ヒロイン 恋愛集 ヤンデレ多め (黒猫黒)
しおりを挟む

ARIA
出会いのベンチ アリス


ARIAから、アリスちゃんとまぁ社長
暇人主人公

アリスちゃんの初恋
私服のアリスちゃん


ここは水の惑星ネオ・ヴェネツィア

 

秘密の場所

 

サンマルコ広場の脇にひっそりとある路地に入り、迷路の様に幾つも枝分かれし曲がりくねった道を暫く進むと陽当たりの良い開けた場所に辿り着く。

 

誰も居ない場所にポツンとベンチだけが置いてあり、少しでも時間が出来るとこの場所に来る。

 

ぽかぽかの日差しと体を通り抜ける風が心地好い、暖かなベンチに座ると運河や海を行くゴンドラがよく見える。

すいすいと水の上を優雅に、滑る様に進むウンディーネ達を見るのが、小さな子供の頃から大好きだった。

 

誰も知らない俺だけの秘密の場所、俺だけの特等席だ

 

だがその場所にある日から侵入者が現れた

それはとても小さく、俺の足をよじよじと必死に登ろうとしている、気が付いて抱き上げると、それは三毛の小さな子猫だった。

この小ささでこの活発な動きは、火星猫だろうか?

両手のひらに乗せ観察していると、その子猫は「まぁ」と鳴いた、変わった鳴き声だな

俺の顔をじっと見つめたかと思えば、そのまま両手の上で寝始めた。

この子に警戒心は無いのか?

子猫を膝の上に降ろし、ゴンドラを眺める

 

その日から俺の日常に子猫が加わった

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

最近の私には、でっかい不思議な事があります

 

何時もの様にサンマルコ広場で、パフェを食べて居た時の事。

机の上でごろごろしていたまぁ社長が、急に起き上がり辺りをキョロキョロし始めました

どうかしたのかと見ていると、いきなり机から飛び降り広場を走り出しました。

 

「待ってください、まぁ社長!」

 

私は、まぁ社長を追いかけて走りました

 

何時もはゆっくり動くのに、この時はとても素早くてまるでアリア社長を見つけた時の様でした。

広場から路地に入り込み、迷路の様な道をするする走って行きます、見失わない様に付いて行くだけで精一杯です。

薄暗い路地の向こうに、ぽっかり開けた明るい場所がみえました。

 

その場所にはベンチに座る男性と、持ち上げられているまぁ社長が居ました。

 

私は急いでまぁ社長を受け取りに行こうとしましたが、驚いた事にまぁ社長は男性と一緒に寛ぎ始めました。

 

まぁ社長が初対面の人に懐くなんて初めての事で、私はびっくりしてタイミングを逃してしまい路地の影に隠れてしまいました、でっかい不覚です。

一度隠れてしまっては出るに出れません、まぁ社長が戻って来るのを隠れて待っていましょう。

 

待っている間に男の人を観察する事にします

顔は目が垂れていて笑っている様で優しそうに見えます、見えるだけでなく動物に優しいのでしょうか?まぁ社長を丁寧に撫でています。

 

…深い笑みが浮かぶその顔を見ると、なんだかそわそわと落ち着かない気持ちになります。

 

結局夕方にまぁ社長が自分から戻って来て、一緒に帰りましたがその時も男の人はまだそこに居ました。

 

その日からまぁ社長は、男性の気配を感じるとベンチまで走って行く様になり私はそれを止めず

ゆっくりと後を付いて行き、路地の影から男性を覗き見るのです。

 

でっかい不思議な事にその男性を見ていると、心がぽかぽか暖かくなり、そして切なくきゅっとして、不思議で幸せな気持ちになります。

 

まぁ社長が見つけてくれた、でっかい不思議な日課が出来ました。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

俺のお気に入りの、秘密の場所に侵入者が増えた

 

このまぁと鳴く子猫はもう許容しているが、路地からこちらを覗き見るあの子は誰だ?

壁の影からはみ出ている緑色の髪の毛がピョコピョコ動き、チラチラと顔が見えている。

本人はバレていないつもりなのだろう。

 

あの女の子に見覚えがある気がする、一体誰だろう?

初めて見掛けてから随分と経つ、そろそろ声をかけてみても良い頃だろうか、寂しそうな顔が何だかとっても気になる。

 

「あのっ!」

 

ベンチから少し大きな声で呼び掛ける

女の子はビクッとして影に引っ込んだ

 

「あの、そこの女の子」

 

声を落として話掛けると、びくびくしながら顔を覗かせる

 

「ずっとそこに居るの?少しこっちに来て、話相手になってくれないかな?」

 

「…わかりました」

 

暫く待つと観念したのか、ベンチの端に腰かけた

 

「でっかいびっくりです。

何時から気付いてたんですか?」

 

心臓を押さえている、驚かせてしまったのか

 

「何時からかぁ…そう言えばこの子が来る様になってからかな?」

 

子猫を抱き上げる

 

「あっ…まぁ社長」

 

「まぁ社長?」

 

子猫を指差す、この子はまぁ社長と言うのか

それじゃあこの女の子は、まぁ社長の飼い主かな?

それなら心配でまぁ社長を見に来ていたのか、納得だ

 

まぁ社長を女の子に渡す

 

「ありがとうございます」

 

「それで君は?まぁ社長を返して欲しかったの?」

 

「…………うぅ」

 

黙り込んだかと思うと唸って考え出した、聞かない方が良かったかな

 

「私は…オレンジぷらねっとのアリスと言います…」

 

もじもじしながらも少しずつ話てくれた

 

「オレンジぷらねっとってあの、ウンディーネの有名な会社だよね?」

 

「はい!」

 

ものすごく良い返事だ、自分の会社に誇りを持っているのだろう

 

「それなら、アリスちゃんもウンディーネなんだね」

 

「はい!なんと私は、プリマなんですよ!」

 

プリマと言えばウンディーネとして一人前、もうお客さんを一人でゴンドラに乗せられるプロだ、こんなに小さいのにプリマでしかもオレンジぷらねっとと言えば有名なあの子か。

 

「黄昏の姫君(オレンジ・プリンセス)」

 

アリスちゃんがぴくっと反応した

 

「アリス・キャロルちゃんかな?」

 

「私の事をご存知でしたか」

 

頬を少し染めて照れている様だった

これはすごい有名人に出会ってしまった、史上初の飛び級プリマに昇格した凄い人だ、ウンディーネ好きな俺としては一度会ってみたかった。

 

「俺はウンディーネが大好きで毎日ここから眺めているんだ。

そして俺は君のファンで、一度君に会ってみたかったんだよ」

 

「私に…」

 

きゅっと胸の前で両手を握りしめ、顔を真っ赤にしている

自分のファンにあまり会った事が無いのかな?

 

「ほら、ここからはゴンドラが良く見える。

顔までは見えないけれど、流れるゴンドラに乗るウンディーネ達がとても美しくて、大好きなんだ。」

 

アリスちゃんも目の前の景色に気付いたのか、見事な絶景に見入っている。

アリスちゃんは、ばっとこちらを振り向いた

 

「あのっ、姿だけですか?」

 

「姿だけ?」

 

「ウンディーネの姿だけが、好きなんですか?

カンツォーネは、歌は興味ありませんか?」

 

両手をぐっと握りしめ、勇気を振り絞っている様だった

 

「興味はあるけど、歌はここまでは聞こえて来ないからね、残念な事になかなか聞けないんだ」

 

「それなら!」

 

力んでいた顔から力が抜け、パアッと明るい顔になる

 

「それなら是非、私の歌を聞いて下さい!

そして姿だけじゃなく歌もウンディーネも、もっともっとでっかい大好きになって下さい!」

 

えっと声をかける間もなくアリスちゃんは立ち上がる

夕日を背に姿勢を正し気合いを入れたアリスちゃんの雰囲気は、がらりと変わっていた。

 

息を大きく吸い込み、歌い始める。

 

歌を聞いた途端に体に鳥肌が立った、この小さな体からこんなに凄い音が出るのかと、とても綺麗な歌声と神秘的なメロディ、驚きそして感動した。

まるで初めてウンディーネを見た時の様な、いやそれ以上の感動。

 

「…どうでしたか?」

 

すぅっと息を吸い込んだアリスちゃんの雰囲気が、元に戻る、あんなに素晴らしい歌を歌ったのに不安そうに感想を待っていた。

 

「今まで生きてきて、一番感動したよ」

 

これからは知り合いにもアリスちゃんを勧めて行こう、そしてアリスちゃんのファンを増やしたい

 

アリスちゃんは不安そうな顔のままだ

 

「…でっかい大好きなりましたか?」

 

「勿論大好きになったよ」

 

ウンディーネの中で断トツで大好きだ、歌も一番大好きになった、きっとこれからは手の届かない様な凄いウンディーネになるんだろうな。

 

「本当ですか?大好きだけじゃダメですよ!

でっかい大好きですか?」

 

「でっかい大好きだよ」

 

そう言えばやっと安心したのか、にこにこの柔らかい笑顔になり、俺の隣に座りまぁ社長を撫でる

 

「ふふっ嬉しいです、これからもまぁ社長と来ますね。でっかい楽しみです」

 

俺の秘密の場所はどうやら、俺だけの場所では無くなる様だった




主人公はウンディーネ達のファン
今のイチオシは飛び級プリマのアリス・キャロルちゃん


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再会とお昼寝 藍華 晃

藍華ちゃんとは昔から知り合い
ヒメ社長に気に入られている

このお話の藍華ちゃんは作者の好みにより、ロングヘアーです


ゴンドラの上

 

今日は珍しくゴンドラに乗っている

秘密の場所に行く途中、藍華に見つかり逃げられない様にゴンドラに乗せられた

これは拉致だよ

 

「で?なんで会いに来ないのよ」

 

「会いに行くって言ってないよ」

 

藍華がはぁと息を吐く、溜め息を吐かれた

 

「普通可愛い女の子には、頻繁に会いに来るでしょ」

 

「うーん」

 

「何よ」

 

「綺麗になったね」

 

ボンッと赤くなった、昔から素直に褒めると直ぐに照れる、そういう所は変わっていない様だ

 

「あぁう、はっ恥ずかしいセリフ禁止!」

 

「昔は可愛らしかったけど、髪が伸びて美人になったよね」

 

「禁止だってば!」

 

照れてる藍華を見ていると、ヒメ社長が膝に飛び乗って来た、じっと見つめられる、そうだ今日は挨拶がまだだった。

 

「ヒメ社長おはようございます、今日もつやつやの毛並みで美しいですね」

 

ヒメ社長は満足そうに、頭を擦り付けて来る

撫でても良いとお許しが出た

頭から尻尾まで撫でていると、藍華に胡散臭そうに見られていた

 

「ホントにヒメ社長と仲良いわよね」

 

「有難い事にね」

 

「ていうか、誰でも褒めてるの?お世辞?」

 

挨拶の事かな、それなら誤解だ

 

「お世辞が言えるほど器用じゃ無いよ、本当に良いと思った事しか褒めないよ」

 

「そっそう、それなら別に」

 

もじもじと照れるのも昔からだ、言いたい事ははっきり言うのに、恥ずかしがり屋な面もある、可愛らし女の子

 

「それで、今日はどうするんだ?」

 

「別に考えて無かったわね」

 

その時藍華が何かに気付く、嫌な予感がする

 

「私と会って無かったのなら、晃さんとは?」

 

ギクッとする、鋭い

 

「会ってないです」

 

「どれくらい?」

 

「藍華と同じくらい」

 

「ヤバいわね」

 

「ヤバいです」

 

また溜め息を吐かれた、藍華はオールを掴んだが…まさか!

 

「姫屋に行くのか?」

 

藍華はにやっと笑った

 

「勿論」

 

これは不味い、このまま行けば多分最悪の展開になる、何とかしなければ

 

「…くるみパン」

 

「なに?」

 

「逃げないのでパン屋さんに寄って、くるみパンを買わせて下さい」

 

「はいはい」

 

仕方ないと言いながらも、藍華は楽しそうにしている、やっぱり晃ちゃんが大好きなんだろう

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「貴方は…」

 

「や、やぁ晃ちゃん久しぶり」

 

「藍華!部屋を出ろ!」

 

「はいっ」

 

姫屋の晃ちゃんの部屋に連れて来られたと思ったら、藍華が出て行ってしまった

小さく「死ぬんじゃ無いわよ」と聞こえた気がする

縁起でもない

 

「えっと晃ちゃん」

 

「晃です」

 

「晃」

 

名前を呼ぶと胸に飛び込んで来た、やっぱり最悪の展開になった、晃を泣かせてしまった

昔から強がりで、泣き虫なのは変わっていない

 

「ごめんね、晃」

 

「…うぅ、もっと会いに来て下さい」

 

「うん、これからは気を付けるよ」

 

「また忘れる癖に…」

 

完全に見抜かれているが、変えられない

俺はとてつもなく忘れっぽい

 

「しょうがないから、今度は私が探しに行きます…良いですね?」

 

「うん、ごめんね」

 

「いえ」

 

そのまま暫くじっとしていた

日々をぼーっと過ごしていたら何年も経っていた、そんな情けない理由で泣かせてしまった、悪い事をしたな

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「これは?」

 

「お詫び、くるみパン好きでしょ?」

 

「…ありがとうございます」

 

何故か苦い顔をして受け取る、何でだ?

 

「藍華!入っていいぞ!」

 

「はいっ!藍華入ります!」

 

そう言えば外に出されていたな、俺を見捨てたのでわざと忘れていた

 

「藍華、お前はこの人を連れて来てくれたからな、褒美だ、特別に一つだけやる」

 

くるみパンを渡している

 

「あの晃さんが、くるみパンを…?」

 

「いらんなら、返せ!」

 

「あぁっ嘘です、ごめんなさい!」

 

二人の仲も変わらない、昔のままだ

ふと藍華が俺を見た、その後全身をしげしげと見つめられる

 

「あれ?どうして怪我してないの?」

 

「何が?」

 

「は?お前は何を…」

 

藍華に質問されても意味が分からない、晃は驚いてるし

 

「だって晃さんを怒らせたら、一発や二発くらい…ねぇ?」

 

「そうなのか?」

 

「私はそんな事しません!」

 

俺は何時も、強がりか泣き虫な晃しか見た事がない、まさか暴力的な所が?

俺の疑いの眼差しに気付いたのか、晃は藍華をしかる

 

「おい藍華!私は何時も優しいよなぁ」

 

「はいっ何時も優しいです!」

 

「ほら、ね?」

 

「仲が良さそうで、何よりだよ」

 

姉妹の様に仲が良さそうに見える

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

その後は晃は、予約が入っていたので仕事にいった

 

今は街を藍華と二人、のんびりと歩いていた

 

「ねぇ、晃さんってあんたの前では、何時もあんな感じなの?」

 

「ん?晃ちゃん…晃は何時も丁寧な感じだね」

 

「ふーん?」

 

てくてくとネオ・ヴェネツィアの道を歩く、藍華は隣を付いてくる

 

「今は何処に住んでるの?」

 

「知り合いの会社に、住まわせて貰っているよ」

 

「えっそうなの?」

 

「そうだよ」

 

路地を曲がる、何時もとは違うお気に入りの場所に向かう

 

「それなら姫屋に住めば良いじゃない!

部屋も沢山あるし、食事も美味しいし、私も晃さんも居るわよ!」

 

「でもねぇ」

 

「何か、今の所が良い理由でもあるの?」

 

「そうだね、居心地の良さかな」

 

角を曲がり、今日の目的地に着いた

ここはお気に入りの場所の一つ、ぽかぽかな芝生がある静かな空き地だ、お昼寝にぴったりの場所

 

「うーん」

 

伸びをして芝生に寝転ぶ、ここは来る度に掃除をして帰るのでゴミは無く綺麗だ

 

「居心地の良さって、ここみたいな?」

 

藍華は俺の隣に座り、広場を見回している

 

「そうだね、俺にとって一番大切な事は、ゆっくり出来るか、出来ないかだからねぇ」

 

「何よそれ、でも…その姿を見てると納得かなぁ」

 

ぽかぽか暖かいなぁ幸せなだなぁ、もう眠くなって来た

目を開けていられない、睡魔に逆らわず目を瞑る

 

「寝ちゃうの?」

 

「藍華ちゃん、ほらおいで」

 

そうだ藍華ちゃん、お昼寝の時間だ

腕を広げて隣をぽんぽんと叩く

幸せなお昼寝の時間だ

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「もう寝惚けてる、それは子供の頃の事でしょっ」

 

うとうとしながらも、私が行くまで隣を叩く手を止めない、昔の癖なんだろう、ちょっと嬉しい。

 

周りをキョロキョロ見ても誰も居ない、ここは秘密の場所って言ってたから人は来ないんだろう。

 

丸い芝生の広場に丁度真上から丸く光が差す、とても素敵な場所、そんな場所に二人きり

少しなら甘えても良いよね…昔みたいに

 

伸ばされた腕の端に頭を乗せる

すると胸の上まで、頭を移動させられた

恥ずかしいが懐かしくなる、小さな時と同じ寝かし付け様としているのか、背中をぽんぽんと優しく叩かれる。

 

「あんたの言ってた居心地の良さって、これの事ね」

 

幸せな居心地の良さ、そんな素敵な場所に住んでるんじゃ、姫屋には引っ越して来てくれないだろう。

 

「あ~あ残念だなぁ、また一緒に住みたかったなぁ」

 

私もお昼寝にしよう、一緒に住めないのは寂しいけど、大好きな人の腕に包まれて眠る、なかなか幸せな時間だ

…本当は私が、この人の幸せな居場所になれたら良いんだけどな。




眠くなると語尾が伸びてゆっくり話す主人公
自分ののんびりを探して生きる

昔は藍華ちゃんの子守りもしていた主人公
晃さんとも仲良し


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

集合と話し合い 灯里

暇人主人公のすみか
お気に入りの場所を作るのが好きな主人公

アリシアさん未婚設定


ARIAカンパニー

 

ここはARIAカンパニーの二階住居スペース

使っていない部屋があると言う事で、住まわせて貰っている

灯里ちゃんの一人暮らしを心配していたアリシアに進めてもらい住み始めた。

 

でも俺なら安心と言うのは、信頼と捉えて良いのだろうか?

遠回しにヘタレと言われているのだろうか

 

朝御飯の匂いに誘われて、キッチンに向かう

 

「おはようございます」

 

「あらっおはよう、丁度良かったわ。

今起こしに行こうと思っていたのよ」

 

うふふと笑うアリシアは昔から少しも変わらない、可憐な少女の様なままで大変美しい

上から足音が聞こえる

 

「おはようございます!今日は私が最後でしたか?」

 

灯里ちゃんとアリア社長が降りて来た

 

「おはようございます、灯里ちゃん」

 

「おはよう、灯里ちゃん」

 

皆で朝の挨拶をして笑い合う、ここはほのぼのとした平和な空気に溢れている、お気に入りの場所の一つだ

 

朝の準備が終わるとアリシアの出発を見送る

大人気なウンディーネのアリシアは、何時も予約で一杯で忙しそうだ

 

「いってらっしゃい」

 

「アリシアさん、お気をつけて」

 

「いってきます、アリア社長をお願いね」

 

「はいっ!」

 

これが何時もの朝の風景だ

俺はそのままふらふらとお気に入りの場所まで歩き、日暮れまでそこでぼーっとする

それが日課だった

 

「あのっ!少し良いですか?」

 

灯里ちゃんに声をかけられる

今日の1日は何時もと違う様だった

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「それで今日は、お客様役をお願いしたいと思いまして」

 

「俺で良いの?」

 

「はいっ貴方が良いんです!」

 

灯里ちゃんの笑顔が眩しい

裏表の無い真っ直ぐで純粋な笑顔だからか、大人には少し眩しい

 

「それなら…」

 

「わぁっ!ありがとうございます」

 

ゴンドラに乗り込む所から練習は始まるらしいのだが、友達があと二人来るらしく、少し待つ

 

「どんなお友達なの?」

 

「えっと藍華ちゃんはしっかりもので、頼りになる姫屋の女の子です」

 

ん?知ってる名前が聞こえたが

 

「そしてアリスちゃんは、ぶっきらぼうに見えてとっても優しい、オレンジぷらねっとの女の子です」

 

また知ってる名前が他人のそら似?まだ会っていないが

 

「会うのが楽しみですね!」

 

「そうだね」

 

二人でのんびり待つ、いやアリア社長も居たな

もちもちのお腹を撫でる

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

二人で座りながら待っていたのだが、いきなり隣の灯里ちゃんが立ち上がった

 

「あっ!二人とも~」

 

灯里ちゃんはこちらに近付くゴンドラに、ブンブンと大きく手を振っている。

 

「おはよ~!」

 

「ちょっと!そんな大声出さなくても、聞こえるわよ!」

 

「藍華先輩も、でっかい大声です」

 

三人は仲が良さそうだ、昔のアリシア達を見ている様で懐かしくなる。

二人はゴンドラをアリアカンパニーに着ける

 

 

「あれ?灯里の隣に居るのって…」

 

「あっお兄さん!」

 

アリスちゃんが走ってきた

 

「お久しぶりです、何処に居たんですか?何で来てくれないんですか?ずっと待ってたんですよ!」

 

「ちょっと落ち着きなさいよ!」

 

「アリスちゃん、知り合いなの?」

 

場がごちゃごちゃしてきた、取り敢えず

 

「アリアカンパニーの中で、落ち着いて話そうか」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「えっ!アリアカンパニーに住んでるの?」

 

皆に飲み物を渡しながら話をする

俺がここに住んでる事を聞いた藍華が驚いている。

 

「そうだよ、アリシアが進めてくれてね」

 

「私と一緒に住んで貰ってるんだよ~」

 

灯里ちゃんは嬉しそうに話している

アリスちゃんが話かけてきた

 

「ここに来れば、お兄さんに会えるんですか?」

 

「朝は居るけど、夕方までは散歩に出掛けてるよ」

 

朝起きてアリシアを見送り、それからお気に入りの場所まで散歩する、それからはぼーっと景色を眺めて1日を過ごし、夕方にアリアカンパニーに帰ってくるそれの繰り返しだ。

 

「あんたまだ、放浪癖が治らないの?」

 

「治らないねぇ」

 

「あれ?藍華ちゃんもアリスちゃんも、知り合いなの?」

 

灯里ちゃんが不思議そうにしている

それぞれ一人ずつでは会っていたけど、皆で顔を合わすのは初めてか、出会った時の説明をする

 

「俺から説明するね、灯里ちゃんはアリシアに紹介されて数ヶ月前に知り合ったね」

 

「はいっもうずっと一緒の様に感じますけど、まだ数ヶ月しか経って無かったんですね」

 

灯里ちゃんは誰とでもすぐに仲良くなるから、そう感じるんだろう

 

「藍華はずっと昔に晃に紹介してもらって、ちっちゃな頃からの知り合いだね」

 

「そうねもう、十年以上経つかしらね」

 

「藍華の子守りもしていたよ、一緒にお昼寝とかね」

 

「それは言わないで!」

 

あえて言ってみたがやっぱり照れている、こういう反応が可愛くてついからかってしまう

 

「アリスちゃんは俺のお気に入りの場所に良く来る、のんびり仲間だよ」

 

「お兄さんと私は、でっかい仲良しです!」

 

アリスちゃんが胸を張って、主張する

可愛くて思わず撫でる

 

「俺はアリスちゃんのファンだからね」

 

「ちょっと!何でそんなに距離が近いのよ!」

 

近いだろうか?ベンチでの何時もの距離感だが、女の子とはもっと離れた方が良いのか?

 

「近いのか?ならもっと距離を…」

 

「でっかい大丈夫です!むしろもっと近くが良いです!」

 

「ちょっと、どういう事よ?」

 

「俺には分からない」

 

ぐいぐい近付くアリスちゃんに、理由は分からないが怒る藍華

情けないが灯里ちゃんに助けを求める

 

「灯里ちゃんどうしよう」

 

「ええっ?えっと取り敢えず練習に行きませんか?」

 

「もう結構時間が経ってるもんね」

 

急いでゴンドラに向かう、今日は接客の練習は無理そうなので、普段の練習に付き合う事になった

 

「ゴンドラに乗るのは、久しぶりだな」

 

「そうなんですか?」

 

「昔はアリシアのゴンドラに良く乗せて貰っていたが、アリシアの人気が出てからは、乗らなくなったな」

 

売れっ子を独占するのは不味いから、アリシアは寂しそうにしていたが

 

「アリシアさんとは、幼馴染なんですよね?」

 

「晃さんとも昔から知り合いよね?」

 

「じゃあアテナさんとも?」

 

皆に質問される

 

「そうだよ昔もこうやって今みたいに、三人の練習に付き合ったよ」

 

「今みたいに?」

 

「君たちは昔のアリシア達を見ている様で懐かしくなる、昔のあの子達にそっくりだ」

 

懐かしくなって、昔を思い出す

もうそろそろまた旅に出ようかな

 

「待ってよ!あんた今また居なくなろうとしなかった?!」

 

藍華は鋭いな、俺の考えにすぐ気が付く

 

「ああ…もうここにも、長く居たと思ってな」

 

こんなに長く住んだのは久しぶりだ、それほどネオ・ヴェネツィアは居心地が良かった

 

「駄目よ!あんたは私と一緒に居るんだから!」

 

「そうですよ!私も泣いちゃいますよ!」

 

「泣かれちゃ困るな」

 

泣かれるのが一番困る、俺には謝る事しか出来なくなる

 

「本当に居なくなるんですか…?」

 

「灯里ちゃん?」

 

「そんなの駄目です、私とこれからも一緒に暮らして、一緒に幸せなままで居るんです!

大好きな貴方と一緒じゃないと、幸せになんてなれないんです!」

 

「灯里ちゃん…」

 

そこまで言われたのはアリシア達以来だな、ここまで言われては振り切って旅立て無い

 

「そうだね、旅には出ない事にするよ」

 

暫くはね

 

「あんたは目を離すと、すぐに居なくなろうとするんだから!これからは目を離さないからね!」

 

「お兄さんは私が一人にさせません!でっかい約束です」

 

「二人とも…」

 

「私もずっと一緒に居ますから、居なくならないで下さいね」

 

「灯里ちゃん、アリアカンパニーでこれからもよろしくね」

 

「はいっ、よろしくお願いします」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

主人公自室

 

もう寝ようかと思った時にコンコンとノックがした

 

「あの~少し良いですか?」

 

「灯里ちゃん?どうぞ」

 

パジャマ姿の灯里ちゃんが訪ねて来た、こんな事は初めてだった

 

「一緒に寝ても良いですか?」

 

「良くないと思うけど」

 

「でもお昼の話を思い出してしまって、不安になったんです、もしも本当に居なくなってしまったら私は…」

 

「灯里ちゃん…」

 

そこまで俺を信頼してくれていたのか、一緒に住んでいる人が急に居なくなるのは不安だよな

 

「ごめんね…灯里ちゃん、でも大丈夫だよ暫くはここが、俺の居場所だから」

 

「しばらくわって…?」

 

「俺は放浪癖があってね、居心地の良い場所を見つける為にふらっと旅に出てしまう、自分では止められないんだ」

 

自分でもどうしようも無い、気が付いたら旅に出ている

 

「それならここを一番居心地良くすれば、ずっと居てくれますか?私とずっと一緒に暮らしてくれますか?」

 

「そうだね、ここが一番居心地が良い限り、旅には出ないと思うよ」

 

旅をする理由は居心地の良い場所を探す事、それが満たされている限り旅に出る必要は無い

 

「それなら任せて下さい!私が貴方を幸せにして、一番居心地を良くして見せますから!」

 

「ありがとう灯里ちゃん、なんで俺にそこまでしてくれるの?」

 

「だって貴方が大好きだから、一緒に居たいからです!」

 

灯里ちゃんは照れつつも、はっきりと言い切った

 

「ですので将来的には結婚とか…しませんか?」

 

「ええ、それは考えて無いよ」

 

いきなり結婚なんて、そんなに好かれていたのか

 

「じゃあ先ずはスキンシップを増やして、アピールを開始しますから、覚悟してくださいね」

 

「覚悟って」

 

灯里ちゃんは俺のベッドに潜り込んで来た

本当にここで寝るらしい

 

「先ずはこう言う事からです、ふふっあったか~い」

 

「俺が入ってるからね」

 

「これからは一緒に、幸せになりましょうね」

 

灯里ちゃんに手を握られて一緒に眠る、足元にはアリア社長もいる。

 

確かに一人で寝る時よりも幸せを感じる、俺の放浪癖は本当に灯里ちゃんの作戦によって、完全に封じ込められる日も近いのかも知れない




職業不詳な主人公
お金は十分以上にある


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雨の日 灯里

雨が降っていたので書きました



アリアカンパニー

 

「雨ですねー」

 

「そうだね、残念だけど、今日はずっと止みそうにないね」

 

ここはアリアカンパニー、朝からの雨で外に散歩に出られず、灯里ちゃんも練習に行けず、今日は二人は机に向かい合って座りのんびりしていた。

アリア社長は雨が降る前にヒメ社長に会いに行った、熱烈なアプローチだ恋が実ると良いな

 

「私は残念じゃありませんよ?」

 

「外に出られないのに?つまらなくないかな」

 

「貴方と一緒にいられますから」

 

「…そう」

 

素直に言われると照れる、気恥ずかしくなり紅茶を飲む

照れ隠しは丸わかりだが誤魔化したくなる

 

「何時もはゆっくりとお喋り出来ませんから、今日は二人きりでずっと一緒なんて、とっても贅沢ですよ」

 

「灯里ちゃんは、素直に気持ちを伝えるよね」

 

「?思った事を、そのまま言っているだけですよ?」

 

「それが難しいんだ」

 

灯里ちゃんは不思議そうな顔をしている、きっと心が綺麗だから、言葉も素直に出てくるんだろう

 

「分かりました!それなら私に任せて下さい!」

 

「何が?」

 

「これからお話をしましょう。

貴方の心を、素直な心を…思ったままを、私に伝えて下さい」

 

素直に話す…か、そうだなたまには良いかも知れない

 

「じゃあ先ずは、何から話そうか?」

 

「そうですね…、貴方の紹介をしてみて下さい」

 

「分かった、名前はアオイ・ノワールだ、身長は178cm体重はこの頃量って無い」

 

「ふむふむ、では好きな事や嫌いな事は?」

 

「好きな事はのんびりする事、嫌いな事は急ぐ事かな」

 

「なるほどなるほど」

 

ふと見ると灯里ちゃんは、メモを書いていた

俺の視線に気が付くとえへへと笑う

 

「少しでも知りたくて、好き…ですから」

 

「それなら…何か知りたい事は?」

 

「良いんですか?!なら、好きな女の子は居ますか…?」

 

「居ないよ」

 

「ホントに…?ならアリスちゃんはどうですか、特に仲良しですよね?」

 

不安そうに訪ねる灯里ちゃんは、目に光が少ない様な…?

きっと雨で太陽が出ていないからだろう

 

「俺はアリスちゃんのファンなんだよ、そういう目では見てないよ」

 

「…そうだったんですか?」

 

「そうですよ」

 

ほっとした様に笑う灯里ちゃんは、目に光が戻っていたさっきのは見間違いだったのか

 

「あっ私、紅茶のおかわり持って来ますね」

 

「ありがとう」

 

カップを見ると紅茶が無くなっていた、灯里ちゃんは細かな所にも気が付く

ふと、外を見ると雨足が弱くなっていた

 

「大変です!どうしましょう!」

 

キッチンの方から灯里ちゃんの叫び声が聞こえて来た

何事かと走って行くと、空っぽの紅茶缶を手に唖然とする灯里ちゃんが居た

 

「あれ?もう無かったかな」

 

「そうなんです!紅茶も珈琲も、それに見て下さい!」

 

言われて棚を見る、全部無い空っぽだ

明日のお客様用の茶葉も無い

 

「今日、買い物に行こうと思っていたんだった」

 

「どうします?」

 

不安そうに見上げて来る

外はもう小雨になっていた、これなら大丈夫かな

 

「今から行こうかな」

 

「今から?」

 

「小雨だし、買い物に行ってくるよ」

 

「私も!私も一緒に行きます」

 

待ってて下さい!と言って自分の部屋に走って行った、買い物の準備をしに行ったのだろう

俺も用意をしておこう

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「お待たせしました!」

 

現れたのは私服姿の灯里ちゃんだった、雨で肌寒いからか長袖のワンピース姿だ

 

「いや待ってないよ、ワンピース姿似合ってるね」

 

「ほへっ…ありがとうございます、えへへ」

 

二人で雨の中を歩き出す

雨の日の買い物は面倒だが、隣にいる灯里ちゃんがとても楽しそうだ

 

「どうしてそんなに楽しそうなの?雨の日に買い物って、傘で手がふさがって、嫌じゃないか?」

 

「そんな事無いですよ、だって雨の日にしか、雨傘を使えないじゃないですか?」

 

そう言われるとそうだ、今使っている傘も気に入って選んだ物だった

 

「私は傘がさせる雨の日も、大好きですよ」

 

灯里ちゃんの話を聞くとなんだか何気ない物も特別に感じる、素敵な事に思えて来る

 

「そうだね…少し雨の日が好きになれたよ、灯里ちゃんと居ると毎日好きな物が増えるよ、ありがとう」

 

「えへへ、どういたしまして!」

 

雨のせいでお店まで長く感じていた道程も、灯里ちゃんのお陰で楽しいお散歩に早変わりだ、小さな事も幸せに変えてくれる灯里ちゃんは素敵な女の子だ

 

傘を畳んでお店に入る

ここは俺の行きつけのお店だ、品揃え豊富で質も良い。

見つけにくい場所に有るため、客が少なく買い物もしやすい、それでいて何故か店主も儲かっている様だった

こんなに素晴らしいお店、常連になるしかない

 

「こんな所が有ったんですねぇ」

 

灯里ちゃんはお店の棚を見上げている、棚は天井まであり、高い所に有る商品は梯子を使って取る

商品が見つからない時は店主に言えば、すぐに場所を教えてくれる、全ての商品と場所を覚えている様だ。

しかし特に目的も無くお店を訪れて、ふらふらと店内を歩き、気に入った商品を探すのも楽しみの一つだ

 

「今日は何を買おうか?紅茶と珈琲だけかな?それとも何か見ていくかい?」

 

「はい、少し見たいです」

 

それぞれ分かれて、店内を見る事にした

店主によると新しい茶葉が入荷したらしい、それを中心に見てみる事にした。

 

新しい茶葉の中にフレーバーティーが有った、これなら女の子も好きだろう、花が入っている物もある珍しいな少しずつ買って行こう

たしか藍華はこの花茶が好きだった筈

灯里ちゃんの方はどうかな?

 

「あっアオイさん、見て下さいこれ!アリシアさんが好きな珈琲豆ですよ、なかなか売ってないって言ってました!」

 

「良さそうだね、それも買って行こうか、灯里ちゃんの分は?」

 

「私の物も良いんですか?」

 

「良いよ、どうぞ好きに選んで」

 

「わぁっ!ありがとうございます」

 

キラキラしている灯里ちゃんを撫でる、さらに嬉しそうにしている、こちらが嬉しくなる

 

「じゃあこれを」

 

「それは、ココア?」

 

「はい!とっても可愛いんです」

 

「可愛い?」

 

パッケージを見ると、ココアの缶の真ん中に猫がいた、これは…アリア社長?

 

「アリア社長に見えるね」

 

「そうですよね!そこがとっても可愛くて」

 

「じゃあそれも買おうね」

 

「ありがとうございます!私が淹れますから、一番に飲んで下さいね!」

 

「うん、ありがとう」

 

店主に纏めて会計して貰う、以外と多く買い込んでしまったな

 

「お客様、今日はお連れの方とご一緒ですか?」

 

「ああ何時もは、一人だったな」

 

「そうですな、それでは可愛いらしいお連れの方と一緒にお召し上がり下さい」

 

レジの横の棚から飴玉を数個取り出し、購入した商品と一緒に入れてくれた。

 

「ありがとうございます、花茶とフレーバーティーを少し別の袋にお願いします」

 

「かしこまりました」

 

おまけを貰ってしまった、またこの店に来よう

ここはサービスまで満点の最高のお店だ

 

「ありがとうございます」

 

「また来ます」

 

「私も、また来ますね」

 

店主は深くお辞儀をして、お見送りしてくれた

お店を出ると雨は止んでいた、もう傘は必要無い事が少し寂しい気がした

 

「このまま、アリア社長を迎えに行こうか」

 

「はい、一緒にお迎えですね」

 

灯里ちゃんが手を繋ぐ、雨上がりの街は何時もよりキラキラして見える

 

「街が雨の雫で、キラキラして綺麗ですね」

 

「えっ」

 

「どうかしましたか?」

 

「俺も今丁度、街がキラキラに見えると思って」

 

「わぁっ素敵な偶然ですね!」

 

「そうだね」

 

二人で手を繋いで笑い合う、俺の探している幸せは、灯里ちゃんが持っているのかも知れないな

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

姫屋

 

「ここだな」

 

「アリア社長は、ヒメ社長の所ですかね」

 

コンコンとノックすると丁度、藍華が出た

 

「えっどうしたの?何か姫屋に用事?」

 

何故かそわそわと髪の毛を撫でている

俺の影に丁度、隠れて居た灯里ちゃんがひょこっと出て来た

 

「こんばんは藍華ちゃん!アリア社長を迎えに来ました!」

 

「ええこんばんは、灯里も居たのね…ちょっと待ってなさい」

 

何かにがっかりした藍華がアリア社長を連れて来る

 

「はいっ連れて来たわよ」

 

「ありがとう藍華ちゃん、アリア社長帰りますよ」

 

「ぷいにゅ」

 

アリア社長は嬉しそうに、灯里と手を繋ぐ

 

「藍華、これどうぞ」

 

小袋を渡す

 

「え?ありがとう、わあっ!これ新しく発売した花茶じゃない!何処のお店にも全然売ってないのよ!」

 

「花茶、好きだっただろ?」

 

「あっ…覚えててくれたんだ…」

 

途端に照れ出した藍華、それを微笑ましく見ていると後ろから服を引かれた

振り替えると灯里ちゃんが引っ張っていた

 

「む~」

 

「灯里ちゃん?どうしたの?」

 

「ああ焼きもちね、はいはいもう返すわよ、あとこのお茶ありがとうね」

 

「晃にも飲ませてあげてくれるか?」

 

「分かってるわよ、あんたからなら喜ぶわ」

 

「じゃあ帰るよ、またな藍華」

 

「またね藍華ちゃん」

 

「ええ、気を付けて帰りなさいよ、またね」

 

素っ気ない振りをしていても、結局最後までお見送りしてくれた、素直じゃないな

 

「今日は買い物で疲れただろ?」

 

「大丈夫です、まだ元気ですよ!」

 

「いや、買い物に付き合ってくれたお礼に、ピザを頼もうと思ってて良いかな?」

 

「本当ですか?!やったぁ!」

 

「アリア社長も好きだったよね?」

 

「ぷいにゅ!」

 

「じゃあ今日は、ピザパーティーだな!」

 

「楽しみですね!」

 

「ぷいにゅ!ぷいにゅ!」

 

二人と一匹で手を繋いで帰る、道に影が長く伸びていたもうすぐ冬が来る




雨の日はのんびりしたい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一番最後の再会 アテナ

一番最後に再会したから最後の再会、深い意味は無い
アテナさんは無口だけど、人一倍悩んで内面は豊かなイメージ
焦ってわたわた動く所も好き

今回の話は良く喋るアテナさん


アリアカンパニー

 

「…やっと会えた」

 

そう言って抱きついて来たのは、古い友達のアテナちゃんだった。

アリシアや皆とは再会していたが、タイミングが合わずアテナちゃんとだけ会って居なかった

俺はこの子が人一倍寂しがり屋なのを知っていて、会いに行っていなかった

 

「久しぶりだね、アテナちゃん」

 

「久しぶりアオイさん、会いたかった…本当に」

 

ぎゅうぎゅうと腕の力を強める、どれ程の寂しさを我慢していたのか、体が震えている

 

「寂しかったの、ずっとずっと探してた」

 

「…うん」

 

「でも知らないうちに有名に成ってて、仕事がいっぱいになって、どんどん探す時間が無くなって」

 

「…ああ」

 

「もう探す事さえ出来無いのかと思うと、寂しくて、恐くて、会いたくて堪らなかったの」

 

普段の無表情を崩し眉をへにゃりと曲げ、唇を噛みしめ泣くのを我慢している、罪悪感に苛まれる

 

「ごめん…ごめんね、アテナちゃん本当にごめんね」

 

首をふるふると振ると、泣きそうな顔のまま無理に笑おうとする

 

「いいの、もういいの。貴方にもう一度会えたから…これからは会えるでしょう?」

 

抱き締める力を強くする

 

「勿論だよ、何処にも行かない。俺はここに居るからね」

 

「…うん、もう離さないわ」

 

そこで限界が来たのかとうとう泣き出してしまった、胸にすがり付き俺の服をきつく握り締めている

俺からも抱き締める力をもっと強くし、背中を擦ると聞こえる嗚咽が大きくなった

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「落ち着いた?」

 

「うん、ありがとう」

 

泣き止んだアテナちゃんは緩く笑う、だが俺の服を掴んだ手は離さない

 

「俺はアリアカンパニーに、住む事にしたんだ」

 

「…そう、今までは何処に居たの?」

 

「うーん…それはね俺には秘密のお気に入りの場所があってね、その場所を転々としていたよ」

 

「私にも…秘密?」

 

「いや、今度連れて行くよ」

 

「うん」

 

分かりずらい表情の中にも、しっかりと喜びの色が浮かんでいた。

 

「アリスちゃんのファンになったの?」

 

「そうだよ、彼女の歌に感動してね。もしかしてアテナちゃんの教え子だった?」

 

「後輩で同室」

 

「アテナちゃんも歌が素晴らしく上手だからね、似たんだろうね」

 

「アリスちゃんは凄いのよ」

 

「そうだね、あの子は才能だけでは無い頑張り家さんだね」

 

あの年であれだけすごいのだ才能だけでは無理だ、きっと血の滲む様な、実際に手に血が滲む程努力したのだろう。

 

「あの子の事を良く見ているのね」

 

「のんびり仲間でもあるからね」

 

「のんびり仲間?」

 

「ベンチに座ってお話をする友達だね」

 

ふんふんと頷く、アテナは無表情な見た目に反して動作が幼く可愛い、何処と無くアリスちゃんと似ている気がする、見た目では無く中身が。

 

「ねぇ、行かない?」

 

「え?何処へ?」

 

「アリスちゃんを迎えに」

 

アテナは行動が突飛なのも通常通りだ、だがその突飛さの裏には頭の中で真剣に考えた理由がある事を知っている、ただの思いつきでは無く全ての行動に理由があるのだ。

 

今もアリスちゃんの事を心配しての事だ、窓から見える空が暗くなって来ていた、冬が近くなったから暗くなるのも早い。

 

「一緒に行こうか」

 

「!ええ行きましょう」

 

二人で手を繋ぎ迎えに行く、アリスちゃんはきっと喜んでくれるだろう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

夕暮れの町並みを二人並んで歩く、空は薄暗く雨が降り出しそうだ。

 

「私ね、好きなの」

 

「ん?」

 

アテナがぼんやりと町を見ながら話す

 

「この町を貴方とこうして二人で歩くのが、一番好きなの」

 

「そうだね、俺もこの時間が好きだよ」

 

アテナと二人の時間は何時もは会話も少なく、ゆっくりと好きな事をしで過ごす。

 

それぞれ同じ部屋に居ても違う事をして、会話も無い。けれど二人だけの時間が好きだった。

 

「でもね、アリスちゃんを見ていて思ったの」

 

「何を?」

 

「家族が出来たら、こんな感じなのかなって。

私と貴方が夫婦で、二人の間に娘のアリスちゃんが居て…」

 

想像してみる、アテナと結婚して娘にアリスちゃんが居る。

口数は少ないが仲の良い、幸せな家族を想像した。

 

「この道を、三人で手を繋いで歩くの」

 

「それは…素敵だね」

 

二人で居る今も幸せだけど、何だか急にアリスちゃんに会いたくなった。

 

「アリスちゃんに会いたいな…」

 

「私も」

 

早く会いたくて自然と急ぎ足になる。

急いだまま角を曲がると腹部に誰かがぶつかった。

倒れないように支えると、見覚えのある緑の髪の毛がみえた。

 

「ごめんね、確認もせずに曲がったせいでぶつかってしまって…怪我はしてない?」

 

「いえ、こちらも前を良く見ていなかったので…

あっお兄さん!こんな所で会えるなんて、でっかいびっくりです!」

 

「アリスちゃん、久しぶりだね」

 

怪我がなくて良かったとほっとして、支えていた体を離し立たせる。

 

俺の後ろからアテナがひょっこりと顔を出した

どうやら驚かせたかったみたいで、アリスちゃんは見事に驚いていた。

驚いてもらえてアテナは満足そうだ。

 

「アテナさんも!どうして二人とも、此処にいるんですか?」

 

「二人ともアリスちゃんに会いたくて、迎えに来たんだ、一緒に帰ろう」

 

「アリスちゃんに会いたくなったのよ」

 

二人で手を差し出すと、アリスちゃんは何度か躊躇したあと嬉しそうに手を握ってくれた。

アリスちゃんを真ん中に、三人で手を繋いで歩き出す。

 

「ふふっ想像通りね」

 

横を並んで歩くアテナとアリスちゃんを見る。

 

「確かに想像通りだ、まさにこんな感じだったよ」

 

アテナと二人で笑い合う、本当に想像そのままだ

 

「二人とも一体何の話ですか?私にも教えて下さい、のけ者みたいででっかい不満です!」

 

ぷんぷんと不満をあらわにするアリスちゃんに、微笑ましい気持ちになる。

 

「ごめんねアリスちゃん。此処に来るまでにアテナと二人で、想像の話をしていたんだ」

 

「想像の話?」

 

「そう想像の話、もしも僕達が家族だったらって話をね。

アテナがお母さん、俺がお父さん、アリスちゃんが娘で幸せな家族だって」

 

「家族ですか…」

 

「こんな風に三人で歩くのも、幸せだろうねって話してたんだよ」

 

今まさにその状態で、幸せを感じている。

アリスちゃんは何事か考え込んでいた

 

「お兄さん、それならお母さんの役は私が良いです。

お兄さんと私が夫婦で、アテナさんが娘です」

 

「アリスちゃん?それは無理がないかな?」

 

年齢的にアテナの方が年上だろう、年上の娘に年下の母親どう考えても無理がある。

 

「そんな事はありません、アテナさんはこう見えて天才的なドジっ子です。

ですので、しっかり者の私がお母さんになります!」

 

気合い充分に張り切るアリスちゃん、アテナも以外と乗り気なのか楽しそうにしている。

 

「アリスちゃんが、私のお母さんになってくれるの?

それも楽しそうね、アリスお母さん?それともアリスママ?」

 

「うーん、どちらも捨てがたいですね…」

 

アリスちゃんは真剣に悩んでいるが、アテナはそれを見て微笑ましそうにしている、本当に仲良しだ。

 

「話の途中で悪いけど、そろそろ雨が降り出しそうだよ、少し急がないと」

 

空が本格的に暗くなってきた一面分厚い雨雲だらけだ、降り出す前に帰らないと。

 

「そうですね少し急ぎましょうか。

アテナさんは転ばない様に、気を付けて下さいね」

 

「ありがとうアリスちゃん」

 

二人はお互いに微笑みあっている、空は暗くなっているが心の中はぽかぽかと暖かい。

 

「お兄さんも一緒に急ぎましょう」

 

アリスちゃんに手を握られ、三人早足で帰る。

雨が降らない様に急いで焦っている筈のその顔は、皆一様に笑顔だった。




アテナさんの歌を初めて聞いた時感動しました
今でも聞くたび好きってなります

アテナさんが奥さんでアリスちゃんが娘とか、どれだけの善行をしたら、そんな幸せが手にはいるんですかねぇ…

いや…アテナさんを娘にするのも捨てがたい

アテナさんとアリスちゃんの関係が尊い


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

出会い アリシア 外伝

一番はじめの物語
プリマになりたてのアリシアさん

喜んでいただければ幸いです


「人間、いや人類来る所まで来たって感じだな」

 

ターミナルから出た瞬間から、まるでそこは水の都、イタリアのヴェネチアを彷彿とさせる街並み。

元が火星とは思えない、ネオ・ヴェネチアが広がっていた

 

「此れからどうするかな、適当にぶらついて新しい宿でも探すかな」

 

「あら?お客様かしら?」

 

「え?」

 

驚いて顔を上げると、目の前にはゴンドラに乗った女の子が座っている。

そして何故か目の前の女の子も同じ様に驚いていた。

 

「あぁすみません、ターミナルからぼーっと歩いていたら、此処にたどり着いただけで客ではないんです」

 

「まぁ、それなら私がこのネオヴェネチアを案内しますわ、今着いたばかりなんですよね?」

 

「はい、そうですね」

 

俺がそう答えると、女の子は嬉しそうに笑いながら両手を合わせて喜んだ。

 

「じゃあ丁度良かった、私これでもウンディーネなんです」

 

「はぁ」

 

意図する所が分からず、曖昧な返事を返してしまう

 

「それで?」

 

「今さっきまで本日のお客様を待っていたんですけれど、どうやらすっぽかされてしまった様で…」

 

「本日のってもうすぐお昼ですよね?一体何時から待っていたんですか?」

 

「そうねぇ、たしか朝の9時にARIAカンパニーを出てからずっと座って待ってたわねぇ」

 

そこで腕時計を確認するともうすぐで12時だ、3時間も待っていた事になる。

 

「なんで3時間も待っていたんですか!」

 

「もしかしたらお客様に何かあったのかもと思うと、ねぇ?待ち合わせ場所に相手が居てくれないと寂しいじゃない?」

 

「え?」

 

「だって待ちぼうけはきっと、とても寂しい事だわ」

 

まだ春先の冷たい風の吹くゴンドラにたった一人、指先と頬と鼻先を赤く染めた女の子が風に吹かれて待っていた。

 

その事実に胸がぎゅっと締め付けられ、切ない気持ちになる。

 

「…そう、ですね」

 

「だから、とは言わないけれど。

今日の予定は白紙になってしまったの」

 

儚げに笑うこの少女を助けたい、手伝いたいと強く思ったのはこの時からかもしれない。

 

「それじゃあ、ウンディーネとして今日は1日付き合って貰おうかな」

 

少女の顔がパアッと明るくなる

 

「はいっ!是非お願いします。

私は本日のウンディーネを勤めさせて頂きます、アリシアと申します、よろしくお願いいたします」

 

「お願いします、アオイです」

 

二人で笑い会うと不意に手を差し出された

 

「お客様ゴンドラが揺れますのでお手を」

 

「ありがとう」

 

手を繋ぐとやはり長時間待っていたせいだろう、手が冷え切っていた。

それに小さくグゥ~っという音も聞こえてきた

 

「あっ」

 

アリシアが顔を赤くしている

 

「観光より先に、ご飯に案内してもらっても良いかな?ネオ・ヴェネチアに着いてから未だ何も食べてないんだ」

 

小さくありがとうと聞こえたと思うと

 

「はい、取って置きに案内しますね」

 

アリシアはニコニコと笑っていた、やっぱり思った通り笑った方が美しいと声に出さずに心の中でそう思った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「着きましたよ。ここです、ここのピザが絶品なんですよ」

 

よほどお腹が空いていたのか、楽しそうに少し早口になるアリシアさんに少し笑ってしまう

 

「…?なにか?」

 

「いや、すまない楽しそうだと思って」

 

「あっごめんなさい仕事中でした、何だか貴方と居ると仕事を忘れそうになってしまうわ」

 

「褒め言葉として取っておくよ」

 

「勿論褒め言葉です!」

 

クスクスと、二人で笑うと何だか長年の友達の様で更に可笑しくなってくる

アリシアさんも同じ様に笑っていた

 

「何だか長年の友達の様ですね」

 

「まあっ私も全く同じ事を考えていたんです、やっぱり気が合いますねぇ」

 

ゴンドラから先に降りアリシアさんに、手を差し出す。

 

「お手をどうぞアリシアさん」

 

「もぅ、それはウンディーネの仕事ですからね」

 

ぷんぷんと怒りながらも、俺の手を取ってくれる

 

「こんな事されたの、生まれて初めてですよ!」

 

「おや?アリシアさんの初めてを貰ってしまいましたか?」

 

「はいっ責任とって下さいね、なんて」

 

また二人で笑い会う

それからはアリシアさんにお任せでオススメの料理を頼んでもらう。

 

「ホントだ凄い、全部の料理が美味しいよ」

 

本当に凄いアリシアさんの注文に外れが無い

アリシアさんは得意気に微笑んでいた、可愛い

 

「本当に美味しいでしょ?お口に合って良かったわ、で本題なんだけれど」

 

「本題?」

 

口の中のピザを飲み込み、水で流し込む

 

「ターミナルから此処に来るまで、何処にも寄ってなかった様だけど今日のホテルは決まっているの?」

 

「…あ」

 

ふと時計を見るともうお昼を過ぎ2時になりそうだった。

カーニバルの近いこの季節では、もうホテルは満室だろう。

 

「やっぱり決めて無かったのね」

 

「ああ、完全に忘れてた」

 

「それなら丁度良いわ、ARIAカンパニーに泊まれば良いのよ」

 

「え?」

 

「ARIAカンパニーは、今は私しか住んでないもの」

 

「え?え?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「大丈夫?もうすぐでARIAカンパニーに着くわ」

 

「え!」

 

レストランで放心してから今まで、全く記憶が無いが。

確かにARIAカンパニーに泊まる様に言われた筈だ、そしてARIAカンパニーは今はアリシアさんが一人で住んでいるとか。

 

常識的に考えて、今日の昼に出会って間もない男を女の子が独り暮らしの家に泊める物では無い。

 

「アリシアさん、やっぱり良くないよ女の子が男を泊まらせるなんて、何か有ったらどうするの?」

 

「あら、それこそ責任を取って貰えるのかしら?」

 

「あれはその、冗談で…」

 

その時アリシアさんが、オールを静かにゴンドラに置いた。

すっと上半身が近づいて来る、顔同士がスレスレで止まる

 

「…アオイさん」

 

「ちょっとアリシアさん、大丈夫ですか?!」

 

「私は待ち惚けの寂しい時にやって来てくれた貴方が好きになったのよ、何をって思うかもしれないけれど…」

 

「…本当に」

 

「初めてアオイさんの顔を見たときに、胸がぎゅっときゅっとしたのよ。

これは初めての経験で、でもすぐに分かったわ…これが一目惚れなんだって」

 

頬に触れるアリシアさんの手が震えている、真剣な気持ちが震える指先から伝わって来る。

 

「責任、取ってくれるんですよね?」

 

「アリシアさん…」

 

「なんて、今は大丈夫です。

私の見える範囲に貴方が居てくれれば」

 

すっと上半身が離れゴンドラのオールを掴むと、スゥーっと流れる様に進み出す

心を決めて話しかける

 

「アリシアさん、今日はお世話になります」

 

「はいお世話します」

 

何が楽しいのかまたクスクスと、笑っている

 

「私が貴方に一目惚れしたのは本当ですから、今日はなんてつれないことを言わないで…

本当は責任なんて関係なく私を貰ってくれても良いんですよ?」

 

「…いやそれは」

 

「取り敢えず二階の使っていない、お部屋が有りますからそこに泊まって頂けますか?」

 

「はい、有り難うございます」

 

「それと今日だけじゃなく、ネオ・ヴェネチアにいる間はずっと…ですからね」

 

笑っているのに目が笑っていない笑顔に押されてこうしてアリシアさんとの暮らしが始まるのだった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「で?この顔に張り付いている猫?は何ですか?」

 

「あらあら、もうアリア社長と仲良くなったのね、良かったわねアリア社長」

 

「ぷいにゅー」




アリシアさんの一目惚れ
惚れたらグイグイ来そう

飯より宿


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紫陽花 アイ 灯里 藍華

梅雨の時期なので
日常回


「起きてください、アオイさん」

 

体をゆさゆさと揺さぶられる感覚がして、うっすら目を開くとアイちゃんがいた

 

「アオイさん?」

 

「…おはよう、アイちゃん」

 

「おはようございます、アオイさん!

