ONE PIECE FILMを原型がなくなるぐらい粉々にするお話 (ちゅーに菌)
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ONE PIECE FILM Z

息抜きなので初投稿です。


 

 

 

 未だ海賊王は立たず、誰も見たことがなく、夢物語のひとつであったワンピースを目指し、各地の有力な海賊が中心に凌ぎを削っていた大航海時代以前のある場所。

 

 ここは偉大なる航路(グランドライン)前半の海であり、ログポースが示さない片田舎の島である。主な産業と言えばシェリー酒用の葡萄作りが盛んな程度であり、それ以外に特筆すべきことはあまりない。

 

 しかし、だからと言ってそこに住まう住人には、これといった不満や不自由を訴えることもなく、健やかに暮らしていた。

 

「~♪」

 

 そんな島で、あまり人の寄り付かず、青々と草花で染められた岬を駆け回る一人の小さな子供がいた。4~5歳ほどに見え、紫色の頭をした未だ可愛らしい少年である。

 

 回りには親はおらず、調子外れな鼻唄を歌いながら、岬の草原を楽しそうに走る少年からこの村の和さが伝わって来よう。

 

「~♪ ――!?」

 

 しかし、海を見ようと岬の先端に来た少年は驚いて足を止め、鼻唄も止まった。

 

 少年の視線の先には自身が入れそうな程、大きな女性物の靴が2つあったからである。

 

 しかし、よく見れば転がっている靴からは足首が伸びており、呼吸に合わせて静かに動いているため、何者かが履いているということは明白であった。

 

 恐る恐る足首から先を見た少年は更に驚いた表情になる。

 

 

 

「んがー……」

 

 

 

 その全体像は優に5mを超え、まだ若干のあどけなさの残る顔立ちをした女性であった。ボリュームのあるピンクブロンドの長い髪を後ろで束ね、出るところは出て、締まるところは引き締まったスーパーモデルのようなスタイルをしており、巨人というよりも単純に人間の縮尺を巨大にしたような体型をしている。

 

 また、女性の頭の回りにはJEREZ(ヘレス)と銘柄が書かれたこの島の地酒の酒瓶が多数転がっており、大きないびきと顔面の紅潮、そして漂う酒の臭気から女性が、かなり深酒をしていた様子が伺えた。

 

「で、でっけぇぇ!!!? すげー!!」

 

 思わず目が飛び出さんばかりの様子でそう叫ぶ少年。その瞳には驚愕だけでなく、羨望や興味といった感情も含まれており、隠し切れない好奇心が見え隠れしている。

 

「ん……うん……? 何よ……騒々しいわねぇ……」

 

「わっ!? 喋った!?」

 

「そりゃあ、健康な人間なんだから喋るわよ……ううぇ……海王類の腹の中で目を覚ましたような気分だわ……頭痛い……」

 

 目を覚ました女性は、気だるげな様子で手を頭に当てつつ、フラフラと体を揺らしながら静かに立ち上がった。

 

「すげー!! 立ったらでっけー! どうしたらそんなにデカくなんの!!!?」

 

「親の遺伝よ……両親の身長が2m切ってたら諦めなさい……」

 

「なら、デカい姉ちゃん程じゃないけど、とーちゃんがスゴくおっきいから俺もでっかくなれるかな!?」

 

「うぅ……頭に響くからあんまり大声出さないでくれる?」

 

「えぇ、だってデカい姉ちゃん頭が遠いんだもん!」

 

「――たくっ……」

 

「うわっ!?」

 

 女性は小さく溜め息を吐くと、少年を包み込んで余りある大きな掌で胴を優しく摘まむ。そして、少しの浮遊感の後、少年の視界が再び岬を映すと、いつもよりも遥かに高い目線の高さにおり、女性の肩の上に乗せられていることに気づいた。

 

「これで満足かしら?」

 

「わぁ……たけぇ……」

 

 見て感じたままの感想を述べつつ、少年はその場所で、酒の臭気だけでなく、果実と砂糖菓子を合わせたような女性らしい匂いも感じ、無意識に彼女は優しくて安心感を抱けると考えていた。

 

 すると女性はどこからともなく、散乱している酒瓶と同様のボトルを取り出して中身を呷った。醤油さしのようなサイズ感に見え、実際中身をすぐに飲み干した女性は、ボトルを適当に放り捨てた。

 

「あっ、こらっ! 岬を汚すなよ!」

 

「注文の多いクソガキねぇ……」

 

「クソガキじゃない! 俺の名前は"ゼット"だ!」

 

「ゼットぉ……? 不思議な名前ね」

 

「なぁ、デカい姉ちゃんの名前はなんだ?」

 

「……………………"ポムダムール"……意味はリンゴ飴よ」

 

「え……?」

 

 1拍の間の後、呟かれたその言葉に少年は聞いてはいけなかったということを思いつつ、幼さ故の残酷さが牙を剥いた。

 

「デカい姉ちゃんリンゴ飴なの……?」

 

「たぶん、私を産んだときにママが食べたかったのよ……弟も似たような名前だし……」

 

「………………なんかゴメン」

 

「うっさい」

 

 それから少しの間、この島に滞在するという話を聞いたため、巨大で不思議な女性――ポムダムールの元にゼットは連日通うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ポムー!」

 

「略すな」

 

 ポムダムールにゼットが出会ってから約数日後。人の居ない砂浜に生える大きな木を背にして、木陰で休んでいる彼女を発見した。

 

「見つけた!」

 

「別に隠れてないわよ。私なんて構って一体何が楽しいのかしら……」

 

 目を三角にして、口ではそう言いつつもポムダムールは人差し指をゼットに伸ばし、頭を撫でた。彼女が子供を好いているのか、優しいだけなのか、お人好しなのかは不明であるが、撫でられるゼットの嬉しげな表情を見るポムダムールは、呆れと少しの優しさを帯びた顔に変わった。

 

「…………アメちゃん食べる?」

 

「え? アメ? 食べる!」

 

「手を出して」

 

 そう言うとポムダムールの人差し指が、淡い緑色のガラスのような透き通った色と質感を持ち、その一部が雫のようにほんの少しだけ溢れ、落ちた先のゼットの掌の上で丸い飴玉になった。

 

 その一部始終を見たゼットは、目を点にしながら指先と飴を交互に見つめる。

 

「私は能力者だから……って言ってもわからな――」

 

「すっげー! 悪魔の実って奴!?」

 

 ゼットから吐き出された単語にポムダムールは目を丸くした。

 

「――あら? 知っているのね。歳にしては学のある子だこと。私は"アメアメの実"を食べた飴人間なの」

 

「へー……うわ、このアメすっげーウマい!」

 

「…………あげた私が言うのもなんだけど、他人の体から出来たものを何の躊躇もなく、食べるなんてアナタも大物ねぇ……」

 

「んー? 大物ってなに?」

 

「将来はスゴい奴になるってことよ」

 

 そう言うとゼットは、コロコロと口の中で飴玉を転がしながら腰に手を当て、得意気な顔になると宣言するように言葉を吐いた。

 

