槌の勇者が大王様 (血糊)
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プロローグ 大王様、まさかの投獄!?

 気分の悪くなるような匂いが漂う中で、デデデは目を覚ました。

 

 

 (……なんだ、妙に暗いぞ)

 

 

 配下であるワドルディを呼ぼうと、よっこらせと重い体を起こした。

 

 高級素材で作られた真綿のコートを着ていたおかげで気づかなかったが、どうやらデデデが寝ていたのは冷たいコンクリートらしきもので作られた固い床だった。

 

 ついでに言うと、デデデが居たのはいつもの豪華な寝室ではなく、殺風景な牢屋だった。

 

 もっと言うと、いつもの豪奢なマントも背中の柄がない無地のものになっていて、それ以外の服がくすんだ茶色の布切れのような粗末な服一枚だった。

 

 ただ、おかしなことに傍に置かれていた愛用のハンマーが武骨なものになっていたのだが、それよりも今の状況を飲み込むことだけで精一杯だった。

 

 一分ほどかかってから、自分が今置かれている状況をなんとか飲み込んだデデデの心境は。

 

 

 

 「――どんな命知らずがやってくれたんだ?」

 

 

 

 自分がいびきをかいて寝ている間に、牢獄なぞにぶち込んだ輩への荒れ狂うような怒りだった。

 

 このような屈辱を味わわせたお返しは、半殺しでは済ませんぞ、と。

 

 デデデはポップスターのプププランドという国の王だ。貴族としてのプライドだって持ち合わせているのは当然。やられたらやり返すのは当たり前だった。

 

 今すぐに復讐してやるために、まずはこの鉄格子を破壊することが先だ。そう考えたデデデはハンマーを手に取った。

 

 いつもより軽い腰を上げて、鉄格子を見据える。

 

 そして、前に一歩踏み込んで、両手で持ったハンマーを思い切り叩きつけた。

 

 がしゃぁん、と音を立てて、鉄格子は折れながら吹き飛んだ。

 

 ……脆い。中が空洞になっていた。粘りのない、粗末な鉄で出来ていたようだ。

 

 これなら素手でも壊せただろう。あまり手ごたえを感じることはなく、デデデの苛立ちは募っていくばかりだった。

 

 そのときだ。隣から、かしゃ、と何かが鉄格子にあたる音がした。

 

 この牢獄の住人が、先程の音に反応したのだろう。そう思ったデデデは、どんな奴か一応見てみようと覗いて、そして愕然とした。

 

 

 

 「……どうして人間がいる?」

 

 

 

 デデデの知る人間というものは、絵描きの少女アドレーヌのような少女と呼ばれる部類だけだ。その、鉄格子を握る人間も、その少女の部類に入る見た目をしていた。

 

 ただ、今のデデデと同じく粗末な服を着た上で、その体にはイタチのような耳と尻尾を生やしていた。

 

 それだけではない。その少女はあまりにも痩せ細っている。栄養が不足している証拠だ。しかも、体中が色んな傷や汚れでいっぱいだ。

 

 おかしい。牢獄に入れている奴でも、ちゃんと食事は食べさせたり、体を洗うための大きな浴槽に毎日入れるように命令していたはずだ。そもそもポップスターに人間など、アドレーヌしか居ないはずなのだが。

 

 もしや、と周りを見渡せば、その牢屋に投獄されていた者は全て、動物の特徴を持った人間で。

 

 人ならざる者はそこには一人も居なかった。

 

 

 

 「ワシの、城じゃ、ない……?」

 

 

 

 人は居ても、人ではない者たちは見当たらない。なら、そう考えるのが妥当だ。

 

 

 

 「…………だ、れ……?」

 

 

 

 イタチの少女が、か細い声でたずねてきた。その瞳には生気はない。息も絶え絶えな様子で、このままだと長くは持たないだろう。

 

 かといって、今ここで救出するのも難しい。ここがどこか分からない以上、複数人で行動するのは危ないし、何より最優先は脱出することだ。そのため、足手纏いにしかならない奴を連れて行く事は無理だ。悪いが、今は自分の命が最優先なのだから。

 

 かといって、今にも消えそうな命を見捨てるというのは、嫌だった。

 

 だから、マントの中に隠していた、とあるおやつが残っているかを確認する。

 

 

 

 「……あった」

 

 

 

 Mの文字が浮かんでいる、真っ赤なトマト。

 

 デデデとあのピンク玉の好物であるマキシマムトマトだ。

 

 これには体力を全回復してくれる効果がある。本来の食い意地が張っているデデデなら絶対にやる事は無いが、今回は命が掛かっている。

 

 

 

 「ほら、食べろ」

 

 「……とまと」

 

 「そうだ。あと、これもだ。絶対に無くしちゃ駄目だし、誰にもあげちゃ駄目だからな」

 

 「……うん」

 

 

 

 ついでにカンストしてこれ以上持ちきれない1UP×99の中の一つを渡しておく。これなら万が一ミスしても、復活できるはずだ。

 

 イタチの少女は素直にマキシマムトマトを受け取り、大切に両手で持ってちょびちょびと食べ始める。差し出した1UPを見ると、そっと手にとって、自分の後ろに隠すように置いた。

 

 

 

 「ワシの出来る事はこれくらいだ。ごめんな」

 

 「……だいじょうぶ。きっと、たてのゆうしゃさまが、たすけにきてくれるから。それに、わたしがねるまえに、らふたりあちゃんが、わたしたちのむらのはたをとりもどしてくれるっていってたから。それをみるまでは、しにたくない」

 

 

 

 生気のなかった様子から一転。弱弱しくとも、確かに意思のこもった瞳を見せてくれた。

 

 

 

 「もし一度命を落としたとしても、それがなくならない限りは、死ぬことはないからな」

 

 「うん……おにいさんのなまえは?」

 

 「ワシか? デデデだ」

 

 「ででで……? かわったなまえ。でも、でででさん。わたしをたすけてくれて、ありがとうがんばって」

 

 「……おう」

 

 

 

 イタチの少女はそう言うと鉄格子の隙間から手を伸ばし、一方の通路を指差した。

 

 

 

 「でぐちはあっちだよ。たぶん、みはりのひとがいるとおもうけど、でででさんのそのぶきなら、きっとどうにかできる」

 

 「そうか。ありがとうな。そっちもがんばるんだぞ」

 

 「うん。ばいばい」

 

 

 

 最後に、軽くぽんぽんとイタチの少女の頭を叩いてあげてから、出口があるという方へと向かった。

 

 

 

 

 

 ☆大王さま移動中……★

 

 

 

 

 

イタチの少女の言うとおり、見張りの兵士らは、見た目の割にかなり貧弱だった。

 

 兵士のほとんどが、アドレーヌの二倍近くの大きさで、垣間見えた肌からも目に見えて筋肉が隆起していた奴ばかりだったのに、見た目に反してあまりにも弱すぎる。これならアドレーヌのほうが強いと思うくらいだ。

 

 ……これはボスの実力も怪しい。だが、今突撃するのはやめておくべきか。まだ身の回りの安全も確保できていないのだから、まずは無事に逃げ出すことが先決だ。

 

 デデデは走り続けて、そして牢獄から脱出した。どうやらあの牢獄は地下に造られていたようだった。

 

 周囲を見回すと、大きな館がすぐ近くにそびえ立っていた。こっちからだと、L字型に建てられているように見える。きっとここに、デデデを牢へと閉じ込めた奴がいるのだろう。

 

 まだあのような場所に閉じ込められた屈辱と怒りは収まっていない。収まるわけがない。今すぐに乗り込みたいが、今は我慢しなければ。

 

 それに、イタチの少女が言っていた、盾の勇者とやらが助けに来てくれるというのがあるんだから、それまでは生き延びる必要がある。たとえ1UPがあっても、あそこから出られず、ご飯にもありつけなければその先に待っているのは餓死だけなのだから。

 

 

 

 「……ん?」

 

 

 

 そこでデデデはある違和感に気付く。

 

 イタチの少女の事に今まで気を取られていたために、気づくのが遅れてしまった。 

 

 

 (牢獄に監禁されるのは、犯罪者だけだ。なのに、あんな純粋そうな女の子がどうして監禁されていたんだ?)

 

 

 らふたりあ、という子についてもおかしい。その子が村の旗を取り戻すのを見届けるまでは死ねないと言っていた。つまりはあそこにいれば死ぬ可能性がある。イタチの少女には、あそこを自力で脱出するという意思がなかったようだし、助けがくるまであそこで待ち続けるつもりなのだろう。あの言い方からして、らふたりあは何とか脱出して、助けを呼んだと考えれる。

 

 重要なのは、助けるという点だ。イタチの少女には汚れだけではなく、鞭打ちの痕やあざ、内出血まであった。

 

 何かを犯して、黙秘していたから、拷問されたのか。だが、死なせない為の治療をしないということは、そのまま死なせるつもりだったのだろうか。苦しめながら執行するとは、趣味が悪いのか、それともあのような純粋そうな見た目の割に、それ程重い罪を犯したのか。

 

 

 (いや違う、それならどうしてあんなにも警備はざるだった?)

 

 

 警備は出口に近づくにつれて増えていた。逆に、出口から遠くなるほど数は少なくなっていった。

 

 牢獄の警備の割には配置がおかしい。脱獄者が出たがための配置なのかもしれないが、重大な犯罪を犯したのだろう、イタチの少女の周りには、一人も警備は居なかった。

 

 あの配置はまるで、警備をする意味がないようにしか思えなかった、

 

 中まで警戒する必要がないのはどうしてか。それは逃げ出せるわけが無いという確信があるということに他ならない。つまりは。

 

 

 

 「らふたりあは逃げ出せたわけではない」

 

 

 

 イタチの少女の言い方だと、まだらふたりあは生きている。となると、どこかに流された……いや、違う。

 

 流刑だったら、もう一度再会できるのは絶望的だ。助けに来てくれるという確信に近い希望を持てるわけが無い。ならば。

 

 

 

 「……そいつだけ釈放されたからか」

 

 

 

 推測だが、きっとそうに違いない。

 

 今頃らふたりあは盾の勇者を探して、居場所もおそらく分からないだろうに、きっと色々聞き込みとかをしたりして、もしかしたらもう見つけたのかもしれない。そのうち助けに来るのだろう。

 

なら、もうデデデの知るところではない。いくら考えても、今のデデデにはどうにもできないし、何よりハッピーエンドが約束されてるなら、これ以上首を突っ込む必要はない。下手に突っ込んでその約束が反故になるのは避けたいところだし。

 

 本来ならこれは、脱獄を企てているのに他ならないが、自分も今絶賛脱獄中だし、自分を知らぬ間に牢屋に入れた奴のために何かするつもりもない。だから、もう口出しもするつもりはない。

 

 そう割り切ったデデデは、もう少し周りを注意深く見まわす。すると、門番が二人立っている、巨大な門を見つけた。

 

 

 (そういえば、盾の勇者ってどんな奴なんだ?)

 

 

 イタチの少女の言っていたそいつのことも気になるけど、都合よく会えるとは思えないし、考えるだけ無駄だと、デデデは出口らしき門に歩き始める。

 

 結局、ここは自分の城ではなかった。知らない場所に追放されたのだろうか。

 

 そういや、あの仮面騎士が刑務所のある星のことを話していた。もしかしたらそこに今自分は居るのかもしれない。

 

 なら、一国の不幸な王として、本部に抗議に行こう。それから、この服もそのうちどうにかして、それからこの館の主を殴りに来るとしよう。

 

 

 (待っていろ。いつか貴様のその顔をタコ殴りにしてやるからな)

 

 

 グフフフフ……とほくそ笑みながら、門番二人をハンマーでぶっ飛ばすと、デデデは観音開きの門を蹴り開けた。




デデデは奴隷を知らなかった。


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カツアゲするつもりが、逆にカツアゲされた盗賊さん

今日はザ・悪役な大王様がいます。


 (本当にここどこなんだよ)

 

 

 不機嫌さが絶賛最高潮なデデデが歩いているのは、林が隣接する山道だった。

 

 のどかな風が頬をかすめる、いつもなら心地よいそれも、デデデをさらに苛立たせる要因にしかならない。村も何も見つからず、ただ山道が続く状況にはもう我慢が限界だった。

 

 それだけではない。デデデが苛立っている理由はもう一つあった。

 

 それは、自分が人間になっているという事実だった。

 

 肌は青からベージュに。ツルッパゲだった頭には以前の肌の色と同じ色をしている髪が生えている。ちなみに髪についてはデデデは喜んでいる。

 

 そして体はアドレーヌよりもでかい。たぶん、アドレーヌの言う大人というタイプなのだろうとデデデは見当をつけていた。

 

 ついでに声もちょっと若返っている。いつものあの声と異なっていることに多少は違和感があるが、今のところはどうしようもない。

 

 突然の自分の変化にまだ慣れないことが、もう一つのいら立ちの原因だった。

 

 

 

 「あー……本部はどこなんだ。もう疲れたわい」

 

 

 

そう、大きくため息をついた、その時だった。

 

 

 

 「――ッ!」

 

 

 

 デデデは足を止めると、即座にそこから飛びのいた。

 

 そして直後、つい直前までデデデがいたそこに、短剣が突き立てられた。

 

 突き立てられた短剣には粘り気のありそうな紫色の液体が塗られていた。おそらく毒か。

 

 がさ、と隣の茂みが動いて、二つの影が飛び出した。

 

 

 

 「グフフ……そのコートを置いていけば命はとらないぜ」

 

 「死にたくないだろ? おとなしくそれを渡せ」

 

 

 

 盗賊のような服を着た二人組が常套句(テンプレ)を吐きながら地面から短剣を引き抜く。嫌らしい顔つきでこちらに短剣を向けながらにじり寄ってきた。

 

 

 

 (単なるごろつきか。セリフにもう少しひねりが欲しかったな。だが、丁度良かった)

 

 「フン。誰が貴様らなどにやるか。むしろその服をワシによこせぇ!」

 

 「「グフォッ!?」」

 

 

 

 悪だくみを考えているときの顔つきになったデデデは、その二人の顔面をハンマーでぶん殴った。

 

 軽く一メートルほど宙を舞った二人は、地面に墜落したときには気を失っていた。

 

 これ幸いと、デデデは一度周囲に誰も居ないか確認してから、気絶した盗賊?を茂みの中へと連れ込む。

 

 そして二人の中で装備がいい方の奴の身ぐるみを剥いで、ついでに二人の所持金も頂戴した。

 

 

 

 「ぐわっはっはっはっはぁ! 感謝するぞーい♪」

 

 「「うぐぅ……」」

 

 

 

 そこら辺にあった蔓を手で引きちぎり、縄代わりに二人を簀巻きにして、山道の中心に放る。

 

 粗末な服を捨て、先ほど剥いだ服を身に着けたデデデは高笑いを上げながら、その場を後にしたのだった。

 

 余談だが、この二人は後に剣の勇者一行に見つけられ、本人らはただの冒険者だと主張したが、剣の勇者本人が嘘だとバッサリ切り捨てた為にお縄についたという。片方が下着一丁だったんだし、仕方ないね。

 

 ちなみに、自警団に連行されていく二人を見つめながら、剣の勇者はこう言ったそうだ。

 

 

 

 「……悪いことをしたとはいえ、ほとんど全裸にされてたことには同情するな」




ある意味、錬君も被害者。


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サバイバル開始

「待ていダチョウもどきぃ! 大人しくワシの食料になれええええええっ!」

 「グアアアアアアアアア!!!」

 

  夕方に差し掛かっても結局草原しか見つからなかった為、デデデは野宿をすることに決めた。

  ということで、今やっているのは今日の夕食の狩りだった。

 偶然見つけたガチョウっぽい謎の青い鳥が、一匹で草原の中心にいたのを見つけた為、そこにつけ込んで狩ろうとしていたのだが、デデデの接近に気づいたガチョウもどきは逃げるどころか、あろうことか立ち向かってきた。

 デデデよりも大きいくせに、すばしっこい。武器の性質上、攻撃が大振りになってしまうこともあって、ほとんどが空振りに終わってしまう。

 もちろんそのようなことが続けば、デデデのストレスがどんどん溜まっていくのは必然で。

 

 「だあああああっ! なぜ当たらないんだぞい!?」

 「グアー♪」

 

 とうとうデデデはぶち切れてしまった。その場で地団太を踏むデデデを見たダチョウもどきはまるで「バーカ」とまるでデデデを煽るように鳴いていた。

 勿論、そんなことをされれば怒りがグレードアップするのは否めなかった。

 

 「……絶対にワシの夕食にしてやる。照り焼きチキンにしてやるぞい……!」

 「グアア……!」

 

  怒気の籠もったデデデの言葉に、ダチョウもどきは足を止め、「いいだろう。かかってこいや!」とでも言うようにデデデの前に立ちはだかった。

 

 そして、ダチョウもどき対デデデ大王の真っ向勝負が始まった。

 

 デデデが大きく跳躍するのと同時に、ダチョウもどきがデデデの方に翼を交差させる。

 

 すると、ダチョウもどきの前に、緑色の魔法陣が現れた。目に見えて風が魔法陣の中心に凝縮されていく。

 

 空中にいるデデデはというと、ハンマーを大上段に構えていた。その下には迎撃の準備を整えたダチョウもどきがいる。

 

 デデデのハンマーに火がついた。そのまま勢いよく燃え盛り始める火をデデデは気にしない。

 

 なぜなら、これこそがデデデの必殺技なのだから。

 

 

 「おにごろしデデデハンマー!」

「グアアアアアアアアアア!」

 

 

 炎の軌跡を描きながら振り下ろされたハンマーと、放たれた巨大な風の塊が、ぶつかり合う。

 

 強大な力のぶつかり合いで、たとえ盾の勇者であっても簡単に吹き飛ぶような衝撃波が周囲に広がった。

 

 デデデがその衝撃波で後方へと飛ぶが、即座に体勢を整えて墜落を免れた。

 

 

 「……相殺で終わったか」

 

 「グアア!?」

 

 

 またしても攻撃を退けられたデデデは渋い顔を見せるが、ダチョウもどきは、デデデから見て、驚いた表情を見せていた。

 

 あれを相殺したことに驚いているのかもしれないが、それがどうした。

 

 

 (攻撃は届かなければ意味はないぞい)

 

 

 決定打とはいかないだろうが、初手からかなりのダメージを与えられたかもしれない。

 

 技と言うものは、初手からが肝心だ。一度見られると、次からは対応できる。初見というのは、大きなアドバンテージでもあるのだ。

 

 デデデが持つ技の中では攻撃力の高いおにごろしデデデハンマーが防がれたのはかなり痛い。今の魔法を放たれれば防げてしまうことが分かられたからだ。

 

 

 (ほかの技だと今一つで終わりそうだからこそ、初手から叩き込んでみたが、悪手だったか)

 

 

 夕日はまもなく姿を隠す。このままでは、夜になってしまう。そうなれば終わりだ。奴の足なら間違いなく逃げられる。

 

 デデデは歯噛みする。初手のミスがあまりにも大きかったために、今日はご飯なしを覚悟するべきだろう。

 

 そう思った時だった。

 

 ぞわり、とデデデの背筋から何かが這い上がる。

 

 大きな影がデデデの頭上を通った。そう思ったときには、目の前の獲物が姿を消していた。

 

 

 (なっ!?)

 

 

 デデデは周りを見渡す。地上にはいない。

 

 ならば上空か。そう思い上を見上げると、ちょうど巨大な鳥みたいな何かが、足にダチョウもどきを捕らえて、旋回している姿を見つけた。

 

 人が真剣に狙っているときに、まさか横取りされるとは。あの鳥もどきは一体どういう了見なのだろうか。

 

 横取りした側がうれしくとも、横取りされた側が怒るのは当然だろう。ましてや、腹をすかせている時に限って、掻っ攫われた。

 

 食べ物の恨みは怖い。ただでさえ食い意地の張っているデデデなら尚更だろう。

 

 

 「あの鳥……っ気が変わった、今日のワシのディナーは貴様だ、鳥もどき! ばくれつデデデハンマーなげ!」

 

 

 怒り狂ったデデデは、両手で掴んだハンマーをハンマー投げの要領で鳥もどきに向けて、投げ出した。

 

 投げ出されたハンマーは、狙い違わず鳥もどきの頭部にヒットした、その途端ハンマーが爆発した。

 

 ばくれつデデデハンマーなげ。それは、デデデの持つ技の中では、最も攻撃力のある技だった。

 

 爆発に巻き込まれた結果、鳥もどきの頭部は吹き飛んでしまった。

 

 脳漿を撒き散らしながら鳥もどきが落ちてくる。デデデはその場から走って距離をとる。

 

 そして、デデデが先ほどいたところに頭部を失った鳥もどきが墜落した。

 

 

 「ちょいとスプラッターな光景だったが……ざまーみろ、だぞい」

 

 「グアー」

 

 「んあ? 別に貴様を助けたつもりはないが。単にそいつをワシの食事にするためにやっただけだ、勘違いするな」

 

 「グアグア」

 

 「って、ただおこぼれを貰うだけだったんかい!」

 

 

 ついさっきまで命の危機にさらされていたというのに、なんともケロッとした様子で、魔方陣を展開させてカマイタチを発生させて鳥もどきの肉体の一部を切り取っていた。肝が据わっているのか、単なるアホなのかは知らない。

 

 切り取った肉をハグハグとついばむ様子を見てると、デデデはもはやどうでもよくなってきた。自分もさっさと食べよう。腹減った。

 

 

 「……あー、そういや火種のことを忘れてたわい」

 

 

 デデデはふと気づく。そういや火が無かった。

 

 さっき投げたハンマーは戻ってきたし、またおにごろしデデデハンマーを使って火をつけてるしかなさそうだ。

 

 はぁ……と溜息をついて、まずは燃料を集めることから始めた。

 

 

 「ああ、貴様も手伝ってくれるのか」

 

 「グアー」

 

 

 どうやら食べ終わったらしいダチョウもどきも燃料の為の小枝回収を手伝ってくれた。

 

 ……それにしても。 

 

 

 (このワシがこのような汚れ仕事をするときが来るとはなぁ)

 

 

 だが、背に腹は代えられない。夜の闇に慣れてきた目を酷使しながら、仕方なく採集は続ける。時々風船に雑な顔の落書きっぽいのがある変な生き物が噛み付いてきたり、ウサギっぽい丸い何かが噛み付いてきたりしたが、全部叩き殺した。

 

 そのせいで、ただでさえデカイ鳥もどきの処理が出来ないのに、また獲物が増えてしまった。

 

 この量は流石にデデデでも食べられない。

 

 

 「むむ……」

 

 

 難儀なものだった。仕方ない。前に読んだレシピ絵本にあった、保存食でもある程度作ってみようか。そして残りの今日自分が食べる分だけを焼いて、それ以外はダチョウもどきに譲ろう。

 

 あの絵本に書かれてあった通りなら、何かハーブと縛るものが必要だったか。

 

 

 「ハーブはともかく、縄なら細い蔓を洗えば代用できるか?」

 

 

 枯れてるのがあるなら、それを上手く編んで、縄みたいなものを作れるかもしれない。

 

 あるといいなぁと思いながら、ある程度集まった小枝を草原の端、地面に置き、火をつける。

 

 その間に、ダチョウもどきは獲物を全てブロック型に切って、いつの間にか用意されていた大きな葉っぱに全て乗せられていた。改めて見ても、量が半端ない。

 

 

 「グアグア!」

 

 

 ダチョウもどきは、最後にその辺にあった岩から薄い板を切り出し近くに置くと、もう自分の仕事は終わったと言わんばかりに、一番大きなブロック肉に嘴を突き刺してから、どこかにもって帰っていった。

 

 

 「……あ」

 

 

 無言で見送って一分。肉の処理役をしてもらいたかったのに、逃げられたことにデデデは気づいた。

 

 いや、ダチョウもどきのつまみ食いのおかげでだいぶなくなってはいるのだが。だがこの量は一人では無理なのは変わらない。

 

 はぁ……とデデデが溜息をついた、その時だった。

 

 

 

 「……凄い量だな」

 

 

 

 男一人、少女一人の救世主がやってきてくれた。



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不名誉じゃないよむしろ名誉だよ

大王様は知らない。
よく悪巧みをしている自分が、勇者になっていることを。



 半ば呆然とした声を上げた男は、動物の特徴のない、アドレーヌのようなごく普通の人間だった。

 

 対して男の連れていた少女には、狸のような耳と尻尾がある。あのイタチの少女と同じ位の見た目だ。

 

 

 (なんか目つき悪いな)

 

 

 男の目は鋭く、いつもならきっと何かを警戒しているような様子なのだろうが、その鋭さも心なしか和らいでいるように見える。まあ警戒する気が逸れるようなものが目の前にあるのだから仕方ないが。

 

 だが、あの目は、今日の朝に出くわした盗賊の目よりも鋭い。そして、何かに怯えているような……

 

 デデデは、あの男には何か怖いことでもあったのだろうと見当をつけた。

 

 

 「ああ、良かったら食べるか? この量は流石のワシでも食べ切れんし、保存食にしようにも多すぎて、どっちにしろ余るからな」

 

 「いいのか? 最近コイツが食べ盛りだから、助かる」

 

 

 食料処理が出来る奴を逃すわけにはいかない。だがあの眼光は結構怖い。デデデはあまり刺激しないように、命令口調ではなく、持ち掛けるという手に出た。

 

 男は思いのほかすぐに乗ってくれた。狸の少女が食べ盛りだということは、本人が目の前の肉に目を光らせていることからも良くわかった。

 

二人の同意を得たところで、さて何を作ろうか。

 

 

 (そういやあのダチョウもどきが石のテーブルを切り出してくれたし、石焼テーブルにしてみるか?)

 

 

 石焼きテーブルで作るのは、ステーキだ。ナイフがないから、ブロックステーキになる。

 

 正直、ナイフがないということは、食べにくいから結構不便だ。さっきの謎生物の解体はダチョウもどきにやってもらっていたから出来ただけで。

 

 

 「ああ、こっちが肉を切ろうか?」

 

 「いいのか!? なら頼むぞい」

 

 「ぞい……? ……まあいいか」

 

 

 アドレーヌいわく「自分の顔は日系人寄り」なんだそうだ。確かにこの男も色白だし、黒髪だ。こういう奴のことを日系人と呼ぶのだろう。

 

 男はナイフを取り出すと、大きな葉の上に置かれたブロック肉を切り始める。

 

 早い。しかも厚さが全て均等だ。

 

 

 (もしかしてコイツは料理が得意なのか)

 

 

 いやまだ油断するのは早い。例え過程が凄くても、もしかしたらあのサイコ料理人が作る料理みたいなゲテモノへと変貌するかもしれない。

 

 実は以前マキシマムトマトを調理したものを出されたのだが、不味すぎるあまり嫌いになりかけたことがある為、デデデは密かに怯えていた。

 

 

 「……あんた、何怯えてんだ?」

 

 「その肉が得体の知れない謎物質に変貌するのが怖いだけだわい。食中毒どころか命の危機に晒されるのは御免だぞい」

 

 「あんたの過去に何があったんだ……」

 

 「生で食べても絶品な野菜がどこぞの魔女が作ってそうな紫色のスープに成り果てさせられていた」

 

 「うわぁマジか」

 

 「それ、どんな味だったんですか?」

 

 

 

 好奇心がありありと浮かんだ瞳を向けてきた狸の少女に聞かれ、内心いやいやながらも、そのときの味を思い出す。

 

 物理的に海馬に刻み付けられたゲテモノの真骨頂という言葉すら生温いその味は、今でもよーく思い出せる。舌にその味が蘇ってくるほどに。

 

 

 「胃が焼けるくらいの辛さに、吐き気を催す苦味に、お汁粉の甘ったるさが霞むレベルの甘さが混ざった……この世のものとは思えないような味だったわい。あれはもはや食べ物ではない、あんな料理を食べるのはもう御免だわい」

 

 「分かるようで、分からないような……」

 

 「ゲテモノの一言じゃ片付けられないレベルの不味さだったってことだろ」

 

 「まるで今食べたような顔をされてますね。今にも吐きそうです」

 

 

 デデデは確信している。あれは食べ物ではなく一種のテロ兵器だ。

 

 具が無かったのが幸いだった。一気に飲めたことで食べる苦痛を長引かせないですんだのだから。

 

 

 

 

 

 ――その料理を頼まれたからには、しっかり満足してもらわなきゃねぇ~!

 

 

 

 

 

 (駄目だこれ以上はワシの精神が持たん)

 

 

 あれは禁忌だ。記憶の中にあるパンドラの箱に押し込まねば。

 

 サイコ料理人作【カワサキ・ベジタブルスープスペシャル】の衝撃的な味を思い出したせいで、メニューに載っていたソレに目を留めて頼んでしまった時の、目を輝かせたサイコ料理人の言葉すらもリアルボイス付きで脳内に再生される。

 

 このままでは発狂しかねない。ハンマーカービィの精神分析(物理)が無い今、ここで発狂したら不味いのは以前数学が全く出来なかったデデデだって分かる。

 

 なので、石焼きテーブルを準備しながらデデデは思考を逸らす。あの二人を見てからの考察をすればきっと忘れられるに違いない。

 

 

 (あの男の持っているナイフは、間違いなく戦闘では使えないようなものだ。対してあの少女の提げているのはれっきとした剣。目測だがギャラクシアと同じくらいの長さか)

 

 

 剣を買えるお金が無いという線は消えた。ならば、どうしてあの男は()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 マントの奥に隠すようにされた、それ。固定しているのか、ずっと右腕についたままの盾。中心には緑の石がはめ込まれている。

 

 

 (ワシのハンマーと同じく、石がついている。偶然ではないだろう)

 

 

 デデデの勘だが、あの盾は自分の持つハンマーと同じく、ただの盾ではないはず。

 

 だが、特殊性というものが全く不明なのが問題だった。石をつついても反応はないし、何かにぶつけてもぶつけたものが壊れるだけという始末。

 

 

 (――待てよ? こいつなら何かを知っているんじゃないか?)

