すぺーすびーすと!~ネクサス怪獣擬人化作戦~ (ヒッポリト星人バロー)
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#1最恐のスペースビースト現る!(朝から晩までマリオネットにされちゃうよ!?)

光と闇。

それは常に反発しあう存在。
この墨色に染まった夜空、帰り道の炭色に染まる無機質なコンクリの地面、そしてわたしの歩く影というところに闇がある。

それに対して眩い電灯、一軒家やマンションから漏れる光、そしてわたしが触れているスマホから溢れるブルーライトという光が反発している。



この時のわたしはまだ気付かなかった。
いや、気付けなかったのかもしれない。
この光と闇の果てしなきバトル(反発)に白黒を付けるのはわたしだったということを。



 

 

どうしたものなのだろうか。

 

「ぐふぇふぇふぇ〜♡ アキちゃん様ァ〜〜!!」

 

その日、わたしがベッドで目覚めたら、目の前に変な少女がいた。まるで痴漢をするオッさん顔をして、薄気味悪くニタニタしながら、目を離さずにマウントポジションを取っていたのだ。

 

その容姿を見るからにはわたしと同じくらいの20代辺りの年齢らしい。見た感じ、現在進行形で感じる姿と重さから推測しても、恐らくわたしと同じくらいの身長と体重で間違い無いだろう。一般的に見ても違うところは彼女の目が死んだ魚のように白く、ボサボサな青髪で、何よりバストがわたしよりもちょっと大きいところだ。いいなぁ……。

 

じゃなくて! この状況普通に怖いんですけど。ついでに彼女の服装は全身薄い桃色のコート。その姿のまま見ず知らずの人にマウント取ってくるあたり、やっぱり普通じゃない。単純に怖い。

 

「はぁっ!? もしかして、もう起きちゃった感じですか? 昨日はアンナに大胆だったのにぃ〜」

 

しかしこの子は社会人であろうに、不法侵入という言葉を知らないのだろうか。あるいはわたしが寝ている目の前で堂々とコソ泥を? それに彼女はなんでさっきからよだれを垂らしてわたしを美味しそうな目で見てるの!? てかさっきの言葉の真偽はなんなの!? ――まさか、この人そういう系の人……。てことはわたしはもう一線を――。

 

当然ながらわたしの脳内はかなり混乱していた。

 

「えっ、あのちょっと、一体わたしはどうなって……!?」

 

ぐるぐるに目と頭を朝から回してベッドから寝た姿勢で数分程硬直していたことにようやく気付いたわたしは一旦冷静になる。もしかしたら、幻を見てるのかもしれない。とりあえずガバッと上半身を起こして思いっ切りほっぺをつねってみる。でもやっぱり彼女はいる。ああ、もう……。

 

わたしの様子をしばらく見つめていた彼女は、突然突拍子も無いことを言い出した。

 

「おはようございまぁーす、アキちゃん様! 改めて今日からずぅっーとお邪魔しまぁーす♡」

 

 

はい?

 

あなたが?

 

この家にお邪魔する?

 

今日から?

 

ってずっと!?

 

え? この子と一緒に暮らせと? なんで? いつわたしがそんな許可を? ってかあなた誰?

 

 

 

 

自己紹介をしよう。

わたしの名前は古紋(こもん) アキ。23歳の女性。半年前にTLT社という世間の仕事の売り上げやデータを一括に収集して、管理するみたいな仕事に勤めているOLだ。今は物価がいいこの安アパートで暮らしている。しかしこの謎の女性、わたしの仕事の知り合いにも、学生時代でも、変な色をした髪の娘と知り合ったことなんてない。

 

じゃあ一体全体何がどうなってこんなことに……。

 

「あのぉ、あなたは……どちら様でしょうか?」

 

「え? 私のこともう忘れてしまったんですか!? ノスフェルですよ!  ノ・ス・フェ・ル! 闇の勢力の! 昨日の夜にこの家にずっと住んでいいって言ってくれたじゃないですか!」

 

のすふぇる。一体どこの外人だろう。しかもなんかアニメっぽい居候話を語ってるんだけど、そんな約束をした記憶がまるでない。なんせ昨日は仲の良い先輩and後輩と一緒に飲みに行ったので、酔いに酔ったわたしはあんまり覚えていないのだけど……。

 

「ええっと、とりあえずその昨日の夜の経緯を教えてくれませんか…?」

 

「あっ、はい、分かりました! 実はですね……」

 

 

 

「ということなのです♡ これでOKですか、アキちゃん様?」

 

「はわわわ……嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょーー!!」

 

あー。なんてことだ、些細な過ちだ……。

 

だんだん思い出してきた。確かにそんなことを言ったような感じがする。わたしのおぼろげな記憶とノスフェルが言うことには、昨日のわたしは酔っ払いながら家に帰り、ベッドにダイビングしようとした時にチャイムが鳴った。ドアを開けてみると物凄い形相をしながらこの娘(ノスフェル)が飛びかかって、

 

「お前の恐怖を喰わせろ……さもなければ肉ごと喰い殺す!」

 

と言ってわたしの首を掴んで襲おうとしたそうだ。彼女はどうやら闇の勢力(?)とかいう光のなんちゃらと対立している銀河の何処かにある組織に所属するスペースビーストで、光と闇が常に交わり合う星、即ち地球を制圧して闇の天下を取るべく、ノスフェルは仲間達と共に世界を闇に墜とそうとやってきたのだ。

ちょっと情報量が多いなぁ……。ってかすぺーすびーすとって?

 

「うーん。人間はまだ見たことないでしょうしねぇ……まぁ簡単に言うと、異生獣です! ちなみにわたしはスペースビーストの中では一番強いですよ! ……多分」

 

異生獣、ってことはノスフェルはモンスターァァア!? なんで人外がこんなところに!? これって最近の夜中のアニメでよく見る擬人化ってやつ!? 本当にヤバいよどうしたらいいのコレ……。

 

「突っ込むところそこですかー?」

 

あぁ、確かにそうだ。なんで異生獣であろうノスフェルがこの人型になっているのか? あろうことかわたしと同じくらいの年齢の女性に。

 

「その質問、待ってました! 実はですね……私もよくわかりません!!」

 

「分からないの!? 話振っといて!」

 

「今まではみんないつもカッコイイ怪獣のような姿だったんですが、どわああー! って、宇宙から地球の中に入った途端、わたし達みんなこんな感じの姿に変わっちゃったんですよ……」

 

原理は分からないけれど、さすが地球はオタクの星だ。こんなバケモノ達でも擬人化するとは。いやいやちょっと待って! そんなのが一杯地球にいるってことなの!?

 

「良いから話を進めますよ!」

 

あっごめん。

それでノスフェルは、手始めに人間の恐怖を得るべくたまたま付近を歩いていたわたしに目をつけて、家を特定、そうして始まった闇への勧誘(どう考えても脅迫だったけど、本人は勧誘と言い張っているのでそういうことにしておこう)に対して、寝ぼけていたわたしは、

 

「あ? わたし? うーん……恐怖よりぃ〜わたしの心奪って〜あはははー!!!」

 

と狂った発言。え? わたしそんなこと言った? ってか全然思い出せないわ……昨晩の記憶全部飛んでるし。

 

「貴様……舐めた真似を。まっ、良いだろう。記念すべき最初に目を付けた女だ。喰われ様ぐらい選択させてやる……。さて、どのようにお前の心、いいや心臓を奪ってやればいいのだ? 爪でえぐり抜けとかか? それともお前の故人の幻影に心臓そのものを捧げるとかか? フハッハッハッハァッ! さぁ決めるがいい!!」

 

とノスフェルは片腕だけを怪獣の姿に変えながら叫び散らした。それにわたしは、

 

「ちーがーうよ〜例え〜ば〜、わたしと一緒に暮らしてー、恋に堕ちちゃうとか? アハハハ〜〜」

 

と更に大いに狂った発言。道理で昨日少し変な夢を見たわけだ、わたし。

 

「なんだコイツ……。ふん! そんなノタノタとやってられるか! わたしには……時間が、時間がねぇんだよぉ!!」

 

とノスフェルはわたしを拘束して締め上げようとする。まっかっかな顔色のわたしはふにゃふにゃしながら聞く。

 

「でも……大変なんでしょ……? わたしの家に来なよ、世話してあげる。」

 

はは……ちょっと待ってよ。確かその変な夢は、捨てられたハムスターを家に連れて帰るようなものだけど、なんか展開がそのまんまな気がする。でも夢だよね……うん。ただの夢……。

 

「そ、それは……。だがそんな悠長なこと……」

 

寝ぼけてる人に図星されるってどういう気持ちなんだろう。わたしはそのままノスフェルの顔に手を触れる。

 

「ほら、ちゃんとわたしの顔見て」

 

そのままわたちは唇に顔を近づける。え……何やってるの、わたし? 嘘……でしょ!?

 

「お、おう……」

 

ちょっ……ノスフェルも駄目だって……!?

 

「んっ」

 

ああああああなにしてんだわたしいぃぃ!?!?!?!?

 

「……なんだ…………この感触は……!?」

 

柔らかい感触が伝わり、ノスフェルの顔色が少し赤くなる。わたしはノスフェルと唇と唇を重ね合い、キスをしてしまっていた。多分ノスフェルにとってもファーストキスだよね。わたしにとっても……。その後すぐにわたしはふらふらとしながらベッドに戻って眠ったらしい。これに心打たれた(勝手に恋に落ちた)ノスフェルが今日、いや正確には昨日の晩からこの家に居候することになったわけね……。

おかげで昨日の夢の経緯まで全部思い出しちゃった……百合百合しい、悪夢だ……。

 

「と、いうわけで、これからおねがいしますよ? アキちゃん様ぁ! 早速一緒にやりましょうよぉ♡」

 

駄目だこりぁ……昨日はすっごい殺意の気迫があったらしいのに、今はメロメロ。しかも性的な発言にしか聞こえないことばっか言ってる。とりあえず誤解を招くような発言はやめて! わたしはそっち系じゃないから。というか頼むから家からででってほしい! ……なんて言えない。さもなくばいろんな意味で襲われそうだ。 仕方ない。

 

「……まぁ、一応良いけど……」

 

「わぁ〜〜!! ありがとうございますぅ、アキちゃん様! ……それなら今晩はもう合意ってことですね?」

 

「断じて違う! 昨日のは寝ぼけてただけなんだからね! 勘違いしないで!!」

 

「むぅ……。わかりました、でも私は闇の勢力でありながら一度アキちゃん様に心を奪われた身。だから決っっして諦めませんよ!!! 必ずアキちゃん様の心も奪ってあげますからねー!!」

 

はぁ……。でも悪くない、独りぼっちじゃないのも。

 

 

こうして、わたしと『すぺーすびーすと』のノスフェルとの奇妙な生活が始まったのだった。でもなにか忘れてるような……。そう思いながらスマホを持って時計を見………

 

「あっっ!?!? 会社! 今日もあるじゃん⁉︎ やっば遅刻するぅ!」

 

完全に忘れてたぁっ!?

 

「アキちゃん様? 私も手伝いますよー! はい、バッグです!!」

 

おおありがとう……、ってそれは画用紙! とっ、とにかく行ってきまーす!

 

「はーい‼︎ でも早く帰ってきてくださいよ〜♡♡」

 

「はいはい分かってるわよ。言われなくたってノスフェルが誤った使い方して、家のものを沢山荒らすかもしれないしね!」

 

「そっ、そっちですか〜⁉︎」

 

 

 



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#2人間生活って何ですか?(教えるのは大変!もうロスト・ソウル寸前……)

わたしの名前は古紋アキ。どこにでもいるような新人OLの女性!
ある朝、今日も仕事しに会社に行こうとベットから起きたら、自分のことを異生獣(スペースビースト)と名乗る変な娘・ノスフェルと出会い、そして暮らすことになってしまった。
今日はそんな記念すべき生涯後悔しそうな初晩。人間じゃないノスフェルのことだから絶対家の物々荒らしてる気がしてならない。なのでわたしは今日はなるべく早くに帰ってきたわけだけど……。



「ただい…はぁ、もう勘弁してよ……」

 

ある程度予想していたとは言え、ゴチャゴチャに散乱している本棚や小道具。その中心でノスフェルは子供のような純粋な仕草で木っ端微塵に学生時代に描いた絵を粉砕する。掃除嫌いなわたしですら嫌悪しそうな汚れっぷりにわたしは絶句した。まさかここまで無茶苦茶にされてしまうとは……。

 

「いてて……なんですかコレ?…………あっ、アキちゃん様ァ♡お帰りなさい!」

 

 

案の定、ノスフェルは家を荒らしていた。まぁアニメや漫画でよく見る異種族との生活ギャップあるあるのド定番かもしれないけどさっ……。怒りをなるべく露わにしないよう心に押さえ込んで返事をした。

 

「うん……ただいま……ノスフェル」

 

とりあえずわたしはまだ荒らされていない安全圏に荷物を置いて、片付けられそうなところから目を配る。するとどうであろうか、冷蔵庫が空きっぱなしで野菜や果物が床に転がり込んでいるではないか。嫌な予感がしたので、さっとノスフェルの方を再び向いた。

 

「アキちゃん様、ところでこの黄色い棒みたいなのはなんですかー? もしかして私とアキちゃん様の練習用のアレですか? もぉーアキちゃん様って積極的♡」

 

わたしがノスフェルの言いたいことを理解するまでそう長くはかからなかった。なんでこの娘は胸だけじゃなくこうもそういうネタも豊満なの? それに冗談でもわたしは女なんだからノスフェルなんかとしたくなんかない! 私は少し赤面になりながらも私は叫んだ。

 

「腐るからさっさとバナナを冷蔵庫に閉まって!」

 

「えー、もぉう、アキちゃん様ったら意地悪♡」

 

ううう……。なんでこんな目に……。このままじゃいつわたしの貞操を奪われてもおかしくないよ。なんとしてでもノスフェルと異種姦の関係になるだけは避けないと。第一わたしもノスフェルも女性なんだし、そっち系の道には間違っても行きたくない!!