「へへーん! 当然! 俺はとーちゃんみたいに海軍大将に! 正義の味方になるんだ!」

 

「へぇ、お父さんみたいな海軍大将に――海軍大将……?」

 

 その宣言に途中で、言葉が疑問に変わったポムダムールは、まじまじとゼットを眺め、紫色の髪の毛に目を止めて、少し考えた後、小さく手を叩く。その表情には数奇な因果に対してか、気づかなかった自身に対してか、呆れの色が浮かんでいる。

 

「ああ、"黒腕のゼファー"の子なのね、アナタ。世界って狭いわねぇ……」

 

「やっぱりとーちゃんのこと知ってるんだ!」

 

「船乗りなら誰だって知ってるわよ。アナタの言う通り、素敵な正義の味方だもの。それより……お父さんとお母さんのこと好き?」

 

「うん、カッコよくて、優しくて大好き!」

 

「…………そう、それはよかったわね」

 

 そう言うポムダムールの目はゼットが見た中で、最も優しげな色に染まり、ゼットは何故かその表情が、少しだけ自身の母親に重なって見えた。

 

「それより、ポムは船乗りなのか?」

 

「そうよ。家族と大喧嘩したから、小船に乗って一人で傷心旅行中なの。だから、お酒の補充もしたし、もう私はこの島から去るわ」

 

「えぇー……もっといりゃいいのに……」

 

「船旅に一期一会なんてざらよ。だから、引き止める方が無粋だわ」

 

 そう言うとポムダムールは立ち上がり、ゼットに背を向け、一歩足を踏み出したところで立ち止まる。その様子を不思議に彼が眺めていると、すぐに彼女は動いた。

 

「ああ、でも……」

 

 ポツリと呟いたポムダムールは、ゼットに振り返り、少し屈むと、彼からすれば巨人のように大きな手を差し出す。

 

「袖振り合うも多生の縁。これはあげるわ。私と違って、アナタは親を大切にしなさいよ」

 

 彼女の掌の上には常温で一切溶けず、金属のように頑丈な飴で作られ、帆のカモメマークまで見事な軍艦の細工が施された子供が一抱え程の大きさの瓶が乗っている。

 

 そして、ゼットへと手渡された瓶の中は飴玉で満たされており、受け取った少年の嬉しげな声とお礼を聞きながら踵を返すと、今度こそ振り返ることなく、海の方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嵐がきたぞ、千里の風に、波がおどるよ、ドラムならせ~♪」

 

 ポムダムールは鼻唄混じりで酒瓶片手に、ゼットには小船と称した船の舵を握っていた。確かに外見上は精々、10人程が生活できる程度の船なのだが、身長5mを超える彼女に合わせて造られた船のため、数十人から百人程度が乗船出来る船とそう変わりない大きさをしていた。

 

 また、帆には何も描かれておらず、白一色のため、遠目から見れば縮尺のおかしい民間船にしか見えないであろう。

 

「おくびょう風に、吹かれりゃ最後、明日の朝日が、ないじゃなしに~♪」

 

 既にゼットの住む島からは離れ、船に並ぶように近くを飛ぶ海鳥とそう変わらない大きさに見えた。ポムダムールはそれに対して、特に感慨深い感情もなく、行き当たりばったりで上陸した次の有人島にはどんな酒があるのか考えながら舵を取っているとあるものを目にする。

 

「――んぅ……?」

 

(あのドクロマークは……確か偉大なる航路(グランドライン)前半の海では、珍しく億超えの賞金首が船長をしている十何隻かの海賊だったかしら?)

 

 それは地平線に浮かび、ゼットがいる島へと向かう海賊船団であった。ポムダムールが目視出来る限り、17隻の同じドクロを掲げた船団が見え、肩を竦めて小さく溜め息を落とす。

 

「……まあ、私にはまるで関係ないことねぇ」

 

 そう言いながら彼女はまた酒瓶をひとつ飲み干すと、無造作に甲板に投げつけ、(おもむろ)に舵を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、島の彼方の水平線上には海賊船団が浮かび、それらが一直線にこの島を目指しているだけでなく、先頭の海賊船が島に向けて砲撃を始めているため、海賊の襲撃を告げる鐘の音が街の外にまで響き渡っていた。

 

 幸いと言うべきは島の港は海賊船団には小さ過ぎたため、街からは少しだけ距離のある浜辺を目指しているため、襲撃まで僅かに時間があることだろう。

 

「はっ……! はっ……!」

 

 そんな最中、ゼットはひとりで街から離れ、海賊が上陸する浜辺へと向かっていた。

 

『私と違って、アナタは親を大切にしなさいよ』

 

 思い返せば、酷く悲しげな薄笑いで言われたその言葉がゼットの脳裏に浮かぶ。そうして、居ても立ってもいられず、彼は避難する母親の静止を振り切ったのである。

 

 当然、ゼットに海賊をひとりでも相手に出来るような力などあろう筈もない。しかし、それでもポムダムールと交わした忘れてもいいような一方的な約束が、彼を突き動かしていたのだ。

 

 そうして、彼が飛び出すように浜辺に向かった頃には、既に先頭の海賊船を含む三隻が砂浜の近くに付けられており、既に砂浜を埋め尽くさんばかりの海賊たちが――。

 

 

 

 海賊船と全ての海賊の前に立ち塞がるたった一人の女の前に等しく斬り捨てられ、浜辺に転がっていた。

 

 

 

 それはピンクブロンドの髪で、5mを超える背をした女性。それはゼットにとってあまりに見覚えのある背中であった。

 

「ポ、ポム……なにしてるんだ?」

 

「それはこっちのセリフよ。自殺でもしに来たのかしら?」

 

 思わず呆けて呟いたゼットにそんな言葉を返すポムダムール。その間にも砂浜に次々と海賊船が乗り付けられ、武装した海賊の軍団が降りてくる。

 

『オォォオォォォォ!!!!』

 

 そして、雄叫びを上げながら群がる蟻のようにポムダムールへと殺到した。

 

「すげぇ……」

 

 しかし、ポムダムールの腕が振るわれたことに対して、ゼットは呆然としながら思わず声を漏らす。

 

「ラム・ヴェール」

 

 彼女は両手の肘から先を淡い緑をしたアメに変え、更に幅広の大剣のような刃を形成して、それを振るうことで一度に十数人を吹き飛ばし、更に斬撃の余波と衝撃でその倍以上の海賊を次々と薙ぎ払っていたのである。

 

 どれだけ海賊の波が押し押せようとも、天に(そび)えるように立つポムダムールが一度腕を振るえば一帯の海賊が吹き飛ぶ。それが幾度となく繰り返され、ゼットは気付けば彼女に対して大きな安心感と期待、そして子供らしい興奮といった気持ちの昂りを感じるのだった。

 

 尤も、海賊たちからすれば堪ったものではないだろう。色々な思惑があったかどうかはこの際別として、少なくとも楽な仕事の筈であったのだ。だというのに、ポムダムールは明らかに偉大なる航路(グランドライン)前半の海に居ていいような存在ではなく、それが何故か海賊たちを阻んでいることは嫌でも分からされた。

