モンハン小説【オトモたちの日常】 (taki20191019)
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【オトモたちの挑戦】
ツキミ …まっくろ毛並みのオトモメラルー。ニヒルニャ。
だんなさん … 女ハンター。へっぽこ太刀使い。粗暴ニャ。
ハンマー使い … 通りすがりのイケてるハンター。ボクはホモだとにらんでるニャ。
ボクはダイフク。まっしろ毛並みのオトモアイルー。
でも旦那さんときたら、最近はちっとも狩りに出ようとしないんだニャ。
これというのも、先日、旦那さんが返り討ちにあった、にっくきアイツ、あの白いブヨブヨの気持ち悪いヤツ、フルフルのせいなんだニャ。
(目が無いとんでもないヤツニャ! 非常識きわまりない生物ニャ!)
ブヨブヨの体に旦那さんの太刀は歯が立たず、ボクたち(ボクと先輩オトモアイルーのツキミ)の奮戦むなしく、旦那さまは頭からパックリ食べられちゃったのニャ。
ザザミ防具のミニスカートと足だけが、フルフルの口からはみ出していたのは軽くホラーニャ。はっきり言って恐怖だったニャ。
アニャー! とひたすらうろたえるしか出来ないふがいないボクたち……。
でも、旦那さんがフルフルに消化されてウンチにされる前に、通りすがりの渋いベテランハンター様が、レベル3まで溜めに溜めたハンマーの猛烈な一撃をフルフルのどてっぱらに炸裂させてくれたのニャ。
フルフルのヤツは、「ブフォッ」と旦那さまを吐き出したのニャ。いい気味ニャ。でも旦那さんはだらしなく白目をむいてピクピクしてたのニャ。
ボクとツキミは、臨時のネコタクシーに変身して、その場からドロンしたのニャ!
クエストは失敗だったのニャ……。
それ以降、旦那さんは、拠点の村で、こんがり肉を食べてはブレスワインをガブガブ飲むだらしない日々……。
女ハンターに慎みはそれほど必要ニャいけど、それでもバキバキの腹筋がプヨンプヨンになっていくのは、見てられないニャ。どっちがフルフルか分からないニャ。
ひと狩り行くニャ! と誘っても、旦那さまは、ぽーっとしてため息をつくばかり。
こりゃ重症ニャ。
先輩のツキミと話しあったニャ。
「オレたちで、あのフルフルをやっつけるしかニャい」
ツキミは重々しく言うのニャ。
それはちょっと無謀なんじゃ……と反対したかったけど、旦那さんに元のキリッとしたハンター様に戻ってもらわない事には商売もあがったり。選択の余地なしニャね。
こうしてボクたちは、オトモ二匹で宿敵フルフルに敢然と立ち向かったのニャ。
もちろん、大失敗ニャ。
ネコの手にはあまる仕事だったニャ。ボクたちアイルーがニャンターとして大活躍するのは、もっとずっと後の時代ニャ。
そもそもの誤算は、フルフルのねぐらが、寒い洞窟という事ニャ。
ぶっちゃけ、ボクたちネコは寒いところが苦手ニャ。
寒い洞窟の中では、ボクたちの、あるんだか無いんだか分からないような戦闘能力も半減以下ニャ!
フルフルがビリビリの電撃を飛ばしてきて、ツキミが「ア゛ニ゛ャ゛ア゛ァ゛ァ゛」と痺れたニャ。
ボクはすんでのところでかわしたニャけど、まったくのマグレニャ。
次はかわせない……! 直感したニャ。
「ダイフク……おまえだけでも……逃げ……」
地面に伏せたツキミの、プルプル震える手がパタッと倒れたニャ。
絶体絶命とはこの事ニャ。ボクは洞窟の壁際に追いつめられたニャ。フルフルはイヤらしい顔(目の無い真っ白なミミズみたいな顔ニャけど…)でボクを見るニャ。
「ボ、ボクは、美味しくないニャよ……?」
涙声で訴えるけれど、ダイフクなんておいしそうな名前を付けられた白ネコのボクが言っても説得力は皆無ニャ。
ボクたちオトモだけで大型モンスを狩るなんて、無謀だったニャ。勇者様きどりだったニャ。フルフルベビーくらいにしとくべきだったのニャ……。
だ、旦那さん……タスケテ。
「テヤァッ!」
そのときニャ。誰かが叫んで、スゴイ勢いで突っ込んできたのニャ。
ガガガガと凄まじい音がして、フルフルが真横に倒れたニャ。
ニャニャニャ!?
「アホ猫ども、無事!?」
それは銀色に光り輝くランスを装備した旦那さまだったニャ! しかも戦乙女のようなキリリとしたリオハート装備!?
ぶざまにひっくり返ったフルフルの頭をガスガスぶっ刺しながら、旦那さまは勇ましく、
「手間かけさせないでよね!」
か、カッコ良いニャ! 痺れるニャ! 憧れるニャ!
あ! 起き上がったフルフルが伸縮自在の首を振り回してきたニャ!
けど、旦那さまときたら、ヒョイヒョーイと華麗なステップでそれをかわし、動きの止まった一瞬を狙って、逆にランスでズバズバ突きまくりニャ。
それはまさに、歴戦の女ハンター! 熟練の達人! ランスの女神様ニャ!
でも、なんでランス?