 

「わたしはそぉーゆうエロ発言は嫌いなの! というかどうして異星獣の癖にそんなこと詳しいのよ!」

 

「なに言ってるんですか! 生命を次世代に繋ぐには大事なことですよ! それと私達スペースビーストは振動波でお互いの得た情報を共有することが出来ますからね!!」

 

「いやいやそう言うことじゃなくてね、ノスフェル……」

 

___________________________

________________

______

 

「――でもって、この道具はこう使うの。分かった、ノスフェル?」

 

「なぁぁーるほど! わっかりましたぁ! 家事のことはオールインプットしました! あとはお任せください!!」

 

ふぅ……人に物を教えるってこんなに大変だっなんて。ノスフェルが日本語を理解していたことが不幸中の幸いだよ、なんせ海外ならワン、ツゥースリーで統括してるものをいっ『ぽん』、に『ほん』、さん『ぼん』。いちまい、にまい、さんまい。そしてひとり、ふたり、さんにん……って細々と分けたりしてるもんね。親が子供に基礎的な教育をする際の辛さが気持ちが見に締めて理解したよ。でもノスフェルが覚えが早いお陰で助かった。これもスペースビーストの特徴なのかな? 色々と部屋も片付いて落ち着いてきたのでわたしは気になったことをノスフェルに聞いてみた。

 

「そう言えばノスフェルはスペースビースト、、、なんだよね? わたし達人間と違って何か凄いこととか出来るの?」

 

「はいっっ! よくぞ聞いてくれました!!もっちろん沢山ありますよ! 私の場合、例えば……」

 

「ひぃっっ!!!」

 

ノスフェルがそう言った途端、とんでもないことが起きて思わずギョッとしたわたしは腰が抜けてしまった。なぜならば一瞬で彼女の爪が人技とは思えない速さで長く、そして鋭く変わったのだ。恐る恐るわたしは聞いてみる。

 

「そそ……それって、どう使うのよ?」

 

「そうですねぇ……昔は無作為に動いてる肉達を適当に斬り刻んでましたけど、今はアキちゃん様に刃向かう愚弄ども全員にですかね!!」

 

うっふぇ……。あとお願いだからもうやめてっ! 気持ちは嬉しいけど色んな法律に引っかかっちゃう! 爪だけに!!

 

「ほ……他には?」

 

続いてノスフェルは舌を長く伸ばして、わたしの顔をぐるぐる巻きにする。息苦しくなり、思わず喘ぎ声が出そうになる。

 

「うふぇっと、ふぉんにゃひゅうに、アキちゃん様をペロペロしぇきるひょどひぃしゃをにょびゃしゅこともしぇきます!!(えっと、こんなに風に、アキちゃん様をペロペロできるほど舌を伸ばすこともできます!)」

 

「うっふぇ……気持ち悪いし、苦しいからさっさと離して!! それで他には?」

 

ノスフェルは舌を元に戻して、少しうずくまってから答えた。

 

「うーーん……あ! ダークボウルって個人的に私は呼んでるんですけど、手からドス赤黒い球体をぶつける飛び道具もあります♡これでいつでもアキちゃん様を守れますよ!!……あれっ、これってダークじゃなくてアームって言うんでしたっけ? まぁ……どっちでもいいですけどねっっっ!!!」

 

そう言いながら窓を開いたノスフェルは手から闇のオーラがぷんぷん纏った球体を作り出して投げ飛ばした。物凄い勢いと爆発音がわたしの耳をつんざき、慌ててベランダに出て見上げてみれば、雲にぽっかりと空いた穴が出来ていた。コレはヤバイ……。

 

「ホントに物騒だからそれもこれも使用禁止!!」

 

「えーそんなぁ……あっ! でも戦い以外にも使える能力ありますよぅ♪」

 

ノスフェルは残念そうにしながらもポンと手を叩いてから、ほんの少しだけ頬を赤くした。そんなことには目も触れずに、わたしは興味津々に聞いてみる。

 

「え、ホント? 例えば例えば?」

 

するとなんということだろう。

 

ノスフェルがヒョイと手をクロスしてから怪しいポーズをしたかと思うと、なんとわたしそっくりの人間みたいなものが目の前に現れたのだ。

 

……っえ!?

 

 

こ……これはどういう………???

 

「これはビーストヒューマンって言って、私が念じた人間の分身をそっくりそのまま召喚出来るのですよ! 私はビーストヒューマンを使って光の勢力との戦闘前によくシュミレーションをしてました!」

 

なるほど……元々戦闘民族みたいなノスフェルから見れば凄い便利な機能だ。待てよ、これって上手く活かせばわたしの仕事にも役立つんじゃ……!!

 

「おぉ〜、それは凄いね! わたしも上司に大事なプレゼン発表する前に使ってみたいよ!」

 

「わっかりましたぁ! いつでもお貸ししますよ! あ、でも、昼の時間帯はちょっと私の方でも使っているのでその時は無理ですよ?」

 

「え? ノスフェルも本番に向けて何かの練習してるの? それも誰に?」

 

「え、えっと……」

 

 

途端にノスフェルの顔色が真っ赤っかになってもじもじし始める。ノスフェルが強いことは既に他の能力を見て充分理解したつもりだけど、それでも練習無しじゃ勝てない相手がいるのかな? 数分程もじもじしてから、ようやくノスフェルが口に出した。

 

「それはっ……アキちゃん様です!」

 

「え」

 

「だって〜、今晩〜、共に夜を過ごすじゃないですか〜! その時に〜、しっかりと成功出来るように〜色々と練習しておいた方が……グへへへ〜〜!!」

 

ノスフェルが自らなにを露見したのか、さっきのバナナよりも早く判断したわたしは、とうとう恥じらいや恐怖を超えて、感情がぷつんと切れてしまった。わたしはゆっくりとノスフェルの元へ足を進める。

 

「ノォスゥフェルゥ……」

 

「ん? もも、もしかして早速してくれるんですか!? ありがとうアキちゃんさっ………」

 

 

 

 

「てめぇよぉ……やっていいこととダメなことがあんだろうよぉっ! 調子に乗ってんじゃねぇ!!!」

 

「ひぇっ!? アキ…ちゃん、様……?」

 

「第一、なんだその気持ち悪い呼び方は……ぼくに対してどの面下げて言ってんだゴラァァッッーー!!!!!!」

 

「ごぉ……ごめぇんなしゃぁぁぁぁい!!!!」

 

この後むちゃくちゃ説教した。

 

ノスフェルはまだ知らなかった。わたしには二つの性格があるということを。決して多重人格というわけではないが、ゲームなどをしてると夢中になって口調が変わる人や、ストレスが溜まったときにドスの効いた声調になったりする人がいるように、わたしにも過大なストレス又は嬉しい物事が蓄積してしまうと、性格が変わってしまう人間だったのだ。

 

どうやらわたしはストレスが溜まると、わたしの場合、男の子のようなヤクザ口調になるらしい。どうしてこんな風になってしまったか、はっきりとは覚えてないけど、多分子供の頃からそうだったとは思う。きっと親の遺伝だろう。怒りが収まったわたしははっと我に返り、ボロ泣きさせてしまったノスフェルを見て少し複雑な罪悪感が出てきてしまった。

 

「ぐすん……」

 

「まぁ、なんだ。その、わたしも……ゴメン。ストレスとか溜まると、わたしって気が付いたら男気が溢れる性格になっちゃうんだ。……変だよね、こんなの」

 

ノスフェルの目の不元には涙が流れたあとが付いていた。その白い目をぐしゃぐしゃにして泣き続けていたんだ。こんなにわたしのために涙を流しくれた人なんてお母さんやお父さんの次だ。なんで自分の感情をセーブできなかったんだろう。異生獣相手に申し訳ない気持ちが湧いて居心地が少し悪くなってしまった。

 

「いえ……私もすみましぇん……練習は今度から週に一度だけにします」

 

 

だめだこりゃ……。

 

でももう自然と怒りは湧いておらず、寧ろちょっとした嬉しさが込み上げてきたような気がしていた。

ノスフェルっていう『すぺーすびーすと』がどんな娘で、どういうことが出来て、どんなにわたしのことを愛してくれるか分かった気がする。いいや、はっきりと分かった。あんまり人には知られたくなかったわたしの悪い性格めこんなにもすんなりと受け入れてくれたし。恋人は流石に嫌だけど、ずっとずっと友達でありたいとちょっとだけ思っているわたしがいた。

 

「……それなら許してあげる」

 

さて、と。

とりあえず家事については基本的な点は大体分かってくれたようだし、次は外に出て人と会ったらどういう対応をすれば良いのか教えないと。ふとした拍子にノスフェルが人に向かってあのダークボウルとか投げ付けたり爪や舌で近所の人を殺したり、、、なんてことがあったら大問題だ。人間のマナーを守りつつ、尚且つどのように人と接するのか早いとこビシバシ鍛えとかなきゃ。でも今は真っ暗で遅いし、明日は珍しく仕事がお休みだから、今日はもういっか。

 

「じゃっ、今日はもう遅いから、さっさとお風呂に入って、一緒に寝よっか。ノスフェル」

 

「一緒に寝れる……♡。で、でも、私なんかが寝て良いんですか? 絶対私、感情を止められませんよ……」

 

「何言ってるの、いまベットは一つしかないし、これから一緒に暮らしていくことになるんだよ? わたし達もう家族みたいなものだよ。勿論そういう意味じゃないけど…….」

 

ノスフェルは少し前までわたしに怒られて落ち込んでいたが、数秒ぐらいわたしを見つめてから出会ってから一番の笑顔になって答えた。

 

「………はいっ! アキちゃん様!!」

 

「じゃあ明日は朝から外に出かけるからね! 人間のルールを学ぶためにも!!」

 

「りょーーかいですっ!!」

 

 

 

たまには寝てばっかの休日を過ごさなくたって良いだろう。今晩わたしがノスフェルに色んな基本的な点を教えてあげて、ノスフェルがそれら全部を受け入れてくれた。ヤバい性癖は心配しかないけれど、これほどわたしを想ってくれる人は親以外にほんっっとうに今までいなかったよ。

 

なら、しっかりとおもてなししなくちゃ!!

 







しかしこの時、わたしは気付かなかった。
ノスフェルがダークボウルを空に投げ飛ばしてから、遠くのビルからずっとわたし達の様子を見つめていた謎の少女がいたことを。


「……あの人間。俺達スペースビーストの強力な戦士であるノスフェルを服従させるとは……、




絶対に許さん!! 覚悟しておけ、人間。貴様は絶対にこの俺がブッ殺す!!!」


そこまで言って彼女はまるで幻影だったかのように一瞬でその場から消え去っていったのであった。


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#3最初の刺客、ダークガルベロスの奇襲!(この星のレリックまでは壊さないで!)

なんで?


「アキちゃん様、下がっててください!! ぐううっ……」



どうして?


「何故だ、ノスフェル? 何故なんだ? 何故人間を守る? はぁっっ!!」



なんでこうなっちゃっうの……?



「私は……、私はアキちゃん様と、この場所が好きだからぁぁぁ!!!!」



時は遡ること半日前、家でノスフェルが作った朝食をとるところから物語は始まる。

 

「おはよーノスフェル……どうしてそんなにニコニコしてるの?」

 

「おはようございます、アキちゃん様! 当たり前ですよ、だって今日はアキちゃん様との初デートの日なんですから♡ あっ、ちゃんと昨日言われた通りに早速朝ご飯を作ってみましたよ! 是非食べてください♡」

 

「だからそれは人間社会のルールを学ぶためであって、決してデートじゃないからね!……おー! ホントにノスフェルが朝食作ってくれたんだ! ありが……」

 

そう言って、わたしは思わず膠着してしまった。テーブルの上にあったのはわたしが見たこともない不気味な食べ物の数々。う、嘘でしょ……。そもそもこれって、地球上に存在する物質なの……?

