富樫勇太がマジモンのダークフレイムマスターだったら (ロベルトジョー)
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原作前
第一話


こういう設定の「中二病でも恋がしたい」を探していたけど無かったので書いた。


「この世界に生まれてきてから結構経つが俺は一体何をしている...」

 

深夜の誰もが寝静まる夜に一人の少年がマンションのベランダに出て空を見ていた。

 

「あの世界で機関に追われていた時には渇望していた平穏だ。だが、実際に手に入れてみればなんとも空虚な日々。果たして俺は生きていると言えるのだろうか?」

 

少年は右手を空に向ける。

うっすらと複雑な模様が腕に浮かび上がった。

 

「俺はきっと闘争の世界で満たされていたのかもしれない。俺を倒そうとする強敵と戦えることに...ダークフレイム!」

 

少年の右手から暗黒の炎が勢い良く吹き出して大玉を作り出すが、すぐに消える。

 

「この力が世界に存在するということは、この力を使う闘争の場もきっとあるのだろう」

 

憂鬱そうな表情を浮かべた少年は部屋に戻っていった。

 

「...え、何いまの?」

 

その姿をマンションの外から隠れて見ていた少女がいることに気が付かずに。

 

 

 

中学一年生の富樫勇太、前世はDFM(ダークフレイムマスター)と呼ばれていた魔王は、日本のとある学校の教室で期末試験を受けていた。

あまりに簡単な試験で開始10分と経たずに時終わってしまった勇太は、右頬に手を当てて憂鬱そうに窓を見ていた。

 

ーーあぁ、なんて何もない平穏の世界なんだ。よくアニメとかだと中・高校生ぐらいから非日常が起きることは定番だろ?まだ、入学して半年も経っていないのにつまらすぎる。組織だろうが、悪魔だろうが早く俺を襲ってこい...ーー

 

身を焦がすような戦いを求めている勇太にとって中学生の試験ほどつまらないものはないのだろう。

その時、試験中の静かな教室に突如ドアが開く音が響く。

 

「す、すみません。遅れました...」

 

勇太が声のする方に視線を向けるとピンク色の髪をした右手にギブスを付けて、頬に血のにじむ絆創膏を付けた少女がいた。

 

「七宮さん!?ど、どうしたのその怪我は?」

「あ、先生。えーと、昨日階段で転んじゃって...さっき病院から直ぐに来ました...」

「電話では怪我をしたから遅れると言ってたけど...大丈夫?」

「はい!利き腕は左なので試験は大丈夫です」

 

心配そうに智音を見ていた先生だが困ったら何か相談するように言って、試験問題と答案用紙を七宮に渡した。

だが、前世では数多の戦いをしてきた勇太は違った。

 

ーー階段で転んだというのは嘘だな。あの頬の鋭い切り傷、闘争の匂いがするーー

 

勇太の心中にはもはや期末試験など存在しなかった。

ニヤリとしながら、これから起こるであろう出来事に期待していた。

 

 

七宮智音は町を守る魔法少女である。

ある日、普通の小学生だった七宮は足を怪我している子猫を保護した時から、智音にとっての魔法少女生活が始まった。

子猫はワンダーワールドという別世界の精霊で、この世界にはワンダーワールドからやってきた闇の精霊がいるというのだ。

しゃべる子猫に最初は動揺したが魔法少女アニメが大好きだった七宮にとって魔法少女になって欲しいと言われたら、両手を上げるくらいの勢いで立候補して逆に子猫を動揺させるほどだ。

しかし、数年も魔法少女をやっていると憧れよりも疲労感が強くなってくる。

智音は今日もまた猫を肩に載せながら下校している。

 

「はぁ、今日の試験は駄目だったな〜」

「智音、そんなに気を落とさないで。智音は闇の精霊達から町を守ってるんだから」

「ふふっ、ありがとミーナ」

 

智音は頬を舐める子猫のミーナを撫でる。

しかし、表情は暗いままだ。

 

「最近、町で悪さをする闇の精霊達が多い気がする...ねぇミーナ。私以外の魔法少女っていないの?」

「残念だけど魔法少女は素質が必要なの。特に魔法を操るための魔力がないとマジックステッキを持っても何も起きないわ。それに智音の魔力は戦えない私が肩代わりしている状態で手がいっぱいだから、他の人を魔法少女にする余力はないの...」

「そっかー。やっぱり、このままじゃだめだよね。早くワンダーランドに行く方法を見つけないとーー」

 

ミーナがいた世界であるワンダーランドで起きている異変を解決しないと根本的な解決にはならない。

そのため、いつも智音とミーナは試行錯誤しながら転移魔法を研究しているが、なかなか進捗は進まなかった。

もうすぐ家に着くという時に突然、智音は繁華街の方に闇の精霊の気配を感じた。

ミーナもまた尻尾を立てて、その方向を強く睨みつける。

 

「四日連続で出現って、やっぱり何かおかしい!今までは多くても一月に一体だったのに」

「でも、行くしかわ。じゃないと町の人が危ない。守れるのは智音しかいないの...」

「分かってるよ!」

 

家とは違う繁華街の方に突然方向を変えて走り出した。

 

 

繁華街にやってきた智音は直ぐに闇の精霊の気配のある百貨店の中に入り認識阻害の結界を張った。

この結界は結界内の魔力を持つ者の位相にズラすことで人と建物に影響を与えないようにする。

今この百貨店にいるのは闇の精霊と智音、そしてミーナだけ。

智音はミーナと一つになることで魔法少女の姿に変身する。

普段の姿でもミーナと魔力のパスはつながっているので魔法は使えるがミーナと一体化する魔法少女にならなければ、魔力の効率が恐ろしく悪い。

また、変身すると身体強化がされるため、骨折している腕を痛みもなく動かすことができる。

魔法少女になった智音は大きめのマフラーを首に巻いていて腕輪の形状をしたマジックステッキを装備している。

智音達は直ぐに百貨店の中で闇の精霊を見つけることができた。

 

「あれが闇の精霊ね。でも今回のは随分おとなしい」

 

闇の精霊は基本的には人やものに取り憑く。今回はメガネをかけたスーツ姿の成人男性に取り付いているようで、気づいているのかじっと智音をみている。

 

ーー気をつけて智音。あれは今までの闇の精霊とは魔力が全然違う...この魔力、見覚えが...え、嘘、なんであいつがここに!?ーー

「どうしなのミーナ!?」

 

急に弱気になったミーナに心配になる智音。

すると、智音の数メートル後ろに闇の精霊が気づかないうちに移動していた。

 

「この結界はお前たちの仕業だな。どうして木っ端妖精が、私はお前とは遊んでいる時間がないのだが」

ーー...ダークマスター。ワンダーランドで私達の国を襲った巨大な力を持つ魔王ーー

「ふん、最近ここあたりに闇の精霊を送り込んでは連絡が取れなくなっていたが、どうやらお前達のせいのようだな」

「ぐっ!?何、この魔力の大きさは!?」

 

闇の精霊は魔力を開放すると智音はそれに圧倒される。

 

「だが、もうお前達とのお遊びは終わりだ。ここで消えてもらう」

ーー智音、シールド!!ーー

「ッ!?マジックシールド!!」

「ダークフレイム」

 

ミーナの警告の直後に闇の炎が智音達を包んだ。

ドーム状にバリアーを張った智音だが圧倒的な力の前にバリアーを維持できず、直ぐに魔力を使い果たして倒れ伏した。

智音のバリアーが張られていない部分は闇の炎で溶け出している。

 

「ふむ、ただの木っ端精霊なら今ので焼き尽くしていたのだが、どうやらお前はそうではないらしい」

ーー智音、起きて!!ーー

「ぐっ...ミ、ミーナ...」

 

魔力切れの智音はもはや立ち上がることは出来なかった。

 

「終わりだ。ダークフレイム」

ーー智音!!!ーー

 

智音は闇の精霊が放つ闇の炎を前に何も出来ず目を閉じた。

 

「ごめん、お母さん、お父さん。私...」

 

その時、智音の前に少年が現れる。

少年は右手を向かってくる闇の炎の塊に向けていた。

そして、闇の炎が少年の右手に当たった瞬間、風船が割れたような破裂音がして闇の炎は消えた。

その状況に、智音だけでなく闇の精霊もまた驚いていた。

 

「これが闇の炎?笑わせるなよ」

「...え、なんで君、ここにどうやってーーって、君、クラスメイトの富樫くん!?」

「何だお前は!!一体どうやって私の炎を消した!?」

 

闇の精霊に立ちふさがる勇太は口元に笑みを浮かべている。

 

「お前に本当の闇の炎を教えてやる」

「くっ、ダークシールド!!!」

 

勇太から強力な力を感じた闇の精霊は全力で防御の姿勢を取り暗黒のシールドを目の前に張る。

しかし、勇太はそれに気にせずに自分の得意技を放った。

 

「ダークフレイム!!!」

「ば、ばかなーーーグアァァァ」

 

闇の精霊が放った炎とは色がさらに黒い勇太の闇の炎はシールドを無視して対象のみを焼き尽くす。

 

ーーあ、あれが、智音のクラスメイト!?...って、あのままだと闇の精霊が取り付いている人が危ない!!ーー

「と、富樫くん、あの男の人は操られているだけ!!」

 

智音はハッと気づいて勇太に伝える。

 

「案ずるな、俺の炎はあの男の中に潜む存在を焼いている。あの男には何も危害を加えていない」

ーーでも、かなり苦しんでるけど...ーー

 

数秒間、闇の炎が闇の精霊をやっていたが、それが終わると取り憑いていた男は倒れて動かなくなった。

 

「終わったの?」

「あぁ、もう結界を解いてもいいぞ」

「ミーナ、もう大丈夫?」

ーーえぇ、あの男から闇の精霊の気配がしないわ。もう大丈夫ーー

「良かった〜...って、富樫くんって何者!?」

 

勇太はふと考えるように顎に手を当てて、何か思いつくと智音に向いて手元に指を鳴らすのポーズを取る。

 

「俺は...ダークフレイムマスター」

「ダークフレムマスター?」

 

勇太は笑みを浮かべて指を鳴らした。

すると勇太の背後で闇の炎が勢いよく爆発した。

演出だったようだが智音はあっけに取られた。

 

「かつて、世界を滅ぼす暗黒竜を取り込み魔王と呼ばれた男...だった。今は中学校の生徒だがな」

 

こうしてダークフレムマスターは生まれ変わった平穏なこの世界で魔法少女と出会った。

 

 



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第二話

あと数話ほど原作前のオリジナルの妄想が続きます。
勇太と七宮さんとの出会いは、原作の勇太を構成する上でとても大切な要素であったのは間違いなく、DFMとなった勇太においてもそれは妄想補完してでも必要だと思った次第です。


中学校の期末テストが終わり生徒達はあと数日で夏休み。

浮き足立って各々が思う夏休みに胸を膨らませる。

そんな中、智音が所属しているグループでも夏休みの予定について話題になっている。

 

「へぇ〜、男子とプールに行くんだ!?いいな〜」

「そう言いながら、あんたもう付き合ってるじゃん。最近どうなの?」

「うーん、部活であまりかまってくれなくて…」

「確かにあんたの彼氏って野球少年だったよね〜」」

 

グループ内での智音の立ち位置としては、会話に参加せずに相槌をよく打っているようなキャラの印象だった。

しかし、今日はどうやら違う。

 

「ねぇそういえばさ、七宮さんは最近富樫くんと仲良いよね?」

「えっ、そ、そうかな〜...まぁ、よくどこかに一緒に行ったりすることが多いかな...」

「へぇ!七宮さん凄いじゃん。富樫って学年一位で運動が出来るし、顔は普通だけど雰囲気がカッコいいし!あ、でも静か過ぎるのがあれよね〜」

 

元DFM(ダークフレイムマスター)である勇太は基本的なスペックは高く、本人が闘争以外に興味がないような戦闘狂なので客観的にはクール系優等生のフツメンに見えている。

 

「...実は結構熱いタイプだったり...」

「えーそうなの!?全然見えないー。だってこっちから話しかけないとずっと窓から空見てるじゃん」

「あ〜、それは確かにね...」

ーー富樫くんって闇の精霊を倒す以外に興味なさそうだし...ーー

 

