クロスアンジュ ノーマの少女達と一人の少年が出会った (クロスボーンズ)
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第1章 シンギュラーから来た少年
第1話 出会い


記念すべき1話です。頑張って作ったので是非ご覧ください。


 

 

 

(・・・ここはどこだ?)

今、自分は現状が把握できていない。周りは真っ暗。いや、暗すぎる。これでは今いる場所を確認するなど不可能である。

いや、それだけではない。

 

(俺は・・・何をしていた?)(俺は・・・誰なんだ?)

 

自分の中で湧いてきた疑問を口にする。答える者など誰もいないが、言わずにはいられない。彼は自分が記憶喪失だと理解した。そして、自分がこれから死ぬということもなぜか確信めいていた。

いや、すでに死んでいるのかもしれない。だが男にとってはそんなことはもはやどうでもよくなっていた。

 

(自分が誰かも分からず、なぜ、ここにいるのかも知らず、なぜ死ぬのかもわからないまま死ぬ ・・・か)

 

もうどうでもいい、なるようになればいい。疲れたから、休ませてくれ。

半ば、自暴自棄に近い状態になっていた。

その時だった。ほんの一瞬だった。光が見えた。弱い光だ。だが、確かに光であった。彼の目には、たしかにその光が見えた。

 

(光?今確かに光が見えた)

 

彼はその光に向かって進もうとした。

しかし、彼は進めなかった。いや、進めなかったのではない

彼は体が動かないのが今になって理解した。しかし、進んでいる感覚はたしかにある。

 

(どうなってるんだ・・・なんで動かない)

 

だが進んでいる。理屈はわからない。しかし光の方に進んでいると直感的に理解できる。

また光が見えた、今度は大きかった。光に近づいている証拠だ。しかも今度は点滅している。まるでこちらを導くかの様に。

理由なんてわからない。あの光に向かわなければ。呼んでいるから。光に辿り着いたらどうする?そんなこと後で考えればいい。今は行かなければならない。

そして彼は光にたどり着いた。

 

その瞬間だった。

 

今度は眩しすぎるくらい周りが明るくなった。

男は反射的に目を閉じた。

 

「お前は行かなくてはならない」

 

声が聞こえた。いや、聞こえたは正しくない。正確に言うならば、脳に響いた。

 

「君に託そう。君の望みを叶える剣を」

 

さっきの人とは違う。別の声が頭に響いた。

 

(誰なんだ?行かなくてはならない?どこに?それに託す?願いの剣?それはなんなんだ?)

 

男にとってはあまりに唐突で理解が追いついていない。

 

「すまない。お前に危険な道を歩ませることになってしまう」

 

声の主が謝罪してきた。

 

(そんなこと聞いていない!それよりあなた達は誰なんだ!?俺のことを知っているのか!?)

 

「そろそろ時間ですね」

 

(そんな!こちらはまだ何も納得のいく答えをもらってない!)

 

「すまない」

 

(謝罪なんて求めてない!そんなことより!)

 

「時間だ」

 

こちらの言葉を遮るように告げると、次の瞬間、周りが一段と眩しくなった。それだけではない、自分の意識が朦朧としてきた。

 

(あなた・・・たちは?・・・)

 

次の瞬間、彼の意識は光に飲まれた。

 

「種は跳んだ。あとは」

 

「祈るだけです。それが、我々が彼にしてやれる、唯一の事ですから」

 

「そうだな」

 

二人の会話は、すでに彼には届いてはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テスト終了!ナオミ、どうだった?」

 

通信越しに明るい声が聞こえてきた。話しかけてきたのはメイ。

アルゼナルの整備士だ。

 

「大丈夫だよ、メイ」

 

通信に答える彼女はナオミ。

ナオミは今、空をグルグルと周りながら飛んでいる。

 

今日はナオミにとって特別な日だ。

ナオミは満面の笑みで空を飛んでいた。

おまけに心の中では

 

(これが!私の!私だけのパラメイル!)

 

と、盛大にガッツポーズを取っていた。

シュミレーターではなく、本物のパラメイルにのっていることも彼女が興奮している理由の一つでもあった。

 

ナオミは今日、メイルライダーとしての資格を手に入れたのだ。

 

自分の夢であったメイルライダーになれたために、今の興奮は最高潮に達していた。

 

因みにさっきシュミレーター用のドラゴンと対面した時に少しだけ漏らしたのはここだけの話。

これだけはいつまでも慣れない。

 

「それは良かったよ.それじゃアルゼナルに帰還して」

 

「もう少し飛んでちゃダメかな?」

 

ナオミがおねだりしてきた。彼女からしたらもう少し飛んでたいのだろう。

 

「って言ってるけど、どうする?」

 

メイは隣にいる人物に答えを求めた。

 

「帰還ルートを少し変える程度なら許そう。だが、それで燃料がなくなっても知らんぞ」

 

隣にいた人物がそう返答した。

彼女はジル。アルゼナルの総司令だ。

 

「えーっと・・・要は少しなら認めるってことだよ、ナオミ」

 

メイがそう解釈した。

 

「ありがとうございます!ジル司令!」

 

彼女は興奮しながらも、来た時とは違うルートで帰ろうとした。

 

その時だった。

 

それは、なんの前触れもなく、突然起きた。まばたきの瞬間すら違う。瞬きする間もなく、突然と現れた。

 

「・・・なに?・・・あれ?」

 

驚くのも無理はない。今、ナオミの目の前で、突然穴が空いたのだ。空間に。

 

通信越しでは、司令室が慌てているのがわかる。

 

「ナオミ!そのエリアにシンギュラー反応を確認した!今すぐ逃げて!」

 

さっきテストが終わったばかりのナオミのパラメイルには、実弾など積んでない。今、本物のドラゴンと戦えば負けは目に見えていた。

そして、メイの通信も今のナオミには届いていなかった。

 

体が動かない。今のナオミは緊張とは似て非なる者に支配されていた。

恐怖だ。今のナオミを支配しているものは。

興奮などは穴が開いた瞬間に冷めきっていた。

 

わかっていた。

メイルライダーになることを願っていた時点でいつかはこうなることは理解していた。それでもメイルライダーになりたかった。

 

テスト前にジル司令に、覚悟があるかと問われた事を思い出した。

明日、自分が死ぬかもしれない。お前に覚悟があるかとジル司令は聞いてきた。

その時、自分は覚悟があると答えた。

ノーマが世界を守り、マナの人が世界を動かすという役割がある。

なら覚悟もあると答えたことを思い出した。司令には面白い考えと言われた。

 

しかし、想像と現実は違っていた。

逃げたい、今すぐ逃げたい。でも腕が、足が、体が、恐怖で動かない。

 

「ナオミ!何やってるの!早く逃げないと!」

 

「待てメイ!シンギュラーの様子が変だ」

 

司令室では相変わらず慌てていたが、なにやら様子がおかしいようだ。

 

「ナオミ、今の状況を説明しろ」

 

「めっめっ目の前に、穴が開いてますっ」

 

恐怖で引きつった声しか出せないながらも、ジルの質問にナオミは答えた。

 

「ドラゴンはそちらに現れたか?」

 

「・・・現れてません」

 

少しだけ気持ちが落ち着いたのか、さっきよりははっきりと質問に対しての返事をする。

 

その時だった。

 

何かが落ちてきた。高いところから石を投げ落とした時みたいに、それはただ、落ちてきた。

それは海に落ちると、最初は水しぶきで見えなかったが、水しぶきが落ち着くと、仰向けになって浮かんでいるのが確認できた。

 

そしてそれが落ちてきたかと思ったら、穴は徐々に小さくなっていき、ついに、穴自体がなくなった。

 

しかし、こちらは多少パニックになっていた。

 

「!?今!私の目の前で!何かが落ちてきました!」

 

「落ち着いてナオミ!何かって何?」

 

メイが質問してきた。

 

その質問に割り込むようにジル司令が入ってきた。

 

「ナオミ、その落ちてきた物体だが、その様子はどうなっている?」

 

「落ちてきた物体は・・・浮かんでいます」

 

「待って!その落ちてきた物体から生命反応が確認できたよ!」

 

メイの一言にナオミは驚く。生命反応の確認、それはそこに生命があることを示していた。

 

しかし物体は動く気配がない。となると、可能性は1つしかない。

 

「・・・私、物体を調べてみるよ!」

 

意を決したようにナオミが言う。

 

「ダメだよ!危険すぎる!」

 

「構わん。ナオミ、調査を命じる。ただし危険と判断したら直ぐにその場から離れろ」

 

メイの反対をよそに、ジル司令は決断をする。

 

「イエス、マム!」

 

ナオミはそう言うと、物体に近づいていった。

その物体は黒色がメインだった。

物体は動く気配もなく、ただただ浮いていた。だが、その物体には、手となる部分と足となる部分、さらには、武器の装備も確認できた。

 

「・・・これって・・・もしかして?」

ナオミの中にその物体に対しての予測がたった。

 

「ジル司令、例の物体はパラメイルだと思われます」

 

自分の予想を司令室のジル司令に報告する。

 

「パラメイルだと・・・ナオミ、その機体を持って、アルゼナルに帰還できるか?」

 

「恐らくは可能だと思います」

 

「ならばその機体を連れてアルゼナルに帰還しろ。」

 

「イエス・マム!」

 

ナオミはその物体の腕部分を掴んだ。

 

その時、ナオミは胸部が開いていることに気づいた。そして、生命反応の件も同時に思い出した。

 

「まさか」

 

ナオミは胸部に機体を近づけて、中を確認した。

中は多少浸水していた。おそらく海面に落ちた時に飛んだ水しぶきが入ったのだろう。

 

そこでナオミが目にしたものは・・・。

 

顔の一部が赤く染まり、目も閉じていた。自分よりも小さい。

だが、僅かに動きがあった。うめき声も聞こえた。

ナオミは目の前の存在に独り言のように自分に問いかけた。

 

「・・・子供・・・なの?」

 

コックピットの中にいた者は答えず、ただ、血を流しながらうなだれていた。

 




記念すべき処女作の第1話!まだハーメルンに慣れてないけど、この作品の目標は完結することにしていきたいです。

ダメなところや直したところなどがありましたらバンバン指摘してください。直せるように努力します。(直すとは言ってない)

アルゼナルやドラゴンの説明については次の話の最中にしたいと思います。


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第2話 自分を忘れた少年

2話を書いてて思ったことを言います。

この作品のタイトル「少女」達と少年

・・・ジル総司令やマギーさんやジャスミンさんも少女に含めます!エマさんだって!ノーマじゃないですけど少女達には含めます!

含めるったら含めるんだ!!
異論は認めない!
以上!本編始まるよ!


夢を見ていた。暗闇の中をただ進んでいた。なぜ進んでいるのかはわからない。だが進まなければならないことはわかっていた。その中で光が見えた。そして光にたどり着いた。その瞬間、自分は光に飲み込まれた。

 

そして意識は覚醒した。彼の目に最初に映ったものは、天井であった。

 

「!・・・ここは?」

 

首を動かして周りを見た。少なくても外ではない。室内だと言うことは理解できた。どうやら医務室らしい。向いた先には、こちらを振り向く女性がいた。その女性はこちらを見るなり驚いた様な顔をして、近寄ってきた。

 

「あら!目が覚めたんだねぇ!」

 

女の人が近寄ってきた。

 

(酒クセェ!)

 

彼は内心そう毒づいた。しかし、初対面の人に流石にそれは失礼だと思い、彼は本音をぐっと我慢した。

 

「あの・・・あなたは誰ですか?」

 

思った疑問をぶつけてみた

 

しかし、次の言葉は自分の問いに対しての答えではなかった。

 

「ちょっと待ってな、司令達に報告してくるよ」

 

酒臭い人が回れ右をした。

 

「その必要はない」

 

声のした方を向く。ドアが開き、そこには女性が二人いた。

一人は髪をポニーテールにしている人だ。

もう一人は髪が真ん中で分かれていた。眼鏡をかけておりなんか偉そうな雰囲気を出していた。

 

「あの、あなた達は?」

 

自分の中の疑問をぶつけてみた。

 

「人に名前を尋ねる時はそちらからではないのか?」

ごもっともな意見にグウの音も出なかった。

 

「人じゃないですけどね、厳密には」

 

今度は緑型の眼鏡の人が付け足すように言ってきた。

ポニーテールの人は、気にする様子もなく、無視していた。

 

「名前ですか・・・」

 

その時自分は、混乱していた、なぜなら、自分の名前がわからないのだ。

 

「どうした?何を考えている?」

 

ポニーテールの人が疑問に思って聞いてきた。

 

「あの、大変失礼なんですけど、俺にもわからないんです」

 

「わからない?」3人がハモるように聞いてきた。

 

「わからないって、記憶喪失ってことですか!?」

 

眼鏡の人が驚いたように聞いてきた。

 

「はい、少なくても、自分が誰なのか、自分がどこにいたのか、なんでここにいるのか、ここがどこなのかは、わかりません」

 

俺は申し訳なさそうにあらたまった。

 

すると酒臭い人が、「少し診察してやるよ」と言ってきた。

 

(この人医者なのか)

 

どちらかと言えば、緑髪の眼鏡の人の方が医者に見える。

 

「まずあんたが自分についてわかることを言いな、どんな些細な事でも構わないよ。洗いざらいぶちまけな」

 

自分についてわかること。自分がわかるのはごくわずかであった。自分が13な事。自分が男なこと。自分がケガをしているということ。これくらいだった。

 

しかしそれを伝えると3人は驚いた顔をした。そして、何か相談するかの様に円になって話し合った。

 

「どうしたんだ?」

 

素朴な疑問が芽生えた。何を話しあっている?

 

やがて結論が出たのか、ポニーテールの人が部屋を出た。そして酒臭い人がこう言ってきた。

 

「念のためにもう一度聞く。あんたは一体幾つなんだい?」

 

「13です」

「本当かい?」

「本当です」

 

なにやら困ったように顔に手を当てていた。

 

(なんなんだ?一体?)

 

するとポニーテールの人が戻ってきた。その人は姿見を持ってきた。

 

「よく見な」

 

そういうと姿見を自分の前に置いてきた。

 

「・・・え?」

 

長い沈黙があった。今一度目を閉じて、もう一度開けてみた。

 

・・・小さい。そこには自分の知っている自分ではなく、10歳の時の自分の姿が映っていた。

 

「・・・えええええ!!!!!」

 

(なんで!?なんで小さくなってるの!?おかしい!おかしいよ!?おかしいですよ!この鏡壊れてるんじゃないんですか!?)

 

内心大パニックであった。

 

「とにかく!」

 

酒臭い人が場を取りなそうとひと声かけた。

 

「今は他の質問だ」

 

すると酒臭い人はポッケから何かを取り出してきた。

 

「これが何かわかるかい?」

 

それはボールペンだった。特になんの変哲もない、ボールペンであった。

「ボールペン・・・ですか?」

 

もしかしてボールペンじゃなくてシャープペンとかの可能性もあった

ため、強くは言わないでおいた。

 

「そうだよ、ボールペンだよ」

 

「じゃあ次だ。3かける5の答えはいくつだ?」

 

(15だ、流石にわかる)

 

「15ですよね」

 

「そうだよ、15だよ」

 

その後も色々とした質問をされた。自分が怪我している方の腕はどちらかとか、箸の使い方とか、変な質問をされた。

 

一通りの質問が終わったようで、酒臭い人が結果を言ってきた。

 

「おそらくこの子は、自分の事に関する記憶を失っていているんだね。一般常識や物の使い方とかはわかるみたいだね。」

 

「そうか、ご苦労」

 

ポニーテールの人が酒臭い人に礼を言った。

そしてこちらに向き直った。

 

「記憶がないんじゃ仕方ないとして、こちらの自己紹介から済ませてしまおう。私はジル。ここ、アルゼナルの総司令だ。」

 

「私はエマ・ブロンソン。ここ、アルゼナルの監察官よ」

 

「私はマギー。見ての通り医者だよ」

 

(なるほど、ポニーテールがジル総司令で緑髪のメガネの人がエマ・ブロンソン、そして酒臭い人がマギーと言うのか)

 

「あの、一ついいですか?」

 

疑問に感じたことを3人に聞こうとする」

 

「なんだ?」

 

ジルさんが返事をする

 

「ここ、アルゼナルは、一体、どのようなとこなんですか?」

その言葉にジルとマギーの顔が微かに曇ったように見えた。

 

「ここはノーマが、マナが使えない世界の廃棄物が送られてくるところだよ」

 

どこか自虐めいたようにジルさんが言ってきた。

 

その答えに自分の疑問は余計に膨らんだ。

 

「マナ?ノーマ?なんですか?それ?」

 

次の瞬間、3人が再び驚いた様な顔をした。

そしてまた、円陣になって会議を始めた。

 

「君、ちょっとすまないが私達は席を外す。そこで横にでもなっててくれ」

 

ジルさんがそう告げるとエマさんとマギーさんを連れて外に出た。

 

取り残された自分はとりあえず横になったが、色々と考えることが多く、落ち着くことはできなかった。

 

ここはどこだ。ここはアルゼナルだ。それはまだ結論づいた。

名前を覚えてないのはショックだった。

一番衝撃だったのが、自分が10歳の時の見た目になっていることだ。

 

(自分は13歳だった。それは間違いない。ではなぜ3年前の姿になっている!?)

 

自分は自分の中の自分自身のわずかな記憶、自分の容姿について、自分は覚えていた。自分は10歳までは明らかに小さかった。しかしそれは10歳までだ。自分の記憶の中で一番の年上の姿は間違いなく後20センチは高い。

だがこれでは10歳で見られることもきついじゃないか!

 

「・・・一体・・・どうなってるんだよ・・・」

 

答えなど返ってくるはずがなかった。彼は考えながら横になった。

 

彼が自分の中の疑問に自問自答していた頃。部屋の外ではこれまた会議が開かれていた。

 

「なぁマギー、本当にあいつは自分関係の事だけ忘れているのか?」

ジルがマギーに問いただす。

 

「そいつは間違いない。医者としての生命もはれる」

 

「だとしたら彼は底なしの世間知らずということですか!」

 

エマが少し怒ったように問いかける。

 

「・・・」

 

長い沈黙が場を包んだ。

 

「・・・なぁ、こうなっちまうとよ、あいつ、この世界の人間じゃないんじゃないか?」

 

「その可能性はなくはない。何しろ、シンギュラーから落ちてきたらしいからな」

 

マギーの口にした答えにジルも少なからず同意する。

 

「エマ監察官、彼は実際どうなんだ?ノーマなのか?」

ジルの質問にエマの顔が困ったようになる」

 

「結論では、ノーマに当てはまりますけど、2つほど、気になることがあります。1つは根本的な理由です。」

 

「ノーマは女しか、ならないことか」

 

エマの答えを待たずにマギーが答えを言う。それに気にする様子も見せず、2つ目の理由を言う。

 

「そして2つ目ですが、彼はマナが使えませんが、マナを壊すこともできません」

 

ノーマは、マナが使えないだけではなく、他人のマナを壊すことができる。その特性故に、文明の破壊者や反社会的など言われるのだ。

 

「突然変異体か、又は本当に別世界の人間か。」

 

「・・・」

 

沈黙が続いた。

 

「こうなってしまった以上、あとはメイの結果次第だな」

ジルはため息混じりにそう呟いた。

彼が回収されたとき、彼の乗っていた機体も回収し、今メイ達が調べているのだ。

 

その時の彼は、パイロットスーツのようなものを着ていたが、どう見てもサイズが合ってなかった。それ故に彼曰く、実年齢13歳の件に関しても、頭ごなしに否定できないのだ。

3人の結論がまとまった。

 

彼に彼が乗っていた機体を見せよう。そうすれば何か思い出すかもしれない。

 

3人は意を決したかの様に病室に戻っていった。

 

病室では、彼は横になっていた。

 

「君、動けるか?今から君に見てもらいたいものがあるんだ。同行願いたい」

 

ジルが妙に丁寧に話すことに、2人は軽く笑っていた。

 

「動けますけど、見せたいものってなんですか?」

 

彼は起き上がり、尋ねてきた。

 

「君の記憶に関係してると思うものだ。まぁ動けるならついてきなさい」

 

「わかりました」

 

彼からしたら、このまま何も知らないよりは、何か知っていた方が良いと考えた。

 

「じゃあ私についてきてくれ」

 

言われるがままに、彼はジルの後ろについて行った。




前回アルゼナルやドラゴンについて次の話の最中にやるといいましたが、できませんでした。ごめんなさい。アルゼナルは少し触れましたけどドラゴンは全く触れてませんね、反省して次に活かそう(後悔はしていない)

前書きに関しては、今後、些細なことや小ネタなどに触れていこうと思います。一応前書きのところは、本編ではできない小ネタなどを書いていきます。

次回は彼の乗っていた機体を登場させます。

どんな機体になるかはお楽しみに!


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第3話 その名は・・・

製作中において。
自分の出したオリジナル機体の名前の案
①デスペラード
没理由、英語としての意味がよろしくない。
②アーバトレス
没理由、似た名前の機体が存在していたから。

その他色々と真面目な案もあったけど、それら全部をあげると話が進まないのでこの2つだけで終わりにしておきます。
それでは本編の始まりです。


「あの、ジル司令、一つよろしいですか?」

 

廊下において、ジル司令の後ろを歩く彼が質問した。

 

「なんだ?」

 

ジルは振り返ることなく聞いてきた。

 

「自分は、どれくらい寝ていたんですか?」

 

「君がここにきたのが昨日の15時くらいだ。まぁだいたい16.7時間だろうな。ちなみに今は午前10時だ。」

 

「あの、助けていただいて、ありがとうございます」

自分は今更ながら、礼を伝えた。

 

「礼なら君を助けたライダーに言うんだな」

 

助けてくれたライダー、後でその人の所にも礼を言いに行こう。

 

しばらく歩いていくと少し広い所に出た。

そこは、戦闘機やら巨大な人型兵器などが置かれていた。

 

「ここが発着デッキだ」

 

ジル司令はその奥へと足を進めたので、自分もそれに続いた。

 

「すまないが君は少しそこで待っていてくれ」

 

ジル司令に申し訳なさそうに言われたので、自分はそこで待機していた。その時だった。ジル司令の向かう奥に黒い機体が見えたのは・・・。

 

「メイ、解析の方ははどうだ」

 

「あっジル。そのことなんだけどね・・・」

 

メイはジルに気がつくと少し顔を曇らせた。

 

「まず結論から言うよ。この機体だけど、パラメイルとは似て非なる物だよ。今はそれだけが断言できるんだ」

 

ジルは 「やはり」という顔でタバコを取りだし、一服した。

 

「つまり、ほとんどわからなかったと言うことか?」

 

「まぁ身もふたもなく言うとそうなんだよね」

 

ジルのきつい一言に申し訳なさそうにメイが答える。

 

「まず電気系統だけど、これが見たことないものなんだよ。それを見ちゃうとパラメイルの電気系統はおもちゃ、対するこれは精密機器くらいの差ができちゃうんだよ。

他にもパラメイルとは違ってケーブル接続とか見られないし、はっきりいって、ブラックボックスの塊だよ、この機体。しかも・・・」

 

そこまで言うとメイはジルの耳元に近寄り、小声で話した。

 

「この機体のエンジンや一体何を燃料にしてるとか、全くわからないんだ」

 

「未知の物質ということか」

 

ジルはタバコを床に落とすと足で火を消した。

 

「でも。一つだけ、これだけはわかることがあるんだ。」

 

メイが真面目な顔になって言った。

 

「この機体だけど、とても激しい戦いをしてたんだと思うよ」

 

それはジルも薄々感じてはいた。この機体は幾多もの修羅場や戦場を乗り越えてきた。

黒い塊。その黒い部分の所々ドス黒い赤色の物が付着していた。

とてもじゃないがペイントとは思えない様な付着っぷりだった。

恐らく、戦いの最中に着いていったのだろう。

それだけで、この機体がいかに激しい戦いをしてきたのかを伺わせていた。

 

それは機体だけではない。彼を初めて見たときから感じ取っていた。

 

昨日、ナオミがこの機体と一緒に彼をここに連れてきた時、素人目の私にだって一つわかってたことがある。

 

(このままでは彼は死ぬな)

 

コックピット内は血の水たまりが出来ていた。右腕からは今もなお止めどなく血が溢れていた。顔からもだ。さらにマギーの話によると、内臓の一部からも血が流れ出てたらしい。恐らく彼と同じ血液型の予備ストックがなければ間違いなく彼は死んでいただろう。

・・・今にして思えば、安静にさせておいて話を聞いた方が良かったのかもしれない。

最も、彼自身が記憶喪失なため、詳しい話も聞けないが。

 

そして彼をコックピットから出した直後、こいつは姿を変えた。

それが今の姿。黒い塊ということだ。

見た目だけならパラメイルのフライトモードに通じるところがある。

変形時に関しては、彼を含めたこの機体の上に乗ってた全員が機体から振り落とされていた。

 

ジルは後ろを向いた。

 

「さてと、これが君が乗っていた機体だ。なにか分かることは・・・」

 

そこでジルは彼の様子がおかしいことに気がついた。なんというか、心ここにあらずであった。

 

「おい?どうした?」

 

ジルは声をかけるがまるで聞こえないのか、全く反応していない。

 

(なんだこの感じは。俺はこれに関しての記憶がない。だけど何故そう思うんだ?間違いない。自分は、この機体を知っている!もしかしてこの機体は、記憶を失う前の俺に関係あったのか?目の前のこれはなんだ!?俺のことを知っているのか!?)

 

彼はぼーっとした足取りで前へ進む、

 

「ちょ、ちょっと、君!?大丈夫!?」

 

メイも彼の様子がおかしいことに気づき、彼を止めようとするが、彼は止まらなかった。

 

一歩、また一歩、彼は前へ、例の黒い機体へと進んでいった。

彼がその黒い機体に触れた瞬間だった。

 

その機体の目が光った。次の瞬間、彼は突然頭を抱え、うなだれた。

 

「おっおい!大丈夫か!?」「しっかりしろ!」

周囲も流石に異常だと気づき、彼に近寄る。

 

「・・・知ってる」

 

「え?・・・」

皆がその一言に沈黙した。

「俺は・・・お前を知ってる!」

 

次の瞬間だった。目の前にあった機体は姿を変えた。

 

ただの黒い塊としか思えなかったそれは、目の前で、形を変えた。

脚が出てきた、腕が出てきた、顔が出てきた。

あっという間にそれは人型兵器となった。

 

背中に羽を生やしその翼からは青い光の粒子が放たれていた。

腕には銃が握られていた。

左肩の後ろ部分には剣の持ち手と思われるものがあった。

黒い装甲の所々に赤いラインが光っていた。

その光によって、ドス黒い赤色も見えた。

 

「嘘!?」「動いた!?変形した!?なんで!?」

 

整備士達は騒めいていた。無理もない。何しろ彼はただ機体を触っただけである。

コックピットにすら入っていない。なのにこの機体は、今、操縦していたであろう人物が触れただけで、人型へと姿を変えた。

 

周囲が混乱していた中で、彼は近くにあったリフトを使い、機体に登っていった。

 

「ちょっと待ってよ!」

慌ててメイがリフトに乗り込む。リフトは、胸部に着くと、彼はコックピットと思われる所を開けた。メイも後ろから付いて行き、覗いてみた。

 

そこにはモニターで様々な情報が記載されていた。

彼はそれを躊躇いもなくいじくりまわしていた。

 

「君、これがわかるの?」

「わかる」

 

返事はすぐ返ってきた。

 

「さっきこの機体に触れた時、俺の中の何かが外れた。それで記憶がいくつか戻ってきた」

 

こいつの名前、操作方法、それだけじゃない。戦闘技術や武器の知識まで、戦闘系に関しては、それなりの記憶が戻ってきた。

いや、戻ってきたと言うよりは流れ込んできたと言うのが正しいのかもしれない。

 

(やっぱり彼も、戦う人なんだね)

 

「大変なんだね。君。まだ子供なのに」

 

その発言に彼が振り返って言った。

 

「何歳に見えているんだ?」

 

「7歳」

 

メイは答えた。すると彼はため息を放ち、

「本当は13歳なんだけどな」と愚痴った。

 

(13歳。それはちょっと無理があるんじゃ)

 

メイが内心そう思っていると、彼の動きが止まった。

何事かと名が覗き込む。

 

モニターには、ある単語が浮かび上がっていた。

 

《PHOENIX》

 

「PHOENIX(フェニックス)、これがこの機体の名前なんだね」

 

メイはどこか感心したような声で言った。

 

フェニックス、それは不死鳥である。

永遠を生きていると伝えられる伝説の鳥だ。

その寿命が尽きる時、フェニックスは灰となる。

そしてその灰から再び命を得る。

 

その伝説の鳥の名前が付けられていた。

 

「ん?何してるの?」

 

「・・・」

 

彼はコックピットに落ちていた一枚の紙を拾った。

それは血にまみれていて、汚かった。

彼はそれを見ていた。そして、ポケットに紙を突っ込んだ。

その後はコックピットから出て行き、リフトに乗った。

 

「あっ、待ってってば!」

メイもジル司令への報告のためにリフトで降りて行く。

 

彼がコックピットから出たが、今度はフェニックスは人型のままであった。

 

下ではジル指令がタバコを吸いながら待っていた。

 

「どうだ、何か思い出したか?」

 

ジル司令は煙を吐き出すとそう聞いてきた。

 

「少しだけ、自分の名前だと思われるものを見つけた」

 

そういうと彼はポケットに突っ込んだ紙切れを渡した。

ジルはそれを空いていた手でとった。

 

「ジル司令・・・その手」

「驚いたか?」

 

ジルの右腕は機械の腕、義手であった。

 

「私にも色々あったんだよ」

 

これ以上の詮索は控えよう。

ジル司令は紙に目をやった。

 

そこは周りが血で塗れており、とても汚いものだった。しかし、

その紙の真ん中に、薄くなっていながら、ある言葉と記号が描かれていた。

 

「The future is endless・・・未来は無限だ・・・か」

 

そしてその下には色あせたメビウスの輪が描かれていた。

 

ジル司令は何かを考えていた。そして

 

「いい機会だ、お前の呼び名はとりあえず今からは、「メビウス」だ。

いつまでも君ではなにかと不便だろう」

 

その呼び名に異論は無かった。自分としても、いつまでも彼や君呼ばわりは残念なものがあるので、呼ばれる名ができただけでも嬉しいものだった。

 

「さて、他にも思い出したことがあるか?」

 

ジル司令はタバコの火を足で消すとそう聞いてきた。

 

「あの部屋の時よりは幾らか思い出せてます」

 

ジル司令の問いに対して、自分のことが少しだけわかったのか、多少だけと、前向きな姿勢になれた。

 

「どれ、ここは1つ、取調室で詳しい話を聞くとしようか。

なに、手荒な真似はしないさ、まだ怪我人の外野であるしな」

「おい、そこのお前」

「はい!」

そこにいた整備士の一人であろう女性がやってきた。

 

「メビウスを取調室に連れて行ってやれ、私も後から行く」

 

「イエス・マム!」

 

「よろしくお願いします」

案内してもらう以上お礼を伝えておこう。

 

「僕、こっちだよ」

 

そうやって女性に手を引っ張られながら、彼は、いや、メビウスは思った。

 

「やっぱ子供に見られてるのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、コックピットを見てどう思った?」

 

メビウスが角を曲がっていったのを見送ってから、ジルがメイに問いかける。

メイはコックピットで見たPHOENIXという文字を伝えた。

 

「やっぱりあれ、別世界の技術が使われてるよ。じゃないと説明できないよ」

 

メイは、まるで想定どうりかの様に返事した。

 

「となると、やはり別世界からの来訪者ということか」

 

別世界からの来訪者とその機体。

 

メビウスとフェニックス。私達はまだ何もわかっていないのかもしれない。

 

「・・・機体のデータが欲しい。取調室でなんか手を考えてみるか。

メイ、機体のデータが計測できるかどうか試せるか?」

 

「できる限りはやってみるけど・・・やっぱりブラックボックスの塊だし、下手な真似はできないよ」

 

メイが真剣な面持ちでそう告げる。

 

「わかった、とりあえず今はメビウスについて知ることから始めるか」

 

そういうとジルは取調室に行くために歩みを進めていった。




さて、ようやく主人公に呼び名をつけてあげられました。
ちなみに彼の今の服はとりあえず病人用の服だと思ってください。

アンジュや第1中隊の面々とは、もう少し出会うまでかかる予定です。

次回あたりに戦闘シーンが書けるといいな。

ちなみに、フェニックスに関しては戦っていく中で、その力を解放していく機体だと思っていてください。
背中の翼はウイングガンダムゼロTV版の翼を想像してください。あれが付いていると思ってください。


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第4話 交渉 そして適性テスト

PHOENIXに関しては今後フェニックスと書くことにします。
PHOENIXよりはフェニックスの方が馴染み深いでしょう。

今回は取調室がメインです。少なくても原作のアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの様なことはされないのでそこんところはご安心ください。

それでは本編行ってみましょうか。


「・・・」「・・・」

彼は今、取調室にいた。特にすることもなく、ただ座っていただけだ。

部屋の中には既に、エマ・ブロンソン監察官がいた。

彼女は何か光輝く物を操作していた。それは空中に浮かんでおり、少なくても自分の記憶の中にあのようなものは知らないと断言できる。

 

「あなた、今日の天気の反対を言ってみてくれない?」

エマ監察官が突然聞いてきた。

 

今日の天気の反対?唯一の窓から外を見る。外は晴れている。

 

「今日の天気は雨・・・こう言うことですか?」

 

「うん、計器に問題は見られないわね」

 

(あれ、機械だったのか)

 

彼からしたら、彼女は超能力者でそうやって宙に何かを出すことができるものだと勝手に想像していた。

 

「じゃあ確認するけど、あなたは自分の事を13歳だと本気で言うつもりですか?」

「もちろん!」

 

俺は多少声を荒げながらも自信満々に返答した。

 

その返答を宙に浮かぶ何かを見ながら聞いてきたエマ監察官はため息をついた。

 

「やっぱりそうなんですね」

 

なにかを一人で納得したようだ。

 

「あの・・・それはなんですか?」

 

司令が来るまでこのまま黙って座ってるのもなんなので俺は少しでも情報収集をしようとエマ監察官に話しかてみた。

 

「あなたは見たことがないのね。ノーマである以上、無理もないのかもしれないわね。これはマナ。「人類」にのみ与えられた幸福の光。」

 

「ノーマ」それに「マナ」その言葉は彼は既に聞いていた。あれはマギーさんもいた時だった。確かアルゼナルはマナが使えない廃棄物が来る場所だとジル司令が言っていた。

 

「廃棄物」その言葉の意味をまだ理解できないでいた。

考えてみれば、マナやノーマについて、俺は何も知っていない。

 

「私はノーマではないわよ。私は人間ですよ、人間」

 

まるで釘をさすかのようにエマ監察官が人間ということを強調してきた。

 

エマ監察官が人間なのは見ればわかる。疑問はエマさんの言い方だ。

まるでノーマは人間ではないと言わんばかりであった。

 

「あの・・・」

「待たせたな」

 

俺が疑問を口にしようとしたとき、扉を開けジル司令が入ってきた。

 

「司令、お疲れ様です」エマ監察官はそういうと改まった。

 

「さてと、メビウス。それではお前の取り調べを始めるとするか」

 

そう言うとジル司令は目の前の椅子に腰をかけた。

 

「まずお前が新しく思い出したことを全て話してもらうぞ」

 

俺が思い出したこと、それはあの機体のパイロットが自分だと言うこと。あの機体の名前は「フェニックス」だと言うこと。そしてあの機体で俺は「何か」と戦っていたこと。そして、おそらく自分はこの世界の人間じゃない。別世界の人間だと言うことも。伝えた。

 

ジル司令は一通りの話を聞くなら、こう言ってきた。

 

「別の世界から来た、本来ならそんなおとぎ話は信じろと言う方が難しい。だけどな、今回に関してはその色々と信じられない様な事を見てきてしまったしな。信じるしかないんだろうな」

 

ジル司令によると、自分はシンギュラーと呼ばれる穴から大怪我を負って、フェニックスと一緒に落ちてきたらしい。

ちなみにその時にはすでに、このように少年化していたらしいが、その時に着ていたパイロットスーツは明らかにサイズが合っていなかったそうだ。早い話がブカブカだったそうだ。だから自分が13歳だったという信じられない話に関しても、頭ごなしに否定しないでいたらしい。

 

俺はジル司令からこちらの世界の常識について聞かされた。

マナと呼ばれる光によって世界は平和になったこと。しかし、マナの光が使えないノーマはその世界では生きていけないこと。生きられるのはここ「アルゼナル」だけだけだということ。ここでドラゴンを殺していくことだけが生き残れる方法だということ。ノーマは女性にしかならない。その為、俺が男のノーマ第1号だということ。

 

一通りの話しが終わると、ジル司令が、より真面目な表情になった。そして唐突に尋ねてきた。

 

「さて、とりあえず別世界から来たということにしてだ。もしそうだとして。メビウス、お前はこれからどうするんだ?」

 

 

 

 

これからどうするんだ? その一言に一瞬思考が停止した。

たしかに考えてなかった。もしこの世界に来たとしたら、何故自分はこの世界に来たのだ。いや、それ以前に自分のいた世界に戻れるのか?

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

いつもより長い沈黙が続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて腹を括ったみたいに、ジル指令が告げた。

 

「もし行き場がないのなら、ここにいるといい」

 

まさかの発言に俺は目を丸める。

 

「ここにいる以上、色々と規則やルールがあるが、何もわからないで外をふらつくよりは、ここにいた方が情報を集めていくという点で良いかもしれないぞ」

 

ジル司令の言ってることは最もだ。自分はこの世界の人間じゃない可能性が高い。

そんな自分が今、外を出てもおそらく野垂れ死ぬことが目に見えていた。それならジル司令の言ってる事の方がたしかに現実味があった。

 

俺は暫く考えた。

そしてある決意をした。

 

「・・・一つだけ頼みたいことがあります」

 

「なんだ?」

 

「自分はこの世界の人間じゃないのにこの世界にいます。おそらく自分はこの世界で何かをする為に来たんだと思います。だから記憶を取り戻して、そのやるべきことを見つけるために、自分に独立した調査権をお与えください」

 

俺の言い分はこうだ、自分の記憶の手がかりが外にもあると思うのでたまに外の探索に出してくれ。そして、やるべきことをやったら、元の世界に変える方法を探し、その方法が見つかったら帰してくれ。

 

 

エマ監察官は驚いた顔をしていた。

ジル司令は目を閉じて、暫く考えていたらしがやがて目を開け、

 

「・・・いいだろう、その権利を認める。ただし、その権利についてはよく話し合って決めるぞ。」

 

ジル司令は少し考えたのち、肯定の返事をくれた。

これにもエマ監察官は驚いていた。

 

その後の話し合いは、権利についての互いの取り決めだった。

結果をまとめると、以下のようになった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

・独立した調査権、これはここにいる限り、毎日訓練というものを行うが、その訓練の後に時間制で認めるということ。そして、その分の燃料費は自腹で出すと言うこと。何か記憶で思い出したら報告すること。

・そして、やるべきとこが見つかり、やり終わった時、元の世界に変える方法を探し、帰る方法が見つかった時は、帰還を許可すると言う事。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

これが話し合いでまとまった権利であった。

 

一通りの取り調べは終わったらしい。

ジル司令が唐突に言ってきた。

 

「それでは早速お前の機体の性能テスト、ならびにお前のメイルライダーとしての適正テストを始めようと思うが、大丈夫か?」

「大丈夫です!」

 

我ながらよく即答したものだ。まぁ、右腕は包帯さえ撒いておけば良い。顔の怪我に関してはつばでも付けておけば治るだろう。

 

「そうか。ではロッカールームに行って、これに着替えてこい。10分後に発着デッキのフェニックスの前で待機しておけ。それとここでは上官に対しての返事は(イエス・マム!)だ。覚えておけ」

 

「イエス・マム!」俺はそう言うとその渡されたものを持ち、部屋を出ようとした時だった。

 

「ロッカールームがどこにあるかわかるのか?」

ジル司令のその一言でその場に固まった。

 

「・・・どこですかね?」

 

(今度ここについて誰かに紹介させるか)

ジル司令は内心そう決心した。

 

「もういい、私達は外に出る。ここで着替えてから行け」

そう言うとジル司令は立ち上がり、部屋を後にした。エマ監察官もそれに続いて部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

一人になった部屋で、自分はとりあえずパイロットスーツを着ようとしてそのスーツを手に取った時だった。

 

「・・・なんじゃこりゃ?」

 

そのパイロットスーツは、一言で言うなら露出部分が多い。特に胴体の前面と臀部が露出していた。しかも何に使うのかしっぽみたいなものが付いていた。

 

そういえば下着はつけないとか言ってたな。

(・・・。まぁ誰にも見られてないし、見られたからなんだ、特に問題はないんだけどな。とりあえず着ていたものは畳んで机の上にでも置いておくか)

 

特に気にもせず着替えていった。

だが着替えている最中、ジルの言っていた言葉に手が止まった。ノーマは女性にしかならない。ノーマはドラゴンを殺すことだけが生き残れる方法だと言うこと。

 

ドラゴンを殺す?どうやって?発着デッキで見た機体を思い出した。あれに乗ってドラゴンと戦うのだろう。ではその時のパイロットスーツは一体何か?俺は今、着替え途中のパイロットスーツを見た。

 

 

 

 

(・・・まさか!?嘘だろ!?あの機体に乗ってる人はみんなこれ着てるのかよ!なんで!長時間行動と排泄の問題を解決できるスーツがこれか。そうかこれなのか!色々と突っ込みたいんだけど!!)

 

 

「・・・安請け合いしちまったかな?」

後悔先になんとやらだ。彼とてそう言う知識を持っていないわけではない。だからこのようなことを考えてしまったのだろう。

 

 

 

 

「・・・こうなりゃ腹の一つでも括るか!」

 

やがて意を決したようにそのスーツを着ていった。自分の記憶にあるパイロットスーツはもう少し大きかった。そして今着てるパイロットスーツは自分にピッタリであった。その現実が彼を少し泣かせた。自分が子供体系になっていると言う現実を改めて叩きつけられた。

 

着てみると別に動きづらさも感じない。別に悪い品ではないらしい。唯一の疑問が、尻尾みたいに垂れ下がっているこのケーブルの様な物だけだった。特に邪魔になったり、差し込むような所は見当たらないため、そのまま垂れ下がらせておくことにした。

 

この部屋には発着デッキから来たんだからまたその道を辿ればいい。

 

「そんじゃ、いきますか!」

 

俺はそう言い取り調べ室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が部屋でパイロットスーツに対して多少よろしくない想像をしていたころ。

 

アルゼナルの司令室では。

 

「それで、エマ監察官、どうでした?結果は?」

 

タバコを吸いながらジル司令はエマ監察官に問いかける。

 

「検査の結果、彼が嘘をついていたり、なにかを隠しているとは思えません」

 

「嘘発見器が騙されていたりは?」

 

「彼に始まる前に嘘をつかせた際は反応したのでそれはあり得ません」

 

彼の検査結果について話し合っているらしい。

 

「それにしてもジル司令、よくあのような権利を認めましたね」

 

エマ監察官はジルの行動に驚いていた。独立した調査権。それを認めたことには驚きを隠せないでいた。

 

「流石に事態が事態です。彼が別世界から来たこと。それに彼がシンギュラーから落ちてきた時点で普通じゃないことは理解していた」

 

「それでも認めたのは、やはりあの機体の影響ですか」

 

エマ監察官の質問にジル司令は答えない。

 

ジル司令にとって今の望みはあの機体の調査だ。ならば彼の提示した独立した調査権を認めるのには、こちらにも、メリットがあった。

あの機体が稼働している時間が長い方が、機体を調査することができるからだ。

 

「メイ、そちらの準備はどうだ?」

 

ジル司令は発着デッキのメイに確認する

 

「とりあえず計器類とかには測定器とか付けておいたけど、あまり効果は無いと思うんだよなぁ」

 

メイはそう答える。

まずはあの機体が動く姿などを確認したい。

 

(あの機体、もしかしたら使えるのかもしれないな、我々の目的に)

いい拾い物をした。ジル司令はそう思い内心ほくそ笑んだ。

 

 




次回はついにフェニックスが動きます!


そしてドラゴンとの戦闘、そこでフェニックスのモニターには、謎の文字が浮かび上がる!


そして予告的な内容にしてみました。

そして速報!後2.3話経つと、原作シナリオ編に突入します。
第一中隊のみんなに出会えるぜ!

ちなみにイエス・マム!とは、サー・イエッサー!の女性版らしいですが、イエッサー!よりはイエス・マム!の方がアルゼナルには似合っているので基本はイエス・マム!でいきます。



いつかキャラクター図鑑とかそういうのも作ってみたいな。


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第5話 ドラゴンとの戦い 前編

フェニックスは基本モニター画面をいじることで変形などをします。

「フェニックスについて」

《WING MODE》
外見はパラメイルのフライトモードに酷似している。
移動に優れてるだけでなく高機動戦闘にも向いている。

現段階で使用可能な武装
高粒子バスター

《FITHING MODE》
外見はパラメイルのアサルトモードに酷似している。
戦闘に関しては、こちらの方が武器を多く使えるため向いている。

現段階で使用可能な武装
高粒子バスター・高粒子サーベル。

武器などは今後もストーリーの進行によって増えていきます。
それでは本編行ってみよう!



パイロットスーツに着替えたメビウスは、フェニックスの前に辿り着いた。格好が格好なだけに、あまり堂々とは歩けなかったが。

そこには1人の少女がいた。確かフェニックスのコックピットに一緒に入ってきた子だ。

 

「その燃料タンクはそこに設置して!」

 

少女は他の人達に指示を飛ばしていた。

 

(こんな幼いのに、大変なんだな)

そう内心で思っていると、彼女はこちらに気がつき、駆け足でこちらに近づいてきた。

 

「あっ君?あの時の人だよね?ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

 

「いいですけど、何ですか?」

 

「実はこの機体だけどさ、通信コードがわからないんだよね。これからテストでしょ?だから通信がとれないのはまずいんだよね」

 

「連絡が取れないのはまずいですね」

 

少し改まって、返事をした。

やはりまだ出会ってすぐではそう気軽に話しかける事は難しいものだ。

 

「そんなに改まらなくてもいいんだよ。今日からはここで暮らす仲間になるんだし」

 

彼女は明るくそう答えた。

 

「仲間」

余所者であると自覚していたが故に仲間だなんて言われと、とても嬉しい気持ちになれた。

 

2人はフェニックスのコックピットに行き、モニターをいろいろいじった。

 

「これでいいか?」

設定が終わり、彼女にモニターの画面を見せた。

 

「うん!バッチリだよ!」女の子は笑いながら答えた。どうやら問題はなかったらしい。

 

「ジル?そっちはどう?」

 

「問題ない」

 

モニターにジル司令が映った。

 

「これで司令室と繋がったね。

あとこれ。ジルから、君に渡すようにって」

 

そう言われて、彼女はポケットからバイザー差し出してきた。

 

風防から目を守るためのものらしい。

 

「ありがとう」

バイザーを受け取ると自分の顔にそれをかけた。

 

「うん!とても似合ってるよ!パイロットスーツも!」

 

微妙な気持ちだった。褒められて悪い気はしなのだが、露出が多いこの見た目でそれを言われると少しだけ抵抗があった。

 

「私はメイ。ここアルゼナルの整備士だよ。よろしくね」

彼女は笑顔で右手を差し出してきた。

 

「俺はメビウスだ。よろしく」

彼自身も右手を出して、握手をした。

 

その後、メイはコックピットから降り、外からフェニックスを見回した。

 

「それじゃあこのフェニックスを出すんだけどさ。出すときはフライトモードで出さなきゃいけないんだ。だから機体を変形させて欲しいんだけど、できる?」

 

俺はコックピット内でモニターをいじり、変形のパネルを見つける。

それをタッチすると機体が音を立てて動き始めた。どうやら変形したらしい。

コックピット部分が前面に剥き出しになる。

モニターには《WING MODE》との文字が表示されていた。

 

「これでいいんだよな?」

 

「バッチリだよー!」

 

どうやら問題ないらしい。

コックピットが前面に出たことで、外の様子がモニター越しでなくても、わかるようになった。

 

「最後なんだけど、君の後ろに穴があるよね?」

 

後ろを見た。そこには何かを差し込むであろう穴が確かにあった。

いや、正確に言うなら、穴の空いた何かが取り付いていた。

 

「それはね、フェニックスの機体のデータを取るために取り付けたものなんだよね。パイロットスーツにケーブルがあるでしょ?それをそこに差し込んでくれない?」

 

差し込んだ。するとその取り付いた何かのランプが光った。

とりあえず問題はなさそうだ。

 

「それじゃあ発進デッキに移すよ」

そう言われた次の瞬間、機体が揺れた。急に揺れたことに驚いたがどうやら持ち上げられたらしい。

機体の移動中の間、とりあえず直ぐに出られるように、エンジンをかけておいてから、俺はコックピット内を見た。

 

機体操作に使うであろう操縦グリップ。速度調整用のギア。

基本操作は思い出したためわかる。

 

しかし一つ気になることがある。モニターだ。

モニターの種類はそれなりの数があるようだが、なぜかブロックされていて開かないモニターがちらほらとあった。

一体なぜブロックされているのか、それは他の誰よりも、自分自身が知りたい事でもあった。

 

(記憶を失う前の俺はこれらの全て知っていたのか?)

そんな考えが頭をよぎる中、機体の揺れが止まった。

目の前を見ると発進ゲートらしきものが見えた。

 

どうやら今機体はカタパルトにいて、最終調整中らしい。

そしてモニター越しに

 

「フェニックス、発進!どうぞ!」

 

「メビウス!フェニックス!行きます!」

その言葉に反射的返事をしてから、ギアを動かし、操縦棒を前に倒す。

 

次の瞬間、機体は射出され、その際に発生するGが身体を襲った。

突然のGに顔をしかめる。だが次の瞬間にはGは感じなくなっていた。

 

気がつけば機体はすでにアルゼナル上空を旋回していた。

 

風が吹き、鼻腔に嗅いだことのないなんとも言えない匂いを感じた。

 

(匂いは今は放っておいて)

メビウスは機体のエンジンを温めるために、少しの間、自由に飛んでいた。

 

しばらくすると司令室から通信が入ってきた。

 

「聞こえるか。メビウス」

 

「聞こえます。ジル司令」

 

「今からこちらの指定したポイントに向かってもらう。それが飛行テストだ。わかったな」

 

モニターにはこの付近の地図が表示され、その中の1ポイントにマーカーがつけられていた。

 

「イエス・マム!

 

指定されたポイントへと向かった。

 

30秒ほどして。

(・・・この機体、加速性能だけじゃない、最大速度も速いのか)

 

メビウスは、改めてフェニックスの性能に驚いていた。

 

彼は決してエンジンをフルに稼働させていない。ギアも2で弱いはずだ。それなのにこの速度と加速力である。わずか2分弱で、目的地へと着いた。

 

そこには輸送機だろうか?上空でホバリングしている機影が見えた

 

「フェニックス機より司令室へ、指定ポイントに到着しました」

 

「よろしい、では始めろ」

 

輸送機の中から何かが出てきた。なんだ?あれは?

 

「シュミレーター用の敵だ、そいつらを倒せ」

 

ジル司令からは、そいつらを倒せとの命令を受けた。次の瞬間、それらのうちの1匹がこちらに接近してきた。

 

自分は操縦棒を操作しながら、モニターを操作した。

敵は4匹、見た目が同じ以上、4匹とも同等の性能だと予測する。

 

変形のモニターを見つけ、彼はそれを押した。

モニターには《FIGHTING MODE》と表示された。

 

コックピット部分が内部に収容されていく。

手、足、そして顔。瞬く間にフェニックスは人型へと変化した。

 

内部に収容されたコックピット内は暗かったが、すぐに明かりがついた。前方のモニターにはこちらに接近する敵機が見えた。

 

(接近してきたか!・・・なら!!)

 

機体の左肩に手を伸ばす。そこには剣の柄だけだった。だが次の瞬間、その柄から何かが出てきた。

赤い粒子を放ちながら、それは実態としてそこに現れた。

 

(後は相手に向かって、ぶった斬る!)

 

次の瞬間、シュミレータードラゴンは真っ二つになって海に落ちていった。

 

「後3匹!」

 

残る3匹はこちらに火の玉のようなものを飛ばしてきた。

しかし、フェニックス、いや、メビウスからしたら、それは避けろと言わんばかりの遅さだった。

 

メビウスはギアを1段階高め、操縦棒を押し倒す。3匹との距離を一気に詰めて行った。

 

(はぁぁぁぁぁぁぁ!)

 

シュミレータードラゴン2機を叩き斬り、最後の1機に対して、フェニックスはその喉元へとサーベルを突き立てた。

シュミレータードラゴンは海に向かって落ちていった。

 

「テストはこれで終了か・・・」

 

メビウスがその場に留まっていた時、通信が入った。

 

「テスト終了!お疲れ様、メビウス」

 

モニターにはメイが映し出されていたが、すぐジルへと変わった。

 

「テストご苦労だったな。それよりだ、今お前のいる場所は、お前がシンギュラーから落ちてきたポイントだ。何か思い出したりはしないか?」

 

(ここが自分が落ちていたところなのか・・・)

 

周りを見渡す、特に変化などはない。

自分が落ちてきたシンギュラーなども何処にも見当たらない。

 

その時だった。

 

「待ってください!そのポイント付近にシンギュラー反応を確認!」

司令室のオペレーターだろうか、その子の一言で司令室が騒めいた。

 

時を同じくして、メビウスの目の前にも異変は起きていた。突然目の前の空間に穴が空いたのだ。

 

「なっ!?」

 

流石に目の前で空間に穴が空くなんて予想していなかったのか、メビウスも、少し驚きの声を上げる。

 

「シンギュラー反応の中から生命反応多数確認!

ドラゴン!きます!」

 

今の目の前に広がる光景、それは、先程倒したであろうシュミレータードラゴン達がわんさかいた。

いや、シュミレーターではない。

 

この機体越しにも伝わる感覚。体を貫くような殺意。

間違いない。奴らはこちらを狙っている。

 

「数確認!スクーナー級50!ガレオン級1!」

 

モニター越しの通信が入る、敵の数は51らしい。しかもそのうちの1機はどうやら他のドラゴンとは違うらしい。

 

「メビウス機!危険です!速やかに戦線から離脱してください!」

 

次の瞬間、目の前のドラゴン達は一斉にこちらに向かって攻撃をしてきた。

 

メビウスはギアを倒して急上昇し、なんとか攻撃を交わした。

しかしそれでもと追撃しようとしてくるのが何匹かきた。

 

「こちらメビウス機!残念だけど遅かったみたいだ。今戦線を離脱することは不可能だ!」

 

なぜだが直感でわかった。このまま背を向ければ待っているのは死だ。

 

(死ぬ?自分がなぜ、この世界にいるのかさえわからずに死ぬだと?

そんなこと・・・認めてたまるかぁ!!)

 

彼の心は決まっていた。

 

後ろに下がれないならすることはただ一つ。

 

 

 

「・・・こいよドラゴンども。全部まとめて面倒見てやるよ」

 

意を決意し、彼はそう答えた。自分自身を奮い立たせる為に。

 

 

 




前編と後編で分けて作って見ました。

ちなみに操作などは操縦棒で行い、手前に引くと上昇し、
奥に倒すと降下するように設定しています。

次回は1対51の戦いです!そしてフェニックスの新兵器が登場します。


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第6話 ドラゴンとの戦い 後編

第何話などは、今後前後編でも話数は進めていくことにしました。

これまでの経緯を時間をつけて説明しよう。
昨日15時 ナオミ、メビウスに接触(第1話)
今日9時 メビウス、目がさめる(第2話)
今日10時、メビウス、発着デッキへ着く(第3話)
今日 11時、メビウス 取り調べ室へ(第4話)
今日13時ごろ メビウス、フェニックスでテストへ(第5話)

なお、今回は多少のご都合主義設定を使わせてもらいました。


アルゼナルでは、警報が鳴り響いていた。

 

「シンギュラー反応確認!総員!第一戦闘配備!繰り返す!総員!第一戦闘配備!」

「第一中隊は発進準備に!第二、第三中隊もいつでも出れるように待機してください!」

 

各員が慌ただしく動いているなか、ジル司令はある中隊のところへと到着した。

 

「全員集まったか」

 

「司令官に敬礼!」

第一中隊の隊長であるゾーラの掛け声のもと、第一中隊の全員がジル司令に敬礼をした。

 

「今回のミッションの内容はドラゴンの殲滅だ」

 

ドラゴンの殲滅。それはただドラゴンを殲滅させるミッションだ。

 

「ジル司令。今回の戦闘中域にはテスト中のメイルライダーがいると聞きましたが本当ですか?」

 

「確かにそのメイルライダーはテスト中だが、おそらく即戦力にはなるだろう。そのメイルライダーと協力してドラゴン殲滅にあたれ!」

 

「イエス・マム!」

全員がそう言い終わると、それぞれのパラメイルに搭乗していった。

そして、カタパルトへと運ばれていった。

 

(援軍は送っておいた。だが、間に合うか・・・)

 

今回の戦闘中域は、フェニックスからしたら4.5分程度でついたが、データによると、実際のパラメイルでは、その倍近くかかるらしい。果たして、彼女達が着くまで、持ちこたえられるのか。

 

(あとはあいつの腕次第か、最悪の場合、機体だけでも回収させるか)

 

ジル司令は色々と思いながら、司令室へと向かって歩みを進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一中隊がそれぞれのパラメイルに搭乗した頃、こちらでは、激戦が繰り広げられていた。

 

「くそ!数の暴力ってのはやっぱし覆し難い!」

 

こちらではフェニックスのメイルライダーメビウスがドラゴンと戦闘していた。

 

先ほど10匹ほど倒したが、それでも数的にはまだまだ不利であった。

 

しかし、ここで背中を見せれば間違いなくレーザーの一斉掃射をもらうと理解できていたため、背中を見せれないでいた。

 

しかし、彼はあることを狙っていた。ただ闇雲にドラゴンに向かっては斬りつけているわけではない。

 

そしてそのタイミングがきた。フェニックスを後ろから追いかけるスクーナー級が10数匹ほど、まとまった時があった。

 

「今だ!」

彼はそういうと、右肩に背負っていたバスターを素早く取り出し、ドラゴンへ向けて放った。バスターからはサーベルと同じように、赤い粒子が放たれた。それらは固まっていたドラゴンへ向かって一直線に放たれ、それ直撃したドラゴン達は、海面下へと落ちて行くだけだった。

 

敵の数も半分くらいにまで減った。

 

(この調子なら・・・いける!)

この調子で一気に残りを蹴散らそうとした時だった。

 

「え?」

 

目の前で再び穴が開いたのだ。

(もしかしてドラゴンの奴ら、帰るのか?)

そのような期待が芽生えた。

 

しかしモニターから入った通信により、それは絶望へと変わった。

 

「新たなシンギュラー反応を確認!ドラゴン確認!数、スクーナー級48!ガレオン級1!来ます!」

 

耳を疑った、通信の答えが指し示す内容、その答えは明確だった。

 

「・・・まじかよ!」

1対51という絶望的な条件の中、なんとか25にまで持ち込めたのに、結果的に1対100という最初の数の倍に近い数と戦わなければならなくなってしまった!

 

メビウスの心配はそれだけではなかった。彼は戦闘中に、何度かドラゴンの親玉と思われるガレオン級に戦闘を仕掛けてみた。しかし、シールドの一種なのか、謎の防御壁が出現してダメージがイマイチ通らない。

そんな奴がもう1匹増えた。しかも子分を48匹連れてきた。

 

(・・・勘弁してくれ・・・)

今更ながら自分の現状を嘆きたくなった。

しかしメビウスに嘆いているははなかった。穴からドラゴンが出てきた直後に、また高粒子バスターをぶち込んだ。散開されると間違いなくさっきと同じことの繰り返しになる。そうなると今度こそ数の暴力に屈することになるだろう。

 

しかしこの咄嗟の判断が良かったのか、増援のスクーナー級は、かなりの数が減らせた。

 

しかし、それでも楽観的な考えは持てない。なぜなら、例のガレオン級はほぼ無傷なのだ。

 

数で言うならばスクーナー級が25匹いた。それに増援の18匹が加わった。ガレオン級に関しては、丸々もう1匹が加わった。

 

1対45。その数字は、最初に出会った数よりは減ってはいた。しかし、敵の質に関してはグンと跳ね上がっていた。

 

残っていたスクーナー級のうち何体かが攻めてきた。しかもバラバラにだ。

 

(これじゃ高粒子バスターが使えねぇ)

高粒子バスターの弱点は、打った反動が大きいということ。おそらく一桁程度の敵の群れに撃っても、そのスキにバラバラな方角から攻められるだろう。

 

メビウスはバスターを右肩に背負うと、再び、サーベルを手にした。

 

サーベルからは、赤い粒子が放たれている。

近づいてきた奴にこちらから加速し接近して、どんどん叩き斬る。

 

敵の数が残り20をきったころだ。

 

メビウスは再び、ガレオン級に接近した。

 

バスターがダメなら、サーベルで脳天を貫く考えだった。

 

しかし、それは甘い考えだった。

例のシールドは、サーベルさえ防いでしまった。

暫くは互いにぶつかり合っていたが、やがて、数匹のスクーナー級が攻めてきたため、ガレオン級から離れ、そのスクーナー級と相手をした。

サーベルがスクーナー級の体を貫いた時だった。

 

視界の片隅に、さっきとは別のガレオン級が、レーザーを放つ動作をしていた。今の自分は、サーベルを引き抜いた硬直で直ぐには動けなかった。

ガレオン級が、こちらにレーザーを放ってきた。今の自分は動けない。回避行動がとれない。

 

「これまでか・・・」

 

メビウスは反射的に顔を守るために左手を前に出し、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・?」

 

違和感に気づいたのは直ぐだった。

 

「・・・?衝撃が・・・来ない?」

 

恐る恐る目を開けた。モニターから映し出されていた外の光景。それにメビウスは驚いた。

 

ガレオン級のレーザーが、目の前で逸れていたのだ。

 

「なにが・・・起きたんだ?」

 

するとモニターから何かの文字が映し出されていた。

モニターを確認するとそこには。

 

《 左腕 I FIELD 展開 》

《 INSTALL FANG SYSTEM 》

 

(アイフィールド!?ファングシステム!?)

その言葉にメビウスは混乱した。一体何なんだこれは!?

落ち着いて思考を整理する。

少なくても一つだけ分かる事がある。

 

もしこのアイフィールドが無かったら自分は死んでいたということ。

そしてこの場を切り抜けるには、これらがの力が必要だということ。

 

ガレオン級はご自慢のレーザーが塞がれたことに、慌てふためいているのか、見るからにあたふたしていた。

 

「今なら・・・やれる!」

 

そう思い、メビウスはギアを最大まで上げた。一気にガレオン級に接近した。そしてサーベルで貫こうとした。しかしそれは例のシールドで塞がれていた。

(思った通りだ!)

ガレオン級は、この間は動いていない。恐らくシールドを張ると動けないのだろう。

メビウスはこの時モニターのファングシステムをいじっていた。

 

一体これがなんなのかはわからない。なぜ急に現れたのかもだ。

しかしこれだけは言える。

 

(自分は、これを知っている!なぜ知っているのかはわからない。だが、身体が自然と動く。このシステムを使うために)

 

モニターには《COMPLETE》と表示された。

 

その瞬間、フェニックスの脚部から何かが8つ飛び出してきた、それらは空中で静止していた。そして次の瞬間には、それらが一斉に敵に襲いかかった。スクーナー級の何匹かは避けるが、後ろからブーメランのように戻ってきくると、それはスクーナー級の体を引き裂いた。

 

スクーナー級は全滅した。

 

「残るは!」

そう言うとメビウスはガレオン級にまた接近していった。ガレオン級はサーベルを防ごうとシールドを張る。

狙い通りだった。

シールドを張ったため、ガレオン級と鍔迫り合いになっていた時、後ろからのファングが、ガレオン級を貫いた。8つのファングが全てだ。しかも、赤い粒子を放ちながら近づいてきていた。

 

「後1体!」

メビウスはフェニックスをウイングモードにさせた。そして機体を反転させ、もう一体のガレオン級に迫っていった。ガレオン級はこちらにレーザーを放ってきた。だが、先程防げることがわかっていた以上、それはなんの恐怖でもなかった。モニターに触れ、アイフィールドを展開させた。レーザーはフィールドにぶつかりそのまま逸れていった。

 

一気に距離を詰めた。レーザーを放っていたせいか今度はシールドを張ることさえできなくなっていた。ファイティングモードに変形して、直ぐにサーベルを抜いて、ガレオン級に刺した。

 

ベチャ!!

サーベルはガレオン級の喉元を貫き、その血がフェニックスに降り注ぐ。そしてトドメと言わんばかりに、ファング達はガレオン級の体を貫いた。

 

ガレオン級は唸り声をあげながら落ちていった。

 

敵がいなくなったためか、ファングは脚部に自動で収納された。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ」

 

終わった、戦えた、戦い抜いた。生き残れた。

 

メビウスは今、生きていると言う実感が湧いた。

さっきまではあまりに理不尽な命のやり取りをしていた分。今、彼の感じている実感はとてつもないものだった。

 

「・・・おいっ!・・・おい!そこのパラメイル!」

 

気がつくと通信が入っていた。モニターを見る。

相手は見たことがない金髪の人だった。

 

「ドラゴンの攻撃によく持ちこたえたな。安心しな、後は私らがを片付けてやるよ」

 

「司令室!こちらゾーラだ!戦闘エリアに突入した。ドラゴンの残存数はどれくらいだ!?」

 

しかし司令室からは答えがない。

 

「?おい!?司令室!?聞こえないのか!?」

 

「えっ?」

 

オペレーターの少女が反応する。

 

「だから、ドラゴンの残りの数だよ」

 

「・・・ドラゴンは・・・全て倒されました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・はぁ!?」

 

その答えにゾーラ以外の他の第一中隊のメンバーも声を上げて驚く。

 

「全部倒されたって・・・誰にだよ!」

 

「レーダーが騙されてるんじゃないの?」

 

茶髪の少女と水色の髪の少女が驚いている。

 

「みんな!下を見て!」

 

ピンク髪の人にそう言われて、第一中隊のみんなが下を見た。

そこには、スクーナー級の死体とガレオン級の死体が散らばっていた。そして、その近くの海は、少しだけ、赤く染まっていた。

 

「ウォォォォォ!これはすごーい!」

 

ピンクと赤の混じったようなの髪の少女がおどろいた口調で驚いていた。

 

「・・・まさかこれ、あんたが1人で相手したのか!?全部!?」

 

濃い赤髪のツインテールの少女が驚いた風に聞いてきた。

 

「ねぇ!?どうなの!?」

 

今度は青紫のツインテールの少女が問いかけてきた。

 

「落ち着きな!」

 

ゾーラの一言に第一中隊が静まる。

 

「ドラゴンがいないんならここに用はないね!第一中隊、帰還するよ!」

 

「イエス・マム!」

 

「あんたもどうせ戻るんだろう。一緒に来な」

 

やっと気持ちが少し落ち着き、モニターに触れ、返事をする。

 

「イエス・マム!」

「ははっ!なかなか元気がいいじゃない・・・」

 

突然第一中隊全員が機体の動きを止めた。

皆、ただただモニターを見つめていた。

 

「・・・・・・おとこー!!!???」

 

第一中隊の全員がはもる様にそう言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

司令室では、みな驚きで、開いた口が塞がらない状態であった。

 

これには流石のジル司令もただただ驚いていた。

 

フェニックスの機体データは司令室に送られていたが、結果的に数値はとんでもないものだった。

 

「ねぇ、パメラ?あなたどこまで意識あった?」

 

「・・・フェニックスのモニターに文字が浮かぶまで。」

 

「二人とも?大丈夫?」

 

オペレーターの少女達は皆放心状態に近かった。

 

 

 

一方ジルは、タバコをふかしていた。もっもと、驚きが勝っているのか、タバコに火が付いていないのに気づかずに、吸っていた。

 

「なぁジャスミン」

 

ジルは隣にいるバンダナを巻いた女性に話しかけた。

 

「・・・なんだい?」

 

「今回の燃料費だけど、無しにしてやってくれないか?」

 

「そりゃ難しい話だね」

 

ジルは「やはりな」と言うような顔をした。

 

メイルライダーは自分で稼いだ金で、弾や燃料などを購入する。それが決まりであった。

 

だが今回の件は余りにもイレギュラー過ぎた。

 

第一中隊が到着するまでにドラゴンを殲滅した。

10分以内にドラゴン系100体を倒したという事だ。

しかもガレオン級が2体もいた。単純な100体を倒すよりも難しい。

それを一人でやってのけた。機体が良いだけじゃない。

彼はその機体の良さを全力で活かせていたのだ。

 

第一中隊からしてみれば、今日の出撃はただの燃料費の無駄遣いもいいところであった。

 

「まぁ確かに燃料費代の代わりになるような凄いもん見せて貰ったし。わかったよ。今回だけだよ」

 

最終的にジャスミンも、納得してくれた。

 

ジル司令はここで、タバコに火が付いていないのをようやく認識し火をつけた。

 

(フェニックスにメビウス・・・か。これはとんでもない拾い物をしたかもな)

 

ジル司令は内心でほくそ笑む。

 

そこにエマ監察官が何食わぬ顔で入ってきた。

 

「エマ監察官、お暇ならすごいものをお見せしますよ。」

 

「暇じゃないです。これからミスルギ皇国で第一皇女 アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの洗礼の儀を見るんです」

 

そう言うとエマ監察官はマナを展開した。

 

しかし、しばらくしてエマ監察官の顔色が変わった。

 

「どうしたんだい?」

 

ジャスミンが不思議そうに尋ねてきた。

 

 

 

 

「・・・第一皇女 アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギが・・・ノーマだと、兄によって公表されました・・・」

 

 

 

 

その出来事を聞き、司令室はざわめいた。

 

そんな中、一人ジル司令だけが驚きつつも、内心は冷静だった。

 

(皇族から・・・ノーマだと。ふっ。風は私に向いているということか)

 

 

 




今回新たに2つの装備を手に入れたフェニックスですが、残念ながらどちらかは暫くの間封印という形をとらせていただきます。

ちなみに燃料費のくだりに関しては書いてる最中に思ったので付け加えました。

そしてついに次回!あの人の前世?の人がアルゼナルにやってくる!


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第7話 ひとときの休み

見直してきたけど自分は投稿した後に細々したところを直す癖があるなぁ。

この癖直さないと。

なお、今後アイフィールドはモニター表示を除いてアイ・フィールドと表示します。

後残念ながら今回アンジュリーゼか出せませんでした。
次回あたりに出ると思います(フラグ)

それでは本編の始まりです!




 

メビウスは、ゾーラ隊長率いる第一中隊に誘導されながら、アルゼナルを目指し帰還していた。

そして10分後、アルゼナルへとたどり着いた。隊列で帰還していたので、自分は一番最後に帰還した。

 

帰る途中にウイングモードに変形していたので、難無く発着デッキに入ることができた。

 

コックピットを降りるなり目に入ったのがジル司令だった。

 

「まさかテスト中にドラゴンに襲われるとはな。しかもそれを一人で全滅させるとは」

 

ジル司令はタバコをふかしながら感心したような口調で言ってきた。

 

「テストの結果は明日伝えることになる。サリア」

 

「はい、なんでしょうか」

 

近くにいた青紫色のツインテールの人が近づいてきた。

 

(この人は確か・・・思い出した。あの時モニターに一番最後に写った人だ。)

 

「新入りを部屋まで案内してやれ」

 

「イエス・マム」

 

彼女の返事を聞くと、ジル司令は発着デッキを後にした。

 

「とりあえずあなたの部屋まで案内するから、付いてきて」

 

そういうとサリアさんは歩きだした。俺は慌てて彼女の後を追いかけた。

 

しばらくして、彼女は一つの扉の前で止まった。

 

「ここがあなたの部屋。とりあえず今はあなた一人だけね」

 

そして彼女は手に持っていた荷物を一つずつ渡してきた。

 

「とりあえずこれがここでの制服。足りない物はこのキャッシュ内で揃えて。最後にこれがアルゼナルの地図よ」

 

地図には色々な情報が書かれていた。

 

「明日は貴方の今日のテスト結果が発表されるから。明日の朝9時には個々にいなさい」

 

そういうとサリアは地図の一箇所を指差した。

 

「わかりました」

 

「一つ聞いてもいいかしら?」

 

サリアさんが真剣な表情を浮かべながら尋ねてきた。

 

「なんでしょうか?」

 

彼女の表情に、こちらを緊張する。

 

「あなたは・・・ノーマなの?」

「・・・少なくてもマナの光は使えないから。ノーマに分類されています」

「そう」

 

そう言うとサリアさんは廊下へと進んでいった、

 

その途中で振り返り

「パイロットスーツはロッカーにしまうように。タグに書いてある番号があなたのロッカーだから」

 

そう言うと再び廊下の奥へと進んでいった。

 

とりあえず俺は部屋の扉を開けた。そこはベットとタンスと窓ガラスだけの簡素な部屋だった。

 

(まず着替えるか)

 

彼はパイロットスーツのタグを確認した。そこには「47」と番号が書かれていた。

 

手に持った地図を頼りに、部屋を後にし、ロッカールームへと足を進めた。

 

ロッカールームの入り口に辿り着くなり、彼はここでの状況を思い出した。ノーマは女性しかならない。自分が男のノーマ第1号だと言うこと。

 

慎重にロッカールームの扉を開けた。

中には誰もいない。

まずは一安心した。そして並べられたロッカーの中から自分の番号のロッカーを探しあてた。

 

そしてそこで彼は重大な事に気づいてしまった。

 

パイロットスーツを来た時、自分は下着をどうした。確か下着はつけないはずだった。確か取り調べ室で着ていた服とズボンの間に入れた。そしてその服は取り調べ室に置いてきた。

 

俺は手持ちの荷物を漁ってみた。

 

「・・・・・・」

 

あった。確かに下着はあった。リボンが付いていた。可愛らしいものだった。トドメの一撃として、その下着は紐で両側を結んで使うようだ。おまけに下着全体の面積の狭さにおどろいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どう見てもそれは女性の紐パンだった。

 

この時既に彼の心の中は大葛藤が始まっていた。

 

(これを履くのか!?パイロットスーツはまだしょうがないとして!これを履くってことは半ば自分がちょっとそっち系の人間という誤解を与えかねない!ならば履かなければいい。だがそうしたらどうなる?自分の事を露出狂と勘違いされかねない。どうする!これは試練なのか!?神は俺を試そうとしているのか!?)

 

大葛藤の末、やがて意を決したかのように彼は下着をとった。

ここにいるのは女性だけだ。自分は本来ここにいないはずの人間だ!男のノーマ第1号だ!ならば男用の下着がないのは仕方ないじゃないか。それなら甘んじてこの下着を履こう!露出狂よりは数万倍はこっちの方が納得できる。そうだ!そうに違いない!そう言う結論が出た。

 

そして下着の穴に足を入れた瞬間。自分の中の何かが崩れたような気がした。

 

・・・パイロットスーツの時に既に腹は括っていた。俺は一気に下着を履いた。

 

履いてみたが特に自分の記憶にある男物の下着となんら違いはない。所詮下着は下着ということだ。

 

次に制服を広げてみる。それも多少変わってはいた。

上半身はブラジャーの進化系の様な見た目をしていた。胸の部分だけが白く、その周りは黒色だった。そして胸のあたりから下は露出していた。

 

腕には、何のためにあるのか不明なものが付いていた。ベルトだ。それはわずかな袖からその間に腕をはめろといわんばかりのものだった。

 

それは下側にもあった。こちらはおそらくズボンなどが落ちないようにする役割を持っているのだろう。

 

はっきり言って上半身は構造説明が言いにくい。

 

そしてその上からジャージのようなものを羽織るらしい。ジャージは袖が全くなかった。ノースリーブというやつだ。

 

 

 

まだ上半身は許せた。そう、上半身は別にそれでもよかった。問題は下半身だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半ば予想は出来ていた。下がスカートだということも。

 

ズボンを期待していただけに、多少ショックであった。

 

このスカートの製作者は一体を血迷ったのだろう。スカートに御丁寧にフリルまでつけられていた。

 

すぐに先程と同じ大葛藤が始まった。しかし、今回はすぐに結論が出た。

 

単純ではないか。スカートを履くか、女性用の下着のままでいるか。

 

さっきした結論にたどり着いた。意を決して制服を着込む。

 

着心地は別に悪くないというのが感想出会った。

これがまた微妙な気分であった。

後は簡単だ。ブーツを履き、最後に指先が出ている手袋をはめた。意外なことに、2つともサイズに問題はなかった。

 

ロッカーの内側にあった姿見で自分を確認しようとした。

本音を言うならあまり似合っていて欲しくない。恐る恐る目を開けて覗き込んで見た。そこには小さくなった自分が写っていた。

 

そう。血塗れの自分が。

 

(あの時の血か・・・)

血の出所が予想付いていたので血には驚かなかった。

因みに制服に関しては悲しいことに似合っていた。

 

 

 

なぜ彼が血塗れだったのかを閲覧者の皆さんに語ろう。

 

 

 

話は第5話終了直後に遡る。

彼はドラゴンと会敵した後、ウイングモードに変形して、ドラゴンと距離を取ろうとした。

そしてある程度距離が取れた時、メビウスは Uターンすると、高粒子バスターを使用した。その一撃は、10体くらいのドラゴンをなぎ倒していった。しかし、予想より距離が近すぎたのか、ドラゴンの血がこちらに降り注いできた。ウイングモードの時は、コックピットがむき出しになる為、血の直撃を浴びた。バイザーにも血が付着し、視界を妨げた。しかしそれを気にしている余裕はなかった。なぜならまだ敵がわんさかいたからだ。

メビウスはファイティングモードへと機体を変形させた。

そしてバイザーを取り外した。

 

そしてその後の展開が、第6話である。

 

 

 

俺は再び地図を片手に、アルゼナルのシャワー室を目指し歩き始めた。

 

 

 

シャワー室の入り口にたどり着くと、中から人の話し声が聞こえた。この時点で元来た道を戻ろうとした。

その時だった。

 

「あらっ?もしかして君?あの時のパラメイルの?」

 

振り向くとそこにはピンク髪の人がいた。

 

「あっ、はい」

 

自分のことだと思い、返事をした。

 

(確かこの人は・・・思い出した。ドラゴンの死体に気づいた人だ)

 

「やっぱりね。私はエルシャよ。よろしくね。」

「メビウスです。よろしくお願いします。」

「そんな硬くならなくていいわよ。それよりあなたもこれからシャワーなの?」

 

どうやらこの人もシャワーを浴びにきたらしい。

 

「まぁ使用してる人がいるので。出直してきます」

 

俺はそう言って来た道を戻ろうとした。

 

「あら、私が洗い流してあげるから、一緒に入りましょうよ」

 

そういうとエルシャさんは後ろから服の首のところを掴んできた。

 

「いえ!大丈夫です!自分にお気になさらず!」

 

俺はこの場から意地でも逃げようとした。

 

「いいからいいから。他人の厚意を無碍に扱わないの」

 

そう言うとエルシャさんは今度は首根っこをひっ捕まえてきた。

 

驚いた事に、とても力強く感じられた。これも子供の体型になってしまったせいなのか。

 

(痛い痛い痛い!やめて離して!息苦しい!抵抗しないから!素直にそちらに従うから!離して!)

 

「ここにいたか」

 

不意に声がした。掴まれてたので首を回せないけど、声の主は予想がついていた。

 

「メビウス。パラメイルの発着デッキに来い。色々と調べたいことがある」

 

(おお!神の助け舟!)

 

「イエス!マム!直ぐにでも・・・」

「その血を洗い流してからこい」

 

間髪入れずに一言付け加えてきた。

ジル司令はそういうと今来たであろう道を戻っていった。

 

「それじゃあぱっぱと済ませちゃいましょうか」

 

エルシャさんのその言葉は半ば意識を失いかけていた俺の耳に届くことはなく、俺はシャワー室へと連行されていった。

 

 

シャワーシーンなどは御想像ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ビビーーー!!!」

モニターがうるさくエラー音を響かせる。

 

「おっかしいなぁ?動かねぇぞ?」

 

パラメイルの発着デッキにて。

現在俺はモニターの前で悪戦苦闘していた。相手はファングシステムであった。

 

今日の戦闘でフェニックスに新たな装備が2つあることがわかった。

 

アイ・フィールドと呼ばれるバリアと、ファングシステムという。遠隔兵器だった。

 

しかしなぜかファングシステムだけが使えなくなっていた。

 

もっともメビウスの心中は半分心ここにあらずであった。

(・・・柔らかかったなぁ)

 

アイ・フィールドは問題なく作動できるようだ。

 

なんでファングシステムは動かないんだ?

 

「ビビーーー!!!」

また同じ結果になった。

 

「だめだな。なぜかファングだけは動かねぇ」

 

そのように結論を出すと、外で待機していたメイ達に報告した。

 

「それじゃあしょうがないね」

 

メイはそう答えた。

 

その後俺は、モニターを色々いじくりまわした。

 

(とりあえず機体状況報告、変形、アイ・フィールドのモニターは前面に出しておいて。残りはあまり使わないものと、ブラックボックスで分別しておくか)

 

モニター整理が終わると、俺はコックピットから降りて、機体を確認した。

 

搭乗前の多少ドス黒かったシミは、完全にその数を増やしていた。それがドラゴンとの命懸けの戦いをしていたということをはっきりと分からせた。

 

「悪いな、力になれなくて」

 

「気にしなくていいよ。アイ・フィールドだけでも使えるだけでよかったじゃない」」

 

「そう言ってもらえると嬉しいな。じゃあな」

そう言うと俺は自分の部屋へと足を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだメイ?新たに何か分かったか?」

 

メビウスの姿が完全に見えなくなると、ジルはメイに問いかけた。

 

「2つほど新たにわかったよ。まず一つめ。この機体だけど、やっぱりパラメイルの燃料じゃなくても動くみたい。」

 

メイによると、テスト用に搭載した燃料が全く使われていなかったらしい。それはあの機体が何か別の力で動いているということを指し示していた。

 

「そして二つめ。この機体はメビウス以外ではおそらくロクに動かせないということ」

 

メビウス以外が動かすと間違いなく加速とか操縦とかでパイロットが先にダウンするということ。

 

「とりあえず今回のように、戦闘中に新たな情報やシステムが開示される可能性もある。下手にここのパラメイルを与えるより、この機体で戦わせておくことにする」

 

ジル司令は一服した後、答えた。

 

(それにしても)

 

ジル司令は改めて機体を見た。

 

その機体は、今隣に並んでいるパラメイルと酷似していた。だが性能や武装、その全てがパラメイルの規格外であった。

ましてシールドではなくバリアを発生させるなど、ドラゴンじゃなければ出来ない芸道だ。

 

「ジル総司令」

 

呼ばれたので振り返ると、そこにはエマ監察官がいた。

 

「先程ミスルギ皇国より、ノーマの引き渡しが通達されました。後数時間でこちらに引き渡されるでしょう」

 

「そのノーマは例の皇女か」

 

ジル司令はそのノーマについて予想していた。

何しろその人物は、洗礼の儀とやらの最中にノーマだと発覚したのだ。

 

その時の映像は司令室でエマ監察官のマナを通して見ていたのだ。

 

「そのとおりです。もっとも、ノーマである以上、もう皇女でもなんでもないんでけど」

 

エマ監察官は特に思うところもなく、淡々と話す。

 

 

 

(皇女・・・か、あの機体が再び使えるようになるのかもな)

 

ジル司令は、発着デッキの格納庫の奥を見つめた。

 

そいつが再び使えるようになるのではと期待を抱きながら。

 

 

 




漫画とかでよくある首根っこをひっ捕まえて連行するやつを書いてみました。

制服に関してはマジで表現の仕方が難しかった。特に腕に巻かれているのと、ベルトのようなもの。
あれに関しては実物見せて説明した方が早いとさえ思った。

ここで、メビウスについて多少補足的なものを入れておきます。

彼は自分の覚えてる記憶のなかでは13歳です。そして身長は160センチはあります。

そして今の彼はというと身長は140センチくらいです。

そして周りからは7.8歳程度に見られています。

因みに、現実世界では、140センチくらいだと、大体11歳くらいが平均ですね。


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第8話 嵐の夜に

今回で恐らく第1章は終わりでしょう。



ちなみにドラゴンを倒した際に手に入る金額に関しては、以下の通りにします

注意! あくまでこの作品内においての勝手な判断で決めてます。

スクーナー級 1体20万キャッシュ
ブリック級 1体 200万キャッシュ
フリゲート級 1体 1000万キャッシュ
ガレオン級 1体 2000万キャッシュ

初物 不明

多少高いような気もしますが、この作品ではこれでいきます。

それでは本編の始まりです。




メビウスは部屋に戻ると自然とベットに倒れこんだ。今日起きた出来事だけでも既に彼の理解できる範疇をぶっ飛んでいた。

 

(目が覚めたら記憶を殆ど失っていて、ここに住むための適性テスト受けてたら、穴から変なのやってきて、そいつらと戦って、シャワー室で柔らかいのに触れて・・・)

 

色々と考えていた。

 

ベットに横になると、彼はアルゼナルの地図を見た。

場所を覚えるためには重要だろう。しかしそんな彼の地図を見る目が止まる。

 

ジャスミンモール。そこで物の購入を行うらしい。自分はサリアさんから渡された紙束を見た。

 

 

次の瞬間には、ベットから起き上がり、地図を畳んでポケットに突っ込むと、部屋を後にした。

 

(確かここをこういって、そのあとはこっちに曲がって、あれかな?)

 

地図を脳内で思い出しながら進んでいた。しばらくするとパーテーションの様な物で区切られているスペースを見つけた。

 

(これがジャスミンモールなのか?)

 

とりあえず入ってみる。

 

 

 

中はそれなりに活気付いていた。

 

「いらっしゃい」

 

後ろから声がした。振り返るとそこにはキセルを吸った女の人とその人の隣で尻尾を振っているけむくじゃらがいた。

 

「おお、あんたはあのメイルライダーだね。ここは初めてと見た。私がジャスミンモールの店主、ジャスミンだよ。こっちの犬はバルカンって言うんだ。バルカン、挨拶しな」

 

そういうと隣にいた犬はワン!と一つ吠えた。

 

「まぁゆっくりしていきな。ここはブラジャーから列車砲まで、なんでも揃うところだよ」

 

(なんでも・・・か)

 

 

 

 

 

「あの、男物の下着とズボンってあります?」

 

気まずそうに尋ねてみた。

 

その一言に女の人が固まった。

 

なんか気まずい事でも聞いたのかな?

 

「ここは男物の下着以外なら、なんでも揃うところだよ。なんせ男のノーマなんて初めてだからねぇ。男物なんて仕入れようとも思わなかったよ」

 

言い直したその言葉に多少悲しくなった。

 

(ないのか。ならせめて下着をもう一つ欲しい。2つあれば回してはいけるが、一つしかないとそうもいかない)

 

「あの、なら」

 

「わかってるって、金さえ渡せば、私が適当なのを選んできてやるよ」

 

とても助かった。いくらなんでも女性用の下着売り場に男一人だけで行くのは流石に腹を括った自分にも直ぐにできる事ではできなかった。

 

「それとズボンだけど、そこにある中から適当なのを試着して選びな」

 

ジャスミンの指差す方を見ると、そこにはズボンの山があった。

 

「ところであんた、今日の報酬はもらったのかい?」

「報酬?」

 

「おやおや。ジルのやつ。報酬について説明してないのかい?いいかい、ジル司令のとこに行って報酬の紙を請求してきな」

 

よくわからないが、とりあえずポケットに畳んでおいた地図を広げて司令室へと向かっていった。

 

 

 

司令室にて。

 

「ジル司令、自分の報酬の紙をもらって来いと言われたのでもらいにきました」

 

「これのことか。まぁいいだろう。それを持って給与窓口まで行ってこい」

 

そう言うとジル司令は、なんかの紙切れを渡してきた。

 

それには色々な数字が書かれていた。

 

給与窓口にたどり着くと、それなりの人が並んでいた。

特に気にもせず並んでいると、なにやら視線を感じた。しかし特に気に留めはしなかった。多分物珍しさ故だろう。

 

彼からしたら、こんなに露出した服を着ている彼女達の方が物珍しいものなのだろうか。

 

自分の番が回ってきた。紙を渡す。するとなにやら戸惑っているらしく、向こう側で話し声が聞こえる。

 

「これ、本当なんですか!?」

「司令に確認取ってくださいよ!」

 

しばらくの間そのようなやり取りが聞こえていたが、しばらく経つと話し声は止んだ。そのあと、窓口から女の人が出てきた。

 

 

 

「撃破100。スクーナー級98 ガレオン級2 それに装甲の損傷具合を差し引いてメビウスさんの今週分の報酬は5958万キャッシュです」

 

 

 

そういうと目の前に袋が2つ置かれた。

 

一瞬の間、沈黙が訪れる。

 

「ええーー!!!???」

 

次の瞬間、ハモるかのように皆が口を揃えて驚いた。

 

今日で3回目のはもりだが、今日のどのはもりよりも響いてメビウスをビビらせた。

 

後ろの方では驚きを隠せないのか、騒ついていた。

 

俺はとりあえず袋二つを取るとその場を後にした。

 

「あの、戻りました」

 

「おおお帰り。そうだ、これ」

 

ジャスミンはそう言うとポケットから何かを取り出した。おそらく今自分の履いている下着と同じものだろう。

「勝手に選ばせて貰ったよ」

 

「ありがとうございます」

 

流石に用意しておいてもらって、いりませんは失礼だと思い、その下着を受け取った。

 

次にズボンに目をつけた。ちょうど都合のいいことにズボンのセール見たいなものをやっているらしく、ズボンは台車の上に乱雑に置かれていた。

 

その台車の中で黒のチノパンを2つ見つけた。それらに手を伸ばし、それらを掴んで試着室へと持っていった。

 

スカートを脱ぎ、その上からチノパンを履いた。脱いだスカートは畳んでポケットに突っ込んだ。

 

上半身の露出の件が残ってはいるが、それ以外の見た目に問題はなかった。もっとも、スカートでいた時がただただ大問題だったのだろうが。

 

「気に入りました。これとこの下着、幾らですか?」

 

「合わせて70万キャッシュだね」

 

70万か、確か袋に入っている金は5958万キャッシュの筈だ。

 

(一体どれくらいが70万キャッシュなんだ?)

 

とりあえず袋とは別の、サリアさんが渡してきた方の紙束を出してみる。

 

「これで足りますかね?」

 

「・・・袋から紙束のまとまりを後6つ用意しな」

そう言われて袋から紙束を6つ取り出した。

 

「はいちょうどだね。毎度アリ」

 

どうやらこれがここでの買い物らしい。下着の入った袋を渡された。

それにしてもズボンと下着で70万か。よくわからないが、まぁいいだろう。

 

最も、彼女の方は

(あんたのおかげでこっちは燃料費のただ払いなんだ。少しくらいはたからせてもらうよ)

 

と、ジャスミンは内心悪い笑顔を浮かべていたが、それにメビウスが気づくことはなかった。

 

ちなみに彼の下着と制服を選んでサリアに渡したのもジャスミンである。

 

「おやおや、もう帰っちゃうのかい?せめて武器くらい見て行ったらどうだい?」

 

出口へと向かう足が止まる。

 

「武器」自分の持ってる武器を思い出してみる。高粒子サーベルと高粒子バスター。ファングシステム。そしてアイ・フィールドだ。

 

そのうちアイ・フィールドは少なくても武器ではない。ファングシステムに関してはなぜか使えなくなってしまった。

となると武器はサーベルとバスターの2つだけ。

 

サーベルに欠点はない。

サーベルなのだから接近して使うのは当たり前だ。

 

問題はバスターだ。あれはまとまった相手を蹴散らす武器だ。

 

たかだか一体の敵相手に撃ってもスキが大きすぎる。その間に他の敵に狙われたら意味がない。

 

「じゃあ、遠距離攻撃武器ってあります?」

 

ジャスミンは内心また悪い笑顔を浮かべていたことに、やはり彼は気がつななかった。

 

「向こうだよ」

 

そう言うとジャスミンは奥を指した。

 

 

 

武器コーナーを見てみるとそこには近距離か遠距離まで色々な武器があった。

 

(どんなのがあるんだ?ロンギヌスの槍とカシウスの槍セット?)

 

値段を見てみた。これは3400万キャッシュらしい。

 

他にもツインサテライトキャノンやイオン砲。バードニックセイバーに揺れる天秤と書かれた箱など武器なのかよくわからないものまで置かれていた。

 

何故かはわからないがこれ以上これに踏み込むとまずいと思い始めた。取りあえずそれらに関しては無視を決め込むことにした。

 

とりあえずマシンガン系統がほしい。敵一体に対して隙がなく、扱いやすいものを希望している。

 

するとその商品欄の中から、謎の箱を見つけた。

 

箱は大体3.4メートルくらいあった。中になにがあるのが商品タグを見てみるとこう書かれていた。

 

《バーグラーセット》

 

中に入っているもの。ガトリングガン一丁。ヘビィマシンガン1丁。ショルダーミサイルポッド一つ。SMM2連装ミサイル2つ。180mmキャノン砲一丁。

 

値段は800万キャッシュだった。これだけあってこの値段は安いものだと感じた。

 

「なぜこれはこんなに安いんだ?」

 

ジャスミンに尋ねてみる。

 

「そいつを装備するとね。なぜか自分の右肩を赤くなりたがるようになるんだよ。しかも隊のみんなが赤く塗らないのかと問いかけたりり。それに対して「貴様・・・塗りたいのか?」って反射的に返答しちまったり。しまいには気道になにも入ってないのに「むせる」って言ってきて、体調を拗らせたり。

いつしか呪われたセットとか言われちまってねぇ」

 

「・・・手入れはなっているんだよな?」

 

俺は一番大事なことを尋ねた。

 

「売り物だからねぇ。それだけは断言してやるよ」

 

「ならば買う」

 

そう言って袋の中から紙束を80個取り出した。

 

「毎度あり、後で発着デッキに届けておくよ」

 

「自分がもっていく。台車を貸してください」

 

ジャスミンは驚いていたがやがて笑った。

 

「あんたはいいメイルライダーになるな。断言してやる!」

 

そう言って例のセットを台車に乗せてくれた。

 

「毎度あり!」

 

そう言うジャスミンに合わせるかのように、バルカンがワンワンと吠えていた。

 

発着デッキについた。

 

すると何名かの整備士が待っていたかの様にこちらに近づいてきた。

 

「おっこれが新しく装備する武器か。わざわざ持ってきてくれてありがとうな。後は任せときな」

 

「自分も手伝います。システムとの連動など、色々と繋げたいものとかありますし」

 

整備士達は少し驚いていた。が、直ぐに元気よく笑い出した。

 

「なるほど!たしかにジャスミンの言った通りだ!自分の機体を自分で知ろうとする。あなたはいいメイルライダーになるよ!」

 

「ちなみに聞いておく。こいつの肩は赤く塗らなくていいのかい?」

 

「貴様・・・塗りたいのか?」

つい反射的に言葉が出た。

 

「へっ冗談だよ」

 

整備士は笑っていた

 

軽いやりとりを終え、作業に入った。

 

整備士たちが武器を所定のところに配備して、それを自分がモニターシステムと同調させるというものだった。

 

 

 

 

 

「全システム系統、オールクリア。終わったぁぁぁ」

 

どれくらいの時間が経ったのだろうか。

 

モニターとの同調は成功した。試しにファイティングモードへと変更させてみた。取り付けた全ての武装は、なんの問題もなく変形の妨げにはならなかった。

アイ・フィールドもちゃんと作動した。

 

(ついに完成したのか。俺の新しい機体が)

 

外に出て、フェニックスを確認してみる

 

特に肩を赤く塗ろうとは思わなかった。

 

右肩にはショルダーミサイルポッド、サーベルはミサイルポッドの後ろに装備した。左肩の横にはヘビィマシンガンを装備させた。左肩には高粒子バスターを装備していた。 両方の腰の脇には、SMM21が備え付けられていた。

 

そして右手にはガトリングガンが握られていた。なお、180mmキャノン砲は背中のど真ん中に付いていたそしてそれの銃口は上を向いていた。。おそらくウイングモードの方が使う機会が多いのだろう。

 

「よく武器系統などを問題なく備えられましたね」

 

誰かが思った疑問をぶつけてみた。

 

機体をウイングモードに戻した。機体の下の部分にガトリングガン、ヘビィマシンガン、高粒子バスターが3つ並んで置かれていた。180mmキャノン砲も機体上部の真ん中にあり、銃口は前を向いていた。腰や肩にについていたミサイルポッドなどは後ろの方に付けられていた。

 

ちゃんと変形できた以上、機体に問題はなかった。

 

「そんじゃ機体改造作業はお終い!各自解散!」

 

その一言で皆バラバラに別のところへと向かっていった。

 

俺は台車をジャスミンモールに返した後、自分の部屋へと戻っていった。

 

戻った後はスカートをタンスにしまい。金袋と下着の入った袋をベッドの脇に置くと、ベットにダイブした。

 

色々な出来事や、今後の出来事を考えていった。

 

(・・・疲れた・・・もう寝たい)

 

そう思い。俺は目を閉じた。

 

暫くして彼は意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見ていた。自分はよくわからないところにいた。夜なのか光があまりない。誰かに右腕を引っ張られた。見るとそこには男の子がいた。

 

(君は・・・誰だ?)

 

突然視界が明るくなった。次の瞬間、耳を貫くような騒音がした。

 

「ドーーーン!!!」

 

見てみるとあたり一面が火の海になっていた。そして、その火の奥から、何かが見えた。それは機械だった。機械はこちらに気づくと、手にしていた銃を向けてきた。

 

次の瞬間、俺は本能的に走っていた。

 

「ドーーーン!!!」

 

振り返るとさっき自分のいたところに銃弾が直撃したらしい。そして、そこにさっきの男の子の姿はなかった。

 

この時俺は、自分があの子を見殺しにしたということが実感できた。

 

しかし、機械はなおもこちらに向けて銃を放ってきた。避けるのに精一杯だった。暫く走っていると、ある建物が見えた。なぜかはわからないがそこに向かわなければと思い、そこへと向かっていった。

 

「ドーーーン!!!」

 

しかし次の瞬間、その建物が銃弾の直撃を浴びた。その建物は一面火の海とかした。

 

しかし、それでも俺はそこを目指し走って行った。

そして、その建物の入り口にたどり着くと、迷うことなく、その建物へと入っていった。

 

「ドーーーン!!!」

 

次の瞬間、その建物に再び銃弾が命中したらしい。建物が揺れた。

 

「はっ!!」

 

目が覚めた。外は嵐だった。

ここで初めて自分が夢を見ていたと理解した。全身汗まみれだった。

しかし、彼はそんなことより自分の中の疑問を考えていた。

 

(今の夢は一体・・・なんなんだ・・・)

 

・・・考えた所で答えは出ない。

 

(体を動かしたい。少し歩くか)

そう思い、俺は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1203ー77号ノーマ。アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ。出身はミスルギ皇国。年齢は16歳・・・ねぇ」

 

メビウスが部屋を出た少し前、取り調べ室では新たに入ったノーマの取り調べが行われていた。

 

「何処なのですかここは・・・私に・・・何が起きているのですか・・・!?」

 

そう震えた声で彼女は答える。首輪の様なものに手錠がつけられている。そして首輪からは暇が垂れていた。

 

「1203ー77号。あなたは今日からここ「アルゼナル」で兵員として戦うことが義務付けられます。

16歳であるあなたは特例として教育課程に・・・」

 

「そんなことは聞いてません!母に!母に合わせてください!今すぐに!」

 

彼女は母に合わせろと言い出した。彼女の母、ソフィア・斑鳩・ミスルギは洗礼の儀の際、彼女を庇おうとして撃たれたのだ。気にするなという方が無理だろう。

 

しかしエマ監察官はその質問には答えず、彼女に近づくと、ピヤスを取った。

 

「所持品は没収します」

 

そういうと彼女の所持品をとっていった。

 

「その指輪もだ」

 

その後ろ、机の上に足を組んで座っていたジル司令はそう命令した。

エマ監察官は指輪を取ろうとした。

 

「触るな!」

 

アンジュリーゼはそう怒鳴った。

 

「これは我がミスルギ皇国斑鳩家に代々伝わるもの!お前のような下級役人が触れて良いものではない!」

 

「このっ!ノーマの分際で!」

 

「私がやろう、エマ・ブロンソン監察官殿。ノーマの相手は同じノーマでなくてはな」

 

そう言うとジル司令は立ち上がった。

 

「さて、手荒な真似をしてすまなかったな。私はここ、アルゼナルの総司令、ジルだ」

 

そう言ってジル司令は例の首輪手錠を外した。

 

「・・・私はノーマなどではありません。きっと何かの間違いです。すぐにミスルギ皇国から・・・」

 

次の瞬間、アンジュリーゼの腹部にジル司令の見事な蹴りが入った。

 

彼女軽く口から色々なものが出た。

 

「いやはや恐れ入ったよ。16歳までマナを使わずに生きて来る事が出来たとはな。おかしいとは思わなかったのか?一度も?」

 

「マナを使う専属の侍女がいたようです」

 

エマ監察官がジル司令の疑問に答える。

 

「なるほどなぁ、みんなで隠してきたのか・・・16年も」

 

(!?)

 

ジル司令とエマ監察官の会話を彼女は半ば受け止められないでいた。

 

ジル司令は彼女の顔に近づき、耳元で囁く。

 

「お前の母親は無駄死にだなぁ」

 

「えっ?死・・・死ん・・だ?えっ・・・」

 

彼女現実を受け止められないでいた。

 

そんな彼女など御構い無しにジル司令は彼女の指から指輪を外す。

 

「没収する」

 

「返して!返しなさい!」

 

「取り返してみたらどうだ?【マナの力】で」

 

その言葉に彼女は手を前に出した。

 

「マナの光よ!」

 

しかしなにもおこらない

 

「光よ!マナの光よ!」

 

しかしなにもおこらない

 

「光!マナの光よお願い!出て!」

 

いい加減にしろ!なにもおこらないと言っているだろう!お前ははねるしか覚えてないコイキングか!!

 

ジル司令はあまりの滑稽ぶりに半ば呆れていた。

 

「もうお前には何もない。皇女としての権限も、人としての尊厳も、何もな!!」

 

そう言うとジル司令はナイフを取り出した、彼女の服を切り裂いた!

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

驚くなという方が無理だが、間髪入れずに彼女の服だったものを剥ぎ取る。

 

そして彼女を台に押し付ける。

 

「はっ放せ!」

 

「エマ監察官、お手伝い願えますかな?」

 

彼女の言葉など無視して、エマ監察官に協力を求める

 

「何故・・・私が・・・」

 

「早く終わらせたいでしょう?汚れ仕事なんてものは」

 

その言葉に、エマ監察官も渋々納得した。

 

エマ監察官の手が光る。

すると拘束具が勝手に動き始めた。

 

それらは彼女を、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの手足を拘束した。

 

「なっ!なにを・・・!?」

 

「身体検査だ」

 

そう言うとジル司令は彼女の下着に手をかけ、ずり下ろした。

 

「やめてっ!やめなさい!私はミスルギ皇国!第一皇女!アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギなるぞ!」

 

「いや・・・今からお前は【アンジュ】だ」

 

「キャァァァァァァァァ!!!!」

 

雷と共に彼女の悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

「ガチャガチャ」

 

予想外の音にジル司令とエマ監察官は驚きその音の方を向く。

ドアが開いた。

 

「大丈夫ですか!?今こちらからとんでもない悲鳴が聞こえてきたんですけ・・・ど」

 

(・・・いっ今目の前に広がる光景をオブラートに包んで語ろう。まず全裸の少女が台に拘束具付きでいたんだ。そして、その子の後ろにジル司令が指を突っ込んでたんだ。そしてその隣にはエマ監察官がいたんだ。

そうか、そういうのが好きだったのか、そういうプレイがお好みだったのか。いやぁ知らなかったなぁ。まさかそんなことがここで行われていたとは)

 

 

 

とても長い間、全員がその場に固まっていた。

 

 

 

「・・・お邪魔しました」

 

そう言ってドアを閉め、今来た道を全力で走っていった。

しかし直ぐにジル司令が追いかけてきて、首根っこをひっ捕まえてきた。

義手のほうでだ。

 

(痛い痛い痛い!やめて離して!息苦しい!抵抗しないから!素直にそちらに従うから!離して!てかこのネタ最近やったばかりじゃん!)

 

ジル司令は首根っこをひっ捕まえながら、彼を引きずり、取り調べ室へと戻っていった。

 

 

 

「ちっ違うぞ!お前が今想像しているものは断じて違うぞ!」

 

「あなた!一体いつから見てたんですか!それよりなんでここにいるんですか!」

 

ジル司令とエマ監察官がまくしたてるように話しかけてきた。

 

もっとと、俺は取り調べ室に入るなり直ぐにエマ監察官の使うマナの力で鎖で椅子に縛り付けられていたので、逃げように逃げれないが。

 

「これだけは言っておくぞ、私がやっていたのは【身体検査】だ。間違っても不純行為ではない。ノーマとしてここに送られたやつはみんなこれをするんだ」

 

(まじかよ)驚くなという方が無理であった。

 

 

 

 

「俺、そんなの受けた記憶無いですけど」

 

「お前が意識を失ってた際に手早く済ませておいた。ちなみに下着とか服のサイズとかも調べさせてもらった」

 

さらっと言われた一言に俺は絶句した。

 

「とにかく!!先ほどの続きだ!エマ監察官!そいつが鎖を噛みちぎって逃げ出さないようにしっかりと見張っておいてくれ!」

 

そういうとジル司令は台の上のアンジュに近づいていった。

 

「やっヤメロォ!!やめなさい!!私はっ!!」

 

アンジュリーゼは必死に叫ぶ。

 

(ああ。あの子は今からジル司令にあんなことやこんなことをされてしまうのか。そして最後には・・・)

 

「・・・目隠しつけておきますね」

 

そう言うとエマ監察官は目隠しでこちらの視界を塞いできた。

 

まぁこちらとしてもあまり見ていて嬉しいというより恥ずかしいというのが本音なので、この配慮?には多少嬉しいものがあった。

 

その後は度々聞こえる悲鳴があったが、いつしかその悲鳴も静かになっていった。

 

そして悲鳴が聞こえなくなってきた頃。彼の意識は再び深い眠りへと落ちていった。

 

 





第1章はこれにて終わりです!

ちなみにメビウスのメイルライダーとしてのキャッシュは5960万ですが、機体の洗浄に2万キャッシュ差し引かれた計算です。

武器ネタ入れてみましたけど、わかりますかなぁ?
ちなみに武器ネタは特に今後いじられることはない予定です。

アンジュの身体検査の描写をどうするか製作段階ではとても悩みました。これはR-15です。多少は含ませますが、ストレートな描写は控えております。

そして次回から第2章突入です。本格的なドラゴンとの戦い。さらには、オリジナルの敵との戦いも始まります!

原作通り死なすか。生かすかは悩みどころですねぇ。


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第2章 少年と少女達の戦い
第9話 ようこそ 死の第一中隊へ


遂に第2章に突入しました。

そしてお気に入りも10人を迎えました!

今回は会話パートが多いです。

だんだん表現の仕方が難しくなってきた。
特にR-18スレスレの表現はマジで悩む。

それでは、本編行ってみましょうか!




「マナの光、それは人類に与えられた幸福の光でした。マナの光により、世界から争いはなくなり、人々は平和を築き上げてきました。しかしそんな中、この平和を脅かす存在が現れました。ドラゴンです。ドラゴンは次元の壁を超えて、この世界に侵攻してきます。

それらから世界を私達ノーマが守っているのです。それが人間として出来損なった私達ノーマの唯一許された生き方です」

 

「ここアルゼナルではマナの光を持たないノーマたちを教育し、世界の役に立てるように育成します。いいですね?」

 

「イエス!マム!」

 

幼年部の子供達が元気よく返事をした。

 

「2人とも、内容を聞いてどうだった」

 

そう言いながらジル司令はこちらに近づいてきた。

その後ろにはエマ監察官もいた。

 

「悲しいな」

 

メビウスはそう答えた。

 

「俺はそのマナというのがどのようなものかはわかりません。ですけど、生まれた時に、それらが使えないだけでこんな事を、ましてや人間ですらないなんて・・・。マナの光がなくても、それを認めて、受け入れて共存するってできないんですか?」

 

「当たり前でしょ!」

 

エマ監察官が怒ったように言ってきた。

 

「いいですか!ノーマというのは!」

 

「落ち着いてください。エマ監察官。お前の意見も最もだ。だけど結局のところ、ノーマが差別される理由は」

 

ジル司令は一呼吸置くと言った。

 

「ノーマがノーマだからなんだよ」

 

「・・・とても悲しい理由ですね」

 

メビウスはそう答えた。

 

「そうだな。さてアンジュ、そっちはわかったか?」

 

ジルはアンジュの方を向いて問いかける。

 

「もうすぐ・・・ミスルギ皇国から解放命令が届く・・・はずです」

 

乾いた声で絞り出した一言がそれだったら。

 

その言葉をジル司令は無視する。

 

「現時刻でアンジュ並びにメビウスの教育課程は終了。本日付で第一中隊へと両名を配属する」

 

「第一中隊へ!?」

 

エマ監察官が驚いたように言ってきた。

 

「両者ともにですか!?」

 

「確か今日はもう一人配属が決まってたはずだな。そいつも含めて、こいつらはゾーラに預ける」

 

「さて、監察官殿。そちらは頼みますよ」

 

そういうとアンジュの手を引っ張ってジル司令は部屋を後にした。

 

 

 

 

アンジュとジルが部屋を出る少し前。

 

双眼鏡を手に、今度入ってくる獲物をゾーラは下見していた。

 

「あれが噂の皇女殿下か・・・いいねぇ、やんごとなき御方の穢れを知らない躰。甘くて美味しそうじゃないか」

 

そういうとゾーラは隣にいたヒルダの胸を揉んだ。

 

「あっ・・・!」

 

ヒルダの口から甘い声が漏れる。

 

「新しく入った娘なら誰でもいいんでしょ・・・」

 

ヒルダがそう言うとその隣にいたロザリーとクリスも頷いた。

 

「なんだ〜〜?妬いてるのかぁ?可愛いなぁお前達は!」

 

「隊長!スキンシップは程々に、新兵から揉み方が痛いと苦情が出ています!」

 

「はいはい、気を付けますよ〜サリア副長〜」

 

サリアの注意も彼女は軽く受け流した。

 

「サリアちゃん。ちょっと借りるわね。」

 

そう言うとエルシャはサリアの手元から資料を取った。

 

「ココちゃん、ミランダちゃん、この3人が新たに入る子よ。仲良くしてあげてねぇ」

 

「はっはい!」

 

二人は元気よく返事をした。

 

「ねぇねぇサリア、クイズ!」

 

ヴィヴィアンがそう言いながらサリアに近づいてきた。

 

「誰が一番最初に死ぬかな?」

 

「ええ!?」

 

ココとミランダが驚く。

 

「死なないように教育するのが私たちの役目でしょうがぁ!」

 

そう言いながらサリアはヴィヴィアンの頭をグリグリした。

 

「痛い痛い!死ぬ!死ぬって!」

 

そのやり取りを見ながらゾーラは聞いてきた。

 

「ちなみにサリア、新兵は後一人いたよな。そいつはまだか?」

 

「その新兵でしたら、現在ジル司令からの命令で別の用事に当たっているはずです。おそらくあれの解決策でしょう」

 

「そうか、それじゃついでに聞く。あれはなんだ」

 

そう言うとゾーラ隊長はメビウスを指差した。

 

「彼はメビウスです。昨日のドラゴン撃破ポイントにいたパラメイルのパイロットで。世界初の男のノーマです」

 

「違うそうじゃない。そいつの今の状況を聞いているんだ。なぜああなった?」

 

「それは・・・私にもわかりません」

 

「あれいったいなんなのー?」

 

第一中隊の全員が疑問に思っていた。

 

 

 

アンジュ達が去った後の幼年部の教室。

 

「なんで私がこんなことを」

 

残されたエマ監察官が愚痴っていた。

 

「あなたがこうしたんでしょうが」

 

俺は愚痴ってるエマ監察官に毒づいた。

 

「貴方が覗きなんてするからでしょ!」

「悲鳴が聞こえたんで駆けつけただけですよ!」

「もういい!こっちです!来なさい!」

 

そう言われて、俺はエマ監察官に椅子の背もたれを引きずられながら部屋を後にした。

 

「んで、これはいつ外されるんですかねぇ」

 

そう言いながら俺は鎖をジャラジャラさせた。エマ監察官はそれには答えなかった。

 

俺は今鎖で拘束されている。なぜこうなったかと言うと昨日の夜に遡る。悪い夢を見たんで少し歩いてたんだ。

そしたら悲鳴が聞こえたんで取り調べ室に駆け込むと、まぁその、あれだ。色々あったんだよ。

その時、俺はエマ監察官によって拘束されたんだが。慌てて拘束したせいか、鎖が解けなくなってしまった。

それで今に至るわけだ。どうやら鎖相手にに悪戦苦闘しているらしく、解けないまま、ここにつれてこられたってわけだ。

 

そうやって引きずられてゆく。しばらくすると、目的の場所に辿り着いたのか、エマ監察官の足が止まった。

 

「ここで待機していなさい!後はどうにかなるでしょう!」

 

そう言うとエマ監察官はどこかへと駆け足で去っていった。

 

(逃げたな)

 

メビウスは心の中でそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ。死の第一中隊へ。隊長のゾーラだ」

 

結局鎖は解けず、今俺はアンジュの隣で、椅子に縛られた状況で話を聞いていた。因みにアンジュは黙って下を向いていた。

 

「おいっ。本当に男だぞ」「ノーマは女性しかならないんじなかったの?」」

 

相手側は多少ざわついていた。

 

「お前。自己紹介をしな」

 

ゾーラ隊長はメビウスを指差した。

 

「あーっ。今日からここで世話になるメビウスだ。ドラゴンとの戦いはまだ実戦を一回しか経験していない。先輩達の足を引っ張らないように努力していく。今後よろしく頼む」

 

今後のことも考えてか、多少砕けた雰囲気を出した方が後々トラブルとかにはなりにくいたら考え、砕けた雰囲気を出した。

 

「ねぇねぇねぇ!なんで鎖で縛られてるの!?」

 

場の空気を壊すかの様にヴィヴィアンがメビウスに尋ねてきた。

 

内心では皆んなそれが気になっていたのか、ヴィヴィアンの行動を誰も止めようとせず、皆心では感謝していた。

 

「まぁそのあれだ。色々あったんだよ、昨日な」

 

「その色々が聞きたーい!」

 

ヴィヴィアンは尚も食いついてくる。

 

「まぁいいじゃないか。どうせ隠す理由があるならわざわざそんな格好で来ないだろ?」

 

ゾーラ隊長がそう言ってきた。

 

「来たんじゃなくて連れてこられたが正しいんですけど。まぁたしかにな。一言で言うと。見ちゃいけないものを見てしまった罰ってところかな?」

 

「なにを見たの!?」

 

ヴィヴィアンがまた食いついた。

 

「なぁ・・・本当に言わなきゃダメか?」

 

「ここまできたんだ。今更隠すなんてやめてくれよ」

 

ロザリーがそう言う。

 

「・・・拘束された全裸の女体」

 

「はっはっは!それでそうなったのか。そりゃ災難だったな」

 

ゾーラ隊長が爆笑しながら答えた。

 

「よかったよ。話のわかる人がいて。エマ監察官なんてプンプンに怒ってたからな」

 

「まぁいい、そろそろ最後の新入りが解決策を持ってくるはずだ」

 

「解決策?」

 

 

「すいません!遅れました!」

 

声がした。椅子を180度回して振り向いてみると、そこには見たことのない少女がいた。見た目を言うなら濃いピンク色の髪をした癖っ毛少女といったところだ。

 

手には何か鋸の進化系と言えるものを持っていた。

 

「チェーンカッターを持ってきました!」

 

「ご苦労。それが必要な奴はわかるだろう。早いとこ鎖を解いてやれ」

 

「イエス・マム!」

 

そう言うと少女は後ろに回り込んだ。後ろから物騒な音が聞こえ始めた。

 

(なにしてるかわからないって結構怖いもんだな)

 

しばらくすると拘束が緩んだのを感じた。鎖が切れたのだ。

 

「鎖は切れました!」

 

「おう。ありがとうな」

 

俺は立って彼女に礼をした。

 

「君?もしかしてあの時の?」

 

「さてと、それじゃナオミ、自己紹介しな」

 

「あっはい。ナオミです。本日付で第一中隊に来ました。今後よろしくお願いします」

 

そう言うとナオミは俺の左隣に来て、頭を下げた。

 

「そしてあんた、そろそろだんまりはやめて名前くらい話したらどうだい?」

 

ゾーラ隊長がアンジュに話を振る。

 

しかしアンジュは答えない。

 

「まぁいい、後で紹介するって流れでいいだろう。サリア、先に説明してやりな」

 

「イエス・マム」

 

「こちらから突撃兵のヴィヴィアンとヒルダ。軽砲兵のロザリーと重砲兵のクリス・・・」

 

「これ全部・・・ノーマなんですか」

 

右隣で黙ってたアンジュが口を開いた。

 

その一言に場にその場が凍りつく。

 

「これ・・・って?」 「私らはモノ扱いか」 「このアマ」

 

(一悶着あるなこりゃあ)

 

半ば確信めいたものを感じた。左隣を見てみるとナオミもオロオロしていた。

 

「そうだよー!」

 

そんな中、元気よくヴィヴィアンが切り出す。

 

「みんなアンジュやメビウスやナオミと同じノーマだよ!仲良くしていこーよー!」

 

「よろしく頼むぜ。ヴィヴィアン」

 

「よっよろしくお願いします」

 

メビウスはそれに返事をした。ナオミもそれにつられて返事をした。

 

しかしアンジュは頑なにそれを否定する。

 

「わっ私は違います!私はミスルギ皇国!第一皇女!アンジュリーゼ斑鳩ミスルギです!断じてノーマなどではありません!」

 

「でも使えないんでしょ?マナ」

 

ヴィヴィアンの言葉にアンジュは狼狽える。

 

「こっここはマナの光が届かないだけです!」

 

(嫌々、昨日エマ監察官がマナ使ってたろ。その言い訳は苦しすぎるだろ)

 

メビウスは内心では呆れ返っていた。

 

「あーっはっはっは!ったく司令め。とんでもないやつを回してきたぞ。状況認識もできてない不良品が紛れてるじゃないか」

 

我慢できなくなったのか、ゾーラ隊長が大声で笑い始めた。

 

「不良品が上からエラそーにほざいてるのか」

 

「痛すぎ」

 

「あのっ。そろそろ話を進めませんか?」

 

状況に耐えられなくなったのか、ナオミが提案する。

 

しかしアンジュは止まない。

 

「ふっ不良品はあなたたちの・・・」

 

次の瞬間、ヒルダの足払いがアンジュを直撃した。バランスを崩してアンジュは転倒した。

 

「身の程をわきまえな!!イタ姫様!!」

 

「まぁまぁそろそろやめましょうよ」

 

場を持ち直すために、エルシャが割って入る。

 

「ああっ!?こう言う勘違い女は最初の内にシメとくべきなんだよ!」

 

「・・・ゾーラ隊長。これ以上は不毛だと思うんですけど」

 

見るに見かねたサリアがゾーラ隊長に進言する。

 

「そうだな。よし!色々と教えてやれ!同じノーマ同士仲良くな!」

 

ゾーラの一言に、アンジュは悔しく思いながら立ち上がる。

 

「それでは訓練を始める!ロザリー!クリス!エルシャ!あんたらは一緒に来な!遠距離砲撃戦のパターンを試す!!

サリアとヒルダとヴィヴィアンは新兵の訓練だ!しっかりやんな!

それじゃ各自持ち場につけ!」

 

「イエス・マム!」

 

「ヴィヴィアンはココ、ヒルダはミランダをお願い。あなたたちは私と来なさい。」

 

「イエス・マム!」

 

そう言われると、3人はサリアの後ろを歩いた。

 

少しして、アンジュが来てないことに気がついた。

 

「おい、アンジュ?どうした?」

 

疑問に思ってメビウスは聞いてみた。

 

「私は・・・アンジュリーゼ。何人たりとも私に命令をすることなど出来ません!」

 

次の瞬間、アンジュの喉元にサリアのナイフが当てられた。

 

「自己紹介がまだだったわね。私は副長のサリア。ここでは上官の命令は絶対。いいわね?」

 

流石に命の危険を感じたのか、アンジュは頷いた。

 

「まぁまぁ二人ともその辺にしとけよ。同じ隊のメンバー同士今後仲良くしていくべきだろ」

 

するとサリアはメビウスにもナイフを向けてきた。

 

「・・・なんの真似だよ?」

 

「はっきり言う。私はまだあなたの事を信用してないから」

 

「それは俺が男のノーマだからか?それとも俺がシンギュラーから落ちてきたからか?」

 

「どっちもよ」

 

 

少しの間沈黙が続く。

 

 

 

「・・・俺は別に揉め事をしたいわけじゃない。でも二つだけ教えてやるよ。

俺の記憶の中に残された自分についてだ。

まず一つ。俺の嫌いなもの。それは力や立場を振りかざすやつ。そして仲間になるやつを仲間と思わないやつだ」

 

「そしてもう一つ。足りない信頼は実力で勝ち取る。それが俺の主義だ」

 

「・・・その度胸だけは認めるわ」

 

そういってサリアはナイフをしまった。

 

「取り乱したわね。3人とも付いてきて」

 

「イエス・マム」

 

そう言うと、メビウスとナオミ、そしてアンジュは後ろへとついていった。

 




久しぶりにナオミを出せました。

メビウスは第一中隊のメンバーには砕けた雰囲気で接していきます。

正直この辺りは原作をなぞる風です。
原作にいないキャラが2人いるので、いかにこの2人でオリジナル展開を作っていくかが重要ですね。

しばらく経ったらキャラ辞典でも作ろうかな。
機体とかキャラの性格など色々掲載したいな。


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第10話 シュミレーター



今回の話の制作にとても悪戦苦闘した。多分7第話の制服表現並みに苦戦しました。

半分寝ぼけ眼で書いたので、その点はご了承ください。

それで本編の始まりです。





「ねぇ。メビウスって黒いパラメイルに乗ってた人だよね」

 

ローカールームに向かう道の最中、ナオミはメビウスに話しかけた。

 

「 そうだけど」

 

「よかったよ。生きてて。正直ダメかと思ったよ」

 

「もしかして、ナオミなのか?助けてくれたのか?」

 

「私はただあの機体をここに持ち運んだだけだよ」

 

そんな話をしてる中、4人はロッカールームにたどり着いた。

 

「そんじゃ外で待ってるから。早く着替えてくれよ」

 

「・・・少しは常識があるのね」

 

先程の件でサリアとは多少ギクシャクしていた。

 

「どう思っていたのかはあえて聞かないでおくぞ」

 

そう言ってメビウスは3人がロッカールームに入っていくのを見守った。

 

 

 

 

ローカールーム内にて。

 

「いったいこれはなんですか!」

 

アンジュは渡されたパイロットスーツを持ってそう言う。

 

「パイロットスーツ。それに着替えて」

 

サリアはそう言って着替え始めた。

 

(こんな破廉恥な服っ!ん?)

 

アンジュはタグに書かれている文字を見つけた。

 

そこにはローマ字でAKIと書かれていた。

 

「前の持ち主の名前よ」

 

「前の?」

 

「死んだわ。つい最近」

 

よく見ると所々血が乾いた跡があった。

 

「こんなの着るぐらいなら、裸でいた方がマシです!」

 

「そう」

 

そう言うとサリアはドアを開け、アンジュを放り出した。

そして素早く鍵をかけた。

 

「ちょっと!開けて!開けなさい!」

 

ドアをノックする音が聞こえる。サリアはそれを無視した。

 

「ナオミ、貴方は着替え終わった?」

 

ナオミは既に着替え終わっていた。

 

「あのっ。開けなくていいんですか?」

 

「いいのよ、少し待ってて」

 

そう言ってサリアは着替えの続きを始めた。

 

 

 

 

廊下にて。

 

「お前そんなに全裸でいたいのかよ」

 

廊下ではメビウスが呆れた口調でアンジュに話しかけていた。

 

無論、アンジュのことを見ないように、背を向けていた。

 

「私は悪くありません!どっかへ行ってください!」

 

「お前が着替えないとこっちも着替えられないんだよ!」

 

そんなやりとりをしていた

 

「学園で教わった通りですね!ノーマは化け物です!野蛮で下品で暴力的で・・・そういえば、ノーマは女性だけのはずです。

なぜあなたは男なのにノーマなのですか?」

 

その時扉が開いた。サリアだった。

 

「着る気になった?」

 

「・・・はい」

 

そう言うとアンジュはパイロットスーツを掴んだ。

 

「それとメビウス、あなたももう入って着替えて。あなたの着替えを待つ時間に余裕がなくなったわ」

 

「わかりましたよ」

 

そう言って俺はロッカールームへと入っていった。

 

自分のロッカーの番号からパイロットスーツを取り出し、制服を脱いでロッカーに入れた。

パイロットスーツは前の戦いで付着した血に塗れていた。特に気にすることもなく着込んでいく。

 

唯一バイザーに血がかかってるのが気になった。

 

俺はその血を近くにあった蛇口で洗い流した。そしてパイロットスーツの比較的綺麗なところで水を拭いた。

 

ついでに水を手ですくうと、そのまま口に含んだ。

久しぶりだ。少なくても目覚めてから自分は水を一回でも飲んだだろうか。多分シャワーの時に口に入った程度だろう。それは1日ぶりの水だった。

今までが死んでいたのか、生き返るというよりは生まれ変わった気分になった。

 

メビウスが部屋を出ようとするとアンジュがまだ全裸なことに気がついた。

なぜか服をペタペタ触っていた。

 

「早く着ろよ」

 

「あのっ」

 

そう言って部屋を出ようとした時アンジュに呼ばれて足を止めた。

 

 

「なんだ?」

 

「・・・手伝ってくれませんか?」

 

「・・・サリア副長ー」

 

俺はトビラを開けて、サリアを読んだ。

 

サリアはすぐ近くにいた。

 

「なに?」

 

「アンジュの着替えを手伝ってやってくれ」

 

そう言うとサリアは驚いたような顔をして入ってきた。

 

「あのっ手伝ってください」

 

「あなた・・・一人で服も着れないの?子供以下ね」

 

その言葉にアンジュは赤面した。

 

「あなたはナオミと外で待ってて」

 

「わかりましたよ」

 

外ではナオミがいた。白のパイロットスーツを着込んでいた。

 

「アンジュはどうだったの?」

 

「全裸で待機中」

 

その言葉にナオミは苦笑する。

 

「そういえばナオミ、お前が助けてくれたのか?ありがとうな」

 

ロッカールームに辿り着く前の会話を思い出し、ナオミに礼を言う。

 

「いや、そんな。当たり前のことをしただけだよ」

 

メビウスはナオミの顔をじーっと眺めた。

 

「なっなにかな?顔になんかついてる?」

 

「いや、ちょっと考えてたんだよ」

 

「それって、自分のいた世界について?」

 

「それに関しては記憶がないから今はなんとも思ってない。今考えてたのは、マナの光が使えないだけでこんな差別が起こってるってことだ」

 

その真剣な口調にナオミは息を飲む。

 

「俺にはここにいる人達がアンジュやエマ監察官の言う化け物や野蛮とか、そんな風には見えないんだ。ただマナの光が使えないだけなのにな」

 

そう思っていると、扉が開いた。どうやらアンジュの着替え終わったらしい。

 

「待たせたわね。それじゃあ付いてきて」

 

そう言われて3人は、サリアの後ろを歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

「ここはどこなんだ?」

 

サリアに尋ねてみた。

 

「ここはシミュレータールーム」

 

既にココとミランダはシミュレーター中のようだ。

 

「メビウス。あなたはあのシュミレーターを使って」

 

指差す方を確認するとそこはほかのシミュレーターとは違うらしい

 

「既にやるべきことはコンピューターにインプットしてあるから。あなたは一応新兵だけど、既に戦闘経験はあるし」

 

「イエス・マム」

 

メビウスはそう言うと指定されたシミュレーターに入る。

 

中は少なくてもフェニックスとは違う構造をしていた。

 

フェニックスは操縦桿一つで、大体のことができる。しかしこれは左右にハンドルにがついていた。

 

機体名はグレイブというらしい。

 

試しに機体飛ばしてみた。

 

(遅い。いや、自分があの機体の速度にただ慣れていただけか?)

 

そう思っていた中。目の前にドラゴンが現れた。コンピューターからは色々と指示が飛ばされてきた。

 

(これらを全てやればいいのか)

 

そう思いながら、メビウスは機体を加速させて行った。

 

 

 

 

 

 

 

メビウスがシミュレーターを始めた頃。

 

「アンジュとナオミは私が見るわ。それぞれ左右のシミュレーターに

入って」

 

そういうとナオミは左のシミュレーターへと入っていった。

アンジュは右のシミュレーターへと入っていった。

 

 

「これがメインスロットル、これがインジケーター」

 

サリアがアンジュに内部構造について軽く説明する。

 

「なんですか?これは?」

 

「パラメイルのシミュレーター」

 

「パラメイル?」

 

「私達ノーマの棺桶よ」

 

そう言うとサリアは扉を閉じた。そしてナオミの方も同じように扉を閉めた。

 

(ナオミは少しだけレベルを上げてみるか。問題はアンジュね。初めからできるなんて思ってない。まずは飛ぶ感覚を体になじませないと)

 

そう思いながらシミュレーターを起動させた。

 

次の瞬間、アンジュとナオミの悲鳴が聞こえた。

 

ナオミはまだメイルライダーになりたての新兵だ。慣れれば本来なら悲鳴など上がらないが、まだ無理もない。

 

「操縦桿から手を離さない!次!上昇!」

 

突然のことにアンジュはまだ悲鳴をあげていた。

 

(ナオミの方は軌道に乗ったか)

 

ナオミに関しては一応テストも受けていたので一度慣れてしまえばあとはなんとかなるものである。

 

「次旋回!そのあと急行下!」

 

「キャァァァ!!!」

 

急に機体が周りアンジュはまた悲鳴をあげる。そしてそのあと機体は急降下した。

 

(初めてじゃこれくらいね)

 

(!?この感じ・・・まさか!?)

 

アンジュは心の中で何かを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜〜〜あ。こんなに真っ赤に腫れあがっちゃって・・・ジュクジュクになってるじゃない〜〜」

 

「マッ、マギー」

 

「痛い!?痛いよね!?もっと痛めてあげようか!?」

 

「酒臭いよ、マギー!」

 

そう言うとジルはマギーの脳天にチョップした。

 

「痛っ」

 

「こりゃあダメだねぇ。外側のボトルは全部おしゃかになっちまってる。そこでだ!今回新たに仕入れたこのミスルギ皇国製の新ボトル!ち〜とばかし値がはるけど品質は保証してやるよ。」

 

こういう時のジャスミンの顔はとても生き生きとしていた。

ここでもジャスミンは商売根性を見せていた。

 

「司令部のツケで頼む」

 

「あいよ、これでもう平気だろ」

 

そう言うとジャスミンは義手をジル司令に渡した。

 

「ふむ、なかなかの良さだな」

 

ジルはその義手の良さに納得する。

 

「しかしもう少しデリケートに扱って欲しいもんだねぇ。そいつはお前さんほど丈夫にはできてないんだよ」

 

「暴れ馬がいるんじゃしょうがないだろ」

 

そう言うとジル司令はタバコを一服し始めた。

 

「例の皇女殿下と男のノーマ、あいつらを第一中隊に入れてよかったのかい?」

 

「少なくてもメビウスに関しては仕方ないと思っているさ」

 

「そりゃまぁあんな結果出しちまったんだ。第ニ第三中隊なんかに回したらその中隊は稼ぎがなくなってあいつを残して壊滅するだろうねぇ。でもだからといって皇女殿下まで入れなくても良かったろうに」

 

「ダメなら死ぬ。それだけさ」

 

ジルはそう言うと煙を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

(この感覚は!エアリア!)

 

アンジュは機体を難なく上昇させた。かつてアンジュがやっていたエアリアのように。

 

その結果にサリアは驚いたが、さらなる驚きが襲ってきた。

 

メビウスのモニターにはシミュレーターが映っていなかった。

振り返るとメビウスはトビラを開けなにかをしていた。

 

「ちょっと!なにやってるの!?」

 

サリアは慌てて駆け寄る。

 

「両方のハンドルの調子が悪くなった。だから整備してるんだ」

 

「整備って、あなたシミュレーター訓練は!?」

 

「そうだ。これ渡しておくぞ。今回の結果らしい」

 

そう言われてサリアは差し出された紙を受け取った。

 

そこには今回のシミュレーター訓練で満点を取ったと言う結果が載っていた。

 

サリアは言葉を失った。シミュレーターの難易度は一番高く設定したのに。それを彼はやってのけたのだ。満点で。機体はシミュレーター用のグレイブだった。

 

認めざるを得なかった。

 

やがて意を決したかのようにサリアはメビウスに話しかけた。

 

「さっきは悪かったわね」

 

「急に改まってどうしたんだよ?」

 

意外な言葉にメビウスは驚きを隠せなかった。

 

「さっきの件よ。私はあなたの事を事を誤解していたみたいね。あなたのこと、機体の性能頼りの軽い考えのロクデナシだと思ってた」

 

(そこまで酷い評価されてたのかよ)

 

そこまでの評価だとは思わず、多少ショックを受ける。

 

「でも少なくてもパラメイルの操縦技術は本物のようね」

 

「言っただろ。信頼は実力で勝ち取る。それが俺の主義だ」

 

「少なくともメイルライダーとしては信頼するわ」

 

多少隔たりの壁が薄くなったのを感じメビウスは喜んだ。

 

「そんな副長に報告だ。ナオミの方が大変なことになってるぞ」

 

振り返って見るとナオミは目を閉じて、機体を急降下させているのがモニターで表示されていた。

 

「ナオミ、危ないわよ!目を開けて機体を立て直して!」

 

ナオミは墜落ギリギリでなんとかそれをやってみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

シミュレーターの結果はトップはメビウスだった。

そして意外なのが2位がアンジュということだ。

ちなみにナオミは3位だった。4位はミランダ。5位はココだ。

 

「うっ・・・ぷ・・・・うえええ〜〜〜〜」

「おええ〜〜〜〜」

シャワー室にて、ココとナオミがバケツに向かって顔を埋めていた。その二つの背中をミランダが摩る。

 

「いやぁ、それにしてもすげぇもんだなぁ皇女殿下にあの少年は!

初めてのシミュレーションで漏らさないだなんて。

おまけに少年に関しては難なく最高レベルを満点で達成しちまうとは。こりゃ私達も負けてられないなぁ」

 

ゾーラ隊長は笑いながらそう言っていた。

 

「そういやロザリー、あんたの初めてのシミュレーターの時はどうだった?」

 

「あ、いや、私の初めては、そうですね」

 

ロザリーは狼狽しながらも答えようとした。

「気に入ったみたいね。あの二人」

 

ヒルダが体を洗いながら話してきた。

 

「あぁ、戦力的には悪くない。特にメビウスのやつは機体の性能に頼ってるんじゃない。機体があいつの腕に頼ってるんだ」

 

「ねぇねぇ、サリア、アンジュとメビウスって何?ちょー凄くて面白いんだけど!!」

 

そう言いながらヴィヴィアンが顔を覗かせる。目はキラキラしていた。

 

「そうね・・・2人とも、すごいとしか言いようがないわね」

 

後ろでシャワーを浴びていたアンジュを見ながらサリアはそう答えた。

 

「んで、その肝心のエース様はどこなんだい」

 

「確か用事があるとかで、パイロットスーツを着たままどこかへ行ったけど」

 

ヒルダの質問にクリスが答える。

 

「用事って、一体なにがあるんだ?」

 

ヒルダ達は疑問に思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パラメイルの発着デッキ。

 

「コンファームド・リフト・オフ」

 

「フェニックス!メビウス!出るぞ!」

 

Gが襲ってきたが、一度でも慣れればなんともないものであった。

 

「ジル司令、それじゃあ行ってくる」

 

「忘れるな、一時間後には帰還しろ」

 

「了解」そう言うとメビウスは通信モニターを閉じた。

 

独立調査権。あらかじめジル司令と交渉の末取り決めとなった独立した権利。今日の訓練が終わり。

メビウスは一時間だけ、記憶を取り戻す手がかりを探すために、空を自由に飛ぶ。

 

 

 






ついに独立した調査権を使わせることができました!

もしゲームで言うならいわゆるフリー探索です。

果たして手がかりは手に入るのでしょうか!?

今後この独立した調査権がどのように使われるのか、お楽しみに!


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第11話 1日の終わり

今回は区切り的に多少短めに作りました。

なお、第0話は誠に勝手ながら削除させて頂きました。
しかし、決して決意が揺らいだわけではありません!

そろそろR-18表現に対して欲求不満になってきています。
このままではいずれ作中でアウトな表現をしてしまうかもしれない。

それでは本編の始まりです。




俺は空を飛んでいた。特にどこかへ行こうとかは考えていなかった。だが無意識にあの場所へと機体を飛ばしていた。

 

「やっぱりここに戻ってきちまうのかよ」

 

今メビウスがいるポイントは例のポイントだった。

自分がシンギュラーから落ちてきたポイントだった。

 

手がかりを探すとは言え、彼自身には探す場所にあてなどたいのだ。

 

近くに島を見つけた。そこに降りてみる。そして理由もなく島を歩いてみる。

 

(何か手がかりでも落ちてないか)

 

そう思いながら島を歩いていた。

 

しかしそんなもの都合よく落ちてるわけもない。彼は流れ着いたであろう流木に腰かけた。

 

(俺は一体・・・誰なんだ・・・だれか教えてくれよ)

 

その思考に耽っていた。

 

「グ〜〜〜〜〜〜」

 

しばらくして突然大きな音がなった。そしてそれは自分の腹の音だと理解した。

 

よく考えれば食事に関しても目覚めてから一口も食べていない。

 

モニターで時間を見る。残り時間は後10分程度だった。

 

(・・・帰ろう。きっとこれ以上飛んでてもなんにもならない)

 

そう思い、フェニックスのエンジンを起動させ、メビウスは島を後にした。

 

 

 

 

アルゼナルへと帰還した後、メビウスは食堂へと向かった。

やはり物珍しさ故か視線が痛いように感じた。最も、それらを気にする様子もなく彼は列に並び、食事を受け取ると、座る席を探した。

 

「おーい。メビウスー!こっちきなよー!」

 

声のした方を向くと、ヴィヴィアンが手を振っていた。そこにはエルシャとナオミ、ココにミランダもいた。

 

「それじゃあお言葉に甘えて」

 

そう言い、俺はヴィヴィアンの向かいの席に座った。

 

「よぉ、エース様。さっきまでどこになにしてたんだい?」

 

後ろから声をかけられて振り返る。そこにはヒルダとロザリーとクリスがいた。

彼女らも同じテーブルに座った。

 

「ちょっと司令に呼び出されただけだ。それよりエース様ってなんだよ」

 

「知らないのかい?あんたのあだ名だよ」

 

「最初は【百鬼夜行をぶった斬る!地獄の番犬!】だったんだけど、長いから単純なのに変更したんだよ」

 

「メビウスで構わないぜ。呼び方は」

 

「それもそうだな!変なあだ名はイタ姫様だけで十分だしな」

 

そういうとヒルダは声を上げて笑った。

 

「まぁ確かに、あの時はすごかったし」

 

クリスがそう言う。あの時とは恐らくテストの際に現れたドラゴン達との戦闘のことだろう。

 

「まぁいいじゃないか。頼りになる戦力が来たんだ。しかもパラメイルを持ってきて」

 

「ねえねえ!!メビウス!アルゼナルに来る前からドラゴンと戦ってたの!?」

「あのっ。外の世界ってどんなところでした?」

 

ヴィヴィアンとココが同時に尋ねてきた。

 

「そのっ、俺。記憶喪失ってやつで。外の世界のことはわからないんだ。気づいたらナオミに助けられてここの医務室にいたんだ。機体はその時に乗ってたものらしい」

 

「そうなんですか」

 

ココは多少残念そうな顔をした。

 

「外の世界ならアンジュの方が詳しいと思うぞ。そういやアンジュとサリアとゾーラ隊長はどこだ?」

 

「アンジュちゃんとサリアちゃんはなにやら深刻な顔して司令室に入ってったわよ。ゾーラ隊長はさっき飲み物をとりにいったわね」

 

「それにしてもメビウスよ。記憶を失う前はさぞ大変だったんだろうな。そんな幼いのに既にドラゴンと戦うだなんて」

 

「見たぞ、医務室に運ばれてく姿。血塗れだったじゃないか」

 

「確かにそうだね。シンギュラーから落ちてきた時は死んでるのかと思ったよ。」

 

ナオミがボソッと呟いた。

 

「・・・シンギュラーから落ちてきたぁ!?」

 

その言葉に第一中隊の全員が口を揃え、驚いた顔をする。ナオミは慌てて口を手で抑えるが、時既に遅しであった。

 

ナオミは隣を見る。するとメビウスが軽く睨んでいた。

 

「おっおい。どういうことだよ!」

「シンギュラーってあれだよね!ドラゴンがやってくるとき開く穴!」

 

こうなってしまうと隠す方が危険だ。

俺は意を決して口を開いた。

 

「このことはあまり他の人には話さないでほしい。もし仮に話すとしても第一中隊のメンバーだけにして欲しい」

 

そう言うとメビウスは話し始めた。

自分が別世界から来た事。自分がそこでなにかと戦っていたこと。

そして自分が13歳であるということも。

 

「まじかよ。別世界から来た来訪者かよ」

 

「でもそれなら納得できるのもあるね。見た目はどう見ても7歳くらいなのにメイルライダーとしての腕前も。あの機体も、ちょっとおかしかったし」

 

 

 

 

「なるほどねぇ、話は聞かせてもらったよ」

 

後ろを振り向くとゾーラ隊長がいた。手にはペットポトルを抱えていた。

 

「メビウス。別に気にすることはない。あんたの実力は今日のシュミレーターで出た通り折り紙つきだ。それにいいかい。私らはノーマだ。空に出たら死神と踊るのさ。そして死神の足を踏んづけた奴はみんな死ぬ。だからノーマ同士で手を取り合い、頑張って踏まないように踊るんだよ。どんな奴でも、そいつは仲間だ。無論、あんたもな」

 

「隊長直々に激励の言葉をもらうとはな。ありがとうございます」

 

そう言うとゾーラ隊長は上機嫌になったようだ。

 

「そうだ。ヒルダ ロザリー クリス。3人は後で私の部屋に来な。可愛がってやるよ。準備しといてやる」

 

「〜〜!!!」

 

その言葉に3人の顔が赤くなった。そう言うとゾーラ隊長が食堂を後にした。

 

「じゃあ冷めないうちにそろそろ頂きましょうか」

 

「それじゃ!いただきまーす!」

 

そう言うと皆手元の食事に手を付けた。

 

俺も食事に手をつけた。おかずを白米にかけて、口に入れた。

 

「・・・」

 

なぜだ?俺の顔に何かが流れてきた。

 

「どっどうしたの!?メビウスくん!?なんで涙流してるの!?」

 

エルシャは驚いた。他のメンバーも驚いていた。わからない。なぜ涙が流れるのか。それはメビウス自身が一番わからなかった。

 

「違うんだ・・・なぜだかわからない。でも、涙が出てくるんです」

 

そうして俺は涙を流しながら、食事を続けた。

 

 

 

 

 

食事後、メビウスは部屋へと帰って行った。

部屋に着くと、俺はベットの上に腰かけた。

 

特にすることもなくぼーっとしていた。

そうしていると部屋の扉がノックされた。

 

(誰だ?)

 

そう思いながら、部屋の扉へと向かった。

 

扉にたどりつき、開けてみるとそこにはサリアがいた。その後ろにはアンジュもいた。

次の瞬間。俺はトビラをすぐ閉めて、ドアノブを押さえつけた。

 

本能だ。本能でこの出来事に関わるとめんどくさくなると直感で理解した。

 

「メビウス!開けなさい!副長命令よ!」

 

「会話ならこうして出来るでしょうが!その背後にいるその人ななんですか!?」

 

しばらくはこのような扉越しの会話をしていた。

 

だがやがて部屋の外からは物音が聞こえなくなった。

 

「消えたか?」

 

 

 

 

 

 

この時何故俺は開けてしまったのだろうか。おそらくこのまま眠りに入って仕舞えばよかったのに扉を開けてしまった。

 

扉を少し開けると、強い力で扉が全開になった。

 

サリアがいた。鬼気迫る表情をしていた。

 

「やっと開けたわねぇ!メビウス!今日からこの部屋はアンジュと住むことになる。それを伝えに来たわ」

 

「冗談だろ!?男と女を同じ部屋に置くか普通!?いくらなんでも無神経すぎるだろ!」

 

「しょうがないでしょ!他にベットのある空き部屋がないんだから!」

 

どうやらサリアにとっても苦渋の決断だったらしい。

 

「そう言うわけだから、アンジュのこと、頼むわね。アンジュ!それにメビウス。明日は明朝5時に点呼よ」

 

そう言うとサリアは駆け足で去っていった。

 

後には俺とアンジュが残された。

 

「とにかく入るなら入ってくれ。扉は開けておくからよ」

 

そう言って扉を閉めた。

 

アンジュが入ってきたのは暫く経ってからだった。

 

もっとも、その時には俺は既に身支度が整っていた。

 

「そんじゃ俺は失礼させてもらうぜ。流石に俺も同じ部屋で女の人と寝るのは色々と考えさせられるものがある」

 

そう言うと金の入った袋と下着の入った袋。制服。そしてタンスにしまっていたスカート入れた袋を手に、部屋を後にした。

 

さて、寝床探しだ。最も彼は今日の寝床は既に決めていたが。

 

メビウスは発着デッキを目指した。

 

 

 

発着デッキ。

 

俺はフェニックスに乗り込む。横にはれないが、おそらく眠れなくはないだろう。

 

(とりあえずしばらくはここで寝泊まりするか)

 

そう思いながら、機体の背もたれに寄っ掛かり、俺は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真夜中である。ゾーラ隊長の部屋ではゾーラ隊長の手によって、ヒルダとロザリーとクリスが「あんあん」と喘いでいた。

 

「やっお姉様、もっと、もっとぉ」「はぁはぁ、お姉・・・様・・・そこ・・・気持ちいいよぉ」「あっあっ、お姉様、そんなとこ舐めちゃ・・・だめぇ」

 

「可愛いなぁお前たちは!今日は寝かさないぞ!」

 

 

・・・いったいどんな状況なのかはご想像にお任せしよう。

さて、本編に戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

メビウスはふと目が覚めた。辺りは暗かった。

 

(今・・・何時だ?)

 

モニターで時間を確認しようとした。

 

異変を感じたのはその時だった。

手足が動かない。しかも横になっていた。確かにもたれかかってはいたが横にはなっていない。

この時自分のいる場所がコックピット内でないと理解した。

 

多少の灯りがついた。

 

 

首を動かして見てみると手足は拘束されていた。

そしてそこには男達が何人かいた。

 

(なんだよこれ!悪い夢の一種か!?)

 

しかし夢にしてはやけにリアルだった。

 

(おい!これはなんの真似だよ!)

 

その時俺は自分が喋れない事に気がついた。おそらく猿轡の一種だろう。とにかく話すことはできなかった。

 

男達は俺にガスマスクをつけてきた。

 

「んーー!!」

(やっやめろ!やめろ!!)

 

彼の口からはくぐもった声しか出せない。

ガスマスクから何かの空気が流し込まれてきた。

 

(やめっ・・・ろ・・・)

 

次の瞬間。俺の意識は闇の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

目が覚めた。今度は手足ともに動く。

 

慌てて身体を起こす。

 

まず今自分のいる場所。

ここはどこだ?ここはフェニックスのコックピットの中だ。

 

とりあえず自分の知っている場所に安堵する。

次に身体を調べてみる。汗まみれだったが、特に体に異変はない。

 

となるとあれは夢なのか。

 

しかし彼にはどうしてもあれがただの夢で片付けられない。

 

(・・・そういえば前回もこんな夢を見たな。謎の機械に襲われて、自分の右腕を引っ張った子供を見殺しにして、そしてどこかの建物へと入っていった)

 

(あまり考えたくはないけど・・・あれば俺の記憶の欠片なのか?)

 

・・・モニターを見ると既に4時を回っていた。

 

(前回はこの時軽く歩いたせいで悲鳴を聞き、そしてあんな目にあったのだ。今回は時間近くになるまでここにいるか)

 

そうしてメビウスは時間が経つのを待った。

 

その間、メビウスは前回の、そして今回の夢について悩んでいた。

 

 




メビウスが部屋無しになってしまいました。

最初はメビウスのアンジュは同じ部屋にする予定でしたが、今後の事も考えてアンジュを一人部屋にさせました。
なお、この作品ではナオミとヒルダとエルシャは一人部屋(ベットも一つ)状態です。

流石にゾーラ隊長の所に2つベット置くわけにもいかないのでこうしました。

因みになんか本編中にかなり際どいものがありましたがマッサージとでも言えばまだ通じるでしょう。

果たしてメビウスはいつか再びベットで眠れることはできるのでしょうか!


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第12話 穴から現れた災厄



オリジナルシナリオに8話使っているので気づいてなかったけど。アニメではまだ2、3話くらいでしたね。

因みに今回メビウスの訓練結果がおかしいことになってますが、多少やりすぎた程度がいいと思い、あえてこのままにしました。


それでは本編の始まりです!


 

 

「例の新人達ですが、アンジュとナオミについてです。基礎体力に反

射神経、格闘対応能力、野外戦、更には戦術論の理解度。全てにおいて平均値を上回っています」

 

「優秀じゃないか」

 

「ノーマの中ではですが」

 

エマ監察官が付け足すように言ってきた。

 

「アンジュの方はパラメイルの操縦適正に特筆すべきものあり・・・か」

 

ジル司令はそう言うとタバコを吸った。

 

「因みにエマ監察官。メビウスの方はどうです?」

 

「ジル司令、一つ確認したいのですが。彼についてです。彼は本当にノーマなんですか?ノーマや人間とかの意味でなく」

 

「どうしたんですか一体?」

 

「はっきり言います。能力は化け物です。男という点を考慮しても総合的には不利なはずなんです。この結果はあまりにも異常です」

 

そう言うとエマ監察官は読み始めた。

 

「基礎体力は24時間水や食料なしでも元気に活動。

 

反射神経に関しては、とんできたナイフを全て手だけで受け止めました。

 

格闘対応能力に関しては自分の銃剣を使わず一対一で相手から銃剣を奪いそれで勝利する始末。

 

野外戦に関しては拳銃一丁でアサルトライフル装備の第一第二第三中隊総出で傷一つ付けられることなく訓練中に落とし穴などの罠を作りそれらを使って全中隊を迎撃、これを壊滅させました。

 

戦術論の理解度に関してはその三手先まで読んでいるとしか思えません」

 

「パラメイルの操縦適正に関しては最高値です。グレイブ一機で5分でグレイブとハウザー、それにアーキバスを撃墜させてます」

 

「・・・すまんエマ監察官。格闘対応能力あたりからもう一度言ってくれ」

 

「・・・資料を置いておきますので目を通してください」

 

そう言うとエマ監察官は資料を置き、席をたった。

 

「なぁゾーラ、どう思う?メビウスの奴を」

 

隣にいたゾーラ隊長に話をふる。

 

「まずあいつは天才です。それは断言できます。おそらく産まれてすぐに色々と戦いを見てきて、それを叩き込まれて、修羅場を潜り抜けてきたんでしょう。それで体が半ば自然に反応してるんでしょう。じゃなきゃあそこまでならないと思います」

 

「もしあいつと敵対するとして、勝てる見込みはあるか?」

 

「難しいですね。

まず例のパラメイルに乗せたらアウトです。下手に銃とか持って姿晒したらその銃口を隣にいる兵やその銃の所持者に向けられますね。あいつの前に姿晒したら、間違いなく殺られますね。多分狙撃に関しても狙撃する際の音を聞いただけで体が勝手に動くと思いますよ。そこまであいつはやばいやつですよですけど」

 

「多分そのような事にはなりませんよ。あの性格故か、第一中隊だけじゃなくて、他とも結構うまくやっていけてますよ」

 

ゾーラ隊長は笑いながらそう答えた。

 

「因みにアンジュはどうしてる」

 

「メビウスとは対極ですね。まだ頑なに否定してますね。自分はノーマではないって」

 

「そう・・・か」

 

そう言うとジル司令はタバコを吸い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「訓練お疲れさまです。これ飲み物です」「よかったらどうぞ」

 

そう言うとメビウスは飲み物を第一中隊のメンバーに渡した。ナオミもそれを手伝う。

 

「おうっ、ありがとうよ」「ありがとうね。メビウスくん、ナオミちゃん」

 

このように実力があるからといって威張ったりせず、むしろ周りと可能な限り協調しようとする姿勢に、周りは結構好印象を持っていた。

 

「ほれ、アンジュ、お前も喉乾いたろ。飲んどけ」

 

そう言うとメビウスはアンジュにボトルを渡す。

 

「私は・・・アンジュリーゼ、貴方達とは違います」

 

(また始まったよ)

 

第一中隊がみんな内心呆れていた。こう言ってアンジュは周りとの接触を拒んでいる。

 

メビウス、そして彼女らは知らないが昨日などアンジュのいたミスルギ皇国を魔法の国と捉えて憧れているココがあげたプリンをゴミ箱に捨てるという暴挙をしている。

 

しかしメビウス、エルシャ、ヴィヴィアン、ナオミ、ココ、ミランダ。この6名は彼女に歩み寄ろうとしていた。

 

「ここに置いとくから、飲みたい時に飲めばいいぜ」

 

そう言って彼は、アンジュの隣にボトルを置いた。

 

するとアンジュはボトルの中身を飲んだ。

 

「いい飲みっぷりだな」

 

そう言うメビウスをアンジュは睨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

その夜のことだった。

ゾーラ隊長はヒルダとのレズプレイを楽しんでいた。

 

「あっ・・・ああっあ〜っ!」

 

「どうした?もう終わりか?」

 

「お願い、少し休ませて」

 

ここまでストレートに表現するともはやR-15でも抑えられるかどうか微妙である。

 

「ふん、だらしねぇなぁ。少し休んでな」

 

ゾーラは服を羽織ると部屋の扉へと向かう。

 

「どこへ行くの・・・?」

 

「食い足りん」

 

水筒に入れた酒を一口飲むと、ゾーラ隊長はそう答えた。

 

そうして部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだこれは?」

 

ジル司令はアンジュに渡された資料の意味が理解できなかった。

 

「嘆願書です。私の皇室特権の適用と即時解放を求めた内容です。これを各国元首に届けてください」

 

「あなたまだわかってないの?」

 

エマ監察官が呆れ返っている。

 

「なぁアンジュよ、そろそろ諦めようぜ。見てて滑稽すぎる」

 

「お前は後3分間黙ってろ」

 

ジル司令にそう言われメビウスは口を閉じた。

 

俺は今、正座をさせられていた。

なぜ正座させられていたかと言うと、今日の訓練後、いつものように独立した調査権を使って探索に出た。そして帰る時間が遅れてしまった。最も、特に何か新たにわかったことはないのだが。

 

その説教と反省を兼ねて、こうして正座させられていた。

 

「・・・」

 

ジル司令は暫く黙っていた。

 

「いやはや困りましたよそいつの頭の硬さには」

 

ゾーラ隊長が入ってきた。

 

「教育がなってないぞ、ゾーラ」

 

「はっ申し訳ありません!」

 

ゾーラ隊長は暫くアンジュを眺めていた。

 

「・・・お前でいいや。部屋、お借りします」

 

「許可する」

 

「いい機会だ、お前も来い、滅多に見られないもん見せてやる」

 

そう言うと膝に置いておいた手を掴み、引っ張っていった。

 

「はっ・・・離して下さい!」

 

アンジュの言葉をゾーラ隊長は無視した。

 

「・・・・・・」

 

3人が部屋を出て行った後、エマ監察官は何か気まずそうに黙っていた。隣ではジル司令がタバコを吸っていた。

 

しかし次の瞬間、それは鳴った。

 

「ジリリリリリリリ」

 

「!!」

 

二人とも(きたのか!)そのような表情を浮かべた。

 

エマ監察官が電話を取る。

 

「はい!アルゼナル司令部!」

 

 

 

電話が鳴る少し前。

 

取り調べ室にメビウスとアンジュは入れられた。

 

メビウスは部屋に入ると解放されたが、アンジュは机の上に押し倒された。

 

「状況認識が甘いと戦場では生き残れんぞ」

 

「わっ私は皇国に帰るのです!」

 

「言ってわからないなら躰に教え込むしかないねェ・・・」

 

次の瞬間、アンジュとゾーラ隊長がキスした。しかも長い間そのままの状態だった。

 

「ん〜!」

 

(うわぁ、あんな激しくキスするのか)

俺はその光景に目が離せなくなっていた。

 

「素直になればお前の知らない快楽を教えてやる」

 

あっあっ

 

ゾーラ隊長がアンジュの胸部を触った。

 

「!?」

 

「パチン!」乾いた音が響いた。

 

アンジュがゾーラ隊長をビンタした。

 

「いいね・・・いいねぇ。ノーマはそうでなくっちゃなぁ」

 

ゾーラの顔を見たアンジュは怯えた。

 

「私は・・・ノーマでは・・・」

 

何かが足元に転がってきた。そのままにしとくわけにもいかず拾い上げた。

 

それは義眼だった。

 

(うぉっ!)

 

メビウスは内心驚いた

 

「目玉吹っ飛とぼうが片腕吹っ飛ぼうが戦う本能に血がたぎる!それが私達ノーマだ!!」

 

そういうとゾーラ隊長はアンジュの両胸を揉みしだいた。

 

「昂ぶってんじゃねえか・・・わたしをぶっ飛ばして。思い出すねぇ・・・お前も不満だったんだろ。あの偽善まみれの薄っぺらい世界が」

 

ゾーラ隊長がアンジュの首筋を舐める。

 

「ちっ違っ」

 

何故だろう。下半身が熱くなってきた。

 

「なぁメビウス。アンタも参加しねぇか?本来私は女専門だけど、男も一度は試してみたいんだよなぁ」

 

まずい、これ以上はまずい

色々とまずい。本能的にそう察した。

 

その時警報が鳴った。

 

「!?」

 

3人とも驚く。

 

「あのっこれなんですか!?」

 

俺は疑問に思い、ゾーラ隊長に聞いてみた。

 

「きたらしいな。ちっ、これからだってのに」

 

そう言うとゾーラ隊長はメビウスから義眼を受け取り、水筒に入れてあった酒でそれを洗うと、右目に入れた。

 

「あんた達!ドラゴンが来たんだ!出撃するよ!」

 

「イッイエス・マム!」

 

そう言うと俺とゾーラ隊長は取り調べ室を後にした。

 

アンジュは唾を吐き捨てると、その後についていった。

 

 

 

 

 

 

「アーキバス!グレイブ!各機エンジン始動!ハウザーは弾薬装填を急げ!フェニックスはもう出せる以上カタパルトに乗せて!」

 

発着デッキではメイが中心となってそれぞれに指示を出していた。

 

あの後緊急と言うことで俺はロッカールームで第一中隊のメンバーと一緒にパイロットスーツへと着替えた。

 

カタパルトデッキで待機していると、次々と機体が集まってきた。

 

ゾーラ隊長が激励の言葉を始めた。

 

「生娘ども初陣だ!お前達は最後列から援護!隊列を乱さず落ち着いて状況に対処しろ!!訓練どうりにやれば死ぬことはない!メビウス!おまえは状況に応じて臨機応変に対応しろ!その機体は総合火力が私らの機体とは桁違いで連携が取りにくい!!間違っても味方に誤射はするなよ!!」

 

「イエス・マム!」

 

そう返事をした。

 

「これってあの時の?」

 

アンジュはシュミレーターを思い出した。

 

「ゾーラ隊!出るぞ!」

 

次の瞬間、それぞれの機体が一斉に空めがけて飛びたった。

基本速度が違う以上。隊列を乱さないように、速度には最新の注意を払う。

 

「シンギュラーまでの距離!一万!」

 

「よぉし野郎ども!腹は括ったか!」

 

ドラゴン。俺は先日の戦いを思い出す。

 

あの時はファングシステムとアイ・フィールドがあったから乗り越えられた。しかし今ファングシステムは使えない。

 

「・・・考えても仕方ない。今は戦う。生き残るために」

 

そう思い、無意識のうちに操縦桿を握る手が強まった。

 

その時だった。突然アンジュが隊列から外れた!

 

「おいアンジュ!隊列から外れてるぞ!」

 

「わたしはミスルギ皇国に帰ります!」

 

「なに言ってるの!?隊列に戻りなさい!」

 

サリアが連れ戻そうと隊列を外れた。

 

「アンジュリーゼ様ァ!私も連れて行ってください。魔法の国へ!」

 

そう言って今度はココが隊列から外れた。

 

「ココ!あなたもなの!?隊列に戻りなさい!」

 

サリアがココも連れ戻そうとする。

 

「だめだよココ!戻って!」

 

今度はミランダがココを連れ戻そうと隊列を外れる。

 

(ああもう!滅茶苦茶だな!)

俺は内心そう思った。

 

 

 

 

 

その時モニターから通信が入った。

 

「ドラゴン!来ます!」

 

次の瞬間目の前にそれは現れた。

 

ドラゴン達だ。スクーナードラゴン達がわんさかと現れた。ドラゴン達はこちらに気付くとまずアンジュとココとミランダに襲いかかった。

 

「キャァァァ!」「こっこのっ!」 「来ないで!」

 

3人が悲鳴をあげる。

 

ココとミランダの二人の機体はスクーナー級ドラゴンに組みつかれた。

 

強い力で握られているのか機体がメキメキと音をたてた。

 

(まずい!あのままじゃ機体がもたないぞ!)

 

「ちぃ!ゾーラ隊長!早速臨機応変に対応させてもらいます!」

 

メビウスはそう言うと隊列を外れ、3人の救援に向かった。

 

 

「ココ!ミランダ!動かないで!狙いがつけにくい!アンジュ!あなたも戦いなさい!」

 

こちらではサリアがドラゴンと戦いながら、2人を助けようとしていた。

 

しかし組みつかれた以上、下手に狙えばそれこそ取り返しのつかないことになる。しかし時間は限られている。

 

サリアは焦った。

 

アンジュはただただその場で怯えていた。

 

「はぁぁ!」

 

その時、機体を変形させさメビウスがやってきた。

手にはサーベルを握っていた。

次の瞬間にはドラゴン達の首が胴体からはずれ海に向かって落ちていった。

 

「ココ!ミランダ!無事か!?」

 

「なっなんとか!」

 

(よかった、生きていた)

その言葉に安堵する。

 

 

 

「よし!各機散開!ドラゴンどもを殲滅するぞ!」

 

「イエス・マム!」

 

ゾーラ隊長の掛け声のもと、皆アサルトモードへと機体を変形させた。

 

「アンジュ!お前も今は生き残るために戦え!」

 

そう言ってメビウスはドラゴンの密集地帯へと飛んで行った。

 

 

 

 

「ショルダーミサイルポッド!ファイアー!」

 

右肩からミサイルが放たれた。それらが直撃したドラゴン達はバタバタと海に落ちていった。

 

戦いは第一中隊有利に進んでいった。

 

メビウスの機体が歩く弾薬庫に近い状態なので、一機でドラゴンの群と張り合えたからだ。

 

(これがバーグラーセット。火力は申し分ないな!)

 

メビウスは自分の買ったバーグラーセットに満足していた。

 

その後ドラゴンの残り数は0となった。

 

終わったのだ。今回の戦いは。

 

その時だった。目の前に突然穴が開いた。

 

「ドラゴンの増援か!」

 

しかしそこから現れたものに、第一中隊の皆が言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

穴が開く前、司令室では混乱が起きていた。

 

「どういうことだ!?」

 

ジル司令がオペレーターに問いただす。

 

「わかりません!この反応は今まで見たことがありません!」

 

「敵の数はわからないのか!」

 

「ドラゴンはいません!反応からしてそれしか言えません!」

 

(一体、なにが来ると言うんだ!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや。まさかあのようなものが現れるとは。多少シナリオと違うが、これはまた面白い展開になりそうだな」

 

なぞのばしょで、謎の男は目の前の光景になにか楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の穴からそいつらは出てきた。

 

数は2機。

 

「ウッホー!なんじゃあれぇ!?」

 

「あれ・・・ドラゴンなの?」

 

「でもドラゴンとは何か違うわね」

 

「データにないドラゴン・・・初物か!!」

 

彼女らは困惑とも興奮とも取れるような会話をしていた。

しかしそんな彼女らを他所に、メビウスは通信を入れる。

 

「違う!あれはドラゴンなんかじゃない!!」

 

そいつを俺は知っていた。

 

俺が見た悪夢の一つ。最初に見た悪夢に現れた機械だった。あの時、こちらに銃口を向けていたやつだ!

 

その時頭痛がした。頭の中に文字が浮かぶ。

 

(・・・ブラック・・・ドグマ・・・)

 

頭の中の霧が晴れるかのように理解できたことがあった。

 

(俺はあれを知っている!俺はあれと戦っていた!)

 

 

 






遂にオリジナルの敵を出すことができました。
そのせいで多少ドラゴンとの戦闘が幼稚なものに・・・反省しよう。

次回はオリジナルの敵との戦いです!

そして謎の男は何やらあの何かを知っているようですが一体なんなのでしょうか。
それらは今後明らかになるでしょう!



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第13話 残る命・散る命



今回遂に第一中隊VS謎の敵戦闘が開始されます!

なお、謎の期待についてはまだ謎なので機体という名称に固定しています。

タイトルからすでに不穏な空気が流れていますが
KI☆NI☆SU☆RU☆NA☆!!

それでは本編の始まりです!



 

「ドラゴンじゃないって、お前、あれを知ってるのか!?」

 

ヒルダが尋ねてきた。

 

「知っている!俺はあれと戦っていた!」

 

メビウスはそう断言する。自分の中にある蘇った記憶の中にあの機体との戦闘がはっきりと思い出せていた。

 

「そんなものはどうでもいい!このやろう!落ちやがれ!」

 

そんなメビウスを他所に、そう言うとロザリーはライフルを撃った。

 

しかしその攻撃は表面に現れたシールドのようなものに防がれた。

 

「なっ!あいつ!あんなもの持っているのか!」

 

次の瞬間、そいつはこちらに銃口をむけた。そしてそこからビーム砲が飛んできた。

 

「全機回避!」

 

ゾーラ隊長の号令で全機が散会する。

 

間一髪のところでビームを避けた。

 

しかし謎の機体は間髪入れずにビーム砲を撃ってきた。

 

それもなんとか回避する。

 

「くそ!どうすりゃいいんだよ!」

 

「このまま背中を向ければやられる!各機!死ぬ気で攻撃しろ!」

 

「イエス・マム!」

 

ゾーラ隊長の号令のもと、各機が散開した。

 

しかしドラゴン用のアサルトライフルではシールド突破は不可能であった。

 

クリスとエルシャはハウザーに装備されたリボルバー式の砲台をロングライフルと共に撃つ。ロザリーはグレイブに追加で装備させた2連装砲を使うがシールドは壊れる様子がない。そしてすぐにビーム砲の反撃が来た。

 

こうなると彼女達にとって有効な残りの武器はヒルダのグレイブに装備された可変斬突槍「パトロクロス」か凍結バレットぐらいだ。

 

だが接近しようにもあのビーム砲を掻い潜るのは困難を極めた。

 

(このままじゃジリ貧だ!なら!)

 

「アイ・フィールド!展開!」

 

モニターにふれ、メビウスはアイ・フィールドを展開させた。敵のビーム砲がこちらに向かってきたが、それはフェニックスに届くことなく横へとそれた。

 

(アイ・フィールドなら防げる!なら!)

 

そうしてアイ・フィールドを展開させながら一気に距離を詰めた。

シュミレーターで訓練したコンバットパターンを決め込もうとしていた。

 

まずはガトリングガンとヘヴィマシンガンを撃ち込んだ。それらはシールドで防御された。

 

次にショルダーミサイルポッドとSMM2連装ミサイルを放った。これも防がれた。

 

しかし防がれながらも彼は自分の訓練通りの動きをしていた。ウイングモードへと変更した。

 

180mmキャノン砲を撃った。するとシールドが消えた。

しかし砕けたというよりは消滅したと言った方があっている。

だが、シールドを突破したことに周りは驚く。

 

そして再び変形すると高粒子サーベルへと手をかけた。それを顔の部分に突き刺す。すると動きが明らかに遅くなった。

 

そしてトドメに高粒子バスターをサーベルで空いた穴に突っ込んだ。そして引き金を引く。そして機体から離れる。

 

多少の間があったが、次の瞬間、機体は爆散した。

 

「あいつやりやがったぞ!」「やっぱりすごいわね!あんなテクニックどこで覚えたのかしら!」

 

「よし!それじゃあもう一機の方もやるぞ!」

 

「ねぇねぇ!みんな!クイズ!」

 

「場をわきまえろヴィヴィアン!そんなことしてる場合か!早くもう一機も落とすぞ!」

 

ゾーラ隊長がヴィヴィアンを注意する。

 

「そのことだよ!もう一機はどこにいったでしょうか!?」

 

その言葉に場が凍りつく。

一機相手に苦戦していただけに残りの一機には目もくれてなかった。

 

しかもこの反応、どうやら誰も知らない様だ。

 

それだけではない。アンジュとサリア、ココとミランダの姿がどこにも見えなかった。

 

嫌な予感がした。

 

(まさか!ココやミランダ達のところなんじゃ!)

 

そう思うとナオミはレーダーを見た。するとそこにはここから離れたところに4機のパラメイルがいると反応していた。

 

するとナオミはそこへと向かって飛んで行った。

 

「ナオミ!?どこに行くんだ!?」

 

「4人が無事が確認してきます!」

 

ナオミはそう返事をすると機体をポイントへ向けて飛ばして行った。

 

「ちぃ!全機私についてこい!メビウス!ナオミの後をおえ!例の機体がいる可能性が高い!悔しいがあいつと張り合えるのは今のところお前だけだ!」

 

「イエス!マム!」

 

ゾーラ隊長の命令に従い、メビウスはフェニックスを飛ばして行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

例の機体との戦闘中の少し前になる。

 

アンジュは皆が動きを止めていた中で再び逃げ出した。その後ろにココがいる。

 

そして二人を止めるためにサリアとミランダがいた。

 

「やめなさいアンジュ!その機体には燃料は1回分しか搭載されてないのよ!」

 

パラメイルはメイルライダーの脱走を防ぐために燃料は一回分の戦闘に使うとされている分しか入れられていない。アンジュのような新兵では10分も飛べば補給が必要になるだろう。

 

このままいけば途中で海へと墜落するのが目に見えていた。

 

「構いません!あのような場所に戻らなくていいなら!後は自力でなんとかします!」

 

「アンジュ!止まりなさい!これ以上行くなら貴方を撃ち落とすわ!」

 

戦闘中に脱走を企てた場合、まず説得する。それでダメなら味方が撃ち落とすことになっている。

 

サリアはアンジュの機体に銃を向けた。

 

その時だった。例の機体がアンジュ達へと迫って来た。

 

「くっ!こいつ!」

 

サリアはアサルトライフルを撃つがシールドで防御され意味がなかった。その機体はビーム砲をサリアに向けて撃ってきた

 

サリアは避ける。すると今度はその機体はココとミランダの方へとビーム砲を向けた!

 

二人はアンジュの後ろに付いて行ってたので気づいていない。

 

「ココ!ミランダ!避けて!」

ナオミがこの場に現れそう叫ぶ。しかし二人は気づかない。

 

「間に合ぇぇぇぇぇ」

 

メビウスはギアを全開にして、その攻撃の間に割って入ろうとする。

 

ビーム砲が発射された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、メビウスの目の前で、ココとミランダの機体にビームが直撃した。

 

二人の機体は爆発するでもなく、ただただ無抵抗に海へと落下していった。

 

「ココ!ミランダ!」

 

「おい!返事しろ!ココ!ミランダ!」

 

しかし先程とは違い返事は帰ってこない。

 

最悪の結果。それが一瞬頭をよぎった。

 

すると例の機体は今度はこちらを標的としてきた。

 

「ナオミ!避けるぞ!」

 

その時だった。

 

「キャァァァァァ!!!」

 

叫び声と共に、不意に後ろから何かが機体に抱きついてきた。それは恐慌状態に陥ったアンジュの操縦するグレイブだった。アンジュはナオミ機にも組みついていた。

 

「アンジュ!離れて散開しろ!じゃないとビーム砲の的になる!」

 

「たっ助けて下さい!助けて下さい!!」

 

しかしパニックに陥ったアンジュにそんな言葉は届かなかった。

 

メビウスはナオミとアンジュを庇うように機体をずらした。アイ・フィールドにビーム砲が当たる。ビームは機体に触れることなく逸れていった。

 

(こうなったら他のメンバーが来るまでこうしてじっとしていて、ゾーラ隊長達に後ろから攻撃させるしかない!!)

 

その時だった。

 

「ビビーー!!」

 

エラー音が鳴った。メビウスは反射的にモニターを見る。

そこにはこの状況で一番まずいことが映し出されていた。

 

 

「I・FIELD使用時間限界、これより冷却作業を始める」

 

 

(!?アイ・フィールドには使用限界があるのか!?)

 

突然のことに混乱した。

 

「メビウス!ナオミ!無事か!?」

 

ゾーラ隊長の声がした。どうやらゾーラ隊長が来たようだ。

 

しかしその次の瞬間ビーム砲がメビウスとナオミの機体を撃ち抜いた。

 

メビウスとナオミは、ココとミランダ達と同じようにただただ海へと落ちていった。

 

アンジュは二人の陰に隠れていたせいか、直撃は避けれたらしい。

 

「キャァァァァァ!!!」

 

アンジュは今度はゾーラ隊長に組みついた

 

「なにをするアンジュ!離さないか!」

 

しかし今度はさっきよりも恐慌状態へと堕ちたのか、もはや言葉にならない悲鳴をあげていた。

しかし敵は待ってはくれない。

 

次の瞬間にはゾーラ隊長とアンジュにビーム砲を向けた。

 

「ゾーラ隊長!避けてください!」

 

その言葉より先に、ビーム砲はゾーラ隊長の機体に直撃した。

 

アンジュの機体にもビーム砲は命中していた。

 

しかしその時彼女達は見た。アンジュがゾーラ隊長を盾にするのを。

 

「あいつ!隊長を盾にしやがった!」

 

ヒルダがキレるがそんな暇はなかった。

 

敵の機体は既にこちらにビーム砲を向けていた。

 

その時だった。

 

下から何かがやってきた。

 

それはミサイルなどを放っていた。

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 

ウイングモードに変形したフェニックスが昇ってきた。最大加速で機体に突っ込みながら、ガトリングガンやヘヴィマシンガンなどを乱射する。

 

機体はシールドを展開した。それによって攻撃は防がれた。

 

しかしそれでもメビウスはフェニックスを加速させて行く。

 

「くたばれぇぇぇぇ!!!」

 

次の瞬間、180mmキャノン砲を機体頭部めがけて発射した。

 

ほぼ零距離射撃であった。両方の機体が爆風に飲み込まれる。

 

爆風が引くと、そこには頭部を完全に破壊された機体と、フェニックスがいた。

 

すると突然穴が開いた。そしてその機体はその穴へと戻っていった。そして穴は再び閉じられた。

 

「なんとか・・・なったな・・・」

その言葉を最後に、俺は意識を失った。

操縦桿から手が離れたため、フェニックスは再び落下していった。

 

「メビウス!?おい!返事しやがれ!」

 

「とにかく!ゾーラ隊長達を回収後全機帰還するわよ!

 

「イエス!マム!」

 

サリアがそう言うと、まわりも返事をし落ちていった機体の回収にかかった。

 

 





今回6名が撃墜されました。果たしてタイトル通り一体何名の命が散ってしまうのでしょうか

(まぁ原作知ってる人なら多少は予想つくでしょう)

「6はない、タグがあれだから」主人公死んだら話おわりやん」
とかで考えるのはやめましょうね。


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第14話 雨に濡れた涙



今回の話は前回の戦闘から一日が経過しています。

今回はアニメでも漫画でもかなり考えさせられたシーンです。

今回は結構真面目なシーンなのでネタとかそう言う要素はありません。

そのため早く見て欲しいので、前置きはこの辺にしておきます。

それでは本編の始まりです!



 

「様・・・アンジュリーゼ様・・・アンジュリーゼ様!!」

 

アンジュは目を覚ます。そこは自分の皇室ベットであった

 

側には彼女の筆頭侍女であるモモカがいた。

 

「モモ・・・カ?」

 

「どうされましたか?酷くうなされて・・・」

 

(夢・・・だったの。そう、夢を見ていたの・・・酷い夢・・・)

 

「酷い夢を見たわ。私がノーマだったという夢」

 

「まぁ!何をを仰るのですか!」

 

「アンジュリーゼ様は私たちと同じノーマじゃないですか」

 

その瞬間、モモカの顔がココに変わった。しかも全身血塗れだった。

 

「!?モモ・・・カ?」

 

「私も連れて行って下さい・・・魔法の国に・・・」

 

するとアンジュのベットの上に義眼が落ちてきた。

 

「目玉が吹っ飛ぼうが片腕吹っ飛ぼうが、戦う本能に血が滾る・ ・・それが私たちノーマだ」

 

上を向くと、そこには血塗れのゾーラ隊長がいた。

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

次の瞬間、アンジュの意識は覚醒した。

 

目の前の光景は天井が映されていた。

 

身体は拘束されていた。どうやら医務室にいるらしい。

 

そこにはサリア達もいた。

 

左隣を見るとナオミが黙って俯いていた。右腕には包帯が巻かれていた。

 

右隣ではメビウスが黙ってその隣を見つめていた。

頭に包帯が巻かれ、さらに体のあちこちにも包帯が巻かれていた。

 

その隣にはゾーラ隊長がいた。全身に包帯が巻かれ、酸素マスクを口に当てられていた。

 

メビウスはアンジュに気づくと、「目が覚めたか」と一言言った。

そう言うと再びゾーラ隊長の方を向いた。

 

「お目覚めか、皇女殿下」

 

ジル司令が話を切り出す。

 

「パラメイル5機大破、メイルライダー4名が重症(アンジュも含む)、2名死亡。両者共に遺体すら残っていない。

その上謎の敵は今回は帰ったから良かったものの結果的に危険は去っていない。

全てお前の敵前逃亡がもたらした戦果だ。どんな気分だ?皇女殿下?」

 

アンジュは黙り込んだ。

 

「人殺し・・・人殺し!」

 

「お前さえいなければお姉様がこんな風になることはなかったんだ!」

 

クリスとロザリーが興奮気味に近づいてくる。

 

「手は出すんじゃないよ。それでも負傷者なんだから」

 

マギーが状況を判断してか、そう伝えた。

 

「ココ・・・ミランダ・・・」

 

ナオミは決してアンジュを責めはせず、ただ死んでいった二人の名前を呟いた。

 

同期が死んだのだ。ショックを感じるなというほうが無理な話である。

 

「なんとか言えよ!人殺し!」

 

「人・・・殺し・・・?」

 

ロザリーの言葉にアンジュが首を傾げる。

 

「ノーマは・・・人間などではありません」

 

その言葉に全員が凍りつく。

 

次の瞬間、ヒルダはアンジュに掴みかかろうとした。

 

しかしその前にアンジュの顔にパンチが飛んだ。

 

殴ったのはメビウスだった。

あまりにも意外な出来事に全員が動揺した。

 

「撤回しろ」メビウスはそう一言呟いた。

 

 

「私は・・・ミスルギ皇国に帰ろうとしただけです。なにも・・・悪いことなどしていません」

 

次の瞬間、再びアンジュの顔にパンチが入った。

 

「本気で言っているのか?」メビウスが先程と同じ口調で問いかける。

 

「人間でないノーマがどうなろうと・・・私には関係ありません」

 

次の瞬間、アンジュを拘束していたベルトが外された。

 

そしてメビウスはアンジュの胸ぐらをつかんだ。

 

「じゃあお前は!ココやミランダが死んだことも!ゾーラ隊長がこうなったことも!俺たちがどうなろうと!全部自分には関係ない!どうなろうと知ったことじゃないって言うのかよ!ふざけんなよ!!」

 

「そこまでだ。それ以上は医者として認めるわけにはいかない」

 

マギーが制するかのようにそう言った。

そう言われてメビウスはアンジュをベットに叩きつけた。

 

「・・・居心地が悪い。失礼する」

 

そう言ってメビウスは部屋の出口へと向かった。

 

「待て。お前は話さなければならない。あの機体について。

お前は思い出したはずだ。あの穴から出てきた機体がなんなのかを。それを話す義務がお前にはあるはずだ」

 

ジル司令がそう言う。皆の視線がこちらに集まる。

 

「・・・ブラック・ドグマ。記憶を失う前に俺が戦っていた奴らだ。なぜ戦っていたのか、理由は思い出せないがな」

 

そう言ってメビウスは部屋を後にした。

 

「サリア、お前を第一中隊の隊長に任命する。働きに期待しているぞ。副長はヒルダとする。それでは解散とする」

 

「イエス・マム」

そう言うと皆が部屋を後にした。

 

「・・・イタ過ぎだよ・・・あんた」

 

ヒルダはアンジュにそう言うと部屋を後にした。

 

部屋にはアンジュとナオミと意識が戻ってないゾーラが残された。

 

 

 

「ねぇねぇサリア。最後まで生き残ったのはアンジュとメビウスとナオミだったね」

 

「・・・少し黙ってくれる?」

 

ヴィヴィアンの無邪気さも今のサリアにとっては不快以外の何者でもなかった。

 

 

 

 

 

メビウスは発着デッキへと向かっていった。

 

フェニックスを見た。そこには戦闘でついたであろう傷跡が多くついていた。

 

フェニックスに乗り込み、モニターを確認する。

アイ・フィールドのモニターを出す。

それをいじる。するとアイ・フィールドの持続時間が表示された。

 

両腕合わせて5分程度使えるようだ。使った後は使った時間だけ冷却する必要があるらしい。

 

(・・・俺はお前の事、なにも知らないな。ファングシステムが使えなくなった理由もわからない。お前も俺の事を知らないのか?)