 

「うん……、まぁ、そうだよねぇー。料理なんて始めてだろうし……、最初は誰だって仕方ないよ……」

 

でもだからといって食べないのは折角作ってくれたノスフェルに対して失礼だ。わたしは早々に覚悟を決めて椅子に座る。箸を握るだけで震えてくる指をノスフェルに気づかれないように抑える。

 

「い、いただきます……」

 

やっぱり……まっっっっずぅぅぅぅいっっっ!!!!

 

「どうですかぁ?」

 

ノスフェルがニコニコで答える。気分はまるでメイドさんのようだ。でもわたしの気分は給食で脱脂粉乳を飲まされたあとみたいな感じだ。まるで切り株を食べさせられてるような味だった。なんとか吐き気を抑えながら必死に笑顔を作ってわたしは答える。

 

「うっ……うげぇ………美味しいよ、でもゔぇ……まだまだだね」

 

うん。あとでもう一度、御飯の作り方をノスフェルに仕込んで置かないといけないな。

 

 

対してノスフェルはと言うと、わたしの気も知れずに、

 

「えー!? そんなぁ……気合入れて作ったんですよぉ〜」

 

と可愛子振って悔しがっていた。しかしそのときに彼女の目には、何か悔しさだけではない何か……不安なものを感じさせた。

 

……気のせいだよね。

 

 

 

「アキちゃん様とデート〜♡ぐへへ……」

 

「だからっ、デートじゃないのっ!! 全く……マイペースなんだから!」

 

「まぁまぁいいじゃないですか! さっ、次行きましょうよ!」

 

「ちょっーと待った!! 今は赤信号、止まれだよ!!」

 

「えー!! でも赤は大チャンスですよ? 点滅し始めたときとか特にそうです!!」

 

「郷に入っては郷に従え。屁理屈は言わずにちゃんと覚えること!」

 

なんとか朝食を完食してひと準備をしてから、わたし達は外に出かけた。駅や公園、お店にコンビニやらと、色んなところへ巡っては満喫して楽しむ。ノスフェルに地球のルールや暮らし方を教えるためだ、でもつまらないんじゃもったいない。だからこれは決してデートではない……何度も言うけどノスフェルは女の子なんだし。

 

「なるほど! これが公衆トイレですか……中に入ってもいいですか?」

 

「良いけど……」

 

「やりましたぁ! わーーい!! さっ、アキちゃん様も一緒に……」

 

「ごめん、そっちは男子トイレだよ。あと滑りやすいから走らないでね」

 

「えっ……っていたぁっ!! そう言うことは先に言ってくださいよ……」

 

「ごめんごめん笑」

 

とまぁ、こんな風にわたし達はなんだかんだで楽しいひと時を過ごしていったのであった。そして時は流れる。

 

「じゃあ次はショッピングモールに行こっか」

 

「ショッピング……ってなんですか? スーパーマーケットと同じじゃないんですか?」

 

「うーん……そう言われるとちょっと難しいなぁ。とにかく大きな建物で、古今東西、色んなものが種類別に売ってあるの。食堂とかもあるんだよ」

 

「うわぁぁ……。それは楽しみですっ!」

 

「そうだね」

 

ノスフェルのスマイルにわたしも笑顔で返して、ふと思った。こうしてわたしは地球のことをノスフェルに教えていて、彼女はそれを全て受け入れてくれている。けれどもしもこれが真逆の立場だったらどうなっているのだろうか。わたしはスペースビーストが群がる暗黒の世界を受け入れられるのだろうか。闇の勢力とやらに身を任すことが出来るのだろうか。正直、わたしはそんな自身はない。太陽が輝くこんな昼間から堂々しながらノスフェルは、わたしとこの星を受け入れたんだ。考えてみれば信じられない話だ。

……そういえば、以前ノスフェルが言ってた闇の勢力だの光の勢力だのって……あれって一体どういうものなのだろう。

なんで光とか闇とかは対立しているのだろうか。

 

 

――そうか。わたしは、ノスフェルのことをもっと知りたかったんだ。

 

そう考え込みながらデパートに着く。

 

「おー! これがエスカレーターですか!! 凄い、勝手に上がっていってます!」

 

「……ねぇ、ノスフェル」

 

「ん? どうしたんですか? アキちゃん様?」

 

「前から気になってたんだけどさ、闇の勢力とか光の勢力とかって一体なんなの?」

 

「えー、今それ聞いちゃいます?」

 

「聞いちゃいます。ほら、エスカレーターに乗ろう」

 

「一緒にエスカレーターに乗りながら秘密を赤裸々する……♡分かりましたっ! じゃあ早速乗りましょ!!」

 

「えっ、わたし今なんか意味深なこと言った?」

 

わたし達はデパートの最上階を目指して、エスカレーターに足を踏み入れた。

 

 

 

「それでは説明します。えっと……闇の勢力にいる者はみんな暗い、真っ暗な世界、そして負の感情がある場所でしか生きられないんです」

 

「要するに、恐怖ってこと?」

 

「そうですね。反対に光はその逆。明るいところや、幸せの感情があるところだけです。だから、お互いの住処を守護し、繁栄する為に対立しているんですよ」

 

「ちょっと待った。この星は明るいよ? どうして闇の勢力のノスフェルがここにいられるの?」

 

「それはですね、地球には光と闇が同じくらいあるからですよ!……いろんな意味で」

 

色んな意味で……なるほど。確かに心の中に闇を抱え込む人達は多い。それに夜になれば光と闇は逆転するしね。

 

「もしかしたら私以外にも既に地球に潜伏してる異星獣達がいるかもしれませんねぇ……でも、」

 

「でも?」

 

「私が何よりこの世界で生きていけれるのは、他ならぬアキちゃん様のお陰です。始めてアキちゃん様の家に来てから私は暖かさと優しさを知りました。光や闇なんて関係ない。ここが私の家なんだなって」

 

「ノスフェル……」

 

「だから一生この私を下僕にして、いっぱいいっぱいやっていきましょうね♡」

 

「ノスフェルゥ……」

 

最上階に降りて、付近のお店を見ながら回る。10年に一度の感動を一瞬にして壊された気分だ。憎たらしい程にキラッキラッに輝いているノスフェルの笑顔に、わたしは拳骨を与える。

 

「あいたっ! 何するんですかっ!」

 

「なんとなく。じゃあ他にはなんかないの?」

 

「他にですか。そうですね……闇の勢力には異星獣ことスペースビーストの他にも、ウルティノイドという私達を使役できる闇の種族がいますよ。それに対して光の勢力には、ネクサスと呼ばれる受け継がれる光の種族や、来訪者とか言う……あれ? アキちゃん様、どうかしました?」

 

やば……話の途中だけど、めっちゃお腹が痛い。どうしようどうしようどうしよう。やっぱ朝のノスフェルのご飯が来ちゃったんだなぁ。

 

「ごめん……ちょっとトイレ。ノスフェル、そこの洋服屋さんを見て待ってて! 話は出てから聞くよ!」

 

「……分っかりましたぁ! 待ってます!!」

 

わたしは猛ダッシュで更衣室を探す。女子トイレ女子トイレ……。あった!

 

___________

_____

___________

 

ふう、助かった……。

 

 

数分後にトイレの個室から出たわたしはふうと少し安堵してから、急いで洗面所へと向かった。ノスフェルはきっと何かしら変なトラブルを作り出してそうだし、面倒なことが起きる前に、早いとこ戻らないと。そう思って手を洗い、トイレを出た。

 

「やっと見つけたぞ人間、貴様に話がある」

 

「ふぇっ……!?」

 

どうやらトラブルに巻き込まれていたのはわたしの方だったようだ。

 

 

更衣室を出たわたしの目の前に、茶髪な髪の毛に右目は白色、左目は黒色。真っ黒色の時期外れな癖のある形のマフラーを身に纏い、ボロボロな紺色のユニフォームを着た高校生くらいの少女が、まるで対戦相手を探し回る飢えたボクサーのようにわたしを睨みつけていた。

 

 

なんだ、この娘のこの格好……。普通じゃない。明らかに人間じゃないよ。だってよくよく見たら、彼女の背中に尻尾が生えてるもん。

 

――間違いない。この娘は異生獣(スペースビースト)だ。

 

まさか話って……。

 

「何が目的なの……?」

 

その少女は足が少し震えているわたしを見逃さずに言い放った。

 

「ほう……貴様、俺の正体に気付くとはな。流石ノスフェルを従わせているだけはあるようだな。」

 

その格好じゃ誰でも怪しむよ。あと従わせてなんかない、本人がわたしと暮らしたいって言ってるから一緒にいるんだ。

 

「今更自己弁護をしたって無駄だ。闇の勢力の重要な戦力、ノスフェルをたぶらかした貴様を絶対に許さない……」

 

 

あ……なんか嫌な予感。わたしは目を逸らして逃げられそうな場所を探しながら後退りする。

 

 

「俺が貴様をブッ殺す!!」

 

やっぱりぃーー!

 

「ま、待ってよ!? 話せば分かるって!!」

 

「人間ごときが図に乗るな。俺を怒らせるんじゃ……ねぇぇっ!」

 

彼女はマフラーの両端から火炎弾的なのを放射してわたしに襲いかかる。

 

「うわぁっ!?」

 

間一髪で少女の攻撃を避ける。トイレの入り口が真っ黒に焦げた。流石に周りの人もこれには驚いてるよね。わたしは周りを見回した。

 

人々はわたし達に見向きもしてない。

 

……おかしい、誰も気付いてないなんて。それどころかデパートの空間が徐々に歪み始めている。何が起こってるの?

 

 

「残念だったな、人間! 俺は今なぁ、俺とアンタだけしかいない空間、ダークフィールドを展開してやったんだ。だから貴様はここから逃げられない。ついでに言うと、焼け焦げたトイレは俺が貴様に見せている幻影だ。」

 

 

な、にそれ……つまりはわたし、閉じ込められているってこと!? 脱出不可能じゃない! 幻影って、ノスフェルが持ってる能力じゃなかった。スペースビーストって他にも色んな力を持っているんだね。てか、これってマジでヤバくない!?!?

 

「俺の名はダークガルベロス。さぁ、絶望を味わって死ぬがいい……喰らえっ!」

 

ダークガルベロスと名乗る彼女はそう言ったと同時に、わたしに狙いを定めて飛びかかってくる。

 

「やっ、やめてぇっ!!」

 

わたしは覚悟をして目を瞑った。

 

 

ああ……どうすれば……わたしはこのまま、死んじゃうのかな……

 

 

 

 

 

まだ話の続き、聞けてないよ。

 

 

ノスフェルっ……。

 

 

もう一度、もう一度あの憎たらしくて、キラキラしたノスフェルの笑顔が見たい。

 

 

見たいよ……。

 

 

 

 

 

グシャァッと音が響いた。とてつもなく体中が痛………くない!?

 

わたしは目を開ける。

 

ダークガルベロスの手を抑えていた彼女(ノスフェル)の背中があった。

 

 

「ノスフェル……?」

 

 

「ごめんなさいアキちゃん様。私は待つのが嫌いなんですっ……」

 

ノスフェルの白い目から1滴、涙が出ていた。でも、憎たらしいくらい最高にキラキラしていた目だった。

 

「ノスフェル……。貴様、どうして人間を守る俺がアンタを助けようとしているんだぞ……」

 

「………ガルベロス。君は間違ってるよ、確かにこの町は私達が住むには眩し過ぎる。けど、それ以上に……私はそれ以上にっ―― ――なんだ!!」

 

 

「きゃっ!」

 

二人が衝突した衝撃で激しい爆発音がして、そのあとはよく聞こえなかった。でも既にその答えは知っているような気がする。

 

「アキちゃん様、下がっててください!」

 

「うん……ありがと」

 

ノスフェルを信じよう。わたしを信じてくれたんだから。

 

「ぐううっ……」

 

 

「何故だ、ノスフェル? 何故なんだ? 何故人間を守る? はぁっっ!!」

 

 

「私は……、私はアキちゃん様と、この場所が好きだからぁぁぁ!!!!」

 

 

わたしを殺してかつての仲間を取り戻そうとする者と、わたしを守ってかつての仲間に理解させようとする者。

 

ノスフェルとダークガルベロス、二人の『すぺーすびーすと』は人並みとは思えない、驚異的な速さと動き戦闘を始めたのであった……。



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#4ガルベロス、高校に通う!?(もうダークネスから抜け出したの?)

わたしの名前は古紋アキ、どこにでもいるような新人OLの女性。
ひょんなことから異生獣(スペースビースト)と名乗る娘・ノスフェルと暮らすことになってしまった。そんなノスフェルとデパートに行っていたある日、闇の勢力の刺客であり、二人目のスペースビースト、ダークガルベロスにわたしは襲われてしまい、そんな絶体絶命の中でわたしを救ってくれたノスフェル。しかしわたしを狙うダークガルベロスとわたしを守るノスフェルという二人の異性獣が遂に対峙する結果となってしまった。

そして今ここに、スペースビースト同士の激しい戦いが幕を開けるのであった……!