「だ、旦那さん……それはいったい……」
当然ボクは聞いたニャ。
「んー」と旦那さまはフルフルの脚を無造作に突きまくってバタンっと転ばせると、「あたし、もともとランサーだったのよね」と言ったニャ。
ボクはツキミを見たニャ。
ツキミもボクを見て、知らない知らないみたいに首を振ったニャ。
ジャンボ村とかいうところ出身の旦那さんと一緒に狩りに行くようになったのは、ポッケ村に来てからなのニャ。わりと最近ニャ。女には秘密がいっぱいニャ。
「しばらく、太刀の練習してたんだけど、やっぱ慣れた武器はしっくりくるわ」
そう言って、あっさり、かんたんに、いともたやすく、あのにっくき白い奴を倒してしまったのニャ。
最後は、突進でガガガと華麗に決めると、フルフルのヤツは倒れて動かなくなったニャ。
ザマミロニャ! クエストは大成功ニャアアアァァァ!
村に帰る道すがら。勝手な行動で迷惑かけたボクたち二匹は、旦那さんから容赦ないオシオキのゲンコツを落とされて、ションボリしてたニャ……。
けど、旦那さまは上機嫌ニャ。5分針で倒せば、そりゃそうニャよね。
「……なんで、慣れない太刀なんか使ってたニャ?」
色々な武器を使いこなそうとするのは、ハンターとしては正しい姿勢ニャけど……。
「いやー、ランスって野暮ったいでしょ。デカイ盾で、あたしの美貌も隠れちゃうし。せっかく可愛いザザミ装備作った事だし、思い切って太刀に転向してみたんだけど、やっぱ向いてねーわ」
アハハと豪快に笑う旦那さま。
な、なにが美貌が隠れるニャ……。舐めプもたいがいにしろニャ……。ボクたちオトモの事もちっとは考えろって話ニャ……。
「ニャニャ? でも、どうしてあのクエ失敗の後、ポケーっとしてたのニャ?」
そうボクが聞くと、
「そ、そそ、それは……」旦那さまは真っ赤になって、しどろもどろになったのニャ。
「恋わずらいか……」とツキミが心得たようにボソリ。「あのハンマー使いニャね」
うわーうわー、と旦那さまは取り乱して、手をバタバタ。
ボクはしばらくその意味を考えたニャけど、やっと飲み込めたのニャ。
全身に怒りが満ちてきたニャ。
ボクは怒ったディアブロスみたいに黒い息を吐いたニャ。ニャーボフー。
「そんな発情期のネコみたいなイヤらしい理由だったニャか……!」
「は、発情!?」と旦那さまは目を白黒。「ダイフク、アンタねえ、言う事に欠いて……」
「この、エロハンター!」
ボクは、にゃんにゃん棒のキツイ一撃を、ポカリと旦那さまの頭にお見舞いしてやったのニャ。いい気味ニャ。
<おわり>
つづくニャ。おもしろかったらアクションおねがいしますニャ。
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【みわくのラーメンチケット】
ツキミ … まっくろ毛並みのニヒルなオトモメラルー。オトナニャ。
だんなさん … 女ハンター。最近ダイエット中ニャ。
ある日の事ニャ。
「ダイフク、これを受け取りなさい」
旦那さんがさも大事そうに紙切れを二枚渡してきたのニャ。見ると「ラーメン券」と下手な字で書いてあるニャ。
「これは……?」
「よく考えて、大事に使うのよ。ツキミにも渡しておいて」
「あ、お金は自分で払うのよ」
そう付け加えて旦那さんは買い物に出かけて行ったニャ。
ラーメン券とは一体何ニャ?
ラーメン券には、有効期限と、譲渡禁止、再発行不可など約款事がつらつらと書いてあるんだニャ。
何かとても大切なものらしいニャ。
「ただいまニャよ。ぽけーっとした顔してどうしたダイフク」
ツキミがどこからかふらっと帰ってきたニャ。ボクはもう一枚のラーメン券をツキミにも渡したニャ。
「お、おまえこれはラーメン券!」
ツキミの目がギラギラと輝きだしたニャ。
「これ何ニャ? ラーメンってあのラーメンニャか?」
ツキミはラーメン券を凝視しながら話しだしたニャ。
「……オレたちはラーメンを食べるのを禁止されている。オレたちの健康を気遣った旦那さんが禁止令を出したんだ。オレはそんなの無視して何度かラーメン屋さんに行ってみた……だがことごとく入店お断りされて……、出前を頼んだ時もオレの目の前で持って帰りやがったんだあの野郎………とにかくラーメン券が無いとラーメンを食べる事ができないんだっ! オレは何度旦那さんを呪ったか知れない……」
ボクもラーメン禁止だったとは知らなかったニャ……。ラーメンは、ボクがまだノラだった頃に旅先で何度か食べただけだったニャ。
ツキミの顔を覗き込むと、うっすら目に涙まで浮かべているんだニャ。
「ダイフク! 早速行くニャよ」
ツキミは財布を掴んだニャ。
「でも旦那さんがよく考えて使いなさいって言ってたニャよ」
「オレは今ラーメンが食べたい。安心しろ、1番うまい店に連れて行ってやるニャよ」
ボク達はポーチを下げて街に繰り出したニャ。
おいしそうなビストロや屋台が並んでいるけど、ボクらが目指すのは街1番のラーメン屋さんニャ。
「でもツキミ〜。旦那さんが禁止にしたって事は健康に悪いのは食べちゃダメって事ニャ? ボクが健康で強いオトモアイルーになれたのは、あんまりラーメン食べた事ないからって事ニャよね?」
ツキミは、コイツ分かってないという顔をして首を振るんだニャ。
「オヤジ、ラーメン特盛!」
ツキミはボクの知る限り最大の格好良さで、ラーメン券を渡して注文したニャ。
「ボ、ボクもニャ! オヤジラーメン特盛!」
ボクも真似してみたけど、なんかちょっと違ったニャ。
「ラーメン特盛ふたつ、お待ちどうさま!」
出てきたのは分厚いチャーシューや煮卵などが乗った特別なラーメンニャ!
