Fate/GTS~ぐだぐだ・たまに・シリアス~ (カガヤ)
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第1話「何事も説明が一番大事」

始まりました新規小説!
悪ノリしまくりでがんばります(笑)


ある日、目が覚めるとそこはどこかの洞窟らしき空間の中だった。

そこはドーム状の広い空間で、その真ん中に俺はいて、いくつもの通路が見える。

陽は差してきていないけど洞窟全体が青白い光を放っていて、洞窟の中とは思えない程明るい。

 

「ここは一体どこだ? 俺はなんでここにいるんだ?」

 

昨日の事を思い出す。

確か、ノートパソコンでもうすぐ始まるFGOの情報を見つつ、タブレットを買おうかと悩んでいた。

で、急に眠気がきてそのまま意識が飛んで……

 

「ひょっとして俺死んだ? なんだ、俺死んだのかー」

 

やけにあっさりと納得できてしまった。

ちょっとは悲壮感とかそういうのあると思ったのだけど、思ったよりすんなり受け入れる事が出来てビックリだ。

 

「で、死んだのはいいんだけど、ここは一体どこだろ?」

 

改めて周りを見渡すと、アレ? 顔を動かそうとしたけど、うまくいかないぞ?

というか、身体の感覚おかしいぞ? 何このフワフワ浮いた感覚。

手足を動かそうとしても、手足の感覚がない。

洞窟の壁にガラスのようにキラキラ反射してる場所があった。

これで今の自分の姿確認確認……

 

「……ってなんだこりゃー!?」

 

手足、どころか身体全体がなくなっていた。

ガラスのような壁に写し出されていたのは、青白くユラユラうごめく炎のような塊、俗に言う人魂だった。

 

「まぁ、死んだのだからこうなるか。たまに見かけるし」

 

病院で沢山幽霊を見てきたので、今更人魂ごときじゃ驚きはしない。

けど、まさか自分が人魂になるとは思わなかった。

肉体がないのは不便だけど、不思議と不快感はない。

 

「で、俺これからどうなるんだろ? てかどうすればいいんだろ?」

 

三途の川を探せばいいのかな? 小町ちゃんがいてくれたらいいなー。で、映姫ちゃんに裁かれたいなー。

なーんて現実逃避しても仕方ない。

 

「……ここがあの世なら、どこかにいるのかな。俺の家族」

 

まぁ、いたとしても、俺と同じ人魂の姿じゃわからんかー

 

「というか、生前の姿してても、俺覚えてないやーアハハハハ………はぁ」

 

俺が幼い頃に、父さんと母さんは死んでいる。

頼れる親戚もなしで、俺に残ったのは膨大な遺産だけ。

その遺産も幼い頃から入退院を繰り返してきた、俺の治療費や入院費に大半は消えていっている。

他には、PCゲームを買ったりして遊ぶくらいしか娯楽はない。

考えないようにしてきたけど、俺の人生って……

 

「いや、もう死んだんだからそこは考えても仕方ない。人生前向きに行こう!」

 

――どんな苦行も笑って乗り越えれたら人生勝ち組だよ。

 

そう教えてくれた看護師さんがいたっけ。

 

「で、マジで俺これからどうすればいいんだ? とりあえず、動くか」

 

足がないので動きようがないと思ったけど、行きたい方向を浮かべたら自然に動き始めた。

最初は動きがぎこちなかったけど、すぐに慣れた。

今では洞窟の中をトンデモナイ速さで飛び回れるようになった。

 

「ィィ~~いやっほぅ~! たーのしー!」

 

洞窟内は迷路のように入り組んでいるけど、かえってそれが面白い。

時速何キロで飛んでいるかは分からないけど、壁や天井にぶつからないようにコントロールしながら飛ぶのは爽快だ。

これで肉体があったら顔に風が当たって気持ちいいのだろうけど、それでも自由に動けるのは最高だ。

 

「体が軽い…こんな幸せな気持ちで飛ぶなんて初めて(そりゃそうだ)…もう何も怖く 「やっと見つけたのだわ!」……え“っ?」

 

気持ちよく飛んでいたら、曲がり角から金髪の女の子が現れた。

慌てて止まろうとしたが、止まり方が分からない。

なので、そのまま……

 

――ドゴッ!

 

「「ウゲッ!?」」

 

俺は女の子の頭に大激突してしまった。

死んで肉体がないからなのか痛みはないが、とっさに女の子と同じうめき声が出た。

 

「いっ、たたたっ……一体、何なの。って、あなた! 大丈夫!?」

 

女の子は頭を抱えてうずくまっていたが、すぐに立ち上がり俺の心配をしてきた。

自分よりぶつかってきた相手を心配するなんて、やさしい子だ。

うーん、でもこの金髪美少女の姿も声も誰かに似てるような?

 

「魂は、傷ついていないわね。というか、あなたの魂すごく透き通っていて力強いわね。神代の人間でもなかなかいないわ。っと、そんな事はどうでもいいの。とにかくあなたはもうこれ以上傷つく必要はないのに。本当にごめんなさい」

 

女の子はまるで子供をあやすかのように、人魂の俺を優しく抱きしめて撫でてくれた。

この暖かさは、どこか懐かしさを感じる。

何というか安心して身を委ねられる。

あぁ、これが魂の浄化、成仏するって事なのか……

 

「さてと、色々と説明する事はあるのだけれど、あなたに関しては私の管轄じゃな……ってちょっと、何昇天しかかってるの!? ここ冥界なのにどこに行こうとしてるの!?」

「???」

 

彼女の言ってる意味が分からない。この人は何者?

 

「あぁっと、ごめんなさい! 自己紹介が先だったわね。私は、冥界の女主人、エレシュキガル。ここは冥界の奥地で、あなたは死後ここに迷い込んでしまったの」

 

冥界? 天国でも地獄でもなくて? 冥闘士でもいるのかな?

 

「ホントはもう少し説明してあげたいのだけれど。本来あなたはここに来るべき魂じゃありません。こんなの私も初めてだけど……まぁいいわ。今からあなたを本来行くべきはずだった場所へ送ります。後の事はそこにいる神様に聞いて」

 

えっ? 今何と? 神様ですと!?

というかもうお別れ? 早くない?

あ、今気づいたけど、エレシュキガルって遠坂凛に似てる!

髪が金髪だけど、声と姿が同じだ!

あぁ、もっと沢山会話したいよー!

 

「それじゃあ、さようなら。あなたの来世に祝福を、その終焉に安らぎを」

「ちょっと、待っ……」

 

待って、というより早く俺は光に包まれて、再度意識を失った。

 

 

 

「おきなさい」

 

ん? 声が、聞こえる?

 

「おきなさいおきなさいおきなさいおきなさいおきなさい 「って怖いわぁ! 何回繰り返してるんだよ!」 うひゃぁ~! ホントに起きたぁ!」

 

飛び起きてみるとそこはさっきまでいた洞窟ではなく、どこかの道場みたいな場所にいた。

で、さっきからうるさかった声の主は、剣道着姿の女性。

さっきのエレシュキガルと同じく、この女性にも見覚えがある。

というか、今度ははっきりとわかりやすい。

 

「藤村、大河?」

「タイガーって呼ぶなー! は、今回置いといて。よくぞ来た若人よ。ここは不幸な人生のまま死んじゃったあなたを転生させてベリーイージーな人生をまっとうしてもらう夢の救済コーナー、タイガー道場(仮)でぇーっす!」

 

さて、ツッコミ所が沢山ありすぎるのだが、どこからつっこもうか?

と、思ったら大河っぽい人はいきなり土下座をかましてきた

それはもう流れるような綺麗な土下座だった。

 

「その前に、すみませんでしたぁ! ホントはすんなりとここへ連れてくる予定だったのだけど、ついうっかり段取りすっとばしてあっちの世界の冥界に行かせちゃった、テヘッ☆」

 

藤村大河のテヘッはちょっとかわいかった。

 

「えっと、つまり、さっきまでいたのは本当の冥界だけど、本来俺は行くべきところじゃなかったって事?」

 

いまだに事態がまったくつかめていないが、なんとなくわかってきた。

何にせよ。俺は死んだのは確定みたいだ。

 

「おかげであの子との縁が予定より早く付いちゃったし。でも、転生したらリセットされるのか。そこもどうにかしようか……」

 

何かブツブツ呟いてるけど、何の事か分からない。

てか分からない事だらけで頭がパンクしそう。

 

「とにかく! 一度しか言わないからちゃんと覚えておくように。バックログで読み直しなんて出来ないわよ! あ、私の事はタイガー神って呼んでね♪」

「はぁ……」

 

そう言って大河、っぽいタイガー神は説明してくれた。

まず、タイガー神は文字通り神様で、それも様々な世界に干渉できるほどの最上位な神様だった。

なんで藤村大河の姿をしているかと言うと、タイガー神は見た目は自由に変えられるので、俺の深層心理から親しみやすいキャラを選んで、藤村大河の姿とタイガー道場を作り出したのだそうだ。

で、俺がここに来た理由は、幼くして家族を亡くし18年間をほぼ病院で過ごしながらも、明るく前向きに生きる俺の魂の強さを気に入って、特別に転生をさせてあげようという事らしい。

 

「はぁ、それはまたどうも……」

「むむっ、その気のない返事。さては信じていないわね!?」

「いえ、いきなりそういう事言われても色々実感が湧かなくて。で、転生ってどこへですか?」

「それはもう決まっているわ。君が行くのはFateの世界! と言っても、君が知るFateの世界とはちょーっと違うけどね」

「Fate!?」

 

Fateの世界へ行けると聞き、俺はすごく胸が昂った。

まぁ、今の俺は人魂だから胸ないけど。

過去の英雄たちが英霊となって召喚されて戦う魔術師の世界。

そこには色々な魔術があって、無限の可能性に満ちた世界!

でも、待てよ。運動神経どころか満足に運動した事ないヒョロガリな俺がFateの世界に行っても1日も持たない自信がある。

 

「そこはだいじょーぶ! 君の場合、生前が不幸の連続だったし、亡くなったのも早いし、魂も純粋で綺麗だし、特典は盛沢山用意しました!」

「ん~それって要はチート?」

 

実際に使った事ないからどういうものか分からないけど、チートにいいイメージはないな。

 

「チートと言えばチートだけど。あの世界、チートすぎるって事はないくらいシビアだからそこは気にしないでいいわよ」

 

おい、そんな危ない世界に転生させようってかい。

Fateなんて選択肢1つで即死するような危ない世界だけどさ。

 

「特典1つ目。転生先での君の身体能力は高くしてあるから、基本的に鍛えれば鍛えただけ強くなるわよ。死にたくなかったらどんどん身体鍛えてサーヴァントを撲殺できるくらいにはなってねー」

「ちょっ、さらりととんでもない事言ってくれますね!?」

 

サーヴァントって生身の人間じゃ絶対勝てないでしょ。

あの破壊の魔法使いミスブルーだってメディアには全く及ばないって言うし。

あ、キャスター強化された葛木先生はセイバーを倒したし、士郎もヘラクレスやエミヤやギルに勝ったけどアレは別物。

 

「もちろん、身体能力だけじゃ即タイガー道場行き! というわけで、2つ目! 君にはFateとはまた別世界の魔法の力を授けましょう! 具体的にはドラゴンクエスト6。君、好きでしょ?」

「そりゃ、FFよりドラクエ派で、DSで4、5、6はやりまくったけど」

 

基本的に検査以外はヒマだったからな。

ちなみに好きな順は546だったりする。

ロトシリーズもやったけど、7以降はやったことはない。

 

「でもー4や5だと魔法も技も全然少ないので、6って事にしました!」

「………」

「さっきから何を微妙な顔してるのかなー? うれしくないのかな? かな?」

 

おい、その声でそのセリフを言うな。お前は34だろ。

 

「話にまったくついていけないだけッス」

「あーまーそりゃそうだよねーいきなりこんな事言われてもうまく呑み込めないよねー。まー詳しい事は転生先で自然に分かるようになってるから安心して、チュートリアルは飛ばすの厳禁!」

 

チュートリアルって、ゲームじゃないんだから、いやゲームの世界に行くから合ってるのか。

 

「まー他にも色々チート特典つけたけど、どれもこれもうまく使えるかは君次第! 慢心して調子に乗ってるとすぐに人理焼却や漂白一直線だよ! あ、漂白はないない。ソロモンのペットならともかく、この世界じゃあんな余所者なんかに好きに弄らせてたまるかっての。多次元世界の神様なめるなー!」

 

チートだからって調子に乗ってるとすぐに死ぬくらい厳しい世界だってのは分かる。

だって、Fate世界で一般人のまま終われるとは思ってないし。

どうせなら魔術師の家系がいいな……一般常識がある家系、あるのかな?

