例えば鉛筆の家凸から始まるラブストーリーとか(本編完結) (マクバ)
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例えば鉛筆の家凸から始まるラブストーリーとか
例えば鉛筆の家凸から始まるラブストーリーとか


という訳で長編ほっぽいて、別の短編を書いてしまいました。


 今は夏休み。昼過ぎに起きた俺は学生の長期休みにありがちな昼夜逆転気味の生活をしていた。まぁそれは置いておいて最近ハマっているシャンフロにログインする、前に朝飯、じゃないや昼飯を食べるか。

 

「瑠美は……あーそういえば朝から出かけるって昨日言ってたな」

 

 昼過ぎに帰ってくるって言ってたな。新作の服でも買いに行ったのか。

 

「仕方ない昼飯作るか」

 

 レンジでチンするだけだけどな! そう思ってとりあえず冷凍食品を漁ろうと冷蔵庫に向かった時、家のドアがガチャと空いた。瑠美が帰ってきたのか。やけに早いな。自分の昼飯も〜とか言い出すかなぁと思っていたら

 

「お兄ちゃんちょっと来てー!」

 

 とお呼びがかかった。俺は開けようとしていた冷凍ピザを調理台の上に置いて玄関に向かった。大方服を買いすぎて重いから部屋に持ってけとかそういう話だろう。

 が玄関に着いた俺を待っていたのはそんなもんじゃすまない、もっと弩級の爆弾だった。

 

「来ちゃった。やっほー! サンラク君!」

 

 最後には爆発することで有名? なアーサー・ペンシルゴンこと、スーパーモデルの天音永遠が居たのだ。

 

「は?」

 

 色々言いたいことはあったが、俺の口から絞り出せたのはこの言葉だけだった。

 確かになんやかんやで瑠美経由で俺の家とか諸々をコイツは知ってはいたが実際に来るとか考えてないんですけど!? 精々なんかよく分からない郵送物とかくらいしか考えてなかったのに!? 

 

「なんだい? その間抜けな声は。このスーパーカリスマモデルの天音永遠様を前にしてさ」

 

 というか早く入ってもいいかい? 変装解いちゃったから今人に見られるとあんまりよろしくないんだけど。とかのたまっているが今はそんな軽口に返事をする余裕はない。

 

「すみません! トワ様! お兄ちゃん固まってないでお茶出してあげて!」

 

 瑠美はもうすっかりペンシルゴンの配下となったらしい。アイツも最後には爆発するのか……

 

「もぉー瑠美ちゃんったら気軽に永遠義姉ちゃんでいいって言ってるじゃないか」

 

「そんな! 恐れ多いですー!」

 

 俺が半ば意識を飛ばしながら日本人特有の流されやすい基質故か、お茶を出している間にもそんな会話が繰り広げられている。義姉ちゃんのニュアンスにツッコミを入れる気にもならない。

 

「で、何しに来たんだ? 大体の用事はチャットか前みたいにゲームの中で会えば済むだろ?」

 

 わざわざ直接会いに来たのはなぜだ? というか妹がなぜ連れてきたんだ? 

 冷静になればなるほどこの状況のおかしさに目がいく。

 

「そうだねぇ〜。おねーさんにも色々あるのだよ。まぁ、ようやく決心がついたと言えるかな」

 

 後半は何を言ってるのか小声過ぎて聞こえなかったが、おかしい。こういう時コイツならたまたま近くで仕事があって、おっかけで来た瑠美を見かけて、面白そうだから来ちゃった、とか言いそうなもんなのに、妙に誤魔化すというか曖昧な言葉が多い。まるで何か核心に近づきたくないような。

 

「まぁ何でもいいけどさ。特に面白い物はないぞ」

 

 こいつをマイルームに入れる訳にはいかない。特にやましい物があったり、雑ピみたいなポエム集があるわけではないが、卒アルなんかを見られた日には大惨事になるだろう。

 

「君の部屋に行くのも面白そうだけど、今日はいいんだ。今日の用事はそれじゃない」

 

「じゃあ何だって言うんだ?」

 

 俺は今までのペンシルゴンとは違う雰囲気に戸惑いながらそう尋ねた。まるでこれは1週目なのに意図せずに隠し√を踏んでそのまま真エンドに行ってしまってるような。何かが決定的に違う気がするが、何が違うのかが1週目だから分からないようなそんな不思議な感覚が俺の頭の中に燻っていた。

 

「おねーさんとデートにでも行こうじゃないか。何カッツォ君みたいに本業絡みってわけじゃないよ」

 

 What? デート? 広義的にいえば男女が2人で出かけることをデートと言うらしいが、広義的な方でもコイツと出かけようとは思わない。まぁ確かにスーパーカリスマモデルだけあって外見はメチャクチャ整っている。会話もドッチボールになることが多いがまぁ楽しい。だがなぁ……

 

「すっごい殴りたくなる顔をしてるけど今日はおねーさんが奢ってあげよう。一応社会人だからね。未成年の君と割り勘なんて言わないさ」

 

「いや今疑問なのはそんなことじゃなくてこの状況全般なんだけど」

 

 俺はそう言いながら時間を稼いで、会話の主導権を取り戻すタイミングを作ろうとしていたが。

 

「ゲーマーの君なんだ。絶対今日じゃなきゃダメな用事なんてないだろ?」

 

 こうして家凸して来るくらいなんだ。瑠美経由で俺の予定なんて全て知っているんだろう。

 

「オーケー。分かったよ。何企んでるか知らんけど乗ってやろう。10分待っててくれ。出かける用意してくるから」

 

 今の俺の格好は上下スウェットだ。近くのコンビニくらいなら問題ないが、天音永遠と出かけるには不足しすぎている事くらい俺でも分かる。

 

「本来なら女を待たせるなんてって言いたい所だけど今日は急に来たこっちが悪いしね。その格好でさぁ行こうって言わないだけよしとするよ」

 

 私はその間瑠美ちゃんと話しているからさー。とペンシルゴンは言って、そのまま瑠美と話始めた。あんまり長引くと俺の今までのありとあらゆるエピソードが話されるだろう。急ぐか。

 

 こうして俺と永遠のラブストーリーは、俺を知る人間からすれば想像通り、永遠の猛アタックから始まったのだった。この時の俺は本気でアタックとは気づかなかったがな!! 

 ちなみにこの後着替えてきた俺に、速攻チェンジと言い放ちコーディネートする! とか言い出して、結局部屋の中まで入られたのは秘密だ。




あまりにも再現度低いと思ったら言ってください。消します。


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永遠の思いを刹那に込めて

続きを考えてなかった。なのに書いてしまった。
何故か永遠視点にしてしまった。
何回も本編見ながら再現したけどこれが限界。
やっぱ男じゃ女心は理解できないね


 サンラク君、いや楽郎君は頭の回転が早い。だけどこと恋愛に限るとクソゲーフィルターのせいか突拍子もない方向に思考が向くことが多い。自分に関わらない事なら普通に捉えれるのに。あるいは単純に、日頃の私の行いに対するある種の信頼かもしれないけど。

 

「瑠美ちゃんから聞いてたからそこまで期待はしてなかったけどさ」

 

 そう言いながらため息を1つ、楽郎に聞こえるように吐き出して私は先程、リビングに再び帰ってきた時の彼の姿を思い出す。デカデカとハシビロコウのプリントされたTシャツはダメだろう。

 

「嫌がらせかい? そのチョイスは?」

 

「何言ってんだ? ハシビロコウ可愛いだろ?」

 

「やっぱガスマスクを着けるやつは発想が人類とは違うね」

 

 いけない、いけない。ついうっかりいつもの罵倒合戦に移行してしまう。心地が良すぎるのも困りものだね。私は瑠美ちゃんの方に視線を向ける。彼女はそれだけで察してくれたのか

 

「トワ様と出掛けるのにそんなTシャツでいいわけないでしょ!」

 

「お、おい! ちょっと待って! ハシビロコウをそんなとは何だ!? そんなとは!?」

 

 と言いながら彼を引っ張り部屋に連れ戻す。瑠美ちゃんは事前にもう買収済みだ。私の熱心なフォロワーである彼女は彼に恋心を抱いた時、真っ先に味方につけた。未だにお義姉ちゃんと呼んでくれないのだけは不満だけど。まぁまだ付き合えてすらいないから仕方ないか。でも様付けは勘弁して欲しいかな、なんて思ってたりもする。

 

 しかしまさか自分が恋愛でこんな苦悩する時が来るなんて思わなかったなぁ。むしろ選ばれる側だと思っていたのに。惚れた相手がこんなクソゲーマーじゃなきゃそうなる筈だった。いや言い訳はよそう。自分は何も取り繕わず素で付き合っていける彼に惚れてしまったのだ。いつだってロマンを求める彼と、刹那主義の自分の感性が一致してしまったのだから。

 あまりリアルにこの思考を持ち出す気はなかったのに。

 

 そんなことを考えながら私は階段を昇っていった兄妹の後を追った。さっき部屋に入るつもりはないって言ったけど、入れそうならそりゃ入るよね。もちろん、彼をイジれるネタがあれば存分に活用するつもりだけどね。

 

「それじゃあ! 楽郎君のタンスチェ──ック!」

 

 私がポーズを決めながらそう言うと、彼はもう止めるのは諦めたようで頭を掻きながら、どうしてこうなった、とだけポツンと言った。

 

「君が初っ端からビシッと決めてくれればそれでよかったんだよ!」

 

「夏なんだからTシャツ1枚でいいでしょ」

 

 私が耳ざとく拾うと彼は疲れたようにそう言った。いやTシャツ1枚はいいよ。ただハシビロコウよりはよくいる大学生みたいな白無地の方がマシさ。瑠美ちゃんが彼のタンスから服を引っ張り出して、あぁでもない、こうでもないと言っているあいだに私は彼のデスクを漁るのだった。

 

「って! ちょっと待った!! ペンシルゴン! 何しようとしてやがる!」

 

 リアルでペンシルゴンはないでしょ。家まで来てるのにさ。まぁそれはそれとして、そろそろ楽郎君呼びに突っ込んで欲しいかなぁ……なんて思ったりするんだけど……彼はそんな余裕なさそうだね。まぁ私のせいなんですけどね! さてさてさて楽郎君のデスクからは何が出てくるかなぁっと

 

「何って? 棚にはクソゲーしかないんだからこっちみるでしょ」

 

 ほっほーこれは卒業文集じゃないか。中学校の。これは読まざるを得ないね! 