戦いの度にテンションを上げながらダークフレムをぶっ放している勇太のことを思い出して、内心は苦笑せざるえなかった智音だった。

 

「じゃあ、やっぱり夏休みは富樫とどこかに行ったりする?」

「うん、たぶんそうなるんじゃないかな〜」

ーーたぶん、闇の精霊を探しに…ーー

「七宮さんもやるな〜。じゃあ、そのうち付き合いたいと思ってるの?」

「うーん...」

 

ふと、気になった智音は勇太の席をチラッと見る。

そこには相変わらず窓の外を見ている勇太がいた。

 

「今はまだ無いかな...富樫くんもそう思ってる無さそうだし」

「えーじゃあ、今度富樫を誘って駅前のスタバに行こうよ!私、富樫の事気になるし〜」

「え!?」

「あんた彼氏は?」

「うーん、今は保留〜。それより、七宮さん良いよね?」

「う、うん。誘ってはみるよ...」

「じゃあよろしく〜」

「ちょっと、私も行くだけ行きたい〜」

「え、えーと、来てくれるか分からないよ...」

 

急に勇太をお茶に誘う流れになり智音からは若干の焦りが見える。

しかし、既に勇太の話で盛り上がってた女の子達には、智音の言葉が聞こえている様子はなかった。

 

 

学校の帰り道、最近は智音と勇太は一緒に帰っている。

勇太としては、闇の精霊の場所を察知できるのが精霊と繋がっている智音だけだから、いつでも直ぐに駆けつけられるようにとのことだ。

智音が魔王との戦いの後で聞いた話だと、智音と勇太が初めて戦った時も智音が何かと戦っていると考えて跡をつけてきたらしい。

しかし、別に友達でもなんでもない関係を考えれば、実はストーカー呼ばわりされても可笑しくないレベルで勇太は智音につきまとっていたりする。

もちろん、勇太としては智音を闇の精霊に対するレーダーとしてしか思っていなかったりするが。

 

 

「ねぇ、富樫くん」

「ん、闇の精霊か?」

「違う、違う。あのさ...今週末暇だったりする?」

「特に予定はないが」

「クラスの女の子が富樫くんも一緒にお茶でもどう?って言ってたんだけど....」

「それには闇の精霊もいるのか?」

「そんな物騒なお茶会じゃないよ!みんな、富樫くんとお話ししたいなーって感じ」

「そうか。まぁ、いいぞ」

「...やっぱり行かないよね...って!いいの?」

 

行かないとばかり思っていた智音は、勇太の予想外の答えに思わず聞き返した。

 

「あぁ、七宮の行く先には厄介事が待っているのが、この短い間でも分かったからな。多分、そのお茶会でも闇の精霊はやってくる可能性があると考えている」

ーー厄介事って...私に付いてくる富樫くんも含んでたりするのかな?いや、自覚無いよね...ーー

「じ、じゃあ、みんなに伝えておくね!」

 

勇太から返答をもらった智音はみんなが使っているメッセージアプリで女の子達に伝える。

 

「あ、そういえば富樫くんの連絡先って交換してないよね?LINEってスマホにいれてる?」

「LINE?あぁ、よくCMでやっているやつか。一応、スマホは持ってるが全く使ってないな。別に連絡を取り合うならテレパスのほうがイメージも伝えられるし便利だぞ?」

「テレパス?え、富樫くんって、もしかして超能力とかも使えたりするの?」

「あぁ、そうか。七宮が魔法を使っているから、つい別世界の常識を当てはめていた。そうだな…試して見るほうが早い。手を握れ」

 

勇太は右手を智音に差し出した。

智音は疑問に思いながらも、勇太の言う通りに勇太の右手を握る。

 

「これでいいの?」

『七宮、聞こえるか?』

「え、何今の声は富樫くん?頭の中に直接言われたような….」

『これがテレパスだ。確かに、この世界では超能力と呼ばれるようなものに似ているが少し異なる。このテレパスは、こうして魔力を混ざり合わせることで簡易の魔力パスを形成する』

「魔力パスって、私がミーナとしているようなもの?」

『それに近いな。簡易の魔力パスだからこそ、魔力の伝達までは無理だが思考の伝達は可能だ』

「これって、私から富樫くんにも何かのイメージとか送れたりするの?」

『もちろんできるぞ。イメージをした内容がそのままの状態で送られると思って良い』

「強くイメージした内容?」

『そうだな…例えば、昨日の夜のことを思い出せ…あぁ、今伝わって来ている。昨日の夜に冷やし中華を家族と食べて、その後で風呂に入って直ぐに寝た。ちなみに、寝る時はミーナが同じ布団に入っている』

「すごい!ちゃんとその時のイメージを送れてるんだ...これってどうやってテレパスを始めたり止めたりするの?」

『それは慣れがいるから最初は気にしなくていい。あと、魔力パスは一度繋げば切らない限りいつでもどこでも繋ぎ直せる。そして、イメージの代わりに魔力を送れば耐えられずに魔力パスは切れるという仕様だ』

「ふーん。って!?もしかして、私がお風呂に入ってるシーンを見た?」

「まぁな」

「ッ!?ど、どこまで?見たの!!」

「風呂場の鏡に写ってたものは全部だな」

「!!!!」

 

智音は恥ずかしさのあまり勇太にバッグを投げつけるが、勇太はそれを難なくキャッチする。

 

「と、とにかく、テレパスとかじゃなくて普通にメッセージのやり取りが出来た方がいいの!ほら、スマホ貸して!」

 

勇太がポケットからスマホを取り出すと、智音はそれをすぐに奪ってLINEを入れて友達登録をした。

智音から返されたスマホを見ると、そこにはミーナのアイコンを載せている智音のアカウントが1件表示されている。

 

「別にテレパスでも良いけど、私にはよく分かんないし何かあったらこっちで連絡するから!」

「あぁ、分かった」

 

智音はそう言うと勇太から早足で逃げる。

しかし、数メートルほど進んだ後でバッグを勇太に投げつけていることを思い出して、再び勇太の元に戻ってきた。

 

「...私のバッグ」

「ほら」

 

 

そして、週末になった。

智音が待ち合わせ場所に時間ちょうどに来ると、そこには勇太と女の子二人が話している。

 

「ごめん。私が最後だったね」

「ちょうど集合時間だから、謝ることないよ七宮さん」

「え!?えーと、富樫くんどうしたの?」

「なんのことかな?それより早くスタバに入ろうか!」

 

智音は、勇太の口調がいつも智音と話す時よりも柔らかいものになっていることに強烈な違和感を感じる。

そして何よりも、爽やかな笑顔をしている勇太がとても胡散臭くてしかたがなかった。

 

「私は抹茶ラテ!」

「私はカフェオレかな〜。富樫は何飲むの?」

「僕はコーヒーかなー。七宮さんは?」

「...私はキャラメルマキアート」

 

飲み物を取って席に着くと女の子二人は勇太を挟むように座って向かい側に智音が座る。

そして、勇太と女の子二人が楽しく会話しているところを、飲み物の上にトッピングされているクリームを時々混ぜながら飲んで眺めている智音だった。

しばらくして、もう一杯飲もうかなと席を立とうとした時に勇太から突然テレパスが飛んできた。

 

『七宮、助けろ』

『...楽しそうだからいいじゃん』

『俺は別に楽しくない』

『ふーん?でも、いつも私と話す時と口調とかが違うじゃん』

『これが学校というコミュニティの中のキャラだからな。別に本心ってわけじゃない』

『へーそうなんだ』

『七宮にもこっちのキャラで対応した方がいいか?』

『...今更感があるし、いつも通りでいい』

『そうか。とりあえず、何でもいいから一旦この状況から抜け出したい』

『...分かった。じゃあ、私に飲み物を奢って』

「もう一杯買ってくるね!」

「僕がお金出すよ七宮さん。じゃあ、ちょっと席を離れるね!」

「「はーい」」

 

そうして、智音と勇太は席を立って注文待ちの列に並んだ。

 

「それで、これからどうすればいいんだ?」

「トイレでも行けばいいんじゃないかな?私はキャラメルフラペチーノ飲みたい!あと、このスコーンも欲しいなー」

「...」

 

智音は目ぼしいものを直ぐに注文して、後は任せたと言わんばかりに勇太をレジに放置する。

勇太は呆然としたが、智音の案以外は特に思いつかなかったため精算だけ済ませて店から出て行った。

 

「あれ、富樫は?」

「なんか、体調が悪いって言ってトイレに行ったよ〜」

「ふーん、そうなんだ。ていうか、あまり話たことなかってけど結構富樫いいじゃん」

「そうそう。聞き上手って感じ?」

ーー聞き上手って、富樫くんから全然話してないじゃんーー

 

女の子二人で勇太について盛り上がってる中、智音はスコーンを一口サイズに器用にフォークで小さくして食べていた。

そんな時、智音は突然駅の方に闇の精霊の気配を感じ取った。

 

「ご、ごめん。二人とも。ちょうど急用を思い出しちゃって!また、明日!」

「え、ちょっと七宮さん?」

 

智音は残ったスコーンを一口で食べて、フラペチーノを勢いよく飲んだ後に女の子二人に断って店を後にした。

 

 

 



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第三話

戦闘シーン多め。
魔法魔王少女ソフィアリング・SP・サターン7世の誕生


智音が店を出て闇の精霊の気配がした駅の方へと走っていると、駅の入り口の前にはすでに臨戦態勢のミーナが待っていた。

ミーナは智音が来ると智音の肩に飛び乗った。

 

「今回は駅の中から感じるよね?」

「細かい位置は行ってみないと分からないけど、今回も前回と同じように強い魔力を感じるわ」

「うん...ねぇ、ワンダーランドを襲った魔王ってたしか沢山いるんだったよね?」

「えぇ。地方によって強い闇の精霊のことを魔王と私たちは呼んでる。この前倒したのはおそらく役割だと斥候じゃないかしら?まだ、それより強いのが沢山いると思う」

「あれで、斥候...ねぇ、ミーナ。私たちって行っても勝てるのかな?」

「...分からない。でも、戦えるのは私達しかいない!」

「そうだよね…ねぇ、そういえば富樫くんとは会った?」

「いえ、私は見てないわよ」

「そうなんだ…連絡だけでも入れておこうかな」

 

智音は先行きが不安に思いながらも、LINEで勇太に駅に闇の精霊の気配があることと先に探索を始めていることを連絡する。

そこからは、しばらく狭くはない駅構内を隅々まで走り回った。

だが、そこには闇の精霊はいない。

そして、智音が駅の構内に入り改札付近まで差し掛かる。

 

「あとは改札内と駅のホームだね...」

「見つけたわ、智音!あの階段を登っている女性がそうじゃない!?強い魔力を感じたのと、一瞬こっちを見たあとでホームに行ったわ!!」

「...ねぇ、ミーナ。今回の闇の精霊って少し変じゃない?今までとは違って最初から顕著に魔力を垂れ流して私達に気づかせて、私達を見た途端にホームに向かってる。まるで...」

「私達をおびき寄せるために...ってところでしょ」

「そう。だから、すごく気をつけておいたほうがいいと思ってる」

「そうね。もしかしたら、前回の魔王を倒したことで警戒されているのかもしれないわ」

 

智音は気を引き締めながら改札を通って女性の跡を追う。

ホームに上がると先程の女性の姿は見えずに電車が止まっていた。

そして、その電車に智音も乗り込んだところでちょうど電車は出発する。

 

「この電車にいるのは間違いない?」

「えぇ、強い気配を感じるわ。結界を張りましょう!」

「分かった!」

 

智音が結界を張ると魔力を持つ者のみが別の位相に移動するため電車に乗っていた人たちは皆姿を消した。

その時だった。

 

「にゃーはっはっは!後ろにいるのに全然気付かないなんてまぬけニャ」

「ッ!?」

「智音、危ない!!」

 

智音の背後から突然声が聞こえたため、勢いよく振り返るが女性は智音の喉元を掴む。

女性はニヤニヤしながら智音の額に自分の額を押し当てる。

 

「さぁ、お前の体を寄越すニャン!!」

「うぐっ.....」

 

女性の体から黒いモヤのようなものが出てくると、モヤは智音の体に急速に吸収されていった。

完全にモヤが消えると、脱力した女性の体は結界の効果でうっすらと消えていく。

 