 

「……数だけは多いわね」

 

 しかし、流石に海賊も上陸して攻撃してもほぼ無意味と認識し始めたため、後続の海賊船団はポムダムールが仁王立ちをしている場所から離れた位置の浜から上陸し始め、彼女を無視しようとしている。

 

「私の後ろから動くんじゃないわよ?」

 

「う、うん……!」

 

「ふんっ……」

 

 それに対し、彼女はゼットに声を掛けて一別すると、鼻を鳴らして片腕を剣からアメの腕に戻し、その手で地面に触れた。

 

「グラサージュ」

 

 その言葉と共にポムダムールとゼットの足場を除く、周囲一帯の地面や木々が水飴のようなものに変化する。

 

「う、うわぁぁ!?」

 

「なんだこりゃ、沈む!」

 

「助け――うっぷ」

 

 それは凄まじい速度で波のように広がり、数kmはある海岸線の砂浜全てをドロドロとしたアメに変えてしまった。

 

 それによって、既に砂浜にいた海賊たちは底無し沼に落ちたように一斉に飲み込まれ、悲鳴を上げるか、抜け出そうともがく光景が広がる。

 

「グラサージュ」

 

 そして、尚も地に手を付けながら、もう一度ポムダムールが呟いた瞬間、今度は浜辺に隣接する林が緑色の水飴に置換され、濁流のように押し寄せる。

 

 そのまま、水飴の波は浜辺を超えて海面を覆うように伝い、浜辺周辺の海賊船団の船底を取り囲み、浜辺周辺の海面を埋め尽くす。

 

「ポムダムール」

 

 最後に自身の名前を呟くと、水飴は液体から個体に形状変化し、一面には緑色の氷に阻まれて凍り付いたような世界が広がり、17隻の海賊船団は一切の身動きが取れない状態になっていた。

 

「さて……」

 

 地から手を離したポムダムールは左右に首を鳴らす。そして、再び片腕を飴の刃に変え、飴の刃と化した両腕を頭上でクロスさせて構える。そのまま、僅かに静止した時間が流れ、それは剣術の居合いに近い独特の空気を纏っていた。

 

 この時点で個人によって引き起こされた事態に海賊たちは完全に混乱している。そのため、飴の中に埋められておらず、まだ海賊船内にいる海賊たちはこれ以上の進行が出来ずに立ち往生している。

 

 いつの間にか、ポムダムールの両腕の刃の色が緑色から"黒色"に変わっていたが、この場においてそれに気付く人間も気にする人間も存在しなかった。

 

 今さら逃げようもないが、その刹那の時間だけが海賊に残された安寧であり、ポムダムールの振り絞られた両腕が放たれる。

 

 

「"威国"!!」

 

 

 次に起こったことにゼットは言葉が出なかった。

 

 振り下ろされた黒い飴の刃は空を駆ける極大の斬撃を生み、斬撃は緑色の飴で覆われた海と空を割り、巨大な槍で空間を抉ったような痕跡を刻み込んだ。そして、直線上に並んでいた17隻の海賊船の半数以上がその一撃の斬撃で消し飛び、乗っていた海賊たちごと海の藻屑に変わったのである。

 

 海上を覆う飴もある程度斬られはしたが、即座に意思を持つようにすぐに切断面から飴が伸びて繋がったため、やはり飴に船底を固められた海賊船が動けることはない。

 

「一回じゃ、足りないわね。じゃあ、もう一度」

 

 そして、当然のように再びポムダムールは頭上で両腕をクロスさせた。既に戦意を失った海賊たちから悲鳴、絶叫、命乞いといった声が聞こえ始めており、白旗を振る者さえも見られる。

 

 しかし、彼女は特に気に止めず、そのまま両腕を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ざっとこんなものね」

 

 17隻全ての海賊船が破壊され、それでも船と運命を共にせずに船から逃げることで、飴の上に逃れた海賊たちも少なからずいた。しかし、今度は表面だけ液体へと変化した水飴が触手で絡めとるように動き始めたため、生きた飴細工のオブジェのようなものが次々と出来上がっている。

 

 少なくとも既に海賊たちがこの島の人間を襲うことはないであろう。襲撃から約2時間。海賊船団は完全に沈黙したと言っていい。

 

「しかし、本当に数だけは多いわね……生き残ってるのは3~4割にしても何百人いるのかしら? 海軍もこれだけ一度に捕縛するのは大変そうねぇ」

 

「なあ、ポム……」

 

「なぁに?」

 

 他人事のような見たままの感想を述べるポムダムールにゼットは声を掛けた。そして、そこにいるのは、彼が知っているいつもの調子の彼女だったため、安堵する。だが、今さらになって負い目を感じ始めた彼は歯切れが悪そうに呟いた。

 

「その……力もないのに海賊のところに飛び出して……迷惑掛けてごめんなさい……」

 

「ふーん、そう」

 

「えっ……?」

 

 ゼットの反省に対してポムダムールから帰って来た言葉は感情を含まず、非常に淡白で答えになっていないものだった。彼がそれに驚いていると、彼女は眉を潜めて肩を竦める。

 

「叱るのは親の仕事よ。私にそんな義理はないし、私自身が他人を叱れるほど褒められた人間でもないわ。その言葉は親に言いなさい」

 

「……うん」

 

 その言葉に小さく返事をするゼット。その表情は浮かない様子であり、いつもの明るい彼の姿からは掛け離れている。

 

「はぁ……」

 

 足元を見つめて落ち込んでいる彼を見兼ねたポムダムールは、小さく溜め息を吐いた。そして、指でゼットの頭を優しく撫でた。

 

「まっ、反省出来るだけ上等よ。それだけは言っておくわ」

 

 それだけ言ってそろそろ自身の船に帰ろうとポムダムールが考え始めた頃、何かを感じた彼女の眉がピクリと動き、撫でる手が止まった。そして、苦虫を噛み潰したような顔に変わる。

 

「嘘でしょ……というかこれ空飛んで……"月歩"で来てる? マリンフォードからたった二時間でここまで? つくづく化け物ねぇ……いや、親バカと言うべきかしら?」

 

「ポムどうかしたの?」

 

「あー……ちょっと下がってなさい。面倒なことになるから」

 

 ポムダムールは大きな溜め息を吐くと、ゼットを自身から50mほど遠ざけた。

 

 彼女は青空の彼方にポツリと浮かんでおり、徐々に大きくなる点を眺めながら、両手足を飴に変えつつ拳を作る。そして、拳を構えると拳は黒く染まった。

 

 その刹那――。

 

 

 

「ポムダァムゥゥゥルゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

 

 

 空から響いた雄叫びは、ゼットにとって聞き覚えがあり、自身が思い描く、正義の味方そのもの。

 

 そして、その人物はポムダムールに向かって弾丸のような速度で空から殺到し、彼女の黒い飴の腕と、その人物の黒い腕が激しく衝突する。

 