二人の異星獣は勢い良く走り出して、人間では不可能な動きを次々に展開する戦闘が始まる。

 

 

「ぐりゃあああああああ!!!!」

 

「ぐぐぐ……はっああああ!!!!」

 

激しい……。言葉では表現の仕様がないよ。俊敏な動きで互いの攻撃が繰り出されている。普段のタランとしたノスフェルとは大違いだ。……もしかしたらわたし、本当に大変なモノが懐に入ってしまったのかもしれない。

 

「目を醒ませ、ノスフェルゥ!!」

 

ダークガルベロスのマフラーの両端が猛犬の如く荒れ狂い、火炎弾を連続発射してノスフェルに仕掛ける。

 

「だぁっ! はぁっっ! お断りするよっっ!!」

 

ノスフェルは火炎弾を華麗にかわしながら、いつか(と言ってもたった昨日の話なのだが)見せた赤黒い球体、ダークボウルで迎え撃つ。

 

一見戦況は互角かのように見えるが、自分の意思でわたしを防衛するノスフェルに困惑を隠せないのか、ほんの少しだけダークガルベロスの方が押されている。

 

 

よし、これならもうだいじょ……。

 

 

 

 

待って。

 

 

 

でも、これでいいのかな……?

 

 

 

 

本当に、これだけでいいのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このまま、ダークガルベロスが倒されて良いのかな?

 

 

 

 

 

 

「……これで! お仕舞いですぅっっ!!!」

 

ノスフェルの長く鋭い爪がダークガルベロスのお腹を突く。

 

「がひゃあぁぁっっーー!!!!」

 

お腹から粒子のような返り血が飛び、ダークガルベロスは呻き声を上げながら倒れ込む。その顔の様子からは今にも息絶えそうなほどの苦しさが伝わってくる。

 

「ぐはっ……ぐがあぁ……」

 

「ダークガルベロス、アキちゃん様に牙を向けた罪はとてつもなく重いものです。悪いけどあなたはここで死んで償ってもらいます……」

 

ノスフェルの爪が上半身を起こしたダークガルベロスに牙を剥く。

 

 

 

 

 

 

このまま倒せば、わたしを殺そうとした娘はいなくなる。

 

 

 

 

でも………でもっ……。

 

 

 

こんなの……

 

 

 

 

こんなの良いはずがないっ!

 

 

 

 

戦って倒して終わりじゃない。それだけじゃ根本的に何も解決なんでできやしない、しないのよ! 彼女の価値観や使命のために、彼女達の種族のために私を襲ったことは、彼女にとっては間違ってない筈なんだ! 例え違う種族でも……わたし達はきっと分かり会えるはずだ!

 

 

今ここで誰の生命(いのち)が果てようと、誰も喜ぶことなんてできない、虚しいだけなんだ。

 

 

わたしは走り出し、ノスフェルの片手を掴んだ。

 

「待って! もう辞めよう? こんなのおかしいよ!!」

 

予想外の事態にノスフェルはもちろん、傷ついたダークガルベロスも驚愕している。でも構わない。今止めなきゃわたしは、いやわたし''たち''は絶対に後悔する。

 

「何故ですかアキちゃん様……? ダークガルベロスはアキちゃん様をっ……ふひゃっ!?」

 

わたしはノスフェルの頭を撫でた。

 

「ノスフェル、助けてくれてありがとう。嬉しかったよ。わたしとノスフェルは全く違う生き物なのに、こんなに温かい絆を感じられたから。……だから、さ。ダークガルベロスだって、確かに異種間の差異は大きいかもしれないけれどもきっと、分かり合えると思うの! だから殺しちゃダメ!!」

 

「ず……ずるいです、アキちゃん様……」

 

照れるノスフェルを他所に、ダークガルベロスはわたしに問う。

 

「なんだと貴様……。俺はアンタを殺そうとしたんだぞ!? 目を離せば必ず殺しにいくぞ? それでもまだ俺を許すとでもいうのか?」

 

わたしは振り向いて笑顔で答える。

 

「その時はその時。お互いに理解出来合うまで付き合うよ。ノスフェルと一緒にね。だからわたしは……あなたを許したい」

 

 

「人間……お前……」

 

「アキちゃん様、なんて優しいんですか! 流石私だけの唯一の正妻です……」

 

ノスフェル、今すぐその長い舌も一緒にお口にチャックして。わたしはダークガルベロスに手を差し伸べた。

 

「ほら、今日の敵は、明日の友だよ……!!」

 

ダークガルベロスはわたしの手を見つめる。

 

「俺が……俺なんかが掴んでも良いのか? 俺は闇の勢力、貴様の恐怖を喰らうモノなんだぞ……」

 

隣でノスフェルがニコッとして代わりに返す。

 

「良いんですよ。私なんかハートまで奪われてしまいましたから♡」

 

「……そうか、そうなんだな……」

 

ガルベロスは漸くわたしの手を掴んだ。

 

 

すると突然、禍々しいダークガルベロスの服装が輝きだす。

 

 

「まっ、まぶしっ……! 急に何なの!?」

 

「まさか……。ダークガルベロス、あなた光を?」

 

光? 闇の勢力であるはずのダークガルベロスが光の勢力になっちゃうってこと?

光堕ち的な? ってそれアリなの!? こういうのってもう少し話が進んでからなんじゃ!?

 

眩い光が解き放たれ、ダークガルベロスの服装が眩しくなくなった。そこにはボロボロな紺色のユニフォームではない、まっ黄色に染まった綺麗なユニフォームを着こなすダークガルベロスがいたのだった。でもダークらしさは無いよね……。傷まで全て癒えた彼女はゆっくりと立ち上がる。

 

「ダークガルベロスじゃない、今日から俺の名前は……ガルベロスだ」

 

「……まさか、そんなことが……」

 

「改めて……よ、よろしくな、人間」

 

「うん……よろしく」

 

ノスフェルが茶化しながら謝罪をする。

 

「さっきはごめんなさいね、ガルベロス。でもまさか貴女が光を手にするなんて驚きですよ!」

 

「俺も謝る。………ごめん。それと、人間。……その、えっと……」

 

そしてわたしの方を見て、赤面で口をモゴモゴし始める。

 

「どうしたの? ガルベロス?」

 

「ふ……ふんっ! け、決して、俺は負けたんじゃねーんだぞ! 次会ったら今度こそ俺はアンタらに勝ってやる! 絶対勝つからなぁー!」

 

ガルベロスは逃げるように去って行ってしまった。逃げ去る彼女にわたしは言った。

 

「拳を振るわないものなら、なんでも受けて立つよ〜!!」

 

まっ。こういう分かち合いも、悪くないよね。

 

 

 

 

 

 

 

帰り道、ハプニングもあったものの、その後も十分に羽を伸ばしながらノスフェルに色んな物事を教えることができた。無事ノルマ達成ってところだ。でも空はもう夕焼け。時間とは、あっという間に過ぎるものなんだなぁ。わたし達は他愛もなく話しながら歩いていた。

 

「あの時のガルベロス、すぐに行っちゃいましたね……」

 

「そうだね、……また会えるといいね」

 

「きっと会えますよ。ガルベロス、素直じゃないだけの娘ですから。それと……」

 

「それと?」

 

「……私、彼女から、ものすごく暖かい光を感じました。それもどちらの勢力にも属さない光……。アキちゃん様、光ってなんなんですか?」

 

あっ、ガルベロスは正式な光の勢力に寝返った訳ではないのね。でも、ノスフェルだって同じなんじゃないの? そう言いたいところだが、なんとなく今はやめて、代わりに違う言葉を返した。

 

「そうだねぇ……光って、温もりなのかな?」

 

「温もり……ですか。私にはまだはっきりとわかりません。少し前なら分かってたと思ってたのですが……」

 

彼女の白い目は黄昏ていた。なるほど。きっとノスフェルもわたしの見えないところで沢山苦労してきたんだね。

 

「わたしもよくわかんないよ、そんなこと。でもさ、わたしはノスフェルに感じてるよ。温もり」

 

「……そうですよね! その内見つければ良いですもんね!! じゃあ取り敢えず、私の今の温もりもアキちゃん様です!」

 

「そうだね。じゃっ、帰ったら一緒に今日買ったものでも食べよっか」

 

「はい♡」

 

_______________________

_______________

____

 

 

「えぇ……どうしたの……ガルベロス!?」

 

翌朝、週明け。それはいつもより早く余裕を持って会社に向かった道中のことだった。なんとセーラー服を着たガルベロスに遭遇してしまったのだ。早速遭遇出来たのはいいけれど、一体これはどういうことなの!?

 

「こっ、これはだなっ……そ、そのぉ……俺だってせっかく地球に来たんだ、だから……そう! この星を調査しようと思ってだな、今日からJKとやらになってあの江抜高校に潜伏することにしたんだ!!」

 

「ええっーー!?!? そんなのってアリ!?」

 

「別に良いだろ! いかんせん俺はノスフェルより若い体付きなんだ、生きてくにはこれしか職がねぇだろ!!」

 

確かに始めてあった時はガルベロスって女子高生っぽい容姿だなぁー、っとは思ってたけど……。これはびっくりだよ。しかも以外と似合ってる……。可愛い。……写真撮ってもいい?

 

「う、うるさい! 忘れんなよ、俺は絶対アンタ……えぇっと、」

 

「古紋 アキ。アキでいいわよ」

 

「よ、よしアキ! この俺、ガルベロスこと軽部 露乙津(かるべ ろおず)が絶対に今度の期末テストでアキをぶっ倒してやるからなぁ! 今に見てろよ!!」

 

「あっははは……」

 

何処から突っ込んで置けばいいのやら。取り敢えず今度ガルベロスと同じ枝抜高校に通ってる親戚の子から問題用紙でも見せてもらうとするか……。確か、アイツもガルベロスと同年齢だし、もしかしたら同じクラスになっちゃったりして。まー流石にそんな偶然はないか。

 

「言っとくけどわたし、青春捨てて勉強全振りしてた人だから、それなりに強くなってきてから勝負しなさいよ?」

 

「もっ……もちろんだ! 人間のアキが出来ることなら俺だって出来るさ! とっ、とくと怯えるがいいっっ!!」

 

「……はいはいっ」

 

やはり少し恥ずかしかったのか、はたまた妙なやる気に満ちたのか、ガルベロスはそう言い終わったあとすぐにもの凄い早さでいざ高校へと走って行った。わたしは少し呆然としつつも、すぐに満面の笑みとなった。やっぱりあのとき、ちゃんと止められてよかったよかった!

 

 

 

 

 

 

 

 

「うそっ、もうこんな時間!? 折角早く出たのに〜〜!!」

 

何気無く時計を確認したわたしは今日も慌てて走り出したのであった。

 

 

 



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#5アキのTLT社蓄生活!(ヒーロー気取りのカメラマンに付け回されてもう大変!!〕

わたしの名前は古紋アキ。どこにでもいるような新人OLの女性!
ひょんなことから異生獣(スペースビースト)と名乗る娘・ノスフェルと暮らすことになってしまった。
そんなはた迷惑なノスフェルだけど、唯一わたしの生活を邪魔することが出来ない領域がある。それはそう、わたしの仕事場。今日はそんなわたしの大変な1日を見てほしいな。


「おはようございまぁーす」

 

「古紋さん! あなた五分も遅刻してるわよ!!……この企業の財政を調べて売り上げをまとめてちょうだい。今日中にね」

 

「はーい、分かりましたぁ……って立花さん!? これって様々なコンテンツで莫大な売り上げを出している大手企業の株式会社、バダインじゃないですか!?!? こんな大企業を1日でやるんですか!? わたし一人で?」

 

「何言ってるの、当然でしょ! 今は夏季到来(人員不足)で誰も手が離せないんだから。翌朝までにはマスコミに各企業の株価に関するニュースで公表する為の資料として提出しなければいけないんだから文句言わない!!」

 

「そ……そんなぁ………嘘でしょぉ……」

 

「頼んだわよ、こ・も・ん・さん」

 

「はぁい……」

 

 

うぅ……最悪だ。今日は職場に五分も遅刻してしまった。これだから朝の満員電車は嫌なのに。もうすぐ夏休みなんだから少しくらいは人減ったっていいじゃん! しかもそれだけじゃない、今日はたった一人であのバダイン社の売り上げを調べあげなきゃいけないのだ。期限は今日中。パソコンに何時間も向きあうだけじゃなく、バダインの業者さんに直接話を聞かなければならない事案だわ。ホントに今日はツいてない……。

 

と、ここまで自社を貶してきたが、決してうちの会社がブラックというわけではない。わたしが勤めているこの会社・TLT(ティルト)は主に『自分の会社の財政や株価のデータ管理してほしい!』とか、『メディアを始めとした会社でこの情報の資料を要するのでデータが欲しい!』といった依頼人によって仕事が成り立っている。ただしTLTは一般的には公にはなっていない会社だ。MP課の人達がそこら辺を厳しくチェックしているようだけどね。

 