 

「な!? ペンシルゴンちょっと待て! 瑠美1回離すんだ。そして現実を見てくれ! 君の憧れの人の姿をよく見るんだ!」

 

 

 私が開く前に彼が文集を奪い去っていってしまった。ゲームの中ならともかくリアルでは身体能力の差は歴然だからね。

 

「ケチだな〜。そんな恥ずかしいことが書いてあるのかい?」

 

「お前に見られたら何書いてても恥だよ!」

 

 中々酷いことを言ってくれる。対面で言われると最近は傷付くんだぞ、と言いはしないが心に思う。だが彼の反応も仕方が無い。私たちの今までの関係はこれが正常だったのだから。ここからは私だけが彼を攻略するゲームをしなければならない。斎賀レイちゃんを出し抜いてね。

 

 文集も見れなかったしとりあえずは、彼のクローゼットを漁って私の格好に合う服をコーディネートしよっか。スーパーカリスマモデルと読モの2人がかりさ、全部がハシビロコウみたいなとんでもファッションセンスでもない限りは無難なコーデにくらいはできるよ。

 

 

 30分かかった。私服のセンスがめちゃくちゃすぎるね。せめてさ着たい服があるならそれに合わせれる服もセットで買うべきだよ。なんだよ上だけとりあえずとか、下だけなんとなくとか……纏まりが無さすぎる。

 

 私は未来の義妹を使って、彼の服装を毎回コーディネートしようとこの日に誓った。

 それ以来彼の服装は私によってコーディネートされている。その時の私の服装に1番合う服にね! 

 




色々意見あったらどうぞ。ちなみにこの後どこに出かけるかは考えてないです。誰かスーパーカリスマモデルが行きそうな場所教えて。


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これがゲームなら多分きっと

 やっと事態に頭が追いついてきた。といっても既に我が城は鉛筆とその手先となった実妹の手によって陥落間際なんだけど。何とか卒業文集だけは死守して(アルバムは諦めた)、ペンシルゴンと妹に、この服はない、とかなんで合わせる事を考えないの? とボロクソに言われながら、彼女ら曰く妥協に妥協の末これを着てこいと言われた服を今は手に持っている。

 

 着替えながら考える。なんでペンシルゴンいや、天音永遠は家に来たんだ? 最近瑠美が仲良くなっていたのは知っている。それによって俺のリアルがほぼ割れていたのも、まぁ知っている。が家凸したあげく、俺を外に連れ出すのがわからん。俺を罠にかけようにも、リアルでのイザコザで面倒なことには芸能人の向こうの方が明らかだ。というか2人でいる所をすっぱ抜かれたらアイツ詰むだろ。俺未成年だし。そこまでのリスクを犯す理由ってなんだ? 聞いても多分答えないだろうし。

 

 色恋沙汰は多分ないよなぁっと頭から除外しながら理由を考える。アイツと俺のラブコメなんてあのラブクロック並のクソゲーになるだろうし。いやまぁ起きてる事実だけならライトノベルにありがちな展開ではある。ゲーム仲間のスーパーカリスマモデルが家凸してくるなんてラブコメディはありそうな気もする。実際には起きて欲しくないがな! 

 普通のモデルなら素直に喜べるが相手はあの最後には自爆することに定評のあるペンシルゴンだぞ。リアルでそれをかまされたらたまったもんじゃない。確かリアルで出来ないからゲームでやってるとは言ってたはずだが、どこでタカが外れるかわからん。この前の、GGCで名前隠しと顔隠しでゲーマーとしても顔は出てないが活動してしまったし何か心境の変化があったのかもしれない。

 

 そんな出口のない迷路のような思考をしていたら着替えが終わっていた。あまり待たせてあの魔王の機嫌を損ねるのも良くない。こうなりゃ行き当たりばったりで何とかするかね。

 

 俺は思考の渦から抜け出す意味も込めて1つ息を吐いてから部屋を出た。決して溜め息じゃないです。はい。だから部屋に様子を見に来た瑠美。これはオフレコで頼む。

 

 2秒でバラされた。何やかんやあってペンシルゴンの事をトワとリアルで呼ぶことになった。

 

「何か違和感あると思ったらお前俺の事名前で呼んでるよな」

 

 瑠美に見送られて家を出たあと、先ずは駅に行こうと言った、マスクとカツラを付けて変装したトワを見て、思い出したように俺は言った。

 

「やっと気づいたのかい? リアルじゃ呼び方に困ってね。瑠美ちゃんも居るから苗字じゃ呼べないし、プレイヤーネームじゃそれこそ呼べないよ。君の名前そこそこ有名だしリア凸はされたくないだろ?」

 

「お前今日俺に何したか分かってる? そのリア凸してきたんだけど君」

 

 俺はトワの返してきた内容があまりにもブーメランだったので反射的にそうツッコんだ。しかしトワは全く意に介することなく

 

「ていうかさお前とか君とかじゃなくてちゃんと呼んでよ。亭主関白良くないよ? 時代は男女平等さ」

 

「それこそバレるのでは? って気遣いだったんだが……まぁそう言うならトワって呼ぶことにするよ。ていうかトワの周りに関しては実質女尊男卑だろ?」

 

 一応気を使ってたつもりなんだがなぁ……いくら性悪ペンシルゴンとはいえ、男と2人でいる状況はモデル的に不味いと思ったんだが……

 

「それに関しては周りが勝手に忖度してるだけさ。楽郎君とカッツォ君は違うけど」

 

「まぁ俺とカッツォがお前に気を使うことはほぼねぇな。良くも悪くも」

 

 何だかんだ俺はその距離感を気に入ってる訳だが。煽り煽られ、本気でやる時は協力する。ウェザエモンとかGGCとかがそうだ。面白いと思えた事に全力を一緒に出せる仲間であり、普段どんだけ巫山戯あっても大丈夫だと思える信頼感をまぁ2人には持っていた。

 

「まぁゲームの中で男女云々言う奴は大体直結厨だから」

 

「いや! それは偏見すぎる! 姫プレイとか色々あるでしょ」

 

「反論で真っ先に出るのがそれかい? 姫プレイだって男の方はワンチャンス狙ってるでしょ」

 

「んん〜そんなもんなんかなぁ」

 

 姫プレイが起きるような健全なオンラインゲームを最近してなかったせいで姫プレイの基準がジョゼットになってた。いやジョゼット女じゃん。しかもあれ対象NPCじゃん。ダメじゃん。

 

「幕末とか姫プレイないからなぁ」

 

「なんで今そのゲームが出てくるの!? あれサイコパスしか生き残れないんだから姫プレイとか有り得ないでしょ」

 

 俺がボケてトワがツッコンだり、その逆をしたりとまぁウィットに富んだ会話をしながら道を歩いていると最寄りの駅に着いた。

 

「やっぱ最寄りはここなんだ。私の実家の隣駅だね」

 

「え? お前ん家そんな近いの!?」

 

 世間は狭い、俺はそれを実感してしまった。あ、まぁそうか玲氏の姉と知り合いだもんなそういえば。

 

「またお前って言ったね。私のことをお前なんてリアルで呼べる人はそうそういないんだよ」

 

 君はもう少し分かった方がいいと言わんばかりにトワは人差し指を立ててチッチッチッと指を横に振りながらそう言った。

 

「悪かったよ。トワ。んでどこに行くんだ? あんまり遠出する時間はないぞ」

 

「まぁ落ち着き給えよ。楽郎君わざわざ電車で移動するわけないでしょ。そこだよ。今日の目的地は」

 

 そう言ったトワが指した先は駅ではなく反対の裏路地だった。

 

「んで? 臓器売るのは流石に勘弁な。両親に殺されちまう」

 

「なんですぐそういうこと言うかなぁ。あそこ少し入ったところに昔からよく行くイタリアンのお店があるんだ」

 

「へぇ〜知らなかったな。ずっとこの駅使ってたのに」

 

 ホントに知らなかったなぁ。高校生の外食なんざファミレスか食べ放題だしどっちも駅前の目立つ所にある。裏路地に行くことはほぼなかった訳だ。

 

「私も見つけたのは偶然だしね」

 

「何だ? 脅迫相手の臓器売ったあとの帰り道か?」

 

「リアルじゃ流石にやらないって。モモちゃんとブラブラしてたらたまたま見つけたの」

 

 リアルじゃって……ゲームなら躊躇せずやれるのかもしかして。これからゲーム内で寝る時コイツにだけは気をつけておこう。

 

「モモちゃんって玲氏のお姉さんだよな」

 

「そうそう大学が一緒だったのさ。こっちで会う時にテスト教えて貰ったお礼にご飯奢った時にね」

 

「ふーん」

 

 まぁコイツなら1夜漬けとかでも出来そうだもんな。

 

 

「ま、そういう訳で行きましょうか」

 

 私に続けーとトワは裏路地に入っていった。今更逃げ出すわけにも行かんしな。

 

「どれだけ煽られるか分かったもんじゃねぇし」

 

 

 

 今思えばこれが初デートか。ここのイタリアン美味かったんだよなぁ。俺はカルボナーラで、トワはペペロンチーノを頼んでたな。アイツに煽られて食べさせあったけど今思えばあれもアピールってやつ? 