あれ? 今何か気になる単語いくつか言わなかった?

 

「気を付けるよ、忠告ありがとう。ところで、人理焼却や白紙化って何?」

「おーっとここから先は君自身の目で確かめてくれたまえ! そろそろ新しい人生が君を待っている!」

 

タイガー神が手をかざすと、天井から光が差し込み、俺の身体は吸い込まれていった。

 

「それじゃ。色々大変だろうけど、笑顔を忘れず楽しく生きてねー」

「ちょっ、まだ聞きたいことが山ほど……」

 

そこで、俺の意識はまたもや落ちていった。

俺は訳が分からないまま転生させられることになった。

正直、不安しかない。

 

 

「さーって、君がどれだけ面白おかしく世界を、人理をかき乱してくれるか楽しみだよ。草薙健人君」

 

 

続く

 




この新規小説投稿するのにタグやらで2回エラーになり、その度に戻るボタン押したら全部入力削除されててブチキレかけました・・・


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第2話「第一印象って大事」

お待たせしましたー!
修行編といいつつ、実際は……


俺が元いた世界で死んで、Fateの世界へと無事転生できた。

赤ん坊からやり直しというのは正直、きつかった。

ちゃんと生前と同じく18歳としての意識も記憶も人格も残っているのに、身体だけが赤ん坊なせいでロクに身動きできず言葉もうまく話せない。

ほぼ1日中ベッドで生活し、何をするにしても親の手を借りている。

まぁ、それだけなら生前何度も味わっていた事だからいい。

それに、辛い事以上に楽しい事も多かった。

転生先ではちゃんと両親がいて、兄も姉も祖父母も他にも叔父や叔母、沢山の家族がいた。

みんな優しくて過保護なくらいだった。

生前、幼くして家族を亡くして天涯孤独だった。

それから色々な人に優しくしてもらったけど、みんな赤の他人だ。

俺と同じく入院している子へのお見舞いに来る家族との団欒を見るたびに、家族の優しさって言うものは普段俺が感じるものとはまた別の物だって事を嫌でも味わってきた。

今では毎日のようにたくさんの家族から与えられる。

それが嬉しくて、よく泣いた。

叔父さんからはよく泣く子だと笑われ、母さんからはそれだけ元気な子な証拠よと抱きしめられた。

俺はなるべく嬉しくても哀しくしても泣かないようにした。

代わりに沢山笑うようにした。そうすれば家族もまた喜ぶから。

 

赤ん坊って何歳から立てるようになるのか分からないけど、俺はすぐにでも立って歩けるようになりたかったので何度も試行錯誤した。

けど、うまく立てなかった。

タイガー神は最高の身体能力を与えたはずなのにおかしいなと思ったが、よく思い出せば鍛えれば鍛えるだけ強くなると言っていたので最初からはあまり高くないのだろう。

それからしばらくはほぼ一日中部屋のあちこちへハイハイをして赤ん坊なりに身体を鍛えようとした。

その度に母さん達にベッドに戻されたりしたけど……

その成果が出たようで、生まれてから1年も立たずにやっと立てるようになった。

これも修行の成果だ! って当時は喜んだけど、赤ん坊ってそれくらいで立てるのは普通らしいね。ちょっとショック。

で、それからはやりすぎと思うくらいでないと意味はないと俺は思いつく限りの修行を行った。

と言っても、立てたばかりの赤ん坊に出来る事は限らている。

危なそうなことをすればすぐ母さんやばあちゃんに止められるので、目立たないように室内で腹筋運動とかそういう事から始めた。

が、それも全然出来ず、傍から見たらただ赤ちゃんが手足バタバタさせてるだけにしか見えなかった……

 

そして、5歳になろうかという時。俺はようやく転生先の家族の裏の顔を、そのチートっぷりを知ることになった。

忘れかけていたけど、ここはFateの世界。転生先は魔術師の家系だ。

その中でも、俺が生まれてた草薙家と言うのは、名門中の名門でしかもとんでもない家系だった。

まず家族構成から、草薙家現当主である父・天藍(てんらん)、母・ラス、次期当主となるのが決まっている10歳年上の兄・昂祁(こうき)、5歳年上の姉・麗衣(れい)、先代当主の祖父・皇伽(おうか)、祖母・キトラの以上が、一緒に住んでいる家族。

草薙家は、魔術協会の一角である時計塔に古くから在籍する名門であり、重鎮。

更に魔術世界だけではなく表の世界にも顔が聞き、政界や経済界へも進出している人もいるのだそうだ。

なのに、じいちゃんに草薙家の事を聞かされるまで全く実感が湧かなかったのは、あまりにも家が一般家庭的すぎたせいだ。

住んでいる家は、イギリスの小さな町の郊外に建てられていて広いけどテレビで見るようなイギリスっぽい豪邸ではなく、日本にありそうな普通の造りをしている。と言うか、衛宮士郎が住む武家屋敷っぽい

周りも日本風な家が多く、イギリスと言うか外国らしさはあまりない。

メイドはいるけど、草薙家の血筋の人だからただの親戚にしか思わない。

父さん達の身なりも、貴族服ではなく普通の一般人のようなカジュアルな服装。

勿論、パーティーや政界要人などに会いに行く時は正装していたけどね。

そんな俺でも、草薙家がチートだと分かる事を聞いた。

それは、草薙家の祖先が「」へと到達した事があると言うのだ。

 

「」 つまり根源への到達は全魔術師にとっての悲願であり、先祖がそれを成し遂げた草薙家は尊敬と畏怖の対象なのだそうだ。

なぜこんな事を5歳で知れたのかと言えば、タイガー神からの特典の1つである【ドラクエ呪文】のせいだ。

5歳の誕生日パーティの日、母さんが誕生日ケーキに火を点けようとした時、なんとなくメラで出来たら一瞬なのになーと思い。

 

「……メラ」

 

と呟いたら、見事に俺の両手から小さな火の球が出てケーキのロウソクに火が付いた。

ついでに、剋斗叔(こくと)父さんの頭に火が点いてしまったが、周りはそれどころではなかった。、

 

「健人、今の魔術はなんだ?」

 

あんなに驚き、真剣なまなざしをする父さんは初めて見た。

自分でも出来ると思わなかったが、言われてみれば魔術世界の仕組みとか歴史は教わり始めたけど、肝心の魔術については魔法との違い程度にしか教わっていなかったなーそりゃいきなり魔術使ったら驚くよねー。

で、俺はなんとなく頭に浮かんだと言ったら、強く抱きしめられた。

 

「お前もついにか! 俺は嬉しいぞ!」

 

周りを見れば、みんな歓喜の声を上げていた。

普通そこは驚くのではないかな?

てか、剋斗おじさんの頭がいまだに燃えてる事に誰か気付いて消火しようよと思った。

それから、誕生日パーティーがみんながハイテンションのまま終わって、親戚のお姉さん達に色々身体をしらべられて、俺は父さんやおじいちゃんから草薙家の秘密について聞かされた。

 

「実はな、健人。草薙家に生まれる者には独特の特異能力を持つ者が多いのだ」

 

父さん曰く、草薙家は先祖が根源にたどり着いた影響か、それまでの魔術とは全く違う魔術基盤、もしくは人並外れた才能を持って生まれる者が多いらしい。

じいちゃんの場合、1度見た魔術ならばどんな魔術でも解析してしまう能力の持ち主で、魔術殺しと呼ばれて引退した今でも他の魔術師に恐れられている。

他にも魔術の才能がない草薙家の者でも、特異能力を持って生まれる人がいる。

例えば剋斗おじさんは魔術の事は知っていても、才能がないので表の世界で薬剤師として生きている。

剋斗おじさんは薬草にとても詳しく、どんな薬草もすぐに効力を解析し、他の薬草や鉱物、人工的な薬物を加える事でどんな効力を生み出すのかもすぐに割り出す事が出来るそうだ。

だから俺がメラで燃やしてしまった髪も育毛剤を作って元に戻ったそうだ。

色々なところに需要がありそうな能力だ。

 

「お前がさっき見せたメラという呪文だが、儂にもうまく解析できんかった。火の球を生み出す効果は分かっていても、お前の魔術回路からどうやって生み出しているのか過程がわからんのじゃよ」

 

おじいちゃんでも解析できないってなんかすごく大袈裟になってきた気がする。

 

「さらに言うとだな。お前には魔術回路がないと思っていたのだ」

 

魔術回路は、あるかないかによって魔術師になれるかなれないか決まる。母さんや剋斗おじさんはもっていない。

これは例外はあれど、生まれてから出来たり増えるものでもない。

だから生まれてから魔術回路がない俺は魔術師としては才能がなく、だから必要最低限の事しか教えていなかったという。

 

「しかし、それは誤りだった。改めてお前の身体を丹念に調べたところ、魔術回路はないが魔力は持っている事が分かったのだ。今はまだ微量だが、潜在的には計り知れないほどのな」

 

なんか色々難しい単語も他に言われたけど、要するに俺には魔力回路がないのに魔力がある。

しかも、その魔力は通常の魔術師の魔力とは異なっていて、草薙家でも例をみない珍しさという事だ。

うーん、これはドラクエ呪文を使うのに必要な魔力は、ドラクエ世界での魔力と同じ性質じゃなきゃダメだから俺の身体がドラクエ世界よりになってる、って事かな?

