戦う炎の料理人 (ドミネーター常守)
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12人目の超新星降誕編
地獄から這い上がる黒足




新世界編に入ってからのサンジってなんだか本当に悲惨ですよね。料理の修業があったから仕方ないとはいえ、主戦力と言われつつルフィとゾロとの差が広がりっぱなしで、レイドスーツ手に入れたとはいえ、サンジとゾロ…どちらが強いか…。

カマバッカ王国に飛ばされるわ、女に対する免疫落ちるわ、鼻血噴き出して出血多量で死にかけるわ、輸血してくれたのオカマだったわ、パンクハザードとドレスローザでの戦績悪いわ、ホールケーキアイランドでは急激な成長ないわ…唯一良かったことといえば、プリンちゃんがガチで惚れたこと?
そしてキスされたこと?キスされたよね?

そんなサンジに救いの手を!と、思って書いてみました!!



 

 

 拝啓───ナミさん、ロビンちゃん。

 ナミさんは"()()"、ロビンちゃんは"()()()"の保護下にちゃんといるでしょうか?

 二人のことが心配だ。

 

 ただ、二人が心配で夜も眠れない───と言いたいとこだが、俺は今、またしても()()()()()()()()しまい、別の意味で夜も眠れない状態だ。

 

 二度あることは三度ある───俺は今、まさにそれを経験、いや、体感、体験中です。

 

「ちくしょーーーう!なんで俺ばっかこんな目に合わなきゃいけねーんだよッ!?」

「ねぇ、あなたもそうなんでしょ!?」

「違うつってんだろうがッ!!俺が愛するのはレディのみだ!!オカマなんてもうこりごりだッ!!」

 

 一度目は()()()。俺達が"七武海"のバーソロミュー・くまによって散り散りに飛ばされてしまった時───俺からしたら()()のこと。

 

 そして二度目は、魚人島で出血多量で死にかけた時。認めたくないが、俺はそこでオカマに救われた。

 一度目も、何だかんだでオカマ達には救われ、鍛えられ───それについてのみは感謝している。

 

 ただ、三度目はなくていいはず。

 

「それなのにどうして…よりにもよって"()()()()()()()"に飛ばされた時に()()()んだよ!?」

 

 死んだらきっと地獄行きだろうと思っていた。ただ、過去に戻っても地獄なんてあんまりだ。

 

 ナミさん、ロビンちゃん───どうか俺を助けてください。

 

「ようこそ!カマバッカ王国へ!!」

「ウオオオオオ!!」

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 麦わらの一味。それは、話題沸騰の超問題児ルーキー一味である。

 

 懸賞金3億ベリーの船長"麦わらのルフィ"を筆頭に、"海賊狩りのゾロ"、"そげキング"、"泥棒猫のナミ"、"綿あめ大好きチョッパー"、"悪魔の子"、"鉄人(サイボーグ)フランキー"、新入り"鼻唄のブルック"。そして、"黒足のサンジ"。

 少数精鋭でありながらも一味全員が賞金首、個々の能力が高いことで注目を浴びている一味だ。

 

 "偉大なる航路(グランドライン)"の中でも有数の文明大国である"アラバスタ"に於いて、元七武海のサー・クロコダイルの討伐。

 そして、世界政府の直轄地である司法の島"エニエス・ロビー"を陥落させ、更には"シャボンディ諸島"にて"天竜人襲撃事件"を起こし、常に話題に事欠かない傍迷惑極まりない一味として世界政府、海軍には認識されている。

 

 ただ、そんな麦わらの一味なのだが、シャボンディ諸島にて天竜人を襲撃後、その事件現場であるシャボンディ諸島から忽然と姿を消してしまったらしく、海軍本部大将"黄猿"が差し向けられたのにも関わらず、逃げ切ることができたのかと一部の者達を困惑させているようだ。

 

 麦わらの一味はいったいどうやって逃げ切ったのか、それは当人達しか───いや、当人達がそれを、真実を知るのは()()()のこと…。

 

 

 *

 

 

 麦わらの一味がシャボンディ諸島から姿を消して3日後───一味のコックであり、主戦力、そして頭脳(ブレーン)でもある"黒足のサンジ"は"偉大なる航路(グランドライン)"の前半に位置する島、モモイロ島"カマバッカ王国"にて、()()()()で地獄の鍛練を遂行中であった。

 

「サンジきゅん、スッゴいじゃないのォ!!」

「オカマに誉められても少しも嬉しくねーんだよ!!

小悪魔風脚(プティ・ディアブルジャンブ)千切り(ジュリエンヌ)】」

 

 無数の目に見えぬ細い飛ぶ斬撃が、目にも止まらぬ速さで宙を飛んでいるサンジの両足から、強靭な肉体を持つオカマ達へと放たれる。

 

「ウオオオオ!!」

 

 怒りでヒートアップすることはあれど、常に冷静沈着なサンジが雄叫びを上げている姿はなかなか見れるものではない。

 それだけ本気で、そして必死で───何かに追われているかのように血眼で死に物狂いの様相だ。

 

「"()()()()()()()"まで3日で着くとはいえ、万に一つ…()()を早めてくる可能性だってあるんだ。

 俺は今日中にお前ら"新人類(ニューカマー)拳法"師範…99人全員に勝ち、ルフィが必ず向かうであろうマリンフォードに行かなきゃならねェ!!」

「まあ!この短時間でわたす達師範の10人を倒したってだけでも凄いのにぃ…今日中に99人倒しちゃうだなんて、本当にワイルドねぇ。ますます惚れちゃうわ!!」

 

 カマバッカ王国のオカマ達は、ただのオカマではない。"攻めの料理"を用いることで、強靭な肉体を持つ新人類(ニューカマー)へと成長を遂げた存在なのだ。

 

 食事とは環境。体格、性格、人体の全てを作り上げるものなのである。

 

「お前らが強いことも、強さの源も知ってんだよ。だが、俺は負けるわけにはいかねェ!

 ルフィには返しても返しきれねえほどの恩があるんだ!アイツが苦しんでる時に…俺がこれ以上立ち止まってるわけにはいかねェんだよ!【"()()()()"堕天使風脚(アンジュ・デシュ・ジャンブ)点火(フランベ)】!!」

「く、黒い炎!?」

 

 サンジの両足が、黒光りする炎に包まれ燃え上がる。

 

「もう二度と…俺は…」

 

 サンジは思い返す、己の数々の()()を。シャボンディ諸島にて散り散りになった麦わらの一味全員が2年間の時を経て、己を鍛え上げ再び集まった───サンジにとっての前回の人生。

 だが、サンジはその2年の修業も虚しく───命を落としてしまったのだ。地獄の2年はいったい何の為だったのかと、悔やんでも悔やみきれないだろう。

 

 しかし、カマバッカ王国で目が覚めた現在、その未来はまたしても回避することはできないだろう。ただ、サンジはその2年という月日がそれぞれにとって非常に大切な月日であることも理解していた。

 

 そして、サンジは強く思う。死という最悪の経験をして過去に戻った今───以前よりも己を鍛え上げ強くなり、待ち受けているであろう強敵達を、()()()()()を、死という運命を回避し、断ち切ることができるのではないかと…。いや、できるできないではない。サンジは必ず生き残るつもりなのだ。

 

「ただ、今は()()()()()()

 

 そう、彼だけは───"麦わらのルフィ"にとってだけは少し違う。これから数日後に麦わらのルフィを待ち受ける運命───それはあまりにも悲惨なもの…。

 

「俺の身に…どうしてこんな()()が起きてしまったのかはわからねェ」

 

 ただ、ある一件にて命を落としたサンジが、こうして過去に戻ったことで、麦わらのルフィの身に降りかかる悲劇を回避できるかもしれないチャンスがやって来た。

 

 サンジがこれから乗り込もうとしている戦地───海軍本部マリンフォードはバケモノ揃いの場所。

 ここが可愛く思えてくるほどの地獄と化すであろう場所へと、サンジは運命を変えようと必死に抗い、赴こうとしているのだ。

 

「俺は必ずルフィを海賊王にしてみせる!コックとしてだけじゃなく、麦わらの一味の主戦力としてアイツを支えてやる!

【スラッシュ・セジール!!】」

 

 己の異名である黒足に更なる息吹きを吹き込んだサンジ。黒炎に包まれた黒足は武装色の覇気を纏い、その武装色の覇気により硬化するだけではなく鋭化させることで、その足を切れ味鋭い刃物のように───いや、黒刀へと進化を遂げる。

 

「あ、あたす燃えてるッ!!」

 

 その蹴りは鋭い一太刀。その速さはまるで居合い───いや、サンジのそれは遥かにそれを超えるもの。

 

 斬撃と化した蹴りと激しい黒炎が、カマバッカ王国にて激しく燃え盛る。

 

「待ってろよルフィ。俺がお前を支えてやる」

 

 全ては船長の支えとなる為に───その日、サンジは火事場の馬鹿力を発揮しやり遂げるのである。

 

 そしてそれより6日後、彼はマリンフォードにて再び船長の隣に並び立つ。

 

 






カマバッカ王国に飛ばされ鍛えられ、出血多量で死にかけオカマに救われ、そして二度あることは三度あって逆行したらまたカマバッカ王国!!

このサンジくん。ホールケーキアイランド編で死んで逆行した設定です。

今、カマバッカ王国でルフィのもとに向かう為に急ピッチで鍛えております。
感覚など、精神、心、頭が覚えていたこともあり、空中歩行、武装色、見聞色の力はまた手に入れております。

そして火事場の馬鹿力により、新たな力開眼。

小悪魔風脚(プティ・ディアブルジャンブ)
嵐脚を放てるように。そもそも原作で空中歩行できるのに、何故これはやらない?

堕天使風脚(アンジュ・デシュ・ジャンブ)
黒炎を纏った悪魔風脚。武装硬化を改良し、足を鋭く"武装鋭化"させ、黒刀へと進化させた。


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到着



ONE PIECEの小説で好きだったのがいつの間にか消えてるゥ!!



 

 

 "黒足のサンジ"。懸賞金7700万ベリー。

 

 エニエス・ロビーを陥落させた麦わらの一味の主戦力である彼が、初頭でそれだけの懸賞金を懸けられるのは当然のこと。しかし、今の彼の真の強さはその額には決して見合ってはいない。それは決して、その額に見合った強さを有していないというわけではなく、その逆でそれ以上の強さだということである。

 

 ただ、そこに関しては相手の油断を誘えることもあり、サンジ本人もそれを受け入れてもいた。ただ、犬猿の仲である"海賊狩りのゾロ"に負けていることだけは悔しさを滲み出しているようだ。

 

 実際のところはそれも些細な問題であり、サンジが一番気にしていることは懸賞金の額でも、ゾロに負けていることでもないのだが…。

 

「これから向かうマリンフォード…これをきっかけに俺の手配書を少しでもマシなのにさせてやる」

 

 似顔絵から始まり、ようやくまともに撮ってもらえたかと思ったら鼻の下を伸ばしただらしない顔。サンジは己の手配書にすらも、何一つ良い思い出がないのである。

 

 マリンフォードに向かう目的は決してそれが一番の理由ではないのだが、せっかく大勢の海兵達に顔見せするのだからこの機を逃すわけにもいかないというサンジの切実な想い───果たしてそれは神に届くのだろうか…。

 

「そもそもエニエス・ロビーであれだけの中将、大佐含む海兵達に顔見られてるってのに写真入手失敗ってどういうことなんだよ!?俺が何したってんだッ!!」

 

 誰にぶつけるべきなのかすらわからないこの怒り。

 

 ならばこの怒りを、マリンフォードにてこれから勃発するであろう()()()()にて少しでも発散できたならば───と、急ピッチでの猛特訓を終えたサンジは海中をコーディングされた船で進みながら考えていた。

 

 彼の真の目的は違うのだが、少しは報われてもいいではないかと思ってしまうのは仕方ないかもしれない。

 

 そんなことを考えながらも、サンジは着実にマリンフォードへと近づいている。

 宣言通りに"新人類(ニューカマー)拳法"師範99人を倒して見せたサンジは、オカマ達から船を貰い受け、そして船を引いてくれる生物をも借りれたことで、少しばかりの時間の余裕もでき万全の状態にてマリンフォードへと向かっている。

 

 前回の人生のアドバンテージもあり、攻めの料理を習得しているサンジはそれを食べながら、いつも以上に力を漲らせ戦いに備え、そして1人静かに呟いた。

 

「しかし、今でも驚きだ。エースがまさか…()()()()()()だったなんてな。

 ルフィと兄弟だっつーから、エースも()()()()の息子だとばかり。姓が違うのは腹違いだろうと勝手に思い込んじまってたからな」

 

 サンジがコックを務める麦わらの一味の船長"麦わらのルフィ"には兄が存在する。

 

 その兄も海賊で、しかも世界に名を轟かせる強者だ。

 

 ただ、ルフィとその兄が血の繋がりのない義兄弟であったことをサンジが知ったのは、その義兄が()()()()()()()後のこと。

 

 もっとも、サンジにとってもルフィ本人にとっても血の繋がりがないことなどは些細な問題であり、本人達が兄弟だと口にして仲良くしているのであれば、誰も迷惑に思うことなどない。

 

 いや、海軍からしたら傍迷惑な兄弟という認識ではあるだろうが…。

 

 そして今、ルフィのその兄が世間を大きく賑わせている。

 

 サンジが向かう場所───マリンフォードにて、ルフィの兄である"火拳のエース"ことポートガス・D・エースの公開処刑が決行されようとしているのだ。

 

 処刑決行日はこれより2日後。

 

「白ひげ大艦隊 vs 海軍本部、王下七武海。とんでもねェ面子が勢揃いだ。だからって、船長が1人突っ走ってるのを後から新聞で知るなんてのはもう二度とゴメンだぜ」

 

 急ピッチで鍛え上げ、前回のアドバンテージがあるとはいえ、サンジよりも強い者達が五万といる。

 そんな死地へと自ら進もうとは───船長の支えになろうとするサンジの思いは一味の中でも特に強いものだ。

 

「気がかりなのは、俺の行動が何かしらの変化をもたらすこと…だが、ルフィは必ずマリンフォードに辿り着く。

 アイツはそれができる奴だ。俺はただ、マリンフォードでそれを待ち、アイツが到着したら動き出す」

 

 ただそれまでは、お得意の隠密活動をしようかと───サンジは意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 世界の均衡は今、崩れつつある。

 

 四皇"白ひげ"エドワード・ニューゲートと海軍本部による全面戦争。

 

 そして、その全面戦争に乗り込もうとする同じく四皇の"百獣のカイドウ"を止めようとこれまた同じく四皇の"赤髪"が動き、四皇同士の小競り合いが勃発。

 四皇同士の激突など、もはや小競り合いという言葉では片付けられないものだ。

 

 白ひげを迎え撃つ海軍にはそちらに回せるほどの戦力の余裕もない。

 

 今、この世界に絶対に安全な場所など決して存在しないだろう。

 

 そして、この緊迫した状況のなか、更なる問題を起こしてくれた超問題児が存在する。

 

 前代未聞。大監獄"インペルダウン"に自ら侵入した大馬鹿者が現れたのだ。

 それも、囚われた()()を救い出す為に…。

 

 その大馬鹿者の名はモンキー・D・ルフィ。つい数日前、シャボンディ諸島にて彼の天竜人を殴り飛ばすという所業を仕出かした超問題児ルーキー海賊だ。

 

 だが、たかだか3億ベリー程度のルーキー海賊が1人でインペルダウンに囚われた義兄を救い出すなど不可能。

 況してや、"覇気"すらもまともに使えぬ者が侵入など、あまりにも無謀な行為でしかない。

 

 大監獄インペルダウンは、そのルーキー海賊を遥かに上回る強者達が囚われている場所。捕まるのも時間の問題だろう。

 

 しかし、決して油断してはならない。そのルーキー海賊が及ぼす影響力は無限大で、何を仕出かすかわかったものではないのだ。だからこそ、モンキー・D・ルフィは超問題児と認識されているのである。

 

 

 *

 

 

 そして案の定というべきか───一度は捕らえられ、毒に侵され虫の息で死を待つのみなだけだったはずのモンキー・D・ルフィは復活し拘束から逃れ、最下層"レベル6"から、現七武海と旧七武海の2人の他、曲者達を引き連れ集団脱獄というあり得ない事態を引き起こしたのだ。

 

 常に騒動の中心人物となり、その場にいる多くの者達を魅了し巻き込む───それこそが、麦わらのルフィのもっとも脅威的な力であり才能。

 そして予測不能な自分勝手さが危険視される要因でもある。

 

 インペルダウンからの集団脱獄。この局面で立て続けにこれだけの騒動が起きてしまっては、笑えないどころか普通なら精神的に可笑しくなり笑ってしまうだろう。

 

 こうして、死刑囚ポートガス・D・エースの義弟であるモンキー・D・ルフィは、インペルダウンにて前代未聞の所業を仕出かし、引っ掻き回すだけ引っ掻き回し、新たな戦力を得てマリンフォードへと義兄を助ける為に向かう。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 一方のマリンフォードでは、すでに世紀の大戦争が勃発。

 

「ついに始まりやがったか」

 

 すでにマリンフォードへと到着していたサンジは、海兵の家族達が暮らす住居が並ぶ場所にて息を潜めていた。

 当然のことだが、その住居には誰一人として存在していない。

 

「ルフィはそろそろ…ん?お、おいおい…」

 

 隠密行動が得意なサンジは、すでにルフィが大量の脱獄囚達を引き連れマリンフォードに向かっているという情報を得ている。あとはただ、船長の到着を待つのみ。

 

 ただ、サンジはお得意の見聞色の覇気にて、ルフィがすぐ近くにいることを察知する。

 

「な、何で()()()()にいやがるんだ!?」

 

 視線の先───大将"青雉"によって凍結させられた津波。その凍結した津波にくっついている軍艦が一隻。

 

 どうやら、ルフィはすでにマリンフォードに到達しており、大津波にさらわれ、上空で立ち往生してしまっていたようなのだ。

 

「ったく世話の焼ける船長だぜ!!

空中歩行(スカイウォーク)稲妻(ライトニング)】」

 

 だが、ルフィがすでに到着しているとわかれば、サンジは動くのみ。

 

「なっ!?あ、あれは誰だ!?」

 

 通常の空中歩行よりも遥かに速く空を駆けるサンジに、海兵の誰かが気付き声を上げ、そして次々と視線が向けられる。

 

 そして、何をしたのか───軍艦ごと宙から落ちてくるルフィ達御一行。

 それを確認したサンジは、落下するルフィのもとへと向かい、海に落ちる前にキャッチする。

 

「ったく、またメチャクチャしやがって…下は海だぞ」

「サンジ!?お前どうしてここにいんだ!?」

「船長が無茶してんのを船員(クルー)が黙って見てるわけねェだろうが」

 

 とはいえ、他の仲間達はまだそれを知らない。

 

「つっても、ここまで来てんのは俺だけだがな」

「…そっか。けど、お前がいてくれんなら千人力だ!!」

「へっ、千人力どころか一万人力になってやるぜ、船長」

 

 麦わらのルフィ、そして黒足のサンジ。最悪の世代が頂上決戦へと参戦。

 

 






カマバッカ王国からマリンフォードまでの距離なんて語られてないし、わかるはずもないので、アマゾン・リリーからよりは近いことにしてます。

サンジはコーディング戦で近くまで行き、白ひげが現れる前に到着できたので、そのまま海歩行(ブルーウォーク)で海中を進み密かにマリンフォードへと上陸し待機。


空中歩行(スカイウォーク)稲妻(ライトニング)
ニジに指摘された空中歩行を改良し、剃並…それ以上の速度を空中歩行で出せるようになった模様。


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新しい世代



ルフィ、ゾロ、サンジ。麦わらの一味三強の2年間についてふと考えてみたところ…。

・ルフィ
師匠、冥王レイリー。環境、過酷。ただ、ハンコックという公式嫁がたまに来てる?来てなかったとしても毎日海賊女帝に常に想われている。

・ゾロ
師匠、鷹の目。環境、過酷…微妙。ペローナという可愛い子が手当て、看病してくれる。

・サンジ
師匠、イワンコフ?新人類(ニューカマー)拳法の師範達?環境、過酷度MAXの地獄。寝た瞬間に男としての尊厳を奪われる可能性大。

師範達が弱いわけではないけど、師匠からして差がありすぎじゃないか?寧ろ、あの環境であそこまで成長したサンジを誉めるべきじゃないかと思ったり、癒しするないサンジが憐れすぎて泣けてくる。



 

 

 改めて、強くなったからこそ理解できるものがある。

 

 今、サンジとルフィの目の前には世界最強の海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートが立っており、初めて目にする生ける伝説を前にサンジは喉を鳴らした。

 

 サンジが四皇を目にするのは()()()()()()()()()()

 

 前回の人生で同じく四皇の"ビッグ・マム"を目にしているのだ。その経験もあってか、決して恐れという感情を白ひげに対して抱いているわけではない。

 

 ただ、ビッグ・マムとは違う王者としての風格、貫禄に、サンジはある種の感動を覚えているのだ。

 

 だが、サンジが感動を覚えていることなど露知らず、戦地に降り立った脱獄囚の1人であるクロコダイルによる襲撃から白ひげを助けたルフィが宣言する。

 もっとも、白ひげに助けなど必要なかっただろうが…。

 

「海賊王になるのはおれだ!!」

 

 世界最強の海賊"白ひげ"に物怖じすることなく啖呵を切る己の船長には苦笑を禁じ得ないようだが、それでこそ未来の海賊王だと、世界最強の海賊と未来の海賊王が揃って並ぶ姿をその目に焼き付けるのである。

 

「ハナッタレが…足引っ張るんじゃねェぞ!!」

「サンジもいるんだ!だから必ずエースを助け出す!!」

「へっ、頼ってくれんのは嬉しいが…ルフィ、白ひげの前であんまり俺のことを持ち上げんじゃねェよ。

 拍子抜けだとか言われたらさすがにショックだからな」

 

 男から何を言われようとも、況してや大海賊から弱いと言われたところで、まだまだ弱いという自覚のあるサンジはそれほどショックを受けることもないだろう。

 

 ただ、強くなった今、まだまだ上がいるという伝説を前にした今、それでも───強者達が蠢く領域に片足でも踏み込めていたらと、サンジは強く思うのである。

 

「サンジ、行くぞ!!」

「了解だ、船長!!」

 

 新たな時代を背負うであろう若き海賊達が、死地へと飛び込んで行く。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 戦場を駆ける黒足と麦わらに襲い掛かってくる海軍の猛者達。しかし、そんな猛者達を抜群のコンビネーションで次々と打ち倒し、サンジとルフィは先へ先へと進む。

 

 エニエス・ロビーでバスターコールを経験し、あの時よりも強くなったルフィと、二度目の人生アドバンテージと猛特訓により急激な成長を遂げたサンジを前に、もはや海軍本部の大佐程度では相手になるはずもないのだ。

 

 ただ、この戦場にいるのは大佐だけではない。寧ろ、大佐以上の強さを持った者達がゴロゴロと存在している。

 

「お前を捕まえねェと()()()がうるさくてうるさくて仕方なくてねえー…麦わらのルフィ、それから黒足」

 

 この戦場にて誰よりも煌めくその存在がサンジとルフィへと牙を剥く。

 

「いきなり大将かよ!?

 ルフィそのまま進めッ!!」

「わかった!!」

 

 どこまでもサンジを信頼しているルフィは迷うことなくその言葉に従い、臆することなく前に進む。進む先は義兄エースのもとだ。

 

「道は俺が切り開く!

【"武装"小悪魔風脚(プティ・ディアブルジャンブ)十字切り(シャトー)】」

「!?黒足…この短期間で覇気を使いこなせるようになったってのかぃー?まさかそんなこと」

 

 黄猿が放ったレーザービームと、サンジが放った漆黒の嵐脚───十字の形をした黒い斬撃がぶつかり合い大爆発が発生する。

 

「う、うおぉぉ!大将黄猿の攻撃を止めやがった!!」

「何者だッあの金髪は!?」

「麦わらのルフィの部下か!?」

 

 驚きの声が上がる一方で、海軍側は白ひげ側に予想外の戦力が投入されたことに動揺を隠せずにいた。

 そのおかげで士気の上がる白ひげ陣営。

 

「なかなかやるじゃねーかよい、エースの弟の仲間は」

 

 白ひげ海賊団No.2の"不死鳥のマルコ"すらも、サンジに対して舌を巻いている。

 

 ただ、自ら黄猿の相手を買って出たサンジではあるが、まだ自分が黄猿に勝つことは無理であることにも気付いており、武装色と見聞色の覇気を駆使しつつ戦いながらも、長くは持たないだろうと、心の中で強者へと助けを求めていた。

 

「エースの弟の仲間!コイツは俺に任せてお前はエースの弟のとこに行けッ!!」

 

 すると、青い炎を纏った不死鳥のマルコがサンジを助けにやって来る。

 ルフィのもとへと向かうようにと、黄猿の相手を代わってくれたのだ。

 

「助かる!!」

 

 それだけ告げ、その場から"(ソル)"を使って立ち去るサンジ。

 そして、不死鳥のマルコはその背中を嬉しそうに眺めながら大将黄猿と相対する。

 

「不死鳥のマルコがあんな若造を助けるとはねェー…焦って気でも狂ったのかぃ?」

「時代は着実に進んでる…先が楽しみな若いのが現れて喜んでるんだよい!!」

 

 白ひげがルフィから何かを感じ取り期待しているかのように、不死鳥のマルコもまた───サンジから何かを感じ取り期待しているのだ。

 

 この大海賊時代に新たな変革をもたらすのではないかと、大海賊達はそう感じずにはいられないらしい。

 

 だが、それは大将黄猿も同じだ。シャボンディ諸島にて麦わらの一味を壊滅寸前にまで追いやった黄猿は、この短期間で見違えるほどに成長したサンジを警戒しているのである。

 まだ黄猿に及ばないまでも、サンジは奥の手を隠しているのだ。いくら黄猿が相手だったからとはいえ、一対一ではないこの戦場で最初から全てをさらけ出すわけにはいかないと判断したのである。

 

 サンジの第一の役目は、ルフィをエースのもとまで送り届けることなのだから…。

 

 そのサンジに対し、黄猿は強い危険性を感じていた。

 

「そちらさんの士気を上げちゃってくれてまぁ…厄介な存在だねェ。麦わらと黒足は」

 

 ルーキー達がこの大戦争の鍵をも握っているのである。

 

 その鍵とされるサンジは、ルフィのもとへと辿り着き…

 

「ルフィ!待たせた…って、モリア!?

 そういやぁ、コイツも七武海だったな」

 

 生前、死闘を繰り広げた七武海の一角、ゲッコー・モリアと再び対峙することとなる。

 

「キシシシシ!黒足の影もまた切り取って」

 

 しかし、サンジもルフィも同じ相手に同じ轍を踏む愚者ではない。

 

「モリアのゾンビは火にも弱い。

悪魔風脚(ディアブルジャンブ)火鍋(ポトフ)スペクトル】」

「な、何ィ!?」

 

 炎上した高熱の黒足から縦横無尽に繰り出される連続蹴り。モリアのゾンビ軍が炎に包まれ肉体の原型が完全に消失する。

 

「何じゃ…儂の出番はなさそうじゃな」

 

 すると、モリアのゾンビ達を一掃したサンジの背後からは聞き慣れた声が───

 

「…!ジンベエ…そうか、ルフィと行動を共にしてたんだったな」

「麦わらの一味の黒足じゃな?どうやら儂のことを知っておるようじゃが、自己紹介だけはさせてもらうとしよう。儂は七武海の…いや、元七武海のジンベエじゃ」

 

 寧ろ知らない方がおかしい。ルフィはこの場所に到着する直前まで知らなかったようだが、それはルフィだから仕方ないことだろう。

 だが、ジンベエの実力を知るサンジは、七武海を辞めてまでこちら側についてくれたジンベエに有り難さを感じていた。

 

 知ってはいたことだが、サンジはこの戦争を直接経験して知っているわけではないのだ。全ては新聞などで後から知った知識であり、今この戦場に於ては記憶という強力な前回のアドバンテージもあまり働くことがない。

 ただそんな状況のなかで、見知った実力者がいることは頼もしい限りである。

 

「ヒィーーーハァーーー!!あんた本当に麦わらボーイの仲間なの?手配書と顔が全然違うじゃないの!!」

 

 そしてジンベエの後ろから現れた巨大な顔面の新人類(ニューカマー)。"奇跡の人"エンポリオ・イワンコフ。

 

「うるせェ!あの手配書は俺の黒歴史の1つなんだよ!!この戦場が終わったら俺の手配書は新しくなりやがるはず…それが本物だと思いやがれ!!」

 

 ついつい、癖で"イワ"と口にしそうになるのを堪えながら、サンジは初対面であることを装っている。

 前回の2年間のこともあり、イワンコフとの付き合いは麦わらの一味の仲間達との付き合いよりも長くなってしまったのだから、ついうっかり何か変なことを言わないようにと終始気を付けねばならぬ相手なのだ。

 

「あ、イワちゃん!コイツ、おれの仲間のサンジってんだ!!」

「麦わらボーイがそういうなら本物なんだろうけど…なら、あの手配書はどうしてかしら?」

「あーそれは聞かないでやってくれ。サンジも相当荒れてたからなー」

「哀れみのこもった目で俺を見んじゃねーよ!お前ら、そんなことはいいからさっさと先に進むぞ!!」

 

 目の前に七武海のゲッコー・モリアがいるというのに、サンジは当然ながら余裕さを見せ、ルフィはサンジがいることで安心感があるのか至って冷静な様子である。

 

 当然、そんな舐めた態度を見せるルーキー達にモリアが腹を立てないはずがなく───

 

「クソガキ共がッ!!」

「【(ソル)稲妻(ライトニング)】」

「む!?」

 

 身体能力を極限まで鍛えることによって習得できる体技の内の1つである高速移動法"(ソル)"。

 

 この短期間で急激な成長を遂げ、そして攻めの料理による効果も相俟ったサンジのそれは、通常のそれを遥かに凌ぐもので、その加速力───本当に稲妻かと思わせるほどの加速力もプラスされて繰り出される蹴りの威力は想像を絶するもの。

 

()()はスッ込んでろ!

悪魔風脚(ディアブルジャンブ)羊肉(ムートン)ショット】!!」

「がふッ!?」

 

 モリアの懐まで一瞬で潜り込んだサンジは、超強力な悪魔風脚による後ろ蹴り(ソバット)の連擊を叩き込み吹き飛ばす。

 

 その威力はまさしく悪魔の如しで、七武海のモリアですら大ダメージを与えられてしまう。

 

「おお!?サンジ、スッゲェ!!」

「ほォ、素晴らしい部下がおるようじゃな。しかも、覇気も習得しておるようじゃし…ルフィくんの言うとおり、確かに千人力じゃ!!」

「やるじゃないの黒足ボーイ!!」

 

 七武海がルーキーにやられたことで、またしても海軍側に動揺が走る。

 

「どけッ!!」

 

 その局面をどうにかしようと巨人兵が襲撃してくるが、流れは完全にこちら側だ。

 

「サンジ、今度は俺がやる!

【ゴムゴムのォ!巨人の回転弾(ギガントライフル)】!!

 どけェーーー!おれはエースを助けるんだ!!」

「へっ、さすがだ…船長」

 

 巨人兵を一撃で吹き飛ばした麦わらのルフィに歓声が上がり、白ひげ側の士気がますます高まるのである。

 

 そして、そんなルーキー達を目の当たりにした大海賊"白ひげ"は顔を綻ばせながら不死鳥のマルコにこう呟く。

 

「マルコ…あのガキ共を死なせんじゃねーぞ」

「了解」

 

 






サンジの技名が難しいよォ。フランス語ェェ!!


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恋はいつでもハリケーン!



原作史上初めて、サンジにガチ惚れしてしまったプリンちゃん。ワノ国には出てくるのだろうか…。



 

 

 元七武海"海侠のジンベエ"、"革命軍"幹部イワンコフ。

 

 そして、新進気鋭の超問題児ルーキー海賊"麦わらのルフィ"と"黒足のサンジ"。

 

 その4人がこの戦場にて台風の目となり突き進む。

 

 これ以上白ひげ陣営の士気が高まってしまっては困る海軍はこの辺でルーキー海賊の勢いを止め、鼻っ柱をへし折りたいところだろうが、サンジとルフィを守るように並び立つジンベエとイワンコフの存在は実に厄介なものだ。その後ろに厄介な脱獄囚達もいるのだから実に苛立たしいだろう。

 

 その上、サンジとルフィのコンビネーションは非常に厄介で付け入る隙がなかなかないのだ。この2人の機動力は並大抵のものではない。

 

 そして何より、黒足のサンジの存在には驚きを隠せずにいるようだ。

 

「黒足が7700万ベリーだと?あれのどこを見てそう判断したんだ!?あれは億超え…いや、確実に七武海クラスだ!!」

 

 サンジはゲッコー・モリアを吹き飛ばしたことでより一層警戒されている。

 

 六式の内のいくつかを駆使し、機動力に優れ、強靭な脚力、そして能力者でないにも関わらず炎を操り───サンジを強者と認識した海軍は気を引き締め直し応戦していた。

 

 ただそれでも、攻めの料理によって肉体を最大限にまで活性化させ、万全の状態でこの戦地に降り立ったサンジはなかなか止められるものではない。

 

 そして何より、サンジが危険視されるのは───

 

「…!おい、ルフィ!スモーカーが数秒後にお前狙ってくんぞ!!」

「え?そうなのか?」

 

 まるで未来を見ているかのように、そしてどんなに速い攻撃にも反応してしまう動体視力。

 

「ルフィ伏せろ!!」

「おう!!」

「うちの船長にゃ手出しさせねーぞケムリ野郎が!

【"武装"小悪魔風脚(プティ・ディアブルジャンブ)繊切り(シナフォード)】」

 

 目に見えぬ細い無数の斬撃が、因縁ある海軍本部准将スモーカーへと放たれる。

 

「ぐあっ!!」

 

 モクモクの実を食べた自然系(ロギア)の煙人間であるスモーカーには、覇気を習得していないルフィでは敵わない。クロコダイルのように水という弱点があったならばどうにかできただろうが、覇気以外に明確な弱点のないスモーカーは今のルフィからしたら相性最悪の相手だ。

 

「け、煙のおれに攻撃を当てやがっただと!?黒足の奴、覇気を!?」

 

 同じく自然系(ロギア)"ピカピカの実"の光人間である黄猿に触れることができていた時点で、サンジが覇気を扱えるのは明白だったが、スモーカーはその瞬間を目にしていなかったこともあり、完全に油断して手傷を負わされてしまう。

 

「どうやってケムリンに攻撃当てたんだ!?」

「今は説明する暇はねーし、教えたところですぐに扱えるものでもねー。自然系(ロギア)は俺が引き受けるから、お前はエースを救うことだけを考えていろ」

「わかった!!」

 

 的確な指示を与えるサンジは、献身的にルフィを支え、そして守り、戦っている。

 

「待たぬかッ!!」

「ん?…あ!」

「か、か、海賊女帝ィィ!?」

 

 そんな局面でサンジとルフィの前に姿を見せた王下七武海の紅一点。世界一の美女───"海賊女帝"ボア・ハンコックが2人の前に立っていた。

 

「ハンコック!!」

「はう!?(ま、また名前を呼ばれたッ!!)」

「じょ、女帝だ…な、何て、美し」

「あ、サンジ!今はハンコックよりも…って、あれ?サンジが()()だ」

 

 女帝を前にし、サンジがいつものメロリンモードに突入───してしまうのかと思いきや、くねくねと身を踊らせておらず、目もハートになっておらず、ルフィもサンジが普通であることに驚いているようだ。

 

 世界一の美女、そして人魚姫を前にして石化してしまったことのあるサンジがメロリンモードにならないなど───やはり、それだけこの戦場が地獄と化しているということなのだろうか…。いや、そんな地獄と化した戦場だからこそ、サンジならば地獄に咲いた美しい一輪の花と称しているはず。

 

 いったい彼の身に何が起きたのか…。

 

「そなた、先程からルフィの隣を陣取り、あまつさえ指示を出すなど何様じゃ!?」

「ハンコック!コイツは俺の仲間で、スッゲェ頼りになる奴なんだ!だからそんなこと言わないでくれよ!!」

「うッ!(また名前を呼んでもらえた!!)

 あ、あなた様がそう言うのであれば…そ、それよりもコレを」

 

 サンジに突っかかってきた海賊女帝ハンコックではあるが、ルフィに立て続けに名前を呼んでもらえたことですっかりご機嫌を取り戻し、愛するルフィへ()()()()()を渡し、静かにこう告げる。

 

「そなたの兄の手錠の鍵じゃ」

「え!?うおぉーーー!ハンコック、お前って奴は!」

「ル、ルフィ!よ、良いのじゃ、妾が勝手にやったことで」

 

 ルフィからの熱い抱擁を受け、女帝ハンコックは大きく取り乱す。

 

「本当にありがとう!!」

 

 そしてあっという間に走り去って行くルフィ。まるで嵐のようだ。

 

「こ、これが…(結婚!?)」

 

 だが、取り乱すハンコックを他所に、彼女以上に取り乱している者がその場にいた。

 

 いつもならば、相手がルフィとどんなに親しい間柄であろうとも相手が女であれば、抱擁などしようものなら嫉妬で怒り狂うのがサンジという男なのである。

 しかし、ルフィがあの海賊女帝に抱擁しようともサンジは無反応。寧ろ、地に両膝を突き項垂れ、頭を抱えているのだ。

 

 いったいサンジの身に何が起きているのか…。

 

「な、何故だ…世界一の美女…海賊女帝を前にしているというのに…どうして、あの()()()()ばかりが俺の脳裏を過るんだ!!」

 

 突如、訳のわからないことを叫び出すサンジ。しかし、彼にとってはとても重要なことなのだろう。この局面で、足を止めて()()()()()()()のことを考えてしまうほどに…。

 

「そ、それに…いったい何なんだ()()()()はッ!?」

 

 そして何より、サンジが驚愕しているのは脳裏に過る身に覚えのない───だが、鮮明に覚えている記憶だ。

 

「プ、()()()()()()が…お、おお、俺に()()()()()だと!?」

 

 そう、サンジはこの世紀の大戦争真っ只中で、世界一の美女を目にしてしまったことをきっかけに、海賊女帝よりも美しいと感じてしまったその瞳───いや、プリンという名の女が頭を過ってしまったのだ。そして更には、一度死んでしまったことが原因なのか、ハッキリとした理由は不明ではあるが、サンジがそのプリンによって抜き取られてしまった記憶───キスをされた瞬間が甦り、このような状態に陥っているのである。

 

「ハッ!確かあの子の能力はッ!!」

 

 そして、人の記憶を抜き取り、改竄することのできる能力者であったことを思い出したサンジは顔が一気に熱くなり、鼻が()()()する5秒前だ。

 

「こなクソォーーー!!」

 

 しかし、今のサンジは一味違う。

 

「この素晴らしい思い出を血で汚してなるものかァ!!」

 

 サンジは全身から炎を放ち立ち上がる。

 

「ああ!でも俺はどうしたらいいんだ!?俺はレディー達を愛する為に生まれてきた男だ!!たった1人のレディーを…いやしかしプリンちゃんを…いやだが全てのレディーに一途でなければ俺は俺じゃない!いやだがプリンちゃんだけに一途でない俺など俺でもない!

 ああ神よ!俺はどうしたらいいんだ!?どうして俺にこのような試練を与えるんだ!?」

 

 何を言っているのか───この場にいる全ての者達が理解できないだろう。

 

「コイツ…どうすればいいの?」

 

 "奇跡の人"エンポリオ・イワンコフですらもお手上げ状態だ。

 

「くっ、やはりこれは恋なのか!?真の恋なのか!?」

 

 先にルフィが進んでしまったことなど気付いてすらいないサンジは、もうここで戦線離脱状態である。

 

「こんな時に恋だと!?海賊女帝に見惚れて恋に現を抜かすとは随分と余裕だな黒足ッ!!」

「黒足ボーイ!白猟が来たわよッ!!」

 

 そんなサンジに、この機を逃すまいと、先程の借りを返そうとスモーカーが仕掛けてきた。ちなみに、サンジが海賊女帝に恋をしているというのは完全なる勘違いだ。

 

 だが、心が熱く燃えたぎっているサンジにとって、もはやスモーカーは敵ではない。相手にならないだろう。

 

「この胸をかき乱す激しい嵐…これはまさしく!"恋はいつでもハリケーン"!!」

「ぬっ!妾のセリフをよくもッ!!」

 

 何故それに海賊女帝が反応したのか───それは彼女も同じだからだろう。

 

「攻めの料理の比じゃねェ!体が…力がどこまでも漲ってきやがるッ!!

 "武装"【反行儀(アンチマナー)キックコース】!!」

「ぐはっ!?」

 

 武装硬化させた右足がスモーカーにクリーンヒットし、上空へと舞い上がらせる。

 

「ス、スモーカーさん!?」

 

 強烈な一撃に意識が飛びかけていたスモーカーだが、大切な部下の声が聞こえて、どうにか意識を取り戻すことができたようだ。

 しかし、そんなスモーカーに対しサンジは手を───いや、足を緩めることはない。

 

「行くぜッ!!【空中歩行(スカイウォーク)】」

 

 恋はいつでもハリケーンなのだから…。

 

「くっ!」

 

 スモーカーのもとまで一気に駆け上ったサンジは、すでに両足が高熱を帯びており、全身が激しい炎に覆われている。

 

「【悪魔風脚(ディアブルジャンブ)天国の記憶(ヘブン・メモリーズ)】!

 待っててくれプリンちゃん!俺は必ず君に会いに行く!!」

 

 愛の力を得たサンジは無敵だ。

 

「くらえ!愛の力をッ!!

野獣肉(ヴネゾン)シュート】!!」

「ぐああぁぁぁ!!」

 

 空中にてきりもみ回転しながら蹴りを何度も叩き込み、そしてトドメに強烈な踵落としを叩き込む。

 

「うおらァ!!」

「ガハッ!!」

 

 スモーカーはそのまま地面に直撃。その衝撃は凄まじく、大きな地響きを起こすほどだ。

 

「スモーカーくん!!」

 

 スモーカーの同期である海軍大佐ヒナが駆け寄るなか、サンジは地上へと舞い降りる。

 

 ローグタウンにてスモーカーと初めて戦った時、サンジは手も足も出ずに敗北した。

 

「へっ、やられっぱなしは性に合わないんでな」

 

 二度目のアドバンテージという後ろめたさがあるが、この場にそれを指摘する者など誰もいない。

 

「スモーカーが負けただと!?」

「中将クラスの実力者だぞ!?」

「く、黒足を何としても討ち取れ!!」

 

 サンジ VS スモーカー。

 

 二度目の対決は、サンジの完全勝利だ。

 

「うおっ!?」

 

 ただ、そんな衝撃的な局面でサンジに蹴りを放ってきた人物がいた。

 

「か、海賊女帝!!」

「何をぼさっとしておるのじゃ、黒足。ルフィは先に行ってしまったぞ」

「え!?」

「やれやれ…まあいい。ただ、妾の願いを聞いてはくれまいか?」

 

 本来ならこの世界の誰もがその美しさに魅了され二つ返事で了承することだろう。

 かくいうサンジも───いや、以前までのサンジならば疑うこともなく…。とはいえ、ルフィを手助けしてくれる海賊女帝を疑う余地などなく、サンジは冷静に話を促す。

 

「妾は表立ってルフィを手助けできぬ。だからそなたにしか頼めぬ…どうか、ルフィを守ってくれ」

「そんなの当たり前だ。あなたに言われなくても、ルフィはこの俺が守り抜く…任せてくれ」

「ふっ、頼んだぞ黒足」

 

 サンジからの返答に最高の美しい笑みを送る女帝ボア・ハンコック。

 その笑みにサンジは不敵な笑みを返してルフィのもとへと向かっていった。

 

 立ち去ったサンジの背を眺めながら彼女は静かにこう呟く。

 

「ルフィは仲間にも恵まれておるな。素晴らしい仲間じゃ。ルフィには劣るが、なかなかイイ男ではないか」

 

 海賊女帝にここまで言わせるとは───麦わらの一味の者達が聞いたら耳を疑うことだろう。

 そして、海賊女帝を前に鼻の下を伸ばしていないサンジなどサンジではないと、質の悪い病に侵されたのではないかと大慌て間違いなしである。

 

 恋は───愛は大きく人を変える。

 

 しかし、こんなサンジはサンジではない。

 

 






一度死んだ影響によって、プリンの能力で抜き取られたはずの記憶を取り戻したサンジ。熱く燃えてしまいました。
女帝を美しいと思うのに、一度死んでしまったことでより一層にプリンの瞳が美化されてしまっているサンジ。
サンジにとって、原作で初めてマジ惚れしてくれたお相手なのだから…やっぱり幸せにはなってほしいよね。

しかし、全てのレディーに一途でなければならないサンジ。いったいこれからどうなるのか…。

そして戦場では、サンジにとっても因縁の相手であるスモーカーに打ち勝ったのである。

天国の思い出(ヘブン・メモリーズ)
地獄の思い出(ヘル・メモリーズ)の真逆。プリンにキスされたことを思い出し、そのおかげもあってか炎の威力は倍増し…どころかとてつもない。


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この海で最も恐るべき恐力


良いとこ少ない新世界編のサンジだけど、サンジの得意な見聞色の覇気は実際どうなんだろうか…。

深く言及はされていないけど、結婚式でカタクリの放ったジェリービーンズを避けれたのはサンジの見聞色の凄さを物語っているようにも思えたりしております。

カタクリは未来視開眼している相手だし。



 

 

 ルフィを追いかけるサンジがルフィを発見するも、それと同時に彼の目に映ったのはルフィの前に立ち塞がる男───七武海最強にして、世界最強の剣士"鷹の目"のミホークだった。

 

「マリモがボロ負けした鷹の目…だが、今なら奴の凄さがハッキリとわかっちまう。

 同じ七武海でも、あのフラミンゴ野郎とは桁違いの強さだってのがビンビン伝わってきがやる。まったく嫌になるぜ」

 

 前回の人生でモリア以外の七武海のメンバー2人、"天夜叉"ドンキホーテ・ドフラミンゴ、"暴君"バーソロミュー・くまと戦闘経験のあるサンジは、戦地にて黒刀を抜いた鷹の目を目の当たりにし、世界最強の剣士の強さをハッキリと感じ取っているようだ。

 

 だが、相手が世界最強であろうと、船長のピンチに駆けつけないわけにはいかない。

 

 (ソル)でルフィと鷹の目の間に移動したサンジは、ルフィに襲いかかる世界最強の黒刀を黒刀並の強度と鋭さに強化した黒足で受け止める。

 

「【"武装鋭化"堕天使風脚(アンジュ・デシュ・ジャンブ)】!!」

「サンジ!?」

「ほう…麦わらの仲間の黒足か。おれの一太刀を受け止めるとは…その黒足、まるで黒刀のようではないか。大したものだな」

「ッ、そりゃどうも。(つっても、こんな威力の斬撃を何度も受け止めるのは無理だぞ!?足が切り落とされなかっただけでも驚きだ!!)」

 

 いざ受け止めてみた世界最強の一撃はどこまでも強く、その強大さにサンジは気圧されそうになる。

 それでも、サンジは引くわけにはいかない。

 

「【点火(フランベ)最上級挽き肉(エクストラアッシ)スピア】!!」

 

 サンジは両足を使って鷹の目の一点に集中的に蹴りを放つ。その蹴りは一撃放つ度に黒炎が上がり爆発的に威力を増していく。その上、武装色の覇気で鋭化させた足による蹴りは、まるで槍の一突きのように鋭いものだ。

 

「貴様が剣士だったならば、相当な実力を有していそうだ」

「へっ!俺はコックなんでね。手は一切、戦闘には使わないって決めてんだよ!!」

「なるほど。だが、これほどの実力を有するコックなどなかなか居るまい。貴様ら麦わらの一味はやはり面白い」

 

 サンジの鋭い蹴りを全て防ぎきった鷹の目はまだまだ余裕そうな表情で、そして心底嬉しそうに笑みを浮かべる。

 鷹の目が期待している麦わらの一味の()()がこの場所にいないことは残念だろうが、次に会った時は()()()()に心踊る戦いになりそうだと、鷹の目は期待に満ちた目をサンジとルフィに向けていた。

 

 いや、サンジとルフィを通して()()()()()()()に向けているのである。

 

「くっ、世界最強の剣士の強さはとんでもねェな」

「こんな強い奴とやり合ってる場合じゃねェのに!!」

 

 だが、楽しんでいる鷹の目とは違い、サンジとルフィは大剣豪と戦っている場合ではない。

 強者蠢くこの戦場では仕方ないことではあるのだが、その強者達の中でも鷹の目は別格なのだ。

 

「ルフィ、お前はここから抜けることだけに集中しろ。ほんの一瞬…その時間を作る」

「…わかった。おれはサンジの指示に従う」

 

 サンジが稼げる時間はほんの一瞬。ルフィはそれを信じ、ただひたすらに走るだけ…。

 

「話し合いは終わったか?」

「へっ、通させてもらうぜ鷹の目」

「通れるなるば通ってみろ」

 

 その瞬間、ルフィが全速力でその場から走り去った。

 

「残念ながら射程範囲だぞ」

 

 その言葉通り、そして器用にルフィのみを狙って飛ぶ斬撃を鷹の目が放とうとする。

 だが、ルフィはサンジが攻撃する為の囮であり、そして───

 

「させっかよ!