 

そう思案に耽ていた。

 

するとジャスミンが何処かへ何かを運んでいるのが見えた。何故かそれが気になって後をついていった。

 

 

 

 

 

 

「起きろアンジュ」

 

ジル司令のその言葉にアンジュは目を覚ます。

 

「石の用意ができたらしい。起きろ、行くぞ」

 

「石?なんのことです?」

 

「来ればわかる。ナオミ、確かお前は同期だったな。一緒にこい」

 

そう言ってアンジュの手をとると、ジル司令は歩き始めた。

ナオミもその後ろを歩き始める。

 

 

 

 

 

 

外は雨が降っていた。

 

「まさか1日に2つもご入用になるとはね」

 

「せかして悪かったね、ジャスミン」

 

「いいって、私も早く弔ってやりたいし」

 

「お前が運ぶんだ、アンジュ」

 

そう言ってアンジュに石が二つ置かれた台車を手渡した。

 

「俺も手伝わせてもらう」

 

皆が振り返るとそこにはメビウスがいた。

 

「2人が死んだのには俺にも責任の一端がある」

 

そう言うと台車を後ろから押した。

 

「一体どういうつもりだい?」

 

ジャスミンは真面目な口調で問いかける。

 

「・・・どうしても考えてしまうんです。

もしもあの時俺が後少し早くあの攻撃に割って入っていたら。

 

俺はあの攻撃を防ぐ方法があった。

 

少なくてもアイ・フィールドはあの時点ではまだ起動していた。2人を助けることができたはずだった。

 

・・・でも実際は2人が目の前で殺されたのを見てるしかできなかった。助けてやれなかった。現実でも、夢でも」

 

「夢でも?どういうこと?」

 

ナオミが問いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュが目覚める前の事だ。

 

 

(ここはどこだ?)

 

気がつくと俺はどこかわからないところにいた。

 

目の前にはココとミランダがいた。

 

「ココ、ミランダ。ここがどこだか知らないか?」

 

そう尋ねた次の瞬間、二人が突然崖へと落ちそうになった。

 

「おい!」

 

俺は二人に手を伸ばした。

 

「ねぇメビウス、ナオミにごめんねって伝えて?」

 

「なに言ってるんだよ!そんなもん自分で伝えろ!」

 

「ごめんね。メビウス」

 

2人はそう言うと手から抜け落ち、崖の下へと消えていった。

 

その直後俺は目が覚めた。

 

 

 

 

「そう・・・ココとミランダが」

 

ナオミは黙ってその話を聞いていて、そして何か納得したように頷いた。

 

「生き残った人間は死んだ仲間の墓を建ててやるんだよ。自分の金で。その子の人生を忘れないためにね。」

 

「安心しな、あんたの足りない分はツケにしといてやるよ」

 

ジャスミンがアンジュを見ながらそう答えた。

 

「ココ・リーブ 」「ミランダ・キャンベル。みんないい名前だね・・・。アルゼナルの子たちはね。死んだ時に初めて名前が戻るのさ。親がくれた本当の名前に」

 

ジャスミンがどこか懐かしそうに本当の名前を呟いた。

 

「そういえば。嘆願書はどうなりました?」

 

運んでいる最中にアンジュがジル司令に尋ねる。

 

「全て受け取りを拒否されたらしい。皇女アンジュリーゼもミスルギ皇国も知らんとな」

 

「どういうことです?」

 

「エマ・ブロンソン監察官曰く、もう無いそうだ。ミスルギ皇国という国は」

 

「え・・・っ!?」

 

アンジュが驚いて立ち止まる。

 

「皇女がノーマだということを隠してたんだ。大方ブチ切れだ国民かま革命でも起こしたんだろう」

 

「そんな・・・それじゃあお母さまは?お父さまは?お兄さまは?シルヴィアは?」

 

「知らん、早く行くぞ」

 

「・・・」

 

アンジュは無言になり再び台車を再び押した。

 

その台車を後ろからメビウスが、そしてその隣にナオミが歩いていた。

 

そして3人は手伝って墓石を設置した。

 

「ミランダ。よくココの面倒を見てあげてたね。ココも友達の少なかった私とも仲良くしてくれてたし・・・私によく・・・プリン分けてくれて・・・幼年部で・・・3人で・・・メイルライダーになるって・・・夢を話し合って・・・うっ・・・うっ・・・うわぁぁぁぁん!!」

 

ナオミは目の前に建てられた二人の墓で昔の思い出を話していたが、やがて堪えきれなくなったのかその場に泣き崩れた。

 

メビウスも手を合わせながら、涙を流していた。

 

「これから・・・これから私はどうなるのですか・・・どうすれば・・・」

 

「戦ってドラゴン達を斃す。以上だ」

 

ジル司令がそう答える。

 

「何なのですか・・・ドラゴンって、どうして私があんなのと・・・」

 

「授業を聞いてなかったのか?【ドラゴンを殺す兵器】それが私たちノーマの唯一の存在理由だ」

 

「ちっ」

 

メビウスは舌打ちをした。

 

(授業で聞いた。・・・人間の出来損ない・・・か)

 

思い出した言葉にとても不快な何かが込み上がるのをメビウスは感じた。

 

「皇女様としては本望だろ?世界を護るために戦えるんだからねぇ」

 

「世界を?」

 

ジャスミンの言葉がアンジュには理解できないでいた。

 

「ここでノーマの娘たちがドラゴンと戦っているからマナの世界は平和を謳歌できる。平和ボケしたマナの世界は誰にも知られず死んでいったノーマ達が護ってたんだよ。そして今度はお前の番だ」

 

「しっ・・・知りません!!だって私は・・・ノーマではないのだから・・・」

 

ジル司令はなにかを取り出した。

 

「監察官のペンだ。使ってみせろ」

 

「マナの光よ」

 

しかしなにも起こらない。

 

「マナの光よ」

 

しかしなにも起こらない。

 

「マナの光よ!」

 

・・・しかしなにも起こらない。

 

アンジュは地面に座り込む。

 

「どうして?今だけは・・・ほんの少しマナが使えないだけで、それだけで・・・」

 

「それを決めたのは人間だったお前達だろう?」

 

「マナがほんの少し使えない。そいつがどうなるか決めたのはお前達だろ?そしてそれに従ってお前はここに送られてきたんだ」

 

その言葉にアンジュはあの日の出来事を思い出す。洗礼の儀の前日。エアリアの選手権の帰りの出来事を。

 

帰り道、ノーマの赤ん坊が発見された。母親は我が子を必至に守っていた。

 

「この娘はほんの少しマナが使うのが下手なだけなんです!」

 

そう言って我が子を守ろうとしていた。

 

その親子に対して私はなんと言っただろうか?

 

マナの光を否定する存在。本能のままに生きる暴力的な突然変異。今すぐにこの世界から隔離しなければならないと。

 

その母親はこうも言っていた。

 

「私がきちんと育てると」

 

それに私は一体なんと言っただろうか?

 

ノーマは人間ではないのです。早く忘れなさい。そして次の子を産むのです。ノーマなどではない【正しい子供】を。

 

母親は我が子を守る最後の足掻きとして哺乳瓶を投げてきた。無論、そんなことをしてもその赤ん坊がノーマであることに変わりなどない。しかし母性故か、母親は最後まで我が子を守ろうとした。

 

連れ去られていく我が子をその母親は、ただただ泣きながら名前を呼び続けていた。

 

その夜のことだ。私は自分の母親になんと言っただろうか?

闇が残っていた。なぜ【あんなもの】がこの世にいるのか。

私はノーマの根絶された世界を目指すと言った。

それこそがマナの光で満たされた本当の美しい世界を望むと言った。

 

洗礼の儀のことを思いだす。

突然暁の御柱から警告音がなり響いた。

お兄様が私がノーマだと暴露した。

それの証拠と言わんばかりにマナの光の結界に触れた途端、その結界が破壊された。

 

周りの人達は私のことをバケモノだと蔑んだ。エアリア部の部員も。クラスメイトも、洗礼の儀を見にきていた一般人も。

 

連れ去られる直前、視界の片隅に、あの母親が見えた。まるで私のことを【正しくない子】でも見るかのような目をしていた。

 

 

 

 

 

「あぁ全く理不尽なもんだねぇ・・・ココなんてまだ12なのに」

 

ジャスミンが言った。

 

その言葉にアンジュは驚く。

 

「12。シルヴィアと、妹と同じ・・・」

 

「・・・違う・・・シルヴィアとは違います!だって!だって!」

 

涙声になりながらもアンジュは否定する。

 

「ノーマは人間ではない・・・か?」

 

次の瞬間、ジル司令はアンジュの襟を掴んだ。

 

「だったらお前は一体なんだ!?皇女でもなく!マナもなく!義務も果たさず敵前逃亡で仲間を殺し!仲間を傷つけたお前は一体なんなんだ!」

 

「ジル司令!」

 

後ろから声がした。振り返るとサリアがいた。

 

「ドラゴンが現れました」

 

「そうか。立てアンジュ、出撃だ。ナオミ、メビウスお前達もだ」

 

「イエス・マム」

 

メビウスはその言葉に力なく返事をする。

 

ナオミも立ち上がると涙声で返事をする。

 

しかしアンジュはその場に座り込んでいた。

 

ジル司令はアンジュの服を持ち、立たせた。

 

「この世界は不平等で理不尽だ!だから【殺す】か【死ぬ】かそれしかない!!死んだ仲間の分もドラゴンを殺せ!!それができないなら死ね!!」

 

「では・・・殺して下さい・・・こんなの、辛過ぎます」

 

「ダメだ」

 

アンジュの望みをジル司令は拒否する。

 

「この娘達と同じく戦って死ね。それがお前の義務だ」

 

「あのっパラメイルは後一機しかありません」

 

サリアがそう報告する。

 

「あるじゃないか、それとは別に、例の機体が」

 

その言葉にサリアは驚く。

 

「ナオミ、お前は新たなパラメイルを受け取れ。メビウス、お前の機体は既に弾薬の装填も終わっているはずだ。お前達二人は先に行け」

 

「イエス・マム」

 

そう言って2人は墓地を後にした。

 

「さてアンジュ、こっちだ」

 

そう言うとジル司令はアンジュを連れて行った。その後ろからサリアもついて行った。

 

 





次回!遂にみなさんお待ちかねのあの機体が目を覚まします!

それにしても第1話の赤ん坊のノーマは果たしてどうなったんでしょうかね?ちゃんとアルゼナルへと送られたのかな?

なお、本来の予定ではゾーラ隊長も死ぬ予定でした。しかしゾーラ隊長がいると色々とまたオリジナルな展開が開けると思い生存させました。
しかしサリアを隊長にさせるために意識不明という状態です。

果たしてゾーラ隊長はいつ目覚めるのか!


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第15話 ヴィルキス覚醒



今回は多少長めです。

お気に入りが20人を突破しました!

皆さま!誠にありがとうございます!

10人増える度にこのようにお礼の言葉をここで述べることにします。

果たしてこの作品が終わるまでにどれくらいのお気に入りと感想が来ているのでしょうか。

なお、基本感想には答える方針でいきます。
(感想募集中)


それでは本編の始まりです。




 

ジルに連れられて、アンジュは格納庫へと向かう。その後ろにはサリアが付いていく。

 

「本当に出すの?ジル」

 

格納庫前に待機していたメイが問いかける。

 

「そうだ。起動は出来るか?」

 

「もちろん!20分もあれば」

 

ジル司令の問いにメイが答える。

 

「こいつがお前の機体だ」

 

そう言ってジルは眼前にあった機体にかけられていたシートを剥がした。

 

「かなり古い機体でな。老朽化したエンジン。滅茶苦茶なエネルギー制御。いつ堕ちるか分からないポンコツだ。死にたいお前には打ってつけだろ?名前はヴィルキス」

 

ジル司令は目の前の機体の説明をする。

 

「死ねるのですね・・・これに乗れば・・・戻れるのですね・・・アンジュリーゼに・・・」

 

「・・・せめてもの情けだ。あの世にこれだけは持っていけ」

 

そう言うとジル司令はポケットから何かを取り出した。

 

それはアンジュから没収した指輪だった。

 

アンジュはそれを受けとると指にはめた。

 

(どうして?この機体は私が・・・)

 

サリアは何か思うところがあるらしい。

 

ジル司令はサリアの肩に手を乗せる。

 

「隊長としての初陣、期待しているぞ!」

 

「いっイエス・マム!」

 

そう言うとサリアとアンジュは格納庫を後にし、ロッカールームへと向かった。

 

サリアとアンジュがロッカールームに入ると丁度着替え終わったメビウスとナオミがいた。

 

「あなた達は先に発着デッキに向かって。直ぐに私たちも向かうから」

 

「イエス・マム」

 

ナオミがそう答える。

 

「アンジュ」

 

メビウスが呼ぶがアンジュは返事をしない。しかしメビウスは続ける。

 

「後悔する生き方だけはするな。俺の様な奴が。自分の事すらわからない人間もこうして生きる為に戦っている。その事を忘れるな」

 

その言葉にアンジュは何も返さない。

 

「それじゃあ先に行ってるね」

 

ナオミがそう言うと、二人はロッカールームを後にした。

 

 

 

「ねぇ?メビウスはなんで戦うの?やっぱり生きる為に?」

 

ナオミが歩きながら聞いてきた。

 

「それも半分当てはまる。だけどそうじゃない。

自分の事をを知るため。その為に戦っている。本当の自分を知る。それが今の俺の生きる意味だからな」

 

「メビウスは強いんだね」

 

ナオミは感心したように答えた。

 

 

 

発着デッキでナオミは新たな機体の説明を受けていた。

 

ナオミの新たな機体とは、なんとアーキバスだった。

 

話によると、ゾーラ隊長の機体が一番外装が使える状態だったらしい。そこに回収したココやミランダの内部のパーツを組み込んで、なんとか修復にこぎつけたらしい。

 

「ココとミランダがこの中にいるんだね。ゾーラ隊長も」

 

ナオミはそう呟きながら、アーキバスを見上げていた。

 

やがて意を決したかの様にメビウスの方を向いた。

 

「メビウス。私決めたよ。この機体で私は、仲間を守ってみせる。それが私の戦う。ううん、生きる理由だよ」

 

メビウスは多少驚きながら黙ってそれを聞いていた。やがて口を開いた。

 

「仲間を守る為に戦う。立派な理由じゃねぇか。

俺も手本にさせて貰うぜ」

 

そこにサリアとアンジュが来た。

 

皆がパラメイルに乗り込む。

 

「既にドラゴンはシンギュラーから出ているわ!各機は戦闘エリアに入ったら散開。各個撃破に持ち込む!」

 

「イエス!マム!」

 

「サリア隊、発信します!」

 

その掛け声とともに全機、戦いが待つ空へと舞った。

 

 

 

「なんであいつも来たんだよ!?お姉様をあんな風にした奴と出撃だなんて!」

 

「殺す・・・殺す・・・ぶち殺す」

 

ロザリーは愚痴を零す。クリスなど殺害予告宣言までしている始末である。

 

「死にに行くんだってよ、アイツ」

 

「へっ!?」

 

ヒルダのその言葉にロザリーとクリスは驚く。

 

「見せてもらおうじゃないか。イタ姫様の死にっぷりをさ!!」

 

ヒルダがほくそ笑む。

 

「わー!なんじゃあの機体!?ねぇねぇサリア〜!あのパラメイル見ててドキドキしない?」

 

ヴィヴィアンがアンジュのパラメイルを見て興奮する。

 

「作戦中よ!ヴィヴィアン!」

 

そんなヴィヴィアンをサリアは注意する。

 

すると前方にドラゴンの群れが現れた。

 

スクーナー級の中に、ブリック級が一体いた。

 

「全機駆逐形態!スクーナー級の殲滅後、凍結バレットを装填!ブリック級に対して一気に・・・」

 

サリアが作戦を各機に伝えようとしたその瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の空間に穴が空いた。

 

そしてそこからは例の機体が現れた。

 

「なっ!?あの機体!」

 

「たしかブラック・ドグマって名前だったわよね」

 

「あの機体!また来たのかよ!」

 

第一中隊に混乱が広がる。今最も出会いたくない敵と出会ってしまったのだ。

 

例の機体はドラゴンに気づいていないのか、それとも無視しているのか、こちらにビーム砲を向けてきた。

 

しかもそれだけではない。その機体は今度は五機もいたのだ。

 

「サリア!あの機体の相手は俺がする!その間にドラゴンを!」

 

そう言うとメビウスはフェニックスを目立つようにその場から離れさせた。

 

例の機体は五機全てがフェニックスを攻撃目標にした。

 

(ありがたい)

サリアは内心思った。

 

前回の戦いでは、あの機体二機と互角にやり合えたのはフェニックスだけだった。

ドラゴンもいる状況で五機とも乱戦状態になれば全滅の可能性が高いのだ。

 

「例の機体はメビウスに任せる!私達はドラゴンの殲滅後メビウスの後を追う!全機散開!」

 

「イエス!マム!」

 

そう言うと各機はドラゴンへと向かって進路を取った。

 

 

 

 

 

 

スクーナー級はあらかた片付け終わった。

 

「残りはブリック級!」

 

サリアが残されたブリック級に機体を向ける。

 

するとドラゴンの前面に魔法陣が出た。

 

次の瞬間、海面に同じ模様の魔法陣が現れ、そこから何かが飛んできた。それはウロコだった。

 

「ワナを仕掛けてたのか!?こしゃくなぁーっ!?」

 

ヴィヴィアンが驚く。しかしサリアの方はもっと驚いていた。

 

(海面からウロコ!?こんな攻撃は過去のデータにない!)

 

「くっ!?」

 

ウロコの攻撃は尚を続く。ロザリーとクリスが被弾した。

 

「ロザリー機!クリス機!被弾!」

 

オペレーターから通信が入る。

 

「2人とも下がれ!」

 

ヒルダはそう言うと二人のそばに駆け寄り、ウロコを撃ち落としていった。

 

(くっ動きが悪い!このままじゃみんなが!)

 

「ゾーラ隊長。私・・・どうすれば・・・」

 

「しっかりして!サリアちゃん!今の隊長はあなたよ!」

 

弱音を呟くサリアをエルシャが激励する。

 

「サリア!前!前!」

 

ヴィヴィアンに言われ前を見る。するとブリック級が迫ってきていた。

 

(やられる!)

 

サリアは本能で思った。

 

その時だった。急にガレオン級が振り返った。その先にはアンジュとヴィルキスがいた。

 

「アンジュ!?」

 

「もうすぐ、もうすぐよ・・・もうすぐサヨナラ出来る」

 

「アンジュ!避けなさい!」

 

サリアがそう言う。

 

ドラゴンの尻尾がヴィルキス目掛けて振り下ろされた。

 

「!」

 

次の瞬間、アンジュは機体を横にずらした。

 

尻尾は命中した。しかし直撃は避けれた。

 

「も・・・もう一度」

 

ドラゴンの周りに魔法陣が展開された。次の瞬間、魔法陣から火の玉がアンジュ目掛けて飛んできた。

 

「!きゃあ!!」

 

機体を動かす。今度は機体に当てることなく、全て避け切った。

 

「何してんだよアイツ・・・自分から突っ込んだりかわしたり・・・」

 

その行動はヒルダだけでなく全員が理解できないでいた。

アンジュも自分の行動が理解できていなかった。

 

「ダメじゃない・・・ちゃんと・・・ちゃんと死ななきゃ」

 

ドラゴンがヴィルキスに組みついてきた。

 

「ガン!」

 

組みつかれた衝撃で顔をモニターにぶつける。額からは血が流れる。

 

目の前にドラゴンの顔が映る。

 

「アンジュ!」

 

ナオミがドラゴンに向けてライフルを撃つ。しかし魔法陣で塞がれてしまう。

 

ドラゴンの顔が目前に迫る。

 

「ひっ!」

 

アンジュは反射的に目を瞑る。

 

 

その刹那、アンジュの脳裏に様々なものが浮かぶ。

 

夢で見た血塗れのゾーラ隊長。

 

自分のことをノーマだと罵る学友。

 

戦って死ねと言ったジル司令。

 

自分が逃亡しようとしたせいで死んでしまったココとミランダ。

 

自分が組み付いたせいで撃ち落とされたメビウスとナオミ。

 

様々な出来事が脳裏をよぎった。

 

 

「いっ・・・いや・・・いや・・・」

 

ロッカールームでのメビウスの一言を思い出す。

 

「後悔する生き方だけはするな」

 

母ソフィアの最後の言葉が脳裏をよぎる。

 

「生きなさい・・・アンジュリーゼ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イヤァァァァァァ!」

 

悲鳴と共にアンジュの中の何かが外れた。

 

額から流れた血が指輪に付着した。

 

するとアンジュの指輪が光った。

 

そしてヴィルキスもそれに応えるかの様に光りだした。

 

ヴィルキスはその姿を人型へと変えた。

 

「!?」

 

サリア達は驚く。

 

ジル司令は司令室から黙ってそれを見ていた。

 

「死にたくない・・・死にたくない・・・死にたくない!!」

 

アンジュはそう言うとライフルをドラゴンに向けて発射した。

 

それらは魔法陣で防がれた。

 

ドラゴンはウロコをヴィルキスに向けて放つ。

 

しかし、それらは全て斬り落とされた。

 

次の瞬間には、ヴィルキスはドラゴン目がけて加速した。

 

「おっ・・・お前が・・・お前が!」

 

ヴィルキスはドラゴンの喉元に剣を突き刺した。

 

ドラゴンは唸り声を上げる。

 

「お前が死ねぇぇ!!!」

 

ヴィルキスは凍結バレットを傷口に打ち込んだ。

 

すると傷口から氷の柱が現れた。

それは瞬く間にドラゴンの身体に広がっていった。ドラゴンは海面へと落ちた。落ちた場所を中心に海面が氷原に変わっていった。

 

「はっはは・・・あはっ・・・・あははは・・・」

 

涙を流しながらアンジュはなぜか笑い出した。

 

アンジュにも理由がわからない。

 

「こんな感じ・・・知らない・・・」

 

(昂ぶってんじゃねぇか)

 

ゾーラ隊長の言葉を思い出す。

 

「違う・・・!こんなの私じゃない!殺してでも生きたいだなんて・・・そんな・・・汚くて!・・・浅ましくて!・・・身勝手な!・・・」

 

「それがノーマだ・・・」

 

アンジュの耳にゾーラ隊長の声が聞こえた。

それは幻聴だったのかもしれないが、アンジュの耳にはたしかに聞こえた。

 

「うっ・・・うっ・・・くっ・・・うっ・・・あっ・・・うあああああああ・・・ああっ・・・うああああ!」

 

アンジュは泣いた。それを彼女達はただただ黙って見ていた。

 

ジル司令は横を向いた。その表情には満足な笑みが浮かんでいた。

 

そしてサリアは現状を思い出す。

 

「はっ!各機!ドラゴンの殲滅は完了した!これよりメビウス機の援護に向かう!」

 

そう、メビウスだ。彼は例の機体。彼の戦っていた敵、ブラック・ドグマの機体を引き離すために、単身で五機を相手にしているのだ。

 

(メビウス!大丈夫だよね!?)

 

ナオミは心の中でメビウスの無事を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴィルキスが覚醒する少し前。

 

メビウスは1対5というハンディ戦をしていた。

 

そして徐々にだが追い詰められていった。

 

「くそ!こいつら!連携がなされてやがる!」

 

後ろの三機がビーム砲で攻撃をする。そして前の二機はシールドを展開する。その戦法に対抗できるものがない。

 

例のコンバットパターンもたとえシールドを解除出来たとしても、突っ込んでいく盤面で間違いなく真っ正面からビーム砲が来るのが目に見えていたため、使用は極力控えていた。

 

そしてメビウスの心配は他にもあった。

 

それは出血だ。

 

彼は前の戦闘での怪我は決して完治してなどいないのだ。

 

出血に目が眩んだ。一瞬視界がぼやける。

 

無理な操縦もしているため、身体の所々から血は流れ出ている。

 

だからといって敵は待ってなどくれはしない。

 

ビーム砲が放たれた。制限時間があるとわかった以上、無闇なアイ・フィールドの展開はできない。命中する直前に発動させ、攻撃が終わった直後に解除する。

 

この防戦の繰り返しであった。

 

(ヤベェ、そろそろ体がもたねぇ)

 

こうなっては前の戦闘でやった180mm砲の零距離射撃も攻撃方法の一つに加えるかを考えた。

 

その時モニターに通信が入った。

 

サリア達だ。

 

どうやらドラゴン達を殲滅したらしく、こちらの援護に来るらしい。

 

(まずい!)

 

メビウスは内心焦った。

 

今この状況で彼女達が来ても間違いなく状況は変わらないことは目に見えていた。一歩間違えば死人がでる。

 

ビーム砲が飛んできた。

 

その時視界が絡む。

 

出血量が危険ゾーンに到達したのだろうか。

 

アイ・フィールドは間に合わず、ビームが機体に当たる。

 

「がはっ!」

 

口から血が出た。意識が朦朧とする。

 

頭の片隅で自分が死ぬ事を理解した。

 

 

 

(俺が死ぬ?俺が死んだら、なぜこの世界に俺が来たのかが永遠にわからなくなる。

 

 

 

俺が死ぬ?俺が死んだらこいつらはどうする。第一中隊がどうにかするのか?いや、間違いなく死人がでる)

 

 

 

(人が・・・仲間が・・・死ぬ?)

 

前の戦闘の事を思い出す。目の前でココとミランダがビーム砲によって撃たれた。俺はそれを助けてやれなかった。

 

夢での出来事を思い出す。ココとミランダが自分の手からすり抜け、崖へと落ちていく夢を。俺は手を掴んでいながら助けてやれなかった。

 

ナオミの言葉を思い出す。

 

「この機体で私は、仲間を守ってみせる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・もんか」

 

メビウスは呟く。そして次の瞬間、叫ぶように言う。

 

「死ぬもんか!死なせるもんか!!死なせてたまるもんかぁ!!!」

 

 

次の瞬間モニターにある文字が表示された。

その文字を見るのは2度目であった。

 

 

 

《INSTALL FANG SYSTEM》

 

 

 

それはファングシステムモニターだった。

 

「へっ!やっと機嫌なおしたか!」

 

手がモニターへと伸びる。こいつの使い方が分かる。前回の時と同じだ。

 

モニターには《COMPLETE》と表示された。

 

その瞬間、脚部から8つの牙が飛び出した。それらは空中で静止していたが、次の瞬間にはそれらは例の機体目掛けて一斉に向かっていった。ビームを放ちながら接近していく。

当然機体はシールドを張った。しかしビームはシールドを破壊した。そして牙本体は更に別格の破壊力だった。シールドを突破したかと思うと、腹部に風穴を開け、その後機体の四肢を削ぎ落とした。

 

いかに戦略が有効でも、その戦略以上の武器が持ち出されると、その戦略に、もはや意味などなくなるのだ。

 

「おい!あれって!」「間違いねぇ!あの装備!映像で見た100体狩りの時にも使われていたものだ!」「うっひょー!かっちょいいー!」

 

どうやら第一中隊が来たらしい。第一中隊はファングに驚いていた。

 

その牙は残りの機体にも飛んで行った。機体は今度は撃ち墜とそうとビーム砲を撃ってくる。しかしそもそもが小さい武装かつ、機動性も抜群なそれらにその行為はなんの意味もなかった。

まずビームが飛んでくる。それらによって機体にダメージが与えられる。そして次の瞬間、その牙達は機体腹部を貫いた。腹部には穴が空いた。その後背後から機体の四肢をそれぞれ2個づつ別れて削ぎ落とす

 

そしてトドメと言わんばかりに首を削ぎ落とした。

 

「すっすごい」「圧倒的じゃない!」

 

第一中隊は援護に来たのだが、そんな事忘れ目の前のその光景に目が釘付けだった。

 

牙達はそのペースで一機、また一機と撃墜していった。残りは後一機だった。

 

「後一機!」

 

ファング達は最後の一機めがけて飛んで行った。

当然機体はシールドを貼る。シールドを貼っても、もはや無意味なのに貼ってしまうのは反射的なのか。ファング達はシールドを突破すると機体の胸の部分を貫き、中の機械を抉り出す。機体は火花を放っていたが、すぐに爆散した。

 

戦うべき敵が全部消えたため、全てのファングは脚部へと収納された。

 

「やっと・・・終わったか・・・」

 

メビウスはそう呟くと、口の血を手で拭った。

 

「諸君、ご苦労だった」

 

通信が入った。モニターを見るとジル司令からだった。

 

「全機アルゼナルに帰還しろ」

 

「イエス!マム!」

 

そう言って皆、アルゼナルへ進路を取った。アンジュもそこへと向かった。

 

メビウスはモニターを見る。そこには前回とは違い、ファングシステムのモニターがアンロックされていた。

 

(お前もこれから力を貸してくれるんだな。よろしく頼むぜ、ファング、いや、フェニックス)

 

メビウスは心の中でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし今回の戦いでメビウスは一つだけ気づいていない事があった。

 

それはアンジュのヴィルキスが覚醒した時、フェニックスのモニターに謎の文字が浮かんだのを。その文字は直ぐに消えた。

 

その事に誰も気づいてはいなかった。

 

 






遂にアンジュとヴィルキスが覚醒しました!

ファングシステムも解禁できました!

タイトルは本来ならフェニックスも含める予定でしたが、あまりに長過ぎるのと、ネタバレを多少防ぐためにヴィルキスだけにしました。

そして最後に少しだけ今後の展開に絡みそうな不安を仰いで見ました。

果たして今後どのようになっていくのでしょうか!


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第16話 新たな決意



前回とは違い、今回は本文と前書きと後書きは短めです。

そろそろここに書く事が無くなりかけてきた。

・・・まぁ先の事を気にしても仕方ない!

それでは本編の始まりです!




 

 

アルゼナルへと帰ったアンジュはある場所へと向かった。

 

そこはココとミランダのお墓のある場所だった。

 

「さようなら・・・お父さま・・・お母さま・・・お兄さま・・・シルヴィア・・・」

 

そう言うとアンジュは自分の髪を掴むと根元部分をナイフで切り落とした。

 

 

 

 

 

「私にはもう何も無い・・・何も要らない・・・過去も・・・名前も・・・何もかも・・・あなたたちの様に簡単には死なない。生きる為なら地面を這いずり、泥水を啜り、血反吐を吐くわ」

 

 

 

 

 

「私は生きる・・・・・・・殺して・・・生きる・・・!!」

 

 

 

 

 

決意を新たにアンジュはその場所を去った。

 

 

 

 

 

 

「全くあんたも少しは自重しなよ。血液は湯水のように湧いて出るもんじゃないんだよ」

 

医務室でマギーは隣にいるメビウスに愚痴った。医務室ではメビウスがいた。先の戦闘での出血多量で、帰還するなり医務室へと運ばれたのだ。

 

「あの状況じゃそれだけのことをするしかなかったんだ」

 

「まぁとにかく今日はもう寝るんだね」

 

「悪いけどいかなきゃいかないところがあるんだ。そろそろおいとまさせてもらうぜ」

 

「なんだい、もう行っちまうのかい?もう少し血を見せてはくれないかい?」

 

「いやだよ」

 

そう言って笑いながらメビウスは部屋を後にした。

 

向かう先は決まっていた。

 

ロッカールームにたどり着く。自分のロッカーから金袋を取り出した。

 

アンジュの部屋を出た後は寝泊まりする場所を色々と変えていた。

一番最後に寝泊まりしたのがここだった。そのため彼の荷物は全ては今はロッカールームに入っていた。

 

その足をジャスミンモールへと向ける。

 

 

 

 

 

「いらっしゃい、今日は何を買ってくれるんだい?」

入り口でジャスミンが商売笑顔を浮かべながら聞いてきた。

 

「ココとミランダの墓石の代金の半額を支払いにきた」

 

「・・・合わせて100万キャッシュだよ」

 

「それぞれ50万キャッシュで支払わせてもらう」

 

「わかったよ」

 

そう言うとジャスミンは50万キャッシュを二度に分けてうけとった。

 

 

 

「ここにいたのね、メビウス」

 

呼ばれたので振り返ると、そこにはサリアがいた。

 

「サリアか、何の用だ?」

 

「前回と今回の戦果が認められて、あなたに部屋を与える様に司令から頼まれたわ」

 

「部屋を・・・なぁ、わかってるよな?」

 

「・・・もちろんよ」

 

(一人部屋きた!これでちゃんと眠れるようになる!ベンチベットとはお別れだぜ!)

 

そう心の中でガッツポーズを取り、メビウスはサリアの後についていく。

 

「ここがあなたの部屋よ」

 

(おお!俺の城!)

 

元気よく扉を開けた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっどうも」

 

ナオミがいるように見えた。

 

次の瞬間、俺は扉を閉めた。

 

(きっと開け方が悪かったんだろう。よし!今度は丁寧に!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっどうも」

 

「ナオミ。お前ここで何やってるんだ?」

 

「いや、今日からメビウスと一緒の部屋って言われて・・・」

 

「・・・ナニィィィィ!!!!」

 

驚きの声があがった。

 

「サリア!これは一体どう言う事だ!」

 

「何って、言葉通りよ。今日からここがあなたの部屋よ。ナオミと相部屋だけど」

 

「待て待て待て!サリア!お前わかってるんじゃなかったのか!?」

 

「ええ、わかってるわ。アンジュの部屋には戻さなかったわ。自分から出といて戻るのも気まずいだろうし」

 

「そう言う事じゃねぇよ!いいのか!男と女が同じ部屋で寝泊まりするんだぞ!」

 

「今日の戦いであなたのことを私は信じると決めたわ。私の信じるメビウスはそんなことはしないわよ」

 

(こいつ!信じるという言葉を悪用しやがった!てか今までまだ信じられてなかったのかよ)

 

「だいたいベットどうするんだよ!まさか一つのベットで寝るのか!?」

 

その言葉にナオミの顔が赤くなるが、メビウスもサリアもそれには気づいていない。

 

「これ、ヴィヴィアンがあなたにあげるって」

 

そう言って何かを渡してきた。

 

「ハンモック。それならベットの代わりになるわよ」

 

「それならコックピット内とか食堂の椅子とかロッカーのベンチで寝るぞ!」

 

メビウスは頑なにこの現実から逃げようとする。

 

「そのせいで点呼の時あなたを探すのに私がどれだけ苦労したか分かっているの!?」

 

「わっ私はメビウスがいた方が楽しいと思うよ」

 

ナオミが場を持ち直すな為に口を開く。

 

・・・・・・暫くの沈黙が続いた。

 

 

 

「・・・こうなったら腹の一つや二つ括ってやるよ!」

 

遂にメビウスが折れた。

 

「それじゃあ明日の点呼5時にはちゃんといるように」

 

そう言うとサリアは部屋を後にした。後にはメビウスとナオミが残った。

 

「まぁそういうわけでナオミ、よろしく頼むぜ」

 

「よろしくね、メビウス」

 

「さて、ハンモックとやらを吊るして寝床を作るか」

 

メビウスはそう言うと寝床の準備を始めた。

 

 

 

「メビウスはどうした?」

 

ジル司令がサリアに問いかける。

 

「言われた通りナオミと同じ部屋にしましたが。本当によろしかったんですか?」

 

「そうしてやれ、ナオミに関しては同期が死んだんだ。

一応同じ新入り同士だ。少しでも心の傷の回復に繋がるといいが。

流石にナオミとアンジュで同じ部屋は要らぬ気苦労を与えるだろう」

 

ジル司令はそう言うとタバコを吸い始めた。

 

 

 

(それにしてもアンジュのやつ、本当にやるとは、そろそろ例の準備を始めるべきか・・・)

 

 

一方アンジュは自分の部屋へと帰っていった。

 

ふとゴミ箱を見るとココがくれたプリンが見えた。

 

(・・・)

 

ココが笑顔でプリンを渡してきたのを思い出す。

 

そのプリンをとり、上のビニールをはがした。

 

プラスチックのスプーンでプリンを口へと運ぶ。

 

「・・・不味い」

 

そう言いながらアンジュはプリンを食べ続けていった。

 

 

 






今回で第2章はおしまいです。

次回からは第3章です。

因みに部屋についてですが

「ココとミランダの部屋があるじゃないか!」

なんて無粋な事を言わないでください。


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第3章 共に生きる者達
第17話 ひとりぼっちの反逆




今回から文中の・を変えてみました。
(特に変わってる感はない。というか変わってるのかさえ俺でもよくわからない)

今回から第3章です。第3章はアニメで言うなら第8話までの予定です。

アニメが気になった方はお近くのGEOかTSUTAYAへ今すぐGO!

(一度は言ってみたかったセリフ)

それでは本編の始まりです!




 

 

夜のアルゼナル、ジル司令の部屋に、サリアとメイ、マギーとジャスミン。そしてバルカンが集まっていた。

 

「三度の出撃でこの撃墜数。結構結構」

 

ジル司令は手元にあるアンジュの資料を見ながら満足そうに言う。

 

「今まで誰も動かせなかったあの機体をねぇ」

 

「多分、ヴィルキスがアンジュを選んだんだと思う」

 

「ヴィルキスが?」

 

サリアが呟く。

 

「それじゃあ始めるとするか・・・リベルタスを」

 

その言葉に4人は息を飲んだ。

 

「不満か?サリア?」

 

「すぐ死ぬわ、あの子。無茶ばっかりしてるから」

 

今日の戦闘を思い出す。命令無視をし、仲間の狙っていた敵をアンジュは横取りしていた。

 

遂にはフレンドリーファイアまでありえていた。

 

「新兵二人を殺し、ゾーラをあんな風にしたんだ。恨まれない方がおかしいな」

 

マギーがそう答える。

 

「私なら上手くやれる!私なら!もっとヴィルキスも乗りこなせて見せる!なのになんで!?」

 

「適才適性ってやつだ」

 

ジルがそう答える。

 

「それでもし!ヴィルキスに何かあったら!」

 

「その時はメイが直す!命をかけて!それが私達一族の使命だから」

 

メイが明るく、だけど決意を秘めた表情で答える。

 

その表情にサリアは黙り込む。

 

「お前はお前の使命を果たすんだ。いいね、サリア」

 

サリアは静かに頷く。

 

「いい子だ」

 

そう言ってジル司令はサリアの頭を撫でる。

 

 

 

「ところでメイ、フェニックスの方はどうだ?新たに何かわかったか?」

 

「少しだけ、あの機体だけど、燃料がどう言う仕組みなのかは、理解はできた。あの機体、半永久機関が組み込まれてるんだと思う」

 

半永久機関、それは外部から何らかの要素が加わると、その要素がなくなるまで、永久的に続く機関のことである。

 

閲覧者にわかりやすく教えるなら、電車のおもちゃをレールに置く。

 

その電車のおもちゃに電池を入れる。後はスイッチを入れる。

するとその電車は電池が切れるまで、レールの上を只々走り続ける。

 

フェニックスは、一度スイッチを入れると、その後はスイッチを切るまで動き続ける。

 

言うなれば、自動で充電される電池が搭載されているのだ。

 

しかも無限に。

 

「だから外部からの燃料なんてなくても、あの機体は動けるし、あの粒子についても説明がつく。あれが機体を動かしている機関から出されたものなんだよ。

多分アイ・フィールドも本来は半永久機関が使われてる。

それを発生させる装置の冷却が必要だから時間制限があると思うけど」

 

「ファングの方はどうだ?」

 

「あれはさっぱりわかんない。なんで動くのかさえ。一つだけ予想として言えるのが、あの兵器は多分メビウスの意思で攻撃する兵器だと思う」

 

「意思で攻撃?」

 

皆が疑問に思い、口を開く。

 

「自分に敵対するものを徹底的に破壊する。それがファングの意味なんだと思う」

 

「やはり未知の兵器と言うことか。あいつのいた世界の文明は、私達の技術レベルより格段に上みたいだな」

 

ジル司令はそう言うと煙を吐き出す。

 

「これから忙しくなるねぇ」

 

マギーがそう言う。

 

「くれぐれも気取られるな。特に監察官殿にはな。では解散」

 

そう言うと、サリアとメイ、マギーは部屋を後にした。

 

 

 

 

「いい子だ・・・か。全く、ずるい女だねぇ」

 

先程ジル司令がサリアの頭を撫でたみたいに、ジャスミンがバルカンの頭を撫でながら言う。

 

「なんだって利用してやるさ。気持ちも、命も、何だって」

 

「地獄になら・・・とっくに落ちている」

 

そう言うと吸っていたタバコを義手で握りつぶした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュのヴィルキスが覚醒してから数日が経った。

 

今日の訓練が終わり、メビウスはフェニックスのコックピット改造の最終調整をしていた。

 

「よし、これでもう大丈夫だな」

 

目の前のそれを見つめながらメビウスは言った。

 

フェニックスを操縦桿からパラメイルのハンドルへと改造した。

これならアイ・フィールドも左右効率よく展開できる。

 

 

 

パラメイルのハンドルは既にシュミレーター訓練で何度も動かしているため、動かし方は身体に染み付いていた。

 

「メビウスー今日は給料支給日だよー!給与窓口行くよー!」

 

ナオミが下から呼んでいる。

 

「分かった。すぐに向かう」

 

そういい、メビウスはコックピットを後にした。

 

 

 

「撃破、スクーナー級3.ガレオン級へのアンカー打ち込み。そこから弾薬、燃料、装甲消費を差し引いて、ロザリー様の今週分のキャッシュは18万です」

 

受付から紙束が出された。

 

「ちっ!これっぽっちかよ」

 

「十分だよ、私なんて一桁だし」

 

クリスがロザリーを擁護するかのようにいう。

 

ロザリーの様なグレイブは前線で戦うため必然的に装甲や弾薬消費などの出費も増えるのだ。

その分、ドラゴンを倒せるため、収入の方も上がる。

 

その点クリスのようなハウザーは後ろからの援護射撃などで、基本的に出費は減ることになる。

当然、後ろからの援護なので収入も少なくなるのだ。

 

これに関しては本人の腕が問われる。

 

「ヒルダはどうだった」

 

ロザリーとクラスがヒルダに尋ねる。

 

ヒルダはキャッシュの束を見せる。少なくても3桁は超えていた。

 

「おお!」

 

それに二人は驚きの声を上げる。

 

「撃破数、スクーナー級8、ブリック級1、そこから弾薬、燃料、装甲消費、さらに借金を差し引いて、ナオミ様の今月のキャッシュは30万キャッシュです」

 

「借金?・・・ええええ!どういうことですか!?」

 

ナオミには言葉の意味が理解できないでいた。

 

窓口の人が答える。

 

「ナオミ様はアーキーバスを購入されました。その借金です。因みに借金額ですが総額2000万キャッシュです」

 

「・・・ニセンマンンンン!!!」

 

ナオミが普段は出さないような声で悲鳴をあげる。

 

「はい。今後ナオミ様の報酬の10分の9が借金の返済へと当てられます。なお、残りの借金残高は1730万キャッシュです。これが明細です」

 

そう言うと受付の人は明細を渡してきた。

 

「あっどうも」

 

ナオミは上の空の様子で、その紙を受け取った。

 

「まぁそのナオミちゃん・・・頑張ってね」

 

「お前、いきなり借金スタートじゃん」

 

その場にいた第一中隊のメンバーが憐れみの目を向ける。

 

メビウスも苦笑していた。

 

 

アンジュの番が回ってきた。

 

「アンジュ様の今週分のキャッシュは550万キャッシュです」

 

「アンジュやるぅ〜」「大活躍だったものね」

 

その額にヒルダ達3人は気に入らないようだった。

 

 

 

 

「さてと、それじゃ本命のやつの金額を聞いてみるか」

 

皆の視線が彼に集まる。

 

メビウスの番が回ってきた。皆メビウスの金額を予想し合っていた。

 

3回目の戦闘ではメビウスは援護などを重点的に行っていた。この援護がなければロザリー達などもっと低い金額だったのだ。

 

皆が一番気になったのはあの時の戦闘。ゾーラ隊長がいたあの時のドラゴンとの戦い。撃墜数など、どれくらい稼げていたのか、皆気になっていた。

 

メビウスの金額が言われる

 

「メビウス様の今週のキャッシュは230万キャッシュです」

 

そう言われて紙束が置かれた。

 

(よかった)

 

変な金額を出して、下手に周りとの溝を増やすわけにはいかない。そう思っていたため、メビウスは内心では安堵する。

 

もっとも、これらは例のパラメイルの改造やバーグラーセットの弾薬代、零距離射撃の際の装甲の塗り直しや装甲の修復代などを差し引かれての金額だった。

本来ならその倍以上のキャッシュが渡される予定だったのだ。

 

「ありがとうございます」

 

そう言ってキャッシュを取り、帰ろうとした時だった。

 

なにやら窓口がざわめいていた。

 

「ねえ!本当に出すの!?」「だって司令に言われたんだし仕方ないでしょ!」「いつか破産するわよ!こんなことされ続けたら!」

 

「あの?どうしました?」

 

メビウスが疑問に思い訪ねる。

 

やがて意を決したかの様に、窓口から人が出てきた。

 

まるで親の敵でも見ているかのような目をしていた。

 

「新たな敵、ブラック・ドグマ6撃破。メビウス様の追加キャッシュは6000万キャッシュです!」

 

そう言うと袋を二つ投げ渡してきた。それを反射的に受け取る。

 

場の空気が凍りつくのを感じた。

 

「・・・ロクセンマンンンン!!!」

 

次の瞬間その場にいた皆が驚きの声を上げた。

 

以前行ったドラゴン100体倒しでも5958万キャッシュであった。しかしそれは一人だけだったからだ。

 

本来なら皆がキャッシュの取り合いとして、ドラゴンを倒すため、キャッシュには自然と差ができるものだ。だがこの差はあまりにも異常だった。

 

「今後ブラック・ドグマの機体は一体1000万キャッシュで扱えとジル司令からの通達が届いております!」

 

そう言うと受付の人は窓口へと戻っていった。

 

 

 

長い沈黙が続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なぁみんな、少なくても一機、初めてあいつが現れた時は、みんなも協力してくれたし、その・・・なんだ・・・。1000万キャッシュは山分けにしないか?」

 

メビウスが切り出す

 

「お前・・・本当にいいやつだな!」

 

「マジでくれるの!もらうもらう!」

 

「あんたみたいなメイルライダー、マジで珍しいよ」

 

皆感心したように言う。

 

「私はいらない」

 

そう言うとアンジュは窓口で今日稼いだ金を預金する手続きをした。

 

「お前はそん時、特になんもしてなかったろ!」

 

ロザリーがそう言った。

 

「とにかく今は着替えましょう。早くシャワーを浴びたいし」

 

エルシャの一言に皆が納得した。

 

アンジュ以外のみんながロッカールームへと向かう。

 

案外一緒にいると、結構楽しいものであり、メビウスの中にあった、異性だからという感覚は薄くなっていた。

 

今となっては着替えも特に気にすることなく一緒にしていた。

 

しばらくしてアンジュが入ってきた。

 

アンジュが自分のロッカーを開けると、アンジュの制服がズタズタにされていた。

 

「こりゃぁひどい!誰がこんなことしたんだろ?」

 

ヴィヴィアンが驚きの声を上げる

 

もっとも犯人に予想はついていたが。

 

後ろでロザリーが笑っていた。

 

アンジュはナイフを取り出すと素早く斬りつけた。

 

ロザリーのパイロットスーツは胸の部分が破れた。

 

俺は一瞬だけチラ見してすぐ視線を逸らした。

 

「な!このアマ!!」

 

ロザリーは摑みかかるが、アンジュは、そんなロザリーを払いのけるとボロボロの制服を着込み、ロッカールームを後にした。

 

「あいつ・・・一皮どころか三皮剥けたな」

 

メビウスが感心したように言う。

 

皆が着替え終わると、ベンチの上に1000万キャッシュを置き、皆で山分けした。

一応サリアも2機目を落とそうとしていたのでこの山分けに混ぜる事になった。

 

1000万キャッシュ÷8人=125万キャッシュ

 

一人125万キャッシュで山分けされた。

 

分配が終わると、ロザリーとクリス以外はロッカールームを後にした。

 

ロザリーは切り裂かれたパイロットスーツの修復をしていた。

 

しかし、裁縫などあまりした事ないのか、彼女は苦戦していた。

 

「ねぇ?新しいの買う?」

 

「いきなり使うなんて勿体ねぇよ!あの金はフェスタの時に使うんだ!」

 

クリスの提案を、ロザリーは却下した。

 

なお、ロザリーが言ったフェスタだが、この言葉の意味はもう少し先になると説明ができるようになる。

そのため暫くは待っていてほしい

 

「それにしてもあのアマ!もっと徹底的にやらないとダメみたいだな!」

 

「そうだね。泣いて許しを請うまで、徹底的にやろうね」

 

ロッカールームで二人は良からぬ決意を固めた様だ。

 

 






遂にナオミは借金を背負いこんでしまいました!

ゲームでは1億キャッシュでしたけど、それだと多少のご都合主義に頼らざるを得なくなると判断したため、借金は2000万キャッシュとしました。

因みにメビウスが結構な大金持っていますが、理由はちゃんとあります!

実はこの作品の初期案ではメビウスはアンジュの代わりに使われる予定でした。
(もっとも初期の案です)

しかしそれではいけないと判断して、様々な追加要素や変更点などが混ぜ合わさって、この様な作品になりました。

この金額の多さはその時の名残です。

ちなみにそのほとんどの使われ方もアニメなどを見ている人には予想がつくのではないでしょうか?



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第18話 衝突する仲間達



今回の話で!私は生まれ変わったのだ!

私はついに!字を整理をすることができるように
なったのだ!(とても今更)

でも右端に違和感を感じてしまうため、多分次回からは控えめになると思います。

また、この作品ではたまに原作にはあったのにシナリオの都合で簡略化されている部分があります。

その点はご了承ください(今更)

それでは本編の始まりです!




 

 

数日後、ヴィヴィアンとメビウスはジャスミン

モールへと来ていた。

 

ヴィヴィアンは新たな武器を買うため金袋を肩に

背負っていた。

 

メビウスはこの世界のことを知るためにジャスミンモールに歴史書を買いに来た。

 

「おお!新しいの入ってる!」

 

ジャスミンモールに着くなり、ヴィヴィアンが

驚きの声を上げる。

 

その目の前には見たことの無い武器があった。

見た目を言うならば弓矢での弓の部分に似ていた。

 

「おばちゃん!これいくら!?」

 

「お姉さんだろ!ったく。超硬クロム製ブーメランブレードかい。1800万キャッシュだね」

 

その金額に驚き、周りがざわつく。

 

(お姉さんって・・・この人年幾つだよ)

心の中でメビウスは苦笑した。

 

「喜んでー!」

 

そう言うとヴィヴィアンは金袋をジャスミンに渡した。

 

「毎度あり」

 

ジャスミンは札束を数えていたが数え終わるとそう言った。

 

すると突然バルカンが後ろを向きながら吠えだした。

 

3人は吠え先を見た。

 

そこにはアンジュがいた。

 

例のボロボロの制服は以前ロッカーで見た時より

ボロボロになっていた。

 

「うわぁお、セクシー」

 

「随分と涼しそうな服じゃないか」

 

「よくその姿でいれるな」

 

3人がほぼ同時にそう言った。

 

「虫ケラに見られようと何とも思わないわ。

けど流石に寒いから」

 

そう言ってアンジュはポケットからキャッシュを

取り出した。

 

「制服ありますか?」

 

そう言うとアンジュはキャッシュを投げ渡した。

 

「ありますかだって?ここはブラジャーから列車砲までなんでも揃うジャスミンモールだよ」

 

「以前俺が下着頼んだ時はそのセリフ言い直してたよな」

 

「お黙り」

 

メビウスが横槍を入れてくる。 それをジャスミンが睨みながら言う。

 

そうしてジャスミンは制服をアンジュに渡した。

 

アンジュは試着室へと入っていく。

 

数分後、試着室からは新品の制服を着込んだ

アンジュが出てきた。

 

「では」

 

そう言うとアンジュは出口へと向かって行った。

 

「もう行っちゃうの!?アンジュも武器買おうよ〜」

 

「武器?」

 

ヴィヴィアンの言葉にアンジュが止まる。

 

(この展開、以前に見たことあるな。俺の時は確か

バーグラーセットを買ったな)

 

メビウスは、初めてここにきた時の自分を思い出していた。

 

ジャスミンに武器を勧められた時のことを。

 

「ねぇねぇ。これなんてどう?アンジュの機体に

似合うと思うなぁ」

 

そう言われて見せられたそれは巨大な剣であった。

 

メビウスはネームプレートを見てみる。

 

【天空剣。これで貴女もVの字斬りしましょう】

 

そう書かれていた。

 

「パラメイルはノーマの棺桶。自分の死に場所だから、自分の好きな風にできるのさ。

強力な武器、分厚い装甲、派手なデコレーション。ノーマに許された、数少ない自由さ」

 

「・・・くだらない」

 

そう言ってアンジュは去ろうとする。

 

「そんなんじゃあ仲間に狙われても仕方ないねぇ」

 

アンジュが立ち止まり振り返った。

 

「しかし・・・だ。そんな問題も金が解決する。

安心安全、それに命。買えるのはなにも物だけじゃない」

 

「・・・買収ですか?」

 

「流石皇女様。話が早いねぇ」

 

ジャスミンは算盤を持ち出すと、計算をした。

 

「手数料込みで、一人当たり1000万キャッシュでどうだい?」

 

「ほんと、ノーマらしくて浅ましい。一人で大丈夫です。・・・わたしは」

 

アンジュは失笑すると、ジャスミンモールを後に

する。

 

(・・・金で買えるのは物だけじゃない・・・か)

 

(もし、自分に関する記憶が金で買えれば、どれほどいいものか・・・)

 

(・・・今日は本を読もうとしたけど・・・探索に出るか)

 

帰ってきたら本を読もう。そう思い、メビウスは

ジャスミンに向く。

 

「ジャスミン、この世界の歴史が書かれた本ってあるか?」

 

「あるけど、あんたみたいな子供にゃ早いような気もするけどね」

 

「人を見た目で判断するな」

 

彼は多少不機嫌になった。身長はヴィヴィアンより下なので無理もない。

 

本来なら160はあったはずなのに。

 

「わかったよ、ちょっとまってな」

 

そう言ってジャスミンは本棚から歴史書を持ち出してきた。

 

「これが最近書かれた歴史書だね」

 

「買うぞ」

 

そう言うとキャッシュを取り出しジャスミンに渡した。

 

「毎度あり」

 

そう言うとジャスミンは俺に歴史書を渡してきた。

 

「本のお供にセノビ●クでも飲むかい?」

 

「やめろ」

 

そう言い、ヴィヴィアンとジャスミンモールを後にしようとした時だった。

 

「ちょっとお待ち」

 

ジャスミンに呼ばれ、振り返る。

 

「メビウス、今度あんたに頼みたいことがあるんだ」

 

「今じゃないのか?」

 

「今はまだだよ。でも今度頼みたいんだよ」

 

「・・・今度話を聞かせてもらうよ」

 

メビウスはそう言いうとヴィヴィアンとジャスミンモールを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロザリーとクリスは今、幼年部の反省部屋へと来ていた。

 

「ガス抜きと思って見逃してたけど、流石に目に

余るわよ」

 

サリアが二人を注意していた。

 

その後ろにはエルシャとナオミ、そして帰り道で

捕まったヴィヴィアンとメビウスがいた。

 

ヒルダとアンジュ以外の第一中隊のメンバーがいたのだ。

 

メビウスは先程買ってきたこの世界の歴史書を読んでいたが、やがて本を目隠しに眠り始めた。

 

ロザリーとクリスはアンジュに様々な嫌がらせを

していた。

 

まずアンジュに下剤入りのボトルを飲ませようとした。

 

もっとも、アンジュはそれに気づくなり、ロザリーに口移しで飲ませてきた。

その後のロザリーはトイレに直行していた。

 

昨日など、アンジュの下着を晒し者にしようとしたが、それはエルシャのだった事に気付かず、更にはブス雌豚の色ボケビッチなど言ってしまい、それをエルシャに聞かれる始末であった。

 

無論、エルシャの鉄拳制裁が彼女達を襲ったのは

言うまでもなかろう。

 

そして今日はアンジュのロッカーをスプレーで落書きしようとしたが、それをサリアに現行犯で発見されてしまい、今の状況になったわけだ。

 

「あんたらはなんとも思わないのか!新兵二人を

殺したばかりか!隊長をあんな風にしたんだぞ!」

 

ロザリーが感情を剥き出しにしながらそう言う。

 

「アンジュは二人の墓を建てたわ。

それでノーサイド。今は彼女も仲間の一人よ」

 

死んだ仲間の墓を生き残った仲間が建てる。

 

死んだ仲間の人生を背負うために。

 

その仲間の事を忘れないために。

 

「だからって!それだけであいつを仲間と認めろっていうのかよ!」

 

「私はアンジュちゃんを仲間と認めてるわよ。彼女はちゃんと自分のすべき事をして、ちゃんと戦場に戻ってきたじゃない」

 

「それだけじゃないわ

既にメビウスくんとナオミちゃんはアンジュちゃんを許しているわ。

なのに貴女達が許さないのは変じゃないかしら?」

 

そう、その通りなのだ。あの時のアンジュのせいでゾーラ隊長は未だ意識不明だ。

だが、それでも大怪我を負ったメビウスとナオミは既に彼女の事を許しているのだ。

ナオミに関しては、同期が殺されたのにだ。

 

それなのに二人はアンジュに冷たく当たること

すらしないのだ。

 

「でも!」

 

「それだけであいつを仲間と認めろってのかよ」

 

扉が開いた。

 

そこにはヒルダがいた。

 

「あいつの方は私達のことを仲間なんて思ってない。そんな奴を仲間として認めろっていうのかよ。あんたらみたいな優等生には出来るとしても、私ら

みたいな凡人には無理だね」

 

ヒルダは歩きながら続ける。

 

「にしても司令もわからねぇなぁ。あの女に

ポンコツ機を与えるだけで特にお咎めもなしとはな。

あぁ!そうか!司令も気に入っちゃったんだね。

あいつの事。そう考えれば納得できるね。あいつを妙に優遇してるのも。あの司令をたらし込むなんて。

皇女殿下はベットの上でも優秀か」

 

「!!上官侮辱罪よ!」

 

「だったらどうする!」

 

サリアとヒルダがそれぞれ武器を向けあった。

 

「やっやめようよ。仲間同士なんだし」

 

ナオミが止めようとするが場が収まる気配はない。

 

「これ以上アンジュを侮辱することは許さない」

 

「ゴミムシみたいに見下されて、まだ庇うとはな」

 

ヒルダの銃の引き金に指が伸びた。

 

サリアの体が前に飛びかかろうとした時だ。

 

「バァン!」

 

乾いた音が部屋に響いた。

 

皆が驚きその音の方を向く。

 

メビウスが天井に向けて拳銃を放っていた。

 

「悪い!暴発した。

空砲だったようだが、怪我はなかったか?」

 

・・・場に沈黙が流れる。

 

「はぁ、白けちまった、やめだやめだ。

ロザリー、クリス。行くぞ」

 

そう言うとヒルダは拳銃をしまい、二人を連れて部屋を後にした。

 

三人が出て行くと、緊張の糸が切れたのか、皆安堵の息を漏らした。

 

「礼を言うわ。メビウス」

 

「別に、拳銃が暴発しただけだ」

 

「わざとでしょ、二人を止めるために」

 

おそらくあの一発がなければ間違いなくどちらとも大怪我、最悪死人が出る事態になった事は誰の目にも明らかだった。

 

「いつから起きてたの?」

 

ナオミが聞いてくる。

 

「メビウスとナオミは〜のあたりには目が覚めてた」

 

「・・・この際はっきりと確認したいんだけど、

二人はアンジュの事を許しているの?」

 

サリアが意を決したように聞いてきた。

 

「・・・俺が許せなかったアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギだった頃のアンジュはもういない。今の

あいつはただのアンジュだ。あいつを許さない理由なんてない」

 

「私も、アンジュがココやミランダを殺した過去を許さないより、アンジュ達と未来に向かって進みたい。ココやミランダもそれを望んでると思うし」

 

「二人はアンジュちゃんの事を許してるのね。

きっといつかヒルダちゃん達もアンジュちゃんを

許すわ。

今はまだ気持ちの整理がついていないだけよ」

 

エルシャがそう言う。

 

「さてと、それじゃあ俺はそろそろ失礼するぜ」

 

そう言ってメビウスは本を片手に部屋を後にした。

 

メビウスはロッカールームに向かい、パイロット

スーツに着替えた。

 

そしていつものように、フェニックスに乗り込み、空へと飛び立つ。

 

しかしメビウスは内心では心ここにあらずに近い

状況だった。

 

(・・・未来に向かって進みたい・・・か。

 

・・・俺も進めるのかな?あいつらと一緒に)

 

 

 






次回!遂にみんな大好き?あの変な体質の男が出ます!

果たして俺は表現をR-15に抑え込めるのでしょうか!?

多分次あたりでオリジナルにも多少の変化は与えます!


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第19話 アンジュ喪失 前編



今回遂にあの男が出ます!

ちなみに第一中隊のポジションですが。

フォワード的存在がアンジュ、ヒルダ、ヴィヴィアン。

ミッドフィルダー的存在がサリア、ナオミ、メビウス。

ディフェンダー的存在がロザリーとクリスとエルシャです。

メビウスはたまにフォワードに、ロザリーはたまにミッドフィルダーになります。

それでは本編の始まりです!




 

 

メビウスが独立した調査権を使い、空を飛んで

いた時のアルゼナル。

 

サリアの部屋ではサリアが何かを書いていた。

 

「ここでクイズです。サリアは何を書いているんでしょーか?」

 

ヴィヴィアンがいつものようにクイズを出す。

 

「今後いかに部隊を統率するか、その案を書いてるのよ」

 

「な〜んだ、アレの続きかと思ったのに」

 

「アレ?」

 

「ホレ、サリアがこっそり書いてるアレだよ。

男と女がイチャイチャチュッチュする話」

 

「!?」

 

そう。彼女は人には知られたくない趣味が二つある。

 

そのうちの一つが恋愛小説の執筆だ。

 

しかし、それがヴィヴィアンにはバレていたのだ。

 

「ああ!私こわい。これからどうなっちゃうの?

・・・大丈夫だよ。ボクにその体を任せて全てを見せてごらん?」

 

ヴィヴィアンが大袈裟に身振り手振りで小説のワンシーンを再現する。

 

次の瞬間、サリアのナイフがヴィヴィアン目掛けて飛んで来た。

 

「ウワォ!」

 

間一髪。なんとか避ける事に成功したヴィヴィアン。

 

これも日々の訓練の賜物故だろう。

 

サリアの顔を見てみると、鬼気迫る顔をしていた」。

 

「見たの・・・?」

 

「あ・・・あう・・・あ・・・」

 

「次勝手に引き出し漁ったら・・・刺すわよ?」

 

サリアがドスの効いた声でそう言ってきた。

 

「ご・・・ごめんちゃい。でも本当に面白かったよ」

 

「・・・そう」

 

作品を褒められた事にサリアは多少うれしそうだった。

 

「グ〜〜〜」

 

ヴィヴィアンの腹が鳴った。

 

「おお!ご飯タイムだ!サリアも一緒に行く?」

 

「私はいいわ。一人で行きなさい」

 

「わかったよー」

 

ヴィヴィアンはそう言うと、部屋を後にした。

 

(・・・今の隊のままじゃ、いつかバラバラになってしまう。

それだけじゃない。アンジュもきっと死ぬ。

死なせない!私の隊では誰一人!)

 

一方こちらはヒルダとロザリーとクリス。

 

この三名はゾーラ隊長の部屋にいた。

 

「なぁ?なんでヒルダがここの部屋の鍵持ってるんだ?」

 

「ゾーラから合鍵をもらってたから。ゾーラが目覚めるまでは、この部屋はあたしのものさ」

 

「それって・・・んん!?」

 

ヒルダはロザリーにキスをした。

 

「この部屋、それだけじゃない。あんたらも今はあたしのモノ。だから全部あたしに任せな。隊長の敵討ちも。いいね?」

 

「はっ・・・はい」

 

「いい子ね」

 

ヒルダはクリスにキスをする。

 

 

 

 

 

 

食堂ではヴィヴィアンがアンジュの前に来ていた。

 

「これあげるー!」

 

「・・・・・・何それ?」

 

アンジュの前に出されたそれは、一見奇怪なものであった。

 

「ペロリーナだよ!」

 

ペロリーナ。その単語を聞いたことがあった。確か自分が幼かった頃に流行ったマスコットの名前だ。

 

一時期は大ブームとなっていたが、ミスルギ皇国ではすでにブームは去っていた。

 

名前を聞くまで、見ても思い出すことができなかった。

 

「私とアンジュとヒルダとでフォワードを務めれば。今よりすっごい連携とか出来ると思うんだよね。あっメビウスも誘ってみるか!」

 

「だからそれはその証みたいなもん!

 

「くれるってことは、好きにしていいのよね?」

 

「もっちろん!」

 

「・・・ボチャ」

 

次の瞬間、アンジュはそれをカレーの上に落とした。

 

そしてアンジュは席を立った。

 

「アンジュ・・・」

 

ヴィヴィアンはそれを拾い上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メビウスが帰還した。

 

やはりというべきか、記憶の手がかりはなかった。

 

ロッカールームで着替え、今日買った歴史書を手に持つとシャワールームへと向かった。

 

シャワールームはメビウス以外誰もいなかった。

 

(今頃殆どは食事か自室か)

 

そう思いシャワーを浴びる。

 

シャワーを浴び終わると、制服を着て、食堂を目指す。

 

食堂ではエルシャのカレーが振舞われていた。

 

席を探していると、珍しくヴィヴィアンが一人席なのに気づいた。

 

「よぉヴィヴィアン。お前が一人だけってのは珍しいな。

 

ヴィヴィアンの向かいに腰掛ける。

 

ヴィヴィアンはアンジュの残したカレーを食べていた。

 

「あっメビウス。そうだ!メビウス!これあげるよ!」

 

そう言うとヴィヴィアンはポケットからペロリーナを取り出した。

 

「・・・・・・なんだそりゃ?」

 

「メビウスも知らないの!?ペロリーナだよ!」

 

ペロリーナ。脳内に検索をかけてみる。

 

そんなものの存在は知らない。未知の存在が目の前にいる。

 

「まぁ、くれるんなら有り難くもらうぜ」

 

「カレーの中に落とさないでね」

 

(カレーに落とすって、どんな奴がやるんだよ。そんな事)

 

「ヘックション!」

 

自室に戻ったアンジュはくしゃみをした。

 

(風邪かしら?)

 

 

 

 

 

部屋に帰ると、とりあえずペロリーナをタンスの中にしまった。

 

飾ろうにも飾るところがないのだ。

 

そしてハンモックに横になると今日買った歴史書に目を通した。

 

そこにはマナの光手に入いったことで、人類は平和の道を歩いていけたという内容が前文に書かれていた。

 

それによって、環境問題やエネルギー問題、更には食料問題まで。ほぼ全ての問題が解決したと書かれていた。

 

(人類が手に入れた平和の力・・・か)

 

(そしてそれを持たないノーマ達が世界から憎まれ、ここに連れて来られるのか)

 

メビウスは突然自分のいた世界の事を考えた。

 

(もしかしたら俺のいた世界もマナの光で溢れてたのかな?)

 

しかし、それはすぐに否定された。

 

マナの光で戦争はなくなったと記されていた。

 

ならブラック・ドグマはなんだ?

 

最初に見た悪夢を思い出す。

 

あれはどう見ても平和からは遠いものだ。マナの光が溢れている世界ならそもそもあんな兵器いらないはずだ。

 

その後ページを色々と見たが、どれもイマイチでメビウスの気をひくものはない。

 

しばらくは本を読んでいたが、後半になると、読むではなく目を通すだけになっていた。

 

読み終わると、メビウスは寝支度をした。

 

確かナオミは借金返済のため、今日は食堂で夜までエルシャの手伝いをするはずだ。

 

メビウスは部屋の電気を落とすと、ハンモックに横になりシーツを被った。

 

(もし例の悪夢会が見れたなら、色々と調べてみたいものだ。悪夢の世界で)

 

メビウスはそう思う。

 

やがて意識は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真夜中。ヒルダは誰もいない格納庫に潜入していた。その手には何かが握られていた。

 

ヒルダは目の前の機体に何かをしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メビウスは夢を見ていた。なぜか夢だと自覚していた。

 

新たな悪夢かと思ったが、それとは違うと気づく。

 

すると目の前に謎の男が現れた。

 

(あなたは・・・誰?)

 

「おいおい、お前そんな事も忘れちまったのかよ」

 

(!?返事をした!?それにこの話し方!まるで俺の事を知ってるみたいだ)

 

「あぁそうだ。俺はお前の事を知っている」

 

謎の何かはこちらが思った疑問に返事をしてきた。

 

(教えてくれ!俺は一体誰なんだ!?)

 

(なんのためにこの世界に来たんだ!?)

 

「残念だけどまだ話すべき時じゃないなぁ。だが安心しろ。今度この世界にやって来る予定だ。そん時に話してやるよ」

 

(なぜだ!?あなたは一体?)

 

「俺か?俺はな・・・」

 

次の言葉に、俺は耳を疑った

 

 

 

 

 

「俺はお前を殺す者だ」

 

(!?)

 

次の瞬間、再び意識は闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた。自分のいる場所がアルゼナルの部屋だと理解した。

 

(あの夢は・・・一体?これまでの夢とは違う・・・)

 

ふと隣を見るとナオミが寝ていた。

 

時間は4時半を回っていた。

 

(そろそろ点呼か)

 

そう思い、メビウスはハンモックの上でゆらゆらと揺れていた。

 

次の瞬間、それは鳴った

 

「ジリリリリリリ!」

 

基地内に警報が鳴り響く。

 

メビウスは驚く。ナオミも警報によって目が覚める。

 

「第一種遭遇警報発令!パラメイル第一中達は出撃準備へ」

 

直ぐに二人ともロッカールームへと向かう。

 

既に何名かはそこにはいた。

パイロットスーツに着替える。続々と第一中隊のメンバーがロッカールームに集まる。

 

「シンギュラー反応からドラゴンが確認された!

第一中隊はこれを殲滅する」

 

「イエス・マム!」

 

「サリア隊!発信します!」

 

その掛け声のもと、第一中隊の皆が発進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴンとの戦闘が終わった。

 

サリアはジル司令の元に報告に来ていた。

 

「ヴィルキスが堕ちた!?」

 

「やっと乗りこなせる奴が現れたと思ったんだけどねぇ」

 

ジャスミンが残念そうに言う。

 

「サリア、報告を」

 

「イ、イエス・マム」

 

「先の戦闘中、急にヴィルキスの胸部フィンが爆発、煙が出ました。

推力を失ったヴィルキスはドラゴンと絡み合いになりながら海中に」

 

「どうして・・・整備したときは機体の調子は良かったのに!?」

 

メイが疑問に思う。

 

しかしサリアには原因に目星がついていた。

 

(ヒルダ達だ)

 

証拠はない。けど、メイの言うことが本当ならば、

誰かがヴィルキスに何かをした事になる。

そんな事をする人間は限られてくる。

 

(私の責任だ・・・隊長の私の・・・)

 

「とにかく!機体は壊れてはいないんでしょ!?直ぐに回収班を編集しないと!」

 

メイが慌てた口調で言う。

 

「そうね。今はヴィルキスの回収を優先すべきね」

 

「アンジュもだ」

 

ジル司令が付け加えるかの様に言う。

 

「アンジュも必ず回収しろ。・・・最悪、死体でも構わん」

 

その言葉に皆黙る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いゃ〜大漁大漁。これで当分食うに困らないぞ〜」

 

その島で男は歩いていた。手にはそれなりの魚を持っていた。

 

(・・・・・・何やってんだ俺・・・他の生き物の命を奪って・・・生きて・・・一体なんのために?)

 

その時、彼は砂浜に乗り上げていた機体を見つけた。

 

(あれは・・・ヴィルキス・・・!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

発着デッキでは既にアンジュの捜索隊が編成されていた。

 

輸送機に搭乗する編成隊にサリアとヴィヴィアン。エルシャとナオミがいた。

 

彼女達は予想されている海流ルートに流された事を前提に捜索することになった。

 

その一方で別の捜索隊として、メビウスが駆り出されていた。

 

メビウスは、機体が別の海流にのり流された説を考え、フェニックスで捜索することになった。

 

「いい!優先事項はアンジュの回収よ!」

 

ヴィルキスの回収を優先せよと言わないのは、彼女なりの気配りゆえか。

 

「アンジュはまだ生きてるよ!私わかるもん!」

 

「そうね!きっとお腹空かせてるわね」

 

エルシャは、腹を空かせてるだろうからと食料を持って来ていた。

 

「怪我してるかもしれないし、治療セットも持ってきたよ」

 

ナオミは救急箱を持っていた。

 

そしてサリア達は輸送機へと乗り込んだ。

 

メビウスは輸送機が出た後、捜索に出撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、イタ姫様。どうした?煙が出てるぞ?」

 

「助けてやろうか?」

 

「!失せろ!ゴキブリ!」

 

アンジュは夢で、先ほどのやり取りを見ていた。

 

 

 

 

 

 

「!」

 

アンジュは意識が覚醒した。

 

見たことない天井が視界に入った。

 

(ここは?)

 

身体を起こそうとする。しかし動かない。手が拘束されていた。

 

そして自分が全裸なのにも気がついた。

 

そしてアンジュの隣には男が添い寝していた。

 

男は目を覚ます。

 

「あ、気がついた?」

 

「あ・・・え・・・あ・・・」

 

(ええ〜〜〜〜!!!え!?え!?え!?え!?)

 

「あっ・・・これは・・・その・・・海水で塗られて体がすごく冷えてて・・・も、勿論何もしてないよ!」

 

(何!?誰!?何故!?裸!?縛られてる!?)

 

男は説明しているがアンジュの混乱は収まらない。

 

「ごめん。一応拘束させてもらった・・・勿論こっちからは何もしてないよ」

 

「とりあえず?なにか飲む?」

 

隣を見るとパイロットスーツと武器が置かれていた。

 

「とりあえず落ち着いて。君の話を聞かせてくれないか?」

 

男は飲み物を片手にアンジュに近寄っていく。

 

その時だった。男は床に落ちていた瓶に足が滑る。

 

「うわっ!?わぁぁぁぁっ!」

 

男はアンジュに倒れ込む。

 

アンジュの顔に飲み物がかかる。

 

反射的に目を瞑る。

 

体に妙なものを感じた。

 

アンジュはゆっくり目を開ける。

 

・・・男はアンジュの胸に手を乗せながら股間に顔を埋めていた。

 

アンジュの顔が一気に赤くなる。

 

「ごっごめん!そんなつもりじゃ・・・!」

 

「いや〜〜〜っ!」

 

男はアンジュの顔面に膝蹴りをかました。

 

トドメと言わんばかりにアンジュは男の腹を蹴り飛ばす。

 

男は地面に倒れこんだ。

 

アンジュは拘束されていたものを力任せに引きちぎると、パイロットスーツと武器を持ってその場から離れる。

 

(何!?なんなの!?あの男!?ここはどこ!?)

 

アンジュは暫く森を走っていたが、やがて海岸に出た。

 

そこにはヴィルキスがあった。

 

(ヴィルキ・・・ス?)

 

パイロットスーツに着替えて、ヴィルキスへと近く。

 

モニターの電源を押してみるがつく気配はない。

 

(どうして?)

 

アンジュが疑問に思う。外を見てみた。

 

(フィンが・・・焦げてる・・・?)

 

フィンの中を調べてみると、焦げた下着が出てきた。

 

「!?この下着・・・あいつだ!」

 

ヒルダの顔が浮かび上がる。

 

「このっ!このっ!この!この!」

 

アンジュは下着を引き裂くと、砂浜に叩きつける。

そして憎々しげにそれを踏みつけた。

 

「酷いじゃないか・・・君は命の恩人になんて事を・・・」

 

後ろを振り向くとあの男がいた。

 

反射的に銃を取り出し男の足元に向けて撃った。

 

「うわっ!!わぁぁぁ!」

 

「それ以上近づいたら撃つわ!」

 

「わぁぁっ!落ち着け!俺は君に危害を加えるつもりはない!てかもう撃ってるし!」

 

アンジュは興奮気味言う。

 

「縛って脱がせて抱きついて!私が目覚めなければもっと卑猥で破廉恥な事をするつもりだったんでしょ!」

 

「もっと卑猥でハレンチって、

 

例えば君が気を失ってる間にその豊満な形のいい胸の感触を楽しんだり、無防備な肉体を隅々まで味わおうとしり、女体の神秘を存分に観察しようとか。そんなことする人間に俺が見えるのか?」

 

・・・ナレーターの立場から言わせてもらう。

 

こいつ・・・変態だ!

 

無論、そんな事を言われてアンジュが大人しくしているわけがない。

 

「そんな事をするつもりだったの!?」

 

アンジュは男に発砲した。

 

「うわぁぁ!違う違う!落ち着け!」

 

そのときだった。男の足にカニのハサミが近づいてきた。

 

男の小指をはさむ。

 

「痛ってぇぇぇ!」

 

男は痛みで前に倒れこむ。

 

アンジュの体にぶつかった。

 

アンジュも倒れ込む。

 

・・・男の顔がアンジュの秘部に埋める。それどころかパイロットスーツの隙間から再び直接胸を触った。

 

一体何をどうすればこの様な状態になるのだろうか。

 

アンジュの顔の赤さが最高潮に達した。

 

「ちっ違うんだ!これは!」

 

男の悲鳴と銃声が海岸に鳴り響いた。

 

 

 

「一度ならず二度も!変態!ケダモノ!発情期!」

 

そう言いアンジュは男を森の中の蔓で吊るすとヴィルキスへと向かった。

 

「おーい!違うんだ!今のは事故なんだ!」

 

男の弁明はアンジュには届かなかった。

 

 

 

 

 

通信機は故障・・・非常食も積んでない。

 

「私達ノーマの棺桶よ」

 

以前サリアが言っていた言葉を思い出す。

 

(そうね・・・死人は食べる事も飲む事もしないわよね・・・)

 

雨が降ってきた

 

周りを見ると機体の下半身は既に海に浸かっていた。

 

(いつのまに!こんなに潮がみちて)

 

このままではここも安全ではなくなるかもしれない。

 

アンジュは急いでヴィルキスから離れた。

 

雨は降り続いている。

 

アンジュは森へと入っていった。

 

歩きながら考える。

 

(自分はこれからどうすればいいのだろう。

 

機体は動かず通信機も使えない)

 

雷が落ちてきた。

 

目の前の木に落ちると木は燃え始めた。

 

「ひっ!?」

 

急な事でアンジュは頭を抱え、うずくまる。

 

近くに木に空洞を見つける。そこに避難する。

 

※なお実際には落雷がある時に木に避難するのはかなり危険なので

絶対に真似しないでください。

落雷があったら近くの丈夫なビルなどにお逃げください。

 

そこで雨を凌ぐ考えだ。

 

(!?)

 

足に痛みを感じた。

 

足の所に何かが噛み付いていた。

 

それは蛇だった。

 

「このっ!」

 

蛇を引き剥がすと、そこらへんに投げ捨て、その場所を後にした。

 

しばらく歩くと意識が朦朧としてきた。

 

どうやら先程の蛇は毒蛇だったようだ。

 

目眩がした。アンジュは地面に倒れこむ

 

「・・・たす・・・け・・・て」

 

アンジュはそう呟く。誰も助けになどはこない。

 

「おっおい!君!」

 

目の前の木に吊るされていた男はアンジュに気づくと、蔓をナイフで切った。

 

「おい君!大丈夫か!?」

 

脈に触れた。明らかに弱くなっている。

 

(まさか毒蛇に!?)

 

男は噛まれた跡を探す。

 

足の付け根部分にそれはあった。

 

男は口を近づけ毒を吸い出す。

 

「ぺっ!」

 

毒を吐き出す。そして再び毒を吸い出そうと口を近づける。

 

しばらくはこれの繰り返しであったが、やがて男はアンジュを背負い、小屋へと足を進めた。

 

 






本編見ていた時、アンジュと男のやりとりはかなり爆笑しました。

この男はなんでこんなにラッキースケベの体質があるのでしょうか。

正直少しだけ羨ましい。

次回!アンジュは一体助かるのか!?


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第20話 アンジュ喪失 後編


祝!第20話突破!

この調子で完結目指して頑張って走って行きます!

今回!メビウスの夢に出てきた謎の男が遂に現れます!

果たしてどんな役回りなのか!?

それでは本編の始まりです。



 

アンジュが意識を失っていた頃、アルゼナルでは輸送機が補給のために戻ってきていた。

 

またメビウスも定時報告の為アルゼナルへと帰還していた。

 

「補給完了まで後30分です」

 

「遅い!15分でやれ!」

 

様々な人が動いていた。

 

「日も暮れるってのまた捜索かい?精が出るねぇ」

 

ヒルダが水分補給中のエルシャに話しかける。

 

「わっかんないねぇ。生きてるかどうか判んないのに探すだなんて」

 

「生きてるかどうか判らないから探すのよ」

 

「ヒルダちゃん達がアンジュちゃんを許せないのも分かるわ。

でも彼女はちゃんと戻ってきた。ケジメをつけてね。どんなに気に入らなくてももう仲間なのよ?探さないわけにはいかないでしょう」

 

「それにアンジュちゃんって似てるのよ。昔のヒルダちゃんに」

 

その言葉にヒルダの顔が曇る。

 

「似てる?あんなクソ女と・・・?そんな事言ってると・・・落としちゃうよ?アンタも・・・」

 

「やっばり・・・あなたが落としたのね・・・」

 

エルシャが睨む。

 

沈黙が続いた。

 

「んにしてもわかんねぇなぁ、あいつは」

 

ヒルダが見ながらそう言う。

 

「この物資どうします?」

 

「そっちに持ってってくれ!」

 

「わかりました!」

 

メビウスは輸送機の補給の手伝いをしていた。

 

「なんであいつはあんなやつを助けようとするのかね」

 

「別にアンジュちゃんだからじゃないわ。もしヒルダちゃんが、いや、仲間が同じ目にあったら、多分彼は助けに行こうとするわ」

 

「けっ、所謂カッコつけってやつか」

 

ヒルダが悪態をつく。

 

「そんなんじゃないわ。ただメビウスくんはね・・・不安なのよ」

 

「不安?」

 

エルシャの言葉にヒルダが疑問に思う。

 

「私達は色々な過去の出来事や記憶がある。でも彼にはそれがない。もともとあった記憶はおろか、これまでの自分の事さえ。それが不安でたまらないのよ」

 

「だから彼は、こうなりたい。こうでありたいと思える自分を演じているのよ。勿論、そこで芽生えた感情には嘘はないわよ。」

 

「でもね、彼はあの優しさの陰には、私達には計り知れない恐怖と孤独を感じているのよ」

 

「ちっ!あたしにゃわかんねぇな」

 

ヒルダは面白くないように舌打ちをすると、その場を離れた。

 

「ほっきゅう〜ほっきゅう〜おろ?ヒルダ?」

 

ヴィヴィアンが声をかけたがヒルダは無視する。

 

その時デッキから声が聞こえた。

 

「輸送機の補給作業、終わりました!」

 

「よし、今度は少し遠くに行くわよ」

 

サリアがそう言う。

 

 

 

 

 

 

 

一方こちらはアンジュのいる島。

 

そこで男は、アンジュの介抱をしていた。

 

今彼は、アンジュの服を脱がせて、汚れを拭き取っていた。

 

(毒は吸い出したし薬も飲ませた。あとは本人の生命力次第か」

 

(・・・ヴィルキス・・・か)

 

彼は昔の出来事を思い出す。

 

「父さん!母さん!!」

 

彼は父と母の死体に泣きすがっていた。

 

足音がした。後ろを振り返るとそこには女の人がいた。

 

その人の後ろにはヴィルキスがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

アンジュは目を覚ました。

 

アンジュは動こうとするが、まだ体に痺れが残っているのか、動きがぎこちない。

 

無理しないほうがいいよ。毒は吸い出したけどまだ痺れは残っているはずだよ

 

「!」

 

目の前には自分の貞操を二度も危険に晒した男がいる。

 

アンジュは彼を睨みつけた。

 

「言っとくけど、動けない女の子にエッチなことなんてしてないからね」

 

彼はアンジュの気持ちを察したのか、そう言う。

 

「まずは食べて休んで回復しないと。話はそれからだよ。

はい食事。君、何も食べてないだろ?」

 

「いらないわよ。そんなわけのわからないもの」

 

「グ〜〜〜」

 

アンジュの腹が鳴った。

 

思えば彼女は、昨日カレーを途中で食べるのをやめていた。

 

その後は朝飯を食べる暇なく出撃があった。丸一日程度何も食べていないのだ。

 

「変なものなんて入ってないよ」

 

空腹には勝てず、アンジュは口を開く」

 

「・・・不味い」

 

「え?」

 

しかしアンジュはまた口を開いた。どうやら気に入ったらしい。

 

「気に入って貰えて良かったよ。ウミヘビのスープ」

 

(!?)

 

「少しは信用してくれた?君に危害を加えるつもりは無いんだ」

 

「あんなことしといて、よく言えるわね」

 

「それは事故だって。だからもう、蹴ったり撃ったり吊るしたいはしないで欲しいな」

 

「・・・考えておく」

 

その時アンジュはあることに気がついた。

 

「ねぇ?さっき毒を吸い出したって言ったわよね?」

 

「言ったよ?」

 

「口で?」

 

「口から」

 

「ここから?」

 

アンジュは自分の傷口を見せた。

 

「あっいや!その・・・!それは!」

 

「ん〜!ガブ!」

 

「わーっ噛んだ!痛い痛い痛い痛い!」

 

「噛まないとは言ってない!」

 

 

 

次の日、アンジュはヴィルキスの元へと行った。

 

するとそこに彼がいた。手には工具などが握られていた。

 

「やぁ、もう起きて平気なのかい?」

 

「ええ・・・ねぇ?何をしてるの?」

 

「修理・・・のマネゴトかな?」

 

「出来るの!?」

 

「ここは時々海流に乗ってパラメイルの残骸が流れ着くことがあって。それを調べてたらなんとなく・・・ね・・・」

 

「・・・なんで手で修理を・・・?マナを使えばいいじゃない。

パラメイルの事も知ってたり・・・あなた・・・何者なの?」

 

「タスク・・・俺はただのタスクだよ」

 

その男はタスクと名乗った。

 

「いや、そういうことじゃなくて」

 

「あーやっぱり。出力系の回路がダメになってるのか」

 

男は話を変える。

 

「でも、これさえ直せば、無線が使えるようになるはずだよ。そうすれば仲間が助けに来るはずだよ」

 

「仲間なんていないわ」

 

「え?」

 

「連絡してもきっと誰も来ないし、帰っても誰も待ってないもの」

 

 

お互いしばらく黙っていた。

 

 

「ならさ、しばらくはここにいないか?どうせこの回路を直すには、少し時間がかかる。もちろん、変なことはしないよ」

 

「・・・そうさせてもらうわ」

 

「そうだ、そこのHEX【ヘキサゴン】レンチを取ってくれる?」

 

「?これ?」

 

「!?」

 

アンジュはいやらしい視線を感じた。

 

視線の主はタスクだった。

 

手に持っていたレンチをタスクに向かってぶん投げた。

 

「痛!」

 

「今なんかいやらしいオーラが出てた!」

 

それから時間は流れた。

最初はタスクを木に縛り付けて寝ていたアンジュも、数日経つと、部屋を分けてアンジュと寝るようになった。

 

食料は釣りなどで魚を確保していた。

 

そうして一週間が経った。

 

「明日になると無線機が直ると思うよ。そうすれば連絡も取れるようになるはずさ」

 

「ありがとう、でも連絡しても、誰も来ないわ。あそこに私を探してくれるような人はいない」

 

「それはきっと違うよ。仲間なんだろ?ならきっと必死になって探しているはずだよ」

 

その言葉にアンジュはヴィヴィアンを思い出す。彼女だけじゃない。エルシャを思い出す。ナオミを思い出す。メビウスを思い出す。

 

あの四人だけは、私が突き放しても、なぜか仲間として接してきた。

 

「まぁ、もしそれでもダメだとした、ここで暮らせばいい。その・・・変なことはもうしないから」

 

そう言うがタスクはこれまで一日最低でも一回は事故でアンジュの体にダイブしてきたため、あまり説得力がない。

 

「・・・そうね、それもいいのかもね」

 

意外にもアンジュは乗り気であった。

 

「キレイな星空・・・星なんて・・・最近ずっと見てなかった」

 

「君の方が綺麗だよ」

 

その言葉にアンジュは驚く。

 

「タスク・・・」

 

血次の瞬間、タスクはアンジャに覆い被さった。

 

「ちょっと!どうしたの!?いきなり」

 

「何か来る!」

 

タスクの目線の先を見る。

 

するとそこにはアンジュの知っている機体が見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その機体はフェニックスだった。

 

「フェニックス!?メビウスなの!?」

 

アンジュが驚いて声を上げる。

 

「知り合いかい!?」

 

アンジュは火を炊く準備をしていた。

 

だがメビウスは多少様子が変だった。

 

「約束通り来たぞ!とっとと姿を見せろ!!」

 

なぜか外にも聞こえるようにオープン回線で通信をしていた。

 

「あいつ?一体誰に言ってるの?」

 

するとフェニックスの目の前の空間に穴が空いた。

 

そしてそこから謎の機体、ブラック・ドグマが現れた。

 

しかしその見た目は違っていた。

 

これまで戦っていたものとは色々と違う。

 

頭部にツノが付いており、機体の色も赤色をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は数時間前に遡る。

 

「今回もアンジュに関わる手がかりはなしか・・・」

 

メビウスはあれからアンジュの探索に追われていた。

 

先程の探索ではシンギュラーに出くわし、ドラゴンと戦闘をした。

 

結果的には一体だけどこかへと逃げてしまった。

 

「ねぇメビウス?少し休んだ方がいいよ。ここんところほとんど出撃してるよ」

 

ナオミが心配そうに言う。

 

「・・・少しだけ休ませて貰うか」

 

そう言ってメビウスはパイロットスーツのまま、ロッカールームのベンチに横になった。

 

これまでの疲労のせいか、メビウスは直ぐに眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見ていた。それは以前謎の男が語りかけてきた夢だった。

 

(この夢は・・・前にも見た!)

 

「その通り!」

 

目の前を見ると謎の男がいた。

 

「お前は誰なんだ!一体何を知っている!」

 

メビウスは声を荒げながら聞いた。前回お前を殺す者なんて名乗られては、そうそう穏やかに接するわけにはいかない。

 

「随分な態度じゃねえか。こっちはいい情報持ってきてやったってのに」

 

「いい情報だと・・・」

 

「お仲間のアンジュがどこにいるか知りたくはないのか?」

 

「!?お前!なんでそんな事を知っている!」

 

「まぁ落ち着けって、その場所を教えてやる。そこに来い。

俺もそこに行く。お前を殺しにな」

 

「まぁお前が来れば冥土の土産にお前の知りたがってる事を少しだけ教えてやるよ」

 

「なに!?」

 

「お前の記憶だ」

 

その言葉にメビウスは押し黙る。

 

「少しだけ教えてやるよ。例のガス実験についてだ」

 

ガス実験。恐らく2回目の悪夢の事を言っているのだろう。

 

「もしお前が来ればあの実験の意味だけは教えてやるよ。そんじゃ、座標を教えてやるよ。

 

そう言いうと彼はアンジュのいるという場所を教えた。

 

「じゃあ早く来いよ。ぶっ殺されにな」

 

そう言うとメビウスの意識は再び失われた。

 

 

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

目が覚める。まだ寝てから一時間も経っていない。だが彼はフェニックスへと向かう。

 

発着デッキではナオミとエルシャとヴィヴィアンとサリアがいた。

 

「メビウス!?一体どうしたの!?」

 

「アンジュの居所がわかった!そこに行ってくる!」

 

「わかったって。本当なの!一体どこなの!?」

 

メビウスは座標を輸送機に送ると、フェニックスを発進させた。

 

 

 

 

 

そして今に至るわけだ。

 

「よぉ、よく来たじゃねえか。ぶっ殺されによ」

 

「まずお前のお仲間だ。その島にいるぜ」

 

そう言うと機体は下の島を指差した。するとそこで何かが動いた。

 

(アンジュ。無事だったか)

 

メビウスは内心ホッとした。

 

「さてと、約束だったな。例のガス実験について教えてやるよ」

 

「答えろ!あれは一体なんなんだ!」

 

「あれはな、人体強化ガスだ」

 

「人体強化ガス?」

 

「そう。そのガスは所謂ドーピングだ。もっとも、普通のドーピングじゃない。お前も少しは心当たりあるんじゃないか?周りとの身体能力の差に」

 

違和感はたしかにあった。アルゼナルでの訓練。俺だけ色々と桁違いな結果が多かった。

 

「だけどあのガスにはひとーつだけ重大な欠点があるんだ」

 

「あれを身体が受け付けるかだ。まぁこれまでの被験者のうち殆どが生きる屍となった。たまーに生き残る奴がいたが、そいつらはもう人間じゃ無くなった」

 

「そしてお前は!その実験に耐えぬいたきちょーなサンプルだ。そしてお前は、俺たちブラック・ドグマのメンバーになったんだ」

 

「な!?」

 

耳を疑った。

 

(俺がブラック・ドグマの一員!?)

 

「最も、お前はどうやら奴らのスパイだったみたいだけどな。でも一時期は一緒に戦ってたぜ」

 

「奴ら!?俺はどこかの組織に所属していたのか!」

 

「あぁ!もっとも、そこまで答える義理はねぇけどな」

 

 

 

「さてと、もういいだろ?これ以上の記憶はあの世で神様にでも教えてもらうんだな。それじゃあブッ殺しやるよ!」

 

そう言うとそいつはナイフを取り出し迫ってきた。

 

こちらもサーベルでそれを受け止める。

 

「懐かしいなぁ!お前は裏切った後は、こうして俺達と殺し合いをしてたんだぜ、裏切る前のお前は、いや!本来のお前は任務に忠実で、殺せと言われれば女子供でも迷わず殺す!人の命なんてそこら辺の紙屑程度に扱う!そんなやつだったじゃねえか!」

 

「黙れ!俺はそんな人間じゃない!」

 

俺はそう言うと相手の機体を蹴り飛ばした。

 

「記憶を失って!こっちの世界に来て!この世界を守るヒーローごっこなんてしてたからか!

お前はもっと重大な使命があったじゃねえかよ!そん時お前はこう言ってたぜ!この世界を変えてみせるって!へっ!それなのにその使命を忘れちまうとは!

 

今頃お前を送り出した奴は草葉の陰で泣いてやがるぜ!」

 

すると例の機体は銃を取り出し、こちらに放つ。

 

それらをアイ・フィールドで防ぐ。

 

「いけ!ファング!」

 

脚部から牙達が放たれた。それらは目の前の機体に向かって突き進む。

 

「へっ!ファングか!お前がその力を手に入れたのも!例のガス実験の影響なんだぜ!」

 

その機体前面に何かが出た。

 

それはアイ・フィールドだった。

 

それらはなんとファング本体さえも防いでしまった。

 

「その機体もアイ・フィールドを搭載してるのか!?」

 

「そうよ!それよりどうした!?機体の動きがぎこちないぞ?」

 

メビウスは心の中では混乱していた。

 

何故自分がスパイとはいえ、奴らの一員になってたのか。

 

一体自分のこの世界での使命とはなんなのか。

 

自分の所属していた組織は一体なんなのか。

 

それらの迷いが機体の動きに現れ、それらが蓄積され、メビウスは徐々に追い詰められていった。

 

例のコンバットパターンもアイ・フィールドで防がれた。

 

このままではジリ貧になる。

 

 

 

その時だった。

 

突然そこにスクーナー級ドラゴンが現れた。

 

おそらく先程の探索時に開いたシンギュラーからの生き残りだろう。

 

スクーナー級ドラゴンは赤い機体に襲いかかってきた。

 

「邪魔すんじゃねぇよ!」

 

男はそう言うとスクーナー級ドラゴンを地面に向けて叩き落とした。

 

スクーナー級はアンジュ達の所に落ちてきた。

 

「アンジュ!」

 

「おいおい!久しぶりの殺し合いの最中に他人とお話しするのは良くないな!ほらよ!」

 

フェニックスはアンジュの救援に向かおうとするが、それを例の機体が邪魔をする。

フェニックスはそれに応戦する。

 

 

 

 

 

 

 

こちらはアンジュ達。目の前には手負いながらスクーナー級がいる。

 

ドラゴンは今度は二人を標的にした。

 

「くっ!この死に損ない!」

 

そう言いアンジュはナイフを構える。

 

タスクはヴィルキスの側で回路の接続に取り掛かっていた。

 

この回路さえ繋ぎ終えればヴィルキスは動かせるようになるのだ。

 

その間にアンジュがドラゴンと戦闘していた。

 

ドラゴンの翼がアンジュに直撃した。

 

「アンジュが倒れこむ」

 

「逃げて!」

 

しかし体を強くうち、直ぐには動かないでいた。

 

ドラゴンに襲われると思ったときだった。

 

回路の接続が終わった。するとアンジュの指輪が光った。

 

突然ヴィルキスがライフルを構えた。

 

そしてドラゴンに向けて放った。

 

玉は直撃し、ドラゴンは倒れ込んだ。

 

今がチャンスと踏み、アンジュはドラゴンの傷口にナイフを突き立てた。

 

血がアンジュの体にかかる。

 

だがアンジュは刺すのを止めない。

 

どれくらい刺しただろうか。

 

誰かに手を掴まれた。みるとタスクだった。

 

「・・・もう死んでる」

 

そう言うとアンジュは動きを止めた。

 

 

 

メビウス達は先程のアンジュのやり取りを見ていた。

 

「そうか、わかったぜ。あのアンジュってやつのせいで満足に戦えないんだな」

 

そう言うと男は銃口をアンジュ達へと向けた。

 

「今その不安材料を取り除いてやるよ」

 

次の瞬間。ビームが放たれた。

 

 

 

 

フェニックスは彼女たちを守るように、ビームを受けた。

 

アイ・フィールドを使えば逸れたビームがアンジュにあたる可能性があったため、使わなかった。

 

機体にビームが命中する。頭部をモニターにぶつける。

 

額から血が流れた。

 

「いいか!前の俺がどんな奴だったのかはわからない!

 

だけどな!俺は、目の前で仲間の命が捨てられる様な奴じゃなかったはずだ!

 

もし俺がお前の言うような人間だとしても!俺は生まれ変わってせる!」

 

 

 

・・・しばらく沈黙が続いた。

 

 

 

「・・・ハァァァァァ。なんだよそりゃ。お前完全に忘れちまったんだな。なにもかも」

 

男が呆れた声でそう言う。

 

「あーあ。つまんねぇ、やめだやめだ。今のお前をぶっ殺しても何にも楽しくねぇ。今日はお開きだ」

 

そう言うとそいつの後ろに、穴が現れた。

 

「逃げるのか!?」

 

「おいおい。言葉ばよ〜く選んで使えよ。撤退してやるんだぜ」

 

たしかに今のフェニックスでは間違いなくこのまま戦闘を続けても勝ち目はない。

 

 

 

「おまけにいい事教えてやるよ。俺の名前はガーナム。ブラック・ドグマの幹部だ。まぁ当分はこの世界での活動を自粛してやるよ。

 

せいぜいドラゴンからこの世界を守る正義の味方ごっこをしてるんだな。

そしてメビウス。お前が自分の使命を思い出したとき、お前がどうなるかを楽しみにしてるぜ。んじゃ、グッバイ」

 

そう言うとガーナムは穴の中へと消えていった。

 

穴はガーナムが入ると、静かに閉じていった。

 

 

 

 

「終わったのか・・・そうだ!アンジュは!」

 

そう思うとメビウスは機体をアンジュ達の元へと降ろした。

 

幸いアンジュは無事だった。返り血を浴びてはいたが。

 

「よぉ、久しぶりだな」

 

そう言ってアンジュの側によると、メビウスはタスクに気がついた。

 

「あなたが彼女の世話をしてくれたんですか?同じ中隊仲間として礼を言わせていただきます」

 

そう言うとメビウスはタスクに頭を下げる。

 

「あなた、なんでここに来たの?それにあの敵は?」

 

「そろそろ迎えが来るはずだ」

 

アンジュの質問に答えず、メビウスは続ける。

 

「迎え?」

 

「おーい!だれか聞こえてますかー?死んでいますかー?死んでいるなら死んでいるって言って下さーい」

 

(この声・・・ヴィヴィアン)

 

アンジュはフェニックスに駆け寄る。

 

「こちらアンジュ!生きてます!救助を要請します!」

 

「アンジュ!無事なのね!フェニックスのコックピットから応えてるってことはメビウスとあったのね。」

 

通信先でナオミが応答した。

 

輸送機の音が近づいてきた。

 

 

 

「私・・・帰るわ」

 

アンジュがタスクに言う。

 

「今はあそこが・・・私の帰る場所の様な気がしたから・・・」

 

「それに・・・やり返さないといけない奴がいるし」

 

アンジュの脳内にヒルダが浮かんだ。

 

「いいこと?私と貴方は何もなかった。何も見られてないし、何もされてない!どこも吸われていない!いい!」

 

「はっはい!」

 

「お前・・・どんな生活してたんだよ」

 

隣にいたメビウスが疑問に思い尋ねる。

 

「あなたも!この男の事は誰にも言わない事!いいわね!」

 

「おう」

 

メビウスも二つ返事で納得した。

 

「でもタスク、ありがとう。あなたがいなかったら、私死んでた」

 

「・・・名前、聞いてもいいかな?」

 

「アンジュ。私はアンジュ」

 

「いい名前だね。じゃあ」

 

そう言うとタスクは森の奥へと消えていった。

 

 

 

輸送機内ではアンジュが飲み物を飲んでいた。

 

なお、メビウスは先程の戦闘での怪我の治療をしていた。

 

因みに輸送機にはヴィルキスとフェニックスが収納されていた。

 

「ヴィヴィアン、エルシャ、サリア、ナオミ、メビウス。ありがとう」

 

「アンジュ・・・今名前・・・」

 

ヴィヴィアンが驚く。

 

「ありがとう。探しに来てくれて」

 

「ううん、メビウスだよ。アンジュの居場所を見つけたのは」

 

「そうね。確かにメビウスが指定したポイントに私達は向かった。

そしたら貴方がいたわけ。ねぇメビウス?なんでわかったの?」

 

「・・・ガーナムの奴が場所を教えてきた」

 

「ガーナム?なにそれ?」

 

「・・・とりあえず寝かせてくれ」

 

サリアの質問に答えず、そう言うとメビウスは床に横になった。しばらくして寝息が聞こえ出した。

 

「まぁ今回はメビウスが一番頑張ったし。今は寝かせましょ」

 

「そうだね」

 

やがてアンジュがヴィヴィアンに尋ねた。

 

「で?ヴィヴィアン。ペロリーナだけどまだある?私のコックピット、何にもないから」

 

「・・・うん!」

 

するとヴィヴィアンはポケットからペロリーナを取り出した。

 

「ちょっとカレー臭いけどいい?」

 

「・・・やだ」

 

4人は笑った。そうして一同は、アルゼナルへ帰還するため、進んでいった。

 





原作では冷凍されたドラゴンの部分でしたが今回はオリジナルの展開も必要なのでドラゴンではなく、ブラック・ドグマの幹部との戦いに変えました。

そして、原作通りアンジュを血濡れされるためにドラゴンもなんとか出しました。

因みに第3章の終了後に、現段階でのオリキャラ図鑑を作る事にしました!
そこでオリキャラの敵の機体についても詳しく解説します。


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第21話 彼等らしく


今回は前回書けなかったタスクの決意回です!

そしてメビウスも決意を新たにする回です!

今回はかなり短めです。

因みにメビウスとナオミに関してははっきり言いましょう!

くっつけたいです。



 

輸送機に揺られ、五人はアルゼナルへと向かっていった。

 

 

 

時を同じくして、タスクは島のある所にいた。そこは銃にヘルメットで作られた彼の仲間の墓であった。

 

しばらく彼はそこにいた。

 

やがてタスクは洞窟の中に入っていった。

 

シーツを剥がす。そこにはパラメイルがあった。

 

(父さん・・・母さん・・・やっと見つけたよ・・・)

 

(父さんと母さんが死んで・・・仲間を失って・・・ヴィルキスを守るという自分の使命に向き合うことから逃げていた)

 

(この森で・・・一人死ぬことも出来ずにその日暮らしを送っていた)

 

(そこにヴィルキスと共にアンジュが現れた。凶暴で、人の話を聞かなかって、まるで野獣で、本当に彼女を選んだのか疑わしかった・・・)

 

(でも・・・血にまみれても戦い、生きようとする姿は・・・美しく・・・眩しかった・・・。

 

(俺も生きよう・・・!!彼女の様に!自分の手と足で!)

 

(ただのタスクは今はいない)

 

(ここにいるのはタスク。ヴィルキスの騎士、イシュトヴァーン。

メイルライダーバネッサの子タスク!)

 

(そして・・・アンジュの騎士だ!)

 

決意を新たにタスクは島を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輸送機ではメビウスが目が覚ましていた。

 

しかしメビウスは終始無言だった。

 

「もうすぐアルゼナルよ」

 

サリアがアルゼナルへの帰還ルートに入る。

 

そしてアルゼナルに着く。

 

「ちっ!生きてたのかよ」

 

輸送機から出てきたアンジュをみて、ヒルダ達はそう言う。

 

ヒルダ達は面白くないようだった。

 

「ええ!生きてたわよ。残念だったわね。殺し損ねて」

 

「なんの話かな?」

 

ヒルダはしらを切るつもりだ。

 

「まぁまぁ、今日はアンジュちゃんの生存祝いで美味しいものでも食べましょうよ」

 

エルシャがその場を持ち直そうとそう言う。

 

美味いものにありつけると聞き、ヒルダ達は文句も言わずについて来た。

 

食堂に向かうと、ピザの解凍中のようだ。

 

「それにしてもよく無事だったわね」

 

サリアが驚いた風に言う。

 

「まぁ島に流れ着いてからは自給自足の生活でなんとかやってきたわ。あの島には工具とかも残ってたし。直して帰ろうとも考えたわ」

 

「けっ!メビウスが見つけなければそのままだったな。」

 

ヒルダが悪態をつく。

 

「そういえばメビウスは?」

 

その時メビウスがその場にいない事に皆が気づいた。

 

「多分部屋にいるんじゃないか?」

 

「そういやロッカールームに入った時、なんか深刻そうな顔してたぜ」

 

「・・・私、ちょっと様子を見てくるよ」

 

そう言うとナオミは席を立った。

 

 

 

 

 

部屋ではメビウスがハンモックに腰掛けていた。

 

今日のガーナムの言葉を思い出す。

 

(本来のお前は任務に忠実で、殺せと言われれば女子供でも迷わず殺す!人の命なんてそこら辺の紙屑程度に扱う!そんなやつだったじゃねえか!)

 

頭で否定しようとするが、どうしても否定できない。

 

扉が開いた。振り返るとナオミがいた。

 

「メビウス、食堂いかない?アンジュの生存祝いにみんなで美味しいもの食べるんだよ?」

 

「・・・いらない。俺抜きでやってくれ」

 

「・・・ねぇ?何があったの?」

 

メビウスの様子が変なのは、輸送機から気づいていた。

 

「・・・別に・・・なんにもない・・・」

 

「そんな風に言ってもかえって不安になるだけだよ」

 

「私でよければ相談に乗るよ」

 

そう言うとナオミは隣に腰かけた。

 

「・・・俺って、最低なのかもな」

 

「えっ?」

 

ナオミが突然の事に驚く。

 

「俺は今まで自分がこうであったと思っていた自分を演じてきたつもりだった。でもそれも幻想だったのかもな」

 

メビウスはナオミに話した。

 

自分がブラック・ドグマの一員だった事を。そして、ガーナムが言ってきた自分について。

 

「・・・でもガーナムが嘘をついてる可能性もあるよね?」

 

あいつの言っていることは全て嘘だ。

 

その一言で確かに否定できるのかもしれない。

 

でも、メビウスはそれが出来ない事があったのだ。

 

「・・・ココとミランダの墓で、俺、涙流したよな?」

 

覚えている。

私は確かその時泣き崩れていた。メビウスも涙を静かに流していた。

 

「あの時、ココとミランダが死んだ事が悲しくて泣いたんじゃない」

 

「え!?」

 

その言葉にナオミは多少驚く。

 

「悲しくなかった事に泣いたんだ」

 

「ココとミランダが死んだのに、俺・・・悲しくなかったんだよ。仲間が死んだのに・・・なんとも思わなかった・・・悲しいはずなのに・・・その事に・・・涙が出なかったんだよ。そんな自分のことが・・・悲しくて・・・恥ずかしくて・・・」

 

(人の命なんて紙屑程度に扱う!)

 

脳内でガーナムの言葉がリピートされた。

 

「・・・」

 

ナオミは暫く黙っていたが、やがてメビウスの頭を自分の胸に押し当てた。

 

「なっ何をするんだよ!」

 

「泣いていいんだよ」

 

ナオミはそう言った。

 

「今はココとミランダが死んで悲しくて泣きたいんだよね?本当にガーナムって人の言う通りなら、そんな人は涙なんて流さないよ。」

 

「私にはメビウスがそんな風な人間には見えない。だから気にする必要なんてない。それでも不安なら、今泣けばいい。泣いて全ての思いを吐き出せばいい。それで泣く事は恥ずかしい事じゃない」

 

「でも!」

「大丈夫。私しかいないから」

 

「・・・ウワァァァァァァッ!!」

 

メビウスは泣いた。恥も体裁も気にせず泣いた。

 

ただただ悲しくて、自分の事が分からないのが怖くて、不安で、子供のように泣いた。

 

暫くは泣き続けていた。ナオミは黙ってそれを受け止めた。肯定も否定もせず、ただ泣くのを受け止めてくれた。

 

やがてメビウスは泣き止んだ。

 

「・・・ありがとう。気持ちがスッキリした」

 

「ううん、それじゃ・・・」

 

「ちょっと待って、ナオミ」

 

そう言うとメビウスは目を手で拭くと、足跡を立てずに扉へと近づいた。

 

ドアノブを握ると次の瞬間一気に開けた。

 

すると第一中隊のメンバーが流れ込んできた。

 

「!?いっいつからいたの!?」

 

ナオミの顔が赤くなった。

 

「さいしょっからぜ〜んぶ聞いてたよ!メビウスってあんな風に泣くんだねぇ!ナオミも大胆なことするねぇ」

 

「ヴィヴィちゃん、そう言う事は言っちゃダメよ」

 

二人ともしばらく黙っていた。

 

「・・・泣くことは恥ずかしくないんだよな?ナオミ」

 

「・・・みんなは何しにここにきたの?」

 

ナオミが話を変えようとした。

 

「流石に助けに来た本人がいない状況で始める訳にはいかないでしょ?」

 

アンジュがそう言う。

 

「とにかくとっとと食いに行こうぜ。腹空いちまったよ」

 

「あんたは特に何もしてないんでしょ」

 

ロザリーのの言葉にアンジュが横槍を入れる。

 

「まぁまぁ、落ち着いて。みんなの分用意してあるから。早く食べに行きましょう」

 

アンジュからすれば、久し振りのアルゼナルでの食事だった。

 

そこには普段は出されないピザが出されていた。

 

「ビザなんてアルゼナルで出してるんだ」

 

「あら?これはジャスミンモールでジャスミンが報酬の前払いって事でくれたものよ?」

 

「報酬の前払い?あのジャスミンが?」

 

サリアが驚きながらも疑問に思う。

 

「その報酬って、誰の何だろ?」

 

クリスが疑問に思う。

 

「まぁ今はアンジュの無事を祝って食べようじゃないか」

 

そう言うとメビウスはピザをたべた。

 

 

 

俺は俺だ。メビウスだ。ガーナムの言うようなやつじゃない。

メビウスらしく生きる。

 

 

 

 

 

(決めた。俺は自分の記憶を絶対に取り戻してみせる。そのうえで自分でどうするかを決める!たとえあいつが言うような人間だったとしても!自分を変えてみせる!)

 

メビウスは心の中で新たな決意をし、ピザを食べた。

 

 





今回はただやりたかった事をやっただけです。後悔はしていない!

おそらく今回の話後半は飛ばしてもいいかも・・・

本編は次回からですね。


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第22話 モモカが来た!



前回はタスクの所だけでよかったような気もする。

まぁ過ぎたことは気にしない主義なので!

それでは本編の始まりです!



今日はアルゼナルの補給日だった。外から様々な物資が届けられる。

 

「食料4医療1医薬品1」

 

「ブラジャー入りのコンテナはうちのもん。後で下に回しといてくれ」

 

エマ監察官とジャスミンがコンテナの分別をしていた。

 

その後ろの陰で、何かが動いた事に二人は気づいていなかった。

 

その何かは今パラメイルのところにいる

 

「総員かかれ!チンタラしてると晩御飯に遅れるぞ!」

 

メイが整備士達に指示を出していた。

 

 

 

 

一方こちらは第一中隊。

 

先ほど出撃したばかりなのでみなパイロットスーツであった。

 

あの一件後、アンジュはアンジュなりに他のメンバーとの距離を縮めていこうとした。

 

しかし、ヒルダ、ロザリー、クリスの三名に関しては相変わらずだった。

 

「あのやろう!また一人で荒稼ぎしやがって!」

 

「なんで戻ってきたの?」

 

「どっちがゴキブリなんだか」

 

「よーし」

 

そう言うとロザリーはなにかを取り出した。

 

「どたまにネジ穴開けてやる」

 

ロザリーの手にはネジが握られていた。

 

「やめなよ。司令に怒られるよ?」

 

「まぁバレなきゃいいじゃん」

 

「・・・それもそうか」

 

クリスは止めようとしたが、ヒルダに押される。

 

「喰らえ!害虫女!」

 

ロザリーがネジを投げようとした次の瞬間、警報が鳴った。

 

それに皆驚く。ロザリーは手が滑った。

 

「アイタ」

 

ネジはメビウスに当たった。

 

「ヒィィ!違います!違います!私何もしてません!」

 

ロザリーが慌てる。

 

だが直ぐに別の警報だと理解した。

 

「各員に告ぐ。アルゼナル内部に侵入者あり」

 

「侵入者?」

 

意外な言葉だった。この絶海の孤島アルゼナルに侵入する者がいるとは誰が予想していただろうか?

 

対象は現在!通路を逃走中!付近のものは直ちに確保に協力せよ!

 

「よっしゃあ!侵入者捕まえてキャッシュにしてやる!」

 

ロザリー達は元気よく奥の道へと進んでいった。

 

「私達も行くわよ!」

 

「しょうがねぇ、もう一汗流しますか」

 

メビウスは愚痴るも一応走りながら探す。

 

「左右に分かれて探しましょう!」

 

左右に分かれたが、なぜかメビウスだけ左で他は右だった。

 

しかし、戻る気にもなれず通路を走る。

 

すると通路の角から何かが飛び出してきた。

 

「危ない!」

 

次の瞬間、それらは正面衝突した。

 

「イタタタ」

 

「すまない!急いでいたもんだから。大丈夫か?」

 

「はっはい!大丈夫です」

 

その子は見たことの無いような格好をしていた。

 

(不思議な子だな)

 

「ねぇ君?ここら辺で侵入者見なかった?」

 

「え!?し!侵入者ですか!?」

 

その子は何か慌てていた。

 

すると少女の後ろから警備員がやってきた。

 

「見つけたぞ!侵入者だ!」

 

「逃すな!捕まえろ!」

 

その数は明らかに少女一人に対しては多すぎる数だった。

 

「ちょっと待てよ!」

 

メビウスは警備兵の前に立つ。

 

「幾ら何でも数の暴力すぎるだろ。相手は一人でしかも女の子なんだぜ」

 

メビウスは一度、1対100という数の暴力を受けた事がある。

 

だから数の暴力の恐ろしさは身に染みている。

 

「私達も女の子です!」

 

「そう言われちゃ言い返せないな・・・てか侵入者?この子が?」

 

「どいてください!えい!」

 

「危な!」

 

メビウスは警棒をよけた。

 

するとその子は突然目の前に何かをだした。

 

それは振り下ろされた警棒を防いだ。

 

「これは・・・アイ・フィールド!?あの子!まさかブラック・ドグマの関係者なのか!?」

 

・・・実際にマナの光を見た事がない彼からすればこの反応は正しいのかもしれない。

 

「やめてください!私はただ!アンジュリーゼ様に会いにきただけなんです!?」

 

「アンジュリーゼ!?なぁ君!今アンジュリーゼって言ったか?」

 

アンジュリーゼ。俺はその名前を知っている。

俺だけではない、第一中隊の全員がその名前を知っているのだ。

 

「マナの光!?」

 

後ろから聞き慣れた声がした。

 

振り返るとアンジュ達がいた。

 

アンジュは驚いた顔をしていた。

 

「もも・・・か?」

 

「もしかして・・・アンジュリーゼ様?」

 

「・・・アンジュリーゼ様ぁ!」

 

そう言うとその子は泣きながらアンジュに抱きついた。

 

(・・・

 

 

 

 

 

 

 

司令室ではエマ監察官が電話口で誰かと話していた。

 

「モモカ荻野目皇女アンジュリーゼの筆頭侍女です」

 

「はい、元皇女の・・・ええ!・・・わかりました」

 

そう言うとエマ監察官は受話器を置いた。

 

「委員会はなんと?」

 

隣にいたジル司令がタバコを吸いながらエマ監察官に問いかける。

 

その問いにエマ監察官は答えない。

 

「やはり、予想通りですか」

 

「ええ、あの娘を国に帰したら、ドラゴンやそれと戦うノーマ。

最高機密が世界に流れる恐れがある・・・と」

 

エマ監察官は続ける。

 

「何とかならないのですか?モモカさんはここに来ただけなのに・・・」

 

「ただ来ただけ・・・ね」

 

「ノーマである私に人間の決めたルールを変える力なんてありませんよ。せめて一緒にいさせてあげようじゃありませんか」

 

「今だけは」

 

 

 

通路ではアンジュが歩いており、その後ろをモモカが歩いている。

 

「あっあの、御髪・・・短くされたのですね」

 

「・・・ええ」

 

アンジュは素っ気なく答える。

 

「いいと思いますよ。大人の雰囲気というか、これまでの姫様の雰囲気から脱皮されたような」

 

アンジュが自室に戻る。モモカも部屋に入る。

 

「ここ・・・まさかアンジュリーゼ様のお部屋ですか!?」

 

「そうよ」

 

「お着替えですね!手伝います!」

 

アンジュは制服を床に置いた。

 

「畳みます!マナの光よ!」

 

モモカの手から光が放たれた」

 

マナの光だ。

 

「・・・そう使うんだ。マナの光って」

 

「ジル司令の命令で、明後日まであなたのお世話をする事になったわ」

 

「お世話だなんて!私はアンジュリーゼ様のお世話に!」

 

「誰それ?私はアンジュ」

 

「ノーマのアンジュよ」

 

その言葉にモモカの顔が曇る。

 

「聞いたわ、滅んだんですってね。ミスルギ皇国。私がノーマだとバレたから。あなたの帰る場所もないんでしょ?」

 

「アンジュリーゼ様・・・」

 

「最初から知っていたのよね。私がノーマだって・・・よくもまぁ騙し続けてくれたものだわ。何年も・・・今となってはどうでもいいけど」

 

「・・・」

 

モモカは何も答える事が出来なくなった。

 

「私はもう寝る。ベットは隣を使いなさい」

 

そう言うとアンジュはベットに横になった。

 

「私は、アンジュリーゼ様のお側にいたいのです・・・お願いします。アンジュリーゼ様」

 

(ここは人間の住むべきところじゃないのよ?モモカ・・・)

 

 

 

 

 

 

 

次の日の朝、モモカは朝食に抗議していた。

 

「こんなものをアンジュリーゼ様に食べさせるのですか!?」

 

(うるせぇ)

 

内心皆そう思っていた。モモカの抗議しているその朝食を今、皆食べているのだ。

 

「侍女の世話くらいしっかりしてほしいものだね」

 

ヒルダが聞こえるようにアンジュに愚痴る。

 

「ねぇねぇサリア?侍女って何?」

 

ヴィヴィアンが尋ねてくる。

 

「高貴な人の身の回りの世話をする人の事よ」

 

「アンジュは元お姫様だし。その時の人だよ」

 

ナオミが付け加える。

 

「へぇ〜アンジュってすごいんだね」

 

「ケチャップついてるわよ、もう」

 

ヴィヴィアンの口元についてた汚れをエルシャが拭き取る。

 

「あああー!じゃあ!エルシャとサリアとナオミは私の侍女だね!」

 

「違います!」

 

三人が口を揃えて否定した。

 

すると突然食堂の入り口がざわつき始めた。

 

「なんだ?」

 

皆食堂の入り口に目を向ける。

 

見るとそこにはメビウスがいた。

 

メビウスは全身怪我と傷まみれであった。

 

背中には変な板を背負っていた。

 

「何騒いでるんですか?モモカさん?」

 

メビウスは何事も無いかのようにモモカに質問する。

 

「このものはアンジュリーゼ様にこれを食べさせるんですか!」

 

「結構いけますよ!それ。それにアンジュはもう食べてますし」

 

モモカは後ろを振り返る。するとアンジュはそれを満更でもない顔で食べていた。

 

「アンジュリーゼ様ぁ!!ああ!お労わしい!」

 

(ウルセェ・・・)

 

メビウスも内心皆と同じ事を思った。

 

「・・・ところで一つ聞きたいことがあるのですが」

 

「何ですか?モモカさん?」

 

「あなたは・・・ノーマなんですか?ノーマは女性にしか現れないはずでは?」

 

「・・・あなた達の常識は聞いたよ。ノーマは女にしかならないこともね」

 

「でもさ。俺はノーマ。それでいいじゃないか」

 

「それではもう一つ聞きます。なぜ全身怪我と傷まみれなのですか?」

 

「・・・痛いところを聞くなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話は昨日の夜へと遡る

 

メビウスはジャスミンモールへと来ていた。

 

「よく来たね。メビウス」

 

「用事があるって聞いたから来たけど。一体何のようだ?」

 

「以前言ったろ?アンタに頼みたい事があるんだよ。これの商品宣伝をしてほしいのさ」

 

そう言ってジャスミンはなにかを出してきた。

 

それは板のようなもので、どのように使うのかまるでわからなかった。

 

「これをどうしろと?人の頭でも叩くのか?」

 

「そいつはね。倉庫の奥で眠っていたけど、今日入ってきたパーツで復活したよ。ジェットボードって言ってね」

 

「ジェットボード?」

 

「知らないのも無理はないね。でもね。私が子供の時はパラメイルの代わりとしてこれで出撃する人もいたんだよ」

 

ジャスミンは昔を思い出す。これに乗り、バズーカ片手にドラゴンと戦ってきた事を。

 

「どう使うんだよ」

 

「板の上に足を固定するところがあるだろう?」

 

板を見る。するとそこには確かに足を固定するところが見えた。

 

「その固定された足ごと傾けると左右の移動やUターンなど、色々とできるんだよ」

 

「倉庫整理をしてたらそいつが出てきてねぇ。あんたなら乗りこなせるんじゃないかと思ってね」

 

試しにそれに乗ってみる。この時点ではまだただの板だ。

 

「これどうやって動かすんだ?」

 

「板の先端にスイッチがあるだろ?それを押してみな」

 

スイッチを押す。すると板が突然浮いた。

 

「うぉっ!?」

 

いきなり浮いたので、多少驚いてバランスを崩し前に倒れる。

 

「なぁに、簡単な事だよ、あんたにはこれを乗りこなして貰いたい。アンタが乗りこなせばきっと周りも興味を持ち出す。そうなったらきっとジャスミンモールにもこれを売るようになる日がきっとくる」

 

「・・・こりゃ俺には無理だな」

 

メビウスは断ろうとした。

 

「残念だけど、あんたはもう逃げられないんだよ」

 

「どう言う事だ?」

 

「あんた?前祝いでピザ食べたろ?あれ実はとても貴重なものなんだよ。キャッシュでどうこうできる代物じゃないんだよ。あんたならこれを使いこなせると思って前払いしたんだからね」

 

「・・・それって卑怯じゃね?」

 

「ぼやいてる暇があるならとっとと行くよ!ナオミ!あんたは仕分けの続きをしな!」

 

そう言われて俺達は外に出た。ちなみにナオミは例の借金の返済のため、ジャスミンモールで仕分けをしていたらしい。

 

「とりあえずこれは身体に覚えこむってのが一番いいんだよ」

 

「とりあえず一分間は飛び回るようになりな。燃料はここなら置いておくよ」

 

そう言うとジャスミンはジャスミンモールへと帰っていった。

 

 

 

 

メビウスは少し考えていた。

 

「・・・ピザの一件も出されちゃ、流石に断ることはできねぇなぁ」

 

そう言うとメビウスは再び足を固定して、スイッチを入れた。

 

今度はバランスを取ろうと姿勢を維持した。

 

(確か足を固定してある物ごと曲げるといいんだったな。左!)

 

左に曲がる。すると予想より大きく左に曲がる。

 

「イテテテ!」

 

メビウスは地面にぶつかった。

 

もう一回飛んでみた。すると今度は壁に激突した。

 

もう一回飛んでみる。今度は真っ逆さまに落ちた。

 

もう一回飛んでみる・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その様な特訓を朝まで繰り返していたらしい。

 

その結果一分程度なら乗りこなせるようになったらしい。

 

「ってなわけさ」

 

「そりゃあ大変だったなあ」

 

ヒルダが高笑う。

 

「なんかジル司令も今度出撃の時はこれで出撃しろなんて命令されちまったよ」

 

「出撃?一体なんのことです?」

 

モモカが疑問に思い尋ねる。

 

しかしアンジュがどこかへさろうとしたためその後についていく。

 

「アンジュリーゼ様。どちらへ?」

 

「あなたの食事よ。あなたは【人間】だから」

 

そう言うとアンジュは食堂を後にした。モモカも後ろについて行く。

 

アンジュはモモカにハンバーガーを買った。

 

自分の分も買った。

 

モモカは初めてみるお金に驚いていた。

 

「これがお金というものですか。貨幣経済なんて不安定なシステムだと思ってましたが、これはこれで楽しそうですね」

 

「これからは必要なものはこれで買いなさい。」

 

「ギャァァァァ!!!」

 

叫び声が聞こえ、モモカは驚く。

 

見るとそこには負傷したメイルライダーが運ばれて行た。

 

「痛いっ・・・痛いよっ・・・」

 

「ほらほら暴れんな。腕がくっつかなくなっても知らんぞ」

 

「あれっ?腕は?」

 

「こちらです」

 

助手のような人が腕をマギーに渡す。

 

モモカはハンバーガーを見た。

 

ケチャップを血と連想してしまい、吐き出しそうになる。

 

「何なのですか?ここは?一体何をする所なのですか?」

 

「狩りよ」

 

アンジュはそう答えるとハンバーガーを一気に食べた。

 

包み紙をゴミ箱に投げ捨てる。

 

「私もいつああなることか・・・」

 

「アンジュリーゼ様・・・」

 

 

 

 

(傷ついておいでなのですね・・・お労わしや・・・私がお救いしなければ・・・私が・・・アンジュリーゼ様を!!)

 

モモカは心の中で決意した。

 

 





通路の角から何かが飛び出してくるのは実生活では何度もあります。

皆さんも廊下を走ってはいけませんよ。

それにしてもモモカ荻野目並みのいい人はマジでいませんよ。

そしてメビウスはジェットボードを乗りこなせる日は来るのでしょうか!

因みに次回でおそらくアニメの6話のシナリオ終了ですね。



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第23話 いつまでも変わらない思い


お気に入り30人を突破しました!

今の私の目標は40人になりました!なお今回も会話パート多めです。

そして前書きに書くことがマジで思いつかない!

それでは本編の始まりです!




 

あの後、アルゼナルはかなりの大騒動があった。

 

モモカがアンジュをアンジュリーゼ時代の様に振る舞うからだ。

 

食事や衣類など、様々な事でだ。

 

そんな事されて今のアンジュが喜ぶはずもなく、周りの顰蹙を買っていた。

 

因みにアンジュは食事を卓袱台返しした時、メビウスがこっそり床から骨つき肉を奪い去ったのはここだけの話。

 

 

 

 

第一中隊は射撃訓練中だった。

 

今はアンジュの番でメビウス達は順番待ちだった。

 

「知ってるかい?あの侍女、殺されるんだってよ?」

 

「マジで!?」

 

「アルゼナルやドラゴンは一部の人間しか知らない極秘事項。そんな所に来た人間を生きて返すわけがない」

 

「あいつに関わった奴はみんな死ぬ。ココやミランダもそれで死んだ。あの子もだ。慕ってくれる奴をみんな地獄に叩き落とす」

 

「あいつに関わった奴はみんな死ぬ」

 

「酷い女だよ。ホント」

 

ヒルダ達三人がいつものようにアンジュの悪口を言う。

 

アンジュは見た目は気にしていなかったが、心の内は大きく荒れていた。

 

 

 

 

アンジュが食事をとっていると、モモカが隣に座った。

 

「なにそれ・・・?」

 

「多分ここでの最後のお食事になると思いますので、きちんと頂こうと思いまして・・・勿論お金も払いましたよ。 」

 

「いただきまーす。!?これは・・・なかなか」

 

するとアンジュは立ち上がった。

 

「アンジュリーゼ様?」

 

「お風呂よ」

 

「あの・・・お背中をお流ししてもよろしいでしょうか?」

 

「・・・好きにしなさい」

 

「はっはい!」

 

 

 

お風呂にて

 

野外風呂にはアンジュとモモカの二人だけだった。

 

「いつ振りでしょうね・・・こうしてお背中を流させて頂くのは」

 

ふとアンジュはモモカの腕を見る。

 

するとそこには傷が付いていた。

 

その傷・・・

 

あっこれですか?マナを使えば元どおりになると言われたのですが。

 

思い出の傷なので

 

そう言うとモモカは語り始めた。

 

昔の事を。

 

 

 

 

 

まだアンジュが幼かったころ。

 

部屋から大きな音がした。それに驚いたアンジュは慌てて駆け付ける。

 

「何ごと!?」

 

「も申し訳ありません・・アンジュリーゼ様。大事なお人形を」

 

その手には壊れた人形が握られていた。

 

「あなた・・・怪我してるじゃない」

 

モモカの右腕からは血が流れていた。

 

するとアンジュは自分の着ていたドレスを破った。

 

「!?」

 

そしてその切れ端でモモカの手立てをした。

 

「アンジュリーゼ様・・・そのドレスは」

 

「バカ!人形やドレスはまた作ればいい!でもあなたはたった一人なのよ!」

 

「アンジュリーゼ様・・・」

 

「これで大丈夫ね。割れ物は裏の木の下に埋めるといいわ」

 

「え?」

 

モモカは驚く。

 

ナイショよ?

 

「アンジュリーゼ様・・・」

 

 

 

 

モモカが話し終わる。

 

「そんな昔の事・・・」

 

「私は決して忘れません。今の私がいるのも・・・アンジュリーゼ様がいたからです」

 

「これからも・・・ずっとお慕いしております。アンジュリーゼ様」

 

その言葉にアンジュは動揺する。

 

「出て行け・・・」

 

「え?」

 

「出て行くのよ」

 

「はい。明日には。だから今は」

 

「違う!今すぐよ!マナを使えば海を渡ったり潜ったりくらいは出来るんでしょ!?」

 

「今すぐ逃げない!モモカ!」

 

「・・・やっと呼んでくれました。モモカって」

 

その事にアンジュ自身が一番驚く。

 

「ですが・・・時間のある限り、アンジュリーゼ様のお側に居させてください」

 

「モモカ荻野目は・・・アンジュリーゼ様の筆頭侍女ですから」

 

そう言うモモカの顔には涙があった。

 

「・・・バカ」

 

 

 

 

 

すると基地に警報が鳴り響く。

 

ドラゴンが現れたと理解した。

 

その時アンジュ達のいる場所に向かって、何かが突っ込んでくるのが見えた。

 

「どいてどいてどいて!」

 

それはジェットボードに乗ったメビウスだった。

 

メビウスはジェットボードごと風呂場に突っ込んだ。

 

「イッテェ!!!」

 

メビウスの身体中の怪我にお湯が染み込み、激痛が起こる。

 

「メビウス!あなた何やってるの!?」

 

アンジュが驚く。外から飛んできたのだから驚くなと言う方が無理な話だ。

 

「ジャスミンに乗りこなせる様になったところを見せてたら、警報が鳴って。大慌てで戻ろうとしたらバランスを崩して、ここに突っ込んできた。てかそれどころじゃない!アンジュ!出撃だぞ!」

 

そう言うと二人はずぶ濡れながらも風呂場を後にする。

 

「アンジュリーゼ様!どうかご無事で!」

 

モモカの言葉に一瞬アンジュが立ち止まるも、直ぐに走り出す。

 

 

 

 

 

 

「頑張って稼ぎなよ〜?あの子の墓石の分も。」

 

「うっわぁ悪趣味〜」

 

いつもの様にロザリーとクリスが言う。

 

出撃準備中、ジル司令がアンジュの側による。

 

「アンジュ。夜明けに輸送機が到着する。元侍女の世話は現時刻をもって終了とする。ご苦労だったな」

 

そう言うとジルはメビウスの方をむく。

 

メビウスは前回言われた通りジェットボードにバズーカ片手に乗っていた。

 

ジルはメビウスの耳元で囁く。

 

「あまり無理をするな」

 

メビウスはその言葉の意味が理解できなかった。

 

しかしジル司令がアンジュをチラチラみると、その意味を理解した。

 

「・・・痛い!痛い!」

 

突然メビウスが叫び始めた。

 

皆驚いてそちらを見る。

 

「どうしたんだい?メビウス?」

 

ジル司令が棒読みで尋ねてくる。

 

「お腹が痛いんだ。これじゃあ出撃できないよ」

 

ジル司令に負けないくらいの棒読みでメビウスが答える。

 

「それじゃあ100万キャッシュの罰金だよ?」

 

「部屋にある。今支払うよ」

 

お互いが棒読みし合った。

 

「そうか、第一中隊、今回はメビウス抜きでやれ」

 

ジル司令が調子を取り戻した口調でそう答える。

 

「いっイエス・マム」

 

そう言うと第一中隊の皆は出撃した。

 

「さて、もういいぞ。演技ご苦労だった」

 

ジル司令がメビウスに演技を止めるよういう。

 

しかしメビウスはやめない。

 

「おい。もういい」

 

「・・・違う!マジで腹が痛いんだ!」

 

「・・・お前、まさかとは思うが、変な物でも食べたのか?」

 

メビウスは床から拾った骨つき肉を思い出す。

 

「・・・食べた」

 

「・・・トイレに行ってこい」

 

ジル司令がそう言うと、メビウスはダッシュでその場を後にした。

 

 

 

こちらは戦闘中域に向かうアンジュ機

 

(アンジュリーゼ様)

 

モモカの事を考えている。

 

(騙していたくせに!ずっと!・・・騙していたくせに!)

 

アンジュの機体が加速していく。

 

 

 

 

第一中隊が帰還した。

 

「あいつ!私の機体を蹴飛ばしやがって!」

 

「私なんてじゃま扱いされた」

 

「いやぁ!今日のアンジュ超キレッキレだったにゃぁ〜」

 

「何言ってるの!重大な命令違反よ!」

 

ヴィヴィアンの言葉にサリアが怒る。

 

「それにしても・・・一人でドラゴンを全部狩るなんて」

 

そう、今回アンジュは一人でドラゴンを全部倒したのだ。

 

スクーナー級多数とブリック級3匹を倒したのだ。

 

本来なら中隊で取り合う獲物を一人だけで仕留めたのだ。

 

因みに以前一人でドラゴン100体狩りをしたメビウスは未だにトイレで出すものを出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜明けとなった。モモカがアルゼナルを去る日だ。

 

「ではお世話になりました。僅かな時間でしたが、とっても幸せでした。アンジュリーゼ様にもそうお伝え頂けますでしょうか?」

 

「わかったわ」

 

エマ監察官がそう答える。

 

「ではこちらに」

 

「!?」

 

エマ監察官は彼女の持つ銃剣に目が行った。

 

とてもじゃないが移動用の輸送機の人が持つ代物ではない。

 

「わかりました」

 

しかし彼女は気にする様子も見せず、輸送機に向かって足を進める。

 

「待ちなさい!!」

 

その言葉に皆足を止めた。

 

振り返るとアンジュがいた。両手にはキャッシュの入った袋を持っていた。

 

「その子!私が買います!」

 

「は?はぁぁぁぁぁ!?」

 

エマ監察官が驚きの悲鳴をあげる。

 

「ノーマが人間を買う!?こんなボロボロの紙屑で!?そんな事が許されるわけないでしょ!」

 

「良いだろう」

 

エマ監察官の話を遮るかの様にジル司令が言う。

 

「ジル司令!?」

 

「金さえ積めば何でも手に入る。それがここ、アルゼナルのルールですので」

 

そう言うとジル司令はその場を立ち去る。

 

「いや・・・そのちょっと・・・司令〜」

 

後ろからエマ監察官がジル司令の後を追いかける。

 

銃剣持った人も最初は動揺していたが、やがて一人で輸送機に乗り込む。

 

そして輸送機は離陸した。

 

その場にはアンジュとモモカだけが残された。

 

モモカは状況が理解できないでいたが、ある一点は理解した。

 

ここにいても良いのですか・・・?アンジュリーゼ様のお側にいても・・・良いのですか・・・?」

 

「・・・アンジュよ」

 

アンジュはそう呟く。

 

「アンジュ・・・私はアンジュよ!」

 

「はい!アンジュリーゼ様ぁ!」

 

そう言うとモモカはアンジュに抱きついた。

 

 






モモカさんがアルゼナルに居られる様になった時は喜びましたねぇ。



因みに、ジェットボードはあくまでオリジナル設定です。

少なくても今のところあれでメビウスが出撃する事はありません。

本来ならここでメビウスがキャッシュをそれなりに使う予定でしたが、それはまた別の機会と言う事で。


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第24話 サリアの憂鬱



基本的にこの作品の製作中はクロスアンジュのアニメ見ながら、使えそうなワードをとか色々と探しています。

ここのところ際どい表現がなくて製作者はとても気が楽です。

このまま際どい描写がなければいいなぁ…(叶わぬ夢)

それでは本編の始まりです。


 

 

モモカがアルゼナルに居られるようになってから数日が経った。

 

今日もアンジュは一人でドラゴンの大半を狩った。

 

「いい加減にしろ!この銭ゲバ!」

 

ロザリー達がアンジュに突っかかる。

 

「テメェが報酬独り占めしてるせいでこっちはおまんまの食い上げだ!」

 

一応メビウスが援護などをしているため、決して稼ぎが無い訳ではないが、それでもアンジュとの差は歴然としていた。

 

するとアンジュはキャッシュを取り出した。

 

「な?なんだ!?」

 

「迷惑料。足りない?」

 

「ふっふざけんな!」

 

「だめだよロザリー!落ち着いて」

 

今にも掴みかかりそうなんロザリーをナオミが止める。

 

「お前だってこいつに報酬とられてちゃいつまでも借金生活だぞ!」

 

「ううっ。痛いところを突くなぁ」

 

「いい加減にしなさいアンジュ!何故命令が聞けないの!?」

 

サリアも我慢の限界なのかアンジュに詰め寄る。

 

「ドラゴンなら倒してるじゃない」

 

「そんなんじゃない!これ以上、隊の連携を乱すなら!」

 

「罰金でも処刑でもお好きに」

 

そう言うとアンジュは黙って去っていった。

 

サリアが悔しそうに歯ぎしりする。

 

「なぁサリア。最近何を焦ってるんだ?」

 

メビウスが疑問に思い、問いかける。

 

「アンジュの独断が目に余るからよ!あんなんじゃいつか隊はバラバラになるわ!」

 

サリアは怒ったように言う。

 

「確かにアンジュの独断が目立つのもわかる。でもサリア、俺はアンジュの気持ちも少しは理解できるぜ」

 

「お前はアンジュにばっか注意している。今日の戦闘だって、アンジュは何度もフレンドリーファイアーになりそうだった。サリアもそれは分かってるよな?」

 

そう。今回の戦闘でもヒルダ達三人は、アンジュにフレンドリーファイアーをわざとしかけていたのだ。

 

しかしアンジュはそれを避ける。そしてその事に怒ることもしなければやり返すこともしない。

 

「なのに隊長のお前はアンジュ一人だけを注意している。そんなんじゃアンジュが周りを頼ろうとしなくなるのも納得できちまうな」

 

そう。サリアもその事は理解している。理解しているが故に、余計にサリアはアンジュが許せなかった。

 

 

 

 

 

その夜の事だ。ジル司令の部屋ではジル司令、サリア、メイ、マギー、ジャスミン、バルカンと、以前集まったメンバーが集まっていた。

 

「ガリアの南端に到達。しかし仲間の痕跡なし。今後はミスルギ方面で仲間の捜索にあたる・・・か」

 

「生きてたんだね。あのハナタレ小僧」

 

ジャスミンがどこか懐かしそうに言う。

 

「タスクのことか」

 

「タスク・・・」

 

サリアが昔の記憶を呼び起こす。最も、あまり記憶にはないが。

 

「じゃあヴィルキスを直したのも!」

 

「タスクだろうな」

 

「アンジュは男の人と二人っきりだったの!?」

 

サリアの顔が赤くなる。一体何を想像したのだろうか。

 

「ジャスミン。タスクとの連絡は任せる。いずれは彼等の力が必要になる」

 

そう言うとジル司令は手元の資料に目をやる。

 

「さて、本題に入るか。アンジュをヴィルキスから降ろせと」

 

「ヴィルキスに慣れた事で、アンジュは増長してきてます!あの娘の勝手な行動はいつか部隊を危機に危機に陥れるわ!!そうなる前に・・・!」

 

「そうなる前に何とかするのが隊長の務めだろ?」

 

感情的に話すサリアにジル司令は諭す様に言う。

 

その言葉にサリアがハッとする。

 

「お前ならうまくやれる。期待しているよ、サリア」

 

そう言うとジル司令はサリアの頭を撫でる。

 

ジルとマギーが無言で顔を見合す。

 

「それにアンジュは今の所、あいつらが現れた時、おそらくメビウスと同じような働きをするだろう」

 

あいつら。それはブラック・ドグマの事だ。

 

二度、現れたあの機体に、アルゼナルのパラメイルや武器のほとんどが役に立っていない。

 

唯一あの機体とやりあえたのがフェニックスだ。

 

(もしあの機体が数で責めてきたら、我々に勝ち目はあるのだろうか?)

 

その疑問が頭をよぎった。

 

「とにかくサリア、お前には期待してるよ。頑張るんだ」

 

そう言ってジル司令はサリアを見た。

 

サリアは何も言わずに頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

次の日、食堂ではエマ監察官が目の前の光景を否定していた。

 

「ありえない!!ありえないわ!!人間がノーマの使用人になるなんて!」

 

「ノーマは反社会的で好戦的で無教養で不潔でマナの使えない文明社会の不良品なのよ!」

 

(・・・うぜぇ)

 

食堂にいたノーマ達皆がそう思った。そのノーマ本人の前で普通そんなこと言うものか?おそらくメビウスが聞いていたら殴りかかっていたかもしれない。

 

「はいはい」

 

アンジュはそんなエマ監察官など御構い無しに食事を続ける。

 

因みに食事は豪華だが、全てアンジュの自腹だ。作ったのはモモカさんだが。

 

「モモカさん。あなた自分が何をしてるか判っているの!?」

 

「はい!私幸せです!!」

 

人に尽くす事に幸せを感じる。

 

・・・彼女はなんて良い人間なのだろうか。

 

「よかったねモモカ!アンジュと一緒に入れて」

 

「はぁ」

 

「どったのエルシャ?」

 

エルシャが普段見せないため息をついた事にヴィヴィアンが疑問に思う。

 

「もうすぐフェスタの時期でしょ?幼年部の子供達に何を用意しようか悩んじゃって」

 

「そういえばエルシャ。キャッシュあるの?」

 

「以前8人で山分けしたキャッシュ、あれがまだ残ってるわ」

 

以前1000万キャッシュを山分けした事を思い出す。

 

「でもここんところはアンジュが報酬は一位だね」

 

ヴィヴィアンの言う通りだ。

 

アンジュが報酬一位であり、二位との差もかなりあるのだ。

 

「・・・なんとかしないと」

 

「どうなんとかしてくれるんだ?」

 

サリアの独り言にヒルダ達が食いかかる。

 

「どんな罰も金でなんとかするぜ。イタ姫様は。第一聞きやしないだろうねぇ。あんたみたいなやつの言うことなんて」

 

「・・・何が言いたいの」

 

「舐められてるんだよ、アンタ」

 

「隊長、かわってあげようか?」

 

サリアは黙って席を立った。

 

「んにしても面白くねぇなぁ。いっそメビウスがあいつの事撃ち落としてくれないかなぁ」

 

「そう言えばメビウスくんいないわね」

 

「ナオミもいないよ〜」

 

「二人ならさっき医務室に行ってたよ」

 

クリスがそう答える。

 

「へっ!二人して腹でも壊したのかねぇ?」

 

ヒルダ達はそう言うとその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

医務室では、メビウスとナオミがいた。手には花が握られていた。

 

「マギーさん。どうですか?ゾーラ隊長の容態は?」

 

メビウスが問いかける。

 

「とりあえず外の怪我は完治したよ。酸素マスクももう要らない。だけどなぜか目を覚まさないんだよねぇ」

 

「後はゾーラ隊長次第という事ですか?」

 

「あぁ、いつかは目覚めるはずだ。今はただ待ってやるんだね」

 

(ゾーラ隊長、俺は貴方に言われた言葉を忘れてはいません。いつかまた、あなたと共に戦える事を信じています)

 

二人は側の花瓶に花を入れると医務室を後にした。

 

 

 

 

帰り道、食事帰りのアンジュ達と出会った。

 

「あっアンジュ、それにモモカさんも」

 

「あら、ナオミ、それにメビウスも」

 

あったから話しかけた。何気なくだ。

 

「・・・なぁアンジュ?ちょっと頼みがあるんだけど」

 

メビウスが改まった口調で聞いてきた。

 

「何?」

 

「モモカさんと二人だけで、少し話がしたいんだけど。いいかな?」

 

モモカはアンジュが身柄を買い取った。言うなればアンジュの所有物だ。

 

「別に構わないわ。モモカ、メビウスが話があるって」

 

「はい?何でしょう?」

 

「・・・人にあまり聞かれたくない。ちょっと部屋までいいか?」

 

「はい」

 

そう言うとメビウスとモモカは部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

「それにしてもモモカさん。よかったですね。アンジュと一緒に居られるようになって」

 

「はい!私とても幸せです!」

 

「・・・本当にアンジュの事を慕ってるんですね」

 

「はい!アンジュリーゼ様は私の生きる理由です!」

 

「密航して来たんでしたっけ?よくここがわかりましたね?」

 

「えぇ・・・まぁ、大変でしたね」

 

そのように、たわいもない話をしているとメビウスとモモカは部屋に着いた。

 

部屋へと入る。

 

「なぁモモカさん?一つ聞きたい聞きたいことがあるんだけど。モモカさんのいたミスルギ皇国では、シンギュラーとかは開かなかったのか?」

 

「シンギュラーですか?それは一体なんですか?」

 

彼女からしたらシンギュラーなどと言う言葉は聞いた事がなかった。

 

「言い方を変えよう。モモカさんのいた場所では、空間に突然穴が空いたりとか、そんな事は無かったですか?」

 

「いえ、特にそのような事は・・・いえ!一度だけありました!」

 

「本当か!?それはいつなんですか!?」

 

メビウスの目が輝く。

 

「あの日は確か、アンジュリーゼ様の洗礼の儀の前日の夜です。その日の夜中、空間に穴が空いたのを私は見ました」

 

「そこから何か出てこなかったか!?ドラゴンとか!変な機械とか!」

 

「いえ、その穴は私が目をこすって確認しようとしたら、既に消えていました。それに・・・後日、マナで検索しても、そんな情報出てこないので、私の見間違いかもしれません。・・・メビウスさん?」

 

「・・・穴が開いたのにドラゴンが出てこなかった・・・」

 

(モモカさんの話が本当だとすると、その穴は洗礼の儀の前日。つまり、俺がこの世界に来た日に空いた事になる。これは・・・偶然なのか?)

 

「モモカさん?そのマナってのは今使えるのか?」

 

「はい。ちょっと待ってください」

 

そう言うとモモカさんの手が光、空間にマナのウインドが現れた。

 

「これがマナの光ですが?一体どのような事を調べるんですか?」

 

「ミスルギ皇国に空いた穴についてもう一度調べてくれないか?」

 

「少々お待ちください。・・・やっぱりでません」

 

「そうですか」

 

「やはり私の見間違いでしょうか?」

 

モモカさんが残念そうな顔をする。

 

「いえそんな!調べてくれただけでも感謝してますよ!ありがとうございました、モモカさん」

 

メビウスはモモカに礼を言う。

 

「では私はこれで失礼します」

 

そう言ってモモカさんは部屋を後にした。

 

(・・・少なくても手がかりは示された。ミスルギ皇国か。確か滅んだって聞いたな)

 

メビウスは考え事をしながら、部屋を後にした。

 

 

 





久し振りにゾーラ隊長が出ましたね。

まだ目は覚めません。一体いつ覚めるのか!?

次回!あのサリアが何と変身します!

どの様な変身か、ご期待ください!


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第25話 サリア大変身



タイトルに変身と書いてありますが、変身と言ってもベーターカプセルやスパークレンス使ったりの変身ではありませんのでご了承を。

ウルトラマン系はギンガが最後ですね・・・

因みに好きなウルトラマンはネクサスです!
(どうでもいい)

それでは本編の始まりです!




 

 

モモカはメビウスの部屋を出た後、アンジュと合流した。

 

アンジュの手にはキャッシュが握られていた。

 

「アンジュリーゼ様?お買い物ですか?」

 

「ええ。あなたも来てもらうわよ」

 

「はい!アンジュリーゼ様のお側がモモカのいるべき場所です!」

 

二人はジャスミンモールへと足を進めた。

 

「因みに何をお買いになられるのですか?」

 

「あなたの寝巻きよ」

 

 

 

 

 

 

一方サリアもジャスミンモールへと来ていた。

 

(みんな好き勝手ばっか・・・私だって・・・好きで隊長なんてやってるわけ・・・)

 

ジャスミンにキャッシュを投げ渡す。

 

「・・・いつもの・・・」

 

「一番奥を使いな」

 

ジャスミンは慣れたかの口調でそう言う。

 

サリアは何かを受け取ると、試着室へと足を進めた。

 

しばらくしてアンジュとモモカがやってきた。

 

「いつまでも下着で寝かせるわけにはいかないでしょ?」

 

「私は別にかまいませんよ?」

 

「私がかまうのよ」

 

適当に服を選ぶアンジュ。それにモモカの顔が赤くなる。

 

「これでいいかしらジャスミン。試着室空いてる?」

 

「一番奥を使いな」

 

そう言いジャスミンはキャッシュの勘定を始めたが、やがて思い出したかのように呟いた。

 

「・・・あっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛の光を集めてキュン♪」

 

「恋のパワーでハートにキュン♪」

 

「美少女聖騎士プリティ・サリアン!」

 

「あなたの隣に突撃よ♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・この作品は

【クロスアンジュ

ノーマの少女達と一人の少年が出会った】である。

 

 

 

間違ってもプリキ●アでも、セーラ●ムーンでも

ましてや美少女聖騎士プリティ・サリアンでもない。

 

ではなぜこのような事態に陥っているかについて話そう。

 

彼女、プリティ・サリアンことサリアは人に言えない趣味が二つある。

 

その内の一つは恋愛小説の執筆だ。

 

そしてもう一つの趣味、それが今閲覧者の方が目撃しているこのコスプレである。

 

試着室には元ネタと思われるマンガもおいてあった。

 

彼女の為に言うが、今の彼女は過度なストレスにより精神的なメンテナンスを実行しているのだ。

 

プリティ・サリアンでいる時間だけは任務やストレスから解放されている。

 

彼女はこれをいつか一つの部屋でやりたいと願っている。

 

その日が来るまでは狭い試着室の中でなりきっているのだ。

 

 

 

そして今彼女は鏡に写った自分にうっとりしている。

 

彼女のテンションボルテージが最高潮に達する。

 

手に持った杖を上に上がるとそれを前に振りかざす。

 

「シャイニング・ラブエナジーで私を大好きに

なぁ〜〜〜れっ♡」

 

 

 

 

 

 

【しゃっ】

 

カーテンが開かれた。

 

鏡にはアンジュが写っていた。

 

・・・・・・・・・これまでの中で一番気まずい沈黙が続いた。

 

サリアンのテンションボルーテージが一気に地に落ちる。

 

【しゃっ】

 

アンジュは何事もなかったかの様にカーテンを閉じる。

 

「アンジュリーゼ様?」

 

「使用中だったわ」

 

ジャスミンは顔を抑えていた。

 

「ジャスミン、この服買うわね」

 

そう言ってアンジュはキャッシュを渡すとモモカを連れてジャスミンモールを後にした。

 

(見っ見られた!)

 

試着室ではプリティ・サリアンではなくサリアが頭を抱えていた。

 

彼女からしたら既に知られたくない秘密の一つをヴィヴィアンに知られている。それなのにコスプレの趣味まで他人に知られてしまったのだ。

 

(こんな事・・・みんなに知られたら)

 

 

 

(へぇ〜私達の隊長にこんな趣味があったとわねぇ〜)

 

(・・・はぁっ)

 

ヒルダ達の嘲笑う視線とジル司令の失望の眼差しが彼女にははっきりと感じられた。

 

メビウス達4人も例外ではない。おそらくサリアに生暖かい視線を送りつけるだろう。

 

なによりアンジュにバレたのがサリアの中では一番嫌な事であった。

 

こんな事が知られたら、おそらく自分の隊長としての僅かに残された威厳も、隊長生命も終わりだとを感じ取れた。

 

しばらくサリアは脳内で苦闘していたが。

 

「・・・こうなったら・・・」

 

やがてサリアはある決意を固めた。その目は親の敵でも見ているような目立った。

 

 

 

その日の夜だった。野外風呂にはアンジュとモモカ、メビウスとナオミがいた。

 

彼女達は背中を洗っていた。

 

一方メビウスは湯船に浸かりながら、片手に缶ジュースを握りながら風呂を楽しんでいた。

 

因みにジェットボードで出来た怪我や傷はすでに治っていた。

 

「メビウス、そういえばジェットボードどうしたの?」

 

アンジュが何気なく聞いてみる。

 

アンジュは一度、ジェットボードで風呂場に突っ込んできたメビウスを見た事がある。

 

「・・・貰ったけど・・・ジャスミンにぼったくられた」

 

メビウスは苦笑しながらそう言う。

 

あの後、ジェットボードを乗りこなすようになり、ジャスミンはジェットボードをタダでくれたのだ。

 

しかしそれが甘かった。

 

それを貰うと、ジェットボードのこれまでのパーツの交換費や修理費などを請求されてしまった。

 

確かにジェットボードはタダで貰った

 

しかし、それらの費用で1000万キャッシュはぶっ飛んでいった。

 

「お二人とも、力加減はどうですか?」

 

「いいんじゃない?モモカ?」

 

「でもモモカさん。何も私の背中も流さなくてもいいのに」

 

ナオミが多少申し訳なさそうに言う。

 

「・・・アンジュリーゼ様から聞きました。来たばかりアンジュリーゼ様をあなた達が気にしてくれていた事を。ですからこれはそのお礼です」

 

これにメビウスとナオミはどこかうれしそうだった

 

「モモカさん、俺達だけじゃないぜ。エルシャにヴィヴィアンも、それにサリアだって、アンジュの事を気にしているんだぜ」

 

「アンジュリーゼ様は、ここでも良いお友達をお持ちになられましたね」

 

「・・・悪い奴もいるけどね・・・あとサリアは余計じゃない?」

 

アンジュが脳内で想像しながら答える。

 

すると扉が開いた。見てみるとサリアだった。しかし何故か制服だった。

 

「サリア?着衣浴でもするの?」

 

しかしサリアはナオミの質問には答えずズカズカとアンジュに迫って来た。

 

「ちょっ!?ちょっとサリア!?」

 

「・・・殺す!」

 

ナオミが驚く暇もなくサリアはナイフをアンジュに向けて刺す。

 

アンジュはそれをとっさに洗面桶で防いだ。

 

「何をするの!?」

 

いきなり命を狙われたのだ。驚くなと言うのは無理だろう。

 

「見られた以上!殺すしかない!」

 

「誰にも言ってないけど!?」

 

「まだ言ってないだけでしょ!」

 

サリアは再びナイフを刺そうとする。それをアンジュが桶で防ぐ。

 

三人は何で争ってるのか分からない為どうすれば良いか困惑していた。

 

「とっとりあえずサリア!落ち着いて!」

 

ナオミがサリアを止めるがサリアは止まらない。

 

「誰にも言うつもりはないし!第一!あなたにどんな趣味があろうと!私には関係ないわ!」

 

「!!関係・・・ないですって!?」

 

モモカの元に桶が転がってきた。ナイフもそれに刺さっていた。

 

「こっちはアンタに迷惑かけられてばかりなのに!関係ないですって!私達はチームなのよ!なのにあんた一人だけ好き勝手やって・・・!」

 

サリアがアンジュに掴みかかる。

 

「後ろから狙ってきたり!機体を堕とそうとするやつの何がチームよ!」

 

「へぶっ!」

 

アンジュがサリアを浴槽へと投げ飛ばす。

 

サリアの体はメビウスに直撃した。

 

「痛ててて」

 

「・・・!?」

 

サリアは制服の上が脱げた事に気がつき、慌てて手で胸を隠す。

 

「連中を止めないって事は、あなたも私に堕ちて欲しいんでしょ!

あなた達に殺されるなんて真っ平!だから私は一人で戦うわ!」

 

その言葉にサリアはハッとする。以前メビウスが言っていた通りだったのだ。

 

しかしサリアはそれを認められなかった。

 

「・・・好き勝手なことばっかり!いい加減にして!」

 

「そっちこそ!何がチームよ!」

 

湯船が二人の戦場へと変わった。

 

メビウスは近くに浮いていたサリアの制服を回収すると湯船から上がった。

 

三人はアンジュとサリアの戦闘を見守っていた。

 

「私が隊長にされたのも!みんなが好き勝手言うのも!秘密を見られたのも!ヴィルキスを取られたのも!」

 

サリアはアンジュの胸を揉んだ。

 

それに負けじとサリアの胸を揉もうと手を伸ばす。

 

しかしそこには手応えがなかった。

 

「・・・あれ?」

 

その時メビウスが回収した制服から何かが落ちてきた。

 

拾い上げて見てみた。それはシリコンで出来た何かだった。

 

「なんだこれ?」

 

「これってもしかして?」

 

「・・・胸パッドですね。2カップは盛れますね」

 

サリアの顔の赤さが最高潮に達した。

 

「全部アンタのせいよぉ!!」

 

「はぁ!?」

 

ここまでいくと八つ当たりもいいところだ。

 

すると三人の後ろから扉の開く音が聞こえた。

 

振り返るとエルシャとヴィヴィアンだった。

 

「だから、カレーにはカツよりメンチの方が、てなんじゃ!?」

 

「あら、大変ねぇ」

 

二人は直ぐに現状が理解できた。

 

「お願いです!アンジュリーゼ様を止めてください!」

 

「二人とも!アンジュとサリアを止めるのを手伝って!」

 

モモカとナオミがエルシャ達に頼む。

 

「・・・ここはお風呂場だもの。溜まってた汚れは先に洗い落とさないとね」

 

するとエルシャはデッキブラシをアンジュ達に投げ渡した。

 

二人はそれをキャッチすると直ぐに戦闘が始まった。

 

今度はデッキブラシを使いながらだ。

 

「エルシャ。悪化してるぞ」

 

メビウスが呆れながら言う。

 

「いいからいいから。後は若い人たちでごゆっくり」

 

そう言うとエルシャ達は三人の手を引っ張りながら中風呂へと戻っていった。

 

「アンジュリーゼ様ぁ〜」

 

「サリア、制服とコレはここに置いておくぞ 」

 

そう言うとメビウスは制服と胸パッドを傍らに置いた。

 

中の風呂に五人で入っている最中も、外からは二人の罵り合いが聞こえてきた。

 

「このド貧乳がぁ!!」

 

「黙れ筋肉豚ぁ!!」

 

ジュースを飲みながらメビウスは二人の無事を願った。

 

 

因みにメビウスが風呂場で胸をチラチラ見ていたのはここだけの話。

やはり男の本能はそういうものを望んでしまうのだろうか。

 

 

 

 

 

「基地の中でも争わなければ気がすまないわけ!?」

 

司令室ではエマ監察官が二人に呆れていた。

 

オペレーターの三人も彼女達を見ていた。

 

あの後二人の争いは一時間ほど続いたらしい。全身傷まみれだった。

 

「もー!これだからノーマは!!非社会的で好戦的で無教養で不潔で野蛮で!」

 

なんか前回のから一単語追加されたが気にしないでおこう。

 

「らしくないな、サリア」

 

「別に・・・」

 

「始末書50枚!明日の朝までに提出!」

 

エマ監察官はそう言うと二人に紙を50枚渡した。

 

「はっ!」

 

サリアは直ぐに返事をした。

 

「・・・なんで私まで・・・ハックシュン!」

 

アンジュは愚痴をこぼしながらくしゃみをした。

 

それぞれが部屋へと戻る。

 

「お帰りなさいまさ、アンジュリーゼ様」

 

「モモカ、始末書代わりにやって、私はもう寝る」

 

「喜んで!アンジュリーゼ様!」

 

アンジュはそう言って紙をモモカに渡すと、ベットに倒れ込み、暫くして眠りについた。

 

 

 




混浴とかはマジで目のやり場に困りますよね!

結構久しぶりに際どい表現を書いた気がする。これが原因で消されたりとかしないよな?(不安)

皆さんは問題とか起こしたら素直に謝りましょうね!


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第26話 初物討伐戦



今回でアニメの7話のシナリオは終わりです。

以前言ったようにアニメ8話で第3章は終わります!

そしたら今いるオリキャラの見た目や設定、そして本来ならこのようなキャラになるとかも書いていきたいです。

それでは本編の始まりです!



 

 

アンジュとサリアの風呂場での騒動から一夜が

明けた。

 

モモカはアンジュを起こしに向かっていた。

 

「おはようございます!アンジュリーゼ様。朝食をお持ちになりました」

 

アンジュはシーツにくるまっていた。

 

「反省文でしたら私が夜の内に書き終えましたのでご安心ください」

 

モモカさんは夜の内に始末書を仕上げていたのだ。

 

因みに始末書の内容だが、簡単に書くとこのような内容である。

 

【わたくし、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギは

落ち度は一切無く、何かを改める事は出来ませんがわたしの存在そのものが完璧すぎるのであるなら

それなりの落ち度は感じています】

 

・・・もはや始末者ではなく自慢書である。

 

エマ監察官が見たら間違いなく眉間のシワ数が増えるだろう。

 

「アンジュリーゼ様?」

 

モモカはアンジュの異変に気がついた。

 

アンジュの顔を覗き込む。すると若干赤くなっていた。

 

「アンジュリーゼ様ぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「風邪ェ!?」

 

とある部屋ではアンジュ以外の第一中隊の皆が集まってアンジュが風邪をひいたと連絡を受けていた」

 

「湯冷めしたらしいわ」

 

(あれのせいか)

 

メビウス、ナオミ、ヴィヴィアン、エルシャは原因が何となく予想できていた

 

「アンジュの風邪が治るまでの間、アンジュ抜きで第一中隊は動きます」

 

「休んだら罰金幾らだっけ?」

 

「一日100万キャッシュ」

 

「破産しちゃえ」

 

ヒルダ達がいつものように悪口を言う。

 

「さて、それじゃあ訓練を開始するわよ」

 

そう言うと皆ロッカールームへと足を進めた。

 

その後は普段通りの訓練をしていた。アンジュが

いない点を除くと何も普段と大差はないものだ。

 

 

 

【隊長日誌、3月6日。今日も滞りなく訓練を進める。アンジュがいない事で部隊に規律が戻ってきた気がする。アンジュが戻ってきても、この現状を

維持するため、復帰後のアンジュの扱いには十分な注意を払おうと思う】

 

サリアは隊長日誌を書いていた。因みに規律が戻ったと思っているが実はゾーラ隊長の部屋ではヒルダ達がレズプレイをしている事にサリアは気づいていない。

 

サリアは最後にいつものを書く。

 

【本日の死亡者・・・0】

 

 

 

 

サリアは格納庫へと来ていた。そしてヴィルキスを見ていた。

 

するとそこにメイがいた。どうやヴィルキスの整備をしているみたいだった。

 

「ヴィルキス・・・どう?」

 

「アンジュが使うとボロボロになるからメンテナンスが大変!でも仕方ないか。稼ぎも危険も独り占めしてるんだから」

 

「え?」

 

「整備してるとね・・・感じるんだよ。

【ライダーの気持ち】が」

 

「もう誰も死なせない。ドラゴンの攻撃は全部一人で受ける。そんな気持ちが伝わるんだよ」

 

「・・・考えすぎじゃない」

 

 

「でもアンジュがヴィルキスに乗るようになって

から誰も死んでないよね。私達の部隊は」

 

その言葉にサリアが驚く。そして自室に戻ると隊長日誌で調べた。サリアが隊長日誌には、死亡者が

常に0だった。

 

「・・・ベテラン揃いだからでしょ。考えすぎね」

 

サリアは自分の中の疑問を振り払うかのようにそう答える。

 

するとそこに警報が鳴った。ドラゴンが出現したのだ。

 

直ぐに皆がパイロットスーツへと着替える。

 

そしてそれぞれのパラメイルへと乗り込む。

 

「隊長より各員へ。アンジュは休み。今回の戦闘は八機で編隊を組む。戦闘空域に入り次第全機密集陣形!戦力不足は火力の集中で補う!」

 

「イエス・マム!」

 

「全機出撃!!」

 

その掛け声のもと、アンジュを除いた第一中隊の

全機体が射出された。

 

因みにアンジュは今、部屋の扉の前のモモカと

にらめっこをしていた。

 

「どいて・・・いかなきゃ・・・」

 

「ダメです!お通し出来ません!」

 

「あんたを養うのにも・・・金がかかるのよ」

 

そう言うとアンジュはその場に倒れこんだ。

 

「アンジュリーゼ様ぁ〜!」

 

 

 

 

「シンギュラーまでの距離!2800」

 

「了解!全機セーフティ解除!」

 

オペレーターの通信後、サリア達は全機戦闘態勢をとる。

 

「ドラゴンが来る!」

 

すると空間からドラゴンが現れた。そのドラゴンは巨大の一言に尽きた。おそらくガレオン級以上の

デカさだろう。

 

「でかっ!!」

 

「サリア、あのデカブツはどんなやつ?」

 

「あんなの・・・見たこと・・・ない・・・」

 

ヒルダの質問にサリアが答える。

 

「見た事ない?」

 

「メビウス。あんなやつブラック・ドグマにいたか?」

 

「いや。少なくても記憶にはない」

 

もっとも、メビウスは記憶自体が曖昧に近いため、あまりあてにならないが気にしてはならない。

 

(サリアが見たことない。それでいてブラック・ドグマでもない)

 

メビウス以外の皆の口からある言葉が出てきた。

 

「あのドラゴン!初物か!!」

 

「初物?」

 

メビウスだけがその意味を理解できないでいた。

 

「過去に遭遇例のないドラゴンの事だよ」

 

メビウスの疑問にナオミが答える。

 

「こいつの情報持って帰るだけでも大金持ちだぜ!ついてきなロザリー!クリス!報酬は私達だけで

山分けだ!」

 

ヒルダが二人を連れて隊列を離れる。

 

「待ちなさいヒルダ!勝手な行動はやめなさい!」

 

サリアの注意をヒルダ達は無視した。

 

「なんか髪の毛がピリピリする」

 

「え?」

 

ヴィヴィアンが謎の言動を放つ。

 

(動きは鈍重。背中は重装甲って事は・・・)

 

ヒルダが腹部に回り込む。

 

そのドラゴンの腹は決して固いとは言えなかった。

 

「ビンゴ!!ぷよぷよじゃないか!狙いは腹だ!

一気に決めるよ!!」

 

「っしゃぁ!」

 

三人が腹部を目指す。

 

「ぴりぴりぴりぴりぴりぴり」

 

ヴィヴィアンがつぶやき続けていたがやがて何かに気がつく。

 

「ヒルダ!もどれぇ!!」

 

「え!?」

 

次の瞬間、大型ドラゴンのツノが光った。

 

大型ドラゴンを中心に魔法陣が展開された。

 

そしてその中にいたヒルダ達の機体が急に落下した。

 

「な!?」

 

「うっ動けねぇ・・・」

 

「一体・・・なんなのこれぇ」

 

「大型ドラゴンの周囲に高重力反応!!」

 

「重力!?」

 

オペレーターの通信に驚く暇もなく、残されていた五機も全て地面に向けて落ちていった。

 

「まさか・・・捕まった!?全機駆逐形態!!」

 

サリア達四人機体は変形しながら地面に叩きつけられた。

 

唯一フェニックスだけがウイングモードで高重力に抗っていたが、パイロットへのGの負担はかなりの物だ。

 

「そのツノだなぁ!みんなを・・・放せぇ!」

 

ヴィヴィアンが以前買った新装備、超硬クロム製ブーメランブレード。通称「ぶんぶん丸」を投げつける。

 

しかしそれはツノに命中する事なく地面に刺さった。

 

この間も重力は強くなる一方である。ついに地面が沈殿し始めた。

 

「ツノを狙えばいいのか!ヴィヴィアン!」

 

「たっ多分そうだと思う!」

 

「なら!」

 

メビウスは機体をファイティングモードへと変更させた。素早くサーベルを取り出す。そして

新型ドラゴン目指して突っ込んでいった。

 

落下時の重力を加速として利用し、ツノをどうにかしようとしていた。

 

サーベルがツノに命中する。ドラゴンが唸り声をあげた。

 

しかしツノは健在だった。

 

そしてフェニックスも地面へと叩きつけられた。

 

「くそっ!・・・ファング・・・!」

 

しかしファングを射出する脚部が重力の影響で開かないため、ファングを射出できないでいた。

 

ロザリーとクリスの機体が嫌な音をたて始めた。

 

(死ぬ!)

 

二人とも直感的にその事を感じ取った。

 

「なんとかしろ!サリア!」

 

「だから待てと言ったのよ!」

 

「今は通信で争ってる場合じゃないよ!」

 

ヒルダとサリアの通信にナオミが割り込む。

 

(部隊の全滅だけは避けなければ・・・最悪の

場合・・・機体を捨ててでも・・・)

 

するとヴィヴィアンがドラゴンへと足を進めた。

 

「ヴィヴィちゃん!?」

 

「みんなを・・・放せ・・・みんなを・・・放せぇ!」

 

地面に突き刺さっていたぶんぶん丸を引っこ抜く。

 

しかし高重力の影響かぶんぶん丸を持った手がもぎ取れる。

 

(やられる!)

 

皆がそう思った時だ。

 

「ゴホッゲホッ」

 

その時、通信から咳が聞こえてきた。

 

その声と機体を皆知っていた。

 

「ヴィルキス!?アンジュなの!?」

 

アンジュはどてらにマフラーとマスクをしていた。

 

 

 

 

 

話は少し前に遡る。

 

「どうしても行くとおっしゃるなら!この格好で

行ってください!」

 

モモカが用意した格好でアンジュは出撃したようだ。

 

「あ〜ふらふらする・・・とっとと終わらせよ」

 

「来るなアンジュ!重力に捕まるだけよ!」

 

「大丈夫よ〜いつも通り私一人で十分・・・」

 

(くっ・・・!どいつもこいつも・・・!」

 

「いい加減にしろ!このバカ女ぁ!!」

 

「!?」

 

「あんた一人で何とか出来るほどこのドラゴンは甘くない!死にたくなければ隊長の命令を聞きなさい!」

 

「はっはい」

 

あのサリアがこんな迫力を出すとは、風呂場での

揉め事の時のよりも強気な声だった。

その勢いにアンジュは押された。

 

「そのまま上昇して!」

 

言われた通りに上昇する。

 

「修正!右3度!前方20!」

 

「右ってどっちだっけ?」

 

「逆!!」

 

(サリアちゃん・・・まさか!)

 

エルシャはサリアの思惑を理解した。

 

「・・・なんか落ちてない?」

 

「そのままでいいわ!」

 

しかし実際ヴィルキスは落ちている。

 

「・・・やっぱり落ちてる!」

 

「熱でそう感じるだけ!」

 

だがヴィルキスは落ちている。

 

「今よアンジュ!蹴れぇぇぇ!!」

 

「け・・・蹴るうぅ!?」

 

次の瞬間、新型ドラゴンの左ツノがドラゴンからへし折れた。おそらくメビウスがサーベルで傷口を作っていた影響だろう」

 

「!機体が!動く!」

 

 

「三人とも!大丈夫!?」

 

「うっうん!」

 

「機体が動くようになればこっちのもんだ!」

 

「いけ!ファング!」

 

新型ドラゴンは高重力場を発生させる事でしか攻撃が出来ないようだ。

 

そしてその高重力場を発生させるツノがへし折られたうえ、弱点まで知られている以上、もはやそれに怖さなど微塵も感じなかった。

 

 

 

 

 

 

第一中隊が皆戻った。

 

皆すぐにキャッシュの受け取りに行った。

 

「こんな大金・・・夢みたいだ!!」

 

「夢じゃないよ!!」

 

ロザリーとクリスは目の前のキャッシュに涙を流していた。

 

初物の討伐は普段の報酬の比ではなかった。

 

キャッシュが少ないのはアンジュとナオミだけだった。

 

しかしナオミはまだ多い方である。

 

アンジュなどスクーナー級一体分くらいのキャッシュしかない。

 

「・・・少ない」

 

「ツノ折っただけでしょ?」

 

サリアの言う事は正論であった。

 

するとアンジュは右手を出してきた。

 

「迷惑料・・・あなたの命令に従ったせいで取り分が減ったのよ」

 

「・・・さっきの言葉取り消すわ」

 

「そういえばサリア。風呂でアンジュと何をもめてたの?」

 

ナオミが質問した。

 

初めからあの場に居合わせたメビウスとモモカもそれは気にはなっていた。

 

「なっ!なんでもないわよ!」

 

アンジュがサリアの耳元で囁く。

 

「変な趣味バラすわよ?」

 

「!一生寝込んでろ!!」

 

サリアがそう怒鳴り終えるとヒルダ達の方を向いた。

 

「どう?満足?」

 

「あっああ」

 

「こうして大金を手にしたのも、アンジュのおかげよね?」

 

「それは・・・そうだけど」

 

「戦闘中にアンジュを狙うの・・・もうやめなさい」

 

「色々あったけど、今の私達はチームなのよ。

アンジュも報酬の独り占めはやめなさい。あなたなら普通にしてても稼げるんだから」

 

「これは隊長命令よ」

 

「サリア・・・お前成長したなぁ」

 

メビウスが感心した口調で言う。

 

数日前のサリアからしたら、ありえない成長であった。

 

「黙りなさい」

 

サリアがそう言う。

 

「私は・・・いいよ」

 

最初に切り出したのはクリスだった。

 

「あのときアンジュが来なかったら、間違いなく私は死んでたし」

 

「まぁ・・・確かにあの時はアンジュのおかげだったな。わかったよ」

 

ロザリーも続けて言う。

 

「あんたら何言いくるめられてるんだ!?」

 

「別にそう言うわけじゃ・・・」

 

「でも・・・今回は流石にアンジュのおかげだし・・・」

 

「ちっ!裏切り者どもめ・・・」

 

そう言うとヒルダは一人不機嫌にその場を離れた。

 

「それじゃあみんな!風呂場に行きましょうか!」

 

そうエルシャが言うとヒルダを除いた全員が風呂へと足を進めた。

 

 

 

 

 

風呂場にて。

 

「いーち、にーの!さーん!」

 

次の瞬間、アンジュの身体は浴槽へと投げられた。

 

「なっ何すんのよ!」

 

「ふふっ、今までの事、お湯に流すのよ」

 

エルシャがそう言うと、皆が風呂へと飛び込んだ。

 

メビウスの手にはモモカの分も含めた9人分のジュースが入った袋があった。

 

 

【隊長日誌、3月7日。こうして今回もドラゴンを

倒す事ができた。ヴィルキスにはアンジュが乗る。思うところもあるが、今はそれでいい。

私は、隊長としてやるべき事をやるだけだ。

リベルタスのその日まで。隊長日誌終わり】

 

【追記、本日も死亡者は0】

 

 

その日の夜。ヒルダは一人、ゾーラ隊長の部屋から月を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・メビウスは夢を見ていた。この夢は久しぶりだ。

といっても、決して嬉しいものではないが。

 

「・・・いるんだろガーナム。とっとと姿を

現せ。」

 

「よぉ、メビウス。頑張って正義の味方ごっこ

してるかーい?」

 

そこに現れたのはガーナムだった。

 

以前アンジュが喪失した際に戦闘した事がある

ブラック・ドグマの幹部だ。

 

「こうして夢に現れたって事は、なんか伝えにでもきたのか?」

 

「まぁな、でも今回は言わせてもらいたい事もあるぜ」

 

「なんだ」

 

「お前・・・すっかりダメになっちまったなぁ。

女の子達ときゃっきゃうっふしちまってよ。

昔の覇気のカケラもねぇな。まぁ仕方ないと言えば

仕方ないか」

 

「・・・何が言いたいんだ?」

 

「わかってるのか?お前はこの世界の人間じゃない。いつかは彼女達とバイバイしなけりゃいけないなぁ」

 

「・・・・・・言われなくても分かっているつもりだ」

 

「まぁいい、本題に入るぜ。今後のお前への行動が変わっちまったよ」

 

「変わった?」

 

「お前の機体。フェニックスだったな。あれを鹵獲せよって言われちまって。パイロットの生死は任せるだとさ」

 

「・・・」

 

「安心しな、俺は直ぐには攻めてこねぇよ。

でもな、お前の機体を狙っている事。お前を殺す気は変わっていない事。そしてだ。お前の機体をお前はまだ知り尽くしてはいない。

それを伝えに来てやったぜ。

俺っていい奴だから。んじゃ、グッバイ。

そうそう、腹出して寝てるとお腹冷やすぞ」

 

そうしてメビウスの意識は再び闇へと消えて

いった。

 

目が覚めた。既に時刻は朝を回っていた。

 

(・・・気にする価値もない。来るなら迎え撃つだけだ)

 

メビウスはそう思う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、そのころアンジュの部屋ではある事が

起きようとしていた。

 

「ったく、昨日は散々な目にあったわ」

 

「でも良かったです。こうして熱も下がって」

 

モモカはアンジュの身支度の手伝いをしていた。

 

「!?」

 

するとモモカは突然立ち上がり、マナのウインドを開いた。

 

「どうしたの?」

 

「マナから通信です。ってこれ!皇室の極秘回線からです!」

 

「えっ!」

 

通信を開くとそこにはシルヴィアから、アンジュの妹からの通信だった。

 

「モモカ聞こえる!?モモカ!?」

 

「シルヴィア様!?」

 

「シルヴィア!」

 

「アンジュリーゼお姉さまとは会えた!?そこに

お姉さまはいるの!?」

 

通信から聞こえてくるそれはどう聞いても異常事態である事がうかがえた。

 

「ひっ!嫌!離して!離してよ!助けてお姉様!