ボクはちゅるんと食べてみたニャ。
う、ウマイニャ!
こんなにおいしいラーメンは今まで食べた事ないニャ!
「ツキミー! おいしいニャねぇ」
ツキミを見ると、今まで見た事ないような顔でラーメンを心ゆくまで味わってるみたいニャ。
カエダマ? ってのをお願いすると、次々とラーメンが増えてまるでイリュージョン!
ボクもツキミも思う様に平らげて、もうお腹ポンポンニャ。
ボク達は帰りながら、余韻に浸っていたニャ。
「ラーメンおいしかったニャ!」
「だろ? 次はいつ食べられる事やら」
「早く次のラーメン券ちょうだいってボク旦那さんに頼んでくるニャ!」
「おいダイフク……」
買い物から帰ってきてた旦那さんは、調合したり入念にアイテムチェックをしていたニャ。
「薬ヨシ、罠ヨシ…これからギルドクエでかなりの死闘になると思われるから、ツキミとダイフクも気を引き締めて……、って……おまえら何だその腹はー!!」
ニャワワ……これはどうしたことニャか。引き締まって颯爽としてたボクのスタイルが……。
ツキミも突き出たお腹で耳もすっかりションボリしてるのニャ。
「根性入れニャおし! 今すぐ腹筋バキバキに割ってこーい!!」
おわり
by チコ
たのしかったらアクションよろニャ
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【オトモたちの休日】
ツキミ … まっくろ毛並みのオトモメラルー。甘く危険な先輩ネコニャ。
だんなさん … ぼっちの女ハンター……も過去の話。最近友達ができたニャ。
ボクはダイフク。まっしろ毛並みのオトモアイルー。回復笛の扱いには、ちょっとうるさいニャ。
だけど、最近のボクたち(ボクと先輩オトモアイルーのツキミ)ときたら、狩りにも行けず、お留守番ばかり。
それというのも、孤高のぼっちハンターだった旦那さんに、初めての狩り友ができたせいなのニャ。しかもふたりも。
友狩りの楽しさに目覚めた旦那さんは、すっかりボクたちを放ったらかし。
毎朝バッチシおめかしして、女ハンターさんふたりと狩りに出る日々……。
ボクたち暇なんだニャ。つまんないニャ。
「だいたい旦那さんはオレらを軽く扱いすぎる」
旦那さんのマイルームで留守番してると、先輩オトモのツキミがニヒルに言いだしたニャ。
「オレらが今まで何度旦那さんを助けてきたか」
「そ、そうニャ! ちょっとともだちができたからって、ボクらをポイってのは、あんまりニャ! 勝手ニャ!」
「旦那さんがリオレイアにハメられてピヨッたときなんて、オレが、必死で尻を叩いてモンスターを挑発して引きつけたから、九死に一生を得たんだニャ」
「ボ、ボクもニャ! 旦那さんがババコンガの放屁を食らって回復不能の大ピンチってとき、回復笛を吹きまくって、体力を回復させたニャ!」
「オレらあっての旦那さんニャ。それを理解してないニャ、ね」
ツキミはそう言うと、突然、アイテムボックスのフタをゴトリと開けて、ごそごそと上半身を突っ込んだのニャ。
目をまん丸にしたボクの目の前で、勝手に取り出した水色の瓶は……『栄養剤』?
ツキミはためらうことなく栄養剤に口をつけ、ごっふごっふと飲んでしまったニャ!
「ツ、ツキミ……!」
「ニャッフーーー!」目を星のように輝かせたツキミがピカーンとガッツポーズを決めたニャ。「効くニャアアアア」
と、とんでもないことをするニャ! アイテムボックスには絶対触るな、と旦那さんは眉間にシワを寄せたテオ・テスカトルみたいな顔で、ボクたちにきつく言いつけているのニャ。
「心配するな」ツキミは平然と。「ズボラな旦那さんは、たくさんストックのある道具の数なんて、いちいち覚えてニャい」
「それはそうニャけど……」
アイルー族のマジメなボクに比べて、メラルー出身のツキミは、時としてとんでもなく大胆なことをやってのけるニャ。
でも、実はそんなところに少し憧れてるボクなのニャ。
「ダイフク。おまえもやれ」
ここで引き下がるわけにはいかないニャ。それに、旦那さんがズボラで、アイテムボックスの内容を把握してニャいという意見には全面的に賛成ニャ。
「ボクもやってやるニャ!」
ボクはボックスの中から適当に目についた美味しそうな瓶を手に取り、途中で怖くなってやめてしまわないように、勢いをつけて開封。その黄色い飲み物を一気にゴブリ。
「ンニャッハアアアァァァーーーーー」
とんでもない衝撃が体中に走ったニャ。全身に力が漲り、目からはビームが飛び出し、ボクはハンターさんのような雄々しいガッツポーズをピカーンと決めたニャッ。
見れば、アイルーの貧弱な身体とはオサラバして、逆三角形の筋肉質になっているニャ。なんか腹筋も六つに割れてるニャ。
「ダ、ダイフク……おまえ……」ツキミはピクピクして。「ひ、秘薬を勝手に飲むのはさすがのオレもドン引きニャ……」
ひやく? って……『秘薬』ニャか?