堕天使風脚(アンジュ・デシュ・ジャンブ)・メテオスラッシュ】!!」

 

 素早く上空へと飛び上がっていたサンジが、鷹の目目掛けて黒炎を纏った無数の飛ぶ斬撃を隕石の如く放つ。

 

 その斬撃に対し鷹の目も飛ぶ斬撃を放ち応戦する。そして生まれるほんの僅かな時間。

 サンジが全力の攻撃を放つ為のほんの僅かな時間を稼ぐ為にルフィが囮となり、そこからほんの一瞬だけサンジへと意識を向けさせ彼が囮を代わることでルフィはその場から走り去る。

 

 互いが互いに囮となることで生まれたほんの僅かな時間。ただ、それは全てルフィを先に進める為のもの…。

 

「どこまでも船長に忠実で、どこまでも船長を支える男だな。貴様といい、ロロノアといい、麦わらは船員(クルー)に恵まれてるじゃないか」

 

 船長が己の目的のみに集中できるように、降りかかる火の粉はサンジが請け負い、そして払うのだ。

 

「へっ、俺の船長は誰よりも自分勝手で自由奔放な奴だからな。俺達船員(クルー)が支えてやらねェといけねェんだよ!」

 

 鷹の目に対してそう言い放つサンジだが、それは紛れもない事実。しかし、サンジ含む一味の全員がルフィに魅了され、そして心から支えたいと思っているのである。

 

 ルフィが何れ海賊王になることを信じ、それを誰一人として疑ってなどいないのだ。

 

「そうか。黒足…麦わらはお前のおかげで先へ進むことができた。そこは誉めておこう。だが、1つ聞いておく…お前はここから先に進むことができるのか?今の麦わらにとって、貴様の力は"火拳のエース"を助ける為に必要不可欠だ。その力を失えば…奴はどうするのか…」

「ッ、うおッ!?」

 

 一呼吸置いた鷹の目が黒刀を一振り───それを身を逸らして避けるサンジだが、大剣豪のその一振りは氷塊を切り裂き、サンジをその先には進めさせるつもりはないようだ。

 

 鷹の目の言うとおり、今のルフィはサンジの助力なくしてエースのもとに辿り着けるかは怪しい。

 ジンベエ、イワンコフ、白ひげ海賊団の助力もあるが、この戦場でそれを常に期待するのはナンセンスだ。

 

「まだまだだ…黒足」

 

 黒足のサンジという力を失った麦わらがこの先に進むことができるのか…。そして、サンジ自身もこの戦場で生き抜くことができるのか───鷹の目に試させれている。

 

「ビスタ!援護しろよい!!」

「了解!任せとけッ!!」

 

 しかし、白ひげ陣営にとってのサンジとルフィという存在はすでに欠かすことのできない戦力として認識されている。

 

 能力や技ではなく、その場にいる者達を次々に己の味方につける不思議な魅力。その魅力がルフィからサンジへと伝染し、この海で最も恐るべき力となり発揮されるのだ。

 

 不死鳥のマルコの指示で助太刀に入った剣士が鷹の目の相手を代わってくれたことでサンジは鷹の目の凶刃から逃れ、その場から素早く走り去る。

 

「…白ひげ海賊団5番隊隊長"花剣のビスタ"」

「お初に鷹の目のミホーク。黒足の代わりに俺が相手になろう」

 

 麦わらの一味。それは一味全員が不思議な魅力を持ち、不思議と手助けしたくなるような───その不思議な魅力は鷹の目が危惧するように強大な力となりて、この戦場にてその真価を発揮していた。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 マリンフォードに於て勃発した白ひげ大艦隊 VS 海軍本部、王下七武海の頂上決戦はますます熾烈を極めている。

 

 海軍が戦場に新型兵器"パシフィスタ"を投入したことで、白ひげ陣営に向いていた流れが変わりつつあるのだ。

 

 海軍の天才科学者Dr.ベガパンクが開発したサイボーグが白ひげ傘下の海賊達に猛威を奮い戦力を削っているのである。普通の銃や刃物ではまったく通用しない頑丈な身体を持ち、鉄を溶かす程の高熱のレーザー光線を両掌と口から照射する事ができる通称"PX"。

 

 白ひげの機転により、湾内に追い詰められ一網打尽にされるという最悪の事態は避けたようではあるが、状況はあまり芳しくない。

 

 海軍はパシフィスタ投入の他に、何かを仕掛けてこようとしているのだ。

 

 火拳のエースの処刑も、すぐにでも決行されそうな雰囲気である。

 

「はあ、はあ、エースがやべェ。急がねーと!!」

 

 息を切らしながらも、体に鞭を打って前に進むルフィ。だが、またしてもルフィの前に立ち塞がる人物がいた。

 

「!?」

「振り出しに戻りなよォー…」

 

 この局面で間の抜けた喋り方をしてくるのがまた苛立たしい大将・黄猿である。

 

「ぶっ!?」

 

 光速の蹴りで吹き飛ばされるルフィ。誰かが受け止めてくれなかったならば、本当に振り出しに戻されそうな勢いだ。

 

「ルフィくん!!」

 

 魚人のジンベエが受け止めてくれることでほんの僅かしか吹き飛ばされることなく事なきを得るが、立ち塞がる黄猿を前に立ち往生といった様子だ。

 

 ジンベエも黄猿が相手では───

 

「しつこい男は嫌われんぞ!

堕天使風脚(アンジュ・デシュ・ジャンブ)・三点スラッシュ】!!」

「黒足ィ、鷹の目と戦ってたんじゃなかったのかぃー?」

 

 鷹の目は今、花剣のビスタと戦っているところ。そのおかげで抜け出すことのできたサンジは当然、ルフィのもとへとやって来た。

 

 途中、パシフィスタに襲われるも、首をへし折り返り討ちにしてきたところだ。

 

「ちっ、さすがは大将…()()()負っちゃいねーか」

 

 黒刀の如き切れ味を持つサンジの堕天使風脚によって繰り出された破壊力、殺傷能力の高い蹴り。だが、それを受けても黄猿は無傷。

 

「あー」

 

 ただ、地面に焼け焦げた黄猿の()()()()()()()()が落ち、所々()()()()()()()()()()おり、黄猿は少し驚いた様子を見せ、そして口を開く。

 

「このスーツとネクタイお気に入りなんだけどねぇー」

「へっ、俺からしたら趣味悪いぜ」

「しかもパシフィスタも数体オシャカにしてくれちゃって…アレ、1体作るのに軍艦一隻分の費用がかかってるんだけどねぇー」

「なら、全部壊したら結構な失費だな」

 

 軽口を叩くサンジではあるが、一筋の汗が頬を伝う。犇々と伝わってくる威圧感。これまで黄猿から放たれていたものとは明らかに違うもので、これまで手加減されていたということを理解させられていた。

 

「随分と速さに自信があるみたいだけど…わっしの速さに勝てるつもりなのかィー?」

 

 黄猿がそう口にしたその瞬間、光速の蹴りがサンジへと襲いかかる。だが、見聞色の覇気でそれを読んでいたサンジは───いや、読んでいたところで体が光の速さに反応してくれるかは別問題。しかし、サンジは見聞色の覇気が変質することによって覚醒した動体視力と突出した反応速度のおかげもあり、それを左足で防ぎきり、そのまま体を錐揉み回転させながら飛び上がったサンジは強力なカウンターを仕掛けた。

 

「くらえ!

堕天使風脚(アンジュ・デシュ・ジャンブ)串焼き(ブロシェット)スピア】!!」

 

 そのドリルキックは堕天使風脚の切れ味も加わることで破壊力抜群だ。

 

「おっとっと」

「くそッ!!」

 

 だが、サンジが戦っている黄猿は、そう簡単にカウンターを受けるような相手ではない。

 黄猿の頬に()()()を作った程度だ。

 

「油断はしてないつもりだったんだけどねェー。心のどこかにルーキーに対する考えの甘さが残ってたかなァ」

「千載一遇のチャンスを逃した気分だぜ。つっても、この程度で勝てる大将なわきゃねーがな!!」

「どうやら、()()()()()()()()を相手にしてるなんて思わない方が良さそうだねェ」

 

 黄猿がサンジを強敵として認め立ち塞がる。

 

 大将に強敵として認識されたことを喜ぶべきなのか悲しむべきなのか…。サンジは冷や汗を流しながら気を引き締め直す。だが、本気の大将が相手など───サンジにとって絶体絶命、窮地に追いやられている。

 

「立ち止まるな!エースの弟、黒足!!大将1人だけに足止めくらっているようじゃエースは救えないぞ!」

「おお!?隊長達!ありがたい!!」

 

 しかしそこに、白ひげ海賊団の隊長達がサンジとルフィの加勢へと駆けつけ窮地を脱するのだ。

 

 隊長達の登場にジンベエすらもホッと一息吐いている。

 

 それでも、この戦争はまだまだ熾烈さを増そうとしていた。

 

 






実際のところ、鷹の目はどれくらい強いのか。懸賞金はいくらなのだろう。

ふと思ったのですが、料理人は手が命…それ故にサンジは戦闘に於て手を使わない。ただ、それだと料理人だけではなく、医者もそうなのでは?現実では、外科医は手が命だし。
ONE PIECE世界の医者は全てオールマイティーにこなしてるけども、チョッパーとか普通に拳でハンマー殴ったりしてるけど大丈夫なの?www
ローさんも片腕切断されちゃってるし…そんなことを思ったり。

見聞色に未来視という上の次元がありますが、サンジはそれが変質し動体視力にも影響が出ております。
どこぞの心を写す瞳のように?

武装色で鋭化させた堕天使風脚には、切る"スラッシュ"と突く"スピア"があります。


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海軍の知将と麦わらの一味の知将



ワノ国編に花剣のビスタなどは絡んでくるのだろうか…。

さて、第6話なわけですが、単行本だとちょうど57巻から58巻に移ったところ。
そして単行本を読み直してて最後のページを見てビックリ!もう9年前なんですねぇ!!単行本で9年前だから、週刊誌の方だったら頂上決戦が始まったのは10年前になってるかな?

時の流れを感じてしまいますね!



 

 

 海軍の新型兵器"パシフィスタ"が猛威を振るい、一時は完全に海軍に流れが傾きかけたように思いきや、そうは問屋が卸してはくれない。

 

 サンジは白ひげ傘下の海賊達が驚いているなかでも、前回のアドバンテージのおかげで誰よりもいち早く動くことができ、数体をあっという間に破壊しルフィのもとへと向かったのである。

 そして、ルフィのもとに辿り着いたサンジは黄猿と激突し、掠り傷程度だったが黄猿に傷を負わせたのだ。

 

 サンジのその行動は瞬く間に周囲に影響を与えた。ルーキー海賊にそんな勇姿を見せられて、新世界に名を轟かせるベテラン海賊達に火が付かないはずがないのである。

 

「グラララ、若さを羨ましいと思ったのなんざいつぶりだったか…年はとりたくねェもんだな」

 

 若さの勢いとは無限大の可能性を秘めており、どこまでも輝かしく眩しいものだ。

 白ひげはこの戦場で強く輝く一等星(ルーキー)達を眺めながら、ポツリと呟くのである。

 

 しかしその直後、生ける伝説"白ひげ"エドワード・ニューゲートはその言葉の意味を身を持って味わってしまうこととなってしまう。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 巨体を貫く刃。誰もがその光景に驚愕する。

 

 そうなるように仕組んだ側の者達の中にすら、生ける伝説が弱った姿を目の当たりにし動揺を隠せずにいる者がいるほどだ。

 

 それほどまでに、世界最強の海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートが刺されたこの瞬間の出来事は衝撃的なのもの。

 

「おっさん!」

「ルフィ、気になるのはわかるがこっちに集中しろ、均衡が崩れ始めるぞ!!

 それに…海軍の奴ら()()やるつもりだ」

 

 均衡が大きく崩れようとしている。

 

『"()()()"作動!!』

 

 そして、見聞色の覇気にてその何かを聞き取ったサンジの頬を冷や汗が伝う。

 

「アイツらまさかッ!?ちっ、ここはマリンフォード…海軍の本拠地、白ひげを迎え撃つってんだからそれくらいしてきてもおかしくねーよな!少し考えればわかるってのに気付くのが遅れちまったぜ!!」

「黒足、どうかしたのか?」

「ヤバい事態…って、そうだ!こっちには()()()()()()()()()()()がいるじゃねェかッ!!」

 

 ジンベエを見たサンジが何かを閃き、そして奇策を練り一か八かの賭けに出る。

 

「ジンベエ、ちょっと手伝え!!」

「何をするつもりじゃ?」

「海軍に流れを渡すわけにはいかねェからな」

 

 白ひげが膝を突いたこの局面、流れは完全に海軍へと傾いてしまった。その流れを取り戻すべくサンジは動く。

 

 

 *

 

 

 白ひげが傘下の海賊達を海軍に売り、己やエース含む白ひげ海賊団の者達は助かることになっているという海軍の情報操作による奇策が、今ここで白ひげに大きな傷を与えてしまった。

 

 白ひげを刺した傘下の海賊"大渦蜘蛛"のスクアードは、かつて海賊王ゴール・D・ロジャーに仲間を全滅させられた苦い記憶をもっている人物だ。

 "火拳のエース"が海賊王の息子であることは聞かされておらず、それを知った時のスクアードの心情は非常に複雑なものだっただろう。だからこそ、海軍大将"赤犬"の口車にまんまと乗ることになってしまったのだ。最初こそ疑いはしただろうが、パシフィスタが白ひげ海賊団の者達に一切攻撃を仕掛けず傘下の海賊ばかりを狙っている光景を目の当たりにしてしまっては、それが事実だったと騙されてしまうのも仕方なかったのかもしれない。

 

 誘導に上手く乗ってくれるだろうとスクアードに目を付けた海軍の策略は実に見事なものだ。

 

 白ひげが海軍に仲間を売った───白ひげ陣営に一気に動揺が広がってしまう。

 

「あの野郎…」

 

 だが、()()()()()でありながらも、白ひげの無様な姿を受け入れられない人物が1人いた。

 

「みっともねェぞ白ひげェ!!おれは、今の無様なテメエに…そんな弱ェ男に敗けたつもりはねェぞ!!」

 

 白ひげを討つ為に、麦わらのルフィの集団脱獄に協力しインペルダウンからこの戦場にやって来た元七武海のクロコダイルの心からの叫び───その叫びに、白ひげは何を思うのか…。

 

「まったく…年取ってますます悪知恵が増したか?…衰えてねェなァ"知将"センゴク。見事にひっかき回してくれやがってクソッタレが…おれが息子らの首を売っただと?バカも休み休み言えってんだ」

 

 白ひげがグラグラの実の力で、マリフォードを囲っていた左右の氷山を破壊する。

 

「海賊共に退路を与えたか…相変わらず食えん男だ」

 

 白ひげの動き出す姿を前に、元帥センゴクがそう呟く。

 

 白ひげが仲間を売るなど決してありえない。そんなことを決してしないからこそ、白ひげは伝説として崇められ、称えられてきたのだ。

 

 海軍───赤犬の口車にまんまと乗ってしまい、仏のセンゴクの策略にはまり親と慕う白ひげに刃物を突き立てるとんでもないバカ息子だろうと、そんなバカ息子を白ひげは愛するのだ。

 

 白ひげが望むのは息子達全員が仲良く過ごすこと。火拳のエースたった1人が特別なわけではない。

 白ひげにとって、懐に入れた全ての者達が大切な家族なのだから…。

 

「おれと共に来る者は命を捨ててついて来やがれッ!!

(弱ェ男…か…好き勝手言いやがって…勘弁しろよワニ小僧!おれだっておめェ、心臓一つの人間…70超えの老いた海賊。いつまでも最強でいられねェんだよ!

 悪魔だの怪物だの言われようとも…寄る年波には勝てねェんだよクソッタレが)」

 

 そう、世界最強の海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートも血の流れる人間。

 いつか必ず死ぬ時が来るのだ。

 

「構えろォ!暴れ出すぞ!世界最強の海賊がァ!!」

 

 それでも、若い命をたった一つでも未来に繋げる為に、白ひげは戦場へと降り立つ。

 

 生ける伝説がいよいよ、その人生に自らド派手に()()()()()為に動き出した。

 

 そして白ひげが動き出したこの局面にて───

 

「すげェなあのおっさん、刺されたのに!けど今はとにかくエースだ!サンジ、行こう!…サンジ?あれ?サンジがいねェ!?」

「黒足ボーイならジンベエ連れて海に潜ったッチャブルよ」

「は!?」

 

 ルフィの隣にいたはずのサンジの姿が消えており、何やら戦況が大きく動こうとしている。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 白ひげが戦場に降り立ち、その最強の力を発揮する。島ごと、海すらも傾けるその力───まさしく怪物。

 

「ブハッ!!あ、危ねェ!!はあ、はあ、ま、マジで死ぬかと思ったぜ!!」

「黒足、大丈夫か?」

「あ、ああ、助かったぜジンベエ。お前のおかげでどうにかなった。それに()()()()のおかげで上手く作動できてないみたいだったからな、間に合って良かったぜ」

 

 海から浮かび上がってきたサンジとジンベエ。ちょうどその場所には危なく海に落ちかけようとしていたルフィも居り…。

 

「サ、サンジ!?お前どうして海に潜ってたんだァ!?」

「ルフィ、大丈夫そうだな!!理由についてはまあ、ちょっとな」

 

 凍結した海も砕け、大きな津波まで押し寄せるマリンフォード。熾烈さを増す戦場だが、サンジは一時的にルフィの側を離れ、どうやら海に潜っていたようだ。

 

 いったい何をしてきたというのか…。

 

 しかし、サンジのその行動は両陣営に大きな影響を及ぼすのである。

 

「ジンベエ!できるだけコッチ側に戦力を集めてくれ!!ルフィ、お前は俺と一緒にコッチ側から攻め込むぞ!イワンコフ!お前も部下引き連れて一緒に来い!!」

「任せておけ!」

「おう!」

「何か面白いことやらかしてくれようとしてるみたいじゃないの黒足ボーイ!!」

 

 サンジがルフィと共に先導し、イワンコフ含むインペルダウン脱獄囚達と共に広場へと向かう。

 

 そして別方向から広場へと攻め込もうとしている白ひげ陣営だが、海軍陣営はいつの間にか全員広場へと上がっている。気付く者はそれに気付き、海軍の動きに対し悪い予感を感じずにはいられないだろう。

 

 だが、白ひげ陣営側が悪い予感を感じるなか、海軍はまだ()()に気付けていない。

 

 そして、サンジの奇策が今ここにてその成果を発揮することとなる。

 

「な、何だァ!?」

 

 広場まで上がろうとする白ひげ傘下の海賊達の目の前に、氷を突き破り海中から鋼鉄の壁が現れる。

 海軍側が包囲壁と言っていたのはコレのこと。海軍はこの包囲壁にて白ひげ陣営を囲み、一網打尽にする腹積もりなのだ。

 

 しかし、そうは問屋が卸してはくれない。

 

「おい!いったいどうなっている!?どうして()()()()の包囲壁が作動していないんだッ!!」

「そ、それが、どういうわけか()()()()()されている模様ですッ!!」

「な、何ッ!?い、いったい誰の仕業だァ!!」

 

 包囲壁で白ひげ陣営を取り囲もうとするも、片側の半分近くがまったく作動していない。

 この事態には知将センゴクも驚愕し、いったい誰がこの事態を起こしたのかと思案するなか、その方向から攻め込んでくる集団の先頭を走る人物───()()()()()()()()()()()()()と目が合い、そしてその男が不敵な笑みを浮かべながら頭を指で数回叩く姿を見せつけられ、犯人の正体に気付くのである。

 

「黒足の仕業かァ!!」

 

 そう、サンジはジンベエを引き連れ一時海へと潜り、包囲壁の歯車を可能な限り破壊していたのだ。

 だが、サンジがその行動に移れたのも、全ては海軍のおかげなのである。

 

「ヒィーーーハァーーー!!黒足ボーイ、あなたジンベエと海の中でこんなことしてたの!?」

「へっ、ただ強いだけじゃ生き残れない…それが戦争ってもんだろ?」

「麦わらボーイ、あなた素敵な部下を持ってるッチャブルね!!」

「だろォ!?サンジはスッゲェんだ!!」

 

 エニエス・ロビーに於いてもサンジはその頭脳を活かし、一味全員が無事にエニエス・ロビーを抜け出す為に一役買った。そしてその頭脳は、今度は白ひげ陣営に勝機を与える。

 

「やってくれるじゃねェか黒足!!」

「ん?おお、アンタか。さっきは鷹の目の相手代わってくれてありがとよ!!」

「それくらいお安い御用だ」

 

 花剣のビスタもこちら側に、そして続々と隊長達の何人かと傘下の海賊達がこちら側へと回り込み、白ひげ陣営は二手に分かれ戦場は大混戦へと突入するのである。

 

 舞台は氷結した海の上からいよいよ広場へと移り、サンジとルフィは着実に火拳のエースのもとへと近づいていた。

 

 一方、この予期せぬ事態にセンゴクは怒りを露にする。

 

「くそッ!ルーキー相手に何たる失態だ!!」

 

 センゴクは包囲壁を作動させ、白ひげ陣営を取り囲みしだい、すぐに火拳のエースの処刑を決行するつもりでいたのだ。それをたかだか懸賞金7700万ベリー程度のルーキーに阻止されてしまったのである。

 

 だが、そのルーキー海賊は毎度の如く前代未聞の事態を引き起こしてくれる超問題児ルーキー一味の頭脳(ブレーン)だ。

 

 決して、ルーキーだからと甘くは見ていけない相手だったことに、ルフィの()()とその部下だからと警戒しながらも、それでも戦場に乗り込んだアリ二匹程度だと甘く見ていたことに、己の慢心に今更ながらに気付くこととなってしまった。

 

「気付いたところでもう遅い!!」

「行ぐどみんな!ウオオオオオオオ!!」

 

 そして包囲壁が作動している側───白ひげサイドでは、先陣を切りながらも早々と倒れてしまっていた古代巨人族のリトルオーズJr.の最後の悪足掻きのおかげもあり、海中に待機させていた外輪船(パドルシップ)を使いド派手に広場へと一気に戦力を投入したのである。

 

「白ひげが広場に降りたァーーー!!」

「下がってろよ息子達…ウェアアアアア!!」

 

 大きく揺らぐ広場。だが、これでもまだ中盤戦に入ったばかりである。

 






エニエス・ロビーでのサンジの最後の働きは実に見事ですよねェ。


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Dが呼ぶ嵐



プリンちゃんの第三の目の真の力って何ですかね?

まさか夫(サンジ)が炎扱えるから、プリンちゃんは邪王炎…んなわけないか…。



 

 

 舞台は広場へと移り変わり、世紀の大決戦は激化する。

 

「野郎共ォ、エースを救い出し海軍を滅ぼせェェ!」

 

 白ひげサイドが広場へと乗り込み雄叫びを上げる一方、反対サイドからエース救出へと向かうサンジとルフィ達。

 

「おいおい、あくまでエースの救出が目的であって海軍滅ぼしちゃ…つっても、この戦場に降り立った時点で生きるか死ぬかの瀬戸際みてェなもんだからな…甘いこと言ってられねェか」

 

 海軍が滅びてしまったら市民達の平和はどうなるのか───サンジはこの局面で甘い言葉を呟きそうになるも、その言葉を引っ込め心を鬼にする。

 

 己は海賊であるのだと、麦わらの一味のコックで、船長のルフィを支え、守る為にここに来たのだと自分に強く言い聞かせていた。

 

「ルフィ、お前にとっての海賊王って存在は他の奴らにとっての海賊王とは違ったよな」

 

 少し先を走るルフィの背中を眺めながら、サンジは自分がやるべきことを改めて確信するのである。

 

「この世でもっとも自由な奴…お前はそれでいい、そのままでいろ。絶対に変わるんじゃねェぞ船長。

 お前の進む道に横やりを入れてくるクソ野郎も、背後から襲いかかってくるクソ野郎も全部、俺が…()()がぶっ飛ばしてやる。お前はただ、自分の思うがままに前だけ見て突き進め。目の前に立ち塞がる(強敵)だけに集中し、それをぶっ壊して前に進め」

 

 未来の海賊王"麦わらのルフィ"の矛となり、時には盾にもなり、ルフィに襲いかかる全ての障害を蹴り飛ばし、破壊し、ルフィの走る道を切り開くのだ。

 

「おらァ!麦わらのルフィのお通りだ!!引っ込んでろクソ野郎共ッ!!」

 

 船長の支えとなり、船長が己の思うがままに進めるように他の全てを請け負うその姿───サンジはこの戦場にて一皮剥け、大きく成長するのである。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 白ひげが傷を負い、海軍の策略により危うく内部分裂を起こしかけた白ひげ陣営ではあったが、白ひげが戦場に舞い降り自ら悪い流れを断ち切り、サンジの機転によってすっかり勢いを取り戻すどころか益々勢いを増す白ひげ陣営とルーキー海賊2人を筆頭とした御一行。

 

 海軍最高戦力の大将達も白ひげを筆頭としたトップ3含む隊長達数名を相手にする状況となっており、元帥センゴクにとって実に苛立たしい状況だろう。

 

「【小悪魔風脚(プティ・ディアブルジャンブ)そぎ切り(コポー)】!

 へっ、やらせるかよ!!」

「エーーースゥーーー待ってろォ!!」

 

 執行人の2人がエースの処刑を執行しようと刃を振るうも、サンジは鋭い飛ぶ斬撃でそれを阻止する。

 鋭いその攻撃は処刑台の一部を削ぎ、センゴクの衣服の一部すらも削ぎ落とし、決して海軍の思い通りにさせることはない。

 

「……」

 

 そして、その光景を目の当たりにしながら、火拳のエースは複雑な気持ちを感じると同時に、これ以上ないほどの安心感を覚えてしまっていた。

 

「ルフィ…黒足…」

 

 弟であるルフィが助けに来たのはわかる。本当は来てほしくなかっただろうが、昔から無茶をする義弟のことなのだから、エースの処刑を知ったら大人しくなどしていられないだろうということは火を見るより明らかだ。

 

 だが、その弟であるルフィの仲間───その内の1人だけではあるが、その仲間までどうしてここに来ているのか…。

 

 たった一度会っただけの関係でしかないサンジがどうしてこの戦場に…。死ぬかもしれないのにどうして…。

 

「オラァ、ルフィの邪魔すんな!三枚におろすぞ!!」

 

 立ち塞がる海兵を蹴り飛ばし、時には蹴りで切り裂き、果てには燃やしながらルフィの道を切り開く強力な義弟の仲間。

 

「どけェ!エースはおれの兄ちゃんなんだよ!!絶対に殺させねェ!!」

 

 そのサンジをどこまでも信頼し、ただひたすらに真っ直ぐ処刑台を目指すルフィ。

 

「ルフィ、お前は船長として立派にやってんだな」

 

 弟の成長した姿、その弟を支えてくれる仲間の姿を目の当たりにし、兄であるエースは改めて───初めて麦わらの一味の面々と出会った時以上の強い安心感を覚え、そして全てを受け入れる。

 

 己を助けようとしてくれる仲間達の姿に生きたい気持ちが増しながらも、大切な弟の姿に安心感を覚え、エースはただじっと己に来るべき運命を待つのだ。

 

 それが、どのような形になろうとも…。

 

 

 *

 

 

 何かを察知したサンジがルフィを手で制止して動きを止める。

 

「なんで止めんだよサンジ!?」

「…ちっ、()()なのが出てきやがったぜ」

 

 広場へと移り、更に熾烈さを増すこの大戦争。当然、サンジとルフィの行く手を阻む敵も強さを増していく。

 中将クラス以上の猛者が現れるのも当然のことだ。

 

「フッフッフ、シャボンディ諸島でおれの"人間屋(ヒューマンショップ)"をオシャカにしてくれたらしいじゃねェか…麦わら、黒足」

「どけよッ!!

【ゴムゴムのツインJET(ジェット)(ピストル)】」

「フフフフフ…速い…が、パワーが足りねェな。この程度じゃこっから先は進めねェぞ、ルーキー」

 

 ルフィの強力な拳が炸裂するも、それを受けてもまったくダメージを負っていないその男───

 

「テメエの相手は俺だ!!」

「黒足かッ!!」

「(()()は返させてもらうぜ!)

堕天使風脚(アンジュ・デシュ・ジャンブ)焼鉄鍋(ポアル・ア・フリール)スペクトルスピア】」

 

 前回の人生に於いてサンジが苦渋を飲まされた相手───"悪のカリスマ"、七武海で最も危険とされるドンキホーテ・ドフラミンゴに鋭い槍と化した足で、踏みつけるようにして蹴りを放つ。

 

 奇しくもその技は、前回サンジがドフラミンゴに放ち傷一つ負わせることのできなかったものだ。

 

「ぐっ!」

 

 だが、同じ轍を踏むはずがなく、前回とは大違いの威力だ。

 

 黒炎を上げる黒槍(黒足)の連続の突きが"天夜叉"ドフラミンゴに傷を与える。

 

「こ…のックソガキがァ!!

五色糸(ゴシキート)】!!」

 

 常に不敵な笑みを浮かべるこの男の眉間に深いシワが刻まれているその様からも、サンジに激しい苛立ちを覚えているのは明白だ。

 

 傷を見る限りそこまで深くはないが、それでもサンジがドフラミンゴに傷を与えることのできる実力を───同等の力を有しているのは確かな事実としてドフラミンゴのその身に刻まれているのである。

 

 だが、相手は七武海。体の一部を貫かれ焼かれようとも、それだけで倒れる相手ではない。

 

「ぐわッ!?」

「な、何をするドフラミンゴ!!」

「気でも狂ったか!?」

 

 しかし、サンジはドフラミンゴの反撃を察知しており、すでにその場には居らず、近くにいた海兵達が身代わりとなり切り裂かれていた。

 

「クソッ!あのガキどこに…ッ、上か!?」

 

 素早く空中歩行で上空に舞い上がっていたサンジは、地上に向けて舞い降りる。

 

「おれの上に立つとは…クソ生意気なガキだ!!」

「へっ、それが俺の…俺達麦わらの一味だ!!

【空中歩行・落雷(サンダーボルト)】」

 

 空中から地上に向け空中歩行を行使し急降下するサンジ。それはさながら、舞い落ちる雷のようで───

 

「は、速ッくっ!

【蜘蛛の巣がき】!!」

 

 蜘蛛の巣状の糸を張り巡らせ瞬時に防御へと転じるドフラミンゴ。この一瞬でそれに反応できるのは、さすが七武海の実力者といったところ。

 

「【"武装鋭化"堕天使風脚(アンジュ・デシュ・ジャンブ)点火(フランベ)…】」

 

 高い防御力を誇るドフラミンゴの蜘蛛の巣。しかし、落雷の如き急降下に回転力をプラスしたサンジのそれは容易く焼き切り、地へと振り落とされる。

 それはもはや蹴りではなく、ギロチンのようで───

 

「くらいやがれ!

粗砕(コンカッセ)】!!」

 

 身の危険を感じたドフラミンゴはその場所から素早く撤退し、距離を取る。

 

 その光景───一瞬すぎる攻防は、ドフラミンゴがルーキー相手に逃げたと思われても仕方ないものだ。

 

「うおっ!?」

「なッ!?な…んて威力だ!!」

 

 ただ、蹴り一つで地面を大きく割り、黒炎を燃え上がらせるその衝撃的な光景に、周囲の者達が手を、足を止めてしまう。ドフラミンゴの行動に納得せざるを得ないだろう。

 

「ちっ、避けやがったか…つっても、今はあんな奴の相手してるとこじゃねェからな!ルフィが()()()!!」

 

 ルフィのピンチを察知したサンジは素早くその場から立ち去って行く。ドフラミンゴなどお構い無しに───借りはこれで十分に返したつもりのようだ。

 

 そして、立ち去るサンジの背を眺めながら、あんな一撃をくらっていたらと海兵達は背筋を凍らせ唖然としている。

 

「フッ…フッフッフ…フフフフフ!!」

 

 だが、誰よりも身の危険をその身を持って味わった人物───ドフラミンゴは体の至る箇所から血を流しながら不気味な笑い声を上げるのだ。

 

「クソガキが…"()"は余計なことしやがる」

 

 Dはまた必ず嵐を呼ぶ。

 

 極一部の者達がたまにその言葉を呟く時がある。恐らく、"D"に隠された何かをドフラミンゴは知っているのだ。

 そして、ドフラミンゴが思い浮かべているDとは、今この場に於いてモンキー・D・ルフィしかいないだろう。

 

 サンジの船長である麦わらのルフィ。もし、ルフィが本当に嵐を呼ぶ者なのだとしたら、サンジは───そして麦わらの一味全員が嵐となるということか…。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 懸賞金3億ベリーの超問題児ルーキーに襲いかかる海軍の猛者達。

 

「ウゥ!!」

 

 ルーキーでありながら、よくもここまで戦場をひっかき回してくれたものだと、その猛者達もある意味感心してはいる。

 しかし、ここから先はもう───

 

「その度胸だけは認めてやってもいいけど度胸だけじゃねェー、麦わらのルフィ」

 

 地に倒れ込んだルフィを見下ろす大将・黄猿は、もはや指一本動かせぬルフィを蹴り飛ばす。

 

「ルフィくん!!」

 

 そのルフィを受け止めるジンベエ。

 

「オオ…ジンベエ。おめェともあろう男が…そんな無謀なだけのゴミクズに協力するなんてねェー」

「黄猿ッ貴様ァ!!」

 

 兄を救う為だけに無理に無理を重ねてこの戦地にまでやって来た勇敢なルフィを侮辱する言葉にジンベエも怒りを露にする。

 

 だが、敵である黄猿が何を言おうともそれは当然なのだ。

 

 ルフィが───己が海賊で、相手が海兵である限り…。

 

「ジンベエ!安い挑発に乗んな!!」

「黒足!!お前さん、ドフラミンゴとやり合って無事じゃったのか!?」

「倒しちゃいねェがな。適当なとこでとんずらして来た。それよりもルフィは…ルフィ、生きてっか!?」

 

 ジンベエに声をかけ、その腕に抱えられたルフィへと声をかけるサンジだが、対するルフィはすでに戦う力など残っていない状態だ。

 

「麦わらボーイ!だから言わんコフッチャナッシブル!!あまり無茶するなってあれほどッ、息はあんの!?」

「イワ…ちゃん…はあ…はあ…エー…ス…を…助け…ねェと…エースは…おれ…の…世界で…たった…1人…の…兄弟…なんだ…必ず…おれ…が…助け」

 

 ルフィを心配しそばに駆け寄るイワンコフ。だが、イワンコフの見立てでも、ルフィにこれ以上の戦闘は無理だと判断せざるを得ない。

 気を失って倒れ込んだルフィだが、下手をしたら命すらも危ういギリギリの状態なのである。

 

「ルフィくん…イワンコフ…それから船医の者…何とかルフィくんの命を繋いでくれ」

 

 そんなルフィの意思を引き継ぎ、ジンベエが前へと出た。

 

「ルフィくんをよろしく頼むぞ。わしはここを死に場所と決めておる。この命に代えて…エースくんを救い出す!!」

「おめェも物好きだねェ…けど、向かってくるんなら容赦はしないよォ」

「わしもそのつもじゃ!!」

 

 ジンベエが黄猿へと仕掛けると同時に、傘下の海賊達も次々に攻撃を仕掛けていく。

 相手は大将含む猛者達───その力は強大で、あまりにも高い壁として聳え立っている。

 

 その局面を前に、倒れたルフィを前にサンジはどのような行動にでるのだろうか───

 

「おい、イワ」

「黒足ボーイ、アンタは麦わらボーイのそばに」

「いや…俺はルフィが()()した時、少しでも敵が減っているように暴れるぜ」

「は!?」

「ルフィが復活したら()()()()()()()

 

 そう言って、サンジは斜めがけしていたバックをイワンコフへと渡す。そのバックの中に入っているのは言わずもがな───ルフィのエネルギー源であり大好物だ。

 

「に…肉…」

 

 気絶しながらも匂いを感じ取ったルフィは、ポツリとそう呟いた。

 

「任せたぜ。

 ジンベエには挑発に乗んなっつったが…あの野郎、言ってくれやがるぜ」

 

 サンジは前へと進み、そう口にする。

 

 闘志がめらめらと燃え上がり、そしてサンジの怒りは最高潮へと達するのだ。だが、怒りを上手くコントロールできるサンジは、その怒りで我を忘れずに力へと変える。

 

「口には気をつけやがれ…俺は怒りでヒートアップするクチだぜ」

 

 走り出すサンジ。だが、その様子はこれまでと一味も二味も違い、そして様子がおかしい。

 醸し出される雰囲気は静かで───しかし、放たれる威圧感はどこまでも重く…。

 

「未来の海賊王に何様だクソ野郎共ッ!!」

 

 その瞬間、サンジの威圧感が解放され、周囲の海兵の意識を刈り取ってしまう。

 

 モンキー・D・ルフィの嵐となり、サンジが猛進する。

 

 






ドフラミンゴのイトイトの実って、どうしてあんなに強いんだろうか…。
鳥かごとか何なの?ゾロや藤虎ですら斬れないって…それなのにバギーはバラバラの実で通過できるらしいwww

今回のタイトル。Dが呼ぶ嵐とはサンジのことを意味しております。


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この時代の先を…



サンジがどうして燃えるのか…もう大器晩成型のジェルマだったのだと思ったりもしている今日この頃…。



 

 

 サンジが覇王色の覇気を発現し、周囲にいた海兵達の意識を刈り取ったその光景に、敵はおろか、味方である白ひげ陣営の者達ですらも衝撃を受けている。

 

 ただ、誰よりも驚いているのはサンジ本人であろう。自身はどうあっても覇王色の覇気を発現することはないと思っていたのだから…。自身には王の資質などはない───ただ、海賊王の支えであろうという強い気持ちしか持ち合わせていないのだから当然だ。

 

 しかし、それを発現したということは、本人の見解とは違ってその資質があったということだろう。

 

 サンジは一度は死に、そして過去に戻ったことで、前回以上にルフィの支えであろうという気持ちが強くなった。そしてそれと同時に、船長が自分の思うがままに前だけ見て進めるように、前回の人生のアドバンテージを活かして他の仲間達を()()()()()()()()()という、サンジ本人はそこまで大それたことだと思っていないだろうが、他者から見たら立派な導き手───"()()()()()()()"という新たな想いが生まれていたのだ。

 船長を支え、そして時には船長の代わりとして仲間達を守り支えるという強い想い。それは、一味のNo.2───副船長という立場に重要な力と才能ではないだろうか…。

 

 サンジ自身、麦わらの一味のコックで在ることに強い誇りを持っていることもあり副船長になろうとは考えてもいないだろうが、戦力面だけではなく頭脳面に於いても一味に必要不可欠なサンジはその器と言える。

 

 ルフィが未来の海賊王ならば、サンジは第二の"()()"となる人物なのかもしれない。その資質が、今ここで開化したのだ。

 

「へっ…こいつは驚きだ…けど、まだまだ上手く扱える気がしねェ」

 

 驚愕しながらも不敵な笑みを浮かべるサンジは、そのまま走り出し再び死闘へと身を投じる。

 

 この戦争は───時代の節目となろうとしていた。

 

 そして、新たな時代の───いや、"D"が再び嵐を呼ぶ前触れ、これは嵐の前の静けさなのだろう。

 

「イワちゃん…」

「ヴァ、ヴァナタ意識がッ!?」

「頼…む…おれに…もう一度だけ…戦う力をくれ!!」

 

 Dは何度でも立ち上がり、決して折れることはない。

 

「ウォォオォオォオォ!!イワちゃん!肉ッ!肉よこせッ!!」

 

 再び立ち上がったルフィは、サンジがイワンコフに預けていた力の源である肉を口にする。

 

「これまで以上に力が漲ってくる!やっぱサンジのメシは最高だッ!!」

 

 ルフィの力の源は肉ではなく───そう、サンジの愛情がたんまりと込められた料理だ。

 そして、攻めの料理法を用いて用意されたそれはルフィに無限大の力を与えるのである。サンジはどこまでも、ルフィの身も心も全て支えているのだ。

 

「もう絶対に…倒れねェ!!」

 

 再びエースのもとへと走り出したルフィ。インペルダウンにて毒に侵され死の淵まで行き、どうにか復活するもこのマリンフォードで限界を迎えてしまい───そして三度(みたび)

 

 ルフィにとって、これは三度目の正直だ。

 

「あ、コビー!!」

「ッ、ルフィさん!あなたを止め…いえ!殺しま」

「コビーどけッ!!

【ゴムゴムの銃弾(ブレット)】!!」

「ぶっ!?」

 

 その強い覚悟は、()すらも躊躇なく殴り飛ばし、もう誰にも止めることなどできない。

 

「サンジィーーー!!」

「ルフィ、来たか!もう()はねェぞ!!」

「わかってる!これで最後だッ!!」

 

 いよいよ、世紀の大決戦も佳境を迎える。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 寄る年波には白ひげすらも勝てない。それは白ひげ自身が誰よりも理解していることだ。

 

 ただ、この戦争だけは───自身にとって()()()()()だと覚悟してやって来たこの戦場に立っている間だけは、体が最後まで持つことを白ひげは強く望んでいた。

 

 しかし、運命とはどこまでも非情で残酷であり、本人の望み通りになど進んではくれないもの…。

 

「ウウッ…ガフッ!クソッ…タレ…!!」

 

 心臓付近を押さえながら、白ひげが地に膝を突き吐血するその姿は、生ける伝説が年老いたという、人間である以上必然的な時の流れを感じさせられる光景だ。

 

「オヤジィ!?」

 

 動揺が走る白ひげ陣営。彼らにとって一番恐れていた事態がこの重要な局面で起きてしまった。

 広場へと乗り込み、火拳のエースが目と鼻の先にいる状況でのこの展開は、白ひげが海軍の策略で刺されてしまった時よりも大きな動揺を白ひげ陣営側に与えてしまう。

 

「くっ!」

「勝敗は一瞬の隙だよねェー」

「ッ…ウゥ!!」

 

 白ひげのもとへ駆けつけようと隙を見せてしまった1番隊隊長"不死鳥のマルコ"は背後からレーザービームによって貫かれてしまう。

 ルーキー海賊側に回っていた黄猿だが、白ひげ陣営の主力を一気に叩けるこの状況に参加しないはずがない。

 

 そして立て続けに、白ひげ陣営は崩れることとなる。

 

「マルコッ!?」

「他所見なんてしてる余裕あるか?なァ、"ダイヤモンド・ジョズ"」

「ぐァ!!」

 

 青雉と互角に渡り合っていた3番隊隊長のダイヤモンド・ジョズまでも一瞬の隙を突かれ、青雉に左腕を瞬時に凍結させられてしまった。

 青雉はそのまま一気にその勝負を決めにかかり、ダイヤモンド・ジョズを完全に氷結させてしまう。

 

「崩れたな…白ひげ海賊団」

 

 主力が崩れた一方で、海軍の最高戦力はまだまだ余裕さを残している。

 

「寄る年波は貴様でも越えられんか…白ひげェ」

 

 そして、地に膝を突いた白ひげの前には赤犬が立っており、右腕をマグマの腕へと変化させ瀕死の白ひげに襲いかかる。深々と刺さった赤犬の腕が、海軍側へと一気に流れを手繰り寄せようとしていた。

 

 白ひげがここまでの深手を負ってしまうのは、後にも先にもない。最強は老い、その最強は最早過去でしかないのだと誰もがそう思ったことだろう。

 

「何をぼさっとしている!グズグズするな!全員で白ひげの首を取れェーーー!!」

 

 センゴクが叫ぶと同時に、赤犬に続き白ひげに総攻撃を仕掛ける海兵達。

 斬られ、刺され、撃たれ───普通の人間ならば即死であること間違いなしの容赦のない攻撃だ。

 

 だが、それは相手が白ひげだからこそ───相手は世界最強の海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートなのだから徹底的にやるのである。手加減など一切不要。寧ろ、死にかけの老人だからと手加減しようものなら海軍側が返り討ちにあってしまうことだろう。

 

「オヤジィーーー!!」

 

 海軍による白ひげへの一斉攻撃が行われるなか、どうにか白ひげを助けようと駆け寄る息子(船員)達。

 

 だが、白ひげはそれを一喝し制止する。

 

「来るんじゃねェ!!」

 

 確かに白ひげは老いた。しかし、白ひげが未だに四皇の一角として君臨し続けるのは、老いたとはいえその力が世界を滅ぼせる強大なものだからだ。

 

 そして、海軍はその力を目の当たりにすることとなる。生ける伝説のその底力を…。

 

「こいつらァこれしきで…おれを殺せると思ってやがる…助けなんざいらねェよ…おれを誰だと思ってやがるハナッタレのクソッタレ共が…おれァ"白ひげ"だァァ!!」

 

 白ひげが一閃。たった一振りで海軍の猛者達を薙ぎ倒すその姿───どれだけ傷を負おうとも、斬られ、刺され、撃たれ、貫かれようとも決して倒れることのないその姿───これこそがまさしく最強の姿なのだ。

 

「おれが死ぬ事…それが何を意味し、世界に何を及ぼすのかおれァ知っている。だったらおめェ…大切な息子達の明るい未来を…()()()()()()の誕生を見届けねェと、おれァ…死ぬにも死ねねェじゃねェか…なァ…エース」

 

 最強の貫禄を見せる白ひげ。

 

 そしてその最強の背後には、最強の誇りを守らんとする息子(船員)達が立つ。

 

「気が利きすぎだアホンダラ共」

 

 だが、白ひげが弱っているのもまた確かな事実。白ひげは今、精神が肉体を上回り、火事場の馬鹿力で立っているようなもので、それでも確実にその身にダメージが蓄積されている。

 

「そんなに未来が見たいのであれば、今すぐに見せてやるぞ白ひげ!火拳の未来が潰える瞬間をな!やれ!!」

 

 再び、エースへと振り落とされる凶刃。

 

「無駄だ。それをおれが止められねェとでもッゴフッ!!」

 

 やはり、老いには最強も抗えないのか…。これが10年───いや、5年、もしくは3年前の白ひげならばまだ防ぐことができたかもしれない。

 

 だがそれは、人間である以上は必然的なこと。いつまでも最強ではいられない。

 終わりは必ずやって来るのである。

 

「やめろォォーーーーー!!」

 

 だが、また新たに生まれるのだ。

 

「やっぱりお前は最高だ、ルフィ!おらァ、どけックソ野郎共ッ!王の前に跪きやがれッ!!」

「今助けるぞエースゥ!!」

 

 王の資質を持った新たな世代が、最強の海賊に時代のその先を見せるのである。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 敵味方関係なく意識を刈り取られる者達。

 

 モンキー・D・ルフィの王の資質───覇王色の覇気が猛威を振るっている。

 

「おいおいマジか…」

 

 大将青雉も驚きを隠せずにいるが、ルフィはただのルーキーではないのだ。ルフィは、世界最悪の犯罪者と恐れられる"革命家"ドラゴンの息子なのだからその資質を受け継いでいるのは当然のこと。

 

「今のは…どうやら無意識じゃのう…」

 

 だが、今はまだ眠れる力。

 

「恐ろしい力を秘めてるねェー」

 

 しかし、ここで逃がしてしまったらいずれ必ず強大な敵になると判断した海軍は躍起になってルフィの首を狙う。赤犬も黄猿もそれがわかっており、ルフィを───いや、ルフィとサンジをこの戦場にて抹殺すべき対象として認識していた。

 

 もちろん、まずは火拳、そして白ひげといった順番ではあるだろうが…。

 

 ただ、ルフィを狙ってくる輩はサンジが次々と撃退しており、若さの勢いは容易には止められないだろう。

 

「俺の目の前でルフィに手出しさせねェぞ!

小悪魔風脚(プティ・ディアブルジャンブ)回転切り(トゥルネ)】!!」

 

 地に手を突き、目にも止まらぬ速さで回転するサンジは竜巻を起こし、ルフィに襲いかかる海兵達を一掃する。

 

「うわッ!た、竜巻だと!?」

「き、気を付けろッ!この竜巻、斬れるぞ!!」

「くッ、麦わらだけではない!黒足も逃がすなッ!!」

 

 王の資質を持ったルーキーが2人もこの場に存在してしまっているのだ。海軍が躍起になるのは当然だろう。

 

 ただ、サンジとルフィをどうあっても始末したい海軍とは違い、未来に繋ぎたい者がいる。

 

「野郎共ォ!麦わらのルフィと黒足を全力で援護しろォ!!(やってみろ、小僧共!"Dの意志"を継ぐ者ならば…"Dを支える者"ならばこの時代のその先をおれに見せてみやがれ!!)」

 

 世界最強の海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートはサンジとルフィの王の資質から何を感じ取ったのか…。

 

 白ひげが自ら囮となり海軍の戦力を一身に引き受け、そして全てをサンジとルフィに託す。

 世界最強の海賊が2人を試しているのだ。

 

「一大事よ、麦わらボーイ、黒足ボーイ!世界一の海賊がヴァナタ達を試しているッチャブルよ!!」

「!?」

「あ?」

「ヴァナタ達"白ひげ"の心当てに応える覚悟あんのかいって聞いてんノッキャブル!ヒィーーーハァーーー!」

 

 確かに白ひげに試されている。だが、サンジとルフィにとってはまったくもって興味のないことだ。

 2人がやるべきことは決まっているのだから…。

 

「おれがここに来た理由はッ!始めから一つだ!!」

「そうだ。俺のやるべきことはたった一つ…ルフィを支え、道を切り開く!!」

 

 目指すべき場所まで───残り、あとわずか…

 

 






もし本当に大器晩成型なら、それを知った時のジャッジの心境は如何に?