アンジュリーゼお姉様ぁ!」

 

すると通信は切られた。

 

「そんな・・・シルヴィア・・・」

 

アンジュはただ呆然としていた。

 

(シルヴィア・・・あなたの身に一体何があったの!?)

 

 






アニメで実際見た時は今後の展開が本当に期待していて、夜も眠れないばかりか、朝も起きれませんでした。

(朝はアンジュ達の用に5時までには起きましょう)

今後どのように話が紡ぎ出されていくのでしょうか!?

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(一度は言ってみたかったセリフ)



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第27話 ビキニ・エスケイプ


水着とかはマジで種類を知らないため、水着描写はほぼありません!

水着の名前は、唯一ナオミのスクール水着くらいしかない。

そして今回は会話パートが多めです。

それでは本編の始まりです。



 

「気象状況問題なし」

 

「サリア隊が出たら、マッハで輸送機の着陸態勢に移行するよ!」

 

今日はアルゼナルが妙に慌ただしかった。しかし、そんな慌ただしさも今のアンジュの耳には届かなかった。

 

アンジュにはシルヴィアとの、妹の悲鳴が耳から

離れなかった。

 

「助けてお姉様!アンジュリーゼお姉様!」

 

(シルヴィア・・・あなたの身に一体何があったの・・・!?)

 

すると突然ヴィルキスが射出された。突然のことにアンジュは驚く。

 

「ウワァァァ!何するのよ!」

 

「ぼさっとしてるからよ!」

 

アンジュは気づいてなかったが、実はすでに発信命令が何度も出されていた。アンジュはそれに気づいていなかったのだ。それゆえ緊急発進ブースターを使われたというわけだ。

 

「慰問船団、まもなく第一中隊と接触します」

 

オペレーターの子、今まで名前をほとんど呼んでいなかったが、オリビエがそう言う。

 

「くれぐれも粗相の無いように!」

 

エマ監察官は何やら不機嫌だった。

 

「ウォォー!フェスタだフェスタだ!」

 

「フェスタ?」

 

アンジュはその言葉に首を傾ける。

 

「アンジュちゃんは初めてだったわね。フェスタってのはね」

 

「おい!例の見せ物が始まったぜ!」

 

エルシャの言葉を遮るかのように、そこにはジェットボードが現れた。

 

その人は黒い長髪にフリルのスカートをしていた。

そしてジェットボードのスモークマシーンで何かを空に書き始めていた。

 

【ようこそ!慰問船団の皆さん!】

 

そう書かれていた。

 

その出来の良さに第一中隊の面々が感心していた。

 

このような素晴らしい女性が慰問船団を迎え入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の正体はメビウスである

 

話は前日に遡る。

 

「俺に慰問船団の迎えのメッセージをしてほしい?」

 

ジル司令に用事があって司令室に来ていたメビウスはその言葉に多少驚く。

 

「そうだ。実は本来なら歓迎のメッセージは他の人がやる予定だったのだが、そいつが急遽できなくなったのだ。でお前にやって貰いたいと思ってな」

 

「それならパラメイルでやればいいじゃねえか。わざわざジェットボートを使う理由があるのか?

 

「パラメイルは慰問船団の護衛にあたらせている。そのような事をしては万が一の自体に対処できないだろ?」

 

「まぁ、あれは今となっては使いこなせるようになったし、別にいいですよ」

 

・・・この時何故俺は了承してしまったのだろうか?

 

「実はな・・・当日だけど、お前はその時だけ女になってもらいたい」

 

「・・・話の意味がわかりません・・・」

 

「だからお前には女の格好をしてもらう」

 

そう言われてジル司令は目の前に化粧セットを差し出してきた。

 

ゆっくり後ろに下がりながら、後ろ手でドアを開けようとする。

しかし開かない。

 

「残念だが、既にドアはロックしてある。首を縦に振るまで部屋からは出られんぞ」

 

「・・・せめて女の格好しなければならない理由だけでも教えてください」

 

「ここに男がいる事を知られるわけにはいかんだろ?」

 

「・・・わかりました・・・」

 

俺はすっかりやられてしまった、

 

 

 

 

 

そうして今に至るわけだ。

 

上は元から女性用だった。それにズボン系に関しても、タンスにしまってあったスカートを取り出した。それにカツラをつけて、後は多少のメイクでどうにかしていた。

 

耳栓式の通信機からはロザリーの大爆笑が聞こえた。

 

(・・・ロザリーめ。後で覚えてろ・・・)

 

内心では嵐の海以上に荒れていた。

 

 

 

 

 

 

そんな中、慰問船団の中では

 

「あれで戦うのですか?ドラゴンと」

 

「作用でございます。お嬢様」

 

今回の慰問船団の代表と言えるミスティ・ローゼンブルムがパラメイルに対して質問してきた。そしてそれを彼女の執事が答える。

 

ローゼンブルムとは、アルゼナルを管理している国である。

 

「それにしても、あの文字を書いた方はすごいですね。後でお会いしたいです」

 

彼女は先程の文字のお礼をしたがった。

 

 

 

慰問船団がたどり着くと遂にフェスタが始まった。

 

「これが・・・フェスタ?」

 

「みんな楽しそうじゃねぇか」

 

「そうよ。人間が私達に休む事を許してくれた日。それがフェスタ」

 

サリアがアンジュとメビウスに解説する。

 

「明日までは全ての訓練が免除。ノーマにとっては、たった1日だけのお祭り。過酷なノーマ達が、明日を生きる理由の一つなの」

 

「ペロペロ〜良い子のみんなには、ペロリーナからプレゼントペロ〜」

 

ペロリーナが幼年部の子供達に風船を配っている。

 

しかしその声は聞き覚えがあった。

 

「・・・ねぇサリア。あれって中はエル・・・」

 

「中の人なんていないわよ」

 

「・・・なんかごめん」

 

自分の聞こうとした質問が凄く浅ましく感じられた。

 

「奴隷のガス抜きってことね」

 

アンジュがスパッと言った。

 

「確かにそうだけど、言い方ってものがあるでしょ!」

 

「まぁまぁ二人とも、今日はフェスタなんだよ。楽しまなきゃ!」

 

二人を止めるようにナオミが言う。

 

「もう一つ聞いておく。周りの格好はなんだ?」

 

周りの人は皆水着姿がほとんどであった。

 

アンジュは赤の上と下が分かれている水着。サリアはスクール水着の後ろが丸出しの進化前ような水着だ。ナオミに至っては【1ー1】と書かれたスクール水着だった。

 

「伝統よ。制服やライダースーツじゃ息がつまるでしょ?」

 

因みにメビウスは上は女装し終わった後は、適当に選んだ服を着ていた。下はいつも通り黒のチノパンである。

 

「恥ずかしくないの?」

 

そう言われるとサリアは胸を隠した。

 

「水着でいることよ!」

 

「ちなみにナオミ。お前キャッシュあるのか?」

 

「前回の初物討伐の残りのお金がまだ残ってるし」

 

「借金は ・・・まだあるのか?」

 

「まだ1260万キャッシュもあるよ」

 

「まぁ頑張れよ。さて俺はそこらへんで何か食べ物でも探すか」

 

そう言ってメビウスは人混みへと入っていった。彼からしたら目のやり場に困るのがたまに傷だが。

 

「それじゃああなた達も今日を楽しみなさい。これから映画見るの」

 

そう言うとサリアも人混みへと消えていった。

 

皆それぞれがフェスタを楽しもうとしていた。

 

 

 

 

 

こちらではミスティ・ローゼンブルムの接待をエマ監察官が行なっていた。

 

「よくおいでくださいました。ミスティ・ローゼンブルム妃殿下」

 

「いえ、アルゼナルを管理するのは、我がローゼンブルム家の責務ですから」

 

「無事に終えられたのですね、洗礼の儀。これでミスティ様も皇室の仲間入りですね」

 

「あの、一つお伺いしたいのですが?」

 

「はい。なんでしょうか」

「ミスルギ皇国第一皇女、アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギ様がこちらにいると思われるのですが?」

 

「・・・確かにその者はいましたが、今ではアンジュです」

 

「構いません。お会いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「・・・わかりました。少しお待ちください」

 

 

 

 

 

 

 

メビウスは今、司令室へと来ていた。

 

ドアを開けるとそこにはオリビエがいた。

 

「メビウスさん。どうしたんですか?」

 

「やっぱりいた。フェスタって特別な日なんだろ?こんな時まで任務して、大変なんだな」

 

フェスタとはいえドラゴンが現れない保証などどこにもない。そのため最低でも一人はオペレーターがいるのだ。

 

「ええ。でも任務ですから」

 

「・・・変わろうか?それ?」

 

「え?」

 

オリビエにとってその言葉はまさに天使の囁きだった。

 

「正直な話、フェスタ苦手なんだよ。みんな水着だから目のやり場に困っちゃうんだよ」

 

「でっでも」

 

「いいって、特にするべき事はモニターを見て異常が起きたら報告なんだろ?俺にだってできるさ」

 

その一言にオリビエは完全に誘惑に負けた。

 

「ありがとうございます!では行って来ます!」

 

「楽しんでこいよ〜」

 

オリビエが部屋から出て行くのを確認した。念入りに廊下の角を曲がるところまで目撃してから、部屋のドアを閉めた。

 

「さてと。そんじゃ始めるとするか」

 

そう言うとメビウスは司令室のパソコンをいじりだした。

 

実は司令に外の世界について調べてもらおうと頼んだのだ。しかし司令はそれを拒否した。しかし、それでおとなしく諦めるようなメビウスではない。

 

調べてくれないのなら自分で調べるまでだ。

 

既に彼の中では検索するべき事は決まっていた。

 

「まず調べる事は決まってる。以前モモカさんが言っていたミスルギ皇国。これについてだ」

 

モモカさんが言っていたミスルギ皇国に空いた穴。それを調べようとしていた。

 

その後しばらくメビウスはパソコンで色々な事を調べていた。

 

 

 

 

 

一方こちらはロザリーとクリス。

 

クリスはヒルダの件で悩んでいた。

 

「ヒルダってば、一体どうしちゃったんだろう。ねぇロザリー私達、ヒルダに避けられてるのかな?」

 

今日の訓練ときも、ヒルダは何か深刻な面持ちをしていた。

 

「いっけぇ!豚骨インパクト!私のキャッシュを307・2倍にできるのはお前だけなんだ!」

 

ロザリーはすっかり競豚競争に夢中だった。

 

「ロザリー!」

 

「うぉっ!なんだよクリス」

 

「ヒルダの事!心配じゃないの!?」

 

「向こうが会いたくないんだ。今こちらから会いに行っても意味ないだろ?ヒルダが昔から何考えてんのかよく分からないのは今に始まったことじゃないじゃないか」

 

「それは・・・そうだけど」

 

「うわぁぁ!何してるんだよ!豚骨インパクトォ!!!」

 

どうやらギャンブルに失敗したらしい。例の山分けの金をこれでほぼ全部剃ったらしい。

 

 

 

それぞれがフェスタを楽しんでいた。エルシャはオイル・マッサージを堪能していた。因みになぜか外にはペロリーナ人形の着ぐるみがあった。ヴィヴィアンはメイとイカ焼きを食べていた。サリアは恋愛映画のワンシーンでハンカチ片手に泣いていた。ナオミはハンバーガーとソフトクリームを手に持ちながら、食べ歩きをしていた。

 

皆それぞれがフェスタを満喫していた。

 

メビウス、アンジュ、ヒルダを除いて。

 

アンジュはパラソルの下にいた。その後ろにはヒルダもいた。しかし、アンジュ達はヒルダには気がついていない。

 

無論、アンジュが考えているのはシルヴィアの事だ。

 

「・・・!マナから通信です!」

 

「シルヴィアから!?」

 

モモカが驚きながら尋ねる

 

「いえ。これはエマ監察官です」

 

エマ監察官はミスティの頼みを受けた、アンジュを呼び出そうとしていた。

 

とりあえずモモカはその通信に出る。

 

「あの、アンジュリーゼ様にお会いしたいと言う方がおりまして」

 

「私に?一体誰よ?」

 

「ミスティ様です」

 

「ミスティ・・・ミスティ・ローゼンブルム!?」

 

まだアンジュが皇族だった頃。ミスティとは同じエアリアで勝負した事があるのだ。洗礼の儀を受ける前日にあったエアリアの対戦相手もミスティ達だったのだ。

 

「どうします?アンジュリーゼ様」

 

「会ってどうするの?笑い者にでもしたいわけ?」

 

アンジュはもはや皇室の人間ではない。ノーマなのだ。そんなアンジュに会いたいなど、変わり者としか思えない行為だ。

 

「・・・しばらくの間、消えるわ」

 

そういうとアンジュは、側に置いてあったペロリーナの着ぐるみへと手を伸ばす。

 

少しすると、そこにはアンジュではなく、ペロリーナがいた。

 

「ほら、モモカは離れて。あなたと一緒だと私だってバレるでしょ?」

 

「ですが。アンジュリーゼ様ぁ」

 

「私はペロリーナペロ〜」

 

既にアンジュはペロリーナになりきっていた。

 

「アン・・・ペロリーナ様ぁ〜」

 

モモカはそう言いながら手を伸ばすことしか出来なかった。

 

そしてその後ろではヒルダが笑みを浮かべていた。

 

まるで絶好のタイミングが来たでも言わんばかりの笑みを・・・。

 

 

 





フェスタの開幕です!

私はフェスタとかは食べ歩きをしますね。

男主人公の女装は定番のネタだろ!?
(勝手な思い込み)

次回かその次でで第3章のストーリーは終わる予定です。

そうしたら第4章ですよ!


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第28話 大脱走!アルゼナル




今回で第3章はおしまいです!その為文量が普段よりも多いです!

一体完結まで何話くらいかかるのでしょうね。

今回はやりたい事をやりました!

それでは本編の始まりです!



 

 

メビウスが司令室のパソコンから一通りの情報を集め終えていた頃だ。不意に人の気配を廊下から感じた。

 

慌ててパソコンの電源を切る。それと同じくらいにドアが開いた。そこにはメビウスが見た事ない人がいた。

 

「あっあの。道に迷ってしまって・・・ここはどこですかね?」

 

「えっと・・・ここは司令室だけど?」

 

「・・・あなたもしかして?空中に文字を書いた人ですか?」

 

「ええ。まぁ」

 

「そうですか。あの時の演技は見事なものでした」

 

「おう。ありがとうな」

 

やはり褒められて嫌な気はしないものだ。

 

「俺はメビウスって言うんだ。よろしくな」

 

「私はミスティ・ローゼンブルムと申します」

 

「ミスティお嬢様ぁ〜だからあれほど一人で歩いてはならないと」

 

するとドアから執事が現れた。

 

「あらすいません。ではメビウスさん。これで失礼します」

 

「おう。元気でな」

 

そう言うと二人は部屋を出て行った。

 

(・・・あの子。今日の慰問団の偉い人なのかな?)

 

 

 

「お嬢様。先ほどの者、まるで男みたいでしたね」

 

「ええ。でも、あの様な気さくな方もノーマなんですね・・・」

 

ミスティはどこか悲しい面持ちをしていた。

 

(さて・・・と。一通りは調べ終わった。それにしても・・・こんなこと有り得るのか・・・)

 

司令室では、メビウスは先程検索をした一通りの

情報が整理できずにいた。

 

(・・・とにかく今はオリビエとの約束もあるな。

にしても腹減ったな)

 

そうしてメビウスは考えを少しでもまとめるため、モニターを見ながら、買い溜めをしておいたフェスタの食事に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

一方こちらはアンジュ。彼女はペロリーナの着ぐるみに入って、一人になれる場所を探していた。

 

隣ではエマ監察官がアンジュを探していた。

 

エマ監察官は先程、ジル司令、マギー、ジャスミンの着替えを除いてしまった。その時「いや〜ん」とコテコテの反応をされたため、多少不機嫌でもあった。

 

一方のアンジュは、ある事に苦しんでいた。

 

「・・・暑い・・・蒸れる・・・臭い・・・」

 

着ぐるみの中は他の例に漏れず、快適ではないらしい。

 

その時だった。隣にあったメリーゴーランドの手すりが突然破損した。そのメリーゴーランドに乗っていた女の子が悲鳴をあげる。

 

「キャァァァァァ!」

 

その時アンジュの脳裏にかつての記憶が呼び覚まされた。

 

馬に乗っていた妹が、馬から落馬した事を。

 

アンジュは体が勝手に動いた。ペロリーナ姿でその子を助けていた。

 

「はぁ、はぁ、大丈夫・・・ぺろ〜!?」

 

「うっうん!ありがとう!ペロリーナ」

 

その少女はペロリーナにお礼を言った。

 

アンジュは妹の事を考えていた。

 

(・・・シルヴィア・・・)

 

 

 

ペロリーナ事アンジュは格納庫へと来ていた。

 

するとそこには先客がいた。

 

モブな二人はペロリーナに気がつくことなく、

きゃっきゃうっふしていた。

 

「アン!アン!そこ!いいよぉ!」

 

「もっと喘いでいいのよ。誰もいないから・・・」

 

・・・遂に踏み込んではいけない事に踏み込んでしまった気がする。

 

ペロリーナは二人に気がつくように接近していった。

 

「なっ!あなた一体何者!」

 

「いっ!いつから見ていたの!」

 

「どこか行けペロ〜!」

 

ペロリーナの気迫に押されて、二人はその場を後にした。

 

アンジュはペロリーナの頭部を脱いだ。

 

やっと一人になれた。アンジュは先程二人が横に

なっていたベンチに横になる。

 

外からはノーマである彼女達の歓声が聞こえる。

 

アンジュは先程のメリーゴーランドの件を考えていた。

 

 

 

アンジュがまだ幼かった頃。アンジュは妹のシルヴィアと一者に馬に乗っていた。

 

原っぱを駆け抜ける馬とそれに乗る姉妹はまさに絵になる構図であった。

 

しかし、その時だった。シルヴィアが馬から落馬

したのだ。

 

「シルヴィア!」

 

アンジュはすぐに馬から降りて彼女に駆け寄った。直ぐに家へと連れ帰った。

 

直ぐにモモカがマナで治療を施した。しかし、マナとはいえ、治せないものもあるのだ。彼女の足は

動かなくなってしまった。

 

「ごめんなさいシルヴィア・・・わたくしのせいで・・・」

 

「お姉さまのせいじゃありませんわ。また遠乗りに連れて行ってくださいね」

 

シルヴィアはアンジュを許したのだ。

 

 

 

アンジュはしばらく考えていたが、やがて目の前の輸送機に目をやった。それはローゼンブルム王家の家紋が描かれていた。

 

(・・・・・・)

 

 

 

 

「ペロリーナ様ぁ〜一体何処ですかぁ〜?」

 

こちらではモモカがアンジ・・・ではなくペロリーナを探していた。

 

その両手には、オレンジジュースを持っていた。

 

「ペロリーナ様。脱水症状になってなければよろしいのですが」

 

「やっと一人になったね」

 

「はい?」

 

自分の事かと思い、モモカは後ろを振り返った。

 

そこにはヒルダがいた。

 

次の瞬間、ヒルダはモモカに銃を向けた。驚きで

手に持っていたジュースを床に落とす。床にはジュースのシミがついた。

 

「ひっ!?」

 

「ちょっとつきあってもらうよ」

 

ヒルダはそう言うと、黙って距離を詰めてきた。

 

 

 

 

 

その頃メビウスは一人、モニターを見ながら色々と食べていた。食べてはいたが、頭の中は全く整理がされていなかった

 

すると再び、後ろのドアが開く音がした。

 

振り返るとジャスミンとオリビエがいた。

 

「ここにいたのかいメビウス。悪いけどあんたに

用事があるんだよ」

 

ジャスミンがそう言う。

 

「ジャスミン。悪いけど今はモニター確認の仕事中なんだよ」

 

「メビウスさん、大丈夫です。交代しますね」

 

オリビエがそう言う。どうやらパメラやヒカルと楽しく過ごせたそうだ。

 

メビウスからしたら、一通りの情報を引き出せた為、もう司令室に要は無かった。

 

「そうか、じゃあ後は頼むぜ」

 

そう言うとメビウスは席を立ち、司令室を後にした。

 

ジャスミンに先導され、多少歩いた。

 

しばらくするとそこには同じ水着を着ていた彼女達がいた。

 

「賞金1000万キャッシュの大運動会の始まりだぁ!みんな賞金目指して頑張りなぁ!」

 

次の瞬間彼女達のテンションボルテージが一気に

最高潮に達した。

 

「イエェェェェェイ!!!!!」

 

ただ一人、メビウスだけが理解できていなかった。

 

そして次のジャスミンの言葉に耳を疑った。

 

「さらに!今回はビンゴ大会もあるよ!一頭はなんと!メビウスに一つだけ命令できる権利が与えられるぞ!」

 

「・・・はぁ!!?ジャスミン!それはどういう事だ!」

 

「言葉通りさ。あんたにはビンゴの景品になってもらうよ」

 

「なんでだよ!」

 

「安心しな、死ねとかそんな命令はくださせない。まぁ多分金を寄越せって言われるだろうね」

 

文句はまだまだ言いたかったが、ジャスミンは全て無視を決め込んだ。

 

メビウスもやがて諦めると、参加しているメンバーを見た。

 

そこにはロザリーにクリス、ヴィヴィアンにエルシャ、サリアにナオミがいた。

 

「あんたは特等席でゆっくり見てなよ。それじゃあ最初の競技だ!」

 

ジャスミンが競技の開始を宣言した。

 

こうなったらもう仕方ない。諦めて運動会の見物でもするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最初の競技は!恐怖!溶ける水着でパン食い競争だ!」

 

「待て待て待て待て待て待て待て待て!!!」

 

(なんなの一体!それは!?溶ける水着!?なんで

溶けるの!?溶けたら胸がこんにちはになるんだよ!?それでいいの!?パン食い競争!?そんなの喉に詰まったら危ないよ!立ち止まって普通に食べればいいだろうが!)

 

メビウスが脳内で色々と思っている間に、その競技はスタートしてしまった。

 

そしてその頃時を同じくして、アンジュはある場所である人物にあっていた。

 

扉の前にいた警護の人と執事は既に黙らせていた。

 

ミスティの目の前にはペロリーナがいた。

 

「だっ誰ですか!?」

 

「私よ。久しぶりね、ミスティ」

 

そう言うとアンジュはペロリーナの着ぐるみの頭部を再びとった。

 

「あっアンジュリーゼ様・・・なのですか」

 

「かつてはね。今はただのアンジュよ。それより、私に何か用でもあるの?」

 

「未だに信じられません・・・私の永遠の憧れであったアンジュリーゼ様が・・・ノーマだったなんて・・・」

 

「・・・ミスティ、あなたは優しすぎるわ。私は

ノーマだった。それが現実なのよ」

 

・・・ミスティは黙ってしまった。

 

「さてと、これで満足よね。それじゃあ今度は私の番ね。頼みたい事があるの」

 

「・・・なんですか!?私に出来る事なら手伝います!」

 

「そう。それは良かったわ」

 

するとアンジュはナイフを抜いた。

 

「手伝ってくれる?脱走」

 

アンジュは満面の笑みでそう聞いてきた。

 

 

 

第五競技は!挟んで運べ!お●ぱいたまごだ!」

 

言っちゃった!遂にこの作品でお●ぱいって言っちゃったよ!もしこの作品が消されたらこの発言のせいなのか!?そうだよな!?そうだよね!?

 

・・・取り乱してすまない。気をとり直して話を

進めよう。

 

この競技はその名の通り、お●ぱいに卵を挟んで割らずに持っていく競技だ。

なおこの競技ではパッドなどの装備は禁止されている。

 

皆がたまごをそれぞれ胸の谷間に挟み込んだ。

 

「よーい!ドン!」

 

その掛け声のもと、皆がそれぞれ走り出した。

 

基本、たまごを割らない様にバランスに気をつける。

 

この競技はエルシャの様な四次元バストに有利だが、サリアのようなつるぺったんには向いていないのだ。

 

しかしだ。そんな中でも一際すごい活躍をしている存在がいた。

 

それはなんとクリスだった。

 

彼女は第一競技でもそれなりの成績を残しているのだ。

 

「・・・あいつすげぇな」

 

メビウスはクリスの活躍ぶりに驚いていた。

 

 

 

 

 

その頃、アンジュとミスティはジャスミンモールへと来ていた。水着を着用していたバルカンがいたが、皿いっぱいのハンバーガーであっさりと買収出来た。

 

武器など様々な物をカートに乗せていた。

 

「処刑!?」

 

アンジュはミスティから聞かされた言葉に驚いていた」

 

「はい。国民を欺いたため、ミスルギ皇室の人達はいずれ・・・」

 

「そんな・・・シルヴィア・・・」

 

アンジュは武器を入れたカートを押しながら店を出た。

万引きであるが、店番であるバルカンはすっかり

ハンバーガーに夢中だった。そして二人が店を出たときも、尻尾を振っていた。

 

一応人質的に扱うため、ミスティの腕は縛っていた。

 

「たったすけて〜」

 

特に助けを求めてる感はしない。

 

 

 

 

 

そしてこちらはヒルダとモモカであった。

 

「マナを使えるあんたなら、これ、動かせるよな?」

 

それはローゼンブルム家の紋章付きの輸送機だった。

 

「できますが・・・何のために?」

 

「決まってるだろ?脱走だよ」

 

その言葉にモモカは驚く。

 

「・・・お断りいたします。私が従うのはアンジュリーゼ様だけです」

 

「だったら死ぬかい?いいのかい?だ〜い好きな

アンジュリーゼ様のお世話ができなくなっちまうよ?」

 

するとそこにアンジュとミスティがやってきた。

 

「・・・モモカ!?」

 

「アンジュリーゼ様とミスティ様!」

 

「これはこれは・・・イタ姫様」

 

「モモカ!なんであなたがヒルダと一緒にここにいるの!?」

 

「この方が、脱走するから輸送機を飛ばせと!」

 

「脱走!?・・・どうしてなの?」

 

「あんたには関係ないだろ?」

 

そう言うとヒルダはアンジュ達に銃を向けた。咄嗟にアンジュもカートの中からアサルトライフルを手に取り、ヒルダに向ける。

 

「させないわそんな事。これは私が使うから」

 

「はぁ!?」

 

ヒルダは驚いた。まさか自分以外にもだ 脱走を企てる存在がいたと言う事に驚いた。

 

するとモモカが驚きながらたずねる。

 

「もしかして!シルヴィア様の為にですか!?」

 

「私はあの子から自由を奪ってしまった。だから私が守る!私が・・・。モモカ!あなたもついてきてくれるわよね!?」

 

「もちろんです!アンジュリーゼ様のためなら!

シルヴィア様のためにも!」

 

「へぇ〜利害の一致ってやつか。なら話は早い。共同戦線ってやつでいこうぜ」

 

「断るわ!あなたは信用できないから」

 

「無理すんなよ。それじゃあ誰が輸送機の拘束を外すんだい?」

 

「拘束?」

 

「そうだよ。この輸送機は整備のために色々と拘束してある。無理に外せば警報装置が作動するよ。かといって無理に飛べば機体損傷。あんたに解除できるのかい?」

 

「・・・」

 

アンジュは黙り込んでしまった。

 

「あたしはできる。なんてったってこの日のためにずっと準備してきたんだから。どう?協力しない?」

 

暫く考えていたがアンジュはやがて武器を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ!今年の大運動会!優勝はなんと!

意外も意外!大穴中の大穴!サリア隊のクリスだぁ!」

 

今年の大運動会の優勝者、それはクリスであったのだ!

 

その事に皆が驚いていた。

 

手には1000万キャッシュがあった。

 

「これで、ヒルダとも仲直りできるかな?」

 

「クリス・・・お前・・・」

 

「さぁ!それじゃあ!ラストイベントの前に!

ビンゴ大会行ってみよう!」

 

すると曲が流れ始めた。

 

「ビンゴ!(間奏)ビンゴ!(再び間奏)楽しいビンゴ!地球はたのしーいところだよ!ごーはーんーもーおーいーしーい!楽しいビンゴ!楽しいビンゴ!

へーい!」

 

何故か皆が妙な踊りをしていた。片足でクルクル回っている人までいた。

 

「さあ!それじゃあ!ビンゴ大会!行ってみようカァ!」

 

その後のビンゴ大会はとてつもなく盛り上がっていた。

 

そして暫くして

 

「ビンゴー!!ビンゴビンゴ!!ビンゴー!!!」

 

最初にビンゴが出たようだ。

 

それはなんとヴィヴィアンだった。

 

「ヴィヴィアン。あんたはメビウスに一つだけ命令できる権利が手に入ったよ。さて!何を命令する!?」

 

「可能な命令なら聞くぜ、ジャスミンモールでポテチ買ったり、おんぶしたりとか、色々とな」

 

「それじゃメビウス!私命令じゃなくてお願いがあるんだ!」

 

「何だ?言ってみろよ」

 

メビウスは水を飲みながらそう聞いた。

 

次の言葉があんな破壊力を持つ事になるとは・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のこと。お姉ちゃんって呼んで!」

 

「ブーーー!!!」

 

飲んでいた水が一気に吹き出された。

 

(おっおっおっお姉ちゃん!?お姉ちゃんってあれだよな?年下の子供が年上の女の人に呼ぶ。よく幼年部の子供がエルシャの事をそう呼んでるあのお姉ちゃんだよな!?)

 

「第一中隊はメビウス以外年下がいないじゃーん。一度はお姉ちゃんって呼ばれてみたいよ〜」

 

「なっナオミがいるじゃねぇか?わざわざ俺が

そんなこと言わなくても」

 

ナオミは14歳だ。少なくてもヴィヴィアンよりも歳下である。

 

「ナオミだと妹感が出ないよ。スタイルもサリアより上だし〜」

 

サリアの視線が睨むようにヴィヴィアンへと向けられた。

 

まぁそれに関してはメビウス自身も思っていたため、苦笑していた。

 

「・・・メビウス。とっとと言っちまいな」

 

ジャスミンがマイクをメビウスに渡す。

 

「おっ・・・おねえ・・・」

 

「聞こえないわよ〜!?」

 

サリアが大声で叫ぶ。それに同調して周りも同じことを叫ぶ。

 

 

 

「・・・ヴィヴィアンお姉ちゃん!!」

 

メビウスは顔が赤くなるのを実感している。

 

「ウッホー!!エルシャってばこんな気分だったんだね!」

 

ヴィヴィアンが嬉しそうに言う。どうやら大満足したようだ。

 

「さてと!それじゃあビンゴの方もあらかた終わったみたいだし。本日のラストイベント!打ち上げ花火だぁ!」

 

ジャスミンがそう言うと、空めがけて、無数の花火が打ち上がった。

 

しばらくするとそれは空中で炸裂した。

 

(綺麗だなぁ)

 

メビウスは目の前の光景に心を奪われていた。夕方の空に浮かんだ花火はとても鮮やかなであった。

 

その時だ。メビウスの目に司令室が見えた。そこにはオリビエが顔をくっつけて花火を見ようとしていた。

 

(ん?あれはヒルダ?)

 

その時、メビウスの目にヒルダが映った。考えてみればフェスタ中、ヒルダを見たのは初めてだった。

 

すると突然オリビエが倒れた。

 

(なっ!?)

 

メビウスはその光景が理解できないでいた。しかし一つだけわかった事があった。

 

(なんかあったのか!?)

 

メビウスは駆け足で司令室へと進んだ。

 

司令室に着くと、そこにはオリビエが倒れていた。

 

「おい!オリビエ!大丈夫か!?」

 

「めっ、メビウス。私・・・一体・・・」

 

すると司令室のモニターが突然音を立てた。

 

「オリビエ!これはなんだ!?」

 

「これ・・・輸送機の拘束具が解除された音だよ!」

 

「なに!?・・・発着デッキか!」

 

メビウスは走りながら発着デッキに足を進める。

 

 

 

その頃、ジャスミンの所にエマ監察官とジル司令とマギーが来た。

 

「どうしたんだい?みんなして?」

 

「ミスティ・ローゼンブルム様がどこにもいないのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前に遡る。

 

発着デッキではアンジュとモモカが荷物の運搬をしていた。

 

そこにヒルダが戻る。

 

「急げ!フェスタが終わっちまう!」

 

彼女は針金を取り出した。そしてそれをある所に

差し込んだ。しばらくかちゃかちゃしていたが、

やがて近くにあった蓋が開かれた。

 

そこにはさまざまな装置などがあった。

 

彼女の狙いは拘束具の解除システムと緊急射出システムだ。

 

ヒルダはタイミングを見計らっていた。狙いは花火が打ち上がる時。

 

モモカはマナを使い、輸送機の機能を作動させていた。

 

「・・・・・・今だ!」

 

そう言うとヒルダはその装置のスイッチを切った。タイヤを固定していた拘束具が外れる。

 

「よし!成功だ!」

 

すると輸送機が少しずつ進んでいく。

 

「おい!待てよ!」

 

ヒルダが走りながら言う。

 

その時メビウスが発着デッキにたどり着いた。

 

「ヒルダ!?それにアンジュ!?二人とも何してんだ!?」

 

「メビウス!?」

 

アンジュが驚くが直ぐにヒルダに向かって言い始めた。

 

「ブラジャーの恨み、忘れてないから。あのせいで大変な目にあったのよ!」

 

「そんな昔の事!」

 

「それだけじゃないわ!散々後ろから狙ってきた事!手下を使った嫌がらせ!ペロリーナの着ぐるみの臭さ!」

 

「最後の何だよ!」

 

「とにかくあなたは信用できない!せいぜいお友達と仲良く暮らしてなさい。モモカ!後部ハッチ閉めて!」

 

「でっ・・・ですが・・・」

 

「ふざけんなぁ!!」

 

そう言うとヒルダはスロープにしがみついた。

 

その時ちょうどジル司令達もやってきた。

 

「メビウス!これはどういう事だ!?」

 

「わかりません!気がついたらこうなってて・・・」

 

するとジル司令は銃を取り出し、ヒルダ達に向けて撃った。

 

「やめてくださいジル司令!

二人に当たったらどうするんですか!?」

 

「ジル!およし!」

 

ジャスミンもジル司令を止めに加わった。

 

そうしている間にも輸送機は加速していく。

 

「ふっざけんな!このために!何年も何年も待ったんだ!生き残るためなら、ゾーラのおもちゃにもなった!面倒な奴とも友達になってやった!なんだってやってきたんだ!」

 

その迫力はアンジュを驚かせた。

 

「ずっとこの日を待ってたんだ!・・・絶対に!

ママのところに帰るんだ!!!」

 

「!ママ・・・」

 

すると輸送機が遂に離陸を始めた。ヒルダが

バランスを崩す。

 

「ウワァァ!」

 

落ちそうになったヒルダが手を伸ばした。

 

・・・ヒルダの手をアンジュの手が握っていた。何故そのような事をしたのかはアンジュ自身にも分からなかった。

 

「・・・モモカ!一人追加するわ!」

 

「!はい!アンジュリーゼ様!」

 

そうしてアンジュ達を乗せた輸送機はアルゼナルを離陸した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発着デッキには、メビウス、ジル司令、マギー、ジャスミン、エマ監察官、そしてバルカンが残された。

 

「アンジュ・・・ヒルダ・・・」

 

メビウスは輸送機に搭乗した二人の名前を呟いた。

 

「どうしましょう!ノーマの脱走を許したばかりか!ミスティ様も誘拐されるだなんて!」

 

「うぉっと!」

 

「危ない!」

 

エマ監察官が倒れそうになった。それをメビウスとマギーで支える。

 

「簡単に買収されちまいやがって!何のための番犬だい!全く!」

 

ジャスミンはバルカンに怒っていた。バルカンは小さく縮こまる。

 

「ジャスミン。みんなを一箇所に集めてくれ。メビウス。お前もみんなのところにいけ」

 

ジル司令がそう言うと、メビウスとジャスミンは発着デッキを後にした。

 

 

 

 







今回で第3章はおしまいです!ですがオリジナルキャラクターや機体図鑑などを作るため、第4章は次の次の話からです!

ヴィヴィアンにお兄ちゃんっね呼ばれたい人は絶対いるはずですよね!

第4章は際どい描写が少ないといいなぁ



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第28,5話 オリジナル図鑑!

今回は第4章に突入する前にこれまでのオリキャラについてのかるーい解説をする回です。

基本設定はこの作品の独自性を含んでいます。


メビウス。

 

年齢10歳(周りは7歳と見ている)

 

身長140cm 体重43.1kg

 

本作の主人公。

 

髪は黒のショートヘアー。

 

瞳の色 黒

 

ライダースーツ 黒

 

ある日シンギュラーからフェニックスとともに落ちてきた。第一中隊の中では最も小柄だが、身体能力、並びにメイルライダーとしての適正は最高クラスを超えてもはや化け物クラス。

(12話のデータ参照)

 

ノーマではあるが、他人のマナを破壊はできない。

 

本来の年齢は13歳でさらに身長も160cmはあったらしい。

 

自身に関する記憶のほとんどを失っており、自分の記憶を取り戻すために戦っている。

 

他人に対して裏表なく接するため、周りからの評判も良いが、その心の陰には自分自身に関する記憶が無いことへの恐怖と、自分がこの世界の人間ではないという事に孤独を抱えている。

 

そのため自分がこうでありたいと思う自分を演じているとエルシャには見抜かれている。

(そこで芽生えた感情に嘘はない)

 

実はかつてはスパイでありながらもブラックドグマの一員であった事がガーナムの口から語られている。

 

ガーナム曰く、任務に忠実で殺せと命令されれば女子供だろうと迷わず殺す。人の命などそこら辺の紙屑程度に扱う人間だったらしい。

(最も、メビウスはその事を否定している)

 

ガーナムとの戦闘後は記憶を取り戻した上で、どうするかを自分で決める。たとえガーナムの言うような人間だとしても自分を変えてみせると決意している。

 

なお、当初は第一中隊のメンバーと着替えも避けており、アンジュが部屋にきた時は、部屋を手放していたが、今はナオミの部屋に転がり込んでいる。他のメンバーとは一緒に風呂まで入るようになった。

(しかし胸はチラチラ見てしまうらしい)

 

因みに寝るときは制服で寝ている。

 

アルゼナルでの始めての食事をとる際、泣いたり、人の死に対して最初は悲しくならなかったり、夢の中で記憶を失う前の景色を見たりと、まだまだ謎が多く残っている人物。

 

 

 

第28話時点での個人的な所持品。(機体除く)

 

キャッシュ(約9000万から1億キャッシュの間)

 

ペロリーナ人形 (ヴィヴィアンからの貰い物)

 

ジェットボード (ジャスミンから無料で譲り受けた)

 

この世界の歴史書(ジャスミンモールで購入)

 

制服の下は黒のチノパン2つ(ジャスミンモールで購入)

 

紐パン2つ(一つは無料でもらい、もう一つは購入)

 

ハンモック(ヴィヴィアンからの貰い物)

 

制服二着(どちらも支給品かつ下はスカート)

 

フェスタ用の服(支給品)

 

 

 

 

ナオミ 年齢14歳

 

身長159cm 体重53.4kg

 

スリーサイズ B 82 W 54 H 87

 

クロスアンジュ 天使と竜の輪舞 trの主人公。

 

濃いピンク髪のトリプルテール (癖っ毛)

 

瞳の色 紫

 

ライダースーツ 白

 

オリキャラとは少し違うが、アニメ本編では未登場な為、オリキャラとしてここに扱う。

 

ココやミランダとは同期。メイルライダーの適性テストの帰りにシンギュラーに遭遇。そこでメビウスと出会う。

 

アンジュの初戦闘の際、自身の機体のグレイブが大破し、その後はゾーラ隊長のアーキバスを譲り受ける。その機体は中のパーツにココとミランダの機体のパーツを使用している。

 

しかしこの事が原因で2000万キャッシュの借金を背負いこむ。

 

27話の時点では1260万キャッシュまで減らせたらしい。

 

初期の頃のアンジュのことを気にかけている。

 

メビウスが泣くのに胸を貸したりと結構大胆なこともする。

 

ココとミランダの死をきっかけに、皆を守るのが私の生きる意味と見つけている。

 

 

 

ガーナム 年齢29歳

 

身長171cm 体重66Kg

 

髪の毛 黒のロングヘアー

 

瞳の色 黒

 

ライダースーツ 不明

 

ブラック・ドグマの幹部。メビウスの夢に現れてメビウスを殺す者と堂々と宣言している。かつてはメビウスと殺し合いをした仲らしい。

 

アンジャが喪失した際はその居場所を教える事でメビウスを呼び出しており、その際の戦闘ではメビウスを追い詰めている。

 

人を馬鹿にしたようなふざけた態度をとっているが、本心は残虐極まりない。

 

なぜかメビウスの夢にたまに現れてくる。

 

 

 

 

 

フェニックス 全高7.4m 重量5.3t(バーグラーセット装備状態)

 

装備

 

高粒子サーベル 高粒子バスター

 

ファングシステム アイ・フィールド

 

バーグラーセット

 

メビウスが乗っていた機体。パラメイルに酷似しているが性能的には格段に上である。

 

最初の頃はサーベルとバスターしか使えなかったが、初戦でのガレオン級との戦闘中にアイ・フィールドとファングシステムが解禁されたがその後ファングシステムは再び封印された。8話では銃火器を求めてバーグラーセットを購入し装備。15話ではファングシステムが再び解禁された。ちなみに本来は操縦桿で操作していたが17話でパラメイルのハンドルへと変更している。

 

半永久機関を積んでおり、他のパラメイルと違い、燃料補給の心配がない。

 

なお、アイ・フィールドは五分間の制限時間がある。

 

他にも、まだメビウスの知らない可能性がある。

 

 

 

 

ナオミ専用 アーキバス 全高7.5m 重量4.1t

 

装備

 

対ドラゴン用アサルトライフル

 

アサルトブレード「ドラゴンスレイヤー」

 

凍結バレット

 

元はゾーラ隊長の機体だったが、ゾーラ隊長の戦線離脱により、当時パラメイルを失っていたナオミに託された。

 

内部のパーツはココとミランダの機体のパーツが使われている。

 

武装などはナオミが借金を背負っていることもあり、グレイブと大差はないが、機体性能はグレイブより上。

 

 

グラスター

 

ブラック・ドグマの機体。

 

所謂量産タイプ。

 

装備

 

右腕がビーム砲。左手がシールド展開システムである。

 

シールドは強固で並大抵の武装では突破できない。

(話の中では、時間制限が10秒であり、コンバットパターンを仕掛けた時を除くと、シールドを抜いたのはファングシステムだけである)

 

 

 

グラスターカスタム(ガーナム専用機)

 

装備

 

ナイフ

 

マシンガン

 

アイ・フィールド

 

ガーナムが操縦する機体。全身が赤く塗られており、ツノも付いている。

 

両腕が自由に使えており、そのため銃だけでなくナイフによる接近戦もできる。

 

フェニックスより強力なアイ・フィールドを搭載しており、その能力はファングシステムを防ぐほど。

 

話の中では動揺で無駄な動きが目立っていたとはいえ、フェニックスを圧倒。

 

メビウスがアンジュを庇わなければ間違いなく戦闘は続けられて、メビウスは負けていた。

 

 

 

 




このような茶番に付き合っていただき、誠にありがとうございます!次回からは第4章です!乞うご期待ください!


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第4章 激突!ミスルギ皇国!
第29話 決意の旅立ち




今回から第4章です!

今回から暫くはアルゼナルのメンバー達はお休みです。

と言っても全員が出ないわけではありませんが。

今回の章からオリジナル展開も増えていきます!

はたしてどのような展開が待っているのでしょうか!?

それでは本編の始まりです!!



 

 

アルゼナルではノーマ達がざわついていた。

 

無理もない。前代未聞の事態が起きたのだ。

 

【ノーマの脱走】そのことが集められた人達に公表された。

 

当初はフェスタの何らかのイベントと皆が理解した。

 

しかし直ぐにそれはイベントなどではない事がわかった。

 

この出来事は彼女達を驚かせるのには十分であった。なんせ彼女達はほとんどが生まれて直ぐにここアルゼナルにやって来ている。それ故に外の世界への興味こそあれど、その様な脱走など考えた事などないのだ。

 

しかしこの出来事は彼女達を不安にさせるのには十分な出来事だった。

 

(これから私達はどうなるのだろう)

 

その思いとともに、第一中隊を除いた人達は皆解散。各自がそれぞれの部屋へと帰っていった。

 

その後第一中隊のメンバーは別々に取り調べを受けていた。

 

脱走したのがアンジュとヒルダという事がこの時メビウス以外の第一中隊にも伝えられた。

 

メビウスも同じように取り調べを受けていた。彼に関しては現場にいたため、共犯者説を疑われたが、直ぐにそれは否定された。

 

オリビエが、メビウスは、発進直前に司令室に来ており、その後に発着デッキに向かった事を証明してくれたからだ。

 

そんな短期間では共犯もクソもないものだ。

 

 

 

メビウスも取り調べが終わり、部屋へと帰った。

 

ナオミは先に取り調べが終わっており、部屋に帰っていた。

 

「あっお帰り」

 

「・・・おう」

 

「・・・メビウス。なんでアンジュ達は脱走したのかな?」

 

「・・・わからない・・・」

 

「明日は早くから集合がかかったし、もう寝るね。寝るときに電気を落としてね。それじゃあおやすみ」

 

そう言うとナオミはベットに横になり、しばらくして寝息が聞こえてきた。

 

メビウスも寝ようとシーツを取り出し、ハンモックにかけようとした。すると、そこに手紙が置かれていた。

 

アンジュからの手紙であった。メビウスは直ぐに手紙を広げた。

 

【この手紙を読んでいる頃には、既に私はアルゼナルにはいないだろう。恐らく私が脱走した事に、基地のみんなが騒ぎになっているだろう。みんなにも迷惑をかけているだろう。多分みんなが脱走した理由は昔のようにミスルギ皇国に帰るためだと言っているだろう。

 

・・・メビウス、それは違うわ。

 

私には・・・妹、シルヴィアがいる。彼女が処刑されるのだ。私がノーマであったせいで。そのせいでミスルギ皇室の人間は処刑されるのだ。

 

私はかつて彼女から足の自由を奪ってしまった。そして今度は命まで奪ってしまう。だから私は妹を助けなくちゃいけない。

 

ここまで来れたのはあなたのおかげでもあるわ。あなたが言った言葉【後悔する生き方だけはするな】その言葉があったから戦って来れた。だからメビウス。あなたにだけは脱走の真実を伝えたい。それじゃあメビウス。みんなにさようならって伝えて。

あなたに会えてよかった・・・さようなら」

 

メビウスは無意識にその手紙を握りつぶした。

 

(違うんだアンジュ・・・)

 

メビウスは考えていた。自分は真実を知っている。自分はその状態でアンジュと会っていた。

もし自分が真実を伝えていれば、別の可能性があったはずだ・・・。

 

ココとミランダの事を思い出す。二人を助けてやれたはずなのに、死なせてしまった。その出来事を思い出す。

 

 

 

 

 

「・・・後悔する生き方だけはするな・・・か」

 

メビウスはそう呟くと、やがて金袋を持ち、部屋の電気を消して、部屋を後にした。

 

行き先はジャスミンモールだった。番犬としてバルカンがいたが、メビウスが金袋を見せると客と判断したのか大人しくなった。

 

メビウスはなるべく男が来ても問題ない衣類を集めていた。パラメイルにカスタムできるパーツを見つける。そして生身用の武器を漁っていた。それなりの食料も買い込み、最後に花束を3つ買った。

 

バルカンの前にキャッシュを置くとバルカンはワンと一つ吠えた。毎度あり!のつもりだろつか。

 

次に医務室に向かう。そこにマギーはいなかった。

 

「・・・ゾーラ隊長・・・」

 

メビウスはそう呟き、ゾーラ隊長の近くにあった、花瓶の花を交換した。

 

そうして医務室も後にした。

 

今度はココとミランダの墓の前に来ていた。

 

二人の墓に花束をを添える。

 

「ココ・・・ミランダ・・・俺は後悔しない生き方をするよ」

 

そうして墓場を後にした。

 

部屋に戻る。すでにナオミは寝ていた。

 

メビウスは金袋から1260万キャッシュを出した。やがて袋からもう少しのキャッシュを出した。

 

「・・・これで借金返せよ・・・あと、みんなで

美味いもんでも食べろ・・・あばよ・・・」

 

そう言うとメビウスはジェットボードを背中に背負い、再び部屋を後にした。

 

ロッカールームにたどり着くと、メビウスは

パイロットスーツに着替えた。

 

発着デッキに着いた。そこには誰もいなかった。メビウスにとっては好都合であった。フェニックスに近づき、作業を始めた。ターボノズルの装備をしていたが、やがて装備が終わった。

 

これでフェニックスの機動力などは飛躍的に上昇した。新たなるフェニックス ターボカスタムだ。

 

フェニックスに搭乗する。フェニックスは固定されていたがそんな事は今のメビウスには御構い無しだ。

 

コックピット内のボックスに食料と衣類を入れる。ボードに関しては折りたたんでしまう。武器などは身体に携帯しておく。

 

拘束パーツの解除、そして機体の発進準備にかかった。

 

「・・・すでに決めたはずだぜ。後悔する生き方はしないって・・・」

 

メビウスはそう呟き、バイザーをかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前に遡る。

 

司令室ではジル司令を中心にサリア、メイ、マギー、ジャスミンが話し合っていた。

 

エマ監察官は絶賛寝込み中だ。

 

「まずい事になっちまったね」

 

マギーがそう言う。

 

ノーマの脱走。それを許しただけでも多少面倒くさいのにまさかミスティを人質にされてしまった点はとてもまずい。なにより脱走したのがアンジュという事が彼女達にとっては何よりもまずい出来事だ。

 

これが他のノーマやヒルダだけならジル司令はせいぜい【放っておけ、それよりミスティ・ローゼンブルム様の捜索に専念せよ】と言えた。

 

だが、アンジュが消えた事は彼女達の計画にも響くものがある。

 

「ジャスミン。坊やとの連絡はとれたか?」

 

「いや、まだだね。なんせ向こうから一方的ってのが普通だろうし」

 

ジル司令の問いにジャスミンは肩をすくめる。

 

(アンジュ・・・それにヒルダも・・・どうしてなの?)

 

サリアは困惑していた。前回の戦いで、ようやく

アンジュがチームとして馴染めて来たと思っていた矢先の出来事だ。無論、ヒルダの事もサリアは考えていた。

 

「・・・最悪の場合。ヴィルキス無しでやらねばならないのかもな」

 

ジル司令がどこか重い口調でそう言う。

 

「いざとなったら・・・メビウスにアンジュの代わりをしてもらうかい?」

 

マギーがそう聞いてくる。

 

フェニックスは機体性能だけでいうならば、

メビウスの腕もあり、

間違いなくアルゼナル最強の存在である。

 

「・・・でもリベルタスには!ヴィルキスは絶対必要だよ!ヴィルキスは、あの人達の決死の思いがこめられてるんだよ!!」

 

メイが必死になりながらそ言う。

 

「分かっている・・・明日、ナオミにアンジュの

捜索をさせるか」

 

ジル司令の言葉にサリアが驚く。

 

「なぜナオミが!?私が行きます!」

 

サリアが代案を提出した。

 

その時、司令室に警報が鳴り響いた。

 

「なんだこれは!」

 

「これ!機体の拘束アームが外された音だよ!機体が発進準備にかかってるよ!」

 

「機体!並びにパイロットは誰か!」

 

「機種データ確認・・・メビウスとフェニックスだよ!」

 

「メビウス!何をしている!やめろ!」

 

モニターにメビウスが映された。

 

「・・・・・・ジル司令。自分はこの世界でするべき事を思い出し、実行しました。そして元の世界への帰還方法もほぼ確立しました。

 

 

 

・・・自分はこれから!元の世界へと帰還いたします!今までお世話になりました!」

 

(嘘だ!)

 

その場にいた皆んながそう思った。

 

しかしメビウスは止まる気配は無かった。

 

「・・・メビウス!フェニックス!行きます!」

 

そう言うとフェニックスはアルゼナルの空に舞い、やがて星空の中へと溶けていった。

 

 

「直ぐに第一中隊にスクランブルを!」

 

「・・・無駄だ。やめておけ」

 

「ジル!?」

 

ジル司令は覚えていたのだ。メビウスが初めてここに来た時、ある事を約束していた。独立した調査権とやるべき事が見つかった際は、帰還を許可すると言う事を。

 

メビウスはそれを利用したのだ。

 

しかし、まさかこのタイミングでそのような事をされるとは、流石のジル司令もこれには動揺していた。

 

なによりフェニックスの機体性能では並大抵の

パラメイルでは追いつくことなど不可能である。

 

「このままあいつ・・・帰ってこない可能性って

ありえるかい?」

 

「・・・その可能性は無くはない」

 

「・・・根拠は?」

 

「・・・フェスタの時、司令室のパソコンに何者かがアクセスした形跡がある」

 

「なんだって!?じゃあまさか!」

 

「さっきオリビエを問い詰めたところ、途中で

メビウスがオリビエと交代したらしい」

 

「知られたと思うかい?【リベルタス】についても」

 

「恐らく、知られただろうな」

 

「・・・あいつを信じるしかないのか・・・」

 

ジル司令はそう言うと、手にしたタバコを義手で

握りつぶした。

 

アルゼナルを離れ、夜空を飛んでいた。地図などはパソコンを見た際に自然と頭に叩き込まれていた。

 

(・・・必ず・・・助ける・・・!)

 

メビウスの目は決意に満ちていた。

 

 






今回、メビウスがアンジュを助けるために脱走してしまいましたね!

本来ならジル司令が依頼するケースを考えましたが、展開に面白みを出すために、あえて脱走にしました。

それにしてもここでまさか最初にしたジル司令との権利交渉が役に立つとは・・・

べっ別に計画通りだし・・・(震え声)



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第30話 ミスティの決断



お気に入り40人突破しました!

今回からどこか冒険物の用に仲間を集めてある場所を目指す風になります。また、多少ショッキングな表現も出始めました。

今までとは違うショッキングな表現が・・・

ちなみにしばらくはフェニックスはただの移動用のマシーン的な扱いですね。(笑)

それでは本編の始まりです!



 

 

アルゼナルを離れたメビウスは飛んでいたが、やがて夜が明けて、太陽が地平線から見えてきた。

 

(綺麗だな・・・)

 

前日フェスタで見た花火とは違い、また新たな感動をメビウスは覚えた。

 

そうしてしばらく飛んでいたが、やがて陸地が見え始めてきた。フェニックスを森に着陸させる。

 

「ここが・・・外の世界か」

 

メビウスは周りを見渡していた。周りの状況を確認するため、しばらく周囲をブラブラしていた。

 

するとそこに、メビウスはある物を見つけた、

 

それはアルゼナルにあった輸送機であった。

 

「アンジュ!ヒルダ!」

 

輸送機の後部ハッチから中へと入る。しかしそこに二人の姿はなかった。

 

しかし、そこにはペロリーナの着ぐるみがあった。しかもそこからうめき声が聞こえた。

 

「!誰か入っているのか!?」

 

メビウスはペロリーナの頭部を外した。するとそこにはミスティ・ローゼンブルムがいた。

 

「なっミスティさん!?」

 

「え!?メビウスさん!?」

 

お互いが驚いていた。ミスティからすれば、アルゼナルにいたはずのノーマが目の前にいるのだから無理もない。

 

「ミスティさん!?アンジュは!?ヒルダは!?」

 

「あなたは・・・アルゼナルからの追っ手なのですか?」

 

「・・・違う。俺は俺の意思でここにきた」

 

「お願いです!アンジュリーゼ様の邪魔をしないでください!彼女は妹を・・・シルヴィア様を助けに行く為に!」

 

「助けに・・・か・・・」

 

「そうです!ミスルギ皇室の方々はみんな処刑にされるのです!そうなる前に!」

 

「その情報・・・マナからですか?」

 

「えっ?・・・はい」

 

「・・・ミスティさん。あなたも騙されてるんだ・・・」

 

「え?・・・どういうことですか・・・?」

 

メビウスの言葉の意味をミスティは理解できないでいた。

 

「ミスルギ皇室の人が処刑される。そんな話は嘘なんですよ」

 

「え!?」

 

「そもそも、国民が革命を起こしたとか、国が滅んだとかも全部嘘だったんですよ」

 

 

 

疑問に感じたのはモモカが来た頃だった。ヒルダが言っていた言葉。

 

【アルゼナルが一部の人間にしか知られていない】

 

この言葉が事実ならメイド風情であるモモカがここにたどり着けるわけがない。なのにたどり着いた。ならばそこには、誰かの協力。又は思惑が絡んでいると見るべきだろう。

現にメビウスが密航に関して聞いた時、彼女は明らかに動揺していた。

 

「だから俺はその後、司令室のパソコンで調べてみたんです。ミスルギ皇国について。以前聞いた話では、ミスルギ皇国が滅んだと聞いてました」

 

「・・・でも現実は違いましたよ。ミスルギ皇国は、確かに名前だけは滅びてましたよ。・・・神聖ミスルギ皇国に変わってましたよ、国名。名前が変わっただけで国自体は滅んでなんていませんよ」

 

「そ・・・そんな・・・」

 

「ミスティさん。あなたの言うことも一つだけ当たってましたよ。皇室の方の処刑。一人だけされました。ジュライ・飛鳥・ミスルギ。多分アンジュの知り合いなんでしょ?」

 

「その方は・・・アンジュリーゼ様のお父さまです」

 

「そうか・・・その父親の処刑をしたの。誰だかわかります?ジュリオ・飛鳥・ミスルギ。こっちも、どう考えてもアンジュの知り合いですよね?」

 

「ジュリオ様は・・・アンジュリーゼ様のお兄さまです」

 

「ちなみにその処刑にはシルヴィアも関わってるみたいですよ。処刑理由はアンジュがノーマだということを隠し、国民を欺いた罪らしいですよ」

 

「ミスティさん。俺にはそのシルヴィアって人が処刑されるだなんてとてもじゃないが思えない。そして、処刑されないのに処刑される風に見せてアンジュを呼び出すなんて・・・少なくても俺には、騙しているとしか思えない」

 

「まさかモモカさんも!?」

 

「いや、彼女は多分利用されてるだけだろう。俺には彼女のアンジュへの思いがとてもじゃないが嘘には思えない。あれが嘘だとしたら俺は誰も信じられないだろうな」

 

「・・・あなたは・・・一体何者なのですか・・・」

 

ミスティが驚いて聞いてくる。

 

「・・・ミスティさん、あなたに話しますね。俺の真実を」

 

メビウスはミスティに全てを話した。自分が男だという事、自分が別世界の人間だという事。自分が本当は13歳だという事。覚えている全てを話した。

 

「・・・そんな事が・・・」

 

ミスティは信じられないでいた。あまりにも現実離れした話だからだ。

 

「俺にはマナがどんなものかわからない。でも、少なくてもマナがないだけで人としてすら見ない連中を、俺は認めたくない。それが血の繋がった存在だとしたら、尚更だ」

 

メビウスはどこか自虐めいた風に、だけど明確な意志を含めていた。

 

 

 

「じゃあミスティさん。アンジュはやっぱりミスルギ皇国に向かったんですね」

 

「はい・・・」

 

「ありがとうございます。それでは」

 

メビウスは輸送機を後にしようとした。

 

「あのっ!待ってください!」

 

ミスティが後ろから呼んできた。メビウスは振り返る。

 

「なんですか?」

 

「・・・私もミスルギ皇国へ連れていってください!」

 

「・・・はぁぁ!?ミスティさん!自分が何言ってるか分かってるんですか!?」

 

「わかっています!私はアンジュリーゼ様のためと思って脱走に協力したんです。ですが、あなたの言う事が本当なら・・・!私はアンジュリーゼ様に謝らなければなりません!」

 

「それに!私も多少疑問に思っていました。マナが本当に絶対の情報なのか・・・だから!私も自分の目で真実を確かめたいんです!お願いします!」

 

ミスティは頭を深々と下げた。

 

「・・・危険な道になるんだぞ?」

 

「あなたの言うことが本当なら、アンジュリーゼ様はもっと危険な目に遭っているはずです!」

 

・・・・・・沈黙が続いた。

 

「・・・その格好じゃ目立つ。服を取ってくるからそれに着替えてくれ」

 

遂にメビウスが折れた。服を取りに二人でフェニックスへと向かう。そして輸送機へと戻る。

 

しばらくして、ミスティは着替えて出てきた。男女兼用の服のおかげで、特に違和感はなかった。

 

「とにかく今はミスルギ皇国を目指す。ミスティさん。ミスルギ皇国はここからどれくらいですか?」

 

「徒歩だとかなりかかるはずです」

 

(ならアンジュはまだミスルギ皇国についてないのか?・・・いや、おそらく別の移動手段でも見つけたんだろうな)

 

「とにかく出ます。ミスティさんは後ろに乗ってください」

 

「はい!」

 

そう言うとミスティは後ろに乗った。メビウスが機体を上昇させる。

 

「そうだ、これかけてください」

 

そう言うとメビウスは自分のかけてたバイザーをミスティに渡す。

 

多少の調整をして、ミスティはそれをかける。

 

「それじゃあ行きますよ!」

 

そう言うとメビウスはフェニックスを加速させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前に遡る。

 

 

 

古びたガソリンスタンドでお互いが移動手段を手にした後、ヒルダはアンジュと別れて、母のいるエンデラント連合を目指していた。途中で店から強奪したワンピースへと着替えた。

 

そしてヒルダは遂に母親のいる家の前までたどり着いた。

 

そこには昔と変わっていない家の風景があった。

 

ヒルダは6歳の頃に、ノーマだと発覚した。ノーマだと発覚する前は、家にあるリンゴの木に登り、リンゴを食べていた。おやつには母親が作ったアップルパイをオルゴールを聞きながら食べていた。

 

母親であるインゲは最後までヒルダを守ろうとしていた。

 

「お願いです!見逃してください!たとえノーマでも!ヒルダは私の大切な娘なんです!!」

 

最後の最後まで・・・

 

 

 

ヒルダは意を決して、家の扉を開けた。中はヒルダが6歳の頃と全く変わっていなかった。

 

「あら?娘のお友達?」

 

後ろから懐かしい声がした。振り返るとそこにはヒルダの母がいた。

 

「マ・・・マ」

 

ヒルダは声にならない微かな声でそう呼んだ。遂に母の所に帰ってこれたのだ。それがヒルダにとって、最大の願いであった。

 

「ゆっくりしていってくださいね。あの娘、もうすぐ帰ってくるから。それまでオルゴールでも聞いていらしてください。そうそう、もうすぐアップルパイが焼けるのよ。よかったらどうぞ」

 

「アップルパイ・・・ママ・・・」

 

ヒルダは外に出た。そこには昔と変わらずリンゴの木が生えていた。

 

そこからリンゴを一つむしり取り、食べる。

 

その味は昔食べたリンゴとなんら変わりがなかった。

 

(帰ってこれたんだ・・・あたし・・・)

 

そう思い、ヒルダは涙をこぼしながらリンゴを食べた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨が降ってきたな」

 

こちらはミスルギ皇国を目指していたメビウスとミスティ。二人はしばらく飛んでいたが、やがて雨が降ってきたため、機体を一目のつかない林の中に一旦着陸させた。

 

そして、近くにあった洞穴へと避難した。

 

「ミスティ、なんか食う?」

 

コックピットの中のボックスからパンを取り出した。ちなみに飛んでいる最中、ミスティには、さん付けはやめようと言う話になった。

 

パンは二人で2つずつ食べる。食べ物を購入した際、水も購入していたため。飲み食いには決して困りはしない。

 

「それにしても、ミスティは本当にアンジュの事を信頼してるんだな」

 

「はい!たとえノーマであっても、アンジュリーゼ様は私の憧れです!」

 

「・・・もし」

 

「え?」

 

「もしミスティやモモカの様に、マナがなくても認め合えれば、世界は平和になれるかな・・・」

 

「メビウス・・・さん」

 

「つまらない話をしたな。少し外を歩いてくる」

 

そう言うとメビウスは機体からフード付きのジャンパーを取り出した。フードを被り、雨をしのぎながら、メビウスは外へと出て行った。

 

しばらく歩くと、商店街のような道に出た。

 

外は人がまばらであった。しかし、外を歩いていた人のほとんどが傘をさしてはいなかった。なぜならマナの光が傘がわりになっていたからだ。

 

どうやら傘の存在はファッション的な扱いになっているようだ。

 

(あまり人気の多い道は使えないな・・・)

 

そう判断して、メビウスは道を少し外れた。

 

道を外れると、そこには人通りがなかった。裏路地という奴だ。

 

しばらくそこで歩いていると、目の前を女の子が歩いていた。そして前から何やら音が迫ってきた。よく見てみると、そこには赤のサイレンを鳴らしながら車が走ってきていた。車は前の女の子の横を通り過ぎると、メビウスの手前で止まった。

 

(まさかノーマだと気づかれた!?)

 

メビウスは内心では戦闘態勢に入っていた。

 

車の中から男達が4人出てきた。すると男達はメビウスに目もくれず、来た道を走っていった。そして、目の前を歩いていた人に向かって後ろから突然殴りかかった。

 

「なっ!?」

 

それはあまりにも意外な行動だった。なぜ殴りかかっているんだ。目の前の女の子は抵抗する素振りも見せずに、地面へと倒れた。しかし男達は一向に殴る蹴るを止めない。

 

(どう見てもまずいだろあれ!)

 

メビウスは走って男達とその女の子に割って入った。男達に向かい、女の子を庇う形で。

 

「ちょっとあんた達!なにしてるんだよ!」

 

「おい坊や!そこどきな。そいつはノーマなんだよ」

 

「そうそう。俺達は社会の廃棄物であるノーマの掃除をしてるんだよ!」

 

「掃除って!・・・無抵抗な子を一方的に殴りつけて!!そんな権利があんた達にあるのかよ!!!」

 

「あああるさ!相手はノーマだ。どんな事をしても罪には問われねぇよ」

 

「だって人間じゃないんだしねぇ」

 

その言葉に男達は大爆笑した、

 

「わかるか坊や?俺たちは正義のために仕事してるんだ。ヒーローごっこは他所でやりな!おら!どけ!」

 

男の内の一人が、メビウスを横へと突き飛ばした。メビウスは近くの泥沼にダイブする。

 

「早く帰ってママのミルクでも飲んでるんだな」

 

「早く帰らないとノーマに食べられちまうぞ!」

 

「まぁそんときゃ俺達がそのゴミの処理をしてやるよ」

 

そうして男達は女の子への暴力を再開した。 女の子は相変わらず無抵抗だった。

 

「なぁ?これ使ってみないか?」

 

男の一人がピストルを取り出した。

 

「おっ!それでどうするの?」

 

「これでこいつの四肢を順番に撃っていくんだよ。最後に腐った脳天に風穴をあえてやるんだよ」

 

「残酷ぅ〜」

 

「へへっ!じゃあ俺からだな。覚悟しろよ廃棄物」

 

そう言うと男は彼女の右腕に照準を合わせる、

 

「バァン!!」

 

乾いた音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気がつくと男の手から血が流れていた。

 

「はっ?いてててええええ!!!」

 

男は最初は理解できていなかったが、やがて激痛に悶える。

 

男達は皆発泡された場所を見た。するとそこには泥まみれのメビウスがいた。手には銃を構えていた。

 

「てってめぇ!」

 

「バァン!」

 

もう一人の男が拳銃を取り出す前にその男の胸には、風穴が空いた。男は後ろに倒れた。

 

「・・・お前達に・・・生きる資格はない!!!」

 

そう言うとメビウスは三人目に向けて銃を撃った。それは男の使うマナの光で防がれてしまった。

 

しかしメビウスは一気に距離を詰めると、そのバリアにパンチを入れる。するとそのバリアは砕け散った。ノーマだからマナを消滅させたのではなく、単純な力押しでマナの光のバリアを破壊したのだ。まるで窓ガラスを拳で割ったかのように。

 

そのまま男の顔にパンチが決まる。アンジュを殴った時でさえ、全力では殴らなかった。しかしメビウスは今、全力で殴りつけていた。すると男首があらぬ方角へと回った。その男も動かなくなった。

 

「ノーマだと!?そんなばかな!?」

 

四人目は慌てふためいていた。ノーマは女にしかならないため、当然の反応でもある。

 

それに構う事なく、メビウスは四人目に向けて殴りかかった。マナの光で身を守ろうとしたが、その行為は、力押しでマナを破壊できる彼には意味がなかった。マナの光が砕け、腹にパンチが入る。男は腹を抱えながら、うずくまる。

 

そしてメビウスはそいつの顔を思いっきり蹴った。まるでサッカーボールを遠くに飛ばすかの用に蹴った。男の首が胴体から離れた。

 

胴体から離れた首はポンポンと転がっていったが、やがて動きが止まった。メビウスはそこに行くと、その首を足で思いっきり踏んづけた。まるでゴミでも踏むかのような態度であった。

 

「グチャッ!!」

 

その音とともに、メビウスの下半身に血飛沫が付着した。

 

メビウスは振り返ると手を撃った男の元に向かった。

 

「てってめぇは・・・一体」

 

男は手の甲を抑えながら呻くようにいう。

 

「ノーマ。お前達が嫌っているノーマだ」

 

そう言いメビウスは銃口を男に向けた。

 

「まっ待て!頼む!命だけは!」

 

「最後まで我が身が大事か!」

 

もはや男の命乞いなど彼にとっては不快以外の何物でもなかった。男の額に風穴が空いた。男は何も言わない骸と成り果てた。あたりには死体が4つとメビウスと、暴行を受けていた女の子が残された。

 

「おっおい!君!大丈夫か!?」

 

メビウスは地面に倒れていた女の子の側に駆け寄る。

 

うつ伏せだった身体を起こす。するとその顔はメビウスが知っている存在だった。

 

「なっ!ヒルダ!?」

 

そう。ヒルダだった。普段見ていたツインテールはほどけており、後ろ姿では気づかなかったが、それは確かにヒルダであった。だが、普段見ていたヒルダはそこにはいなかった。いたのはまるで別人かのように弱っていたヒルダであった。

 

「おい!ヒルダ!しっかりしろ!」

 

「マ・・・マ・・・なん・・・で」

 

ヒルダはただボソボソとそのような言葉を呟いていた。

 

するとそこに先ほどの車が再びやってきた。

 

「おい!いたぞ!あいつだ!」

 

「まずい!」

 

メビウスはヒルダを背負うと、その場からダッシュで離れた。

 

後ろからは複数の足音が聞こえてきたが、しばらくすると、その足音は聞こえなくなった。どうやら振り切ったようだ。

 

メビウスは人目につかないように、洞窟へと戻っていった。

 

「メビウスさん!?どうしたんですか!?」

 

「ミスティ!マナの力で治療ってできるか!?」

 

メビウスはそう言うとヒルダをミスティに見せた。

 

「これはひどい・・・やってみます!」

 

「ママ・・あたし・・・」

 

ヒルダはうわごとのようにそれだけを呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前の時間に遡る。

 

ヒルダの母、インゲには新たに娘がいたのだ。その子はノーマではない。普通の女の子だ。名前はヒルデガルト・シュリーフォークト。

 

それはヒルダの本名であった。

 

インゲはそれをヒルダとして。自分の娘として育ててきた。ヒルダにとってそれは、自分の存在を否定された気分だった。ヒルダは言った。自分こそがヒルデガルト・シュリフォークトだと。

 

インゲは最初困惑していたが、やがて思い出したらしい。11年前の出来事を・・・。

 

その子はヒルダのことを全く知らないら様子だった。だが彼女がノーマだとインゲから教えられ、その証拠であるマナの破壊を見せられると、ヒルダに対して一言叫んだ。

 

「化け物!!」

 

本来、妹になるはずだった存在には、自分の本当の名前が付けられていた。その妹は本来姉になるはずの存在を化け物呼ばわりした。

 

ヒルダの心に大穴が開いた。

 

そしてインゲの放った一言。これがヒルダにとどめをさした。

 

「あんたなんて!生まれて来なければよかったのよ!」

 

その言葉とともに、インゲはアップルパイをヒルダに投げつけた。ヒルダはそれを胸に受けた。物理的にヒルダにダメージなどない。しかしこの時、ヒルダの中にあったなにかが木っ端微塵に吹き飛んだ。言葉にならない悲鳴をあげ、ヒルダは家を飛び出した。

 

ずっと願ってきた、想い続けてきた母親の存在。その母親から存在を否定された。

 

失意の中、彼女は行くあてもなく、ただ歩いていた。そこに先程の警官どもが後ろから殴りかかってきた。

 

「通報しない。だから今すぐ消えろ!」

 

インゲは土下座しながらそう泣きついてもいた。しかしそれすら裏切られたのだ。警官に暴行を受けながら、彼女はアンジュが妹と会えたかを気にしながら、死んでも良いと思った。

 

これがヒルダの身に起きた惨劇だった。

 






まさかのミスティがパーティに加わりました!

今回はヒルダサイドの話も加えました!アニメ本編ではこれが血を分けた親のする事なのかとマジでショッキングでした。

果たしてヒルダは助かるのか!?そしてアンジュ達は今!どうしているのか!?

次回もみんなで見よう!(予告風)



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第31話 裏切りの故郷



今回はメビウス側の話が少しある程度で、直ぐに
アンジュ側の話に移ります。

タイトルから既に物騒ですが
KI☆NI☆SU☆RU☆NA!
(あれ?このネタ前にやったような?)

それでは本編の始まりです!




 

 

「ここ・・・は?」

 

ヒルダが目を覚ます。辺りを見回してみると、そこには知っている顔が2つあった。

メビウスとミスティだ。

 

「なっ!?メビウス!?それに・・・」

 

「ミスティ・ローゼンブルムです」

 

「・・・なぁヒルダ・・・一体何があった?」

 

メビウスが重い口調で聞いてきた。

 

「・・・あんたらには関係ないだろ・・・」

 

「・・・俺の知っているヒルダは、少なくても

あんな無抵抗で殴られる奴じゃなかった。

一体何があったんだ?」

 

「・・・相変わらずのお節介だな・・・テメェも」

 

「好きなように言え。何があったか話してみろ」

 

「・・・母親に売られたんだよ!ずっと信じてきたのに!想い続けてきたのに!」

 

ヒルダは話した。自分が母に会うために脱走したという事。自分の存在がなかった事にされていた事。自分という存在を拒絶された事。

自分が死のうとさえ思った事も。

 

「そんな・・・酷いこと・・・」

 

「傑作だろ!?笑えよ!全てを信じてたのに!

全てなくなっちまった!哀れだろ!?惨めだろ!?笑えよ!!」

 

「・・・・・・」

 

メビウスは何も言わなかったが、ヒルダの話が終わると、ヒルダの顔を自分の胸に当てた。

 

「おい!なにすんだよ!」「泣け」

 

それは以前、メビウスがナオミにしてもらった事と同じであった。

 

「泣け。そうすれば少しは楽になる。それこそ

死のうだなんて考えなくなるくらいにはな」

 

「離せって言ってんだろ!」

 

ヒルダはメビウスをでたらめに殴った。何発か外れはしたが、ヒットしたパンチも何発かはあった。

だがメビウスは顔色一つ変えずに、黙ってヒルダの顔を自分の胸にあてていた。

 

やがてヒルダも疲れたのかおとなしくなった。

 

「強がるな。それに疲れたろ?今はゆっくり休めよ。なに、ナオミにされた時もそうだった。

こうされた時、なぜか安心できたんだ。

あのとき、誰かに存在を認められた気がしたんだ」

 

その言葉にヒルダの中にあった何かが崩れた。

 

存在を認められた。ヒルダにとっては母に存在を認めて欲しかった。しかし母は自分の存在を否定した。信じてきた。

ずっとずっと信じてきたのに、否定された。

 

「ウッ・・・ウッ・・・ウワアアアアン!」

 

我慢できなくなったのかヒルダは泣きはじめた。

 

二人はただ黙ってそれを受け止めていた。

 

しばらく経つとヒルダも泣き疲れたのか寝息が聞こえてきた。

 

「今日はもう遅い。明日のことを考えてもう寝よう。ミスティはどうする?コックピットで寝るか?それともここで寝るか?」

 

「ここで寝かせてください。まだその方も決して万全とはいえないでしょう。もしマナが必要になったら起こしてください」

 

そう言うとミスティは横になった。しばらくすると寝息が聞こえてきた。

 

メビウスも態勢を崩さずに、ヒルダを包むように眠った。

 

(ヒルダ・・・今はゆっくり眠れ・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メビウス達三人が眠りについた時、ミスルギ皇国、いや、神聖ミスルギ皇国では、アンジュとモモカがある場所を目指していた。

 

【バタン!】

 

ドアを開ける。そこはかつてアンジュが所属して

いたエアリア部だった。

 

「久しぶりね・・・アキホ」

 

「ア・・・アンジュリーゼ様・・・」

 

アキホ。彼女はアンジュと同じエアリア部の

メンバーだ。

 

「か・・・髪、切られたんですね・・・似合ってますよ・・・」

 

アキホは震えていた。彼女からしたら追放された

はずのアンジュが目の前にいるのだ。

手に持っていたマナランプを落とす。するとそれはマナを失い、光が消えた。

 

「ごめんなさい!助けて!あれはその・・・つい!」

 

アキホはうずくまり、怯えていた。あの日、洗礼の儀で彼女はアンジュに対して化け物だの怪物だの散々な事を言っていた。その仕返しが来ると思っていたのだ。

 

だが、アンジュは違っていた。

 

「私が何かすると思ったの?」

 

アンジュはそう言った。彼女からしたらここにきた理由はエアリアを使うためである。そもそもアキホがいる事自体が予想外でもあった。

 

「安心して、何もする気は無いわ。ただ、エアリアのバイク借りるわ。それとここに来たことは、誰にも言わないでね」

 

「はっはい!言いません!」

 

「どう?モモカ?」

 

アンジュはモモカの近くにあったエアリアに駆け寄る。

 

その時である!

 

アキホは後ろ手でマナを使った。それはエマージェンシーコール。言うなれば110番通報の様なものだ。

 

それをアンジュが見逃すわけがなかった。

 

「そう・・・やっぱり、あなたもそうなのね」

 

「来ないで!化け物!」

 

遂に本性を表した。アキホは逃亡しようとしたが、アンジュに足払いされる。

アキホはバランスを崩して倒れた。

 

直ぐにアンジュはアキホを拘束する。手足を縛り、ついでに口にガムテープを貼り付ける。

 

「行くわよ。皇宮へ!」「はい!」

 

モモカがマナを使い、バイクを起動させた。

ガレージの扉が開き、そこから発進する。

バイクは道の横にある排水溝を移動していた。

 

「アンジュリーゼ様・・・」

 

「大丈夫。わかってたから」

 

「ありがとうモモカ。あなたはあなたね」

 

そういうとアンジュはシルヴィアの事を考えた。

 

(待っててシルヴィア。必ず助けるから!)

 

 

 

街中は警官のパトカーが走り回っていた。

 

あの後、アキホが拘束を解き、通報したからだ。

 

アンジュは排水溝から出ると、物陰に身を隠した。しばらく経ってパトカーが通り過ぎるた。

 

「飛ばしますよ!アンジュリーゼ様!」

 

一気に物陰から外へと飛び出した。近くにいた男と女が驚いていた。

 

(・・・暁ノ御柱)

 

アンジュの視界の片隅に暁ノ御柱が見えた。あそこで起きた出来事がアンジュの中でフラッシュバックする。

 

自分の事をノーマだと公表した兄ジュリオのことを。自分の目の前でマナが砕け散った事を。自分を庇い、銃で撃たれた母ソフィアの事を。アンジュにとって、あそこは今のアンジュの始まりの場所のようにも思えた。

 

「左!」

 

アンジュがモモカに指示を飛ばす。

 

「よろしいのですか?どんどん皇宮から離れていますが・・・」

 

「ええ!このまま進んで!」

 

すると目のが突然眩しくなった。よくみると前にはパトカーが並んでいた。

 

「待ち伏せ!?」

 

アンジュが驚き、バイクを止めた。すると上空から輸送機がライトでアンジュを照らした。

 

「どうします!?アンジュリーゼ様!?」

 

「決まってる!強行突破よ!!」

 

アンジュは銃を目の前のパトカーに向けて乱射した。警官達はマナで自分の身を守る。

その間にアンジュは横道へとバイクを進めた。

 

数台のパトカーは銃弾の雨を浴び、次の瞬間爆発した。

 

「お願いです!絶対捕まえてください!」

 

最後尾のパトカーに乗っていたアキホが警官に泣いてすがる。

 

「ご安心ください!ノーマに逃げ場所などありません!」

 

そう言うとそのパトカーは前のパトカー達の後を追っていった。

 

アンジュと警官達によるチェイスが始まった。

 

アンジュは時折銃でパトカーを攻撃するが、マナの光によってそれらは防がれてしまった。

 

すると最も距離的に近いパトカーから警官が身体を乗り出した。手は謎のポーズを取っていた。

 

「捕縛結界!?」

 

次の瞬間、その警官の手から、マナで作られたネットが出された。それはモモカを包むと、捕縛した。ノーマであるアンジュはモモカがいなくなると、エアリアのバイクは使えなくなってしまうのだ。

それが狙いなのだろう。

 

「モモカ!」

 

アンジュがそのネットに触る。ノーマである彼女はマナの光を破壊する事ができる。そのためネットも彼女が触れた途端に粉々になった。

 

「モモカ!弾倉!」

 

アンジュは今持っている銃の弾倉をモモカに頼んだ。

 

「マナではなくネットガンを使え!」

 

警官の一人が周りに指示を飛ばす。彼らはネットガンを装備して、再びアンジュ達を狙った。

 

そうしている間にアンジュは銃の弾倉交換を済ませていた。

 

後ろを振り返り、銃を撃つ。しかしマナの光で防がれる。相手側はネットガンを放った。それらを全て避ける。現段階ではアンジュ達は防戦一方であった。

 

さらに空からは輸送機がゆっくり降下してきた。後ろのハッチは空いており、そこから兵士達がネットガンを放つ。しかしそれらもアンジュは避け切った。

 

「舐めるなぁ!」

 

アンジュはそう言うとモモカから手榴弾を受け取った。その安全ピンを口で外すと、輸送機めがけて投げつけた。

 

ネットガンを使うために、高度を落としていた事が仇となり、その手榴弾は輸送機のエンジン部分に

入った。次の瞬間、エンジンは大爆発を起こした。

 

機体制御が取れない輸送機は、隣を飛んでいた輸送機に突っ込むと、二機ともまとめて森の中へと落ちていった。

 

次の瞬間、二機の輸送機は大爆発を起こした。これにビビったのか、パトカーの速度が少し遅くなる。

 

アンジュは加速して、パトカーとの距離を出来るだけ離していく。

 

しばらく走っているとアンジュの目的の場所が見えてきた。それは小さな小川のような用水路であった。

 

「モモカ!突っ込んで!」

 

「ええ!?はい!わかりました!」

 

最初はモモカも驚いていたが、直ぐに意を決して

用水路の上にバイクを走らせる。

 

小さな滝の部分にアンジュ達は突っ込んだ。するとアンジュ達が消えた。

 

後ろを追跡していたパトカー達も突っ込む。しかしその穴は小さく、パトカーのような車では入る事が出来なかった。

 

車は急に止まれないとはよく言ったものだ。

 

その突っ込んだパトカーの後ろから一台、もう一台と突っ込んでいく。無論、それで通る事ができるわけもない。

パトカー達は次々と玉突き事故を起こし、爆発していった。

 

アキホの乗っていたパトカーだけが一番最後尾だったこともあり、事故にならずに済んだ。

 

アンジュ達はその道を進んでいた。

 

「後は道なりに進むだけ!そうすれば皇宮の正面に出れるはずよ!」

 

「知りませんでした。このような道があったとは・・・」

 

モモカは驚いていた。一体この道はなんなのか?

疑問を感じずにはいられなかった。

 

「皇族だけが知っている秘密の抜け道よ。昔はよく、夜はここから皇級の外に遊びに行っていたわ」

 

「まぁ!そんな事してたんですか!アンジュリーゼ様!」

 

モモカは頬を膨らませていた。

 

しばらくすると出口が見えてきた。皇宮を流れる川へとでた。

 

川岸にたどり着くと、バイクを乗り捨てた。皇宮内の探索にはバイクは向いていないのだ。

 

入り口に向かって進んでいると、突然目の前が明るくなった。見てみると、そこには武装した兵士達がいた。

 

「お姉さま!?アンジュリーゼお姉さま!」

 

上のバルコニーから声がした。見てみるとそこにはシルヴィアの姿があった。

 

「シルヴィア!」

 

「助けて!アンジュリーゼお姉さま!」

 

「アンジュリーゼ!無駄な抵抗はするな!妹の命が惜しいのなら黙って従え!」

 

兵士の一人が拡声器を使ってそう言う。

 

「そんな脅しに私は屈しないわ!必ずシルヴィアを助け出す!」

 

何名かの兵士がアンジュを捕まえようと襲ってきたが、アンジュは全て返り討ちにした。途中モモカも兵士に襲われていたが、それも難なく助け出す。

 

そしてアンジュは残りの兵士達に銃を放った。兵士達はまさか撃ってくるとは予想外だったのか、皆散り散りに逃げていった。

 

妹のいるバルコニーの兵士達も怖気付いたのかシルヴィアをそのままにして皆一目散に建物の中へと入っていった。

 

「シルヴィア!もう大丈夫よ!降りて来て!」

 

「アンジュリーゼお姉さまぁ!」

 

シルヴィアはマナの力で車椅子を浮遊させた。

 

「シルヴィア!」

 

アンジュがシルヴィアへと駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ザク!】

 

アンジュの左腕に冷たい何かが刺さった。それはナイフであった。

 

そのナイフの持ち主を見た。そのナイフの持ち主はシルヴィアであった。

 

「アンジュリーゼ様!大丈夫ですか!?」

 

モモカの心配する声も、今のアンジュには届かないでいた。現状が理解できないでいた。

なぜシルヴィアが私にナイフを刺しているのか?

 

「シル・・・ヴィア・・・?」

 

「馴れ馴れしく呼ばないで!あなたなんて姉でもなんでもありません!この化け物!!」

 

その言葉にアンジュの表情が絶望に染まる。

 

「どうして?どうしてなの!?どうして生まれてきたの!?」

 

そんなアンジュなど御構い無しにシルヴィアがまくしたてる。

 

「あなたさえ生まれて来なければ!お父さまが処刑される事も!お母さまが死ぬ事も!お兄さまが変わってしまわれることも!私が歩けなくなる事も!全部なかったのよ!」

 

「これらの事全て!なかったはずなのよ!あなたさえいなければ!みんなみんな!幸せだったのよ!お母さまを返して!返してよ!この化け物!この化け物!!化け物!!!大っ嫌い!!!!」

 

シルヴィアは泣いていた。だがその涙の奥には、

アンジュに対しての明らかな憎悪と憎しみが込められていた。

 

「シルヴィア様・・・」

 

モモカはただその言葉を呆然と聞いていた。それはアンジュも同じだった。アンジュが膝をつく。

 

「そん・・・な・・・」

 

この時アンジュは自分が騙されていた事に気がついた。全てが嘘だったのだ。初めから全てが。

 

兵士達もグルだったらしい。アンジュ達にネットガンを放つ。アンジュには、もはや避ける気力すらなくなっていた。側にいたモモカもネットガンの餌食となった。

 

「無様な姿だな。アンジュリーゼ。落ちぶれ果てた皇女殿下。その末路に相応しい」

 

シルヴィアとは違う声がした。その声の方を見る。

 

するとそこにはジュリオ・飛鳥・ミスルギがいた。アンジュをノーマだと暴露し、アンジュを陥れた

張本人がそこにいた。

 

「ジュリオ・・・お兄さま・・・」

 

「そうそう。その間抜け面が見たかった。これで誘き出した甲斐があったというものだ」

 

「え・・・?」

 

「さぁ、断罪を始めよう。アンジュリーゼ。お前という罪のな・・・」

 

もはや今のアンジュには、その様な言葉も耳には入らなかった。兵士達がアンジャ達を連れて行く。

 

「クックックッ。はーっはっはっは!」

 

皇宮の庭には、ジュリオの高らかな笑い声が響いた。

 

 

 






アニメの第9話が終わりました。

Q それにしても!このような展開を、一体誰が予測していたであろうか!?(正宗風)

A 前回の話、タイトル、もしくはアニメを見た閲覧者のみさなん。

アニメでもこのタイトルでしたからね。

本来ならヒルダ側の話も同じ回でしてたのでマジであれには驚きましたね。


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第32話 謎の男 エンブリヲ


今回アンジュは出ません!

今回はメビウスが神聖ミスルギ皇国に潜入して情報を集めながら、調律者と出会う話です!

それでは本編の始まりです!



 

 

夜が明けた。メビウス達三人は目を覚ます。

 

「朝か・・・とりあえずなんか飯でも食うか」

 

ミスティとヒルダは、近くの水辺で身体を流していた。メビウスはその間にヒルダの服と飯の準備をしていた。昨日ヒルダの着ていた服はボロボロになっていた。

 

今日もパン二つと水が三人の食事であった。

 

「さて・・・ヒルダ。お前はこれからどうする?」

 

朝食が終わり、メビウスがヒルダの方を向きながらたずねる。

 

「・・・」

 

ヒルダはそれには答えない。

 

「もしアルゼナルに帰りたいなら後で俺が連れ帰ってもいい。無論あそこに帰りたくないなら外の世界にいればいい。その時は行き先くらい教えてくれればそこまで送っていくぜ」

 

「・・・メビウス・・・あんたはなんであそこを脱走したんだ?」

 

「アンジュを助けるためだ」

 

その言葉にヒルダが驚く。メビウスは話した。ミスティに話した事と同じ事を。

 

「・・・なぁ、あたしもそれに連れて行ってくれないか?」

 

「・・・なんでだ?」

 

「・・・アンジュを助けたいからな・・・」

 

意外だった。ヒルダの口からそんな言葉が出るとは、メビウスは驚いていた。

 

「・・・コックピットに三人かぁ、乗れるかな?」

 

その返事は付いてきてもいいという返事だ。

 

「ちなみにヒルダ?ここってどこらへんだ?地元

なんだよな?」

 

「ここはエンデランド連合だよ」

 

「じゃあミスルギ皇国までもう少しですね!」

 

ミスティがそう言う。

 

「とにかくミスルギ皇国を目指すぞ。早く乗りな」

 

そう言うとヒルダとミスティはコックピットに乗った。メビウスもそこに入る。多少窮屈になったが

仕方ない。

 

フェニックスは離陸した。ヒルダはコックピットから外を見ていたが、やがて前を向いた。

過去の思いを捨てるかのように

 

(じゃあな・・・クソババア)

 

内心でそう言うヒルダ。そんな彼女の目には涙が

溜まっていた。

 

 

 

 

 

 

しばらく飛んでいるとそろそろミスルギ皇国だと

言われた。とりあえず機体を人目につかないところに着地させる。

 

「二人はここで待っていてくれ。俺はアンジュの情報がないかどうか調べてみる。飲み食いしたい時はボックスに飯とかが入ってるからそれでしてくれ」

 

「機体の番って事だな」

 

もし街中でノーマだと発覚すると、それこそ危険以外の何者でもないのだ。男である以上ノーマだと疑われる恐れはまずないだろう。

 

そう言うとメビウスは、フェスタの時の服装になり、ミスルギ皇国の街へと足を進めていった。

 

しばらく歩いたが、やがて街へとたどり着いた。そこは人通りが多く、賑やかな街並みであった。

 

(ここがミスルギ皇国・・・いや、神聖ミスルギ皇国か)

 

メビウスは街中をしばらく歩いていたが、周りの人は皆、空間にモニターなどを表示していた。

 

(あれがマナか・・・人であるための絶対条件・・・)

 

メビウスは道行く人無差別に話しかけた。理由は簡単だ。かつて、この国で空間に穴が空いた事があるかどうか聞いていた。

 

すると何名かの人が空いたのを見たと答えた。しかしその穴は少し目を離したら消えていた。さらには穴が空いたという事実もマナに載っていないため、見間違いだと思うと口を揃えて言っていた。

 

しかしそれらが不特定多数いるという事実は彼にとって一つの結論を出すには十分だった。

 

(やっぱりモモカさんの言っていた事は本当だったんだ。となると次の問題は、何がそこから来たか・・・)

 

アンジュの情報は聞かなかった。言い換えれば聞く必要がなかったのだ。

 

話を聞く少し前、とある場所で人々が群れを作っていた。何事かと思い、その群れの先を見る。するとそれはニュースらしいものだった。

 

「本日、我々を欺いてきた忌むべきノーマ。元皇女のアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの処刑が実行されます・・・」

 

そのあと色々流れていたが、メビウスには聞こえなかった。最悪の事態だった。やはりアンジュは騙されていた。そして捕まってしまっていた。

 

(・・・こうなると処刑の時に助けるしか手がないな)

 

その時だった。

 

「やぁメビウス」

 

名前を呼ばれて驚いて振り返った。するとそこには見たことのない男がいた。その男は金髪の薄い髪色をしていて、ネクタイもつけていた。

 

(この男!なんで俺の名前を!)

 

「君と話がしたい。昼食でもいかがかな?」

 

「嫌だと言ったら・・・?」

 

「君の知りたい情報を私は知っている。付いてきた方が利口だよ」

 

メビウスはいつでも戦えるように、銃に手を伸ばした状態で、その男の後をついていった。

 

少し歩くと、とあるレストランにたどり着き、そこへと入る。謎の男がテーブル席を取る。そこに

向かい合わせで座る。

 

「好きな物を注文したまえ」

 

「・・・ビザを一つでいい」

 

「なら私もそれにしよう」

 

ウエイターが注文を繰り返し、その後厨房へと去っていった。

 

「さて、こっちの名前は知ってるようだけど、

そちらの名前を教えてくれないか?」

 

「これは失礼した。私はエンブリヲ。調律者だ」

 

「エンブリヲ。お前はなぜ俺の事を知っている?」

 

調律者という言葉を無視してメビウスは本題を聞いた。

 

「やはり自分を知らないのは不安か。無理もないがな」

 

「質問に答えろ。誘ったのはそちらのはずだぞ」

 

メビウスが若干キレ気味になりながら尋ねる。

 

「残念ながらそれを私が話す事は出来ない。君にはあるものを渡しに来たんだ」

 

「あるもの?」

 

「これだよ。見覚えはないかな?」

 

そう言うとエンブリヲはポケットからあるものを取り出した。それはアンジュの指輪だった。

 

「これを君に預けよう。アンジュに返してやってくれ」

 

「・・・なんでお前がこれを持ってんだよ」

 

「ジュリオ君からくすねてきたんだよ。さて、君はアンジュを助けに行くんだろ?」

 

「あぁ、そのつもりだ」

 

「そうか、この時間にこの場所に来たまえ」

 

するとエンブリヲは時間と場所の書かれた紙を渡してきた。

 

「さて、そろそろ注文の品が届くころだな」

 

すると店員がピザを二つ持ってきた。焼きたてなのかとても熱々で、湯気が立ち昇っていた。

 

「まずは食べたまえ」

 

メビウスはピザの端を掴んでそれを口に放り込んだ。熱さが口の中に広がったが、すぐに美味さが伝わってきた。

 

「・・・結構うまいな」

 

「気に入って貰えて嬉しいよ」

 

そう言うと二人は、出されたピザを食べていた。

 

一通り食べ終わった。

 

「・・・お前・・・一体何者なんだ」

 

一息ついて、メビウスが尋ねる。彼からしたら一方的な話を聞かされているのだ。

 

「自分の事がわからない君に他人の事はわからないだろう。まぁいい、私の詳しいことはアレクトラに聞いてくれ」

 

「!?」

 

アレクトラ。その名前をメビウスは知っている。フェスタの日の時、コンピューターで検索した時にある【単語】の出来事内で見つけた名前だ。その名前の持ち主をメビウスは知っていた。

 

「では会計を済ませてしまうか」

 

そう言うとエンブリヲはレジへと向かった。メビウスも後をついていく。支払いなどはマナの光で行われていた。

 

外へと出た。

 

「じゃあ私はこれで失礼するよ。頑張ってアンジュを救ってみたまえ、メビウス。いや、こう呼ばせてもらうよ」

 

 

 

 

 

【矛盾する大罪を繰り返す者よ】

 

 

 

 

 

メビウスの耳にその言葉は微かに届いた。次の瞬間、エンブリヲは消えていた。まるで初めからそこにいなかったかのように消えていた。

後にはメビウスだけが残された。

 

(なんだったんだあいつは・・・)

 

言いたい事を一方的に言い、気がついたら消えていた。まさに謎としか言えなかった。メビウスは先程のエンブリヲの言葉を考えていた。

 

「矛盾する大罪を繰り返す者・・・」

 

メビウスはその言葉にピンと来るものがなかった。これまで自分については思い出したとき、脳内の霧が晴れるような気分だったが、今回はそれがない。

 

 

 

ひとまずミスティ達のところに戻ろう。

今はアンジュが処刑されると言う事実を二人に教えよう。そうすれば、少しは答えが見えるかもしれない。そう思い、メビウスは街を後にした。

 

 

 

フェニックスの元に戻るとそこにはヒルダとミスティがいた。

 

「メビウス。情報集めはどうだった?」

 

ヒルダが聞いてくる。メビウスはアンジュが処刑される事を二人に話した。

 

「そんな・・・じゃあマナの情報は・・・」

 

「あぁ100パーセント嘘だな。こうなるとマナの

情報はあてにならない。そして今日の処刑の時にしか、アンジュを助けられないだろうな」

 

三人が少し黙ってしまった。

 

「そうだミスティ。街の人たちが言ってたけど、エンブリヲって人知ってるか?」

 

「いえ。そのような名前は聞いたことないです」

 

「そうか・・・」

 

エンブリヲの事は二人には黙っておこう。彼からしたらあいつはあまりにも不確定要素が多すぎる。下手に教えても二人とも混乱するだけだと判断したからだ。

 

「・・・アンジュを救出するのは夜だ。そろそろ準備に取り掛かるか」

 

そう言うと三人はアンジュを助け出すため、準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、まさか私が他人のおつかいをしなくてはならないとは」

 

ある場所でエンブリヲは自分の行いを多少嘆いていた。

 

するとそこにある人物がやってきた。

 

「おれが行くわけにもいかねぇんだよ。それよりどうだった?メビウスは」

 

「何。問題ないさ。彼ならきっとアンジュを助けるよ。これまでの彼と同じように」

 

「そうかい。それはよかった。んじゃあ俺は俺の用意があるから失礼するぜ」

 

そう言うとその男は来た道を帰っていった。

 

 






今回はほぼオリジナル話でしたね!

次回はアンジュ救出作戦です!果たしてメビウスはアンジュを助け出す事が出来るのか!

次回!もしかしたらパラメイルを使った戦闘が書かれるかもしれません!


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第33話 絞首台からサヨナラを



今回はナレーターが結構フリーです。途中でナレーターっぽくもなくなります!

今回の話はメビウスに本編見ていた際に思ったこと感じた事を全部言わせてみました!

それでは本編の始まりです!



 

 

夜となった。アンジュが罪人の服で晒し者にされていた。両腕には手枷がつけられており、アンジュを拘束していた。

 

その体には幾多もの傷跡が付いており、どう見ても罪人の扱いからは完全に外れていた。

 

「これは私を馬から落とした罪!」

 

「ぐうっ!」

 

「これは私を歩けなくした罪!

 

「ああっ!」

 

「そしてこれが生まれてきた罪!」

 

「がはっ!」

 

シルヴィアがはアンジュを鞭打ちする。アンジュはただそれを受けるしかなかった。

 

「シルヴィア様!もうやめてください!こんな酷い事は!」

 

モモカが必死に頼む。彼女も兵士達のマナにより拘束されていた。

 

「酷いこと?このノーマが!汚らわしくて暴力的で反社会的な化け物が!私のお姉さまだったのよ!これ以上に酷い事がこの世にあると言うの!?謝りなさい!私がノーマだから悪いんです!ごめんなさいって!」

 

「シルヴィア様の言う通りだ!」

 

「私達の人生を返せ!」

 

アキホ達を中心に会場からアンジュに対しての罵声が響いた。

 

「モモカ。君には感謝している。我々に断罪の機会を与えてくれた事に」

 

「えっ・・・」

 

ジュリオの言葉はモモカには意味がわからなかった。

 

「アンジュリーゼをアルゼナルに送り込んだまでは良かった。後は勝手に死ぬはずだった。私達はその報告を待つだけだった。なのにこいつは死ななかった!生きていてはいけない存在なのに!そのためにわざわざ芝居までうたなければならなかった」

 

「一介の侍女が世界の果てに追放された存在にこうも簡単に会えるわけがないだろう?モモカ。お前は利用されたんだよ。私達にな。

 

お前達のシルヴィアのために戦ってきた姿は、実に滑稽だったぞ」

 

「そっ・・・そんな・・・」

 

モモカは自分のせいでアンジュがこんな目にあっている現実に絶望した。

 

「このノーマのせいで私達の母は死に、私達兄妹は国民の示しのため!涙ながらに父親を処刑せざるを得なかった。全て!このノーマの際なのだ!諸君!このような穢らわしいノーマの存在を!許してはいけない!」

 

・・・我慢の限界だ。今回だけはナレーターの立場を超えて、はっきりと言おう。

 

ジュリオの言うことはほとんどが嘘である。ジュリオは父親の処刑に涙など流していなかった。シルヴィアが別れを悲しむ涙を流した程度だ。こいつの発言にナレーションするのさえ嫌だが閲覧者のためにナレーターの仕事は続けよう。

 

さて、話題がそれてしまった。本編に戻ろう。

 

「今宵この国は生まれ変わるのだ!神聖ミスルギ皇国として!初代神聖ミスルギ皇国皇帝のジュリオ・飛鳥・ミスルギが命じる!このノーマを処刑せよ」

 

会場にいた市民達が歓喜の声を上げた。

 

「ほら!歩け!」

 

アンジュは絞殺台へと歩かされていた。

 

「惨め!」「私達を騙していた罰よ!」

 

アンジュのクラスメイトが罵倒する。

 

「なんで・・・なんで私が処刑されなければならないのよ!何の罪で!」

 

アンジュに生卵が投げられた。

 

「黙れノーマ!私に何をしたのか!忘れたとは言わせないわ!」

 

「ちょっと足払いして笹巻きにしただけでしょ!」

 

「そんな・・・酷い・・・」

 

アキホが泣き真似をした。ここまであからさまなのに周りはアキホを気遣っている。

 

「死刑されるような罪じゃないわ!」

 

「それは人間の場合だ!お前はノーマだろ!」

 

「そうだ!お前は人間じゃない!」

 

「アンタはノーマ!それだけで死刑で十分なのよ!」

 

「そうだ!ノーマは死刑にしろ!」

 

「死刑だ死刑!」

 

「そんな!アンジュリーゼ様のおかげで!私は幸せになれたんですよ!なのに!」

 

モモカがただ一人、アンジュを弁護するが民衆はそんな事は御構い無しだった。

 

「吊ーるーせー吊ーるーせー吊ーるーせー吊ーるーせー吊ーるーせー」

 

会場からは吊るせコールがかかった。このような事があっていいのだろうか!

 

「そんな!アンジュリーゼ様は何も悪くありません!なのにどうして!・・・どうしてアンジュリーゼ様だけがこんな酷い目に・・・!」

 

「モモカ・・・あなたと・・・あそこにいた人達だけね。ノーマだとか人間だとか関係なく、私を認めてくれたのは・・・」

 

アルゼナルの第一中隊を思い出す。サリアを。ヒルダとロザリーとクリスを。ヴィヴィアンとエルシャを。ココとミランダとゾーラ体調を。ナオミとメビウスを思い出す。

 

それだけじゃない、あそこにいた人全てがアンジュをアンジュと認め、接してくれていた。

 

(それに比べて・・・これが平和と正義を愛するミスルギ皇国の人間だと言うの?豚よこんな奴ら!言葉の通じない豚以下の存在よ!こんな奴らを守るために・・・ノーマは戦ってるって言うの!?)

 

「早く殺せよ!」

 

「とっとと家に帰りたいんだけど」

 

ノーマを殺す事にこいつら豚以下の連中はなんとも思っていないらしい。

 

(お父さまとお母さまは違っていた。私がノーマだとしても、私を愛してくれていた)

 

あの日を、洗礼の儀の前日を思い出す。

 

母があの日くれた指輪を思い出す。そして歌を思い出す。

 

【永遠語り】アンジュの母ソフィアが、アンジュに教えた歌。

 

「どうか、あなたの道に、光の加護があらん事を」

 

ソフィアが指輪を託した際に言った言葉を思い出す。

 

「始まりの光 kilari・・・kirali」

 

「終わりの光 lulala・・・lila」

 

「なっ!この歌は!?」

 

「永遠語り!それはお母さまの歌よ!ノーマの分際で穢さないで!」

 

「兵士ども!止めさせろ!」

 

「おいお前!いい加減に・・・」

 

アンジュが兵士を睨む。すると兵士達はそれにビビった。

 

(道を示す光・・・お母さまが私に残してくれたもの・・・私は死なないし、諦めない。最後の最後まで・・・)

 

「ふっまぁいい。どうせ死ぬんだ少しでも楽しませてくれたまえ」

 

豚のリーダージュリオが立ち上がった。

 

「これより!穢らわしいノーマの処刑を始める!」

 

歓声が響いた。

 

次の瞬間だった。

 

「ふっざけんじゃねぇぇぇぞ!!!」

 

会場中に怒鳴り声が響いた。その声に観客達はざわめく。

 

「おっおい!あれを見ろ!」

 

観客の一人が空を指した。するとそこには光の粒子を放つ機体がそこにはあった。

 

フェニックスだ。

 

「フェニックス・・・まさか!メビウス!?」

 

アンジュは驚いていた。

 

その頃。ステージの物陰で、ある男がアンジュを助けるために準備をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ・・・なんだよ・・・これ・・・」

 

「こんな・・・酷いことを・・・」

 

コックピット内ではヒルダとミスティの二人が唖然となっていた。

 

マナの中継により、アンジュの処刑は、彼女達も見ていたのだ。その光景はノーマを見世物の用に吊るし上げ、挙げ句の果てに殺す。しかもそれを一般市民はショーの用に見ている。まさに狂っているとしか言いようがなかった。

 

メビウスに関しては完全にキレていた。

 

「ヒルダ。機体制御頼む」

 

メビウスはそう言うとジェットボードを取り出し、機体の外へとでた。片手にアサルトライフルを握って。

 

メビウスがステージに降りていった。ジェットボードを背中に背負う。

 

「きっ貴様!一体・・・」

 

突然の事にジュリオが驚く。彼らからしたら空から人間が降りてきたのだ。驚くなと言う方が無理である。

 

「アンジュを処刑するだと!?血の繋がった兄妹じゃないのか!それを見世物の用に扱いやがって!?アンジュをなんだと思っている!おまけに人が死ぬのを楽しむだと!?貴様ら!それでも人間か!」

 

メビウスの発言に豚どもは笑い始めた。

 

「あいつ!化け物であるノーマを守ってるよ。馬鹿なんじゃない」

 

「相手はノーマなんだよ。殺したところで何の損失にもならないんだよ」

 

「化け物にルールなんていらないんだよ!死ねばそれでいいんだよ!」

 

「最低だ貴様ら!人間の風上にも置かない!最低の連中だ!!」

 

メビウスの中の何かが音を立てて切れた。

 

「アンジュがノーマで化け物って言うんなら!テメェらはただの臆病者だ!」

 

その言葉に周りが睨むように見てきた。

 

「それどう言う意味よ!」

 

「言葉の通りだよ!テメェらのしてる事は!ノーマを認めず!一方的に排除しやがる!そのやり方はな!痛みを怖がって一方的に殴りつけようとする臆病者のやり方だって言ってんだよ!」

 

するとメビウスの体に何かが覆いかぶさった。

 

それはマナでできた捕縛結界だった。

 

「ノーマに味方する者はノーマと同罪ですよね?」

 

リィザが捕縛結界を展開した状態で豚のリーダーに尋ねる。

 

「当たり前だ、いい余興だ。この大罪人を今この場で・・・」

 

突然ジュリオの顔にパンチが飛んだ。そのパンチはジュリオを吹っ飛ばした。

 

皆驚いて見ていた。マナの光で作られた捕縛結界をメビウスは引きちぎったのだ。

 

豚のリーダージュリオが台に突っ込む。殴りどころが悪かったらしく、残念な事に、ジュリオはまだ生きていた。

 

直ぐに側にいた兵士がメビウスに銃を放った。それを避けるとメビウスは距離を詰め兵士に殴りかかる。兵士はマナの光で防ごうとした。しかしそれはメビウスにとって何の意味もなかった。力押しでマナの光を砕くと、メビウスはそのままの勢いで兵士をぶん殴った。兵士は会場に飛ばされた。

 

「・・・マナの光を・・・打ち砕いた・・・」

 

豚共は驚きで誰も身体を動かさなかった。唯一使える腐った頭脳で、ある結論を導き出した。

 

「まさか・・・ノーマ・・・」

 

「ありえない!ノーマは女に現れるはずだ!男のノーマなど聞いたことない!!」

 

豚共は騒ぎ立てていた。

 

未だに怯えて立てないでいたジュリオに向く。

 

「アンジュを解放しろ!それともまだ実力の差を理解できずこの俺と、メビウスと戦うつもりかな?」

 

メビウスは銃をジュリオに向けた。生身でこれだけの能力なのだ。遠距離からの攻撃が加えられたら実力の差は明白だろう。

 

「ひっ!やめろ!やめろ!」

 

ジュリオが慌てて頼み込む。失禁さえしていた。

 

「・・・殺せ!殺せ!殺せ!ノーマに味方する化け物を殺せ!」

 

観客達が一斉に騒ぎ出した。

 

その中でアキホが倒れ込んだ兵士の銃を拾うと、メビウスを撃った。右肩に命中し、血が流れる。しかしメビウスは顔色一つ変えないでいた。それどころか避けなかったようにも見えた。

 

「なるほど!それが臆病者の出した答えというやつか!なら!」

 

銃声が鳴り響いた。銃弾はアキホの腕を撃ち抜いていた。

 

アキホは声にならない悲鳴をあげた。

 

「痛い!痛い!痛いよ!!!」

 

メビウスは撃っていない。隣を見るとそこにはアンジュがいた。

 

さらにその隣にはあの時、島であったタスクまでいた。

 

「なっ!・・・アンジュリーゼ・・・様」

 

「どうしたの?拘束されてる状態じゃなきゃ一丁前に罵る事も出来ないの?本当に臆病者な豚共ね」

 

「君のおかげだよ。彼らの注意を君に引きつけてくれたおかげだ」

 

あの後、皆の注意がメビウスに向いている間に、タスクはアンジュを救出していたのだ。

 

因みにタスクがまたアンジュの股にダイブしたのはここだけの話である。

 

「消え失せろ!臆病者の豚共!」

 

メビウスが銃口を観客達に向ける。すると観客達は皆我先にとその場を離れていった。今まで散々好き勝手言ってきたくせに、危険になると一目散に逃げる。まさに無様であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豚共があらかた去った後の会場に残されたのは生存者は、メビウスとアンジュ。モモカとタスク。そして偉そうな豚が二匹だけだった。

 

兵達はリィザを含めてタスクとメビウスで全員ノックアウトした。アンジュはモモカを拘束していたマナを触れる事で壊した。

 

そしてメビウスとアンジュの目の前には醜いジュリオと醜いシルヴィアがいた。

 

メビウスはシルヴィアの胸ぐらを掴んだ。

 

「二度とアンジュに関わるな!」

 

そう言うとシルヴィアを投げ捨てた。車椅子の彼女にとってこれはとても苦しいものがあった。

 

「あっ・・・あ・・・あ・・」

 

そんなシルヴィアをアンジュは車椅子に叩きつけると睨みつけた。

 

「ありがとうシルヴィア!醜い人間の本性を現してくれて!ありがとうお兄さま!私の正体を暴いてくれて!」

「メビウス!アンジュ!」

 

フェニックスが降下してきた。ヒルダとミスティが機体から降りてくる。

 

「ミスティ・・・ヒルダも!二人とも!どうして!?」

 

その時だった。

 

 

 

「やれやれ、無能が服を着て歩いてるとはこの事か」

 

後ろから声と銃声がした。メビウスは反射的に避けた。すると銃弾はその先にいた、ジュリオの頬をかすめた。

 

「ひぃい!痛い!痛いよ!」

 

「ちょっと掠っちまっただけだろ?これだから温室育ちの坊ちゃんはダメなんだよ」

 

痛みに悶えるジュリオを特に気にも止めずに、その声の持ち主は会場へと入ってきた。

 

メビウスは振り返った。するとそこにはあの男がいた。その男をメビウスは知っていた。何度か夢の中であっていたのだ。そして、一度戦った事があった。

 

「ガーナム!なんでお前がここにいる!」

 

「理由なんてどうでもいいだろ?そんなことよりここであったがなんとやらだ。前回の続きを始めようじゃねえか!」

 

そう言うと彼は指を鳴らした。するとそこにグラスターカスタムが現れた。

 

「ヒルダ!みんなを頼む!みんなをここに来るまでいた機体の隠し場所に集合だ!!」

 

「おっおう!」

 

そう言うとヒルダはアンジュとミスティを、タスクとモモカを連れて、会場を後にした。

 

「早く乗りな。そしたら空中で戦ってやるよ」

 

メビウスはフェニックスに乗り込む。そして機体を上昇させた。

 

「さぁて、前回のように邪魔されない最高の舞台だ!さぁて。楽しく殺し合おうぜぇ!」

 

「悪いけど時間がないんだ!早めに決着をつけさせてもらう!」

 

そう言うとお互いがサーベルとナイフを抜いた。

 






ジュリオに関しては殺す事が全く惜しくない存在として書いています。

スパロボでもミスルギ皇国のやり方はキラやルリさえも激怒させてましたね。

次回!ガーナムとの戦闘です!そろそろ4章もクライマックスに近づいてますね。


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第34話 腐った国との決別



久しぶりに戦闘シーンを書いた気がする。

今回で神聖ミスルギ皇国の話は終わりかな?

第4章はまだ終わりませんけどね!

それでは本編の始まりです!



 

 

ミスルギ皇国上空ではフェニックスとグラスター

カスタムが激戦を繰り広げていた。

 

撃っては守り、守ったら撃って。それの繰り返しであった。

 

「ファング!」

 

脚部から8つの牙が放たれた。それらは目前の敵に向かって放たれた。

 

それらはグラスターカスタムのアイ・フィールド防がれた。しかしアイ・フィールド起動中がメビウスの狙いでもあった。

 

メビウスは機体を加速させ、グラスターカスタムに突っ込ませる。そしてぶつかる直前でターボノズルを使い、急上昇させた。

 

「何!?」

 

「遅い!」

 

次の瞬間、背中からミサイルがグラスターカスタムに向かって放たれた。それらは機体後部に命中すると爆発した。

アイ・フィールドも機体の前面にしか展開できないためらこの戦法が唯一勝てる戦法なのだ。

 

「へっ!ちっとはましな動きできるじゃねぇか!」

 

「・・・」

 

「冷てぇなぁ!楽しく殺しあってるんだぜ!?

もっと喜べよ!」

 

「お前のお喋りに付き合う気はない!」

 

以前の戦いでは自分の中に迷いが生まれていた。その迷いが機体の動きに現れ、惨敗を喫した。ならば今は目の前のガーナムを倒し、その上で聞きたい事を全部聞き出してやる判断だ。

 

しかし次のガーナムの一言でメビウスのそれは揺らいだ。

 

「エンブリオとは仲良くお喋りしてたじゃねえか!矛盾する大罪を繰り返す者よぉ!」

 

「!!なぜエンブリオの事を知っている!?」

 

「やっとそちらから話しかけてくれたなぁ!」

 

マシンガンの弾が飛んできた。避けきれないため

アイ・フィールドで防ぐ。

 

するとガーナムは機体を接近させてきた。再び接近戦となる。

 

「いい加減自分の使命を思い出したらどうだぁ?」

 

「今はお前を倒す!全てを聞き出すのはその後だ!」

 

「そいつは無理だな!なんせお前は殺されるんだからな!」

 

機体を蹴飛ばされた。その衝撃に身体が揺れる。

 

右肩からはアキホに撃たれた傷がまだ残っていた。

あの後止血手当をタスクからしてもらってはいたが、やはり完全とまではいかないようだ。

 

メビウスは機体を立て直すと、再びグラスターカスタムに急接近した。そして当たる直前で急上昇させる。

 

「同じ手は通じねぇぜ!」

 

ガーナムはそう言うと機体を180度回転させ、マシンガンを放った。

 

そこにフェニックスはいなかった。

 

「なっ!?」

 

「もらった!!」

 

真上から声がした。次の瞬間、ガーナムの機体が揺れながら落ちていった。正確に言うなら上から何かに押し付けられて落とされていったが正解である。

 

フェニックスがグラスターカスタムを掴んで、地面に叩きつけようとしたのだ。近くの森に機体が叩きつけられる。

 

サーベルをコックピット手前に突き立てる。

 

「俺の勝ちだな!さぁ答えろ!お前は何を知っている!!」

 

「へっ!勝った気でいるにはまだ早えぜ!」

 

次の瞬間、ガーナムは再びフェニックスを蹴飛ばした。衝撃で機体が大きく揺れる。

 

「さぁて!戦いはこれからだ!」

 

機体を立て直したガーナムがマシンガンを取り出す。メビウスもコンバットパターンを仕掛ける準備をする。

 

 

 

「・・・と言いたいところだが、残念な事にさっきの衝撃で中の回路がいくつかダメになっちまったよ」

 

ガーナムはそう言うとマシンガンを下ろした。

 

「今回は逃げてやるよ。前回とは違ってな。喜んでいいんだぜ?まぁ次会った時はぶっ殺すけどな」

 

「答えろ!エンブリオ。あいつは何者だ!」

 

「おいおい。負けたからって素直に従う訳はないだろ?」

 

「んじゃメビウス。いや、お前を揺さぶるために今はこう言うか。【矛盾する大罪を繰り返す者】よ。せいぜい俺が殺しに行く前まで他の奴に機体をぶっ壊されんなよ。その機体も鹵獲しなけりゃならないし。んじゃグッバイ」

 

そう言うとグラスターカスタムは加速しながら夜空の中へと消えていった。

 

その場にはメビウスとフェニックスが残された。

 

「・・・なんとか勝てたか」

 

周囲を見渡した。周りには何事かと野次馬が集まって来ていた。

 

(ここにいるのはまずい。とりあえず集合場所に行くか)

 

メビウスは機体をウイングモードに変形させ、夜空に高く舞い上がり、ミスルギ皇国を後にした。

 

 

 

 

 

メビウス達三人がいた隠れ場所では、現在タスクとアンジュとモモカとヒルダ。そしてミスティがいた。

 

「申し訳ありません!アンジュリーゼ様!」

 

モモカとミスティが同時にアンジュに頭を下げていた。

 

「私のせいで!このような目に!申し訳ありません!」

 

「いえ!私があのようなデマな情報をアンジュリーゼ様にお伝えしたせいです!本当に申し訳ありません!」

 

「何言ってるのよ二人とも。お陰でスッキリしたわ。」

 

「え?」

 

「私には家族も友達も・・・何にもないって事がよくわかったわ。でもあなたた達は違ってた。

ありがとう、モモカ。ミスティ」

 

アンジュは優しく二人を許す。

 

「さてと。傷の手当てはこれで終わったよ」

 

アンジュの手当てをしていたタスクだが、どうやら手当は終わったようだ。

 

「ありがとうタスク。でもね・・・」

 

次の瞬間。タスクの頬にアンジュのビンタが飛んだ。

 

「痛ってええ!!」

 

「なんで私の股にダイブするの!?意地なの!?

病気なの!?」

 

アンジュは忘れていなかった。タスクがアンジュを絞首台から助かるときに、アンジュの股間にダイブした事を。その時は周囲は皆メビウスに注目しており、アンジュ達には気がつかなかった。その時アンジュはボロボロの罪人服だった。つまり今回は生で秘部を見られたと言う訳だ。

 

「なぁアンジュ?そいつ知り合いか?」

 

ヒルダが水を飲みながらそう聞いてきた」

 

「ええ。あなたのおかげで大変な目に遭った時のね」

 

「なんだよ。まだブラの件怒ってたのかよ」

 

「アンジュリーゼ様?こちらのお方とはどのような関係で?」

 

「えっ!?それは・・・」

 

「・・・一週間、寝泊りを一緒にした関係だよ」

 

タスクの言った一言にアンジュ以外の女性陣がざわめく。

 

「やっぱり!でなければ命懸けでアンジュリーゼ様を助けになんて来られませんよね!

男勝りなアンジュリーゼ様にも・・・ようやく春がやってきました・・・筆頭侍女として!嬉しくも思います!」

 

「アンジュリーゼ様が想い人を作られていたとは・・・。おめでとうございます!アンジュリーゼ様!」

 

「おやおや、あたしら達の知らないところで結構お熱い事があったようで・・・」

 

「いやぁ、それほどでもないよ・・・」

 

「アンタは黙ってなさい!!」

 

アンジュのげんこつがタスクの脳天にヒットした。

 

するとそこにフェニックスが帰還した。

 

コックピットからメビウスが降りる。

 

「メビウス!あいつどうなった!?」

 

「・・・なんとか追っ払った。ところであんた・・・えーっと」

 

「タスクだ」

 

「タスク。傷の手当てありがとな。でも一つ聞かせてくれよ。お前・・・一体何者なんだ?」

 

その疑問はみんなが思っていた。アンジュもなぜタスクがあの場にいたのか、それが分からなかった。

 

「別にアンジュを助けた理由はあれだよ。君は少し暴力的だけど綺麗だし、可愛いし、美人だし・・・」

 

「そんな事聞いてないわ。タスク・・・あなた何者なの?」

 

「・・・ジルから言われたんだよ。アンジュを死なすなって」

 

「ジル?それって司令のこと?」

 

「それだけじゃない。俺はヴィルキスの・・・

アンジュの騎士だよ」

 

「騎士・・・」

 

しばらくの間沈黙が続いた。

 

「そうだアンジュ。お前にこれ返さないとな」

 

メビウスは思い出した風に機体のボックスの中から取り出してきたアンジュの指輪を出す。

 

「メビウス。あなたどうやってこれを取り返したの?」

 

「・・・ちょっとした手助けが起きたんだよ」

 

あやふやな答えをアンジュに返した。エンブリオの事は黙っておこう。メビウスはそう決めていた。

 

「さて、そんなことよりアンジュ。それにヒルダも。二人はこれからどうする?」

 

メビウスが真剣な表情でそう聞いてきた。

 

二人はアルゼナルを脱走したのだ。外の世界を信じて。だが現実は違っていた。二人は外の世界に、

人間たちに捨てられたのだ。

 

「このままどこかで隠れて暮らせねぇかなぁ?」

 

「やめておきなさい。こんな世界でそんな場所無いと思うわよ」

 

ヒルダの提案をアンジュが否定する。

 

「メビウス?あんたはどうする気だ?」

 

「俺は・・・アルゼナルに戻ってみるよ」

 

その言葉に二人は驚いた。

 

「確かめたい事があるんだ。どうしても・・・

だから俺はアルゼナルに帰るつもりだ」

 

「・・・私もそうさせてもらうわ。あんなゴミ溜めのような所にいるくらいなら、まだあそこの方がましよ」

 

「あたしも同感だね。あんなもの見せられちゃ、

人間と一緒になんて居たくもないね」

 

三人の意見がまとまった。ノーマの処刑を喜んで見る

人間共。そんな奴らのいる場所にはいたくない。

 

「明日アルゼナルに帰還するか・・・」

 

「わかった。ジルにもそう伝えておくよ」

 

「ねぇタスク。一つ頼みがあるんだけど」

 

アンジュがタスクにそう言う。

 

「なんだい?」

 

「ミスティの事だけど。彼女を家に返してあげて」

 

「わかってるよ。とにかく今日はもう遅い。出発は明日の朝にしよう」

 

「そうだな。俺はもう寝るぜ」

 

そう言ってメビウスは横になった。しばらくしすると寝息が聞こえてきた。

 

「僕たちももう寝よう」

 

「寝てる最中に変なことしないでね!!」

 

アンジュが釘を刺した。こうして皆死んだように眠りについた。

 

 

因みにその夜、寝相でタスクがアンジュの股間に顔を埋めた。朝起きてアンジュがその事に気づき、タスクをフルボッコにした事は言うまでもなかろう。

 

 

 

 

そして朝となった。皆が朝食を取ると、各自準備を始めた。

 

「それではアンジュリーゼ様。どうかご無事で」

 

「ミスティ。私の事は忘れなさい。それがあなたのためよ」

 

「安心してくれ。ミスティさんは必ず無事にローゼンブルムに帰す。アンジュ達もなるべく穏便に済ませる用に、ジルにも頼んでおいたから」

 

「ありがとう。タスク」

 

「・・・アンジュ。一ついいかな?」

 

「何?」

 

「君の歌を聞いた時、震えたよ。あんなに綺麗で心を捕まえられた歌声は初めてだった。初めて聞くのになぜか懐かしくて嬉しいような・・・不思議な歌声だったよ。また聞かせてくれないかい?」

 

「また・・・会えるわよね?」

 

「ああ。必ず会える」

 

「そうだ。もう一つあった。君の髪って綺麗な金色だよね」

 

「えっ!?そっそれが・・・?」

 

アンジュが顔を赤らめた。やはり褒められて嬉しいのだろう。

 

「下の方も金色なんだね」

「死ね!この変態騎士!!」

 

この変態は何故このような発言が出てくるのだろうか。この後タスクが本日二度目のフルボッコにされた事は言うまでもなかろう。

 

 

 

 

「それじゃあタスク。ミスティの事。頼んだぜ」

 

「あぁ。君達も気をつけて」

 

メビウスとタスクが軽く挨拶をすると、タスクはアーキバスにミスティを乗せてローゼンブルム王国へ。メビウスはアンジュとヒルダとモモカをフェニックスに乗せてアルゼナルへの進路を取った。

 

アンジュはミスルギ皇国を振り返った。

 

(・・・さようならミスルギ皇国・・・

さようなら・・・腐った国の家畜ども・・・

シルヴィア・・・お兄さま・・・さようなら)

 

心の中でアンジュはそう呟く。過去の自分と・・・アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギと決別するために・・・

 





次回メビウス達はアルゼナルに帰還します!

ようやくアルゼナルのメンバー達が再登場するのか。アニメでは精々一話ちょっと出なかっただけですけどね。

それにしてもタスクが羨ましいと思う人は絶対いるはず。


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第35話 アルゼナルへの帰還



久しぶりにアルゼナルのメンバーが登場します!

アニメでは確か10話のBパートに当てはまる部分です。

色々とアニメと違うところもありますがそれがこの作品の売りという事で!

それでは本編の始まりです!



 

 

タスク達と別れたメビウスは、アルゼナルを目指し、飛んでいた。

 

陸地を離れ、海の上を飛び続けていた。やがてアルゼナルの設備が見えた。

 

因みに話し合った結果。状況として、メビウスが脱走犯のアンジュとヒルダを捕まえて帰還する状況である。

 

発着デッキにフェニックスを着陸させる。

 

「・・・結局戻ってきたのか・・・ここに」

 

「・・・一悶着起こるぜ」

 

メビウスが険しい表情でそう言った。

 

すると暗がりの奥から何かが来るのを感じた。それは銃を構えた保安部だった。彼女達は4人を包囲し、銃を突きつけた。

 

そして奥からジル司令がやってきた。ジル司令はメビウスの前まで来た。

 

「脱走犯のノーマの捕獲ご苦労だったな。だが・・・」

 

次の瞬間、ジル司令はメビウスにでパンチを繰り出した。しかも義手の方でだ。

 

「司令室のコンピューターに無断でアクセス。貴様も無罪ではないぞ」

 

アンジュとヒルダは摑みかかろうとするが、銃を突きつけられては黙るしかない。

 

「・・・哀れだな」

 

「なに?」

 

「司令ともあろうものが!無抵抗なノーマ相手に銃を突きつけなきゃ説教の一つもできないのかよ!」

 

「こう言うのを臆病者って言うんだよな・・・」

 

次の瞬間再びメビウスにパンチが飛んだ。

 

メビウスの鼻から血が流れる。しかしそれを手で拭うとジル司令を睨みつけた。

 

「へっ。司令よ。俺さ、色々とわかった事があるんだよ。あんたらが。いや。大人ってのが一体何考えてるのかよ!」

 

「マナだ!ノーマだ!リベルタスだ!そっちのゴタゴタにこっちを巻き込んで引っ掻き回す!それがあんたら大人のやり方なんだろ!」

 

【ドスッ!】

 

するとジル司令の義手のパンチがメビウスの腹に直撃した。流石にきいたのかメビウスは腹を抱えてうずくまるが、やがて動かなくなる。

 

「メビウス!おい!大丈夫か!?」

 

駆け寄ったアンジュとヒルダにもジル司令は義手で腹パンをした。

 

「がはっ!」

 

二人とも意識を失った。

 

「三人を拘禁しろ!反省房に叩き込め!」

 

ジル司令の命令の元、保安部達が意識のないアンジュ達を連行する。モモカは人間と言うこともあり反省房送りは免れた。

 

 

 

反省房に叩き込まれたメビウス達。

 

「起きろ。アンジュ、ヒルダ、メビウス」

 

その言葉と共に三人に水がかけられた。

 

見るとサリアとエルシャが居た。

 

「処分を通達する。まず個人資産を全て没収。無論パラメイルもよ。そしてメイルライダーとしての資格も剥奪する。そして反省房での一週間の謹慎」

 

「ちょっと待てよ!メビウスがあたしらと同じ罪はおかしいだろ!」

 

「・・・言い方が悪かったわね。メビウスの脱走に関しては、権利が権利なだけに脱走に対しての処分はないわ。メビウスに対しての処罰は司令室コンピューターへの無断アクセスに付いて。処分は第一中隊からの除隊。罰金1000万キャッシュ。反省房での3日間の拘禁よ」

「けじめはつけないといけないわね・・・ここに住む仲間なんだし」

 

エルシャがボソリと呟いた。

 

「ねえ。二人とも・・・どうして?」

 

エルシャがアンジュとヒルダに問いかける。

 

「どうして脱走なんてしたの?」

 

「私達は赤ん坊の頃からここにいるわ。だから外の世界を知らない。待って人なんていない。ここから出て行く理由もない。外にノーマの居場所なんてないのよ・・・」

 

その言葉に二人はそれぞれの出来事を思い出す。

 

母は待ってなどいなかった。ヒルダの代わり身を既に作っていた。

 

シルヴィアは待ってなどいなかった。むしろ殺そうと画策までしていた。

 

「結局違うのよ。こいつらは・・・信じるんじゃなかった」

 

サリアはそう言うとその場を後にした。エルシャもサリアを追いかけてその場を後にした。

 

メビウスは終始黙っていた。

 

「・・・ごめんなさいね。私達のせいであなたまで巻き込んでしまって・・・」

 

アンジュ達が申し訳なさそうに謝る。サリアの怒りは明らかに脱走したアンジュとヒルダに向けられていた。

 

メビウスは脱走に関してはサリアの言っていた用に、関係なかったはずなのに、アンジュ達とのせいで一緒に怒られていたのだ。

 

「気にすんな。俺の罰は勝手に司令室のコンピューター使った罰なんだからよ。だから結局は二人が脱走してようとしてなかろうとここには送られたんだぜ。まぁ罰は罰だ。今はジル司令に課せられた謹慎の罰を甘んじて受けようぜ」

 

「ねぇメビウス。気になってたんだけど。世界に帰るとか一体どう言う事なの?」

 

「そう言えばアンジュはあのときいなかったな。どうせ時間はあるんだ。話しておくか。俺について」

 

メビウスは話した。自分が別世界の人間だと言う事を。自分が元の世界にいつかは帰ると言う事を。自分が本当は13歳だと言うことも話した。

 

「・・・そんな事ありえるの!?」

 

「アンジュだって少しは気づいてたろ?フェニックス。それにブラック・ドグマの機体。あれの異常差を。明らかに次元が違いすぎる」

 

そう言われてアンジュは少し考えていたがやがて口を開いた。

 

「ねぇ?メビウス。あなたは・・・あなたは元の世界に帰りたいの?」

 

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

長い沈黙が続いた。

 

 

 

 

 

「わかんねぇ。元の世界があんなところだったら、俺は多分そこが嫌で飛び出したのかもしれねぇ。そしてその時記憶を失った。それで戻りたいなんて考えてたら笑えるな」

 

メビウスが自虐めいた口調でそう言う。

 

「でも。知りたいんだよ。俺は自分の事が。そのために元の世界に帰ろうとしているんだと思う。そこに記憶の答えがあると信じて・・・」

 

「・・・ゴミ溜めじゃないといいわね」

 

アンジュはそう言った。

 

しばらく経つと今度はロザリーとクリスが現れた。二人はアンジュやメビウスには目もくれず、ヒルダに詰め寄っていた。

 

「なぁなんで脱走なんてしたんだよ?なんで相談してくれなかったんだよ?あたしら友達だろ?」

 

「友達と思ってなかったんでしょう?ねぇ!どうなの!?」

 

ロザリーの疑問にクリスが答えを出した。

 

「・・・さぁな」

 

「・・・死ねばよかったのに」

 

クリスがそう吐き捨てるとその場を離れた。その後をロザリーが付いていく。

 

「ヒルダ。お前何言ってんだよ」

 

メビウスが驚きながらヒルダに尋ねる。

 

「別に、あいつらは利用していただけ。ただそれだけだよ」

 

そう。ヒルダからしたら外の世界に帰ったら二人のことも忘れるつもりだったのだ。

 

「・・・少なくても向こうは友達だと思ってたみたいよ」

 

「・・・もういいんだよ。利用してたってのは確かなんだし。下手な言い訳するよりはマシだろ?」

 

 

 

 

暫くすると、反省房の奥からまた足音が聞こえてきた。

 

反省房の外を見ると今度はナオミがいた。

 

「ナオミか。なんだ?あたしら脱走犯を罵りにきたのか?」

 

「そんなんじゃないよ。ただ、食事を届けにきただけだよ」

 

「もうそんな時間なのか。まぁ何も食わないよりはいいよな」

 

そう言うと三人は乾パン一つとコップ一杯の水をそれぞれ手にした。

 

「それとこれ、三人の制服。ここに置いておくね」

 

「・・・お前は相変わらずだな」

 

「大丈夫。今はこうなってるけど、いつか前みたいに戻れるって私は信じてるから」

 

そう言うとナオミは反省房を後にした。

 

三人は暇となっていた。

 

その時だった。

 

「久しぶりだな」

 

不意に後ろから声がした。振り返るとそこには予想外の人物がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ゾーラ・・・隊長?」

 

そこにはゾーラ隊長がいた。

 

「気がついたんですか!?」

 

メビウスが驚きながらたずねる。

 

「ああ。昨日の夜にな」

 

ゾーラ隊長はアンジュとヒルダを見た。

 

「すっかり二人とも変わったなぁ。私が寝てたうちに色々とあったんだなぁ」

 

「色々あったのよ・・・色々と」

 

「それにしても。まさか脱走しちまうとはな・・・ヒルダ」

 

ゾーラ隊長がヒルダの方を向く。

 

「あたしはあんたを利用してたんだよ。気がつかなかったの?」

 

ヒルダが悪態をつく。

 

「・・・気づいてたさ」

 

「えっ?」

 

「私は気づいてたよ。あんたが外の世界に未練を残してるのを。だからそれを忘れさせてやろうとしてたんだけどね・・・」

 

「・・・なんで・・・気づいてたの?」

 

「私はかつては第一中隊の隊長だぞ。隊のメンバーの事なんて顔見たら何考えてるかなんてすぐわかるさ」

 

「凄いんですね・・・ゾーラ隊長」

 

「ゾーラ。あんたはこれからどうするんだ?」

 

「当分はパラメイルには乗れないな。まだ体調も万全じゃない。しばらくは指示などをするだろうな」

 

「まぁ今は仕方ないが、ここを出たらまた頑張れよ!困ったら私の所に来な。手取り足取り教えて可愛がってやるよ!」

 

そう言うとゾーラ隊長は反省房を後にした。

 

「・・・ゾーラも変わらないな」

 

ヒルダはどこか嬉しそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫く時間が経過して、夜となった。

 

「さて、俺はそろそろ寝るぜ。二人はそのベットでも使え」

 

そう言うとメビウスは床に横になった。

 

「さてと、あと六日間は反省房。でもここから出ても、何もない。なんで生きてるんだろ?希望がそこにあるからか?」

 

「希望?そんなもの本当にあると思ってるの!?」

 

ヒルダの愚痴にアンジュが怒った風に言う。

 

「あるのは迫害される現実とドラゴンとの殺し合いの毎日だけよ。全く、馬鹿馬鹿しくて笑っちゃうわ」

 

「偏見と差別に塗り固められた愚民ども。ノーマってだけで一方的に否定するやつら。マナを使う奴はそんなに偉いの?全部が嘘だった。友情とか家族とか絆とか・・・」

 

不意にアンジュが叫んだ。

 

「あー!友情こそ大事とか!絆こそ素晴らしいとか!平気で口にしてた自分を殴りたくなってきた!」

 

・・・アンジュが壊れてしまった・・・アンジュはなおも続ける。

 

「どいつもこいつもバカばっか!こんな世界!腐ってるわ!いっそ壊してやりたい!」

 

「世界を壊すねぇ・・・どうやってだよ?」

 

ヒルダが当然の疑問を聞いてくる。

 

「できるんじゃない?パラメイルと武器があれば!」

 

「陸までどんくらいあると思ってんだよ」

 

「フェニックスの仕組みをパラメイルに使えないかしら!?」

 

「食料や資材はどうすんだよ」

 

「魚なら取れるし、最悪人間達から奪い取ればいい」

 

そう言うとアンジュは鉄格子を掴んだ。

 

「私を虐げ!辱め!貶めることしかできない世界なんて!私から拒否してやる!こんな腹立たしくて!頭にくる!ムカつく世界!全部壊してやる!」

 

「ハッハッハッハッハ!」

 

ヒルダが突然笑い始めた。

 

「何がおかしいの?」

 

「ムカつくな。そう言うの。よし!あたしも協力してやるよ。ムカつく世界をぶっ壊すのに」

 

(・・・あいつら・・・ちょっと見ない間に仲良くなってんな)

 

まだ起きていたメビウスは薄れゆく意識の中でそう思った。

 

 

 

その日の夜。アルゼナルにアンジュの歌う永遠語りが響いた。

 

それは自室にいたサリアに。

 

浴槽にいたエルシャとヴィヴィアンに。

 

ゾーラの部屋でお楽しみをしていたロザリーとクリスに。

 

医務室でマギーに診てもらっていたゾーラに。

 

食堂で手伝いをしていたモモカとナオミに。

 

司令室でタバコをふかしていたジル司令に。

 

そして、夢うつつなヒルダとメビウスに。

 

皆の心にその歌は強く響いた。

 

まるでその歌から、アンジュの決意が伝わるかの用に。

 






今回で第4章はおしまいです!

ゾーラ隊長がやっと復活しました!原作だとクリスはゾーラの部屋をヒルダが個人資産の没収をされたので買い取ってましたけど、ゾーラが生きているので買い取るくだりはないです。

そして物語は第5章に突入します!果たして第一中隊は元に戻れるのでしょうか!?


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第5章 滅びへの微笑
第36話 10年前の思い出




今回から第5章です!

前回の章はあまりにも重い話が多かったと読み直して思いました。

不意に思ったけどこれって一体何章まで続くんだろう。

・・・考えてても仕方ねぇ!とにかく完結を目指すぞ!

それでは本編の始まりです!


 

 

ミスルギ皇国。皇宮の一室ではシルヴィアが悪夢を見ていた。

 

あの日。アンジュリーゼの処刑される日、突然現れた謎の男が自分を殴り殺す夢だった。

 

「はあっはあっ」

 

身体中から汗が吹き出していた。

 

悪い夢を見た。こういう時、シルヴィアは楽しい事を思い出していた。

 

それはアンジュと馬に乗って遠出をしていた思い出だった。

 

(お姉さまがノーマだとわかってからお兄さまは

変わってしまわれた・・・)

 

(私は・・・たとえお姉さまがノーマだったとしても・・・あの頃が一番の幸せでした・・・)

 

そんな考えが頭をよぎった。それを直ぐに否定する。

 

(・・・あれでよかったんですよね?お兄様!?)

 

シルヴィアはマナで車椅子に乗り、兄ジュリオの部屋へと向かう。

 

部屋の前までいくと扉が少し空いていた。

 

そして中から話し声が聞こえた。

 

「お兄さま?」

 

シルヴィアは扉の隙間から中を覗いた。

 

その光景にシルヴィアは驚きで目が釘付けとなった。

 

「可哀想なジュリオ」

 

「これくらい平気だよ。ママ。でも悔しいなぁ。

悪いノーマを退治できなかった」

 

「あなたはよくやったわ。ジュリオ」

 

「本当に!?僕よくやれた!?嬉しいなぁ。母上は僕の事全然褒めてくれなかったんだよ。

いっつもアンジュリーゼの事ばっかりエコヒイキしてたんだ」

 

リィザは爪から何かを垂らした。ジュリオの口にその液体が入る。

 

「ふふっそれじゃ今度はママのお願い聞いてくれる?」

 

「わかってるよ。シンギュラーポイントを開けば

いいんだよね?」

 

「いい子ね」

 

シルヴィアはその光景から目が離せなかった。理由は二つあった。

 

一つ目は今、二人は裸で一つのベットにいる。

しかもジュリオが下でリィザが上にいた。

 

どう考えてもアレをしてるようにしか見えない。

しかしそんな事は今の彼女には些細な事だった。

 

シルヴィアが驚いた二つ目の原因。それはリィザの背中に翼が生えていた事だ。

 

「ひっ!?」

 

その声に気がつき、リィザがこちらを振り返る。

 

「あらあら。シルヴィア様」

 

「近衛長官・・・あなた・・・一体」

 

「どうやら悪い夢を見てらっしゃるのですね」

 

リィザが近づいて来た。

 

シルヴィアは慌てて車椅子でその場を離れる。しかし後ろからリィザの尻尾がシルヴィアの首に巻きついた。

 

「ぐっ・・・たす・・・けて。助けて!アンジュリーゼお姉様!」

 

シルヴィアの助けを求める悲鳴が、皇宮内に虚しく響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メビウス達が反省房に送られてから数日経った。

反省房の扉を保安部の女性が開ける。

 

「メビウス。出ろ!」

 

今日でメビウスの反省房での刑期が終了したのだ。

 

「それじゃあ二人とも、お先に失礼するぜ。まぁその・・・頑張れよ」

 

そう言うとメビウスは反省房を後にした。

 

最も、アンジュもヒルダもかなりまいっていた。

空腹だけが原因ではない。

 

「臭いの発生源が一つ消えたわね」

 

二人が同じ事を言った。

 

二人を苦しめているもの。それは体臭だ。アンジュは脱走した日から今日まで風呂に一度も入っていない。ヒルダはメビウス達が保護した時、水浴びをしたのが最後だ。

 

メビウスもアンジュと同じでフェスタの日の夜に風呂に入ったきりでそこからは今日まで一度も入っていない。

 

はっきり言って三人共かなり臭い。

 

メビウス自身はあまり気にしてはいなかったが

アンジュとヒルダは仮にも女の子である。

少しはそこら辺にも気を使いたいのだ。

 

「贅沢言わないから、せめて水浴びさせて・・・」

 

アンジュが独り言を呟く。

 

 

 

メビウスは反省房の出口にたどり着いた。

 

「あなた・・・シャワーを浴びなさい」

 

保安係の人は鼻をつまみながらそう言った。

 

その言葉と動作には流石にメビウスにも堪えるものがあったようで、シャワー室へと足を進める。

 

シャワーを浴びながらメビウスは考えていた。

これからどうすればいいのかを。

 

その時腹が鳴った。考えれば反省房では乾パン一つ出された程度で全く食事になっていなかった。

 

(・・・食堂行くか・・・)

 

メビウスはそう考えた。

 

一通りの臭いがとれた。シャワー室を出た。するとそこにはサリアを始めとした第一中隊のメンバーが待ち構えていた。

 

「臭いはとれたようね。メビウス・・・」

 

サリアが何か言っていたが、メビウスはそれをスルーした。

 

因みに本来なら反省房の出口で待ち伏せする予定だったが、あまりにも酷い臭いのため諦めたらしい。

 

「ちょっと!何無視してるのよ!」

 

「なんだよ。腹減ったから食堂行くんだけど」

 

「それは良かった。付いてきなさい」

 

そう言うとそこにいたメンバー全員がメビウスを

拘束し、食堂へと向かった。

 

食堂には美味そうな臭いが立ち込めていた。

 

目の前にはすき焼きがあった。

 

「なんだよこれ?俺の除隊処分を祝ってのパーティか?」

 

メビウスが皮肉を交えて言う。自分は既にサリア隊のメンバーではないのだ。

こんなもてなしを受けるいわれはない。

 

「わからない?食事のお誘いよ」

 

「・・・なんでそんな事をするのかって聞いてるんだけど」

 

「・・・とりあえず。あなたには感謝はしてるわ。アンジュの命を助けてくれた事を・・・」

 

サリアはあの後ジル司令から聞かされたのだ。メビウスがアンジュを助けるため、ミスルギ皇国で派手にやらかした事を。

 

「とりあえずそのお礼よ。

最も、あなたのキャッシュだけどね」

 

「いわば俺の奢りじゃねぇか」

 

「メビウス。これ返すよ」

 

ナオミが袋を渡してきた。

 

中にはキャッシュが入っていた。紙には1260万キャッシュ入ってると書かれていた。

 

「私の借金立て替えようとして置いてったんだよね?大丈夫だよ。借金はちゃんと自分の手で返すから」

 

ナオミが明るくそう言う。

 

「・・・なぁ。俺は仮にも脱走スレスレの事をしたんだぜ。憎くないのか?」

 

「メビウスくんには脱走の罪はかかってないわ。それに司令からのけじめも全てつけたんだし。

今のあなたはこのアルゼナルのメンバーよ。

憎む理由はないわよ」

 

エルシャがそう答える。

 

「あーもー固い事はいいから!早くすき焼きたべよーよ!」

 

「そうだな!早く食いてぇよ!」

 

ヴィヴィアンが急かす。それにロザリーものる。

 

「それじゃあいただきますか」

 

そう言うと皆の橋が肉を狙った。

 

食べながらメビウスは色々な話を聞いた。

 

現在第一中隊は後方で待機しているらしい。脱走者が二名出たこともあるが、アンジュとヒルダのライダー資格の剥奪。並びにメビウスの除隊処分によって戦力は大幅にダウンしたため致し方ないだが。

 

「なるほどね」

 

「因みにメビウスはこれからどうするの?第一中隊からは除隊処分なんでしょ?他の中隊に行くの?」

 

ナオミが疑問に思いたずねてきた。

 

「・・・第零中隊でも立ち上げようかな?ワンマンアーミーだけどな」

 

「一人しかいないと中隊とは言わないんじゃないの?」

 

メビウスの言葉をクリスが指摘する。

 

そうしているうちにあらかた食事が終わった。

因みにすき焼きといったら肉だが、

それに関してはエルシャにほとんど取られてしまった。

 

「とりあえず今は自分の事を考えるか。そんじゃ

ご馳走さん」

 

メビウスはそう言うと席を後にした。部屋へと戻ると自分のハンモックに横になり、考え始める。

 

(リベルタスは気になる。けど下手にジル司令に探りを入れてもおそらく無駄だろうな・・・

それにしても・・・なんで)

 

(なんでガーナムはあの場所に居たんだ?)

 

メビウスは自分の中の疑問と向き合っていた。

 

 

 

 

 

食事後、サリアはアルゼナルの外に出ていた。そこで花を摘んでいた。(言葉通りの意味です)

 

「あーサリアお姉さまだ。サリアお姉さまに敬礼」

 

幼年部の子達とその先生がサリアに敬礼する。サリアもそれに敬礼し返す。

 

幼年部の子供達ははしゃいでいた。

 

綺麗とかかっこいいとか色々だった。その中でサリアが一番心に響いた言葉があった。

 

「私もサリアお姉さまみたいになるんだ」

 

この言葉であった。サリアはその言葉に昔を思い出す。

 

「私もお姉さまみたいになる」

 

まだサリアが幼年部にいた頃。ある人物に憧れての言葉だった。

 

サリアは先程摘んだ花を持ってある人のお墓へと向かう。そこにはメイもいた。

 

「これ。お姉さんに」

 

「毎年ありがとう。サリア」

 

二人でお墓に手を合わせる。

 

「ねぇメイ。さっきサリアお姉さまって言われちゃったよ。私。もうそんな歳かな?」

 

「まだ17じゃん」

 

「もう17よ。同い年になっちゃった・・・

アレクトラと」

 

サリアは十年前の事を思い出す。

 

十年前、アレクトラの乗ったヴィルキスが帰還した。煙が吹き出ておりどう見てもまずい状態だった。

 

「マギー鎮痛剤だ!あとありったけの包帯も持ってきな!」

 

当時総司令だったジャスミンが手当てのために

それらをマギーに要求する。

 

「あれ・・・お姉さまの機体」

 

サリアは窓からそれを見ていた。

 

「アレクトラ!?一体何があった!?」

 

「みんな・・・みんなが・・・そうだ。フェイリンから、メイに伝言が・・・三番目の引き出しの二重底に、一族の伝承が・・・」

 

「馬鹿!そんな話は後にしろ!」

 

「ごめんジャスミン。みんな・・・死んじゃった。フェイリンも、バネッサも、騎士の一族も・・・

私じゃ使えなかった・・・ヴィルキスを・・・

私じゃ・・・ダメだった」

 

「そんな事ないよ!」

 

寝間着姿のまま、サリアとメイが降りてきて、アレクトラの前に立つ。

 

「お姉さまは強くて綺麗でかっこいいもん!ダメなんかじゃないもん!)

 

「サリ・・・ア」

 

「一体どんなドラゴンだったの?大きさは!?硬さは!?私!許さない!お姉さまをこんな風にして!私が仇をとってみせるよ!」

 

「・・・期待してるわよ・・・サリア」

 

そう言うとアレクトラは左手でサリアの頭を撫でた。

 

これが十年前に起きた出来事である。

 

 

 

「覚えてないや」

 

「無理ないわ。まだ三歳だったもの」

 

「でも、一族の・・・お姉のの意思は受け継いだよ。ヴィルキスと共に世界を解放する。お姉の分まで・・・」

 

「サリアはライダーとしてアレク・・・じゃなかった、ジルの分まで戦うんだよね?」

 

 

サリアは思い出していた。

 

以前ヴィルキスを使いこなすための訓練をしていた事を。

だがジルには無駄だと言われた。

 

「どんなに頑張っても、できない奴には出来ないんだ。それがわからないやつは・・・こうなるぞ」

 

ジル司令は右腕を見せた。義手である右手を。

 

「私に・・・私になにが足りないの!?」

 

サリアがそう言う。ジル司令は煙を出すとこう言った。

 

「私たち・・・にだ」

 

(じゃあ、アンジュには何があるの?)

 

サリアはヴィルキスをじっと見つめていた。

 

(アンジュにヴィルキスは渡さない・・・)

 






正直本編見てて感じた事。ジャスミン若すぎだろ!って思いましたね。

それにしてもアルゼナルですき焼きが出されたとは・・・

アニメではメビウスとナオミもいないので五人でしたね。

まぁ五人でもすき焼きはうまいですよ。


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第37話 禁断の兵器 前編



製作中に行き詰まったらどうするか。

①自転車で気分転換のため外に出る。

②好きな特撮を見る。

③うまいラーメンを食べる。

④スパロボする。

なぜこんな事を書いたかだって?これら全ての事をしても気分転換ができなかったのだ!

理由は単純。龍神器の武器の漢字が難しいのだ!!

それでは本編の始まりです!



 

 

司令室でオペレーター三人がそれぞれモニターを見ていた。

 

すると突然オペレーターのパメラが驚きの声を

あげた。

 

「シンギュラーの反応です!」

 

「場所は?」

 

「それが・・・アルゼナル上空です!」

 

次の瞬間、アルゼナル上空にシンギュラーが

開かれた。

 

「数確認!スクーナー級!37!84!125!

敵多数により計測不能です!」

 

ジルは基地の無線を全て開いた。

 

「総員聞け!第一種戦闘態勢を発令する!

シンギュラーが基地上空に展開した。大量のドラゴンが現在降下中だ!

パラメイル第二第三中隊は全機発進!

 

アルゼナル内部の者は白兵戦用意!対空火器!銃火器の使用を許可する!総力を持ってドラゴンを殲滅せよ!」

 

全員が備えられていた銃などを装備する。弾幕を張れる機銃などが展開された。

 

エマ監察官も動揺しながらもオペレーターから銃を受け取る。

 

するとスクーナー級の一体が司令室へと突っ込んできた。オペレーターの三人は退避する。

ドラゴンが威嚇のつもりか咆哮をあげる。

 

その時だった。

 

「悪い奴!死んじゃえ!」

 

次の瞬間、エマ監察官は手にした銃をドラゴンに

向けて乱射する。

オペレーター達はその場に伏せた。

エマ監察官は錯乱状態であった。ジル司令が義手の方でエマ監察官の首をチョップする。エマ監察官は気を失った。

 

その後ジル司令がドラゴンにとどめの一撃を撃つ。ドラゴンは動かなくなった。

 

しかし先程のドラゴンが突っ込んできた影響で、通信機とレーダーが働かなくなってしまった。

 

「現時刻を持って司令部を破棄する!以降、通信は臨時司令部で行う」

 

「イエス!マム!」

 

 

 

 

 

メビウスも部屋から出ると迎撃に当たっていた。備え付けのアサルトライフルを装備して。メビウスの目の前を女の子が走っていた。

するとそこに壁を突き破り、ドラゴンが突っ込んできた。

手にしたアサルトライフルでドラゴンを撃つ。鉛玉の雨を浴び、ドラゴンは息絶える。

 

「おい!大丈夫か!?」

 

前にいた女の子に駆け寄る。だが、その子は

もう動かなかった。

 

「くそっ!」

 

自分に対しての怒りを地面に拳でぶつける。

 

外を見たがドラゴンの数は明らかに増えている。

このままでは基地の人達は全滅する。

 

(・・・そんな事はさせねぇ)

 

メビウスはある場所に向かう。自分の今すべき事をする為に。

 

 

 

第一中隊は発着デッキに入ってきたドラゴン達を

銃で迎撃していた。しかし外ではドラゴンの数は増えており、何体かは基地内に突っ込んでいた。

 

ドラゴンの一体が第一中隊に突っ込んできた。

ナオミとクリスで迎撃するが効果は薄い。

 

「伏せろ!」

 

その声と共にバズーカの弾がドラゴンめがけて飛んできた。反射的に皆が床に伏せる。次の瞬間、轟音と共に大爆発が起きた。黒煙が立ち込める。

 

少しして煙がはれる。第一中隊が振り向くとメビウスがいた。手にはジャスミンモールでくすねてきたバズーカを持ち、パイロットスーツを着ていた。

 

メビウスがフェニックスに駆け寄る。

 

「あなたまさか!」

 

「バーグラーセットなら一対多数でも戦えるはずだ!

 

バズーカを投げ捨て、フェニックスに乗り込む。

 

「やめなさいメビウス!あなたに発進の命令は降りてないわ!今すぐに・・・」

 

「ふざけるな!!」

 

その声に皆が驚く。

 

「命令で命が救えるなら!今すぐみんなを救って

みせろ!」

 

メビウスはここに来るまでに何度も死体を見てきた。

食堂で、ジャスミンモールで、ロッカールームで。

それらは全てドラゴンとの殺し合いの末死んでいった者たちだ。

 

(・・・誰も死なせたくない!)

 

フェニックスは発進した。アルゼナルの外はドラゴンの密集区域であった。

 

こちらめがけてドラゴンが何体か迫ってきた。それをバスターで迎え撃つ。

 

「ファング!」

 

フェニックスの脚部から8つの牙が飛び出した。それらは空中を縦横無尽に切り裂いた。した。ただでさえ敵数が多いのだ。ファングは近づいてくる敵をひたすら撃ち落とし、切り倒し、薙ぎ払う。

 

「あれは・・・第一中隊のフェニックス!?」

 

第二第三中隊のメンバーは驚いていた。

 

「メビウスだ!第二第三中隊!それよりそちらの

援護に入る!」

 

「援護感謝する!私は第二中隊隊長のエレノアだ」

 

「私は第三中隊隊長のベディだ。互いの健闘を祈る!」

 

フェニックスの戦闘介入により、アルゼナル側は盛り返していた。徐々にだがドラゴンの数も減らせてきた。するとドラゴン達が撤退し始めた。

 

「あいつら・・・帰ってくよ?」

 

発着デッキで銃撃戦をしていたヴィヴィアンが不思議そうに言う。

 

その時だった。皆の耳に歌が聞こえてきた。

 

「なんだ・・・この歌」

 

「・・・あれは!?」

 

シンギュラーの穴からそれは降りてきた。それはどう見てもドラゴンなどではなかった。

 

パラメイルだ。パラメイルが三機いたのだ。

 

「何あれ・・・」

 

「何処の機体だ!?」

 

第二第三中隊のライダー達は皆動揺していた。パラメイルがシンギュラーから現れたのだ。

しかも歌を歌って。

 

するとそのパラメイルが金色に輝きだした。両肩の部分が開かれた。

 

「!全機回避しろ!」

 

メビウスがオープンチャンネルで全パラメイルに

回避を命令する。

 

次の瞬間。その機体の両肩から収斂時空砲が放たれた。

 

「!アイ・フィールド!」

 

フェニックスがアイ・フィールドを展開する。

攻撃がアイ・フィールドに直撃する。

衝撃で機体が大きく揺れた。

 

第二第三中隊のパラメイルはそれに触れた途端粉々に砕け散った。

 

収斂時空砲はアルゼナルに当たった。

 

発着デッキが揺れる。

 

「・・・・・・!!これは!?」

 

サリアが外を見た。そこにはアルゼナルが半分削られていた。

 

それだけではない。戦闘中のパラメイルがほとんど残されてなかったのだ。

 

「おっおい。今の・・・なんだよ」

 

「嘘・・・アルゼナルが・・・」

 

「エレノア・・・ベティ・・・」

 

皆がその目を疑った。つい先ほどまでそこにあったはずの施設が一瞬にして吹き飛んだのだ。

パラメイルなどもはや一桁程度しか残っていなかった。

 

再びドラゴン達は降下してきた。おそらくあれの巻き添えを喰らわないためにあえて一旦下がっていたのだろう。

残ったパラメイルがそれらを迎撃するが、数の差は圧倒的に広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらは反省房。先程の揺れは反省房にも伝わったようだ。

 

「今の・・・何?」

 

外を見ようと窓を覗いてみる。するとアンジュ達のいる反省房にドラゴンが突っ込んできた。

 

直ぐに窓から離れた。ドラゴンが突っ込む。それにより、反省房の壁と鉄格子が破られた。

 

しかしドラゴンはまだ生きており、二人を標的とした。ドラゴンが咆哮をあげる。

 

「ご無事ですか!?アンジュリーゼ様!?」

 

するとそこにモモカとゾーラ隊長がやってきた。

 

「アンジュ!ヒルダ!伏せろ!」

 

次の瞬間、ゾーラ隊長はドラゴンにグレネードを

投げつける。それはドラゴンに命中すると爆発し、ドラゴンは息絶えた。

 

「二人とも大丈夫か!?」

 

「ええ!なんとかね!」

 

「うっ!」

 

モモカとゾーラ隊長が顔を顰める。やはりかなり臭いらしい。

 

「まずはお風呂ですね!」

 

「そうね」

 

モモカの提案にアンジュがのった。

 

「そんな事してる場合じゃないだろ!」

 

すぐにヒルダにつっこまれた。

 

「アンジュ!ヒルダ!ジル司令からの伝言だ。

両者共に第一中隊への原隊復帰を認め、

それぞれのパラメイルも返すとな!急いでパイロットスーツに着替えるんだ!

外はかなりまずい事になってるぞ!」

 

「イエス!マム!」

 

そう言うと四人はロッカームールに向かった。

 

走りながらゾーラは通信機でジル司令に連絡を取る

 

「ジル司令。アンジュとヒルダは無事です」

 

「そうか。わかった」

 

ジル司令はそう言うとサリアに通信を繋ぐ。

 

「サリア!現時刻を持って、パラメイルの指揮系統をお前に集める。残存する勢力を纏め上げ、ドラゴンを殲滅せよ!そして現時刻をもってアンジュ!ヒルダ!そしてメビウスの三名を第一中隊に復帰させる!メビウス以外はドラゴンとの戦闘に当たらせろ!」

 

「なんでアンジュを復帰させるんですか!」

 

「フェニックスだけではあの三機を抑えられるか

分からんからだ。ヴィルキスも必要だ」

 

「だったら!私がヴィルキスで出るわ!」

 

「黙れ。今は命令を実行しろ」

 

「・・・私じゃ・・・ダメなの?・・・」

 

サリアが呟く。

 

「ずっと・・・あなたの力になりたいと思ってたのに・・・なのにアンジュなの・・・アンジュなんて!ちょっと操縦が上手くて器用なだけじゃない!命令違反して!脱走して!反省房送りなのに!

なのに!それなのにアンジュなの!?」

 

「・・・そうだ」

 

その一言にサリアの中にあった何かが粉々に砕け

散るのを感じた。

 

「・・・馬鹿にして!」

 

サリアがアーキバスを降りた。ある機体へと向かうため。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンギュラーポイント付近では。

 

「ナーガ、カナメ。龍神器の調子はどうだ?」

 

「蒼龍號問題なし」

 

「碧龍號問題なし」

 

「焔龍號の調子も大丈夫です。これなら・・・」

 

三機に向けられてミサイルが飛んできた。三機ともそれらを避ける。

 

「まだ向かってくる敵がいるのですか!?」

 

「お前達わぁぁ!!」

 

そこにはメビウスの操縦するフェニックスがいた。フェニックスが一気に距離を詰め、サーベルで斬りつける。直ぐに龍神器達も積層鍛造光子剣「天雷」を出し、それを受ける。

 

「な!この機体!まさか!」

 

「おそらく!映像に残されていたあの機体です!」

 

「姫様!ここは我々が!」

 

三人が謎の会話をしていた。

 

蒼龍號と碧龍號が焔龍號を守るように前に出る。

 

(あの時!?こいつら!この機体を知っているのか!?)

 

メビウスは疑問に思った。しかしすぐに怒りが疑問を吹き飛ばした。

 

(あの攻撃で一体何人死んだんだ!)

 

その怒りを目の前の三機にぶつける。

 

「邪魔だぁ!」

 

そう言いながら高粒子バスターを放つ。龍神器は

三機とも避ける。

 

蒼龍號と碧龍號がフェニックスに向かってきた。

 

蒼龍號と碧龍號は天雷を取り出し、斬りつける。

それをアイ・フィールドで防ぐ。

そしてフェニックスの脚部からファングが出現した。ファングを含めて、二機に対してコンバット

パターンを仕掛けた。

 

しかし二機ともターボカスタムされたはずのフェニックスの機動力を超えていた。それはファングすら距離を離されるほどだった。

 

そうしている間に、焔龍號が崩壊粒子収束砲「晴嵐」を取り出し、フェニックスに放つ。目の前の二機にしか目になかったメビウスは、これに気づけなかった。機体に直撃する。

 

「ぐっ!粒子兵器!?」

 

そう。瑞雲。その銃身から放たれたのは実弾などではなく、粒子砲であった。

 

「あんな装備・・・見た事ない」

未知なる敵との戦闘。しかもそれが三機もいる。

 

直ぐに二機が天雷をだし、接近戦となる。メビウスはそれらを受け流すので精一杯だった。さらに焔龍號もそれに加わった。

 

一対三のパラメイル戦の始まりだ。

 

「その機体の存在は許しません。再び悪なる光が放たれる前に、破壊させてもらいます」

 

焔龍號のパイロットがそう呟く。仮に機体性能が互角だとしても敵は三機いる。さらに連携なども完璧だ。

 

(・・・こいつらに・・・勝てるのか ・・・)

 

メビウスは己の疑問を振り払うかの用に、ハンドルを強く握った。

 

絶対に生きる。そう決意して・・・






マジで龍神器の機体名とか武器とかは難しい。途中から文字をコピーアンドペーストしてましたw

今の内に言っておきますと次回フェニックスに新装備などが行われます。

ここで書いておかないといつまでもこのままの装備で逃げてしまいそうなので。

べっ別に、出すタイミングをこれまで逃してたとか!!そんな事じゃないぞ!?


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第38話 禁断の兵器 後編



今回!フェニックスが、変化します!

決して今まで変化させれるタイミングを逃していた訳ではありません!

今回は多少詰め込みすぎた感がありますがご了承ください。

それでは本編の始まりです!




 

 

フェニックスと龍神器の戦闘が繰り広げられていた頃。

 

こちらではドラゴン達は第一中隊と戦闘を繰り広げていた。

 

「サリアの奴は一体どうしたんだよ!?」

 

しかし今、彼女達はサリア抜きで戦っている。ただでさえヒルダとアンジュ、そしてメビウスがいないため、火力が大幅に減らされているのに、これにサリアもいない。火力的には決して心強いとは言えなくなった。

 

一方アンジュとヒルダはパイロットスーツに着替え発着デッキにたどり着いた。

 

その後ろには片手に武器を持ち、片手で鼻をつまんでいるモモカとゾーラ隊長がいた。

 

アンジュは直ぐにある事に気がつく。

 

「ない!ヴィルキスがない!」

 

そう。ヴィルキスの姿がどこにも無いのだ。

 

「まさか吹っ飛んじまったのか?」

 

「違う!サリアが!」

 

メイが銃を持ちながら指差した。

 

そうなのだ。実はサリアはあの後アーキバスから

ヴィルキスに乗り換えて、発進したのだ。

それもドラゴン達ではなく、龍神器達の方へ。

 

「ジル司令!ヴィルキスにはサリアを乗せたのですか!?」

 

ゾーラがその事をジル司令に確認する。

 

「なんだと!?おいサリア!何をしている!

降りろ!命令違反だぞ!」

 

「黙ってて!わかってないないなら

見せてあげる!」

 

10年前を思い出す。アレクトラの仇を討つといった自分を。

 

「私が使う・・・アレクトラの代わりに!」

 

「・・・馬鹿が」

 

ジル司令はそう呟いた。

 

フェニックス対龍神器達と戦いにサリアが乗った

ヴィルキスがやってきた。

 

「ヴィルキス!?アンジュなのか!」

 

「私よ」

 

「サリア!?なんでお前がヴィルキスに乗ってんだ!?アンジュじゃないのか!?」

 

「・・・あんたもそうなのね・・・あんたも

アンジュなのね」

 

「サリア・・・?」

 

「みんなで私を馬鹿にしてぇ!」

 

「おい!サリア!迂闊に近づくな!」

 

そんなメビウスの警告など、今のサリアには届かなかった。ヴィルキスを使いこなせるところをジル司令に示すために。

 

二対三の戦闘となったが、状況に関しては一対三の時よりも悪化している。

理由は簡単だ。フェニックスがヴィルキスの援護に入らなければならなくなったからだ。

 

ヴィルキスは素人目にもわかるくらい、動きが悪

かった。

 

「なんで!?アンジュが乗ってた時の性能はこんなものじゃなかったはずよ!」

 

それぞれのパラメイルには機体ごとにくせが染み

付いてるものだ。一番良いポテンシャルを引き出すためには、なんの数値がどの程度あればいいのか。これらをパイロットが知り、それを引き出す。こうして初めて機体というものはその真価を発揮できる。

 

しかし、今のサリアのヴィルキスはそれ以前の問題となっていた。機体のくせを知らない以前に

機体の数値自体がろくに上がっていない。

 

「もっと!もっと早く動けるでしょ!?

ヴィルキス!」

 

「サリア!左!」

 

蒼龍號が接近してきた。ヴィルキスを変形させ、

接近戦を仕掛ける。しかし今のヴィルキスと蒼龍號では機体のパワー自体が違っていた。パイロットの腕などもはや関係ない。

 

今のヴィルキスは機体として成り立っていないレベルだった。

 

「どうして!?アンジュが乗ってた時はもっと!」

 

「もらった!」

 

蒼龍號がヴィルキスに狙いを定める。

 

その時だった。メビウスとサリアに援軍が来た。

それはヒルダのグレイブだった。ヒルダの後ろにはアンジュが乗っていた。ライフルが蒼龍號に命中する。

 

「くそ!」

 

蒼龍號は距離をとった。

 

「サリア!私の機体返して!あいつらの相手は

私がする!」

 

アンジュの見る先には、龍神器三機が集結していた。

 

「機体の乗り換えなら早くしてくれ!こいつらはくい止めとく!」

 

そう言うとフェニックスは三機に突っ込んでいった。

 

「これは!私のヴィルキスよ!」

 

「サリア!」

 

サリアは頑なにヴィルキスで戦おうとしている。

そこにスクーナー級ドラゴンが現れた。

 

今のヴィルキスではスクーナー級にさえ敵わない。ヒルダがサリアを助けるために援護射撃をする。ドラゴンに命中すると、海へと落ちていった。その事にサリアは余計困惑する。

 

「なんで!?私は誰よりも頑張ってるのに!なんで!?」

 

【どんなに頑張っても、できない奴には

出来ないんだ】

 

ジル司令の言葉が頭をよぎる。サリアは必死でそれを否定する。

 

その時スクーナー級が体当たりをしてきた。

 

「ぐうっ!」

 

ヴィルキスが海面に向けて落ちていく。

 

「ヒルダ!機体を寄せて!飛び移る!」

 

「はぁ!?・・・まぁあんたらしいか」

 

アンジュの考えにヒルダが驚くが、すぐに機体を

ヴィルキスに寄せる。

 

サリアは機体を上昇させようとするが、機体は

上がらない。

 

「どうして!?どうして動いてくれないの!?

ヴィルキス!動かないと・・・アレクトラの役に・・・

立てなくなっちゃう・・・」

 

その時、アンジュがヴィルキスに飛び移った。

サリアの背後に座り、機体を立て直そうとハンドルを上昇させる。

 

「無理よ・・・落下限界点を超えてるわ・・・後は落ちるだけ」

 

「無理じゃないわ!この機体なら!」

 

するとヴィルキスのモニターの数値が急上昇した。それはまるで今まで寝ていたヴィルキスが、アンジュの操作で覚醒した風に見えた。

 

ヴィルキスは海へと落下した。だが次の瞬間、ヴィルキスは浮上した。

 

「さっぱりしたわ。さて」

 

アンジュはサリアの体を持った。

 

「ひゃっ!何する気?」

 

「ヒルダ!落とすから受け取って!」

 

次の瞬間、サリアの体は空中に投げ出された。

 

「はぁっ!?ちっ。別料金だぞ!バカ姫!」

 

ヒルダがサリアを回収する。

 

「さてと、あとはあの機体ね!」

 

 

 

 

 

少し前、サリア達がスクーナー級と戦っていた頃。

 

こちらはではフェニックスと焔龍號の戦闘が繰り広げられていた。晴嵐と高粒子バスターの撃ち合いとなった。威力的には互角らしく、ぶつかり合った瞬間、爆発が起こった。

 

煙で視界は真っ暗となる。

 

フェニックスはサーベルを抜き、一気に接近する。しかし敵も同じように天雷をだし、サーベルを受け止める。

 

「一体なんなんだよあんたは!」

 

メビウスが通信で相手に問いかけるが相手側は答えない。

 

すると焔龍號がビーム砲を放った。アイ・フィールドでそれを防ぐ。

 

すると龍神器が集結した。

 

「ナーガ!カナメ!参龍號による一斉攻撃をしかけます!」

 

「はっ!」

 

三機でフェニックスを仕留めるようだ。

 

「くっ!こいつら!さっきより速い!」

 

その動きは先程とは比べ物にならない速さだった。それはこれまでが機体ならしのウォーミングアップという事を示す他ない。

 

円で囲みながら蒼龍號と碧流號がビームを放つ。

アイ・フィールドで防ぐのでやっとだ。

 

「今です!」

 

次の瞬間、焔龍號が晴嵐を放ってきた。貯め撃ちなのか、先程の撃ち合いの時よりも火力は高い。

 

そしてその時、フェニックスのモニターには最悪の結果が映し出された。

 

《I・FIELD使用時間限界。これより冷却作業を

始めます》

 

「まずい!」

 

アイ・フィールドのタイムオーバーをモニターは

示す。

機体に展開されていたフィールドが消えていく。

 

次の瞬間。晴嵐の直撃がフェニックスを襲った。

 

機体が激しく揺れる。

 

もともと有利ではなかった。そのため徐々に押されていった。

今までは崖の淵にギリギリ立っている形でなんとか戦ってきたが、この一撃で完全に崖へと叩き落とされた。

 

機体が海に沈んだ。しばらくして機体は浮上した。

 

「・・・。ナーガ。カナメ。機体の損傷が激しいあなた達は下がりなさい。後は私がとどめをさします」

 

フェニックスもやられっぱなしではなかった。戦闘の際、蒼龍號と碧流號にもそれなりのダメージを

与えていたのだ。

 

「わかりました。どうかご無事で」

 

そう言うと蒼龍號と碧流號は後退した。

 

「偽りの世界に来ていたとはいえ。その機体の存在は許されません。これでおしまいです」

 

焔龍號から歌が聞こえてきた。機体が金色に光り

両肩の部分が開いた。

 

「・・・アルゼナルの半分を消したあれか!?」

 

あの時はアイ・フィールドでなんとか防げた。だが今はアイ・フィールドは使えない。

避けようにも機体が動かないでいた。

 

「この歌・・・永遠語り!?」

 

その時アンジュが歌に気がついた。永遠語り。

アンジュがかつて母から教えられた歌。

 

「始まりの光 kilari・・・kirali」

 

「終わりの光 lulala・・・lila」

 

アンジュも永遠語りを歌い出す。なぜかはわからない。アンジュ自身にも。

 

するとヴィルキスが金色に輝きだした。

まるで歌に。永遠語りに反応するかの用に。

 

それらは第一中隊の皆が見ていた。無論、臨時司令室のジル司令も。

 

「あれは・・・」

 

ヴィルキスの両肩が開かれた。そこには焔龍號と

同じ用になっていた。

 

「なぜ偽りの民が・・・」

 

焔龍號がヴィルキスの方を向いた。

 

次の瞬間、二機の両肩から放たれたものは光はぶつかり合った。

 

 

 

気がつくとアンジュは未知の空間にいた。

 

ヴィルキスと焔龍號が向かいあっている。

 

「何故偽りの民が誠なる星歌を知っている」

 

焔龍號のコックピットが開かれる。するとそこから謎の女が現れた。

 

アンジュもコックピットを開ける。

 

「あなたこそ何者!?その歌はなに!?」

 

すると周りに様々な映像が映し出された。その映像はアンジュ達が知らないものだった。だが何故か

関係ない映像とは思えなかった。

 

「時が満ちた・・・」

 

謎の女がそう言う。

 

「真実は・・・アウラと共に」

 

その言葉とともに、二人とも光に包まれた。

気がつくとアンジュは元の空間に戻っていた。

 

ドラゴンと謎のパラメイルはシンギュラーの向こうに帰っていった。穴はドラゴン達が帰ると静かに閉じられた。

 

「あれは・・・一体・・・」

 

 

 

 

 

「なるほど。最後の鍵は・・・歌か」

 

臨時司令部ではジル司令がそう呟くとタバコを吸った。

 

その場には第一中隊が残された。

 

「!そうだ!メビウスは!?」

 

その時だった。目の前にフェニックスが現れた。

 

「メビウス!?大丈夫なの!?」

 

皆が安堵の声を漏らす。しかしメビウスは違って

いた。

 

「離れろみんな!機体の様子がおかしい!」

 

メビウスがそう言い終わる前にフェニックスは目の前で突然光出した。あまりの眩しさに皆が目を瞑る。眩しさが引いてきた頃。

 

第一中隊の皆は目の前の光景に、いや、機体に唖然としていた。

 

目の前の機体は皆の知っているフェニックスではなくなっていた。

左腕はガトリングとなっていた。右腕は鉤爪のようになっている。

機体の赤いボディラインが禍々しく光っていた。

 

何より機体越しでも身体を貫く様な殺意のオーラを放っていた。

 

これまで何度もフェニックスのとんでもを見てきたが、今回のに関してはもはや皆の常識を完全に超えていた。

変形とはとてもじゃないが思えない。機体が突然変化したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機体の異変はアンジュ達が歌っていたときに起こった。

 

アンジュ達が歌を歌っていた頃。動けないでいた

フェニックスのコックピット内では、歌に反応するかの用に、モニターにある文字が表示されていた。

 

《Destroy Absolute Weapons》

 

因みにこの文字はかつて一度、初めてアンジュが

ヴィルキスに乗り、覚醒した際にも現れた。

あの時は一瞬で消えてしまったから気づいていなかったのだ。

 

「・・・なんだよ・・・これ・・・」

 

メビウスはこの文字に何か嫌な物を感じた。

 

次の瞬間、突然機体が動き出した。メビウスは操縦しようとするが操縦だけでなく、一切の外部コマンドを受け付けないでいた。

 

第一中隊が驚いてその機体を見ていた。すると突然フェニックスがガトリングをヴィルキスに向けて放った。慌てて攻撃を避ける。

 

「ちょっとメビウス!何するのよ!」

 

「違う!機体が勝手に!」

 

するとヴィルキスも突然ライフルをフェニックスに向けて撃った。アンジュはそんな操作などしていない。それらはフェニックスの機体前方で壁にでもぶつかったかのみたいに下に落ちていった。

アイ・フィールドが展開されていた。

 

「ヴィルキス!急にどうしたのよ!?」

 

アンジュはヴィルキスを止めようとする。しかし

ヴィルキスはアンジュの操縦を受け付けなかった。

 

二人の混乱を他所に、二機はぶつかりあった。

まるで互いを破壊しようとしているかのように。

 

「メビウス!アンジュ!やめろ!」

 

ジル司令が二人に戦闘を止めるよう命令するが

ヴィルキスもフェニックスも止まる気配はなかった。

 

「 第一中隊!アンジュとメビウスの機体を止められるか!」

 

「やってみます!」

 

第一中隊が総出で二機を止めようとする。しかし

二人の機体はそんなパラメイルを蹴散らす。

ヴィルキスとフェニックスは、操縦者の意思を無視してぶつかり合っていた。

 

「・・・そうだ!永遠語り!!」

 

アンジュは永遠語りを歌った。

この歌ならヴィルキスを止められるのでは。

その期待を抱いて。するとヴィルキスが再び金色に輝いた。

 

しかしヴィルキスは止まらない。両肩から光が放たれようとしていた。アンジュはすぐに歌をやめた。このままではフェニックスにあの攻撃が直撃する。

 

「ヴィルキス!さっきのなし!やめなさい!」

 

アンジュの叫びも虚しく、光はフェニックスに

向かって放たれた。それは機体を直撃した。

 

「あ・・・あ・・・あ」

 

皆が声にならない悲鳴をあげた。あの火力は

アルゼナルを消したあれと同等であった。

いかにアイ・フィールドがあるとはいえ、決して無事ではすまないはずだ。

 

「みんな!あれを見て!」

 

「・・・まじかよ・・・」

 

フェニックスは健在であった。まるで何事もなかったかの様にそこにいた。

 

するとフェニックスの胸部が開かれた。

そしてその場所から砲身が出てきた。

 

コックピットのモニターに文字が表示された

 

《Neo Maxima Gun》

 

【ピピピピピピピピピピピピピピピピ】

 

コックピット内に嫌な音が響いた。モニターには

エネルギーチャージとも取れる表示が出されていた。

 

外部モニターには、砲身から赤い粒子が溢れているのが見えた。

 

「やめろ!やめろフェニックス!やめてくれ!!!」

 

メビウスが必死に叫ぶ。しかしチャージは止まらない。

 

メビウスの脳内に焔龍號の攻撃が浮かび上がる。パラメイルをほとんど消し去り、アルゼナルを半分消しとばしたあの攻撃。あの攻撃以上に恐ろしい事が起きるのではないか。メビウスは半ば直感めいたものを感じ取った。

 

アンジュは避けようとするが、機体が言うことを聞かないでいた。先程の攻撃の反動なのだろうか、動かなかった。

 

そして遂に砲身から光が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぶねぇぞ!」

 

放たれる直前。不意にヴィルキスの足を下に引っ張られた。見てみるとそれはサリア専用のアーキバスであった。

 

パイロットはゾーラ隊長だった。

 

間一髪のところで砲撃を避ける。

するとフェニックスが再び光輝いた。そして元のフェニックスへと戻った。アンジュのヴィルキスも、アンジュの操縦に従っていた。

 

「なっ・・・なんだったんだよ。さっきの・・・」

 

皆目の前で起きた事が理解できないでいた。今回の戦闘は彼女達の理解を遥かに超えていた。

 

ドラゴンを従えたパラメイルの登場。ヴィルキスが金色に輝いた。そしてフェニックスの謎の変化。理解しろと言われても無理なものである。

 

「とにかく一度アルゼナルに戻るぞ。向こうの被害もかなりのものらしい」

 

放心状態の第一中隊を纏めるかの用にゾーラ隊長がいう。

 

「・・・イエス・・・マム」

 

皆力なくその一言を呟いた。

 

 

 

臨時司令室では、皆、第一中隊と同じ驚きをしていた。

 

「司令。先程のフェニックスの攻撃結果です。・・・あの射線上に存在した島四つが全て・・・消え去りました・・・司令?」

 

すでにそこにジル司令はいなかった。

 

ジル司令は半壊したアルゼナルを見ていた。

 

「全く、散々たる有様とはこの事だね」

 

隣を見る。そこにはマギーがいた。

 

「まずい事になった」

 

マギーが真剣な表情で話してきた。

 

「これよりもか?」

 

「・・・プラントがやられた」

 

「なんだと!」

 

 

 

 

 

 

ヴィヴィアンは部屋へと戻っていた。

 

「うっわぁ!これはひどい!」

 

部屋の入り口は抜かれていた。

部屋の中も酷いものだ。床には本や棒突きキャンディーが散らばっていた。

 

「まぁいっか!」

 

普段から部屋をよく散らかすヴィヴィアンにとってもはやこの部屋の荒れようなど気にするに値しなかった。

 

ハンモックに横になる。

 

「アンジュ。綺麗だった・・・にゃぁ」

 

そうしてヴィヴィアンは眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッハッハッハッハッハッ!!!」

 

ミスルギ皇国のとある場所ではガーナムが大爆笑していた。その視界の先には先程の変化したフェニックスの戦闘シーンが映し出されていた。

 

「あいつ!遂に機体の方は目覚めたか!こりゃ歯ごたえがありそうだな!鹵獲した時の喜びも上がるって訳だ!」

 

「全く。君は戦う事しか考えられないのかい?」

 

ガーナムの後ろからエンブリヲが声をかける。

 

「いいじゃねえか。それでも!後はあいつが目覚めるだけだ。そうなりゃこっちは万々歳だぜ。殺し合う覇気が戻るんだしよ!」

 

「残念だけどそれはもう少し後の話だよ」

 

「そうかい。まぁいい。メビウスにはもう少し見せてやるか。甘い夢を・・・」

 

ガーナムは不敵に笑いながら手に持ったビールを飲みほした。

 






今回ようやくオリジナルを進められました。

ゲームとかだと、最初は暴走する機体も後々使いこなせる用になりますねぇ。

ユニコーンのデストロイモードとか。ウイングゼロのゼロシステムとか。

果たして今後活躍の機会はあるのでしょうか!?
(まぁないならそもそも出さないよな)

いつか装備とか解説するか考えとこ。


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第39話 右腕の過去


お気に入り50人突破しました!

