Rider Time 仮面ライダーディケイド『彼等の物語』 (banjo-da)
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20XX:ISの世界

「また会おう、元気でな。」

 

その言葉を最後に、その男(・・・)はオーロラと共に姿を消した。

未来の魔王と、未来の救世主。彼らとこの男の再会が何時になるのか……或いは、もう二度と出会う事は無いのか。この時点では、それは誰にも分からない。

 

けれど、それは仕方の無い事だ。

 

 

 

彼は世界の破壊者であり

───────実に気紛れな、

『通りすがりの仮面ライダー』なのだから。

 

 

「さて。アイツらに関しては、暫く様子見だな。次は何処に行こうか……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『神様転生』……読んで字の如く神様が転生する、ってワケじゃない。

神の気紛れや手違いで死んでしまった人間が、特典付きで別の世界に転生する…最近流行りの(勿論流行りと言っても、漫画とかアニメとかそういうコンテンツを好む人達の中での話。世間一般の流行ではない)異世界転生もの、その中でも割と鉄板のジャンルらしい。

 

勿論、そんな御都合主義は作り話の中だけ。現実に起こるなんて有り得ない……実際に体験するまではそう思ってた。

そう、俺───『小野寺進ノ介』も転生者なのだ。

 

 

 

あの日の事は決して忘れない。

最後の記憶は、道路へ飛び出した子供に迫るトラック。運転手が居眠りでもしてたのか、全くスピードを緩める事の無いトラックから子供を助けようと自分も道路へ飛び出し………子供を歩道へ突き飛ばした後、意識が途切れた。

意識を取り戻した俺を待ってたのは、真っ白な不思議な空間。俺と同じ様に混乱した様子の同い年くらいの少年。

そして、神を名乗る胡散臭い男だった。

 

『君達は私の方の手違いで死んでしまった…本当に申し訳無い。……お詫びに、この()を特典として転生させてあげよう』

 

…正直俺としては、転生じゃなくて普通に生き返らせて欲しかった。学校の勉強は面倒だけど、友達も居るし家族も居る。やりかけのゲームも、新刊を楽しみにしてた漫画もあれば、好きな子に良い所見せようとして買ったギターもまだ全然触ってない…あれ高かったのに。

 

けどもう一人は凄く乗り気だった。どうも元々そういう漫画やラノベにハマってて、彼としては願ったり叶ったりらしい。

 

 

 

─────そんなワケで、今俺達は『ISの世界』に転生して暮らしている。

IS…正式名称『インフィニット・ストラトス』は、簡単に言うと女性にしか扱えないパワードスーツで、この世界では現在最強の平気らしい。女性にしか扱えないという関係から、それで武装した女性に男性は勝てない……ってとこが原因で、段々と世の中の風潮が女尊男卑に変わってしまったようだ。

 

もう一人の転生者の彼が言うには、この世界は元々俺達が生きてた世界で有名なラノベらしい。

現在この世界では、本来女性にしか使えないISを使える男性が3人。

織村一夏───本来この世界で唯一の男性IS操縦者であり、転生者の彼が言うにはこの世界の主人公らしい。

けど、そこに想定外の男性操縦者が2人増えた───無論、俺達だ。

 

そんな俺達は、保護という名目でIS操縦士育成機関…通称IS学園へと入学させられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「何だ小野寺、元気無いな?」

 

「そういうお前は元気そうだな…東條。」

 

ウキウキした表情で話し掛けてくるこの男は東條正宗。

俺と共にこの世界へと転生した、もう一人の人間。

容姿も頭脳も身体能力も普通な俺と比較して、結構なイケメンだし頭の回転も良い。誰とでも分け隔てなく接する紳士的な対応から、男尊女卑の広まったこの世界にも関わらず、かなり早い段階でクラスのほぼ全員と打ち解けていたコミュ力お化け。

 

俺もこいつは嫌いでは無いし、実際友人としては仲が良い。

答えとしては歯切れが悪い?仕方無い…これには理由がある。

 

「そりゃそうだろ!何たって今日は、俺が転生してからずっと待ち焦がれていた日……最推しヒロインが転入して来る日だからな!」

 

興奮した様子で、けれど周りには聞かれぬ様小声で話し掛けてくる東條。

 

─────俺がコイツと一線引いてる理由はこれだ。

別にコイツがオタクだったからじゃない。何て言うか…『転生者』である事を意識し過ぎて、ここでの現実を何処か現実と理解していないような…そんな感じがする。

何て言えばいいかな…『ゲームに入り込む程熱中しながらも、心の何処かでは"所詮ゲーム"って冷えた感情が有る』…というか。うん、上手く言えない。

でも別に悪い事とは思わない。きっと俺も逆の立場なら、コイツと同じ様に感じたかもしれない…俺が所謂『原作』を知らないから、こう思っているだけなのかも。

そう思いつつも、どうしても何か線引きしてしまう自分に嫌気が差す。

そんなネガティブな思考を振り払う様に、俺は振られた話に相槌を打つことにした。

 

