてみれば非常に恐ろしい。
しかしそれ以上に彼女らが恐れているのはレナと西住流家元の衝突でもあった。
レナは独断で救助活動を行った張本人だ。上官の指示も聞かずに結果としてチームの敗北を招いた。家元の怒りの矛先が彼女に向いていてもおかしくない。そしてその上官にあたるまほも当然西住流である以上非難を浴びるだろうが、それをレナは当然のごとくかばうだろう。しほ・レナ両者ともに一流の戦車乗りであり、戦車道に関してプライドが高く、主義主張を曲げるとはとても思えない。
怖い。
何が起きるかは分からないが、きっとロクでもないことが起こる。殴り合いで決着をつけるとか言い出したらもう誰も止められない。黒森峰が灰と瓦礫になるまで二人の戦いは続くだろう。
もう説教は我々が甘んじて受け入れるからレナ先輩には是非とも大人しくしていただきたいというのが黒森峰一年生の本音であった。
「既に二人とも御実家に呼び出しを受けて陸に行ったぁ!?」
終わりだ。もう西住しほとレナ先輩の怪獣大戦争は止められない。レナの叫び声を聞いた時、一年生の心は一つになった。
「今日の通船は!?」
「すでに出発し明日の朝九時まで来ません!レナさんの乗ってきたやつで最後です!」
「エリカ!ここからヘリ飛ばせるか!?」
「え!?行くんですか!?」
「行くに決まってんだろ!」
「飛行計画も出してないのに無許可はまずいです!破る法律が片手で収まりませんよ!?」
「船舶科の連中に水上バイク持ってるやつがいたな!それなら行けるだろ!借りにいくぞエリカも来い!陸には私の私物のバイクがある!」
その後、西住邸にバイクが突っ込んだ旨のニュースを見て、半ば巻き込まれる形で犠牲になったであろう逸見エリカに一同は敬礼を送るのであった。
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
静寂が部屋を支配する。西住流家元、西住しほ。黒森峰戦車道エース、レーナ・ベーカー。二人の表情は固い。まほの表情は暗く、みほはこれからどうなるのかわからない、といった様子だ。エリカは廊下の外で固唾を呑んでいる。しほが口を開く。
「レーナさん。これは西住流の、ひいては我が家の問題よ。はっきり言って口出しは無用です。」
「他人の家の事情にあれこれと口を出す趣味は持ち合わせちゃいませんが、こればかりは口を挟ませてもらいます。あの場で救助に行ったのは正しい判断だった。」
「あなたの行動について私はとやかくいうつもりはありませんが、みほに関しては話が別です。西住の名を背負っている以上、彼女はあそこで戦いを止めるべきでは無かった。」
表面上は冷静に話し合いをしている二人。しかし傍で聞いているまほとみほの二人には空気でわかった。
((……二人とも、怒っている。今まで見たこともないくらいに。))
西住しほは日本で最古、そして最大の流派である西住流を支える屋台骨である。西住流の後継者として育て上げてきた娘二人が、レーナ・ベーカーという女に毒されてしまっているのだ。みほは言わずもがな、試合を放り出して仲間を助けに行く始末。まほも一年前まで無かった”迷い”が生まれている。しほはそう考えた。
「西住の人間は、進み続けなければならない。たとえ盲目的と言われようとも。」
心を鉄にする。何事にも動じない。ただ勝つために。
レーナ・ベーカーはその障害だ。
「邪魔ね。あなた。」
しほの冷たい視線がレーナを突き刺す。しかしレーナはひるまない。
「……がむしゃらに突き進むだけでは問題は解決しない。迷いを捨てて突撃するのは戦場における精神性だ。
…でもここは戦場じゃないんだ。あの地獄じゃないんだ。ここは日本で、戦車道がある。だからそんな風に考える必要は無いはずなんだよ。」
「……レーナ……君は……」
レーナはしほを見て過去の自分を思い出していた。
戦場で迷えば死ぬ。だから突き進むしかなかった。しかしそれは取返しのつかない形になっていつか自分を襲う。
レーナの表情が憂いを帯びたものに変わる。目の焦点が合っていない。まほは思わずレーナに声を掛けるが、泣きそうな顔を見て思わず黙ってしまった。
「みんなここで止まらなくちゃ駄目なんだ。……突き進んだ果てで、後ろを振り返った時に大切な人の死体を見たくないなら。」
それは、忠告だった。しほは得体のしれない恐怖を覚える。彼女の気迫に、押されている。
「……あの事件や、私の言動があなたの……精神的トラウマを想起させたなら申し訳ないわ。でも私にも譲れない線はあるのよ。」
「ならせめて、みほさんをあまり叱らないでやってください。みほさんが心からやりたいと思ったことを否定しないであげてください。この通りです。」
レーナは頭を下げた。心からの嘆願だった。
「……レーナさん、まほ。少し部屋から出ていてもらえますか。みほと二人きりで話がしたいわ。」
「お母さん……」
「わかりました。」
おそらく今からの二人の話し合いは、西住流の人間としてではなく、親子での話し合いになる。レーナはそれを感じとり、大人しく部屋から退出した。
レナも、まほと話すことがたくさんあるのだ。
向き合わねば。
アニメを見ながら結構二次創作の入り込む余地があることに気が付きました。登場させるかは分かりませんがオリジナル生徒なんかを考えて楽しんでいます。
漆黒の意思を持つ愛国者系サンダース生徒会長
書店経営もできる不死身の知波単生徒
タッパがデカい胡散臭い聖職者系プラウダ生
無機物との結婚願望のあるBC学園生徒
みたいな
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