話を戻して、上述した依頼人は、ある程度四季の法則に基づいており、依頼が集中して来る時期と全く来ない時期があるのだ。春秋は顧客が少ないけれど夏冬は馬鹿多い。しかも夏季は帰省ラッシュや休暇を取る社員が多いから人員不足になりがちである。

 

要するにめっちゃ暇な時期もあれば、めっちゃ忙しい時期がある変な仕事なの。それでも新人のわたしでもノスフェルを養えるぐらいの給料を貰えてるからいいもんだよ。

 

 

早くも朝から沈んだ気分になり、わたしの部署ナイトレイダAのオフィスの席に荷物を置いて溜息をつく。

 

「はぁ〜っ……」

 

「おはよう。その様子、もしかして古紋さんも1日でやれって言われた感じ?」

 

席の隣から声を掛けてきた男性は、わたしより一年先輩の条井(じょうい)ナギサさん。今まで何度も面倒な物件を助けてくれたわたしの憧れの先輩だ。

 

「はい……。今日はバダインを1日でやらなきゃいけないみたいっす……」

 

「ひぇー。それはまた立花さんは随分な無茶言ったね。まだまだ古紋さんは新人なのに」

 

「はぁい、なんとか期限の猶予は伸ばせないもんですかね」

 

「うーん、僕に任された二件の会社も今日中に片付けなきゃいけないみたいだし、流石に今回ばかりは無理そうだなぁ……。ごめん!」

 

わたしは驚いて思わず声を大きくする。

 

「えっ!? 先輩二件もですか!?」

 

「まーそこまで大きな会社って訳じゃないけどね。――でもさ、ああ見えて立花さんは古紋さんに期待してるんじゃないかな?」

 

「えっ、どういうことですか?」

 

「立花さんはね、いつも真面目で厳しいけれど、みんなことを誰よりも考えてるからこそああいうこと言えるんだよ。僕が古紋さんの時だった頃なんか、僕の分も文句言いながらやってくれたし、古紋さんより僕の方がもっと辛辣に言われてたよ。そもそも立花さんは本来AじゃなくてBの人なのにね」

 

始めて知った。いつもいつも厳し過ぎてTHE・ブラックな上司に相応しい人柄なのに、そんなに良い人だったなんて。

 

「そう……なんですか」

 

「きっとそうだよ。……じゃ、僕は立花さんに言われた企業先に行ってくるから。古紋さんも頑張ってね!」

 

「はーい、条井先輩行ってらっしゃーい」

 

ナギサ先輩は颯爽とまとめた書類をカバンにまとめてオフィスを出て行った。相変わらず先輩は爽やかだ。わたしもいつか、あんな風になれたら。それに比べて、今のわたしは……。再度溜息が漏れてしまった。

 

「はぁ、もうやってけないっすわ。……あっ、アキりん」

 

わたしと同じタイミングで向かい側の席で溜息をついた彼女の名は新谷(あらたに)ミキ。わたしの同期で、条井先輩に絶賛片想い中なんだって。

 

「ミキりんも仕事量が半端ないって感じ?」

 

「アキりんほどじゃないけどね……ただ、」

 

「ただ?」

 

「条井先輩が行っちゃったと思うとなーんかやる気なんて出なくなってさー」

 

ミキはいっつもこんな調子なのだ。わたしは呆れて仕事に戻る。

 

「……ごめん、聞いたわたしが馬鹿だった。さっ、仕事やろー」

 

「アキりんひっどーい!! ちゃんとわたしの話を聞いてよー!」

 

_________

____

_

 

「これでよしっと」

 

数時間ぐらいパソコンに向かってデータ収集や管理をして書類を作成しつつ、バダイン社の方に電話かけて双方の都合に合わせた時間帯を決めることがなんとかできた。時刻は午後一時。もう休憩時間か。わたしは一息ついてから腕時計を見つめる。

 

「ふぅ、午後二時からか」

 

後ろから肩をポンポンと叩かれて優しく声をかけられる。

 

「古紋さん。お昼、一緒に食べようよ」

 

「ああ、佐大さん! そっか、もう昼御飯の時間だよね。分かった、じゃあ行こっか!!」

 

わたしに話しかけてきたこの女性はもう一人の同期、佐大(さだい) リコさん。ナギサ先輩以外周囲が見えてないミキとは違ってリコは真面目に仕事をこなしているので、どうしても話す時はわたしも少し固くなっちゃう。でもでも、決して仲が悪いというわけじゃないよ!

 

リコはわたしの返事を聞いて不気味なほどにこやかな笑顔を作って、ただ一言。

 

「ありがとう」

 

と答えた。

 

 

わたし達は屋上に移動し弁当を食べていた。わたしは弁当箱の中のハートの形をした具を見て少し呆れて吹きかけてしまう。全く、いいって言ってるのに勝手にノスフェルは毎日毎日弁当を作ってくるんだから。アンタはわたしのメイドか。愛が無駄に重いよ。ノスフェルは異星獣だし、味覚も不十分(アンファンス)だから最初は本当に吐き気を催しがるくらい不味かったんだけど火を重ねる内に腕が上がってきて、いつのまにかとても美味しくなっている。悔しいけど、わたしのより美味しいよ、コレ。はぁぁ……とろける〜〜。

 

「古紋さんの弁当、前まで目の保養にも悪かった見た目だったけど、最近のは本当に美味しそうだね。羨ましいよ」

 

ははは……わたしじゃないんだけどね。それに若干ディスられてる気がするし。

 

「あ、ありがと。佐大さんのも美味しそうだよ」

 

「そうかな……でも私、自分で弁当作るのが苦手で、いつも料理得意の弟が作ってくれてるの。ねぇ、古紋さんのようにわたしも上手くなりたい。その弁当の作り方教えてよ」

 

額から冷や汗が垂れる。

 

「あー、これわたしが作ってる訳じゃないんだ……」

 

「へー。誰が作ってるの? 家族?」

 

「そっ、それは……企業秘密」

 

わたし達はクスッと笑った。するとそこからよろよろとぶっきらぼうにたった一人の男性社員が屋上の扉を開けてやってきた。彼はわたし達と少し離れた椅子に座り、弁当を取り出そうとしている。しかし、がっぽりと落として、中身が飛び散ってしまっていた。

 

「くそっ……なんなんだよ……」

 

ブツブツ言いながらおどおどする彼は沢海(さわみ) ヒロキ。失敗ばかりする癖にひん曲がっているMP課のダメダメ社員だ。会社にそういう人は一人か二人はいると聞くまさにそんな感じの人。正直、こういう人とはあまり関わりたくない、ちょっと苦手だ。ダメダメ、何か違うこと考えなきゃ。違うことちがうこと……じがうことじかんこと時間こと…………………時間!

 

「はっ!」

 

慌てて時計を見る。もう一時半じゃん! やっばい! バダイン社に向かわなきゃっ!!

 

慌てて弁当箱を片付ける。

 

「ごめん佐大さん、これから行かなきゃいけないところがあるんだった!!」

 

「そっか、もっと話したかったけど残念。……あ、そうだ古紋さん。これあげるよ」

 

そう言ってリコが手から出したのは青色のマスコットキャラの様なキーホルダーだった。

 

「なにそれ?」

 

「ガンバレクイナちゃん。私が作ったお守りなの。古紋さん、最近仕事大変そうだからさ」

 

「そんな、わざわざ……佐大さんありがとう!」

 

嬉しい気分になり、わたしは気合を再度入れ直そうとした瞬間だった。思わぬ発言をリコがしてきた。

 

 

 

 

 

「古紋さん、私好きだな。恋人になってあげたいよ」

 

えっ

 

 

 

 

 

 

リコはいつになく真剣な目つきではっきりと言い切った。わたしは暫く硬直する。

 

 

やがてリコがいつもの表情になって笑った。

 

「なんてね、冗談だよ。ほら、行かないと」

 

その一言で我に返ったわたしの目が覚めた。

 

「あっ、そ、そっそうだ!! 行ってきます!」

 

なに動揺してんだよ、わたし。

 

 

〜〜一方その頃ご自宅では〜〜

 

「ぐへへぇ^〜〜!! ビーストアキちゃん様ぁ^〜〜!!! ……はっ! この振動波、まさか……!! 何か嫌な予感がします。アキちゃん様、大丈夫でしょうか……」

 

家事を途中まで終わらせて、休憩がてら一人で行為をしていた最中に不意に感じた、謎の寒気にノスフェルは行為をやめて少し考え込んていた、が。

 

「まさか、そんな筈ありませんもんね! さぁ再開再開!!」

 

________________________________________________________________________

 

「なっ……なんなのよ、アンタ……」

 

急いで会社を飛び出た直後の出来事である。

 

 

「よぉ。突然だがアンタのこと、ちょっと調べさせてくれ」

 

 

 

 

 

 

なんか変な奴がわたし目的でスタンバってた………。

 

 

 

格好からして、如何にもカメラマンって感じの男だ。週刊誌? マスコミ? どちらにしても面倒臭い。なんとしてもこの会社やわたしの素性をこんな男にバラすわけにはいかない。MP課にでも連絡しようか。いや、まだそこまで深刻じゃない。大人の対応でさっさと振り払おう。

 

「あの、我が社にご要件がありましたら、受付にて連絡を頂けると……」

 

そう言い放ってさっさとバダイン社に向かおうとするも。

 

「いや! 俺はアンタに用があんだ。頼むから取材させてくれー!!」

 

うぅ……。ぶっちゃけ面倒臭い。

 

「けっ、結構です!」

 

わたしはとにかく立ち止まらずに距離を取りながらそう言った。しかしながらカメラマンも中々しぶとい。早く諦めてよ。

 

「ほら、最近さぁ。物騒な世の中でしょ? だからこそ真実を知りたいんだよ、俺も」

 

「なんの話のことだが知りませんが、わたしは忙しいんです!」

 

「分かってる! ちょっとで良いんだ! だから取材させてくれ!!」

 

「いやですよ! 予定に間に合わなくなります」

 

「これは世界を救う為なんだよ、アンタだって平和が一番だろ?」

 

「そりゃあ平和が一番ですけど、世界を救うのがわたしと話すのと何の因果関係があるんですか」

 

「いやいや本当に頼む! 一回だけでいい、だから取材をさせてくれ!!」

 

「結構ですって……」

 

 

 

 

なんだコイツ……すっっごいめんどくさぁぁぁぁぁぁい!!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……やっと一日が終わったぁ……」

 

今日は本当に疲れた。なんとかカメラマンを切り抜けてバダイン社からコンテンツ別に売り上げに関する情報提供をする話でオッケーとデータをもらえた。それから会社に戻って(まだスタンバイしていたあのカメラマンを上手いことまいた事は言うまでもない)資料をまとめあげる作業を終わらせて、残っていた上司に提出する頃には既に定時時間を遥かに上回っていた。なんだかんだ言いながらも、上司はわたしのことを褒めてくれた。

少し照れ臭くもデスクに戻ったら、ちょっと前に資料を提出したナギサ先輩と目が合い、「ほらな」ってウインクしてきた。赤面になってわたしは申し訳なく小さな会釈をして、そのあとナギサ先輩とミキりんとで一杯飲みに行った。

 

「ぷは〜! キンキンに冷えててさいっこうですね!!」

 

なんだかんだ言って、わたしはこの仕事が好きなんだ。

 

大人になるって、子供みたいに甘えられなくなるってことだとわたしは思う。

 

それってとっても辛くて、大変で、挫けることなんだよ。

 

ましてや本望でやってない仕事でも何十年も続けてたら……。

 

けれど、仕事や何か夢中なことに生き甲斐を持てれていれば、人はちゃんと大人になって、いつか人生で感じたことのない幸せを掴めるようになると思う。

 

わたしは決して逃げない、例えどんなに辛い仕事がまた来たとしても。そう心から強く実感したのであった。

 

 




……とは言え、流石に今日は色々と溜まってきてるせいか、もう酔いが回ってきた。酔い潰れる前にすぐ寝ようとしよう。家に帰ったわたしは扉開けて部屋を見た。

「ただいまぁ……あっ」

わたしはノスフェルの様子を見て絶句した。ただでさえ疲労が尋常じゃないと言うのに、余計なストレスが一気に込み上がってくる。

「あっ……あっ………んん……ビーストアキちゃん様ぁ!!……あっ」

わたしは乱暴に荷物を投げて、拳をピキピキ鳴らす。全てを察したノスフェルは青ざめて後退りする。

「ノスフェルくんよぉ……」

「あ…アキちゃん様……。こ、これは違くて……そんなことよりかかっ、家事はちゃんと終わらせましたよ……」

「だーまーれ。ぼくのビーストヒューマンで、アンタはなにやってんじゃあああああああああ!!!!」

「ひぃっ……ごめんにゃしぁぁぁい!!!!」



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#6光の勢力-ネクサス-の進撃!(ウルトラマンとは違うらしい!?)