 悪かったから無言で殴んないでくれ。地味に痛い。まぁまたその内行くか。あー分かってるよ。勝手に行きやしねーよ。俺が鉄砲玉なのはゲームだけだ。




力尽きた。誤字脱字見てないのであったら報告お願いします。

この後、玲氏を出して三角関係にするか、居なかった事にするかどうしよう。


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制服着るのははさすがに厳しいじゃん

何故デート本番の内容をペンシルゴン視点にしてしまったのか。女性の気持ちとかわからんのに……という訳でキャラ崩壊注意です。
あ、ヒロインちゃんには憧れのまま止まってもらうこととなりました。


 紆余曲折あったけど無事に楽郎を目的の店に連れてこれた。もっとおしゃれな都会の高層ビルの上層階にあるレストランとかでもよかったんだけど、楽郎が平穏に過ごせるとも思わなかったし、連れてくならもっと楽郎をイジリ倒したいときにすべきだ

 と自制した。今回はもっと穏便に済まそうと思った。

 さらに言うとまだ学生である彼と、自身が学生の時に来ていた店に来ることで、気持ちだけでも学生の頃の気分でデートと行きたかった、なんて乙女心もあったりする。臓器売買云々言われて思い出にヒビが入りかけたが、私と彼の今までのやり取りならそれくらいのことを言いかねないのは織り込み済みだ。

 

 店内に入ると、久しぶりに来たけれど相変わらず落ち着きのある雰囲気だ。暖色の光と、少し暗めの色の木材のフロアは、ログハウスのような、秘密基地のような雰囲気も合わせて持っている。

 

「こんな洒落た店が近場にあったとは」

 

 楽郎も中々気に入った様子。社会人になってからは来てなかったし、今日は変装もしている。常連感を出すこともなく私たちは席に案内された。

 

「席が空いててよかったな」

 

「そうだねぇ。混むときは結構混むからね」

 

 それでも席に座れないってほどになることはあまりなかったとは思うけど。私が仕事で学生のころに行ってた店、みたいな企画でも絶対ここは出さなかったし。入れないほど混むことはほぼない。

 

「さて何を頼もうかな」

 

「私のおススメはカルボナーラかペペロンチーノだよ」

 

 学生の時は大体どっちかを食べていた。季節の限定メニューとかボンゴレとかも美味しいんだけど、この2つは特に美味しい。百ちゃんと毎回2つ頼んでシェアしていたりもした。

 

「んじゃ、カルボナーラにしようかな。体が乳製品を欲してる気がする」

 

 楽郎はカルボナーラか、なら私は

 

「それじゃあペペロンチーノにしよっと」

 

 今回の楽郎のボケ? はスルーしていこっかな。毎回突っ込んでると、どんどん普段のやり取りになっちゃうしね。それは私の望むことじゃない。彼をいきなり落とすなんてのは土台無理な話で、クソゲー脳の彼を1度恋愛脳にする必要があるわけだ。そのためには普段の言葉のドッジボールは無しでいかなきゃいけない。まずはペンシルゴンじゃなくて、天音永遠として意識してもらう必要がある。と今回のデートの目的を復唱していたら、その間に楽郎が注文を済ませていた。

 

「ありがとね」

 

 私がそういうと、楽郎はギョッとした顔を浮かべて

 

「こんなのでお前に礼を言われると背筋が凍るんだけど」

 

「私のお礼は怪談か何かかな? あとお前じゃなくて」

 

「あ、悪い。トワ」

 

 私がそういうと彼はばつの悪そうな顔をしてから、私を名前で呼んだ。このまま順調に私を意識してくれてるといいんだけどね。

 

「そういえば何で今日来たんだ? 瑠美が出かけるときに言ってた感じだと前から決まってた感じがしたんだが」

 

 楽郎が言ってきたことは私からしたら中々痛いとこをつかれたって感じだった。素直に言っても今はまだ本気にしてくれないだろうし、普段の煽るように話せば、彼の警戒心が跳ね上がるだろうし。

 

「瑠美ちゃんから誘われてたからね。もともと。それでどうせなら楽郎君にドッキリでもってね」

 

 私は結局後者寄りの回答をすることにした。後で瑠美ちゃんと口裏合わせをしないと。

 

「ついででドッキリかました挙句、部屋まで踏み入られたのか」

 

 そういった楽郎は胡散臭い人間を見る目で私を見たきた。

 

「その顔やめてよ。私も傷つくんだよ」

 

「コノキモチ……コレガ……ココロ?」

 

「そのネタもう飽きたよ! 絶妙に腹立つ顔で言っちゃってさぁ!」

 

 半ばテンプレと化したセリフに思わず声を大きくしてしまう。あぁやっちゃったよ。この調子じゃ一生悪友ポジから出れないよ。

 

「お待たせいたしました」

 

 そんな私の心を察したかのようなタイミングの良さで、料理が来た。いつもの掛け合いに移行しそうな空気がリセットされる。これで命拾いできたかなぁ。ホント、こんな苦悩をする日がくるとは思わなかったよ。

 

「おぉ! 美味そう!」

 

「そりゃ私のお気に入りのお店だからね。美味しいよ」

 

 楽郎も料理の方に意識が向かったみたいだ。まぁそれすなわち私に対して意識が向いてないってことでもあるからちょっと悔しいんだけどさ。

 

 そんなことを思いながらも、学生の頃の懐かしの味を楽しむことにした。

 

「んー! やっぱり美味しいね」

 

 ペペロンチーノはパスタの中でも作りやすい部類に入るけど、ここのはホントに美味しい。

 

「おぉ! これはマジで美味いな。今度からここに来るかな」

 

「気に入ってくれてよかったよ」

 

 いや、ホントにね。これでまた誘う口実にもなる訳で。毎回ここにはしないけど、何かある度にここでご飯を食べれたらそれは嬉しいことだろうとは思う。

 刹那主義の癖に先の事を考えるなだって? それは無理だよ。今が順調なら、彼とのこの先のこともつい考えてしまうからね。まぁ今やりたいことは今やっちゃうんだけど。

 

「楽郎君さぁ」

 

「何だ? トワ」

 

 私が彼に声をかけると彼はフォークの手を止めてこちらを向いた。こういう所で地味に育ちって出るよね。まぁそれは置いておいて。

 

「私さ久々に来たからそっちのカルボナーラも食べたいんだけど、1口ちょうだい」

 

 ちょっと懐かしむように私はそう言った。すると彼はフォークを置いて、カルボナーラの器をこちらに寄こしてきた。

 

「わかった。いいぜ。ほらよ。その代わりにそっちのも1口くれよ」

 

「分かってないなぁ。こういう時は食べさせてくれるもんでしょ」

 

 私がそういうと彼はギョッとした顔をした。そしてそのまま口を開き、

 

「いやそんなバカップルぽいことペンシルゴンとしたくないんだけど。ていうか仮にも芸能人がそういうことを公然としていいのか」

 

 動揺しているのかプレイヤーネーム呼びになっている彼を見ながら、私は続けて言う。

 

「あーごめんね。ごめんね。お姉さんの配慮が足りなかった。楽郎君にはリアルの女の子とのデートでこういうのする度胸はないか」

 

「はぁ? あんまり舐めるなよ? こちとら1つのミスも許されない。コンマ単位の攻略チャートをやり遂げたんだぞ」

 

「ゲームでね。リアルじゃないんでしょ? そういう経験」

 

「リアルでストップウォッチ片手にデートとかする訳ないんですけど」

 

「さもデートしたことある風に言うけど、そっちの攻略チャートの話じゃなくて恋愛全般の話さ」

 

 私は楽郎に畳み掛けるようにそういう。

 

「お姉さんが練習相手になってあげるって言ってるのさ。私に出来るようになれば大抵の女の子に出来るようになるよ。それても楽郎君は緊張しちゃって出来ないかな?」

 

 まぁ他の子にやらせる気なんてないんだけどね。私が挑発するようにそういうと、案の定彼は

 

「いいだろう。やっすい挑発にのるのは癪だけどやってやんよ! 口開けろ! ペンシルゴン!」

 

 ノッてきた。ただ

 

「ペンシルゴンじゃなくて?」

 

 私がそういうと彼は、ちょっと詰まりかけたが

 

「トワ。口開けろ」

 

 そう言った。言ってる事は命令口調なのに、顔を赤らめながら、今更やってることに恥ずかしさを覚えているような表情なのがいい。これで彼はきっと私を意識せざるを得ないでしょ。

 

「はいはーい。あーん」

 

「今更だけど恥ずかしくなってきた。人がいなくてよかった」

 

 私がそういって口を開くと、彼はそう言って大量にパスタを巻き付けたりだとか、奥までフォークを突っ込んでくるとかもせずに、普通に私の口にパスタを入れてきた。

 

「ん〜。久々に食べたけど、カルボナーラもやっぱり美味しいね。もう一口ちょうだいよ」

 

「人いなくても流石にもうきついわ! ていうか俺にだけやらせるなよ。トワもやってみろよ」

 

 私が彼から貰ったカルボナーラを堪能しつつ、ちょっと調子に乗ってみると、少し余裕を取り戻したのか彼はこう言ってきた。

 

 

「いいよ。もちろん。お姉さんが食べさせてあげよう。ほら口開けて」

 

 はい。あーん、と私がパスタを巻き付けたフォークを差し出すと、彼の予想では私はやりたがらないとでも思っていたのか、目を泳がせながら

 

「え? お、おい!」

 

 とまた動揺しはじめた。まぁ今更降りることは許さないよ。

 

「ほらほら、パスタ食べたいんだろう? はい。口開けて。こんなの私のファンに見られたら殺されちゃうよ?」

 

 私がそう言うと、彼はここで逃げたらイジられるとでも思ったのだろう。ヤケクソ気味に

 

「先にやったのそっちなのに俺が殺されるの!? っ! たくっ! あーん」

 

 と口を開いた。そこに私は手に持った自分のフォークを入れる。彼が口を閉じてからフォークを抜き

 

「よく食べれましたー。褒めてあげるよ」

 

 と言った。彼はパスタを食べ終えてから悔しそうに

 

「初めてトワに年上の余裕を感ちまった。凄まじい敗北感だわ」

 

 と負け惜しみを1つ言ってからカルボナーラを食べた。

 

「あ、間接キスだよ? 楽郎君そういうの気にするタイプ? 私はあまり気にしないよ」

 

 相手によるけど。私がそう言うと、彼は噎せたのか咳き込み出し、それが収まると

 

「今それ言う? てかトワのもそうじゃん!」

 

