ソードアート・レジェンド外伝ゼルダの伝説編 (にゃはっふー)
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第1話・始まりは穏やか、そして突然に
ゆっくりペースで行きますがよろしくお願いします。
それではゼルダ×ソードアートオンライン、ゼルダを舞台に。
リンク・スタート。
一人の青年が待ち合わせの場所に来る。大きな時計のモニュメントがある公園であり、そこには待ち合わせ相手である友人、結城明日奈がそこにいた。
「あっ、こんにちは」
「ん? 明日奈だけか?」
「そうですね」
こちらに気づいて挨拶をして、苦笑しながら明日奈が彼に笑いかける。
「やっぱり、和人君には悪いけど、置いて行きましょうか?」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ~」
「噂をすればなんとやら」
待ち合わせの場所に桐ケ谷和人が現れ、こうして三人で病室へと向かう。
向かう先は青年の義妹である、紺野木綿季の下である。
◇◆◇◆◇
「少し遅かったけど、キリトが遅刻してたんだね~」
「別に俺がいなくても構わないんだけど」
「キリトったら、女心が分からないんだよ~。前にアスナがテイルに泣き付いたの気にしてるし、傍から見ると、恋人同士とかに見えちゃわないか気にしてるんだって~」
「もう二人ともっ!!」
ベットの上で、まだやせ細った身体ではあるが、楽しそうに笑う少女。木綿季ことユウキは元気に笑う。
いまだに入院中であるユウキだが、身内に成った俺と一緒ならアスナたちも気軽に来ることができて、こうして良く笑うようになってくれた。
今の今まで検査ばかりでうんざりしていたのだが、大好きな姉ことアスナが来るとこれだ。少し寂しい。
アスナはアスナで、まだ関係者以外面会が制限されているユウキの為に、こうして待ち合わせして見舞い来るのだが、よく看護師さんに間違われたりするとユウキから聞いた。
ちなみに本人もユウキが先ほど言った通り気にしているため、こうしてキリトも巻き込んで来る日が多い。
ユウキの病気完治に涙した時、俺に泣き付いた事をかなり気にしている。これまたその場にキリト君がいない所為だと怒る事怒る事。
こうしてキリトも待ち合わせに参加させられている。まあキリトもキリトで、俺から辞書やらノート。勉学に必要な物を借りに来るので問題ない。
「ボクもテイルに勉強見てもらってるけど、テイルって教えるのが得意って言うより、情報量が多いって感じだよね。なんでも知ってるって感じ」
「俺は機械やナビゲートシステムじゃないぞ」
「あっははは………」
苦笑するキリト。アスナも微笑みながら、この会話を楽しむ。
ここ最近はユウキの体調は良く、母もまた様子を見に来る。いまだに《メディキュボイド》を利用するため、リアルよりも向こうで過ごす方が長いユウキ。アスナがいないと現実で過ごすのは退屈のようだ。
仲良く会話したりする中で、最近のALOやGGO。もちろんSA:Oの出来事等々、話は尽きない。
「そう言えばさ、最近、妙な噂を聞くな………」
「妙な噂?」
俺が首を傾げる。最近GGOとALOを往ったり来たりしている為、情報が統一されない。サポートキャラたちには一つに統一させてくれと言うのに、一向に譲る気は無いらしい。身体と心が二つ………あっても困るなうん……
「噂ってあれか、レアエネミーの【小鬼】」
「うん♪ キリトはやっぱり知ってるんだね」
「小鬼?」
「ああ」
キリトが言うにはVRゲーム、仮想世界に同じ姿をしたエネミーが出没するらしい。
その姿ははっきりしておらず、なぜか〝小鬼〟と言う言葉だけが流れている。キリトも噂を聞いただけで出会っておらず、どんなものか見ていないとのこと。
「遭遇するとどうなるんだ?」
「噂じゃレアアイテムがドロップされたり、レア情報が手に入るらしいんだ」
「なんだ? 経験値が高いとか、そう言う話か?」
「う~ん……。そう言う話もあるんだけど、退治されたって話は無いな。けどレアアイテムを手に入れたって言うプレイヤーは多いぜ」
「あっ、ボクもボクも。両手剣を自慢してる人、見たことあるよ」
「けど、仮想世界、VRゲーム全部ってのは気になるよね?」
確かに、VRゲームは《ザ・シード》で個人でも作れるようになっている。だからと言って同じ技術で作られても、管理する者が違うのだから、あまりに同じイベントやエネミーが出るのはおかしい話だ。
キリトが言うには運営側からの発表も無く、裏技、バグや悪質なユーザーがデータを書き換えて手に入れた可能性もあるが、それは《カーディナルシステム》がある限りできない。
「だから単純にたまたまか、別のゲームで出て来たレアキャラを、別のゲームでも情報を流しているって可能性があるんだ」
「キリト君の事だから、探したりしてるんじゃないの?」
「まあ、その、な………」
苦笑するキリト。一応ALOではレア武器を持っているのに、どのゲームでも探しているらしい。
ユウキは俺を連れ歩けば会えるんじゃないかな?と冗談交じりで言いながら、俺はため息をつく。勘弁してくれ、コンバートする身にもなってくれよ。
最終的にはどれかのゲームで新アバター作るかの話し合いになるが、結局、自分の世界にいるのがテイルと言うアバターで無いと嫌と言う、その世界の住人たちに言われて、いまだに解決はしていない。
◇◆◇◆◇
「そう言えば、この世界でようやく願いらしい願いが叶った気がする」
そう呟きながら、実家の縁側で日なたに当たりながらぼーとしている時、この世界に生まれたきっかけを思い出す。
俺は転生者。バカな話だが、前世の記憶があり、別人に生まれ変わったと言う経歴がある。
その時、俺はこの世界が『ソードアートオンライン』と言う小説に似ていると言われ、いま思うにかなり混乱していたと思う。
まずは自分が死んだと言われ、なぜかそれが事実だと認識。神様らしい存在からあれよこれよと説明される中、ちゃんと考えていたか自信は無い。まあいきなり死んだなの転生なの特典なの言われても、いま思えば確実な選択ができていたとは思えない。
実際、俺が選んだ特典は、この世界もとい、起きる可能性があるデスゲームなどの問題解決に役に立つかどうか分からない。もっと他に無かったか。できれば『ソードアートオンライン』をよく知っていればよかったと思う事はたくさんあった。にわかにしても、もう少し無かったかと何度も何度も思ったが、死んだあとだし、特典も決め終えた後だ。
………もしかしたら、もっと他に良い手や特典をもらうことが―――
「どうしたの? 怖い顔してるわよ?」
そう考え込んでいたら、後ろから話しかけられる言葉で現実に帰る。
居候と化した詩乃が、うちの猫を抱えながら話しかける。いま何を考えて、何を抱えている?と、本来なら心配した目なのだろうが、俺のやらかしの所為で睨んでいた。
詩乃は俺が転生者と知る数少ない人物であり、俺の転生について文句があるらしい。
「あんたの転生で勝手な話が多すぎるのよ」
やれ転生なの特典なの。神様の事や、選んだ力を手に入れる過程もそうだし、しかも確定されていない。
俺の代わりに文句を言ったり、叱りつけたりする。俺に怒るのは延々とそれが正しいのか考え込むのが気に食わないようだ。
「もう選んで、決めて、いまここにいる。私が言うのもなんだけど、過去ばかり囚われ過ぎなのよあなた」
「………ごめん」
「そう思うのなら、一人だからって考え込まない。少なくても、私やキリトはあなたが抱えていることは知ってるから、愚痴くらい聞くから話なさい」
「ああ………。ありがとう、詩乃」
そう言いながら、俺はそう言えばとふと考える。
「しかし」
俺が選んだのは、何があっても応用して機転が利く方法。物理的な技術など欲した。
さすがにチート能力なのはダメな気がしたし、失敗や成功が極端すぎるのは知っている。
「………ん?」
「どうしたの?」
その時、ある疑問が浮かんだとき、詩乃が目の前にいるのに疑問が口と顔に出ていたのか、鋭い目で射貫かれた。
俺は仕方なく、その疑問を口にしてみると、詩乃が考え込む。
「あまり気にしないでくれ。もしかしたら俺が先入観か何かが、そう考えたのかもしらないから」
「………まあいいわ。そう言うことにしてあげる」
そう言って離れたところでほっとした。
すると頬に猫パンチを放つ、詩乃に懐いていた我が家の猫がいる。なぜか詩乃がいないからと言ってうじうじするなよと睨んでいる気がする。
仕方なく考え込むのはやめにして、頭を切り替えることにした。
「キリトたちは小鬼か」
小鬼と聞くと、あれを思い出す。
邪悪な仮面を付けた、寂しがり屋の小鬼の物語。
それを思い出しながら、俺は静かにぼーとすることにした。
◇◆◇◆◇
「で、結局こうして捜し歩いて時間を無駄にした訳と………」
鍛冶師のリズベットが呆れながら、パーティーメンバー全員が苦笑する。高い情報料を出したキリトは苦虫を噛んだように顔が歪む。
「くそアルゴの奴……」