わたしの名前は古紋アキ。どこにでもいるような新人OLの女性!
ひょんなことから異生獣(スペースビースト)と名乗る娘・ノスフェルとわたしは一緒に暮らすことになってしまった。
そんなノスフェルって確か『闇の勢力』って所に属してるらしいけど……、逆にそれと敵対している『光の勢力』って一体どんなものなんだろう? 知りたいような、知りたくないような……。


「もぉぉ……またアンタなの……」

 

 

「まぁまぁそう言うな、今日こそは取材させてくれよ! な?」

 

 

はー、どうしてこんなことになってしまうのかなぁ……。

状況を整理すると、今日の仕事は珍しく定時前に終わった。余裕を持て余したわたしはノスフェルにメールである約束をした。なんだかんだでノスフェルも人間社会に溶け込み始めているのだ。数週間前、わたしが昔使っていたスマホを譲渡してあげたら、なんともう完全に使いこなせるようになっていた。ちょっとちょっと、そんなずば抜けた学習能力ずるくない? ……そういえばノスフェルも以前ビースト達は振動波を利用して情報を共有するとかなんとか言ってたし、まぁ当然と言えば当然なのかな。それで話を戻して、普段から勝手に晩ご飯を作ってしまうノスフェルに代わって、今日こそはわたしが作るから任せてっ、と返信してからスーパーに寄って食材を買い終わってかわたしの目の前にはいつかのカメラマンが待ち伏せていた、という現在に至るわけなのだ。

全く……なんなの、このストーカーは!!

 

 

「そう言えば、ちゃんと自己紹介出来てなかったよな。俺の名前は姫 隼也(ひめ しゅんや)。世の中の理不尽な不正を全部暴く正義のジャーナリストってところかな。よろしく」

 

あーもぉう! 早く帰る予定だったのに……めんどくさい!!

 

「別に聞いてないですしよろしくしませんから……。はぁ、分かりました。要件なら聞いてあげますからさっさ言ってください、姫さん」

 

そう呼んだら姫さんは顔を少し赤らめてすぐに言い返す。

 

「ひっ、姫さんって言うな!………コホン、それで最近この街を騒がしている女性達がいるんだが……古紋さん、何か心当たりはあったりしないか?」

 

「なっ……やはりわたしの名前知ってたんですね……」

 

「だから前言っただろ、俺はアンタに用があるんだ、と。それで古紋さん、結局どうなんだ?」

 

わたしの脳裏にノスフェル、そしてガルベロスが過った。いきなりそんなことを聞かれたから少しビクッとしちゃったけど、表面に出さないように心拍を整えてから答える。

 

「……知らないけど」

 

「そうか、なら良かった。アンタは最後の希望だからな」

 

最後の希望? ますますこの人が分からなくなって来た。怖い、通報した方がいいかな……。

 

「……あの、最後の希望って」

 

「いや、それはこっちの話だ。まぁそれでな、俺が言うその女性達、実は人間じゃねぇんだよ」

 

「げっ……」

 

まさか。

 

「ん? どうした?」

 

いや、そんなはずは無いよね。

 

「い、いえ。なんでも無いです……」

 

わたしは何かとてつもない嫌な予感に襲われていた。それもそのはず、ノスフェルやガルベロスの様子を見ていてわたしは、姫さんが言う『彼女ら(異星獣)』が明るみにはならなだろうと勝手に信じ切っていたからだ。こういう場合、姫さんみたいな人に何か漏れてしまうのは非常に良くない空気が来ている。いつの時代も、マスコミとは危険な存在なんだ。TLT社に入ってからより一層痛感するようになった。

 

……ってことはこの状況、つまり姫さんはスペースビースト達に関する何かを掴んでしまった、ってことだよね。もしやノスフェルやガルベロスがわたしの知らないところで何かやらかしたとかじゃないよね……。額の汗が止まらない。

 

それに、始めてノスフェルと一緒に出かけた時に、既に他の仲間が潜伏しているかもしれないとか言ってたし、他の方が何かやらかしたとかなんじゃっ……? わたしは平常心を必死に保ちながら聞いてみた。

 

「へ、へぇ~。じゃあそれって何なんですか?」

 

むぅ……隠すのって苦手だ。わたちのわざとらしい演技を姫さんがジッと睨んでから答えた。どうやら姫さんは予想以上に『彼女ら』のことを知っていたようだ。

 

「ああ。そいつらの名は宇宙からやってきた異生獣、スペースビースト。人間の闇を喰らう悪魔さ………一見嘘みたいな話なんだけどな」

 

「どぉっ!! どうしてあなたがすぺーす……。あ、いえ…あの、」

 

嘘……。わたし以外がスペースビーストに出会ったとしても、まさか自分以外の人間がスペースビーストについて知っているなんて……。思わず声をあげてしまった。しかも姫さんの言動からすると、ノスフェルが属している『闇の勢力』についても何か知っているようだ。わたしは姫さんにバレないように詮索してみる。

 

「あの……どうして姫さんはそんなに詳しいんですか?」

 

「だから姫さん言うな! ったく。信じられねぇ話なんだが、実は俺……」

 

そこまで言いかけたところで姫さんは遠くに何かを発見した素振りを見せて、顔色を変えた。すぐにわたしの手を握って走り出す。

 

「きゃっ、急になんですか!!」

 

「良いから! とにかくここを離れるぞ!!」

 

いつものヘラヘラした感じの姫さんとは打って変わって真剣な眼差しで言われ、つい引き込まれてしまった。わたしは抵抗せず、姫さんに引っ張りられながら人気の少ない通りへと駆け込んで行った。

 

まるで何かから逃げるように。

 

……しかし余りにも姫さんの足が速い。まるでジェット機に手を持ってかれた気分だ。わたしの足に疲労が一気に蓄積してくる。

 

「ちょっと! 速すぎません? 少しゆっくり走ってくださいってー!!」

 

 

________________

_______

__

 

わたし達は人通りが少ない通りの中で足を止めて、しばしの休憩を取っていた。

 

「はぁ………はぁ………一体全体何がどうなっているんですか、姫さん」

 

「だから姫さん言うなって!……奴等、ビーストが近くにいたんだ。それもアンタを狙っていてな」

 

「ビーストが!? そんな!」

 

すぐにわたしは必至に辺りを見回す。しかしそれらしい人なんてここにはいない。

 

ノスフェルは家で家事をしっかりやってくれてるはず、ガルベロスは時間的にまだ学校だろう。

 

どうやらわたしにはビーストの体質があるのかもしれない。じゃあ今度は一体誰が何の目的でわたしを狙っているの? 刺客……またガルベロスみたいのが来るってこと?

 

でも、それならばまた和解したい。仲良くなりたい! 種族は違えど、仲良くなる道はきっとあるはずだもん。

 

「……古紋さん、お前本当にもうビーストに出会ってたりなんてねぇよな? さっきから妙に反応がおかしいし」

 

ギクっ……マズい、ここでバレるわけには。必死に話題を変える。

 

「いえいえわたしは別にそんなつもりじゃ! ……でも姫さん。もしですよ、もし仮にそのスペースビーストがいるとしても、別に良いんじゃないんですか? わたしは分かり合えると思います」

 

姫さんは険しい顔で答えた。

 

「そんなことは絶対にあり得ねぇ。奴等は情のカケラも無い、己の勢力の為なら容赦無く人間の恐怖ごと食い殺すんだぞ、だから俺はそいつらを狩っている。一匹も残らずな」

 

「狩る……? 彼女が、彼女達に情のカケラもないなんて、そんなの……!!」

 

違う。絶対に間違ってる。

 

わたしはノスフェルとガルベロスとの短いけれど深い出来事を思い返す。

 

 

わたしと出会って、少しずつだけど確かに彼女達は変わった。

 

絶対に人間と、わたし達と仲良くなれる。

 

たとえ闇の勢力に属しているからって殺すなんて……、絶対に駄目なんだ! 姫さんを、わたしが止めなきゃ!!

 

「狩るなんて、そんなの良いはずありません! きっと彼女達とだって分かり合えますよ!! きっといい子だっているはずなんで………きゃっ!?!?」

 

わたしが言い切る前に、両足に突然にゅるにゅるした何かに触れた感触を感じ、恐る恐る足下を見る。

 

〈ぐちょぉ……べちゃあ……〉

 

「ひぃっ!?」

 

わたしの両足に触手のような何かが絡みついていた。 うへぇ……気持ち悪い……。徐々に上半身目指して侵食してくる触手。わたしが驚愕と羞恥心に見舞われて思考停止して間に触手が伸びてきた先へと引っ張られていく。

 

「なっ…なにこれ……姫さん!」

 

「マズい! 古紋さん、早くこっちに!!」

 

暗い路地裏にいる何かにう引き込まれそうなわたしに姫さんが手を伸ばす。

 

「助け……いひぃっ!!」

 

本当にこのままじゃ捕まりそうだ。わたしは例え姫さんであろうと迷わず掴もうとするも、足が思うように動かせない。更にその両手から腕までにも新たな触手が絡みついてきた。

 

ヌメヌメした感触がダイレクトに伝わる。

 

「きゃあっっ! やめてぇっ!!」

 

「古紋さんっ!!」

 

姫さんの助力も虚しく、わたしは触手の主のところまで引っ張られて遂に捕らわれてしまった。全身に触手が絡み付き、体力が座れていくような目眩を感じた。

 

「あふぁっ……!! もう、らめっ……」

 

ううっ…! 最悪な破廉恥だっ……!! 触手の主は姫さんに向かって甲高い声で叫ぶ。

 

「ネクサス……今度こそ貴様を殺す! 今こそ我が同胞の恨み、はらさせてもらうわよ!!」

 

触手の主、その正体はやはり少女のものだった。つまり、彼女も異星獣……って!! なんで桃色のスケスケコートをほぼほぼすっぽんぽんのまま着てるのよ! 完全にアウトだよ!? 他には両腕が触手になっていて、わたしの身動きが一切取れないよう完全に拘束している。おまけに身体中が水分出てきているようなヌメヌメした気色悪い感触に見舞われていた。マズいマズいマズい………色んな意味で、このままじゃわたし死んじゃうよ!!

 

「ペドレオン、それなら正々堂々と俺を殺れよ! 古紋さんを放せ!」

 

「いやぁねぇ。アンタを倒すのに手段なんていらないわ!」

 

姫さんのことをネクサスと呼んでいて、姫さんからはペドレオンと呼ばれている彼女もスペースビーストでしょうね。きっと既に姫さんが狩った複数の仲間達(スペースビースト)の仇をとるためにわたしを狙ったんだ。

 

「さぁて、ネクサスの餌食として捕まってもらったメスをどうしてやりましょうかねぇ~」

 

触手がデリケートなところまで侵入してくる。

 

「あはぁっ!!ちょっ、やめてっ……!!」

 

ほんとにこれ以上はマズいから!

 

この状況、流石の姫さんも手出しが出来るわけ無いし、そもそも姫さんは人間でしかも男性だ。異生獣である彼女なんかに勝ち目なんて無い。男の前でこんな目には会いたくなかった。気持ち悪い同人誌の展開なんかわたしの身には起きる筈ないと信じて疑わなかったちょっと前のわたしを返して……。

 

もうおしまいだ。全てペドレオンによって晒される。どうにでもなれ。わたしは覚悟して目をつぶった。これじゃあ和解どころじゃないよ……。

 

 

助けてっ……ノスフェル……!!!

 

 

 

 

『ジュアッッ!!』

 

 

 

「ぐわぁああっっ!!」

 

 

 

突然勇ましい声が響いたと思ったら、今度はペドレオンが悲鳴をあげて触手が全て解けてしまった。何が起きてるのか分からないままわたしは転がり落ちる。

 

「えっ……?」

 

わたしは目を開けて状況を確認する。

 

 

 

そこには、さっきまで姫さんがいた場所に赤色の宇宙人……みたいな、人間のようで人間じゃない何かが立っていた。もしかして、また新しいスペースビースト!?

 

「おのれネクサス……今日こそ貴様を殺してあげるわっ!」

 

ペドレオンが触手から火球や電撃を放ちながら宇宙人の元へと突撃する。対して赤色の宇宙人は微動だにせずにゆっくりと前進する。

 

 

ペドレオンと戦ってる……もしかしてこっちは良いビースト、なの……?

 

 

 

『ジェイヤアッ!!!』

 

 

「うわぁああっ!?!?」

 

 

赤い宇宙人は素早くペドレオンの急所へと回り、躊躇せずに飛び蹴りをする。素早い動きに翻弄されてペドレオンは倒れ込んだ。

 

「おのれっ……絶対に今日こそは貴様を倒して見せるぞ ……ネクサス!」

 

 

ネクサス……。そう言えばさっきから聞くそのワード、前にどっかで聞いたことあるような……?

 

 

〜それに対して光の勢力にはネクサスと呼ばれる受け継がれる光の種族や、来訪者とか言う……~

 

思い出したっ――。腹痛が酷くてすぐには思い出せなかったけど、確かノスフェルが説明してた光の勢力にもそんな感じの名前が――!!