「いや私は気にしないし」

 

 相手によるけど。

 

「俺だって気にしてねぇー! 今も無心で食ってたわ」

 

 無心で食べられると困るから、今言ったんだけどね。さて、ここまですれば、鈍感って訳じゃない楽郎ならまぁ私に意識が行くでしょ。

 

 そこからはお互いさっきの事を言いながら(私だけが一方的に言ってた気もするけど)パスタを食べ進めた。もう1回あーんをさせようとも思ったけど、楽郎君の余裕が思ったよりなさそうだったから断念した。あんまり一方的になりすぎるのもよくないからね。

 

 

「美味かったぁ。ごちそうさま」

 

「美味しかったでしょ?」

 

 私がそう言うと、彼は頬を手で擦りながら、

 

「美味かったのはもちろんだけど……」

 

 そこで彼は1度言葉を区切った。いや区切ったってよりは詰まってるのかな。

 

「まぁくれぐれも天音永遠に食べさせてもらった、なんてSNSで言わないでね。まぁ言ったら言ったで君も大炎上だけど」

 

 そうなったらそうなったで容赦なく、彼との関係を既成事実にするだけなんだけど。

 

「やらねぇよ! さすがにそこまで馬鹿じゃないわ!」

 

「そうかい? まぁまた来ようか」

 

「トワとは二度と来ねぇ!」

 

 

 

 

 結局何回もここに来ることになったよね。え? 何? うるさい? この時は余裕が無さすぎて頭がゴッチャゴチャだった? ならお姉さんの予定通りだね。

 ちょっと拗ねないでよ。この時の君はまぁ可愛かったよ。ほら、顔を赤くして……分かったって。今度また行こう。その時は1口と言わずにさ。その時はパスタで窒息させる? またまたぁーそんなこと言っちゃってー。




誤字脱字あったら報告お願いします。感想もぜひ!
とりあえずこれで一区切り。


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花火大会
始まりはいつも向こうから


正直小説のタイトルが全てで完全な1発ネタだったので、ここからはもう書くとしたら、定番のネタで行こうかなって思います。
一応前回の続きで。
あとヒロインちゃんは出てきません。この小説トワラクだし、勝敗見えてる三角関係は面白くないので(面白く書けないとも言う)


 この前の天音永遠襲撃事件から幾日か過ぎ、もうすぐ学校も始まる頃、それは来た。

 

 鉛筆騎士王:やっほー! 楽郎君! 今度の日曜空いてる? あ、午後っていうか夕方からでいいんだけど。

 

 サンラク:空いてない。今埋まった。腹痛になる。

 

 鉛筆騎士王:空いてるのね。んじゃ○○駅に15:40分に集合で。

 

 サンラク:いやだから空いてないって。家から出れない呪いにかかるから。

 

 鉛筆騎士王:そんなの聖女ちゃんに祓ってもらいな。という訳でヨロシクっー! 

 

 俺の話は一切聞かずにこれだ。ここからは先は何送っても完全に無視されている。そして今度の日曜なんて言い方してるけどそれは明日だ。いや予定はない。ないんだが……

 

「あいつに呼ばれると基本ろくな事にならないからな」

 

 前回も……いや思い出すのはよそう。前回のパスタの件を思い出して思わず顔を赤らめたが、いくらスーパーカリスマモデル天音永遠とはいえ、あのペンシルゴンだぞ? ドキドキしたら負けだ! 

 だがリアルで只の高校生が現役のモデルにだな、こうあんなのをされると、意識せざるを得ないというか……そういうVRのギャルゲーだと思えば……いやあれはどう足掻いてもリアルで、実際に起きたことでそれだけは変えられない。

 

 と誰に、何のためにしてるのか分からない言い訳をしていると、自室の扉の前が急に慌ただしくなった。まさか……

 

「お兄ちゃん! 開けるよ!」

 

 俺が返事をする前に瑠美は扉を叩き壊す勢いで開けた。

 

「あの俺まだ何も言ってないよ」

 

「お兄ちゃんの返事はどうでもいいの!」

 

 俺の部屋なのに俺の返事がどうでもいい訳ないんですけど……そんな俺のリアクションは放っておいて、瑠美は嫌にハイテンションなまま口を開いた。

 

「聞いたよ! トワ様から! 明日出かけるんでしょ! 着ていく服私が選ぶから!」

 

「あのな、俺は行くなんて返事してないんだよ」

 

 恐らくはトワから連絡が来たのだろう。あの魔王は俺を逃がさないために瑠美を使ったのだ。やはり俺に安息の地はない。

 

「トワ様にお誘い受けたら、返事は、はいかイエスしかないに決まってるでしょ!」

 

 それだけ言うと邪教徒と化した妹は、あぁでもない、こうでもないとタンスを漁りながら言い始めた。

 

「あのなぁ……もういいや」

 

 諦めた俺は大人しくゲームをすることにした。俺がゲーム終えた時に、何を着ることになるか教えてくれ。

 結局俺は瑠美が決めた服で明日出かけることになった。まぁまだ暑いし、7分丈の黒いスラックスに、白の半袖Tシャツと、その上に水色のシャツを羽織って足元はサンダルだ。絶対これでいけだそうで、別になんでもいいと思うんだがなぁ。え? ジャージで行ったら殺す? またまたぁ〜。まぁジャージで行ったらトワに延々とバカにされそうだな。

 

 という訳で次の日、午前中はゲームに時間を費やし、トワから指定された駅に向かうことにした。服装は当然のことながら昨日瑠美が決めた服だ。あいつはバイトで家に居なかったが、仮に着ていかなければとんでもない目にあっていたことだろう。邪教徒め。いや真に責めるべきは魔王本人か? 

 

 

 おっと、もう着いたか。結構近かったな。一応集合よりは少し早く来たけど、どこで待つかな。あんまり人の多い所だとトワが芸能人であることを痛感しそうだし。っていうか思ったより人が多いな? それに浴衣の人も結構いるな。もしかして……

 そこまで考えた時、聞きなれた声が俺を呼んだ。

 

「らくろーう君!」

 

 声のした方へ振り返ると、そこに居たのは天音永遠だった。といっても帽子とサングラスで変装はしているが。

 

「悪い。俺の方が遅かったか?」

 

「時間より早いから問題ないよ。仕事が思ったより早く終わってね」

 

 この前の時もそうだがトワが妙に素直だ。傍若無人の大魔王、ペンシルゴンとは別人に見えてくる。いやそこまで見越しての罠かもしれん、決して油断はするな。相手はスーパーカリスマモデルとして活動している魔王だぞ? 純情な男子高校生を騙す演技くらいなんてことないはずだ。

 

 俺がそんなことを考えているのを知ってか知らずかトワは

 

「なーに黙ってるのかなぁ。楽 郎 君」

 

 そんなことをいいながらこちらの顔を下から覗き込むようにして見てきた。思わず俺はその場から飛び退く。

 

「なんで逃げるのさ」

 

「あんな近く来られたら飛び退くに決まってるだろ」

 

 いやビックリしたよ。ホントに。パーソナルスペース狭すぎません? うちの学校の女子とかメチャメチャ広いよ? 最近話す斎賀さんとか特に、ちょっと距離詰まることあったら一瞬で飛び退くからね。俺はゴキブリか何かか? 

 

「今他の娘のこと考えたね?」

 

「うぉっ!? エスパーか?」

 

 ちょっと考えただけじゃん。こわっ! これが女の勘ってやつか……

 

「ま、そんなのはどうでもいいんだ。どう?」

 

 果たしてこれはなんのどう? なのか。順当に行けばファッションだろう。首から上はマスクと帽子だから分からないし、他のことならもっと分からない。いやファッションも分からないんだけどね! ダメじゃん!? 

 変な思考に入りかけたのを修正して、トワの服装を見る。

 上は肩が出るタイプの白いシャツに、薄手のベージュのカーディガン、下はジーンズと赤いスニーカーである。

 

「どうって言われてもなぁ、似合ってるぞ」

 

「私が自分に合わない服着るわけないでしょ。聞きたいのはそうじゃなくてさぁ……」

 

 うーん。これは選択肢ー!! 選択肢をくれ!! 外れたらピザ留学は勘弁で! 

 

「ってもなぁ。まぁキレイだぞ。横にいるのが恥ずかしくなるくらいには」

 

 当たり前である。相手はスーパーカリスマモデルだぞ。正直高校生なら誰が横に立っても釣り合わないと思うが。

 

「まぁいいでしょう。ピザ留学は無しにしてあげるよ」

 

「そりゃあどうも。んで今日は何すんだ?」

 

 多分褒められてはいないが、ギリギリセーフだったらしい。お許しの言葉を頂戴出来るくらいには。

 

「そうそう。見れば分かると思うけど、今日花火大会なんだよね。一緒に見ようと思って」

 

「なるほどねー。それで今日か」

 

「うん。ちょっと仕事終わりに間に合うか微妙でさぁ。前日に連絡しちゃったんだよね」

 

 まぁモデル業は普通のサラリーマンとは違うしそんなものだろう。むしろそれでパパっとキメてこれるのがすごい。

 

「それで浴衣ではないのか」

 

 俺がそう言うとトワはニヤリと口角を上げて

 

「なになに? 着てきて欲しかったの?」

 

「まぁ多少は……あんま服に気を使わない人間が言うのもなんだけど」

 

 俺が語気を弱めながら言うと、トワは今度は声を出して笑った。

 

「浴衣って着るの手間かかるし、移動も大変だからねぇ。仕事終わりじゃ流石に無理だねぇ。それともお姉さんの浴衣姿見たかったの?」

 

 トワが少し意地悪げにそう聞いてきた。あんまやられっぱなしでもなぁ……そう思って俺は

 

「まぁな。トワの私服姿は妹の雑誌でも何でも幾らでも見れるけど、浴衣は違うからな。少し興味あったわ」

 

 となるべく平静を装って言った。正直こんなフレーズをリアルで言うことはないと思っていたし、そのせいか心臓の音はとてつもなく大きくなっているように感じたからだ。ただやられっぱなしは性にあわない。トワが赤面するくらいのセリフを言ってやろうと思って頑張ってみたが、トワの反応は……