「三本しかないレアアイテムニャ。おまえって、ときどき、おそろしいことするニャね……」
「だーいじょうぶにゃーー」とボクは楽観的に言ったニャ。なんだか気分がよくてぽーっとするニャ。おかしいニャ。まるでマタタビに触っちゃったときのようニャ。「旦那さんは数字に弱いからよゆうにゃーーー」
「それもそうニャね」
ツキミはあっさり言って、自分もボックスからまた何か取り出したニャ。
「後輩オトモのおまえが秘薬で、オレが回復グレートくらいじゃカッコつかないニャ。ワンショット、いっとく?」
ツキミはそう言って、オレンジ色のなんだか美味しそうな瓶を口につけたニャ。ニャニャニャ? もしかしてそれは『いにしえの秘薬』?
次の瞬間、ツキミは、激高したラージャンみたいに、金色になった全身の毛を逆立て、雄叫びを上げたのニャ。にゃは。
◆
と、ととととととととと、とんでもないことになったニャ……。
ボクは、秘薬でハイになっていた反動のせいで、おそろしく気持ちがダウンして、なんだか死んでしまいたくなったニャ。
部屋の中はひどい有様ニャ。クシャルダオラが暴れたってこうはならないニャ。
ツキミとペイントボールの投げ合いをしたせいで、壁も、窓も、ベッドもピンク色で取り返しがつかないほどベッタベタ。
床は、ボクたちが面白がって爆発させた小タル爆弾であちこち焦げだらけ。
本棚にはブーメランが刺さってるし、かごから逃げ出した光虫とか雷光虫とかが部屋中景気よく飛び回って目がチカチカ。
よく覚えてニャいのだけど、どうも目についたものでデタラメに調合して失敗したらしくって、『燃えないゴミ』が小山のようにそびえているさまは圧巻ニャ。
ニャワワワワ……ニャワワワワワ……。
「つ、ツキミ……」ボクは助けを求めるようにツキミを見たニャ。「こ、これどうするニャ……?」
ツキミはさっさと隠れようとして、ボックスの中に上半身をもぐりこませているニャ。
「あ。自分だけズルいニャ!」
ボクは真っ黒毛並みのツキミの下半身に抱き着いたニャ。
「ニャッ。はなせ」
「ぜーーーったい放さないニャ!」
「こ、こら……揺らすニャ。倒れる」
「逃がさないニャよー!」
二匹でバタバタやっていたら、弾みでアイテムボックスがバターンと倒れてダメ押しニャ。
ガラスの割れる音や、素材の骨が砕ける音、そしてなにやら、赤い逆鱗に傷がつく致命的な音までして、ボクとツキミはもう真っ青を通り越して真っ白ニャ。
ふと、そこで、何やら紙切れのようなものが何枚か床にヒラリ。
「ニャニャニャ?」
つまみ上げたそれは、ボクたちが旦那さんにあげた『オトモチケット』だったニャ。
日頃の感謝のしるしとして、オトモたちからハンターさんに贈られる記念の品で、けっこうレアな装備の材料になるものだから、たいていのハンターさんはもらうとすぐに使っちゃうのニャ。
ボックスに入れっぱなしとは、さすがボクたちの旦那さんはズボラ……
「オニャッ!」ボクが手に持つ二枚のオトモチケットを裏から見ていたツキミが、らしからぬ取り乱した顔で叫んだニャ。「こ、これは……」
チケットをひっくり返すと、余白の部分に旦那さんのものらしきメモ書きが記されていたニャ。
『ダイフク、回復笛吹きまくりの大活躍! あの子もどんどん成長してうれしい!』
『あわや大ピンチ。でもツキミの挑発で助かった! やっぱりツキミって頼りになる!』
ボクとツキミは顔を見合わせて、競争するように床に散らばったオトモチケットを拾い上げたニャ。
『初めてのレウス討伐! ぜったいひとりじゃ無理だった! がんばったオトモたちに感謝!』
『ついに上位ハンターに! ここまで来られたのもツキミとダイフクのおかげね』
『オトモたちの大かつやくでジエン撃退! トドメはネコ式火竜車がさくれつ! なんか感動して涙ぐんちゃった』
最後の一枚、この前あげたばかりのオトモチケットには、下手だけど一生けんめい描いてある黒いネコと白いネコのイラストが。
『わたしたちは最高のチーム。ずっとこの三人で狩っていきたい』
「オレらは……」ふだんはクールなツキミの金色の瞳にも、涙がキラリ。「……世界いち幸せなオトモ、ニャね」
ボクも涙で前が見えないニャ。
旦那さんが、こんなにも、ボクたちのことを、大事に、大切に思ってくれていたなんて……。
そんなことにも気づかず……ボクたちは、自分たちのことばかり。なんておろかなネコなのニャ……。
ガチャッ。
「……ただいまー」
旦那さん、もう帰って来たニャ!?
「いやー。まいったまいった。黒グラビってほんとハラたつ。レーザー三人同時に食らって、三人同時にやられて、あっという間にクエ失敗よ。やっぱ友狩りって面倒くせーわ」
旦那さんは、よっこらしょっと、でかいランスと盾を床に置いたニャ。
ボクは、両手を広げながら、全力で旦那さんの元へ駆けたニャ!