「しっかしよう、その【小鬼】ってのはよう、どんな姿してるんだ?」
侍大将の格好のクラインが首を傾げ、シリカはテイムモンスターであるピナを抱き上げる。
「確かに……小鬼って言うと、小さな鬼、なんでしょうか?」
「オーガって可能性もあるけど、それとも違うのかな?」
リーファも首を傾げる。森の中、枝葉など気を付けつつ、奥の方へ進んでいると、そう言えばとリズベットがユウキを見ながら呟く。
「そう言えばテイルは? 今回は
「テイル君はGGOで、シノのんがどうしてもやりたいクエストがあるから」
「『そんないるかどうかも分からない敵、探すの嫌よ』、って言ってたよ」
声マネしながらユウキはそう言い、全員が苦笑する。
このパーティーでレベリングも兼ねて捜索してみたが影も形も無く、森フィールドを飛び回ったり、歩いてみたりしていた。
「キリトよお、やっぱデマじゃねえか? アルゴの奴も遭遇率が高いだけで、実際はどうなのか分からないって言ってたじゃねえか」
「ん~、だけどアルゴの情報と、他の所で手に入れた情報も合わせると、この辺りが怪しいんだけどな………」
キリトが考え込みながら辺りを見渡すが、草木しかなく、ユイはピナに乗りながら周りを見渡す。
「パパたちが言う【小鬼】の目撃情報は確かにありますね」
「それって、他のVRでもそうなの?」
「はい。出会う場所はランダムで、ジャンルもバラバラです。ただ共通点があるとしたら、小鬼と言う言葉が使われていて、レアアイテムや情報など手に入れているようです」
「ん~………やっぱりデマなのかな?」
アスナが考えてそう呟くと、全員がなんとなくそう思う。他のVRゲームにまで流れる情報だ、仮想世界でのバグとウイルスは可能性は低いが、誰かが流したデマと言う可能性はある。
「やっぱり運営側で発表してないのなら、ガセってことなのか?」
「そうだと思います。けれど、それにしても情報が多いです」
ユイが困惑しながら情報を集めているが、同じような目撃情報と報酬を受け取ったと言う話がある。ユイは困惑しながら考え込む。
「あれ?」
そんなことを考え込むと、気のせいか霧が出始めている為、ユウキたちは首を傾げた。
このフィールドに霧が出るギミックは無い。それに警戒していると、不思議な光が二つ現れる。
白と紫に、妖精の羽根が付いている球体で、それがキリトたちの周りを飛び回っていた。
「これは………」
キリトはマップを見るが、エネミーの反応が無い。そう思っていると、光の球体はユイを乗せるピナの周りを飛び回る。
「きゅ……?」
その瞬間、ピナの様子がおかしくなる。目つきが変わり、悲鳴のように雄たけびを上げた。
「ピナッ!?」
「きゃあああああああっ!?」
二つの光に導かれるように、ピナが森の、霧の奥へと飛び去ってしまう。
「ピナっ!? ユイっ!?」
「ユイちゃん!?」
全員が急いで飛翔して後を追う。
霧深い森の中、それを見守る者がいるとも知らずに………
◇◆◇◆◇
ああ大変だ大変だ。
こんな事になってしまうなんて、なんていう事でしょうか。
このままでは世界は大変なことになってしまう。
勇者が現れる。災いを退ける、勇気を知り、知恵を持つ、力強き者の出現を。
信じなさい、信じなさい………
◇◆◇◆◇
乾いた風が吹き抜ける大地。銃声鳴り響く世界で、一人の男は頭を痛めていた。
「シノン。クエストでレアアイテムをドロップしたんだから、機嫌治してくれ。それと見逃して欲しいんだけど………」
「アァ?」
シノンは睨みつけただけで相手のHPを削れるほどの威嚇をして、彼は頬をかきながら、やれやれと首を振る。
そして意を決して顔を上げ、世界の壁にヒビが入り割れたような『入口』を見た。
「やれやれ、今度はどの物語なんだか………」
そう呟きながら、シノンと共に入り口をくぐる。その次の瞬間、二つのアバターはログアウトしたことになった………
ヒロイン? それを決めるのは読み手であるあなたたちです。好きな人をテイルの彼女にしてください。
なにより彼にはヒロインなぞ必要無いのです。
テイル「緑茶うめぇ………」日なたの下でぼーとしている。
それではお読みいただき、ありがとうございます。
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第2話・謎のイベント発生
森の中、シリカの相棒、ピナに乗りながらナビゲートしていたユイ。その時、謎の光がピナの周りを飛び回り、突如ピナが飛び出してしまう。
追いかけだすキリトたち。その先に待つものは………
突然飛び出した、ユイを背に乗せたピナ。どうにか目で追えるスピードであり、枝を初めとした障害物を避けながらピナを追うキリトたち。
「ピナ!! どうしちゃったのピナ!?」
「キリト君!?」
「ああ、たぶんあの光が原因だろうなッ!!」
森の中を飛び続けるキリトたちは、ピナの周りを飛び回る二つの光を睨みながら、どんどん霧の奥へと進んでいく。
「? お兄ちゃんなんか変だよっ!?」
「このフィールド、こんなに広かったか?」
クラインの言葉にみんな気づき、すぐにマップを見る。
「すでにマップ外に出ている?」
これならば自分たちはフィールド、森の外に出ているはずだ。
なのにマップも切り替わることも無く、延々と地形も何も無いところを突き進んでいる。
「まだ森の奥? どうなってるんだ?」
「キリト君ッ!」
洞窟の中に入っていくピナ。その背にはユイが乗っている。
そのまま流れ込むように入っていくキリトたち。だが突然突風が吹きあられた。
「な、なによこれッ!?」
「ピナあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「うわあああああぁぁぁぁぁぁ―――」
突風でバラバラになるパーティーメンバー。その中でキリトだけは暴風の中でピナへと飛び続けた。
「ユイぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」
叫び声は風に飲まれながら、キリトの視界はブラックアウトする。
◇◆◇◆◇
「うぅ………」
倒れていた水の妖精、アスナは首を振って、すぐに意識を取り戻して周りを見た。
暗闇が広がり、どこかの遺跡跡のような場所で、その壁画が書かれている欠けている壁に手を触れる。
「ここはどこ? こんな場所、このフィールドには無いはず………」
そう思いながらマップを開くと、少しノイズらしいものが時々入るが、全員の居場所が分かる。
そんな中、何人か。キリトを初めとしたみんなが奥へと先に進んでいた。
「急がなきゃッ!」
そう言い、すぐに走り出すアスナ。
◇◆◇◆◇
暗闇の中で仮面が浮かび上がり、それが人の姿を形取る。
スタルキッド。森の中で迷子になった子供、その成れの果てとも言われる魔物。それが二人の妖精を連れて、高らかに笑っていた。
辺りは広い洞窟で、天井の穴から光が差し込んでいる天然洞窟。広々とした地下で、腹を抱えて笑っている。
『出してくださいっ! どうしてこんなことをするんですかっ!?』
「ケッケケケ。異世界の妖精と小さなドラゴンゲットだ♪ 今日からお前らはオレの子分だ」
そう言い瓶に閉じ込めたユイを見ながら、目の色がおかしいピナを従える。
「スタルキッド、ボクらにも見せてよ」
そんなやり取りの中、洞窟の影からいくつも飛び出た。
「ユイちゃん!!」
『ママッ!? パパ!!』
「ユイッ!!」
水の妖精はすぐに細剣を取り出し、キリト、クラインたちも各々の武器を構える。
「テメエは逃がさねえぜ!!」
「ユイちゃんとピナを返してッ!!」
「あーめんどくさいな………」
スタルキッドが指を鳴らした瞬間、暗闇からモンスターが現れ、全員へと襲い掛かる。
「邪魔をしないでッ!!」
アスナは次々にそれを薙ぎ払い、その様子を眺めるスタルキッドは余裕で空に浮かぶ。
「ユイちゃんを返してッ!!」
「こいつはもうオイラの手下さ! 邪魔するんならお前なんかこうだッ!!」
そう言ってスタルキッドは笑い出すと闇が噴き出し、アスナを包み込もうとした時、一人の妖精がアスナを突き飛ばす。
「キリト君ッ!?」
「ぐっあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
スタルキッドが出した黒いモヤに身体を包まれるキリト。アスナを守ったキリトが悲鳴を上げ、それが晴れる時にはキリトの姿は無い。
「ッ!?!!?」
「キリト、君?」
『パパッ!?』
そこには黒い服を着こむ、木の人形のようなものがいて、それは困惑しながら自分を見る。
「なん、だこれはッ?! 顔に何かかぶせられてるッ!?」
そう叫ぶのは別の姿にされたキリトであり、それに腹を抱えて笑い出すスタルキッド。
「いい気味だっ♪ お前はずっと、ずっとそのままだっ!! オイラにできないことは何も無い。オイラは」
その時、笑う小鬼の言葉を遮るように一筋の剣が投げられた。
「ッ!? はッ!!」
スタルキッドは手を前に出し、不思議な力で剣を止める。
だがその瞬間に何かが戦場を駆け、何かが煌めく。
パンッ!!