しかも、潜在的って事はレベルがあがればMPもあがる的な奴か。

 

「健人よ、明日からは魔術訓練を始めるぞ。本来ならば武術訓練だけをさせる予定だったのだがな」

「はいっ!」

 

草薙家は魔術師の家系には珍しく皆が魔術だけに頼らず格闘と武器を使う武闘派が多い。

父さんは剣と弓、おじいちゃんは槍と投擲物、姉さんはナイフと鞭や縄と言った具合にそれぞれ得意な武器がある。

兄さんは例外的で、剣でも槍でもなんでも武器として使い、その技術は歴代草薙家でもトップクラスと言われている。

現に今も15の若さで執行部の助っ人として死徒狩りや外道魔術師狩りに行っている。

俺もそのうち駆り出されるんだろうなぁ。

そんなこんなで翌日から武術の訓練を受け始めた。

と言っても、最初から武器持たされて実戦形式、だなんてことはせず体力作りから始まった。

腕立て伏せやランニングなどを、重りをつけながら行った。

ちょっと地味だけど、漫画っぽくて楽しかった。

それと一応、魔術講義も受けたのだけど、こっちはさーっぱりだった。

座学よりも身体動かしてる方が気持ちいい。

ま、知識だけは増えたからいいけど。

 

月日は流れ、7歳になり武器を使った訓練が始まった。

剣に槍、弓にナイフに双剣、色々武器の使い方を一通り教わったけど、気に入ったのが剣だった。

両刃よりも日本刀のような片刃のような剣が使ってみて、一番手に馴染んだ。

飛天御剣流とかできればいいなーとちょっと真似してみたのは内緒だ。

 

で、ある日ふと思ったのだけど、俺……友達いねぇ。

草薙家の血筋は他の魔術師から狙われやすいから、幼少期は外を出歩く時は常に誰かがそばに付いてる。

旅行や買い物に出かける時も家族以外と出る時は付き人さんがいた。

更に俺は学校へは通っていない。

勉強は家庭教師がいて、一般常識や数学やら世界史からテーブルマナーに至るまで学校で習う事は全て教わった。

ちなみに、その家庭教師も付き人も草薙家に連なる血筋の人だ。

学校に行ってないし、外も自由に出歩けないので、当然友達も出来るはずもない。

その分家族はみんな厳しくも優しかったし、親戚のお姉ちゃんやお兄ちゃんはよく遊んでくれたから寂しくはなかった。

本音を言えば、学校に通って友達を作って外で遊んだりしてみたかった。

でも、そんな自分の状況を俺は自然と受け入れていた。

多分、それが魔術師の家系に生まれたって事で、魔術師の世界に染まって行ったって事なんだろう。

 

そんな毎日が劇的に変わったのが、10歳の誕生日だった。

いつものように親戚が集まって、いつものようにパーティーという名の宴会が始まってどんちゃん騒ぎ。

こういう所もここがイギリス郊外で、うちが由緒正しい貴族だって実感が湧かない理由の1つなんだよな。

そして、そんな宴会もいい感じになってきた頃、うちに珍しく客が2人もやってきた。

1人は、ちょっと珍しい白と銀色の中間くらいの髪色をした父さんと同い年くらいの男性。

もう1人は、俺と同い年くらいの髪が長い女の子。

女の子は、緊張しているようで男性の服の裾を強く握りしめて、難しい顔をしている。

 

「やぁ、久しぶりだね天覧。今日は君の息子の誕生日パーティにご招待ありがとう」

「なあにお前がここへ来れる口実をわざわざ作ってやっただけだ。まぁ、今日は楽しんでいけマリスビリー」

「そうさせてもらうよ。おっと、君が健人君だね。初めまして、私はマリスビリー・アニムスフィア。そして、この子は私の娘、オルガマリー・アニムスフィア。よろしくね」

 

人当たりのよさそうな笑みを浮かべてマリスビリーは俺の頭を撫でた。

親戚以外の人に撫でられるのは始めてだったから少し嬉しかった。

 

「ほら、オルガマリー。君も挨拶しなさい」

「は、はじめ、まして。オルガマリー、です」

 

ガチガチになり、顔を赤くしながらもなんとか挨拶をしたオル、オルデカを少し可愛いと思った俺はロリコンではないと思う。

だって今の俺10歳だし、この子と同い年だし!

 

「ところで宴会好きは相変わらずだね天覧。外までお酒の匂いがしたよ」

「むっ、それはいかんな。健人、この子と庭にでも行って遊んできなさい」

「はーい、行こう!」

「オルガマリー、くれぐれも物を壊さないようにね」

「はい、お父様! って、私そんな事しません!」

 

正直、酒臭いこの空間から早く抜け出したかったんだよな。

でも、一応主役の俺が抜け出すわけにもいかないから何か理由を探していた所だ。

この子がずっと難しい顔してたの、緊張してただけじゃなくて酒の匂いが嫌だったんじゃないかな。

だってなんかほっとしてるし。

と言うか、何か不穏な事さらりと言ってなかったこの人?

 

こうして俺とオルデカは外へと出た。

うちの庭は広く日本庭園になっていて、池やちょっとした迷路もあり遊び場としては最適だ。

とは言え、俺は一体オルデカと何して遊べばいいんだろう……

生前も転生してからも、同い年の子と外で遊ぶって事したことないから分からない。

兄さんや姉さんとやっているような事でもいいのかな。

こういう時は相手に聞いてみよう。

 

「ねぇ、オルデカ。何がしたい?」

「ふえっ!? そ、そうね……って、今私の事なんて言ったのかしら?」

「えっ? オルデカだよ?」

 

まさかこの幼さで自分の名前が分からないって、不憫だな。

 

「ちっがーう! 誰がオルデカよ! 私の名前は、オルガマリー・アニムスフィア! ほら、言ってみなさい」

 

あ、名前違ったのね。

どうりでなんで海パンとマスク被った変態な勇者の父親と同じ名前なのか不思議だったんだよな。

 

「パイプオルガン・アンパンマン、なんか言いづらい名前だな」

 

アンパンマンってこっちの世界でもやってるんだよな。

 

「なによそれ、全然違うじゃない! オ・ル・ガ・マ・リー・ア・ニ・ム・ス・フィ・ア!」

「ブ・チ・コ・ロ・シ・か・く・て・い・ね」

「……お望みならばそうしてあげましょうか?」

「今のは流石にわざとです、ゴメンナサイ」

 

目からハイライトが消えてこわいです。

 

「おるがまりーあにむすふぃあ、ちょっと言いにくいかも」

 

特にアニムスフィア。

 

「うっ、し、仕方ないわね。特別に、あなたは特別に、お父様の親友の息子だからと・く・べ・つ・に! す、好きに読んでいいわよ」

 

大事な事なので3度言いましたー。

それはともかく、好きに呼んでいいって言われた。

これは、あだ名を付けろって事かな。

あだ名かぁ、なんか友達っぽくてイイネ!

 

「うーん、えっと……なんて呼ぼうかな」

「………ジィー」

 

なんかものすごく期待されてるようなんですけど。

これは、短くて分かりやすいあだ名を付けなきゃ……プレッシャーががが。

オルガマリーから付けるなら、オルガ?

 

――キボウノハナー

 

ん? なんか今頭に変な言葉浮かんだぞ?

とにかくこれはダメだな、何となくだけど。

じゃ、マリーか。確かに女の子らしいけど、安直すぎる。

なら、他に短くて語呂もいい感じになりそうなのは……あった!

 

「うん、決めた! 今度から君の事、『ガマちゃん』って呼ぶね!」

「あら、短くていい響き、素敵ね♪ って私はカエルかー!!!」

「ブフッーーー!?」

 

その日、俺は初めて友達が出来ました。

そして、初めて、空を飛びました。

 

ガマちゃん、ナイスツッコミ。

 

 

続く

 




いやぁ、こんなに出来上がったのに全部書き直したの初めての経験でした……
なんとか自分で読んでて違和感がない風になりました。
まぁ、それでも自分で読んでってレベルですけど……
草薙家、色々とチートです。健人本人よりもチートです。
あまり本編には登場しない予定ですが、影響力はすさまじいです。

魔術協会や魔術関連もろもろに間違いあっても暖かい目で見てください(トオイメ

あと、今回の話で、オルガマリーの立ち位置が確定しました(笑)


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第3話「飛んで異世界、またか!」

おまたせしました!
第2部5章、色々と笑って泣けて面白いです!
第2部をするかどうかは未定……たぶんやらない方向でいくかと。


月日は流れ、俺は11歳になった。

オルガマリー、もといガマちゃんは、実は10歳の誕生日に初めて会ってからずっと我が家にいる。

何でも、最初からマリスビリーはガマちゃんを草薙家に預けに来たようだ。

 

『いいかい、オルガマリー。私には大事な使命がある。その使命を果たす為の準備をするためにもしばらく多忙になる。なので君の成長の為にも草薙家に預かってもらうのが一番なんだ』

『分かっています、お父様。私はお父様の邪魔にも足手まといにもなりません。私の事は忘れて使命を全うしてください』

 

とこういう親子の一時の別れの挨拶をして、マリスビリーは去って行った。

何をする気なのか父さん達も教えてくれなかったけど、マリスビリーがこれからやろうとしている事は命がけの事なんだろうとは十分に分かった。

で、そんな父親の役に立とうとガマちゃんは草薙家で毎日魔術の修行を俺と一緒に仲良く行っている。

 

「なぁ、ガマちゃん」

「………」

 

仲良く……

 

「ガマちゃーん?」

「その名前で呼んだら答えないって言ったでしょ」

 

仲良く、一緒に、毎日楽しく過ごしている!

 

「だってオルガマリーって長いんだもん」

「だったらオルガでいいでしょ。レフは私をそう呼ぶわよ?」

「ほかの人と同じ呼び方なんて嫌だ」

「我儘か! はぁ、もう……なんで好きに呼んでって言ったのかしら私のバカバカ!」

 

ガマちゃんってやっぱり見てて楽しい子だよな。

でもガマちゃんって呼んだらダメか。

なら他にどんな呼び方あるかな。

 

「リーちゃん?」

「中華系っぽいから似合わないわよ」

「ルガちゃん!」

「尚更言いにくくない?」

「じゃあ……マリー」

「なんでそんな不満げなのよ」

 

ガマちゃんって言いやすくて可愛いと思うんだけどな。

 

「相変わらず楽しそうね、あなた達は」

「うひゃぁ!?」

 

と、その時突然ガマ、マリーの背後に人影が現れ抱き着いてきた。

 

「姉さん?」「麗衣さん!?」

 

突然現れたのは姉、麗衣だ。

姉さんは、マリーが気に入ったらしくよく玩具にしている。

まだ16なのに大人顔負けの豊満な胸に埋もれてマリーが窒息しそう。

俺もよく抱きしめられて窒息しかけた事あるから、哀しいかな慣れてしまった。

昨日仕事でアフリカに行ったはずだけど、もう帰ってきたのかな?

 

「ぷはっ、れ、麗衣さん。もう仕事終わったんですか? 確かアフリカのテロ組織への密売品にまぎれた魔術礼装の回収、でしたよね?」

 

仕事内容を他人に話していいのかよ。

 

「あ、それならばっちり回収して終わったわよ。ついでにテロ組織も壊滅させてきたし」

「つ、ついでで組織壊滅ですか!?」

 

あれ? 結構大きいテロ組織って聞いていたんだけど?