 

 

 おそらく同じ特殊性を持つ盾を持っている男に聞けば、何かが分かるかもしれない。

 

 我ながらいい考えである。丁度テーブルを組み立て終わったのだから、聞いてみよう。

 

 

 「……ステーキ作るつもりだったのか」

 

 「貴様もそう思ってそうやって切ってたんじゃないのかぞい?」

 

 「確かにそうだが、幾つかは燻製にすれば保存できそうだし、やってもいいか?」

 

 「出来るのか!? なら頼む」

 

 「分かった。切った肉はワシが焼いて置こう」

 

 「私は食器を準備しますね」

 

 

 その前に、色々と準備し始める。どうやらあっちにはちゃんとした火種があったようだ。

 

 

 (ああいうのは、どこで買えるのかぞい?)

 

 

 正直、今デデデが持っているのは、初期装備品+謎生物らの素材+マント目的でかかってきた盗賊から手に入れた雑貨のみ。

 

 盗賊の持ち物には何故かは知らないが一応食器云々はあった。持ってた剣とか薬とかもあるが、剣は全部切れ味が鈍くて料理には使えない。薬も何がなんだか分からない。

 

 気づけば荷物ばっかになっていたが……

 

 

 (ゴミみたいな素材もあるし、あいつに見せてみるかぞい)

 

 

 下の焚き火に熱された石焼きテーブルの上に肉をすべておいた後、ハーブと共に肉を縛り終えて吊るしている最中の男は手が離せないだろうから、狸の少女と一緒に作業しながら話してみる。

 

 

 「おい、……狸娘」

 

 「私はラフタリアです、おじさん」

 

 「誰がおじさんじゃい」

 

 「どっちもどっちだろ」

 

 

 物凄い手際のよさでどんどん吊るしあげていく男が突っ込む。

 

 だが、どっちもどっちと言われたのが不満だったらしい狸の少女……ラフタリアは男に噛み付いた。

 

 

 「どっちもどっちじゃないです! ナオフミ様だって盾って言われたらムッとするじゃないですか! それと同じです」

 

 「確かにそうだが……俺もラフタリアの名前を知らなかったら、多分そう呼んでたぞ」

 

 「いえナオフミ様はいいです。ですがナオフミ様以外は駄目です」

 

 「なんで俺はいいんだよ」

 

 

 年端のいかない子供が理不尽を吐くということはよくあることである。アドレーヌもそうだし。

 

 というか、ラフタリアっってどっかで聞いたことがあるような。誰かから聞いたはずだけど。

 

 そう考えていると、男がやっと吊るし上げ終わった。

 

 ついに暇が出来たので、デデデは男に話しかける。

 

 

 「こんなもんか」

 

 「お、終わったか。なあ、貴様のその盾は何なんだぞい?」

 

 「ッ!」

 

 

 デデデが盾について聞こうとすると、男の体がびくっと跳ねた。

 

 

 (これは、言っちゃいかんかったか?)

 

 

 地雷だったのだろうか。だから隠していたのか。

 

 やっと見えにくいところに潜ませていた理由が分かり、デデデはちょっと申し訳なく――は、ならない。

 

 むしろ、男のその様子にデデデもよく分からない謎の知的欲求?が起こる。もうちょっと掘り返してみよう、とデデデは下衆な考えを持った。

 

 

 「ん? あまり言いたくないのかぞい?」

 

 「……ああ」

 

 「ふーん。なぜだ?」

 

 「……知らないんなら、聞かないでくれ」

 

 「大方、見られたらいけないものか。見られたら何か悪いことが起こるのかぞい?」

 

 「……」

 

 

 男は応えない。だが後ろからでも顔を苦く歪めているのは分かる。デデデは自分の中で組み立てた、推測の核心をつく。

 

 

 「ああ、もしかして。それがお前の正体を体現しているのかぞい? 罪人の証として」

 

 「――っ!」

 

 

 ぶわ、と男からほの暗い気配を感じ取った。デデデを射殺さんばかりの翡翠色の目には、はっきりとした怒り、怨嗟、そして恐怖がある。

 

 普通の人ならば、間違いなく怯むだろう。だが、色んな修羅場を潜り抜けてきているデデデにとっては、少しばかり驚く程度だ。

 

 しかし、これで確証は付いた。

 

 

 (この武器は罪人の証というわけか)

 

 

 罪を犯した者の不名誉な武器ということだ。咎人に武器を与えるのはちょっと不味いのではとは思うが。

 

 

 「そうか。お前も罪を犯したから、それを持っているのか」

 

 「……どういう意味だ」

 

 「なら、ワシも貴様と同じ、罪人ということだわい」

 

 「……何?」

 

 「ワシが何をしたかは知らんが、目が覚めたら牢獄に入れられていたからな。ちゃんとその証もある」

 

 「え…………ちょっとまて。その話、詳しく聞かせてくれ」

 

 

 即座に男が食いついたのはどうしてかは分からない。だが、一応デデデは男の言うとおり、ここまでのいきさつを話すことにした。




違う、そうじゃない。そうじゃないんだよ陛下。


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マキシムトマトは美味い

平和なのです
アニカビ名残のあるゲムカビな陛下。悪役っぽいがいい奴なのです!

追記
マキシマムトマトではなくマキシムトマトでした


 「あんたも、俺と同じ異世界人だったのか」

 

 

 いきさつを全て話した後の男の第一声はそれだった。

 

 

 「い、異世界人?」

 

 「そうだ。お前の居る場所とは全く違うだろ? 俺も、ここには召喚されてきたんだ」

 

 「しょ、召喚? お前……」

 

 「……なんだ、その化け物を見るような目は」

 

 

 そして目の前の男が人外ということも発覚した。

 

 召喚されるなど化け物でしかありえないだろうに。この星には多分人になってしまう何かがあるに違いない。この男の本来の姿は一体どんなものなんだろうか。

 

 

 「お前、何か勘違いしてないか?」

 

 「この星には、人間になる呪いでも掛けられているのか……?」

 

 「えっお前人間じゃないのか」

 

 「そうだわい。ワシは人間じゃないわい」

 

 「おじさん人間じゃないんですか!?」

 

 「だからおじさんじゃないと言っているだろうが小娘! ワシはデデデだ!」

 

 「じゃあデデデおじさん」

 

 「だからおじさんというなぁっ!」

 

 

 ラフタリアは頑なにデデデのことをおじさんと呼んでいる。

 

 言っておくが、今のデデデの姿は二十代後半くらいだ。まだおじさんというのは早い。中身の年齢は確かにおじさんだが。

 

 

 「ん? 貴様の言い方、まるで自分が人間みたいな」

 

 「現にそうだからな」

 

 「え? あれじゃないのか、あの、緑の化け物」

 

 「それなんて緑色の目の怪物? 違う、俺はれっきとした人間だ。ラフタリアだって人間じゃなくても亜人で、怪物じゃない」

 

 「亜人? 動物の特徴があるからか?」

 

 「……そんなことも知らないのか。よく今まで生きてこられたな」

 

 「生憎今日の朝早くに初めて目を覚ましたからな」

 

 「あんたもあんたで、この世界に来たときには牢屋の中だなんて、災難だったな」

 

 「全くだわい。だが、貴様には投獄されるような理由があるようだが」

 

 「……俺には全く覚えはないがな。冤罪をかけられたんだよ。しかもその国じゃ、俺が犯したらしい犯罪は重罪なんだと。あっという間に俺が犯罪者って噂が広がっていた」

 

 「極刑受けるレベルのかぞい?」

 

 「通常は処刑なんだとさ」

 

 「……ナオフミ様はそんな方ではありません。そんなことをする人ではないんです」

 

 ラフタリアは血を吐くように言った。

 

 悔しそうなその様子を見たデデデは、確信した。

 

 

 (本当に酷い目にあったんだな)

 

 

 男……ナオフミにかけられたのは間違いなく冤罪だろう。少なくとも、あの虚言の魔術師のような演技力があるとは思えない。

 

 何者かに嵌められたのかもしれないとも思う。そして、ナオフミはその嵌めた相手を知っているのだろう。だから、あんなにも憎しみがこもった表情をしたんだ。

 

 

 「この盾を見られたらすぐに俺の身元が分かってしまう。だから、あんたに見られたくなかったんだよ。今はあの目を見たくなかった」

 

 「身元がわかる、ねぇ……やっぱりそうなのか」

 

 

 罪人の目印になる武器だなんて。自分の愛用の武器がこんな不名誉なものにすりかえられたことには本当に腹が立つ。

 

 デデデの不満げな様子を見て、あることを感づき、顔を怪訝なものにしたナオフミは。

 

 

 「……ちょっと補足させてもらうけどな。本来ならこれを見られたら敬われるものなんだよ。俺だけが例外なだけで」

 

 「へっ?」

 

 

 デデデの間抜けな声を聞いたナオフミは、やっぱり勘違いしてたか、と嘆息した。

 

 

 「ってことは、ステータス魔法も知らないんだな」

 

 「ステー……えっなんだそれは」

 

 「……右上に何かあるだろ、それに集中してみろ」

 

 「ん? ……えーと、こうか? おっ、なんか出たぞい」

 

 「そこに職業みたいなのが書いてあるはずだ。俺の予想通りなら、多分勇者ってあると思うぞ」

 

 「何を言っておる。ワシみたいなのが勇者なわけ…………」

 

 

 半透明の画面に記されている職業には……『槌の勇者』とあった。

 

 

 「大変ですナオフミ様! デデデおじさんが白目をむいてます!」

 

 「喜ぶならまだしもなんでショックを受けてんだよ」

 

 「……だって」

 

 「あ、戻りました」

 

 「聞いたことがあるんだぞい。勇者って面倒くさいものって。政治云々に関わらないといけなかったり、国に飼い殺しにされたりするって。ワシはそんなの真っ平だ!」

 

 「……よく分かってるじゃないか」

 

 

 仮面騎士から聞いたことがあった。勇者の伝承の裏には、とてつもない闇があるんだと。

 

 肯定してほしくなかった。やっぱそうだった。

 

 デデデは見ず知らずの奴らに拘束されるのは御免だ。だが勇者になった以上……

 

 

 「勇者やめる方法はどこにあるかぞい?」

 

 「勇者やめる方法があったら俺はとっくにやめてる」

 

 

 一縷の望みも一刀両断である。デデデはうなだれた。

 

 そんなデデデの鼻に、肉の焼ける匂いが漂ってきた。

 

 

 「ん、やっと焼けたか」

 

 

 ナオフミの言葉は、鳥もどきのステーキ――鳥もどきの本来の名前はグリフィンなのでグリフィンステーキの完成を告げていた。

 

 

 

 

 

☆大王様&盾の勇者&狸娘食事中……★

 

 

 

 

 

 「こんなに美味しいステーキを食べたのは初めてだぞい……」

 

 「美味しかったんなら良かったが、泣く程じゃないだろ」

 

 「まずいスープの件が影響してるんじゃないでしょうか」

 

 「……だろうな」

 

 

 最後の食事がカワサキ流ベジタブルスープ・スペシャルだった為、感動するのも仕方ない。

 

 デデデは号泣しながらグリフィンステーキを食べていた。

 

 その様子に半ば呆れながら、ナオフミとラフタリアは同じくグリフィンステーキを頂いている。

 

 グリフィンステーキ……塩味のみというシンプルさで、肉汁のうまみも、素材の味というのも引き立っている。切って焼いただけだというのにどうしてこんなにも美味いのだろうか。ナオフミこそがコックオオサカの本物の弟子じゃないのか、と思うほどである。

 

 そのうち、沢山あったグリフィンステーキも三人の腹の中に全て収まってしまった。

 

 

 (そういや、まだマキシムトマトは一個だけあったか)

 

 

 これは三等分すればいいだろう。このまま持っていても明日には悪くなるのだから。新鮮なうちに食べるのが一番だ。

 

 

 「よし、次はデザートだ」

 

 「デザート!?」

 

 「……俺はいらん」

 

 「貴様は強制だわい。ステーキだって一枚しか食ってないんだからせめてこれくらいは食え。かなり美味いやつなんだからな。狸娘、ナイフ」

 

 「だから私はラフタリアです。はい」

 

 「美味くても俺はいい。もう食べられない」

 

 「嘘つけ。腹の虫が鳴っとるぞ」

 

 

 その会話の間にも、三等分が終わる。デデデはその中の二個とナイフをテーブルに置くと、残りの大きな一個を持ってナオフミに向き直る。

 

 

 「羽交い絞めにしろ」

 

 「はい」

 

 「えっちょっおいラフタリア! どういうつもりだ」

 

 「どういうつもりも何も、ナオフミ様にはもっと食べてもらわないといけません。そもそもデデデおじさんの善意を払いのけるのは失礼です」

 

 「それは……そうだけど」

 

 「ということだ。食え!」

 

 「ってだから俺いらないってふごおっ!?」

 

 

 嫌がられるのは予想通り。ということで、ラフタリアと共謀してナオフミにマキシムトマトを突っ込んだ。

 

 ナオフミは最初はかぶりをふろうとしてラフタリアに固定されていたが、そのうちちゃんと飲み込んだ。

 

 マキシムトマトは体力を全回復させられる栄養満点野菜なのだ。栄養失調もこれで解決なのである。

 

 

 「…………」

 

 

 飲み込んだ後のナオフミは何故か大人しかった。ラフタリアが拘束を解いた後は、口の周りについた果汁を指で拭って、それを一舐めした。

 

 

 「ナオフミ様……?」

 

 「貴様も食べてみろ」

 

 「はい。あむっ――~~~っ美味しいです!」

 

 「うむ、安定の美味さだぞい」

 

 

 ラフタリアは目を輝かせる。やっぱりいつも通り、マキシムトマトは美味かった。




食べ物を()()()()()()尚文。つまり……


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強くてニューゲームって何?

尚文が勇者だということはもう分かっているが、どんな勇者なのか、その全容はほとんど分からない。
だが、悪い奴ではないことだけは確かだ。それしかまだデデデは分からない。


 その後、最初会った時よりも妙に機嫌が良くなったナオフミに色々と教えてもらった。

 

 本人の冤罪の件については巧妙に隠されていたが、聖武器という物らしいそれについての事も教えてもらった。

 

 それで、武器の石の所に素材を入れられるらしい。

 

 

 「素材……」

 

 

 デデデは後ろのパンパンになった袋を見る。

 

 あの中には今日一日で集めた謎生物……この世界では魔物と呼ばれている奴の残骸が詰め込まれている。そして隣には鳥もどきの臓器と鱗とか。

 

 

 「アレを全部詰め込めと」

 

 「全部入れなくても、一つ入れられればいい。残りは防具の素材として使えたりするから」

 

 「防具……いらんな」

 

 「いやいるだろ怪我したらどうすんだ」

 

 「その前に叩けばいいわい」

 

 「んな、狩られる前に狩れみたいな……まあお前ならできるだろうな」

 

 「デデデおじさんなら大体の奴はひっとあんどあうぇい?でどうにか出来るんじゃないでしょうか」

 

 「ワシのことをまるで分かったかのように言うな。あと何故ヒット&アウェイにはてなが付いてる? 意味がよく分からない言葉は使うな」

 

 「はーい」

 

 

 ラフタリアは早くも近所のちょっと力の強い子供的な感じの認識になり始めている。

 

 とりあえず、素材を色々入れてみることにした。

 

 

 

 「ワルキューレの槌、ハーピーハンマー、タナトスハンマー、大妖の槌……なんかいっぱい出てきたぞい」

 

 「そっち、なんか凄いの出てるな」

 

 「スキル? みょるにる、ってなんだ」

 

 「…………!? それ何の素材で出てきた」

 

 「ワルキューレの槌の、勇者の十字架だな」

 

 「俺にもくれないか」

 

 「余ってるし、いいぞ。他のも持ってるだけ無駄だしな」

 

 

 ちなみに勇者の十字架というのは、間違ってデデデが荒れた墓地に入り込んでしまい、突然出てきた幽霊に襲われて、倒した時にドロップしたものだ。

 

 ちなみに、デデデは知る由もないが、その墓地は遥か昔に戦死した七星勇者が埋葬されていて、あの時出てきた幽霊は全て、その七星勇者の英霊である。

 

 話を戻して、みょるにるという単語に何故か反応したナオフミは素材を即座に欲したが、一体どこに欲しがる要素があるのだろうか。北欧神話を知らないデデデには全く分からなかった。

 

 その十字架をを持って戦っていた勇者の意思が手に取るように分かるそれを、何の躊躇もなく盾に吸わせたナオフミは、結構興奮している。

 

 

 「俺のレベルでも解放出来てる……スヴェルシールドか。火属性光属性を含む攻撃は全て無効、これは結構使えそうだ」

 

 「へー」

 

 「残りの奴も入れたが、ほとんどは解放されなかったな……」

 

 「何? ワシは全部出たが」

 

 「……強くてニューゲームなんだろうな、羨ましい」

 

 「強くてニューゲーム?」

 

 

 強くてニューゲームって何だろうか? とデデデは首を傾げる。

 

 ゲームならピンク玉がよく知っていると思うが……何分、デデデのしたことのあるゲームは某配管工と大乱闘シリーズだけである。

 

 ハクスラ系のゲームを知らないデデデにはその言葉は通用しないのだ。

 

 その後、黙々と素材を武器に入れ続けた結果、手持ちの素材は大分減った。解放された武器だが、ナオフミは一桁程度で、デデデは全て解放された。

 

 

 「こんなもんか」

 

 「ふむふむ……助かったぞい」

 

 「どういたしまして。あ、残りの奴要らないなら」

 

 「荷物が重すぎるし、全部もってけ」

 

 「ありがとう」

 

 

 残りの機能を教えてもらった後、三人は眠りにつくことにした。番はナオフミがするようだ。

 

 

 

 

 

 ☆そして朝……★

 

 

 

 

 

 久しぶりの野宿にも関わらず、ぐっすり寝ていたデデデが起きた時には、二人はもう居なかった。

 

 朝に強いのだろうか……まだ眠いデデデは、立った一夜の出会いを振り返る。

 

 そこでふと気づいた。

 

 

 「……あいつらの事、名前以外なんにも分からなかったわい」




「あれ、デデデは?」
「大王様なら、いないよ? まだ一日くらいかな」
「え、ほんと? どこにいるのかな」
「さあ?」
「まあデデデのことだし、死にはしないか。でも、あんまり遅いようだったらそのうちメタナイトのハルバードで探そうか」
「ポップスターに居ない前提なの?」
「いいや、これから一週間、ポップスターを探索する。暇な奴でいいから収集をかけて欲しいな」
「分かった、僕に任せて。でも、あまり無理しちゃ駄目だよ――カービィ」


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目の前に宝があったら取るのが当たり前

デデデは気ままに冒険をしています。
ところで狂花水月とかCROWNEDとか水晶零式って神曲だと私は思う。


 デデデは高所にて昼寝をしていた。

 

 

 「グゴオォォ……ズビイィィ……」

 

 

 酷いいびきをかいて、口からよだれをたらしながら寝る様子はとても幸せそうにも見える。

 

 朝起きた後、山奥まで一人で探検しに行き、時々襲ってくる奴は張っ倒していくのを繰り返し、登山していたところ、おやつごろには山頂についていた。

 

 

 (自然の中で寝るのも意外と気持ちいいわい……)

 

 

 いつも日向ぼっこしてスヤスヤ寝ているピンクボールの気持ちも分からなくはなかった。

 

 しかし、そんなデデデを無謀にも叩き起こす輩がいた。

 

 ブーンと羽が小刻みに空気をたたく音が聞こえてきた。

 

 それは人の半分ほどの大きさの蜂。その六本の節足のなかの四本には人間のような手があり、その二本の手にはレイピアが、残りの二本には煌びやかな杖が握られていた。

 

 

 「ミィ、ツケ、タァ……アアア、シィ、ネェッ!」

 

 「遅いわい」

 

 「ナッ――」

 

 

 謎蜂の放ったレイピアによる突きを横に転がることで避けると、即座に側面を叩く。不意を受けた謎蜂は近くの木に叩きつけられ、あっけなく絶命した。

 

 デデデは蜂の羽音が聞こえたことで覚醒していた。だが、そんなに羽音は大きいわけではなく、深い眠りについている奴なら起きるはずはない。

 

 ならばどうしてデデデは気づいたのか? 答えは簡単だ。

 

 

 「蜂にはいやな思い出があるからな……不意打ちを受けるつもりはもうないぞい」

 

 

 実はデデデは以前、とある蜘蛛に攫われて、自分の二、三倍は大きい蜂に突き出されかけたことがあるのだ。

 

 突き出される前に食いしん坊ピンクが助けに来てくれた為に間一髪だったものの、その後は蜘蛛に操られ敵対。だが難なく倒され、気がついたときにはボロボロの巨大蜂がワールドツリーという巨大植物と合体するシーンの真っ最中だったため、めっちゃ怖かったという記憶があった。

 

 

 (この剣、レイピアだったよな。セクトニアもレイピアを使ってたらしいし……偶然だといいんだが)

 

 

 デデデは潰れて地面に落ちた謎蜂を覗き込む。

 

 大きい蜂……クィン・セクトニアは煌びやかな杖とレイピアを武器としていたらしい。

 

 この謎蜂が同じような武器を持っていることを、単なる偶然だということを祈りたい、と思っていたところで、そういえば魔物を注視すると名前が出てくるという情報を思い出した。

 

 この機会に確かめるのもいいか、とデデデは謎蜂をまじまじと見る。

 

 そして表示された名前は。

 

 

 『スモール・セクトニア』

 

 

 周囲から迫ってくる無数の羽音を聞いたデデデは、即座にそこから全力で逃走した。

 

 

 

 

 

 ☆大王様逃走中……★

 

 

 

 

 

 山を駆け下りて、逃げ込んだのは洞窟だった。そうする方が沢山の木々のある山の中で追ってくる蜂たちを欺けると考えての事だった。

 

 狙い通り、蜂たちはデデデが下に逃げていったと思い込み、洞窟を通り過ぎていった。

 

 だが、問題があった。今は山を逃げ回り続けて既に夕方に差し掛かっていた。念のために今日はこの洞窟で野宿をすることとしよう。

 

 

 (……この洞窟、何処に続いてるんだ)

 

 

 昨日と同じく、焚き火を起こす。火の弾ける音とデデデの呼吸音だけが聞こえる中、デデデはふと気になった。

 

 いつもなら何かを食べて暇を潰すところだが、今日は誰も居ない。娯楽も無い今、退屈を紛らわせるものとしたら、探検くらいだろう。

 

 ということで、デデデは焚き火にくべていた木の一本を手に取り、洞窟の中へと足を進め始めた。

 

 

 (何も無い……)

 

 

 十分くらい歩いたが、何も見つからない。

 

 岩壁が剥き出しになっているのでかなりごつごつしているが……綺麗な水晶や鉱石がちらちらとあったので叩いて回収した。

 

 でも、魔物が一匹も出ない。仕方なくデデデは鳥もどきの燻製を食みながら進む。

 

 そのうち、デデデの鋭い嗅覚に昨日のダチョウもどきのような匂いがあたった。

 

 

 (まさか、ここが住処なのか?)

 

 

 ちょっと意外だったが、これは運がいい。なぜなら、住処ならば卵があるかもしれないからだ。

 

 卵は栄養満点食材だ。デデデも好きだったりする。

 

 デデデは目を露骨に光らせ、走り始めた。

 

 

 「ぶびゃっ!?」

 

 

 そして程なくして不可視の壁に激突した。

 

 

 (何が起こった!?)

 

 

 勿論デデデは混乱した。すぐに目の前に手を伸ばすと、見えない壁に手をつけることになった。

 

 見えない壁の先には、鳥の巣があった。その上においてあったのは、一個の白い卵。ダチョウもどきの匂いはそこから漂ってきていた。

 

 ……デデデは直感した。この不可視の壁は、卵を封印するための結界なのだと。

 

 とても重要なものなのかもしれない。いやきっとそうなのだ。だが……

 

 

 (んなもん知るかぞい!)

 

 

 見つけたからには奪い取るのは当たり前だ。デデデはハンマーを振りかぶって、思い切り結界に叩きつけた。

 

 ガシャァァァァン! と、結界は派手に破壊された。酷い。

 

 デデデはご機嫌で卵を奪い取る。どうやらここで行き止まりのようだったので、デデデは踵を返すと焚き火のある場所へとスキップしながら戻った。




流石にデデデだって、どうして封印されていたのかが気になるので、食べはしません。
明日は人里探しをするようです。
ちなみにスモフォニアはセクトニアの遠い親戚なだけで別に重要でも何でもない。


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ダチョウもどきの逆襲

 一夜を洞窟で過ごしたあと、デデデは下山した。どうやらもうあの蜂の大群はデデデを諦めて、どこかに行ってしまったようだった。

 

 荷物の入ったリュック(盗賊から貰った(たかった)もの)が枝とかに引っかからないように、獣道にそって下りた。

 

 今更なのだが、どうしてデデデがこの山に登ったのかというと、人里を探すためだ。高いところからなら、周囲を上から一望して、村か何かがあるといいなと思ったからであった。

 

 いつもならば、双眼鏡とかでもっとよく観察できたが、いかんせんサバイバル中である。そのようなものはまだなかった。

 

 

(金は使ってないからまあまあある。だが、少しばかり心許ないな)

 

 

 近くに村があれば、そこに寄って、食料や道具を買おうと考えている。今の所持金は合計で銀貨が100枚程度、銅貨が50枚程度なので、この地域の道具の相場がまだ分からない中だと、もう少し欲しいところだった。

 

 山に登って見つけられたのは、大きな牧場らしきもののある村だ。あそこに寄ってみるとしよう。

 

 

 

 

 

 ☆大王様移動中……★

 

 

 

 

 

 「ほー、ここはダチョウもどきの牧場だったのか」

 

 デデデが村に着いてからまず向かったのが、大きな牧場だった。

 

 この牧場に近づいていくにつれ、昨日手に入れた卵と同じ匂いがしたからだ。もしかしてと思って向かってみると、予想通り。その牧場には沢山のダチョウもどきがごろごろしていた。

 

 

 (ここの管理者なら、ダチョウもどきのことについては詳しいだろうし、これがどんな卵かも分かるかもしれん)

 

 

 この牧場に来た理由はもう一つあった。それは、昨日手に入れた卵の正体を暴くためだった。

 

 匂いからしておそらくこの卵はダチョウもどきのものなのだろう。でも、一応本当にそうなのかということと、食べても腹は壊さないのかという確認だった。やはりデデデは食い意地が張っている。

 

 しかし、そんなデデデの前に、とある障害が立ちはだかる。

 

 

 「グア?」

 

 「グアー」

 

 「グアア!」

 

 「グアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 デデデに気づいたダチョウもどき達が、突然雄叫びを上げながら突進してきたのだ。

 

 デデデも突然のことにぎょっとしたが、まあ柵を超えることは無理だろうと思っていた。

 

 ダチョウもどきは予想を裏切り、柵を越えようとしてきた。だが、ダチョウもどきは飛び越えるのではなく、別の方法で越えてきた。

 

 そう。木で出来た柵を強烈なキックで破壊したのだ。

 

 

 「え」

 

 「「「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」

 

 「のわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――」

 

 

 可哀想なことに、デデデはダチョウもどき達の健脚による全力疾走に轢かれる羽目になった。

 

 無数の足に踏まれまくり、最後尾のダチョウもどきがデデデの股間を蹴り上げ、そのまま宙に舞わせた。

 

 そしてデデデの体が上昇をやめ、落下する先は、全力で走るダチョウもどき達のコースの真ん中で。

 

 

 「ぎゃあああぁっあぁぁぁっぐぁぁぁぎゃあっ!」

 

 

 潰れた蛙のような声を上げながら踏まれていくデデデの体。一回目は背中、二回目は前と、念入りにされたデデデの体中はもはや足跡だらけである。

 

 

 (なぜワシがこんな目にいぃぃぃぃ……)

 

 

 これはもうどんまいとしか言いようがない。デデデにはこんな酷い事に遭わされる理由が全く思い浮かばない。あまりにも理不尽すぎる。だが体中が痛くて、動けない。

 

 やるべき事は終わったといわんばかりに、呑気に牧場へと帰っていくダチョウもどきに軽く殺意を覚えながら、デデデはそこに転がることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……というところだな。全く、骨が折れた程度で済んでよかったわい」

 

 「いや骨が折れた程度は程度ではありませんよ」

 

 

 治療師に回復魔法を掛けてもらいながらだが、状況説明を終えたデデデは、大きく嘆息する。

 

 あの後、異常に気づいて出てきた牧場主が、壊れた柵の修理をしていたところ、偶然デデデを見つけ、村の治療院に運ばれて今に至る。

 

 あのダチョウもどき……正式名称はフィロリアルなんだそうだ。元々温厚な性格だというそのフィロリアル達の暴走については主人である牧場主でも分からないらしい。

 

 だが、もしかしたらデデデの何かがフィロリアル達の気に触れたのかもしれないとのことだった。

 

 

 (いや何が気に触れたんだよ!)

 

 

 自分は柵越しに見ていただけだ。なのにどうしで奴らの気に触れるようなことになる。何処が温厚だ。むしろ凶暴だろう。

 

 どうせ大好きなご主人サマにだけは猫を被っているのだろう、とデデデは顔をしかめる。

 

 

 「本当に申し訳ありません……」

 

 「正直言って許したくないし、あの鳥どもをワシの手で極刑を下してやりたいが……他人の所有物に手を出すのはいけないことは分かっているわい」

 

 

 本当にすまなさそうな顔をしている牧場主をこれ以上責めるのは酷だろう。

 

 だが、以前のデデデなら間違いなく「極刑ぞい!」とブチギレていただろう。いや今も確かにキレている。

 

 だが、デデデはそんなことより気がかりな事があったため、抑えることができた。以前に比べるとデデデには常識が備わっている。自国の民ではない他人のものを勝手に奪うことはいけないということも承知できていた。

 

 ……自国の民のものも、自分のために権力を乱用して剥奪するというのも、悪いことであり、それをまだ理解していないことについてには、まだ突っ込んではいけない。いいね?