「なんだッ!?」
「銃声!?」
リーファの言葉に全員が音をした方を見ると、リロードする一人のスナイパーがいた。
「いまよ!!」
洞窟の壁を蹴り飛ばし、スタルキッドへと激突して、様子がおかしいピナと共に、ユイが入った瓶を取り返すのは………
「おおかみ?」
そう呟くユウキへと近づきながら、瓶をかみ砕いてユイを助け出し、ピナをシリカに渡す。
「あ、ありがとうっ♪」
『………』
うっすら蒼い色をした銀色の狼。狼はすぐに前に出て落ちている自分の剣を弾き上げ。それを咥えて構えた。
「この子………」
ユウキが驚いていると、突然何者かが木々の中から現れた。キリトたちが困惑する中、現れた者、スナイパーはゴーグルを外した。
「遊びはここまでよ」
「シノのんっ!?」
そこにいたのはGGOアバターであり、BoBのように本気で戦う時用の衣服に着替えている仲間のシノンがそこにいた。
愛銃も構えながら、すぐに接近するために使用したアイテムは………
「テイルのUFG? シノンがどうしてここに?」
「説明は後よ」
「ケッケケケ、一人二人増えたぐらいで………」
スタルキッドが指を鳴らすと共に暗闇から複数の影が現れるが、狼はそれと同時に疾駆する。
それは閃光のように敵を切り裂き、弾丸のようにスタルキッドへと迫った。
「ッ!」
スタルキッドは見えない壁を張るが、咥えていた剣を足場に軌道を変えて跳び回る。
すぐに死角から体当たりを決める狼。スタルキッドは壁に激突して、二人の妖精は驚く。
「ちょっとあんた!! なにするのよッ!?」
「スタルキッドっ!? 大丈夫?」
紫の妖精はスタルキッドへ、もう一人は狼へと向かうが、狼は前足を上げて軽く踏みつぶす。
「ちょっ!?」
「おネエちゃんッ!?」
『グルルル………』
威嚇する狼。それにスタルキッドは地団駄を踏み出す。
「ケケっ………。まあいいや、これならどうだっ!?」
「スタルキッドッ!?」
その時、暗闇が噴き出し、無数の蜘蛛が噴き出す。
それに女性陣が悲鳴を上げると共に、巨大な足が闇から這い出る。
「おネエちゃーーんーーーっ!!」
「ちょっ、スタルキッドっ!? あたしはッ!?」
「蜘蛛のエサになっちゃいなッ!!」
もう一人の妖精が見えていないのか、笑い声と共に紫の妖精と消えるスタルキッド。現れた蜘蛛は巨大な目を開き、天井へと飛び上がり捕まる。
狼と共にキリトたちも天上を見たとき、巨大な蜘蛛は雄たけびをあげ、背中の甲羅は巨大な瞳を開いて、キリトたちに威嚇した。
◇◆◇◆◇
まさか【覚醒甲殻眼シェルドゴーマ】か。そう思いながら周りを見渡す。
キリトはスタルキッドの所為でデクナッツ族、デクナッツキリト?に成っているし、いまはこの姿のままで倒すしかない。
シノンは仕方ないと言え、ユウキたちに知られる訳にはいかないからな。
「ともかく、こいつを倒さなきゃ話にならないッ!!」
そう言いながらキリトはもう一人の妖精をシャボン玉で捕まえ、ユイと共に距離を取る。
「ちょっと離してよッ!!」
「ふざけるな!! お前には聞きたいことが山ほどある。なにより」
目から熱線を放ち、全員が散開して攻撃を避ける。地面は溶け、それに妖精は絶句する。
「このままじゃお前もお陀仏だ。あれの倒し方を教えろッ!!」
「し、知らないッ! こんなの知らないわよッ!!」
「キリト、その姿で戦えるか?」
「生憎と、双剣どころか、片手剣すら持てないね」
「まあそうだな……キリの字は、ユイちゃんと一緒に下がってろ。オレらがなんとかすっからよお!!」
「頼むぜクラインッ!!」
妖精として駆け出し、空を飛ぼうとするがそのままジャンプしただけになるみんな。
「嘘っ!? 飛行できないッ!?」
「だったら………」
シノンが愛銃を撃ち放ち、甲羅に当たるがダメージらしいものが無く、天井を目まぐるしく蠢く。
その時、眼を開き、そのから熱線を放ってきた。
「あぶねえッ!?」
クラインとリーファがそれを避ける中、アスナが周りを見渡す。
崩れかけている石の柱。よじ登ったりできそうにないし、できたとしてもできることは限られている。動き回る相手にどうすればいいか分からない。
「シノンっ!! 眼だッ! 彼奴が熱線を放った時に撃つんだ!!」
「ッ!? 了解ッ!」
二度目の熱線を放つ際、話を聞いていたリズ、リーファ、ユウキが声を出す。
「こっちだよこっちっ!!」
「アンタの相手はあたしたちよ」
そして目を開けた瞬間、シノンの銃が火を噴く。
悲鳴を上げて落ちて来た。いまなら………
◇◆◇◆◇
シノのんの狙撃で蜘蛛が落ちた時、シノのんと一緒に現れた狼が動いた。
高速に動いて、石の柱を吹き飛ばす。石の固まりが蜘蛛に降り注いで、悲鳴が響き渡る。
「ナイスだッ!!」
「ボクたちも続くよッ!!」
ソードスキルも叩きこむ中で、蜘蛛のモンスターは起き上がり、高く飛ぶ。
「また天井に上がったっ!?」
リーファがそう叫んだとき、尻尾の部分が膨れ上がり、タマゴのようなものを出しだす。
「いぃぃぃやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!!」
わたしを初め、リーファちゃんやリズも悲鳴を上げた。それだけ生理的に無理なものだ。
それらは全て蜘蛛のエネミーであり、一匹ずつ動き出す。
『グルルル』
狼がわたしの前に出ると、何か狼を中心に辺りの景色が変わる。狼を中心に、円状の何かが展開された。
その次の瞬間、ただでさえ早い動きをする狼はより早く、弾丸のように円の中にいる蜘蛛たちを断ち切る。
「守ってくれてるの? この子?」
「次が来るわよっ!!」
シノのんの言葉に気づき、再度熱線を放つ蜘蛛のエネミー。
眼を撃ち抜かれ、天井から落ちたところ、リズとシリカちゃんが石柱を叩き落した。
「いまだッ!!」
ユウキの剣が紫の光に包まれ、ユウキの必殺技、十一連撃である『マザーズ・ロザリオ』が決まる。
その瞬間、蜘蛛から悲鳴が響き渡り、爆発した。
「爆発? まだなにかあるの?」
そう呟いたとき、狼は剣を地面にこすりつけながら駆け抜ける。
刃から火花を散らしながら、煙の中を睨んでいた。
「ッ!?」
◇◆◇◆◇
ボクが蜘蛛のエネミーにOSSを叩きこむと、爆発して視界が煙に覆われた。
そう考えた時、小さな蜘蛛が無数、ボクへと流れ込む。
(まずい………)
硬直状態の中でそれを見ていたら、光り輝く何かが前に現れた。
「えっ………」
その光とシルエットが、とある剣士と被った時、剣閃が蜘蛛と、目玉みたいな蜘蛛を切り刻む。
「すごっ………なんなのあの狼?」
「煙ごと切り裂いた………」
みんなが驚く中、剣を上に投げ飛ばし、自分の側に突き刺してボクを見る。
『ワン………』
そう鳴いて、静かに尻尾を振った。
◇◆◇◆◇
冒険者たちがモンスターを倒すと、不思議な門が突然現れた。
「な、なに?」
「扉が現れた?」
音を立てながら開く扉は、真っ直ぐな道が先に続いていて、壁などは無く真っ暗闇に包まれている。
それを狼は見つめ、しばらくして剣を引き抜き歩き出す。
「あっ………」
「待ちなさい」
ドスッとシノンは呆れながら狼にまたがる。
狼は困った顔でシノンの顔を覗き込むが、シノンは何か文句があるのかしら?と言う顔で睨み、狼はくぅ~んと怯え、シノンを背負う。
「私はこのままあの小鬼を追うわ。みんなはここで待ってて」
「えっ? シノのん!?」
「ここから先は込み入ってるの。だからごめんなさい」