原作でも決行わかりやすいですが、サンジってルフィのことかなり好きですよね。もちろん、仲間全員に愛情持ってますが、とくにルフィに対しては…。


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母の愛、祖父の愛



頂上決戦編もいよいよ佳境。

執筆の励みになるので感想、ご評価よろしくお願いしますです。



 

 

 広場を猛進するサンジとルフィ達は白ひげ陣営側の強力な援護もあり、襲いかかってくる海兵達を薙ぎ倒しながら広場を一直線に突っ切る。

 

 絶対にこれ以上進ませるわけにはいかないと、海軍もこれまで以上の力にてサンジとルフィへと襲いかかってくるが、それでも勢いは止まることなどない。

 

「フッフッフ…若造が王だと?笑わせてくれる」

「邪魔すんじゃねェよ、フラミンゴ野郎!!」

 

 だが、佳境を迎えたこの戦場にて、立っているのは猛者達ばかり。当然、サンジとルフィを狙う、行く手を阻む相手は強敵揃いだ。

 

 サンジに傷を負わされたドフラミンゴだが、あの程度の傷で戦線離脱するはずもなく再びサンジの首を狙い仕掛けてくる。

 

「フッフッフ、調子に乗った若造に絶望を与えるのはさぞ気持ちいいだろうなァ」

 

 どうやら、先の戦いでサンジにしてやられたのが余程頭に来ているらしいドフラミンゴ。

 サンジを殺る気満々のようである。

 

「フフフフフ…身動きが取れない弱った相手をいたぶる趣味はまったくないんだがなァ」

「サンジ!?」

「ルフィ!すぐに追いつくから気にせず先に進めッ!!」

 

 イトイトの実の目に見えぬ糸によりサンジを拘束したドフラミンゴは歪な笑みを浮かべながら銃を取り出した。身動きの取れないサンジをこの場に於いて公開処刑するつもりなのだろう。

 

「ほォ、随分と余裕だな…黒足」

 

 しかし、サンジはこの状況でどこまでも冷静だ。いや、妙に冷めていると言うべきだろうか…。

 

「…これまで散々忌み嫌ってきた()に助けられる時が来るなんてな…いや…()()()()が身命を賭して俺に遺してくれたもの…か。そう思うと、有り難く思えるな」

「…何を言ってやが…ぐぁ!?」

 

 サンジの体から突如()()が迸り、糸を通してドフラミンゴへとダメージを与える。

 

「"武装鋭化"!」

 

 そして、武装色の覇気を鋭化させ糸を断ち切り自由になったサンジは、目にも止まらぬ速さでドフラミンゴの背後へと回り込み強烈な一撃を放つ。

 

「テメエは邪魔だ!スッ込んでろ!!

悪魔風脚(ディアブルジャンブ)熟焼(ビアンキュイ)・グリル=ショット】!!」

「がはッ!!」

 

 強烈な後ろ蹴り(ソバット)を叩き込んだサンジは、ドフラミンゴの背中に網目状の焦げ目をつけ吹き飛ばす。

 

 その黒足からは炎が燃え上がり、そして体から迸る電撃。それはあまりにも異様な姿だ。

 

「母親ってのは…本当にどこまでも偉大なもんだな、()()()()

 

 体を迸る電撃を静かに眺めながら、今この場所にはいない、何年も会っていない自身にとって唯一"家族"と言っていい()()()()の名を呟くサンジ。

 

 前回の人生で、姉であるレイジュから聞かされた自身の出生の秘密をサンジは思い返す。

 

 ()()()で唯一、()()()()()()()()として生まれてきたサンジは、"()()()"として早々に見限られ、勘当された苦い過去を持っている。

 しかし、母親から確かに愛されていたのだと、そして姉からも愛されていることを知ったサンジは、以前のように"()()()()()()()()"の全てを恨んでなどはいない。

 

 今のサンジを見れば、サンジと他の兄弟達の成長速度が違っていたことは明白だ。

 母親が身命を賭して人間として生んだサンジは、人間として様々な経験をし、幸せも、辛いことも味わい、そして自分のペースで少しずつ───着実に成長しているのである。

 

 そして、今ここで───母の強い想いが花開く時がやって来たのだ。

 

「俺の名は"()()()()()()()"・サンジ…偉大な"ソラ"の息子で、誰よりも慈愛に満ちたいい女…レイジュの弟だ」

 

 忌み嫌い、一度は捨てた姓をサンジは誰にも聞き取れないようにぽつりと呟いた。

 

 サンジにとっての"ヴィンスモーク"という姓は大切な家族(母と姉)との唯一の繋がりなのである。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 金色の閃光が縦横無尽に戦場を駆け抜ける。

 

「サンジ!お前、悪魔の実食ったのか!?」

 

 一瞬でその場所を離れ、そして一瞬で戻ってくるサンジにルフィが慌てて口を開く。

 

 サンジの変貌に誰よりも驚いているのはルフィだろう。炎を操り電撃すらも操るサンジを見て、悪魔の実の能力者になったのだとルフィが勘違いするのも当然だ。

 

 しかし、サンジのそれは決して悪魔の実の能力ではない。

 

「いや…これは俺の母親が与えてくれたもんだ。悪魔の実じゃねェよ。それよりも集中しろルフィ!!」

「わかってる!」

「ならいい…ッ!今度は()()()()かよ!?」

 

 脅威的な力を覚醒させたサンジは、この戦場に於いて非常に厄介な存在となっている。

 そのサンジに対し、()()()が立て続けに襲いかかってくるのは何も不思議ではない。

 

「鷹の目!?」

「ったく、あの斬撃はもう懲り懲りだってのに」

 

 驚くルフィと悪態を吐くサンジに、鷹の目は容赦なく飛ぶ斬撃を放ってくる。

 

「クソッ…おっ!」

 

 だが、その斬撃がサンジとルフィに届くことはなく、何者かによって阻まれていた。

 

「あ、お前!」

「確か、クロコダイルの」

「社長命令だ、麦わらのルフィ、黒足のサンジ。一旦、標的を変え海軍を敵とする」

 

 かつて、アラバスタ王国にて麦わらの一味と死闘を繰り広げたクロコダイル率いる"バロックワークス"の最高幹部"Mr.1"。ゾロに敗北し、クロコダイル共々にインペルダウンに収監されていたが今回の騒動で脱獄し、再びクロコダイルの部下として動いているのである。

 

「ダズ・ボーネスか…」

 

 サンジとルフィを守るように間に入るその男───"スパスパの実"の刃物人間である元"Mr.1"。

 ただ、間に入ったはいいが残念なことに相手が悪すぎた。

 

「ウッ!!」

 

 相手は大剣豪。鉄を鉄とも思わずに容易に切ることのできる鷹の目なのだ。

 当然、鷹の目を前にしたら全身刃物人間も一太刀のもとに沈んでしまうこととなる。

 

 そして、そのままサンジとルフィへと斬りかかろうとする鷹の目。

 だが───

 

「!!…クロコダイル」

「おれァ今…虫の居所が悪ィんだ。気ィつけな鷹の目」

 

 クロコダイルすらも援護に回る。

 

 そして、サンジとルフィに協力する者は他にも存在した。それも、海軍にとっては一応()()であるはずの者までもがだ。

 

「どういうつもりなんだおめェ!七武海だろう!?"パシフィスタ"を何人も破壊しやがって!!

 政府側のおめェがこんな事してどうなるかわかってんのか!?」

「妾は何をしても許される。そう…妾が美しいからじゃ。それと…一つお前に教えてやろう。

 "恋はいつでもハリケーン"なのじゃ!!」

「何だそりゃあ!?意味わかんねェよ!!」

 

 "海賊女帝"ハンコックはその美しさ故にワガママ三昧の自分勝手の極み。しかし、それはこれまでのハンコックで今のハンコックは大きく違う。

 彼女は愛するルフィの為なら、たとえ火の中水の中───どんな危険も犯し、これまで以上にワガママとなるだろう。しかし、それは全てが愛するルフィの為。

 

 元含む七武海達だけではなく、白ひげ、白ひげ傘下の海賊達───これだけの助力がありながら救えなかったなど決して許されることではないだろう。

 

 期待を一身に背負いながら───いや、サンジとルフィにそんな大それた志や思いなど微塵もない。

 ただ、やりたいようにやるだけだ。海賊らしく自分の思うがままに…。

 

 サンジとルフィはひたすらに前へと進む。

 

「処刑台はもうすぐ近くよ!麦わらボーイ!黒足ボーイ!」

「ああ!」

「イワ!ルフィを抱えて飛ぶ!援護しろ!!」

「了解ッチャブルよ!キャンディ達ィ!!麦わらボーイと黒足ボーイの援護よ!!」

「うわっ!?」

「行くぞルフィ!!」

 

 イワンコフ達の援護を受け、ルフィを抱え処刑台の頂上を目指し宙へと飛ぶサンジ。

 エースのもとまであと僅か───

 

「行かせるなァーーー!!」

「何としても止めろォ!!」

 

 サンジとルフィ目掛けて放たれる砲弾。だか、その砲弾は真っ二つに切り裂かれ2人に届くことなく爆発する。

 

「行けッ麦わらァ、黒足ィ!!」

 

 花剣のビスタも2人の援護に全身全霊を注ぐ。

 

「行かせないよォー…!?」

 

 大将黄猿が動こうとするも、それを白ひげが阻止し、白ひげもそちらへと視線を向ける。

 

 宙を駆け上がるサンジはもう半分の地点まで。あとはもう一気に───

 

「ッ!?」

 

 だが、サンジが一気に駆け上がろうと力を解放しようとした矢先、行く手を阻む影が未来視で脳裏に過る。

 

「ルフィ…こっから先は俺じゃダメだ」

「え?」

「お前にしかできねェ」

 

 悲痛な表情を浮かべ、サンジは前を見据えている。

 

 そして、サンジとルフィの眼前に現れる()()()()()

 

 2人の背中に向けられる多くの声援も、その人物の登場で鳴りやんでしまう。一瞬にして緊迫した空気がその戦場を支配するのである。

 

「じ、じいちゃん!?」

 

 サンジと同じく"月歩"にて宙を飛ぶ伝説の海兵モンキー・D・ガープ中将。

 

 かつて、海賊王を何度も追いつめた海軍の生ける伝説だ。そんな人物が"六式"を習得しているのは当然で、そしてその伝説が海賊王の息子であるエースの処刑を邪魔させまいと立ち塞がるのも運命なのかもしれない。

 

「じ、じいちゃん!そこどいてくれよッ!!」

「どくわけにいくかルフィィ!わしゃァ"海軍本部中将"モンキー・D・ガープじゃ!!」

 

 ただ奇しくも、エースを助けようとするルフィと道を阻むガープは孫と祖父の関係にあり、エースもまた───ガープの義理の孫という悲運な運命にあってしまった。

 

()()()が生まれる遥か昔から…半世紀も前からわしは海賊達と戦ってきた!

 ここを通りたくばわしを殺してでも通れ!"麦わらのルフィ"!!それがお前達が自ら望んで選んだ道じゃァ!!」

 

 自身のような海兵になってほしかった祖父ガープ。対して、ルフィとエースは()()()()故か───自由を望み、支配を拒み、海賊となった。

 

 身内のガープが立ち塞がるこの悲運な運命は、ルフィとエースにとっては必然的なことなのである。

 

「できるわけねェよじいちゃん!頼むからどいてくれよ!!」

「できねばエースは死ぬだけだ!」

「いやだァ!!」

「いやな事など、逃げ出したくなる事などいくらでも起きる!わしゃァ容赦せんぞ!海賊"麦わらのルフィ"!お前を敵とみなす!!」

 

 絶対正義を背負い続けてきた男が───祖父が孫へと牙を剥く。ルフィにとって残酷な運命だが、それはガープも同じ。

 

 その残酷な光景を前に、悲痛な表情を浮かべ現実を受け入れられないルフィに視線を向けていたサンジは、ルフィに対して小さく呟いた。

 

「これは…お前が越えるべき壁だルフィ」

「サンジッけどッ!?」

「エースを救いたいんだろッ!!」

「ッ!?」

 

 サンジはルフィを支える者として、だが時には甘やかすばかりではなく厳しく───背中を押す。

 

 この局面、伝説の海兵を前にルフィ1人では───と思われる局面だが、これはルフィだからこそ、ルフィが自分で乗り越えなければならない壁なのだ。

 

「進めッ船長!」

「ッ、おうッ!!」

「行くぞ!

空軍(アルメ・ド・レール)ゴムシュート】!!」

 

 カタパルトの要領でルフィを右足に乗せたサンジは、ガープ目掛けてルフィを蹴り飛ばす。

 

 猛スピードでカープへと迫るルフィ。

 

 ルフィはもう覚悟を決めた。

 

 そのルフィを前に拳を振り抜くガープ───だが、ガープの脳裏に過る今と変わらずクソ生意気な───可愛い孫達の小さい子供の頃の姿。

 

「ッ…」

 

 如何にガープが海賊達にとって悪魔と称される恐ろしい存在であろうとも、海賊王を何度も追いつめた海軍の生ける伝説であろうとも、ガープもまた人の親であり、孫に愛されたい孫馬鹿でしかないのだ。

 

 その孫達との思い出が───愛が、伝説の海兵の覚悟を鈍らせる。

 

「ガープ!!」

 

 長く苦楽を共にした元帥センゴクも、ガープの悲痛な心の叫びに気付き表情を歪ませた。

 

 センゴクにはガープの表情は見えない。しかし、ガープが瞳を閉じたことをセンゴクは理解する。

 

 これまで数多の海賊を沈めてきたその拳は孫に届くことなく、ガープは孫の拳を初めて受けることとなった。

 

「うわああああああああ!!」

 

 孫の覚悟の籠った拳はどこまでも重く、強く、兄への愛が籠った拳であり、そして悲しいことに───祖父への愛も籠った全力とは言い難い拳でもあった。

 

 






サンジが大器晩成型のジェルマだと考えると、炎を扱えるのと強靭な脚力は、火花を操るイチジ、怪力のヨジ、兄弟達の能力をサンジは併せ持っていると思えなくもない。
そして新たに発現した電撃はニジなもの。

感情があるからこそ、人は弱くもあり、時には誰よりも強くあれるというソラの抵抗の証であり、想い、愛の結晶としてサンジは誕生した。
皮肉なことに、落ちこぼれだと早々に見限ったサンジこそがジェルマの最高傑作だったのではないかという展開。この場合はソラの遺した遺産ですね。


ルフィとガープの処刑台に到着する直前の展開、サンジを加えて書くの難産だった。


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時代が終わる時



やっとこさ10話です。小説書くのってやっぱり大変だなァ。

今更ながらに、前話でカニちゃんことイナズマの出番奪ってた…まあ、無理する必要ないし休息中ってことで…。カニちゃんも毒にやられてたわけだし。



 

 

 そして辿り着く───

 

「ルフィ!エースを解放しろッ!!」

「おう!」

 

 囚われしエースを救う為に、サンジとルフィが処刑台へと上り詰める。

 

 白ひげ陣営、海軍陣営双方共に大きな犠牲を出している世紀の大決戦に差し迫る終幕の時。

 

「鍵があるんだ!」

「ルフィ、お前!」

 

 驚くエースを他所に、ルフィは"海賊女帝"ハンコックから渡されていた鍵を取り出し、海楼石の手錠を外そうとする。

 

「グズグズすんな!って、何やってんだよ!?」

「海楼石に触れないようにしないと…集中してるから話しかけんな!」

 

 しかし、この局面でこのような事態になろうとはサンジも想定外だ。

 ルフィは海楼石に触れないようにと慎重になるあまり、鍵穴になかなか鍵を刺せずにいる。

 

「エースの腕を掴んで固定して鍵を差し込めば楽に外せるだろ!!」

「あ、そっか!」

「アホッ!さっさとっ…ちっ!

雷霆天使風脚(アンジュ・レミエル・ジャンブ)金串(アトレ)シュート】!!」

 

 その隙を逃さないように、黄猿が鍵目掛けてレーザービームを放ってくるが、それに気付いたサンジは足を素早く振り抜き、剣の形を象った電撃のビームを放ちやり過ごす。

 

「早くしろルフィ!!」

「小僧共ッ!私が逃がすと思うなァ!!」

 

 ただ、そちらはやり過ごせても処刑台には海軍元帥"仏のセンゴク"が存在している。

 

 まさに最後の砦といったところか…。

 

「ちっ!これが海軍元帥の能力かよッ!!」

 

 "君臨する正義"を掲げる、海軍唯一の王の資質を持ちし元帥が、その正義と王の資質を具現化したといっても過言ではない姿へと変貌した。

 

 神々しく金色に輝くその存在。動物系(ゾオン)幻獣種ヒトヒトの実・モデル"大仏"。まさしく仏───サンジはその姿を目の当たりにすることとなる。

 

 サンジとルフィの前で能力を解放したセンゴクが毅然たる態度で立ち、そして牙を剥く。

 

「私の手で処刑するまでだッ!!」

 

 ガープ同様にこれまで数多の海賊を───過去の凶悪達を打ち倒してきた伝説の海兵。その拳がサンジとルフィ、エースを殺さんと襲いかかってくる。

 

「ああ!?」

「ッ、鍵が!?くそッ!!」

 

 しかもそんな危機的な局面で、サンジがセンゴクに気を取られた一瞬を黄猿が突き、鍵を破壊されてしまう。エースもまだ解放できておらず、まさに万事休す。

 

 だが、天はこの2人にチャンスを───()()()()を用意していたようだ。

 

「…うゥ…いったい何が…いきなり気を失ってしまったガネ」

「え!?お、お前"()"!!何でここにいんだ!?」

「ん?…麦わらと…え!?ギャーーー!あ、アレはいったい何カネ!?」

 

 ルフィの覇王色の覇気によって意識を刈り取られた処刑執行人の内の1人が目を覚ましたが、その人物はどういうわけかサンジとルフィの顔見知りだった。

 

 それも、かつての()。バロックワークスの元オフィサーエージャントの1人、"Mr.3"だったのである。

 そして、彼の能力を覚えていたサンジはニヤリと笑みを浮かべ、センゴクへと視線を戻しそちらに集中するのだ。

 

 サンジはどうにかなると確信したのである。

 

「へっ!天は俺達の味方ってか?おい、3!すぐにエースの手錠の鍵をお前の能力で作り出してエースの手錠を外せ!!

 ルフィ、俺1人じゃ無理だ!手ェ貸せッ!!」

「おう!!3!エースを頼んだぞ!

【ギア(サード)】!」

「くっ、悩んでる暇はないようだガネ!

 麦わら!決してお前の為ではないことを覚えておくことだガネ!これは…()()()()への弔いの為!笑いたければ笑うがいいガネ!!」

 

 その瞬間、Mr.3だけではなくルフィの頭の中にもインペルダウンで囮を務めた勇敢な仲間(オカマ)の姿が浮かんでいた。

 2人の脳裏を過るその者の最後の言葉───

 

『必ずアニキ救って来いやァーーー!!』

 

 その言葉がルフィの背を押し、Mr.3を動かす。

 

「笑うわけねェ!!」

「そっちは任せたガネ、麦わら、黒足ッ!!」

 

 元帥センゴクを迎え撃つサンジとルフィ。エースの手錠の鍵を作成し解放を急ぐMr.3。ガープとは違い、センゴクには甘さも慈悲も一切ない。サンジとルフィが稼げる時間はどれくらいか───エースの運命はこの3人の手に委ねられ、そしてセンゴクが海賊王の血を根絶す為に動く。

 

 超問題児ルーキー海賊2人と海軍元帥が激突する。

 

「行くぜ!大仏野郎ッ!!

雷霆天使風脚(アンジュ・レミエル・ジャンブ)・"辛味(エピス)"最上級唐辛子(エクストラピマン)】!!」

「エースは殺させねェ!!

【ゴムゴムの巨人の回転弾(ギガントライフル)】!!」

「調子に乗るな小僧共ッ!!」

 

 雷に引けを取らない強力な電撃を纏った強烈な連続蹴りと巨大化させた拳が伝説の拳と正面衝突。

 

 その瞬間、稲妻のようなものが発生して、けたたましい轟音が鳴り響き衝撃波が広場へと拡散する。

 

 海軍元帥の覇王色とルーキー海賊2人の覇王色の衝突によって生み出された衝撃は、処刑台の脚をも破壊してしまい───

 

「う、うおぉぉ、やべェ処刑台が!?3!エースは解放できたか!?」

 

 処刑台が崩れ、落下するサンジ達。そこに向けて、大量の砲弾が放たれる。処刑が失敗した今、形振り構っていられない海軍はエースだけではなく、サンジとルフィ諸共殺しにかかってきたのだ。

 

 海楼石の手錠によってエースは生身。その状態でこれだけの砲弾を浴びてしまったら命はないだろう。

 

「いかん!」

 

 巻き添えを食らうまいと距離を取るセンゴク。その直後、砲弾は崩れた処刑台を木っ端微塵に破壊してしまう。

 

 サンジ、ルフィ、エース、そしてMr.3を巻き込んで爆炎を上げた。

 

「よしッ!!」

「火拳は生身だ!生きちゃいない!!」

 

 歓声を上げる海兵達。対して、白ひげ陣営は悲痛な叫び声を上げる。

 

「エーーースゥーー!!」

「う、嘘だろッ!?」

「麦わら!黒足ィ!!」

 

 しかし、海兵の誰かが爆炎の中に見える何かに気付くと、状況は逆転するのである。

 

「あ!爆炎の中にッ()()()()()()がッ!!」

「な、何ィ!?」

 

 敵味方関係なく、戦場に立つ全ての者達の視線が、その箇所へと向けられていた。

 

「お前は昔からそうさ…()()()!」

「はあ…はあ…あ!」

「おれの言う事もろくに聞かねェで…しかも、()を任せたはずの仲間まで一緒になって無茶ばっかりしやがって!!」

 

 姿を露にしたその男に、片方は大歓声を上げ、片方は絶望に満ちた表情を浮かべている。

 その瞳に映るのは、"D"の意志を継ぎし兄弟と支える者の姿───

 

「エースーーー!!」

「へっ、囚われの身だった…死ぬ一歩手前だった奴が偉そうに言ってんじゃねェよ!!」

「…それも…そうだな」

 

 ついに、火拳のエースが解放された。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 ついに解放───いや、助け出された火拳のエース。

 

 その光景は未来永劫語り継がれることだろう。未来の海賊王と海賊王の船のコックを務める世界最高の料理人のルーキー時代の武勇伝の一つとして…。

 

 そして、その3人を視界に捉えた生ける伝説"白ひげ"も頬を緩ませる。

 ついに訪れた()()()()()()を全身で感じ取りながら、それでも白ひげは笑顔で───豪快に笑い声を上げ、感情を露にさせた。

 

「グララララ!ハナッタレの小僧共…いや、黒足!麦わら!よくやったァ!!

 おらァ、何をぼさっとしてやがる息子共ッ!さっさとアイツらの逃げ道を確保しやがれェ!!」

 

 弱り果てた傷だらけの姿でありながらも、白ひげはこの時を喜ばずにはいられない。

 

 時代は終わり、そしてまた始まるのだ。新たなる希望が───激しい炎が、この大海賊時代を更に熱くする。

 

 

 *

 

 

 サンジとルフィ、そして助け出されたエースは共闘中だ。その3人はこれまで以上に躍起になり襲いかかってくる海兵達の相手をしながら逃げ道を探す。

 

 しかし、新進気鋭の超問題児ルーキー海賊2人の勢いは止まることなく、そこに火拳のエースの力まで加わってしまったことで手に負えない状態だ。ルフィに関してはイワンコフに打ってもらったテンション・ホルモンだけではなく、力の源であるサンジの攻めの料理(愛妻弁当)の影響もあり、まだまだ元気一杯に暴れている。

 

 世界最悪の犯罪者の息子モンキー・D・ルフィ。海賊王ゴール・D・ロジャーの息子ポートガス・D・エース。

 そして、ヴィンスモーク家"ジェルマ"の最高傑作と呼ばれるに相応しい覚醒を見せるヴィンスモーク・サンジ。

 

 サンジがヴィンスモーク家三男にしてジェルマ王国の第三王子であることに関してはまだ知られてはないことだが、この3人はどうあっても逃がすわけにはいかない存在として、即刻抹殺対象として狙われている。近い将来、この3人は確実に強大な力を持った脅威となり、世界の秩序を乱す混沌となり嵐を呼ぶこと間違いなしなのだ。

 

 3人共、王の資質を持っているのも理由の一つだろう。

 

「強くなったな、ルフィ!」

「いつかエースも超えてみせるさ!」

「いつかじゃなくて必ず超えてもらわなきゃ困るぜ、船長!」

 

 退路を確保しようと、襲いかかってくる海兵達を次々と薙ぎ倒しながら進む3人。

 

 ちなみに、エースの手錠を外してくれた影の功労者Mr.3は、サンジが蹴飛ばし、白ひげ陣営に保護されている。不死鳥のマルコが海楼石の手錠のせいで身動き取れずにいることもあり、サンジがマルコのもとに蹴り飛ばしたのだ。借りは返したといったところか…。

 

 ただ、Mr.3からしたらもう少し優しい対応をしてほしかっただろうが、結果的には保護されたのだから構わないだろう。最優先で狙われるサンジ、ルフィ、エースの3人の側にいるよりも遥かにマシだ。

 

「ちょいとちょいと兄ちゃん達…逃がすわけにはいかないんだよ。

【アイス(ブロック)暴雉嘴(フェザントベック)】!!」

「わっ!青雉だ!!」

 

 当然、サンジ達3人に襲いかかってくる者達の中には海軍最高戦力の大将達もいる。

 氷で象られた巨大な雉の嘴による攻撃が襲いかかってくるも、それでもサンジとエースが揃っていれば問題ない。

 

「下がってろルフィ」

「今はまだおれが守ろう」

 

 炎を扱う2人が大将青雉からルフィを守る。

 

「油断するなよ、エース。

堕天使風脚(アンジュ・デシュ・ジャンブ)・"点火(フランベ)"・スュエ・スラッシュ】」

 

 激しく燃え上がる黒炎と鋭い切れ味の蹴りで、青雉の攻撃を焼き斬るサンジ。

 

「おれの出番ねェじゃねーかよ!!」

 

 サンジは確かにエースに対して油断するなと口にしたが、エースは何もすることなくサンジが対処してしまった。これでは兄としての矜持が───面目丸潰れだ。

 

「やっぱサンジはスゲェな!!」

「へっ!それよりもさっさと逃げんぞ!!」

「おう!」

 

 助けられておきながら、兄よりも仲間に信頼を寄せる弟の姿に───いや、ルフィから絶賛されるサンジに対し、エースが嫉妬したのはここだけの話である。

 

「エース!行こう!!」

「わかってる!!」

 

 サンジ達はとにかく逃げることに集中していた。この戦争で犠牲になった者達───エースを助ける為に犠牲になった者達の為にも、エースは何としても生き延びなければならない。

 

 退路は、白ひげ陣営の海賊達がどうにか確保してくれている。

 

「ん?ありゃァ…白ひげを()()()()()()()か?」

「どうしたんだ?」

「スクアード!?」

 

 そんな時、白ひげ陣営の船が一隻───外輪船(パドルシップ)が戦場を駆け出した。

 

「オヤジ!みんな、逃げるんだ!この戦場、おれ達が請け負ったァ!!」

 

 殿(しんがり)を務めようと、そして───白ひげへの、エースへのせめてもの償いとして、"大渦蜘蛛"のスクアードはその命を犠牲に償いをしようと覚悟を決めて乗り出したのである。

 

 だが、この混沌極まる戦場にて、スクアードが殿を務めたところでサンジ達───だけではなく、白ひげ陣営の仲間達が逃げ切ることは可能なのだろうか…。

 

 答えは否。海軍大将3人に中将達、王下七武海、更には元帥までも動き出してしまった今、ハッキリ言ってスクアードの手に負えるはずがない。

 

 ただ、()()が殿を務めないと逃げ切れないのも確かな事実であり───そして、()()()()()はそれを務めるのが誰なのかを知っていた。

 

「うおおおお!?ど、どうした!?いきなり船が止まったぞ!!」

 

 戦場を駆ける船を片手で止める()()。その男は息を切らし、満身創痍でありながらも決して倒れることなく、そしてこの時代にいよいよ()()をつけようとする。

 

「オヤジッ!?」

「子が親より先に死ぬだと?どれ程の親不孝をやらかすつもりだスクアード!!ハナッタレ如きがつけあがるなよ…お前の一刺しで揺らぐような命じゃねェ。

 誰にでも…必ず()()()があらァ…はあ、はあ。

 エースは助け出した。もうこの場所に用は一切ねェ!今から伝えるのは最期の()()()()だ…耳の穴かっぽじってよォく聞きやがれ…"白ひげ海賊団"!」

 

 白ひげが口にした最期の船長命令。それが意味するものは───この時代の終わり。

 

「お前らとおれはここで別れる!全員!必ず生きて"新世界"に帰還しろォ!!」

 

 傷だらけの白ひげは最早"風前の灯火"。

 

 しかし、白ひげのその命はこれまでの人生で一番といっていい程に荒々しく、そして激しく燃え盛っている。

 

 その船長命令は息子(船員)達が到底受け入れることのできないもの。だが、その命令は白ひげの何よりもの願い。

 

「おれァ時代の残党だ。新しい時代に乗り込む船におれは乗れねェ…もう、()()()()()()だ」

 

 それが誰に向けられた言葉なのか、サンジはすぐに理解する。

 

 そのサンジの視線の先で、生ける伝説"白ひげ"エドワード・ニューゲートは、腕を振り抜き全力の一撃を海軍本部へと叩き込む。

 

「随分と長く旅をしたもんだ。グララララ、最期はド派手に行かせてもらうぜ…決着(ケリ)つけようじゃねェか、海軍」

 

 身命を賭してその時代に終幕を───

 

 






電撃の足技は、雷霆天使風脚(アンジュ・レミエル・ジャンブ)。神の雷霆を意味する名を持つレミエル…天使ラミエルから。

黄猿のように足から電撃のビーム放ったりとかできる刺激系。ニジ曰く、この能力は雷速ではなく光速とのことだが…。

金串(アトレ)・シュート。
剣の形を象った電撃のビーム。アトレとは装飾金串のこと。西洋料理のテーブルウエアとして用いる金串は、剣の形に仕上げ、金輪や羽根などの装飾が付けられている場合もあるそうです。

センゴクは公式設定で覇王色の覇気持ちらしいですけど、赤犬は持ってないのかな?
サンジ&ルフィとセンゴクの覇王色の衝突ですが、これが白ひげとセンゴクなら空を割ってます…多分。ただ、サンジとルフィがまだ未熟で上手くコントロールできてないので空は割れることなく…。覇王色を発動できたのも火事場の馬鹿力によるもの。あと決して、元帥であるセンゴクが四皇に劣っているというそんな理由はないです。


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新しい時代に祝砲を…



ここから先の展開はわたくしにとっても非常に…非っっっ常に難しい!!



 

 

 世界の中心、海軍本部マリンフォードが大きく揺れ、そして崩壊して行く。

 

「し、白ひげを止めろォーーー!!」

「本気で島ごと潰してしまう気かッ!?」

 

 最後の船長命令を息子(船員)達に下した白ひげはたった1人で、最期の戦いへと身を投じる。

 

「エースに気づかう事もなくなった今…奴は本気でこのマリンフォードを海の藻屑にするつもりだ。

 己の命と共に沈むつもりなんだ」

 

 敵であるはずの白ひげだが───センゴクには白ひげの考えが理解できた。

 そしてそれはガープも同様だ。

 

「時代に決着(ケリ)をか…。頃合いじゃねェか…()()も含めてな」

 

 伝説の───最強の終焉。

 

 それは最強の名に決して恥じぬ、最強の名を改めて世界に知らしめる、そして───最強の海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートの武勇伝を締めくくるに相応しい最期となる。

 

 

 *

 

 

 白ひげとここで別れるという辛い現実を受け入れられない者は多い。だがそれでも、どうにかそれを受け入れ最後の船長命令を確実に遂行する為に───生きて新世界へと帰還する為に逃げる。

 

 海賊が背を向けて逃げるなど後ろ指を指される恥。

 

 だが、この場所での目的───エースの救出は果たした。

 

 ならばこれも海賊らしい行動ではないだろうか…。欲しいモノを手に入れ、自由気ままに、自分勝手に周囲を引っかき回すだけ引っかき回し、そして華麗に退散する。

 

 欲しいモノを───エースを力尽くで海軍から奪い返したのだ。なら、もうこれ以上はここで戦う意味などない。

 

 何より、それが白ひげからの最期の船長命令であり、白ひげの願いなのだ。

 

「………」

「エース行こう!おっさんの覚悟が!」

「ぼさっとすんな、エース!白ひげの想いを無下にするつもりか!?」

「ッ、わかってる…無駄にゃしねェ!!」

 

 それがわかっているかるこそ、エースは最期に───

 

「どけェお前らッ!!」

 

 大恩ある、尊敬してやまない"()()()"白ひげと最期の言葉を交わす。

 

「…!言葉なんていらねェぞ。

 …エース、一つだけ聞かせろ。おれが"オヤジ"で良かったか?」

「もちろんだ!!」

「グララララ!(それだけ聞けりゃァ十分だ。ロジャーの奴にとっておきの土産(自慢)話ができた…ロジャーと地獄で会うのが楽しみで仕方ねェ)」

 

 エースから父親と認められなかったロジャー。エースから父親と認められ、尊敬され、感謝すらされる白ひげ。

 どうやら、親子対決は白ひげに軍配が上がり、海賊王が敗北を喫することとなったようだ。

 

 ただ、それを知るのはエースのみだろう。

 

 それでも、白ひげの伝説はこれから先も朽ちることなく語り継がれる。

 海賊王の息子が憧れた世界最強の海賊として…。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 戦場から逃げる白ひげ陣営の海賊達。

 

 それを追う海軍。追ってくる海軍の最大の標的は当然、解放されたエース───海賊王の血を継ぎし"D"の者。

 そして、今回最大の功労者であり、海軍が最も苦渋を味わった者達───超問題児ルーキー海賊、モンキー・D・ルフィとサンジも最大の標的として狙われている。

 

 絶対に未来に繋いではならない有害因子として強く認識されたルフィとサンジは、下手をしたらエース以上に強い警戒心を抱かれているのではないだろうか…。

 

 事実、サンジに至っては七武海のゲッコー・モリアを撃破し、ドフラミンゴすらも圧倒して見せたのだ。

 ルフィがエースを助け出すことができたのも、サンジという頼れる強力な船員が側にいたのが一番の要因だろう。

 

 更に、頭脳戦に於いても海軍───センゴクの企みを察知し阻止したのだ。

 

 将来性、そして現在の力を見た限りでも、元帥センゴクが最も危険視しているのはサンジだろう。

 

「黒足…あの男は厄介だ。海賊王ロジャーに"冥王"の存在が在ったように…黒足はシルバーズ・レイリーを彷彿とさせる存在だ」

 

 処刑台でたった一度───たった一度拳と足を交えただけだが、これまで数多の海賊達と戦ってきたセンゴクの経験が、サンジに対して強い危険を感じたのである。

 そして、当然ながらルフィに対してもだ。

 

「私は思い違いをしていた…」

 

 センゴクは今回、海賊王ゴール・D・ロジャーの血を引くエースを処刑することで、この大海賊時代を沈静化させる腹積もりでいた。そうできるものだと信じて疑っていなかった。

 

「ロジャーの血ではない…ロジャーの"意志"こそが、この大海賊時代の根源であり、その意志が今この瞬間に花開いてしまった!!」

 

 予想もつかない事態を引き起こす超問題児とそれを支える超問題児。

 

 この超問題児ルーキー達こそが、海賊次世代の頂点に立つ資質を発揮する───センゴクが最も危惧する存在。

 まるで、若かりし頃のロジャーとレイリーを見ているかのような、まだまだ実力に差があるが、それでもそう思わずにはいられない何かを、センゴクはサンジとルフィから感じ取ったのだ。

 

 センゴクのその考えが正しいのか、間違っているのか───それはまだ定かではない。だが、この超問題児達は間違いなく嵐を呼び、嵐となる。

 

 まさしく、予測不能な存在だ。

 

 そして、センゴクはその予測不能を再び目の当たりにすることとなる。

 

 

 *

 

 

 海軍大将赤犬が執拗にエースを追う。

 

 サンジと対峙していない赤犬は、センゴクのように強い危険性をサンジからは感じ取ってはおらず、第一標的はエースとその弟───ルフィのようだ。

 

 海賊王の息子と革命軍総司令官"世界最悪の犯罪者"ドラゴンの息子なのだから、赤犬が何としても排除しようとするのは当然だろう。

 

 誰を取り逃がそうと、ルフィとエース───この2人、最凶最悪の兄弟だけは何があろうとも逃がすつもりなどないという強い意志が犇々と伝わっている。

 それはあまりにも強く、禍々しく感じてしまう程だ。

 

「逃がすと思うちょるんか…調子に乗りおって」

 

 赤犬にとって苛立たしいこの状況。巨大なマグマの拳が容赦なく襲いかかる。

 

「エースを解放して即退散…あの白ひげ海賊団が情けないのう。どうやらわしゃァ思い違いしちょったようじゃな。じゃかまあ、船長が船長…それも仕方ねェか。

 白ひげは所詮…先の時代の()()()じゃけェ。敗北者が率いちょる海賊も所詮、腰抜け集団っちゅうこっちゃ」

 

 このような言葉が出てくるのも、この現状に腹立たしさを感じているからなのだろう。

 

 最も、赤犬は海兵だ。排除すべき海賊に対して罵詈雑言が出てくるのは息をするようなもので当然の事。

 

 誰一人として赤犬の言葉を耳にし、足を止める者など───

 

「敗北者?」

「?」

 

()()だけ、足を止めてしまった者がいた。

 

「エース!?」

 

 しかもその者は、決して足を止めてなどいけない───いの一番にこの戦場から退散せねばいけぬ者。

 

「取り消せよ…はあ、はあ…今の言葉ッ!!」

 

 エース以外、誰一人として赤犬の言葉に足を止めている者などいない。

 多少思うこともあれど、他の船員(息子)達は海兵の言葉など聞くだけ無駄だと聞き流しているはずだ。

 

 現に、エースを宥め、逃げるように促している。

 

「あの野郎…オヤジをバカにしやがった」

 

 しかし、エースの沸点はどこまでも低く、もう誰の声も届いてはいない。

 

 そのエースに対して、この機を逃すまいと赤犬は更にエースを煽ってくる。

 赤犬からしたら、これはまさに棚からぼた餅な展開だろう。さっきの言葉も、特に煽るつもりで口にしたものではないのだ。海兵として思ったことを口にしただけでしかないのである。

 

「口車に乗った息子という名の()()のせいで無駄死にすることになろうとはのう。

 白ひげの人生は実に空虚で惨めな人生じゃありゃあせんか?これを敗北者と言わずに何と呼ぶんじゃ?」

「やめろ!!」

 

 怒りを露にするエース。だが、赤犬が今しがた"バカ"と口にした息子というのは、他の誰でもないエースの事だ。

 

 赤犬の口車に乗り、白ひげを刺してしまった"大渦蜘蛛"のスクアードの事だと勘違いしてしまいそうだが、こうして口車に───安い挑発に乗り足を止めてしまっているエースは、赤犬からそう言われても仕方ないだろう。

 

 残念な事に、エース本人はそれに気付けてはいない。

 

「人間は正しくなけりゃあ生きる価値などありゃあせん!お前ら海賊に生き場所などいらん!

 白ひげは哀れな敗北者として死ぬ!ゴミ山の大将にゃあ誂え向きの最期じゃろうが!!」

「白ひげはこの時代を作った大海賊だ!!」

 

 エースが拳を燃え上がらせると同時に、赤犬も拳をマグマへと変化させる。

 もう、衝突は避けられない───誰もがそう思った。

 

「この時代の名がッ!」

 

 いや、ただ()()だけは冷静に動いていた。

 

「白ひげェェ!?」

「何やってんだこのクソ野郎がッ!!」

 

 エースの脳天に直撃するかかと落とし。そして続け様に、今度は赤犬へと攻撃を仕掛ける。

 

「テメエはお呼びじゃねェんだよ、マグマ野郎!

雷霆天使風脚(アンジュ・レミエル・ジャンブ)金串(アトレ)シュート】!!」

「ぬぅ!黒足!!」

 

 鋭い剣の形を象った強烈な電撃のビームが赤犬目掛けてサンジの足から放たれ、一歩踏みとどまった赤犬の頬を掠り、小さな傷を与えた。

 

「ぐっ、くっ…な、何しや…がる…」

 

 鋭い視線を向けてくる赤犬を他所に、覇気を纏った足によるかかと落としを食らったエースは、これ以上ない程のダメージを受け頭を抑え踞りながらサンジを睨み付けている。

 だが、そんなエースなどお構いなしにサンジが口を開いた。

 

「ふざけてんじゃねェぞクソ野郎がッ!安い挑発に乗りやがって!テメエを助ける為にルフィがどれだけ無茶したかわかってんのか?ああ!?三枚におろすぞ!!」

 

 助けたエースに対してこの口振り───サンジが相当お怒りなのが犇々と伝わってくる。

 しかし、それも無理はない。

 

 エースの行為は、助けてもらっておきながら、まさに恩を仇で返しているとしか思えない愚かな行為だ。

 

「それとな!テメエの行為が白ひげを敗北者にしようとしてるってのにどうして気付かねェんだよ!!」

「な!?」

「テメエじゃ()()このマグマ野郎には勝てねェ!戦って負けて…殺されて白ひげが本当に敗北者になっちまうんだよ!!それくらい気付け()()()()()()!!」

 

 前回の人生でその場にいなかったサンジではあるが、()()()()()()だけは知っている。

 だからこそ、こうしてエースを止めることができているのだ。そして、いつもは口にしない"アホンダラァ"という暴言を口にしたのは、白ひげの口調を真似てのもの。

 

「ッ…」

 

 そのおかげもあってか、サンジの言葉はエースの心に深く刺さり、冷静さを取り戻させるどころか罪悪感すら感じさせてしまっていた。

 

「お、おれのせいで…オヤジが敗北者に?」

「白ひげが何の為に病を押して戦ってると思ってやがる。白ひげだけじゃねェ。テメエを守る為にどれだけの奴らが犠牲になったか…ルフィも()()()()たってのに…ったく、少しは頭冷えたかよ、エース」

 

 手荒い行動、荒い口調だったが、サンジは何もエースを傷つける為に蹴りをお見舞いし、厳しい言葉を吐いたわけではない。

 エースを落ち着かせ、無駄死にさせない為だったのである。

 

「おんどりゃあ、余計なことしてくれおって…」

 

 ただ、あともう一押し───あと僅かでエースを処刑できたであろう赤犬は、絶好の機会を奪ったサンジに怒り心頭だ。

 

「余計なことしてくれやがったのはテメエじゃねェか。けど…テメエのおかげでハッキリしたこともある」

 

 怒り心頭の赤犬とは正反対で、冷静なサンジは不敵な笑みを浮かべながら呟くのである。

 

「白ひげは敗北者じゃねェ。エースを助け出し、殿を務め俺達をこの戦場から()()()()白ひげは勝者だ」

「逃げ切れると思うちょるんか!?」

「それから…俺達を()()()()()()テメエら海軍こそが…()()()だ」

「このッ」

 

 赤犬の額に青筋が浮かぶ。ただ、サンジの言うとおりなのだから仕方がない。

 

 海軍はエースの処刑に失敗したのだ。このまま取り逃がしたら、間違いなく海軍の敗北ということになる。

 

 しかし、一つ気になるのがサンジの言葉───まだ逃げ切れていないこの現状で、そしてサンジの記憶にある前回の人生で起きた頂上決戦と少し違う形を辿っている現状でありながらも、逃げ切れることが決定付けられたような言葉。

 

「まずは貴様からじゃァ黒足ィ!!」

 

 サンジに襲いかかるが、それを阻む存在が現れる。

 

「コイツらの命はやらねェ!」

「不死鳥か…邪魔し…ぬっ!?」

 

 そして、サンジの言葉が意味しているものはいったい何なのか───その()()が赤犬の背後に姿を現した。

 

「赤犬さん危ないッ!!」

 

 赤犬の背後、拳に"覇気"と"振動"を纏わせて迫る最強の海賊───

 

「息子達に手ェ出してんじゃねェよ犬ッころ!!」

 

 白ひげの強烈な不意討ちが赤犬を襲い、地に叩きつける。さすがの赤犬もこの一撃に一瞬だが意識が飛びかけてしまっていた。

 

「ぐウゥッ!ゲホッ…こ、この…死に損ないがッ!

冥狗(めいごう)】!!」

 

 だが、海軍の最高戦力の名は伊達ではない。白ひげの一撃を受けても倒れぬ赤犬は白ひげにマグマと化した腕で掌底を放ち、そして顔半分を焼き抉る。

 

「オヤジィ!!」

 

 怪物同士の戦い───それでも、白ひげは決して倒れることなく、腕を振り抜き赤犬へ叩き込み、海軍本部諸共に大きなダメージを与えた。

 

「ったく、手のかかるバカ息子だ…さっさと行かねェかアホンダラァ!!」

 

 足を止めてしまったエースに対し一喝する白ひげ。

 

 その一喝を受けたエースは、改めて己の失態に気付き、ようやく足を動かす。

 如何に己が愚かで、そして弱いか───今この瞬間に、それがエースの心に深く刻み込まれた。

 

 だが、そんなエースの背に白ひげは安心した表情を浮かべ見送るのである。

 "若気の至り"。血気盛んな若い時分には良くある過ちを白ひげも知っているのだ。だからこそ、これ以上は何も言わない。

 

 過ちを犯し、経験し、そして若者は大きく成長する。

 

 白ひげの時代は終わる。だが、己の意志を受け継いだ者が必ず新たな時代を作り出すのだと、白ひげはそれを信じて疑ってはいない。

 

「グララララ、まだまだこっからが本番だ」

 

 真っ二つに裂けた広場───白ひげは大切な息子(船員)達を逃がし、その人生を全うし、新たな時代の幕開けに自身という豪快な祝砲を放つ。

 






原作で、ルフィに無駄にゃしねェと言いつつ、無駄にしてしまったエース。
そのエースが生き残ったONE PIECEはいったいどうなるのだろうか?

一点だけ。白ひげ亡き後、エースが生き残ってたとしたら…本気で海賊王を目指したりはしないような気がする。
大恩ある、尊敬する白ひげのような海賊を目指してくれたならば…。

執筆の励みになるので、感想、ご評価よろしくどうぞ!!


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兄弟



いよいよここまで来たぁ!皆様毎度どうもです。

わたくしが大好きだった作品で、この辺まで書いて頓挫された作品があり、正直…正直なところこの先を書くのに恐怖を感じております。

皆様、どうか勇気をください。



 

 

 黒いロングコートに青いシャツを身に纏った()()()()()()()()()が残る金髪の青年が戦場を駆ける。

 

「はあ…はあ…()()()()()()!!」

 

 "()()()()"を背負った青年は、本来ならこの場にいるはずのない人物。

 だが、火拳のエースの公開処刑の報道を新聞で目にしたその青年は、()()()()()()()()()()()を取り戻し、そして完全な記憶を取り戻す為に己の役目を放棄してこのマリンフォードへとやって来た。

 

 仲間達にあとでどれだけ叱責されようとも、その青年にとっては今この場所にやって来る事の方が大切な事なのである。

 

「ん?コイツ…どこかで…あ!最近、頭角を現し始めた"()()()"の!!」

「どけッ!おれは行かなきゃならねェんだ!はあ、はあ…()()()()のもとにッ!!」

 

 世界最強の大海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートがたった1人で殿を務め大暴れするこの戦場に、会う為だけにやって来た青年───彼はいったい何者なのか…。

 

 彼は()()を果たすことができるのか…。そして、記憶を取り戻すことができるのか…。

 

 大切なものを取り戻すべく───その青年は走る。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 エースを赤犬の魔の手から救い出し、これでようやく心置きなく最期の戦いに身を投じる事のできる白ひげ───

 

「え!?お、おいアレッ!な、何だありゃァ!!」

「本部要塞の影に何かいるぞッ!!」

「あ、見つかっつった」

 

 到底、隠れられるような大きさではない巨大な生物がその場所に存在しており、海軍の視線は全て白ひげからそちらへと向く。

 

 そして、白ひげの視線も海軍ではなく別の方向に向けられており───

 

「おお、やっと気付いてくれたか!」

「てめェ…」

 

 崩壊した処刑台の前に並ぶその存在達。

 

「"()()()()()()"!?」

 

 海軍がこの大戦争の引き金を引くきっかけを作った存在が、戦地マリンフォードに姿を現す。

 

「ゼハハハハハハ!