 

「大丈夫大丈夫。目に付いたアジトを片っ端から潰して、リーダーっぽい男や幹部達を纏めて現地政府に引き渡しただけ。誰も殺してないわよ」

「いや、問題はそこじゃないんですけど……」

 

流石姉さんは、まだ16なのに武術だけじゃなく特異能力である「魅了」や「潜入」を使い、女007とかザ・ボスとか言われてるだけあるな。

 

「それじゃこれから時計塔へ報告と礼装の引き渡し行ってくるから、また後でねー」

 

そう言って姉さんは去って行った。ホント、嵐のような人だ。

 

「つくづく規格外よね、草薙家って」

「我が家族ながら驚くよな」

「あんたも十分規格外よ」

「なんで?」

 

俺まだドラクエ呪文だって満足に使えてないのに。

 

「どこの世界に、魔術も礼装もなしで月1で散歩感覚でアルプスをジョギングする11歳児がいるか!」

「えー、これくらい普通だろ。兄さんだってエベレストによく行くし」

「重しつけてうさぎ跳びで登頂するのを普通って言うな! せめて魔術使いなさい!」

 

そうだったのか。みんな似たような事してるからこの世界では普通だと思ってた。

 

 

そして、それから更に一年が過ぎ、マリスビリーがやってきた。

使命とやらはまだ終わっていないけど、ひと段落は付いたようだ。

マリーも草薙家の滞在が終わり、父親と戻ることになった。

と言っても、互いの家は知っているし会いに行く事も多分出来る。

なのにマリーはとても落ち込んでいて、今にも泣きだしそうだ。

 

「……」

「ほらほら、そんな顔しないで元気でね、マリーちゃん」

 

と言ってマリーの涙をふく姉さんも寂しそうだ。

 

「ほら、健人。あなたも挨拶しなさい」

 

母さんに背中を押される形でマリーの前に出た。

正直、寂しいって言う気持ちはあまりない。

だって、()()()()()わけじゃないから、だから俺は寂しいとは思えない。

 

「泣くなよ、マリー」

「な、泣いてなんかないわよ……あんたは私がいなくなって寂しくないの?」

「ん、別に? だって会おうと思えばルーラで会えるし」

 

最近ルーラを覚えたから移動は楽なんだよな。

 

「気軽に魔術で会おうとするなぁ!」

「あ、そうだった。ルーラは人じゃなく場所へと跳ぶから直接マリーの所へ行けるわけじゃなかった」

「ちがーう! 神秘の秘匿は常識でしょう!」

「大丈夫だって、昼間は使わないから」

 

割と一瞬で行けるけど、空を高速移動して目的地へと跳ぶから目立つんだよなぁ

初めてルーラを使った時は、ちゃんと透明か認識阻害使いなさいって怒られたっけ。

でも、レムオルってドラクエ3だけの呪文だから多分俺覚えれないだろうな。

タイガー神からはドラクエ6って限定されて言われたしな。

 

「そういう問題でもないでしょ! はぁはぁ、全く、なんで最後まであんたにツッコミしなきゃいけないのよ」

「マリーがいるから安心してボケが出来るよ。あ、でもこれからは、誰にボケればツッコミしてくれるんだ?」

「知らないわよ!? そんな事に真剣に悩むなぁ!」

「私はツッコムより突っ込まれる方が好きだしねぇ。兄さんもボケ派だし、マリーちゃんがいないと確かにボケ甲斐がなくなるわね」

「麗衣さんも変な事、ってかさらっと下ネタ言わないでください!」

 

さっきまで泣きそうな顔をしていたが、俺と姉さんへのツッコミで忙しいな。

仕事で南極へ行った兄さんがいないのが残念だ。

 

「驚いたな。オルガマリーをここに預けたのは正解だったようだ」

「そうだろうそうだろう。健人とよく修行をさせたが、お互いにいい刺激になっていたようだぞ。まぁ、草薙家の秘術を学ぶという目的の事は忘れいてたようだけどな」

「気付いていながら娘を預かったのかい。恐ろしい男だよ。いや、君達草薙家は」

「最も、その目的の為にマリーに何か仕込んでいたのならば、私も妻も放ってはおかなかったけどね」

「……肝に銘じておくよ」

 

などと保護者達が不穏な会話をしていたとは知らず、俺達は別れ間際の漫才を続けていた。

 

なお、マリーを草薙家に預けている間、マリスビリーは父さん達がひそかにバックアップしていた事もあり、冬木の聖杯戦争に参加して見事勝利していた事を俺とマリーが知るのはしばらく後の事だった。

 

 

それから更に年月が過ぎ、俺は16歳となった。

数年前、時計塔へは席は置いたが便宜上の事だけであって、行く事は稀でそれもなぜかオルガマリーの用事の付き添いという形でだ。

父さん曰く、護衛の代わりだそうだ。

6年前から始まった武術訓練も順調で、剣と格闘を中心に一流の執行者とも互角以上に渡り合えるほどに強くなった。

たまに兄さんの付き添いで死徒狩りへと行かされる事も多くなった。

だが、反面魔術訓練の方は順調とはいかない。

魔術の知識や歴史は大体覚えたが肝心の魔術の才能が開花しきっていない。

俺の使える魔術はドラクエ呪文が、メラ・バギ・ホイミ・キアリー・ルーラの5種類と一般的で初歩的な魔術だけ。

魔力量だけなら時計塔でもトップクラスなのだが、使える魔術が少ないなら宝の持ち腐れでしかない。

厳しい訓練もいくつもクリアしてきたし、俺を狙ってきた魔術師を何人も倒してきた。

なのに一向に成果が出てこない。

ドラクエ風に言えば、経験値が増えまくってレベルアップしても魔法も技も覚えないという状況だ。

 

『草薙家は特異能力のせいで成長の仕方は人と違う時がある、焦ることはない。まだお前は若い』

 

って父さん達は慰めてくれるけど、鍛えても鍛えても手ごたえがないのはなかなかにキツイ。

死徒とかそこらへんの魔術師相手なら、今使える呪文と剣や格闘で倒していけてるけど、少し強い相手には苦戦する事も多い。

マリーと一緒にいるところを狙われた事もあった。

俺が狙われるならまだいいけど、マリーまで巻き添えになるのはダメだ。

それから更に、がむしゃらに鍛えまくったりしたのだけど、そんな俺を心配して、じいちゃんが異質な力に詳しい旧友に相談して一度見てくれるそうだ。

その旧友と言うのが、じいちゃんとばあちゃんの恋のキューピット役になったのだというけど、父さんや母さんたちはあった事がないそうだ。

 

そして、家にやってきたじいちゃんの旧友と言うのが……

 

「うむ、まだまだ未熟だが内に秘めた力は相当なもののようだな。流石はお主の孫だけはあるな、皇伽」

「そうだろうそうだろう。だが健人だけではないぞ。昂祁や麗衣も草薙の名にふさわしい逸材ばかりだぞ、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ」

 

そう、型月世界の事を知っている人ならだれでも知っている超有名人、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。

現存する魔法使いの一人であり、第二魔法の使い手。また死徒二十七祖第四位でもある。

「魔道元帥ゼルレッチ」「宝石翁」「万華鏡(カレイドスコープ)」「宝石のゼルレッチ」ほか多数の二つ名を持つこのとんでもないじいちゃんがなんでうちのじいちゃんの旧友なのか!

 

「………」

 

すげぇ、いつも冷静沈着で余裕な態度を崩さない父さんが口を大きく開けてしばらく硬直している。

 

「ふむ、お初にお目にかかるぞ、現草薙家当主殿」

「は、はい。私もお目に掛かれて光栄です。魔導元帥殿」

 

流石の父さんも緊張していて声が増えている。こんな父さん初めて見た。

 

「あはははっ、ゼルっちを見て固まるようではお前もまだまだだな、天藍」

「ゼルっち!?」

 

魔法使い相手にそんな呼び方していいんだ……

 

「仕方あるまい。この世界に来たのはお前とキトラの結婚式以来だからな。さて、では早速用を済ませるとしよう」

 

そう言って、ゼルっち、ゼツレッチは俺に目を向けた。

その目を見ていると、心の奥底、魂まで見透かされているような気分になった。

そして、父さんやおじいちゃんに聞こえない程の小声で俺に声をかけてきた。

 

「ほう、ほうほう。これはまた面白い……健人、お前()() ()したか」

「っ!?」

 

これまで誰にもバレた事がないのに速攻で俺が転生者ってバレたー!?

 

「そう警戒する必要はない。皇伽や天藍に話したり時計塔の連中に密告はせんよ」

「……ほっ」

 

転生者ってバレても問題ないような気がするけど、タイガー神の事とか知られない方がいい事があるしな。

 

「しかしそうなると、ここではお主はこれ以上強くはなれないな」

「むっ、どういう事だゼルっち」

 

じいちゃん、ゼルっち呼びはやめてぇ。

 

「健人の力はこの世界のものではない。お前達草薙家の中でも特に異質だ。ゆえにこの世界では、成長が鈍いのだ」

「なんと、それでは健人はこれ以上才を伸ばせないと!?」

 

ドラクエの呪文や技はこの世界じゃ覚えられないって事かな。

まぁ、5種類だけでも使えるのはすごい事なんだろうけど、やっぱりもっと色々覚えたい。

 

「いや、1つ手立てはある。健人の力の根源にある世界へと行き、そこで成長の糧を手に入れればよい。そうすれば健人の力は完全に健人の物になり、子孫へも受け継がせて成長させることもできるだろう」

「ふむ、並行世界ではなく全くの異世界の力だったか。ならば儂でも解析できないのも無理はなかったか。ならばゼルっちよ、1つ頼みがある」

「みなまで言うな。もとよりそのつもりだ。このような珍しい力をここで腐らせるのは惜しい。それに、健人にはこの力がこれから必要になるだろうからな」

 

ゼルレッチって第二魔法の使い手だよな。

あ、なんかいやなぁーな予感してきた。

 

「健人よ。お前はその力の根源である世界へ行き自分の力を学ばなけれならない。行く気はあるか?」

 

つまり、強くなるにはドラクエ世界へ行かなきゃいけないのか。

 

「はい、行ってもっと強くなりたいです!」

「うむ、その意気やよし!」

 

そういうとゼルレッチは懐から光り輝く宝石のような短剣を取り出した。

あれは、もしや宝石剣ゼルレッチ?

って事はまさか!?

 

「では、検討を祈るぞ」

 

次の瞬間、ゼルレッチが取り出した短剣から発せられた眩い光に俺は包まれ、この世界から消えた。

 

 

 

……

………ここは、どこだ?

 

どれくらい気絶していたのか分からないけど、次に目を覚ますとそこは何もない草原だった。

ついさっきまで家にの居間にいたはずなのに、なぜこんなところにいるのだろう。

答えは一つ。俺はゼルレッチによって異世界に飛ばされた。

さらに、予想すると、ここはドラゴンクエストの世界か

 

「そりゃ強くなりたいとは言ったし、行くとも言ったけど、準備もなしにいきなり飛ばさないでよ、ゼルっち」

 

現在、所持金0、礼装も武器も所持品何もなし。

こんな状態で手ごわいモンスターが出てきたら、って早速草むらの陰から数匹のスライムが飛び出してきた。

スライムでちょっと安心。でも数が多い。

 

「面倒だ。バギ!」

 

手から放たれた突風がスライムたちを遠くへと吹き飛ばした。

あれで倒せていればいいけど、スライムだしな。

と、その時草原の向こうの森から誰かが走ってくるのが見えた。

モンスターかと思ったけど、どうやら人の様だ。

1人、いやその少し離れた後ろに2人いるな。

 

「おーい! そこの君―!」

 

先頭を走る逆立った青髪が特徴的な俺と同い年くらいの少年が声を張り上げている。

何をそんなに慌ててるんだろ?

あ、背後から俺に奇襲を仕掛けようとしているモンスターの事を知らせようとしているのかな?