そうシノンは言い、足で狼に先に行くように蹴り、狼はそのまま走り出そうとした時、何かが駆け出し、シノンの後ろに乗った。
「キリト君っ!?」
「悪いな、俺も彼奴には用がある。ユイたちはここにいてくれ、俺たちは彼奴を追う」
「キリトっ!?」
「それに、こいつも必要だろ?」
そう言ってシャボン玉の中にいる妖精を見せて、シノンは苦虫を噛み潰したように顔を歪め、再度狼を蹴る。早く行けと乗馬のようだ。
それに狼は走り出し、扉をくぐっていく。
その様子に唖然となるアスナたちだが………
「ああもうっ!! あの二人ったら」
「皆さんっ!!」
「応っ」
「はいっ!」
「あの馬鹿二人と一匹を追いかけるわよっ!!」
リズの言葉にユウキを初め、この場にいた全員が手を上げて駆け出す。
その様子を静かに見つめるリュックサックを背負った男は微笑んだ。
「あなた方を信じていますよ………」
こうして物語の針は動き出し、新たな始まりが始まる………
キリト、シノンはチャットを連れ狼と共に謎の通路を進み、その後を追うアスナ、ユウキ、リズベット、シリカ、リーファ、クライン。そしてユイとピナ。
彼はどこにいるんだろうね~?
ここからはゆっくり投稿になります。
それでは、お読みいただきありがとうございます。
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第3話・時計塔の町
それを追う彼女たちは、仮想とは別の世界にリンクする。
足元がふわふわとしていて、道らしい空間を走り抜けるアスナ、リーファ、シリカ、リズベット、クライン。そしてユウキとピナ、ユイ。
「? なんの音?」
カチコチカチコチと言う音を聞きながら、彼らは真っ直ぐ走っていく。
時計の音が鳴り響く中、そして光が辺りを包み込んだ。
◇◆◇◆◇
「………あれ?」
ボクは首を傾げた時、気が付くと時計塔の中にいた。
頭上を見ると時計の歯車が動いていて、みんなの姿を見る。
「な、なんじゃこりゃっ!?」
クラインの驚きに、ボクらは自分の姿に驚く。
「リズ、その姿………」
「アスナそれ、その姿って『血盟騎士団』の……?」
「シリカさん、ケットシーではないです。SAOのアバターに近いです………」
みんなの姿が少し違っていて、ボクとリーファ以外、アバターの姿はSAO。みんなが閉じ込められていた仮想世界。あの『ソードアート・オンライン』の姿らしい。
武器はALOの物なのに、姿が少し違うようだ。
「少しだけSA:Oが混ざってる気がする。これって一体……?」
「ウインドも開きません……?」
「ここはALO内では無いのは確かです……」
こんな事、あり得ないとユイは驚く。アスナはともかく周りを見渡し、扉を見つけた。
「いまはともかく、キリト君たちを追わないと。扉の先、かしら?」
「うん、行こう」
扉を開けると太陽の日差しが差し込み、町の音が聞こえ出す。
様々な人が行きかう中、何かを作る人、何かに怯えている人や、楽しそうにしている人………
そこでボクたちは何か不思議な感覚を覚えながら、周りの様子を見る。念のため、ピナたちは袋などで隠しながら、町の様子を見る。
「なんだか不思議……少し、仮想世界って雰囲気じゃない。そんな気がする……」
「そう、ね……。けど、あれはどうなの?」
魚のような人?や、岩のような人?かな。そんな人たちも行きかう町。
ボクたちは首を傾げながら、町の様子を見ている。
「なんだかちぐはぐした雰囲気ですね」
「そうね。何かから逃げようとしている人もいれば、陽気に騒いでいる人もいる」
「情報を集めてみよう。シノのんやキリト君、あの狼が見つかるかもしれないもの」
「シノンさんたちは分かりませんけど、あの狼さんならすぐに見つかりそうですね」
シリカの言う通りだ。あの狼は剣を持っているし、すぐに見つかりそう。
ともかく時計塔、ボクたちが出て来た建物を目印に、ボクたちは探し出した。
◇◆◇◆◇
いろんな人たちの会話する。ボクらの事は旅人か、お祭りの観光客だと思われた。
もうすぐ〝刻のカーニバル〟と言うお祭りがもうすぐ行われるけど、最近おかしな噂が流れている。
「〝小鬼〟……ここでも出て来たね」
町の人が噂をしていた。小鬼に会えば願いを叶えてもらえたり、イタズラで酷い目に遭う。その中で『小鬼が空に浮かぶ月を落とそうとしている』って話。
「月ねえ、空にはなーーーんもないけど………」
「そうですね。綺麗な雲と青い空ですけど、夜になれば分かるんでしょうか?」
ピナを隠しながらリズベットたちが会話する。アスナは考え込みながら情報を整理していた。
ここまでの話の中で分かったのは、ここは仮想世界。VR世界じゃないのは分かる。
この際、そこはもう気にしない。むしろ『彼』が深く関わっているのだろう。
その中でシノンやキリトはともかく、狼を見た人がいないのが気になる。
「ともかく、ここ………」
その時、アスナが真剣な顔で話している途中、言葉を止めた。
「誰ッ!?」
アスナの叫びに誰かが曲がり角から走り出した。
「アスナ!!」
走り出すアスナを追うように、ボクらもすぐに走り出す。
「曲がり角っ!?」
「手分けして追いましょう」
みんなの言葉通り、ボクも走り出して、路地裏を走り抜けた。
◇◆◇◆◇
走り抜けた先でボクは迷子になりました。
「どうしよう………」
ここはゲームの中じゃないから、メールもできないし、マップで確認もできない。
別れる時に集まる場所を決めていればよかった。今の姿はALOに近いけど、空を飛べるわけじゃない。知らない町の中で、少しだけ心細くなる。
「どうしたの?」
後ろを振り返ると日傘を差したお姉さんが首を傾げて話しかけて来る。
「えっと、ボクはユウキ。いまは、迷子かな?」
「そうなの? 町の外から来たのなら、わたしの家に来る? うちはこの町で一件だけの宿屋。〝ナベかま亭〟よ」
そう『アンジュ』さんは微笑んで、ボクはアンジュさんの宿に向かった。
◇◆◇◆◇
アンジュが案内してくれた宿屋は、町の中心にあった。ユウキはその為、自分を探しに来るアスナたちに見つかりやすいと思い、そこで少しの手伝いをしながら、町の様子を見る。
「ねえ、もうすぐカーニバルなんだよね?」
「ええ、そうなんだけどね………」
アンジュは少し難しそうに、ユウキはお掃除の手伝いをしていた。
外の様子は不安そうに空を見る者や、カーニバルの準備に右往左往する者。賑やかな人と不安そうな人が入れ違う。
「ここ最近の噂なんだけど、妙な噂が流れていてね。町の人や近隣の村のみんなは、それを気にしていたり、不安がってるの」
「噂って……?」
「『仮面を付けた子供』の噂よ………」
最近、仮面を付けた子供が真夜中に出会うと、二通りの事が起きる。
一つは願いが叶う。水不足で困っているところで地面から水が湧き出たり、枯れた木から果実を実らしたりした。
それだけでなく、たくさんのルピーが入った袋や食料と『願いを叶えてくれる』らしい。
だけど逆に、大変な目に遭ったり、不思議な事が起きる。
「仮面……それって………」
ユウキは仮面を付けたスタルキッドを思い浮かべる。
「その中で、いつしかこんな噂が流れたの」
『刻のカーニバル、三日後の日に月が落っこちるぞ~~~ッ!!』
その言葉を聞いてユウキは空を見上げるが何も見えず、アンジュもまた不安そうに空を見る。
「町の人は避難派とカーニバル決行派に分かれてるの。今年は長い歴史で千回目で、ハイラル王国を初めとした有名な人が来るから」