 

「君にしては珍しく素直だね。ちょっと顔を赤らめてるのが残念だけど、意外と純情ってことで納得してあげるよ」

 

 そう言い放つとトワは、さぁ行こうと歩き始めた。俺は慌てて後を追おうとしたが、帽子とサングラスの間にある耳が少し赤くなっているのを見て、思わず俺はニヤリと笑った。

 

「髪を耳にかけてたのは失敗だったな」

 

 走ってトワに追いつき、肩を叩きながらそう言った。花火会場は多分人の流れの先にあるだろう。俺は後で自分が悶絶するのを承知で、ここまでの小っ恥ずかしいセリフを忘れたい思いと、トワからの反論を聞かないようにするためにトワの手を取って走って行った。

 

「今日は動ける格好にしといてよかったよ」

 

 横でそんな声が聞こえた。

 

 




恋愛描写はキャラ崩壊しちゃうよね。元からしてるとはいわない。細かいセリフ回しとかも誤字報告してくれても構わないです(そんなんで修正できるレベルじゃない)

感想、評価あればお願いします。なるべく感想返しはします。


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横のコイツは花火が似合う

今回は全部楽郎視点で行きやす。トワの心情はみなさんで妄想しましょう。
人気投票はみなさんどう投票しましたか?私はペンシルゴンに入れました。過去編ってよりは前にTwitterに氏が上げたような番外編へ期待しながら。


 人混みの中を間を縫うようにして駆け抜ける。といっても手を繋いでいるし、全力疾走なんて出来ないから小走りでだけど。

 

「ちょっと……止まってよ……疲れた」

 

 息を切らしながらトワがそう言ったのが聞こえて、俺は右手でトワの左手を握りしめたまま立ち止まった。

 

「悪い衝動に身を任せてしまった」

 

「女の子をエスコートする上で最悪のセリフだね。特に今この場面では」

 

 トワはジト目でそう言った。まて……女の子? そんな俺の内心を知ってか知らずか

 

「24歳はまだまだ女の子ですぅー!」

 

「ならもうひとっ走りしとくか?」

 

「んーっ、それは遠慮しとくよ」

 

 俺がからかい交じりにそう言うと、トワは苦笑しながらそう言った。そして暑かったのか空いてる右手で襟元をパタパタと扇ぎ始めた。身長差の関係で、俺はそれを上から見てしまった。スレンダーなモデル体型故か、平均よりは小さいがそれでもあるにある女性的な部分がだ……。俺は思わず息を飲んだ。

 

「なに? 楽郎君」

 

 目敏くトワは俺の動作に気づいたらしい。そして状況を理解すると、

 

「ほーん。君も男の子だねぇ。気になっちゃった?」

 

 そう言い、よく見る意地の悪いにやけた笑みを浮かべ始めた。俺は思わず俯いて黙り込む。さっきまでのと合わせて、今は何を言っても勝てる気がしなかったし、これ以上ボロが出るのが嫌だったから。でもなぜ繋がっている手だけは離さなかった。自分から離したら、この状況を負けだと認めたようなもんだと思ったからかもしれない。

 

「モモちゃんとかの方が全然おっきいからあんまり自信なかったんだけどなぁ」

 

 ニヤニヤとトワは俯いている俺の顔を下から覗き込んでくる。

 

「……見たい?」

 

「……っ!」

 

 繋がった俺の手を少し引っ張りながらそう言ってくる。これは罠だ。間違いない。数多のクソゲーの地雷を踏んできた俺にはわかる。それにありとあらゆる手段で俺とカッツォをからかってくる女だ。イエスといえばその瞬間にグループのSNSが荒れるのは必死。そういう意味じゃラブクロックのヒロインなんて目じゃないくらいには厄介だ。フェアカス? あれは女ですらないから別。

 

「見ねーよ! 飲み物買ってくる!」

 

 俺は繋がっていた手を振り離して、視界にあった自販機に向かった。これは逃走ではない。戦略的撤退なのだ! 

 

「別に1人で行く必要なくない?」

 

「残念。魔王からは逃げられなかったよ」

 

 トワは普通に着いてきた。俺の予想ではじゃあ私のもー! って言ってくる読みだったんだが……

 

「魔王ってリアルで言うのは止めてよ。これだけ混んでるのに別れたら合流するの大変でしょ」

 

「それもそうだ。というかゲームならいいのか」

 

 周りを改めて見る……周囲には人、人、人。いくら連絡する手段があるとはいえ1度別れたら簡単には合流出来ないだろう。そんなことも気づかないくらいには俺は動揺していたらしい。トワが魔王ムーブというか、悪役ムーブをしがちなのはリアルでもゲームでも変わらないから別にいいと思うんだが……

 

「んでトワは何飲むんだ? おしるこでいい?」

 

 俺は自分の分のスポーツドリンクを買ってからそう聞いた。流石に自販機にはライオットブラッドは無かった。いやあっても今は買わないけどさ! 

 

「こんな暑い日に人混みの中に居て飲むわけないでしょ。ていうか今の時期にあるんだねぇ」

 

 こりゃ今度魔王ムーブ知ってるやつが会うことがあったらご愁傷さまってやつだな。多分被害に合うのはカッツォ。そしてスレが加速する。慧×おしるこは間違いなくこの夏のトレンドになるだろう。

 

「私は普通にレモンティーかな。おしるこはカッツォ君にあげよう」

 

 賛成多数によりカッツォの飲み物はおしるこに決まった。この場にはいないけど。俺は自販機にお金を入れてレモンティーを買う。

 

「はいよ」

 

「ありがとね〜」

 

 別にペットボトル1本で奢りマウントを取るようなことはしない。ていうかしたら器が小さすぎる。煽られるだけだ。

 

「そういや花火ってどこから見るんだ?」

 

 俺がそう聞くと待ってましたと

 

「やっとそれを聞いてくれたねぇ。な ん と」

 

 トワは腰のポーチに手をやると

 

「じゃじゃーん! お仕事で貰った花火大会の優待席ぃ〜」

 

 おぉそれはすごい。でも

 

「それで入ったらバレないか?」

 

 俺がそう聞くと

 

「そんなの人混みの中で見てても変わらないよ。なら1番いい場所で見たいじゃん」

 

「まぁ確かにそうか。そんじゃ行こうか」

 

 行くまでの途中には出店もあるし、色々買って行っても良さそうだ。優待席ならある程度なら食べ物だって広げられるだろう。

 そう思って俺が歩きだそうとすると

 

「君はさっきみたいに急に鉄砲玉になるからさ」

 

 そう言ってペンシルゴンはさっき俺がしたように、俺の手をとって繋いできた。別にまだ付き合っている訳でもないのに、忘れるように努めていた、さっきまでのやり取りがまた頭の中をぶりかえす。

 

「そんなんリアルじゃそうそうならねーよ」

 

 なんと説得力の無い言葉だろうか、さっき急に走り出したやつのセリフとは思えない。トワも同じことを思っているのか、こちらを見るその目は冷たい。だが俺がこの繋いだ手を離さないところで察して欲しいのだ。彼女の耳が少し赤くなっているように、俺も今、信じられないほど心臓が早鐘を打っているのだ。

 

「にしても出店っていうのは、ずっと昔ながらのままらしいね」

 

 そこにはVRやARのような最新技術はなく、威勢のいいおっちゃん達が喧しくも、どこか懐かしい客引きをしていた。急な話題の転換によって、俺は流されるままに手を繋ぎっぱなしにしていた。

 

「これもある意味文化なんだろう。この会場がARとかで埋まってたらそれはある意味祭りの出店じゃないし」

 

「それもそうだね。味気がない花火大会になっちゃうかもね。あ、おじさん、これ1つ!」

 

 トワが買ったのはタコ焼きだった。出店のタコ焼きは当たり外れが激しい。なんせタコを入れ忘れたりなんてのがザラにあるからな。お、美味そうなのがあるじゃん! 

 

「ごめん。これ1つ!」

 

「楽郎君ってそういうのも好きなんだね」

 

 俺が手にしていたのはリンゴ飴だ。だってこれってこういう出店でしか食べる機会なくない? 

 俺がそう言うと

 

「まぁ確かにね。でもかなり甘ったるいじゃん? あんまり好きじゃないんだよねぇ」

 

「別に1年に1回食べるかどうかなんだからそこまで気にしなくていいだろ。毎日食えって言われたら苦痛だとは思うけど」

 

 こんな感じで出店の商品をあぁでもない、こうでもないと言いながら練り歩く。花火をより良い所で見るために場所取りをしている人たちを尻目に、その集団の脇から俺たちは優待席の入り口に向かい、そのまま中に入った。

 人混みの中で押し合いながら場所取りに苦戦しているのを前から悠々と見れるのは素晴らしいな。

 

「いいねぇ。こうやって苦労して並んでいる人たちを見下ろすように前に行くのは」

 

「その気持ちは分かるがあんまり言わない方がいいぞ。俺も滅茶苦茶思ったけど」

 

「え? もしかして楽郎君って性格悪い?」

 

「トワに言われたくないわ!」

 

 思わずキレ芸の如くツッコミを入れる。頭をどつかなかった俺を褒めて欲しい。スーパーカリスマモデルの頭を叩く度胸はなかったともいうし、リンゴ飴のせいで手が塞がってたのもある。

 そんなこんなで俺たちの分の席を見つけ、そこに座る。ここで俺たちは久々に手を離した。おかえりマイレフトハンド。

 

「ふふふっ、やっば君とこうして居ると楽しいね」

 

「まぁ退屈はしないかな。俺も」

 

 俺たちはそこから少しの間見つめあった。俺は特に意味は無いが真顔のままリンゴ飴をかじる。

 

「いやなんでここでリンゴ飴!?」

 

「そろそろ食べようかなって」

 

 それを聞いて呆れたようにトワが笑った。俺も釣られて笑っていた。

 

「んじゃあ私もタコ焼き食べよっかな〜」

 

 トワは横でタコ焼きを開け食べ始めた。それを見てると腹が減ってきた。あぁなんで俺リンゴ飴なんか買ったんだ? 片手が完全に塞がるせいで追加でなんも買えやしなかった。その視線に気づいたのかトワが

 

「食べる?」

 と聞いてきた。俺は人間の三大欲求に抗えず、くれ、と答えた。そしてトワからタコ焼きのパックを受け取ろうとした。が、

 

「あの〜」

 

「なに?」

 

「くれよ」

 

「あげてるじゃん」

 

 トワが差し出したのはパックではなく、箸で挟まれたタコ焼きだった。いや、あの〜

 

「この前のお客さんのほぼいない店の陰とかじゃなくて、ごごバリバリの人混みの真ん中なんですけど」

 

 彼氏彼女でもないのにこんなんやる? そこまでして俺を恥ずかしてようっていうのか!? 羞恥心とかないの? 