皆様誠にありがとうございます!

今回ナレーターの仕事は結構ないです。アニメ本編の部分でもここら辺はマジでナレーション入れるような会話してなかったなぁ。

今回は会話文が主体です!

それでは本編の始まりです!



 

 

ミスルギ皇国では朝早くから、各国首脳達が緊急の会議を開いていた。普段はマナを使っての会議だが今回は事態が事態なため、直接集まってもらった訳だ。

 

「まさかドラゴンの方から攻めてくるとは」

 

「このパラメイル・・・まさかドラゴンが?」

 

それぞれの首脳が見ている映像。それは昨日の

アルゼナルの襲撃映像だ。

 

「たしかシンギュラーの管理はミスルギ皇国の仕事でしたよね?なにか弁明でもありますか?」

 

「それが。暁ノ御柱にはなんの反応もなかったのです」

 

「ふん。言い訳にはぴったりだな」

 

ジュリオの答えに、皮肉を返す首脳達。

 

「とにかく今は、アルゼナルの再建を進めて、

戦力の増強を図るべきでは?」

 

「そうも言えない理由が二つあるんだ」

 

そういうとマナの光はある機体を映し出した。

 

「これは・・・ヴィルキスだと・・・」

 

「あの時の反乱の際に、破壊されたと思っていたが・・・」

 

「アルゼナルの管理はローゼンブルム家の仕事の

はずでは?」

 

「監察官からの報告では・・・問題ないと」

 

「ノーマに出し抜かれたわけか。無様な」

 

「それだけではない。もう一つ重大な問題が残されている」

 

もう一つの機体。フェニックスが映し出された。

 

「これは・・・」

 

「あの時の映像と照らして見たところ。間違いない。 アンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの処刑会場に現れた機体だ」

 

「あの男のノーマが乗っていたパラメイルか」

 

「まさかアルゼナルにいたとは・・・」

 

「それだけではない。この破壊力を見たまえ」

 

映像には機体の変化後。胸部の砲身から放たれた

砲撃が映し出された。

 

「この攻撃により、射線上にあった島四つが消し飛んだらしい」

 

「そんな物を我々に向けられても見ろ!我々は皆殺しにされるぞ!」

 

「これも全てはローゼンブルム家の失態だ!親が

これじゃあ娘さんがノーマに誘拐されても仕方ないですな!」

 

「なっ!ミスティは今は関係ないはずです!娘を

侮辱する事は許しません!」

 

「そんなことより、今はこれからどうするかを考えましょう」

 

争う二人をジュリオがたしなめる。

「ふん!ジュリオ・飛鳥・ミスルギ!実の妹だった化け物の始末一つもつけられない奴が!まさにあの会場に現れた男のノーマの言っていた通りだな!

貴様は臆病者だ!」

 

「やめませんか皆さん!我々は罵倒し合うためにわざわざここに集まったのではないはずですよ!」

 

【バァン!】

 

銃声が響いた。

 

皆が驚いてその方向を向く。向いた先にはガーナムがいた。

 

「けっ!醜く罵り合いやがって。口を動かす前に

頭を動かしたらどうだ?まっ俺は手が先に動くけどな」

 

「なんだこいつは!」

 

「失礼。私のボディガードが無礼をした。だが彼の言うことも正論だ」

 

ガーナムの後ろから本を持った青年が現れた。

 

「エ・・・エンブリヲ様・・・」

 

その人の登場にみなの顔が緊張する。

 

(この人がエンブリヲ・・・)

 

親の仕事を見るために会議に出ていたミスティは、以前メビウスの聞いてきた人だと理解する。

あの後タスクはちゃんとミスティをローゼルブルム王国に返したらしい。

 

「全く。どうしようもないな・・・我々に選択肢は二つ」

 

「ドラゴンに全面降伏するか、全滅させるか」

 

「そんな・・・」

 

「そこで三つめだ。世界を作り直す」

 

「世界を?」

 

皆が口を揃えて尋ねる。

 

「その通り、一度世界をリセットしてしまうのだ」

 

「・・・そのような事が出来るのですか?」

 

ミスティがエンブリヲに尋ねる。

 

「もちろんできるよ。全てのラグナメイルと

メイルライダー。

そして・・・フェニックスがあれば」

 

「素晴らしいですよエンブリヲ様!そもそもが間違いだったのです!忌々しいノーマという存在も!

ノーマを使わなければならないこの世界も!」

 

「馬鹿な。ここまで発展した世界を捨てろと言うのか?」

 

「では他に方法がありますか?」

 

ジュリオの放ったその一言で皆が黙る。それは他に方法を知らないと言う事を表していた。

 

「それしか・・・ないか・・・」

 

(お父さま・・・)

 

父の呟いた一言がミスティに重くのしかかる。

 

「では決まりだね。ガーナム君」

 

「あぁわかってる。すでに上の連中とは話がついてある。フェニックスのワードを出したら食いつきやがった。ジュリオ皇帝陛下様よ。もし力が必要になったら手を貸すぜ?

後その頬の傷。似合ってるぜ」

 

「貴様がエンブリヲ様のボディーガードでなければ、今すぐ処刑してやりたいものだ」

 

「そいつは面白そうだなぁ!殺していいのは殺される覚悟のある奴だけだけどな・・・」

 

「では本日はこれで解散としましょう」

 

その一言と共に皆、部屋を後にした。

 

「ミスティ。わかったかい?あれがエンブリヲ様だ。お前の今後の為にあの会議によんで正解だったよ」

 

「そうですね・・・お父さま・・・」

 

廊下を歩いているミスティはどこか浮かない顔をしていた。

 

ジュリオは部屋に戻るとリィザを呼んだ。

 

「リィザ。支度をしておいてくれ」

 

「御意」

 

「フッフッフ。今に世界は変わる」

 

窓ガラスにジュリオの悪い笑顔が写った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夜明けたアルゼナルでは、昨日の被害状況の確認に皆追われていた。

 

発着デッキにはサリアとヴィヴィアンを除いた生き残りのメイルライダーが集まっていた。しかしその数は昨日に比べ激減していた。

 

第二中隊が全滅し第三中隊も僅か4人。

 

生き残ったメイルライダーは合わせて13人であった。

 

「これだけか・・・確認するが指揮経験者はいるか?」

 

ゾーラ隊長の質問にのヒルダが小さく手を挙げた。

 

「よし。全てのパラメイル中隊を統合。再編成する。暫定隊長にヒルダを任命。

その補佐にエルシャとヴィヴィアンを任命する」

 

ロザリーとクリスが異議を唱える。

 

「こいつは脱走犯なんですよ!脱走犯を隊長にするんですか!?お姉さまやサリアでいいじゃないですか!」

 

「ヒルダを隊長にするのは司令も納得している。私はまだ本調子じゃない。昨日のパラメイルの操作でもわかるだろ?今の私にできるのは、精々隊長の補佐くらいだ。それにサリアに関しては先の戦闘での命令違反で反省房だ」

 

その言葉にみんなが動揺する。あのサリアがそんな事をするとは。誰も考えてもみなかったからだ。

 

「文句あるならあんたがやりな」

 

ヒルダがロザリーとクリスに言う。

 

「いっいや。指令やお姉さまが任命したんだ。

仕方ねぇ。認めてやるよ。なぁクリス?」

 

「わっ私も認めるよ」

 

これで少しは昔のように戻ればいいのだが。

 

「全メイルライダーは再編成の後に警戒態勢にあたれ!」

 

「イエス!マム!」

 

そう言うと各自解散となった。ゾーラ隊長の後ろにいたジル指令はタバコを取り出すと、一服した。

 

「ジル指令」

 

呼ばれたので振り返る。

そこにはメビウスとアンジュがいた。

 

「お伺いしたい事があります」

 

「このクソ忙しいときにか?」

 

「誰のおかげでみんな助かったと思ってるの?」

 

その言葉にジル指令は少し詰まる。もしメビウスがあの時機体を出していなければもっと被害は広がっていただろう。もしアンジュがあの時、ヴィルキスに乗らなかったらあのパラメイルは間違いなく暴れまわっていただろう。

 

「いいだろう。ついてこい。ただし侍女はダメだ」

 

そう言うとジル司令は歩き出した。その後ろから

アンジュとメビウスが付いていく。

 

こうして三人は風呂場へと辿り着いた。

 

「なんで風呂場なの?」

 

「秘密の話は曝け出して話すものだろ?さて、まずアンジュからだ。なにから話す?」

 

「全部よ。最初っからね。ドラゴンにあの女。

ヴィルキスにお母さまの歌。

タスクとあなたの関係。その全てをね」

 

メビウスも異論はなかった。あの女というのが誰かはわからないが、他の事はメビウスも気にはなっていたので好都合だった。

 

「いいだろう。むかーしむかし、ある所に神様がいました。繰り返される戦争とボロボロの地球に神様はうんざりしました」

 

「・・・昔話ですか?」

 

「黙って聞いてろ。平和に平等。そして友愛。口先だけなら美辞麗句を皆言ったが、人間の歴史は戦争に憎悪に差別。このままでは人間は滅んでしまう。神様は悩みました。このまま人類は滅んでしまうと」

 

「そこで神様は作る事にしました。新しい人類を。争いを好まない穏やかで賢い人類。あらゆるものを思考で操作できる、高度情報化テクノロジー

【マナ】」

 

「あらゆる争いが消えて、あらゆる望みが叶い、

あらゆる物を手に入れる理想郷が完成した。

後は人類の進化を見守るだけでした」

 

「だけど生まれてくるのです。何度システムを組み直しても、マナの使えない女性の赤ん坊が。古い遺伝子を持つ突然変異体が。突然変異の発生は、人々を不安にさせました。だけど神様は逆にこれを利用する事にしました」

 

「彼女達は、世界を拒絶し、破壊しようとする反社会的な化け物。ノーマであるという情報を植え付けたのです。世界はノーマに対処するために、絆を強めました。人々も差別できる存在に安堵し安定しました」

 

「生贄。犠牲。必要悪。言い方はなんだって構わない。私達も作られたのです。世界を安定させるため、差別されるために」

 

「どうだ?驚きで声も出ないか?」

 

「よくそんな作り話が出るものね」

 

「聞いたからな。神様本人からなもっとも、そいつは神と呼ばれる事を嫌がってたけどな」

 

「その口ぶりだと続きがあるんだよな?」

 

「ああ。こうしてマナの世界は安定し、今度こそ繁栄の歴史が訪れるはずでした。ですが、それを許さない者が現れました。古の民。彼らは突然世界から追放された、マナが使えない古い人類の生き残りです」

 

「彼等は自分達の居場所を取り戻すために、何度も神様に挑みました。仲間達の死を乗り越え、遂に彼等は手に入れたのです。神の兵器。

【ラグナメイル】を。破壊と創造を司る機械の天使。パラメイルの原型となった絶対兵器だ」

 

「それが・・・ヴィルキス?」

 

「これで神様と同等に戦える。古の民は勇んで

ヴィルキスに乗り込んだ。だが、彼等にヴィルキスは使えなかった。鍵がかけられてたのさ。虫ケラごときが使えないように」

 

「古の民は絶望した。生き残った仲間はあと僅か。古の民達は滅びを待つしかなかった。その時古の民は知ったのさ。世界の果てに追放されたノーマ達がパラメイルに乗って戦っていることにな。彼等はアルゼナルを目指した」

 

「古の民達とノーマ。世界に捨てられた者達。彼等は手を取りその時に備えた。鍵を開く者が現れるその時を」

 

「そして遂に現れたのさ。アレクトラ・マリア・

フォン・レーベンヘルツ。王族から産まれた初めてのノーマだ」

 

「アレクトラ・マリア・フォン・レーベンヘルツ。その名前聞いたことあるわ。確か、ガリア帝国の第一皇女のはず。だけど10歳で病死したはずよ?」

 

アンジュが疑問に思う。

 

「バレたのさ。ノーマだとな。アルゼナルに放り込まれ、自暴自棄になっていたアレクトラだが、彼女の高貴な血と皇族の指輪が、ヴィルキスの鍵を開いた」

 

「彼女の元に多くの仲間が集まった。ヴィルキスを守る騎士。ヴィルキスを直す甲冑師。医者に武器屋。そして犬」

 

「ヴィルキスを・・・守る騎士?」

 

「アンジュ。いや、お前達二人が考えてる事は

あたっているぞ。タスクは古の民の末裔だ」

 

「タスクが・・・」

 

二人がタスクの事を考える。

 

「始まったんだ。捨てられた者達の逆襲。リベルタスが。地獄のどん底で私は仲間と使命をえた。このクソッタレな造り物の世界をぶっ壊す使命をな」

 

「だが・・・私には足りなかったんだ。ヴィルキスを使いこなすための何かが・・・」

 

「全部吹き飛んだよ。指輪も仲間も右腕も名前も。だが、リベルタスを終わらせる訳には行かなかった。死んでいった仲間の為にも」

 

「そこにアンジュ。お前が現れた。いや、お前だけじゃない。メビウス。お前も現れた。そして今。

ヴィルキスの最期の鍵が開かれた。

そしてフェニックスもな。あの歌に反応して、機体が変わったな」

 

「お前が壊すんだアンジュ。あの歌でこの世界を」

 

「皇女アレクトラ・・・か。あなたには感謝してるわ」

 

「あなたのおかげで自分がどれほどの世間知らずで、甘ったれで、人生を舐めていたがよく分かったわ」

 

 

 

 

「だから答えはノーよ」

 

「・・・ほう」

 

「神様とかリベルタスとか百歩譲って、これまでの話が全て本当だとしても、私の道は私が決める。

 

「たとえそれがどんなに崇高な目的だとしても。私の目で見て考えて私が決める。誰かにやらされるのは御免なのよ」

 

「では、リベルタスには参加しないと?」

 

「・・・嫌いじゃないの。ドラゴンを殺して、お金を稼いで、好きな物を買う。そんな今の暮らしが・・・」

 

「そう・・・か」

 

少しの間沈黙が続いた。

 

「・・・ジル司令。あなたが俺をアルゼナルに置いたのはリベルタスの為なのか?俺をリベルタスに参加させようとするためか?」

 

メビウスが疑問に思いジル司令に尋ねる。

 

「・・・半分はそれが理由だ」

 

「もう半分は?」

 

「お前の乗っていた機体。フェニックス。あれの武器やシステムが欲しい。もしあれの仕組みなどがわかり、パラメイルに装備できれば、リベルタスの時に便利だと思ったからだ」

 

「はっきり言おう。私はお前がどこの世界から何のために来たかなど興味ない。ただリベルタスに使えるなら使う。それだけだ」

 

「・・・俺の答えもノーだ」

 

「理由を聞かせてもらえないか?」

 

「司令の口振りだと、リベルタスはマナを使う人間を相手にするんだよな?俺はエンデランド連合で、ミスルギ皇国でマナを使える人間を見てきた。はっきり言って胸糞悪かった。ノーマを理由に世界から排除しようとする理屈を振りかざす連中だった」

 

 

 

「・・・だけどよ、同時にモモカさんやミスティの用に、ノーマなんて関係なく思っている人間がいる事も俺は知っている。そんな人達もいる以上、いつかノーマやマナなんか関係なく手を取り合える時代が来ると、俺は信じてる。力で屈服させてもそれは決して問題の解決にはならないと思います」

 

「なかなかロマンチックな事を考えるじゃないか」

 

ジル司令の言葉の後、少しの沈黙が続いた。

 

「さてとメビウス。お前も私に聞きたいことがあるんだろ?」

 

「ああ。さっきの話は確かに俺が司令室のコンピューターで見た情報とあっていた。だけど一つだけ気になる事がある。さっきの話の中にドラゴンの事が全く出てきてねぇ」

 

「そう言えば・・・確かに」

 

アンジュも思い出す。ドラゴンの事が全く出ていない事に。

 

「それともう一つ。ジル司令。あんたエンブリヲって人を知ってるか?」

 

その言葉にジル司令の表情が一気に険しくなる。

 

「どこでその名前を知った?」

 

「・・・アンジュを助けにミスルギ皇国に行った時出会った。そいつは俺の事を知っている風だった。そしてこうも言っていた。アレクトラによろしくと。教えてくれ。彼は誰な・・・」

 

その時だった。突然基地内に警報が鳴り響いた。

 

「総員!第一種戦闘態勢!ドラゴンです!基地内にドラゴンの生き残りです!」

 

オペレーターの声が風呂場に響く。






書いてる最中に、メビウスの存在をエマ監察官が黙ってたのか疑問に思いました。

それについては、メビウスの事をエマ監察官は報告してるつもりでしたけど全てジル司令が揉み消してたって解釈でおねがいします。

それにしても秘密の話だからってわざわざ風呂場でしなくてもと思いましたね。

みんなもジル司令に習って秘密の話をするときは混浴で曝け出そうぜ!


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第40話 ドラゴン達の真実



今回で40話突破しましたね。

正直この調子で行くとオリジナルシナリオも含めてどれくらいの話数になるか少しドキドキしています。

それでは本編の始まりです!



 

 

アルゼナルにドラゴンの生き残りがいた。その事実は直ぐにアルゼナル全域に伝えられた。

 

すでに皆、臨戦態勢に入っている。

 

風呂場にいた三人は直ぐに風呂から出て、制服を

着た。

 

「アンジュ!メビウス!ドラゴンの件だが殺すなと伝えろ!」

 

「殺すなって。ドラゴンを生け捕りにでもするの!?」

 

「とにかく殺すな!私が解決策を用意しておく!」

 

そう言うとジル司令は何処かへと走っていった。

 

メビウスとアンジュも臨時司令室を目指して走り出した。

 

ジル司令はマギーのところに行った。

 

「マギー!ありったけの抑制剤を用意しろ!

急げ!」

 

 

 

 

 

 

臨時司令室にたどり着くと既にヒルダ達が集まっていた。

 

「遅いぞお前ら!」

 

そう言われながら、武器を手に取る二人。

 

「エルシャはサリアを反省房から出したら幼年部の所を探せ。私とアンジュで発着デッキを探す。ロザリーとクリスは居住区を。メビウスとナオミはヴィヴィアンを部屋から起こして、食堂を探せ。残りはここで待機」

 

第三中隊は待機となった。無論ゾーラ隊長も待機だ。

 

「ヒルダ。司令から伝言だ。ドラゴンを殺さず生け捕りにしろと」

 

その伝言内容に皆驚く。

 

「生け捕りって!どうやって生け捕りにすんだよ!」

 

「みんなで一斉に飛びかかってロープで縛るとか?」

 

「とにかく今はドラゴンを探す事を考えろ。だれか食われてからじゃ手遅れだ!」

 

「イエス!マム!」

 

ヒルダの号令の元、それぞれがドラゴンを探しに向かった。

 

メビウスとナオミはヴィヴィアンの寝ている部屋へと向かった。

 

「ヴィヴィアン!起きて!ドラゴンが・・・」

 

しかし部屋にヴィヴィアンはいなかった。

 

「これって・・・まさか!」

 

二人とも床を見た。そこには何か大きな物が歩いた足跡があった。それは通路の奥に続いていた。そして部屋にはヴィヴィアンがいない。

 

二人の頭の中に最悪の事態が浮かび上がる。

 

「そんな・・・ヴィヴィアン・・・」

 

「・・・ちょっとまてよ!?これって・・・!」

 

ナオミは悲観していた中、メビウスは部屋を見た。部屋の中は散らかっていた。入り口を見る。そこには部屋を出た後がはっきりと残されていた。

 

(・・・ありえるのか!?そんな事・・・)

 

メビウスは足跡を辿っていった。自分の中に芽生えた嫌な可能性。その可能性が本当かどうか確認するために。

 

「ちょっと!メビウス!」

 

その後ろからナオミも付いてくる。

 

最初は足跡を辿っていたが、ある場所でメビウスは横に逸れる。そこは自分の部屋だった。自分のタンスからあるものを取り出し、それをポケットに突っ込むと、メビウスは再び足跡を追った。

 

その足跡は食堂へと向かっていた。二人は物陰に隠れて食堂の中を覗く。

 

するとそこにはドラゴンがいた。スクーナー級が

一体だ。そのドラゴンは何かを両手に持っていた。

 

「ドラゴン!ヴィヴィアンの仇!!」

 

するとナオミが物陰から飛び出ると、手にしていた銃を放った。ドラゴンは驚いていた。こちらに向かって一鳴きするとドラゴンは食堂から外へと飛んで行った。

 

「あのドラゴン・・・攻撃性がない?」

 

ドラゴンは肉食である。いくら銃を持っているとはいえ、人間二人だけなのにそのドラゴンは襲ってくる事なく何処かへと飛び立っていった。

 

メビウスはドラゴンの持っていた物を確認した。それは鍋であった。その中身はカレーであった。蓋をする部分はドラゴンが握っていたせいかぺちゃんこになっていた。

 

嫌な可能性が先程よりも色を濃くした。

 

メビウスは近くにあった皿を取り出す。そして炊飯器からご飯を取り出した。そのご飯をありったけ皿の上に乗っける。そしてその上からカレーをかける。誰がどう見てもそこには、みんなの満足するカレーライスが出来上がった。

 

「メビウス。それを使ってドラゴンを誘き出すの?」

 

ナオミが疑問に思い尋ねるが今のメビウスにはそんな事は聞こえなかった。自分の中に芽生えた嫌な可能性。それを必死に否定するために、これにドラゴンが反応しない事を願うために。

 

カレー皿を持つと、メビウスはドラゴンを追い、外へとでた。ナオミもそれに続く。

 

外ではドラゴンがアルゼナル上空を旋回していた。

 

「よし!翼を撃って、弱らせる!」

 

ナオミが銃口をドラゴンに向ける。その銃をメビウスが

下ろさせる。

 

「メビウス?」

 

「・・・確かめたい事がある。いざって時は頼む」

 

そう言うとメビウスは銃を置き、カレー皿を持って先に進んだ。

 

ある程度進んだところでカレー皿を地面に置く。

 

すると先程まで旋回していたドラゴンがメビウスの前に降りてきた。ナオミは銃口を向けるが、

メビウスは手で撃つなと合図をしていた。

 

ドラゴンはメビウスを見ていたが、やがて地面に置かれたカレー皿に顔を突っ込んだ。

 

犬がドックフードを食べている姿を想像してほしい。

 

これには流石のナオミも驚いた。座学ではドラゴンは肉食だと聞かされていたため、目の前の人間より、床に置かれたカレーライスを食べている。

その光景に唖然となっていた。

 

メビウスは自分の中の嫌な予感が膨らんできていた。

 

(まさか!そんなこと有り得ない!)

今のメビウスはその疑問の淵ギリギリにたっていた。

 

「おい!あいつ何やってんだ!」

 

後ろからヒルダ達がやってきた。モモカさんやサリアもそこにいた。どうやら食堂でのドラゴンの鳴き声を聞いて駆けつけてきたようだ。

ヒルダ達はドラゴンに銃を向ける。

 

「待って!メビウスが確かめたい事があるって!」

 

「確かめるって一体何を!?」

 

「やべえだろ!食われるぞ!」

 

「手を出すな!」

 

メビウスがその場から叫ぶ。ドラゴンはカレーを食べ終えたようだ。目の前にいるメビウスをじっと見つめている。そしてメビウスは自分の中の疑問に答えを出すため、ポケットからあるものを取り出した。

 

それはペロリーナであった。それをドラゴンに見せる。

 

するとドラゴンはそのストラップを手に取ろうとしてきた。爪がメビウスの手の甲に当たる。そこから血が流れ出る。しかしメビウスは顔色を一つも変えずにいた。ドラゴンが申し訳なさそうにメビウスの傷口を舐める。

 

「気にするな」

 

そう言うとメビウスはドラゴンの顔あたりを撫でた。ドラゴンは嬉しいのか鳴き声をあげた。

 

すると突然ドラゴンがなにかを口ずさみ始めた。

 

「これは・・・永遠語りのメロディ!」

 

アンジュが驚く。そしてドラゴンに向かって歩いていく。

 

「おっおい!アンジュ!」

 

皆がアンジュを止めようとしたが、アンジュは止まらなかった。

 

アンジュはドラゴンと向かい合った。

その隣にはメビウスもいた。既に先程までの疑問は確信へと変わっていた。

 

サリア達が銃口をドラゴンに向ける。

 

「撃つな!」

 

後ろからジル司令とマギーがやってきた。司令は撃つなと命令した。

 

皆戸惑いながら銃口を降ろす。

 

アンジュとドラゴンが歌い終わる。アンジュはドラゴンに触れようとした。

 

その時突然ドラゴンから煙が上がった。そしてその煙の中からある人物のシルエットが浮かび上がる。

 

「ここでクイズです!人間なのにドラゴンなのってなーんだ?」

 

その煙の中から声が聞こえてきた。その声にメビウス以外の皆が驚く。メビウスは既に正体を確信していたため、驚きは少なかった。

 

 

 

 

 

ジル司令から生け捕りを命令された時、多少の違和感を感じた。

 

そしてそれはヴィヴィアンの部屋の入り口を見て燻ってきた。部屋の入り口には部屋から出た足跡しかなかった。

 

この時点ではまだ可能性程度だったが、確認のために自分の部屋のタンスからある人物がくれた

ペロリーナを持ち出した。

 

そして食堂でドラゴンがカレー鍋を持った際、そしてこちらを襲う事なく逃げていった際、それらはかなり濃くなった。

 

それらを確かめるためカレーライスを作り、地面に置く。するとドラゴンは食いついてきた。

この時点で半分確信めいていた。

 

そしてトドメの一撃としてメビウスがポケットから出したペロリーナ。ドラゴンはこれに反応した。

まるで好きなものを見るかの用に。

 

この瞬間。メビウスの中の疑問が確信へと変わった。

 

ドラゴンは初めから部屋にいた。

そのドラゴンはカレーが好きで、尚且つペロリーナも好きだ。

最早結果は火を見るより明らかだ。

 

 

 

 

 

 

 

煙から現れた人影はヴィヴィアンであった。

 

「ヴィヴィアン!?」

 

第一中隊全員が驚きの声を上げた。メビウスにとっても、やはり現実を目にして驚く。

 

「あっ違うか!ドラゴンなのに人間?あれれ?あれれ?意味・・・わかんないよ・・・」

 

「わかったわよ。私は。

ヴィヴィアンはヴィヴィアンって事でしょ。お帰り、ヴィヴィアン」

 

ヴィヴィアンはアンジュに抱きついた。それをアンジュは優しく受け止めた。そこにマギーがやってくると何かをヴィヴィアンに注射した。するとヴィヴィアンは眠り始めた。

 

「お、おい、どーなってんだ、今の・・・」

 

「ドラゴンからヴィヴィアンが出てきた用に見えたけど・・・」

 

ロザリーとクリスは困惑している。

 

「二人とも、今のって・・・」

 

ナオミは疑問に思いアンジュとメビウスに尋ねた。

 

「ドラゴンなのに人間・・そう言ってたわ。ヴィヴィアンは人間なのにドラゴンの姿に・・・」

 

「ジル司令。説明して貰えますよね。なぜヴィヴィアンがドラゴンなのか・・・」

 

メビウスがジル司令を向く。

 

「・・・」

 

それにジル司令は答えなかった。

 

「ジル司令!」

 

メビウスが今度は強く聞いてきた。するとジル司令は指である場所を指した。そこはドラゴンの死体の焼却場であった。

 

「あそこに真実がある。知りたければあそこへ行け」

 

メビウスは黙ってその場所へと足を進めた。それに他のメンバー達もついていく。

 

ドラゴンの焼却場ではジャスミンが死体を燃やす準備をしていた。ガソリンと灯油を配合したものを

ドラゴンの死体にかける。バルカンがメビウス達に気がつき吠える。

 

「あんた達!来るんじゃないよ!!」

 

ジャスミンはそう叫びながらライターをドラゴンの死体に投げつけた。

 

次の瞬間にはその穴からは火柱が噴き出した。

 

メビウスはその穴の中を覗き込んだ。次の瞬間、メビウスは膝から崩れ落ちた。まるで目の前の光景に絶望しているかのように。

 

「おっおい!一体どうし・・・」

 

皆がメビウスに駆け寄るが、メビウスが見ていた視界の先を見て皆言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドラゴン達の死体。その中に【人間】の死体も混ざっていた。

 

「なに・・・これ・・・」

 

「なんで・・・なんで人の死体があるの?」

 

エルシャとクリスが当たり前の疑問を聞いてきた。それに答えるものは第一中隊のメンバーにはいなかった。

 

「よくある話だろう」

 

後ろを振り返る。そこにはジル司令がいた。手にはタバコを握っていた。

 

「化け物の正体が実は人間でしたなんて話。よくあるだろ」

 

「ドラゴンの正体が・・・人間・・・そんな・・・私達、これまで何体もドラゴンを・・・」

 

ナオミの言葉にアンジュはかつての島での出来事を思い出す。目の前にドラゴンがいた事を。そのドラゴンに自分は何をした?自分はドラゴンを殺した。自分の体はドラゴンの血で塗れていた。

 

そして・・・ドラゴンは人間であった・・・

 

アンジュの胃から何かがこみ上げてきた。アンジュは手で口を抑える。手の隙間から多少嘔吐物が漏れる。その背中をモモカが摩る。

 

「気に入ってたんだろ?ドラゴンを殺して、お金を稼ぎ、好きな物を買う生活が」

 

「!くたばれクソ女!」

 

アンジュがジルを睨みつける。

 

「ジル司令・・・あんたは知ってたんだよな!?この事を知ってて!それを隠して!戦わせてきたのかよ!?」

 

メビウスが立ち上がりジル司令に詰め寄る。

 

「ああ。真実を知ったら戦えなくなるだろ?」

 

ジル司令がそう言う。次の瞬間、ジル司令の顔にメビウスがパンチを入れる。ジル司令はそれを避けることもなくただ黙って受けた。

 

殴った手は先程の怪我で血に染まっていた。

 

「・・・ふざけるな・・・ふざけるなよ!!ドラゴンから世界を守る!?実態は人間同士の殺し合いじゃないか!そうやってこれまで騙してきて!一体何人殺させてきたと思ってるんだ!!!」

 

メビウスが激昂するがジル司令は澄まし顔でいる。

 

「もういい!もうたくさんよ!もうヴィルキスには乗らない!ドラゴンも殺さない!リベルタスなんて糞食らえよ!」

 

「私はもう戦わない!!」

 

アンジュが叫ぶように言う。

 

「それも選択の一つだ。このまま神様に飼い殺されたままでいいならそうすればいい。では各自解散とする」

 

そう言うとジル司令はその場を後にした。

 

解散と言われても皆直ぐにはその場から動けなかった。知ってしまった自分達のしてきた真実の重さによって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのころミスルギ皇国はある準備が進められていた。明日、アルゼナルを目指す準備を・・・

 

時は刻一刻と刻んでいた。滅びへの時を。そしてその時は確実に迫ってきている。その事にメビウスや彼女達はまだ気づいていなかった。

 






アニメ本編ではドラゴンの正体が初めからヴィヴィアンだとモロバレしてましたね。

最近メビウスが殴る描写を書いてますが身長的に殴ってる姿を想像して多少吹き出しました。

アニメではこれの次があの回でしたね。


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第41話 奏でられる葬送曲



今回露骨にオリキャラ同士くっつけようとしている感があります。

多分次回からは結構話が重くなるので今回多少ほのぼのとさせました。(タイトルから既にほのぼのではない)

それでは本編の始まりです!



 

 

ローゼンブルム王国。この部屋の一室でミスティはある事を考えていた。昨日行われた各国首脳の会談。

 

あの後ジュリオがある決定事項を各国首脳のマナに伝えていた。ミスティもその決定事項を見て、その内容にショックを受けた。

 

彼女は今、机に俯せていた。

 

「・・・私は・・・どうすれば・・・」

 

「ミスティ様」

 

ドアがノックされた。

 

「どうぞ」

 

ドアが開かれた。そこには執事がいた。かつてアルゼナルにも来ていたあの執事だ。

 

「お茶のご用意ができました」

 

「・・・ねえ。爺や」

 

「なんでございましょう?」

 

「私は世界のために・・・何かをできるでしょうか?」

 

「・・・ミスティ様。迷われないでください」

 

「爺や?」

 

ミスティが驚いて執事の顔を見る。

 

「家の名に縛られず、あなたの正しいと感じた事をしてください。爺やはいつまでも、どこまでも、一人になろうとも、最後までミスティ様の味方です」

 

爺やの目はとても綺麗だった。正しいと感じた事をする。ミスティは決断した。

 

「爺や。お願いがあります」

 

「分かっております。そう言うと思われまして、既に用意はできております」

 

そう言うとミスティは父親にある手紙を書き、机の上に置いた。爺やもそこで辞表を書き、机の上に置いた。その手紙には、二人の決意が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルゼナルでは今日も復旧作業に追われていた。

 

メビウスとナオミはジャスミンの手伝いをしていた。

 

「ねぇジャスミン?ジャスミンや司令はドラゴンが人間だって事を知っても戦ってたんだよね?」

 

ナオミがジャスミンに尋ねる。

 

「知らない方が幸せなこともある。戦場での迷いは死に繋がるだけだよ」

 

「でも知っちゃったんだね。私達も」

 

「なら考えな。ただし仕事の手は止めずにね」

 

「難しいことを言うなぁ」

 

「まぁね、悩みなんてものは仲間同士で共有するもんさ。あたし達だって昔はそうしたよ」

 

ジャスミンが昔を懐かしむ用に言う。

 

「ジャスミン。医務室に箱を届けてきたぞ」

 

そこにメビウスが医務室から戻ってきた。

 

「メビウス。ヴィヴィアンはどうだった?」

 

「あれからずっと寝てるらしい」

 

ナオミの問いにメビウスが答える。

 

「いい機会だね。ナオミ、メビウス。ちょっと早いけど食料を配ってきな。配り終えたら各自休憩で

構わないよ。少しみんなと話してきな」

 

「ありがとう。ジャスミン」

 

二人は配給品を持つとその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

その後は二人は第一中隊のメンバーと色々話した。

 

サリアとヒルダに。アンジュに。エルシャとロザリーとクリスに。第一中隊の色々なメンバーと話し合った。配給もちゃんと行った。

 

 

 

 

配給が終わるとメビウスとナオミは自分達の食事をとった。

 

とりあえず瓦礫を椅子がわりにする。壁が崩れているため外の景色が見える。

 

「なぁナオミ。ナオミはどう思う?」

 

メビウスが突然聞き出す。

 

「それって、ドラゴンについて?」

 

「あのあと考えてみたんだよ。なんでドラゴンはこちらの侵攻してくるのか。それを昨日作業しながらずっと考えてたんだよ」

 

確かにそうだ。なぜドラゴンはこちらの世界に侵攻してくるのか。それを作業しながらずっと考えていた。こちらを滅ぼすためか?その答えは誰にも分からなかった。

 

「・・・もしまた攻めてきたら、みんなを守れるのかな・・・」

 

ナオミが呟く。もしまたドラゴンの大群が攻めてきたら私達は大丈夫なのか。その考えがナオミの中にあった。

 

「メビウス。フェニックスだけど。あれって結局なんだったの?」

 

フェニックスのあの変化。どう考えても常識はずれであった。

 

「わからない。モニターでは使えるようにはなってるけど・・・」

 

実はあの機能が使えるようになったのだ。しかしメビウス自身とても悩んでいた。あれは一体なんなのか。

 

あの時、あの砲撃をメビウスは見ていた。その光はとても冷たく感じられた。人が持つには危険すぎる代物に思えた。

 

 

 

少しの間沈黙が続いた。

 

「ねぇメビウス。さっきエルシャの言った事だけど覚えてる?」

 

さっき食料の配給の際に言っていたエルシャの言葉。【このままアルゼナルがなくなったらどうするか】ナオミはそんな事を考えた事があまりなかった。

 

「メビウスはどうするの?他の生き方とかあるの?」

 

「他の生き方・・・か」

 

メビウスの今の生きる理由。当初はそれは自身の記憶を取り戻すためだ。そして元の世界に帰る。それがメビウスの生きる意味だった。

 

・・・だけど今はここでの生活が心地の良いものになっていた。皆と一緒にいるこの時間が、今のメビウスにとってはかけがえのないものへと変わっていた。

 

もしできる事ならこの時間がずっと続いて欲しい。心の何処かではそんな考えが少し芽生えてもいた。

 

「・・・まだわかんねぇな俺には。ナオミはどうするんだ?他の生き方とかあるか?」

 

メビウスが疑問に思い尋ね返す。

 

「私は・・・世界を旅して回りたい」

 

「世界を?ミスルギ皇国とか、色々な所に行くのか?」

 

「そうだよ。山とか海とか、色々な所を見て回りたい。いつかはメビウスのいた世界も見てみたい」

 

ナオミが目の前に空いた穴から海を見る。その目は海の先を見ていた。

 

「ねぇ。メビウスはミスルギ皇国に行ったんだよね?どうだった?」

 

「・・・あまりいい印象は持てなかった。ノーマだと分かるとまるで人が変わったみたいにみんなが迫ってきた」

 

メビウスはオブラートに包みながら、ミスルギ皇国の出来事を話す。

 

ナオミは黙ってその話を聞いていた。

 

「そうなんだ。じゃあやっぱり不可能なのかな?

ノーマである私が外の世界を旅するなんて・・・」

 

「わからねぇぞ」

 

メビウスは真剣な顔になった。

 

「たしかに外の世界の人間はノーマの事を良く思ってない。でもモモカさんみたいにノーマなんて関係ないって思ってる人だっている。そんな人がいるなら、いつかノーマも人間も関係なくなるんじゃないか?皆で手をとりあえるんじゃないか?」

 

メビウスはミスティの事を思い出す。ミスティがマナでヒルダを助けてくれた事を。彼女はノーマを認めて、受け入れたのだ。

 

「・・・思えば私ってメビウスによく助けられてるね」

 

不意にナオミがそう呟く。メビウスはそれを否定する。

 

「そんな事ねぇぞ。最初はナオミが俺を助けてくれたじゃねえか」

 

最初。自分が穴から落ちてきた時。たまたまナオミがそこにいたから今メビウスはここにいる。もしあの時、ナオミがいなかったら自分はそもそも死んでいたかもしれない。

 

「互いに助け合って生きてるって事なんだよ」

 

「決めてるところ悪いけどメビウス。ほっぺにご飯粒ついてるよ」

 

メビウスは慌てて頬を触る。そこにご飯粒はあった。慌ててとる。

 

ナオミの方を向く。彼女は軽く笑っていた。

 

「・・・ナオミ。お前もついてるぞ」

 

ナオミも慌てて頬を触ってみる。こちらもご飯粒がついていた。

 

しばらく顔を見合わせていた。やがて二人とも笑い出した。

 

 

 

 

【ピーンポーンパーンポーン】

 

その時だった目の前に突然何かが浮かび上がった。その画面には女性が映っていた。

 

「こちらはノーマ管理委員会直属の国際救助艦隊です。ノーマの皆さん。ドラゴンとの戦闘、ご苦労様でした。これより、皆さんの救助を開始します。水、衣料品、温かい食料も十分に用意されています。全ての武器を捨て、脱出準備をしてください」

 

「見てメビウス。助けが来たよ!」

 

ナオミが喜ぶがメビウスは浮かない顔をしていた。

 

「メビウス?どうしたの?」

 

(なんだこの女・・・笑顔なのに全く笑ってない・・・まるで笑顔という冷たい仮面を被ってる

みたいだ・・・)

 

メビウスは本能的にこの映像に不信感を抱いた。

 

「メビウス?」

 

「・・・嫌な予感がする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前に遡る。

 

ジル司令はタバコを吸うために外へと出ていた。

 

「やぁアレクトラ。久しぶりだね。いや、今は司令官のジルか」

 

背後から声がした。慌てて振り向くとそこにはある男がいた。

 

「エンブリヲ!」

 

ジル司令は拳銃を取り出すとエンブリヲを撃った。しかしエンブリヲはそこに実体がないのか。弾が身体を通り抜けた。

 

しかしジル司令は銃を向けながらエンブリヲを睨む。

 

「怒った顔も素敵だよ」

 

「何をしに来た!」

 

「なぁに。急に君に会いたくなったのさ。それよりメビウスに宜しくと頼んでおいたけど、ちゃんと伝えてくれたようだね」

 

「あと君に一言ある。私は一度も自分の事を神と名乗った事はない。創造主という意味ではあたっているが」

 

「まぁいい。それより彼等が来たようだ」

 

【ピーンポーンパーンポーン】

 

「こちらはノーマ管理委員会直属の国際救助艦隊です。ノーマの皆さん。ドラゴンとの戦闘、ご苦労様でした。これより、皆さんの救助を開始します。水、衣料品、温かい食料も十分に用意されています。全ての武器を捨て、脱出準備をしてください」

 

ジル司令はその映像を見た。そして直ぐに向き直る。既にそこにエンブリヲはいなかった。

 

ジル司令は直ぐに臨時司令室へと足を進めた。

 

臨時司令室ではオペレーター達もその映像を見ていた。

 

「ジル司令、救助艦隊が・・・」

 

「耳を貸すな。戯言だ!対空防御態勢!」

 

「イエス・マム!」

 

アルゼナルは対空兵器などを起動させる。

 

 

 

それを艦隊は確認した。

 

「アルゼナル!対空兵器の起動を確認!」

 

「やれやれ。こちらとしては平和的にに事を進めたかったというのに」

 

ジュリオが残念そうに、だけどどこかでは予定通りとも取れる笑みを浮かべた。

 

「旗艦エンペラージュリオ一世より全艦隊へ。たった今ノーマ達はこちらの救援を拒んだ!これは我々、嫌、全人類に対する明確な叛意である!断じて見過ごすわけにはいかん!」

 

「これよりアルゼナルに対する総攻撃。並びに穢らわしいノーマどもの殲滅作戦を開始する!

奏でてやるのだ!ノーマどもに死の鎮魂歌を!」

 

その言葉とともにアルゼナルに向けてミサイルが放たれた。

 

遂に戦火が開かれた。

 

 






遂に次回からアニメで言う第13話に話が突入します。

アニメを見た人ならあの回の酷さがよくわかるはずです。ぶっちゃけるとあの回が一番胸糞悪くなりましたね。

果たしてアルゼナルの!
メビウスや彼女達の運命は如何に!!

これまでの感想など!お待ちしております!


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第42話 武器工廠(アルゼナル)炎上


今回遂に例の回を執筆する事になりました。

可能な限りオリジナル展開も加えております。

余談ですが製作中に胃腸炎となりました。皆さんも体調管理にはお気をつけて。

それでは本編の始まりです!



 

ジュリオ艦隊から放たれたミサイルがアルゼナルめがけて飛んできた。対空兵器で迎撃するがドラゴンとの戦闘の傷も癒えていないため、効果は薄かった。

 

ミサイルの何発かはアルゼナルに命中した。ミサイルの命中により基地内は大きく揺れる。

 

「なんだよこれ!救援じゃねぇじゃねえか!」

 

基地内は混乱していた。幼年部の子達はその身を寄せ合い、震えていた。エルシャはオルゴールを取り出し、その子達を落ち着かせる。

 

その時ジル司令から通信が入った。

 

 

 

「諸君。わかったか?これが人間だ。奴らは我々を助ける気などない。我々を物のように回収して、別の場所で別の戦いに従事させる気なのだ」

 

「それを望む者は投降しろ。だが、抵抗する者は共に来い!」

 

「これよりアルゼナル司令部は人間の管理下より離脱!反攻作戦を開始する!」

 

「作戦名はーーリベルタス!」

 

「志を同じにする者は、武器を持ちアルゼナル最下層に来い!」

 

リベルタス。その言葉にサリア、マギー、ジャスミン、ゾーラ隊長、メイが息を飲む。

 

「お前達!聞いての通りだ!人間は私達を殺しに来ている!救助なんて全部嘘っぱちだ!非戦闘員は最下層を目指せ!戦闘員は非戦闘員を助けるんだ!動ける奴は動けない奴の事も忘れるな!」

 

ゾーラ隊長の一言により皆それぞれ動き出す。

 

サリアの元にジル司令からの通信が入る。

 

「サリア。アンジュを必ず連れてこい」

 

「イエス・マム」

 

サリアとの通信が終わるとジル司令はオペレーター達とある場所に来ていた。それは極秘裏に作られていた潜水空母【アウローラ】であった。

 

「各員持ち場につけ!」

 

「イエス!マム!」

 

 

 

 

 

発着デッキではメイが指示を出していた。

 

「最優先はヴィルキスとフェニックスだ!弾薬の装填は後でいい!非常用のエレベーターシャフトに乗せるんだ!」

 

そこにパイロットスーツに着替えたアンジュ、サリア、ナオミ、ヴィヴィアン、メビウスを除いたメイルライダーが集結した。

 

「出撃します!」

 

かつての第三中隊が出撃する。その直後のことだ。発着デッキ入り口に何かがやってきた。それは円盤であった。

 

次の瞬間には円盤達は周りに刃を展開し。発着デッキをガリガリと削りながらやってきた。

 

「総員退避!」

 

ゾーラ隊長の掛け声のもと皆奥へと逃げる。暫くして、円盤が爆発した。

 

「なっこれは!?」

 

ヒルダ達が見たもの。それは発着デッキを瓦礫が塞いでいる光景であった。さらにエレベーターシャフトまで破壊された。

 

「このままじゃパラメイルが発進できねぇ!」

 

「このままじゃヴィルキス達を降ろせない!」

 

ゾーラ隊長とメイが驚く。その時ヒルダに通信が入った。

 

「ヒルダ隊長!空中に未確認円盤が!」

 

アルゼナルの外では第三中隊のメンバー達が謎の円盤と戦っていた。

 

その円盤。いや、ピレスロイドは刃を回しながら第三中隊のターニャとイルマの機体に突っ込んできた。刃がコックピットに直撃する。

 

「ターニャ!イルマ!」

 

二人から返事が返ってくる事は無かった。

 

空一面に大量のピレスロイドが展開された。

 

発着デッキではピレスロイドの攻撃が終わると、兵隊達が乗り込んできた。狙いはヴィルキスとフェニックスらしい。

 

「整備班集まれ!敵の狙いはヴィルキスとフェニックスだ!各員!最重要事項に二機の地下への搬入とする!手動でやるんだ!」

 

メイが激励の言葉をかける。そうしている間も銃撃戦は続いていた。

 

「もうだめだ・・・私達死ぬんだ」

 

「死の第一中隊がこんな事で死んでたまるかよ!」

 

「今更隊長面しないで!」

 

諦め掛けていたクリスをヒルダが激励する。しかしクリスはそれに怒る。その時だ。クリスを狙っている兵士がヒルダに見えた。

 

「クリス!」

 

クリスを庇い、銃弾を受ける。しかしヒルダは怯むことなく銃で兵士を撃つ。兵士に命中し海へと落ちていった。

 

「なんで・・・助けたの?」

 

「誰も死なないし死なせない。それがあたしら死の第一中隊だろ?それに、もしあいつなら、きっと同じ事をしたぜ」

 

ヒルダが傷口を抑えながら言う。

 

(アンジュ・・・メビウス。あんたらも戦ってるんだろ?)

 

 

 

 

 

 

 

メビウスとナオミの二人はある場所を目指し走っていた。

 

走っている最中もアルゼナルはミサイルによる揺れが続いていた。

 

「メビウス!どこ行くの!?」

 

「フェニックスを出す!」

 

そのためにはパイロットスーツが必要だ。フェニックスを出すためにロッカールームを目指す。すると突然廊下の電気が落ちた。いや廊下だけではない。基地内の電気系統がやられたらしい。

 

直ぐに非常用の赤ランプが基地内を照らした。赤ランプの光がどこか不気味であった。

 

「電源盤がやられたのか!?」

 

メビウスは驚く。しかしそれでも二人はロッカールームを目指していた。するとメビウスが足を止めた。ナオミはメビウスにぶつかる。

 

「どうしたのメビウス・・・」

 

二人は物陰からそっと様子を除いた。視界の先のジャスミンモールには少女達がいた。皆目を閉じて、手を頭の上につけている。

 

そしてその付近には兵士達が三人いた。皆銃を持っている。兵士達は空間に映し出されたモニターで何かを確認していた。見るとそれはメイルライダーのリストであった。

 

やがてモニターをしまった兵士達が言う。

 

「この中にメイルライダーは存在しない。第一目標がアンジュリーゼの捕獲。第二目標がヴィルキス、並びフェニックス。そして男ノーマの捕獲。可能ならメイルライダーの確保。それ以外のノーマは皆殺しにせよ」

 

そのような話の内容が二人の耳に聞こえた。そして兵士達が銃口を彼女達に向けた。

 

「やめろぉ!!!」

 

次の瞬間にはメビウスは大声を出し、物陰から飛び出し、一人の兵士に殴りかかった。兵士のつけていたゴーグルにヒビが入る。兵士は見事に吹っ飛んだ。突然の大声と奇襲は兵士達を驚かせた。

 

「こいつ!例の男のノーマか!!」

 

兵士の一人がメビウスに銃口を向ける。その銃口をメビウスは握る。そして引き金が引かれる直前、メビウスは銃口を隣にいた兵士に向けさせた。隣の兵士は身体を撃たれて、その場に倒れた。

 

メビウスは銃を持っている兵士の腹を蹴飛ばした。兵士が後ろに倒れこむ。ナイフを取り出りその兵士の心臓部に突き刺した。

 

「ギャァァァ!!」

 

その兵士は悲鳴を上げたが直ぐに口を開かなくなった。

 

ナイフを抜くと血がメビウスに吹きかかった。

 

最初に殴り飛ばされた兵士が起き上がり、銃口を向ける。その前にメビウスがナイフで一気に接近する。兵士の首を掻っ切った。そこから

は血が噴水の用に吹き出した。

 

兵士達は皆倒した。

 

「みんな!大丈夫か!?」

 

今まで目を閉じていた彼女達だが、その声が自分達を心配している声だと理解すると恐る恐る目を開ける。目の前にはアルゼナルの制服を着た血塗れの人がいると認識した。

 

そして目の前の人物が自分達を助ける為に戦ってくれたと理解すると、緊張が解けたのか泣き出す人達もいた。

 

「キャャァァ!」

 

その時ナオミの悲鳴が聞こえた。直ぐに床に落ちてる銃を拾い上げ、悲鳴の方に向かう。

 

そこにはネットガンによって捕獲されているナオミがいた。兵士は二人。一人がネットを引っ張りもう一人が銃をナオミに向けている。直ぐに銃を兵士の一人に向ける。向けた瞬間には弾が兵士に命中した。兵士の一人が骸となる。

 

「貴様!」

 

もう一人の兵士が振り返り銃口を向ける。物陰に隠れながら、応戦する。

 

少しの間撃ち合っていたが、兵士側が弾倉の装填に取り掛かった。一気にトドメをさすため兵士の首元を狙う。弾が命中した。その兵士も動かなくなった。

 

ナオミに被さっていたネットをナイフで切り裂く。ナオミが這い出てきた。

 

基地内にオリビエからの通信が入った。

 

「基地内に敵部隊が多数侵入!目的は!アルゼナル人員の抹殺の模様!だめ!みんな逃げてぇ!」

 

オリビエの悲鳴とも聞き取れる声が響いた。

 

メビウスは近くの通路を確認した。

 

「いいか。ここを真っ直ぐ降りれば最下層に行けるはずだ。ここはまだ兵士達に入られてないはずだ。真っ直ぐ走り抜けろ。行ってこい!」

 

メビウスの言葉と同時に彼女達は走り出した。そうしてこの場にはメビウスとナオミだけが残された。

 

「ナオミ。お前もあの子達と行ってこい」

 

「ううん。私も戦うよ。私だってメイルライダーだよ」

 

少しの沈黙がおきた。

 

「・・・無理はするな」

 

メビウス達は兵士達が使っていた銃を拾い上げるとロッカールームを目指した。

 

そして時を同じくして発着デッキで戦っていたエルシャは幼年部たちの事が気になり、幼年部の子供達の所へと向かった。

 

そして医務室ではマギーとエマ監察官がいた。人間達はエマ監察官も殺そうとしていた。ノーマじゃないと叫ぶ彼女をマギーが助ける。

 

マギーがヴィヴィアンを連れ出すため、医務室に入る。するとそこには人間達がいた。ヴィヴィアンを確保していた。

 

「メイルライダー発見」

 

「その子をどうする気!?」

 

マギーが銃を向ける。人間達はマギーを狙いながらヴィヴィアンを連れて外へと出ていった。

 

 

 

 

 

こちらはサリアとアンジュ。こちらは今最下層を目指していた。モモカはジャスミンによってマナが使えないようにされていた。

 

「ヴィルキス達がまだ降ろされてない!?わかった。アンジュ達を届けたら私も発着デッキに向かう」

 

サリアは通信でメイと話していた。

 

「ここ。危ないんでしょ。避難準備なんてしてる場合?」

 

アンジュがサリアを睨む。サリアの手には銃が握られており、銃口はアンジュを向いていた

 

「・・・あんたには大事な使命があるの。だから送り届ける。それが私の・・・最後の使命だから・・・」

 

「その過程で仲間が何人死のうと知ったこっちゃないって言う気?」

 

アンジュが睨みつけながら言う。

 

「・・・仕方ないのよ」

 

次の瞬間、アンジュはサリアをビンタした。突然の事にサリアは驚く。ジャスミンも振り返る。

 

「メビウスがいたら間違いなくパンチが飛んでたわよ!何が仕方ないよ!作戦の為に犠牲になる仲間を助けようともしないで!メビウスだったら助けるわよ!

たとえ自分の身を削ってでも!

たとえどんなに大事な作戦でも!

最後の最後まで助けようと手を差し伸べるわよ!」

 

するとサリアもアンジュにビンタした。

 

「何もわかってないくせに!!自分がいかに特別な存在なのか!わかっているの!?」

 

「わかりたくもないわ!!仲間の命を踏み台にして!」

 

「てはアンジュリーゼ様!息を止めてください!」

 

その時モモカが気がついたようだ。エプロンから何かを取り出した。それは胡椒であった。それを床に叩きつける。胡椒が空中に散布される。

 

「くっしょん!待ちなさいアンジュ!くっしょん!」

 

サリアが叫ぶがそれはアンジュ達には既に届いていなかった。

 

「サリア!どうした!?」

 

「アンジュに逃げられたわ!」

 

「必ず連れもどせ!」

 

そういいジル司令は通信を切った。するとジル司令の元に外部から通信が来た。

 

繋げるとタスクであった。

 

「アレクトラ!アンジュはどうした!?」

 

「逃げられた。お前もアンジュの捕獲に協力してくれ」

 

「・・・わかったよ・・・」

 

そう言うとタスクは通信を切った。

 

 

 

 

 

 

サリア達から逃げてきたアンジュとモモカさん達は通路を走っていた。

 

「いつでもお料理するために持ってて良かったです」

 

「大胆な事をするわね!」

 

「アンジュリーゼ様の影響です!くっしゅん」

 

すると通路を照らしていた赤ランプも消えた。完全に電源盤が落とされたらしい。アンジュとモモカはマナを灯として走っていた。すると曲がり角から何かとぶつかった。

 

それはメビウスとナオミであった。

 

「アンジュ!それにモモカさんも!」

 

「メビウス!ナオミ!無事だったのね!」

 

「その様子だと行き先は同じみたいだな。行くぞ!」

 

四人は通路を走った。暫く走ると食堂付近に出た。

 

「これは・・・」

 

マナの光に照らされたその光景に絶句した。ノーマ達の死体が大量に置かれていた。撃つだけでは飽き足らず、火炎放射器まで使用されていた。その光景は昨日のドラゴンの焼却場を思い出す。

 

「うっぷ!」

 

アンジュは胃から何かが込み上げてきた。今回はナオミも吐き出しそ

うにしていた。

 

「アンジュリーゼ様!ナオミさん!お水を持ってきますね」

 

食堂の奥のシンクへモモカさんは足を進める。そしてメビウスは目の前の光景に言葉を失っていた。

 

(これが・・・人間のする事なのか!?)

 

その時だった。後ろで声が聞こえた。

 

「大切な物は失ってから初めてその価値がわかる。いつの時代も変わらないなぁ」

 

背後から男の声がした。三人が振り返る。するとそこには兵士とは思えない人間が立っていた。その姿にアンジュとナオミは困惑する。しかしこの中でメビウスだけが男の正体を知っていた。

 

「エンブリヲ!なんでここにいる!」

 

そう。その男はエンブリヲである。かつてミスルギ皇国でメビウスに接触してきた謎の男である。メビウスは銃口を向ける。

 

「待ちたまえ。私は君達に危害を加える気はない。それにしても酷い事をするものだ。こんな事を許した覚えはないのだがな」

 

「ここ虐殺を命じたのはジュリオ君だ。ここから北北東14kmの所に彼はいる。アンジュ。君を八つ裂きにする為にね。この子達はその巻き添えに近い形だ」

 

「なんでそんな事を教えるの!?」

 

アンジュが疑問に思い、銃を突きつける。しかしエンブリヲは動揺しない。

 

「そうだメビウス君。君に会いたい人がいるんだ」

 

「よぉ!メビウス!元気してるかー!?」

 

暗闇から何者かが飛びかかってきた。慌て銃身でそれを受け止める。

 

その人物はガーナムであった。

 

「ガーナム!貴様何故ここにいる!?」

 

「簡単な事よ!ブラック・ドグマはミスルギ皇国と手を組んだのさ!」

 

「なっ!?ブラック・ドグマはこの戦いに介入するのか!?」

 

「そうよ!まぁお前の元気な姿は拝めたぜ。とっととフェニックスに乗り込みな。無論、例のシステムも発動しろよ?」

 

そう言うとガーナムは暗闇の奥へと消えていった。メビウスは追いかけようとする。

 

「キャァァァ!」

 

その時モモカさんの悲鳴が聞こえた。振り返るとそこにはモモカさんに銃を向けている兵士が二人いた。右肩が赤く染まっていた。モモカさんはマナバリアでなんとか自分の身を守っている。

 

 

アンジュが兵士達を狙撃した。

 

「ぐぉぉ!」

 

兵士の一人が悲鳴を上げながら死んだ。もう一人はアンジュを撃とうとするがその前にアンジュが兵士を撃つ。

 

「ぐぁぁ!貴様!アンジュリーゼ!」

 

「答えなさい!この虐殺を命令したのはお兄様なの!?」

 

アンジュが銃口を向ける。

 

「待ってくれ!俺は隊長とジュリオ陛下の命令に従っただ・・・」

 

次の瞬間。アンジュは兵士を撃った。兵士は死んだ。しかしアンジュは撃つのをやめない。

 

「アンジュリーゼ様!もう大丈夫です!モモカはここにいます!」

 

モモカがアンジュに抱きつく。この時アンジュは

やっと落ち着いた。

 

「・・・早く行くぞ!」

 

メビウスの掛け声の元、四人は再びロッカールームを目指した。そして着替え終わり、発着デッキを目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四人が発着デッキに辿り着くと、そこには人間に押され気味の彼女達がいた。

 

人間の兵士の何名かがこちらに銃を撃つ。それをモモカさんのマナの光で防ぐ。

 

しかし戦況はあまり変わっていない。整備士の一人が銃で撃たれた。

 

「くっ!貴様らぁぁぁ!!」

 

メビウスが人間達に激昂する。

 

次の瞬間、フェニックスが突然光り出した。その姿は以前見たあの姿へと変わっていた。左腕のガトリングで人間達を蹴散らす。それらは彼女達ノーマを守るみたいであった。まるでメビウスの意思がフェニックスに乗り移ったみたいである。

 

フェニックスの戦闘介入により人間達は一気に蹴散らされた。

 

そしてフェニックスは右腕の鉤爪からビームを放った。それらは瓦礫へと突っ込んだ。すると瓦礫は跡形もなく砕け散った。

 

フェニックスはこちらへと向いた。まるでメビウスに乗り込めと言っている目であった。前回の戦闘時に放たれていた殺気は完全になかった。

 

「お前も力を貸してくれるんだな!」

 

メビウスは勇んで乗り込んだ。

 

それに続くようにアンジュがヴィルキスに、ナオミがアーキバスに乗り込む。

 

他の第一中隊は先程の光景に唖然としていた。

 

そこにサリアがやってきた。パイロットスーツに身を包んでいた。

 

「アンジュ!止まりなさい!」

 

サリアが叫ぶが誰も止まらない。そうしている間にもアンジュ、ナオミ、メビウスの三人は発進していった。

 

「よし!第一中達!三人に続くぞ!」

 

ゾーラ隊長とヒルダの号令の元。皆発信準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

外ではタスクが人間達からヴィヴィアンを助けていた。

 

タスクの視界にヴィルキスが写る。

 

「何!?あのじゃじゃ馬め!」

 

「ポテチ・・・」

 

タスクを他所にヴィヴィアンは寝言を呟いた。タスクがヴィヴィアンを見る。

 

 

 

 

 

外では三人が取るべき行動に移っていた。

 

アンジュはジュリオ達の元へ。ナオミは未だに戦っている二機の救援に。そしてメビウスはガーナムの元へと向かった。

 

メビウスはいざというときに備えて有る物を用意していた。

 

「・・・今度は言うこと聞いてくれよ・・・」

 

メビウスは手に、握っていたものをボックスへと閉まった。

 





遂にアルゼナル襲撃が始まってしまいました。

アニメはかなりショッキングです。

え?ターニャとイルマが死んだ?

今後の事を考えるとターニャとイルマはガチで出しにくくなると思い、それならオリジナル展開を使おうと言う判断にしました。

え?ビクトリアとエイレーネ?ナニソレオイシイノ?


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第43話 解き放たれた光



前回のアンケートは第6章が終了するまで開催します。

今回で第5章は最終話です。

今回ジュリオを外道にしすぎたかな?まぁこれぐらい外道な事をジュリオはしそうですけどね。

それでは本編の始まりです!



 

 

メビウスはガーナムの前へと来ていた。

 

「よぉ。その機体も似合ってるぜ。困ったら胸部から例の砲撃してもいいんだぜ?」

 

「俺はあれを使うつもりはない」

 

ガーナムの勧めをメビウスは拒否する。あれは人間相手に撃っていい代物ではない。その事はメビウス自身が一番知っている。

 

「それは残念だな。お前が死ぬのが少し早まったぜ!」

 

マシンガンを取り出しフェニックス目掛けて撃った。それをガトリングで全て撃ち落とす。

 

鉤爪からビームサーベルを伸ばす。そして一気にグラスターカスタムに突っ込む。アイ・フィールドが展開されたがそれごと切り裂いた。

 

「ちっ!認めたくはねぇがいい機体と腕じゃねぇか!でもな!」

 

ガーナムは機体で体当たりをする。組み付かれたらしい。するとナイフを取り出した。

 

「このままコックピットを潰してやろう!」

 

ナイフを胸部に突き立てようとする。その時後ろから何かがグラスターカスタムを撃った。それはファングであったら、

 

「ちぃ!ファングを起動してやがったか!」

 

それを咄嗟に避ける。組み付いていた機体が離れる。直ぐにビーム砲をグラスターカスタム目掛けて撃った。アイ・フィールドが展開されたがもはや今のフェニックスにそんなもの通じなかった。

ビームがアイ・フィールドを貫通し、機体の右側に命中する。

 

「ブラック・ドグマは今すぐこの戦闘から手を避け!」

 

鉤爪を向けながらガーナムに通信を送る。

 

「・・・ん?なんだと・・・わかったよ・・・」

 

ガーナムは誰かと通信をしていた。

 

「・・・事情が変わった。今回も逃げてやるよ。そして覚えとけ!次あった時は俺もオニューの機体をこしらえてきてやる。んじゃ!グッバイ!」

 

そう言うとガーナムは戦闘中域から離脱した。

 

(あいつ・・・妙にあっさり引いたな・・・それに、誰と話してたんだ?)

 

(ミスルギと協力関係にあるとはいえ、その関係は決して硬いわけではないのか?それにガーナムの通信相手・・・そいつは一体誰なんだ?)

 

色々と疑問が湧いて出でたが、直ぐにピレスロイドの迎撃に当たる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュはジュリオの元へと急いでいた。空中にいたピレスロイドがヴィルキスを捕獲しようとワイヤーを伸ばす。ヴィルキスはそれらを全て回避する。

 

「邪魔よ!」

 

ピレスロイドを片っ端から撃墜していくアンジュ。

 

すると後ろからサリアがやって来た。

 

「戻りなさいアンジュ!戻って使命を!」

 

しかしアンジュは戻らない。ピレスロイドを相手にしている。サリアもピレスロイドを撃墜する。

 

「一体何が不満なのよ!貴方はアレクトラに選ばれたのに!私の居場所も・・・役目も!全部奪ったのよ!それくらい!」

 

「好きだったのよ。私、ここでの生活が好きだった。最低で最悪で劣悪で。何食べてもクソ不味かったけど・・・ここでの暮らしが好きだった。それを壊された!あいつに!」

 

ヴィルキスはアーキバスに斬りかかった。アーキバスの腕が斬り落とされる。

 

「邪魔をするなら・・・殺すわ!」

 

その時アンジュの指輪が光った。ヴィルキスが赤く光り輝く。そしてアーキバスのもう片方の腕も斬り落とす。

 

「アンジュ!許さない!勝ち逃げなんて絶対に許さない!アンジュの下半身デブ!!」

 

サリアは呪詛の言葉を言いながら、機体とともに海へと落ちていった。 アンジュはそれを見た後、ジュリオ艦隊へと進んでいく。

 

 

 

その頃発着デッキではヒルダ達が発進しようとしていた。

 

「よし!出るぞ!」

 

ヒルダとロザリーが発進した。クリスもそれに続く。その時だ。生き残っていた兵士がいた。その兵士は銃口をクリスに向けた。

 

クリスの頭に銃弾が命中する。機体がが大きく横に逸れ、壁に衝突する。機体から火花と煙が上がる。

 

「クリス!」

 

ヒルダとロザリーが同時に叫ぶ。

 

「待ってろクリス!今助けてやるからな!」

 

「ありがとう・・・ロザ・・・」

 

次の瞬間、ハウザーは大爆発を起こした。兵士もその爆発に巻き込まれ死んだ。

 

「クリスゥ!!」

 

「チキショウ!・・・テメェら全員ぶっ殺す!!」

 

ロザリーが泣きながら、しかしその瞳には怒りが込められていた。ピレスロイドにその怒りをぶつける。

 

ヒルダもピレスロイドを撃ち落としていく。

 

その頃エルシャは幼年部の子供達の所に辿り着いた。

 

「・・・そんな・・・」

 

しかしそこには既に生きていた頃の幼年部の子供達ではなかった。皆無抵抗に殺された事がわかる。

オルゴールが虚しく鳴り響いていた。

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

エルシャが子供達の亡骸の前で泣き崩れる。

 

その時エルシャは気がついてなかった。背後にある男か近づいてきたことも。そしてその男は時を同じくして、既に動かなくなっていたクリスの所にも現れていた。

 

 

 

アンジュはジュリオ艦隊を目指していた。

 

途中艦隊達の砲撃を受けたがそれらがヴィルキスに届く事はなかった。ピレスロイドなども迫っても来たが全て蹴散らした。

 

その時だった。突然オープンチャンネルでメッセージが入った。

 

「神聖ミスルギ皇国。並びにアルゼナルの両軍に伝えます!直ちに戦闘を中止しなさい!」

 

戦闘を中止しろとのメッセージが発せられた。しかもその話している人物にアンジュは心当たりがあった。

 

「ミスティ!?あなたなんでここにいるの!?」

 

そう。その声の主はミスティであった。彼女は輸送機で今ここに来ている。

 

「これはこれはミスティ・ローゼンブルム。一体なんのつもりですか?」

 

ジュリオがオープンチャンネルでメッセージを送る。

 

「わからないのでしたらはっきりと言いましょう。ジュリオ皇帝陛下!あなたはノーマを皆殺しにする気なのですか!?」

 

「これは変な事をおっしゃる。ノーマの殲滅はあなたのお父上もお認めになったはずでは?」

 

「くっ・・・」

 

その言葉にミスティは何も返せなくなる。

 

「ミスティ様。負けてはなりません。あなたは自分の意思でここに来たのです。その思いを言葉にしてあの青二才にぶつけてやるのです」

 

執事がミスティを激励する。

 

「そうですね。私はあなた達のしている事を認めません!」

 

「自分のお父上の意見に背いてこんな事をするとは。全く、とんだ親不孝者じゃないですか」

 

父親をその手で殺したジュリオが言って良い台詞ではない。

 

「黙りなさい!エンブリヲの腰巾着!」

 

ミスティが大声で叫ぶ。自分自身を奮い立たせる為に。

 

「ミスティ・ローゼンブルム。おふざけが過ぎますよ?早くここから立ち去らないと怪我では済みませんよ?」

 

ジュリオの声色が変わった。

 

「ふざけてなどいません!ノーマを見世物の用に吊るしあげて殺す!あなた達は人間などではありません!」

 

ミスティがはっきりと言う。その言葉は自分の中にある人間としての誇りから出た言葉である。

 

「各員!あの輸送機はノーマどもがこちらを惑わせるために、ミスティ・ローゼンブルムの姿を模したものだ!あのような無礼を許す訳にはいかない!

全艦!あの輸送機を狙え!」

 

次の瞬間、オープンチャンネル越しに砲撃音、そしてミスティの悲鳴が聞こえた。

 

「ミスティ!?ミスティ!?返事しなさい!」

 

アンジュが必死に呼びかけるが返事は返ってこない。輸送機は艦隊の砲撃を浴びていた。ミスティは既に動かなかった。

 

「最期の御奉公・・・ミスティ様。私も共に参ります」

 

次の瞬間、チャンネル越しに爆発音が響いた。その事はある事実を突きつけた。ミスティが殺されたという残酷な現実を。

 

アンジュは言葉にならない悲鳴をあげた。

 

「はっはっは!私に逆らう者は皆死ぬのだ!!」

 

古典的な悪役のセリフだが、これ程までに不愉快になるとは。もはやジュリオに人間の心など無くなっていた。

 

「ジュリオお兄さま!!いえ!ジュリオ!!」

 

アンジュが遂にキレた。ノーマとなってもアンジュを慕ってくれたミスティをジュリオはなんの迷いも無く殺した。ヴィルキスで一気に接近する。その時モニターに高熱源反応が背後にあると表示された。

 

振り返るとそこにはフェニックスがいた。

 

「・・・お前達は人間なんかじゃない」

 

メビウスが静かに、だけど激しい怒りを表していた。メビウスも聞いていたのだ。先程のオープンチャンネルでの会話を。そしてミスティが死んだ事も理解していた。

 

メビウスはある兵器を起動させた。フェニックスの胸部が開かれる。そこから砲身が出てくる。

 

「なっ!?あの兵器は!回避だ!回避しろ!」

 

ジュリオが必死に回避を命令する。

 

モニターに文字が表示される。

 

《Neo Maxima Gun》

 

【ピピピピピピピピピピピピピピピピ】

 

コックピット内に例の音が響く。砲身からは赤い

粒子が見られる。

 

ネオマキシマ砲が放たれた。アンジュはそれを避ける。ネオマキシマ砲は艦隊を、ピレスロイドを飲み込んだ。飲み込まれたそれらは残骸一つ残さず、消し炭となった。

 

唯一、エンペラージュリオ一世が掠めた程度だが、それだけでも艦身の半分が消えた。

 

「なっ!?馬鹿な!?」

 

ジュリオが見た光景。それは先程まで無限にあったとも言える艦隊が一隻も存在していないという現実だった。

 

すると甲板が切り落とされた。ジュリオの目の前にはヴィルキスとフェニックスがいた。どちらもジュリオに殺気を放っていた。

 

二人が機体の外に出る。そしてジュリオ目掛けて銃を放つ。

 

「ヒェェ!!痛い!痛い!」

 

ジュリオの両足に弾が命中する。ジュリオが悶え苦しむ。

 

二人にとってジュリオへの殺意よりも今はそれ以上の何かの感情が勝っていた。

 

「ミスティの受けた痛みの少しでも味わえ!」

 

メビウスがジュリオの腕を撃つ。更に痛みに悶え苦しむ。

 

「今すぐ虐殺をやめさせなさい!!今すぐに!」

 

「し、神聖皇帝ジュリオ一世だ。全軍。直ちに戦闘を中止!撤退せよ!」

 

マナでその事を伝える。もっとも、この中域にはもはやジュリオの艦しか残されていないのだが。

 

「我々は撤退する!これで満足なんだろ!?」

 

「あんたは殺す」「テメェは殺す」

 

二人が同時に言う。それぞれの機体に乗り込んだ。フェニックスがサーベルを振りかざす。そしてヴィルキスもサーベルを振りかざす。

 

「待て!お前達!早まるな!要求なら何でも聞く!そうだ!アンジュリーゼ!お前の皇室復帰を認めてやろう!どうだ!?悪くない話だろ!?お前は確かメビウスといったな!?お前も皇室に入れてやる!それでどうだ!?」

 

「生きる価値のない人間以下のゴミが!死ねぇ!」

 

二機がサーベルをジュリオに向けて振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振り下ろしたサーベルをシールドで受け止める機体があった。

 

「この機体!?」

 

するとそこからある人物が出てきた。

 

「お前は・・・エンブリヲ!」

 

「エンブリヲ様!こいつらをぶち殺してください!今すぐに!」

 

ジュリオが必死に懇願をする。

 

「ジュリオ君。私は君の事を見損なったよ」

 

「エンブリヲ様!?」

 

「誰がノーマを皆殺しにしろと命令した?挙げ句の果てにミスティ・ローゼンブルムを殺して・・・

全く、君は人間以下の存在だよ」

 

エンブリヲがこちらを向く。

 

「アンジュ、君は美しい。君の怒りは純粋で白く、何よりも熱い。理不尽や不条理に立ち向かい焼き尽くす炎のように。気高く美しい炎だ」

 

「メビウス。君は機体の名の通り不死鳥の炎を纏った存在だ。その炎は時に篝火となり皆を優しく温め導く。そして時に獄炎となり自らが許せないと感じた事全てを焼き払う聖なる炎だ」

 

「二人の炎をこのようなつまらない物を燃やす事で、穢してはならない。私が背負おう。その罪を」

 

するとエンブリヲは突然歌い出した。永遠語りを・・・

 

ある所ではタスクがアンジュの元に向かっていた。その背中にはヴィヴィアンを背負っている。置いていくわけにもいかずに連れてきた訳だ。

 

「これは!・・・まさか!」

 

タスクはアーキバスを必死になって飛ばす。

 

 

 

アンジュとメビウスの目の前でエンブリヲの機体の両肩が開かれた。

 

「あれは!?ヴィルキスと同じ兵器!?」

 

次の瞬間、そこから光が放たれた。それは人間以下のジュリオの乗った船を飲み込んだ。

 

光が収まった。そこには先程あったジュリオの艦は跡形も無くなっていた。

 

ジュリオの艦が光に飲み込まれる直前の事だ。リィザは脱出していた。背中に翼を生やし、エンブリヲの事を憎々しげに見ていた。

 

 

 

時を同じくして、アルゼナルでもエンブリヲは現れていた。エンブリヲは動かなくなったクリスの元へと寄っていた。そしてそれと同時に子供達の死体の前で泣き崩れているエルシャの元にも現れた。

 

エンブリヲが死んだ彼女達に手を当てた。するとクリスや幼年部の子供達が息を吹き返したのだ。

 

「さて・・・と、メビウス君。私は君と戦いにも来たのだよ」

 

その時フェニックスのモニターにある文字が表示された。

 

《Destroy Absolute Weapons》

 

その文字は以前、ヴィルキスが永遠語りで金色に光った時と同じである。次の瞬間、フェニックスが勝手に動き始めた。ガトリングがエンブリヲに向かつまて放たれた。それをエンブリヲの機体はシールドで防ぐ。メビウスは機体を操作しようと必死になる。しかしフェニックスは言うことを聞かない。

 

メビウスはボックスからある物を取り出した。

 

 

それは自爆スイッチであった。

 

初めて機体が暴走したあの後、外部からの自爆スイッチを取り付ける作業をしていたのだ。これならモニターを通す必要がない。もし機体が暴走した場合、これを使う事を決めていた。

 

スイッチを握る。その手は震えていた。

 

「・・・さよなら・・・みんな・・・」

 

【ポチ】

 

メビウスは自爆スイッチを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなってんだ!なんで自爆しない!」

 

スイッチを何度も押してみる。しかし機体は自爆しない。

 

「無駄な事だ。そのような付け焼き刃など私の能力で無効にできるのだよ」

 

「なんだと!?お前は・・・一体・・・」

 

「アンジュ!メビウス!そいつは危険だ!離れるんだ!今すぐ!」

 

その時、タスクがアーキバスを操作しながらやってきた。

 

「メビウス!アンジュ!」

 

その少し後ろからナオミもやってくる。

 

「無粋な事を・・・君の相手はまた今度だ」

 

するとフェニックスの操縦が元に戻った。エンブリヲが永遠語りを歌う。

 

「まさかあの兵器!?」

 

二人の機体で庇うように割り込む。

 

「アンジュ!」

 

その時アンジュの指輪が光った。

 

次の瞬間、エンブリヲの機体から光が飛んできた。その光が機体に命中する直前、ヴィルキスとアーキバス。そしてフェニックスの三機が突然消えた。

 

光は虚空を切り裂いた。

 

「アッ・・・ア・・・ア」

 

ナオミは目の前の出来事を受け入れられなかった。

 

アンジュとメビウスが謎のアーキバスも消えてしまった。

 

「ほう・・・つまらない筋書きだが、悪くない・・・」

 

ナオミは声の主があの時食堂で出会ったエンブリヲだと理解する。

 

「エンブリヲ!アンジュとメビウスに何をしたの!?答えて!答えなければ撃つわ!!」

 

ナオミがエンブリヲに銃口を向ける。

 

「君では私には勝てないよ」

 

「せめて仇をとらなきゃ!」

 

「やめたまえ。これ以上の攻撃は無駄だ」

 

「無駄だからってやめられないでしょ!」

 

「心強き乙女よ。残念だが君では私を倒す事は不可能だ」

 

「倒せなくてもいい!一矢報いるだけでも!」

 

「仕方がない」

 

するとエンブリヲの機体が一気に接近した。アーキバスの両脚が切り落とされる。ライフルとブレードも破壊された。

 

「さぁ。これで満足かな?」

 

「勝てない・・・いや!まだ!凍結バレットを零距離で撃ち込めば!」

 

「・・・私は君を殺したくないのだけどね」

 

「私はあなたを殺さなきゃいけないの!」

 

アーキバスで一気に接近する。そして凍結バレットを零距離で放つ。しかしあの凍結力を零距離で撃ち込むとなると撃ち込む側も決して無事では済まないだろう。

 

ナオミのアーキバスが凍りつく。それに比べてエンブリヲの機体は健在であった。

 

「メビウス・・・アンジュ・・・ごめん。守れなかった・・・」

 

薄れゆく意識の中、ナオミはそう呟く。氷漬けとなり、アーキバスは落下して行く。

 

意識を失ったナオミをエンブリヲは助ける。

 

「君に今死なれたら困るんだ。不確定要素である君には」

 

「よぉ、エンブリヲの旦那」

 

そこにガーナムが戻ってきた。

 

「ガーナム君。一体なんの用かな?」

 

「さっき上と話し合ってきた結果を伝えるぜ。その嬢ちゃんにピッタリな機体がある。それを伝えに来てやったぜ」

 

「それは楽しみだ。後で私もみてみるとしよう」

 

エンブリヲはそう言うとナオミを連れて何処かへと去っていった。

 

 

 

 

 

アルゼナルの最下層の潜水艦内ではオペレーター達の準備が終了間際であった。

 

「注水開始!」

 

その言葉と共に注水作業が始まる。

 

「アルゼナル内部に生命反応無し。生存者の収容。完了しました」

 

オペレーターのヒカルがジル司令に報告する。

 

「メインエンジン臨界まで残り10秒。注水率80%を突破。注水隔壁閉鎖完了」

 

「交戦中のパラメイルには、集合座標を暗号で送信しろ」

 

「了解!」

 

「拘束アーム解除。ゲート開け!微速前進!アウローラ発進!」

 

その掛け声のもと、アルゼナルの生存者を乗せたアウローラは発進した。

 

リベルタスという反逆を始める為に。

 

 

 

突然消えたアンジュ、メビウス、タスク、そしてヴィヴィアン。

 

物語は更なる展開を見せる事となる。

 






今回で第5章はおしまいです!

クロスアンジュ天使と竜の輪舞trではこの後3つのルートに分かれてましたね。

果たして物語はどのような展開になるのでしょうか!?

余談ですが最近ロストヒーローズを楽しんでます。現在ジ・O相手に大苦戦してます。ウイングゼロもツインバスターライフル手に入れるために必死にAP稼ぎに励んでいます。


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第6章 真実を知る者たち
第44話 荒廃した世界




今回から第6章です!

アルゼナルメンバーは第4章と同じくほとんど出てきません!

大体アニメの1話をこの作品では2.3話に分けて作ってますからね。どうしてもあまり登場しない感じが出てしまいますね。

それでは本編の始まりです!




 

 

ヴィルキスのコックピット内。アンジュは意識を失っていた。その時アンジュの頬に何かが触れる。

 

「んっ・・・」

 

アンジュは気がつき頬のそれに触れる。それは舌だ。舌の持ち主を見てみた。そこにはドラゴンがいた。

 

「ウワァァ!」

 

「きゅー(あたしあたし)」

 

「あなた・・・ヴィヴィアン!?」

 

「きゅー(その通り!)」

 

ドラゴンとなったヴィヴィアン。この状態の彼女はヴィヴィゴンと名付けよう。

 

「どこも痛くないかい?」

 

「タスク!?あなたなんで・・・」

 

そこにはタスクもいた。そしてこの時アンジュは直前の出来事を思い出した。

 

「私達・・・確か海の上で戦ってたはず!」

 

周りを見渡してみる。周りの風景は海はおろか、見た事すらない風景であった。

 

「ここ・・・どこ!?」

 

アンジュは困惑した。

 

「アルゼナル!応答せよ!アルゼナル!応答せよ!モモカ!ヒルダ!メビウス!ナオミ!誰でもいいから応答して!」

 

直ぐにアンジュがヴィルキスの通信機でアルゼナルとコンタクトを取ろうとする。しかし通信は返ってはこなかった。

 

タスクの方もダメらしい。全周波数に応答がなく半径5キロに動体反応がない。更に位置センサーも使えないらしい。

 

「ねぇ。ここってまさか人類がまだ戦争していた頃の廃墟跡地なんじゃ」

 

「そんな場所があるなんて聞いた事がないよ」

 

アンジュの予想をタスクは否定する。

 

「だとしたら私達、誰も知らない別の世界に飛ばされたって事?」

 

「・・・ヴィルキスならあり得るかもしれない。あの時奴が放った光。その光から守る為に、ヴィルキスが僕達ごと何処かへ飛ばしたのかもしれない。なんせヴィルキスは特別な機体だ。こんな事出来ないとは言い切れない」

 

「そう・・・特別・・・」

 

アンジュはサリアを事を思い出す。サリアが言っていた言葉。選ばれた存在。その言葉に無性に腹立たしくなる。

 

「・・・どう?直せそう?」

 

「あぁ、飛べる程度には」

 

「じゃあお願いするわ。私は偵察をしてくる。まだ敵がいるかもしれないし」

 

「きゅーきゅーきゅー(アンジュ。背中に乗って)」

 

ヴィヴィゴンが背を向けた。それは背中に乗れという事だ。

 

「ありがとうヴィヴィアン。それじゃあ行ってくるわ」

 

アンジュがそう言うとヴィヴィゴンは飛び上がった。

 

暫くの間飛んでみたが周りはアンジュの知らない

光景しかない。それもそのはずだ。ここら辺の陸地はまるでクレーターのように大穴があけられていた。

 

「ここ・・・一体どこよ・・・」

 

その時だった。アンジュはあるものに目がいった。それは一見するとただの苔むした柱である。しかしアンジュには見覚えがあった。

 

「ヴィヴィアン!あれに向かって!」

 

「きゅー(合点!)」

 

アンジュはそれを目指した。それをアンジュは知っていた。暁ノ御柱であった。

 

「ここ・・・ミスルギ皇国なの!?」

 

その時柱の奥から手が垂れているのに気がついた。

 

「誰!?」

 

アンジュが銃をながら近づいていく。するとそこにはメビウスがいた。メビウスは気を失っていた。

 

「メビウス!しっかりして!起きなさい!」

 

アンジュがメビウスの体を揺さぶる。メビウスは目を覚ました。

 

「アンジュ?おはよう・・・そういや・・・あの後・・・はっ!そうだ!あの後何があったんだ!?」

 

メビウスも直ぐに直前の状況を思い出す。辺りをメビウスが見渡している。メビウスは暁ノ御柱を見つめた。

 

「・・・なぁアンジュ。ここがどこだかわかるか?」

 

「私が知りたいわよ!でも無事で良かった。とりあえずタスクの所にいくわよ」

 

「タスク。あいつも無事だったか。少し待ってろ。フェニックスが動くか試してみる」

 

そう言いフェニックスのスイッチを入れる。次の瞬間、機体のエンジン音がした。どうやらフェニックスに問題はないらしい。

 

ヴィヴィゴンについて行きながら、メビウスはタスクの所へと行く。

 

「メビウス。君も飛ばされたのか」

 

「飛ばされた?どういうことだ?」

 

タスクは予想の範疇だがメビウスに自分達の現状を伝えた。

 

「別世界か・・・」

 

「・・・ねぇメビウス。もしかしてここがあなたのいた世界なんじゃ?」

 

アンジュが疑問に思い聞いてみる。

 

「・・・多分違うと思う。これまで記憶に関わる事は全て脳内の霧が晴れるみたいな感じがしてたんだ。だけどここを見ても頭の中の霧がほとんど晴れない。だけど・・・」

 

「だけど?」

 

「これは感覚だけど、昔似たような光景をどこかで見た気がするんだ。特にあの柱を見た時は」

 

「ねぇ二人とも。さっきから何を言っているんだい?」

 

タスクだけが理解できてないでいた。メビウスは自分の事を説明した。自分が別世界の人間という事など様々な事を。

 

「・・・別世界からの来訪者・・・か。こうやって別世界と思える所に来ちゃったんだ。その話を聞いても疑う要素はないな・・・」

 

タスクは現状もあり、その事に納得したようだ。

 

「それにしてもここが別世界だとして、俺達これからどうすればいいんだ?」

 

その一言に場が凍りついた。メビウス自身はアルゼナルに来た時既にこの質問に似た内容の質問をされた事がある。果たして自分達は帰れるのだろうか?

 

その答えは誰も知らない。

 

「・・・・・・・・・」

 

四人とも黙ってしまった。

 

「アンジュ。他に偵察結果はなかった?」

 

この場を打開するために、タスクは話題を変える。今はまだこの話題には触れるべきではないと判断しての行動だ。

 

アンジュは偵察で見てきた事を話す。暁ノ御柱のことを。

 

「じゃあここはミスルギ皇国なのか!?」

 

タスクは驚いた。

 

「でも変なのよ。御柱も町も、まるでずっと昔に破壊されたみたいになってたわ」

 

「ひょっとして俺たちが意識を失ってる間に数百年の歳月が流れてたとか。まさかな」

 

「冗談で言ってるんじゃないのよ!」

 

タスクの言葉にアンジュが怒る。

 

「ごめん」

 

その時奥から何か音が聞こえた。

 

四人は機体の影に身を隠す。直ぐに交戦状態に入れるようヴィヴィゴン以外は銃を構える。

 

しばらくすると何かが接近してきた。それは自動走行ロボットだった。

 

「こちらは首都防衛機構です。生存者の方はいらっしゃいますか?生存者の方はいらっしゃいますか?首都第三シェルターは現在稼働中。生存者の方を受け入れています。生存者は第三公園までお越しください」

 

ロボットはこちらに気づく事なく通り過ぎていった。

 

「第三公園。そこに行けば誰かに会えるんじゃないか!?」

 

「行ってみよう」

 

ヴィヴィゴンには機体の見張りについてもらった。三人でその場所を探す。暫く探しているとその場所と思わしき所を発見した。

 

「ここか?」

 

三人はある場所にたどり着いた。そこはドームのような場所である。

 

「ここに生存者が?」

 

すると扉のようなものからセンサービームが三人に向けられた。特に有害性などは感じられなかった。

 

「生体反応を確認。収容を開始します」

 

機械の音声で言葉を放った。すると目の前の扉が自動で開かれた。

 

「ようこそ。首都第三シェルターへ。首都防衛機構はあなた達を歓迎します」

 

三人は顔を見合わせた。そして銃を構えながら奥へと進んでいった。

 

「現在、当シェルターは1.7%の余剰スペースがあります。それでは快適な生活を」

 

周りの扉が開いた。中を覗いてみるとそこには人が沢山横になっていた。厳密に言うならかつて人だったと思われる者が横になっていた。

シェルター内部の部屋には白骨死体が大量に転がっていた。

 

「なによ・・・これ・・・さっきのあなた!どこなの!出てきて説明して!」

 

すると目の前のモニターに先程の女性が現れた。

 

「管理コンピューターのひまわりです。ご質問をどうぞ」

 

「これ。コンピューターなのか」

 

タスクが驚いた。

 

「これはどういう事!?誰か生きてる人はいないの!?

何があったの!?一体どうしちゃったの!?」

 

「質問を受け付けました。回答シークエンスに入ります」

 

感情的なアンジュとは対極にひまわりは無機質な音声でこちらの質問に返答した。すると突然照明が落ちた。しかし次の瞬間灯りがついた。どうやら映像を投影する為の用意らしい。

 

映像にはビル街が映し出された。次の瞬間、ビル街にミサイルの雨が降り注いだ。空には戦闘機が飛んでおり、陸には戦車が走っていた。そのどちらとも戦闘中である事がわかる。

 

「なによこれ・・・映画?」

 

「実際の映像です。統合経済連合と反大陸同盟機構による大規模な国家間戦争。第7次大戦やラグナレク。D.WARなどと呼ばれる戦争が起こりました。この戦争により地球人口は11%まで減少しました。膠着状態を打開すべく、連合側が絶対兵器

【ラグナメイル】を投入」

 

その映像に映し出されたそれにアンジュは言葉を失った。

 

「あれは・・・黒いヴィルキス?何を・・・するの?」

 

映像に映されたそれは、ヴィルキスに搭載されている両肩部分から光を放った。それらは街を一瞬で薙ぎ払った。艦隊を、村を、山を、その光が全てをなぎ払う光景が映し出された。

 

「こうして戦争は終結しました。しかしラグナメイルの次元共有兵器により地球上全てのドラグニウム反応炉が共鳴爆発を起こしました。

 

それだけではありません。謎の機体のテロ行為により、地球は壊滅的なダメージを受けました」

 

「なっ!?あれは!?」

 

モニターに映し出された機体。

 

 

 

それはフェニックスだった。見た目は例の変化した物となっていた。ネオマキシマ砲のチャージをしている。次の瞬間、それを大陸目掛けて撃ち込む映像が流された。するとその大陸の一つに大穴が空いた。それはアンジュとヴィヴィゴンが先程見た大穴であった。

 

「こうして地球は生存困難な汚染環境となり、全ての文明は崩壊しました。以上です。他にご質問は?」

 

「世界が・・・滅んだ・・・」

 

「なんでフェニックスが・・・ここに・・・」

 

「なんなのこれ・・・なんの冗談よ・・・」

 

三人とも唖然となっていた。いきなり突きつけられた情報がこれであるため無理もない。

 

「・・・バッカみたい!いつの話よそれ!」

 

「538年193日前です。現在世界各地、20976箇所のシェルターの中に熱、動体、生命反応なし。現在地球上に生存する人間は、あなた方三人だけです」

 

女性の顔が笑っていた。何故かそれが不気味であった。

 

「おい!一つ教えろ!謎の機体のテロ行為についてだ!何か情報があるか!?」

 

メビウスが興奮気味に問いかける。

 

「何かではわかりません。具体的な質問内容をお願いします」

 

「あの機体は何処から来たんだ!?造られた場所とかはわからないのか!?」

 

「質問を確認。回答シークエンスに入ります。全てが謎です。突然現れ突然消えたとしか言いようがありません。他にご質問はありますか?」

 

「そんな答えで納得できるか!」

 

メビウスが尚も食いかかるがタスクがそれを制する。

 

「・・・ひとまずパラメイルの所に戻ろう。機体の整備とかもしなきゃいけないし、第一こんな場所に長くはいたくない」

 

三人はシェルターを後にした。既に外は夕陽に照らされていた。三人は終始無言であった。

 

夜となった。ヴィヴィゴンは眠りについた。メビウスはフェニックスで探索に出ている。アンジュとタスクは簡単な椅子を持ち出すとそれに腰掛けた。

 

一斗缶に枯木や枝などを入れる。そして火をおこした。

 

「五百年か・・・五百年も経てば文字も変わるよな・・・」

 

タスクがたまたま見つけた缶を拾う。その缶には甘酒と書かれていた。

 

「あんな紙芝居信じてるの?」

 

アンジュは武器の手入れをしていた。

 

「あんな白骨死体見せられたら信じたくもなるよ」

 

「・・・全部作り物かもしれないわよ」

 

「何のためにそんな事を」

 

「知らないわよそんな事!」

 

アンジュが立ち上がった。あれが作り物ならなぜ作ったのか。そんな理由は想像もつかない。ならば作り物ではない可能性の方が高い。そうなるとあのコンピューターの言っている事もアンジュには何故だか真実の用に感じ取れてしまう。

 

「・・・私はこの目で見た物しか信じない!」

 

アンジュはヴィヴィゴンの元へと向かった。

 

「ヴィヴィアン乗せて!」

 

「きゅー(ホイキター)」

 

ヴィヴィゴンは目覚めるなり、アンジュを乗せて探索に出た。

 

空を飛んでいるヴィヴィゴンとアンジュ。

 

(ある訳ないわ!ここが五百年後の未来だなんて・・・そんな馬鹿げた話!)

 

アンジュは自分自身に言い聞かせるように心の中でその言葉を何度も復唱した。

 

一度ヴィヴィゴンとアンジュはタスクの元に帰還した。そこにはメビウスもいた。表情を見る限り成果はなかったらしい。

 

「ちょっとヴィヴィアン。起きてよ。まだ北の方を探索してないのよ」

 

「北ならさっき見てきた。特に収穫はなかったよ」

 

メビウスが残念そうな口調で言う。

 

「ひょっとしたら見落としがあるのかも!私も確かめるわ!ヴィヴィアン。頑張って!」

 

「・・・俺はもう一度探索に出かける」

 

そう言いメビウスは再び探索に出かけた。

 

「ほらヴィヴィアン。メビウスだって頑張ってるのよ。ヴィヴィアンも頑張って」

 

しかしこの世界に来てから既に二度もアンジュを乗せて探索に出ているヴィヴィゴンには疲れが見えていた。そしてそれはアンジュにも、そしてメビウスにも現れていた。

 

「アンジュ。無理させちゃ駄目だよ」

 

タスクがアンジュに近寄る。

 

「起きなさいよ!役立たず!」

 

ヴィヴィゴンが驚き、走り去って行く。

 

「なんて事を言うんだアンジュ」

 

タスクがアンジュの顔を見る。今のアンジュはどう見ても冷静さを欠いている状態であった。

 

「少し休んだ方がいいよ」

 

「休んでどうなるの?こんな訳の分からない世界にいろっていうの!?確かめたいのよ!アルゼナルが!モモカやみんなが無事なのか!・・・あいつらが・・・本当に死んだのか・・・」

 

それを確かめる術は今の彼女にはない。だからといって黙ってじっとしているなどアンジュに出来るはずがない」

 

「貴方だって早く元の世界に戻らないと困るんでしょ!?あの女が待ってるんだし。ね?ヴィルキスの騎士さん」

 

「・・・そうだ。俺は命に代えても君とヴィルキスを必ず連れて帰る」

 

「リベルタスの為に?サリアと同じね。人を利用しようとするあの女ともね。まさにあの女の犬ね」

 

「違う!俺は本当に君を・・・」

 

「・・・帰れないならそれでもいいんじゃない?」

 

「えっ?」

 

タスクが疑問に思う。アンジュは一斗缶の前に座る。

 

「だってあんな最低最悪のゴミ作戦。きっとうまくいかないし」

 

「ゴミ・・・」

 

「だってそうでしょ。世界を壊してノーマ達を解放する。そのためなら何人犠牲を出しても構わないなんて・・・それで何が開放できるのよ。笑っちゃうわね!」

 

タスクの拳に力が入る。

 

「じゃあ俺の両親も・・・ゴミに参加して無駄死にした・・・そういうことか?」

 

アンジュが驚いてタスクの方を見る

 

「俺たち古の民はエンブリヲから世界を解放するためにずっと戦ってきた。父さんと母さんはマナが使えない俺達やノーマ達が生きていけるようにする為に戦い、そして死んだ」

 

「その死んでいった仲間や両親の想いも・・・全部ゴミだというんだな、君は・・・!」

 

タスクが見せた事のない表情でそう言う。その表情はあの時のメビウスに似ていた。自分のせいでココとミランダの二人が死んだ時、メビウスがアンジュに掴みかかった際の表情に似ていた。

 

その目は自分の中にあった大切なものを侮辱された怒りの目だ。

 

タスクは黙って何処かへと去った。その場にはアンジュだけが残された。一斗缶の中から炎が虚しく燃え上がっていた。

 

 

 

 

 

メビウスはあの首都第三シェルターに来ていた。目的はひまわりを起動させることだ。とにかく例のテロ事件についての情報を求めた。些細な事でもいい。なんだっていい。しかし決して色の良い返事は来なかった。

 

ひまわりからの回答で出た答えの情報は、例のテロ事件が謎に包まれているという結果だけであった。

 

最後にひまわりに聞いた質問。それはこの世界の生きている人口数を教えてくれ。ひまわりは相変わらず三人だと答えた。

 

メビウスはそのシェルターから出た。近くのベンチに腰を下ろした。目の前にはフェニックスがある。かつて自分の中に芽生えた、自分の事を知らない事への恐怖。それが再発しかけていた。

 

考えてみればあの形態をメビウス自身全く知らない。前回は初めからあの形態となっていたがあの形態の最初の変化時はヴィルキスに対して襲いかかっていた。そして前回もエンブリヲの機体に突然反応したかと思えば突然反応しなくなった。

 

 

 

「・・・俺は信じてるぜ・・・お前がそんな事に加担してないって・・・きっとあれはブラック・ドグマの仕業だ。きっと機体を似せて作ったんだ。だから気にするなよ・・・気にするな・・・」

 

メビウスは一人呟き続けた。その言葉をフェニックスに、そして自分自身に言い聞かせる為に。自分の中に芽生えた疑問を消すために・・・。

 






こんな風に突然知らない世界に飛ばされたら皆さん怖くて不安ですよね。

私だったらまず食料と水を確保しますね。その次に現地民や第一村人交番や警察署などを探しますね。


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第45話 アンジュとタスク



今回はアニメでのタイトル通りにつけてみました。

タイトルを考えて、1話に纏めると間違いなく量がオーバーするから出来ないのが悔しい。

そろそろここに書くことが枯渇してきた。

でもこれだけは忘れない!

それでは本編の始まりです!



 

 

一夜が明けた。アンジュはあの後タスクと口を

聞いていない。

 

今アンジュは地下街の様な所にいる。

 

(なによ・・・あいつだって・・・)

 

アンジュは回想する。島で股にダイブされたことを。ミスルギ皇国で股に再びダイブされたことを。

 

「タスクのやつ・・・あんなに怒らなくても・・・」

 

その時、目の前の棚で何かが光ったのが見えた。

 

アンジュはそれに近寄ってみる。それはステッカーなどであった。

 

(これ・・・可愛いわね)

 

以前ヴィヴィアンがペロリーナをくれた事を思い出す。今もあれはヴィルキスのコックピット内に飾られている。

 

隣を見てみた。そこにはペンダントがあった。

 

アンジュはそれをじっと見つめていた。

 

 

 

夕方となった。タスクはヴィルキスの整備をあらかた終わらせたらしい。ふと隣を見るとそこには先程まではなかったペンダントがかけられていた。後ろを向いた。そこにはアンジュがいた。

 

「アンジュ?」

 

「いや!その!・・・似合うかなと思って」

 

タスクはそのペンダントを付けた。

 

「ありがとう。疲れたろ?ご飯にでもする?」

 

「あのっ!その。ごめんなさい」

 

「・・・エーー!!君・・・謝れたんだ」

 

「それどういう意味よ!」

 

これまでのアンジュの動向や言動などを見ている人ならこの事に驚くなというのは無理がある。

 

タスクは多少笑った。

 

「俺の方こそ、きつく当たってごめん」

 

ヴィヴィゴンもそこへやって来た。

 

「ヴィヴィアン。昨夜はごめんね。言い過ぎたわ」

 

アンジュはヴィヴィゴンの首元に抱きつく。

 

「・・・ありがとう、ヴィヴィアン」

 

ヴィヴィアンにだけ聞こえる様に小さな声で囁く。

 

次の日。メビウスはタスクの手伝いをしていた。偵察にはアンジュとヴィヴィゴンがしていた。すると突然背中に冷たいものが触れた。メビウスが驚いて飛び上がった。

 

「なんだこれ!?」

 

「あぁ。これは雪だよ。見た事ないのかい?」

 

「記憶にない。初めて見るな」

 

「君のいた世界は温暖な所だったんだね」

 

「・・・どうだったのかな?」

 

そのように他愛もない会話をしているとアンジュとヴィヴィゴンが戻ってきた。二人とも何処か嬉しそうな顔をしていた。

 

「タスク!メビウス!すごいもの見つけちゃった!」

 

アンジュが興奮気味に話しかけてきた。

 

アンジュ達に連れられて機体ごと移動するタスクとメビウス。

 

「メビウス。あなたの機体から電気を貰いたいんだけどいいかしら?」

 

「まぁ構わないぜ」

 

するとアンジュはケーブルなどを接続し始めた。フェニックスのスイッチを押す。

 

すると目の前の看板が突然光り出した。そこにはホテルと書かれていた。

 

「屋根がある!ベットがある!風呂もある!」

 

「奇跡的な保存状態だな」

 

「きっとこの世界で名のある貴族のお城だったに違いないわ!見つけたヴィヴィアンに感謝しないと」

 

「きゅー(それほどでもー)」

 

アンジュが普段は見せないような元気さを見せていた。

 

「私お風呂入ってくる!タスクとメビウスは掃除お願いね」

 

「はいはい。お姫様」

 

そうしてアンジュとヴィヴィゴンはお風呂へと向かった。もっとも、ヴィヴィゴンは体の大きさの問題もあり顔だけしか風呂場に入らなかった。アンジュが顔の辺りを洗ってあげていた。

 

アンジュ達が風呂からあがった後、メビウスとタスクも風呂に入った。幸いな事にヴィヴィゴン以外は部屋にあった服のサイズが合っていたのでよかった。一体何日あのライダースーツを着続けてただろうか。

 

風呂から上がると、アンジュとタスクとメビウスの三人が同じ部屋に集まった。

 

「なぁタスク。聞きたい事があるんだけど」

 

メビウスが改まった面持ちでタスクを見つめた。

 

「エンブリヲって何者だ?お前あいつを知ってるんだろ?」

 

エンブリヲ。ここのところゴタゴタが続いて忘れていたがエンブリヲという人物が何者なのかはアンジュも気になっていた。

 

「・・・エンブリヲ。文明の全てを影から掌握し、世界を束ねる最高指導者。俺たちの倒すべき最凶最悪の敵・・・だった」

 

「だったってどう言う事だ?」

 

「だって500年以上も前の話になっちゃっただろ?」

 

「・・・そうか。また手がかりは無くなっちまったのか」

 

「それって。君の記憶に関する手がかりかい?」

 

「あぁ。俺は一度、いや、二度奴と接触した。最初に接触した時、あいつは俺の事を知っているみたいだった。変な呼び名までよこしやがった。それだけじゃない。エンブリヲはブラック・ドグマと絡んでやがる。ならアイツは今の俺が知らない何かを知っているはずだ。それを確かめたかったな」

 

「でもそれももう500年前の話になっちゃったな」

 

「・・・関係ねぇよ」

 

その言葉にタスク達が驚く。

 

「例え何年経とうが俺は今こうして生きてるじゃねえか。なら自分のすべき事をするだけじゃねえか」

 

「それが記憶を取り戻す事か」

 

「あぁ。もしエンブリヲやブラック・ドグマがいねぇなら、自分の手で記憶を取り戻していけばいいだけだ。俺は後悔しない生き方をするって決めてるんだ」

 

アンジュとタスクは声を出して笑った。

 

「あなた。本当に凄いわね。その前向きすぎる姿勢は本当に敬意を表するわ」

 

「あぁ。俺達も手本にさせて貰うよ」

 

「なんだよ。そんなにおかしな事言ったか?」

 

メビウスももらい笑いをした。

 

「それじゃあ俺はそろそろ寝るか」

 

メビウスが部屋の出口へと向かった。

 

「二人ともお休み」

 

そう言うとメビウスは扉を閉めた。

 

部屋にはアンジュとタスクが残された。

 

「・・・ねぇタスク。ありがとう」

 

「え?」

 

「色々と。・・・沢山のことを知ってるし、冷静だし、優しいし・・・頼りにしてるわ」

 

タスクは照れたようにドライヤーをかけた。

 

「それに比べて私は駄目ね。直ぐに感情的になって。ムキになって。パニックになって。メビウスみたいに今この時も前向きに考えて進んで行く事なんて思いつきもしなかった。ただ周りに当たり散らして」

 

「仕方ないさ。こんな状況じゃ誰だってそうなるさ。皇女様がノーマになって。ドラゴンと戦う兵士になって。とんでもない兵器に乗せられて。そして気がつけば500年以上経った未来だ。メビウスみたいになれなくてもそれは駄目な事なんかじゃないよ」

 

「・・・確かにそうね。色んな事がありすぎたわね。でもね。悪い事ばかりじゃなかった。あなたやヴィヴィアン。メビウスに会えた。色々な事も分かった。様々な生き方も分かった」

 

するとアンジュが意を決したかの用に立ち上がり言った。

 

「・・・決めたわ。今の私の生きる理由。それはね。今の私に出来る事を見つける事よ!」

 

単純な答えたが、それ故に力強く心に響くものがある。そしてその眼差しには今を生きる輝きがあった。

 

「・・・強いんだな。アンジュは・・・」

 

「バカにしてない?」

 

「褒めただけだよ」

 

二人が笑う。

 

「それじゃもう遅い。久しぶりのベットだろ?今日はゆっくりお休み・・・」

 

そう言うとタスクは部屋の出口へと足を進めた。

 

「どこで寝るの?」

 

「廊下で寝るよ」

 

「ここで寝ればいいじゃない。ベットにソファーもあるのよ」

 

「え!?いや・・・それは・・・」

 

「・・・ダメ?」

 

「・・・わかったよ。それじゃあお言葉に甘えて」

 

タスクがソファーへと進んでいった。ソファーに横になる。次の瞬間、そのソファーは解体された。見た目では気づかなかったがかなりボロボロだったらしい。重さでバラバラとなった。

 

「ふふっ。こっち来たら?」

 

アンジュがベットの片方による。それによってもう片方に人一人入れるスペースが出来た。

 

「ええっ!?流石に・・・そこまでは・・・」

 

 

 

 

 

外は雪が降っていた。周辺には光が全く灯されていない。そんな中、唯一光を放っているホテルのネオンサインがまた幻想的であった。

 

先程ソファーが壊れた音でヴィヴィゴンは目が覚めたらしい。そしてその部屋で寝ていたメビウスも目が覚めた。ヴィヴィゴンが隣の部屋の窓からアンジュ達の部屋を除く。メビウスもヴィヴィゴンの頭の上に乗せてもらい、窓から覗いてみる。

 

(うっ、うわぁ)

 

(あいつら。仲良いじゃねえか)

 

二人が見たもの。それは一つのベットでアンジュとタスクが寝ている姿である。

 

あの後結局タスクはアンジュの隣のスペースで寝る事になった。二人はヴィヴィゴン達には気づいていない。

 

「・・・静かね」

 

「うっ・・・うん」

 

「・・・世界には。いや、今この部屋には私達二人だけしかいないから当然なのかな?」

 

「・・・もしかして。これはヴィルキスが許したのかな?私達二人を」

 

「え?」

 

「戦いのない世界へ私達を送ってくれたのかな?」

 

「・・・なんでもない。忘れて。それじゃあお休み」

 

そう言うとアンジュは目を閉じた。寝息が聞こえ始めた。

 

 

 

タスクはアンジュの寝顔を拝むと、布団からこっそり抜け出した。

 

「・・・しないの?」

 

その言葉にタスクが一気に振り返る。起きていたという驚きも大きいがそれ以上にその言葉の意味の方に驚いていた。

 

「いやいやいやいやいや!俺はヴィルキスの騎士だ!君に手を出すなんてそんな!」

 

「もしかして・・・私の事嫌いなの?」

 

「そっ!そんな訳はないだろ!?」

 

「じゃあ・・・なんで?」

 

「・・・それは・・・恐れ多いんだ」

 

「はぁ?」

 

意外な言葉にアンジュが体をおこす。

 

「10年前。いや、正確には548年前のリベルタスが失敗した。右腕を失ったアレクトラは二度とヴィルキスには乗れなくなり、俺の両親や仲間もみんな死んだ・・・俺にはヴィルキスの騎士という使命だけが残された」

 

「でも。俺は怖かった。見たこともあったこともない人の為に戦い死ぬ。そんな使命が。俺は・・・逃げた。あの深い森へと逃げた。戦う理由や生きる理由も見つけられず。ただ逃げた」

 

「そんな時に君と出会った。君は戦った。抗った。小さな体で。目が覚めたんだ。俺何やってるんだろうって。俺はあの時騎士である本当の意味を見つけたんだ。俺は歩き出せたんだ。押し付けられた使命じゃない。自分の意志で。だから俺は君を守れればそれでいいって言うか、その・・・」

 

「ヘタレ・・・・・・でも純粋」

 

アンジュがそう呟く。するとアンジュは上を脱ぎ出した。

 

上を曝け出した状態でタスクの方を向く。

 

「私は・・・血塗れ。人間を殺し、ドラゴンを殺し、実の兄も死に追いやった。私はの体は、血と罪と死に塗れている。あなたに守ってもらう資格なんて・・・」

 

「そんな事はない!

 

タスクがアンジュの肩に手をのせる。

 

「アンジュ!君は綺麗だ!たとえ君が血に塗れていても!俺は君の側にいる!」

 

「暴力的で、気まぐれで、好き嫌いが激しい。それでも?」

 

「それでもだ!」

 

アンジュは笑った。次の瞬間。二人は深くキスをした、

 

そしてその光景は外で見ていたメビウスとヴィヴィゴンも見ていた。

 

二人ともこれ以上見るのはやめようと、部屋へ戻ろうとした。

 

 

 

 

その時だった。メビウスが突然後ろを振り返る。何かが迫ってきている。肌でそう感じ取った。

 

そこにはドラゴンがいた。ガレオン級が一体、アンジュとタスクのいる部屋へと突っ込んだ。

 

窓ガラスが破られ、壁に穴が開く。

 

タスクはアンジュを守った。その結果いつものように股間に顔を埋めていた。

 

アンジュ達も、メビウス達もガレオン級の頭の上を見ていた。そこにはなんと、人が二人乗っていたのだ。

 

「救難信号を出していたのはお前達か?」

 

「なっ!ドラゴン・・・」

 

それを見ていた皆は目の前の人物がドラゴンだと理解できた。

 

「ようこそ偽りの民よ。私達の世界。真実の地球へ」

 

 

 

 





遂にあの人が次回生身で登場します!

これで会話のレパートリーなども増やせますね。

まだ2話しか経ってないのにもうアルゼナルメンバーが昔の事の用に思えてきてしまった。

寂しくて恋しくて


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第46話 竜の民 前編



何気なく投票数を見てみたらそれなりに投票が行われていた事に驚きました。(アンケートの方)

正直一桁程度だと勝手に予想していただけにこの途中結果は嬉しいです。

これからも皆様に楽しんでもらえるような作品を作っていきます。

それでは本編の始まりです。



 

 

現在メビウス達はコンテナである場所へと運ばれていた。

 

ドラゴンが突っ込んできた後、メビウス達はあの二人によって拘束に近い状態となっていた。流石に武器を向けられて、しかもパラメイルなしでガレオン級とはやりあえないため大人しく従っているわけだ。

 

コンテナ内では4人が向かい合っていた。

 

「なぁ。どれくらい運ばれてる?」

 

「10時間は超えたんじゃない?」

 

「うおっ!」

 

コンテナが大きく揺れる。皆なんとかその場に踏みとどまる。

 

「こっちには女の子も乗ってるんだ!もっと丁寧に運んでくれ!」

 

タスクが外に聞こえるように叫ぶ。しかしあまり改善されている感じはない。

 

「全く。なんでこうなったんだろうな。もしあのままドラゴン達さえ来なかったら・・・」

 

「なによ。やらなくて要求不満なの?」

 

タスクの言葉にアンジュが反応する。

 

「いっ!そういう訳じゃ!」

 

その言葉は動揺していると皆に伝わった。

 

「本当にあなたって年中発情期なのね」

 

「違うって!うわっと!」

 

またコンテナが揺れた。そしてタスクの顔がアンジュの股間にダイブされた。

 

「どこに顔を埋めてるのよ!」

 

「不可抗力だろ!」

 

「いつまで発情してるのよ!」

 

「だから違うって!」

 

このような会話がコンテナ内に響いていた。しばらくするとコンテナの揺れが収まった。直前に床が何かにぶつかった感覚があったためおそらくコンテナが降ろされたのだろう。コンテナの扉が開かれた。

 

「ついたわ。でなさい」

 

ホテルの時見た二人組がそう言う。

 

(武器を持ってる二人は今後ナーガ。カナメと呼称する)

 

二人の手には相変わらず武器が握られていた。断ったらどうなるかというのがよくわかる絵面だ。

 

四人は外へと出た。するとそこは先程までいた廃墟ではなかった。なんというか、どこが神秘的な場所であった。

 

「大巫女様がお会いになられる。こちらへ」

 

「きゅー」

 

突然ヴィヴィゴンが鳴き始めた。次の瞬間、ヴィヴィゴンはぐったりと倒れた。体には注射器が刺さっていた。

 

「ヴィヴィアン!?ヴィヴィアンに何をしたの!?」

 

三人が問いかけるが、それに対して二人は武器を構えた。答えるつもりはないという事だろう。ヴィヴィゴンには医者らしき人物達がやってきた。彼女達がヴィヴィゴンを何処かへと運んでいった。

 

「あの子に手荒な真似はしません。それは保証します」

 

カナメがそう言う。そして三人は案内され奥へと進んでいった。

 

「連れてまいりました」

 

アンジュ、タスク、メビウスの三人はある場所へと案内された。そこは薄暗かった。だが所々に行灯が置かれており、それがまたなんともいえなかった。

 

「異界の女。それに男。そして・・・謎の来訪者か」

 

仕切りの裏側にいる人物が呟く。

 

「名は何と申す」

 

「人に名前を聞くなら自分から名乗りなさいよ!」

 

「貴様!大巫女様になんたる無礼!」

 

ナーガとカナメが武器をアンジュに向ける。余程偉い地位にいる存在らしい。タスクが小声で嗜める。

 

「特異点は開かれていない。どうやってこの世界に来た」

 

三人は顔を見合わせて黙り込んだ。

 

「大巫女様の御前なるぞ!答えよ!」

 

「あの機体。あれはお前が乗ってきたのか?あの黒き機体についてもだ。そこにいる二人は本物の男か?なぜシルフィスの娘と一緒にいた・・・」

 

「うるさい!聞くなら一つずつにして!第一ここはどこなのよ!?今はいつ!?あなた達は何者なの!?」

 

アンジュがそう怒鳴る。

 

「貴様!!なんたる無礼!」

 

ナーガとカナメがまた武器を抜いた。メビウスは後ろを見た。いざとなったら彼女達の持ってる武器のどちらかを奪いとって戦う覚悟をした。

 

「威勢の良いことで」

 

仕切りの後ろからある人物が姿を現した。

 

「真祖アウラの一族にしてフレイヤが姫。近衛中将サラマンディーネ。ようこそ、誠なる地球へ。偽りの星の者達」

 

「あなた・・・あの時の!」

 

アンジュは思い出していた。あの時、アルゼナルがドラゴンの大襲撃にあった際、謎の空間で出会った女の事を。目の前の人物はその時の女であった。

 

「知っておるのか?このもの達を?」

 

仕切り越しに大巫女がサラマンディーネに尋ねる。

 

「ええ。先の戦闘で、我が機体と互角に渡り合えたビルキスの乗り手は。そして恐らく、あの黒き機体の乗りてもこちらの方だと思います」

 

そう言いサラマンディーネはメビウスを指差した。

 

「ビルキスの・・・乗り手」

 

「この者は危険です!生かしておいてはなりません!」

 

「処分しなさい!今すぐに!」

 

仕切りの後ろから物騒な発言が聞こえる。

 

「やれば?死刑にされる事には慣れてるわ」

 

「でもね・・・ただで済むとは思わないことね・・・」

 

アンジュは臨戦態勢に入っていた。既にメビウスも武器を奪い取る機会を狙っていた。

 

「お待ちください皆さま。この者はビルキスを動かせる特別な存在です。あの機体の秘密を聞き出すまで生かしておく方が得策かと存じます」

 

「それにあの黒き機体の謎も残っております。どうかこの者達の命、私にお預けください」

 

仕切りの後ろでざわめきが聞こえる。恐らく相談でもしているのだろう。

 

「よかろう。だがその前に謎の来訪者よ。お前はこの場に残れ」

 

仕切りに写し出された影はメビウスを指差していた。

 

「ではこの二人の命は私が預からせて頂きます。あなた達、付いて来てください」

 

そう言いアンジュとタスクを連れてサラマンディーネは部屋を後にした。その後ろからはナーガが付いていった。

 

この場にはメビウスとカナメ。そして大巫女様が残された。

 

「いいですかあなた。あの女の用に大巫女様に無礼な態度をとったら承知しませんよ!」

 

カナメが薙刀をメビウスに向ける。

 

「さてと、謎の来訪者よ。お前には聞きたいことがある。まず謎の来訪者よ。その名をなんと申す」

 

「メビウスだ」

 

「メビウス・・・そなたが黒き機体の乗り手なのか?」

 

「ああ。俺が黒き機体。フェニックスのパイロットだ」

 

大巫女達がざわつき始めたが、やがて静かになった。

 

「あの機体は本当にあの者達のいた世界のものか?」

 

「違う。俺がここに飛ばされる前に居た世界。その世界自体が俺のいた世界ではない。あの機体はその時俺が乗っていた機体だ」

 

「俺は・・・そもそもあいつらのいた世界の人間じゃない」

 

「・・・なるほど・・・この者もサラマンディーネに預けるとする」

 

「かしこまりました。あなた。付いて来なさい」

 

そう言われてメビウスはカナメの後についていった。

 

部屋には大巫女が残された。

 

「あの二人と何か違っていたがまさかそう言う事だは・・・あの者の機体・・・おそらく映像の機体と同じはず。だとしたらあの機体は何百年も前から存在したのか?この世界には無い技術がふんだんに使われている。・・・敵に回すのは危険か・・・」

 

大巫女がボソッと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

メビウスはある部屋へと招かれた。その部屋は和室の用なものであった。そしてそこにはアンジュとタスクもいた。

 

「ご苦労。二人はお下がりください」

 

そう言われると、ナーガとカナメは部屋の外で待機した。

 

「まず言っておきます。あなた方を捕虜として扱うつもりはありません。シルフィスの娘も、治療が終われば直ぐにでも会えますよ。あなた方の機体も、我々が責任を持って修理します。とりあえずこちらへどうぞ」

 

そう言われて三人は部屋のある場所へと来た。そこは茶室であった。サラマンディーネが茶道で茶を淹れる。そしてそれを三人の前にだす。

 

「なんのつもりよ」

 

「長旅でお疲れでしょう。まずは一息つきませんか?」

 

そう言われて三人は出されたお茶を飲んだ。特に毒が入っているとかそういう考えはなかった。

 

「俺はタスク。アンジュの騎士だ。質問してもいいかな?サラマンディーネさん」

 

「なんなりと。タスク殿」

 

「ここは・・・本当に地球なのか?」

 

「ええ」

 

タスクの質問にサラマンディーネは当たり前の様に答える。

 

「じゃあ君達は・・・」

 

「人間です」

 

こちらも当たり前の様に答える。

 

「だけど、地球は俺たちの星で、人間は俺たちだ。だとしたらここは・・・」

 

「まさかドラゴン達って未来から来てたのか!」

 

メビウスが驚いた声で言う。その言葉にサラマンディーネは笑う。

 

「面白い発想ですね。でも違いますよ」

 

「じゃあ一体・・・」

 

「・・・地球が二つあるとしたら?」

 

その言葉に三人が驚く。

 

「並行世界に存在したもう一つの地球。一部の人間達がこの星を捨てて移り住んだ、それがあなた達の地球です」

 

「地球を捨てた・・・なんのために?」

 

タスクが疑問に思う。しかしその答えはタスクやメビウス。そしてアンジュも予想がついていた。

 

「あなた方もあの廃墟で見たのではないのですか?この地球に何が起きたのか・・・」

 

「戦争と汚染・・・そして文明の崩壊・・・」

 

その言葉にタスクとメビウスの顔が曇る。タスクはその言葉の重さに、メビウスはあの映像に映っていたフェニックス。自分の乗っている機体のとっていた行動に。

 

「つまりこういう事でしょ?あんたがいて、地球が二つあるってことは・・・」

 

次の瞬間、アンジュは飲んでいた湯呑みを割った。湯呑みは砕けた。その中の破片を一つ取りサラマンディーネの背後に回り込む。サラマンディーネの首に破片を突きつける。

 

「おいアンジュ!」

 

タスクとメビウスが止めようとする。

 

「私達を元の世界に戻す事も出来るのよね!?」

 

「サラマンディーネ様!」

 

外で待機していたナーガとカナメが駆けつけた。

 

「近づいたら殺すわよ!」

 

「野蛮人め!やはり早々に処分するべきだったか!」

 

「姫様を解放しろ!さもなくばこの者達の命はないぞ!」

 

カナメがタスクを人質に取る。例の薙刀で今アンジュがサラマンディーネにしている事と同じ事をする。人質の取り合いという事だ。

 

メビウスにもナーガが二刀流を向ける。メビウス自身は大人しくしていた。下手に暴れるとタスクの身が危ないからだ。

 

「タスクなら殺しても構わないわ!」

 

「ええっ!?」

 

「タスクは、私の騎士だもの!私を守る為なら喜んで死んでくれるわ!」

 

アンジュがとんでもないことを言い始めた。

 

「・・・帰ってどうするのですか?待っているのは機械に乗って私達を殺す日々。それがそんなに恋しいのですか?」

 

「・・・黙りなさい!」

 

「偽りの地球。偽りの世界。偽りの戦い。あなたは知らなさすぎる。付いて来なさい。貴方に真実をお見せします」

 

そう言うとサラマンディーネは近くに置いてあった刀を取ると立ち上がった。そうして出口へと向かった。その態度は人質にされている感じを全く出していない。

 

「ちょ、ちょっと!人質にしてるのは私よ!」

 

アンジュが慌てて後を追いかける。

 

「それと黒き機体の乗り手。あなたも来てください」

 

「えっ?俺も?」

 

「そうです。ナーガ。カナメ。留守を頼みますよ」

 

「姫様!?」

 

そうしてサラマンディーネとアンジュは部屋を出た。この部屋にはタスク。ナーガとカナメが残された。

 

 

 

部屋を出たアンジュとメビウスとサラマンディーネはドラゴンに乗りある場所へと目指していた。相変わらずアンジュは破片を向けて人質扱いの様にしているがサラマンディーネの方は全く気にしていないらしい。

 

やがてある場所へとたどり着いた。そこは、アンジュとメビウスが外で見た暁ノ御柱に酷似していた。

 

「ここにも・・・暁ノ御柱が」

 

「あなたはここで少し待っていてください」

 

そう言うとサラマンディーネはアンジュを連れて、柱の中へと入っていった。柱の中は外見と同じでボロボロであった。

 

「我々はアウラの塔と呼んでいます。かつてはドラグニウムの制御装置でした」

 

「ドラグニウム?」

 

「ドラグニウム。22世紀末に発見された、大なエネルギーを持つ、超

対象整流子の一種」

 

サラマンディーネは何かを操作していた。それはエレベーターらしくアンジュを乗せてエレベーターは降りていった。

 

「世界を照らすはずだったその光は、直ぐに戦争に投入されました。その結果、環境汚染や民族対立。貧困や格差。どれ一つ解決することなく人類社会は滅んでいきました」

 

「そんな地球に見切りをつけた一部の人間は、新天地を求めて旅だって行きました。そして残された人類は環境汚染された地球で生きていくために、ある一つの決断を下しました」

 

エレベーターが目的地にたどり着く。そこから降りる二人。

 

「自らの体を作り替え、環境に適応すること」

 

「作り替える・・・?」

 

「そうです。遺伝子操作によって、生態系ごと作り替えたのです」

 

二人は立ち止まった。目の前には巨大な空洞が空いていた。

 

「なに・・・ここ?」

 

「ここはかつて、アウラがいた場所です」

 

「アウラ?」

 

「アウラ。汚染された世界に適応するために、自らの体を遺伝子操作した偉大なる祖先。あなた達の言葉で言うなら、最初のドラゴンです」

 

目の前には映像が出されていた。これまでアンジュが戦ってきたどのドラゴンでもなかった。その姿はアンジュにも神々しいと感じ取れた。映像が切り替わった。そこにはドラゴン達が現れた。

 

「私達は、罪深き人類の歴史を受け入れ、贖罪と浄化の為に生きていくことを決めたのです。アウラとともに」

 

サラマンディーネが翼を広げる。そしてアンジュの腕を掴むと空中へと飛び上がった。そこからは様々なものが見えた。

 

「男達はその身を巨大なドラゴンへと変え、その身を世界の浄化の為に捧げました」

 

「浄化?」

 

「ドラグニウムを取り込み、体内で安定化した結晶にしているのです」

 

映像には巨大なドラゴンが何かを取り込んでいるシーンが映し出された。

 

「女達は時に姿を変えて男達と働き、時が来れば子を宿し、育てる。アウラとともに、私達は浄化と再生の道を歩み始めたのです」

 

「そんな事があったのか・・・」

 

「驚かれるのも無理はないでしょう。ですが・・・アウラはもういません」

 

「どうして?」

 

「連れていかれたのです。ドラグニウムを見つけ、ラグナメイルを創り出し、世界を破壊し、そして捨てたエンブリヲによって・・・」

 

「エンブリヲですって!?」

 

「あなた達の世界は、どんな力で動いているか知っていますか?」

 

「マナの力よ」

 

「そのエネルギー源は?」

 

「マナの光は無限に生み出されるものよ・・・まさか!?」

 

アンジュが嫌な予想をする。

 

「そうです。マナの光。理想郷。魔法の世界。それらの全てを支えているのはアウラの持つドラグニウムなのです」

 

「しかしエネルギーはいつかなくなります。補充する必要がある。一体どうやってアウラはドラグニウムを補給していたと思いますか?」

 

「・・・まさか!」

 

再び嫌な予想がついた。

 

「ドラゴンを殺し、体内にある結晶化したドラグニウムを取り出し、アウラに与える。それがあなた達が命懸けでしてきた戦いの本当の意味なのです」

 

「エネルギーを維持するために、私達の仲間は殺されて、その心臓をえぐられ、結晶化したドラグニウムを取り出された」

 

「わかっていただけましたか?偽りの地球。偽りの世界。そして偽りの戦い。その言葉の意味が。それでも、偽りの世界へ帰りますか?」

 

「当然でしょ。あなたの言った話が全て本当だったとしても、私の世界はあったよ!」

 

アンジュは即答した。

 

「仕方ありませんね。あなたを拘束させてもらいます。これ以上私達の仲間を殺させる訳にはまいりません」

 

次の瞬間、サラマンディーネは尻尾を使い、アンジュの持っていた破片を叩き落とした。これでアンジュは丸腰だ。

 

「私としてもあまり暴力的な事はしたくありません。皇女アンジュリーゼ」

 

「なぜ私の名前を!?」

 

「そちらの世界に、私達アウラの民に情報を与えている内通者がいるのです。その名はリィザ・ランドッグ」

 

アンジュは思い出す。ジュリアの近衛長官を務めている女を。

 

「心当たりがあるみたいですね。あなたが考えているその人物も私達と同じアウラの民です。さて・・・」

 

サラマンディーネはアンジュに固め技を放つ。

 

「ご安心を。殺しはしませんよ。あなた方と違って残虐で暴力的ではありませんから」

 

アンジュは意識を失った。

 

「さて。外で待っているもう一人にも話さねばなりませんね。そして聞かねばならぬ事もありますね」

 

サラマンディーネはアンジュを担ぐと外へと目指して行った。

 






サラマンディーネさんが遂に登場です。

最初見た時はなんで翼小さいんだろって疑問に思ってましたけど考えてみればドアとかに引っかかるからとか色々理由は考えられますね。

あとあの娘達みんな露出的な服ですよね。(演出問題ですね)

お気に入り!ご感想!お待ちしております!


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第47話 竜の民 後編



保健体育の授業って男はほとんど笑っちゃいますよね。主に性教育の場面で。たまに先生も笑ってましたね。

今回結構想像力を刺激させる場面?が入ってます。てかこの作品削除されないよね?これで?

まぁ気にしても仕方ない!

それでは本編の始まりです!



 

 

サラマンディーネは意識を失ったアンジュを担いで外へと出た。外ではメビウスが待っていた。

 

「アンジュ!?一体どうした!?」

 

「申し訳ありません。頑固だったので手荒な真似をしました。このかたを医務室へ」

 

サラマンディーネがアンジュをドラゴンに乗せる。ドラゴンはアンジュを乗せて飛んでいった。

 

「さて。まだあなたの名前を聞いてませんでしたね」

 

「俺はメビウスだ」

 

「メビウス殿。あなたにも話さないといけませんね。アンジュと同じように私達の事を」

 

サラマンディーネは話した。メビウスにアンジュに話した内容と同じ事を。

 

「・・・そうか。そんな事があったのか・・・」

 

「わかっていただけましたか?」

 

「・・・一つ聞かせてくれ。なんで俺を呼び出した?その話がしたいたらタスクも連れてくればよかったのに」

 

「タスク殿にも後でお話しするつもりです。あなたにはこちらとしても聞きたい事があります。あの黒き機体についてです」

 

「フェニックスの事か・・・」

 

「やはりあれはフェニックスと言うのですか・・・」

 

「初めてあれを見たときは違和感を感じました。映像と見た目が違うと。しかしあの翼から出ている粒子で映像の機体だと判断しました。あなたがあれの乗り手なのですか?」

 

「あぁ。そうだ。そういえばあなたはあの時のパラメイルのパイロットなんですか?」

 

あの時。アルゼナルにドラゴンの大群が攻めてきた時に現れた謎のパラメイル。その内の指揮官機

【焔龍號】のパイロットだ。

 

「あの時の戦闘は龍神器のテストです。あなた方がアウラ奪還の妨げになると判断しての事です」

 

「テスト・・・一体そのせいで何人死んだと思って・・・」

 

メビウスが怒ろうとするがすぐに怒りは収まってしまう。

 

「・・・俺たちもあんたら人間を山程殺してきたんだ。こんなこと言う資格はないな・・・教えてくれサラマンディーネさん。あんたらは俺達が憎くないのか?あんたらの同胞を殺してきた俺たちが」

 

「・・・人間は過去の罪を受け入れ、許すことが出来るのです。怒りや憎しみだけで戦えば、先祖達の過ちを繰り返すだけです」

 

怒りや憎しみで戦う。それは過ちを繰り返すだけ。

 

アルゼナルが人間に襲われた時の戦闘を思い出す。怒りに任せて自分はネオマキシマ砲を撃った。人間相手には使わないと決めていたあの武器を。廃墟を思い出す。あのシェルターの中で見た白骨死体。それらは戦争が、争いがなければ死ななくて済んだ人達なのか。

 

「・・・強いんですね。あなた達は。俺なんかよりずっと」

 

メビウスがそう呟く。

 

「ではあなたを呼んだ本題へと移ります。あのブラック・ドグマとは一体何ですか?」

 

「あれについてはリィザを通しても全く情報が入りません。唯一わかるのが、ブラック・ドグマの人物が、フェニックス。つまりあなたの機体を狙っている事。これだけがリィザから伝えられました。だからあなたなら彼らの事を知っていると思って」

 

「あの者達はエンブリヲと、いえ、ミスルギと手を組んでいます。それらは私達にも障害となります。

 

「待てよ。なんでミスルギ皇国とブラック・ドグマがあんたらの障害になるんだよ。俺たちは、あんたらが来たら戦ってきたから障害になる判断をつけるのはわかるけど」

 

「・・・アウラが囚われている場所。それはミスルギ皇国。暁ノ御柱なのです。 」

 

暁ノ御柱。確か以前アンジュから少し聞いた事がある程度だった。ミスルギ皇国にあり、アンジュが洗礼の儀を受けた場所。そしてノーマだと発覚した場所だ。

 

「なるほど。そのアウラ奪還の為にはミスルギと戦う事になる。そしてそうなるとミスルギと協力関係にあるブラック・ドグマの存在が邪魔になると・・・」

 

「分かった。ブラック・ドグマについて俺の分かる事を話す。相手に一方的に情報を話させるのは好きじゃない」

 

メビウスは一通りの事を話した。

 

「成る程。あなたのいた世界で戦っていた敵なのですね。どうりでフェニックスの様に武装などがあの世界で見ない物ばかりなわけです」

 

「すまねぇな。ろくな事が分からなくて」

 

「いえ。少しでも多くの情報が手に入っただけでも良いものです」

 

「・・・なぁサラマンディーネさん。地球って二つしかないのか?」

 

メビウスが疑問に思い尋ねる。自分はもしかしたらその二つの地球とは別の地球から来たのではないかと言う疑問が芽生えていたからだ。

 

「少なくても私達は偽りの地球以外の存在は知りません。ですが無いとは言い切れませんね」

 

(平行宇宙の地球か。俺もサラマンディーネさん達みたいにあの世界になんらかの理由があっていったのかな・・・)

 

メビウスが疑問に耽っていた。

 

「そういえばメビウス殿。あなたの機体を調べさせてください」

 

「何言ってるんだよ。機体ならそっちが運んでたんじゃないのかよ。今はそっちが持ってるんだろ?」

 

「フェニックスでしたね。あの機体、どうしても気になる事があるのです。それを調べるために協力してください」

 

「別に構いませんけど」

 

「では参りましょうか」

 

やってきたドラゴンに二人は乗り込んだ。そしてしばらく飛んでいたが、やがて格納庫の様な所に着いた。

 

するとそこにはあのアルゼナル襲撃の際にみた三機の龍神器があった。そしてその隣ではフェニックスやヴィルキスにアーキバス。その他にも組み立て中の機体があった。

 

フェニックスの前へとたどり着く。

 

「あの映像の姿になれますか?」

 

機体に乗り込む。モニターで機体を変化させる。すると機体が光り出し、次の瞬間には例の姿へと変わっていた。

 

「これでいいか?」

 

「ええ。しばらくそのままで」

 

すると整備士なのか。何名かがやってきて機体を調査していた。

 

暫くして下から声が聞こえた。

 

「ありがとうございます。機体を戻しても平気です」

 

メビウスは機体を戻して、サラマンディーネの元へと向かった。

 

「一体何が調べたかったんですか?」

 

「調べた結果、この機体は例の映像に映し出されていた機体と同じ機体であると判断できました」

 

同じ機体。それはつまりこの機体は500年以上昔のこの世界に来ている事を表していた。

 

「・・・フェニックス。お前本当にこの世界であんな事したのか?」

 

メビウスがフェニックスを向く。メビウスの脳内にはあの映像が、ネオマキシマ砲を放つフェニックスの姿が映し出されていた。一体何のためにそんな事をしたのか。その理由がわからないでいた。

 

(・・・わからないなら今後知ればいい。そして知った先でどうするか考えればいい・・・)

 

そう思いメビウスはこの考えを今は打ち切った。

 

「なぁサラマンディーネさん。医務室ってどこだ?アンジュがどうなってるか見てきたいんだけど」

 

「医務室でしたらこの建物の隣ですよ」

 

「ありがとう」

 

メビウスは格納庫を後にした。

 

 

 

 

 

 

「さてと。どうでした?結果は?」

 

サラマンディーネが整備士達に聞いてくる。

 

「やはりこの機体の全てがこの地球。並びに偽りの地球の技術で作られたものではありません。いわばブラックボックスの塊です。技術で龍神器に転用できる物はないです。何より凄いのはエンジンです」

 

フェニックスのエンジン。それは半永久機関である。一度スイッチを入れるとスイッチを切るまでは永久機関として動く機体である。

 

「・・・あの者達をなんとか味方につけられないでしょうか・・・」

 

サラマンディーネはそう呟く。

 

 

 

メビウスは医務室へと来ていた。するとアンジュは既に起きていた。誰かと話をしていた。その人物の後ろ姿はメビウスもよく知っていた。

 

「ヴィヴィアン!?」

 

「おーメビウス! おいーっす」

 

そう。ヴィヴィアンだった。そこにはドラゴン姿ではなく、メビウス達のよく知る姿のヴィヴィアンがいた。

 

「ヴィヴィアン。人間の姿に戻れたのか。良かった・・・でもどうやって?」

 

「ここでクイズです!なぜ人間の姿に戻れたのかわかりますか!?

 

「わかんねぇなぁ。答えは?」

 

「それはね・・・えっと・・・なんだっけ?」

 

「D型因子の配分を調整しました。これでもう。外部からの投薬なしでも人の姿を保てるはずです」

 

「ということでした!」

 

「あなたは?」

 

メビウスは突然現れたその人物に多少驚いた。

 

「私はドクター・ゲッコー。医者です」

 

「メビウスです。ヴィヴィアンの手当てをしてくれてありがとうございます。そういえばアンジュの容体はどうです?」

 

「ねぇあなた?どこか痛いところはない?」

 

ドクター・ゲッコーはアンジュの方を見て尋ねた。

 

「別にどこも」

 

「そう。サラマンディーネ様が手加減してくれたのですね」

 

その言葉にアンジュはどこか悔しそうだった。

 

「タスクなんてめっちゃ心配してたよ」

 

ヴィヴィアンが一言付け加えた。

 

「タスク。そういえばタスクは?」

 

アンジュが気になりそう呟く。

 

 

 

 

 

「たすけてぇー!」

 

医務室にタスクの悲鳴が響き渡った。それは隣の部屋からした。急いで隣の部屋へと駆けつけた。

 

 

 

・・・そこではタスクが全裸でベットに縛り付けられていた。しかもその周りには女性が沢山いた。一言で言うならハーレム状態だ。皆タスクのあるものを見ていた。

 

「ちょっと!タスク!何やってるのよ!」

 

アンジュはタスクを助けようと近づいた。その時だった。アンジュが機材につまづいた。前に倒れこむ。その時タスクの顔がだいぶ緩んだ

 

 

 

・・・普段タスクにされていた事を今度はアンジュがしたと思って貰いたい。しかもアンジュは口を開いて股間に埋め込んだ。・・・アンジュの口の中にあるものが咥え込まれた。何かが口の中に出された。

 

周りの女性達が歓喜の声を上げていた。アンジュが慌てて起き上がる。

 

「なによこれ・・・嘘・・・なんで全裸なの!?私・・・一体!」

 

アンジュが口元を触る。そこには・・・白い・・・液体が付いていた。それは口の・・・中にも・・・あった・・・

 

【ゴクン】

 

アンジュの耳に嫌な音が聞こえた。その音はまるで液体を飲み込んだときのような音である。アンジュは反射的にそれを飲み込んでしまったのだ。

 

「おおっ!グゥレイトォ!」

 

ヴィヴィアンが歓声の声を上げた。

 

「ちっ違うんだアンジュ!これは!」

 

「ご協力感謝しています。ミスタータスク。人型の成人男性の体なんて珍しいですから勉強になりましたわ。【性教育】の」

 

「性教育!!?」

 

「はい」

 

「へぇ・・・人が大変な目に遭っているのに・・・そう」

 

アンジュがつまずいた際に床に落とした機材のうち、ピンセットと羽箒を拾い上げた。一体これで何をどうする気なのだろうか?

 

「やっやめろ・・・アンジュ落ち着いて・・・」

 

「このケダモノォォォ!!!!」

 

次の瞬間、アンジュによるタスクへの折檻が始まった。メビウスは顔に手を当てて呆れていた。

 

【カチャン】

 

「ん?」

 

メビウスの右手首に何か冷たいものが触れた。顔に当てていた手を離してみる。それは手錠であった。その先を見るとそこにはドクター・ガッコーがいた。

 

「すいません。ミスタータスクがあの調子なので。あなたにもご協力願いますメビウスくん。人間の少年というのはこの世界では珍しいので」

 

「え?」

 

言った内容と現在の状況が理解できないでいると左手首にも同じ物をつけられた。

 

「みんなー!今度はこの子を使って授業するわよー!」

 

ドクター・ゲッコーがそう叫んだ。

 

以前ゾーラ隊長がアンジュと取り調べ室でしていた時と同じ様な感覚がメビウスを襲った。この教育に関わると色々とまずいことになると直感で理解した。

 

直ぐに逃げ出そうとした。しかしそれは無駄な努力であった。手錠によって直ぐに引き戻された。

 

「ほらほら。大人しくしてれば気持ちよくしてあげるわよ」

 

ドクターゲッコーがそう言いながら、彼女達と一緒にメビウスをある部屋へと連行した。

 

「やめろはなせ!!服脱がすな!!!」

 

会話から察するに、メビウスは必死に抵抗しているらしい。

 

「ちょっと!尻尾を引っ張らないで!」

 

「この服。ズボンと合体してるみたいね」

 

「嘘!結構大きい!これで普通なの!?」

 

これ以上の描写はR-15であるこの作品の存続に関わるので皆様の素晴らしき想像力でお楽しみください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュはある場所で手を洗っていた。そしてその後そこでうがいもした。

 

「アーンジュ。落ち着いた?」

 

ヴィヴィアンがタオルを差し出した。

 

「私汚れちゃった・・・男って欲求不満ならトカゲでもなんでもいいのね!」

 

憎々しげにタオルを地面に叩きつけた。あの後アンジュはメビウスも同じ目に遭っているのを見ていたからこう思うの仕方ない。

 

余談だがアンジュはこの作品では第8話で既に汚されています。

 

「その様子では、もう平気なようですね」

 

後ろから声がした。振り返るとサラマンディーネがいた。その後ろにはナーガとカナメがいた。もう一名もいた。

 

「ラミア。あの子です。遺伝子照合で確認しました。あなたの娘に間違いありません。行方不明になったシルフィスの一族。あなたの子【ミィ】です」

 

「ミィ・・・本当にミィなの!?良かった!」

 

するとラミアと言われた女性が泣きながらヴィヴィアンに抱きついた。ヴィヴィアン本人は困惑していた。

 

「いや、私はヴィヴィア・・・ん?くんくん?」

 

ヴィヴィアンはその女性の匂いを嗅ぎ始めた。

 

「なんだろうこの匂い?私知ってる!エルシャみたいな匂いがする!あんた誰?」

 

「あなたの・・・お母さんよ・・・」

 

「お母さん。お母さんって何?」

 

「あなたを産んでくれた人よ」

 

ヴィヴィアンの質問にサラマンディーネが答える。

 

「ヴィヴィアンの・・・お母さん」

 

「そうです。彼女は十年前にお母さんを追って、向こうの世界へ迷い込んでしまったのでしょう」

 

「皆、祭りの用意を。祝いましょう。仲間が十年ぶりに帰って来たのですから」

 

そう言うとサラマンディーネは手を合わせた。神にこの幸福を祈る様に・・・

 

夜となった。皆の手には行灯が保たれていた。

 

「殺戮と試練の中、この娘を彼岸より連れ戻してくれた事に感謝します」

 

サラマンディーネは一礼した。そのあと手に持ったその行灯を空へと放った。それに続き皆が行灯を空へと放つ。

 

「アウラよ」

 

「アウラよ!」

 

サラマンディーネの言葉を皆が復唱する。

 

アンジュもこの祭りを見ていた。

 

「不思議な光景だね」

 

後ろを振り返るとタスクとメビウスが来ていた。どちらも服をちゃんと着ていた。

 

アンジュは主にタスクを時々横目でメビウスを睨んだ。

 

「機嫌直しよ。本当に何もしてないんだし・・・

俺の心は君だけのものだ」

 

「体は違うんでしょ?ふん。ばーか」

 

アンジュはそう言うが顔ではどこか照れていた。アンジュが笑う。それにつられてタスクとメビウスも笑う。

 

メビウスは空を見上げた。空には行灯が無数にあった。

 

その光景にメビウスはフェスタの時に見た花火を思い出した。この感覚はあの時の感覚と似ていた。タスクも空を見上げた。

 

「同じ月だ」

 

タスクは月を見ていた。

 

「・・・もう一つの地球・・・か」

 

「未だに夢なのか現実なのかよくわからない。でも一つだけ良かった事がある。ヴィヴィアンが人間で」

 

「これからどうなるの・・・私達・・・こんなもの見せて」

 

「知って欲しかったのです。私達の事を」

 

後ろを振り返る。そこにはナーガとカナメがいた。

 

「そしてあなた達の事を知りたい。それがサラマンディーネ様の願いです」

 

「知ってどうするの?・・・私達はあなた達の仲間をいっぱい殺した・・・あなた達も私達の仲間をいっぱい殺した・・・」

 

「・・・サラマンディーネさんが言ってたぜ。人間は過去の罪を受け入れ、許すことが出来る。もし怒りや憎しみだけで戦えば、かつての過ちを繰り返すだけだって」

 

「メビウス?」

 

「知ったんなら、あとは自分達で考えろって事だろ?」

 

「ええ。きっと姫さまも同じ事を言われますね。どうぞごゆるりとご滞在ください。姫様からの伝言です」

 

そう言うとナーガとカナメの二人は軽く会釈をして、その場を後にした。

 

「ごゆるりと・・・か」

 

「信じるの?」

 

「どうかな?でもヴィヴィアンは楽しそうだよ」

 

ヴィヴィアンは母親と空を見ていた。

 

「・・・帰るべきだろうか・・・アルゼナル。リベルタス。エンブリヲ。・・・もしもう戦わなくてもいいのなら・・・」

 

タスクのその問いかけに三人は何も答えられず、ただ空を見上げていた。

 






やっぱりアニメの一話を二話で纏めて作るとオリジナル会話とかを含めてるとは言え結構な量になってしまいますね。

まぁ一話につき二話三話で収める事を目標として作っています。


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第48話 共鳴戦線



お気に入りが60人突破しました!誠にありがとうございます!

珍しくアニメ一話をこの一話に収められた。

アンジュがサラマンディーネの呼称を間違えるのは本編仕様です。誤植ではないです。

それでは本編の始まりです!




 

 

夜遅く、大巫女はある人物と通話していた。

 

「ではそちらの準備は完了したと言うのか?」

 

「はい。準備は整いました。大巫女様」

 

「よくやった。リィザーディア」

 

そう言い通信を切った。

 

「これは、我らの地球の運命をかけた戦い。アウラと地球に勝利を!」

 

「勝利を!」

 

 

一夜が明けた。メビウス達三人は客間で寝ていた。

 

アンジュが目を覚ますとそこには花がいけられていた。

 

(あなた達を捕虜扱いするつもりはありません)

 

昨日のサラマンディーネの言葉を思い出す。とりあえずアンジュは近くのものに座る。

 

「うおぉ!」

 

座ったものから声がした。驚いて座ったものを見てみる。それは簀巻きにされたタスクであった。

 

「あっ忘れてた」

 

「酷い!君が簀巻きにしたのに!」

 

「だって欲求不満のケダモノと寝るのはねぇ」

 

アンジュは昨日のタスクの出来事を思い出す。タスクは彼女達の【性教育】の協力をしていたのだ。因みにメビウスは今も部屋の床で寝ている。タスクと違い襲ってくる危険はないと判断されたようだ。

 

とりあえずタスクを縛ってる縄を解く。まず上の部分が解けた。真ん中の部分も解こうとする。

 

「!?」

 

アンジュはいやらしい視線を感じた。視線の主を見ると、タスクがアンジュの胸元を見ていた。

 

「どこ見てるのよ!」

 

慌てて胸元を隠す。真ん中の紐も解けたようだ。その時突然タスクがバランスを崩した。アンジュへと倒れ込む。

 

【バタン】

 

その音にメビウスが目を覚ます。さらにそこへサラマンディーネがナーガとカナメを連れて部屋へとやってきた。

 

「おはようございます」

 

・・・今回は股間に顔を埋めてはいなかった。今回はそれが災いした。女は寝巻き。男に至ってはパンツ一丁。最早それをしていると思われても致し方ない。ナーガとカナメは顔を赤らめていたがサラマンディーネだけは冷静であった。

 

「あら?朝の交尾ですか?どうぞごゆっくり」

 

アンジュの顔が一気に赤くなる。タスクを張り手で吹き飛ばすと蹴りを何発も入れた。

 

「食事の用意が出来たのでどうぞ」

 

食堂らしき所にたどり着く。そこにはヴィヴィアンとラミアがいた。二人とも食事をとっていた。

 

ヴィヴィアンは元気よく食事をとっていた。

 

「お二人共、昨日はよく眠れましたか」

 

「いえ。昨日は寝ておりません」

 

どうやらヴィヴィアンはラミアに一夜中アルゼナルでの話をしていたらしい。

そしてそのとなりのテーブルに三人ずつ向かい合う様に座る。目の前には食事があった。

 

「昨日は何も食べてないでしょう?どうぞ」

 

どうやら食事のお誘いらしい。アンジュとタスクが顔を見合わせた。食べて良いのか迷っているらしい。

 

「美味い!これなんて食事ですか!?」

 

アンジュとタスクと違いメビウスはどうぞと言われて直ぐ食事に手をつけていた。彼からしたら食べれる時点でそれはありがたいことなのだ。

 

「ちょっとメビウス!なんであんたはそう無計画で・・・」

 

「アンジュ達も食べろよ。本当に美味いぞ」

 

そう言われて二人も食事に手をつける。

 

「どうです?」

 

「本当だ。美味しい!美味しいですよこの料理!」

 

タスクも料理の味の良さに満足している。アンジュも口では小言を言いつつも悪くない表情で食べていた。

 

 

 

こうして一通り食事が済んだ。六人は外へと出た。

 

「さて。もう茶番はいいでしょ?あなた達の目的を教えて・・・」

 

「・・・腹が減っては戦はできぬと申します。お腹は膨れましたか?」

 

「ええ。まぁ」

 

「では参りましょう」

 

六人は現在ある建物の中にいる。あの後連れてこられた場所がここらしい。

 

「ここどこ?」

 

「ここは、古代の決闘場です」

 

決闘場。名前を聞けばそこはコロッセオの様な所を想像できるがその実態はラ●ンドワンである。

 

「かつてここでは、数多の武士達がその身で競い合ったとされています。その身から血を流しながら闘ったとされています」

 

いやだからラ●ンドワンですから。武士もいなければ血だって流れません。

 

「まさか500年以上前の施設なのか!?すごい保存状態じゃないか」

 

「姫様自らの手で、この決闘場を復元されたのだ」

 

・・・もう決闘場でいいです。

 

「で?ここで何をしようっていうの?」

 

アンジュが本題を聞く。

 

「・・・私達と共に戦いませんか?」

 

「パァ!?」

 

「私達の目的。それは攫われたアウラを助け出し、この世界に安定と調和を取り戻すことです。アウラを奪い、我らの仲間をたくさん殺し、あなた方を戦わせてきた元凶。エンブリヲを倒すことです」

 

エンブリヲという単語に三人が反応する。

 

「この者を打倒すれば、戦いは終わります。私達はアウラを。あなた方は自由を手に入れる事ができます。望みは違えど、目的は同じはずです」

 

「・・・あはははは!何よ。結局あなたも私達を利用しようとしているのね。戦力として。知って欲しかったとか、分かり合いたいとか・・・全部建打算だったのね」

 

「・・・そうです。貴方達は戦力として有能です」

 

「ふざけないで!私はもう誰かに・・・」

 

「誰かに利用されるのはうんざり。そう言うのですね」

 

「そこでこの決闘場に来た訳です」

 

「アンジュ。勝負しませんか?私が勝ったら、三人は私達の所有物となってもらいます。ですがもしあなたが勝ったらあなた達を解放します。それこそ、偽りの世界へ帰すことも」

 

「上等じゃない!やってやるわよ!」

 

こうしてアンジュとサラマンディーネの決闘が始まった。

 

・・・が。場所が場所である。決闘内容はテニスに野球。ゴーカートにゴルフ。卓球にクレーンゲーム。遂には床に描かれた模様を指定された手でペタペタ触るなど、とてもじゃないが血など流れる決闘はなかった。果たしてかつての人間は一体どのようにこれらで血を流したというのだろうか。

 

一通りの決闘が終わり、現在アンジュとサラマンディーネはシャワーを浴びていた。

 

「感服しましたわアンジュ。まさかここまでやるとは」

 

「あなたも結構やるじゃない。サラマンデ」

 

「サラマンディーネです?」

 

「それにしても・・・あの決闘の最中。昔を思いせたわ。エアリアをやっていた頃の昔を」

 

アンジュがまだノーマだと発覚する前、ミスルギ皇国で流行ったスポーツ。アンジュはエアリア部に所属していた頃を懐かしんでいた。

 

「でしたら次はそのエアリアという競技で勝負します?」

 

「・・・無理よ。エアリアは・・・ノーマには出来ないから・・・」

 

エアリアはマナを使う競技である。アンジュはエアリア部にいた頃はモモカさんの手助けがあってエアリアをしていたのだ。もっとも、その頃のアンジュは、自分がノーマなど夢にも思っていなかったが。

 

「ノーマ。マナを持たない、人ならざる者。・・・なんて歪なんでしょう」

 

サラマンディーネがどこか悲しそうに言う。

 

「・・・本来なら、力を持つ者は力を持たざる者を守るべきはずなのに・・・我々はこれまでどんなに苦しい時もアウラと共に学び、考え、そして助け合ってを育ててきました」

 

「・・・あなたはなにも思わないのですか?そんな歪んだ世界を知りながら。知っていますよ。あなたはかつて皇女として、人々を導く立場にいた事を。世界の歪みを直すのも、本来なら指導者の使命なのでは・・・」

 

「勝手な事を言うわね。私は皇女じゃない。指導者とか姉妹とか、そんなものはもう関係ない。大体、歪んだ世界でも満足してる奴がいるんだからいいんじゃない?」

 

「結局の所。世界を変えたいのはあなた達。アウラとかエンブリヲとか、そんなものは私には関係ないわ」

 

「・・・」

 

その時だった。地震のようなものが発生した。

 

「サラマンディーネ様!大変です!」

 

「アンジュ!外の様子がおかしい!」

 

シャワー室にナーガとカナメ。タスクとメビウスが入ってきた。慌ててシャワー室から出て服を着た。六人が屋上へと出た。

 

すると六人の目にはあるものに釘付けとなった。アウラの塔に謎の竜巻が発生していた。都ではヴィヴィアン達住民もそれを見ていた。

 

「あれは!エアリアのスタジアム!?」

 

その竜巻の様なものはエアリアのスタジアムであったのだ。アンジュは理解が追いつかない。

 

竜巻の様なものは徐々にだが広がっていった。それに何名かが飲み込まれた。すると飲み込まれたものが瓦礫に取り込まれた。物理法則などあったものではない。

 

「焔龍號!」

 

サラマンディーネがそう呼ぶと額の宝石が光った。すると焔龍號がその場へと駆けつけた。どうやらあれば機体の遠隔操作可能な装置らしい。

 

「ナーガは三人を安全な場所へ!カナメは大巫女様にこの事をご報告して!アンジュ!勝負の続きはいずれ!」

 

そう言うと焔龍號は飛び立っていった。

 

残った五人はガレオン級に乗り込む。そして宮殿近くへと降り立った。

 

「カナメ!大巫女様への報告後我々も出るぞ!お前達はこちらに・・・おい!あいつらはどこへ行ったら?」

 

ナーガが少し目を離した隙に既に三人はいなくなっていた。

 

三人は格納庫へと向かっていた。それぞれの機体へと乗り込む。

 

「おい貴様ら!何をしている!?」

 

「あの竜巻。どう見てもやばいだろ。なんとか食い止める方法を探してみる!」

 

「食い止めるって・・・どうやって!?」

 

「それを今から探しにいくんだ!」

 

そうして三人は機体を飛ばした。竜巻は尚を勢力を広げていっている。そして時々だが、ミスルギ皇国の風景が見える。一体何故なのか理由はわからない。

 

「ここは危険です!皆は早く神殿へ!」

 

サラマンディーネが皆に避難を促す。皆神殿へと走っていく。

 

後ろからは竜巻も迫ってきていた。途中で竜巻に飲み込まれた者は例外なく瓦礫の中に身体が埋まっていた。瓦礫の下敷きなどではなく、身体が瓦礫に埋もれていた。ある人物は瓦礫から手が伸びてる状態だ。理解が追いつかない。

 

一つ、確実にわかることはそれらに巻き込まれた人達は皆既に生きていないという事だ。

 

 

サラマンディーネは竜巻に攻撃を加える。しかしその攻撃は竜巻には届いていなかった。

 

「そんな・・・どうすれば・・・」

 

「サラマンディーネ。撤退するのじゃ」

 

「大巫女様!?」

 

焔龍號のコックピットに入った大巫女からの通信に驚く。

 

「龍神器はアウラ奪還の中心戦力。万一があってはならぬ」

 

「ですが・・・」

 

「既にリーブの民がそちらに向かっている。後は彼らに任せるのじゃ」

 

「それでは間に合いません!」

 

「撤退せよ」

 

「民を見捨てて逃げることなど!私には!」

 

「これは命令じゃ」

 

大巫女はそう言うと通信を切った。大を活かすために小を切り捨てる。それは戦略的には正しい。だからといってそれで納得するなどサラマンディーネには出来ることではない。

 

その時サラマンディーネ目掛けて瓦礫が飛んできた。今の龍神器はパラメイルのフライトモードと同じ。つまりコックピット部分は剥き出しである。

 

瓦礫が目の前で粉々に砕けた。ヴィルキスが瓦礫を砕いたのだ。

 

「何をぼーっとしてるのよ!サラマンドリル!」

 

「アンジュ!?」

 

その後ろにはアーキバスとフェニックスもいた。

 

「一体なんだよあれ!?」

 

「エンブリヲの仕業だ!」

 

メビウスの質問にタスクが答える。

 

「エンブリヲは、時間と空間を自由に操る事ができる。俺の父さんも仲間も、あれで瓦礫や石に埋められて死んだんだ!あんな風に!」

 

「そんな事ができんのかよあいつ!」

 

目の前の竜巻は勢力をドンドン広げていった。

 

「ヴィヴィアン!?」

 

その時アンジュはモニターで下のヴィヴィアンを見つけた。彼女は瓦礫の下敷きになっているラミアを助けようとしていた。

 

「どうしてこんな危ない事を!?私なら大丈夫なのに」

 

「子供を守るのが・・・母親の役目よ」

 

「ヴィヴィアン!危険だ!逃げるんだ!」

 

タスクもヴィヴィアンに気がつき、機体を降ろす。そしてヴィヴィアンを機体に乗せようとする。しかしヴィヴィアンは動こうとしない。

 

「逃げない!お母さんと一緒じゃなきゃ逃げない!」

 

竜巻がすぐ近くまで迫ってきていた。

 

「アイ・フィールド!展開!!」

 

フェニックスの姿は変化後の姿となっていた。アイ・フィールドを展開して竜巻とぶつかりあっている。

 

「タスク!とっととヴィヴィアンのお母さん助けてやれ!」

 

フェニックスのアイ・フィールドによってたつまきは今は勢力の拡大が抑えられた。しかしそれも時間の問題だ。

 

「なんとかあの竜巻を掻消せ内の!?」

 

皆がその方法を考えていた。

 

「・・・そうだ!あれがあるじゃない!アルゼナルをぶっ飛ばしたあれが!」

 

収斂時空砲。アルゼナルの半分を消しとばした焔龍號の切り札兵器だ。

 

「無理です!都はおろか、神殿もろとも消し飛んでしまいます!」

 

「3割引とかで撃てばいいじゃない!」

 

「そんな調整はできません!」

 

「・・・そうだ!3割引とかで撃たなくてもいい!私があなたの撃ったそれを私ので打ち消せばいいんだわ!あの時みたいに!」

 

「打ち消しあう!?確かにあの時は出来ましたが今回もできるかどうか!大体あれの火力でも掻消せるかどうか!?」

 

竜巻は抑え付けられていた影響かかなり大きくなっていた。

 

「話は聞いたぞ!」

 

ヴィルキスと焔龍號にフェニックスから通信が入った。あの後ラミアを助け出し、今はヴィヴィアンとラミアはアーキバスで神殿に向かっている。

 

「二人の兵器であの竜巻を撃て!打ち消しはフェニックスでやる」

 

「そんな兵器フェニックスに・・・まさか!?」

 

「ネオマキシマ砲を使う!」

 

ネオマキシマ砲。あれはモニターにチャージ状況が表示される。それは威力の調整が出来るという事だ。

 

それにフェニックスのアイ・フィールドは収斂時空砲やヴィルキスの両肩の光をそれぞれ直撃しながらも耐え抜いている。向こうの威力が想定以上でもなんとか防げるのだ。

 

「あの光は世界を滅ぼしたのですよ!?そのような光に頼るわけには」

 

「今は守るための光だ!」

 

「ですが・・・」

 

「あなたお姫様なんでしょ!危機を止めて民を救う!それが人の上に立つものの使命よ!二人の兵士が頑張ってるのにいつまであなたがうじうじとしてるのよ!メビウス!またあの形態になるけど暴走の心配ないわよね!?」

 

「今はあれを止めることだけを考えてる!」

 

「あなた違・・・」

 

この世界の人間ではない。それなのにこの世界の為に今危機と立ち向かっている。その二人の姿が彼女の中の何かを後押しした。

 

「・・・わかりました!アンジュ!行きますよ!

メビウス殿はその場からお願いします!」

 

ヴィルキスと焔龍號が共にある場所へと向かう。その反対側にフェニックスが待機する。

 

「風に飛ばん el ragna 運命と契り交わして」

 

「風に行かん el ragna 轟きし翼」

 

サラマンディーネが歌い始めた。

 

「始まりの光 kilari・・・kirali」

 

「終わりの光 lulala・・・lila」

 

アンジュも永遠語りを歌う。すると二人の機体が変形し金色に輝き出す。両肩が開かれた。

 

「メビウス!準備できたわよ!」

 

その合図と同時にメビウスはモニターを操作する。フェニックスの胸部が開かれ砲身が出てきた。

 

【ピピピピピピピ】

 

「今だ!」

 

三機の機体からそれぞれから光が放たれた。そして竜巻の所で衝突した。衝突の結果ネオマキシマの威力の方が少し高い。ヴィルキス達が押されている。

 

「ヴィルキス!押されてるわよ!あなた世界を滅ぼした機体なんでしょ!気合い入れなさい!」

 

するとアンジュの指輪が光った。

 

先ほどまで押され気味だったのが直ぐに同等の力配分となった。

 

「消え去れぇ!」

 

三機が最後の一押しとして叫ぶ。すると光の強さが三機共に上がった。

 

 

 

竜巻は消えた。あの後直ぐにアンジュがヴィルキスのエンジンを切ったのでヴィルキスは直ぐに元に戻った。そのため例の暴走はしなくて済んだ。

 

都はそれなりの被害を受けた。だが全滅は免れたのだ。

 

「アンジュ。そしてメビウス殿。あなた達の協力で民は救われました。民を代表して感謝します」

 

「別に、友達を助けただけよ」

 

「まさかあの歌に、そしてあの光に助けられるとは」

 

「アンジュ。あなたの歌ったあの歌は、かつてエンブリヲがこの星を滅ぼした歌です。そしてメビウス殿の機体。あの光により、この世界は完全にトドメをさされました」

 

「アンジュ。あなたはあの歌をどこで」

 

「・・・お母さまが教えてくれたのよ。どんな時でも、進むべき道を照らすようにって」

 

「・・・私達と同じですね。私達の歌はアウラによって教えられました」

 

「なんと愚かだったのでしょう・・・あなた達を私の所有物にだなんて。・・・教えられました。自分の未熟さを。皆を護って危機も止める・・・指導者とは、そうあらねばならないのだと」

 

「私もあなたの友達になりたい。共に学び、共に歩く友人に」

 

「そうか。ならよろしく頼むぜサラマンディーネ。後、俺の事はメビウスでいい」

 

「・・・長いのよね。サラマンデンデンって。私はあなたの事をサラコって呼ぶわ」

 

「でしたらあなたの事はアンコと・・・」

 

「それはダメ」

 

サラマンディーネの提案をアンジュは即座に却下した。

 






多分今回くらいですね、一話に収められたのは。

アニメ本編の競技場はどう見てもラ●ンドワンでしたよね。あの支持された手で床の模様を触るゲームってなんでしょう。

最後に一言。アンコはないでしょアンコは。


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第49話 黒き破壊天使



今回の話は前回の話から一日経過しています。

第7章からはここに軽く前話のあらすじでも
書こうか考えています。

そろそろ第6章もクライマックスに入ってきました!

アンケートの回答がまだの人はお早めに!

それでは本編の始まりです!



 

 

「ミスルギ皇国に攻め込む!?」

 

アンジュが驚いた口調で言う。

 

現在アンジュとサラマンディーネは露天風呂に入っていた。

 

そしてサラマンディーネからその事を告げられた。

 

「はい。リィザーディアからの報告で、用意が出来たらしいです」

 

「・・・そんな事を教えてどうするの?まさか戦線に加われと?」

 

アンジュが疑問に思う。そんな事を教える利点など彼女には考え付かないのだ。

 

「あなたはもう自由です。ここに残ることも、あの世界へ帰る事も出来ます。勿論あなたやメビウスが共に戦ってくれるのなら、それはとても心強いですが」

 

「・・・」

 

「今すぐ返事をしろとは言いません。明日の朱雀の核時の際、あなたの意見を聞かせてください」

 

そう言うとサラマンディーネは露天風呂を後にした。アンジュは機体の整備をしていたタスクに露天風呂での事を相談した。

 

「悪くないと思うよ。ドラゴンと共に戦うのも。アウラを奪還すれば、エンブリヲの世界に大ダメージを与えられる。

 

「それでいいのかしら・・・」

 

アンジュはどこか重そうだった。

 

「信じられないのよ」

 

「サラマンディーネさんがかい?」

 

「なにもかもが・・・」

 

「ドラゴンが人類世界に侵攻する敵ってのも嘘。

ノーマの戦いが世界を守るってのも嘘。なにもかも嘘だらけ」

 

「・・・一体何が真実なの・・・」

 

「・・・そんなの誰にもわからないよ」

 

アンジュの疑問にタスクが意外な答えをした。

 

「何が真実。そんなもの誰にもわからない。大事なのは、自分がどうしたいかを自分で考える事なんじゃないかな?」

 

「・・・馬鹿ね。そんな自己中な事できる訳ないでしょ?

 

「そうだよね。ごめん」

 

「でもありがとう。あなたのその能天気な発想には、本当に助けられるわ」

 

「ははっ。お褒めに預かり光栄で・・・」

 

その時タスクの足元に転がっていたドライバーに足を乗せた。タスクがバランスを崩した。前に倒れ込む。アンジュもそれに巻き込まれた。

 

「アンジュ。タスク。お母さんが昨日のお礼をしたいって・・・」

 

ヴィヴィアンとメビウスが二人の元へとやってきた。

 

やはりというべきか、タスクはアンジュの股間にまたもやダイブしていた。ここまでいくと以前アンジュが言っていた病気説も現実味を帯びてくる。

 

「うわぁお。大胆」

 

「お前達・・・」

 

ヴィヴィアンはどこか嬉しそうだった。メビウスは呆れていた。タスクはそこから顔を出そうと必死にもがく。それによってアンジュのアレが刺激されていた。無論アンジュがそんな事をされて何もしない訳がない。

 

「この24時間365日発情期が!!」

 

アンジュはタスクを近くを流れる川へとぶん投げた。因みに高さだが10mくらいあった。タスクの悲鳴と何かが水の中に落ちる音が聞こえた。

 

夜となった。皆アウラ奪還の前夜祭としてとても楽しそうだった。

 

「本当にありがとうございました。都と私達を守っていただいて」

 

ラミアがアンジュとメビウスに礼を言う。昨日の事を言っているのだろう。

 

「そんな。私はサラ・・・サラマンディーネの手伝いをしただけです。」

 

「・・・でも・・・助けてやれなかった命もある・・・」

 

二人が廃墟となった方を見る。

 

「でも。あなた達のおかげで、助けられた命もあります。あまり気に病まないでください」

 

「ありがとうございますラミアさん。そう言ってもらえるだけでも嬉しいです。タスクにもラミアさんが感謝してたと伝えますね」

 

二人はラミアに頭を下げるとバーベキューの料理を皿にのせ、その場を後にした。目的の場所は決まっていた。

 

その場所にはタスクがいた。あの後無事に回収されたらしい。もっとも両腕には包帯が巻かれていた。そのため女の人達から【あーん】で物を食べていた。アンジュがその女の人達を睨む。するとその人達は驚いて逃げていった。

 

「全く。随分と楽しそうね」

 

「いや!アンジュ!違うって!」

 

アンジュは皿から串を取りだした。

 

「はい。あーんして。・・・少しやり過ぎたわ」

 

「ええっ!?」

 

タスクが驚いていた。その串で刺される事を予想していたのにアンジュの口から出された言葉は予想外であった。

 

「なに?私のあーんじゃ食べれないの?」

 

「そんなことないって!食べる食べる!」

 

タスクは思った。これは夢なのか!?しかし食べた肉の熱さに現実だと思う。

 

「アンジュにしてもらうと美味しさは格別だね」

 

「バカ・・・」

 

そして三人は目の前の景色を見ていた。そこは皆幸せそうであった。

 

「・・・ここ。いいところだよな」

 

「ええ。本当にいいところね。辛い事があっても。マナなんてなくても・・・みんな生きてる。力一杯に・・・」

 

するとアンジュはなにかを思い出したみたいな顔をした。

 

「そうか。似てるんだ。アルゼナルに」

 

アンジュはしばらく考えていたがやがて立ち上がった。

 

「私・・・帰るわ。モモカが待ってるから。あなたも私と帰るのよね?私の騎士なんだし」

 

「あぁ。当然だろ?」

 

アンジュは明日。あの世界に帰る事にした。タスクも同じだった。

 

「そう。それがあなたの選択なのですね・・・」

 

するとそこにサラマンディーネ。ナーガとカナメがやってきた。

 

「また。戦う事になるのかもしれないのですね・・・あなた達と」

 

「こいつ!やはり危険だ!拘束すべきです!姫様!」

 

「安心して。私は戦わないわ。あなた達と」

 

その言葉にナーガが驚く。

 

「では。明日開かれる特異点でお戻りになるのですね。なんならナーガとカナメを護衛につけましょうか?」

 

「姫さま!?」

 

「友を信じられない理由などありますか?アンジュ。お達者で。戦いが終わった後は、今度こそ決着をつけましょうね」

 

「ええ。望むところよ。次はカラオケ対決ね」

 

二人は握手をした。

 

「メビウス。あなたはどうされるのですか」

 

「・・・すみません。俺も明日帰らせてください。いいですか?」

 

「ええ。もちろんです」

 

メビウスの答えにアンジュは驚いた。

 

「意外ね。あなたならブラック・ドグマと戦う為に協力すると思ってたわ」

 

「・・・それも考えたけど。やっぱりアルゼナルがどうなったのか。ナオミや皆んながどうなったのかがとても心配なんだ」

 

「仲間を心配する事はとても素晴らしいことです。無事だといいですね」

 

「ありがとう。サラマンディーネ」

 

メビウスは礼を言った。

 

 

 

 

 

 

こうしてアンジュ、タスク、メビウスの三人はヴィヴィアンの家に泊まった。

 

「そうですか。では明日の特異点でお戻りになられるのですね」

 

「ラミアさん。短い間でしたが、お世話になりました」

 

「じゃああたしも準備しなくちゃ!」

 

ヴィヴィアンが張り切りながらそう言った。

 

「でもヴィヴィアン。それでいいのか?」

 

メビウスが疑問に思う。すぐに皆がその言葉意味を理解した。

 

ラミアは杖を使い、その場を離れた。

 

「あっ・・・」

 

ヴィヴィアンが下を向いた。普段見せない表情となった。

 

「ここでクイズです。一体これはなんでしょう?」

 

ヴィヴィアンの真似をしながらラミアが戻ってきた。その手には服があった。

 

「正解は、あなたが小さかった頃の服でした」

 

ヴィヴィアンがその服に近づく。

 

「大きくなったわね。この服なんかもう入らないくらい。色々な人と出会って、沢山の思い出も作ったんでしょ?」

 

「うっうん」

 

「じゃあ帰らなくっちゃね。みんなの所へ」

 

「え!?」

 

「怪我のことなら心配しなくて大丈夫よ。お母さんは強いんだから」

 

「お母さん・・・」

 

ラミアがヴィヴィアンに抱きつく。

 

「帰ってきてくれてありがとう。ミィ。あなたともう一度会えて、本当に嬉しかった。もう一度

【お帰り】って言わせてくれると、嬉しいな」

 

「うん!絶対に【ただいま】しに帰ってくるよ!