「アンジュさんは………」
「うちは宿屋だからね。お客さんのほとんどは隣町である港町で寝泊まりするけど、町で過ごしたい人もいるから。それに………」
アンジュが振り返ると、ユウキも視線を追う。宿の奥にウェディングドレスが飾られていた。
「あれって………」
「刻のカーニバルの日は結婚式も兼ねているの。けどいまは行方不明で、話の中じゃ、噂に巻き込まれて消えたって言われたりしてるの」
そう悲し気に語るアンジュ。それでも不安そうなユウキに優しく微笑みながら呟く。
「けど必ず彼は来てくれるわ。わたしは信じてる」
その様子を見ながら、ユウキは町の外を見ている。
空は普通の空だ。仮想世界では無い、病室でいつも見る、自然の空。
それに不思議がりながら、ユウキはお手伝いをしている。宿屋の食堂、お料理を運ぶ手伝いの中で………
「黒パンとハンバークセット。飲み物のロマーニミルクです♪」
「えっ?」
その時、褐色の肌をした女性は少し驚いた。運ばれた料理と言うより、ユウキの顔を見てだ。
「? どうかしましたか?」
「あっ、ああ、ううんっ!! なんでもないよっ!!」
「? ごゆっくり~」
そして後ろに下がると、女性は驚きながらしばらく考え込み。パンにたくさんのクリームを一気に乗せて、口の中に押し込んでいく。
出された料理を押し込むと、すぐに会計を済ませ、部屋へと戻る。
その様子に首を傾げながら、宿屋の外をホウキで掃除していると………
「なんで君がここにいるんだ妖精さん?」
そう言って話しかけたのは、赤い目と金色の髪。顔のほとんどを覆い隠す旅人。
彼が島で出会った人としか教えられていない、彼の知り合いの………
「シークさんっ!?」
ユウキがそう驚き、シークは一度息を吐き、呼吸を整えて事情を聴き始めた。
◇◆◇◆◇
「それじゃ、君の他にも仲間がいて、小鬼……スタルキッドを追ってきたんだね」
「うん」
宿屋の外、オープンカフェのようにされている席に着き、ユウキはシークと会話する。
「シークさんは………」
「ボクもまた、スタルキッド。それを追ってきたんだ。『あの月』について、どうにかしないといけないからね」
「えっ?」
ユウキは首を傾げながら空を見る。そこには何も無く、青空が広がっているが、シークが手をかざして、ユウキの目を覆うように手を置く。
何か温かい感覚になる中、その手が退けられると………
「………」
ユウキは目をこすり、空を二度見る。
だがそれは消えずに、確かにそこにあった。
「なに……あれ………」
ユウキの目には、もう青い空や白い雲、それ以外も見えている。
ただ絶句して、なぜいまのいままで見えていなかったのか、言葉を無くしてそれを見上げた。
いま目の前には、巨大な顔を宿した大きな岩。月が町の頭上にあるのだから………
「………あれって」
「ケケケっ!! 凄いだろ~? あれはオレが呼んだんだぜ?」
笑い声と共にそれが現れた。ユウキは腰に下げた剣を握りしめ、シークは隠し持つ短剣を取り出す。
「スタルキッドっ!?」
「お前らも物好きだな、ここまでオレを追いかけて来て」
そう言いながら瞬時に消え、別の場所に現れる。いつの間にか人気は消え、シークとユウキだけになっていた。
「オレにできないことは無い。オレは凄いんだ、もうなんだってできる。なんだって叶えられるんだ」
「お前のその仮面は………」
シークが睨むように仮面を見る中で、閃光のようなものが放たれ、ユウキとシークはすぐに避ける。
それを高らかにあざ笑うスタルキッド。
「本当ならもう少し時間を掛けたいけど特別だ。いますぐ月を落としてやるよォ!!」
そう言いながら、この町で一番高い塔。時計台の方へと飛んで行くスタルキッド。
シーク達はそれに顔を見合わせ、すぐに追いかけ始めた。
時計塔は町の中心にあり、空を飛ぶ小鬼は別の場所にいる彼らも見つける。
そう、ある鉄の固まりを背負い、黒い服を着こむ樹の少年を連れていた。
「あれは………急いで追うわよ」
「ああッ!!」
そして………
◇◆◇◆◇
スタルキッドを追いかけるために、時計塔に向かう絶剣の少女と探し求めていた人物。彼女たちを見ていた一人の青年は呆れ果てていた。
黒い髪にフードを深くかぶり、苦虫をかみ砕く。
「町の話で名前が出て来た時、島のように動いてるんじゃないかって考えたら、こうも必要な物を持った人物が揃うもんだ」
出来過ぎていると思いながら首を振り、ともかくと、思考を切り替える。
「ともかく接触しなきゃいけない。彼女ならきっと『あれ』を持ってる。それが無いとな………人使いの荒いな、まったく………」
「贅沢言ってる暇は無いわよっ!!」
人影が無い中で女性の声が響く。フードを深々とかぶり、耳打ちするように呟く。
「ああ分かってる。シノンたちに連絡しに行ってくれ」
「分かったわ」
フードの中から光り輝く何かが飛んでいき、それを見送りながら空を睨むように見上げ、静かに目を細める。
彼の視線の先には何も無い。晴天が広がっているだけだが、それでも彼は睨む事を止めず、深くフードをかぶり直した。
その後は物陰の中に溶け込むように消える。その影から現れたのは、一匹の狼。
何かを考え込むように、宿屋を静かに見つめ、独自に動き出した。いま物語の針は急激に動き出す。
その針をどうするかは………
「………頼みますよ、時の勇者さま………」
信じています、信じています。
そう呟きながら狼を見送る、仮面を売る商人。
こうして舞台に出演者は揃い出し、物語の幕が上がる………
時の勇者さまもインして、ユウキたちがいるのに困りながら動いてます。
それでは、お読みいただきありがとうございます。
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第4話・時の歌
時計台へと向かうユウキとシーク。スタルキッドは空を飛び、そのまま真っ直ぐ屋上へ行く中で、曲がり角でアスナたちと合流した。
「ユウキっ!! それに」
「あなた、確かテイルの仲間の」
「話は後だ。このまま時計台へっ!!」
「はっ、はいっ!」
アスナと共にいるユイ、リーファ、リズベット、シリカ、クラインは驚きながらも走り、ユウキはアスナの隣を走る。
「アスナ、キリトやシノンは?」
「ううん、こっちじゃ見つからなかったの」
「みんなと別れたんだけど、お兄ちゃんらしいデクナッツ族? や、シノンさんらしい人はいるんだけど、いまお祭りが近いから、人が多くって」
「ですけど、途中で町の皆さんが虚ろな目になって、ここまでくる間に人がいなくなっていったんです」
リーファとシリカからそれを聞き、アスナたちは走る。
そして一度時計台の中に入り、その中を駆け上っていく。
外の喧騒が聞こえない中で、なにか異常な雰囲気を肌で感じながら、屋上へと出た。
「って………」
ユウキだけでなく、アスナたちも絶句した。
時計台の屋上、時計台はこの町で一番高い建物であり、町の周りに比較できる山などはない。ここから見る景色は広々としている。はずだとユウキは思う。
いまはなぜか、人の顔をした月が迫り、町の空を覆い隠す、いやそれよりも巨大であり、町を含めた平原まで覆い隠すほど巨大な瞳を見つめる。
(まるでこっちを見てるみたい………)
「なんじゃこりゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
「さっきまであんなの無かったわよね!?」
クラインやリズが驚愕すると、それをあざ笑うように声が響き渡り、何かが駆け抜けた。