「と、智音!大丈夫!?」

「….にゃーはっはっは!乗っ取り成功!!この体、もしかして潜在能力メチャクチャ高そうニャン!!って、こいつの記憶を覗いてみたけど、この前の魔王を倒したのってこの子じゃなようだニャン。まぁいい体が手に入ったから良いニャン」

「まさか、闇の精霊!?智音の乗っ取ってどうするつもり!?」

「失礼ニャン。私ははただの精霊じゃないニャン。魔王の中でもトップの序列に入る猫妖精、ソフィアリング・SP・サターン7世だニャン!」

 

闇の精霊に乗っ取られた智音は強力な魔力を放っている。

そして、結界を解除すると直ぐに人混みにまぎれて駅を降りた。

 

 

店から出て智音達から一旦避難していた勇太であったが、適当に駅前をブラブラと歩いていてもやることが無かったので再び店に戻る。

しかし、そこには女の子二人だけで智音の姿は見えない。

「ごめん、今日調子が悪くて…あれ?七宮さんは?」

「なんか、七宮さん。急な用事があって帰っちゃったよ」

「そうそう、なんか結構慌ててたよ」

「そうなんですね…」

 

すぐさま、勇太は智音に対してテレパスを使って居場所を聞き出そうとする。

 

『七宮、今どこにいる?』

『富樫くん?今は隣の〇〇駅にある近くにある公園にいるよ。闇の精霊を追いかけたんだけど見失っちゃった』

『そうか。今すぐそっちに向かう』

 

「ごめん二人とも僕も七宮さんと同じ用事があったの忘れてて…今日は僕も帰るよ」

「そうなんだ。じゃあ、また学校で!」

「うん、じゃあまた明日」

 

勇太は女の子達にそう言うと智音がいるであろう公園に急いだ。

 

 

 

勇太が公園に行くと、ちょうど公園の中央の位置に智音が立っていた。

辺りを見回しても智音しか気配を感じ取れない。

勇太が智音に近づいていくと、それに気づいた智音もまた勇太に近づいていく。

 

「待たせたな。この辺りにいるのか?」

「うん。あそこの茂みに逃げていったから、軽く探したんだけど見当たらなくて。富樫くんはあっちの方を探してもらえるかな?」

「あぁ、分かった」

 

勇太は智音が指差しをしている茂みに向かう。

 

「あのね、富樫くん…バレットフィスト!!」

「ーーッ!?ダークバースト!!」

 

勇太は智音に背を向けた瞬間、急な敵意を感じて咄嗟に振り向き黒い爆炎を手から発生させた。

しかし、襲ってきた数多の拳は爆炎をもろともせずに勇太の全身に命中して勇太を茂みへと吹き飛ばす。

智音は追撃のため即座に勇太の飛んでいった方向にダッシュをしながら魔法詠唱する。

 

「ケルビム詠唱!アタックバフ、ディフェンスバフ、マジカルブレス。そして、これでも食らうニャン。メテオレイン!!」

 

智音がバフをかけて、攻撃魔法詠唱をすると空から人の背丈を超えるような大きい岩が数十と勇太に向かった降り注いだ。

だが、勇太は突然の奇襲によるダメージから立ち直れていない。

その時、ミーナが茂みから現れて勇太を守るようにして目の前に立つ。

 

「ごほっ..はぁ...はぁ....ミ、ミーナ?.」

「富樫くん。ごめん、私じゃどうしようもできない。でも、お願い。闇の精霊に操られている智音を助けてあげて。マジックシールド!!!」

 

ミーナが張ったマジックシールドは20インチ程度しかないような小さくて頼りないものだが隕石を一つ防ぐことは出来た。

歴戦の元DFMである勇太にとっては僅か数秒程度あれば技の一つは打てる。

 

「ダークバースト!!!」

 

勇太は先程打った時よりも強力な爆炎を、ミーナのマジックシールドでは防げなかった隕石に対して放って、それらを粉々に吹き飛ばす。

 

「ふーん。今のをやり過ごすとは、さすが魔王を倒した奴だニャン」

「…お前は誰だ?」

「にゃーはっはっは!私は魔王の中でもトップの序列に入る猫妖精…だった。今は最強となった、そう、魔法魔王少女ソフィアリング・SP・サターン7世だニャン!!」

 

智音は腕組みをしながらニヤニヤと勇太に対して膨大な魔力の圧をかける。

しかし、勇太はその程度ではひるまなかった。

勇太は額から流れる血を破れた薄手のシャツで拭ったあと、倒れているミーナをチラリと見て一息ついた。

 

「魔力のない人間に入っただけで精霊は強くなったりするのか?」

「うーん、しないはずニャンだけど、こいつは違う。長年、魔法を扱っていたのか魔法に関する才能が開花しかけていたニャン。だから、私が入って莫大な魔力を流して才能を開花させてあげたんだニャン。まさか、天才的な魔法適正がついてくるとは思わなかったけどニャン」

「そうか。なら、多少荒くしても大丈夫だろうな」

「ふん?まさかさっきの小手調べが私の実力だと思ったんだったら、お前の目はとんだ節穴ニャン」

 

勇太は力を開放するために右腕を目の前に掲げて目を閉じる。

勇太の右腕はうっすらと刻印が現れ始めた。

 

「目覚めよ。邪悪なる黒炎竜...」

「よくわからないけど、とっとと死ぬニャン。イグニッション!ブレイジングマジックアロー!!!」

 

智音は巨大な魔法陣を出現させると、そこから極大の魔力砲を放つ。

純粋な魔力の塊による攻撃は勇太へと迫る。

だが、勇太もまた自身の力を開放する。

 

「ダークドラゴニアソウル…闇の炎に抱かれて消えろ、ダークフレア!!」

 

勇太の腕から刻印が鮮明になり、刻印は頬まで伸びる。

勇太の瞳は黒から真っ赤に染まり、全身から邪悪なオーラを放ち始めた。

そして、放たれたダークフレアもまた通常の黒炎ではなく、まるで絵の具の黒で塗りつぶしたような炎の形状をしている物質であり、魔力砲がダークフレアにふれると消えてなくなっていた。

それを見た智音は攻撃を取りやめて距離を取った。

 

「チッ…女の子に随分物騒なもの出してるニャン。でも、まだ私は全然本気を出してないニャン。スペルマスター、デュアルスペル、マジックリフレクター…そして、デュアルアバター」

「ドラゴニックフォース、ドラゴニックタフネス。来い、魔剣ダーインスレイヴ・魔銃ガバメント45マグナム!」

 

勇太と智音は次々と自分に対して自己強化のバフをかけて次の戦いのための準備をする。

智音は二人に分身していて、勇太は禍々しい大剣とマグナムを両手に持っていた。

 

「「いくニャン….」」

「来い!!」

 

先に智音が動いた。

二人の智音は音も残さずに消えて、勇太の前後数メートルにコンマ一秒もかからないで短距離ワープをする。

勇太はそれを超反射神経によって瞬時に感知して大剣を円状に振り回した。

 

「「ブレイジングフィット!」」

「ダークミラージュ!チェインバインド」

 

智音の大剣を躱しながら、一人は勇太の頭に、一人は勇太の心臓に煌めく拳を突き出した。

智音の拳が勇太に当たって勇太の頭と心臓を吹き飛ばす。

しかし、次の瞬間には勇太が真っ黒に染まって黒い炎となり、炎の中から智音を縛る鎖が現れて智音の一人捕まえる。

 

「くっ、どこに!!」

「お前の目の前だ」

「ッ!?」

 

鎖から逃げた方の智音の頭には、いつの間にかマグナムの銃口を押し付けている勇太が突如現れていて、一切のためらいもなく智音の頭を吹き飛ばした。

そして、勇太はその結果を見ずに鎖で拘束されている智音に指を向ける。

パチンと指を鳴らすと鎖から黒い爆炎が発生して、智音を含めてその辺り一帯を吹き飛ばした。

智音を吹き飛ばしたあとでも勇太は警戒を怠らずにマグナムを構える。

 

「まったく、手強いやつだニャン。でも、面白いニャン。デュアルアバター」

 

先程、吹き飛ばした辺りから軽度の切り傷を負った智音が4人現れる。

さきほど、勇太が銃で倒した方は既に消えてなくなっていることから、倒した方は分身だったようだ。

 

「…なるほどな。すべてが実体を持っていて、最後の一体まで倒しきらないと本体としての判定はされないようだ」

「にゃーはっはっは。そうニャン。でも、4人だけじゃお前にとってはつまらないニャン?もっと増やしてあげるニャン。「「「デュアルアバター」」」」

「手間がかかるな...」

「「「「「さぁ、次のラウンドニャン」」」」」

 

16人に増えた智音は今度は前衛と後衛で別れて行動を取る。

6人の智音が勇太に接近戦を仕掛けて、残りの10人がそれぞれ超魔法の詠唱に入った。

勇太は魔剣で強力な斬撃を放ちながらスキを見せた智音に向かって銃弾を打ち込むが、分身といっても強さはオリジナルとかわらないため簡単には倒せない。

激しい近接戦が繰り広げられるが、長くは続かない。

 

「チェインバインド!」

「「無駄ニャン」」

「「「「スキありだニャン。凍れ、アイスロック」」」」

 

あまりに智音による猛烈な攻めを緩めるために、鎖を出現させて2人の智音を捕まえるが直ぐに鎖は砕かれて拘束を抜け出されて、鎖にかかっていなかった4人の智音は勇太に特攻して自身もろとも勇太を凍らせて巨大な氷の塊を作る。

 

「さぁ、フィナーレだニャン」

「「「「術式完了。セフィラム降臨。ホーリージャッチメント」」」」」

「ッがぁぁあぁぁぁぁーーーー」

 

 

凍っている勇太と智音もろとも空から極大の光が降り注ぐ。

超魔法により巨大な大穴が公園の真ん中に作られたため、今後は公園として利用できないであろう場所になってしまった。

智音達は攻撃が終わったあとに先程勇太がいた場所を確認するが、そこには人間の面影を残さない邪悪な竜神となった勇太がいた。

 

「まさか、また再び暗黒竜ディザナ・ゲルゾニアンサスと一体化するまで力を引き出させるとは思っても無かったぞ…ソフィア」

「しぶとい奴ニャン。でも、お前に勝ち目はないニャン」

「いや、もう終わりだ。この姿になった以上、長い時間はかけるつもりはない…爆ぜろリアル…弾けろシナプス…パニッシュメント!ディスワールド!!!」

 

その瞬間、世界が止まった。

世界は灰色になり音が消える。

突然の大きな変化に智音は動揺する。

 

「「「「な、なんだニャン!?」」」」

「スキルロック、デスペル、チェインバインド」

「え…魔法が使えないニャン!?」

 

10人いた智音は一人を残して消え去り、力も封じられて、体を鎖で拘束される。

 

「この世界は暗黒竜の莫大な魔力を使って作った疑似空間だ。この空間の作成者である俺が絶対であり、ありとあらゆる権限がある。さぁ、消えろソフィア」

 

自分の負けを悟ったのか、智音は顔を伏せて静かになった。

しかし、勇太は歩いて智音のそばまでいくと異変に気づく。

 

「….あ、れ…富樫くん。こ...こはどこ?」

「チッ…ソフィアのやつ、七宮の魂と融合したか...」

ーーふん、まだまだニャン。お前に私もろともこの女を殺すことはできるかニャン?ーー

「え、誰あなた!?殺すって…富樫くんが私を?...」

 

勇太のダークフレイムは対象を指定して焼くことができる。

しかし、魂が一つとなってしまった以上、もはや智音はソフィアでありソフィアは智音だ。

切り離すことはできない。

勇太の苦悩の表情に智音は困惑している。

そして、ーーー

 

「仕方がないか…七宮。これしか方法が思いつかなかったから先に謝っておく….ダークフレイムマスターの名の下に使い魔としての契約を行う。コンタクト!」

「と、富樫くん!?」

ーー何をする気ニャン!?ーー

 

勇太は智音の顎を優しく掴むと、ゆっくりと智音の唇に自分のものを押し付けた。

すると、勇太と智音の地面に魔法陣が浮かび上がり、智音の左頬にはハートマークの刻印が浮かび上がる。

数秒間その体制を保って魔法陣が消えるまで待ってから、勇太は智音から離れる。

 