 

 

 「それより、ワシの荷物の中に卵が入っていたはずだが」

 

 「ああ、あのフィロリアルの卵ですね? どうやら何か保護の魔法を掛けられていたようで、割れてませんでしたよ」

 

 「そうか……」

 

 

 あの卵が無事だということにデデデは安心した。アレを割りたくなかったのもあるが、リュックの中が酷いことになる二次被害を被ったかもしれなかった。割れてなくてよかった。

 

 そして、やはりあれはフィロリアルの卵だったようだ。

 

 

 「あそこまで丁寧に保護されているなんてビックリしましたよ……あの卵、一体何処で拾ったんです?」

 

 「貴様に話す義理は無いわい」

 

 「そ、そうでしたね……ですが、せめてこちらからお詫びをさせてほしいのです。あの卵には魔物紋が掛けられていないようでしたし、こちらで孵化器付きで契約しましょうか?」

 

 「……なんだそれは」

 

 「おや、知らないのですか?」

 

 

 デデデの困惑に、牧場主は丁寧に説明してくれた。

 

 魔物紋とは、魔物を自分のパーティに入れるためのものであるとともに、制御をする役割を持つらしい。孵化器というのは名前の通り、卵を速く孵化させるものなんだそう。

 

 それを聞いたデデデは考えた。

 

 

 (手懐ければ、色々と使えるかもしれん)

 

 

 移動手段としてだとあの速さは優秀だし、健脚によるキックの威力は不本意にも実際に体験して、かなり痛かった。戦力にも使える。なんだかんだで連携のある戦闘は楽だからだ。

 

 デデデはその打算を腹の内に隠し、牧場主の持ちかけた話を了承した。




お前は、誰だ?

――私は、『悪』だ。貴様の心の闇に引き寄せられたのだ。

俺の心の闇、だと?

――憎いだろう? 貴様を貶めた女が、王が、愚かな勇者が。

それは……

――私と手を組め。そうすれば、奴らに復讐できるぞ。我らの手で、奴等に絶望を与えてやろうではないか。

……断る。

――何故だ? 奴等に復讐をしたくないのか?

確かに、あいつ等にはそのうち復讐するつもりだ。だが、お前と手を組むつもりは無い。

――貴様には力が無いだろう。私なら、貴様に力を与えられるぞ?

だとしても、俺はいらん。俺は、お前を信じるつもりは無い。とっとと失せろ。

――そうか。だが、覚えていろ。私は常に、貴様の影に潜んでいるぞ……


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デデデ大王、久しぶりに無理をする

ナカーマが増える日


 回復魔法をかけてもらったものの、体を完全に治すことは出来なかった為、数日ほど村で療養することになった。療養の原因となった出来事のお詫びとして、無料で寝床を提供された。

 

 久しぶりのベッドが心地よいあまり、デデデは丸二日程眠り続けてしまった。いくらなんでも寝すぎである。

 

 その割には三日後の早朝にきっちり起きたわけだが。

 

 

 「ふあぁぁ……よく寝たわい」

 

 「ピィ!」

 

 「んあ?」

 

 

 ベッドの下に足を下ろし、大きく背伸びをしたデデデの膝に、いつの間にか小さな鳥の雛がちょこんと座っていた。

 

 頭に卵の殻を帽子のように乗せていることから、どうやらついさっき孵化したらしい。

 

 

 (雛の時はまあまあ可愛げがあるな)

 

 

 くりくりとした金色の瞳に、炎みたいな鮮烈な赤色の羽毛。パタパタと元気に小さな翼を羽ばたかせている。

 

 成体になった奴と比べて大違いだ。以前ペットとして買っていたタコを思い出す。正体は残虐な魔獣だったが。

 

 デデデは試しに帽子のようになっている卵の殻を取り、槌に吸わせてみた。

 

 

 『魔物使いの槌』

 

 

 

 別に効果とかに興味は無いが、素材も見た目も、あまり他のフィロリアルとそん色ないように思える。

 

 

 「……ご丁寧に守られていた割には、別に特別そうな感じはないな」

 

 「ピイ?」

 

 

 手に乗せてもう一度まじまじとよく見るが、別段特別そうな感じはない。雛は可愛らしく首を傾げるだけだ。

 

 これがあんな凶暴な奴になるなんて、信じられなかった。が、事実なのだから仕方ない。

 

 ところでデデデはあることに気づく。

 

 

 「そうだ、こいつの名前はどうしよう」

 

 

 これから飼うのだから、名前をつけなければ。ずっと鳥とかフィロリアルとか呼ぶのはデデデだろうとも気が引ける。

 

 なので、命名するつもりなのだが、何にしよう?

 

 

 (アカとかレッドは流石に安直過ぎるな)

 

 

 名前は赤に順ずるものにしようと思っている。

 

 しかし、どんなものにしようか。

 

 

 (炎みたいな色でもあるし、フレアにでもするか? いや、もう少しひねりを加えてみるべきか)

 

 

 うんうん唸り続けて、ついに正式な名前がデデデの中で決められた。

 

 ということで、赤フィロリアルの名前は。

 

 

 「貴様の名前はフレイアに決定ぞい!」

 

 「ピイィ!」

 

 

 フレイアになった。

 

 名前をつけられたことを認識した上でフレイアは嬉しそうだ。

 

 せいぜい、蹴られることのないように、大切にしないといかんな、とデデデはまず、フレイアの頭をぽんぽんと叩いてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病室から出ると、早速治療師や村の住人に心配されたが、もう問題はないと答えておいた。

 

 その後は、地図や双眼鏡、調味料などの日用品とかを買って、デデデは村を出ることにした。

 

 フレイアを頭の上に載せて何をするかというと、決まっている。

 

 

 「フハハハハハ! 大人しくワシとフレイアの経験値になれえええぇぇぇぇぇぇぇいっ!」 

 

 「ピィッ!」

 

 

 牧場主はパーティに入っている仲間と共に戦うと、経験値がその仲間にもはいるらしい。

 

 ということで、デデデは山奥に殴りこみに行った。

 

 意外と山奥にはドラゴンや小さな鳥もどきが沢山居た。特に鳥もどきはこちらを見た途端襲い掛かってきたので、撲殺が楽であった。

 

 

 「ピィ!」

 

 「おー、貴様はその肉を食べていればいい。その代わり、荷物の番を頼むぞい」

 

 「ピ!」

 

 飛び降りたフレイアは沢山の肉を一人、いや一羽で啄ばんでいる。近くの奴等殲滅したから、まあここにいさせてもいいだろうとデデデはそのまた奥へと突き進んでいく。

 

 

 

 

 

 ☆大王様殲滅中……★

 

 

 

 

 

 デデデはお日さまが隠れて、そして顔を出す時まで戦い続けた。

 

 その結果、デデデが物凄く疲弊する代わりに、フレイアはあっという間に成体になっていた。

 

 だが、山の主兼竜帝であったエンシェントドラゴンとの戦いで、死ぬ直前でデバフを掛けられ解体するのにかなり時間が掛かったのと、昨日のフィロリアル達の暴走で出来た傷が完治しているわけではなかったのもあって、デデデは体にほとんど傷は無いが内側が既に悲鳴を上げていた。

 

 

 「グアア!」

 

 「あ……ふれいあ、か…ぜぇはぁ……いくらきさまの……ふつうのやつとのちがい……っを、かくにんする……ためとは、い、え……さすがにほねが、おれたわい」

 

 「グア!」

 

 

 よたよたとドラゴンの肉を運んできたデデデを見て、言われたとおりその場で荷物の番を続けていたフレイアが駆け寄る。

 

 以前鳥もどきを倒した時に手に入れた奇妙な形の剣を使って、捌いた肉をさっさと荷物の中に突っ込んで背負うと、一歩を踏み出そうとしてそのまま前のめりに倒れるのを、途中で受け止められる。

 

 

 「あー……ふれいあ、ワシをはこべ」

 

 「グアー!」

 

 

 了承の意を示した朱色のフィロリアルの背中に乗ると、長い首に腕を回して体が落ちないようにする。それから何処に行けとも言わずに、全てをフレイアに委ねたデデデはそのまま泥のように眠りに付いた。




槌は小さくしてマントの中に入れてるデデデ大王。いくら好奇心があったとはいえ、久しぶりの無理をしてしまっていた。


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今回は頭に花は付いてない

今日は短いです。


 「クエエエェェェェェェ!!!!」

 

 「ぐえっ!?」

 

 

 けたたましい鳥の鳴き声が聞こえた直後、デデデは地面に叩きつけられた衝撃で目を覚ました。

 

 ……多分。

 

 

 (何か土臭いし暗いぞ)

 

 

 何か湿ったものに首まで突っ込んでいる感触がする。なんだこれは。しかもこれ既視感あるぞ。

 

 とにかくデデデは手足をバタバタと動かす。首から上は別になんとも無いが、ちょっと首が痛くなってきた。

 

 だが、この首の痛みが、デデデの数年前の記憶を引き出す鍵となった。

 

 

 (あっ……そうだ、あの時……異空間の崩壊に巻き込まれて、寸前でランディアたちに助けられたんだった。それで乗せられたままプププランドに帰ってきて、その最中でランディアの背中から落ちたんだった……)

 

  

 同行していたピンク玉、仮面騎士、バンダナワドルディは普通に倒れていただけだったが、デデデだけは頭が垂直に地面に突き刺さっていた。

 

 多分、今も同じ状態なのだろう。だが、飛竜のランディアではなく、フレイアはただの飛べないダチョウもどきだ。まあまあフレイアの背中は高いものの、自由落下で地面に頭が突き刺さるとは思えない。

 

 ならばなぜか? そこまで賢いとはいえないデデデの頭でも、一つの可能性が浮かび上がる。

 

 

 (もしかして、フレイアは他のと違って飛べるのか?)

 

 

 あの山に入るときまで、フレイアはデデデの頭の上でよくシャドウボクシングみたいなことをしていたが、時々まるで飛ぼうとでもするかのように翼をパタパタと動かしながら、ぴょんぴょん跳ねていた。

 

 結構高いところを飛んでいたのならありえる……

 

 そう考えていると、そろそろ眩暈がしてきた。

 

 

 (あーちょっとまずい)

 

 

 逆さまに刺さってた為に、頭に上ってきていた血が溜まってきて不味いことになってきたので、推察を中断して、デデデは地面に手を付き、力いっぱい押す。

 

 ぐぐ、ぐぐぐ……と埋まった頭が少しずつ抜けていく。そして、唐突にポンッ! と音を立てて一気に引っこ抜けた。その勢いにつられて、尻餅どころか上半身ももれなく倒れた。

 

 デデデは強い眩暈のする頭を押さえながら、起き上がった。その時だった。

 

 

 

 「うう、くらくらするわい……」

 

 「大丈夫です、ファスト・ヒール」

 

 「ああ、ちょっと楽になった……」

 

 

 

 ……ん?

 

 

 

 「えっ!?」

 

 

 

 忍者みたいな黒装束を着た女が隣にしゃがみ込んでいて、デデデの頭に手をかざしていた。その掌には柔らかい緑色の魔方陣がある。

 

 

 「誰だぞい!?」

 

 「メルロマルクの秘密警護部隊の『影』です。槌の勇者様」

 

 

 その女はにこりと笑って、デデデにそう言った。




 「……あなたはだれ?」

 目の前に突然現れた、まるで夜空を星型に切り取ったようなゲート。そこから現れたとある存在にフィトリアは警戒を露にして問いかける。

 「……」

 「貴方の気配はあまりにも強い。この世界に、何の用なの?」

 「……」

 「答えて。貴方は存在自体が危険すぎる。答えないなら、ここでフィトリアが排除する」

 「……わ、たし」

 「わたし?」

 純白の羽に濃い桃色の一頭身の体。両手にはランスと盾。その顔には十字の隙間のある仮面を付けたそれは、マゼンタ色の瞳でフィトリアを見据えた。

 「私はギャラクティックナイト。この世界を、滅ぼしに来た」


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なんかデデデがおかしくなった

今日はアレが来ますよ……


 「影? なんで秘密部隊とやらがこんなところに?」

 

 

 デデデが影と名乗った女にまず持った疑問。それは、秘密部隊というのがどうしてこんな所に一人でいたのかということだった。

 

 槌の勇者であることも何故分かったのかというところも疑問だが、防具も武器も無さそうな女がどうしてこんな魔物がいるような草原へ? というところが気になった。

 

 

 「秘密部隊ってことは、誰かに情報を伝える為にここに来たのか?」

 

 「その為にメルロマルクへと向かっていたのですが……途中で馬車を魔物に壊され、残りの御者も他の影もやられ、私だけが生き残ってしまったので、徒歩で向かっていたのです」

 

 「徒歩で、ねぇ……なんで武器無いんだ?」

 

 「……隙を突かれ魔物に奪われてしまい」

 

 「貴様よく生き残れたな」

 

 「はい……魔法も私の適正は回復のみでして、攻撃方法が無いのです。なので魔物の目を掻い潜りここまで来たものの……まさか滅多に見ることの出来ないハーピーの群れがあんなにも居るとは思わなく」

 

 「……ハーピー?」

 

 

 一応倒した事はある。天使の輪と白髪紅眼の半人半鳥、しかし単眼というどことなく某酸素を思い出す容姿の奴だ。手には大きな弓やクロスボウ、たまに槍とかを持っている。

 

 

 「ハーピーは知らない方も多数居るほどの魔物です。雌しか居なく、ほとんどが服を着ていないので男性冒険者陣には人気ですが……性格は凶暴で、常に空中に居る為近接はまず無理です。そして空中複数が一緒に居れば凄まじい連携でどんな手練れであろうとあっという間に負けてしまうほどの実力です」

 

 「空中戦ねぇ……」

 

 

 あの時は近接武器を持った奴だったから地上でも対応できたが、空中戦はちときびしいかもしれないな……そう考えていた時だった。

 

 ドスン、と背後で重い何かが落ちた音がした。

 

 

 「「ッ……!?」」

 

 

 バッと後ろを振り向いたデデデと影は、愕然とした。

 

 燃えるような赤羽のまん丸な鳥。その体には、沢山の矢が刺さっていた。

 

 姿は全く見たことが無い。だが、その鳥が何かだなんて、デデデにはもう分かりきっている。

 

 

 「フレイアッ!?」

 

 

 デデデが絶叫し、とっさにフレイアに駆け寄る。

 

 

 「フレイアッ、フレイア、しっかりしろぞい!」

 

 「…………」

 

 「勇者様、私が治療します! なので勇者様はハーピーを――」

 

 

 目を閉じて、返事をしないフレイアに焦るデデデを押しのけ、影が回復魔法を使いながら、矢を引き抜く。

 

 だが、今のデデデに、影の言葉は完全に届きはしない。

 

 影の言葉が聞こえなくなるほど、デデデは怒っていた。

 

 

 (あいつら……絶対に半殺しでは済ませんぞ)

 

 

 ほんの少しの間だけだった。だが、デデデの言葉に元気に反応し、そして疲れたデデデの代わりに動いてくれた。元気で、いい子だった。

 

 数の暴力でよってたかってフレイアを攻撃して殺そうとしたことが、デデデには許せなかった。

 

 そして、最も許せないのは、フレイアが攻撃されていることに気づけなかった上、上空の敵に有効な攻撃手段が無い自分だった。

 

 一方的なハーピー達の攻撃が、デデデ達に降り注ぐ。

 

 デデデが出来るのは、せめて影とフレイアに攻撃が当たらないように立ち回ることだけだった。

 

 ハーピーは防戦一方のデデデを嘲笑うように、攻撃を激しくしていく。

 

 

 (くそ……くそくそくそ! なんでワシはこんな時に限って! こんなにも役立たずなんだ!)

 

 

 悔しい。何も出来ない自分が。ハンマーを振るって無数の矢を弾き、矛先や切っ先を逸らすことしかできない自分が。

 

 このままではジリ貧だ。だが、打開策などデデデには全く思い浮かばない。

 

 もう、デデデにはどうしようもない。

 

 ああ、もういっそこのハンマーを投げ捨てて蜂の巣になれば楽になれるんじゃないだろうか……?

 

 

 (何を馬鹿なことを考えておるんだワシは!)

 

 

 諦めるな。最後まで抗え。抗って抗って、そして活路を見出すんだ!

 

 

 ――大王。ならば俺が力を貸そう。

 

 (お前は……っ)

 

 

 そして突然頭に響いた奴の声と共に、デデデの意識は遠のいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「これは……っ!?」

 

 

 影は回復魔法を赤い鳥に掛けながら、周りの変化に愕然としていた。

 

 なぜなら、自らと赤い鳥を中心として、包み込むようにして黒い結界が一瞬で張られたのだから。

 

 

 (無詠唱でこれだけの強い結界を……!? 儀式魔法『聖域』の魔力など比べ物にならないほど、濃密で上質な魔力を練られているこんなものすら、勇者様はたった一人で、しかも無詠唱で行使できるのか)

 

 

 無詠唱で魔法を使うことは可能ではある。だが、詠唱するのと比べて威力や質は落ちてしまう。だというのに、魔法名すら言わずに唐突に展開した結界すら、こんなにも力がある。影はその事実に愕然とすると共に、七星勇者の凄さというものに感動していた。

 

 だが、なぜ今までその結界を張らなかったのだろうと疑問を持ったが、それは結界の外に居る槌の勇者の武器が、赤黒く禍々しくなったことが答えだった。

 

 

 (あれはまさか……カースシリーズ!? そうか、この鳥が死にかけたことがトリガーになって、解放されたのか。よく見れば、この結界もそこまで丁寧に織られたものではない。ということは、カースシリーズで格段に上がった力で、結界を生成したのか!)

 

 

 勇者伝説、特に身近に居るからこそ興味があった七星勇者の事についての情報には聡い影。眷属器についてにもよく調べていたため、カースシリーズのことも知っていた。

 

 七つの大罪である『傲慢』『憤怒』『嫉妬』『怠惰』『強欲』『暴食』『色欲』でカースシリーズは形成されている。影は、おそらく槌の勇者様は『憤怒』を目覚めさせたのだろう、と推測した。

 

 

 「ハーピー達が距離を取っている……怯えているのか。あれ、なんで勇者様は羽もないのに浮いてる?」

 

 

 嘲笑から一転、恐怖へと表情を豹変させたハーピー達は攻撃を止め、翼をはためかせ上空へと後退しているのを追うように、羽も何もない槌の勇者は上空へと飛んでいく。

 

 

 (何が起こっている? まさかあれもカースシリーズの力か?)

 

 

 「…………ク、エッ」

 

 「っ! 起きましたか」

 

 

 影は赤い鳥が目覚めても、残りの傷を治す為に治療する。その間も、槌の勇者の様子を見つめていた。

 

 槌の勇者はハーピー達と同じ高度まで上がった。そして、後ろからな為分からないが、槌の勇者の腹の部分に魔力が集中しているのが気配で分かった。

 

 異変に気づいたハーピー達が武器を構える。が、もう時既に遅し。

 

 

 「あの大きさに魔力の質……まさかあれは、ダークマター族しか使えないという、ダークレーザー!?」

 

 

 槌の勇者の腹から放たれた漆黒の稲妻。異質な線が亀裂のように空を走り、全てがハーピー達に直撃する。

 

 武器もろとも瞬く間に炭と化したハーピーだったもの達は、黒ずんだ粉雪と成り果て、地へと落ちてくる。不吉さを感じる最期だった。

 

 ……五十年前。この世界にシルドフリーデンで発生した災厄の波と共に、宇宙という空よりも上にあるという世界に住む者達が現れた。

 

 それこそが、暗黒物質――すなわち、ダークマター族の最初の到来だった。

 

 ダークマター族は波が終わってもその世界に残り続け、世界中を混乱に陥れた。

 

 彼ら自体が大暴れしただけではなく、凶悪犯罪者を投獄している牢屋が破壊され脱走し、戦う力の無い一般人すらも負の感情を強制的に引き上げられ暴走させられた。そしてそのようなことがどんどん他の国でも起こり、ついには世界中の治安が劇的に悪くなり、世界恐慌までもが発生してしまった。

 

 ダークマター族は前触れもなく、いつの間にか姿を消していたのだが……もしも見かけたら即座に国に報告せよという憲法が世界中で既に定められている。国にいる勇者が即座に排除に動くからだ。

 

 

 (私が生まれる前に起こったそうだが……彼らの使うのは全て闇魔法だったらしい。ダークレーザーはダークマター族のみ使える魔法の代表格。この世界に存在するあらゆるものを焼き尽くせるほどの電力といわれていた)

 

 

 あんなものを、ダークマター族ではないはずの勇者様が、何故使える? 赤い鳥の治療を終えた影はおとがいに手をあて、考える。

 

 そして導き出した答えは。

 

 

 (勇者様のカースシリーズの力か! 見た目だって禍々しいから、きっとそれに違いない)

 

 

 デデデよりおつむは空っぽではない影なら、もう一つの可能性にだって気づいていただろう。

 

 それを取らずに、誰でも思い当たる可能性を信じたのは、ひとえにそうだと信じたくなかったからでもある。

 

 何の前触れもなかったのだ、ダークマターに取り憑かれたという線はきっとないはず……

 

 以前、デデデにダークマターが取り憑いて以降、未だにダークマターの欠片が付いているという事実を知っていれば、まだなにか変わったかもしれないが、知らないものは仕方がないだろう。

 

 

 「槌の勇者様、ご無事ですか?」

 

 「クエー!」

 

 

 結界が消滅したのと同時に、地面へと戻った槌の勇者に真っ先に駆け寄ったのは、赤い鳥、もといフレイアだった。

 

 

 「クエッ、クエエッ!」

 

 「…………」

 

 「勇者様、お怪我は」

 

 「…………」

 

 「勇者様?」

 

 

 フレイアの羽毛に埋もれた槌の勇者は動かない。じーーーーーっとしていた。

 

 ……影はこれ以上言葉を掛けるのは野暮だと判断し、血と焼ける匂いを漂わせた槌の勇者の傷を治すことに専念した。

 

 

 

 

 

 ☆大王様治療中……★

 

 

 

 

 

 暫くすると、やっと槌の勇者は動き始めた。

 

 

 「勇者様、もう平気なのですね?」

 

 「ああ……もう、大丈夫だ」

 

 「そうですか……ああそうだ、勇者様はこれから何処に向かうつもりで?」

 

 「何処に向かう、か……別に決めていないが」

 

 「なら、厚かましいのですがお願いがあるのです」

 

 

 影は、あることを考えていた。

 

 

 (四聖勇者様の力があるとはいえ、槌の勇者様の力があれば間違いなく災厄の波の対処は可能だ。女王の帰還までは、出来ればメルロマルクに残ってもらいたい。勿論諸国周辺に気づかれないように)

 

 

 召喚されるほとんどの四聖勇者は色々と面倒なところがあるという履歴がある。今回の四聖勇者も間違いなく何らかの面倒な所があるだろう。盾の勇者の強引過ぎる強姦未遂事件を難なく信じてしまったのだから。

 

 最早老害となった王の計らいによって無意識な傀儡となり、それで波に影響があったら目も当てられない。女王陛下がご立腹では済まされないことになる。そうなると女王による王への警告の伝達役を担っている影自身もとばっちりを受けるかもしれない。

 

 まあ、要するに保身の為にメルロマルクに来てもらおうと思った。

 

 

 「メルロマルクに来てもらえないでしょうか」

 

 「え、いいぞ」

 

 「本当ですか!」

 

 「別に行く当てないしな」

 

 「なら、今すぐに行きましょう! 方角はあっちです」

 

 

 槌の勇者の話し方に違和感を持ったが、そんなことよりも自国に来てもらえることになったのに影は喜んでいた。

 

 

 「よし、フレイア。()と影を乗せろ」

 

 「…………クエ」

 

 

 何か嫌そうな顔をしている気がするフレイアだが、一応ちゃんと了承した。

 

 槌の勇者と影はフレイアに飛び乗った。

 

 

 「そういえば、勇者様。武器がまだ黒いまま……」

 

 「気にするな。ほら、出発」

 

 「クエ」

 

 

 槌の勇者は足でフレイアを軽く叩いて、離陸を促した。

 

 フレイアは、大きく羽をはばたかせ、人二人を乗せているにもかかわらず、軽やかに飛翔した。




フレイア、察するのが早い。
次はメルロマルクに着きます。この時点で波まであと五日ほど。


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貴方は私のご主人さまじゃない

フレイアがついに最終形態に!


 フレイアの飛行速度は、他の飛行系の魔物と比べてもかなり早い。そのために、あっという間にメルロマルクの王都付近に到着した。

 

 影はさっきから様子のおかしい槌の勇者を心配していたが……

 

 

 「監獄だらけの星とは別のところなのは分かったが……どうにも、違和感が残るな。どこかで見たことがあるんだが……」

 

 「勇者様、先ほどから何を?」

 

 「いいや、気にするな。フレイア、さっさと降りろ」

 

 「……」

 

 

 フレイアは槌の勇者が可笑しくなってから、彼の発言に物凄く不服そうだが、ちゃんと言うことを聞いている。

 

 地面に降り立った影、フレイア、槌の勇者の目の前には、王都と外を隔てるゲート。そこに、立ちはだかるようにして警戒した面持ちの門番が二人居た。

 

 

 「だ、誰だ!」

 

 「私は女王の使者です。そして、この方は槌の勇者様です」

 

 「槌の勇者? 本当にそうなのか? ……ふん、まさか。そう言ったってこのメルロマルク一の鬼門番の目はごまかせないぜ!」

 

 

 門番の一人は何も言わないが、もう一人は面倒くさい奴だった。

 

 影が使者であることの証明書を取り出す前に、強硬手段を使うことにした槌の勇者は、怪しげな光をたたえた瞳で門番を睨んだ。

 

 睨まれた門番はビクン! と体を震わせると、構えていた剣を落とした。

 

 

 「トーザデさん!? 一体どうしたんです?」

 

 「ク―フォ……この人は本物だ。申し訳ありません、どうぞお通りください」

 

 「は、はぁ……」

 

 「行くぞ」

 

 

 ゆっくりを剣を拾った門番は不自然なほどに坦々とそう言って退いて、それを見たもう一人の門番も困惑した様子ながらも同じように退いた。

 

 妙な違和感があったが、槌の勇者の様子を見ていなかった影には何も分からなかった。

 

 が、通る際にひとつ問題が起こった。

 

 

 「あの、勇者様……」

 

 「そういや、フレイアの見た目は結構目立つな」

 

 

 目立つから、間違いなく注目を浴びるだろう。さっきみたいに絡まれる可能性も否定できない。

 

 だからと門の前に置いておくという選択肢はないに等しい。万が一にも奪われるわけにはいかないからだ。

 

 どうしたらフレイアを目立たないように連れて行くことができる?