 

 

『俺もだ、一気に決めさせてもらうぞ。ハァッ!』

 

どこかで聞いたような声調で喋る赤い宇宙人、もといネクサスはそう言いながら右手を高く掲げる。不思議なことに、辺りにオレンジ色のモヤモヤが立ち込めて、以前ガルベロスがわたしにやったような変な空間と似た感じな状況へと徐々に変わっていった。

 

わたしだけで無く、ペドレオンも驚きを隠せない。

 

「これは……」

 

『メタフィールドを展開した。これでお前たちスペースビーストは完全に現実世界から切り離してやった。それと、このメタフィールドにはスペースビーストの体力を徐々に削る効果もあってな』

 

「なにっ!? ネクサス……絶対に許さんっっ!!!」

 

ペドレオンが触手を伸ばしてネクサスの動きを封じようと巻きつける。

 

『ジュワァッ!』

 

しかしネクサスはいとも簡単に触手を破り、攻撃態勢に入った。ペドレオンの触手は吹き飛び、苦しそうに喘ぐ。

 

「ぎぃやぁっ!うぐぐ……そんな……アタシの触手がぁ……」

 

『これでトドメだ……』

 

「ちょっと……」

 

 

待って。殺すなんて駄目。

 

やめてぇっ!

 

『ジュウゥワアッッ!!!!』

 

 

ネクサスはペドレオン目掛けて両腕をL字に組んで破壊光線を放った。

 

 

「ぐぎゃあ!……うっ………うぐっ……」

 

ペドレオンに見事に命中し、苦しそうに倒れ込む。

 

「そんな……こんなこと……」

 

わたしは思わずペドレオンの元に駆け寄った。せめてペドレオンの最期を見届けてやりたい。

 

「ペドレオン、だいじょぉ……」

 

ネクサスがわたしに向かって叫ぶ。

 

『下がれっ!』

 

 

「えっ?」

 

 

「ぐぅ………お前だけでもぉっ!!! 死ねぇええっ!!!!」

 

ペドレオンはわたしを巻き込んで自爆しようと襲い掛かる。

 

「ひやぁっ!?!?」

 

 

 

 

 

大きな爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

『だから言っただろ、スペースビーストは容赦無く人を殺すって』

 

 

わたしはネクサスによってお姫様みたいに抱きかかえられていた。あの一瞬の出来事でも、素早くわたしを救助して爆発から逃れていたのだ。ネクサス……ペドレオンが姫さんにそう言った時から少し引っかかってた。だけど今ので話し方でようやく誰なのだが察したわたしは恥ずかしめに小言で返す。

 

「だからって……彼女を殺す必要無かったじゃないですか………姫さん」

 

 

 

ネクサスは人間の姿へと変える、というより戻ったって言うのかな。予想通り、その姿はやっぱり姫さんだった。

 

「……分かってんなら姫さんって言うな。女々しくて嫌なんだよ……。まぁいい、これで今回の任務は果たせたし」

 

「任務? もしかしてあの娘を殺したことなんですか!? そんなの絶対良くありませんっっ!!!」

 

「落ち着きなって古紋さん。スペースビーストは凶悪な存在なんだぜ。人類にとっても、ネクサスにとってもな」

 

「人類とか、ネクサスとかそう言うのじゃなくて……、なんかおかしいと思います!! だからネクサスだからって……ところでネクサスって何です?」

 

わたしは今までずっと疑問に思っていたことを姫さんに聞いた。

 

「……おいおい。ネクサスってのは、奴等、闇の勢力って言うんだけど、逆に俺達は」

 

「光の勢力、ですか?」

 

「分かってるじゃんか。そっ、ネクサスってのはその光の勢力の戦士達のことさ。ネクサスは正義のためにビーストに立ち向かう。だがこの地球では身体を保たせることが出来ねぇ。俺のように選ばれし人間(デュナミスト)と融合して、受け継いだ力で戦ってるってわけ。どうやら俺と融合したネクサスはジュネッスっ言うみたいだけど……」

 

「ちょっと待って! 正義とか言いながら彼女達を殺すのは全然理由になってないわ! 命はなによりも大事なんですよ!!」

 

「いやいや古紋さん…さっきのペドレオンで分かったっでしょ? 光こそ正義、闇は悪。それが一番重要なポイントなんだぜ。そこに古紋さん、アンタが中心となっている」

 

何言ってるの、わたしはただの人間だよ。

 

「わたしが中心……? もっと意味わかんないよ」

 

「まーその話はおいおい。いいか、古紋さん。これからアンタにはたくっっさんの闇の勢力の刺客が襲ってくるぞ。だからこれからは俺がアンタを守る」

 

「はっ……これから彼女達(すぺーすびーすと)がもっとわたしのところへ……?」

 

真偽がどうかは定かではないが、光の勢力である姫さんが嘘つくはずも無いか。

 

「そうだ、だから俺が来たんだっこと。奴等は危険だ。絶対にビーストに気を許すんじゃねぇぞ……」

 

「だから姫さんは今日までしつこく付けて来たんですね……でも……」

 

「でも?」

 

うーむ……。ただでさえ大変な毎日なのに、もっと大変なことになっちゃった。姫さんがわたしん家にまでこっそり着いてこないことを祈るばかりだ。わたしは光とか闇とかよく分かんないけど、本当はみんながみんな仲良くなれると思うんだ。無惨に散ったペドレオンのためにも、その意思を持ち続けるべきなんだと思う。

 

――それに、わたしにはノスフェルがいる。絶対にノスフェルと姫さんは出会わせては行けない。そんな気がした。寧ろそんな気しかしない。折角仕事帰りと言うのにこれから違う意味でもっと仕事が増えそうで辛い。

 

 

それにっ……。わたしは少し顔を赤らめて言った。

 

 

「姫さん、いつまでわたしを抱きかかえてれば気がすむんですかっ!!」

 

 

「あっ……ゴメン………」

 

 




「はぁ……ただいまー。ノスフェル、掃除とかちゃんとやった?」

「もぉー遅いですよ♡アキちゃん様! わたしを誰だと思ってるんですかぁ?」

「誰ってそりゃあ……おっ、ホントに家事やってる。ありがとうノスフェル!」

「げへへー♡もっと撫で撫でしてください! わたし頑張ったんでぐふぇっっ!!」

「調子に乗らないっ!」

「全く、アキちゃん様は素直じゃないんですから〜♡アキちゃん様、早く夜ご飯を作ってくださいね♪」

「うん!……って言いたいところだけど、ゴメン。わたしの負けだ、今日は色々と疲れた……」

「あらっ〜! やっぱりアキちゃん様には私がいないと駄目みたいですねっ♡♡良いですよ、’’今’’日’’も’’私が作ってあげますからっ!!」

「く……屈辱ッッ……!!」

何故だかはよく分からないけど、どうやらわたしは光と闇、両方の勢力に目を付けられてしまったらしい。

どっちに着くかなんて言われても今は仕事のことでいっぱいいっぱい。わたしはすぐに答えは出せない。でも、今ぐらいはまだ出なくてもいいよね。わたしのことはわたし自身で決めればいいだけなんだから。


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#7光と闇の驚愕の正体!?(ワーニング!影が襲ってくる!?)

私は愛を知らなかった。

私は愛することが分からなかったの。

でもね、古紋さん。あなたのお陰なんだよ。

あなたにあってから、私は心が毎日熱くなる。

ずっと一緒にいたい。絶対に離したくない。誰にも渡したくない。一つになりたい。

この気持ちは嘘じゃない。

古紋さん……、古紋さん………、古紋さん!

私達はもう運命の赤い糸で結ばれてるんだよ。

だから待っててね、古紋さん。……いいえ、



アキちゃん。





「もぉう! なんでこんなことになってるのよ〜!!」

 

わたしの名前は古紋アキ、どこにでもいるような新人OLの女性!

ひょんなことから異生獣(スペースビースト)と名乗る娘・ノスフェルとわたしは一緒に暮らすことになってしまった。そんなノスフェルと敵対する光の勢力であるネクサス。その正体はなんといつも付け回してくるカメラマンの姫さんだった。ってもう! そんなこと思い出してる場合じゃない! なにがなんなのよぉ〜!!

 

『伏せて! 古紋さん!!』

 

ネクサスの姿になった姫さんがそうわたしに叫んで前方に走り出す。言われた通り、わたしは迫りくる攻撃から避けようとするが、間に合わない。間一髪、ネクサスが攻撃を防いでくれたが、その影響で大きな爆発が起きる。思わず尻もちを付いてしまった。そして爆発した上方から何かが現れる。その容姿を見て、わたしは思わず叫び声を上げてしまう。

 

「きゃああっっ!!」

 

やはり、その正体は少女だ。それも昆虫のような鎧を纏っている。そう、異星獣(スペースビースト)だ。や、やだ……。虫とか苦手なの!!

 

「無理無理無理!! わたしああ言うのホント無理! しかもなんかGっぽいしぃぃ!!!!」

 

『落ち着けって古紋さん! その、なんだ……幼い頃なら虫とか苦手じゃないもんだろ?』

 

「確かにそりゃそうだったかもしれませんけど、無理なもんは無理なんですぅぅぅぅ!!!!」

 

『あらあらぁ。私のことこんなにも夢中になってくれてぇ、私どうにかなりそうだわぁ。ネクサスゥ、同胞達の無念を今ここで終わらせてもらうわよぉ?」

 

「……バグバズン。言いだろう、望むところだ!』

 

ネクサス、つまり姫さんからバグバズンと呼ばれるビーストが激突する。素早い格闘戦が次々と目の前で展開されるけどそんなことしっかりと見る余裕なんて虫嫌いのわたしには微塵もなく、ピエピエ言いながらひたすら逃げ回るしか出来なかった。仕方ないよ……。というか! なんでまた異星獣の刺客に襲われなきゃいけないわけ!? それも出勤中に! しかもわたしの大きらいな虫みたいな格好で来る必要ないじゃない!! 前回あんなこと言っちゃったばかりだけど、虫っ娘と仲良くなろうなんて無理無理!! 絶対嫌ぁぁぁああああ!!!!!

 

『じゃっ、やっぱ殺るしかないよな!!』

 

そう言うと姫さんは前回のペドレオンを倒した時と同様、両腕をL字に組んで破壊光線を放とうとする。はっと我に返ったわたしは虫という恐怖に体が震えつつも、勇気を振り絞ってネクサスに向けて近くに落ちていた小石を投げつける。

 

「やっぱり、そんなこと、ダメですよ!!」

 

小石はネクサスに命中し、姫さんは動揺する。しかしその一瞬をバグバズンは見逃さない。鋭い爪をギラリと輝かせる。

 

「いただきぃ!」

 

爪がネクサスの足を突き刺す。その攻撃に傷付いて、姫さんは喘ぐ。

 

『グハァァッーー!!』

 

「あっ、ごめんなさい姫さん……」

 

『はぁ……はぁ……だから姫さん、言うなっての……』

 

「あらあらぁ。仲間割れなんてゾクゾクするわぁ! もう、ムラムラさせないでよねぇ?」

 

そうバグバズンが勝ち誇ると彼女の尻尾がわたしに絡みついて拘束する。尻尾に付いていた口から舌を伸ばしてわたしを舐め回す。わたしの全身に寒気が巻き起こる。

 

「いやああああああああああっっっっーーーー!!!!!」

 

「いい反応だわぁ。その調子でもっと私に恐怖の音を聞かせてよぉ、美味しいんだぞぉ?」

 

私の脳内がフリーズし、パニック起こしたくてもきつく尻尾に縛られて身動きがとれない。バグバズンは自身の爪で歯を掃除し始めながら羽を羽ばたかせる。ダメ……このままじゃ、わたし……。そこにネクサスが立ち上がって、腕を十字に構えて小型の破壊光線を放つ。

 

『逃して、たまるか!!』

 

小型の破壊光線はわたしを上手くすり抜けてバグバズンの背中に見事命中。

 

「ああ……あらあらぁっ……!!」

 

しかしそのままわたし達は落下する。

 

「いゃあああああああもうだめええええええええええ!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

『ジェイヤァッ!!』

 

スレスレのところでネクサスがわたしを救出して地面に降ろしてくれた。バグバズンはどうやらそのまま墜落してしまったようだ。そうなるときっともう助からないだろう。でも今回は相手が虫だったこともあってか、助けられなかったというより、その、なんとも言えない気持ちだ。ネクサスは姫さんの姿へと戻る。姫さんの足にはバグバズンの攻撃を受けた傷が残っていた。

 

「ごめん姫さん。わたしのせいで、姫さんが大変な目に……。待ってて、今絆創膏貼るよ」

 

「いや、このくらいかすり傷さ。それよりそろそろ時間、ヤバイんじゃないか?」

 

姫さんが腕時計を見るような動作をする。それを見てわたしは慌ててスマホを開く。はわわ……もうすぐ会社が始まっちゃう!! わたしは慌てて鞄を持って立ち上がった。

 

「本当だ! ごめん姫さん、わたしもう行かなきゃ!!」

 