朝ご飯出来てますよ、早く行きましょう」

 

ぐいぐいと手を引き体を起こされる、アイちゃんはこの頃マンホームから引っ越してきた、ウンディーネを目指す女の子で髪の毛を結ぶ赤いリボンが特徴的だ

 

今アイちゃんはアリアカンパニーの一番新人なので、3階で生活をし、俺と灯里ちゃんは二階のそれぞれの部屋で生活している

 

「大丈夫ですか?まだ寝惚けてますか?」

 

「いや、流石に目は覚めたよありがとうアイちゃん」

 

髪型が乱れない程度に頭を撫でると、アイちゃんは嬉しそうに笑った

 

「えへへ、今日の玉子焼きは私が作ったんですよ」

 

「それは凄い」

 

「冷めちゃう前に早く行きましょう」

 

机まで手を引かれて進むと、灯里ちゃんは既に席に着いていた

 

「おはようございます、アオイさん」

 

「おはよう灯里ちゃん」

 

「アイちゃんも、アオイさんを起こしてきてくれてありがとう」

 

「えへへ」

 

それぞれが席に着くともう既に配膳が終わっていた。

 

「それじゃあ、みんなでいただきましょう?」

 

「「「いただきます」」」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

昼過ぎ

 

「あづい~」

 

アイちゃんが走ってきてペタペタと俺の顔を触ると、急に叫びながら灯里ちゃんを呼びに行った。

 

「あー!アオイさんがとけちゃいます!」

 

「アオイさん、大丈夫ですか?」

 

「じめじめするし、暑いし大丈夫じゃないよ~」

 

机に頬をくっ付けたまま、暑さでとろけた顔で返事をする。

このネオ・ヴェネチアは四季が二倍の長さがある、すなわち梅雨の期間も二倍になる。体にカビでも生えそうだ

 

俺の人生の目的かつアリアカンパニーに居る理由である、居心地の良さが脅かされている今、梅雨の間だけでも住みかを変えようかと真剣に考えていた。

 

「ああっアオイさん、そのお顔は放浪に出る前のお顔ですよ!?駄目です!急いで何とかしないと!」

 

灯里ちゃんがあわあわしだしたので、俺はそんなに顔に出やすいのかと考えていると…

首筋にピタッと冷たいものが押し付けられた。

思わず振り替えると、氷の入ったコップを差し出すアイちゃんが居た。

 

「へへっ、アオイさん引っ掛かりましたね」

 

「これは…」

 

「お茶です!灯里さんもどうぞ、取り敢えず落ち着いて下さい」

 

「あっありがとう、アイちゃん」

 

「ふぅ~もう少しで体が溶ける所だった、ありがとう少し持ち直したよ」

 

「えへへ、良かったです」

 

「ナイスだよアイちゃん!」

 

二人はハイタッチして喜んでいる

 

「ありがとうアイちゃん、涼しくなったよ」

 

「やった、アオイさんは暑さが苦手なんですね」

 

「ふむふむ」

 

灯里ちゃんはまた俺の事を手帳にメモしている

 

「そうなんだ、暑さだけじゃなく寒さも苦手で本当に厄介だよ」

 

「ふえ~大変ですね」

 

「ふむふむ、寒さにも弱いっと」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「暑い」

 

先程の氷入りお茶を飲み干すと暫くは涼しかったが、また直ぐに暑さが戻ってきた

駄目だ本格的に頭が回らなくなってきた

 

「まだ、駄目そうですねー」

 

「うーん、灯里さんどうしましょうか?」

 

「そうだ!ちょっと待っててね」

 

「はい。大丈夫ですかーしっかりですよ、アオイさん」

 

パタパタと二階から灯里ちゃんの走る音が聞こえてきた

 

「はい、アイちゃん」

 

「これは?団扇?」

 

「そう!涼しいでしょ~?」

 

「本当に涼しいです」

 

「で、アオイさんちょっと失礼しますよ?よいしょ!」

 

「うわ!」

 

いきなり体を倒されたかと思うと、目の前には二つの膨らみと灯里ちゃんのニコニコ笑顔がみえる。

これは、膝枕されているのか

 

「どうですか~?涼しいでしょうか?」

 

「うわー灯里さん大胆!」

 

「えへへ」

 

膝枕されているまま、パタパタと団扇で扇がれているそこにアイちゃんも加わり二人に扇がれている

なんて贅沢…

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ああ~」

 

アオイは気持ち良さそうに目を細めて、今にも眠ってしまいそうになっている

 

「どうですか~気持ち良いですか~」

 

「…うん、気持ち良いよ~」

 

うつらうつらしながら返事をするアオイを、二人は微笑ましく見守っていた

 

「灯里さんアオイさん、寝ちゃいそうですよ」

 

「そうだね~」

 

「灯里さん、私約束の時間なので練習に行って来ますね」

 

「うん、アイちゃん頑張ってね」

 

「はい!…おっとと起こしちゃいますね、いってきます」

 

アイちゃんは大声で良い返事をしたあとに、起こさない様に静かにアリアカンパニーを後にした。

 

「いってらっしゃい」

 

フリフリと手をふるアイちゃんに、灯里ちゃんも声だけで返事をする。

 

「ふふっ二人きり…ですね」

 

「…」

 

「眠っちゃいましたか~?」

 

灯里ちゃんの声に反応がなく、頭を撫でる手を黙って受け入れているアオイは完全に眠っていた。

 

「本当に眠ってますか~?」

 

ツンツンとアオイの頬をつつけばむずがる様に、眉間にシワがよる。

 

「…久しぶりの二人きりですね。アイちゃんが来てから楽しい毎日でしたけど、二人きりは本当に久しぶりで何だかどきどきしちゃいます」

 

「んっ」

 

その時相槌の様にアオイが寝息をたて、驚いた表情の灯里ちゃんは段々嬉しそうな表情になっていく。

 

「アオイさんも?二人きりでどきどきしちゃいますか?なら、少しは良いですよね?」

 

灯里ちゃんは髪を耳に掛け体を近付けていく、眠るアオイの顔に影がかかる。

 

「…ふふ、これは私だけの内緒です」

 

チュッと二人の唇がかさなった。

 

「はっ恥ずかしい行動禁止!」

 

二人の唇が離れたのを見計らって、入り口から入ってくる。

 

「藍華ちゃん!見てたの!」

 

「そいつが暑がってるだろうと思ってアイス買ってきたら、一体何してるのよ!」

 

「あわ、あ藍華ちゃん、アオイさんが起きちゃうよ~」

 

「…そうね、ってそれどころじゃ無いでしょうが!」

 

それでも、一応声を潜める藍華ちゃんは良い子らしい

 

「それでそのどうなのよ、そいつとは何時もそんな事してるの?」

 

「そっそんな恥ずかしい、何時もはしないよ初めてだよ~」

 

顔を真っ赤にさせて否定する灯里ちゃんに、何か考え込む藍華ちゃん

 

「そう、なら私にもさせなさいよ」

 

「ええっなんで!」

 

「そんなの灯里だけズルいじゃない!」

 

「でっでも~」

 

「あーもーうるさい」

 

アオイの顔の前にしゃがみこむと、気合いを入れる

 

「いっいくわよ、ごめんねアオイ」

 

「あっあわわわ」

 

「んっ」

 

「ホントにしちゃった…」

 

「灯里だってしたじゃない」

 

「そうだけど…」

 

「はい!この話はこれでおしまいっ。

そいつ起こして、アイス食べさせましょ!また旅に出られたらたまったもんじゃ無いんだから!」

 

「ええー!」

 

「起きなさいよアオイ!アイス買って来たわよ」

 

「…んっ」

 

「ほら早く起きた起きた!」

 

頬にアイスを乗せるとアオイが飛び起きた。

 

「うおっ藍華」

 

「おはよう寝坊助さん、アイス食べるでしょ」

 

「ああ、梅雨になると毎日藍華が買って来てくれた奴だな」

 

「覚えてたの?」

 

「それのお陰で梅雨が乗り切れてたんだよ、忘れるわけ無いよ。

灯里ちゃんも膝枕ありがとう、つかれたでしょ?」

 

藍華の頭を撫でながら灯里ちゃんに話しかける

 

「いえ、私は平気でしたよ…むしろ幸せだったような…」

 

「灯里ちゃん?」

 

「なっなんでも無いです!ねえ藍華ちゃん!」

 

「なっなんで私に振るのよ、そうよ何もないわよ!」

 

「んー?」

 

二人が声を揃えて何も無いと言うのなら無いのだろう、それよりも今は藍華の買って来てくれたアイスが先だ




暑さにも寒さにも弱い貧弱主人公


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ひだまりスケッチ
朝御飯と我慢 ゆのメイン


ゆのちゃん可愛いよ
ヤンデレ風味

大家さんの弟主人公
管理人兼警備員
ひだまり荘の物置を改造してプレハブ小屋にして住んでいる
一人称、俺
管理人=理人=あやと
主人公の名前はあやとです

ほとんど設定回

悴んで=かじかんで


ひだまり荘

 

コンコンと控え目な音が聞こえる

朝の日差しが眩しい、うーんと唸って起き上がる

ボーッとしているとまたノックの音が聞こえた

 

「起きてますか~?」

 

このふわふわした声はゆのだ

 

「起きてますよ~」

 

返事をすると扉が開いた

 

「あっおはようございます、もうすぐ朝ごはんが出来ますよ、一緒に食べましょうね」

 

ゆのは学校の無い日は、ご飯を作ってくれる

学校の有る日は、お弁当と晩御飯を作ってくれる

ヒロさんが作るときは皆で集まって食べる

 

毎日三食カロリーメイトを食べて居たのを見付かってから、そう決まった

カロリーメイト美味しいのになぁ…

 

何故男の自分が女子寮に住んで居るのかと言えば

防犯面の不安の解消の為に、在宅の仕事をしていた俺が大家をしている姉に派遣された。

 

もともと、物置小屋があった場所を改造してプレハブ小屋として住んでいる、物を余り置かない性格なので狭さは感じず不便はしていない。

 

「今日の着替えはこれで良いですか?」

 

「うん、ありがとう」

 

食事だけでなく、着替えも面倒を見て貰っている情けない大人だが、これは頼んだのでは無くゆのが珍しく強い主張をした事によりこうなっている。

 

なんでも全ての面倒を見たいらしい、介護の様な気がするが気にしない。

 

ここまでゆのが尽くしてくれるのには理由がある。

 

昔、家族旅行で山梨県に行った時の事、その日は生憎の大雪でホテルに籠りきり、俺は退屈になり親の目を盗みホテルを抜け出した。

 

雪の降る街を散策していると、地面に積もる雪の中に何かを見つけた、それは転んだまま泣いている女の子だった。

 

助け起こして話を聞くと、雪が酷くなって来たので急いで家に帰る途中だったが転んでしまい寒くて動けず泣いていたのだとか。

良く見ると顔は霜焼けで真っ赤に、手袋は無くしたらしく悴んで震えている。

思いがけない緊急事態に今よりも幼い俺は出来る事をしようと、自分の手袋と帽子を渡し震える少女を抱っこして、少女の指示通り歩いた。

 

暫く歩いていると少女の両親の方が先に見つけてくれた、大変感謝され俺もホテルまで送ってもらい、心配していた家族に怒られ泣かれ、反省した。

その時に助けた少女がゆのなのだと言う、本人の証言だ。

俺は助けた覚えはあるが、ゆのなのかは分からない、が本人が言うのなら本当だろう。

その時聞いたのだが、小さな時の命の恩人が初恋の人でまた俺に会いたいと思っていたらしい。

 

ひだまり荘に引っ越して来た時に、一瞬で俺に気付いたゆのは凄い記憶力だと思う。

ゆのによると運命だとか。

 

「着替えたのなら、一緒に行きましょう」

 

手を繋いでゆのの部屋に向かう、手を繋ぐのは癖らしいそれなら仕方ない。

 

「ゆの、お邪魔します」

 

「はい、どうぞお入り下さい」

 

楽しそうにクスクス笑っている

部屋の中には宮子が先に居た

 

「お~管理人殿、おはようございます」

 

「おはよう宮子」

 

「ささっどうぞ此方へ」

 

「隣じゃ狭いでしょ」

 

四角い机の一辺に二人は狭い、隣の辺に座る

 

「ちぇ~」

 

「それよりも宮子また服が余ったから、お下がりで良ければ取りにおいで」

 

「おおっそれは是非!何時もありがとうございます!」

 

俺の服は良く余る、何故なら姉の大家が服を良く買ってくれるのだ、昔から何かと弟に甘い有難い姉である。

その代わり自分からもお酒を差し入れている、余り飲まない様に量より質を重視している。

 

宮子は素直で可愛い、ついつい甘やかしたくなるが、頑張っている子は甘やかされるべきだ。

 

頭を撫でるとふにゃふにゃになる、猫の様で可愛い

 

「もうすぐ出来ますからね」

 

「ゆのっち運ぶの手伝う!」

 

俺はその間に机の上の片付けだ、本やノートは汚れない様に纏めて床の端に、机を布巾で拭いておく

 

「理人殿、主夫の様な手際ですな~」

 

「私残り運んで来ちゃいますね」

 

ご飯を持って来てくれた、全員揃ってから

 

「「「いただきます」」」

 

一口食べて分かる美味しさ、料理の中に優しさを感じるゆのの料理は優しい美味しさだ

 

「ゆの今日も美味しいよ、ありがとう」

 

「えへへっお口に合いましたか?」

 

ゆのの料理は毎回美味しくなる、少しずつ俺の好みにピタリと合わせて調整している様に感じる

 

「毎回さらに美味しくなるから、何時もゆののご飯が楽しみだよ」

 

「ちゃんと好みの味に出来てましたか」

 

ほっと息を吐いている、こんなに料理上手でも心配になるのかな、毎回美味しいと伝えているが

 

「ゆのっちは日々進化するからね」

 

「目が離せないね」

 

「なら、ずっと側に居て下さいね」

 

宮子の軽口に乗ると、ゆののマジトーンの言葉が来る、こういう事を言う時のゆのは目が座っているので、真面目に返事をする。

 

「そうだね、ちゃんとひだまり荘に居るよ」

 

ゆのはふぅと息を吐くと、微笑む

 

「私も今は、それで満足です」

 

「私も~、皆と居るひだまり荘が居心地良いな~」

 

宮子の言葉に頷く、皆といるひだまり荘だから、暖かく居心地が良い

それにしてもゆのの、今はというのは?…余り考えない様にしよう。

 

「ゆのっち、ご馳走さまでした!」

 

早い、確か山盛りにご飯があったはずやっぱり食べ盛りだ

 

「ご馳走さまでした」

 

「お粗末様でした」

 

食べ終えた食器は各自で洗った

 

「準備して来るから、課題一緒にやろ?」

 

「うん、わたしも一緒にやりたい」

 

「じゃ取りに行ってきま~す」

 

宮子が居なくなり部屋が急にしーんと静かになる

ゆのと二人テレビを見る

 

「俺も部屋に帰ろうかな、勉強の邪魔になりそうだし」

 

「用事が無いなら一緒が良いです…ダメですか」

 

ぎゅっと裾を握られる、邪魔になら無いなら良いのかな?

 

「なら、俺も部屋からノートパソコンを持って来るから、ここで仕事をしても良いかな?」

 

「はい、どうぞ寛いで下さいね」

 

ゆのは本当に嬉しそうに笑う、こちらも嬉しくなる良い笑顔だ

 

「じゃあ俺も準備して来るから」

 

「私も一緒に…」

 

「すぐそこだから、ベランダから見えるでしょう?」

 

むーっと唸っている、頭を撫でて宥める

 

「分かりました、ベランダから見てます」

 

見てなくて良いけど、ゆのなりの妥協なのだろうと納得する

 

部屋から荷物を持って出る、ベランダを見るとゆのが見ていた、本当に見て居たのか少し怖い

俺が手を振るとゆのは笑顔で振り返す、可愛い

 

ゆのの部屋に戻ると、沙英とヒロが増えていた

 

「おっアヤおはよう」

 

「理人さんおはようございます」

 

「沙英とヒロおはよう」

 

二人も荷物を持って来ているので、今日はゆのの部屋で勉強会をするのか

 

「ねぇアヤ、今急ぎの仕事ある?」

 

「急ぎは…無いな暫くは余裕があるよ」

 

仕事を残して置くのが嫌で、入った仕事は納期が長くてもさっさと終わらせる、そのせいで余計に仕事が増えるので、フリーランスの俺には有難い限りだ。

なので仕事を早く終わらせて、大抵は暇をしている。

 

「ならお願いしても良い?」

 

大きい封筒を渡してくる、中身は原稿だろう、沙英のお願いとは誤字脱字のチェックと呼んだ感想が聞きたいのだ。

 

「なら沙英の部屋に行こうか?」

 

「そうしてくれると有難いんだけど、ごめんねゆの」

 

ゆのを見ると悲しそうにしている、何かお詫びを…昼飯作るか

 

「ゆの勉強を見れない代わりに、久しぶりにお昼ご飯を作るよ」

 

「良いんですかっ!やったぁ!」

 

ゆのは俺の作る物が何故か好きなので、喜んでくれた

ゆのが作る方が美味しいのに。

 

「じゃあ行ってきます、アヤ行こう」

 

「ああ、行ってきます」

 

沙英に手を引かれて部屋を出る

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ゆのっち寂しそ~、良く我慢したねえらいえらい」

 

宮子がゆのの頭を撫でる

ゆのはクッションに沈んだまま

 

「だって沙英さんのお仕事は、邪魔したくありません」

 

「そっか、ありがとうゆのさん」

 

ヒロもゆのの頭を撫でる

 

「でも"ざびじい"でず~」

 

クッションに顔を押し付けたまま、バタバタと足を動かす

 

「よしよし、後でご飯作って貰おうね」

 

「お昼は久しぶりの、理人さんの手料理よ」

 

「…久しぶり…手料理」

 

ゆっくりとクッションから顔を上げる

 

「うぅ…頑張りますぅ」

 

「おっゆのっち復活」

 

「それじゃ三人で勉強、頑張りましょう」

 

何とか勉強を始めると、次には理人に褒められようと頑張る根は真面目な三人であった。




介護される主人公
全部面倒を見たいゆの


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ぴったり一緒とカレーパーティー ゆの宮子沙英ヒロ

離れたくないゆの

ゆのの硬い決意
譲れない願い

ハーレム風




ゆのの部屋

 

思いきって声をかける

 

「あのさ、ゆの」

 

「なんですか~」

 

気の抜けきった返事が帰ってくる

 

「ずっとこうしてるの?体痛くならない?」

 

「ずっとです、もっとくっついて下さい」

 

そう言われて腕の力を強める

俺は壁に凭れて座り、ゆのは俺の膝の間に座る、後ろからゆののお腹に腕を回し強く抱きしめている。

後ろから覆い被さる様な形で、小さなゆのを潰してしまいそうで怖い。

 

「ゆの?これは楽しいの?」

 

「いいえ違います、幸せなんです」

 

にこりと笑う

これは幸せを感じていたのか、もう始めて一時間は経っている、いくらなんでも長い。

少し気分転換に外出に誘ってみよう。

 

「ゆのさんや、買い物に行きましょう」

 

「買い物ですか?」

 

「晩御飯の材料を買って来て、一緒に作ろう」

 

「全部一緒に、ですか?」

 

不思議そうに訪ねる

 

「ずっと手を繋いで、一緒に買い物して一緒に料理だよ」

 

「わぁ、素敵ですねぇ」

 

「じゃあ準備しようか」

 

「はい~」

 

ゆっくりと準備を始める、ゆのは今は脳が蕩けているがすぐに元に戻るだろう

俺も準備を始める

 

二人の準備が出来た、後は買い物だ

ゆのも大分頭がしっかりしてきた

 

「ゆの、手をどうぞ」

 

「えへへ、あったかいです」

 

幸せそうに笑う、そろそろ寒くなって来たのでお互いの体温が暖かくて心地良い。

 

「何処に行こうか?」

 

「ダダマートに行きましょう」

 

二人揃って道を歩く、ゆのは手を繋いでもまだひっつき足りないのか腕に抱きつく。

 

「こうして理人さんと一緒に歩けるなんて、夢の様です」

 

「そんな大袈裟な」

 

「…大袈裟じゃ無いですよ」

 

「ゆの?」

 

いきなり立ち止まったので、一緒に立ち止まる

ゆのは俯いたまま話し出す

 

「本当に大袈裟じゃ無いんですよ。

あの雪の日どんどん体が動かなくなって、寒くて死んじゃいそうで震えて涙も凍りついて、誰も来てくれなくて寂しくて消えちゃいそうで」

 

大雪の日の話だ、俺とゆのが出会った日

 

「そんな時に理人さんが来てくれたんです」

 

急に顔を上げた

 

「凍える雪の中から見つけて助け出してくれて、自分も寒いのに帽子も手袋もくれて、凍えて震える体を抱きしめて、私の両親を探してくれました。」

 

真剣に話すゆのは少し声が震えていた、思い出しているのだろうか

 

「あの時来てくれたのがどれほど嬉しかったか、名前も聞かずに離れてどれだけ後悔したか、運命の再会を果たしてどれだけ幸運だったか。」

 

「ゆの」

 

「だから、大袈裟なんかじゃありません!

私にとっては理人さんと居る一分一秒が奇跡なんです。一秒だって無駄にしません、ずっと一緒にいて、私が何でも望みを叶えてあげたいんです!」

 

グッと両手に力を込めて話すゆのは決意に満ちていた。

 

そこまで俺の事を真剣に考えていてくれていたのか、曖昧な運命とかじゃなく、しっかりとした考えの元に行動していた。

 

「ゆの、ありがとう」

 

「えっ今は私の気持ちを、決意を伝えただけじゃ…?」

 

「うん、だから真剣に考えてくれて、ありがとう」

 

「えっと?どういたしまして?」

 

頭が?でいっぱいのゆのを撫で手を繋ぎ歩き出す

 

「ゆの、これからもよろしくしてね」

 

「はい、これからもずっと一緒です」

 

お店までの道をゆっくり歩いていく

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

ゆのの部屋

 

 

「さすがに…作り過ぎましたね」

 

「これは多過ぎたな」

 

鍋が3つも、普通のカレー、シーフードカレー、ドライカレーの三種類作ってしまった。

 

「皆を呼ぶか?」

 

「カレーパーティーですね!」

 

「俺は沙英とヒロを呼んで来るよ」

 

「私は宮ちゃんを呼んで来ます」

 

それぞれの部屋に向かう、沙英はヒロと一緒だろう、ヒロの部屋をノックする

 

「はーい」

 

「管理人ですよ」

 

ガチャリと扉が開いた

 

「理人さん、どうしたんですか?

とりあえず上がって下さい」

 

「いや、今日はカレーパーティーのお誘いに来たよ」

 

「カレーパーティー?」

 

ヒロとやっぱり奥に居た沙英にも説明すると、すぐに行くとの事、準備があるだろうし先に部屋に戻る

 

「じゃあ待ってるよ」

 

「はい、すぐに行きますね」

 

「あたしも、すぐ行くから」

 

ゆのはまだ戻って居ない様だった

先に鍋を暖めて待つ

 

「お邪魔します」

 

「お邪魔するよ」

 

沙英とヒロが先に来た

 

「いらっしゃい、ゆのはまだ帰ってきてないぞ

多分宮子が起きないんだろうな、温めたカレーの匂いがしたらそのうち勝手に…」

 

「お邪魔しますカレーください!」

 

「ちょっと宮ちゃん、足早いよぉ」

 

俺とヒロと沙英は苦笑いだ

 

それぞれ好きなカレーをよそってパーティーの始まりだ

 

「それにしても何で、今日はカレーパーティーだったの?」

 

「そうよね、カレーをお鍋3つなんてそんなにカレーが食べたくなったの?」

 

「違うよ、ゆのと買い物してたら、買いすぎて作り過ぎたんだよ」

 

「私は沢山食べられるから嬉しい!」

 

「私は理人さんと今日1日、ずっと一緒に居られて幸せでしたぁ」

 

ゆのが恍惚とした表情で告げる、その顔を見てヒロと沙英が固まった。

 

「アヤあんた、ゆのと何かあった?」

 

「理人さんまさか、手を出したんじゃ」

 

とんでもない誤解だ

 

「違うよ、昔の話をして感謝の気持ちを、再確認したんだよ」

 

「本当にそれだけ?」

 

沙英は疑り深い、流石考え方が大人

 

「…あの、理人さん」

 

ヒロが手招きしている、何だろう耳を寄せる

 

「もし女の子に手を出したくなったら、私をどうぞ」

 

「へ?」

 

「私が一番大人の体ですから、だから大丈夫な筈です」

 

真っ赤な顔でヒロは真剣に話ている

しかし、隣の沙英にも聞こえたのか

 

「ちょっまっ、待ってそんなあたしだって同い年だから、あたしでも良い筈」

 

「二人ともなんの話だ!そんな事しないから!」

 

「もしもよ、もしもの時はあたしを呼びなさいよ」

 

「もぅ沙英、私も呼ばれたいのにぃ!」

 

「呼ばれたいとかじゃないでしょ!」

 

「じゃあ沙英は呼ばれたく無いのねぇ!」

 

「呼ばれたいのに決まってるでしょっ!」

 

「ご飯中だぞ!」

 

「「あっ」」

 

二人で白熱して大声で叫び合っていた、なんて会話をご飯中に宮子とゆのの目の前で。

 

ちらっと宮子とゆのを見ると、我関せずとご飯をおかわりする宮子と、顔を赤くし頭から煙を出したゆのが居た。

宮子は良いが、ゆのが…

 

「あの、ゆの?大丈夫か?」

 

「はっはい!私を呼んでくれるんですね!」

 

駄目だ、このゆのは駄目になっている

 

「宮子が全部食べちゃう前に、俺もおかわりしないと」

 

露骨に話題を変える、ゆのが再起動するには暫くかかるだろう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「満腹ですな~しあわせ~」

 

「宮子あんた何皿おかわりしたの?」

 

食後のまったりした時間だ、ゆのにお茶を貰ってのんびりする

ヒロは体重が気になる様子で、お腹を撫でている

 

「どうしよう、少し食べ過ぎちゃったかしら…」

 

「後で散歩に付き合おうか?」

 

「本当に!ありがとうございます」

 

遅くならないうちに散歩に行かないとな

 

「私も一緒に行きたいです」

 

「なら私も~」

 

「それなら全員で行こうか」

 

沙英の言葉に皆頷く、結局全員で食後の運動になった

 

散歩に行く為に外に出た時、こっそり近付いて来た宮子が耳元で囁いた

 

「…女の子に手を出したいなら、この私がオススメですぞ~」

 

「えっ」

 

チュッと頬にキスをしてハニカミならがら、走って行く

宮子はたまにこういう事をする

 

「こら宮子!散歩だって言ってるでしょ!」

 

「えへへ~沙英さんごめん~」

 

のんびり皆で散歩する

帰りはベリマートに寄って帰ろう

 




ゆのは助けられてから、ずっと主人公を探していた様子


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お泊まりとお泊まり会 吉野屋先生

前半、吉野屋先生
後半、ゆのと宮子

吉野屋先生がこうだと良いなって、作者の願望


ひだまり荘前

 

夕方ひだまり荘の前を箒で掃除する

ひだまり荘を綺麗に保つのも管理人の仕事の一つだ

 

「あらっ管理人さん、こんばんは」

 

振り返るとやまぶき高校の教師、吉野屋先生が居た

 

「こんばんは、吉野屋先生」

 

「お久しぶりですね、どうしてもっと会いに来てくれないんですか?」

 

「卒業生の中でも、頻繁に顔を出してる方ですけどね」

 

先週も会いに行った多分俺が一番顔を見せに行っている、生徒にも挨拶される様になってしまった位だ。

 

「そうじゃなくて、毎日会いたいじゃないですか!」

 

「それでまた、会いに来たんですね」

 

うっ…と言葉に詰まる吉野屋先生、このやり取りは何回目だ、寂しさが限界になると偶然を装い会いに来る、こんな事をもう何年も繰り返している。

 

「だってぇ何時も学校から理人さんの部屋が見えるのに、顔が見れなくて…そんなの余計に寂しいじゃないですかぁ」

 

へにゃりと萎びている、何かあったのかも知れない。

先生は落ち込むと余計に寂しがりになる、甘えてくれているのかも?

 

「先生今日もご飯、食べて行きますよね」

 

「はい…ありがとうございます」

 

落ち込んだままの先生と手を繋いで、部屋に連れて行く

ゆのに晩御飯は要らないとメールする、了解の返事がすぐに返って来た。

 

先生は何時もの席に座る、部屋の端にクッションを置いて小さくなる、やっぱり何かあったな。

 

「先生」

 

「…寂しいですぅ」

 

小さくなった先生をぎゅっと抱きしめる、弱い所は俺以外には見せられないらしい、もっと周りを頼れば良いのに不器用な人だ。

 

「ごめんなさい、何かあるとすぐに頼って甘えてしまって」

 

「先生には学生時代に沢山助けられましたから、その恩返しです」

 

頭を撫でると肩に顔を押し付けて黙り込む、ここまでが何時もの流れだ、気が済むまで泣いてすっきりしてもらう。

明日には何時もの明るい吉野屋先生に戻る筈

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

そろそろ外が暗くなって来た、先生も落ち着く頃か

 

「ねぇ理人さん…」

 

「何ですか?」

 

声は静かだが震えては居ない、もう大丈夫だろう

 

「やっぱり私と、結婚しましょうよ」

 

「それは昔から、何回も断っているじゃないですか」

 

先生は俺が卒業してから、ずっと結婚しようと言い続けている

 

「もうそろそろ、結婚してくれても良いじゃないですかぁ」

 

ぷくっと頬を膨らまし、少し元気になった様で良かった

 

「私が好きとか愛してるって、いくら真剣に言っても、頷いてくれないしぃ」

 

「結婚やお付き合いは出来ませんけど、こうやって甘やかしてるじゃないですか」

 

「余計に寂しいんです!」

 

それは申し訳ないな、俺の意気地が無いのが全て悪い

 

「それじゃ、甘やかすのを止めます?」

 

「そんなの、私が死んじゃいますよ?」

 

死なれちゃ不味い、先生は皆に必要な人だから

 

「ごめんなさい、俺が意気地無しで…誰かの気持ちに答えるのが怖くて」

 

先生はふふっと笑う

 

「分かってます、言いたくなるだけですから

私は大人の女ですからね、待つだけの余裕もあるつもりですよ」

 

「…ごめんなさい」

 

「例え私を選んでくれなくても、私はずっと貴方を愛していますからね」

 

ぎゅっと抱きしめられた、落ち着く、先生は本当に良い人だ

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「それで、今回は何があったんですか?」

 

「私の兄に子供が居るんですけど、その子を見た両親に私と理人さんの子供はまだかって、言われちゃいまして…」

 

ううっと泣き真似する先生だが、今俺との子供って言わなかったか?

 

「先生のご両親に、なんて言って俺の話をしてるんですか!」

 

「え?好きな人だって、もし結婚出来なくても愛してるって説明しましたよ?」

 

それは宜しくない、なんで先生は平気で説明出来るのか、それが分からない

 

「ご両親はなんて言ってましたか?」

 

「そんなに好きなら、子供だけでも作って来いって、それには私も大賛成です、ってもぉ~何言わせるんですかっ」

 

先生は勝手にくねくねと照れだしたが、凄いご両親だ一度挨拶に行くべきか?でも付き合ってもいないし、うーんと悩んでいると

 

「それでですね、子供は何人欲しいですか?」

 

「え?子供を作るのは、決定事項なんですか?」

 

キョトンとした顔の先生は可愛い、黙っていれば美人とはまさにこの人の事だ。

 

「はい!私最低でも、3人は欲しいです」

 

「最低でもって!」

 

「なので…練習しませんか?」

 

色気をわざと出して、近寄って来る先生を避ける

立ち上がってキッチンに向かう

 

「さて、ご飯にしましょうね」

 

「あ~意地悪~」

 

「俺は意地悪なので、晩御飯は要りませんね」

 

「ごめんなさい、何時も優しいです」

 

やっと何時もの調子に戻ったのでようやく一安心だ。

その後は何時も通りお客様様の布団を出して、それぞれ別に就寝

先生の方から小さく、「ありがとうございます」と聞こえた気がしたけど気のせいと言う事にする。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「朝ですよ〜起きて下さい」

 

もう朝か、なんたが昨日は疲れた気がする

 

「起きないと、ちゅーしちゃいますよ」

 

チュッと口に柔らかい感触がして、目が覚める

パチッと目を開けると、すぐ目の前に吉野屋先生の顔がある

毎度の事でもう慣れた

 

「おはようございます、今日も良い朝ですよ」

 

「おはようございます」

 

ベッドから起き上がると机に朝食がある

 

「私が作ったにしては、上出来ですよね!」

 

「美味しそうですね」

 

にこにこ笑う先生が待つ机に座る

 

「いただきます」

 

「どうぞ」

 

ふと先生を見ると、昨日と服が違う

俺が寝ている間にお風呂に入ったのだろう、俺のシャンプーの匂いがする

 

「お風呂お借りしました」

 

「それより着替えは?」

 

「私の家から持って来ましたけど?」

 

それはつまり、元々ここに泊まるつもりだったのか

やっぱり大人は汚い

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「吉野屋先生、いってらっしゃい」

 

俺の部屋の前ででお見送り、学校はひだまり荘のすぐ目の前だ

 

「いってきます、あ・な・た」

 

先生はすっかり元通りの元気になった

 

「今日もまた、泊まりに来ても良いですか?」

 

「駄目です」

 

「えぇ~昨日はあんなに、優しくしてくれたのに~」

 

なんて人聞きの悪い、先生と全くやましい事はしていないのに

 

「はいはい、また俺から顔を見せに行きますよ」

 

「本当ですね、約束ですからね!」

 

最後に指切りをして、吉野屋先生は元気に学校に行った

ふと振り返るとゆのが居た

 

「理人さん、おはようございます」

 

「おはよう」

 

「昨日も吉野屋先生が来てたんですね」

 

「ごめんね、騒がしかったかな」

 

「いえ、でも会えなくて寂しかったです」

 

吉野屋先生が泊まりに来ると次はゆのが寂しがる、これも何時もの事をだった

宮子も階段を降りて来た

 

「ゆのっちも私も、我慢してたもんね~」

 

「昨日は宮ちゃんとお話して、そのまま寝ちゃいました」

 

えへへと笑うゆのと、宮子

 

「今日は夜ご飯食べに行っても、良いかな?」

 

分かりやすく明るい顔になるゆの

 

「はいっ是非来て下さい!それで…あの…」

 

ゆのはもじもじと、何か言いたげにしている

 

「ゆのっち頑張れ!昨日の計画を実行するんだ!」

 

宮子は何か知っている様だ

 

「ありがとう宮ちゃん!

あのっ今日は私と宮ちゃんと理人さんの三人で、お泊まり会をしませんか!」

 

「おお~ゆのっち頑張った!」

 

凄い凄いと宮子に褒められて、ゆのは照れつつ喜んでいた。

 

それにしてもお泊まり会か、久しぶりだし明日は土曜日で丁度良い

 

「そうだね、久しぶりのお泊まり会をしようか」

 

「やったぁ!私頑張ってご馳走作りますね」

 

「それなら豪華な材料を沢山持っていくよ、宮子も沢山食べるんだよ?」

 

「おおっ有難い、満腹になれて寝るときもゆのっちと理人さんと一緒なんて、今日は幸せな日だな~」

 

学校のチャイムが聞こえる、これは予鈴かな

 

「わわっ宮ちゃん急ごう!理人さんいってきますね」

 

「理人さんいってきます!」

 

二人が学校に走っていく、若者は元気だな

俺も二人が帰ってくる前にひだまり荘をピカピカにしておこう

今日も良い1日になりそうだ




主人公は美術科卒業生
担任は吉野屋先生


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

みなみけ
手作りご飯 千秋 夏奈 春香


主人公は千秋と同い年
秋男=あきお


みなみけ

 

僕は南秋男、まだ小学生で四人姉弟の三男と言う事になっている

 

成っていると言うのは本当の姉弟ではないからで、僕の本当の母親は僕を産んで直ぐに死んでしまった、母親が天涯孤独だったので僕は生まれながらに天涯孤独を引き継いだ。

 

その僕を貰ってくれたのが、みなみ家の両親で僕の両親になってくれた人達だ

病院で千秋の隣のベッドに寝ていた僕が、天涯孤独と聞くと直ぐに引き取ってくれた、良い人達だ。

両親が僕達に説明してくれた。

 

今は長女の春香、次女の夏奈、三女の千秋、そして僕秋男で暮らしている

 

「兄さん」

 

千秋は僕を兄さんと呼ぶ、僕の方が数日早く生まれたかららしい、後はちゃんと兄らしくするからだとか

 

「おい、聞こえてるのか?」

 

肩を掴んでガクガクと揺らされた

返事をするのを忘れていた

 

「ごめん千秋、考え事してた」

 

「そうか…わざとじゃ無ければいい」

 

千秋は僕に優しい、言葉使いは乱暴だが仲良くしてくれる、姉弟で唯一の妹だ可愛くない訳が無い。

 

「兄さん、悪いんだがホットケーキを作ってくれ」

 

「お腹すいたの?」

 

今日は日曜日で春香が出掛ける為、お昼ご飯を置いて行くと言っていた筈、それは食べたのだろうか?

 

「お昼ご飯は?僕のぶん分けようか?」

 

「兄さんは優しいな」

 

頭を撫でられる、因みに身長はほぼ一緒だ

 

「…あのバカ野郎と違って」

 

「夏奈の事?今度は何したの?」

 

千秋のバカ野郎と言うのは、大抵夏奈の事だ

 

「それが聞いてくれ!

春香姉様が作ってくれたご飯を、私と兄さんの分も夏奈が全部、一人で全て食べてしまったんだ!」

 

来てくれと手を引かれる

机の上には空っぽのお皿が1枚あるだけ、夏奈はお腹を出して眠っている

 

「兄さんこのバカ野郎をどう思う?」

 

「夏奈だからね、仕方ないよ…」

 

自由人だから仕方ないと諦めている

夏奈のお腹が出ているのを元に戻し、タオルケットをかける

 

「そんな奴ほっといても…」

 

千秋の頭を撫でて、お皿を片付ける

 

「さてと、それじゃあホットケーキを作るよ」

 

「私も手伝う」

 

「ありがとう千秋」

 

二人でホットケーキを作る、フルーツが沢山あったので切って盛り付けた、後はジャムとシロップをかけて完成だ

 

「おおっ輝いて見える、凄いぞ兄さん」

 

「二人で頑張ったからね

きっと何時もよりも美味しいよ」

 

二人でにこりと笑い合う

千秋がご機嫌になった様で良かった

 

「「いただきます」」

 

一口食べるとふかふか甘々で美味しい、上手に焼けたみたいで安心した

 

「美味しいね」

 

「兄さんは、良い主夫になれるぞ」

 

「千秋だって、良い主婦になれるよ」

 

また二人で笑い合う、こう言う所は血が繋がっていなくても、一緒に暮らしていると似てくるみたいだ。

 

「それなら二人で結婚すれば、幸せな家庭になるな」

 

「兄妹だから結婚は出来ないよ?」

 

「大丈夫だぞ、義理の兄妹は結婚出来るらしい。ちゃんと調べた」

 

千秋は頭は良いのに、時々おバカになる。さすが夏奈の妹

 

「なんでそんな事調べたの?」

 

「将来の為じゃないか、当たり前だろ」

 

当たり前じゃ無い、そんな事を聞いたんじゃ無い

 

「結婚は好きな人同士でするんだよ、家族愛じゃ無くて」

 

「分かっている」

 

自信満々に得意気な様子で語る千秋に不安になる、本当に分かってるのかな?

 

「…んん?なんか良い匂いがするな?」

 

「あっ夏奈」

 

夏奈が起きたので千秋との会話は終了だ

千秋は夏奈を睨み付けている

 

「おいバカ野郎、私と兄さんのご飯を返せ!」

 

「あれ?全部私の分じゃなかったの?」

 

夏奈はわざとでは無かったらしい

何時もの突拍子の無い行動も悪意はなく、後先の事を考えないだけ

 

「お前は人の分とか、考えないのか!」

 

「だから、分からなかったんだってば。ごめんごめん」

 

軽く謝る夏奈に千秋はますます怒る、悪循環に陥る前に二人に割って入る

 

「夏奈、ホットケーキあるよ」

 

「何!お前の作った物は美味しいからな、勿論食べるぞ!」

 

使っていたタオルケットを蹴りあげ、全力でキッチンに走って行った

 

「兄さん!あんな奴に分けなくても!」

 

「だって千秋も、喧嘩やめないでしょ」

 

うっと黙り我慢する。千秋は賢いのに乗せられやすく、すぐ夏奈と喧嘩になる

何時も二人で喧嘩をしている自覚はあるのだろう

 

「千秋は、我慢できて偉いね」

 

「あのバカとは違うから…」

 

何時も我慢する側に回らせられる千秋には、何かご褒美をあげたい…ふと見ると、千秋のお皿は空っぽで僕のお皿には沢山のホットケーキが残っていた。

 

「千秋、あーん」

 

「!」

 

ベタベタに甘やかしてみる、これはご褒美になるかな?

 

「美味しい!食べさせて貰うと、凄く美味しい!」

 

「それは良かった」

 

「もっとくれ!」

 

欲しがるままに与える、雛鳥の様で可愛い

 

「まーた、千秋ばっかり甘やかして。秋男私も甘やかしなさいよ」

 

夏奈が戻って来たかと思うと、千秋と僕の間に座ったので狭い。元々僕と千秋が並んでいたのに、夏奈まで来たら食べにくい

 

「おい夏奈!兄さんから離れろ!」

 

「食べ終わった千秋が行けばいいじゃんか」

 

また喧嘩になる、どうすれば仲良くなるのか僕にはもう分からない。

助けて春香

 

「大体お前は、私を姉と呼びなさいよ!」

 

「呼ばれる要素がお前にあるのか!」

 

ぐぬぬとどっちも譲らない

 

「それに兄さんはどうなんだ?夏奈と呼んでいるぞ?

多数決で私が正しい」

 

はんっと夏奈がバカにした様に鼻で笑う

 

「将来結婚したら、名前で呼び合うのにわざわざ呼び方を変える必要はないでしょ?バカなのか?」

 

「兄さんはお前と結婚しないに決まってるだろ!」

 

「なんだと!」

 

とうとう取っ組み合いが始まった、僕に出来るのは被害が出ない様に、机を部屋の端に寄せ、お皿をキッチンに片付ける事だけだ。

 

助けて春香(2回目)

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

願いが通じたのかそれほど時間が経たない内に、春香が帰って来てくれた

 

「ただいま~、えっどうしたの?キッチンに三角座りなんてして!」

 

春香が驚くのも無理は無い、キッチンの床直接に三角座りで耳を塞いでいたのだから

 

「おかえりなさい春香、助けて」

 

リビングを指差すと即座に理解したのか、顔が般若に変わる

 

「分かったわ、荷物をお願い」

 

「はい」

 

買い物袋と鞄を受け取る

これから、春香の雷と長い長いお説教が始まるのだろう。

 

鞄を春香の部屋に運び、買い物袋の中を見る

材料を見るに今日はカレーかな、それなら僕にも作れる筈。

春香は長くなるだろうから作っておく、その後はお風呂も沸かしておこう。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「何か良い匂いするぞ」

 

「こら!夏奈ちゃんと聞いてるの!」

 

「分かってるよ、今度から人のご飯は食べません」

 

「千秋は?」

 

「夏奈の挑発に乗って、喧嘩しません」

 

「よろしい!なら急いでご飯作るから」

 

「待て春香!この匂いはカレーだぞ!」

 

「え?まだ作ってないけど…」

 

「この匂い、兄さんのカレーだ!」

 

キッチンに行くと、お鍋をかき混ぜる秋男が居た

 

「ん?もう終わったの?」

 

「ごめんね秋男、ご飯作らせちゃって」

 

「ううん、春香も怒って余計に疲れてるだろうし」

 

「ああっなんて良い子なの!」

 

ぎゅっと抱き締められて、足が浮いている

 

「春香姉様、兄さんが浮いてます!」

 

「苦しい」

 

「春香っ、秋男が死ぬぞ!」

 

千秋と夏奈が助けてくれた。死ぬほど苦しかった、春香は以外と力が強いから

 

「ごめんねっ大丈夫?」

 

「大丈夫だよ」

 

「兄さん」

 

千秋が抱きついてくる、何時も心配してくれる

 

「大丈夫だって千秋、平気だから」

 

「うぅ、本当か」

 

「千秋の弱点は秋男だな」

 

「うるさいバカ野郎!」

 

また喧嘩になりそうだ、話題を変えないと

 

「カレーが出来たから、早く食べようよ」

 

「おっそうだな、秋男のカレーは絶品だからな!」

 

「本当に美味しいわよね、何が違うのかしら?」

 

「何か特別な物が、入っているのか?」

 

これはあれを言う時だ、テレビでやってた奴

 

「愛情を沢山入れてるんだよ」

 

「「「……………」」」

 

皆黙っている、滑ってしまったのか

 

「秋男っ早く食べるぞ!」

 

「ええそうね、私も今日は沢山食べるわよ!」

 

「兄さん、私への愛情も入ってるよな?」

 

違った様だ、皆の食い付きが凄い怖いくらいだ

お鍋いっぱいに作ったのに、もう無くなった皆が喜んでくれて嬉しいな。

 

その後は、誰とお風呂に入るかでもめたが、勿論僕は一人で入った

 

僕の家族は皆僕に甘い、だが優しくて暖かい幸せな家族だ




義理の兄妹は結婚出来る
狙われる主人公
主人公カレーの匂いを嗅ぎ分ける妹


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

思春期 夏奈

思春期
初恋についての話
姉弟で女三人と唯一の男とか可哀想

何時もおバカな子が、内面どろどろのヤンデレとか大好きです


「なぁ秋男、お前いつになったら私に興味が出るんだい?」

 

「はい?」

 

何時もの事だが突飛の無い夏奈の発言に、飲んでいたジュースのストローが自然と口が離れ、間抜けな返事をしていた。

 

「お前もそろそろ好きな女の、一人や二人出来る年頃だろ?そりゃ身近に私の様な美女が居れば必然的に私を好きになるでしょ」

 

「年頃?」

 

僕はまだ小学生の高学年だが良く人からは大人びていると言われている、そのせいか同年代の女の子達が幼く見えて恋愛感情を持てないでいる。

かといって年上好きかと言えばそうでは無い、今は恋愛に興味が全く無いと言った所が正解だ。

 

「そうだよ、私もお前位の年に初恋をしたもんだよ」

 

「へぇ!夏奈の初恋の話なんて初めての聞いたよ、相手は誰だったの?」

 

「ん?」

 

夏奈が行儀悪く、飲んでいたジュースからストローを抜き取り僕の方を指し示した。…僕?