 

 

 「せめて人だったら良かったんだがなぁ」

 

 「言われなくたって出来ますが?」

 

 「「えっ?」」

 

 

 槌の勇者が愚痴ると、冷ややかな女の声が背後から返ってきた。

 

 影と槌の勇者が振り返ると、燃えるような赤の羽を広げた赤髪金眼の美女が胸の前で腕を組み、仁王立ちしていた。

 

 裸で。

 

 

 「いやああああああ!?」

 

 

 影が叫びながら予備のローブを広げながら投げつけたことで、振り向くのが遅れた槌の勇者にかろうじてその裸体が見られることは無かった。

 

 

 「わっ、影さん、突然何するんですか? ビックリしたじゃないですか」

 

 「ビックリしたじゃないですか、じゃないですよ、この痴女! 公衆わいせつですよ!?」

 

 

 覆面の上からでも分かるほど顔が赤い。ここで初めて取り乱した影は思わず両手で顔を覆って叫んだ。

 

 そんな影にむすっとふてくされた子供っぽい表情を浮かべた女は、不機嫌な声音で冷静に言い返す

 「誰が痴女ですか。私はあなたの知っているフレイアですよ」

 

 「フレイアちゃんは貴方みたいな痴女ではありません! そもそもフレイアちゃんは大きな赤い鳥です!」

 

 「ええ、そうですね。でもその姿が目立つからフレイアは人に変身したんですよ?」

 

 「いやだから、フレイアちゃんは…………」

 

 「分かりましたか?」

 

 

 ローブを持って前を隠しながら美女はなんとフレイアに変身。しかも無詠唱。

 

 疑いようも無く、この目の前の女はフレイアだということが発覚した。

 

 

 「どうせフレイアに化けてんだろ」

 

 「体型がかなり違う上、魔物に化ける魔法を無詠唱でというのは至難の業です。それに、フレイアちゃんはどこにもいませんし、こんな短時間に連れ去られたというのは考えにくいです。フレイアちゃんが人化したと考えれば納得できる点も多いですから、この方はおそらく本物でしょう」

 

 「……分かってるから、最後まで言わなくていい」

 

 

 饒舌に証明をした影に辟易した様子で槌の勇者は嘆息した。

 

 分かってるならなぜ否定するようなことを言うのだろうか、と影は思ったがそこまで気になることでもないのでその疑問は流した。

 

 

 「でも、この服を着たら変身できませんね……もしも影さんに何かあったらすぐに私は変身しますけど、後が面倒です……」

 

 「うんちょっと待とうか。なんで俺は入ってない?」

 

 「影さん、変身しても破れない服に心当たりはありませんか?」

 

 

 槌の勇者の抗議を知らん顔で無視している。フレイアの中では槌の勇者は居ない扱いになっているようだ。

 

 ちょっと槌の勇者が可哀相なので、フレイアの質問に答える前にフォローすることにした。

 

 

 「勇者様にもう少し優しくしてあげたらどうです?」

 

 「今のこの人の話なんて聞くだけ無駄です」

 

 「酷くねぇ!?」

 

 

 なんとバッサリ切り捨てた。

 

 勇者様、がんばれ……と影は心の中でエールを送った。

 

 

 「この人の扱いは気にするだけ無駄ですから。話を続けましょう、影さん」

 

 「勇者様が不憫ですね……あー、魔法の糸で作った服なら破れませんよ。まずは材料の糸を調達しましょうか。魔法屋のところならそのための器具があるはずです」

 

 「そうですか。なら今すぐに行きましょう!」

 

 「なあなんで? なんで俺のこと無視するの?」

 

 「うざいですよ黙ってて下さい」

 

 「なっ……!?」

 

 

 ローブを着ながら笑顔で辛辣なことをフレイアは言ってのけた。

 

 紅の天使の突然の暴言は槌の勇者の心にクリーンヒット。槌の勇者は呆然自失になってしまった。この様子では暫くは戻ってこないだろう。

 

 だがこれから魔法屋のところに向かわなければいけない。ということで影が申し訳程度で槌の勇者の手を引いて向かうことになった。

 

 

 

 

 

 ☆影、鳥、槌の勇者移動中……★

 

 

 

 

 

 「魔法衣の材料を作るための器具を使いたいのね?」

 

 「はい。魔法に関する道具を扱っているここならあると思いまして」

 

 「確かにあるんだけど……作るために必要な鉱石がないのよね」

 

 

 魔法屋の店に着いた影、フレイア、槌の勇者。

 

 影の推測どおり、魔法の糸を紡ぐ器具ならあった。だが、久しく使われていなかったせいで肝心のものがないままということが判明した。

 

 だが、必要なのは鉱石。鉱石なら、フレイアが卵の時に居た洞窟にあったものがある。

 

 

 「あー、鉱石?」

 

 「これですね」

 

 「あ、ちょ、勝手に取るなよ」

 

 「うるさいですよ」

 

 

 一応復活した槌の勇者は再度撃沈。お構いなしに鉱石を入れている袋を取り出したフレイアは、袋を逆さにして中身を全て机の中にぶちまけた。

 

 

 「この中にその鉱石ってありますか?」

 

 「お兄さんに辛辣ねぇ……あら、あったわ」

 

 「本当ですか!? なら今すぐ作りましょう!」

 

 

 

 しょんぼりしている槌の勇者に後で慰めてあげようか、と苦笑いで魔法屋は考えながら、フレイアと一緒に必要な鉱石を持って、器具のある部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 ☆鳥、魔法の糸製作中……★

 

 

 

 

 

 「出来ましたー!」

 

 

 きゃいきゃいと子供のように喜ぶフレイア。いや精神年齢は子供だった。

 

 

 「良かったですね」

 

 「はい! あとは、これを布にして、服を作るんでしたよね」

 

 「そうね。近くに洋裁屋の店があるから、そこで作ってもらいなさい」

 

 「……」

 

 

 今まで存分に可愛がっていたフレイアにぞんざいに扱われた槌の勇者は、魔法屋の慰めを受けてもへこみ続けている。

 

 椅子にうな垂れながら座る様子はなんとも哀れみを誘うが……フレイアが「あれでいいんですよ」と謎の威圧を込めて言ったので、これ以上は何も出来ない。

 

 ちなみに今フレイアは魔法屋が譲ってくれたお下がりの空色のワンピースを着ている。影のローブを着ているとはいえ、何らかのアクシデントで前がはだけたら目も当てられない。

 

 

 「それじゃあ、洋裁屋さんのところに行きましょう!」

 

 「ちょっと待ちなさい。この際だから、魔法適正の検査をしないかしら?」

 

 

 

 魔法の糸をリュックの中に入れ、意気揚々と店を出て行くフレイアを魔法屋は呼び止めた。

 

 

 「魔法適正ですか?」

 

 「ええ、そうよ。どういう魔法が使えるかが分かるの。ここに座って」

 

 「分かりました」

 

 

 実は魔法というものをほとんど知らないフレイア。でも気になるので魔法屋の言うとおりに、水晶玉の置いてある机の前の椅子に座った。

 

 対面するように座った魔法屋は、水晶玉に手をかざす。

 

 すると、赤と白が浮かんできた。

 

 

 「フレイアちゃんの魔法適正は火と光ね」

 

 「火と光、ですか」

 

 「火属性と光属性の魔法が使えるということですよ。例えばファスト・ファイアやファスト・ライト等ですね」

 

 「ファスト・ライト……力の根源たるフレイアが命ずる。理を今一度読み解き、光よ、辺りを照らせ

 

 「えっ」

 

 

 何かを呟いたフレイアが、突然槌の勇者の方を向いて、手を突き出す。

 

 

 「ファスト・ライト!」

 

 「うぎゃああああああっ!? 目が、目がぁーっ!」

 

 「「フレイアちゃん!?」」

 

 

 槌の勇者の目の前で閃光が炸裂。槌の勇者は目を押さえて絶叫した。

 

 もちろん影と魔法屋もびっくりして止めに入る。

 

 

 「何をしているの、そんなことをしちゃ駄目よ!」

 

 「これくらいしないと私の気が収まらないので」

 

 「俺、お前の気に触るようなことしたか!?」

 

 「しましたよ?」

 

 「嘘だ!! 絶対嘘だ!!」

 

 

 槌の勇者は目を押さえながら否定するが、なぜか嘘っぽく聞こえる。なぜだろうか。

 

 

 「この人の事はほっといて、魔法屋さん。ありがとうございました。代金はどれくらいですか?」

 

 「理不尽に聞こえるような聞こえないような……鉱石も持参してくれたんだし、銀貨50枚でいいわ」

 

 「ありがとうございます。それじゃあ、さようなら!」

 

 

 なんとも酷い扱いだが、槌の勇者を見ると何故かその扱いが納得できてくる……本当に不思議だ。

 

 スキップで出て行くフレイアの様子を、やっと光の衝撃から回復した槌の勇者が見ていた。

 

 

 「勇者様……どうしてあんなに嫌われてるんです?」

 

 「俺が聞きたいよ……」

 

 

 泣きそうな声でそう言った槌の勇者の手を引いて、影は歩いてフレイアの後を追う。

 

 そういえば、槌の勇者の魔法適正の検査をしていないが、多分しようとしていたらフレイアが間違いなく邪魔していただろう。

 

 

 

 

 

 ☆影、鳥、槌の勇者移動中……★

 

 

 

 

 

 洋裁屋のところに向かい、服の製作を頼んだ所。

 

 

 「分かりました! 超特急で明日までには完成させます!」

 

 

 と意気揚々に言ってくれた。とても楽しそうに。

 

 ただしフレイアの体の採寸の為、槌の勇者は一度店から追い出された。流石にこの程度では槌の勇者はへこたれないが、フレイアに「いっそ魔法屋のおばさんの所まで離れて下さい」という遠回しで近づくんじゃねえと言われ、結局へこんだ。

 

 まあ、何にせよフレイア裸問題は解決したも同然だ。

 

 ということで、明日まで待つことになった。もうすぐ日が落ちるので、別にやることもなく宿をとることにした。何気にここに来てからちゃんと宿を取るのは初めてである。

 

 しかし、ここで問題が発生した。そう……

 

 

 「これから私は城に行かなければなりませんので、ここでお別れです」

 

 「そんなぁっ!?」

 

 「ここでかよっ!?」

 

 

 影にもスケジュールというものがある。なので、ここで影が離脱することになったのだ。

 

 驚愕にガーンと落胆している二人に、影はどこか焦りながら、話しを続ける。

 

 

 「宿の予約は取っておきました。あと、これは援助金です。私が出来るのはこれくらいですが、頑張って下さい」

 

 「なんかお前急いでないか?」

 

 「いえ別に城への到着予定の時間をすっかり忘れていたとかじゃないですよ」

 

 

 予定の時間が迫っていたから、別れも早急だったようだ。

 

 だが、色々としてくれていたようで、大変なのに本当にいい人だ。槌の勇者は影からの援助金を受け取った。

 

 

 「それでは、これで」

 

 「はい! また会いましょう!」

 

 「色々助かった、ありがとうな」

 

 「はい。また会いましょうね」

 

 

 軽く会釈をした影は、転移したかのようにそこからふっと消え去る。

 

 人通りの少ない所でのお別れで、フレイアはなんとなくしんみりとした気分になっていた。

 

 ……いつのまにか、影が仲間のような認識になっていた事に気づいたフレイアは、別れが悲しいことだということを知った。

 

 それに対して、槌の勇者は別れに何も感慨を抱くことは無かった。色々と手を貸してくれたことには感謝しているが、悲しいとも辛いとも思うことは無い。

 

 だが、哀という感情が槌の勇者にないのは当たり前なのだろう。そもそも、彼に嬉しいや楽しいという感情はあっても、相手に関する情という物を抱く事は絶対に無いのだ。

 

 フレイアに抱いているのは、ただ愛でたいという気持ち。だが命を掛けてでも守りたいとは思わない。

 

 

 「……宿に、行きましょうか。影さんは宿に近い場所で別れるように仕向けてくれていましたみたいですから」

 

 「そうだな」

 

 「……私は貴方の事が嫌いです。宿に戻って夜ご飯を食べたら、話すことがありますので」

 

 

 宿屋の方へ踵を返してから、炎を連想させる容姿とは真反対な冷ややかな声音で、フレイアはそう告げた。

 

 今まで育ててきたペットが人になった途端に露骨に嫌っている。不可解であるとともに、それは不快でもある。だから、槌の勇者はその気持ちを乗せた言葉を、フレイアに投げかける。

 

 

 「……そこまで、俺の事は嫌いか」

 

 「何を言ってるんです? 大嫌いに決まってるじゃないですか。デデデさんを殺した貴方のことは」

 

 

 振り返らずに拒絶の言葉を返したフレイアがいつの間にか握り締めていたその拳には、血が滲んでいた。




死んだ人はもう戻らない。なら、せめて……


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番外前編 フィトリアとギャラクティックナイト

椎茸の出番です


 「あぐっ……ガハッ!」

 

 

 フィトリアは廃墟の壁に叩きつけられ、血を吐いた。

 

 

 (なんて強いの……フィトリアの魔法も眷属器も全く歯が立たない)

 

 

 神鳥の姿を以ってしても、その上で強大な衝撃波をもろに食らって吹っ飛ぶ始末。

 

 最初に会った時から、彼我の実力差の判断を見誤っていた。

 

 次元が違う。フィトリアには、間違いなく自分に勝ち目は無いという確信が出来てきていた。

 

 

 (でも、フィトリアには約束がある……その約束がある限り、フィトリアは負けちゃ駄目)

 

 

 目の前の小さな災厄は、純白の翼をはためかせ、今でも優雅に宙に浮いている。

 

 三日三晩戦い続けて、疲れすらも見えないその様子は、消耗戦すらも不可能だと思い知らされるには十分だ。

 

 

 「もう終わりか? あっけないな」

 

 「ちがう……まだ、フィトリアは……戦え――ガッ!?」

 

 「悪足掻きも大概にしたらどうだ。そなたに勝ち目はないのは、そなた自身ももう分かっているだろう」

 

 「うう……」

 

 

 振るわれた剣の衝撃波がフィトリアの腹に容赦なく叩き込まれる。ごぼり、と口からまた血が溢れた。

 

 うめくフィトリアに、災厄が近づいてくる。

 

 

 (不味い……時間がない)

 

 

 このままでは殺される。

 

 フィトリアは、まだ死ぬわけにはいかない。あと、一分。

 

 一度災厄を見逃すこととなるが、背に腹は代えられない。自らの管轄である場所に、一分後に起こる波を収めて、それから短期間内で傷を治療すると共に作戦を考える。そして、世界中のフィロリアル達の情報網を駆使して、災厄を見つける。

 

 

 (今ここで死んではいけない。あと、四十秒持ちこたえて、波の場所へ転送されればいい。まだこの時期なら、今のフィトリアでも、多分何とかできるはず)

 

 

 そう思っているフィトリアはまだ、災厄の波とギャラクティックナイトのどちらが強いのかという目測も見誤っている。

 

 ギャラクティックナイト――銀河最強の戦士と謳われ、恐れられてきた彼の力は、『一つの星を滅ぼすのも朝飯前』と言われるほどだ。

 

 そんな彼の前にまだ死にかけているフィトリアが居るのは、単に()()()しているだけ。

 

 本来の目的は別にある。フィトリアを攻撃したのは、単に攻撃してきたから、敵として倒すことにしただけだった。

 

 そして突然、フィトリアの目がキラリと光った気がした。

 

 その刹那。

 

 

 「「ハアッ!」」

 

 

 長い熾烈な戦闘を経たとは思えない速さで二人は肉薄し、その刃を交えた!

 

 フィトリアの爪と災厄のランスの間に飛び散る火花から、その鍔迫り合いにどれほどの力が込められているかが伺い知れるだろう。

 

 波が起こるまであと、十秒。

 

 

 (ここが執念場!)

 

 

 攻撃して、この拮抗状態を維持する。

 

 避けるのが無理なら、攻撃という最大の防御しか攻撃を凌ぐ方法はない。

 

 ……そうして、接近したことが、後のシリアス崩壊に繋がるとも知らず。

 

 そしてついに、その時が来た。

 

 

 「――間に合った」

 

 「これは……」

 

 

 フィトリアの足元に、転送の魔方陣が展開した。

 

 目を見開く災厄に、フィトリアはゆっくりを形のいい唇を三日月形にゆがめた。

 

 その直後、フィトリアは波の起こった場所に転送された。



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番外後編 ギャラクティックナイトと災厄の波

しばらくはカービィとワドルディ、たまにナオフミさんが感想返信に走ることになります。

カービィ「よろしくねー。ところで今回はたまにようつべの『星のカービィ実況』とかで、僕のコピーのファイヤとかドラゴストームとかに使われてる編集の効果音になってる人のネタ使うよー。見ても自己責任だからね?」

ワドルディ「よろしくお願いします。ギャラクティックナイトのネットでの別名はガラクタナイトや椎茸だけど、バルフレイナイトは焼き椎茸って呼ばれてるみたいです。それと皆さん、いつも誤字報告ありがとうございます!」



 と、こんな感じです。


 「…………………………」

 

 

 フィトリアは呆然としていた。

 

 魔方陣はいらないことまでやりやがってくれた。

 

 ワインレッドに染められた空、地平線の彼方から怒涛の勢いで迫ってくる波の魔物達。これから起こるのは血を血で洗う血みどろの戦いに違いないと思えるほどの、禍々しい光景。

 

 だが、宇宙を知るものならば、魔物達の向かう先に佇む一人の戦士を見たとたんに、その予想は打ち砕かれるであろう。

 

 フィトリア一人で対応できる程度の弱さの魔物達、そしてそのフィトリアでさえも圧倒する戦士。この先の展開など容易に想像できる。

 

 

 そう――魔方陣は至近距離に居たギャラクティックナイトすらも転送してしまったのだ!

 

 

 「いやあああああああああああああああああああああああああ!!!?」

 

 

 なぜだ。あの魔方陣は中に誰か入っていてもパーティでないのなら転送されるはずはない。

 

 なのにどうして目の前に居てはいけない奴が居るんだ。何でだ。ふざけるな私を殺す気か。

 

 そんな気持ちすら上回ってフィトリアの口から出るのは化け物を間近で見たよう女の子の絶叫だった。

 

 

 「まるで化け物でも見るような目を私に向けるな」

 

 「だって化け物じゃん!」

 

 「誰が化け物だ。私は銀河最強の戦士、ギャラクティックナイトだ!」

 

 「ぎゃらなんとかなんてフィトリア知らないもん! フィトリアから離れろ化け物!」

 

 「だーかーらー誰が化け物だ! 私は断じて化け物ではない!」

 

 「うそつきー! 生首でもないくせに一等身のチビモンスターめー!」

 

 「誰がチビだと小娘ェ!」

 

 「うるさい低身長! バーカバーカ!」

 

 「うるせぇ精神年齢小学生以下のチビが! バカアホおたんこなす!」

 

 

 戦場にて低レベルの喧嘩が勃発。ここに居るのはもはやフィロリアルの女王と銀河最強の戦士ではなく、天使みたいな小学生と武器を持った幼稚園児である。

 

 二人の、ビシッと指を指し合いながらの語彙力が壊滅した罵詈雑言のマシンガンは止まることを知らないんじゃないかと思うほどに弾が切れる様子はない。

 

 だが忘れるな。今のフィトリアはHP10しかない。

 

 

 「バカって言った方がバカだもゴフゥッ!?(-5ダメージ!)」

 

 「うわ!?」

 

 「そういやフィトリア死に掛けてたんだった……」

 

 

 子供の口喧嘩に残りの気力を使いきったフィトリアはその間に倒れこむ。

 

 アホか……と呆れられても仕方ないのだが、むしろ今回の場合は怒鳴られる方だろう。

 

 なぜなら、無駄な口喧嘩の間にも魔物達はこちらに近づいてきているのだから。

 

 あと三十秒後には接触する速さで突っ込んでくる魔物達に、絶望しかない。

 

 

 「ああ……終わった」

 

 

 目の前には精神年齢小学生以下のクソチビ災厄が居るのに、目の前に沢山の魔物が迫ってきているのに、自分はこうやってただ地面に倒れ伏している。

 

 自分のアホさ加減に呆れる気力も、もうなかった。

 

 しかし、そのときである。

 

 

 「どうしてそこでやめるんだ、そこで!! もう少し頑張ってみろよ!」

 

 

 災厄が、突然そうフィトリアに向けて怒鳴る。

 

 

 「諦めたらそこで終わりだろう! 周りのこと思えよ、応援してる人たちのこと思ってみろ! 諦めたらそこで終わりなんだぞ? ずっとやってみろよ! 必ず目標を達成できる! だからこそNever Give Up!!」

 

 

 (……はぁ?)

 

 

 応援してる奴なんでお前しか居ないだろ。

 

 言う人が言えば、フィトリアの心にもちゃんと響いたかもしれないが、生憎と言ってるのはコイツである。

 

 災厄はその謎の激励? を続ける。

 

 

 「もっと熱くなれよ、熱い血燃やしてけよ! 人間熱くなった時が本当の自分に出会えるんだ!!」

 

 (いやフィトリアは人じゃないし、鳥だし……ん?)

 

 

 激励を続ける災厄のランスの先に、赤い蝶が止まった。

 

 その途端、なんと災厄は霧散した!

 

 

 (えっ!?)

 

 

 緋色の燐光を撒き散らしながら、残った赤い蝶が宙に飛び上がる。

 

 そして、それは唐突に起こった。

 

 

 「だからこそ、もっと――」

 

 

 災厄の声が聞こえた、気がした。

 

 蝶が迫ってきていた魔物達に突撃すると共にカッ! と眩い光を放った。

 

 

 「熱くなれよおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 「お前ソレに繋げたかっただけなんかーーーい!」

 

 

 純白の翼を真紅の蝶の羽に変えた災厄の、ランスではなく剣が巨大化し、魔物達を一気になぎ払うのと同時、フィトリアの渾身のツッコミが炸裂した。

 

 緋色の軌跡を残しながら戦場を飛び回る災厄……否、黄泉返りし極蝶は魔物の頭を切り飛ばし、胴体を切り刻み、血雨の中を掻い潜りながら牛型の巨大魔物の心臓を一突き。

 

 ……その姿は、戦場を駆ける美しき蝶騎士と称するに相応しい。

 

 先程まで、ふざけていたあの姿とは似ても似つかない……いや、これこそが彼の本来の姿なのだろう。

 

 

 (おふざけとシリアスの温度差が激しすぎて風邪引きそう)

 

 

 いや風邪までは引かないだろう、と流石のフィトリアも考え直す。

 

 というか戦場を駆ける美しき蝶騎士という言葉は、今の極蝶のボイスを完全にシャットアウトされてたらの話だ。

 

 

 「ヒャハハハッ、たぁーのっしィッ!」

 

 

 狂ったような笑い声を上げながらぶった切り続ける極蝶は蝶騎士よりも狂戦士の方が似合っている。

 

 バイオレンス的風景としか今の惨状を説明できないくらいにヤバイことになっている。後の愛の狩人も軽いトラウマになるんじゃないかと思うくらいの事になっているとでも言えばいいだろうか。

 

 

 (ねえコイツが全部の災厄の波に立ち向かえばいいんじゃないの!?)

 

 

 まさにその通りである。

 

 で、そうこうしているうちに波のボスが登場。そして瞬殺。

 

 そして災厄の波は収まった。

 

 

 「大丈夫ですかフィトリアさまー」

 

 「ありがとう……」

 

 

 配下のフィロリアルがフィトリアを治療していると、熱くなれよぉぉぉ形態から戻った災厄が近づいてきた。

 

 波を代わりに収めてくれたことには感謝しているものの、その分強さが身にしみてよく分かったフィトリアは警戒するが、災厄はそれを意に介する様子はない。

 

 

 「……死んではいなかったようだな」

 

 「おかげさまで、一命を取り留められた……感謝はしている。けど、だからって歓迎するつもりはない」

 

 「だろうな。私は聞きたいことがあったから来たんだ」

 

 「聞きたいこと?」

 

 「単刀直入に言おう。どうやったらそなたのような人間になれる?」

 

 

 …………何を言っているのだろうか。こいつは。

 

 人になれる? 何故? 最も慣れた体型の方が戦いやすいはずじゃないのか?

 

 

 「なんで貴方は人になりたいの?」

 

 「人間の住む下界のスイーツ食べたいから」

 

 

 …………何を言っているのだろうか。こいつは。(2回目)

 

 

 「…………」

 

 「今まで私は宇宙のあらゆる星のスイーツを食べ歩いてきた。そして、この四霊星のスイーツはチキュウと呼ばれていた星で作られるスイーツと同じくらい絶品だとガイドブックで読んだ」

 

 「………………」

 

 「だがチキュウは、ここから何光年という圧倒的に遠いところに位置している。行くのには私でも結構時間が掛かる。でも私は早く美味しいスイーツが食べたい」

 

 「……………………」

 

 「だから、同じくらい美味しいのがあるっていう、ここで妥協した」

 

 

 言っている事は分かるが、言っていることが分からない。

 

 

 

 「あ、あなた……そんなことの為に?」

 

 「そんなこととはなんだ、そんなこととは。私にとっては大切な娯楽なんだぞ」

 

 

 震え声で言うフィトリアに災厄、いやギャラクティックナイトはムッとした様子で言い返す。

 

 娯楽でこいつはこんな所に来たという事実にフィトリアは絶句するしかなかった。

 

 

 (んな理由で世界滅ぼせる化け物きて堪るかぁっ!?)

 

 

 理由があんまりにも意外すぎる。んなファンシーな理由でなんでこんな最悪の存在が来るんだ。

 

 もう思いっきり突っ込みたい。けど、フィトリアはそれをこらえて、平静を保つ。

 

 

 「……お金は?」

 

 「結構あるけどやはりここでは通貨が違うだろう?」

 

 「うん、両替所はある。場所は?」

 

 「この星は小さい。だから、頑張れば10分で全体を回りきれるな」

 

 

 それほぼ瞬間移動だろ。

 

 勇者の転移スキルを力で叩き潰しているえげつなさに半分フィトリアは引いた。

 

 

 「言語は」

 

 「色んな星回ったから知ってるな。ホログラムスターと同じ言語が使われている」

 

 「ここに来たのはさっきで初めてじゃないってこと!?」

 

 「いや、初めてだ。上から見て確認した」

 

 「……いや、もういい。これ以上突っ込むのは面倒。ここの事についてはどれくらい知ってる?」

 

 「災厄の波というのを終わらせたらスイーツが美味しくなる」

 

 

 つまり全然知らないということだ。

 

 フィトリアは頭痛がしてくるのをこらえて、話を続ける。

 

 

 「そう……じゃあ、フィトリアの知る限りの事は教える。でも、災厄の波を収めるのに手伝って欲しい」

 

 「波? もしかしてさっきのか」

 

 「そう。詳しい事はこれから話すから……」

 

 

 これは結構骨が折れるぞ……と思いながらも、波を攻略する重要なキーとなりえるスイーツ好きの戦士を、フィトリアは全身全霊で説得するのに努めた。




実は漫画読んでなかったんですよね私……(毛糸時代~スタアラまでのゲームと角川の大体の小説のみ)

本来は身に覚えのある気配(デデデの存在の事)がしたから気になったという理由でしたが、感想でギャラクティックナイトがスイーツ好きだったと知ったので採用させていただきました。


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小鳥と悪

前回の椎茸とフィトリアたんのついでの話

フィトリア「そういえば、この世界を滅ぼしに来たって最初言ってたよね」
ギャラ「あれは単に格好つけ」
フィトリア「本気になった私がバカだった」


 「さて、お前の話とやらは何なんだ?」

 

 

 夜ご飯を食べた後、影が取ってくれていた宿のダブルベッドの一室に槌の勇者が入る時には、すぐに夜ご飯を平らげて、槌の勇者を置いてさっさと宿屋に戻っていたフレイアはベッドの端に腰掛けていた。

 

 こちらを猜疑するような瞳を向けてくる彼女を見た槌の勇者は、もう隠す意味もないと判断し、厚い面の皮を自ら剥ぐ。邪悪な本性を現すような表情へと一変させた。

 

 

 「……あなたなら、分かっているんじゃないですか?」

 

 「まあな。でも、たかが40程度のお前が、俺を殺せるとでも本当に思っているのか?」

 

 「私は鳥ですが、それくらいは理解できますよ。あなたにはタイマンでは勝てない」

 

 「お前、たった三日程度で結構俗な言葉使うようになったな」

 

 「話をすり替えないでもらえませんか。正面からのぶつかり合いでは勝てなくとも、弱点さえ叩けばいいだけでしょう。生物には一つ以上は弱点があるというのは不変の理です」

 

 「お前どっからそういう知識覚えたんだよ」

 

 「答える必要はありません。ここで私があなたを殺すんですからッ!」

 

 

 フレイアの華奢な手に魔力の爪が生成された。真紅の翼をはためかせて、飛び掛る。

 

 槌の勇者――否、ダークマターは余裕の笑みを崩さずにシールドを展開し、フレイアの引っ掻きを遮った。

 

 

 「この程度の壁すら壊せないんじゃ、俺の首を取る事はもっと出来ないな」

 

 「あなたの弱点ならもう知っていますよ。ファスト・ライト!」

 

 「な、うぐああぁああぁっ!?」

 

 

 ダークマターの目の前で炸裂した閃光は、一時的に目をくらませるには十分だった。フレイアはダークマターに飛行して近づく。触れたせいで位置を察知させない為だ。

 

 

 (首を取る、と言いましたね。なら今のうちに首を取ります!)

 

 

 首を取るということは、頭部と胴体をつなげている首を切断する必要がある。

 

 正直に言えば首を簡単に刈り取れる道具でもあればいいなぁと思うけど、そんなことより今のうちにとどめを刺さないと。

 

 しっかりを狙いを定め、爪を一閃する。

 

 

 「させ、るかァッ!」

 

 

 紙一重でシールドに斬撃を防がれたフレイアは後ろに飛び、舌打ちする。

 

 

 「耐性をつけていたんですか……厄介ですね。これは搦め手でも難しそうです」

 

 「お前マジで俺の首取る気みたいだが、この体が誰のものか、分かってるはずだろ?」

 

 「デデデさんのものでしたね。だから私はデデデさんを出来るだけ傷つけずにあなたを殺すんです」

 

 「だから何で殺す前提なんだよ」

 

 「だって、もうデデデさんは……」

 

 

 決意を抱いたような顔から一変。腕を下ろして悲しげな顔になったフレイアをみたダークマターは察した。

 

 

 (この子、勘違いしてたのか)

 

 「別にデデデ自体は死んでないぞ。俺が乗っ取ってるだけ。中身を殺して成り代わったとかお前思ってたな?」

 

 「へっ? そうなんですか?」

 

 「そーだよ。というか、お前主人を殺した後どうするつもりだよ、お前生まれて間もないんだぞ?」

 

 「デデデさんを殺したあなたを殺して私も死にます」

 

 「愛が重い」

 

 

 予想以上に覚悟と愛が重い。大切な人のためなら自分も命を捨てるとか……

 

 

 (いや、違う。まだこの子にはそうした選択しか思い浮かばなかったのか)

 

 

 ちゃんと後の事を考えられる程度には頭が回る。多分、一人が嫌とでも思ったのだろう。実際死というものは後に何もないから楽とは言える。でも、その楽ではなく、まだ肉体に追いついていない幼い精神がその選択をさせたのだろう。

 

 

 (どうしよう……万が一この体が死んでも1UPあるから問題ないけど、この子の場合復活までの時間の間に自殺しかねないんだよな……かといって復活するっていったらこれが無限ループになる……)

 

 

 ちなみにダークマターには未だにデデデに体を返すつもりは全くない。まだまだこの体に好き勝手するつもりだ。なのでその選択肢はないにも等しい……だが、実のところ、デデデの意思を完全に飲み込むことは出来ていない。でもかなり朦朧としているレベルなので、あまり派手なことをしない限りは大人しかったのだが、大事なフレイアを殺すようなシーンを認識してしまった場合、デデデの気が狂わんばかりの怒りでこっちの意識が間違いなく飛ぶ。

 

 そしてもしもそのようなことが起こった場合、ダークマターはどうなるかというと。

 

 

 (間違いなくぶっ殺される!!)

 

 

 いやデデデはダークマターが未だに中に居る事を知らなかったし、どこにいるかも多分これからも分からないだろうが、でも多分そう早くないうちに見つかって殺られる気がビンビンするので、ダークマターは怖かった。

 

 まだ目と体とは仲良くしてもらいたいダークマター。フレイアを宥めた上で、このままデデデの中に居続ける方法はないかと心中で模索していた。

 

 

 「どうとでも言っていいです。あなたは私に死んで欲しくないのでしょう?」

 

 「……まさか」

 

 「あなたならあそこでカウンターだって出せたでしょうに」

 

 「手加減してるだけだっての。フレイア、あんま俺を舐めてると、痛い目に合うぞ?」

 

 「さて、それはどうでしょうか……?」

 

 

 不適に笑ったその時、フレイアは信じられない行動に出た。翼を大きくはためかせ、勢い良く後ろに飛んだのだ。その後ろには木の枠が嵌められた窓がある。

 

 フレイアはあろうことか、わざと背中から窓に激突したのだ。もちろんガラスは派手な音を立てて砕け、フレイアはひしゃげながらも何とか外れなかった木の枠によって外に投げ出されることはなかった。

 

 一体、どういうつもりだ……と困惑するダークマターをよそに、フレイアは痛みで顔をゆがめながらも、自身の爪で体のいたるところに急いで傷を付け始めた。時々深く切って、血のあとがはっきりと服に出来てしまう。

 

 今のフレイアの姿を何も知らない奴等が見れば、ダークマターがフレイアを酷く傷つけたように見えるだろうと思考が思い至った時に、やっとフレイアの狙いに気づいた。

 

 

 (あいつ、まさか人を呼ぶつもりか!?)