「と、とーちゃん!?」

 

 それは純粋な覇気と体術のみで海軍三大将に登り詰めた男にして、ゼットの実の父親――"黒腕のゼファー"であった。

 

 最初に互いの拳と拳がぶつかり合った衝撃で、未だに飴に変えられたままの浜辺が激しく砕け、ポムダムールの足を通して一帯を震動させるほどの揺れが起こり、ゼットは尻餅をついた。

 

「――いてて……」

 

 その拍子にゼットは臀部を打ったため、少しだけそちらに目を向け、すぐに意識と視線をポムダムールとゼファーに戻し――。

 

 

「"ビッグマム海賊団長女"! "水飴のポムダムール"! 俺の(せがれ)に何の用だ!?」

 

「私がアンタの子供に用なんてあるわけないでしょうが!? 後、"元"ビッグマム海賊団よ! 抜けてからは国も滅ぼしてないし、今日は酔った勢いで天竜人も殴ってない! 冤罪よ冤罪!」

 

「貴様のことなぞどうでもいいわ! 今日という今日は赦さん!!」

 

「そもそも、なんでアンタの妻子はマリンフォードにいないのよ! バッカじゃないの!? 本当にバッカじゃないの!? これに懲りたらせめて妻子の居住地は変えなさい!」

 

「ぐっ……!? 海賊に言われる筋合いなどない!」

 

「こんだけやってやったんだから、小言のひとつぐらい言わせろやクソ海兵!! だから海軍って融通の利かない正義バカだらけで嫌いなのよ!!」

 

「海軍と正義まで愚弄するか貴様!!」

 

「うっさい! バーカ! バーカ!」

 

 

 非常に低レベルな口喧嘩をしているにも関わらず、二人が瞬間移動のような速度で空中を駆け巡りながら、互いに目にも止まらぬ速度の攻防で殴り合っている光景を目にし、最早爆裂音のようなものが響き渡り続ける中、ゼットの脳は状況を理解することを拒否した。

 

「え……? なんで戦って……とーちゃん……ポム……海賊……? えっ……え……?」

 

 ゼットが混乱し続け、口を開いたまま、空を見上げる時間は15分ほど続いた。

 

 その間、互いに決まり手になり得る一撃は全く発生しない、超高速の攻防が続く。見る者が見れば、まさに天上の一線であったが、ここには観客はゼットを除いて他にはいない。

 

 そして、勝負の行方は、とある瞬間に突如として決まった。

 

 

「ぬんっ!」

 

「はぁっ!」

 

『「ぐほぉッ!?(ぐがぁッ!?)」』

 

 

 最終的に体格的な問題で、ゼファーの拳はポムダムールの腹に、ポムダムールの拳はゼファーの頭に命中したクロスカウンターが起こったのである。

 

 そして、互いに受けた衝撃で、ゼファーは飴の浜辺に叩き付けられ、ポムダムールは自身の船を停泊させた沖合い付近まで吹き飛ばされた。

 

 ゼファーはゼットがいた場所から10mほど離れた所に激突したため、ゼットはゼファーに駆け寄った。未だにギラついた目をし、彼自身にもどこか薄笑いを浮かべているようにさえ見えるゼファーは、すぐに体を起こすと全身を滾らせ、立ち上がろうとする。

 

「ぜぇ……ぜぇ……まだだ……これからだ!! ポムダム――」

 

「とーちゃん!!」

 

 その言葉に我に帰ったゼファーは、表情を父親らしい少しだけ柔和な顔に変え、心の底から安堵した様子を見せる。

 

「――おお、ゼット! 大事ないか!? よかった……生きていて本当によかっ――」

 

「それより、なんでポムと戦ってるの!? ポムは俺も、この島も助けてくれたんだよ!?」

 

「それは……」

 

 ゼファーは、いつにないゼットの剣幕にやや気負されながら、浜辺一帯で無力化されている海賊たちに目を向け、拳に込めた力が少しだけ緩んだ。

 

「俺も見ればわかる……だが、父さんは海軍で、アイツは……水飴のポムダムールは"13億2000万ベリー"の賞金首だ」

 

「じゅ、13億!!!?」

 

 ポムダムールか海賊だったということさえついさっき知ったばかりだったゼットは、その途方もない賞金額に思わず声を上げた。最早、どれほどの大悪党ならそれだけの金額がつくのか、彼は想像もできなかった。

 

 そうしている間に沖合いにあったポムダムールの船が全速力でこの島から離れていく光景がゼファーの目に映り、苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「この海賊どもをこの島には置いていけない……アイツ……殴り飛ばす方向と、殴られる方向を計算したか……小癪な真似を……!」

 

 父親として、全ての静止を振り切って、家族のためにこの島に来たゼファーであったが、これでは父親としても海軍としてもポムダムールを追うことは叶わない。このような狡猾さも、未だ億超えの賞金首もそうはいない時代で、10億の大台を突破している海賊足り得る所以なのであろう。

 

 ゼファーが緩めた拳を再び握り締めていると、隣にいるゼットがどこか熱に浮かされたような興奮を帯びた表情で口を開く。

 

「………………ねぇとーちゃん。俺がなるわけじゃないけどさ」

 

「なんだ?」

 

「もしだよ? もしもなんだけど……海賊でも正義の味方に慣れるのかな……?」

 

 その言葉にゼファーは絶句して表情を失った。

 

 そして、どこか憧れにも近い熱を帯びたような眼差しで、もうすぐ水平線に消えるところまで差し掛かっているポムダムールの船を眺めるゼットの姿から、息子が言わずとしていることを即座に理解できてしまう。

 

 ゼファーは晴れやかで優しげな表情を作ると口を開く。

 

「ゼット。溶け出した飴から海賊が出ないとも限らない。だから、ここは危ないから父さんに任せなさい。とりあえず先に家に帰っていてくれ。お前がいないのでは母さんも心配するだろう?」

 

「あっ! うん、そうだね! わかったよとーちゃん!」

 

 そう言うとゼットはすぐに走って街の方に向かって行った。聞き分けの良さ、歳よりも優れた聡明さ、優しさや正義感の強さ、贔屓目に見ても何れを取っても良くできた子だと、ゼファーはゼットを評価していた。

 

 そして、ゼットが街に戻り、暫くした後、ゼファーは海の方を向く。

 

 

 

「覚えていろぉぉ!! ポムダァムゥゥゥルゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!」

 

 

 

 既にポムダムールの船は水平線の彼方に消えていたため、ゼファーの怒りに満ちた慟哭は、飴に覆われた海面とややが傾き始めた太陽だけが聞いていた。

 

 

 

 

 

 





あーもう(ONE PIECE FILM Z)めちゃくちゃだよ。



~設定~
シャーロット・ポムダムール
 水飴のポムダムール。ビックマムの元1女。ペロスペローとは二卵性双生児の姉の関係。アメアメの実を食べた飴人間であり覚醒者。身長は543cm。15歳のときに方向性の違いからビッグマムと袂を分かち、激闘の末に自身も重症を負いつつもビックマムに同じ程度の重症を与え、海賊団を脱退して独立。その後、酒に溺れつつ、世界各地を転々としながら、酔った勢いで海賊や海軍の実力者に対して喧嘩をふっかける、酔った勢いで天竜人を殴り飛ばす、酔った勢いで海軍研究施設からダイナ岩を奪っていくなどをしたことで、みるみる懸賞金が引き上がった。現時点での懸賞金の額は13億2000万ベリー。
1話時18歳。原作開始時48歳。ホールケーキアイランド編時50歳。
ちなみにアメアメの実とはガスパーデが食べた悪魔の実なので、本作一番の被害者は彼かもしれない。


~質問コーナー~
Q:ガスパーデのアメは美味しくなかったやろ!