 

「僕?」

 

「そうだよ、私の初恋は秋男でそれは今も変わらないよ?」

 

机の上に身を乗り出した夏奈は、ストローの吸い口の方で僕の唇をつついた。

 

「でもそれって可笑しくない?その時は僕はまだ赤ん坊だった筈…」

 

「バカだな秋男、一目惚れって物が有るでしょうよ」

 

「バカは夏奈でしょ、赤ん坊に向ける母性愛と恋愛感情がごっちゃに…」

 

「あのね」

 

いつに無く真剣な表情の夏奈に僕は黙り込む、おちゃらけた何時もの夏奈からは想像できないほどの真剣さと、瞳の奥に燻る何か

 

「当時は秋男を守りたいとか可愛いとかそりゃ思ったさ、でもね流石にこの年になるとちゃんとわかるよ」

 

初恋が僕って事は今も僕を思い続けてくれているのか、そう思うと不自然に心臓が跳ねた気がした

 

「好きとか愛してるとか、胸がキュンとするのも頭の中を占めるのも何時も秋男の事だけなんだ」

 

夏奈の口から出たとは思えない発言に、つつかれた唇があつく熱を持つ

 

「だから、愛してるよ秋男」

 

「うぁ、えっと」

 

返事に困っていると頭の上に手が置かれる、そのまま髪の毛をくしゃりと撫で回される。

 

「ふふん、私は大人の女だからね待つ余裕位は有るよ」

 

「えっとうん、ありがとう夏奈」

 

でも夏奈も伝えてくれた様に、僕も今の気持ちをちゃんと伝えておきたい

 

「夏奈?」

 

「ん?何かね弟よ」

 

ちゃんと夏奈に向き合いちゃんと座り直す、一つ深呼吸をして真っ直ぐに気持ちをつたえる。

 

「僕も夏奈が大好きだよ、この家族の一員にしてくれてありがとう。

みなみ家の皆が大好きで、愛してるよ」

 

僕はこの平凡な毎日を過ごせる暖かなこの場所が大好きで、ちゃんと家族の一員にしてくれた皆も愛してる。それだけは伝えておきたかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

蛇足

 

「秋男も私が好きなのか!」

 

物凄い勢いで僕に抱き付き、頬擦りを繰り返す夏奈に質問をする。

 

「んん?ちゃんと話聞いてた?」

 

「やったぞ!これで私の一人勝ちだな!

私が今14才だから、あと2年か?いや秋男はあと7年は待たないといけないのか?」

 

夏奈は話を聞いて居なかったらしい

スパンッとリビングの扉が開くと怒りの形相の千秋が立っていた。

 

「おい!離れろバカ野郎!」

 

「おいおい悔しいからって、私に突っ掛かるなよ。

私達は両思いだったんだよ、今から結婚が待ち遠しいな。」

 

抱き着かれた体制のままに夏奈に、頬にキスされる

 

「話を聞けバカ野郎!兄さんは家族の皆が大好きと言ったんだ」

 

全く千秋の言う通りで夏奈は話を聞いていないのか。

 

「助けて千秋」

 

「ああ、分かってる兄さん」

 

情けないが年上の夏奈には力で勝てない、その上両手両足で抱き着かれている一人では抜け出せない。

 

依然として離れない夏奈と机を挟んで睨み合う千秋、涙目で千秋に手を伸ばす僕。…なんだこれ

 

「どうして千秋に手を伸ばすんだ?」

 

「夏奈…?」

 

夏奈が僕の伸ばした手を掴んで握り混み、瞳を合わせて話し出す。

何時もと様子が違う、何かおかしい

 

「秋男が好きなのは私だろ?なんで何時も何時も千秋に呼び掛けるんだ、可笑しいじゃないか」

 

「おい…?夏奈?」

 

千秋も夏奈のおかしさに気が付いたのかバカ野郎とは言わず、ゆっくりと夏奈に話しかける

 

「お前が何時も一番に私を求めてくれさえすれば…

私は…私は、何時もの私で居られたのに。こんなに…」

 

底の見えない闇の様な瞳と目が合う

 

「夏奈?大丈夫?」

 

頭を下に向けふぅと大きな深呼吸をしたと思うと、顔を上げた夏奈は何時も通りだった。

 

「なんてな、冗談だよ少しからかってみたんだ」

 

「なっ!このバカ野郎が!」

 

千秋は本気で心配していたのか、そのまま怒って自分の部屋に帰ってしまった。

 

「あーあアイツは短気だなぁ」

 

「夏奈こっち見て」

 

両手でぎゅっと抱き締めながら話しかける

 

「秋男?なんだよさっきのは冗談だって言って…そうだよ全部冗談だよ」

 

「夏奈…僕が何時も千秋に一番に頼るのは、千秋が特別だからじゃない。

同い年だから頼りやすいだけなんだ。」

 

ゆっくりゆっくりと話を続ける

僕の気持ちがちゃんと届くように、冗談にさせないように

 

「夏奈大好きだよ」

 

「秋男…」

 

今度はちゃんと伝わったのか夏奈の瞳に光が戻る

 

「本当か…?千秋が特別だからだと、特別好きだからだと思ってた。

私はもう選んでもらえ無いと、一緒に居られないと思ったらもう怖くて」

 

「家族なんだから。僕を受け入れてくれたんだから、僕から離れるなんてあり得ないよ」

 

夏奈が大声で泣き出してしまい、あまりの大声に千秋が戻ってきた

 

「夏奈!?大丈夫なのか兄さん!」

 

「きっと大丈夫だよ、泣き止んだら何時もの夏奈だと思うよ」

 

「そ、そうか…でもあの夏奈がこんなに泣くなんて。

大丈夫だぞ夏奈私も居るぞ」

 

千秋が夏奈を慰め抱き締める、三人でまるで団子の様になりながら固まって夏奈が泣き止むのを待った

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あら、珍しい。

夏奈だけじゃなくて、千秋と秋男の三人でお昼寝なんて」

 

夕方学校から帰ってきた春香が見たものは、リビングの床に仲良く眠る三人の姿だった。




赤ん坊に一目惚れとかヤバない

蛇足のほうが長い
ネタは書くのが楽しい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

キノの旅
旅立ちの日 キノ


ヤンデレキノちゃん好き

主人公の設定が違うので、こっちに書きます

ヤンデレキノ達と、ある旅人の話
連載中です、そちらもお願いします

主人公の名前は、ソラ


そろそろ体が痛い、ロープで簀巻きにされその上で寝袋に詰め込まれ、猿轡までされている。

 

自室で本を読んで居るといきなり後ろから襲われ、そのまま見事な手際で簀巻きにされモトラドに乗せられ拐われた。

 

そして今目的地に着いた様で、ふかふかの恐らくベッドだろう物の上に乗せられている、随分長く感じたが途中で眠っていたので、正しい距離は分からない。

分かっている事は只一つ、誘拐犯の正体だけだ。

 

ジジジッと寝袋が開かれた、ロープをほどかれ猿轡を外された。

 

「はぁっやっと息が出来るよ、なんて事するのキノ!」

 

そう犯人はキノである。

 

師匠の所に僕の後にやって来た女の子で、歳も多分同じ位の妹弟子だ、妹弟子とは言っても実力に差はほとんど無い、師匠に弟子入りした順番で決まっただけだ。

 

「大丈夫?なるべく揺らさない様に走って来たつもりだけど、何処か痛い?」

 

キノは心配そうに僕の背中を撫でて、怪我が無いかを確認している、キノのせいなのに

 

「キノは何で僕も連れて来たの?そろそろ旅に出るとは聞いていたけど、僕はまだ師匠の所に居るって言ったよね?」

 

キノが旅に出る事は聞いていた、僕も誘われたが旅には危険が付き物なので、もう少し自信がつくまでは師匠の所でお世話になるつもりだった。

 

何度も説得されたが、この頃は言わなくなったので諦めて一人で旅に出ると思っていたが、まさか白昼堂々拐うとはなんとも大胆な犯行だ。

 

「僕がソラから離れる訳無いでしょう?旅に出るなら一緒に決まってるよ」

 

「そんなの誰が決めたの!」

 

「僕だよ」

 

「はぁ?」

 

なんで僕の事を勝手に決めるのか、まるで意味が分からない、キノには昔からこう言う所がある。

 

死ぬまでずっと一緒、僕が死んだら一緒に死ぬ、一人にしないずっと離れない、好き愛してる、これらの言葉を一日に何回も僕に囁く。

キノは僕に対して凄まじい想いを寄せてくれる、僕が家族愛しか返さないのに、毎日愛を囁くのだ。

 

理由は多分あの事だ、師匠の家に賊が強盗に来て戦闘になった事がある、まだ人を撃つ覚悟が出来ていなかったキノが戸惑っているうちに賊に襲われた。

 

戦闘中に動きが止まるのは大変な隙になる、相手にとっては良い的だ、キノが撃たれそうになった時、僕は咄嗟に体を盾にして銃弾からキノを守った。

 

結果キノは助かり僕は大怪我を負った、勿論無茶をした事は師匠に死ぬ程叱られたが…、キノの行動が変わったのはそれからだ、僕の看病を全て一人でこなし一時も側を離れなくなった。

昔は付かず離れず、普通の弟子同士か同居人の様な丁度良い関係だったのになんで何でこんな事に…

 

「言い出したら聞かないのは知ってたけど、師匠に怒られたくないから、僕は家に戻るよ」

 

「そんなの駄目だよ、ソラは僕よりも師匠を選ぶの…?」

 

キノの目から光が無くなり涙が浮かぶ、この目になった時は僕以外の言葉は届かなくなる、未だに何が切っ掛けで光を失うのかは分からないが、仮にも家族だほっとく訳にはいかない。

 

「そんな事言って無いよ、僕はキノが一番大切だよ!」

 

僕の死んだ様な人生は師匠に拾って貰って、名前を付けて貰い新しい人生が始まった。

家族は師匠とキノで、自分自身よりもずっと大切だ。

 

「僕もソラが大切だから、一緒が良い」

 

キノは僕に抱き着いて離れない、キノの背中を撫でてゆっくりと話すそして落ち着くのを待つ、何時ものパターンだ

 

「でも、師匠にはちゃんと話して来た?」

 

僕を拐って来た位だ、多分話していないだろう

 

「…何も言わずに、出て来ちゃった」

 

「それなら師匠には話に行こう、それから旅に出ようよ」

 

「そんなの出来ないよ」

 

「何で?いくら師匠でも、頭から反対はしないと思うけど?」

 

「違うんだ…師匠のパースエイダーを、その…黙って持って来ちゃったから…」

 

キノの手の中にはカノンがあった、それは確かに師匠のパースエイダーだ。旅に出るには身を守る武器が必要不可欠だが、あの師匠の持ち物を黙って持って来るなんて、なんて恐ろしい事を。

 

「そうだね今戻ったら、確実に殺されそうだね…」

 

「だよね…」

 

はは、と掠れた声で笑うキノは遠い目をしている、このまま旅に出るしか無いのか、でも僕の用意が何も出来ていない、どうしよう。

 

「キノ、僕の荷物はどうしよう?」

 

「大丈夫だよ、ほら」

 

キノがエルメスの荷台を指差す、そこには僕の鞄が有った、抜かり無く僕の分もしっかりと用意されていた。

 

「僕の荷物だね」

 

「流石に武器は用意出来なかったけど、それ以外は完璧だから、この国で調達しようと思って」

 

「でもエルメスに二人乗りは辛いから、もう一台モトラドを用意しないと」

 

「僕は二人乗りの方が、密着出来て嬉しいけど?」

 

「旅に支障が出るでしょ!」

 

モトラドに二人乗りなんて荷物も運べない、スピードも出せない、小回りも利かなくなる、キノは頭は良いのに何でたまに、こんなになるんだろう?

 

「二人乗りで旅でもして、エルメスがパンクしたらそこで旅が終了だし、最悪死ぬかも知れない」

 

砂漠の真ん中や森の奥深く、人の居ない土地で足が無くなれば、僕なんて容易に死んでしまう

 

「僕はソラと死ねるなら、本望だよ」

 

「そう言う話をしてるんじゃないよ!」

 

キノは満面の笑みで言うが今から旅に出るのだ、心中しに行くのでは無い。何よりも怖いのはキノが本気で言っている事、僕だってキノを見殺しにする位なら一緒に死ぬが、それは最悪の場合だけだ。

 

「冗談だよ、僕はソラと一緒に生きて、足掻いて、まだ見た事の無い世界を見るんだ」

 

「それは少し惹かれるね」

 

見た事の無い世界を見る、それは好奇心が刺激される

 

「だから二人で沢山旅をしようよ。きっと綺麗な物だけじゃ無いけど、それでも何かを見つけられるよ」

 

「キノとなら、凄い物を見つけられそうだね」

 

ふふっとキノは笑い抱き着く力を強める、僕は昔からキノのお願いを断った事は無い、結局は予定調和だったのだ。

 

「何処に行くか決めてるの?」

 

「まだ何も決めてない。ソラと旅に出る事しか、考えてなかったから」

 

「それなら海が見てみたい、僕は見た事が無いから」

 

「海かぁ…僕も見てみたいな」

 

「それなら、行き先は決定だね!」

 

海は沢山の水が有ると本に書いていた、川や湖よりも大きく水が塩辛いらしい、本当だろうか?そんな物が存在するのだろうか?それを確かめに行く、楽しみになってきた。

 

「じゃあ荷物を降ろしたら、僕の武器を選びに行こうか」

 

「そうだね、僕が選んであげるよ」

 

「パースエイダーは、命を預ける旅の相棒だからね。キノに選んで貰うなら、安心かな」

 

キノはムッとした表情で睨んでくる、何か悪い事を言っただろうか?

 

「ソラの命は僕に預けてよ!それに相棒も僕でしょ?」

 

僕の事になると、何でも無い事にまで嫉妬する、それが少し嬉しくもあり、心配にもなる。

他人や物にも嫉妬する、僕なんかの事をこんなに好きなのはキノだけだろう。

 

「ごめんね、相棒のキノに命を預けるよ」

 

「うん!しっかり預かるから、僕の命も預けるよ。死ぬまで…死んでからもよろしくね」

 

にっこり笑うキノは毎回言葉が重たい、だが僕の事を真剣に考えてくれるのは師匠以外はキノしか居ない。

 

「ソラは、命に変えても守るから」

 

「僕はキノを命に変えても守るから、ずっと二人は死なないね」

 

「ありがとう、でも僕を守ってソラが死ぬ事は許さないよ、二人で生きて行くんだ」

 

「素敵な物を、沢山見つけようね」

 

二人で笑い合うとそれだけで幸せだ、この幸せを守る為に死なない様に、そして死なせない様にしないと、その為に先ずは武器の入手から始めないと。

 

これからは二人で生きて行く、きっと何かを見つけるんだ。




主人公

ソラ

キノと同じ位の年齢、実力も同じ位
少し師匠の所に来るのが早かった為、兄弟子
慎重で自信が無い
一人称が僕でキノのセリフと分かりずらい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雨の日の暇潰し キノ エルメス

おや…エルメスの様子が?
AorB連打

擬人化スキー


「ねえ、エルメスどうしようか?」

 

「残念だけど、どうしようも無いよね」

 

「キノって昔はもう少し、クールって言うか冷静だったよね」

 

「今のキノも好きだけど、大変だよね…ソラが」

 

「僕もキノが好きだよ。

でも、もう少し僕に対しての執着を減らして欲しいかな」

 

二人でため息を吐く、どうしようも無い事を愚痴りたくなる時もある。

そんな時はエルメスが良き話し相手になってくれる

 

「ありがとうエルメス、少し心のモヤモヤを吐き出せたよ」

 

「ぼくも、話せて楽しかったよ」

 

「お礼に今度、ボディを磨かせてね」

 

「やったー!だからソラって大好きなんだ!」

 

「僕もエルメスが大好きだよ」

 

エルメスと話していると、兄弟で話している様な気分になる、だからついつい話しかけてしまう。

エルメスも大好きな家族だ。

 

「ソラのモトラドは、話せないんだね」

 

「そうみたいだね、意識とかは有るのかな?」

 

「反応を見ていると無いみたいだね、残念」

 

「エルメスの友達にと思ったのにね」

 

「ねー」

 

僕のモトラドは、話さないのが残念だった。

この国は雨が多く、僕は留守番を言いつけられキノは買い出しだ。

暇な部屋の中でする事は、毎日のトレーニングがあったが、それも早々に終わってもうする事もない。

 

「エルメス暇だね」

 

「暇だね、でもソラと暇するのも好きだよ」

 

「僕もエルメスと、のんびりするの好きだよ」

 

「ぼくも好きー」

 

ボーッとしたままとりとめの無い会話をする。

そしてまた暇になる、そうだ前から気になっていた事があった

 

「エルメスって男の子?女の子?」

 

「へ?モトラドだよ?」

 

「モトラドだけど、性別は無いの?」

 

「乗り物に性別は無いよ」

 

「エルメスの気持ち的にはどっち?」

 

「ぼくの気持ち?」

 

たとえ無機物で性別は無くとも、男女どちらの方が良いかの希望はあると思う。

 

「男の子が良いとか、女の子が良いとか無い?」

 

「うーんそうだねぇ…例えばの話をするよ。

ぼくが人間だったら、ソラはどっちの方が良いかな?」

 

モトラドとしてのエルメスは、今まで友達の様な気安い関係だった。

もしもエルメスが人間だったらか…男の子だとすると。

 

「男だったら、兄弟みたいになれるかな」

 

「今と変わらないね」

 

「そうだね、女だったらうーん、付き合ったり結婚とか?」

 

女性としか出来ない事を言ってみる、エルメスが女性ならこんなに気の合う人は他に居ない。

 

「へ?ぼくとソラがそうなるの?」

 

「女と男にしか出来ない事が、この位しか思い付かなくて」

 

「ふーん、ぼくとソラが結婚…結婚かぁ」

 

「エルメスが、人間だったら良かったのにな」

 

「ソラはぼくが人間だと、嬉しい?」

 

「一緒に出来る事が増えるからね、嬉しいよ」

 

今まではモトラドの入れない所はお留守番してもらっていたが、人間なら色んな物を一緒に見られる。

 

「そっかそっか、へへっ」

 

エルメスは嬉しそうに笑っている、本当に人間だったら良かったのに。

部屋のドアから、がちゃりと音がしたキノが帰って来た

 

「ただいま、ソラとエルメス今帰ったよ」

 

「おかえりキノ」

 

「おかえりー」

 

キノは両手に荷物と、食べ物を持っていた

荷物を受け取り端に寄せる

 

「キノなに食べてるの?」

 

「これ?チョコバナナって言って、バナナにチョコをつけて固めたお菓子だよ」

 

「へー珍しいね、初めて見たよ」

 

「甘くて美味しいよ、一口どう?」

 

「良いの?なら一口」

 

受け取ろうとした手を避けられる、何だろう?と思っているとチョコバナナを差し出された

 

「あーんだよ」

 

「ああ…あーん」

 

一口貰うと確かに美味しい、初めて食べたが世界には自分の知らない美味しい食べ物が沢山有る。

それを見つけるのも、旅の醍醐味の一つだと思う。

 

「美味しいよ、ありがとう」

 

「僕も美味しいから良いよ、こっちこそありがとう」

 

…ん?僕も美味しいって、どう言う事だろう?意味が分からない。

キノは残りのチョコバナナを、大切に味わって食べていた。

 

「うんっ美味しかった」

 

食べ終えたキノは、ぽいっとごみ箱に串を捨ている

 

「キノのへんたーい」

 

「役得だよ」

 

エルメスは美味しいや役得の意味がわかったのかな?

 

「僕、手を洗ってくるね」

 

キノは手に付いたチョコレートを洗うために洗面所に向かった。

部屋には僕とエルメスだけになる。

 

「エルメスは、美味しいの意味がわかったの?」

 

「え!あ…うん」

 

「良かったら僕にも教えてくれる?さっぱり意味が分からなくって」

 

「え~と…その、そう!チョコバナナが美味しかったんだよ!」

 

「それで変態になるの?」

 

「キノの食べる速度が、変態的に早いって意味だよ!」

 

「へー!そうなんだ、ありがとうエルメス

やっと理解出来たよ!」

 

「お役に立てて何よりだよ…ははは」

 

何だろう、何で渇いた笑いをしてるんだろう、変なエルメス。

 

「ソラお留守番ありがとう」

 

「どういたしまして、キノは買い出しありがとう」

 

「どういたしまして」

 

お互いに笑い合う、キノとエルメスとはとても仲良しだ、旅に出てからもそれは変わらない。

 

「キノ、雨には濡れなかった?」

 

「大丈夫だけど、少し体が冷えたかな」

 

「大変!風邪引いてない?早く温かくしないと。」

 

「それなら、えいっ」

 

キノが僕の膝に乗る、同じ位の体格なので辛い

僕がそう思っているとキノは僕の足を開いてスポッと間に入り込む。

うむ落ち着いた

キノに手を引かれ、後ろから抱き締める形になる。

 

「暖かいな、ソラありがとう」

 

「えーと…?どういたしまして?」

 

キノがした事にお礼を言われても、一応返事はしたけど

 

二人でぎゅうぎゅうくっ付いて居ると、確かに暖かい。

けれどキノは少し体が冷えている、抱き締める力を強めて二人の隙間を埋めて更にぴったりくっ付く。

 

「ねぇソラ?」

 

「なに?キノ」

 

「僕は、今とっても幸せだよ。

この時間がずっと続けば良いと思う位にね…」

 

「そうだね、幸せってこんな感じなんだね」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「うん!こんな感じかな」

 

夜中に1人鏡の前で呟く、中々に上手く出来た

キノよりも身長と胸が大きい何故かは分からない。

多分キノや荷物を乗せるから大きいのかも知れない。

 

髪は長い黒髪を後で結び、瞳はモトラトの時の様に光って見える。

 

「もう少し上手く出来たら、見せたいな。

早く見せて驚かせたいよ」

 

エルメスは機械のような脚を見るとため息を吐いた

 

「後は脚だけだしもう少しだよね、待っててねキノとソラ」

 

エルメスは眠る二人の額にキスをして再びモトラトに戻る。

 

「ふふっ驚いた顔が楽しみだなぁ、ふわぁ~もう寝よう。

お休み二人ともよい夢を」




お願いします擬人化を下さい

エルメスの美少女擬人化を、あっ男の娘でも可
エルメスとキノに主人公を取り合って欲しい
仲良しの友達系ヒロインのエルメス、めっちゃ欲しい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

見つけた話 フォト

フォトちゃんのif話

ソウが話し掛ける直前に、駆け付けた主人公です



モトラドで霧のかかる山の上を走る、こんな所危なくて通りたくないが、此処しか道が無いので仕方ない。

 

山の中を暫く進んでいると大きな乗り物が見えた、ここで他の人達に出会うなんて珍しいな

 

近づいて行くと異様な光景に絶句した、食事をしていたであろう机の周りに人が沢山死んでいる、他にも所々死体があった。

 

モトラドを止めて近付く

 

「なんだ…これ」

 

あまりの事に固まるが、死体を見ると皆苦しんだ痕がある。皿の中を覗くと、この辺に生えている植物を食べた形跡があった。

 

「あれを食べたのか…この辺の物には毒があると知らなかったのか?」

 

なんて不幸な事故なんだ、全員が死んでいる

取り敢えず一ヶ所に死体を集めて埋葬しよう、動物に食い荒らされては可哀想だ。

 

ひとまず遠くにある死体を机の周りに集めよう

座ったままの女の子の死体に近付くと、なんと一人だけ生き残りが居た。

 

「大丈夫か!君は毒草を食べなかったのか!」

 

女の子はゆっくりとこちらを振り向く、ぼんやりしている様だか大丈夫だろうか?

 

「…あ」

 

女の子の顔には涙の後や、痣や傷が沢山あった

よく見ると服もぼろぼろで怪我だらけだ、髪の毛もぼさぼさで随分酷い扱いを受けていたみたいだ。

肩を掴んで支えるとグラッと体がこちらに傾いた

 

「うぅ…あぁあ!」

 

女の子はそのまま大声で泣き始め、今までの事をポロポロと話し始めた

 

なんと言うこと、奴隷なんてそんな酷い事が…この辺の国では考えられ無いが、他の国にはあるのだろう。

背中を擦り泣き止むまでじっと待った

 

「あの…ごめんなさい、もう大丈夫です」

 

「本当に大丈夫かい?」

 

「はい」

 

腕の中からこちらを見上げる女の子は、先程よりは幾分ましな表情をしていた。

 

「君は怪我をしているね、手当をしよう」

 

「そんな…私なんかに、貴重なお薬を使わないで下さい。勿体ないです」

 

「薬は使う為にあるんだよ、怪我人に使わないで他に何時使うの?」

 

頭を撫でると驚いた様にこちらを見る

 

「それに君は、なんかじゃ無いよ。勿体なくなんか無い」

 

「あ…」

 

ベルトのポーチから薬を取り出し、手当をしていく。

顔の大きな痣は、治るのに少し時間がかかるかも知れない

他の手当を終え、顔の痣をよく見る。

 

「ごめんね、顔の痣は今は治せ無いみたいだ」

 

「…え?」

 

「女の子なのに辛いかも知れないが、治るのに少し時間がいるみたいでね」

 

「何故貴方が謝るのですか?」

 

「もう少し良い薬が有れば…治りが早かったかも知れないから。持ってなくてごめんね」

 

ケチらずにもっと良い薬を買えば良かった。

値段が少し高くて買うのを止めてしまったが、あの薬が有ればこの子が少しでも早く治ったかも知れない。

 

「…いいえ」

 

女の子は私の手を両手で握り、胸に抱き締めた

 

「謝らないで下さい。私は産まれて初めて、他人にこんなにも親切にして貰えました」

 

「初めて?」

 

「はい、とても感謝しています」

 

嬉しそうに笑っているが、辛い人生を歩んで来たのか

 

「君はこれからどうするの?」

 

「…それは」

 

女の子が言い淀むと、トラックの方から声が聞こえて来た

何やら女の子を呼んでいる様だったので、その間に私は死体を片付ける事にした。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

女の子を呼んでいたのはモトラドだった様で、少し話があるらしく、モトラドの指示で私はトラックの中の金目の物をもう一つのトラックに移しておく。

これは後で女の子の為になるらしい、それなら頑張ろう。

 

日が落ち辺りも暗くなった頃、荷物の積み替えは終わった。

モトラドの話も終わった様で、女の子が私を呼びに来た。

 

「私の為にありがとうごさいます、大変でしたよね?」

 

「大丈夫だよ、女の子の為に頑張れない男なんて、格好悪いからね」

 

「兄さん言うじゃねえかよ!」

 

「ありがとう、モトラド君」

 

少々口の悪いモトラド君は女の子を助けてくれる様だった、行き先は分からないらしく、私の行く先を聞いて来た。

 

「私はこの先にある、大きな国に行く途中だね」

 

「そこはどんな国なんだ?」

 

「一言で言うと平和だね、のどかでのんびりした国民性と、治安の良い国だ」

 

「欠点は?」

 

「少し文化が遅れている…かな、都会と言うよりは田舎で、欠点はそれぐらいだよ」

 

「ほーん、良い所じゃねえか。おいっお前!」

 

「はっはい」

 

「こいつの言う国に行けよ、平和な国らしいぜ?」

 

「でも…」

 

「あーもうっ、うじうじしてんな!そこの兄さん、こいつも連れて行ってくれないか?」

 

モトラド君の言う通り連れて行っても良いけれど、本人の了承が無いと、無理矢理は駄目だ。

 

「私は良いけれど、君は行きたいのかい?」

 

「私…私は…一緒に行きたいです!」

 

「よし!良く言った。トラックの運転を教えてやるから、ちゃんと着いて行くんだぞ?勿論俺も連れて行けよ!」

 

「分かった、道案内は任せてね」

 

「はっはい!頑張ります」

 

…………………………………………………

 

その後トラックを運転して国に着いた彼女は止めるモトラド君の反対を押し切り、門番に全てを正直に話した。

 

その結果何と彼女は国に受け入れられ、荷物を売ってある程度の財産を築いた。

しかし彼女は働きたいらしく、売らずに取って置いたカメラを使って商売を始めた。

 

彼女の写真は評判が良く、何時しか彼女はフォトと呼ばれる様になった。

 

モトラドのソウ君とフォトちゃんは良いコンビで、互いに支え合って生きている。

 

私はと言うと…

 

「フォトちゃん、私はもう行こうと思うんだが…」

 

そう言って立ち上がろうとすると、飛んで来たフォトちゃんに止められる。

 

「駄目です!あーえっとそう!今日の仕事も手伝って貰いたくて!」

 

明らかに今思い付いた嘘で、私を引き留めにかかる。

実はフォトちゃんがこの国で暮らし始めてから、もう数ヶ月は経っている。

 

「兄さん諦めな、フォトはしつけーぞ」

 

「…ははっ」

 

私は苦笑いしか出来ない、何故なら確かにしつこいからだ。

私はフォトちゃんがこの国に馴れてきた頃、そろそろ良いかと自分の旅に戻ろうとした時の事。

 

フォトちゃんは泣いて喚いて引き留め、時にパニックを起こし、最初は大変だった。

今では、適当な用事で引き留める手段を覚えたみたいで、ここ数ヶ月しつこく引き留め続けられている。

 

「そろそろ旅に出たくてね」

 

「私を置いて行っちゃうんですか?」

 

「この国に案内するまでの約束だったからね。もうこの国にしっかり馴染んだ様だし、私は大分長居してしまったよ」

 

本当は様子を見て一週間も居ない予定だった、それがズルズルと引き留められ早数ヶ月。

 

「そうですか…」

 

フォトちゃんは何故か、家の鍵とカーテンを閉める。

 

「私、言って無かった事が有るんです」

 

「何だい?」

 

「出会ったあの日から、貴方を離さないと決めていたんです」

 

「え?」

 

この子は何を言っているんだろう?

 

「貴方に会えたから、やっぱり人は良い心を持っていると信じられたんです。

辛い事もありましたが、貴方との出合いで信じ続けて良かったと思えたんです」

 

「…フォトちゃん」

 

「私は貴方を離しません。もうこの世界で心から信じられる人は貴方だけなんです。貴方が欲しいんです、貴方と居ると安心出来るんです、だから…」

 

そこまで私の事を…

 

「嫌がっても離しません、一生一緒に居て貰います。

旅に出れない不自由をさせる代わりに、私が何でもしますから、全てのお世話もします、欲しい物があればなんでも手に入れて来ます。」

 

ん?話の流れが可笑しくないか?

 

「貴方のお世話を全て任せて下さいね、満足させますから。…それで最終的には子供も…」

 

最後にボソッと子供とか聞こえたけれど、お世話の先には子供が出来るのか?

 

「私は貴方が好きです、愛しています、信じています。」

 

「フォトちゃん、私は君の事は妹の様に可愛がっているが、それ以上の感情は無いんだ…すまない」

 

はっきり言ってしまって、傷付けてしまったかな

だがフォトちゃんはけろっとしている、全くどうじていない。

 

「そうですか、これから好きになって貰うので、大丈夫ですよ」

 

「え?」

 

「一緒に生活していれば、愛が芽生える様にしますから大丈夫です」

 

怖い、芽生える様にするって何をどうされるんだ。

逃がさないと言われたが、私は不味い状況なのじゃないかと今さら気付いた。

 

「大丈夫です、大丈夫です、全て私に任せて下さい。幸せな未来が待っていますよ」

 

フォトちゃんの言葉が怖い、これ程までに安心出来ない大丈夫は無い。

私はこれからどうなってしまうのか、フォトちゃんの暗い笑顔に不安が募る。

 

私は一体何処で選択を間違えたのだろう?

もう逃げられない気がする。




BADEND

主人公はこの後きっちりと、フォトちゃんに幸せにされます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

旅立つキノを忘れない

今まで旅してきた国で、キノに惚れた人が絶対いるはず


前の国を出て一時間程たった頃、唐突にエルメスが言い出した。

 

「…キノ気づいてる?」

 

「ん?」

 

「またまたぁ~」

 

「ふぅ、勿論気づいてるよ」

 

キノはため息混じりに返事をした。

 

「もう一時間も付いてきてるよ?止まって話を聞いてあげたら?」

 

「…う~ん、そうだね何時までもこのままって訳にもいかないだろうし」

 

キノはチラッと後方を確認すると、自分達の後を同じ様に砂煙を上げながら付いてくるモトラドがあった。

 

「何かあったらよろしくね、エルメス」

 

「はいはい、後で穴は塞いでね」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

後方からまだ見知らぬモトラドが付いてくるのを確認すると、キノはエルメスを路肩に止める。

 

暫くしてキノたちに追い付いたモトラドも同じ様に、路肩に停車した。

 

「あぁやっと追い付いた、こんにちは旅人さん」

 

「こんにちは」

 

キノは後ろ手にパースエイダーの存在を確認し、何時でも抜ける状態にし、ジリッと一定の距離を取る。

 

「あ、そんなに警戒しないで下さい」

 

そう言われてもキノは警戒体制を解かないまま相手を観察する、一見何処にでも居そうな旅人だ。

身長はごく一般的な成人男性位、顔は優しげに垂れた目元が特徴的と言える男性だった。

しかし人は見かけに寄らない、旅をしてきて学んだ事の一つだ。

 

「そう言っても簡単には警戒を解いて貰えませんか…」

 

「すみません、まだ貴方の事を全く知りませんので。

前の国から僕の後をついて来ていた様子ですが、僕に何か用事でしょうか?」

 

キノは男性と距離を保ったまま、会話を続ける。

 

「先ずは自己紹介させていただきます、私は旅人のセイと申します」

 

「僕はキノです」

 

「やっぱりキノさんでしたか、前の国で落とし物をしませんでしたか?」

 

「やっぱり?落とし物?」

 

「はい、前の国でキノさんの落とし物を拾ってから、ずっと追い掛けて来ていたんです。」

 

そう言ってセイはキノに落とし物を差し出す、それは綺麗に畳まれたハンカチだった。

 

キノは呆気にとられた、たったこれだけを渡すためにずっと後を追って来てくれていたのかと。

 

「はい、どうぞ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

キノは警戒を解きセイから落とし物を受け取る。

 

「セイさんはどうして、ボクを追い掛けて来てくれたんですか?国を出てまで追い掛けるのは大変だったでしょう?」

 

「建前はキノさんが落とした所を見た事ですね」

 

「建前ですか…では本音を聞いても?」

 

「それはですね…」

 

セイはごくりと唾を飲み込む、キノはそれを見て何時でも動ける様に警戒体制に入る。

 

「昔私の国に、キノさんがいらっしゃったんですよ」

 

「それは…」

 

キノはビクッと震えると、腰からパースエイダーを外す。

 

「ええ、キノさんは貴女ではありませんでした」

 

「貴方は、それを知ってどうするつもりですか」

 

キノはセイに向けて、パースエイダーを構える。

 

「まっ待って下さい、私はキノさんの事を他の人に話すつもりは有りません。

ただ…」

 

「ただ、何ですか僕を脅すつもりですか」

 

ジリジリとセイから距離を取る。

 

「ただ話が聞きたいだけなんだ」

 

「へ?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「成る程僕がキノに成った理由や、キノとして旅してきた話を聞いてみたいとそう言う訳ですか」

 

キノはパースエイダーを腰に仕舞い、セイとの距離を詰める。

 

「そうです、私が会ったキノさんは年上の男性でした。

それがいつの間にか、また出会ったキノさんは可愛らしい女の子になっていました」

 

セイは心底不思議そうに首を傾げている。

 

「一体キノさんに何があったのか、なぜ貴女がキノさんとして旅しているのか…」

 

「…キノはもう居ません、僕がキノに成った理由…」

 

キノが俯き、言いにくそうに黙ってしまう。

 

「言いにくい話なら良いんです、それなら今までの旅の話を聞きたいです」

 

「それなら、大丈夫ですけど。

貴方はキノについて、何処まで知っているんですか?」

 

「私が国に居たときに声をかけて貰って、滞在期間中に遊んで貰っていただけだよ」

 

「大体僕と同じですね」

 

ふむふむとキノが納得する、昔のキノはどうやら子供好きだったのかも知れない。

 

「ついては、キノさんの旅について行きたいんです」

 

「へ?」

 

「どうやら私が目指していたキノさんは、もう居ない様ですし。

今のキノさんの貴女に着いていきたいんです」

 

「キノを目指していた?」

 

「はい、私の旅の目的はキノさんに追い付く事でした。」

 

「追い付いて、どうするつもりだったんですか?」

 

「そこまでは考えていませんでした。ですからもう居ないキノさんより、今目の前に居るキノさんに着いていきたいんです」

 

「成る程旅の目標をキノにしていたんですね、分かりました。

自分の事を自分でするのなら付いてきても構いません」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

そこで今まで黙っていたエルメスが、こっそりとキノに話しかける。

 

「キノ良いの?」

 

「良いよ、自分の事に自分で責任がもてるのなら。

それに、僕も知らないキノの話が聞けるかも知れないし」

 

「キノが良いなら何も言う事は無いよ、それにしてもキノ気付いてる?」

 

「?何に気が付くのさ、エルメス」

 

エルメスは楽しそうに話し出す。

 

「セイと話している時のキノは何処と無く、楽しそうだし顔も少し赤いような…」

 

「へ?!そんな事無いよ、何時も通りだよ」

 

「確かにセイはわざわざハンカチを届けてくれたし、優しげに見えるしね」

 

「…確かに優しそうには見えるけど」

 

「まあ旅のお供としては、十分なんじゃないの?」

 

「そうだよ、一緒に旅するだけの関係だよ!」

 

「二人の関係については聞いてないのに?」

 

「うぐぐ」

 

キノとエルメスに後ろからセイが話しかける。

 

「キノさん」

 

「は、はい何ですか?」

 

「これから、旅の仲間としてよろしくお願いします」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」

 

 




セイと言う名前に聞き覚えがある人も居るはず。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

僕だけの人 キノ

ちょびっツに私だけの人ってありましたよね


背後からカチャリと引き金を引く音がする、その音に何故こんな事になったのだろうかと空を仰ぎ見た。

 

・・・・・・・・・・・・・

 

「旅人さん今日は何処に行くんですか?」

 

この国に入ってから仲良くなったキノさんに話しかけられる。

キノさんも旅人らしく昨日からこの国に居るとの事、一つの国には原則3日しか居ないらしく、出会えたのは運が良かったと言えるのでは無いだろうか。

 

「今日はね、手持ちの食料や弾の残りが少なくなってきたから、そろそろ補充に行こうと思ってね」

 

「それなら僕も丁度少なくなっていた所でしたので、一緒に行っても良いですか?

これでも目利きには自信が有るんですよ」

 

「勿論だよ、誰かと買い物なんて久しぶりで嬉しいな」

 

「僕もですよ、そう言って貰えて安心しました」

 

安心と言う言葉に引っ掛かりを覚えたが、そこまで気にする程では無いと話を流す、この時に気付いて居れば何かが変わったのかも知れない。

 

・・・・・・・・・・・・・

 

「ねえキノ、あの旅人さんがターゲットの人…だよね?」

 

「そうみたいだね、確か明日彼と依頼者の彼女を運命的に出逢わせれば良いんだよね」

 

「そうだね、でも運命的って?」

 

「えっと確かこの紙に…」

 

キノが懐から一枚の紙を取り出すとそこにはびっしりと文字が書かれていた。

紙の枚数は数枚あり依頼内容の他にも、彼がいかに素晴らしいか、どんなに好きか、出会い方を妄想混じりに事細かに説明する文が並んでいた。

 

「うわぁキノそれ全部読んだの?こう言っちゃ何だけど、依頼者の彼女本当に大丈夫な人なの?」

 

「エルメス…僕も少し心配になってきた所なんだよ。

依頼書は一応全部読んだんだけど…読めば読むほど妄想まみれで、話したことも無ければ出会ったのはなんと昨日だって」

 

「それって…」

 

「うん…依頼を受けた事を後悔してきたよ、出会ったって言っても一方的に見かけただけみたいだし」

 

「もしかしてそれって、ストールってやつじゃ無いの?」

 

「…ストーカー?」

 

「そうそれっストーカー!っでキノはどうするの?」

 

「…取り敢えず、この世界で一番の素敵な人に接触してみるよ」

 

キノはヒラヒラと依頼書を振りながらエルメスとの会話を切り上げた。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

ターゲットに接触すると今日はホテルへと戻る。

旅人さんと話してから暫く経つのに、胸のドキドキも顔の赤みもぜんぜん取れない。

 

「ねぇエルメス、駄目かな」

 

「キノ絶対駄目だよ、依頼は絶対だよっ!」

 

「まだ何を、か言ってないよ?」

 

まだ何も、誰の事かも言っていないのに。

 

「見てたから分かるよ、こんなキノ初めてだもん。

旅人さんが、好きになったんじゃないの?」

 

「ぐぬぅ…当たりだよ」

 

「依頼はどうするのさ?依頼人の運命の人なんでしょ?」

 

「ほら言うでしょ?恋は戦争だって、恋は初めてだけど…」

 

「戦闘なら得意だもんね、何か策は有るの?」

 

「そう言うこと、勝負は明日だよ」

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

ある人通りの少ない、道を歩いていた。

この後はキノさんと買い物に行く予定だ。

 

「旅人さん…!」

 

キノさんかと思い振り返ると、全く知らない女性が立っていた。

 

「え?貴女は?」

 

「聞いているでしょう、私が貴方の運命の人なんです。だから一緒に行きましょう」

 

聞いている?誰から?それに運命の人とは、どういう事なんだろうか?

この女性は一見普通に見えて、目が怖い下手に刺激すると刺されそうだ。

その証拠に手には何かが握られていた。

 

「一緒に何処に行くんですか?」

 

「愛する二人が行くのは、教会に決まってるじゃ無いですか!」

 

ジリジリと距離を詰められる、どうしようと思って居ると、後ろから誰かの声が聞こえた。

 

「大丈夫ですか?!旅人さん!」

 

背後からカチャリと引き金を引く音がする、キノさんだ!

 

「助けてください!」

 

「なんで…」

 

キノさんは女性に向かって走って行って、何かを話している。

 

「ここは引いて下さい、これも作戦の内です」

 

「ちゃんと作戦は進んで居るの?」

 

「全て完璧ですよ」

 

話を聞いた女性が走って去っていった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「旅人さん!大丈夫ですか?怪我は有りませんか

まさかあんな大胆な行動に出るなんて、思いませんでした」

 

「キノさんはあの女性が誰か、知っているんですか!」

 

「妄想癖のある女性で、旅人さんが運命の人と思い込んで居るんです」

 

「妄想癖…」

 

「又明日、ここに旅人さんを連れてくると約束して、帰って貰いました」

 

「そんな…あの女性とまた会うなんて…」

 

「大丈夫です、今からこの国を出ます。

僕が準備を済ませてますので、一緒に出ましょう」

 

「キノさん…!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

何とか国の外までキノさんに連れてきて貰い、事の経緯を聞いた。

なんと、危うく罠に嵌められる所で助けられたみたいだ。

 

「有り難うございます、キノさん」

 

「いえいえ、偶々偶然ですよ」

 

「ここまで国から離れれば大丈夫ですね、それでは有り難うございます。

ここからは各々の目的地に向かいましょうか?」

 

「え!えーと僕は、目的地の無い旅をしているんです。

だから旅人さんと一緒に、旅をしても良いですか?」

 

何かを考えていたキノさんは、唐突にそう言い出した。

 

「キノさん?どういう事ですか?」

 

「貴方はどうやら騙されやすい様ですので、僕が護衛として旅の仲間になります。

また今回の事の様な事になっては、困りますからね」

 

「あはは、申し訳無い。そうだね出来れば一緒に来てもらえると助かりますよ」

 

「はい!」

 

キノさんは眩しい笑顔で答えてくれた。

 

・・・・・・・・・・・・・

 

「キノよかったの?」

 

「良かったも何も、ふふっ全てが順調だよ。

もうすぐで旅人さんが手に入るだろうね、一緒に旅をすればチャンスも多い、旅人さんに振り向いてもらうんだ」

 

「うわぁ、キノ悪い顔してるよ」

 

「こんなに胸が熱くて、ドキドキしてるこれは愛だね。

後はもう両思いになれば、ハッピーエンドだよ」

 

ニヤリとほくそ笑むキノの頭の中には、旅人さんとの幸せな未来の妄想が繰り広げられていた。

それが実現するのは、きっとほんの少しあとの事である。




主人公=旅人さん、普通の話さないモトラドと旅をする

キノ=旅人さん大好き、ヤンデレから旅人さんを救うも結局キノ自身もヤンデレ
依頼を受ける振りをして、旅人さんを持ち逃げ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

地獄少女
堕とし者 閻魔あい


動物の死ぬ描写が出て来ます、注意です
ヤンデレのあいちゃんに、魂を囚われたい
呆然とした主人公を後ろから抱き締めるあいちゃんが見たい、ので書いた。


深夜のベッドの中、ふと目が覚める

部屋は暗闇に包まれ、カーテンの隙間から僅かな月明かりだけが差し込む。

 

暗闇に目を凝らし部屋の中をよく見ると、ぼんやりと人影が見えてくる、夜の闇に紛れる様に更に深い黒がそこに立って居た。

しかし僕がその存在に怯える事は無い。

もうどの位前だったか気が付いた時からそこに居て、ただ僕を見ているのだ。

 

その表情までは伺えないが、黒い着物を着た長い髪の少女であるのは分かる

毎晩僕の部屋の隅に立ちじっと僕を見つめる、たまに僕に手を伸ばしては戸惑う様に引っ込める、何年もそれの繰り返しだった。

 

もしかしたら彼女は幽霊と言う物なのかも知れない、けれど噂で聞く様なおぞましさや、恐怖は一度として感じない、初めの頃は驚きはしたがもう慣れて受け入れてしまっている。

 

彼女がまた僕に手を伸ばす、今日は気まぐれにこちらからも手を伸ばしてみた、これで何かが変わるかも知れない、そんな少しの好奇心からの行動だった。

 

僕の伸ばした手を見て彼女の動きが止まる、こんな事をした所で何の意味も無いのかも知れない、手を引っ込め様として彼女に変化がある事に気が付いた。

 

ゆっくりとベッドに向かって歩いて来る、何年も変化が無かった彼女が初めての行動を見せた、驚いて固まると彼女はもうすぐそばに来ていた。

 

顔がはっきりと見える、美しい人形の様な顔だ。

血のように赤い目と美しく長い黒髪、黒い着物を着た少女が僕の手を握っていた。

 

「あ…君は誰?」

 

戸惑いで一言話すだけで精一杯だ

 

「私の名前は…閻魔あい」

 

両手で僕の手を握り、静かな声で話す

 

「閻魔あい、君は僕に何か用事があるの?」

 

「私は…貴方を見ていただけ、触れたかっただけ」

 

「何故?」

 

「貴方の存在が気になったから…見たから」

 

「何を見たの?」

 

「貴方が道路で倒れていた、死にかけの子猫を看取った所を」

 

「それはもう、十年以上前の事だけど…」

 

忘れた事は無い深い後悔の記憶。

そんなに昔から僕を見ていたのか、部屋に現れる前から見られていた事になる。

 

「私は見ていたの、あの小さな命が終わるのを。

あの子は産まれてからずっと1人で、死ぬ間際にやっと貴方の暖かさに触れたの、初めて他人の暖かさを知ったのよ」

 

「でも…僕は助けてあげられなかった、あの子は死んでしまったんだ」

 

「違うわ…あの子は救われたのよ、あのまま死んでいたら世を恨んで憎しみに囚われ、地獄にしか行けない所だったの」

 

「地獄なんて…そんな」

 

1人で生きて死んで地獄行きなんて、あんまりじゃないか。

 

「あの子は最後に貴方の腕に抱かれ、撫でられ、産まれて初めて心から安らげたの。お墓を作って貰って、悲しんで泣いて貰って満足出来たのよ」

 

「あの子を救いたかった、生きて欲しかった」

 

思い返すと後悔が溢れ出してくる、もう少し早く気付いていたら、あの子は生きられたかも知れない

涙がこぼれて止まらない

 

「あの子はもう助からなかったの、けれど魂は救われたわ。

他の人間が、汚らわしいゴミを見る様な目で見て避けて通って行くなかで、貴方だけが手を伸ばしたの」

 

優しく目元を拭われる、彼女の言葉は僕を慰めてくれている

 

「私は貴方の魂に惹かれたの、だからずっと見ていた。

触れる事に戸惑っていたけれど、貴方から私に手を差し伸べてくれた。あの子にした様に…ね」

 

彼女はうっすらと微笑み、優しく僕を撫でる

 

「あの子、次は幸せに産まれると良いな」

 

「ええ綺麗な魂になれたもの、きっと幸せになれるわ」

 

遠い何処かを見て話す彼女には、あの子の行く末が見えているのだろう。

 

 

「貴方はきっと地獄には来ない、だから生きている間だけしか会えないの」

 

「君は…一体?」

 

「私は地獄少女、閻魔あい。人間の怨みを地獄に流す者よ」

 

「地獄少女」

 

聞いた事はあった、なんでも午前0時丁度にネットに繋ぐと、ごく稀に地獄少女が怨みを聞き届けてくれるらしい。

だが都市伝説の筈だ、それが今目の前に居る

 

「本当に存在したのか」

 

「私は人間が存在する限り必要なの、人間が存在する限り怨みは尽きないのだから…」

 

「君は…君は…」

 

「あい、私はあいよ」

 

「あい、君が救われる時は来るの?」

 

「それは分からないわ、何時かは終るといいわね」

 

「僕には救えないのかな…」

 

「人間には無理ね、けれど貴方はやっぱり手を差し伸べてくれる。それだけで私の心が満たされるの」

 

彼女の手がスルッと離れる、そのまま薄く笑い暗闇に消えていく

 

「また会いに来るわ。

貴方の命が尽きるその時まで…ずっと…ずっと」

 

「またね」

 

僕が手を振ると笑みを濃くして消えた、幻の様な彼女はそこに居た事さえもすぐに曖昧になる、しかし手に残る彼女の体温が存在を証明していた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「私を呼んだのは貴女?」

 

「ええ私よっ、あんたが地獄少女なのね!

それならさっさと、あいつを地獄に送ってよ!」

 

藁人形を差し出すと、女は気味悪そうに見て来る

 

「なによそれ、気持ち悪いわね」

 

「相手を地獄に送りたければ、その赤い糸を解けば良い」

 

女は早速糸に指をかけ、解こうとする

 

「人を呪わば穴二つ、相手を地獄に送った後は貴女も地獄に行って貰うわ…死んだ後の話だけどね」

 

「何よ!なんであんな奴の為にこの私が地獄に行かないといけないのよ!

あんたがなんとかしなさいよ!」

 

「無理ね地獄に送るか、諦めるか二つに一つよ」

 

「なんなのよ!本当に使えない奴ばっかり!」

 

「選ぶのは貴女よ、よく考えて選択するといいわ」

 

彼女の前から去ろうとすると、呼び止められる

 

「待ちなさいよ、私は他のグズ共とは違うわ!