すぐにそれを避けると、馬にまたがる、巨大な角を持った騎士がいる。
『おいッ! わざわざ異次元から連れ出したんだ。ちゃんと役に立てよ』
【………仰せのままに】
そう言って空を駆ける馬に乗った騎士は槍を構え、アスナたちへと迫る。
【我が名は『異次元悪霊ファントムガノン』。お前たちも月の贄と成れッ!!】
その宣言と共に景色の違う絵画が出現して、時計台の屋上を囲む。
消えるように姿が消えたファントムガノン。その姿は絵画の中にあり、掛け声と共に絵画の奥へと進み、姿を消した。
◇◆◇◆◇
絵画の中に消えて、身構えるアスナたちだが、すぐにクラインの側にある絵画から馬の声が響き渡る。
「危ないッ!」
ユウキの言葉にクラインも気づき、その突撃を躱す。
槍を構えながら走り抜け、そのまま別の絵画へと姿を消した。
「こっのおおぉぉぉ!!」
近くにあったその絵画に斬りかかるリーファだが、すぐに空へと離れ、剣が届かない。
「いまのあたしたちに遠距離攻撃なんて無いのにッ!!」
「ピナのブレスで………」
「ダメだよ!! 下手に近づいたら危険だわ」
アスナの言葉に全員が絵画に警戒しつつ、スタルキッドは空高く浮きながら腹を抱えて笑っている。この状況はまずい。誰もがそう思うが手が思いつかない。
その時だった。
絵画が突然、ユウキの背後に現れる。
「しまっ!? ユウキッ!!」
「ッ!?」
ユウキが振り向くと、絵画の世界から槍を構えて迫る騎士。
それに剣を構えようとするが、間に合わないと察する。
(この世界でダメージを負うとどうなるの……?)
その瞬間、ゾッとし、背筋が冷える。
アスナも同じだったのか、駆けだす様子が視界に入る中で………
「させると思うか?」
それは信じられないほど不機嫌な、ある男の声が響き、絵画が吹き飛んだ。
何かが閃いたと思った瞬間、絵画が地面へと無理矢理叩き付けられ、砕かれた。騎士は馬から落馬して地面に降り立ち、馬の悲鳴が響き渡る。
「えっ………」
ユウキたちが分かったのは、何かが一瞬のうちに接近して、とんでもない速度で絵画ごとファントムガノンを切り伏せた。
「なんだ、お前……?」
スタルキッドもそれに反応することができず、苛立ちを隠さずに呟く。
粉塵を剣風で吹き飛ばした男は姿を現す。
ハイリアのフードから顔を出し、蒼い服を着込んだ剣士が口元を釣り上げて笑う。その目は一切笑っていない。彼は不機嫌そうに告げた。
「ただの勇者モドキだクソッタレ」
「テイルッ!?」
彼が愛用する、赤髪の
◇◆◇◆◇
「さすがにキレると怖いな彼奴」
「まあしかた無いわね」
「キリト君、シノのんッ!?」
彼と同時に現れたのはシノンとキリト。少し呆れながら、銃を構えているシノン。馬を消したファントムガノンは、槍に雷を集め、テイルへと放つ。
「効くか」
それを叩き返すように剣を振るい、ファントムガノンに弾く。
何度も雷光が弾き、弾き返したりを繰り返すが、ファントムガノンは弾き返せず、雷鳴を受けて吹き飛ぶ。
瞬間、それは閃光のように接近して斬りかかり、痺れる中でテイルは剣で斬りかかる。槍を突き出したが突き刺さる瞬間に飛び上がり、槍先を踏み走り、すれ違うに切り裂く。
【ぐっ、おの】
「邪魔だ」
何かを告げようと振り向いた瞬間、ファントムガノンの口に矢が突き刺さり、それがいくつもファントムガノンを貫いた。
悲鳴を上げ、絵画の中に入り、馬の雄たけびと共に蹄の音が鳴り響く。
「絵画の中に入ればノーダメ。んなのはゲームの中だけだくそったれッ!!」
爆弾が彼の手の中に現れ、手当たり次第に爆破させる。その中でシノンもまた、愛銃を使い絵画を撃ち抜く。
【ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!】
絵画が砕けると共に悲鳴が響き、馬が吹き飛んだ。
「時間が無いんでね。いま、ここで、終われッ!!」
即座に斬りかかるテイル。その剣が身体を切り裂くと血飛沫のように黒い液体が噴き出し、再度槍に雷鳴を込めて放ったが………
「何千回もやってるんだッ!! 効くわけないだろんな攻撃ぃぃぃぃぃ―――」
そう言い、雷鳴を貯めに貯め込んだ攻撃は跳ね返され、ファントムガノンは悲鳴を上げて光り出す。その光が収まると共に消え去り、ファントムガノンがついに消滅した………
◇◆◇◆◇
「あーあ、あっけないな魔王の幻影って」
空に浮かび、その様子を眺めていたのか、スタルキッドが巨大な月の前に現れた。
テイルを見るスタルキッド。テイルは気にも留めず剣を振り回し、静かに剣先をスタルキッドに向ける。
「遊びは終わりだ。月モドキを落とすなんてこと、俺がさせると思うか?」
「ケケッ。粋がってもお前じゃなにもできないよ~」
そう言い、両手を広げるスタルキッド。暗闇があふれ出し、世界から雫のように、スタルキッドへと落ちていく。
「なんだこりゃ?」
「………なにか聞こえませんか?」
「なにこれ………」
何か声が聞こえる。とても小さく、それでも背筋を凍らせるような言葉がぶつぶつと聞こえ出す。
ユウキたちが青ざめる中、刃を構えるテイルは静かに目でシノンを見る。それと共にシノンはスナイパーライフルでスタルキッドを撃つが、弾丸が止まり、軌道を変えてテイルへと向かっていく。それを弾き、テイルは何事も無かったようにスタルキッドを睨む。
「お前じゃ無理さ。『勇気の勇者じゃない』お前じゃな」
「お前!?」
「さあ落ちろ月ッ!! 全てお前に捧げようッ!!!」
月へ暗闇が流れ込み、ゴゴゴッと言う音とともに月が動き出す。
それと共に地震で世界が揺れ動き、全員がその場で手を付く。
「スタルキッドっ!? いつものイタズラにしちゃ冗談にならないわよっ!?」
その時、スタルキッドから紫の妖精が現れる。
「勇者ッ!! お願い、沼、山、海、谷にいる四人の人たちを連れて来てッ!!」
「余計なことを言うなッ!!」
紫の妖精はスタルキッドから生えた巨大な暗闇の腕に殴られ、もう一人の妖精は悲鳴を上げる。
「おいおいおいおい、まずくないかキリトっ!?」
「だからって、こんな揺れの中じゃどうすれば………」
クラインたちもまずいことは分かってきたが、どうすればいいか分からない。
そんな中、テイルは何か考え込んでいた。
「テイルッ!! いまは考え事しないでどうにかしないとッ!!」
彼の懐から顔を出して叫ぶ妖精。それに我に返る。
「フェリサッ!? あっ、くそ、そうだな」
そう言って首を動かし辺りを見渡してシークを見つける。
「シーク『時のオカリナ』だッ! それを俺に貸してくれッ!」
「ッ!? あれか」
そう呟き、懐を探るシーク。その時、無数の人の形をした何かが現れ、襲い掛かり始めた。
「ちょ、なにこれ!?」
「き、気持ち悪いですッ!?」
ピナがシリカを守りながら、リズたちも驚く中、シークは自分を捕まえようとする手を払いながら、懐を探る。
「このッ! 邪魔を………」
「シークすまない時間が無いんだッ!!」
「へっ? キャ―――!?!」
いつの間にかテイルが側にいて、シークの懐に手を突っ込む。シークから誰か別の声が聞こえそうになったが、シークが僅かに見える顔を赤くして口を閉ざす。
テイルはシークからオカリナを取り出し、そして………
「力を貸してくれ、時の女神………」
響き渡る歌に、スタルキッド以外の全員がテイルを見る。
響き渡る音色の中、スタルキッドは高笑いをしていた。