A1:外道なオッサンのアメと、18歳の優しい女の子(543cm)のアメちゃん。比べる価値すらないのは当たり前だよなぁ……?
A2:覚醒すると甘くなります(適当)


~年齢と強さ~

・ポムダムール
ビックマムとほぼ同格だが、比べると明らかに軽いためスピードがあり、その反面少しだけ威力が低い。また、ビックマムと同様に覇王色の覇気を持ち、最硬クラスの覇気をも持っている。しかし、ギャグ補正が働くと、その間だけは覇気が空気を読むため、ハリセンで叩かれてもタンコブが出来るほどに弱体化する。
18歳。

・ゼット
ポテンシャルは極めて高いが今は年相応の子供。
5歳。

・ゼファー
海軍三大将時代のゼファー。全盛期であり、20年インペルダウンで鍛えた続けた映画の状態の生身のダクラス・バレットと一対一でマトモにやりあえるレベル。生身で海軍三大将になった男であり、黒腕の名は伊達ではなく、如何に硬い覇気でもほぼ減衰なしでダメージを当てられるほど武装色の貫通力が高い。ポムちゃんの天敵。
42歳。


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ONE PIECE STAMPEDE 前

どうもちゅーに菌or病魔です。たぶん前後編になります。


 

 

 

 未だ海賊王は立たず、誰も見たことがなく、夢物語のひとつであったワンピースを目指し、各地の有力な海賊が中心に凌ぎを削っていた大航海時代以前。

 

 ここは偉大なる航路(グランドライン)前半の海と、後半の海の境界である赤い土の大陸(レッドライン)の経由点に立つ街。巨大な海洋植物であるヤルキマンマングローブで出来ているため、ログポースの貯まらないシャボンディ諸島である。

 

 また、シャボンディ諸島は、明確な区分けがされている訳ではないが、1~29番は無法地帯、30~39番は繁華街、40~49番は観光関係、50~59番は造船所、60~69番は海軍駐屯地、70~79番はホテル街が多い傾向にある。

 

 そして、ここはその中でも無法地帯と化している一桁台の番号が振られたヤルキマンマングローブが生える場所で、無法地帯でもそれなりに酒場などがちらほらと建ち並んでいた。

 

 そんな中、背がとても高く軍服を着て、金髪を後ろに流した髪型をした体格のいい青年が、1枚の手配書を持ちながら無表情で辺りを見回している。

 

「この辺りにいる筈だ……」

 

 そう呟いたその青年が持つ手配書の写真には、手足を緑色の硝子のようなモノに変えながら、歯を見せて眼前の海軍達を威嚇するように笑うピンクブロンドの髪をした大女が写っていた。

 

 そして、名前と懸賞金にはこうある――。

 

 

水飴のポムダムール

懸賞金:19億8000万ベリー

 

 

(こんな怪物が今シャボンディ諸島に来てるってんだ……さぞ強いに違いねェ……)

 

 そう思った彼は手配書から顔を上げ、それまで無表情だった顔から口角だけを上げて笑って見せる。武者震いのようなものだろう。

 

 彼の名はダグラス・バレット。

 

 "戦争の終わらない国"出身の母親に捨てられた孤児であり、後に敵国だった軍事国家ガルツバーグに拾われ、軍隊ガルツフォース(GF)の部隊長ダグラス・グレイ部隊所属の少年兵として"9番目の弾丸"と呼ばれる最強の兵士となる。この場合、ダグラスとは将軍の名前で、バレットとは弾丸を意味するため、ダグラス将軍の弾丸という意味となり、彼が生まれながらの戦争の駒として扱われていた実態が伺えよう。

 

 しかし、同じ少年兵からの迫害と裏切りや、彼を恐れるようになったダグラス将軍の裏切りを受け、仲間だと家族同然だと信じていた者からの2度に渡る裏切りにより、失望と怒りのまま暴れ回った末にガルツバーグを滅亡に追いやるという"ガルツバーグの惨劇"をたった14歳で引き起こした張本人である。

 

 それからは海賊となり、この1年間で、偉大なる航海(グランドライン)前半の海にいる有力な海賊に手当たり次第に戦いを吹っ掛け続けたが、誰ひとりとして彼に勝てた者はいなかった。彼が生まれながらに天才的な覇気使いと言うこともあったが、やはりバトルセンスによるものが大きいだろう。

 

 そして、彼は遂にある決断をした。それは後に四皇と呼ばれることになるような懸賞金10億超えの大海賊と戦うということである。

 

 四皇とは今の時代よりも後世で謳われた偉大なる航海(グランドライン)の後半の海で、皇帝の如く君臨する海賊のこと。大海賊自体以前の海賊ならば、ゴール・D・ロジャー、エドワード・ニューゲート、金獅子のシキ、シャーロット・リンリン、カイドウ等が挙げられる。

 

 そんな後に四皇と呼ばれるあるいは四皇クラスの大海賊中で、懸賞金額自体は最も低いが、戦闘力という一点に置いてのみ、ほとんど四皇と遜色ないと言われている。女海賊がひとりいる。それが手配書にあったシャーロット・ポムダムールに他ならない。

 

 と言うのも、シャーロット・ポムダムールは当時15歳で、30代だった母親のシャーロット・リンリンとの殺し合い(親子喧嘩)の末に、互いに重傷を負ってビッグマム海賊団から離反している。故にその実力は今のダグラス・バレットと同じ年齢で既に四皇と遜色ないレベルだということになろう。

 

 しかし、ポムダムールがビッグマムを押しやって四皇になっている訳でも、四皇が最初から五皇になっている訳でもないのは、単純にビッグマム海賊団から離反して以来、偉大なる航海(グランドライン)後半の海である新世界から活動拠点を前半の海に移し、ほとんど新世界に戻っていないからだ。

 

 ちなみにビッグマム海賊団を離反する直前の懸賞金は11億4000万ベリーであり、未だにシャーロット・リンリンを除くビッグマム海賊団の船員が超えることなかった。故にビッグマム海賊団最強の船員だったことは、兄弟姉妹どころかビッグマム自身すら認めるところであろう。

 