 

その光景を三人はただ優しく見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして朝となった。遂に特異点が開かれる日となった。

 

すでに神殿前では沢山のドラゴンが集まっていた。

 

「ビービルの民、シリフィスの民。待機完了」

 

「ジェノムスの民はまだか?」

 

「河を渡るのに、あと数刻かかるようようです」

 

その光景に四人は驚いていた。

 

「ドラゴンのフルコースなりー」

 

「まさに壮観って奴だね」

 

「ここにいましたか、皆さん」

 

四人が振り返るとそこにはナーガとカナメがいた。

 

「ヴィヴィアンさん。姫様から、あなたにお渡ししたいものがあります」

 

すると何かが運ばれてきた。シートを探す。

 

するとそこにはパラメイルがあった。

 

「これ!レイザーだ!」

 

なんとその機体は以前格納庫で見た組み立て中の機体であった。見た目はレイザーそっくりであった。しかし機体性能。武装共にレイザーの比ではないらしい。

 

「名前は永龍號です。帰るときに足がないと困りますよね?これを使ってください」

 

「いいんですか?ヴィヴィアンなら俺が後ろに乗せるのに」

 

タスクが尋ねる。これからアウラ奪還の為に戦うなら戦力は多い方がいいはずだ。

 

「いいのです。この機体には誰も乗り手がいないのです。それならいっそ誰かに与えた方がこの機体も使われて喜ぶでしょう」

 

「ありがとうナーガさん!カナメさん!」

 

ヴィヴィアンがお礼を言う。三人も二人にお礼の言葉を言い頭を下げた。

 

「さて。そろそろ大巫女様の言葉が始まりますね。ではこれで」

 

そう言うと二人は飛んで行った。

 

神殿の上には大巫女様がいた。仕切りなどで隠されておらず、その姿を現している。

 

「誇り高きアウラの民よ。アウラという光を奪われて幾星霜、遂に反撃の時が来た。今こそエンブリヲに我らの力と怒りを知らしめる時。我らアウラの子。たとえ地に堕つるとも、この翼は決して折れぬ!」

 

するとドラゴン達が咆哮した。おそらくその言葉に賛同しているのだろう。

 

「総司令。近衛中将、サラマンディーネである。全軍出撃!」

 

サラマンディーネが焔龍號に乗り込みそう叫び空へと飛ぶ。するとそれに続いてドラゴン達も空へと飛んでゆく。四人も機体に乗り込んで、それに続く。

 

「それにしても嬉しいよ。アンジュに騎士って認められて」

 

「べっ別に・・・そういうわけじゃ」

 

「ねぇねぇ。ドラゴンさん達が勝ったら戦いは終わるんだよね?」

 

「ああ。多分」

 

「そしたら暇になるね!その後どうする?」

 

「そう言うヴィヴィアンは既に何するか決めてるのか?」

 

「もちろんだよメビウス!あたしわね!サリアやみんなを招待するんだ!あたしンちに!タスクは?」

 

「おっ俺か?俺は・・・海辺の小さな町で喫茶店を開くんだ。アンジュと二人で。店の名前は天使の喫茶アンジュ。人気メニューはウミヘビのスープ。二階は自宅で子供は四人いて。それから・・・」

 

・・・色々と突っ込みたいところがあるが今回は自粛しよう。

 

「ヴィヴィアン。タスクを撃ち落として」

 

「合点!」

 

「あっいや。そうじゃなくて・・・穏やかな日々が来ればいい。ただそう思っているだけさ」

 

「メビウス!メビウスはなんかあるの!?」

 

ヴィヴィアンが話題をメビウスに振る。

 

「えっ俺?」

 

「やっぱり自分の記憶や元の世界の帰り方を探すの?」

 

(そうか。でももし記憶を取り戻して、そして元の世界に帰る事になったら・・・みんなと・・・ナオミと一緒にいられなくなるってことか・・・)

 

「・・・ナオミといられなくなるのか・・・」

 

メビウスがボソッと呟いた一言に三人が驚く。通信が入った状態だった事を忘れていたのだ。

 

「メビウス!あんたナオミが好きだったの!?」

 

「えっ!?いや!そういうわけじゃ・・・」

 

「ほほう!これは帰ったらナオミに教えてあげないと!」

 

「そうじゃないって!」

 

「だったらなんでナオミと一緒にいたいのよ」

 

「なんていうか。ナオミといると気持ちが安らぐっていうか・・・なんかこう、言葉で表せないような・・・なんかが心がもやもやするんだよ」

 

「それは恋だね。きっとアンジュと俺みたいに上手く行くよ」

 

「ヴィヴィアン!今すぐ撃ち落として!!」

 

アンジュとメビウスが同時に言う。

 

「ホイキター!」

 

「冗談きついってアンジュ!メビウスも!」

 

「そう言うアンジュはどうなんだ!?暇になったら何かすることでもあるのか!?」

 

メビウスが慌てながらアンジュに問いかける。

 

「わっ私?私は・・・」

 

「特異点。開きます!」

 

その声と共に目の前の空間に穴が空いた。四人は機体を加速させた。

 

(悪くないわね・・・喫茶アンジュ)

 

アンジュは心の何処かでそう思っていた。そして四人は穴を通り抜けた。

 

「ここでクイズです!ここはどこでしょう!?」

 

「わかるぜ。答えは・・・」

 

「そう!この風!この海!正解は私達の世界でした!」

 

「戻ってきたのね。私たち!」

 

四人は嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそんな中、サラマンディーネが何か戸惑っていた。

 

「到着予定座標より北東に48000!?一体どうなっているのですか!?これは!?」

 

「わかりません。たしか特異点はミスルギ上空で開くはずです」

 

その時だった。目の前で突然穴が空いた。そしてそこからグラスターが現れた。

 

「なっ!?ブラック・ドグマ!?」

 

メビウスが驚く。次の瞬間には、それらは一斉にこちらにビーム砲を向けた。

ドラゴン達がシールドの魔法陣を展開する。

 

「ファング!」

 

機体脚部から8つの牙が飛び出した。それらはグラスターだけを目指して飛んで行った。シールドを展開するがそれらはファングの前には無意味なのだ。

 

それらであらかたの敵を片付けた。しかし襲撃があった事に皆不安を隠さないでいた。

 

(・・・こちらがこの世界に来た直後にこの襲撃・・・何か変だ・・・)

 

すると突然ドラゴンの一体に粒子兵器が飛んできた。そのドラゴンは攻撃を防ぐ暇もなく海へと落ちていった。

 

皆攻撃のしてきた方を見た。

 

「あれは・・・」

 

「黒い・・・ヴィルキス・・・」

 

そこにはシェルター内で映し出された絶対兵器【ラグナメイル】が三体いた。その内の青いラインの入った機体が銃口を向けていた。更にそれだけではない。見たことのない機体が一機紛れていた。見た目は黒いため直ぐには気がつかなかったが、映像で見た機体にはなかった。

 

「姫さまこれは!?」

 

「待ち伏せです」

 

「では!リィザーディアの情報は!」

 

「今は敵を倒す事に集中しなさい!」

 

「全機!敵を殲滅するぞ!」

 

龍神器を人型へと変形させる。

 

 

その頃とある部屋ではこの戦闘がモニターに映されていた。そこにはエンブリヲ。そして全裸で吊るされているリィザの姿があった。

 

「どうかな?君の流した情報で、仲間が虐殺されていく様は?リィザ。いや、リィザーディアか」

 

「さて。今は楽しむとするか。君の仲間の死に様を」

 

エンブリヲがモニターに向き直る。

 

 

 

 

 

 

ドラゴン達がラグナメイルの攻撃にバタバタと倒されていく。

 

「右翼!損傷を三割を超えました!戦線を維持できません!」

 

「相手はたったの四機なのですよ!」

 

その内の一機が焔龍號に加速して接近してきた。

 

「早い!」

 

剣が振り下ろされた。そこにフェニックスが割り込む。アイ・フィールドで剣を防ぐ。

 

「メビウス!?」

 

「今のうちに撤退するんだ!」

 

「出来ません!エンブリヲの手からアウラを解放するまでは!」

 

「バカ!サラ子!あなた司令官でしょ!?周りをよく見なさい!こんな状況でアウラを取り戻せると思ってるの!?」

 

アンジュが通信に割り込む。

 

「二人の言う通りだ!今は引いて、戦力をたて直すんだ!勝つ為に!」

 

「勝つ為に・・・全軍!特異点へ撤退せよ!」

 

「撤退までの時間は俺たちが稼ぐ!早く頼むぞ!」

 

ドラゴン達が撤退していく。それらに追撃をかける機体にヴィルキスは銃口を向ける。

 

メビウスはフェニックスを変化させた。映像にない機体と戦闘している。

 

「皆さん。どうかご無事で・・・」

 

ドラゴンが全て撤退したのを確認すると、サラマンディーネ。ナーガ。カナメも特異点へと撤退した。

 

「さてと。残された問題はこいつらか・・・」

 

目の前にラグナメイル三機と謎の機体一機が集まっていた。メビウス達も同じ様に集まっていた。

 

「お前ら一体何者だ!ブラック・ドグマと関係あるのか!?」

 

ここに来た時に突然開いた穴。そこから現れたグラスター。そして今目の前にいる機体。関係ないと思う方が無理である。

 

「・・・久しぶりね。アンジュ。ヴィヴィアン。メビウス」

 

「!?」

 

その声と共にモニターに表示された顔に三人は絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・サリア!?」

 

そう。目の前のラグナメイルの一機にはサリアが乗っていた。

 

「本当にアンジュちゃんにヴィヴィちゃん。メビウス君なの?」

 

「生きてたんだ。あんた達」

 

サリアの代わりにモニターに映し出された者。それはエルシャとクリスであった。

 

「エルシャ!?クリスも!一体どーしたのさ!?」

 

ヴィヴィアンが驚く。

 

「無事だったんだね。メビウス。アンジュ。ヴィヴィアン」

 

「!?」

 

最後にモニターに映し出された者。その顔にメビウスの顔が一気に変わる。

 

「・・・ナ・・・オミ?」

 

謎の機体。その機体にはナオミが搭乗していた。

 

「な・・・一体・・・どうしたんだよ・・・ナオミ・・・サリアに・・・エルシャに・・・クリスも・・・」

 

メビウスが戸惑いつつ声を絞り出す。なぜ四人がこちらに攻撃してきたのか。その答えをサリアが一言、言い放つ。

 

「今の私達はエンブリヲ様の味方になったのよ!!そしてあなた達の敵になったのよ!」

 

 






次回で第6章は最終回です!

前書きでも軽く書きましたが、アンケートに投票していない方はお早めにお願いします!


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第50話 「・・・時は満ちた・・・」



50話突破しました!

今回で第6章は最終回です。

ゲームではなぜかナオミだけエンブリヲ側でもエンブリヲの事呼び捨てにしてましたね。他の呼び方だと被るからかな?

それでは本編の始まりです!



 

 

「エンブリヲに着いたって・・・敵になったって・・・一体どう言うことなの!」

 

アンジュが戸惑いながら叫ぶ。なぜこうなったのか。なぜサリアが、エルシャが、クリスが、ナオミが敵になったのか。皆動揺していた。

 

「アンジュ。言葉通りよ」

 

サリアが冷たく言う。

 

「・・・わかった・・・作戦なんだよな?

エンブリヲ達の情報を引き出すための・・・

もしくは人質か?ヒルダやロザリー。

ゾーラ隊長やみんなを人質に取られたんだろ?そうなんだろ?」

 

「メビウスくん。優しいのね。でも違うのよ。私達は私達の意思でエンブリヲさんの味方になったの」

 

メビウスの考えもエルシャは否定する。

 

「なんでだよ!なんでエンブリヲの味方になんかなったんだよ!」

 

「今の私達はあんたらの敵。だから戦う。それが理由でいいじゃない」

 

「そんな理由でなっとくできるか!だって・・・

仲間じゃないか!仲間に武器なんて向けられる訳ないだろ!?」

 

「メビウスは優しいんだね・・・残酷すぎるくらいに」

 

ナオミがそう言う。その時サリアに通信が入った。

 

「エンブリヲ様?・・・はい。わかりました」

 

サリアが通信に出る。相手はエンブリヲだ。

 

「エンブリヲ様からの命令よ。ヴィルキスとフェニックスを捕獲せよ。パイロットと一緒にね。アンジュ。メビウス。投降しなさい。私達だってあなた達と戦いたくはないわ」

 

「黙って従うと思う?サリア?」

 

アンジュが返す。ここで黙って従うようなアンジュではない。そんな事はサリアにもわかっていた。

 

「あんたならそう言うと思ったわ。でもメビウスはどうかしら?」

 

フェニックスは完全に動きを止めている。

 

「・・・おれは・・・おれは・・・」

 

「メビウス!まさかあなた!」

 

「ナオミ。メビウスは任せるわ。エルシャとクリスはアンジュを捕獲するの手伝って」

 

「イエス。ナイトリーダー!」

 

こうして三人のラグナメイルはヴィルキスめがけて飛びかかった。タスクとヴィヴィアンはアンジュを助けるために戦闘態勢にはいる。

 

アンジュとサリアとの戦闘は互角であった。しかしアンジュが少し押されているのが正解だろうか。

 

「貴女・・・こんなに弱かったんだ。ううん、強くなったのは私。エンブリヲ様のおかげで・・・私は変わったの!」

 

サリアのラグナメイル。クレオパトラがヴィルキスに蹴りを入れる。それによってヴィルキスの体制が崩れる。

 

「今よ!フォーメーション!シャイニングトライアングル!

 

「ださ・・・」

 

「何か言った!?」

 

「別に・・・」

 

「ははっ。了解よ」

 

サリアのフォーメーションネームのあまりの酷さにクリスは呆れ、エルシャも苦笑いをする。ナレーターとしてもよくこんな言葉を通信で送れたものだと思う。捕獲ワイヤーでヴィルキスを拘束する。

 

「くそっ!」

 

ヴィルキスの出力を上げる。しかし機体は動かない。

 

「アンジュ!」

 

タスクとヴィヴィアンでアンジュの元へと駆けつける。

 

 

 

 

 

一方こちらはメビウスとナオミ。

 

「メビウス。一緒にエンブリヲの元に行こう」

 

ナオミの機体がフェニックスに手を差し伸べる。

 

「ナオミ・・・その機体はなんだ・・・」

 

「この機体はザ・ワン。メビウスの機体、フェニックスの兄弟機だよ・・・因みにサリアの機体はクレオパトラ。エルシャはレイジアでクリスはテオドーラだよ」

 

「・・・なんで敵になっちまったんだよ・・・」

 

メビウスが乾いた声で言葉を絞り出す。

 

「・・・私はエンブリヲを信じた。それが理由だよ」

 

「メビウス。あなたの記憶の事はエンブリヲが教えてくれる。だから一緒に行こ?」

 

記憶の事。それはメビウスにとっては探し求めていたものである。

 

それを知れる。その言葉にフェニックスの右手が前に伸びた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間だった。モニターにある文字が表示された。

 

《Destroy Absolute Weapons》

 

次の瞬間には鉤爪からビーム砲が放たれた。

 

「うわっ!」

 

ナオミは慌てて機体を避けさせる。フェニックスはその場から距離を取る。

 

「やめろフェニックス!」

 

メビウスが必至に操縦する。しかし機体は言うことを聞かない。フェニックスはザ・ワンを無視すると、アンジュ達の方へと向かっていった。

 

こちらでは三対三の戦闘が繰り広げられていた。先程ヴィルキスを拘束していたワイヤーはヴィヴィアンの永龍號とタスクのアーキバスによって三つの内既に二つは切られていた。

 

「アンジュ!あんたは必ずエンブリヲ様の元に連れて行く!」

 

「何がエンブリヲ様よ!あんな気持ち悪いナルシストの愛人にでもなったの!?」

 

「なっ!あの方を侮辱する事は許さないわ!」

 

拘束ワイヤーを引っ張る。それによりヴィルキスの移動も止まる。

 

「今よ!もう一度シャイニングトライアングルを!」

 

それによって再びヴィルキスは拘束された。今度は空いている手でタスクとヴィヴィアンの機体に牽制を入れているため二人は助けに入れない。

 

「動きなさいよ!ヴィルキス!」

 

アンジュが必死になって機体を動かそうとする。しかし機体は動かない。

 

「さてと。このままエンブリヲ様の元へ・・・」

 

背後からガトリングが飛んできた。

 

三人が慌てて振り返るとそこにはフェニックスがいた。タスクを除く五人が直ぐに事態の異常性を感じ取った。あの時。ヴィルキスを襲ってきた際と同じく、殺気を放っていた。機体越しでも感じる殺意の波動を。

 

フェニックスはまずテオドーラに襲いかかる。それを助けようとしたレイジアをも巻き込む。ファングが脚部から展開された。それらは二機に襲いかかる。

 

二人ともそれらを撃ち落とそうとビームライフルを撃つ。しかし以前も言ったがファングの小ささに機動力故にそれらは当たらない。ファングが機体に直撃する。

 

機体は破損こそしなかったが、それなりのダメージは入ったらしい。そしてヴィルキスを拘束していたワイヤーもこのとき全て破壊された。

 

「エルシャ!クリス!大丈夫!?」

 

二人を心配するサリアの元にフェニックスが一気に駆け寄る。右手の鉤爪からビームサーベルを取り出し斬りつける。直ぐに機体を上昇させる。しかし予想しているとでも言うのか左腕のガトリングをその移動先に向けて放つ。それによって機体に直撃した。

 

三機のうち全てどれも動きがぎこちない。エンジン系統にトラブルが発生したらしい。

 

「お願いメビウス!やめて!」

 

ザ・ワンが駆けつけた。組みついて機体を止めようと試みる。しかしフェニックスには触れることすら出来ない。周囲にアイ・フィールドが展開されていたのだ。

 

フェニックスがザ・ワンを掴む。そしてスラスター部分を破壊する。そうするとサリア達の所へと投げ捨てた。

 

「やめろフェニックス!」

 

コックピット内ではメビウスが必死に機体を操作しようとする。しかしモニターには例の文字が浮かび上がるだけだ。まるで機体が目の前の敵を完全に破壊しようとでもしているかの様に。

 

《Destroy Absolute Weapons》

 

絶対兵器を破壊する。このモニターに映し出された単語の意味だ。絶対兵器。それはラグナメイルの事である。フェニックスはラグナメイルを破壊しようとしているのだ。メビウスの意思など御構い無しに・・・

 

 

 

胸部が開かれた。そこから砲身が現れる。遂に恐れていた事態まで進んでしまった。モニターにはあの文字が浮かび上がる。

 

《Neo Maxima Gun》

 

【ピピピピピピピピピピピピピピピピ】

 

「やめろ!やめろ!!やめろ!!!」

 

メビウスが必死になって叫ぶ。しかしチャージ音は鳴り止まない。

 

「やめろ!ここでナオミ達を殺したら!俺は一生後悔する!!記憶なんて戻らなくてもいい!!元の世界にだって帰れなくてもいい!だから撃つな!ナオミを!

仲間を殺さないでくれぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

メビウスが半ば泣きながら叫ぶ。チャージが完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・時は満ちた・・・」

 

「えっ?」

 

メビウスの耳に、いや、脳にその言葉が聞こえた。すると突然機体のコントロールが戻った。ネオマキシマ砲はチャージ状態で発射はされていない。

 

すると羽部から放たれていた青い粒子が突然多く噴出された。期待のボディの赤ラインが鮮明に光る。機体全体がが紅くなった。するとフェニックスが輝きだした。モニターには謎の文字が浮かび上がった。

 

《Neo Maxima Over Drive System》

 

「えっ?どうしたの!?ザ・ワン!?」

 

フェニックスの光に答えるかのナオミのザ・ワンもその身から輝きを放ち始めた。二つの輝きがぶつかり合った。周りが目を閉じる。光が落ち着いてきた。

 

 

 

サリア達の目の前からフェニックスは消えていた。それだけではない。ヴィルキスに永龍號。アーキバスも目の前からなくなっていた。この場にはサリア達だけが残された。

 

「なにが・・・おきたの・・・」

 

「フェニックスが突然輝いたわよね?」

 

「私の機体も、それに応じた見たいだった」

 

「四人ともご苦労だった。帰還したまえ」

 

疑問に思っていた所にエンブリヲから通信が入る。

 

「わかりましたエンブリヲ様。全機帰還するわよ」

 

「イエス。ナイトリーダー!」

 

その掛け声と共に四人はその場を離れた。

 

「メビウス。アンジュ。ヴィヴィアン。みんな今度も無事だよね?」

 

ナオミはボソッと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンブリヲは先程の光景を見ていた。

 

「よぉ、旦那。その様子じゃ成功したらしいな」

 

ガーナムが部屋へと入ってくる。

 

「あぁ。やはりザ・ワンを君ではなくナオミに持たせたのは正解だった。それにしてもまさかこのタイミングで・・・しかもアンジュ達も飛んでいくとは・・・やはり今回は一味違うようだね」

 

「そうか。それじゃああんたとも暫くはお別れって事か」

 

「帰るのだね」

 

「あぁ。あいつも目覚めたろう。甘い夢から現実に・・・」

 

「必要なかったが君がボディーガードとして一緒にいた日はそれなりに有意義であった。そのお礼だ。お土産としてあの機体を持っていくがいい。

私の最新作の機体だ」

 

エンブリヲはモニターに映し出された機体を指差した。

 

「よかったぜ。間に合ってくれて。あいつはザ・ワン以上の性能なんだよな?」

 

「いや。調べた結果ザ・ワンはその機体よりも。そして本来フェニックス以上の性能を持っている機体だよ。ナオミはまだ性能を引き出しきれてないだけだよ」

 

「へっ!まぁいい。あの機体はもう嬢ちゃんのものだ。これからどんどん強くなってって貰わないとな・・・んじゃグッバイ。エンブリヲ」

 

ガーナムはそう言うと部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは!?」

 

メビウスは闇の中にいた。此処が何処なのかさえわからない。

 

「・・・・・・」

 

目の前から何かが迫ってきた。それは人だと理解できた。

 

「・・・あなたは?」

 

「・・・・・・・」

 

目の前のそれは何も言わずに黙っていた。しかし

メビウスには目の前のそれに何かを感じ取っていた。

 

「・・・そうか。そういうことか・・・だったら俺は・・・」

 

メビウスはなにかを納得した風に言った。次の瞬間、メビウスの意識は闇の中へと消えていった。

 






第6章はこれで終了です。

アンケートの結果。①が23票でトップでした!

これによりラグナメイルは全部出します!よかったね!ビクトリア!エイレーネ!

第7章はアニメ本編ではなくオリジナルシナリオに突入します!

新しいオリキャラ達がたくさん登場します!

ザ・ワンは今後どのようにして強くなっていくのでしょうか?お楽しみに!


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第7章 新たなる戦い
第51話 跳ばされた先の世界




今回からアニメ本編にはないオリジナルシナリオです!

この章でこれまでの伏線とか可能な限り回収してやります!!

前回のあらすじ!

真実の地球から帰ってきたメビウス達。しかしそんな四人を待っていたのはサリア、エルシャ、クリス、ナオミがエンブリヲ側についたという残酷な現実だった。それぞれが思う中で戦火は切られた。

そんな中、突然フェニックスが光輝きだした。そしてメビウス、アンジュ、タスク、ヴィヴィアンの四人はその光に包まれてサリア達の前から姿を消した。果たして四人はどうなるのか!?

それでは本編の始まりです!



 

 

「うっうう」

 

アンジュが目を覚ます。そこはヴィルキスのコックピット内であった。

 

「私・・・そうだ。確かサリア達に襲われて・・・そしたらフェニックスが光り輝いて・・・」

 

アンジュがモニターで外を見る。すると外は薄暗かった。

 

「ここ・・・どこ?またサラ子達の世界に来たのかな?」

 

しかしサラマンディーネ達の世界とは何かが違う。なんというか、息苦しさを感じる。

 

「そうだ!みんなは!?」

 

薄暗い中光をつけてあたりを見回してみる。するとすぐ近くにタスクのアーキバスとヴィヴィアンの永龍號があった。直ぐにコックピットへと駆け寄る。

 

二人とも意識を失っていた。

 

「タスク!ヴィヴィアンも!起きなさい!」

 

アンジュがそれぞれ体を揺さぶる。すると二人とも目を覚ました。

 

「うっ・・・ここは?」

 

「ここはどこなり?」

 

タスクとヴィヴィアンは周りを見渡した。二人とも直ぐに外の異常を感じ取った。

 

「なんだここは・・・まるで空気が死んでるみたいだ・・・」

 

「確か私達、サリア達と戦ってたのよね?そしたら突然フェニックスの機体が輝きだした。そして気がついたらここに・・・」

 

「そうだ!メビウスは!?」

 

三人は辺りを見渡した。しかし何処にもフェニックス。そしてメビウスはいなかった。

 

「参ったな。以前はヴィルキスだったけど、今回はフェニックスが起こした現象だ。しかもそのフェニックスはおろか、メビウスまでいないとは・・・」

 

「私達、また違う世界に跳ばされたってことね・・・」

 

「・・・とりあえず今は待とう。この薄暗さだ。

下手に探索に出るのは危険だ」

 

タスクの提案に皆納得した。こうして三人は軽くだが機体の整備を始めた。

 

「ねぇアンジュ。なんでサリアやエルシャ。クリスにナオミと戦う事になったのかな・・・」

 

ヴィヴィアンが疑問に思いながらアンジュに尋ねる。普段のテンションは鳴りを潜めていた。

 

「・・・わからないわ。洗脳でもされたのかしら?」

 

アンジュは口では気にしてない風に言うが、内心ではとても疑問に思っていた。なぜ敵になってしまったのか・・・少し前までは仲間だったのに・・・

 

そうして暫く時間が流れた。機体の整備は簡単ながら一通り済んだ。あたりは多少だが明るくなっていた。しかしそれ以上は明るくならなかった。

 

その時だった。

 

「キュュュュュ!!」

 

突然巨大な何かの鳴き声が聞こえてきた。

 

その声の方向を見る。するとそこには恐るべきものがいた。

 

そこにはドラゴンとは違う怪物がいた。その怪物を一言で表すならナメクジの化け物である。50メートルを超える化け物だ。

 

これがドラゴンならまだよかった。ドラゴンは人間だったのでまだ話し合いが通じるはずだった。だが目の前のそれはどう見ても化け物の一言に尽きた。話し合いなど通じない。

 

しかも、それらはこちらに気がつくと攻撃をしてきた。口から液を飛ばしてきた。どう見ても友好的ではない。

 

「話が通じる相手じゃない!パラメイルで応戦するぞ!」

 

三人が機体に乗り込む。そして上昇する。その化け物は両腕が鞭のようになっていた。その鞭を使ってパラメイルを叩き落とそうとする。

 

「あんな鞭に当たったらひとたまりもない!」

 

三機が避ける。皆相手の様子を伺っている。

 

するとそのナメクジの化け物はガスを吐き出した。それにヴィルキスが銃弾を放つ。するとそのガスの様なものは爆発した。

 

「可燃性ガスだと!下手な攻撃はこちらに誘爆するぞ!」

 

「・・・待ってよ。なら!」

 

ヴィルキスで化け物に一気に迫る。口のあたりと思われる部分からガスを放っていた。そこに銃弾を撃ち込む。

 

予想通りであった。例のガスは化け物の体内にあるらしい。そこに火花を少し入れる。すると化け物の体内で爆発を起こした。。化け物の身体が燃え上がった。化け物は苦しみの悲鳴をあげつつやがては息絶えた。

 

「一体なんなのよこいつは・・・」

 

「こんな生き物。見たことも聞いたこともないな・・・」

 

「クイズです!これはどういうことでしょう!答えは・・・私もわかりません!」

 

三人が動揺していた。こんな巨大な生物が存在しているとは。ヴィヴィアンが場を明るくさせようと普段のテンションでクイズを出すが効果は薄い。

 

 

 

 

 

その時である。

 

「まさか諸君らがビーストを退治したのか?」

 

「テメェら!よくもやってくれたな!」

 

「あんた達、いったいなにもの?」

 

その場に三機の機体が現れた。皆姿はパラメイルのアサルトモードに似ていた。そして背中からは粒子が噴出されていた。さらにその背後には謎の機体の部隊もあった。

 

「あなた達こそ!一体何者なの!?名前くらい名乗ったら!?」

 

アンジュが攻撃的に言う。サラマンディーネの時もそうだったが、彼女はこういう時も攻撃的なのは変わってない。

 

「我々はチームトリニティ!」

 

そうなのる連中が声高らかに宣言する。

 

「私がリーダーのレン!」

 

「俺が副リーダーのバンだ!」

 

「あたしはサキだよ!」

 

「トリニティ!?」

 

アンジュ達三人が声を揃えて言う。そのようなチーム名は聞いた事がないのだ。

 

「へっ!生意気だな。これからなますにしてやるよ!」

 

「いつでも戦えるわよ!」

 

「まて。彼らはビーストを倒している。ここは様子を見るべきだ。ツイフォン部隊に相手をさせよう」

 

すると三機の後ろにいた機体が攻撃してきた。

 

「ちょっと待ってくれ!こちらはそちらと戦う意志はない!」

 

「ならば名を名乗れ」

 

「俺はタスクだ!」

 

「私はアンジュよ!」

 

「私ヴィヴィアン」

 

「少し待て。ツイフォン部隊!攻撃を一旦中止せよ!」

 

その掛け声と共に攻撃は一時止んだ。

 

「はい。そうです。・・・はい。わかりました」

 

やがて通信が終わったらしい。レンがアンジュ達に通信を送る。

 

「君達は人類進化連合に属していない。よって君達を敵とみなし全力で排除に当たる!」

 

その声と共にツイフォン部隊が一斉に攻撃を再開した、

 

「へっ!上からの許しが出たぜ!ぶっ殺してやるよ!」

 

「きゃはは!機体は回収させてもらうね」

 

「なによ!こいつら!」

 

黙って殺されるなど真っ平御免だ。アンジュ達が応戦する。しかし少しして直ぐに戦局が悪い事に気がつく。

 

レンと名乗る者が援護砲撃をする。バンと名乗る者が接近戦。サキと名乗る者がサポートをしている。

 

「こいつら!連携してる!乱れを全く感じない!」

 

さらにツイフォン部隊という謎の機体からの攻撃もある。それだけではない。先程の巨大生物との戦闘。さらにはサリア達との戦闘の影響で機体も決して万全ではないのだ。

 

このままではジリ貧となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

突然ツイフォン部隊の一機が爆発を起こした、

 

するとアンジュ達の元に機体が四機集まってきた。

 

「よし!ピンポイントショット成功!」

 

「気を抜くな!敵はまだいるぞ!」

 

そう言う二人の機体から粒子兵器が放たれた。それらはツイフォン部隊の半分を消した。

 

「機械人形が!!」

 

「邪魔をしないでもらうわよ!」

 

そう言う二人の機体は接近戦を挑む。それらはツイフォン部隊を切り裂いた。

 

「ちきしょう!あいつらビースト退治じゃなくてこっちに仕掛けやがった!」

 

「二人とも。こうなると部が悪い。ここは引くぞ」

 

「それじゃあね。バイバーイ」

 

そう言うとトリニティと名乗った三人は撤退した。その場にはアンジュ達と謎の機体四機が残された。

 

「あんたら大丈夫か?」

 

通信が入ってきた。

 

「大丈夫だけど・・・なんなのよ一体」

 

「あいつらはトリニティ。人類進化連合の中でも

幹部クラスのチームだ。あいつらに襲われるとはあんたらついてなかったな」

 

「だがペレドレンの退治は見事だったぜ」

 

「助けてくれてありがとう。ところで君達は何者なんだ?」

 

タスクが疑問に思い聞いてみる。

 

「俺達か?俺達は【ZEUXIS】だ」

 

「ちょっとカイ!素性不明の人にそんなこと言っていいの!?」

 

通信越しで小声で女の人が注意する。しかし通信がオンラインで開かれていたのでアンジュ達にも聞かれていた。

 

「大丈夫だ。こいつらは悪い奴じゃねぇ。なんせビーストを倒したばかりかこちらにちゃんとお礼を言える。そんな奴は悪い奴じゃない。奴らに襲われてたけど少なくてもブラック・ドグマの関係者じゃねえよ」

 

ブラック・ドグマ。その言葉にアンジュ達が反応する。

 

「ブラック・ドグマ!?あなた達ブラック・ドグマを知っているんですか!?」

 

「おいおい。ブラック・ドグマといえばここんところ勢力をのさばらせてきてるじゃねえか。知ってて当然だろ?」

 

三人はある人物の名前を聞く事にした。

 

「あの!メビウスって人知ってます!?」

 

「いや。知らねぇなそんな名前」

 

「そうですか・・・」

 

三人は少しは見えた希望が消された気分になった。

 

「で。どうする?こいつら。放っておくか?」

 

「素性もわからない奴を基地に招く訳にもいかないだろ」

 

そのような会話が通信越しに聞こえてきた。

 

「あの!ならフェニックスって機体を知りませんか!?」

 

このままでは何処かに行かれると考えたタスクが必至に話す事を探すために彼等に尋ねた。すると突然四人の機体が武器を向けてきた。

 

「どこでフェニックスの情報を知った!!」

 

「お前達!シグと知り合いなのか!?」

 

「カイのバカ!なんでそう大事な情報を漏らすの!?」

 

何やら騒ぎながら相談していたが、やがて結論が出たらしい。

 

「すいませんがあなた方三人を拘束。基地まで連行させて頂きます。拒否すれば我々はあなた方を殺します。よろしいですね?」

 

「ちょっと!それが人にものを頼む態度なの!?」

 

「やめろアンジュ!ここは素直に従おう。色々と聞けるかもしれないし・・・」

 

アンジュが怒るが、それをタスクが直ぐに抑えさせる。今回は事態が事態な為に下手な行動はできないのだ。

 

こうしてアンジュとタスクとヴィヴィアンの三人は機体に先導されて四人の基地のある場所へと進んでいった。

 

「クイズです!私達はどうなるでしょうか!?答えは私もわかりません!」

 

ヴィヴィアンが二人を元気づけるように言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの者達・・・まさかフェニックスと一緒に?」

 

「その可能性が高いですね。あの時付近にはフェニックスしかいませんでしたけど」

 

ある場所の基地内では先程の光景が全て見えていた。それについて色々と話し合っている。

 

「・・・もし彼女達がそうならば、我々としても色々と聞きたいことがある」

 

「ネロ艦長!通信です!」

 

「相手は?」

 

「人類進化連合です」

 

「もう嗅ぎつけたか・・・回せ」

 

通信をこちらに回した。モニターには偉そうな男が現れた。

 

「これはこれはZEUXISのネロ艦長。ご機嫌はいかがですか?」

 

「下手な建前は結構だ。本題を話せ」

 

「そちらにフェニックスが戻られたとか。そしてアンノウンの機体三機も鹵獲したとか。これでもう

戦力不足を言い訳にはできませんね」

 

「人類進化連合を代表していいます。ZEUXISの

戦力を直ちに我々人類進化連合に合流させなさい」

 

「断る」

 

ネロ艦長は一言で断った。

 

「ほほう?我々の要求を拒むと?」

 

「我々の相手はビーストです。今回そちらの部隊に攻撃を仕掛けたのはそちらの部隊が暴走していたと判断したまでです」

 

「我々はビーストとも戦っています。お互いで協力しあいませんか?」

 

「ビーストと戦っている?協力しあう?綺麗事はブラック・ドグマとの戦争を終わらせてから言うのだな」

 

「ブラック・ドグマさえ倒せば我々はビースト退治に本腰で挑めます。その為にも早く解決すべきでは?あなた方の兵器で」

 

「話にならん。失礼する」

 

そう言うとネロ艦長は通信を叩き切った。

 

「よろしかったのですか?ネロ艦長」

 

「我々の目的はビースト退治だ。人と戦争することではない」

 

ネロ艦長は吐き捨てる様に言った。

 

「来客のもてなしの準備をしてくれ」

 

ネロ艦長が指示をだした。

 






とりあえず名前などは次回あたりにわかるようにさせたいです。

果たしてこの世界は一体どんな世界なのでしょうか!?

結構オリキャラが増えるのでオリキャラ図鑑をまた作る時が来たのかもしれませんね。


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第52話 ZEUXIS



オリジナルシナリオの目的はこれまで建ててきたフラグの回収。ならびにオリキャラの登場です。この点をお忘れなく。

ちなみに友達に投稿ペース早いなと言われました。これについては、年を越してしまうと個人的な理由で、多分投稿ペースがガタ落ちするのでこのような投稿ペースとなっています。


前回のあらすじ!

フェニックスの光によって飛ばされた四人。しかしそこにメビウスとフェニックスはいなかった。そんな三人に謎の巨大生物。ビーストが襲いかかる。

それを撃破した三人の元にトリニティと名乗る謎の三機が襲いかかる。三機の連携に追い込まれていたが、そこZEUXISと名乗る者達が登場。トリニティを退ける。

友好的に話せる存在が来たと思いタスクはメビウスとフェニックスについて尋ねてみる。しかしフェニックスの単語を聞いた四人は銃をむける。そして基地へと連行されるのだ!

それでは本編の始まりです!




 

 

とある場所へと連行されたアンジュ達。そこは古びたダムであった。するとダムの側面の壁が開かれた。そこから中に入れるらしい。そこに機体を着陸させる。外へと降りる。そこには色々な機体が置かれていた。

 

「どうやら本当に別世界みたいだね・・・」

 

タスクが小声でアンジュに言う。周りの機体の全てがタスクの見た事がないものであった。すると目の前に男がやってきた。

 

「こっちだ。ついてこい」

 

男の一人がそう言いながら、歩いていく。そしてアンジュ達もそれに続く。その背後には銃を突きつけて歩く二人。連行されている感がとてもよく出ている。

 

「アンジュ。君は余計な事は喋らないでくれよ。トラブルの元になるとまずい」

 

「ちょっと!それどういう意味よ!」

 

こうして三人はある部屋へとたどり着いた。中に入る。するとそこには既に一人の男が座っていた。

 

「ご苦労だった。君達は外で待機してくれたまえ」

 

そう言われると道案内と銃を突きつけていた人達は部屋の外へと出て行った。

 

「私がZEUXISのリーダーネロ艦長だ。まず我々より先にビーストを退治してくれた事をZEUXISを代表して感謝させてもらう」

 

ネロ艦長は一礼した。

 

「いえ、あの時は自衛を目的として戦っただけです。それよりネロさん。ここは一体何処なんですか?この世界は一体・・・色々と聞きたい事があります」

 

タスクが質問する。それにネロ艦長はぼそっと呟いた。

 

「やはりフェニックスの転移の影響か・・・」

 

ネロ艦長は三人にコーヒーを淹れた。それを三人の前に差し出す。側にはスティックシュガーとミルクも付いていた。

 

「この様なものしか出せないが、よければ飲みたまえ」

 

「くれるの!?飲む飲む!頂きまーす!」

 

ヴィヴィアンが砂糖とミルクを入れてコーヒーを飲む。アンジュとタスクもコーヒーを飲む。味は美味しかった。淹れた人の腕だろうか?

 

「・・・君達はおそらくフェニックスの転移に巻き込まれて来たのだろう。少なくても君達はこの世界の人間ではない」

 

「・・・これから話す事はおそらく君達の想像を遥かに凌駕しているだろう。だがまずは私の話を落ち着いて聞いてほしい」

 

ネロ艦長が自分のコーヒーを一口飲んだ。そして衝撃の言葉を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず一つ。この世界は君達のいた世界の百年後の未来世界だ」

 

ネロ艦長の言った一言に三人は直ぐには正常な思考ができなかった。だが直ぐにその言葉の意味を理解した。理解して、そして動揺する

 

「・・・・・・はぁ!?未来!?ちょっと!あなた私達をからかってるの!?」

 

「アンジュ!そんな態度じゃ・・・」

 

落ち着いて聞いてほしいと頼まれた直後にアンジュのこの驚きは多少失礼でもあった。だがネロ艦長は半ば予想していた風に溜息をついた。

 

「諸君らが驚くのも無理はない。そんなのは空想の世界の出来事だけだと思うのも。だが君達がフェニックスの転移に巻き込まれたならそう結論させてもらう・・・君達に話そう。この世界に歴史について・・・愚かとしか言えない破滅の歴史について・・・」

 

「破滅の歴史・・・」

 

その言葉に三人が静かにネロ艦長の方を見つめる。

 

「今から百年前。地球はかつてマナの光が溢れていた。それによって人々は幸せであった」

 

「私達のいた世界もマナの光が溢れているわよ」

 

アンジュがそう言う。

 

「やはりまだ君達の世界ではまだマナの光が溢れていたのか・・・」

 

ネロ艦長はどこか驚いた風なそれでいてどこか嬉しそうに言う。

 

マナの光の正体がアウラの力と分かっている三人はそのマナの光には素直に喜べないものがある。

 

「そんなある日だった。突然人々からマナの光が無くなったのだ。ある日突然。一斉に、なんの前触れもなく」

 

三人は驚いた。だが直ぐにある可能性を考えた。

 

(サラ子達。あの後成功したんだ)

 

サラマンディーネがアウラを奪還した。それが成功したと三人は予想した。

 

ネロ艦長は続けた。

 

「人々は恐怖した。自分達が忌み嫌う存在。ノーマに成り果てたのだ。それだけではない。マナに頼りきっていた為に社会は完全に停止した。まさに無政府状態が似合う状態だった・・・」

 

「そんな時だ。人類はある決断をしたのだ。最も愚かで最低の決断を・・・」

 

「ノーマがいないなら作ってしまえばいい。そのような結論が出されたよ」・・・」

 

「・・・まさか!?」

 

タスクが嫌な想像をした。そんな馬鹿なことをするのか!?その疑問が頭をよぎる。

 

「・・・世界は二つの組織に分かれたよ。人類進化連合。そしてブラック・ドグマに・・・二つの組織は戦争を始めた。敗北した国の人間をノーマとして扱うために・・・」

 

「そんな!ノーマを生み出すためだけに戦争をするだなんて!この世界の倫理観は完全に麻痺しているのか!?」

 

「恥ずかしい事にそうなのだ。・・・戦争が始まってからは早いものだ。お互いが新兵器の開発に着手した。撃っては撃ち返し。撃ち返されてはまた撃ち返し・・・それだけではない。ビーストと呼ばれる存在まで現れた」

 

「ビースト。あのナメクジの化け物の様な化け物の事?」

 

「そうだ。あれはペレドレン。あのビーストの呼名だと思ってくれたまえ」

 

「あんなものが突然攻めてきたっていうの・・・」

 

アンジュが驚いた風に言う。あんな生物見たことも聞いたことないため驚くなと言う方が無理である。

 

「あぁ。奴らの目的はただ一つ。人類殲滅だ」

 

ネロ艦長が重く言う。人類殲滅。その物騒な単語に三人が息を呑む。そんな事を考えるのは精々特撮の世界だけかと思っていた。

 

「ですが。それなら人類の危機に共に立ち向かえば・・・」

 

タスクの提案。それは最もなものだ。もし本当に人類殲滅を敵が狙ってるのなら、人類同士が争ってる場合などではない。

 

「・・・それでも人類は戦争をやめなかった」

 

「そんな!人類存亡の危機なんですよね!?」

 

「誠に恥ずかしい事だが、人類に最早その様な考えなど無くなっていた。ただ敵を滅ぼす。本能のままに・・・既に人類はその数の十分の一まで数を減らしている・・・」

 

ネロ艦長がとても悔しそうに言う。

 

「そんな中極秘に組織されたのが我々ZEUXISだ。我々はビースト殲滅を目的とした組織だ。そしてその裏で、とある計画を進めている組織だ。残念ながら計画については今すぐ君達に話せないが」

 

「・・・・・・・・・」

 

三人とも黙っていた。

 

「さて。こちらについての話はこれで終わりだ。質問などはあるかな?・・・それにしても君達、妙に落ち着いているな」

 

「いえ。・・・あまりのスケールの大きさに驚いているんです。僕達は以前にも似たような事態になった事がありました。ただ、その時とは色々と桁違いというか・・・」

 

「全く・・・そんな作り話を信じろと?」

 

アンジュが言い放つ。しかし彼女は以前ジル司令と風呂場で話し合った事を思い出す。あの時と同じ様な気持ちである。目の前の人物が言う言葉の一つ一つが現実味を帯びているのも一緒であった。それ故にアンジュの言葉は決して強いものではなかった。

 

「・・・信じられないのも無理はない。私としてもフェニックスだけが帰還したと考えていたが・・・」

 

ネロ艦長はアンジュの言葉に気分を害した様子はない。

 

「フェニックス。そういえばネロ艦長。僕達の仲間でメビウスって人を知りませんか?」

 

ここで三人は再びメビウスと事を思い出す。フェニックスがこちらにいるならメビウスだっているはずだ。

 

「すまないが我々はメビウスなる人物を知らない。そういえば忘れていた。なぜ百年後かわかるかと言うと・・・」

 

その時だった。扉が開いた。そこにはある人物が入ってきた。

 

「ネロ艦長。ビーストがきます」

 

そこに現れた人物に三人は驚いた。

 

 

 

 

 

「メビウス!?メビウスよね!?」

 

そこにはメビウスがいた。アンジュ達が驚きながら尋ねる。しかし何かが違っていた。その違いはすぐ気がついた。身長だ。身長が明らかに大きくなっている。

 

「・・・・・・」

 

「あなたも無事だったのね。よかった」

 

「誰だお前」

 

その人物はこちらを見ながら冷たく一言言い放つ。その言葉は感情を捨てた機械のような声であった。

 

「私よ。アンジュよ!こっちがタスクでこっちがヴィヴィアンじゃない!」

 

アンジュが必死に説明するがその人物は既にアンジュを見ていない。

 

「わかった。直ぐにスクランブルをかける。シグ。お前もフェニックスで出撃だ」

 

「了解」

 

ネロ艦長に言われシグと言われた人は部屋を後にした。

 

「君達はしばらくここで待機していて貰う。。緊急事態が発生したのでその対処に当たらねばならないのだ。今度はそちらの話をお聞かせ願いたい」

 

そういいネロ艦長は部屋を後にした。

 

「メビウス・・・一体どうしちゃったのよ・・・」

 

部屋に残された三人は皆メビウスの変わりように驚き、困惑していた。サリア達だけでなく、メビウスまで変わってしまった。

 

そしてそれ以上に驚いているのが、ここが未来世界だと言われた事である。そして未来は破滅への道を歩んでいるという事実。

 

「・・・一体どうなるんだ僕達は・・・」

 

タスクが空になったコーヒーカップを覗きながらボソリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

格納庫では既にメンバーの機体が発進体制に突入していた。

 

「マキシマエンジン。臨界点突破!」

 

「ジェネレーターコンタクト。完了」

 

それぞれの機体から粒子が放たれた。次の瞬間には発進許可が降りた。

 

「了解!ZEUXIS!出るぞ!」

 

その一言と共にダムのゲートが開かれた。そしてそこから機体が発進していった。マーカーポイントを目指してしばらく飛んでいた。

 

「よぉシグ。お前向こうの世界でかわい子ちゃんつかまえてたとは」

 

「作戦中だぞ。私語は慎めカイ」

 

「へいへい。わかりましたよ。

 

カイは軽口を叩く。想像できる通り彼はナンパ師だ。この後格納庫で見たアンジュとヴィヴィアンでも口説こうとでも考えているのだろう。

 

(・・・なんだこの感覚・・・俺は・・・あの三人を知っているのか?)

 

シグ自身は心に湧いてきた感覚に困惑していた。

 

彼は気がついたらこちらに戻っていた。確かに機体で百年前に転移したはずなのに気がついたらこちらに戻っていた。

 

それだけではない。彼の機体に関してもなぜか色々と変になっていた。操縦桿ではなくハンドル操作になっている。その操作方法も何故かわかっていた。機体の武器などもなぜか増やされていた。

 

(一体俺は・・・向こうで何をしていたんだ・・・)

 

シグの頭に考えが浮かぶ。しかしそんな考えは直ぐに目の前の敵によって消え失せた。

 

「ビーストと会敵!敵ビーストはフレグロスと確認!アンリとカイでビーストと戦闘!残りは二人の援護にまわれ!」

 

「了解!」

 

隊長の指示の元、機体は戦闘態勢に入る。目の前にはこれまた歪とも言える化け物が存在していた。これがビースト。人類殲滅を目論む存在。果たしてこの世界に昔からいたのか。それとも何者かが創り出したのか・・・

 

目の前のフレグロスは火球を放ってきた。

 

「リフレクター展開!」

 

アンリの乗る機体【ガローラ】は両肩から何かを展開した。それは一見ファングの様にも見えた。しかしそれらは敵に襲い掛かる訳ではなく、火球を防いだ。リフレクター自体には戦闘力はないらしい。フレグロスは尚も火球を放つ。それらも全てリフレクターによって防がれる。

 

「入射角と反射角の設定完了!以後の調整はリアルタイムで行います!」

 

「ナイスだアンリちゃん!後は俺に任せてくれ!」

 

カイの乗る機体【クレセント】が銃を変形させる。それは狙撃銃となった。狙撃ポイントに機体を寝かせる。

 

「よーし。そうきてこうきて・・・」

 

照準をビーストの心臓部に向ける。フレグロスは相変わらず火球を放っておりこちらには気がついていない。照準のロックオンが完了した。

 

「ビンゴ!貰ったぜぇ!!」

 

次の瞬間、狙撃銃からは粒子が放たれた。それはビーストの心臓を貫いた。次の瞬間にはフレグロスの悲鳴とも聞こえる叫びが聞こえた。フレグロスは地面に倒れ、二度と動く事はなかった。

 

「掃討完了。各機基地へと帰還する。シグ。ネロ艦長からの伝言だ。戻ったらあの三人の所へ行けと」

 

「了解」

 

シグはそういうと機体を基地へと戻しに行った。

 

アンジュ達三人はこの光景を部屋のモニターから見ていた。

 

「少なくてもここ、私達のいた世界じゃない事は認めないといけないようね」

 

アンジュが覚悟を決めた風に言う。これからどうなるのか。何が来てもいいように三人は腹を括った。

 






次回あたりにアンジュとオリキャラ達の自己紹介的なことが出来たらいいなぁ。

第7章がどれくらい続くかはまだわかりません!

前書きにも書きましたが今年中に完結を狙ってます。


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第53話 ひとときの協力関係



前回のあらすじ!

とある基地へと連行されたアンジュ、タスク、ヴィヴィアンの三人。そこでネロ艦長から告げられた衝撃の真実。この世界はアンジュ達のいた世界の百年後の未来世界なのだ!

さらにそこにメビウスが現れるが、その人物はメビウスである事を覚えていないようだ!

そんな中アンジュ達はモニター越しでビーストを再び見ることになる。そしてここが自分達のいた世界でない事を再認識するのだった!果たしてどうなるのか!?

それでは本編の始まりです!




 

 

「よぉ、大将。久しぶり。お土産にいい機体貰ってきたぜ」

 

とある場所でガーナムがある人物と話していた。話し相手はガーナムに背を向けている。

 

「とりあえずお帰り。君の労をねぎらわせてもらうよ」

 

「へっ!余計な建前は好きじゃねぇ。で?どうよこっちの戦況は?」

 

「面白いよ。フェニックスが戻ってきた。しかもそれに巻き込まれてか三機もこっちの世界に来たよ」

 

「へっ!あいつも目覚めたようだし。いい機会だ。オニューの機体の性能テストでもしてくるか!そうそう、帰る直前に言ってたけど、エンブリヲのやつがこっちに機体を二つ送ってくるとさ。調整した人等が乗り手だから即戦力にはなるだろって」

 

「ならば到着を楽しみに待つとするよ・・・それにしても、ほどほどにしておくんだね。まだ君の機体も安定はしてないんだろ?」

 

「あぁ。まぁ殺りあえば今後の改善点は見つかるだろうな」

 

そういうとガーナムは部屋を後にした。

 

「全く。本当に彼は野獣だね」

 

部屋に残された男は一人呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュ達三人がモニターで先程の戦闘を見終わった時、ネロ艦長が戻ってきた。

 

「すまない。今回も艦は出撃しなくても良かったようだ」

 

ネロ艦長はそういうと三人の前に座った

 

「ねぇあなた。ここが未来世界って言ったわよね?」

 

アンジュがネロ艦長に尋ねる。

 

「なら私達を元の世界にも返せるわよね?」

 

「無論そのつもりだ」

 

「あら。意外に話がわかるわね」

 

あのような秘密を散々聞かされたのだ。冥土の土産と三人は考えていたらしい。しかしネロ艦長は三人を帰すといった。

 

「だが直ぐには無理だ。フェニックスの整備などもしなければならないからな」

 

ネロ艦長が重く呟く。

 

「・・・わかりました。それではネロ艦長。今度は僕達の知っている情報を話します」

 

タスクが意を決してネロ艦長に話しかける。

 

「タスク!?いいの!?」

 

「ああ。少なくても俺にはこの人の言った言葉に嘘はないと判断した。それにまだネロ艦長には聞きたいことがある。こちらも知っている情報は話すべきだ」

 

「ありがとう。君達の協力に感謝する」

 

ネロ艦長は一礼した。

 

「まずフェニックスについて話します。ほらアンジュ。説明して」

 

「わかったわよ!」

 

ネロ艦長に話した。フェニックスとメビウスについて。

 

「なるほど。つまりシグはそちらの世界ではメビウスを名乗っていたのか・・・」

 

「ええ。もっともメビウス自身は記憶喪失だったわ。自分の記憶を取り戻すことを願ってたわ」

 

「おそらく身長に関しては時間跳躍の影響だろう。シグ。君達がメビウスと呼んだ彼がフェニックスのパイロットだ」

 

「ねぇ。少し聞かせて。メビウスが以前言ってたわブラック・ドグマのガス実験を自ら進んで受けたって。それは本当なの?」

 

「あぁ。シグは計画のためにも自分から実験を受けると志願した」

 

「一体その計画ってなんなの?」

 

「・・・未来を変える事だ」

 

「未来を!?」

 

三人が驚いた口調で聞く。

 

「この世界に既に未来はない。大地は死に、心は荒み。そして人類は廃れていった。恐らくどちらが戦争に勝っても人類は長くは生きられない」

 

「だからフェニックスを過去へと跳ばした。未来を変えるためにフェニックスに搭載されていたシステムを使って」

 

「システム?」

 

「君達に分かるように言うならタイムマシンだ。それが我々の計画だ」

 

「未来にはタイムマシンが存在するのか!?」

 

タスクが驚きながら尋ねる。タイムマシン。まさかそんなものまで存在するとは。

 

「いや。それとは少し違うな。フェニックスに関しては我々としても謎な部分が多い。なんせ我々の独自の装備なども元はフェニックスでそれを使いやすい簡易コンセプトにして作られているのだ」

 

ネロ艦長曰く、フェニックス以外の機体はマキシマエンジンを搭載されているらしい。これらはネオマキシマエンジンと違い半永久機関ではない。所謂低燃費で長持ちするエンジンだ。因みにアイ・フィールド系はこの世界のものらしい。

 

「ですがそれがガス実験とどのような関係が?」

 

「フェニックス一機だけで時間跳躍するはずだった。そのため一対多数の戦闘を考え、超人的な力が必要だった。その為、彼は当時そのようなガスを開発したブラック・ドグマにスパイとして潜り込んで、実験を受けたのだ」

 

その言葉に三人が唖然とする。まさかその様な経緯があったとは。

 

「ネロ艦長。ブラック・ドグマだけど私達の世界にもたまにちょっかい出しているわよ」

 

「なんだと!?・・・まさか奴らは既に時間跳躍を確立させたと言うのか!?」

 

ネロ艦長が驚いて立ち上がる。だが直ぐに冷静になり席に座る。

 

「奴らめ、一体何が目的だ・・・」

 

目的。確かにブラック・ドグマはなんのためにアンジュ達の世界に来たのか。フェニックスの鹵獲だろうか?

 

「・・・ネロ艦長。未来を変えると言いましたが具体的に何をするつもりですか?」

 

タスクが一番の疑問を尋ねてみた。

 

「・・・ミスルギ皇国を調査する。あの国は100年前に滅びたのだ。そしてそれと同じくしてマナの光も消えた。何か関係があるはずだ」

 

「なんですって!?」

 

アンジュが驚き立ち上がる。まさか未来ではミスルギが滅んでいたとは・・・

 

しかし次の言葉にアンジュ達はさらに驚いた。

 

「滅びた原因だけは伝えられてきた。絶対兵器と呼ばれる機体同士がぶつかりあった。その結果、国土全てが焼け野原となったらしい。フェニックスにはその機体の殲滅を目的ともしている」

 

絶対兵器の殲滅。アンジュの中にあったある疑問に答えが出た。なぜフェニックスが突然ヴィルキスに襲いかかったのか。なぜサリア達に襲い掛かったのか。全ては絶対兵器の・・・ラグナメイルの完全破壊が目的だったからだ。

 

アンジュの心の中ではあの映像が浮かび上がる。サラマンディーネ達のいた地球で見た、世界を滅ぼすラグナメイルの映像を。まさかあれがこの世界でも行われていたのか

 

・・・自分はラグナメイル。ヴィルキスの乗り手だ。

 

まさか・・・

 

その考えをアンジュは必死に否定した。きっと何かの間違いだ。

 

「さてと。それでは本題に入ろう。我々はもう一度フェニックスで過去へと遡る計画を立てている。機体の整備を終わらせれば、直ぐにでも準備に取り掛かる。その時に君達も元の世界へと返す事を約束しよう。君達の機体の整備も任せてくれたまえ」

 

「ただ、君達に頼みたいことがある。この世界にいる間だけでいい。我々と共にビーストと戦ってくれないか?」

 

その頼みに三人は驚いた。

 

「もちろん無理強いはせん。しないなら出て行けとも言わん」

 

「だが、君達に知って欲しいのだ。この世界がどうなってしまったのかだけでも・・・」

 

「・・・わかったわ。私としても唯で寝泊まりしようなんて思ってないし。むしろちょうどいいわ。外の世界をこの目で見るいい機会ね」

 

アンジュが返事をする。

 

「それは肯定と捉えて良いのか?」

 

「ええ。ビーストって奴とも戦うわ。タスク達もそうよね?」

 

アンジュがタスク達を見る。

 

「あぁ。俺も見て知って考えたい。本当に未来が破滅しているのか。それを知れる絶好の機会だ。こちらから願いたいくらいだよ」

 

「あたしも!アルゼナルの時と同じ事をするんだよね!?」

 

その言葉に三人がある事を尋ねた。

 

「一つ聞きたいんだけど、そのビーストって元は人間でしたとかそんな訳ないわよね?」

 

「奴らは人間などではない。それだけは断言しよう」

 

「・・・わかったわ。あなたを信じるわ」

 

ドラゴンの一件もあり、三人とも不安であったが、ネロ艦長の放った一言により安心した。嘘をついたり隠したりしてる様子はない。

 

「ネロ艦長。お呼びですか?」

 

そこにシグがやってきた。先程の戦闘後、部屋に呼び出されていたからだ。

 

「シグか。丁度いい。この三人が元の世界に帰るまでの間、我々の協力者となった。ほかのメンバーに面通しをしてほしい」

 

「了解。三人ともこい」

 

こうしてアンジュ達はシグの後をついていった。

 

格納庫へとやってきた。シグが何かを鳴らした。するとそこに四人が集まった。

 

「よぉシグ。何の用だ?」

 

「元の世界に帰るまでらしいが、この三人が協力者となった。その面通しだ」

 

「そういう事か。俺はカイ。【クレセント】のパイロットだ。よろしくなかわい子ちゃん達。男の方もよろしくな」

 

「カイ。悪い癖が出てるわよ。私はアンリ。

【ガローラ】のパイロットよ。三人ともよろしくね」

 

「俺はアクロ。【ジョーカー】のパイロットだ。主に接近戦をメインとしている」

 

「私がこの部隊の隊長、ワイズナーだ。機体名称は【ビショップ】短い間だがよろしく頼む」

 

「私はアンジュ。あの機体のパイロットよ」

 

ラグナメイルであるヴィルキスの名称は伏せる事にしたようだ。

 

「俺はタスク。アンジュの騎士でアーキバスの乗り手だ」

 

「私ヴィヴィアン!機体名は永龍號!」

 

一通りの通しが終わったと判断するとシグはその場を去ろうとした。

 

「まてシグ。お前の紹介がまだじゃないのか?」

 

ワイズナーが呼び止める。

 

「馴れ合いをする気はない」

 

「短い間とはいえ彼女達は既にチームメイトだ。

自己紹介くらいはしろ」

 

「・・・シグ。【フェニックス】のパイロットだ」

 

そう言うとシグは一人通路へと歩いて行った。その場には7人が残された。

 

「気を悪くしないでくれ。

彼は少し回りとのコミュニケーションが苦手なんだ」

 

ワイズナーが謝罪する。

 

「そうそう。優しさがないっていうか、任務に忠実って言うか。何考えてるのかあまりわからないんだよな」

 

「やめろカイ」

 

「あの。コミュニケーションが苦手って事は、シグに昔にトラウマとか何かあったんですか?」

 

タスクが尋ねた。するとその場のメンバーが皆固まった。

 

「・・・君達にはビーストについて説明しよう。アンリ、三人に説明を」

 

「わかりました。これまで遭遇したビーストの種類について教えます」

 

タスクの質問に答える気は無いと言う事だ。

 

その後はビーストについて色々と聞かされた。その後は資料も手渡された。そしてアンリが三人を部屋へと案内した。部屋の扉の前に辿り着いた。

 

「すいませんが三人部屋として使ってください」

 

そう言うとアンリは通路の奥へと消えていった。三人は部屋の扉を開ける。中は三人程度なら問題ない広さだった。

 

三人とも椅子に腰掛ける。そしてビーストや今後の事を考える。

 

「・・・なぁ。シグはやはり、メビウスなのかな?」

 

「・・・あれが本当のメビウスなのかしら・・・」

 

「・・・・・・・・・グ〜〜〜〜」

 

三人が考えていたが、やがて腹が鳴った。

 

「今は考えても仕方ないわね。とりあえず食堂にでも行きましょ」

 

そうして三人は食堂を探し始めた。食堂は案外直ぐに見つかった。中へと入るとそこは多少賑わっていた。食券をもらい、食事を貰う。そして席を取ると、食事をとった。

 

「・・・なんていうか」

 

「なんだろねーこれ?」

 

「味がないな」

 

食事は不味いものではなかった。だが味がしない。全く。

 

「これがここでの食事だ」

 

背後から声がした。振り返るとそこにはシグがいた。シグは目の前の席に腰かけた。

 

「お前達がどんな食事をしていたかは知らんがこの世界では生きる栄養を補給するために食事をする」

 

「・・・戦争中だもんな。仕方ないよ」

 

タスクが一人呟いた。

 

「よぉシグ。まさか俺より先に口説きか?」

 

シグの隣にカイが座った。

 

「お前と一緒にするな」

 

「全く。三人のいた世界ではこれよりうまい食事が食えてたか?」

 

「まぁ。少なくても味はあったわね」

 

「かーっ!シグ!お前そんなの食えてたのに忘れたのか!?」

 

「・・・」

 

カイの軽口も今のシグには届いていなかった。

 

シグは内心ではとても困惑していた。何故自分は三人に話しかけたのか。記憶にないのに・・・そして三人はシグの事を知っているみたいだった。

 

その時シグが突然立ち上がった。

 

「・・・来る」

 

「何!?まじか!」

 

するとカイは食事をそのままにある場所へと走っていった。

 

「・・・戦闘準備をしておけ」

 

そう言いシグもその場を後にした。三人は驚いていた。一体何が来るのか・・・

 

しばらくすると警報が鳴り響いた。

 

「ビースト反応を確認!ビースト反応を確認!」

 

三人は直ぐに機体のデッキに向かった。そこには既に五人が揃っていた。

 

「各員!ビーストとの戦闘だ!しかも今回の場所はブラック・ドグマの領地内だ!ブラック・ドグマとの戦闘も予想される!各機厳重に注意せよ!」

 

ワイズナーが他の隊員達に言うと、アンジュ達は機体に乗り込んだ。ダムのゲートが開かれた。そこから機体が飛び立つ。

 

しばらく飛んでいると目の前にはこれまた不気味で歪な化け物がいた。見た目を一言で言うなら巨大な花に体がついた。そう表現できる見た目をしていた。

 

「ビーストと会敵!敵ビーストはフレラシアと確認!アンジュ!タスク!ヴィヴィアン!三人は危険と判断したら直ぐに後退せよ!各機!戦闘態勢!」

 

ワイズナーの掛け声の元、皆機体を変形させた。

 

その時だった。突然粒子兵器が飛んできた。ビーストからではない。

 

その方角を見るとそこにはグラスター達がいた。グラスターだけではない。見たことのない機体が一機いた、

 

「よぉ、メビウス。いや、シグか。やっとお前と殺しあえるなぁ。以前言った通りオニューの機体

【ジュダ】だ」

 

ガーナムの乗ってきた新たな機体。それを自慢する。

 

「ブラック・ドグマ!我々は君達と戦う意思はない!君達もビースト殲滅に協力を・・・」

 

「任務の障害と判断。排除する」

 

ワイズナーの説得を待たずにシグはただそう言うとブラック・ドグマに戦闘を挑んだ。

 

フェニックスとジュダが戦闘を始める。戦闘ではフェニックスは押され気味であった。

 

「へっ!どうした?機体を変化させないのか?」

 

「・・・」

 

「相変わらずつれないなぁ〜。俺たちゃ楽しく殺し合いしてるんだぜ。もっと楽しくおしゃべりしようぜぇ?」

 

「お前達を早く倒しフレラシアを殲滅する。それが俺の任務だ」

 

「そうそう!その冷たい言葉の裏に隠された殺意!!俺が望んでたのはこういう戦闘だぁ!」

 

フェニックスはバーグラーセットの弾薬のありったけを撃つ。しかしジュダの持つビームライフルはそれらを全て叩き落とした。

 

「おいおいどうした!?機体の整備不足かぁ!?」

 

(・・・おかしい。出力が上がらない・・・」

 

シグは焦っていた。機体の出力が以前よりあがっていないのだ。

 

「へっ!今度はこっちの番だな!」

 

ジュダがサーベルを取り出した。それはこちらのアイ・フィールドを切り裂いた。

 

「ぐっ!」

 

その時だった。フレラシアがこちらに攻撃してきた。花弁らしき所から花粉を吐き出す。その花粉は高熱で物体に触れると激しく燃えるらしい。

 

二人は反射的にその花粉を避けた。

 

「この!仲良く遊んでる邪魔しやがっ・・・」

 

一言の軽口が原因でジュダはフェニックスに一気に組みつかれた。

 

「このまま殺してやる」

 

フェニックスがサーベルを振りかざす。

 

「へっ!甘えぞ!おら!ファング!」

 

するとジュダの脚部から牙が飛び出した。それらはフェニックスのファングと同じであった。次の瞬間にはフェニックス目掛けて襲いかかってきた。ジュダから離れて、それらを必死で回避する。しかし徐々に追い込まれていった。

 

「おら!貰った!」

 

ジュダがサーベルを振りかざした。それは機体の右腕を斬り落とした。

 

「まぁ機体はまぁ直せばいいか。んじゃ、死ね」

 

ガーナムのサーベルがコックピットに突き刺さりそうになった時だ。

 

突然ジュダに向けられて閃光が放たれた。慌てて辺りを見渡してみる。見るとクレセントが狙撃していた。

 

「シグ!大丈夫か!?」

 

「ちぃ!邪魔しやがって!・・・まぁいい。機体の今後の改善点は知れたんだ。邪魔も入ったし今日はお開きかな?あれには巻き込まれたくないし。んじゃ、精々ビースト退治に精を出しな」

 

そういうとガーナムは何処かへと去って行った。

 

「シグ。ビーストとの戦いに復帰しろ。これは命令だ」

 

ワイズナーからの通信が入った。

 

「了解」

 

フェニックスは片腕を失いつつも、ファングなどがある。まだ戦っていけるのだ。

 

フレラシアは例の花粉を撒き散らしていた。

 

「アイ・フィールド展開!」

 

アクロが機体のアイ・フィールドを展開させる。花粉はフィールドに弾かれた。ジョーカーは一気に接近した。そして棒を取り出した。そこから粒子が放たれて形を形成した。それは鎌となった。

 

鎌となったそれでフレラシアの頭を斬り落とした。そこから花粉が大量に噴出された。

 

「全員退避!」

 

花粉は辺りに飛び散った。次の瞬間辺り一帯は爆発の嵐となった。

 

地面は焦げていた。

 

「殲滅完了。これより帰還する。

シグ、お前には後で話がある」

 

ワイズナーがそう言うと、全機基地へと帰還した。

 

「アンジュ。タスク。ヴィヴィアン。これが我々の戦いだ」

 

「・・・」

 

「三人とも?」

 

「・・・こんな奴らと戦ってたのね」

 

「あぁ。これが我々の敵だ」

 

「・・・メビウス。あなたのいた世界はゴミ溜めでは無いのかもしれないけど、地獄ではあるみたいね・・・」

 

以前した、反省房でのメビウスとの会話をアンジュは思い出した。

 

 





今日遊園地でジェットコースター乗ってきました。

あれまじで椅子から少し身体が浮いて怖かった。安全バーの安全性がどれほどのものかよくわかった。

パラメイルとかは実際どんな感覚なんだろ?エアリア言われてもわからん。



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第54話 予期せぬ者との再会



今回!あの二機が!そしてブラック・ドグマの新型量産機が登場します!

途中が少し雑な気がしなくもない・・・

前回のあらすじ!

元の世界に帰るまでの間、ZEUXISと協力関係を結んだアンジュ達。しかしアンジュ達の知るメビウスはそこにはいなかった。

そんな中ビーストが出現。それらの殲滅に当たるZEUXISの前に新型をこしらえたガーナムが現れる。シグは任務遂行の邪魔と判断して戦闘を挑むも手も足も出ない状況となった。

そんな中ビーストの殲滅は完了。ガーナムもカイの横槍により帰って行ったのだ。

なんとか脅威は去ったが、シグとワイズナーの間で一悶着が起こりそうな雰囲気となってしまった。

それでは本編の始まりです!



 

 

「やぁ。ジュダの調子はまだ完璧じゃなかったんだね」

 

「あぁ。まぁ初回はあんなもんだろ」

 

ある部屋でガーナムは男と先程の戦闘の会話をしていた。

 

「そうそう。例の贈り物が来たよ。ラグナメイル

二機だ」

 

「そいつはいい。パイロットもあのエンブリヲが

調整した奴らしいな。さぞ使えるエリート様なんだろうな」

 

「とりあえずは模擬戦のテストで様子を見させてもらう。もし実戦に対応できるなら直ぐにでも出そうとも考えよう」

 

「まぁいい。俺はジュダの今後の強化案でも考えておくか」

 

ガーナムはそういうとその部屋を後にした。

 

「・・・さてと。この二人・・・成る程。面白くなりそうだね・・・」

 

男はそう言うと机の上に置いてあったパイロットの資料に目を向け、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらはZEUXISの基地内。あの後全員が基地へと帰還した。帰還するなりシグとワイズナーの睨み合いが始まった。

 

「シグ。なぜあの時ブラック・ドグマに応戦した?」

 

「任務の障害を排除しようとしただけだ」

 

「我々はビーストと戦う事が目的だ。人と殺し合いをする事が目的ではない。わかっているな?」

 

「・・・分かっています」

 

「・・・今回の件は目を瞑ろう。だが今後軽率な

行動は慎め」

 

「了解」

 

そう言うとシグは一人何処かへと去っていった。

 

「失礼ですが、シグはなんかブラック・ドグマにとても強い何かを抱いているのか?」

 

タスクが疑問に思い尋ねる。

 

「・・・シグがいない今だから答えよう。その通りだ。そしてこれから話す事はシグにとってはタブーだ」

 

「まず一つ。シグは孤児だ」

 

孤児。それはみなしごの事だ。アンジュ達のいた世界では孤児など精々アルゼナルのノーマ達くらいである。

 

「この世界では孤児は珍しくない。シグはその中で孤児グループのリーダー的存在だった。街に出ては万引きや窃盗など常習犯だ。今日を生きる飯の為に」

 

「だがある時、孤児達の根城がビーストに襲撃された。そしてその根城のある場所はブラック・ドグマの基地にも近かった」

 

「なんとなくよめたわ。ブラック・ドグマはシグ達を助けず見殺しにしたって事ね」

 

アンジュが言う。ワイズナーは特に肯定も否定もせずに続けた。

 

「・・・我々が駆けつけた時にはあたりには無残な人の死体が散らばっていた。唯一生き残っていたシグを我々が機体と一緒に保護したのだ」

 

「機体?フェニックスの事ですか?子供だったのにもう機体を持ってたって・・・どういう事だ?」

 

タスクが疑問に思い尋ねた。

 

「・・・シグは物心ついた時には機体と一緒にいたらしい。その機体で、度々ビーストを追い払っていたらしい。だがその時のビーストの出現は、シグがいない時に現れたのだ」

 

「もしかして、シグの過去について答えたくなかったのはこれが理由だからですか?」

 

「あぁ。シグはこの一件以来人が変わってしまったのだ・・・孤児達といた頃は優しくて仲間思いな子だったらしいが。我々がもう少し早く気付けていれば・・・」

 

ワイズナーかそう呟く。その言葉はワイズナー自身を戒める様だった。

 

「それにしても気がついたら機体と一緒か・・・

やはりフェニックスの出自は謎って事ですか?」

 

「ああ。シグの両親がシグの為に作ったと考えれば平和的かな?」

 

「・・・少しはシグについて知れました。ありがどうございます」

 

「三人とも。この話をシグにはしないでくれ」

 

「分かっています。それでは」

 

そう言うと三人は自室へと向かった。

 

部屋に着いた。

 

皆が部屋につくと緊張が解けたのか安堵の息が漏れた。少なくてもここは安全だという事を改めて認識できた。

 

「うわっ!もうこんな時間!私もう寝なきゃ!」

 

ヴィヴィアンが何気なく時計を見ると既に夜の9時を回っていた。

 

「そうだね。それじゃあアンジュとヴィヴィアンが同じベッドで。俺はこのベットを使うよ」

 

三人はこうしてベットに横になった。しかし直ぐに眠れるものなど誰もいなかった。

 

(・・・未来世界・・・それにメビウスも・・・一体なんでこんな事に・・・)

 

皆その事を考えていたが、これまでの疲れのせいか、やがて自然と意識が溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして日付はあっという間に過ぎていった。一週間程度経っただろう。ビーストに関してはあの後一日一体程度が現れていた。一度だけ人類進化連合がちょっかいを出して来たが、それらも難なく追い払う。

 

ここでの生活は自然と慣れた。なぜならアルゼナルに似ているからだ。周りの雰囲気が。

 

そんなある日食堂で、シグは一人食事を取っていた。

 

その目の前の席にアンジュが座る。シグ自身気にもせず食事を摂っていた。

 

「ねぇシグ。一つ聞いてもいい?」

 

アンジュがシグが一通り食べ終わると話を切り出す。

 

「なんだ」

 

「以前シグはビーストの出現を予想したみたいだけどどうやったの?」

 

「俺はかつてビーストの肉を食べた事がある。その影響でビースト振動波を生身で感じられるからだ」

 

何気なく疑問に思って聞いた質問に何気なく返された答え。

 

その答えにアンジュは驚く。ビーストの肉を食べた・・・何故そんなことをしたのか聞こうとしたが、恐らく生きる為と返されるとアンジュは予想した。

 

これ以上この話題に踏み込むのはやめようと判断して話題を変えようとする。

 

「ねぇ。シグはなんで未来を変えたいの?」

 

「・・・それが俺の生きる理由だからだ」

 

「本当に?」

 

「本当だ」

 

「・・・それだけなの?」

 

「何?」

 

「生きる理由を言い訳に誤魔化してるんじゃない?素直に人を助けたいって言えばいいのに・・・」

 

「・・・それは俺がそちらの世界に飛ばされていた時の俺で判断したのか」

 

「・・・そう・・・シグの記憶にないかもしれないけど、あなた・・・とても優しかったのよ」

 

「メビウスを名乗っていたという時か?」

 

「えぇ」

 

「・・・」

 

するとシグが突然立ち上がった。

 

「来る・・・」

 

すると警報が鳴り出した。アンジュはビーストだと理解した。直ぐにパイロットスーツに着替えて格納庫へと向かう。格納庫では既にメンバーが集まっていた。

 

「揃ったか。本日もビーストの殲滅が目的だ。今回の出現ポイントは少し遠い。さらにこの付近てまはブラック・ドグマの動きも活発化している。

 

シグ。忘れるな。我々はビーストの殲滅が目的だという事を」

 

「了解」

 

発進ゲートが開かれた。各機が発進した。

 

マーカーに記されたポイントたどり着いた。そこで異変に気がついた。

 

「そろそろビーストと会敵するはずだが・・・」

 

「ビーストの姿・・・どこにもねぇな」

 

皆が困惑していた。モニターにはビースト反応があるのにその姿が何処にも見えないのだ。

 

その時だった。突然アンジュ達に粒子兵器が飛んできた。

 

「何!?」

 

飛んできた方を皆が見る。そこには謎の機体が二機、そしてその周りにこれまた見たことのない機体が展開されていた。その機体の数は十機だ。ここはブラック・ドグマの栄えてる所だ。人類進化連合が入れる場所ではないはずだ。その機体の所属は予想がついた。

 

「あいつら!ブラック・ドグマの新型か!」

 

謎の十二機にZEUXISが困惑していた。だがアンジュとタスクはその中の二機に目が釘付けとなっていた。

 

「あいつ!あの映像に出てた!」

 

サラマンディーネ達がいた世界。その時、シェルターで見たあの映像。ラグナメイル。その内の二機が目の前にいるのだ。

 

機体のラインの色から見てサリア、エルシャ、クリスの乗っていた機体では無い。

 

「アンジュ!あの機体知ってるのか!?」

 

「・・・あれはラグナメイル。絶対兵器よ・・・」

 

その言葉に五人が驚く。絶対兵器。目の前に破滅の未来の原因を作ったとされる機体が存在している事に。

 

「あれが・・・ラグナメイル・・・」

 

ZEUXISのメンバーが驚く。

 

「そちらの機体のパイロットに送る。我々はZEUXISだ。現在我々はビースト反応を感知してここにやってきた。諸君らと戦闘する意思はない。

諸君らの返答を願う」

 

ワイズナーが通信を送る。そちらと交戦する意思は無いと。その返答のつもりか機体はビーム兵器をこちらに撃ってきた。

 

「問答無用か!」

 

「やむを得ん!全機交戦!」

 

ワイズナーの掛け声のもと、全機がその機体との交戦に入る。新型の量産機。その名は【ゴースター】特徴は両肩に備え付けられた砲台。グラスターの砲台より小型化がされているが火力は申し分ない。何より連射も可能らしい。砲撃が五機目掛けてとんでくる。

 

「リフレクター展開!」

 

ガローラがリフレクターを展開する。しかし攻撃を防ぐだけの防戦一方であった。しかしワイズナーだけは冷静であった。

 

ビショップに装備されているライフルを取り出す。これはネオマキシマ砲より一回り弱いマキシマ砲である。エネルギーチャージに入る。その間の攻撃はリフレクターで防ぐ。

 

「今だ!」

 

チャージが完了したらしい。ライフルからは光が放たれた。それらは新型十機を飲み込んだ。ライフルとは思えない破壊力を持っていた。

 

「これよりアンジュ達の救援に向かう!全機!ビースト反応に注意せよ!」

 

その掛け声のもと、五機はアンジュ達の元へと向かった。

 

 

 

 

 

その頃アンジュ達三人はラグナメイル

【ビクトリア】と【エイレーネ】の二機と交戦していた。

 

「あなた達!一体何者なの!?」

 

攻撃を避けつつアンジュは通信を送る。しかし当然と言うべきか相手機体からの返答はない。

 

アンジュがビクトリアにライフルを放つ。それを避ける。

 

「ねぇ、アンジュ」

 

「どうしたの!?ヴィヴィアン!」

 

「私・・・あの機体の動き、何処かで見たことある」

 

ヴィヴィアンがビクトリアの動きを何処かで見たと言う。しかし今のアンジュ達はそんな事を気にする余裕はない。

 

「気のせいよ!それに襲ってくるなら迎え撃つだけよ!」

 

そう言いアンジュはヴィルキスを変形させた。機体を加速させながらビクトリアに突っ込んでいく。攻撃は機体に直撃した。

 

「もらった!」

 

ヴィルキスは凍結バレットを装填し、放とうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だ、突然その場に尻尾が現れた。その尻尾がヴィルキスを叩き落とす。

 

「くっ!一体何!?」

 

三人がその場を見る。するとその場に巨大なビーストが現れた。その身体には岩石を纏っていた。ゴースターを粗方片付け、救援に駆けつけに来たZEUXISはその姿を見て驚いた。

 

「あいつ!間違いねぇ!ゴルゴレムだ!」

 

「なんであいつが生きてるんだ!?」

 

ZEUXISのメンバーの会話から察するにあのビーストとの交戦経験があるようだ。

 

するとゴルゴレムは火球を放つ。その攻撃にZEUXISやブラック・ドグマの見境はないらしい。目に触れる物全てを壊そうとしている。

 

「こいつ!」

 

タスクのアーキバスがライフルを放つ。するとその弾丸はゴルゴレムの身体を通り抜けたのだ。

 

「無駄だ!今のあいつは別位相にいる!あいつはこちらに攻撃する時だけその実体を表す!」

 

つまりゴルゴレムはこちらからは殴れず、ゴルゴレム自身は好きな様に殴れるというわけだ。インチキ能力もいい所だ。

 

火球や尻尾の攻撃は続いていた。攻撃しても意味ない以上避けるしかない。ビクトリアとエイレーネの二機もそれらを避けるのに必死な様だ。しかし避けてばかりではいつかは攻撃は命中する。ゴルゴレムの尻尾がビクトリアとエイレーネに直撃した。

 

するとそれぞれのコックピット部分の装甲が剥がれ落ち、内部が剥き出しとなった。

 

「!!??」

 

コックピットの中の人物。そのパイロットにアンジュとヴィヴィアンは言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ココ・・・?ミランダ・・・?」

 

そう。そのパイロットはココとミランダであった。パイロットスーツはサリア達と似たのを着ていた。しかし二人がこの場にいる事は有り得ないのだ。

なぜなら二人は既に死んでいるはずだからだ。

 

 

しかしコックピット内の人物は確かにココとミランダであった。アンジュとヴィヴィアンの二人は同じ隊にいたため、間違うはずがない。

 

 

「ココ!ココなのよね!?それにミランダ!なんであなた達がその機体に乗っているの!?」

 

アンジュが動揺しながら通信を送る。しかし二人は何も答えず、その場を離れた。あの機体の損壊状況では帰るのは妥当な判断だ。

 

「ココ・・・それにミランダも・・・一体どうしたのよ」

 

「危ないアンジュ!」

 

事態を理解できないでいたアンジュにゴルゴレムの尻尾が襲いかかる。先程叩きつけられた際に機体の装甲は危険ゾーンであった。もう一撃喰らえばヴィルキスは保たないだろう。

 

するとそこにフェニックスが割り込んだ。フェニックスがアイ・フィールドで攻撃を防ぐ。直後にショルダーミサイルを尻尾に向けて放つ。

 

この時初めてゴルゴレムにダメージが与えられた。ゴルゴレムは悲鳴の様な雄叫びをあげると、その場から消えた。

 

その場にはアンジュ達が残された。

 

(俺は・・・何故あいつらを助けた・・・)

 

シグは自分の取った行動に動揺していた。何故あんな事をしたのか。その理由がシグ自身にもわからないのだ。

 

「・・・今回は帰ったか・・・」

 

「全機基地へと帰還する。今後の対策を練らなければ・・・」

 

ワイズナーの一言で皆基地へと進路をとる。しかし今のアンジュ達には心個々にあらずであった。

 

ココとミランダの二人が生きていた。その事は非常に嬉しい事だ。だがなぜ、今になって・・・そして敵として現れたのか・・・

 

その答えは神のみぞ知っているのかもしれない・・・

 






ビクトリアとエイレーネの初登場です!そしてそのパイロットにはココとミランダを選抜させました!

尚、初期の頃からココとミランダは何らかの形で再登場させる予定でした。そしてアンケートの結果ラグナメイルは全て出すためにこの様な形で再登場させました。

果たしてなぜ二人は生きていたのか!今後の展開にご期待を!


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第55話 進むべき道



アンケートはなるべく早く回答してくださいね。

前回のあらすじ!

アンジュ達がこの世界に来てから暫くの日が流れた。ビーストを殲滅しようとしたZEUXIS。しかしそこにビーストの姿はなかった。

疑問に思っていると突然ブラック・ドグマの新型量産機とラグナメイルビクトリアとエイレーネが現れた。

ビクトリアとエイレーネと交戦中のアンジュ達であったがそこに突然尻尾が現れた。

今回のビースト、ゴルゴレムは別位相から攻撃を仕掛けてきたのだ。

さらにその攻撃でビクトリアとエイレーネのコックピット部分が剥き出しとなった。そこにいたパイロットはなんとココとミランダであったのだ!

一体なぜ二人がラグナメイルのパイロットなのか!

動揺しているアンジュ達にゴルゴレムが迫る。シグがなんと撤退に追い込むが問題は山積みである!

それでは本編の始まりです!



 

 

ZEUXIS基地へと帰還したアンジュ達。直ぐに

ワイズナーとネロ艦長でゴルゴレムの作戦会議に当たった。

 

アンジュ達は自室へと戻った。戻るなりやり場のない苛立ちや戸惑いがアンジュを襲ってきた。

 

「ねぇアンジュ。やっぱりあのパイロットって・・・ココとミランダだよね・・・」

 

ヴィヴィアンがアンジュに尋ねる。

 

ココとミランダ。かつて第一中隊にいたアンジュ達と同じメイルライダーだ。

 

だが二人はアンジュの初出撃の時、アンジュの敵前逃亡が災いし、ブラック・ドグマの攻撃によって死んだはずだ。

 

「確か・・・死体は確認されなかったって言ってたけど・・・こんな再開・・・」

 

サリア達とは違い今回はアンジュにも応えるものがある。二人が生きていた。アンジュは嬉しかった。しかし二人は自分の敵となっていた。

 

「・・・どうすればいいの・・・」

 

アンジュが一人思考に耽る。

 

「ヴィヴィアン。一体誰なんだい?その二人は?」

 

「タスクにも後で説明するね・・・」

 

【コンコンコン】

 

ヴィヴィアンとタスクが耳元で話し合っていると扉がノックされた。

 

「開いてるわ・・・」

 

アンジュが上の空で答える。するとシグが入ってきた。

 

「ゴルゴレムに対しての作戦案の会議が二時間後にある。これが現段階での奴のデータだ。目を通しておけ」

 

そう言い資料を渡した。

 

「ねぇシグ」

 

悩んでてもラチがあかない為アンジュはシグに話しかける。

 

「なんだ」

 

「もし自分の大切な人が敵に回ったらどうする?」

 

「殺す」

 

即答であった。まるで当たり前の様にシグは返答した。

 

「・・・昔の仲間でも?」

 

「今が敵なら関係ない」

 

「仲間を・・・友達でも助けようとかはしないの?」

 

「そんなもの任務の障害になるだけだ」

 

次の瞬間アンジュはシグの顔にパンチを入れた。

それは以前メビウスがアンジュに殴りかかった時と絵面が似ていた。

 

「メビウスはそんな事言わなかったわ・・・命を紙屑程度に扱う最低な奴ね・・・あなたは」

 

「・・・」

 

シグは何も言わず部屋を後にした。

 

その後、三人は渡された資料に目をやる。しかしタスク以外は気分は上の空である。

 

(ココ・・・ミランダ・・・一体どうして・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方シグはフェニックスのコックピットに来ていた。

 

「ビビーー!!」

 

モニターからエラー音が鳴り響く。なぜか例の機体の変化が出来ないのだ。その事に戸惑う。

 

しかし今のシグにはそれ以上の何かが襲いかかってきた。アンジュに殴られた頬を触る。

 

(助けないの?)

 

(仲間を・・・友達を助けようとしないの?)

 

(命を紙屑程度に扱う最低な奴ね)

 

「・・・そんな感情昔に捨てた」

 

「・・・本当に?」

 

「誰だ」

 

突然耳に誰かの声が聞こえた。振り返ってみるが誰もいない。

 

「・・・幻聴か・・・」

 

シグはそう思うことにした。その後暫くいじっては見たが、やはり機体は変化はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、作戦室ではアンジュ達が集められた。

 

「クロスフェーズ・トラップ?」

 

作戦名に皆困惑していた。

 

「そうだ。ゴルゴレムの最大の脅威は別位相に実体が存在する事。そこから引きずり出さない事には殲滅は不可能だ」

 

「あの時はシグが無茶してなんとかできたしな・・・」

 

「あの。皆さんの会話を聞いてたのですが、皆さんはあのビーストと一度交戦経験があるのですか?」

 

タスクが疑問に思い尋ねる。

 

「・・・あのビーストは一度。フェニックスを過去へと跳ばす際に現れた事があるんだ・・・」

 

「その時はフェニックスが自ら囮になって尻尾を掴んで、通常空間に引きずり出したんだ。その時致命傷を与えたはずなのに・・・」

 

「あの戦闘で奴の弱点は判明した。奴の弱点は背中にある光る鉱石だ。この鉱石さえ破壊すれば奴は別位相に逃げる事は出来なくなる。そこを殲滅します」

 

「成る程、それでその作戦は?」

 

「舞台はここです。T—36ポイント。ゴルゴレムは恐らく人間を捕食するためにここに現れます。この地区一帯に避難指示を出します。するとゴルゴレムはその先のT—37を目指すはずです。よってこの街にそのトラップを仕掛けます」

 

「街一つを囮にするんだね」

 

「失敗は許されないということか・・・」

 

具体的な作戦案が出された。まずこの街に罠を張る。その罠はゴルゴレムはその街を通過するとき、その鉱石が破壊されるのだ。

 

仕組みを例えるなら電子レンジに入れた生卵が爆発するような仕組みである。この街を通るとゴルゴレムの鉱石は爆発すると考えてもらいたい。

 

ゴルゴレムが現れたらまずカイが背中の鉱石跡に狙撃して弱らせる。まずはヒビを入れるのだ。そこからはアクロのジョーカーが鎌を使いヒビを広げる。奴は身体が岩石で出来ている為なまじライフルは効かないらしい。傷口がそこそこ開いた後は、残った機体がその傷口を一気に攻撃をする。そして殲滅。

 

これが今回の作戦の予想図だ。

 

「各員!いつでも出撃出来る様に待機しておけ!」

 

「了解!」

 

その掛け声のもと、各員はそれぞれ待機となった。

 

 

 

 

 

暫くするとビースト反応が確認された。作戦の予想通りT—36ポイントに現れた。皆が機体に乗り込んだ。

 

「・・・」

 

「アンジュ。ヴィヴィアンから話は聞いた。・・・今はビーストを倒す事だけを考えるんだ」

 

タスクがアンジュに通信を送る。今回の敵はこれまでのビーストとは違う。少しの気の迷いが死に直結しかねない敵だ。

 

「わかってるわ・・・」

 

アンジュはココとミランダの件は今度会った時直接確かめると決意した。今は目の前の作戦を成功させる。その事だけを考える事にした。

 

「ZEUXIS出撃!」

 

その掛け声と共に各機が発進した。しばらく飛んでいるとやがて目標の地点にたどり着いた。

 

そこにはゴルゴレムがいた。まだ別位相にいるため実態ではない。しかしゴルゴレムはこちらに気がつくと尻尾や火球などで攻撃してきた。

 

「ちぃ!お前の相手はお前がこっちに現れてからだ!」

 

その時火球が街に直撃した。

 

「おい!火球が街に命中したぞ!」

 

「シグ!作戦装置に異常がないか確認しろ!」

 

「了解」

 

フェニックスはそういうと戦線を離れて街へと向かった。

 

フェニックスを近くに下ろして、シグは街へと来ていた。

 

「作戦装置に問題はない」

 

シグはフェニックスで戦線に戻ろうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。子供の泣き声が聞こえた。驚いてその方角へと向かう。

 

「助けて!誰か助けてあげて!」

 

そこには子供が一人泣いていた。その子供はシグに気がつくと泣きながら走ってきた。

 

「お願い!ポチを助けて!」

 

「ポチ?」

 

その子に引っ張られシグはある場所へと向かった。そこは先程の火球の影響で建物が崩れていた。するとその瓦礫の下から犬の鳴き声が聞こえた。

 

「・・・なぜここにいる。ここは避難指示が出されたはずだ」

 

「だって・・・ポチを置いていかないよ・・・」

 

この子は一度避難したらしい。しかしポチという犬を助けにこの街に戻ってきたらしい。助けたまでは良かったが先程の火球で建物が崩れた。犬はその下敷きになってしまったわけだ。

 

「お願い!ポチを助けて!」

 

その子供は泣きながら頼んできた。

 

「犬の命より自分の命を大事にしろ。早く避難するんだ」

 

シグは冷たく言い放ち、子供を避難させようとする。しかしその子は動かない。

 

「そんな事出来ないよ!」

 

「何故だ?」

 

「だって!ポチは大切な友達だもん!」

 

その一言にシグの思考が一瞬停止した。その子は自分一人でもその犬を助けようとしていた。この子はアンジュと同じ事を言っている。

 

(命なんて紙屑程度に扱う最低なやつね!)

 

アンジュの言葉が脳内で再生された。

 

(・・・俺はそんな人間にはなりたく無い・・・)

 

無意識にその様な考えが芽生えた。

 

「何故だ・・・何故・・・どいつもこいつも!」

 

「ポチ!ポチ!待ってて!今助けるから!」

 

「・・・どけ!瓦礫を破壊する」

 

シグはその子をどかすと瓦礫に全力で拳を入れた。するとその瓦礫に亀裂が入った。もう一度瓦礫に全力で拳を入れる。瓦礫は真っ二つに砕けた。片方の瓦礫をどかし犬を助け出した。

 

「ポチ!」

 

その子が犬に駆け寄る。その子に犬を手渡した。

 

「ありがとう!」

 

「・・・早くここから避難しろ」

 

「うん!お兄ちゃんも気をつけて!」

 

その子は犬を抱えると足早に去っていった。

 

「・・・俺は何故あんな事をした・・・」

 

シグ自身が自分の行動に戸惑っていた。

 

(・・・俺の任務は装置の無事を確認する事。子犬を助け出す事ではない。なのに俺は何故子犬を助けた・・・)

 

(・・・気にするなよ。当たり前の事じゃねぇか)

 

「誰だ!」

 

あの時コップピットで聞こえた声が再び聞こえた。今度は幻聴などではない。周りを見るが特に誰もいない。

 

機体へと戻ろうとする途中だった。ある所でシグは足を止めた。人の気配がする。一人や二人なんてものじゃない。十人以上はいる。シグは銃を構えるとその気配の方へと向かっていった。

 

暫くしてその気配の正体がわかった。負傷者だ。負傷者が一箇所に集まっていた。

 

「何をしている。早く避難しろ」

 

「・・・俺達はダメだよ。足をやられちまった。逃げたくても逃げれねぇよ」

 

「・・・」

 

「なぁ。あんたが噂のZEUXISなんだよな?この街はビーストに襲われるのか?俺達は死ぬのか?」

 

皆は半ば諦めの態度であった。

 

(・・・このまま作戦が決行されれば彼等は

死ぬ・・・)

 

シグは機体へと駆け出した。機体の前に辿り着く。

 

「・・・アンジュ。これがお前の言っていた助けるという事か・・・」

 

「これが!そちらの世界で俺がしていた事なのか!」

 

シグはフェニックスに向かってその問いを叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュ達はゴルゴレムを街へと引き寄せていた。そこにフェニックスが駆け付けた。

 

「みんな!下がっていろ!」

 

「フェニックス!?シグ!一体何をする気だ!?」

 

例の尻尾がフェニックスにとんできた。フェニックスはそれの直撃を受けた。

 

「おい!あいつ何やってんだ!なんでフィールド

出したり避けねぇんだ!?」

 

するとフェニックスはその尻尾を掴んだ。次の瞬間、一気に尻尾を引っ張った。

 

「まさかあいつ!あの時みたいに別位相からゴルゴレムを引っ張り出す気か?」

 

それはかつてシグがアンジュ達のいる世界に跳ぶ前に行った方法である。その結果、シグは重傷を負い、アンジュ達の世界に来た。あの危険な賭けを

もう一度やるつもりなのだ。

 

ゴルゴレムが火球をフェニックスに放つ。全て機体に直撃した。しかしフェニックスは尻尾を決して離さなかった。コックピットは大きく揺れる。シグ自身も額からそれなりの血が流れていた。だか離さなかった。どんなにボロボロになっても・・・尻尾を離そうとはしなかった。まるで街を護るかのように・・・

 

「シグ・・・あんた・・・」

 

アンジュとタスクとヴィヴィアンはその光景に驚いていた。やがてゴルゴレムの本体が別位相からこの空間に現れる。その背後には光る鉱石が見えた。

 

「カイ!ゴルゴレムの背中の光る鉱石だ!あれが別位相への転移を可能にしている!あれを破壊するんだ!」

 

「了解!シグ!抑えててくれよ!」

 

カイが機体を狙撃ポイントに寝かす。

 

「シグのやつがまた身体張って引っ張り出したんだ!絶対にはずさねぇぜ!」

 

狙撃銃から粒子が放たれた、それは背中の鉱石に直撃した。次の瞬間にはゴルゴレムの全体がこの空間に現れた。

 

「よし!後はあの傷口を広げるだけだ!」

 

アクロが一気に機体を接近させた。鎌を取り出し、位相機関の破壊後に鎌を差し込む。するとそこからビーストの身体を覆っていた岩石全体にヒビが入った。

 

「よし!全機変形!一気にゴルゴレムを殲滅する!」

 

シグがモニターを操作する。すると格納庫では出来なかった機体の変化が問題無く行えた。右腕が鉤爪、左腕がガトリング。フェニックスがあの姿になったのだ。

 

一度入ったヒビを後は広げるだけだった。それぞれの機体がヒビを広げるため攻撃をした。ヒビは徐々に広がり、ついに体が崩壊した。唸り声をあげながらゴルゴレムは息絶えた。

 

「ゴルゴレムの殲滅を確認。各機帰還するぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地へと帰還した。するとシグとワイズナーの睨めっこが始まった。

 

「シグ。言いたい事はわかるな?」

 

「勝手な作戦変更の弁明はしません。ですが

俺は自分のした事が間違っているとは・・・なぜか思いません」

 

「あの街の状況は我々も確認した。まさか取り残された人がいたとは・・・我々の現場の状況確認不足だ」

 

「・・・シグ。今回のお前のした行動は誇りを持つべき事だ」

 

そう言いワイズナーはその場を後にした。

 

「シグ。少しは人間らしさがあったのね」

 

後ろからアンジュが声をかけてきた。

 

「アンジュ。一度しか言わないしやらん。手を出せ」

 

「・・・一体何よ」

 

アンジュは不満そうだが言われた通り手を出した。

 

「・・・ありがとう」

 

そう言いシグは握手をした。

 

「はぁ?」

 

「お前の言った言葉のお陰で俺はなにかを取り戻せた気がする」

 

「まぁ、感謝されて悪い気はしないわね」

 

この時アンジュは、目の前にいるシグが、一瞬だけだがメビウスに見えた気がした。

 

「君達。ここにいたか」

 

するとそこにネロ艦長が現れた。

 

「アンジュ。タスク。ヴィヴィアン。君達に朗報だ」

 

「と言いますと?」

 

「再び過去へと転移する準備が整った」

 

元の世界に帰れる。過去へと行ける。その言葉にシグを含めた四人は喜んだ。

 

「モモカ・・・ヒルダ達も無事よね?」

 

アンジュはモモカの、そしてヒルダ無事を願った。

 






そろそろアンジュ達が元の世界に帰還できるようになります!多分後3.4話くらいですね。

そうなったら再びアニメ本編に突入だ!

アンケートは第7章までですよ!


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第56話 発進!アクセリオン!



今回から第7章終了時まで話が多少短めになります。

話の区切りを良くするためにはしょうがないね。

前回のあらすじ!

対ゴルゴレムの作戦。クロスフェーズトラップが開始した!そんな中作戦舞台の街がゴルゴレムの攻撃に襲われた。作戦装置の無事を確認するために街に降りたシグ。そこでは様々な人がいた。

自分の命を賭けても子犬を助けようとする子。動けずただ死を待つ者達。

そこでシグは謎の声が聞こえた。シグは街にいる人達を助けるため作戦を放棄しゴルゴレムに勝負を挑んだ。

その結果ゴルゴレムは殲滅され、シグの命令違反の件も目を瞑られた。そしてそんな中。遂にネロ艦長がアンジュ達の世界への帰還準備が整ったのだ!

それでは本編の始まりです!



 

 

「私達・・・元の世界に変えれるのね!」

 

アンジュ達が三人で手を取り合いながら喜ぶ。

 

「詳しい事は明日話す。明日に備えて今日はもう休みなさい」

 

「・・・そうですね。アンジュ。ヴィヴィアン。今日はもう休もう」

 

タスクの提案に二人は賛同した。こうしてアンジュ達三人は部屋へと戻った。

 

「・・・アンジュ。君は帰ったらどうする?」

 

タスクの一言にアンジュは暗い面持ちになる。

 

「以前言った通りよ・・・モモカ達が無事か確かめたい」

 

それはサラマンディーネのいた地球と同じ回答でもあった。だが今回はその時とは事態が違いすぎる。

 

「知りたいのよ・・・なんでサリア達がエンブリヲについたのか・・・それが知りたい・・・それにココやミランダについても・・・」

 

何故。一体どうして。その疑問に答える者だ誰もいない。

 

そして何より自分達は知ってしまった・・・

 

破滅の未来を・・・そしてその原因とされるのが

ラグナメイルだということを・・・

 

「・・・とにかく明日は早い。今日は早く寝よう」

 

三人はベットに入った。

 

(ここで寝るのも、今日でおしまいか・・・)

 

三人はここでの生活を思い返しながら、やがて眠りについた。

 

次の日となった。アンジュ達はワイズナーに案内されてある艦内へと来ていた。作戦室にアンジュ達が集まった。既にシグ達もそこにいる。

 

「来たか・・・」

 

「さて。それじゃあ帰還方法を説明してくれるわよね?」

 

アンジュがネロ艦長の方を向く。

 

「ああ。フェニックスの整備も完了した。これより君達を過去の世界に帰還させる」

 

「ネロ艦長。メビウ・・・シグも過去へと跳ぶんですよね?」

 

タスクが言い直す。今の彼はシグだ。メビウスではない。

 

「あぁ。勿論だ」

 

するとネロ艦長が地図を持ち出した。それである点を指し示す。

 

「まず君達を穴に送り届ける」

 

「穴?」

 

三人が口を揃えて尋ねる。

 

「この穴は、言うなればタイムトンネルみたいなものだ。その穴に入り、フェニックスに内蔵されているネオマキシマオーバードライブシステムを作動させる」

 

ネロ艦長が難しい事を話し始めた。

 

単純に要約するならその穴付近でフェニックスのシステムを起動させて、その穴に飛び込む。すると過去へといける理屈だ。

 

「なお、このポイントまでの君達の護衛は我々の鑑【アクセリオン】が責任を持って護衛する」

 

「アクセリオン?」

 

「この艦の名前だよ。因みにネロ艦長はその艦の艦長だぜ」

 

アクロ曰く、かつてネロ艦長はこの船でビーストの群れと撃ち合った事があるらしい。その時の凄さに惚れてZEUXISのメンバーのほとんどは彼の事を

普段からネロ艦長と呼んでいるらしい。

 

「あの。このポイントには何かがあるんですか?」

 

タスクが疑問に思いネロ艦長に尋ねる。

 

「このポイントは前回の穴が開いたのと同じ場所だ。資料によると、昔アルゼナルという軍事基地があった所だ」

 

「アルゼナル!?」

 

その言葉に三人が驚く。初めて自分達の知っている場所に行ける事への安心感がとても強いのだ。

 

「出発は今から3時間後だ。各員用意をしておけ。それでは解散!」

 

ネロ艦長の一言により皆は解散となった。

 

三人は艦内の食堂に足を運んでいた。この世界での食事もこれで最後になる。そう思うと普段より量を多めにした。

 

食堂のテーブルには既にシグ達五人が集まっていた。

 

「アンジュちゃんにヴィヴィアンちゃん!タスクも!こっち来いよ!」

 

カイがいつもの様に三人を食事の輪に誘う。今回のアンジュ達はその誘いに乗った。

 

「シグ。お前今度は記憶を無くさずに帰って来いよ!」

 

「・・・お前に言われるまでも無い」

 

「ねぇ。アンジュ。アンジュは記憶を失う前のシグを知っているのよね?どうだった?」

 

アンリが疑問に思い、アンジュに尋ねる。

 

「・・・信じられないけど、感情的で仲間思いで、とてもいい奴だったわ」

 

「シグが!?・・・想像できねぇ・・・」

 

「シグじゃなくてメビウスって名乗ってたわね」

 

アンジュが補足として付け足す。

 

「アンジュ。ヴィヴィアン。タスク。三人は帰ったら何をするんだ?」

 

アクロの何気ない一言に三人はスプーンを止めた。

 

「・・・私達、無事かどうか確かめたい人達がいるの・・・その人達を探す事にするわ・・・でも・・・」

 

「安心しろ!絶対シグのやつが未来を変えるに決まってる!」

 

「この世界の事は悪い夢って思えばいい。お前達は今すべきと感じた事を帰ったらすればいいさ!」

 

カイとワイズナーの二人が励ます様に言う。

 

「・・・そうよね。こんな未来!たまったもんじゃ無いわ!絶対変えてみせてよね!」

 

アンジュがシグの方を向き、激励の言葉を送る。

 

「・・・ふっ。わかってる」

 

「えっ!?シグが笑った!?」

 

「なんじゃこりゃ!?謎の予感!明日は大雨土砂

降りか!?」

 

シグが笑った。その事にアンリとカイが驚いた。

 

「・・・俺が笑うのはそんなにおかしいことか?」

 

「いや。初めて見た気がするぜ。お前が笑ったとこなんて・・・」

 

「まぁいい!今日はアンジュ達の帰還を祝う日でもあるんだ!景気良くいこうぜ!」

 

アクロが普段みせないようなテンションでそう叫ぶ。こうして八人は食事を再開した。

 

(・・・ここの飯。アルゼナル以下ね・・・相変わらず不味い・・・でも悪くない)

 

アンジュはそう思いながらスプーンを口に運ぶ作業を続けた。

 

 

 

 

そして遂にその時がやってきた。メインブリッジ内はざわついていた。

 

「最終セーフティー解除!確認!」

 

「偽装展開!マキシマエンジン。臨界点突破!」

 

ネロ艦長が艦長の帽子を目深に被り、宣言した。

 

「アクセリオン!発進!」

 

「アクセリオン。発進します!」

 

こうしてアクセリオンは基地から発進した。周囲の景色に同調する偽装を展開しているため人類進化連合からは気がつかれない。

 

アンジュ達は窓から外を見ていたがやがてこの艦が海の上を飛んでいる事に気がついた。

 

「うっひょー!この艦!空飛べるんだ!」

 

ヴィヴィアンが窓から風景を見ながら興奮している。すると館内通信が入った。

 

「目標地点までの到着予想時刻。残り60分!アンジュ。タスク。ヴィヴィアン。シグ。機体の発進準備に取りかかれ」

 

ネロ艦長が通信で用意しろと命令を送る。

 

四人はパイロットスーツに着替えると、それぞれの機体のコックピットに乗り込んだ。

 

「目標地点到達!」

 

「発進デッキ開け!四機は発進せよ!」

 

その掛け声の元、ヴィルキス。アーキバス。永龍號。そしてフェニックスは発進した。目の前には

ボロボロな廃墟の様な物があった。

三人は直ぐにアルゼナルと理解した。

 

「あれが・・・アルゼナル・・・」

 

三人が驚いていた。目の前のアルゼナルのあまりの変わり果てた姿に、だがそれよりも驚くべきものが目の前にあった。

 

穴だ。その穴はドラゴン達が通って来たシンギュラーに酷似していた。

 

「・・・シグ。あなたはあれで私達のいた時代に来たのよね?」

 

「あぁ。間違いない。前回はゴルゴレムの襲撃もあったが。今回は問題ない」

 

シグがアンジュの通信に答える。

 

「アンジュ。タスク。ヴィヴィアン。君達の人生に幸せがあらんことを心から願う。我々ZEUXISの

戦友に敬礼!」

 

ネロ艦長に続き、ブリッジの皆が敬礼をする。ワイズナー達も自室から敬礼をする。それにアンジュ達も敬礼を返す。

 

「ネロ艦長。ZEUXISの皆さん。今までお世話になりました!」

 

「あなた達のやるべき事。しっかりやりなさいよ!」

 

「みんな元気で!バイバーイ!」

 

三人が思い思いの言葉をZEUXISに送った。

 

シグがフェニックスを変化させる。

 

「シグ。システムは起動したか?」

 

「問題ない」

 

モニターに文字が浮かび上がる。

 

《Neo Maxima Over Drive System》

 

フェニックスの機体が輝き出した。

 

「それではみなさん!今までありがとうございました!」

 

「シグ。フェニックス!行きます!」

 

その掛け声の元、四機は穴へと向かい飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは突然起きた。突然フェニックスの輝きが消えた。さらにに目の前にあった穴も突然消えたのだ。消える様な前兆は何もなかった。まさに急に、突然消えたのだ。

 

「え?・・・ええええええ!!??」

 

アンジュ達が驚きの声をあげた。何故穴が消えた?突然?何故?理解に苦しんでいた。

 

その時声が響いた。

 

 

 

「やぁ。アンジュ。久しぶりだね」

 

目の前を見るとあの機体が、アルゼナルでジュリアを消し炭にしたあの機体がいた。

 

その名は【ヒステリカ】

 

そしてそのコックピットには、あの男がいた。相変わらずのスーツだ。

 

「エンブリヲ!?」

 

そう。その人物はエンブリヲである。かつてアルゼナルが襲撃にあった際、アンジュ達の元に現れたあのエンブリヲなのだ!

 

「おや。覚えていてくれたかい。光栄だね」

 

「エンブリヲ!一体何のようだ!」

 

タスクがエンブリヲの機体に銃口を向ける。タスクからしたら目の前には親の、仲間の仇がいるのだ。落ち着いてなどはいられない。

 

「野蛮人が・・・」

 

エンブリヲがビームライフルをアーキバスに向ける。タスクは咄嗟にその攻撃を避ける。

 

アクセリオン内では混乱が起きていた。

 

「おい!やべぇぞあれ!」

 

「所属不明機に告げる!我々は君と戦闘をする気は無い!」

 

ネロ艦長がエンブリヲに通信を送る。しかしエンブリヲからは以下の返答が返ってきた。

 

「やれやれ。私は君達を倒しに来たのだよ。ネロ艦長」

 

「・・・やむをえん!総員!第一種戦闘態勢!ワイズナー達はシグ達の援護にあたれ!」

 

「了解!」

 

4対1の戦闘が始まった。戦いは数だよと言うがエンブリヲはそんなハンデを全く感じさせなかった。それはワイズナー達が現れて、8対1になっても変わらなかった。

 

「無駄なのだよ!君達では調律者の私には勝てない」

 

そんな中シグはヒステリカに喰らいつく。

 

「ほう。やはり君の強さは格別だな」

 

エンブリヲが軽口を叩く。

 

「・・・穴の消失はお前が原因か?」

 

「あぁ。私の能力だ」

 

「穴を戻せ。さもなくば死ね」

 

フェニックスが右腕をヒステリカに向ける。

 

「シグ。君はこの世界を救うつもりなのかい?」

 

「・・・当たり前だ。その為に過去に跳ぶ」

 

シグは当然の様に答えた。

 

「・・・ふっ。はっはっはっはっは!!」

 

突然エンブリヲが笑い始めた。

 

「そろそろ頃合いかな?シグ。君に一つ教えてあげよう」

 

エンブリヲから放たれた一言に皆が凍りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「滅びの未来の原因はシグ・・・君なんだよ」

 

「・・・!?」

 

周りはその言葉に混乱した。シグ自身も同じだ。エンブリヲが続ける。

 

「いや。こう呼ばせてもらうよ。

 

【矛盾する大罪を繰り返す者】よ」

 






次回!遂にシグ。そしてメビウスの秘密が明らかになります!

果たしてエンブリヲはその口から何を語るのでしょうか!?

因みに戦艦アクセリオンですがたまに打ち込みでアクエリオンと間違えてしまいます。


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第57話 破滅の未来の真実



今回多少のご都合主義と独自設定を使わせて頂きました。以前も言いましたがフラグ回収がこの章での目的です。後今回エンブリヲの独白が多めです。

前回のあらすじ!

遂に元の世界に帰還できる目処がたった!

アンジュ達はZEUXISの保有する戦艦、アクセリオンで転移場所でもあるアルゼナルを目指す。

そして遂に目的地へとたどり着いた!

だがそこにエンブリヲが現れたらそしてエンブリヲは衝撃の発言を放った。

未来世界がこうなった原因はシグにあると言うのだ!一体どういう事なのか!?

それでは本編の始まりです!




 

 

「シグが、破滅の未来の原因って・・・どういうこと!?」

 

皆が動揺していた。シグ自身もだ。

 

「いい機会だ。君達に教えよう。真実を・・・」

 

エンブリヲがオープンチャンネルで語り始めた。

 

「順を追って説明しよう。まず最初に君達が思っているラグナメイルによるミスルギ皇国の崩壊。あれは偽りだ。本当の原因は後で話そう」

 

「更に人々がマナを使えなくなったのは、アウラがミスルギ皇国。暁ノ御柱から消えたからだ」

 

「それはサラ子達が奪還したんでしょうね!」

 

「残念だがそれは違う。アウラを連れ出したのは

私だ」

 

「なっ!?」

 

「悪いけど、マナの光を手に入れてからあの人類は堕落しきってしまった。もう彼等などに興味はなくなったよ。だからアウラを回収して捨てたのさ」

 

「あんた・・・世界を捨てたというの!?」

 

アンジュが怒る。エンブリヲはサラマンディーネのいた世界を捨てた。そして再びこの世界を捨てたと言い出した。

 

「ここで一旦ミスルギについては話を置こう。その後の世界の事はわかるよね?人々が醜く戦争を始めた。その中でシグはある遺跡を見つけた」

 

「その遺跡はかつてこの地球に住んでいた者共。

君達にわかるように言うならば、古の民どもが

かつて戦争に使っていた兵器を封印していたところだ」

 

「そこで偶然フェニックスをみつけた。しかも

フェニックスはロスト・テクノロジーの塊だ。

更にはその機体は進化する機体でもあった」

 

(進化する機体・・・?)

 

皆が疑問に思った。エンブリヲは続ける。

 

「許されるはずがないだろう?旧人類ごときが・・・私と同じ力を持っていたという現実に」

 

「そしてその力をシグが。愚かな人間が私と同じ力を手にする。許されるはずがないだろ?この様な事」

 

「嫉妬か。醜いな」

 

ネロ艦長が吐き捨てる様に言う。

 

「このままではいずれ調律が乱される。だから私は直ぐにシグに罰を与えることにしたよ」

 

「その一手がビースト。あれは私が新たな人類を

創り出す過程で生まれた不良品だ。

それをこの世界に解き放させてもらった」

 

「じゃあ!ビースト出現の原因はお前って事か!」

 

「その通りだよ。だがシグは死ななかった。そしてZEUXISに加入した。そしてタイムジャンプが実行されようとした・・・」

 

「ネオマキシマオーバードライブシステム。君達にわかりやすく言うならタイムマシン。それでシグは

未来を変えるために過去へと跳ぼうとした。

遂に君は禁忌を犯そうとした。だから私は二つ目の罰を与えた」

 

エンブリヲの語った罰の内容。それに皆唖然となった。

 

「まずフェニックスを100年前のミスルギではなく、ある場所へ跳ばした。その場所は、ドラゴンどものいる世界だ。まだドラゴン達は誕生してなかったが」

 

「まさかあの映像・・・538年前のフェニックスのネオマキシマ砲の射撃は!」

 

アンジュが察した。なぜ遥か昔に、サラマンディーネのいた世界にフェニックスがいたのか。その理由が今わかった。

 

「あの地球はいい実験場だったのでね。それに実際のネオマキシマ砲の威力を見てみたかったのでね」

 

「そしてその威力を見て私は確信したよ。この威力なら片付けが出来ると・・・シグを跳ばしたよ。

偽りの地球。今から100年前に」

 

「・・・まさか!?」

 

「失敗作は片付けないとな。ミスルギ皇国の崩壊。もう言うまでもなかろう?崩壊した理由はフェニックスのネオマキシマ砲の砲撃」

 

「つまりこの破滅の未来を作ったのは他ならぬ

シグ。君なんだよ」

 

その言葉に皆が驚いた。エンブリヲはなおも続ける。

 

「だが私の気は収まらなかった。この程度の罰では物足りない。更なる苦しみを与えなければ。そこで思いついたんだ。愉快なゲームを」

 

「その後、私はシグの記憶を消し、機体と一緒に未来世界へ跳ばした。しかし過去へと跳んだ時間にではなく。遺跡でフェニックスを発見した時間にね」

 

「シグはそこで記憶を失い、孤児として生き、ビーストに襲われ、生き残ってZEUXISに入る。そして月日は流れてタイムジャンプを行う・・・」

 

「・・・無限ループ・・・」

 

「そう。それが私がシグに与えた罰だ。閉じた世界の中で朽ちることさえ許されず、永遠の地獄を生き抜く。それが君の罪だよ。大罪人よ」

 

「・・・だけど!だとしたら二つほど変じゃないか!一つ目にその話が本当だとして!一番最初のミスルギ皇国に放たれたネオマキシマ砲はどうなる!」

 

カイの言っている事を閲覧者の皆様わかりやすく説明しよう。

 

①閲覧者の君の前にある人物が来た。その人物は

ある設計図を渡してきた。

 

②閲覧者の君はその設計図を10年かけて組み立て作る。それはなんとタイムマシンであった。

 

③閲覧者の君は設計図を持ってそのタイムマシンを使う。目的地は10年前の自分。この設計図を託す為に・・・こうして①に戻る。

 

・・・ちょっと待て。一番最初の設計図は何処から現れた?どこから現れたかわからない存在が時空を巡る「存在の環」である。

 

それにエンブリヲは冷静に答えた。

 

「君達は鶏が先か卵が先かを考えた事があるかい?結局はそれと同じ結論なのだよ」

 

様は謎という事である。

 

「だとしても!もしシグがその過去に戻って未来の少し前に帰ったとしたら!そこにシグが二人いることになるじゃねぇか!」

 

タイムパラドックス。その時間軸に同一人物が二人いる。それはあり得ない事だ。もしその様な事が起きれば、矛盾が発生するはずだ。

 

それにもエンブリヲは答えた。

 

「なに。簡単な事だよ。シグが戻る前にその時間軸にいたシグをビーストに殺させた。そしてそこへ過去から戻ってきたシグがその時間軸のシグとして生きる。これで解決させたのさ」

 

「あなたは・・・そこまでシグを!」

 

「驚く事はない。シグの体内時計では既に数百年も同じ事を繰り返している。後はそれを永遠と繰り返していればよかったものを・・・」

 

「だが今回は違ったイレギュラーが発生した。機体の進化と言うべきか・・・簡単に言うなら神様の

悪戯という奴だ。シグは永遠と繰り返されるループの中で二つの特異点を生み出した」

 

「特異点?」

 

「まず一つがナオミだよ」

 

その言葉にアンジュとヴィヴィアンが驚く。

 

「シグがこれまで繰り返してきた歴史には、本来なら彼女は生きていない。なぜならメイルライダーの適正テストの際にドラゴンに喰い殺される。それが本来のナオミの運命なんだ」

 

「だがそれが変わった。ドラゴンの代わりにシグがその穴から落ちてきたからだ本来跳ばないはずの時間に跳んだのだ」

 

「更にもう一つ。それはシグでなくなり、メビウスとなった事だ・・・」

 

「その結果。シグとして続いていた永遠とも言える輪が崩れ落ちた」

 

「焦ったよ。本来ありえない筋書きになることに。現にゾーラが生き残りミスティが死んだ。本来ならありえない事が起きた。このままでは彼は私を超えてしまうだろうと。だから私は本来ならしない事だが、ある組織に接触した」

 

「まさか!?」

 

ネロ艦長がある予想を立てた。

 

「そう。ブラック・ドグマだよ。彼らを過去の世界に招待してあげた。何よりブラック・ドグマとの戦闘は、メビウスの中に眠るシグを目覚めさせる為にね」

 

「そして次に私はナオミを味方につける事にした。ある二人を使えば彼女を味方につけるのは簡単だったよ」

 

「まさか!・・・エンブリヲ!」

 

アンジュにはその二人がだれか予想がついた。

 

「そう。ココとミランダ。彼女達は私が蘇らせた。最も、少し調整させてもらったけどね。二人を見せたらナオミは泣いて喜んでたよ。そして私を信じてくれた・・・」

 

「最後に私は彼女にフェニックス。いや、ザ・ワンを与えた。シグとフェニックスが過去から転移した。その際その時間軸のシグは遺跡にたどり着けなかった為フェニックスは奪われなかったのでね。後は彼女がザ・ワンを進化させるだけだ」

 

「テメェ・・・人間を何だと思っていやがる!!」

 

「シグは!いえ!この世界はあなたの遊び場じゃないのよ!」

 

「嫉妬の為だけに人の人生を!世界を弄んで!

テメェにそんな権利あるのかよ!」

 

「自分にとって失敗作だったから捨てる。そのせいで何人の命が失われたと思っているんだ!」

 

ワイズナー達がエンブリヲにぶちギレた。だがエンブリヲは相変わらず澄ましている。

 

「おやおや。私に怒るのは見当違いだよ。この様な事態を招いたのはシグなんだよ?」

 

「自分の手を汚さずに他人を思い通りに動かす。

その様な事が許されるはずがない!」

 

「世間ではお前の様な存在を外道と呼ぶんだったな」

 

「君達が声高らかに叫ぼうと調律者である私には届かないよ」

 

「さて。どんな気分だい?存在が矛盾し、大量虐殺という大罪を繰り返す大罪人よ。死ぬ事が許されない。まさに不死鳥の様な存在だろ?」

 

エンブリヲがシグの方を向く。シグは黙って先程までの話を聞いていた。

 

「・・・ふざけるな・・・ふざけるなぁ!!!」

 

シグが普段見せない程の感情を剥き出しにした。フェニックスの右腕からサーベルを展開してヒステリカに斬りかかる。

 

「無駄な事を」

 

【パチン!】

 

エンブリヲが指を鳴らす。次の瞬間にはシグの身体に強烈な疲労感や目眩が襲った。

 

「なに・・・を・・・」

 

「君の体内時計は既に数百年の時を過ごしている。今までは私が君の存在にロックをかけていたからそれらが襲って来る事はなかった。そして今、それを解除させてもらった。君の身体には数百年の時が流れるというわけだ。簡単に言うなら死だね。」

 

「ふざ・・・け・・・ん・・・な」

 

その言葉を最後にシグの意識は失われた。ハンドルから手が離れた為、フェニックスは墜落していった。海に落下した。

 

「シグ!?シグ!」

 

皆が呼びかける。だが返事は返ってこない。

 

「安心したまえ。彼は解放されたのだ。

永遠の時の牢獄からな」

 

「何が解放だ!お前がシグの全てを狂わせたんだろ!自分自身のつまらないプライドで!」

 

エンブリヲの言葉に皆が激怒した。目の前の存在は一体何だ?人を人とも思わない存在。こんな人間がこの世にいるのか!?こいつのつまらないプライドのせいで一体何人の人生が狂わされたのか。

 

皆が武器をヒステリカに向けた。

 

「いい機会だ。後の始末はこれに任せよう」

 

するとその場に大量の新型が現れた。見た目はピレスロイドに似ていた。それらはヴィルキス達を囲み包囲した。

 

「囲まれた!?」

 

するとその機体は物凄い速度で機体に突っ込んできた。突っ込んできたそれらは爆発した。これは自爆特攻兵器だ。

 

「【ボマー】はフレラシアの花粉を体内に取り込んだ自爆特攻兵器さ。これだけの数を用意するのには苦労したよ」

 

ボマーは機体に、そして戦艦に突っ込んでいった。アイ・フィールドでそれらを防ごうにもフィールドに直撃するだけで突破されてしまう。アクセリオンも対空機銃を掃射するが、数は一向に減る気配がない。

 

「さてと。精々私を楽しませてくれたまえ。 」

 

エンブリヲは余裕からか、その場に居座って目の前の光景を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・ここはどこだ?)

 

シグは現状が把握できていない。周りは真っ暗。いや、暗すぎる。これでは今いる場所を確認するなど不可能である。

 

(・・・そうか。俺・・・死んだんだったな・・・確か過去へと跳ぼうとした時・・・エンブリヲってのが現れて・・・俺が・・・あの地獄を作ったんだ・・・)

 

シグは先程の出来事を思い出した。だが思い出した所でどうにもならない。

 

「もうどうでもいい、なるようになればいい。疲れたから、休ませてくれ」

 

半ば、自暴自棄に近い状態になっていた。

 

「・・・それでいいのかよ」

 

「・・・誰だよ」

 

突然声が聞こえた。すると気がつくと辺りは明るくなっていた。

 

目の前にそれはいた。シグはその存在に困惑した。

 

自分と同じ顔をしている。一体こいつは誰なんだ?だがなぜかシグにはその人物に懐かしさを感じた。まるで幼馴染の様な・・・

 

「・・・お前は誰だ・・・?」

 

「俺か?俺はメビウスだ」

 






そろそろオリジナルシナリオもお終いかぁ。話的に蛇足じゃなければいいなぁ。

因みに平行世界の分岐などは言わないお約束で。

多分次回も今回みたいにナレーターの仕事少なめだと予想します。

そういえば総合U.Aと呼ばれるものが一万を超えたなって友達から祝いのメールが来てたな。


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第58話 その名はメビウス



今回は短めで会話パートがメインです。

初めに言っておきます。作者はファンタジーという言葉を使えば何でも解決できると考えているアンポンタンです。

前回のあらすじ!

エンブリヲによって語られた真実。それは想像を絶するものだった。シグはエンブリヲに戦いを挑むが、エンブリヲの能力により倒されてしまう!

そんな中シグはとある場所でメビウスと出会った!

前回のあらすじも短いな。

それでは本編の始まりです!




 

 

「・・・メビウス・・・?」

 

シグは目の前の自分と同じ顔の存在に戸惑っていた。

 

「ここで話すのはこれで二度目だな」

 

「その声・・・お前か、時々俺に語りかけてきたのは」

 

「おあいこだろ?フェニックスが跳んだ。あれはお前の仕業だろ。

それだけじゃない。あのおかしなシステム。

勝手に機体が動いた時。あれだってお前の介入だろ」

 

お互いがそれぞれに干渉していたことを明かす。しばらくお互い黙っていたが、やがてシグが話し始めた。

 

「今ならわかる・・・お前は俺なんだな」

 

「俺が捨てた優しさ。それを受け継いだのがお前なんだな」

 

「あぁ。その通りだ」

 

メビウスはその発言を肯定した。

 

「何のために現れた。俺を笑いにきたのか?お前を捨てた俺を・・・」

 

メビウスが最初に見た悪夢。誰かを見殺しにした夢。あれはシグがメビウスを・・・

 

自分の中の優しさを捨てた事を意味していたのだ。

 

「そんなんじゃねぇ。因みにここは精神世界だ。ついでにお前はまだ生きてる」

 

メビウスがファンタジーな事を言い始めた。

 

「・・・生きててどうなる?・・・ラグナメイルの破壊。それが俺の生きる理由だった。だが・・・全て嘘だった。世界は俺が滅ぼしたんだ・・・」

 

メビウスは黙ってシグに近づいた。

 

「・・・歯ぁ食いしばれぇ!」

 

次の瞬間、メビウスはシグを殴りつけた。

 

「・・・殴って気は済んだか?」

 

「別に恨んで殴ったんじゃない。それより目が覚めたか?」

 

「えっ?」

 

「お前には聞こえないのか?生きる為に戦おうとしている人達の声が」

 

するとシグの脳に謎のビジョンが浮かび上がる。それは戦闘風景である。

 

 

 

 

 

 

「こいつー!うじゃうじゃ沸いてきて!」

 

「倒してもキリがないぞ!」

 

「二人とも泣き言を言わない!」

 

ヴィヴィアンとタスクをアンジュが励ましている。ボマーの数は一向に減らない。

 

(アンジュ・・・タスク・・・ヴィヴィアン・・・)

 

「面倒だ!全部斬り落とす!」

 

「フィールドに頼るな!エネルギーの無駄遣いだ!」

 

「リフレクターで乱射するわ!カイ!早く!」

 

「狙撃専門だが仕方ねぇ。フルウェポンで相手してやるよ!」

 

(アクロ・・・ワイズナー・・・アンリ・・・カイ・・・)

 

「敵を近づかせるな!ボマーの爆発に周りのボマーを巻き込め!」

 

ネロ艦長が指示をとばす。アクセリオンは必死に弾幕を張っている。

 

(ネロ艦長・・・)

 

 

 

 

 

 

「・・・みんな・・・戦ってるのか・・・」

 

「ああ。あのクソ野郎を倒す為に。何より生きる為にな」

 

やがてメビウスは語り始めた。

 

「・・・なぁ。覚えてるか?お前が一番最初にここで俺に言った言葉を。俺はお前に託したんだぜ。【望みを叶える剣】を。俺は思い出したぜ」

 

「・・・思い出したよ。だけどあの時とは立場が

逆転したな・・・」

 

シグは以前の事を思い出した。話は第1話冒頭に遡る。あの時。メビウスが聞いたあの声。あれの一つはシグなのだ。

 

「俺はフェニックスを・・・力をお前に託された。たとえそれが神の悪戯でも、俺はその事を後悔していないぜ」

 

「そしてフェニックスがこの世界に跳んだ時、俺はシグの心に触れた。その・・・悪かったよ」

 

メビウスが頭を下げた。それにシグが驚く。

 

「お前がこれまで、どれだけ苦しい思いをしてきたのか・・・その事に気付いてやれなくてよ・・・」

 

シグはメビウスの話を黙って聞いていた。

 

「さて。本題を話すか。お前はこのままでいいのかよ」

 

「・・・どういう事だ?」

 

「いいように利用されて、いいように捨てられて、それでいいのかよ!」

 

「・・・」

 

シグの中で何かが動いた。

 

「お前。この未来を変えたいんだよな!それが生きる理由だって!あれは嘘なのか!?」

 

「違う・・・」

 

シグの中で先程より何かが動いた。

 

「過去の罪をただ受け入れて隅っこでうじうじする!それで満足なのかよ!」

 

「違う」

 

シグの中で何かが大きく動いた。

 

「優しさを捨てたのはこうなる事を望んでいたからなのかよ!?」

 

「違う!俺は!未来を変えたい!それが俺の生きる理由だ!」

 

シグの中の何かが動き、そして吹っ切れた様だ。

 

「なら簡単だ。俺の命をやるよ」

 

「・・・命を!?」

 

「忘れたのか?俺とお前は正真正銘の一心同体。

命の共有くらい可能なんだぜ」

 

「えらくファンタジーだな」

 

「うるせぇ。そのかわり一つ頼みがある」

 

「ナオミを・・・みんなを助けろよ・・・」

 

命の共有。それはシグに自分の命を与えるという事だ。無論そんな事をすればメビウスという人格はシグの人格に融合され、そして消えるだろう。

 

ナレーターとしてもえらくファンタジーな設定だと思う。

 

「・・・断る」

 

「はっ?」

 

メビウスはシグの発言が理解できないでいた。

 

「知っているぞ。そいつは敵なんだろ?敵を助けるなんて俺にはできない」

 

「テメェ・・・!」

 

「だから・・・お前が助けろ」

 

「えっ!?」

 

シグの言葉にメビウスが驚く。

 

「俺はお前の半身なんだろ?なら簡単だ。俺がお前の体に戻る。そうすればお前は消えずに命の共有ができるんだろ?」

 

「またファンタジー的な事をいいだして・・・」

 

「お前と俺は元々一つなんだろ?なら出来るはずだ。それにここは精神世界なんだろ?ならそれくらい簡単だろ」

 

「・・・わかった。そうするか」

 

メビウスとシグが目を閉じあった。するとメビウスの体の中に何か入ってくる感覚がした。それには懐かしさが感じられた。

 

目を開ける。目の前にシグはいなくなっていない。シグがどこにいるのか。メビウスはその場所がわかっていた。

 

「・・・懐かしいな。この感覚。昔無くした何かが戻ってきたみたいだ・・・」

 

「それより早く戦線に戻るぞ。アンジュ達もそろそろ限界だろう」

 

「だがその前にメビウス。お前に頼みがある」

 

「なんだ?」

 

「主人格にはお前がなれ。だがそのかわり一つだけ約束しろ」

 

「・・・この世界を・・・未来を救ってくれ・・・」

 

「分かった」

 

(ありがとう。お前のおかげで、最後に少しだけ先に進める事が出来た。だから・・・おやすみ・・・)

 

「・・・シグ?・・・!」

 

メビウスは理解した。シグの現状を・・・

 

「・・・シグ。お前との約束。絶対叶えてやる。

だから今はゆっくり休め・・・」

 

メビウスはある事を考え、そして結論を出していた。

 

(あの時・・・初めてここに現れた時、俺に語りかけた存在は二人いた。もう一人はお前なんだろ?待ってろよ・・・フェニックス!)

 

そう思いながらメビウスは光へと歩き始めた。シグの意思を受け継ぎ、実行するために。

 

何より仲間の待つ場所へ・・・

 

遂に光の前にやってきた。自分を奮い立たせるため

高らかに宣言する。

 

「俺はメビウス・・・未来を変える者だ!!」

 

そしてある言葉を無意識に呟いた。

 

「The future is endless・・・未来は無限だ」

 

それはかつてフェニックスのコックピットで拾った色褪せた紙に書かれていた文字だ。

 

そして下に書かれていた色褪せたメビウスの輪。

 

あれもシグと同じく何百年もの時を過ごしたのだろうか・・・

 

「・・・メビウスとして俺は生きる!そして未来を変える!」

 






遂にメビウスが復活しました!

次回で第7章は最終話です!アンケートなどはお忘れなく!

今回の話の為にファンタジータグが存在している様なものですw

次回はもう少しまともになると思います。


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第59話 beyond the time



前回のあらすじ!

精神世界で出会ったシグとメビウス!そこでシグはまだ諦めず戦う仲間達の声を聞いた。

シグを生かすためにメビウスとシグは融合した。

そしてエンブリヲを倒す為!戦場へと向かうのだった!

それでは本編の始まりです!




 

 

「さて。そろそろ終わりにしようか」

 

戦場ではエンブリヲが突然歌を歌い始めた。永遠語りの歌を。

 

「まさか・・・あの兵器を!?」

 

アンジュ達が驚いた。避けようにもボマーが邪魔でろくに動く事が出来ない。

 

「さようなら」

 

ヒステリカの両肩が開かれた。光が放たれようとした。

 

その瞬間だった。ヒステリカ目掛けて粒子砲が飛んできた。皆が驚いて下を見る。

 

「久しぶりだな!エンブリヲ!」

 

その声は皆が知っている声だった。

 

「シグ!?」

 

ZEUXISのメンバーが驚いた。そこにいる人物は

どう見ても普段見ていたシグではないからだ。

 

そんななかアンジュ達はある人物を予想する。

 

「メビウス・・・メビウス!!メビウスよね!」

 

「あぁ!ここにいるのはメビウスだ!」

 

メビウスが声高らかに宣言した。

 

「馬鹿な!なぜ貴様が生きている!」

 

エンブリヲが普段見せない様な動揺をしていた。

 

「調律者を名乗るくせに自分で言った事は覚えてないんだな!」

 

「お前は俺を不死鳥と呼んだな!不死鳥は死んでもその灰からその身を蘇えらせるんだよ!」

 

「そんな非科学的な事が!」

 

エンブリヲはなおも戸惑う。エンブリヲの様な

タイプの人間は想定外の事態に弱いとは

よく言ったものだ。

 

「既にお前の知るシナリオ通りじゃねぇんだよ!

俺も!フェニックスもな!」

 

するとフェニックスが光出した。全身が紅く輝いていた。まるで炎をその身に宿したように・・・さらに背中からは翼が生えていた。翼の生えたその姿はまさに不死鳥であった。

 

「フェニックスに・・・翼が」

 

「うおおぉ!!かっちょいいー!!」

 

「相変わらずのトンデモ機体ね!」

 

皆がそれに驚いていた。その姿は神々しいという言葉が似合っていた。ボマーがフェニックスめがけて突っ込んでくる。

 

「いけ!ファング!」

 

背中から生えた翼からは無数のファング

【フェザーファング】が展開された。

それらはボマー達を全て撃墜した。機体の爆発がフェニックスに直撃する。しかしフェニックスにはなんのダメージにもならない。

 

「すげぇ・・・あれだけの数を一掃しやがった」

 

皆が驚いていた。

 

「イレギュラーごときが!」

 

ヒステリカがビームライフルを放つ。しかしそれは翼によって防がれた。アイ・フィールドですらない。

 

「翼で防いだだと!?なら!」

 

エンブリヲが永遠語りを歌う。ヒステリカの両肩が開かれた。

 

「これでお終いにしてやる!」

 

両肩から光が放たれた。その光はフェニックス目掛けて一直線に進んだ。光が命中する直前。フェニックスの姿は消えた。

 

「なっ!?一体どこに!」

 

するとヒステリカのモニターに高熱源反応が表示

された。

 

「高熱源反応!真上から!?」

 

上を見あげる。それと同時にフェニックスが

ネオマキシマ砲を放った。

 

ヒステリカは間一髪のところでネオマキシマ砲を避けた。調律者である自分が押されている。エンブリヲにとってこの事態は納得できるものではない。

 

「おのれ!おのれ!おのれ!認められるか!この様な事態が!」

 

「終わりだ!エンブリヲ!」

 

フェニックスが一気に加速した。コンバットパターンをするつもりだ。だが今回は違うパターンだ。

 

フェニックスの姿が消えては現れ現れては消えていた。

 

「まさか!時間を跳躍しているのか!?」

 

時間跳躍。簡単に言うとタイムジャンプだ。機体の硬直、エネルギーチャージ時間などを時間を跳ぶ事によってフェニックスはそれらを無しにしているのだ。先程消えた直後のネオマキシマ砲もこれを使ったのだ。

 

ファングがヒステリカの全方向から攻めてくる。シールドで防ごうとするがそんなものもはや役に立たない。さらにヒステリカにはビームガトリングが放たれた。さらにはデス・シザーレイも。

 

ヒステリカの四肢は物の見事にもぎとられた。ヒステリカの残された武器は精々両肩に付いているあの兵器くらいだ。

 

フェニックスの胸部が開かれた。そこから砲身が

現れた。次の瞬間にはエネルギーチャージは完了していた。

 

エンブリヲは永遠語りを歌い機体の両肩の光で対抗する。次の瞬間には二つの光がぶつかりあった。

 

結果は一目瞭然だ。以前サラマンディーネ達のいた世界でネオマキシマ砲を微量で撃った時、ヴィルキスと焔龍號の最強兵器のフルパワーにも競り勝つ事が出来た武器だ。それを全力で撃った以上、エンブリヲ側に勝ち目などあるはずもない。

 

ネオマキシマ砲の光はヒステリカの放った光を巻き込み、ヒステリカに直撃した。

 

「馬鹿な!私は調律者だ!この様な結果が認められるわけがない!」

 

「俺たちはみんな必死で生きてんだよ!自分だけが特別なんて思ってる奴に負けるかよ!消えろ!エンブリヲ!!!」

 

「馬鹿ナァァァァ!!!」

 

エンブリヲの断末魔が響いた。やがて光が収まった。その場にはヒステリカの残骸など残されてはいない。敵は全て消えたのだ。

 

「終わったの?」

 

アンジュ達が呟く。先程までの劣勢が嘘の様に感じられた。

 

「だが・・・もう穴は・・・」

 

ここにきた本来の目的、過去への跳躍の為には穴を通る必要があった。その穴はエンブリヲが消してしまった。そしてそのエンブリヲも消えてしまった。

 

もう過去には帰る事が出来ないのか。

 

「大丈夫だ」

 

「えっ?」

 

メビウスがの言った一言に皆が驚いた。

 

「フェニックス。頼むぜ」

 

モニターにはある文字が表示された。

 

《Neo Maxima Over Drive System》

 

するとフェニックスが光輝きだした。翼が大きく広がり、ヴィルキス達を、そしてアクセリオンを包み込んだかと思うと、その場から姿が消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェニックス達はある場所へと現れた。

 

「・・・ここは!?」

 

アンジュ達は自分がいる場所が把握できてなかった。

 

「なんだよここ・・・空気がうめぇぞ!」

 

ZEUXISのメンバー達が驚いていた。先程までの世界とは違っていた。空気がうまい。息が軽やかにできる。

 

「この風!この匂い!間違いないよ!ここ!私達の世界だ!」

 

ヴィヴィアンが歓声の声を上げる。

 

「・・・帰ってきたのね・・・私達・・・」

 

すると突然モニターにある人物が現れた。その人物とは先程まで戦闘をしていた。

 

「エンブリヲ!?」

 

「覚えているがいい!いつか必ず罰を与えてみせる!」

 

捨て台詞を吐くとエンブリヲとの通信は切れた。

 

「あいつ・・・生きてたのね」

 

「関係ない。それに具体的な解決策が見えた」

 

「あの未来はエンブリヲの仕業。奴を倒す事が未来を変える事に繋がる」

 

この世界ですべき事。それらを見つけられた。あとはその目標目指して突き進むだけだ。

 

「みんな!あれを見ろ!」

 

不意にタスクが叫んだ。その方角を見るとそこにはアルゼナルがあった。

 

「アルゼナル・・・みんなは!」

 

フェニックスがアルゼナルへ向けて飛んでいく。その後にアンジュ達が、そしてアクセリオンが続いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

夜となった。アクセリオンは水面に浮かばせていた。偽装展開しているため、おそらく見られてバレる事はないだろう。

 

皆がアルゼナルの砂浜に腰掛けていた。真ん中には焚き火をして海で捕まえた魚を焼いて食べていた。

 

「うめぇ!100年前はこんなウメェもんが食えてたのか!」

 

「あぁ!こんな美味いものは初めてだ!」

 

ZEUXISのメンバー達はその魚を皆涙を流しながら食べていた。それは

生まれて初めて食べた美味いものである。

 

「そういえばメビウスもアルゼナルで初めて料理を食べた時泣いてたね!」

 

ヴィヴィアンが昔を懐かしむ様に言う。あの涙も生まれて初めて食べる美味しいものへの感動の涙なのだろう。

 

「えっと・・・それで・・・どうする?」

 

ZEUXISメンバーは困惑していた。シグと呼ぶべきか。それともメビウスと呼ぶべきか。その事で悩んでいたのだ。顔はシグなのだが身長に関しては20センチメートル縮んでいる。何故か他のメンバーは身長に変化などはなかった。

 

「君はどうなのかね?呼び方については」

 

ネロ艦長がメビウスに尋ねる。

 

「何言ってんだ。シグもメビウスも元は同じ人間だ。でも・・・もし悩んでんなら俺の事はメビウスって呼んでくれ。それがシグの為にもなる」

 

「・・・やはりシグは・・・」

 

「生きてるぜ。今は数百年間の俺みたいに長い眠りについてるだけだ。でも生きてる。これは断言してやる」

 

「ならば迷いはない。今後君の事をメビウスと呼ばせて貰おう」

 

「よし決まりだ!メビウス!今後ともよろしくな!」

 

「おう!よろしく頼むぜ!」

 

ZEUXISメンバーはメビウスを受け入れた。そしてシグと比べる事は出来るだけしない事にした。

 

するとそこにアルゼナル内部の調査から帰ってきたアンジュとタスクがやってきた?面持ちは二人とも悪かった。

 

「・・・その様子だと、やっぱ?」

 

「あぁ。アルゼナル内部に生存者は誰もいなかった・・・」

 

タスクが重い口調で話す。その言葉に皆んなが多少暗い雰囲気になる。

 

「みんな・・・どこいったのよ・・・まさか」

 

アンジュの中に最悪の可能性が芽生えた。

 

「脱出して、きっと無事だよ。あのジルがそう簡単にやられるわけがない」

 

タスクがアンジュを励ます。その言葉を最後に少しの沈黙が続いた。焚き火がパチパチと音を立てているくらいだ。

 

静寂を破ったのはヴィヴィアンだった。

 

「ん?なんじゃありゃ?」

 

ヴィヴィアンが海の方を見て言う。皆がその方角を見る。

 

するとそこには宙に浮かぶ光があった。それは所謂ヘッドライトだ。さらに海からウェットスーツに身を包んでいる三つの頭が見えた。それらはこちらへと向かっている。どうみても意思を持った存在だ。

 

ヴィヴィアンを除いて女性陣達は身を寄せ合った。アンジュもタスクに擦り寄る。

 

男達は武器を手にした。最悪の場合戦うつもりらしい。

 

ウェットスーツに身を包んだ存在は陸に上がった。そしてこちらへと足を進めた。

 

「100年前はこんなものが生きてたのね」

 

「そんな訳ないわよ!でも何よアレ!」

 

「お化け!?幽霊!?海坊主!?」

 

皆が半ばパニック状態になっていた。

 

「ア・・・リ・・・さま・・・」

 

一人が何かを呟いた。次の言葉はより鮮明に聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンジュリーゼ様ァ〜」

 

ウェットスーツの顔部分を取った。するとそこにはモモカがいた。

 

「モモカ!?」

 

「アンジュリーゼ様ァ〜」

 

モモカがアンジュに抱きついた。

 

後ろの二人もウェットスーツを脱いだ。するとそこにはヒルダとロザリーがいた。

 

「ヒルダ!ロザリー!無事だったのか!」

 

「そりゃこっちのセリフだよ。メビウス」

 

「ドラゴン女も一緒か!まぁ無事でよかったぜ!」

 

アルゼナルメンバーで抱き合った。そんな中ZEUXISメンバー達は直ぐには現状を理解できないでいた。

 

「おいおいメビウス!お前こっちの世界に人魚の友達作ってたのか!?うらやま・・・へぶっ!」

 

カイが軽口を叩いた。すぐさまワイズナーがその口を黙らせた。

 

「君達はメビウスの仲間か?」

 

ネロ艦長が三人に尋ねた。三人がネロ艦長の方を向いた。そして三人揃って一言言った。

 

「・・・あんた・・・誰?」

 

アルゼナルで出会ったヒルダ達。物語は更なる展開を見せる事になる!!

 

 






今回で第7章はおしまいです!次の章からはアニメ本編に戻ります!

なおアンケートについてはこの次の投稿のオリキャラ図鑑までとします。まだ投票してない君!今すぐ投票しようぜ!



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第59.5話 オリジナル図鑑!②



第8章に突入する前に!これまで新たに登場したオリキャラやオリジナル機体達について軽ーく解説していきます!

因みに軽くネタバレ要素も含んでいるでまぁ第7章を閲覧してない方はそちらを閲覧されてからの閲覧をお勧めします。

なお本編では書かれていない情報なども軽く載っています。

それでは解説の始まりです!



 

 

ZEUXIS

 

アンジュ達のいた世界の100年後の未来世界に存在する対ビースト組織。世界が人類進化連合とブラック・ドグマに分かれた中、突然現れたビーストから人々を守る組織。基地はボロいダムを外装としてカモフラージュしている。

 

 

主なZEUXISメンバー

 

シグ

 

身長以外はメビウスそっくりな人間。かつては孤児グループのリーダーであり万引きや窃盗などは常習犯である。

 

ある日自分のいない時にビーストに仲間が襲われた事を契機に自分の中の優しさを切り捨てた。

 

任務に忠実であり、命令とあらば何一つ躊躇うことなどない。まさにガーナムが以前メビウスにいった人物像そのものである。

 

だが完全な冷酷無慈悲ではなく本編では人命を優先させようと不利な状況でゴルゴレムに戦いを挑んだ。

 

 

 

その正体はメビウスの中に眠っていたもう一つの人格。

(かつてメビウスの心が二つに分裂した際、優しさがの人格がメビウスであり、その反対の人格として形成されたのがシグである)

 

さらに実はエンブリヲによって数百年間同じ事を繰り返す無限ループに囚われていたが、ある時、眠っていたメビウスの人格の覚醒した事によりループが断たれた。

 

未来世界に帰った後はメビウスと人格が入れ替わっていたがエンブリヲによって殺された際に精神世界でメビウスと対話。

 

結果的にメビウスと融合し、その際メビウスを主人格とし自らは長い眠りについた。(死んでません)

 

ワイズナー

 

ZEUXISメンバーの一人。機体はビショップ。

 

冷静な判断と的確な指示が出来るためメンバー達の信頼も厚い。よく暴走するカイのストッパーも務める。

 

 

カイ

 

ZEUXISメンバーの一人。機体はクレセント。

 

狙撃を得意としているが厳密にいうなら射撃全般が得意。基本軽い性格でナンパ師だが作戦となればそれらの感情は潜めている。シグについても決して良い印象は持ってないが作戦中ならば仲間として助けようとする。因みにメビウスの人格については好印象を持っている。

 

アクロ

 

ZEUXISメンバーの一人。機体はジョーカー。

 

主に接近戦をメインとしている。基本的にクールな性格だがすぐ熱くなってしまう所がある。だがそこがまた良いと考えている。

 

 

アンリ

 

ZEUXISメンバーの一人。機体はガローラ。

 

機動兵器部隊の中では唯一の紅一点。基本的にカイなどのストッパーにもなる。戦闘では主にサポートなどを得意としているが、決して戦えないわけではない。主にリフレクターなどの反射攻撃を得意としている。

 

ネロ艦長

 

ZEUXISメンバーの一人。アクセリオンの艦長である。

 

当時壊滅した孤児グループの生き残りのシグの保護者。(因みにシグという名前をつけた張本人)

 

かつてビーストに家族を殺されており、人類同士の戦争というものを憎んでいる。初対面の相手に自分の淹れたコーヒーを振る舞う癖がある。かつてはアクセリオンでビーストの群れと撃ち合った事があるらしい。

 

 

 

 

ZEUXISの装備。

 

基本はロスト・テクノロジーの塊のフェニックスの装備を簡易的に使える様にされた機体。その為エンジンはフェニックスとは違いネオマキシマエンジンではなく、マキシマエンジンである。

 

ビショップ

 

主な装備。ビームライフル。ビームサーベル。マイクロミサイル。マキシマ砲(銃身はライフル)アイ・フィールド。

 

クレセント

 

主な装備。スナイパーライフル。ミサイル。バルカン。マイクロミサイル。ビームサーベル。アイ・フィールド。

 

ジョーカー

 

主な装備。

 

ビームサイズ。ビームクロウ。ビームライフル。マイクロミサイル。アイ・フィールド。

 

ガローラ

 

主な装備。ビームライフル。ビームサーベル。リフレクター。マイクロミサイル。アイ・フィールド。

 

アクセリオン。

 

主な装備。ホーミングレーザー。ミサイル。マキシマ砲。アイ・フィールド。

 

フェニックス第二形態

 

初登場は第38話。右腕が鉤爪。左腕がガトリングとなっている。何処かの電脳魔神と似ているらしいが多分他人の空似だろう。因みに本編では未登場だが変形できる。

 

そこ!プロメ●ウスとか言わない!

 

主な装備。ビームガトリング。デスシザー・レイ。ネオマキシマ砲。アイ・フィールド(時間無制限)

 

フェニックス完全態

 

第二形態から更に進化したフェニックス。厳密にいうならこの形態こそフェニックスの本来の姿である。

 

(第一形態と第二形態はあくまでその力のセーフティーである)

 

見た目は第一形態に戻っているが第二形態の武器なども使える。

 

主な装備。第一形態と第二形態の装備全て。ファザーファング。翼。時間跳躍。

 

永龍號

 

アウラの民達の世界でヴィヴィアンに与えられた龍神器。オリジナルシナリオの際ヴィヴィアンだけ機体なしの事態を避けるために作られた存在。レイザーに酷似しているが能力はレイザー以上。

 

武装。ライフル。ぶんぶん丸。凍結バレット。

 

最早レイザーそのものである。

 

 

エンブリヲ側の機体。

 

ザ・ワン

 

エンブリヲについたナオミの新たな機体。ナオミはフェニックスの兄弟機と言ったがその実態はフェニックスそのものである。

 

(とある事情によりフェニックスが二つ存在している)

 

基本装備は初期のフェニックス第一形態と大差ないがエンブリヲ曰くフェニックス以上の性能であるらしい。この機体も進化するのだろうか?

 

主な装備。高粒子サーベル。高粒子バスター。アイ・フィールド。

その他不明。

 

 

 

人類進化連合。

 

未来世界でブラック・ドグマと戦争している組織。

 

本編では人物や機体などの影が薄い。噂によるとブラック・ドグマに対しての一大作戦を水面下で進行中だとか・・・

 

 

 

ブラック・ドグマの機体。

 

ジュダ

 

ガーナムの新たな愛機。性能はフェニックス第二形態と同じかそれ以上。初戦でシグの乗ったフェニックスを圧倒。横槍が入らなければ間違いなく勝っていた。

 

武装

 

大出力サーベル。大出力ビームライフル。(アイ・フィールド)

 

以上で解説を終わりにします!

 

 






次回から第8章です!

なおアンケート結果は⑤が15票でトップでした!

みんな凄いロマンチストですね。このアンケート結果が本編にどの様に活かされるのか!ご期待ください!



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第8章 帰ってきた世界
第60話 海底の反逆者達



今回から第8章です!本編はアニメシナリオに戻ります!

なお今回からメビウスを含めたメイルライダー部隊はパイロットスーツではなくライダースーツに変更します!ZEUXISメンバーに関してはパイロットスーツで通します。

前回のあらすじ!

遂にメビウスが目覚めた!それに応えるかの様にフェニックスは進化。その背中に翼を宿した。これによりエンブリヲのヒステリカを撃退!さらに時間跳躍を使いアンジュ達のいる過去の世界へと戻ってきた!

そしてその夜。ZEUXISのメンバーがメビウスを受け入れた頃。海からウェットスーツに身を包んだ三人組と遭遇した。

その三人の正体はなんとモモカさんとヒルダとロザリーであった!

そしてメビウス達はアルゼナルを脱出した彼女達の艦。アウローラへと来ていた。

それでは本編の始まりです!



 

 

海底深くを進む【アウローラ】そのブリッジでは

オペレーター三人娘が会話をしていた。

 

「第一警戒ライン。突破しました」

 

「まさか生きてたとは・・・」

 

「ヴィヴィアンもアンジュもメビウスも、てっきりロストしたと思ってた」

 

「今までどこ行ってたんだ?」

 

「・・・シンギュラーの向こう。更に未来世界だって」

 

「・・・嘘っ!?」

 

 

 

ここはアウローラの作戦室。ここではアンジュ達が集まっていた。ZEUXISメンバーからはネロ艦長と機動兵器部隊の皆がいた。

 

「私がアクセリオンの艦長。ネロだ。まずメビウスを保護してくれた事にZEUXISを代表して礼を述べさてていただく」

 

そう言うとネロ艦長は頭を深く下げた。それにワイズナー達も続く。なお作戦室内ではネロ艦長自前のコーヒーが振舞われていたため、部屋の中はコーヒー臭かった。

 

ジル司令達はアンジュやメビウスの語る話に皆驚いていた。

 

「なるほど。平行宇宙の地球。ドラゴン・・・

いや、遺伝子改造した人類の世界」

 

「そしてマナが消えて滅びを迎えようとしている100年後の未来世界か・・・」

 

ジル司令はタバコを取り出し、一服した。

 

「彼女達は話し合いができる相手よ。少なくてもこの世界の人間よりは・・・」

 

「手を組むべきじゃないかしら?ドラゴン達と・・・そしてZEUXIS達と」

 

アンジュの提案に皆直ぐに意見を示せなかった。

アンジュは続けた。

 

「ドラゴン達の目的はアウラの奪還よ。それがなくなればマナの光はこの世界から消える。そうすればシンギュラーも開かれなくなるし、パラメイルもいずれ要らなくなる」

 

「何よりマナの光を維持するためにドラゴン達と

戦うなんて馬鹿げた事をする理由がなくなるわ」

 

「無論エンブリヲが妨害をするでしょうけど、そのエンブリヲも倒せさえすれば、メビウス達の世界は・・・未来は最悪の道を辿ることはなくなるんじゃないかしら」

 

「敵の敵は味方か・・・なるほどね」

 

ジャスミンが何処か納得した風に言う。しかしそれにロザリーが喰いかかる。

 

「冗談だろ!?奴らとはこれまで何度も仲間の命を奪ったんだぞ!そんな奴らと協力!?出来るわけねぇ!」

 

ヴィヴィアンは何処か不服そうであったが、ロザリーの言い分は最もだ。

 

敵の敵は味方。その理由だけでこれまでの事を忘れて簡単に協力関係を結べるほど、人間は簡単な存在ではない。

 

「話して見れば分かるわよ!」.

 

アンジュ達としてもドラゴン達のいた世界に少し

滞在していたのだ。それ故彼女達が信頼できると言える。

 

しかしジル司令ははっきりと否定した。

 

「無駄だ。奴らは信用するに値せん。アウラだか何だか知らんが、ドラゴン一体助けた程度でリベルタスは終わらん。そして信じるに値しないのは貴様達もだ」

 

ジル司令がネロ艦長達の方を見る。ネロ艦長は黙っていた。

 

「我々の目的は神様気取りのエンブリヲを抹殺しこの世界を壊す事。それだけがノーマを解放できる唯一の方法だ。その大事な作戦にこれまで戦ってきたドラゴンや突然現れたこいつらと手を組むだと?

無理な話だな」

 

「・・・やなやつ」

 

「しっ!」

 

アクロが小声で呟いた。直ぐにアンリが注意した。

 

「信じるに値するぜ。ドラゴン達もZEUXISのみんなも」

 

メビウスが擁護する様に言う。しかしジル司令はそれを無視してアンジュの方を向いた。

 

「忘れた訳ではあるまい。アンジュ。祖国や兄妹。民衆に裏切られてきた過去を。こんな世界を壊す。それがお前の生きる理由じゃないのか?」

 

その言葉にアンジュはミスルギ皇国での出来事を思い出す。

 

「腑抜けたものだな。ドラゴンやこいつらに洗脳でもされたか?それとも・・・女にでもなったのか?」

 

アンジュとタスクが目に見える動揺をした。メビウス自身はジル司令に掴みかかりそうになったがネロ艦長がそれを制した。

 

「ピンクの花園で男と乳繰り合いたいなら!全てを終わらせてからにしろ!」

 

ジル司令のきつい一言に場は静まった。少しの間

静寂が続いた。

 

その静寂を破ったのはジャスミンとマギーだ。

 

「だけど私らの戦力が心物無いのは事実だね」

 

「サリア達が寝返っちまうし・・・」

 

その言葉に四人は思い出す。ドラゴン達の世界から帰ってきた時に現れたラグナメイルに乗ったサリア達を。謎の機体・・・いや、ザ・ワンに乗って現れたナオミの事を・・・

 

そして未来世界で現れた二機のラグナメイルのパイロットであるココとミランダの事を・・・

 

「あいつらはエンブリヲに騙されてんだよ!きっとそうに違いねぇ!」

 

メビウスが多少声を荒げて言う。それはメビウス

自身の願いでもあった。

 

「まぁ今はサリア達の事は置いといて。アンジュ。ドラゴン達とコンタクトはとれるのかい?」

 

「ヴィルキスなら、シンギュラーが開かなくても向こうの世界に行けるわ。多分」

 

ジャスミンの質問にアンジュは希望を提示した。

一度できた以上同じ事は出来るという

可能性という名の希望だ。

 

「そいつは頼もしいねぇ。ドラゴンや彼等との共闘。考えてもいいんじゃないかい?・・・ジル」

 

ジル司令は黙っていたがやがて腰を浮かせた。

 

「・・・よかろう。情報の精査の後、今後の作戦を伝える。貴様達はここで食事でもとったら、とっとと自分達の艦に帰るのだな」

 

そう言いジル司令は作戦室を後にした。

 

「悪いねぇあんた達。ジルは不器用だから、素直に感謝が伝えられないのさ。アンジュ達を保護してくれてありがとうね」

 

ジャスミンがネロ艦長達に頭を下げた。

 

「いえ。こちらこそメビウスを保護していただき、感謝しきれません」

 

ネロ艦長も頭を下げた。

 

「ジルの奴は嬉しいんだよ。あんた達が無事に帰ってきて。今夜はゆっくり休みな。後メビウス。あんた、記憶が戻ってよかったねぇ」

 

ジャスミンがアンジュとメビウスの肩に手をのせた。

 

 

 

アウローラの食堂ではモモカ飯が振舞われていた。それはアンジュやメビウスなどにとってはノーマ飯より美味しい普通の食事だった。

 

だがZEUXISのメンバー達にとっては最早御馳走に等しかった。

 

「メビウス!お前こんな美味いもの食えてしかも

女の子達に囲まれて!なんて羨ましい奴だ!」

 

「たしかにこの料理はかなりの味だ。いつかはこの料理が食べれる様になるのだな・・・」

 

「ウマァァァァァァァイ!!!」

 

「この料理!どの様に作られたんです!?」

 

「・・・美味いな。この料理はコーヒーがよく似合う」

 

メビウス以外の五人は初めて食べたこの世界での料理に皆声高らかに感動していた。それはアンジュ達も同じである。

 

未来世界での食事はあくまで栄養補給が目的であったため、ろくな味などなかった。

 

するとカレーを食べていたヴィヴィアンの身体をマギーがペタペタ触り始めた。

 

「にゃははは!一体何!?」

 

「本当にキャンディー無しでもドラゴン化しないのかい?すごい技術だねぇ・・・」

 

「そういえば向こうのみんなは羽と尻尾が生えてたよ!なんで私にはないの?」

 

「バレるから斬ったのさ」

 

「うわっ!ひっでぇ!」

 

さらっと言った一言に皆は苦笑していた。

 

「それにしても。アウローラがまだ動けたとは・・・」

 

タスクが何処か懐かしそうに言う

 

「知ってるの?」

 

疑問に思いアンジュが尋ねた。

 

「あぁ。かつて古の民がリベルタスの旗艦として使っていたんだ。俺達はこの艦でエンブリヲと戦っていたんだ」

 

「そういえばフェニックスだけど。あれ古の民。つまりこの地球がエンブリヲに介入される前に作られた兵器らしいぜ。所謂ロストテクノロジーの塊って奴だ。俺はそれを偶然遺跡で見つけたんだけど・・・タスク達はこの機体の事を何か知らないのか?」

 

フェニックス。元々偽りの地球に住んでいた人類がが作り上げた機体。これが未来世界で封印されていた事を見ると古の民はこの機体の存在を知らなかったのだろうか?

 

「多分俺達の先祖も以前争いがあったんだと思う。そしてそれが終わった際にもう争わなくていいと

判断してその機体を封印したんじゃないのかな?」

 

「そうか・・・」

 

メビウスは何処か悲しそうであった。

 

今争うためにこうして封印された機体が使われている現状に悲しくなったのだろう。

 

「因みにベットは少し狭いですが快適なのでご安心ください」

 

モモカはアンジュにアウローラの説明をしていた。

 

「そう。それは良かったわ」

 

「ちっともよくねぇよ」

 

ヒルダが割って入ってきた。

 

「戦場からロストしたと思ったら急に帰ってきやがって。しかも団体さんをお連れして。しかも未来人って一体どうなってんだ!?」

 

「おおっ!ヒルダちゃん!俺達に興味あるの!?

俺達はな・・・ごぶっ!」

 

ナンパ師カイの悪い癖が発動した。すぐさまワイズナーによってその口を閉ざされた。

 

「失礼した。話を続けてくれ」

 

「アタタタタ。ワイズナー!殴る事ないだろ!?」

 

カイを気にせずヒルダが話を戻そうとする。

 

「でも。あんたらが消えた後。色々な事があったよ」

 

「そうそう。アルゼナルはぶっ壊れるわ。仲間は

大勢の殺されるわ。・・・クリス達は敵になるわ・・・」

 

その言葉に四人の手が止まる。

 

「・・・なぁ。一体みんなに何があったんだ?」

 

メビウスが疑問に聞いてみる。

 

「こっちが知りてぇよ!」

 

ロザリーの答えは最もである。

 

「それだけじゃないわ・・・ココとミランダが・・・敵になった・・・」

 

アンジュの言葉にヒルダ達が驚く。

 

「ココとミランダって!あの二人か!?」

 

「でも!あいつらはもう死んじまったんだろ!?

生きてるわけねぇよ!」

 

ヒルダとロザリーが驚きながら言う。

 

「この目で見たわ。あれはココとミランダだった。間違いないわ・・・」

 

「そうか・・・」

 

ヒルダ達は直ぐに冗談ではない事を理解した。少し場が静まった。

 

「そう言えばこの艦。貴方達二人だけでよく沈まなかったわね」

 

アンジュが話題を変えようと話を変える。

 

「喧嘩売ってんのかテメェ!?」

 

ロザリーが食いかかる。

 

「それは、私らがいたからでもあるよ」

 

背後から声がした。振り返るとそこにはゾーラ隊長がいた。更に見た事のない三人の少女もいた。

 

「私が戦線に復帰した事とこの三人が頑張ってくれたからだよ。なぁ?ノンナ。マリカ。メアリー?」

 

ゾーラ隊長が背後にいた三人の名前を呼ぶ。三人は軽く会釈をした。

因みにゾーラ隊長のパラメイルはヴィヴィアンのレイザーを自分用にチューンしたらしい。

 

「私がきっちり仕込んでおいた。即戦力として心強い強い存在だ」

 

「私も手伝ったんだぜ!」

 

ロザリーが付け加えた。すると三人はヴィヴィアンの元に向かった。

 

「お会いできて光栄です!」

 

「第一中隊のエース。ヴィヴィアンお姉さまですよね?」

 

「大ファンです!」

 

「おっおい!あんたら私にそんな事一言も・・・」

 

「はっはっは!残念だったなロザリー!」

 

ゾーラ隊長が笑いながらロザリーの肩をポンポン

叩いた。

 

アンジュ達も苦笑いというか呆れ笑いをしていた。

 

そんな中タスクが妙に浮かない顔をしていた。

 

「どうしたの?タスク?」

 

「いや、アレク・・・じゃなくてジルの様子が少し気になって・・・」

 

「アレクトラ・マリア・フォン・レーヴェンヘルツだろ?」

 

ヒルダの言った言葉にアンジュとタスク。そしてメビウスが驚く。なぜヒルダがジルの本名を知っているのか・・・

 

「みんな知ってるよ。司令のやつ全部ぶちまけたから」

 

 

 

話はアンジュ達がドラゴンの世界に飛ばされた直後に遡る。ヒルダとロザリーをアウローラに格納した時。そこにはボロボロに傷ついた彼女達がいた。

 

そんな彼女達にジル司令は言った。

 

「諸君!人間の残虐さ。冷酷さは嫌と言うほど知ったはずだ。私は必ずやエンブリヲを倒し、ノーマをこの呪われた運命から解放する!」

 

「その日まで・・・諸君の命、私が預かる!」

 

その言葉は人間達によつては傷ついていた彼女達、ノーマ達にとってはまさに救いの一言であった。

 

「あのアレクトラがそんな事を・・・」

 

「意気込みは分かるんだけど。あそこまでガチだと少し引くわ・・・」

 

その時だった。不意に声が響いた。

 

「あなたにあの人の何がわかるのよぉ!?」

 

皆が驚いてその声の方を向いていた。その声の主はカウンターテーブルの様な所から現れた。

 

それは泥酔していたエマ監察官であった。手には

酒瓶を握ってラッパ飲みをしていた。

 

「エマ監察官!?」

 

「エマさんでいいわエマさんで・・・」

 

「酒クセェ!」

 

アンジュとメビウスが同時に言った。

 

「この艦に乗られてから、ずっとこの調子なのです」

 

モモカがエマ監察官の・・・いや、エマさんの現状を説明した。

 

「しょーがないでしょ!私・・・同じ人間に殺されかけたのよぉ〜!なのに・・・なのに・・・司令は・・・私をこの艦に乗せてくれたのよ・・・これまでノーマに酷いことをしてきた私を・・・」

 

お酒のせいなのか多少情緒が不安定となっていた。

 

しかしもし管理委員会に戻れば間違いなく口封じを目的に殺されていただろう。あの惨状を見れば幾らエマ監察官とはいえノーマ管理委員会のやり方に

疑問の一つも持つだろう。

 

その点では彼女がここにいる事は彼女にとっては正に幸運な事と言えるだろう。

 

「あの人だけヨォ!この世界で信じられるのは!

そう思うわよねぇ!?ペロリーナァ!!」

 

「はいはい。その辺にしときな」

 

エマさんがペロリーナ人形を頬ずる。そのエマさんをマギーが外へと連れ出す。

 

「何あれかわいい・・・」

 

因みにZEUXISメンバーのアンリはエマさんの持っていたペロリーナに興味を示していた。

 

「でも・・・監察官の言う通りだぜ。私らが信じられるのは司令だけだ・・・この世界で・・・」

 

ロザリーが重たい口調でそう言う。

 

少しの沈黙が続いた。

 

「では。我々はそろそろアクセリオンに戻る」

 

一通りの食事が終わり、ネロ艦長達が立ち上がる。アクセリオンはアウローラの真上を偽装を展開しながら飛んでいる。

 

これからアウローラは浮上してアクセリオンに回収してもらうのだ。

 

「メビウス。君はアウローラに残りたまえ。この

世界での仲間達と少しでもいられた方が良かろう。通信機を渡しておく。何かあったらこれで連絡を取りたまえ」

 

「ありがとうございます。ネロ艦長」

 

「メビウス。好きな子がいるからって夜襲うなよ!」

 

去り際にカイの軽口が聞こえた。その後直ぐに悲鳴も聞こえた。

 

「・・・あんたのお仲間。とても個性的な奴だな」

 

ヒルダが感心した様に言う。

 

 

 

 

 

アンジュ達も食事が終わると食堂を後にした。

 

アンジュとヒルダはシャワー室でシャワーを浴びていた。

 

「なんか少し沁みるわね」

 

「海水が混ざってるからな。そのせいだろ」

 

するとヒルダはアンジュに抱きついた。

 

「なっ!ヒルダ!?」

 

「あんた・・・少し太った?」

 

「なっ!?どこ!?」

 

「ここら辺」

 

「あんっ」

 

ヒルダがアンジュの腹を摘む。アンジュが軽く喘ぎ声を出した。

 

「ったく。お前が居なくなって、心配してたんだぞ。それなのにお前はあの男ばかりか団体さんまで連れてきて・・・ねぇ。タスクって言ったっけ。

ミスルギ皇国で出会った男」

 

「ええ。そうよ」

 

「・・・したの?」

 

「はい!?」

 

ヒルダの一言にアンジュが困惑する。

 

「タスクかメビウスと・・・したの?」

 

「してないしてない!」

 

アンジュは必至に否定する。タスクとはキスはしたが本番には突入していない。

 

「・・・そう」

 

ヒルダがアンジュの肩にキスをした。

 

「お帰り。アンジュ」

 

そう言うとヒルダはシャワー室を後にした。

 

 

 

 

 

メビウスは部屋に来ていた。アルゼナルに帰ってきてからはアルゼナルでの制服に着替えた。

最も、未来世界での服は身長が再び縮んだ事により使い物にならなくなっていた。

 

ライダースーツも再び同じサイズのものをジャスミンに頼んだ。

 

ベットに横になる。ふと横を見ると隣にもベットがあった。しかしそこには側にいてほしい人物はいない。

 

「・・・ナオミ・・・なんでだよ」

 

無意識にナオミの名前を呟いた。

 

何故エンブリヲに着いたのか。なぜ敵になってしまったのか。その事を考えていた。

考えたところで答えなどでない疑問を。だが考えずにはいられなかった。

 

「・・・信じてるぜナオミ。また昔みたいに戻れるって事を・・・」

 

それはかつてナオミが反省房送りとなったアンジュとヒルダとメビウスの三人に言った言葉であった。

 

メビウスは信じている。またナオミと一緒に居られる事を・・・

 

 

 

 

 

こちらはタスク側。現在ヴィルキスの近くに来ていた。まだ子供だった頃、10年前のリベルタスの時のジル司令の言葉を思い出す。

 

(私はこの歪んだ世界を正し、ノーマを解放する。

差別のない平等な、貴方達が笑って過ごせる世界を

創ってみせるわ・・・タスク)

 

「アレクトラ・・・」

 

「誰?」

 

タスクが呟くと不意に声がした。その方を見るとメイがいた。

 

「あっ。いや。この艦さ、女の子達が多くて居場所がないから・・・機体のコックピットで寝ようと思って・・・」

 

最初はメビウスの部屋に転がり込む事を考えたが扉を開けた時、メビウスはタスクに気づかなかった。そしてタスクはメビウスがある人物と昔みたいに

戻れる事を願っているのを聞き部屋を後にした。

 

あの部屋にはいつか帰ってくる人がいる。その人の帰る場所を一時的とはいえ、とるわけにはいかないと思い部屋を後にしたのだ。

 

「君はこんな時間まで整備を?」

 

「うん。やっと帰ってきたし、念には念を入れておかないとね・・・よし!整備も終わった!」

 

そう言うとメイはヴィルキスから降りた。

 

「・・・ねぇ。あなただよね?以前ヴィルキスが

堕ちた時に直したのは」

 

メイがタスクに尋ねる。それはアンジュが喪失して島に流れ着いた時の事だ。

 

「そういえばそんな事もあったな」

 

「いつかお礼を言おうと思ってたの。ありがとう。ヴィルキスの騎士さん。それじゃ私はこれで」

 

そう言うとメイは格納庫を後にした。タスクは

アーキバスのコックピットに座る。暫くぼーっとしていたがやがてボックスからある物を取り出した。そしてそれを持って上を見上げた。

 

「念には念を・・・か・・・」

 

タスクは一言呟いた。

 

 

 

 

 

一方司令室ではジル司令がタバコを吸っていた。

十年前のリベルタスの時の出来事を思い出していた。

 

「そう。おかしくなっていいんだよ。

アレクトラ・・・」

 

「・・・エンブリヲ!!!」

 

吸っていたタバコを忌々しそうに義手で握りつぶした。

 

「・・・今度こそ成功させる・・・リベルタスを・・・」

 

ジル司令は一言呟いた。

 

 

 

 

 

それぞれが思いに耽るなか、こうして一晩が明けた。

 

アウローラの作戦室にはメビウスとアンジュとタスクが来ていた。その向かいにジル司令とマギーとジャスミン。メイとゾーラ隊長。そしてバルカンが座っていた。

 

三人は向かい側に腰をかけた。

 

「昨晩はよく眠れたか?」

 

「あぁ」

 

「それは結構。さて、アンジュ、そしてメビウス。お前達に任務を与える」

 

ジル司令の言葉に三人は息を飲んだ。

 

「アンジュはドラゴンと。メビウスはZEUXISと接触。交渉し、共同戦線の構築を要請しろ」

 

 





今回久しぶりにジル司令やゾーラ隊長を出せました。

潜水艦とかは寝心地とか実際どうなんだろ。揺れるのかな?

自分は乗り物酔いするからアウローラで生活できないなぁ。


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第61話 決別の海



前回のあらすじ!

遂に出会ったアルゼナル組とZEUXISメンバー達。アンジュはこれにドラゴン達を加えて共同戦線を提案するがジル司令はドラゴン達。そしてZEUXISメンバーを信じていない。

情報精査ののちに今後の行動を伝えられる事になった。

アウローラの食堂では久しぶりの再会を喜ぶアンジュ達。だがそこにサリアやナオミ。クリスにエルシャの姿はなかった。

やはり敵となってしまったのか。

それぞれが思う中で一晩が明けた。

作戦室に集まったアンジュ達。そこでジル司令からドラゴン達。そしてZEUXISメンバーとの共同戦線の交渉を命令されたのだ!

それでは本編の始まりです!




 

 

「・・・本気なの?」

 

アンジュ達はジル司令の言葉を直ぐには理解できなかった。

 

「どうした?お前の提案どおりドラゴンやZEUXISの連中と手を組むと言ったんだ。それがリベルタスを達成させるには最も合理的で判断したまでだ」

 

ジャスミン達は驚いていた。一方アンジュ達は顔を見合わせていた。その顔は何処か嬉しそうであった。

 

「では作戦の概要を説明する」

 

そう言うとテーブルの上に地図が表示された。その上に6つの印がつけられて動いていた。

 

「これは?」

 

「以前サリア達と交戦した時に機体に打ち込んだ

マーカーだ。そこ情報から奴らの帰還した場所がここ。

 

ミスルギ皇国。暁ノ御柱だ。おそらくエンブリヲ

もここにいる」

 

暁ノ御柱。確かそこはアウラのいる場所でもある。

 

「そこは確かアウラがいる場所だ」

 

「それは心強い情報だ。まず我々で敵戦力を削ぐ。アンジュ。ドラゴン達には南西の方向からミスルギ皇国に侵攻させろ。それでラグナメイルを誘き出す」

 

「ZEUXISの連中はドラゴンと一緒にアクセリオンでミスルギ皇国に進行させろ。

そこでブラック・ドグマを誘きだせ」

 

「我々はアウローラでラグナメイルでは探知不能な深さで接近。ラグナメイル達の背後に浮上し挟撃する。敵兵力を全て排除した後に全勢力をもって暁ノ御柱に進行する」

 

ジル司令の作戦。これは問題のある作戦ではない。ある一点を除いては。

 

「だけどこれじゃあ、ドラゴン達やネロ艦長達に

多大な負担を強いることになるぞ」

 

以前ドラゴン達の世界から帰ってきた際、ラグナメイルによりドラゴン達はバタバタと堕とされていった。その戦力差は決して小さいとは言えない。

 

更にZEUXISの戦力はメビウスがこちらにいるため機動兵器が4つと戦艦アクセリオンだけである。

 

この戦力でラグナメイルやブラック・ドグマとの

戦闘は決して容易とは言えない。

 

「陽動とはそういうものだ」

 

ジル司令は思うところもなくはっきりと言った。

 

「サリア達はどうするの?」

 

アンジュが疑問に思い尋ねた。

 

「どうするとは?」

 

「助けないのか?」

 

メビウスが代わりに答えた。するとジル司令はその時軽く笑った。それはまるで呆れ笑いの様に見えた。

 

「持ち主を裏切る様な道具はいらん」

 

「道具って・・・ナオミ達は仲間だろ?だったら

助けるのは当然だろ」

 

「既に敵になった道具だ。捨てておけ」

 

「そんな・・・だってサリアもいるのよ?」

 

アンジュもこれには戸惑った。サリアがジル司令を

尊敬していたのはアンジュにも解っていた。

 

それなのにジル司令はそのサリアさえも道具として捨てると言っているのだ。

 

「リベルタスの前では全てが道具だ。ドラゴン達も・・・ZEUXISの連中も・・・お前達も・・・私もな」

 

この時三人はジル司令が何かを隠している事に勘付いた。

 

「・・・ねぇ。何を隠しているの?本当はドラゴン達やZEUXISの皆んなに何をさせるつもりなの!?」

 

アンジュがジル司令に尋ねるがジル司令は答えない。

 

「答えなければ命令には従わないわ!」

 

「・・・ドラゴン達やZEUXISの連中と挟撃?