世界が桃色になって、そこらじゅう満開の花でいっぱいになったニャ!
「だーーーんーーーーなーーーーさーーーーーんんんんん!!!!」
ニャッニャーーーーン。ボクはスローモーションのように、親愛なる旦那さんの胸に飛び込んで……
ボグッ。
「へごっ!」
旦那さんの拳がボクの顔にめり込んで、目に星が散ったニャ。
「……オイ。アホ猫ども」旦那さんは押し殺した声で「……説明してもらいましょうか、この惨状を」
あ。
部屋は、へんなテンションになったボクとツキミが大暴れしたときのままだったニャ。すっかり忘れてたニャ。
「こ、ここ、これ……これは……つ、ツキミが……ツキミがさいしょに……」
ガクガクブルブル震えながらボクはツキミのほうを見たニャ。
!?
そこには、モドリ玉を使ったあとの緑色の煙が残っているだけニャ!?
「アニャアアア!!!???」
もう一度ゆっくり振り返ると、パチパチ危険なオーラを全身から発して薄ら笑いを浮かべる旦那さんが立っていたニャ。ヤバイニャ。ラージャンがただのチンピラに見えるニャ。
バキ。バキキ。
手の関節を鳴らしてやぶにらみする旦那さんは、はっきり言って、ミラボレアスより危険な災厄ニャ!
「ダイフク! 歯ぁくいしばれッ!!」
「ニャアアアアアアアァァァァ」
バキッドカッグシャッ。
説明不要の音が響き渡ったニャ。
だけど、こんな目に遭わされたって、ボクはぜーーーーったい、旦那さんのオトモをやめるつもりはないニャ。
(おわり)
おもしろかったらアクションよろしくニャ
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【ボクはがんばってるニャ!】
ツキミ … 先輩のメラルー。神出鬼没ニャ。
だんなさん … もういいんだニャ。きらいニャ。
「ボクは頑張ってるニャ!!」
「ダイフク!コラ!」
ボクは振り向きもせず旦那さんのホームを飛び出したのニャ。
だって旦那さん……ボクたち(特にボク)にひどい事を言うんだニャ。
ボクがモンスターに小タル爆弾を投げたところに、ランスで突進してきた旦那さんに見事命中した事や、ちょっと採集してる隙にティガレックスに旦那さんが噛み付かれてた事や……。
クエスト失敗して反省会していたら、旦那さんのイライラの矛先がなぜかボクに向かったんだニャ。
他のオトモ達の手前、特訓が足りないとか怒られたらボクも立場がないんだニャ!モンスターは怖いし痛いし、いつも必死ニャのに……。
ボクは気がついたらぽかぽか島にいたのニャ。
あっちで一日中釣りをしているアイルーや、そっちで日向ぼっこしているアイルーがいるいつもの風景。モンスターとの死闘とは縁がないこの島。
「またノラオトモに戻るかニャア……」
旅に出るのも悪くないかもニャ。
それともこの砂浜でカキ氷や焼きそばを売ったら儲かるかニャ?
でもアイツとソイツしか客がいないニャ。
大体この島には誰も来ないんだニャ。
もっと世界中からアイルーや観光客を呼ばないとダメニャね。
海の上に浮かぶ雲を眺めながらそんな事を考えてたら、どことなくこざかしい声が聞こえてきたニャ。
「やっぱりココにいたか」
「ツキミ……!」
先輩オトモのツキミが、椰子の木陰から現れたニャ。
「旦那さん、相当怒ってたニャ。解雇だー!とかわめいてたニャよ」
「解雇!?」
まさかボクが解雇される!? そんな!
「まったく勝手だニャア。旦那さんオレらがいないとなーんにもできないくせに」
ツキミは鼻を鳴らしている。
待ってニャ待ってニャ!
ボクまだ旦那さんと狩ってないモンスターがたくさんいるニャ!
ボクはまだ本気を出せるニャ!
大急ぎでホームに戻りドアに体当たりしたニャ。
「ちょっと待ったニャー!!」
「あ、ダイフクちょうど良かった」
旦那さんはなぜかホクホク顔でそこにいたニャ。
その手にはピカピカの王ネコ剣ゴロゴロが・・・。
「 肉球ネコパンチがカワイイから持たせてたけど、やっぱ弱すぎるわ。会議であんたにこれを使わせる事に決まったのよ。」
と言ってボクに手渡してきたニャ。
「か、かっこいいニャ……」
ズッシリと重いその武器は、神々しくさえあってもう勝つ気しかしないんだニャ。
旦那さんはボクの背中に装備させてくれたニャ。
「これでよーし」
これが身が引き締まるという思いニャか……。
「さあおいで」
ちょっとマヌケな笑顔で両手を広げる旦那さん。
まあいいニャ。許してやるニャ。
ボクは旦那さんめがけて思いっきり突撃したニャ。
おわり
by チコ
いっけんらくちゃくニャ。また次回ニャ。
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【オトモたちの逆転】
ツキミ … まっくろ毛並みのニヒルなオトモアイルー。今回、意外な正体が…。
ミタラシ … 最近新しく来た見習いオトモ。ボクから見ても可愛いルックスニャ。
だんなさん … 色々と問題がある独身女ハンター。けどボクたちは大好きニャ。
ボクはダイフク。中堅どころのオトモアイルー。
けど、そんなボクにも、ついに、待望の子分ができたのニャ。
きっかけは、先輩オトモであるツキミの里帰りだったニャ。
ある日、ツキミの故郷の親せきが体調を崩しちゃったという知らせが届き、旦那さんは、
「たいへんじゃないの! こっちはいいから、アンタすぐ帰ってあげなさい!」
と、ツキミに長期休暇を出したニャ。
ツキミはいそいそ緑色の風呂敷に手回り品を詰め込むと、首に巻きつけ、四本足で走って拠点の村をあとにしたニャ。
「いい? ダイフク。ツキミのぶんも、アンタがしっかりやるのよ」
旦那さんに言われ、ついにこのボクが繰り上げで、オトモリーダーとなったのニャ!