 久しぶりだな!どうにか死に目に立ち会えそうでよかったぜ、()()()()!!」

「ティーチ…」

 

 本来なら、"王下七武海"に所属しているはずの"黒ひげ"マーシャル・D・ティーチはこの戦場で白ひげを迎え撃っていなければならなかった。

 だが、黒ひげは開戦前に姿を消し、"インペルダウン"へ侵入していたのである。

 

 そして、黒ひげがエースの首を手土産に七武海入りした真の目的───それが今こうして明らかになった。

 

「貴様まさかッ!そいつらの解放が目的だったのか!?」

「ゼハハハハ!海賊として政府に敵視されてちゃあ"正義の門"も潜れず、インペルダウンに潜入することもまず不可能。七武海に名乗りを上げたのはただそれだけの為だ。

 称号は返上させてもらうぜェ!!」

 

 黒ひげと共に姿を見せたのはインペルダウン最下層"レベル6"の囚人達。

 過去に起こした事件が残虐の度を越えていた為に、世間からその存在をもみ消されていた程の世界最悪の犯罪者達が、今こうして野に放たれてしまった。

 

 決して、1人たりとも絶対に再び世に出してなどいけない凶悪達。黒ひげの目的はその凶悪達を仲間に引き入れる事で、その為に七武海の座を狙っていたのである。

 

「あんなデカイ生物はアイツをおいて他には存在しない!!」

「見つかった上にバレつった」

 

 巨人族でありながら、巨人族の10倍以上の大きさになれる悪魔の実の能力者"巨大戦艦"サンファン・ウルフ。

 

「久しぶりの…懐かしいシャバだニャー。この血の匂い懐かしいニャー」

 

 下にカーブした口髭と顎全体を覆う髭を蓄え、頭は角。語尾に"ニャー"を付ける口癖を持つ40代。 かつて、とある王国を武力で蹂躙し王座に就くも、悪政の限りを尽くして国民を苦しめ、反乱を起こされ"暴政の愚帝"とも呼ばれるその男───"悪政王"アバロ・ピサロ。

 

「トプトプトプ…ウィー。コイツら殺してええんのか?ならさっさと殺して酒を飲もう」

 

 血の臭いすらも霞ませる酒臭さを放つのは、酒をこよなく愛し、酒がなければ生きていけない"大酒"のバスコ・ショット。

 すでに出来上がっており、久々のシャバで嬉しさの余りに酒を飲み過ぎたのだろう。いや、この男に飲み過ぎなどはない。

 

「ムルンフッフッフ。あなた達も素敵ねェ…食べちゃいたいわぁ!」

 

 美に対し異常な執着を見せ、狩り取った美女達の首をコレクションするという常軌を逸した悪趣味を持ち、世界中の女性達に恐れられる"史上最悪の女囚"とまで称される女海賊。"若月(みかづき)狩り"のカタリーナ・デボン。

 

 レベル6に収監されていたという事実からもわかる通り、4人共が七武海───いや、七武海以上の実力を有している凶悪達だ。

 

「くっ、何という…シリュウ、貴様!裏切ったのか!?」

「ふっ、おれはコイツらと組むことにした。以後よろしく頼むぜ」

 

 そして、海底監獄"インペルダウン"の看守長"雨のシリュウ"。監獄署長マゼランと双璧をなす存在とされながらも、娯楽感覚で囚人達を虐殺する狂人であったシリュウは、あろうことかマゼランを───海軍、世界政府を裏切り黒ひげ海賊団に仲間入りし、前者4人の脱獄を手引きしたのである。

 

「おれの計画通りに動いてくれたことに感謝するぜェ、海軍さんよォ!ゼハハハハ!!」

 

 全ては黒ひげの掌の上で、海軍は踊らされていたのだ。それは、白ひげすらも同様に…。

 

「ティーチィーーーーー!!」

「船長!危ないッ!!」

「ん!?」

 

 だが、世界最強の海賊白ひげは大人しく掌の上で躍り続けるような存在ではない。

 

「おわ!?」

 

 白ひげが腕を振り抜き、黒ひげ達が立っていた場所を崩壊させ地に落とす。

 

「くっ、容赦ねェな!いや、あるわきゃねェか!!」

「はあ、はあ、てめェだけは二度と息子とは呼べねェな!ティーチ!!おれの船のたった一つの鉄の掟を破りやがった…お前は仲間を…おれの息子(船員)を殺したんだ」

 

 標的を海軍から黒ひげへと変えた白ひげ。かつて息子だった黒ひげを殺すことに、戸惑いなど一切なく、白ひげは本気で殺すつもりだ。

 

 ただ、それはかつての仲間達も同じ想い。白ひげの最期の船長命令で撤退していた白ひげ海賊団の隊長、船員達も黒ひげに対し激しい憎悪を燃やしており、今にも襲いかかりそうな勢いである。

 

「ティーチ…あの野郎、どの面下げておれ達の前に現れやがったんだよい!」

「絶対に手ェ出すんじゃねェぞ、マルコ!!」

「ッ!?」

 

 真っ二つに避けた広場。だが、空を飛ぶことのできるマルコは容易に移動する事ができ、白ひげに加勢するつもりでいた。

 

 だが、白ひげはそれを拒む。

 

「4番隊隊長サッチの無念…そして恨み!このバカの命を取っておれがケジメをつける!!」

「ゼハハハハ!望むところだ!

闇穴(ブラック)(ホール)】!!」

 

 辺り一面に黒い霞のような───"()"を広げる黒ひげ。

 

 白ひげも初めて目にするそれだが、これこそが黒ひげが白ひげ海賊団の鉄の掟を破ってまで手に入れた力。

 

 自然系(ロギア)"ヤミヤミの実"。闇を発生させ、無限の引力で全てを引きずり込む、悪魔の実史上最も凶悪とされる能力が白ひげへと牙を剥く。

 

「それにしても…サッチは死んだが、よくエースを助け出せたもんだなァ、オヤジ!

 おれはアンタを心より尊敬し、憧れてた…が、アンタは老いた!処刑されゆくエースを救い出すことなどできねェと思ってたが…ゼハハハ、おれがバナロ島でエースを殺さなかったことに感謝するこったなァ!!」

 

 闇の引力に引き込まれる白ひげは、ただ静かに黒ひげの言葉を聞いていた。

 しかし、白ひげが黒ひげを前に大人しくしているなどあり得ない。白ひげは腕を振りかぶり───

 

「おおっと無駄だぜ!おれの前では()()()()()()()!!

闇水(くろうず)】!!」

「!」

 

 掌に闇を展開した黒ひげは、白ひげの腕に触れ能力を()()()する。

 この闇に触れられた瞬間に対象者───悪魔の実の能力者はその能力を無力化されてしまうのだ。

 

「……」

「ゼハハハ!どうだ、これでもう地震は起こせねェぞォ!?ぐわあぁぁぁ!!」

 

 だが、白ひげは慌てるでもなく、手に持った薙刀を振るい黒ひげを斬る。能力を封じられたところで、世界最強の海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートにはまったく関係ない。

 確かに"グラグラの実"の能力は強力極まりないが、何もそれ一つで最強と呼ばれてきたわけではないのだ。白ひげにとって、その能力も武器の一つでしかない。それがただ規格外なだけ。

 

「い、痛てェェ!ち、畜生ォ!」

「過信、軽率…テメェの弱点だ、クソッタレのブタ小僧」

「い…え!?お、おいやべろッ!!」

 

 肩を抑え倒れ込んだ黒ひげの顔を鷲掴みにし、そしてグラグラの実の能力を発動する白ひげ。

 

「ぎゃあぁぁーーー!や、やべろォ!お、オヤディ!おれは息子だど!?ほ、本気で殺すッあああああ!!」

 

 かつての息子───だが、鉄の掟を破った大罪人に対して慈悲など欠片の一つもない。

 その瞬間、地面が大きく割れた。

 

「あがッ…あァ…!」

 

 これでも死なない黒ひげのタフさは大したものだ。しかし、白ひげは容赦なく黒ひげに殺意を向ける。

 容赦など───するはずもない。

 

「こ、このッ怪物がァ!!死に損ないの分際に成り下がった奴がッ!黙ってとっととくたばりやがれッ!

 テメェらやっちまえェ!!」

 

 しかし、どうやら死の足音が近づいていたのは黒ひげではなく───白ひげにだった。

 

「ゼハハハハハ!ハチの巣にしちまェ!!」

 

 白ひげに放たれる凶弾、凶刃。それらは白ひげの命の灯火を小さくする。その灯火は、ついに終わりの時を迎えようとしていた。

 

「んあッ!弾切れだ…」

「お前じゃ…ねェんだ…」

「んなッ!?まだ生きてんのかよ!?」

 

 死んだと思った白ひげがまだ生きていたことに驚く黒ひげ。辛うじて───例えるなら、線香花火が終わるその瞬間だろう。どこまでも偉大で、一等輝いていた大海賊の終わりも目前だ。

 

「ロジャーが待っている男は…望んだ男は少なくともティーチ…お前じゃねェ」

「あ!?」

「血縁を絶てど、()()()()の炎が消える事はねェんだ。遠い昔から、そうやって脈々と受け継がれてきた」

 

 息が絶え絶えな状態でありながらも、白ひげがその口を閉ざすことはない。

 

「そして()()()()…必ず、その数百年分の"()()"を全て背負ってこの世界に戦いを挑む者が現れる。センゴク…」

 

 この大海賊時代、何度も戦った敵であり、ライバルであり、ある意味では腐れ縁の親友とすら言えなくもないセンゴクに、白ひげは最期の言葉を送る。

 

「お前達"世界政府"は…いつか来る…その世界中を巻き込む程の…この戦争がちっぽけに思える程の巨大な戦いを恐れている。興味はねェが、()()()を誰かが…ロジャーが待ち望む者が見つけた時…世界はひっくり返るのさ。

 その日は必ず…近い将来やって来る…"ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)"は実在する!!」

「ッ、白ひげッ貴様ァ!!」

「グララララ!(許せ…息子達…とんでもねェバカを残しちまった。おれはここまでだ。お前達には()()()()()()ってのに…すまねェな…本当に感謝している。

 あとは()()()ぜ…おれとロジャーの意志を継ぐ()()()。さらばだ…息子達)」

 

 白ひげは死んだとしても必ず倍返し───いや、それ以上にしてやり返す。

 それがたとえ、()()()()ではなくとも───代わりにやり返す者のその手には、必ず"白ひげの意志"が宿っているのだ。

 

 白ひげの意志は、確かに託された。

 

「ん?…あ!し、死んでやがる…立ったまま」

 

 世界最強の海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲート、ここに死す。

 しかし、死してなおその体は屈する事なく───頭部を半分失いながらも敵を薙ぎ倒すその姿は"怪物"として未来永劫語り継がれることだろう。

 この戦闘によってその身に受けた刀傷、実に二百六十と七太刀。受けた銃弾、百と五十二発。

 

 その誇り高き数々の伝説を打ち立てた姿に、あるいはその海賊人生に───七十二年の生涯に、一切の逃げ傷なし。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 白ひげとの約束───最期の船長命令を遂行する為に、エースはこの戦場を駆け抜けていた。

 

「ッ!?…オヤ…ジ…」

 

 その最中、エースは白ひげが逝った事を感じ取る。血が出る程に強く唇を噛みしめ、それでも───エースは同じ過ちを繰り返さぬように後ろを振り返らずに前に進む。

 

 だが、そんなエースの覚悟を、想いを阻む存在が姿を現すのである。

 

「え!?」

 

 地面に亀裂が入り、そして前方で起こる大噴火。

 

「くっ、赤犬!!」

「わしが"逃がさん"言うたら…もう生きる事ァ諦めるこっちゃバカタレ共」

 

 白ひげの強烈な攻撃を食らってなおも生きていた赤犬が地下を溶かし回り込んで来たのである。

 

 何度も立ち塞がる海軍大将。そのタフさ、執拗さ───まさしく大将に相応しい。

 

「海賊王ロジャーの息子"火拳のエース"、ドラゴンの息子"麦わらのルフィ"。貴様らは何があっても絶対に逃がさん。

 わしの手で葬り去る」

「ちっ、マジでストーカーだな…クソ野郎が!」

「黒足…人の心配ばかりしちょる場合か?貴様もわしが葬り去ってやるから覚悟せい」

「くッ」

 

 この圧倒的に不利な状況。今、この場に赤犬を防ぎきれる者はいない。サンジ1人ではもちろん無理で、エースも覇気は使えるようだが、2人がかりでも…。

 

 まさに万事休す。

 

「死ねッ!!」

「ッ!?(えッ…だ、誰だ!?)」

 

 だが、この絶体絶命の状況で、サンジは救世主の登場を感じ取り、ルフィとエースに襲いかかるマグマの拳を前に、サンジは金縛りにあったかのように動きが止まっていた。

 

「間に合った!!」

「!?」

「え?」

 

 しかし次の瞬間、ルフィとエースを救い出す存在───2人を抱え、颯爽と姿を現した存在がその地に降り立つ。

 

「何者じゃァ!!」

 

 邪魔をされた赤犬は怒鳴り声を上げ、その存在に殺意を向ける。それでも、その存在はどこ吹く風といった様子で、赤犬など眼中になく、地に下ろしたルフィとエースを交互に眺めていた。

 

「あ、ああ…やっぱり…その…そばかすも…麦わら帽子も…ッ…全部に…見覚えがある」

「お前…誰だ?」

「どうして…おれ達を助けてくれたんだ?」

 

 まだ何者かもわからないルフィとエースは疑問を抱きながらも、心のどこかでこの人物が大切な存在であることを感じ取っているようで───

 

()()!?どうしてアンタがここにいるッチャブル!?」

 

 サンジ達と共に逃げていたイワンコフはどうやらその人物と顔見知りらしく、その者の名を口にする。

 

 そして、その名を耳にしたルフィとエースは、まるで時が止まったかのように、その者の顔を凝視していた。

 

()()()()のに10年もかかっちまった…けど…間に合ってよかった…エース、よく生きててくれたな。ルフィ、よくエースを助け出してくれたな…ありがとう。

 それから…久しぶり…おれの大切な()()達」

 

 10年の時を経て───三兄弟がここに揃う。

 

 






サボ登場…そのカードをわたくしはここで切った。

サボの竜爪拳って、武装色の流桜の内部破壊になるんですかね?ルフィよりも覇気の使いに長けてるみたいだし。

ただ、サボの懸賞金…中途半端すぎなような。
6億200万って…6億はともかく200万って…なんだかなぁ~。本当に…なんだかなぁ~。

あ、昨日映画のジョーカーを見て、感極まったあとに、冴えない彼女の育てかたFineを見て来ました。二本立てです。
加藤恵が可愛すぎて…なんだかなぁ~本当に辛い。可愛すぎ。

あ、そしてちなみにというか、映画の話よりもこちらが重要なんですが、どうして白ひげ程の豪快な人物を線香花火に例えたのか…。
わたくし、実は線香花火が大好きなんですが、線香花火って平成半ば?10年ちょっとくらいに日本製の線香花火が一度、全て廃業してしまったそうなんですね。

けど、日本の伝統文化の一つのような存在…夏の風物詩、国産の線香花火を無くしてはいけないという花火師達の想いとプライドが、国産の線香花火をそれから数年後にまた復活させたのです!

一度は散った国産の線香花火を白ひげの意志とし、また復活した国産の線香花火を白ひげの意志を継ぐ者の誕生として例えてみました。

長々とすみません。


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未来の麦わらの一味No.2と革命軍No.2



サボの登場。それはサンジにとって良くも悪くも…。

そして未だになんだかなぁ~って疑問符が浮かぶマグマグの実とメラメラの実の上下関係。
熱容量の観点…から言えば、実際にマグマの方が遥かに恐ろしいんですよね?

やっぱり赤犬のセリフが事の発端というかわかりにくいのかな?火を焼き尽くすじゃなくて、火すらも飲み込むって言い方をしてたなら…火に溶岩が被さったらどうなるか的な観点で言ってくれたら…。なんだかなぁ~、まだ理解できたかな?

誰かマグマ博士いませんかぁ!?



 

 

 マリンフォードにて世紀の大戦争が新展開を迎えているなか、とある島にて───

 

()()()()()()、大丈夫かしら?」

「大丈夫に決まってるじゃない!サンジきゅんはカマバッカ王国に舞い降りた天使!いえッ貴公子よ!!

 カマバッカ王国のアイドルなのよ!!そんなサンジきゅんが敗けるわけないわ!!」

 

 サンジが"暴君"バーソロミュー・くまの能力で飛ばされたカマバッカ王国にて、新人類(ニューカマー)達は、つい数日前に去ったサンジの安否を心配していた。

 

 彼女───いや、彼ら───いや、新人類(ニューカマー)達にとって、共に過ごした時間は短くとも、サンジという存在はすっかりアイドル的な存在となっているのである。

 

 サンジはカマバッカ王国内では、世の女性達を虜にする"海賊貴公子"キャベンディッシュよりも人気の高い存在として───アイドルとしてモテモテだ。

 

「けど、色々と気になる点が多いわよねェ」

「そうねェ。()()きゅんも様子がおかしくなって、任務放棄してマリンフォードに向かったって…サンジきゅんの事、話すべきじゃなかったかしら?」

「大丈夫じゃないかしらァ?だって、あたすの新人類(ニューカマー)の勘が大丈夫だって言ってるもの!!」

「ならきっと大丈夫ね!!」

 

 カマバッカ王国では、女の勘を遥かに凌ぐとされる"新人類(ニューカマー)の勘"。

 その勘が本当に正しいのかはさておき、サンジがまったく知らないところで、そしてサンジが過去に戻り前回の経験と記憶を武器に動いたことで、その影響で少なからず未来は変わろうとしているようだ。

 

「サンジきゅん!早く会いたいわァーーー!!」

 

 ただその想い、サンジに届くだろうか…。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 背筋が凍る。

 

「うおッゾクっとしたァ!」

 

 マリンフォードにて、ルフィとエースを守る為に赤犬と戦うサンジだが、赤犬からの殺気とは別の類いの悪寒を感じ身震いする。

 

「わしを前にして他に気を取られるとは随分と余裕そうじゃのォ、黒足ィ!!」

「へっ、当たり前だ!(つっても、火と違ってマグマってのは随分と厄介だな!熱容量が半端ねェ!!)」

 

 通常の"悪魔風脚(ディアブルジャンブ)"ではまったくもって相手にならない。炎ごとマグマに飲み込まれてしまうことだろう。

 

 武装色の覇気を鋭利化させ電撃を纏わせることによって、そして速さだけは上回っているおかげでどうにか相手ができている状態だが、決定打に欠け───これではジリ貧だ。

 

「黒足ッ、大丈夫か!?」

 

 海水を操ることのできるジンベエもいるが、マグマと海水───下手をしたら急激に大量の水蒸気が発生し、大規模なマグマ水蒸気爆発が起きかねない。ジンベエも対赤犬に於いては、有効な手段を持ち合わせているとは言えないだろう。

 

「これくらいどうってこたァねェよ」

 

 だが、かと言ってサンジ1人だけでどうにかできる相手でないのは事実。

 サンジ本人もそれをよく理解しており、状況を打破する方法を───赤犬の魔の手から逃れる方法を模索しているところだ。

 

 赤犬の最優先標的であるルフィとエースに共に戦ってもらうのは以ての外。そもそも、ルフィはまだ弱点を突く以外で"自然系(ロギア)"の能力者と戦える唯一の方法である覇気を習得していない。エースに至っても、一見対等な能力に思わなくもないが、熱容量で上回るマグマにサンジ同様に炎ごと飲み込まれてしまうことだろう。

 

 そうなってくると、方法はたった一つ。

 

「これっきゃねェんだよな。武装色の覇気に長けた奴…けど」

 

 サンジはその唯一の方法をぽつりと呟いた。だが、赤犬にダメージを与えられる程の武装色の覇気の使い手はこの場に()()()()()しかいない。

 だが、その人物はというと───

 

「サボォォォ!生きてたァ、良かったァァ!!」

 

 ルフィは涙をぼろぼろと流しながらその人物に抱きついている。

 

「お、お前ッ!生きてたなら生きてたってちゃんと教えろよなッ!?おれとルフィがどれだけッ!ッ、バカ…野郎」

 

 エースは涙を堪えながら───しかし、どうやら堪えきれないのか頬を一筋の涙が伝い震えていた。

 

「うっ、わ、悪かったよ!けどなッおれだって全部思い出せたのはたった今なんだ!エースの公開処刑の事が載った記事をたまたま仲間に教えられて、それを見たら記憶の断片みたいのが頭ん中に流れ込んできて倒れて1日寝込んじまって…それで、目が覚めたら、絶対に行かなきゃ後悔するって思って…それでいてもたってもいられなくて任務ほっぽり出してここまで来て…そしたら…お前達の顔見たら…全部…ようやく記憶が戻ったんだよ!」

 

 そしてその人物───サボという名の金髪の青年は、この10年程の間"記憶喪失"に陥っていたらしく───だが、ルフィ、エースと再会した事がきっかけとなり、完全なる記憶が戻ったようなのだ。

 

 まさか他にも、ルフィに兄が存在したとはサンジも驚きだろう。しかも"革命軍"の幹部候補。

 

 ただ、サンジはサボという人物を一目見た瞬間、自分より強いと見抜いていた。が、10年ぶりの再会に己達が置かれた状況を忘れかけてしまっている三兄弟。

 サンジもそろそろ限界で、再会を喜び合うのは後にしてほしいところだ。

 

「サボ!感動の再会で嬉しいのはわかるッシブルけどいい加減におしッ!黒足ボーイもこれ以上は無理ッチャブルよッ!!」

 

 助け舟を出してくれたイワンコフに、サンジは心の中で礼を言う。

 

「あ、ああ、すまない。そっか…コイツが()の黒足か…カマバッカ王国の"アイドル"」

「んなッ!?お、俺はあんな地獄のアイドルになった覚えはねェぞ!?」

「黒足ボーイがカマバッカ王国のアイドル?どういうことッチャブルよ!?」

「まあ、それはとりあえず後で説明する。イワンコフが言った通り…こっちを先にどうにかした方が良さそうだからな」

 

 まだ泣いているルフィと涙ぐんでいるエースを他所に、サボは鼻をすすりながら前に出る。

 今一つ格好がついてないが、その視線の先の赤犬は殺る気満々だ。再会と記憶が戻ったお祝いをゆっくりするには、当然───赤犬の魔の手から逃れなければならない。

 

「黒足…ルフィを守ってくれてありがとな。エースを助け出すことができたのもお前のおかげだって…本当にありがとう」

「おれはルフィを守る為に行動し、その結果…エースを助けることができたってだけだ。それに、無茶する船長の尻拭いすんのも船員(クルー)の務めだしな」

「ハハハ。あのルフィがもう一端の海賊で船長やってんだなあ。驚きだ。けど、おれにとっては大切な可愛い弟…ルフィには手を焼くだろうけど、これからもよろしく頼むよ」

 

 その言葉を聞き、サンジはサボという青年が本当にルフィの兄である事を理解する。

 何故ならまったく同じなのだ。そう───エースと初めて会った時に───

 

「へっ、エースと同じような事言ってやがる」

「ハハ、そっか!やっぱ兄弟なんだなあ。さて…そんじゃあ、大切な兄弟達を守るとするか!黒足、手を貸してくれ…全力の覇気を赤犬に叩き込むぞ」

「それが一番の方法だからな…ちなみに、俺の戦う手段は足技のみだ」

「だから黒足か」

 

 不敵に笑い合うサンジとサボ。

 

 この2人、不思議と波長が合うのだろう。ルフィは持ち前の自分勝手さと無鉄砲さでサンジを──船員(クルー)達を常に振り回すが、エースもエースでその無鉄砲さと一度向き合ったら絶対に逃げないという姿勢、男らしさ───ある意味、死にたがりとも思われてしまう性格で子供の頃に散々サボを振り回していたらしい。

 

 ルフィという船長に振り回されるサンジと、ルフィとエースという兄弟に振り回されていたサボ。高い実力に頭脳面も優れている策士タイプのこの2人は、ルフィとエース兄弟を前にしたら苦労人という共通点を持っているのではなかろうか…。もっとも、この2人も周囲を振り回す時もあるが…。

 

「よし、じゃァおれがまず仕掛ける…タイミングを見誤るなよ?」

「そっちこそ…さっそく殺られんじゃねェぞ」

 

 赤犬を前に構える2人。

 

「死ぬ準備はできたようじゃのォ」

「誰が死ぬか、マグマ野郎」

「兄弟達は守らせてもらう。

【竜爪拳・竜の鉤爪】」

 

 サボは右手の人差し指と中指、薬指と小指を合わせて竜の爪を思わせる形を成し、赤犬のマグマの拳に対し真っ向から勝負に出る。

 

「ぬゥ!?ぐッ、こ、こりゃァ!!」

「もう遅い!黒足ッ!!」

「ああ!

雷霆天使風脚(アンジュ・レミエル・ジャンブ)・"辛味(エピス)"最上級唐辛子(エクストラピマン)】!!」

 

 サボの竜爪拳により、内部にダメージを受けた赤犬が一瞬だけ後退る一瞬の隙に、サンジは全力の覇気を纏わせた電撃の強烈な連続蹴りをサボによって崩された箇所へと全力で放つ。

 

 若さの勢いが大将の力を上回り、赤犬の腕から鈍い、骨が折れる音が聞こえてくる。

 

「ぐおォォォ!?」

 

 赤犬も、まさか"内部破壊"の覇気にまで達している使い手がいるとは思ってもいなかっただろう。

 しかし、サボはこの10年間───革命軍に所属し、しかも総司令官であり、ルフィの父親である"世界最悪の犯罪者"モンキー・D・ドラゴン直々に鍛え上げられているのだ。

 

 ドラゴンや革命軍の手練れ達の英才教育はサボの力を早くに開花させ、より洗練され今に至る。

 

 そしてサンジは、サボがルフィのもう1人の兄である事こそ知らなかったが、前回の人生で頂上決戦後にサボが革命軍の参謀総長として世界に名を轟かせたのを知っていた。サンジがサボが現れた時に驚いていたのはその為だ。

 

 サンジが望んだ決め手とはサボだったのである。

 

「だめ押しだ!!」

 

 そのサボは、苦悶の表情を浮かべる赤犬に背に背負っていた鉄パイプを振りかぶり、武装色の覇気を纏わせ顔面目掛けて振り抜いた。

 

「ぐはッ!?」

 

 しかも、赤犬の顔面に直撃したのは鉄パイプの先端で、それを目の前で見ていたサンジすらも表情を歪ませる。想像しただけで痛そうだ。

 

「ホームラーン…ってか?」

「容赦ねェな」

 

 吹き飛んだ赤犬に一瞬だけ同情するも、その気持ちはほんの一瞬だけ───すぐに消える。

 

「アイツ相手に手加減なんてしてる余裕あるか?」

「…ねェな」

「逃げるなら今だ。エース、ルフィ、行くぞ!」

 

 相手は海軍大将の中で最も攻撃的で残忍、過激な武闘派だ。()()だが、ルーキー扱いのサンジには手加減などしている余裕などあるはずもない。

 

 ただ、吹き飛ばされた赤犬はすぐには動けないだろう。白ひげの不意打ちと強烈な一撃を受けてなおも立っているタフさはさすがと言えるが、今ので負わされた腕と顔面へのダメージも相当に大きいはずだ。

 

 サンジとサボの連携攻撃により危機を脱し、御一行は船へと向かう。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 マリンフォードに───いや、世界に激震が走る。

 

「ゼハハハハ、手に入れたぜ!全てを無に還す闇の引力!全てを破壊する地震の力!

 これでもうおれに敵はねェ!おれこそが最強…まさしく究極の存在だ!!

 おれの前にひれ伏し、恐怖し崇めろ!これからの未来は決まった!そう、これからは…この黒ひげの時代だァ!!」

 

 世界最強の海賊"白ひげ"エドワード・ニューゲートに止めを刺し、更には白ひげの"グラグラの実"の能力を奪い取ってしまった"黒ひげ"マーシャル・D・ティーチ。

 

 悪魔の実史上最も凶悪とされる能力と世界を滅ぼす程の最強の破壊力を手に入れてしまった黒ひげの誕生は、世界をより一層混沌とさせる事態となってしまった。

 

 白ひげという抑止力を失った世界はいったいどうなってしまうのか───それはもう誰にもわからない。

 

 

 *

 

 

 その頃、この戦場から逃げるサンジ達御一行は───

 

「ど、どうしてッ、オヤジは死んだはず!」

「どうやってかはわからねェが…どうやら白ひげの悪魔の実の力を得た奴がいやがる」

「なっ!?」

 

 島ごと、近海ごと揺れるマリンフォード。

 

 これが"グラグラの実"の能力である事に気付いたエースは、白ひげが死んだのにどうしてなのかと驚きを隠せずにいた。

 

 サンジはそれを説明するが、その人物が黒ひげである事をここで話すべきなのかと思案する。

 

「エース!今のお前にはどうすることもできない!とにかく逃げる事だけに専念しろ!!」

「ッ!」

 

 エースはその黒ひげに敗北を喫し、それがきっかけとなり今回の大戦争へと発展した。

 黒ひげが白ひげの能力を得たと知れば、エースは止まらないだろう。だが、今のエースでは勝てないのも事実だ。

 

 サボの言葉に、己の無力さを指摘され苦虫を潰したような悔しい表情を浮かべるエースだが、それは最もな言葉。

 

「逃げる事は必ずしも恥というわけじゃねェ。逃げるが勝ちって言うだろ?」

 

 サボはエースを落ち着かせるべく、そう口にする。

 

「そうだな。お前が逃げ切る事は海軍の敗北を意味する。つまり…白ひげの勝ちって事だ。言っただろ。お前が逃げ切れなかったら…それは白ひげの敗北を意味するって。マグマ野郎の言葉通りに白ひげが敗北者になるって」

 

 サンジが言葉を続け、エースに再び冷静さを取り戻させ、前を向かせた。

 

 ただ、その瞳にはもう迷いなど一切なく、激しい炎が燃えているかのように輝いている。

 エースは決してこのまま、やられっぱなしでは終わらない。やられたらきっちり倍にして───いや、白ひげの意志をその炎に乗せて万倍にして返すだろう。

 

「エース、行こう!!」

 

 命懸けで助け出してくれた大切な弟の為にも、その弟の前でこれ以上は無様な姿も見せられない。

 

「ああ…逃げよう」

 

 その言葉を聞き、サンジとサボは顔を見合せ、そしてエースとルフィの前に立つ。

 

「俺とサボが先陣を切る」

「エースとルフィはおれと黒足に続け。イワンコフと"海侠のジンベエ"は2人の護衛を任せた」

「逃げる船は別々がいいな。追ってくる海軍の戦力を分断した方がいい。エースの方には白ひげ海賊団傘下の奴らもいるだろうし…」

「そうだな。海に出れば魚人族の土俵だ。エースの方にはジンベエが回ってくれ。ルフィの方にはもちろん黒足、それからおれとイワンコフ達…"革命軍"が回ろう」

 

 足から電撃を迸らせ、同時に炎を燃え上がらせるサンジと鉄パイプを持つサボが前に進み道を開く。

 

 前回のサンジの人生では見られなかった2人の共闘だ。

 

 






能力者は海水に弱いけど、ジンベエが赤犬に海流一本背負い放ったらどうなるのだろうか…。

マグマ水蒸気爆発起きるのかな?と思って、ちょっと書いてみた。

一応、このサンジはホールケーキアイランド編を生き残ってないので、革命軍参謀総長サボの存在は知ってますが、ルフィの兄なのは知らなかった事にしてます。ゾウ編でも、ルフィ達が到着した時すでにいなかったサンジ。原作では、サボのこと知ってるのかな?知らないのかな?なんだかなぁ~。


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頂上戦争の終わり



マグマグの実とメラメラの実についてご説明頂きどうもです!!

やっぱり、単純にエースがメラメラの実を扱いきれていないという練度の問題が大きいのでしょうねぇ…と、改めて思ったりしました。



 

 

 マリンフォードを脱出するべく、逃走用の船を探すサンジ達御一行。

 

 途中、大将青雉の襲撃を受けるも、サンジとサボ、そしてエースの3人の力で青雉の魔の手から逃れる事に成功し、そしてエースはジンベエと共に白ひげ海賊団の傘下の者達と先に戦場から脱出する事ができたようだ。

 

 そして残すは───ルフィである。

 

「黒足、お前…あのスピードによくついてけるな」

「これくらいどうってこたァねェよ」

 

 だが、そう簡単に海軍が逃がしてくれるはずもなく、赤犬、青雉と来て、次は黄猿といった状況だ。光の速さで襲いかかってくる厄介極まりない大将と交戦中のサンジとサボはあまりにもな執拗さにいい加減飽き飽きしている様子でもある。

 

 海軍からしたら、エースを取り逃がしてしまった失態もある為に、ルフィだけは絶対に捕らえるつもりなのだろう。

 

「いい加減、麦わらを寄越しなよォー」

「誰が渡すかピカピカ野郎ッ!!」

「弟を渡すはずがないだろッ!!」

 

 サンジの見聞色───"未来視"と突然変異した動体視力によって黄猿とどうにか渡り合っているが、数で負けている事もあり、明らかに分が悪い状況だ。

 

「はあ…はあ、くそッ!!」

「麦わらボーイ!大丈夫ッ!?」

 

 見るからに、ルフィも疲弊しており限界が近い。

 

 これならばまだ、追手の数は多くともエース達と共に海に逃げていた方がマシだったかと思ってしまうが、それももう後の祭りといったところ…。

 

「そろそろ限界だねェー…まあ、頑張った方じゃなッ!?」

 

 エースは取り逃がしてしまったがルフィだけでも───海軍はその腹積もりだ。サンジからしたら、己達よりも黒ひげ側に戦力を回さなくていいのかといったところ…。

 

 それでも、やはり天はルフィに味方しているのか───サンジはそう思わずにはいられない出来事が起こる。

 

「何もするな…黄猿」

 

 何者かが黄猿へと銃を向け、動きを止めさせたのだ。

 

「おォーッとっとォー、()()()()()()()()じゃないのォー」

 

 白ひげに続いて、"()()"を立て続けに相手にする余裕など今の海軍にはない。

 

「あ!」

 

 声を上げるルフィ。その様子に、サンジはどうしたのかと疑問を抱くも、すぐにその人物とルフィの繋がりを思い出し、ルフィの反応に納得することとなった。

 

 黄猿に銃口を向けるその男───赤髪海賊団副船長ベン・ベックマンの登場に、周囲は騒然とし、そしてマリンフォード海域に姿を見せた一隻の船に誰もが驚愕することとなる。

 

 海軍は赤髪海賊団が同じく四皇の"百獣海賊団"と昨日、小競り合いを起こした情報を掴んでいたこともあり、その驚き具合はとても大きいものだ。

 

 ただ、誰よりも驚いているのはルフィだろう。何せ、赤髪海賊団の海賊旗をその目で見るのは実に10年ぶりなのだから…。

 

 しかし、そんなルフィに対してベン・ベックマンはこう告げるのである。

 

「久しぶりだな…ルフィ。大きくなりやがったもんだ…ただ、せっかくの再会を喜びたいところだが、今は逃げろ。

()()()にも会いたいだろうが…その機会は何れ必ずある。もっと成長した姿を見せてやってくれ」

 

 ルフィに優しい眼差しを向けながら、ベン・ベックマンはこの場を引き受けると───ルフィ達にこの場所から早く逃げろと促すのである。

 

「一目…シャンクスに会いてェなァ…けど」

 

 ルフィも、()()に会いたいと思っている。しかし、脳裏に浮かぶのは10年前の約束だ。

 

『この帽子をお前に預ける』

 

 ルフィはエースを救い出す為にこの戦場に降り立ち、そしてエースを救い出した。

 それでも、それを成し得たのは多くの手助けがあったからこそであり、自分だけでは決して助け出す事などできなかったと理解もしていた。まだまだ自分は弱く、ちっぽけな存在でしかなく、たまたま()()()()()()だけなのだと、ルフィはそう感じずにはいられない。

 

「まだ…シャンクスには会えない」

 

 10年前、別れ際にシャンクスから告げられたその言葉───()()がまだ果たせていない事を、ルフィはこの戦争で身に染みて理解させられたのである。

 

『いつかきっと…必ず返しに来い。立派な海賊になってな』

 

 だがきっと、必ず約束は果たしてみせるのだと───ルフィの想いは、これまで以上に強くなった。

 だから、今は背を向けて去る。生きて、そしてこれまで以上に強くなる事を心の中でシャンクスに誓って───

 

「おれ…行くよ!シャンクスによろしくッ!!」

「おう。伝えておく…楽しみにしてるぜ、ルフィ」

「うん!!」

 

 その背はどこまでも眩しく、無限大の可能性を秘めている。ベン・ベックマンも表情を緩め、ルフィを見送っていた。

 

「昔とちっとも変わってねェ…が、本当に大きくなったな、ルフィ。…お前、ルフィの仲間か?」

 

 走り去ったルフィから、視線をサンジへと移したベックマンはにこやかな笑みを浮かべながらサンジへと尋ねてくる。やはり、小さい頃から気にかけているルフィの仲間となると気になるのだろう。

 

「あ、ああ。麦わらの一味のコックを務めさせてもらっている」

「ルフィの奴も一端の船長に成長してるんだな…まあ、あれからもう10年だ…当然か」

 

 そう呟くベックマン。ただ、サンジは感慨深げな彼とは違って、四皇で最も若く、そして若くして四皇入りを果たした赤髪海賊団の副船長を前に、白ひげを前にした時とは別の緊張感を感じていた。

 

 皇帝(船長)を支える存在(副船長)。シャボンディ諸島で出会ったロジャー海賊団副船長"冥王"シルバーズ・レイリーもそうだったが、やはりまだまだ差がある事を目の当たりにしている様子だ。

 

「ルフィをよろしく頼んだぜ」

「言われなくても」

 

 赤髪海賊団の副船長からも成長を期待されるルフィの背を眺めながら、これは責任重大だと感じるサンジ。だが、サンジもまた覚悟を改めルフィを追う。

 

「あれが…ルフィが憧れる赤髪海賊団船長…"赤髪"のシャンクスか…」

 

 ルフィは見ないように走り去って行ったが、サンジは赤髪のシャンクスの姿をその瞳にしっかりと捉えていた。

 

 そして視線が合い、赤髪のシャンクスに笑いかけられたサンジは頷く。

 

 その瞳が語っていたのは、ベックマンとまったく同じであり───

 

 

 *

 

 

 戦場に降り立った赤髪は、四皇として恐れられ、崇められるに相応しい王の資質を強く醸し出していた。

 

 ただ、表情はとても緩んでおり───

 

「ルフィがよろしくだと」

「そうか…一目会いたかったなァ…けど、今会ったら約束が違うもんな」

「ルフィもちゃんとそれをわかってたぜ」

「ああ。ただ、ルフィの頼もしい仲間を見れただけでも嬉しいもんだ」

「ありゃァ、相当な器だ」

 

 2人がこれからの成長を強く期待しているルフィ。そのルフィの仲間───サンジを目にした赤髪のシャンクスとベックマンは、満足気な表情を浮かべている。

 

 世界の均衡は崩れた。しかし、こうして新しい世代が育っているのは確かで、それを喜ばずにはいられない。

 

 だからこそ、赤髪のシャンクスはこの戦争を終わらせに来たのである。

 

「もう無駄な戦いは止せ。これ以上を欲しても、両軍被害は無益に拡大するばかりだ。それでも暴れ足りないと言うなら…来い…おれ達が相手になってやる!」

 

 どよめく戦場。

 

 赤髪のシャンクスが述べたように、両陣営───これ以上を求めても無駄に血を流すだけだ。

 

 白ひげ陣営はエース奪還という目的を果たし、白ひげが身命を賭して勝利を掴んだ。

 海軍はエースの処刑に失敗し、エースを奪還されたが、海軍の手柄ではないが白ひげが死んだ。

 

 そして、この戦争に於て最も利益を得た人物───黒ひげ。戦力を得るだけに止まらず、白ひげの"グラグラの実"の能力まで得た黒ひげにこれ以上、更に利益を得させるわけにはいかない。

 ここで海軍の戦力を削り、敵対勢力となるであろう白ひげ海賊団残党の戦力を削るべきではないだろう。

 

「どうだ、ティーチ…いや…黒ひげ」

「…。ゼハハハ、やめとこう!お前らと戦うにゃあ、まだ時期が早ェからな!

 ゼハハハ!野郎共、行くぞ!!」

 

 "四皇"赤髪を前に、黒ひげも潔く身を引く。今ここで赤髪と衝突したらどうなるか───強大な悪魔の実の力を得ても、結果はわからない。

 

 それだけ、四皇の力は強大なのだ。

 

「両軍、この場はおれの顔を立てて貰おう」

 

 去り行く黒ひげに手を出す事なく、そして赤髪が再び口を開く。

 

「白ひげの弔いはおれ達に任せて貰う。戦いの映像は世に発信されていたんだ。これ以上、白ひげの死を晒す様な真似は決してさせない」

「何だと!?白ひげの首を晒してこそ」

 

 エースの処刑に失敗した海軍はせめて白ひげの首を晒す事で威厳を保ちたいところ。しかし、海軍がやるべき事はそのような事ではない。

 

「構わん」

「元帥殿!?」

「赤髪、お前なら…責任は私が取る」

 

 海軍がやるべき事───それは、白ひげが死んだ事で崩れた均衡を修正し、保たせる事だ。

 このような事態になった後始末───責任はきっちり取らなければならない。黒ひげが現れようが現れまいが、白ひげと海軍が正面衝突した時点で、世界が荒れるのはわかりきっていたことなのだから…。

 

「負傷者の手当てを急げ!戦争は終わりだァ!!」

 

 かくして、"大海賊時代"開幕以来最大の戦い───白ひげ大艦隊 VS 海軍本部、王下七武海による"マリフォード頂上戦争"はここに幕を閉じ、歴史に深く刻まれるのである。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 赤髪海賊団の介入により頂上戦争が終わりを告げた。

 

 そして、赤髪海賊団の手助けもあって戦場から離脱できたサンジ達は現在───

 

「まさかお前が船に乗せてくれるとはな…()()

「馴れ馴れしく名前を呼ぶな黒足屋。お前には()()()()()を見せてもらった…理由はそれだけだ」

 

 軍艦を奪い逃げようとしたサンジ達だったが、"死の外科医"トラファルガー・ロー率いるハートの海賊団の潜水艇が突如現れ、サンジとルフィはその潜水艇に乗せて貰えることになり、お言葉に甘えているようだ。

 

 最初こそ、サンジはローも過去に戻り記憶があるのだろうかと疑問視したようだが、前回の人生での頂上戦争時にルフィがローに世話になったのを思い出し、そしてローが言っている面白いものというのが、サンジがドフラミンゴに怪我を負わせた事を言っているのだろうと気付き、素直にルフィ共々世話になる事にしたのである。

 

「しかし…麦わら屋は相当無茶してやがるな」

「やっぱりか?」

「ああ。ダメージの蓄積量がとんでもない」

 

 ローが医者である事も、サンジが大人しくハートの海賊団の潜水艇に乗った理由だ。ここに麦わらの一味の船医チョッパーはいない。そして、チョッパー以外で信用できる船医となると、やはりローしかいない。

 

 付き合いは短いが、前回の人生で()()を組んだ相手だ。ルフィの思っている同盟は普通の同盟と違うが、それはもう麦わらの一味全員にとっても同じで、サンジのなかでもローは仲間のようなものなのである。

 

 頭脳派で鋭いローに対し迂闊な事は喋れないが、それでももう信用している相手だろう。

 

 ちなみに、サンジとルフィはローに世話になっているが、サボ達はというと───

 

「それは当然だっチャブル!」

 

 軍艦を奪い、サボ、イワンコフ共々に戦場から無事に脱出していた。

 

「ルフィは無事なのかッ!?」

 

 そしてもう()()───ルフィをこよなく愛し、この上なく心配する人物が海兵を率い姿を見せた。いや、海兵達はただ()()をここまで運んで来ただけであり、今は石化させられた哀れな存在と化しているが…。

 

「ハンコックちゃん」

 

 "海賊女帝"ボア・ハンコックは、七武海としてルフィを追い討ち取るという理由───嘘で戦場から離脱。

 そして、ルフィを追ってここまでやって来たのである。

 

「黒足…ルフィは」

「今は眠ってる。正確には、限界を迎えて気絶したってのが正しいだろうが」

「麦わらボーイはインペルダウンですでに一度…立つ事すらできない…いえ、死の淵まで行ってしまったのよ。それなのによくもまァあれだけ暴れ回れたもんだっチャブル!多分、2、3日は目を覚まさないんじゃないかしら?」

 

 イワンコフがそう告げると、全員の視線がローへと向けられた。

 

「はあ…さっきも言ったが、麦わら屋はあり得ない程のダメージを蓄積してる。そいつの言った通り、2、3日は目を覚まさないだろう。…が、寧ろ身を休める為にも必要な事だ」

「イワンコフ…ルフィが死の淵まで行ったってのはいったいどういう事だ?」

 

 ただ、気になるのはイワンコフの発言だ。死の淵まで行ってしまったというのはいったいどういう意味なのか…。

 インペルダウンでルフィがどれだけの無茶をしたのかという事だ。

 

「監獄署長マゼランの毒に侵されたのよ」

「なっ!?」

「どうやって生き延びたんだ?」

 

 驚くサンジ達とは別で、ローは医者として冷静に事の真相を確認する。

 

 サンジも、前回の人生でルフィがエースを助ける為にインペルダウンに侵入し、そして頂上決戦にまで乗り込んだ事はもちろん知っていた。しかし、インペルダウンで起きた事細かい内容までは、今思えばルフィからも聞いた記憶がない事に今になって思い至る。

 

 そして、ルフィが毒に対する耐性が強くなっていたという現象───それはこれが理由だったのかと、サンジはその答えに至ったようだ。

 

「ヴァタシの能力で麦わらボーイはどうにか助かったっチャブル。けど…ヴァタシの能力は相手の免疫力を利用してのもの…医者でもなければ、薬剤師でもない」

「リスクがあるって事…か。イワンコフ…その、ルフィが回復する為のリスクってのはいったい」

「寿命よ」

「ッ!」

 

 驚愕するサンジやハンコックを他所に、その答えがわかっていたサボは静かに目を瞑る。

 

 どうして、イワンコフにその時の話を事細かに聞いておかなかったのかと、サンジは悔やんでならない。

 だが、聞いていたからと言って、どうにか出来たわけでもないのも事実だ。

 

 だが、悔やんでばかりではいけない。

 

 ここから先、如何にルフィの負担を減らすか───それもまた、サンジのやるべき事だ。

 支えるだけでは足りない。サンジは改めて自覚する。

 

 だからこそ、エースを救い出し未来が変わった今となっても、麦わらの一味には()()()()()であると、サンジはそう考えずにはいられない。サンジはすでに、今後の行動計画を企てるのである。

 

 時代は新たに動き出した。ここから先は未知なる世界───頂上戦争の終わりはサンジにとって真新しい、前回とは確実に違う始まりの合図となる。

 






や、やっと…終わった?な、何か…力尽きた気がする。もちろんこの作品の終わりではない。

皆様、感想、ご評価等よろしくどうぞ。燃え尽き症候群にならないように頑張りたいです。


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到来



正直、頂上決戦編のみで14話も書くとは思ってもいなかったです。



 

 

 場所は偉大なる航路(グランドライン)───その両脇に沿って存在する無風海域凪の帯(カームベルト)。普通の人間ならば決して通り抜ける事のない、超大型海王類が生息する魔の地帯。その海域に存在する女ヶ島"アマゾン・リリー"。

 

 サンジに言わせたならば、人魚達が暮らす魚人島と同等かそれ以上───世界最高の楽園(パラダイス)だ。

 

 頂上戦争から数日───世界の均衡が崩れ、その影響が徐々に世界各地で起き始めるなか、男子禁制の女入国であるこの国にて、男子禁制の女入国に()()()()()()()()が雄叫びを上げている。

 

「うおっしゃらァァ!!」

 

 先の頂上戦争にて、"火拳のエース"救出成功の功労者の1人───麦わらの一味のコック"黒足のサンジ"が、さっそく更新された()()()()()()を両手に持ち()に掲げ打ち震えていた。

 

「や、やったぜ…やっと…やっと()()()な手配書になったぜッ!!」

 

 海賊は自身の手配書が更新され、懸賞金が上がる度に喜ぶが、サンジの場合は懸賞金の額が()()()()()()()()()()()()という滅多にない事態よりも、手配書の写真が新しくなり、己が黒足なのだとハッキリと証明できる手配書が配布された事に対してどこまでも喜んでいる。

 

 もちろん、火拳のエースを救出する為にマリンフォードに乗り込んだのも、ルフィの手助けをする為であり、決して己の手配書の写真を少しでもまともなものにしてもらうつもりで目立つ行動を取ったわけではない。

 

 恐らく、結果的にそうなっただけ───の、はずだ。

 

「えぇー、前の手配書(落書き)の方が良かったのになァ」

「黙れクソゴムッ!!」

「ぐえッ!!」

 

 昨日、目を覚ましたばかりのルフィはサンジの新しい手配書を見て不満そうだ。

 

 一応、病み上がりである為に手加減はされているが、不満を口にしたルフィに蹴りが飛んでくるのは当然だろう。

 

「ったく…お前の瞳に俺の顔はどんな風に映ってんだ」

「こっち」

 

 そう口にしてルフィが顔の前に掲げる以前の手配書(落書き)

 黒足のサンジ。懸賞金7700万ベリー。

 

「こんのクソゴムッ!今日の晩飯は抜きだッ!!」

「ええーーー!?サンジィーーー!それだけはやめてぐれェーーー!!サンジの新しい手配書カッコいいぞォ!!」

「心にも思ってねェだろうがッ!!はあー…ったく、あれだけボロボロだったくせに…たった数日で本当に全快しやがって」

 

 あれだけの死闘を繰り広げておきながら、たった数日でここまで回復するとは───最も、サンジはそこまで深手を負っていなかった事もあり、疲れを癒す為に1日ゆっくり休んでいただけだが、ルフィの生命力には毎度の事ながら驚かされると、己と共に更新されたルフィの手配書を見ながらサンジはそう思わずにはいられない。

 

「ほら、お前の手配書も更新されてんぞ」

「え?オオ!」

 

 頂上戦争にて、"世界最悪の犯罪者"革命軍総司令官ドラゴンの息子である事が発覚し、王の資質"覇王色の覇気"まで目覚めさせたルフィは、ルーキー世代最高額の懸賞金へと跳ね上がり、今後の動向が常に注目されることだろう。

 

 "麦わらのルフィ"懸賞金4億5600万ベリー。

 

「おれ、4億超えだってェ!やったァ!!けど、サンジの懸賞金もスッゲェよなァ!!()()()()ちまってるもんなッ!!」

「へっ、当然だ!!」

 

 前回の人生の経験と記憶という大きなアドバンテージがある事に関しては少しばかり後ろめたさもあるが、それでも努力は一切怠ってはいない。

 

 新しく更新されたサンジの懸賞金額は、まさにサンジの努力の賜物といったところだろう。

 

 エースを救い出す事に成功し、そして手配書もまともなものとなり、懸賞金額もルフィに次いで───ルフィに()()()()()()にまで跳ね上がっている。サンジにとって、これ程喜ばしい事もないはずだ。

 

 "玄脚(くろあし)のサンジ"懸賞金4億3200万ベリー。

 

 黒足から玄脚(くろあし)へ───呼び方は同じでもその字に込められた意味はこれまでと大きく違い、世界政府と海軍から危険視されている事が強く窺える。

 

「でもやっぱ写真はこっち(落書き)の方が」

「見比べてんじゃねェよ!あ、おい!何で手書きで前の手配書の懸賞金額書き直してんだよクソゴム!!」

 

 ただ、ルフィにとってはやはり───いや、もしかしたら一味全員、前の手配書の写真の方が良かったと口にするのかもしれない。これは、サンジがどうあっても不憫な星の下から抜け出す事ができないという暗示だろうか…。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 頂上戦争後、更新された手配書が全世界に配布された。

 

 当然、その更新された手配書───賞金首達の中で最も注目をされているのは、海賊王の息子である事実が発覚し海軍の魔の手から逃げ延びた火拳のエースと、その火拳のエースの義弟であり革命家ドラゴンの息子である事実が発覚した麦わらのルフィだろう。

 

 ルフィに至っては、ルーキーでありながらも頂上戦争を引っかき回し、覇王色の覇気まで目覚めさせたのだから要注意人物として新世界の猛者達も気にしているはずだ。

 

 ただ、その猛者達がルフィ以上に警戒心を抱いている人物がいる。

 そして、頂上戦争でその人物に()()()()()()()()内の1人である猛者───王下七武海で最も危険な男と称される"天夜叉"ドンキホーテ・ドフラミンゴは、その人物の手配書を切り裂いて不機嫌極まりない様子である。

 

 場所は、七武海のドフラミンゴが国王を務める異色の国───新世界に存在する愛と情熱とオモチャの国"ドレスローザ"。

 

「フッフッフ…フフフフフ!"玄脚(くろあし)"だァ!?随分と大層な異名を名付けられて格上げされてるじゃねェか!森羅万象の根源とでも言いたいのか?