「契約は済んだ。これより、智音は俺の使い魔であり俺の所有物だ。よって、俺からの命令には必ず従わなければならない」

「え!?えーーーー!!!」

ーーなんてことニャン!!!ーー

 

智音とソフィアは絶叫した。

 

「まずは最初の命令だ。智音は俺に対してありとあらゆる手段及び、間接的な手段を用いて傷つけることを禁じる。次の命令だが、ソフィアは俺が命令した場合以外では智音の体を動かすことを禁じる。それから…」

「ま、待って富樫くん。私が富樫くんの使い魔で所有物ってどういうこと!!」

「あー...すまない。もう説明している時間が無いみたいだ。あとのことは頼む...」

 

必要最低限の制約を智音とソフィアに課した勇太はその場で倒れた。

すると、止まっていた世界は動き出し遠くでは警察や消防のサイレンの音が近づいてくる。

 

この日から智音は魔法魔王少女となりDFMとの契約者となった。

 

 



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第四話

次でオリジナルの過去編は終わって原作に行きます。


夏休みが終わる8月の最後の週になった。

勇太はとあることをきっかけに、スマホのLINEをよく見るようになっていた。

前回のソフィアが引き起こした事件の後で、勇太がその日のトークを数日間放置していたことに智音が苦言したことがあったのだ。

それ以降、勇太と智音はLINEで学校での話や週末の話をやり取りするようになった。

また、クラスのトークルームにも智音から招待されてから他のクラスメイトともやり取りをするようになってか、学校での勇太の物静かな印象は変わりつつある。

そんなある日、クラスのトークルームで来週に予定されている町の納涼祭の話が話題に上がっていた。

 

「祭りか...」

 

勇太は、家族と夏祭りに何回か行ったことはあるが片手で数えるくらいだ。

しかも、ここ数年は全く家族のイベントをした覚えがない。

それは勇太の両親が共働きで忙しいというのもあるが、勇太自身にも原因はあった。

DFMの生まれ変わりであり精神が成熟している勇太に対しての扱いを両親としては悩んでいるのか、家族間のコミュニケーションはあまり良くは無かった。

ここ数年は勇太の妹の樟葉にも微妙に距離を置かれている。

また、勇太にとってもDFMだった時の記憶から家族というものに対して一般とは異なる印象を強く抱いている。

DFMにとって、家族とは己の体に暗黒竜を封じて自分を恐れている存在だ。

DFMは自身を恐れる家族から逃げ出して追手の機関の構成員を倒す人生を送っていた。

そのため、家族とどう接すれば良いのかは勇太にも思いつかなかったりする。

ふと喉の乾いた勇太は、スマホをベッドに置いてリビングの飲み物を取りに行く。

そこで、ちょうど廊下を歩いていた樟葉とばったり会う。

樟葉は一瞬勇太を見た後に目をそらした。

 

「...」

「...樟葉は納涼祭は行くのか?」

「ぇ、どうしたの突然?お兄ちゃんから話しかけて来るなんて珍しい…別に今回は行く予定はないよ」

「そうか。悪かったな」

 

樟葉は怪訝な顔をしながら自分の部屋に入っていった。

 

 

 

次の日の朝、勇太が学校に着いて荷物から教科書を取り出していると、智音が所属するグループの女の子達が勇太の方にやってきた。

 

「おはよ、富樫も夏休み行くの?」

「うーん、一緒に行く人がいるわけじゃないから。どうしようかな〜って感じかな」

「へぇ〜、そうなんだ。じゃあさ、私達と一緒に行かない?」

「それならお言葉に甘えて参加しようかな」

「じゃあ、来週は予定を空けておいてね!」

 

勇太に祭りに行く予定を取り付けた女の子達は智音を手招きして呼んだ。

 

「富樫が来るってさ。ほら、七宮さんもー」

「う、うん。じゃあ、私も行こうかな…」

 

智音はチラチラと勇太を気にしている。

 

「ねえ、聞いてよ富樫〜。七宮さん、さっきまで浴衣が無いとか、別に興味がないとか言ってたんだよ!それがーー」

「ち、ちょっと!待って!」

 

智音は焦りながら、女の子に続きを言わせないように割り込んで妨害した。

残った方の女の子が勇太によってきて小さい声で教えてくる。

 

「大丈夫。この日は私達も彼氏を連れてくるから、七宮さんと二人でペアになれるよ。夏休み中に何かあったのか分からないけど、二人ともいい感じだしね」

「そ...そうかな。気遣ってくれてありがとう」

 

勇太は苦笑いしながら返事をする。

夏休み中にソフィアが引き起こした事件から勇太と智音の関係が少しギクシャクしていた。

あの日、智音の魂にソフィアが混ざり、そして戦いの末に勇太と智音は使い魔の契約を一方的だがすることになった。

智音は魔法少女であることを除けば中学一年生の女の子であり、起きたことを全て受け止めるには時間がかかると勇太は考えていた。

最近は魔王を二体も倒したおかげなのか闇の精霊が全く出現しなくなったため、LINEでのやり取りを除くと闇の精霊を一緒に探していた時よりも合う機会は減っている。

関係がギクシャクしているのに会う頻度が少なくなっているのだから、関係は改善されずにここまで来ている。

その時、テレパスでソフィアから勇太に対する叱咤が届く。

 

『こら勇太。前にも言ったけど、智音は契約のことよりも勇太とどこかに行きたいと思っているニャン。だから、勇太も契約に関してそこまで気を負う必要は無いニャン』

 

智音のそれらの思いはすべてソフィアを通じてテレパスで勇太にリークされているが。

ソフィアにとって、契約者である勇太がいないと智音の体の主導権を握ることが出来ない以上、勇太と智音が一緒にいるように色々と画策している。

しかし、勇太も智音もどちらも歩みよらないので苦労はしているが。

ここ数日は遠回しに勇太に言っても全く伝わらないことがわかり、ストレートに智音が思っていることを言うようになっている。

もちろん、ソフィアはそもそも精霊であるため人間の気持ちを正確に理解することは出来ない。

 

『智音がどこかに行きたいって思っている...それは祭りに行きたいということか?』

『ちょっと違うニャン。勇太さえいれば祭りでなくても行きたいと思っているニャン』

『どうしてだ?』

『分からないニャン。でも、そう思っているニャン』

『それなら結局どこに行きたいのか分からないな』

『まぁ、そうだけど適当な所に誘うニャン』

『分かった』

 

勇太はスマホを取り出して智音に対してLINEを送ろうとする。

しかし、ちょうどタイミングが悪く教室に次の授業の教師が入ってきた。

教師はふとスマホをイジっていた勇太に目で捉えて睨みを効かせる。

 

「…富樫、学校では携帯は禁止だろ!それは没収な」

「…はい、すみません」

『はぁ〜、何やってるニャン』

 

ソフィアは情けない勇太に対してため息をついた。

 

 

納涼祭の当日。

勇太は普段来ているのTシャツの上に薄地の上着を羽織って祭りが行われる河川敷にやってくる。

河川敷には既に沢山の人と屋台があり、とても賑やかになっていた。

集合時間の17時となっていて10分ほど早く着いた勇太であったが、集合場所の石段で智音が一人座っていた。

智音もまた普段着でラフな格好であった。

 

「七宮。早いな」

「そう言ってる富樫くんも少し早いね…」

 

勇太も智音の隣の石段に座り込んだ。

少し間が空いたあとで、勇太から声をかける。

 

「七宮は俺が勝手に使い魔の契約をしたことを今も怒ってたりするのか?」

「…え?」

「使い魔の契約は人にやらない。魔獣を従えるための契約は人を対象にすることは強く嫌悪される。だが、俺が七宮にそれをしたのはソフィアと一体になってしまった以上、ソフィアを抑えるにはそれしか方法を思いつかなかったからだ」

「...そうなんだ」

 

勇太にとっても智音に対して使い魔の契約を行ったことについては思い悩むところはあった。

だからこそ、使い魔の契約を智音には話しづらいとさえ思っていた。

どうしようもなかったとはいえ、人を服従させる契約をしたのだから。

 

「使い魔の契約はマスターか使い魔が死ぬまで切れることはない。これは魂を使った契約だからだ。もちろん、俺は七宮に対してソフィアを縛る以上の命令はする気はないが、七宮にとってなかなか安心出来るものではないと思ってる」

「...」

「だから、七宮が俺にして欲しい事があれば可能な限り応えたいと思ってる」

「...それって、どんなことでも?」

「あぁ、そうだ」

 

勇太は真剣な顔で智音に向かって言った。

その時、集合時間になったのかクラスの女の子達とそれについて来た別クラスの同級生の男の子が現れた。

 

「二人とも早いね!あ、こっちが七宮さんで、こっちが富樫ね」

「富樫です、よろしく」

「七宮です。よろしくね」

 

軽く挨拶をして、すぐに各々ペアを作って屋台へと向かう。

智音は前のペアが手を繋いでいるのを見ると、勇太に対して手を差し出した。

 

「...さっきの話、何でもするって言うのが本当なら手を握って」

「あぁ、分かった」

「あ、あと、今から私は富樫くんのこと勇太って呼ぶから!だから私のことも智音って呼んで!」

「そんなので良いのか?」

「良いの!」

 

勇太は不思議そうに思いながらも智音の手を握る。

その時の智音の頬は若干恥ずかしいのか薄赤色になっていた。

しばらく歩いても何も喋らなくなった智音をチラリと伺いながら、勇太は空気を変えるために屋台を見て智音に声をかける。

 

「智音は何か食べたいものはあるか?」

「...私はあれが良いかな」

「綿菓子か...分かった。買ってくる」

「待って。一緒に行こうよ!」

「ん?あぁ」

 

一人で買いに行こうとした勇太を智音は手を引いて引き留める。

一緒に綿菓子を売っている屋台まで言った勇太と智音は綿菓子を2つ買う。

 

「ねぇ、あそこのベンチで一休みしない?」

「いいぞ」

 

勇太と智音がベンチについて、綿菓子を食べ始めた時にはもう花火が上がり始めていた。

 

「きれいだね…」

「…」

「ねぇ、勇太。私は契約とか良く分からないけど、でも私を助けてくれてありがとう」

「智音…」

 

花火を見ている智音の横顔を勇太はじっと見続けた。

 

しかし、花火と混じった爆発音で祭りの空気が大きく変わる。

すぐさま悲鳴が勇太達にも聞こえ始めた。

 

「え!?爆発?いや、この気配は…強い闇の精霊」

「最近は現れてなかったが…ここは人が多い」

『あぁ…この魔力はあいつかニャン』

「ソフィアは知ってるの?」

『前に向こうの世界で共闘したことがあるニャン。でも、イカれた精霊だから近寄らなかったニャン』

「イカれたってどういう…あ、勇太!」

 

智音がソフィアと話している間に勇太は爆発現場へと走り出していた。

智音は慌てて勇太の背中を追いかける。

しかし、人々が逃げる方向は逆の方向に移動しているためか、先を進む勇太になかなか追いつけずに智音ははぐれてしまった。

 

 

勇太は爆発した屋台のそばまでやってきた。

そこには、炎が怪物のような形を保持して存在している。

炎の怪物は勇太を見つけると、突然スタジアムを作るかのように巨大な炎のリングを勇太と怪物の間を囲うように作った。

そこには勇太以外の生存している人の姿は無い。

 

「フム、オマエがチャレンジャーか?」

「何のことか分からないな」

「フハァハッハッハ、そうか。だが、オマエからは良い闘志を感じる」

「ゴタゴタ言うな。その炎は飾りか?」

 

こうして、予期せぬ闇の精霊との戦いが始まった。

 

 

 

 

 



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第五話

先手は炎の怪物からだった。

怪物は自分の炎の体積を急激に増やして巨人となり、勇太に向かって巨大な両手を振り下ろす。

 

「ダークバースト!」

 

それに対して、勇太はその場を動かずに向かってくる怪物の両手に黒い爆炎を放つ。

爆炎を受けた怪物の両手は形を崩して単なる炎となるが、まるでロウソクの火が一瞬だけ揺れたように再び両手の形に戻った。

 

「ボルケーノブレス!!」

「ダークフレイム!」

 