生憎様、この程度の奇襲には

 

「慣れっこなんだよ!」

 

背後に振り向きざまに後ろ回し蹴りを放つ。

 

「ぐぎゃ!」

 

モンスターは手に持ったフォークのような槍で俺を刺そうとしていたが、それより速く俺の回し蹴りが胴体にめり込み、そのまま倒れた。

 

「えっと、これ確か、ベビーゴイルだったかな」

 

生前、もう十何年前の事とはいえ、攻略本は穴が空くほど読んでいたのでまだ忘れてはいない。

 

「おーい、大丈夫……みたいだね」

 

青髪の少年は、倒れているベビーゴイルを見て驚いた表情を浮かべた。

 

「あぁ、ありがとう。コイツの事知らせようとしてくれてたんだろ?」

「そうだけど、いらぬお世話、だったかな」

「そんな事ないよ。ありがとう。俺は、健人だ」

 

ここがドラクエ世界ならフルネームを名乗らなくてもいいだろう。

って、まてよ。目の前にいる青髪の少年、それに向こうからこっちへ走ってくる2人の男女ってもしや……

 

「へへっ、どういたしまして。ボクの名は……「おいこらポッツ! 何1人で先走ってるんだよ!」……あ」

「全く、真昼間から流れ星が見えるなんて走り出したから何事かと思ったぜ」

「行くなら3人一緒じゃないと危ないじゃない」

「ごめん、ハッサン、ミレーヌさん」

 

ポッツ、ハッサン、ミレーヌ、やっぱり!

この3人ドラクエ6の主人公達だ!

って事はここはドラゴンクエスト6の世界!?

 

 

続く

 




さて、FGO世界に来たと思ったらドラクエ世界に飛んでしまった件。
一応このドラクエ世界は少年ガンガンで連載していた幻の大地と思ってもらえれば……

ちなみにバギはダイの大冒険みたく突風を起こすか、ロトの紋章みたく風の刃を飛ばすかは調整可能という設定です。


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第4話「シャバの空気はうまいぜぇ~あ、これ香水か」

おまたせしました!
早く原作に入りたい…


「ロンドンよ、私は帰ってきた―!」

 

ゼルっちの魔法でドラクエ6の世界に飛ばされて2年近く、ようやく元の世界に帰ってこれた。

()()()()()()()()だったならもっと早かったんだけど、他にも色々回ったせいで遅くなった。

 

「ま、でもおかげで呪文や特技はかなり覚えられたけどな」

 

戦士、魔法使い、武闘家…etc とドラクエ6世界で沢山の職業に転職して修行と冒険をしてきた。

勇者やドラゴン、はぐれメタルはなれなかった。

ゲームでは上級職を4つ極めれれば転職出来る勇者だったが、俺にはなれなかった。

それどころか俺が覚えれなかった特技も沢山ある。

あまいいき、とか、ほのおのいきとか息系とか人間やめるような特技ばかりだからいいか。

流石にぱふぱふとかぐんたいよびとか覚えてもしょうがない。

呪文もすべて覚えれたわけじゃなく、デイン系やベホマズンなどは無理だった。

まぁ、剣技や格闘技はほとんど覚えれたし、いっか。

 

「さってと、まずは父さん達に帰還報告しないとな。家にいるかな」

 

路銀はないので、歩いてロンドン郊外の家へと戻ってきた。

2年近くも離れていたのに、街中も家の周りも何もかも変わっていなかった。

 

「ふぅ~、なんで緊張するかな。ただいまーっと」

 

なんて言って入ろうかと少し考えたけど、結局普通に外出先から帰ってきた風にした。

家の中も相変わらず程々に広く、控えめな装飾品や調度品も変わってなかった。

が、家の中は静かだ。

 

「父さんや母さんはともかく、爺ちゃん達も留守かな」

 

とりあえず、自室に戻って休むとしよう。

 

「あー俺の部屋片づけもせず出ちゃったからなぁ。誰か掃除とかしてくれてるかな」

 

ベッドの下にエロ本、なんてそういうベタな隠しものはないからいいけど。

 

「ん? 何か、匂う? まぁ、いい匂いだからいっか」

 

と、ドアをあけた。

久々の帰宅で気が抜けていた俺は、自室とはいえ気配を探る注意を怠っていた。

この時部屋を用心してあけていれば悲劇は起きなかったというのに。

 

――ガチャ

 

「えっ?」「へっ?」

 

部屋のドアを開けると、そこには銀髪の美少女がほぼ全裸でいた。

かろうじて下着の下は履いてるけど、上は無防備……胸でかいな。

あ、さっきしたいい匂いがフワッて鼻につくな。

あれ? こんな展開今までも何度かあったような?

まぁ、それはともかく……

 

「きゃあぁーーー!? 俺の部屋で痴女が露出してるーーー!?」

「キャー……って普通女の私が悲鳴あげるんでしょう!? じゃなくって、健人!? もう戻ってきたの!?」

「あ、なんだガマちゃんか。ただいまー」

 

銀髪美少女はガマちゃんだった。

ん? もう戻ってきたっておかしくない?

 

「軽いっ! あんたねぇ、人の裸見ておいてその反応はどうなのよ」

「だってガマちゃんの裸は見慣れて…「ガマちゃん言うなー!」…ヘブッ!?」

 

久しぶりにガマちゃんの拳で空を飛んだ。

このやりとりも懐かしい。

あ、ガマちゃんの裸見慣れているっていうのは、同居していた時から今回みたいにラッキースケベが何度かあったって事だよ?

俺が風呂から上がったと同時に、入ろうとしていたガマちゃんとなぜか鉢合わせしちゃったりとか。

 

「で、ガマちゃ、マリーは俺の部屋で何してるのさ?」

「おじさまに頼まれたのよ。今日あなたが帰ってくるけど、おじさま達は大事な用があって出掛けなきゃいけないから、代わりにあなたを出迎えてくれって」

 

なんでも父さんだけではなく、母さんや兄さん、じいちゃんやばあちゃんなど草薙家総出で出掛けたらしい。

その時のみんなはマリーが感じた事がないほど異様に殺気だってたそうだ。

うちの家族総出って、どっかで真祖でも暴れてるのかな。

仕事で出遅れた姉さんはもう少ししたらこっちに来るらしい。

 

「なるほどね。でも、なんでまた着替えてたのさ」

「……ひみつ」

 

そこで頬を赤らめるな。可愛いだろ。

 

「と、ところで、こんなに長い間どこに修行にいってたのよ。連絡の1つもよこさないで」

「いやぁ~連絡取れる手段なかったもんで」

 

手紙しかなかったしね、あの世界。

その後電話とかある世界にも行ってたけど、こことつながるわけもないし。

 

「天藍おじいさまは遠い所で修行に行ってしばらくは戻ってこれないとは聞いていたけど、あなた一体どこで何してたの?」

「えっと、戦士や僧侶やパラディンになりながら、現地の勇者たちとモンスターや大魔王と戦ってきた」

 

ゼルリッチの第二魔法で異世界って行ったら気絶しそうだから黙っておこう。

 

「えっ? 何? もう一度言って?」

「だから、武闘家や踊り子になってドラゴンとか魔神とかを倒してきたの」

「…………おっけー詳しくは聞かない事にするわ」

 

流石に魔術師とはいえ、許容範囲を越える話だったか。

俺の言ってる事が嘘じゃないって分かっているからなおさらだろう。

今思ったけど、魔王とかドラゴンって異世界って言ってるようなものじゃね?

 

「で、そんな大冒険してきたのなら色々と覚えてきたんでしょう?」

 

ここでマリーの目が魔術師の目になった。

 

「あぁ、沢山呪文や技覚えたから後で見せるよ」

「はぁ~」

 

と言ったら、なぜか盛大にため息をつかれた。

 

「あ・ん・た・は! 聞いた私がいうのもなんだけど、すこしは自分の魔術を隠匿しようと思わないの!?」

「だって、マリーなら問題ないじゃん?」

「っ、だから、そういう所がダメなの! もう、修行でそういう所も直ると思ったのに」

 

そう言われてもなぁ。あの世界じゃみんな自分の特技を自慢してたぞ、チャロモとか。

 

「ただいまー」

 

その時、姉さんの声がした。

どうやら仕事から帰ってきたようだ。

 

「おかえり姉さん、それとただいま」

「あら。ただいま健人、それとおかえりなさい。また大きくなったわね。それに、かなり強くなったわね」

 

流石姉さん、一目で見抜いたか。

 

「姉さんもますます強く綺麗になったね」

「ふふっ、ありがと。マリーちゃんもいらっしゃい。ところで父さん達どこに行ったか知ってる?」

 

姉さんは仕事帰りに母さんから、家に戻って修行から帰ってくる健人をマリーと出迎えてと言われたらしい。

 

「俺は帰ってきたばかりだから分からない」

「私もおじさまからここで健人を待っていなさいとしか言われていないんです」

「そっかーそれでマリーちゃんさっきまでシャワーを浴びて私がプレゼントした香水で身を清めてたのね」

「あーそれでさっきいい匂いがしたのか」

「っ~~~!!?」

 

姉さんがそういった途端、マリーは全身真っ赤になりながら声にならない叫び声をあげた。

さっき裸を見られたのを思い出したんだな。

 

「健人、あなたそういう所は直ってないのね」

 

姉さんは呆れるように言ってきたが、そういう所って……ラッキースケベの事?

ドラクエ世界じゃそういう事なかったよ。

そういう役目はポッツがしてたし。

 

「まぁ、いいわ。それよりも」

 

ここで姉さんの目つきが変わった。

 

「私に連絡してきた時、母さんは怒っていた。それも、私の知る限り今までで一番怒っていたわ」

「えぇ、おじさまもすごく怒っていました。とても冷たくて、殺気すら感じるほどに。健人が帰ってくるって分かっているのにそっちを優先させた」

「兄さんだけでなく、おじいちゃんやおばあちゃんまで出払ったって事は相当だよ」

 

それは、厄介だ。

父さんも母さんも俺達に怒ることは当然あるけど、普段はあまり怒らないタイプだ。

俺達に関係なく父さんと母さんが揃って怒っている時は、魔術師絡みの厄介事があったという事。

 

「まぁ、考えても仕方ないわね。それよりもお茶しながら健人の修行の話聞かせて」

「それでいいんですか!?」

 

今までのシリアスモードをあっさりと放棄して話題を切り替えた姉さんに、マリーがすかさず突っ込んだ。

 

「心配いらないわよ。父さん達だけで大丈夫よ。それに必要なら私も健人も呼ぶはずだもの」

「いえ、私はおじさま達を怒らせた相手を心配しているのですけど……」

 

というわけで、姉さんが買ってきたケーキとマリーが淹れてくれた紅茶を楽しみながら俺は今までの冒険談と持ち帰ってきた道具について説明した。

俺が思うドラクエ6世界で手に入れた中で一番のお宝は「どうぐふくろ」だ。

ゲームでは様々な武防具や道具を1アイテム99個まで入れれる携帯版「王の財宝」ともいえるアイテム。

ドラクエ世界で何としても手に入れたかったのだけど、ポッツがもっている一つしかないようで見つからなかった。

大魔王を倒してパーティーが解散して別れる時、ポッツが餞別にとくれた。

旅の途中で手に入れたものは大体持ってきた。

最初は、道具屋で買って持って帰ろうとしたのだけど、ポッツ達が自分達にはもう必要ないからと言ってくれたんだよな。

とは言え、武器や防具は戦闘でボロボロになって使い物にならなくなってしまった。

エッチな下着をマリーに渡した時の反応は見たかったけど、あれはハッサンがこっそりと持って行ったしな。。

なので、今ふくろの中にあるのは俺自身が使っていた武器と防具以外ほほとんど道具ばかりだ。

でも、星降る腕輪とかはやてのリングとか魔術効果のあるアクセサリーも持ってきたので、お土産にはなるな。

 