あいつがこの世から居なくなってくれるなら、喜んで地獄に行ってやるわよ!」

 

藁人形から赤い糸を勢い良く引き抜く、手の中から藁人形と糸が消える

 

「は?なに…?」

 

「怨み聞き届けたり…」

 

何処からともなく声が聞こえ、振り向くも誰も居ない。前に向き直ると地獄少女も消えていた

 

「ふふっ、あっはは、やっぱり世の中私の思い通りなのよ!目障りな偽善者は居なくなれば良いわ!」

 

狂った様に笑い続ける女の胸には、いつの間にか何かの模様が浮かび上がるが、女はまだ気が付かなかった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

無意識にぎゅっと握り締めていた手を開かれる

 

「お嬢、そんなに力を入れてちゃ血が出ちゃうわよ?」

 

「そうね」

 

「そうねって…それならそっちの手も開きなさいよ」

 

言われて気が付く、手のひらに爪が食い込んでいた

 

「お嬢、連れて来ましたぜ」

 

振り向くと何時も見ていた彼が居た。

 

「あい…ちゃん?」

 

「昨日の夜ぶりかしら」

 

「ここは何処なの?この人達は誰?」

 

「少し落ち着いて?」

 

彼を縁側に座らせると、骨女がお茶を渡していた

 

「ありがとうございます」

 

「おやぁ良い子だね、ちゃんとお礼の言える子は大好きだよ」

 

頭を撫でて話している、気に入ったのかな

 

「少し二人にしてくれる?」

 

「はいよ、何かあったら呼んどくれ」

 

頷くと骨女は去っていった

 

「落ち着いた?」

 

「あっうん、大分」

 

「それなら説明を始めるわ。

ここは地獄の手前、人ならざる者の住む場所よ

そして、彼らも私も人では無いわ」

 

「え?」

 

彼は混乱している様で固まってしまった、落ち着くのを待つ、もう時間は幾らでもあるのだから。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

彼が落ち着きお茶を飲む

 

「理解できた?」

 

「うん…僕は死んだのかな」

 

悲しそうにしている

 

「違うわ、貴方は地獄に流されたの」

 

「それじゃあ誰かに、地獄に行って欲しいほど恨まれてたんだね…」

 

「そうね」

 

あえて逆恨みとは教えない、彼には現世に未練を残して欲しくない

 

「じゃあ僕は、これから地獄に行くんだね」

 

「いいえ、行かせないわ」

 

「え?じゃあどうなるの?」

 

「私が貴方の魂を奪ったの、これからは私と暮らして貰うわ。

貴方が私の所に堕ちて来てくれたのだから、もう諦める理由は無くなったもの。」

 

彼は地獄に流す前に私が拾い上げた、手に入れたのなら、手放す理由は無い。

もう見つめているだけでは無い、天国にも地獄にも、何処にも行かせはしない。

 

彼をぎゅっと抱き締める、ようやく私の物に

 

「これからは永遠に一緒よ」

 

青ざめる彼を見ながら、抱き締める力を強める

永遠に離しはしない、例え魂が滅んでも追いかけてまた捕まえる、もう二度と離しはしない。




主人公は逆恨みで地獄へ

善人なので天国行きの予定、あいちゃん諦める
恨まれて地獄へ、あいちゃん捕まえる

諦めていた物が手に入ると執着が強まる
生まれ変わっても追いかけて捕まえる予定

地獄へ送られた理由は完全な逆恨み、主人公を見るたびに善行をしていたので、後ろ暗い事をしていた女は勝手に責められている気になり、憎しみに変わる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

泣き虫 きくり

堕とし者の続き
捏造きくり
見た目は一緒で、中身が優しくなっています(主人公には)
性格は子供っぽく、正直


あれから僕は穏やかな生活を送っている、ここは静かで穏やかな時間が流れる平和な場所

 

僕はする事も無く、日々を無駄に過ごしている

あいちゃんが居るときはずっと一緒に居て、一人の時は庭を眺めてそれの繰り返し

でもこんな暮らしも悪くない、と思うのは何故なのかな?

 

「おい、そこのお前」

 

暫く考えていると誰かに声を掛けられた、見ると小さな女の子が三輪車にのっている。

大きな青い目に黒い髪、頭に椿を挿し綺麗な着物を着ている姿はまるで小さな…

 

「お姫様みたいだ」

 

「お姫様?」

 

無意識に声に出ていた様だ

 

「どんな奴かと思ったが、お前は良く分かっている!」

 

「えっと何を?」

 

「私を姫と呼ぶ事を許してやる!嬉しいか?」

 

この子はごっこ遊びがしたいのかな?だったら少し一緒に遊ぼう

 

「ありがとうございます姫様、嬉しいです」

 

「うんうん!お前、名前は?」

 

「僕の名前は…あれ?名前を思い出せない、なんで?」

 

確かに僕の名前はあった筈、何十年も使ってきた名前だ忘れる筈がない。なんで?なんで思い出せないんだ!

ついこの間まで、ここに来るまで覚えていたのに!

 

「どうした?忘れたのか?」

 

「ここに来る迄はちゃんと覚えてたんだ、でも思い出せない、どうしよう…」

 

「ならきくりが付けてやる!」

 

「え?」

 

「お前は気に入ったから、特別だ!」

 

名前をくれるの?元の名前を思い出したい、でも今は名前が無い事がたまらなく不安だ

僕と言う存在が無くなってしまう様な気がして、とても怖い

 

「うーんと、そうだ!」

 

悩んでいたが、僕の目を見て思い付いたらしい。

 

「お前の目は綺麗な青色だ、だからお前の名前は青だ!」

 

「あお?それが僕の名前、僕はあお…青」

 

「どうだ?気に入ったか?」

 

姫様をぎゅっと抱き締めて高く掲げる

 

「ありがとうございます!姫様、僕は青…僕の名前は青です!」

 

「たかい!たかーい!もっともっと」

 

涙を流して喜ぶ僕とキャッキャッと笑う姫様、二人とも笑顔で喜んでいる。

名前を貰った事で不安だった足元がしっかりした気がする、僕の存在が確かに在ると言える。

名前ってこんなに大切な物だったんだ、姫様には感謝しかない。

 

「本当にありがとうございます」

 

ぎゅっと胸に姫様を抱き締める

 

「あお、涙が止まらないのか?」

 

姫様が小さな手で僕の涙をペタペタと拭ってくれる、心配しているのか、眉が下がっている

 

「嬉しくて涙が止まりません、どうしましょう」

 

「仕方ない、そんなに泣くなら私をきくりと呼んでも良いぞ」

 

「きくり?」

 

「そう!嬉しくて泣き止んだ?」

 

嬉し泣きしてる人を喜ばせたらもっと泣くのではないか?だがきくりの言う通り涙は止まっている

 

「凄いですきくり、涙が止まりました」

 

「そうだろう!きくりは賢いからな」

 

二人でくるくる回っていると、誰かに声を掛けられた

 

「なんだい騒がしいね。一体何の騒ぎだい?」

 

「あっ骨女さん、すみません少しはしゃいでしまいました」

 

「うるさい!おばさんはあっち行け!」

 

いきなりのキクリの暴言にぎょっとする、骨女さんにおばさんなんて

 

「いきなりなんだい!喧嘩うってんのかい!」

 

「ふんっおばさんうるさい、私はあおと遊んでたんだからどっか行け!」

 

「あお?」

 

骨女さんはキョトンとしている

 

「僕の名前です、きくりが名付けてくれたんですよ」

 

「元の名前があるだろう?」

 

「それが思い出せなくて、それできくりが僕に名前をくれたんです」

 

「あぁ…もう思い出せないのかい…」

 

骨女さんが何か呟くが、小さすぎて良く聞こえなかった。

抱っこしているキクリの頭を撫でると、気持ち良さそうに手にすり寄る

 

「なんだい、随分と仲良しだねぇ」

 

「はいきくりは良い子ですから、僕と仲良くしてくれます」

 

「ん!あおは好きだ!」

 

もう一度ぎゅっと抱き締めて、二人で笑い合う

 

「でもねぇ…お嬢が」

 

「あいちゃんが、どうかしたんですか?」

 

「あんたの…あぁもう青か、青の名前を考えてたみたいでね」

 

「え?ちょっと待ってください!僕が名前を忘れる事を、皆知っていたんですか?!」

 

僕自身も知らなかったのになんで、思わずきくりを抱き締めたまま後退る

 

「アタシが何かしたんじゃ無いよ、ここに居るって事はそう言う事さ」

 

「一体どう言う事ですか?説明お願いできますか」

 

「ここはね、もう現世とは違うのさ。

現世の頃の記憶は必要無い、だからだんだんと消えて無くなっちまうのさ。

青はもうここの住人だ、現世との繋がりは切れた…

お嬢はそんな青の為に、名前を考えてくれていたんだよ」

 

「そうだったんですか、記憶が消える…家族も大切な思い出も」

 

縁側に座り込み立てなくなる。記憶が無くなったらどうなるんだろう、僕は僕のままで居られるのかな?

名前だって変わって青になった、それはもう元のぼくとは違ってきてるの?元の僕はいなくなるの?

この記憶さえも消えてしまうのかな?

 

怖い…全てが怖い、何も無い様な気さえする。

心も体もすっと冷えていく、体から血が抜けた様に温度が無くなる。

視界がぐらぐらして気持ち悪い、目の前が暗くなる…

 

「あお、心配するな!私が居るぞ」

 

「あ…きくり?」

 

「そうだ、もしあおが忘れても私が教えてやる。

だから心配するな、この偉大なきくり様に任せておけ!」

 

「きくり」

 

僕の顔を両手で挟み確りと目を合わせて話してくれる、きくりの手から温度が伝わる。

そうだ一人じゃない味方がここに居た、良かった。

 

「ありがとうございます」

 

きくりを抱き締め、僕の目からは涙がポロポロと溢れる。

 

「あおは泣き虫だな、私が居るから泣くな」

 

涙を拭われる、また迷惑を掛けたな…なんだか心が弱わっているみたいだ。

なんだかとても眠い、泣きすぎて眠たくなってきたのか…僕の方がよっぽど子供だな

 

「きくり、あんたどうしたんだい?別人みたいじゃないか!」

 

「うるさい!あおが眠そうだ、静かにしろ!」

 

背中をリズム良く叩かれて眠さに拍車が掛かる、ああもうダメだ

 

「私が居るからな、おやすみ」

 

優しく笑うきくりが見えて、僕は安心して眠りについた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「おいおばさん、あおの前で余計な事を話すな、不安で泣いちゃったじゃないか!」

 

眠ってしまった青を起こさない様に、器用に小声で怒鳴り付けている

 

「本当にどうしたんだい?あんたが他人を気遣うなんて」

 

「あおだけは特別だ、こんなに綺麗な魂見たこと無い」

 

眠る青の頬をうっとりと撫でるきくりに、骨女はもしやと嫌な予感がする

 

「きくりまで、青が好きになったのかい?」

 

「私が名前を付けたんだ、もうあおはきくりの物だもんね!」

 

「お嬢が怒るよ、どうするんだい」

 

「早い者勝ちだ!」

 

「まったく青も災難だねぇ」

 

骨女は優しく青の頭を撫でるも、きくりに手を叩き落とされる

 

「いった、何するんだい!」

 

「あおはきくりの物だ!触るな、おばさんが移る!」

 

「失礼なガキだね!私も触る位良いだろ!」

 

「駄目だ!きくりだけのあおだ!」

 

「二人とも何をしているの?」

 

後ろから聞こえた声にピタッと二人の喧嘩が止まる、油の切れた機械の様にギギギッと振り向くと、そこには閻魔あいが居た。

 

「あっこんな所に居たのね」

 

あいは青に近付くと顔を覗いて笑顔を見せる

 

「お帰りお嬢」

 

「あいお帰り」

 

「ただいま二人共」

 

あいは青から目を離さずに返事をする

 

「疲れたみたいで、今寝たんですよ」

 

「疲れて?どうして?」

 

「あおはいっぱい泣いたからな!」

 

きくりの堂々とした発言に、あいが固まる

 

「あお?それに泣いたの?」

 

青の頬を撫でると確かに涙の痕が有る、瞼に触れると少し腫れている

 

「きくりが名前をあげたんだ、目が青色だから青!」

 

「青…」

 

「そしたら喜んでいっぱい泣いて、そのまま寝ちゃった」

 

「…そう」

 

「お嬢…」

 

「良いのよ彼が受け入れたのなら」

 

「…うぅ」

 

寝ていた青がうなされ始めた、辛い夢でも見ているのか涙を流している

 

「大丈夫よ」

 

あいが涙を拭おうと近付くと、青が何かを呟いた

 

「きくり…」

 

ピタリと止まったあいの代わりに、きくりが手を握り涙を拭う。

 

「あお…きくりはここに居るからな」

 

すると青は途端に安心した表情で安らかに眠り始め、きくりは微笑んで青を見守っている

 

二人を見るあいの目に光は無く、無表情で手を握り締めている

 

そんな三人を見ていた骨女は、ややこしい事になってきたと頭を抱える。

 

取り敢えず力を入れ過ぎて、手から血が流れているお嬢の手当てから始める事にするか…と骨女は救急箱を探しに行くのだった。




きくりの三輪車に乗ってる姿可愛い

今回は泣き虫な主人公
慰めるきくりママ

主人公は本来天国に行くはずだったので、魂がとても綺麗
地獄の者達が惹かれる程の輝き

主人公の目の色は青色、名前は青


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

探し者 あい

探す主人公
探される主人公



ここは…確か誰かに抱かれて眠った筈

そうだ、きくりがいた筈。

僕に青と言う名前を付けてくれた僕の味方。

がばりと上半身を起こすと体からパサリと、上掛けが落ちる、一体誰の物だろう?

取り敢えず回りを見ても誰も居ない、途端に誰かに会いたい気分になった。

 

「誰か居ない…?誰も居ないの?」

 

心細さがどっと押し寄せてくる、手の中にある誰かの上掛けを肩に羽織る。

僕よりも小さなそれは女の子の物だろう、模様が可愛い小花柄だった。

 

縁側で寝ていたのでそのまま足元の草履に足を通す。

目の前には彼岸花が咲き乱れている、何かに惹かれる様にその中に一歩踏み出す。

 

「早く誰かに会いたいな、此方かな…」

 

・・・・・・・・・・・・・

 

「ただいま青…目が覚めた?」

 

ガラリと縁側に続く襖を開くと、其処には誰も居なく、青の姿も形も既に無かった。

床の木に触れるとまだほんのりと暖かい、そして草履が一足無く、花畑に足跡が続いていた。

 

「あい、もうすぐ雨が降るよ」

 

「ありがとう、お婆ちゃん」

 

あいは足早に花畑に向かって行った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

歩き出してから、どのくらいたったんだろう。

行けども行けども彼岸花が続く、空には夕日がずっと登ったまま夜にはならない。

その事が不気味さを感じさせ不安になって来る。

 

「このまま進むと、何処に行くのかな?」

 

「何処でも無いわ、ただ延々と花畑が続くのよ」

 

後ろから声を掛けられ、突然の事に体が跳ねる

 

「あいちゃん?」

 

「…青帰ろう、もうすぐ雨が降る」

 

「あいちゃん、お帰りなさい」

 

「!ただいま青」

 

僕がただいまを言うと一瞬驚いた表情を見せるが、すぐに薄く微笑む。

あいちゃんの差し出した手を握ると、二人で並んで屋敷に帰った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

屋敷に帰ると何時も通り、後ろから抱き付きぴったりくっついてくる。

心なしか何時もよりもより、くっついて来ている気がする。

 

「あいちゃん、どうしてくっつくの?」

 

「…少し肌寒くて」

 

あいちゃんは少し考えてから、言い訳っぽくそう言った。

 

「あっそうだ、上掛け借りたままだったね有り難う。

これあいちゃんのでしょ?」

 

「そうよ。でもこれが良いのよ」

 

借りたままになっていた上掛けを返すも、あいちゃんは隣に置きまた抱き付いてくる。

 

「貴方、きくりに名前を貰ったのね」

 

「うんそうなんだ!名前を忘れてしまった僕に、新しい名前を考えてくれて…きくり?」

 

そこまで言ってからハッとする、外はしとしとと雨が降っている、きくりは大丈夫だろうか?

もしも濡れていてはいけないと考え、迎えに行こうと立ち上がる。

 

「きくりを迎えに行かなくちゃ。

雨のせいで、帰れなくなっているのかも知れない」

 

縁側に走り出そうとした僕の体が急に止まる。

振り返るとあいちゃんが服の裾を掴んで止めていた、顔を見ると無表情で感情が読み取れない。

一体なんだろう、急いできくりに会わなくてはいけないのに…

 

「行かないで…」

 

「あいちゃん?」

 

「…!きくりは骨女と出掛けているから、大丈夫よ」

 

「そうなんだ、まだ会えないのかぁ。いつ帰って来るの?」

 

「………」

 

僕が質問すると服の裾を掴んだまま、顔を下に向け答えてくれない。

 

「あいちゃん大丈夫?」

 

「きくりが心配?それとも会いたい?」

 

「勿論心配だし会いたいよ」

 

「私は?私はここに居るわ。

それでもきくりに会いたいの?きくりだけが大切?」

 

あいちゃんの前に座り込み目線を合わせると、僅かばかり悲しそうな表情をしている。

 

「行かないで、ここに居て」

 

寂しそうなあいちゃんを見て思い出した。

僕を最初に地獄行きから拾ってくれたのはあいちゃんだ、きくりには名前を付けて貰ったが、あいちゃんが最初に見つけてくれたんだった。

 

「ごめんねあいちゃん」

 

一瞬泣きそうな顔をしたが、僕から抱き締め返すと驚いて固まっていた。

 

「…青?」

 

「あいちゃんが見付けてくれなかったら、此処には居なかったんだよね。

きくりには感謝しているけど、それ以上にあいちゃんが大切だよ」

 

「私も貴方が大切、何よりも…ね」

 

二人で抱き合いながらポツポツと話していると、暫くすると眠気に襲われた

それに気が付いたあいちゃんがとんとんと、優しく背中を叩いてくれる。

それに誘われる様に眠りに落ちていった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「青今帰ったぞ~!」

 

「きくりお帰りなさい」

 

縁側に腰掛けるあいと、膝枕で眠る青が居た

それを目にするときくりが怒り出した。

 

「あー!きくりの青なのにずるいずるい」

 

バタバタと地団駄を踏んでいる

 

「きくり、静かに青が起きてしまうわ」

 

「あい変われ!青はきくりの物だぞ」

 

「違うわ、彼は彼の物よ」

 

「ぐぬぅぅ」

 

あいが頑として変わらないと分かると、きくりは悔しそうにあいの隣に座る。

 

「良いもんね、起きたら遊んでもらうから」

 

「そうね、起きたらね」

 

「あい、なんだか嬉しそうだぞ?何かあったのか?」

 

「ふふっ大切なのは、私だけじゃ無かったのよ」

 

「何だそれ?」

 

「人間には、大切な者が必要と言うことよ」

 

きくりの顔を見ながらも、青の頭を撫でる手は止めない。

その青の寝顔は何処までも安らかだった。




あいちゃんが幸せになる日は来るのか?
来て欲しい

主人公刷り込みの要領できくりに依存気味


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ローゼンメイデン
暖かな樹 翠星石


ローゼンメイデンで翠星石がダントツで好き
次点で真紅

ローゼンメイデン等身大ドール欲しい
ドールは高い


まきますか まきませんか

 

私はこの言葉を幾度と無く目にしてきた。

一番初めは、ある日書店で買って来た本の間に挟まるチラシに紛れていた。

まきますか まきませんか、それだけが書かれた古い紙が挟まっていたのでチラシと一緒にゴミ箱に捨てた。

 

次に見かけたのはポストの中だった、またチラシと一緒に入っていたので、流行りのチラシかなとは思ったがゴミ箱に捨てた。

 

それからは色々な所で見かける。机の引き出しに入っていたり、買い物袋に紛れていたり、手帳に挟まっていたり。

酷い時は朝起きたら顔の上に置いあった、流石に驚いたが、意味が分からないのでまた捨てた。

 

そして今、私は何時も通り眠りについた筈だが…

目の前には見た事も無い、小さな女の子がご立腹な様子で仁王立ちしていた。

 

女の子は、地面につく程の長いブラウンの髪の毛で毛先が巻かれていた。

右目がルビー左目がエメラルドのオッドアイだ、珍しい瞳だが宝石の様に綺麗に輝いている。

緑色のドレスを着ていて、とても美しい少女だ。

 

この子は誰だろう、それに此処は何処だろう?

女の子の後ろには大きな木が見える、たくさんの実を着け、花を咲かせている。

地面には小さな花と芝生が広がり、とても日当たりの良い草原の様だ、所々に小動物達も見える。

 

キョロキョロしていると、女の子にビシッと指を指された。

 

「お前は、どうして答えないですか!」

 

「人を指差しては、いけないよ?」

 

「あっごめんなさい、じゃなくて!」

 

女の子は地団駄を踏んで怒り狂っている、素直に謝る所を見ると良い子なのだろう。

 

「なんで紙を捨てるのですか!」

 

「紙を?」

 

はて?紙を捨てた?

 

「何回も何回も渡した大切な紙です!」

 

「ああっ、あのチラシの!」

 

「チラシじゃ無いのです!」

 

何回もと言われて気が付いた、怪奇現象の正体はこの子だったのか、そろそろお祓いに行こうかと真剣に考え初めていた所だ。

友達には遅いと言われたが…

 

「あれはどう言う意味なのかな?確か…まきますか、まきませんか、だったっけ?」

 

「そうです、ちゃんと覚えてるじゃないですかぁ」

 

少しホッとした様に落ち着きだした。

 

「質問に答えて下さい、まきますか、まきませんか?ですぅ」

 

「意味は教えてくれないの?」

 

「駄目です、いいから答えるのです」

 

まきますか、まきませんか…か意味は分からないが少し考えてみる。

まきますかは何かをするのだろう、反対にまきませんかは何かをしないのだろう。

 

何もしたく無いなら、まきませんかを選べば良いのかな?

今の平和な生活に満足している、何も変えたくない。

 

「まきませんかの方で」

 

「何でですか!」

 

えぇ…選べと言われ、選ぶと怒られる、一体どうすれば正解なんだ。

 

「言われた通り、選んだけど」

 

「何でまきませんかを選ぶのですか!普通は好奇心で、まきますかを選ぶ物なのです!」

 

「私は平和が良いんだよ、無駄な好奇心は危険だよ?」

 

「そうですけどぉ…」

 

女の子は悔しそうにしている。

 

「答えたから、もう紙は送って来ない?」

 

「送るに決まってるのです!」

 

「何でかな?選んだんだけど…」

 

「まきますかを選ぶまで、送り続けるのです!」

 

なら私に選ばせた意味はあるの?

それなら仕方ない、まきますかを選ぼう

 

「分かったよ、まきますかを選ぶよ」

 

「本当ですか!…はっ、わっ分かれば良いのですよ」

 

嬉しそうに笑った後にハッとして、偉そうな表情を作る小さな子が頑張っているのが微笑ましい。

 

「なっ何を笑っているですか!さっさと契約するです」

 

「契約?よく分から無いけど、どうするの?」

 

しゃがんで視線を合わせ、話しやすくする。

上を見上げてばかりでは首を痛めてしまう、小さい子供と話す時はこうしている。

 

「…ありがとうです」

 

「どういたしまして」

 

小さな声でお礼を言われたので返事をする

 

「それじゃあ私の指輪に…キスをするです」

 

「えっと良いの?」

 

「うぅ…恥ずかしいですけど」

 

真っ赤な顔で俯きもじもじし始めた、やっぱり恥ずかしいのだろう。

だがいきなりばっと顔を上げたかと思えば、大声で叫んだ。

 

「えーい!女は度胸ですどーんと来やがるのです!」

 

手をぐいっと目の前に出された、やけくそ気味な行動だが勇気を出したみたいで、羞恥でぷるぷると震えている。

言われた通り、差し出された指輪にキスをする。

 

「あっ…」

 

小さく声がしたと思うと、目の前が光った。

女の子の指輪に光が集まる、私の指にも熱を感じて見ていると、同じ指輪が私にも…

 

「やっと…やっとですぅ」

 

女の子は自分の手ごと指輪を抱き締め、嬉しそうに呟いていた。

 

「やっと応えてくれたです、これからよろしくですマスター!」

 

「説明してくれるかな?」

 

嬉しそうなこの子には悪いが、全てが理解できない。

魔法の様なこの現象も、この場所もこの女の子も、そして私の周りを飛び回るこの丸い光も何もかもが分からない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ごめんね、少し整理させてね」

 

「しょうがないから、待ってやるです」

 

少女改め、翠星石の説明によると

・翠星石はローゼンメイデンシリーズの第三ドール

・ドールは全部で七体いる

・ローザミスティカを集めて完璧な乙女、アリスになる

・アリスゲームで戦う

・光は人工精霊のスィドリームと言う

・双子の妹がいる、名前は蒼星石

・お父様を探している

・翠星石が力を使うと、指輪を通して私の体力が消費される

・ここは私の夢の中で心の樹の世界

 

私の頭で理解出来たのはこの位だ、間違っているかも知れないが

 

「私はこれから、何をすれば良いのかな?」

 

「翠星石と一緒に暮らすですぅ」

 

「普通に生活が出来るなら良いけど、食事とか大丈夫かな?」

 

「人間と同じで大丈夫です」

 

「なら良いよ、でもアリスゲームと言うのはどうするの?」

 

「まだ始まる気配は無いです、暫くは平和みたいです」

 

「分かったよ、これからよろしくね」

 

「よろしくお願いする…です」

 

手を差し出すと照れながらも握手をしてくれた、この子は良い子みたいだから、仲良く暮らして行けそうだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

翠星石はずっと見ていたのです

スィドリームと一緒にnのフィールドを漂い、人間の心の樹の様子を見ていた時の事

今の翠星石は蒼星石が一緒に居ないので、栄養を与える事しか出来ません。

 

でもその時は、今までに見た事が無い程の素晴らしい樹を見つけたんです

翠星石の栄養を必要としない生命力に満ちて、それでいて周りを包み込む暖かさを持つ、素晴らしい樹

こんな心の樹を持つ人間がどんな人か気になり、こっそり覗きに行く事にしました。

 

覗いた人間は、優しそうで暖かな心の樹とそっくりでした、一目見て好きになって

それからはずっとずっと見ていました。

 

初めはそれで満足でした、でも…心の樹に寄り添い彼を日々覗くだけでは物足りなくなり、心から彼を求めてどうしようも無くなりました。

 

だから翠星石は考えたんです、彼にマスターになって貰えばずっと一緒に居られる、例え契約が失われても繋がりは切れ無い、とっても良い考えです。

 

しかし彼との契約は上手くいきません、すぐに紙を捨ててしまうのです。

諦めずに何回も何回も送り続け、最終的に顔に乗せても駄目な時は頭を抱えました、それで翠星石は最終手段に出ました。

 

眠った彼を夢の世界に連れ込み、やっとマスターになって貰えました、長く険しい道のりでしたが翠星石は成し遂げたのです。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

現実の世界に戻り、ここはマスターの部屋ですね

何回もこっそり来たことがあります

 

「マスター?」

 

ベッドを見るとマスターは眠っている様でした

マスターの顔を見るたび胸がきゅっとします、ですがこれからは我慢しなくて良いのです。

 

「マスター大好きですぅ」

 

マスターの頬にキスをして、ベッドの横に鞄を置く

鞄に入りすぐそばで眠る、これからの生活を楽しみに眠りに着く、夢でもマスターと一緒が良いです。

 

「おやすみなさい、マスター」




ストーカーから始まる契約

翠星石はマスター大好き
割と素直、表面だけは取り繕いたがる

主人公はおおらか、動物に好かれる


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大切なお人形 水銀燈

水銀燈がメイン

アニメ一期の水銀燈大きくない?
原作と違いすぎて違和感が凄い、でもあれはあれで好き
薔薇水晶も可愛かった


体の上にふわっとした重さを感じて目が覚める

部屋はまだ薄暗く、時計を見ると午前3時を示していた

 

久しぶりの重さに懐かしさを感じる。

 

「お帰りなさい、水銀燈。

今回は何時もより長かったね、怪我はしてないかな?」

 

私の体の上に寝転び、私の寝顔を眺めて居た水銀に声を掛ける

この子は外出から帰ってくると何時も私の上に居る、多分帰って来た事を教えてくれているんだ

 

「ただいまマスター、私は平気よ。

それよりも聞きたい事があるんだけど」

 

「何かな?」

 

「それは一体、どういう事なのかしら?」

 

それと言いつつベッドの横の鞄を指差す、翠星石の鞄だ

水銀燈が居ない間に契約したから、当然ここに居るのを知らない

 

「この間翠星石と契約したんだよ、ほらこの指輪もある」

 

私が指輪を見せると、水銀燈は恐ろしい目で指輪を睨み付ける

 

「何ですって?私が少しマスターから目を離した隙に、よくも…!」

 

怒りを爆発させた水銀燈が私の上から飛び降り、鞄をこじ開けて中から翠星石を引きずり出した。

 

「なっ何事ですか!」

 

「よくも私のマスターと契約してくれたわね!」

 

「水銀燈!どうしてここに居るんです!」

 

「貴女をジャンクにして、契約を解除させてあげる!」

 

水銀燈が翠星石に掴み掛かり、翠星石は寝起きでパニックになっている

水銀燈が背中から羽根を出したのを見て、流石に止めに入る

 

「水銀燈止めなさい」

 

「でも!勝手に私のマスターと契約を!」

 

「落ち着いて、こっちに来て」

 

「はい…マスター」

 

私が両手を広げ受け入れる体制を取ると、背中の羽根をしまい大人しく私の腕の中に来る

納得のいかない表情で、翠星石をいまだに睨み付けている

 

「あの水銀燈が大人しく言うことを聞くなんて…マスターは猛獣使いなのですか?」

 

「本当に失礼ね!本気でジャンクにするわよ」

 

「二人共、落ち着いて」

 

水銀燈の頭を撫でて落ち着かせる。

危険は無いと判断したのか、翠星石もベッドによじ登り私の隣に座る。

 

「マスター、どうして水銀燈がここに居るんですか?」

 

「私の方が先に居たのよ」

 

「でも翠星石が見ている間は、居ませんでしたよ?」

 

「用事で少し、マスターの側を離れてただけ」

 

「そんなぁ…翠星石だけのマスターが良いですぅ」

 

私の服の裾を掴む、水銀燈の説明をしていなかった私が悪い。

 

「ごめんね、私が水銀燈の事を話しておけば良かったね」

 

「マスターは悪くないです!大体指輪だってしていなかったじゃないですか!」

 

「契約だけが繋がりではないでしょう?」

 

確かに契約をしていなくても、水銀燈と私は一緒に暮らして来た。

 

「どうして水銀燈は契約しなかったんですか?」

 

「本当におバカさんね、私と契約すればマスターの生命力を奪ってしまうでしょ?

だからギリギリまで、契約を我慢しているのよ。

勿論アリスゲームの説明もまだだったのに…貴女に先を越されるなんて思いもしなかったわ、本当に悔しい…」

 

「マスターの事を気にするなんて、本当に水銀燈ですか?今までは、人間なんてただの養分だって言ってたです」

 

「マスターだけは特別なのよ。貴女にだって分かるから、マスターを選んだのでしょう?」

 

「…納得したです」

 

取り敢えず二人が和解した様で良かったが、なにやら姉妹だけの話し合いをしたいそうで私は先に寝る事にする。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

水銀燈はベッドのすぐ側に立ち、微笑みながらマスターを覗き込む。

 

「マスターは眠ったみたいね」

 

優しい手つきでマスターの事を撫でる水銀燈は、今までと別人の様に見える。

 

「本当に水銀燈ですか?」

 

「また喧嘩になりたいの?」

 

「ごめんなさいです」

 

先ほどマスターに止められた事を思い出した水銀燈は、素直に謝った翠星石を見て、話を流してやる事にした。

 

「まあ良いわ…それよりも、ややこしい問題が有るのよ」

 

「何ですか?」

 

「マスターにストーカーがいるのよ、本当にしつこいんだから」

 

「なっなんですか!翠星石はもうストーカーじゃないですよ」

 

「はぁ…貴女もストーカーだったの?

でも貴女じゃないわ、違うドールが居るのよ」

 

呆れた表情でため息を吐く水銀燈に、翠星石は慌てて話題を変える

 

「そっ、そのストーカーって、誰ですか?」

 

「貴女が一番詳しいでしょうに、そこの彼女よ」

 

水銀燈が指差す先の鏡が光り、誰かが出て来た

ボーイッシュな少女の正体は…

 

「僕だよ翠星石、久しぶり」

 

「…蒼星石?蒼星石!」

 

翠星石が蒼星石に走り寄り抱き付く

 

「やっと会えたです、ずっと会いたくて会いたくて…」

 

「もう翠星石は泣き虫だね」

 

「うぅぅ…蒼星石~」

 

・・・・・・・・・・・

 

「翠星石、落ち着いたかい?」

 

「はい、もう大丈夫ですぅ。

久しぶりの再会に、少し取り乱しただけですから」

 

「話を進めていいかしら?」

 

律儀に翠星石が落ち着くまで待っていた水銀燈、蒼星石が話を進める

 

「それで、僕に用事があるんだよね?」

 

「そうよ、何時も何時もちょこまかと逃げて、マスターに付きまとって鬱陶しいのよ!」

 

「ストーカーって蒼星石だったんですか!」

 

「ストーカーじゃないよ。僕は彼が心配だから、こっそりと影から見守って居たんだよ?」

 

「世間じゃそれをストーカーって言うのよ!」

 

「なんで蒼星石は、マスターの前に出ていかないのですか?影からじゃ無くて、隣で守ればいいのです」

 

「そっそれは…その恥ずかしいじゃないか」

 

帽子を深く被り直し照れる蒼星石を見て、水銀燈はとうとうキレた

 

「貴女今まであんなに付きまとっておいて、なにを今さら恥ずかしがる事があるのよ!

貴女がこそこそするせいで、マスターの側を離れて探しに行く私に、どれだけの迷惑をかけたと思ってるのよ!」

 

「それで、マスターの側に居なかったのですね」

 

「翠星石貴女もよ!双子で揃ってストーカーってどういう事よ!なんで二人とも、私のマスターに目を着けるのよ!」

 

怒鳴る水銀燈の声が聞こえたのか、マスターの部屋の扉が開く。

急いで逃げようとした蒼星石は、翠星石が抱きついている為逃げられない。

 

「水銀燈?どうかしたの?」

 

「マスター…もう疲れたのよ」

 

水銀燈がマスターに抱き付き、マスターは優しく抱き上げる

その時に蒼星石に気付いて声をかける

 

「あれ、その子は誰かな?初めて会う子だね、はじめまして」

 

「あぅ…あ、はっはじめまして」

 

アワアワとしたあと、帽子を脱ぎ何とかマスターに挨拶だけを返して俯く

 

「マスターこの子は妹です!翠星石の妹です!」

 

「そうなのかい?蒼星石はボーイッシュで…」

 

蒼星石は何時もの言葉が続くのを覚悟した

何時も蒼星石だけ可愛いでは無く格好良い、王子様みたい、そんな風に褒められる。

嬉しいけれど複雑な、蒼星石の思いには誰も気が付かない。

 

「可愛いね、ショートカットが良く似合っているよ」

 

「…え?僕が可愛い?」

 

「そうだよ、可愛いよ」

 

蒼星石は脱いだ帽子を握りしめ、照れつつも喜びを噛み締めている

面白く無いのは水銀燈と翠星石だ。

 

「マスター、翠星石はどうですか?可愛いですか!」

 

「マスター私は勿論美しいわよね?ねぇ?」

 

二人はマスターに詰め寄り、我先にと質問をする。

 

「二人とも可愛いし綺麗だよ、心配しなくても君達は皆美しいよ」

 

マスターの一言で三人の心が撃ち抜かれた。

 

「それで、蒼星石も此処に住むのかい?」

 

「僕は…僕は貴方が許可してくれるのなら、僕は貴方にマスターになって欲しいです。

…ダメ、ですか?」

 

上目遣いに蒼星石は恐る恐るお願いする、緊張から帽子が握り締めた手に力が入る。

 

「ちょっと待ちなさいよ!これ以上私のマスターに、他のドールが増えるなんて絶対嫌よ!」

 

「翠星石と蒼星石が、同じマスターのドールになれるなんて…!

今までの長い時間の中でも初めての事です、こんな日が来るなんて翠星石は感激です!」

 

「私は許さないって言ってるのよ!」

 

水銀燈が大声で話を流す遮る、その表情は必死で何時もの様子とは全く違っていた。

 

「水銀燈、私は構わないよ姉妹なんでしょ?

一緒に居られるのなら、一緒に居た方が良いよ」

 

「それは…そう…でしょうけど、でも私のマスターなのに…私だけのマスターだったのに」

 

「私は今でも水銀燈のマスターだよ、ただ一緒に住む家族が増えただけだよ」

 

取り乱した水銀燈を抱き上げ、しっかりと目線を合わせて話をする

 

「マスターは私のマスターよ…ずっと私の大切なマスターなのよ」

 

「そうだよ私は君のマスターで、水銀燈は私の大切なドールだよ」

 

水銀燈はマスターに抱き付くと、そのまま動かなくなった。

 

「ごめんね蒼星石、契約はまた後で良いかな?今は少し水銀燈と二人で居たいんだ」

 

「はっはい、契約して頂けるのなら、幾らでも待ちます」

 

「蒼星石…」

 

「今は水銀燈と一緒に居るから、またあとでね。

翠星石は蒼星石と一緒に居てあげてね、おやすみ二人とも」

 

「マスターおやすみなさいです」

 

「おやすみなさい」

 

それぞれに挨拶をして、マスターと水銀燈は部屋に戻った。

 

「水銀燈に悪い事しちゃったかな…」

 

「そうですね…まさかあの水銀燈が、あそこまでマスターを特別視してるなんて思わなかったです」

 

何時もの水銀燈ならマスターなんて要らない、人間なんてただの媒介に過ぎないと言っている。

 

「僕、水銀燈が起きてきたら謝るよ」

 

「翠星石も一緒に謝るです」

 

「ありがとう翠星石」

 

「当たり前ですよ蒼星石」

 

二人は鞄に戻り眠りについた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「マスター…私のマスター」

 

「はいはい、此処に居るよ今日は一緒に寝ようね。

疲れたのなら、もう寝てしまいなさい」

 

「ずっと一緒に居て…ずっとマスターだけのドールでいさせて、お願いよ…」

 

「ずっと水銀燈と一緒に居るよ、水銀燈は私の大切なドールだ」

 

「マスター大好きよ…ずっと離さないで」

 

水銀燈はマスターに抱き付き、泣きながら眠った

マスターは水銀燈をあやし、宥めている

 

「水銀燈大丈夫だからね、ずっと離さないから」

 

泣いていた水銀燈はマスターの声が届いたのか、涙が止まり安らかな寝息に変わる、安心したマスターも眠りについた。




水銀燈と金糸雀の組み合わせも好き
あの姉妹同士のやり取りが良い

ヤンデレな水銀燈を、でろでろに甘やかしたい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

契約 蒼星石 翠星石

やっと契約

リハビリ2


「おはよう、ごめんね随分と待たせたかな」

 

「「!」」

 

二人揃ってソファーに座り朝のテレビを見ていた蒼星石と翠星石に声をかけると、二人揃ってビクンッと肩が跳ねた。

 

「驚かせたかな?すまないね」

 

「そっそんな事無いです!ただ、肩を動かしたタイミングが同じだっただけですぅ」

 

「えっと、お、おはようございますマ、マスター?」

 

「おはようです」

 

「まだ契約して無いから、正式なマスターでは無いんだけどね」

 

「あっ…そうですよね、僕舞い上がってしまって…」

 

「蒼星石…大丈夫ですよマスターは、優しい人ですから。きっと酷い事は…」

 

落ち込みを見せる蒼星石と慰める翠星石に話を正す

 

「まだ、だよ契約はするよ。昨日ちゃんと約束したからね」

 

「マスター!」

 

抱き付いてきた翠星石と、翠星石に手を引かれて近付いてきた蒼星石

翠星石の影でもじもじしている蒼星石は、それだけではなく何処かソワソワとしてもいる。

きっと契約が待ちきれないのかも知れない、契約無しでは力が出し切れないからその為か

 

「マスターそう言えば水銀燈はどうしました?昨日は少し…その悪い事をしてしまいましたし。翠星石も蒼星石も謝りたいんですぅ」

 

「僕のせいで水銀燈の気分を害したのなら、ちゃんと謝りたいですから」

 

「それなら大丈夫だよ、今朝は何時も通りnのフィールドに出掛けて行ったよ。二人には遠回しに気にするなって言ってたよ」

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

水銀燈は基本的に素直じゃ無いが、思いやる気持ちが無い訳では無い。

一晩たって落ち着いたのか寝起きには赤い顔をして、大急ぎでnのフィールドに出掛けて行った。

「契約に耐えられるのなら好きにすれば良いわ、あんな小物の事なんて気にも止めていないわ」

らしく分かりにくいが許してくれたらしい。

最後には

「私が一番大切なのよね」

「勿論一番大切で大好きなのは、水銀燈だよ」

と言う会話もあったが

あれ?顔が赤くなったのはこの後だった様な?

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

「あの水銀燈が赤く?」

 

「変われば変わるものだね」

 

「そんなに言われる程普段と違うの?家に来た時からこんな感じだったけど」

 

蒼星石と翠星石が顔を見合わせて、渋い顔をする

 

「僕達の口からはとても言えませんよ、告げ口は良くありませんからね」

 

「そっか」

 

「ところでマスター急かす様ですが契約は…」

 

もじもじと蒼星石が話し出す

 

「そうだね、忘れないうちに契約をしてしまおうか」

 

「!はいっ」

 

すっと差し出された指輪にキスをすると、光が集まり弾ける、そしてまたも私の指輪が成長する

 

「マスター!」

 

蒼星石がぎゅっと抱き付いて来る

 

「マスター、マスターこれでやっと正式にマスターと呼べますね。僕とっても嬉しいです」

 

蒼星石はえへへと嬉しそうに笑う

 

「良かったですね蒼星石、まあ翠星石はこうなるって分かってたですけど」

 

見栄をはる翠星石も自分の事の様に嬉しそうに笑い、感情そのままに抱き付いて来た。

 

「これからもよろしくお願いしますね、マスター!

これからは影だけじゃなく、何処からでもお守りしますからね!」

 

「影から…?」

 

マスターが不思議そうに顎に手を当て、首を傾げて考える

 

「マスターそんな事より、蒼星石と契約をしたお祝いをしませんと。

是非ともパーティーをしたいですぅ」

 

話題を変えるために翠星石が焦ってちがう話題を振る

 

「そうだね、僕もマスターに料理を作って上げたいよ

それには先ず、材料の確認だね」

 

蒼星石がキッチンまで、走っていく

 

「マスター、翠星石は蒼星石とまた一緒に暮らせて幸せですぅ

本当にマスターには感謝しかないです。

本当に本当にありがとうございます、マスター」

 

腕の中から小さな両手が伸びて来て、頬に添えられる

そのまま翠星石の顔が近付いてくる。

 

「マスター大好きですぅ」

 

チュッと頬にキスをされると、そのまま翠星石もキッチンの方に走って行った。

 

「蒼星石」

 

「はいっマスター、何かご用ですか?」

 

「蒼星石のマスターとしてもこれから精進するから、見放されない様に頑張っていくよ」

 

「そっそんな、僕が見放される事が有っても、マスターを見放すなんて有り得ません」

 

「それじゃあ私の事を宜しくね」

 

「はいっ!何に変えても守り抜きますから!」

 

今度は私から蒼星石にキスをする、すると蒼星石は赤い顔でキッチンに逃げて行った。

そう言う所も双子で似ているのかと思った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「うぅ、ほとんど役にたてなかったですぅ」

 

「よしよし」

 

結局料理の途中からは、蒼星石が一人で作ってしまったらしく、翠星石がソファーでしょげていた。

それをキッチンから見ていた蒼星石が、何かを思い付いたらしい。

 

「翠星石、配膳をお願いできるかな?」

 

「それならまかせろですぅ、完璧に配膳をしてマスターと蒼星石をビックリさせてやりますよ!」

 

「頼んだよ翠星石」

 

「べっ別にマスターの為じゃ…でっでも上手く配膳出来たら褒めてくれますか?」

 

「勿論だよ」

 

「がんばるですぅ!」

 

翠星石と入れ違いに蒼星石がソファーに向かいの座る

 

「蒼星石もありがとう」

 

「そんなマスターの役に立てたのなら、僕も嬉しいです」

 

「二人とも見るですこの完璧な配膳を!」

 

翠星石の声に振り向くと確かに言うとおり、完璧に配膳がしてあった。

蒼星石と二人で目の前に座る翠星石を目一杯褒める

 

「翠星石、蒼星石ありがとう二人のお陰で美味しいご飯が食べられるよ」

 

二人の頭を撫でると二人とも顔を赤かくする

 

「マスター冷めない内に食べるです、せっかくの蒼星石のご飯が台無しになるですぅ」

 

「そうだね、それじゃあ皆揃って…」

 

「「「頂きます」」」

 

パンっと手を合わせる小ぎみ良い音が3つ、部屋に響いた




水銀燈 自分が一番ならば良し

翠星石 蒼星石と二人で同じマスターと契約出来て幸せ

蒼星石 マスター大好き、影から見守るのも大好き

マスター 事なかれ主義、ぼんやりとひびを過ごしている


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

しなやかな指 雪華綺晶

原作ぶち壊しですので、見たくない方はスルーでお願いいたします。

リハビリ 短め


今私の目の前には裸の幼女がいる

いや、待って欲しい正確には私が作り出した女の子が座っている。

 

「マスター様、私だけのマスター様」

 

絡み付くように私の腕に抱き付き、すがり付く雪華綺晶は幸せそうに頬擦りを繰り返している。

その"両目"には涙が浮かんでいた。

 

私がこうなったのには勿論理由が有る、先ずは説明をしたいと思う。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

私には小さな頃から不思議な力があった。

公園に落ちている綺麗な小石を拾い、家に持って帰って磨くと不思議な事に宝石の様に輝きだした。

 

ある時は針と糸を布に刺しただけで、思い通りの物が出来た。

両親は魔法の手と褒めてくれたが、人前ではしないようにとの事。

当時は何故か分からなかったが、今では分かる他人に利用されないで生きていく為だと。

 

それからは少し器用な人間として生きてきたが、ある時から夢に出てくる女の子が頭から離れず、とうとう造ってしまったと云うわけだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

何時までも、うっとりとすりすりしている雪華綺晶に声を掛ける。

 

「あの~雪華綺晶?」

 

「はいマスター、是非ともきらきーと呼んでくださいませ」

 

「き、きらきー?」

 

案外フランクな性格なのかも知れない

 

「はいっ愛しのマスター様」

 

「取り敢えず夢で見たドレスを作って見たんだけど、着てくれるかな?」

 

「まぁ私のためにマスターが手ずから、勿論着させていただきます」

 

ドレスを渡す時に、気が付いたこれってもしかして眼帯じゃなかったんじゃないか?

 

「あれ?もしかして右目って」

 

「はい、眼帯ではありませんでしたよ。マスターは右目を造ってくださいましたから、より完璧なアリスに近付けました、ありがとうございます」

 

眼帯と思い込んでいたために、ドレスと一緒に眼帯も作ってしまった。それでも雪華綺晶は眼帯まで完璧に着こなしてくれていた。

 

「凄く可愛い、美しいよ雪華綺晶。全く夢で見た通りだよ」

 

「マスター是非"きらきー"とお呼び下さい」

 

「で、きらきーはなんで私の夢に何回も出て来ていたんだい?」

 

「はぁん、マスター様ありがとうございます」

 

きらきーと呼んだ途端にくねくねと悶えだしたきらきーは、林檎の様に赤い頬で此方を見ている。

 

「夢に何回も誘ったのは、マスターになら出来ると思ったからです」

 

「出来る?」

 

「失礼ながらマスターの人生を夢の中、所謂nのフィールドを辿りながら見させていただきました」

 

nのフィールドの説明を受けながら話の続きを促す

 

「マスターは幼少の頃より失礼ながら、人間離れした指をお持ちでしたよね?」

 

「確かにこの指は何でも出来たよ」

 

「なので今回は私のボディーを作って頂きたく、夢に誘いました。申し訳ありません、些か我が儘過ぎましたね」

 

「そんな事はないと思うよ、ボディーを作って欲しいと言うことは元々は体が無かったんでしょう?」

 

「はいマスター、元々の私はボディーも無く、鞄もなくただnのフィールドをさ迷い。

鏡の中から御姉様方が、マスターや人間たちと楽しそうに暮らしている姿を歯痒く羨むばかりでした」

 

雪華綺晶はその美しい顔を歪め、恨めしそうに言葉を吐いていた

 

「でもこれからは私だけのマスターが居ます、ボディーも鞄も頂きました。これで御姉様方に負ける理由がありません」

 

「あれ?ローザミスティカを集めて、至高の乙女になるのが争う理由だったよね?」

 

「はいマスター、すべてを集めればお父様にアリスと認めて貰えるのです」

 

「ボディーを作る時に結構大きな石を入れたつもりだけど、まだ足りないのかな?」

 

「え?」

 

私がそう言うと雪華綺晶は慌ててローザミスティカを取り出して眺め始めた

 

「あ、あれ?全てのローザミスティカを合わせた程の大きさが有ります、どういう事ですかマスター?!」

 

「体に合わせたサイズにしたつもり、だったんだけど…」

 

「マスター様!」

 

大切にローザミスティカをしまった雪華綺晶はゆっくりと抱き付き、しがみついてくる。

 

「マスター様ありがとうございます、私これでもう思い残す事は…」

 

「の、割にはお父様とやらは来ないんだけど、大丈夫なの?」

 

「それは多分…方法が違うのでしょう」

 

「どういう意味?」

 

「ローザミスティカを集めるのとは、違う方法で至高の乙女にたどり着く必要がある用ですね」

 

「お父様と会えなくてがっかりしてないの?」

 

「それは…少し、ですがマスター様とこうして触れ合える事が一番です」

 

「きらきー」

 

「マスター様どうか契約を」

 

雪華綺晶は口をパカリと開け、舌の上に指輪を乗せている。

これはいきなりハードルが高い、さすが契約と言った所なのか。

 

「ん」

 

「!?」

 

考えている内に、雪華綺晶にキスをされて契約を完了されていた。

ふとすると左手の薬指が熱く、そこには雪華綺晶と同じ指輪が嵌まっていた。

 

「ぷぁっ…これで身も心も完全に私のマスター様ですね、これからはマスター様の元で至高の乙女を目指します」

 

「っはぁ、まぁこれから宜しくねきらきー」

 

「はいっマスター様」

 

抱き着いたままの雪華綺晶は夢の中の様な、何処か影の有る表情ではなく、何の裏表も無い満面の笑みだった。




序盤からボディーの有るきらきー
両目有り
右目には薔薇の眼帯

主人公は制作チート持ち
小石も数秒磨けば宝石に
一目見れば全く同じ衣装を作れる
チートで小金持ち、のんびり暮らす


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

真紅と水銀 真紅 水銀燈

今日もまた1日が始まるみたい、何故なら先程から体を揺り動かされる感覚がしているからだ。

 

「もう、いい加減に起きて頂戴」

 

「…真紅?おはよう」

 

「おはよう。やっと起きたのね、まったく朝から疲れたのだわ」

 

この一見小さな女の子はローゼンメイデンと言うお人形らしく、何かというとお世話をしてくれて良い女の子だ

 

「ごめんね真紅、今朝の紅茶を淹れるよ」

 

紅茶好きの真紅の為に急いでキッチンに向かおうと起き上がると

 

「まっ…!待ちなさい」

 

そう言って私のズボンを握り足を止めさせる

 

「ん!」

 

両手を上に伸ばすこのポーズは何時もの抱っこをして欲しい時のもの

両手で抱えあげると自分で動いてお姫様抱っこの様な形になる

 

「真紅は甘えん坊だね」

 

「そんな事無いのだわ、お人形を可愛がるのは当然の事なのだわ」

 

「お姫様抱っこも?」

 

「それは私の趣味よ」

 

二人でクスクスと笑いながら階段を降り、真紅をソファーに座らせ、私は紅茶を淹れる

 

「本当に、貴方の要れる紅茶は、一級品なのだわ」

 

「ありがとう真紅、どうせ飲むのなら美味しい方が良いと思って居たけど。

真紅の為になったのなら良かったよ、美味しい物はそれだけで幸せに成れるからね」

 

二人で紅茶を飲み朝食を取る、毎日の事だけれど真紅が来てからは食卓がグッと華やかになった。

 

「もぅ…本当に嬉しそうに笑うのは反則なのだわ。

私だって、貴方の紅茶を飲めて幸せなのよ」

 

「じゃあ僕は真紅と居られて、一緒に暮らせて幸せかな」

 

「うぅずるいのよ、私も…幸せよ」

 

真っ赤に成った真紅と笑いながら幸せな朝食を取る。

その時リビングの姿見が光ったと思うと、中から女の子が飛び出してくる。

 

「今日も来てあげたわよぉ、ほらそこの人間挨拶は無いのかしら?」

 

背中から黒い翼を生やしたままの水銀燈を、生暖かい目で見守る真紅。

 

「おはよう水銀燈、ちょっと座って待っててね。

今ヤクルトと、朝食を持って来るよ」

 

キッチンに行こうとすると、体が翼で拘束される。

 

「本当にお馬鹿さんねぇ、私が椅子に届くと思って居るの?ちゃんと抱っこで乗せなさいよ」

 

「貴女の翼で飛べばよいのだわ…」

 

真紅がそう言うと口にバッテンに羽が貼られる

どうやら図星だったらしい。

 

「ああごめんね水銀燈、忘れてたよ抱っこするから。

少し羽根を仕舞ってくれるかな?」

 

「ふん、仕方無いわね。ヤクルトの為に特別に仕舞ってあげるわ」

 

「ありがとう、それじゃあ行くよ」

 

水銀燈を抱っこするとちゃっかりと首に腕を回し、ぎゅっと抱きつく。

それを見ていた真紅は、またもや生暖かい視線を送る事となる。

 

「人間にしては役に立つわね、早く朝食を持ってきなさい」

 

「ははっ分かったよ」

 

口から羽を剥がした真紅が、水銀燈にじとっとした視線を送る。

 

「貴女ねえ、何時までもそんな態度じゃ、いつかマスターに愛想を尽かされるわよ」

 

「そっそんな事がどうしたのよ?人間なんてどれも同じじゃ無いの…」

 

途端に顔色を悪くした水銀燈が、余裕を見せようとするが、どもってしまい更には尻すぼみで全く意味が無かった。

 

「たとえ貴女のマスターにき…きら…嫌われた所で…」

 

「水銀燈…」

 

「嫌われたくないわよぉ…」

 

涙目になりつつ隣の席に座る真紅の裾を両手で掴む、一方の真紅はまたかとため息を吐く。

 

「水銀燈、貴女一体何回目のうじうじなのよ。

もう数え切れない位に、この同じ会話をしているの?今日こそは契約まで話を進めるのだわ!」

 

「真紅…でも、もしも断られたらどうするのよ?