怪物は次に口から広範囲の炎が吹き出して、勇太を焼き尽くそうと襲いかかる。

勇太も対抗して闇の炎をそれにぶつけた。

怪物が吹き出した炎を闇の炎が塗りつぶすように押し返すことに成功したが、怪物はそれを気にせずに吹き続ける。

そして、闇の炎が怪物に到達し怪物を燃やした。

しかし、怪物の全身を黒い炎が覆って焼き尽くしても、黒い炎が消えると再び怪物が再生した。

自分のダークフレムが全く通じていないことに勇太は若干の焦りが生まれた。

基本的には物理技が多い勇太にとって、不死身かつ実体の無い相手は対抗手段が少なく天敵である。

 

「チッ…不死身か。やっかいな…」

「クックック...それで終わりか。魔王を二人も倒した猛者よ。まだまだ、私は倒れんぞ!!」

 

怪物は巨大な拳を作り勇太に叩きつけた。

再び黒い爆炎で拳を吹き飛ばそうとするも、爆炎が当たる瞬間に拳から形が変化して細い無数の槍となり、数本の炎の槍が爆炎を突き抜けて勇太を貫く。

しかし、そこは歴戦のDFMだ。

勇太は苦痛に冷や汗を掻きながらも闇の魔力を引き出して自分の体に突き刺さっている炎の槍を魔力で消した。

 

「まだまだ、始まったばかりだろう?もう少し頑張れよ、ボルケーノブレス」

「ダークフレイム!」

 

同じような展開がまた発生して、勇太の闇の炎が怪物を燃やし尽くすが怪物を倒すには至らない。

 

 

ようやく人混みを抜けた智音は、勇太が向かっているであろう火の手が上がっている場所へと向かおうとしていた。

 

「ソフィア、あそこにいる闇の精霊について詳しく教えて!」

『う〜ん、どうしようかニャ〜』

「…今は私とソフィアは一心同体だよ。私が倒されたらソフィアも一緒だからね!!」

『チィ…まぁ、別に言ってしまっても、戦わない以外の方法はないけどニャ』

「戦わない以外の方法がないってどういうこと?」

『あの精霊は神様に呪われているニャン。呪われていて決して死を迎えることができない。だから、死ぬためにひたすら戦い続けている』

「…つまり倒せないの?」

『そうニャン。そして、あいつからは逃げられない。やつが最初に張る炎の結界には一体になるまで結界から出られない強力な制約がついてるニャン。だから、やつとは戦うことをおすすめしないニャン…いくら強くても休まず永遠に戦い続けることは同じく不死身で無い限り出来ない。そういう事で、あいつは魔王の中でも最強格の一つだニャン』

「そんな…じゃあ勇太は!!」

『う〜ん、もう戦っていそうだからアウトじゃないかニャン』

「ソフィア!!」

 

ソフィアは決して勇太達の味方ではないことを忘れていた智音だった。

勇太がいなければ使い魔の契約が切れてソフィアの体を乗っ取られてしまう智音にとって危機でもある。

 

「はやく、勇太と合流しないと…」

『まぁ、どうやら、そう簡単には行きそうも無いけどニャン』

「…ッ!?」

 

突如、智音に向かって斬撃が飛んできた。

智音は瞬時に魔法少女に変身して超反射能力で斬撃を躱す。

今の智音はミーナがいなくてもソフィアの魔力を使って変身ができるのだ。

季節はずれの長めのマフラーを着けた姿になった智音が、斬撃が飛んできた方向を注意深く見ると、さっきまで気配を察知できなかった存在が現れる。

 

「へぇ、今の躱すってことは、あなた結構できるんだね〜」

「...あなたは誰?」

『智音、気をつけてニャ。あいつ結構強い』

 

智音を襲ってきたのは巫女装束で狐の仮面をかぶっている女の子のようだ。

二本の刀を両手に下げていて、ゆっくりと歩くその姿は流麗であった。

 

「とりあえずカンナギでいいよ。あなたは?」

「カンナギ...私は智音。どうして攻撃してきたの!?」

「あなたからは最近起きた隣町の公園で暴れていた人と同じ気配を感じているのと、今絶賛騒ぎを起こしているからかな〜。ここらへんの異能関連での騒ぎの依頼はウチに来るから面倒だけどやるしかないんだよね〜」

「違うよ!犯人は向こうにいるーー」

 

一瞬で数メートルの間合いを音もなく詰めてきて、二本の刀身を使ってハサミのようにクロスさせてから智音の首元を切り裂こうとした。

智音は咄嗟に後ろに向かって飛んだが、完全に回避が出来ずに頬を軽く来られる。

 

『智音、あいつは聞く耳を持たないニャン。とっとと応戦するか私に変わるニャン』

『ソフィアって富樫くんがいないと私の体が使えないじゃない!』

「でも、しかたない…こっちも行くよ!!マジックサンダー!」

 

智音は手のひらをカンナギに向けて雷を放った。

しかし、音速の雷をカンナギは刀で切り裂いて、もう一方の刀を智音に向かって振って斬撃を飛ばす。

智音はまさか自分の魔法を切られると思っていなかったのか次の動作が遅れて、腕の表面を大きく切り裂かれた。

 

『あ〜もう、何やってるニャン!?次来るニャン!』

「ッ!?...早すぎるっっ!!」

「ほらほらほら!!!」

 

カンナギが繰り出した目で追うのもやっとの斬撃の嵐は、回避しきれない智音を傷つけながら徐々にその数を増やしていく。

そして、とうとう耐えきれなくなり智音は一旦防御をすることにした。

 

「マジックシールド!」

「風の型・かまいたち」

 

カンナギは二本の刀を鞘に収めるとすぐさま抜刀して、そこから無数の斬撃を繰り出しマジックシールドを一瞬にして切り裂いた。

さらに、防御しきれなかったため、マジックシールドの上からも智音の腕や足が切り裂かれて少なくない量の血が吹き出した。

 

「え…」

『智音!大丈夫かニャン!?』

「う〜ん。この程度の実力であの公園の大穴って空けられるのかな?やっぱり、この人の言う通り犯人ってあっちにいるのかな?」

「…っっっぐ」

 

智音は襲ってくる激痛に耐えられず、切られた場所をかばうようにして地面にうずくまる。

 

 

 

怪物によって、既にボロボロで体には重度の火傷がつけられた勇太は息を大きく荒げて怪物を見る。

怪物の方はもはや退屈になったのか、すでにやる気が見られない。

 

「オイ、オマエ。まだ隠している力はあるだろう?そうでないなら、魔王ソフィアリングは倒せないハズだ」

「…短期間での使用はしたくなかったが致し方ないか。ダークドラゴニアソウル、ドラゴニックフォース、ドラゴニックタフネス」

「それだ、それ。なんとも禍々しい闇を感じるぞ!!」

 

暗黒竜の力を引き出す勇太であったが、前回とは異なり腕から伸びる刻印が額まで伸びている。

まるで、使うたびに体を侵食するように。

だが、智音と戦った時以上の闇の魔力が漂う。

 

「ダークフレア!!」

 

どす黒い炎が勇太の手のひらから放たれて怪物の体の一部を燃やし尽くす。

すると、さっきまでとは違って黒い炎で燃やした箇所は再生していない。

 

「ほぉ!!?やるではないかオマエ。焼かれた断面からは再生できん!!」

「クソ…これでもまだ足らないか!!」

「もちろんだ。だが、私も久しぶりに本気を少し出したくなったぞ」

 

怪物の腹に位置する部分が割れて中から輝く炎が見えだした。

その炎に暗黒竜並の嫌悪感を感じた勇太は、すぐさま暗黒竜ディザナ・ゲルゾニアンサスと一体化して邪悪な竜神となり全力の詠唱を行う。

 

「さぁ、受けてみろ。これが私を蝕む原始の炎だ」

「爆ぜろリアル..,弾けろシナプス…パニッシュメント・ディスワールド!!!」

 

怪物は輝く炎を世界に解き放った。

その瞬間、勇太には世界が光に包まれたように見えた。

解き放たれた輝く炎は怪物がいる数十メートルを瞬時に燃やし尽くして大きな爆発が発生した。

その威力は河川敷だけに留まらずに、そばにあった住宅街の一部にも及んだ。

 

 

 

突然の爆発の余波を受けたカンナギだったが防御符を持ち出すことで難を逃れた。

しかし、あまりの巨大な力を感じ取ったため、体が拒絶反応を起こしているかのように嘔吐感がこみ上げる。

カンナギは目の間で起き上がる智音を警戒した。

智音からは先程までは感じなかった強者の圧をカンナギは感じたからだ。

 

「にゃーはっはっは!ようやく魔法魔王少女の出番だニャン」

「…あなた、雰囲気が変わっていませんか?」

「そうかニャ?気にするなニャン。さて…とりあえず、さっきまでのお返しをするニャン」

 

もはや、先程まで切り傷で倒れてうずくまっていた智音ではない。

序列でトップに位置していた魔王であり、現在は天才的な魔法適正を持つ魔法少女と一つになった魔法魔王少女ソフィアだ。

戦意を見せた智音に対してカンナギはすぐさま二本の刀を鞘に入れて抜刀して技を放つ。

 

「風の型・かまいたち!」

「どこに打ってるニャン?ブレイジングフィスト!」

「ッ!?ぐはぁーー」

 

カンナギの背後に瞬間移動した智音は、煌めく拳で狐のお面ごとカンナギの顔を殴り飛ばした。

カンナギは吹き飛びながらも空中で体制を整えて着地する。狐のお面は既に粉々になり口を切ったのか血を流しながら、幼さの残る可愛さだけでなく美しさも備えたカンナギの素顔が現れる。

しかし、智音の攻撃はまだ終わっていない。

 

「イグニッション!ブレイジングマジックアロー!!」

「っ!?剛の型・叩き割り!はぁぁぁぁーーー」

 

カンナギは襲ってくる魔力砲に対して、気を載せた刀で真っ二つに切り裂いた。

しかし、魔力砲が打ち終わるころには、二刀が魔力砲の威力に耐えきれずに砕け散った。

もはや武器がなくなったカンナギに対して、智音はニヤニヤ嗜虐的な表情を浮かべながら近づいた。

 

「さーて、どうやって料理をしようかニャン」

「っ…. !?」

『待って、ソフィア!勇太は!?』

『智音、今いいところだから見てるニャン』

『ねぇ、ソフィアが体を操っているってことは...勇太に何かあったんだよね?』

『分かりきったことニャン』

『…お願いソフィア。勇太を助けてあげて…』

『だから、行っても変わらニャイとーー』

『お願い…』

「…はぁーっ、しかたないニャン。今回は見逃してやるニャン」

「え、ちょっとーーー」

 

智音の必死の懇願に折れたソフィアがため息を吐いたあとで、カンナギを蹴り飛ばした。

転がったカンナギにはひと目もくれずに勇太が戦っている方へと向かう。

 

 

原始の炎の威力は川を蒸発させて大穴を作り溶岩を生み出した。

現場の凄まじさに智音は身震いをする。

勇太が見つからないかもしれないと最悪の場合を一瞬智音の脳裏を横切ったが、直ぐに勇太は見つかり安堵する。

 

『あれ、勇太だ!』

「へぇ、あいつを倒すとはさすが私を倒しただけあるニャン」

 

智音はボロボロの勇太に近づく。

素人目でも至るところに火傷を負っていて、これが一般人なら危険な状態だと分かった。

 

「勇太、起きるニャン。とっととずらかるニャン」

「うっ…っっ」

『ちょっと、ソフィア。もう少し優しく…』

 

ゆっくりと、勇太が目を覚ました。

焦点の合わない目で智音を見返す。

そして、ーーー

 

「…君は誰?」

『え….』

 

 

 

 




これで過去話が終わりました。
次からは原作なので、一旦アニメを見返します。



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原作開始
第六話


本日二本目の投稿。
しばらく、七宮さんは出てきません。


満月の夜、アパートの一室で勇太は押入れに入っている荷物の整理をしていた。

ダンボールから古い書き終えたノートを取り出しては書かれている内容をペラペラと捲りながら軽く一読する。

その時、ちょうどお風呂から出てきた樟葉から声をかけられた。

 

「あれ?お兄ちゃん。明日から高校なのに何やってるの?」

「うん?あぁ、樟葉ちゃんか。ちょっとね…」

「もしかして、また記憶探しとかしてるの?でも、記憶を無くす前のお兄ちゃんって何かに興味があったように思えないし、特にモノを買っていた覚えもないから何も見つからないと思うよ」