 4億3200万ベリーだと!?フッフッフ、ぽっと出のガキが随分と高い評価を受けてるみたいだなァ!!」

 

 サンジに痛手を───背中に網目状の火傷を負わされただけではなく、背骨まで折られたドフラミンゴは高らかに笑い声を上げながらもかなりのご立腹だ。

 

 そんな大怪我を負いながらも、イトイトの実の力を駆使し最後まで戦場に立っていたのは七武海として───大海賊として世界に名を轟かせるプライド故か…。しかし、そのプライドもルーキー海賊によって傷を与えられ、ドフラミンゴはかつてない怒りを覚えている様子である。

 

 ここまでの怒りを露にするドフラミンゴを、彼が家族と呼び大切にする幹部達も見たことないかもしれない。

 

 その証拠に、幹部以外の下っ端達はドフラミンゴが怒りのあまりに垂れ流しにしている威圧感───覇王色の覇気によって気絶する者達が続出している程だ。

 

 ただ、そんな怒れるドフラミンゴを目にし、誰にも気付かれないように内心かなり喜ばし気な人物が1人───ドンキホーテファミリーの()()の中に存在した。

 

 ドンキホーテファミリー・トレーボル軍に所属する幹部であり、殺し屋として活躍する妖艶な美しさを惜し気もなく醸し出す情熱的な女───コードネーム"ヴァイオレット"である。

 

 そのヴァイオレットは、ファミリーの誰にも気付かれないようにその場を離れ自室へと向かい、そしてドフラミンゴが見たらすぐに切り裂くであろう手配書を取り出して眺めていた。

 

「ふふふ、あのドフラミンゴに大怪我を負わせ、あそこまで怒らせるなんて…"玄脚"…ふふ、素敵な子ね」

 

 うっとりとした───恋する乙女のような表情を浮かべながらサンジの手配書を眺めるヴァイオレット。彼女は心の底から───この()()、決して浮かべる事などできなかった最高の笑みを浮かべるのである。

 

「会ってみたい…いつか…会えるかしら?玄脚…あなたは私の救世主に…"白馬に乗った王子様"になってくれる?…ふふ、私ったらこんな事を考えるなんて…でも、あなたにはいつか会えるような、そんな気がするわ」

 

 そう呟き、手配書の写真をそっと撫でるヴァイオレットは、本気でそれを期待しているかのような───そんな雰囲気を醸し出していた。

 

「ありがとう、玄脚のサンジ。あなたのおかげで私は癒された。どうにかまだ…頑張れる」

 

 その手配書を至極大切そうに折り畳みながら、ヴァイオレットは保管する。

 

 サンジは知らない。新しく更新された手配書を、お守り代わりに大切に保管してくれている美女が存在することを…。

 

 そして、この妖艶な美女の望みは、近い将来───必ず果たされる事となるだろう。

 

 

 *

 

 

 場所は変わり、同時刻───偉大なる航路(グランドライン)に存在する、自然溢れるとある島にて…。

 

「はアァ!?ど、どういう事だよ!?何で"黒足"の懸賞金がこんなにも跳ね上がってやがる!?

 まさかおれと戦った時は手を抜いてやがったのか!?」

 

 声を荒げているのは、エニエス・ロビーにて麦わらの一味と壮絶な死闘を繰り広げ、サンジに敗北した"CP(サイファーポール)9"の元メンバーの1人、ジャブラ。

 

 ジャブラは、エニエス・ロビーにて自身を負かしたサンジが、3億ベリー以上の上乗せで懸賞金が更新されている事に驚いているようだ。

 

「ジャブラ…煩すぎるわよ…セクハラだわ」

「何でもかんでもセクハラにしてんじゃねェよッ!!あー腹立つ!黒足、次会った時は絶対に殺してやるぜッ!!」

 

 そう口にしながら、今のままでは勝てないと修業に向かうジャブラ。

 

「どうしたのかしら?…あら?」

 

 そのジャブラを見送りながら、ただ叫んでいただけのジャブラにセクハラと言い放ったエロさ満点の金髪美女───同じく元CP9の諜報員だったカリファは、ジャブラが机に叩きつけた一枚の手配書に気付き、そして驚愕する。

 

「黒足が…4億3200万ベリー…」

 

 カリファはエニエス・ロビーにてサンジと戦い、そして勝っている。しかし、カリファが勝てたのは、サンジにとってカリファがある意味で相性最悪の相手だったからだ。

 

『たとえ死んでも…俺は女は蹴らん』

 

 あの状況のなかでよくもまあ言えたものだと───負け惜しみにも程があると当時のカリファは思っていた。ジャブラに勝った事実から負け惜しみではなかったとわかっていたが、それでも今時そんな騎士道精神を持ち合わせている男が存在するとは、カリファは思えずにいた。

 しかし、今この手配書を前にしたカリファは同じ事をサンジに対して思えるのか───答えは否。

 

「黒足…その"騎士道"はいつかきっと、身を滅ぼす要因になりかねないわ。けど…私は嫌いじゃない」

 

 そう呟き、サンジの手配書を手にしたカリファは自室へと向かい、そしてベッドに寝転ぶ。そして、手配書をベッドの上に置き、ツンツンと指で写真をつつきこう呟くのだ。

 

「黒足…あなたはどうして海賊なの?」

 

 どこまでも女性に対して優しく、甘いサンジ。そんなサンジに対し、カリファは1人の女としての想いを口にしていた。その想いはまるで、サンジが海賊でなかったら自身が虜になっていたかのような、そう聞こえてしまうような発言だ。

 

 ただ、CP9のメンバーではなくなった今───サンジを目の前にしたらカリファはどうするのか…。

 

「うふふ、罪な男ね…"玄脚のサンジ"」

 

 とてつもない色っぽさを醸し出しながらそう呟くカリファの表情もまた、恋する乙女のような───

 

 

 *

 

 

 時は同じく、場所は偉大なる航路(グランドライン)新世界、"万国(トットランド)"に存在する34の島の1つ───カカオ島。

 そのカカオ島ショコラタウンに"カラメル"という名のカフェが存在しているのだが…。

 

 新しい───まともになったサンジの手配書が全世界に配布され、思いの外に世の女性達が良い反応を見せているなか、その手配書を目にした女性達のなかで最も衝撃を受けた人物が存在した。

 

 その人物は、彼の"四皇"の一角───紅一点である大海賊"ビッグ・マム"の娘の1人であり、シャーロット家三十五女。若くしてカフェ"カラメル"を営む、14歳という若さにしては大人っぽく、すでに相当な色気を惜し気もなく醸し出す美少女である。

 

「あ、あああ、ありえないわッ!?わ、わた、私が()()()()()()にときめくなんてッ!!

 な、何よ!金髪でスーツが似合ってて王子様風で血を流してる姿がカッコ良くて様になってるってだけで、こ、こんな手配書になんか、す、すすす、少しもドキドキなんてしてないんだからッ!!」

 

 そう口を荒げながらも、顔を真っ赤に染めて手配書をチラチラ見ては顔を背けるその美少女は、明らかにその手配書の人物に一目惚れしたかのような反応だ。

 

「"玄脚のサンジ"ですって!?私があなたを素敵だと思ってるなんて絶対にあり得ないんだから!勘違いしないでよね!!」

 

 いったい、彼女は誰に向かってそれを言っているのか───彼女以外入れない部屋の()()()()()()()()()は決して、彼女には返事をしてくれないというのに…。

 

 シャーロット・プリン、14歳。彼女は年頃の女の子。

 

 サンジが前回と違う行動を起こし、そして活躍した影響なのか───奇しくも、今回の人生では出会う前にプリンがサンジにときめくという想定外の出来事が起きているのである。

 

 もしかしたら、サンジとプリンはフェロモンの観点から見ても、実は相性抜群の男女なのかもしれない。

 

「サンジ…さん…会って…みたいな」

 

 大人しくなったプリンは、俯きながらぽつりと本心を呟いていた。

 

 その想いは届くのか───いや、もうすでに届いているかもしれない。

 

 何故なら、2人はすでに───

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 手配書が更新された事で、想いを寄せてくれる女性達が少しずつ増えているなか、それを知らない当の本人であるサンジはというと───

 

「サンジくんが女ヶ島で暮らしてくれたら嬉しいわね」

「ホントね!だって、サンジくんの作ってくれる料理本当に美味しいんだもの!」

「胃袋掴まれて虜になっちゃったわ!」

「それに、男に詳しいわけじゃないけど、サンジくんって優しくて素敵だし」

「ここで暮らしてくれないかなァ」

 

 本来は男子禁制の女入国。その女入国、女ヶ島"アマゾン・リリー"にて女性達に料理を振るうサンジは、少しだけ───いや、大きく揺れていた。

 

 サンジにとってアマゾン・リリーは楽園(パラダイス)

 

 ルフィを支えるという覚悟はいったいどこにやら───しかし、まさか己がここまで女性達に求められる日が来るとは思ってもいなかったサンジは感動で打ち震えている。

 

 サンジに、まさかのモテ期到来か───。

 

 






お待たせしました。ついにサンジの懸賞金額跳ね上がり編です!!

ルフィも原作よりも上がっております。
ルフィに関しては、将来性、それからサンジという強力な船員の存在がその懸賞金額に影響しているのもあります。
海軍も現時点ではサンジの実力が上だと気付いていますが、サンジが献身的にルフィを支える姿は今後の成長の恐ろしさを物語っているということです。

一方のサンジは、純粋にサンジに対する評価ですね。

4億32(サンジ)00万ベリー。

写真はちゃんとしたのになって大喜び!だけどルフィからは前の方が良かったという批判が!!

サンジ「何でだよッ!?」
ゾロ「お前なんてしょせんそんなもんだぞ」

サンジの異名に変化もあります。"玄脚(くろあし)のサンジ"。
活動報告にてアイディア募集した結果…さっそく決まっちまったぜ!!

そして、到来とはまさかのサンジのモテ期到来!?


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不憫な星の下



サンジにモテ期到来?はっはッはッー!サンジはこのままハッピーエンドで終われるのか?



 

 

 新たな異名"玄脚(くろあし)"の名を世界に轟かせたサンジは、ルフィと共に現在も女ヶ島"アマゾン・リリー"に滞在している。

 

 ルフィが完全回復するまでは当たり前だが、どうやらそれ以降もしばらく世話になるだろうとサンジは考えているようだ。本心は寧ろ世話になりたいといったところ…。

 

 しかし、ルフィと共に休息中のサンジに、悲運な運命が襲いかかってしまうこととなった。

 いや、サンジの持って生まれた才能───不憫な星の下に生まれたが故に起こるべくして起こったと言うべきか…。

 

 いったい何が起きたのか───女ヶ島の海岸沿いに特別に許可を貰って停泊しているハートの海賊団───その船長"死の外科医"トラファルガー・ローが関係していた。

 

 麦わらの一味の船医"わたあめ大好きチョッパー"の代わりにルフィの手当てを行ってくれたローだったのだが、そのローはあろうことか、サンジを引き抜こうといきなりスカウトしてきたのだ。

 

 事の発端はサンジが差し入れにと、ロー達ハートの海賊団に作った"()()()()"が原因だ。前回の人生の経験故か、もしくは料理人としての癖か、ローの()()()である"焼き魚おにぎり"をうっかり作ったサンジは、ローの胃袋をガッツリ掴んでしまったのである。

 

 サンジも鋭いローを相手にする際はボロを出さないようにと最大限に気を付けてはいるつもりだったが、料理に関してのみは仕方ないものがあったかもしれない。

 ただ、その失態でサンジが過去に戻るという奇跡的な現象を経験しているという事は気付かれなかったが、サンジの作ってくれたおにぎりに感動したローは、ぜひともハートの海賊団のコックになってほしいと思うようになってしまったのだ。

 

 さすがは、"ビッグ・マム"を()()()()()()させかけた料理人───そのおにぎりも、ローがこれまで味わった事のない程の美味だったのだろう。

 

 しかし、当然ながらサンジ本人はローの誘いを拒否。もちろんローも、サンジに拒否されたからといって引き下がりはしない。

 

 ただ、サンジが引き抜かれそうになっているのを、ルフィが黙って見ているはずもなく、そしてルフィが加わってしまった事で、サンジを巡った争いはあらぬ方向へと発展してしまったのである。

 

 事の発端は、ローがサンジをスカウトしてから───しかし、火種が拡大したのは、ルフィの余計な一言を()()()()()が耳にしてしまってから…。

 

()()()()()()()()!絶対に誰にもやらねェよ!!』

 

 ルフィをこよなく愛する"海賊女帝"ボア・ハンコック。

 

 そのハンコックがルフィのこの発言を耳にすると、どういう原理なのか定かではないが、ハンコックの脳内でサンジの存在はルフィにとって()同然の存在であるという奇妙な解釈をしてしまったのである。

 

 ルフィをこよなく愛し、ルフィと結婚し妻になりたいと思っており、自分以外にルフィの妻はあり得ないと思い込んでいるハンコックにとって、この瞬間───"玄脚(くろあし)のサンジ"は自身最大の敵となってしまったのだ。

 

「"玄脚"ィ!!貴様は妾の手で葬り去ってくれる!!」

「ちょ、ちょっと、ハンコックちゃん!?」

「麦わら屋の隣に玄脚屋がいるのが認められねェってんなら、おれが有り難く貰ってやるよ!」

「ふざけんなットラ男!ハンコックもやめろよ!サンジは絶対に誰にもやらねェ!おれのだ!!」

「お前もう黙れクソゴムッ!!」

 

 こうして、アマゾン・リリーにて勃発した"玄脚"争奪戦。内1名は争奪ではなく、本気でサンジの首を狙っているが…。

 

 そして、この争奪戦が勃発してしまった事により、女ヶ島の女達の間でサンジはルフィの恋人、嫁という認識のされ方をしてしまう事態になってしまった。サンジに永住してほしかった女達も、ルフィの恋人、嫁なら仕方ないと一歩引いた接し方へと変わり、サンジの女ヶ島でのモテ期は儚く───あっという間に終わってしまったようだ。

 

 そして、ルフィが怒るからと首を狙われる事はなくなったものの、顔を会わせる度にハンコックからは殺意の籠った視線───覇王色の覇気をぶつけられるという状況のようで、事態を理解しサンジを慰めてくれるのはハンコックの妹達と先々々代のアマゾン・リリー皇帝グロリオーサこと"ニョン婆"のみのようである。

 

「玄脚屋…たまにでいいから差し入れ(通い妻)してくれ」

 

 事の発端のローはというと、とりあえず今回は手を引いたようだが、決して諦めてはいない。

 やはり、胃袋を掴むというのはかなり強大な力を発揮するのだろう。

 

「ちくしょォォ!男からの求愛なんざいらねェんだよ!!」

 

 新人類(ニューカマー)達の魔の手から逃れたと思いきや、下手をしたらそれよりも厄介な者達から狙われるという───サンジは強さが増したのと同時に、狙ってくる相手もレベルアップするという事態に見舞われるのである。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 サンジにとって有り難いのか有り難くないのか、男女問わずの謎のモテ期を迎えているなか、世界各地に散り散りになった麦わらの一味の仲間達はいうと───

 

 "玄脚(くろあし)のサンジ"懸賞金4億3200万ベリー。船長に次いで高額賞金首の仲間入りを果たしたサンジの新しい手配書を目にし、当然の如く驚きの声を上げていた。

 

 その驚きは懸賞金の高さに対してなのか、それとも───

 

「サ、サ、サンジの写真がまともになってる!?どうしてだよォ!?」

 

 残念そうな、悲痛な叫び声を上げるのは狙撃手ウソップだ。

 

「ええ!?サンジがどうして!?あれ?けど…サンジってこんな顔だったっけ?」

 

 サンジの懸賞金が跳ね上がっている事に驚きながらも、すぐ頭に思い浮かぶのがいつも鼻の下を伸ばしているサンジだからなのか、ただ純粋に頭に浮かんだ疑問を口にするのは船医のチョッパー。

 

「おうおう!サンジの野郎やってくれるじゃねェか!」

 

 まともに喜んでくれているのは一味の船大工フランキー。サンジも泣いて、感謝の言葉を返してくれるだろう。

 

「ええ!?いつの間に新しい仲間が!?ヨホホホホ!しかもサンジさんと同姓同名とは!!」

 

 もはや別人とすら思って疑ってないのは、新入りでありながら最年長の音楽家ブルックである。

 

 仲間が評価された事を純粋に喜んでいるのは変態なフランキーのみとは…。

 他の者達はいったいサンジを何だと思っているのやら…。最も、そうなってしまうのもサンジの日頃の行いが原因でもあるのだから仕方なかったりもする。

 

 ただその一方で、サンジの新しい手配書を眺めながら闘志を漲らせる存在が1人───

 

「あのエロコック…へっ、やってくれんじゃねェか!」

 

 その手配書を手にし、自身の約3.5倍の懸賞金額に跳ね上がったサンジに対し悔しさを滲ませるのと同時に、共に切磋琢磨する相手の成長に嬉しさも感じている"海賊狩りのゾロ"。

 

 やはり、ゾロにとってのサンジという存在は、同じ一味に所属しながらも絶対に負けたくないと思う相手なのだろう。

 

 そして、サンジの新しい手配書を目にしたレディー達の反応は如何なものだろうか───

 

「まあ、サンジったら…ふふ、いつもこんな感じだったら、抱かれてもいいのだけど」

 

 大人の女の色気を惜し気もなく醸し出しながらも、サンジのカッコ良さは認めているのか、大人の女の余裕さ窺わせながらそう口にするのは考古学者のニコ・ロビンだ。

 ただ、サンジがロビンの今の言葉を聞いてしまったらどうなるか───それは火を見るよりも明らかである。

 

「な、何よ…ちょ、ちょっと…カッコイイ…かも?」

 

 一方、大人の女の余裕さを見せるロビンとは違い、いつもどんな時もサンジからお姫様扱いされるナミはというと───ほんのり、その手配書を見て頬を染めている。

 

 女好きで、女を前にしたら鼻の下を伸ばしてばかり。だが、紳士的でとにかく女性に優しい───普通にしてたら間違いなくイケメンの部類に入るだろうと、ナミはサンジの事をそのように思っていた。

 

 ただ改めて、"男"サンジの真剣な表情を見せられると、ドキッと胸を高鳴らせるものがあったようだ。

 

「あ、あのサンジくんよ?常に脳内ピンク色で…けど…優しくて強くて…わ、私…どうしてこんなにドキドキしてるのよ…も、もうッ!!どうしてサンジくんの手配書まともなのにするのよ!?前のでよかったじゃないのッ!!」

 

 どれだけ理不尽な事を言っているのだろうか…。そして、サンジが聞いていたら屍になるだろう。

 

 サンジの新しい手配書について一味内では、やはり不評の声が半数以上のようである。ただその理由が面白味がまったくなくなってしまったという理由だ。ブルックに至っては新しい仲間、後輩ができたと勘違いしてる始末。

 

 ただ、意外にもゾロの反応が、手配書の写真などどうでもいいといった様子だったのは驚きである。

 

 

 *

 

 

 サンジの新しい手配書が影響を与えているのは、何も麦わらの一味内だけではない。

 

「サンジ…あの子…本当に立派になったのね」

 

 瞳に涙を浮かべ、サンジの手配書を胸に抱きしめながら震えるピンク色の髪の美女。

 

 彼女の特徴的な"()()()()()()"を見れば、彼女がサンジの血縁者である事は明白だ。

 

 その名はヴィンスモーク・レイジュ。

 

 大昔に武力で北の海(ノースブルー)を制圧した人殺しの一族と呼ばれており、国土を持たない海遊国家"ジェルマ王国"の王族"ヴィンスモーク"家のお姫様───サンジの実姉である。

 

 サンジが唯一、家族と認める存在であるレイジュは、まさかサンジがここまでの悪名を轟かせる存在になるなど思いもせず、ただ純粋に驚いている様子だ。

 その反面、愛しい弟が強く成長した事を誰よりも喜んでいるのである。

 

「ふふ、こんなにイケメンに成長しちゃって…これじゃあ、世間の女達が放っておかないんじゃないかしら?」

 

 "黒足"として指名手配された時は生きていた事に喜び、そして驚き、その手配書の写真に疑問を抱き複雑な心境だったレイジュだが、"玄脚(くろあし)"という新しい異名で更新された手配書は本物のサンジであり、その成長が写真からも懸賞金の高さからもレイジュに伝わっており、彼女にとって何よりもの嬉しい便りになっただろう。

 

「けど…これを見た()()()がどう行動するか…この懸賞金額を考えたら、かなり慎重になると思うけど…でも、滑稽な話ね。早々と落ちこぼれと決めつけて切り捨てたサンジがここまでの器だったなんて…サンジは大器晩成型だったのね。お母様がお父様に抵抗して、強く望んで…命を賭してまで産んだ私達姉弟の中で唯一の"()()"だったサンジが、ジェルマの最高傑作となった。皮肉な話…けど、お父様もいい気味だわ」

 

 サンジの新しい手配書が嬉しい便りである一方で、これを知ったサンジの父親がいったいどのような反応を見せ行動に移すのか───レイジュはそれだけが気掛かりで仕方がないようだ。

 

 ただ、サンジを切り捨てた父親にとって、サンジの成長は実に腹立たしいものであるに違いないと、レイジュは父親を鼻で笑っている。

 

 そして、ここまで成長してくれたサンジをどこまでも誇りに思っているようだ。

 

「サンジ…あなたが幸せに生きていてくれれば私はそれだけでいい。あなたがもう…"ジェルマ"に関わらない事を心から望んでいるわ」

 

 願わくば───姉としての想いはただ一つ。

 

 果たして、姉のその想いは、願いは届くのか───奇しくも、レイジュがその願いが届かなかったのだと知るのは、ほんの少し先となってしまう。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 場所は女ヶ島に戻り───手配書が更新されてから良くも悪くも引っ張りだこなサンジは、海岸沿いにて1人で一服していた。

 

 医者としてやるべき事もなくなったトラファルガー・ローも去り、海岸沿いも随分と静かになったものである。

 

 ローは去り際に能力を使って、ちゃっかりサンジをポーラタンク号に乗せようとしていたらしいが、それに気付いたサンジに踵落としをお見舞いされて大人しく引き下がって行ったようだ。

 

「はあ…ったく、ローの野郎…まあ、うっかりアイツの好物作っちまった俺も悪かったが、まさかあそこまで熱烈なアプローチしてくるとはな」

 

 料理の腕に関しては、サンジはすでに世界屈指の腕前を持つ料理人だ。

 そのサンジのおにぎりはローを惚れ込ませるのに十分な味を持っているのも当然だろう。

 

「アイツがあんな事言うとはな」

 

 鋭いローに、自分の好物を知っていたのかと尋ねられた際、苦し紛れに、ポーカーフェイスを装いながら差し入れにはおにぎりと決まっていると口にしたサンジに対し、ローが毎日差し入れを頼むと言ってきたのにはサンジも面食らっていた。

 

「けど…まったくやれやれだぜ。ルフィの余計な一言でハンコックちゃんに命狙われるわ」

 

 自身のお株を奪いかねない強力無慈悲な蹴りで、本気で襲いかかってくる海賊女帝は実に恐ろしいものだったと、サンジもかつてない程の生命の危機を感じたらしい。

 

「女ヶ島の女の子達に変な勘違いされるわ」

 

 ルフィの嫁発言で勘違いされ、モテ期が一瞬で終わりかけてしまったサンジはかなり焦ったものである。

 一応、誤解は解けたようだが、まだ怪しんでいる女の子も多少はいることだろう。

 

 そして、ローからのスカウトときての争奪戦勃発だ。

 

 今日一日で起きた事件にサンジはお疲れ模様。しかし、サンジに休んでいる暇はなく、一服したら気持ちを切り換えて計画を練らなければならない。

 

 麦わらの一味の頭脳(ブレーン)は大忙しなのである。

 

「疲れた…だが、ゆっくりと休んでる暇はねェな。ルフィもかなり回復したし、そろそろナミさん達に()()しねェといけないからな…ただ問題が1つ…」

 

 そう、計画に関してはそこまで入念に練る必要はない。ただ、サンジの懸念はその計画に必要な()()が揃っていない事なのである。

 

「ジンベエはいなくて当然だが…"()()"だけは、この計画には欠かせない」

 

 そう、サンジはすぐにでも再びマリンフォードに乗り込み、そして世間をまた賑わせるつもりなのだ。

 それは、前回の人生でルフィが"冥王"シルバーズ・レイリー、そしてジンベエと共にマリンフォードに乗り込み行ったとある事を、今度はジンベエの代わりにサンジが同行し行うつもりなのである。

 

 世間には、己達が新しい時代を作るという意思表示だと思い込ませ、真の目的は仲間達への伝言を届ける為。

 

 ただ、前回と今回ではエースが生存しているという大きな違いがある。しかし、この計画に関しては冥王が同行してくれたならば、その変化も大した問題ではなく、寧ろまったく関係ないだろうとサンジは考えている。

 

 世間は冥王の登場で、麦わらのルフィが次代の海賊王として冥王にまで期待されていると強く認識し、ルフィの意思表示というフェイクに注目し、真の目的には誰も気付けないとサンジは考えているのだ。

 

 そしてこの計画が成功すれば、サンジは()()()()()()()()にもなると考えているのである。

 恐らく、新しい手配書でサンジの存在をジェルマも把握しているはず。場合によっては、世界政府に掛け合いすぐに"ONLY ALIVE(生け捕りのみ)"と書き換えられる可能性もある。だが、頂上戦争後すぐにこれだけの問題を起こしたとなれば、これだけ世界政府と海軍に楯突いたとなれば、いくら世界政府加盟国の王族の頼みといえども聞き入れてもらえないはず。サンジはそう考えているのだ。

 

 ただ、その為にはやはり役者が揃わねばならない。

 

「問題はその冥王…ん」

 

 だが、その問題に関しては深刻に考える必要などないだろう。何故なら、彼らは天が常に味方している麦わらの一味。

 

 女ヶ島の海岸沿いから見える距離───"凪の帯(カームベルト)"で、大型の海王類がたった今()()に殺されたのである。

 

 そして、その人間は着実にこの女ヶ島へと向かっているようだ。

 

「へっ、タイミング良すぎだろ」

 

 だが、サンジはその人物に心当たりが───いや、見聞色の覇気ですでに誰なのか答えは出ている。

 

 年老いた存在といえど、その力は今も尚世界屈指であること間違いなし。

 

「いやァ参った…ん?おお!黒足!いや、今は違ったな…話題沸騰の"玄脚(くろあし)"」

 

 現れたのは、サンジが強く望んでいた人物で───

 

「ルフィ君がこの島で療養していると推測してやって来たが、やはり君もいたか。

 会いたかったぞ、玄脚…いや、サンジくん」

「…しばらくは野郎からのそういうのは遠慮願いたいんだが」

「ん?」

 

 ただ、お疲れ気味のサンジには、言葉を選ばねばならない。

 

 






一応、女ヶ島でのモテ期はたった数行で終わったけど、モテ期は終わってないよ。
寧ろ増してる?前回の記憶と経験のおかげで、すでに攻めの料理を習得しているサンジですが、それが今回の事態を招いています。
攻めの料理はカマバッカ王国フェロモン(男が男を寄せ付ける)を増させる作用でもあるのか?ルフィが今まで以上にサンジに胃袋を掴まれ執着し、ローもこれまでの人生で食べたおにぎりの中でも最高のぶっちぎり断トツNo.1のおにぎりを差し入れされ(しかもサンジのうっかりで、ローの大好物の焼き魚おにぎり)胃袋を掌握されてしまうという事態に…。

冥王からのサンジくん呼び。ルフィくんって呼んでるしね。この冥王はサンジに若き日の自身を重ねたり?


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新時代へ鳴り響く点鐘



ようやく一区切りつきそうなとこまで来たァァーーー!!

でも次は新世界編前に3D2Yだァ!!まだ一応モテ期継続中のサンジはどうなるのか!!

やる気でろォ。サンジみたいに燃えろォ。

執筆の励みになるので感想、ご評価…やる気のでるのお願いします。



 

 

 いつの世も、その時代を盛り上げてくれるのは勢いある若き者達だ。

 

 ただ、今の世はかつてない混沌の世界と化している。

 

 白ひげの死は世界の均衡を崩し、とてつもなく大きな影響を世界に与えてしまった。白ひげという大海賊がどれだけ世界の均衡を保つのに貢献していたか───海軍の中にも、その偉大さを感じずにはいられない海兵が存在しているくらいである。

 

 白ひげの死に触発された海賊達が次々と事件を起こしているのだから、そう思わずにはいられないだろう。

 

 そして、マリンフォード頂上戦争から2週間経過した頃、復興作業中により警備が手薄となっているマリンフォードに、頂上戦争にて大いに世間を賑わせたルーキー海賊2人が伝説の存在と共に突如姿を現したのである。

 

 現れた3人は軍艦を奪い、そのままその軍艦でマリンフォードを一周───海における"水葬の礼"を行い、その後ルーキー海賊の1人が単独で広場へと足を踏み入れ、広場の西端にある"オックス・ベル"を()()()()

 

 その後、鐘を鳴らし終わった後はもう1人のルーキー海賊と共に、まだ広場に残る───頂上戦争による大きな傷痕に花束を投げ込み、2人は黙祷を捧げたのだ。

 

 そのルーキー海賊2人の姿を取材陣達は大喜びで撮り、その一連の行動は瞬く間に世界に配信された。

 だが、その取材陣達は自分達が()()されている事に気付かず、まんまと利用されてしまったのである。

 

 当然、そのルーキー海賊2人による行動を世界政府と海軍は挑戦状として受け取った。

 白ひげの時代は終わりを告げたが、また新しい時代は始まる。そして、己が新時代を作るのだと───そう思い込ませる事が計画であるとは、気付いた者はいない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()の腕に、"3D2Y"という、3Dの部分にバツ印の入った文字と事の真相に気付いた者は仲間達のみである。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 サンジとルフィが再び世間を賑わせてから数日後、2人の滞在先である女ヶ島に2人の男が現れる。

 

 サンジはその男2人の登場にため息を吐くが、これを予期していたのか驚いた様子はまったくない。

 

「サンジ!またルフィに無茶させやがって!!」

 

 現れた男の1人、左目付近に火傷の痕がある金髪の男───ルフィの兄の1人である革命軍のサボはかなりご立腹だ。

 サンジ呼びがすっかり定着しているのは、大切な弟の船員だから当然なのだろう。もっとも、サンジとサボは頂上戦争で共闘し、あの死地を切り抜けた仲なのだから、付き合いは短くともすでに信頼が築き上げられていてもおかしくはない。

 

 ただ、数日前にマリンフォードに乗り込んだ騒ぎを知ったサボは、いくら警備が手薄といえどあまりにも無謀過ぎると、怪我が完治したとはいえ、再び無茶をさせてどうするのだとサンジに怒っているのである。

 

「無茶…ね。だが、その様子からして革命軍も()()()()には気付けてないみたいだな」

 

 一方のサンジは、仲間達への伝言に誰か気付いてしまったらとそれだけが心配だったようだが、革命軍が気付いてないとなれば、心配する必要はなさそうだと安堵の息を吐く。

 

「真の目的?」

「こっちの話だ」

「はあー、まったく。ルフィにまた無茶させたのには怒ってるけど、お前達にとってはかなり重要だったってとこか…。

 そういえば…()()()()()()()()()()もその記事見て、何かに気付いたって…」

「え、ロビンちゃん革命軍のとこにいるのか!?」

 

 一味の全員がどこに飛ばされたのか記憶しているサンジだが、それを知っているのはおかしいからとわざとらしくないように演技をし、そして驚いている。

 

 その演技力もなかなかのものだ。

 

 ただ、仲間達が記憶通りに同じ場所に飛ばされているのかは心配だった為に、ルフィに続いてロビンの安否が、記憶通りの場所に飛ばされていたのが確認できた事に、サンジは安心し胸を撫で下ろす。

 

「安心しろ。ニコ・ロビンは無事だ。それに、おれ達革命軍はニコ・ロビンを保護する為に以前から動いていたし、危害は一切加えないと誓うよ。

 つっても、そのニコ・ロビンに一緒に来るかって言ったんだけど、革命軍の下で色々とやりたい事があるって…あ、もしかして」

 

 サボは何かに気付いたのか、数日前の新聞を懐から取り出しサンジに事の真相を問い質す。

 

「このルフィの腕の文字って…意味まではわからねェけど、ニコ・ロビン達への伝言か?」

「正解だ。まあ、サボには隠す必要もないから教えとくか。俺達は数週間前に、シャボンディ諸島で大将黄猿と海軍の新型兵器"パシフィスタ"…それと、七武海の"暴君"バーソロミュー・くまの襲撃を受けたんだ。頂上戦争のちょうど1週間くらい前になるか?」

 

 今思い出しても、あの時の光景は───出来事はサンジにとってトラウマものだ。

 

「え、()()だって!?」

「…知り合いなのか?」

「あ、い、いや…あー、サンジになら話しても大丈夫か…。その"暴君"くまなんだけどさ…仲間…なんだよ」

「まさか…革命軍のスパイとして七武海に?」

 

 前回の人生で、トラウマを植え付けられた相手である一方、サンジ達麦わらの一味にとっては命の恩人でもあるバーソロミュー・くま。

 

 サンジは、一味の船大工フランキーづてではあったが前回の人生で、バーソロミュー・くまが革命軍の幹部だという秘密は聞いていた為に、サボの話に驚いて見せているだけだ。

 

 ただ、バーソロミュー・くまがどうして助けてくれたのか───その真実は結局知れずじまいだった為に、サボが知っているなら聞きたいところだろう。

 

「そうか…くまがそんな事を…」

 

 しかし、サンジからシャボンディ諸島での出来事を聞いたサボだが、どうやら真実は知らないようだと、サンジはサボの様子からすぐに察していた。

 

「くまの身にいったい何が起きたのか…ドラゴンさんは知っているみたいだ。ただ、それについては近い内に話すからって、まだ聞けてないんだ。けど、くまはお前達麦わらの一味も救ったんだと思う…いや、絶対にそうだと思う。それだけは確かだ」

「…そうか」

 

 真実はまだわからない。ただ、前回の人生でもフランキーが言っていたように、バーソロミュー・くまが大恩人だという事だけは、変わらず確かなようだ。

 

 今度こそいつか、その真実がわかる日が来ればいいと───しかし、その真実を知る時、一味は再びトラブルに巻き込まれることとなるだろう。

 そして、それはとてつもなく大きなもの。

 

 ただ、それはもう少し先だ。

 

「サンジィーーー助けてくれよォ、()()()がァ!」

 

 それはそうと、女ヶ島にはサボだけでなくもう1人、ルフィの兄───"火拳のエース"もやって来ている。

 

 先日のマリンフォードでの再びの騒動を知り、弟に無茶をするなと釘を刺しにやって来たようだが…。

 

「おいおい、エース。ルフィもそこまでガキじゃねェんだ。海賊が無茶やらかすのは当然だろう」

「わかってるよ!けど、お前がいながらマリンフォードにまた乗り込むなんて誰が想像するってんだ!!」

 

 それはまあそうだろうが、麦わらの一味にとっては必要だったのだから仕方がないだろう。

 

 ただ、エースはルフィが先の頂上戦争に於いて、自分の寿命を10年も削ってまで助けに来たのだという事を知り、今まで以上にルフィに対して過保護になってしまった。

 

 白ひげという恩人が───大切な父親が自分が弱いせいで死んでしまったのもあり、エースがルフィに対して過保護になってしまうのは理解できなくもない。

 

「俺とレイリーもいたし無事だったからいいじゃねェか」

「ッ、それは…」

 

 老いたとはいえど、共にいたのは彼の"冥王"───伝説の存在だ。

 

 エースにとっては忌まわしい生みの親の元相棒ではあるかもしれないが、ルフィにとっては心強い存在。それをルフィから聞かされたエースが、心中穏やかでいられないのは仕方ないものがあるだろう。

 

「ルフィが心配なのはわかるが、お前はまず自分の心配をするべきだ。せっかく助かったのにまた捕まったじゃあ、白ひげも報われねェぞ」

「それくらい言われなくてもわかってる!」

「ならいいが…」

 

 エースも先の頂上戦争後にサンジ達と同じく懸賞金が跳ね上がっている。

 それも倍額。新世界に名を轟かせる海賊達の中でも、四皇の大幹部クラスの11億ベリーだ。

 

 海賊王の血を引く"鬼の子"。これ程の懸賞金を懸けられるのは当然。いや、もしかしたらそれでも低いかもしれない。

 ただ、エースの場合は海賊王ロジャーの息子だからという理由が強く影響している一方、エース自身はその懸賞金額に見合った強さをまだ有してはいないのである。

 

 確かに自然系(ロギア)"メラメラの実"の力は強力だが、エースは覇気の扱いに関して、サボにも───サンジにも劣っているのもあり、サンジはその点に気付いており心配しているようだ。

 

「エースは今、()()()()()のとこにいるんだろ?」

「…ああ」

 

 船長白ひげを失った白ひげ海賊団は、当然ではあるがかなり弱体化してしまっている。他の四皇の海賊団も共通している事ではあるが、四皇である船長と、大幹部達の間にはとつてもなく大きな差があるのだ。

 

 赤髪海賊団も、百獣海賊団も、ビッグ・マム海賊団も、船長を失ってしまったら白ひげ海賊団と同様に弱体化してしまい、新世界に名を轟かせる()()()()()()程度の強豪海賊団になってしまう。

 

 四皇の力とは、他とは一線を画しているのだ。

 

 白ひげ海賊団No.2"不死鳥のマルコ"は、救い出したエースをこのまま自分達の手元に置いておいていいものかと、頂上戦争後悩んでおり、そんな時にどうやら赤髪のシャンクスがエースの後見人として名乗り出てきたらしい。

 

 マルコの他、隊長達も赤髪にならばと、エースを任せる事に賛同し、エースも赤髪の説得によって赤髪海賊団へ移籍する事を了承したのである。

 

 ルフィは羨ましそうにしてはいるが、それがエースの為になるならばと納得しており、決して文句を口にしない。何故なら、エースは白ひげの為にも絶対に死ぬわけにはいかないのだ。ルフィもそれを理解している。

 

 そして、シャンクスが後見人として、エースの指導者として名乗り出たのなら、それが決して間違いではなく正しい事なのだろうと、ルフィは尊敬するシャンクスをどこまでも信頼しているのだ。

 

「ルフィが心配なのもわかる。だが、まずは強くなる事だけ考えろ。でないとお前…あっという間にルフィに追い越されちまうぜ?」

「おれは絶対にエースよりも強くなってみせる!その為に()()()()()()()()()に鍛えて貰うんだからな!!」

「!」

 

 エースがシャンクスに指導を受ける一方、ルフィはサンジと共に伝説の冥王に指導を受ける事になっている。

 驚くエースだが、考えればすぐにわかることだろう。そうでないと、このタイミングで冥王が姿を現すはずなどないのだ。

 

「兄弟揃って超大物だな。さすがというべきか…けど、おれも負けてらんねェな!」

 

 そして、そう口にするサボだが現時点でこの三兄弟の中で最も強いのはサボだ。

 懸賞金額ではエースに劣っているが、覇気の扱いには最も長けており、サンジと共に赤犬に怪我を負わせたその実力から、7億3400万ベリーの賞金首としてその名を世界に轟かせたのである。

 

 麦わらのルフィ、火拳のエース、革命軍のサボ───最悪の三兄弟だ。

 

「よし!それじゃあせっかくだからまたもう一度兄弟の契りを交わすか!!エースとルフィには死んだと思われてたしな!最悪の三兄弟って世間に呼ばれてるんだからこの際だ!!」

 

 サボが手に持っていた酒はその為だったのかと、ルフィとエースは顔を見合せ、そして表情を綻ばせる。

 

「それは仕方ねェだろ!」

「そうだぞサボ!本当に死んだと思ってたんだからな!!」

「おれ達の涙を返しやがれッ!!」

 

 ただ、すぐにエースとルフィはサボに対しこれまでの溜まっていた文句を口にした。

 

「へェ、エースも泣いてくれたのか!?」

「ッ!?今のは忘れろ!!」

「へへへ、絶対に忘れねェ!!」

 

 そして、三兄弟の仲睦まじい姿を目にしたサンジは、自分がこの場所にいては邪魔だろうとその場所から去ろうとする───

 

「サンジ!どこに行くんだよ!?」

「お前も交ざれ!」

「そうだ!サンジはおれ達兄弟の恩人だし、ルフィの支えだから従兄弟みたいなもんだからな!一緒に契りを交わそう!!」

 

 しかし、それは三兄弟によって止められ、エースとルフィの恩人として、そして兄弟とは違うも親しい関係として迎え入れられるのである。

 

「従兄弟盃なんて聞いた事もねェよ!!」

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 場所は"凪の帯(カームベルト)"に存在するルスカイナ島。同じく凪の帯に存在する女ヶ島の北西にあるその無人島は、週に一回季節が変わるとされる48季の島で、夥しい猛獣が数多く生息するとされる天険の地である。

 

「こりゃあ…すげェな」

「大したものだな。ルーキーでここまでの覇気を習得しているなど…ルフィくん共々に鍛え甲斐がある」

「そりゃあどうも。俺としても、()()()()()()を習得したいんで、有り難く世話になるぜ」

 

 今のサンジにとってはどうにかできる猛獣達ではあるが、その猛獣達の気配を感じ取りながら、前回の人生でルフィが強くなれた理由を理解させられていた。

 

 そして、この過酷な島で"冥王"シルバーズ・レイリーの指導の下、修業を積めば確実に、前回の数倍以上に強くなれるだろうとサンジは確信する。

 最も、サンジはすでに前回の人生の倍以上の強さを有しているのだ。そのサンジが更なる強さを手にしたらどうなるか───冥王レイリーも実に楽しげな様子だ。

 

「頂点まで登る者を支え、時には導き、時には背中を押し、時には船長の代わりにもなり…その覚悟があるか?」

「もちろんだ。その為に…俺はここにいる」

「よろしい。ならば、君には私が教えられる事の全てを教えるとしよう」

 

 それまで以上の覚悟を持ち、そしてサンジは強くなる事をその胸に誓う。

 

()()()───また再び仲間達と共に進む為に…。

 

 






ルフィを心配した兄2人の襲来。

エースの更新された懸賞金額は11億ベリーピッタシ。誕生日1月1日だし。
サボは、エースより低いけど原作よりは増しての7億3400万ベリー。

エースはマルコ達の説得もあり、シャンクスが白ひげの後継人になり赤髪海賊団に移籍。


それから…えーっと、一応"超新星編"完?


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3D2Y編
老いた獅子




オリジナル展開、3D2Y編に入りまーーーす。

これから、原作のワノ国編の展開も気にしつつの投稿になるので、執筆ペースが落ちると思いますが、それでもどうかよろしくお願いします!

執筆の励みになるので感想、喜びそうなご評価よろしくどうぞ!