 

 

 ここまで派手だと、注意のために宿屋の主人が来るだろう。この娘、どうやら周りに助けを求めて、追い出す方法を見つけるつもりか。

 

 

 (くそ、一度意識を刈り取るか)

 

 

 バッとダークマターはフレイアに向けて手を突き出す。しかし、闇の力が放たれるよりも先にフレイアは出口のドアにむけて飛んでいた。

 

 

 「すぱいらるっ、くろー!」

 

 「っ!? 待て貴様ぁ!」

 

 

 ドリルのように体を回転させながら宙を飛んでダークマターの横をすり抜け、爪でドアを吹き飛ばす。そのまま床に倒れるが、そのまま頭を上げて……

 

 

 「誰か、助けて! 殺される!」

 

 

 王手を宣言する言葉を、フレイアは叫んだ。




 フレイアには乗っ取られたデデデさんの取り返し方はまだ分かりません。
 でも今日、周りの人は色んなことを知っていることをフレイアは学べました。
 なら、こうやって周りの助けを仰いで、デデデさんを乗っ取っている悪いものを、追い出す方法を見つける。これがフレイアの答えです。


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冤罪にかけられた二人目の勇者(自業自得)

大王様がんばれー


 「そうです……変なもやに包まれたと思ったら、突然襲い掛かってきて……」

 

 「そうかいお嬢ちゃん。もう大丈夫だからね」

 

 「はい……」

 

 

 フレイアの助けを求める叫びによって一時的に混乱に陥った宿内。だが、夜明けにはそれもやっと収まり、一階にて宿屋のほとんどの利用者と主人と従業員が集まっていた。

 

 ガタイのいい冒険者の後ろに隠れて、泣いてはいないが怯えた様子のフレイアと、他の人々の敵意のこもった眼差しの先には、特殊な魔法付与をされた枷を付けられ拘束されたダークマターが居た。

 

 

 「この赤い悪魔が……」

 

 「黒い悪魔のあなたには言われたくありませんがね」

 

 

 邪悪な本性を隠そうともしなくなっているダークマター。もう依り代としている体も不味いことになっている。すでに瞳はどす黒く濁っていて元のマントは赤かった布地は暗い紫色になり、青かった髪と盗賊の服はすでに黒一色に染まっている。おまけに肌も黒ずみ始めていて、闇にかなり侵されていることがよく分かる。

 

 このままだと不味いことは明白だ。それは冒険者達や主人や従業員、そしてフレイア自身も分かっている。そしてフレイア以外の者達はこの状況を打開する方法を知っていた。

 

 「悪いけど、従業員いるとはいえ俺は宿あける訳にはいかないからさ、お金負担するから行ってくれるかい?」

 

 「ああ、まかせろ。まずはこいつを気絶させないとな。ああ、そこのおっさん。念のためにそいつ捕まえといてくれ」

 

 巨漢の男二人に強引に立たされ、二人がかりでの羽交い絞め。普通の人なら、こうされればそう簡単には振り切れないだろう。それこそ、勇者でなければ振り切れない。

 

 しかし、今のダークマターの体は勇者の体なのだ。そして、その体は大王に相応しき力と頑強さを持っている。

 

 コキコキと手を鳴らしている鳶色の髪の冒険者はダークマターのその様子を見て、怪訝に感じた。

 

 

 「なんで笑ってる?」

 

 「この枷で弱体化してても、貴様に俺を気絶させることなど不可能だからだよ」

 

 

 冒険者は眉をひそめる。自分と良く似た見た目である、目の前の男にどうしてそのような確信があるのか見当もつかなかったが、その理由はフレイアが苦々しい顔で話した。

 

 

 「……その人は、勇者なんですよ。だから、そう簡単にはやられないと思います」

 

 「勇者だと!? 確かになんか禍々しいハンマー持ってるなとは思ってたが……」

 

 「そういうことだ」

 

 

 ダークマターは余裕の笑みを浮かべていた。この人間どもに、俺を倒すことなぞ出来ないと、確信していた。

 

 しかし、その余裕は簡単に崩される。

 

 

 (――いい加減に、しろ)

 

 「っ!?」

 

 

 かすかに残っていたデデデの意思が、そこで牙を剥いたのだ。

 

 不意を突かれたダークマターの闇の力と、勇者たるデデデの意思の力が中でぶつかり、相殺させることで、一時的にデデデの精神的な頑強さが失われる。

 

 肉体の頑強さが残っているが、それだけなら冒険者の攻撃力でぎりぎり貫けるだろう。しかもついでにダークマターの意思が薄れ、デデデの自我が戻った。かすかなその自我が消えないうちに、光の戻った瞳にはっきりとした意思を宿らせて、デデデが伝える。

 

 

 「……い、まだ」

 

 「ッデデデさん!!」

 

 「嬢ちゃんちょっと離れてろ! いくぞ、オラァッ!」

 

 

 デデデの自我が戻ったことにいち早く気づいたフレイアが叫ぶのと同時、冒険者の全力のアッパーカットがデデデのみぞおちに綺麗に入った。固定されていたので吹き飛ぶことはなかったが、がくりとデデデの体から力が抜ける。ちゃんと気絶したようだ。

 

 フレイアの顔には、さっきの敵意の表情は消え、泣きそうな、嬉しそうな顔になっていた。

 

 

 「デデデさん……まだ生きてた」

 

 「そりゃ良かったなー嬢ちゃん……にしても、結構痛いな」

 

 「はい……」

 

 「よし、次に会うときまでには悪いやつを絶対に追い出そうな」

 

 「っはい! 本当にありがとうございまッタ!?」

 

 「お礼言うのは解決してからだぞ!」

 

 

 豪快にも背中を叩かれた。ハハハ、と笑う彼を見て、どうしてか張り詰めていた何かが解れる感じがした。

 

 

 「鎌のお兄さん、近くの教会ならもしかしたら勇者様の様子がおかしくなった原因が分かるかもしれませんので、行ってみたらどうですか?」

 

 「確かに教会なら何か分からなくもないかもな。よし、まずはそこに行くぞ」

 

 「分かりました!」

 

 「おっと、嬢ちゃんはここで待っとけ」

 

 「え? 何でですか?」

 

 「今の服装だって。そんな服で外歩いてたら危ないからな」

 

 「服なら、洋裁屋さんで作ってもらってます! 今日にはもう完成させると言ってました!」

 

 「じゃ、その服を着てからのほうがいいだろうな」

 

 

 そういえば服を着たまま自傷行為をしたせいで服も主に袖のところがびりびりに裂かれていた。胴体も小さいが裂いた後がなくはないので着替えた方がいいだろう。

 

 

 「じゃあフレイアちゃんには私が同行しておくから、先に行ってて。後で合流しましょう」

 

 「おー、頼むぜ」

 

 

 鎌の冒険者と顔見知りらしい、水色の髪の女冒険者がフレイアに同行し、服を洋裁屋から貰ってから教会で合流することになった。




次回、ダークマター戦! 三勇者も参戦!


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巨悪との戦い

異世界勇者様方も参戦。今回の主人公の存在の為に必要かな……と。三勇者は論外。


 「ああフレイアちゃん! 今丁度服が完成した所よ、ってその服どうしたの!?」

 

 「ありがとうございます、今デデデさんが不味いので急いでるので、いくらですか!?」

 

 「あー、何かあったみたいね。銀貨四十枚でいいわ」

 

 「ありがとうございます!」

 

 

 目に隈ができていた洋裁屋は、一晩で作り上げた服の解説をしようとしていたが、フレイアの様子でただならぬ状態だと察知した為に余計なことは言わなかった。

 

 代金を払うとフレイアはその場でボロボロの服を脱いで赤の大きなリボンのついたワンピースをかぽっと着る。それとついでに作ったという靴と長手袋を身につけた。

 

 

 「その服、一応仕立て直しててもいいわよ」

 

 「是非お願いします! それでは」

 

 

 フレイアはボロボロのワンピースを預けるとすぐに店を飛び出した。そこには一緒に来てくれていた水色の髪の女冒険者が居る。

 

 

 「テリスさん、私に乗って下さい。道を教えてくれたらそこまで飛べます!」

 

 「分かったわ」

 

 

 女冒険者改め、すでにフレイアには自己紹介していたテリスが、フィロリアルクイーン形態になったフレイアに飛び乗る。フレイアの真紅の翼がはばたいて、不安を感じさせるような曇天の空へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 ☆宝石人、鳥娘移動中……★

 

 

 

 

 

  フレイアはテリスの指示に従って向かった先にあったのは、おおきな白い建物だった。上にはおそらくシンボルなのだろう、弓と剣と槍を組み合わせたなんとなく十字架っぽいものがあった。

 

 フレイアは着陸してテリスをおろしてから人の姿になると、小首をかしげてテリスにたずねる。

 

 

 「この建物、一体なんですか?」

 

 「教会よ。悪いものを祓うのなら、こういう神聖なところがうってつけなんだからね」

 

 「へえ……私もまだまだ知らないものが多いですね」

 

 「これから知っていけばいいのよ」

 

 ちなみに、テリスのフレイアに対する認識は『世間知らずの箱入り娘』という感じだ。というかフレイアを見た人たちのほとんどがそう思っている。フレイアの雰囲気がまさにそんな感じだからだ。

 

 教会の扉の前に待っていた冒険者らしき者がフレイアとテリスを見つけると、声を張り上げる。

 

 

 「皆さんが向かったのはここですよー!」

 

 「あら、やっぱりね」

 

 「え、もしかして何も行く場所について教えられてなかったんですか?」

 

 「そうね。でも大体行く場所といったらここしか思い浮かばないし」

 

 

 推測だけに頼っていたことにフレイアは愕然としたと同時に、尊敬の念を抱いた。

 

 

 (推測だけで場所を当てるなんて凄いです……)

 

 

 協会の存在を知っているものであったら当たり前だろというが、フレイアにとっては凄いことだと思えた。

 

 兵士が扉を開けたので、待たせるわけにはいかないと、フレイアとテリスは開かれた教会の扉を潜り抜けた。

 

 教会の最奥部に続く広い通路にはレッドカーペットが敷かれている。その途中にたくさんの冒険者達の背中があった。大きな背中たちにふさがれ先の様子は見えない。

 

 フレイアは飛べばいいかと思ったが、それよりも先にテリスがソプラノの声を冒険者達の小さな話し声の聞こえる教会堂に響き渡らせた。

 

 

 「ラルク! 来たわよ」

 

 「お、やっと来たかー」

 

 

 デデデを気絶させていた鳶色の鎌の冒険者はラルクというらしい。呑気そうなセリフと比べて声色はどこかこわばっている気がする彼はどうやら先頭に居たようで、空気を読んだ冒険者達がフレイアの為に左右に分かれて奥へ続く道を開けてくれ先に、その先には鎌を持った状態でこちらを見ていた彼がいた。

 

 フレイアと共にその道を歩いていくテリスの顔は進むにつれて引きつっていく。

 

 

 「……ラルク。これって一体?」

 

 「取り憑いたのを追い出す儀式らしい」

 

 

 テリスの言う『これ』とは、ラルクの背後で行われている異様過ぎる儀式の事を指していた。

 

 今のラルクは気分がとても悪そうだった。それも、仕方がないことだろう。

 

 目の前で自分と良く似た人間が大勢の信者たちによって大きな水槽に沈められているのだから。

 

 

 「万が一水槽が壊れた場合の為に臨戦状態で居てほしいって言われたんだ……でも、本当にこれで追い出せるのか?」

 

 「私に聞かれても困るわよ。でも、これで助けるべき槌の勇者も最終的に溺死する結果で終わったら私達は呪われただけの罪のない勇者の処刑風景を見ていたことになるわ。事故っていってもこんなんじゃ故意的にしか見えないんだから」

 

 

 実はテリスとラルクにはデデデに憑いているダークマターの存在が見えていた。黒く、時々赤い目がふっと現れるもや。名前こそ知らないが、何かに取り憑かれていることは分かっている。

 

 あの水槽の中にある水は最高品質の聖水らしい。確かにそのもやはデデデから離れてはいっているが……もう瞳はかなり虚ろになっている。早く引きずり出さないと不味いだろう。

 

黒いもやだけではなく、半開きの口から暗い紫色の液体も流れてきて、冒険者達がどよめいた。あの液体自体は見えているようだ。これであの体にはやはり何か異常が起こっていたと確実に分かってくれるだろう。

 

 

 (『証人』は沢山いる。国でも呪いに侵された勇者の呪いの浄化をすると先に明言していた以上、する前に勇者自体が死んだら流石に問題になるはず。浄化するなど言っていないとシラを切ってもここまで沢山の証人が居るならそれも無駄になる)

 

 

 流石にそれくらいの事はあっちも分かるはず。だが、あんな状態でも全く心配する素振りを見せずむしろ邪悪にも見える笑みを露骨に浮かべているのはどうしてなのだろうか、いや分からないわけがない。

 

 呪いを解くなどといいながら、実は殺すつもりじゃないのかと。詳しいことを話されていないのもあり、ラルクとテリスを含めた冒険者達にはそんな疑心と不安だけが募るばかり。しかし、フレイアだけは違った。

 

 

 (悪い奴は、今のデデデさんを押さえてる人たちにほんの少しだけ干渉してるんですか)

 

 

 あの笑顔には『邪悪さ』がある。この世界の住人ではないが故にダークマターを見れるラルクとテリスをもの目を欺いたダークマターの策略をフレイアは見抜いていた。

 

 本当にたちの悪い奴である。人の良心に訴えかけるような表情をわざと作り出して、それで見ていられなくなった冒険者達に助けてもらう魂胆なのだ。フレイアは顔をしかめる。

 

 

 (皆さん、汗が出てる。きっと、支配されないように必死に戦っているんですね。だから何も言えないんでしょう)

 

 

 彼らは話さず、動かない。話せず、動けないのだ。ダークマターによる支配から必死にココロを守ろうとしているのだ。フレイアは拳を握り締める。

 

 

 (あの人たちはデデデさんを救おうと頑張ってるんです。デデデさんを最も救いたいと思っている私がここで動かず、どこで動くんですか)

 

 

 自分の願いでこんなに頑張ってくれている人が居るのに、自分自身が動かないというのはおかしい。自分のやるべきことを、今ここでやらずにどこでやる? フレイアは翼をはばたかせ、水槽の前に立つほかの信徒とは服装が違う、錫杖を持った男へむけて滑空する。

 

 

 「大丈夫ですか?」

 

 「……にげ、なさい。あなたも、あやつられて」

 

 「私のするべきことを、教えて下さい。私は光魔法が使えます!」

 

 

 錫杖を支えにして立っていた男は、冷や汗を垂らしながらフレイアに息も絶え絶えに警告する。だがその警告には意味がない。フレイアはたとえどんなに止められようとも行動をやめるつもりなどないのだから。

 

 揺るがぬ決意を宿らせた真紅の瞳に見据えられた男は、歯を食いしばって、そしてポツリと言った。

 

 

 「つかえる……ならば」

 

 「行きます! ファスト・ライト!」

 

 

 フレイアがすでに詠唱していた魔法を唱えると、水槽の壁に手をついたダークマターの目の前で、閃光が炸裂した。

 

 

 『――――――!』

 

 

 水槽内で目を押さえてダークマターは絶叫する。ぼこぼこと肺に残り続けていた空気が吐き出されていく。ダークマターが怯んだことにより、信者達に掛けられていた支配が解ける。その機を逃さず、男が叫んだ。

 

 

 「フレイアさん、あの男を止めていてください。その間に私たちが儀式魔法を詠唱しますので!」

 

 「分かりました!」

 

 

 フレイアがフィロリアル・クイーン形態に変身して水槽の中に飛び込む。大きな水飛沫が上がり、初めての水中で重い体を動かして、普通のフィロリアルよりも長い翼でダークマターを捕まえる。

 

 暴れるダークマターのパワーはとてつもなく強かった。でも、フレイアは元の力だけではなく、デデデを助けたいという願いで、必死に抱きしめて逃がさないようにする。

 

 あの桃色の星の戦士ほどの無限のチカラを出せなくとも、それでもその思いはダークマターの力をも上回るチカラをフレイアに与えた。

 

 ……フレイアはただのフィロリアル・クイーンではない。とてもお人好しで洞察力があって食い意地の張っていて、よく滅亡の危機に晒される星で桃球とよく喧嘩をし、時には共闘し、何度も宇宙や色んな星の危機を救ってきた自称大王に手ずから育て上げられた、古代のフィロリアル。普通の奴とは違うスペックを持っているのは当たり前なのだ。

 

 フレイアは大王譲りの洞察力で状況を見抜き、そして大王譲りの怪力で抑え込めていた。

 

 

 「フレイアァァァ……ッ!!」

 

 「私の全てをかけた、私自身の戦いなんです。絶対に負けてたまるものですか……!」

 

 

 呪詛の如きダークマターの己の名を呼ぶ声に怯むことなく、フレイアは動きを止めるのに全神経を注ぎ続ける。

 

 凛とした錫杖の男の声が、響く。

 

 

 「皆さんの魔力で、これから儀式魔法を使います! さあ、共に祈りましょう!」

 

 『『『力の根源たる我らが祈る! 森羅万象を今一度読み解き、悪しき存在を彼の者から追い出す、聖なる星の光を!』』』

 

 

 信者達が両手をかざし、錫杖に光が集まる。光はプリズムに通したかのように虹色に輝く。

 

 ダークマターが驚愕したような声を上げた。

 

 

 「あれは……まさか!」

 

 「「「トリプルデラックス・ビックバンスター!」」」

 

 

 フレイアは閃光を覚悟し、目をぎゅっと瞑る。

 

 暗闇に閉ざされたはずのフレイアの瞼の裏は白に染められていた。そして、直後、耳が痛くなるようなハスキー音の絶叫が聖堂内に響き渡った。

 

 奇跡の光のチカラは、ダークマターを確かに、デデデから追い出した。

 

 白が黒に染まり切ったのを見計らい、フレイアはデデデを抱えて水槽から飛び出し、地面に着地するとブルブルと水に濡れた後の犬のように体についた水を振り払った。

 

 

 「デデデさん、大丈夫ですかー?」

 

 「……」

 

 「もう大丈夫ですよ。ゆっくり休んでてくださいね。まだフレイアはやることがありますから」

 

 

 デデデは安心したような寝顔をしていた。フレイアはほっと息をつくと、『それ』に向き直った。

 

 

 「ヨクモォ……ヨクモ、ヤッテクレタナアアァァァァァァッッ!!!」

 

 「こいつが槌の勇者についていた化け物か……!」

 

 

 オレンジ色の花弁のようなものを付けた、単眼のついた黒い球体。目を血走らせて本来の姿をさらしたダークマターは怒り狂っていた。

 

 

 「皆さん、この化け物は魔物ではありません。これは意思を持った悪意、ダークマター! 昔この世界を混乱に陥れた存在で、一筋縄では倒せません! しかし、ここで倒さねばメルロマルクは間違いなく滅びます! 一瞬の油断が本当に命取りになります、十分に注意しながら戦ってください!」

 

 「おいこいつ本当に倒せるのかよ!? 何かヤバそうに感じるんだが!?」

 

 「死ぬ気でやらねばなりません! ここに英雄がいなくとも、皆さんの力を合わせて戦えば、必ず活路は見えてくるはずです!」

 

 

 ラルクが顔を青くしながら叫ぶが、それも仕方ないだろう。ダークマターの姿は、見るものに恐怖を与えるのだ。

 

 一国の王であり、鎌の勇者だとしても、まだラルクは若い。圧倒的に強い存在と対峙した経験というものがほとんどない。ましてや相手は宇宙で度々暴れまくって大混乱を引き起こしてきた悪意そのもの、暗黒物質だ。魔物とは格が違いすぎる。

 

 というかあれに臆することなく普通に突っ込んでいくデデデ含めたポップスターの住人がおかしいだけであって、ラルクの反応こそが当たり前なのだ。

 

 

 「ラルク、もうここまで来たら引き返せないわよ! やるしかないわ!」

 

 「だがここで死んだら、目的が……ッいや、テリスの言うとおりだ。世界を守るのは役目だし、どっちにしろ多分必ず戦う相手になるかもしれない。背を向けるわけにはいけないよな」

 

 「鎌の兄ちゃんの言うとおりだな! まあ、この国にゃあ、俺の家族がいるんだ。なら、冒険者としてこの国を守らにゃいかん!」

 

 「そうだそうだ! 皆、死ぬ気でやるぞ!」

 

 『『『おう!』』』

 

 

 全員が武器を構えた、その時だ。

 

 

 「エアストジャベリン!」

 

 「ヌッ!?」

 

 

 若い男の声が冒険者の後ろから聞こえ、緑の光をまとった槍がダークマターの目めがけて飛んだ。ダークマターが不意を突かれたものの、難なくよける。

 

 皆が振り返ると、三人の男が入口に立っていた。

 

 

 「え、誰……」

 

 「待て、まさかあれって四聖勇者じゃねえの!?」

 

 「何!? あれがか!?」

 

 「間違いねえ、あれは槍の勇者と剣の勇者と弓の勇者だ!」

 

 

 金髪赤目の軽薄そうな男に、黒髪青目の無表情の青年に、はねっ毛のある髪の薄緑目の青年。さっきなげられた槍は金髪の男がもう持っていたことからして、投げたのは彼なのだろう。

 

 フレイアは知らない単語を聞き、近くに居たシスターを翼でてしてしっと軽く叩く。

 

 

 「四聖勇者ってなんです?」

 

 「知らないのですか? 剣の勇者様、槍の勇者様、弓の勇者様、そして盾の勇者のことをまとめてそう言うのですよ。人々を守り、世界を救う英雄。それが勇者様なのですよ」

 

 「そうなんですか」

 

 

(盾の勇者のところでなんで様付けしなかったんでしょうか? いや、それよりも)

 

 

 「あの、じゃあデデデさんのような槌の勇者ってどうなるんです?」

 

 「槌の勇者様は七星勇者の一人ですよ。四聖勇者様のような気高い志をもった者が選ばれるのです」

 

 「じゃあデデデさんはやっぱりすごいんですね!」

 

 「そうですね」

 

 

 フレイアはそう聞いたとき、あることを思った。

 

 

 (フレイアも勇者に選ばれてたなら、もっとすぐにデデデさんを助け出せたんでしょうか?)

 

 

 フレイアの考えは少しだけ間違っている。たとえ勇者であろうと、無知ならば何も変わらない。

 

 でもフレイアならそのうちその間違えにも気づくだろう。どこぞの勇者とは違い、フレイアは自分で考えて、そして行動できるのだから。

 

 カチャカチャと鎧が擦れる音が聞こえる。三人の勇者が近づいてきていた。

 

 

 「先ほど、教会を通ろうとしたら、そこから強い光が出てきたんです。なので何があったかと思ったら……」

 

 「こんなところで中ボスが出てくるなんてな」

 

 「ま、この時期なら倒せなくはないだろ。波の前のウォーミングアップとしてさっさと倒そうぜ」

 

 「言っておきますが、協力する気はないですよ」

 

 「俺もだからな」

 

 「はっ、そうだな。俺もお前らと協力するつもりはねぇよ。あれは俺が倒す」

 

 「何言ってるんです? 倒すのは僕で十分ですよ」

 

 「お前らは引っ込んでろ、倒すのは俺だ」

 

 

 律儀にもちゃんと待ってくれていたダークマターの顔に青筋が立った。三人の足元めがけてダークレーザーが放たれる。三人はバックステップでよける。一人で倒せるなんてほざける程度には強いようだ。

 

 

 「会話してる時に邪魔すんじゃねえよ」

 

 「お前らバカなのか!? 今回のボスが特別に手加減してやった俺じゃなかったらお前ら死んでたぞ!?」

 

 

 悪意の塊のくせにゲームのボスのごとく出番が来るまで律儀に待ち、そしてど正論かますのは色々とおかしい気もするが、まあ仕方ないだろう。ダークマターの言ったことはまさにその場にいる皆の内心の代弁なのだから。

 

 

 「なあ、あれホントに四聖勇者なんだよな……?」

 

 「一応本物じゃないかしら」

 

 

 ラルクとテリスが呆れた声を出す。フレイアを除いた者たちも内心溜息をついていた。

 

 一方フレイアは、じりじりとダークマターの背後に近づいていた。翼を前で交差させると、ふっとその場から掻き消えた!

 

 

 「はいくいっくーです!」

 

 「フンッ!」

 

 

 一瞬で放たれる八つの蹴りを、ダークマターは肉眼でも捉えられない速さの動きで回避すると、フレイアの背後に瞬間移動した。

 

 

 「えっ!?」

 

 「そこじゃあ!」

 

 

 ダークマターが矢の如き速さでフレイアに体当たりすると、フレイアは悲鳴を上げながら蹴られたボールのように勢い良く吹っ飛んだ。

 

 「ぎゃうっ!?」

 

 「所詮は図体がでかいだけの小鳥か。俺の敵にはなりえない」

 

 

 絨毯の上をごろごろ転がり、止まったフレイアの口から一筋の真紅の線が垂れているのを見て、ダークマターがほくそ笑む。それを隙と思った槍の勇者が突撃した。

 

 

 「これ以上好き勝手させるか!」

 

 「邪魔だ槍ッ!」

 

 「ガッ!?」

 

 

 嘲笑うダークマターに向けて槍の勇者がスキルを放つ。が、ダークマターは闇のシールドを展開しスキルを防ぎ、逆に花弁のようなオレンジの弾を銃弾の如き速さで槍の勇者に叩き込む。槍の勇者はそのまま吹き飛び、聖堂の年季の入った壁に放射線状のヒビを入れながら激突した。

 

 床へと倒れこんでしまった槍の勇者はまだ意識があるようだが、上手く立てないらしい。これでは戦線復帰は望めないだろう。

 

 

 「一人で倒せるとか言いながら、このザマか。元康、お前は今まで何をやってきたんだ?」

 

 「口だけは達者ですね。道化にしか見えませんよ、元康さん」

 

 

 くたばった槍の勇者に呆れた様子の剣の勇者と弓の勇者。

 

 口だけは達者とかお前らが言うなしブーメランだろ、とダークマターがオレンジの弾幕を二人にぶっ放したのは仕方ないのではないだろうか。結局全部被弾した勇者はあっけなく気絶したのだから。

 

 

 「ワドよりザコとかガチのモブやん」

 

 「弱すぎることには全く同意だがいい加減止まれ! 飛天大車輪!」

 

 「というかお前もモブだからな? ミラーズフォール」

 

 

 エネルギー化した鎌が飛ばされるが、ダークマターの作り出した銀色の燐光が混じった闇の障壁に当たると、何と跳ね返った!

 

 その上飛ばした時の大きさの何倍もの大きさにするというオプションをまでついた死神の大鎌がラルクベルクに襲い掛かる。避けるには大きすぎる為、これは武器で受け止めるしかないか、と思ったその時だ。

 

 

 「あぐっ!」

 

 「な、嬢ちゃん!?」

 

 

 ラルクベルクをかばったフレイアの背中に大鎌の大きな切り傷が刻み付けられ、そこから尋常じゃない量の血が噴出した。

 

 ラルクベルクが思わず声を荒げる。

 

 

 「なんで俺をかばった!?」

 

 「私よりも、ラルクベルクさんのほうが、強いから……図体が大きいだけの、私が出来るのは、こうして避けられない攻撃を……盾として、受け止めること」

 

 「ふざけるな! そんなことしたら嬢ちゃんが死ぬだろう!」

 

 「……デデデさんには、悪いですが……それがどうしたんです? あの男の人は、言っていたでしょう、」

 

 

 『死ぬ気でやらないといけない』って。

 

 言い放たれた言葉に、ラルクベルクは戦慄した。

 

 

 (嬢ちゃん……本気で死ぬ覚悟をしてるのか)

 

 

 最初は大事な人を助けたいと思う、変わった魔物の女の子だと思っていた。だが、それは違った。

 

 その為ならば、平気で命を投げ出せる。そんな、危なっかしく、だが世界のために命を散らす覚悟のある……それこそ世界を救う勇者のような、そんな奴だったのだ。

 

 途切れ途切れにも、フレイアは続ける。 

 

 

 「無駄死には、御免ですよ。これは私自身が、望んだことなんです。本来なら、これは、私だけでケリを、つけねば、ならないことです。なのに、皆さんを巻き込んでしまった……だから、せめて私の出来ることを、するんです。皆さんを守る、盾として」

 

 「嬢ちゃんが死んだら本末転倒だろ! 俺達が手を貸したのは嬢ちゃんの力になるためであって、嬢ちゃんに守られるために来たんじゃない! そもそも俺達は巻き込まれたことを迷惑には思っちゃいねえ!」

 

 「え……?」

 

 「頼られて、力になりたいとは思っても、迷惑だとは少なくとも俺を含めた皆は思ってねえよ。思ってたら最初からここには居ない」

 

 

 ラルクベルクは続ける。

 

 

 「巻き込んだのを悪く思うな。むしろこれは頼らないといけないことだ。こんな化け物を一人でどうにかしようとするのがおかしい」

 

 「でも……」

 

 「でもじゃねえ。ああやって嬢ちゃんが俺達に助けを求めたのは、間違いじゃないって事は分かってくれ。そして、俺達が今ここに居るのは、嬢ちゃんとこの国を救うためなんだよ! だから……死ぬな」

 

 

 フレイアはラルクベルクの言葉に、呆然として……そして、人の姿になる。

 

 

 「……ありがとう、ございます」

 

 「まあ、責任を持つのは悪いことではないけどな、それでも俺達は嫌々やってるんじゃないっていうのは分かっておいてくれ」

 

 「はい……分かりました」

 

 

 駆け寄ってきた使徒がフレイアに回復魔法を掛ける。フレイアの深い切り傷が治されていった。

 

 フレイアは使徒にお礼を言うと、ゆっくりを後ろの、ダークマターの方に向き直る。

 

 

 「本物の勇者がここに居るじゃん……王道じゃん……さっきの三馬鹿勇者とは大違いじゃん……」

 

 「何眩しいものでも見るかのように目を眇めてるんです?」

 

 「眩しいに決まってんだろうがぁ……というかここからが本当の戦いだ、みたいな空気じゃんかぁ……熱い展開になりそうじゃんかぁ……」

 

 「そうですね。ラルクベルクさんに死ぬなと言われてしまいましたが、なら私は、命を無闇に捨てないように戦うだけですよ。見ているだけの守られるだけの人では居たくないので」

 

 「そうかい……」

 

 

 カッ、と最早白い所が真っ赤になった目が大きく開かれる。

 

 

 「この主人公系キャラどもめ! ここの空気読まなきゃいけんのなら俺負けないといけなくなるじゃんか!」

 

 「だったら空気読んで負けてくれませんか?」

 

 「だが断る!」

 

 

 ダークマターの周りに沢山の闇のエネルギーの塊が現れる。

 

 きっとダークマターに口があれば三日月形を描いていたことだろう。その代わり、目がいやらしく細められる。

 

 

 「処刑確定フラグ折ったるわぁ!」

 

 「フラグ回収乙ーにしてやります!」

 

 

 デデデよ、なんて言葉をフレイアに吹き込んだのだ。

 

 極太のダークレーザーが無数に放たれるが、フレイアは高速で飛翔し、ダークレーザーの合間合間を縫うように飛んでいく。

 

 ダークマターに大分近づいたところで、フレイアは両手を突き出す。生えていた魔力の爪が、一層鋭くなる。ダークレーザーが収まった所を見計らい、ラルクベルク達が援護する。

 

 

 「私達も黙っては見ていないわよ! 輝石・紅玉炎!」

 

 「飛天大車輪! 合成スキル、紅玉大車輪!」

 

 「俺達もやるぞ! ドライファ・ファイア!」

 

 

 炎属性の魔法が、技が合体すると、巨大な炎の龍へと姿を変えた。

 

 フレイアは、頭の中に浮かんだ詠唱を叫ぶように読み上げる。

 

 

  『力の根源足るフレイアが命ずる。森羅万象を今一度読み解き、炎龍よ、我が願いに応え、我が爪に悪を断つ浄化の炎を纏わせ、巨悪を喰らい焼き尽くせ!』

 

 

 「ドラゴストーム・クロー!」

 

 

 魂を燃やし、全身全霊のチカラを込めたフレイアの炎龍の爪が、ダークマター目掛けて飛んでいく。ダークマターが極厚の障壁を展開し、衝突した。

 

 

 「はああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 「お前にこの障壁は壊せまい……む!?」

 

 

 フレイアの雄叫びを上げながらのドラゴストーム・クローの炎が、フレイアの絶対に倒すというココロと共鳴し、勢いを増していく。火花を散らしながら障壁に刺さろうとする爪が、ついに絶望の壁に希望のヒビを入れた。

 

 フレイアは全ての魔力と体力をこの一撃に注ぎ込み、爪はダークマター以上の大きさまで成長する。ピシピシとヒビが広がり、深くなっていく。

 

 

 「そんなバカな……!?」

 

 

 ダークマターが愕然とした声を上げた時、障壁が砕け散る。

 

 即座に二枚目の、もっと厚い障壁を張るが、それもあっという間にヒビが入り、黒水晶のようなきらきらとした欠片へと成り果てた。

 

 

 「小癪な……!」

 

 

 三枚目、全力の障壁が展開される。綺麗な青の火花を散らし、紅の天使の大爪が闇を切り裂こうとする。

 

 だが、やはりそれはダークマターが全力で張った盾。そう簡単には割れそうもない。雲行きが怪しくなったのを感じて一同が顔を曇らせる。対照的にダークマターが目を細め、くぐもった笑い声を上げる。

 

 が、その声も止まる。ダークマターの本能に、唐突に恐怖が芽吹いた。障壁に注がれていた闇のエネルギーが一瞬途絶え、ほんの一瞬脆くなったことで一気に崩壊の道に繋がる無数の線が引かれる。

 

 不味い、と思ったそのとき、ダークマターは見た。フレイアの真紅の瞳に星が浮かび上がり、黒と青の色へと染まったのを。その姿が、にっくきピンクの悪魔と重なったのを。

 

 

 「うううううああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!」

 

 

 そして、ついに暗黒のシールドは砕け散る。そのままフレイアの爪が、ダークマターの目に深々と突き刺さった!