「落ちろ月ィィィィィィッ!! 全部、全部壊れちゃえぇぇぇぇ!!」
そう叫ぶ中、月が時計台に激突した時、キリトたちの意識はそこで途切れた………
◇◆◇◆◇
「………ここは………」
「キリト君……? キリト君ッ!?」
その時、キリトの側で何かが落ちた。それに驚き足元を見た時、変化に気づく。
「元に戻った……? けどこれはソードアートオンラインの装備じゃないかっ!?」
そう叫び、キリトは足元の仮面を手に取る。それは先ほどまで、キリトが変えられていたデクナッツによく似た仮面だ。
「テイル」
「ああ。ともかく巻き戻ったようだ」
そう言ってほっとするテイル。キリトもあの場にいたみんながここにいることに気づき、ほっと息を吐く。
「いまなにがどうなってるの?」
シノンの言葉に、テイルは気まずそうに頬をかき、明後日の方角を見るが、その前にユウキがガシッとテイルの手首を掴む。
「ユウキ?」
「ねえ」
その時、ユウキにしてはドスが利いた声であり、目も何か光が無い気がする。
「とりあえず、テイルが色々隠してて、テイルがボクたちに内緒でシノンと一緒に事件を解決しようととか、
「ユウキ?」
「けどね………」
その光が消えた目でテイルをジッと見ながら………
「シークさんから女の人の声がしたんだけど、なにしたの?」
「………ユウキ待て、いまはそんな」
『そんな?』
◇◆◇◆◇
勇者の紛い者が新たな事件へと関わることになる。
呪われた仮面に関わる事件に巻き込まれキリトたち。彼らは彼と共に世界を救うことができるのか………
ともかく、キリトが全てのことを説明しなきゃいけない。彼が抱える全ての問題、いまの状況全てを、彼らに話さなければいけない。
「だけど………」
そう呟き、クラインと共に隅の方に避難して、ちらりとそちらを見た。
「そんなってなによそんなってッ!! あんたまでそんなんじゃこっちが困るのよッ!!!」
「テイルさんダメですッ! テイルさんはそんな人じゃないって思っていたんですよッ!!」
「テイルさんまでそんな人だなんて思っていませんでしたッ!!」
「あんたって奴はいつからそんな………」
「テイルさん。今回の事件と共に、その辺りユウキと共に、しっっっっっかりお話ししましょうね」
「テイル? ねえテイル? どうしてボクの目を見ないの? テイルってそんな人なの? ねえ? ねえねえねえねえ―――」
「すいません全部話しますからどうか勘弁してくださいお願いしますホント―――」
「このバカッ!! 破廉恥ッ!! アホッ!! 女の敵ッ!!」
「………」
懐から出て来た妖精、フェリサが何度も髪の毛を引っ張り顔を叩き、ユイはなにも言わず悲しそうに見ていて、シークは何も言わず、非難するように見ている。
リズたちはテイルを囲って文句を言いだしながら、テイルはなにかこのまま放っておけば土下座しそうな体制であり、心が折れかけていた。
「ねえ、あんたたち凄いの? バカなの? どっちなの?」
「あー今回ばっかはなんも言えねえなキリの字」
「ああ……落ち着くまで待とうぜクライン」
スタルキッドと共にいた妖精の姉はその光景に呆れ、キリトたちはその様子を見守っていた………
この先どうなるか、いまだ始まったばかりである………
みんなについに面と向かって説明。する前にひと騒動です。
ユウキはお兄ちゃん大好きだから、もうぷんぷんです。
それでは、お読みいただき、ありがとうございます。
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第5話・話した真実?
誤字がなかなか無くせない。いつも報告ありがとうございます。
驚くほどあっけなく、勇者モドキは全ての事を話した。
転生したこと、その時に特典と言う名の力を得られること。それで転生先でどうにか生きようとしたことを告げる。
最初は信じられないが、いま実際の状況や彼の行動などでみんな納得してくれた。
そもそも………
「いまの話より、シークさんがお姫様の変装ってのが驚きだ」
クラインの言葉に、リズ、リーファ、シリカはうんうんと頷き、人の出入りを気にしながら話し合う。現在は時計塔内部。その中で覆面を取るシークこと………
「では改めて……。ハイラル王国、現巫女姫『ゼルダ』です」
少し耳の先まで赤くなっている美しい女性。彼女の自己紹介の中で、テイルは正座しながら話を聞く。
「ゼルダ。君は俺がコホリント島で出会った君でいいのか?」
「ええ、昨年の話ですね」
「たった一年しか経ってないのか………」
ゼルダの話を聞きながら、彼女はなぜここにいるのか、ここはどこなのか話を聞く。
彼女は昨年の事もあり、予知夢のような出来事に敏感になっていた。そんな中、【時の祭り】、【邪悪な願い】、【矢に射貫かれた力の勇者】と言う夢を見て、この場所に来るように手配した。
「しかし、これは一体? 確かにあの禍々しい月が落下しかけていたのに、一体なにをしたんですか?」
いま空を見ると、まだ随分と距離がある月に、ゼルダたちは困惑していた。いまはなぜか全員、月を認識できる。
「時の女神の歌さ」
「………時の扉を開いたんですね」
キリトたちにも話しながら、テイルは『時の歌』と言うもので時の扉を開き、過去へと巻き戻った。
そんな話を聞き、町の様子を少し確認してテイルから話の続きを聞く。
「この物語は『ムジュラの仮面』と言う物語で、ムジュラの仮面と言う、危険な仮面の所為で生まれた世界だな」
「確かテイル君の前、ゲームとして知っている、この世界の事、なのよね?」
アスナが考え込みながら、前世の記憶とされる情報。その情報の話の中、ゼルダは首を傾げながら、物語が彼の世界では知られていると言う認識で話を飲み込む。
「つまり、あなたの情報では、ムジュラの仮面なるものは、なんでも人々の願いを叶えることができる。だけどその代償として、ムジュラの仮面は災厄を振り撒く、意思を持った仮面、ですか………」
「だけど、もうその情報は外れたところがある」
「この世界ね」
シノンはすでにその話を聞いている。その事を含めて、なぜシノンがここにいて、いつテイルがここにいるのかの話。
「私はこいつとGGOをプレイしてるとき、例の仮面、小鬼の話を聞いて、近場だから少し見に行ったのが切っ掛け」
そこで話の小鬼を見た時、テイルが豹変した。
なぜならばその小鬼は彼が知る、ムジュラの仮面を付けたスタルキッドそのものだった。なによりも………
「そいつ、GGOプレイヤーを私たちの前で消したのよ」
「なんだって!?」
はた目からしたらNPCに激怒する、マナーの悪いプレイヤーだった。自分の都合通りにならないから撃とうと銃口を向けた瞬間、動きを止められ、ノイズが走ったと思ったら、下から1と0に分解される。見ていたテイルたちも信じられない。
すぐにテイルは切り替わり、剣とスナイパーで撃とうとしたが逃げられ、スタルキッドが使用した道らしい扉を見つけて追いかけて………
「その先であなたたちと出会ったの」
「出会ったのって、あの時シノのん一人だけだったよ?」
「はい、アスナさんの言う通り、テイルさんはいませんでした」
リーファの言葉にあーと納得して、テイルは持っている物を見せる。
「実は俺もシノンも、GGO内のアバターじゃなくって、変化した姿なんだ。シノンはGGO大会での衣服や装備に近くって、弾丸が無制限」
「それマジ?」
「ええ。気にせず撃ちまくれるから助かるわ」