「あぁ、そうだね。本当に何も見つからない。どんだけ、俺ってつまんないやつだったんだか」

 

そう言いながら、教科書とノートしか入っていないダンボールを漁る。

富樫勇太には中学一年生の後半より以前の記憶がない。

ただし、知識的なものに関しては特に異常は無いようで、忘れているのは人や事象だったりが多い。

記憶を失った原因は、夏祭りの最中に大きな爆発事故に巻き込まれて重症となったことと医者から告げられている。

全国ニュースにもなった多数の死者を出した爆発事件は、現時点でも爆発原因が不明で専門家チームを作って未だに調査中だったりする。

また、幸いにもその時の火傷の跡は今でもうっすら残っているが、ほとんどが完治したため医者からはビックリ人間と称えられたりした。

しかし、勇太は猛烈な喪失感からか時たま自分の記憶を探すように、古い勉強ノートや幼児期の写真などを見ていたりする。

 

「…私は今のお兄ちゃんの方がいい」

「…はっはっは、それって前の俺がよほど嫌われていたのかな?」

「...嫌われていたというか...怖かった。でも、今はそんなことはないよ。だから今のほうが良い」

「樟葉ちゃん…。今日はもう寝ようか!」

「うん。ねぇ、今日は私と夢葉の三人で寝ようよ」

「あぁ、良いよ。じゃあ先に布団に入っておいて」

 

樟葉は勇太にうなずいた後に自分の部屋に向かった。

勇太が怪我を完治してからは、両親は安堵する暇もなく今まで溜めていた仕事をこなすために、夜が遅かったり出張が多かったりして家を空けることが多くなった。

そのため、勇太は両親を手伝うために中学生となった樟葉と5歳の夢葉の面倒をよく見る。

 

ーーやっぱり、昔の俺を知る手がかりはあの子しかいないーー

 

勇太は事故が発生した時の事をうっすらとおぼえていた。

それは、勇太をゆすり起こした智音のことだった。

勇太が入院生活を終えて学校に復学したときには、既に智音は転校をした後だった。

もちろん、勇太は何度かコンタクトを取ろうとクラスメイトからLINEで直接やり取りをしてもらったが、"会いたくない"の返答しか帰ってこなかった。

今もまだ交渉中だが、しばらくは気は変わることはないだろうと思っている。

必死で智音にアプローチを取ろうと、記憶を取り戻そうとしていた時のことを、ぼんやり思い出しながら月を見ていた。

その時だった。

 

「え?」

 

いつの間にかベランダの縁に何かがいた。

一度、目を擦ってもう一度注視すると、それは人影のようだ。

 

ーーまさか、泥棒か!?ーー

 

勇太は緊張しながら、ゆっくりと窓に近づく。

すると、いつの間にか人影は消えていた。

確認のために一旦部屋からベランダを見て、

思い切って窓を空けてベランダに出て周囲を見回しても誰もいない。

 

「なんだ、気のせいか…」

 

勇太が安堵して部屋に戻ろうと振り返る。

 

「気のせいではない。声を出すな」

「!!??ーーっぐ」

 

勇太は突然眼帯をした少女に襲われた。

勇太の口元には小さいが力強い手が当てられて腕を掴まれると、開いてる窓から勇太を部屋のベットに投げ飛ばす。

勇太がベットに仰向けになるとマウントポジションを少女は取って、どこからか出した折りたたみ傘を首元に突きつけた。

 

「いいか。今からお前に聞きたいことがある。正直に答えれば直ぐに終わるが、そうでないなら痛い目にあうかもしれない。分かったら目をつぶれ」

 

勇太は少女の言う通りに目をつぶった。

すると、口元に当てられていた手はゆっくり離れていった。

 

「よし。まず最初の質問だが、お前は闇の力を使えるか?」

「闇の力?何のことですか?...」

「知らないなら別にいい。次にこの部屋にはどれぐらい住んでいる?最近引っ越してきたりするのか?」

「え、えーと、確か、十年以上はもう住んでるって聞いてます!」

「…住んでると聞いている、とはどういうことだ?」

「俺にはここ2年間より前の記憶がないから家族に聞いただけです」

「記憶がない?どうして?」

「それはーー」

 

突如、眼帯少女が持ち上がった。

少女に似た顔の女性が少女の襟を掴み上げていたからだ。

女性は一度、眼帯少女の頭を叩いた後に勇太に謝罪する。

 

「すまないな。こいつが迷惑をかけた」

「…離せ!」

「このバカが。下の部屋に気配があると思ったらご近所さんに何迷惑をかけているんだ」

「あ、あれ...もしかして上の階の人ですか?」

「あぁ、ちょうどこの上に住んでるものだ。妹が迷惑をかけたな。迷惑料だが、これでこいつがしたことを忘れて欲しい」

「あ、はい...」

 

女性は一万円札を勇太に渡すとふてくされている少女を掴みながらベランダの外に出る。

 

「あ、あの…そっちは出口じゃ」

 

勇太が声をかけたときは既にベランダにはいなかった。

 

ーーさっきのは一体何だったんだーー

「お兄ちゃん、まだ〜」

「え、あぁ、ごめん、ごめん。すぐ行くよ!」

 

今一度、ベランダの外に出て誰もいないことを確認する。

その後で、窓を締め部屋の電気を消して樟葉の部屋に向かった。

 

 

次の日、勇太にとっては高校の入学式だ。

勇太が通う高校は家から少し遠く電車で行く距離にある。

駅に着くとそこには勇太と同じデザインの制服を来た学生の姿を数人見かけた。

それぞれが、きっと新しい高校生活に対して考えているであろうが、勇太は昨日の眼帯少女の襲撃のことを考えていた。

 

ーー昨日のあれは何だったんだ…闇の力?ゲームとかアニメの話だろうか...ーー

 

考えながら歩いていると前を歩いていた女の子に軽くぶつかってしまった。

 

「あ、ごめん!大丈夫?」

「うん、こっちも前をよく見てなくてごめん」

 

勇太がぶつかってしまったのは、前髪に髪留めを着けていて可愛い系の女の子であった。

女の子も軽く謝罪すると電車の列に並びだす。

 

ーーあの子も同じ高校か…結構可愛いな…ーー

 

勇太の思考が切り替わって昨日の事よりも今の女の子を考えならが電車を待っていると、勇太の目の前を昨日の眼帯少女が横切った。

 

「え!?」

「...」

 

眼帯少女もまた勇太と同じ制服を来ている。

つまり、同じ高校に通っているようだ。

眼帯少女は勇太を一瞥すると何事もなかったようにちょうど来た電車に乗り込む。

それからは、特に何もなく高校までたどり着いて所属クラスを確認した後に教室に入った。

勇太と同じクラスには、通学中にぶつかった髪留めを着けた女の子と眼帯少女がいる。

そして、チャイムがなり高校生活初めてのホームルームが始まった。

ざわつく生徒達を女性の先生が窘めながらも自己紹介から進める。

クラス全員が名前順に各々自己紹介を始める。

そして、眼帯少女の番になった。

 

「小鳥遊立花です。趣味は読書です。あと、この眼帯ですが目が光に著しく弱いから着けているだけなのであまり気にしないで下さい。よろしくお願いします」

「はい、よろしくね。次は…」

 

ーーあの女の子。小鳥遊って名前なんだ。ーー

 

勇太の番が来る。

 

「富樫勇太です。中学はここから少し遠いところから来ました。趣味というか最近はどこかに散歩に出かけることが多いです。よろしくお願いします」

 

勇太の前途多難の高校生活が始まった。

 

 

 

 

 



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第七話

休日の投稿速度ブーストがなくなってしまった...


高校入学初日のガイダンスが終わってこれから昼休みとなった時、後ろの席の男子が勇太に声をかけてくる。

 

「俺は一色誠。よろしくな!」

「俺は富樫勇太。こちらこそよろしく」

「なぁなぁ、このクラスの女子で誰が一番可愛いと思うんだ?」

「え、あ〜」

 

誠の言葉によってクラスを見回す。

勇太のクラスの女子は比較的に可愛い女子が多かった。

その中でも、朝の駅で出会った前髪にピンク色の髪留めを着けている女の子に目が止まる。

誠は勇太の視線をたどった。

 

「丹生谷か!俺もそう思うよ!!」

「え、あぁ、そうかもね」

「あとは、俺たちの列の前の方にいる巫部さんも候補だな〜。どこかのお嬢様って感じがする!!」

「あははっ...よく見てるね」

「まぁな。このクラスのトップ争いは丹生谷か巫部さんかな〜」

 

誠がニヤニヤしながら言っているのに、若干引きながら苦笑を浮かべる勇太。

その時、立花が勇太の席まで近づいてきた。

無表情で立花は勇太に声をかける。

 

「勇太。ちょっと話がある」

「え?あぁ、分かった」

「着いてきて」

 

そう言って立花はスタスタと教室の外に出ていった。

そのシーンを見ていた誠は勇太に問いかける。

 

「富樫って小鳥遊さんと知り合いなのか?」

「まぁ、知り合いといえば知り合いかな」

「へぇ、同じ中学?」

「いや、住んでいる所が近いだけなんだ...とりあえず行ってくる」

「あぁ」

 

勇太は立花の後を追った。

 

体育館裏の人がいない場所に来た勇太と立花は、少し距離を取って向かい合う。

周りには木々が茂っていて、体育館裏に来ない限りは様子が見えないようになっている。

 

「それで、話ってなんです?」

「…昨日のことは謝罪する。流石にいきなり過ぎた」

「…迷惑料はもらったし、それについては良いけど。理由が知りたいかな」

「…前に勇太を見かけた時に感じた闇の力が全く感じなかったからだ。今の私にはその力が必要だ」

「昨日、小鳥遊さんが言ってたたんだけど、闇の力っていうのは何?」

「本当に知らないようだな。勇太は…それを知ったら私に協力してくれるか?」

 

立花は真剣な表情で勇太に凄んだ。

まるで嘘偽りは許さないという雰囲気だ。

勇太は突然やってきた緊張感につばを飲む。

 

「その協力っていうのは危険なことだったりするのか?」

「…その通り。だから、もし勇太が闇の力を持っていない状態で関わるなら命はないだろう」

「そ、それなら知らなくてもいい」

「分かった…」

 

立花は勇太の返事を聞いた後、興味を失ったようにその場から立ち去った。

勇太は重い雰囲気から抜け出したためか安堵で深く息を吐いた。

 

 

帰りのホームルーターが終わり帰宅となる。

荷物をまとめている勇太に誠から声がかかった。

 

「富樫はこれから時間ある?これからクラスのメンバーで飯でも食いに行こうって話をしてるんだけど、一緒に行こうぜ!」

「特に用事は無いし、全然いいよ!」

「そうだ、小鳥遊さんも誘える?」

「あぁ、聞いてみるよ」

 

勇太は席を立ったの立花に食事会に参加するかどうか声をかけるが、立花は首を横に振って拒否を示して帰っていった。

 

「小鳥遊さんは?」

「用事があるみたいだ」

「そっか、じゃあ行こうぜ!」

「うん」

 

そのまま、勇太はクラスの一部のメンバーと学校近くのファミレスに入る。

ファミレスには10人程度が座れるソファー席が空いていて、ちょうど全員で座ってピッタリであった。

適当にメニューをいくつか注文した後にクラスメイト同士の談話が始まった。

勇太もとりあえず誰かと話そうと前の席にいる女子に声をかける。

その女子は誠が言っていた巫部だった。

巫部は勇太に軽く笑顔を向けると自己紹介をする。

 

「私は巫部風鈴。富樫くんだっけ?」

「うん、富樫勇太。よろしくね、巫部さん」

「よろしく〜…ねぇ、富樫くんってさ、〇〇中学出身だよね?七宮さんって覚えてる?」

「え!?巫部さんって七宮さんを知ってるの?」

「うん。智音が転向してきた中学って私がいた中学なんだよね〜」

「そうなんだ….巫部さんは七宮さんと仲良かったりするの?」

 

巫部はジュースを軽く飲んでポテトをつまむ。

勇太もまた、アイスコーヒーを軽く口に付けた。

 