 

  

 「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 ダークマターが絶叫する。大きな火柱が上がり、煤まみれになったフレイアが着地した。

 

 きっとこれでやったはず。だがデデデはそれを言ったらフラグになるといっていたから、言わなかった。

 

 そう。いうつもりはなかったのだ。

 

 

 「やったか!」

 

 「ラルク何フラグ立ててんのよ!!」

 

 

 ラルクベルクがフラグを立ててしまった。テリスが叫んでラルクベルクの後頭部をスパァンとおもいっきり叩いた。

 

 ラルクベルクが後頭部を押さえる。その時、火柱が黒い風に吹き飛ばされた。

 

 

 「フラグを立てられたからには、まだだ、まだ終わらんよ!」

 

 「ほらー! フラグ回収しちゃったじゃない!」

 

 

 巨大化したダークマターが、黒いもやを纏い始める。間違いなくヤバイのが来るだろう。

 

 フレイアはもう力を使い果たしてしまった。おそらく決定打はもう与えられない。一気に絶望に叩きつけられた各々は、ただただそれを見つめることしか出来なかった。

 

 ……そして、ついに彼の出番が来た。

 

 

 「ゴブアッ!?」

 

 

 ダークマターが唐突に横に吹き飛び、壁に叩きつけられる。

 

 勿論全員、何が起こったのかすぐには分からなかった。あんなにも自分達を圧倒したダークマターがまるで蹴られたボールの如くぶっ飛ばされたのだから。

 

 だが、犯人はすぐに見つかった。

 

 煤で真っ黒になった絨毯の上。先程までダークマターの居た所に、彼は佇んでいた。

 

 聖水に漬けられていたせいでぐっしょりと濡れてしまっているファーの付いた真っ赤なガウンを羽織り、円の面に星のマークがあるハンマーを肩に置いて、顔に張り付く濡れた蒼穹の髪を剥がそうともせず、顔には青筋を立てていた。

 

 まさに王のような風格を醸し出す水も滴るいい男ならぬ、水に濡れた旦那の目が、驚愕に目を見開くダークマターを見据えた。

 

 

 「よくもワシの体で好き勝手してくれたなぁ……そのツケは今ここで、貴様の体で払ってもらうぞい、ダークマター!!!!」




まさかの10000文字突破ですよ、ハイ。

『この一撃に桃玉レボリューション』ドラゴストーム・クローのとこではそれが。

『王位の復権:D.D.D.』最後のところでは私の脳内でそれが流れていました。

もはやラスボス戦にしか感じないダークマター戦。次はマジバトルが始まります。
また更新遅くなるでしょうが、気長に待ってくださいませ。


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大王VSダークマター

久しぶりのモンハン3rdついにハンターランク6になりました。ディア亜種にフルボッコにされたので武具製作の為にアムニス+ジンオウSシリーズでジンオウガを倒しまくり、乱入してきたナルガ亜種も倒す。ビンなしきつかった……

こんなことしてるせいでめっちゃ遅くなりました。すみません。


「バカな……もう目覚めるだと? 半日は目覚めないように追い出される直前にデデデの意識に干渉したはずだぞ!?」

 

 

 明らかに動揺した声を上げるダークマター。ついに戻ってきてくれたデデデ大王はしてやったりとでも言わんばかりににやりと笑った。

 

 

 「貴様は勘違いしているのだ、ダークマター」

 

 「俺が、勘違いだと?」

 

 

 フン、と目覚めた大王が鼻で笑う。

 

 

 「ワシは何度も貴様ら暗黒一族に操られてきた! もはやお約束と言われるくらいにな! だが、流石にワシにだってもう素直に操られるつもりはないわい! 貴様のそのギリギリの状態で掛けた干渉程度、捻じ伏せることなど今のワシには造作もないぞい」

 

 

 そう自慢げに笑うデデデに、ダークマターは信じられないと言わんばかりに声を荒げる。

 

 

 「ふざけるな!! 俺は暗黒一族の中でもデデデ、貴様にもっとも長くそばにいて、そして取り付いてきたのだ! 貴様の支配など、ほかの同胞に比べても簡単にできる!」

 

 「何を言っているのかぞい? 長く取り付いてこられたからこそ、対処の仕方も判ってきたんだぞ」

 

 「嘘だ! あのおバカでどアホで大雑把なデデデがそんな器用なこと出来る訳がない! さてはお前、ブラデだな!?」

 

 「誰が偽者じゃい!」

 

 

 自分(オリジナル)よりも(レプリカ)の方が優秀みたいに言われたデデデが吠える。以前プププランドで好き勝手していたあの頃に比べれば、だいぶおつむは成長した方だとデデデ的には思っている。

 

 まあ実際成長はしているだろう。カービィを倒すために場外に投げ出されると感電するリングや、ハンマーにミサイルを放てたりエンジンを搭載したりと、色々やっている。普通に強くなっている。

 

 

 「ワシは貴様に比べれば、失敗を糧にしてしっかりと成長しているぞい!」

 

 

  だん! とデデデが黒ずんだ床を蹴り、ダークマターに突っ込んでいく。ダークマターは応戦しようとオレンジの弾幕を張る。

 

 フレイアは飛行して避けた。それはフレイア自身の地の力はそこまで強くないからだ。それに対してデデデの足はそこまで速いとはいえない。だがその代わり、怪力だ。ならば、デデデは自分に被弾する弾は避けるのではなく、ハンマーで叩き落としたり、起動を逸らすことで対処する。

 

 

 「おりゃっ、どおりゃっ、フンッ! ガーッハッハッハ! ダークマター、貴様の本気はその程度かぞい!?」

 

 「くそ、面倒な……ッガ!?」

 

 

 デデデの打ち返したオレンジ弾がダークマターに直撃。呻きながら地面に落ちたダークマターは、物凄くぐったりとした様子でデデデの方へと目を向けて、苦し紛れのダークレーザーを放った。

 

 まあ所詮は苦し紛れ。予備動作の時間が長い攻撃など、動きの鈍いデデデが横に転がっても避けれるレベルだ。

 

 人と同じ顔があればきっ苦虫を噛み潰したような顔だっただろう。そのような声でダークマターが呟く。

 

 

 「クッ……今の状況だと分が悪いな……」

 

 

 数的にも、実力的にもあちらが上なのは明白。このままでは負けて、滅ぼされかねない。

 

 ダークマターの逆境を見たデデデは、ふむ、と何かを思いついたようだ。

 

 

 「……貴様はゼロやゼロツーのような暗黒物質の中の上位の奴とは違うぞい。カービィの力がなくとも、貴様程度ワシの手でぶっ潰せるぞい……だが、ワシは貴様らとは違って慈悲深いわい。今ここで、武器を収めて宇宙に帰れ。そして二度とここに来るな。死者は居ないみたいだし、そうしてくれりゃ、今回は特別に見逃してやるぞい」

 

 

 デデデが構えていたハンマーを下ろす。デデデの言い方は傲慢も聞こえるが、これはデデデなりの降伏勧告だ。ここで下がってくれたら、もう追うつもりはないという嘘偽りなき本心。

 

 ……ダークマターが何なのか、それはデデデ自身よく分かっている筈だ。その上でこの様なことを持ち掛けるのはやはり、『悪いヤツでも一緒にゴハンを食べて、一緒におひるねすればもうおともだち』という呆れ返るほどに平和な、物凄く平和ボケした辺境の星に住んでいたデデデだからこその、心を砕いて砕いて、それでも残ってしまったほんの少しの甘さなのだろう。

 

 

 「大王よ……貴様は本当に愚かだな。そのような誘いを俺が受けるとでも思ったのか?」

 

 

 だが、意思を持った悪意は、その善意すらも踏みにじる。

 

 

 「だろうな……貴様なら一蹴するだろうとは思っていたが……」

 

 

 返されるだろう答えに大体察しが付いていたデデデは残念そうに言う。

 

 そして、降ろしていたハンマーをもう一度構えた。

 

 

 「貴様がその気ならば、もうこれ以上は何も言わんわい。もう降参は受け付けんぞ」

 

 「望むところだ」

 

 

 そう言ったダークマターが、突如変形する。

 

 目の下まで隠せるくらい襟の大きな灰色のマントを羽織り、目にスリットのある細い仮面を付け、光沢のない黒髪のなびかせる、男。それを見たフレイアが戸惑ったような声を上げる。

 

 

 「あれって……」

 

 「ッいけません槌の勇者様! 今すぐお下がり下さい、その姿のダークマターは例え勇者様であろうと、敵う相手では」

 

 「貴様は黙ってろぞい」

 

 

 突然のダークマターの変化に戸惑うフレイア達のなかで、錫杖の男……教皇がデデデを制止するが、デデデはそれを遮った。

 

 今のデデデの顔には、初めて緊張というものが浮かんでいた。彼が見ているのはダークマター自身ではなく、ダークマターが持っている、虹色に光り輝く剣

 

 

 「どうして貴様が……それを持っているんだぞい?」

 

 「さあな? まあこれなら、デデデを相手にしても負ける気がしないな」

 

 

 地面に初めて自ら降り立ったダークマターが、片手にあるその剣……かつてダークマターを倒す為に桃球が使った虹の剣をデデデに向ける。その佇まいはまさに闇の剣士。勇者の前に立ち塞がる脅威たるものに相応しき姿に、冒険者達には見えたことだろう。

 

 

 「これは俺の奥の手、これ以外の策はない。さあ、決戦の時間だぞ大王様」

 

 「カービィがいなくともワシはここで、貴様の因縁に決着をつけてやるぞい」

 

 

 

 大王と暗黒剣士の、本当の戦いが始まった。

 

 ダークマターが大王に切りかかる。

 

 

 「フンッ!」

 

 「そこだ」

 

 

 上段からの斬撃をハンマーで受け流すが、そこでダークマターのスリットの奥にある瞳が閉ざされる。

 

 先程まで体を隠していた灰色のマントがふわりと広げられ、ダークマターの胴体……闇のエネルギーの集合体に浮かぶ目がカッと見開かれ、そこから黒い稲妻が放たれる。

 

 

 「ダークサンダー!」

 

 「ぐああああああああっ!?」

 

 

 闇と雷がデデデの体内を一瞬のうちに駆け巡る。その刹那だけは意識が飛んでしまったが、すぐに気がついた。

 

 即座にデデデは反撃しようとする。だが、その前にダークマターは溜めを終わらせていた。スリットの中の瞳が開かれ、二次の剣を突き出す。

 

 

 「まだまだ! ダークビームラッシュ!」

 

 「くううう……がっ!!」

 

 

 デデデはハンマーで捌いていくが最後の一撃が腹に当たってしまい、吹っ飛ばされる。

 

 ダークマターの怒涛の攻撃は止まらない。デデデが地面に接触する前に一瞬で背後に回り、虹の剣を振り上げる。このまま斬られると致命傷は免れないだろう。

 

 だが、そこは歴戦を制してきた男。間一髪のところで逆向きのだいしゃりんを起こし、顔面に当てた。

 

 即興ゆえに威力は低いが、ダークマターを怯ませて攻撃をキャンセルさせるには十分の威力。ダークマターはたたらを踏みながらも後ろに後退すると、はは、と乾いた笑いを上げた。

 

 

 「流石だな……そんな無茶な攻撃、普通はできないぞ」

 

 「ワシの力だからこそ出来る芸当だわい。あんまりワシをなめるな」

 

 

 デデデもやられてばかりではない。次はデデデの番だ。大きな一歩を踏み込んで、ジャイアントデデデスイングをかました。

 

 ダークマターは剣でガードするが、力負けしてしまい、そのまま弾き飛ばされる。背後の水槽を貫通して十字架の石像に激突する。

 

 

 「……教会の被害がぁ……」

 

 

 錫杖を支えにしながら青い顔で戦いを見ていた男……教皇が崩壊する石像をみてついに崩れ落ちた。

 

 瓦礫の下敷きになったダークマターが、力任せに剣を一薙ぎして瓦礫を吹き飛ばす。吹き飛ばされた瓦礫のひとつが煌びやかで鮮やかな、いかにも金がかかってそうなステンドグラスに当たり、ガッシャアアアアアン! と派手な音を響かせて粉々になった。

 

 

 「ぐうっ、この馬鹿力めが……!」

 

 

 思わず悪態をつくダークマター。対してデデデは、何かを思案するような顔をしていた。

 

 

 (せっかくだし、ここらで『すきる』を使ってみるかぞい。何だかんだで今まで一度も使ってないしな)

 

 

 その時のデデデは以前ナオフミに教えてもらったステータス魔法の機能を使ってスキル一覧を見ていた。

 

 『エアストハンマー』『セカンドハンマー』『ゴーストクラッシュハンマー』……と沢山のスキルが並んでいる中、デデデが選んだのは。

 

 

 (これにするかぞい)

 

 「スキル、ミョルニル!」

 

 

 ワルキューレの槌のスキル『ミョルニル』……それは北欧神話の善神トールが武器としていた雷槌。

 

 神が使っていた武器ということだけでも、どれほどの強さを誇るかなんて、すぐに分かるだろう。

 

 デデデがスキルを詠唱すると、ハンマーは青い電気を帯び始める。

 

 その様子を見たデデデは、落胆したような表情になった。

 

 

 「なんかショぼいぞい。あ、そうだ」

 

 

 何かを思いついたような顔になって、あポチッとな、とデデデがハンマーの根っこらへんについてる小さなボタンを押した。

 

 すると、ハンマーに搭載された機能が起動される。エンジンが展開され、ジェットが異常なほどの音と炎を上げて吹き上がる。

 

 

 (ま、不味いぞい!)

 

 「ぐぬぬぬぬぬ……! くそ、水に漬けられてたせいでイカれたのかぞい!?」

 

 

 重いこの体すらも簡単に振り切れるようなほぼ一瞬で作られた今までにないような勢いに体が持っていかれないようにデデデは両腕両足に全力を入れて踏ん張る。

 

 前に飛ぼうとするのを必死に止めるが、勢いは完全には殺しきれずに引きずられていく。

 

 そんなデデデの様子を見たダークマターは大きな瓦礫を壁にしようと前に積み上げていた。

 

 

 「もうちょい積み上げて、後は虹の剣振れば即席砲弾になりそうだな……へくちっ、あーさっむ」

 

 

 水浸しな状態でくしゃみを上げながら準備をしていた。この戦いの後は風邪で寝込んでしまうに違いない。

 

 ちゃっちゃと瓦礫の壁を積み上げている所で悪いが、ついにデデデの力の限界が訪れた。

 

 

 「ぐううう……っ!? ぬ、わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

 

 

 ジェットエンジンを元気に噴かせながらデデデがついに飛んだ。蒼雷の残滓を残しながらダークマターの積み上げた瓦礫の壁に突っ込もうとする。

 

 

 「よっしゃ今だ「飛天大車輪っと」いってぇ!?」

 

 

 虹の剣を振ろうとしたダークマターの頭にサクッとエネルギーで出来た鎌が刺さった。

 

 狙って放ったスキルが見事にヒットし、ラルクは小さくガッツポーズをしたのと同時にデデデのハンマーが瓦礫の壁に接触した。そのときだった。

 

 ドゴォッ! ドガァバチバチバチバチッ!!

 

 

 「「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!!!」

 

 

 何ということでしょう! 特大の放電が炸裂し、びしょ濡れだったデデデもろともダークマターを感電させたではありませんか!

 

 雷雨の時に起こる落雷の電圧は一億ボルト。AEDの電気ショックは1200~2000ボルトなので、これだけ見ても雷が生身の人間に落ちた場合の結果は大体予想できるだろう。

 

 そして今デデデとダークマターに流れている電気は例えるとすればまさしく雷。そして二人は共に全身電気を通しやすい水でずぶぬれだった。

 

 つまり、人が死にかねないような電気が、水の力で全身をまんべんなく回って、デデデとダークマターの体にダイレクトに大ダメージを与えたということだった。

 

 幸いだったのは、デデデは元々人間じゃないし、ダークマターは人ではなく暗黒物質だった為、死者は出なかったことだろう。二人にとっては幸いでも何でもないが。

 

 

 「デデデさあああああん!!? 大丈夫ですか、死んでないですよね、ねえ死んでないですよね!?」

 

 「嬢ちゃんちょっと落ち着け」

 

 「これが落ち着いていられるですか!? フレイアはデデデさんとずっとお別れはもう嫌なんですよぉっ! 起きてください、デデデさん!! うわあああああああん!!!」

 

 

 白目を剥いて真っ黒コゲになったデデデを見たフレイアがパニックになってしまった。ラルクが宥めようとするが、敬語がおかしくなるほどに取り乱したフレイアは落ち着くどころか泣き叫び始める。強制的な別れはフレイアにとってはもはやトラウマのようなものなのだから仕方ないことではあるが……

 

 首のところのファーを引っ掴んでガクガクさせてるフレイアの腕をラルクとテリスが掴んで止める。

 

 

 「フレイアちゃん、デデデさんは死んでないからやめてあげて!」

 

 「ほら起きてるだろ!? 白目ちょっと剥いてるけど!」

 

 

 ラルク、最後のは余計だ。

 

 確かにデデデは生きてはいる。ただ血の気が引いていてずっと口と四肢が痙攣していて震えていて物凄く危ない状態なだけで。いや全然大丈夫じゃないだろこれ。

 

 

 「勇者様の処置はこちらでします!」

 

 「頼むわ」

 

 「デデデさん助かるんですよね!?」

 

 「大丈夫ですよ。今度も必ず私達が槌の勇者様をお助けします」

 

 「分かりました……デデデさんをお願いします」

 

 

 三勇教信者達がデデデの周りに駆け寄り、一斉に回復魔法を掛け始める。

 

 

 「あ、ダークマターはどうなったの!?」

 

 

 テリスがやっと忘れ去られていたダークマターのことを口に出したことで、皆が一斉にダークマターの方を見る。

 

 ……ダークマターは撃沈していた。ピクピクと震えるだけで動かず、仰向けに倒れていた。血管が浮き上がった目は白目を剥いていた。

 

 どうやらダークマターは倒せたらしかった。

 

 

 「……どうするの?」

 

 「燃やすか?」

 

 「残りの方々は『聖域』の準備をお願いします」

 

 

 そうして教皇の指示によって発動された儀式魔法『聖域』によってダークマターは天に召されていった。

 

 そして残った虹の剣。

 

 

 「……どうするんだ?」

 

 「昔の資料で似たようなのを見たんですが、元々はダークマターを倒す為の伝説の武器だったはずです」

 

 「……フレイアちゃんにあげましょうか」

 

 桃球、暗黒物質に続いて、虹の剣の新しい使い手はフレイアになった。




なぜダークマターが虹の剣を持っていたのか……それはまだ分からない
きっとデデデ大王は深くは考えようとはしないだろう。この謎も記憶の隅っこに置かれるに違いない
それでも、この謎はいつか解かれるときが来る。なぜなら、謎を解く鍵を握る少女が今そこに居るのだから……


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大王に春が来る、それは折られるべく存在するフラグ

ついに……ついにディアブロス亜種討伐ッ!
あと一頭……倒せば攻撃力240代金60000ゼニーの最強クラス片手剣『呪魂』が作れる!
多分次更新する時には完成してると思う。


 「四日前まで死にかけてた奴とは思えないぐらい元気になってんな」

 

 「これでも結構体は頑丈な方ぞい」

 

 

 ダークマターの大騒動から四日後。災厄の波が明日にも来るこの日に、デデデが目を覚ました。

 

 あの後もどうしてもフレイアのことが心配だったラルクとテリスは、最大限の治療を施されたデデデの傍にずっと居続けるフレイアの付き添いをしていた。

 

 一向に反応のないデデデを心配して、食事もままならない状態だったためかなり心配していたが……当の本人はご覧のとおり、ピンピンしていらっしゃる。

 

 

 「? フレイアの奴、ちょっとやつれてないか?」

 

 「あんたが心配で仕方なかったんだよ。ほとんど食事も取ろうとしなかったんだぞ」

 

 「なんだと!?」

 

 

 デデデの寝かされていたベッドに頭をおいて突っ伏していたフレイアの、四日間の状態を教えられたデデデは思わず声を荒げてしまう。デデデの声でフレイアが起きた。

 

 

 「むにゃぁ……?」

 

 「あ、起きた」

 

 「フレイア、貴様ワシが寝ている間ほとんど食べていなかったらしいな?」

 

 「ふぇ? ……!? デデデさん、起きたんですか!」

 

 「ワシが死ぬなぞありえんわい。それよりも」

 

 「うわあああああん! よかったですううぅぅぅっ!!!」

 

 

 号泣したフレイアはデデデに思い切り抱きつく。

 

 うっうっと嗚咽も聞こえる。

 

 

 (こりゃ、思ったよりも心配させたようだな……)

 

 

 泣き止むまで待ってあげようとデデデは思い、しばらくはフレイアの頭をぽんぽんと叩いてあげていた。

 

 

 

 

 

 ☆紅鳥号泣中……★

 

 

 

 

 

 (しっかしワシとしたことが、こうも簡単にダークマターに操られてしまうとはな……あーくそ、いまだにむかつくわい)

 

 

 

 もう今までどおりにはいくものかと思っていた矢先にこうなった……なんというか、そろそろ限界が近づいてきていた。

 

 仮面騎士から「新天地に突然ほっぽり出されたらいつもの様子は抑えて、状況がある程度安定してくるまでは大人しくするべきだ」と何度も釘を刺されたことがある為、しばらくは大人しくしてきたつもりだが、主にダークマターのせいで結構ストレスが溜まっている。

 

 

 (何でもいいから何かを殴りたいぞい)

 

 

 フレイアを慰めてながら少し考え事をしていたデデデは、そういえばフレイアに会ってからは一人になったことは一度もなかったことに気づいた。

 

 一人で何かにこのモヤモヤをぶつけることは全くなかった。

 

 

 「デデデさん……?」

 

 

 目を赤く泣き腫らしたフレイアが見上げてくる。デデデの様子の変化に気づいたのだろう。

 

 

 (そういえばあの仮面騎士が、ピンク玉のことをものすごく心配してよく見守っていた時期があったわい。フーム達がこっそりパパナイトとかストーカーとか呼んでいたな、懐かしいわい)

 

 

 今ならその気持ちも分かる。見た目が大人でも、確かに自分の子供が一人で知らない場所に行くことになれば、どうしても心配になってしまう。フレイアは正確にはデデデの子では無いが、デデデにとってはほぼそのような存在といっても過言ではない。

 

 この世界において、デデデの唯一の癒しではあるが、流石にこのストレスを完全に癒すまでには至らない。

 

 

 「もう大丈夫かぞい?」

 

 「フレイアはもう大丈夫です。むしろデデデさんは大丈夫なんですか?」

 

 「ワシももう平気……アイタタタ」

 

 「全然大丈夫じゃないじゃないですか!」

 

 「何言っとる、嘘に決まってるわい」

 

 「なんだ……もう、心配させるようなこと言わないでください」

 

 「ハハハ、すまんわい」

 

 「「……」」

 

 

 空いているベッドに腰掛けている鳶色の男、ラルクベルクと水色の女、テリス=アレキサンドライトの目が痛い。ちなみに自己紹介とかは終えているため、デデデは二人の名前を知っている。

 

 フレイアはだませたが、間違いなく二人にはバレている。

 

 

 (あんた、それでいいのかよ)

 

 (悪い事は言わないから休むべきよ)

 

 (多少の無茶くらい平気だわい。貴様ら、さっきから妙にピリピリしているが、もうワシの中にはダークマターは居ないぞ?)

 

 (そうじゃない。明日にはここで波が起こるぞ。あんたの体はまだ不完全だ。今回は休むべきだろ)

 

 (フン、この程度なら多少動いても問題ないわい)

 

 

 ちなみにデデデはまだ災厄の波のことを知らない。その為、目での会話という相手が同じ情報を共有していることを前提とした会話は若干ずれてしまっている。

 

 

 (あんまり波を舐めてかかんじゃねえ。下手したら死ぬぞ?)

 

 (案ずるな、ワシを倒せる奴などそうそう居ないわい)

 

 (それはデデデさんが本調子ならの話よ。一瞬の隙を突かれてそれで死んだら終わりなのよ?)

 

 

 災厄の波……簡単に言えば、ゲームにおけるイベント、防衛戦、レイドボス戦のことを指す。

 

 ポップスターでの危機の中だと、クィン・セクトニアや星の夢、破神(はじん)エンデ・ニルとの戦いなどがいい例だろう。セクトニアはキセキの実をタランザとデデデが持ってきてくれたことで、カービィはワールドツリーと融合した彼女を倒すことのできるビッグバンを使えた。

 

 星の夢はスージーが用意してくれたロボボアーマーだけでなく、ハルトマンワークスカンパニーに改造されていた為にカービィが倒す事となってしまったメタナイトが、修理ができた戦艦ハルバードを使わせてくれた為に宇宙に飛んでいった星の夢を追撃出来た。それだけではなく、星の夢の苦し紛れの攻撃を受けて墜落しそうになったところで、メタナイトが機転を利かせてくれたことで、墜落する前に合体していたロボボアーマーを射出でき、星の夢を完全に破壊できた。

 

 エンデ・ニルは一緒についてきてくれた仲間とココロが通じ合ったことで心のヤリが出来て、神器ティンクルスターアライズが完成したことで、宇宙を本当に滅ぼせる力を持つエンデ・ニルと渡り合え、そして死闘の果てに倒したのだ。ニルは今ではポップスターで平和に暮らしている。

 

 ……実はデデデも内心、ラルクとテリスからの忠告で迷っていた。

 

 

 (カービィやメタナイトもワドルディも今は居ない……くそ、あいつらが居ないことがこんなにも不便だなんて思わなかったわい。ワシがもしも倒れても、安心して後を任せられる奴が居ないし、これからそんなに危険なことが起こるのなら、確かに休む方が懸命かもしれん)

 

 

 普通はそうするべきなのだろう。デデデもそれが正解だとわかってはいる。分かってはいるのだ。

 

 

 (何バカなことを考えているんだぞい? 療養ごときでそんな大きなことを欠席なぞ、お断りぞい!)

 

 

 だがそれを実行するという選択肢がデデデにあるとでも思ったか?

 

 危険なイベント? 命を落とすかもしれない? それはラルクたち人間に限る話だろう。

 

 ならば人ではないワシならそう簡単に死ぬわけがない。負傷しているなら死亡(ミス)となりかねない? んなもん残機があるワシには全く怖くないわい! そもそも死ぬかもしれないイベントなぞ、気になるに決まっている。そんな危ないことをやってみたいというこのワシの好奇心、抑えるにはその程度のペナルティは全く足りないぞい! いやむしろそんなものにいたずらをしてメチャクチャにしてやるわい!