ジャンクにでもして縛り付けて、ずっと一緒に居れば良いの?」

 

「発想が恐ろしいのだわ…

私が選んだマスターなのよ?貴女を拒む事なんてしない筈よ。

大丈夫、貴女の妹のこの真紅が保証するわ」

 

「…真紅」

 

「それに。マスターならそこで、全部聞こえていたみたいよ?」

 

真紅の指差す先にガバッと水銀燈が振り返ると、水銀燈の朝食を持ったまま、居心地悪そうに突っ立っているマスターが居た。

 

「あっ貴方いつから居たのよ、それよりも何処まで聞いたのよ!もしかして全部聞いて…!」

 

真っ赤な顔で問い詰める水銀燈に、真紅が待ったをかける。

「水銀燈待ちなさい、丁度良いじゃない。

貴女毎日毎日ここでうじうじしていたのだから、丁度良い転機だと思わないかしら?」

 

「それは…」

 

「こんな機会、もう無いかも知れないのよ?貴女はマスターと契約出来なくても良いの?

私はマスターを独り占め出来て、今とても幸せなのだわ。

けれど、姉妹の悲しむ顔を見ても、幸せで居られる程図太くなんて無いのよ」

 

「真紅…。ふんっ貴女に言われるまでも無いわ!

そこの人間此方に来なさい」

 

何かが吹っ切れた様に、或いはやけくそ気味に水銀燈は叫ぶ。

真紅のマスターは水銀燈の前に朝食を置くと、水銀燈に向き直る。

 

「あっ…ありがとう。

てっ違うわよ!そうじゃ無くて少し屈みなさいな」

 

マスターは言われるがままに水銀燈と、視線を合わせる様に屈む。

水銀燈は視線を合わせると少し頬が赤くなりつつも、こほんと1つ咳払いをする。

 

「良い?人間。

この水銀燈にこんな事をさせるなんて、本当はとても有難い事なのよ?心から感謝しなさいよ!」

 

「はぁ…水銀燈」

 

真紅は呆れつつも、暖かい目で成り行きを見守る。

水銀燈はマスターの頬を一撫ですると、両手で手を握る。

 

「この水銀燈に選ばれた事、この水銀燈が心から惹かれている事に感謝しなさい…」

 

ちゅっと小さな音と共にマスターの、指に薔薇の指輪がはまると、マスターも水銀燈の小さな指にキスを返す。

 

「よろしくね水銀燈」

 

「マスター?」

 

マスターは水銀燈抱き上げ頭を撫でる。

 

「ふふっ、私は美しいから触れたくなるのも当然のことね。私のマスターなのだから、特別に許してあげるわ」

 

「あら?水銀燈貴女ずいぶんな変わり様ね?さっきまでは怯えた子猫の様だったのだわ」

 

むすっとした真紅から嫌味が飛ぶが、真紅が嫌味を言うのは構って欲しい時だ。

 

マスターは反対の手で真紅を抱っこする

 

「マスター…水銀燈と契約しても、この真紅も可愛がる事を忘れないでちょうだいな」

 

「真紅、貴女…」

 

不安そうな真紅に水銀燈が驚くが、すかさずマスターが答える

 

「勿論だよ、真紅も水銀燈も大切な大切なパートナーなんだから。どちらも同じ様に可愛がるよ」

 

「なら大丈夫なのだわ。私達はお人形はマスターに可愛いがられる為に存在する事を、忘れないでちょうだい」

 

「あら?真紅も不安だったのかしら?」

 

「水銀燈…貴女ねえマスターの所に、他のドールズ達が来ないとは限らないのよ?

大切な事はちゃんと伝えておかないと後悔する事になるわよ?」

 

呆れた様子の真紅に水銀燈がはっとする

 

「マッマスター!私を可愛がる事を許可するわ。

毎日の抱っこと、髪の毛のブラッシングも許可するわよ!」

 

この後は真紅と水銀燈のマスターにして欲しい事を、延々と話して居たせいで、すっかり朝食が冷めてしまっていたのは言うまでも無い。




真紅がデレたら普通の平和な日常になると思う
ほのぼの過ぎる
心の折れやすい水銀燈


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

お昼寝

幼いながらも心の奥にはヤンデレ


お昼寝から目覚めた雛苺は必死にマスターを呼ぶが、それに答える声は無い

 

「マスター、マスター…」

 

雛苺は毛布を引きずりながら、マスターを探すがどの部屋を探してもマスターの姿は無かった

 

「うぅぅ、マスター…」

 

とうとうぐずりだした雛苺が座り込んだ頃、玄関からガチャリと鍵の開く音がする

その音を聞いた雛苺は毛布を捨て、玄関に走り出す

 

「ただいま~」

 

マスターは雛苺を起こさない様に小声を出す

 

「マスター!」

 

「あれ?雛苺起きてたの?」

 

「マスター!マスター!」

 

雛苺はマスターに駆け寄り、抱き付くと泣き出した

 

「うぅぅ…うあぁん」

 

「どうしたの?雛苺、怖い夢でも見たの?」

 

「ちがうの、起きたらマスターがいなくて凄く凄く怖かったの」

 

「ああ、ごめんね。気持ち良さそうに寝てたから、起こさない方が良いのかと思って」

 

「ひなは、マスターと一緒が良いのよ」

 

「でも、直ぐに帰って来たでしょ?ほら、雛苺の好きなうにゅうを買って来たんだよ?」

 

「マスター…ありがとうなのよ」

 

マスターに抱っこされながら、満面の笑みを浮かべる

 

「マスター…でも覚えておいて欲しい事が有るの」

 

「ん?何かな」

 

マスターは不思議そうに腕の中の雛苺を撫でながら、次の言葉を待つ

 

「ひなはうにゅうも好きだけど、何よりもマスターが大好きなのよ」

 

「ははっ、ありがとう雛苺」

 

「ひなは、マスターを見ると心がぎゅっとしてドキドキするのよ」

 

「雛苺?」

 

マスターはようやく、雛苺が何時もと様子が違う事にきずいた。

 

「うにゅうも大好きだけどそれとは違う。

マスターを見てると大好きって気持ちと、独り占めしたい気持ちが溢れてくるのよ、これっておかしいの?マスターひな怖いのよ」

 

「…雛苺」

 

マスターは雛苺の頭を撫でてやりながら、どう説明したものかと頭を悩ませる。

 

「ひなやっぱりおかしいの?マスターこまってるの」

 

「おかしくないよ、雛苺の気持ちは大好きが人より多くて大きいんじゃ無いかな?」

 

「多くて大きいの?それって良いことなの?」

 

「好きな気持ちが大きくて悪い事なんて、無いよ。

マスターも雛苺が大好きで大切だよ?」

 

「マスター!」

 

より一層強く、マスターに抱き付く

 

「マスター、マスター、ひなはねうにゅうよりも何よりもマスターが大好きなの!」

 

「うん、ありがとう」

 

「お父様に会えなくても良いくらい、マスター以外全部全部いらない位。

他の人も他の姉妹も会えなくても良いくらい、マスターが居ればひなは幸せなの!」

 

「えっとそれは…」

 

「マスターはひなの事大好きじゃ無いの?」

 

雛苺の目から明るい光が消え、暗い色が宿る。

瞳にはうっすら涙の膜が張っている。

 

「マスターひなはマスターが一番大好きなの。

マスターだけが良いの、でもマスターは違うの?

やっぱりひなだけが大好きなの?」

 

「違うよ、マスターも雛苺の事が大好きだよ」

 

「どのくらい大好きなの?」

 

「うーん、うにゅうを食べてる時の雛苺位かな。

凄く幸せな顔をしてるから大好きなんだ」

 

「ひなも、ひなもうにゅうを食べてるマスターのお顔も大好きなの!」

 

そこで唐突に雛苺が首を傾げ、マスターに質問する

 

「ひなは何でドールなの?」

 

「雛苺?」

 

「ドールじゃ無くて、普通の人間だったらマスターと同じだったのに、ひなもマスターと同じが良いの!」

 

「でもそうすると、雛苺と出逢え無かったけど良いの?」

 

「マスターと出逢え無いなんてそんなの嫌なの!」

 

「なら、今のままで良かったね」

 

「うぅ~ん、よく分からなくなってきたの」

 

雛苺はマスターの膝の上で考える、しかし雛苺にはまだ難しかったのか段々と微睡み初めそのまま眠ってしまった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「マスター雛苺はもう眠ったのかしら?」

 

「そうみたいだよ」

 

雛苺の頭を撫でながら顔を覗き込むが、規則正しく寝息をたてて幸せそうに眠っている。

 

金糸雀は雛苺が眠るまでお昼寝部屋で、一人待っていた様だった。

 

「カナもうマスターに甘えても良いのかしら?それとも今日はひなに譲ってあげた方が良いのかしら?」

 

「大丈夫だよ金糸雀、雛苺は隣に寝かせるからカナもおいで」

 

マスターは雛苺をすぐ横に寝かせる、眠りながらでもマスターの服の裾をけして放さない雛苺を見て微笑ましくなるが、唐突に膝に軽い衝撃が走る、自分の膝の上を見ると金糸雀が飛び付いて来ていた。

 

「カナも寂しかったのかしら」

 

「金糸雀、よく我慢したね」

 

「カナは長女なのかしら、だから我慢をしないといけないのかしら!」

 

金糸雀はマスターの膝に乗り、服に顔を埋めながら抱き付き答える、その表情はよく見えない。

 

「沢山沢山、我慢をしないといけないのかしら!」

 

「カナ今はひなも眠てるんだから、姉妹の事は気にしないで好きにして良いと思うよ?」

 

妹が寝ている時まで我慢をする必要は無い、そう伝えると顔を上げた金糸雀の表情がぱぁっと明るくなる。

 

「それじゃあ今だけは、マスターを独り占めしても良いのかしら!?」

 

「勿論だよ、カナの好きな事に付き合うよ」

 

「それなら、カナのバイオリンを聞いて欲しいの!」

 

目をキラキラさせながら、マスターとしたい事を指折り数える。

 

「それからそれから、カナを目一杯可愛がって欲しいのかしら!」

 

「可愛がる?」

 

「沢山抱っこして、沢山遊んで、沢山愛して欲しいのかしら。

私達お人形は、誰かに愛される為に生まれて来たのかしら!

カナの場合は、勿論マスターに愛される為に生まれて来たのかしら!」

 

ふむふむと金糸雀のお人形のお話を聞いていたが、ふとある矛盾に気が付いた。

 

「あれ?」

 

「どうしたのかしら?」

 

「カナは前にお父様に会うためとか、一点の曇りもない完璧な少女のアリスに成るため、とか言ってなかった?」

 

最初に出会ってネジを巻いた時にそう言う説明を受けた筈だ、確か姉妹と競い合いローザミスティカを集めてただ一人だけがアリスと成って、お父様に会えると言っていた筈だ。

 

しかし金糸雀はマスターに愛される為に生まれて来たと言っていた

 

「今はもう良いのかしら、ひなが居てマスターが居て今の生活が幸せなのかしら!」

 

「そうなの?」

 

「今までのマスターには感じない、運命をマスターには感じるのかしら、ずっとずっと離れない離れたくない。

大好きよりも、もっともっと大好きなのかしら!」

 

「金糸雀は今の生活が幸せなんだね」

 

「カナは今の生活を壊したくないのかしら、もしもそんな事が起きたら…もしも誰かが壊してしまったら」

 

俯いて表情を隠した金糸雀は、普段の明るさが嘘の様に暗い色を纏っていた。

 

「金糸雀?」

 

「その誰かを、カナが壊してしまうかもしれないのかしら…」

 

「それじゃあ今の生活が、幸せがずっと続くように一緒に守っていかないとね」

 

「それなら簡単なのかしら!カナとマスターがずっと一緒に居れば幸せなのかしら!」

 

「金糸雀はそれで幸せなの?」

 

「そうなのかしら!今は雛苺もいるけれど、本当はマスターさえいればカナは幸せなのよ。

マスターと一緒に居られるだけで、大好きな気持ちが溢れてきて他の事はどうでも良くなるのかしら」

 

「…」

 

マスターは思わず黙り込むこんなに幼く見えても中身は、立派な乙女なのだと思い知らされる。

 

「マスター?マスターは違うのかしら?カナはマスターの大切なお人形にはなれないのかしら、大好きなだけじゃためなのかしら?ねぇマスター」

 

瞳に涙を溜めてマスターを見つめる、マスターの服を掴む手にも力がこもる。

 

「そんな事無いよ、金糸雀も雛苺も大好きで大切なお人形だよ」

 

「カナはマスターにそう言って貰えるだけで、満足なのかしら!

そろそろひなが起きそうだから、このお話はお仕舞いなのかしら!カナとマスターの内緒なの」

 

「二人だけの秘密だね」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

色々
終わりから始まり チト ユーリ 少女終末旅行


少女終末旅行

ネタバレあり

幸せになって欲しかった
最終回捏造

主人公=コマロフ=コマ


体を刺すような寒さと、誰かに身を揺り動かされる感覚に目が覚めた

 

「…ここは?」

 

「お?目ー覚めたー!」

 

上から僕を覗き込む金髪の女の子と目が合った、女の子は目が合うと嬉しそうに笑い、叫びだした。

 

「おい、ユーうるさい」

 

この子金髪の女の子はユーと言うらしい、もう一人の女の子にヘルメットを叩かれていた。

 

「えっと確か、今日も誰かがこのモノリスまで辿り着いてないか見に来て…余りの寒さに寝ちゃったんだっけ」

 

そうだ、皆はもう誰も来ないだろうと決め付けているみたいだけど、僕はきっと誰かがまだ残っていて最上階を目指して頑張って居ると思いたかった。

まだ見ぬ誰かに出会いたかった。

 

「聞きたいことは沢山あるが。取り敢えず毛布に入れ、寒そうで見てられない」

 

「そうだよ、真ん中にどうぞ」

 

「ありがとう入らせてもらうよ」

 

二人の真ん中に入らせて貰うと、毛布の中は暖かかった。

 

「それで、なんでそんな薄着で雪の中で眠って居たんだ?」

 

「荷物は少しは有るみたいだけど、その服だけじゃ寒そうだよ?大丈夫?」

 

僕は人が辿り着いて居ないか見るために来ただけで、長居するつもりは無かった、彼女達が居なければ凍死していたかも知れない。

 

「僕は君達を案内しようと思って、待ってたんだよ」

 

「私達って?私達が誰か知っているのか?」

 

「名前は知らないけれど、多分地下の方から来た人だよね?僕はきっと誰かが辿り着いてくれると思って、ずっと前から待ってたんだよ」

 

もう日課になるほど長いこと待っていた、この頃は下の層で飛行機や爆発音がしていたから、誰かは居ると思っていた。

 

「だから正しくは誰かだね、新しい誰かを待っていたんだ」

 

「…もしかして」

 

「チーちゃん?」

 

「もしかして、まだ人が住める土地が何処かに有るのか!?」

 

「本当!」

 

「沢山の人が住める土地が有るよ、だけど分かりにくいみたいだから。僕が案内人に成ろうと思ったんだ」

 

「ユーリ!」

 

「チーちゃん!」

 

二人は感激したのか僕を間に挟んだまま、ぎゅうぎゅうと泣きながら抱き合い始めた。

今までどんな生活をしていたのか、体に骨が浮いている様に感じる

きっと大変な目に合って来たんだろう、ここに来る人は皆泣いていた。

 

「案内したいんだけど、その前にご飯にしても良いかな?」

 

「ああ、案内してもらえるならなんでも良いよ」

 

「寒そうだから毛布は着てなよ」

 

「ありがとう、えっと…?」

 

「私はユーリでこっちがチトちゃんだよ」

 

「よろしく」

 

金髪がユーリちゃんで黒髪がチトちゃんらしい

 

「僕はコマだよ、よろしくね」

 

「コマ…コマちゃん?コーくん?コーくん!」

 

「コマよろしくな」

 

「コーくんよろしく」

 

コーくんというあだ名を貰いながらもご飯を用意する、ポットからスープをコップに注ぎ、サンドイッチを取り出す簡単なご飯だ。

 

「いただきまー…?」

 

視線を感じて隣を見るとユーリがよだれを垂らして見ていた、そうだった配慮が足りなかった二人ともお腹がすいているだろう。

コップをそのままユーリに渡す。

 

「はいどうぞ」

 

「え?」

 

「おっおい」

 

「チトもサンドイッチどうぞ」

 

両手に有ったものをそれぞれに渡す

 

「わぁっ!良い匂い、ありがとうコーくん!」

 

「おいユー!」

 

「チーちゃん食べないの?なら私に頂戴!」

 

そう言って手を伸ばすユーリを、チトはひょいと体を捻ってかわす

 

「食べるに決まってるだろ!私も食べるが、お前は警戒心が足りないと言っているんだ」

 

「コーくんは良い人だよ、だってご飯くれたし。それにチーちゃんも食べるんじゃん」

 

「もう、良いよ…余計に腹が空いた」

 

はぁとため息を吐いたチトにも、スープを渡す

 

「はいチト、スープを飲めば体が暖まるよ」

 

「悪いな目の前で疑う様な事を言って、スープありがとう」

 

「別に良いよ、その位の警戒心が無くちゃ心配になるよ。」

 

「分かってくれるのか…!」

 

きっとユーリの自由さに苦労したのだろう、チトが感動に震えていた、寒さのせいかも知れないが。

 

「チーちゃん!これすごく美味しいよ!こんなに美味しい物おじいさんの所でも食べた事無いよ!」

 

「!本当だ凄く美味しいスープがこんなに美味しいなんて…今まで私達の食べていたスープとは一体何だったんだ…」

 

「スープもサンドイッチもおかわりが有るから沢山食べてよ、二人がこんなに喜んでくれるなら作って来たかいがあったよ」

 

コーンスープとハムサンドでこんなに喜んで貰えるなら、本当に作って来たかいがあった良かった。

 

「チーちゃん、もしかしてコーくんが神さまなんじゃないかな?」

 

「あぁそうだな、お腹が空いた時に食べ物をくれる。まさに神さまだな」

 

「大袈裟だよ二人も移住区に行けば、普通に暮らせるように成るよ」

 

 

二人の食事が終わるのを待ち移動を開始する。

 

 

大きな黒い岩こと、モノリスの表面を撫でると文字が浮かび上がる。

そのまま少し待つとモノリスの中を通れる様になる

チトとユーリを手招きしながら僕から通る、二人は恐る恐る後を着いてきた。

 

モノリスを抜けると、そこは一面の麦畑で二人は呆けた様に辺りを見回していた。

その顔が可笑しくてクスクス笑って居ると、二人もつられたのか一緒に笑い始めていた。

今日からは寒さや明日の不安からは解放されて、ここの移住区で一緒に暮らせば良いと伝えると。

二人は泣きながら笑っていた、これからは二人も幸せに暮らせると良いな。




黒い岩=モノリス

モノリスからワープして移住区へ
最終回で死んだと思いたくないなぁ

移住区からまた地下へ向かう旅も楽しそう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

見えない姿 エスター

映画 エスターから

エスターが幸せになる話を書きたかった、エスターすごい好き

エスター 合法ロリBBA

主人公 ジョナサン 通称ジョン 事故で視力をほとんど失う、手術すれば視力は戻る



今回もまた駄目だった、施設から引き取ってくれた時は今度こそ幸せになれると思ったのに…

 

結局皆一緒、邪魔者共を始末して二人きりになったのに妻は何処だ子供は何処だ…そればかりで私を見てくれない。

挙げ句の果てには君はまだ子供だの、そんな目で見れないだの…私は大人よ!立派なレディだわ!

 

どれだけお化粧をしても、ドレスを着ても誰も本当の私に気付いてくれない。

私は大人として、対等な相手として扱って欲しい、子供のまま成長しない体が憎い。

でもどうする事も出来ない、だからまた探すの…私だけを愛してくれる誰かを、大人として愛してくれる誰かを。

 

 

今度はどの孤児院にしようかしら?

 

ベンチに座って悩んでいると誰かが私の足にぶつかった、相手を見ると帽子を深く被り、サングラスをかけた男性が立っていた。

 

「ああごめんなさい、ぶつかってしまいましたね。怪我は無いですか?」

 

私に謝罪しながらも目線が可笑しい、全く検討違いの方向を向いている

 

「大丈夫よ、怪我は無いわ」

 

男はあからさまにほっとしている

 

「良かった、レディに怪我をさせる事にならなくて」

 

嫌みだろうか?私を見てレディなんて…

 

「貴方は私がレディに見えるの?」

 

「?どう言う意味ですか?私は貴女の落ち着いた話し方や、声を聞いてレディだと思ったのですが…」

 

「話し方?」

 

私の姿じゃなくて話し方?一体どういう事?

不思議に思っていると

 

「実は私は…目が見えていないんです」

 

男は手探りでベンチに座ると、帽子とサングラスを取った、その顔には目を覆う様に包帯が巻かれていた。

 

「もう少しで手術を受けられるのですが、今は光を感じる程度しか分からないんです」

 

「そう…」

 

ふと思い付いた、目の見えないこの男なら私を愛してくれるかもしれない、身長が低いと言って何とか誤魔化せるかもしれない。

 

「貴方、目が見え無いのなら、杖を使わないの?」

 

「それが運の悪い事に、さっき盗まれてしまってね…それで貴女にぶつかってしたったんだ。本当に申し訳無い」

 

この男は酷くお人好しの様だ、取り入るのもきっと簡単に違いない、それなら…

 

「杖が無くて家まで帰れるの?」

 

「何とかタクシーでも捕まえられたらと、思ってね」

 

「そんなの危ないわ、私が送って行ってあげる」

 

「ぶつかった僕が悪いのに、送って貰うなんて出来ないよ」

 

「良いのよ、私丁度お散歩の途中だったの。だからたまには、違う道を通るのも悪くないと思わない?」

 

「そこまで言ってくれるのなら…お願いしても良いかな?」

 

思った通りこの男は取り入り易い、このまま家に入り込めば後は懐柔していくだけ

 

「勿論よ、ほら私の手を掴んで?」

 

「ありがとう助かるよ」

 

笑った男の顔にドキッとした、久しぶりに感じた素直なときめきだった。

この男とならもしかして…

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

それからは全てが順調だった。

 

思った通り男はすぐに私を信用した、介護士の資格を持っている仕事を探していると言えば、私を住み込みのヘルパーとして雇ってくれた。

 

予想外だったのは、男が私を何処までも丁寧に扱う事だった。

何処かのお姫様の相手でもしているかの様だ。

初めは馬鹿にされているのかと思ったが、この男は誰に対しても丁寧だった。

そして何よりも私を対等に扱ってくれる、大人として尊重してくれる。

 

私は望んでいた大人としての対応に喜んだ、満足な筈だった…でも私の心は違う物を求め始めた。

 

彼だ、彼に本当に愛されたいと思った。

 

その為には彼に手術を受けさせなければいけない。

彼は目の見えない状況で誰かを好きになれば、相手に迷惑をかけると言っていた、そのせいで私を求めてくれない。

誰とも恋愛出来ないとも言っていた、何とかここまでは聞き出せた。

 

彼に手術を受けさせる…彼が恋愛を躊躇する理由は無くなる、でも…彼に私の姿を見られてしまう、この成長しない醜い子供の様な姿を。

 

目の見えないままなら今の生活を続けられる、このまま彼を騙して私の手元に置く事が出来る

でも…彼に愛されたいと思ってしまった、一度気付いてしまうと、想いは日に日に強くなり抑えられなくなる。

 

答えの出せないまま、日々時間だけが過ぎてしまう。

 

…………………………………………

 

「何か悩み事かい?」

 

「何故そう思うの?」

 

「この頃の君は、少し様子が可笑しいからね」

 

「わかるの?」

 

「一緒に暮らしているんだ、その位は分かるよ」

 

「ジョン…」

 

今までの家族は見えていても誰一人気が付かなかったのに、見えなくてもジョンだけは気付いてくれた…

日々の何気ない事も愛しく思う、もう誤魔化さずに手術を受けさせるべきなのかも…

 

「ジョン貴方は、もし目が見えたら何がしたい?」

 

「目が見えたら…そうだね、君が見たいかな」

 

私が見たい?もしかして彼に疑われているのだろうか、完璧に献身的な女性として振る舞って来たつもりだ…途中からは本心からの行動だったけど

 

何処か可笑しかったのだろうか、やっぱり私では大人になれないのか…

心が深く沈んで行く、彼に出会ってからは感じていなかった、暗く冷たい感情。

彼も本心では私の事を…

 

思わず彼の首に手をかけようとしたが、再び彼が話し出す

 

「君の事を知りたいんだ」

 

「…私を?」

 

「何時も僕の一番側に居てくれて、支えてくれる君と、目を見て話してみたいんだ」

 

「私もよ」

 

首に伸ばした手を彼の頬にあてる、彼は私の手を握ってくれた

彼ならば私を見ても否定しないかもしれない、受け入れてくれるかも

…もしも拒絶された時は…その時は…彼を殺して私も一緒に死のう、そうすれば彼は私から離れて行かない。

 

「ねぇ話があるの、貴方の手術についてよ」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

彼の手術は上手く行った、経過も順調でもう包帯を外してもいいと医者に言われた。

 

彼は今日初めて私を見る、今日が私と彼の最後の日にならない事を祈ろう

 

 

 

病室の扉をノックする

 

「ジョン様子はどう?」

 

「エスター、すごく良いよ」

 

私の声に反応して優しく笑う、目が見えてしまうとこの幸せも消えてしまうのかと思うと恐ろしい。

いっその事、今までの奴らみたいに殺してしまえたら楽なのに。

 

「包帯を外す許可がでたわ」

 

「本当かい!」

 

「ええ、私が外してあげる」

 

ポケットにナイフを隠し彼に近づく、彼の瞳に少しでも嫌悪の色が浮かんだら一緒に死のう

 

「ありがとう」

 

「じっとしてて」

 

ゆっくりと丁寧に包帯を外す

彼の顔が見える、震えた瞼がゆっくりと開かれた

初めて見る彼の瞳はブルーで、とても綺麗

 

「…エスター?」

 

「ええ」

 

見えにくいのか何度も瞬きをした後、私を瞳に捉えた

 

「君がエスター…」

 

がっかりしたのか彼の瞳が伏せられた、…ああやっぱり受け入れて貰えない。

ポケットのナイフを掴んで引き抜こうと…

 

「思った通り綺麗だね」

 

「え?」

 

再び私に向けられた瞳には、喜びの色と涙が浮かんでいる

 

「見えない間ずっと想像してたんだ。でも想像よりもずっとずっと綺麗だ」

 

「ジョナサン…!」

 

私は彼に抱き付いた、優しく抱き締める腕にすがり付く。

まさか本当に受け入れて貰えるなんて、自然と涙が溢れる。

 

「私はこんな見た目なのに…受け入れてくれるの?」

 

「エスターはどんな見た目でも、エスターだよ」

 

「…本当に?」

 

「それにエスターの見た目も僕は好きだよ」

 

見た目事受け入れて貰えるなんて…今まで何人も殺して、何年も探してやっと巡り会えた。

私はずっと彼を探していたのかもしれない。

 

「それにね、エスターが小柄な事は気が付いていたんだ」

 

「気が付いて…?私はずっと隠してきたのに」

 

「隠したがっている様だから、言わなかったんだ。君の嫌がる事はしたく無いからね。」

 

隠し事がばれていたのは悔しいけれど、彼に理解されているのは嬉しい。

 

「それにね、初めから分かっていたよ。出会った時に手を握ってくれたでしょ?その時に小さな手だと思ってね」

 

「初めから分かっていて、一緒に居てくれたの?」

 

「実は僕、君に一目惚れしていたんだ」

 

「嘘…だって見えてもいないのに」

 

彼は照れたように目を背けた

 

「君の声を聞いた時に、素敵だと思って。

落ち着いている様でいて何処か冷たくて、でもその中の寂しさや悲しみを感じて、僕が一緒に居たいと思ったんだ」

 

ああ…本当に最初から全てばれていたのか、私の心の奥に隠していた感情さえも

 

「エスター僕と結婚してくれますか?これからは夫婦として、二人で生きて行きたい」

 

「はい勿論、愛しているわジョナサン」

 

「僕も愛しているよエスター」

 

二人で額をくっ付け笑いあう、こんな夢の様な事がおこるなんて、彼に出会えて良かった。

 

これからの未来は幸せなものになる、してみせる。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふぅっ…こんなものね」

 

ゴミ掃除を終えて家に帰る

ジョナサンの目が見える様になってから、邪魔なゴミが増えた。

 

彼の素顔が分かった途端、目の色を変えた女達がジョナサンに群がる、確かに綺麗な顔をしているが彼の魅力は顔じゃ無い、今迄彼を見ようともしなかったくせに図々しい。

 

片付けても片付けても次から次に沸いてくる、もうゴミを埋めるのも場所に困る程

 

「お帰りエスター、少し疲れたのかい?」

 

「ええゴミが多くて、困っちゃうわ」

 

「本当に綺麗好きだね」

 

「一つも許せないの」

 

「僕がご飯を作るから、お風呂で休んでおいで」

 

「ありがとう」

 

ジョナサンは何も知らない。

二人の幸せは私が守る、誰にも邪魔はさせない

袖に着いた血を綺麗に洗い流してしまわないと、まったく本当に迷惑なゴミだわ




主人公からの一目惚れ、一聞き惚れ
ロリコンな訳では無く、エスターならどんな見た目でも好き、愛せる

嫌がる事はしたく無いので、エスターの過去は知らない
言われたら黙って受け入れる

主人公も少し可笑しい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

這いでた!アザトース様


這いよれ!ニャル子さん

ニャル子さんヒロイン

真尋女体化

真尋さんをセミロングにした感じ
口の悪い美少女

主人公がアザトースなので大分無理のある設定
作者の妄想ですので


無限の宇宙の中心部

闇の中を蠢くものかいる

 

我の名前はアザトース割りと何でも出来るが目が見えず頭もあまり良くない、普通の人間よりは遥かに賢いが邪神と比べると白痴と言われている

まあ目が見えないのは、邪神パワーをオーラの様に使い目の変わりにしている

 

今は宇宙に居るが、この頃地球が騒がしいらしい

なので自分の力を使い分身を作ってみた、地球人に似せた人形だこれを地球に送り込み様子を見る。

少しは退屈を紛らわせるといいが…余り期待はしていない、だが何もしないよりは幾分ましだろう

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

八坂家

 

「あわわわ、大変です!真尋さんどうしましょう!」

 

「何だよ!何時にも増して騒がしいな!」

 

リビングでニャル子と真尋が騒いで居ると、慌てたクー子が入ってくる

 

「ニャル子っあの方が来るってほんと!」

 

「本当ですよ!だからこんなに慌てて居るんです!」

 

「は?あの方って誰だよ!」

 

「私のお父様です!」

 

「我らが王よ」

 

ピンポーン

八坂家のインターホンが鳴る

 

「はーい、今出まーす」

 

「この気配は、あっ待ってください真尋さん!その方は…」

 

時すでに遅く真尋は玄関を開いていた

そこには黒髪黒目の長身の美男子が立っていた

髪の毛は深い黒、瞳は覗くと何処までも闇が続いている

年は二十代位だろうか?

 

「はじめまして我はアザトースという、ここに我が子がお邪魔しているらしいな、これは土産だ」

 

「あっどうも、どうぞ中へ」

 

真尋は宇宙人が常識的な行動をとったことに唖然とする

今までの奴等とは大違いだ、なんて素晴らしい人、いや宇宙人だろうと感動していた

 

「お父様!」

 

リビングに入るとニャル子が男に抱きついている、悔しい事に美男美女だ

 

「ニャルラトホテプか?暫く会って居なかったがお前も人形になったのか」

 

「はい!今はニャル子と言います雌ですっ!

あっ人間は女の子でしたか」

 

「そうかニャル子か、それであのクトゥグアは?」

 

「我らが王よ御前失礼致します、我が名はクトゥグアのクー子と申します、お会いできて光栄でございます」

 

さっとアザトースの前に出て片膝をつき挨拶をする、普段の姿とはまるで別人だ

 

「クー子か分かったお前も楽にするが良い、我は地球には暇潰しできたのだ、警戒する事は無い」

 

「ありがとうございます、アザトース様」

 

「うーん、もっと楽にせよ」

 

観察に着たのだ普段の姿が見たい

 

「わかった、これでいい?アザトース様」

 

「うむ、合格だ」

 

クー子の頭をわしゃわしゃ撫でる、嫌がらずされるがまま気持ち良さそうにしている

 

「お前も挨拶をしないか?」

 

「あっ」

 

ハス太が隠れていた、声をかけられて出てくる

 

「お久しぶりですね、元気…では無かったですよねあんな所に居たんですから」

 

「ああハスターか久しいな、あんな場所でも我の力を閉じ込めるには必要だからな、それに我の本体は今もあそこにある」

 

「そうだね貴方が出てくると、宇宙は終わってしまうから」

 

「お父様ハス太くんと知り合いですか?」

 

「たまに訪ねて来てくれる、良き邪神だよ」

 

「どうしても貴方に会いたくなると、消滅を覚悟して会いに行くんだよ」

 

「お前は消滅しない様にしてあるが」

 

「えっ本当?これからはもっと会えるの?」

 

「ああ何時でも来い」

 

「うん!ありがとう」

 

ハス太がぎゅっとアザトースに抱きつく、男同士だろうに

 

「お前ら男同士だろ?そんな感じで良いのか?」

 

「ん?邪神に性別は関係ないぞ?どうとでも変えられるからな」

 

「そうだよ?邪神同士はね」

 

「ストップです、私のお父様ですよ!私が先にお父様と結ばれるんです!」

 

「お前は親子だろ!流石にそれは駄目だろう!」

 

「へ?別に関係無いですよ?邪神ですから」

 

「そうだな本人…本神の気持ちの問題だから、あとは相性か」

 

「お父様とならどの邪神でも、大丈夫ですよね?」

 

「そうだな」

 

アザトースはすべての生みの親、何とでも相性は良い

 

「我は今回地球に観察に来たのだ、何やら地球が騒がしかったからな」

 

「この頃俺の周りでも、色々あったからな」

 

「お父様!私と新しい子を作る予定はありますか!」

 

「暫くは大丈夫だな、まだ眷属の数は足りている」

 

「ええ~、作りたいです~」

 

「そのうちな」

 

ぽんぽんと頭を撫でる、ニャル子はなだめられているが、それを聞いていたクー子とハス太はショックを受けていた

 

「私ともですか?」

 

「僕とも作らないの?」

 

「今は作らないよ」

 

二人はショックで固まっていた、それよりも観察をしたい

 

「ニャルラトホテプ、いやニャル子はどういった生活をしているんだ?」

 

「私は今は日本の学生をしてます、あっお父様もどうですか?」

 

「おいっ!そんな簡単に転入出来る訳無いだろ?」

 

仮にも日本の学校だ、書類の審査や手続きが必要になるだろう

 

「なに言ってるんですか?真尋さん、お父様の力で出来ない事は一つも無いんですよ」

 

「正しくは我の力を、ニャル子に使って貰ってだがな」

 

「私が一番、お父様の力を上手く使えるんですよ!」

 

胸を張って言うニャル子

 

「我は頭がそれほど良くない、いや…悪いと言ってもいいだろう、盲目白痴の神と呼ばれた事もある程だ」

 

「?十分普通に話せてるだろ?何処が白痴なんだよ」

 

「やれやれ真尋さん、邪神と普通の人間の知能を比べないで下さいよ、邪神の白痴と言っても人間程度の頭脳よりは遥かに賢いんですよ?」

 

「お前腹立つな!」

 

真尋の投げたフォークがニャル子の額に刺さり、痛みに床を転げ回っている。

邪神にダメージを与えるフォークとは、なんと恐ろしい

真尋は両手にフォークを構え次の攻撃の準備をしている。

 

「すまないな真尋、ニャル子が悪いが許してやってくれ」

 

頭を撫でながら謝ると、真尋はピタリと固まり赤くなった。

 

「べっ別にそこまで怒ってる訳じゃ無いし」

 

「あー真尋さん!お父様にでれでれしないで下さい、うらやましい!」

 

「しっしてねぇよ!」

 

「私はちゃんと見てましたよ!」

 

賑やか場所だなここなら宇宙より、暇を潰せそうだ

 

「真尋よ、我も高校と言う所に行こうと思う。ついては我に説明と、案内をしてくれないか?」

 

「えっお前も学校に来んのかよ」

 

「駄目なのか?」

 

「いや大丈夫だ、俺が面倒見てやるよ」

 

「おお!助かるぞ真尋」

 

また真尋の頭を撫でると、自分でぐいぐいと押し付けてくる、どうやら撫でられるのが気に入った様だ。

人間とは面白いな、我も人間をペットにしてみようか?

 

「お父様学校に行くなら制服ですよ、男子高校生ですから、男子用を着ないといけません」

 

「制服か」

 

「王よこちらに」

 

クー子が何故か持っていた

 

「ありがとうクー子」

 

頭を撫でると嬉しそうに髪の毛が動く、それは触覚なのか?

 

「こうか?」

 

上の服を脱いでシャツを着る、ボタンと言うものが閉めにくい、みかねた真尋が閉めてくれる

 

「貸せよ俺がやる」

 

「助かるぞ真尋」

 

「別に」

 

微妙に背伸びをしている?ああ撫でて欲しいのか、思った通り撫でると背伸びを止めた、可愛らしいな

 

「学校に行ったらよろしく頼むぞ」

 

「ああ、任せとけ」

 

「お父様、私と同じクラスにしますね」

 

「楽しみです、アザトース様」

 

「僕も楽しみだな」

 

「我も数万年ぶりに少し楽しみだな」

 

「数万年って…」

 

「真尋さん忘れてはいけませんよ、お父様はめちゃくちゃカッコいいただのイケメンじゃなくて。邪神の王様なんですから」

 

「なんでお前が偉そうなんだよ!」

 

「私もそこそこ何ですよ」

 

「ムカつくな」

 

「ああ、フォーク、フォークを出さないで下さい!」

 

「うるせえ、黙って壁に刺さってろ!」

 

「真尋さん、乱暴にしちゃ駄目です」

 

「地球は愉快な所だな」

 

「気に入った?」

 

「ああ気に入ったよ」

 

「僕もここが大好きなんだ、だから貴方とここに居られて嬉しいよ」

 

「ハス太は素直で可愛いな」

 

「えへへ」

 

そうして真尋家にまた邪神が増えるのであった




アザトース様略してとーさま
という事でお父様になって貰いました
アザトース様ならまあ何でもありで大丈夫でしょう

多分続かない

次にニャル子さん書くなら、真尋さん成り代わりが良い


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

巫女様 コレット

テイルズ オブ シンフォニア コレット
一途で純粋、少々狂っている

主人公はコルニクス・カーマイン
赤い目に黒髪
カラスのイメージ


僕の村には巫女様がいる

ブロンドのロングヘアーにブルーの瞳で、とても美しい少女で僕の幼馴染だ。

名前はコレット・ブルーネル

 

「ニクス~」

 

村の近くの丘で一人海を眺めて居ると、後ろから僕を呼ぶ声が聞こえて来た

 

「コレットまた来たの?」

 

「ニクスが村に居ないから、何時ものここかなって思って」

 

コレットは僕の隣に座ると、照れた様に笑う

学校が終わると僕は何時もここに来る、村の皆は優しいが閉鎖的な雰囲気がどうにも息苦しかった。

 

「いつの間に村から抜け出したの?私も誘ってくれれば良かったのに」

 

「コレットは巫女様だから、気軽に誘えないよ」

 

「もっと一緒に居たいのに…」

 

コレットは寂しそうに僕の手を握る、でも巫女様は特別な存在だ。

村だけじゃなく世界にとっても、万が一怪我でもさせたら大変な事になる

 

「私もうすぐで、旅に出るでしょ?」

 

「世界再生の旅だよね、リフィル先生に習った」

 

世界を救う巫女様、コレットはその使命を背負って生まれてきた。

なんでも巫女は生まれた時に大切な宝石を持っているらしく、コレットがそうで赤い綺麗な宝石を持って生まれて来た

 

「旅の護衛の人を雇うらしいんだけど、ニクスも護衛として選ばれたみたいだよ」

 

「え?僕が選ばれたの?」

 

「そうだよ。村で一番の強さと、私の推薦があったからだって」

 

確かに村で一番強いのは僕だ、狩りで肉をとってきて、村に近付く魔物を退治している。

狩りをする一番の理由は強くなる為、僕は何時か村を出て一人で旅をする、その為の強さが必要だからだ。

 

「でも僕は一人で旅に出るから、コレットと一緒には行けないよ」

 

「ううん、行くんだよ?」

 

何時もと変わらない笑顔で僕の言葉を否定する、コレットは当たり前の事の様に話す。

 

「だって、私とずっとずっと一緒だもん」

 

「コレット?」

 

「一人でなんて行かないで…私と一緒に行こう?ずっと…ずっと一緒に居たいよ…」

 

握った僕の手を胸に抱き締め、じっと目を見て話す。

 

「私ねホントは、村や世界なんてどうでも良いんだ。

でもねニクスと一番長く居られる方法が、世界再生の旅に出る事だったから」

 

「どうして、そんな事を…」

 

「ニクスが言ったんだよ。この村は好きじゃ無いって、出て行きたいって。

私驚いたの、村を嫌いになっても良いんだって、無理に好きにならなくて良いんだって」

 

「でもコレットは、大好きな皆を救いたいって言ってたのに」

 

村の皆に何時も優しく親切で、村の事が大好きだと思っていた。

 

「うん大好きな皆、だよ。ロイド、ジーニアス、リフィル先生」

 

確かに大好きな"村の"皆とは言っていない、でも村の人達は自分達の事と思っていて、巫女様、巫女様とコレットを崇めている。

 

「そしてニクスの事が、一番大切で大好きだよ。

私の全てを捧げて救いたいのはニクスだけなの、特別で愛してるニクスの為になら、喜んで命を捧げるよ」

 

唖然として言葉が出ない

 

「私は巫女だから村が好きで、世界を救いたいと思わないといけないって思ってた。

でもね、ニクスのお陰で嫌いでも良いんだって分かったの。

想いは自分で選んで良い物なんだって、初めて知った」

 

「僕のせいで…?」

 

「お陰で、だよ。私は目の前が明るくなった気がして、皆の本当の姿が見える様になったの」

 

「本当の姿が?」

 

「そう、皆が大好きって言うのを外して見てみると、皆が見てるのは巫女の私って分かったの。

村の皆も…お父様もそうだった、凄くショックで悲しくて…少し泣いちゃった」

 

「そんな事、皆コレットの事をちゃんと見て…」

 

「見てくれてなかった、ニクスだけなんだよ?

私自身を、ちゃんと見てくれたのは」

 

コレットはその時の事を思い出したのか、泣きそうになっていた

 

「ロイド達は?あいつらなら、ちゃんとコレットを見てくれてた筈だよ?」

 

「それがね…友達だけど私が優しい巫女を演じていても、演技だって気付いてなかったの。

凄い巫女様だなって、褒めてはくれたけどね」

 

「ロイド達は純粋だから、信じやすくて疑う事を知らないから」

 

「そうだね…でも少し寂しかった。

ニクスは私を見て変な顔をしたから、聞きに行ったの覚えてる?」

 

「うん覚えてる、あの時のコレットは顔は笑ってたけど、悲しんでるみたいで…目が泣いてる様に見えたんだ」

 

僕の言葉を聞いたコレットは泣きそうに顔を歪めて、僕の胸に抱き付くと暫く動かなくなった、頭を撫でて話すのを待っていると顔を上げた

 

「そうだよ顔は笑えたけど悲しかったの、誰も私を見てくれないのに、私は皆の為に…

でもね、ニクスが見てくれるからもう良いの。

私を見てくれるのがニクスだけなら、私ももうニクスだけしか見ない事にしたの」

 

コレットの目は暗く淀んで見える。

なんで皆もっとちゃんとコレットを見ないのか、以前はこんなに暗い目をしなかったのに。

 

「だから、ニクスが私から離れちゃったら…私を見てくれる人はもう一人も居なくなっちゃう。

本当の私は、要らなくなっちゃうよ…」

 

涙を流して話すコレットは、巫女の使命に苦しんでいる。

僕は時々こうして話を聞いているから知っていたけど、村の人は、苦しんでいるコレットに気付きもしない

あんなに苦しそうな笑顔に誰も気付かないなんて…

 

「コレット…辛いね」

 

「うん…とっても」

 

ポロポロと涙を流すコレットは、辛そうに表情を歪めている。

皆の見ている巫女様は何時も優しい笑顔で笑うコレット、涙を流すコレットなんて想像もしないんだろうな。

 

「私はねニクス、貴方が居るから私が居るの。

ニクスに気付いて貰えてなかったら、心が砕けて本当の私が死んじゃってたと思うから」

 

こんな状態のコレットから僕が離れたら、コレットの心は死んでしまいそうだ。

 

「ニクス大好き、だからずっとずっと側に居て…」

 

「コレット…分かった、一緒に旅に出るよ」

 

「あ…あぁぁ」

 

コレットはとうとう大泣きし始めた、今までの我慢や辛い事、悲しい事もごちゃ混ぜになっているのだろう。

ここまで泣くのは初めてだ。

震える小さな背中を撫でて、泣き止むまでじっと待っている。

 

 

 

「ごめんね、お洋服濡れちゃった」

 

「全然構わないよ、それよりも少しは楽になった?」

 

「うん!ニクス大好き」

 

より強く抱き付いてきて、胸に顔を押し付けている。

 

「私ね、旅が少し楽しみになったんだよ?」

 

「そうなの?辛い旅だって習ったけど」

 

「だって旅をしてる間って、ニクスを独占できるもん。

何時もは、村の女の子達とお話してたから私は我慢してたけど、旅の間は我慢しなくても良いよね?」

 

確かに村の中ではコレットはあまり話し掛けて来ない、遠くから僕を見つめて居るだけ

 

「村でもしなくて良いと思うけど、なんで我慢するの?」

 

「え?だって村ではあんまりお話してくれないから、迷惑なのかと思って」

 

「違うよ、村の皆が巫女様って敬ってるのに、僕が気軽に話す訳にもいかないでしょ?」

 

「また巫女が邪魔してたんだね…」

 

ぼそっと何かを呟いた

 

「コレット大丈夫?」

 

「大丈夫だよ!でもこれからは、ニクスも旅の護衛になったから、話してくれるよね?」

 

「そうだね、話し掛けるよ。

次からは、ここに来る時もちゃんと誘うよ」

 

護衛だから一緒に居ても大丈夫だろう。

コレットは嬉しそうに笑ったあと、ふと悲しそうな顔をした。

 

「もしね…もしも私が巫女じゃ無かったら、ニクスと結婚出来たのかな…?普通の幸せを叶えられたのかな?」

 

「コレット…」

 

「でも無理だよね…私は巫女だから。

ニクスのお嫁さんに、なりたかったな…」

 

俯くコレットからは小さく嗚咽が聞こえてくる、巫女には何の自由も無い、ただ生まれた時から巫女で世界の為に旅に出る。

自分の願いを押し殺し、世界を救う為だけの道具みたいに…

 

「コレットの願いって何?」

 

「私の…願い?」

 

俯いていた顔を上げ、不思議そうにキョトンとしている

 

「決まってるよ、ニクスのお嫁さんになりたい」

 

「なら、僕が叶えるよ」

 

「え?」

 

「コレット僕と結婚して、お嫁さんになってください」

 

コレットは喜び半分、困惑半分で表情がおかしな事になっている。

 

「ホントに…?私は巫女だから旅に出るんだよ…長くは一緒に居れないんだよ?」

 

「それでも、コレットの夢を叶えたいから」

 

「でも気持ちは?私はニクスを愛してるけど、ニクスはそうじゃ無いでしょ?」

 

「友達としては好きだよ」

 

「やっぱり…」

 

今は友達として好きだ、でも結婚してから好きになっても良いんじゃないかな?

だってコレットなら好きになれる気がする、いや確信している。

 

「だからこれから好きになるよ、コレットと沢山一緒に過ごして、愛してみせるよ」

 

「ニクス!」

 

飛び付いて来たコレットを支えきれず後ろに倒された、コレットは喜びで表情がだらしない。

にまにまと嬉しそうに笑っていて、初めて見る表情だ。

 

「私、生きてきて今が一番幸せ」

 

「それなら良かったよ、そういえばこれ」

 

腰に付けたアイテムポーチから指輪を取り出す、特技の細工で作ったペアリングで特に出来の良かった物を渡す。

 

「結婚指輪だよ」

 

コレットの左手の薬指に結婚指輪を嵌める

 

「ありがとう、私もニクスにつけたい」

 

僕の薬指にもお揃いの指輪が嵌まった、これで見た目は夫婦だ

コレットは指輪を見つめて喜んでいるし、僕は結婚した実感が沸かず、なんだか不思議な感じだ

 

「私ね、叶わないと思って諦めた夢が沢山あるの」

 

「僕に出来る事なら叶えたいな」

 

「ニクスにしか出来ない事だよ」

 

何だって叶えてあげたい、限界はあるけれど出来る事なら何でもする

 

「デートしてキスもしたい、一緒に住むのも、子供も欲しいな…朝目が覚めて一番にニクスを見て、ずっと一緒に過ごして、夜眠る最後までニクスだけを見ていたいの」

 

「え?ちょっ…ちょっと待って!」

 

コレットの願いが溢れて大変だ、子供以外は叶えられるけど、僕に出来るかは別問題だ。

コレットの勢いがすさまじい、僕だけが恥ずかしいんだろうか?

 

「ニクスまずは、キスからしようね?」

 

「ちょっと待って!」

 

待ってくれなかった。

倒れた僕の上に乗っていたコレットは、そのままキスをしてくる。

 

「うぅ…初めてなのに」

 

「ホントに?ニクスの初めてを貰えるなんて嬉しい!