「最初は喧嘩しちゃったりしたけど今では良く連絡を取る中なんだよね〜…まさか、智音が言っていた男の子が私と同じ高校に通うとは予想もしてなかったけど」

「そうなんだ...巫部さん、頼みがあるんだけど」

「うん?もしかして、智音に話がしたいとか?」

「七宮さんから俺の事聞いてたりするんだっけ?そうだよ」

「ごめんね。でも、今の富樫くんじゃ多分だめ」

「それって…記憶の事と関係があるの?」

 

巫部は微笑を浮かべるだけで何も言わない。

勇太はいつものように記憶について思い悩む。

 

ーー中学の時の俺、一体七宮さんに何をやからしてるんだよ!でも、中学のクラスメイトは俺と七宮さんは仲が良かったって聞いたけど...わからんーー

 

智音の話題から離れて勇太と巫部が雑談をしていると、誠が隣から勇太に耳打ちをする。

 

「お、おい勇太。巫部さんとも知り合いだったりするのか?」

「え、いや、転校した知人の友達ってだけだよ。俺も今さっき知った」

「そうか。俺のことも紹介してくれ頼む!」

 

勇太は内心ではため息をつきながらも誠を巫部に紹介する。

誠はテンパって巫部に色々話をするが、巫部は変わらず微笑を浮かべて誠の相手をする。

そこからは勇太は何人かのクラスメイトと夕方まで軽く話あった。

巫部が智音と知り合いという事以外では、誠の言う通り丹生谷と巫部は男子からとても人気があったということが、男子の反応で伝わってきたのが今日の親睦会で勇太が得た情報でだった。

そして、帰る時に巫部さんから軽く声をかけられる。

 

「もし、困ったことがあったら私か森夏ちゃんに相談してね!」

「困ったこと?それに丹生谷さんにも?」

「そう。必要になると思うから、これ私のLINE ID渡して置くね」

「う、うん」

 

巫部は、勇太が着ているブレザーの胸ポケットにIDの書かれた小さい紙切れを差し込むと森夏とともに帰っていく。

よく分からない理由で巫部の連絡先を手に入れてしまったため、喜んで良いのか、それとも意図をよく考えるべきか困惑する勇太であった。

 

 

 

帰宅途中の自宅の最寄り駅で、勇太は立花を偶然見かけた。

しかも、さっきまでは新品のようにキレイだった制服は汚れていて立花自身も軽い怪我をしているようだった。

勇太は立花に何が起きたのか強く気になり立花に訪ねる。

 

「その怪我はどうしたんですか!?小鳥遊さん!」

「うん?あぁ、勇太か。気にするな」

「気にするなって...あ、ちょっと」

 

立花は勇太を視認すると気にせずに駅の外に向かって歩き出す。

勇太は迷った。ここで、立花に怪我の理由を問い詰めるか、それとも見なかったことにするか。

ふと、学校で立花に言われたことを思い出す。

 

ーー関わると命がない。果たして冗談なんだろうか?でも、一般的に考えて闇の力とか意味が分からないし...やっぱり、そういう妄想なのだろうか?ーー

 

「って、あれ!?もういない」

 

僅かな間で立花の姿を見失い、小走りして駅から出た勇太であったがため息を吐いて帰途につく。

 

帰宅すると、久しぶりに勇太の母親が家に早帰りしていた。

その日の晩は樟葉とともに勇太は料理を作って家族団らんの時を過ごす。

 

「へぇ〜とりあえず、勇太の高校生活のスタートは順調そうで安心したよ」

「高校生だし、そこまで気になるのかな?」

「それはまぁ、母親だからね」

「…母さん、一つ聞きたいんだけど、もし仮に記憶を取り戻したいって言ったらどう思う?」

「それは…私は勇太の好きにしたいいと思う」

「ちょっと!お母さん本気!?前のお兄ちゃんに戻ったら、こんな感じで一緒に食事なんて出来ないよ?」

「やっぱり、その勇太も勇太なんだなと思う。だから、少しさびしいけど私は勇太の選択に賛成するよ」

 

勇太の母親は少し悲しそうな、気まずそうな表情をする。

樟葉はそれに対して抗議をしたが、勇太は家族が記憶を戻ってほしくないと思っているように強く感じた。

記憶を取り戻すべきかどうか、勇太は今日も頭を悩ませながら決めかねている。

 

 

 

 



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第八話

この作品はオリジナル展開を割と入れていく予定です。


逢魔が時。

制服姿の立花は目の前の多種多様の生物が混ざりあった、おぞましい魔獣に立ち向かっていた。

県道の通る橋の上にも関わらず、一台の車も存在せず人一人歩いていない。

そこは魔獣の作り出した現実世界に類似している擬似空間であり、連れ込んだ者を逃さないための檻であった。

そのような場所であっても立花には全く焦った様子は無い。

魔獣が動く。

魔獣の大きさは大型重機並であり、その巨大な質量で押しつぶさんと立花に向かってダッシュする。

立花は右手で右目の眼帯を触れる。

 

「前回は不意打ちされた上に逃げられたが…今回は仕留める!私の目を見ろ!」

 

立花は眼帯を外した。

そこには左目の漆黒の瞳とは異なる黄金の瞳が煌めいている。

邪眼と呼ばれている黄金の瞳は、魔獣の姿を捉えている。

魔獣が立花にのしかかる直前で立花は紙一重で横に躱した。

さらに、魔獣の尻尾による追撃も行動を読んで受け流す。

立花の邪眼の能力の一つは見た物体の先読みの力だ。

次の魔獣の行動が邪眼を通じて理解することができる。

しかし、魔獣も単純ではなかった。

攻撃が効かないと分かった魔獣は、体に生えている大きな口の部分から広範囲による毒霧を吐き出そうとする。

広範囲による攻撃は先が読めていても躱すことはできない。

だからこそ、そのビジョンが見えた立花は既にそれに対する行動を起こしている。

自分の指の表面を軽く噛みちぎり、流れ出た血を触媒として魔法を放つ。

 

「血統術式ブラッドチャージ。ジャッジメント・ルシファー!!」

「グガァ!?」

 

立花は自身の腕に血のオーラをまとわせて、毒霧を吐かれる前に魔獣を殴り飛ばした。

さらにジャッジメント・ルシファーの効果が発動する。

殴った魔獣の腹部に魔法陣のようなものが浮かびあがり数秒後に爆発、魔獣の腹には大穴が空いて大量の血が吹き出した。

よろめく魔獣に対して、立花はトドメの魔法を放つ。

 

「これで終わり。血統術式ブラッドスティンガー!!」

 

立花は邪眼を用いて地面に広がっている魔獣の血を操り、その大量の血を鋭利な無数の刃に変えて魔獣へと襲わせる。

もはや藻掻くことすら出来ない魔獣は、次々と体に刺さる血の刃を受けるたびに苦痛に悲鳴を上げる。

立花の攻撃によって串刺しになった魔獣は黒い煙が吹き出して姿を消す。

それと同時に擬似空間が崩れ元の現実世界が姿を現した。

立花は一息吐くと、ふと魔獣のいた場所に何かがいることに気づく。

 

「...なんだこいつは?」

「ニャー」

 

魔獣が姿を消した場所に一匹の猫がいた。

猫は立花に対して腹を見せている。

 

 

 

海と空しかない世界。

海の上に立っている勇太の目の前には、鎖で縛られて身動きの取れないもうひとりの勇太の姿がいる。

呆然と見ていた勇太を、鎖で縛られている方の勇太はクスクスと笑った。

 

「ようやく、解決の糸口を見つけた...」

「君は...俺?」

「そうだな。お前は俺であり、俺はお前だ。さぁ時間がない。この手を握れ」

 

勇太は困惑していた。

もうひとりの勇太が差し出している手を握ったあとどうなるのか恐怖を感じた。

しばらく経って、勇太は中々手を握らないことに、もうひとりの勇太は考えを巡らせる。

 

「ーーなるほどな。少し時間をかけ過ぎたせいで自我が形成されているようだ。ならば、手助けだけしておこう」

「手助け?」

 

もうひとりの勇太は右手の上にマグナム45を出現させて、勇太にそれを投げつけた。

突然、投げられたマグナムを危なげにキャッチした勇太。

 

「そのマグナムはこれからお前を襲う者たちに対する対抗手段になる。いいか、魔王に気をつけろ」

「魔王?一体それは…」

 

 

そして、勇太は目は目を覚ました。

ぼんやりと寝起きの目が猫の顔を捉える。

猫は勇太が目覚めると分かると、ゆうたのホッペを舐め始めた。

 

「なんで、俺の部屋に猫が…」

「あ、起きたか」

「ッ!?小鳥遊さん!?」

 

勇太が飛び起きると、ベットの端の方に立花が座っていた。

立花は読んでいた雑誌を勇太の方に放り投げる。

 

「勇太に頼みがあって来た」

「頼みって一体?」

「こいつを預かって欲しい」

 

立花は猫を指差した。

勇太は猫をじっと見る。

猫は無邪気に毛づくろいを始めていた。

 

「どうして、俺がこの猫を預からなきゃいけないんですか?てか、この猫ってどこの猫です?」

「拾った猫だ。だが、ウチでは十花が猫アレルギーでな…頼む」

「いやですよ。俺の親ならもしかしたら許してくれるかもしれませんが、それでもいきなり拾ってきた猫を飼えだなんて横暴すぎませんか?」

 

勇太は腕を組んで若干の苛立ちを見せる。

立花は少し考えて、自分の首にかかっていたハートのシルバーアクセサリーを外して、勇太の方に見せつける。

 

「では、交換条件だ。私が猫の飼い主を見つけるまでの間、このアクセサリーを貸しておく」

「...それってただのアクセサリーですよね?」

「違う。これを持っていれば勇太が困っているときにきっと役立つ」

「…今、俺は絶賛困っているんですが役立ってなさそうですよ〜」

 

立花は勇太の軽口を無視して、勇太の手を掴みアクセサリーを手に握らせる。

突然の立花からの接触でドギマギする勇太。

 

「最近この辺りに引っ越してきた私だが既に数件厄介事に巻き込まれた。勇太もこの辺に住んでいる以上、今後何かが起きることを予感している」

「何かって…もしかして、この前、小鳥遊さんが怪我をしていたのって関係あるの?」

「…」

 

立花は勇太の指摘に答えずに勇太の部屋の窓を開ける。

 

「勇太…エッチな雑誌の隠し場所はベットの下じゃない方がいいと思う」

「へ?」

 

その瞬間、立花の姿は消えていた。

立花が何を言っていたのか理解が出来なかった勇太であったが、ふと最初に立花が投げてきた雑誌に気がついた。

理解に至った勇太は雑誌を抱きかかえて悶えるようにベットを転がった。

もちろん、いつの間にか猫を押し付けられていたことにはその時には気づかずに。

 

 

勇太が学校に登校すると、やや教室が騒がしかった。

新入生向けの部活動紹介が今日の午後にあって、それに対する話で盛り上がっていたようだ。

席についた勇太に早速、誠が声をかける。

 

「なぁ、今日は部活動紹介あるけど、どの部活に入るか決めてたりするのか?」

「特に俺は決めてないけど。一色はもう決めてるの?」

「あぁ」

 

誠はエアギターのポーズを取ってポーズを決めた。

 

「もちろん、軽音楽部!バンドのできる男だったら直ぐに女子からモテモテになると思ってる!」

「そ、そうなんだ…」

「へぇ、富樫くんってまだ部活決めてたりしないんだ〜」

「え、あ、丹生谷さん」

「おっす。丹生谷さん」

 

勇太と誠の前に森夏が現れる。

森夏は笑顔で一枚の紙を勇太に差し出した。

勇太が中身を確認すると、どうやら部活加入申請の紙だった。

 

「これは?」

「また後で風鈴が来てから話そうと思ってるんだけど、よかったら私達が作る同好会に入らない?」

「え!?」

「な!?丹生谷さん、お、俺も入りたいです!!」

「うーん、さっき一色くんは軽音楽部に入るって言ってたよね?私達の部活って結構あちこち行く予定だから兼部はNG」

「そ、そんな〜」

 

がっくりしている誠を横目に見た勇太は、ふと部活の名前が空欄になっていることに気がつく。

 