ハッハッハッハ!」

 

するとジル司令が笑い出した。手で顔を抑えていた。その姿はまるであまりの滑稽さに笑っている風に見えた。

 

「アウローラの本当の浮上ポイントはここさ!」

 

机の上の地図に記された場所。そこはどう見ても

ドラゴンやZEUXISの戦闘中域からは離れていた。

 

「奴らが交戦している間にアンジュ。お前はパラメイル隊と共に暁ノ御柱に突入。エンブリヲを抹殺しろ」

 

「はぁ!?」

 

三人が声を揃えた。一体この人は何を言っているのか?それが理解できないでいた。

 

「ドラゴン達やZEUXISは捨て駒か!?」

 

タスクが立ち上がった。これは余りにも理不尽とも言える作戦内容だ。

 

「切り札であるヴィルキスを危険に晒す真似など

出来るはずないだろ?」

 

「そしてメビウス。お前は作戦開始前から探知不能高度でミスルギ皇国上空であらかじめ待機。そして暁ノ御柱にアンジュ達が突入してから十分後に

アンジュ達が脱出する」

 

「そしたらお前はネオマキシマ砲で砲撃。

ラグナメイルやドラゴン共。そしてミスルギ皇国を滅ぼせ」

 

「はぁ!?」

 

再び三人が声を揃えた。自分達の耳がおかしくなったとさえ疑った。

 

「それじゃあ破滅の未来の繰り返しだぞ!!」

 

これにはメビウスも立ち上がった。

 

ネオマキシマ砲による砲撃。それによりサラマンディーネ達の世界は滅び、そしてメビウス達のいた

未来世界は滅びへと向かっている。

 

それをやれだと?しかも味方であるドラゴン達を・・・仲間達を消す為に・・・

 

「冗談じゃないわ・・・こんな最低な作戦。協力できるわけないでしょ!?」

 

アンジュの手に力が入る。こんな作戦は異常としか言えない。

 

「ならば協力する気にさせてやろう」

 

するとジル司令は予想していたとでも言わんばかりにリモコンを取り出した。すると画面にある部屋が映し出された。

 

「んんっ!んんっ〜!」

 

そこには手足を縛られ口に猿轡をされていたモモカさんが写しだされた。

 

「モモカ!」

 

アンジュ達が驚く。一体何故モモカさんが縛られているのか。その理解が出来ないでいた。

 

「減圧室のハッチを開ければどうなるか。判らん訳ではなかろう?」

 

ここは深海だ。そんな深海で手足を縛られた状態で放り出されればどうなるか。いや、手足が自由でも間違いなく放り出された時点で水圧で死ぬ事は目に見えていた。

 

「ジル!あんたの仕業かい!?」

 

「聞いてないよこんな事!」

 

ジャスミンとマギーがジル司令に抗議する。流石にこの事態の異常性を感じ取ったらしい。

 

「アンジュは命令違反の常習犯だ。予防策を取っておくのは当然だろ?」

 

「アレクトラ・・・」

 

タスクが小声で呟く。

 

「救いたければ命令を全て受け入れ!行動しろ!」

 

「ジル司令!あんた!自分が何してるのか解ってんのかよ!」

 

メビウスがジル司令に言う。

 

「メビウス。貴様もだ。この作戦に協力しろ」

 

「ふざけるなよ!こんなの作戦じゃない!ただの

虐殺じゃないか!!」

 

するとジル司令が笑った。まるで、そう言ってくれてありがとう。とでも言いたげな笑みだった。

 

「よかったよ、そう反抗してくれて。出なければ私の心も痛むというものだ」

 

「どういう事だ!?」

 

「既に仕掛けた種が無駄に終わらなくてよかったという事だ」

 

「仕掛けた・・・種・・・?」

 

メビウスにはその言葉の意味が理解できないでいた。

 

「そろそろ効いているはずだ」

 

「・・・まさか!?」

 

メビウスは通信機を取り出した。アクセリオンに連絡を取る。

 

「ネロ艦長!俺だ!メビウスだ!」

 

しかしそこからはネロ艦長ではなくアクセリオンの軍医である【ジェシカ】がでた。

 

そしてその後ろからは呻き声の様なものも聞こえた。

 

「メビウスかい!?今こっちは大変なんだよ!ネロ艦長やワイズナー達がぶっ倒れちまった!」

 

「倒れた!?」

 

「調べた結果遅効性の毒を盛られたみたいだ!でもその毒成分がわからないから解毒薬が作れないんだ!」

 

「遅効性の毒・・・ジル司令!てめぇまさか!?」

「遅効性の毒・・・ジル!あんたまさか!?」

 

メビウスとマギーが声を揃えて言った。

 

するとジル司令はポケットから何かを取り出した。それは小さな小瓶であった。中に何かの錠剤が入れられていた。

 

「マギーの所から配合したのを頂いた。それを昨日の奴らの食事の時に少し仕込んでおいた。味の異変に気づかないとは本当におめでたい連中だな。

・・・恐らく後二、三時間が限界だろう」

 

「ジル司令!幾ら何でもやりすぎです!」

 

これにはゾーラも抗議した。あまりにも理不尽な事を要求している。しかしジル司令はゾーラを無視した。

 

「さてメビウス。これが解毒薬だ。奴らの命の天秤が揺れてるぞ。お前の言葉一つでその天秤の揺れは決まる」

 

「奴らを殺すか!ドラゴン共を殺すかでな!」

 

「!!ふっざけんじゃねぇぞ!!!」

 

【バシ!】

 

メビウスがジル司令に殴りかかった。そして解毒薬も奪おうとした。しかしそれは義手で受け止められてしまった。

 

「狙いが正確な分。読み易いというものだ」

 

「ガハッ!」

 

ジル司令はメビウスを床に叩きつけた。そして胸を足でぐりぐりと踏みつけた。メビウスの口から血が軽く吹き出た。ポケットに解毒薬をしまう。

 

「さてアンジュ。こうなった以上お前が決める番だ。侍女を助け、ZEUXISも助けたければ命令を全て受け入れ、行動しろ!」

 

「自分が何をしているのか・・・解っているの!?」

 

アンジュが睨みつける。しかしジル司令の余裕は崩れていない。

 

「リベルタスの前には全てが駒であり道具だ」

 

「解毒剤がメビウスを動かず為の道具である様に、あの侍女はお前を動かす為の道具だ」

 

「そしてお前はヴィルキスを動かす為の道具。

そしてヴィルキスは!エンブリヲを殺す究極の武器だ!」

 

「ふざけるな!!」

 

遂にアンジュが立ち上がり銃を抜いた。銃口はジル司令に向けられていた。

 

「モモカを解放しなさい!そして解毒薬も渡しなさい!今すぐ!」

 

しかしジル司令は銃身を握ると机に叩きつけた。そして机に身を乗り出しアンジュの体に蹴りを入れた。

 

「がっ!」

 

アンジュの体が壁に叩きつけられた。

 

「上官への反抗罪だ!」

 

机から身を乗り出すと、義手の方でアンジュの首を締め上げ宙に浮かせた。なお、現在メビウスは胸を押さえながら呻いている。

 

「やめろ、アレクトラ!」

 

止めようとするタスクをジル司令は殴り飛ばした。ジャスミン達はそれを見ていることしか出来なかった。

 

「さて。お前の答えを聞こうじゃないか」

 

「・・・変わったな、アレクトラ」

 

タスクはスイッチを取り出し押した。するとそれに反応してあるもののスイッチが入った。

 

アンジュの首を握っているジルの義手に力が加わる。

 

「がっ・・・ごっ・・・」

 

「さぁ。答えは?」

 

「ク・・・くたばれっ・・・」

 

【ぺちゃ】

 

ジル司令の顔にアンジュの唾がとんだ。

 

「・・・痛い目に会わなければわからんらしいな」

 

ジル指令が左腕に力を込める。大きく振りかぶった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すると突然ジル司令の身体から力が抜けた。アンジュの首を握っていた手が緩む。アンジュはその場に倒れこんだ。ジル司令も机で身体を支えていた。

 

「なっ・・・なんだいこれは?」

 

異変はジャスミン達にも現れていた。頭痛や目眩などが皆を襲った。

 

「アンジュ!これを。メビウスも!」

 

タスクがアンジュとメビウスにあるものを投げた。それはガスマスクであった。ジル司令は通気口を見た

 

「ガスか!」

 

それは昨日。タスクが仕掛けておいたガスである。先程押したスイッチにより後は充満するのを待つだけであった。

 

ガスはアウローラの様々な所に影響を及ぼしていた。食堂ではガスの影響で倒れる者が続出していた。

 

「なんじゃこりゃ・・・」

 

ロザリーが朝食のプレートを床に落とし倒れ込む。ヒルダも朝食に突っ伏していた。ヴィヴィアンも

異変に気がついたらしい。

 

「くんくん。これは!タスクの言っていた

プランB!ぱふっとな!」

 

するとヴィヴィアンはポケットからガスマスクを取り出し装着した。どうやらヴィヴィアンもタスクの協力者となっていたらしい。

 

「あの男・・・何か盛りやがったな・・・アンジュ・・・」

 

薄れゆく意識の中、ヒルダはヴィヴィアンの言葉を聞き逃さなかったが、やがて意識を失った。

 

作戦室では既にガスマスクを装着したタスクとアンジュとメビウス。そして口を手で覆っていたジル司令を除き皆ダウンしていた。タスクの肩はそれぞれアンジュとメビウスにかしていた。

 

「タスク!貴様っ!」

 

「出来れば使いたくはなかったよ」

 

「ヴィルキスの騎士が・・・リベルタスの邪魔をするのか!?」

 

「違う!俺はヴィルキスの騎士じゃない!アンジュの騎士だ!解毒薬は貰っていく!」

 

タスクはジル司令のポケットから解毒薬を取り出すとメビウスに持たせ、作戦室を後にした。

 

「色気づいたか・・・ガキが!」

 

ジル司令は立ち上がるとある物を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

作戦室を出るとそれぞれが行動に移った。

 

「モモカ!」

 

「アンジュリーゼ様!」

 

減圧室ではアンジュが扉を開け、そこに囚われていたモモカを助け出した。

 

ブリッジではタスクがアウローラの浮上の準備を終えていた。オペレーターの三人もガスの影響で倒れていた。

 

メビウスはヴィヴィアンと合流するとライダースーツに着替え、格納庫を目指した。するとそこに

モモカさんを連れてアンジュがやってきた。

 

「アンジュ!これ!」

 

メビウスがアンジュのライダースーツを渡す。その場で着替えている間にタスクも合流した。どうやらアウローラは浮上中らしい。五人は格納庫に辿り着いた。

 

「海面に出たら、直ぐにパラメイルでアクセリオンに行って解毒薬を届けるわよ!準備を!」

 

アンジュ達五人の機体は多少奥なので走った。するとそこにある声が響いた。

 

「また敵前逃亡か?」

 

その声の主はヴィルキスの物陰から現れた。

 

それはジル司令だった。片足にナイフが刺さっていた。あの後ナイフを取り出しその激痛で意識を覚醒させて、待ち伏せをしていたらしい。

 

「逃がさんぞアンジュ・・・リベルタスを成功させるまでは!」

 

ジル司令は足に刺さっていたナイフを抜き構えた。これほどまでの執念・・・一体何が彼女をそれほどまでに動かすのか。

 

「リベルタスって、私がいないとできないんでしょ!?それなのに私の意思は無視するの!?」

 

「道具に意思などいらん・・・!」

 

ジル司令はじりじりと近づいてくる。

 

「私の意思を無視して戦いを強要させる。そんなの、人間達がノーマにしている事と同じじゃない!」

 

「命令に従え!司令官は私だ!」

 

「人間としてはクズよ!」

 

するとアウローラにビービーオンが鳴り響いた。

どうやら海面に浮上したらしい。

 

「勝負しましょ!」

 

突然アンジュが提案した。

 

「サラ子は人質なんて真似はしなかった。あなたが勝ったら私達は命令に従うわ!」

 

そういいアンジュはナイフを構えた。

 

「あぁ。俺達に異論はない」

 

メビウス達四人もアンジュにのった。

 

「タスク。ヴィヴィアンとモモカを連れて下がってて」

 

「気をつけろ。アンジュ」

 

「アンジュリーゼ様!どうか御武運を!」

 

「頑張れアンジュ!」

 

タスクがヴィヴィアンとモモカさんを連れて下がった。

 

場はアンジュとジル司令。そしてメビウスの三人となった。

 

「二対一で挑むか?」

 

「そんな事はしないわ。でもその前に・・・」

 

タスク達はアウローラの発信口を開く。すると天井が開放された。

 

「メビウス!あなたはアクセリオンに解毒薬を持って行きなさい!」

 

「逃げる気か!?」

 

「メビウスはそんな事はしないわ!必ずここに戻ってくる!そうよねメビウス!」

 

「あぁ。俺はもう一度戻ってくる。だが今は仲間の命を助けるのが優先だ!」

 

そう言いメビウスはフェニックスに乗り込んだ。機体を上昇させ、アクセリオンに向かい飛び立つ。

 

「ったく。この後に及んでまだわがままとはな!」

 

「そう言うあなたは傲慢ね!」

 

お互いのナイフがぶつかり合う。それにより金属の擦れる音が格納庫に響く。

 

「エンブリヲを倒さん限り、リベルタスは終わらん!」

 

アンジュはジルとの距離をとった。

 

「その為ならどんな犠牲でも許されるっていうの!?」

 

「その通りだ!」

 

「そんな戦いに、何の意味があるのよ!」

 

「お前なら解るはずだ!皇女アンジュリーゼ!世界に捨てられ!全てを奪われたお前なら!私の怒りが!!!」

 

ジル司令が再接近した。再び鍔迫り合いとなる。だが今度はジル司令の覇気にアンジュは多少押され気味になっていた。ナイフの先端が胸に刺さり血が一雫流れる。

 

「お前は私だ!お前がエンブリヲを殺し、リベルタスを成功させるんだ!全てを取り戻す為に!」

 

「私は・・・私よ!」

 

アンジュはジル司令を投げとばした。ジル司令は

ナイフを落としたものの何とか受け身は取れた。

 

「誰かに自分を託すなんて!空っぽなのね!あなた!」

 

アンジュはナイフを床に投げ捨てた。あくまでジル司令と同じ土俵の上で闘うという意思なのだろう。

 

「何が正しいのかなんて、そんなのは分からない。でもね!あなたのやり方は大っ嫌いよ!アレクトラ・マリア・フォン・レーヴェンヘルツ!!」

 

「くっ!黙れぇ!!」

 

ジル司令は義手で殴りかかった。アンジュはそれを避けた。勢い余ってジル司令は倒れこむ。そこにとどめと言わんばかりにアンジュは首裏筋に一撃加えた。ジルの頭部から血が一筋流れでる。

 

「何故・・・何故わからん!?」

 

「あなたのやり方じゃね!喫茶アンジュは作れないのよ!」

 

「なんだ・・・と」

 

「その辺にしとき」

 

タスク達の背後から声がした。振り返るとそこにはジャスミンとマギーがいた。

 

「あんたの負けだよ。ジル」

 

ジャスミンからの敗北宣告を最後にジル司令は意識を失った。

 

「勝負はついたらしいな」

 

そこにフェニックスが帰ってきた。メビウスが

コックピットから降りる。

 

「メビウス。仲間達は大丈夫なのかい?」

 

「解毒薬は渡した。恐らく大丈夫だろう」

 

「それはよかった。あんたらには申し訳ない事を

しちまったね」

 

ジャスミンが謝罪する。アンジュ達はそれぞれの機体に乗り込む。

 

「・・・どうするんだい?これから」

 

ジャスミンがアンジュに尋ねる。

 

「私がやるわ。あの人のやり方は間違っている。

けど、やっぱりノーマの解放は必要だもの」

 

「だから私がやるわ。私の信じる人と、私を信じてくれる人達と一緒にね」

 

アンジュ達はギアを入れる。機体は浮き、次の瞬間にはアウローラから発進した。それをジャスミンとマギーはただただ見守っていた。

 

アウローラから出たメビウス達。

 

「これからどうされるんですか?アンジュリーゼ様?」

 

モモカさんが疑問に思い尋ねる。因みにモモカさんはタスクのアーキバスに相乗りしている。

 

「まずアクセリオンに行くわ。話はそれからよ」

 

「賛成だな」

 

アンジュの意見にメビウス達も納得した。皆がアクセリオンに向けて機体を飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。突然四機目掛けて粒子兵器がとんできた。

 

「なに!?」

 

慌てて回避をとる。やがて粒子兵器の正体が判明した。

 

ファングだ。ファングがやってきた。しかし普通のファングではない。有線式ファングだ。

 

「ファング!?」

 

皆が驚く。そしてそのファングの持ち主と思われる機体が現れた。

 

それは機体というよりは小型戦艦だった。有線式ファングが収納された。すると戦艦が変形した。そしてそこにはある機体の姿が現れた。

 

「!?・・・フェニックス?しかもその姿!」

 

「これはザ・ワン・ネクストだよ」

 

通信が送られてきた。その声とその相手はメビウス達のよく知る人物だった。

 

「ナオミ・・・」

 

「メビウス。みんな無事だったんだね。よかった」

 

更にザ・ワン・ネクストの後ろから五機のラグナメイルが現れた。

 

「ここにいたのね。アンジュ。そしてメビウス」

 

モニターに映し出された人物。それにアンジュが

反応する。

 

「サリア・・・」

 

「前回は逃げられたけど、今度こそ貴方達をエンブリヲ様の元に連れて行くわ」

 

 






たまに思う事があります。

本編でもし彼女達の誰かがデストロイガンダムの様な巨大な兵器に乗ってたらどうなっていたのかたまに想像してしまいます。

デストロイは50メートル位だけどどう見てもそれ以上ある様に感じるのは俺だけだろうか?



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第62話 時の調律者



前回のあらすじ!

ジル司令が決定したドラゴン達やZEUXISとの共闘。だがその実態は両者を捨て駒とした最低の作戦であった。

これにメビウスとアンジュは反発した。ジル司令は予防策としてモモカさんを、そしてネロ艦長達の命を人質としていた!

タスクが予め用意しておいた予防策によりなんとか最悪の事態は回避された。だがこの一件でアンジュ達はジル司令と決別。アウローラからの脱走を決行した。

格納庫でジル司令と一対一の戦闘を制したアンジュ達。

自分達の信じる者、自分達を信じる者の所へ行く為一同はアクセリオン目掛けて飛び立った。

だがそこにザ・ワン・ネクストを駆るナオミ。そしてサリア達が立ち塞がった!

それでは本編の始まりです!




 

 

アウローラの上空。そしてアクセリオンの下では

4対6の戦闘が繰り広げられていた。敵機はまずアウローラとに攻撃していた。

 

「狙いは母艦か!」

 

現在アウローラのブリッジでは一足先に回復した

ジャスミンが指揮を執っていた。

 

「全防水隔壁閉鎖!アウローラ急速潜航!」

 

「了解!」

 

「現在!アンジュ機。メビウス機。ヴィヴィアン機。謎のパラメイルがサリア機達と交戦中!」

 

パメラ達オペレーター組も回復したらしい。席に着き指示通りの行動をする。だがメイルライダー部隊はまだガスの影響でダウンしていた。

 

今のアウローラではろくな戦闘はできないのだ。

 

「全く。誰のせいでこうなったんだかねぇ」

 

ジル司令は担架によって医務室へと運び込まれた。

 

そしてアクセリオン内でも騒ぎは起きていた。現在ワイズナー達が四つん這いになりながら発着デッキを目指していた。それをジェシカ含めた医療

グループに妨害されていた。

 

「ダメです!まだ絶対安静なんです!」

 

「けどメビウス達だけを戦わせるわけにはいかねぇだろ!」

 

「まだ毒の痺れは抜けきれてないんだ。今行って何が出来るというんだ!」

 

「くっ!偽装展開・・・この場を離脱します!」

 

今の状況では戦うのは危険。そう判断してアクセリオンは偽装を展開した。そしてその場を離れた。

 

仲間の無事を願いながら・・・

 

(メビウス。無事でいろよ・・・)

 

 

 

こちらではメビウス達が必死に攻撃を止めさせようとしていた。

 

「やめろサリア!俺達が戦う理由なんてない!」

 

「相変わらずおめでたいわね。そう思ってるのは

貴方だけよ」

 

クレオパトラがライフルを放つ。それを避ける。現在フェニックスは第一形態のまま戦闘していた。可能な限り武器だけを狙っている。そこにガトリングが飛んできた。アイ・フィールドに防がれ機体には命中しなかった。

 

その攻撃の主はナオミであった。

 

「メビウス。私だって戦いたくない。だから一緒に来て!」

 

そこにヴィヴィアンとタスクが援護に来た。

 

「飛んでけ!ぶんぶん丸MarkII!」

 

その攻撃はザ・ワン・ネクストに直撃した。だがそれは精々機体が揺れた程度であり、致命打にはなっていない。

 

「だめよ。ヴィヴィちゃん」

 

その時クリスとエルシャのライフルが永龍號と

アーキバスに命中した。

 

「なっ!?モモカ!」

 

モモカさんが機体の外に投げ出された。海へと落下していく。

 

「マナの光!光よ!」

 

するとモモカさんのスカートがパラシュートの様に開かれた。ゆっくりと降下していった。

 

そして時を同じくしてアウローラは深海へと姿を消していった。こうなると最早粒子兵器はほとんど

意味を成さない。

 

「ちっ!」

 

クリスが忌ま忌ましそうに舌打ちをする。

 

「ねぇ!あの艦に乗ってるの、仲間じゃないの!?」

 

アンジュが6機に通信を送るがその返答はない。

 

その時ヴィルキスのコックピットの外装がクレオパトラの攻撃により剥がされた。クレオパトラが

ライフルをヴィルキスに向ける。

 

「アンジュ!」

 

「動くな!」

 

フェニックスが駆け付けようするがサリアからの通信でその動きは止まった。

 

「メビウス。私達に従いなさい。さもなくば、

ヴィルキスのコックピットを潰すわ」

 

「卑怯よ!人質なんて!」

 

アンジュが声高らかに抗議する。

 

「やめろサリア!そんなのお前らしくねぇ!」

 

フェニックスの背後にラグナメイル4機が回り込んだ。全機がライフルの銃身をフェニックスに当てている。

 

「ごめんなさいメビウスくん。大人しくしてね。でないと、二人とも殺さなくちゃいけなくなっちゃうの」

 

「言っとくけど、ファングを使おうなんて考えない事ね」

 

クリスが念押ししてきた。メビウスの考えは読まれていた。アイ・フィールドは機体の周りにフィールドを貼るものだ。銃口を機体本体に突きつけられては防げないのだ。

 

こうなると手詰まりだ。メビウスはフェニックスのモニターである作業を始めた。

 

「・・・わかった。そちらに従う」

 

「聞き分けがいいのね。アンジュとは大違い」

 

「・・・このままエンブリヲの元に連れて行く気か」

 

「その通りよ」

 

「丁度いい。サリアからエンブリヲに伝えておけ。【仲間にふざけた真似をしたてめえは必ずブン殴る】ってな」

 

メビウスが今の状況でしたい事。それはある事を終わらせる為の時間稼ぎだ。そしてそれは今完了した。

 

「・・・最後に一つだけ言わせてくれ」

 

メビウスがオープンチャンネルで通信を送った。

 

「ナオミ!サリア!エルシャ!クリス!ココ!

ミランダ!絶対に助ける!だから待ってろ!」

 

ナオミ達が皆驚いた。この男はまだ自分達を敵と見ていない。エンブリヲに洗脳された程度にした考えていないのか・・・その事に皆驚いた。

 

何よりその言葉にはメビウスの願いではなく決意が秘められていた。

 

サリアは戸惑うが直ぐに元に戻る。

 

「ナオミ、お願い」

 

「・・・本当にしなきゃダメ?」

 

先程の発言にナオミの中の良心とエンブリヲの命令がぶつかり合っていた。

 

「また前みたいに消えたら面倒だよ」

 

「・・・わかった。ごめん。メビウス」

 

ザ・ワン・セカンドが何かを射出した。それは有線式ファングであった。それらがフェニックスに

突き刺さる。

 

そして次の瞬間には有線越しに高圧電流が流れ込んできた。これにより機体の計器類などはショートした。それほどの高圧電流だ。コックピットにいるメビウスも

無事ではすまなかった。

 

「ぐあぁぁぁぁっ!!」

 

通信越しにメビウスの苦痛の叫びに皆顔を顰めていた。まだ仲間と思っていてくれていただけに良心が痛んだ。

 

やがて叫び声も聞こえなくなった。有線式ファングを収納した。

 

フェニックスのコックピットではメビウスが倒れていた。意識は朦朧としている。

 

(みんな・・・無事でいろよ・・・)

 

メビウスはアウローラ、そしてアクセリオンの仲間達の事を思いつつ、残された意識は闇に溶けていった。

 

「メビウス!」

 

アンジュはヴィルキスを動かそうとする。そこにサリアがアンジュの前に現れた。その手には銃が握られていた。

 

「さよなら。アンジュ」

 

次の瞬間にはアンジュの胸あたりから血が飛び出た。アンジュの意識が急激に薄れていった。アンジュの体はヴィルキスのコックピット外に投げ出された。

 

既にアンジュの意識はなかった。クレオパトラで

アンジュを回収した。

 

「全機撤退。このまま二人をエンブリヲ様の元に届けるわ」

 

「イエス。ナイトリーダー!」

 

クレオパトラがヴィルキスを。そしてザ・ワン・

セカンドがフェニックスを連れて、その場を後にした。

 

「アンジュ!メビウス!」

 

連れ去られていく仲間達。機体の損傷の激しい二機は最早飛べなかった。その姿をタスクとヴィヴィアンはただただ叫ぶ事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュは夢を見ていた。それは高い所からゆっくりと落ちていく夢であった。

 

(私・・・そうだ。サリアなんかにやられたんだ・・・)

 

身体が地面に落下した。痛みは全く感じない。それどころか懐かしさを感じた。その理由は直ぐに判明した。

 

(これ・・・お母さまが育ててた薔薇の香り・・・)

 

(・・・こんな地獄なら・・・悪くないかもね・・・)

 

「・・・さい。・・・ゼサ・・・」

 

何処からともなく声が聞こえてきた。次の瞬間その声は鮮明に聞こえた。

 

「おきてください。アンジュリーゼ様」

 

アンジュの意識が覚醒した。そこはとある寝室であった。側にはモモカさんがいた。そしてアンジュはこの部屋が何処なのか理解が追いついた。

 

「ここ・・・私の部屋!?まさか!」

 

「はい!アンジュリーゼ様のお部屋です!ここはミスルギ皇国です!」

 

モモカさんが元気そうに言った。アンジュは机の上の手紙に気がついた。何気なく手紙の表面を見てみる。

 

それはエンブリヲからの手紙であった。

 

アンジュはモモカさんにも手伝いも借り服を着た。それはかつてアンジュリーゼ・斑鳩・ミスルギの時の服装であった。

 

着替えてる最中に自分の胸を見る。そこには手当をされた形跡が見られた。

 

「なにがサヨナラよ。ただの麻酔銃じゃない」

 

一通りの着替えが済んだ。机の引き出しから武器などを漁る。最も、自室にライフルやグレネードなどあるはずはない。だがペンならないよりはマシである。

 

「タスクとヴィヴィアンは無事かしら。それにメビウスも・・・とにかく今はエンブリヲを探さないと」

 

「それは出来ない話ね」

 

すると自室の扉が開かれた。そこにはサリアがいた。服装は軍服なのかよくわからないがまぁ変なデザインであった。

 

「今のあなたはエンブリヲ様の捕虜よ。勝手な行動はさせないわ」

 

「サリア。貴女一体何があったのよ」

 

「別に。ただ目が覚めただけよ」

 

話は第43話に遡る。

 

アンジュとの戦いに負け海へと落ちていったサリアのアーキバス。コックピット内は浸水し始めていた。だがサリアは何もしようとしなかった。

 

「落とされた。お似合いね。ジルに捨てられて、アンジュに負けた私に相応しい末路だわ・・・」

 

サリアは自らの死を望んでさえいた。生きる理由を失っていた。その時だった。声が聞こえた。

 

「それは違うよ。サリア。君は自分の価値に気がついていない」

 

気がつけば彼女はベットの上にいた。そしてその側にはあのエンブリヲがいた。

 

「世界をより良き方向へ導く為に、君の力を貸してくれないかい?サリア」

 

「あの方は私を生まれ変わらせてくれた。アレクトラは私を必要としていなかった。だけどあの方は私を必要としてくれた。

 

「そして今はエンブリヲ様の親衛隊。

【ダイヤモンドローズ騎士団】の騎士団長よ」

 

・・・ダセェ・・・おっと失礼。

 

「要は路頭に迷ってたところを新しい飼い主に拾われたってわけね」

 

「!!」

 

サリアはアンジュにビンタした。

 

「私は愛されてるの!エンブリヲ様に!誰にも愛されてない貴女とは違ってね!」

 

サリアが指輪を見て頬を赤らめる。おそらくラグナメイル起動に必要な指輪なのだろう。

 

「そう。それは良かったわね!」

 

アンジュはサリアに掴みかかる。サリアをベットに投げ飛ばす。急な事でサリアは対応出来なかった。

 

「弱いわね。サラ子の方が強かったわ。言っておくけど私はメビウスみたいに手加減なんてしないわよ」

 

「それにしてもネーミングセンスが壊滅的とは。おまけにその格好。何よそれ。プリティサリアンの方がまだ似合ってたわ。さて、行くわよモモカ」

 

サリアの顔が別の意味で赤くなった。かつての古傷を抉られる事は誰であろうと決して喜ばしい事ではないのだろう。そんなサリアを無視してアンジュとモモカさんは部屋を後にした。

 

直ぐにサリアも部屋を出るがそこにアンジュ達の姿はなかった。

 

「アンジュ!何処に行ったの!?」

 

サリアがアンジュを探しに廊下の奥へと走っていった。それを直ぐそばでアンジュ達が見ていたとも知らずに。ここはアンジュが住んでいた家だ。アンジュ達は隠し通路に隠れていたのだ。

 

隠し通路から外へと出た。するとそこには子供達がいた。それもアルゼナルの幼年部の子供達である。

 

「あっ!アンジュお姉さまだ!」

 

子供達はアンジュに気がついた。

 

「あらアンジュちゃん。目が覚めたのね」

 

子供達の後ろからサリアと同じ服を着たある人物がやってきた。

 

「エルシャ・・・」

 

エルシャはサリアと違い、変わっていなかった。アルゼナルで見てきたエルシャのままであった。因みにエルシャもサリアと同じ様に指輪をつけていた。

 

 

 

「エンブリヲ幼稚園?」

 

アンジュはテーブル越しに向かい合っているエルシャから事の一部始終を聞いた。

 

エンブリヲは人間達に殺された幼年部の子供達を生き返らせたのだ。そしてエルシャは子供達が安心して暮らせる世界を創りたいというエンブリヲの誘いに乗った。そして今はエンブリヲ幼稚園の園長も務めているらしい。

 

「アンジュちゃん。私は子供達を守る為ならなんだってするわ。人間達を殺す事や、アンジュちゃんやメビウス君を殺す事だって・・・」

 

「エルシャ・・・」

 

エルシャの目。それは我が子を守る母の目に似ていた。

 

「ねぇエルシャ。メビウスはあの後どうなったの?」

 

「メビウス君は確かナオミちゃん達が対応しているはずよ。何処にいるのかは多分エンブリヲさんが知ってるんじゃないかしら?

 

「あらいけない。こんな時間」

 

エルシャは子供達の面倒を見るために部屋へと入っていった。

 

「・・・エンブリヲを探さないと」

 

「付いてくる?」

 

木陰からクリスが現れた。

 

「クリス!」

 

「エンブリヲ君の所に行くんでしょ」

 

再び皇宮内に戻る。

 

「・・・怒ってたわよ、ヒルダ達」

 

あまりにも話す事がなく気まずかったので何か話題を作るアンジュ。

 

「怒ってるのはこっちだよ。助けに行くとか言っといて。結局は私の事を見捨てたんだよ」

 

「・・・でもエンブリヲ君は違ってた。私を助けてくれた。私と友達になりたいって言ってくれた」

 

「アンジュリーゼ様。その方は慈善事業家かカウンセラーの方なのですか?」

 

モモカさんが疑問に思い尋ねる。

 

「・・・神様らしいわ・・・」

 

「凄い方なのですね」

 

こうしている内に一つの部屋に辿り着いた。

 

「この私に毒を盛るなんて!おじさまが助けてくれなかったら、もう目が覚めない所だったのですよ!」

 

部屋から罵声が聞こえた。見てみるとシルヴィアとリィザがいた。リィザに鞭打ちをしている。

 

第36話の冒頭の後、リィザは口封じにシルヴィアに毒を盛ったらしい。だが、エンブリヲの介入によりそれは失敗し、今ではシルヴィアの奴隷となっているらしい。

 

「リィザ!?」

 

「ひっ!殺しに来たのです・・・私を!」

 

シルヴィアがアンジュに気が慌てている。

 

世界の果てに消えたはずの存在が目の前にいるのだ。驚くなという方が無理であろう。

 

「お母さまやお父さま。兄さまを殺め、最後にこの私を殺しにきたのです!」

 

「違う。話を聞いて」

 

「助けておじさま!叔父様!」

 

「叔父様?」

 

「ここにいたのね。アンジュ!」

 

アンジュが戸惑っている中、サリアがやってきた。咄嗟にサリアから奪い取った拳銃を向けた。

 

その時だった。

 

「喧しいな。読書中くらいは静かにしてもらいたいものだな」

 

階段からある人物が降りてきた。

 

その人物はエンブリヲだ。

 

「エンブリヲ様」

 

「それにしても、本は素晴らしい。この中には宇宙の全てが込められている。それに比べてこの世界は、なんとつまらない事か・・・」

 

「まぁいい。本より楽しめるものと出逢えたのは果たしていつぶりだろうか」

 

エンブリヲがアンジュの前に降りてきた。

 

「エンブリヲ!」

 

「この方がですか・・・」

 

アンジュが睨みつけた。モモカさんは初めて見るエンブリヲに多少困惑していた。

 

「手荒な真似をしてすまなかったね。君達と話をしたくてサリア達に頼んで連れてきて貰ったのさ」

 

「来たまえ。君も色々と聞きたいのだろう?」

 

そう言いエンブリヲは歩き出した。それにアンジュとモモカさん。サリアが付いていく。

 

「すまないがアンジュと二人だけで話がしたい。

君達は待ってくれないかな?」

 

「エンブリヲ様・・・わかりました」

 

「アンジュリーゼ様。お気をつけて」

 

二人は外へと向かうアンジュ達の背中を見守った。

 

 

 

 

舞台はアウローラへと移る。

 

「アンジュとメビウスは捕まったのか。そしてヴィヴィアンとタスクはロスト。散々暴れた結果がこれとは・・・実に滑稽じゃないか」

 

医務室ではジル司令が戦闘結果の報告書を見ていた。

 

「あの子達が頑張ってくれたから、この艦は沈まずに済んだんだよ」

 

「知ったことか。ヴィルキス無しではリベルタスの達成は不可能だ。だからアンジュを行かせてはならなかったのに・・・」

 

「まさかあの坊やが裏切るとは思わなかったよ・・・」

 

ジル司令が忌々しそうに義手で壁を叩きつけた。

 

「あんたも分かってたろ?こうなる事は・・・」

 

ジャスミンが呆れながら、だけどどこか冷たい目線でジル司令を見ていた。

 

「こんな事するなんて・・・あんたらしくないよ。ジル」

 

ジル司令はそれに何も返答しなかった。ジャスミンは続ける。

 

「メビウス。あいつは仲間が傷つく事が何よりも嫌な奴だ。それがあいつの心の根っこだ。そんなメビウス相手に仲間を使った人質作戦。ましてや命を盾にした脅しなんてしたらブチ切れもするさ・・・メビウスでなくてもね・・・」

 

「まぁこれでドラゴンやZEUXISとの協力関係は

絶望的だね。ZEUXISに関しては殺されかけたんだ」

 

マギーが呟く。

 

「アンジュ達は従順になる様に仕込んでおくべきだったか・・・」

 

ヒルダとロザリーはそれを聞いていた。

 

「なに考えてんだ?あのイタバカ姫は」

 

二人は下着姿で寛いでいた。

 

「何かが嫌になったんだろうな・・・ここを逃げ出したくなる様な嫌な事が・・・この艦。危ないかもな・・・」

 

「ここにいたか。探したぞ」

 

するとゾーラ隊長が部屋へと入ってきた。

 

「お姉様・・・」

 

「二人とも。少し話がある。いいか?」

 

ゾーラ隊長が真面目な面持ちで言ってきた。

 

こうして三人はある話し合いを始めた。

 

 

 

 

 

舞台は再びミスルギ皇国へ。

 

アンジュとエンブリヲは車である場所へと向かっていた。

 

「メビウスをどうしたの」

 

アンジュが運転中のエンブリヲに尋ねた。

 

「彼なら今はナオミ達と話をしているはずだ」

 

「ココとミランダを生き返らせたのはナオミを担ぎ込む為ね」

 

「不服かい?君だって二人が生きてる事は嬉しいんじゃないのかい?」

 

「二人が生きてる事は嬉しいわ。でもそれを利用するのは許せないのよね」

 

「なに。メビウスにも合わせてあげるよ」

 

やがてある塔へとたどり着いた。塔の扉を開けるとそこにはナオミ達がいた。

 

「アンジュ!」

 

「ナオミ!それにココ!ミランダ!」

 

ナオミとは対照的にココとミランダの二人は相変わらず無口であった。短い間ではあったが、アンジュの知る彼女達ではなかった。

 

「聞いてアンジュ。二人は・・・記憶を無くしちゃったの」

 

ナオミが放った一言にアンジュは驚いた。

 

「だから私の事も、アルゼナルでの出来事も覚えてないの・・・」

 

「そんな・・・」

 

「二人ともご苦労だったね。メビウスはどうかな?」

 

エンブリヲが話を切り替えた。

 

「大丈夫。言われた通りにしたから」

 

「そうかい。ご苦労だったね三人とも。すまないが皇宮に先に帰ってくれないかい?」

 

「うん。わかったよ」

 

「・・・アンジュ。メビウスを追い詰めないであげて」

 

ナオミが去り際にアンジュの耳元で囁いた。

 

(追い詰める?・・・なにを・・・?)

 

アンジュはその言葉の意味を理解できずに戸惑っていた。

 

「さて。メビウスはこの先だ。付いてきたまえ」

 

エンブリヲは階段を降りた。アンジュもそれに続いて階段を降りる。そこは地下室だった。そして地下牢の一室にメビウスはいた。

 

「メビウス!?」

 

メビウスの異変は目に見えていた。手足を拘束されていない。リィザの様に全身傷だらけなどでもなかった。

 

だがどこか変であった。瞳孔は黒色から赤色へと変わっていた。その視線はアンジュ達ではなく虚空を見つめていた。まさに心ここに在らずという言葉を体で表現している。

 

「エンブリヲ!メビウスになにをしたの!?」

 

アンジュが興奮気味に問いかける。

 

「なに。翼をもぎ取っただけだよ」

 

エンブリヲは訳のわからない回答をした。

 

「メビウスを解放しなさい!」

 

「それは無理な話だ。それにそれを決めるのはメビウスだ」

 

「それはそうと君にみせたいのは他にもある。今は私についてきてくれないかな?」

 

エンブリヲはそう言うと上の階へと上がっていった。

 

アンジュはメビウスを一度見て、その後エンブリヲの後についていった。

 

(メビウス。貴方に何があったの?・・・)

 

 






ココとミランダの二人は調整されている設定なので、基本的に話す事はしません。

果たしてココとミランダの二人がその口を開く日は訪れるのでしょうか!?

因みに団長と言えば【止まるんじゃねぇぞ】ですよね?


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第63話(改) happiness given



以前の第63話は削除してR-18の所に投稿しました。

尚、最初の部分だけは以前の第63話のを使用しました。
ちゃんと半ばからはストーリーが進行しています。

そしてお気に入り70人を突破しました!皆さん!
本当にありがとうございます!

前回のあらすじ!

サリア達によってアンジュとメビウスか捕まった。アンジュが目を覚ますとそこはミスルギ皇国の自分の部屋であった。

そしてミスルギ皇宮内でサリア、エルシャ、クリス達と話す。皆エンブリヲを信頼しているらしい。

そしてエンブリヲによってある場所へと移動した。そこでナオミ、ココ、ミランダと。そしてメビウスと出会った。

しかしメビウスの様子はおかしかった。

一体メビウスに何がおきたのか!?

それでは本編の始まりです!



 

 

アンジュがメビウスの所に来る少し前に遡る。

 

「んっ・・・ここは?」

 

顔に冷たい雫が垂れてきた。それによりメビウスが目を覚ます。今いる場所は薄暗く湿っている。そこは地下牢だ。

 

「確か俺は・・・そうだ。捕まったのか」

 

直前の出来事を思い出す。サリア達にアンジュを

人質にとられ、そして電流により意識を失った事を。

 

「やぁ。目が覚めた様だね」

 

地下牢にある人物が現れた。その人物にメビウスは直ぐに殺意に近い何かを感じた。

 

「エンブリヲ!テメェ!」

 

次の瞬間エンブリヲに殴りかかった。しかしそれは軽く避けられた。

 

この時メビウスは自分の異変を感じた。何かがおかしい。体が本調子でないというか、体に力が入らないのだ。

 

「はあっ。はあっ。体が重ぇ」

 

「無駄な事は止めたまえ。君では私を倒す事は出来ない」

 

「テメェ・・・一体なにをしやがった・・・」

 

「悪いが君の身体から人体強化ガスは抜かせてもらった。もう君は超人的な身体能力は無くなったのだよ」

 

「なっ!」

 

人体強化ガス。それはメビウスがシグだった頃、ブラック・ドグマにスパイとして忍び込み、人体に注入したガスだ。その影響でメビウスの戦闘力はかなり底上げされていたのだ。それを抜かれたらしい。

 

「今の君は多少訓練した程度の戦闘力だ。無駄な事はやめたまえ」

 

「・・・ない!ない!」

 

着ているライダースーツから武器を探す。しかし

武器は何処にもなかった。考えてみれば捕虜に武器など誰が持たせておくものか。

 

「まぁいい。本題に移ろう。メビウス。ナオミ達と同じく私の同志にならないか?そしてフェニックスの解除コードを教えてくれないか?」

 

フェニックスには現在ロックが掛けられている。

メビウスが機体にロックを掛けたからだ。

これによりフェニックスは今では鉄の塊が

相応しい状況となっている。

 

「俺が教えると思うか?寝ぼけてんなら顔でも洗ってこい」

 

メビウスは態度を崩さなかった。今のメビウスに

出来る事。それは虚勢を貼ることくらいである。

 

「まぁいい。私も君が答えると期待はあまりしてなかった。だから君の相手は彼女にしてもらうとするか」

 

そう言うとエンブリヲは姿を消した。こうして

地下牢にはメビウスだけが残された。

 

「・・・ちっきしょお!!!」

 

壁を思いっきり殴りつけた。手が痛みで痺れる。

だがそれ以上に怒りが勝っていた。

当然ながら鉄格子の扉が開いている訳もない。

 

やり場のない自分への怒りの時間が続いた。しばらくして少し落ち着いたのか、備え付けの簡易ベットに腰掛ける。

 

これからどうするかを考えていた。

 

「気がついた?メビウス」

 

すると呼ばれたので振り返る。そこにはナオミがいた。

 

「ナオミ・・・」

 

「ごめんねメビウス。手荒な真似をしちゃって」

 

ナオミが頭を下げながら、メビウスの隣に腰掛ける。

 

「なぁナオミ。お前がエンブリヲに着いたのはココとミランダを人質にとられているからか?」

 

メビウスがナオミに聞きたい事を聞いた。

 

「違うよ。私達がエンブリヲに味方したのは私達の意思」

 

「・・・なんでだよ」

 

メビウスが力なく呟く。

 

「私はザ・ワンで新しい世界を守りたい」

 

「新しい世界?」

 

メビウスは言葉の意味が理解できなかった。

 

「ねぇメビウス。あの日の言った決意。覚えてる?」

 

「みんなを守る事だろ」

 

ナオミの決意。みんなを守ること。それがナオミの心の支えともなっていた。

 

「それが私の生きる理由だった。みんなを守れる様になりたかった。いつかはメビウスの背中だって守れる様に・・・だけど現実は残酷だった。あの日から私は何も変わってなかった。弱い私のままだった」

 

「ドラゴンに・・・いや、敵に対しての恐怖は拭えなかった。いつもメビウスやアンジュの背中だけを追いかけてた。一度も隣に並べた事なんてなかった」

 

「ナオミ・・・」

 

ナオミの表情は普段見た事のないものだった。

 

「アルゼナルが人間の襲撃を受けた時だって。メビウスはみんなを守る為に人間相手に飛びかかったのに、私は何もできなかった。ただ震えてた。そしてまたメビウスに助けられた」

 

「なのに私は、メビウスの助けになれなかった。メビウスとアンジュが消えた時、私、二人が殺されたと思って、仇を討とうとエンブリヲに戦いを挑んだんだ」

 

「勝てなかったよ。ボロボロに負かされた。気がついたらベットにいた。側にはココとミランダがいた。最初は自分は死んじゃったって思った。でも違ってた。そこにはエンブリヲがいた」

 

「エンブリヲはココとミランダの二人を助けてくれたんだよ。ショックで記憶を失っちゃったけど・・・嬉しかった。二人が生きててくれて。記憶を無くしても二人はココとミランダだから」

 

「そしてエンブリヲは教えてくれた。メビウスの事。そしてこの世界の事を」

 

「この世界のこと?」

 

ナオミは話し始めた。この世界のマナの光の正体。なぜドラゴンが攻めて来るのか。それらは全てドラゴン達の世界で聞いた話の内容であった。

 

「そしてエンブリヲは私にくれたの。新しい生きる理由を。この世界を創り直すのに協力する。それが私の生きる理由なんだよ」

 

「世界を創り直す!?」

 

その言葉にメビウスが驚く。

 

「うん。エンブリヲの創ろうとしている世界はマナの人達やノーマ達ドラゴン達のみんなが手を取り合って生きていける世界なの」

 

その言葉にメビウスはミスティに言った言葉を思い出す。

 

(マナがなくても認め合えれば、世界は平和になれるかな・・・)

 

「皆が手を取り、認め合える世界・・・」

 

それはメビウスの望みでもあった。

 

未来世界では差別は残されている。その為に色々な人が犠牲となった。その歴史が来ない・・・それはなんと素晴らしい事なのか。

 

甘い考えが頭をよぎった。それを必死に振り払う。

 

「俺は自分の世界を見た。あの世界がエンブリヲの仕業でああなったのなら。ビーストがあいつのせいで現れたのなら。俺はあいつと戦わなくちゃならねぇ」

 

「それは違うよメビウス!あれはこの世界の未来なの」

 

メビウスは驚いた。なぜナオミがその事を知っているのか。

 

「エンブリヲは見せたの。この世界の未来を。そこで私は見たの。メビウス。貴方を・・・だから私はエンブリヲに協力する。あの未来を回避できれば、ノーマ達がドラゴンと戦う事や人間達から迫害される事もなくなるし。何よりメビウスがあんな風に戦わなくてすむ」

 

「もうメビウスが血に塗れる必要はなくなるの」

 

戦わなくてすむ。血に塗れなくていい。その言葉はメビウスを大きく揺さぶらせた。

 

メビウス自身あの世界での行いは決して自慢できるものではない。時には汚い事もした。時には血に塗れる事もした。

 

「その為にはフェニックスが必要なの。だからメビウス。一緒に協力しようよ」

 

その一言にメビウスはエンブリヲのやり口を理解した。

 

「成る程。あいつのやり口が見えてきたぜ。甘い事を言って従わせる。最低な野郎だな」

 

「メビウス?」

 

「俺はあいつに従わない。それが俺の結論だ。

ナオミ。お前は騙されてるんだ」

 

未来世界でメビウス達が見たがエンブリヲの本性とナオミの言うエンブリヲは当てはまっていない。

 

その答えは単純だ。ナオミ達はエンブリヲの話術などで騙されている。

 

現にナオミの様子を見る限りエンブリヲが未来世界でアンジュ達を消そうとした事やシグにした事、ビーストがエンブリヲが創り出したもの。何よりこの世界を捨てようとしている事などは知らない様子だ。

 

知っていればこんな風にはならないだろう。

 

ナオミは顔を下に向けていた。横目で見えたその眼は涙が溢れていた。しばらくすると何かを取り出した。それを口に含んだ。

 

「そう。だったら・・・ごめんね、メビウス」

 

ナオミが顔をこちらに向けさせた。次の瞬間ナオミはメビウスとキスをした。

 

メビウスの舌の上にナオミの舌が絡まった。舌の間に何ががあった。

 

【ゴクン】

 

メビウスはそれを飲み込んでしまった。そして互いの舌が離れた。舌同士で糸を引いていた。メビウスは驚いて立ち上がった。

 

「いっ!いきなりなにを・・・」

 

すると、突然足の力が抜けるのを感じた。その場にヘタリ込む。メビウスは気づいていないが瞳が赤くなる。

 

「なっ。なにをした・・・」

 

「大丈夫。メビウスの為になる事だよ」

 

ナオミのその言葉を最後にメビウスの意識は失われた。そしてナオミはその場を離れた。そして入り口付近でアンジュ達と出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンジュは現在、ある場所に向かっていた。今はエンブリヲと共に、エレベーターの様な物で降りていた。

 

エレベーターがたどり着くと周りが明るくなった。

 

目の前にはドラゴンがいた。巨大なドラゴンだ。これまで一度も見た事がない。

 

否。一度だけ見た事があった。サラマンディーネ達のいた世界で。

 

「まさか・・・これ!」

 

「アウラ。神聖にして原初のドラゴンさ」

 

驚くアンジュとは対照的にエンブリヲは冷静であった。アウラの体には様々な管が取り付けられていた。

 

「あれがドラグニウム。この世界のマナはアウラがドラグニウムを喰らう事で維持されているのだよ」

 

「神聖なドラゴンを、あなたはただの発電機にしたってわけね!

 

「人間達を路頭に迷わせる訳にはいかないだろ?リィザの情報のおかげで大量のドラグニウムが手に入った」

 

「これで計画も次の段階へ・・・」

 

【チャキ】

 

エンブリヲの後頭部に冷たい物が当たった。それは拳銃であった。

 

「アウラを解放しなさい」

 

「君はドラゴン達の味方だったのか・・・」

 

「貴方の敵よ。兄を消し去り、タスクを殺そうとし、ドラゴン達を沢山殺した。敵と捉えるには十分よ」

 

「断ると言ったら?」

 

【バァン!】

 

アンジュは引鉄を引いた。弾丸はエンブリヲの脳天に直撃した。エンブリヲだったそれが前へと倒れこむ。死んだのだ。

 

アンジュがアウラを見ている。

 

「大きいわね。メビウスと協力しても運び出せるかしら?」

 

「気は済んだかい?」

 

「!?馬鹿な!」

 

アンジュは声のした方に銃を向けた。そこにはあり得ない人物がいた。

 

エンブリヲだ。先程額を貫通した弾丸の跡は無くなっていた。それどころか先程死んだエンブリヲの

死体は愚か、その場には血すら流れた形跡がなかった。

 

【バァン!】

 

再び銃声が鳴り響いた。エンブリヲは再び倒れこむ。

 

「無駄な事はやめまたえ」

 

まただ。またエンブリヲが現れた。先程殺したはずの存在が何事もなかったかの様に目の前にいる。

 

アンジュは銃口を向ける。だがその手は震えていた。

 

「貴方・・・一体!」

 

「何を驚いている?似た様な事が以前にもあったろ?」

 

未来世界においてエンブリヲはネオマキシマ砲で機体ごと粉々になった事がある。だが、この世界に帰ってきた直後死んだと思っていたエンブリヲ自身からの通信が入った。

 

この時は精々直前で逃げた程度に考えていなかったがこれをみて確信した。こいつは死んでも蘇ると。

 

「私がなんて呼ばれてるか、アレクトラから聞いただろ?」

 

「・・・神・・・様・・・」

 

それは以前風呂場でジル司令が言っていた事だ。

 

「チープな表現で好きじゃないなぁ。調律者だよ。私は」

 

「調律者・・・!?」

 

「そう。世界の音を整える調律者だ」

 

すると周りの雰囲気が変わった。そこは庭の様な所であった。それにアンジュは戸惑った。

 

エンブリヲは続けた。

 

「君は私を殺してどうしたいのかな?」

 

「簡単な話よ。世界を壊してノーマ達を解放する!そして破滅の未来を回避する!」

 

「なぜ?」

 

その言葉にアンジュは多少動揺したが、

それを表面には表さなかった。

 

「なぜって!それは・・・」

 

「果たしてノーマ達は本当に解放されたがっているのかな?」

 

エンブリヲがアンジュに近づいた。

 

「確かにマナの使えない彼女達に、この世界での居場所はない。だが代わりに、ドラゴン達と戦う役割が与えられている」

 

アンジュの視界が一瞬ぼやけた。直ぐに頭を振り

銃口を突きつける。

 

「居場所や役割が与えられると人というのは安心する。自分で考え自分で生きる。それは人にとって

大変な苦痛なんだよ」

 

アンジュの視界が再びぼやけた。顔に赤みがかかっている。この時アンジュは自らの身体の異変に気がついた。

 

「なっ・・・なにを言っているの!?私に!何をしたの!?」

 

アンジュは尚も銃口を突きつける。銃弾を放つが

今度はエンブリヲの体を通り抜けた。

 

「ほうっ。君の破壊衝動は不安から来ているのだね。奪われ、騙され、裏切られ続けた。

どこに行くのかも分からない」

 

「だっ・・・黙れ!」

 

「だから恐れて牙を剥く。私が開放してあげよう。その不安から」

 

「まさか・・・貴方・・・」

 

アンジュはメビウスの事を考えた。彼のあの虚ろな瞳。何故ああなったのか、今、軽く予想がついた。

 

「メビウスの事かい?彼は簡単だったよ。まず彼自身に既に力が無くなった事を教えた。それによって彼の心にな大きな傷を作った。だが彼はそれでも立ち上がる危険があった。

 

「だから私はナオミを使って与えたのさ。その傷を埋められる快楽の夢を・・・ね」

 

エンブリヲは悪い笑顔を浮かべた。

 

「彼の破壊衝動は仲間から来ていた。仲間を失う事。仲間が傷つく事。仲間がいなくなる事。それが彼の中で恐怖を作り、それを振り払う為に、自らを戦いに駆り立たせその翼を傷つけていく」

 

「可哀想じゃないか。自分を大切にしようとせずに、一人傷ついていく彼の姿は。私としても彼を解放してあげたくてね。ナオミに協力してもらったのさ」

 

「どうせナオミを・・・騙したくせに・・」

 

「メビウスにはナオミが与えたのさ。居場所と快楽の夢を・・・そして彼は、それを受け入れて、戦いを放棄しただけさ」

 

「もう彼の翼は朽ち果てた。彼が立ち上がる事はない。戦う事や失う事もなく、自分の愛する存在といられる夢の世界。その世界で彼は緩やかに朽ちていくだけだ」

 

この付近の描写はR-18に投稿した甘い快楽に酔って・・・に描かれています。因みに本来はその描写が第63話のメイン内容でした。

 

「何。怯える事はない。愛情。安心。友情。居場所。理由。望むものを全て与えよう。だから全てを捨てて、私を受け入れたまえ」

 

アンジュの瞳がメビウスと同じ様に紅くなった。銃がアンジュの手から滑り落ちる。エンブリヲがアンジュに近寄った。

 

「身につけているものを脱ぎたまえ」

 

その言葉と共にアンジュは服を脱ぎ始めた。まず上着の様なものを。そして服を。最後に残された下着を脱ごうとした際はアンジュは最後の抵抗を示していた。

 

これを脱いではいけない。脱いだら最後だ。おしまいだ。残された僅かな理性がそれを教えてくれていた。

 

だがそれもエンブリヲによって陥落された。遂に下着も脱ぎ捨てた。アンジュは産まれたての姿となった。

 

エンブリヲはアンジュの身体を評価した。

 

髪や瞳や唇や肌や胸などを。

 

「美しい。君は実に美しい。ビーナスやアフロディーテも君には敵わないな」

 

エンブリヲがアンジュの顎を持つ。

 

そしてエンブリヲはアンジュとキスをした。

 

 

 

 

 

この時アンジュの脳内であるのもが蘇った。それはタスクとしたキスだ。あの時の事を思い出した。

 

(・・・違う・・・これは違う!)

 

次の瞬間アンジュの瞳に光が戻った。そしてエンブリヲの舌に噛み付いた。痛みによりエンブリヲが多少退いた。

 

「馬鹿な」

 

「なんでも与えてあげる?悪いけど!与えられたもので満足するほど、私は空っぽじゃないの!」

 

地面に落ちていた衣類を回収して前の部分を隠す。

 

「神だか調律者だか知らないけど!死なないっていうなら!死ぬまで殺すまでよ!そして世界を壊し、未来を変えるわ!」

 

エンブリヲは驚いていたがやがて言葉を発した。

 

「・・・ドラマチック!!」

 

その言葉にアンジュは驚いた。一体こいつは何を言っているのだ。そして次のエンブリヲの言葉にさらに驚いた。

 

「私は・・・君と出逢う為に生きてきたのかもしれない。この千年を・・・」

 

 

 

 

 

 

舞台はアウローラに移る。通気口内ではゾーラ。

ヒルダ。ロザリーの三人がいた。

 

何故こうなったのかは少し前に遡る。ヒルダ達の部屋にゾーラがやってきた。

 

「司令の様子がおかしい?」

 

ヒルダとロザリーは同時に言った。

 

「ああ。リベルタスが始まってから何処か司令の様子がおかしいんだ。最初はリベルタス成功のためのプレッシャーのせいと考えていたが、だんだんそれだけじゃないと思い始めた」

 

「とどめになったのがあの時の作戦内容だ。人質を使うなんて普段の司令はしない。あの時の司令はどう見ても異常だった」

 

ドラゴンやZEUXIS達を捨て駒とした作戦説明。あの時のジル司令の様子は長年一緒にいるマギーやジャスミンでさえも見た事がなかったらしい。

 

「あたしもそれは気になってた」

 

ヒルダのジル司令の異変には気がついていたらしい。

 

「そうか。ならば話は早いな。二人とも確かめるぞ」

 

こうして三人は通気口にいるわけだ。

 

「それはわかったけど。なんであたしら通気口にいるんですか?お姉さま」

 

「・・・実はジル司令の部屋から夜な夜な呻き声と妙な言葉が聞こえてくるんだ。それも毎日と。昨日扉に耳を当てても微妙に聞きとれない。だからこうして確かめるんだ」

 

三人は通気口の隙間に耳を当てた。下を覗き込んだがジル司令の寝ているベットからは見えない場所にあるのだ。

 

「バレたらまずいよな・・・」

 

「安心しろ。そんときゃ私が全責任をとってやる」

 

「おおっ。流石お姉様」

 

「しっ!」

 

ゾーラとロザリーの会話にヒルダが静かにしろとジェスチャーを送った。通気口は静かになった。

 

「・・・うっ・・・ううっ」

 

三人が顔を見合わせた。確かに聞こえた。ジル司令の魘されている声が。

 

 

 

三人が通気口に入り込んだ時の時間に遡る。

 

ジル司令は夢を見ていた。ツインベットの片方に寝ていた。その手に紅茶が置かれた。

 

見るとそこにはエンブリヲがいた。

 

すると、外から爆撃音がした。見てみるとそこにはパラメイルが、ジルの仲間が戦っていた。

 

「私・・・戻らなきゃ」

 

自分の役割を思い出し戦場に戻ろうとした。その

右腕をエンブリヲに掴まれた。まだ義手ではなく本当の右腕で。

 

「ずっとここにいてもいいんだよ。 アレクトラ・・・永遠に」

 

「だめ・・・だめよこんなの・・・だめに・・・おかしくなる!」

 

「そう。おかしくなっていいんだよ。アレクトラ・・・」

 

 

 

「うっ・・・うう」

 

自室でジル司令は夢に魘されていた。そして次の瞬間ある言葉を放った。その言葉は通気口にいた三人にははっきりとこう聞こえた。

 

「ごめんなさい。エンブリヲ様・・・ごめんなさい」

 

 





前回【朽ち果てた翼】をご閲覧した方。

わざわざアンケートに答えてくれた方。

本当に申し訳ありませんでした。

以後この様な事がない様に気をつけます。



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第64話 神の求魂 前編



前回のあらすじ!

アンジュは遂に本物のアウラを見た。その場でアンジュはエンブリヲを殺したがエンブリヲは直ぐに再生した。

さらにエンブリヲはアンジュも抱きこもうとする。だがドラゴン達の世界でしたタスクとのキスにより正気を取り戻すのだ!

一方アウローラではヒルダ。ロザリー。ゾーラの三人がジル司令の寝言を聞いたのだ。

ごめんなさい・・・エンブリヲ様と・・・

これは一体どういう事なのか!?

それでは本編の始まりです!




 

 

アウローラ。この艦の独房の一室に皆が集まっていた。

 

「よく救助要請など出せたものだ!お前のせいで

アンジュ達は脱走し、我々はヴィルキスを失った!」

 

「お前が終わらせたんだ!リベルタスを!

ヴィルキスの騎士であるお前が!」

 

「アンジュは君の道具じゃない!」

 

独房で現在ジル司令はタスクに暴行を加えていた。あの後撃墜された二人はアウローラに救助された様だ。

 

ヴィヴィアンは無断出撃の件で隣の独房に送還されていた。

 

「ヴィルキスが無ければエンブリヲを倒す事は出来ない。そう教えてくれたのはお前の父だったな!

それを台無しにするとは・・・

全く!大した孝行息子じゃないか!」

 

ジル司令の行為は半ば八つ当たりに近かった。だが誰もそれを止めようとはしなかった。

 

「リベルタス。まだ終わっていませんよ」

 

ヒルダが話を切り出した。

 

「アンジュ達を助けに行くべきです。そうすれば

リベルタスは・・・」

 

「逃げ回るので精一杯のこの戦力でか?それともZEUXISの奴等と手を組むのか?」

 

実はあの後。アウローラの元に再びZEUXIS達が訪れたのだ。そしてジル司令に詰め寄った。理由は簡単。例の毒の件だ。

 

だがジル司令はそれには何も答えなかった。それどころかメビウス達が捕まったのはZEUXISメンバーの不手際とまで言い切った、

 

向こうは関係修復を望んではいるが最早それは絶望的であった。

 

「それに無駄だ。助けたところで奴等はもう私の命令など聞かん。進路をアルゼナルへ向けろ。今後の作戦は補給物資を搬入してから伝達する」

 

「イエス・マム」

 

そう言い皆が独房を後にした。

 

ヒルダとロザリーとゾーラの三人は昨夜の一件を

考えていた。

 

「ごめんなさい・・・エンブリヲ様・・・」

 

ジル司令の呟いた一言。あの後、その言葉がずっと気になっていた。

 

 

 

 

 

そんな中ミスルギ皇国ではアンジュはエンブリヲに呼ばれてある部屋へと来ていた。

 

その側にはモモカさんが。そして部屋の外の窓ではサリアが聞き耳を立てていた。

 

「さてアンジュ。君を呼んだのは他でもない。

君を私の妻にしたい」

 

「はあっ!?」

 

またこの人は何を言いだしているのだろうか?その言葉に外で聞いていた。サリアは何処か悔しそうにしていた。

 

「私は妻の願いを叶え様と考えている」

 

「願い・・・」

 

「この世界を壊すだよ」

 

その言葉にアンジュは驚いた。

 

「旧時代の人間は野蛮で暴力的でね。足りなければ奪い合い、満たされなければ怒る。まさに獣と呼ぶに相応しかった 」

 

「あのままでは人類は滅亡していた。だから私は人類が滅亡しない様に人間を作り替えた。高度情報ネットワークのマナ。そして光り輝き、物に溢れるこの世界を・・・」

 

「だが人類は今度は堕落した。与えられる事が当たり前となったため、自ら考える事を放棄したのだ」

 

「君も見ただろう?命令されれば簡単に差別や虐殺を行う腐った人間達を」

 

ミスルギ皇国の国民を思い出す。アルゼナルを襲撃した人間達を思い出す。どう見ても正常とは言えなかった。

 

「だから私はこの世界も捨てようとした」

 

「その結果が未来がメビウス達のいた100年後の

未来ってわけね」

 

「その通り。彼等は私が管理を手放した人類だ。どうなろうと知った事ではなかった。あれが発見されるまでは・・・」

 

「フェニックスね」

 

「旧人類のオーパーツ。私はあの力を手に入れようとしたさ。だがそれをフェニックスが拒んだ。だから私はあの力が介入出来ない様にしていた。だがそれは間違いだった。何故あの力を利用しようと考えなかったんだ」

 

「やり直せばいいのだ。メビウスが未来を変えようとしている様に」

 

「・・・どういう事?」

 

「単純に言えば今の世界をリセットするのだよ。

より良き未来の為に」

 

「・・・ふーん。その自信を見るに既に方法はあるらしいわね」

 

「あぁ。統一理論を使うのさ」

 

エンブリヲは永遠語りを歌い出した。

 

「永遠語り・・・」

 

永遠語り。アンジュの母ソフィアから伝えられた歌。そしてラグナメイル覚醒の鍵。

 

歌い終わるとエンブリヲはマナの力で両手に地球を出した。

 

「この二つ存在している地球を融合させる。その為のテストは終わった既に行われている。アンジュ。君もドラゴン達の世界で見たはずだよ?」

 

アンジュには心当たりがあった。あの時、突然発生した竜巻。物理法則もクソもあったものではないあの現象。

 

「あれで二つの地球を融合するのだよ。そこで再び人類を作り直せばいい」

 

「その時空融合のせいで、一体何人が犠牲になったと思ってるの・・・」

 

アンジュは見ていた。竜巻に飲み込まれたの者は皆死んでいった事を・・・

 

「そしてそれにはフェニックスが必要になるのだよ」

 

「フェニックスの持つ時間跳躍システム。あれで地球全土を覆い尽くす。そうすれば融合した地球環境は再生し人類は再び栄えるだろう。ドラグニウムの汚染を気にする必要はない」

 

「成る程ね。メビウスを捕まえた理由はそのシステムを使おうとする事が理由ね」

 

「こちらもザ・ワンを持ってはいるが、まだあれはフェニックス程進化していないのだ。だから予防策を練っておいたのさ」

 

「更にフェニックスが協力すればアウラも必要なくなる。ネオマキシマエンジンの仕組みを理解すれば、それがマナの代わりにもなるのだから」

 

「そしてその世界で私達の作る人間達なら、同じ過ちを繰り返さないとは思わないかね?」

 

エンブリヲの話は一通り終わった様だ。アンジュは紅茶を一杯飲んだ。

 

「モモカが淹れる紅茶の方が美味しいわね」

 

一言愚痴をこぼした。

 

「さてと。話はよくわかったわ。私の答えはこれよ!」

 

次の瞬間、アンジュはエンブリヲの手を机に叩きつけた。そして隠し持っていたナイフで手の甲を突き刺した。見事に貫通した。

 

「ぐおぉぉおっ!!」

 

「アンジュリーゼ様!?」

 

「この世界に未練はないわ。でもね!貴方の妻になるなんて御免なのよ!調律者さん!」

 

アンジュはもう一本ナイフを取り出した。

 

「一つだけ教えてあげるわ。貴方はメビウスと同じ事をしようとしてるけど、その本質は全く違うのよ!」

 

「メビウスは本気で世界を変えようとしている。それこそ未来をよりよくしようとな!貴方はつまらない自己満足の為に世界を変えようとしているの。

一緒にするのはやめなさい!」

 

「最後に一つ。フェニックスに関して貴方のしてる事はね。貴方の言う愚かな旧人類そのものよ!

強い力だから欲しがる。まさに獣ね!」

 

「待て、アンジュ!」

 

次の瞬間、エンブリヲの喉元にはナイフが突き刺さった。エンブリヲは動かなくなった。そこには死体だけが残された。

 

後ろから拍手が聞こえた。

 

「血の気の多い事だ。だがその分妻にしがいがあるというものだ」

 

そこにはエンブリヲがいた。まただ。殺したはずなのに何故か平然と現れる。

 

既に死体のあった場所には血の跡すらなかった。ただナイフが二つあっただけだ。一つは机に突き刺さりもう一つは床へと落ちた。

 

どちらのナイフも血の跡は見当たらない。

 

「くっ!なら!」

 

アンジュは机に刺さったナイフを引っこ抜いた。しかし次の瞬間にはエンブリヲによって腕をロックされた。

 

「でも。いきなり殺すなんて酷いじゃないか。これはお仕置きが必要だね」

 

エンブリヲの指がアンジュの体に触れる。次の瞬間にはアンジュは地面にへたり込んだ。

 

「アンジュリーゼ様!?」

 

モモカさんが側に駆け寄る。

 

「はあっ。はあっ」

 

息が荒い。身体も熱くなっている。何より片手で胸を。もう片手は秘部を触っていた。

 

自分の事を慰めていた。

 

「貴方!アンジュリーゼ様に何をしたのです!」

 

「ちょっと彼女の快楽神経を50倍にしただけだよ」

 

「元に戻してください!今直ぐに!」

 

モモカさんがエンブリヲを睨みつけた。だが次の瞬間にはエンブリヲがその場から消えた。更にアンジュの姿もなかった。その場にはモモカさんだけが残された。サリアは途中からその場を離れていた。

 

 

 

 

 

 

 

アンジュが連れ去られた頃、地下牢ではメビウスがいた。目には多少の光が戻っていた。

 

目の前にエンブリヲが現れた。

 

「よおエンブリヲ。お前は相変わらず暇そうだな」

 

いつも通りの虚勢張りである。少なくても今弱さを見せるのは負けだと判断しているらしい。

 

「メビウス。これは最期のチャンスなんだよ。

 

メビウス。君は選ばれた存在だ。その力は世界のために相応しい使い方をするべきなんだ」

 

「なんの為の世界だ。テメェにとって都合のいい

世界の事か?」

 

「人類の為の世界だ。そこは血の匂いもしない綺麗な世界だ」

 

「・・・同じだな」

 

「なに?」

 

「まだ俺が孤児だったころ。ブラック・ドグマの連中が俺を少年兵として使おうとした時の言葉。奴らの言った言葉と全く同じだな」

 

「人類の為や未来の為。そんな綺麗事は好きじゃねぇ」

 

「ふう。では建前なく少し本音で話すとするか。

メビウス。フェニックスの解除コードを教えたまえ」

 

「断る」

 

即答であった。

 

「好きじゃねぇんだよ。何かで人を従わせ様とする奴が」

 

「・・・全く。君はサリア達とは大違いだな」

 

その言葉にメビウスの眉が少し動いた。

 

「彼女達は実に弱い。信頼を裏切られたり、自分の力の限界を知った。リベルタスの為に、無駄な努力を・・・だから私は彼女達にそれらを満たすものを与えてあげた。

 

「・・・」

 

「皆心にある古傷を刺激すれば簡単に籠絡できた。可哀想だったよ」

 

「・・・エンブリヲ。泥とキスした事あるか?」

 

「なに?」

 

メビウスの目に強い光が蘇った。その目は目の前の存在に隠す事なく怒りを表していた。

 

「仲間や尊敬する人の為ににひたすら努力する人を俺は知っている。それを無駄だと?・・・

挫折をボロクソ言うのも大概にしろ!」

 

「覚えてろ!絶対にテメェにも味あわせてやるよ。地べたを這いずる人の気持ちをな!」

 

「そこまでして私を怒らせたいのか?」

 

エンブリヲの声色が少し変わった。

 

「そうそうそれだよ。やっと感情ってのを出した

じゃねえか」

 

メビウスは尚も煽る。

 

「仕方ない。ザ・ワンに期待するか。メビウス。

君に最早役目はない。さらばだ」

 

エンブリヲがメビウスの体に触れる。次の瞬間にはメビウスの目は赤くなり再び虚空を見つめていた。

 

「覚めない夢に落ちるがいい。さて。アンジュの所に戻るか・・・」

 

【バァン】

 

弾丸がエンブリヲ目掛けて飛んできた。それはエンブリヲには当たらなかった。見て見るとガーナムがそこにいた。

 

「おいおいエンブリヲ。お前なに人の楽しみを奪ってんだ?」

 

ガーナムは普段と変わらない口調で、だが何処か

殺意を放っていた。

 

「君か。すまないがこちらにも用事というものがあるのでね。彼には退場願っただけさ」

 

「知らないと思ったか?テメェがシグを殺そうとしたんだよな?」

 

「調律者としてこれ以上の乱れは許されないんだよ。勿論君達も私の奏でる調律を乱すのなら・・・ね」

 

「やれやれ。人の楽しみを奪いやがって。どうやらあんたらとの協力関係もこれまでだな」

 

「ほう?」

 

「ちょっとな。こっちの世界が少しめんどくせぇ事になりやがった。あんたらの所に軍勢を送る余裕がなくなっちまった」

 

「君達を見ていると本当に旧人類を思い出すよ。

まさに野蛮な獣だ」

 

「けっ!なんとでも言えよ。まぁ別れの挨拶ってやつで今日は来たつもりだ。まぁお互いに頑張ろうな。そちらさんにはザ・ワンを送りつけたんだ。ジュダは貰っていくぜ。んじゃグッバイ。エンブリヲ」

 

そう言うとガーナムは地下牢を後にした。

 

「全く。トップではなく、あの様な獣を送りつけるとは。所詮は私の管理下から離れた人類か・・・」

 

「さて。アンジュの所に戻るか・・・」

 

そう言いエンブリヲは姿を消した。その場には既に意識のないメビウスだけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話の舞台はアウローラに移る。

 

自室のベッドで横になっていたヒルダ。そのベットにロザリーが入り込んできた。

 

「ごめんロザリー。そういう気分じゃないんだ」

 

「あっ・・・ごめん」

 

二人はベットに腰かけた。

 

「・・・なぁ。また出て行くのか?」

 

ロザリーがヒルダに聞いた。以前ヒルダは脱走の前科があるのだ。

 

「司令が助けないなら・・・私だけでも二人を助けねぇとな」

 

「ヒルダ・・・」

 

「アンジュとは約束したんだ。この世界をぶち壊すってな」

 

「・・・好きなんだな。アンジュの事」

 

その一言にヒルダは驚く。

 

「分かるよ。長い付き合いじゃねえか」

 

「それに、私も似たようなもんだしな・・・」

 

「ロザリー?」

 

「私もさ・・・クリスがいないとダメみたいだな・・・

 

「あいつ。いっつもビクビクしてて、私が守ってやんないとダメだなって考えてた・・・だけど、実際は私なんていなくても強かったんだな。なのに私は相変わらずのヘタレでさ・・・クリスがいないとダメなのは・・・私だったんだよ」

 

ロザリーの瞳から涙が溢れた。

 

「ハッハッハッハッハ!」

 

次の瞬間ヒルダは突然笑い出した。

 

「なにやってだろ、うちら。こんなウジウジ考えて、くそダセェなぁ」

 

「ヒルダ?」

 

「メビウスだったら間違いなくこう言ってたろうな。以前アンジュにメビウスが言った言葉だ」

 

「【後悔する生き方だけはするな】ってさ。なのにあたしらは相変わらずつまらない事で悩んでる。悩む必要なんてない。するべき事は一つなのによ・・・」

 

「・・・なぁロザリー。一つ聞いてくれないか?以前脱走した時、あたし、メビウスに助けられたんだ」

 

ヒルダは語り始めた。かつて脱走した際にヒルダの身に何が起きたのかを。

 

「そうか。そんな事があったのか・・・」

 

「あの時メビウスがいなかったら、間違いなくあたしは死んでたね。あの時のメビウスは本気であたしを心配してくれたよ。下心とかなく。純粋に仲間として心配してくれてた。

脱走なんかしたあたしをね・・・」

 

ヒルダはメビウスの胸で泣いた事を思い出す。

 

「・・・考えれてみれば、あたし達っていっつも

メビウスに助けられてんな」

 

ロザリーが懐かしそうに呟く。

 

思えばブラック・ドグマとの初戦。メビウスがいなければ皆間違いなく死んでいた。

 

ドラゴンの大襲撃の際もメビウスは自分の正しいと感じた事をした。その結果アルゼナルの全滅は免れた。

 

アルゼナルが人間に襲われた際、メビウスはアルゼナルの仲間を助けていた。後でその子達から話を聞いた所、命の危険があったにも関わらず、メビウスはその子達を見捨てなかった。

 

「本当にあいつは凄い奴だ。あいつのおかげで

あたしらはここまで来れたのかもな」

 

「あいつの言動や行動はまるであたしらを導く篝火だな」

 

「二人とも。入るぞ」

 

二人がメビウスの事を評価していた。するとゾーラ隊長が部屋へと入ってきた。

 

「その様子だと腹は決めた様だな」

 

ゾーラは二人の顔を見た。二人とも覚悟を決めた様だ。

 

ゾーラが右手を出した。その手の甲の上に二人とも手をのせた。

 

「あぁ。もちろんさゾーラ。取り戻しに行くよ。

仲間達を・・・」

 

三人はある場所へと辿り着いた。そこは独房であった。

 

ロザリーはヴィヴィアンを出していた。ヒルダは寝ていたタスクの上に跨った。タスクの耳に息を吹きかけるとタスクは直ぐに目を覚ました。

 

「え?・・・ええええっっ!?」

 

タスクは驚いた。無理はない。目の前には下着姿の少女が自分に跨っている。他人が見たら間違いなくそれにしか見えない。

 

「なぁ。出してやろうか?ここから」

 

「いや!ダメだ!俺はアンジュの騎士だ!初めてはアンジュと・・・」

 

この男は何を言っているのだろうか?

 

「戦いが終わるまでエロスは御法度と言うか・・・色仕掛けには屈しないというか・・・」

 

・・・何故だろう。自分がとても

浅ましい存在に感じてきた。

 

タスクはしどろもどろしていた。

 

「そうなのか?アンジュの股間にいっつも顔を埋めてるって聞いたけど」

 

「ごっ!誤解だ!あれはわざとじゃない!事故なんだ!」

 

意図的ではなくとも過失ではそれなりの数を重ねている。

 

「要はヘタレってわけか」

 

ヒルダの言葉にタスクは何も言い返せなくなった。

 

「・・・タスク。協力してほしい。アンジュ達を助ける為に」

 

「うちらの司令。ちょっと怪しいんだ。信用できないっていうか・・・何か隠してるっていうか・・・」

 

「アレクトラが?」

 

すると突然アウローラの隔壁が降りた。さらに

アウローラが浮上を始めたのだ。

 

「メイ。一体何が起きたんだい?」

 

「聞いてマギー。隔壁が降りてきて、居住区から出られないんだ」

 

皆が隔壁に驚いている数分後。パラメイルの発着デッキ。そこではある人物がライダースーツを着込み、パラメイルを目指し足を運んでいた。

 

「あーら。何処へ行かれるんですか?司令?」

 

ジル司令の前にヒルダが現れた。更に物陰からゾーラやロザリー。タスクとヴィヴィアンも現れた。

 

「お前達・・・」

 

「気合い入れておめかししちゃって。エンブリヲ様の所にでも行くんですか?」

 

ヒルダの一言でジル司令の顔色が変わった。

 

「聞かせてもらいました。ジル司令。あの寝言・・・一体どういう事なのか説明してください」

 

ゾーラがジル司令に尋ねた。一体司令はなにを隠しているのか。その答えを知りたいのだ。

 

そしてその答えが返ってきた。

 

ジル司令は銃を取り出すと五人めがけて発砲した。咄嗟に五人は物陰に隠れた。

 

「ビンゴって事か!やるよみんな!」

 

ヒルダの掛け声のもと、皆が行動に移った。

 

「司令!大人しくしてください!」

 

「今がちゃーんす!」

 

暫くはジル司令が銃撃していたが、弾切れなのかそれが途絶えた。今がチャンスとヴィヴィアンとゾーラで飛びかかった。

 

その時だった。ジルの乗っていたパラメイルが上昇した。それにより二人はぶつかり合った。

 

ジル司令は外部ハッチを自動で開く様に細工をしていた。アウローラの天井が開いた。

 

「不味い!逃げられるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だ!」

 

天井が開いた瞬間、そこから何かが四つ降ってきた。それらジル司令の乗ったパラメイルを捕獲した。

 

「なっ!?ZEUXISの連中か!」

 

「悪りぃな司令さんよ。ヒルダちゃんからもしもの時の予防策として待機してたんだよ」

 

「離せ貴様ら!私はエンブリヲを殺しに行かねば

ならんのだ!」

 

「無駄な抵抗はやめてください。私達は貴女を殺すつもりも危害を加えるつもりもありません」

 

「悪いけどこっちはあんたへの怒りも募ってんだ。少し手荒な真似をしてやりたいんだぞ」

 

「抑えろアクロ。ジル司令。何が貴女をそこまで

苦しめるのですか?」

 

するとそこに隔壁を突破してメイ。マギー。

ジャスミンの三人がやってきた。

 

「一体何事だいこれは!?」

 

ジャスミンが驚きながら尋ねる。

 

「とりあえず医務室に運ぶべきだ。こちらとしても無理な止め方をしてしまったしな。そちらへの乗船許可を頂きたい。よろしいですか?ジル司令」

 

ビショップの手の上にいるネロ艦長がジル司令に尋ねた。

 

「・・・好きにしろ」

 

ジル司令はただ一言。力なく呟いた。

 

 






指先一つで相手を苦しめるって最早北斗の拳の世界じゃないですか。

俺も【アタタタタタタタタタタタタ】とかしてみたい。

経絡秘孔の一つを突いた。

お前はもう。死んでいる。



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第65話 神の求魂 後編



前回のあらすじ!

エンブリヲがアンジュを妻にしようとしていた。アンジュは当然これを拒絶。エンブリヲを殺すが、直ぐにエンブリヲは蘇った。そしてエンブリヲとアンジュの姿が消えたのだ。

そしてメビウスもエンブリヲによって意識を失っていた。

そんな中、アウローラではヒルダ達がジル司令に不信感を募らせていた。

そんな中、ジル司令はパラメイルで発進しようとした。ZEUXISの協力によってそれは防がれた。

一体ジル司令は何故その様な事をしたのか!?

それでは本編の始まりです!




 

 

舞台はアウローラの医務室。ジル司令はベットに寝ていた。最も左腕には手錠がされており脱走防止となっていた。

 

ジル司令は語り始めた。己自身の罪深か過去を・・・

 

「私は・・・エンブリヲの人形だった。奴に心を

支配され、操られ、全てを奪われた」

 

「使命も。誇りも。純潔も。全て」

 

「怖かったよ。リベルタスの大義。ノーマの解放。仲間との絆。その全てが奴によって愛情。依存。快楽へと変わっていった事が・・・」

 

「・・・なんで黙ってたんだい」

 

マギーがジル司令に問いかける。

 

「なんて話せばなかったんだ?エンブリヲを殺しに行ったら逆に身も心も奪われましたとでも言えばよかったのか?」

 

「そう。全部私のせいさ・・・リベルタスの失敗も、仲間達の死も・・・全部私の・・・」

 

「こんな汚れた女を助ける為に!みんな死んでしまったんだ!」

 

「そんな・・・そんな!」

 

メイが言う。彼女の家族は十年前。リベルタスの

失敗で死んだのだ。

 

「私に出来る償いはただ一つ。エンブリヲを殺す。それだけだった」

 

皆が黙っていた。

 

「だから一人で行こうとしたのか」

 

タスクがジル司令に言う。

 

「結局は失敗したがな」

 

【パチン】

 

マギーがジル司令にビンタをした。

 

「私は・・・あんただからついて来た。あんたが

ダチだから・・・ずっとついて来たんだ。なのに・・・利用されてただけとはさ・・・」

 

ジル司令は黙っていた。

 

「なんとか言えよ!アレクトラ!」

 

「そのくらいにしときな。マギー」

 

マギーがジル司令に掴みかかった。それをジャスミンが止めた。

 

「知っちまった以上、アンタをボスにする訳にはいかない。指揮官を剥奪させてもらう。いいねジル」

 

「あぁ。構わない。ヒルダ。お前が代わりに指揮を取れ」

 

ジルからの突然の使命にヒルダは多少驚く。

 

「お前なら。間違う事はないだろう」

 

「・・・イエス!マム!」

 

ヒルダはそう言うとZEUXISのメンバー達の方を向いた。

 

「皆さん。身勝手ながら頼みがあります」

 

「我々と共同戦線を張ってください!」

 

ヒルダが頭を下げた。それに続いてアウローラ組の皆も頭を下げる。

 

ZEUXISメンバー達は皆顔を合わせた。

 

「ヒルダくん。少しいいかな」

 

最初に口を開いたのはネロ艦長だ。

 

「なんでしょう」

 

「彼女と少し話がしたい。皆は席を外してくれたまえ」

 

ネロ艦長はジル司令の方を向いた。

 

「・・・わかりました。私達は外に出てます」

 

そう言い皆が医務室を後にした。

 

部屋にはジルとネロ艦長が残された。

 

「何の用だ?例の毒の件か?あれは私の仕業だ。さぁ、好きな様に罵り罵声を浴びせて構わんぞ。なんなら殴ってもいい」

 

ジルは自暴自棄に近い状態になっていた。

 

「・・・同じだ」

 

「えっ?」

 

「君は私と同じだ」

 

ネロ艦長は語り始めた。自分のした愚かな過去を。罪を・・・

 

 

 

 

 

「私は家族をビーストに皆殺しにされた。妻を、子供を、そして父と母を・・・」

 

「私は優しさを捨て復讐に生きる事にした。軍をやめ、ビーストへの復讐と殲滅の為に組織を立ち上げた」

 

「それがZEUXISだ。対ビースト組織。ビーストの殲滅を目的に創設されたが、最初のその実態は私が復讐を果たすための組織であった」

 

「ビーストが出てはとにかく殲滅した。周りの被害など考えようとせず、ただ効率的にビーストを殺す日々だった」

 

「そんなある日だ。二つのビースト反応が確認された。一つは誰もいない山奥だった。そこには家族の仇のビーストがいた。もう一つ孤児グループがビーストの襲撃を受けたと報告を受けた。私達は孤児グループを放置した。何故だかわかるか?」

 

「・・・そこにメビウスがいたからか?」

 

「その通りだ。孤児グループ達を襲っているビーストはきっと例の機動兵器で撃退すると勝手に決めつけ、私自身の復讐を優先させたのだ」

 

「結果的には復讐を果たす事は出来た」

 

「だが、それは間違いだった。後日孤児グループの拠点に行った時、そこにはかつて人間だった者の骸とビーストの死骸。そしてそれに泣き縋るメビウスがいた」

 

「後で知った事だが当時メビウスはいつも通り街にその日の食料を盗みに行っていたらしい。その間をビーストに襲われていた。皆が無抵抗に殺されていた」

 

「この時になって私はようやく気がついた。私がした事の愚かしさが。私は彼から奪い去ってしまった。同じ境遇の仲間を。そして彼の優しさを・・・」

 

「ビーストが私から奪ったものを今度は私が彼から奪い取ってしまったのだ・・・」

 

「私は懺悔の為にメビウスをシグと名付け、ZEUXISに迎え、育てた。彼には復讐の道に進んで欲しくなかったからだ。そして彼は選んだ。私とは違い、復讐ではなく、未来を変えるための戦いの道を・・・」

 

ジル司令は黙って聞いていた。

 

「復讐に生きる者は自らの失ったものを他の誰かから奪い去ってしまう。そしてそれに気がついた時には既に手遅れだ」

 

「だが君はまだ違う。まだ戻れる所にいる。その事を忘れるな」

 

ネロ艦長がジルを見た。

 

「さて。私の話を最後まで聞いてくれてありがとう。

私はこれで失礼する」

 

そう言いネロ艦長は医務室を後にした。

 

 

 

廊下ではヒルダ達が待っていた。

 

「ヒルダくん。よろしいかね?」

 

「はい。なんでしょう」

 

「共同戦線を結ばせては貰えないだろうか?」

 

ネロ艦長が頭を下げた。ワイズナー達もそれに続く。

 

「そんな!こちらが先に頼んだんです。こちらの方こそよろしくお願いします!」

 

ヒルダ達も頭を下げた。そしてヒルダは艦内通信で高らかに宣言した。

 

「リベルタス総司令のヒルダだ。我々はZEUXISと共同戦線を結んだ。アウローラの進路をミスルギ皇国にとれ!これより仲間達の救出作戦を開始する!」

 

「ヒルダ総司令。我々も可能な限りの協力をさせたいただく」

 

ネロ艦長が言う。そしてヒルダ達と作戦室へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

舞台らミスルギ皇宮。モモカはアンジュを探していた。するとある部屋へと辿り着いた。

 

そこにはリィザがいた。どうやらつい先程までシルヴィアに拷問されていたらしい。モモカさんはリィザを拘束していた鎖を解き、口枷を取り外す。そして水を与える。

 

「・・・なんで助けた」

 

「ジュリオ様と一緒にアンジュリーゼ様を陥れた事。忘れてはいません。ですから、アンジュリーゼ様に謝ってください。それまで絶対死んではダメです」

 

「・・・皇宮西側の地下の皇族専用のシェルター。彼女はきっとそこにいるわ・・・」

 

リィザがモモカさんにアンジュの囚われているであろう場所を伝えた。そしてリィザはその部屋を去った。

 

 

 

時を同じくして、皇族専用のシェルターではアンジュはエンブリヲによって様々な苦痛が与えられていた。その瞳は以前の様に赤く染まっていた。

 

エンブリヲはアンジュの悲鳴や喘ぎ声などを聞きながら紅茶を飲んでいた。

 

間違いない。彼は異常だ。アンジュの悲鳴や喘ぎ声を聞き楽しんでいる。常人の神経ではない。

 

「さて。気分どうかなアンジュ?」

 

「はい・・・エンブリヲ様・・・くっ!くたばれ!クソ野郎・・・」

 

アンジュはエンブリヲによってかなりまいっていた。だがそれでも、彼女の中にあるプライドでそれを跳ね返していた。だがそれもそろそろ限界であった。

 

エンブリヲはアンジュに50倍の快楽を与えた。アンジュは自分を慰める。

 

「熱い・・・熱い!助けて・・・タスク・・・」

 

エンブリヲはその言葉を背に、その部屋を後にした。

 

暫くはアンジュはそこにうずくまっていた。

 

すると扉が開いた。そこにはサリアがいた。

 

「無様ね。エンブリヲ様に刃向かうからそうなるのよ。バカ」

 

「バカは・・・貴女の方よ。あんな最低の男を・・・心酔しちゃって・・・」

 

「・・・私にはもうエンブリヲ様しかいないから・・・出て行きなさい。エンブリヲ様が戻られる前に・・・これ以上。私から奪わないで・・・」

 

「サリア・・・」

 

「貴女を助けるんじゃない。ただ、そんな貴女は見たくないだけ。このままだと貴女。心を完全に壊されるわよ」

 

「サリア・・・そう。これはそのお礼よ!」

 

アンジュがサリアにヘッドロックを仕掛けた。

 

「逃したより逃げられたの方が、罪は軽くなるでしょ?」

 

「余計なお世話よ。筋肉ゴリラ・・・」

 

その言葉を最後にサリアの意識は失われた。死なない程度に手加減はしていた。アンジュはサリアの着ていた服を着込む。ダサいが全裸よりはマシである。

 

すると服のポケットにあるケースが入っている事に気がついた。取り出して確認した。それはアンジュの指輪であった。

 

そこにリィザから情報を貰い駆けつけたモモカさんと出会った。

 

「アンジュリーゼ様!」

 

「モモカ。ここから逃げるわよ」

 

「はい!アンジュリーゼ様!」

 

 

 

 

暁ノ御柱ではエンブリヲがある準備をしていた。そして永遠語りを歌いだす。

 

「準備は整った。総員ラグナメイルに騎乗!計画が完了するまで暁ノ御柱を守れ!」

 

「イエス!マスター!」

 

「ん?サリアはどうした?」

 

この時エンブリヲはサリアがいない事に気がついた。

 

「それが、何処にもいなくて」

 

「分かった。五人はそれぞれ暁ノ御柱を守れ。

ナオミ、君はザ・ワンはネクストで出たまえ」

 

「イエス。マスター」

 

五人はそれぞれの機体に乗り込んだ。

 

エンブリヲはマナでサリアの様子を見た。そこには服を剥ぎ取られて下着姿のサリアが写し出されていた。

 

「ちいっ!」

 

エンブリヲはその場を後にした。誰もいなくなったその部屋で、ある存在がある人物に語りかけていたとは知らずに。

 

 

 

アンジュは皇宮の外に出ていた。現在アンジュはモモカさんの肩を借りていた。

 

「とりあえずヴィルキスとメビウスを探さないと!モモカ。お願い」

 

アンジュがモモカさんに指示を出していた。

 

「アンジュちゃん。どこに行くの?」

 

上空から声がした。見るとレイジアが上にいた。

 

「エンブリヲさんが探してたわ。さぁ一緒に行きましょ?」

 

「走れますか?アンジュリーゼ様」

 

アンジュは頷いた。次の瞬間には駆け足となった。

 

「あらあら。しょうがないわね」

 

口でダメなら実力行使をするというわけだ。

 

その時アンジュの指輪が光った。そして目の前に

ヴィルキスが現れた。いや転送されたというべきだろうか。

 

「ヴィルキス!?」

 

エルシャとクリスの二人が驚く。

 

「モモカ!乗って!」

 

アンジュは直ぐにヴィルキスに乗り込んだ。モモカさんも後ろに乗っかる。

 

ヴィルキスが上昇した。これで少しは対等に戦える様になった。

 

とは言え現状ではかなりの差がある。状況は1対5であるのだ。ラグナメイル達のライフルにザ・ワン・ネクストの有線式ファングなど。避けるので精一杯であった。

 

このままではジリ貧だ。

 

 

 

その時だった。突然暁ノ御柱上空に穴が空いた。そしてそこから粒子兵器が放たれた。粒子兵器はエルシャ達目掛けて放たれた。それをシールドで防ぐ。

 

するとアンジュの所に通信が入った。

 

「借りを返しに来ましたよ。アンジュ」

 

「サラ子!?」

 

そう。それはサラマンディーネ達であった。龍神器三機がアンジュ達の援軍として加わった。

 

「サラマンディーネ様・・・」

 

ある場所でリィザはその機体を見ていた。どうやらリィザが彼女達を呼んだらしい。

 

「ちっ!たかが三機増えた程度で!」

 

「みんな!あれの相手は私がする!ファング!」

 

ナオミが有線式ファングを三機目掛けて放った。だが次の瞬間だった。ナオミ達にミサイルが飛んできた。

 

ナオミはアイ・フィールドを展開してなんとかミサイルを防いだ。

 

「一体どこから!?」

 

すると遠くの方で何かが突然現れた。それもアンジュが知っているものであった。

 

「あれは・・・アクセリオン!」

 

 

 

「パラメイル隊!機動兵器部隊!用意の出来た奴からそれぞれ発進せよ!忘れるな!今回の作戦の目的は仲間達の救出だ!」

 

アクセリオン内ではヒルダが指示を出していた。

 

あの後パラメイル隊はアクセリオンに搭乗した。そしてアクセリオンの偽装展開でミスルギ皇国にバレない様に侵入したのだ。

 

「アンジュ!無事か!?」

 

ヒルダが通信を送ってきた。

 

「今はなんとかね!」

 

アンジュは攻撃を避けながら返答した。

 

「待ってな!直ぐにあたしらも援軍として駆け付ける!アンジュと一緒に戦ってる機体は味方なんだよな?」

 

「ええ。とっても心強いわよ!」

 

「それいつはいい。メビウスは何処だ!?」

 

「多分囚われてるわ!最後にメビウスとあった座標を送る!」

 

アンジュはヒルダ達に座標を送った。

 

「メビウス。無事よね・・・」

 

アンジュはメビウスの無事を願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらはメビウス。こちらも事態の変化が起きていた。

 

今のメビウスの意識は暗い闇の中を漂っていた。

 

「・・・メビウス」

 

遠くで誰かに呼ばれた気がした。まだこの時は意識は朦朧としている。

 

「メビウス」

 

今度は鮮明に聞こえた。誰かが自分を呼んでいる。そして気がつくとメビウスは精神世界に来ていた。今回、そこにシグはいなかった。

 

「よかった。やっと気がつかれましたか」

 

声が聞こえた。その方を見るとそこに光があった。いや、正確には光を纏った巨大な存在がいた。

 

メビウスは何処かその存在に神々しさを感じた。

 

「あなたが俺を呼んだんですか・・・?」

 

「そうです。私です。今は貴方の精神に語りかけています」

 

「あなたは・・・一体?」

 

「私は・・・アウラです」

 

その言葉をメビウスは聞いたことがあった。サラマンディーネ達の世界で聞いた。最初のドラゴンである。

 

「メビウスさん。貴方に話さなければならない事があります」

 

メビウスはアウラの話を聞いていた。

 

暫くして気がつくとメビウスは地下牢にいた。どうやら目が覚めた様だ。メビウスはアウラとの会話を鮮明に覚えていた。

 

「アウラ。ありがとう」

 

一言呟き、メビウスは鉄格子を押した。そこには鍵がかかっていなかった。メビウスは勢いよく地下牢を飛び出した。

 

外へ・・・仲間の待つ戦場に舞い降りる為に・・・

 

 






今回で第8章はおしまいです!

因みにスーパーロボット大戦XΩにおいて、ナーガとカナメのSSRを入手しました。

初めてのスパロボはBXでしたね。今となっては色々とやっているけど。Kなや酷さは理解できたw



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第9章 始動!リベルタス!
第66話 それぞれの戦い




前回のあらすじ!

ジルの語った真実。それは己の罪深き過去であった。これにより指揮官はヒルダへと移された。ヒルダはZEUXISと共同戦線の構築を要請した。

ネロ艦長はジル司令を自分と同じと言い、彼女にまだ引き返せる所にいると諭すと、共同戦線を貼る事となった。

そんな中ミスルギ皇国ではサリアの協力もあり、アンジュは皇宮から脱出したが、そこをエルシャ達に発見されてしまう。

その時アンジュの指輪が光り、ヴィルキスが転移してきた。更にサラマンディーネ達龍神器が現れた。

そしてアクセリオンもミスルギ皇国へとたどり着いたのだ。

そんな中地下牢で心を壊されていたメビウスは再び精神世界に来ていた。そこでメビウスはアウラと出会った。そこでアウラからある話を聞かされた。

それでは本編の始まりです!




 

 

アクセリオンの格納庫ではヒルダが今回の作戦におけるそれぞれのポジションを説明していた。

 

因みに彼女の機体はグレイブからアーキバスに格上げされていた。

 

「あたしとロザリーとゾーラとヴィヴィアンと

タスクの五人でアンジュ達の援護をする」

 

「ワイズナー達はメビウスの救出とフェニックスの回収に当たってくれ」

 

「アクセリオンと新兵達は国境付近で待機。アンジュ達が撤退する際の援護を頼む」

 

「イッイエス・マム!」

 

新兵達が緊張しながらも叫ぶ。

 

「なんだ?緊張してるのか?」

 

「いえ!ただ・・・人間達の空を飛ぶなんて初めてですから」

 

「気にするな。私もだ」

 

ロザリーが新兵達を励ます。

 

「全機発進体制完了しました!」

 

アクセリオンのオペレーターから準備が出来たと

合図が来た。目の前のゲートが開かれる。

 

「よし!全機出撃!」

 

ヒルダの掛け声の元、アクセリオンからパラメイルと機動兵器が発進した。

 

ヒルダ達がアンジュの元へと向かう。まだ遠くだがヴィルキスが見える。そこではサラマンディーネ達を加えての戦闘が繰り広げられていた。

 

「アンジュ!」

 

タスクが一気に加速してアンジュに接近した。

 

ヒルダ達もタスクを追いかけ加速させて近づくが、その目の前にある機体が立ち塞がった。

 

その名はテオドーラ。ラグナメイルの一つだ。

 

「ヒルダ。あんた達何しに来たの・・・」

 

クリスがヒルダ達に通信を送った。

 

「クリス!アンジュ達を助けにきたんだよ!」

 

「助けに?・・・私の事は・・・見捨てたくせに!」

 

テオドーラが剣を取り出し斬りかかる。ヒルダのアーキバスとゾーラのレイザーも剣を取り出し受け止める。

 

「クリス。あたしに勝てると思うのか?」

 

「そういうとこ。変わらないね・・・どうせ私の事なんて、役立たずのゴミ人形だと思ってたんでしょ。ゾーラだって、私の事をおもちゃ程度にしか思ってなかったんでしょ」

 

「はあっ?」

 

「私はもう・・・昔の私じゃない!邪魔をするなら・・・殺すよ?」

 

その迫力にロザリーとヴィヴィアンは怯んだ。だがヒルダとゾーラは違っていた。

 

「やってみな」

 

再びヒルダとゾーラの剣とクリスの剣がぶつかり合う。

 

 

 

こちらはアンジュサイド。こちらではヴィルキスと龍神器三機対ザ・ワン・ネクストとラグナメイルの戦闘が繰り広げられていた。

 

アンジュはナオミのザ・ワン・セカンドと戦闘していた。

 

「デスシザー・レイ!シュート!」

 

ヴィルキスめがけて鉤爪から粒子砲が飛んできた。それをギリギリで回避する。しかし回避した先にはガトリングが待っていた。今度は機体に命中した。

 

「くっ!強い!ナオミがこれ程とは!」

 

アンジュはナオミの腕を称賛した。今の彼女はアルゼナルの時以上の操縦技術を持っている。決して機体の性能頼りではない。

 

その腕に加えて有線式ファングにガトリングなど

火力は圧倒的である。鬼に金棒とはこの事だ。

 

だが何より凄いのが彼女の攻撃箇所だ。武器やスラスターなど、機体を止める事だけを狙って攻撃している。パイロットを殺さない様にしている事だ。

 

「ナーガ!カナメ!三機の龍神器であの機体に攻撃を仕掛けます!」

 

それはかつてフェニックス第一形態を追い詰めたあのコンビネーションであった。

 

だがそれはザ・ワン・ネクストには通じなかった。右腕の鉤爪が伸び、蒼龍號を掴んだかと思うと碧流號目掛けて投げつけた。

 

二機ともなんとか衝突は避けれた。

 

「いって!ファング!」

 

機体の脚部からファングが展開した。それらはヴィルキス目掛けて飛んで行った。幾らかのファングを避けていくがその内の一本が突き刺さった。次の瞬間には高圧電流がアンジュとモモカさんを襲った。

 

さらにヴィルキスのモニターなどが電流によって死んだ。ヴィルキスは動きを止め、川へと落下して行った。

 

「アンジュ!」

 

サラマンディーネが助けに行こうとするがその前にビクトリアとエイレーネとレイジアが立ち塞がる。

 

「サラマンディーネさん!アンジュは俺に任せてくれ!」

 

そこにタスクが駆けつけてきた。

 

「お願いします!タスク殿!」

 

タスクはアーキバスをヴィルキスの落ちた方へと向けて飛ばした。

 

「さて。ここを通らせて、アウラの元に行かせてもらいますよ!」

 

三機の龍神器はザ・ワン・セカンドとラグナメイル三機に再び戦いを挑んだ。

 

 

 

その頃、皇宮のエンブリヲ幼稚園では子供達が木に隠れて震えていた。

 

「みんな!エルシャママが帰ってくるまでの辛抱だからね!」

 

一人がみんなを励ました。木の遠くでは流れ弾が偶に降っていた。

 

 

 

こちらは墜落したアンジュとモモカさん。

 

現在モモカさんはアンジュに人工呼吸をしていた。

 

「うっ・・・うう」

 

人工呼吸によって、アンジュは目を覚ました。

 

「モモカ・・・はっ!ヴィルキスが!」

 

モモカさんの後ろの川ではヴィルキスが沈んでいくのが見えた。だが今の彼女には回収する方法はなかった。

 

「・・・モモカ。行くわよ」

 

「どちらへ?」

 

「アクセリオンが見えた。それにヒルダ達もいるって事はアウローラだって近くにいるはず。なんとかしてみんなと合流しないと」

 

アンジュは歩き出した。それにモモカさんもついていった。

 

暫く歩いていると街へと出た。モモカさんはアンジュを裏路地に休ませた。

 

「ここで待っていてください。車を探してきますね!」

 

「ごめんねモモカ。また世話をかけるわね」

 

「いえ。私、モモカ荻野目はアンジュリーゼ様の

筆頭侍女ですから」

 

そう言いモモカさんは車を探しに表路地へと走っていった。

 

アンジュは一人となった。少し休もうと思い目を閉じた。

 

するとそこに誰かの足音が聞こえた。最初はモモカさんが戻ってきたと考えたが何やら違っていた。

 

目を開けて音の方を見てみる。するとそこにはぬいぐるみを抱えた女の子がいた。こんな幼い子が裏路地に一人いる事も変だがそれ以上に変なのがその子の目だった。まるで生気を感じない。

 

その子が口を開いた。

 

「疲れたろうアンジュ?さぁ帰ってきておいで?」

 

「!エンブリヲ!」

 

その子の声はエンブリヲであった。その子の隣にはエンブリヲが映し出された。

 

そこにモモカさんが戻ってきた。

 

「アンジュリーゼ様。お車の用意が・・・」

 

アンジュは車の中に駆け込んだ。モモカさんも慌てて運転席に乗り込む。そして車を急発進させた。

 

その頃タスクはアンジュ達を探しに川辺にいた。そこで見たものは川に沈んだヴィルキスだけだった。

 

そしてそこでモモカさんのリボンと街へと向かう

足跡を見つけ、その跡を辿り始めた。

 

 

 

 

 

ミスルギ上空ではヒルダ達とクリスの戦闘が続いていた。

 

「止めろクリス!なんで仲間同士で殺し合わなきゃいけないんだ!」

 

ロザリーが必死にクリスを説得する。

 

「・・・メビウスと違ってアンタが言っても全く説得力がないね。私のことなんて友達とも仲間とも

思ってなかったんでしょ」

 

テオドーラがフライトモードに変形した。クリスが髪を掴む。

 

「これ。覚えてる?7年前のフェスタの時」

 

 

 

7年前に遡る。三人でプレゼント交換の時クリスの元に一つの髪留めが贈られた。

 

「可愛いい。でもどうしよう。一つしかないよ」

 

当時まだクリスのおさげは二つ存在していた。所謂ツインテールというやつだ。

 

「一つにすればいいじゃん。おさげ。二つだとあたしと被るし」

 

「おっ。いいじゃねぇかそれ」

 

ヒルダがそう答えた。ロザリーもそれに同調した。

 

「・・・うっうん。そうだね」

 

クリスはそれを承認した。本心では嫌だった様だが。

 

「酷いよね。あの髪型、気に入ってたのに。それだけじゃない。これまでずっと我慢してきたんだよ。二人の事、友達だと思ってたから・・・」

 

「ゾーラだって・・・仲間だと思ってたのに・・・」

 

アルゼナルが襲撃された日。クリスが一度死んだ時だ。エンブリヲがクリスの元に歩み寄った。

 

「可哀想なクリス。裏切られ、踏み躙られ友達と思っていたのは君だけだったとは」

 

エンブリヲがクリスを生き返らせた。

 

「クリス。私と友達になってくれないか?これが

永遠の友情の証だ」

 

そう言いエンブリヲはクリスに手渡した。ラグナメイル起動のための指輪を。

 

「私の友達はエンブリヲ君だけ!あんたらなんか!

友達でも仲間でもない!」

 

そう言いクリスは髪留めを投げ捨てた。

 

「エンブリヲ君のために!私はあんたらを倒す!」

 

「クリス!話を聞いてくれ!」

 

ロザリーの制止も聞かずにクリスはライフルを放った。

 

その通信を新兵の三人は聞いていた。

 

「ロザリーお姉様!」

 

「お姉様を助けなきゃ!」

 

「マリカ!私達は待機だよ!」

 

「でも!お姉様が危ない!」

 

マリカはそういい機体をロザリー達の元へと飛ばした。

 

 

 

その頃アンジュはモモカさんの運転している車で

走っていた。

 

「さっきの女の子がエンブリヲさん!?どういう事ですか!?」

 

モモカさんはアンジュから先程の説明を聞いていた。そしてそれに驚きを隠せなかった。

 

「私も分からない・・・でも、操られてる風に見えた」

 

「忘れたのかね?」

 

車の中にエンブリヲの声が聞こえた。

 

慌てて前を見る。するとモモカさんがこちらを向いていた。その目はさっきの女の子と同じ風に生気を感じなかった。

 

そして隣にはエンブリヲの写っているモニターが映し出された。

 

「この人間達を作ったのが誰なのかを」

 

「!モモカ!」

 

アンジュはモニターを拳で破壊した。するとモニターは砕け散った。どうやらマナ製らしく、ノーマであるアンジュが触れた事により粉々に砕け散った様だ。

 

モモカさんの意識も戻った。

 

「アンジュリーゼ様・・・私・・・何を?」

 

「!モモカ!前!」

 

慌てて前を向く。先程までハンドル操作は行われていなかった。車は道をそれて電柱へと衝突した。

 

アンジュが車から出てモモカさんを運転席から助け出す。彼女は半ば意識が朦朧としていた。

 

「怪我はないかい?アンジュ」

 

またエンブリヲの声がした。

 

見ると前からはエンブリヲに操られているミスルギ皇国の国民達がやって来ていた。そしてそれは後ろからも来ていた。

 

皆エンブリヲの声で帰っておいでと言っている。

最早ホラーだ。

 

「こっちよ!モモカ!」

 

アンジュは側にあった建物内へと入っていった。

 

 

 

一方ワイズナー達はアンジュから送られたメビウスの最後にいたとされる地点へと来ていた。

 

しかしそこに既にメビウスはいなかった。

 

「ちいっ!ここにはいねぇ」

 

「みんな!こっちに来て!」

 

アンリから通信が入った。現在いる地下牢からは多少離れていた。三人は外へ出て機体を飛ばし、ある入口へと着陸した。

 

中に入るとアンリがいた。そしてその目の前にはフェニックスがあった。

 

「フェニックス・・・」

 

「機体はロックがかかっているけど。特に爆発物とかの設置の危険はないよ」

 

「ならばまずはフェニックスを運び出す!」

 

その時だった。入ってきた入り口から人の気配を感じた。一人二人などの生易しい数ではない。

 

振り返るとそこには兵士達がいた。皆かエンブリヲに操られていた。

 

「君達には悪いが御退場願おうか」

 

四人がフェニックスを背にする。

 

「どうします?」

 

「操られているだけだ。殺す必要はない」

 

「敵の数も恐らく有限でしょう」

 

「要は根比べってやつか。おもしれぇ!」

 

そう言い四人はエンブリヲに操られた兵士達に戦いを挑んだ。

 

 

 

そして暁ノ御柱では、サラマンディーネがある決断を下した。

 

「やはり今の戦力ではアウラ奪還は難しいですか。致し方ありません!ナーガ!カナメ!撤退します!」

 

「ええっ!?」

 

「現有戦力ではアウラ奪還は不可能です。一度引いて態勢を立て直します」

 

「了解!」

 

「リィザ。聞こえますか?貴女も我々と合流しなさい」

 

「貴女に何があったのか、今は問いません」

 

「もし多くの仲間を殺した事を悔やんでいるのなら、

より多くの仲間を救う為に協力しなさい!」

 

リィザはそれを聞いていた。

 

するとそこにシルヴィアが現れた。手には銃剣が握られていた。

 

「何故ここにいるのです!早く地下牢に戻りなさい!さもないとエンブリヲおじ様に頼んで、貴女を殺してもらいますよ!」

 

「・・・可哀想な子。貴女の兄は・・・ジュリオを殺したのはエンブリヲだと言うのに・・・」

 

リィザの放った一言はシルヴィアを動揺させるのには十分であった。

 

「なっ・・・なにを・・・」

 

リィザはシルヴィアが動揺している隙に飛び立った。碧流號の先端に乗っかる。リィザの回収を確認し、三機の龍神器はその場から撤退していった。

 

ミランダが銃を向けるがそれをエルシャが降ろされる。

 

「深追いする必要はないわ」

 

その時エルシャの視界にあるものが映った。

 

それはミスルギ皇宮であった。ある場所から煙が出ている。エンブリヲ幼稚園から・・・

 

「まさか・・・」

 

エルシャはその場に急行した。

 

そしてナオミの目にもある人物が映っていた。

 

「あれ・・・メビウス」

 

ナオミ達はメビウスの元に急行した。

 

 

 

エルシャはエンブリヲ幼稚園に辿り着いた。そこで見たもの。それは幼年部の子供達の無残な死体であった。

 

あの後、誰が放ったかは判らないが流れ弾が子供達を直撃したのだ。

 

「そんな・・・皆んな・・・」

 

エルシャはその光景をただ呆然と眺めていた。目の前の光景が悪い夢である事を願った。

 

だがこれは紛れも無い現実である。

 

 

 

メビウスは走っていた。

 

すると目の前に機体が3機降りてきた。3人が降りてきた。

 

それはナオミ。ココ。ミランダであった。

 

「メビウス。やっぱり出て来ちゃったんだ・・・」

 

「ナオミ・・・」

 

メビウスは黙ってナオミ達に向かって歩いている。

 

ココとミランダが銃でメビウスを撃った。右肩と左脇に弾が命中した。激しい痛みがメビウスを襲った。撃たれた部分が赤く染まる。だがメビウスは顔色も変えずに、歩みを続けた。

 

「ココ!ミランダ!駄目だよ!やめて!」

 

もう一発撃とうとするココとミランダをナオミが止めた。

 

メビウスはナオミの横を通り過ぎるとココとミランダの前に来た。

 

「本当に・・・ココとミランダなんだな・・・」

 

メビウスは二人の顔を見た。やがて二人に抱きつき、泣き始めた。

 

「ごめんな。あの時、守ってやれなくて・・・ごめんな。あの時、助けてやれなくて・・・でも・・・二人とも生きてる・・・ここにいる・・・良かった・・・本当に良かった・・・」

 

二人とも顔色一つ変えなかったが困惑していた。目の前にいるのは敵のはず。なのに何故こいつはこの様な事を言っているのだろうか。

 

記憶を無くしている二人には理解が出来なかった。

 

暫くしてメビウスは泣き止んだ。

 

「メビウス・・・戦うんだね。これからも」

 

ナオミがメビウスに尋ねる。

 

「あぁ。俺は戦う。未来の為・・・自分の信じる事の為に・・・」

 

メビウスは真っ直ぐナオミを見ながら答えた。

 

「・・・ちょっと待ってて。今手当するから」

 

ナオミが機体のボックスから医療キッドを取り出し、メビウスの手当てをし始めた。

 

「・・・私は・・・メビウスと戦いたくない」

 

手当中にナオミが呟いた。

 

「メビウスだけじゃない。アンジュにヒルダ。ロザリーにヴィヴィアン。本当は皆んな戦いたくなんてない」

 

「なら帰ってこいよ」

 

「もうだめだよ。きっとみんな私の事なんて敵として見てない。帰っても拒絶されちゃうよ。だから・・・」

 

「・・・待ってるぜ」

 

「えっ?」

 

メビウスの言った一言にナオミは驚いた。

 

「例え皆んなが敵と言っても、例え皆んなが拒絶しても、たとえ一人になろうとも、俺は待ってる。

ナオミ達が帰ってくるのを」

 

「メビウス・・・」

 

「・・・手当をしてくれてありがとよ。俺は行く。行かなきゃならねぇ」

 

メビウスは立ち上がり、走り始めた。その後ろ姿が見えなくなるまで、三人はただただ見届けていた。

 

 

 

アンジュとモモカさんは階段を上へと上がっていった。

 

「姫様。先程私・・・」

 

「私は知らない!」

 

モモカさんはアンジュに先程、車の運転中に意識がなくなった時の事を尋ねようとした。だがアンジュは質問も聞かずにそう答えた。

 

踊り場付近の扉からエンブリヲに操られた人達が現れた。さらに上ってきた階段からもそれらは迫ってきていた。

 

「逃げられないよアンジュ。賢明な君の事だ。薄々気が付いているんだろ?マナを使う人間達は、全て私の支配下にある」

 

「その侍女が近くにいる限り・・・」

 

「知らないって言ってるでしょ!」

 

アンジュは前方に迫ってきていた人間を殴りつけた。そうして階段への道を切り開いていった。

 

そして屋上に辿り着いた。そこにはある人物がいた。そいつは本を読んでいた。

 

「やれやれ。強情な花嫁だ」

 

そいつは本を閉じ立ち上がった。そいつはエンブリヲであった。

 

「またお仕置きが必要かな?」

 

エンブリヲが指先をアンジュに向けた時だ。

 

エンブリヲの体に弾丸が命中した。エンブリヲは死んだ。上を見るとそこにはタスクのアーキバスがいた。

 

「タスク!」

 

「遅くなってごめん。二人はこれで逃げるんだ」

 

「貴方は!?」

 

「あいつに様がある」

 

タスクの視線の先には何事もなかったかな様にエンブリヲが生きていた。エンブリヲはこちらにゆっくりと歩みを進めている。

 

「急げ!」

 

「モモカ!しっかり掴まって!」

 

「はい!」

 

アンジュとモモカさんを乗せたアーキバスは飛んで行った。タスクはナイフを取り出した。

 

「私達を引き離すとは・・・覚悟は出来ているだろうな。蛆虫が」

 

エンブリヲは冷静ながらも不快感を剥き出しにしていた。

 

「ヴィルキスの騎士、イシュトバーン。メイルライダーバネッサの子、タスク!」

 

「最後の古の民にして、アンジュの騎士た!」

 

タスクはエンブリヲに接近した。その途中で閃光弾を投げつけた。エンブリヲはそれに怯んだ。

 

「そうか。貴様が・・・」

 

次の瞬間にはエンブリヲの背後に回っていたタスクはナイフを突き刺した。そしてエンブリヲは死んだ。

 

だが次の瞬間にはエンブリヲは何事もなかったかの様に生き返っていた。

 

タスクは手裏剣を投げつけた。それはエンブリヲの持っていたサーベルで斬り払われた。

 

だが次の瞬間、タスクはエンブリヲの手元にワイヤーガンを撃ち込んだ。ワイヤーガンによりエンブリヲの行動は制限された。

 

「ほう。私と戦うつもりか」

 

「アンジュの元には行かせない!お前は俺が相手をする!」

 

タスクはナイフを構え直した。

 

古の民として、アンジュの騎士として。

 

エンブリヲと戦う為に。

 

 






最近アニメの1話をこの作品では2話で収められている気がするなぁ。

いつかクロスアンジュの新作で、ナオミがアニメで出る事を願っています。

作品のご感想などもお待ちしております!



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第67話 託された翼/遺された意志



今回オリジナルの方が多少説明的になってしまった感がありますね。

前回のあらすじ!

遂にミスルギ皇国にやってきたヒルダ達。ヒルダ達の前にはテオドーラを駆るクリスが立ち塞がる!

ワイズナー達はメビウスとフェニックスを探すがメビウスは見つからなかった。

そんな中エンブリヲの操る人間達がワイズナー達に襲いかかる。

そしてそれはアンジュ達にも襲いかかった。逃げるアンジュ達であったが、遂にエンブリヲの元へと辿り着いてしまった。

その時アンジュを助けにタスクが現れた!

それでは本編の始まりです!



 

 

ヒルダ達とクリスの戦いは続いていた。だがヒルダ達四人でもテオドーラを抑える事は出来なかった。

 

「クリス強い!」

 

「あぁ。腕を上げてやがる」

 

ヴィヴィアンとゾーラが驚いていた。

 

するとヒルダ達の元にワイズナーから通信が入った。

 

「ヒルダ!フェニックスを発見した」

 

どうやらあの後エンブリヲの傀儡達を皆ノックアウトさせた様だ。物理的に動けなくさせる為に、全員最低骨の一本は持っていった。

 

「メビウスは!?」

 

「それが・・・何処にもいないんだ」

 

通信からはメビウスはまだ発見できていない事が報告される。ヒルダはタスクの方に通信を送った。

 

「タスク。アンジュはどうした!?」

 

「アンジュは無事だ。機体に乗せて逃した!だがヴィルキスは沈んでいる!今直ぐには引き上げられない」

 

通信越しに鉄の擦れる音が聞こえていた。タスクは現在エンブリヲと戦っている。

 

「ヒルダはある決断を下した」

 

「・・・総員撤退する!ワイズナー達はフェニックスをアクセリオンに持ちかけるんだ」

 

ヒルダ達の指示の元、皆が撤退した。だがクリスは尚も四機を狙っていた。

 

「逃がさないよ。あんた達」

 

テオドーラのライフルがロザリー目掛けて標準を合わせた、

 

「お姉様ぁ!」

 

するとそこにマリカがやってきた。

 

「マリカ!何しに来た!?」

 

「お姉さまの援護に!」

 

「邪魔!」

 

テオドーラが剣をマリカのパラメイルに投げつけた。それはマリカの機体に直撃した。フライトモードの為それはコックピットに直撃した。

 

次の瞬間には機体は空中で爆発を起こした。

 

「マリカ!・・・そんな・・・」

 

「ふふっ」

 

クリスは何処か笑っていた。

 

「クリス!テメェ!!」

 

ロザリーのグレイブがパトロクロスを取り出し、

テオドーラに接近する。

 

テオドーラはライフルをグレイブに向けた。するとそこに粒子兵器が飛んできた。クリスは慌ててそれを避ける。

 

見るとそれには焔龍號達三機の龍神器がいた。

 

「サラサラさん!」

 

「サラマンディーネです。ヴィヴィアン」

 

テオドーラの前には7機が集まった。

 

「ちぃ!」

 

流石に分が悪いと判断したようだ。テオドーラは地面に刺さった剣を引き抜くと撤退した。

 

「待ちやがれクリス!」

 

「ロザリー!どうどう」

 

テオドーラを追いかけようとしたロザリーをヴィヴィアンが止める。ロザリーのグレイブ一機で行くのは自殺行為だ。

 

「くつ!ちっきしょぉぉ!!!」

 

ロザリーはコックピットを殴りつけた。

 

新兵を死なせ、それの敵討ちも出来ない自分への怒りが込み上げていた。

 

「・・・とにかく一度母艦に帰還する。あんたらも一緒に来るかい?」

 

「ええ。あなた方はアンジュの仲間でしょう。私達も参ります」

 

そういい皆がアクセリオンへと帰還した。

 

 

 

 

こちらはタスク。現在エンブリヲと剣を交えていた。状況はタスクが少し押され気味であった。

 

「アンジュの騎士だと!?旧世界の猿どもが!

テロリストの残党風情が!全くもって無駄な事を」

 

「無駄なんかじゃないさ。吐き気を催す邪悪!悪魔!不確定世界の住人!少しでも、お前の足止めになるならな・・・」

 

タスクはエンブリヲに何かを言っている。タスクはエンブリヲに有効な何かを知っているのだろうか。

 

「ほう。サルも少しは賢くなる様だな。だが所詮無駄な事さ・・・」

 

エンブリヲはサーベルを捨てた。そして懐から拳銃を取り出した。

 

タスクは身構えた。ナイフ対拳銃では明らかに不利だからだ。

 

次の瞬間、銃弾は放たれた。

 

エンブリヲめがけて・・・エンブリヲは自分で自分を撃ったのだ。

 

「なっ!?」

 

これにはタスクも動揺した。エンブリヲはその場に倒れた。

 

「・・・まずい!」

 

エンブリヲの意図が理解できた。

 

エンブリヲは不死の存在。だがそれは少しだけ違う。死んでも何事もなかったかの様に現れるのだ。そしてその現れる場所は死体からではなく自由である。

 

そう、死ねば望むところへ現れる事が出来る・・・

 

 

 

 

アンジュはモモカさんとアーキバスで空を飛んでいた。そしてアクセリオンの姿が少しずつだがはっきりとしてきた。

 

「アクセリオンよ!モモカ!」

 

次の瞬間だった。モモカさんがアンジュの腕を掴んだ。

 

「モモカ?・・・モモカ!?」

 

モモカさんの目は生気を感じさせなかった。エンブリヲに操られていた人達と同じ目だ。腕を掴まれた事により機体は降下していく。

 

機体はとある建物の屋上に着陸した。そしてそこにはエンブリヲであった。

 

「怒った顔も素敵だよ。アンジュ」

 

エンブリヲはこちらに歩みを進めた。

 

「なぜそこまでして私を拒絶する?」

 

次の瞬間にはエンブリヲはアンジュの背後に回り込んだ。腕をロックした。

 

「くっ!」

 

そこにタスクがワイヤーガンで登ってきた。

 

「アンジュを離せ!」

 

「ふん。相手をしてやれ」

 

エンブリヲが顎でモモカさんに殺れと指示した。するとモモカさんがサーベルを持ちタスクに斬りかかる。

 

「モモカ!」

 

サーベルの一撃でタスクの手にしていたナイフは吹き飛んだ。なおもモモカさんはタスクを攻撃する。サーベルで突き刺すその動作はどう見ても

常人の出来る範囲ではない。

 

「身体能力を極限にまで引き上げさせてもらったよ」

 

やはりエンブリヲの仕業であった。

 

「さぁアンジュ。愚かな男の末路を見たまえ」

 

「やめ・・・て・・・モモカ!」

 

しかしモモカさんは攻撃をやめない。

 

「私は調律者だ。音を乱す存在は消さなくてはならないだろ?」

 

その時だった。

 

「ふっざけんじゃねぇぇぇぞ!!!」

 

怒鳴り声が響いた。その声には聞き覚えがあった。

 

「まさか!そんな事が!?」

 

エンブリヲが驚いて声の方を向いた。次の瞬間、エンブリヲの顔にストレートが決まった。エンブリヲの身体は宙に浮き、柵を越えていった。

 

解放されたアンジュは声の方を向いた。

 

「何故だ!何故貴様がここにいる!」

 

蘇ったエンブリヲが驚きながら叫ぶ。

 

そこにはメビウスがいた。

 

「メビウス・・・あなた・・・その姿」

 

メビウスの背中からは翼が生えていた。それだけではない。尻尾だ。尻尾まで生えていた。

 

サラマンディーネ達同様の姿となっていた。

 

「貴様!その姿はなんだ!」

 

「託されたんだよ!アウラから!」

 

 

 

 

話はメビウスの精神世界に遡る。

 

メビウスはアウラと対面していた。

 

「話さなければならない事?」

 

「はい。まず単刀直入に言います。貴方に私のド

ラグニウムを分け与えたいのです」

 

「ドラグニウムってドラゴン達の世界で見つかった高純度エネルギーだろ?それをなんで・・・」

 

 

 

「これから話す事に耳を傾けてください」

 

「まず私達のいた世界で発見されたドラグニウム。エンブリヲが見つけました。当時私とエンブリヲは同じくドラグニウムの研究をしていました」

 

「そして私はドラグニウムの進化系。【ネオドラグニウム】を発見したのです。これは永久的なエネルギーでした。私は嬉しかった。戦争の原因であったエネルギー問題などは解決するからです」

 

「ですがエンブリヲは違いました。ドラグニウムを戦争に投入したのです。直ぐに私はこのネオドラグニウムをエンブリヲに教えるべきではないと判断しました。この力が戦争に使われれば、完全に世界は滅びてしまう」

 

「その為私はネオドラグニウムをエンジンとした機体を作り、当時存在が囁かれていた平行宇宙の過去の地球へと飛ばしたのです。これによりネオドラグニウムはエンブリヲには知られずに済んだのです」

 

「それと俺と、一体どう関係するんだよ?」

 

「その機体の名前は・・・【フェニックス】です」

 

その言葉にメビウスは驚いた。

 

「じゃあ!フェニックスはこの昔の世界じゃなくて、サラマンディーネ達のいた世界で造られた機体なのか!?」

 

「ええ。私の研究データを含めて、ネオドラグニウムの研究データごと私が完全に消し去りましたから、公の記録は残っていませんが」

 

以前、エンブリヲが言っていたロスト・テクノロジーの塊。旧人類。その言葉が頭をよぎる。

 

あれは古の民達の事だと考えていた。

 

だが実際はドラゴン達の事を言っていたのだ。

 

「じゃあまさかあのタイムマシンは!」

 

「ネオマキシマオーバードライブシステム。私が

開発したタイムマシンです」

 

「・・・すげぇ」

 

メビウスは目の前の存在の偉大さを実感した。サラマンディーネ達が彼女を崇拝している理由がよくわかった。

 

「そしてフェニックスは永い眠りにつきました。

貴方が偶然発見するまでは」

 

「私はずっと見てきました。この世界や100年後の未来世界での貴方の戦いを。貴方が無限の繰り返しに囚われていた時の事も・・・」

 

「もし貴方がエンブリヲの様な事をするのであれば私は貴方を排除してたでしょう」

 

「貴方に問います。貴方は何故戦うのですか?」

 

何故戦うのか。アウラからの質問にメビウスは考えた。最も、直ぐに考えるのはやめたが。

 

「そんなものねぇ」

 

「理由なく戦うのですか!?」

 

「そうじゃねぇよ。仲間が困ってりゃそれを助ける。それは当たり前だろ。それと同じさ。理由なんていらねぇ」

 

「つまり、仲間の為に戦うのですね」

 

「あぁ。当たり前の事だろ」

 

多少の沈黙が続いた。

 

「・・・良かった」

 

アウラが一言呟いた。

 

「貴方の様な人にフェニックスが託されて・・・」

 

「もし俺がエンブリヲみたいな存在だったらあんた、どうしてたんだ?」

 

「簡単な事です。その時は貴方にまた眠ってもらうだけでした」

 

「えっ?・・・まさか貴方が!?」

 

メビウスの中である可能性が浮かび上がる。

 

「ええ。少しずつですが蓄えてきた力を使ってループするシグの中の貴方を毎回覚醒させようとしてきました。そして遂に覚醒したのです」

 

「まさかあの時!シグの他に話していたもう一つの声の主って!」

 

「ええ。フェニックスを通して私が話してました」

 

「・・・あれ男の声でしたよ」

 

「後一押しだったので力をいつもより多く使ったら、ああなりました」

 

「ん?てことはシグを起こす事も出来るのか!?」

 

「彼は暫く眠らせてあげてください。長い眠りの時間を」

 

「そうだよな。数百年も頑張ったんだ。今は休ませるべきだよな・・・」

 

「・・・なぁ、アウラ。貴女は俺が憎くないのか?理由はどうであれ、結果的に俺はあんたの開発したもので色々な事をやらかした」

 

「・・・人間は過去の罪を受け入れ、許すことが出来るのです。貴方は己の過ちを自覚しています。ならば私もそれを強く責めません」

 

メビウスは、かつてサラマンディーネとした会話を思い出す。

 

「ですがこれだけは忘れないでください。同じ悲しみだけは繰り返さないと」

 

アウラの光がより強く輝いた。それはまるで太陽の光の様であった。

 

「さて、あまり時間がありません。それでは貴方にドラグニウムを分け与えますね」

 

「そういえばなんでた?なんでドラグニウムを俺にわけるんだ?」

 

「エンブリヲを止めるには貴方の力も必要です。それに貴方は既にドラグニウムを体内に取り込んでいたんですよ?それを貴方に分かるように言うなら、人体強化ガスです」

 

メビウスは再び驚いた。

 

あれがドラグニウムだとは、だが直ぐに疑問が湧いた。

 

「でもちょっと待て!ドラグニウムって確かドラゴン達のいる地球でしかないんだよな!?なんでブラック・ドグマがそんなもの持ってるんだよ」

 

そう。ドラグニウムはこの世界には存在しない。

さらにそれは有限である。

 

唯一のドラグニウムはアウラの言うフェニックスに搭載されているネオマキシマエンジンだけである。

 

しかしその存在は公にはされてない。その為エンブリヲはドラグニウムを手に入れる為にノーマ達に

ドラゴンを殺させているのだ。

 

「それは私にもわかりません。ですがあのガスはドラグニウムです。最も、純度は薄い様でしたが、なぜあったのかはわかりません」

 

どうやらそれはアウラにもわからない様だ。

 

「お願いです。エンブリヲを止める為に・・・」

 

「わかった。俺もこのままやられっぱなしっての好きじゃねぇ」

 

迷いなんてなかった。メビウスはアウラの頼みを受けた。

 

「では私の身体に触れてください」

 

メビウスは歩き、そして右手を伸ばし、アウラへと触れた。

 

次の瞬間、メビウスの体内に何かが流れ込んでくるのが実感できた。

 

「もう大丈夫です。手を離してください」

 

手を離す。既にメビウスの体調は戻っていた。エンブリヲに捕まる前、人体強化ガスの影響を受けていた時と同じ、いや、それ以上の力が漲っていた。

 

「これが・・・ドラグニウム」

 

「・・・なるほど。貴方は進化しました。今の貴方なら遺伝子操作なしで、念じれば翼と尻尾が生えてくるでしょう」

 

メビウスはサラマンディーネ達を想像した。翼や尻尾。あれはあると便利そうだと思っていたので、嬉しいものであった。

 

試しに念じてみた。すると本当に生えてきた。特に身体に違和感や変な感じはない。しまおうと念じるとそれらも消えた。

 

「遺伝子操作なしでもドラグニウムを取り込める。・・・進化しているって事か」

 

すると突然揺れが起きた。

 

「どうやら時間が来た様です。こうして貴方と話すのにもそれなりの力が必要なのです」

 

「待ってろ!直ぐに助けに行く!」

 

「いえ。今の私は不安定な状況です。今助けには来ない方が良いです。それより、貴方の仲間がミスルギ皇国にやってきています。さらにサラマンディーネ達もこの世界にいます。まずは合流しなさい。地下牢の鍵も外しておきます」

 

「わかった。必ず助けに来る。だから待ってろよ!」

 

「最後に一つだけ聞かせてください。貴方のメビウスの由来はなんですか?」

 

「名前の由来?確かジル司令が名付けたな。そん時は確かコックピットで見つけた紙に」

 

「【The future is endless・・・未来は無限だ】ですか?」

 

「・・・まさか!?」

 

「はい。あれを書いたの私なんです。メビウスの輪も。未来は無限。私達の様な未来だけではないはずです。きっと、より良い未来を作れるはずです。もし、誰かがあの機体を手に入れたら、より良い未来を求めて貰おうとして書きました」

 

「では時間ですね。皆が助けに来るのを待っています」

 

アウラはそう言うと姿を消した。次の瞬間にはメビウスの意識も失われた。

 

そしてメビウスは目を覚ました。体は本調子になっていた。どうやら本当に力を得た様だ。

 

「ありがとう。アウラ」

 

メビウスは地下牢から飛び出した。

 

これがメビウスの身に起きた出来事の内容だ。

 

そしてメビウスは向う途中でアンジュ達の乗った

アーキバスを目撃。

合流しようとして飛び立ち、上記に至るわけだ。

 

 

 

「だりゃぁぁぁあ!」

 

メビウスは再びエンブリヲに殴りかかった。身体能力は以前のメビウス以上であった。

 

「揃いも揃って!私に刃向かうか!」

 

エンブリヲは銃弾を放った。それをメビウスは避ける。次の瞬間にはエンブリヲの首根っこをひっ捕まえた。全力を込めて力を入れる。首の骨がへし折れた。

 

エンブリヲは死んだ。そして次の瞬間には、復活したエンブリヲに殴りかかった。

 

戦いはメビウスが優勢であった。タスクの落としたナイフなども使い何度もエンブリヲを殺している。だがその度にエンブリヲが蘇っているのも事実だ。

 

アンジュはモモカさんを介抱しており、タスクは現在休憩中である。

 

「この野蛮な猿が!」

 

「野蛮で悪いかぁ!!」

 

メビウスがエンブリヲに駆け寄る。右手に力を込める。そしてそれをエンブリヲ目掛けて振りかざす。

 

その瞬間エンブリヲが笑みを浮かべた。

 

「ナオミがどうなってもいいのかい?」

 

その一言にメビウスの動きは止まる。

 

次の瞬間、エンブリヲの蹴りがメビウスの腹部に命中した。それによって後ろに吹き飛ぶ。

 

メビウスの体は柵の外へと飛ばされた。翼を生やし、上昇した。

 

エンブリヲの前に着地する。エンブリヲが指を鳴らす。するとそこにはナオミが現れた。

 

「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・」

 

ナオミの顔は赤くなっていた。そして片腕で胸を、もう片腕で自分の蜜壺に触れていた。

 

「彼女には100倍の快楽を与えている。生き殺しとはまさにこの事だな。抵抗すればどうなるかは言わなくても分かるだろう?」

 

脅迫。脅し。人質。言い方はどれでもいい。

 

だがこれはあまりにも姑息かつメビウスの

カウンターになる行為だ。

 

「それが人間を超えた存在のする事かよ!」

 

メビウスが叫ぶ。エンブリヲはメビウスに銃を撃ちながら近づく。そして近づすなり暴行を加える。

 

「どうした?抵抗しないのかい?」

 

先程とは一転した。メビウスに一方的な暴力が加えられる。いくら強くなっているとはいえ母体は人間だ。限度がある。血も流れるし痛みだってくる。

 

「やめて・・・エンブリヲ・・・」

 

ナオミがメビウスへの暴行を止めるよう頼む。

 

「悪いけど君はしばらく苦しんでくれたまえ。その方がメビウスに対する嬲り甲斐があるというものだ。対メビウス用に君を生かしておいたのは正解だったよ」

 

エンブリヲは冷たく笑いながら答えた。その答えの内容はナオミを道具としている内容だった。

 

「え?・・・そん・・・な・・・」

 

ナオミはこの時になり、自分がエンブリヲに利用されていた事を知った。エンブリヲ望んでいた世界を信じてたのに。彼はその思いさえ利用していたのだ。

 

「見ただろナオミ。これがこいつの腐った本性だ!」

 

「ほう。まだ軽口を叩く余裕が残されていたか」

 

「がぁぁぁぁ!!」

 

エンブリヲがメビウスの肩に弾丸を放つ。手当てされていた跡から撃たれた。メビウスは倒れ伏した。立ち上がろうとするがその顔をエンブリヲに踏みつけられる。

 

「君を生かしておいた事は私の間違いだったよ」

 

足で踏む力を強めた。メビウスは低く苦悶の声をあげる。

 

「やめなさい!」

 

モモカさんを介抱していたアンジュがエンブリヲに殴りかかるがエンブリヲはそれをよけ、再びアンジュの腕をロックした。

 

「さて。アンジュ。見ていたまえ。君の騎士などと言う憐れな男の末路を」

 

主の操作を離れていた為、倒れていたモモカさんが立ち上がった。サーベルを拾い上げるとタスクの方にジリジリと近寄る。タスクの背後は柵である。

 

「モモカ!やめなさい!」

 

「無駄だよ。創造主には逆らえない」

 

「違う!モモカは、私の筆頭侍女よ!」

 

「目を覚まして!モモカ!!」

 

アンジュは叫んだ。

 

次の瞬間だった。モモカさんの脳裏に浮かんで来るものがあった。

 

それはアンジュとの思い出であった。アルゼナルでの思い出。ミスルギ皇国での思い出。アンジュが幼かった頃の思い出。様々な思い出が脳裏をよぎった。

 

「・・・アンジュリーゼ様・・・」

 

モモカさんの目に光が戻った。

 

「タスクさん。姫様をお願いします」

 

そう言いモモカさんはエンブリヲの方を向いた。

 

「姫様!メビウスさん!お逃げください!」

 

その言葉を合図にアンジュはエンブリヲに頭突きした。エンブリヲはバランスを崩した。

 

その隙にメビウスはナオミの元へ、アンジュはタスクの元へと駆け寄る。

 

だがナオミは駆け寄る直前に姿が消えてしまった。

 

「残念だったね。だが安心したまえ。彼女は君へのカウンターになる。そう簡単には殺したりはしないよ。それよりも・・・」

 

モモカさんはサーベルを持ち、エンブリヲ目掛けて突進する。

 

「ほう」

 

銃を取り出すとそれをモモカさん目掛けて撃った。胸に命中した。だがモモカさんは走るのをやめなかった。

 

「光よ!マナの光よ!」

 

「なに!?」

 

エンブリヲの胸元にサーベルが突き刺さる。モモカさんは最後の力を振り絞り、エンブリヲを落とした。

 

そしてそこにモモカさんがマナの光で操る車が突っ込んできた。

 

二人はその車に衝突した。

 

モモカさんは下へと、森へと落ちていく。車の姿もどんどん小さくなっていく。

 

車が完全に木によって見えなくなった。次の瞬間見えなくなった地点で大爆発が起きた。車が爆発したのだ。辺り一面が爆発の被害を受けた。あの爆発だ。

 

おそらくモモカさんはは・・・

 

「うそ・・・うそでしょ・・・モモカ?モモカ!」

 

「ねぇ!聞こえないの!?返事してよ!」

 

アンジュはこの光景を信じられずにいた。モモカの名前を叫び続ける。

 

タスクは立ち上がるとアンジュを持ち上げた。行き先はアーキバスであった。

 

「待ってタスク!モモカが!モモカが!」

 

タスクは何も答えず、アンジュを機体に乗せた。

 

【バン!】

 

タスクの胸付近が撃たれた。

 

「驚いたよ。ホムンクルスの中に私を拒絶する者がいるとは」

 

そこにはエンブリヲだけがいた。

 

「よくも・・・よくもモモカを!」

 

アンジュが掴みかかろうとした次の瞬間。メビウスはエンブリヲに組みついた。

 

「なに!?」

 

「タスク。時間稼いでやるからとっとと終わらせろ!」

 

「死ぬ為に生き返った死に損ないが!」

 

エンブリヲは振り解こうとする。だがメビウスは離さなかった。だが暴行の跡や銃弾の傷口など、既に血液の損失はデットゾーンに到達している。

 

だがメビウスは、少しずつだが柵の壊れた場所へと近寄る。

 

「何をする気だ!」

 

「言ったはずだ!テメェに地べたを這う人の気持ちを味あわせてやるってよ!」

 

メビウスは一歩。また一歩とエンブリヲ事後ろに下がる。

 

「アンジュ!フェニックスのコードは077209だ!これで再起動できるはずだ!」

 

「なに言ってるのよ・・・メビウス。まさか貴方!?」

 

「安心しろ!翼生えてんだ!戻ってこれる!」

 

「さてと。待たせたな!」

 

次の瞬間メビウスはエンブリヲ諸共その身を投げ出した。未だ爆発を続けているあの場所へと。

 

身を投げた瞬間、メビウスの意識はかなり朦朧としていたのがアンジュには理解できていた。

 

そして・・・メビウスは上がってこなかった。

 

「そんな・・・メビウス。メビウス!」

 

助けに行こうとするがアンジュの手に何かがつけられた。

 

それは手錠だ。その反対側を機体のハンドル部分にもつける。

 

そして機体をオートパイロットの時限式に設定した。

 

これでアーキバスは目的地に着くまで自動操縦される。そしてそのロックは目的地に着かなければ解除されない。

 

「タスク・・・なにを・・・」

 

「君は生きるんだ。大丈夫。必ず君の元に帰る」

 

タスクが笑う。アンジュを心配させない為に。

 

「だめ!ダメよ!タスク!」

 

タスクはアンジュとキスをし、ある物を手渡した。

 

それはかつてアンジュがタスクにあげたペンダントであった。

 

そしてアーキバスが上昇を始めた。

 

「タスク!タスク!」

 

アンジュはタスクの名前を叫び続ける。タスクは笑ってアンジュを見送った。見送るとタスクは顔を元に戻し、後ろを振り返る。

 

「下郎が」

 

蘇ったエンブリヲが憎々しげに吐き捨てる。メビウスの姿はそこにはなかった。

 

「ったく。しつこい男は!嫌われるよ!!」

 

タスクは服を放ち、エンブリヲ目掛けて突進する。

 

次の瞬間だった。アーキバスが大きく揺れた。振り返って見てみると、そこにはタスク達がいた場所が黒い煙と爆風に包まれているのが見えた。

 

タスクの服の下には爆弾が隠されていたのだ。

 

アンジュはその光景を否定した。夢だ。悪い夢だと願った。

 

「うそ・・・うそよ・・・嘘よね?モモカ。メビウス。タスク」

 

「みんな・・・私を・・・一人に・・・しないで・・」

 

「ウワワアアァァァァァン!!!」

 

アンジュの泣き叫ぶ声だけが空に響いた。

 

 






ドラグニウムの進化設定をスパロボVのゲッター線と考えた方は当たっています。

メビウスにまさかの翼が生えました。これはボツ設定のつもりでしたがあったら面白いと考え復活させました。

アニメではとてもショッキングでしたね。この回は。

果たして三人は無事なのか!?それとも・・・



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第68話 necessary


アニメとは場面順序などが変わっていますが区切りなどをよくする為にこうしました。

前回のあらすじ!

クリスの攻撃で新兵の一人のマリカが殺されてしまった!激昂するロザリーだがクリスは撤退して行った。

そんな中アンジュは操られたモモカさんにより、
再びエンブリヲの前に対峙した。

そこへタスクも再び駆けつけた。

さらにアウラから力を分けてもらったメビウスも参戦した。

だがエンブリヲはナオミを人質とした。これにより一気に形成は逆転してしまった。

そんな中アンジュの必死な叫びでモモカさんがエンブリヲの支配を打ち破った!

モモカさんはタスクにアンジュを頼むと託すと、
エンブリヲを道連れに森へと落ちていった。

更にメビウスも、ナオミが人質とされなくなった為、アンジュ達の逃げる時間を確保する為、復活したエンブリヲを道連れとして落ちていく。

そしてタスクは二人を助けに行こうとするアンジュをアーキバスに乗せる。彼女にキスをし、以前もらったペンダントを渡す。

自動操縦でアーキバスを発進させたタスクは蘇ったエンブリヲ相手に自爆を仕掛けた。

アンジュはその光景にただ泣き叫ぶ事しか出来なかった・・・

それでは本編のはじまりです!




 

ミスルギ皇国、暁ノ御柱。エンブリヲはアウラの前に来ていた。

 

「まさか私の邪魔をする存在がこんな近くにいたとはな」

 

エンブリヲは憎々しげにアウラを睨む。

 

「そればかりか、かつての仲間に隠し事までしていたとはな」

 

フェニックス。あれがアウラのつくったものだとはどうやら知らなかった様だ。

 

「全く。だが君が何をしようと手詰まりだよ。もう平行宇宙の地球探す必要なんてない。

この地球とドラゴンの地球を融合させる。そうして一度世界をやり直せば良いのだ」

 

エンブリヲは眠るアウラに高らかに宣言するとその場を後にした。

 

 

 

舞台はアウローラへと移る。

 

ミスルギ皇国から撤退したヒルダ達とワイズナー達。ジャスミンとバルカン。そしてサラマンディーネ達が集まっていた。

 

皆はリィザから得た情報を皆で話し合っていた。

 

「成る程ね。時空融合ってのをして、二つの世界を一つにするってわけか。そんで、そこで新世界を

創り出すって魂胆か」

 

「制御装置のラグナメイル。そしてエネルギー源のアウラ。条件自体は揃っています」

 

やがてサラマンディーネが口を開いた。

 

「・・・司令官殿。我々は皆さんとの同盟締結を求めます。我々だけでエンブリヲの防衛網を突破するのは不可能です」

 

「・・・確かに私らだけじゃ手も足も出ねぇし」

 

「いいよ。同盟結ぼうじゃない。ZEUXISもそれで問題ないよな?」

 

「あぁ。問題ない」

 

すると突然バルカンが吠え出した。その先を見る。するとそこにエマさんがやって来た。だが何処か

様子が変であった。

 

「おや。アンジュは帰ってないのかい。何処に行ったのか、私の妻は・・・」

 

「!エンブリヲ!」

 

ワイズナー達が身構える。エマさんの隣にはエンブリヲの映し出されたマナのモニターがあった。

 

「こいつがエンブリヲ・・・」

 

エンブリヲを知らないヒルダ達は驚く。バルカンが飛びかかるがエマさんは片腕で退けた。

 

するとモニターのエンブリヲはネロ艦長たちの方を向いた。

 

「破滅の未来の人間達。喜びたまえ。君達を苦しめる破滅は訪れない。二つの世界は融合し、一つの地球となる。だから計画が成功した暁には君達の世界は消えさるのだ」

 

「最も、時空融合が成功すれば、君達の誰一人生き残る事は出来ないだろうが」

 

「トチ狂ったか!てめぇ!」

 

「待ちたまえ!」

 

ヒルダが銃を向けたがそれをネロ艦長が止まる。

 

「エンブリヲ。メビウスとアンジュはどうした」

 

「アンジュは何処かへ逃げてしまった。最も、逃しはしないけどね。メビウスのほうは死んだよ」

 

その言葉に皆が動揺した。

 

「全く、最後まで苛立たせられたが、最後は自爆に近い特攻だった。もっとも、それをしたのは他にも2人いたが」

 

「待て。メビウスは自爆したのか」

 

ネロ艦長が睨みながら言う。

 

「あぁ。アンジュを逃す時間を作る為に。全く、

強い力もあの精神ではまさに宝の持ち腐れだな。

ナオミを人質にしたら途端に対抗しなくなったよ。」

 

「ふん。メビウスは生きてるぞ。エンブリヲ」

 

ネロ艦長は笑みを浮かべながら静かにいった。その言葉エンブリヲの顔色も変わる。

 

「あいつが命を貼るのは自分が死なないと確信したからだ。奴のそういう所を私は知っている。貴様の負けだ」

 

「そんなハッタリに私が動じるとでも?」

 

「ならば聞く。メビウスの死体は確認したか?」

 

ネロ艦長の一言にエンブリヲが動揺する。どうやら死体確認は怠っていたらしい。

 

「動じると思ったさ」

 

ネロ艦長が吐き捨てる様に言う。

 

そして、質問に答えずエンブリヲは話を変えた。

 

「さて。そこを通してくれないか?フェニックスの解除コードを私は知っている。フェニックスがあれば新世界はより良き世界となるだろう」

 

「私達が通すと思いますか?」

 

サラマンディーネが前へと出る。

 

「逃げた女に追い縋るとは、随分と無様ですね。調律者」

 

「ドラゴンの姫か」

 

「焦らずとも、アンジュは行きますよ。私達と一緒に、貴方の首を貰い受けに・・・」

 

次の瞬間サラマンディーネは咆哮を上げた。その咆哮はエンブリヲの映し出されたマナを破壊した。

 

エマさんは気を失い倒れた。

 

ジャスミンがエマさんを医務室へと運ぶ。

 

「メビウスは生きている。ならば必ず我々の元に合流する!」

 

「あいつは簡単に死ぬ様な奴じゃねぇ!きっと帰ってくる!」

 

「そうだ!エンブリヲの様子だと、どうやらメビウスの死体は見つかってない様だ。なら生きてる!絶対に!」

 

「きっとメビウスとアンジュは一緒に帰ってきます!あの方達は私の友です。そう簡単にやられるはずがありません!」

 

皆が励まし合う様に言い合う。やがてそれは確信へと変わってもいた。

 

「では我々はアクセリオンに戻る。機体の調整や新装備実装など、色々とやらねばならぬ事がある」

 

そう言いZEUXISのメンバー達はアクセリオンに戻って行った。

 

 

 

その頃エンブリヲは先程のサラマンディーネの攻撃で頭痛が起きていた。電話越しに操っていたらしい。

 

「やれやれ。野蛮な女だ」

 

するとそこにエルシャが入ってきた。

 

「エンブリヲさん。あの子達をまた生き返らせてはあげられませんか?」

 

エンブリヲ幼稚園の子供達は皆先の戦闘に巻き込まれ、全滅してしまった。エルシャにとって彼女達は生きる希望でもあった。

 

エンブリヲは答えた。無情な言葉で。

 

「残念だが、それは無理だ」

 

エルシャは驚いた。なぜ無理なのか。蘇生には一度っきりの制限でもあるのか?その疑問が芽生えた。

 

そしてエンブリヲはその疑問に答えた。

 

「新世界は新たな人類で作られる。あの子達旧人類の居場所はない」

 

「そんな・・・」

 

その答えは残酷であった。あまりにも身勝手すぎる。

 

「お願いです!あの子達は私の生きる理由であり希望なんです!」

 

するとエンブリヲはエルシャにビンタした。

 

「君はもう少し賢いと思っていた。これ以上私の手を煩わせないでくれたまえ。私は忙しい」

 

そう言い放つとエンブリヲは部屋を後にした。

 

「そんな・・・そんな・・・」

 

「ウワァァァァァン!!」

 

その場には泣き崩れるエルシャだけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

アウローラへと舞台が映る。

 

ヒルダとロザリーは自室に戻っていた。

 

「・・・なぁ。本当に待つのか。帰ってくるのを」

 

「あぁ。悔しいけどあたしらだけじゃクリス1人にも敵わなかったし」

 

「私。ドラゴンと行くよ・・・」

 

ロザリーが言う。

 

「なんだってやるよ。クリスをぶっ殺せるなら・・・殺らなきゃ・・・マリカの為にも・・・」

 

「ロザリー・・・」

 

「なぁ。なんでこうなっちまったんだろうな。教えてくれよ。ヒルダ」

 

「私、バカだからわからねぇよ。クリスの事・・・ずっと友達だと思ってたのに・・・」

 

ロザリーはヒルダに尋ねる。その目からは涙が溢れていた。ヒルダは黙ってロザリーの側にいた。

 

 

 

そしてジルはある部屋でジャスミンから話を聞いていた。

 

「ヴィルキスを堕としたのはナオミだそうだ。新兵を一人殺したのはクリス。全く、エンブリヲの部下は優秀な事で、兵隊も、隊長さんも」

 

「何が言いたい」

 

「あんたがサリア。いや、他の子達にも、もう少し優しくしてやれれば、あの子達も敵にならずにすんだんじゃないかい?」

 

そういいジャスミンは部屋を後にした。

 

ジルは一人色々な事を思い返していた。

 

(私がアレクトラの仇を討つ!)

 

(既に敵となった道具だ。捨てておけ)

 

(復讐に生きる者は自らの失ったものを他の誰かから奪い去ってしまう。そしてそれに気がついた時には既に手遅れだ)

 

(だが君はまだ違う。まだ戻れる所にいる。その事を忘れるな)

 

 

 

 

エルシャは外に出ていた。泣きながらスコップで穴を掘っていた。

 

「全部嘘だった。平和な暮らしも、平等な世界も・・・」

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・みんな・・・」

 

エルシャはミスルギ皇宮で子供達のお墓を作っていた。泣きながら、死んでいった子供達に謝り続けていた。

 

 

 

サリアは自室にいた。先程エンブリヲにアンジュの脱走の件での折檻としてお尻ペンペンの刑に処されていた。

 

(・・・期待してるよ。私のサリア・・・)

 

刑の後、エンブリヲの言った言葉である。だがその言葉は乾いていた。

 

「嘘ばっかり・・・でも。アンジュを倒せば、きっとエンブリヲ様も認めてくれる。私の事を・・・」

 

サリアはナイフを取り出すと、自室に飾ってあったプリティ・サリアンの服を切り裂いた。

 

「エンブリヲ様に認めてもらえるなら・・・

他に何もいらない・・・」

 

サリアの目は正に修羅と呼ぶに相応しかった。

 

 

 

ナオミな地下牢に閉じ込められていた。先の件でエンブリヲに対する不信感が募った事がエンブリヲに気づかれていたからだ。ナオミは隅っこに泣きながら蹲っていた。

 

「・・・私・・・どうすればいいの・・・」

 

ナオミはエンブリヲを信じた。だが裏切られた。

 

ココとミランダを生き返らせたのも全て自分を道具とする為だった。

 

「私・・・みんなに酷い事をした。私なんて・・・」

 

(待ってるぜ)

 

不意にメビウスの言葉が脳裏をよぎった。

 

(例え皆んなが敵と言っても、例え皆んなが拒絶しても、たとえ一人になろうとも、俺は待ってる。

ナオミ達が帰ってくるのを)

 

「メビウス・・・私・・・わたし・・・」

 

ナオミは涙声になりながらも、メビウスの名前を呟いた。

 

 

 

 

そしてアンジュは、ある島にたどり着いた。手錠もそこに着くと外れた。

 

「ここ。まさか・・・」

 

そこはタスクと初めて出会ったあの島であった。

 

小屋の中へと入る。そこはアンジュが最後に見た時と変わっていなかった。

 

何かが服から落ちた。それを拾う。それはタスクに渡された、かつてアンジュがタスクにあげたペンダントだった。

 

(・・・帰るときには、タスク。貴方がいた)

 

島から帰る時、ドラゴンの世界から帰ってきた時、未来世界から帰ってきた時。そこにはタスクがいた。

 

(・・・変える場所には、モモカ。貴女がいた)

 

幼かった頃、アルゼナルでの生活の時、未来世界から帰りアウローラへ行く時、そこにはモモカさんがいた。

 

(・・・ピンチな時には、メビウス。貴方がいた)

 

島でガーナムに襲われそうになった時、ミスルギ皇国で処刑されそうになった時、未来世界でエンブリヲに襲われた時、そこにはメビウスがいた。

 

「・・・なのに・・・ウッ・・・」

 

アンジュはペンダントを握ったまま泣き崩れた。

 

 

 

こうして暫くの時間が流れた。これからどうするか、なにをすればよいのか、その答えが見つけられなかった。

 

「・・・水・・・」

 

不意に水が飲みたくなり、水桶に近づく。しかし足取りが悪くんつまづいた。

 

すると振動でタンスの上から何かが降ってきた。

 

それはノートであった。

 

ノートを開いてみるとそれは日記であった。

 

【モーガンさんが死んだ。これで俺は一人になった。無理だったんだ。エンブリヲに戦いを挑むなんて。世界を壊そうだなんて】

 

【何をしても独り。孤独に気が狂いそうになる。

人は、一人では生きていけない】

 

【今日、女の子が流れ着いた。ヴィルキスと共に。かなり凶暴で、人の話をまるで聞かない女の子だけど・・・】

 

【アンジュは光だ。外の世界から差し込んだ光。父さん、母さん、やっと見つけたよ】

 

「彼女を守る・・・それが俺の・・・俺だけの、使命・・・」

 

アンジュは日記の最後に書かれていた文を読んだ。途端に目から涙が溢れてきた。

 

「ずっと・・・ずっと守ってくれてた・・・なのに・・・なのに・・・」

 

「側にいてよ。タスク・・・」

 

「出てきてよ。モモカ・・・」

 

「戻ってきてよ。メビウス・・・」

 

三人の名前を呟いた。だが側にいて欲しい人物が誰一人として今はいない。人は一人では生きていけない。日記に書かれていたその文字がアンジュに重くのしかかった。

 

ふと服を見る。

 

そこにはサリアから奪った拳銃があった。

 

「楽になっちまえ」

 

悪魔の囁きがアンジュには聞こえた。

 

拳銃に手が伸びる。弾倉を確認すると、一発だけ

だが銃弾が入っていた。

 

「タスク・・・モモカ・・・メビウスも。待ってて。今行くから」

 

拳銃を首元に当てる。目を閉じた。引き金に指が伸び、そして引き金に指が触れた。引き金を押そうと少しずつ力が入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君は生きるんだ」

 

不意にその言葉が聞こえた。それは天使の囁きの様に優しかった。

 

それはタスクがアンジュに言った言葉であった。

 

再び天使の囁きが聞こえた。

 

「後悔する生き方だけはするな」

 

それはアンジュが死ぬ為にヴィルキスに乗った際、メビウスがアンジュに言った言葉であった。

 

「違う・・・こんな事・・・私らしくない・・・

ウワァァァァン!」

 

アンジュは拳銃を下ろした。そして声を上げて再び泣き始めた。

 

 

 

 

 

 

そしてその頃、エルシャはクリスと出会っていた。

 

「エルシャ。どうしたの?」

 

「ちょっと、分からなくなっちゃったの」

 

「私にはあの子達しかいなかった。だから利用された。何もなくて・・・浅くて・・・薄くて・・・

ちょろい女」

 

エルシャが自虐めいた口調で言う。

 

「ねぇ。クリスチャンはどうするの?このままロザリーちゃん達と・・・友達と戦うの?」

 

「友達!?あんなやつら友達じゃない!上等だよ!」

 

クリスは殺る気の様だ。

 

「・・・そう」

 

そう言いエルシャはその場を後にした。

 

子供達のお墓の前に来ていた。そして静かに手を合わせた。

 

 

 

 

 

 

クリスとエルシャの会話の少し前。街は大混乱となっていた。

 

理由は簡単である。皆、マナの光が使えなくなったのだ。老若男女問わず例外なく使えなくなったのだ。

 

「どうなってるんだ!何故マナが使えない!?」

 

「助けて!火が!」

 

「待ってろ!今助けを呼ぶ!」

 

「どうやって呼ぶんだよ!?」

 

「誰かいないか!?私は第一皇女・・・いえ、女帝シルヴィア一世ですよ!早く私を助けなさい!!」

 

皆が困惑し戸惑っていた。

 

そんな中エンブリヲは首脳達とマナを使い会談をしていた。

 

「遂に始まるのですね。世界の破壊と再生が」

 

「で。我々はどの様にして新世界に移るのですかな?」

 

「早くしないと、時空融合に巻き込まれてしまいますわ」

 

皆が新世界に期待していた。そしてエンブリヲが口を開いた。

 

「誰が諸君らを連れて行くと言った?」

 

その一言に皆が驚く。

 

「新たな世界は賢い女性達が作る。出来損ないどもは世界を混沌にした責任でも取りたまえ」

 

そう言うとエンブリヲは首脳達のマナを封印した。今回はマナを使った会談の為に、一人、また一人と姿が消える。

 

「我々を見捨てるつもりです!?」

 

ローゼンブルムが叫ぶ。

 

「娘さん一人説得できない様な貴方は、新世界に

一番相応しくない」

 

そう言いローゼンブルムのマナも遮断する。その場にはエンブリヲだけが残された。

 

「遂に始まる。私の計画が」

 

エンブリヲは静かに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが彼は一つだけ見落としていた。それはこの状況を待っていた人物がもう一人存在していたという事を・・・

 





最近になってようやく特殊タグの使い方が理解できる様になりました。少しずつ使っていこう。

ミスルギ国民マナが使えなくなった瞬間高らかに
ザマァァァァァ!!!って言った懐かしい記憶がある。

多分インゲの所とかも使えなくなってるんだろうな。

余談ですがアニメではセリフはなかったけどミスティがこの回で出てました。



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第69話 舞い戻る剣達


時空融合の準備の進むなか、エルシャはエンブリヲの本性を知った。

そんな中アンジュはかつてタスクと出会った島へと辿り着いていた。一人寂しく震えていたアンジュはタスクの日記を見つける。

ずっと守ってもらってた。アンジュはその事を思い自殺を図ろうとまでした。

だがタスク達のかつての言った言葉にやり踏みとどまった。

そんな中マナの光が世界から消えた。遂に時空融合の用意が整ったのだ!


 

 

世界からマナの光が消えた。これにより破滅の未来の片足を突っ込んでいる。いや、本来ならこれで

破滅の未来へ直行なのかもしれない。

 

アウローラの医務室ではエマさんもマナが使えなくなっていた。

 

「マナの光が・・・」

 

驚くエマさんにリィザが伝える。マナを使う人間。そしてノーマの意味を

 

「ドラゴンの声はマナを持つ人間に干渉する。だからマナを持たない人間しかドラゴンと戦えなかった」

 

エマさんには心当たりが一つあった。かつてアルゼナルがドラゴンに襲撃された時、ドラゴンの声を聞いた瞬間、意識が遠のいたのだ。恐怖などではなかった。別の感覚であった。

 

「でも!そんな情報・・・マナには・・・」

 

「この世界は嘘に塗れている。だがノーマはその嘘を暴く存在でもある」

 

「成る程。だから差別され、隔離されるんだね」

 

マギーが何処か納得した風に言う。なぜノーマがここまで迫害されるのか、その理由がわかった気がした。

 

「あぁ。人間達には本能的にノーマを憎む様に

プログラムされた」

 

「それじゃあただの操り人形じゃないです!

私達!」

 

「そうだ。マナを使える人間はいわばエンブリヲの操り人形だ。マナを使えないノーマこそが純粋な人間と言える」

 

リィザの語った内容。それはマナの使える普通の人間こそ異常で、マナを使えないノーマこそが普通の人間であるという事実であった。

 

その答えにエマさんは呆然とした。

 

 

 

アクセリオン内ではネロ艦長が機体デッキに来ていた。

 

「ネロ艦長」

 

ワイズナー達がネロ艦長に気づき話しかける。

 

「彼女達のパラメイルの強化装備が製作できました。他にも武装パックなど様々なものも完成しています」

 

「・・・そうか」

 

ネロ艦長は何処か朧げであった。

 

「やはり驚いていられるのですね。マナの光の真実について」

 

「・・・驚いてないと言えば嘘になる」

 

マナの光。その正体はアウラというドラゴンから

成り立っていた。

 

「・・・どうすりゃいいんだよ。俺達・・・」

 

ZEUXISのメンバーは本来ならマナの光喪失を調査する為に未来か来たのだ。過去を変える為に。

 

だがマナの光が溢れる世界は即ち偽りの世界でもある。

 

「・・・今は彼女達と協力するべきだ。このままいけば我々の世界だけでなくこの世界までも破壊されてしまう」

 

「俺達も同じ意見です」

 

「ならば今出来る最善の事を尽くすのだ。それが

未来のためになる」

 

ネロ艦長はそう言うと機体デッキを後にした。今するべき事を間違えない為に・・・

 

 

 

 

アンジュは現在夕日を眺めていた。

 

「無様ね。一人じゃ死ぬ事も出来ないなんて・・・」

 

目の前の夕日はとても綺麗であった。

 

「綺麗」

 

(君の方が綺麗だよ)

 

以前タスクが島でアンジュに言った事を思い出す。

 

「なんで私なんかのために・・・」

 

(俺はアンジュの騎士だから)

 

再びタスクの言葉が蘇る。

 

「貴方は・・・それでいいの?使命のために全てを捨てて、それで臨んだのはどんな世界・・・」

 

(穏やかな日々が来ればいい。ただそう思っているだけさ)

 

どんどんタスクの言葉が蘇る。

 

「大丈夫。必ず君の元に帰る」

 

タスクとした最後の会話を思い出した。

 

「タスク。私は貴方が好きよ」

 

この時アンジュは自分の気持ちに素直になれた。

 

「・・・こんな事なら・・・最後までさせれば良かった・・・」

 

泣きながら後悔をしていた。その時だった。

 

「・・・本当に?」

 

背後から声が聞こえた。その声はアンジュが一番聞きたい声でもあった。

 

「・・・うそ・・・」

 

「言ったろ?必ず君の元に帰るって」

 

その存在は後ろからアンジュを優しく抱きしめた。アンジュは振り返った。その存在を確かめる為に・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・タスク?」

 

そこにはタスクがいた。

 

「あぁ。アンジュの騎士。タスクだ」

 

【パチン!】

 

「イッテェェェ!!」

 

アンジュはタスクにビンタをした。

 

「うそよ・・・タスクは死んだのよ!」

 

【パチン!】

 

もう一度ビンタした。

 

「これはエンブリヲの見せてる幻よ!」

 

「違う!俺は生きてるよ!」

 

「だって!爆発の傷も!銃で撃たれた傷もないじゃない!」

 

「違う違う!生きてる!俺は生きてる!」

 

「信じない!タスクは死んだのよ!!」

 

「ええっ!?」

 

ここまではっきり自分が死んだと言われれば流石に動揺するだろう。

 

「信じない!信じない!」

 

「・・・ごめん」

 

タスクは謝罪した。謝らずにはいられなかったのだ。

 

アンジュはタスクの首元を掴んだ。次の瞬間には砂浜に叩きつけた。そしてタスクの服を脱がし始めた。

 

「なっ!?何を!?」

 

「じっとしてて。確かめるから・・・」

 

そう言うとアンジュも服を脱ぎ始めた。現在アンジュの服はワイシャツ一枚だけであった。

 

「確かめるって・・・んっ!?」

 

次の瞬間アンジュはタスクとキスをした。

 

「黙ってて。お願い」

 

・・・アンジュは深くキスを続けた。静かに涙を流しながら・・・

 

 

 

 

 

夜となった。アンジュとタスクはあの時と同じ様に星空を見ていた。

 

「綺麗ね・・・」

 

「君の方が綺麗だよ。あの時よりも」

 

かつて島でした会話を二人は思い出していた。

 

「・・・ねぇタスク。実は私。死のうとしてたの」

 

「えっ?」

 

タスクは驚いた。アンジュはタスクに話した。自分が死のうとしていた事を。

 

「人は・・・一人では生きていけないのね」

 

「日記。見たんだ」

 

「何も出来ないのね。一人って・・・罵り合う事も・・・抱き合う事も・・・」

 

「・・・ねぇタスク。本当に生き返らせてもらったりしてないわよね?」

 

「ああ。俺は生きて帰ってきたよ」

 

タスクはアンジュの手を握った。タスクがいる。

その事はアンジュを安心させた。

 

「ねぇ。満足した・・・?」

 

「あぁ。もう思い残す事もないよ」

 

先程までアンジュとしていた事

 

「だめよ。これからなのに・・・」

 

 

やがて太陽が昇り始めた。

 

「不思議ね。何もかも輝いている・・・」

 

山の陰から姿を現した太陽は何処か新鮮であった。

 

「私ね。あの変態ストーカー男に言われたの。世界を壊して創り直そうって」

 

「でも私。この世界が好き。どんなに不完全でも。どんなに愚かでも。この世界が・・・」

 

「俺も同じだ」

 

「私の、騎士だから?」

 

「君が好きだからだ」

 

「・・・守らなくちゃね。この世界。生きなくちゃ。モモカとメビウスが残してくれたこの命で」

 

するとタスクの顔が気まずくなった。まるで何かを伝え忘れたみたいな顔であった。

 

「タスク?どうしたの?」

 

 

 

 

 

 

「おいおい。勝手に人を殺すんじゃねぇよ」

 

後ろから声がした。アンジュは驚いて振り返るとそこにはある人物がいた。

 

「メビウス!?貴方・・・どうしてここに・・・」

 

メビウスだ。メビウスがいたのだ。

 

「そんな事より早く来い。モモカさんが飯作って

待ってるぜ」

 

驚くアンジュを他所にメビウスは話を続けた。

アンジュはその会話の中の内容に驚いていた。

 

「え?・・・モモカが・・・モモカ!」

 

アンジュはその場から走り出した。小屋へと戻るとそこにはモモカさんがいた。

 

「お待ちしておりました。本日の朝食は、川魚の燻製。きのみとキノコのポタージュ。猪のジビエに山葡萄のソースをのせてみました」

 

「オススメはこちらのポタージュです。12時間ほど煮込みました」

 

そこには普段となんら変わりのないモモカさんがいた。

 

「12時間・・・」

 

タスクが顔を赤らめた。自分達がいかに長くお楽しみをしていたのかがよく理解できた。

 

そんななかアンジュは呆然としていた。

 

「なんで・・・モモカが・・・それにメビウスも・・・てかタスク。貴方どうやってここに・・・てか、どうやってあの状況から生き延びたの!?」

 

アンジュは冷静になった途端混乱し始めた。

 

考えてみればここは海に浮かぶ孤島である。何故ここに三人がいるのか。まさか海でも泳いできたのか。それらの質問に順番に答え出す、

 

「このフライパンのおかげです!」

 

モモカさんは胸からフライパンを取り出した。そこにはエンブリヲが撃った弾丸がめり込んでいた。

 

「俺はあの後、モモカさんを探した。少し離れた所にモモカさんはいたよ。上昇しようとした時、不意に上から瓦礫が降ってきた。それの一つにもろ命中しちまってよ。そこで暫く意識を失ってた。

目が覚めた時にはタスクに助けられてた」

 

どうやらメビウスはタスクの起こした自爆の際の

瓦礫に命中したらしい。

 

「俺はあの時、爆発の直前に忍術を使って脱出してたのさ。そしてメビウス達を見つけて暫く待機してた。メビウスが目を覚ましたら俺とモモカさんはメビウスに乗ってここまで飛んできたのさ」

 

さらっと驚きの発言をした。彼は忍者だったのか。

 

「・・・・・・・・・」

 

アンジュは呆然とその話を聞いていたがやがて笑い出した。

 

「ははっ!なにそれ!凄い御都合主義ね!!」

 

そう言うとアンジュは二人を抱きしめた。

 

「よかった。二人とも生きてて・・・」

 

するとモモカさんが思い出した風に慌てて言い始めた。

 

「はっ!大変です姫様。私、マナが使えなくなったんです!」

 

「何ですって!?」

 

すると突然空色が悪くなった。先程までの快晴が嘘の様に思えた。

 

「あれは・・・」

 

遠目で見えた空の向こうでは落雷まで見えていた。

 

「ついに始めたのね。エンブリヲは。世界の破壊と再生を・・・」

 

アンジュの呟いた言葉に三人は息を飲む。

 

アンジュとタスクはライダースーツに着替えた。

アンジュはタスクの母バネッサの着ていたライダースーツを。タスクは古の民が戦いの際に来ていた服へ。

 

「このライダースーツ。ちょっときついわね」

 

アンジュがお腹周りを触りながら言った。

 

「三人とも乗れ」

 

メビウスが翼と尻尾を生やす。

 

「悪いけどメビウス。その必要はないわ」

 

アンジュは自分の指輪を空高くあげた。

 

「おいで。ヴィルキス!」

 

指輪が光り出した。するとヴィルキスがこの場に転送されてきた。

 

「タスクとモモカは後ろに乗りなさい。メビウスは飛んで来て」

 

「わかった。まずアクセリオンと合流するぞ。

大体の場所は掴んである」

 

そう言いヴィルキスとメビウスは飛び立った。

そしてその頃アウローラではある事が起きていた。

 

「アウローラ。聞こえますか?こちらエルシャ」

 

エルシャから通信が送られてきたのだ。モニターにはレイジアが映し出されていた。機体の先端には

白ブラがつけられていた。

 

「これより、そちらに投降します」

 

投降。その言葉に皆が驚く。ラグナメイルのレイジアに乗ってエルシャが投降。

 

いや、帰ってきたのだ。

 





今回は多少短めでしたね。以前63話がああなったのは実はこの回でアンジュとタスクの乳繰り合いを描こうと思ったからです。

今にして思えばあの時チャレンジしなければこの回があのような表現まみれだったのかと思うと少し怖いな。

アニメ本編では白ブラの件は笑いました。



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第70話 ラスト・リベルタス 開始!!



前回のあらすじ!

アンジュは無人島で一人孤独にいた。

だがそんなアンジュの所にタスクが帰ってきたのだ!

アンジュはタスクと一夜を過ごした。そして更にモモカさんやメビウスも無事であった。

そんな中遂に時空融合が始まった。あまり時間は残されていない。アンジュは指輪でヴィルキスを呼び出した。

そして四人はアウローラ、アクセリオン目指して飛び立った。

そしてその頃、アウローラの元にエルシャが帰ってきた!



 

 

現在アウローラではネロ艦長達が集合していた。遂に時空融合が始まった。その事態に皆が話し合っていた。

 

「遂に始まったのか。時空融合が」

 

「巨大なエネルギー反応を感知した。場所はミスルギ皇国。暁ノ御柱だ」

 

「おそらくマナが使えなくなったのは、アウラのエネルギーを全てそれに注ぎ込んでいるからだろう」

 

「大巫女様から連絡がありました。既に私達の地球にも異変が起きています。おそらく時空融合の影響でしょう」

 

「二つの地球が混ざれば。全ては死に絶えるでしょう。その前になんとしても止めないと・・・

司令官殿」

 

サラマンディーネはヒルダを見た。

 

「お前!まだアンジュ達を待つのか!?」

 

「そんな訳ねぇだろ?地球が無くなったらぶっ壊す世界までなくなっちまう。ドラ姫様。行くよ」

 

「アウローラ!並びにアクセリオンに告ぐ!目標地点はミスルギ皇国。暁ノ御柱だ!」

 

ヒルダが高らかに宣言した。するとそこに通信が

入ってきた。

 

「アウローラ!アクセリオン!どっちでもいいから応答しなさい!」

 

「おい!あの声!」

 

皆が驚く。その声の主を知っているからだ。

 

「アンジュだ!」

 

アウローラは浮上した。皆が格納庫へと走る。格納庫の天井が開くとヴィルキスが降りてくる。

メビウスもその隣に着地する。

 

「アンジュ!それに・・・メビウス!?」

 

皆がメビウスを見て驚いた。背中の翼と尻尾の事だろう。

 

「メビウス!お前それなんだ!?」

 

アクロが驚きながら尋ねた。

 

「翼と尻尾だ」

 

それにメビウスは当たり前の様に答える。何故そんな物があるのか聞きたいのだろうアクロ達の考えを理解はしていないらしい。

 

「メビウス。貴方・・・」

 

サラマンディーネが驚きながら尋ねる。

 

「これか?貰ったんだよ。アウラから」

 

「アウラが貴方に!?」

 

サラマンディーネ達は驚きながら聞いてきた。

 

「あぁ。精神世界でな。そこで色々と教えてくれたよ」

 

メビウスは話した。フェニックスの事。そのエンジン。他にも色々な事を。

 

「アウラが・・・」

 

サラマンディーネ達は驚いていた。

 

「詳しい事は後で話す。それより今、ちょっとまずい事になってるんだろ?」

 

ヒルダ達は時空融合の事を四人に話した。

 

「予想はしてたけど、まずいわね・・・」

 

アンジュ達は気分が落ちた。するとヴィヴィアンが元気よく言った。

 

「でもまずい事だけじゃないよ!エルシャが帰って来たんだよ!」

 

「本当か!」

 

その言葉にメビウスの顔色が明るくなる。エルシャは現在反省房にいるらしい。

 

サラマンディーネがアンジュに歩み寄る。

 

「アウラの民とノーマ達。そしてZEUXISの方々は我々と同盟を結ばれました。アンジュ。貴女はどうなのですか?」

 

「まぁ、参加してあげてもいいわよ」

 

参加したいを素直に言えない。アンジュは相変わらず上から態度であった。

 

そこがアンジュらしいところでもあった。

 

「共に戦う時が来たのですね。それぞれの世界の為に」

 

「違うわサラ子。私はあの変態男に世界を好き勝手されるのが我慢できないだけ」

 

そう言い二人は握手をした。

 

するとアンジュはリィザに気がついた。

 

「リィザ・・・」

 

リィザは目線を逸らした。以前した仕打ちの事もあり、申し訳なさそうにしている。

 

「モモカから聞いたわ。私の居場所。教えてくれたんですってね。忙しくなるわよ。これからあの男を殺しに行くんだし」

 

「アンジュリーゼ・・・様」

 

その雰囲気にモモカとヴィヴィアンは何処か嬉しそうであった。

 

「あの!私もリベルタスに参加させてください!」

 

エマさんが一歩前に出て言った。その姿は以前の

エマ監察官の姿であった。

 

「お酒。やめられたのですね」

 

「ええ。飲んでる場合じゃないわ」

 

「いいんですか?リベルタスに参加するって事は

人間達の敵になるんですよ?」

 

「知ってしまったから。マナのノーマの真実を・・・なら今の私に出来る事をしたいの!」

 

どうやらエマさんも腹を括ったらしい。

 

「そういやヒルダ。ジル司令はどこだ?」

 

メビウスはジルの事を思い出した。

 

「今の司令は私だよ」

 

「えっ!じゃあジル司令は?」

 

「来な。案内してやる」

 

ヒルダ達に続いてメビウスとアンジュは付いていく。

 

そして、ある部屋でメビウスとアンジュはジルと会った。

 

「まさか戻って来るとはな・・・」

 

そう言いジルはタバコをふかしていた。

 

「みんなの協力があったからよ」

 

「それで何しに来た?私を笑いに来たのか?

それとも殴りつけに来たのか?」

 

「ネロ艦長達はあんたの仕打ちを既に許してる。

それなら俺だって文句は言わねぇよ」

 

メビウスはジルのした事を許してはいないがそれを表面に表す事はしなかった。

 

「貴女には聞きたい事があってきたの」

 

アンジュが一歩前に出た。

 

「エンブリヲの殺し方を教えて」

 

その言葉にジルの顔色が変わる。

 

「何?」

 

「あいつは死ぬ度に、不確定世界の多重存在と

入れ替わる。タスクから聞いたわ」

 

アウローラに帰る前。ヴィルキスを操作中にタスクから聞いたのだ。

 

「貴女言ってたわよね。ヴィルキスじゃなければ、エンブリヲは殺せないって」

 

やがてジルは語り出した。

 

「・・・その不確定世界の何処かに奴の本体があるのさ。私じゃ辿り着けなかった」

 

「・・・が、歌を知り、ヴィルキスを解放させた、

お前なら・・・」

 

ジルは煙を吐き出しながら言った。

 

 

「そう。わかったわ」

 

「で。貴女はどうするの?ここで引きこもってる気?」

 

アンジュがジルを睨みつける。

 

「・・・司令官はヒルダに譲った。

 

「!腑抜けた事言ってるんじゃないわよ!」

 

アンジュがジルに摑みかかる。

 

「貴女の復讐に巻き込まれて!どれ程の人間が

人生狂わされたと思ってるのよ!」

 

「私に何が出来る?革命にも復讐にも失敗したこの私に」

 

【パチン!】

 

アンジュがジルに平手打ちをかました。

 

「私を逃してくれたのは、サリアよ」

 

アンジュの言葉にジルが驚いた。

 

「憐れだったわ。貴女を忘れようと、必死にエンブリヲに入れ込んじゃって・・・」

 

「責任がないとは言わせないわよ。アレクトラ・マリア・フォン・レーヴェンヘルツ」

 

そう言いアンジュとメビウスは部屋を出た。

 

ジルは平手を受けた頬を触っていた。

 

(私がアレクトラの仇を討つ!)