「傷を治す薬草や名前の通りの毒消し草。うーん、どれも剋斗おじさんが作ったものの方が効率的よね」

 

色々品定めしながら姉さんは苦笑いを浮かべた。

確かに、世界最高の薬剤師として有名な剋斗おじさんが作る薬の方が治癒力が高い。

 

「で、健人が愛用していたはやぶさの剣、これはすごいわね。見た事もない材質で出来ていて軽い割にすごく頑丈ね」

 

姉さんも褒めるはやぶさの剣。

2回攻撃が可能になるというのも頷ける程軽く、実際他の剣よりも2倍速く攻撃出来た。

攻撃力は他の剣の方が上だけど、俺はこれが気に入ったので最後まで愛用した。

 

「でも、これも結構ガタが来てるわね。ひょっとしてトワロさんに鍛えなおしてもらうつもり?」

 

トワロさんとは、草薙家御用達の鍛冶屋だ。

表向きは包丁などの研ぎ師職人だけど、裏では魔術礼装絡みの武具職人でもある。

あの人に鍛えなおしてもらったらもっとすごい剣になるに違いない。

 

「うん。今まで一番手に馴染んだ武器だからね。これを俺の専用礼装にしたくて」

「それはトワロさんも喜ぶわ。健人に合う剣がうまく出来ないって気にしてたしね」

 

昔から色々な武器の手解きを受けて一番しっくりきたのが剣だけど、なかなか俺専用の剣までは見つからなかった。

トロワさん曰く、俺の魔術回路が異質なのも関係しているらしい。

ドラクエ6世界に行ってからは、はがねのつるぎなどいくつか使ったけど、トロワさんが作ってくれた剣よりは馴染んだ。

更に、はやぶさの剣を手にした時、全身に稲妻が走ったような衝撃があった。

まるで俺の為に生まれたかのように、手に馴染んだ。

恐らくだけど、この世界の剣じゃドラクエ呪文や特技と相性が悪いから馴染まなかったんだと今なら思う。

ちなみに俺がドラクエ世界で使っていた防具は、ドラゴンメイルだけだ。

防御力の高い盾や兜は沢山あったけど、どれも高速で移動しながら呪文や剣技を繰り出す俺の戦い方には邪魔になるものばかりだったからだ。

ドラゴンメイルは見た目はカッコ悪いけど、他の鎧よりは軽かったから着用していた。

けれども、これも戦闘でボロボロになってしまった。

なので、はやぶさの剣同様にこっちの世界で修繕をしてもらうつもりだ。

 

「さてと、それじゃあ健人……久々にやろっか♪」

「えっ? やるって何を?」

「何って模擬戦に決まってるでしょ。健人がどれだけ強くなったのか楽しみだもの」

 

あ、姉さんに変なスイッチ入っちゃったみたいだ。

草薙家の人間って基本的に無駄な殺生は好まない分。

模擬戦や決闘は大好きな人ばかりなんだよな。

 

「分かった。本当は父さん達にも見せたかったけど、一足先に2人に見せるよ」

「ちょっと健人、あなた帰ってきたばかりなのに疲れてるでしょ? 休んだ方がいいんじゃないの?」

「平気だよ。ちょっと休んだし腹ごしらえもしたしね」

「当然よ。そのために癒眞に作ってもらった特製ケーキだし」

 

やっぱり姉さん、そのためにこのケーキ、普通のケーキ屋じゃなくて従姉の魔術師兼ケーキ職人の癒眞さんに滋養強壮に効くケーキを用意してもらったんだな。

通りで力が湧いてくると思った。

 

「あ、でも健人にはマリーの紅茶だけで十分だったかしら?」

「なっ!?」

 

マリーはうちに同居する前に亡き母親から紅茶の淹れ方を教わっていた。

それは、魔術効果のある薬草を使ったわけでも錬金術を応用したわけでもない普通の紅茶の淹れ方。

でも、俺は初めて飲んだ時からすっかりお気に入りになり、普通の紅茶では物足りなくなってしまった。

 

「まぁね。昔からマリーの紅茶飲むと気持ちが落ち着いて癒されるよ」

「はぃ!? そ、そんなおだてても紅茶のおかわりしか出ないわよ!?」

 

褒められて恥ずかしくなったマリーが顔を真っ赤にしながらも俺と姉さんに紅茶のおかわりを注いでいった、その時だった。

 

――ブーッブー!

 

マリーのスマホから異音が鳴った。

これは通常の通信ではなく、魔術を用いた緊急通信であることを示すアラートだった。

 

「あらっ、誰からかしら。こちらオルガマリー……はい? ちょっと、落ち着きない。一体どうしたの?」

 

何やら通信先の相手は焦っているようで、マリーにもよく聞き取れないようだ。

 

「こっちは落ち着いてちゃんと聞いてるわよ。で、カルデアがどうしたの? えっ? 敵襲? うそっ……」

 

俺達には通話内容は聞こえてこないが、マリーが敵襲と言ったのは分かった。

途端に姉さんは魔術師の顔つきになり、俺も自然にはやぶさの剣に手が伸びた。

そして、マリーが次に発した言葉に、俺達は驚愕の表情を浮かべるのだった。

 

「カルデアが……壊滅した?」

 

 

続く

 




原作開始や藤丸の登場はもう少しかかります。
健人が覚えた呪文や特技は原作開始時に出す予定のプロフィールで明らかにします。


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第5話「カルデア崩壊(笑)」

お待たせしました!
やっと原作ヒロインが出せる……


とある職員の日誌より

 

 

〇月×日

 

明日はいよいよ被験体マシュ・キリエライトの英霊第二号との融合実験が行われる日だ。

マシュは、英霊を人間と融合するこの実験の為だけに、遺伝子を操作されて生み出されたデザインベビーの1体。

だから寿命は30年と短いし、今回の実験で更に縮まるだろう。

短い寿命で大いなる成果を出さなければならないのは非効率的だと思うが、結果が出れば問題ないだろう。

これまでも多くの個体を生み出したが、そのどれもが実験に必要な魔力回路がなく産まれ無駄に死んでいった。

だから、魔力回路とマスター適正をも備えたマシュ・キリエライトはまさに実験向きの個体と言えた。

更に彼女の魂は無垢そのものと言っていいほど純真で、こちらの思い通りに動いてくれる。

これならば英霊と融合し膨大な力を得ようとも、簡単に御する事が可能だろう。

 

明日が楽しみだ。

 

 

〇月△日(全体的に文字が震えている)

 

結論から言えば、実験は大失敗だった。

いや、大失敗どころではなかった。

私は、私達は、それ以上のモノを視た。

抗う事できず、絶望を受け入れる事しかできなかった。

だが、それでも、記録に残さなければならない。

あれこそが……

 

 

実験自体は半分は成功と言ってもいいだろう。

マシュ・キリエライトは確かに召喚された英霊と融合し、その力を行使して見せた。

が、それだけだった。

マシュと融合した英霊は、すぐに大きな盾と鎧を装着し我々へと襲い掛かってきた。

どうやらマシュの意識は完全に乗っ取られているようだ。

そこまではいい。想定内の事だったのだから。

だが、ここから先は想定外の連続だった。

 

マシュに憑依した英霊は防衛システムを突破し、こちらへと攻撃を仕掛けようとした。

その瞬間、私達と英霊の間に歪みが生まれた。

それと同時に声が直接頭に響いてきた。

その声は、私が今まで聞いた声の中で一番怒りに満ちて脳髄を凍らすような冷たい声だった。

 

――少し、邪魔するぞ。

 

かろうじて男と分かる声の主は歪みの中から現れた。

その男は、ノイズがかかったような霧に覆われていて、複数の人影と共に現れ英霊と私達全てに向けるように腕を振るった。

瞬間、巨大な盾を振り降ろそうとしていた英霊も、突然の乱入者に対処しようとしていた職員たちも、全ての動きが止まった。

マリスビリー所長は、まるでこうなると予測していたかのような苦笑いを浮かべているが、冷や汗が出ている。

やがてノイズの霧が晴れ、男の全貌が明らかになった。

男は、まるでゴルフにでも行くようなカジュアルな服に身を包み、紺色のハンチング帽をかぶっている。

顔は笑っているが、目は笑っていなく、男から醸し出す雰囲気は、憤怒そのものだ。

それに、男から感じる膨大な魔力は、その膨大さだけではなく明らかに我々とは違った魔力を感じた。

男と一緒に現れた複数の人影もまるで砂塵のようにカルデア中へと散って行った。

そのどれもが、目の前にいる男と同様に異様な気配を漂わせていた。

 

「やぁ、マリスビリー・アニムスフィア。要件はわかっているね」

「だれだ、お前は!」

 

男への恐怖心を魔術で無理やり押し込めた職員の一人が懐から魔術礼装を取り出そうとした。

だが、その手は悪手だった。

 

「五月蠅いわね」

 

男の側にいつの間にか現われた和服の女性が腕を一振りした。

すると、実験室にいた職員全員に異変が起きた。

 

「腕が、石に……」

「お、おれどうなったんだ!? からだが……」

 

職員達の身体が顔だけを残して次々と木や石へと変わり、動けなくなっていった。

かくいう自分の身体も炭へと変わって行った。

こんな一瞬で複数の人間の身体をそれぞれ別のもの変える魔術など聞いたことがない。

 

「流石はラス嬢。見事な手際ですね。弁明はないよ、天藍。こうなる事も予測済みさ」

 

ラス、天藍、目の前に佇む男女を見て、マリスビリー所長は確かにそういった。

ならば、彼らこそが草薙家だと言うのか。

魔術師にとっては有名すぎる一族、草薙家。

時計塔創設以前に根源へと至った魔術師の家系。

その血筋の者はありとあらゆる分野において天才的な才能を発揮し、魔術世界だけではなく外の世界にも広く溶け込んでいて、影響力をもっている。

この男、草薙家の当主であり、法政科の現君主でもある草薙天藍。

そして、彼の側に立つ女性は彼の妻、ラス。

魔術師ならば畏怖の対象である2人を見ても、不思議とそこまで動じていない自分に気付いた。

あぁ、きっともう手遅れなのだろうと、心の底から諦めているのだ。

 

「さて、マリスビリー。今日はここで不当な人体実験が行われていると聞いてね」

「天藍さん、あの子は私が看ていますね」

 

そういうってラスは、天藍の乱入の衝撃で気絶したマシュを抱きかかえて外へと出てしまった。

所長は何か言いたそうだったが、どうにもできない。

この場の主導権、生殺与奪の権利すら草薙天藍の手の内にあるのは、誰の眼にも明白だ。

 

「……人体実験など魔術師では良く行っているのだろう? それに君達だって行ってきたはずだ」

「あぁ、シュウが作った霊薬の実験などをね。でも、それは我が草薙家に連なる者から志願を募って行っている。どこからか攫った一般人を利用したり、君みたいに実験の為だけに遺伝子から操作して科学と魔術を融合させた人間を生み出す……そんな非道なものとは一緒にしてほしくないね」