「ねぇ、丹生谷さん。一体何の部活?」

「それもまた後で!放課後に旧校舎の前に集合ね!」

「う、うん」

 

森夏の笑顔に見惚れていた勇太に対して、誠は妬みのある視線を向けた。

そして、勇太と森夏の話に聞き耳を立てていた男子達もまた次々と森夏に同好会への参加を申し出てやんわりと断られていった。

 

「富樫〜どうしてお前だけ!!」

「俺が知るか!」

 

 

誠を含めてクラスの男子達と一悶着があった勇太は、放課後になって森夏に指示された旧校舎前にやってくる。

そこには、既に森夏と風鈴がいた。

 

「すみません、巫部さん、丹生谷さん」

「あ、富樫くんだ〜」

「来てくれてありがとう!富樫くん」

「それで、一体何の部活なの?」

「それより先に部室に行こう!」

 

勇太がそう尋ねると風鈴は答えずに旧校舎の部室へ案内する。

旧校舎は古い木造の2階建てであったが作りは頑丈であった。

階段を登ってすぐの部屋を開けると、そこには勇太達の担任の先生の七瀬がいた。

 

「あれ、先生?」

「へぇ、富樫くんだったんだ。巫部さんが部活に誘いたいって言ってた人」

「え、巫部さんが?」

 

勇太は風鈴を見るが微笑を浮かべるだけ。

七瀬はそばにあるパイプ椅子に腰掛けるように勇太達を誘導すると黒板にチョークで文字を書き始めた。

 

「...探求部?」

「えぇ、探求部。ちなみに、富樫くんは何を探求するのか想像ついたりする?」

「いえ、検討もつかないです」

「ねぇ、巫部さん。本当に富樫くんに参加してもらっても大丈夫なの?」

「えぇ、そこは私が保証しますよ。富樫くんって、数年前は智音さんと一緒に活動していたようです。それに、これは私の勘なのですが富樫くんはいつかきっと裏の騒動に巻き込まれる」

 

風鈴の言葉に七瀬は少し考える素振りを見せる。

勇太は今朝の変な夢や立花の話を思い出して、風鈴の言葉に反応した。

 

「俺が裏の騒動に巻き込まれるって、どういうことですか?巫部さん」

「う〜ん。智音の言ってた通り本当に何も覚えてないんですね...」

「ねぇ、風鈴。私も先生と同じように何も知らない富樫くんを巻き込むのはあまり良い気がしないわ。危険よ」

 

森夏の言葉を聞いて風鈴は椅子から立ち上がって、勇太の目の前まで歩く。

手に一枚の御札を取り出して。

 

「…それじゃ、富樫くんが普通じゃないところを見ようか!」

「ちょっーーー」

 

風鈴は慌てる勇太の額に御札を貼り付けた。

その時だ。

勇太から黒いオーラが漏れ出して、御札はすぐに黒く変色していく。

その状況を見た七瀬と森夏は驚いて見開いた。

勇太本人にとっては何が起こっているのか分からない。

そうして、御札が完全に黒く染まって消えていくと、勇太から漏れ出していた黒いオーラが収まっていく。

 

「へぇ…。先生、気づかなかった」

「すごく禍々しい力...」

「二人とも分かった?これが富樫くんだよ!」

 

理解が出来ない勇太は御札があった自分の額に手を触れる。

しかし、そこにはもう何もない。

七瀬は気持ちを切り替えて、探求部の左に文字を追記し始める。

そこには超常現象と書かれていた。

 

「では、富樫くん。超常現象探求部にようこそ!」

「超常...現象?」

 

その日、勇太は非日常の世界に足を踏み入れた。

 

 

 



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第九話

ホラゲ実況にインスパイアされた


「...入部したのは間違いだったなー」

 

そうボヤキながら勇太は倉庫に積んである荷物を外に運んでいた。

超常現象探求部に入部した勇太に待ち構えていたのは雑用の仕事だった。

活動内容は主に七瀬から依頼された場所に行って、超常現象を確認して解決すること。

今回で2回目の実地活動だが、未だに超常現象というものに遭遇していない勇太である。

 

「最初の依頼の物音原因はネズミだったし、今回の依頼の倉庫での物音もネズミとかじゃないだろうか…って痛!?」

「何サボってるのよ」

 

勇太が振り向くと、そこにはメモ帳で勇太の頭を叩いた森夏が不満そうな顔で立っている。

 

「…丹生谷。手が空いてるなら荷物運ぶの手伝ってよ」

「私は何が出てきても良いように警戒していないといけないの。だから、手を塞ぐようなことは出来ないわ」

「…はぁ〜」

 

森夏に対する勇太のイメージは前回の活動で完全に崩れさった。

可愛くて優しい優等生だと思ったら、現実は猫かぶりで人使いの粗い自己中心的な性格であったのだ。

勇太は心の中で泣きながら、色々な機材の入った重い箱を持ち上げる。

しかし、想定以上に箱が重かったのか足元をふらつかせた。

 

「大丈夫?」

「あぁ、これくらいなら何とか…ッ!?」

「ちょっ!?」

 

箱の重さに耐えきれずに、勇太の手から滑り落ちて辺りに箱の中身をぶち撒けた。

 

「はぁ〜何やってるのよ…」

「ご、ごめん」

 

勇太はがっくりしながら、床に散らばった物を箱に詰め直していく。

森夏もまた、ため息をついて勇太と片付けの手伝いをする。

勇太達は倉庫の物音の原因は分からず、超常現象のようなものも発見できなかった。

そして夕方になり、勇太と森夏は依頼主に異常なしを伝えてから帰る。

 

「超常現象なんて本当にあるのかな…」

 

勇太は依頼主から手渡しでもらったペットボトルのお茶を飲みながら森夏に尋ねる。

 

「あるわ」

「そういえば、今日は巫部さんは来なかったね」

「えぇ、さっきLINEで知ったんだけど別件で先生から依頼されたみたいよ」

「...丹生谷は巫部さんと今回みたいな活動を中学の時からやってたの?」

「やってたわ。風鈴と私、そして智音の三人でね」

「そうなんだ...」

 

そこから、勇太と森夏の間に会話はなかった。

 

 

次に日、学校に来た勇太は風鈴が欠席していることが気になっていた。

 

「今日巫部さん休みなんだ...」

「おい、富樫〜。昨日、丹生谷さんと一緒に歩いてたって本当か!?」

「うん?あぁ、部活の活動だよ」

 

突然、誠から声をかけられて問い詰められる。

 

「いいよなぁ〜、俺も同じ部活に入りたいな〜」

「でも…入ったのは間違いだったと今は思ってるよ」

「何!?お前、丹生谷さんと巫部さんの三人の部活ってだけで羨ましいだろ!!」

「まぁ、機会があったら今度一色が参加できるか聞いてみるよ」

「本当か!?サンキュー、頼んだぜ!!」

 

ーー参加してもどうせ荷物運びだけどなーー

 

勇太の心の中のつぶやきを知らずに、誠は気分がよくなりギターを引くフリをする。

それから、誠と適当に会話をしていると構内放送で七瀬に勇太は呼び出された。

 

「何やからしたんだ?」

「特に覚えはないけど...とりあえず、行ってみるよ」

「おう、頑張れよ」

 

誠から軽いエールをもらいながら勇太は部室に向かう。

そこで勇太を待っていたのは、険しい顔をした七瀬と森夏だった。

勇太は疑問に思いながらも呼び出した理由を聞いた。

そして、七瀬が重い口を開いた。

 

「昨日、巫部さんに別件で依頼をしたのを覚えてる?」

「確かそうでしたよね」

「...昨日から巫部さんと連絡が取れなくなったの。お家にも戻っていないみたいで…」

「え!?でも、今朝は家庭の事情で休みって言ってませんでしたか?」

「行方不明になったなんて言ったらクラスのみんなは混乱するわ」

「俺たちを呼んだ理由ってまさか…」

 

七瀬が答える前に森夏が割り込む。

森夏は決意した顔で七瀬に言った。

 

「私が風鈴を見つける。それでいいでしょ、先生」

「でも丹生谷さんだけでは心配よ」

「富樫くんがいても戦力にならないわ」

 

森夏の言葉に眉をひそめる七瀬だった。

勇太は森夏の言葉に反論する。

 

「...俺が行って何が変わるか分かりませんが、行方不明ということは人手が必要ですよね?」

「ちょっと富樫くん?風鈴が行方不明になるような事件なら戦えない富樫くんには危険すぎるわ」

「それでも、同じ部員のクラスメイトが行方不明になってるなら探すのを手伝うくらいやります!」

「…もう、勝手にすれば!」

「それじゃあ、私が知っている範囲で二人に話すわ」

 

そして、学校の昼休みになったところで風鈴が消えた場所に勇太と森夏は向かった。

 

 

勇太と森夏が着いたのは外見から察するにしばらく放棄されていたであろう、古びた木造二階建ての建物だった。

建物のそばには既に数人の大人がいて、やってきた勇太達に気づいて警告をするが森夏が自分の身分を明かすと大人達は納得したように状況を詳しく説明した。

そもそも依頼の内容は、建物の中に明かりが付いていると連絡を受けたが、いくら探しても見つからないので調査をして欲しいというのもだった。

そして、昨日の午前中くらいから風鈴が建物に入ってそれ以降戻って来なくなったというのだ。

大人達は昨日から建物を外から見守っていて、さらに、風鈴が戻ってこなくなってから数回調査のために建物に入ったが風鈴が見つからなくなったことを話す。

話が聞き終わった森夏は、バッグから一冊のメモ帳を取り出して建物の入り口に近づく。

勇太は、先程の大人から聞いた話で気味に思いながらも森夏の後へ続いた。

そして、入り口に着いた森夏が勇太に言う。

 

「ねぇ、富樫くん...やっぱり、帰りなさい」

「丹生谷...忠告ありがとう。でも、決めたから」

「いい、よく聞いて。これは本当に危険なの。入ったら、直ぐに戦闘になるかもしれない。それでも覚悟がある?」

「…」

 

勇太は何も答えを返さなかった。だが、入り口で振り返りもしなかった。

 

「分かった。それなら、絶対に私から離れないで」

 

森夏と勇太はゆっくりと建物に入っていく。

そして、直ぐに異変に気づく。

 

「ッ!?これは、想像外ね」

「え…どうして?移動した?でも、どうやって…」

「富樫くん、離れないで!」

「わ、分かった」

 

勇太達は建物の入り口に入った瞬間、気づいたらどこかの薄暗い廊下に移動していた。

森夏の警告で突然身に起きた現象による動揺から、気持ちを切り替える勇太。

冷静な森夏は、ポケットからスマホを取り出してライトをつける。

すると直ぐに廊下の前方から何かが走っていくる足音が聞こえた。

 

「何か来てる…」

「え!?ど、どうする?」

「こっちに来て」

 

勇太の手を掴んだ森夏は、そばの木のスライド式のドアを開けて中に入った。

部屋の中を照らすと木のベットがいくつか並んでいるが何かがいる気配はない。

ドアを締めて勇太達は奥の方のベットの下に隠れる。

ベットの下に隠れた直後に勇太達がいる部屋の木のドアがぶち破られた。

声が出そうになった勇太の口を森夏が手で抑える。

ベットの下の二人からは、先の尖った二本の足が見える。

そして、部屋に入ってきた何者かが部屋の外に出て行ったのを確認して勇太は安堵する。

 

「丹生谷。あれは一体!?」

「分からない。でも、見つからないことには越したことは無いわ。早く風鈴を見つけましょう」

「..あぁ」

 

ベットから這い出た勇太達は、ポケットのスマホを取り出して部屋をライトで照らす。

 

「なんで、こんなにベットが多いんだ?」

「…分からない。けど、もしかしたら昔の病院なのかもしれない。そこの棚の上に錆びたガラスの注射器があるでしょ?」

 

棚の上にある金属部分が錆びている空のガラスの注射器を発見しながら、棚をいくつか調べるとバンテージやゴムチューブなどが見つかった。

この部屋にある窓からは暗黒で何も見えなかった。

 

「気味が悪い...」

「えぇ、本当にそう。早く出たいわ」

 

その時、勇太は気づいた。

ぶち破られた木のドアの隙間から、全身に何か尖ったようなものが刺さっている化け物がこちらを見ているのを。

 

 

 

 



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