 

かつてサリアの言った言葉が蘇る。

 

(まだ戻れる所にいる。その事を忘れるな)

 

今度はネロ艦長の言葉が蘇った。

 

「・・・」

 

ジルは何かを考えていた。

 

 

 

 

二人が外に出る。外にはヒルダが待っていた。

 

「俺、エルシャの様子を見てくるよ」

 

そう言うとメビウスは反省房へと歩き出した。

 

アンジュとヒルダも通路を歩き出した。

 

「全く。アンタといいジルといいドラ姫様といい。産まれながらの才能ってやつか?」

 

「・・・なぁ。司令官。あんたがやりなよ」

 

「はあっ?」

 

突然ヒルダが言い出した事にアンジュは驚く。

 

「やっぱあたしは、鉄砲持って斬り込む方が向いてるよ。それに人の上に立つのは得意なんだろ。イタ姫様」

 

「別にいいけど・・・一体何を拗ねてるのよ」

 

「別に拗ねてねぇ・・・ってなにすんだ!?」

 

アンジュはヒルダのほっぺをつねった。ヒルダの顔が赤くなる。

 

「言いたい事があるなら言いなさい」

 

するとヒルダはアンジュの抓りを振りほどいて後ろを向いた。

 

「言ったら・・・嫌われる」

 

「え?」

 

「アンジュ・・・あんたはね、あたしの王子様なんだ」

 

「でも、あんたにはお姫様のダチがいて・・・男もいて・・・」

 

「わかってる。変だよな、女同士なんて」

 

ヒルダは顔を赤くしていた。その目からは涙が流れていた。

 

「へへ・・・世界が終わろうって時に何言って・・・」

 

ヒルダの言葉を遮る様に、アンジュはヒルダにキスをした。

 

それにヒルダは驚く。そしてアンジュは言った。

 

「誰が変なんて言った?そういう下らない世界を

壊すんでしょ?二人で」

 

かつて反省房でお互い誓い合ったのだ。この世界を壊すと。

 

「新しい世界には貴女もいてくれなきゃ困るわ」

 

「アンジュ・・・」

 

二人は優しく抱き合った。

 

 

 

メビウスはエルシャの所に来ていた。

 

「エルシャ。本当にエルシャなんだよな」

 

「ええ。そうよ」

 

メビウスとは対照的にエルシャは暗い雰囲気だった。

 

「・・・聞いてメビウス君。私ね、あの子達を守りたかったの。それが私の生きる意味でもあって、

理由でもあったの」

 

「エルシャ・・・」

 

メビウスはテンションを抑えた。

 

「エンブリヲさんは・・・いえ、エンブリヲが言ったの。あの子達が笑って生きていてる幸せな世界を一緒に創ろうって」

 

「私は嬉しかった。だからあの人を信じたの。

子供達の為だと信じて・・・」

 

「でも違ってた。本当はただ利用されてただけ。

あの子達は私を使う為だけの道具だったの」

 

「みんな死んでしまったわ。私のせいで・・・

また・・・」

 

エルシャは涙を流していた。二度も死なせてしまった事への後悔から出る涙なのだろう。

 

「ねぇ。メビウス君。私、あの子達になんて謝れば・・・」

 

「生きろ。そして見つけるんだ」

 

「えっ?」

 

メビウスの言葉にエルシャは驚く。

 

「生きろ。その子達の分まで。そして見つけるんだ。自分に何が出来るのかを。それが生き残った

人間がするべき事だ」

 

「メビウス君・・・」

 

メビウスの目は曇りなく純粋であった。

 

「・・・そうよね。あの子達の為にも、世界を変えなきゃ。もうあの子達みたいな悲しみを他の人に味あって

貰いたくないわね」

 

エルシャの目に光が戻った。

 

「エルシャ。他のみんなどうだった?」

 

「クリスちゃんは説得しようとしたけどダメだったわ」

 

「・・・なぁ。ナオミはどうだった?」

 

「ごめんなさい。あの後ナオミちゃんは見てないの」

 

「そうか」

 

メビウスは残念そうな顔をした。

 

「・・・メビウスくん。貴方はナオミちゃんのことが・・・」

 

「とにかく。エルシャは帰ってきてくれた。仲間として嬉しいぜ」

 

「お帰り、エルシャ」

 

エルシャの言葉を遮る様にメビウスは言った。

 

お帰りと。

 

「・・・ただいま、メビウス君。ただいま、みんな」

 

エルシャは呟いた。その時メビウスの元に通信が

入った。

 

「メビウス。アクセリオンの格納庫に来てくれ」

 

「了解。直ぐに行く。エルシャ。また来るぜ」

 

そう言いメビウスは反省房を後にした。

 

「メビウス君。きっと届くわよ。その想い」

 

エルシャは一言呟いた。メビウスの背中を後押しする様に。

 

 

 

そしてメビウスはアクセリオンに来た。

 

フェニックスの解除コードを打ち込み中だ。

 

「解除コードは打ち込んだぞ」

 

そう言いメビウスはコックピットから降りてきた。メビウス達の目の前にはアルゼナルの技術開発、

並びに装備開発などを担当している【ジン】がいた。

 

「見たまえ。これがフェニックスの新装備だ」

 

「これが・・・HHWSか」

 

メビウスはその装備の説明を受けていた。

 

「正式名称はヘビー・フル・ウェポン・システム。バーグラーセットを元に作られた。機動力もターボカスタムクラスある。何よりこれで初期形態でも

粒子兵器を隙なく撃てるだろう」

 

「他にも色々と装備してるな。実態剣と粒子サーベルの複合兵器とか、色々と」

 

「まぁな。それと嬢ちゃん達のパラメイルって機体にもアサルト・ウェポン・システムを装備させる」

 

「急造したせいでで多少簡易的だが、少なくても機体出力と武器のレパートリーは増えるはずだ。最も、作った数は少ないけどな」

 

「俺達の機動兵器にはメガ・ウェポン・システムを装備させる。少なくてもこれで戦力の底上げはされただろう」

 

「そうだ。メビウス。この後アウローラに戻り、タスク君にあれを渡してくれ」

 

ワイズナーが指差す方を見た。そこには機体が一機あった。だがそれはメビウスの見た事のない機体であった。

 

「これは?」

 

「【アーバトレス】タスクのアーキバスを改造した機体だ」

 

確かに少しだがアーキバスの面影がある。

 

どうやらミスルギ皇国でタスクの機体を回収し、

更に(勝手に)改造作業も行なっていたらしい。

 

「パラメイルというよりは私達の機動兵器に近いわね」

 

アンリの言葉にメビウスはふとある事を考えた。

 

「思ったけどさ、機動兵器って呼び方変えねぇか?なんか軍隊みたいで嫌なんだよな」

 

メビウスが今更な事を口にする。

 

「俺もそれは思っていた。機体コンセプトとして纏まりがある以上、何らかの共通する固有名称があった方が良いとは思う」

 

メビウスの意見にワイズナーも賛同した。

 

「じゃあ名前でもつけるか。そんでなんか意見あるやついるか?」

 

「機体そのものの名前ねぇ」

 

「パラメイル。ラグナメイル。龍神器。それらに似せたいのな」

 

「・・・デルタメイルなんてどうだ?」

 

少しの沈黙ののちに、メビウスが口を開いた。

 

「デルタ(Δ)。ギリシャ語で4を表す文字か」

 

「いいんじゃないか」

 

「あぁ。なんかこう。悪くないな!」

 

「よし!今日から俺達の機体はデルタメイルだ!」

 

「ワイズナー隊!デルタメイル部隊の結成だ!」

 

こうして彼等に新たな部隊名がつけられた。

 

 

 

 

そしてその頃アンジュはタスクと出会っていた。

 

「さっきサラさんから聞いたよ。

アウラもアウローラも、古い言葉で光を表すんだって」

 

タスクはアンジュに話した。

 

「闇に閉ざされた世界に光を・・・か」

 

タスクは呟く。やがてタスクはアンジュの方を向いた。

 

「アンジュ。絶対に生きて帰ろう。必ず俺が守るから」

 

それにアンジュは笑った。

 

「守ってもらってばかりね。ねぇ。私は、何かしてあげれる事はない?」

 

「君が無事ならそれでいい」

 

「そういうのいいから」

 

「じゃあ。お守りの様な物でも貰えたら嬉しいな」

 

「お守り・・・あったからしらそんなの・・・あ」

 

アンジュは何かを思いついたらしい。次の瞬間顔を赤らめた。

 

「・・・ちょっと向こう向いてて」

 

タスクを180度回転させる。

 

アンジュは何かをし始めた。

 

【する】

 

何かを脱いだ様な音がした。

 

【プチン】

 

何かを引っこ抜いた様な音がした。

 

「これくらいしかないけど」

 

そう言いそれをタスクの手に触れさせた。

 

「ん?何これ?温かくて、ちょっと濡れてて多少細々としたものがついて・・・それで」

 

「それ以上言わない!」

 

そう言いアンジュはタスクのポケットにそれを突っ込んだ。

 

「いい!絶対に見ないし出さないし調べない事!

そして必ず返しなさい!じゃないと風邪ひくわ!」

 

そう言いアンジュは駆け足に去っていった。

 

「・・・まさか!これって!?」

 

タスクはあるものを想像した。それを確かめ様とポケットに手を突っ込みそうになった。だがそれは

直前でやめた。

 

「・・・必ず返さないとな」

 

皆予想はついていると思うのでここでの言及は避けよう。アウローラは、アクセリオンから機体の装備などが送らられている。

 

それらを機体に装備させていた。

 

 

 

 

そして遂に事態は動いた。

 

「敵の艦隊を捕捉しました!」

 

アウローラとアクセリオンが敵艦を捕捉した。遂に人間達がやってきた。未だにノーマを滅ぼそうとでも考えているらしい。

 

アウローラのブリッジにはジャスミンがいた。この戦闘でのアウローラの艦長を務めるらしい。更にブリッジにはエルシャの姿もあった。彼女は反省房から出た。今できる事をする為に。

 

アウローラの格納庫ではアンジュが通信を開いた。それはアウローラに、そしてアクセリオンに響いた。

 

「みんな、聞こえる? 総司令官のアンジュよ。私達はこれからミスルギに侵攻、時空融合を停止させるために、暁ノ御柱への強行突入作戦を敢行するわ」

 

「反社会的な化け物と呼ばれたノーマと、互いに戦い合ってたアウラの民。私達と一緒に来てくれる人たちと、古の民。そして破滅の未来を変えようとやってきた未来世界の民」

 

「迫害されてきた私達が、世界を守るために一緒に戦うなんて痛快じゃない?戦いましょう。私達が、私達の意志で生きるために。戦わずに滅ぼされる

私達じゃないでしょ?」

 

「作戦名、ラスト・リベルタス!神様だろうがなんだろうが、殺して、勝って、生きるわよ。・・・

みんなで!」

 

アンジュの通信に皆活気付いた。その通信はジルの元にも届いていた。

 

ネロ艦長もアウローラとアクセリオンに艦内通信を開いた。

 

「諸君。アクセリオン艦長のネロだ。我々は当初、未来世界の破滅を防ぐ為にこの世界にやってきた」

 

「未来世界はマナの光がなく荒廃していた。だから我々は過去へ飛びマナの光喪失の原因を突き止めようとした。そして最終的には、マナの光を維持させる事を考えていた」

 

「だが!たとえ一つの命だろうとその尊厳を踏み躙る行為を。そしてそれを受け入れる世界など!断じて認めん!」

 

「我々の未来は必ず変えてみせる!だから諸君らは諸君らの未来のことを!生きる為の戦いをしてほしい!」

 

「前置きはこれくらいしよう。諸君らに一つだけ忘れないでほしいことがある」

 

「必ず生きて帰る事!!皆が無事に帰ってきた時、初めてこの作戦は成功したことになる!!その事を忘れるな!!!」

 

「これが、私から諸君らに送れるせめてもの言葉だ」

 

その言葉に皆が更に活気付いた。

 

そしてネロ艦長は艦隊に通信を送る。

 

「こちらに接近中の艦隊に告げる。我々はZEUXISだ。我々の目的はアウラの奪還である。諸君らと交戦の意思はない。道を開けてもらいたい。返答を願う」

 

ネロ艦長が敵艦隊に通信を送る。アウラを奪還する事が目的であり、人間達と撃ち合う事ではない。

 

その返答に、人間達の艦隊はミサイルを発射した。

 

「ミサイル!魚雷!きます!」

 

「やはりこうなったか・・・偽装解除!マキシマ砲発射用意!」

 

「了解!偽装解除!マキシマ砲!発射スタンバイ!」

 

アクセリオンの前面から砲身が現れた。弾幕を張りミサイルを落としつつ、エネルギーチャージをしていた。

 

そしてアウローラでは深海魚雷の迎撃が行われていた。

 

「冷却魚雷発射!」

 

ジャスミンの指示のもと、アウローラからも魚雷が発射された。

 

魚雷同士がぶつかり合う。冷却魚雷はアウローラの壁となり人間の放つ魚雷はその壁に阻まれた。

 

アウローラは浮上した。

 

「私からのおごりだ!全弾発射しな!」

 

「了解!ミサイル発射します」

 

エルシャがミサイルを放つ。それらは人間達の艦隊目掛けて放たれた。だが人間達の艦隊はなおも攻撃をしてくる。

 

その頃アクセリオンでは準備が整ったらしい。

 

「マキシマエンジンとの接続完了!」

 

「エネルギー充填率、120%!」

 

「射線上に友軍機の反応なし!」

 

オペレーター達の声に続きネロ艦長は叫んだ。

 

「マキシマ砲!撃てぇ!」

 

アクセリオン前面から粒子砲が放たれた。それらは人間達の艦隊めがけて突っ込んでいった。人間達の艦隊にアイ・フィールドなどはない。火力で直撃を浴びれば無事では済まないのだ。

 

マキシマ砲により艦隊の数は激減した。

 

ネオマキシマ砲とは違い完全なる殲滅はされていない。だが少なくてもパラメイル達を出す事は可能となった。

 

「パラメイル隊!全機発進!龍神器達も私達に続いて!」

 

「各デルタメイル機!発進せよ!」

 

アウローラとアクセリオンから機体が発進した。

 

そしてその光景はエンブリヲには見えていた。

 

「ほう。アンジュ。それに・・・.メビウス」

 

エンブリヲは笑った。アンジュと再び出会えた嬉しさの笑みと、やはりメビウスが生きていたという

怒りの笑みを。

 

「我々も出撃だ」

 

「イエス!マスター!」

 

エンブリヲはエルシャがラグナメイルを持って脱走した事を何とも思っていない様だ。

 

精々手駒が一つ減った程度にしか考えていない。

 

エンブリヲはある人物の方を見た。

 

「ナオミ。わかっているね」

 

エンブリヲがナオミに問いかける。

 

「はい。エンブリヲ様・・・」

 

ナオミの瞳孔は赤く染まっており、髪もトリプルテールが解かれていた。

 

 

 

「私のこの手で・・・メビウスを殺します」

 






遂に始まりましたラストリベルタス!

果たして皆を待ち受ける運命はいかに!?

新装備などをかなり手に入れましたね。今度紹介でもしようかな?


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第71話 歪む世界



前回のあらすじ!

ついにヒルダ達と合流したメビウス達。時空融合を止める為に皆はミスルギ皇国を目指していた。

そんななか、アンジュは腑抜けたジルに喝を入れた。

メビウスはエルシャに道を示した。

そしてタスクはアンジュからお守りをもらった。

皆それぞれが嵐の前の静けさを楽しんでいた。

そして遂に事態が動いた。人間達の艦隊が現れた。

アンジュとネロ艦長は皆に言った。必ず生きて帰ってこいと。

そして遂に生き残る為の戦い。ラスト・リベルタスが開始された!

それでは本編の始まりです!




 

 

エンデランド連合。その空は時空融合の影響で空も黒く曇っていた。

 

そしてここでも例外なくここでもマナは使えなくなっていた。

 

「マナが・・・使えない・・・」

 

二代目ヒルダ事ヒルデガルト・シュリフォークトもマナは使えない事に唖然としていた。手に持っていたリンゴを床に落とす。

 

マナが使えないのは母インゲも同じであった。

 

「ママ。私、あの化け物と同じになっちゃった・・・」

 

「!そんな事はないわ!ヒルダはヒルダよ!あんな化け物とは違うわ!」

 

落ち込むヒルデを母インゲは抱きしめ励ます。

 

11年前の時の事を思い出す。

 

「やっと忘れられたのに・・・今度こそ絶対に手放さない・・・」

 

インゲがボソッと呟いた。

 

その時外が騒がしい事に気がついた。

 

「ねぇ。あれ・・・なに?」

 

「おい!なんだあれは!?」

 

外では何かが起きているらしい。

 

「ヒルダ。ちょっと外を見てくるわ。ヒルダは家で待ってなさい」

 

「うん。ママ」

 

そう言いインゲは外へと出た。

 

次の瞬間。曇り空が眩しいくらいに光った。

 

一体何が起きたのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあぁぁぁぁ!」

 

現在メビウス達はミスルギ皇国付近の海上に来ていた。アウローラの進路確保の為、戦闘中だ。

 

フェニックス。HHWSの新装備の一つ。【デスカリバー】その巨大な剣は望めば粒子を纏う。その剣が大型艦を次々と斬り落としていった。

 

一方、パラメイル隊はASW。アサルト・ウェポン・システムを、使い敵を蹴散らしていた。

 

「これが新装備。悪くねぇじゃねぇか!」

 

ゾーラはご機嫌な様子であった。機体のアーマー部分からはマイクロミサイルなどが放たれる。それらは密集しているピレスロイドに命中し爆発していった。

 

そしてZEUXSI達もMWS。メガ・ウェポン・システムを使っいた。

 

「リフレクター展開!」

 

ガローラはリフレクターを展開した。

 

「よし!各機!リフレクターを狙え!反射で敵の死角をつく!」

 

皆が【メガランチャー】でリフレクターに攻撃をする。粒子兵器のそれらはリフレクターに当たると広く乱反射を起こした。

 

それらは増援に来た艦隊を蹴散らすのに十分であった。

 

ヴィルキスも戦っていた。

 

アンジュの指輪が光り、ヴィルキスが紅く輝く。フライトモードに変更し人間達の艦隊目掛けて突っ込んだ。

 

艦の土手っ腹には大穴が空き、次の瞬間には爆発した。更に粒子サーベルが長く伸び、艦を切り裂いた。

 

「周囲に敵艦隊なし!」

 

エマさんが現状を報告する。

 

「よし!アウローラ、上昇!」

 

するとアウローラが上昇した。次の瞬間にはアウローラは空中に浮かんでいた。

 

「アウローラって飛べたのか!」

 

その事に皆が驚き口にする。

 

「量子フィールド!展開!」

 

するとアウローラの周りにフィールドが貼られた。アイ・フィールドに似ていた。

 

「暁ノ御柱。まもなく射程圏内に入ります!」

 

「冷静破壊砲、発射用意!アクセリオンにもマキシマ砲の発射の準備を!」

 

その時メビウスは何かを感じ取った。身体に悪寒が走る。

 

本能だ。本能で危険を感じ取った。

 

「全機上昇しろ!何かヤベェのがくる!」

 

「メビウス!一体何が来るのよ!?」

 

次の瞬間だった。

 

「!暁ノ御柱前方から高エネルギー反応!」

 

「なんだって!?」

 

モニターに映し出されたもの。

 

「!あれは!?」

 

それは胸部が開いたザ・ワン・ネクストであった。既に砲身からは赤い粒子が見られる。

 

「!全機急上昇!!」

 

次の瞬間、ザ・ワン・ネクストからはネオマキシマ砲が放たれた。事前にメビウスが察したため味方に被害は及ばなかった。

 

その砲撃は海を割いた。

 

「ふぅ。なんとか避けれたね。主砲のエネルギーチャージは!?」

 

「98%です!」

 

「アクセリオンから入電!マキシマ砲。発射可能であると!」

 

「よし!N式冷静破壊砲、発射!」

 

「了解。N式冷静破壊砲、撃ちます!」

 

次の瞬間、アウローラからは光が放たれた。それはマキシマ砲と混ざり合い、次の瞬間にはネクスト共々暁ノ御柱へ直撃した。

 

煙が引いたころ。そこにはネクストは無事だった。アイ・フィールドのおかげだろう。だがその背後の暁ノ御柱は粉々に砕かれていた。

 

暁ノ御柱跡地に地下へと続く空洞が見えた。

 

「あれです!あれがアウラへ続くメインシャフトです!」

 

リィザが立ち上がり言う。あれに入ればアウラの元にたどり着ける。

 

「全機!我に続け!」

 

アンジュ達がシャフトへの道をとる。

 

そこに通信が入ってきた。

 

「暁ノ御柱跡地に敵の増援を確認!」

 

モニターに映し出されたもの。それは5機のラグナメイルであった。ジャスミンは憎々しげにそのリーダーの名を呟いた。

 

「エンブリヲ・・・」

 

「邪魔はさせない。沈みたまえ。古き世界と共に」

 

エンブリヲは歌い出した。永遠語りを。

 

ヒステリカの両肩が開かれた。そして【ディスコードフェザー】が放たれた。

 

ヴィルキスが割り込む。ヴィルキスの両肩も開かれ、ディスコードフェザーを撃ち込む。

 

両者の攻撃は空中でぶつかり合った。爆発が起きる。

 

するとそこにピレスロイドの大群が出現した。更にグレイブとハウザーの大群も現れた。全部無人機である。

 

それらはアウローラとアクセリオン目掛けて飛んで行った。

 

母艦は弾幕を張る事でそれらを落としていく。

 

「編成を送る!アンジュ、メビウス、ヒルダ、ロザリー、サラマンディーネ、ナーガ、カナメ!君達はラグナメイルと交戦!」

 

「残りのメンバーはアウローラとアクセリオンの援護を!」

 

「了解!」

 

ネロ艦長の指示の元、部隊は二つに別れた。

 

「各機迎撃!」

 

サリアの指示のもと、ラグナメイルは散会する。

 

街ではロザリー達とクリスの戦闘が繰り広げられていた。

 

「クリス!テメェだけは!」

 

「ちぃ!」

 

ロザリーはクリスのテオドーラに掴みかかった。

ヒルダもそれを援護する。

 

新装備のおかげか、以前は手も足も出なかったテオドーラ相手に2機掛りなら何とか互角にやりあえる様になっていた。

 

 

 

ミスルギ上空ではメビウス達がいた。

 

「エンブリヲ!!」

 

フェニックスを第ニ形態に変形させる。その鉤爪から粒子砲をヒステリカめがけて放とうとした。

 

次の瞬間、フェニックス達に何かがやってきた。

 

それらはファングだった。しかも有線ではなく無線式である。

 

「ファング!?しかも無線タイプ!?」

 

みるとそこにはザ・ワン・ネクストが、ナオミがいた。

 

「ナオミ!なんでお前が戦うんだ!?」

 

「私の戦う理由。・・・それはメビウスを殺す事」

 

「なっ!?ナオミ・・・何言って・・・」

 

「驚いたかいメビウス」

 

驚くメビウスの前にヒステリカがやってきた。

 

「エンブリヲ!テメェナオミになにしやがった!」

 

「なに。彼女を解放して、尚且つ与えたのさ。力を」

 

力。無線式ファング。メビウスの中で一つの答えが出た。

 

「まさか!お前俺から抜いたガスを!」

 

「あぁ。彼女に与えたよ。すると見事に適応した。これも彼女が持つ君への好意ゆえかな?おかげで

今は有線ではなく無線のファングも使えこなせてる」

 

「貴様!!何処まで人をバカににしやがる!」

 

「何故、人が自分の想いを他人に伝えられないかわかるかい?それはね。恐るからさ。その想いを拒絶される事に。だから人はその想いを心にしまいこむ。なんと健気な事だとは思わないかい?」

 

「きっさまぁぁぁ!!!」

 

激昂するメビウスにアンジュから通信が入る、

 

「落ち着きなさいメビウス!あいつの挑発に乗っちゃダメよ!」

 

「わかってる!わかってるけど!」

 

メビウスにとっては悲しい現実。エンブリヲの本性を知ったナオミは戦わないと信じていた。

 

だがナオミはこの様にされてまで戦わされている。

 

「メビウス!貴方は一体どうしたいの!?」

 

アンジュの一言にメビウスの目が変わる。

 

(俺は一体どうしたい?なにを悩む。そんなもの既に決まっている!)

 

やがてメビウスはある決断をした。いや、本来答えなど最初から出ていたのだ。

 

「ナオミ。待ってろ!絶対に助ける!絶対に助け出す!!」

 

助ける。最後の最後まで、手を差し伸べる事を諦めない。それがたとえどんなに困難な道でも、

メビウスはその道をとることにした。

 

「・・・」

 

ナオミは黙っていた。

 

「ナオミ。相手をしてやれ」

 

「・・・はい。エンブリヲ様」

 

そう言うとネクストはフェニックスにサーベルで斬りかかった。ココとミランダもナオミの手助けに加わろうとする。

 

「ココ。ミランダ。私一人で充分」

 

ナオミは二人の援護を拒否した。そうすると二人は他の機体の迎撃に向かった。

 

メビウスとナオミはその場から離れた。その場にはアンジュとタスクとエンブリヲが残された。

 

「メビウスの始末はナオミがつけてくれるだろう。それより・・・」

 

エンブリヲはヴィルキスの方を向いた。

 

「お帰りアンジュ。やはり私達は再開する運命にある様だ」

 

「アンジュ。ここは俺に任せてくれ」

 

タスクのアーバトレスが前に出る。

 

「わかったわ」

 

アンジュはヴィルキスを加速させ、その場を離れる。

 

追いかけようとするエンブリヲの前にタスクが立ち塞がる。エンブリヲは不機嫌な顔をする。

 

「まさか生きていたとは」

 

「アンジュの騎士は不死身なんだよ!」

 

「ならば今ここで殺してやろう」

 

アーバトレスとヒステリカはぶつかり合った。

 

 

 

アンジュはメインシャフトに向かっていた。そこでは先に向かっていたサラマンディーネとナーガとカナメの龍神器がココとミランダのラグナメイル2機の戦闘が繰り広げられていた。

 

「姫様はアウラの元へ!」

 

ナーガとカナメが通信で送る,

 

「わかりました。ここは任せますよ!」

 

そう言いサラマンディーネはシャフトへと入っていった。ビクトリアとエイレーネも後を追いかけようとするがその前に龍神器が立ち塞がる。

 

「サラ子!私も行くわ!」

 

ヴィルキスをシャフトへと加速させる。

 

するとヴィルキスめがけて粒子兵器が飛んできた。緊急回避する。すると攻撃の主が現れた。

 

「待ってたわよ。アンジュ」

 

「サリア」

 

互いの剣がぶつかりあった。

 

「ねぇアンジュ。新しい世界ってどんなとこだと思う?」

 

「はぁっ?」

 

サリアはクレオパトラで距離をとった。ライフルをヴィルキスめがけて放つ。

 

「それはね。貴女のいない世界よ!!」

 

再び接近して剣で斬りつけようとする。

 

その時だった。二人の間にある機体が割って入ってきた。

 

「なっ!?この機体!」

 

「レイジア・・・エルシャなの?」

 

エルシャが持ってきたラグナメイル。コックピットが開かれ、ある人物が顔を出した。

 

そのパイロットはアンジュもサリアも知っている人物だった。

 

「エンブリヲの騎士と聞いて、どれ程腕を上げたか見にきたが、この程度とは、がっかりだよ。

サリア」

 

 

 

 

 

「ジル・・・」

 

そう。レイジアのパイロットはジルであった。

 

話を少し前に遡らせる。

 

アウローラとアクセリオンでは、残ったメンバー達で無人機のグレイブとハウザー。そしてピレスロイドを蹴散らしていた。

 

だが倒しても倒してもそいつらは湧いてくる。根比べという訳だ。

 

だがその内一機がアウローラへと突っ込んだ。

 

量子フィールドも決して万能ではない。そのピレスロイドは量子フィールドを貫通した。その貫通場所が発着デッキだったのだ。

 

更に爆発する箇所には偶然メイがいた。

 

「キャァァァァ!」

 

その時誰かがメイの身体を押した。そのおかげで何とか爆風を避けられた。

 

「怪我はないか?」

 

「ジル!」

 

その人物はジルであった。

 

「すまなかったな。腑抜けた所を見せてしまって」

 

ジルはライダースーツに着替えていた。指にはエルシャから譲り受けた指輪もしている。

 

「ジル・・・」

 

「行ってくる。私達のリベルタスを終わらせる為に」

 

そう言うとジルはレイジアへと乗り込んだ。

 

「ジャスミン。発着デッキを開けてくれ」

 

「ジル・・・行くんだね」

 

ブリッジでジャスミンは機体の発進準備を進めた。

 

「私はまだあんたの事を許してないからな!」

 

マギーがジルに聞こえる様に叫ぶ。

 

「だから帰ったら愚痴に付き合ってもらうからな!」

 

昔の様に戻りたい。マギーなりの不器用な励ましの言葉なのだろう。

 

そうしている間に発進準備が整った。

 

「ジル機。発進どうぞ!」

 

「アレクトラ!レイジア!出る!」

 

アウローラからレイジアが飛び立った。

 

エンジンを温める為にピレスロイドやグレイブに

ハウザーを蹴散らす。

 

「すげぇ。あれがジル司令の腕前なのか・・・」

 

ゾーラはその光景に驚いていた。

 

ヴィヴィアン達やワイズナー達も同じ様なリアクションをしていた。こうしている間に母艦の近くにいた敵機体は掃討された。

 

そしてジルは暁ノ御柱へと向かった。

 

「よし!アクセリオンも暁ノ御柱へと向かう!」

 

「アウローラもそうさせてもらうよ!」

 

「ワイズナー達。君達は先に暁ノ御柱へと向かいたまえ!」

 

「了解!デルタメイル部隊!そしてパラメイル各機!暁ノ御柱へ向かうぞ!」

 

機体をフライトモードへと変更させて、ワイズナー達は暁ノ御柱跡地を目指した。

 

そして上記に至るわけだ。

 

「ジル。貴女に要はないわ。邪魔しないで」

 

「私の方は用があるんだ。悪いが付き合ってもらうぞ」

 

「・・・いいわよ。今の私なら、貴女に負ける事なんてありえないもの」

 

クレオパトラとレイジアの剣がぶつかり合った、

 

 

 

 

その頃メビウスはナオミと戦っていた。

 

ガトリングがフェニックス目掛けて放たれる。今度は武器などではなくコックピットを、パイロットの命を狙っているかの様に戦う。

メビウスは必死にそれらを避けていた。

 

ザ・ワン・ネクストは鉤爪を伸ばした。それらはフェニックスのコックピットへと向かっていた。すんでの所でメビウスはそれを避けるが、機体には命中した。機体が大きく揺れる。

 

「メビウス。貴方を殺す」

 

感情のない声でナオミは告げる。

 

「強くなったじゃねぇか、ナオミ。見違える程によ」

 

「・・・でもお前の本当の強さは。こんな薄っぺらいものじゃねぇ。仲間思いで・・・仲間を守る為の強さのはずだ!」

 

「・・・」

 

「俺はそう思ってる。いや、信じてる!だからよ、帰ってこいよ。ナオミ!!」

 

「さよなら」

 

「!」

 

ザ・ワン・ネクストからファングが展開された。

それらはフェニックス目掛けて飛びかかってきた。

 

「ファング!」

 

フェニックスもファングを展開した。牙同士が互いにぶつかり合う。

 

互角のファング勝負が続いた。やがてそれぞれがファングを収納した。

 

「やるなら今しかねぇ!」

 

メビウスはザ・ワン・ネクストに通信を送る。

 

「聞いてくれナオミ!かつての俺はガーナムの

言う様な最低の人間だった!」

 

突然メビウスは話し出した。

 

「お前に話す!俺の過去を!俺の罪を!」

 






次回から二話を予定としていますがメビウスが過去を明かします。

本編ではまだあまり語られていない孤児グループ時代の事です。

何故今かって?

どっかの世界では相手のコックピットに乗り込んで家庭事情と自分の爪を噛む癖を相手に打ち明ける事をした素晴らしいお方がいるらしいので。

あと主人公と主人公が好きなキャラとの戦いは観てきましたよ。

主にフォウやロザミアやステラですね。


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第72話 悪夢/ナイトメア 前編

今回と次回だけメビウスの過去編になります。

たまにメビウスの知らない出来事も多少描かれていますけどね。まぁ本編的には知って欲しい為書きました。

前回のあらすじ!

アウローラはなんと飛べたのだ!アクセリオンとの協力で遂に暁ノ御柱の破壊に成功した。

後は現れたメインシャフトからアウラを解放するだけ。

そんなメビウス達の前にナオミが、エンブリヲ達が立ち塞がる。

更にナオミは以前メビウスの体内にあった人体強化ガスを注入されていたのだ!

メビウスはナオミを救うべくザ・ワン・ネクストとの戦闘を繰り広げる。

タスクはエンブリヲと。

ロザリー達はクリスと。

ナーガとカナメはココとミランダと。

そしてアンジュはサリアと戦っていた。

そんな中なんとジルが再び立ち上がり、レイジアで駆けつけてきたのだ!

そんな中メビウスはナオミに話し始めた。

己の過去を。己の罪を・・・

それでは本編の始まりです!



夜中だった。とある通路に6人がいた。6人は

目の前の扉のドアノブを捻る。

 

【ガチャガチャ】

 

「・・・だめだ。ロックされてやがる」

 

「どけ。俺が開ける」

 

ある少年が拳を大きく振りかざした。次の瞬間扉の鍵は開かずとも、扉そのものが外れた。

 

「おい!見ろよここ!間違いねぇ!」

 

「食料もある倉庫だ!!」

 

6人は喜んでその中に入り込んだ。皆それぞれが食料を袋に入れ込み、そして食べてもいた。

 

「うんめぇ!」

 

扉を破壊した少年は近くの握り飯を取り出し食べていた。

 

彼等のしている事は窃盗である。くれぐれも真似をしないように。

 

【ファンファンファンファンファンファンファン】

 

突然警報が鳴り響いた。

 

そして部屋内にロボット達がやってきた。ガードロボットという奴だ。

 

「ヤベェ!みんな逃げろ!」

 

1人がそう叫ぶと4人は慌てて反対の出口へと走っていった。

 

その場には未だに警備ロボなど御構い無しに食事をしている少年が二人残された。

 

警備ロボが電撃棒でその少年達を殴りつけようとする。

 

次の瞬間、警備ロボのモニターにヒビが入り、穴が空いた。穴の空いた部分からは少年の拳と腕が伸びていた。

 

「ウルセェなぁ。これ食ったら相手してやるよ」

 

少年は手に持った握り飯を口に頬張った。そして腕をロボットから引き抜いた。

 

「ロイ。そっちはどうだ?」

 

隣の棚から食パンを食べていたロイに問いかける。

 

「問題ねぇぜ。こっちはよ」

 

隣から無事の報告を受けた。

 

「さて。腹も膨れたし、飯も手に入れたし、こいつら蹴散らして、帰るとするか!」

 

次の瞬間乱闘が発生した。

 

少年達は腕っ節で警備ロボと戦い始めた。

 

しばらくして、二人の少年により警備ロボは屑鉄へと成り果てた。

 

「相変わらず見事な腕前だな。」

 

「お前もな。ロイ」

 

「さて、長いは無用だ。俺達も帰るとするか!」

 

二人は盗んだ食料を大量に入れた袋を二つ片手に持つと、来た道を帰ることにした。

 

するとそこに先に逃げた4人がいた。皆何かにぶら下がっていた。

 

更にその場には一人の男がいた。

 

「やっと捕まえたぞ。コソ泥どもが」

 

その男の服装は人類進化連合の服装であった。両腕にはそれぞれ二人ずつ手首を掴んでいた。

 

どうやら鉢合わせになったらしい。床には盗んだ

食料の入った袋が落ちていた。

 

「さて。お前達、覚悟はできているな」

 

「まておっさん」

 

少年が一歩前に出る。食料袋を床に置いた。

 

「俺と勝負しねぇか?俺が勝ったらこの事には目を瞑って貰う。俺が負けたら、警察だろうと軍隊だろうと好きにしな」

 

「ほう」

 

するとその男は四人の手を離した。

 

「面白い。その挑戦を受けてやろう」

 

「よかったぜ。でもその前によ、ロイ。あいつら連れて行って先にアジトに行ってくれ。俺もこのおっさん片付けたらどうにかする」

 

「わかった。必ず帰ってこいよ!」

 

そう言うとロイは袋を床に置き、四人を連れて走っていった。

 

その場には少年と男が残された。

 

「仲間を助ける為に己の命を投げ出す。大した根性じゃないか」

 

「へっ!おっさんよ。あんた間違ってるぜ。俺が命を張った時は俺が勝つ確信を持っているからだ!」

 

そう言うとは先程来た道を走り出した。

 

「ふん。そんな事だと思ったさ。だがそうはいかんぞ!」

 

男もその後を追いかける。

 

少年は扉の破壊された食料庫に再び入っていった。

 

男もその部屋の扉の前に立つ。次の瞬間、その扉の前を全力で走った。

 

「大方そんな所だろう!部屋に入った直後に不意打ちをかまそうとしたんだろ!だがそうはいかんぞ!」

 

少し距離をとった場所で入口の両端を振り返った。

 

そこに少年はいなかった。

 

「なに!?」

 

「あめぇぜ!おっさん!」

 

自分の背後から声がした。振り返ると暗がりの奥から少年が現れた。少年はおっさんの腹部に蹴りを入れた。

 

「がはっ!」

 

予想外の不意打ちに男は直撃を食らった。

 

「どうだ?参ったか?」

 

「・・・その腕前、子供とは思えん。まさかお前がアンノウンのパイロットか?」

 

ここら辺ではビーストがあまり現れない。その理由は謎の機体が倒しているからと言われている。

 

「へっ!さぁな!」.

 

「あんまり遅ぇとあいつらを心配させちまうからな」

 

「そろそろケリをつけさせてもらうぜ!」

 

少年は男にパンチを入れる。

 

【パシ!】

 

「狙いが正確な分。読み易いというものだ」

 

だがそれは受け止められた。次の瞬間には男は少年を投げ飛ばした。食料棚の一つに体が叩きつけられる。

 

棚からは商品がいくつか落ちた。

 

「さて。先程の一撃は見事だったが、他に手はあるのかな?」

 

男はゆっくりと近づいてきた。少年は立ち上がった。

 

「へっ!俺はまだよ、まいったって言ってねぇぜ」

 

闘いは繰り広げられた。両者ともに身体の特徴を際限なくいかしていた。

 

少年は小柄な身体を無駄なく使い手数で相手を押し込んでいる。一方男は強力な一撃を何発かかましてくる。

 

しかし子供対大人ではスタミナの差が現れるものだ。少しずつだが少年には疲れが見え始めた。少年が押され気味となった。

 

背中に何かが触れた。それは医療棚であった。追い詰められたのだ。

 

「追い詰めたぞ。降参するか?」

 

男がジリジリと近づいでくる。

 

「今降参すれば手荒な真似はしないでおこう」

 

男の言葉に少年は笑い出した。

 

「へっ!誘い込まれた事にも気づいてないのかよ!」

 

次の瞬間、少年は棚を手前に引っ張った。

 

「おい!貴様!なにをしている!?」

 

すると棚が倒れ出した。

 

「なんだと!?」

 

男は驚いた。少年は棚を手前に倒すと直ぐに横に逸れた。

 

棚は男目掛けて商品を倒しながら迫ってきた。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

【ドッシーン】

 

男は棚の下敷きとなった。

 

「おっさん!待ってな。今助けてやるよ!」

 

少年は男を棚から助け出した。

 

「・・・なぜ助けた?お前が殺そうとした存在だろ?」

 

「別に殺そうとは思ってねぇよ。それに勝負はついたんだ。俺の勝ちだ。ならもう戦う理由なんてねぇだろ?」

 

「なら助ける。別にアンタに恨みがあるわけでもねぇ」

 

男は黙って少年の言葉を聞いていた。

 

「ちょっと待ってな。手当てしてやるよ」

 

少年は棚から落ちた医療系の包帯などを男の怪我の箇所にあたるなどして、手当をした。

 

「よし。これで怪我の手当ては終わったぜ」

 

雑な手当だが確かに止血にはなっていた。

 

すると入り口辺りが騒がしい事に気がついた。どうやら地元警察がやってきたらしい。

 

「やれやれ。もうひと暴れしないといけねぇか」

 

少年は再び戦う準備に入っていた。

 

「・・・その窓から飛び降りれば警察の目は会潜れるはずだ」

 

「おっさん?」

 

「約束だからな。気が変わらない内に袋を持って

とっとと消えろ」

 

男はそう言った。逃してくれる。そういう事だ。

 

「ありがとな、おっさん」

 

少年は窓へと駆け出した。

 

「・・・待て」

 

男の一言に少年の足が止まる。

 

「なんだよ?」

 

「おっさんではない」

 

男は呟いた。

 

「私の名はネロだ。覚えておくがいい」

 

「・・・へっ!あばよネロのおっさん!」

 

そう言うと少年は窓から飛び降りていった。

 

その場にはネロだけが残された。

 

少しして警察の連中が入ってきた。警察には逃げられたと報告して帰らせた。

 

ネロは一人考えていた。

 

(初めからあの少年の計算通りに動かされていたとは・・・)

 

戦う前から勝敗は付いていた。まんまと踊らされていたのだ。

 

「あの少年が我々に味方すれば心強いものだな」

 

ボソッと呟いた。そんなネロに本部から通信が入った。

 

「こちらネロ・・・なんだと!?ほ・・・本当なのか!?」

 

ネロは通信の内容に耳を疑った。

 

「はい。先程ビーストが出現、貴方の御家族が・・・全滅しました」

 

ネロは通信機を床に落とし地面に倒れこんだ。

 

家族が殺された。ビーストに。突然身内の死を告げられれば動揺するのも無理はない。

 

通信が変わった。相手は人類進化連合の中でトップの人間だ。通信機を持ち上げる。

 

「ネロくん。悲しいのはわかるが今はそれどころではない。ブラック・ドグマは先程のビーストとの戦闘で疲弊しているはずだ。君も直ぐに合流してくれたまえ」

 

「何?・・・どういう事だ?」

 

「ブラック・ドグマを消耗させる為にビーストを

野放しにしておいたのだよ」

 

あっさり言われた一言。この時ネロの中で

何かが崩れた。

 

「さぁ。早く基地に・・・」

 

「・・・死ね。下衆が」

 

通信ごじでそう吐き捨て、ネロは通信機を握りつぶした。

 

人類進化連合の服を脱ぎ捨て、棚から服を選び着込む。

 

(安心しろ。みんな。必ず仇は撃つ。たとえ修羅になろうとも・・・)

 

その目には殺意だけが込められていた。

 

この時、ネロはある組織の設立を決めていた。その組織そこ、後に対ビーストの殲滅組織となる【ZEUXIS】である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃少年は瓦礫で作り上げたアジトへと辿り着いた。

 

既に時刻は朝となっていた。

 

「おお!無事だったか!」

 

ロイが驚いた口調で話しかける。

 

「当たり前だろ?ロイ。ほら、今日の収穫」

 

あの後回収した袋を6つ、皆の前に置く。

 

すると孤児達が集まってきた。今、食料袋の前には50人が集まっていた。

 

「よしよし待ってろ。みんな平等に分けるんだ」

 

ロイの指示のもと、孤児達に食料が行き渡った。

 

少年とロイは近くの丸太棒に座った。互いにインスタントラーメンを湯に浸さずそのままバリバリ食べていた。

 

「うんめぇー!やっぱ一仕事した後の飯はウメェな!」

 

この世界では貴重な味付きであるのだ。

 

二人は他愛のない会話をしていたが、やがてロイが重い口調で話し始めた。

 

「そうだ。さっき町で聞いたけど、どうやら孤児

グループはもう俺達しか残されてないらしいぜ」

 

孤児グループ。みなしご達の集まりだ。それらは生きる為に汚い事などをやるグループだ。少年達もその口である。

 

「また潰されたのか。今度のは一体なんだ?」

 

「ビーストに襲われたらしい。孤児グループはほぼ壊滅。生き残りは全員ブラック・ドグマに拾われたらしい」

 

現在人類進化連合とブラック・ドグマの戦争中である。はるか昔に存在していた悪しき存在ノーマ。

 

敗北した連中はノーマとして生きていくらしい。

 

ノーマがなんなのかは孤児達には分からなかった。精々悪役程度にしか思っていない。

 

だが孤児達にも一つだけわかる事があった。それは大人が下らない事をしているという事だ。

 

「俺達孤児は、奴らにとっては絶好の手駒なんだよ。噂じゃ人間爆弾にされて敵に突っ込まされるとか」

 

「・・・」

 

少年は押し黙っていたがやがて口を開いた。

 

「・・・安心しろ。奴らが来たって俺がアレで追い払ってやるよ。だからお前らが怖がる思いなんてしなくていいんだぜ」

 

少年が指差した先にはとある機体があった。その名はフェニックス。

 

そう。この少年こそ、後のシグ。そしてメビウスであるのだ!

 

「・・・なぁ。俺には夢があるんだ」

 

「なんだよ改まって」

 

少年はロイの改まった顔に驚いた。

 

「俺さ、いつかお前と同じ様にビーストを倒したいんだ。今はまだ無理だけど、いつか必ず倒せる様になる」

 

「そしていつか平和な世界で生きるんだ!」

 

ロイの目は輝いていた。

 

「いい夢じゃねぇか。俺も手を貸すぜ!」

 

少年もそれに賛同した。

 

「よし!そうと決まれば食う!そして生きて生きて夢を叶えてやる!」

 

そういうとロイはインスタントラーメンをもう一袋あけた。

 

「あぁ!俺にも一つくれよ!」

 

少年もその袋からインスタントメンを一つ食べる。

 

その後はお互い夢を語り合った。

 

「俺!いつか自分の名前が欲しい!」

 

「それが夢なのか」

 

「まぁな」

 

二人は声を出して笑いあった。

 

「ねぇロイ!鬼ごっこしようよ!名無しも!」

 

孤児の一人であるミィが元気そうに二人を誘う。

二人は食事中のインスタントラーメンを飲み込んだ。

 

「おう!鬼は俺達二人だ!待ってろ!全員捕まえてやるよ!」

 

「きゃー!逃げろー!」

 

「待て待て!捕まえてノーマにしてやる!」

 

皆がはしゃいでいた。これは食後のいい運動となった。

 

決して楽な生活ではないが、皆、同じ境遇の仲間といられるこの生活を楽しんでいた。

 

(こんな生活・・・悪くねぇな)

 

少年はそう思った。

 

この生活がずっと続くと信じて疑わなかった。

 

・・・自分の無力さに気がつくまでは・・・




まだシグという名前もメビウスという名前もない為少年で通させていただきます。

因みに今回と次回の二つは話的には独立していると考えてください。

(閲覧者にわかりやすく説明したのが今回の話と次回の話です)

ナオミにはもう少し簡単に説明しています。

それでは次回もお楽しみに!


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第73話 悪夢/ナイトメア 後編



予約投稿してみました。

前回と今回はこれまで本編で語られたフラグ回収のために若干御都合主義っぽくなった気がする。

前回のあらすじ!

まだメビウスでもシグでもなかった頃、少年には孤児仲間がいた。

ロイやミィだ。

少年は疑わなかった。この生活が長く続くことを。

己を無力さを知るまでは・・・




 

 

ネロと出会ってから一年程度が経っていた。

 

少年は今日もいつもの様に食料を調達しに街へと行っていた。

 

そしてアジトへと帰って来た。

 

「おーいみんな。見てみろよ!すごいぜ!」

 

少年は皆に今日の戦果を見せようとした。

 

「・・・みんな?」

 

異変に気がついた。雰囲気が妙に静かだった。

いや、静かすぎる

 

「みんな?どうした?」

 

少し奥へと進む。皆はいた。地面に寝っ転がっていた。

 

「なんだ寝てたのか」

 

少年は笑った。

 

「おい。起きろよみんな!すげぇものが・・・」

 

「・・・みんな?なにしてんだ?」

 

少年は新たな異変に気がついた。

 

寝ていた地面の周りには赤い液体が流れていた。

 

少年の中にある想像が浮かぶ。嫌な想像が

 

「・・・ははっ!お前ら、トマトでも潰したのかよ」

(俺は信じない)

 

乾いた笑みが浮かんだ。嫌な予感が燻り出した。

 

「全く。俺を驚かせようとしてもそうはいかねぇよ」

(あれはきっと幻覚だ)

 

足が寝ている一人に向かって歩き出す。

 

近づきたくない。見たら戻れなくなる。だが足は止まらなかった。

 

「見ろよこれ!こんな沢山の食料がありゃ当分は困らねぇぞ!」

(嫌だ嫌だ嫌だ!)

 

少年は袋を寝ている人に見せた。

 

「・・・ふざけるなよ!貴重な食いもん粗末にして!」

(お願いだから返事をしてくれ!)

 

寝ている存在をひっくり返した。顔にビンタの一つでも入れてやろうとして。

 

そして見たのだ。その存在の目は虚ろであった。

そして腹は赤く染まっていた。

 

その子は死んでいた。

 

「頼む!返事をしてくれ!!」

 

「・・・・・・・・」

 

その子だけではなかった。寝ている孤児達は皆死んでいた。

 

「なぁ!何があった!生き残ってる奴は返事を

してくれぇ!!」

 

少年の叫びがその場に虚しく響いた。

 

すると奥で物音がした。慌てて音の方へと駆け寄る。

 

そこにはロイがいた。その奥ににはミィが泣きながら震えていた。

 

「ロイ!それにミィ!なぁ教えてくれ!一体何があった!?」

 

ロイはこちらを振り向いた。するとニタァと笑みを浮かべた。

 

そしてミィの方を振り返った。

 

ロイの右手は不自然な形をしていた。まるで熊の爪の様であった。

 

「まさか!!ロイ!やめろ!」

 

少年はロイを羽交い締めした。だがロイは凄い力でそれを振りほどいた。

 

少年の身体は瓦礫の山に突っ込んだ。その力はとてもじゃないが人間離れしていた。

 

確信した。ロイは何者かに操られている。

 

「どうすりゃいい・・・どうすりゃ!」

 

少年は必死に考えていた。

 

【コトン】

 

その時足元に何かが転がってきた。

 

それはちょっとだけ太い木の棒であった。

 

無意識のうちにそれを掴んだ。

 

「やめろロイ!!」

 

次の瞬間には、少年はロイの後頭部をそれで殴りつけた。意識を失わせ様とした。

 

【ガン】

 

「・・・えっ?」

 

次の瞬間、音がした。それはまるで重たい何かで

殴りつけた様な音であった。

 

更に手には冷たい感触が伝わっていた。

 

恐る恐る手に持っている物を見る。

 

 

 

・・・先程まで木の棒であったはずのそれは鉄パイプになっていた。

 

手から鉄パイプが滑り落ちる。それは乾いた音を

たて、地面を転がっていった。

 

目の前のロイは動かなくなっていた。彼は最初から死んでいたのだ。それが何者かによって操られていたのだ。

 

だがそれでも少年の心に深い傷を作るのには十分であった。

 

「・・・ミィ!ミィ!大丈夫か!?」

 

メビウスは前を見た。ミィは相変わらず蹲り震えていた。

 

生きてる。ミィはまだ生きてる。

 

一歩。また一歩とミィに近づく。

 

 

 

次の瞬間、ミィの身体を鋭い何かが貫いた。ミィの身体が血が噴き出た。少年の身体はその血を浴びた。

 

ミィの身体が宙に浮かんだ。少年はその先を見た。

 

目の前にはビーストがいた。その名はノスフェルス。特徴は両手部分にある鋭い爪の様な。その爪の部分にミィの身体はあった。

 

次の瞬間。ノスフェルスはミィの身体を口に放り込んだ。

 

そしてその光景を少年は見ていた。

 

「そんな・・・ミィ・・・

ミィィィィィィィ!!!

 

少年は泣き叫んだ。

 

目の前のノスフェルスは笑い声の様な鳴き声をあげていた。まるで目の前の少年の行動が滑稽で、おかしくて、自分の思惑通りの動きを取った事が可笑しいかの様に笑った。

 

「何が・・・何がおかしいぃぃぃぃ!!!

 

少年はフェニックスに乗り込んだ。装備はサーベルとバスターだけであった。

 

少年は機体に乗り込みノスフェルに殴りかかる。

 

「お前は!お前は!お前はぁ!!!」

 

怒りに任せて戦っていた。サーベルでノスフェルの両腕を斬り落とす。

 

だがノスフェルは死んでなかった。

 

それどころか先程より高らかに笑い声の様な鳴き声を発していた。

 

その鳴き声がメビウスをより刺激する。

 

「黙れぇ!!!」

 

ノスフェルの脳天を突き刺した。それによってやっと笑い声が収まった。だが少年は止まらなかった。必死に胸をサーベルで突き刺していた。

 

完全に復讐に囚われていた。

 

すると背後から何者かに攻撃された。振り返るとそこにはビーストがいた。その見た目は腹に顔が付いている異様な存在である。その名はガルベロス。

 

「お前もビーストか!」

 

バスターをガルベロス目掛けて放つ。それはガルベロスの火球で相殺された。

 

だが次の瞬間には爆風からフェニックスが現れた。

 

手にはサーベルが握られていた。

 

「死ねぇぇ!!」

 

ガルベロスの体はサーベルをすり抜けた。

 

「なっ!幻影!?」

 

それだけではない。先程倒したはずのノスフェルもそこにはいたのだ。

 

実はノスフェルは自己再生ができるのだ。

その器官は喉にある。

 

再びサーベルで斬り付けようとする。だがそれは鉤爪に防がれた。

 

そしてもう一つの鉤爪でフェニックスを切り裂く。

 

機体の装甲は剥がされた。

 

「なめるなぁぁぁ!!」

 

フェニックスのサーベルが喉元に直撃する。

 

その一撃は喉の再生器官諸共貫いた。

 

ノスフェルは断末魔をあげて死んだ。

 

「後はあいつ!」

 

ガルベロスに一気に接近した。火球などが直撃するも決して怯まなかった。

 

バスターを腹部の顔めがけて差し込む。

 

「死ねぇぇ!」

 

ガルベロスは爆発を起こした。今度は幻影ではなく実体に命中したらしい。

 

ガルベロスは爆発した。

 

その場にはフェニックスだけが残された。

 

「・・・やった。やったぜ・・・みんな・・・仇・・・うったぜ・・・」

 

少年は涙を流しながら呟いた。その呟きに反応するものは誰もいなかった。

 

「・・・なんだよ、この気分・・・」

 

復讐で戦い、その復讐を成し遂げた少年に残されたもの。

 

それは虚しさであった。

 

 

 

夜となった。街で盗ってきた食料は全て潰されていた。メビウスはノスフェルの肉を焼いて食べていた。

 

味は全くしなかった。もしかしたら味があったのかもしれないが、今の少年にはそんなもの感じ取る

余裕などなかった。

 

孤児グループの壊滅。生き残ったのは自分だけ。

もう一度探しては見たが、他の生存者はいなかった。

 

「なんなんだよ俺・・・フェニックス持ってるのに・・・誰も・・・助けてやれなかった・・・」

 

「仲間がむざむざ殺されて・・・何のための力だよ・・」

 

己の無力に絶望した。膝に涙が零れ落ちた。

 

「・・・なんで泣いてんだ俺。俺が、殺した様なものなのに・・・」

 

少年は思う。もし自分が街に食料調達などせずにここにいれば皆が助けられたのでは?

 

その気持ちが少年をより苦しめた。

 

「ウッ・・・ウワァァァァァァァ!!!」

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

少年は死体に泣きつき、そして必死に謝り続けた。

 

涙も枯れ果てた頃、疲れたのか少年は眠った。

 

 

 

少年は夢を見ていた。少年の前にはロイとミィがいた。

 

(ロイ!ミィ!)

 

少年は二人に近づこうとする。

 

次の瞬間。二人の体が消えた。

 

「ロイ!?ミィ!?何処だよ・・・何処だよ!?」

 

必死に二人の名前を叫ぶ。返事は返ってこない。

 

「なんで・・・なんでだよ!」

 

少年はその場に泣き崩れた。

 

そんな時、目の前に何かが現れた。

 

それは自分と同じ顔をしていた。

 

「・・・なにこの感じ・・・」

 

次の瞬間、少年の意識は失われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・どうだ?彼の容態は?」

 

ZEUXIS基地内の医務室。あの後、ZEUXISがあの付近を調査しに来たのだ。そこで大量の死体と意識を失っていた少年を保護したのだ。

 

「酷く衰弱しています。それに脳波も弱っています」

 

ジェシカがワイズナーに報告する。

 

「まさかあんな凄惨な現場に生き残りがいたとは・・・」

 

ワイズナーが驚きの声を上げる。

 

すると医務室にネロ艦長が入ってきた。

 

「ネロ艦長。こちらがビースト反応を確認した現場での唯一の生存者です」

 

ネロ艦長はその顔を知っていた。あの日。家族が全員死んだ日に出会った少年であることを覚えていた。

 

すると少年が目を覚ました。

 

「気がついた?よかったぁ」

 

ジェシカが少年に優しく語りかける。

 

「・・・ここは?」

 

「大丈夫。安全な所だ。君は我々が保護してから

丸三日は眠っていた」

 

「なぁ。あの機体。君のか?」

 

ワイズナーがフェニックスについて尋ねる。するとネロ艦長が口を開いた。

 

「すまんが君達は席を外してくれたまえ」

 

ネロ艦長が二人に頼む。

 

「わかりました。では外で待っています」

 

そう言いワイズナーとアンリは医務室を後にした。

 

医務室にはネロ艦長とシグが残された。

 

「久しぶりだな。少年」

 

「・・・」

 

「あの場でなにがあった?」

 

「あの場?あぁ。ビーストが現れた場所か」

 

少年の発した言葉にネロ艦長が若干氷つく。その声はまるで生きている実感が全くなかった。

 

「一年程度前だな。君は私と出会っている。あの時君は仲間を助ける為に私と戦ったな」

 

「・・・俺に仲間なんていない」

 

その言葉にワイズナーは完全に凍りつく。

 

実は少年に異変が起きていた。もっとも、その異変を少年自身は気づいていなかったが。

 

仲間の死に悲しくなくなっていた。

 

実はあの夢を見ていた際、少年の中で人格が二つにわかれていたのだ。

 

そう。今の少年の人格は本編に出てきたシグである。

 

仲間を失い、悲しんでいた人格は、無意識のうちに封印された。

 

そうしなければ、少年の心が壊れてしまうから・・・

 

「・・・少し休んでいたまえ」

 

ネロ艦長はそう言うとその場を後にした。

 

部屋には少年だけが残された。

 

(・・・なんだこの感じ。何か・・・大事なことを忘れた風な・・・)

 

シグは心に空いた穴を気にしていた。

 

その頃ネロ艦長は壁を叩きつけていた。それにワイズナーとジェシカが驚く。

 

ネロ艦長は自分への激しい嫌悪感が込み上げていた。

 

(・・・私は・・・奪ってしまった。彼から仲間と・・・優しさを・・・)

 

一年程前の記憶が蘇る。

 

家族を奪われ、自分は優しさを捨てた。私はその事を憎んだ。そして今、自分の復讐の為に、今度は彼からそれらを奪い去ってしまった。

 

この出来事がネロ艦長を苦しめた。

 

やがてネロ艦長は医務室に戻った。

 

「君。自分の名前だが、わかるか?」

 

「知らん」

 

「そうか・・・とりあえずシグと呼ばせてもらう。よいか?」

 

「構わない」

 

「君のいた孤児グループは・・・壊滅した。シグ。君はこれからどうする?」

 

「・・・」

 

シグは直ぐにはその質問には答えなかった。だがやがて口を開いた。

 

「・・・貴方達はZEUXISですか?」

 

「そうだ」

 

「俺を・・・ここにいさせてくれませんか?」

 

その言葉にネロ艦長が驚く。

 

「ビーフトへの復讐でもするのかね?」

 

ネロ艦長が重い口調で尋ねる。

 

「復讐とは違います・・・ただ、人間同士で戦うくらいなら、あいつらと戦った方が世界の為だと思って・・・」

 

しばらくの間沈黙が続いた。

 

「・・・よろしい。君を歓迎するよ。よろしく頼む。シグ」

 

こうしてシグはZEUXISへと入った。

 

これがメビウスに起きたZEUXISに入る前の出来事であった。






これでメビウスの孤児グループ時代の出来事編は
おしまいです!

次回からは本編に戻ります。

久しぶりにビーストを出した様な気がする。

因みに木の棒から鉄パイプのくだりは、ガルベロスが見せた幻影と考えてください。


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第74話 戦場に架かる謎の虹


今回から本編に戻ります。

前回のあらすじ!

少年の目に映った光景。それはビーストによって仲間達が皆死んでいる姿であった。

唯一生きていたミィも目の前でノスフェルに殺された。

少年は怒りに任せノスフェルとガルベロスに戦闘を挑んだ。

復讐の先に残ったもの。それは虚しさであった。

少年はZEUXISに保護された。だがその時は少年は少年ではなくなっていた。

それでは本編の始まりです!



 

ミスルギ皇国。ヒルダ達とクリスが戦闘を繰り広げていた。

 

「このっ!」

 

ロザリーの二連装砲とAWSのマイクロミサイルを

テオドーラに放つ。

 

それらはシールドで塞がれた。そしてシールドを構えながらビームライフルを放つ。

 

それはヒルダのアーキバスに命中した。だがAWSのビームコーティングの影響で、ダメージは軽減された。

 

「その程度の腕で私を殺しにきたの?笑わせないでよ!」

 

「テメェを殺さなきゃ!マリカも浮かばれねぇんだよ!」

 

「殺される方が悪いんでしょ!弱いから虐げられて利用されて・・・バカを見るんでしょ!」

 

その言葉に二人が動揺する。

 

「だからエンブリヲ君は!私を強くしてくれたの!」

 

そう言いクリスはヒルダとロザリーの機体を蹴散らした。

 

 

 

一方アンジュとジルはサリアと戦闘を繰り広げていた。

 

「アンジュ!ここは私に任せろ!お前は暁ノ御柱に行け!」

 

ジルがアンジュに通信を送る。

 

「わかったわ!気をつけなさい!アレクトラ!」

 

ヴィルキスを暁ノ御柱へと突入させた。

 

「待ちなさい!アンジュ!」

 

「おっと。お前の相手は私だ。いい機会だ。エンブリヲと出会う前に軽く体慣らしでもしておくか」

 

「なっ!?どういう事!」

 

サリアが動揺する。

 

「聞かなかったのか?私はかつて、エンブリヲの

愛人だったんだよ」

 

「なっ!?・・・信じない!貴女の言うことなんて信じないわ!」

 

「私はエンブリヲ様の騎士。ダイヤモンドローズ

騎士団の団長!サリアよ!」

 

そういいクレオパトラでレイジアに斬りかかった。

 

「ふん。ラグナメイルに騎士の紋章。それで強くなったつもりか?」

 

ジルは鼻で笑った。

 

「エンブリヲ様は私に与えてくれた!強さも!愛も!全てね!!」

 

「愛?奴は誰も愛さん。利用する為に餌を与えて

可愛がるだけだ」

 

「そうやって私も全てを失った。目を覚ませ!サリア!」

 

「言ったでしょ!貴女の言う事なんて信じない!」

 

クレオパトラの猛撃がレイジアを襲う。ジルはそれを防ぐので手一杯の様だ。

 

「利用してたのは、貴女の方でしょ!!」

 

サリアが叫んだ。

 

 

 

タスクとエンブリヲは、アーバトレスとヒステリカで激闘を繰り広げていた。

 

「全く無駄な事をする!世界の破壊はもう誰にも止められない!」

 

「止めてみせる!アンジュと約束したからな!」

 

「憐れな男だ!アンジュは!私と共に新世界に行くのだよ!」

 

ヒステリカのビームサーベルを、アーバトレスの

ビームサーベルで受け止める。

 

「決して汚されることのない美しさ!しなやかな野獣の様な気高さ!実に飼い慣らしがいがある」

 

その言葉にタスクは少し動揺する。

 

「お前は知るまい。アンジュの乱れる姿を。彼女の生まれたままの姿を」

 

エンブリヲはミスルギでアンジュにした事を思い出していた。

 

「・・・知ってるよ。アンジュの内腿のほくろの数までな」

 

タスクの返答にエンブリヲの顔色が変わる。

 

「なに?」

 

「お前は何にも知らないんだな。アンジュの事を! 」

 

「アンジュは乱暴で気まぐれだけど、よく笑って、すぐ怒って、思いきり泣く! 最高に可愛い女の子だよ!」

 

これまでのアンジュとの思い出を思い出す。

 

「彼女を飼い馴らすだって? 寂しい男だな、お前は!」

 

タスクがビームサーベルで斬りかかる。だがそれはシールドによって防がれた。

 

「ほう。以前とは違うらしいな・・・ん?」

 

エンブリヲはタスクの言葉に違和感を覚えた。そして直ぐに違和感の正体が突き止められた。

 

内腿。うちもものホクロの数まで知ってる。なぜだ?

 

「貴様!アンジュに何をした!?」

 

エンブリヲが珍しく感情的になった。

 

タスクは言った。

 

「アンジュとしたんだよ! 最後まで! 触れて、

キスして、抱きまくったんだ! 三日三晩!」

 

エンブリヲの顔が絶望に染まる。

 

「貴様!下らんホラ話で我が妻を愚弄するか!」

 

「真実だ! アンジュは俺の全てを受け止めてくれたんだ。 柔らかくて温かい、彼女の一番深いところで!」

 

あの島での出来事を思い返す。

 

「俺はもう、何も怖くない!!」

 

アーバトレスでヒステリカに蹴りを入れる。直撃をもらったヒステリカは大きく揺れた。

 

「ぐっ!なんたる卑猥で破廉恥な真似を!許さん!我妻を陵辱しただと!?」

 

「貴様の存在・・・全ての宇宙から消し去さってやる!!」

 

「やってみろよ!エンブリヲ!」

 

二つの機体がぶつかり合おうとした。

 

互いのビームサーベルが斬り合った。

 

 

 

 

 

一方、アウローラとアクセリオンはミスルギ皇国の上を飛んでいた。

 

ピレスロイドや無人機などを弾幕を展開してはたき落としていく。

 

「倒しても倒しても湧いてくるなぁ」

 

ヴィヴィアンが愚痴を言う。

 

そんな時だった。アウローラである事態が発生した。

 

「量子フィールド消失!突破されます!」

 

「なんだって!?」

 

実はピレスロイドの数体がアウローラのフィールドを突破していたのだ。それらは皆アウローラのエンジンを破壊した。

 

フィールドがなくなってからはアウローラは集中砲火を浴びていた。

 

「なんとか立て直せないか!?」

 

「ダメです!アウローラ、高度を維持できません!」

 

アウローラが少しずつだが落ちていく。

 

「ジャスミン。アウローラは不時着し緊急修理を!その間はアクセリオンで防ぐ!」

 

ネロ艦長からの通信が入る。

 

「すまないねぇ。総員!衝撃に備えよ!」

 

皆が近くのものに捕まった。次の瞬間、アウローラは地面に不時着した。皆の体が大きく揺れる。

 

レーダーには敵影が映されていた。

 

「10時の方向から敵影多数接近!」

 

「皆!少し時間を稼いでくれ!マキシマ砲で敵を蹴散らす!」

 

ワイズナーがメガランチャーのアタッチメントを切り替えた。

 

「カイ!」

 

「あぁ!わかってる。フルウェポンで蹴散らしてやるよ!」

 

クレセントは銃などを乱射した。

 

それらによってピレスロイドを撃ち落とす。

 

「なぁ、ネロ艦長!支援機体送ってくれねぇか!?」

 

カイがネロ艦長に頼む。こちらは手数が少ない。

逆に考えれば一機増えるだけでも出来ることも増えるのだ。

 

ネロ艦長はアウローラに通信を開いた。

 

「アウローラ!そちらに予備のパイロットはいないか!?」

 

「一人いる!」

 

エルシャの事だ。

 

「手数が欲しい。今からアウローラにこちらの機体を送る。それを迎撃に出してくれたまえ。

マニュアルもコックピット内に同伴されている!」

 

「エルシャ!」

 

「了解。直ぐに向かいます!」

 

そう言いエルシャはブリッジを出た。

 

ライダースーツに着替えて発着デッキに着くと既にその機体は存在していた。

 

「これが送られてきた機体ね」

 

コックピットに乗り込む。性能的にはハウザーと

似ていた。遠距離砲撃型の機体であった。

 

モニターには機体の名【スペリオル】と表示されていた。

 

エルシャは一通りの装備と機体の操縦方法を頭に叩き込んだ。

 

「エルシャ!出ます!」

 

発着デッキから外へとでた。出て直ぐにヴィヴィアン達の援護に入った。

 

「エルシャ!」

 

「ヴィヴィちゃん。大丈夫!?」

 

「なんとか!でも弾薬が・・・」

 

するとパラメイル達の元にデルタメイル達がやってきた。

 

「嬢ちゃん達!一度弾薬補給に戻るんだ!ここは

俺達が引き受ける!」

 

「わかった!ワイズナー、頑張って!」

 

そう言いヴィヴィアン達はアウローラに戻っていった。

 

「スペリオルのパイロット!機体の調子はどうだ」

 

「問題ありません」

 

「安心しろ。照準はオートでつけてくれる。だから周りを見ながら、引き金を引くんだ」

 

「了解!」

 

エルシャはライフルを構えて、ピレスロイドなどを蹴散らして言った。

 

アウローラでは既にメイ達がエンジンの修理に取り掛かっていた。

 

「よし!アウローラが飛べる様になるまでは我々で援護する!」

 

ネロ艦長がそう言った次の瞬間であった。

 

モニターにある反応が計測された。

 

「!この反応は!?」

 

 

 

 

アクセリオンが反応する少し前、メビウスはナオミに過去を語り終えたところだ。

 

「ナオミ!俺はかつて仲間の死から逃げた!自分の心を封印する事で!仲間が死んでも悲しもうとしなかった!」

 

ココとミランダが死んだ時、悲しみが起きなかったのはこれが原因であった。

 

「でもそれじゃダメなんだ!仲間を思ってやれるのは!仲間にしか出来ねぇことだからな!」

 

「仲間なら!一緒に飯食って!一緒に夢とか話して!最後まで側にいてやらなきゃダメなんだ!」

 

「何より、もう嫌なんだ!仲間を助けられない事が!仲間を見殺しにしてしまう事と!そして仲間を助けれるのに助けられない事は!」

 

「だからナオミ!俺はお前を絶対に助ける!仲間として!そして!俺にとって大切な存在として!」

 

「・・・」

 

ナオミは黙っていたが、やがて鉤爪から粒子砲を

放った。

 

フェニックスもそれを相殺する程度の粒子砲を放つ

 

「ナオミ!俺は絶対諦めない!何度だってぶつかってやる!お前が俺達の所に帰ってくるまで!」

 

フェニックスがザ・ワン・ネクストに組みつこうと接近する。

 

「ぐうっ」

 

次の瞬間、メビウスに頭痛が襲いかかった。

 

「なんだよ・・・これ・・・」

 

そして、メビウスはなにかを感じ取った。

 

「ナオミ!直ぐに戻る!待ってろよ!」

 

そう言いフェニックスは去っていった。

 

ナオミは追いかけずにただ黙ってその場に留まっていた。

 

「・・・・・・メビウス」

 

そしてナオミは一言呟いた。

 

 

 

 

そしてその頃、サラマンディーネはメインシャフトを降りていた。行く手に立ち塞がるピレスロイドを撃ち落とし、薙ぎ払う。

 

そして遂にアウラの元に辿り着いたのだ。

 

「アウラ!アウラなのですね!」

 

焔龍號が崩壊粒子収束砲「晴嵐」でアウラが囚われているフィールドを破壊しようとする。

 

だがそれは破壊できなかった。接近して破壊しようとするが、それでも壊せなかった。

 

さらにその場にピレスロイドの大群がやってきた。

 

「邪魔をするなぁ!」

 

粒子砲で蹴散らしていく。そこにアンジュもやってきた。

 

「サラ子!こんな玩具になに手こずってんのよ!」

 

「アンジュ!遅いですよ!玩具の相手は任せます!」

 

そう言い㷔龍號は宙に浮かんだ。

 

「まさか!あれを撃つつもり!?」

 

収斂時空砲。㷔龍號の持つ切り札である。

 

「あんなの撃って大丈夫なの!?」

 

あれはかつてアルゼナルの半分を消し去ったのだ。下手すればアウラ諸共消し飛んでしまう事をアンジュは危惧していた、

 

「ちゃんと3割引で撃てるようになったので」

 

サラマンディーネが得意げに答える。どうやら真実の地球であの後調整された様だ。

 

「風に飛ばん el ragna 運命と契り交わして」

 

「風に行かん el ragna 轟きし翼」

 

額の宝石が輝いた。㷔龍號が金色に光り輝く。

 

そして両肩が開かれた。

 

 

 

彼女のその歌は戦場に響いた。

 

「この歌・・・サラマンディーネさんだ」

 

皆がその歌を聞いていた。

 

 

 

そして歌を聞きながら、サリアとジルは激しく戦いあっていた。

 

「私にはなにもなかった!皇女でもない!歌も知らない!!指輪だってない!!」

 

「どんなに頑張っても、選ばれないわけよ!!」

 

サリアの目には涙が溜まっていた。

 

「そんな私を!エンブリヲ様は選んでくれた!」

 

「だからアレクトラ!もう貴女なんて必要ないのよ!」

 

クレオパトラの剣がレイジアの腕を盾ごと斬り落とす。更にレイジアに斬りかかる。

 

「ふん!強くなったじゃないか!サリア!」

 

クレオパトラの剣がレイジア目掛けて突き刺さろうとしていた。

 

「危ねぇ!」

 

フェニックスがそこに割り込む。剣はアイ・フィールドに防がれた。

 

「メビウス!?」

 

「やめろサリア!これ以上はやめろ!」

 

「邪魔しないで!貴方には関係ない事よ!」

 

「仲間同士の殺し合いを放っておけるかよ!!」

 

クレオパトラのライフルをアイ・フィールドで防ぐ。

 

「言ったはずよ!もう私はあなた達は仲間じゃないって!」

 

「私は!ダイヤモンドローズ騎士団の団長

サリア!」

 

「エンブリヲ様からの愛に!私は応えなければならない!!」

 

「いい加減にしろサリア!!お前は誰かに愛されたくてこれまで戦ってきたのかよ!」

 

メビウスの言葉にサリアが動揺した。

 

「何が愛に応えなければならないだ!愛ってのは

そんなもんじゃねぇだろ!!」

 

「貴方に・・・貴方に一体何がわかるのよ!!!」

 

クレオパトラの剣がフェニックスに斬りかかる。

 

「メビウス!」

 

レイジアが剣でそれを受け止めた。

 

お互いが距離をとった。その真ん中にフェニックスがいる。

 

「メビウス!何をしに来た?」

 

ジルが通信でメビウスに尋ねる。

 

「ジル!感じないのか!?何かヤベェのが迫ってきてる!」

 

「なんだと!?」

 

次の瞬間であった。ジルとサリアの目の前を何かが高速で横切った。

 

それはフェニックスを巻き込むとメインシャフトへと落ちていった。

 

「なんだ今のは!?」

 

「アレクトラ!今度こそ!」

 

ジルとは違い、メビウスの事などお構いなしにサリアはクレオパトラのライフルをレイジアに向けた。

 

「・・・!?なんで!?」

 

ライフルからは何も出なかった。

 

「なんで出ないの!?」

 

この時の二人は気づいていなかった。空に不自然に虹がかかっていた事に。

 

 

 

その異変は戦場全体に及んでいた。

 

「なんで!?なんでなの!?」

 

「何故だ!?マキシマのチャージは完了したはずなのに!?」

 

敵味方問わず粒子兵器、そしてビーム兵器が使えなくなっていたのだ。

 

アウラの手前でも異変が起きていた。

 

「そんな!収斂時空砲が・・・」

 

サラマンディーネが動揺している。なんと収斂時空砲までもが撃てなかったのだ。機体の色も元に戻っていた。

 

「どういう事!?一体!?」

 

次の瞬間、天井が崩れ、そこからなにかが降ってきた。

 

「なっ!?フェニックス!それに・・・」

 

フェニックスの上には謎の塊がのしかかっていた。

 

「あれは!?」

 

すると謎の物体が浮かび出した。少し浮かんだそれは、貝の様な見た目であった。

 

「なに・・・あれ?」

 

アンジュとサラマンディーネは目の前のそれにただ唖然としていた。

 

 

 

その物体はタスク達のモニターにも映し出されていた。

 

「エンブリヲ!あれもお前の差し金か!?」

 

タスクが驚きながらエンブリヲに聞く。

 

だがエンブリヲの口からは驚くべき言葉が返された。

 

「なんだあれは・・・私はあの様なものは知らないぞ」

 

エンブリヲがモニター越しに驚いている。

 

「なに!?じゃああれは・・・一体なんなんだ!?」

 

 

 

暁ノ御柱最深部。

 

宙に浮かんだそれからは顔の様なものが出てきた。その見た目の歪さから、あるものが想像できた。

 

「これ・・・まさか!」

 

アンジュの中にある予想が浮かんだ。

 

その予想に答えるかの様にメビウスが答える。

 

「間違いない・・・こいつは・・・ビーストだ!」

 




遂にアンジュ達のいた世界にビーストが登場しました!

流石に直ぐにアウラ奪還では少し面白味がないので手を加えました。

まぁ元ネタ知ってる人なら今回のビースト多分予想つくでしょうね。


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第75話 明日なき戦い


前回のあらすじ!

ミスルギ皇国。皆がそれぞれの想いを胸に激闘を繰り広げていた。

エルシャに新たな機体。スペリオルでヴィヴィアン達の援護を。

そんな中アクセリオンはある反応を感知した。

その反応はナオミを説得中のメビウスも感じ取った。

その正体を確かめるべくそこへ向かうメビウス。

その途中サリアとジルの戦闘に介入する。

だが次の瞬間、ある物体がフェニックス諸共暁ノ御柱最深部へと降下していった。

メビウスの感じた気配。その正体はなんとビーストであった!

それでは本編の始まりです!



 

「ビーストですって!?」

 

暁ノ御柱最深部。アンジュは目の前の巻貝の様な存在に驚いていた。

 

「あぁ!しかも、見たことのないタイプだ!」

 

メビウスはシグの記憶も共有している。シグはこれまで様々なビーストと戦ってきた。その記憶のどれにも当てはまるものがなかった。

 

宙に浮かんでいたビーストは電撃を放ってきた。それらは無差別に放たれた。

 

アンジュ達はそれを避ける。ピレスロイドなどはそれらに当たると無抵抗に床へと落ちていった。

 

「こいつ!」

 

鉤爪から粒子砲を放とうとするが、粒子砲は出なかった。

 

「なんで出ないんだよ!?」

 

するとネロ艦長からの通信が入った。

 

「メビウス!新種のビーストが現れた!そいつの

コードネームをメガフラシと呼称する!

現状で分かっているメガフラシの情報を送る!」

 

その情報はアンジュとサラマンディーネにも送られた。

 

簡単に纏めるとこのビーストはビームなどの粒子兵器を無効にする特殊なフィールドを展開できるらしい。現在ミスルギ皇国はそれに包まれているようだ。

 

「つまり奴には実弾兵器で戦えって事か!?」

 

こうなると厳しいものである。

 

なぜならフェニックスはHHWSなどは粒子兵器を

基準に作られている。実弾兵器が

多いバーグラーセットは現在ない。

 

こうなるとまともな武器はデスカリバーを実態剣として扱うか、マイクロミサイルである。

 

ヴィルキスに関してはライフルとブレードくらいである。

 

粒子兵器を基本装備としている龍神器などもはや

使い物にならない状態であった。

 

「このっ!落ちなさい!」

 

ヴィルキスが実弾を撃ち込む。だがそれは硬い殻の前にはまさに蚊ほどにも効かない状態であった。

 

メガフラシが三機に気がついた。電撃を放つ。それらを皆バラバラになり避ける。

 

更にフェニックスには問題が起きていた。

 

(ヤベェ。さっきの落下でアイ・フィールド発生装置が壊れた)

 

あの落下でフェニックス内のその装置が壊れたのだ。これでアイ・フィールドは使えない。敵の攻撃を見るに当たればかなりの損傷を受けるのは見えていた。

 

今の三人には避けるしかない。

 

メガフラシの放つ虹。その異変は外でも起きていた。

 

「粒子兵器が使えない!?」

 

ZEUXIS達の装備は基本ビームなど粒子兵器である。

 

それらが使えない時点でかなりの不利となっている。

 

これはサリア達もそうであった。装備が二つしかないラグナメイルのうち、ビームライフルが潰された。これで現在使える武装は剣だけである。

 

それはエンブリヲも同じであった。

 

「どうやら少し調べなければならないようだな」

 

そう言いエンブリヲはヒステリカと共にその場から姿を消した。

 

その場にはタスクとアーバトレスが残された。

 

「待ってろアンジュ!今行く!」

 

そう言い、タスクのアーバトレスはメインシャフトを下っていった。

 

 

 

アウラの手前。ここではメガフラシが目の前のメビウス達に攻撃を繰り広げていた。

 

「いけ!ファング!」

 

脚部から8つの牙を展開する。それらはメガフラシ目掛けて突っ込んでいった。

 

唯一効くと思われる頭部めがけて突っ込んでいった。だがそれは謎のフィールドに防がれてしまった。

 

「なっ!ファングが!」

 

強度で考えればかなり固い様だ。

 

するとアクセリオンから通信が入った

 

「3人とも!粒子兵器を無効にするフィールドは奴を包んでいる殻から出されていると判明した!」

 

「ならその殻を破壊すれば!」

 

「おそらく粒子兵器も使用可能になる!だが奴の殻の強度はかなりある。恐らく一点突破でと難しいだろう!」

 

「結局あいつを倒さなきゃビーム兵器は使えないって事じゃない!」

 

「アンジュ!メビウス!メガフラシが!」

 

メガフラシが体当たりをしてきた。それをなんとか避ける。巨体に似合わぬ速さとはこの事だ。

 

「アンジュ!無事か!?」

 

その時タスクのアーバトレスが降りてきた。

 

「タスク!気をつけて!ビーストよ!」

 

アンジュがタスクに警告した直後にメガフラシがアーバトレスに気がついた。

 

直ぐに電撃を放つ。それはアーバトレスに直撃した、

 

「うわぁぁぁっ!」

 

アーバトレスが地面に落下する。

 

「タスク!よくもタスクを!」

 

アンジュがブレードをメガフラシ本体目掛けて突き刺す。メガフラシの顔部分からは血が流れ出た。

 

メガフラシが痛みからか鳴き声をあげた。

 

するとメガフラシはヴィルキス目掛けて電撃を放つ。直撃した。更に焔龍號もそれらの巻き添えを受けた。

 

アンジュ!サラマンディーネ!

 

タスクも含めた三人の機体は上昇した。

 

「メビウス!メガフラシの新たな情報だ。メガフラシはヤドカリの様な寄生生物だ。そして本体が殻にエネルギーを与えている様だ」

 

殻の強度は硬い。少なくても今の装備では破壊は不可能だ。ならば殻を無力化するにはもう一つの手段しかない。

 

「・・・やるしかねえ」

 

メビウスがフェニックスのハンドルを強く握る。

 

フ機体をを加速させる。右腕の鉤爪をメガフラシの本体にぶつかる様に調整する。

 

メガフラシはフェニックスに電撃を放った。それらは全て機体に直撃した。だがフェニックスは怯まずに加速し続けた。

 

「・・・まさか!メビウス!」

 

「そこだぁ!」

 

次の瞬間、鉤爪が伸びた。それはメガフラシの唯一出ていた本体の顔の一部に刺さった。鉤爪の長さを戻す。

 

一気にフェニックスはメガフラシの目前に辿り着いた。

 

メガフラシが鳴き声をあげた。まるでその行為に驚いているかの様に。

 

「抜けろぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

次の瞬間、フェニックスはメガフラシの本体を思いっきり引っ張った。メガフラシが痛みで悲鳴を上げている様だ。

 

殻から電撃がフェニックスめがけて放たれる。それらは全て直撃した。だがフェニックスは力を緩めず、ただただ引っ張っていた。

 

それは以前。未来世界でゴルゴレムを別位相から出した時と同じであった。

 

「あの時と同じ事をする気なの!?」

 

アンジュとタスクが驚いている

 

メガフラシは尚も電撃を放っていた。

 

電撃が関節部に命中した。フェニックスの左腕のガトリングが破壊された。だがそれでも引っ張り続けていた。

 

やがてアンジュがサラマンディーネとタスクに通信を送る。

 

「サラ子!タスク!私達も手伝うわよ!」

 

「手伝うって・・・どうやるのですか!?」

 

「フェニックスを引っ張るのよ!」

 

そう言いヴィルキスはフェニックスの真後ろに来た。ヴィルキスの腕がフェニックスの腰辺りを掴む。

 

「どうメビウス!手応えある!?」

 

「わからねぇ!でも殻が壊せないんだ!こうするしかねぇ!」

 

「タスク!サラ子!早く来て!」

 

やがてタスクとサラマンディーネも腹を括った様だ。

 

「わかりました!二人には時空融合の時の借りが

残っていますし。お手伝いしますよ!」

 

「俺だって!やってみせる!」

 

焔龍號とアーバトレスも機体を引っ張る。

 

全ての機体がバックエンジンをフルパワーにする。少しずつだが何かが動いている感じがした。

 

メガフラシは尚も電撃をこちらに放つ。

 

するとメガフラシ目掛けてミサイルが飛んできた。不意の出来事なのか、これにメガフラシは怯んだ。

 

「なっ!援護攻撃!?どこから!?」

 

アンジュ達が驚いて周りを見る。だがその姿は何処にも見えなかった。

 

次の瞬間、四機が後ろへと倒れ込んだ。アーバトレスの上に焔龍號、ヴィルキス。そしてフェニックスが倒れこむ。

 

目の前にはピチピチ跳ねるメガフラシがいた。

 

どうやら先程の攻撃に怯んでメガフラシの力が緩んでしまった様だ。

 

メガフラシ本体を包んでいた殻は空中に留まっていたが、エネルギー源を失ったのか徐々に砂となって宙に散っていった。

 

そしてミスルギ上空では虹が消えていた。

 

「虹が・・・消えた!」

 

空いた穴からは虹の消失が確認できた。粒子兵器が使える様になったのだ。

 

メガフラシ本体はその場でただ跳ねていた。これまで殻を使った攻撃しかしていなかったのは、それしか攻撃手段がないからであった。

 

「散々やってくれたわね!覚悟しなさい!」

 

四人が粒子兵器をメガフラシめがけて放った。

 

メガフラシの体は燃え始めたが、やがて灰となった。

 

「エンブリヲのやつ。こんなもんまで出しやがって」

 

「でもメビウス。さっきのビーストだけど、エンブリヲの口振りから考えるに、エンブリヲも知らないみたいだよ」

 

タスクの言葉にメビウスが驚く。

 

「何言ってんだ?ビーストはあいつが作り出してるんじゃねぇか」

 

未来世界でエンブリヲが言っていた内容。ビーストはメビウスを殺す為にエンブリヲが放った存在。そう聞いていたのでこれもエンブリヲの仕業だと考えていた。

 

だがやがて四人は目の前の目的を思い出した。

 

四人がアウラの方を向く。

 

「さて。サラ子。ちゃっちゃと済ませちゃちゃましょう?」

 

「ええ。3人とも下がっていてください」

 

三人の機体は少し距離を取る。

 

焔龍號は上昇した。そして歌を唄い出した。

 

「風に飛ばん el ragna 運命と契り交わして」

 

サラマンディーネの額の宝石が光り出した。

 

「風に行かん el ragna 轟きし翼」

 

機体が金色に輝きだす。両肩が開かれた。

 

次の瞬間、収斂時空砲が放たれた。それはアウラを包み込んでいたフィールドに直撃する。

 

次の瞬間、辺りが光り輝いた。

 

反射的に四人は目を瞑った。

 

再び目を開けるとそこは先程までいた場所ではなくなっていた。

 

「ここは?」

 

メビウスとタスクは現状が理解できないでいた。そこにはアンジュとサラマンディーネもいた。機体越しではなく生身で四人向かい合っていた。

 

「サラ子。ここって」

 

「ええ。初めて私達が出会った場所ですね」

 

そう。ここはヴィルキスと焔龍號の初戦の際、お互いの機体が金色に光り、両肩からの光がぶつかり合い、たどり着いた場所であった、

 

ふると突然上空が光り出した。上を向くとそこには光があった。

 

「アウラ・・・アウラなのですね!」

 

「そうだ。サラマンディーネ」

 

「アウラ・・・」

 

アンジュとタスクは目の前のドラゴンに驚いていた。

 

「お久しぶりですね・・・とは少し違いますかね?」

 

以前メビウスは精神世界でアウラと出会っていた。

 

アウラが四人に語りかけた。

 

「見ていました。貴女達の戦いを。こうして現れたのは貴女達に警告をしに来たのです。

 

「警告?どういう事だ?」

 

メビウスが疑問に尋ねる。するとアウラはメビウスの方を向いた。

 

「今回現れたビースト。あれにはこれまで感じたとの無い邪悪な気配を感じました」

 

「邪悪な気配・・・」

 

その言葉に四人が緊張する。果たしてそれがどの様な事を意味するのか、この時の四人はまだ知らない。

 

すると突然空間が揺れた。

 

「これは!?」

 

「おそらく私が解放された事により特異点が開かれたのでしょう。行きなさい。仲間達の元へ!」

 

次の瞬間、四人は元いた暁ノ御柱の最深部に戻っていた。

 

目の前にはアウラがいた。眠っている様だ。

 

「さっきのは?」

 

タスクが疑問に思う。

 

「おそらく、アウラが私達の精神に語りかけたのでしょう」

 

焔龍號がアウラの前に佇む。

 

「私はここでアウラが目覚めるのを待ちます。皆さんは仲間達の所へ行きなさい」

 

「わかった。アウラの事、任せたぞ」

 

そう言いメビウスとアンジュとタスクはメガフラシが開けた穴から上昇していった。

 





そろそろ第9章も終わりに近づいてきました!

第10章はオリジナルシナリオです。

この調子なら今年中に終わるかな?


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第76話 心からの言葉 前編



前回のあらすじ!

アウラを助け出そうとするアンジュ達の前に謎の
ビースト。メガフラシが立ち塞がった。

メガフラシの虹の影響で粒子兵器は全てお釈迦となってしまった。

メビウスはゴルゴレムの時と同じ様にメガフラシ本体を殻から引き剥がす決断をした。

それにヴィルキスや焔龍號やアーバトレスも協力する。

更に謎の援護攻撃のおかげでついにメガフラシの本体を引き剥がす事に成功。

メガフラシの撃破に成功した。

焔龍號の収斂時空砲がフィールドに直撃した瞬間、光に包まれアンジュ達は以前、アンジュがサラマンディーネと初対面した謎の空間でアウラと出会う。

そこでアウラから先のビーストについて、警告を受けた。

元の空間に戻った四人。サラマンディーネはアウラを護衛するとその場に残る。メビウス達三人は再び戦場へと向かい飛び立った。

それでは本編の始まりです!



 

 

虹が消え、アウラが覚醒に入る少し前。

 

アウローラ付近では苦戦を強いられていた。粒子兵器が使えない以上デルタ・メイルではできる事は

限られている。

 

それに比べてピレスロイドは、そもそもの兵器が

実弾系なので全く戦闘に影響は起きていなかった。

 

補給を終えたパラメイル隊で迎撃にあたるが流石にライダーにもパイロットにも疲れが見え始めていた。

 

「はぁっ。はあっ。はあっ。はあっ」

 

「ほんと。1体倒すと30体はいるってか?」

 

「笑えねぇな。その冗談。現実味がありすぎて」

 

皆の精神力は限界地点に来ていた。

 

その為虹が消えた事にもまだ気付いてなかった。

 

「・・・みんな!後退して!」

 

エルシャがピレスロイドを誘き寄せるかの様に機体を動かす。ピレスロイドはエルシャのスペリオル

目掛けて突っ込んできた。

 

「エルシャ!?」

 

「こっちよ!円盤ども!」

 

スペリオルの後ろにピレスロイドが大量に張り付いていた。

 

「まさか!?エルシャ!バカな真似はよせ!」

 

エルシャは死ぬ気だ。ゾーらにはそれが理解できた。

 

ピレスロイドがスペリオルの両脚をもぎ取った。

そしてコックピット目掛けて円盤は突き進んでいた。

 

「みんな・・・さようなら・・・」

 

自分の死を悟り、エルシャは目を閉じた。

 

 

 

 

次の瞬間だった。何かがピレスロイドめがけて放たれた。その攻撃はスペリオルを避けて放たれた。

 

「なに・・・なにがおきたの?」

 

エルシャ達が上を見る。そこにはドラゴンがいた。

 

「ドラゴン!?」

 

「見て!あの虹が消えてる!」

 

皆が驚いていた。ドラゴン達は尚もシンギュラーから降下してきた。

 

 

 

その頃、アウローラでも事態は動いていた。

 

「ドラゴン・・・どうして?」

 

「おそらく。アウラが解放た影響で、特異点が自然に開かれたのだろう」

 

リィザが皆に解説する。すると通信が入ってきた。そこには少女が映されていた。

 

「聞こえるか?偽りの・・・いや、ノーマの民達。我はアウラの巫女、アウラ・ミドガルディア」

 

「大巫女様!」

 

「アウラの民は、これより旗艦達を援護する!」

 

「アクセリオン艦長のネロだ。諸君らの援護に感謝する」

 

以前戦った重力操作ができるドラゴンが高重力場を発生させた。それらはピレスロイドだけに効いていた。

 

ピレスロイドは地面に落ちてゆき、爆発していった。

 

巨大ドラゴンがアウローラの両翼を掴み、持ち上げた。それらのお陰でアウローラは再び飛び立った。

 

「うっほー!すっげぇ!」

 

ヴィヴィアン達は歓喜の声を上げた。これ以上ないくらい心強い援軍だ。

 

「すげぇ!すげぇよ!」

 

ワイズナー達もドラゴンと共闘を繰り広げる。

 

 

 

 

 

メビウス達三人も暁ノ御柱からドラゴン達の姿を

見ていた。

 

「ドラゴン達が・・・心強い援軍ね!」

 

すると3人の目の前に一機のラグナメイルが現れた。

 

「やれやれ。まさかこんな事になるとはな」

 

「エンブリヲ!」

 

「エンブリヲ。形勢は逆転しているんだ!お前の

負けだ!」

 

タスクがエンブリヲに向かって叫ぶ。

 

だがエンブリヲは態度を崩さなかった。

 

「安心したまえ。今は君達と戦闘する意思はない」

 

「その余裕・・・虚勢には思えねぇな」

 

メビウスはエンブリヲの余裕に嫌な何かを感じていた。

 

「何。少し調べる時間為に、時間を稼いでもらうだけさ」

 

次の瞬間であった。ナーガとカナメと戦っていたビクトリアとエイレーネの姿が消えた。

 

「なっ!ココ!ミランダ!」

 

「クリス。サリア。すまないが時間を稼いでくれたまえ。いいよね?だって私達は・・・友達じゃないか」

 

その言葉は恐ろしいくらいに乾いていた。

 

「!?まさか、エンブリヲ!」

 

「では、ほんの暫しのお別れだ」

 

そう言いエンブリヲとヒステリカの姿は消えた。

 

これだけの数を二機で相手にしろ。それは不可能に近かった。それなのにこうした。理由は簡単。

 

エンブリヲは二人を捨て駒にしたのだ。

 

「エンブリヲ様!?」

 

「危ない!」

 

クレオパトラめがけてドラゴンが突っ込んで来た。それをレイジアで押し出すことでなんとか防ぐ。

 

「見ただろうサリア!これがエンブリヲの本性だ!

 

「目を覚ませサリア!私の様に、全てを失う前に!」

 

「信じない・・・信じない!」

 

その時サリアの機体めがけてドラゴンが火球を放った。サリア自身それには気がついていなかった。

 

「危ない!サリア!」

 

レイジアはクレオパトラを、サリアを庇った。

 

機体は一部が爆発を起こした。

 

「アレクトラ!」

 

「サリア!ジルの機体を持って!この場を離脱するわよ!」

 

その時アンジュ達がやってきた。アンジュは通信でサリアに指示を出す。

 

「アンジュ!誰が貴女なんかの!」

 

「それどころじゃねぇだろ!!どう見てもジルがやばいだろ!」

 

「!アレクトラ・・・」

 

「サリア!貴女はまだエンブリヲに忠誠を誓うの!?」

 

「私は・・・私は・・・」

 

やがてクレオパトラはレイジアを掴み、抱えた。

 

ヴィルキスとフェニックスとアーバトレスの三機とクレオパトラがレイジアを抱えながら、その場から離れた。

 

しばらく飛んで、森へと機体を下ろした。

 

タスクは機体の緊急セットでジルの手当てをする。

 

「ごめんなさい、アレクトラ・・・私、なんて馬鹿な事を」

 

サリアはエンブリヲに利用されていた己自身に激しい嫌悪感を抱いていた。

 

ジルはタバコを取り出し、床に寝ながら一服していた。

 

「ホント・・・お前は私にそっくりだ。まるで・・・妹みたいに・・・」

 

「真面目で、泣き虫で、思い込みが激しい所から、男の趣味までね」

 

「だから、巻き込みたくなかった・・・ごめんね、辛くあたって・・・」

 

「アレクトラ・・・」

 

「よかった。最後に・・・話せて・・・」

 

「アレクトラ!?アレクトラ!!」

 

ジルの目が閉じかけた。

 

 

 

その時だった。

 

「最後?なに言ってんだよ」

 

メビウスが意外な言葉をジルに投げかけた。

 

「こんなとこで終わる様なジルじゃねぇだろ?」

 

その言葉にジルの瞳が半開き状態で留まった。

 

「そうね。貴女はまだ終わる訳にはいかないわ」

 

アンジュもそれに同調した。

 

「忘れたの?貴女の復讐のせいで何人が人生を狂わされたと思ってるの?その償いはこんなもんじゃ済まないわよ」

 

「・・・」

 

「それとも。貴女はこれで満足なの?」

 

「・・・何?」

 

「貴女。アウローラで言ったわよね。お前は私だって。もし本当にそう思ってたなら、私も舐められたものね」

 

「・・・」

 

「私なら、あの変態ストーカー男にパンチの一発でも決めないと死ぬに死ねないわ。それなのに貴女は死のうとして。そんな安い女だったのね。貴女は」

 

「ほう。言うじゃないか」

 

「ジル。俺はネロ艦長達とは違いあんたを許してねぇ。だから生きろ。俺としてもいつまでもあんたを許さないつもりはない。今死なれたら許すに許せないじゃねぇか」

 

「生きるんだアレクトラ。十年前に君が言っていた世界。まだ創られてないぞ。だからみんなで創ろう。アレクトラ」

 

「お願い!生きて!アレクトラ!」

 

少しの沈黙が続いた。

 

「そうだな。マギーのやつに約束しちまったっけ。帰ったら愚痴に付き合えって。ここでそれを無視したら、後であいつにまた大目玉喰らっちまうしな」

 

そう言いジルが立ち上がった。

 

その目は開いていた。それは死地を乗り越えた目をしていた。

 

その時だった。上から二つの機体が落下してきた。

 

それはロザリーのグレイブとテオドーラであった。

 

さらにヒルダのアーキバスも急降下してきた。

 

「ヒルダ達!」

 

五人が驚いた。なぜ機体が落下してきたのか。

 

 

 

 

 

話は少し前に遡る。

 

「嘘・・・だよね?エンブリヲ君・・・」

 

「また・・・捨てられた・・・また・・・裏切られた・・・」

 

クリスもエンブリヲに捨て駒にされた事を悟った様だ。

 

目前にドラゴンが迫ってきていた。

 

「・・・もう何も信じない!・・・皆・・・皆んな死ねえぇぇぇ!!!」

 

クリスはでたらめにビームライフルを乱射して、ドラゴン達を落としていく。

 

「やめろクリス!」

 

ヒルダがテオドーラに斬りかかる。

 

「来るな!死ねぇ!」

 

クリスは錯乱していた。

 

ヒルダがクリスに通信を送る。

 

「ざまあねぇなぁ!クリス!自分から友達だって名乗る奴が、本当の友達な訳ねぇだろ!!

騙されやがって!バカが!」

 

「あんた達が私を見捨てたからでしょ!」

 

「私は!見捨ててなんかいねぇ!」

 

「よってたかって私の事をバカにして!私がこんなに辛くて・・・苦しんでるのに・・・どうしてわかってくれないのよぉ!」

 

「わかんねぇよ!私・・・バカだから!言わなきゃわかんねぇんだよ!!」

 

ロザリーのグレイブがテオドーラめがけて加速する。

 

「来るな!来るな!」

 

ライフルをグレイブめがけて放つ。それらの何発かは命中した。

 

「いい加減にしろ!この根暗ブス!!」

 

ヒルダのアーキバスがテオドーラに組みついた。

そしてコックピットの外装を引き剥がした。

 

「クリス!」

 

次の瞬間、ロザリーはクリスのテオドーラに飛び移った。

 

だがコックピットが剥き出しが災いし、次の瞬間にはクリスのロザリーの身体が宙に放り出された。

 

二人の身体は地面へと落ちて行く。

 

「離してロザリー・・・落ちてる」

 

「いいよ!一緒に死んでやる!!」

 

「えっ?」

 

次の瞬間、ロザリーはクリスの唇を奪う。

 

「私は!あんたがいなきゃダメなんだよ!」

 

「ロザリー・・・」

 

「あんたが好きなんだよ!クリス!」

 

「私の事・・・見捨てたくせに」

 

「見捨ててねぇ!信じてくれよ!もう一度!」

 

「私達だけだろ?あんたの胸のサイズも!あんたの弱いところも!あんたのへそくりの隠し場所をしってるのも!私達だけだろ!?」

 

ロザリーの目からは涙が溢れていた。それらは上へと飛んで行った。いや、ロザリー達が落ちているからだ。

 

「もう一回信じてくれよ!もう一回友達になってくれよ!!クリス!!」

 

「ロザリー・・・」

 

クリスの目にも涙が出ていた。

 

「間に合えぇぇぇ!」

 

地面に激突する瞬間、間一髪のところでヒルダのアーキバスが二人を助ける事に成功した。

 

「ごめん・・・ごめんな・・・クリス」

 

「許さない・・・新しい髪留め買ってくれるまでは・・・」

 

「!一番いいのを買ってやる!」

 

「ゲームする時。ズルしない?」

 

「しない!」

 

「お風呂の一番。譲ってくれる?」

 

「あぁ!」

 

「・・・でも私。取り返しのつかない事しちゃった・・・」

 

クリスはマリカを撃墜した時の事を思い出す。

 

「マリカの墓買って、一生覚えといてやろうぜ。

私達でさ」

 

「・・・なにやってるんだろ。世界が滅びるかもしれないって時に・・・私達・・・」

 

「仲直り・・・だろ?」

 

アーキバスのコックピットからヒルダが出てきた。

 

「あぁ!それ私のセリフ!」

 

ロザリーがヒルダに突っ込んだ。

 

そしてクリスは緊張が解けたのか、泣き出した。

 

「ヒルダ!ロザリー!クリス!」

 

その場にメビウス達が駆け寄ってきた。

 

「メビウス!アンジュ!ジルにタスク!」

 

サリアとクリスが向かい合う。

 

「クリス。その様子だと、お互いに目が覚めた様ね」

 

「ええ。みんな。その・・・ごめんなさい」

 

クリスとサリアが皆に向かって頭を下げた。

 

メビウスは二人に優しく言った。

 

「お帰り、サリア。お帰り、クリス」

 

お帰り。この言葉はまだ帰る場所があるという事だ。

 

「メビウスが許してるなら、私達も貴女達を許すわ」

 

アンジュ達もサリアとクリスを優しく受け入れた。

 

「みんな・・・ありがとう」

 

すると上空にアクセリオンとアウローラがやってきた。

 

そこにはパラメイル隊の皆やZEUXISの皆がいた。

 

「とりあえず機体の無い者はアウローラに一度着艦させる」

 

フェニックスはボロボロながらもまだ平気である。問題はヒルダのアーキバスとロザリーのグレイブである。少なくても今飛ぶのは無理な様だ。

 

「ねぇヒルダ。私のラグナメイル、使っていいよ」

 

クリスは指輪をヒルダに渡す。

 

「わかった。ロザリー!クリス!手の上に乗りな!」

 

皆が機体に乗り込む。ロザリーとクリスはテオドーラの手の上に乗る。

 

皆の機体が上昇した。

 

テオドーラはアウローラに着艦させた。その他の機体は外を飛んでいた。

 

ロザリーとクリスはブリッジに来た。外の戦闘を見届ける為だ。

 

「後はナオミとココとミランダを助けだすだけね」

 

「あぁ。それにアウラもまだ、完全に覚醒してはない」

 

「さっきサラ子に通信で聞いたけど、もう少し時間がかかるみたいよ」

 

その様な会話がされていた中、メビウスはある人物を探していた。

 

「ナオミ・・・一体どこにいったんだ」

 

メビウスがレーダーで辺りを捜索していた。その時だった。

 

「やれやれ。まさかサリアやクリスが寝返るとは」

 

「!エンブリヲ!」

 

目の前にはヒステリカが現れた。その外にはエンブリヲもいた。

 

「全く。何が嫌なんだい?サリアにクリス。私は

君達の望む物を与えたはずだが?」

 

「もう貴方の言葉には騙されない!」

 

「友達ごっこにも騙されたりはしない!」

 

皆がライフルをヒステリカに向ける。

 

「やれやれ。君達全員には、お仕置きが必要な様だね」

 

するとその場にザ・ワン・ネクストが現れた。

 

「ナオミ!ナオミ!!」

 

メビウスが呼びかける。それにナオミは応えなかった。

 

「さて。後の片付けは頼むよ。ナオミ」

 

「はい。エンブリヲ様」

 

再びエンブリヲは姿を消した。

 

目の前にはザ・ワン・ネクストが佇んでいた。皆がライフルをその機体に向けていたが、それをメビウスが降ろさせる。

 

「みんな。ここは俺に任せてくれ」

 

「メビウス!?でも、今のフェニックス

じゃ・・・」

 

「頼む・・・」

 

今のフェニックスはメガフラシ戦で大きな傷を負っている。機体はボロボロ。左腕のガトリングは使えず、何よりアイ・フィールドも展開できない。

 

だがそれでもメビウスは一歩も引く姿勢を見せなかった。

 

「・・・わかった。メビウス。貴方を信じる。

ナオミを助けられるって」

 

「ありがとう。アンジュ」

 

そう言いフェニックスは更に一歩前に出た。

 

皆が二人を見守っていた。

 

するとザ・ワン・ネクストはガトリングをフェニックスに放った。それらはコックピットめがけて、

フェニックに直撃した。

 

コックピットには当たらなかったが、それらは全て機体に直撃した。

 

「ナオミ・・・」

 

「・・・さよなら」

 

ナオミが一言呟く。そして胸の胸部が開かれた。

そこから砲身が顔を出す。

 

「まさかあれ!」

 

「ネオマキシマ砲か!?」

 

アンジュ達が驚く。ネオマキシマ砲の破壊力は既に知っている。かつて島を四つ消し去り、人間達の艦隊をほぼ全滅させた。あの破壊兵器を目の前でチャージされたのだ。

 

機体の砲身からは赤い粒子が見えている。

 

「メビウス!君もネオマキシマ砲を撃ちたまえ!このままでは!」

 

ネロ艦長がメビウスに通信を送る。

 

だがメビウスはネオマキシマのチャージには移行しない。それどころか砲身さえ出していなかった。

 

ザ・ワン・ネクストは尚もエネルギーチャージをしている。

 

するとメビウスはオープンチャンネルで通信を開いた。

 

「ナオミ。そろそろ意地を張るのはやめたらどうだ?」

 

「!?」

 

その言葉に皆が驚いた。一体メビウスは何を言っているのだろうか。

 

メビウスは尚も続けた。

 

「俺の言葉は届いてるんだろ?」

 

「・・・やっぱり」

 

するとネクストのネオマキシマ砲の砲身が胸部にしまわれた。

 

その事に皆が驚く。そして次のナオミの言葉に更に皆が驚いた。

 

 

 

「・・・やっぱり。メビウスにはバレちゃってたんだね・・・」

 

今のナオミの瞳は赤ではなく、元の紫に戻って

いた。






皆様の愛でジル司令が生存しました!

原作ではエンブリヲによって殺されてしまいましたね。

余談ですがもしもジル司令が死んだ時はラグナメイルを誰に渡すかのアンケートでも取ろうと考えてましたね。


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第77話 心からの言葉 後編


前回のあらすじ!

メガフラシを退け、アウラの解放にかなり近いた
メビウス達。それにより特異点が開かれ
ドラゴン達が援護に来た。

そんな中、エンブリヲはサリアとクリスを捨て駒にした!

二人は己の過ちを悟り、サリアはジル達と、クリスはロザリー達と和解に成功した。


そんな中、エンブリヲがナオミをけしかけた。

それにフェニックスで応えるメビウス。

そしてメビウスはナオミに謎の通信を送った。

するとナオミもそれに応えたのだ!

これは一体どういうことか!?

それでは本編の始まりです!



 

 

「ねぇ。いつから気がついてたの?」

 

「さよならと言った時だ。あの言葉には暖かさが

あった」

 

「それにあのビーストとの戦いの時の援護射撃。

あれだってナオミの仕業だろ?」

 

「そうだよ・・・直ぐに立ち去ったつもりだったんだけど」

 

二人だけで何やら話が進んでいる。勿論アンジュ達は戸惑っていた、

 

「ちょっと・・・ナオミ。まさか貴女!?」

 

「うん。私は・・・私の意思で戦ってたよ」

 

「じゃぁ・・・なんでメビウスと戦ったのよ!」

 

「それは・・・」

 

ナオミは言葉に詰まっていたがやがて語り出した。

 

「悲しませないため」

 

「えっ?」

 

「私が死んでも、誰も悲しまない様にするため」

 

「やっぱりそうか」

 

メビウスが何処か納得した風に言った。

 

「それで俺を殺そうとした。命を奪われそうになれば、俺も嫌いになると思っての判断だろ?」

 

「・・・どうせなら、最後くらいは好きな人に殺されたかった」

 

その言葉は悲痛なまでに叫び声の様な言葉であった。

 

「さぁメビウス。覚悟は出来てるよ。どうせなら

苦しまない様に頼みたいな」

 

ナオミは今も自分が死ぬ事を望んでいた。無論、

メビウスにそんな事できるわけがない。

 

「ふざけるな!そんな事出来るわけねぇだろ!」

 

「もうそれしか道はないの!」

 

ナオミが叫んだ。

 

「私はもうみんなといた時のナオミじゃない!」

 

「ナオミ・・・」

 

「みんなにいっぱい酷い事をした!アンジュ達を沢山傷つけた!ドラゴンの正体を知ってからも・・・人間達を沢山殺した!」

 

「私は血に塗れてる。汚れきった穢らわしい女なの!」

 

「そんな私が、どんな顔してみんなの所に戻ればいいの!?どんな顔して生きていけばいいの!?」

 

その目からは涙が溢れている。

 

「同じね」

 

「サリア?」

 

「貴女って問題を自分一人で抱え込むタイプなのね。まるで私みたいね」

 

「生きるのよ。ナオミちゃん」

 

「エルシャ・・・」

 

「メビウス君が言ってたわ。生き残った人は死んでしまった人の分まで生きなきゃいけないって。だからドラゴン達の分も生きましょ。ナオミちゃん」

 

「私だって、取り返しのつかない事をしちゃったんだよ。でも生きる。それを償っていくために」

 

「クリス・・・」

 

三人は生きる道を選んだ。それぞれの罪を償う為に。そしてそれはジルにも言えたことだ。

 

「私とて、生き恥を晒しながら生きる覚悟だ」

 

「ジル司令・・・」

 

「私はかつてのリベルタスで仲間を多く死なせて

しまった。お前以上に穢らわしい女だよ」

 

「でっ、でも・・・」

 

「もー!めんどくさいわね!ナオミ!貴女の本心はどうなの!?」

 

いつまでもうじうじしているナオミに我慢できなくなったのかアンジュが怒鳴りだした。

 

「みんなは貴女を受け入れるって言ってるのよ!

それなのに貴女はそれを拒むの!?」

 

「でも・・・私・・・」

 

「でもじゃない!どうなの!?貴女の本心は!?」

 

「私・・・わたし・・・」

 

「・・・ナオミもコックピットを開けてくれ!」

 

メビウスがコックピットを開放し、出てきた。ナオミも同じように出てくる。

 

メビウスは大きく息を吸った。そして次の瞬間、

ある事を言った。

 

 

 

「ナオミ!俺はお前が好きダァァァ!!!

 

 

 

 

 

メビウス以外の体感時間が数秒間止まった。

 

「・・・え?」

 

数秒の後に、ナオミが言えた一言である。

 

「ナオミ。以前アルゼナルで聞いた事を覚えてるか?」

 

「以前・・・?」

 

「聞いたよな?アルゼナルがなくなったらどうするかって」※41話参照

 

「今ならはっきり答えられる!」

 

「俺、夢ができたんだ!ナオミと一緒に店がしたい!どんな場所でやるとか、何人でやるとか、人気メニューとか、二階がどうとか、子供の数とかは、まだ決めてない!!」

 

その言葉は以前タスクがアンジュに語った内容に

酷似していた。

 

「タスク!あんたメビウスになにを教えたの!?」

 

「ええっ!?俺は何も教えてないよ!」

 

「二人とも!黙ってなさい!」

 

アンジュとタスクの口論をサリアが咎めた。

 

恋愛小説が好きな彼女にとってこの様なシチュレーションはまさに夢見た光景とも言える。

 

「でも俺は!お前と一緒にいたいんだ!!」

 

「メビウス・・・」

 

「お願いだナオミ!帰ってきてくれ!」

 

「・・・いいの?」

 

 

 

 

 

ナオミが地下牢にいた時に遡る。

 

「メビウス・・・私・・・わたし・・・」

 

「全く。君はメビウスが好きなんだね」

 

地下牢の前にある男が現れた。そこにはナオミを

地下牢にぶち込んだ張本人がいた。

 

「エンブリヲ・・・」

 

ナオミは目の前の存在を睨みつけた。

 

「おやおや。私を信じて付いてきたのに都合が悪くなるとそうなるのかい?」

 

「そっ・・・それは・・・」

 

騙されていたとはいえ、エンブリヲに付いてきたのはナオミ自身の判断である。そのためナオミには

強く反論ができなかった。

 

「・・・メビウスを釣る餌として私を、私を釣る餌としてココやミランダを利用して!」

 

「怒っているのかい?その怒りは何処からかな?」

 

「メビウス。それにココとミランダ。私を利用して三人を、いや、皆んなを弄んだ事。怒らないと思う?」

 

「そこで一番にメビウスの名前をだすとは。やはり君は・・・」

 

「それ以上言わないで!」

 

「そんなに好きならば、メビウスにその気持ちを

伝えてみたらどうだい?」

 

「それは・・・」

 

エンブリヲの言葉にナオミの言葉は詰まった。

 

「出来ないよね。メビウスに酷いことをした君じゃぁねぇ」

 

あの時、メビウスはナオミ達を仲間と言った。

 

そんな彼に私はいったいなにをした?

 

鹵獲する為に高圧電流を流し込んだ。

 

鹵獲されたメビウスはどうなった?

 

心を壊され、半ば廃人と化していた。

 

復活しても、今度は私のせいで一方的に殴られていた。

 

これまでの事を思い返してみても、決して良いものはない。

 

「それに実力の差もある。戦闘では背中を守るどころか足を引っ張っている」

 

「そんな君がメビウスとお似合いなわけないだろ?例えるならそれは月とスッポンだ」

 

「もういい!どっかにいって!!」

 

ナオミが近くの物をエンブリヲに投げつける。それらはエンブリヲの身体をすり抜けた。

 

エンブリヲの放つ言葉の一言一言が今のナオミを

追い詰めるのには充分であった。

 

それがエンブリヲの狙いでもあるのだが。

 

「私がその不安から解放してあげよう」

 

エンブリヲの指がナオミに触れる。途端に意識が

朦朧とし始めた。

 

「なに・・・なにを・・・したの」

 

「なに。私はこれで様々な人を解放してあげた。君の知ってる人もね・・・」

 

その言葉を最後に、ナオミの意識は閉ざされた。

 

エンブリヲが行ったのは精神制御である。

 

だが薄っすらとではあるが、彼女の意識は残されていた。彼女は全てを見ていた。

 

自分がメビウス達に砲撃する所も・・・。

 

「ナオミ。待ってろ!絶対に助ける!絶対に助け出す!!」

 

その言葉にナオミの自我は完全に覚醒した。

 

メビウスは変わっていなかった。優しいままのメビウスだった。

 

仲間思いな、私の好きなメビウスのままであった。

 

まさにメビウスは光り輝いていた。それこそ私みたいな汚れた女とは比べものにならない程に。

 

(隣にはいられない。いや、違う。いちゃいけないんだ)

 

この時ナオミは別れを決意した。

 

仲間思いな彼の事だ。多分手を差し伸べ様とする。

 

なら仲間じゃなくなれば、気を遣わせる事もない。

 

ココとミランダの二人を私の道連れにはしたくない。

 

死ぬのは私一人でいい。

 

だから戦った。メビウスと。

 

でもメビウスには気づいてた。最初っから。

 

「やっぱりメビウスは凄いね。私なんかとは比べ物にならないよ」

 

「実力を気にするな。俺はナオミの実力が好きなんじゃない。ナオミが好きなんだ」

 

「・・・ねぇ。本当にいいの?・・・私・・・なんかで・・・」

 

その目からは何故か涙が溢れていた。だが決して

悲しいから泣いているのではない。

 

「あぁ。側にいて欲しい!寄り添っていて欲しい!ずっと!」

 

「・・・ありがとう。メビウス」

 

「私は、投降します」

 

ナオミが投降のサインをだした。

 

「ジャスミン」

 

「わかってる。受け入れるよ」

 

「ありがとう。お帰り。ナオミ」

 

ナオミが帰ってきた。その事にアンジュ達は喜んだ。何よりメビウスが一番喜んでいた。

 

 

 

 

 

その時だった。

 

「やれやれ。まさかこのような展開になるとはね」

 

その言葉と共に皆の目の前にはあのラグナメイル。そして変態ストーカー男が現れた。

 

「エンブリヲ!」

 

「まさかナオミにまで裏切られるとは」

 

その割にはあまり残念そうにはしていなかった。

まるでこうなる事が予想できていたみたいな

態度であった。

 

「サリア。クリス。エルシャ。ナオミ。一応聞いておくが私の元に戻る気はないかな?」

 

「はっきり言うわ。ない」

 

「もう甘い言葉には騙されない!」

 

「貴方の作る世界を、私は否定します」

 

「私はメビウスと共に歩む」

 

四人はエンブリヲをはっきりと拒絶した。

 

「そうか。それは残念だ。では・・・」

 

【パチン】

 

エンブリヲが指を鳴らした。するとそこにビクトリアとエイレーネが現れた。

 

「ココ!ミランダ!」

 

「まさか!」

 

「彼女達にもう利用価値はない。引鉄はナオミ。

君が引きたまえ」

 

「えっ!機体が、勝手に!!」

 

するとザ・ワン・ネクストが勝手に動き出した。回れ右をし、右腕の鉤爪からエネルギーチャージがされている。

 

その先にはビクトリアとエイレーネがいた。二機とも微動だにしてなかった。

 

「まさか!エンブリヲ!」

 

「せめてもの手向けだ。同期の手でその命を

再び散らすといい」

 

「ココ!ミランダ!避けて!!」

 

その言葉の次の瞬間、右腕のからデスシザー・レイが放たれた。それは真っ直ぐココとミランダへと突き進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メビウスの脳内である光景がフラッシュバックする。かつて二人を見殺しにした記憶が鮮明に蘇る。

 

精神世界でアウラと会った時の言葉が蘇る。

 

(ですがこれだけは忘れないでください。同じ悲しみだけは繰り返さないと)

 

「もう俺は!同じ悲しみを繰り返さない!!」

 

次の瞬間、二機をその攻撃から庇う様にフェニックスが割って入った。

 

アイ・フィールドの張れなくなっていたフェニックスに、その攻撃は直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

そう。胸部のコックピットに・・・

 

フェニックスの胸部には穴が空いた。そしてフェニックスは糸の切れた操り人形の様に落下していった。

 

「え・・・? メビウス!?メビウス!?」

 

ナオミは、既にコントロールが戻っていたネクストでその後を追いかける。

 

「おい!メビウス!返事しろよ!」

 

「メビウス!応答したまえ!」

 

「メビウス!返事しなさい!メビウス!」

 

尚もアンジュ達も無線で呼びかける。だが返事は一向に返ってこなかった。最悪の結果。それが一瞬

頭をよぎった。

 

「・・・ふっふっふっふっふ」

 

「あーはっはっはっはっは!愉快!実に愉快だ!」

 

エンブリヲが突然笑い出した。その笑い声はどう聞いても常軌を逸していた。

 

「まさかここでイレギュラーが勝手に自滅するとは!つまらない仲間意識の結果がこれとは!実に

滑稽だ!これで私の邪魔をする者の脅威が減った」

 

その言葉に皆が激昂した。

 

「あんた!!メビウスのした事が滑稽だというの!?」

 

「あぁ。まさにその通りだ。無駄な事を・・・」

 

「いや。それが彼のやり方か。一人傷つき、ボロボロに朽ち果てる。いや、それはナオミもそれに当てはまるか。似た者同士は惹かれあうか」

 

「変わらんな貴様は!!そうやって人の心を弄ぶ!!」

 

ジルがエンブリヲを睨みつけた。

 

「アレクトラ。君も以前は私にその身を委ねてくれたじゃないか」

 

「あぁ。その結果、全てを失った」

 

十年前の事だ。当時アレクトラには好意を持っている人物がいた。

 

その名はイシュトバーン。そう、タスクの父親だ。

 

無論、妻子持ちの彼にそんな気持ちを伝えられるはずもない。

 

リベルタスの際には、その心の隙に付け込まれたのだ。

 

「さて。少しだけ予定を変更しよう」

 

【パチン】

 

「あれ・・・私・・・一体」

 

「私・・・なにを・・・」

 

エンブリヲが指を鳴らした瞬間。ココとミランダの二人が正気に戻った。

 

「ココ!ミランダ!」

 

「二人の調整を解除してあげた。今の二人は君達の知っているココとミランダだ。そして・・・」

 

エンブリヲが永遠語りを歌い出した。

 

「これから消える事になる」

 

機体が金色に輝き、両肩が開かれた。

 

「さようなら。二人」

 

ディスコードフェザーが放たれた。

 

「ココ!ミランダ!」

 

ヴィルキスがその間に割って入り、ディスコードフェザーを撃ち返し、対消滅させる。

 

「アンジュリーゼ様!?」

 

「二人とも!あの艦に行きなさい!あそこにジャスミンやマギーもいるわ!」

 

「アンジュリーゼ様。私達一体・・・」

 

「あとで話す!今は二人とも行きなさい!」

 

「はっはい!」

 

アンジュの言葉を受け、二人はアウローラへと着艦した。

 

「やれやれ。まさかヒステリカ以外のラグナメイルを奪われるとは。まぁいい」

 

エンブリヲは余裕を崩していなかった。それは

切り札を残している者の余裕であった。

 

「さてと。それでは君達の相手にこれをぶつけよう」

 

【パチン】

 

再びエンブリヲが指を鳴らした瞬間。突然何かが現れた。それは触手だった。

 

「危ねぇ!」

 

全機なんとか回避に成功した。

 

「これは!?」

 

目の前には化け物が現れた。特徴を言うならその化け物はこの世の醜態の塊であった。

 

「なんだこいつ!?」

 

皆が眼前のそれに驚いていた。だがその正体をZEUXISは、アンジュとタスクとヴィヴィアンは

予想していた。

 

「ビースト!?」

 

「クトゥーラ。今の私の最高傑作のビーストだ」

 

「ビースト!てめぇメガフラシに続いてそんなもんまでこしらえてたか!」

 

ZEUXISメンバーが怒る。彼等からしたらエンブリヲの個人的な欲求の為に未来世界ではこんなのが現れてるのだ。

 

「あのメガフラシが何なのかはわからない。だがあのビーストのおかげでメビウスが死ぬ間接原因が

出来たなら喜ばしい事だな」

 

「さて。あまりアンジュを傷つけない様にしたまえ」

 

すると触手達はアンジュ達めがけて迫ってきた。

 

「全機回避!」

 

皆が期待をそれぞれに動かす。だがその触手は回避した機体全てに命中した。

 

その速さと正確さはかなりの代物である。

 

「さてと。今回は他の邪魔者達の処理に加わるか」

 

エンブリヲもこの戦闘に加わった。

 

「背を向けたら負けだ!攻めるんだ!」

 

皆が交戦する。

 

だが先の戦闘で既にパイロットの集中力などは既に擦り切れていた。

 

だがそれでも引くわけにはいかない。ならば戦うしかない。

 

皆が死を覚悟して戦いだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちらは、メビウスとナオミサイドである。

 

あの後フェニックスは地面に叩きつけられた。機体そのものが俯せていた為ネクストでひっくり返す。

 

胸部は完全に貫通していた。そしてそこにメビウスもいた。

 

「メビウス!待ってて!今助けるから!」

 

機体のボックスから医療キッドを取り出し、メビウスの身体をコックピットから引きずり出した。

 

「!そんな・・・」

 

その体は右下半身が消し飛んでいた。そこから血が止めどなく溢れている。怪我の状態はナオミが始めてメビウスと会った際よりも酷い状態である。

 

はっきり言って、誰がどう見ても死んだと思うだろう。

 

「いや・・・いや!いや!」

 

ナオミは目の前を光景を必死に否定する。医療キッドを使い手当をするがその効果ははっきり言って

焼け石に水以下の効力しかない。

 

「メビウス!メビウス!ねぇ、返事をして!お願い!メビウス!!」

 

「ナ・・・オミ・・・」

 

メビウスが微かな目を開けた。

 

「なぁ・・・ナオミ。俺、今度こそ二人を・・・

助けられたか?」

 

「うん。二人とも無事だよ!」

 

「そうか・・・よかった」

 

「あれ・・・?ナオミの顔が・・・掠れて・・・見えねぇ」

 

メビウスが手をナオミに向けた。その手はナオミの頬に触れた。その手はとても冷たくなっていた。

今もなおその手は冷たくなっていく。

 

「メビウス!死んじゃダメ!生きて!」

 

「あれ・・・変だな・・・身体が・・・冷てぇ・・・でもよ・・・なんかこう・・・あったけぇもんがある・・・」

 

メビウスはナオミに微笑んだ。

 

ナオミを不安させない為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナオミは・・・あったけぇな・・・」

 

ナオミの頬から手が滑り落ちた。その手の跡の様に頬には血の跡がべっとりとついた。

 

そしてメビウスはナオミの膝の上で静かに目を閉じた。

 

メビウスの心臓は止まった。

 

メビウスは・・・死んだ。

 

「メビウス!?メビウス!!メビウスゥゥゥゥ!!!!






本来ナオミがメビウスの役割を担う予定でしたが悩んだ末、変えさせてもらいました。

そして、そろそろ第9章もクライマックスです!

予告しておきますが第10章はオリジナルシナリオです。

あと若干ですが投稿ペースが遅くなります。

果たしてメビウスはどうなってしまうのか!?


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第78話 Neo Maxima Over Drive System

タイトルナゲェ!

前回のあらすじ!

遂にナオミがメビウス達の所に帰ってきた!

そんなナオミに対してエンブリヲは用無しとなったココとミランダを殺そうとする。

それらを庇いらフェニックスは地に堕ちた。

更にエンブリヲの創り出したビースト。クトゥーラが立ち塞がる。

そんな中、メビウスの命は、ナオミの腕の中で息絶えた。

果たしてメビウスはどうなるのか!?

それでは本編の始まりです!




「こいつ!なんて触手してやがんだ!」

 

現在ZEUXISのメンバー。ナーガとカナメの二人はビーストの相手をしている。だがその数は一対多数ではない。

 

なぜならクトゥーラは敵の数に合わせて触手を出している。つまりクトゥーラさえ倒せば一気に敵は殲滅できる反面、こいつを倒さない限り敵は無限に

湧いてくるのだ。

 

ドラゴン達もクトゥーラを倒そうと援護をするが、全て触手によって薙ぎ払われていった。

 

何より、パイロット達にも限界が近づいていた。

 

いや、限界などとうに通り越していたのかもしれない。

 

「あのビースト!これまで戦ってきた奴より強い!」

 

「はあっ、はあっ」

 

既に集中力は擦り切れていた。だが逃げる訳にはいかない。

 

後退できない。なら進むだけだ。

 

悲鳴のあげる自分の体に鞭打ちながら、彼等は戦っていた。

 

 

 

そしてアンジュ達も現在追い詰められていた。

 

アンジュ達は、エンブリヲの乗るヒステリカを何度か撃墜している。その度に、エンブリヲは機体ごと復活するのだ。いたちごっことはこの事だ。

 

更にその倒す事もかなり簡単ではなかった。

 

「悔しいけど、如何に私達がメビウスの力に甘えてたのか、はっきりとわかるレベル差ね」

 

「無駄だとわかったかい?ならもう抵抗はやめたまえ」

 

「悪いけど。最後まで足掻くのが私の主義よ」

 

ヴィルキスがヒステリカにライフルを放つ。

 

それらも、まるで何事もなかったかの様に防いだ。

 

「ん!?」

 

エンブリヲが何かに気がついた。

 

すると突然エンブリヲめがけて8つの牙が襲いかかってきた。エンブリヲは咄嗟にそれらを避ける。

 

「今のって!」

 

「ファングだ!」

 

皆がある場所を見た。そこにはザ・ワン・ネクストがいた。

 

「ナオミ!メビウスは!?」

 

アンジュ達が尋ねる。その答えをナオミは一言で呟いた。

 

「・・・死んだ・・・」

 

「え・・・」

 

ナオミの一言に戦闘中の皆が言葉を失った。

 

「嘘だよね・・・」

 

「心臓や脈を調べた。どっちも・・・止まってた・・・」

 

「そんな・・・」

 

皆が絶望に沈む中、ただ一人だけこの事態を喜んでいる存在がいた。エンブリヲだ。

 

「ほう。やはり死んだか。まぁ私としては嬉しい

誤算だがな」

 

エンブリヲのその言葉にナオミは怒りを剥き出しにする。

 

「エンブリヲ!私は貴方を絶対に許さない!!」

 

ネクストが鉤爪をヒステリか目掛けて放った。それらはシールドで簡単に防がれた。

 

「私が、メビウスの仇を!」

 

「おっ、おい!落ち着け!」

 

ゾーラ達の声も、今の彼女には届いていなかった。

 

今のナオミの戦闘スタイルを一言で表すなら猪突猛進である。計画も何もない。ただ目の前の存在に

怒りをぶつけるだけの戦いであった。

 

鉤爪からサーベルを展開して斬りかかる。それも

シールドで防がれた。

 

「無駄な事を。君では私に勝てない事を忘れたのかい?」

 

「もうあの時の私じゃない!」

 

アルゼナルが人間の襲撃を受けた時。ナオミはエンブリヲに戦いを挑んだ。

 

結果はナオミの惨敗。いや、あの時はそもそも勝負にすらなっていなかった。

 

「今の私にはネクストが!そして!メビウスの遺志を継いでる!」

 

「そして貴方を倒さなきゃ・・・メビウスに合わす顔がない!」

 

ガトリングとファングも攻撃に加えた。それらは

ヒステリカを確実に追い詰めていった。

 

「ほうっ。なかなかだな」

 

「そうやって他人を見下して!!」

 

「落ち着けナオミ!奴のペースに飲まれるな!」

 

だがナオミは止まらなかった。

 

やがてネクストがヒステリカに組みついた。

 

「もらった!」

 

するとネクストの胸部から砲身が現れた。

 

「まさか!!ネオマキシマ砲!?」

 

「あれの破壊力は知ってるはずよ!零距離で撃ち込めば間違いなくナオミも無事じゃ済まないわよ!」

 

「・・・まさか!?ナオミ、貴女!?」

 

アンジュにはナオミが何をしようとしているかが読めた。それはかつて、自分が初めてヴィルキスに

乗った時にしようとした事である。

 

「貴女!死ぬ気!?」

 

(メビウス・・・今行くから)

 

ナオミは静かに目を閉じ、砲身から光を放とうとした。

 

「馬鹿やってんじゃないわよ!」

 

ヴィルキスが紅く輝く。ミカエル・モードと言うやつだ。その手にはサーベルが握られた。

 

次の瞬間、それはヒステリカのコックピットを潰した。

 

直ぐにヴィルキスが青くなった。今度のはアリエル・モードである。それで一気にネクストを遠ざけた。

 

「ナオミ!一体なに考えてんのよ!」

 

ヴィルキスでネクストを殴りつけた。

 

「貴女さっき言ったわよね!メビウスの遺志を継いでるって!笑わせんじゃないわよ!貴女が死ぬ事がメビウスの遺志だとでも言うわけ!?」

 

「!!!」

 

その言葉にナオミはハッとした。

 

「冷静になりなさい。貴女が死んだら、メビウスが悲しむだけじゃなくて私達だって悲しい。

何よりメビウスが浮かばれないわ」

 

「みんな・・・」

 

「あいつは多分。貴女に生きて欲しいはずよ。だから生きなさい」

 

「メビウスはいつも命をかけて戦ってたわ。

でも今の貴女は命を捨てるつもりで戦ってる」

 

「命をかけて戦うのと命を捨てるつもり戦うのは

全く異なることよ」

 

「・・・ごめん。みんな。私また・・・」

 

ナオミが皆に謝った。

 

「気にする事はないわ。もし私達がナオミと同じ立場になったら、間違いなく同じ事をしたでしょうね」

 

「でもナオミ。私達はチームよ。辛いなら頼りなさい」

 

「みんな・・・ありがとう」

 

「涙ぐましい場面で悪いが、そろそろ諦めたらどうだい?」

 

嫌な声がした。そこには再び蘇ったエンブリヲがいた。

 

「ナオミ。素直に機体を明け渡したまえ。フェニックスがあのザマではもうザ・ワンしかないのだよ。君達も諦めたまえ」

 

「諦める・・・?断るわ」

 

「なに?」

 

ナオミの放った言葉にエンブリヲが不快になった。

 

「メビウスは最後まで諦めなかった。なら私も!

最後まで諦めるつもりはない!」

 

「私は戦う!生きるために!仲間達と一緒に!!」

 

 

 

 

 

その時だった。

 

ザ・ワン・ネクストが突然輝きだした。その光は

赤ではなく、白い輝きであった。

 

だがその輝きをアンジュとタスク。そしてヴィヴィアンは知っていた。

 

「あの輝き!まさか!」

 

「同じだ。フェニックスの時と」

 

未来世界でのエンブリヲの戦いの際、フェニックスは突然輝きだした。そして翼が生えた。

 

そしてザ・ワンという名前ではあるが、その正体はフェニックスと同じ機体である。

 

「まさか!フェニックスと同じ様に!」

 

ネクストの背中から翼が生えた。だがフェニックスとは違い、純白の翼であった。

 

「ザ・ワンが・・」

 

(違います)

 

「えっ!?この声・・・誰?」

 

ナオミの耳には謎の声が響いた。

 

(この機体はフェニックスと同じです。もうザ・ワンなどではありません)

 

(そうですね。フェニックスに似せて、ヘリオスなんてどうでしょう?)

 

「ヘリオス・・・」

 

(太陽を司る神、ヘーリオスをいじったものです)

 

「あの。あなたは・・・?」

 

(・・・この機体。フェニックスの製作者です)

 

「フェニックスの・・・」

 

やがて声は聞こえなくなった。

 

すると機体は突然降下し始めた。

 

「えっ!ちょっと!?ヘリオス!?」

 

「なにをする気だ!?やらせはせんよ!」

 

阻止しようとするヒステリカの前に、アンジュとサリア。そしてヒルダ達が立ち塞がった。

 

「悪いけど、ナオミの邪魔はさせないわよ!」

 

ヘリオスはメビウス達の元に降り立った。

 

そこにはメビウスの骸とボロボロになったフェニックスがいた。

 

「メビウス・・・フェニックス・・・」

 

すると突然翼がメビウスとフェニックスを包んだ。

 

モニターにはある文字が浮かび上がっていた。

 

《Neo Maxima Over Drive System》

 

翼が更に白く輝きを放っていた。やがて翼が開かれた。

 

そして、そこにはある人物がいた。

 

「・・・ここ・・・は」

 

「!!!!!」

 

その声の主にナオミ達だけでなく皆が驚いた。

 

「メ・・・ビ・・・ウス?」

 

そこにはメビウスとフェニックスがいた。メビウスには怪我一つなく、更にフェニックス自身も、何処も損傷している様子がなかった。

 

「ナオミ・・・俺、確か」

 

「貴様!死んでいたはずだ!それが生き返るなど!化け物か!?どうやって生き返った!?」

 

エンブリヲが言っていいセリフではないがエンブリヲの疑問も最もだ。彼は確かに死んでいた。

 

その彼が生きている。

 

驚くなという方が無理である。

 

そしてその疑問にはある人物が答えた。

 

「まだ、わかりませんか?自称、調律者?」

 

突然エンブリヲ目掛けて粒子砲が飛んできた。直撃を受けた。その方角を見るとそこには焔龍號がいた。

 

「サラ子!」

 

「今の話!どういうことだ!?」

 

エンブリヲが怒鳴る様にサラマンディーネに尋ねる。それにサラ子は冷静に答えた。

 

「あの後アウラから聞きました。かつてアウラが作り出した時間跳躍システム。それは本来なら廃れた地球の環境を復活させる為のシステム」

 

「それが、ネオマキシマオーバードライブシステムの、本当の目的」

 

「そうです。それは対象の物体を別の時間軸へと

送り出すものです」

 

「しかし、それが【対象の物体にだけ】跳躍効果を与えたらどうなりますか?」

 

「・・・まさか!?」

 

エンブリヲの中で今回のメビウス復活の答えがでた。

 

「そうです。メビウスの命は巻き戻されたのです。フェニックスと一緒に!」

 

メビウスが生き返った理由。それは単純に彼の中の時間が巻き戻ったからである。死ぬ前の彼に。

 

「バカな!!私以外で人を蘇らせるだと!?その

様な事が・・・あってはならん!あってはならん!!!」

 

エンブリヲは錯乱していた。今回は精神的にかなり追い詰められているらしい。

 

フェニックスの時点で時間を自由に超えられる様になったのだ。それに今回の死者蘇生の件だ。

 

それら二つとも、自分にしか出来ないとでも考えてでもいたのだろう。

 

だが、それら二つを別々だが使用できる存在が現れた。しかも普通の人間が。エンブリヲご自慢のこれら二つの専売特許は完全に崩壊したと言える。

 

「そうか。そういう事か・・・なら!」

 

メビウスはフェニックスへと駆け出した。

 

「メビウス!戦えるわよね!?」

 

「任せろ!フェニックス。お前もやれるんだな!!」

 

するとフェニックスが紅く輝きだした。背中からは翼が現れた。

 

その姿は未来世界で見せたあの最終形態であった。

 

「凄い。もう何も怖くないって言葉がよく似合うわね」

 

二つの機体が宙に舞う。その背中からは飛び立つ翼が生えている。

 

メビウスはヒステリカの方に向きはしなかった。

 

「エンブリヲ。お前の相手は今はしない。まずは

あのビーストから片付ける」

 

「待て!私はお前達を倒さなければ・・・」

 

エンブリヲの声など聞きもせずにメビウス達は

クトゥーラへと目指した。

 

こちらではZEUXISのメンバー達とナーガとカナメがクトゥーラ相手に押されていた。皆既にボロボロであった。

 

「みんな!下がってろ!こいつの相手は任せとけ!」

 

「メビウス!?本当にメビウスなのか!?」

 

皆が驚く。ZEUXISの皆は復活の成り行きを聞いていない為無理もないが。

 

「詳しい事は後で話す!それより今は!」

 

触手がフェニックスとヘリオスめがけて迫ってきた。

 

【ザク】

 

それらの触手は皆デスカリバーの前には紐同然であった。触手はボトボトと叩き斬られていった。

 

「いけ!ファング!」「ファング!行って!」

 

フェニックスとヘリオスの羽からファンネルが形成された。それらはクトゥーラめがけて突き進んで来た。

 

触手を全て蹴散らし、胴体に空いている穴へとファングは入っていった。

 

次の瞬間、ファングは一斉に内部から粒子砲を放った。これによりクトゥーラの身体は内側から炎上した。

 

燃えているクトゥーラを皆が見ていた。

 

するとそこにヒステリカが現れた。

 

「許さん・・・許さんぞ!私を悉くコケにしてぇ!」

 

珍しくエンブリヲが感情を剥き出しにしていた。

 

「私が貴様達に裁きを・・・」

 

次の瞬間、ヘリオスがヒステリカに斬りかかった。

両脚が斬り落とされた。

 

「貴方と遊ぶ余裕はない!」

 

ライフルと剣も破壊された。

 

かつて、エンブリヲがナオミにした事が自身に返ってきたのだ。

 

そして次の瞬間、ヒステリカめがけて二機の翼からフェザーファングが放たれた。

 

永遠語りでディフコードフェザーを使おうとしたが、次の瞬間には目の前にはファングが迫っていた。

 

機体は無数のファングにより、粉々に散った。

 

何故かそこから、エンブリヲは蘇ってこなかった。

 

「エンブリヲ・・・復活しないわね」

 

「あいつ。死んだのか?」

 

「いや。おそらくあいつは生きてる。多分何か緊急事態が発生したんじゃないかな?」

 

「そう。あの変態にそんな用事あるのかしら?まぁそれより」

 

皆がフェニックスへと視線を向けた。

 

「メビウス。本当にメビウスなんだよね!?」

 

ナオミはメビウスに通信を送る。メビウスはコックピットから出てきた。

 

「あぁ。俺はメビウスだ。足もある。幽霊じゃない。その・・・心配かけたな」

 

メビウスが申し訳なさそうに謝罪した。

 

するとナオミもコックピットから出てきた。

 

「よかった。また・・・会えた・・・」

 

お互いが泣いていた。何故涙が出たのか。

 

二人には分からなかった。

 

だがこれだけはわかっていた。

 

嬉しい事だけは。

 

「・・・ねぇ、ナオミ・・・」

 

「サリア。やめなさい」

 

サリアがナオミに通信を送ろうとしたが、それを

アンジュが止めた。

 

「今は二人だけで再開を喜ばせましょ」

 

「・・・そうね」

 

メビウスとナオミ以外の皆は静かにメビウスの復活を喜んだ。

 

しばらくしてアンジュはサラマンディーネの方を

向いた。

 

「ねぇサラ子。貴女が来たってことは」

 

「はい。アウラが目覚めたのです」

 

アウラが遂に目覚めた。ラスト・リベルタスの目標は果たされたのだ。

 

「そう。ジャスミン。艦内に外の景色を写して。

アクセリオンも」

 

外の景色がブリッジなどに映し出された。

 

「さてと。それじゃあ後はアウラが出てくるのを待つだけね」

 

皆がメインシャフトの方を向いた。

 

「・・・」

 

そんな中、ZEUXISの皆は何かを考えていた。

 

「・・・ネロ艦長。未来世界の事を考えているのか?」

 

「あぁ。マナの光はこの世界から消える。人々はその事を恐れた。そして・・・」

 

破滅の未来。ノーマを作り出す為だけの無意味な戦争。その事を考えていたらしい。

 

「ネロ艦長。私にいい考えがあるわ」

 

アンジュには何か考えがあるようだ。

 

「その考えとは?」

 

「真実をぶちまけてやるのよ。腐った国の家畜どもに」

 

「そんな事をしたら混乱になるぞ!」

 

「いや。それでいいのかもしれないな」

 

タスクが止めようとするがメビウスはそれを進めた。

 

「あいつらは知らなくてはならない。マナの光の

正体を。自分達がいかに愚かな事をしてきたのか」

 

「私も賛成だ。ここで真実を伏せればおそらく例の未来の繰り返しになるだけだ。ならば知って、

これからの未来を考えさせるべきだ」

 

ネロ艦長もアンジュの意見に賛成した。

 

だがその言葉は何処かぎこちなかった。

 

「・・・ネロ艦長。悩みがあるみたいですね」

 

ワイズナーが切り出した。

 

「あぁ。今回の戦い。一つだけ気になることがある」

 

「気になる事?」

 

皆が口を揃えて尋ねた。

 

「・・・ブラック・ドグマの事だ。奴等がこの戦いに現れなかったのは不自然だ」

 

その言葉に皆がハッとなる。

 

確かにミスルギ皇国は、いや、エンブリヲはブラック・ドグマと手を組んでいた。

 

更に向こうにはガーナムがいる。彼はメビウスを狙っている。その彼まで現れないのは少々不自然だ。

 

「そういえば、そうだな」

 

「ミスルギ皇国の相手で忙しいからすっかり忘れてたぜ」

 

「サリア達。貴女達は何か知らない?」

 

「いえ。ダイヤモンドローズ騎士団として活動してた時には、ブラック・ドグマの事はエンブリヲからは一度も聞いてないわ」

 

「・・・何かが変だ。何かが・・・」

 

 

 

 

 

次の瞬間だった。

 

両艦内に警報が鳴り響いた。

 

「!?高熱源反応接近中!!」

 

「なんだと!?」

 

皆が驚いた。戦いは終了したものとばかり考えていたからだ。

 

アクセリオンの艦内では更なる動揺が襲っていた。

 

「この反応・・・マキシマです!」

 

「マキシマだと!?馬鹿な!!」

 

「マキシマってあれよね!フェニックスのエンジンのネオマキシマの簡易型でZEUXISのデルタ・メイル達のエンジンの!」

 

マキシマ。それはフェニックスに搭載されている

ネオマキシマエンジンを簡易化させたものである。

 

だがその反応は本来ならありえない。

 

何故ならマキシマエンジンはZEUXISだけが知っているからだ。

 

唯一の例外が、エンブリヲが持っていたザ・ワンだけである。

 

この後、更なる波紋が皆を襲った。

 

「位置特定しました!ってこれ!真上です!!」

 

「真上ぇ!?」

 

皆が上を向いた。

 

次の瞬間、眩いばかりの閃光が皆を襲った。

 

「ウワァァァァァァッッッ!!!」

 




今回で第9章はおしまいです!

流石にメビウスを死なせた状態でオリジナルシナリオに突入するのはあまりにも悲しいと思い、
復活させました。

死なす必要あったか?

死なさないとヘリオスのが覚醒がしょぼいと思い
死なせました。
(名前を変えたのは趣味)

因みに白色にしたのはあくまで区別様にです。


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第10章 破滅の未来で・・・
第79話 再び未来へ




今回から第10章です!

今回からオリジナルで残してきたツケの支払いに力を入れます!

なのでアニメ最終回はもう少し先の予定です!

前回のあらすじ!

メビウスの命が尽きた。

ナオミは敵討ちでエンブリヲに挑み、死のうとしたがアンジュ達の叱責により立ち上がった。

その時不思議な事が起こった!

なんとザ・ワンがヘリオスとなり、最終形態へとなった。

そして時間跳躍によりメビウスが生き返ったのだ!

互いが最終形態となったフェニックスとヘリオス。

それらの力によりクトゥーラとエンブリヲは撃退された。

あとはアウラを待つだけであった。

その時!突然上空からマキシマ砲が放たれた!

果たしてどうなるのか!?

それでは本編の始まりです!


 

 

現在アウローラとアクセリオンはミスルギ皇国へと不時着していた。そして皆が外へと出ていた。

 

それぞれの視線の先には1匹のドラゴンがいた。

 

「あれが・・・アウラなのね」

 

アウラ。神聖にして原初のドラゴン。

 

あの砲撃の瞬間、アウラがシャフトから飛び出して、マキシマ砲の直撃を受けたのだ。マキシマ砲はドラグニウムと構造が似ている為、それらを取り

込んだというわけだ。

 

それがなければおそらく皆が死んでいただろう。

 

アウラはこちらを見た。そしてその後残ったドラゴン達と一緒に特異点の穴へと消えていった。

 

するとZEUXISメンバー達がやってきた。皆真剣な面持ちである。

 

「先程の砲撃を確認したところ間違いない。あれは巨大な砲身から放たれたマキシマ砲だと結論づいた」

 

「でも、マキシマって確かZEUXISだけの装備の

はずだよな?」

 

その通りである。マキシマがZEUXIS以外の組織に渡るなどあり得ない。

 

ある一つの可能性を除いて。

 

「・・・エンブリヲ。あいつが手を回した可能性がある」

 

エンブリヲはヘリオスを所持していた。もし、そのエンジン、ネオマキシマエンジンの解析に成功したのなら、決して出来ない芸当ではない。

 

 

 

その時だった。

 

突然、空に巨大なモニターが映し出されたのだ。

 

「なっなんだぁ!?」

 

皆がそれに驚いた。

 

モニターには仮面で顔を隠している老人の様な存在が映し出された。

 

「初めまして。旧人類の皆さん。私はブラック・ドグマの首領ベノムです」

 

「ベノム・・・」

 

ネロ艦長がその名前を呟いた。

 

「こいつがブラック・ドグマのトップか?」

 

メビウスがネロ艦長に尋ねる。

 

「おそらくな。こうして姿を見るのは私も初めてだ」

 

演説は尚も続けられていた。

 

「まず始めに、私達は選ばれた人間達なのです」

 

「諸君らはマナがなぜ使えなくなったのかお分かりかな?それは諸君らが人間とみなされなくなったのだよ。諸君らは反社会的な化け物。ノーマである!」

 

「そんな諸君らが作る未来は滅びと破滅でしかない」

 

「愚かしい旧人類どもよ!我々にひれ伏せ!それこそが唯一の愚かな旧人類が生き延びれる道である!」

 

「旧人類の猿どもにはこの言葉がわからないだろう。だが、比較的賢き存在なら私の言葉が理解できるはずだ」

 

「もし諸君らが拒絶すれば、聖なる光

【エグゼキューター】が諸君らを滅するだろう!」

 

「既にエンデランド連合に、そしてミスルギ皇国にその力を証明した」

 

「賢き者は生き延びれるだろう」

 

「だが!愚かな旧人類どもは!滅びの時を迎えるまで精々怯えて過ごすがいい!」

 

そう言い映像は切れた。

 

「なんだこの茶番は・・・!!」

 

メビウス達は怒りを露わにしていた。

 

「なにが選ばれた人間達だ!勘違いも甚だしい!!」

 

「綺麗事を並べたって、所詮は軍事力を持ってきたやつらは結局は武力制圧する事しか考えてないんだ!」

 

「なんだあいつら!?いきなり出てきて人を馬鹿にして!舐めてんのか!?」

 

あの演説の内容はとてもじゃないが受け入れられるものではなかった。

 

「ネロ艦長。これは」

 

「・・・成る程。繋がった。何故ブラック・ドグマがこの戦闘に介入しなかったのか」

 

「恐らく未来で人類進化連合と全面戦争となり、そして滅ぼしたのだろう。だからこうして攻めてきたのか」

 

「まさかあいつら!初めからミスルギを切るつもりだったのか!」

 

その時ある疑問が浮かび上がった。

 

「ちょっと待てよ・・・あいつら、愚かな猿どもを滅ぼしたとか言ってたぜ。まさか・・・」

 

「奴ら!人類進化連合に関わっている国の人間を

皆殺しにでもしたのかよ!?」

 

その言葉が皆に重くのしかかってきた。

 

「まさかエグゼキューターが完成していたとは」

 

「ネロ艦長はあの兵器を知っているのですか?」

 

ワイズナーが疑問に思い尋ねた。ネロ艦長の口ぶりはその存在を知っているようであった。

 

「聞いたことがある。エグゼキューター。人類進化連合が極秘裏に作っていた兵器のはずだ。まさか

それを奪取していたとは・・・」

 

「エグゼキューター。死刑執行人って意味か。

御大層名前だぜ」

 

その時だ。

 

背後から気配を感じた。一人や二人などの生易しい数ではない。大衆である。

 

「どうやら、私達【ノーマ】に客のようね」

 

アンジュ達が振り返った。

 

そこにはマナが使えなくなったミスルギ国民達がいた。

 

「ノーマどもめ!マナが使えなくなったのはお前達の仕業だな!?」

 

「あの災害も!貴様らの仕業だな!!」

 

「あの映像も!全部お前達の仕業だな!!」

 

八つ当たりもいい所である。

 

人によっては足元に転がっている石を投げつけてきた。

 

「なんだよこいつら・・・狂ってやがる」

 

「これが・・・魔法の国の住人・・・?」

 

ZEUXISのメンバー達、そしてココとミランダ達も目の前の人間達に幻滅していた。

 

目の前の人間達の醜さに、身勝手さには、とてもじゃないがついていけなかった。

 

「ノーマは消えろ!」

 

「化け物は消えろ!」

 

「死ね!」

 

口々に罵声が飛んできた。

 

愚か者!!!

 

突然ネロ艦長が大声で怒鳴りつけた。その声に皆が驚いた

 

「わからんのか!貴様らのその歪んだ感性があの

演説を、そして破滅の未来を生み出したのだ!」

 

ノーマへの差別意識。それがなければ、少なくてもあの戦争はなかったはずだ。

 

「もし!貴様らに少しの人間らしさが残っているなら!未来を見据えて少しは考えて行動しろ!!」

 

破滅の未来。その世界からしたら今のこの世界は恵まれている。それなのにこの様な事が起きていれば怒るなという方が無理である。

 

「ば・・・化け物が偉そうに」

 

【バァン!】

 

その時、乾いた音が響いた。

 

音の発生方向を見るとそこにはメビウスが銃を握っていた。だがどこか雰囲気が違っていた。

 

「10秒だけ待ってやる。今すぐ消えろ」

 

メビウスは目の前の存在に対して殺意を剥き出しにしていた。

 

「ひっ!なっ・・・なにを!」

 

「10、9、8、7・・・」

 

「ヒェェェ!」

 

「たっ助けてクレェ!」

 

感情の一切込められていないそのカウントにミスルギ国民達は怯え、散り散りと逃げていった。

 

「メビウス・・・貴方・・・」

 

驚くアンジュ達に向かいメビウスは一言言った。

 

「今の俺はメビウスではない」

 

その言葉でZEUXISメンバー達はある人物だと確信した、

 

「シグ・・・シグなのか!?」

 

シグ。メビウスが生み出したもう一つの人格。

 

「そうだ」

 

「目覚めたのか」

 

「あぁ。安心しろ。今はメビウス人格と入れ替わっている。俺はメビウスの影だ」

 

シグはメビウスと命を共有している。一度メビウスが死んだ際にシグも死んだのだ。そして蘇った際にシグも復活したのだ。

 

「ありがとう。シグ」

 

シグの人格とメビウスが入れ替わった。

 

基本はメビウスの人格でいくらしい。あの様な下衆相手にはシグで挑むわけだ。

 

「とりあえず邪魔者は追っ払ったみたいだな」

 

「とりあえず一度ここを離れるぞ。今後の事を考えねば」

 

ネロ艦長の一言で皆が艦に向かって歩き始めた。

 

「みんな。少しだけ待ってくれない?」

 

不意にアンジュが言い出した。

 

「ちょっと、目を覚まさせなきゃいけない人物がいるの。そこに行ってくる」

 

そう言いアンジュは物陰へと向かった。

 

するとそこにはシルヴィアがいた。

 

「久しぶりね。シルヴィア」

 

「ひっ!」

 

シルヴィアはそこで只々怯えていた。

 

するとアンジュはシルヴィアの車椅子を蹴り飛ばした。それによりシルヴィアは地面に倒れこんだ。

 

「なにをする!」

 

「足、治ってるんでしょ?とっくの昔に」

 

「なっ・・・!なにを・・・」

 

アンジュの言葉にシルヴィアは動揺している。

 

「立とうとしないから立てないだけだけよ」

 

するとアンジュはシルヴィアに銃撃をした。

 

「ひぃっ!たっ・・・助けて!」

 

次の瞬間、恐怖のあまりシルヴィアは立ち上がった。彼女の足は治っていたようだ。

 

だが、その事にシルヴィア自身が一番驚いていた。

 

「戦いなさい!一人で生きていく為に!それが姉としての最後の言葉よ。もう二度と会う事はないでしょうね」

 

「さよなら。私のたった一人の妹・・・」

 

そう言うとアンジュは来た道を引き返した。

 

その場にはシルヴィアだけが残された。

 

「お姉さま・・・」

 

 

 

 

アンジュがアウローラに戻ってきた。

 

「この場を離れよう。長いは無用だ」

 

そう言いアウローラとアクセリオンはミスルギ皇国から立ち去った。

 

既に向かう先は決まっていた。エンデランド連合だ。

 

「!!これは・・・」

 

かつてエンデランド連合があったであろうその場には、巨大なクレーターだけが残されていた。

 

「マジでやりやがったのかよ。あいつら・・・」

 

ヒルダが壁を思いっきり叩いた。

 

「ヒルダ。大丈夫?」

 

アンジュがヒルダを気にかける。

 

エンデランド連合はヒルダの母と妹がいた所でも

あるのだ。

 

「あぁ・・・もう吹っ切れてる」

 

口ではそう言うが内心では泣いていた。

 

捨てたとはいえヒルダにとっては母である。子が親にもつ情はそう簡単に捨てられるものではない。

 

「アウローラ。そちらの主要メンバーをアクセリオンに来させてくれ。少し話し合いたい」

 

ネロ艦長が通信を送った。

 

パラメイル隊の皆、そしてジルとジャスミン。サラマンディーネ達がアクセリオンへと来ていた。

 

ここで今後の事を検討するらしい。

 

「さて。まずはラスト・リベルタスの成功、協力者として心よりお祝い申し上げる」

 

本来ならもう少し華やかになるはずだったが事態が事態な為、あまり浮かれてはいられない。

 

「さて、諸君らはこの後どうする」

 

ネロ艦長が真剣な表情でアンジュ達を見た。

 

「この後、私達はドラゴン達のいた地球に移ろうと考えてるわ。それでラスト・リベルタスは完了する」

 

「あら、私達としては構いませんよ。貴方方のおかげでアウラが解放されたのです。

 

どうやらアンジュ達とサラマンディーネ達の間ではその様な約束が決まっていたらしい。

 

「皆さんもよければご一緒に・・・」

 

「・・・すまないが今は遠慮させてもらう」

 

その言葉に皆が驚いた。更に次の言葉にも驚かされた。

 

「我々は一度未来世界に戻る。ブラック・ドグマの暴走を止めなければ」

 

「未来に帰るの!?あの廃れた世界に!?」

 

アンジュが驚いた。未来は廃れているばかりかビーストまでいるのだ。驚くなという方が無理である。

 

「・・・正直に言おう。我々としてはこの世界には愛想が尽きている。あの大衆。目の前の現実を直視せずノーマを理由に数頼みで寄ってたかって・・・吐き気を催した」

 

「あんな奴らの為にこれまで頑張ってきたと考えると非常に不愉快だ」

 

ネロ艦長が吐き捨てるように言う。

 

「・・・だが、どんな連中でも、どんな世界でも命が無下に扱われるような事はあってはならない」

 

「そしてこれは未来世界の問題だ。我々でブラック・ドグマと戦うしかない」

 

「戦うって、その戦力でか!?死にに行くようなもんだぞ!」

 

ZEUXISの戦力はメビウスを含めたとしてパイロットは五人しかいない。それに戦艦が一隻加わる程度ではたかが知れている。

 

しかもミスルギ皇国での戦いで受けた傷なども全く補完されていないのだ。

 

「向こうには基地もある。そこで補給するさ」

 

「それでも無理があるわよ!それなら私達も協力するわ!」

 

その言葉にZEUXISメンバーが皆が重い面持ちとなった。

 

「諸君。今の言葉はその意味を理解しての発言か?」

 

「どういうことよ?」

 

「今回の戦いに加わるという事は、君達は人間の

戦争に加わると言うことだぞ。それを理解しているのか?」

 

「そっ、それは・・・」

 

その言葉に皆が押し黙る。

 

「ノーマという理由で戦わされてきたドラゴン達や、ノーマの解放の為に戦ったリベルタスとは訳が違う」

 

「本物の戦争・・・授業やテレビとかで見たあの

戦争を、私達も体験する事になる・・・」

 

「もう君達が戦う理由はない。だが我々にはある。ならば君達を巻き込むわけにはいかない」

 

「悪いけど、それじゃあ余計協力しないわけにはいかないわね」

 

「なに・・・?」

 

「ZEUXISと私達と同盟を結んでいるはずよ。なら私達も貴方達が戦わなくて済むまで付き合わなきゃいけないわね」

 

「それにはっきり言って私達としても気に入らないのよね。大きな力を持ったからって威張ってるあの連中を放っておくのは」

 

「・・・来るなと言ったら?」

 

「意地でも付いていくわ。最悪フェニックスと同じヘリオスで跳べばいいんだし」

 

「・・・本気なんだな」

 

「ええ。本気よ」

 

暫く睨めっこが続いた。

 

「・・・出発は2時間後だ。その時の決定で決める。それまでに話し合っていてくれ。無理強いはせん」

 

「皆もそれでいいか?」

 

ネロ艦長がメビウス達に確認をとる。

 

「あぁ。構わない」

 

ZEUXISの皆は納得していた。

 

アンジュ達はアウローラへと戻った。

 

皆にアクセリオンでの話を伝えた。

 

皆が賛成した。

 

二時間が経過した。

 

既に外にはメビウスがフェニックスに乗り、待機していた。

 

「メビウス。頼むぞ」

 

「任せろ」

 

フェニックスが最終形態となった。

 

背中の翼がアウローラとアクセリオンを包んだ。

 

モニターにはあの文字が表示される

 

《Neo Maxima Over Drive System》

 

次の瞬間、フェニックス達は跳んだ。

 

遥かな100年後の未来へと・・・






ロボットアニメといったらやっぱり巨大破壊兵器でしょ!

次回から舞台は再び未来です!

え?人類進化連合はどうなった?

滅びましたよ。エグゼキューター横取りされて。

あいつら只の名前あるだけのモブだから。
(ヒデェ!)

正直年内に完結するかどうかわかんねぇなぁ


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第80話 忘れえぬ記憶


まず始めに

今回の話の最後らへんで、とてもしょーもない事をしてしまった感があります。予め謝っておきます。申し訳ありません。

前回のあらすじ!

砲撃の正体はブラック・ドグマのエグゼキューターだった。アウラの力を借りなんとか防いだメビウス達。

そこにブラック・ドグマの首領ベノムの演説が流れた。

アルゼナル組とZEUXISメンバーはこの時、マナが使えなくなったミスルギ国民達の醜さを目の当たりにした。

目覚めたシグの発砲の元、こいつらは散り散りに去っていった。

そんな中、アンジュはシルヴィアに自分の足で生きていけと告げ別れた。

ブラック・ドグマを止める為にZEUXIS達。いや、皆は未来へと飛び立った。

それでは本編の始まりです!



 

フェニックスがある場所へと現れた。そこには

アクセリオンとアウローラもいた。

 

メビウス達は無事に未来に辿り着いたのだ。

 

「ここが・・・未来」

 

「なんていうか・・・空気が悪りぃな・・・」

 

未来に来たことのないヒルダ達の第一印象はあまりよくないらしい。

 

だが未来から来たメビウス達、そして一度未来に来たことのある、アンジュとタスク。そしてヴィヴィアンは直ぐに異常に気がついた。

 

「どうなってんだこりゃ!?」

 

明らかに息苦しい空気となっている。

 

「おい!みんな!下がヤベェぞ!」

 

ZEUXISメンバーはそのの光景に絶句した。

 

現在、フェニックスやアクセリオンのいる真下には巨大な穴が空いていた。まるで巨大な何かが上から降り注ぎ、その結果抉られた様な感じであった。

 

「俺達がいなくなるまではこんなもん何処にもなかったはずだぜ!?」

 

「あれの仕業か」

 

予想は簡単についた。エグゼキューターだ。

 

「エンデランド連合と同じじゃない!」

 

「奴等!本気で全て焼き払ったのかよ!!」

 

「ガーナムって人がいる時点でちょっと危ない組織とは思ってたけど、ここまでやるのかよ!」

 

「くっそ!」

 

メビウスがモニターを力強く殴りつける。

 

(こんな事が許されていいのか!?)

 

怒り。彼はその感情に満たされていた。

 

「・・・まずは基地に帰還する。アウローラも補給などが必要だろう。フォートレスとのコンタクトをとってくれたまえ」

 

ネロ艦長の指示のもと、オペレーター達は基地へのコンタクトを取り始めた。

 

「ネロ艦長。フォートレスは健在のようです。今、

通信を回します」

 

「ネロ艦長!ご無事でしたか!」

 

モニターには基地のメンバーが映し出された。

 

「あぁ。今回は団体の客人付きだ。我々は直ぐに

基地へと戻る。それまでに我々が消えてから何が起きたかを資料に纏めてくれたまえ」

 

「了解しました!」

 

そう言うと通信は切れた。

 

「アウローラ。我々の基地まで案内しますので付いてきてください」

 

二つの艦はフォートレス目指して飛んでいた。アウローラにいた皆は外の惨劇の跡を見ていた。

 

「・・・なぁ、メビウス」

 

ヒルダが突然メビウスに音声通信を送った。

 

「どうした?ヒルダ」

 

「あんたは、こんな地獄を生きてきたんだな・・・」

 

「・・・そうだ」

 

アウローラ内では、パラメイル隊が面通しをしていた。

 

「本当にココとミランダなんだね!」

 

ヴィヴィアンが嬉しそうに聞く。

 

「・・・その。ごめんなさい。あの時は・・・」

 

アンジュが二人に謝った。

 

アンジュの初出陣。アンジュの敵前逃亡が災いしてココとミランダの二人は死んだのだ。その罪悪感は簡単には拭えないだろう。

 

「その。あの時がいつなのか、私達にはよくわかりません。気がついたらあの人の所にいたから」

 

どうやらココとミランダの二人はあの時の事はあやふやな様だ。

 

「アンジュリーゼ様は少し変わりましたね」

 

ココとミランダはアンジュの変化に多少驚いていた。

 

「・・・アンジュよ。私は。アンジュリーゼじゃない」

 

「はい!アンジュ様!」

 

その様なやりとりをしながら、やがて艦は基地へとたどり着いた。

 

相変わらずの廃ダムの外装をしていた。外装の一部が開かれた。

 

中に着艦し、ネロ艦長達が外へ出ると何名かが走ってきた。

 

「ネロ艦長!よくぞご無事で!」

 

「挨拶はいい。それより頼んでおいた資料を」

 

「はっ!こちらに!」

 

資料が手渡された。ネロ艦長はそれらを見ていた。

 

「直ちに対策会議を開く。ワイズナー、君に参加してもらう。ジル。貴女にもに参加してもらいたい」

 

「私でよければ、協力しよう」

 

「それと君。服とズボンなど一式を用意してくれたまえ。サイズは160で頼む」

 

「服とズボンですか?何故?」

 

ネロ艦長は黙って自分の後ろを指差した。

 

「わかりました」

 

男はそう言うとその場を去った。

 

 

 

ネロ艦長の後ろにて。

 

「あんたはコックピットに戻ってなさい!」

 

「なんでだ?」

 

「メビウス。鏡見る?」

 

そこには全裸のメビウスがいた。

 

メビウスは未来世界では身長が20センチ延びるのだ。それ故に着ていた服やズボンは見事に破け散った。以前帰ってきたときはZEUXISに保護された為あまり問題にはならなかったのだ。

 

やがて服などがメビウスに届けられた。

 

「パイロット達はブリーフィングルームで待機していてくれ」

 

メビウス達パイロットはブリーフィングルームに

集まった。

 

そこで未来について聞かされていないサリア達や

サラマンディーネ達は一通りの未来の流れについて教えられた。

 

「マナがなくなって、人間達はうちらと同じノーマになった」

 

「なのに、ノーマを決める為に戦争をするだなんて。全く意味がないよ」

 

「しかもあのエンブリヲが放ったビーストなる野獣が存在している世界・・・まさに地獄ですね」

 

皆同じ様な事を口にしていた。破滅の未来世界。

 

まだドラゴン達のいる平行宇宙の地球の方が説得力があるのかもしれない。

 

「悲しいかな。こんなみっともない世界を紹介する事になって」

 

ZEUXISのメンバー達が情けなさそうに言う。自分達の世界の恥を自慢など、全く嬉しくないものである。

 

するとそこにワイズナーとジルがやってきた。

 

「報告書の内容について連絡する」

 

「まず戦争についてだが、これは既に終局を迎えたらしい」

 

「戦争。終わったんですか」

 

ZEUXISメンバー達は安堵の息を漏らす。戦争が

終わるのは嬉しいのだ。

 

だが次の瞬間、皆の感情が怒りて支配された。

 

「あぁ。やはり決め手はエグゼキューターだったようだ。あれは初めは人類進化連合が使っていたらしい」

 

「最初は軍事施設を狙っていたらしいが、やがて非軍事施設や都市などを狙った砲撃に変えたらしい」

 

その言葉に皆が耳を疑った。

 

「そんな!軍事施設はまだしも、武器を持たない

奴等を狙うだなんて!」

 

「見せしめのつもりなのだろうな」

 

見せしめ。戦争の早期終結を目的として行われやすい行為。だがたとえ理にかなっていようと、そんな事が許されるはずがない。

 

「だが、エグゼキューターはブラック・ドグマによって奪われたらしい。その後は人類進化連合のしてきた事をそっくり返しているらしい」

 

「そんなの最早戦争ですらない。ただの虐殺だ」

 

「我々は何処か甘えていたのかも知れない。奴等とて超えてはならない一線を守ると思い込むという、甘い考えを・・・」

 

ネロ艦長の言葉にZEUXISメンバーは皆が苦い顔をした。

 

「それともう一つ、気になる情報がある。ビーストについてだ」

 

「何?」

 

ビーストという単語にメビウスの目の色が変わった。

 

「実は我々が過去へといた後だが、ビーストの反応が増えているらしい。それも、殆ど過去に例のないビーストばかりだ」

 

モニターには様々なビーストが映し出されていた。

 

白い蜘蛛のようなビースト。蠍のようなビースト。有鱗爬虫類の様なビースト。その他にも様々なビーストの姿が映し出された。

 

アンジュとサラマンディーネは暁ノ御柱最深部で

対峙したビースト、メガフラシの事を考えていた。

 

「そう言えば、ミスルギに出たあのビースト。エンブリヲは本当に知らなそうだった」

 

タスクがエンブリヲの言っていた言葉を思い出した。

 

「でも、ビーストって確かエンブリヲがメビウスを殺す為に放った生物兵器よね」

 

「アンジュ!」

 

「あっ!ごめんなさい。そういうわけじゃ・・・」

 

アンジュが慌てて謝った。

 

ビースト。エンブリヲがメビウスを殺す為に放った生物兵器。だがその実態メビウスだけではなく、様々な存在を殺している。

 

メビウスを殺す為だけに・・・死んで行った者達はその巻き添えに等しかった。

 

「・・・気にすんなよ。本当の事だもんな」

 

そう言うとメビウスは席を立った。

 

「どこ行くの?」

 

「ちょっとネロ艦長の所に行ってくる」

 

そう言いメビウスは部屋を後にした。

 

「詳しい作戦については後に話す。それまでは各自で休息をとってくれたまえ」

 

ZEUXISのメンバー達もブリーフィングルームを後にした。

 

その場にはアウローラ組とドラゴン組が残された。

 

「アンジュ。貴女少しは気を使いなさいよ」

 

「悪かったわね!気を使えなくて!」

 

先程の会話。極端に表せばメビウスがいるからビーストが現れるという内容である。

 

「あいつは、こんな地獄の世界でビーストと戦ってきた。それこそ私達と同じ、いや、それ以上の重荷を背負って・・・」

 

ゾーラが呟いた。

 

世界を守る為にノーマ達はドラゴンと戦ってきた。それがノーマの、人間のなり損ないである彼女達にとっての唯一の生きている理由であり、目的だと

信じていた。

 

・・・いや、信じされられていた。

 

「なんなんだろう。私達って・・・」

 

ナオミが悲しそうに呟いた。

 

「ノーマって、存在が許されないのかな・・・

私達、何もしてないのに・・・」

 

彼女達はミスルギで出会った人間達を思い出していた。マナが使えなくなった異変も全てノーマの所為だとほざいていた。

 

彼女達は基本外の世界を知らない。産まれてすぐ

検査を受け、ノーマだと判明され、世界から隔離されるのだ。

 

たまに検査を誤魔化し、外の世界で育てられる者もいる。

 

それでも精々ナオミの様に物心着く前に発覚して

アルゼナルに送られるのが普通なのだ。

 

アンジュやヒルダの様にノーマだとバレずに外の

世界で長く過ごしていた方がごく稀である。

 

「腹が立つな。あんな奴らの為に戦ってきただなんて」

 

ロザリーが憎々しげに呟く。

 

「・・・私ね。メイルライダーの適正テストの時にジル司令に言ったの。ノーマが世界を守り、マナの人が世界を動かすという役割がある。役目がある。だから私達は戦うって」

 

「でも実際は違ってた。本当はアルゼナルが襲撃された時に気がつくべきだったんだ。私達は世界の生贄だって」

 

世界の生贄。ノーマというだけで、ただ戦う事を強要される理不尽な人生。

 

あんな奴らのために・・・ただマナが使えないだけで。

 

「私達に、居場所なんてないのかな?」

 

「なら作ればいい」

 

不意に声がして、扉が開いた。そこにはメビウスがいた。その手には飲み物が入った袋が握られていた。

 

「メビウス・・・」

 

「居場所なんてのはそんなもんだ。初めは誰もそんなもんわからねぇ。だから自分で見つけるんだよ」

 

メビウスが皆に飲み物を渡した。皆それを飲んでいた。

 

やがて皆が飲み終わるのを確認するとメビウスは話を切り出した。

 

「ネロ艦長から外出許可を貰った。そしてある場所を聞いてきた」

 

「みんな。少しだけ付き合ってほしい。一緒に来てくれないか?」

 

メビウスが改まった口調で言ってきた。

 

 

 

 

 

アンジュ達パラメイル隊にタスクとサラマンディーネ達三人組を乗せた輸送機は現在基地の外を飛んでいた。因みに、メビウスが操縦している。

 

暫く飛んでいるとやがて比較的にまともな荒地が現れた。

 

そしてその中である場所に着陸した。そこから少し歩くととある場所へと辿り着いた。そこは瓦礫の山が積まれていた。

 

周りの風景は散り散りに石があった。

 

「メビウス。ここは?」

 

ナオミ達がメビウスに尋ねる。

 

「・・・以前ナオミには話したと思うが。ここは、俺が孤児グループにいた時に根城にしていた跡地だ。周りの石は当時のメンバーの墓らしい」

 

メビウスの言葉に周りは改めて石を見た。よく見るとそこには朧げながらも何かが書かれている石も存在していた。

 

孤児達は名前など持っていない子が多かった。その為何も書かれていない石も多い。だが名前のある石も決して少なくはなかった。

 

そしてメビウスはあるお墓へとたどり着いた。そのお墓の少し後ろにはもう一つのお墓があった。

 

「長いこと、待たせちまったな・・・」

 

メビウスはその墓石に静かに手を合わせた。アンジュ達もそれに続いて手を合わせた。その墓石には【ロイ】と記されていた。

 

後ろの墓石にも同じ事をした。こちらは【ミィ】と書かれていた。

 

「メビウス。この二人って・・・」

 

ナオミはこの二人の人名を知っている。メビウスが話してくれたあの事件である。

 

「・・・ロイ。俺の親友だった。ネロ艦長に聞いたところビーストヒューマンになっていたらしい」

 

「ビーストヒューマン?」

 

聞いたことのない言葉に首を傾げた。

 

「簡単に言うならビーストの操り人形とされた人間だ。死んだ人間を生きる屍と考えられる。そして俺は・・・ロイをこの手で殺した」

 

皆が絶句した。

 

あの場面では仕方がなかったと言える。あの時、ああしなければ間違いなく死人が出た。だから仕方ない。

 

だが、それで納得などできるはずもない。

 

「・・・ミィって子も?」

 

ヴィヴィアンが尋ねた。ヴィヴィアンの本当の名前もミィである。その為、同じ名前であるこの子に親近感が湧いたのだろう。

 

「・・・ミィは生きていたよ。そして俺の目の前で・・・死んだ。ロイをビーストヒューマンに変えたビーストによって殺されたよ」

 

「なんで私達に教えたの?」

 

アンジュが疑問に思い尋ねた。

 

「・・・覚えていて欲しかったから・・・」

 

「えっ?」

 

「この世界ではそこら辺に人の骨が転がっている。そのほとんどが苦しんで、死んでいった人達だ。その人達は誰にも存在を知られる事なく、散って逝った・・・」

 

その言葉にパラメイル隊はアルゼナルでの墓地で見たお墓を思い出す。

 

マナの人間達に知られる事なく、感謝されることもなく、死んで逝った彼女達。

 

ドラゴン達の真実を、そして、マナの真実を知っていれば死なずに済んだ命がいったい、幾つあっただろうか

 

「そんなの・・・悲しいじゃねぇか・・・だからさ、せめて覚えていて欲しいんだ。こんな惨劇があった事を。そして、この惨劇で死んで行ったみんなのことを・・・」

 

「メビウス・・・」

 

「・・・悪かった。俺の勝手な事情に巻き込んじまって」

 

メビウスがアンジュ達の方を向き頭を下げた。

 

(メビウス。悲しいなら変わるぞ)

 

脳内でシグが語りかけてきた。

 

「いいんだ。もう逃げねぇ。ちゃんと、向き合わないと・・・」

 

メビウスは仲間の死から逃げた。悲しまなくなるように逃げた。その結果生まれた存在がシグだ。

 

(そうか。でも忘れるな。俺はお前の影だ。悲しい事や辛い事は全部俺が引き受ける。だからお前は明るく、笑って生きろ)

 

皆が暫く黙っていた。

 

 

 

「始まりの光 kilari・・・kirali」

 

「終わりの光 lulala・・・lila」

 

突然アンジュが永遠語りを歌い始めた。その事に皆が驚いた。

 

「アンジュ?」

 

「・・・私に出来ることは、せめて、その子達が

静かに眠れるように歌ってあげるくらい」

 

「アンジュ。ありがとな」

 

メビウスが礼を言った。

 

「風に飛ばん el ragna 運命と契り交わして」

 

「風に行かん el ragna 轟きし翼」

 

サラマンディーネも歌い出した。

 

皆は静かにその歌を聞いていた。そして祈った。その子達の魂が安らかに眠らん事を。

 

やがて二人の歌が終わった。

 

「さて。そろそろ基地に帰るか。食事の時間だろうし」

 

メビウスがそう言うと皆は輸送機に乗り込んだ。

 

輸送機は基地を目指して飛び立った。

 

 

 

フォートレスに帰ったメビウス達は食事の為に食堂へと向かっていた。

 

「・・・なんていうかなぁ?」

 

「ノーマ飯がご馳走だったなこりゃ」

 

「腹は膨れるけど・・・それだけだな」

 

食堂では例の如く味なしの健康飯が出された。

 

それらを食べ終わった後、皆が口直しの為にモモカ飯を食べだした。

 

「どの道今日は疲れたろ?なんといってもラスト・リベルタスが成功したんだ。せめて今だけでも、ゆっくり休め」

 

そう言いメビウスは食堂を後にした。

 

「そうね。今はゆっくり休みましょう。みんな」

 

「そうね。とりあえず部屋はあるようだし、今日は休みましょ」

 

そう言い皆は食堂を後にした。

 

それぞれが部屋へと入っていった。

 

アンジュはサラマンディーネとナオミの3人で部屋を使っていた。

 

(ここから前書きに書いたしょーもない事が始まります)

 

「ねぇナオミ。少しお願いがあるんだけど・・・」

 

「何?アンジュ」

 

「ちょっとこのライダースーツを着てみない?ナオミに似合うと思うのよね」

 

そう言うとアンジュは自分のライダースーツをナオミに渡した。正確に言うならばバネッサのライダースーツである。

 

「なんで?」

 

「気分転換っていうか・・・なんていうか・・・」

 

「そういえばアンジュ。髪伸びたね。イメチェン?まぁ、とりあえず着てみるね」

 

そう言いナオミはライダースーツを着込んだ。

 

そのライダースーツはナオミには似合っていた。更にサイズなどもあっていた。

 

「別にどこも悪くないよ。今着てるライダースーツとサイズが似てるからかな?」

 

その言葉にアンジュはほくそ笑んだ。そして本題を切り出した。

 

「ねぇナオミ。そのライダースーツと貴女のライダースーツとを交換しない?」

 

「えっ?なんで?」

 

ナオミが疑問に思い尋ねた。なぜそんなことをするのか。その理由が想像できないのだ。

 

実はアンジュの着ているライダースーツはお腹周りがきついのだ。その為誰かのライダースーツと交換しようとしている。

 

その相手がナオミであったわけだ。

 

「まぁいいよ。はい、私のライダースーツ」

 

お互いがライダースーツを着あった。そしてナオミはアンジュの腹部をじーっと見た。

 

「何見てんのよ!ってアンっ」

 

ナオミはアンジュのお腹を摘んだ。

 

「何するのよ!」

 

「いや、お腹周りきつくないかなって」

 

「うるさーい!」

 

半ばはやせ我慢である。

 

こうして二人のライダースーツは交換された。

(こんなのでいいのか!?)