 また、ビッグマム海賊団にいた頃のポムダムールは、水飴のポムダムールというより、"シャーロット家の最高傑作"や、"小ビッグマム"等と他の海賊や身内に呼ばれるほど冷酷無比で圧倒的な実力者かつ、"万国(トットランド)"の実現をシャーロット家の誰よりも以上に尽力していたらしいとの情報がある。

 

 そんな女傑がどんな者なのかと考えつつ、遂に無法地帯にもポツンと佇む酒場の前で手配書と同じ容姿と体格をした女を発見し――。

 

 

 

「んがー……」

 

「おい、ポム姉。起きろ」

 

「ポ、ポム船長……こんなところで寝ちゃダメだわ!」

 

「ポム船長! 起きてくださいよ! 人が通れなくなってますって!」

 

「ぐごー……えへへぇー……もう飲めないよぉ……すぴー……」

 

「船長ー!?」

 

「久しぶりに寄ったが、ポム姉は変わらんなぁ……」

 

 

 

 バレットは手配書と、5m以上の身長が酒場の出入り口の前で横たえているせいで、全力で通行の邪魔をしており、それにも関わらず、ふにゃりと破顔した表情で気持ち良さそうに眠っている女性を3度ほど往復した末、首を大きく傾げた。

 

 しかし、彼女の周りにいる比較的若い十数名の船員がエルフ、アラクネ、スキュラ、ラミアといった常時発動型のゾオン系の能力者。魚人と手長族や、天界人と首長族、ミンク族と三ツ目族と言った非常に奇妙なハーフの異種族とおぼしき容姿をした者が多いこと。また、ビッグマム海賊団の船員(家族)とおぼしき者がいることで、本人だということをバレットは辛うじて理解する。

 

「おい……」

 

「ん? ああ、悪いな。今ポム姉をどうにかして退かすから少しだけ待っていてく――」

 

「違う。酒場の利用客じゃねぇ」

 

 バレットがポムダムールと同じぐらい背が高く、口元をマフラーで隠している短髪の男に声を掛けると、利用客と間違えられたためにそう返す。

 

「なに……? なら何をしに来たんだ?」

 

「ソイツと戦いに来た」

 

 バレットはポムダムールの弟とおぼしき男にポムダムールを見ながらそう告げると、そこにいる船員らと弟がざわめき出す。

 

「か、カタクリさん……よりにもよって今はマズいですよ!?」

 

「ああ……悪いが明日の朝にでも日を改めてくれ。今のポム姉は――」

 

「んむぅ……? 戦いィ……?」

 

 弟――カタクリと呼ばれた者はバレットに日を改めるように諭そうとしたが、その前にむくりとポムダムールが寝惚けたような様子で体を起こす。相当酔っているらしく、上半身がフラフラと揺れていた。

 

 しかし、それを見たカタクリは驚愕に目を見開くだけでなく、畏怖に近い感情を抱いているようにも見え、他の船員も同じように見えた。

 

 そして、直ぐにバレットの方に振り返ったカタクリは焦燥した様子で声を荒げる。

 

「イカン……ダメだ逃げろ! 泥酔しているときのポム姉に喧嘩を挑んだら――――殺されるぞ!?」

 

「ああ?――」

 

 疑問符を浮かべながら、その次の言葉を言おうとした瞬間、バレットはこれまで感じたことがないほど凄まじい衝撃を腹に受ける。

 

「がぁ――!?」

 

 そのまま、体をくの字に折り曲げられ、近くのヤルキマンマングローブの幹まで吹き飛ばされて突き刺さった。

 

 

 

「いーよぉ……ひっく……うぃー……うぇへへー!」

 

 

 

 そして、バレットがいた場所には、黒い拳で他の全体が緑色の水飴で出来た腕が浮かんでおり、それは地面で体を起こしたままのポムダムールの髪の毛から伸びていた。明らかに問答無用で、戦う前の相手に先手を打ってきたのは彼女である。

 

 ポムダムールは立ち上がると、千鳥足でバレットを殴り飛ばした方向へゆっくりと歩いていく。

 

 そんなポムダムールを見て、カタクリは額に手を当てて大きく溜め息を吐いた。

 

「ポム姉は"悪酔い"で、様々な実力者に喧嘩を吹っ掛けたり、天竜人を殴り飛ばしたり、気に入らない国の王城を木っ端微塵にしたり、裏の組織を壊滅させたり、海軍支部の建物を使い物にならなくしているせいで、懸賞金がどんどん膨れ上がっているんだ……!」

 

「お前ら! 一帯の人間を避難させるぞー! 船長の"悪酔い"だー!」

 

「ポム船長が暴れるわー!」

 

 船員が酒場や周囲の人間に避難勧告を呼び掛け始める中、ヤルキマンマングローブの幹から飛び出たバレットは、弾丸の如く一直線にポムダムールへと殺到した。

 

「腑抜けた奴だと思えば、パンチはやるじゃねぇか!」

 

 バレットは歯を見せて笑みを浮かべたまま、ポムダムールへと殴り掛かる。鍛え抜かれた覇気を纏う黒い拳は神速の一撃と言え、当たりさえすれば四皇でも確実にダメージを与えるほどに強靭なものであった。

 

 そして、それはポムダムールの胸部に直撃する。

 

「なに……?」

 

 しかし、バレットが感じたのは空を切る手応え。見れば彼の拳はポムダムールの胸部を突き破っており、その接触部がドーナツのように穴が開き、穴の外側だけが緑色の水飴状に変化している。

 

(コイツ……!? まさか、見聞色の覇気で攻撃を予知して回避することで、武装色の覇気で防御しなかったのか!?)

 

「うぇへへー……!」

 

 そして、最小限の動作で回避したと言うことは、それだけ強力な反撃が出来るということも意味している。

 

 実際、気持ち良さげに笑顔で調子外れな笑い声を響かせつつも、ポムダムールは両手足を緑色のガラスのような質感に変化させており、その上に両足は膝まで、両腕は肘までが武装色の覇気で黒く染まっていた。

 

 その武装色の覇気はバレットですら、目にした瞬間にマトモに受ければマズいことになると確信し、全身に鳥肌が立つほど圧倒的で、おぞましいほど洗練されたものであり、バレットは防御のために全身を武装色の覇気で硬化する。

 

「どーん!」

 

「――――!?」

 

 そして、ポムダムールの口から吐かれた調子外れな擬音と共に、カウンターとして最速で放たれた膝蹴りがバレットに突き刺さり、くの字に体を折り曲げられる。

 

「どどーん!」

 

 更に間髪入れずに、ポムダムールの片腕が折り曲げられた体の背に突き刺さり、バレットごと自身を沈み込ませる。

 

「どっどどーん!」

 

 最後に沈み込んだ体勢で、真下から掬い上げるように放たれたアッパーがバレットの胸部に突き刺さり、花火のように空高く打ち上げられた。

 

「まだまだこれからよぉ……!」

 

 その瞬間、バレットのいる上空へ向けて、両腕の肘から先を頭上でクロスさせつつ武装色の覇気を刃へと変え、空へと向ける。

 

(――――なんだ!!!?)