 

 

 "麦わらのルフィ"、"冥王"シルバーズ・レイリー。

 

 そして、"玄脚(くろあし)のサンジ"。

 

 ルーキー海賊2人と伝説の海賊によるマリンフォード襲撃と16点鐘事件から数ヶ月が経過した。

 

 マリンフォード頂上戦争、そして再度のマリンフォード襲撃によって世間を大いに賑わせたサンジとルフィだが、数ヶ月経った今は行方をくらませており、2人の行方を知っているのは極僅かの少数───親しい間柄の者達のみである。

 

 ただ、世間から姿を消した今でも、話題の中心に挙がるのがサンジとルフィだ。

 寧ろ世間からしたら───いや、世間からだけではなく海軍と世界政府にとって、行方をくらませた今はまだ嵐の前の静けさでしかなく、2人が───麦わらの一味がまた再び姿を現した時、嵐の到来となるのではないかと、強く警戒されている。

 

 そして、海軍と世界政府のその予想は正しく、サンジとルフィ───麦わらの一味の者達は全員が、また再び集結する()()()()までの期間をそれぞれの力、技量を伸ばす為の準備期間としており、しっかりと力を蓄え"新世界"に乗り込むつもりでいるのだ。

 

 麦わらの一味が全員揃って再び姿を見せるのを、全世界が待ちわびている。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 場所は"凪の帯(カームベルト)"に存在する天険の地"ルスカイナ島"。

 

 本来なら人間が暮らしていないはずの島なのだが、その島には3人の男が───いや、()()()()()()、計4人の男が滞在していた。

 

()()…お前いつまでいる気だよ…革命軍の方はいいのか?」

 

 そのもう1人の男とは、"革命軍"の幹部候補の1人で、ルフィの兄の1人───サボである。

 

 サンジ達がルスカイナ島での修業を開始してから数ヶ月、何故かサボまで一緒に滞在しているようだ。

 

 サンジがサボの本職の方を心配しているも、反政府組織に所属している人物に対して心配するのも微妙なところではある。

 

「ドラゴンさんにはしばらく…半年くらいはルフィと一緒にいるって、ちゃんと許可貰ってあるから大丈夫だ。まあその分、戻ったら休みなしで動かないといけないだろうけどな」

 

 どうやら可愛い弟を心配するあまり、エースが自身の失態によってルフィの寿命を縮ませてしまった事がきっかけで過保護になったように、サボも記憶を失っていた10年分を取り戻す為にルフィには相当甘くなり、そばを離れたくないようだ。

 

 ちなみに、エースも共にルスカイナ島に滞在しようとしていたらしいが、サボが赤髪のシャンクスとの約束だからと赤髪海賊団の下へと送り届けたようである。

 そして、サボは一旦革命軍の本部にまで戻り、総司令官───ルフィの父親であるドラゴンに許可を貰って、ルスカイナ島にやって来たのであった。

 

 革命軍は暇なのかとサンジが思ってしまったのは仕方ない。

 

「それに、ここにいたら超美味い飯食えるし」

 

 ただ、ルフィのそばにいたいと思う気持ちには劣るが、サンジに胃袋を掴まれたのも大きな要因のようだ。

 

「俺は早く()()()()()()に…あ、いや…彼女だけじゃなく、ナミさんとロビンちゃん、世のレディ達に食べてもらいたいってのに」

 

 サンジが、自身の料理があらぬ方向に成長、進化しているのではないかと不安になるのも当然だろう。

 

 前回の人生のように、女性に対する免疫力が落ちる事はないだろうと考えていたが、これは適度に女ヶ島に足を踏み入れたり、もしくは単独行動で航海したりして女性に対する免疫力を維持しておく必要があるのではないかとサンジは懸念する。

 

 その上、サボにとってサンジの料理がここに滞在している理由の一つとなっているように、もしかしたらサンジの料理目当てでここまでやって来る存在が───サンジはそのような存在に()()だけ、心当たりがあった。

 

 レディが大好きなサンジにとって、男ばかりが寄りついてくるこの状況は由々しき事態なのだ。

 

 しかもその者が女ヶ島を訪れ、"海賊女帝"ボア・ハンコックに場所を聞けば教えて貰える可能性は高い。

 

『麦わら屋の定期健診だ』

 

 その後のルフィの体に異常が見られないかを確かめる為、医者としての経過観察だと言えば、その者───"死の外科医"トラファルガー・ローはほぼ間違いなくルスカイナ島へ案内して貰えるだろう。その際は間違いなくハンコックも嬉々としてルスカイナ島を訪れる───ルフィに会いにやって来るのが容易に想像できてしまう。

 

 だが、ローがそこまでして凪の帯(カームベルト)を渡ってくるだろうか───サンジはそれを否定できずにいるようだ。

 

 何せ、女ヶ島から去る際に能力を駆使してサンジを連れ去ろうとしたローなのである。否定などできるはずもない。おにぎりにどれだけ胃袋を掴まれているのだろうか…。

 

「さて…それじゃあ、おれらも始めるとするか!」

「今日こそ勝つぜ」

「昨日もそれ言ってたけどな」

 

 ルフィがレイリーの指導を受けているなか、サボがいるのであればと、サンジの武装色の覇気の修業はサボが見てくれている。武装色の覇気に関しては、サボの力は冥王ですら舌を巻く程のようで、サボにとっても教えながらサンジと戦えるのもあり、お互いにプラスになっているようだ。

 

 毎日美味しい料理を味わえるのだから、それくらいするのは当然だろう。

 

 そして、過酷な島でのマンツーマン指導は、サンジとルフィの実力を飛躍的に上昇させている。

 

「つっても、サンジの成長速度は凄いからな…」

 

 練度はまだまだだが、それでもサンジの武装色の覇気は次の段階へと足を踏み入れており、サボが敗北を喫する日も近いのではないかと予測されているようだ。

 

「それ言ったらルフィもだけどよ…お前ら、本当にどうなってんだ?」

 

 そんなサンジに触発されたのか、ルフィの成長度合いもレイリーの予想を遥かに上回っているらしく、日に日に厳しさが増しているらしい。

 あのルフィが毎日へとへとになる姿など、サンジもこれまで見た記憶がないだろう。だが、サンジの料理を食べれば翌日には全快しており、いったいどんな体の構造をしているのか───いや、この場合はサンジの攻めの料理のおかげというべきだろうか…。

 

 ルフィもサンジもまだまだ育ち盛りだ。攻めの料理による肉体改造は目に見える形ではっきりと効果が見られているのである。

 

 スタミナは確実に増し、身長も少し伸び、筋力も増しており、ルフィにとって改善すべき点であった"ギア(セカンド)"状態でのパワー不足も、"ギア(サード)"状態でのスピード不足も、どちらも改善されているようだ。

 

 今回のルフィの修業の第一目的は覇気の習得ではあるが、当然ながら基礎戦闘力の増強も課題の1つ。特に、ルフィの場合はゴム人間だからこそ耐えられているだけで、それでも体に負担のかかる戦法を駆使してこれまで戦ってきたのもあり、これからはその負担を減らす為───戦法のリスク軽減や体力増強も重要事項だ。

 

 だからこそ、サンジの料理はルフィにとって必要不可欠で、ルフィの急成長に大きく一役買っている。

 

「無駄口叩いてねェで、さっさと始めようぜ」

「おう、そうだな」

 

 仲間達全員が血眼になり頑張っている姿を想像し、サンジもルフィも厳しい修業に精を出す。

 

「あ」

「おい、やる気出てきたとこでいったい何だってんだよ!?」

 

 しかし、やる気に満ち溢れていたサンジの勢いを、ふと何かを思い出したサボが遮ってしまう。

 その表情は本当にうっかりしていたといわんばかりで、しかもばつが悪い表情だ。

 

「わりーわりー。ただ、おれとした事がかなり大切な事をうっかり伝え忘れてたのを今になって思い出しちまって…サンジは"()()()"って知ってるか?」

「は?…いきなり何だよ…知ってるし、知らねェ方がおかしい超ビッグネームじゃねェか。今では生きてるかも死んでるかも謎…大海賊時代の幕開けと共に消え去った、海賊王世代の大海賊」

 

 海賊王ロジャー、白ひげと渡り合った大海賊。海賊王世代の四皇ともいえる伝説の存在だ。

 そして、サンジの前回の人生にて、麦わらの一味と死闘を繰り広げた強敵である。サンジが生きてるかも死んでるかも謎と口にしたのは、金獅子がその後(敗北後)どうなったのかを知らないから…。

 

 ただ、その金獅子がいったいどうしたのか───いや、この流れからして、サンジはすぐにサボが言わんとしている事を理解する。

 

「金獅子が()()した…か?」

「さすがだな」

「しかもうっかり伝え忘れてたって事は、もうそれなりに時間が経っているってか?」

「…悪い」

 

 記憶を取り戻し、ルフィ達と再会できた事に舞い上がってしまっていたのもその要因だろう。

 ただ、サンジが気になるのはその金獅子の名が出てきたこのタイミングだ。前回の人生で、麦わらの一味はスリラーバーグにて七武海のゲッコー・モリア、バーソロミュー・くまと死闘を繰り広げ、どうにか脅威を退けた麦わらの一味はスリラーバーグをあとにし、そしてシャボンディ諸島に向かう航路の途中にて金獅子と出会し、()()()()()()()()しまい、それがきっかけとなり死闘へと発展したのである。

 

 だが、サボの話を聞く限りでは金獅子が復活───再び姿を現したのは数ヶ月前で頂上戦争後。どうやら、麦わらの一味とも衝突していないようだ。

 

 いったいどうなっているのかとサンジは疑問視する。過去に戻り、過去を変えてしまった影響なのか───それにより、時間の流れが変わってしまったのか───時間のしっぺ返しかとサンジは感じずにはいられない。

 

 そして、このタイミングで金獅子が出てきた変化は、前回の人生の記憶という大きなアドバンテージがまったく効果を発揮しなくなってしまっている。

 

「金獅子は海賊王のライバルの1人だった。その金獅子が、白ひげが死に、エースが生き残ったタイミングで姿を現したんだ…その狙いは明白」

「…エースか」

 

 かつてのライバルの息子であり、同じく海賊王ロジャーのライバルだった白ひげが命を賭して守り抜いたエース。

 金獅子は、そのエースを殺し、そしてロジャー、白ひげ亡き大海賊時代の覇者になろうとしているのではなかろうか。

 

 その手始めとして、金獅子は新世界にて白ひげ傘下の海賊団のいくつかを潰し、再び姿を現したようだ。

 

「つっても、エースは赤髪のシャンクスの保護下にある。いくら金獅子でもおいそれと手は出せねェんじゃ…いや、待て!エースを殺す為に、ルフィを狙ってくる可能性もあるって事か!?」

「恐らく…な。ルフィがエースを助ける為にマリンフォードに乗り込んだように、逆もまた然り…まだ大きな動きを見せてはないし、絶対にそうとは言えないが可能性は高い」

「確かにな…つーか、サボ!そんな大切な事を忘れてるなんてバカか!?」

 

 ごもっとも。ルフィと共に過ごせる毎日が楽しすぎて忘れていたなど、どれだけ羽目を外していたのだろうか…。

 

「ほ、ホントすまん。おれが半年くらいルフィのそばにいる許可貰ったのもいざって時の為に」

「それを忘れてたんじゃ意味ねェだろうがッ!!」

 

 伝説の大海賊に狙われる可能性がある状況など笑えない。サンジが怒るのも当然だ。

 

 だが、金獅子が復活し数ヶ月。ルスカイナにいる限りは、ルフィを見つけ出される可能性も低いだろうが、相手が来るのをわざわざ待つのもどうなのかとサンジは思案する。

 

「サボ、どうにか革命軍の力使って金獅子の動きを探れねェか?」

「やるだけやってみるが…金獅子は空飛ぶ海賊とも呼ばれてるからな。見つけ出すのは困難を極めるぞ」

「それでも…頼む。金獅子の狙いがルフィとエースなのかも定かではないが、用心に越したことはねェしな」

 

 サボのうっかりな伝え忘れから、その日のサンジとサボの修業は中断となり、急ぎで革命軍の本拠地に戻ったサボは、金獅子の動向を探り始めることとなった。

 

 ただ、それから数日後───事態は急変する。やはりこれも時間のしっぺ返しなのだろうか…。

 

「金獅子が…()()()()()にいる…だと?」

「ああ。人工空島…天候を科学する作られた小さな空島で、風の赴くままに世界中を空を漂っている空島だ。って、おいどうしたんだよ…顔真っ青だけど大丈夫か!?」

 

 それを聞き、顔面蒼白となるサンジ。

 

 その理由は、ウェザリアに()()がいるからだろう。サンジが常に、お姫様として扱う航海士───ナミが。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 頂上戦争から数ヶ月───マリンフォードの復旧作業も急ピッチで進んでいるなか、そのマリンフォードに姿を現したかつての伝説。

 

「くっ、このタイミングで再び現れるか…()()()ッ!!」

「この20年…今までいったいどこに隠れておった」

 

 センゴクとガープの視線の先には空に浮かされた複数の軍艦、そして空飛ぶ海賊船が一隻。

 

 かつて、このマリンフォードで死闘を繰り広げた存在───"金獅子"のシキが、この地に───そして、海賊王ロジャー、白ひげ亡き大海賊時代に舞い戻ったのである。

 

「ジハハハハ!こいつは警告だ…センゴク、ガープ」

 

 腕を振り下ろすと同時に、浮かべていた複数の軍艦を次々と落下させる金獅子は高らかな笑い声を上げマリンフォードをあとにした。

 

「大人しく過去の伝説として存在し続けていればよかったものをッ!!」

 

 金獅子に対し悪態を吐くガープ。その表情は、実に忌々し気な様子だ。

 ただでさえ、インペルダウンからの集団脱獄で世界は混沌と化しているというのに、そこに"金獅子"まで現れるなど───世界はこれからいったいどうなるのか…。

 

 だが、その伝説を葬り去るのが、故郷が東の海(イーストブルー)の若き世代であるとは、ガープもセンゴクも知る由もない。

 

 






攻めの料理を習得しているサンジがそばにおり、食材には困らない島での修業。

当然ながら、ルフィも原作以上に成長します。

そしてオリジナル展開のSTRONG WORLD編。一応、尾田先生が言っていたように、原作の合間の出来事として…矛盾点はあるでしょうが、そういうことで話は進めてきます。
サンジの前回の人生では、金獅子が出てきたのはスリラーバーグ~シャボンディ諸島の間になってます。

今思えば、STRONG WORLDでのナミはヒロイン力高かったなぁ。


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玄脚(くろあし)は白馬に乗らない



サンジは白馬に乗らず、自らの脚で駆け抜け囚われの姫を救う…かな。

少し前の原作で、久々に金獅子の名が出てきてたけど、再登場はあるのかなァ。

恐らく、それ関連の過去編は必ずやるだろうから若き日の金獅子が出てくるだろうけども…出てくるかな?



 

 

 かつて、海賊王ロジャーと渡り合った伝説の海賊"金獅子"のシキ。

 

 世が大海賊時代を迎えて以降、この20年もの間行方をくらませていた金獅子であったが、数ヶ月前に突如復活し、それ以降立て続けに騒ぎを起こしている。

 

 新世界にて白ひげ海賊団傘下の海賊団を潰し、復旧が進むマリンフォードへの襲撃。

 そして、海賊王ロジャーの故郷である東の海(イーストブルー)への襲撃。

 

 海賊は海の支配者であるべきという考えのもとに世界征服を目論み、伝説の海賊が今再びこの世界へと舞い戻り、そして世界に牙を剥く。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 とある島に停泊する巨大な船───いや、戦艦とでも言うべきだろうか…。その脇には、小さな空島"ウェザリア"も浮かんでいる。

 

 その戦艦には、ライオンのたてがみが生えたドクロ、その後ろに船の舵輪があしらわれている海賊旗が掲げられており、何者かは一目瞭然。

 

 伝説の空飛ぶ海賊───"金獅子"のシキの海賊船だ。

 

 しかし、その金獅子がどうしてこのような場所に留まっているのだろうか…。

 

「すげェ嵐だったな!到着があと少し遅かったら、おれ達もヤバかった!」

「だな。けど、その嵐のおかげで金獅子が足止めをくらい、しかも地上に…海に降りてくれやがった。これで、奴の船に乗り込める!!(つっても急がねェと…多分、ナミさんは()()()嵐に気付くタイミングを遅らせたんだ)」

 

 金獅子の海賊船から感じ取れる愛しい姫君の気配。

 

 サンジはこれからサボと共に金獅子の海賊船へと乗り込み、ナミを助け出し、そして金獅子を撃破するつもりだ。

 

 サボが共に行動してくれるのは、革命軍としても、東の海(イーストブルー)出身者としても決して金獅子は放っておくわけにはいかないからである。

 

 サンジとしても心強い、これ以上ない程の助っ人だ。しかも、金獅子が現在この海域で行動している情報を得られたのも革命軍のおかげで、革命軍には世話になりっぱなしだ。

 

「この一件が無事に片付いたら、近々…革命軍に礼をしないといけねェな」

「なら、サンジの料理が一番だろうな。きっと皆喜んでくれるはずだぞ」

「最高級のフルコースを用意してやる」

「そりゃあ楽しみだなァ」

 

 これから伝説の海賊"金獅子"と一戦交えるというのに、この2人は余裕の感じ取れる表情を浮かべている。

 

 決して、油断はしていないだろう。相手は年老いた存在───そのように慢心を抱いているわけでもない。

 ただ、サンジもサボもお互いを信頼しているのだ。たった2人───されど2人。玄脚(くろあし)と革命軍の幹部候補の凶悪なタッグに油断などなく、2人の前に立ちはだかる敵は薙ぎ倒されるだろう。

 

「行くか」

「ああ。麦わらの一味の姫の奪還に行くとするか」

 

 そう口にしたサンジの瞳がぎらりと怪しい輝きを放つ。それはまるで、獲物を前にした狩人(かりうど)の如く…。

 

 

 *

 

 

 金獅子のシキの海賊船内では、ウェザリアの気象学者達が馬車馬のように働かされている。

 それは強制労働で、決して逆らうことなどできない。逆らったが最後、金獅子によって葬り去られるだろう。

 

「ジハハハハ!さすがはウェザリアの気象学者達だ!今の嵐に気付いたのはさすがとしか言えねェな、誉めてやる!」

 

 つい今しがた去った嵐を、地上に───海に降りてやりすごした金獅子のシキは、その嵐に気付いた気象学者達を称賛する。ただ、その気象学者達の表情は浮かないものだ。

 

 金獅子の"フワフワの実"は嵐を苦手としている。その欠点をカバーする為に、選りすぐりの気象学者達を集め───いや、強制的に自分の配下に置いている。金獅子という大海賊の力による恐怖での支配だ。

 

「ジハハハ、しかし…ウェザリアの学者達が手に入っただけじゃなく…あの"()()()"まで一緒についてくるたァ…どうやら、天はおれに味方してくれてるらしい」

 

 金獅子がウェザリアの学者達ではない人物に目を向ける。その視線の先には、オレンジ色の髪の美女が柱にロープで縛られいた。

 

「ベイビィちゃん、そろそろ…教えちゃくれないかぃ?」

「ッ、誰がアンタなんかに!!」

「"()()()()()()()"はどこにいる?」

「ッ!?」

 

 その美女が金獅子に楯突いた瞬間、金獅子から放たれるとてつもない威圧感───"覇王色の覇気"がその場にいた学者達の意識を次々と刈り取ってしまう。

 

 世間から姿を消し20年。ブランクがあるとはいえ、かつて海賊王ロジャーや白ひげと渡り合った伝説の大海賊───その力は伊達ではない。

 

「はあ、はあ…う…」

「おっとっと、こりゃいけねェ。せっかく迎え入れた学者達の意識を刈り取っちまった。ジハハハハ!

 それにしてもベイビィちゃん…今の覇王色によく耐えたじゃねェか!さすがは、今のルーキー世代No.1…"麦わらのルフィ"の船員(クルー)ってところか?」

「わ…私…は…絶対にアンタなんかに…は…屈しない…わ」

「ジハハハハ!気の強い女は嫌いじゃないぜ!」

 

 この美女───ルーキー海賊団"麦わらの一味"の航海士"泥棒猫"のナミだが、あの金獅子の覇王色に耐えた気力は称賛に値する。

 

 しかし、金獅子を相手にその気力がどこまで持つか…。

 

「だが…その威勢もいつまで持つかな、ベイビィちゃん」

 

 そんなナミに対し、歪で邪な笑みを浮かべる金獅子。

 

「これから"東の海(イーストブルー)"に向かう」

「なッ!?」

「ジハハ、そう睨むな!ちょっと行って…()()させるだけだ、ジハハハハ!!」

 

 決して冗談ではない。金獅子ならそれも可能だろう。

 

 全盛期の力に比べたら遥かに劣っているだろうが、それでも海賊王世代の四皇的存在。ロジャー、白ひげ、ビッグ・マムとしのぎを削った大海賊なのだ。

 

「白ひげのおかげで海軍の戦力は大きく削られた。今、おれの前に立ち塞がる敵はいねェ。またとねェ機会だ!!」

「や、やめ…て」

 

 先のマリンフォード頂上戦争にて、世界は大きく荒れている。白ひげという抑止力が消え、黒ひげという脅威が誕生し、"インペルダウン"レベル6から凶悪犯罪者達が世に解き放たれてしまった。

 

 この機を狙って、赤髪以外の四皇───ビッグ・マムとカイドウがどう動くかもわからないなか、金獅子にまで回せるような余裕は、今現在の海軍にはない。

 

 そして、この機会を狡猾な金獅子が見逃すはずなど絶対にないのである。

 海軍にとっては"平和の象徴"と称される一方で、海賊達にとっては"最弱の海"と蔑視される"東の海(イーストブルー)"。海賊王ロジャーの故郷である東の海を壊滅させ、金獅子は新たな支配者として、この世界を思うがままに支配するつもりでいるのだ。

 

「宝目当てのミーハー共なんざ邪魔だ。この腐った新時代とやらを潰し、おれが海の支配者として君臨する!!」

 

 海賊の本分は"支配"だと金獅子は豪語する。

 

「ジハハハハハハ!!」

 

 抵抗する力もなく、故郷が大海賊に狙われるのをただ黙って見ているしかないナミは涙を流す。

 その悲劇を、惨劇を───ナミはこれから目にしなければならない。何と酷いことか…。

 

 ナミの頬を伝う一筋の涙…。

 

「…!…え?」

 

 だが、その涙が下に落ちることはなく、()()()()がその涙を優しく拭いとっていた。

 

「!」

 

 突如姿を現したその人物に、金獅子も驚き椅子から立ち上がる。まるで、()()()()が自ら姿を明らかにさせたかのような───そんな登場の仕方だ。

 

「ナミさん、泣かなくても大丈夫だ。絶対にあんなニワトリ野郎に好き勝手にはさせねェ」

「サン…ジ…くん?」

 

 ナミの拘束を解いたその人物───サンジは、自分の足で立っているのが限界だったナミを優しく、壊れ物でも扱うかのように抱え、そして金獅子へと鋭い視線を向ける。

 

「テメエ…ニワトリクソ野郎。よくもナミさんに涙流させやがったな…絶対に許さねェ!」

 

 かつてない怒りを覚えたサンジは、大海賊金獅子に殺気を───覇王色の覇気を放つ。

 

 頂上戦争にてその資質に目覚め、ルスカイナ島でレイリーからの指導を受けるサンジは、まだまだ未熟ではあるが覇王色の覇気をコントロールできているのだ。

 

「ほォ…覇王色か。なかなかやるじゃねェか」

 

 金獅子海賊団の下っ端達が次々と、サンジの威圧感に耐えられずに気を失い倒れてしまう。

 だが、金獅子は余裕な笑みを浮かべている。

 

「麦わらの一味N()o().()2()…"玄脚(くろあし)のサンジ"か。で…麦わらのルフィはどこだ?」

「テメエの相手は俺で十分だ。船長が出る必要なんてねェよ」

「…ジハハハハ!ガキが生意気言いやがる!たかだか4億ベリー程度のガキが、おれ様を相手に自分だけで十分だと!?威勢のいいガキは嫌いじゃねェが…口には気を付けろッくそガキがッ!!【斬波】!!」

 

 サンジの一言に不快感を覚えた金獅子は、そこが船内であることなどお構い無しに、サンジがナミを抱えていることすらも気にせずに、義足代わりにしている足の刀から飛ぶ斬撃を放ってきた。

 

 ナミを抱えたサンジはこのまま戦うわけにもいかず、"(ソル)"を使いその場から一瞬で移動し、斬撃を難なく避けるのである。

 

 サンジに抱えられたナミは、本当のお姫様のようで───サンジはさながら白馬に乗った王子様か…。

 いや、サンジは白馬になど乗らない。己のその脚で駆け、姫を守り抜く騎士(ナイト)だと豪語するはずだ。

 

「サンジくん…どうして…ここに?」

 

 そのサンジに大切に抱えられたナミは、サンジがどうしてここにいるのかと聞く。

 

「金獅子の狙いがルフィである可能性が高い。それに気付いて、革命軍の力を借りて金獅子の居場所を探ってたんだ。ルフィには修業に集中してほしいから、俺とサボ…サボってのは革命軍の幹部候補でルフィのもう1人の兄なんだが、俺とサボ…革命軍で金獅子は対処しようって。まあ、それはいいとして、そしたら金獅子がウェザリアにいることが判明して…で、ウェザリアにはナミさんが飛ばされた可能性があるって思ってたら案の定ってわけさ」

「ど、どうして私がウェザリアにいることが?」

 

 サンジの言っていることが予想外すぎてなかなか話についていけてないナミではあるが、一番気になったのはそこだろう。

 

 ナミは、金獅子に捕まってしまった時点で死を覚悟していたのである。もう仲間達にも二度と会えないだろうと思っていたのだ。まさかサンジが助けに来てくれるなど───予想できるはずもない。

 

「それについてはとりあえずあとで説明するよ」

 

 このような質問をされた場合の答えはサンジのなかですでに決まっている。安易なものではあるが、納得はしてくれるだろう。

 

 ただ、今はそれよりも大海賊だ。

 

「小僧…お前、相当強いな。懸賞金額以上の強さを感じやがる」

「さてな」

 

 金獅子もそれがわかっているからなのか、ふざけた態度を見せることなく、真剣な表情を浮かべている。

 

 睨み合う話題沸騰のルーキー海賊と伝説の大海賊。

 

 金獅子が再び仕掛けようと動き───だが次の瞬間、金獅子の海賊船が大きく揺れる。

 

「何が起きたァ!?」

「シ、シキ様!砲撃を受けています!!」

「砲撃だと!?いったいどこの誰だ!まさか麦わらの一味か!?」

「そ、それがッまさか…そんなッ…"革命軍"です!!」

「革命軍だと!?」

 

 金獅子の海賊船に砲撃を撃ち込む革命軍。いきなり現れた予想外の相手に、金獅子も理解できていない様子だが、不敵な笑みを浮かべるサンジを捉え理解する。

 

「ちぃ!麦わらのルフィは革命軍のドラゴンの息子だったな!!頂上戦争に息子が乗り込んでも姿を見せることがなかったようだから油断しちまってたぜ!!」

 

 ただ、金獅子ですら警戒している"世界最悪の犯罪者"革命軍総司令官ドラゴンはこの場所にはいない。

 

「確かにルフィはドラゴンさんの息子だが…おれの大切な弟だ。ルフィには指一本触れさせねェ」

「ぬっ、テメエは!!」

 

 金獅子の海賊船に乗り込んだのは、サンジともう1人───サボだけだ。

 

「どうやら間に合ったか。"グランドライン軍"軍隊長と"東軍"軍隊長様のお出ましだ!」

「へッ、お前と俺だけでも十分だったと思うがな」

「まあ、そう言うな…こっち(革命軍)も金獅子の目論む東の海(イーストブルー)壊滅計画は見過ごせねェからな」

 

 生まれこそ違うが、サンジにとっても()()との思い出詰まる大切な場所───そして、かけがえのない仲間達と出会った場所でもある。

 

 その大切な場所を失うわけにはいかない。

 

「チッ!クソガキ共がァ!!」

「年寄りが無理したところで、ろくなことにゃあならねェぞ。つっても、テメエが年寄りだからって容赦しねェ…テメエはやっちゃならねェことをやったんだからな」

 

 すると、ナミを抱えるサンジの手に少し力が入ったことにナミが気付く。

 

 女を泣かせた罪は重い。その女が、ナミであったことがサンジの逆鱗に触れ、かつてない怒りを感じさせている。

 

「ハッ、知ったことか!おれァこの海の支配者だ!支配者たるおれ様にやっちゃならねェことなんざねェんだよ!!」

「そうかよ…ナミさん、悪いけどここでジッとしててくれ…あの害悪を処分してくるから」

「サンジ…くん?」

 

 ナミを優しく座り込ませたサンジは、気付くとその場から姿を消していた。

 パッと、光が一瞬だけ───

 

「ッ!?」

「とっておきの苦味を味わいやがれ!

雷霆天使風脚(アンジュ・レミエル・ジャンブ)・"苦味(アメール)"背肉(コートレット)ウィップ】!!」

 

 金獅子の背後へと一瞬で回り込んだサンジは、脚を滑らかにしならせ、目にも止まらぬ速さで鞭のような特殊な蹴りを金獅子の背中へと叩き込む。

 

 するとその瞬間、けたたましい轟音が鳴り響いた。

 

 それはまるで光の速さで打ち込まれた鞭の一撃。じわじわと、金獅子の背中に伝わってくる激痛。

 

「ぐわあぁぁぁぁぁ!!」

「苦味が効きすぎたか…だが、まだまだ足りねェな。

空中歩行(スカイウォーク)落雷(サンダーボルト)】!」

 

 そして、追い討ちとばかりに真上に飛んだサンジは落雷の如く急降下し、金獅子の脳天に強烈なかかと落としを叩き込む。

 サンジの脚から放たれる電撃はまさしく雷が地に落ちたかのような光景だ。

 

雷霆天使風脚(アンジュ・レミエル・ジャンブ)"辛味(エピス)"圧力鍋(オートクラーブ)粗砕(コンカッセ)】!!」

 

 怒れる騎士(ナイト)の電光石火の奇襲が大海賊へと牙を剥く。

 

 






ストロングワールド見直したりしてました…………すみません、それは本当なのですが、この作品での2年後サンジを妄想してたら、マトリックス見たくなってそれ見るのに夢中になって執筆の手が止まってました。すみません。

わたくし的なイメージとして、この作品での2年後のサンジの服装は、マトリックスのキアヌ・リーブスというかネオというか、リローデッドとレボリューションのロングコートが似合うんじゃないかというイメージ。

空中歩行(スカイウォーク)の欠点だったスピードも、このサンジは克服してるので、華麗に宙を舞ってコートの裾をオシャレ…いや、オサレに靡かせてほしいwww

足技得意だし!!一作目のネオ VS モーフィアス、跳躍しながらの3連キックとかカッコ良かったなァ。


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獅子を狩る狩人



大海賊時代と言ってるけども、ロジャー世代って白ひげが全盛期でバリバリで地震と津波を起こして、天候操る女ビッグマムが万物に魂を吹き込んで暴れ回り(ビッグ・マムは老いをまったく感じさせない怪物だけども)、シキが空に島々浮かせたり海水浮かせて操ったり傘下もストロングワールドの時より遥かに強かったり、若い頃のカイドウがブイブイ言わせて龍になって飛び回って暴れて、大仏になったセンゴクや悪魔ガープがそれらを迎え撃って若かりし三大将がそれに続いて…そして頂点にロジャーがいた…。

大海賊時代言うてるけど、ロジャー時代のが恐ろしくない?と、思ったり。



 

 

 サンジが金獅子へと強烈な蹴りをお見舞いし、その隙にサボは金獅子に捕らえられていた気象学者達を解放する。

 

「"泥棒猫"!お前もここから離れろ!!」

「け、けどサンジくんがッ!!」

「アイツは絶対にやられねェよ!アイツが何の心配もなく戦えるようにしねェと…おれもお前達を避難させたらサンジの助けに回るから安心しろ」

 

 サボはナミにそう告げ、ナミ含むウェザリアの気象学者達を逃げることにだけ集中しろと促した。

 

 革命軍の船もかなり近くまでやって来ている。

 

 今はサボの言ったように、サンジが金獅子にのみ集中できる状態を作り上げることが先決。相手は大海賊の金獅子だ───よそ見などしている余裕などない。

 

「サンジくん…」

「もたもたするな!」

「ッ!」

 

 サボが誘導し、襲いかかってくる敵を一蹴しながらこの船から脱出する。サンジを残すことに一瞬だけ躊躇するナミだが、ここに残っては足手まといにしかならないのだと───彼女は唇を噛み締めてどうにか走り出す。

 

 振り返って見るサンジの背中が、ナミにはとても大きく見えていた。これまで見てきたサンジの背中とは比べ物にならない───たった数ヶ月で別人のように成長したサンジに、ナミは様々な思いを感じ、抱くのである。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 煙草に火をつけ、吸い始めるサンジ。

 

 ナミ達が去った場所にて、サンジは静かに───敵を見据えていた。

 

「あの程度でやられるわけねェよな…金獅子さんよォ」

 

 奇襲を仕掛けたサンジだが、大海賊金獅子がこの程度でやられるわけがなく、集中力を研ぎ澄ましている。

 

 ここからが本番───死闘の幕開けだ。

 

「…生意気なガキだ…なかなか強烈な挨拶をかましてくれるじゃねェか」

 

 頭から血を流しながら立ち上がる金獅子だが、サンジの強烈な一撃を食らいながらも立ち上がってくるのはさすがと言えよう。

 

 老いたとはいえ、その風格は大海賊と呼ばれるに相応しいものだ。

 

「おれ、白ひげ、ビッグ・マム…そして、ロジャー。ロジャーが海賊王になる前…当時はこの大海賊時代が可愛く感じる程に豪快で、荒々しく…最高の時代だった。

 それに比べりゃァ、今の大海賊時代は随分とつまらなくなっちまったもんだぜ。()()()()とカイドウが四皇として君臨してるようだが…あとは赤髪か…まあ"玄脚(くろあし)"…テメエの一撃はなかなか痺れたぜ。

 ジハハハハ!この弛んだ大海賊時代のルーキーにしちゃあ、なかなか見所のあるガキだ!認めてやるよッ!!」

 

 高らかに声を張り上げながら、金獅子はサンジを強者と認め、海賊王のライバルだった大海賊の力を解放する。

 

「ッ!」

「ジハハハハ!この高揚感は久々だ!!楽しませてくれよ…玄脚ィ!!」

 

 サンジに飛びかかってきた金獅子が義足代わりにしている自身の愛刀を振るう。

 武装色の覇気を纏い黒刀と化したその一太刀は強力極まりない。

 

「ジハハ、よく防いだ」

「へっ、これくらい楽勝だ」

「楽しいのはこれからだぜ、玄脚。ジハハハハハ!!」

「くっ、【"武装鋭化"堕天使風脚(アンジュ・デシュ・ジャンブ)点火(フランベ)】!」

 

 武装色の覇気により鋭利化させた両脚から黒炎を舞い上がらせ、サンジは金獅子の斬撃を迎え撃つ。

 

 黒刀と化した両脚と、武装色の覇気を纏い黒刀と化した二本の名刀がぶつかり合い、激しい金属音が響く。

 金獅子が身を隠し、一戦を退いてから20年。だが、俊敏で軽やかな動きはそのブランクを感じさせないもので、サンジは武装色の覇気を全開にし金獅子の蹴り太刀を受け、大海賊の力を痛感していた。

 

 サンジの背中を汗が伝う───しかし、決して引くわけにいかない。サンジには、守るべき()がいるのだ。

 

「ジハハハハ!血湧き肉躍るッ!!」

「じじい相手に興奮なんかしねェよ!俺が血湧き肉躍るのはレディに対してだけだ!!

 "肩ロース(バース・コート)”、”腰肉(ロンジュ)”、”後バラ肉(タンドロン)”、”腹肉(フランシェ)”、”上部もも肉(カジ)”、”尾肉(クー)”、”もも肉(キュイソー)”、”すね肉(ジャレ)!」

「あの"泥棒猫"はかなりタイプだぜッ!!」

 

 目にも止まらぬ速さでの連撃の応酬は、その攻防は凄まじく、船内の至る所に斬撃の余波が飛び交い、船を内側から破壊していた。

 

 そして、金獅子の言い放った言葉はサンジをより一層ヒートアップさせる。

 

「ナミさんの虜にならねェ男なんざこの世にいねェからなッ!世の常識だ!

 食らいやがれ老いぼれッ!【仔牛肉(ヴォー)スピア】!!」

「ぬうッ!!」

 

 サンジの鋭い後ろ蹴り───黒槍と化して黒炎を上げる(玄脚)の一突きと、金獅子の黒刀による一太刀が衝突すると、覇王色の覇気の衝突によって激しい雷鳴が鳴り響き、その衝突は船を───海を大きく揺らす。

 

 あまりの威力に互いに受け身を取れず激しく吹き飛び、金獅子はデッキまで突き抜け海に落ちる寸前でどうにか止まり、サンジはそのまま海へと吹き飛んでしまう。

 

 互いにかなりのダメージを負ってしまったに違いない。

 

「え…き、金獅子!?」

 

 ただ、金獅子が吹き飛ばされた先───デッキではナミ達が革命軍の船に逃げている最中だった。

 

「くっ…玄脚のガキ…想像以上に強ェガキだ…ぐあッ!」

 

 金獅子の体の至る所に切り傷と火傷の痕。露になった背中には痛々しい裂傷。

 そして頭部には、サンジの強烈な蹴撃の痕も残っており、金獅子は血を流している。

 

 この短時間でどれだけ壮絶な激闘を繰り広げていたのか───金獅子の痛々しい、ボロボロの姿からも戦いの熾烈さが窺える程だ。

 

「チッ、ここまでの痛み…久々だ。…ん、おお"泥棒猫"じゃねェか」

「ッ、サンジくんはどうしたのよ!?」

「ジハハ、この状況で仲間の心配ができるたァ…肝の据わった女だ。ジハハハハ…玄脚がどうしたかだったな。玄脚のガキは吹き飛んで海に落っこちちまったぜ!

 おれ相手にここまでやってくれたのは誉めてやるが、呆気ない幕切れだ。()()()は海に落ちちまったら何もできねェからなァ!!」

「え?」

 

 ただ、ボロボロな姿でありながらも、自身はこうして立っており、サンジは海に沈んだこの状況に、金獅子は愉悦感を感じていた。

 

 しかし、金獅子は大きな()()()をしていることにまったく気付いていない。

 

「サンジくんが…能力者?」

 

 そして、ナミは金獅子が口にしたその言葉に、大きな疑問を抱くのある。

 

 確かに、サンジが雷にも勝るとも劣らない電撃を脚から放っていたことに、初めて見たそれにナミも驚いていた。

 この数ヶ月間の間に能力者になったのかと思いもしたようだ。

 

 だが、ナミはサンジが以前口にしていたことを思い出す。

 

『この一味は約半数が能力者だ。確かに悪魔の実の力は強力だが、"カナヅチ"になってしまうというデメリットがある以上、残る俺達は能力者にならないほうがいい』

 

 能力者が海に落ちた時を考えた場合、必ずそれを助けに行く存在───泳ぎが得意な存在が必要となる。

 そして、サンジは一味内で泳ぎが一番得意でもあるのだ。

 

『1つだけ…()()()()()()()()()()があったんだが、その実を食べた奴と出会っちまった。

 だから、俺が能力者になることはないよ、ナミさん』

 

 どんな能力なのかはナミに対して口にしなかったサンジ。

 

 だが、ナミは金獅子の言葉を聞き疑問を抱いた今、ある考えに至り顔色を悪くする。

 

 もし、サンジが気になっていた悪魔の実を食べた能力者が死に、その実が偶然にもサンジのもとに現れてしまったならば───そして、その実をサンジが食べ、能力者になってしまっていたら…。

 

「ッ、サンジくん!!」

 

 サンジが能力者となり、カナヅチになってしまったと思い込み、勘違いしたナミは、サンジを助けようと海に飛び込もうとする。

 

「待て」

「なッ!?は、放してッ!!サンジくんが溺れてるのよ!?すぐに助けなくちゃ!!」

 

 海に飛び込もうとするナミの腕を掴んだのはサボで、彼はサンジが溺れているかもしれないのに至って冷静だ。

 

 ただ、それはサボが()()()()()からで、ナミと金獅子が()()()()だけ…。

 

「大丈夫だ。何も心配する必要はない」

「ど、どういうことよ?」

「どういうことも何も…サンジが溺れてないってだけの話だ。それに見とけ…金獅子の驚く顔が見れる」

「え?」

 

 サボがそう口にするなか、ナミの視線の先では金獅子が驚きに満ちた表情を浮かべている。

 

 何かを───海中から猛スピードで駆け上がってくる何かを感じ取っているのだ。

 

 そして次の瞬間、爆発が起きたかのような大きな水飛沫が上がる。

 

「ナミすわぁーーーーーん、呼んだァーーー?」

 

 体の至る所に切り傷を負いながらも、姫の心配する声を聞き取った騎士(ナイト)は何事もなかったかのように姿を現す。

 

「サンジくんッ!!」

 

 傷だらけでありながらも、至って元気そうなサンジの無事な姿を確認し、ナミは顔を綻ばせる。

 

「玄脚!?テメエ、能力者じゃなかったのか!?」

「ああ?いったいいつ誰が能力者だなんて口にした!やっぱ歳は取りたくねェもんだな!思い込みが激しくて、妄想癖まであるんじゃあなァ」

「テメエ!!」

 

 だが、金獅子が勘違いしていたのも仕方ないかもしれない。炎を扱うのは知っていたが、雷、電撃まで操れるのはナミも知らなかった。それを操るサンジを能力者だと勘違いしたのは何も金獅子だけではないのだ。

 

 頂上戦争時、ルフィもサンジが能力者になったと勘違いしていたのだから、サンジ本人から話を聞いているサボやレイリー以外知らないのも当然。

 サンジの()()()()ですら知らないことだ。

 

 そして、宙に舞い上がったサンジは()()()()()()()

 

「行くぜ!【海歩行(ブルーウォーク)】!!」

 

 水を蹴り、海面を猛スピードで駆け抜けるサンジに、金獅子も驚愕の眼差しを向ける。

 

「何だとッ!?」

 

 ルフィやロビン達、能力者の仲間が海に落ちた際に素早く助け出す術としてサンジが習得した技だが、水中で水を蹴り魚人並───それ以上のスピードで移動できるなら、海面を蹴り水上を駆け抜けるのも決して無理ではない。

 

「う、嘘ッ!?水の上を走ってる!?」

「おいおい…サンジの奴、これじゃあ本当に"()()()()()()"じゃねェか」

 

 サボがそう呟くなか、サンジは一気に金獅子との距離を詰める。獲物(金獅子)を狙う狩人は獰猛な瞳を浮かべ───そして、今度は忽然と姿()()()()

 

「ぬっ!?」

 

 驚愕する金獅子。

 

 サンジはその場から光速の速さで消えたわけではない。いや、厳密にはとてつもないスピードで海を駆け抜け金獅子の背後へと移動したわけだが、金獅子の瞳にはサンジがまったく捉えられていないのだ。

 

 まったく何も───サンジは透明化(ステルス)によって、長年の夢だった透明人間にもなれるようになったのである。まさに、"ジェルマ66(ダブルシックス)が生み出した最高傑作にして、そして悪役であるジェルマが心の中で憧れていたヒーロー"海の戦士ソラ"を彷彿とさせる存在へと成長したのだ。

 

「ッ、後ろか!?」

 

 透明人間と化したサンジに対し、金獅子は"見聞色の覇気"で気配を察知し、行動を読み対応する。

 しかし、海を駆け、宙を舞い、陸海空を縦横無尽に移動でき、更には透明化まで習得したサンジは金獅子にとって非常に厄介な相手だ。

 

 いつだったか、サンジが自らこう口にしていた。

 

『この一味で最も厄介な存在になる』

 

 それは強ち───いや、事実であり、サンジは確かに最も厄介な存在と言えるだろう。

 

「炎に電撃ッ、更には透明人間だと!?玄脚ッテメエ…いったい何者だァ!!」

 

 おまけに、ここは海のすぐ側。海側に蹴り飛ばされたら一巻の終わり。

 

 サンジ VS 金獅子の死闘は熾烈さを増す。そんななか───

 

「サボ、避難を急ぐわよ」

「ああ」

「えッ誰!?」

 

 金獅子がサンジに気を取られているこの隙に、ナミや学者達の避難を急ぐ革命軍。

 サボに声をかけてきた()()()()()()()()は、革命軍"東軍"軍隊長のベロ・ベティである。

 

「へェ…あれがサボの言ってた()()()の玄脚。噂通り、ワイルドで素敵じゃない」

 

 サングラスをずらし瞳を露にさせ、金獅子と戦うサンジににこやかな笑みを向けていた。

 

「おほォーーーーー!リンドウちゃんに勝るとも劣らない破廉恥で過激的!!けどとんでもない美女ォーーーーー!!」

 

 裸の上半身の上に上着とネクタイを着ただけの過激なファッションを目の当たりにしたサンジの脳裏には、裸の上半身の上にアウターだけという似通った格好の"九蛇海賊団"の狙撃手リンドウが思い浮かぶも、ベロ・ベティはリンドウよりもワイルド感に溢れ、ネクタイがエロさを際立たせているように見える。

 

 当然、そんなエロスの極みを見せられたら、サンジの透明化が解けてしまう。

 

「あ…いつものサンジくんだ…けど…誰よリンドウちゃんって」

 

 ただ、ナミはサンジの反応にホッとする一方、どこか胸のざわつきも感じているようである。それは、いつものようにサンジが他の美女に目を奪われているのがどうしてか気に入らないと思ってしまうからなのか、それとも自分が知らない女の名前がサンジの口から出てきたからなのか…。

 遠い存在に思える程に成長したサンジを前に、いつも通りの反応も目にしながらも、ナミは心を乱されていた。

 

「あ!お、おい、サンジ!ベティに見惚れてんじゃねェよッ!!」

 

 ただ、今は金獅子と死闘の真っ只中。

 

「ひ、久々に興奮したァ」

 

 だが、金獅子もベロ・ベティのエロスの極みにしっかり目を奪われ、枯れたはずの獅子の心を取り戻したかのような、健全な男子の反応を見せている。

 

「ジジイが発情してんじゃないわよ!!」

 

 ナミが投げたものが顔面に直撃してのものなのか、サンジの蹴りによってのものなのか、それともベロ・ベティに興奮してのものなのか───金獅子の鼻から垂れる血は誰によってのものなのかわからない。

 

「ハッ!い、いかんいかん!今は金獅子と戦ってるんだった!」

 

 サンジも冷静さをどうにか取り戻し、ベロ・ベティが気になりながらも、金獅子へと突っ込む。

 

「テメエは腐ったバターだ!跡形もなく溶かしてやる!

【"武装・(トロワ)"悪魔風脚(ディアブルジャンブ)"熔融(デグラッセ)"クラリフィエ=ショット】!!」

「ぐおォ!こ、この…あづッ、ま、まさかッテメエみてェなガキがこの()をッぐわあァァァ!!」

 

 サンジの強烈な蹴りを武装硬化させた腕で受け止めた金獅子だが、あまりの熱さと、そして腕の内側から()()される痛みに耐え兼ね絶叫を上げる。

 

 そして、金獅子の片腕がまるでバターが溶けたかのように───熔融してしまう。

 

「老いぼれは大人しく隠居してろッ!!」

 

 老いた獅子は若き狩人によって調理される。

 

 






前話でチラッと出ましたが、サンジくんニジ同様にレイドスーツなしでのステルス化習得。

サンジの海歩行(ブルーウォーク)って、多分海面でも有効ですよね?
そしたら、まさしく海の上を歩ける…駆ける海の戦士ヒーロー"ソラ"だなァ。

ジェルマから誕生した、ソラを継ぐのがサンジだったっていう皮肉話。
ちなみに新しい技の、武装・(トロワ)。これはあれですね、サボとの修業にて覚醒した武装色の内部破壊。
"熔融(デグラッセ)"クラリフィエ=ショット。悪魔風脚の熱により熔融させる禁忌の蹴り。
デグラッセとは鍋底に付いたスュックを水やワインなどで煮溶かす操作のこと。いい言葉が浮かばす熔融としました。
クラリフィエとは、バターを溶かし澄ますことです。

あと、ハンコックには反応薄かったのにリンドウやベロ・ベティに反応したのはエロかったからです。

あ、そういえば祝20話。どうにか頑張れております。

感想、ご評価、励みになるのよろしくでーす!!


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冥王と悪魔と金獅子と…その再来



悪魔の実の中で、ハズレ能力ってどの実だろうか?

ヒトヒトの実は…まあ…あれとして…他に…。



 

 

 悪魔の実の力は強大だ。

 

 もちろん、全ての悪魔の実が強大な力を有しているわけではない。

 戦闘に不向きな能力もあれば、なかには能力を使いこなせない者もいたりする。

 

 そして、強大な力を得る代わりに悪魔の実の能力者は例外なくカナヅチになってしまうのも大きな欠点だ。

 

 ただ、世界に名を轟かせる大海賊達のほとんどが悪魔の実の能力者であることは確かな事実である。

 

 先の頂上戦争にて世を去った"白ひげ"エドワード・ニューゲート。四皇の紅一点である"ビッグ・マム"シャーロット・リンリン。同じく四皇であり、武闘派の"百獣"のカイドウ。

 

 その他にも、四皇の幹部達のほとんどは能力者で、"王下七武海"の者達も、大剣豪"鷹の目"以外は能力者だ。

 

 ならばつまり、悪魔の実の能力者でなければ、世界に名を轟かせる大海賊に上り詰めることはできないのか───それは違う。

 

 世界最強の剣士"鷹の目"のように、無能力者でありながら世界一の座に君臨することは不可能ではない。

 無能力者でありながらも、世界に名を轟かせる存在は多く存在するのだ。

 

 その中でも、最も有名な存在はやはり()()()()だろう。海賊ではなく海軍に所属している者だが、拳一つで多くの海賊達を捕らえ葬り去ってきた"悪魔"と称される海兵と、海賊王の右腕として恐れられた副船長───

 

「…ちっ、玄脚(くろあし)…テメエ見てると…あのムカつく2人の顔がちらつきやがる」

「あ?」

 

 片腕を失った金獅子は舌打ちしながらも、苦悶の表情ではなく清々しい表情を浮かべている。

 

 インペルダウンから史上初めて脱獄し、それから20年───世界の支配者となるべく緻密な計画を練り、世間から姿を消していた金獅子だが、もしも彼が姿を消さずに第一線で暴れ続けていたら、多少の体の衰えこそあれども、ここまでのブランクは感じられることはなかっただろう。

 もしかしたら本当に、世界の支配者になれていたかもしれない。

 

 だが、20年もの長い間第一線から退き、ブランクがあるにも関わらず、引き際を誤り世間に姿を見せた金獅子はルーキー海賊に追いつめられ無様極まりなく、かつてロジャーや白ひげとしのぎを削った大海賊としての風格などあったものではない。

 

 一時は、サンジも老いたとはいえ大海賊なだけはあると思っていたが、寄る年波には勝てず、金獅子の動きは鈍くなるばかりだった。

 

「レイリー…ガープ…忌々しい奴らだ。よりにもよって、あのクソッタレ共の顔がちらつくなんてな」

 

 海賊王の右腕"冥王"シルバーズ・レイリーと、海軍の英雄にして"悪魔"と恐れられたガープ。

 その2人の姿を、金獅子はサンジに垣間見たのである。

 

 己の肉体のみで敵を薙ぎ倒し、金獅子の前に立ちはだかった伝説達。

 サンジの場合は()()()()()があるが、それでも戦闘に一切手を使用せず脚技のみで金獅子と戦うサンジは、その伝説達を彷彿とさせ、金獅子にそう思わせるに至った。

 

「玄脚…テメエは、"麦わらのルフィ"が海賊王になれるとでも思ってんのか?」

「あ?そんなもん当然だ。ルフィは必ず海賊王になる。アイツは支配を望まず、自由を求め…この世界で最も自由な奴…未来の海賊王だ」

 

 サンジのその言葉に、金獅子はかつてのライバルの───ロジャーが言い放った言葉を思い出す。

 

『おれは支配には興味がねェんだよ、シキ!自分のやりてェようにやらねェと海賊やってる意味がねェだろうが!』

 

 海賊王ロジャーもそうだった。誰よりも支配を嫌い、誰よりも自由を愛し、望んだ男。

 

 仲間を救う為だけにエニエス・ロビーを襲撃し世界政府に喧嘩を売り、兄を救う為にインペルダウンに侵入し頂上戦争にまで乗り込み───豪快で、破天荒で、自分勝手で、予測不能。麦わらのルフィがこれまでやらかした行動もまた、どこか海賊王ロジャーを彷彿させるものがある。

 

「!」

 

 そして、金獅子は幻影を見た。サンジの背後に若かりし頃のレイリーとガープを───そしてその隣に、今この場所にはいない"麦わらのルフィ"と、そして───若かりしかつてのライバルの姿を…。

 

「おれらの時代には()()()()()程度の奴なんざァごまんといた」

 

 今の、サンジの力は前回の人生の時よりも遥かに強くなっている。そして、その強さは七武海クラス───いや、それを凌ぎ、四皇幹部クラスにも匹敵するかもしれない。

 

 だが、金獅子の全盛期時代にはそのレベルの実力者はごまんといた。

 それでも、その実力者達は全盛期の金獅子達からしたら銅メダリストでしかない。

 

 それから更に一つ上───四皇クラス、四皇に匹敵する力を持った者達がその世代には今よりも多く存在したのだ。

 今この世界に存在する海賊の人数だけは、この時代の方が多いようだが、それでも質は金獅子や白ひげの全盛期時代の方が高かったのである。

 

 何と恐ろしい世代だろうか…。

 

 しかし、その金獅子達ですらも銀メダリストでしかない。

 

「テメエがおれ達の時代に存在してたら…どうなってただろうなァ、玄脚。呆気なく死んだか…それとも、おれ達と同じステージにまで這い上がってきたか」

 

 金メダリストは───海賊王はこの世界にたった1人しか存在しない。

 

「先輩として一つアドバイスだ。よォく覚えとけ玄脚…海賊王の称号は、今のテメエが軽々と口にできる程…安いもんじゃねェぞ!!」

「ッ!」

 

 片腕を失いながらも、ついさっきよりも遥かに強大な───禍々しい覇王色の覇気が金獅子から放たれる。

 

「ジハハハハ!テメエの器…この金獅子様が見定めてやろうじゃねェか!!」

「ぐッ!?」

 

 今までの攻防がまるで練習だと感じてしまう程に、鋭く強烈な蹴り太刀がサンジへと襲いかかり、サンジはどうにかそれを武装鋭化させた脚で防ぐ。

 だが、金獅子の勢いは殺しきれず、そのまま海へと吹き飛ばされてしまった。

 

「ジハハハハハ!玄脚、テメエと戦ったことでおれは自分の限界と老いを感じちまった!だが、このまま隠居するってのも癪に障る。なら最後に…弛んだこの時代の海賊であるテメエが未来の海賊王の右腕に恥じない器になれるよう、おれ様が直々に揉んでやろうじゃねェかッ!!」

 

 これまで常に支配者になることを望んできた金獅子だが、サンジとの戦いで体の衰えを痛感したのだ。

 もう、己は過去の存在でしかないということを…。

 

 ただ、金獅子にとってこの大海賊時代は受け入れられないものがある。ロジャーが海賊王となり、死んだ後に幕開けした世界。その世界は、金獅子からしたら生易しく───とても、自分と同じ海賊とは思えぬ程の弱者達がのさばる弛んだ世界。

 

 だが、そんな弛んだ世界で金獅子が見つけた()()()

 

 白ひげと同じく、旧時代の残党でしかないのだと悟った金獅子は、ロジャーとはまた違った形で、この大海賊時代を己達が生きた時代にも勝るとも劣らない時代にしようと、そしてその想いを託していいと思えた若者───サンジに、その熱き想いを託すのである。

 

「ジハハハハ、おれァ金獅子だァ!!」

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 空中で、激しい攻防が繰り広げられている。

 

 片や能力者の空飛ぶ伝説の海賊。

 

「ジハハハハ!最近の若ェ者はだらしねェな!!もう降参か!?」

 

 片や無能力者でありながらも、空を飛べる新進気鋭の海賊。

 

「誰が降参するかよッこの老いぼれ!!」

 

 金の獅子と、それを狩らんとする金の狩人の戦いはますます熾烈さを増していた。

 

「サンジの奴…この戦いでまた一段と強くなってやがんな…つか、能力で自分自身を浮かして空を飛べる金獅子はともかく、アイツの体の構造は本当にどうなってんだよ。

 ガキの頃は落ちこぼれだったから父親に捨てられた?アイツの父親、とんでもねェバカだろ。アレを見ろ…アレを…最初こそブランクを感じさせてたが、精神が肉体を上回ったのか…ここに来てまた強さが増してる金獅子とやり合ってんぞ」

 

 サンジと金獅子の激しい空中戦───死闘を目の当たりにしながら、サボはそう呟く。

 

「ちょ、ちょっと!アンタ、サンジくんの加勢に入るって言ってたじゃない!?どうして行かないのよ!!」

 

 ただ、その戦いを眺めているサボに対し、ナミが強い口調で言い放ってくる。

 

 確かに、サボは学者達の避難が終わったらサンジの加勢に入ると口にしていたが───サボはあの中には入れないだろう。それは何も、サンジと金獅子に比べ実力が劣っているからではない。

 

「入りたくても入れないし…寧ろあれは入ったら駄目だろう」

「はあ!?な、何言ってるのよ!!サンジくんが圧されてるのよ!?」

 

 サボの言葉に驚き、ナミが声を荒げたその矢先、金獅子の一太刀を防ぎきれなかったサンジの体から血飛沫が舞う。

 

「サ、サンジく…え?」

 

 だが、ナミはその瞬間のサンジの表情を見て、まるで時が止まったかのように、驚き、固まるのである。

 

「誰も邪魔しちゃならねェ…あれは、サンジと金獅子の一対一の戦いなんだ」

 

 サンジの表情は、その死闘を心の底から楽しんでいるような───獰猛で、生物としての闘争本能が全面に出ているようなそんな表情なのだ。

 

「ジハハハハハ!楽しいもんだなァ玄脚ィ!!」

「んにゃろォ!!」

 

 そして、それは金獅子も同様に…。

 

 金獅子もサンジとの戦いを心の底から楽しんでおり───ただ、それだけではなく、金獅子はサンジに対し己を超えて行けと、その想いを拳に、一太刀に乗せ、そしてサンジの成長に強い期待を抱いている。

 

「ジハハ!【獅子・千切谷】!!」

「伝説の海賊の力はこんなもんかよ!?