 

ベットに入るなり、皆が眠りについた。

 

ラスト・リベルタス成功の疲れのせいか、その寝顔は安らかなものであった。

 

(明日の事は明日考える。今は目の前の疲れをとろう)

 

皆がそう思い、そして願った。

 

こんな未来を変えようと・・・





しょーもない事をしてアンジュの白のライダースーツ問題を解決させてしまい申し訳ありませんでした。

ライダースーツの色を被らせない為にはああするしかないと判断しました。

ゲームだとアンジュはずっとナオミの元ライダースーツでしたね。

最近色々と忙しいなぁ。


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第81話 人間としての誇り


あらすじの前に一つ言わせてください。

皆さん。すいませんでした!

この作品のお気に入りが80人突破している事に気付かず、そして感謝の言葉が遅れてしまいました。

この様な作品を気に入って頂けたのに、それに気づかなかった自分が恥ずかしいです。

私は決して閲覧して頂いている事への感謝を忘れなどはしません!

閲覧者の皆さん。本当に申し訳ありませんでした!



前回のあらすじ!

未来へと辿り着いたメビウス達。

そこで目にしたのはブラック・ドグマの横暴の爪痕である。

直ちに基地へと帰還し、作戦会議が開かれた。

そして作戦会議が一通り纏り、そして謎のビーストの出現増加など、問題は山積みである。

そんな中メビウスはアンジュ達をある場所へと連れ出した。

そこはかつてメビウスが孤児グループ時代に根城にしていた跡地であり、同時に仲間達の墓標である。

せめて覚えておいてほしい。それがメビウスの望みであった。

アンジュとサラマンディーネは永遠語りを歌った。

死んで逝った者達の魂に安らぎがある事を願いながら。

基地へと戻り、ラスト・リベルタスの疲れで、皆
すぐに眠りに落ちた。

こんな未来を変えてみせる。そう願いながら・・・

それでは本編の始まりです!


 

 

まだ朝陽が昇る少し前、作戦室ではネロ艦長がいた。そこにワイズナーも現れた。

 

「ネロ艦長。早いお目覚めですね」

 

「ワイズナー、君もだな」

 

ネロ艦長が二人分のブラックコーヒーを淹れた。

 

「飲むかね?」

 

「ありがとうございます」

 

そう言うとワイズナーはカップを手に取った。二人とも一口つけた後はその苦さ故の旨さの余韻に浸っていた。

 

「・・・ワイズナー。君はどう思う」

 

突然ネロ艦長が質問を投げかけた。

 

「過去の世界の事ですか?」

 

「あの世界は素晴らしかった。陽の光だけでなく、月の光も輝いていた」

 

「全てが我々の世界と違っていましたね」

 

二人は百年前の世界を語り合った。外の世界では少なくても硝煙の匂いなどない。誰も、突然死ぬ事なんて考えつかない様な世界だ。

 

だが、未来は違う。

 

マナの光が消え人々が恐れ、そして愚かしくも手にしていた平和を放棄した。物を奪い合い、挙げ句の果てに命さえ奪い合う。

 

「・・・果たして未来とはなんなのだろうな」

 

ネロ艦長は百年前のミスルギ国民達を思い出す。あの中で誰が望んでこんな未来を創り出したのだろうか。

 

その答えは、誰にも分からないのかもしれない。

 

「奴等は辿るのでしょうか。私達と同じ過ちを・・・」

 

「・・・分からん。・・・だが、今のこの世界が

続けばこの先の未来は本当に破滅だけが待っている」

 

「せめて、今この世界を生きる人達の為に、ケリを

つけましょうか」

 

「あぁ、ブラック・ドグマ。そしてビースト発生の原因であるエンブリヲ。これらの打倒をZEUXISの最終任務とする」

 

ネロ艦長とワイズナーはコップに残されていたコーヒーを一気に飲み干した。

 

そんな二人の顔はいつになく、真剣なものとなっていた。

 

 

 

 

やがて朝となった。メビウス達は朝食を済ませるなり発着デッキへと足を運んでいた。

 

「すげぇ・・・」

 

皆が驚いていた理由は、そこにある機体である。グレイブとハウザーが置かれている。

 

「なぁ、ナンナにメアリー。本当にいいのか?」

 

「はい!私達はアウローラで補助要員をします。

だからこの機体はお姉さま達が使ってください!」

 

ノンナとメアリーが元気よく答えた。

 

実はロザリーとクリスの二人だけは機体を持っていない。その為急ピッチで二人の癖などをノンナとメアリーの機体に上塗りしているのだ。

 

そしてその癖を一夜で完全にコピーさせたのだ。

 

「全員集まったようだな」

 

発着デッキにネロ艦長がやって来た。

 

「我々は本日、エグゼキューター攻略戦を行う。無理強いはせん。再度確認しておくが、今回の作戦、降りる者は今名乗り出よ」

 

「・・・」

 

誰一人として手を上げなかった。皆覚悟してこの場に集まった事がよくわかる。

 

「諸君らの覚悟に感謝する。それでは作戦の内容について説明する」

 

皆に資料が渡された。それに一通り目を通す。

 

「ここに記されているメンバーは所定の役割を果たすように」

 

「それでは現在の我々の戦力を確認する。まずパラメイル隊から」

 

アンジュ/ヴィルキス

 

サリア/クレオパトラ

 

ヒルダ/テオドーラ

 

ヴィヴィアン/永龍號

 

ロザリー/グレイブカスタム

 

クリス/ハウザーカスタム

 

エルシャ/スペリオル

 

ゾーラ/レイザーカスタム

 

メビウス/フェニックス

 

ナオミ/ヘリオス

 

ココ/ビクトリア

 

ミランダ/エイレーネ

 

ジル/レイジア

 

タスク/アーバトレス

 

「なお、ラグナメイルとデルタ・メイル、そして龍神器の機体を除き、パラメイル各機にはAWSアサルト・ウェポン・システムの装備をさせて貰う」

 

余談だがヘリオスに関してはバーグラーセットとターボカスタムを装備している。フェニックスはHHWSを装備している為、そのお古を譲り受けたのだ。

 

「次に龍神器達だ」

 

サラマンディーネ 焔龍號

 

ナーガ/蒼龍號

 

カナメ/碧龍號

 

「最後にデルタ・メイル部隊だ」

 

ワイズナー/ビショップ

 

カイ/クレセント

 

アンリ/ガローラ

 

アクロ/ジョーカー

 

「なお、デルタ・メイル部隊はMGW。メガ・ウェポン・システムの確認を行うように」

 

皆が武装などを確認していた。

 

すると突然、発着デッキにオペレーター達が駆けつけてきた。

 

「ネロ艦長!通信です!」

 

「相手は」

 

オペレーター達の顔色が曇った。

 

「・・・ブラック・ドグマです」

 

「何だと!?」

 

通信相手の正体に皆が驚愕した。

 

全員がメインルームへと足を運んだ。

 

「よぉ、皆さん揃っていらっしゃる。大方、エグゼキューターでも潰そうと作戦会議ですか?」

 

モニターにはガーナムが映し出された。相変わらずのふざけた態度に皆が激しい不快感を表した。

 

「ガーナム。要件があるならとっとと言え」

 

シグがメビウスの人格と入れ替わった。

 

「おおっ!その様子だと一つの体に共存してるってわけか。まぁ生きてた事には万々歳だな。テメェをぶっ殺せるんだしよ」

 

「聞こえなかったか?要件があるならとっとと言え」

 

ふざけた態度のガーナムと対照的に、シグは冷静であった。だがその言葉の一つ一つからは殺気が剥き出しであった。

 

「なぁに 。お前達がミスルギ皇国での砲撃で死ななかったようだし、その事を褒めてやろうと思ってよ。凄えなテメェら」

 

「ふざけるなよ!俺たちを狙うなら俺たちだけを狙え!関係ない連中を巻き込むな!」

 

カイ達が喰いついた。エンデランド連合や未来世界の有様。完全に常軌を逸した行為である。

 

「おいおい。その様子だと本当に知らないようだな。教えてやるよ、うちらの大将の狙いは一つ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人類の抹殺さ」

 

「・・・・・・はぁ!?」

 

皆が耳を疑った。あまりにも目的が異常である。

 

「人類の抹殺って・・・そんな事をしてなんになるの!?」

 

「そんな事は知ったこっちゃねぇ。言っておくが俺はブラック・ドグマの目的なんざ関係ねぇ。俺はただ殺し合いが好きで好きでたまらねぇんだぁよ!!」

 

「貴様ァァ!!貴様の様な外道、生かしておくわけには!!」

 

遂にシグが感情を爆発させた。殺し合いを楽しむ存在。最早人間の思考ですらなくなっている。

 

「そう!それだよ!テメェが全力で俺と殺し合える時が!俺が満たされるんだよ!」

 

シグがモニターを殴りつけ様とした。だがその手はネロ艦長に抑えられた。

 

「ガーナム。我々は君をメッセンジャーとしてブラック・ドグマに最終通告を出す」

 

「既に戦争は終結している。人類進化連合に戦争を継続させられる程の力は残されていない。君達も

武装を解除したまえ。仮に武装を解除しないなら、共にビースト殲滅に手を貸してもらいたい」

 

ネロ艦長のその言葉に皆が驚く。

 

「何言ってんだよ!ネロ艦長、こいつらは!」

 

「我々は人類進化連合とは違う」

 

ネロ艦長の中に残された僅な理性。人間同士で戦うなど本来あってはならないのだ。

 

「成る程。あいにく今は大将がいないんだ。だから俺が代わりに返答してやる」

 

「馬鹿め」

 

単純な侮辱の言葉が返された。

 

「俺たちは戦争してぇんだよ。人間、いや、ノーマ相手によ。ビーストなんかと遊んでるテメェらにゃ分からないだろうがよ。ヒャーハッハッハー!」

 

場が凍りついた。皆口を開けず、ガーナムの笑い声を黙って聞いていただけである

 

「・・・15時だ」

 

「は?」

 

ネロ艦長が静寂を破った。その目は目の前の存在への失望感が全開であった。

 

「15時に我々は貴様らのエグゼキューターのある

基地に全面攻撃を仕掛ける。それまでに非戦闘員は脱出させておけ」

 

「おやおや?戦争が終わって平和になったのに。今度はそちらさんが戦争を仕掛けるのかい?対ビースト殲滅組織。天下のZEUXIS様が?」

 

「勘違いするな。我々が行うのは人間という種族の生存をかけてだ。余計な犠牲を払いたくはない」

 

「そしてこの戦いはZEUXISとしてではない。我々人間の持つ誇りをかけての戦いだ。志を同じとする同志達も集まっている」

 

「まぁいいぜ。それじゃ15時にドンパチやらかそうじゃねぇか。ついでに一つ教えてやるよ。エグゼキューターだけど、実はミスルギ皇国にもう一発ぶち込んでやろうと考えてるわけよ。いつかって?まぁ今日の夜遅くかなぁ」

 

そう言うと通信が切られた。

 

「なんなんだあいつは・・・」

 

「あれがガーナム。人間以下の最低野郎だ」

 

シグと人格が入れ替わり、メビウスが吐き捨てる様に言う。

 

「作戦の決行は15時とする!12時には各員は艦へと乗艦せよ!」

 

「イエス!マム!」

 

その掛け声のもと、皆が解散となった。

 

 

 

 

ZEUXISメンバーは今は機体の調整をしている。

ノンナとメアリー達はアウローラの最終チェックを手伝っている。

 

メビウス達は機体の調整も終わり、皆である一箇所に集まっていた。

 

「こうして揃うのも一体いつぶりなんだろうな」

 

ゾーラが懐かしむ様に言っている。かつて、死の第一中隊に所属していたメンバーがこうして皆顔を揃えている。

 

「あの時から色々ありましたね」

 

このメンバーで揃うのはアンジュの初出撃の時以来である。あの後から皆が色々と、変わっていった。

「それにしても、私達ノーマが世界を壊すだけじゃなくて未来世界にまで介入するとは・・・メビウスと始めて出会った時には思いつきもしなかったね」

 

ヒルダが懐かしそうに言う。

 

「それを言うなら俺だって、まさか未来人だとは思わなかったよ。・・・ははっ、こうして考えると、本当に俺ってみんなよりも歳下なんだな」

 

皆が軽く笑っていた。

 

しかしそんな中、タスクが何処か思い面持ちをしていた。

 

メビウスには悩みの種が予想できていた。

 

「・・・タスク。エンブリヲの事を考えているのか?」

 

「あぁ。アウラがドラゴン達の元に戻った事で時空融合は防がれた。問題はエンブリヲがそのまま黙って指を咥えているか・・・」

 

エンブリヲはまた仕掛けてくる。そう言いたいのだ。

 

「・・・その時は俺が戦う。奴にはまだビーストの件で借りが残ってる」

 

「あら。あの変態は私が潰す予定よ」

 

メビウスの言葉にアンジュが口を挟んだ。

 

「何。以前言ったろ。私達は仲間だ。死神と踊る為には手を取り会わなきゃな」

 

ゾーラが励ますように言う。

 

思えばエンブリヲによって色々と人生を狂わされた存在は数多い。

 

否、そもそもノーマという存在全てが、エンブリヲの被害者だ。奴の望んだ理想郷の為にマナの人間達は創られた。

 

そしてそれを使えない突然変異体のノーマ達は理不尽な迫害を受けてきた。

 

「奴は人類がより良く生きていけるようにマナを与えたとか言ってやがるが、そのせいでうちらは生きていけなくなっちまったよ」

 

ヒルダが憎々しげに言う。

 

「あいつにとっては全てが道具なんでしょうね。

マナもノーマも・・・私達も、アンジュも・・・」

 

「へっ!奴のハーレムなんざ、粉々に砕いてやる!」

 

皆が励ますように言いあう。

 

メビウスはそのやりとりが何処か嬉しそうであった。

 

(この感じ・・・同じだな。孤児グループで皆といた時と)

 

褒められた事ではないがかつてのメビウスも似た様なものだ。盗んだ食料を皆で分け、焚き火を囲んでどんちゃん騒ぎ。皆で色々と語りあった。

 

「ねぇ。いい機会だから話し合わない。みんなで」

 

突然アンジュが言い出した言葉に皆が多少驚いた。

 

「話し合って、何を?」

 

「この戦いが終わった後の事よ」

 

「突然何を・・・」

 

「いいから。話し合いましょ。まず皆んなは戦いが終わったらどうする?」

 

それはかつてドラゴン達の地球から帰ってきた時にもした質問だ。

 

「どうするか・・・か。決めてねぇな」

 

ヒルダ達の言葉にアンジュは笑顔を浮かべた。

 

「なら丁度いいわ。私はドラゴン達の世界で喫茶アンジュを経営する。貴女達もそこで働きなさい」

 

「喫茶アンジュ!?」

 

それはかつてタスクが作ろうとしていた喫茶店である。

 

「ええ。従業員として雇ってあげるわ」

 

「まさかの上から目線!」

 

相変わらずアンジュはアンジュであった。

 

「おもしれぇな。あたしも乗ったよ」

 

まず最初に、ヒルダ達がその意見に乗った。

 

「よし!私も料理とかで頑張っちゃうわ!」

 

今度はエルシャも乗った。

 

「じゃあ俺は一番最初の客にでもなろうかなぁ」

 

「そこはあんたも手伝いなさいよ!」

 

メビウスの発言に皆で突っ込む。こうして皆で軽く談笑していた。

 

緊張で身体が動かなくならないように、皆で笑いあった。

 

 

 

 

 

 

そしてついに12時に、運命の時間となった。

 

皆がアウローラとアクセリオンに乗り込む。

 

ネロ艦長がアウローラとアクセリオンに通信を送る。

 

「諸君。これより我々はエグゼキューターを排除し、今の戦乱の未来に終止符を打つ!」

 

「エグゼキューターの攻略。そしてエンブリヲを打倒する事により、ビーストの脅威を消し去る。この二つを達成した時。この作戦は成功する!」

 

「これがZEUXIS、いや、我々の最終作戦とする!」

 

「全艦。発進!!」

 

その掛け声の元、アウローラとアクセリオンは、基地から発進した。

 

 

 

 

 

 

ブラック・ドグマの基地。ここにエグゼキューターが設置されている。

 

「さてと。そろそろ奴等の来る時間だ。盛大にもてなしてやろうぜ」

 

時計の針は刻一刻と時を刻んでいった。

 

【ボーン。ボーン。ボーン】

 

長針が12を、短針が3を指した。

 

【ビー!ビー!ビー!ビー!】

 

基地内に突然警報が鳴り響いた。

 

「この基地目掛けて高速で接近する艦影確認!数2!」

 

「来たか!待ってたゼェ!機体でも取って・・・」

 

「待ってください!それとは別に急速に接近する

機影を確認!数1!」

 

「なんだと!?」

 

次の瞬間、基地目掛けて粒子砲が放たれた。基地のアスファルトにそれらは命中し、爆発した。

 

上空から、ヴィルキスが急降下で迫ってきていた。その機体の色は青色となっており、次の瞬間には

基地に降りたった。

 

「奇襲ってわけか!面白い!ゴースターを出せ!」

 

基地防衛用のゴースターがヴィルキス目掛けて襲いかかる。

 

「遅い!」

 

しかしそれはアンジュの操縦するヴィルキスには脅威にさえならなかった。機体が赤く輝きサーベルが伸びる。

 

次の瞬間には無人機達は一掃された。

 

「やれやれ。援軍送っちゃう?」

 

近くの武器庫から無人機の援軍を送ろうとした。

 

その時である!

 

「!!これは!!?」

 

「どうした!」

 

「基地めがけて急速に接近する機影を確認!」

 

「なんだと!何処からだ!?」

 

「それが・・・・・・基地の真下からです!」

 

「何!?」

 

次の瞬間、武器庫は大爆発を起こし、炎上した。その上空にはフェニックスがいた。その姿は第二形態である。

 

どうやらネオマキシマ砲を使い地下を進んで行ったようだ。

 

「やれやれ。陸海空はよく聞くけど、まさか地底から攻められるのはなぁ・・・予想外だなぁこりゃぁ」

 

「関心してる場合じゃありませんよ!二隻の戦艦は既に基地内に侵入されてるんですよ!」

 

ブラック・ドグマのオペレーターは慌てている。こうも簡単に基地に殴り込みをされたのだ。動揺するなという方が無理であろう。

 

しかし、ガーナムは落ち着いていた。まるで切り札をいくつも持っている様な余裕であった。

 

「そうか。テメェは知らねぇのか。まぁ少し待ってな。奴等に面白いもんぶつけてやるよ」

 

そう言うとガーナムは部屋を去った。

 

「こちらアクセリオン艦長のネロだ。ブラック・ドグマの諸君に告げる。速やかに武装を解除し投降せよ。我々は人間の誇りを持ってここに来た。諸君らにも適切な対応をするつもりだ」

 

ネロ艦長が降伏を呼びかけている。

 

「よぉ。相変わらず正義の味方ごっこのつもりかい?」

 

「ガーナム!」

 

「まぁ落ち着けよ。今回の戦いは天下分け目の関ヶ原だぜ?楽しもうゼェ!全力でよ!!」

 

ガーナムが指を鳴らした。

 

すると目の前の空間に亀裂が生じた。

 

「あぁぁぁっっ!!」

 

突然メビウスが頭を抱えて項垂れた。

 

「メビウス!?」

 

「来る。奴等が・・・しかも、大量に・・・!」

 

メビウスは少しばかり錯乱していた。

 

そしてアクセリオンでも異変は起きていたようだ。

 

「巨大な生命反応を多数確認!」

 

「なんだと!?」

 

「しかもこの反応・・・」

 

次の瞬間、穴が開き、奴等は現れた。

 

「なっ!あれは!」

 

それはビースト達であった。しかもその殆どがアクセリオンが過去へと飛んだ後に出現した、新型のビーストばかりである。

 

「ガーナム!キサマ達・・・まさか!?」

 

ありえない考えがZEUXISメンバーの脳を駆け巡る。

 

そしてガーナムはそのありえない考えを答えた。

 

「あぁ!ブラック・ドグマは創り出したのさ!

ビーストをなぁ!!」





2019年も後二週間も無いと思うと色々と考えさせられます。

平成が終わった年。来年から本格的に令和か・・・

改めて宣言します。この作品は必ず完結させる。

そして次回、もしかしたらあのビーストを出せるかもしれませんね。(予告風)


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第82話 降臨!最凶最悪のビースト

始めに。

執筆中に、そしてこれまでの回を読み直して思った事があります。

この作品、クロスアンジュ 天使と竜の輪舞の要素が消えてないか!?

・・・この作品がこうなってしまったのは私の責任だ。



だが私は謝らない。きっとこれがこの作品の良さとなって、皆に受け入れられると信じているからな。(烏丸所長理論)

よし、これで問題解決だ!
(何一つ解決していません)

前回のあらすじ!

フォートレスにガーナムから通信が入った。

なんとベノムの目的は人間の殲滅である。

そんな事はさせるものかと皆でエグゼキューター基地に殴りこんだメビウス達。

だがそこに、ビーストの群れが現れた。

そしてガーナムは驚くべき事を口にした。

ビーストを作りだしたと・・・

それでは本編の始まりです!


 

「ビーストを、作り出した・・・」

 

モニターに映し出された大軍のビーストの前でZEUXISの皆が呆然と呟く。

 

「あぁ。そうだぜ」

 

「・・・成る程。ビーストを戦力にしてこの基地を強奪したって訳か」

 

ずっと疑問に思っていた。全面戦争が起きたのなら、どちらとも相当なダメージを受けたはず。それなのにブラック・ドグマは何故、過去への侵略行為に打って出たのか。

 

それはビーストを自軍の戦力にしているからだ。

 

「その通りぃ!いやぁそれにしてもビーストってすげぇなぁ。勝手に敗残兵どもを始末してくれるんだしよ」

 

ミスルギに現れたあのビースト。ビーストの創造主たるエンブリヲが知らない理由が今はっきりした。

 

あのビーストはエンブリヲではなく、ブラック・ドグマが作り出したのだ。

 

「わかっているのか!そいつらは!」

 

「あぁ。理性なんてもんはねぇ。あるのは闘争本能のみ。正に純粋な兵器だ!」

 

「狂っている!貴様らは!もはや語るに不要!!」

 

ビーストの群れはアンジュとメビウス目掛けて攻撃してきた。

 

二人はそれらを避けると、ビーストの群れめがけて反撃を開始した。

 

 

「あれが・・・ビースト・・・」

 

アウローラでは皆が映し出された異形の存在に硬直していた。かつてドラゴン達と戦ってきた時とは違う。

 

皆はこの感覚を一度体験したことがある。

 

恐怖だ。初めてメイルライダーとなり、ドラゴンと対峙した時に身体を襲った感覚。それと同じであった。

 

「無理して戦うな!ビーストの相手は俺たちが専門だ!」

 

既にZEUXISこデルタ・メイル部隊は発進していた。本来彼等の任務はビーストの殲滅である為これらの様な存在には慣れているのだ。

 

「・・・やる。やってやる!今更化け物の1匹や2匹にビビるヒルダ様じゃねぇんだよ!!」

 

「私達は私達の意思で戦うと決めた。なら最後

まで、それを貫き通す!!」

 

身体の震えを掻き消すかの様にヒルダやナオミが叫ぶ。

 

それによって身体の震えも何とか止まった。

 

「よし!パラメイル隊!出るぞ!」

 

ヒルダの掛け声のもと、彼女達の機体は戦場の空へと舞った。

 

レーダーでは前方に赤い点がかなり発生していた。

 

「各機駆逐形態になっておけ!そしていつでも使えるように凍結バレットを装填しておけ!」

 

「イエス!マム!」

 

その時、彼女達に蟲タイプのビーストが突っ込んできた。

 

「こっちくんじゃねぇ!」

 

皆がライフルをビーストめがけて放った。弾が命中し、そのビーストは地面へと落ちていった。

 

「やれる・・・やれる!私達も戦える!」

 

ビーストを倒した。互角に渡り合える。その事実は彼女達に戦う意思をより強く与えた。

 

 

 

異変に気が付いたのはビーストの数が残り半分に近づいてきた時だ。

 

「なんだこいつら・・・何かが変だ」

 

決して外見がおかしいのが異変ではない。問題は

ビーストの能力である。

 

弱い。とにかく弱い。

 

最初はこちらの装備が強いからだと考えていたが、その疑問はパラメイル隊が戦闘に加わると濃くなってきた。

 

パラメイルのライフルでも、数発浴びるとビーストは息絶えたりする。

 

この時彼女達は無我夢中に近い、尚且つビーストと戦える事に集中しすぎて気づいていないようだが、ビーストとそれなりに戦ってきたメンバーからは

その異変が感じ取れた。

 

あまりにもビースト脆すぎる。

 

そして遂に疑問が確信へと変わる事態が判明した。

 

ビーストの群にはゴルゴレムやメガフラシなど、かなりの強さのビーストがいた。だが、それらが持っている、固有能力をそいつら使ったいなかった。

 

完全に不自然であった。この瞬間に疑問は確実なものへと変化した。

 

「ネロ艦長。ビーストの能力値を調べてください。何かが怪しい・・・もしかしたら我々は罠に誘われているのかもしれません」

 

「なんだと・・・過去のビーストデータをこちらに」

 

「少し待ってください。今引き出します!」

 

アクセリオンが複数のビーストの死骸に赤外線を照射した。

 

調べるのには少し時間がかかる。

 

だがそれまで何もせずぼーっとしているわけにもいかない。アクセリオンはビーストとの交戦を続けた。それは皆同じであった。

 

「こいつで氷漬けだ!」

 

「数だけの虚仮威しなど!」

 

凍結バレットやマイクロミサイルなど、それらの武装でビーストはバタバタと倒れていく。

 

これによって皆が勢いに乗った。

 

地面にはビーストの死体が散らかっていた。遂に残りのビーストは三体だけどなった。ガルベロスとノスフェル。そしてリザリアスだ。

 

その三体目掛けてフェニックスとヴィルキスが挑む。

 

リザリアスが火炎弾を放ったがそんなもの脅威ではない。すれ違いざまにリザリアスの胸部にサーベルを差し込まれた。

 

フェニックスはガトリングをノスフェルに、ヴィルキスはライフルをガルベロスへと向けた。機体の

指が引き金へと伸びる。

 

その時である。アクセリオンでビーストの解析が終わった。

 

「ネロ艦長!あのビーストは、我々の所有する

ビーストのデータと、何ら変わりが有りません!」

 

「何だと!?本当なのか!?」

 

解析班は首を縦に振った。その結果に皆が驚愕した。

 

(どうなっている・・・ビーストのデータ個体値は同じ。なのにこのやられよう。何故だ・・・一体何故・・・)

 

これまでのビーストと同じ能力値。なのに能力は抑えられている。

 

ビーストを使うブラック・ドグマがそのビーストの能力を抑制し、ワザと倒させている事になる。勿論そんな行為は全くの無意味である。

 

だが現実にそれは行われている。

 

ならば我々には無くとも、ブラック・ドグマは何らかの目的があり、ビーストの力を抑制させている事になる。

 

(・・・まさか、我々にワザと倒させているのか!?だとしたら何故・・・)

 

「!!メビウス!アンジュ!攻撃を中止しろ!!」

 

ネロ艦長が命令した瞬間、紙一重の差で、二つの機体の銃から粒子砲が放たれた。それらはそれぞれのビーストの喉を貫通していた。

 

ビーストは項垂れる様に倒れこんだ。

 

全てのビーストの亡骸が一箇所に集まっていた。

 

「ビーストの群れは殲滅できたか・・・」

 

するとそこにある機体が現れた。

 

「あーあ。ビースト、みーんなやられちまったよ」

 

「ガーナム!」

 

メビウス達の目の前に、ジュダに乗ったガーナムが現れた。

 

「困ったなぁ。こっちの戦力はビースト任せが多かったから、もう楽に無人兵器なんて開発してねぇよ」

 

「次はお前が相手か」

 

皆が武器を構える。直ぐにでも戦闘態勢に入れるように準備をしている。

 

「まぁ落ち着け。ここで一つ話をしてやるよ。

エンブリヲの旦那から聞いた話だけどな」

 

そしてガーナムは語り始めた。

 

「実はビーストってのは、本来は一つの大きな塊だったとされてやがる」

 

「その塊から崩れ落ちた存在。それがノスフェルやガルベロス。ゴルゴレムやクトゥーラ。つまりはテメェらが戦ってきたビースト達だ」

 

「・・・あのビースト達は所謂、塊の子供ということか・・・」

 

あんな化け物の親玉など想像したくもない。

 

「そこでだ・・・エンブリヲが作ったビーストにうちらのビーストを配合。元のひとつの塊に戻そうってわけよ!」

 

「!!?」

 

次の瞬間、空間に穴が開かれた。そしてその穴目掛けてビーストの死体が吸い込まれていった。

 

「なっ何が起きてんだ・・・」

 

空間からは何やら怪しげな雰囲気が漂い出してきた。少なくてもメビウス達にとって楽しい事ではないらしい。

 

「そんじゃ、こいつの相手をしてもらうか。もしこいつに勝てたら相手してやるよ」

 

そう言いガーナムは去っていった。

 

そして次の瞬間、禍々しい光とともにそいつは穴から現れた。

 

見た目を言うならば不気味、否、キメラと言ったほうが正しい。そいつの身体の各部に顔が浮かんでいた。

 

その顔はこれまで戦ってきたビーストの顔である。

 

「な・・・なんだよ・・・あれ・・・」

 

皆が目の前の存在に呆然としていた。それと同時に身体が再び震えました。しかも緊張や恐怖だけではない。

 

圧倒的な威圧感が襲いかかってきた。

 

まるで身体全体を貫くかの如く放たれている冷たい殺気。その前には、抵抗する気力すら起こせない。

 

幼子が親に叱られる時と同じ感覚だ。圧倒的な力の前に、抵抗する気力さえ起こせない。出来る事と言えば精々許しを請う程度だ。

 

それと同じ感覚が襲ってきた。目の前の存在が放つ威圧感に押し潰されそうになる。

 

「なっ!?」

 

次の瞬間、そいつの前面からレーザーなどが飛ばされた。それらはZEUXISの機体に直撃した。フェニックス以外の機体のアイ・フィールドを貫通して。

 

何より、この場にいた全員がそれに反応する事が

出来なかった。

 

機体は地面へと落下した。不幸中の幸いか4機とも爆発だけは免れたようだ。

 

「艦を寄せろ!!回収アンカー射出!医療班、パイロットの緊急手当の用意を!整備班は機体の修理に取りかかれ!」

 

「・・・」

 

ネロ艦長の指示も、今のオペレーター達には届いていなかった。

 

「返事はどうした!?」

 

「はっはい!了解!!」

 

ネロ艦長の指示の元、直ぐに回収アンカーが放たれ、ビショップ達を捉えた。直ぐに艦へと引き戻す。

 

「そんな・・・デルタメイルが・・・」

 

アンジュ達は目の前の光景が直ぐには理解できなかった。あのデルタ・メイルが。能力的にはパラメイル以上の性能を持っている機体が簡単に堕とされた。しかも4機も。

 

「ねぇ。エルシャ。なんだろう。震えが止まらないよ・・・」

 

「ヴィヴィちゃん・・・」

 

あのヴィヴィアンが本気で怯えている。彼女と付き合いの長いエルシャはこれで事態の異常性に気がついた。

 

先程まで高揚していた戦意が完全に消えかけている。

 

あのアンジュでさえ、闘志がへし折られていた。

 

「無理よ・・・こんな化け物に、勝てるわけ・・・」

 

「アンジュ!思い出しなさい!ドラゴンと戦ってきた事を!」

 

「サラ子?」

 

「あの時の貴女は、勇猛果敢にドラゴンと戦ってきたではありませんか!それと同じです!」

 

「皆も同じです!あの時の感覚を思い出しなさい!」

 

サラマンディーネが震える声で激励の言葉をかける。

 

既に皆の戦意は目の前のたった一体のビーストの

存在によって風前の灯火となっていた。

 

だが間違いなく背中を向ければ待っているのは死だ。

 

死にたくなければ戦うしかない。その為にも戦意を絞り出さねばならない。

 

「メビウス!変われ!俺が殺る!」

 

メビウスの主人格がシグへと入れ替わった。

 

シグはフェニックスを最終形態に変形させた。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

怯える自分の身体と心に鞭を打ち、必死にビーストと交戦状態に入る。

 

「相手は1機・・・数で押せば!」

 

アンジュ達も必死に戦意を絞り出し、交戦状態へと入った。

 

 

 

「ファング!」

 

フェニックスの翼から、羽となったファンクがビースト目掛けて襲いかかる。だがそいつはそれら火球を使い、全て叩き落とした。

 

デスカリバーに手を伸ばし、構えた。

 

次の瞬間には、ビーストの胸めがけて剣を突き刺そうとした。

 

だがそれは尻尾の口によって防がれた。

 

そしてもう片方の尻尾からレーザーが放たれた。

 

アイ・フィールドで塞げたとはいえ、機体は大きく揺れた。

 

「ぐううっっ!」

 

「休んでろシグ!俺が戦う!」

 

シグの意識が朦朧となっている事に気付いたメビウスは無理矢理主人格を変更させた。

 

「メビウス!」

 

アンジュ達がライフルで尻尾を狙った。次の瞬間、弾は尻尾に命中した。それによって尻尾の口は離され、デスカリバーも再び使えるようになった。

 

するとビーストは触手をこちらめがけて放ってきた。それらを皆で斬り落としていく。

 

「N式冷静破壊砲!撃てぇ!!」

 

アウローラが誇る御自慢の主砲を、ビーストへ放つ。だがイズマエルは簡単にそれと同火力の光線を口から放った。

 

二つの光は空中でぶつかり合った。

 

「アクセリオン。あのビーストのデータはとれないかい!?」

 

「現在収集中だ!そしてデルタ・メイル部隊は可能な限り戦線復帰を望んでいる」

 

「パイロットの方は何とか無事だ。だが機体の損傷は激しい。応急手当てするにしてもそれなりにかかる!」

 

ジャスミンの問いかけにネロ艦長が答えた。

 

ヴィルキスが紅く輝く。ミカエル・モードを起動させた。サーベルが伸び、ビースト目掛けて突き進む。

 

だが、それは右手の巨大な爪であっさりと受け止められた。

 

次の瞬間には、それはへし折られた。

 

右腕部分から、赤い何かが噴出された。

 

それらはヴィルキスの外装に触れた途端、大爆発を起こした。

 

「燃える花粉!?でもあれは!」

 

燃える花粉。それはフレラシアのビーストが所有している能力だ。

 

「全機退避しろ!あれに巻き込まれたらひとたまりもないぞ!」

 

皆が花粉との距離をとった。すると再び尻尾が機体めがけて飛んできた。

 

よく見るとその尻尾はゴルゴレムの尻尾であった。

 

「どうなってんだよ!なんであいつがゴルゴレムやフレラシアの能力が使えるんだ!?」

 

その時アクセリオンから通信が入った。

 

内容は目の前のビーストに関する報告であらさ。

 

「あのビーストは、これまで出現した全てのビーストの能力を備えていると判断された。正に最強のビーストだ」

 

「最強のビースト、コードネーム。イズマエル」

 

「イズマエル・・・」

 

目の前のビーストは完全にこちらを標的としている。

 

こいつを倒さなければ恐らくエグゼキューターにはたどり着けないだろう。

 

だが、皆の心の奥深くで悪い考えが浮かび上がった。

 

(勝てるのか、こいつに・・・)





みんな大好きイズマエルを登場させました。

あのビーストのカッコよさは、実際に実物を見た方がわかります。

ここで、良い子悪い子元気な子の為のウルトラマンネクサスにおけるイズマエルの部位紹介時間です!

(この作品で、名前が挙げられていないビーストは本編中の群れにいるものとする)

(また、本編中では一部ビーストの名前が変更されている事もお忘れなく)

頭部 ザ・ワン+ガルベロスの中央の首

左肩 グランテラ・リザリアスグローラーの頭部

右肩 ノスフェル・メガフラシの頭部

胸 バンピーラの顔

背中 ガルベロスの肩から背中全般、ザ・ワンの背中の突起物

腹部 クトゥーラの顔

右腕 ノスフェルの腕・ラフレイアの花弁

左腕 ゴルゴレムの頭部

尻尾 グランテラの尻尾の先端

右足 ペドレオンの頭

左足 バグバズンの頭

(フログロスとアラクネラも恐らく細胞レベルでは
構成されている)

これらがイズマエルを構成しているんDA。

・・・なんかこの作品がどんどんネクサス化してないか!?

あぁ、この作品は何処へ向かって行くのか・・・


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第83話 天使の覚醒/悪魔の復活


前回のあらすじ!

ビーストの群れと戦うアンジュ達。だがそれは
ガーナムが仕掛けた罠であった。

ビーストの死骸が一つに集まり、そこから最強の
ビーストが降臨した。

その名はイズマエル。

その圧倒的な力の前に、皆の心の中にある可能性が燻った。

(こいつに勝てるのか・・・)

果たしてメビウス達はイズマエルを倒せるのでしょうか!?

それでは本編の始まりです!



 

「ファング!」

 

フェニックスとヘリオスの翼から無数のファングが放たれた。それらは目の前のイズマエル目掛けて

突き進んでいった。

 

だがそれらは、全て火球などではたき落とされた。

 

直ぐに火球やレーザーなどの反撃が襲ってきた。

アイ・フィールドにあまり頼れない以上、それらは

避けるしかない。

 

イズマエル。これまでのビーストの選りすぐれた各部を集めた最強のビースト。その強さは最強の名に相応しいと言える。

 

ビーストの身体全体からフルバーストの如く様々な攻撃が繰り出された。

 

「危なっ!」

 

「ちっ!厄介なもん使いやがって!」

 

それらをされるとこちらとしては避けるしかない。

 

仮に接近戦に持ち込もうにも厄介なのは鉤爪だ。

フェニックス第二形態などとは違い、引っ掻く用の本当の鉤爪だ。

 

遠距離なら光線や光弾が、近距離なら鉤爪が迫ってくる。付け入る隙がない、まさに最強である。

 

既に何機かのパラメイルはそれの被害を受けている。

 

そしてアクセリオンでは、機体の応急手当と弾薬の補充などが急がれていた。

 

「デルタメイル機。応急整備完了!」

 

「よし!援護に向かうぞ!!」

 

アクセリオンから再びデルタメイル4機が発進した。四人の見た光景。それはイズマエルを中心とした、あたり一帯は焼け野原と化していた。

 

「マキシマ砲!チャージ!」

 

ビショップのライフルアタッチメントが変わった。先端から赤い粒子が見える。

 

時を同じくして、アンジュとサラマンディーネが永遠語りを歌い出す。

 

それに共鳴するようにヴィルキスと焔龍號が金色に輝く。そして両肩が開かれた。

 

次の瞬間、それらは同時に放たれた。イズマエルはディスコードフェザーの方を対応した。

 

口から火球が放たれ、光とぶつかった。

 

ディスコードフェザーは打ち消された。だが背後からマキシマ砲の直撃を浴びた。

 

「やったか!?」

 

煙が辺り一帯に立ち込めている為、目視による確認はできない。やがて煙が引いてきた。

 

「・・・そんな・・・」

 

イズマエルは健在であった。こいつにとってマキシマ砲など、精々ちょっと痛い程度なのだろう。

 

こうなると現段階でイズマエルに有効な武装はネオマキシマ砲だけである。

 

「ネオマキシマ砲。スタンバイ!」

 

ヘリオスの胸部が開かれた。そこからは砲身が顔を出す。

 

【ピピピピピピピピピピピピピピピピ】

 

チャージ音が戦場に響いた。完全に消し去る為に最大までチャージをする。

 

「危ない!!」

 

次の瞬間、イズマエルは鉤爪で砲身を握ってきた。そしてそれを軽く握りつぶした。

 

「まずい!!」

 

ヘリオスで蹴りを入れると、ナオミは慌ててイズマエルとの距離を取った。破壊されたのは砲身だけの様で、機体そのものはなんとか無事である。

 

だがこれで切り札の一つを失った。

 

「メビウス!!フェニックスのネオマキシマ砲は使えるか!?」

 

「やってみる!!」

 

フェニックスの胸部が開かれ、砲身が現れる。時間跳躍により、次の瞬間にはチャージは最大まで完了した。

 

「ネオマキシマ砲!シューート!!」

 

イズマエル目掛けてネオマキシマ砲が放たれた。

 

不意打ちに近いそれはイズマエルへの直撃コースを辿った。次の瞬間には爆発が発生した。

 

「やったか!?」

 

やがて煙がひきてきた。

 

「嘘だろ・・・」

 

なんとイズマエルは健在であった。先程よりもダメージを負ってはいたが、まだ生きていた。

 

直ぐにフルバーストがフェニックス目掛けて放たれた。なんとかそれらを避けて行く。

 

だが皆の中に燻っていたあるものが明白に浮かび上がってきた。

 

(勝てるのか、こいつに・・・)

 

ヴィルキス達のディスコードフェザーが効かず、さらには最大チャージのネオマキシマ砲さえ耐えられた。

 

これ以上の有効打が皆の中では思い浮かばないのだ。

 

「・・・私は諦めないわ!」

 

皆の戦意が消えかけていた中、唯一アンジュだけは諦めなかった。一度でダメなら二度、二度でダメなら三度と、必死に喰らいついていった。

 

それによってイズマエルとの戦闘も少しの間やりあえていた。

 

だが徐々にだが差は開いていった。

 

「こいつ!!」

 

勝負を決めようとヴィルキスが一気に接近した。

 

だがイズマエルは、カトンボをはたき落とすかのごとく、ヴィルキスに鉤爪を向けた。それによって、アンジュは機体を制御できず地面へと落下していく。

 

「アンジュ!」

 

皆で救助に向かおうとするが、尻尾などが邪魔して近づけない。

 

イズマエルはトドメを刺そうとゆっくりじわじわとヴィルキスへと近づいて行く。

 

「くっ!動け!動きなさい!ヴィルキス!」

 

だがヴィルキスは動かない。駆動エンジンなどが

完全に破壊されたようだ。

 

「ヴィルキス!動きなさい!さもないとスクラップにするわよ!!それが嫌なら・・・」

 

 

 

「飛びなさい!ヴィルキス!」

 

その時、アンジュの指輪が光った。するとヴィルキスに

変化が起きた。

 

突然ヴィルキスが飛び上がった。それによってイズマエルの鉤爪は地面へと突き刺さった。

 

鉤爪を抜き、イズマエルが振り返る。そこにはボディラインの一部に赤い筋が浮かび上がり、更に他の一部は金色に変化したヴィルキスが佇んでいた。

 

破壊されたはずの駆動エンジンもバリバリに作動していた。まるで生まれ変わったかの様な姿であった。

 

「やるわよ!ヴィルキス!」

 

次の瞬間には、ヴィルキスはイズマエルの懐へと飛び込んでいた。ブレードがイズマエルの身体を貫いた。

 

その後、一気に距離を取り、ライフルを放つ。それはイズマエルに直撃し、爆発が起きた。

 

これはかなりのダメージが入ったようだ。

 

今のヴィルキスは武器の火力などがかなり上がっていた。

 

先程までの劣勢が嘘のようである。攻撃の一手一手にかなりの重さが込められている。

 

そしてヴィルキスは上空へと飛び立った。イズマエルは撃ち堕とそうと口から光線を放つ。たが、それがヴィルキスに命中することはなかった。

 

「これで終わりよ!!!」

 

ヴィルキスからディスコードフェザーが放たれた。これまで見てきたディスコードフェザーのどの威力よりも破壊力があった。

 

渾身の一撃であるそれはイズマエルに直撃した。

 

イズマエルはその場に倒れ伏した。動く気配は微塵も感じ取れない。やがて大爆発が発生した。

 

その場には、無残な姿となったイズマエルとヴィルキスだけが残された。そしてヴィルキスは元の姿へと戻った。

 

「イズマエルの生命反応。消失しました」

 

「・・・んっしゃぁぁ!!」

 

皆が喜んだ。遂に最大の障壁をぶち破ったのだ。

 

「よし!後はエグゼキューターを取り押さえるだけだ!」

 

「全機、一度艦に戻れ。エグゼキューターは白兵戦で取り押さえる」

 

アウローラとアクセリオンは、ボロボロとなっていた機体を回収しようとした。

 

 

 

 

 

その時である。

 

「まさか一瞬とはいえ、ヴィルキスが進化を遂げるとは」

 

嫌な声がした。人の神経を逆撫でするような声だ。

 

その声の主は目の前に突然開いた穴から現れた。ご丁寧に機体と一緒に現れた。

 

「エンブリヲ!」

 

そいつは紛れもなくエンブリヲだ。やはりエンブリヲは生きていたようだ。

 

「よう。エンブリヲの旦那。わざわざこっちの世界にご出張かい?ご苦労なこった」

 

通信越しにガーナムがエンブリヲに労いの言葉をかける。無論、彼に相手を労る気持ちなどない。

 

「ガーナム。私は君達をなめていたようだ。まさか愚かな君達がビーストを作り出していたとは・・・いや、愚かだからこそ愚かなビーストが必要になったのかな?」

 

「おいおい。何もビーストはあんたらの専売特許じゃねぇだろ?まあ作ったのはうちの大将だけだよ」

 

ガーナムの言う大将。間違いなくベノムの事だ。

 

「悪党同士の仲間割れなら他所でやりなさい」

 

そんな会話など御構い無しに、皆が武器をヒステリカに向ける。

 

「落ち着きたまえアンジュ。君を花嫁として迎えに行くのは次の機会だ。それにしても、面白いものがあるじゃないか」

 

エンブリヲの視線の先にはイズマエルの死体が転がっていた。

 

「そのビースト。確かイズマエルと言ったね」

 

「あぁ。ビーストが元の一つに戻ろうとして作られたぜ」

 

「いい機会だ。どうせこの世界に既に未来はない。ガーナム。最後に君達に手を貸そう」

 

次の瞬間、エンブリヲの背後の穴から大量の黒い何かが現れた。

 

それはカラスであった。

 

「カラス!?なんでこんな・・・まさか!?」

 

なんとカラスの群れは、イズマエルの死体の背中部分に吸収されていった。

 

それらは背中で何かを形成していった。

 

「嘘・・・」

 

次の瞬間、イズマエルが立ち上がった。いや、蘇ったと言おう。しかも先程までの戦闘の傷や爆発の跡などが嘘のように消えてだ。

 

そして何より・・・背中に黒い翼が生えていた。

 

「そんな・・・」

 

「復活した・・・」

 

あれほど苦戦して、最後は奇跡まで絡んでやっと倒せた存在が目の前で復活した。しかも翼の生えた

その姿はどう見ても強化されている。

 

復活したイズマエルは滅茶苦茶は攻撃を繰り広げた。辺り一帯に広がった無差別に火球を放つ。

 

「アンジュ。もう少しでより良き世界を作る用意が完了する。それまで待っていたまえ。それともう

一つ。エグゼキューターの発射時間は残り一時間だよ。せいぜい頑張りたまえ」

 

そう言いエンブリヲは穴へと去っていった。

 

「より良き世界って、まさか時空融合!?」

 

時空融合はエネルギー源のアウラが奪還された事により挫折したと思っていた。だがエンブリヲはどうやらもう一度、時空融合を行うつもりのようだ。アウラの代わりとなりうるエネルギー、それほどのなにかを手に入れたようだ。

 

「アンジュ!今はそれどころじゃねぇ!早くエグゼキューターを」

 

だが今はエグゼキューターどころではない。目前のビーストは大きな翼を広げると、空へと飛び立った。

 

その姿に皆が驚愕していた。

 

ネロ艦長がその姿を一言で表した。

 

「あの姿・・・まるで」

 

「・・・悪魔」

 

悪魔のコードネームをこう名付けた。

 

ベルゼブア・コローネ

 

冠を戴いた魔王と・・・

 

そいつは火球を辺り一帯にばら撒いた。全員の機体にそれらは直撃した。

 

「ぐぁぁっ!」

 

機体が大きく揺れた。装甲などもかなり抜かれたようだ。

 

「おい!みんな!」

 

既に皆の精神力などは疲弊しきっている。このままこいつと戦えば全滅は必須である。

 

「・・・」

 

やがてメビウスが通信を開いた。

 

「ネロ艦長!俺以外の全員をエグゼキューターに

連れて行ってくれ!」

 

「おい!お前何言ってんだよ!」

 

皆が驚く。

 

「エンブリヲの言う通りならもう発射まで時間が残されてないんだぞ!あの矛先が過去のミスルギに向いたらアウトだ!」

 

もしミスルギ皇国にあの砲撃が放たれたらどうなる。間違いなく今いる破滅の未来が繰り返される。

 

「・・・だからといって!お前一人で倒せる様な敵じゃないだろ!?」

 

「ならとっととエグゼキューター抑えて戻ってこい!踏ん張るだけ踏ん張る!!」

 

「その間に死ぬぞ!!」

 

「死にません!絶対に!!」

 

「・・・」

 

やがてネロ艦長は苦渋の決断を下した。

 

「フェニックス以外の全機、帰投せよ!!」

 

「・・・了解!!」

 

皆がそれぞれの母艦へと帰投した。メビウスの中にある覚悟、それを信じたからだ。

 

「予備ブースター起動!これよりアクセリオンは、エグゼキューター攻略戦に移行する!!」

 

「アウローラの予備ブースターも使うよ!アクセリオンに遅れるんじゃないよ!!」

 

ベルゼブア・コローネが艦を撃ち墜とそうと火球を放つ。フェニックスはそれらを撃墜していった。

 

「メビウス!絶対に死ぬんじゃないわよ!」

 

その声と共に、アウローラとアクセリオンの姿は遠くへと消えていった。

 

その場には、フェニックスとビーストだけが残された。

 

「お前の相手は俺だ」

 

フェニックスは赤い翼を広げ、飛び立った。

 

眼前に聳え立つ悪魔【ベルゼブア・コローネ】との決着を、ビーストとの戦いにケリをつける為に。

 





ちょっと早いですけどヴィルキスを真・能力解放させました。

そしてビーストの最終戦はザ・ワンでいきます。

ザ・ワンとはネクサスの前日談であるULTRAMANに現れたスペースビーストです。

イズマエルは全てのビーストがザ・ワンに戻ろうとして誕生したビーストです。その為、ザ・ワンに戻してみました。

ネクサス要素を取り込むと決めた時は、本来その役目に、ナオミとヘリオスがザ・ワンになる予定でした
(敵対時にザ・ワンと名付けたのはその理由から
です)

2019年も残り一週間を切りましたね。

残り少ない2019年、皆様も有意義に過ごしましょう。


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第84話 奇跡の不死鳥

お気に入りが90人を突破しました。本当にありがとうございます!

前回のあらすじ!

イズマエルに苦戦するメビウス達。

その時ヴィルキスが真の能力解放を果たした。それはイズマエルを圧倒。皆を勝利に導いた。

だがそこにエンブリヲが突如乱入。何とカラスをイズマエルに与える事でイズマエルを復活させた!

復活したイズマエルは翼を生やし、新たなビースト。ベルゼブア・コローネへと生まれ変わった。

そんな中、メビウスは皆をエグゼキューターへと送り出した。

己のせいでこの世界に放たれたビースト。それらにケリをつけるために・・・

それでは本編の始まりです!


アウローラとアクセリオンは現在エグゼキューター目指して突き進んでいた。

 

「大丈夫か?メビウス一人で?」

 

あのビースト。ベルゼブア・コローネ。あれはどう考えても一人では抑えられる代物ではない。だが

今はメビウスを信じてやる事しか出来ない。

 

「で、あの物騒な奴がエグゼキューターってやつかい?」

 

モニターには巨大な砲身が映し出されていた。それは遠い場所にあるにもある関わらず、はっきりと見えていた。それだけでその砲身の巨大さがはっきりとわかる。

 

「・・・皆さん。お願いがあります。これから何が起きても、驚かないで落ち着いて対処してください」

 

突然アンリがアウローラに通信を送ってきた。

 

「え?それってどういう・・・」

 

時を同じくして、ネロ艦長が艦長の帽子を投げ捨てた。そして息を大きく吸い込んだ。

 

「野郎どもぉ!これから敵地に乗り込むぞぉ!!」

 

「!!??」

 

その怒鳴り声の様な大きな声は通信越しのアウローラのブリッジを凍りつかせた。

 

突然のネロ艦長の豹変ぶりにアウローラ組が困惑していた。あの丁寧なネロ艦長のこの変わり用は流石に予想外だったのだろう。

 

「今から俺たちは!世界の王を気取る奴に一泡吹かせてやるんだぁぁ!!」

 

「イエエエエィィィ!!」

 

アウローラ組とは違い、アクセリオン組は何故かとても乗り気であった。

 

「すいません。ネロ艦長って、所謂その、あれですよ。帽子を取ると何故か高揚感が得られるというか・・・」

 

アンリがアウローラ組に必死に説明している。皆開いた口が塞がらない状態であった。

 

・・・人は見た目で判断できないの良い見本となった。アクセリオンが更に加速している。

 

「アイ・フィールドを艦の前面に押し出せ!マキシマ砲発射用意!!」

 

「ラジャー!!!」

 

まさかのオペレーター組までノリノリであった。

 

「・・・え!?まさか!?」

 

アンジュ達はネロ艦長達のやろうとしている事に

予想がついた。

 

「突っ込めぇぇぇ!!!」

 

【ドッスーーン!!バリバリバリバリ!!! 】

 

次の瞬間、轟音と共にエグゼキューター基地が大きく揺れた。

 

「何事だ!?」

 

「ガーナムさん。大変です!ZEUXISの奴らの母艦が・・・エグゼキューターに侵入しました!!」

 

「・・・はぁぁぁ!!?」

 

そうなのだ。なんとアクセリオンはエグゼキューターの砲身めがけて突っ込んだのだ。そしてアクセリオン自身はなんと砲身を貫通して基地内に突っ込んできた。

 

「アクセリオンが侵入した近くのブロックが制圧されました!」

 

「奴等め!狙いは発射管理システムか!!」

 

「警備兵を総動員しろ!警備ロボットも出せ!なんとしても一時間持ちこたえさせろ!!」

 

オペレーター達が慌てふためく中、ガーナムだけは澄まし顔でいた。

 

「ふん。この基地がどうなろうと知った事か。それより、見せてもらおうじゃねぇか。テメェの意地を・・・」

 

そう言うとガーナムはモニターの方に悠々と顔を向けた。

 

アウローラ組はポカンとしていた。まさかあの様な乱暴な手段で乗り込むとは・・・

 

「・・・なぁ。これ、私達必要だったか?」

 

ヒルダ達が顔を見合わせながら呟いた。

 

「皆さんは機体の整備をお願いします!」

 

アンリが通信越しに指示をだした。だがそれも銃声が鳴り響くと、切られた。

 

「メビウス。あいつ。大丈夫かな・・・」

 

「ねえ!メビウスの援護に行けないの!?」

 

「無理だよ!アウローラだってかなり損傷してるんだし!仮にメビウスの援護に向かおうにも、全てのパラメイルは大破。修復にはかなりの時間が・・・」

 

そうなのだ。アウローラ自身、そしてどの機体もかなりボロボロである。一機を集中的に応急手当てをしようにも最低1時間はかかる。

 

「くそっ!なにか出来ないの!?なにもしてあげられないの!?」

 

自分達の不甲斐なさにナオミは珍しく感情的になる。拳を床に叩きつけた。

 

「あんた達。だらしないねぇ」

 

その時突然声がした。驚いて振り返るとそこにはジャスミンがいた。

 

「ジャスミン。何でここに?」

 

「ナオミ。メビウスの援護に行きたいんだろ?」

 

「ええ。でも、あのビーストに有効な武器が思いつかない。それに機体も・・・」

 

「ついてきな。まだ一番立派な武器が残されてるじゃないか」

 

「え?そんなものが残されてるの!?」

 

「ついてきな。10分間レクチャーしてやるよ」

 

そう言うとジャスミンはナオミを連れてある場所へと訪れた。

 

「これって!」

 

ナオミは目の前のそれに驚いた。本当に残されていたのだ。たった一つだけ、パラメイルに勝るとも劣らない立派な武器が。

 

「危険だけど、やる覚悟はあるかい?」

 

ジャスミンがナオミに問いかける。

 

「やるよジャスミン。メビウスは私達の為に危険を背負ってる。だから今度は、私達が危険を背負う番だから!」

 

そう言うとナオミはそれのレクチャーを受け始めた。

 

 

 

 

 

一方こちらはメビウスサイド。

 

現在【ビースト・ザ・ワン・ベルゼブア・コローネ】とのドッグファイトの最中にである。

 

フェニックスの手にするサーベルの出力はマックスである。それらを使い敵ビーストの放つ攻撃を切り裂いてゆく。

 

ベルゼルア・コローネが火球を数発放った。難無くフェニックスはそれらを避けた。そして目前で、

ビーストは何かをチャージしていた。

 

「チャンス!」

 

サーベルの出力を最大にして、斬りかかろうとした。

 

すると突然背後から何かがフェニックスに襲いかかってきた。

 

「なっ!」

 

あまりにも不意な出来事にフェニックスは完全にバランスを崩した。慌てて振り返り確認する。なんとそこには先程避けた筈の火球がこちら目掛けて飛んできた。

 

追尾式火球弾である。残りの数発がこちら目掛けて飛んできた。メビウスもファングで、手当たり次第に火球を蹴散らして行く。

 

次の瞬間、背後からビーストの貯め射撃が放たれた。アイ・フィールドで何とか、威力を軽減する。

 

だがそれでも徐々にだが差は開いていった。

 

こういう敵には油断せずに短期決戦を持ち込むのが勝つための定石である。だがイズマエルとの激闘の傷跡などがフェニックスには襲いかかっている。

 

はっきり言ってまだこのビーストと戦っていられる方が異常とも言える。

 

それはメビウス自身も同じであった。既に意識も半ば朦朧としている。既に30分は経過している。

 

「はぁっ。はあっ。はあっ。はぁっ」

 

「モウゲンカイカ!?」

 

突然声が響いた。その声の主にメビウスの度肝は抜かれた。

 

「なっ!お前、喋れるのか!」

 

それは目の前のビーストが喋っていた。あまりにも予想外だった。目の前のビーストがまさか喋る事が出来るとは。

 

「オレハスベテノビーストノチョウテンニタッテイル!ホカノカキュウビーストトイッショニスルナ!」

 

「どうでもいいんだよそんな事!上級だろうと下級だろうと、お前を倒すのが俺の任務だ!!」

 

一気に接近してサーベルで喉を貫こうとする。

 

その瞬間、フレラシアの花粉が放たれた。それらはフェニックスの外装に命中し、大爆発を起こした。

 

「こいつ!イズマエルの時の力も使えるのかよ!」

 

フルバーストがフェニックス目掛けて飛んできた。それらに耐えきれず、フェニックスは地面へと叩きつけられた。モニターなどの表示がされなくなった。

 

「くそ!動け!動け!!動け!!!」

 

しかしフェニックスは完全に沈黙した。フェザーファングはおろか、アイ・フィールドさえ使えなくなっている。今なお、火球などのフルバーストがフェニックス目掛けて放たれた。それらは全弾命中した。

 

「うわぁぁぁっ!!!」

 

機体を襲った衝撃によって、彼の意識は閉ざされた。

 

 

 

(・・・ここは!?)

 

気がつけばメビウスとシグは精神世界に来ていた。辺り一面真っ暗である。すると突然、目の前にある光景が映し出された。それは一方的に攻撃を受けるフェニックスの姿であった。

 

(・・・これ以上の戦闘に、フェニックスはもう、耐えきれない。フェニックだけじゃない。お前自身も、もう耐えきれない)

 

(じゃあ、この悪魔はどうするんだ!!)

 

メビウスとシグの目の前に、ベルゼブア・コローネの幻影が現れた。

 

(だめだ・・・ここで終わるなんて・・・

駄目だ!約束したからな・・・絶対死なないって)

 

二人の目の前に突然扉が現れた。それは精神世界の出口だと何故だか理解できた。

 

二人がその扉に手をかける。そして開けた瞬間、

アウラの声が二人の耳に聞こえた気がした。

 

(奇跡は起きます。絶対に・・・)

 

次の瞬間、突然周囲が明るくなった。

 

 

 

気がつけばメビウスはコックピットに戻っていた。相変わらずベルゼブア・コローネの猛攻は続いている。

 

しかし恐怖心は微塵もなかった。

 

「諦めるか・・・諦めるもんか!!諦めてたまるもんかぁ!!!」

 

その叫びに応えるかの様に、ネオマキシマエンジン。つまりはネオドラグニウムが光輝いた。メビウスの体内にあるドラグニウムも同じく光輝いた。

 

そして奇跡は起きた。突然フェニックスが白く光り輝いた。背中の左右それぞれにあった翼が鎧となった。

 

真紅のボディは白銀の如く輝いている。そしてモニターにはとある文字が表示されていた。

 

【フェニックス・ノア】

 

それは今の機体の名前であった。先程までの傷などは全て感知されている。機体のハンドルを一気に入れた。するとその速度などは最終形態の比ではなかった。

 

「うわっ!」

 

まだ操作に慣れていないようだ。すると何かによって機体が捕縛され、拘束された。

 

「コノシニゾコナイガ!!」

 

ベルゼブア・コローネが機体に喰らい付いてきた。再び何かを溜め撃ちしようとしている。今度はゼロ距離でだ。

 

「メビウス!しっかりして!!」

 

突然声がした。次の瞬間、ベルゼブア・コローネの背後で爆発が起きた。それによってフェニックスの拘束が解けた。距離をとって声の主を確認する。

 

「あれは・・・ナオミ!!?」

 

そこには何とナオミがいた。しかもパラメイルにもラグナメイルにも龍神器にもデルタメイルとも違うものに乗ってきた。

 

 

 

それはジェットボードであった。以前メビウスがジャスミンに半ば強引に押し付けられたあのジェットボードである。(22話などを参照)

 

ビーストはナオミを標的とした。火球などがナオミ目掛けて放たれた。

 

「撃つんじゃない。そういう時は回避するんだ」

 

通信越しにジャスミンからの指示が飛ぶ。それとともに火球をなんとか避けて行く。

 

「ロケットランチャーの残弾数は残り一発」

 

ナオミが弾薬の装填を開始した。そしてそれが終わるとビーストの背中の翼目掛けて、放った。

 

ジェットボードを加速させ、ビーストの間近を、フェニックスの間近を横切る。この時、一瞬だけ

フェニックスと視線が合った様な気がした。

 

「メビウスゥゥゥ!!!」

 

次の瞬間、ベルゼブア・コローネはロケットランチャーのの直撃を浴びた。これは流石に聞いたのか

フェニックス・ノアの拘束が緩んだ。

 

「メビウス!チャンスは作ったよ!後は頑張って!」

 

武器がなくなり、ナオミはアウローラへと帰還した。解放されたフェニックス・ノアの腕から何かが放たれた。

 

それはブレードの様なものであった。

 

腕から放たれたそれは、ベルゼブア・コローネの翼を簡単に切り落とした。完全に取り込んでいなかったのか、翼の部分は、烏へと戻り、辺り一帯に羽ばたいていった。

 

翼を失い、ビーストは自由落下の法則で地面へと叩きつけられた。その目の前にフェニックスは降り立った。ベルゼブア・コローネは、烏を失った事により、その姿をイズマエルへと姿を戻していた。

 

そしてあの高さから落ちた影響か、イズマエルの身体は既にボロボロであった。

 

フェニックス・ノアの腕から何かが溢れていた。それはエネルギーチャージにも似ていた。次の瞬間、機体の腕をクロスさせた。

 

するとそこからネオマキシマ砲の光線が放たれた。それらはイズマエルに直撃した。イズマエルは徐々に、後ろへと後ずさっている。身体の一部が崩れ落ちていった。

 

「バカナ!バカナァ!!バカナァァァ!!」

 

断末魔と共に、やがてイズマエルは塵一つ残さず消滅した、おそらく分子、いや、原子レベルで完全に消し去ったのだろう。

 

終わったのだ。イズマエル。いや、ビーストとの戦いが・・・

 

「メビウス!」

 

アウローラから通信が入った。出てみると第一中隊の皆であった。

 

「終わったんだな。ビーストとの戦いは」

 

「あぁ。後はブラック・ドグマとエンブリヲだけだ。奴等を倒せば、本当の戦いにケリがつく」

 

その時だった。

 

「みんな!大変だ!」

 

突然ネロ艦長から通信が割り込みで送られてきた。本人のテンションはいつものネロ艦長に戻っていた。しかし何処か様子がおかしい。何か慌てふためいている。

 

そして通信越しに聞こえた会話に皆の背筋が凍りついた。

 

管制室では、皆が慌ただしく色々な事をしていた。だがどれもまるで手応えがなかった。

 

「どうなってるんだ!?」

 

「駄目だ!全くこちらのコマンドを受け付けない!!」

 

「やべぇな。発射までもう時間がねぇぞ!!」

 

エグゼキューター管制室のモニターは刻一刻と時間を刻んでいる。全てを滅ぼす、破滅の光。それを放つ残りの時を・・・

 

「砲身やエネルギー源そのものを破壊すれば!」

 

その時である。

 

「そんな事したら、辺り一帯がマジで吹き飛ぶぜ」

 

ある声が響いた。目の前に降り立った黒色の機体。

 

「よぉ。シグ。いや、メビウス。ビースト退治は見事だったぜ」

 

「ガーナム・・・」

 

「エグゼキューターの発射管理システムはこっちが掌握している。残りチャージ時間は残り10分ってところだ」

 

残り10分でエグゼキューターは発射される。仮にここで撃ち込まれた場合、アウラがいない為、間違いなく全滅するだろう。

 

「もう言わなくてもわかるよな?」

 

そう言うとジュダはサーベルを長く伸ばした。エグゼキューターを止めるためには、ガーナムを倒すしかない。

 

「さぁ、始めようぜ。最期の戦い。いや、殺し合いってやつをよ」

 

「メビウス。お前に人を殺させはしない」

 

メビウスの主人格がシグへと変更された。

 

「ガーナム。今回だけだ。貴様の言う殺し合いに

全力で付き合ってやる」




フェニックス・ノア・・・

どう考えても元ネタはあの光の巨人です。本当にありがとうございました。

アンケートの回答期間は2020年1月6日の23時59分59秒までとします。

おそらくこれが今年最後の投稿となるでしょう。

あと1話でオリジナルシナリオの未来編は完結の予定です。

そしたら遂に最終章。アニメ本編の最終話に突入します!!

この様な作品ですが、最後まで御付き合いをよろしくお願いします!!

それでは皆さん。良いお年をお迎えください!!


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第85話 戦いの果てに・・・

フェニックス・ノアの戦闘シーンなどを考えてたらまじで武器が思いつかなかった。

武器が思いつかない。なら武器なしで戦わせよう!!

前回のあらすじ!

メビウスを信じ、ネロ艦長達はエグゼキューター
攻略の為、艦を特攻させることで抑えようとした。

そしてメビウスは、最強のビーストであるベルゼブア・コローネと戦闘を繰り広げた。ジェットボードに乗ったナオミの援護もありベルゼブア・コローネを倒したメビウス。

そこにエグゼキューター発射管理システムを掌握したガーナムが現れた。メビウスはシグと入れ替わり、ガーナムと戦闘を開始する。

未来世界の最期の戦い。それのケリをつけるために。

それでは本編の始まりです!



「シグゥ!俺は初めてお前を見た時からこの手で殺したかった!お前のその目はまさに俺と同じ目をしていたからなぁ!!」

 

ガーナムのジュダが猛攻を繰り広げている。その

攻撃などの腕はシグのフェニックス・ノアと互角に渡り合える程である。

 

「俺がお前と同じだと・・・ふざけるな!!」

 

フェニックス・ノアに武器はない。言うなれば機体そのものが武器なのだ。腕から三日月状の粒子兵器をジュダ目掛けて放つ。

 

ジュダはサーベルでそれらを切り裂いて、叩き落とした。

 

「楽しいなぁ!戦争はよぉ!」

 

「余計なお喋りをしている暇があるのか!?」

 

次の瞬間、フェニックスの拳がジュダに命中する。それによってジュダは大きく揺れた。

 

「おおっ!嬉しいなぁ!シグが本気で殺し合いをしてくれるとはなぁ!!」

 

ジュダのサーベルがノア目掛けて突き刺さろうとした。咄嗟にサーベルを掴んだ。ビームの刃であるそれは機体の右腕にダメージを確実に与えていた。

 

「!」

 

機体でジュダを思いっきり蹴り飛ばした。

 

【ビービービービー!!!】

 

突然謎の警報が戦場に鳴り響いた。

 

「へっ。エグゼキューター発射まで残り5分ってわけか」

 

「・・・発射されて、はい、さよなら。なんてのはつまらねぇ・・・とっておきの切り札。使うか」

 

ジュダがなにかを取り出してきた。それはビショップが所持しているものと同じ型のマキシマ砲であった。

 

「残り時間が少ねぇんだ。腐らない様に互いに最強の武装でケリをつけようじゃねぇか!これで死んだ奴が負けだ!!」

 

何かが銃身にチャージされている。銃身からは赤い粒子が飛び散っている。

 

「この反応・・・マキシマエンジン!?」

 

「そうよ!どうする!?シグよぉ!!」

 

銃身からは尚もマキシマのチャージが行われている。それは既にエネルギー収束の許容範囲をオーバーしている。やがてフェニックス・ノアも両腕にエネルギーチャージし始めた。

 

「シューート!!!」

 

次の瞬間には、ベルゼブア・コローネを消し去ったネオマキシマと、ジュダの溜めオーバーマキシマ砲が真っ向からぶつかり合った。

 

ぶつかり合った地点で大爆発が起きた。爆炎が二人の機体を一気に包み込んだ。

 

多少煙が引いてきた頃。

 

「もらった!!」

 

フェニックス・ノアの目前にジュダが迫った。その手にはマキシマ砲が握られていた。

 

マキシマ砲がコックピットに照準を定めていた。再びマキシマ砲を近距離で放とうというのだ。

 

「あばよ!!」

 

 

 

 

 

【グシャッ!!】

 

ジュダのマキシマ砲がコックピットに触れる直前、ジュダ目掛けてフェニックス・ノアの拳が機体にめり込んだ。それはコックピットに直撃し、貫通していた。

 

勝者はフェニックス・ノアだ。敗者のジュダは物の見事に大破した。機体全体の80パーセントが消えており、残った20パーセントからは火花などが飛び散っている。これで生きてはいないだろう。

 

【・・・ガタ】

 

何かが軋む様な音がジュダから聞こえた。

 

「まだだ・・・まだ・・・」

 

「!!嘘だろ・・・」

 

なんとガーナムはまだ生きていた。全身が赤く染まっていた。息も絶え絶えだ。それなのにまだガーナムは動いていた。

 

「まだだ・・・まだ、足りねぇ・・・」

 

コックピット部分から身体を乗り出すと、なんと

拳銃一丁でフェニックス・ノアに銃撃を開始した。

 

そんな事をしてもフェニックスに効くわけがない。だがガーナムは引き金を引くのをやめなかった。

 

「まだまだたりねぇんだよ!!!」

 

やがて拳銃の弾は全て撃ち尽くされた。

 

フェニックスはジュダの所持していたライフルを取ると、その銃口をガーナムへと向けた。

 

ライフルの引き金に機体の指が添えられる。

 

【カチ!】

 

「・・・」

 

銃身からは何もチャージされなければ、何も放たれもしなかった。

 

最大チャージでぶつかり合った際、既に勝負は決まっていたのだ。それなのにこいつは戦いをやめようとしなかった。

 

「・・・」

 

シグがコックピットから出てきた。ガーナムの前に降り立ち、そして素通りする。まだ機体のモニターなどは生きていた。モニター操作でエグゼキューターのコントロールを発射管制室に戻した。

 

(これで後はネロ艦長達が止めるはずだ)

 

やがてシグはガーナムの前に立った。

 

「へっ・・・こうなる事を予想せず、銃弾を撃ち尽くすとは・・・俺も焼きが回ったもんだなぁ・・・」

 

絶え絶えの息でガーナムは虚勢を張った。気に入らない相手に弱い姿は決して見せない。彼なりのプライドから来ているものだろう。

 

「・・・お前は言ったな。俺とお前は同じだと・・・半分だけ当たってるかもな」

 

(シグ?)

 

精神世界に待機しているメビウスにも、その声は届いていた。届いていたが故に、何を言っているのか疑問に思った。シグはガーナムと目線を合わせる為にしゃがみこんだ。

 

「俺達だって、本来なら別の生き方があったはずだ。少なくても、こんな血塗れになって醜く争わなくて済むぐらいにならな」

 

「俺もお前も、いや、この未来世界をを生きる全員が、この破滅の未来が生み出した被害者なのかもな。こんな世界じゃなければ、お互いもう少しは

幸せでいられたかもな・・・」

 

「・・・だっーはっはっはっはっは!!!」

 

目の前で突然ガーナムが大声で笑い始めた。

 

「何だよそれ!?哀れみか?同情か?優しさか?心底くだらねぇ!!!」

 

ガーナムはシグに侮辱するかの様な言葉を投げかけた。それにシグはなんの反応も示さず、ただ黙って聞いた。

 

それなりの罵倒が終わると、ガーナムは突然黙った。

 

「・・・ベノムには気をつけな」

 

「なに?」

 

ガーナムが小声で囁く風に言い始めた。

 

「あのジジイは相当な食わせ者だぜ?精々殺されないように気をつけな。それともう一つ教えてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エグゼキューターに使われているのはネオマキシマエンジンだ。そしてそれは・・・人類進化連合が使ってた時からのものだ」

 

「!!??なんだって!?」

 

「シグ!代われ!!おいガーナム!それはどういう事だ!?」

 

ガーナムの放った一言にメビウスの主人格が前面に押し出された。彼はこれまでエンブリヲがブラック・ドグマに肩入れした為に、エグゼキューターがマキシマ砲となっていると思っていたからだ。

 

だが仮にガーナムの言った事が本当なら、人類進化連合がネオマキシマエンジンを保有していた事になる。

 

つまりあの砲撃はネオマキシマ砲だった事になる。

 

「答えろ!ガーナム!!」

 

「以前言ったろ?負けたからって素直にそっちに従うわけねぇだろ?んじゃなシグ。そしてメビウス!先にあの世に逝ってるぜ!ハーッハッハッハ!!」

 

次の瞬間、ジュダは大爆発を起こした。辺りにはジュダの残骸が散乱した。爆発の直前、メビウスは

反射的にジュダから離れていた。

 

残骸の一つがメビウスの足元へと飛んできた。それはガーナムの血で一部が赤く染まっていた服の切れ端であった。

 

だが、今のメビウスはそれどころではなかった。ガーナムの言った言葉。あの時のあいつの目は真剣だった。普段のふざけた態度など微塵も感じ取れないくらいに。

 

「どうなってやがる・・・なんでネオマキシマエンジンが・・・」

 

するとフェニックスにZEUXISから通信が入った。フェニックスに乗り込み、通信に出た。すると向こうの様子が変な事に気がついた。何処か慌てふためいている。

 

「メビウス!!エグゼキューターが変だ!!」

 

「なんだって!?一体どうした!?」

 

「とりあえず発射の心配はなくなった!だけど同時にエネルギーチャージが突然なくなったんだ!」

 

「エネルギーがなくなった!?一体どうなってんだ!?」

 

 

 

その時だった。

 

「それは、私がエネルギー源を抜いたからではないのかな?」

 

突然男の声がした。その方角を見る。すると目の前に男が一人浮かんでいる。

 

「ふむ。これがネオマキシマエンジンというものか」

 

スーツ姿の金髪男。いつ見ても不愉快さだけがこみ上げてくるその存在が、目の前にいた。

 

「エンブリヲ!!」

 

そこにはエンブリヲがいた。エンブリヲの所有するラグナメイル、ヒステリカの手のひらの上に佇んでいる。

 

直ぐに交戦体制へと移行した。だがエンブリヲの

一言によってそれは直ぐに解除された。

 

「いいのかい?私に手を出して」

 

エンブリヲはある人物を抱えていた。その人物は意識を失っていた。そしてその人物をメビウスは知っていた。

 

「アンジュ!?」

 

なんとエンブリヲの腕の中にはアンジュがいた。

意識を失っており、更に全裸である。

 

 

 

少し前に遡る。アウローラの格納庫において、皆が機体修理の為に格納庫を縦横無尽に走り回っていた。

 

「やぁアンジュ」

 

「なっ!?」

 

なんの脈絡もなく、突然格納庫にエンブリヲが現れた。

 

「この変態!殺されに来たわけ?」

 

「違うよ。君を迎えに来たのさ」

 

エンブリヲは相変わらず澄ましている。直ぐに第一中隊の皆が白兵戦の構えをとった。だが次の瞬間にはエンブリヲ、そしてアンジュは第一中隊の目の前で格納庫から姿を消したのだ。

 

「なっ!?アンジュ!?」

 

アンジュのいた場所には、ライダースーツと指輪だけが残された。

 

そして今に至る。今エンブリヲに手を出せばアンジュも巻き込んでしまうというわけだ。

 

「いい機会だ。冥土の土産にいい事を教えよう」

 

「・・・なんだよ。一体」

 

「不思議に思わないのかい?君達、更にはブラック・ドグマは過去に大きく介入している。それなのに何故未来が全く変わらないのか」

 

それは薄々とだが未来組が感じていた疑問だ。何故未来世界が全く変わっていない。それは疑問として心にこびりついていたものだ。

 

「その答えはただ一つ。私がこの未来をセーブしたからだ」

 

「セーブだと!?」

 

「そうだよ。セーブだ。これによって過去のミスルギ達の未来は変わっても、君達の未来にその影響は訪れない」

 

エンブリヲの物言い。それはまさにドス黒い何かを含んでいた。世界を自分の箱庭だとでも豪語している者の口調である。まるで楽しい遊び、ゲームをしているかの様な口調でもある。

 

「君の努力が身を結ぶ事はない。君達の未来は変わらないのだよ」

 

「・・・つまり、テメェさえぶっ潰せば、俺のしてきた事に意味を持つし、この未来も変わるんだな」

 

完全にキレていた。メビウスはエンブリヲに対して殺気を隠さずに剥き出しにしている。

 

そんなメビウスを無視してエンブリヲは話を続けた。

 

「そして私は、アウラなどに代わりある最高の道具であり、エグゼキューターのエネルギーの【ネオドラグニウム】を手に入れたのだよ。まさか人類進化連合がこんな素晴らしいものを所持していたとは」

 

「白々しい事言ってんじゃねぇ!!テメェ、ブラック・ドグマだけじゃなくて人類進化連合にまでに肩貸しやがって!未来の戦争を、泥沼にすんじゃねぇ!!」

 

メビウスが激昂する。ガーナムの話が本当なら、単純に考えてエンブリヲは人類進化連合にも協力していた事になる。しかしエンブリヲは驚くべき答えを返した。

 

「私は、 ブラック・ドグマにビクトリアやエイレーネなどは貸し与えたが、人類進化連合などという

組織と接触をした覚えは微塵もない!」

 

「それが本当なら!どうしてこうなってやがる!!」

 

「さぁな。どの道ここで死ぬ君達がそれを知る必要はない」

 

【パチン】

 

エンブリヲが指を鳴らした。

 

「なっ!?この反応は!?」

 

すると皆の目前に突然巨大な竜巻が現れた。

 

「時空融合収斂率。95パーセント!!?」

 

アウローラのブリッジにいたリィザが叫ぶように言う。そう、時空融合が再び開始されたのだ。アウラの代わりとなるネオドラグニウム、ネオマキシマエンジン。そのエネルギーを使って。

 

「では諸君。残り少ない命を精々大切にしたまえ」

 

そう言うとエンブリヲはアンジュと機体と共に姿を消しさった。

 

 

 

その会話はアウローラ。そしてアクセリオンにも届いていた。

 

「おい!このままじゃまずいぞ!」

 

「アクセリオン。全機能。オールグリーン!!」

 

「緊急発進!!」

 

ZEUXISのメンバーは慌ててアクセリオンに戻り、艦を砲身から脱出させた。

 

しかし竜巻は目前にまで迫っていた。

 

そこにフェニックス・ノアが駆けつけた。機体が白銀に光輝き、アウローラとアクセリオンを守る様にアイ・フィールドを発生させた。

 

そして、モニターには例の如く文字が表示された。

 

《Neo Maxima Over Drive System》

 

「ジャンプ!!」

 

次の瞬間、フェニックスと共にアウローラとアクセリオンは時空融合の被害を避けるため、過去へと飛んで行った。

 

残された竜巻はエグゼキューターを簡単に巻き込んだ。未来世界では、エンブリヲの起こした時空融合の影響によって生き残っていた僅かな人間達を巻き込み、容赦なく襲いかかった。

 

人類進化連合の敗残兵も。ブラック・ドグマの非戦闘員も。そしてフォートレスにいたZEUXISのメンバーも。何も知らない子供から大人まで。

 

全ての人間が、破滅の未来から消え去ったのだ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一名を除いて。

 

「ついにきたか、この時が」

 

既に破壊されたエグゼキューター基地。その地下のとある隠し部屋に、あの仮面の男【ベノム】がいた。

 

「計画通り・・・と言ったところかな・・・」

 

仮面に包まれたその顔で、ベノムは邪悪な笑みを

浮かべた。

 

「全てが・・・私の掌の上なのだよ」

 

 




今回で第10章はおしまいです!

遂に物語は最終章へと突入します!

最後の物語。悔いの残らず、そして皆に喜んでいただける作品に仕上げてみせます!!

余談ですが新しいクロスアンジュの小説投稿を開始したのでよければそちらも閲覧してください。


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第85.5話 オリキャラ図鑑③

オリキャラ図鑑3号です。

今回も新たなキャラ、機体、武装などについて簡単ながらご紹介させていただきます。




オリキャラ

 

ベノム

 

ブラック・ドグマの首領。かなりの御老体であり、100年後の未来世界において唯一マナの光が溢れてた頃から生きていたと皆に言っている。(真偽は不明)

 

その目的は人類殲滅であり過去の世界の人間も殺そうとしている。さらにガーナムの話によると、エンブリヲの知らないビーストはこいつが創り出したもの。

 

そして何やら独自の思惑があるらしくかなり危険な存在。

 

 

 

 

オリジナル機体。

 

スペリオル

 

エルシャの新たな機体。メビウス達の元に帰ってきたエルシャのハウザーがなかった為に、エルシャに与えられたデルタメイル。

 

基本的に援護砲撃などを目的として作られている。

 

因みに最初に行ったラグナメイルアンケートにおいて、もしビクトリアとエイレーネが登場しない結果となった場合はこの機体がココの機体として与えられる予定であった。

 

武装。ビームライフル。ビームスナイパーライフル。マイクロミサイル。ビームバズーカ。自動標準システム。

 

没装備(ドラグニウム砲)敵対時にはなんらかの切り札が欲しかったが最初から味方のため没となった。

 

アーバトレス

 

タスクのアーキバスを回収して魔改造した機体。ほんのりとアーキバスの面影があるがどちらかというとデルタメイルである(パラメイルとデルタメイルの外見にそれ程の差異はない)

 

こちらも本来ビクトリアとエイレーネが出なかった場合、ミランダの機体として与えられる予定であった。

 

武装。二連装ビームライフル。ビームサーベル。頭部バルカン砲。凍結バレット。

 

没装備(ドラグニウム砲)敵対時にはなんらかの切り札が欲しかったが最初から味方のため没となった。

 

フェニックス・ノア

 

フェニックスのネオドラグニウムとメビウスの体内のドラグニウムが共鳴した結果誕生したフェニックス最終形態の進化系。初登場においてこれまで不利であったザ・ワン・ベルゼブア・コローネを圧倒。

 

どう考えても元ネタはウルトラマンノアです。本当にありがとうございました。

 

武器。現段階ではまだ不明。てか持ってない。

 

 

 

パラメイル達の新装備。

 

HHWS

 

正式名称はヘビー・フル・ウェポン・システム。

 

バーグラーセットの火力とターボカスタムの速度を備えた機体。バーグラーセットの時よりも武装などを搭載しているため歩く弾薬庫よりは飛翔する弾薬庫の言い方の方が正しい。唯一の欠点がビーム兵器が多くなり、その分実弾兵器が少なくなったという事。

 

フェニックス最終形態時にも使えるようだがフェニックス・ノアの時には使えないもよう。

 

追加装備。デスカリバー。粒子兵器としても実体剣としても扱える。高粒子ビームバスターが隙なく撃てる様に改良された。

 

AWS

 

正式名称はアサルト・ウェポン・システム

 

パラメイルの武装の少なさを嘆いたジンによって作られた装備。見た目はアーマーに近く、装備する事により耐久力と武器のレパートリーはそれなりに増えている。いざとなったらパージする事も可能。

 

追加装備。マイクロミサイル。自動機銃。耐ビームコーティング。

 

MWS

 

正式名称はメガ・ウェポン・システム

 

デルタメイル様のアーマー武装。上記のAWSとほぼ同じ。(厳密に言うなら本来こちらの装備がメインでAWSは緊急で作られたもの)

 

追加装備。マイクロミサイル。自動機銃。耐ビームコーティング

 

 




この様なくだらない茶番に付き合って頂き誠にありがとうございます!!


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最終章 真実の黙示録
第86話 決戦の場へ



今回から最終章。アニメで言う最終回に突入します!!

ここまできたら、やりたい事やったもん勝ちです。

最終章も、最後まで御付き合いください!そしてこの投稿でこの作品を知った方も、是非。最初から
読んで御付き合いください!

前回のあらすじ!

遂にシグとガーナムの決戦が行われた。

結果はシグが勝利。ガーナムはベノムに気をつけろと遺言を残すとその命を散らした。

そんな中、再びエンブリヲが現れた。しかも今回はアンジュを人質として扱っている。

更に最悪な事にエンブリヲはエグゼキューターに使われていたエネルギー源。なんとネオドラグニウムを入手した。

その力により未来世界は時空融合に飲み込まれた。

メビウス達は飲み込まれる直前、過去へと跳んだ為事なきをえたが、これによって破滅の未来は、人間が滅びてしまった。

たった一人、ベノムを除いて・・・

それでは本編の始まりです!!



 

フェニックスが過去へと転移した。

 

「なっ!これは!!」

 

目前に広がる光景。それは時空融合である。竜巻が目前に迫って来ていた。

 

「もう一度アイ・フィールドで!!」

 

メビウスがフェニックスのアイ・フィールドを起動させる。

 

しかしアイ・フィールドは展開されなかった。なんと今のフェニックスは第一形態へとその姿を戻している。そして、これまでの激戦の傷跡も背負っている。

 

「メビウス!一度アウローラに戻りなさい!」

 

皆に言われ仕方なくフェニックスをアウローラに戻す。

 

振動がアウローラとアクセリオンに襲いかかる。

近くのものに掴まる形でなんとか被害を防ぐ。

 

そしてそれは突然訪れた。いきなり振動が止んだのだ。

 

「・・・?」

 

「振動が、止んだ・・・」

 

その時だった。

 

「戻られましたか。皆さん」

 

「なっ!誰だ!?」

 

発着デッキにいた皆の脳に、響くかの様に言葉が伝わってきた。そしてその声の主をメビウスとサラマンディーネ。タスクとナオミは知っている。

 

「この声、確かフェニックスを作ったって言ってた・・・」

 

「アウラ・・・」

 

アウローラとアクセリオンの二つの戦艦を包み込むかの様に、アウラがそこにはいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、アンジュは。

 

「うっ、うう・・・ここは・・・」

 

意識を失っていたアンジュは目を覚ました。起きてみると何処かの部屋のベットの上だった。

 

「私、確か・・・そうだ。エンブリヲがアウローラに現れて」

 

現在アンジュはアンジュリーゼだった頃の服を着ている。慌てて部屋を出て、外を確認しようとする。

 

やがて出口なのか、光が見えて来た。

 

「!!ここは!?」

 

そこはお墓の様な所であった。簡素な墓石が規則正しく並んでいた。しかしその光景をアンジュは知っている。

 

「ここ・・・まさか・・・」

 

「そう。アルゼナルだよ。オリジナルのね」

 

上空からヒステリカが降りてきた。その手の上にあの男、エンブリヲはいた。

 

「少し昔話をしよう。私はここで多くの物を発見し、生み出した」

 

アンジュはその場から離れた。だが声は響くようにアンジュの脳に伝わってきた。

 

「統一理論。超対照性粒子。そして並行宇宙」

 

有人次元観測機ラグナメイル。それを使った別世界への進出は、新たな大航海時代の幕開けとなる」

 

「だが、突如システムが暴走。この島は時空の狭間に閉じ込められた」

 

「だがそれこそが始まりだったんだよ。ここは時が止まった世界」

 

アンジュの辿り着いた先にエンブリヲは待ち構えていた。余裕からか紅茶を飲んでいる。

 

「私はここからあらゆる地球へと干渉を始めた」

 

「そして新たな地球を用意し、人間を作り直したんだ。人間を美しくする為に・・・残念ながらマナによる高度情報化社会は失敗したが、君だけは違った」

 

「私に相応しく強く賢い女。イレギュラーから生まれた天使」

 

エンブリヲはじわじわとアンジュに迫って来た。

 

「私とともに、より美しい人間達を作ろう」

 

【パチン】

 

アンジュはエンブリヲに殴りかかろうとした。だが見事にカウンターでビンタを受けた。

 

「私をあまり怒らせない方がいい。これからは二人っきりでここに住むのだからな。永遠に・・・」

 

「そんなのお断りよ!!」

 

アンジュは走ってその場から離れた。

 

「やれやれ。無駄な事を」

 

 

 

 

 

 

 

その頃メビウス達はアウラからエンブリヲのいる

場所の話を聞いていた。

 

「時間も空間も超越した場所。そこにエンブリヲはいます。おそらくアンジュさんも」

 

「そんなとこ、どうやっていきゃいいんだよ!!」

 

「あの場所へと行くには、こちらも時間と空間を超える必要があります。幸いなことに、その為の機体を皆さんは持っています」

 

「それってまさか」

 

皆が予想する。アウラはすぐに答えを出した。

 

「ビルキス。そしてフェニックスです」

 

かつてヴィルキスはこの地球からドラゴン達のいる真実の地球へと跳んだ事がある。それは空間を超越したと言えるだろう。

 

そしてフェニックスは未来世界から過去へと跳ぶ事が出来る。それは時間を超越したと言えるだろう。

 

「・・・でも、フェニックスはまだしも、ヴィルキスを使えるのはアンジュだけなんだぞ!!」

 

「いいえ。人類の未来を照らすドラグニウム。ラグナメイルはその為に造られたもの。強き意志、人の想いに、必ず答えるはずです。それはネオドラグニウムとて同じです」

 

「それってつまり、強い意志があればヴィルキスは誰にでも動かせるって事か?」

 

「その通りです。人の想いにビルキスはきっと答えます」

 

「人の想いに・・・」

 

「・・・タスク、アンタがやりな」

 

ヒルダがポケットからアンジュの指輪を取り出すとタスクに渡した。

 

「悔しいけど、アンジュとはアンタが一番強く繋がってるんだ」

 

「でも、ヴィルキスの機体の修復作業が・・・」

 

アウローラの機体はイズマエル戦の傷が完治していない。ヴィルキスの修理にもまだまだ時間がかかる。

 

その時だった。

 

「話は聞いたぞ!!」

 

突然アウローラの発着デッキが開かれた。そしてロープと共にそこから何かが降下してきた。それは

アクセリオンのクルー達だ。

 

「アウローラのパラメイル修復作業を手伝いにやってきた。こちらの最高整備士は?」

 

「私だよ」

 

ジンの質問にメイが名乗り出た。

 

「デルタメイルの修理は完了している。よってこれより諸君らのパラメイルの修復作業の手伝いを開始させてもらう」

 

「人手が足りなかった。助かる」

 

そう言うと整備士達は皆で共同作業を開始した。何名かはアウローラのエンジンになんらかの作業もしていた。

 

「どうかな?これで作業の方は」

 

「これだけの人数がいたら、10分もかからないね」

 

その言葉に皆の顔色が明るくなった。

 

「なぁアウラ。フェニックスが必要と言ったが、

一体何をすればいい?」

 

「・・・ネオマキシマ・オーバードライブ・システムはわかりますね」

 

「あぁ。簡単に言えばタイムマシンだろ?」

 

「そのシステムは、時間の海を越えて移動するというものです」

 

「メビウスさん。100年後の未来世界とこの世界を行き来していますが、一体どうやってか知っていますか?」

 

そういえばそうだ。何故フェニックスはこの世界、いや、この時間の行き来が正確に出来るのか。

 

無限ループを繰り返していた時はエンブリヲが行き先を仕組んだらしいが、それが崩れたのに、何故

正確に帰れたのか。

 

「それは貴方の意志の力です。貴方が元いた世界に帰りたい。そう無意識の内に願っていたんです。だからフェニックスは正確に貴方を100年後の未来とこの世界に運んだのですよ」

 

「さらに、当初はフェニックスだけを跳ばすはずでした。ですが今では違います。今のフェニックスなら、みんなを連れて貴方の望んだ時間に跳ぶ事が出来るはずです」

 

「・・・成る程。意思の力で跳べるって事か」

 

「はい。エンブリヲは時間を超えた所にもいます。時間の海を渡るために、フェニックスは必要です」

 

「ねぇアウラさん。私の機体も確かフェニックスなんだよね。なら私も力になれる?」

 

ナオミが疑問に思いアウラに尋ねた。

 

「残念ですが、ヘリオスは本来なら存在しない

機体。エンブリヲが生み出した無限ループによって存在が確立されていたもの。その為あまり力にはなれません」

 

「でも、少しは力になれるんだよね?」

 

「・・・ええ」

 

「なら私にも、何か出来る事があるんだね」

 

「・・・行くべき道を指し示す。それが限界ですよ」

 

「それでもいい。私にもまだ出来る事があるなら。」

 

「・・・少し失礼します」

 

すると突然アウラからの言葉が聞こえなくなった。ただし。メビウスにだけは聞こえていた。

 

「メビウスさん。そしてシグさん。申し訳ありませんでした」

 

「えっ、突然どうしたんですか?」

 

メビウスは突然のアウラの謝罪に困惑した。

 

「私がフェニックスを創ったばかりに、貴方の人生は大きく狂わされてしまいました」

 

「・・・」

 

「偶然とはいえ、貴方がフェニックスと出会ったのは私のせいです。そしてそのせいで・・・謝って許される事ではない事は理解しています。ですが、

せめて謝らせてください」

 

「何言ってんだよ。むしろ感謝してるんだぜ」

 

「えっ?」

 

メビウスの意外な言葉に、アウラは驚いた。

 

「もしフェニックスと出会わなかったら、俺はナオミやアンジュ。それにシグとだって出会うことはなかった。俺はフェニックスと出会えた事、その事に一度も後悔なんてした事ない」

 

「第一、エンブリヲさえ倒せばこの世界の未来は変わるんだ。だったら・・・」

 

するとメビウスが突然黙り込んだ。

 

「メビウス?」

 

突然黙り込んだメビウスにナオミが心配そうに話し掛ける。

 

「メビウス?大丈夫?」

 

「あっ、わりぃ。ちょっと考え事が出来た。シグの所行ってくる」

 

そう言うと、メビウスは精神世界を訪れた。そこにはシグもいる。先程のアウラとの会話の中、不意にメビウスの中にある疑問が湧いてきた。その疑問を確かめる為である。

 

「なぁシグ」

 

「なんだ」

 

「俺達、いや、シグは確か未来を変えるために未来から過去に来たんだよな?」

 

「ああ。そうだ」

 

「思ったけどさ、一番最初、フェニックスが初めて過去に跳んだ時、どうやってこの世界に来ようと

思ったんだ?なんか意思があったのか?」

 

「いや、それ以前に、どうしてマナの光が溢れてる時代だと思って跳んだんだ?てかどうやって知ったんだ?フェニックスに時間跳躍システム。タイムマシンがある事を」

 

たしかに、考えてみればそうだ。何故フェニックスが100年前の過去に跳ぶ事がZEUXISメンバー達にはわかったのか。

 

「・・・」

 

するとシグは突然黙り込んでしまった。

 

「シグ?」

 

「それが・・・分からないんだ・・・」

 

「分からない?」

 

あまりにも意外な答えにメビウスは動揺している。

 

「そうなんだ。何故かあの時、あれを使えば100年前の過去に跳んで行ける。何故かそんな考えが頭に浮かんだんだ。そのシステムの使い方も同じ様に。しかも、その時はネロ艦長達もその気だった」

 

「・・・変な事もあるんだなぁ」

 

やがて作業が終了したようだ。タスクがヴィルキスに乗り込む。その姿を確認した為、メビウスは慌てて精神世界を出た。

 

「タスク。頼むよ」

 

タスクがシートに座る。その手にはアンジュの指輪が握られていた。皆がタスクに注目する。

 

「頼むヴィルキス。力を貸してくれ」

 

タスクがヴィルキスを起動させようとボタンを押した。

 

「・・・」

 

しかし何も起こらなかった。

 

「どうしてだ!?ヴィルキス!!」

 

タスクが必死にヴィルキスを起動させようとする。しかしヴィルキスはそれに応えない。

 

こうしている間にも、時空融合が徐々にだが確実に進行している。アウラの護りも永遠ではない。

 

「時空融合。来ます」

 

アウローラとアクセリオンは時空融合の影響で揺れ始めた。

 

「どうして!!どうして動いてくれないんだ!!ヴィルキス!!」

 

「お前もずっと、アンジュを守ってきたんだろ!?なのに!あんな奴にアンジュを奪われていいのかよ!!」

 

タスクの瞳から溢れた涙が指輪に触れた。すると指輪が光り出した。

 

「・・・!聞こえた。アンジュ・・・」

 

タスクの耳にアンジュの声が、いや、歌が届いた。

 

そして奇跡は起きた。いや、起こしたと言うべきか。タスクの乗るヴィルキスがその身を黒く変色させた。

 

更にモニターなども起動している。ヴィルキスがタスクの想いに応えたのだ。

 

ヴィルキスのモニターにはある一点が示されていた。そこにアンジュがいる。皆が同じ考えに辿り着いていた。

 

「タスク殿。アンジュを助けに参りますよ」

 

「よし、あたしも行くよ」

 

「私も行くわ」

 

ヒルダとサリアも名乗り出た。

 

その時、格納庫にアクセリオンからネロ艦長が通信を入れた。

 

「何を言っているんだ。【全員】で助けに行くんだろ?」

 

「え?でも・・・」

 

ネロ艦長の言ってる内用は不可能だ。時空を超えるにはパラメイルやデルタメイルでは不可能だ。時空を超えられるのはラグナメイルだけだと思っていた。

 

そしてその時、アウローラに来ていた整備士達がネロ艦長へ通信を送った。

 

「ネロ艦長。取り付け作業は完了した。アウローラはアクセリオンと同じになった」

 

「そうか。ご苦労」

 

「なぁ。一体どういうことだ?説明してくれよ」

 

タスクやヒルダ達。いや、メビウスも事態が飲み込めていなかった。

 

「簡単な事だ。アウローラを別空間にも行けるように改良しただけだ。最も、その為にはアンジュのいる空間の位置を正確に知る必要があったけど、それもタスクのおかげで突破出来たようだ」

 

「別空間って、どうやって行くんだよ」

 

「我々は対ビースト殲滅組織ZEUXISだ。ビーストの研究も同時にしていたのだ。そして、今回はその内の一体のビーストの能力を使わせてもらう」

 

するとモニターにとあるビーストの写真が写し出された。

 

「我々が戦ってきたビーストの中に、我々のいる空間とは別の空間からこちらに襲いかかる厄介な奴がいた」

 

「あぁいたね。あの厄介なやつ」

 

メビウスとタスクとヴィヴィアンには心当たりがあった。あの岩石のビースト。あいつは別位相に本体があり、そこから攻撃してくるビーストだ。

 

「アクセリオンの偽装展開もそれを元に作られている。偽装を展開している間、アクセリオンは別位相にいる。つまりは別空間だ。アウローラにもそれと同じ事をしてもらう」

 

その後、ネロ艦長の小難しい講義は1分程度続けられた。

 

「まぁ単純に言えば、座標さえ判明すれば、後は

そこめがけて突き進むだけって事だ」

 

メビウスが簡単に内容を要約した。

 

「なんかよくわからねぇけど、とにかくアンジュのいる空間に行けるんだな!!」

 

「ああ。あの様子じゃZEUXIS全員ともそこに行くつもりだ。無論俺も行く。アウラの護りも永遠じゃないしな。さて、みんなはどうする?」

 

ジャスミンが頷いた。メイルライダー達は皆がそれぞれの自分の機体に乗り込んだ。そしてバイザーをかける。メビウスの質問に、行動で答えを出したわけだ

 

「聞くまでもなかったか。タスク!フェニックスとヘリオスに座標の詳細データを送れ!」

 

「分かった!」

 

フェニックスとヘリオスのモニターに座標が送られた。

 

「ナオミ!お前はアウローラを頼む!俺はアクセリオンを担当する!」

 

二人ともモニターを操作し、フェニックスは最終形態へとその姿を変えた。

 

二人とも艦の外に出る。そして赤い翼でアクセリオンを、白い翼でアウローラを包み込んだ。

 

互いのモニターにはあの文字が表示されている。

 

《Neo Maxima Over Drive System》

 

その文字の下にはヴィルキスから送られた座標が記されていた。

 

「ヴィルキス!!」

 

「フェニックス!!」

 

「時間と空間を超えろおぉぉぉぉ!!!!!」

 

その叫びと共に、次の瞬間にはその場からアウローラとアクセリオンは姿を消した。

 

「頼みましたよ。皆さん・・・」

 

それを見届けると、アウラもその場から姿を消した。

 





アニメでは真実のアルゼナルに行ったのはタスクとサラマンディーネとヒルダとサリアでしたが、どうせなら全員で殴り込みに行った方が面白いと思い、艦ごと真実のアルゼナルへと行きました。

まぁ人は多いに越した事はないでしょうし。


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第87話 真実のアルゼナル



私がハーメルンを初めてから1年が経過しました。(正確に言うなら去年の土曜なんだけどね)

最初は暇つぶし的感覚で始めたものの、まだやってる自分にびっくり。

そして待っていた方(いないでしょうけど)お待たせして申し訳ありませんでした!モチベーションがなかなか上がらず苦戦してましたが、やっとやる気が湧き上がりました。(エタリかけてたのは内緒)

今回からアニメで言う最終話です!。是非最後までお付き合いください!それに応える様に、私も全力で書き上げます!

前回のあらすじ!

再び未来世界から帰ってきたメビウス達。だが元の世界も、再び時空融合の影響により飲み込ませそうになっていた。

その寸前、アウラの助力により難を逃れたメンバー達。この騒動の元凶のエンブリヲを討つため、そしてアンジュを助ける為、メビウス達は二人のいる空間目指し、飛び立った。

これが、最後の戦いになると信じ・・・

それでは、本編の始まりです!


 

 

「この変態ゲス男!偉そうな事言って、結局はヤりたいだけなんでしょ!」

 

「愛する夫にそんな口のきき方をしてはいけないよ?」

 

現在アンジュは、地面に全裸で拘束されている。あの後エンブリヲに捕まったのだ。このまま犯されてしまうのか。

 

その時、世界がブレた。空間に歪みが生じたのだ。

 

「空間が!」

 

空間に穴が開かれた、そこからはアウローラとアクセリオンが現れた。そしてそこから一つの機体が飛び立った。

 

「アンジュ!!」

 

ビルキスに乗ったタスクがアンジュの元に舞い降りる。次の瞬間、アンジュは拘束を引きちぎり、タスクめがけて飛び付いていた。

 

「タスク!」

 

「アンジュ!」

 

「うっわぁ。すげぇ」

 

その姿は何と全裸であった。エンブリヲに何をされそうになっていたか、はっきり想像がついた。主にZEUXISメンバーが注目していた。

 

「男ども!見るな!」

 

振り絞る様な声で、ヒルダが声を張り上げた。

 

「タスク。また会えた・・・」

 

「ああ。俺はアンジュの騎士だから。それにこれを返すって約束したし」

 

タスクが取り出した物。それはアンジュがタスクに渡したお守り。アンジュのパンツと秘部の毛である。アンジュの顔が一気に赤く染まった。

 

「・・・さて、和やかな雰囲気になるのはもうすこし後らしいね」

 

「貴様達。どうやって入ってきた!?」

 

そこには怒りに満ち溢れていたエンブリヲが佇んでいた。だが、タスクの瞳はエンブリヲ以上の怒りに溢れていた。愛する者を汚されかけた怒りで。

 

「アンジュ。君はヴィルキスへ」

 

アンジュの指輪が光り輝いた。すると次の瞬間、

ヴィルキスが普段の色へと戻っていた。

 

いや、普段とは違うところがある。機体のラインが紅く色づいているところだ。その姿は未来世界でのイズマエル戦で見せた姿となった。ついでにボックスに入れていたライダースーツも自動で着せてもらった。

 

ヴィルキスが飛び立ったのを見届けると、タスクが刀を抜き、エンブリヲへと突進して行った。

 

「お前の相手は、俺がする!!」 

 

「貴様!無限に殺し続けてくれる!!」

 

刀と剣の激しい鍔迫り合い、斬り合いが繰り広げられる。

 

「何故だ!なぜアンジュを抱いた!!女など現実世界では幾らでもある!!」

 

エンブリヲの剣がタスクの肩を貫通する。痛みで顔が歪む。

 

「私は1000年待った!!私にはアンジュしかいなかったのに!!ぐっ!」

 

負けじとカウンターでタスクの太刀がエンブリヲの腹部を刺した。血溜まりが腹を中心に広がってゆく。普段なら別の自分と入れ替わる筈が、何故かエンブリヲは入れ替わろうとしない。

 

いや、入れ替わらないのだ。

 

「不確定世界の自分と入れ替わらない。なら!お前が本物のエンブリヲか!!」

 

倒すべき目標を遂に引き摺り出せた。ならば後は、こいつを倒すだけだ。

 

こちらは機体を活かした空中戦。現在アンジュ達の前にはヒステリカがそびえ立っている。

 

「みんな、時空を操っているのは、あのラグナメイルよ!それをエンブリヲが操ってる!」

 

「つまり、両方倒さなきゃ!」

 

「世界は護れないという事ですね!」

 

機動兵器が人型に変形する。

 

「全く。新世界にこれほどの異物が入り込むとは」

 

何と目の前のヒステリカが話し始めたのだ。このヒステリカにはエンブリヲの意思が宿っているのだ。つまりこのヒステリカこそが、エンブリヲの本体であるらしい。

 

「アンジュ。どうやら力ずくで分からせなければならないらしいな」

 

次の瞬間、空間に穴が開かれた。そしてそこからビーストが現れた。更にヴィルキスを除いたラグナメイルも現れた。

 

「敵の本拠地なだけあるな。ビーストの物量はほぼ無限と見るべきだ」

 

「ならその無限ごとぶち抜いてやるか」

 

「ふっ。同感だな」

 

「ZEUXIS、デルタメイル連合部隊、いくぞ!!」

 

「「「「「おう!!!!!」」」」」

 

ZEUXISメンバーに合流したパラメイル部隊はビーストを相手に戦い始めた。今の彼等、彼女等に怯えなどの感情はない。目の前のビーストと互角以上の戦いを繰り広げている。

 

そしてアウローラとアクセリオンの二艦。こちらでも戦闘は行われていた。

 

「アクセリオン内部に侵入者あり!数は20!不確定世界のエンブリヲの集団だと思われます!!」

 

オペレーターの声と同時にネロ艦長が帽子を投げ捨てた。

 

「野郎ども!白兵戦の容易だ!!計算ばっかの頭でっかちに、血反吐を吐いて来た俺たちの力を叩きつけてやれぇ!!!」

 

「イエエエェィ!!!」

 

「突撃ィィィ!!!」

 

「万歳ィィィ!!!」

 

艦内メンバーは武器を手に取ると、廊下にいるエンブリを軍団との戦闘を開始した。

 

そして無人のラグナメイルの相手は、アンジュ、サリア、ヒルダ、サラマンディーネ。メビウス、ナオミの6人で立ち向かっていた。

 

すると突如としてクレオパトラとテオドーラの二機が操作不能に陥った。

 

「なっ!なんだこりゃ!?」

 

時として、味方に照準を向け、銃弾を放つ時もある。二人の機体が言うことを聞かない為、こうなると狙われた側に避けるように伝えるしかない。

 

「ラグナメイルの創造主が誰だか忘れたのかい?」

 

どうやらエンブリヲが二つのラグナメイルを遠隔操作しているらしい。

 

「君達は私に従っていればいいのだよ」

 

「・・・だから、暴力で支配しようとする。哀れですね。調律者!」

 

サラマンディーネが吐き捨てる様に言った。

 

「アウラが言ってた。ラグナメイルは人の意思に応えるって。もう私は・・・誰の支配も受けない!」

 

「私も、汚ねぇ男の思い通りにはならねぇ!!」

 

すると二つのラグナメイルがエンブリヲの支配下から脱出した。

 

それだけではない。クレオパトラはアリエルモードを、テオドーラはミカエルモードへと変化を遂げた。二人の思いに、ラグナメイルが応えたと言うわけだ。

 

能力を解放した二機はエンブリヲの指示を受け付けず、焰龍號の共に無人のラグナメイルを蹴散らしていった。

 

こちらアンジュとナオミ。そしてメビウスの3人はエンブリヲの意思が移植されたヒステリカと激戦を繰り広げていた。

 

「アンジュ!君も所詮人間だ。私が導かなければ幸せにはなれない。君も知っている筈だ。そこにいる人間の成れの果てを!破滅の未来を!」

 

「見たわ、破滅の未来を。でもね、人は未来を変える事が出来る。メビウス達がそうなる事を願った風に、未来は変える事が出来る。あんたなんかに導かれなくても!」

 

「何故だアンジュ!無限の時間、無限の愛。私に支配される事の何が不満だというのだ!?」

 

「人間だからよ!!」

 

アンジュははっきり言い切った。

 

「今なら分かる。なぜノーマが生まれたのか。それは人間が、貴方なんかに操作されないという遺伝子の意志。なぜノーマが女だけだったのか。愛する人と子を成し、貴方の世界を否定するため!」

 

「くっ!千年の中から選んでやったというのに!私の愛を理解出来ぬ女など、もはや不要ッ!!」

 

「不要なのはお前の方だ!!」

 

フェニックスとヘリオスのフェザーファングがヒステリカ目掛けて突き進んできた。

 

「貴様らは本来の流れから逸脱した存在だ!!この場所にいるべき存在ではない!」

 

「確かに。それは言えてるのかもね。貴方から聞いた話を聞く限り、私は死んでたみたいだし」

 

「・・・でもよ、一つだけ教えてやる。俺達がこの場にいるのは運命なんかとは思わない。俺達自身が、戦う道を選んだ。だからここで戦う。自分の信じた者と信じた世界の為に!!それだけだ!!!」

 

フェニックスとヘリオスの胸部が開かれ、そこから砲身が顔を覗かせた。真の能力解放をしたヴィルキスも、両肩部分が開かれた。

 

「「ネオマキシマ砲!!」」

 

「ディスコードフェザー!」

 

【ピピピピピピピピピピピピピピピピ】

 

「「「いっけぇ!!!!!」」」

 

その三つの砲撃は融合し放たれた。エンブリヲの乗るヒステリカがこれに敵うはずも無く、光の渦へと飲み込まれていった。

 

時を同じく、タスクとエンブリヲの戦闘にも、決着はついた。タスクの勝利によって。

 

光が収まってきた頃、そこには半壊したヒステリカが残されていた。

 

「こんな、こんな事が・・・」

 

もはやヒステリカに、エンブリヲに勝ち筋はなくなっていた。

 

「メビウス。とどめは私が・・・」

 

ヴィルキスは剣を手にとり、ヒステリカに突進する。後は機体を貫くだけ。それでこの戦いは終わる。そしてアンジュは吐き捨てる様に言い放った。

 

「私を抱こうなんて、一千万年早いわぁぁぁ!!!」

 

「アンジュゥゥゥゥ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ッ!アンジュ!下がれ!」

 

その瞬間であった。突如として謎の攻撃が周囲に繰り広げられた。皆が驚いて上空を見上げる。するとそこに穴が開いている。そしてその空間からある機体が出現した。その機体に皆が驚愕の声を上げた。

 

「なっ、あれは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒い・・・ノアだと」

 

今のフェニックス完全体の進化形体。フェニックス・ノア。目の前の機体は、体色こそ黒だが、それ以外はそれそっくりであった。そして黒いノアの右手には人影がいた。仮面をつけた男、ベノムだ

 

「ベノム!?」

 

ベノムの手には未来世界でエンブリヲが奪い取ったネオドラグニウムが握られていた。ベノムはそれを機体内部に放り込む。すると機体の赤黒いラインが更にその光を増した。

 

「なっ!貴様!!それをどうするつもりだ!?」

 

「失せろ。目障りだ」

 

驚くエンブリヲを他所に、黒いノアの拳から光弾が放たれた。それらは残骸に等しかったヒステリカを、一瞬にしてエンブリヲごと完全に葬り去られた。

 

アンジュ達は機体を一箇所に集結させ、それを見ていた。

 

「何こいつ、味方なのか・・・」

 

「いや、違う!!」

 

皆は瞬間的にその事を理解した。目の前の存在は味方などではない。何故ならこちらに、特にアンジュに隠し切れない程の殺気を向けていたからだ。

 

「・・・やった」

 

「は?」

 

「ひゃーっはっはっは!やった!やったぞぉ!遂にやった!!」

 

突如としてベノムが大声をあげて喜び始めた。まるで目標に達成した子供が喜ぶかの様に、いや、それ以上に狂ったかの様な喜びの声を上げていた。

 

「もうこんなものに用はない!!」

 

ベノムはその仮面に手を当てた。その仮面に包まれていた素顔を見た途端、全員の顔が引きつった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エンブリヲ・・・だと」

 

そう、目の前の人物は、先程ベノム自身が殺したエンブリヲの顔をしていた。双子では片付けられない程似ていた。いや、たった一箇所だけ違っていた。顔にある大きな傷だ。だが、エンブリヲはつい先ほどこの男が殺したはずだ。本体の方もタスクが倒した。それは間違いないはず。

 

「一体、何がどうなってんだ・・・」

 

「ベノム。お前は、不確定世界のエンブリヲなのか・・・それとも、お前がエンブリヲの本当の本体なのか・・・」

 

するとベノム、いや、エンブリヲはこちらを向いた。

 

「私は先ほど死んだゴミと同じ、不確定世界の自分と入れ替われない、本当のエンブリヲだ。だが、それでいてそれとは少し違うがな」

 

「私は未来世界がこの世界に干渉する前、アンジュ!君に殺されかけたエンブリヲだ!!」

 

 




遂にラスボスを登場させる事が出来ました。少しですけど、フラグは建てたつもりです。

(例)64話に置いて、エンブリヲの前に姿を現したのがこいつでは無くガーナムな点。

いよいよこの作品の最終話が近い為、残りの話数(今回含めて恐らく後3〜5話)において、ここで本編では私の力量不足で描く事が出来なかった点について軽く触れていきます。

フェニックスとの出会い。

実はシグ(メビウス)とフェニックスとの出会いを本編では書く予定でした。

本来の予定では彼はイカダを作り、一人魚釣りに励んでいた際、突然の高波にイカダは転覆。シグは海底深くへと沈んでいきました。

気がつくと彼は古代遺跡の様な所にいました。そこで、フェニックスを見つけ、初のビースト戦も行うつもりでした。

ここに書く内容を簡単な補足程度で考えてください。

後、アンケートは出来るだけ回答してくださいね。
(アンケートの最終締め切りは最終話手前の話投稿後の24時間後とします)


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第88話 この戦いに終止符(ピリオド)を 前編



これまで書いてて思った事。タイムパラドックス設定って難しい。粗が出てないか探そうとして、それが見つかって修復したかと思ったら、修復によって別の粗が見つかってと言う事態によくなりました。

粗が多い展開があるかも知れませんが、出来る事なら温かい目でみてあげてください。

尚、ラスボスのベノム(エンブリヲ)について言っておきますが、元のエンブリヲのキャラからかなり魔改造されています。

イメージとして、アンジュにふられた本編のエンブリヲがボロボロになりながらも生き残り、マナを
失った人間の醜さに絶望した姿として描いています。

まぁ、前回のエンブリヲ戦の延長戦と思ってください。

そして前回のあらすじ!

遂にエンブリヲのいる真実のアルゼナルへと乗り込んだメビウス達。そこには予想通りアンジュが囚われていた。

タスクがアンジュを救出した後、遂に本体のエンブリヲ、そしてヒステリカとの戦闘へと移行した。

アンジュは全てを終わらせる為に、エンブリヲにとどめを刺そうとした。

そんな中、このタイミングを狙ってたとばかりに、ある仮面の男が降臨した。その名はベノム。ベノムはノアの亜種たるザギを使い、エンブリヲは葬り去った。

そしてベノムの正体。それはエンブリヲであった。それも未来世界が干渉する前のエンブリヲだという。

それでは本編の始まりです!



 

 

「俺たちが、過去に干渉する前のエンンブリだと?」

 

「そうだ。君達は私の目的は知っているのだろう?」

 

未来世界でのエグゼキューターの一件の際、ガーナムの言っていた一言が皆の脳裏をよぎる。

 

「人類の抹殺・・・」

 

「言い方が良くないな。抹殺ではなく排除だ。私はね、人間という生き物に愛想が尽きてしまったんだよ」

 

「100年程昔、私は先程のエンブリヲの様にここで君達と戦ったのだ。その時は今回の様な未来世界の干渉もなかった」

 

それはメビウス達ZEUXISから見たら過去の世界の出来事。まだ未来組が干渉する前の話である。

 

「そして私はその時、敗北した。だけど私はこのアルゼナルから異物として排出された事で、奇跡的にも生き延びる事が出来たのだよ。しかしその時は既にこの時の止まったアルゼナルは崩壊し、私自身、それらの恩恵も、力を失ってしまった・・・」

 

「そしてマナの失われた外の世界を少し生きて私は思った。これほど人間が愚かしい存在だったとは・・・」

 

そう言うエンブリヲの表情は何処か悲しげであった。だが次の瞬間には歪んだ狂気の笑みをしていた。

 

「そこで判ったのだよ。何故愚かな人間を私が助けなければならないのだ?私の愛を拒んだアンジュ!愚かしい存在を、何故改良しなければならないのだ?」

 

「その言い方。まるで自分は愚かじゃない真人間

みたいな言い方じゃねぇか」

 

「私は正常だよ。寧ろ愚かだったのは、過去の私の方なのだよ。私の気づいたこの事に気づけなかった愚かな過去の私がね」

 

「まず手始めに、マナがなくなって混乱していた人間どもに、ローゼルブルムの持つパラメイルなどの兵器データをばら撒いた。結果は思いの通りだったよ。人間共は力による優位性の確保や他者への弾圧を狙い、世界は二つに分断された。人類進化連合とブラック・ドグマに。正に世紀末状態だったよ」

 

「ふざけんな!未来世界の戦争の原因はお前だったのか!!」

 

あの戦争により未来世界は加速的に荒廃。見るに耐えない状態に成り果てた。その原因が、こんな男のつまらない考えの所為で起きただと?あの世界を

生きてきたメビウス達にしてみれば許せる筈がない。

 

だが、この男は平然としていた。まるで他人事の様に。

 

「その通りだ。基本的に私はブラック・ドグマに所属し、時として情報を人類進化連合に横流した。

こうする事で戦争は長期間の膠着状態となり、応報合戦にもなり私の狙い通り人類はどんどん衰退していった」

 

人の不幸をここまで喜ぶ下衆人間がいたとは・・・

 

「そしてそんな中、過去の世界に戻る方法が発見された」

 

「フェニックスによる、過去への時間跳躍か」

 

「かつての私ならそれを奪取して使う事が出来たが、その時の私にはそこまで超人的な力は残されていない。だから私はそれに便乗し、過去の世界に行くはずだった・・・それが!!」

 

「過去のエンブリオによって、メビウスが無限ループを繰り返したで、足止めを喰らったと・・・」

 

「そうだ!!過去の私の起こした行動ながら何と腹立たしい!それだけで無くこの世界を独立した並行世界にした事で、過去での出来事が未来に干渉しなくなった!!」

 

 

「・・・だが、そのおかげで私はある計画を思いついた。それは過去の世界のエンブリヲを抹殺し、私がその世界のエンブリヲになる事だ!」

 

「この世界の、エンブリヲになるだと・・・」

 

「そうだ。だが、私の思惑を知れば、過去のエンブリヲは間違いなく私を排除しようとする。だから私はこの仮面をつけ、エンブリヲという存在を悟られない様に表舞台から姿を消した。だからこそ、奴との話し合いの場にはガーナムを送りつけてきた」

 

「私自身は、水面下である物を探したよ。アウラが封印の為にこの世界に送り込んだ機体をね・・・」

 

「・・・そうか。俺がフェニックスを得たのはこの世界から見て未来できの出来事だ。そしてその未来世界の過去は、アンジュ達のいる現在」

 

「ああ。探すのに苦労したが私も見つけたよ。フェニックスとネオドラグニウムを。未来が並行世界として独立していた為にこの行為でフェニックスが消える事もない。そして過去の世界でも私はこの機体【ザギ】を入手した。

 

単純に表すと、本来未来世界で見つけたフェニックスが正しい。その後、無限ループ状態の際に、メビウスが見つけるはずだったフェニックスをこの男が回収。それをナオミに渡した。

 

そしてアンジュ達のいる現代においても、本編の裏側でアウラが封印の為にこの世界に跳ばしたフェニックスを、海底遺跡から回収していたのだ。

 

「私はザギのネオドラグニウムを決戦兵器、エグゼキューターの動力炉として人類進化連合に提供。すると結果はどうだ?一気に人類は半分以下にまで減った。とはいえ彼等もそれ以上の成果も見込めなくなった」

 

「だから私は彼等の兵器を自分達で使う事にしたんだよ。彼等には新型ビーストの餌になってもらってね。ビーストの技術も、エンブリヲが創ったものを解析すれば簡単だったよ。まぁ、元が同じと考えれば、当然か」

 

「その後、過去の世界への砲撃を開始した。まぁ初撃しか成功せず、二度目はアウラに防がれ、その後、君達によってエグゼキューターは無力化させられたしまったが」

 

「そして最後に、君達がこの場所に跳びたった際、その座標データを私も取得。君達と同じゴルゴレムの能力で跳んで来たのだ。後は君達がここでエンブリヲと戦ってる際、私は奪い取られたネオドラグニウムを探し、見つけ出した」

 

そして今に至るという訳だ。

 

「お前はこれから何をしようってんだ!世界征服でもしようって言うのかよ!!」

 

まさかエンブリヲを殺して終わりになる様な事にはならない。それを皆は自覚していた。そして、次の言葉の破壊力は、メビウス達の考えを遥かに凌駕していた。

 

「過去の私はこの時の止まったアルゼナルから世界を見て、偶に干渉する事で楽しんでいたらしいが私は違う。あらゆる世界にビーストを送り込み、私以外の全ての人間を皆殺しにする!」

 

「・・・なっ!?」

 

誇大妄想でもここまでいくのは稀であろう。言ってる事は漫画やアニメなどでよくある、世界征服を通り越して人類の抹殺と言っているのだから。それも別世界にまで。

 

「考えてみたまえ。人間が私一人だけなら、人間は美しいままだとは思わないかい?」

 

「・・・なんだよ。どんな目的か僅かばかり興味があったが、蓋を開ければゲームとかによくある世界を支配したがる魔王と変わらないな!!」

 

「いや、それ以上に悪質だな」

 

するとベノムは何かを考える様な仕草を取り出した。

 

「過去の私はこの表現をチープだと嫌っていたが、今の私は違う」

 

「私は神なんだよ。何もかもが私の掌の上で知らずに踊っていただけなんだ・・・全ては、私の目標を達成する為の・・・」

 

「道具さ!!!さて、もう与太話はいいだろう」

 

「あぁ。今の話で完璧に理解した。貴様が本当に最低な人間だという事に・・・」

 

その思想は、まだ曲がりなりにも人間を良くしようと考えいた、過去のエンブリヲの方が遥かにまともである。ZEUXISメンバーは既に武器を構えている。それはアンジュ達も同じであった。

 

「どうやら、長い間生きた事で脳が腐ったらしいな、エンブリヲ!」

 

「元、調律者も堕ちたものですね!!」

 

「そういう人間で助かったわ。こっちはあんたを全力でぶちのめす!!!」

 

「私と戦うつもりか、良かろう」

 

すると空間が裂け、そこからエンブリヲの創り出したビースト、いや、ベノムが創り出したビーストまで現れた。

 

「私の持つ兵力はお前達よりも遥かに多い。この空間がある限り、私に負けはあり得ない」

 

「へっ!何が遥かに多いだ。空間の能力が理由ならそっちの兵力なんてお前の匙加減ひとつじゃねぇか!!」

 

全機が突撃した。だが、このエンブリヲの言う事にも一利ある。こちらは先程の戦闘もあり、かなり疲弊である。よって彼等は一気に大将の首を狙う事にした。

 

敵機体のザギは剣や銃などの武器を持ってはいない。フェニックス・ノアと同じ、実質機体そのものが武器として活用されているのだ。そして武器なし故に行える機体などの器用な動き。無数の光弾による弾幕で、こちらの機体は迂闊に接近する事は不可能な状態であった。

 

「ファング!!」

 

牽制、そして迎撃兵装であるフェザーファング。だがザキはそれら全ての軌道を読み、撃墜していった。

 

「ならこれで!!」

 

アリエルモードの加速を利用し、ヴィルキスは一気にザギの懐にまで迫った。そんな機体を貫こうとした剣を、ザギは平然と受け止めた。

 

「君には一番会いたかったよアンジュ!君を殺す為に!!この顔の傷が疼く度に思い出す。この場所での出来事が!アンジュ!!!私の愛を拒絶したあの時の忌まわしい出来事が!!!はっきりと思い出すのだからなぁ!」

 

「そう言うのを、八つ当たりって言うのよ!!」

 

即座にもう片方の手でライフルを構え、近距離で

発砲する。だが敵には有効打となっていない。

 

「忘れたのかい?私は真の能力解放したヴィルキスと戦闘した経験がある。装甲強化などの、何かしらの対策を立てるものだよ!!」

 

「まだまだ!!」

 

「この距離なら!!」

 

ヴィルキスとの組み合いによって生まれた隙。その隙を突き、二機の不死鳥がザギに挑んだ。ビームの刃と実態剣。だがこの二つすらザギには何の障害にもなっていなかった。

 

「君達の機体は確かに私の機体と同型機だ。だがそれは史実上での繋がりにすぎん。私の機体は、フェニックス・ノアと同じ様に進化もしている。今の貴様らに、勝てるわけなかろう!」

 

その後も、ザギはフェニックスの完全体とヘリオスすらも圧倒していた。

 

(戦闘力はベルゼブアコローネ、いや、ヒステリカ以上・・・腐ってもフェニックス系等か・・・でも負けられるかよ!こいつにだけは!!)

 

未来世界の荒廃の原因。全ての諸悪の権現たる存在が目の前にいる。それを目の前にして、ここで終われるわけがない。皆が機体の弾薬などを惜しみなく使いわビーストと同時に相手しながらも、徐々にだが盛り返してゆく。

 

「ほうっ。中々の強かさだ」

 

「余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ!」

 

ビーストの骸を肉盾とし、ザギの攻撃の直撃を防いでゆく。そうする事で、遂にエンブリヲの懐にまで再び接近した。

 

「凍結バレット装填!野郎ども!休む間与えず連続で撃ち込むぞ!!」

 

「おうっ!」

 

一点に絞った連続凍結バレット。それが功を奏したのか、撃ち込んでいたコックピット部分に僅かな亀裂が生じた。そこでヴィルキスの持つ剣の出力が一回り程増え、輝きも増してゆく。ヴィルキスがザギ目掛けて突き進んでゆく。

 

「いっけぇぇぇっ!!!」

 

紅く輝いた光剣はザギのコックピットを貫いた。その後、ザキの四肢を削ぎとり、完全な破壊を狙ってゆく。やがて辺りにはザギの残骸が散乱していた。エンブリヲ自身は影も形も無いほどに消滅したのだろう。

 

「はあっ。はあっ。終わったの?」

 

「・・・本体のエンブリヲ同様、入れ替わる事は出来ないのか?」

 

その時である。

 

「無駄だと言ってるだろう、この烏合の衆が。私はこの真実のアルゼナルの主。だからこそ、私を倒す事は出来ない」

 

「なっ!」

 

何処からとも無く聞こえたその声と共に、周囲を漂うザキの残骸が一箇所に集合し、やがて元の禍々しい姿へと戻っていた。そしてそこには、ザギ以上に粉々になった筈のエンブリヲまで、元通りでいた。

 

「嘘・・・でしょ」

 

「どういうことだ!?」

 

蘇ったエンブリヲは余裕の笑みを浮かべ、こちらを嘲笑していた。

 

「この時の止まったアルゼナルの主は私だ。それは私自身の時が止まっている事を指し示す」

 

「つまり今の私は、時の止まった存在。不死身なんだよ・・・それも過去のエンブリヲの様に替え玉を使うのでは無く、本物のね」

 




ベノム(エンブリヲ)にはラスボスらしく、何かしらの超展開によって圧倒的な能力を付与させてみました。

本音「これどう収集つければいいんだ!?」

でも大丈夫、私の好きな言葉にこれがあります。
諦めるな!!

そして最終話まで、後3話・・・

以下、本編で書けなかった補足事項のコーナー

人類進化連合について

遠回しに滅ぼされた組織ですが、本来の後半部分のオリジナルシナリオの予定では、Zガンダムのコロニーレーザー争奪戦の様なZEUXISvs人類進化連合vsブラックドグマによる三つ巴の戦闘を描きたかったのですが、それは叶わず彼等はビーストによって壊滅した組織です。

なお、初期構想ではメビウスが所属する組織にもなる予定でしたが・・・すまんな。私の実力不足で活かしてやれずに。

(余談ですがメビウスが所属したとしても、この組織がブラック・ドグマに敗北するのは確定事項でした)

尚、これから先は知っている方にお伝えする者です。興味ない方はスルーで。

内容はビーストの区切りについて。

ビーストの区切り的なものとして、元とした本編において、クトゥーラ含めてそれ以前のビーストはエンブリヲが、クトゥーラ撃破後に現れたビーストがベノムが創り出したという区切りをつけています。


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第89話 この戦いに終止符(ピリオド)を 後編



・・・もはや何も語るまい。最終決戦、後編の始まりだ!!

でもその前に、前回のあらすじ。

ベノムの正体、それは未来世界の介入前のエンブリヲであった。遂にエンブリヲの最終決戦へと移行する。フェニックス・ノアと実質同型機であるザギの猛攻に、皆追い詰められていった。

そんな中、遂に敵の見せた隙を狙い、ザギの破壊に成功。乗り手のエンブリヲも、死亡した。

だが次の瞬間、なんとエンブリヲは機体ごと蘇生した。

時の止まった空間の主であるエンブリヲは不死身だと言う。

こんな不死身の化け物相手に、果たして勝ち目はあるのか!?

それでは、本編の始まりです!!



 

 

「ふざけんな!不死なんてあるわけねぇだろ!」

 

メビウスはフェニックスで必死にザキへと猛攻を仕掛けていた。ザキは余裕でそれをボディで受けつつ、時に受け流している。完全に弄ばれている。

 

「ちっ!零距離なら!!」

 

【ザクっ!】

 

デスカリバーがザギの胴体に深く斬り込む。機体の出力を上げ深く入れ込み、コックピットを真一文字に斬り裂く。普通に考えれば中のエンブリヲも死んでいる筈だ。なのに・・・

 

「無駄だ。愚かな未来の人間が」

 

その傷はほんの数秒で完治された。機体の方も同じである。

 

「愚かな人間に、私は倒せない」

 

「お前だって人間だろうが!!」

 

【ガシッ】

 

今度はその剣が受け止められ、へし折られた。

 

「あぁ。人間のつもりだったさ。100年前はな!」

 

「メビウス!」

 

マウントをとられた事で一方的にフェニックスが嬲られている。なんとか他機からの援護で体制を立て直すが、それだけでは勝利を得る事は出来ない。

 

「はあっ。はあっ。はあっ。はあっ」

 

「こんちきが。本当にゾンビなのかよ」

 

「こんな相手、どう勝てばいいんだ・・・」

 

メイルライダー達も、パイロット達の顔にも疲労の色が見え始めた。このままでは疲労などで確実に負ける。いや、その前に先に弾薬などが底を突くだろう。

 

どの道、現状のままではこちらは確実に負ける。

 

「・・・相手が本当に不死身なら、無限を相手にする様なものだ。そこに勝率などないのかも知れない」

 

「じゃあここで引き下がれって言うのかよ!」

 

「安心したまえ、逃す事などさせん。この場で皆殺しにしてくれる!」

 

次の瞬間、ザギがこちらへと急接近してきた。手始めに、ザキ猛攻がヴィルキスに襲いかかる。

 

「アンジュ!まずは君からだ!!君だけは私が殺さなければ気が済まないのでね!!1000年の時の中から選んでやった恩を忘れた、愚かしい人間!!」

 

「いい加減しつこいわよ!!このキモイ髪型でニヤニヤしてて、服のセンスも無くていつも斜に構えてる恥知らずのナルシスト!!1000年ヒキコモリの変態オヤジ!はっきり言って、存在が生理的にムリ!!」

 

「その減らず口、今すぐ黙らせてやる!!!」

 

ヴィルキスが投げ飛ばされた直後、ザギは何かしらのエネルギーをチャージを開始していた。それはベルゼブア・コローネ戦でのノアと同じ技であった。

 

「不味い!今のヴィルキスじゃ、あれに耐えれるかどうか・・・」

 

宙に投げ出され、体勢が整えていない故に、防御や回避をとることも出来ない。

 

「死ねぇぇ!!!」

 

「アンジュ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放たれた光弾を、ナオミの乗るヘリオスのアイフィールド割って入り、受け止めていた。やがて全ての光弾をなんとか受け止める事に成功するが、これによってアイフィールド発生装置が破損、もう防御面での活躍は見込めなくなった。

 

「ちっ!邪魔が入ったか」

 

「エンブリヲ。貴方は、本当に可哀想な人ね」

 

「なんだと?」

 

「ずっとこんな世界に引き篭もって、それで調律者を気取っていて。そして外の世界にでれば、力で相手を屈服させる事しか考えられない。遂には、仮にも愛していた人を殺そうとして」

 

「黙れ!本来貴様はこの場にはいない存在なのだ!貴様は偶然、未来世界の介入による一部の歴史改変によって偶然生き残っただけの存在だ!」

 

「・・・そうだね。あの時、メビウスが落ちてきた穴から、当時のドラゴンが来たら、私は間違いなくこの場にはいなかった。そんな事は自覚してるよ。でも、この場にいるのは、私自身が決めた事!他の誰でもない、私自身が戦う道を選んだから!!」

 

ナオミの目にある決意の火が灯った。これまで不確定故に使おうとしなかった切り札、逆転の可能性を持つジョーカーを使う覚悟の眼である。

 

「みんな、少しだけ下がって」

 

「ナオミ。貴女、何をするつもりなの?」

 

「大丈夫。きっと上手くいく。いや、してみせる」

 

その時、ナオミの行動の狙いにいち早く気づいた

存在。それはメビウスとエンブリヲであった。

 

「まさか貴様!させるものか!」

 

「邪魔すんじゃねぇ!」

 

ザキにフェニックスが組みついた。何度も殴りつけてくるも、意地でも離すまいと喰らいついている。

 

「離せ!」

 

近距離で数発の光弾を喰らい、実質外装がかなり剥がれ、地に這いつくばる。それでも逃すまいと、右脚に喰らい付いていた。

 

「やれナオミ!あの時と同じ様に!」

 

そう。ヘリオスだからこそ出来る荒技がある。以前、ミスルギでの決戦において、死んだメビウスとフェニックスの命を救ったあの能力。

 

対象の時間を戻す能力なら。だがあの時とは違い、対象はこの空間そのものである。この、時の停止した空間そのものを、動かそうとしていた。

なんだこの設定

 

「時間よ!戻って!!この空間の時が止まる、その前に!!!」

 

「やっ、やめろぉぉぉぉ!!!!!」

 

するとナオミの言葉に答える様に、ヘリオスの両翼が白く輝いた。それは周囲の空間そのものを飲み込んでいった。やがて周囲の空間の雰囲気が変わり出した。この時の停止した空間に、再び時が流れ出したのだ。

 

「馬鹿な。こんな筈では・・・」

 

「どうやら御自慢の不死は消えたらしいな」

 

時が止まった事で、これまでエンブリヲ自身、時が止まった存在として先程まで不死でいられた。だがこうして時が動き出した以上、もう不死ではない。

 

こちらと同じ人間としての土俵で戦わなくてはならなくなった。さらに此処で、エンブリヲ自身にも予期せぬ事態が発生した。全てのラグナメイルのモニターに、ある記号が表示された。それは、封印の解除を意味していた。

 

「ほう。どうやら昔、貴様自身がかけたロックが、今ので解除されたらしいさ」

 

「なっ!まさかラグナメイルの・・・!」

 

「あぁ。使えるようになったよ。貴様が以前、虫ケラには使わせまいと封印していた中で一番の封印。時空兵器がな」

 

かつてのエンブリヲはラグナメイルにロックをかけた。血や指輪や歌など、様々な要素を満たさない

存在には使わせない為に。かつて自身のかけた鍵。それが今、全て取り外されたのだ。

 

「なるほどな、そちらの機体は全盛期状態か。なら・・・」

 

地べたを這いつくばっていた不死鳥は、今再び立とうとしていた。過去のラグナメイルは全盛期の頃へとなった。そして現代を進化するヴィルキスも、真の能力解放をした。なら最後は未来のフェニックスだ。

 

「おいフェニックス。もう休憩は十分だろ?ラグナメイル達は能力を解放したんだ。お前ももう一度だけ力を貸せ!あの時、ベルゼブア・コローネを叩き潰した、あの姿にな!!」

 

次の瞬間、ヘリオスと同じくフェニックス内のネオドラグニウムがその意思に応え、完全体から進化ししあの姿、フェニックス・ノアへとその姿を変えた。

 

「こんな!こんな筈では!!」

 

完全に状況はひっくり返っていた。次の瞬間には、四つの機体がザギを取り囲んでいた。機体の乗り手はアンジュ、タスク、サラマンディーネ。そしてメビウスだ。

 

「お前にぶつける怒りは山ほどある!!!!」

 

次の瞬間、ヴィルキスの剣は振り上げられた。そして直ぐに、振り下ろされる事となった。

 

「まずこれは、貴方の望んだ世界のせいで人生を

歪められた、私達ノーマの怒り!」

 

機体に深い切り傷が付いた。

 

「そしてこれは、お前の価値観で迫害されてきた

父や母、俺たち古の民の怒り!!」

 

先程の切り傷がより深みを増してゆく。

 

「そしてこれが、貴方の身勝手な理想の犠牲となった民の、ドラゴン達の怒り!!!」

 

切り傷は広がり、やがて亀裂を生み出した。

 

「そしてこれが、お前のせいでその命を散らす事になった、未来の人間達の怒りダァ!!!!」

 

亀裂を拳で貫いた事により、遂に機体のコックピット部分が剥き出しとなった。先程までと違い、修復も出来ず、最早ザギはボロボロであった。だが、皆の怒りは収まらない。

 

「最後に!!これが俺たち全員の怒りだぁ!!!!!」

 

亀裂を堺に、機体は上半身と下半身とで二つに斬り裂かれた。かつてはしぶとく生き残ったが故に、

未来での暗躍を許す事となってしまった。

 

だからこそ、今の皆はエンブリヲを完全に叩き潰す事だけに力を入れている。

 

「ディスコード・フェザー!」

 

「収斂時空砲!」

 

「マキシマ砲!」

 

「ネオマキシマ砲!」

 

全ての機体の、持てる最大火力がそこには集結していた。塵一つ、細胞の一欠片も残さない為に。その対象には、些かオーバーキルな感じもしなくもない。

 

ザギが再びエネルギーチャージをしているが、数でも質でも、その攻撃に勝てる筈はない。

 

「いっけぇ!!!!!」

 

エネルギーはぶつかり合い、一気にザギの方へと押されて行った。機体が半壊したザギに、それを防ぐ手立てはなかった。出来る事、それはそれらを直撃で喰らう事だけである。

 

「この私が!!人間如きに!!この私が!」

 

「偽りの機体が、本物の機体に勝てるものか!!」

 

ノアは一気に距離を詰め、機体を宙に放り投げる。皆の砲撃も宙へと向けられ、完全にバランスを失ったザギに、もう反撃すら出来なくなっていた。

 

「何故だ!なぜ私が負けるのだ!?神たる存在の私が!こんな卑小な人間以下の存在に!!」

 

「卑小・・・か。確かに人間って、醜い存在面を持ってる存在なのかも知れないな。その点については同意してやるよ」

 

「私も基本的に、世界の為とかそんな大層な事は考えてない。あくまで自分の為に戦っているだけよ」

 

「目的の為に手段を選ばない者もいる。人間とは、その様な生物です。それは過去の戦争で、証明されています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・でも」

 

「「「人間として、お前だけは許せない」」」

 

その声を推す様に、一気に出力を増したその砲撃。やがて辺りを、これでもかと言わんばかりの眩しい光が包み込んだ。次の瞬間には、その中心点は大爆発を引き起こした。

 

やがてその場には、ボロボロのザギが残されていた。機体の至る箇所から小さな煙と余波的な爆発が起こっている。

 

過去のエンブリヲと同じく、機体と共にボロボロの状態であった。

 

「エンブリヲめ!あの状態でまだ生きて・・・」

 

「いや、放っておけ。あの機体にあの身体じゃすぐに爆発して、木っ端微塵だ。下手に近づけば、爆風に巻き込まれる」

 

するとエンブリヲは絞る様な声で、こちらを睨みながら叫んだ。

 

「アンジュ!それにノーマと猿共!!そしてドラゴン共!!!貴様らは必ず後悔する!!己の行動に!後悔しろ!苦しめ!!貴様らのせいで、仲間が死ぬのだからな!!」

 

呪詛の捨て台詞を吐き捨てた瞬間、ザギは大爆発を起こし、粉々に砕け散った。その最後に、メビウスが吐き捨てる様に言った。

 

「ったく。最後の最後まで、謝る事すら出来ねぇのかよ」

 

「ねぇ。今度こそ、全てが終わったのよね・・・」

 

「・・・そうね。今度こそ、やっと終わったのよ」

 

「・・・そうか。終わったんだ・・・」

 

「・・・っしゃぁ!!!!!」

 

初めは実感が湧いてこなかったそれも、誰かの歓喜の叫びを皮切りに皆へと伝達していった。機体と艦が地に降り立ち、友と身体を抱き合わせる。温かい。温もりがある。それが、無事に生きている事を実感させた。

 

「遂に、遂に掴み取ったんだ!自由を!」

 

「世界は、救われたのですね」

 

「これであの、破滅の未来も変わるわね」

 

「・・・あぁ。そうだな・・・」

 

ZEUXISメンバーは皆空を見上げていた。その顔は全てを出し切った者の顔であった。もう後悔などない、そんな雰囲気が漂っていた。

 

(ネロ艦長達のあんな顔、初めてみたぜ・・・あれっ?)

 

不意に身体が重くなり、地面へと倒れ込んだ。倦怠感が激しい。

 

「ちょっとメビウス。しっかりしてよ・・・あれ?」

 

ナオミが背後を見ると、不自然な空きスペースが存在していた。空白の場所には確かヘリオスとスペリオル。そしてアーバトレスの機体が置かれていたはずだ。なのにそれがなくなっている。

 

いや、アーバトレスはあったが、何故か元の機体のアーキバスに戻っていた。

 

「あの機体、何処に行ったんだろう?」

 

【グラグラグラグラグラ】

 

突然地面が大きく揺らいだ。地面だけではない。

空間そのものが、大きく揺らいでいるのだ。

 

「なんだ!?」

 

「恐らく時空融合の収束時の余波でこの異空間が崩壊するんだ!脱出するぞ!」 

 

皆がアウローラに乗り込み、発進した。このままドラゴン達の世界へ行こう。それで、本当のラスト・リベルタスは成功する。

 

だがZEUXISの艦、アクセリオンは何故か動こうとしなかった。

 

「あんた達、何ぼーっとしてんのよ!早くアクセリオンで脱出を!」

 

「いや、その必要はない」

 

「はぁ!?何を言ってるの!早く・・・」

 

「・・・どうやら、お別れの様だな」

 

突然の言葉に、皆が動揺した。言葉だけではない。モニターに映し出されたネロ艦長達の異変が、何より驚かせた。

 

その身体からは、なんと光の様な物が漏れ出ていた。半透明になっている者もいた。

 

「何を言い出すの、それにその身体・・・」

 

「お前達は自由を掴み取った。それでいいじゃないか」

 

「そんな事は聞いてない!貴方達のその身体!一体何が起きてるって言うのよ!」

 

この時、アウローラの中でもメビウスの身体に異変は起きていた。突然メビウスが床に倒れ伏した。

 

「メビウス!身体、ネロ艦長達と同じになってる」

 

「なっ!これ、なんだよ・・・」

 

「一体、何が起きてるのよ・・・」

 

アウローラの艦内を駆け巡る言い知れぬ不安。それがこの場を襲っていた。するとネロ艦長が、遂に重い口を開く。

 

そこには、衝撃の事実が含まれていた。

 

「・・・エンブリヲが完全に死んだ事で、100年後の未来は平行世界から解放された。つまり、あんな未来は初めから無かった事になったんだ」

 

皆が生唾を呑んだ。

 

「・・・それが、それがなんだって言うのよ!」

 

「仮にAとBの夫婦がいたとする。でもBは戦争で死んで、AはCと再婚。そこで産まれたのが我々だと仮定しよう。でも、未来が変わった事であの戦争は起きなかったんだ」

 

「つまり、AがCと再婚する事もなかった。そうなると、俺たちも、初めから生まれてこなかった事になる。それが未来世界に関わる全てで起きたんだ・・・」

 

つまり、彼等の存在は初めからなかった事になる。それは彼等の技術が組み込まれた機体にも同じ処置が施される。マキシマエンジン、そんな物は初めから存在しない。だからこそ、未来の技術が使われた機体や武器は、その存在が消えたのだ。

 

「なんで、なんでそんな重要な事!今まで黙ってたのよ!!」

 

「・・・これは昔からの我々全員の意志だ。こうなる最悪な事態は予想できていた。その上での覚悟があって、我々はこれまでやってきた。揺るがない決意があったからこそ、誰も口にはしなかったのだ」

 

「シグ。お前も、知ってたのか・・・」

 

(・・・あぁ。ZEUXISのみんなも俺も、未来世界の殆どの人間達もこうなる事態を覚悟の上で、未来を変えようと行動してきた。たとえその結果、自分達が消滅するとしても・・・)






不死の攻略が流石に無理矢理が過ぎると思いましたけど、現状ではあれくらいしか思いつきませんでした。

太陽に放り込むとか壺に封印とか論外ですし。

そして未来組についてですが、結論から言わせてもらいますと未来組は次の回で全員消滅してしまいます。その上での正史的な最終回はどんなものがいいかと、アンケートでは聞いています。

まぁ受け手側としては、最終的に、閲覧している方個人での、好みな方を正史と捉えて下さい。

タイムパラドックス関係の消滅は、書いてみたい事だったので書いてみました。
(関係者の記憶までも抹消されるかどうかは考え中)

そして最終回まで、後2話・・・



一方、こちらは第3回目にして最後のくだらない
補足コーナー!

今回は没となった機体について!

EM-CBX000 ヒステリカ・NM

ベノムが搭乗する予定であった機体。未来世界の新たな技術と過去世界の既存技術を組み合わせて製作した機体である。NMはネオマキシマの略である。

あらゆる性能面でヒステリカを凌駕しており、全てのラグナメイルのエンジン系統含むコントロール権までも強制的に奪い取るシステムを備えている。
また、マキシマエンジン系統の起動を阻害する粒子なども放出可能である。

以前のアンケートでザギの登場がなかった場合は上記の能力を提げた登場し、ラグナメイルとマキシマ系エンジン搭載機の全てを機体として機能停止にする案もあった。

最終的にはヒステリカの持つディスコード・フェザーすらも取り込み更なる完全体をも構想していた。


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第90話 また生まれ変われたら・・・



今回で90話を突破しました。次回は最終話表記の為、これ以上数字が増える事はありません。

それにしても、まさか本当に完結まで書けるとは、過去の自分は思わなかったなぁ。

えっ?消した0話の内容?・・・ナンノコトカワカラナイヨ・・・

今回で最後となる前回のあらすじ!

未来世界のエンブリヲとの激戦を繰り広げるアンジュ達。

そんな中、ヘリオスが最後の切り札たる時間操作を使用。これにより時の停止したアルゼナルは、その効力を失った。それに伴い、エンブリヲの不死も、無効となった。

こうして全力のぶつかり合いの末、遂に不死のエンブリヲを攻略した。これで世界は救われる。あの破滅の未来も、並行世界では無く、エンブリヲの介入しない正しい未来へとなる。

その代償が、メビウス達未来世界の消滅である事を知ったのは、直ぐであった・・・

それでは、本編の始まりです!


 

 

空間の崩壊は今もなお進んでいる。早くこの空間から脱出しなければ危ない。だが、アクセリオンは未来世界の技術消滅中の為、旗艦エンジンのマキシマエンジンも喪失。ただの鉄屑の塊となっていた。

 

「待ってなさい!今アウローラで牽引するから!」

 

「よせ。そんな事より早くこの空間から離脱しろ。ラグナメイルの持つ時空移動、それを使えば戻れるはずだ」

 

「あんた達は死ぬのよ!それでもいいの!?」

 

「・・・あぁ、これでいいんだ。これで歴史は変わる」

 

100年後の未来世界。マナを失っても復興の為にやらねばならぬ事があったにも関わらず、エンブリヲの介入によって、人々はその道を間違えた。圧倒的な力を求め、他者を虐げる為に争う。そんな世界は、並行世界とはいえ初めから無い方がいいに決まっていた。

 

「なんで・・・なんであんた達は、そんな平然としてられるのよ!!あんた達はこのまま消えるのよ!!それなのになんで、そんな平然としていられるのよ!!」

 

「・・・平然となんかしてはおらん。みんな恐怖で震えてるよ。消えたくない。死にたくないって。

喚き散らしたいくらいだ」

 

「だったら!!」

 

「・・・でもな。あんな破滅の世界で生きてどうなる?あんな世界を、これから産まれてくるかもしれん、自分のこどもに生きて行かせたいか?我々には、その方が耐え切れん」

 

「・・・そうだな、あんな世界は初めから無い方がいい」

 

地面に伏していたメビウスは体を無理矢理起き上がらせ、アンジュ達の方を見る。

 

「これで、百年後の世界は変わる。人間同士で争い、奪い合ったりする事なく、きっと人間達が笑顔でいられる世界になるはず・・・」

 

話している内に、メビウスは身体の半分が消えかけていた。それは、向こうの未来組も同じである。

 

「なぁ、そんな悲しい顔すんなよ・・・生まれ変われた・・・会えるよな!きっとまた会える!!」

 

その笑顔は空元気の笑顔だと、皆が気づいた。自分自身が一番気付いていた。それでもこの男は笑顔でいた。

 

「あっ、でもそれだとしたら、100年後とか、そのくらい先になるのかな。そん時はみんな、おばあちゃんになってるかもな!・・・でも、やっぱ怖えな」

 

「やめて・・・」

 

「・・・ははっ。やっぱ駄目だな。漫画みたいに

カッコよく決めたいのに。ナオミ達の顔を見てたら、言いたくなっちまう。言ったらきっと、ブレーキ効かなくなっちまうから、言いたくない筈なのに・・・消えたく・・・!?」

 

次の瞬間、ナオミが口でメビウスの口を塞いだ。暫く塞いだ後に、口を離した。メビウス達が唖然としている中、ナオミが口を開いた。

 

「はあっ。はあっ。許さない。最後の最後に、弱音を吐くなんて・・・許さない!強がってみてよ!!ここまでやっとこれた。例え本当に存在が消えるとしても、最後までメビウスでいてよ!!」

 

「ナオミ・・・」

 

するとネロ艦長が黙って頭を下げた。

 

「メビウス。そしてシグ。すまなかった。昔、まだ子供だったお前を汚い大人の争いに、私の復讐に

巻き込んでしまって・・・本当に申し訳なかった」

 

暫く考えた後、メビウスはモニターの方に顔を向けた。そこに先程までの表情は消えていた。普段のメビウスがそこにはいた。

 

「・・・何を言ってんだよ。こうしてネロ艦長達と出会わなければ、俺がこの場に居る事もなかったんだ。寧ろ、感謝したいくらいだよ」

 

「だがそのせいで、お前の孤児グループは壊滅。

何よりお前はシグと違って消滅する覚悟は・・・」

 

「いいんだ。初めからシグは消える覚悟で戦ってきたんだ。シグは俺なんだ。俺はシグなんだ。なら、俺もその覚悟をする・・・してみせるさ。メビウスらしく、最後まで・・・な」

 

ネロ艦長が帽子を外した。その態度はこれまで外した時の凶暴性ではなく、ネロ艦長そのものであった。

 

「・・・アウローラ。最後の頼みだ。あと僅かではあるがメビウスを、シグを頼む」

 

そう言った瞬間、アクセリオンとの通信は途絶えた。その途端に、アウローラの船体に嫌な音と共に亀裂が生じ始めた。艦の耐久地は、もはや限界であった。

 

「これ以上此処にいたら、アウローラが持ちません!!」

 

「・・・アウローラ緊急発進!!目標座標はドラゴン達のいる地球だよ!」

 

「・・・っ了解。アウローラ、緊急発進します」

 

次の瞬間には、アウローラはこの空間から姿を消した。ヴィルキス達ラグナメイルの力で、この空間から真実の地球へと跳んだのだ。

 

「アウローラは翔び立ったか」

 

そう話しているうちにブリッジに集まっていたメンバーは一人、また一人と消滅していった。やがてその場には、デルタメイル部隊の乗り手と、ネロ艦長の5人だけが残された。

 

皆、既に立っているのも辛く、全員が地面に横になっていた。そんな中で最初に消滅するのはアクロであった。

 

「この感じ・・・悪いな。どうやら一番に消えるのは俺みたいだな・・・」

 

「アクロ。お前からか」

 

「・・・正直、俺はネロ艦長には感謝してる。当時人類進化連合の鼻つまみ者だった俺たちを拾ってくれたんだからな。ネロ艦長がいなけりゃ、きっと俺たちは本当に腐ったまま死んでた」

 

「そりゃどうも」

 

「・・・お先に、みんな。それにネロ艦長。貴方の淹れたコーヒー。美味かったぜ」

 

こうしてアクロは消滅した。次に消滅するのは、

カイであった。

 

「おいおい。次は俺か、嬉しい様な悲しい様な・・・なぁみんな。みんなは異世界転生とか信じるか?」

 

「・・・まぁ、信じてみたいな」

 

「俺は生まれ変わるなら、異世界転生でもしてみてえな。そしてよくあるハーレムでも作ってみてえな。まぁ本命は決めてるけどな・・・あばよ。アンリ、みんな・・・」

 

こうしてカイも消滅した。この次に消滅するのはアンリであった。

 

「ええっ!?私がカイの次って。まるで後追いみたいじゃない」

 

「アンリ。歳ってのは気がついたら増えてる借金みたいなもんだぜ。早いとこお相手見つけなきゃ、損するぜ」

 

「カイみたいな軽口を言うなァ!・・・まぁ、あいつが本気なら、少しは考える事くらいはしたかもね・・・また会えたら、こっちから聞いてみるか」

 

そう言い残し、アンリも消えていった。その次が

ワイズナーだ。

 

「遂に自分が消滅か。ネロ艦長、貴方には色々と

お世話になりました」

 

「ワイズナー。君は私の右腕として、予想以上の働きをしてくれた。世話になったのはこちらの方だ」

 

「恐縮です。貴方と共に仕事が出来て、とても充実した人生でしたよ・・・血と硝煙の匂いがない、

平和な世界で生きてみたいですね・・・さようなら・・・」

 

残されたネロ艦長だけとなった。そのネロ艦長も今まさに消えようとしていた。

 

「私も消滅か・・・上手くいけば、家族の待っている場所に行けるのかもな。あの未来が起きないのなら、家族が死ぬ事もないのだから・・・でも、それって初めから出会わないって事に・・・」

 

「・・・考えるのはやめだ。それにもし、消える人間が一箇所に集まっているのなら、そこから家族を探せばいい・・・」

 

既に身体の殆どは消滅しており、最早時間の問題であった。そんな中、最後の力を振り絞り、重い口を開いた。

 

「・・・さらばだ、メビウス、シグ・・・」

 

アクセリオンは崩壊していく空間に飲み込まれる寸前、ネロ艦長と共に、光となって消えていった。

やがてそこには、何もない空間が何もなかったかの様に消滅していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクセリオンが消えた頃、アウローラは真実の地球へと辿り着いた。既にメビウスの身体も消えかけており、今にも消えて無くなってしまいそうだ。

 

「!!」

 

「メビウス?どうしたの?」

 

「今、ネロ艦長達の声が・・・なぁナオミ」

 

振り向いたその目に既に光はない。見えてない。

だが見えてなくとも、ナオミ達の方を見続けた。

 

「消える前に・・・聞いて欲しい事がある・・・」

 

目の前の人間の存在が消えようとしている。今まさに、その事実が重くのしかかってきた。周りは強く振る舞おうとしても、つい本音が出てしまった。

 

「やだよ・・・消えないで!やっと、やっと戦いが終わったのに。私達が自由を手に入れたのに!!

一緒に生きたいのに!!」

 

「お願いだ、聞いて・・・弱音なんかじゃない。俺の、願いを」

 

「・・・・・・何?」

 

「この世に、神様って・・・いるのかな?もしいるなら、また・・・ナオミ達に合わせて欲しいって願う・・・たとえ生まれ変わって、その代償として、記憶が吹き飛んだとしても、また・・・会いたい。好きな・・・人に・・・」

 

「メビウス・・・」

 

「・・・当たり前の様で、名前があるって・・・

嬉しいな。俺は・・・幸せ者だ・・・」

 

メビウスとシグの消える直前、もう見えない二人の視界に、こども達が映った。それは以前、孤児グループ時代に寝食を共にした、メンバー達である。

 

(ロイ。ミィ。みんな、迎えに来てくれたのか・・・シグ。お前も行くぞ。お前の事も・・・紹介しないとな)

 

(・・・あぁ)

 

差し出されたその手を掴もうと、腕を伸ばす。彼等はその手が一瞬だけ、触れられた気がした。

 

そうして恐怖ではなく、安らぎの笑みを浮かべながら、メビウスも光となって消滅していった。メビウスの消滅と共に、フェニックスも同じ様にアウローラの格納庫から消えていった。

 

これで、破滅の未来の全てが消滅していった。

 

「・・・・・・」

 

世界は完全に解放されたのだ。自分達は、望んでいた自由を掴み取った。

 

その代償は、一つの並行世界の消滅。それも知った人間達も一緒に消滅したのである。

 

これはどうあっても避けれなかった道なのだ。未来を破滅に追いやったエンブリヲが討たれなければ、自分達は自由を掴み取れなかった。世界も、解放されなかった。

 

だがその結果、エンブリヲが死んだ事であの未来を創り出す存在も消え、あの未来世界の存在そのものが消えてしまった。

 

それでも彼等は、あの未来を変える為に戦ってきたのだ。自分達の存在が消滅する覚悟をしていて。

最後まで、顔色一つ変えずに。

 

「こんな・・・こんな結末って・・・」

 

その時であった。この場に威厳の溢れる声が響いた。

 

「いいえ。メビウス達は、彼等は死んだのではありません」

 

声の主は、皆聞き覚えがあった。皆が空を見上げた。そこにはドラゴン達が飛んでおり、声の主は

その中で一際大きなドラゴンであった。

 

「アウラ・・・」

 

「全てがあるべき場所へと戻ったのです。彼等はまた産まれてくる。形こそ違えど、そこにある命は変わらない・・・」

 

「・・・そうね。私達が悲しむのを、きっとメビウス達は望んでいない。それこそベノム、いえ、エンブリヲの思惑通りになる」

 

彼女達は悲しまない。それがきっと、未来世界を生きた者達の願いだから。あんな世界を願わないでほしい。

 

「そして皆さん。改めてお礼を言わせてください。貴女達のお陰で、世界が解放されたのです」

 

「突然ですがクイズです!ここは何処でしょう!」

 

「言わなくても分かるよ。ドラゴン達の世界、

だろ?」

 

改めて上空を見上げた。そこには無数のドラゴン達がいた。自分達を歓迎しているかの様に。そんな中、サラマンディーネがアンジュに尋ねてきた。

 

「・・・アンジュ。貴女達はこれからどうするのですか?もう戦う必要も、争う必要はなくなったのです」

 

エンブリヲは倒された。もう戦う必要はない。少し考えた後、アンジュはその顔を上げた。

 

「・・・国を作るわ。誰もが自分らしく、自分の

意志で生きていける国を」

 

「相変わらずスケールがデケェな。その話、乗ったよ。私はあんたの側に居続ける」

 

「あら、それは私の役目ですよ?」

 

ヒルダ達が名乗りを上げた。

 

「あの、アンジュリーゼ様。あちらの世界はどうなるのでしょうか?」

 

モモカさんが当たり前の疑問を呈した。

 

「さぁ?それは分からないわ。でも、エンブリヲの介入がない以上、自分達の足で生きていくはずよ。今度は間違わずに、正しくね。もしそれができなかったら、その時は野垂れ死ぬだけ」

 

その頃、向こうの世界では争いは起きていた。しかし、エンブリヲの介入が無い事によりパラメイルなどの技術の流出はなかった。

 

その世界では皆が戦っていた。だが、他者を圧する為ではない。自分達の足で生きていく為に。秩序を築くための、混乱の時期とも言える。

 

少なくとも、未来とは違い、この戦いは殲滅戦にはならずにいずれ終わり、その後は平穏が訪れるはずだ。

 

そしてその中には、立派に戦う一人の少女の姿があった。その少女は何処と無く、シルヴィアに似ていたそうな。

 

「さぁ。私達も行きましょう。自分の道を、自分の足で!!!」

 

「「「イエス・マム!!!」」」

 

こうして皆が、歩き出した。未来に向かって。

 

(私達は忘れない。あの破滅の未来世界を。そしてその未来を変える為に戦った戦友達を。絶対に・・・そして信じてる。また会える事を・・・)

 

 




次回、ノーマの少女達と一人の少年が出会った、最終回。

原作での最終回が終わったとはいえ、蛇足にならないように私も最後までやり切ります!例えそれが、後日談の様な形になったとしても!

尚、喫茶アンジュはどちらの最終回でも登場する
予定です。(状況などは恐らく異なりますが)

今のところ御都合主義をフル稼働させても大円団になる事を望んでいる人が多くて、私としては嬉しい限りです。

(恐らくご都合主義を通り越した何かになる危険が
ありますけどね)

最終回は同時投稿する予定です。投票終了はこの回投稿後の24時間後です。未投票の方は宜しければ投票してください!


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最終話 少女達と一人の少年が出会った



こちらはアンケートで、大円団エンドでの最終回です。その為にご都合主義すらも通り越した何かを生み出しました。

考えるな、只ひたすら感じろで笑って受け流せる方にお勧めします。短めですが、よろしければどうぞ!

そして何とお気に入りが遂に100を突破しました!!公開している方も、非公開の方も、何よりこの作品を読んでくれた皆さん、評価してくれた皆さん。本当に、ありがとうございます!!

これがこの作品の最後の投稿話になる予定です。
是非、最後の最後まで、お楽しみください!!!



 

 

あの戦いから数年が経過した。それによって、アンジュ達を取り巻く周囲の環境も大きく変わった。

 

パラメイルやラグナメイル。龍神器はもう使う必要は無い。だから都の地下格納庫に封印されている。あのまま何事も起きずにずっと封印し続けたい。

それが、彼女達の願い。

 

 

 

 

今日は朝から晴天であった。それはカーテンを開いた時点でわかっていた。

 

「さぁみんな!記念すべき喫茶アンジュの開店初日よ!!気合い入れていくわよ!!!」

 

ここに数年経ち、色々と成長したが、昔と変わらない一人の人間がいた。アンジュだ。(但し、お腹の中には・・・うわっ、何をする!やめろぉ!!)

 

「アンジュってば張り切ってるね」

 

「そりゃそうだろ。念願の喫茶アンジュがいよいよ開店するんだからな」

 

そうなのだ。今日はアンジュが夢見ていた喫茶アンジュが開店する日なのだ。これまで地道に下働きなどでお金を貯め、そして節約し、ようやくこの店を持つ事が出来たのだ。

 

そして従業員は言わなくても分かる通り、アルゼナルでのメンバー達だ。

 

【ちりんちりん】

 

そして扉が開かれた事を知らせるベルが室内に鳴り響く。

 

「いらっしゃいませ。喫茶アンジュへようこ・・・・・・え?」

 

手にしていたカップがすり抜け、床へと落ちる。粉々に砕け散った後、床にはコーヒーが広がっていく。だが、今の皆にはそんな話はどうでも良かった。

 

目の前にいる、一人の少年によって。ボロボロのパイロットスーツ。身長はそれなりに高かった。少なくても160以上はある。いや、170程だろう。普段は140程だった為、直ぐには気づかなかった。

 

その少年は少し照れ臭そうに一言言った。

 

「えっと・・・こういう時って、なんて言えばいいんだっけ・・・とりあえず一名様で?」

 

【ドカッ!】

 

重い一撃が、少年の頬を殴りつけた。その主はナオミである。

 

「エンブリヲ!貴方はまだ邪魔をするの!?」

 

「違う!俺だナオミ!!メビウスだ!!」

 

「違う!!メビウスは消えたんだ!!これはエンブリヲが見せてる幻なんだ!!」

 

(このやり取り。何処かでした事あるわね・・・)

 

アンジュはかつてを思い出していた。タスクが死んだと思っていたあの時を。その時と同じ慣習を習わし、ナオミはメビウスを連れ、2階のアンジュ達の自宅となっている部屋の一室に姿を消した。

 

扉には物理的なロックもされているらしく、びくともしなかった。中から漏れてた音については、閲覧者の想像にお任せしよう。

 

アンジュ達はプレートを臨時休業に、床を拭く作業に取り組んでいた。こうして二人が2階から降りてきたのは、明け方近く。1日経過した頃だ。

 

「・・・本当に、本当にメビウスなの・・・」

 

「あぁ。俺はメビウスだ。足だってある」

 

「だって、だって消滅したじゃん・・・目の前で、光になって消えて・・・」

 

「その点なんだけど。実は俺にも何が起きたのか分からないんだよな。記憶の断片を繋ぎ合わせて、消えた後に何があった話すけどさ・・・」

 

こうしてメビウスは、消えた後の事を語り出した。

 

 

 

 

 

 

 

メビウスが気がつくと、そこは何も無い世界であった。

 

「ここは・・・天国・・・なのか?それとも地獄か?どの道俺、死んじまったのか・・・」

 

「メビウス!」

 

気がつくとそこにはネロ艦長がいた。ネロ艦長だけではない。ワイズナーやカイ。アンリにアクロ、アクセリオンのメンバーがそこには集まっていた。

 

「でもなんで!?俺たち、消滅したんじゃないのか!?」

 

「消滅した存在をこうして蘇らせる。こんな事できる者がいるとしたら、本物の神様くらいじゃないか!?」

 

やがて、目の前に一筋の光が差し込んだかと思うと、そこから巨人が降り立った。

 

「フェニックス・ノア?・・・違う」

 

目の前の存在を一言で表すならば、神。それ以外に言葉が見つからない。見た目こそこれまでのフェニックス・ノアであるが、その威厳溢れる出立ち、自分達はこの存在の足元にも及んでいない。

 

「・・・」

 

「貴方は・・・何者なんだ?」

 

すると目の前に何かが出現した。石板のようなそれには、文字が書かれていた。

 

【・・・ここにスペースビーストが居ると聞いて、駆けつけたのだが、いざ来てみれば世界が消滅していた。その時、光となって消滅する君達が見えたので回収した。何が起きたか知らないか?】

 

「いいや、知らないな。ビーストなら俺たちが駆除してきたが、スペースビーストなんて聞いた事ないぞ」

 

すると巨人は何かを考えだした。しばらくして、再び石板が目の前に降りてきた。

 

【これからどうする。このまま消滅するか、戻るか】

 

「・・・戻れるなら、戻りてぇな」

 

すると巨人は何も言わずに、去っていった。巨人のいた場所には、一つの残光があった。

 

「見ろ。光が広がって・・・」

 

「・・・で、気がついたら砂浜に倒れ込んでて、目の前には喫茶アンジュって書かれた看板もあった。それを辿って、ここまで来たってわけだ」

 

「えっ?て事は!?」

 

「なんだのコーヒーは!!味がばらついてるぞ!原因は豆を砕いた時だな。豆をお盆に乗せて大きさを整えてない!その為に砕き方にムラができているではないか!!」

 

その声に、皆があるテーブルに注目する。

 

気がつくとテーブル席にはネロ艦長達が座って、飯を食っていた。アンリ、アクロ、カイ、ワイズナーにネロ艦長。そして・・・メビウスがもう一人?

 

「メビウスが二人・・・貴方まさか!!」

 

「・・・俺はシグだ」

 

シグ。メビウスの中に生まれたもう一つの人格。目覚めてからはメビウスの肉体で共存していた筈の彼が、こうして肉体を持ってここにいる。

 

机の上にはいつの間にか、厨房にあった食材を利用して簡単な軽食が並べられていた。

 

「この様なコーヒーを淹れるとは無礼千万だ!!」

 

「落ち着けよネロ艦長。食わせて貰ってるだけで感謝しなきゃよ」

 

「どうよ。食材としての味の方は?」

 

「パスタの味は結構いけるぞ。腹も膨れるしな。何よりこの海ヘビのスープ。店のオススメメニューなだけはあるな」

 

「因みにパスタ6皿にウミヘビのスープ6杯。そしてコーヒー10杯で、95000キャッシュになります」

 

その一言に全員のフォークの手がピタリと止まる。だが既に後の祭りという奴だ。

 

「・・・は?」

 

「ひ?」

 

「ふ?」

 

「へ?」

 

「ほ?」

 

「金?何のことだ?」

 

シグは貨幣制度を知らないのだ。

 

「あら。店である以上、ただ喰いさせるわけないじゃない。まさかとは思うけど、お金がないなんて言わないわよね?」

 

「えっ?いや、それはその・・・」

 

「金がないんじゃしょうがないねぇ。でも、払うもんはしっかり払ってもらわないと・・・」

 

ジリジリとアンジュ達が迫ってきている。ネロ艦長達が命の危険を感じ、ゆっくりと後退りするも、直ぐに背後の壁の為ぶつかり、下がる事も出来ない。

 

「・・・よしわかった!」

 

帽子を外し、ネロとしての命令を出した。

 

「ZEUXISの諸君!!これが私から諸君に与える、最後の命令だ!!この命令の遂行の後に、ZEUXISは解散とする。そして肝心の命令内容だ。それは・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「各自バラバラに逃げろ!!!」

 

次の瞬間、ネロ艦長達は我先にと入口のドアや窓枠へと飛び移り、それを突き破りながら喫茶アンジュから逃げていった

 

「待て逃すな!ドア代と窓ガラス代を上乗せで請求してやる!!全員捕まえなさい!!オーナー命令よ!!!」

 

開店前だというのに慌ただしく従業員達はほぼ総出で食い逃げ犯達を追いかけて行った。

 

やがてその場には、メビウスとナオミだけが残された。

 

「えーっと。その・・・なんていうか・・・」

 

「・・・何も言わなくていい。たとえこれが、神の悪戯だとしても、気まぐれだとしても、これだけは言わせて欲しい」

 

「おかえり、メビウス」

 

「・・・あぁ。ただいま。ナオミ」

 

その後、食い逃げ犯として彼等全員は捕まり、多額の借金返済の為に皿洗いをする事になるのは、今から数時間後の話。

 




今回で、この作品は作品は最終回です。

お気に入り登録してくださった101名の皆さん!
そしてこの作品を評価してくださった9名の皆さん!感想を書いてくれた皆さん!!

そして最後に、この作品を閲覧してくださった皆
さん!!!本当にありがとうございました!!

それでは改めて、クロスアンジュ ノーマの少女達と一人の少年が出会ったを御閲覧いただき、誠に
ありがとうございました!!

クロスアンジュ、天使と竜の輪舞 Another storyの方で、また出会いましょう!!


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最終話 メビウスの輪



こちらはグッドエンドの方のエンディングです。
大円団エンドとは違うので、消滅した未来組は消滅したままです。

でも、本編の終盤では・・・いや、やめておこう。

そして何とお気に入りが遂に100を突破しました!!公開している方も、非公開の方も、何よりこの作品を読んでくれた皆さん、評価してくれた皆さん。本当に、ありがとうございます!!

こちらも手短ですが、それでは本編行ってみよう!!



 

 

喫茶アンジュ。現在アンジュとナオミ。それにモモカサンはこの喫茶アンジュ内にいたが、ソワソワしており落ち着きがない。

 

やがて我慢できなくなった風に、アンジュが椅子から立ち上がった。

 

「やっぱりタスク達だけに任せておかない!!私も行くわ!!」

 

「アンジュ!大丈夫だから!!落ち着いて!」

 

「大丈夫じゃないわよ!やっぱり私が探しに行かないと!!」

 

「駄目ですアンジュリーゼ様!そんな事をしては、

お腹の赤ちゃんに影響が!!」

 

さて、突然の事で理解が追いつかないだろうから、私から解説しよう。エンブリヲ騒動の後、アンジュとタスクは愛でたく結ばれた。その結果二人は双子の子宝に恵まれた。

 

多少気弱な男の子と、元気聡明な女の子。何というか、両方とも父母によく似ている。男の子の名前は暁。女の子の名前は真宵と名付けた。

 

それから六年の月日が流れた。最早喫茶アンジュは有名なカフェスポットとしてドラゴン達の間で話題となっていた。店の潤いは家庭の潤いでもあり、

二人はすくすく元気に育っていった。

 

そして現在、三人目がアンジュのお腹の中におり、六ヶ月だ。

 

そんなある日、二人が山に行くと言い家を出てからまだ戻らないのだ。外はもう月が高々と空に浮かんでいた。現在タスク達とドラゴン達の捜索隊で山狩りをしながら探しているが、一向に手がかりが待つからない。

 

「かなり暗くなってきた。これ以上の捜索は捜索隊の方が危険だ。一度切り上げた方が・・・」

 

【ピカーッ!!】

 

その時、山から突然光の筋が天へと突き進んだ。

それは喫茶アンジュからも確認出来た。

 

「何かしら、今の光・・・」

 

「山の方だぞ。あれ」

 

「うん。行ってみよう!!」

 

「お待ちください!アンジュリーゼ様!」

 

喫茶アンジュの戸締りをした後、光が差した方へと駆け出した。暫く走っていると既にそこには人集りが出来ており、タスク達もいた。

 

「タスク!?」

 

「アンジュ!二人が見つかった!!この崖の下らしい!」

 

穴の中を光で照らす。見ると人陰が二つ、そこには横たわっていた。死んでいるのか、意識がないのか、その影はピクリとも動かない。直ぐに捜索隊がロープを降ろして降下を始めた。

 

二人を穴から救い出すと、慌ててマギーとドクターゲッコーの所へと担ぎ込まれた。どうやら今は意識を失っているだけで命に別状は無いらしい。

 

やがて、病室で二人とも目を覚ました。

 

「二人とも、心配かけて・・・」

 

二人の話を聞くに、二人は山の中で色々と駆け回って遊んでいた。そんな中、足を滑らせて崖に落ちてしまったらしい。そこで頭を打ち、先程までずっと、意識を失っていたらしい。

 

「とにかく、二人が無事でよかった・・・」

 

「でもね、一つ気になる点があるんだ」

 

そう。実は崖下から救出された時、二人の頭には包帯が巻かれており、何者かに手当てされていた跡が見られた。何者かが早めに手当てしなければ、今この場に二人がいなかった可能性だって十分にある。

 

「一体誰が・・・」

 

「・・・?ねぇ。暁、真宵。二人とも、ポッケに何を入れてるの?」

 

皆の目には、ズボンのポッケに不自然な膨らみがあった。二人はポッケに手を突っ込み、中の物を取り出した。取り出した直後、皆がその物に見入ってしまった。

 

ポッケに入っていた物。それは何とネオドラグニウムであった。二つに割れていたが、以前ベノムが所持していた際、その姿形を見ていた為に間違う筈がない。

 

「これ、どうしたの!?何処で!!」

 

「これ、確か夢の中で、知らないお兄さんが渡してくれた。きっと私達を守ってくれるお守りになるだろうって。でもなんでここに?」

 

「後そのお兄ちゃんから伝言。喫茶アンジュでコーヒー豆を少し貰うって・・・」

 

顔を見合わせた後に慌てて病室を飛び出し、アンジュ達は直ぐに駆け足で喫茶アンジュへと戻っていった。やがて店にたどり着くなり、勢いよくドアをこじ開け放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メビウス・・・」

 

誰もいない筈の喫茶アンジュ。その暗い店内で皆には一瞬、メビウスの姿が映っていた。その姿も、一陣の風が吹き荒み、止んだ頃には蜃気楼の様に消えていた。

 

その場には、誰かの飲みかけの冷めたコーヒーカップだけが、残されていた。

 

「・・・挨拶の一言くらいしなさいよ・・・二人を助けてくれて、ありがとう」

 

 

 

後日談となるが、それからさらに数年後。真実の地球に一つの無人ロケットが落ちてきた。それは偽りの地球の人間達が並行世界の研究、その実験の一環としてこのロケットを射出した事を意味する内容の手紙が同封されていた。

 

向こうの世界は争いが起きていたが、それもやがて落ち着き、新たな秩序が築き上げられていったらしい。

 

無人ロケットの中には、一枚の写真が納められていた。研究チームの集合写真の様なものだ。そこにはZEUXISメンバーに良く似た顔ぶれが、楽しそうに笑っていた。無論、その中にはメビウスに似た双子が写されていた。

 

そして写真の裏面にはこの様な文字が書かれていた。

 

The future is endless。未来は無限だ。

 

そしてそこには、決して色褪せないメビウスの輪が描かれていたそうな・・・

 




今回で、この作品は作品は最終回です。

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そしてこの作品を評価してくださった9名の皆さん!感想を書いてくれた皆さん!!

そして最後に、この作品を閲覧してくださった皆
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本当にありがとうございました!!

それでは改めて、クロスアンジュ ノーマの少女達と一人の少年が出会ったを御閲覧いただき、誠に
ありがとうございました!!

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