 

 吹き飛ばされながら、ただならぬ覇気を肌で感じ取ったバレットは空中を足場にして、反射的に横へと大きく跳んだ――その刹那である。

 

 

威国(いこく)ぅぅ……!」

 

 

 バレットがいた場所を巨大な槍で抉り取ったかのように空間そのものが貫き穿たれ、夜空へと抜けた果てしない威力と範囲の斬撃は、雲海を円形にくり貫くだけに留まらず、それを中心とした雲に、クモの巣状のひび割れを刻んだ。

 

「――な……!?」

 

 バレットはその余りにも想像絶する破壊力に自然と声を漏らして驚くと共にあることに気がつく。

 

(避けた……? 俺がアイツの攻撃を……?)

 

 それを感じたバレットは避けた自身を恥じつつも、避けさせられたことに憤慨し、全身に覇気を滾らせる。それによって、バレットの全身は真っ青に染まり、怒りに歪んだ表情も合わせて、さながら青鬼のような風貌に変わる。

 

「テメェ……!」

 

 そして、空を一歩蹴ると、即座にポムダムールの目の前まで到達し、その大砲のような両腕を引き絞り、拳を構えて一気に振り下ろす。

 

 

最強の一撃(デー・ステエクステ・ストライク)!!」

 

 

 それはさながら青鬼の放つ嵐のような無数の拳だった。

 

 常人どころか、覇気を覚えた者でさえ、ほとんど目にすら止まらない程の数と速さを異様な威力で繰り出されたそれは、敵だけでなく味方さえも畏怖を抱くような圧倒的な暴力である。

 

 それは当然、ポムダムールを襲い、その全身に余すことなく突き刺さる――。

 

「んー? 当てなきゃ意味ないわよぉ……?」

 

(嘘だろ……!?)

 

 しかし、直立不動のまま佇むポムダムールは、バレットの拳が体に触れる直前で、その部分だけが体に穴が開き、拳を引けば即座に再生することを繰り返し続けるという異様な光景が繰り返されていた。

 

 未来視と言えてしまえる程の見聞色による先の先。言ってしまえばそれだけの技能なのだが、それを出来る人間がこの世にどれだけ存在するというのだろうか。

 

(なんでコイツ泥酔した状態で、これだけの見聞色が使えるんだ!?)

 

「べぇつにぃ~?」

 

 そう呟くと、ポムダムールは両腕に覇気を纏わせ、バレットの拳の嵐に合わせて拳を放ち始め、それはすぐにバレットと拳と完全に拮抗した打ち合いへと変わる。

 

「ぐっ……!?」

 

「手が2本より増えてる訳じゃないから楽勝よぉ――」

 

 しかし、それどころか、恐ろしい速度でポムダムールの攻撃の手は加速していき、それにバレットも負けじと返すが、徐々に彼の方が手数で負け、体ごと押され始め――。

 

「グガァ!?」

 

「ほーら……こんな風にねぇ」

 

 遂にバレットの顔面に一撃、ポムダムールの拳が突き刺さり、彼方へと吹き飛ばされた。彼はゴロツキや海賊の船が並ぶ船着き場にあるひとつの船の船体に突き刺さり、ようやく止まった。

 

 見ればバレットを殴ったものは拳ではなく、メデューサの髪のように丸まった尖端が覇気で強化されたポムダムールの髪であった。全てが水飴へと置き換わっているその髪は、20近い数の拳となっており、寧ろそこまで2本の腕のみで粘ったバレットの底力を讃えるべきであろう。

 

「あれぇ……?」

 

 しかし、何故かバレットが飛んで行った方向を見ながら、ポムダムールは大きく首を傾げる。そして、酒気にまみれた吐息を覇気出してからポツリと呟いた。

 

「ちょっと大きくなったかしらぁ?」

 

『まだまだァァァ!! "鎧合体(ユニオン・アルマード)"ォォォ!!!』

 

 そこには数隻の船を組み合わせて巨大ロボットを作ったのような奇妙な存在がポムダムールの少し前方に降り立ち、それから放たれる叫び声は間違いなくバレットの声だった。

 

 ポムダムールは一切知らないが、バレットはガシャガシャの実を食べた合体人間。船着き場にあったガレオン船を多く含む全ての船と合体し、70m近い巨大なロボットのような姿へと変貌したのである。

 

 その上、全身を紫色の覇気で強化するという常人には出来よう筈もない、莫大で強靭な覇気による荒業をしており、バレットが見掛け以上に強化されていることは明白である。

 

『喰らぇぇ!!』

 

「すごーい――」

 

 そして、バレットから放たれた大木の切り株のような拳をポムダムールは感心するばかりで避けずに命中する。それにより、吹き飛ばされた彼女は近くのヤルキマンマングローブの幹へと衝突し、深々と突き刺さった。

 

『ナメるなよ……? 戦いはこれからだ……!』

 

 更にバレットはポムダムールへ追撃を掛けようと移動し――。

 

 

「ポムダムール」

 

 

 ポムダムールの突き刺さったヤルキマンマングローブの幹から広がり、葉とシャボン玉、更には海面につくギリギリの根の部分に至るまでの全体が、緑色の水飴へと変換され、彼女が突き刺さった場所を中心に飴玉のような球形に集まり始めたことにバレットは驚く。飴の中にポムダムールは見られないため、完全に己の全身を水飴へと変えているらしい。

 

 ポムダムールがいるであろう水飴の球体は、1本のヤルキマンマングローブを取り込んだことで、巨大な質量を持つ。

 

『デエース・ヴェール』

 

 そして、それから女性を象った緑色の巨大な手足が生え、次に胴体が作られ、最後に頭と髪が形成される。そこにいたのは、飴細工で作られた100m近い女神像であった。

 

 また、見た目はポムダムールにどことなく似ており、更に両腕には右手に飴で出来た手斧、左手には飴で出来たほぼ手斧と同じサイズの剣が握られており、明らかに豊穣や安寧を司るような女神ではないことが伺える。

 

 さながら戦の女神像は体格はロボットと化したバレットには遠く及ばず、スラリとしつつも豊満で女性的なフォルムだが、それ故に女性の巨人族のような人間らしい巨大さは、返って前に立つ者に恐怖を掻き立てることだろう。

 

『ドギーさんとブロギーさん直伝のぉぉ……』

 

 すると、再びポムダムールは威国を放った時のように上段で腕を構える。前と違うのは飴で出来た武器を使っているため、構えと振り上げ方が若干異なることであろう。

 

 更にポムダムールの全身が覇気により更に硬化され、エメラルドグリーンの色を帯び、紛れもなく彼女が本気で何かを放ってくるということが理解できた。

 

(来いっ! 今度こそ受け止めて――)

 

 バレットは次こそは、さっきポムダムールが放った威国のように避けないで受け止めようと、ロボットの全身にこれまで以上に覇気を滾らせながら構える。

 

 間違いなく、四皇クラスの女が放つ。世界最強クラスの一撃を予感されるそれは、バレットの血を沸騰させ、間違いなく人生最大の強敵との戦いに自然と笑みを強めて、心を昂らせ――。