小悪魔風脚(プティ・ディアブルジャンブ)繊切り(シナフォード)】!!」

 

 サンジも金獅子のその想いに全力で応え、この激闘のなかでどんどん成長しているのだ。

 

「誰も…あの空間に入ってはいけねェんだ」

「じゃ、じゃあ!ただ黙って見てろって言うの!?」

 

 悲痛な表情を浮かべ叫ぶナミ。

 

「私…守られてばかりで…」

 

 頂上戦争でサンジが、ルフィの兄エースを救い出す為に、ルフィの支えとなり、助けとなり暴れていたことを記事で知ったナミは、これまでずっとサンジに守られてばかりだったことを痛感しただけではなく、ルフィが兄を失うかもしれなかった状況で何もできなかった自分に、かつてない無力感を感じていた。

 

 そして、その無力感は今───更に増すばかり。

 

 守られてばかり───いや、サンジ達は決してそうは思っていない。航海に於いて、ナミは麦わらの一味の生命線なのだ。皆が、海の上でナミに命を預けている。

 

 だからこそ、サンジ達は全力でナミを守るのだ。

 

 守られてばかりではない。互いに助け合って生きているのである。

 

「サンジの奴、ここに来る途中、とにかく煩くて煩くてさ。ナミさん、ナミさんって…おかげで耳タコだ。

 アイツにとって、アンタを守ることは強くある為の理由で、強さの原動力なんだろうなァ。まあもちろん、アンタだけってわけでもないだろうが…それでも、アイツが強くあれんのはアンタの存在あってこそだ。

 なら、そんな顔してねェで、名前呼んでやれよ。きっと…アイツにとんでもねェ力を与えるから」

 

 傷だらけになりながらも、金獅子と戦うサンジにナミは視線を向けた。

 彼女の瞳に映るサンジは、女を前にして鼻の下を伸ばしている彼でもなく、鼻血を垂れ流している彼でもなく、目をハートにして、体中からハートを出す脳内ピンク色状態でもない。

 

 ナミを助けにやって来た騎士(ナイト)であり、ルフィを絶対に海賊王にすると心に誓った麦わらの一味の矛であり、盾でもある。

 

「サンジくんッ!!」

 

 ナミの声が、サンジに絶大な力を与えるのだ。

 

「へッ!俺には勝利の女神様(ナミさん)がついてる。絶対に負けるわけがねェ…いや、負けるわけにはいかねェんだよ、金獅子ッ!

【"武装(トロワ)"・雷霆天使風脚(アンジュ・レミエル・ジャンブ)"激辛味(アンタンス・エピス)"】!」

 

 その瞬間、サンジの右脚からけたたましい電撃が迸る。まるで、サンジを中心に無数の稲光が走っているかのような───そして、サンジがその稲光となり金獅子へと襲いかかる。

 

「終わりだッ金獅子!

竜の息吹(レデュイール)】!!」

「ぐぅがッ、ぐわあァァァァァ!!」

 

 強烈な電撃がサンジの蹴りによって金獅子の内部へと送り込まれ、そして内部を破壊する。

 金獅子の全身を襲う電撃は、通電経路組織だけではなく、神経系、循環系、臓器にまでも大きなダメージを与えていた。

 

「散れ…金獅子」

 

 焼け焦げた金獅子を前に、サンジは静かにそう呟いた。

 

「ジハハ…ハハ…楽し…かった…ぜ…玄脚」

 

 かつて、神話のような壮絶な戦いを繰り広げた伝説的な存在が、若い力に敗れ海へと消え去って行く。

 

 一度は、引き際を見誤った。だが、同じ過ちは二度犯さず、今度は伝説として、かつて海賊王としのぎを削った大海賊として───その表情は満足気であり、最後は悔いなく───その人生に幕を閉じるのである。

 

「…ッ、や、やべェ…俺も…限界だ」

 

 金獅子が海へと沈んで行く様を見届けたサンジは、緊張の糸が途切れたかのように───ふらりとその体が海へと落ちて行く。

 

 これまで、サンジがここまでの刀傷を負い、ここまで多くの血を流したことなどなかった。

 骨折などの大怪我はあったが、刃物を武器とする───剣士の相手は麦わらの一味の剣士"海賊狩りのゾロ"と決まっていたのだから当然だ。

 

 それでも、サンジは剣士を相手に───大海賊を相手に打ち勝ったのである。

 

 ただ、サンジは全てを出し尽くし、疲労困憊となり、気を失いかけてしまう。海に沈み行くなか、朦朧とする意識のなか、サンジの瞳に映ったのは───まるで、人魚姫と思えるかのような美しい、オレンジ色の髪の美女だった。

 

 

 *

 

 

「…ジく…!…ンジ…ん!サンジくん!!」

「うっ…あ…れ…?ナミ…さ…ん?」

「サンジくん!ああ、良かった!!」

「俺は…」

 

 ナミに助けられたサンジは、彼女の声で目を覚ます。

 

 その体は血だらけで───だが、ナミを見た瞬間に怪我など気にせずに顔を綻ばせるのだ。

 

「ナミさん…怪我はないかい?」

 

 どんな時も、サンジは己よりもレディの心配をする。

 

「バカッ!無茶ばっかりしてッ!相手は海賊王とやり合った大海賊だったのよ!?」

「わりィ…けど…へへッ、勝ったぜ」

「もうッ!…けど…助けに来てくれてありがとう、サンジくん」

「どういたしまして」

 

 世間は金獅子の死を知り、そして───新たな金の獅子の誕生を知る。

 

 






世代交代戦。サンジ VS 金獅子。

冥王や悪魔をどこか彷彿とさせ、偶然にも金髪のサンジ。そのサンジに、金獅子は託して散りました。

サンジの今回の決め技が竜の息吹(レデュイール)だったのは、サボとの修業の影響もありますが、現実世界にドラゴン・ブレス・チリという、かつて世界で一番辛い唐辛子に認定された品種からのものです。今は世界で二番目。
レデュイールとは、フォンやアルコールなどの液体を煮詰めながら風味と濃度を凝縮していく技法です。まあ、この場合は辛さが凝縮されたって意味にして名付けさせてもらいました。

それにしても…やっぱオリジナル展開って難しい!!

皆さん、励みになる感想、評価よろしくゥ!!

自分でもちょっと頑張った感あって疲れたァ!!


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男子三日会わざれば刮目して見よ



あ、ちなみに前話はクリーク戦を参考にしてみました。

ナミがその時のサンジ的な立ち位置で、サボがゼフ、そして…金獅子を打ち倒し海に落ち行くサンジがルフィ。
ゼフがかつて口にした『全身に何百の武器を仕込んでも腹にくくった一本の槍にゃ適わねェこともある』ってのは、印象強くサンジの心に残っております。

だからこそ、脚技のみという一本槍でサンジは強くなり、金獅子はその姿にレイリーやガープの面影を見たという…。
まあ、炎纏ったり、電撃纏ったり、透明化してるので一本槍とは言い難いけども…。そこ言っちゃ駄目です。



 

 

 金獅子との死闘から数日後───ナミは旅立つ。

 

「ナミさん…本当に、ルフィには会っていかないのかい?」

「うん。1日も無駄にはしたくないから…次に会う時はやっぱり成長した姿を見せたいの」

「そっか…ならこれ以上、俺が引き留めるわけにもいかねェな…けど、ナミさん…無茶はしないでくれよ?」

「その言葉、そっくりそのままサンジくんとルフィに返してあげる。こっちがここ数ヶ月、どれだけ心配したと思ってるのよ!!」

 

 先の頂上戦争、そしてマリンフォードへの再襲撃───後者は、仲間達への伝言が目的ではあったとはいえ、どれだけ心配させられたことか…。

 

 無茶しかしないサンジに無茶をするなと言われて、ナミがそう言い返すのは当然だろう。

 

「わ、わりィ。けど、ナミさんを守る為なら…仲間を守る為なら無茶するのも当然だろ?」

「そうだけど…」

 

 それでも───いや、心配するくらいならば、自分が強くなろう。ナミはそう強く心に誓う。

 守られてばかりいる女ではないのだから。

 

「サンジくん、私…絶対に強くなってみせる。航海士としても絶対に…世界一の航海士になるわ」

「ナミさんなら絶対になれるさ!何たって、俺達麦わらの一味の美人航海士なんだからな!!」

「ふふッそうね!見てなさいよ、サンジくん!もっとイイ女にもなっちゃうんだからッ!!」

「えッ!?」

 

 まさかのその宣言に、サンジは期待に胸を膨らませ、鼻の穴まで膨らませる。

 前回の人生では、散り散りになった期間にこうしてナミに会うこともなかった為に、もちろんこのような宣言をされることなくぶっつけ本番で再会し、情けないことに出血多量に陥ってしまったサンジ。それがまさか───ナミのその宣言はサンジの妄想をより過激にしてしまう。

 

「ナ、ナミさんが、こ、ここ、()()()()よりも過激にッ!?」

 

 もちろん、サンジが言う"これまで"とは、前回の人生を含めてのもので、前回なかった展開故に、そう思っても仕方ないのではないだろうか…。

 

 更にナミは、サンジに近づき妖しく瞳を光らせる。

 

「ベロ・べティ…だったかしら?革命軍の軍隊長さん…随分と気に入られてたみたいじゃない。それから、私の知らないリンドウちゃん…だったかしら?ベロ・ベティに勝るとも劣らないってことは、似たような過激的な服装でサンジくんを誘惑してたのね」

「え、あ、い、いや」

 

 近寄ってくるナミにたじたじのサンジは、得体の知れない恐怖やら、これまで感じたことのないナミの妖艶さに喉を鳴らす。これは、ナミの細やかな仕返しだ。

 数ヶ月見なかっただけで、少し───ほんの少しだけ、今まで見たこともなかった戦う男の表情に心臓を跳ねさせられたことに対する仕返しなのである。

 

「覚悟しておくことね」

 

 こうして旅立ったナミは、再会後───これまで以上にサンジを虜にし、翻弄することだろう。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 数ヶ月後───場所は"偉大なる航路(グランドライン)"後半部"新世界"にある愛と情熱とオモチャの国"ドレスローザ"。

 

 そのドレスローザの()()が暮らす一室にて、グラスが握り潰された鈍い音が室内に響き、グラスを握り潰した張本人は一枚の手配書をまじまじと眺めていた。

 

 その手配書を眺める人物が()()()なのは、抑えることなく垂れ流しにされている覇王色の覇気からも明白である。

 

「フフフフフフ…話題に事欠かねェなァ、玄脚(くろあし)ィ」

 

 先の頂上戦争に於いて戦場を大きく引っかき回したルーキー海賊の1人───"玄脚(くろあし)のサンジ"。

 サンジの手配書を眺めるその人物はここ半年、サンジの名を聞く度にとてつもなく不機嫌になってしまっていた。

 

 そして今日も───頂上戦争後、すぐに懸賞金額が3億ベリー以上も上乗せされ、4億3200万ベリーというルーキー世代では同じ一味の船長"麦わらのルフィ"に次いでのNo.2にまで一気に躍り出たサンジなのだが、またしてもルフィ共々に懸賞金が更新されているのである。

 

 今度はいったい何をやらかしたのか…。

 

「フッフッフ…空飛ぶ伝説の大海賊"金獅子"を打ち倒し、新たな金の獅子の誕生だと?()()()を持つおれを差し置いて…ふざけてやがる」

 

 王下七武海の1人、"天夜叉"ドンキホーテ・ドフラミンゴは、サンジの手配書を忌々し気に握り潰し、怒りを露にしていた。

 

 先の頂上戦争に於いて、サンジに手痛い思いを味あわされた1人であるドフラミンゴは、そのサンジが名を上げていくことがどこまでも気に入らないようである。

 

 頂上戦争後、サンジとルフィが"冥王"シルバーズ・レイリーと共にマリンフォードを再襲撃して半年───それ以降はすっかり落ち着いていたように思われた麦わらの一味だったが、船長のルフィと、今ではすっかりNo.2の立ち位置が定着したサンジが、揃ってかつての伝説達を撃破し、その報道がデカデカと一面を飾っているのだ。

 政府もどうにかして隠蔽し、自分達の手柄にしたかっただろうが、それはもう叶わぬこと。

 

 数ヶ月前に旧世代の四皇"金獅子"を撃破したサンジと、インペルダウンで起きた悲劇の集団脱獄事件で世に解き放たれたれてしまった"世界の破壊者"───旧世代の大海賊バーンディ・ワールドを打ち倒したルフィ。

 

 更に数日前、バーンディ・ワールドと同じくインペルダウン"レベル6"からの脱獄者である孤高の存在───"赤の伯爵"パトリック・レッドフィールドにまでサンジとルフィは打ち勝ったのである。

 赤の伯爵がルフィとサンジの首を狙い、シャボンディ諸島に停泊させている母船"サウザント・サニー号"を誘き出す餌として狙って現れたことが船番をしていた協力者達から告げられたサンジとルフィは、シャボンディ諸島に直行。

 

 そして、シャボンディ諸島にて赤の伯爵と邂逅したサンジとルフィは場所を移し、大激戦の末に赤の伯爵を下したのだ。

 

 "金獅子"、"世界の破壊者"、"赤の伯爵"。

 

 ルーキー海賊による旧世代の大海賊打倒を政府も隠しきれなくなり、世間は大きく賑わっている。

 

 そして、サンジとルフィの手配書が新たに更新された。

 

 "麦わらのルフィ"懸賞金5億5600万ベリー。そして、"玄脚(くろあし)のサンジ"懸賞金5億3200万ベリー。

 

()()()()達を倒してさぞ…いい気になってやがるだろうなァ、玄脚ィ」

 

 七武海で最も危険な男と称される大海賊にとっても、最早決して放っておける存在ではなくなった。

 元々、サンジに関しては次に会った時どのように殺してやろうかと常々考えてるようだが…。

 

「玄脚、テメエはこの手でブッ殺してやる」

 

 殺意という名のラブコール。前回の人生とは大きく違い、サンジはあらゆる方向から様々な感情をぶつけられるのである。

 

 

 *

 

 

 場所は変わり───"偉大なる航路(グランドライン)"クライガナ島シッケアール王国跡地。

 

「うおォォォ!!」

「むッ!?」

 

 三刀流という稀有な剣術を駆使する緑髪の若き剣士と、身の丈程の黒刀を軽々しく振るう大剣豪───この島にて、日々刀を交わらせる2人の稽古という名の戦いだが、今日はいつにも増して激しい攻防と化している。

 

「妙に殺気立っているかと思いきや…いつになく落ち着いているじゃないか…ロロノア。感情を上手くコントロールしているようだな。

 やはり、あの()()()がきっかけか」

「うるせェ…ルフィとあのエロコックはどんどん先に行ってやがる。置いてけぼりにされた気分だぜ。

 だが、うだうだ考えたってどうにもならねェ…なら、次に会う時…エロコック以上に強くなってればいいだけだ!!」

 

 大剣豪"鷹の目"が拠点としている島に飛ばされた麦わらの一味の剣士"海賊狩り"ロロノア・ゾロは、この島にて鷹の目に剣術の手解きを受けている。

 

 本来なら、倒すべき、超えるべき相手に教えを乞うなど、プライドの高いゾロが鷹の目に頭を下げることなど決してなかっただろう。だが、背に腹は代えられない。己の野望よりも大切なもの───仲間の為に強くなるという目標を見つけたゾロは恥を偲んで鷹の目に頭を下げ嘆願し、その覚悟を受け取った鷹の目もそれを了承した。

 

 そして、首を狙う者と狙われる者───歪な形ではあるが、師弟関係が出来上がったのである。

 

「ふっ、いいぞ…ロロノア」

 

 ゾロの鋭い一太刀を受け、鷹の目は微笑する。

 

 ゾロの師匠となった鷹の目は、たった1日でここまで成長するかと───やる気に満ち溢れるゾロに、若さの勢いに羨ましさと逞しさ、恐ろしさ───そして、絶対に負けたくないと思える相手に追いつこうと必死に刀を振るうゾロに微笑ましさを感じているようだ。

 

「おれはルフィの()だ。それだけは絶対に…誰にも譲る気はねェ!!」

「そうか」

 

 鷹の目はつい数ヶ月前、七武海の1人として"世界の破壊者"を討ち取りに向かった先で偶然にも目にした"麦わらのルフィ"のことを思い返す。

 

 頂上戦争で戦った時、ルフィはまだ覇気を習得していなかったはずだが、たった数ヶ月で覇気を習得したのかと鷹の目が内心驚いたのは記憶に新しい。

 

 そして、思い返せばその時の話をゾロにしてから数日後のことだっただろうか───ゾロが覇気を扱えるようになっていたのは…。

 

 そこからの鷹の目の力の入れようは凄まじく、そしてゾロもそれに応えるのだから、若者の成長速度は恐ろしいものだと鷹の目も感じずにはいられなかった。男子三日会わざれば刮目して見よとはよく言ったものだと思わずにはいられなかっただろう。

 

 そして、そう感じると同時に、鷹の目は人生で初めての弟子という存在に、己の手で大剣豪の座を狙う剣士を育てるという一風変わった師弟関係に、日々充実感を感じている。

 

 日々成長するゾロの姿に喜びを感じずにはいられず、そして───かつてのライバル"赤髪のシャンクス"が麦わらのルフィへ向ける感情を今こうして、ようやく理解できているようだ。

 

「しかし…もう5億超えとはな…麦わらと…それから()()も立派な大海賊の仲間入りだな」

「ああ!?」

「ふははははッ!!」

 

 そして、サンジの話題を出すと簡単に挑発に乗ってくれるその姿は、鷹の目の楽しみでもあるらしい。

 わざとらしく玄脚の部分を強調して口にしたのはその為である。この歳になり、年下をからかう姿はかつての"赤髪"の姿を彷彿とさせるが、それを知る者はこの場所に居らず、鷹の目に対し赤髪と似ていると命知らずなことを口にする者も居ない。

 

「見てろ!おれもすぐに5億超えしてやるッ!!」

「まずはその覇気を完璧に扱えるようになってからだな。そうでなければ、玄脚との差は広がる一方だぞ」

「麦わらの一味のNo.2はおれだッ!!」

 

 この程度の、簡単に発破を掛けるだけで鷹の目の予想を超えて成長してくれるのだから、鷹の目も毎日が楽しくて仕方なさそうだ。

 

 ゾロも、サンジとルフィがまたしても騒ぎを起こしたことに一瞬こそ心配はしただろうが、それ以上に負けていられないという気持ちが強まったことで、きっとサンジの()()以上の成長を見せてくれることだろう。

 

 未来の海賊王ルフィに、未来の大剣豪ゾロ。そして、一部の間では二代目冥王やら新たな金の獅子やら金色(こんじき)の伯爵様とまで様々な異名で呼ばれるようになったサンジ。

 麦わらの一味のトップ3は、危険因子として日々止まることなく急成長中である。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 場所はルスカイナ島。

 

「ハハハハハ!ついに2人揃って5億超えかッ!!いやァ、師匠としても鼻が高いぞ2人共ッ!!」

 

 高らかに、そして本当に嬉しそうに笑い声を上げているのは生ける伝説の海賊の1人───"海賊王の右腕"、"冥王"シルバーズ・レイリーだ。

 

 弟子であるサンジとルフィが、かつて自身やロジャー達と熾烈な戦いを繰り広げたライバルであり、ある意味ではお互いを知り尽くした親友のような存在でもあった"金獅子"や"赤の伯爵"、そしてその2人程接点はなかったが互いに知った仲であった"世界の破壊者"を討ち倒したことに、少しだけ寂しさを感じながらもそれ以上に、2人が新たな時代の到来を体現してくれたことにこれ以上ない喜びの声を上げている。

 

 嬉しそうに酒を飲むレイリーに、サンジとルフィもつられて笑みを溢す。

 

 ただその一方で、サンジに対してはともかくとして、ルフィがどんどん大きくなっていくことに不安に刈られる者もいた。

 

「ルフィ、そなたが名を上げることは嬉しいが妾心配じゃ。そ、そなたは…そ、その、か、かか、カッコ…」

「ん?ハンコック、どうしたんだ?」

 

 ルフィにカッコイイと言いたいのに、その言葉がなかなか出てこない恋する乙女。

 

 ちなみに、新しく更新された手配書をわざわざルスカイナまで届けてくれたのはこの恋する乙女───"海賊女帝"ボア・ハンコックだ。

 世界一の美女による女帝配達便とは何とも贅沢な───サンジ同様に、ルフィもまた世の多くの男達を敵に回すことになるかもしれない。

 

 レイリーとの約束で、頻繁にルスカイナ島を訪れてはならないということになっているようだが、今回は特例───いや、ハンコックが絶好の機会を得たと言うべきだろうか…。

 

 つい数日前、サンジとルフィが"赤の伯爵"パトリック・レッドフィールドと死闘を繰り広げ、孤高の大海賊を打ち倒した。それがきっかけとなり───いや、それよりも数ヶ月前の、金獅子のシキと世界の破壊者バーンディ・ワールド打倒もこの短期間での懸賞金額更新の大きな要因だろう。

 

 頂上戦争後、懸賞金額が4億ベリーを超えたサンジとルフィだが、新世界の海賊達から警戒はされども、その功績は白ひげや白ひげ海賊団の隊長達、傘下の海賊達の助力あってのものだろうと、脅威には程遠い存在として認識されていた。

 しかし、金獅子、世界の破壊者、赤の伯爵と立て続けに旧世代の大海賊達を打倒したことで、新世界の海賊達もルーキー海賊が下克上を成し遂げたと、脅威だと認識したに違いない。

 

 その一方で、一部ではあるが一般人達の反応は違う。赤の伯爵は大人しくサンジとルフィのみに標的を絞っていたが、金獅子のシキと破壊者バーンディ・ワールドは一般人達にも平然と危害を加えていた。

 その凶悪な大海賊達を打倒したのだから、危害を加えられた一般人達からしたらヒーローも同然の存在だろう。

 

 そしてそれこそが、ハンコックがルフィの名を上げていくことに不安を抱く要因でもある。

 これまで以上の危険、そして───周囲からの人気。後者に関しては完全なる嫉妬だ。

 

 更に、どういうわけかハンコックはサンジに忌々し気な視線を向けている。

 今度はいったい何だろうかと気になるサンジだが、予想外の言葉がハンコックから告げられた。

 

「玄脚、貴様がルフィのそばにいることで、自然と女子達が寄ってくる…妾はそれが心配でならん」

「なるほど…ハンコックちゃんの心配はわかった…が、俺がルフィのそばにいることで女子達が寄ってくるってのは?」

 

 ハンコックが嫉妬しているのだとわかったサンジだが、彼女の言葉で何よりも気になったのはそこである。悲しいことに、サンジはそのような経験が前回の人生も含めてこれまで一度もないのだから、気になるのは当然。

 

「何じゃ…知らんのか?貴様、巷の女子達の間では"金色(こんじき)の伯爵様"と呼ばれて人気があるらしいぞ」

「ちょっと俺、その辺の島に行って散歩してくるッ!待っててね、レディ達!金色の伯爵様がこれからすぐに会いに行くよォ!!」

 

 そして、理由を知ったサンジは目をハートにしながら立ち上がり、"透明化(ステルス)"してその場から消え去ってしまう。

 

「ルフィ」

「ん…よっと」

「うがあぁぁぁ!」

 

 だが、レイリーの一声で腕をとある方向に伸ばしたルフィは、サンジの襟を的確に掴み引っ張り戻したのである。

 

「ち、ちくしょォ!離せッ!レディ達が俺を待ってるんだ!俺は行かなきゃならねェんだッ!!」

「やれやれ…誉められたらすぐにこれとは…」

「むっ、妾はいらぬことを教えてしまったようじゃな」

 

 サンジは自身がそのように呼ばれ、女子達からの人気を集めているなどまったく知らなかったのだ。

 それを聞かされたら、それがどれ程の人気か確かめたくて仕方ないだろう。しかも、それを伝えたのがハンコックなのだから、信憑性は非常に高い。

 

 ただ、修業中の身───何より、これだけ目立っているのだから、しばらくは大人しくしておくべきだ。

 

「ナミから言われたことをもう忘れたのか?今回の一件はサニー号が危なかったから仕方なかったとはいえ、あとで間違いなく怒られるぞ」

「うっ」

 

 暴れるサンジにレイリーがナミの名前を出すとすっかりと大人しくなる。

 

 金獅子との死闘後、サンジの傷が癒えると、ナミはウェザリアの学者達と共にまた旅立って行った。

 最初こそサンジもナミを心配し、しばらくは付き添うべきかとも思ったが、それはナミの為にならないと見送ったのである。

 

 安全策に、サボに頼みナミの"ビブルカード(命の紙)"を作成してもらい、サンジは欠片を貰ったことでいつでも会いに行こうと思えば会いに行けるのだが───恐らく、次に再会する時は2年後で、そのビブルカードがナミの危機を知らせることがないことを願うばかりだ。

 

 そして、ナミから去り際に言われた言葉。

 

『…無茶しないでね』

 

 ナミもサンジが男なのだから無茶をして当然だとわかっているのだが、これだけ世間を騒がせたことで、これまで以上に強い敵と戦うことが増えるのが心配なのだ。

 

 特に、一味の主力であるサンジは必然的にその危険に晒されることだろう。

 海賊に無茶は付き物。それでも、やはり会えない期間は心配なのだ。

 

 ただ、致し方なしとはいえ、その約束は数ヶ月で破られてしまった。きっと、ナミも新聞を読み、今回の一件を知ったことだろう。次に会った時、何を言われるか、もしくは愛の籠った拳が先に出てくるのか…。

 

「…怒るナミさんも素敵だが…やっぱナミさんは笑顔が一番だからなァ」

「随分と尻に敷かれているようだな」

「ナミさんの尻にならいくらでも敷かれてやる…いや、敷かれたい…だな」

 

 ナミとの約束を守るべく、サンジは大人しくなる。まだまだ弱者であることを受け止め、まずは修業に集中する為に先の戦いでの傷をしっかりと癒し、そして精進するのだ。

 

 今は束の間の休息の時なのである。

 

「それにしてもルフィ、よくあの一瞬で玄脚の居場所がわかったものじゃな。どうやら、見聞色の覇気もだいぶ洗練されておるようじゃ。さすがはルフィ!」

「ん?見聞色は使ってねーぞ?別に使わなくてもサンジの居場所は何となくわかるからなァ。

 普通()()()()の場所ならわかるだろ?」

 

 その瞬間、サンジは()()()()を感じ取り、素早く距離を取る。

 

「ふ…ふふふふふ…く・ろ・あ・しィィィ!!」

 

 モテ期の到来と共に不憫性も増すばかり───まさしく、サンジらしいお約束の展開だ。

 

 






今回、戦闘描写一切ないのにこの作品史上最長文字数…疲れた。
それはそうと、ぶっちゃけもう…ローって麦わらの一味でいいよね。スタンピード見てますますそう思いました。

ゲームキャラのパトリック・レッドフィールドをチラッと。わたくし…そのゲームやってませんwww
ただ、誰よりも老いへの恐怖を感じていたという人物らしいので…。

ここまでやらかしておいて、原作のようにサニー号が2年間どうにか無事でいられるのもあり得ない。当然、狙ってくる敵の数も、強さも増しており…。くまの護衛があろうとも…。
パトリック・レッドフィールドからしたら、再び海賊王を目指し始めたなかで、最初の標的として話題のサンジとルフィは申し分なく、サニー号を餌に釣ったのでした。

しかし、結果は若さに敗北。そして、金獅子、世界の破壊者、赤の伯爵。政府ももう隠しきれるはずなく…元々、金獅子に関しては革命軍もその場にいた為に隠蔽など無理だったのですが、有耶無耶になった状態だったのが時間の問題で明らかになりました。


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姉弟の再会



オリジナルの3D2Y編なのに、何故か6話目突入…奇跡だ。



 

 

 ルスカイナ島での修業も1年と半年が過ぎ、師匠シルバーズ・レイリーから免許皆伝を受けたサンジはルフィよりも一足早く島を出る。

 

 サンジには料理の修業もあり、様々な地方で特有の料理を食べ歩き、料理の研究もしたいようだ。ちなみに、その資金はルスカイナでの修業の傍ら、女ヶ島に赴き出張レストランをやっていたようで、最初こそレディ達の美味しそうに食べてくれる笑顔でお腹一杯だと言っていたようだが、九蛇の女達に押し切られる形でそこそこの貯えができていたようだ。

 女ヶ島の女達もすっかりサンジの料理に腰砕けになり、虜になり、ワイルドな金髪王子───"金色(こんじき)の伯爵様"として一石二鳥以上の最高の思いを味わっていたようである。

 

「さて…行くかッ!!」

 

 そして、麦わらの一味再結集まで残すところあと約半年。その間、サンジにはどうしてもやらなければならないことがあった。

 

 再び、サンジに迫り来る()()()()()()を断ち切る為に───()()()()()()為に、サンジは()()へと向かう。

 

「すまねェな、サボ」

「気にすんな。サンジには返しても返しきれねェ程のデカい借り…恩があるからな。これくらいどうってことねェから気にすんな」

「ありがとな」

 

 この1年で、サンジの記憶通りに革命軍の参謀総長にまで上り詰めたサボは、サンジを手伝う為に色々と協力してくれていた。サボにとってサンジは、エースを───兄弟を救ってくれた大恩人なのだからこれくらいして当然だろう。

 

 決して暇人というわけではない。

 

「しっかし、言っちゃ悪いがサンジの父親って」

「俺の父親は大恩あるオーナー・ゼフだけだ」

「そりゃ失礼…ハハ、そういうとこ…エースとも似てるよな。産みの父親を毛嫌いし…育ての父親をどこまでも尊敬する」

 

 サンジはゼフを、エースは白ひげを───2人は産みの父親ではなく、育ての父親に対して強い恩を感じている。

 確かに言われてみればそうなのかもしれない。だからこそ、あの頂上戦争でエースが白ひげの顔に泥を塗るような真似をしたのが許せず、見過ごせなかったのだ。

 

 そして、あの時のサンジの言葉はエースにしっかりと届いており、エースは我慢強さを身に付けるに至った。

 

「エースも今や、赤髪海賊団の特攻隊長だからなァ」

「アイツ…大人になったよな」

 

 今、新世界では黒ひげが猛威を奮っている。白ひげのナワバリだった島を次々と己の手中に納め、更に半年程前に起きた、"不死鳥のマルコ"他隊長を含む白ひげ海賊団の残党達と、黒ひげ海賊団の間で勃発した"落とし前戦争"。

 サンジの記憶通り、両者援軍を含むかなり大きな戦争だったが、勝者は黒ひげでマルコ達は惨敗。

 

 その落とし前戦争をきっかけに、黒ひげは"四皇"に名を連ねるようになった。

 

 ただ───その落とし前戦争にエースは参戦していない。

 

 マルコ達がエースの参戦を望まなかったのか、赤髪がエースを行かせなかったのか、それとも───エースが自ら行かないことを決意したのか───それは、サンジとサボにもわからない。

 

「ここ1年、エースにはまったく会ってないからな。俺とルフィが金獅子達と戦ったのが騒ぎになって、それを心配してやって来て以来…」

「おれもだ。けど、アイツは赤髪海賊団の一員として、白ひげの大切なものを取り戻す為に()()()()と暴れてるみてェだからなァ」

 

 サボが読んでいる新聞の一面を飾っているエースの報道。ジンベエと2人で、黒ひげ海賊団傘下の海賊団をいくつも撃破し、懸賞金10億ベリー超えの大海賊に相応しい活躍を見せているようだ。

 

 この報道からもわかるように、サンジの前回の人生と大きく違っている点が2つもある。1つは言わずもがな、エースが生存し赤髪海賊団に所属しているということ。

 そして───ジンベエが麦わらの一味に加入しないということだ。エースを救い出すことに成功した影響なのか───それは、サンジにわからない。

 

 ただ、ジンベエが仲間に加入しないのは麦わらの一味にとって、サンジが未来を変えてしまったことによる手痛いしっぺ返しなのか───それは違う。

 

 サンジ自身も、前回の人生でのこの時期よりも今の自分が遥かに強いという自負がある。現在のルフィも、前回の人生で再会した時よりも強くなっている。懸賞金額が増していることからもそれは明白だ。

 そして、ゾロも前回よりも遥かに強くなっていることだろう。あの男がサンジとルフィに触発されないはずがない。

 

 そうなると、他のメンバー達もサンジの前回の記憶よりも強くなっていると考えて間違いないはずだ。

 

 少数精鋭の麦わらの一味にとって、戦闘力の高いジンベエが加入しないことは確かに痛手ではあるが、それでも主力3人───いや、全員でその穴を埋めるどころか、前回の人生でのジンベエが加入した時の麦わらの一味の戦力よりも、今の麦わらの一味の戦力の方が高いのではないだろうか…。

 

 それに、ジンベエが加入しないことで、別の者が仲間に入る可能性も十分にある。

 その候補の1人が───やはりトラファルガー・ローだろう。サンジに胃袋を掴まれてしまった男で、おにぎり食べたさに頻繁にルスカイナ島までやって来る暇人と化した海賊だ。

 

 ただ、そんなローも前回通りに七武海入りを果たしているのだからさすがである。

 サンジとルフィとの仲は前回以上に良好なのは、嬉しい誤算───と言えるだろうか…。

 

 前回のようにハートの海賊団との同盟か───もしくは、麦わらの一味への吸収合併か…。

 どちらにしろ、長い付き合いになりそうだとサンジは感じ取っていた。

 

 エースの件も、ジンベエの件もそうだが、どちらにしろここから先はサンジの記憶通りに進むことはほぼないだろう。過去に戻り、サンジは随分と未来を変えてしまい、サンジ自身もそれを痛感しているのだ。

 

「そういえば、その後"()()"は?」

「…七武海の称号を保持したまま…海軍の人間兵器と化しちまってる」

「…そうか」

 

 その変化は、革命軍との間でも起きていたりする。

 

 麦わらの一味がシャボンディ諸島に戻るまでサウザンドサニー号を死守するというプログラミングを施してもらっていた革命軍幹部にして七武海のくまは、そのプログラミング通りにサニー号を守っていてくれていたのだが、予期せぬ形でサンジとルフィがサニー号のもとに行ってしまい、それが原因でその場から去ってしまったのだ。

 

 どうにかして、くまを足止めしたかったサンジではあるが、"赤の伯爵"パトリック・レッドフィールドのこともありそれは叶わず、サボにはそのことを報告したようだが、申し訳なさで一杯だろう。

 そしてそれ以上、くまに関してはサンジが何かしてやれることは今のところ何もない。事情が事情だけに、下手に手を出して事を荒立てるわけにもいかないのだから…。

 

「俺に何か手伝えることがあったら言ってくれ。微力ながらも…まあ時と場合にもよるが、協力する」

「ハハ、サンキューな。けど、お前が微力って…お前が協力してくれたら千人力以上だろう」

「いや…一万人力だな」

「おーおー、そりゃすげェ。さすがは"金色(こんじき)の伯爵様"なこった」

 

 懸賞金額が5億を超えているサンジではあるが、実際のところはその額以上の実力を有している。

 そのサンジの協力が微力などあり得るはずもない。

 

 ただ、バーソロミュー・くまに関してはサンジの前回の記憶でも、フランキーから話を聞いて以降いったいどうなったのか、まったく情報がなかった為に知らなくて当然だ。

 もし、サンジがこの件に関わることがあるとしたら、それはサボから協力の要請を受けた場合だろう。

 

「まあ、くまについてはおれ達革命軍がどうにかする。いや、どうにかしないといけない…だな。

 くまは革命軍の大切な仲間なんだ。それに、サンジはこれからおれ達の手伝いなんてしてる暇なくなるからな。本気でルフィを海賊王にするってんなら、そんな暇あるわけないだろ?」

 

 サボの言ってることは最もだ。約半年後、再結集して新世界に乗り込み、サンジ達が相手にしないといけない敵はこれまでの比ではないのだ。下手をしたら、前回以上に過酷な航海が───いや、間違いなく前回以上の過酷な航海になることだろう。

 

「そうだな。それでも…ルフィの前に…俺達の前に立ち塞がる敵は蹴り飛ばすまでだ」

 

 世間はきっと、ここ1年まったく音沙汰のない麦わらの一味を待ちわびていることだろう。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 トラウマは克服された。

 

「何事だァ!?」

「か、革命軍の"参謀総長"サボによる襲撃です!!」

「な、何だとッ!?」

「そ、それとサボと共に"玄脚(くろあし)"ッ、サンジ様もッ!!」

「!?」

 

 かつて"北の海(ノースブルー)"を武力で制覇したヴィンスモーク家が収める国家───"ジェルマ王国"。世界で唯一、国土を持たない海遊国家であり、そして───サンジの故郷だ。

 

 その故郷───ジェルマ王国に激震が走る。

 

「ど、どういうことだ!?何故、サンジが革命軍と共に我々に攻撃をッ!?」

 

 その理由がわからないとは───いったいどれだけ自分本意なお目出度い頭をしているのか…。

 やはりこの様子からしても、サンジはお互いに理解できる日は永遠に来ることはないだろうと、見聞色の覇気でその声を聞き取り、改めて悟る。隣に立つサボも同様に、貴族に対する嫌悪感が増すばかりだ。

 

「よォ…()()()()。どうやらコソコソと俺を探してたようだから、おかしな真似をする前にわざわざ会いに来てやったぜ…それと、もう二度と会いたくねェってトラウマを植え付ける為にな」

「サ、サンジ!?」

 

 ジェルマ王国国王ヴィンスモーク・ジャッジの前に自ら姿を見せたサンジだが、本来なら二度と顔も見たくなかった相手だ。その相手に名前を呼ばれたことに嫌悪感を露にし、鋭く睨みつけながら告げる。

 

「気安く俺の名を呼ぶな。俺とテメエは赤の他人だ」

 

 

 *

 

 

 "玄脚(くろあし)"が華麗に回る。

 

「鞭はテメエらのような駄王子を躾るのに最適だ。

雷霆天使風脚(アンジュ・レミエル・ジャンブ)・"苦味(アメール)"パーティーテーブルウィップコース】!!」

 

 ジェルマ王国を率いるヴィンスモーク家。

 

 大昔に北の海を武力で制圧したことから人殺しの一族とも呼ばれており、更に近年は化学力にも長け、"ジェルマ66(ダブルシックス)"───別名"戦争屋"とも呼ばれる化学戦闘部隊を保有している。

 

 そして、その組織"ジェルマ66"の主戦力を務めるのが、ジェルマ王国国王ヴィンスモーク・ジャッジの子供である4姉弟だ。

 

「ば…馬鹿な…」

 

 だが、ジェルマ66のご自慢の主戦力を以ってしても、"冥王"シルバーズ・レイリーの弟子となり鍛え抜かれた"玄脚(くろあし)"には勝てるはずもない。

 

「サ、サンジが…こんなに強く…なってるなんて」

 

 唯一、サンジから家族として大切に思われている姉───レイジュだけは、一切危害を加えられてはいない。

 そもそも、サンジは何があろうとも絶対に女を蹴ることはないのだ。

 

「だから言ったろ…向かってくるなら()()だろうと容赦はしねェってな」

「ざ、雑魚…だと?」

 

 約13年ぶりに再会した四つ子達。革命軍"参謀総長"のサボを連れてのサンジの襲撃に最初こそ驚きはしたものの、()()()()()()しか知らない兄弟達───イチジ、ニジ、ヨンジは当時と変わらぬ態度で、サンジをヴィンスモーク家の落ちこぼれ、恥晒しと舐めきった態度で向かってきた。

 

 その結果が───圧倒的な力の差を見せつけられ、主戦力3人がかりですら返り討ちにあってしまったのである。

 

 世間では、サンジはもう懸賞金5億ベリー超えの大海賊。その意味を、ジャッジを含む兄弟達はまったく理解できていなかったということだ。

 

 たった一撃でジャッジを戦闘不能に追い込みながらも、意識だけは刈り取らないという微調整をサンジがしたのは、実力の違いを見せつける為だろう。

 

「耳の穴かっぽじってよォく聞いておけ、ヴィンスモーク・ジャッジ。俺とお前らの間には何の繋がりもない。もし…また俺を探そうとしていることがわかったら…次は本気でこの王国を跡形もなく潰すぞ」

「つ、潰す…だと?ジェルマ王国を…き、貴様如きにッ!?」

 

 その瞬間、サンジは全身を烈々な炎で燃え上がらせ、激しい電撃を迸らせ、それだけでは止まらず更には覇王色の覇気を──"王"の格の違いを見せつけるかのような力を、ジャッジに身を持って教え込む。

 

 サンジから放たれる覇王色の覇気の威圧感に───いや、本気の敵意、殺意に、ジャッジは恐怖で身を震わせる。

 

「二度は言わねェぞ」

 

 それだけ言い残し、サンジはその場から立ち去って行く。その際、強引ではあったがサンジが姉のレイジュを連れ去って行ったことに、恐怖を覚えたジャッジは気付けずにいた。

 

 

 *

 

 

 国土を持たないジェルマ王国だが、国王、王女、王子、そして国民達は船に住み、それらが船団を組んでおり、その船団を国としている。

 

「久しぶりだな…レイジュ」

「サンジ」

 

 レイジュの城へと場所を移したサンジは、にこやかな───とは言えない、苦笑いを浮かべながらレイジュに再会の言葉を告げる。

 

「どうして…わざわざ戻ってきたの?」

 

 そのサンジに対し、レイジュは約13年前の悲しい出来事を思い返す。姉弟の中で唯一、サンジに強い愛情を持っているレイジュは、このような形でサンジと再会することを望んではいなかった。

 寧ろ、生きていてさえくれれば、会えなくともいいも思っていたのだ。それがまさか───サンジにとって地獄同然の場所に自ら戻ってくるなど…。

 

「さっき言ったろ…言ったというか、あのクズ共の体に直接教え込んだつもりだったが。

 俺に二度と関わらないようにする為だ。革命軍が、ジェルマが俺を探してるって情報を得て、それを教えてくれたからな」

「それでわざわざ襲撃するなんて…しかもたった()()で」

 

 そのたった2人相手に、ジェルマは酷い有り様だ。主戦力に関してはサンジ1人に手も足も出ず敗北した。

 

「強く…なったのね、サンジ」

「少し…はな。だがまだまだだ。俺は"麦わらのルフィ"を必ず海賊王にする。その為には…まだ弱い。俺はもっと強くなる」

「そう…」

 

 力強い、覚悟に満ち溢れた瞳を向けてくるサンジに、レイジュはサンジと別れてから一度たりとも浮かべることのなかった、浮かべることのできなかった心からの笑顔を浮かべる。

 その笑顔はどこまでも慈愛に満ち溢れ、サンジの成長を心の底から喜んでいることが窺えた。

 

「レイジュ…お前には本当に感謝している」

「あら、たまたま気紛れの」

「お前が母…ソラを尊敬していることは知ってる」

「ッ!?」

 

 前回の人生───それについては話せないが、サンジは子供の頃を思い返し、決して思い返したくもない過去ではあるが、それがきっかけで思い出したことがあるのだと、そのように話を進めて行く。

 

「今でこそ俺はジェルマの"血統因子"とやらの影響が強く出ているみてェだが、ガキの頃はそれがまったく見られなかった。俺はその理由をもう知っている。

 母さん…ソラの抵抗の証…それが、兄弟の中で唯一感情を持ち、人として誕生した俺だ」

 

 前回の人生でレイジュから聞かされたその話を、サンジは子供の頃の記憶の断片であるかのように、大雑把に見えるように話す。ただ、レイジュはそれを驚きながらも黙って聞いていた。

 

「俺は、人として成長して、そしてこの力を得た。母さんの決死の抵抗の証で、母さんが生み出した…いや、自分で最高傑作なんて言うのは烏滸がましいな。母さんは別にそうなるように思って産んでくれたんじゃねェ。

 ただ、出来損ないと決め付けられた俺をそれでも愛してくれていた」

「…ええ、そうね。お母様はあなたを心から愛されていたわ、サンジ。だからきっと、あなたの成長を見たら跳び跳ねて喜んでくれるはずだわ」

「そう…だな。母さんはそんな人だった。俺の失敗作の激マズの料理も笑顔で平らげる…お前に似て、慈愛に満ちた最高の母親(女性)だったよ」

「え?」

 

 サンジが料理人の道を目指すきっかけとなった母の笑顔。それは今でも鮮明に心に残っている。

 そして、サンジとの別れを悲しんだレイジュの泣き顔も───幸せになれるきっかけを与えてくれた言葉も。

 

『海は広い…いつか…必ず優しい人達に会えるから!!』

 

 その言葉通り、サンジは心から尊敬できる"父親"に出会い、そして何よりも大切な仲間達に出会えた。

 

「お前には本当に感謝している、レイジュ。お前が俺を逃がしてくれて…俺の世界は一変した。そりゃあ辛いこともあったし、餓死しかけたこともあったが…それでも、お前の言葉通り"優しい人達"に本当に出会えたんだ。

 へっ、イイ女の勘ってのは本当に凄いもんだぜ。だから…本当にありがとう、()()()

「ッ、サン…ジ…」

「俺が唯一、家族だと思える大切な存在にまた会えて…本当に嬉しい」

 

 この場所は、サンジにとって地獄も同然の場所だった。だが、今のサンジにとって───この場所は唯一の家族と、そして母との大切な想い出が詰まった場所なのである。

 

「うっ、うう、おかえ…り…サンジ」

「ただいま…レイジュ」

 

 その涙は最愛の弟の成長を喜ぶ、"嬉し涙"。

 

 






フランキーの成長という名の魔改造について考えて見たのだけど…。

「おれは鉄人(サイボーグ)フランキーじゃない…私は鉄の男(アイアンマン)だ」ってありかな?

ローさん、七武海入りしたけどどのタイミングかは詳しく知りません。つか、ロッキーポート事件って何?これから明らかになるのかな?