 

 

 (おいなんで目を光らせてんだ)

 

 (そのイベント、面白そうだからワシは絶対に混ざるぞい!)

 

 (……嬢ちゃんのことも考えろよ。あんたが死に掛けて泣いてたんだぞ?)

 

 (む、そういえば残機のことは教えてなかったな。それについては問題ないぞい)

 

 (問題ない? どこがよ!)

 

 「あー貴様ら、勘違いしているようだが、あれはワシの持病だぞい。単なるぎっくり腰」

 

 「「ぎっくり腰!?」」

 

 「ぎっくり腰って何です?」

 

 「分かりやすく言うと、腰を激しく動かすと腰が爆発するんだぞい」

 

 「はい?」

 

 「……間違いではないな」

 

 「間違いではないのよね……」

 

 

 ちなみにこう見えてデデデのぎっくり腰はガチ。確かに激しい動きをし続けていれば腰が唐突に爆発する。まあそんなことは滅多にない上、痛かったのはわき腹だが腰に近いところを偶然押さえていたのもあり、体の不調はぎっくり腰にすり替えることにしたのだ。

 

 

 「ちょっと痛いが、歩けなくはないし、一日たてば復活するから安心しろぞい」

 

 「そ、そうか……」

 

 「それで、貴様らがピリピリしていることに混ざるにはどうすればいいのかぞい?」

 

 「は? ……あーもしかして勇者になったのは最近なのか?」

 

 「そうだぞい」

 

 「だからか……参加するなら、まずは龍刻の砂時計のとこに行かないといけないぞ」

 

 

 デデデも知らない単語が出てきた。フレイアが真っ先に質問した。

 

 

 「龍刻の砂時計って何ですか?」

 

 「それは……見てもらったほうが早いわね」

 

 「なら行きたいです!」

 

 「あんたはどうするんだ?」

 

 「歩けなくはないし、リハビリ代わりにでも行くわい」

 

 「マジで復活してんのか……でも一応杖は持っていったほうがいいだろ」

 

 「ワシはまだそこまでヨボヨボなジジイでもないわい。ンなモンなくとも歩けるぞい」

 

 「あんたがそれでいいのならこれ以上は言わねぇけど、どうなっても知らないからな……」

 

 

 呆れたようにラルクはため息をついた。

 

 

 ☆大王様、紅鳥、鎌、宝石人移動中……★

 

 

 

 

 

 「あれ? あの人達はダークマターと戦ってるときに来た勇者さん達じゃないですか」

 

 

 龍谷の砂時計があるという所に着いた。

 

 そこの空間の中心には、赤い砂が流れ落ちている巨大な砂時計。そしてそれをぐるりと囲むような通路。まさに、その砂時計のための空間と言えるだろう。

 

 そしてフレイアが指を指したところには、デデデは知らないがフレイア、ラルク、テリスは知っている顔触れがいた。ただ、妙に険悪な様子だ。それも、敵意を感じる目は全てこちらに背を向けている黒髪に緑のマントの男に向けている。

 

 (む? どっかで見たことがあるような姿だわい)

 

 ふとデデデはその男に既視感を覚えた。背中からでも感じ取れる敵意、怒気、苛立ち、そして恐れ。こんな沢山の負の感情を持っている男を、いつか見た気がする。

 

 そしてそれは隣の女性と少女の間くらいの年だろう女からも感じた。それも狸みたいな耳と尻尾を生やしているその特徴的な姿が……あのよく食べる少女と重なった。

 

 

 「狸娘!?」

 

 「へ? ……え、デデデおじさん!?」

 

 

 会ったことはないはずだが、記憶の中の狸娘の面影のある女の顔が予想外の人物にでも会ったかのように驚愕に彩られていた。

 

 

 「知り合いなんですか?」

 

 「正しくはよく似た奴とだな」

 

 「……デデデおじさん、私のことは狸娘ではなくラフタリアと呼んでと言ったはずですが?」

 

 「それを言ったのは貴様よりもちっさい小娘だわい」

 

 「貴方の言うその小娘が私なんですよ?」

 

 「は? ……まっさか! あのちんちくりんがたった数日でこんな大きくなるわけなかろうが!」

 

 「誰がちんちくりんですか! 亜人は幼いころに急激にレベルを上げると体がそのレベルでの動きが出来るように急成長するんですよ!」

 

 「そうなのか?」

 

 「そうなんです!」

 

 

 そう言われたデデデは、おとがいに手を当て、少し考え込む。そして。

 

 

 「つまりは見た目は大人、頭脳は子供というわけか!」

 

 「なんですって!?」

 

 

 わざと煽るように言うデデデにラフタリアだという娘が噛み付いた。某小さくなった名探偵の逆バージョンである。

 

 

 「……言い方は悪いが、間違いではないな」

 

 「ナオフミ様!?」

 

 「んあ? 貴様は……」

 

 「あの時は世話になったな。デデデ、だったか」

 

 

 ああ! とデデデは手をたたいた。あの時に会った盾の勇者の彼と一緒に居るということは、ラフタリアの言っていることは本当なのだろう。

 

 しかし、最初に会ったときよりも目つきが悪い。物凄-く不機嫌なのだろう。どうやらあの三人とは犬猿の仲のようだ。

 

 そういえば彼は冤罪を掛けられたのだったか。もしかしてその冤罪を信じた奴らということかとデデデが聞こうとしたときだった。

 

 

 「嘘だろ……フレオンちゃんの姉の焔天使フレイアちゃんとそっくりだ……」

 

 「は?」

 

 

 思わずといった様子で金髪がこぼした言葉にデデデが目を怪訝なものにさせる。

 

 フレイアは首をかしげた。

 

 

 「フレオンちゃんは知りませんが、私の名前はフレイアですよ?」

 

 「声と口調まで同じだ! もしかして本当に二次元から出てきたのか!?」

 

 

 金髪がフレイアに向かって駆けていこうとするのを、黒髪とはね毛が腕をつかんでとめる。

 

 

 「何をしてるんだ元康! そんな様子で近づいたらいくらお前でも相手が怖がるだろう」

 

 「そうですよ元康さん。というか抜け駆けは駄目ですよ」

 

 「何を言っとるんじゃ貴様らは。まだうちのフレイアは嫁には出さんぞ」

 

 

 金髪……元康とはね毛、黒髪の様子をみて、シュバッとデデデが妙に早い動きでフレイアをかばうように前に立つ。

 

 後ろに居たラルクが苦笑いする。

 

 

 「過保護だなー、おっさん」

 

 「うっさいわい」

 

 

 デデデの反応は仕方ない。自分の娘にふさわしい相手かとかそれ以前の問題だ。まだフレイアは子供なのだ、あんな得体の知れない奴らに簡単に引き渡したらどうなるか……想像するだけでも鳥肌が立つ。

 

 ただ、ラルクよりはある程度事情を知っているテリスは一応大人しく傍観していた。ついでにラルクをどついている。

 

 

 「ちょ、何すんだテリス」

 

 「ラルク、あなたはちょっと大人しくしときなさい」

 

 「フレイアもその方がいいんでしょうか?」

 

 「ラルクベルク達と一緒に居ておけ」

 

 「待ってくれ、フレイアちゃんはどんな男の人がタイプなんだ!?」

 

 「アレの戯言は無視しとけぞい」

 

 「……一応答えておきます。素直じゃないですけど、優しい人でしょうか」

 

 (あの女、ナオフミ様がタイプなんですか!?)

 

 (フレイアの奴はメタナイトがタイプなんだな)

 

 

 仮面騎士じゃなくてあんただよ陛下。

 

 フレイアの返答にラフタリアは危機感を持ち、デデデはお約束通りの勘違い。何してんだよ旦那。

 

 

 「す、素直じゃないけど優しい?」

 

 「まず元康さんはないですね。僕はタイプの中に入るでしょうが」

 

 「いやお前もないだろ」

 

 「……いやいやいや何考えてるんだ俺は……今の俺にはあんなの高嶺の花だろうが……」

 

 

 事情を全て知る人ならばこう断言できるに違いない――明日は大雪かゲリラ豪雨が起きる、と。

 

 それ位のことが今この場で起こっている。特にナオフミが。

 

 

 「……どっちにしろフレイアはやらんからな。それで、貴様らはここで何をしているのかぞい?」

 

 「無理やり変えられた……ここで波が起きる時間を確認してるんだよ」

 

 「波?」

 

  (波ってアレか? 海で起こるサーフィンとかするような波)

 

 

 波は波でも陛下それは違う。

 

 

 「知らないのですか? 明日にはここで災厄の波が起こるんですよ。ここで確認しておかないと、波が起こった時にその場所に転移できないんです。現地人なのにそんなことも分からないんですか?」

 

 「何だと!?」

 

 「はっ、そうやって怒るんですから図星なんでしょうね」

 

 

 はね毛、デデデは現地人でもないしそもそも人でもないぞ。

 

 デデデは災厄の波という単語よりも、最後の「そんなことも分からないのか」という言葉に反応してしまい、声を荒げる。

 

 はね毛は呆れたような顔だが最後の言葉はまるっきり外れている。そのことを知るナオフミとラフタリアには、自身満々に間違っているはね毛の姿が滑稽に見えただろう。

 

 

 「貴様、ワシを馬鹿にしおって……!」

 

 「だってその通りですからね」

 

 「それじゃあそんなデデデさんが親の私はお馬鹿さんなんですかね」

 

 「えっ、いやフレイアさんは違いますよ!?」

 

 「何でです? 子供は親に似るものなのでしょう? 血は繋がっていませんが私はデデデさんとはまだ小さい頃からずっと一緒に居るんですよ? 私にとっては最早デデデさんは親のような方ですよ? 私はデデデさんのことを賢くて優しくて強い方と思っているんです。だから私はデデデさんの隣に並びたいから、デデデさんの背中を私は追ってきていましたよ? なのにそんなデデデさんが馬鹿で横暴で弱い方だと貴方は言いましたね? ならばそんなデデデさんの隣に並びたいと思っている私は傍目から見ればデデデさんよりも大馬鹿で愚か者なんでしょうね。あなたの言葉が正しければの話ですが」

 

 

 半眼のフレイアが静かにキレている。というかこの子、どうやら三勇者から向けられている好意に気づいているらしい。それを逆手にとって遠回しに「デデデに言った言葉今すぐ取り消さないと嫌いになるから」と言っていた。

 

 勿論フレイアに好意を向けているはね毛は焦る。それを見たナオフミが仕返しといわんばかりに追い打ちをかける。

 

 

 「はっ、何勘違いしてんだか。樹、そいつは現地人じゃないぞ。デデデも俺たちと同じような経歴の勇者なんだよ」

 

 「え!?」

 

 「その上本人は呼び出した犯人が誰かすらも分かってない。俺たちと違って勇者の役割も呼び出された理由も知らずに、俺が始めて会ったときは右も左も分からないような状態だった。ある意味俺よりもかなり過酷な状況でここまで来たんだよ。お前らに比べりゃデデデは頭もいいし、何より強い」

 

 「何ですって!?」

 

 「「何だと!?」」

 

 「お前らはちやほやされてここまで楽に来たんだろうがな。俺は俺で結構きつかったが、こっちの方がもっときつかっただろうよ……そうだな、例えば、何も分からずに突然知らない場所に一人で放り出されたら、お前らはどうする?」

 

 「そんなの、僕たちの持つ武器を見せればいいだけですよ」

 

 「別に見せても変わった武器だとしか言われなかったぞい」

 

 「なら有名な勇者ではないというだけですよ」

 

 「お前らが勇者じゃなかったらどうだ?」

 

 「勇者じゃないからってぞんざいに扱うほどこの世界の人たちは酷い人ではないですよ? まあ尚文さんは悪いことをしたんですし、そう扱われても仕方ないでしょうが」

 

 「だから俺はやってねえっていってんだろうが!」

 

 

 デデデはナオフミの苦労を何となく理解した。この様子じゃ、扱いが物凄く酷かったのだろう。

 

 もしかしたら今までデデデが会ってきたのは、そういう敵意をむき出しにしない穏やかな奴ばかりだったのかもしれない。

 

 そんなことを考えていると、ラルクが口を挟んできた。

 

 

 「なあ、その盾の坊主が悪いことしたってどういうことなんだ? 生憎俺達はつい昨日ここに来たばかりだから、そういうことについては疎いんだ」

 

 「坊主って……俺成人してるぞ」

 

 「ナオフミの顔は男というよりも中性的な方だをワシは思うぞい。化粧でもしたらまあ……女装は違和感が無さそうだわい」

 

 「はぁ!?」

 

 「――ハッ! ナオフミ貴様、去s「誰がするか!!」

 

 

 大王が名案だとでも言うように目を光らせて鬼畜なことをいうが即座に却下された。仕方ないね。

 

 

 「あーっと、おっさん茶々入れんな。それで、何があったんだよ」

 

 「それについてなら、被害者である彼女に聞いた方が最も分かりやすいですよ」

 

 

 樹がそういうと、元康の背後から赤髪の美女が現れた。

 

 まるで作られたかのように整った美貌を持つその顔は、不安で彩られていた。




うん……マホロアとマインは似てる気がする。

ラスボス神VSカービィの乗ったティンクルスターアライズだったらどっちが勝つんだろうか……
今までラスボスの時に使った武器とかコピーとか全部使って勝てるんだろうか……
ポップスターにいるラスボス達総勢でかかって勝てるんだろうか……
破神エンデ・ニルとラスボス神戦ったらどっちが勝つんだろうか……


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人間の世界をほぼ知らない陛下よりもほぼ知ってる人間がどうして陛下よりも単純なんだ

物凄く遅くなってしまいました……申し訳ありません……


 赤髪の女は怯えながらも、元康に促されて話し始める。

 

 その話は声を震わせながらゆっくりと話していた。

 

 だが長い。

 

 話が長い。

 

 なので途中でデデデが切れた。

 

 

 「あ゛-ッ!! 話が長い、長すぎるぞい!」

 

 「はぁ……!?」 

 

 

 赤神の女は勿論顔を引きつらせる。されどもデデデの怒りは収まらない。

 

 

 「貴様の話は事実よりも感情ばっかり盛られてるから何があったのかが分かりづらいわい! 二十文字以内で!簡潔に!事実だけをまとめろぞい!」

 

 

 いやデデデはちゃんと成長してるのだ。してるんだが、それでも本を読むということはまだ苦手なのだ。いやそういう話ではなくて。

 

 デデデの言うとおり、確かに女の話は『怖かった』『恐ろしかった』というのを異常なほどに主張してきていて、肝心な所がよく分からないのだ。というか、事実も事実で取って付けたようなものばかりでストーリーが雑な気がする。

 

 まあ、二十文字以内でまとめると『凡人が即興で作ったような現実味のない小話』というのがデデデの印象だった。

 

 

 「分からないのはてめえの理解力がないだけだろ」

 

 「何だと貴様!」

 

 

 元康が敵意むき出しで反論してくる。馬鹿にされてキレたデデデをなだめるためにフレイアが近くに寄ってきた。

 

 

 「デデデさんデデデさん。簡潔にまとめるなら、尚文さんが女の人に酷いことをしようとした、ってことですよ」

 

 「おお、助かったわい」

 

 「ま、嘘でしょうがね」

 

 「何ですって!?」

 

 

 スパッと切り捨てる辺り、フレイアもフレイアで大体のことは察せたらしい。眉をひそめている。

 

 

 「フレイアちゃん、マインは本当にそいつに襲われたんだよ。現に泣いてたんだ」

 

 「泣いてたですか? 泣いてて、それで何がそうだって証拠はなかったのですか?」

 

 「証拠って、マインがあんな怖がっていたんだし、嘘なわけがないだろ?」

 

 

 おい待て。こいつはそれだけで決め付けたのか? 物的証拠もなく?

 

 

 (嘘だろう……証言だけで断罪とか可笑しすぎるわい)

 

 

 これはもうナオフミに対して同情を禁じえない。被害者が泣いてるけど証拠も何もない……でっち上げの可能性もあるけど、本当だったら被害者が可哀相だからと信じているかもしれないが、その被害者を全く疑わないというのは流石におかしい。

 

 赤髪が元康の後ろでひっそりと、遠目であれば分からないくらいの笑みを作ったのをデデデは確かに見た。

 

 その笑顔は……まさしく嘲笑のそれだ。

 

 

 「ッ」

 

 

 イヤリングのようにしていたハンマーに、発作的に伸ばされた片手を押さえ込めたのは、フレイアがデデデのガウンの裾を握ってくれていたからだった。

 

 この女はまるで、初めて出逢ったばかりの頃の、虚言の魔術師のようだ。ピンク玉とデデデ、バンダナワドルディと仮面騎士が手を貸して、そしてポップスターから遥か遠く、栄えた文明の痕跡が未だ息づく惑星ハルカンドラの果てで、最後の最後で裏切った……

 

 ……いや、まだ彼の方がマシか。あの時の彼は、時々居るような狡猾な野心家とも言えた。力を持っている分厄介ではあったが。

 

 だがあの赤髪の女は違う。単なる自分の下衆な欲求を満たすが為に、たった一人をよってたかって甚振っていた。その一人を歪ませてしまうほどに。

 

 人を信用させ、落とす。あの時と似ている点が比較的多かった為に、あの時の憤りを思い出したデデデの衝動的な行動は、仕方ないものだろう。

 

 

 「っ!? おい、何のつもりだ!」

 

 「いや、何でもない。嫌なことを思い出してしまっただけだぞい」

 

 「嫌なことで武器を取ろうとするとか物騒すぎるだろ。というか何でその嫌なことを思い出したんだよ」

 

 「……」

 

 

 咄嗟に槍を向けてきた元康の背後で、人を馬鹿にするような、女の笑顔が深まる。

 

 

 『クックク……コレでボクはコノ星の……イヤ! 全ウチュウの支配者とナルのダ!』

 

 

 マスタークラウンを被り、大仰に両手を灰色の空に掲げて高笑いを上げる彼……本性を現したマホロアの姿が、声が、脳裏で鮮明に流れていく。

 

 

 「デデデさん」

 

 「……安心せいワシは平気だわい。これ位なら、まだ我慢できる」

 

 

 吹き上がる殺意は、フレイアの心配そうな声で押さえつけられる。

 

 だが、元から短いその忍耐はいつまで持つのだろうか?

 

 

 「……ラルクベルク。ワシはいま途轍もなく気分が悪い。だからもう帰らせて貰うぞい」

 

 「……分かった」

 

 

 ラルクベルクが聞いたその言葉は、今までよりも格段に、傲慢な大王のように聞こえた。

 

 今までは取り繕っていて、これが本来の姿なのだと、悟った。

 

 それほどに、今のデデデから放たれている重圧は段違いだった。

 

 今のデデデには、今この場にいる誰であろうとも到底近づくことは出来ない。そう、嫌でも分かる。

 

 踵を返し、歩き始めるデデデが、ふと足を止める。

 

 

 「フレイア。貴様は残って、ワシの代わりに用件を済ませろ」

 

 「……分かりました」

 

 

 振り返ることもなく告げられた言葉を承ったフレイアは、デデデから背を向ける。

 

 が、そこで鮮やかな黒と蒼に染まった視線だけをデデデに残し続ける。それに気づいたデデデがだるそうに顔だけ振り返る。

 

 

 「デデデさん、やはり、やってはいけないのですか?」

 

 「絶対にやるな。これは命令ぞい」

 

 「分かりました」

 

 

 もう何もいわないとばかりに、どすどすとこの部屋に入ってきた道を引き返していく。

 

 それに異議を申し立てられる資格を持つ者は、ここには一人たりともいない。




明日、間話追加です


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銀河の辺境にある星、ポップスターの今頃

 今日はとても素敵な日だ。

 

 

 

 花々は綺麗に咲き誇り、小鳥達も楽しそうにさえずっている。

 

 

 

 こんな最高な日にその二人のような奴は……

 

 

 

 「あーあ、ホントに一体どこに行ったんだろう?」

 

 「大王様、無事だといいけど……」

 

 

 

 ぽかぽか陽気に当たりながら草原のど真ん中で寝転がっていた。

 

 

 

 

 

 セリフの深刻さの割にはだらだらごろごろしている二人に、近づいてくる者が居た。

 

 

 「ああ、ここに居たのか、カービィ、ワドルディ」

 

 「あ、メタナイト!」

 

 「メタナイトさま! どうされたんですか?」

 

 「デデデ大王の居場所を特定できたんだ」

 

 

 仮面騎士、メタナイトが淡々と伝えた事実にカービィは首をかしげた。

 

 この一週間、メタナイトは銀河中の重鎮達が集まる会議とかでこの星は留守にしていたはずなのだが……

 

 

 「へ? なんでデデデが居ないこと知ってるの?」

 

 「知っていないも何も……エスカルゴン閣下からテレビ電話があったんだ」

 

 「あーエスカルゴンからかー」

 

 

 エスカルゴンはデデデの配下の一人であり「~でゲス」という語尾がついた話方をする名前の通りかたつむりのような奴だ。

 

 最近までは避難もかねた里帰りをしていたのだけれど、このところ異変も何もないプププランドに、何年ぶりか帰ってきていた。

 

 

 「それで、デデデ大王の居場所なのだが、どうやら四霊星(しれいせい)に居るようだ。ここからだとハルカンドラよりも遠いから、おそらく何らかのチカラで転移させられたのだろうな」

 

 「チカラって、魔術?」

 

 「大方そうだろう。だがあの星には、精霊の宿る特殊な武器がある。もしかしたら精霊のチカラで強引に呼ばれたかもしれない」

 

 「ふーん」

 

 「それと、あの星には結界が張ってある。ニルのチカラなら壊せなくもないだろうが、そんなことをすると星が崩壊するから駄目だ。だが、時折起こる災害によって、その結界に抜け道が出来るから、そこを通ってデデデ大王を助け出す」

 

 「それじゃあ、マホロアのローアでそこまで行って、カービィのワープスターで行けば良さそうですね」

 

 「……いや、それはまだやめた方がいい」

 

 

 ワドルディの提案をメタナイトは苦い声音で却下した。

 

 

 「へ? どうしてですか?」

 

 「あの星は未知のところが多い。それに抜け道も制限時間がある。少しでも遅れれば抜け道がまた出来るまでは出る事は出来ない。万が一カービィが捕まれば、それだけデデデ大王の救出は困難になる。だから、先程打ち合わせをした。まず行って貰うのは―――」

 

 

 

 

 

 「……メタナイト、君今正気? 仮面外す?」

 

 

 メタナイトの言う先陣をきる者に、カービィの顔が能面のようになった。

 

 

 「私はいたって正気だし流れるように私の仮面に手をかけるなカービィ」

 

 「ぶー」

 

 「いやでも、いいんですか? その、他はともかく彼なら出来なくはないでしょうけど……気分屋だし、もしかしたら指示にそむく可能性だってありますよ?」

 

 

 ワドルディは不安そうな顔になる。「あ、面白そうなの見つけたのサ!」なんていって元の目的をほっ放り出すかもしれない。

 

 だが、メタナイトはワドルディと比べても聡明だ。それくらいの事はもう対処済みらしい。

 

 

 「確かに君の心配も分かる、出来れば不安は出来るだけなくしたい。だが彼奴は強いし、邪魔なものもある程度は蹴散らせるだろう。まあそうならないようちゃんと釘は刺しているさ」

 

 「そ、そうですか……」

 

 「後は、もしも裏切った時の為に、遠隔で魔術が使える通信機を持たせる。魔力を持った者には絶対に壊せないし、やりすぎそうなら魔術で止める。対の通信機はハイネスが持っているから、彼なら問題ないはずだ」

 

 「あ、ハイネスさんなら問題無さそうですね」

 

 

 ニルを復活させた張本人でもあるハイネスは変人だが魔術に関してはかなりの腕前だ。今の所は三魔官含めて変な動きもないし、一応命の恩もあるのだから、裏切る事はほぼないだろう。

 

 だが、カービィはジトッとした目になった。

 

 

 「えー……ぼく、ハイネスのことちょっと苦手」

 

 「お前の好き嫌いは関係ない。これはデデデ大王の命に関わる。生存を確認する為のものは、どうやらあっちで壊れてしまったから、生存確認が出来ないんだ」

 

 「そんなものあったんだ。でもなんで壊れたの?」

 

 「……かなり頑丈に作られてはいるが、電気に少し弱いんだ。まあでも、カミナリくらいの強い電気が流れない限りは大丈夫だ」

 

 「あーつまり……」

 

 「感電で可能性はある。安否が確認できないのは厄介だ。だから、一刻も早く確認する必要がある」

 

 「ん? 待ってよ、じゃあなんでデデデがそこに居るって分かったの?」

 

 「エスカルゴン閣下が大王のハンマーが使用されたことを確認できる装置を持っていた。あとあのハンマーは特殊な魔術を掛けてるから、使えるのは一応ポップスターの住人だけだ」

 

 

 カービィはもともとここの住人ではないけれど、まあ長いこと住んでいたからか、カービィが持つ特殊能力はノーカンなのだからかもしれない。

 

 それにしても、カービィはすっぴんでデデデにケンカを売られた時は、吸い込みでデデデのハンマーを奪ってコピーしている。でもデデデのハンマーをコピーしてもなぜか搭載されている筈のスイッチも何もないのはどうしてなのだろうか。メタナイトの宝剣ギャラクシアはそのままコピー出来るのに。解せぬ。

 

 

 「はーん……そうだったんだ」

 

 「そういうことなんだ。今回会いにきたのは、それについての報告の為だけだ。抜け道が生成されるのは明日だから、これからすぐに、ローアで出発する」

 

 「そっかー。頑張ってねー」

 

 

 カービィは他人事のように答える。

 

 メタナイトは呆れたように嘆息した。

 

 

 「もう少し危機感を持ったらどうだカービィ……ああ、もしかしたらデデデ城の蔵書に四霊星の情報があるかもしれないから、今のうちに調べてくれ」

 

 「えー面倒臭いー……」

 

 「なら僕が探してみます! プププランドの皆が居ればあっという間に蔵書は読みきれますよ」

 

 

 カービィは本を読む事はお世辞でも苦手だ。それを親友のワドルディは分かっている為、その役を自ら受け持った。

 

 その代わりとして、ワドルディはカービィにもう一つの役割を頼む。

 

 

 「カービィ。リップルスターの女王さまも何か知っているかもしれないから、聞いてみてくれないかな?」

 

 「そっか! じゃあぼく、ちょっとリボン探してくるね!」

 

 「うん、いってらっしゃい!」

 

 「あと、ニルと一緒に行っていいかな? 邪神達からも何か知ってるかもしれないから、聞き出してみたい!」

 

 

 カービィの言う邪神たちというのは、最近色んな星で悪さをしているとても強い奴らの事だ。

 

 本人達が「自分は神」だと言うらしいのでカービィは邪神と呼んでいる。

 

 

 「確かにその邪神から聞いても何か分かるかもしれないね! お願い、カービィ!」

 

 「分かった! 行ってくるねー」

 

 

 カービィがメタナイトが来た道とは正反対の方へとたったったと走り去るのを手を振って見届けていたら、メタナイトが踵を返した。

 

 

 「それじゃあ、私も行くとしよう」

 

 「もう行くのですか?」

 

 「ああ」

 

 「なら、一つだけ」

 

 「なんだ?」

 

 「……虹の剣が今行方不明なんです。僕、それで少し胸騒ぎがするんです。……念のため、注意しておいた方がいいと思います」

 

 「……そうか」




明日ももう一話入れる予定です


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ピンクの悪魔が跳ねる時、邪神たちは恐れおののく

明日更新とか言いながらあさって更新になってしまいました……
投稿予約時間のミスです。申し訳ありません


 デデデが向かったのは、治療院ではなかった。

 

 王都の外の草原にデデデは立っていた。

 

 ロクな理由なんてない。ただなんとなく来てみた、それだけだった。

 

 

 「……」

 

 

 はるかぜというには程遠い、心地よさのカケラもないそよ風。

 

 気持ちの悪い風だ。外見はのどかな草原だが、かりそめの平和なのだと知るには十分、その風は淀んでいた。

 

 こんなところにずっといては、身が持たないのはよく分かる。

 

 人ではない自分がいるには、あまりにも歪んでいて、そして狂っている。ここは間違いなく『人間の世界』だ。

 

 平和も安寧もほとんどない、常に理不尽が襲い掛かる、そんな残酷すぎる世界。耐える力が必要な、苦しい世界だ。

 

 ポップスターとは違う世界だとよくわかる。悪い奴を倒したら一件落着、と簡単にはいかない……

 

 でも、この世界を少しでもよくできる可能性ならある。

 

 なんとなく、この歪んだ世界は()()()()()()()()()気がする。あの赤髪の女を見たとき、マホロアのような既視感だけではなく、もう一つの違和感があった。

 

 善意なんて微塵もないような本性、そして完璧すぎる演技。それが、まるで物語に出る根っからの悪人のように感じた。

 

 

「まるで、想像の中の悪みたいな……あんまりにも完璧すぎて作り物めいた感じがしたんだよな」

 

 

 ……単なる気のせいかもしれないが。

 

 

 「――正解♡」

 

 「っ!?」

 

 

 とっさにそこから飛びのいたことが、デデデの命を救った。

 

 先ほどまでデデデが居た所に、沢山の槍が突き刺さる。あそこにいれば串刺しになっていた。

 

 間違いなく殺しにかかってきているような挨拶の仕方に、デデデの頬を冷汗が伝い落ちる。

 

 そして、デデデの背後に何かが降り立つ気配。

 

 

 「はじめまして、辺境の星の大王様。私は貴方の考える『黒幕』メディアよ」

 

 「貴様……いつの間に」

 

 「貴方は気付かなかったでしょうけど、空を睨んでた貴方の目と私の目が合ったの。だからもしかしてって、分け身を作ったの。それであなたに会いに来てみたけど……軽そうな見た目して私の顔に騙されるような脳なしじゃないのねー」

 

 

 くすくすと笑うマインとそっくりな白髪の女……メディアの実力をなんとなくデデデは悟っていた。

 

 

 (こいつ、ギャラクティックナイトよりも強いな)

 

 

 いつものエンデ・ニルと同等だろうか。少なくとも今のデデデには間違いなく適わない相手だ。

 

 ……だが、どうやらこいつが元凶らしい。

 

 