「…最推し、ねぇ。てか、前に聞いた別のアニメのヒロインにも最推しつってなかった?」

 

「細かい事は良いんだよ!それでな……」

 

そこまで東條が言いかけた所で呼び鈴が鳴る。

この世界の誰もが畏怖を抱く最強の担任から鉄槌を食らわぬ様に、慌ただしい教室が一斉に静かになった。

 

それと同時に、二人の女性が教室へと入って来る。

何処か天然な空気を纏った穏やかそうな女性は、我等が副担任山田先生。初めて見たときは、その緑色の髪(地毛らしい)と、胸元の巨大な(以下自粛)に、原作知識の無い俺は驚いたものだ。

そしてもう一人。『凛』という言葉を体現したかの様な…圧倒的な美貌と、それ以上に冷たく纏う空気が特徴的な女性。武道の達人とか、戦場に身を置いた人物なら…というか、そんな経験皆無でも。誰もが「この人を敵に回してはいけない」と本能的に理解させられる…それもその筈、元とはいえ世界最強の女性。

このクラスの担任、織斑千冬先生。

その圧倒的な強さ、美貌、カリスマで、数多くの生徒から畏敬の念を抱かれる存在だ。

 

等と、俺が脳内で一人勝手に先生の紹介をしている間にSHRは進んでたらしい。

簡単な伝達事項の後、山田先生が少し興奮した様子で皆へ呼び掛ける。

 

「……以上です。該当する人は、放課後職員室まで来て下さいね!

───────それと!今日は皆さんに、新しいお友達を紹介します!それも二人!」

 

途端にガヤガヤと騒がしくなる教室。無理もない。

まだ入学からそう経ってもいないのに、転入生。それも二人同日にだ。

しかも先月二組に鈴…一夏の幼馴染みがやって来てからの期間を考えると、明らかに短過ぎる。

俺だって東條から聞いてなきゃ、皆と一緒に困惑していただろう。

そんな俺達に微笑みながら、嬉しそうに山田先生が廊下へ向けて声を掛ける。

 

「さあ、入ってきて!」

 

山田先生の呼び掛けで、入口の扉が開く。

そこから入って来た二人を…厳密には最初に入ってきた人物を見て、俺達は言葉を失った。

 

「「「おと…こ?」」」

 

中性的な、整った顔立ちの金髪美男子(・・・)

─────そう、美少女じゃなくて美男子だ。

少年はにっこりと微笑むと、小さく一礼する。

 

「シャルル・デュノアです。こちらに僕と同じ境遇の方々がいると聞いて本国より転入してきました。」

 

皆が呆気に取られていた─────のも束の間。

本能的に命の危険を悟った俺は、即座に両手で耳を塞ぐ。

 

「「「「「「キャアァァァァァ!!!!!!」」」」」」

 

やっぱり、こうなったか!

てか両耳塞いでても全然効果ねぇ!?

 

「男の子!四人目!!!」

 

「しかもブロンド貴公子!!!」

 

「男子全員このクラスなんて…こんな奇跡に恵まれるなんて!これだから人間は面白い!」

 

なんか一人興奮のあまり、変な悟り開いてねぇか!?

とはいえ、そんな騒動も織斑先生のひと声で即座に沈静化していく…助かった…。

静まりかえった生徒達は、自然ともう一人の転入生へと視線を向ける。

綺麗な銀髪…もっとも、お洒落してるというよりは、別に意識せず無造作に伸ばしてるだけにも感じる。

何より、片目を覆い隠す眼帯。医療用のやつじゃなくて、中二病男子が憧れるガチ軍人仕様のあれ。

おまけに纏う空気は酷く冷たい。織斑先生に近いものを感じるけど…先生の場合は『厳格』って感じだけど、彼女は文字通り『冷たい』。周りの全てを拒絶してる…そんな感じだ。

 

「………………」

 

皆が見守る中、けれど銀髪の転校生は、腕を組んだまま微動だにしない。右目でクラス全体を見回したあと、織斑先生へと視線を向けた。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ。」

 

「はい、教官。」

 

教官?なんか敬礼してるし。

頭上にクエスチョンマークを浮かべながら周りを見れば、東條を除く全員が唖然としている。

転生者の東條を除いて、唯一呆れたような顔の織斑先生。嗜める様な声音で、先生はラウラと呼ばれた転入生に語り掛けた。

 

「ここでは織斑先生と呼べ。それに私はもうお前の教官ではない。ここへ入学した以上お前もお前以外も皆等しく私の教え子でしかないぞ。」

 

「了解しました。」

 

敬礼を解き、クラスの皆へ向き直るラウラ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ、出身はドイツだ。」

 

ほうほう、ドイツ…で、その後は?