慌てて数歩走り出してから、わたしは後ろを振り返ってもう一言姫さんに言った。

 

「……あと、今日は助けてくれてありがとう!」

 

お礼は言わなくちゃだもんね。蝉が鳴き止まず、全国の学生なら夏休みを満喫してきる真っ只中であろうこの猛暑日和で汗を垂らしながらわたしは全速力で再び疾走し始めた。姫さんはわたしの後ろ姿を見つめて、ちょっとだけ照れ臭そうに呟いた。

 

「感謝なんて絶対されないと思ってたけど……流石古紋さんだな。光の長さんが眠っていることだけはある」

 

________________

_______

__

 

 

結局始業には間に合わず、漸くTLT社に付くや否やわたしの部署、ナイトレイダAの課長である若蔵英里(わくら えいり)さんからこっぴどく叱られてしまった。普段は温厚なひとなのに。きっと夏季の人手不足で少しイライラしているんだろう。わたしは溜息を吐きながら仕事を始める。すると隣の席からクスクスと笑い声が聞こえた。

 

「ふふっ、古紋さん。気にすることなんてないよ」

 

「佐大さん……。そうね、メリハリ付けないといけないもんね。ありがと」

 

 

 

 

 

「良いのよ。だって私、古紋さんのこと愛してるんだから。始めて会った時から」

 

 

 

 

リコの言葉に心がゾクっとする。わたしは慌てて笑顔を作って言葉を返した。

 

「や、やだなぁ。また冗談はやめてよ。ちょっとそっちの毛の人かと本気で思っちゃったじゃない」

 

いつもなら笑顔で「なんてね」ってリコは返してくる。返してくるはずだった。でも、今日のリコは何かがおかしかった。

 

「どうかしらね。さっ、仕事も溜まっているんだし、作業再開しましょ」

 

「……うん、そうだね」

 

仕事に再開するも、何かいつもと違うと感じる。でもそれが一体なんなのかは分からない。分からなくてもその違和感はずっと残り続ける。わたしは本能的に何かそう感じていた。警告なのか、さっきからずっとわたしの体内にサイレンが無情に鳴り響く。うーん。わたし、どうしたんだろう……。徐々にそれは腹痛に変わり、やがて我慢の限界が近づいて来たわたしは女子トイレに向かった。

部屋を出た部署では、その様子を見て不思議に思ったナギサ先輩がミキにヒソヒソ声で話す。

 

「今日の古紋さん、どこか調子悪そうに見えない? あんなに遅れてきたり、突然トイレ行ったりして……。もしかして古紋さんって……」

 

「えっ!? じょじょじょじょ条井先輩イィイ!?!?……あっ、ははっ、アキりんはきっと女の子の日なんじゃないかなーなんてね……」

 

「あー、なんかゴメン」

 

「せっ、先輩!? 違うんです、ただの推測ですからぁーー!!」

 

そんなやりとりをしていたら、リコは立ち上がって二人に言った。

 

「私、古紋さんの様子見てきます」

 

「あ、ああ……ごめん」

 

リコは無言でアキに続いて部屋を出る。残された二人は不思議に思うも、すぐに仕事に再開したのであった。しかし、そのときのリコの顔は終始、アキと喋っている時よりも何倍も冷血で、目の色にハイライトのような光が無く、無表情であった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……わたし、一体どうしちゃったんだろう」

 

トイレで用を足した後、洗面所で手を洗いながらわたしは鏡に映る『わたし』を見つめる。

 

わたしって一体なんなんだろう。

 

ある日たまたまノスフェルと出会って、一緒に暮らすことになっちゃって。

 

それでガルベロスに襲われたりしたけどちゃんと和解して。

 

そしたら今度はネクサス、姫さんに付け回されたり助けられたりして。

 

同時に異星獣の刺客たちがわたしを狙い始めるようになって。

 

最近、わたしは自分のことがわからなくなる。最早全てが単なる偶然とは片づけられない。姫さんはわたしのことを光と闇の勢力との戦いの中で中心に立ってるって言ってたけど、そんな記憶なんて覚えてもない。それともわたしには何か、本当の別のわたしがいるのだろうか。もしわたしの身に何かがあるのだとしたら、それは一体何なのだろう。

 

何も分からない。さっきわたしの中に響いたサイレンみたいな気分も、何もかも。

 

「あーもう! 何なのよ、このモヤモヤする気持ち……」

 

「それはね、恋って言うのよ。古紋さん」

 

「うわぁっ!? さ、佐大さん!?」

 

いつの間にかわたしの真後ろにリコが立っていた。びっくりして声が出る。

 

「ど、どうしてこんなところに……」

 

「そんなことはどうでもいいの。それよりさ、古紋さん。誰もいないんだし恥ずかしがらずに私のこと、リコって呼んでくれても良いんだよ」

 

「別に恥ずかしいわけじゃ……」

 

「照れちゃって。可愛い」

 

思わず赤面する。わたしは慌てて頬を叩く。何動揺してんの、わたし。これはいつものリコの冗談に決まって……。

 

「じゃあ、私は呼んで良いかな。アキちゃんって」

 

へ?

 

「私ね、ずっとずっとアキちゃんのこと、そう呼びたかったの。でも私ったら恥ずかしくて……私、この気持ちに気付けなかった。素直になれなかった」

 

何か、おかしい。

 

「でもね。そんなことは有り得ないって思ってても、気が付いたら私、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもアキちゃんのことしか見てなかった。だから私、分かったんだ。これって運命なんだよ。私とアキちゃんは一つになる運命だったんだよ」

 

おかしい。おかしいよ。リコの様子がおかしい。わたしは後退りしながらドアへ近づこうとするが、両手をがっしりと掴まれて、リコに真正面から抱きつかれる。

 

「ちょっと!? 佐大さん……?」

 

「だからさ、一つになろう? 今ここで」

 

「待って待って! 意味が分からないよ!! リコ、私はそっち系なんじゃ」

 

「やっとリコって呼んでくれたね。私、嬉しい」

 

リコはピエロのようにニッコリと笑う。わたしは変な表情になりそうになって、思わず顔を逸らした。横に映る鏡には、鏡の『わたし』と道化師のような顔をしたリコがいた……。えっ……、どういう……。驚いてわたしは凝視する。

 

「最近のアキちゃんはさ、ちょっとおかしかったんだよね。わたしという相手がいながら、あんな私の部下なんかとイチャイチャしゃっててさ。分かってるよ、あの娘達が悪いんだもんね、アキちゃんは何も悪く無い。それにもう、そんなことはどうでもいい。私の部下なんて、私の自身の手で始末すればいいんだから。……そう、私がアキちゃんと先に一つになっちゃえば良いんだッッ!!」

 

「リ……、コ……?」

 

わたしは恐る恐るリコに顔を向けた。そこにはいつものリコはいなかった。鏡に写っていたのと同じ、道化師みたいな格好になって、全身は赤と黒のツートンに染まっている。わたしは突発的に振り解こうともがくが、もう遅い。リコは女子トイレ全域に闇のオーラを蔓延させて、空間を歪ませ始める。これって、確か前にガルベロスがやってた、

 

「ダークフィールド、なんで……」

 

「よく知ってるね。さっすがアキちゃん! もしかしてもう一人の私の部下とも接触してたのかな?」

 

「そっ、それは……。さっきから部下部下って……もしかして、リコはッ!?」

 

以前ノスフェルから聞いたことがある。

 

〜他にですか。そうですね……闇の勢力には異星獣ことスペースビーストの他にも、ウルティノイドという私達を使役できる闇の種族がいますよ〜

 

リコが言う部下。それはきっとノスフェルやガルベロスのことで間違いないだろう。彼女らの上司、みたいな位置に該当するものは多分ウルティノイド。じゃあ、そんな、リコが……そんな……!!

 

「そう。わたしは無限に広がる闇の権化、ダークファウスト。アキちゃんを追い回す忌まわしいカメラマンの影って言ったら分かるかしら?」

 

「リコ……嘘って言ってよ! こんなのおかしいよ……」

 

「何言ってるの? 私はあなたに恋をした。その運命は変えられないんだよ? だって私はこの力を得る前からあなたのことが大大大好きだったんだから」

 

そう言いながらリコはダークフィールドから生まれた触手でわたしを捕らえて蝕んでいく。身動きがとれず、声も出すのが辛くなってきたわたしは必死になって声を出す。

 

「ど……どういうこと?」

 

「半年前、私とアキちゃんが始めて会社にあった時から、私はアキちゃんが好きだった。私ね、レズなんだ。昔から周りに合わせようとして頑張ってみたんだけど、やっぱり男に興味なんて湧かない。女の子にしか異性の気持ちを持てなかったの。でもその直後、私よりもアキちゃんは条井ナギサとか言う男に惚れているんだって私は気づいちゃった」

 

「違うよ、あれは先輩として憧れで……」

 

「嘘。私アキちゃんのことなら全部知ってるんだから。いつどこで何をしているのかなんて、私は全部知っているもん」

 

そう言ってリコはポケットみたいなところからカメラを取り出す。大量のSDカードも一緒に落ちる。まさか、姫さん以外にもわたしのストーキングしてた人がいたなんて……。

 

「ひぃっ……!!」

 

「それからね、いつしか私にはモヤモヤした気持ちばかりが体を巡らせていたの。でもあるとき、闇の勢力のウルティノイドから私は力を得ちゃった☆そう、アキちゃんを私のものだけにする力が――」

 

リコは話を続ける。

 

「私の中にいるウルティノイドはね、この会社の何処かに眠るレーテを壊したいんだって」

 

「レーテ? なんなの……それ」

 

「えーっと……確か光の勢力の来訪者っていう人達が作った大型メタフィールド……だったけ? あれのせいで私の部下達が地球に入るとみーんな人間になっちゃうんだよ〜。なーんでこんな会社なんかにあるんだろうね。でも今の私『たち』にとって、そんなことはどうでもいい」

 

来訪者? 確か光の勢力ってネクサスの他にも何かいたんだっけ。……そっか。そういうことなのね。やっと分かった。そのレーテっていうおっきなバリアーが地球全体を覆ってたからノスフェルやガルベロス、他の異星獣達もみんな人間みたいになっちゃってたんだね……。でも、いまそんなこと知ったからって、この状況、ホントにヤバい……。なす術もなく、触手はどんどん体をしめつけていく。リコはわたしに微笑みながら言う。その笑顔は恐怖すらも感じさせられてしまうほどだ。

 

「愛の告白も済んだところだし、それそろ始めよっか。私とアキちゃんの永遠の愛を誓う、ウェディングセレモニーを始めないとね♪」

 

「待って、リ……」

 

言い終わる前に、わたしは身体中に侵食する闇に完全に囚われてしまう。必死に足掻こうと踠いても、いつのまにかきつく縛られた触手からは脱出できない。もう、ダメ……。わたしは最後の力を振り絞る。

 

「はぁ……はぁ……助けて……ノスフェル、ガルベロス……姫さ、ん……………!!」

 

 

そして、わたしは果てしない無限の闇の中で意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

〜アキの家〜

 

「ふんふんふーん♪今日もアキちゃん様に一杯ご奉仕しなくては〜♡……ん、この波動、まさか……!!」

 

アキの家を掃除するノスフェル。アキが最後に叫んだ助けを求める声は、ダークファウストとなったリコが無意識に放つ闇の波動・ダークフィールドを通じて、奇跡的に伝わっていた。ノスフェルはビースト振動波を使ってガルベロスと連絡を取った。

 

「ガルベロス……ガルベロス、聞こえますか! アキちゃん様が緊急事態です、力を貸してください!!」

 

 

〜江抜高校〜

 

なんだかんだで赤点を取ってしまい、夏休みなのに補講を受けていた軽部露乙津ことガルベロス。補講が終わり、いつも振り回している気弱な男友達と共に下校しようとしたその時、ノスフェルからの振動波を受けて彼女も漸くアキの状況とその裏に潜む存在に気付く。

 

「……ダーク、ファウストだと? なんでアキがアイツに捕まっちまってるんだよ!? おいおい、やっと補講が終わったってってのに……」

 

「軽部さん、今度はどうしたの……? さっきから一人でブツブツと……」

 

「悪りぃ千、俺ちょっと用事思い出した!」

 

「え!? ちょっと困るよ軽部さんっ!!」

 

 

〜東都日報新聞社〜

 

光と闇は対極。常に反発し合う存在である。朝からネクサスとして戦ったばかりにも関わらず、この男もまた、光の波動を放つことによってファウストの闇の波動を感じていた。彼は机にドンと叩いて勢いよく立ち上がる。

 

「クソッ……俺が守るって言っときながら古紋さんを守れなかった……アイツ、俺の影と言ったな。なら、こんなところで諦めて溜まるか!」

 

ノスフェル、ガルベロス、そして姫隼也は同じ一点の場所に向かって走り出す。

 

「俺が……!」

 

「ファウストから……!」

 

「アキちゃん様を取り戻す!!」

 

 

リコから、ダークファウストからアキを救うために……。



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