 「『マイン』は私の分け身なのよ。四聖勇者の分裂を促すような命令をしていたわ。本来ならマインで貴方に接触しようかと思っていたのだけれど、槍が邪魔で行けなかったのよね」

 

 「……本当に、目が合っただけで会いに来たのか?」

 

 

 慎重にデデデは問いかける。武器は持たない。下手に持って戦意を持たれてしまえば終わりだ。ただでさえ最初から殺意しかないような挨拶をしてきた奴だ、好戦的なタイプかもしれない。

 

 メディアがスッと目を細める。

 

 

 「本当は違うわよ。その武器に宿ってる精霊が、どうやら元の主人の力をほとんど空になるまで吸い取って呼び出したのが貴方だった。どっちにしろ近いうちに接触する予定だったわ。ま、でも一人の時に会うつもりだったし手間が省けたわ」

 

 「精霊か……」

 

 「主人の力はかなりのものだった。それでも貴方を選んだのは、この世界を救える人材として貴方のほうが優秀だと判断したんでしょうね。自分で選んだくせに。まあ、前の主人じゃさっきの攻撃を避けるのは不可能だったでしょうけど」

 

 

 饒舌にメディアはデデデがこの世界に来た理由を語ってくれる。

 

 その精霊というのは、この世界を護る為だけに存在するものということだろうか。

 

 というか、デデデの強さをどうやって知ったんだ精霊とやら。取材でもないのにアポ取らずに勝手に呼び出すとはどういう了見だ。

 

 

 「貴方は地球でもなく、この世界でもない。遥か遠くの星から現れたイレギュラー。どういう奴か、確認することは正解だったわ」

 

 

 『どういう奴』というのは、自分の手で転がせる馬鹿者か、危険を持つ制御のできない面倒な知恵者かということだろう。

 

 後者だと分かったメディアは、それでも楽しそうな笑顔を浮かべている。

 

 

 「危険はあるけど、私には適わないのは分かった。まあでも、どんな足掻きを見せてくれるか楽しみだわ」

 

 「……いつまでそんな余裕が続くか、見ものだわい」

 

 「……なんですって?」

 

 

 はっとデデデは自分の口を押さえる。だが、一度出した言葉は、戻ることはない。

 

 デデデの嘲りを含んだ言葉に眉をひそめたメディアだが、直後、大爆笑した。

 

 

 「あっはははははははははは!! 面白いこと言うじゃない貴方。いいわ、特別に波のこと、教えてあげる」

 

 「何?」

 

 「そうよ。災厄の波の真実、貴方だけに教えてあげる」

 

 

 楽しそうにメディアは話した。この世界の誰もが知らない、波の真実を。

 

 

 「災厄の波は私が引き起こしてる災害。波で死んだ奴から取れる経験値を私が手に入れるためのね。経験値は私がやっているゲームに必要なの」

 

 「ゲーム?」

 

 「私と同じ神達で、どっちが沢山経験値を集められるかっていう、ね」

 

 

 経験値。それの意味するものは、漢字一文字で表せるがとても大切にするべきもの。

 

 メディアの言う『ゲーム』……それはすなわち、その大切にすべきものを沢山奪うような、残虐な遊戯。人間の持つ残虐性がはっきりと分かるような、普通の神経をもつものならきっと吐き気を催すくらいに邪悪な……

 

 暇を持て余した神々の遊び、そう称せるけども、神は神でも、悪い神々の遊びだ。

 

 そう思っていたデデデは、不意にあることを思い出した。

 

 

 「神? ……あー、そういえばカービィとニルが暇すぎて、どっかの邪神をどちらが沢山倒せるかゲームしよう! とか何とか言ってたわい」

 

 「……えっちょっと待ってそれいつのこと?」

 

 「ん? ワシが呼び出される直前の記憶はないがそれよりも前のは覚えてるんだが、それでも一年前からか?」

 

 「……最近他の神とのコンタクトが取れなかったのはまさか……ちょっと確認してくるわ」

 

 

 顔面蒼白のメディアの分け身がそこから掻き消えた。

 

 あの二人のことだから、そこらの中ボス程度、瞬殺などお茶の子さいさいだろう。それだけではなく、どうやらあのピンク玉、暇を持て余したから始めた程度のゲームで神殺しの神器『ティンクルスターアライズ』まで持ち出していた。ニルでさえ真モードの巨人の姿だった。

 

 なんとなく、メディアを待ちうけているであろう展開を察した。

 

 デデデは憂いを帯びた顔でしばらく空を見ていたが、日が暮れてきたころに、そろそろ自分も帰ることにした。

 

 

 

 

 

 ☆大王様移動中……★

 

 

 

 

 

 治療院まで帰ってくると、フレイアが待っていた。

 

 任された残りの用事はほとんど済ませたけど、デデデが居ないと出来ないのがあったから、全てこなすのは無理だった。だから今すぐに砂時計のところに行かないといけない、とのことだった。

 

 デデデは龍刻の砂時計の所に行って用事を済ませた後、城が用意していた豪華な部屋で波の前の最後の一夜を過ごした。

 

 ……黒幕メディアは、一睡どころじゃなかったようだが。




カービィとニルが邪神狩りを始めた理由


 「ねえねえカービィ、チョットいいカイ?」
 「んー何、マホロア」
 「最近ボクのローアにちょっかい出してくる奴らが多いんダヨ……今はまだ大丈夫ダケド、その内本当にローアが墜落しちゃうかの知れないカラ、どうにか出来ないカナ?」
 「え? ローアにちょっかい出してくる奴が? 物好きなのかな?」
 「多分単なる暇つぶし代わりダヨォ……ボクにとってはホンットウに迷惑ダケドね! アイツラ、人間みたいな見た目だけど、結構強いカラ、多分ティンクルスターアライズ使った方がイイんじゃないカナ?」
 「(あれ、いつの間にか倒す運びになってる? いやまあ助ける気はあるけど)ティンクルスターアライズが必要なら、ニルも連れて行った方がいいかも」
 「ああ、そうダネ! 確かにその方が倒しやすいかもしれナイシ……」
 「そうと決まれば、早く準備しなきゃ! ニル呼んでくるからスタアラ持って来てて、マホロア」
 「ワカッタ。
 ……今のウチにアイツラ排除しとけば、コノ平和な星に危害が加えられるコトもないダロウシ、キットこれでイイはず」






 この星で平和に暮らしたいマホロアが犯人だった。ちなみにマホロアも邪神の正体を全く知らない。


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災厄の波

あけましておめでとうございます!

波直前から。


 「もうすぐその『災厄の波』が起こるんだな」

 

 

 太陽ももうすぐ地平線の裏に隠れようとしている夕方。澄み渡るような茜色の空の下で、これから災害が起こるなんて信じられないような快晴だ。

 

 どんな災害なのかは分からない。だけど、未知の強敵に挑む前のようなわくわくとした気持ちで、一行は波が起こるその時を待つ。

 

 そして――バキン! とガラスが破壊されるような音が響いた。

 

 穏やかな平和を感じさせる澄んだ茜色が、不安を煽るような濁ったワインレッドに染まる。三勇者達が中心に向かう姿が見える。

 

 デデデはその様子を見ながら、にやりと笑う。

 

 

 (ワシでも対応には問題なさそうだわい。場合によってはワシの力でどうにかできるか怪しかったがな)

 

 

 それこそナイトメアや星の夢、エンデ・ニルとかが出てきていればデデデの手には負えなかっただろう。

 

 歴戦の勘というものなのだろうか、なんとなくデデデには今回は自分の手におえないような化け物は出てこないという予感があった。

 

 さて、さっさとボスを〆てくるかと思った時、視界の隅に、昨日見た二人分の後姿が映った。二人が向かうのは、三勇者の方向とは違う。

 

 二人の向かう先にあるのは、リユート村だ。

 

 

 (……そういう事か。なら)

 

 

 「貴様らは中心に向かえ」

 

 「ちょっと待ってくれ、坊主があっちに」

 

 「あっちにはワシが行く。フレイア、二人を運べ」

 

 「……」

 

 「我慢させてすまんな。あと、出来るだけ早めにケリをつけろ。少しでも犠牲者は減らしたいぞい」

 

 

 不満げなフレイアの頭をデデデがわしゃわしゃと撫でる。

 

 乱れてしまった髪を直しながらぷうっと頬を膨らませるが、そのうち鳥の姿になる。

 

 

 「後で美味しいもの沢山食べさせてくださいよ」

 

 「わかっとるわい。食べるんならグルメレースの方がワシはいいがな」

 

 「グルメレース?」

 

 「コースに配置されてる食べ物を食べながらゴールまで走る奴だぞい」

 

 「脇腹が死ぬ奴だろそれ……ま、分かった。坊主たちのこと、頼むぞ」

 

 「おー、そっちも頼むぞい」

 

 ラルク、テリスがフレイアの背中に乗る。フレイアが軽やかに波の中心へと飛んでいくのを見届けてから、デデデはナオフミ達を追った。

 

 

 

 

 

 ☆大王様移動中……★

 

 

 

 

 

 ナオフミは一人で沢山の魔物たちを誘導していた。上手く気を引いて、村人たちを逃がす時間を稼いでいるようだ。

 

 そこにデデデが突っ込み、ジャイアントデデデスイングで一気に蹴散らす。

 

 

 「デデデ!? どうしてここにいるんだ、フレイア達はどうした!?」

 

 「あっちを任せてるぞい。ここの防衛は貴様らだけでは手が足りんと踏んで来ただけだわい。安心しろ、ワシ一人でもここを守るには十分くらいには強いぞい!」

 

 「……何にせよ心強いのには変わらないな。助かる」

 

 「礼なぞいらんわい。当たり前のことだからな」

 

 

 デデデがおにごろしデデデハンマーで一気に虫の魔物を吹き飛ばす。ハンマーを振り回せば、それだけで周りの魔物たちはなぎ倒され、ぶっ飛ばされ、叩き潰される。

 

 まさに理不尽的暴力の権化。デデデ大王らしいといえば、らしいような力任せの戦いだ。姿形が変わろうとも、デデデ大王はデデデ大王ということなのだろう。

 

 しかし、どんどん魔物の亡骸が増えていく一方、魔物の数は減るどころか増えていっている。

 

 

 (くっ、埒が開かんぞい!)

 

 

 仕方ない、とデデデはハンマーのジェットエンジン機能を使用し、一度に一気に吹っ飛ばしていく。が、それでも数は一向に減る様子はない。

 

 

 「ナオフミ様! 避難誘導が終わりました!」

 

 「でかしたラフタリア!」

 

 「む、狸娘、居たのかぞい」

 

 「最初からいましたよ」

 

 

 剣を振り回しながら答えるラフタリア。

 

 その姿にデデデは心強さを覚えた。

 

 

 (前からよく奴を見ていたからかもしれんがな)

 

 

 一流の剣術は、まるで華麗な演舞のようだと聞いたことがある。

 

 デデデはそれは事実だろうと思っている。確かに、あの仮面騎士の剣術は銀河中にも通じるような腕前だろう。姿がアレ(一頭身)なところもあるが、確かに踊っているようにも見えなくもない。

 

 今のラフタリアでは、それとは程遠いが、なんとなく通じる所はある。洗練すればもしかしたら……

 

 あの通称世界一カッコいい一頭身が居ないことが悔やまれる。奴が居ればラフタリアを指導してくれたかもしれない。八つ当たり気味にハンマー投げで巨大な魔物を爆発四散させた。

 

 

 「……強いな」

 

 「なんとなくですが、デデデさんが別の世界から強制的に呼び出された理由が分かりますね……」

 

 

 ナオフミとラフタリアはデデデの無双ぶりに驚きを隠せていなかった。

 

 デデデの強さは、巨大グリフィンを単身で倒せるのだからかなりのものだろうというのは分かっていた。

 

 だが、それでもこうこの鬼神のような戦いぶりを見せ付けられては……

 

 

 ((あの強さに追いつける気がしないな……))

 

 

 どこかの未来で神に成り上がるという快挙を成し遂げている二人はそう心の中で思った。

 

 だが、そんな驚きも長くは続かない。

 

 

 

 「……!? ラフタリア、デデデ!」

 

 「分かっとるわい! 貴様は狸娘を守ることに専念しろ!」

 

 「えっ!?」

 

 

 ナオフミがラフタリアをかばうのと同時、火の雨が降ってくる。

 

 そのことにはナオフミと同時に気づいたデデデは、火の雨の中を駆けていく。

 

 火の玉がデデデの身にかすっていく。若干の火傷を負いながらも、動作の問題にはなりえないのが幸いか。

 

 それでも、これを()()で降らせられるというだけで、脅威にもなりえる。

 

 だが、味方も巻き込みかねない大雑把な攻撃だ。なんとなく引っかかるものがあったが、デデデは魔物だからどうせそこまで知能はないのだろうとその違和感を無視した。

 

 しかしどうしたことだろうか。魔法を放っただろう魔物の姿はどこにもない。全員肉弾戦が得意そうな奴のみだ。

 

 襲い掛かってくる魔物を叩き潰しながら、デデデは村を一周する。

 

 

 (一体誰が降らせたのかぞい……?)

 

 

 疑問と胸騒ぎを抱えながらデデデは走る。

 

 ナオフミ達が居る所まで戻ったとき。デデデは見た。

 

 ラフタリアと、いつの間にか来ていた謎の鎧の軍隊(多分)の間に立つ、あのピンク玉がビームをコピーした時の帽子の色違いを被った、青年。

 

 戸惑った顔で背を向けている青年に向けている剣を降ろそうとしているラフタリア。ナオフミも同じく戸惑いを隠せないまま、ラフタリアに駆け寄る。

 

 こちらからでは顔色の伺えない青年を見たデデデは、不安が的中したのを思い知った。

 

 

 ――コイツ、ワシ同等か、それ以上のチカラをもっている!




次回、VS謎の青年(???)戦。

また更新が遅くなりそうです……


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天かける船・ローアの船内にて

捏造設定ありです。





四霊星(デデデのいる盾勇世界)に向かう太古の宇宙船ローア。
何の異常もなく悠々と銀河を飛ぶ様子とは裏腹に、船内は……


 

 メタナイトは頭を抱えていた。

 

 仮面のスリットにはいつもの黄金の目はなく、空虚な漆黒しかない。彼が悩んでいる証拠だ。

 

 そして彼が悩んでいる理由は、この空間にあった。

 

 

 「………………」

 

 「………………」

 

 

 船内のモニター前で、せわしなくコントロールパネルを叩くマホロアをはじっこからじーーーーーっと静かに見つめる、幽霊の如く佇むローブの者。

 

 狂乱の魔術師・ハイネス。マホロアの昔の知り合いなのだという彼は今、まるで『ずもももも……』という擬音が似合うような雰囲気を漂わせていた。

 

 ハイネスの威圧には気づいているだろうマホロアは平然としている……と思いきや半眼で、パネルを殴るように叩いていた。

 

 二人の間にある一触即発の空気は、全く関係ない者達にまで及んでおり、船内の雰囲気は最悪だった。

 

 

 

 

 

 今回のデデデ救出作戦で、メタナイトは複数回を想定してその上で作戦に適したメンバーを選んだ。その中に、マホロアとハイネスの二人が居たのは、本当に偶然だった。

 

 メタナイトはしくじっていた。この二人は犬猿の仲だと分かっていたはずなのに、四霊星の現象『災厄の波』に間に合わせる為に焦っていたことで、そのことをまるっきり忘れ、任意的ではマホロアしか操縦できないローアを移動手段に、四霊星に突入した後の指示用としてハイネスの一族でしかつかえない通信機を使用することにしてしまった。

 

 ミスに気づいたのは準備を終え、仮眠を取った後だった。

 

 

 (くっ……銀河の首脳会議の代理に出席した時のあの襲撃で寝不足だったせいで、判断力が落ちていたか)

 

 

 一年程前から、銀河は珍しく大荒れだった。自国の領地を別の星にまで広げようと戦争をしている国が多く、一年に一回開かれる銀河中の王が集まる首脳会議でも、王から国、星の現状を聞きだし攻めようとする輩ばかりだった。(ちなみにメタナイトはデデデの代理として毎回出ている)

 

 勿論それを止めようとするメタナイトを代表とする重鎮たちも居る。今回は説得及び公にはいえないあくどい手をも使って、平和条約を結ぼうとした。

 

 だがその時に、規模の大きい宇宙海賊が襲撃してきたのだ。

 

 勿論ドロッチェ団ではない。彼らはメタナイトとは一応友人関係にある。それに、あのネズミは狡猾だ。あんな数だけに頼った連携も何もないような安易過ぎる作戦をするような奴ではないし、何より彼が欲しいと思うような宝などない。

 

 後にその宇宙海賊達は、平和条約を結ぶのを阻止する為に反対派の大国が金で雇った者だと自白し、結果的にその大国は銀河中から大バッシングを受け、得ていた全ての信頼は失墜した。しかし、メタナイトが寝不足になったのは、丸一日にわたる戦闘及び、尋問云々の雑用を寝る間も与えられずにやらされたからである。

 

 実の所、本来ならまだやるべき雑用があった。だがそこは、部下のメタナイツらの独断の行動によってやめられた。

 

 はぁ……と後悔の溜息をついているメタナイトの背後に、歩み寄る二人の姿。

 

 ふりむくと、自分の部下であるソードナイト、ブレイドナイトが居た。

 

 二人がばっと頭を深々と下げる。

 

 

 「申し訳ありませんメタナイト卿! 私達の判断が遅れたばかりに……!」

 

 「気づいた時に、すぐにでもやめさせるべきでした。このようなことになったのは卿のせいではありません。事を重く見なかった私達の責任です!」

 

 

 本当に申し訳無さそうな声音で、ちゃんとあの二人にばれないような小さい声で謝罪した。

 

 二人は何も悪くないと言うのに、自分の認識の甘さが彼らに責任を持たせてしまったのだろう。元々あった罪悪感が膨らんでいくのを感じながら、メタナイトは二人に言葉をかける。

 

 

 「……よせ、二人に悪い所などない。大体悪いのはそう判断させられる行動ばかりするデデデ大王だ。だが私も、二人の様子の変化には気づいていたが、無視していたんだ。私にも責任はある」

 

 「いいえ! あの時、ワドルディ船員がデデデ大王の失踪を伝えてきた時、私達は迷ってしまいました。またどっかにふらっといったのかもしれない。卿の手を煩わせるまでもないことだと思っていました。すぐに伝えていれば、卿が寝不足になる事も、マホロアとハイネスを同行させてしまう事もなかっ」

 

 「おい馬鹿ソード!!」

 

 「はっ……あ……」

 

 

 熱くなって声を大きくしてしまっていたソードナイトが口を手で覆った。その時には、二人の視線はソードナイトに移っていた。

 

 

 「……ふーん。そうナンダ。ベツに、ワザとじゃなかったンダんダネ」

 

 「ふぅ~む……わざとだったらワタクシもぉ、ただではぁ、おきませんでしたがねぇ……会議で寝不足だったのなら仕方ナイですねぇ」

 

 

 ソードナイト、地雷回避成功。

 

 目を細めた双方は、ふいっとソードナイトから目線を外した。

 

 一瞬向けられた強烈な殺気が消えたことで、ソードナイトはその場にへたり込んでしまった。

 

 

 「……っは……よかった……」

 

 「メタナイト卿、ソードを奥で休ませてきても宜しいでしょうか」

 

 「構わない。しっかり休ませてやってくれ」

 

 「はい。ソード、立てるか。無理なら俺の背中に乗れ」

 

 「う……くそ、立てない。すまないブレイド、乗せてくれ」

 

 「ああ」

 

 

 彼もメタナイトの部下だけあって相当の戦士。だからこそ、感じ取ってしまった死の恐怖で腰が抜けてしまったようだ。

 

 ソードナイトをおんぶしたブレイドナイトが仮眠室に向かった後。

 

 メタナイトはいい加減にこの状況を打破しなければと、決意したように拳を握り、未だにマホロアに向けて殺気を向けているハイネスに声を上げた。

 

 

 「ハイネス。これから死地に向かうんだ。君がそんな様子じゃあ、こちらも休めるものも休めない。だから、ポップスターに帰還するまでの間でいいから、カービィの前のときと同じように接してくれないか」

 

 「は?」

 

 「っ……」

 

 

 ハイネスにギロッと睨まれ、メタナイトは思わずたじろぐ。

 

 だが、そんなメタナイトの方にぽんと黄色い手が置かれた。

 

 

 「メタナイト様の言うとおりですわ。貴方がたの因縁は存じ上げませんが、そんなにピリピリしていては、休めるものも休めませんわ」

 

 

 ハルトマンワークスカンパニーの秘書を務めている、スージーが腰に手を当てて、溜息混じりに言った。

 

 

 「マホロア様、ハイネス様。我がハルトマンワークスカンパニーが製作したリラックス作用のある紅茶を飲んで下さいませ」

 

 

 どこからか上品な装飾のついたカップとポットを取り出し、ハイネスの方に向かう。

 

 紅茶をカップに注ぎ、取り出した皿に載せて、差し出した。 

 

 

 「……別に、いりませんよ」

 

 「そう殺気を周囲に放たれていたらワタクシたちが迷惑なのです。やることがないならさっさとコレを飲んで、来るべき時に備えて寝てもらいたいのですわ」

 

 「それがアナタのぉ、本音なのですねぇ……」

 

 

 辛辣な本音をストレートに本人に言う辺り、かなりムカついているようだ。

 

 ハイネスは、ちいさく溜息をつくと、ふらりと仮眠室に向かいはじめた。

 

 

 「アア、ボクもいらないヨ、スージー。デモ、アイツを追っ払ってくれて感謝するヨォ」

 

 「……ただそこに居るだけであんなに殺気を向けられるなんて、貴方、ハイネス様に一体何をしたんですか?」

 

 

 本当にせいせいしたといわんばかりのマホロアに、総員の言えなかった疑問を、スージーがついに言った。

 

 言った瞬間、船内がしん……と静まり返る。

 

 本当に静かだと耳が痛くなるということを身を以って実感しながら、全員はマホロアを見つめ続ける。

 

 お前は一体何をしたんだ、と。

 

 

 「……昔のことダヨ。ボクの一族が、ハイネスの一族を銀河の果てに追放したンダ。ハイネスは長いこと封印されて、その間に朽ちナカッタ、マア、所謂一族の数少ない生き残りダヨ」

 

 「封印?」

 

 「ソウ。カービィが復活したナイトメアを封印しなおすよりも遥か昔、夢の泉に封印される前のナイトメアがボクとハイネスの一族を襲った。でも、その時はハイネスたちが追い払ってくれたンダ。……追い払ったって、()()()()()()()

 

 「思い込まされた、って……それじゃ、追い払ってはなかったってことなのサ?」

 

 

 先程までつまらなさそうにテーブルのチョコクッキーを頬張っていたマルクが、戸惑ったように言う。

 

 マホロアはあくまでも淡々と、感情を気取らせないような声で語り続ける。

 

 「ナイトメアはハイネスの一族のミンナを操ってボクたちも手中に収めようとした。多分、ハイネスの一族だけじゃなく、ボクの一族のチカラもあれば、銀河中の生き物達に悪夢を見せられると踏んだんダロウネ」

 

 「じゃあ、その洗脳を解けば良かったんじゃないのか?」

 

 「アー……それがね、長の手違いで洗脳の解除じゃなくて、封印シチャッタんダヨ」

 

 「「「「「はぁ!?」」」」」

 

 

 全員の予想の斜め上の展開に、思わず全員が叫ぶ。

 

 マホロアが額に手を当てながら、憂鬱そうな声をだす。

 

 

 「ボクもその時、その場に居たんだけどネ、ナイトメアが操っていたハイネスの一族の中で、一番の実力を持つ魔術師経由で、ボク含めた何人かが封印されたンダ。ボクがまだこの時代でも生きてるのはそれが理由」

 

 「ああ、だから……」

 

 「デ、ハイネスは長い時間を経て、ボクよりも結構遅く、封印から目覚めた。その時にはもうカービィが夢の泉にナイトメアを封印した後だったカラ、洗脳は解けていたンダ。デモ、ハイネスは多分、洗脳時の記憶はなくても、封印直前の記憶は覚えてたんダロウネ。だから、ボクの一族が封印したことを覚えてて、それで封印した一族の一人であるボクの事を恨んでるんだと思う」

 

 

 そう、つまりは……

 

 

 「ナイトメアがゼーンブ悪いのサ!」

 

 「確かにそうだが、どうしてそのことをハイネスに説明しないんだ?」

 

 「……こんな、フザケてるような理由を、ズットボクの一族を恨んでいたハイネスが聞き入れるとは思えないンダ」

 

 「それでも、一応言っておくべきだ。もしかしたら、信じてくれるかもしれないぞ」

 

 「……考えておくヨ……スージー、やっぱり紅茶チョウダイ」

 

 「分かりましたわ」

 

 

 とくとくと透き通った茶色の液体がカップに注がれていく。

 

 ハーブのいい匂いが、ただよってきた。

 

 

 「ふむ。スージー嬢、何の香料を入れてるんだ?」

 

 「未知の機械が生き永らえ続けていることで有名な星であるホログラムスターにのみ生息する、プライムリーフを使った紅茶ですわ。メタナイト様もどうぞ。ワタクシの渾身の作品なのですわ!」

 

 「ほう……」

 

 

 紅茶に興味を示したメタナイトに、待ってましたとばかりにスージーが丁度紅茶を入れきったカップを差し出す。

 

 

 「エ、マッテ。ボクのハ?」

 

 「メタナイト様が先ですわ」

 

 「酷ッ!?」

 

 「アッハハハハハwww」

 

 

 床を転げまわって笑うマルクに、ムカついたマホロアがエネルギー弾を放つ。

 

 四霊星でダークマターの放ったエネルギー弾と比べることすら無粋なくらいの強大な力の込められた、まともに受ければただではすまなそうなそれは、マルクの体が真っ二つになったことで発生したブラックホールに吸い込まれた。

 

 毒々しい緑の粘液を残してまた元通りに戻ったマルクはどんまーい! とばかりにニヤニヤしているが。

 

 

 「……ローアは一応ボクのだからネ? 掃除しないと宇宙にほっぽりだすヨ?」

 

 「えっ!? い、嫌なのサ」

 

 「さっさとしないと、締めるヨ?」

 

 「ヒィッ! わ、分かったのサ!」

 

 

 マホロアの有無を言わさぬ迫力にマルクは撃沈した。

 

 

 「ここは外じゃないから、地面に吸い込まれることはないって分かってなかったみたいなのね。全く……」

 

 

 呆れたように溜息をついたタランザは、糸でテーブルの上のどら焼きを絡めとり、口の中に放り込んだ。

 

 「タランザの言うとおりだな。あと、スージー嬢。ハイネスの説得に手を貸してくれたこと、感謝する」

 

 「ええ、まあ。ワタクシもはなはだ迷惑でしたので。ところでメタナイト様! 今回の任務が終わった後に、ウルルンスターの実地調査に同行していただけませんか!?」

 

 (これを狙っていたのか)

 

 

 見え透いた魂胆にメタナイトは内心辟易した。

 

 たまに視察という名前のデートに誘われるのだが、今まで断ってきた。だが今回は恩がある手前、断りづらいというのもあるため、メタナイトはこれを了承した。

 

 

 「ああ、分かった。ウルルンスターには私も行った事がないから、いい機会になるかもしれない」

 

 「ありがとうございますわ!」

 

 

 おいなんで貴様ら一瞬ざわってしたんだ。スージー嬢の誘いを受けることの何がおかしい。

 

 テーブルで駄弁っていた奴らが驚愕の表情を見せていた。そしてその中の二名がテーブルの中央に視線を向けて、何かこそこそ話し始める。

 

 

 「メタナイトがあの腹黒女の誘いを受けるなんて……この後災害でも起きるかもしれないのね」

 

 「そうだな。ささやかだが恩があるとはいえ、奴の誘いを受けるなどまさに飛んで火に入るなんとやらだ。オリジナルの奴、血迷ったのか?」

 

 「きーこーえーてーまーすーわーよ?」

 

 

 メタナイトも気づけないくらいの超絶的な動きでタランザとダークメタナイトの背後に回ったスージーが、二人にアイアンクローをかました。

 

 二人の絶叫が船内に響く中、メタナイトにふわふわと近づいていくものが居た。

 

 

 「メタナイト」

 

 「む?」

 

 「モウスグ四霊星に着くヨ。準備シテ」

 

 「分かった」

 

 「キミの言っていた狭間とやらしきモノが今さっき、幾つか開いたカラ、着いたらスグに入るんだ」

 

 「時間はあまりないということか。全員、突撃準備をしてくれ! 四霊星までもうすぐだ!」

 

 

 メタナイトがそういった時、船内の和やかな空気が一変、まるで今戦っているかのような張り詰めたものへと成った。

 

 

 「やーっとか……」

 

 「フフ、楽しみなのね」

 

 「メンドくさいからさっさと終わらせてやるのサ」

 

 「やるからには全力でやらせていただきますわ!」

 

 「現地人との交戦は出来るだけ控えるようにな、皆。さて、ソードとブレイドとハイネスを呼ばないと」

 

 

 その時、ピピピピーッ! という電子音が鳴り、船内のモニターに中心に映像が展開された。

 

 そこには、ウルトラソードの帽子を被ったカービィと、白い姿の星誕ニルの顔のどアップがあった。

 

 

 『あ、繋がった!』

 

 『メタナイトーマホロアー、いまぼくたち、ローアのちかくにいたわるいかみさまたおしたよー。たぶんもうひとりいるだろうけど、いまのところはくるようすはないから、あんしんしてー』

 

 『あのね、さっきローアの姿が見えたからついでにテレビ電話できるかっていう実験もかねて電話してみたんだ』

 

 

 邪神の懸念は消えたと見ていい、二人は有力な情報をくれた。メタナイトは胸をなでおろす。

 

 

 「ミンナ! 船首甲板(せんしゅかんぱん)に上がって! 到着するヨ!」

 

 

 ちょうど四霊星にも着いたようだ。皆が船首甲板に向かい始めると同時に、メタナイトは仮眠室に居る三人の所に飛んでいった。




カービィ達が倒したのはメディアではなく、ラルクたちの世界の奴です。
つまり、この物語はまだまだ続きます。



おかしい所があったら指摘してくれると助かります。


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