 

 

『エルバフの槍――』

 

(――――――――死ぬ)

 

 

 ――――最後に避けられない死の予見を与えた。

 

 受ける受けない以前に、直感的にそれを覚えたバレットは唖然とする。ポムダムールが繰り出すであろうそれは、人間が個人で受け止めれていい代物ではないことを、直感的に理解したのだ。

 

 しかし、既に発射体勢に入っているそれをバレットは避ける術はなく、彼は自身にこのような感覚を与えたことに唖然としながら、ただことの成り行きを見た。

 

 そして、覇気の収束と放出を感じ、それと共にポムダムールの腕が振り下ろされ――。

 

 

 

『"破国(はこく)"――――!?』

 

「そこまでだポム姉」

 

 

 

 攻撃の直前、ポムダムールの頭部の目の前に小舟を抱えた彼の弟――カタクリが現れ、小舟を顔面に向かって投げつけた。

 

 当然、ただ小舟が投げ付けられただけでこれほどの覇気の使い手には一切意味がないが、小舟に詰まっていたモノが、女神像と化したポムダムールの顔面に降り掛かる。

 

『――――!? ぺっ……! ぺっ……! しょ、しょっぱい……力が抜ける……』

 

 それは悪魔の実の能力者共通の弱点である海水であった。カタクリは小舟で海水を救いとった状態で、攻撃を中断せざるを得ない溜めの長い攻撃の発射タイミングに顔面に当てることで無理矢理、ポムダムールの攻撃を停止させたのである。

 

 全身を水飴に変換しているポムダムールの顔面に海水を浴びせることは、彼女と言えど看過できることではなく、攻撃の体勢が崩れ、両手の手斧と剣の切っ先を地面に落として、立ったまま項垂れる。

 

『あ゛ー……』

 

 そして、水を掛けることにはもうひとつ意味があった。

 

「ポム姉、酔いは覚めたか?」

 

『うーん……ちょっとだけぇ。私、今まで何をしてたのかしらぁ……?』

 

「まだ、少し酔ってるな……とりあえず、女神形態を解いて水を飲んでくれ」

 

『ふわぁい……』

 

 あくび混じりにポムダムールはそう言いつつ、彼女の体の体積がみるみるうちに減ると共に、水飴に変換したヤルキマンマングローブの代わり、飴細工のヤルキマンマングローブが出来上がっていく。

 

 それをまだロボットの形態のまま、何とも言えない様子をしていたバレットに、人間形態に戻ったポムダムールは、戦闘の余波で抉れたと思われる辺りの散々足る状況を見つつ、彼に対して呟いた。

 

「アナタ、酔ってる私に挑んだのね。また明日、シラフの時に戦ってあげるから今は収めなさい」

 

『ああ…………』

 

 流石に興が削がれたバレットは拳を下ろし、合体を解除した。

 

 ちなみに、ポムダムールが飴細工に変えたヤルキマンマングローブは、強固で温度耐性がある上に濡れても決して溶けないため、シャボンディ諸島の新たな名所になったという。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「つ、つええ……!」

 

 それから1週間。バレットは毎日のようにポムダムールに挑み続けた。それも周りへの被害を鑑みて、互いに悪魔の実の能力を使用せず、武器も使わないという、能力と戦闘スタイルの特性上、バレットにしか利点のない条件である。

 

 しかし、ポムダムールは常時纏っている硬過ぎる覇気と、未来視と呼べるレベルまで卓越した見聞色の覇気の先の先を読んだ動きにより、1度足りともダウンすら奪えず、逆に自身が倒されていた。

 

(コイツは……1人だが……どうにも1人だから強くなったようには思えねぇ……一体その強さはなんなんだ……?)

 

 そして、バレットは人生で初の連敗を味わいながらも、同時にポムダムールの中に自身が信じる"1人だからこそ強い"という生きる上で培ったものとは全く別の何かを感じていた。それが、ポムダムールの強さの根源ならば、知りたいという疑問と渇望もまた覚える。

 

「アナタも懲りないわねぇ……」

 

 ポムダムールは酒瓶を傾けて煽りながら、自身の船の甲板で、満身創痍で膝をつきながらも眼光だけはギラついたままのバレットにそんなことを呟く。

 

 毎日、半日ほどバレットとの喧嘩に付き合っているため、その呟きは寧ろ、今さらと言うべきかも知れない。

 

 まあ、シャボンディ諸島を離れ、自身の船に気がつけば十数人に増えた船員を乗せて、行き先に宛があるわけでもない船旅をしているだけのため、ポムダムールとしては暇潰しと運動程度の認識なのかも知れない。

 

「必ず……俺はいつかあんたを倒して世界最強になる……!」

 

「別にいいわよ。いつでも来なさい。アナタぐらい愚直な奴の相手なら、気楽でいいわ」

 

 そう言って笑うポムダムールの瞳は、子供を見るような生暖かいものに感じ、バレットはその視線が嫌いだったが、何故か同時にどこか寂しげにも見えたが、それを気にするほど彼は彼女の中身に目を向けてはいなかった。

 

 こうしてバレットは、水飴のポムダムールとその船員による海賊旗ではなく、ただの白帆が張られただけのポムダムール海賊団に船員と言うよりは、挑戦者として乗り込んだのであった。

 

 

 







 まだ、ONE PIECE STAMPEDEは原型がありますね……もっと壊さなきゃ(使命感)

 そろそろ、なーんとなくポムちゃんがビッグマムから離反した理由がわかるかもしれません。その辺りとバレットの内面が変わるのは次回になります。



~2話での年齢~
ポムダムール
20歳
バレット
15歳
カタクリ
18歳



○悪酔い
 ポムちゃんの特性。母親の食いわずらいと若干似たようなもの。ポムダムールは泥酔しているときに、精神的に退行したり、全く自制が効かなくなったり、有り得ないことを信じるようになったり、非常に好戦的になったり、泥酔中は記憶が飛んだりといった全てをほぼ必ず引き起こす。
 そのため、泥酔しているポムダムールに戦いを挑んだり、仲間や家族と認識している者が脅かされたり、己の信念に反するようなことが起きようものならば、一切の加減をせずに本気で相手を倒すか殺すか、原因を絶つまで止まらなくなる。一切の加減をしないということは、島の状態を全く考えずに威国や破国を用いる四皇クラスの実力者が暴れまわるため、島を物理的に消滅させたことも1度や2度ではない。
 水を顔に浴びせるか、飲ませれば直ぐに治るのだが、世界最高クラスの未来視を持つ見聞色の覇気により、予知されるため、並大抵の者や方法ではまず不可能。
 ちなみにポムダムールは悪酔いを自覚しているが、1杯だけ自分へのご褒美に等と言いつつ、気付いたら軽く数樽開けて泥酔するまで止まらなくなったり、キッチンドランカーだったり、酒を絶つと少し手が震えたりするため、自分の意思で酒絶ちをするのはかなり難しい。




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