私も初めてだよ、お揃いだね」

 

テンションがすさまじく上がっている、コレットが少し怖い肉食獣の様な目をしている。

 

突然コレットは真面目な顔になる。

今までの様子が嘘の様に真剣な表情だ。

 

「私のニクス…私だけのニクス、もう絶対に離してあげない、ずっとずっと愛してる」

 

「僕もこれからは、コレットを愛する事を誓うよ」

 

「ニクス…私が死んでも、居なくなっても、忘れないで…私を覚えていてね…」

 

「コレット…コレットは僕のお嫁さんになったんだよ?永遠に覚えている、これも誓うよ」

 

「ニクス…ありがとう、私の大切なニクス」

 

寂しそうに笑うコレットを救いたい、そう願った。

 

 

 

僕の願いが叶う未来が来る事を、この時の僕らは知らなかった。




コレットは割りと扱いが可哀想なヒロインだった
世界再生ってひどいシステムだよね

村人がロイドとジーニアスを追い出してるシーンは、胸糞悪くなった


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

泥棒猫 レオパルド アハトアハト

アッシュアームズ大好きです

はっちゃん推し

レオパルドのクリスマススキンの話

代理人=エージェント


「代理人、代理人」

 

通路を歩いていると後ろから小さな声の覚束無い発音で声を掛けられた

振り向くとやはりそこにはレオパルドの姿が、しかし何時もと衣装が違う

視線を合わせる為にしゃがみこみ返事をする

 

「レオパルドどうした?」

 

「わたし、違う」

 

頭にクエスチョンマークが浮かぶ、違うとは一体何の事だ

 

「わたし、盗み食いしてない、真犯人、ニート砲」

 

あぁ、今朝クリスマスケーキが誰かに盗み食いされたらしく少し騒ぎになっていた、それの事か

 

「代理人、信じて?」

 

「うーん…信じたいのは山々なんだけどねぇ」

 

「酷い、代理人、信じてくれない?レオパルド、嫌いになった…?」

 

「そうじゃなくてね、レオパルドの頬にチョコレートがくっついているんだよ」

 

ハンカチを取り出しレオパルドの頬を拭ってやると、其処にはベッタリとチョコレートクリームがついていた

 

「あっあぅ」

 

「ほら綺麗になったよ」

 

「ありがとう、代理人、…ごめんなさい」

 

「うん、ちゃんと謝罪を受け取ったよ」

 

俯きながら謝罪をするレオパルドの頭を撫でる、すると涙の滲んだ瞳が此方を向いた

 

「ちゃんと謝れて偉いよレオパルド」

 

「あっ代理人、好き、もっと撫でて」

 

頭を撫でる手のひらに背伸びをして自分から頭をくっ付けてくる。

その可愛さに暫く頭を撫でていると、怒りの形相のアハトアハトがやって来た。

 

「レオパルド…ハっちゃん盗み食いなんかしない、代理人にまでハっちゃんが盗んだって言ったの?」

 

「うぅ」

 

レオパルドが私の後ろに隠れてアハトアハトを見ている、その反応が火に油を注いだのか更に怒り出した

 

「代理人…ハっちゃん盗み食いしてない信じてくれる?」

 

「勿論信じてるよ、さっきレオパルドから盗み食いの謝罪を受けたからね」

 

「そう…」

 

少し嬉しそうなアハトアハトを見て、レオパルドは私の後ろから出て来て謝罪をした

 

「アハトアハト、ごめんなさい」

 

「むぅ謝られると怒れない…許すしかなくなる、ズルい」

 

「アハトアハトも良い子だね」

 

アハトアハトの頭も撫でると何故か不服そうにそっぽを向かれた…頭を撫でる手は止めないように小さな手で押さえられているが

 

「アハトアハト?どうした?」

 

「むー…」

 

「なんだ?私が何かしてしまったのかな?」

 

「代理人…ハっちゃんって呼んでって何回言わせるの、ハっちゃん怒る、悲しくて泣いちゃう」

 

そう言えば前から、いや出会った時からハっちゃんと呼んでと言っていた。

1人だけに馴れ馴れしくするのも悪いと思っていたが、もう皆仲が良いので許されるだろう。

 

「ごめんねハっちゃん」

 

「ん…許す」

 

僅かに表情が柔らかくなったハっちゃんは、きっとこれが笑っている顔なのだろう。

 

「代理人覚えていて、ハっちゃんは何時も代理人を信じてる、だから…」

 

「私も、何時もハっちゃんを信じているよ」

 

「えへへ」

 

ハっちゃんが私の足にぎゅっと抱きつき、嬉しそうに顔を擦り付けている

それを見ていたレオパルドが、私とハっちゃんを引き離そうとしだした。

 

「アハトアハト、駄目、代理人、レオパルドの!」

 

「違うハっちゃんの、ハっちゃんは嘘を吐かない誠実。代理人も安心、ハっちゃんの方が良い」

 

「うー!駄目!」

 

レオパルドがハっちゃんを引っ張るが、ハっちゃんはびくともしない。

さすがアハトアハト強い、レオパルドは引き離すのを諦めたのか私の方に向いた。

 

「代理人…レオパルド、ぎゅっと…して?」

 

レオパルドは此方に向かって両手を広げているが、生憎とハっちゃんが離してくれない

考えた結果こうする事にした

片手でレオパルドを手招き抱き締める。

 

「おいでレオパルド」

 

「代理人!」

 

パァッと明るい笑顔で抱き付いて来るレオパルドは、まるで猫の様にしなやかな動きだった。

 

片手にレオパルド片手にハっちゃん、まさに両手に花

 

「代理人、近く、嬉しい、レオパルド幸せ」

 

「ハっちゃんは代理人と二人きりが良かったけど…仕方ない、代理人のハっちゃんは良い子だもん」

 

「二人とも仲良くしてくれると、代理人は嬉しいな」

 

仲間内での喧嘩は見ていて悲しくなってしまう、外で戦っているのだ基地内位は争わないで欲しい。

レオパルドは私の話を聞いてこくんと一つ頷き、ハっちゃんの手を握った。

 

「レオパルド、代理人の望み、叶える、代理人幸せ?」

 

「勿論皆が仲良しだと、私も幸せだよ」

 

「レオパルド、幸せ!」

 

ぎゅうぎゅうと抱き締めてくるレオパルドは満面の笑みを浮かべている、本当に素直な性格だ

それを見ていたハっちゃんもぎゅっと力を込めて来た。

 

「ハっちゃんも幸せに出来る、代理人も代理人の幸せも…ハっちゃんが守る」

 

「ありがとうハっちゃん」

 

ハっちゃんはレオパルドに声を掛る

 

「レオパルド謝りに行って、皆が我慢してたのに、1人だけ盗み食いしちゃったんだもん」

 

「うぅー…怒られる、嫌」

 

途端にしょんぼりとしだすレオパルドにハっちゃんはやれやれと言葉を続ける。

 

「ハっちゃんが一緒に行ってあげる、代理人が仲良くって言ってたから」

 

「本当!」

 

「ハっちゃん嘘吐かない、謝りに行ってから又、代理人に甘えに行けば良い」

 

「分かった、早く行く!」

 

レオパルドが私から離れてハっちゃんを引っ張る、今度は簡単に私から離れた。

 

私から離されたハっちゃんは、レオパルドに急かすように手を引かれながらもクルリと振り返った。

 

「代理人行ってきます、ハっちゃんは動くのは嫌いだけど…代理人のためなら頑張れるから」

 

「早く、早く!」

 

「分かった、早く行こう」

 

レオパルドに手を引かれハっちゃんは、そのまま手を繋いで走っていった。

 

小さな二人が仲良くしているのは見ていて微笑ましくなる、戦闘中は頼りになる二人も今はまるで普通の女の子の様だった。




クーデレハっちゃん
レオパルドは本能のままに甘えて来そう

苗木が余る余る


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ToLoveる
たい焼き 金色の闇


オリジナル要素有り

リト女体化

ヤミちゃんの元になった遺伝子はティアーユがベースで、主人公の遺伝子を混ぜている

主人公

合成材料として有能な宇宙人
マテリアル星人
他の宇宙人に狙われているので、デビルーク星人達に星ごと守って貰っている
全身トランス能力を使える
名前はマテリアルのアル君
見た目は水色の髪の毛に赤い瞳、種族全員同じ色


ヤミちゃんにお父様と呼ばれたい人生だった


今日はとても天気が良い、暑すぎず寒すぎずポカポカでとっても気持ちが良い、こんな日はこうやって公園のベンチに座ってのんびりするのが一番だ。

 

「お父様、行きますよ」

 

いきなり体がベンチから宙に持ち上げられた、普通なら驚くが僕は驚かない、もう慣れてしまった。

 

金色の髪の毛が手の様な形になり僕を掴んでいる。一見乱暴な扱いに見えるけれど、怪我をしないように優しく包まれている。

 

僕は、こんなことを仕出かした犯人に話し掛ける。

 

「ヤミ、ちょっと恥ずかしい。

良ければ降ろして欲しいんだけど」

 

犯人はヤミしか居ない。

 

「降ろすのは却下します。この体制が恥ずかしいのなら、私は抱っこでも構いませんよ」

 

「このままでお願いします」

 

女の子に抱っこされるのはもっと恥ずかしい。

 

僕の体は今はヤミと同じくらいの大きさになっている、理由は小さい方がエネルギーを消費しないから。

 

大きくなると疲れるので、ほとんど何時も小さい姿で居る。

 

「これから何処に行くの?」

 

「新しくたい焼き屋さんが出来たので、二人で食べに行きましょう」

 

「もしかして、お店までこのままで行くつもり?」

 

「勿論です」

 

「自分で歩くから離して、流石に恥ずかしいよ」

 

ヤミはむーっと唸っている、そんなに悩むような事か?

 

「離したら、逃げてしまいませんか?」

 

「大丈夫だよ、逃げないから」

 

「…分かりました」

 

ゆっくりと降ろされて地面に足が着く、一安心だ。

ヤミに手を繋がれた

 

「…これなら良いですか?」

 

遠慮がちに僕の顔を上目遣いに見る。

手を繋ぐのを戸惑うヤミは、自分から行動する事に恥ずかしさを覚えるみたいだ。

しかし僕とのスキンシップは過剰である。

 

「ダメですか?」

 

「全然良いよ」

 

「そうですか」

 

口では素っ気なくても、顔は嬉しそうに笑っている。

 

「ヤミは笑うと可愛いね」

 

「本当ですか?」

 

「うん、普段の顔もクールで可愛いけど、笑うともっと可愛いよ」

 

「お父様がそう言うのなら、もう少し笑う様にします」

 

ニコッと笑う顔は普段よりも幼く見える

 

「ただし、お父様の前だけです」

 

「そうなの?勿体無いから、皆にも見せれば良いのに」

 

「私はお父様だけが見てくれるのなら、それで良いです」

 

「…そう」

 

ヤミは昔から僕の事ばかりを気にする。

僕が昔星から拐われ、違法に取引されそうになっていた所を助けられてから、ずっと一緒に行動している。

 

ティアーユの面影が有り話を聞くと、なんとティアーユと僕の遺伝子から造られたのが、ヤミことイヴである。

それからは僕の事をお父様と呼ぶ、本人が気に入ったのなら呼ばれ方は何でも良い。

 

昔から僕とばかり接して来たせいか、他人に余り興味をもたず、僕と二人が良いとばかり言う。

 

地球に来てからは、美柑と言う友達が出来たみたいだが、その調子でもっと人に興味を持って欲しい。

 

「あれ?そこに居るのって、ヤミちゃんとアルさんじゃない?」

 

後ろから多きな声を掛けられた、この聞き覚えの有る明るい声は…振り向くとララが居た

 

「プリンセスですか」

 

「ララ久しぶり」

 

嬉しそうにララが走って来た

 

「ヤミちゃんと…アルさん久しぶり!」

 

そのまま僕に抱き付いて、抱き上げる。

昔は僕が抱っこしていたのに、何だか感慨深いな

 

「ララは元気だね」

 

「アルさんに会えたら何時でも元気になるよ!

今何してるの?もしかして暇?それなら一緒にデートに行こうよ!」

 

テンションが上がったのか、マシンガントークで話すララをヤミが引き剥がした。

僕はヤミの髪の毛で掴まれて、ぶら下がっている。

 

「プリンセス、お父様は私とデート中です」

 

「えー、私もデートしたいよー」

 

ぷくっと頬っぺたを膨らますララは小さな子供みたいで可愛い、昔から感情に素直な子だ。

 

「ごめんねララ。また今度、結城家に遊びに行くよ」

 

「絶対だよ!」

 

「ヤミも美柑と会いたいだろうし、連れて行くよ」

 

「見て欲しい発明品もいっぱいあるの、だからお泊まり会もしようね!」

 

「楽しみだねヤミ」

 

「そうですね楽しみです」

 

「それじゃあ私もう行くから、またね」

 

返事も聞かずに走って行ったらララの向かう先には、モモとナナが居た。

三人は合流すると僕達に大きく手を振った、僕も手を振り返すと三人は歩いて行った。

 

「早く行きましょう、予定よりも大分遅くなってしまいました、少し急ぎますよ」

 

「何か急ぐ理由でもあるの?」

 

ヤミは何か焦っているのか、早歩きになる。僕は手を繋いでいるので、引っ張られて小走りになっている。

 

「たい焼きの焼き上がり時間がもう少しです。お父様には焼きたてを食べて貰いたくて…少々乱暴に連れて来てしまいました。…ごめんなさい」

 

「ううん、連れて来てくれて嬉しいよ。僕も美味しいたい焼きが楽しみだ。」

 

「味は任せてください、私が試食を済ませておきました。美味しさは保証します。」

 

自信満々にたい焼きの美味しさを語るヤミ、たい焼きに関してヤミの右に出る者は居ない程、この街のたい焼きを知り尽くしている。

ヤミの保証付きならとても美味しいのだろう。

 

「お父様、丁度間に合いましたよ」

 

お店の前に着くと丁度ホカホカのたい焼きが並べられる、ヤミは馴れたようすで注文をしている。

 

商品を見ると普通のたい焼きの横に、白いたい焼きと言うものが売ってある。

説明を読むとタピオカ粉が練り込まれており、モチモチの食感を楽しめるらしい、僕はこれも注文した。

 

ヤミと二人で紙袋いっぱいのたい焼きを抱えて歩く、僕は二袋も買った、ヤミは既に食べ始めている。

行儀は悪いが、僕も食べながら歩く

 

「ヤミは普通のたい焼きだけ、買ったの?」

 

「はい、このたい焼きが至高であり、完璧な完成形なのです。他は邪道です」

 

「この白いたい焼きも美味しいよ?」

 

「確かに美味しそうですが…」

 

「はい、一口どうぞ」

 

ヤミの口の前に白いたい焼きを出すと、渋々一口食べた。

モグモグと食べる表情が輝いて行く。

 

「皮のパリパリ感は減りますが、その代わり生地のモチモチ感が素晴らしいです。

噛む時の食感も良いですが甘味も増しています、こちらはこちらで違う良さがありますね」

 

ヤミはたい焼きの専門家の様に詳しく説明した後、どちらも捨てがたいと悩み始めた。

 

「別に、どっちも買えば良いんじゃないの?」

 

「はっそれは盲点でした、流石お父様です」

 

「到着したら、僕の分を分けるね」

 

「ありがとうございます、それでどちらに向かっているのでしょうか?」

 

「結城家だよ。さっきは一緒にお出かけ出来なかったから、皆で食べようと思って」

 

「二人きりの予定が…」

 

ヤミはしゅんと項垂れている

 

「この頃、美柑に会って無かったでしょ?一緒に食べたら?」

 

「美柑…」

 

「このたい焼きは、ヤミの保証付きだからね」

 

「はい、美柑も喜んでくれると思います」

 

沢山のたい焼きを両手に歩く僕は、とても変な人に見えているのだろう、すれ違う人は皆振り返る。

 

確かこの辺に家があった筈…僕がキョロキョロしていると、ヤミが教えてくれた。

 

「お父様そこの家が、美柑の家です」

 

「ありがとうヤミ」

 

両手の塞がっている僕の代わりに、ヤミがインターホンを押してくれた。何処までも気が利く。

はーい、と言う声と共に美柑が出て来た。

 

「あっ!ヤミさんとアルさん、お久しぶりです。

どうしたんですか?誰かに用事ですか?」

 

「久しぶりだね美柑、美味しいたい焼きを沢山買ったから、皆で食べようと思って来たんだ」

 

「私のおすすめです」

 

両手の紙袋を見せると美柑はその量に驚いたが、嬉しそうに喜んでくれた。

 

「わぁっこんなに!ありがとうございます、どうぞ上がって下さい」

 

リビングに通されて紙袋を机に置く。

二袋は多過ぎたかも知れないな、持っていた手が少し疲れてしまった。

 

「私お茶いれますね」

 

「美柑私も手伝います」

 

「ありがとうヤミさん」

 

二人は仲良さそうにキッチンに入る、やっぱり美柑は良い子だな…ヤミと友達になってくれて良かった。

 

仲良の良い二人を見ていると、玄関から誰かの声が聞こえて来る。

 

「たっだいまー、お?何か良い匂いがするな!」

 

「こら!ナナ、靴は脱いだら揃えて」

 

「あれ?これヤミちゃんと、アルさんの靴じゃないかな?」

 

「え!アルが来てるのか、ヤッター!」

 

「お姉様、アルさんが来ているのですか!」

 

「そうみたい、リビングに居るのかな?」

 

ガヤガヤと騒がしいがこの賑やかな結城家が好きで、たまに寄らせて貰う。

ヤミと二人だけの生活が、いつの間にか沢山の友達が出来ていた。

今日も楽しい事がおこりそうだ。

勢い良く開いたリビングの扉を見てそう思った。




主人公中身はおじいちゃんの年齢
長生きな種族なので、まだまだ若者の部類


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

昔の話 モモ ナナ

主人公の星の話
自然も動物も豊な星
この時代の主人公の姿は大人
トランスで好きな姿に変われ、歳をとっても老けない
数百年生きる

デビルークに星を保護してもらっている


これは昔、僕がまだ自分の故郷の星に居た時の話

 

僕は何時もの様に、町から少し離れた森に散歩に来ていた。

町の中ではあまり見掛けない、植物や動物を見に毎日森に通っている。

森の中の湖まで歩くと、僕が育てた花畑が有り、小動物達が戯れていた。

僕は持ってきたじょうろで湖から水を汲み、花に水を撒く。

足元には動物達が纏わり付き、体や肩にまで登ってくる子達も居た。この子達は顔見知りで、毎日会っているうちにいつの間にか僕になついてしまった。

森の中だけのこの関係に僕は癒されている、綺麗な花畑に可愛い動物達、僕だけの楽園だった。

 

「君たちは今日も元気だね。僕の育てた花に木の実が実ったから、沢山食べると良いよ」

 

水やりの後に収穫しておいた木の実を動物に渡す。

かごの中から一つ渡すと僕の膝の上で食べる、その後には動物が並んで待っているので、また渡すと膝の上で食べる。

その繰り返しで、僕の膝の上や周りは動物で溢れている。この子達の知能は以外と高く、簡単な言葉なら理解出来るので、僕には噛みつきも引っ掻きもしない。

 

僕達だけの平和な空間に、突如知らない声が響いた。

 

「なあモモ、こっちで合ってるのか?」

 

「植物達がこっちに湖が有る、と言ってるんです」

 

幼い少女達の声が森の中から聞こえて来る、この森に町の人は来ない、いったい誰だろう?

 

「あっ、ここに湖があるぜ!」

 

一人の少女が湖に走って来て、僕と目が合い固まる

 

「ナナ急に走らないで!」

 

もう一人少女が走って来る。

 

「あいつ誰だ?」

 

「は?何です?」

 

「あの花畑の真ん中で、動物まみれになってる奴だよ」

 

一人少女が僕を指差し、もう一人に教えている様だ

 

「何ですかあれ…本当に動物まみれで…

え?周りの植物が凄く喜んでる?…なんで?」

 

「動物達も良い奴だって言ってる、話し掛けに行こうぜ!」

 

「あっ待ちなさいナナ!」

 

二人が僕の方に走って来る、動物達も逃げない様だしなんだろう?

 

「おい!お前良い奴なんだろ?何でこんな所に居るんだ?」

 

「ちょっとナナ」

 

ナナと呼ばれた少女が僕に話し掛け、もう一人は少女の影に隠れて居る。

 

「こんにちは、はじめましてだね。

僕の名前はアルって言うんだ。

ここは僕の花畑で、この子達は友達だよ」

 

「おお!アルは動物と友達になれるのか!アタシと一緒だな、アタシはナナで良いぜ」

 

「ナナちゃんも動物が好きなの?」

 

「気持ち悪いからちゃんは要らない、アルなら呼び捨てで良いぞ。

アタシも動物が大好きで、友達も沢山居るんだ。」

 

「友達か…僕は植物も大好きで、植物も友達なんだ。

気持ちが通じてる様な気がして…変かな?」

 

「別に良いと思うけど、植物ならモモが…」

 

「変じゃありません!」

 

今まで隠れて居た少女が、ナナを押し退けて飛び出して来た。

 

「植物達が、貴方を大好きと言っています。植物にも心は有るんです、気持ちもちゃんと通じています」

 

「…ありがとう」

 

勢いに気圧されてしまったけれど、この子も植物が好きみたいだ、良かった。

 

「いえ、いきなりすみません。

私はモモと言います、モモと呼び捨てで読んで下さいね、アルさん」

 

急に距離を詰めてきて両手で手を握られた。

植物好きの仲間が見つかって嬉しいのかな?僕も理解者が二人も出来て嬉しい。

 

「アタシは動物と会話が出来るんだ、モモは植物と会話が出来る。だからアルみたいな奴に会えて、嬉しいよ」

 

「ええ動物はまだしも、反応を返せない植物とも友達なんて、とっても良い方です。私も出会えて光栄です」

 

「僕も二人に会えて嬉しいよ」

 

並んだ二人を見ているととても良く似ている、二人ともピンクの長い髪の毛に、デビルーク星人の尻尾が生えている。

この星の護衛に来た人に付いてきた、子供達かな?

僕の視線に気付いたモモが説明をする

 

「私達は双子なんです、良く似ているでしょ?」

 

「なあなあ、アタシこいつらと遊んでくるよ」

 

ウズウズしていたナナが動物達と走って遊びに行った、今まで我慢していたのかはしゃぎまわっている。

 

「もうナナったら」

 

「ナナちゃんは元気だね」

 

「もう少し、落ち着いて欲しいんですけど」

 

ため息を吐くモモはナナよりも落ち着いて見える

 

「元気なのはナナちゃんの魅力だと思うけど、遊んでいる姿が可愛らしいよ」

 

「ああいうのが、殿方には人気なのでしょうか?

私は、あんなに走り回るのは少し苦手です…」

 

じとっとナナを見つめるモモは、少し落ち込んでいる様だ

 

「モモは、御淑やかで綺麗な女の子だよ。それぞれ魅力が違うんだと思うよ」

 

「そうですか?アルさんは優しいですね」

 

モモが言った言葉が胸に引っ掛かった。

 

「僕はね、優しくなんか無いんだ。人に嫌われるのが怖いから優しく接する、ただの卑怯者だよ」

 

「でも、嘘を吐いた訳では無いんですよね?」

 

「嘘は吐かないよ」

 

「それならやっぱり優しい人です。それに私にも人に見せない顔は有ります、お揃いですね」

 

モモが僕の隣に座る、花と話している様だ

 

「ほら、花達も言っています。貴方は優しいって、丁寧にお世話をしてくれるって、皆感謝しているそうですよ」

 

「そうなんだ…ありがとう」

 

僕のしていた事を花達は感謝してくれていた。

話せないし反応も無い、でもちゃんと分かってくれていた、嬉しいな僕の一方通行じゃ無かった。

 

「ふふっどういたしまして、アルさんはこの星の方ですよね?」

 

「そうだよ、モモはデビルークだよね?」

 

「はい、今日は遊びに連れて来て貰ったんです」

 

顔を見て話していると気付いたが、何処と無くララに似ている、親戚かな?

 

「モモってもしかして、ララの親戚?」

 

「お姉様をご存知なんですか?」

 

「うん、たまにララの子守りと、家庭教師をしているよ」

 

ララが小さい時から子守りをしていた、ギドさんは昔もう少し大きくなったら、下の娘達を紹介すると言っていたな。

 

「貴方が、お姉様の言っていたアルさんでしたか!

こんなに素敵な方なら、もっと早くお会いしたかったです」

 

「そうだよなお姉様、なかなか合わせてくれないし」

 

遊んで居たナナが帰って来た、動物達は満足したのか、また僕に登りお昼寝を始めた。

 

「ギドさんは、もう少し早く会わせる予定だったみたいだよ、子守りも頼むとか言ってたし」

 

「お姉様…独占欲ですか」

 

「なあ、アタシも寝て良いか?」

 

「え?良いけど、外で寝て風邪引かない?」

 

「んー確かに、でももう限界だ…寝る」

 

そのまま僕の足に頭を乗せて、あっという間に寝てしまった。

仕方がないのでトランス能力で服を伸ばし、ナナに掛ける。

 

「もうっ、ナナまでアルさんに甘えて」

 

「君達はまだ小さいんだから、もっと甘えて良いんだよ?」

 

本当に小さい6歳位だろうか?

 

「私も甘えて良いんですか?」

 

「全然良いよ、子供は大人に甘えるのが特権だからね」

 

「お邪魔します」

 

そう言うと横からぎゅっと抱き付いて来る、可愛くてついつい撫でる。

 

「むぅ…まだ子供としか見て貰えませんか…」

 

「僕は君達の数倍は、歳をとっているからね」

 

「私はまだ小さいですけど、すぐに大きくなります。

美しいレディになりますから、見ていて下さい」

 

モモは強い意思のこもった瞳で宣言した。

この子は中身がナナやララより大人びている、姉妹の中で一番大人なのかもしれない。

 

「手始めに、私達の家庭教師をアルさんに変えて貰います。これからはお姉様と一緒にお勉強です、楽しみですね」

 

「ギドさんに話しておくね」

 

その時モモがふわっとあくびをした、この子も眠たいのだろう。

 

「モモも僕の膝でおやすみ」

 

「うう…レディの筈がお昼寝…」

 

「お昼寝をしないと、大きくなれないよ」

 

「…分かりました、失礼します」

 

僕の膝に頭を乗せて、リラックスしている様だ

 

「これは、なんて素晴らしいんでしょう。

名残惜しいですが、アルさんおやすみなさい」

 

「おやすみ、良い夢を」

 

頭を撫でていると、モモは眠りについた。

やっぱり大人びていても子供、沢山遊んで沢山寝るものだ。

 

「結局モモも寝ちまったか」

 

「ナナ?起きたのかい?」

 

「少し前に目が覚めて、モモとの話だけど。

アタシもすぐにレディになるぞ、その時はよろしくな」

 

「え?よろしくって、何を?」

 

「おやすみ」

 

ナナは言うだけ言って寝てしまった、二人の寝顔を見ていると僕も眠たくなってきた。

僕は二人を膝に乗せたまま後ろに倒れこむ、睡魔に抗わずそのまま眠りについた。

 

次に目が覚めた時、二人に腕枕をしていて驚く事を僕はまだ知らない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

ナナと動物の遊び

 

「なあお前達、あのアルってどんな奴なんだ?」

 

動物達に聞いて分かった事は

・優しい友達

・怪我を治してくれた

・ご飯をくれる

・仲間をいじめた奴を退治してくれた

なるほどな、確かに良い奴だな。

 

アルは本当に、動物を友達として扱っているのか…

今までアタシに近付こうと、動物が好きだの仲良しだの言った奴らは皆嘘吐きだった。

 

そんな嘘動物に聞けばすぐ分かるのに、だからアルは貴重な正直者の友達だ。

 

お姉様に聞いた通りの奴だ、独占したくなる。

アルはちゃんと話を聞いてくれて、アタシを見てくれるデビルークのナナじゃ無く、ただのナナとしてだ。

それに動物も好きなら言う事は無い、アルはアタシが貰おう。

 

その為にはまず、お昼寝だな。

アタシは早く大きくなって、アルのお嫁さんにして貰うんだ。

膝枕の為にアルに向かって走り出す。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

モモの気持ち

 

植物達がずっと褒めている人がいる、森を案内して貰っている間もずっと、それがアルさんだった。

 

アルさんはお姉様から聞いていた以上に、素晴らしい方でした。

想像していたよりもずっと素敵な方で、話しているうちに憧れが恋に変わりました。

 

今は子供扱いですけど、すぐにアルさんをドキドキさせる様なレディになってみせます。

 

これからは私達の家庭教師がアルさんになるんです、アピールのチャンスは沢山有ります。

 

計画を考えないと、これからが楽しみです




ララの独占欲によりアルは、モモとナナに合わせて貰えて居なかった模様
本当はモモとナナの子守りもする予定だった
モモとナナはララの話により、アルの事を聞いていてどのような人物か知っていた。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

さみしがり ヤミ リト ララ

何時も人前で明るく振る舞っている娘ほど、闇が深いと思うの


ゆさゆさと体を揺さぶられている感覚がする

うっすらと目を開くと、太陽の光を浴びて眩しく輝く金色の髪の毛が見えた。

僕が目覚めた事に気が付いたのか、揺さぶるのを止め優しく囁かれる

 

「お父様?朝ですよ起きて下さい」

 

「ヤミ?」

 

目を開くと微笑んでいるヤミが居た、まだパジャマ姿のヤミはベッドの上に座って僕の事を起こして居た。

 

「おはようございます」

 

「おはようヤミ、早起きだね」

 

「私が早起きの理由は、お父様の寝顔を見るためですよ」

 

天使かな?朝寝起きの頭にヤミの言葉が直撃して思わず、抱き締めながらよしよしと撫で回す

 

「わぷっお、お父様?」

 

「可愛いなヤミ」

 

にやけた顔で幼女を撫で回す僕は相当に気持ちが悪いだろうが、ここには二人だけなので許される。

 

「お父様朝ご飯にしましょう」

 

「そうだね、お腹も空いたし」

 

勢い良くヤミを抱えたまま起き上がる

小さく「きゃっ」と悲鳴が上がるが、離れる様子は無い。

 

そのまま立ち上がりヤミを抱えたまま階段を降りる

 

「お、お父様離さないで下さいね」

 

「大丈夫離さないから」

 

「信じてますから」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

二人で朝食をとった後は町に散歩に行く、目的地は大体結城家だ。

 

「ヤミは今日も美柑と約束してるの?」

 

「はい、この後お父様と一緒に結城家でお泊まりです。

楽しみですね」

 

「え?僕も泊まるの?」

 

「はい、いや…でしたか?」

 

ヤミは上目遣いに涙目で尋ねてくる

 

「そんな事無いよ僕も楽しみだよ」

 

「あっ…良かったです」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

何時も通り、ヤミに連れられて結城家にお泊まりに来た。

ヤミは美柑ととても仲良くなった様で父としては、ヤミの成長にひと安心だ、友達が出来て良かった。

ヤミと手を繋いで歩いている内に、結城家に着く。

 

「あっヤミさん、アルさんいらっしゃい」

 

「美柑来ました」

 

「美柑お邪魔します」

 

玄関で美柑が迎えてくれる、美柑は小学生ながらに家事全般を一人でこなし、弱音も吐かない凄い娘だ。

 

美柑に案内されリビングに行くとソファーに座っている、リトが居た

 

「やあリトお邪魔してるよ」

 

「アルさんいらっしゃい、あっヤミもいらっしゃい」

 

「結城リトお邪魔しています」

 

結城リトはタンクトップにショートパンツという、目に悪い格好でソファーに座って居た、この家の長女でこの頃は美柑の家事を手伝っているという。

 

「お父様、私は美柑の料理を手伝って来ます」

 

「ヤミさんありがとう」

 

「手を切らないように気をつけてね」

 

リビングにリトと二人になる

 

「アルさんもソファーに座ってよ」

 

「じゃあお邪魔して」

 

ソファーに座るリトの隣に座ると、その距離の近さに少しどぎまぎする

 

「リトはその格好で平気なの?」

 

「その格好?別に普通の部屋着ですよ?」

 

「いやいや、タンクトップとショートパンツだけしか着てないじゃないか、僕に見られて平気なの?」

 

「んーアルさんなら平気です」

 

ニコッと笑うリトにドキッとする、リトはこの頃は髪の毛を伸ばしだしたらしく、今は肩に届くくらいには長くなっていた。

体つきも女の子らしく、リトの無防備な薄着には何時もドキッとさせられる。

 

「僕は男だよ?そんな薄着でもしも僕が、変な気でもおこしたらどうするの?」

 

「アルさんなら良いよ?」

 

リトはそう言って、タンクトップの裾をひらひらと揺らす

 

「止めなさい」

 

リトの手を掴んで止めさせると、リトは嬉しそうに笑う

 

「ふふっ、そう言って心配してくれるのアルさんだけだから嬉しいな」

 

「そんな事無いでしょ」

 

「そうだよ、父さんは私の事を何故か男扱いするから、そうやって心配してくれるのは嬉しいよ」

 

「だからってリト、そんな薄着は目に毒だよ」

 

「目に毒って事は少しは、私の事を意識してくれてるんだよね」

 

「まぁ多少は…」

 

「ふふっやっぱり嬉しいな」

 

リトはそう言うと僕の押さえていた手を掴んで、自分の手と絡ませる

 

「リト何してるの」

 

「ん?せっかく二人っきりなんだから、アルさんにおもいっきり甘えようと思って」

 

そう言うとリトは僕の肩にもたれ、絡めた指をいじって遊びだした

 

「楽しい?」

 

「楽しいですよ、アルさんの手って意外と大きいですね。

やっぱり男の人なんですね」

 

「そうだよだから、そんなに引っ付かないで、少し離れてくれないかな?」

 

「そんなに離れて欲しいんですか…」

 

リトは俯いて、悲しげな声を出す。

そんなつもりじゃ無かったと慌てて弁解をする。

 

「そうじゃなくて、リトは年頃なんだから心配して言ってるんだよ」

 

その言葉を聞いてリトはゆっくりと顔を上げる、その顔は笑っていた、やられた。

 

「そうだったんですね、私を心配して言ってくれてたんですね。

でも大丈夫ですよ、何かあったらアルさんに責任を取って貰ってもらいますから」

 

リトはそう言って僕の膝に乗ってくる、向かい会わせに座ると満足げに抱き付いてくる。

 

「ちょっとリトっ!」

 

「あっ美柑」

 

「流石にそれはやり過ぎだよ!そんなに暇なら料理手伝ってよ」

 

「わかったよ、アルさんに私の料理を食べて貰うのも良いしね」

 

そう言うとリトは、最後にチュッと小さくキスをしてからキッチンに向かった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

これはどういう状況だろうか、昨日ヤミと共に結城家にお呼ばれし、ヤミと共にお泊まりさせて貰っている。

 

ヤミは美柑と一緒に眠り、僕は空き部屋で一人で眠っていたはず。

それが何故か布団の中に自分以外の温もりを感じる

そっとその温もりに触れてみると

 

「…柔らかい」

 

その温もりは暖かく柔らかかった、暗くて良く見えないが最初はヤミが布団に潜り込んでいるのかと思ったが、身長が大きすぎる

 

暗闇に目が慣れてきた頃恐る恐る布団の中を覗くと桃色の髪の毛が見えた、これで犯人はララ、モモ、ナナの三人に絞られた。

 

犯人の顔にかかる髪の毛を退けてやると、なんとララの顔が現れた

 

「…うぅん」

 

「あっ」

 

髪の毛を退かしたのがこそばゆかったのかララが目を覚ます。

 

「ララ?ごめんね起こしちゃった?」

 

「…アル?」

 

「うん僕だよ」

 

そう答えるとララがぎゅっと抱き着いてきて

 

「アル、私寂しくなっちゃった」

 

「え?おんなじ家に居るのに?」

 

「…そうだよ、おんなじ家に居てもアルに触れていないと、なんだか切なくて寂しくなるの」

 

「切なくて寂しい?」

 

「この頃ね、何だか私おかしいの」

 

「ララ?」

 

そう言うララは、表情が見えない様に俯いたまま話し出す。

 

「初めはね、ヤミちゃんがアルに触れてるのを見て良いなって思ってたの」

 

「でもね…この頃は他の人が私以外の人がアルに触れてるのを見ると、胸の中がモヤモヤしてきゅってなるの」

 

「…それは」

 

「だからベッドに潜り込んじゃったの、ごめんなさい」

 

「ララは寂しかったんだね、こっちこそ気づかなくてごめんね」

 

そう言いながら頭を慰める様に撫でると、ララが更に強く抱き付いてくる。

 

「あはは…何だか可笑しいね、嬉しいのに泣きそうだよ」

 

「ララ、今まで我慢してたんだね。今は二人きりだからララの好きなこと、何でもして良いよ」

 

「本当に?何でも?」

 

「うん、我慢してきた分好きにして良いよ」

 

「じゃあ…」

 

そう言うとララは目を瞑って近づいてくる

 

「んっ」

 

「あっ」

 

ララからキスをされる、驚いている間にララが体の上に乗り上げてきていた。

 

「アル、アル、私寂しかったよぉ…

私、私アルさえ居てくれれば他に誰も何も要らない」

 

「どうしたの、ララ」

 

「ほんとはずっと前から気付いてた、でもアルに嫌われたくなくて黙ってたの。

アルが好き、私他の誰よりもアルが好きなの

もう他の人には触れて欲しくない、話もしないで欲しい位好きなの」

 

急に早口で喋りだしたララの目には光がなく、黒く濁り淀んで見える

 

「ララ、急にどうしたの何だか変だよ」

 

「そうかも、私変になっちゃったのかも。

ねぇアル私だけを見て他の人は見ないで、もっともっとくっついてそばで見て、他の人が見えない位近くで」

 

「ララストップ!」

 

ララが話ながらもう一度キスをしようとしてきているのを見て、ストップをかける。

 

「…あっ」

 

「ララ本当に大丈夫?」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、アル嫌わないで、嫌いにならないで」

 

「嫌わないよ」

 

そう言うと安心したのかララは泣きじゃくり始め、泣き止むのを待っている内に部屋の中は朝日で明るくなっていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「プリンセス、お父様から離れて下さい」

 

「んーやだ」

 

「ララさんどうしちゃったの?」

 

朝食の席机を囲む皆がいる前で、ララは僕の腕に抱き付いたまま蕩けた笑顔を見せていた。

 

「えへへ、あのねアルが好きなことなんでもして良いって言ってくれたの」

 

「お父様そうなのですか?」

 

「ああ、今までララには我慢させてしまってたみたいだからね」

 

ララの頭を撫でると、こちらに向けて良い笑顔を向けてくる

右手にララ、左手にヤミ、まさに両手に花だ。

 

「ララ、アルさんの邪魔になるだろ、ほら離れろよ」

 

リトがララの姿を見て離れる様に注意する

 

「えーアル私邪魔?離れた方が良いの?」

 

「邪魔じゃないけど、ご飯が食べられないかな」

 

「あっそっか…」

 

ララはしゅんとして離れようとするが何かを思い付いたのか、はっとして話始める。

 

「!それなら私が食べさせてあげる、それならずっとくっついていられるでしょ?」

 

「そこまでしてもらうのは悪いよ」

 

「そうですプリンセス、行儀が悪いですよ」

 

ヤミが僕の反対側から注意する

 

「大丈夫だよ、こぼさず食べさせられるから!」

 

「そう言う問題じゃあ無いかと…」

 

「大体ララさんは、リトが好きなんじゃないの?」

 

美柑がララに質問する

 

「うん、好きだよ」

 

ララは即答で答えると、美柑の頭にはてなが浮かぶ

 

「じゃあなんで、アルさんに引っ付いてるの?」

 

「リトは好きだけどそれは同姓の好きだよ、アルは恋愛の好きなの」

 

「そうだったの?!」

 

「そうだよ、ねー」

 

「まあ、そうらしいよ」

 

ララに聞かれたアルは同意する

 

「だからね、これからはどんどんアピールしていこうと思ってるの」

 

「プリンセス…」

 

「ヤミちゃんも私の事、これからお母さんって呼んで良いんだよ」

 

「嫌です!私はお父様だけで十分幸せですので」

 

ララの言葉にヤミがアルの腕に抱きついて答える。

ヤミがアルの腕に引っ付くのを見てララ目から光が消える。

 

「私は恋愛感情でアルが好きなの、誰にも負けない位好きなんだから」

 

「ララ大丈夫?抱き付いてる腕が痛いんだけど…」

 

「大丈夫だよ。

ねぇアルはどう、私の事好き?」

 

「好きだよ、ヤミと同じ位」

 

「…今はそれで良いかな、でもこれからは私だけを好きにさせて見せるから」

 

アルの顔を両手で挟みララの方を向かせると、ララはおもむろにキスをする

 

「プリンセス!」

 

「今は私からだけど、そのうちアルからキスさせて見せるよ!」

 

ララは自信たっぷりに皆にそう宣言した

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

美しい花 モモメイン ナナ

大変お待たせいたしました。
更新を待っていて下さる方が居れば良いのですが…



「こんにちは」

 

それが最初の一言だった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

声をかけられ後ろを振り向くと、太陽を背にした女の子が笑顔で立っていた。

 

「こんにちは」

 

こちらも笑顔で返事を返すと女の子の笑顔が深くなる。

はて?こんな知り合いが居たかと頭を悩ませて居ると、女の子から自己紹介があった。

 

「あっ始めましてですね。

私の名前はモモと申します、あまりにも美しい花々につい声をかけてしまいました」

 

「ありがとうございます、そう言って貰えると嬉しいです。

僕は植物委員の雨宮 晴と言います」

 

そう言ってこちらも自己紹介を返した所で、予鈴のチャイムが鳴る。

 

「すみません予鈴が鳴ったので、これで」

 

「えっあっはい、分かりました」

 

僕が立ち去ろうとすると、女の子、モモさんは酷く動揺をしてみせた。

 

「何か?」

 

「いえ、何でもありません。

それでは私もこれで失礼します」

 

そう言って去っていくモモさんの顔は最初よりも、深い笑顔が浮かんでいた。

 

「私を見ても目の色を変え無い男性…ふふっ素敵」

 

モモは自分の頬に手を当てうっとりしながら、教室に向かうのだった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

放課後

 

休み時間に水を撒いたので、後は草むしりをする。

これがすぐには終わらなくて、委員会の他の生徒は面倒臭がって何時も先に帰ってしまうため、僕が一人で全ての仕事をしなくてはいけない。

 

「ふぅっ、雑草が生茂ってるなぁこれは時間がかかるぞ」

 

腕捲くりをして気合いを入れ直していると、ちょんちょんと誰かが僕の制服の後ろを引っ張った。

 

「はい?」

 

「あのー、お一人ですか?」

 

不思議に思って振り返ると、そこには休み時間に声をかけてくれた女の子がいた。

 

「確かモモさんでしたよね」

 

「あら、覚えていて下さったんですか?」

 

「ええ、此処の花壇の花は目に付きにくいみたいで、褒めてくれたのはモモさんくらいですから」

 

そう言うとモモさんがキョトンとした。

その後ボソッと

 

「私の容姿で無く、花を褒められたから覚えていて下さった…」

 

「はい?良く聞こえませんでしたけど、なんですか?」

 

「いえ、それより他の委員会の方々はどうされたんですか?」

 

モモさんが取り繕う様にした質問に、少し寂しくなる。

 

「あはは、それが皆用事があるとかで帰ってしまって、一人きりですよ」

 

「それは…まぁ」

 

モモさんが暗い顔になる。

 

「ああっ、そんな顔しないでください。何時ものことですから」

 

「何時もお一人で雑用を押し付けられていたんですね」

 

モモの笑顔が怒りで曇る。

 

「分かりました、晴さん。

私も手伝います。因みに私の事はモモと読んで下さいね、敬語もなしで」

 

「ええっ、モモさんは…」

 

「モモです」

 

語気を強くしたモモに名前の呼び方を訂正された。

 

「はい、モモ草むしりなんて手が汚れるよ。

それに草むしりなんて結構しんどい仕事、女の子にさせられないよ」

 

「でも晴さんは何時も一人で全てしてるじゃないですか?」

 

「なんで…なんで何時も一人で全てしてる事を知ってるの?」

 

その時、背中に嫌な汗が流れるのを感じながらモモの返答を待つ。

 

「それは…」

 

モモの顔が俯いているのと、夕日のせいで殆ど見えず少し怖く感じる。

 

「それは私が何時も晴さんを見ていたからです」

 

「へ?」

 

以外な返答にポカンとしてしまう。

モモ本人は恥ずかしかったのか、イヤイヤをするように自分の両頬を押さえながら恥ずかしそうにしている。

 

「えっとですね、実は私晴さんの事をずっと見ていたんです」

 

「えっ、一体何故です?」

 

「それはですね…」

 

そう言うとモモは背伸びをしながら、晴の口にキスをするとそのまま抱きついた。

 

「分かりましたか?」

 

そう言いつつ蠱惑的な笑みを浮かべる。

 

「えっ」

 

僕は今一体何をされたんだろう、抱きつかれている事と唇に柔らかな感触が残っている事は分かるが…

 

「おや?まだ分かりませんか」

 

笑みを深めたモモが更に抱きつく力を強める。

モモの胸が形を変える程に強く…

 

「うわわっ、離して下さい!」

 

「ふふっ、何故ですか?やっとこうして捕まえられたのに?」

 

「え?」

 

笑うモモの言葉に疑問が浮かぶ。やっと捕まえられた?やっとってなんだ?

 

「ずっと見ていたんですと言いましたよね?

それこそ、そこに綺麗に咲いているお花がまだ種の時からずっと見ていたんですよ。

いえ、その前から…」

 

「なんで、ですか?」

 

此処の花壇の花は種から育てているが、随分日数がかかっている筈だ。

 

「好きだからに決まってます。

他のどうでも良い人達を目に映す時間が有るのなら、あなたを、あなただけを見つめていたかったんです」

 

そう言うモモの目には言葉道理、僕しか映って居なかった。

 

「そんな、話したのは今日が初めての筈だよね?」

 

確か僕とモモが話したのは今日が初めての筈。

 

「ふふふっやっぱり、覚えていませんよね?」

 

モモが可笑しそうに笑う、勿論その間も抱き着いたままだ。

 

「え?僕達は今日が始めましての筈だよね?」

 

「いいえ?あれはそう、私が初めてこの学校に来た時の事です。

私がナナと逸れてしまっていた時、学校中探してやっとナナを見つけた時に、ナナが真剣に見ていたのがあなただったんです」

 

「ナナって言うのは?」

 

「悔しい事に姉です。

その時にも一人で花壇の花を真剣に手入れしていた、あなたの姿を見たんです。

それからあなたに職員室の場所を聞いて、無事目的地に辿り着く事が出来たんです」

 

「うーんごめんね、覚えて無いな」

 

全く記憶に無い、こんなに可愛い子相手なら覚えている筈。

 

「…そうですか、覚えていませんか」

 

モモは肩を落として落ち込んで居るようだった。

それを見て何と声をかけようか悩んで居ると。

 

モモが笑いだした。

 

「ふふっ、でもいいんです。今こうしてあなたと、晴さんと二人きりで居られるんですから」

 

顔を上げたモモは何か企んでいる、様な顔をしていた。

 

「ねぇ、晴さん」

 

背伸びをしているのか、モモの顔がグッと近付いてくる。

 

「キスよりも先に進みたくありませんか?」

 

「キスよりも先にって、僕はまだモモの事を何も知らないのに?」

 

そうだ随分前に会った事があるらしいけれど、僕は今の所会ったばかりと何も変わらない。そんな状態でキスまでして、それより先なんて…

 

「それは…追々と言うことで、ではいざいただきます」

 

「えっちょっ、ちょっと待って!」

 

僕が性的に食べられそうになっている時に、ヒーローよろしく駆けつけてくれたのは…

 

「ちょーっとまて!モモ!」

 

「ナナ!なんでここに」

 

モモに似ている女の子が駆けつけてくれた。

僕とモモの間に入り込むと、ベリっとモモを引き剥がしてくれた。

彼女が姉のナナさんか。

 

「ふぅ、ありがとうナナさん」

 

「ナナさんって気持ち悪いな、ナナでいいし、敬語もいらない」

 

気持ち悪いって…でもナナがいいなら敬語も必要無いな。

 

「ありがとうナナ」

 

「おう!へへ…」

 

ナナはハニカム様に笑って照れていた。

 

「むー、せっかく良い雰囲気でしたのに」

 

「モモは展開が速すぎるよ」

 

「全くその通りだぞ!」

 

今日会った様な物なのに、いきなりキスまでしてしまった。

 

「でも、私が本気な事は伝わりましたよね?キスは出来ましたし」

 

「なっ、晴とキスしたのか…」

 

「それはモモがいきなり…」

 

「先手必勝ですよ、それよりも明日からは本気で行かせて貰いますから、晴さん覚悟して下さいね」

 

そう言うとモモはまたキスをしてきた、それを見たナナは赤面しながら。

 

「こうなったら、晴!」

 

「なに?むぅっ!」

 

振り返るとナナに勢い良くキスされた、キスと言うより頭突きに近かった様な…

 

「ナナ!」

 

「何だよ!モモだってしたんだから良いだろ!」

 

「いくらナナだって晴さんは、渡さないんだから!」

 

「なっ!私だって渡さないからな!」

 

「…はははっ」

 

僕は今までの平穏が壊されるのだろうと予感しながら、今はから笑いしか出なかった。

 




モモを見ても反応を変えない、草食系男子の雨宮 晴君
そんな晴君を何時もこっそり見ていた実は肉食系女子モモ
実はナナも晴君が好き


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

唐突に1 ララ 美柑

主人公の名前はセイ
続きそう


突然だが朝起きると頭に猫耳が生えていた。

男の猫耳に需要等無いだろうに一体何故?という疑問はドアの隙間から嬉しそうに、こちらを覗くララの姿を発見した事で全て解消された。

 

「ララ、俺が寝ている間に何かした?」

 

ベッドから起き上がりドアを開けるとそこにはやはり、嬉しそうにニコニコしているララがいた。

ちなみに起き上がった時に気付いたが、ご丁寧に猫の尻尾までついていた。

 

「おはよう!セイが寝てる間じゃなくて、寝る前に渡した飲み物に薬を混ぜておいたんだよ!」

 

ララは何故か胸を張りえっへんと、褒めてオーラを出していた。

 

「あーそうか、ララは賢いなぁ」

 

「でしょでしょ!」

 

適当にララの頭を撫でながら、おざなりに褒めるとそれでもララは嬉しそうに笑っていた。

 

「で、本題なんだけど何で俺に猫みたいに成る薬を飲ませたの?」

 

全く意味が分からない、こういう物は普通可愛い女の子に生えて初めて可愛さの意味をなす物じゃ無いのか?

ごく普通の男の子である、俺に生えて一体何の意味が有るって言うんだ。

 

「私ね考えたの、私の好きなセイと皆が好きな猫ちゃんを掛け合わせたら、もっとセイが好きになるんじゃないかって!」

 

聞いた所でろくでもなかった。

 

「ララは俺から猫耳と、猫尻尾が生えてて今までより良くなったと思うの?」

 

心底疑問なので聞いてみる

 

「勿論だよ!格好いいセイと可愛い猫ちゃんの要素が合わさって、今すぐ抱きつきたい位だよ!」

 

「そう…」

 

そう言うが早いか抱きついて来たララに、最早諦めの声しか出ない。

そこに、俺には不幸を告げる音にしか聞こえない誰かの足音が聞こえてくる。

 

「ララさーん!セイさん起こしに行ったっ切り戻って来ませんけど、どうかしましたか?」

 

美柑だ美柑の声が聞こえる、それは足音と共に俺の部屋に近付いてくる。

そしてララは未だに俺に抱き付いたままだ。

 

「セイさん、起きてますか?入りますよ?」

 

そして、美柑がセイの部屋で見たものは、猫耳猫尻尾を生やしたセイに抱き付くララだった。

 

「なっセイさん、その格好はどうしたんですか!