「それでも、法政科の君主たる君が直接ここに乗り込んでくるのは異常すぎないかい?」

 

所長は、天藍の追求をのらりくらりとかわしているが、その顔にはいつもの余裕と冷静さは微塵も感じない。

 

「勘違いしないでくれ。魔術の発展に伴う実験については、どれだけ非道であれ隠匿がなされていれば私はどうこうするつもりはない」

「『魔術の犠牲は魔術師のみであるべき』 かい?」

「その通り。このカルデアは我が草薙家が出資し、魔術的にも科学的にも技術提供を行い完成させた施設だ。そこで我らの信条を裏切る行為が行われている事を、見過ごせるはずはなかろう?」

「私達が後ろ盾しているからと言って、少しやるすぎましたね。職員は全て拘束いたしました。データも既に押収済みです。あぁ、研究設備は破壊いたしましたわ」

 

と、そこへ初老の男女二人がやってきた。

彼らには私も見おぼえがあった。

まさか、彼らまで来ているとは……

 

「おや、これはこれは皇伽殿にキトラ殿までおいでとは、草薙家本家勢ぞろいとは珍しいですね?」

 

草薙皇伽、当主の座を天藍に譲り渡してから一線を退いているとはいえ、絶大な力をもつ前草薙家当主。

その妻キトラも、女豹と呼ばれ封印指定の執行者として名が知られている。

所長の言う通り、草薙家がここまで勢ぞろいしている場面は見た事がない。

 

「さてと、それでは詳しい弁明を聞く事にしようか。あぁ、オルガマリー嬢は健人とが一緒にいるから安心したまえ、マリスビリー」

 

そう言って天藍達は所長を連れてどこかへと消えていった。

それからすぐに、さっきまで炭へと変わっていた身体が元へと戻った。

 

「っ……プハッ! い、今のは一体……」

「所長は、どこへ?」

 

他の職員達の身体も元に戻っている。

と、同時に脳裏に先ほどまでの草薙家の魔術師達の姿がよぎり、身体が震えだし止まらなくなった。

それは私だけではないようで、数人の職員が頭を抱えてのたうち回っていた。

 

「ぅあ、あぁ、ああぁぁぁ~~!!」

「ダメだ、ダメだダメだダメだ。あれはダメだ!」

 

カルデアの職員全てが魔術師というわけではない。

魔術の事を知っていても、魔術回路を持たない職員もいる。

その者達が先ほどまでいた草薙家が放っていた重圧に耐えかねて、発狂したようだ。

いや、魔術師であっても発狂している者もいる。

三流魔術師が、とあざ笑うのは簡単だが、私も手の震えがまだ止まらない。

所長もいない今、どうすればいいのかと呆然としている中、別室で実験をモニターしていたロマニ・アーキマンとレフ・ライノールがやってきた。

 

「みんな大丈夫かい? 痙攣しているものを急いで医務室へ運ぶんだ! ロマニ、君は他の区画の様子を見に行ってくれ。おそらくカルデア中が麻痺状態だろう」

「あぁ、分かった」

 

草薙家への恐怖に麻痺している中、2人の冷静な指示のおかげで徐々にみな落ち着きを取り戻し、核施設の被害状況を確認していった。

その結果、草薙家は僅か数名でカルデア内を短時間で制圧し、様々な実験データを回収し機材や施設を破壊していった。

勿論、カルデア側もただ黙ってされるがままになっていたわけではない。

何人かが、止めたり迎撃しようとしたが、誰もが皆何もできずに逆に返り討ちにあっていった。

幸いな事に死者は出ず、返り討ちにあった職員も精神的には重症に近い者もいたが、皆軽傷で済んでいた。

破壊と言っても、壊されたり強奪されたものはどれも英霊融合実験やそれに伴うデザインベビーに関わる機材やデータのみで、カルデアスやシバの維持やライフラインに関わる物には何も手をつけられていなかった。

 

それでもカルデアは、一度確かに崩壊した。

 

 

「という事があったんだよ。いやぁ、暴れた暴れた」

「いや、暴れた暴れたじゃないでしょうが、兄さん」

 

カルデアが崩壊したと連絡を受けて、俺達は向かう準備をしている時、フラッと兄さんだけが帰ってきた。

で、カルデア崩壊の原因は兄さんや父さん達のせいだと聞かされた。

更にそもそも父さん達がキレた原因は、カルデア所長のマリスビリーが出資者である草薙家に内緒で、草薙家が嫌悪している人体実験を行っていたからだそうだ。

何と言うか……どうして俺を待ってくれなかったかな。

俺が今日帰ってくるって知ってたなら待ってくれても良かったのに。

 

「なら修行から戻ってくる予定だった健人はともかく、私も連れて行ってくれても良かったじゃないの兄さん!」

 

姉さんも俺と同じことを思っていたようで、兄さんに詰め寄っている。

 

「せっかく今日健人が帰ってくるというのに家に誰もいないのは寂しいだろう? カルデアの実験だって今日行うって知ったの結構ギリギリだったからさ。念のためマリーをここへ避難させる必要もあったし」

「それは、そうだけど。それとこんな話をマリーに……あら、マリー? 大丈夫?」

 

兄さんからカルデアで行われいたという実験と、その為に多くの実験体と言う名の人間が生み出された事を聞いてからマリーは青白い顔をして震えている。

 

「……お父様が、そんな、酷い事をしていただなんて……」

 

マリーは父マリスビリーの所業にショックを受けたようだ。

流石に魔術師とはいえ、人道に反しすぎだもんな。

 

「兄さん、何もマリーに全部言わなくても良かったんじゃない?」

「魔術師としてまだまだとしてもマリーもお前も、もう立派な大人だ。隠す必要はないし、親の所業はいずれ子に降りかかる。それが魔術師なのはわかっているだろう?」

「それはそうだけど……ともかく少し休みましょマリー」

 

姉さんは納得いかない様子だったけど、マリーを部屋へと連れて行った。

とは言え、姉さんはカルデアで行われていた事自体にはかなり怒っていたけどね。

 

「さてと、健人。マリスビリーの尋問は父さん達に任せて、お前の修行の成果は僕が試そうか」

 

どうやら兄さん1人だけ戻ってきたのはこのためらしい。

さっきまであんな話しておいて切替早いな。

 

「あ、もちろん後で父さんやおじい様達も試すって言っていたからね?」

「……あ、そうですか」

 

なんとなーくそんな予感はしていたけどね。ハハッ……

 

 

と、思っていたが、まさか俺の修行の成果を見たいと、兄さんや父さん以外にも20人以上も相手にする羽目になるとは思ってもいなかったのであった。

 

うちの家系って色々極端すぎる。

 

続く

 




というわけでマシュ登場!本人トランス状態ですけどね
あと数話で原作開始に行きたいところ……
さて、Aチームの扱いどうしようかな。


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第6話「妹が出来ました!」

お待たせしました!
この小説、タイトル変えたいけど他に良いのが浮かばない……それが更新遅れた理由の1つだったり(笑)


俺の異世界修行からの帰還祝いと言う名の修行成果お披露目会、と言う名の集団リンチ(笑)から1週間ほど経った。

その間もマリーはうちに滞在していたが、ずっと部屋に引き籠っていた。

父さん達にはしばらくそっとしておいた方がいいと言われた方が、やはりほっとくわけにはいかなかった。

でも、俺や姉さんが訪ねても部屋から出てこなく、ほっといてくれと言われるばかりだった。

それでも数日経つと、やっと部屋から出てきたが、ほとんど寝ていないようで目にはうっすら隈が出来ていた。

母さんが得意の料理を使った魔術でマリーを半ば無理やり眠らせる事で、どうにか体調は元に戻った。

精神的にはまだダメージが残っているようだけど。

 

カルデアは一時的に草薙家が管理する事になり、マリスビリー所長は幽閉状態だ。

と言っても、今回の処置は法政科としてではなく草薙家とアニムスフィア家の契約に基づく処置なので、近いうちにアニムスフィア家には返還されるしマリスビリー所長も時計塔からは厳しい刑罰を受けるわけじゃない。

草薙家は、飼っていた動物が亡くなってから使い魔にする事や、単純な動作を行う戦闘用の機械人形や礼装に疑似人格を持たせる事は認めているが、どんな目的であれ人工的に生命を作るホムンクルスについての製造を許していない。

勿論、これは草薙家本家や分家と言った身内だけの事で、他の魔術師達がホムンクルスを生み出す事には無干渉だ。

だからこそマリスビリー所長がマシュ・キリエライト達を生み出していた事には、特に制裁を加えていない。

そもそも、マシュたちはデザインベビーであり、正確にはホムンクルスではない。

だが、マシュ・キリエライト達を使って行っていた人体非道な実験の数々が草薙家の逆鱗に触れた。

 

人理保障機関カルデアを設立する為には多額の資金が必要だった。

設立の出資金は国連以下各国からの援助と大多数がアニムスフィア家からの出資となっている。

けど、それは表向きの話。

実際には草薙家が大多数を出資し、残りの数割をアニムスフィア家と各国が負担した。

それだけではなく、技術提供やカルデア設立の為にアトラス院との仲介役までこなした。

そこまでやったのに、今回のマリスビリーの行為は草薙家に泥を塗るに等しい行為であった。

 

とまぁ、草薙家とカルデアの関係について兄さんから講義を受けたわけだが、俺としてはそんな事よりもマリーの方が心配だった。

そんな時、俺とマリーは父さんに呼ばれた。

 

「私は明日カルデアに向かい、マシュ・キリエライトへの面会を行う。健人、オルガマリー、ついてくるかい?」

「分かりました。行きます」

 

マシュ・キリエライトがどんな子か会ってみたかった俺は即答したが、マリーは返答をせず考え込んでいる。

 

「……少し、考えさせてください」

 

そう言ってマリーは部屋と戻って行った。

父さんは少しだけ眉をひそめて俺へと向き直った。

 

「さて、健人。お前には少しマシュの事を話しておこうか。オルガマリーは既に知っている事だからな」

 

父さんはマシュの事を話してくれた。

マシュはカルデア、マリスビリー所長が人間と英霊を融合させる実験の為に、魔術と遺伝子工学など現代医学を組み合わせた生み出したデザインベビー、ホムンクルスと似たような存在。

と、ここまでは既に兄さんから聞いていた。

けど、ここから先はマリーは知っていて、俺が知らなかった事実。

 

「マシュに残された時間は、あと8年ほどしかない」

「えっ?」

 

父さんから言われた意味がすぐには理解できなかった。

ホムンクルスやデザインベビーだから短命と言うわけではない。

そんなのいくらでも調整できる。

だけど、マシュは生まれながらに英霊融合実験の為に非人道的な実験や投薬を繰り返していった結果、肉体的寿命が極端に短くなったというわけだ。

最初から短く作られた可能性もあるが、とは父さんの推測だ。

 

「どうにかならないの?」

「無論、その手の者を数名派遣したが、芳しくはない。今回の英霊融合実験の負担を軽減し、寿命を数年伸ばすのがやっとだそうだ」

 

医療系魔術や医療が得意な草薙家所縁の者でも、完全には救えなかった。

それはつまり、誰にもマシュの寿命は治せないという事。

 

「この事がオルガマリーを更に追い詰めているのだろう。自分の父の所業への罪悪感、マシュが子である自分にも恨みを抱いていると思い込んでいるのだ」

「それは…」

 