新技【雷霆天使風脚(アンジュ・レミエル・ジャンブ)・"苦味(アメール)"パーティーテーブルウィップコース】
パーティーテーブルキックコースに電撃を付与し、更に脚を鞭化してしならせ、電撃の鞭を回転しながら放つ。
光速の電撃の鞭。体が鉄のような強度を誇るジェルマの外骨格もサンジの脚技と覇気の前では無意味。

レイジュって本当に素敵なキャラですよねェ。
このままご退場にはなってほしくない…ジェルマで唯一。


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Mr.プリンス



今思えば、サンジが王族出身という伏線はリトルガーデン編からちゃんとあったんですよねェ。



 

 

 場所は偉大なる航路(グランドライン)の前半部に存在する文明大国"アラバスタ王国"。

 

 そのアラバスタ王国首都アルバーナ王宮───王女ネフェルタリ・ビビの私室にて激震が走る。

 

「え、ええ!?サ、サンジさんて()()()()()だったの!?しかもあの"ジェルマ王国"!?」

 

 新聞の一面をデカデカと飾っているのは、ここ1年は大人しかった麦わらの一味のNo.2であるサンジだ。

 

 ただその内容に、かつて共に航海した仲間であるビビは非常に驚いている。

 あの優しいサンジがまさかのヴィンスモーク家出身───ジェルマ王国の王族だというのだから、その驚き様はかなりのものだ。

 

 ビビの認識でも、ジェルマ王国ヴィンスモーク家は悪い意味で有名なのだろう。

 

「え、えっと…サンジさんが()()()()()()()()()()歩いてるところを目撃されて、ジェルマの王子様ってことが発覚…けど、サンジさんは10年以上前に出奔してて、もうジェルマとは無関係だと現国王は言ってる。…なら、このお姉さんは?ジェルマの王女様よね?」

 

 一面に写し出されたジェルマ王国の元王子と王女───サンジとレイジュ姉弟は、どこからどう見ても仲睦まじい様子だ。

 

 とある島にて撮影されたこの写真だが、その真相はいったい───そして、毎度お騒がせな若き大海賊"玄脚(くろあし)のサンジ"だが、手配書の名が"ヴィンスモーク・サンジ"と書き換えられ、またしても注目の的となるのである。

 

「それにしても…ふふ…お姉さんと一緒だからか、かなり落ち着いてるように見えて、確かにこれは女性達の間で人気が出てもおかしくないわね」

 

 ビビが知らないサンジがそこに写し出されており、彼女もサンジが男としてますます素敵に成長したことを感じ取っている。アラバスタ王国の女性達の間でも"金色(こんじき)の伯爵様"として人気を集めているようだが、これからは"金色(こんじき)のプリンス"と呼ばないといけないのだろうと、ビビは頬を緩ませていた。

 

 

 *

 

 

 時を同じくして、場所は偉大なる航路(グランドライン)後半部"新世界"のとある島。

 

 その島に拠点を置く海賊───元王下七武海のクロコダイルは、新聞を片手に至って普通の様子で葉巻の煙を吐き出していた。

 

「なるほど…やはりコイツが"()().()()()()()"だったか」

 

 麦わらの一味のサンジが、ジェルマ王国の王子であることが判明し、それを新聞で知ったクロコダイル。

 

 かつて、クロコダイルがまだ七武海だった頃、アラバスタ王国で自身を引っかき回してくれた忌まわしい存在がいた。それが、Mr.プリンスだったのだが、今こうしてその正体が判明しようとは…。

 

 マリンフォード頂上戦争にて、"麦わらのルフィ"と揃って戦場を引っかき回した"玄脚(くろあし)のサンジ"に対し、もしやと疑惑の視線を向けていたようだが───ただ、クロコダイルにとって、サンジがジェルマ王国の王子であることなど、どうでもいいことなのだろう。

 

「借りは、何れまた会った時に返してやる」

 

 ただ、借りはきっちりと返す───それだけだ。

 

 

 *

 

 

 それから更に数日後───前半部のとある島にて、世界に名を轟かせる()()()()が激しい闘いを繰り広げていた。

 

 1人は、長い金髪の見た目美しすぎる男───世の多くの女達を虜にする"海賊貴公子"キャベンディッシュである。

 

「くッ!忌々しい…お前達"最悪の世代"はどこまでも忌々しいッ!!」

「んなこと言われてもな…周りが勝手にそう呼んでるだけだろ」

「海賊狩りのロロノア・ゾロ!貴様の次は"玄脚(くろあし)"だ!!奴を殺し、再びボクの人気を取り戻す!!」

 

 懸賞金2億8000万ベリー。剣術の天才と呼び声高いキャベンディッシュではあるが、対するのは"最悪の世代"の()()()の内の1人、緑髪に三刀流という稀有な剣術を駆使する()()()()()()───麦わらの一味の剣士"海賊狩り"のロロノア・ゾロである。

 

 現在、ゾロは鷹の目から免許皆伝を受け、再結集までの期間を修業の旅として過ごしているようだ。

 

 その矢先、たまたま立ち寄った島でキャベンディッシュに発見され、いきなり襲撃されたわけだが───懸賞金では劣るゾロだが、大剣豪"鷹の目"に鍛え上げられた彼は格段に強くなっており、キャベンディッシュを相手に余裕すら見せながら圧倒していた。

 

 ただ、すでに新世界入りしているはずの、ゾロ達より一世代上のキャベンディッシュが襲いかかってきた理由というのが、簡潔に述べたら妬みのようだ。

 

 ゾロ達麦わらの一味他、"最悪の世代"が世間を騒がせ始める約1年近く前、彗星の如く現れ世の女達を虜にしたキャベンディッシュの人気は凄まじいものがあった。主に女性達からの熱狂的な人気ではあるが…。

 ただ、最悪の世代が頭角を現し始め、そして先のマリンフォード頂上戦争によってすっかり影が薄くなってしまったようなのである。

 

 そしてそんな己の状況を、ナルシストで目立ちたがり屋な美しすぎるこの男が許せるはずもなく、どうやらわざわざ新世界から逆走して、最悪の世代討伐に乗り出したようだ。

 

 まず最初に麦わらの一味を狙っているのは、"落とし前戦争"後、四皇に名を連ねた最悪の世代最強の"黒ひげ"と同等の知名度と、まだ新世界入りしていないことが理由らしい。

 麦わらの一味の討伐を果たし、そして知名度を取り戻し───いや、麦わらの一味のトップ3である、ルフィ、サンジ、ゾロを打ち倒したとなれば、間違いなく以前よりも知名度が増す。再びキャベンディッシュフィーバーを巻き起こし、新世界に戻り、勢いそのままに残りの最悪の世代達を、そして黒ひげすらも討伐し四皇に名を連ねるのがキャベンディッシュの目的なのである。

 

 ただ悲しいかな───麦わらの一味を甘く見すぎていたのは、キャベンディッシュの失態だ。

 

 しかも、キャベンディッシュの思惑など、この()()にとってはどうでもいいらしい。

 

「おい、さっさと終わらせろよ!お腹空いた!」

「わーってるよ」

 

 激しい闘いではあるにはあるが、余裕のあるゾロは背後から急かしてくるピンク色の髪のゴスロリ服の女───"ゴーストプリンセス"のペローナに気だるげに返事を返し、決着をつけるべく刀を鞘に納める。

 

「どこまでもボクを虚仮にしてくれるなッ!やはりボクは、最悪の世代の中でもお前達麦わらの一味が大嫌いだッ!!」

「おれはお前と初めて会うはずだが?」

 

 そう、会うのは初めてだ。しかし、キャベンディッシュがゾロに向ける敵意は、最悪の世代であることを抜きにしても相当なものである。

 麦わらの一味に対して、キャベンディッシュは何故ここまでの憎しみを抱いているのか───正確には、麦わらの一味に所属する()()()に対してというべきか…。

 

「お前達はボクよりも目立っている!それだけで十分、万死に値する」

「完全に妬みじゃねェか」

「顔は良いのに残念な男だな」

 

 ただ、その嫉妬は歪みすぎたもので、ペローナですらこう口にする始末だ。

 

「何よりも玄脚ッ!アイツだけは絶対に許さない!!」

「はあ?エロコック?なら、エロコックを探せばいいだろうが…お前とアイツの間に何があったかなんて興味」

「金髪の王子様!女性達にモテる!ボクと丸かぶりではないかッ!!少し違う部分があるとしたら玄脚はワイルド系と言われているくらいだ!玄脚がジェルマ王国の王子であることが発覚したことで、ボクと玄脚は海賊界の王子様の二翼扱い!これまではボクの一強時代だったのにだぞ!?

 あ、言い忘れていたが、玄脚が麦わらの一味のコックであるせいで、料理ができるワイルドな王子様なんてどれだけ素敵なのかしらってボクよりも年上の女性にモテるとは…何たる屈辱!絶対に許すわけにはいかない!!」

 

 ゾロの興味がないという言葉を完全に無視し、一息に言いきったキャベンディッシュだが、その内容はあまりにも一方的な嫉妬でしかない。

 

 それを聞いたゾロは、呆れ果てて死んだ魚のような目を向けており、ペローナに至ってはまるでゴミでも見ているかのような───"海賊貴公子"には微塵も興味を持っていないことが窺える。

 

 数日前に、サンジが本当の王子であったことはペローナから教えられゾロも知っているが、ゾロにとってそれはどうでもいいことだ。ゾロにとってのサンジという存在は、絶対に負けたくない相手───ライバルであり、そして仲間なのだから。

 

「はあ…言いたいことはそれだけだな?」

「何だと?」

 

 刀を納めたゾロは目にも止まらぬ速さでキャベンディッシュの視界から消え、神速の居合いにてキャベンディッシュを斬り、友から受け継いだ刀───大業物"和道一文字"を静かに納刀する。

 

「がっ!?」

「【獅子歌歌(ししそんそん)

 …テメエじゃおれには勝てねェよ…アイツにもな」

 

 ゾロの背後にて、キャベンディッシュの体から舞う血飛沫。この勝負、ゾロの圧勝だ。

 

「ん?」

 

 だが、勝負は決した───かと思いきや、地に倒れ込みかけたキャベンディッシュが脅威的なスピードでゾロに襲いかかってきた。

 

「うおッ!?て、テメエ…いったい()だッ!?」

 

 たった今まで、ゾロと戦っていたキャベンディッシュとはまったく異なる雰囲気───禍々しさを放ちながら、比べ物にならない剣の才を披露するその存在。

 

「え、ど、どうなってんだよ!?」

「おれが知るかッ!!それよりもちょっと離れてろ!コイツは…さっきよりも遥かに強いッ!!」

 

 さすがは、新世界でもそれなりに有名な剣術の天才"海賊貴公子"キャベンディッシュといったところなのか…。

 今までとはまったく違う超スピードによる剣術に、ゾロも舌打ちする。

 

「え?」

 

 しかも、攻撃対象はゾロだけではなく無差別で、ペローナにまで襲いかかろうとする厄介極まりない狂人と化していた。

 

「テメエ…見境なしか」

 

 どうにかペローナを守ったゾロだが、その表情は怒りに満ち溢れ、対して凶悪化したキャベンディッシュは凶悪な笑みを浮かべている。

 

 左腕に巻いた手拭いを外し、頭に巻き本気モードに入るゾロ。全身から醸し出される殺気は、血に飢えた獣のそれだ。

 

「おれを倒して有名になるとか言ってやがったな…なら、おれも同じだ。テメエを斬って、エロコックを上回ってやるぜ」

 

 未来の大剣豪 VS 剣術の天才───切り裂き魔。

 

 翌日、この事件は大きく報道される。

 

 一般人相手に見境なく斬りかかる凶悪化したキャベンディッシュは、凶悪すぎるその一面から悪名を上げてしまうこととなり、悲しいことにそれまでの人気がより低迷し、逆に恐れられることとなってしまうのである。

 更新された手配書───3億を超えた懸賞金額も凶悪化した一面が大きいだろう。

 

 そして、そのキャベンディッシュを討ち取ったゾロは宣言通り、いや───懸賞金額は確かに更新されたが、残念ながらサンジには及ばなかったようだ。

 それでも、麦わらの一味のトップ3の厄介さを周囲に認識させるには十分なもの。

 

 再結集まで残すところあと約半年───麦わらの一味復活の時が近づく。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 翌日、偉大なる航路(グランドライン)前半部のとある島にて、優雅に朝食を堪能する姉弟2人。

 

 ジェルマ王国の王子と王女───サンジとレイジュは、和やかな雰囲気を醸し出しながら、注目を浴びていた。

 

「ん?お!マリモの奴、懸賞金が上がってるじゃねェか…何やらかしやがったんだ?」

 

 手配書の写真も隻眼のものに変更されており、懸賞金額もかなり上乗せされたものとのっている。

 

 "海賊狩りのゾロ"。懸賞金、3億6000万ベリー。

 

「へェ、サンジの仲間の"海賊狩り"じゃない」

 

 手配書を眺めるサンジの背後から、肩に顎を乗せ後ろから抱きついてるかのような───愛しいサンジに触れるレイジュは、実に幸せそうだ。

 

「近ェよ」

「いいじゃない、姉弟水入らずの旅行中なんだから」

「ったく」

 

 嫌そうな口振りながらも、表情は穏やかで───優しい笑みを浮かべているサンジ。

 今こうして、レイジュと姉弟の時間を過ごせているのは、サンジがジェルマ王国からレイジュを連れ出し、そしてレイジュの心境にも変化が起きたことがきっかけだ。

 

 大海賊として王たる風格も身に付けたサンジと、これまで逆らうことができなかった父親。ただ後者に至っては、レイジュはすでに愛想をつかしていた相手だ。

 そんなレイジュが、サンジがジェルマの兵力をものともしない程の大海賊へと成長し、そのサンジから唯一家族だと認められ、愛を注がれたならば、彼女の中で優先順位が変化してしまうのも当然だろう。

 

 科学は凄い。それは確かだ。しかし、愛に勝るものはやはりこの世には存在しないのではないだろうか…。

 ジェルマの科学も愛には勝てず、レイジュはサンジの愛によってジェルマから解き放たれたのだ。

 

「サンジ、私…とても幸せよ」

「そ…そうか」

 

 慈愛に満ちたとても美しいその笑顔に、姉だとわかっているサンジも心を奪われかけてしまう。

 それ程までに、レイジュの笑顔は美しく───そして、サンジと過ごすこの時間に心からの笑顔を浮かべていた。

 

「さて…ではレイジュ王女…お次はどこに行きますか?」

「ふふ、愛しのMr.プリンスと一緒ならどこでも幸せよ」

 

 再結集まで残すところ約半年。サンジは、束の間の楽しい一時を唯一の家族と堪能している。

 

 

 






サンジに連れ去られて、絶賛旅行満喫中のレイジュお姫様。これまでは父親に逆らえなかったけど、父親…だけではなく、ジェルマの兵力をものともしない強者に成長し、立派な王の資質を身に付けたサンジと再会し、レイジュの中で優先順位が確立され、サンジ至上主義となり、出奔?し、麦わらの一味再結集までの間、姉弟水入らずの旅行を心から楽しんでいる。

やはり、愛の力はどこまでも偉大で強大で無敵。

レイジュ「あら?私達の時間を邪魔しようだなんて…サンジ目当てみたいだけど、悪い虫ね。殺虫剤(レイジュ特製猛毒)でも撒いておこうかしら?」

10年以上もサンジに会えなかったのが原因か、何もしてやれなかったのに感謝していると言われたり、姉さんと言われたりされたのが原因か、色んなものがぶっ壊れてブラコンを覚醒。

サンジに群がるファン達を牽制。ただ、レイジュも綺麗だから当然男達が群がり、それをサンジが牽制。
サンジもレイジュ程ではないがシスコンに…。

でもちょっと効果が強すぎた。10年以上の歳月の影響は大きい。

レイジュ「理想の男?そんなものサンジ以外いないわ」

麦わらの一味再結集後、どうするかは未定。


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毎度お騒がせな



ぶっちゃけ、フランキーって結構ヤバイですよね…ロビンに次いで…と、個人的にそう思ってる。



 

 

 話題に事欠かないのは何もサンジ、ルフィ、ゾロの3人だけではない。それが麦わらの一味である。

 

 麦わらの一味にはトップ3の他に、"オハラ"唯一の生き残りである"悪魔の子"ニコ・ロビンも所属しており、更には彼の海賊王ゴール・D・ロジャーの───ロジャー海賊団の母船"オーロ・ジャクソン号"を設計した伝説の船大工トムの弟子の1人である"鉄人(サイボーグ)フランキー"も所属しているのだ。

 

 しかも、ニコ・ロビンは言わずもがなであるが、フランキーも"古代兵器プルトン"復活の鍵を握る超危険人物として政府、海軍に認識されている。麦わらの一味が世界政府、海軍から強く危険視されているのは、この2人の存在も大きいだろう。

 

 司法の島"エニエス・ロビー"で、捕らえられたフランキーは政府直轄の諜報機関"CP(サイファーポール)9"のメンバーの前で古代兵器の設計図を燃やした。

 しかし、政府はフランキーが設計図の写しを持っている可能性もあるのではないかと考えており、未だに───秘かにフランキーの身柄を狙っているようだ。

 

 そして今回、話題に事欠かない麦わらの一味の船員(クルー)がまたしても騒動を起こしているのだが、その人物こそがまさにその超危険人物───フランキーなのである。

 

「おいおい…いきなり懸賞金2億ベリーって…あの"変態"はいったい何をやらかしやがったんだ?」

「あら…サンジも7700万ベリーから一気に4億超えしたじゃない」

「いや…それは頂上戦争とかの一件で…って、今は俺の話はいい。問題はフランキーだ」

 

 そう、その変態ことフランキーの懸賞金額が更新され、麦わらの一味4人目の億超えを果たしてしまったのだ。

 ただ、その理由に関してはサンジも皆目見当もつかない。

 

「とりあえず、フランキーを助けに行かなくちゃなんねェ」

 

 フランキーの居場所の見当だけは───いや、前回の人生でどこに飛ばされたか聞いて知っているサンジはとりあえず、いきなり億超えしたフランキーを助けるべく、サニー号で向かうつもりのようである。

 

「付き合うわ」

 

 もちろん、サンジが行く先にレイジュも在りだ。

 

「レイジュ…覚悟はできてんのか?俺と一緒に行動してるだけでも問題だが、揃って海軍の奴らの前に姿を見せたら、お尋ね者確定だ。それでもいいのか?」

「今さらね。私はもう、ジェルマに縛られるつもりは一切ない。たとえ賞金首になろうとも、あなたと離れるつもりはないわ」

 

 どうやら、レイジュの麦わらの一味加入は確定的で、早くもジンベエの代わりが決定することとなったようだ。

 ただ、サンジからしたら嬉しくもあり、複雑な心境でもあるようで───最も、レイジュの真剣な眼差しに弱いサンジは、それを断れるはずがなく…。

 

「それで、場所は特定できてるの?」

「ああ…恐らく、フランキーは"未来国バルジモア"に飛ばされたはずだ」

「バルジモア…って、確かあの()()()()()の故郷じゃなかったかしら?」

「あ」

 

 現在、海軍本部の科学班のトップを務める天才科学者ベガパンク。その天才科学者の生まれ故郷にフランキーは飛ばされているはずなのだが───サンジは、場所の名前こそ覚えていたが、ベガパンクの故郷であることは失念していた。

 

 だが、レイジュのその発言により、フランキーの懸賞金がどうして跳ね上がったのか、サンジは1つの可能性を導き出すことができたようだ。

 

「どうしたの?」

「天才科学者ベガパンクの生まれ故郷…そんな場所に、()()()()はずがないよな。フランキーの野郎…もしかしたらとてつもなくヤベェ何かに手を出しちまった可能性もある。変態だが船大工としては超一流で、自分自身をサイボーグ化できちまう…アイツも間違いなく天才だ」

 

 前回の人生では起きなかったフランキーのこの一件。

 

 つい最近、ゾロの懸賞金が跳ね上がり、前回の人生の時よりも彼が強くなっていることが明らかになったように、フランキーも同じく───そして、フランキーの場合は政府と海軍に危険視される可能性が非常に高い要素があるのだ。

 

 若き日のベガパンクの研究資料を見て、フランキーがそれを完成させてしまっていたら───いきなり億超えした理由も説明がつくのである。

 

「まったく…あのお騒がせな変態め」

「お騒がせって…あなたには言われたくないと思うわよ?」

 

 ごもっともな意見だ。

 

 たった2人だけのサニー号を走らせ、サンジは仲間を救うべく未来国へと向かう。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 天才科学者ベガパンクの故郷"未来国バルジモア"。

 

 この国で、その天才科学者が開発したサイボーグ"パシフィスタ"を超える兵器が、とある()()()()()()()()の手によって開発された。

 

「ちッ、数の多さがハイパーだぜちくしょォ!!」

 

 ただ、海軍と世界政府の諜報機関"CP(サイファーポール)"相手に暴れ回るその兵器───"未来兵器(アイアンマン)フランキー"だが、力では勝っているものの、数では圧倒的に負けている状況に辟易しているようだ。

 

 だが、フランキーは顔を覆っていたヘルメットを収納し、不敵な笑みを浮かべる。

 すると今度は、全身を覆っていたアーマーまでもがフランキーの両乳首部分を中心に収納されていく。

 

「仕方ねェ!こうなりゃあ、"黒豹(ブラックパンサー)モード"だ!変ーーー体!!」

 

 そして今度は、赤と金の派手なデザインの流線型のスマートな外観から、黒豹を思わせる黒い外観に瞬時に変身───変体したフランキー。

 ベガパンクの資料の中にあった近未来の科学"ナノテクノロジー"を奇跡的に───変態的な閃きで完成させてしまったフランキーは、様々なバリエーションの変身を可能にしたのだ。

 

「な、何だアレは!?」

 

 驚愕するCP(サイファーポール)の工作員達だが、変身したフランキーは目にも止まらぬ速さで次々と敵を切り裂いていく。()()()()()()()()()()()()()()を誇る特殊な金属の爪と、それを全身に覆うことで無敵に近い防御力を見せるフランキーは銃撃や斬撃をものともせずに次々と、今までのフランキーからは想像もできないような格闘技術を見せつけるのである。

 

「へへッ!おかげで()()()()()()()()だ!ありがとよォ!!

【フランキー・ショックウェーブ】!!」

 

 攻撃を受ける度に、次第に紫色に輝き出したフランキーのアーマー。

 これは、受けた攻撃をエネルギーとして吸収することのできる、この"黒豹(ブラックパンサー)モード"の最大の特徴だ。

 

 飛び上がったフランキーは、地面に降り立つと同時にその拳を地に叩き付け、チャージしたエネルギを一気に放出する。

 

 その衝撃波はとつてもなく、敵の人数を一気に減らして見せた。

 

「今日のおれはスーパー絶好調だァ!」

 

 あのCP(サイファーポール)と海軍を相手に、独壇場の活躍を見せつける"未来兵器"フランキー。

 

「…ん?おお!!」

 

 そして、そんなフランキーの活躍に驚愕する人物達が居り、彼はその人物達に気付き、ヘルメットを収納して喜びを露にする。

 

「サンジじゃねェかッ!!お前どうしてバルジモアにいるんだ!?にしても男上げてんなァお前!!

 さすがは麦わらの一味の"玄脚(くろあし)"様ってか?ん?それと隣の別嬪な嬢ちゃんは…ああ、例のお前の姉ちゃんか?」

 

 フランキーの危機に駆けつけたサンジ───と、最愛の弟に同行してバルジモアにやって来た姉レイジュであったが、サンジはフランキーのあまりにもの変貌ぶりに愕然と───いや、唖然と───いや、とにかく驚いており、何をどう言ったらいいのかわからなくなっているようだ。

 

 その隣で驚くレイジュはただ純粋に、フランキーが披露した未来の科学───"ナノテクノロジー"に対して驚きを露にしているようである。ジェルマの英才教育によって、彼女も一流の科学者としての技能と頭脳を持っている。だからこそ、フランキーが完成させたそれの凄さがハッキリと理解でき、驚いているのだ。

 

「まさかお前が来てくれるとは驚きだぜ!けど、ちょっと待っててくれ!すぐに片付けるからよッ!!」

 

 そう口にしながら、フランキーはサンジも目を見張るほどの格闘技術を見せながらあっという間に敵を全滅させるのである。

 

 フランキーの懸賞金が跳ね上がった理由を、サンジはそれを目の当たりにしたことで理解した。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 未来国バルジモア。

 

 フランキーが現在、拠点としている海軍の天才科学者ベガパンクの秘密の研究所にて、サンジはフランキーとの再会を果たしていた。

 

「で、奇跡的に完成させちまった未来の科学力を試す為に、飛行訓練を行ってたら世界政府と海軍に目をつけられ、それでこの島に潜伏してることがバレて今に至ると?」

「そういうこったなァ。いやーしかし、サンジの姉ちゃんがおれと話の合う奴で良かったぜ!!」

「実に興味深いわ。"ナノテクノロジー"は完成させるのに数十年…いえ、下手をしたらあと100年単位の月日が必要とされると言われてるんだもの」

 

 興奮気味にそう口にするレイジュではあるが、彼女はフランキーの両乳首をまじまじと───あくまで科学者として観察している。

 

「レイジュに何てもん見せてんだよ変態!!」

「よせよ…照れるじゃねェか」

「誉めてねェよッど変態!!」

 

 最も、その箇所に釘付けなレイジュもレイジュだろう。

 

「サンジ、あなたも素晴らしい食材や料理に出会ったら目を…心を奪われてしまうでしょ?それと一緒よ」

「その気持ちはわかるが納得できるかァ!!」

 

 端から見たらただの変態でしかないのだ。まさかレイジュにこのような、科学に対してのオタクっぽさがあることを初めて知ったサンジは、フランキーに会わせてしまったことを後悔することとなった。ただ、もう時すでに遅し。

 

「あなたとは話が合いそうだわ、フランキー。これからよろしくお願いするわね」

「おうよッ!いやァ、一味にメカニックがもう1人加わるとはッ!しかもこんな別嬪なら大歓迎だ!!」

「ふふ、誉めても何もでないわよ、変態さん」

「よせやいッ!!」

 

 思いの外に意気投合する2人にサンジは愕然とするしかなかった。

 

 それはそうと話は戻り、フランキーの懸賞金が一気に跳ね上がってしまった原因だが、未来の科学を奇跡的に完成させてしまったこともあるようだが、やはりエニエス・ロビーでの一件───フランキーが船大工トムの弟子であることも深く関係しているとのことだ。

 

 世界政府の諜報機関"CP(サイファーポール)"は、フランキーが古代兵器"プルトン"の設計図の写しを所持していると考えているのである。

 ただ、その予想が正しいかは別として、その写しを持っているかもしれないと予想される人物は()()()()この世界に存在している。

 フランキーの兄弟弟子であり、ウォーターセブンの市長───アイスバーグだ。ただ、後者に関しては前回の一件もあり、非常に手出しできにくい状況だ。

 

 そもそも、政府にも居場所が把握され───ハッキリしているアイスバーグが、そんな危険な設計図を手元に置いておくとも考えにくい。裏をかいている可能性もあるだろうが、やはり持っているとしたら居場所を特定しづらいフランキーの方だろう。前回の一件もあり尚のことだ。

 

「で…その古代兵器の設計図の写しを本当にお前は持ってんのか?」

「そんな危険な設計図の写しなんて持ってねェ…と、言いてェとこなんだが…」

「ま、マジで持ってんのかよ!?」

「設計図の写しは、正確には持ってないのは確かだ…が…」

 

 フランキーは一呼吸起き、そして口ではなく、とある仕草でサンジに真相を告げる。

 フランキーはこの島で改造を施し、アップグレードしてスマートになった体の一部を使って、指で頭を叩くことでサンジとレイジュを驚かせるのである。

 

「ま…まさか…図面を…記憶してんのか?」

「おれァ船大工だ。それも超一流の船大工トムさんに鍛え上げられたな。一度見た設計図は絶対にわすれねェ」

 

 そう言い切ったフランキー。

 

 しかし、これは実に大事だとサンジは理解する。サンジにとっては大切な仲間だが、世界政府からしたら超危険人物が2人も一味に所属していることになるのだ。

 

 世界政府と海軍は今でも躍起になって、2人を捕らえようとしている。ついさっきのフランキーを狙っての襲撃でもそれは明白だ。その上、2人を捕らえられないならばと、海賊の手に渡るくらいならばとまた何時、"バスターコール"を───下手をしたらそれ以上の力を持った総攻撃を仕掛けられる可能性もあるだろう。

 

「はあ…ウソップとチョッパー…ナミさんが聞いたら絶対に絶叫すんぞ」

「かもな」

「だが…お前のと違って危険な代物じゃねェが、おれも一度見たレシピを絶対に忘れることはねェ。

 おれは超一流の料理人で、お前は超一流の船大工…自分の腕に強い誇りを持ったプロだ。プロにとっちゃあ、仕方ねェことなのかもしれねェな。超一流だからこそ、二流、三流の奴らとその規模が違いすぎてしまう」

 

 フランキーは確かに超危険人物だ。それも、現在世界で唯一"歴史の本文(ポーネグリフ)"を読めるニコ・ロビンと同等か、下手をしたらそれ以上の…。

 

 だが、フランキーは決して、世界に混乱を与えるような真似はしないだろう。もう二度と、()()()()を犯すつもりはないのだ。

 

「もし…"プルトン"が誰かの手によって呼び起こされた場合…どうしようもねェクズ野郎…スパンダのような奴の手にそれが渡ってしまった場合…そんな最悪の事態が訪れねェ限り、おれはプルトンの設計図を墓場まで持ってくつもりだ。

 だからよ…サンジ、レイジュ姫さんよォ…この事はどうか3人だけの秘密にしてくれ。最悪の事態が訪れない限り…絶対に誰にも話さないでくれ…これはおれの覚悟で…今は亡きトムさんに誓ったことだから」

 

 そう口にしたフランキーの瞳はいつになく真剣なもので、サンジとレイジュも真っ直ぐ、決して反らすことなくその瞳を捉えていた。

 

「わかった。お前の覚悟はしっかりと受け取ったぜ。この事は絶対に…最悪の事態が訪れない限り絶対に、ナミさんにもロビンちゃんにも…ルフィ達にも秘密にすると誓う」

「なら私は、サンジに誓うわ。この秘密を絶対に誰にも洩らさないことを」

 

 たとえそれが仲間であろうとも───だが、人間誰しも1つや2つ、話したくないことや秘密にしておきたいことは必ずある。

 

 フランキーにとってこれがその1つであり、そしてたまたま───それがあまりにも規格外な内容だっただけだ。

 

 覚悟を汲み取ったサンジとレイジュは約束を必ず守ることをこの場で誓い、この秘密を守り抜くのである。

 

「お…噂をすれば…どうやら、()()が到着したらしいな」

「そうみたいね」

「お前らよくわかったな。それが…"覇気"ってやつか?おれも覚えといた方がいいかもしれねェな」

「なら、シャボンディ諸島に集まるまであと数ヶ月あるから、俺とレイジュが教えてやるよ。

 どうせ、もうこの島にはいられねェだろ?どっかの無人島で、しばらく修業しようぜ。

 幸い、サニー号は回収してあるしな」

「おお!気が利くじゃねェか!サニー号に新機能搭載したかったし助かるぜ!!」

 

 そして3人は、この島をあとにする。

 

 ただ、ベガパンクの研究所にフランキーが居座っていたことが発覚し、世界の宝と言っても過言ではない設計図を見たであろうことも危険視され、後日───フランキーの懸賞金は再び更新されてしまうのである。

 

 "未来兵器(アイアンマン)"フランキー。懸賞金3億9000万ベリー。

 

 ゾロより高くなってしまったのは、それだけ政府、海軍にとって危険な人物だからである。

 

 






ベガパンクの資料見てるわけだし、それを参考に自分をカスタマイズ…アップグレードしたわけだし。
何より、CP(サイファーポール)が諦めるとは思えない。ってことで、フランキーの設定をちょっと盛っております。ただ、変態だけど腕は確かで天才なのも事実。

ってことで、ベガパンクの資料の中にナノテクノロジーについて記されたものがあり、それを読んでしまったフランキーが変態的な閃きで奇跡的に完成させてしまったという。
そして、ナノテクによる鉄の男モードだけではなく、ベガパンクの動物サイボーグを参考に、黒豹モードやら蜘蛛男モードなるものまでも開発。

フランキーの両乳首にナノテクスイッチ───ナノ粒子の格納ユニットが搭載されている。

アイアンマン化どころか、MCU化したフランキー。とてもヤバイ存在に!!

レイジュはフランキーの両乳首が気になって仕方がない模様。


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海導(うみしるべ)・前編



今現在の、麦わらの一味懸賞金ランキングトップ4。

1位、ルフィ。5億5600万ベリー。
2位、サンジ。5億3200万ベリー。
3位、フランキー。3億9000万ベリー。
4位、ゾロ。3億6000万ベリー。

そして、すいません。前話にて報告もなく…新世界編…に、そろそろ入ることになりそうです!まだ一応、3D2Y編です!そろそろ…ね、そろそろ。

けど、オリジナル編頑張れてますよね!?どうかな!?ん?ん?www



 

 

 もうすぐ───2年の月日が流れ…。

 

「そろそろ…か。チビナス…麦わら達が再び結集する」

 

 場所は"東の海(イーストブルー)"のとある海域。海上レストラン"バラティエ"。

 

 料理長の部屋にて、オーナー・ゼフは静かに呟いた。

 

 約2年前、マリンフォードにて勃発した世紀の頂上戦争後、チビナスこと───サンジがルフィと"冥王"シルバーズ・レイリーと共にマリンフォードを再襲撃した事件。

 その事件の際、新聞の一面をデカデカと飾っていたルフィの写真を見たゼフは、その事件から数ヶ月後に、サンジ達がどうしてあのような事件を起こしたのか───その理由に気付くことができたようだ。

 

 サンジやルフィ、個人としては目立っていたが、麦わらの一味としてはすっかり目立たなくなっていたのも、ゼフがそれに気付けた要因だろう。

 その証拠に、サンジやルフィの他の仲間達も少しずつ、再び世間を賑わせ始めているのである。

 

()()()()()()()()()()…あのチビナスが…アイツらが世界を相手にどれだけのバカをやらかすのか…見物だな」

 

 引き出しに大切そうにしまってあるサンジの手配書を取り出したゼフは頬を緩ませていた。

 

「死ぬなよ…サンジ」

 

 遠く離れた場所にいる大切な()()を想いながら…。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 "NEO海軍"。

 

 元海軍大将ゼファーが海軍を抜け、海賊の殲滅のみを目的とし設立した組織だ。海賊の殲滅の為であればいかなる犠牲も───一般人や海兵達の犠牲も厭わないという超過激派である。

 

 そのNEO海軍は、普段は偉大なる航路(グランドライン)の後半部"新世界"にて活動しているのだが───今は()()()()()から前半部へと拠点を移し活動していた。

 

()()()()()()()()()()()を確認。ただ、船に乗っている船員(クルー)は、"海賊狩り"、"未来兵器(アイアンマン)"、"毒姫"、あと手配書には載ってない()()()()()()()…そして…"玄脚(くろあし)"の計5人です」

「そうか。どうやら、おれの予想は正しかったらしいな。"麦わらの一味"は、間違いなく近々再結集し、そして新世界に乗り込むつもりなのだろう」

 

 ここ1年以上、まったく音沙汰のなかった超問題児一味が再び、個々にではあるが騒ぎを起こし始めた。

 

 海賊狩りのゾロによる"ロンメルのカマイタチ"討伐。ロンメルのカマイタチの正体が"海賊貴公子"キャベンディッシュであったことが発覚した衝撃的な事件であったが、懸賞金額では格上だったそのキャベンディッシュをゾロが撃破し、懸賞金額以上の実力を有していることを見せつけたのである。

 この事件がきっかけで、ゾロの懸賞金も3億6000万ベリーに更新された。

 ちなみに、"人斬り"と改名されたキャベンディッシュは、ゾロに敗北するも、どうにか海軍から逃げ切ったようだ。

 

 そして、未来国バルジモアで起きた前代未聞の大事件。"未来兵器(アイアンマン)"フランキーによる、海軍の天才科学者ベガパンクの研究資料盗難事件。

 ただフランキーは、全ての研究資料を読破しただけで盗んでいないのだが、世界政府と海軍からしたら海賊に資料を見られてしまっただけでも見逃せなかったのだろう。

 現に、フランキーは数十年先の───いや、下手をしたら100年単位もの未来(さき)の科学を完成させてしまったのである。この重大事件が原因で、フランキーがゾロの懸賞金を上回ってしまったのは当然だ。

 

 フランキーを助ける為にバルジモアを訪れたサンジとレイジュ姉弟も海軍と世界政府の諜報機関"CP(サイファーポール)"との戦いに参戦したことでレイジュが賞金首となり、1億1300万ベリーの懸賞金を懸けられ麦わらの一味の船員と認識されたのも当然の結果である。

 

 毎度、これだけ大きな騒ぎを起こせば強大な敵が待ち構えているのは仕方ない。

 

「どうされます?」

「船もろとも海の藻屑にする」

 

 そして、麦わらの一味の再結集を読んでいたこの老齢な紫色の髪の巨漢───右腕に巨大な"海楼石"製のスマッシャーを装着したこの男こそ、伝説の元海軍大将───現在の海軍を支える屈強な海兵達を世に送り出した存在だ。

 

 現役時代───弱冠38歳で海軍最高戦力である本部大将にまで上り詰めたゼファーは、海賊達からこう呼ばれ恐れられた存在である。

 

 "黒腕のゼファー"。

 

「慈悲は一切無用…容赦などするな。少しでも隙を見せたならば、こちらが狩られかねん…それ程の奴らだ」

 

 だが、そのゼファーですらも全員揃っていない麦わらの一味の船員達に最大限の警戒を見せる。

 かなり離れてはいるが、サニー号から強大な力を感じ取っているのだ。腹を極限まで空かせた獰猛な猛獣のような───血に飢えた獣のような獰猛な覇気。

 そしてもう1つ───洗練された王の資質。

 

 この2つの強大な覇気に、ゼファーはここ最近では見せることのなかった───いや、部下達も初めて見る、かつて海軍大将だった頃のような真剣な表情を部下達に見せる。

 

 その表情から、部下達もこれから相手にする海賊達がそれ程の強大な相手なのだと悟り、緊張感が増す。

 

「…!気付いたか。どうやら、奴らはその噂に違わず、相当な実力者のようだ。

 構わん、砲撃開始だァ!!」

「はい、一斉に砲撃開始ッ!!」

 

 ゼファーと、ゼファーの右腕的存在のNEO海軍バイス・アドミラル───青髪の美女アインの指示にて、海賊"麦わらの一味"の母船への一斉砲撃が開始された。

 

 全員揃っていない麦わらの一味 VS 元海軍大将ゼファー率いるNEO海軍───いざ、開戦。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 昼寝にはもってこいな穏やかな陽気───だが、その穏やかさは一転し、殺伐としたものへと変化する。

 

「ハッ!美女が俺を狙っている!!」

 

 やはり一番最初に気付いたのは、現在この船───麦わらの一味の母船"サウザンド・サニー号"内で一番の実力者であるサンジだ。

 

「エロコックがまたアホ…!」

 

 数日前、とある島でサンジ、フランキー、そして新たに仲間に加わる予定のサンジの姉レイジュと偶然にも遭遇したゾロは、修業の旅に付き合ってもらっていた"ゴースト・プリンセス"のペローナと共に2年ぶりのサニー号へと帰還し、こうして残りの期間を過ごしている。

 

 再会したサンジは圧倒的な強さを身に付けており、ゾロはますます対抗心を燃やしているようだが、女に対してのサンジの反応は相変わらずだと思ったところ───どうやら、彼も見聞色の覇気で己達が狙われていることに気付いたようだ。

 

「…強ェのがいんな…()()

「ああ。数は多いが他は大したことねェ…が、その1人がかなり強そうだ」

 

 真剣な表情でその方角を見据えるサンジとゾロ。その方角には確かに、船が数隻───形状からして、軍艦に見えるそれを目にしたサンジとゾロは、気を引き締める。

 

 船長不在のサニー号。再結集の瞬間が迫るなか、この船を傷つけるわけにも、況してや一味の誰かが欠けるなど言語道断。

 しかし、新世界に乗り込む海賊として、引くわけにもいかない。たとえ相手が、どんなに強敵あろうともだ。

 

「お前らッ気を引き締めろ!撃ってくんぞ!!」

 

 サンジが指揮を執ることに誰1人として反感を持つ者はいない。たまたまこの船に乗っているペローナだけは嫌々───いや、どこ吹く風といった様子だ。

 

「へっ、全部斬ってやるよ」

 

 舌なめずりするゾロが妖刀"三代鬼徹"を抜き、瞳をギラリ───と、怪しく輝かせる。

 

「【鉄の男(アイアンマン)モード】!!

 サニー号は絶対に傷つけさせねェ!全部、おれが撃ち落としてやる!!」

 

 両乳首からナノ粒子を展開させ、赤と金のカラーリングのアーマを身に纏った未来兵器へと瞬時に変身───変体したフランキー。準備万端だ。

 バルジモアで完成させた"ナノテクノロジー"は、変身する者にとっての悩みである変身する間の時間という隙すらも、付け入る隙のないものにしており、政府と海軍が危険視するのもこれだけで頷けてしまう。

 

「私にとっての初陣ね」

 

 フランキーの協力で、ジェルマの傑作"レイドスーツ"をナノテクノロジー式にしたレイジュも瞬時に変身。

 どうやら、レイジュはフランキーとは違い首飾り式のナノ粒子格納ユニットのようだが、その案はもちろんサンジによるものだ。

 敵を前に好戦的な笑みを浮かべるレイジュは、もうすっかりと海賊が───麦わらの一味の船員であることが板についているかのようだ。

 

 対して、サニー号に乗っているもう1人の女───ペローナはというと…。

 

「私は絶対に何もしないからな。まあ精々4人で頑張れよ」

 

 さっきからまったく動じた様子を見せず、そう呟きながら優雅にサンジの用意した紅茶を啜っている。

 

「それにしても…あのマーク…海賊だよな?逆さにした海軍旗に剣が刺さった髑髏マークだけど…」

 

 一応、双眼鏡でどんな相手かだけ確認していたペローナだが、サンジとレイジュは驚きを露にする。

 

「まさか…奴らがどうして前半の海にいやがる?」

「拠点は新世界のはず…あの組織は海賊殲滅を目的にしているのは確かだけど…まさか、私達に標的を絞って前半の海にまでやって来たの?」

「知ってんのか?」

 

 レイジュはこのメンバーの中で唯一、新世界にも足を踏み入れたことがあるのだから知っているのは当然で、サンジに至ってはある意味では新世界を経験───前回の経験と、そして前回の人生で戦ったのだから知っていて当然だ。

 

 ゾロもフランキーも、サンジが情報通だからと思っているだろうが…。

 

「元海軍大将ゼファー」

「元海軍大将!?」

 

 驚くフランキーとは違い、ゾロは好戦的な笑みを浮かべ斬る気満々のご様子だ。

 

「へェ…そりゃあ斬り甲斐のある敵じゃねェか」

「ただ、ゼファーは海軍を抜けてNEO海軍を立ち上げた。それも、一般人への被害も、犠牲も厭わない危険極まりない組織。今ではかつての仲間だった海軍ですら危険視している人物よ。ゼファーの目的は海賊の殲滅…大海賊時代に終止符を打つこと…」

 

 その目的の為に、どれだけの血が流れてきたか…。

 

 ただ、それだけの危険人物でありながらも、賞金首になっていないのはかつての仲間に対する情けか───それとも、ゼファーが危険人物に変貌してしまった要因が世界政府と海軍にあるからなのか…。

 

「来るぞ!!」

 

 誰よりも海軍の正義を信じた男と称される、誰よりも立派な海兵だった男が───ただ、海賊殲滅という目的の為に、犠牲を一切厭わずに、海賊に牙を剥く。

 

 

 *

 

 

 やはり、元海軍ということもあり、NEO海軍の集中放火は凄まじいものがあり、サニー号に迫ってくる。

 

 ただ、一方的に砲撃を受けながらも、サンジ達は余裕な表情だ。

 

 この程度の集中放火───サンジ達にとっては大したものではないらしい。

 

「そろそろこっちから仕掛けるぞ…フランキー!」

「おう!!サニー号の新機能…"スクリュープロペラ"の初お披露目だ!!」

 

 外輪は"抗力"による推進器で、つまり回転に平行───回転軸に垂直な推進力を生むが、サニー号の新機能であるスクリュープロペラは、船尾部のプロペラが回転に垂直───回転軸に平行な推進力を生む"揚力"を使う為に、外輪船(パドルシップ)とは大きな違いがある。

 

 だが、このスクリュープロペラによって、外輪船では出せないスピードをサニー号は可能にしたのである。

 最も、この機能を使っての長時間の航海は無理があるが、プロペラの動力であるバッテリーに関しては、サンジの電撃で充電可能な為に無駄な出費が出ることはない。

 サンジがしばらく電撃を放ち続けなければいけないだけだ。

 

「レイジュとフランキーはそのままサニー号に残って迎撃してくれ!フランキーは他の敵船にロケットランチャーでも何でもいいからブッ放せ!俺とマリモで向こうに乗り込むぞ!!」

「足引っ張るんじゃねェぞ…エロコック」

「了解。サンジ、気を付けて」

「っしゃァ、こっちは任せとけ!!」

 

 たった4人でNEO海軍を相手にするのだから、ゾロもそれに従うのである。

 

 瞬く間にNEO海軍の本船の側まで近づいたサニー号。そこから、怒濤の反撃へと転ずるのだ。

 

「行くぜ!【空中歩行(スカイウォーク)稲妻(ライトニング)】!!」

 

 目にも止まらぬ速さで宙を駆け、敵船に降り立ったサンジと、"鉄の男(アイアンマン)モード"で空を飛ぶフランキーに本船まで瞬時に運んでもらったゾロ。フランキーはそのままサニー号に戻り、さっそく他の敵船へと攻撃を開始する。

 

「バッサリ行くぜェ!

【フランキー・レーザーカッター】!!」

 

 手首から赤く鋭い光線を放ち敵船を一刀両断にするフランキー。フランキーの見事な化学力にレイジュは目を輝かせていた。

 

「まあ!」

「凄ェだろ?だが、カートリッジ式だから2発が限界だ」

 

 軍艦の内と外───凄まじい反撃の狼煙が上がる。

 

 降り立ったサンジは、雑魚は相手にせずに"覇王色の覇気"で威嚇し気絶させ、それでも倒れなかった者達も瞬く間に一掃する。

 

「【小悪魔風脚(プティ・ディアブルジャンブ)飾り切り(トゥルネ)】!

 雑魚はすっこんでろッ!!」

 

 サンジは甲板に手を突き、回転しながら斬れる竜巻を発生させる。向かってくる敵を切り裂く竜巻は止まることなく猛威を振るい、若くして大海賊の仲間入りを果たしたサンジの力を見せつけていた。

 

「あの野郎…【黒縄(こくじょう)・大龍巻き】!!」

 

 そしてゾロも負けじと、斬撃を伴った巨大な竜巻を発生させ、サンジに続く。

 

 今や、サンジとゾロという存在は、ルフィの評判を一層高める広告塔のようなものだ。

 

「来たか玄脚(くろあし)ィィ!!」

 

 そのサンジに一直線に向かってくるのは伝説の海兵───サンジと同じ、"黒"を異名に持つ男だ。

 

「ジジイだろうが遠慮なんて一切しねェぞ!テメエら"()()()()"の恐ろしさは経験済みだからなァ!!」

 

 全盛期の強さをその身で味わったわけではない。

 

 しかし、サンジは老いても尚───海軍大将クラスの力を持つ伝説達の力をその身で味わっているのだ。

 それも、師匠のレイリーだけではなく、金獅子と赤の伯爵といった豪華顔触れだ。

 

「おらアァ!!」

「ぬうんッ!!」

 

 サンジの玄脚と、ゼファーの"スマッシャー"が真っ向から衝突し、けたたましい海へと轟音が響き渡る。

 

「貴様ら海のゴミ屑に生きている価値などないッ!!」

「一般人まで巻き込む海賊と大して変わらねェような奴に言われたかねェんだよッ!!」

「貴様ら海賊と一緒にするなァ!!」

 

 老いなどまったく感じさせないような俊敏さを───元海軍大将の実力を見せるゼファーの凄まじい猛攻。

 しかし、サンジは"最悪の世代"最強格の1人。ゼファー相手に互角以上に渡り合う───いや、寧ろ圧している。

 

 そもそも、無能力者であるサンジに巨大な海楼石製のスマッシャーはほとんど意味を為さない。

 無能力者で、攻撃力、機動力、頭脳───全てに於いて突出しているサンジは、ゼファーにとって実にやりにくい相手だろう。サンジ相手では、スマッシャーも鈍重な武器でしかないのだ。

 

 その上、金獅子、赤の伯爵との死闘を乗り越えて、サンジは更に成長したのである。

 ダイヤモンド並の硬度を持つとされる海楼石も、サンジの玄脚からしたら鉄や石ころと大きな大差はない。

 

「邪魔くせェ武器はブッ壊してやるよ!

【"武装(トロワ)"・悪魔風脚(ディアブルジャンブ)・"熔融(デグラッセ)"クラリフィエ=ショット】!!」

「ぐっ!?」

 

 禁忌の蹴り技によってスマッシャーを溶かしたサンジは続けてゼファーへと蹴りをお見舞いする。

 

「隙だらけだぜ元大将さんよォ!!

【"武装(ドゥー)"・悪魔風脚(ディアブルジャンブ)・"点火(フランベ)"スュエ=ショット】!!」

「ぐおォ!!」

 

 サンジの蹴りが腹部に叩き込まれたと同時に、爆発したかのように激しい炎が上がる。

 

 武装色の覇気をより鍛えることで可能とされる衝撃波を利用しての一撃は、爆発する蹴りだ。

 

「ゼット先生!!」

 

 深いダメージを負ったゼファーのもとに駆けつける青髪の美女───ゼファーの右腕であるアイン。

 このような状況でなければ、サンジは目をハートにして体をくねらせていたことだろう。

 

 だが、その美女───アインの予想外の行動で事態は一転してしまう。

 これもまた、前回なかった展開だ。

 

「ッ…ゼット先生…()()()()()()

「よ…せ…アイン」

 

 そのアインは満身創痍のゼファーに意を決した表情を向け、そして聞き取れない声で呟きながら、ゼファーが止めるのを無視し、()()()()()()()()()()

 

「ッ、しまった!!」

「あ?どうしたんだよエロ…ッ!?」

 

 雑魚達を一掃したゾロも異変をすぐに感じ取ったようだ。

 

 老いても尚、さすがは元大将───そう思わせていたゼファーが()()()()()()()()()、サンジとゾロの目の前に立っているのである。

 

 海軍大将"黒腕のゼファー"が───ここに現れた。

 

 






新入りながらランキング5位にレイジュ。
"毒姫"1億1300万ベリー。誕生日、11月30日らしい。ポイズンピンクの名はあまり好きじゃなかったから、少しマシになったことにホッとしてる。立派な麦わらの一味ですね。

そして、ゾロの修業の旅に同行し、モリア探しをしていたペローナ。たまたまサンジ達と合流することができ、サニー号に一時的なつもりで乗ることに…けど、これが彼女にとっての悲劇の始まりだった。

サニー号に乗り、NEO海軍に発見される=麦わらの一味の新入り=海賊=殲滅対象。

そしてNEO海軍といえば、やはりゼファー先生。わたくし…大好きです。
Film Zは、最後のゼファー先生vs海軍のとこで、しかもあの過激派のドーベルマン中将が涙流すところで貰い泣きしてしまいました。あれは反則でしょう。

本来なら、ゼファー先生はアインの能力で戻ることを望まないでしょう。能力に頼るの好きじゃないようなので。
ただ、いてもたってもいられなくなったアイン。3回触れて、ゼファーが38歳に戻ります。
38歳といえば、ゼファーが海軍大将になった年齢です。


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