 

「以上だ。」

 

終わり!?いつぞやの一夏の自己紹介の時同様、続く言葉を待っていた俺達は揃って呆気に取られる。

違うところが有るとすれば、一夏の時は和やかな空気で皆ずっこけてたな。けど今同じ事をする奴は一人も居ない……そりゃそうか。

ていうか、東條さっき「今日最推しヒロインが転入してくる」つってたよな…え?もしかしなくてもこの子?東條…マゾなの?

恐る恐る奴の方へと視線を向ければ、それに気付いた奴と目が合う。───あ、アイツ小さくサムズアップした……マジかよ…?

 

何てアホな事をやっている間に、何かラウラが一夏を睨み付けていた。

あれ?険悪な雰囲気…かと思えば、一夏目掛けてずんずん歩みを進めて行く。大丈夫かよ…?

 

「貴様が…!」

 

ラウラがそう冷たく呟くのとほぼ同時に。

─────突然後ろの扉が開き、作業着の見知らぬ男性が入室してきた。……え、どなた?

 

「その辺にしとけ。」

 

突然の出来事に呆気に取られる皆。俺だってそうだ。

ふとラウラの方を見れば、平手を一夏目掛けて打ち込む直前。本当に紙一重、寸止めだった。

 

「え…?用務員さん?」

 

「こんなイケメンの用務員さん居たっけ…?」

 

「てか、何で入ってきて…。」

 

教室中がざわめく中、俺はこれも原作通りなのかと東條へ視線を向ける。

 

──────けれど。今まで何が起きても…一夏とイギリス代表候補のセシリアが決闘になった時も、クラス代表対抗戦で無人ISが乱入してきた時も、顔色一つ変えなかった東條が。

初めて本気で困惑していた(・・・・・・・・・)

つまり、これは原作通りのイベントってやつじゃない。

シャルルを見ても、他の生徒達と同じ様に困惑してる。つまりフランス関連の人物じゃない。

 

そんな中で。驚きはしていたものの、他の生徒達と違う反応の人物が三人。

 

「お前…いきなり何すんだよ!てか、何で士さんがここに…!?」

 

未遂とはいえいきなりぶたれそうになった事に驚き、ラウラを睨み付けたかと思えば。男性には驚いた表情を見せ、二人の間で器用に視線を行ったり来たりさせる一夏。

 

「黙れ。───────そんな事より、何故少佐がここに?」

 

一夏の怒りをどうでも良さげに切り捨てると、男性へと敬礼するラウラ。

一夏は一夏で、その態度が気に入らなかったのか一層怒りつつも、ラウラの発言に驚いた様子も見せる…アイツ本当に表情筋器用だな。

 

「少佐?何でテメェが士さんの事知ってんだよ?」

 

「黙れと言った筈だ。大体、それはこちらの台詞だ。何故貴様なんぞが門矢士少佐と面識が有る。」

 

「命の恩人だからだ!昔、助けてもらったんだよ!」

 

「成程。どうやら貴様は教官のみならず、門矢少佐の品位まで貶めたという事か。─────万死に値する。」

 

「はあ?さっきからお前何なん…「騒ぐな、近所迷惑だろう?」

 

ヒートアップする二人の口論。それを止めたのは、やはりというか…門矢士と呼ばれた謎の男性だった。

 

「門矢……何故お前がここに?」

 

今まで静かに様子を見守っていた、皆と違う反応を示した最後の一人──────織斑先生が、どこか呆れた様な様子で門矢士へ問い掛ける。

 

「さぁな。ま…強いて言えば、今の俺はIS学園の用務員だから…ってとこだ。」

 

確かに、この人の見てくれはどこからどう見ても用務員さんの格好。…首から下げてるトイカメラを除けば。

それに、どこか他人事の様な物言いも引っ掛かる。

 

「……何時からここに来ていた。」

 

「それを聞いて何か意味が有るのか?

俺という存在が、何時何処に居たって可笑しくない事は────お前が一番良く知っているだろう?」

 

間違い無く世界最強の女性に対して、飽くまで自分のペースを崩す事無く不遜な態度を続ける男性。

彼はひとしきり教室を見渡すと。パシャ、と小気味良い音を響かせ、首から下げたカメラで写真を撮る。

どんだけマイペースなのこの人…。

 

そうして彼は満足そうに頷くと。

 

「さて…と。それじゃ、用務員らしく花壇の整備に行くとするか。

一夏、お前ズボンのチャック半開きだぞ。ラウラ、少佐呼びは止せ…今はお前が少佐だろうが。

───────邪魔したな。」

 

何処から取り出したのか、ジョウロと剪定バサミをひらひらと見せ付ければ。

呆気に取られる全員を他所に、入室時と変わらぬマイペースな様子で教室を後にするのだった。




誤解を避けるため申し上げておきますと、別に筆者オリ主神様転生チート無双ハーレム系嫌いじゃないです。
平ジェネFOREVER見た後からずっと考えてた構想なので、ゆっくりながらも簡潔させられればと思います。
気長にお付き合い下さい。


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