 

「ねぇ〜腕疲れるんだけど」

 

「なら下ろしてくれていいよ」

 

「はーやーくー」

 

 最近こんな感じでトワに押し負けることが多くなった気がする。いや元々会った当初からそうだったか? 

 

「分かったよ」

 

 あーと言わんばかりに口を開ける。

 

「もう遅いよ。まったく」

 

 そう言いながらトワは俺の口にタコ焼きを放り込む。買ってから暫く歩き回ってて放置していたからだろう。舌を火傷するような熱さはなく普通に美味しかった、と思う。なぜ曖昧かって? 

 

「どう? 美味しい?」

 

 食べてる時にそう聞いてきたトワの目に見蕩れていたからだ。そのせいで俺は、今飲み込んだタコ焼きの味を全く思い出せなかった。吸い込まれるようにその目を見てしまいそうになる。慌てて視線を外して、俺はスポーツドリンクを飲んだ。そしてその蓋を閉めた後に

 

「美味かったぞ」

 

「まぁ作ったのは私じゃなくて、出店のおじさんだけどね」

 

 いや確かにそうなんですけど、ここで言います? いや普段のペンシルゴンって感じはするが、最近のトワって感じはしない。よく分からない違和感を感じた。少し寂しさを覚えるような、そんな違和感だ。まぁトワには決して言わないが。

 

「リンゴ飴ちょうだいよ」

 

「え? タコ焼き1個でリンゴ飴持ってくの!?」

 

 とんでもないレートだ。悪徳商人だってもうちょい優しい。そんなことを思っていたら

 

「違うよ。1口だよ」

 

「一応モデルやってるからね。そんなカロリーの塊を丸々1個なんて食べないよ」

 

 まぁそれもそうか。傍若無人な振る舞いが多い、ていうかしかないけど、そういう所には気を使ってるのね。

 

「まぁ全部でもやるけどさ」

 

 そう言いながら俺はトワにリンゴ飴を渡した。彼女は、うーん久々に見たなぁとクルクルと手元で回すように少し見たあとにリンゴ飴を舐めた。

 

「リンゴ飴って思ったより固いよね。中々齧れないや」

 

「いやまぁ俺もそんな気はしてた」

 

 さっき自分で食べててと思ったのだ。リンゴに辿り着くまでが中々大変だ。というか俺もまだリンゴまで到達してないし。

 トワは暫くリンゴ飴を舐めていたが、やがて1口齧り

 

「んーリンゴまでいけたよ。でも確かに1年に1回と思えば美味しいね」

 

 そう言って俺にリンゴ飴を返した。だが俺はこのリンゴ飴の艶が、さっきまで俺が持っていた時と同じ、飴によるものだけとは思えなかった。彼女の唇を思わず見てしまった。口紅は付けていないし、グロスも対して引いてるようには見えなかった。だがこのリンゴ飴は確かに、トワに渡す前とはまったく違うリンゴ飴にしか見えなかった。

 

「その評価だとあまり美味しいって感じがしないんですが」

 

「……いや、美味しいよ。ホントにさ」

 

 なるべく普段通り、飄々と返す。というかこっからイジられる最近のパターンにはもう入りたくはなかった。だが俺は中々リンゴ飴を食べ進められなかった。横のトワはパクパクとタコ焼きを食べている。さっき俺も使った箸でだ。

 この前のパスタだってこうだった。流石に2度も負けるのは……。

 そう思ってリンゴ飴を齧る。なんとなくさっきまでと違う味がしたような気がした。

 

 俺がそんな阿呆な葛藤をしながら食べている間にトワはタコ焼きを食べ終え、俺をじっと見つめていた。黙り込むなんて珍しい。

 

「お、もうすぐ始まるみたいだよ」

 

「良かった。ちょうど食べ終えたよ」

 

 流石にリンゴ飴ずっと片手に持っていたくなかった。持っているだけで意識しそうだったからだ。

 ゴミはきちんと持ち帰りましょう。タコ焼きの入っていた袋にゴミを入れて、俺の脇に置いておく。

 

 そして花火大会が始まった。いくつも打ち上がる花火は上がる度にこの場にいる人間から、感嘆の声を生じさせる。

 

「いいねぇ〜。たまやー!」

 

 横のトワはとても楽しそうだった。刹那主義のこいつにとって花火ってのは恐らくは大好物なのだろう。普段のプレイスタイルが花火職人みたいなもんだし。

 

 気づいたら俺は花火そっちのけでトワばっかり見ていた。なんとなく実年齢より幼く見えるその笑みに俺は見とれていた。最近トワに見とれることが多い。ゲームではよく見るが、リアルで会うようになったのは最近だし、トワの顔はやっぱり整っている。当たり前だけど。

 

 ぼーっと見ていると急に右手が何かに包まれた。そっちに視線を向ける。トワの手が俺の手の上に重なっていた。

 そのまま目線をあげる。トワがこちらを見ていた。さっき花火を見ていたその笑顔のままで。

 

「いいじゃん? 今日はずっとこうしてたんだし」

 

「いやいいけどよ」

 

 いくらトワとはいえ、流石にそろそろ俺も勘違いするよ? そう言おうと思ったが飲み込んだ。言ったら一生煽られそうだと思ったからだ。

 

「 」

 

 トワが何かを言ったが、生憎デカい花火が打ち上がって聞き取れなかった。

 そこからは花火をずっと見ていた。いや右に顔を向けれなかった。ただ、右手の感触だけで、花火の景色と音よりも意識を持ってかれていた。こっからトワと別れてからの帰り道もよく覚えていない。気づいたら家にいた。

 正直、花火自体はそんなに楽しんでいない。ただ今までの俺が知っているペンシルゴンとは違う、天音永遠という存在が俺の中に刻まれた日になった。流されるようにトワと呼んでいたが、どこかでペンシルゴンだと意識していたのが、天音永遠であると。

 




やっばりアバター自体が本人なのもあって、あの顔のまんま外道で楽郎君にはインストールされてそうだと思いながら、それが変わるまでの花火大会でした。
ペンシルゴンって花火のイメージが強いからもうちょい上手くそこんところ書ければよかったかなと思いますが、それはまぁ別の人にお願いします。


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永遠が愛を君に捧ぐ
永遠が愛を君に捧ぐ。


ヤンデレペンシルゴンは消しました。別に短編集を作ったのでそちらに。R-18ですけど。
今回で一応完結です。章タイトルとこの話のタイトルが同じなのは仕様です。


 花火大会以来、何回か仕事の合間を縫って楽郎と会い、少しづつ彼のハードルを下げていった。悪態をついてやってた食べさせ合いも、今は慣れたのか何も言わなくてもやってくる。それで私が揶揄うと顔を赤くして、いいだろ別にいつもやってるじゃん、と返してくる。ここまで来るのにどれだけ苦労したことか。瑠美ちゃんにも散々協力してもらった。というわけで私、天音永遠は本日、陽務楽郎に告白します! 

 

 

「と言ってもねぇ……」

 

 告白された経験は数あれど、告白した経験のない私はとても脅えていた。刹那主義とはいえだ、彼とは永い付き合いをしていきたいと思っているわけで! 

 

「これでフラレちゃったら私、何も出来なくなりそうだ」

 

 今居るのは今日のデートの待ち合わせ場所だ。といっても集合時間より1時間くらい早いんだけど。ここはかなり広いショッピングモールで日本1大きい観覧車がランドマークとして有名な場所だ。

 正直ショッピングモールに来たって服を買うことは、まぁほとんどない訳だけども、モールの中には映画館とか、外にもカラオケとか遊ぶ場所には困らなそうだからここにした訳なんだけど。

 

「どうしようかなぁ」

 

 観覧車で告白するのはロマンチスト過ぎるかなぁ。でもなぁ……何でもない流れで言っても本気にして貰えなさそうだし、そもそも向こうから告白して欲しいっていうのもあるしなぁ……。それで待ってる間に横からかっさらわれても嫌だけど。

 

「恋と戦争では手段は選ばないとも言うしねぇ」

 

「なに物騒なこと言ってんだ? シャンフロで鉛筆王朝建てるのはやめろよ?」

 

「うひゃあ!?」

 

 私の独り言を拾ったのは私が待ち望んでいた彼だった。どうしよう今の最初から聞かれてたら恥ずかしすぎるんだけど。

 

「なんだよその声? おはよう、トワ。一応時間より早く来たつもりだったんだが待たせちまったみたいだな」

 

 悪い。と言って来た楽郎は私のコーディネート通りの格好で来た。そしてどうやらさっきのも最初の方は聞こえてなかったみたいだ。

 

「全くだよ。私を待たせるなんてさファンの子が聞いたら君は大炎上だよ」

 

「一応集合時間の30分前なんだよなぁ。てっきり時間ギリギリに着くもんだと思ってたぜ」

 

「あのねぇ。社会人にそんなことは許されないんだよ」

 

 よっぽどの実力者でも遅刻連発してたら干されるような業界にいるから尚更ね。

 

「あー、まぁそりゃそうだよな。にしても早すぎやしないか? いつ来たんだ?」

 

「ついさっきだよ。まぁそんなのはいいんだ。行こうか」

 

 30分前もついさっきさ、君に会えることを思えばね。とは言わなかった。っというか言えるわけないよねぇ。

 