身が引き締まる思いニャ……。
でも、ぶっちゃけ、オトモが一匹じゃ狩りも心もとないのニャ。
そんなわけで、ネコばあちゃんにお願いして、急きょ新しいオトモを派遣してもらったニャけど……。
「ダイフクー! お茶ー!」
マイルームに鋭い声が響いたニャ。リビングのソファにだらしなく足をのばし、お菓子を食べながら女性ハンター雑誌を眺めていた旦那さんが、ボクに命じたニャ。
「は、はいですニャ!」
ボクは急いでお茶の用意のためキッチンに向かおうとしたニャ。
「だんなさーーん。お茶ですにゃー」
甘ったるいネコにゃで声がして、茶色毛の若いアイルーが、お茶ののったお盆を手に、旦那さんのもとへすっ飛んでいったニャ。
「おおー。ミタラシ。アンタってほんと気がきくわねー」
「ぼくは旦那さんの笑顔が見たいだけですニャ。エヘ」
旦那さんにのどを撫でられ、ゴロゴロするコイツこそ、ボクの子分である新入り「ミタラシ」ニャ。
名前の通り、茶色のふわふわとした毛並みの、まだ幼い見習いオトモニャけど、気の利く性格と快活な従順さ、何よりボクもしっとするほどの愛らしい容姿で、早くも旦那さんのお気に入りになってるニクイやつニャ。
「それに比べてダイフクはトロいわねえ」
ハア、と旦那さんはこれ見よがしにため息。ひどいニャ。ボクがダメなオトモみたいニャ。ミタラシが異常によく働くだけなのに……。
「ニャ。旦那さん。せんぱいにそんなことを言うのはやめてあげてくださいニャ」とミタラシ。「せんぱいオトモのダイフクあってのぼくニャ。ぼくなんてまだまだ見習いニャ。教えてもらうことは、いーっぱいあるニャ」
「ミタラシ……」単純な旦那さんは、そんな殊勝な態度に早くもホロリ。長年仕えるボクには見せたこともない優しい笑顔でぎゅっとミタラシを抱きしめ、「いいオトモがウチに来たわ。こりゃアタリね」
……ボク、立場ないニャ。
◆
けど、そんなある日のことニャ。
「っかしいわね……」
旦那さんがアイテムボックスをごそごそしながら、怪訝そうに言ったニャ。「ハチミツってこんだけだったっけ? 不死虫もなんか少なくなってる気がするし……」
どうもボックスの中からアイテムが減っている気がするというのニャ。
「ダイフク……まさかアンタ」
アマツマガツチのように不吉な顔でボクをにらむ旦那さん。
「え? ち、ちちち違うニャ! ボクそんなことしないニャ!」
前にツキミとアイテムボックスにイタズラして(※オトモたちの休日参照ニャ)、旦那さんにしこたま殴られてからというもの、ボクはアイテムボックスに近づいてすらいないニャ。
「ツキミのしわざ……のわけないか」旦那さんは納得いってない顔。
「どうしましたニャ?」
無邪気な笑顔のミタラシがマイルームに入ってきたニャ。旦那さんとボクはアイテムボックスの件についてミタラシに話したニャ。
「ぼく怖いニャ……」真っ黒な瞳にいっぱい涙を浮かべて、ミタラシはぷるぷる震えながら言ったニャ。「このおうちに、空き巣さんとか入ってるのかもしれないニャ……」
「空き巣かー」と旦那さん。
「け、けど、大好きな旦那さんの、大切なアイテムボックスを狙うわるいやつは、ぼくぜったい許せないニャ。怖いけど、ぼくも注意して警戒しておきますニャ!」
「うんうん。ミタラシはいい子ね」と旦那さんは優しくミタラシを撫で撫で。
カーーー。この待遇の差はなんなのニャ。
ふと気づくと、旦那さんがじーーーっとボクを見てるニャ。
ぼ、ボク、疑われてるニャ!?
「あ、あんまりニャ! ボクそんなことしないニャ!」
「アンタ前科があるからね」
う。その通りニャけど……でも疑うなんて酷いニャ。ボクの目にも熱い涙が浮かんできたニャ。でも旦那さんは気づいてもくれなかったニャ。
◆
こうなったら、絶対に犯人捕まえてやるニャ!
旦那さんと採集クエに行くことになったボクは、途中でお腹が痛いと言ってリタイヤして、こっそり村に帰り、マイルームのベッドの下に隠れたのニャ。
しばらく待つと、コトリ……と音がして、静かにドアが開いたニャ。ボクの心臓がドキンと跳ねたニャ。犯人ニャ。旦那さんならバターーンと下品に開けるニャ。こいつはさっそく網にかかった犯人ニャッ!