って言うかララさんも!セイさんから離れて下さい!」

 

美柑がララを引き離し、しげしげとセイを見つめる。

 

「セイさん、それ本物何ですか?」

 

「どうやらそう見たい、俺の意思で自由に動かせる」

 

セイはそう言いつつ猫耳をピコピコ動かしたり、尻尾をピンと伸ばしたりして動きを確かめていた。

 

「一体どうしてそんな事に…」

 

美柑も気になるのか、セイの頭の上の猫耳と腰に付いた尻尾との間で視線をうろうろさせていた。

 

「ララが俺が眠る前にくれた飲み物に、薬を混ぜていたらしくて…」

 

「あーはい、大体分かりました。

原因はララさんの開発した薬のせいですね」

 

トラブル経験値の高い美柑は、大体の訳を聞いただけで全てを悟ったようだった。

 

「ねー美柑、セイの猫耳可愛いでしょ!

格好いいセイに、可愛い猫ちゃんを合わせたら、何倍も良くなると思って、大成功だよね!?」

 

「うっそれは否定しませんが…」

 

「美柑も触らせて貰ったら?猫耳のセイは今しか無いんだよ?」

 

ララの今しか無いと言う言葉に美柑は、う~んと唸りながら考えるも、チラチラとセイの猫耳を見て決心した。

 

「…セイさん、私も触らせて貰っても構いませんか?

勿論迷惑なら止めておきますから」

 

「…引っ張ったり、痛くしないなら、良いよ」

 

美柑が撫でやすい様に目の前にしゃがんで、頭を差し出す。

 

「それじゃあ失礼します」

 

ごくりと唾を飲み込むと、美柑はセイの頭を撫でながら猫耳を触り、尻尾を撫でる。

 

「ふわぁー、猫耳はふかふかで尻尾は艶々、これは気持ち良いですね」

 

「でしょー触り心地に拘ったんだよ?」

 

美柑が撫で続けているとセイの喉付近から、ゴロゴロと音が鳴り出した。

 

「あっセイさん気持ち良いですか?」

 

「ああ、こうしてると本物の猫に成った気分だ」

 

「じゃあセイ、このまま私に飼われてみる?うんと甘やかしちゃうよ?」

 

「駄目です!セイさんは、誰の物でも有りませんから!」

 

そう言いつつ美柑がセイに抱き付いていた。

そこで美柑はセイの部屋に来た理由を思い出した。

 

「あっそうだ!朝御飯を作ってる途中だったんだ、だからララさんにセイさんを起こしてきてって頼んだんだった」

 

「そうだったね、ごめんね美柑忘れてたよ」

 

「もう!ララさんたら、私朝御飯の準備がまだだから戻るけど、二人もすぐに来てくださいね!」

 

そう言うと美柑は名残惜しそうに、セイの猫耳を一撫でしてから、足早にキッチンに降りて行った。

 

「で、ララこの猫耳を治す薬はあるの?」

 

改めてララに猫耳を治す薬が有るかを聞く、このまま猫の耳と尻尾を付けたままでは、普通の生活さえままならない。

 

「え?無いよ、だって猫に成ったセイを私が飼うんだから、治す薬は必要ないよね?」

 

「それはさっき美柑に、駄目だって言われたでしょ」

 

ついさっき美柑がララに怒って止めたばかりだ。

 

「私は本気だよ?さっきは美柑が居たから遠慮してたんだよ。

セイは私に飼われて幸せになるの、私はセイを飼って幸せになる、ね?完璧な計画だよ」

 

ララは何処か可笑しな所でも有るのかと首を傾げている。

ここで丸め込まれては、俺の人生がララに飼われて終わってしまう、そうならない様にララを説得しなければ。

 

「ね?良い計画だと思わない?」

 

「俺は、ララに飼われて暮らすのは嫌だ」

 

言った瞬間今までのニコニコしていたララの顔から、表情が消え能面の様になる。

 

「どうして?」

 

「何が?」

 

「どうして、私に飼われて暮らすのは嫌なの?もしかして猫ちゃんは嫌だった?それなら、ワンちゃんとか、他にも色々…」

 

「ララ、俺は人に飼われて暮らすのは嫌だ」

 

「何で?好きな人同士一緒に暮らせたら幸せだよ?それともセイは私の事好きじゃないの?そんな事無いよね?ねぇ?」

 

ララは能面の様な表情のまま、抱き付いて来てそのまま俺の胸に嫌嫌をする様に、顔を擦りつける。

 

「ララの事は勿論好きだよ。

ララ、好きな人と一緒に暮らすのは幸せかもしれないが、それは好きな人を飼うなんて言わないんだよ」

 

勿論ララの事は好きだ、小さな頃から一緒に過ごして来た幼なじみだし、大きくなった今でもララは大切な女の子だ。

 

「でも、セイの事を好きな女の子は沢山いるから、首輪でも付けてないと何処かに行っちゃう…」

 

「行かないよ、ララを置いて何処にも行かないよ」

 

「本当に?」

 

「そんなに不安にならなくても、今までララを置いて居なくなった事なんて、1度も無いでしょ?」

 

「うん、今までずっと一緒に居てくれた。

でもこれからは分からない、やっぱり首輪でも着けないと…」

 

ララに首輪以外で安心して貰うにはどうすれば良い?

うーんと無い頭を振り絞り考えた結果。

 

「ララ俺と一つ約束をしよう」

 

「約束?」

 

ララは不思議そうに俺の胸から顔を上げた。

 

「そう約束。もし俺が、約束を破ったら俺をララの好きにして良いよ」

 

「…私の好きに?」

 

「煮て食うも焼いて食うも、好きにすれば良い」

 

「私、セイにそんな事しないよ!」

 

「言葉の綾だよ、だからララ何か約束をしよう。

ララが内容を決めて良いよ?」

 

約束の内容は時間がかかるらしいと思ったが、そんな事はなくララの口からスラスラと出て来る。

 

「今までみたいにずっと一緒に居て、私を置いて行かないで、何処かに行っちゃうのなら私も連れて行くって約束して」

 

「勿論約束するよ」

 

俺が約束すると言った瞬間、ララの顔に表情が戻りまた、ニコニコし出す。

 

「えへへ、二人だけの約束だよ?もし破ったらその時は…」

 

「ああ、潔くララに飼われるよ」

 

「これでずっとずっと一緒だね」

 

セイは約束を守っても、破っても一生ララと一緒になるのだった。




男の猫耳、猫尻尾に需要は有るのか…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アイドルマスター シリーズ
アクセサリー 凛 加蓮 まゆ


主人公
渋谷凛ちゃんの従兄
21歳 渋谷巧 シブヤ コウ
髪色は黒 目の色はブルー

母親がロシア人で主人公はハーフ
主人公の父親が、凛の父親の兄

アクセサリー職人



「ねぇ、この気持ちをどうすれば良いかな?」

 

じりじりと距離を詰めながら話す凛を見る、顔が赤くなり息も荒い

 

「愛しさがもう溢れそうなんだけど」

 

自分の体を抱き締めて、身悶えている姿は…

 

「外でも走ってくれば?」

 

変態にしか見えない、残念なこの美少女は俺の従妹である。

 

この見た目は完璧な渋谷凛は、美城プロ所属の超人気アイドルだ。

昔から綺麗な子だったけど、まさかアイドルになるなんて思ってもみなかった。

 

「凛は何時から、そんな風になっちゃったの?」

 

心底不思議だ、従兄を見てこんなに興奮するなんて…

小さい時は普通に俺の事を兄さんと呼んで慕っていた筈、近くに住む従兄として普通に仲の良い関係だった。

それがアイドルになった頃には既に変態になっていた。

 

「昔からだよ、想いを素直に伝える様になっただけ。昔から兄さんが好きだったし」

 

「なんで?」

 

「後悔したく無かったから。自分の気持ちを我慢して、兄さんを他の人に取られるのを黙って見てるだけなんて、嫌だと思ったから」

 

「でも従兄だぞ?兄妹みたいな感じで育ったのに、恋愛感情なんてあるのか?」

 

「有るよ、私は兄さんに凄く興奮するよ?見てるとドキドキするし、結婚して子供も欲しいな」

 

「やめて、詳しく話そうとしないで」

 

凛は恥ずかしがらず正直な気持ちを伝えてくる、聞いているこちらが照れてしまう程真っ直ぐに。

 

「兄さんって良い匂いするよね」

 

俺の首もとに顔を近付けスンスンと匂いを嗅ぐ

 

「やめなさい」

 

離れさせて距離を取る

 

「俺なんて良い匂いな訳無いだろ」

 

自分の匂いを嗅いでも石鹸の匂い位しかしない、凛の方がよっぽど良い匂いがする。

 

「ううん良い匂いだよ、安心する大好きな匂い」

 

「…そうか」

 

「照れてる?」

 

「照れてるよ」

 

凛が嬉しそうに笑っている

俺は手で隠して赤い顔を見られ無い様にしているが、この素直な好意には馴れない。

 

「そうだ今日は事務所に用事が有るんだった、兄さんも一緒に行こうよ」

 

「俺はいかないよ、今日は納品の予定も無いし」

 

俺は美城プロのアイドル用にアクセサリーを納品している、アクセサリーなら宝石でも銀でも何でも使う、そこを美城常務に気に入られた。

 

普段はオーダーを受けて仕事をしている、この頃は美城プロの仕事ばかりだが。

 

「でも皆会いたがってたよ?暫く事務所に行ってないよね、皆に顔見せてあげなよ」

 

「そうだなぁ」

 

アイドルに会うのも仕事の内だ、皆の想像の中の物を忠実に具現化するのが大切。

 

「行くか、車を出すよ」

 

「やった!私、兄さんの車の助手席好きなんだよね」

 

「はしゃいじゃって、子供みたいだな」

 

「助手席って恋人みたいでしょ?」

 

そういう意味で座っていたのか、助手席を誰にも譲らない理由がやっと分かった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あー!巧さん、久しぶりだね」

 

事務所の扉を開くと誰かが抱き付いて来た、この声は

 

「加蓮か、元気そうだな」

 

「もうっ全然来てくれないから、寂しかったんだよ?

こんなに可愛い加蓮ちゃんを放置なんて、鬼畜の所業だよ!」

 

分かりやすく怒っている加蓮に、凛が割って入る

 

「私が連れてきたんだよ、まったく…仕事が無いと顔も見せに来ないんだから」

 

「さっすが凛、乙女心を分かってる」

 

普通仕事が無ければ会社には来ない、それに一月に一度は様子を見に来ている。

 

「美城常務が言ってたけど…

兄さんと会ったアイドルのモチベーションが上がって、パフォーマンスが良くなるんだって。

いっその事この会社に兄さんの部屋を作って、美城専属になって貰おうかって話が出てるんだってさ」

 

「本当に!凄いじゃんこれで毎日会えるよね!」

 

「あの人は本当に思い切りが良いと言うか、大胆と言うか」

 

会社が良くなる為なら何事にも躊躇いが無い。

そのせいで誤解されやすいが、彼女は会社やアイドルが好きな仕事熱心な人、真っ直ぐな人なのだ。

 

「どう?なるべく動きたくない兄さんには、良い話じゃない?」

 

「常務から直接言われたら、考えるよ」

 

「前向きに、考えてね」

 

前向きにを強調された、流石従妹断ろうとしている事がバレている。

 

「悪くない話だと思うけど?専用の部屋も貰えるし、仕事もしやすくなる。

それに、美城の施設も好きに使って良いみたいだよ?」

 

それは心惹かれる。

美城はそこら辺のホテルよりも、よっぽど豪華な施設が充実している

それが好きに使えるのなら良いかも…

 

「良いな…前向きに考えるよ、今度は本当に」

 

「やった」

 

「凛お手柄だよ!」

 

今まで以上にアイドル達とコミュニケーションが取れれば素晴らしい作品が作れる

望みを細かく聞いて、より完成度を高められる。

良い作品が出来るなら確かに良い話だ。

 

「あっ凛!事務所に用事が有って来たんじゃなかったか?」

 

こんなに長話をしていて良いのだろうか?

 

「そうだった、会議室に呼ばれてるんだった」

 

「あっ私も呼ばれてた!」

 

「ごめんね兄さんちょっと行ってくるよ、私が戻ってくるまで待っててね」

 

「私も一緒に行く!またね巧さん」

 

凛と加蓮が急いで事務所から出て行った、言われた通り事務所で待つことにする。

休憩用のソファーに座り、手帳にアクセサリーのデザインを考る、思い付いた物を軽くメモする。

 

「そのデザイン好きです」

 

「え!」

 

すぐ隣から声がした、驚いて隣を見るとまゆが一緒に手帳を見ていた。

 

「ごめんなさい、驚かせてしまいましたか?」

 

「まゆ、何時から隣に?」

 

「ずぅっと側に居ましたよぉ?」

 

にこりと笑うまゆは何時そうだ。気が付いたら側にいて、当たり前の様に俺の手伝いをしてくれる。

アイドルに雑用なんてさせられないと断っても止めない、今も机の上にコーヒーが置いて有る。

 

「休憩にコーヒーをどうぞ」

 

「ありがとう、まゆのコーヒーは何時も俺好みだな、美味しいよ」

 

俺は甘党なのでコーヒーと言うよりはカフェオレに近い物を飲む、ブラックは飲めない

 

「ふふっありがとうございます、巧さんの事はずっと見ていますから、好みもバッチリです」

 

まゆは何時も俺に良くしてくれる、何かお返しをしたいな…そう言えばこのデザインが好きだと言っていたな

 

「まゆが好きなのはこれか?」

 

「はい、この指輪に赤い薔薇が絡み付いているデザイン、とっても素敵です」

 

手帳を指差している、そこには軽く色が塗られただけのまだラフな絵がある

 

「指輪に嵌める宝石は赤で良いか?それとも違う色が良いかな?」

 

「え?まゆがデザインのアドバイスですか?」

 

キョトンとして、俺に訪ねてくるがそうでは無い

 

「違うよまゆの好みを聞いているんだ、これはまゆに贈る指輪にしたからね」

 

「まゆに、この指輪を…?」

 

「日頃のお返しだよ、まゆには感謝しているよ」

 

まゆは両手を真っ赤な頬に当て喜んでいる。

 

「嬉しいです、まさか巧さんの指輪を貰えるなんて!」

 

「喜んで貰えたなら良かったよ」

 

手帳のラフにメモを書き足して行く、

何か思い付いたのか裾を引かれる

 

「ん?何か希望がある?」

 

「はい、あの…宝石は青が良いです、大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だけど、青で良いの?赤の方が好きだったよね?」

 

「何時もはそうですけど。この指輪は特別ですから、巧さんの色が欲しくて」

 

「俺の色?」

 

「巧さんの目の色です、綺麗な青色で好きなんです」

 

俺の色ね…メモに宝石は青と付け足す

 

「薔薇の赤はまゆで宝石の青は巧さん、まゆが捕まえているみたいでとっても素敵」

 

うっとりと話すまゆは時たま…いや割と頻繁にこういう発言をする。好意は伝わるがなんと言うか、愛が大きいと言うか多いと言うか…

熱量が凄い、情熱的とはまゆの事なんだろうな。

 

「二人の運命が更に強くなりますね」

 

「出会った時からずっと言ってるね、たしか俺を探してくれたんだよね?」

 

なんでもまゆは読者モデルをしていた頃に、撮影で使ったアクセサリーに何か惹かれる物を感じて、制作者の俺を探し当てたらしい。

凄まじい執念、いや情熱。

 

「覚えていてくれたんですね。あの時のネックレス、買い取って今も着けているんですよ」

 

服の下から取り出して見せてくれたのは、確かにあの時のネックレスで、深い赤色の宝石が特徴的だ。

 

「懐かしいな、大切に使っているんだね」

 

もう何年も前の品なのに傷一つ無い、本当に大切に使ってくれているのが見て分かる。

 

「巧さんとの出会いの切欠ですから。運命の相手まで導いてくれた、もう一つの赤い糸ですよ」

 

祈る様にぎゅっと両手で、ネックレスを握り締める

 

「巧さんのアクセサリーは、二人を繋ぐ運命の糸なんです、だから…」

 

チュッと頬にキスをされた、まゆからしたのに恥ずかしそうに赤くなっている。

 

「指輪、楽しみにしてますね」

 

「あ…ああ任せて」

 

「また一つ運命が強くなりますね、ふふっ」

 

嬉しそうに笑うまゆに苦笑いになる、凛にしてもまゆにしてもストレートに気持ちを伝えてくれる

俺にはそれが強烈過ぎて少し戸惑ってしまう、情けない事に誰の気持ちにも答えられていない。

 

彼女達はそれで良いと言う、俺が何時か本当に好きな人が出来るまでアタックし続けると、それまでに振り向かせて見せると。

 

だから俺が自然に誰かを選ぶまで待っているらしい、申し訳ないからと断ろうとすると、断る事を断られた。

 

好きでいるのは自由だから、絶対振り向かせる自信があるからと、それで今の状況だ

確かに彼女達に対してときめく事も増えてきた、誰かを選ぶのは案外そう遠く無いのかも知れない。




今回は物語の導入部分
ヤンデレはほぼ無い
続くと思う


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

視線 凛 まゆ 蘭子

皆様お久しぶりです、久しぶりに1話書けましたので投稿します。
待っていてくれた人が一人でも居たなら幸いです。


「ふふっ」

 

「何見てるのさ」

 

凛がこちらのアクセサリーを制作中の手元を覗き込み、楽しそうに微笑んでいた

 

「何でもないよ、ただ何時もと同じ。兄さんの手元を見てただけだよ」

 

「あんまり近寄ると危ないから、離れて見ててよ」

 

「ふふっはーい」

 

「何が面白いんだか、そんなに見てても暇なだけだろ?」

 

「ううん面白いよ、兄さんの手が動く度にアクセサリーが出来るんだもん目が離せないよ」

 

「そうか…」

 

346プロに有る作業室でアクセサリーを作っていると、凛が訪ねて来て、それから俺の隣に椅子を持って来ると、そこからは楽しそうにずっと微笑んでいた。

 

「兄さんの作るアクセサリー評判が良いみたいだよ、皆褒めてるよ」

 

「そう言えば、蘭子もそう言ってくれてたな」

 

「えっ兄さん蘭子の言葉が分かるの?蘭子の言葉は難しくない?」

 

「いや難しかったから普通に話すようにお願いしたら、普通に話してくれたぞ?」

 

「うそぉ…

兄さんは蘭子に何か特別な事、したの?」

 

「別に何も…あっ蘭子のスケッチブックを見てからだな。

それから普通に話してくれるようになったよ」

 

噴水の脇にスケッチブックが落ちていて、パラパラと見ていたら蘭子がスケッチブックを探しに来て、二人でスケッチブックいや、グリモワールを見てから仲良くなって普通に話してくれるようになった。

 

「へー…」

 

「ちゃんと話さないと仕事にならないし、話してみたら中身は年頃の普通の女の子だったし」

 

「…」

 

「今作ったのも蘭子のアクセサリーだったな、どうだ?綺麗なティアラだろ?」

 

「…うん」

 

顔を出来上がったばかりのアクセサリーから上げると、むくれ顔の凛がそこに居た。

 

「どうしたんだ?何かあったのか?」

 

「兄さんは蘭子が好きなの?」

 

「え?好きだが?」

 

そう言うと無言のまま俯いてしまった凛が飛び付いて来て、床に押し倒された。

 

「兄さん…」

 

「いたっ…凛どうしたんだ」

 

「兄さん…いやだよ私、兄さんが誰かの事を好きになるなんていや。

好きになるなら私が居るじゃない、兄さんがしたいこと全部して上げるから私を好きになってよ」

 

「凛…」

 

「兄さん」

 

凛に押し倒されたままの二人の影がゆっくりと重なって一つになろうかと言う時

凛の肩がポンポンと静かに叩かれた

 

「ストップですよ凛ちゃん」

 

「まゆっ!いつの間に居たの?」

 

「まゆは凛ちゃんがこの部屋に来る前から、ずぅっと巧さんと居ましたよ?」

 

確かに俺が部屋に入ると机の上に薔薇の花を飾っているまゆがいた、一体何時から居たのだろう。

 

「まゆは兄さんが蘭子に盗られても良いの?まゆの兄さんへの気持ちは、そんなものだったの?」

 

その言葉を聞いた途端まゆの顔から笑顔が消えた

 

「凛ちゃん言って良いことと、悪い事が有りますよ」

 

「でもっ」

 

「先ずはしっかり、巧さんにお話しを聞かないといけませんよ」

 

凛はまゆの気迫に口をつぐむ、まゆは巧に作って貰った指輪を抱き締める様に胸に抱いて巧に話し掛ける

 

「巧さんは蘭子ちゃんの事が、恋愛感情で好き何ですか?」

 

「違う違うよ!皆と同じように親愛の意味で好きだよ」

 

慌てて否定して、間違っている部分を訂正する

 

「ね?凛ちゃん安心しましたか?」

 

「待ってまだ安心してない、本当に好きな人はいないの?」

 

「いないよ」

 

「でも、こんな女の子だらけの職場で一人も気になる人がいないの?」

 

「確かに346プロダクションの中は魅力的な女の子ばかりだが、俺はここに出会いを求めに来ている訳ではない、仕事をしに来ているんだ」

 

「あっそうだった、兄さんも仕事に来ているんだったね」

 

「凛ちゃん疑いは解けましたか?」

 

「うん、兄さん疑ったりしてごめんなさい、でも私が兄さんに言ったことは本当だから」

 

「凛ちゃん?」

 

まゆが笑顔のまま凛の方を向き、何故だろう笑顔のはずなのに物凄い圧を感じる。

 

「なに?まゆ、さっきの事は勘違いだとしても私の想いは本当だから」

 

「そうですか…まゆも誰よりも巧さんを想っているつもりですし、まゆもそう簡単には負けませんよ」

 

なんだか部屋の空気が悪い気がする、主に凛とまゆの間に居る俺の周りの空気が悪い。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから少しして、凛とまゆがレッスンに行き。

部屋で一人きりになり、落ち着いて作業が出来ると思ったその時。

 

「闇に飲まれよ!」

 

うるさっ!

唐突に部屋の扉がバァンと開いて、銀髪のツインテールを毛先だけ巻いているゴシックドレスの女の子が部屋に入ってくる。

 

闇に飲まれよ、と独特な挨拶をしてきたが普段はその言葉を使って皆とコミュニケーションを取っているのが蘭子だ。

 

部屋に入ってくるといきなりキョロキョロしだし他の人が居ないか、部屋の隅々まで探しだす。

 

「闇に飲まれよ、蘭子今はこの部屋には俺だけだぞ」

 

「そ、それは真か魂の伴侶よ」

 

「本当だよ」

 

俺がそう言うと落ち着いたのか、ほっと一息ついて俺が座って居るソファーに座る。

 

「巧さん!会いたかったです!」

 

「うおっ!」

 

ソファーに座る俺目掛けて蘭子が抱き着いて来て、危うく飲んでいたコーヒーをこぼしそうになる。

 

「蘭子、いきなり抱き着くのは止めなさいって、何時もいってるだろ?」

 

「でもっ久しぶりに巧さんに会って、嬉しくてつい…」

 

「でももついもない」

 

「はい…ごめんなさい」

 

「うん、よろしい」

 

反省して居る蘭子の頭を撫でながら、出来たばかりのティアラの事を思い出す。

 

「そうだ、蘭子この間見せてもらった、グリモワールの絵のティアラができたよ」

 

「真か!」

 

「真だよ」

 

「はっ速く我に、至宝の供物を捧げよ!」

 

「わかったよ」

 

早く早くと急かす蘭子を横目に、作業机の引き出しからティアラを取り出し、蘭子の手に乗せる。

 

「わぁ…!」

 

「気に入って貰えたかな?できる限り蘭子の要望に答えたつもりだけど」

 

「はい!すっごく気に入りました!」

 

「本当?良かった」

 

「私がグリモワールに描いた絵が、そのまま飛び出して来たみたいです!」

 

蘭子はティアラを色んな角度から眺めてみたり、こわごわと触って見たりしている。

 

「そうだ、蘭子ちょっとティアラを貸してくれないかな?」

 

「…取り上げたりしませんか?」

 

「あはは、よっぽど気に入ってくれたんだな。

取り上げたりなんかしないよ、いいからちょっとだけ貸してみてよ?」

 

「分かりました」

 

蘭子からティアラを受け取ると、ティアラの真ん中の赤い宝石がキラリと光る。

受け取ったティアラをそのまま蘭子の頭に乗せる。

 

「うんピッタリだ、まさに、ティル・ナ・ノーグのお姫様だな」

 

「お姫様だなんてそんな…

あっ確かティル・ナ・ノーグって妖精の国ですよね」

 

「ああ、アイルランドのケルト神話に出てくる、妖精の国だよ」

 

なるほどと蘭子は頷いてから、急にハッとした、何かを思いついたようだ。

 

「鏡見てもいいですか?」

 

「どうぞどうぞ」

 

俺がそう言うと、鞄からゴソゴソと手鏡を取り出してマジマジと見入っている。

 

「うわぁ〜本当に素敵です!巧さんの指は魔法の指ですね!」

 

「ありがとう」

 

「あっ、こうしても良いかも…」

 

そう言うと蘭子はツインテールに結んである髪をほどくと、銀色の髪をおろし、手櫛で整える。

そこには、まるで神話から飛び出して来たんじゃないかと言うほどに美しい、蘭子の姿があって俺は呆気にとられた。

 

「どう…ですか?」

 

俺が何も言わないのを不安に思ったのか、蘭子は恐る恐る俺に聞いてくる。

 

「あっああ、悪い見惚れてた。

それ位綺麗だ、似合ってる」

 

「そっそうですか、ありがとうございます」

 

蘭子の顔がどんどんと真っ赤に成っていく。

 

「これで少しは巧さんに近づけましたか?」

 

「俺に?」

 

「はい、巧さんの彼女とか…どうですか?成れそうですか?」

 

「俺には勿体無いよ、蘭子はシンデレラなんだから」

 

「もう、私は巧さんが良いんです!」

 

「それなら、蘭子がトップアイドルに成って、大人の女性に成っても、それでも俺を想い続けてくれたなら考えるよ」

 

「言いましたね、言質は取りましたよ。約束…ですよ?」

 

「ああ、約束は違えないよ」

 

「はい!直にトップアイドルに成って見せますから、待っていて下さいね」

 

笑顔でそう言う蘭子を見て、トップアイドルになる日は近いのかも知れないと思った。

 




蘭子が偽物くさい…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

純粋な思い 貴音

無自覚なヤンデレ
主人公崇拝型
超遠距離の出会い(一方的)

私=わたくし
貴方様=あなたさま


僕が制止の声をかけると意外そうに答える。

 

「一体どうしてでしょうか?」

 

通りかかった路地の先から男女の争う様な声が聞こえ、慌てて駆けつける。

そこで見たのは意外な事に倒れている男達と平然としている女の子だった。

女の子は淡々とした様子で、男の頭を踏み潰そうと片足を上げ僕は彼女を急いで止めた。

 

「分かりました、貴方様がそう望むのなら止めます」

 

女の子は足を下ろし素直に僕の言う事を聞いてくれ、頭を踏み潰そうとするのはやり過ぎじゃ無いかと尋ねると、心底不思議そうに答える。

 

「貴方様以外に価値のある人なんて、この世に誰も居ないのですよ?」

 

不思議そうに首を傾げる彼女は、本気でそう思っている様だった。

 

「ほら、このゴミ達はこんなにも醜い。

貴方様以外は見る価値も、話す価値も関わる価値すら無い。」

 

彼女の足元に転がる男達は皆気絶しているのか、ピクリとも動かない。

転がる男達を見る彼女の目は何処までも冷たい。

 

「声をかけられたので、仕方なく相手をしていたらいきなり路地裏に連れ込まれたのです。」

 

ナンパだろう彼女はとても美人だから、声をかけるのも納得だ。

 

「ああ…なんておぞましい、貴方様以外に触れられるなんて。」

 

腕を掴まれたのか、鳥肌の立つ腕をずっと擦っている。

 

「貴方様以外に触れられました、こんな事…汚らわしい。

私は穢れてしまいましたが、まだ貴方様の側に居ても許されますか?お許しいただけますか?」

 

彼女は瞳に涙を浮かべながら、僕に懇願する様に尋ねる。

 

「貴方様の側に居られないなら…そんな人生に価値なんて有りません。

どうか…どうか許して、側に居る事をお許し下さいませ。」

 

祈る様に両手を重ねる彼女に、僕は漸く一言発する。

 

「えぇと…君はいったい誰かな?」

 

彼女は僕を知っている様だが、僕は彼女を全く知らない。

僕の言葉を聞いた彼女はキョトンとした後話し出す。

 

「ああそうでした、初めまして私は四条貴音と申します。

話が長くなりそうなので、そこのお店にでも入りませんか?

貴方様を立たせたままなんて…そんなの駄目に決まっています。」

 

彼女は「失礼します」と声をかけると宝石でも扱うように丁寧に僕の手を握る、何故か恍惚とした様子の彼女に導かれるまま僕はお店に向かった。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

空いている店内の奥の席を指定した彼女、席につき水を飲み一息ついた僕を見ると彼女は話し始めた。

 

「改めまして、私は四条貴音と申します。

正式には初めましてですね、貴方様は知らないでしょうけれど私は貴方様を昔から知って居ます」

 

「え?」

 

改めて彼女を見る、

銀色の波打つ美しい長い髪

怪しく輝く紅い瞳

ひどく整った顔に、長身で凹凸のはっきりした素晴らしい体型

まさに絶世の美女だ。

こんなに美しい人は初めて見た、やはり僕には見覚えは無い。

 

じっと見すぎたのか、彼女はもじもじとしはじめた。

 

「あっ貴方様、そんなに見つめられると照れてしまいます。

嬉しいのですがそれは是非二人きりの時に…」

 

赤い顔で照れている彼女は可愛らしいが、それよりも先ず謝罪からだ。

 

「ごめんなさい、女性をじろじろ見るのは失礼でした」

 

「いえ、貴方様なら大歓迎です」

 

僕の謝罪に食い気味に反論する

 

「貴方様、私の事は貴音とお呼び下さいませ」

 

「わっ分かりました、貴音さん」

 

貴音さんの勢いに少し引きながら返事をする。

 

「私が最初から説明致します」

 

貴音さんは微笑みながら話し始めた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

私には生まれた時から決められた重要な使命がございました。

日々その使命に向け精進しその為だけに育てられていました、しかし私の後に産まれた妹がその役目に選ばれ…私はいらない者、もう必要とはされなくなりました。

 

そんな絶望の時貴方様を見つけたのです。

優しい瞳で月を見上げ穏やかに微笑むお顔を見た途端に、生まれて初めて胸が強く脈打ちました。

 

それから直ぐ様じいやに問いかけ、これは恋だと教えて貰いました。

それからは貴方様を見つめる日々でしたが、日々気持ちが強くなりとうとうある日決意しました。

 

『貴方様の所にくだる』と皆は驚きましたが、妹が居るので反対も出ず私も新しい使命を託されました。

 

私が居ると広く知らしめる事で故郷の民を救うのです、その為に私はアイドルになり今こうして貴方様と直接会うことが叶いました。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

此処は東京だしくだるって事は京都から来たのかな?

 

「それでえっと、さっき言ってた僕の側って?」

 

「それは私時間が少しでも有りましたら、貴方様を近くで護衛しておりました。

これでも護身術には少々の自信がございますので」

 

そうだろうね、さっきは男達が束になっても敵わなかったみたいだし。

 

話しは大体わかった、貴音さんが僕に一目惚れをして今も好きでいてくれる。

しかも貴音さんはアイドルらしい。

 

「貴方様をお慕い申しております」

 

僕の両手を握り潤んだ瞳で見上げる貴音さんは魅力的だが、やっていたことはストーカーじゃ…

その考えに至ると少し貴音さんが怖く感じる。

僕の恐怖を感じ取ったのか貴音さんが話す。

 

「お返事は結構です、貴方様の答えがどうであろうとも私のこの気持ちは変わりません」

 

儚い微笑みに不覚にも胸がときめき、顔が赤くなってしまった。

 

「おや?これは私にもちゃんすが有るのでしょうか?

私は貴方様の好みから外れない容姿の筈ですが、如何でしょうか?

少しでも貴方様の瞳に魅力的に写りますでしょうか?」

 

笑顔の貴音さんの姿にまたもや胸が高鳴る

 

「あ…大変に魅力的…です」

 

素直に答えるが照れてしまい、言葉が切れ切れになる

 

「貴方様…」

 

「貴音さん」

 

見つめあう距離が吐息がかかる距離まで近付くが、すこし引っ掛かりを感じた。

 

「あの…僕の好みって?」

 

距離を取って質問する、貴音さんが名残惜しそうにしている

 

「貴方様の好みは髪の長い、胸の大きな女性ではありませんか?」

 

「…それも知ってるの?」

 

「はい、貴方様の事なら何でも答えられると自負しております」

 

「そう…」

 

本物のストーカーじゃないか、好みはピタリと合っていた

 

「こちらをご覧下さい、貴方様は余りてれびをご覧にならない様ですが、こちらは如何でしょうか?」

 

紙を机の上に並べていく

我那覇響、星井美希、四条貴音と書いてあり、プロフィールも書いてある

 

「これは?」

 

「皆貴方様の好みではないですか?」

 

確かにその通りだ

 

「響も美希も貴方様に会いたいと申しておりました。

私の日々の布教の成果でしょう、今は私達三人でゆにっと活動をしていまして、765ぷろに要らして下さいませ」

 

「僕なんかが良いの?一般人だけど普通は駄目だよね」

 

「もう違います、私達の大切な人になりましたから。

そして、未来にも続くお付き合いになります

これが貴方様の通行証です、これからはご自由に出入りが出来ます。

勿論765しあたーの方にもどうぞ」

 

もうそこまで話が進んでいるのか、もしかして貴音さんは凄く有能な人なんじゃないのかな

 

「じゃあ折角だし有り難く貰います、有り難うございます」

 

テレビをあまり見ない僕だけど、765プロや765シアターの名前は知っているそんな所に行けるなんて、少しワクワクしてきた。

 

「では参りましょうか」

 

「え?何処に?」

 

「765ぷろです、善は急げと申します

外に迎えを用意しましたので、是非」

 

外をみると車の中からさっきのプロフィールの子達が手を振っていた。

貴音さんに手を握られ、誘導される。

 

「もう、逃がしませんよ。

私此処まで我慢致しましたので、これからは本気であたっくさせていただきます。」

 

「貴音さん?」

 

「もう…もう見ているばかりではない、手の届く存在なのです。

見上げる存在から手の届く存在に、決して離しはしません。」

 

貴音さんの瞳が怪しく輝く、その輝きは満月の様に怪しくけれども綺麗に光る

 

「愛しの貴方様。

末永くこの貴音を、よろしくお願いいたしますね」




主人公を信仰する系のヤンデレ
主人公第一主義、他の人や物に価値を見出せ無い。
他のアイドル達は友達として大切に思っている
好きな人を皆にも好きになって貰いたい
独占もしたいジレンマ

最初の男達も丁度よく利用されていたりして…

勘違い

貴音 月から地球にくだる
主人公 京都から東京にくだる


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

素直にかなさんどー 響

素直系ヤンデレ
自分の心に素直に行動する
勿論主人公にも包み隠さず好意を伝える

かなさんどー=愛してる
でーじしちゅっさー=大好きだよ


「ねえねえ!もう一回言ってみて、せーの!」

 

「響かなさんどー」

 

「うぎゃー照れるー」

 

そう言って向かい側のソファーで悶えているのは、我那覇響

初めから距離感が無かった響とは、直ぐに打ち解ける事が出来た。

 

「つぎはねぇ、でーじしちゅっさーって言ってみて?!」

 

「でーじしちゅっさー」

 

先程から響の望むままに言葉を紡ぐも、僕にはさっぱり意味が分からない

赤い顔で「こっちも良いぞ…」と呟く響に質問する

 

「響これはどういう意味なの?さっきからよく分からないんだけど…」

 

「ん?これはね~うちなーぐちって言って、所謂沖縄弁ってやつさー」

 

質問に答えられたのが誇らしいのか、フフンと胸を張る響についでにもう一つ質問する

というか、こちらが本題だ

 

「へーそうなんだ。でもこのかなさんどーとか、でーじしちゅっさーとかって何?」

 

「ちょっ!そんなに軽々しく言っちゃだめだぞ!

言うときはもっとこう…心を込めてその…気持ちも大切で…」

 

ええっ!今まで散々言わせておいて酷い話だ

響は急に恥ずかしくなったのか、指同士をつつき合わせて耳まで赤い顔を反らしている。

 

そんなに恥ずかしい言葉を僕にずっと言わせていたのか…?でも響は決してそんな悪い子では無い筈

 

「えーっと響が言いにくいなら、他の人に聞いて…」

 

「それは駄目だぞ」

 

急に冷たい声が向けられてヒヤッとした空気が漂う

響を見ると瞳が鋭く猫の様に成っていた、軽く瞳孔が開いている気が…

そのまま両手を顔に添えられる、柔らかい力だが決して瞳をそらせない

 

「言って良いのは、自分にだけだぞ

どれだけお願いされても、何を貰っても絶対に自分以外に言っちゃだめさ」

 

「あ…ああ分かったよ、響以外には言わないよ」

 

「約束してくれるの?」

 

顔から両手が離れ小指同士をきつく結ぶ

 

「約束するよ」

 

ガッチリときつく結んだ小指にほっとしたのか、何時もの響に戻り始め手が離れていく

 

「他の人に聞くぐらいなら恥ずかしいけど…自分が説明するさー」

 

「恥ずかしいなら別に…」

 

「仕方ないなぁ自分は完璧だし、未来の旦那様にそこまで言われちゃしかたないなぁ」

 

誰が旦那様になるのかとツッコミたいが、話が又ややこしく成りそうなので黙って置く

 

「かなさんどーは愛してるで、でーじしちゅっさーは大好きって意味さー」

 

「そんな恥ずかしい事を言わされてたの!」

 

「あんなに何回も瞳を見つめて、情熱的に言われたのは自分初めてだぞ。その…照れるけど嬉しかったり…」

 

そりゃそうだ最初にそらさずに瞳を見てと指示があったから

情熱的は全て棒読みだった筈だけど、どうやら響の耳は都合が良く変換される機能が付いている様だ。

 

「プロポーズも済ませたし後は、式を済ませてしまえばもう立派な夫婦さ!」

 

「いやいやいや!プロポーズってさっきの、かなさんどーってヤツ?!」

 

「ううぅ…そんなに言われると恥ずかしいぞ、でも…その…自分もかなさっさー」

 

「待ってちょっとストップ、一回落ち着いて!」

 

キョトンとしている響に深呼吸を指示する

 

「自分家族は沢山欲しいから、早めに子供を産まないと大家族に成れないぞ?

でもでも、二人っきりの時間も欲しいから…やっぱり急がないと駄目だぞ!」

 

指折り数えて何かを計算していた響は、ふと何かに気付いたらしく少し焦り気味に話し出す

 

「あなたを自分だけの者にしたいけど…直ぐには無理なら。

私を…響を、自分だけの者にしてくれて構わないさー」

 

「本気なのか?」

 

「本気でしかこんな事言えないし、言わないぞ!」

 

確かにこんな大切な事を軽はずみに言うような子ではない。

しかし自分だけの者にしたいとは…

 

「もし結婚が不安なら大丈夫さ!自分完璧だから絶対に幸せにして見せるぞ!家事も仕事も子育ても全部全部おまかせだぞ!」

 

いや、それは待って貰いたい男として産まれたからには、お嫁さんも子供もも養いたいし笑顔も見たい

お嫁さん一人に負担を負わせたく無い

 

「僕だって自分の家族位養いたいし、家事も結構得意だよ?」

 

「おお!それなら尚更完璧さ、二人の完璧が合わされば不安なんてなんくるないさー!」

 

「待ってって!一体何がそこまで僕を気に入ったの?」

 

「それは…」

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

何時もの公園何時もの追いかけっこ、何時もの様に自分がいぬ美のご飯をつまみ食いした事から始まった追いかけっこ。

 

「いぬ美ー!ごめん自分が悪かったぞ、だから帰ってきて欲しいぞ!」

 

もうそろそろ夕日が陰ってきた、暗くなる前に何とか見つけて帰りたい。

そう思っていた時の事、前方にいぬ美の姿と知らない男の人が見えてしゃがみながらいぬ美と何かを話していた。

 

「君はどうしたの?名前は…いぬ美ちゃんで良いのかな?」

 

「わふ」

 

首輪のタグを見ながら名前を確かめている様で、いぬ美も素直に返事をしているので悪い人では無さそう。

 

「いぬ美ちゃんはひとり?家族は?」

 

「ヴゥゥウ!バゥ!」

 

「ごめんね、喧嘩でもしたのかな?悪い事を聞いたみたいだね」

 

「わふん」

 

まるで謝罪を受け入れる様に男の人の手にすり寄り、許すと態度で示していた。

自分の事はまだ許してくれないのに…

 

「でももう暗いよ?きっと君の家族も心配してるんじゃ無いのかな?」

 

「…わぅ」

 

「家族が居なくなって心配しないなんてあり得ないんじゃ無いのかな?君の首輪からも愛情を沢山感じるよ」

 

確かに自分の家族の首輪は全て手作りで、沢山愛情を込めて作る自分からの初めての贈り物だから。

 

それを分かってくれた事も嬉しいが何よりも、いぬ美の事を家族と言ってくれた。

他の人は良くてペット、酷い人はそれなんて呼ぶ人もいた。

 

あの人は家族と呼んでくれるのか…ああいう人とならきっと憧れの大家族も夢じゃ無いんだろうなぁ

そう思うと途端に心臓がドキドキして止まらなくなってきた。

自分はなんて都合の良い奴なんだろう、こんなに惚れっぽくは無かった筈だぞ…

 

「ワン!」

 

「ん?あの子が君の家族か行ってあげてよ。あんになるまで必死に君を探してくれていた様だし」

 

あんなに?改めて自分の姿を見ると頭はボサボサ、所々に葉っぱがくっつき汗だくにもなっていた。

今更ながらこの姿を彼に見られたのは恥ずかしい。

 

「キューン」

 

「うん、またねいぬ美ちゃん又会えたら遊ぼうね」

 

「ワン!」

 

いぬ美はそのまま自分の前まで走ってきて咥えたリードを渡してくれた、どうやら許してくれる様だ。

男の人にお礼を言おうとすると既に居なくなっており、それから家族と追いかけっこをする度に皆を見つけてくれるとっても良い人。

 

ハム蔵やいぬ美達に笑いかける姿には、いつの間にか心が惹かれる様になっていた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「それはいいんさ!ただ貴方は自分からの愛を受け取って幸せに成ってくれれば、二人とも幸せになれるんさ!」

 

「そんな無茶苦茶な」

 

「無茶苦茶だけど…でもいつまでもかなさんどー、だぞ!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

でも寂しくならない様に家族を沢山増やしたけれど、結婚して子供を産んでもこの寂しさは消えるのかな?

今は寂しくなる度に家族を増やして心の穴を埋めているけれど…もしももしもこの寂しさがずっと続く物なら…

 

今は彼に出会えて初めての心の穴が塞がって、暖かい気持ちで胸がいっぱいだぞ

でも…もしも彼が他の人を選んでも自分が彼の近くに勝手に居る事は許される…よね?

それこそ彼の近くに居させて貰えたら自分は満足さー




純真素直な響可愛い、昔から一番好きです
spのプロジェクトフェアリーで一目惚れしました

大家族に憧れる響可愛い

自分が選ばれなくても近くに居れるだけで幸せ



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2/14は… 美希

おにぎりケーキなるものを見たことある様な?…うっ…頭が

春香はどうしてそうなっちゃったの?(涙目)

沢庵とケチャップは合わないと思うの
あっきーは不憫


両手で抱える程に巨大な箱を持った美希が、事務所に入った途端にキョロキョロと誰かを探していた。

 

「あっ居たの!」

 

僕にその巨大な箱を渡してきた。

 

「はい!ハッピーバレンタインなの!」

 

「ありがとう、おっ大きいね」

 

両手で受け取り、そこそこの重さのプレゼントを机に置く。

 

「本当は美希の首にリボンを巻いて、美希がプレゼント♥️とか?したかったけど…」

 

「しなかったんだ」

 

ホッとしながら続きを促す、美希だったら平気で実行しそうな物なのに何が冷静な判断をさせたのか

 

「うんだって滑ったらヤダし、ベタかなって思ったの」

 

「あぁ…」

 

そうだった美希はこう見えて賢い、失敗しそうなリスクの多い事は自然と避けている

 

「して欲しいなら美希は全然welcomeなの!今からでもプレゼントになっても良いよ?」

 

笑顔で両腕で胸を強調する様なポーズで前のめりになる、この子は何時でも自信満々で大胆不敵だなぁ

 

「それよりも、美希のくれたプレゼントが気になるよ。

開けても良いかな?」

 

「そうだったの!ぜひぜひ出来立てをどうぞなの!」

 

「出来立てを?」

 

何だろう出来立てとは一体?バレンタインだからチョコの出来立て?でもチョコに出来立てなんて無いだろうし…

 

リボンをほどきプレゼントの箱を開けると、中には真っ黒な三角が沢山入っていた。

 

「これは?」

 

「おにぎりなの!バレンタインにちなんで海苔多めで、黒くしてみたの!ちょっぴりチョコみたいでしょ?」

 

「へぇ!器用だね」

 

綺麗に海苔の巻かれたおにぎり達は綺麗に箱の中に並んでいる

美希本来の器用さが存分に発揮されていた。

好きな物や好きな事に全力で取り組むのは良いけれど、普段ののんびりとした姿と、今目の前でキラキラ瞳を輝かせている姿は余りにも重ならない

 

「美希ね頑張っちゃった、一つずつ中身も違うんだよ?これはね、明太子でしょ、おかかに梅干し、お塩に…」

 

うんうんと説明を聞いて居ると、口元におにぎりが差し出された

そのまま食べさせて貰うと中身はたらこだった。

 

「あっ美味しい。お塩が丁度良くて、お米も潰れてなくてそれでいてしっかり握られてる」

 

「そうなの!そこまでわかるなんて流石なの!」

 

残ったおにぎりを自分の口に放り込みながら話す美希に驚く。今ごく普通に間接キスいや、一つのおにぎりを二人で食べる方が恥ずかしい

 

「美希今同じおにぎりを…!」

 

「そうなの食べたの、その為に沢山作ってきたの。

これなら沢山間接チューが出来るでしょ?美希ってば天才なの!」

 

「天才?今完璧な自分を読んだか?」

 

「何やら面妖な食べ物が此方に有りますが」

 

いつの間にか大きく成っていた美希の声に、響と貴音がつられてやって来た

 

「違うの!美希の完璧な間接チュー作戦が大成功したの」

 

二人に美希の完璧な間接チュー作戦の説明を真剣にし出している。

 

「そうなのか美希はもう渡しちゃったのか、自分も一番に渡したかったぞ」

 

「そうですね、恥ずかしがる響を宥めていて出遅れましたね」

 

「うぎゃーそれは秘密だぞ!貴音!」

 

「おや、そうなのですか?」

 

真っ赤な顔の響が貴音を追い掛け部屋から出ていった、去り際に貴音が美希の鞄と言っていたが…

これで事務所には完全に二人きりに成ってしまった。

 

貴音の言葉に美希の鞄をこっそり見ると、小さな一つの包みが入っていた。

まるでバレンタインのチョコでも入っているかのような、ピンクと赤色でハート満載の包みが。

 

「一体なんなのなの、騒がしい二人だったの…あっ!」

 

「それって…」

 

僕の視線に気が付いたのか急いで鞄を閉じている。

あれはかなり気合いの入った包装、本命チョコかな?

 

「ちっちがうの…これは何でもないの、そう!新しく買ってきたお化粧品で…」

 

「本命チョコかな?誰に渡すの?」

 

「え?」

 

チョコとバレて驚いたのかしどろもどろになる美希に誰に渡すのか聞いてみた、かなり驚いたのかそのまま固まってしまった。

 

「なっなんで?」

 

「そりゃ見れば分かるよ、そんなに大切そうに扱っているし、飾り付けも本気で頑張ったみたいだし」

 

「違うの」

 

「隠さなくて良いよ、僕も応援する…」

 

「違うの!」

 

バンっと机に両手を叩き付けた美希に驚く、顔をみると今にも溢れんばかりに涙が溜まっていた。

 

「あっごめんなさい…なの…」

 

そのまま力無くソファーに座り込み「ごめんなさい」と「違うの」を交互に呟いている。

どうやら僕が何かを間違った様だ、美希の隣に座り詳しい話を聞く。

 

「ごめん美希、僕何か間違ったみたいで」

 

「違うの!ごめんなさい、美希がちゃんと渡せてれば…こんな事には…」

 

ボロボロと涙を溢す美希を見てやっと気付いた、これは鞄の中に入っている包みは、僕の…?

 

「あの違ったら笑ってね、もしかしてその包みは僕に?」

 

「…そうなの、初めはこっちも渡したかったけど…どうしても勇気が出なくて、おにぎりだけで誤魔化そうと思ったの」

 

「2つも作ってきてくれたの?」

 

「好きな人には好きな物を好きになって貰いたくて、沢山作ってきたの…でも泣いちゃった、バレンタインに泣いちゃうなんて…なんて…」

 

とうとう両手で顔を覆い泣き出した美希に、今度はこちらから勇気を出す番だ。

 

「美希、チョコを僕に下さい。」

 

物凄く恥ずかしいけど言い切った。

え?と美希に見上げられる、今度はちゃんと僕が伝えたい

 

「僕に美希の本命チョコを下さい」

 

「!はい!なの」

 

美希は涙で濡れた顔のまま、笑顔でチョコを差し出してくれた。

 

「想像とは全然違ったけど、渡せて満足なの」

 

「ありがとう美希、顔が濡れてるよ」

 

ハンカチで美希の顔を拭いて行くも、美希はされるがまま倒れかかって来る。

 

「泣いたら少し疲れたの、一緒に寝よ?」

 

「そうだね少し疲れたよ」

 

「起きたら一緒におにぎり…食べるの」

 

「チョコも食べ…ようね」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「あーんなの!」

 

「美希もう流石に入らないよ、おにぎりもう十個以上は食べたよね?」

 

「十個なんて直ぐなの。まだまだ有るから、どんどん食べてね?」

 

おにぎりを差し出して来る美希に、お腹の限界を訴えるも聞いて貰えない。

扉の影にアホ毛が見えたこれは!チャンスだ!

 

「美希!」

 

「はい!」

 

両手で美希の肩を掴むと、何故か勢いの良い返事が帰って来た。

瞳を閉じて所謂キス待ちの顔をしている。

 

「こんなに美味しいおにぎりを、僕だけで食べるなんて勿体ないよ。響と貴音にも食べて貰いたいな」

 

「へ?キスは…?」

 

キョトンとした美希に畳み掛ける

 

「丁度彼処に響!貴音!」

 

扉のアホ毛=響に声をかける、貴音は扉の磨りガラスに影が写っている。

 

「えっこの空気に入って行くのか!」

 

「はいあなた様、あなたの貴音にございます」

 

「あー!ずるいぞ自分も自分もだぞ!あなたの響だぞ!」

 

やっぱり二人とも居てくれた、この頃は何故か必要とした時に何故か側に三人とも居てくれて大変助かるが、何故だろう。

 

「あーあなのもう仕方ないの、二人のお皿とお箸持ってくるの」

 

「自分はお茶いれるぞ!」

 

「私はら~めんを…」

 

「おにぎりを食べるんじゃないのか?」

 

「響ら~めんは飲み物なのですよ」

 

「おにぎりを食べるの!」

 

三人はかしましく準備をしている様で、美希が何時もの様子に戻ってくれてよかった。

 

三人が戻って来るまでに少しでも机にスペースを作っておこう、今年はチョコよりもおにぎりなバレンタインだ




新しいプロデューサー達は覚醒美希を知っているの?
ショートカットも似合うんだよ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

貞操逆転 加蓮

書きたいものは沢山有るけれど、心にアイディアが貯まらないと何も書けない。
難しいよぅ…
大暴れする様なお話も書いてみたいなぁ。


その日は朝から頭痛がしていた、仕事に行く用意をし朝食はとてもじゃないが食べられなかった。

 

「いててっ、これは久し振りにきつい偏頭痛だな。

朝から降ってる雨のせいか?」

 

ふらふらとした足取りで駅のホーム迄急ぐ、頭痛を少しでも和らげ様としてネクタイを緩める、呼吸が楽になり幾分か頭痛が楽になる。

 

「さて、もう少しで電車が来るな」

 

電車の到着迄もう少しなのだが、周りからチラチラとした視線を感じる。

何だろうネクタイを緩めたのがそんなにだらしなく見えるのだろうか?