「そうだな、ぼちぼち行きますか」

 

 私が誤魔化すように行こうと言うと、彼も同意してくれた。ただ1つ予想外だったのが

 

「ねぇ……手」

 

 そう彼の右手が私の左手と繋がっている事だ。今までに受けたことの無い奇襲に思わず悲鳴が出そうになるが、グッと堪える。

 悲鳴をあげたら彼が痴漢か誘拐で捕まってしまうから、という訳ではなく、単純に自分が思ったよりも純情である所を見せたくなかったからだ。まぁでも

 

「私が悲鳴上げてたら、楽郎君一発アウトだよ?」

 

「トワも中々パンチある攻撃してきたこと散々あったろ。ていうかさ」

 

 普段やってる食べさせ合いとかの方がハードルは高いだろ。彼のこのセリフに、あぁまぁそうだよねぇ。と思いそれと同時に、今日は上手くいく気がしてきた。

 

 

 

 2人でショッピングモールを練り歩く。

 

「さてどうするかねぇ。トワはどっか行きたいところあったりするのか?」

 

 楽郎君はノープランなのか、私に行き先を委ねてきた。まぁ良いけど、付き合ってくれたら、自分からもどこ行きたいか言って欲しいとは思っちゃうかもね。

 

「私としてはファッションは見る気ないかなぁ。どうせなら映画とかどうだい?」

 

 服は普段の仕事で幾らでも見るし、多分お店入ったらお仕事モードになっちゃうからね。あんまり行きたくはない。まぁ楽郎君を着せ替え人形にするのは面白そうだけど。

 

「映画かぁ。最近見てないなぁ。今何やってたっけ?」

 

「今だと恋愛物があったよ。クソゲーマーの君的にはあんまり興味ないかもしれないけど」

 

 この時私は、多分恋愛映画よりもアクションの方が好きだよなぁ。っていうか今だとVRフル活用のハリウッドの最新のアクション映画が上映されたばっかだからそっち行くことになるかなぁ、と思っていた。けれどその予想は良い意味で裏切られることになる。

 

「いいんじゃねぇか? 面白そうじゃん」

 

「あれ? アクション系じゃなくていいの?」

 

「そっちも好きだけど今日はこっちの気分だな」

 

 彼のこういった一挙手一投足に胸がざわつく。向こうから手を繋いできたり、普段なら絶対に見ない映画をチョイスしたり、それらが全部恋愛方向に寄っていることにだ。

 

「ふーん。ならそうしよっか! これ男子高校生と年上のOLの恋愛物だけど」

 

 中々に今の私たちの関係に刺激を与えそうな内容なんだけど、楽郎君は知っててこれをチョイスしたのか、それとも知らなくて選んでいるのか。今日の楽郎君の態度と合わせると気になったので尋ねてみる。

 

「…………だから選んだんだよなぁ」

 

 少しの沈黙の後、頭をかきながら呟いた彼の声を私はしっかりと聞き、想定より楽郎君が恋愛脳を持っていたことに驚愕した。私を揶揄う気でチョイスしたと思っていたからだ。

 

「知ってたならいいんだ」

 

「え? ……っておい! 聞こえてた!? 今の?」

 

「しーらない。さぁ行くよ。もうすぐ映画始まっちゃうぽいし」

 

「ちょっ! 待て! 聞こえてたの!?」

 

 口から漏れでる君が悪い。

 耳まで赤くしながら、おいおい! と連呼する楽郎君を見て私は、やっぱり今日はいい日だと確信した。それこそ明日死んじゃうんじゃないかと思うくらいには。

 

 

「映画館なんて久しぶりに来たな」

 

「うん。私も映画みるなら最近は家ばっかりだったから」

 

 あの後五月蝿く聞いてくる楽郎君を黙らせた後、私たちはモール内の映画館に来た。あと5分ほどでお目当ての映画が始まる。チケットを買い、映画鑑賞のお供にポップコーンとドリンクも買っておいた。ちなみにポップコーンは大きいサイズに2種類の味(キャラメルと塩)が入ったやつを1つ買い、飲み物は私はミルクティーで楽郎君はエナドリだ。映画館でエナドリなんて飲まなきゃ寝るって言ってるのと同義なのに……。まぁエナドリに魂を売ってる楽郎君だから仕方ないか。

 

 

 

「それじゃ買うもん買ったし行きますかね。ライオットブラッドが無かったのだけが残念だけど」

 

「あんな体に悪い物が何処にでもあるわけないでしょ」

 

「ライオットブラッドは合法だ!」

 

「この話はよしておこう。さて席はっと」

 

 これ以上ライオットブラッドに魂を売った信者と話していても仕方がない。切り上げて席に向かう。封切られたばかりだからか、席はかなり埋まっている。まぁ映画は席さえ取れれば、混み具合はあまり関係ないけどね。

 

「あそこだな」

 

 楽郎君が席を見つけてくれた。既に座ってる人の前を避けて進み席に座る。今はスクリーンにはこの先のシーズンの映画の告知が上映されていた。へぇ、カースドプリズン主役の映画制作決定かぁ。一体誰の影響なんだろうねぇ。横の楽郎君を見る。気恥しそうにこちらを見ていた。

 

「君のおかげかもよ? あれ以来人気になったんでしょ?」

 

「らしいなぁ。いやなんか小っ恥ずかしいわ」

 

 そのあと何本か映画の告知が流れ、やがて本編が始まった。

 共通の趣味である音楽を通して知り合った2人の男女。女の方が男に惚れるが、そこで男が高校生であることを知ってしまう。

 世間の目を気にしながらも、どんどん彼に惹かれていくが彼の同級生にも彼を好きな人がいることを知ってしまう。彼の歳が経つのを待っているだけでは取られてしまうかもしれない、という不安に駆られながらも、2人は付き合う訳では無いが音楽を通して仲を深めていった。

 そして最後は女が誰かに取られる前にと男に告白し、OKと言われエンドロール。

 

 

 まぁ面白いとは思った。それ以上に今の自分の状況と重ねて見てしまった面が大きいけど。あぁそういえば百ちゃんの妹の玲ちゃんって楽郎君の同級生だっけ? エンドロールを見ながらそこまで考えて、やっぱり今日決めようと決意した。楽郎君の方を見てみると、彼は恋愛映画を見たあととは思えないような難しい顔をしていた。

 

 映画館を出て少しモール内を散策した。雑貨屋を見に行ったり、ゲームショップを漁りながら彼のクソゲー雑学を聞いたりとそこそこに有意義な時間を過ごせたと思う。クソゲー雑学は正直いらなかったけどね。

 

 いつ決めようか。といっても流石にこんな人がいる場所で急に言うわけにもねぇ。となるとやっぱり……私はモールの外にある観覧車の方を向いた。まぁモールの中にいるから別に見えてるわけじゃないんだけどね。

 

「ん? トワどこ見てんだ?」

 

「いやぁ、ちょっとねぇ……」

 

「トイレなら逆だぞ」

 

 なーんで女心が分からないかなぁ。というか女の人にトイレはあっちとか言わないの。

 

「トイレじゃないよ。外の観覧車乗ろうよ!」

 

「?? バカと外道は高いところが好きってか?」

 

「なーんで一々そういうことを言うかなぁ。まぁ高いところから人を見下ろすのは好きだけどさ。君も好きでしょ?」

 

「ん。まぁな。高所恐怖症ではないぜ」

 

 ならさっきの例えで言うとバカは君ね。とは言わなかった。普段のノリで行こうとすると、今の心境とのギャップでポロッと言ってしまいそうだったからだ。

 

「んじゃそういうことで行こうか」

 

「その顔には色々言いたいが、まぁいいぜ」

 

 しれっと私は楽郎君の手を取りながら向かった。彼も無言で握り返し、その手を振りほどいてくることはなかった。

 

 

 

「改めて下から見ると大きいねぇ」

 

「日本1だろ? 確か」

 

 観覧車の下まで着きそんな話をしながら、乗り場に向かう。幸い特に順番待ちもなくすぐに乗ることが出来た。

 

「観覧車っていつ乗ってもワクワクするな」

 

「それはただ、子供のままなんじゃないの?」

 

「いやほら高いところから下々の人間を見下ろすのは楽しいじゃん」

 

「それ私のセリフになるはずなんだけど」

 

「自分で言ってちゃ世話ねーよ」

 

 完全な密室。向かい合って座る私たちの発する音以外は何も無く、私はこれからすることを考え過ぎないためにも、何時もより口数多く喋った。

 

「もうすぐ頂上みたいだな」

 

「そうだねぇ。下にいる人達がゴミみたいだよ」

 

「そこは豆粒って言えよ!」

 

 外道トークをわざとし続ける。じゃないともうどうにかなってしまいそうだった。心臓の音を聞かれないように私は話続けた。

 

「もうすぐ頂上じゃない?」

 

「お? 確かにそうだな」

 

 そう言って彼は私に背を向けて外の景色を見始めた。外はまだ明るいがうっすらと夕焼けが広がり、空は赤と、青と金が入り交じった模様を描いている。彼はその景色に目がいっているようだった。

 

「よしっと」

 

「うお!? どうした急に?」

 

 向かい合っていた状態から隣に座り直す。

 

「いいじゃん! そっちの方が景色が綺麗だったから」

 

 私がそう言うと、彼はまぁそっか、と頷きまた外を見始めた。もういいやっちゃえ。

 

「楽郎君」

 

 彼を呼ぶ。彼は今度は何だとゆっくり振り向く。

 

「んっ……」

 

 もう勢いに任せてやっちゃえと振り向いた彼の唇を奪ってから言った。

 

「好きなんだ。君のことが。よかったら私と付き合って欲しい」

 

「……え?」

 

「え? じゃないよ! 私は君が好きなの!」

 

 私のファーストキスも捧げたのに! え? はないでしょ

 

「ドッキリとかじゃなく?」

 

「そう言われるのが嫌だから……キス、したんだよ」

 

 私がそう言うと、彼は後ろの夕焼けと変わらないくらい赤くなり始めた。多分私も同じくらい赤くなっているだろう。

 沈黙が私たちの間を横たわった。その時間が長かったか、短かったか私は分からない。ただ沈黙を遮った楽郎の言葉だけは分かった。

 

「その……俺も好きだ。トワのことが。だからよろしく。これからも」

 

 

 今度は彼から私の唇を奪った。やがて観覧車は一周して地上に戻ってきた。

 

 私たち2人は手を繋いで降りる。さっきまでは手を握りしめあっていただけだが、今はお互いの指をからませあってしっかりと握っている。

 

 

 

 夕焼けによって出来た長い2つの影を見ているだけで私は幸せな気持ちになった。

 

「改めてよろしくね」

 

「あぁ、俺の方こそ」

 




なんか冗長になってしまった感はある。もうちょい再現度も上げたいし、文の構成も良くしたいと反省。
活動報告にお題箱作ってみたのでよかったらそこにお題投げてください。
感想等あったらお願いします。


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番外編
楽郎から押せ押せになったら


日刊7位ありがとうございます。シャンフロは偉大だ。

トワと楽郎が付き合いだしたくらいのIFで。この2人の身長って開示されてましたっけ?記憶にないんですよね。。。
楽郎の方が少しだけ高いと思って書いてます。

一応このssは付き合うまでのドキドキがメインテーマです。恋愛って付き合うまでが1番面白いと思うの。漫画とかラノベがそうじゃん?