「ふー。ったく、勘付きやがったか。ニブそうに見えて、ニャかニャか油断できん女ニャ」
ドスの利いた低い声。一発で、性悪ネコってわかる声ニャ。
ボクは、ベッドの影から、そーーーっと様子を伺い、「オニャ!」と叫びそうになって、慌てて肉球で口をふさいだニャ。
タバコを口の端にくわえて、手慣れた様子でボックスからアイテムを袋に詰め込んでいるその泥棒ネコは……み、ミタラシ……!
「くくく。そろそろ潮時ニャかね」
「ちょっと待つニャ!」
「あ?」
「ミタラシ! おまえの正体、たしかに見たニャんよーーー」
「……これはこれは、せんぱいじゃないですかニャ」
いつも通りのセリフなのに、声も、口調も、顔も全然別物ニャ。毛並みこそ同じ美味しそうなみたらし団子色だけど、ガラの悪い目つきに、ニヤニヤ笑いの口、品のないくわえタバコと、ビックリするくらい別ネコニャ!
「ミタラシ! アイテム窃盗の現行犯ニャ! おまえのせいでボクが疑われたニャ!」
「まあ、日ごろの働きの差っちゅうヤツですわ」
すぱーとタバコの煙を吐きながら、悪びれることなく言うミタラシ。
「ボクたちのご主人たる旦那さんに対するこれは重大な裏切りニャ!」
「おやおや。あんな色気ゼロの筋肉女ハンターに、たいした忠誠心だねェ」
「黙れニャ! 旦那さんを愚弄するニャ!」
「ひどいですぅ。せんぷぁーい」
いきなりミタラシの口調が変わったニャ。口調どころか、見た目も声もあの愛らしい従順な後輩オトモの姿に180度切り替わったニャ!
かと思えば、またも豹変。「ククク。バカな主人と愚かなオトモに、このオレさまがなついてやったのを、ありがたく思えニャ」
頭の中でカッと火花が散ったニャ!
ボクは怒りに任せて、愛用のブーメランをブン投げたニャ。
でも、ミタラシは余裕でそれを片手でキャッチ。
「止まって見えるニャ」
「!?」
「ブーメランってのは……」鋭い動作で手を振るミタラシ!「……こう使うニャ!」
ぱこーん。ブーメランはまともにボクの顔に直撃ニャ。
「ま、負けるもんかニャ! ボクは……旦那さんのオトモリーダー……ダイフクニャ!」
タンコブにもひるまず、破れかぶれで突っ込んでいくボク!
でも、正体を現したミタラシには全然歯が立たなかったニャ。こ、コイツのレベルは尋常じゃないニャ!
ボクは逆にボコボコに殴られて、床に突っ伏し、ミタラシの足で踏んづけられて身動きひとつできなくなったニャ……。
「お、おまえ……なにもの……ニャ」
「小僧が気安くおまえ呼ばわりするニャ」とミタラシは剣呑な顔でボクを睨んだニャ。「こう見えても、オレさまはお前の倍以上は生きてるベテランオトモニャ」
そ、そんな……ネコは年齢がわかりにくいとはいえ、詐欺ニャ……。
「この愛くるしさで、行き遅れのバカな独身女ハンターに取り入り、アイテムを散々奪ってドロン。そいつがオレさまのやり方ニャ」
ミタラシはのどの奥でクククと笑ったニャ。ボクは涙をボタボタ落とすことしかできなかったニャ。悔しいニャ。悔しくて悔しくて仕方ないニャ。ボクがついていながら、大事な旦那さんを、みすみすそんな悪党の被害に合わせてしまうなんて……。
こんなとき、ツキミが居てくれたら……。
「……なるほど。そういう手口か」
どこからともなく、落ち着いたニヒルな声が響いたニャ。
「だ、誰ニャ!」とミタラシ。
「まったく、とんだ性悪ネコを我が家に引き入れたものニャ、ね」
「この声は……」つ、ツキミ……!?
「ど、どこニャ!? 姿を現せニャ!」
部屋の隅の影からにじみ出るように、真っ黒毛並みのネコが現れたニャ。もちろん、それは、ボクの頼れる先輩、ツキミニャ!
「お、隠密スキル……!」汗をたらし、驚愕するミタラシ。「このオレが気づかないとは、貴様、ただのメラルーじゃないな!? 何者ニャ!」
「オレの名はツキミ。旦那さんのオトモリーダーにして、ダイフクの先輩」
ツキミはそう言うや、くるりととんぼ返り。
次の瞬間には、羽根飾り付きの優美な帽子と、美しい赤の正装を身に着けた雄姿がそこに居たニャ!
「……そして、オレのもうひとつの顔……それが『ギルドニャイト』ニャ!」
う、噂には聞いたことあるニャ!
ギルドからの極秘使命を受け、悪さするアイルーメラルーをこらしめるために暗躍する秘密猫騎士たち!
ま、まさか、ツキミがそうだったニャんて……!
じゃ、じゃあ里帰りというのも口実?