考えすぎ。と言いたかったけど、俺はマシュに会った事がなく、性格的にどんな子かも兄さん達から聞いていない。

なので、安易に大丈夫とマリーには言えない。

 

「私から言えるのは、そもそもマシュは人を憎んだり嫌うという負の感情をよく分かってない。あの子はまさに無垢な子供だという事だけだ。あとは当人同士の問題だろう」

 

暗に俺にマリーのフォローしろと言っているけど、言われずともそのつもりだ。

それにしてもマシュか、名前の通りマシュマロみたいに可愛い子なんだろうな……マシュマロみたいってなんだよ。

 

 

「マリー? 入るぞー」

 

マリーの部屋に入ると、彼女はベッドに寝転がり頭から毛布をかぶっている。

 

「マリー、服が皺だらけになるぞ」

「それ、慰めにきた人がいうセリフじゃないわよね」

 

マリーは毛布に包まったまま睨んできた。

和ませようとしたのだが、逆効果だったようだ。

 

「……ねぇ、マシュ・キリエライトは私を憎んでいると思う?」

「さぁな。俺はマシュに会った事はないしな」

「父さんがやった事は魔術師としては当然の事。けど、」

「はぁ、まぁいいわ。健人にそんな気遣い出来るなんて思っていないし。それに、私は大丈夫よ。こんな事で落ち込んでなんかいられないわ。お父様がああなら、私がしっかりしないと」

「さっきまで大泣きしてたのに切替早いな」

「ま、まだ大泣きまではしてないわよ!」

 

まだ、ね。

 

「でも、あなたの顔見たら、ここで塞ぎ込んでも仕方ない。そう思ったのよ。ホント、能天気な顔よね健人は」

 

これは、馬鹿にされているのだろうか。ま、いいか。ともかくマリーは大丈夫そうだ。

完全には吹っ切れていないけど、マシュには会わなきゃならないとは理解しているみたいだし。

 

「何その俺は全てわかってるぜ、的な顔は。言っておくけど、健人は私の事を分かっているつもりでしょうけど、それ以上に私の方が健人の事良―くわかっているのよ。どうせマシュ・キリエライトって名前通りに可愛い子かどうか気になって会うのが楽しみなんでしょ?」

「えっ? 何、マリーっていつから魔術師の道諦めてエスパーになったんだ?」

 

どっかの学園都市にでも留学するつもりなのだろうか。

 

「誰がエスパーよ! それに普通の魔術の腕なら健人より上なんだからね!」

 

マリーの魔術師の才能は高い。俺も魔術は使えるけど、普通というかこの世界の魔術の腕で言えばマリーの方が上だ。

でも、単純な戦闘ならマリーにも他の魔術師にも負けないけどな。

まだ修行段階だけど、草薙の秘術も沢山あるし。

 

ともあれ、俺とマリーはカルデアのある北極へと向かう事になった。

実はマシュに会うのは第一の楽しみなのは間違いけど、カルデアではなく北極に行く事も楽しみだったりする。

修行の名目で父さんや兄さんに連れ立って世界中を回った事はあるけど、北極はまだ行った事ない。

出来れば北極クマと戦ってみたいなぁ。

ドラクエⅥの世界で色々な職業を経験して魔術や剣術だけじゃなく、格闘術もかなりのものになったから北極クマに試してみたい。

北極へ向かうヘリの中でそんな事を考えていると、マリーから睨まれた。

 

「ねぇ、健人? まさかと思うけどこれから行くの北極と思ってないわよね? 私達が向かっているのは南極よ? それに本来ならカルデアの場所は隠匿されていて最重要機密事項だって事も忘れないでよね?」

「……orz」

「そこまで北極じゃないのがショックだったの!?」

 

やっぱりマリーはエスパーだと思う。

 

 

南極の山脈に貼られた結界の中に建てられた巨大地下工房、人理継続保障機関フィニス・カルデア。

マリーは何度か来た頃があるけど、俺は初めてやってきた。

科学的にも魔術的にも厳重に張られたセキュリティを通過して、カルデア内へと入った俺達を出迎えたのは2人の男性。

1人は白衣を着て軽薄そうな、一見頼りにならなさそうだけど追い込まれるとなんとか頑張って土壇場でドジをやらかす、悪意のない元凶、そんな感じがする。

 

「ようこそカルデアへ、草薙天藍様、オルガマリー嬢。そして、そちらは?」

「我が息子、健人だ。後学の為とオルガマリー共々マシュの話相手になればと、連れてきた」

「なるほどなるほど。それは彼女も喜ぶでしょう。初めまして、草薙健人君。私はここの所長代理をやらせていただいているレフ・ライノールだ」

 

そういって俺に手を差し伸べてきた緑のスーツにシルクハットを被り、人がよさそうな愛想の良い笑みを浮かべてる男、レフ・ライノール。

近未来観測レンズ「シバ」の開発者で、人理の為に尽くす目的で活動している魔術師。

のはずだが、どうも中身はどす黒いゴミクズのような、絶対に信頼も信用もしてはいけない感じがする。

あと、絶対コイツはカツラを被っている。

 

「よろしく」

 

まぁ、そんな事を思っているとは微塵も出さずにこちらも笑顔で握手に応じた。

勿論、手には気付かれないように精神汚染対策の為に魔術防壁を張っている。

それは向こうも同じようだけど、こんなの当たり前だしね。

 

「やぁ、草薙健人君。僕の名前はロマニ・アーキマン、ロマンと呼んでくれ。ここでは医療部門のリーダーで、彼女の専属医でもある。よろしくね」

 

白衣を着たロマンは、一見軽薄そうで頼りにならなさそうだけど、追い込まれるとなんとか頑張って土壇場でドジをやらかす悪意のない元凶、そんな感じがする。

 

「さてと、私はレフと話があるので、先にマシュの所へ行っていなさい。ロマン、2人の案内は頼んだよ」

「分かりました。それじゃ、2人とも行こうか」

 

こうして、俺とマリーはロマンに連れられてカルデア内を進んでいった。

 

 

「さ、この先にマシュがいるよ」

 

ロマンに案内されて入った部屋は、部屋と呼べるものではなかった。

広い空間の中に、外からも中からも丸見えなガラスで仕切られてベットとテーブルと小さい棚がある小部屋があるだけ。

その中でマシュと思われる少女がいて、こちらを見ていた。

部屋にはいくつも監視カメラがあり、上にはまるで小部屋を監視しているかのようなモニタールームがある。

ここはまるで。

 

「まるで監獄ね」

 

マリーも同じような事を思っていたようだ。

 

「これはマシュの為でもあるんだ。彼女は英霊を宿してはいるが、その能力も真名も明らかになっていない。その英霊がいつまた暴走するか分からない。そして、暴走すれば彼女の寿命にまで影響を及ぼすかもしれない。そうならないためにもモニタリングする必要があるんだ」

「そんな事、あなたに言われなくても分かっているわドクター・ロマニ。マシュ・キリエライトに関するデータは全て閲覧済です」

「……はい」

 

マリーに冷たく突き放されても、ロマンは苦笑いを浮かべるだけだ。

対応慣れしていると言うか、大人だな。

 

「ほら、行くぞマリー。マシュが不思議がってるぞ」

「……ふぅ~、えぇ、行きましょう」

 

深呼吸をして、マリーはマシュがいる部屋のドアを開けた。

 

「あの、どなた、ですか?」

「初めまして、マシュ・キリエライト。私はオルガマリー・アニムスフィア、「ガマちゃんと呼んで♪」 そう、私の事はガマちゃんと呼んで♪……って誰がガマちゃんよ!」

 

――ドンッ!

 

ツッコミ代わりにガンド撃たれた。

余裕でかわせたけど、壁に穴あいた。

あれ? 凛といい、ガンドって物理攻撃だったかな?

 

「マ、マリスビリー君。落ち着いて落ち着いて」

「ふぅー、ふぅー……はっ!? コ、コホン」

 

マシュがキョトンとして、俺とマリーの顔を交互に見て、ポンと手を打った。

表現が古いなぁ。

 

「ドクター、分かりました。このお2人は漫才コンビの方なのですね」

「違うわよ! なんで私と健人が漫才コンビに見えるのよ!」

 

今のやり取り見てたら漫才コンビに見えるよなぁ。

 

「ちょっと、健人! あなたのせいで色々台無しじゃない!」

「あーそうだな。マシュ・キリエライト、俺の名前は草薙健人、健人でいいよ。こっちのやかましい美少女がオルガマリー・アニムスフィア。ついでにマリスビリー所長は彼女の父だよ。よろしくな」

「び、美少女って……さらりと言わなくても、いいじゃない」

 

漫才コンビのフォローとして美少女と言ったのだけど、通じたようで良かった。

 

「健人さんとオルガマリーさん、お2人は先輩ですか?」

「「えっ?」」

 

いきなり先輩と言われて、俺達は顔を見合わせた。

先輩、かぁ。そういう呼ばれ方はした事ないな。

まともな学校には行ってないし、時計塔だって先輩後輩って呼ぶ風習はないしな。

でも、なぜにマシュは俺とマリーを先輩と呼んだのかな?

ロマンが何か言いたそうだけど、元凶はお前か?

 

「あーマシュ。俺もマリーも先輩って言うのとは違うぞ。あっ、マリーはマシュにとってはお姉さん、と言えるのかもな」

「ちょっと、また余計な事言わないの」

「なるほど。私はマリスビリー所長によって生み出されました。ですからオルガマリーさんは、私のお姉さんに当たるのですね。でしたら、お姉さん、とお呼びすればよろしいでしょうか?」

「うっ」

 

マシュに悪気も何も全くない。

本心からマリーを姉と呼ぼうとしている。

そんな無垢な瞳で見つめられ、マリーも否定も拒絶も出来なかったようだ。

と言うか、ちょっとその気になってない?

顔緩んでるぞ?

 

「あははっ、なら健人君はお義兄さんって呼ぶべきかな?」

「なっ!?」

 

ん? なんで俺がお兄さんになるんだ?

マリーも少し顔を赤くして驚いてるし。

でも、お兄さんか……兄さんや姉さんはいるけど、そういえば親戚に年下いないな。

妹と言えば、ターニアは可愛かったなぁ。

ちょっとポッツが羨ましかったし。

 

「健人さんは、お兄さん?」

「うぐっ!?」

 

うぉっ、結構破壊力あるな。

マリーがニマニマするのも分かる。

 

「マシュ、出来れば兄さんって呼んでくれないか?」

「はい、分かりました、兄さん」

「よしっ! OK! マリーは姉さん、俺は兄さんって呼んでくれ、マシュ!」

「はい。よろしくお願いしますね、兄さん、姉さん」

「「~~~~っ!?」」

 

あーなんか癒されるなぁ。

 

「2人とも、顔がとけてるよ。まぁ、マシュとこんなに早く打ち解けたのは良い事、だね」

 

こうして、俺とマリーに妹が出来た。

ただ、この後俺とロマンはマリーからガンドどころか様々な攻撃魔術の嵐をくらった。

勿論、俺は全部かわして被害は全部ロマンだけだったけど。

 

 

続く

 




とりあえずマシュの立ち位置が決定。
マシュは藤丸のヒロインですからね。
クリプターの扱いが非常に迷っている今日この頃、いっそ2部完結してから書けばよかったかな……ま、いっか(ォイ


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