 つい先日の事だ。トワが俺に告白してきたのは。正直信じられなかった。もし承諾したらその瞬間に、いつもの魔王じみた笑みを浮かべて、本気にした? とでも言われると思った。

 

 それでも俺は承諾した。なぜかって? 好きだからだ。天音永遠のことが。別にスーパーカリスマモデルだからとかじゃない。最近ずっと一緒にゲームでバカやったり、世界1位のゲーマーに喧嘩売ったり、こうして今日みたいに2人でリアルで遊んでいたりしていて思ったのだ。あぁコイツと居るの楽しいな、と。決して落ち着きはしない。俺は鉄砲玉なんて言われるくらいにはドタバタするし、トワも刹那主義を拗らせているから平穏よりも騒動を好む。それでも俺はトワと恋人になりたい、と不相応ながらにそう思ってしまったのだ。だから例えトワの手の平だったってオチになってもいいから、トワに告白された時に承諾した。

 

 そしてその告白は彼女の本気だった。だから俺たちはそのまま付き合うことになった。今もこうして2人で俺の部屋にいる。あんまり外でデートは気軽には行けないからだ。お互いジャージの完全な部屋着でだ。すでにトワは俺のタンスに何着か服を入れているのだ。

 

「なぁ、トワ」

 

「どうしたんだい? 楽郎」

 

「好きだ」

 

 俺のベッドで寝そべっているトワになんの脈絡もなくそういう。彼女は少し照れたように笑って

 

「私もさ。でもなんだい? 急にそんなバカップルみたいなことを言い始めてさ」

 

 勉強机の前の椅子に腰掛けた俺の方に寝返りをうち、こちらをみながらトワはそう言った。その頬は少し赤らんでいる。付き合うまでの自分たちのやり取りからは想像出来ないくらい甘い会話をしている自覚はある。恐らくトワも同じことを考えているのだろう。

 瑠美はバイト、両親はそれぞれ趣味のために外出した。夜まで帰っては来ない。今はまだ昼すぎ。トワが珍しく、1日オフだから楽郎の家でゆっくりしたい、と言って急遽決まった家デートにしてはタイミングは良かったと思う。

 

「いや、確認したかったんだ。自分のベッドに天音永遠が寝てるのが夢じゃないことを」

 

「その言い回しはちょっとキザ過ぎない?」

 

 そう言い放ち、トワはベッドから起き上がった。部屋の外に出るかと思いきや、彼女はそのまま俺の方に向かってきた。そして椅子の向きをぐるりと回し、俺の背中を自らの方に向けると

 

「こっちの方が確認できるんじゃない?」

 

 そう言いながら抱きついてきた。トワは腕を俺の胸の下で重ねるように、全身が俺の体にのしかかるように抱きついてきたのだ。正面から来てたら多分俺の理性は吹っ飛んでいただろう。正直後ろからでもかなりやばいんだけど。

 

「ね? 私だって君が好きさ。じゃなきゃ告白なんてしないよ」

 

 その声は俺の耳に溶けるように入ってきた。どことなく甘い香りがする。香水かな? 

 

「正直に言っていいか?」

 

「いいよ。いいなよ」

 

「俺の理性がオーバーヒートしそうだ。ライオットブラッドを飲んでもいいか?」

 

「ダメに決まってるでしょ。なんで今キメようとしてるのさ」

 

 俺が高校生でトワは24歳。社会人だ。いくら18歳成人になって幾年か経ったとはいえ、高校生と社会人の恋愛、というのは世間の声は厳しい。芸能人をやってるトワなら特にだ。だから俺が高校を卒業するまでは中学生もビックリなほど純情な付き合いしかしていない。リアルでは。ゲームの中はほら……いいじゃん。

 なんで今こんな話をしたかって言うと、俺の理性がもうホントに限界だからだ。トワは俺のギリギリを責めるのを愉しんでいる節があったし、俺もそれを薄々分かってはいたが、どうにもトワは俺を理性的だと思っているらしい。いつも理性が〜といって1度もホントにオーバーヒートしたことがないからかもしれないが。

 

「キメないとやってらんないからさ」

 

 俺が1度トワの腕を解かせて、再度反転する。当然、俺が見上げる形でトワと向かい合う形になる。その距離は近い。当たり前だ、さっきまで密着して抱きつかれていたのだから。

 トワが少し息を飲んだのが見えた。演技じゃなければ、その目は確かにこの先の展開を期待しているように見えたし、俺も恐らく同じような目をしていただろう。さっき述べた世間の目、倫理感なんてものは、完全に2人しか居ない世界と化したここでは関係はない。その事にお互い気づいているのだ。故にどっちかが踏み外すかのチキンレース、ブレーキを踏むか、アクセルを踏み切って思い切り飛ぶかの2択。そして俺は

 

 思いっきり踏み込んだ。

 

「うひゃっう!?」

 

 俺が思い切り立ち上がり(ただしトワにヘッドパットをかまさないように)彼女の両肩にそれぞれ手を置くと、彼女は少し後ずさった。要はブレーキを踏んだわけだ。男子高校生である俺と、芸能人の彼女が理性のラインが違う。当然のことながら俺の方が沸点が低い。その差だろう。

 ただ、彼女も俺の手を退けようとはせず、拒絶の言葉も言っては来ない。付き合う前からの言動を考えればホントにダメなら拒否するだろう。彼女はそういうことが出来るやつだ。だからこそ俺はトワにもアクセルを踏ませるために、さらに自分のアクセルを踏むのだ。

 

 後ずさるトワに合わせて距離を詰める。どんどん近づく。

 

「えっ? ちょっ? 楽郎!?」

 

 言葉の割に抵抗はない。むしろその手は俺を引き込もうとしている。あくまで俺からって体にしたいらしい。そんなのもう関係ないのに。

 俺は無言のまま彼女に迫った。彼女はそのまま下がり続けたが、狭い俺の部屋だ。すぐに彼女の背中は壁にぶつかった。彼女の逃げ道を塞ぐように俺は、右手だけ肩からよけて、彼女の耳のすぐ横の壁に叩きつけるように置いた。

 

「あぁ、ダメだよ。留まれなくなる」

 

 彼女は半ば諦めたようにそう言った。俺は久々に口を開き

 

「いいんじゃないか? それでも」

 

 俺がそう言うと彼女は耳も頬も真っ赤に染めて

 

「そう……だね。いいか」

 

「……んっ!」

 

 俺はその言葉を合図に、引き込まれるようにずっと見つめていた彼女の唇に自らの唇を押し付けるようにキスをした。

 彼女の右手が、俺の左手を掴み、肩から離して、指同士が絡み合うように手を繋いできた。彼女の右手と俺の左手、そしてお互いの唇だけがこの世にあるかのようにそこしか感じられなくなる。

 どれほどしていたのだろう? 5分か10分か、触れ合うだけのキスを終え俺たちの唇が離れる。手だけが未だに繋がっていた。

 

 彼女の熱を帯びた目が俺を見上げる。

 

「あーあ、止まらないよ。これは」

 

 トワは普段の揶揄うような声色でそう言った。だが俺は分かっている。

 

「そうだな。もう止まれない」

 

 もうそんな余裕はお互いにない。トワがゆっくりと俺の体を押す。俺はそれに抵抗されずに後ろに何歩か歩き、やがて足に来た引っかかりに抵抗せずに、自らのベッドに倒れ込んだ。トワは繋いだ手を離さずに、俺の上に寝そべるように乗っかった。さっきの壁ドンとは逆に、俺が床ドンされるような構図になる。

 

「あんまりやられっぱなしってのもやじゃん?」

 

 私の方がお姉さんだし。彼女はそう言って俺の唇を奪った。さっきまで彼女が寝てたからだろうか? 甘い匂いが彼女からだけでなく、後ろからもしてくる。閉じ込められたように彼女の匂いにつつまれる。

 

 口付けをやめ、空いた左手で自らの髪をかきあげる彼女をみて、俺は彼女の頬に繋がっていない方の手をやる。

 

「……うひゃあ!?」

 

 そのまま頭の後ろまで手をやり、繋がっていた手を離して、俺は彼女と体勢を入れ替えた。右手を彼女の顔の横に突き立てる。

 

「……ケダモノ……きなよ」

 

 熱を帯びた目のまま、囁くように放たれたその言葉は俺の理性を完全に溶かしきった。

 

 

 

 

 




終わりでーす。続きはないです。衝動のままに書いてみた。この後は多分瑠美ちゃんが帰ってくるまで汗だくで○○○してるんじゃない?楽郎君だって男子高校生だもの。瑠美ちゃんが帰ってくる直前に理性が戻って2人で慌ててそう。

んー触れるだけのキスして3000文字は薄いかなぁ。。。


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