 

ホームに電車が来て視線から逃げる様に、電車に乗り込む、その頃には頭痛はもう治っていた。

 

「ふぅ、やっと一息つけるな」

 

電車は満員だったが今朝は矢鱈と女性が目につく、女性専用車両じゃ無かったはずだけど。そんな事を考えていると電車が揺れ、誰かがぶつかったのか小さな衝撃がはしる。

 

「あっごめんなさい」

 

「いえ、大丈夫です、って加蓮」

 

ぶつかってきたのは担当アイドルの北条加蓮だった、なんたる偶然

 

「えっプロデューサーなんで?」

 

加蓮はプロデューサーの顔を見ると、呆けながらも質問した。

 

「何でって通勤途中だよ」

 

「そうじゃなくて、なんで男性専用車両に乗ってないの?危ないよ!」

 

「…へ?男性専用車両?何だそりゃ最近できたのか?」

 

「男性専用車両を知らないの!?それで良く今迄痴女に会わなかったね?!」

 

「痴女って、痴漢じゃあるまいし…」

 

「は?痴漢?何それ都市伝説?それよりも…」

 

加蓮はプロデューサーの襟元が緩んでいるのを見ると、顔を赤くしネクタイを締め直す。

 

「こんなに襟元が開いてちゃ、痴女してくれって言ってる様な物でしょ!全くもう!」

 

どうも先程から加蓮との会話がおかしい、何かが決定的に噛み合って居ないような気がする。

男のネクタイが緩んでいたら女性は痴女に走るのか?

それに男性専用車両だっていつの間に出来たんだ?何だか今朝は何もかもがおかしい気がする。

 

「プロデューサー?どうしたの?ボーッとして、もしかしてしんどい?大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だよ少し考え事をしていただけだよ」

 

「プロデューサーは隙が多いから、痴女の被害に遭わないか心配だよ」

 

「ははっ俺は大丈夫だよ、そんなら加蓮みたいな美少女の方がよっぽど心配だぞ」

 

「またそんなこと言って、男を守るのが女の子の役割何だから、プロデューサーは私が守るからね」

 

照れたのか加蓮が視線を下に向けると、雨で透けたYシャツがあった。

 

「プロデューサー!インナーはどうしたの?!雨でYシャツの中透けちゃってるよ」

 

そう言うと加蓮はプロデューサーを窓側に寄せ、自分の体で他の人からプロデューサーを見えないようにする。

 

「インナー?タンクトップなら着てるけど…」

 

「違うよ!その下に着るインナーだよ!」

 

「へ?そんなの持って無いけど」

 

「プロデューサー、インナー持って無いの?!

服から透けて大変な事になっちゃうよ、今日は仕事の前にインナー買いに行こう!ねっ!」

 

加蓮が顔を赤くして何かスマホを操作している。

 

「ほら、買い物に行く許可取れたから、次の駅で降りるよ」

 

「許可取るの早くないか?」

 

「それ位大変な事って分かってよ、言ってる此方も恥ずかしいんだからね!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

その後は加蓮に引き連られる様にして、インナー屋迄来た。

 

「うわー私こんな所に入っちゃったよ、プロデューサー私もうお嫁に行けないかもしれない」

 

「ははっその時は俺と結婚すれば良いよ」

 

「…えっプロデューサー、ホントに!」

 

「さてどれを選ぶか」

 

「もープロデューサー!」

 

インナーと言っても完全にブラジャー型も有るし、スポーツブラみたいな形も有る、スポーツブラの方が少しはましだろう。

 

そこまで考えてふと気が付いた、俺は自分の胸のサイズを知らない。

男で知っている奴の方が少ないのだろうが、今この場ではどうしたら良いのか?

 

「プロデューサー?」

 

「ああ、加蓮が居たな助かった。

胸のサイズを測ってくれないか?」

 

「…プロデューサー今なんて…」

 

「胸のサイズを測ってくれないかと言ったんだ、加蓮が嫌なら店員さんにお願いしようかと思うんだけど…」

 

「いやっ私が測る!」

 

加蓮に更衣室に連れていかれて、加蓮がメジャーをもっている

 

「プロデューサーはっ測るから、服を脱いでもらっても良いかな?」

 

「勿論そのつもりだけど」

 

俺が服を脱ぎだすと加蓮は顔を赤くして、目を伏せる

 

「プロデューサーって、着痩せするタイプ何だね」

 

「そうかな、それよりも寒いから早く測ってくれないか?」

 

そう言うと加蓮は意を決した様に俺に近づいてくる

 

「行くよプロデューサー」

 

「おう、お願いするよ」

 

「じゃ、じゃあ腕上げてもらっても良いかな?」

 

加蓮は何故かごくりと唾を飲み込んでいる。

 

「こうか?」

 

「うん、じゃあメジャー後ろに回すね」

 

前から抱きつく様な姿勢になり、恥ずかしそうにしながらも、がっしりと音が聞こえそうなほど抱きついていた。

 

「プロデューサー測れたよ、もう腕下ろしてもらっても大丈夫だから」

 

「うん?そうかありがとう加蓮」

 

「プロデューサー108cmだって、意外と巨乳…」

 

プロデューサーはYシャツを羽織なおし、加蓮は自分の胸に手を当て、すかすかと手を動かした後何故かプロデューサーを睨んでいた。

 

「プロデューサーはどんな感じのインナーが良いの?私が選んで来てあげるよ」

 

「ああ、なるべく地味なスポーツブラみたいなのを、お願いするよ」

 

「えープロデューサーならもっと大人っぽいやつも、似合うと思うんだけど」

 

「初めてのインナーだから…その…恥ずかしいんだよ」

 

プロデューサーが顔を赤くして言うと、二人で更衣室に居る状況を思い出したのか、加蓮も顔を赤くする。

 

「わっ…えっと、取り敢えず何着か選んで来るから、そのままここにいてね」

 

加蓮はプロデューサーの返事も聞かないまま、走って更衣室を出ていった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「大丈夫ですから!」

 

「まあまあそう言わず、お客様にお似合いのインナーを探して見せますから!」

 

たった今俺は危機をむかえていた。

加蓮がインナーを選んでくれている間にYシャツを羽織っているだけの姿を店員に見つかり、鼻息の荒い店員と選ぶか断るかでカーテン越しに押し問答していた。

ここで負けたらただではすまないだろう鼻息の荒さだ。

正直に言うと怖い。

 

「あのーそこ連れの個室なんで、退いて貰えませんか?」

 

「加蓮!」

 

「あらそうでしたか、失礼しました」

 

店員は残念そうに仕事に戻って行った。

 

「プロデューサー!大丈夫だった?ってまだ羽織ってただけだったの?!」

 

「加蓮が来てくれたお陰で大丈夫だったよ。

服は、だってそのままでって言ったじゃないか」

 

「だからって…まあその話は後で。何着かインナー持って来たから試着しちゃって私の目にもいい加減毒だし」

 

「ありがとう加蓮、着てみるよ」

 

結局加蓮が選んでくれたインナーを数着買い、今も着けたまま仕事に向かっている。

 

「ありがとう加蓮、何から何までお世話になりました。

俺を見付けてくれたのが加蓮で良かったよ」

 

「いえいえ、普段からプロデューサーにはこっちがお世話になってるしね、それと過保護な位には」

 

「それにしてもインナーって違和感があるな?」

 

プロデューサーは歩きながらインナーの位置を直すと、加蓮があわててそれをやめさせる。

 

「プロデューサー!そう言うことは外ではしないの!」

 

「ああ、悪い加蓮まだ慣れてなくてな」

 

「まったくもう…」

 




朝の頭痛がフラグで貞操逆転世界へ行く
痴漢=痴女
インナー=ブラジャー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

貞操逆転 続き

つづき


事務所に着いたので、ちひろさんに挨拶する

「おはようございます」

 

「おはようございます、それで大丈夫だったんですか?痴女とかには会いませんでしたか?」

 

矢継ぎ早に質問されて少々返事に困るが、正直に答える。

 

「あはは…加蓮のお陰で大丈夫でしたよ。ありがとな加蓮」

 

ポンと加蓮の頭に手を置くと、加蓮は照れたように赤くなる。

 

「そんなの大したことじゃないよ、あのままのプロデューサーを放って置く方が難しいもん」

 

「そんなにだらしなかったかな?」

 

「そうじゃなくて、あのままの姿じゃ襲われても文句は言えなかったんだからね!」

 

「そっそうか…」

 

「そうだよ!」

 

今更ながらあの時助けてくれた加蓮に感謝する、俺はそんなに危ない状態だったのか…

 

「プロデューサーさん?」

 

後ろから声がして、振り向くと事務所の入口にはまゆが立っていた。

 

「おはようございます」

 

「おはよう、まゆ」

 

「何の話をしていたんですか?インナーがどうとか…あまり男性の前でする話では無いと思うんですけど…」

 

まゆが顔を赤らめて会話にまざり、加蓮が訳を話す

 

・・・・・・・・・・・・・

 

「まぁ!プロデューサーさんたらインナーの事を知らなかったんですか?」

 

「まあな…」

 

加蓮の次はまゆにも驚かれた、男性用のインナーは常識なのか…覚えておこう。

 

「本当に加蓮ちゃんに会えて良かったです、プロデューサーさんを助けてくれてありがとうございます」

 

「まゆだってプロデューサーがあんな状態だったら、助けたに決まってるよ」

 

「そうですね」

 

二人の話を聞いている内にそんなに大変な事だったのかと、再確認する。

 

「プロデューサーさん」

 

「ん?何だまゆ」

 

「それでインナーちゃんとつけられたんですか?初めてだったんですよね?」

 

「それは大丈夫だ、加蓮が着けてくれたからな」

 

そう言うと部屋の空気が凍り付いた

 

「…加蓮ちゃん?どう言うことですか?」

 

まゆが何時もよりもハイライトの無い目で加蓮に訪ねる

 

「ま、まゆ…違うのプロデューサーが着けてくれって」

 

「ふふっそうなんですね…」

 

「そうなんですよ、いやー加蓮には助けられたな」

 

本当にそうだあのまま加蓮が居なかったら、あの鼻息の荒い店員さんに頼まなければいけないところだった。

その場合どんな目にあっていたかと思うと冷や汗物だ。

 

「それでプロデューサーさんはその、恥ずかしく無かったんですか?」

 

「何がだ?」

 

まゆの質問に質問で返すと、まゆがぎょっとしてこちらを見た。

 

「そうなんだよまゆ、プロデューサーってば全然恥ずかしく無いんだって。

仮にも異性に、胸を触られてるのに少しは恥ずかしがってくれても…」

 

「プロデューサーさんはホントに、全然平気何ですか?気を使ってる訳じゃなく?」

 

「ホントに平気だよ、むしろ恥ずかしい意味が分からない」

 

ふと、ここまでの会話で思ったのだが、女性が男性の胸を触って喜んだり、男性が胸を触られて嫌がったりまさか、何時もと反対の事が起こっているのか?

 

「まゆや加蓮は、もし仮に俺に胸を触られても平気なのか?」

 

「へ?別に平気だよ、ねえまゆ」

 

「そうですね、少し恥ずかしい位ですね」

 

「そっそうなのか」

 

やっぱりだ普通はこんなことを聞くこと事態、セクハラになりかねないのに、二人は平然としている。

やはり何時もと反対の事が起こっているらしい。

一体どうすれば良いのか、少し気を付けて過ごす必要が有りそうだ。

 

「プロデューサーさん?どうしたんですか?」

 

「ああすまない少しボーッとしていたよ」

 

「やっぱりプロデューサーは、隙が多いんだから。

気を付けてよね、プロデューサーが痴女の被害に合うなんて、私嫌だからね」

 

「まゆも誰かがプロデューサーさんに触るなんて、嫌です」

 

「分かった気を付けるよ」

 

うーん、何時も通り過ごすと隙が多いらしい、これは本格的に気を引き締めないとな。

気合いを入れているとまゆが、話し掛けてくる。

 

「プロデューサーさん、ネクタイが緩んでいますよ?

まゆが直しますから少しかがんで下さい」

 

「おっありがとうまゆ」

 

言われた通りにかがみまゆにネクタイを直してもらった。

直してもらったネクタイは、綺麗にピシッとしていた。

 

「ありがとうまゆ」

 

まゆの頭を撫でると、ふわふわな髪の毛に何時までも触っていたくなる。

 

「プロデューサーさん…」

 

まゆがネクタイを直して居たため近い距離を、よりつめて近づいてくる。

そして目をつむり顔を近付けてくる。

 

「ストーップまゆ、ストップだよ!」

 

「加蓮ちゃん…」

 

「ねっ!分かったでしょプロデューサーは隙が多いんだから!」

 

「…もう少しだったのに」

 

「何か言った?」

 

「いいえ?」

 

「それにしてもプロデューサーはキスされる所だったのに又ボーッとして…プロデューサー?」

 

「ああ悪い今朝からどうも、頭が痛くてな」

 

「えっ、言ってよ先に大丈夫なの?」

 

「まゆ頭痛薬持ってます、使ってください」

 

「ありがとうまゆ」

 

「はい、プロデューサーさんお水です」

 

「ちひろさんもありがとう」

 

「なんで薬持ってるのかは聞かないのね…」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「プロデューサー、ソファーで寝ちゃったね」

 

加蓮とまゆ、ちひろさんの三人でデスクに集まり小声で話す。

 

「プロデューサーさんは今日は休みにしましたので、目が覚めたらタクシーで送っていきましょう」

 

「そうですね、まゆもその方が良いとおもいます」

 

「ふーん、プロデューサーそんなに大変なの?」

 

「頭痛が有りますし普段から休まない方ですから、多分過労も有るんじゃないでしょうか」

 

「そっかじゃあ杏が送って行ってあげるよ」

 

「お願いしま…」

 

「杏ちゃん!」

 

「やっほー」

 

振り返るとプロデューサーの上で寝転びながら、飴を食べる杏がいた。

 

「プロデューサーはしんどいんだから、退いて上げて杏」

 

「杏は小さいから、お布団の代わりになるよきっと」

 

「杏ちゃんその、頭がプロデューサーさんの胸の上に乗ってます…」

 

「うえぇ!早く言ってよ!」

 

杏は顔を赤くしながらも普段は見れない速さで、プロデューサーの上から飛び退く。

 

「まさか、杏がこんなに速く動かされるなんて…」

 

「まゆナイス!」

 

「まゆはホントの事を言っただけで…」

 

「皆さん元気なのは良いですけど、少しお静かに」

 

ちひろさんに注意されて三人が静かになる。

 

「それで杏は何時から居たの?」

 

「何時からって最初から居たよ」

 

「まゆが来た時もいませんでしたよねぇ?」

 

「だってきらりから隠れて、ソファーの下に居たもん」

 

「うわーさすが杏」

 

「えっへん、それでプロデューサーが来たからソファーから出てきたんだよ」

 

三人が小声で話していると、プロデューサーが起き出す

 

「いたた…」

 

「プロデューサーさん、まだ頭は痛みますか?」

 

「まゆのくれた薬のお陰で多少ましになったよ、ありがとう」

 

「でも、今いたたって言ったじゃん。強がるのは良くないよ男なんだし」

 

「杏居たのか」

 

「私が朝から一緒に居たのに、気付いてあげられたら良かったんだけど」

 

暗い顔の加蓮に話し掛ける

 

「加蓮には今日は沢山世話になったし、あれだけあわただしくしてたんだ、気付いてなくて当然だ」

 

「プロデューサー…」

 

「こいっ加蓮」

 

両手を広げて加蓮を抱き締める

 

「プロデューサーさんは今日は休みにしましたので、今日は帰って貰って大丈夫ですよ」

 

「ありがとうございます」

 

「まゆが送って行きますねぇ」

 

「ああまゆも、ありがとう」

 

「ごめんプロデューサー、次からは一番に体の不調に気付くから…」

 

加蓮は抱き締められながら、プロデューサーの胸のなかで決意していた。

 




続くとおもわれ…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゼロの使い魔
ゼロの使い魔 幼なじみ ルイズ 図書館 タバサ


現地主人公

ジャンティ=やさしい人
渾名ジャン


ルイズ

 

「ああもう!また今日も失敗じゃない!」

 

ドカン!と的に向かい魔法を爆発させ、本人は地団駄を踏んでヒステリックに怒鳴り散らしていた。

 

「おいおい、またゼロのルイズが爆発させたぞ」

 

「魔法だけじゃ無く本人も爆発してるじゃないか」

 

クラスメートがはははっと笑いだし皆がルイズを、ゼロのルイズと囃し立てる。

 

「くぅ!」

 

「ルイズ大丈夫?」

 

「これが大丈夫な訳無いじゃない!また失敗したのよ!」

 

「取り敢えず落ち着いて、周りの皆に余計に笑われるだけだよ」

 

「っ!わかったわよ!」

 

ルイズは深く深呼吸をしてから、こちらを向き直る

 

「わっ悪かったわね、あんたに八つ当たりして」

 

「良いよ、ルイズが全て悪いんじゃない」

 

そう言って周りを見回すと、途端に気まずい顔をして周りから人が居なくなる

 

「あんた…」

 

「他の人たちは居なくなっちゃったし、周りを片付けてから、話をしようよ」

 

「なんでそこまでしてくれるのよ…あんたには関係ないじゃない!」

 

「何でって幼なじみだからだよ、ルイズ事が大切だから手伝うんだよ」

 

「そうね、大切な…幼なじみよね」

 

ルイズははぁっとため息をつく

 

「その、ありがとさっさと片付けちゃいましょ」

 

「うん、そうだね」

 

壊れ果てた教室を見ながら、これは一苦労だぞと腕捲りをして気合いを入れた

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「いやーしかし、思ったよりも時間はかからなかったね」

 

「あんたの風の魔法で助けて貰ったからよ、お陰で夕方迄には帰れそうね」

 

体に付いた埃を落としながら話を続けていると、ルイズが振り返る

 

「ねぇ、何時もの事だけど…あんたって私の事をバカにしないわよね。

何でなの?いくら幼なじみだって呆れたり、嫌になったりするでしょ?」

 

俯きながら、ぼそぼそと自信無さげに話す

 

「ルイズ…」

 

「私は嫌なの!あんたがいつか私が嫌になって、私から離れちゃうのが!」

 

ルイズがぎゅっと抱き付いてくる、抱き締め返すと安心した様に肩の力が抜ける。

恐る恐るというように、顔を上げこちらを確認する様に見上げてくる。

 

「ジャン…」

 

「久しぶりに名前を呼んでくれたね」

 

嬉しくて微笑みながら、ルイズの頭を撫でる

 

「…!その今までは恥ずかしくて、それに今は二人きりだし…」

 

もじもじと尻すぼみになり、顔が赤くなっていた

 

「ジャンはどうなのよ、私の名前を呼ぶのは恥ずかしくないの?そっその皆の前なのに優しくしてくれて」

 

「言っただろう?ルイズは大切な幼なじみなんだって、他の皆よりもルイズの方が大切なんだから」

 

もじもじしていたルイズが一度俯く

 

「よしっ!」

 

何か覚悟を決めたルイズが顔を上げる。

 

「その大切って一体どういう意味なのよ!」

 

「ル、ルイズ?!」

 

「大切大切って、私はジャンの幼なじみだけなの?

幼なじみとしてしか見て貰えないの?

わっ私はまだジャンにとっては幼いルイズでしかないの…?」

 

一息で言いきったルイズは顔を赤くし、酸欠からか恥ずかしさからか、涙目になっていた。

 

「ルイズはそんな風に思っていたの?」

 

指で涙を拭いてやりながら話す。

 

「だっだってジャンは何時も優しいから、私の事なんかなんとも思って無いんじゃないかって」

 

「大丈夫だよ、僕が大切で大好きなのはルイズだけだよ」

 

その言葉を聞いたルイズは途端にボンッと赤くなると、僕の襟を両手で掴んで

 

「その大好きって言うのは…どういう意味!」

 

と凄い勢いで聞いてくる。

 

「落ち着いてよ、大好きって言うのは幼なじみとしてだけじゃなくて、その、異性として女性として好きって意味だよ」

 

「異性としてって本当に?」

 

「本当に」

 

「ジャンわっ私も、私もジャンが大好き!」

 

「ルイズ!」

 

力の限りルイズを抱き締める、ルイズも抱き締め返し

 

「両思いなんだったら、早く言いなさいよね!」

 

「ごめんねルイズ、異性として大好きだよ」

 

「ん!私も異性として、ジャンが大好きよ!」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

タバサ

 

突然だがここの魔法学校の図書館は広い、その広い学校の中で偶然、毎回隣に座る確率はどの位だろう。

 

「………」

 

「………」

 

僕は本が好きで時間が有れば図書館に通う程の本好きだ、けれどそんな自分以上に図書館に何時も居る女の子が居る。

 

僕が図書館に着くとそこには既に何時も同じ女の子がいる。

大きな杖に小さな背、水色の髪の毛に眼鏡をかけた女の子だ。

その子が毎回隣に座るのである、姿が見えない日もいつの間にか隣に座っている。

 

そして今日もまた、

 

「………」

 

「………」

 

隣に座っているのである、どうしても気になる。

本を読もうと思っても知らない女の子が隣に居るので毎回集中して読めない、そして今日こそはと決めてここに来た。

 

「あの…」

 

図書館なので小声で話す、無口な子らしくこの子が話している所を見たことが無い。

答えてくれるだろうか?

 

「何?」

 

想像とは反対に女の子は直ぐに読んでいた本を閉じ、こちらに体ごと向き直っていた。

 

「えっえっと」

 

その事にこちらが面食らって、思わずどもってしまった。

それにも女の子は何も言わず、黙って待っていた。

 

「えっと、僕の名前はジャンティって言うんだ。

それで君の名前は教えて貰えないかな?」

 

「ジャンティ…私の名前はタバサ」

 

僕の名前を確認する様に呟いてから、名前を教えてくれた。無口な子だと思っていたが聞けば答えてくれる優しい子だと分かった。

 

「あのどうして何時も、僕の隣に座っているの?」

 

「?」

 

「え?」

 

質問に対し首を傾げられて、こちらも首を傾げる。

 

「図書館で何時も、隣に座って居るよね?」

 

「うん」

 

コクリと頷く

 

「何で?」

 

「…?」

 

また首を傾げられる、隣に座るのはうん、で理由には首を傾げられる意味が分からない。

 

「何故何時も、僕の隣に座って居るの?」

 

一文字ずつ分かり易いように、説明する様に話す。

 

「…好きだから」

 

「?」

 

今度はこちらが、首を傾げる番になってしまった。

 

「貴方が好きだから」

 

すっと僕を指差しながら、瞳をそらさず照れもせず告白されてしまった。

 

「僕が好きだから?」

 

「そう、貴方が好きだから隣に、側に居たの」

 

「話した事も無いのに?」

 

「そう、貴方が気が付かない頃からずっと見ていた。

図書館以外でもずっとなるべく側にいた」

 

「ずっと?」

 

「貴方がルイズを特別に思っている事も、知っている」

 

どきっとしたルイズが好きな事は誰にも、ルイズ本人にしか言っていない。

 

「私は貴方が好き」

 

「でも僕はルイズが…」

 

「関係無い、私が貴方を好きなだけ」

 

タバサは、僕のルイズへの気持ちは関係無くただ僕が好きだと言う。

 

「どうしよう?」

 

「どうもしなくて良い、私は貴方が好き覚えて居てくれれば良い」

 

「そうなの?」

 

「そう、私が好きなだけ側に居られるだけで良い」

 

そう言うタバサが何だか可愛くて、思わず頭を撫でていた、そうするとタバサは猫の様に撫でる手にすり寄って来る。

 

「…ん」

 

「あっごめん、嫌じゃ無い?」

 

「嫌じゃ無い、むしろ好きもっと撫でて」

 

服の袖を引かれもっともっとと、頭を手で撫でさせられる。

 

「こっこう?」

 

「うん、気持ち良い」

 

暫くそうして居ると、タバサが

 

「覚えていて私はジャンティが好き」

 

「…タバサ」

 

「私は何時でも側に居るから」

 

タバサから離れ様とすると、ジャンティの襟を両手で引っ張り、キスをした。

 

「っん」

 

「タバサ?!」

 

「好きだから」

 

「でも、そんな簡単に!」

 

「簡単じゃ無い、ほらドキドキしてる」

 

ジャンティの手を引きタバサの胸に当てさせる、その心臓はドキドキと早鐘を打っていた。

 

「ジャンティ私は貴方がルイズの事が好きでも、私は貴方を愛しているから」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゼロの使い魔で美醜逆転

普通顔の主人公
逆転と言うことは美人=不細工
普通=普通
不細工=美人

主人公の美的感覚は元のまま



「またゼロのルイズが失敗したぞっ!」

 

「あの顔で魔法まで使えないんじゃ、どうしようもないよな!」

 

「あっあんた達!うるさいのよ!あんた達には関係無いでしょっ」

 

「やーい不細工、ゼロのルイズは不細工だぞ!」

 

その声に周りの皆が笑い、強気のルイズも俯いてしまう

 

「止めろよお前達!」

 

「何だよ不細工に不細工って言って何が悪いんだよ、本当の事だろ!」

 

「授業中だぞっ!」

 

そう言われては黙るしかないと、周りが静かになる。

 

「ルイズ大丈夫か?」

 

「うぅ何で私なんかに構うのよ、あんたもあいつらみたいに私の事不細工だと思ってるんでしょ…」

 

「何でだよルイズは可愛いよ、小さなお姫様みたいに可愛くて綺麗だ」

 

「うっ嘘よそう言って信じさせてから、あいつらと一緒になって苛めるつもりでしょ。

騙されないわよ!」

 

「そこ、静かにしなさい」

 

先生の一声で流石にルイズも黙り込む、と、ここでチャイムが鳴り授業が終わる

皆がバラけて帰り周りには誰も居なくなる。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「どうしたらルイズは、嘘じゃ無いって信じてくれるの?」

 

暫く考え込んだルイズは何かを考え付いたのか、顔を真っ赤にしながら話してくる。

 

「そうねぇ、じゃ…じゃあ私にキスしてみなさいよ、

どうせ口だけの嘘なら、出来るわけ無いんだから!」

 

驚いたが本人の許可を得た、断る理由もない

 

「そうか、じゃあ失礼して」

 

ルイズに合わせてしゃがみこみ、頬にキスをする。

すると、本当にされると思って居なかったのか真っ赤になって俯いてしまう。

 

「なっ本当にするなんて!」

 

「だってルイズがしても良いって…」

 

「でも!まさか私の顔が平気な人が居るなんて、普通は思わないじゃない!」

 

「そうかもね、でも何故か僕はルイズや不細工って言われている子が美人に見えて、美人って言われている子が不細工に見えるんだ」

 

「…それ本当なの?」

 

ルイズが疑わしそうに聞いてくる

 

「嘘みたいだけど本当なんだ、他の人には言った事が無いから秘密にしてね。

変なやつだと思われるかも知れないから」

 

「どうやら本当みたいね。

ならあんたには本当に私がその…びっ美人に見えてるのね」

 

「そうだよ、とびっきりの美少女に見えてる。

他に見たことが無いくらいの美少女だよ」

 

「そっそう、それなら…あんたみたいな奴他には居ないわよね」

 

「他には聞いた事が無いね」

 

ルイズは意を決した様に僕のマントの端を掴み、手に力を込めて何処にも行かない様にする。

 

「私と居ても気分が悪くならないの?」

 

「ならないよ、むしろ可愛い子と居れて気分が良い位だ」

 

「私の事を苛めたり、悪口を言ったりしないの?

私を邪魔者扱いしない?」

 

「全部しないよ」

 

「私を嫌いにならない?私と一緒に居てくれる?」

 

「勿論嫌いになる理由も無いし、僕も一緒に居たいから。

一緒に居るよ」

 

するとそこまで怒濤の勢いで聞いていたルイズは、俯いてしまい小さな嗚咽が聞こえてくる。

マントを掴む手が僕の背中に回り、強く抱き付いてくる。

 

こちらからも抱き締め返し、背中を撫で泣き止むのを待つ。

 

「んっもう大丈夫よ、ありがとう」

 

「いや、どうって事ないよ」

 

「あんた…貴方の名前教えてくれる?」

 

「僕はノアだよ、ルイズと同級生」

 

「そうだったの、じゃあノア私とその一緒に居てくれるのよね?」

 

「勿論」

 

「じゃあこれからは私と一緒に居てね、もう一人は嫌なの」

 

また、ぎゅっと抱き付いてくる

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

それからルイズの変わり様は凄かった、教室に居る時は勿論、部屋に居る時も僕を自分の部屋に居らせたがった

何処に行くにもルイズは一緒に居たがったし、実際に一緒に居た。

 

「ノアどこ行くの?」

 

「図書館に本を返してくるよ」

 

借りていた本を見せて、ルイズの言葉に返事をした

 

「私も一緒に行くわ」

 

「分かってたよ」

 

二人で手を繋いで図書館に行く。

図書館に行くまでもルイズの顔を見て皆がバカにしたり、顔色を白くしたりしていたが、ルイズは聞こえて居ないかの様に接して居る。

この頃のルイズは他の人には興味を示さなくなっていた、僕としか会話も何もしなくなっていた。

 

「ねぇノア、それを返し終わったら一緒に学食に行きましょうよ?」

 

「勿論良いよ、そう言えばもうそろそろお昼だったね」

 

「やった!」

 

ルイズは了承の返事を貰うと嬉しそうに喜ぶと、ノアの手を取り自分の手と結ぶ。

ルイズは何かと言うと手を繋いだり、くっついたりしたがる、今までひとりぼっちだった反動だろうか?

 

図書館について本を返却していると、ルイズが居る方向とは反対側のマントをくいくいと引かれた。

何かと思い見てみるとそこには何時ものタバサが居た。

 

「…久しぶり」

 

「タバサか久しぶり、この頃合って無かったね。

元気だった?」

 

「うん、元気」

 

タバサは僅かに表情を動かし笑顔を作る

 

「ちょっとそこのタバサとか言うの、ノアから離れなさいよ!」

 

「ルイズどうしたの、少し話してただけだよ?」

 

ノアはいきなりのルイズの激怒に驚き、落ち着かせ様とする。

しかし、ルイズはどんどんと顔を真っ赤にして怒りだす。

 

「いやよ!ノアは私のなんだから他の人とはなるべく関わって欲しくないの…」

 

「でもねルイズ、タバサも周りの皆に馴染めなくてひとりぼっちなんだよ?それにタバサは僕の友達なんだ」

 

そう言うとルイズははっとして、タバサの顔を覗き込んであっと小さく声を漏らす。

 

「あんたも、タバサも私と一緒だったのね…それなら仕方無いわ、タバサに会いに行くのは私も一緒に行くわ」

 

「ルイズはタバサは二人とも気が合いそうだし、きっと仲良くなれるよ」

 

「むっ無理よ、私さっきあんなこと言っちゃったんだから。仲良くしてもらえるわけないわよ」

 

「どうかな?タバサはルイズと仲良くしてくれる?」

 

タバサに尋ねると、僕のマントに隠れていたタバサがおずおずと、ルイズの方に向かって行く。

 

「…あっ」

 

「私はタバサ、ノアを好きな者同士仲良く出来ると思う」

 

「なっタバサもノアが好きなの?!」

 

ルイズはタバサもノアが好きだと聞いて驚いたが、好きな人が一緒ならきっと仲良く出来ると思い

 

「でもよろしくお願いするわ」

 

「ん、よろしく」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「そうなのよ、認めたく無いけど私ってモノスゴイ不細工じゃない?」

 

タバサはコクリと頷く

 

「同意されるとそれはそれでムカつくわね。

でもノアだけは可愛いって、綺麗だって言ってくれたの」

 

「そう、ノアだけは苛めてこなかった」

 

タバサは思い出しているのか、顔が少し赤くなっている。

 

「だからね将来結婚するなら、ノアしか居ないと思うのよ」

 

「完全に同意」

 

話が交際を通り越して、いきなり結婚の話になっていた。

 

「でも、私とタバサの事が可愛いく見えるんだから、これからも不細工な娘に好かれるんじゃないかとおもうんだけれど…」

 

「ならノアの目の届くところに、他の人を置かない様にすれば良い」

 

「そうよね…でもノアってばいつの間にか居なくなって、新しい女の子と仲良くなってるのよね。はぁ…」

 

「これからは二人で捕まえておけば良い」

 

「今も二人でも捕まえて置けてないじゃない」

 

「後一人、私の友達のキュルケを呼べば良い」

 

「げっキュルケを呼ぶの?でも確かにキュルケも不細工よね。

それにノアの事を影から見てたから、きっと上手くいくわね。嫌だけど、凄く嫌だけど!」

 

「ルイズとキュルケは仲が悪い?」

 

「悪いって言うか、顔を会わせると言い合いになっちゃうのよね」

 

「これからは仲良く、ノアを捕まえる仲間」

 

「うっ、わかったわよ」

 

ルイズとタバサとキュルケにノアが、完全に捕まえられるのはそう遠くない未来の事であった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オリジナル
拾い猫 オリジナル


オリジナルです

普通の世界に、人間以外の亜人がいる世界観
人>亜人の世界

主人公の住所 やや田舎 夜になると人が居なくなる位
亜人差別がやや過激
主人公 社会人
黒猫の亜人 幼い


ざぁざぁと雨が降りしきる路地、傘も無く道の端に三角座りしている少女が一人きり。

空には分厚い雲が漂い雨は激しさを増し、暫くは止みそうに無い。

 

「…お腹すいたなぁ」

 

少女は大変お腹を空かせていました、それもそのはず。もう3日も食べるものも食べず、飲み水すらも雨水に頼っていました。

 

「このまま死んじゃうのかなぁ…嫌だなぁ…せめて最後に、誰かに見付けて欲しかったなぁ」

 

そう呟いた少女は、薄れ行く意識のなかで最後に何かを見た気がした。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「今日も疲れたし雨が凄いな、早く家に帰らないと」

 

仕事帰り疲れはてた体を引きずりながらも、ぶつぶつと独り言を呟き。すれ違った人達からは、不審者を見るような視線を集めていた。

 

「駄目だ疲れすぎて歩くのも辛い、近道でもしてかえるか」

 

何時もは街灯の少ない道なので、避けていた道を今日は仕方なく通る。

そこは道と言うより、路地なのだが通る人も居なく何時も薄暗い。

 

「ここの道は何時も怖いな、薄暗いし早く通り抜けよう」

 

やや早足で通り抜けようとしたその時、先の方に黒い塊が見えてきた。

 

「ええと、あれはごみ?いやちょっと動いてないか?近づいて確かめてみるか、怖いけど」

 

大人の男でも怖じけづく様な暗闇の中、何かが僅かに動いていた。

恐る恐る近づいて見ると、なんと女の子が蹲っていた。

様子をみると寒さでカタカタと震えていた。

 

「ねぇ大丈夫?こんな所で寝ると風邪引くよ」

 

女の子の肩を揺すってみると、ずるりと地面に倒れこむ

 

「あれっ大丈夫?!意識は…無いみたいだけど、とりあえず何処かに、雨の当たらない場所…家に連れて帰るしかないのか?」

 

抱き上げた時のからだの軽さに驚く、軽いあまりにも軽い、驚いていると女の子の目が僅かに開く、「…たすけて」そう呟くと又意識を無くしてしまう。

 

「…言われなくても!助けるからもう少し待ってて!」

 

仕事の疲れなどどこえやら、男性は少女を抱えて急ぎ足で暗い夜道を進んだ。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ふぅ、取り敢えず家に着いたな」

 

取り敢えず抱えていた女の子をソファーに寝かせる、未だに意識は無いようで目を開かない。

 

「まだ震えてるし、タオルで拭いてあげないと」

 

ソファーの横に膝まずき頭から拭いていく、わしゃわしゃと丁寧に拭いていくと、髪の毛の中から猫耳がふるふると現れた。

 

「えっ人間じゃなかったの!?」

 

驚きつつも頭を拭く手は止めない、体を拭くにつれてそのガリガリの体に驚きと哀れみを感じる。

 

「うわぁ亜人は扱いが悪いって聞いてたけど、ここまでガリガリになるものなのか?尻尾もガサガサだし」

 

あばら骨の浮き出た体に、骨と皮だけの腕と脚、毛並みの悪い猫耳に尻尾と髪の毛。

明らかに栄養が足りていない。

 

「さてとあらかた拭き終わったし、毛布でも掛けとくか、その間にご飯の用意だな」

 

毛布で女の子の全身を包み、キッチンにご飯を作りに行く。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

暖かい、初めて感じる暖かさに何時までもここで寝ていたくなる。

そこではっと気が付いた、この暖かい物は何だろうと思い、体力の限界で開きにくい目をあける。

体に力が入り難く起き上がれない、ぼんやりとする目だけで確認すると、身体を毛布で包まれている。

 

「おっ起きた?」

 

目だけを動かすと人間の男の人が立っていた、その両手には何かを持っており、この人に拾われたのかと思う。

 

「あっあの」

 

「あーあー、まだ一人で起き上がっちゃ駄目だよ。

起こしてあげるから待って」

 

背中を支えられ、抱き起こされる。

 

「はい、これで良いかな」

 

「ありがとうございます…」

 

優しい誰かに優しくされたのなんて初めてだ。

 

「さてと、君が路地に蹲っていたのは、覚えているかな?」

 

「はい、助けて頂いたんですよね?ありがとうございます」

 

「いやいや、当たり前の事をしただけだから」

 

優しい、誰かにこんなにも優しくされたのなんて生まれて初めてだ。

私は亜人の中でも黒猫の亜人、縁起が悪く皆に除け者にされるか、最悪の場合は暴力をふるわれそうになったこともある位だ。

それをこの人は助けるのが当たり前だと言ってくれた、なんだか嬉しすぎて涙が出てきそうになる。

 

「起き上がれたのなら、これでも食べてよ。お粥作ってみたんだ、これなら直ぐに食べても大丈夫だと思うから」

 

「ありがとうございます、これがお粥。

いただきます」

 

初めて食べるお粥は暖かくて柔らかくて、なんだかこの男の人みたいだと思った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「そろそろ食べ終わったみたいだし、お風呂にでも入る?てっ言うか体力的に一人で入れるの?」

 

「あっ私汚いのに、こんなにソファーも毛布も使ってしまいました。

ごめんなさい、直ぐに離れますからすみません」

 

「いやいや、それは僕が寝かせたんだから全然大丈夫だよ。それよりもお風呂は?」

 

「すみません入った事無いです、普段は川で水浴びしていました」

 

「ええっもう寒い季節だよ、風邪引いちゃうよ。

今からお風呂に入れるから、一緒に風呂場に付いてきて」

 

「いえ、そこまでしてもらうのは申し訳ないです。

私なんて川の水で充分ですから」

 

「そんな事無いよ、身体が弱ってる今川に入るなんて自殺行為もいいところだよ!ほら僕が入れてあげるから、お風呂に入るよ!」

 

「はっはい!お願いします」

 

一緒に風呂場に行くとタオルを渡し、体に巻き付けてもらう。

もともと着ていたボロ布の様な服は申し訳ないが、とてつもなく汚かったので捨てさせて貰った。

女の子を風呂場の椅子に座らせると、頭からお湯をかける。

 

「お湯が熱かったら言うんだよ?」

 

「はい分かりました、今はとても気持ちいいです」

 

「それなら良かった」

 

女の子の髪の毛はシャンプーをしてもなかなか泡立たず、流れて行くお湯も真っ黒な色をしている。

五回目のシャンプーでやっと、髪の毛に艶が戻って来た。

 

次は身体を洗うのに取り掛かる、身体はあちこちが傷だらけで、ガリガリな上に物凄く汚れていて痣だらけだった。

 

「ごめんなさい、私の身体汚いですよね。

後は自分で洗います」

 

「身体も洗うから大丈夫だよ。

それに汚いのなら綺麗にすれば良いだけだし、僕に任せてよ」

 

「でも、こんなに汚いのに触って平気なんですか?

他の人間は汚いから近づくなって」

 

「平気だよ、僕が綺麗にするから」

 

「…はい、お願いします」

 

体も傷に触らない様にゆっくりと丁寧に洗って行く。

 

「これがお風呂なんですね、とっても気持ちが良いです」

 

身体を洗う泡がどんどんと黒くなり、その分女の子が綺麗になっていく。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「お風呂ありがとうございました、気持ち良かったです。お風呂があんなに気持ちが良いなんて、初めて知りました」

 

「それは良かったよ、じゃあ次はドライヤーをするからソファーに座ってよ」

 

「そっそんなお風呂にいれてもらって、それ以上の事まで。そんな事させられません」

 

「ドライヤーの使い方わからないでしょ?風邪引いちゃうから、ほら座って座って」

 

ソファーをポンポンと叩くとおずおずと、女の子は僕の方にやってくる。

 

「じゃあ少しうるさいかも知れないけど、頭を乾かして行くからね」

 

「お願いします」

 

女の子の頭にドライヤーの風を送ると、一瞬ビクッとしたもののそれだけでおとなしくなる。

髪の毛の間にブラシを通し、柔らかくといて行く。

ドライヤーが気持ち良いのか、女の子の頭が少しずつ揺れ始めた。

顔を覗くと、目を瞑って眠っている様だった。

ドライヤーを終わらせベッドまで運ぶと、離れまいと僕の服の裾を握りしめ、離してくれそうに無かった。

 

「しょうがないな」

 

僕は女の子と一緒のベッドに潜り込み、明日からの事を考えると、ふと女の子の名前も聞いていない事に気が付いた。

 

明日は女の子の名前を教えて貰おう、そう考えている内に僕は睡魔に飲まれていった。




猫耳、猫尻尾大好きです


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

高嶺のヤンデレ

オリジナル
作者メモ

ヒロイン 黒嶺 乃愛 わたくし 私 黒髪ロング 巨乳
ヒロイン 逢坂 夏目 あたし ボーイッシュ 普通

主人公  宮中 涼  僕 


「好きです、付き合って下さい!」

 

 僕は頭を下げてお願いする、どうか断るなら早くしてくれ、恥ずかしくてたまらない。

 

「貴方が私を?」

 

 彼女は信じられないと言う様に、驚いていた。

そりゃそうだろう彼女は学校で一番いや……日本で一番美しいかもしれない。

 高等部の花なんて呼ばれていたりする。

 

 そんな美少女の彼女に僕が告白なんて、信じられない身の程知らずな行動だ。

 

「貴方が好きです!」

 

 もう一度告白する、振るなら早く振って、お願い! 

 

「あぁ……なんて、なんて事なの……信じられないわ」

 

「……あの?」

 

 彼女は俯き表情は見えないが、僕なんかに告白されたのが余程のショックだったのか、信じられないと呟いている。

 僕だって告白する気はなかった、でもじゃんけんで負けた僕が彼女に告白する罰ゲームなのだ。

 

 彼女は美人だから毎日告白されているが、誰とも付き合わず告白した男は皆こっぴどい振られ方をするらしい。

 だから僕にも振られて恥をかけと言う、酷い罰ゲーム。

 

「まさか貴方から告白してくれるなんて、信じられないわ」

 

「……わっ」

 

 顔を上げた彼女は、思わず驚くほどの色香を放っていた。

 

「ああ、自己紹介が遅れましたね。私黒嶺乃愛と申します。

是非乃愛とお呼びくださいませ。」

 

「えっと、乃愛さん?僕は宮中涼です」

 

「はい、存じております涼様」

 

「りっ涼様?」

 

 涼様なんて初めて呼ばれ、しかも相手はあの乃愛さんだ。

驚かない訳が無い。

 

「そんな涼で良いですよ、様付けなんてそんな恐れ多い」

 

「呼び捨てなんてそれこそ、恐れ多いですわ。

私の方こそどうぞ乃愛と呼び捨てて下さいませ」

 

「の、乃愛?」

 

「はい!」

 

 名前を呼んだだけでペカーっと輝く様な笑顔を見せてくれる。

まさか彼女が僕の事を知っていたなんて…

 

「それで涼様、告白の返事は勿論YESですわ」

 

「え?」

 

「あぁ、これで晴れて涼様と恋人同士になれたのね、あとは何事も無く卒業して結婚するだけね」

 

「え?ちょっと待って下さい」

 

「はい?涼様の為ならば幾らでもお待ちいたしますわ」

 

「乃愛は僕の事が好きなの?」

 

「はい、勿論好きですいえ、愛していますわ」

 

 また乃愛は恍惚とした表情になり、愛していると繰り返している。

 

「そんな…僕なんか、一体何処が好きになったの?」

 

 そうだ僕なんかこれと言って特徴も無い、顔も背も平均的で斗出した才能だって無い、もしかして僕の方がからかわれているのかも知れない。

 

「涼様御自分を卑下するのはお止めになって下さい」

 

「え?」

 

「涼様はとても良い人物だと、私とも趣味が合うと存じ上げておりますわ」

 

「なんで、僕の何を知っているっていうの?今告白したばかりじゃないか」

 

 僕がさっき告白したばかりで、一体僕の何を知ってるっていうんだろう?

 

「知っておりますとも、趣味は読書。

性格は困っている人を見捨てられず、御自身が被害を被ろうとも笑って許してしまうお人好し、そのせいで被害を被った事も多々有るとか…」

 

 そこまで聞いて背筋がゾッとした。

乃愛は僕の事を良く知っていた…話すのが今日、今始めてなのにも関わらず…

 

「どうしてそこまで詳しく知っているの?」

 

「それは隅から隅まで調べたからですわ

此処からは少し昔の話になりますけれど宜しくって?」

 

 僕が頷くと乃愛が話し始めた。

 

「私実は家が少々裕福でして、それ相応の教育を家庭教師から受けていましたの」

 

 少々裕福どころでは無い大財閥の長女で愛娘だと聞いている。

 

「その頃は時間に余裕が無く、手の開く時間は寝る前の数時間だけでした。

その時間に出来る事となれば読書位のもので、その時に貴方を見つけましたの」

 

「僕を?」

 

「はい、放課後図書館で本を探しているとドサドサと本が落ちる音が聞こえてきて、落としたらしき女子生徒が泣きそうになっている時に貴方が助けに行きましたの」

 

「ああ、あの時」

 

 確かに図書館で積み上げた本を崩して、泣きそうになっている女の子を助けた事が有る、でもそんなことで好かれるかな?

 

「その時は優しい生徒が居るものね、と関心しただけでしたわ。

それから読書をするたびに、私よりも先に同じ本を借りている方がいて、それが毎回続き気が付いたら宮中涼様が気になっていたのですわ」

 

「へー思ったよりもまともな切っ掛けだ」

 

「もうっ、一体どんな風にお思いになっていたんですの?」

 

「ごめんなさい」

 

 僕の返事にふふっと微笑み会話を続け用とした時

 

「涼〜!振られたならさっさと帰るわよ?」

 

「夏目!」

 

 後から名前を呼ばれて振り返ると幼馴染の逢坂夏目がたっていて僕の腕を掴んでいる。

 その顔はニシシと笑っており僕が振られる事を確信して居る顔をしていた。

 

「なんですの貴女?」

 

 先程までにこやかに話していた乃愛が片眉を吊り上げ夏目を睨んでいた。

 

「へ?」

 

 夏目がポカンとして僕と乃愛を見比べていた。

もしかしなくても僕が乃愛に振られたと思って居たのだろう、何しろこの告白の罰ゲームを言い渡したのは、この夏目本人だ。

 

「紹介するよ僕の幼馴染の…」

 

「逢坂夏目さんですわよね?」

 

「知ってるの?!」

 

「涼様についてなら何でもですわ」

 

 その、何でもが何処までなのか非常に気になるが…

 

「は?涼様?涼、黒嶺さんになんて呼び方させてるのよ!」

 

「いいえ夏目さん?これは私が好きで呼んでいるんですのよ」

 

「だって涼を様付けで呼ぶなんて…」

 

「それにさっきからなんですの?なぜ涼様の腕を掴んでおられるのですか?」

 

 夏目の腕を睨みつけ怖いくらいの怒気を放っている。

 

「え?幼馴染だからこれくらいはするよね?」

 

「へ?えっとうん今までしてきたね」

 

「涼様これからはダメです、その分の接触を私にしてくださいませ」

 

 その発言に怒った人間が居た、夏目だ

 

「なんで黒嶺さんにそこまで言われないといけないんですか!」

 

「あら?貴女まだ気付いていませんでしたの?私達付き合う事になりましたの、ですので異性との接触はなるべく避けるのが普通ではなくて?」

 

「うそ…」

 

 僕の腕を掴んでいる夏目が此方に確認を取る様に目配せしてきたので、頷いて見せる。

 

「涼、ほっ本当なの?」

 

「本当だよ、乃愛と付き合う事になったんだ」

 

 僕がそうはっきり言うと、夏目は腕を掴んだままずるずると座り込み目に涙を浮かべた。

 

「夏目?!」

 

「あら、大丈夫でして?」

 

「…つもりだったのに」

 

「夏目?」

 

 夏目が何かを呟いているが、声が小さく座り込んでいる為良く聞こえない。

 

「あたしが涼と付き合うつもりだったのに!」

 

急な夏目の怒鳴り声に乃愛も僕も驚いて目を見開いた。

 

「夏目何言ってるのか分かってるのか?」

 

「そうですわよ、涼様は私と付き合うのですのよ?」

 

「いやそもそも、乃愛に告白させたのが夏目なんだから、

僕の事好きな分けないでしょ」

 

「まぁ夏目さんが恋のキューピッドでしたの?」

 

「だから!」

 

 夏目が僕の腕を掴んで立ち上がる、その顔は涙でぬれたまま怒りの形相を浮かべていた。

 

「だから違うの!」

 

「何が違うの?」

 

 よく分からずオウム返ししてしまう。

 

「黒嶺さんに告白して振られて、落ち込んだ涼と私が付き合うつもりだったの!」

 

「ええっ!」

 

「それなのに涼は告白成功させちゃうし、あたしの事何とも思って無かったんだ…」

 

「だってずっと幼馴染だったから…」

 

 そこに乃愛が割って入ってくる。

 

「もうそろそろ離れていただけるかしら」

 

 とうとう乃愛の語尾から疑問符が消えた。

 

「いやっ!」

 

 夏目は離すまいと僕の腕を胸に抱き込んだ。

それに反抗して乃愛が反対の腕を胸に抱き込んだ。

 

「はぁ涼様がこんなに近くに、私幸せですわ。夏目さんは離れてくださいな」

 

「いやだ、あたしと一緒に帰るの!黒嶺さんが離せば良いじゃない!」

 

「取り敢えず二人共離れてよ!」

 

 急に大声を出したから驚いたのか、二人共硬直する。

 

「取り敢えず僕に少し考える時間を頂戴」

 

 それだけ言って僕は二人から逃げた。

 

「あっふふっ逃しませんわよ、涼様」

 

「まってよー涼」

 

夏目は涼の後を追いかけ、乃愛は不敵に笑っていた。




続くかも


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。