「……さいきん、女ハンターに悪さする茶色のアイルーが居ると指令を受け、ひそかに調査していたのだが……」
ツキミは静かな炎のように言ったニャ。怖い声ニャ。
「まさかオレの旦那さんを狙うとは」怒気をはらんだその瞳がギラリと細まって。「……けっして手を出してはいけない女性に、おまえは手を出したのニャ」
「つ、ツキミーーーーー」
ボクは隙を見てミタラシの足から這い出し、美麗な深紅の騎士姿のツキミの元に駆け寄ったニャ。
「よくがんばったな、ダイフク」
「ぼ、ボク……ボク……だんなさんのために……」
「もう泣くニャ」ツキミはボクを優しくよしよししてくれたニャ。
「ぬぬぬぬぬ」とミタラシは歯をむき出しにして本性を現したニャ。「なにがギルドニャイトニャ! コイツをお見舞いしてやるニャ!」
ミタラシが懐から取り出し、重そうに持ち上げたのは……大タル爆弾G!
あ、あんなものここで爆破されたら……大惨事ニャ!
一陣の黒い風が走ったニャ。
ツキミの姿が消え、気づいたらミタラシの背後に移動してたニャ。
ツキミの手には美しく光る白刃。
ちん、と音がしてツキミのサーベルが鞘に収まると、ミタラシの持っていた大タル爆弾Gはバラバラに分解されたニャ。
す、すさまじい剣技ニャ。まったく見えなかったニャ。
「く、くそっ。これがギルドニャイトの実力ニャ……!?」
「神妙にお縄を頂戴するニャ」
「そ、そうだニャ! もう観念するニャ!」
ボクもツキミの後ろから叫んだニャ!
「ふふん」突然ニヤリと笑うミタラシ。いきなりまた可愛らしい仮の姿に戻って「せんぱいたち、ひどいですぅ……。二匹がかりでぼくをイジメて、濡れ衣まで着せて……」
「にゃ、ニャニャニャ!?」
「ぼく、なにも知らないニャ」ホロリと泣きべそかきながら哀れっぽい顔を作るミタラシ。「ぼくがそんな悪いことできない純粋で無力な愛らしいネコであることは、きっと旦那さんにはわかってもらえるニャ」
「な、なんですって……?」
こ、コイツ、この期に及んでまた旦那さんをだますつもりニャ!?
「……それはどうかな」
ツキミが不敵に言って、天井を見上げたニャ。
フッと天井からにじみ出るように誰かが舞い降り、身軽に着地したニャ。
それは、フトモモの露出もまぶしい忍者装束に身を包んだ女ハンター。
顔は、キツネのような面で隠されていても、ボクにはひとめで誰かわかったニャ!
「……まったく。里帰りしたはずのツキミから、いきなりこれ着ろなんて言われたときはビックリしたわよ」
仮面のくノ一は、言ったニャ。
「まさか、この私が、『忍・陰シリーズ』なんて地味な装備着る日がくるなんてね」
そう言って、女ハンターはキツネの面を外したニャ。
確か、『忍・陰シリーズ』の発動スキルは……『隠密』!
「おかげでおもしれーもん、見られたけどね」
旦那さんは、ミラバルカンより迫力ある笑顔でニッコリ。
「旦那さん!!」
「……ダイフク。ごめんね。疑ってわるかった」
ニャニャニャ! 初めて……旦那さんがボクに謝ったニャ? 感動のあまり、ボクは号泣ニャ。頑張った甲斐あったニャ……。
「で」と旦那さんは、ガクガク震える茶色のアイルーに向けて押し殺した声を出したニャ。「……誰が、行き遅れの、野暮ったい、凶暴凶悪冷徹な、独身筋肉性悪貧乏冷酷女ハンターだって?」
「ぼ、ぼぼぼぼぼぼぼぼぼ、ぼく……後半のほうは言ってないニャ……」
ミタラシは精いっぱい可愛らしく、エヘ、と笑ったけど、激高した旦那さんには、そんなもの通用しなかったニャ。
「ミタラシ! 歯ぁくいしばれッ!!」
「ニャアアアアアアアァァァァ」
バキッドカッグシャッ。
いつもの説明不要の音が響き渡ったニャ。いくら、指名手配の性悪ネコとはいっても、少しだけ同情するボクなのニャ……。
◆
こうして、ツキミもまたオトモに戻り、旦那さんとボクたちはいつもの日常に……
「ダイフクー! お茶ー!」
「は、はいですニャ!」
相変わらずネコ使いの荒い旦那さんが、リビングのソファから命令したニャ。ボクはほとんど条件反射的に返事して、すぐさまキッチンに向かったニャ。
そんなボクの足元に、誰かが足を引っかけてきたニャ。
「にゃっ!?」
無様にドテンとひっくり返るボク。ネコの面目丸つぶれニャ。
「はいはいはーい。お茶ならぼくがお持ちしますニャーーー」
愛くるしい顔で甘えた声を出したミタラシが、すかさず旦那さんのところへ駆け寄っていったニャ。
「今日はカモミールティーにしてみましたニャ。美しい旦那さんの優雅なティータイムにぴったりですニャ」
「あら。いい香り」
「クッキーも焼きましたニャ。シナモン入れてみました。エヘ」
旦那さんに頭を撫でてもらいながら目を細めたミタラシが、一瞬「へっ」て嫌な目つきでボクを見たニャ。
……そう。旦那さんに強烈なお仕置きを受けたミタラシは、その反動で、すっかり心を入れ替え、今度こそ本気で旦那さんに心酔してしまったのニャ。もちろん、見習いオトモからのスタートニャけど……。
「とんだ性悪ネコが我が家に居ついてしまったニャ、ね」
ツキミが肩をすくめてニヒルに言ったニャ。
まったくその通りニャ! ボクらの日常ときたら、気の休まる暇がないニャ!
おわり
ひとまずこれで終わりニャ。また書くかもニャ。
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