涼し気に答えるシノン。彼女がいつの間にか着替えていた衣類などの中に、ポシェットの中に変えの弾丸がなぜかいくつもあり、何度でも交換可能。やり方もほとんど現実に近い方法で変えなければいけないが、シノンは現実の銃知識もある為、最初は苦戦していたが、いまは難なく変えられる。
そしてテイルもレインが打ってくれた愛剣に盾、それ以外の衣類は別の物。別次元、世界観の勇者が装備する物で、ある道具も取り出す。
「『シーカーストーン』。俺たちからすれば携帯端末のような物で、道具を仕舞えたり、色々な機能が付いてる。こんな風に俺も妙な能力が付いてね」
そう言った途端、影がテイルを包み込むと、四足歩行、狼の姿に変わる。
盾は無く、剣もよく見れば面影があるが、形が多少変化していた。それにユウキたちが驚く中、ユウキはモフモフと撫でながら、嬉しそうに微笑む。
「そっか~、あの時助けてくれたのって、テイルだったんだ」
「後はキリトと共に、この世界の前知識交換。まあ正直こっちは期待無しって思ってたんだけどな」
元々この物語は、時のオカリナを元にした物語。勇者が辿る歴史の分岐点と言って良い物語の一つなのだ。
彼がいくつもの時代、その世界で勇者とされる者が、いくつもの結果を導き出し、いくつもの未来があることを説明する。
「この世界は時の勇者とされる者が居て、その人が一度退魔の剣を引き抜く際、その力で時を超えた」
その後、その時代で魔王を倒すことにより、世界を救った後は元の時代に戻り、魔王が国を転覆する前に捉えて封印すると言う歴史がある。
その話を聞き、ゼルダは静かに答えた。
「歴史ではそのような逸話はありません。ですが、聖地を犯そうとする邪悪なる者を封印すると言うのは聞き覚えがあります」
「………そうか、そっちなのか………」
表現できない表情をするテイル。悲しそう、辛そう、暗い、様々な負を織り交ぜたような複雑な顔でようやく呟いた言葉。
この言葉にどんな意味があるかはゼルダも深くは聞かず、この物語について説明を続ける。
「この物語は、邪悪な仮面によってできた世界に、過去の時代に戻った勇者が巻き込まれる。その際に時のオカリナが必要だから、これをどうするかキリトたちと話し合ったんだ」
「その中で町の人、この祭りにとある一国の姫君が顔を出すって聞いて、ああって彼が納得して、ゼルダ、シーク、テトラって言う人物を探し出したの。後はインパ、だっけ? その人たち」
「………変装する時、もっと考えた方が良いのでしょうか……?」
少し悩みだすゼルダに、テイルは苦笑する。
「ともかく、何も打開策が無い現状は、沼、山、海、谷に行くしかないな」
「そうよ、早く行ってスタルキッドを止めてよね!!」
そう騒ぎ立てるのはスタルキッドと別れていた妖精『チャット』だった。
「あなたたちの話が何なのか訳が分からない。だけどこのままじゃスタルキッドが大変なことをしでかして、あの子………弟が巻き込まれる。あなたたちに酷いことしたの謝るからお願い、スタルキッドを止めてッ!!」
その言葉を聞き、みんなが静かに頷く。
「チャット、ムジュラの仮面に付いては話は合っているか?」
「ん~それは分からないの。スタルキッドが一人の時に手に入れたらしいから、ただ」
「ただ?」
「態度が物凄く大きくなったって言うか、自信が付いたみたいに話したり、仲良しのはずの町の子にイタズラしてたり、あたしたちの知らないところでのイタズラも増えたり、オイラって自分で言ってたのに、いつの間にかオレって言うし。イタズラは後で謝ったりするんだろうな~って気にしてなかったの」
「謝れば良いってもんじゃないぞ」
呆れながらそう呟き、もう話すべきことは無いか確認しておく。
「時間が惜しい、ともかく最初は沼に行こう。君が案内してくれチャット」
「ええ任せてっ♪」
そう飛び周る妖精に、シノンがすっと小さく手を上げた。
「けど、移動はどうするの? タイムリミットもあるでしょうし、早くしないと」
「移動の方と宿はこちらで手配します。一応は一国の姫ですので、ご心配なく」
そう言い終え、すぐにシークの姿に戻る。クラインが少し残念がり、リズに叩かれた。
「とはいえ、あまり姫の権限は使いたくない。ボクにあまり頼らないでくれ」
「ここからはシークってことか」
それに静かに頷くシーク。
「暗示のようなものでね、シークとして接して欲しい。姫だとバレると都合が悪いんだ」
「どういうことだ?」
キリトの問いかけに、シークは手に持つ暗器など確認しつつ、この世界の事を教えた。
この世界で語られる勇者、勇気のトライフォースに選ばれし者『リンク』は大昔に活躍したとされている。
彼の勇者は太古の昔、聖地侵略を企てた一族が追放された世界。この世界に追放されし者が、その世界を統治する者へ反乱を企てる者に力を貸し、その者を使い、この世界へと戻ろうとした大罪人の物語。
(黄昏の勇者か)
テイルはそれを黄昏の勇者。あの『時の勇者と魔王の戦い』が起きなかった時空列と断定し、時の勇者が敗北した世界の歴史で起きた『夢をみる島』を、この世界で自分が担当したと考える。
(だとしても、どういう意味があるんだろうか? キリト、とシノンか。さすがにこの二人には相談するか)
そう内心思い、シークの話を要約すると、次の通り。
魔王の影が無い状況で、巫女姫であるゼルダが動くのは危険だと大臣たちが揃っていい、自粛するように言われている。
魔王など、世界に仇成す者がいるのならば、まずは勇者を見つけるのが先決だと言う始末で、コホリント島ではまともに動けそうになかったとのこと。
「確かに、ボクらの歴史は姫と勇者。この二人とその時代に生きる者たちが手を取り合い、魔王を倒す歴史だ。だからと言って何もかも勇者に任せるのはおかしい」
「だからまずは自分で、ってことですか?」
「そうだよリーファ。心強い事に、ゼルダ姫の乳母、姫を支えている近衛騎士が協力してくれている。後で小言はあるけどね」
苦笑しながらシークは国の事や、シーク側の事情説明をし終えた。いまもまた、お祭りに姫がご来日すると言う名目で、いま姫はこちらに向かっているらしい。
「姫の影武者って誰がしているんだ?」
「マリン」
「おい」
少しばかり呆れながら、シークが手配する馬車で移動することに。
泊まれる場所や、向かう土地の地図など、全員分のアイテムも集めながら、準備に取り掛かった。
「しかし射貫かれたね」
スタルキッドは吹き矢で攻撃するが、ゼルダが言うそれが気になる。他にも幸せのお面屋が現れないことに不信感を抱きつつ、テイルたちは各々自由行動に移る。
◇◆◇◆◇
「全く、キリト君もテイル君も水臭いんだからっ!」
そう怒るアスナに、俺は大変困っている。
アスナたちが怒るのは無理はないが、彼の立場も考えて欲しい。
「テイルだってすぐに説明したかったら、説明してただろう? 言ってしまえば、未来の情報を持ってるんだ」
「まあな、こっちのことをラノベやアニメでうっすら見たって言われても、信用できねえしな」
クラインも困りながら納得して、リズも困った顔をする。どう思えばいいか、分からないのだろう。
「しっかし、彼奴も難儀よね。確定してるんならともかく、起きるかもなんて言われれば、どっち付かずでストレスが溜まるし、言えば狂人扱い。ソードアートオンラインが売られ始めたとしても、きっと誰もテイルの言葉なんて信じなかっただろうしね」
「そうですね……あの時はデスゲームになるなんて、考える方がおかしいです」
「ああ、シリカの言う通りだ。ソードアートオンライン。あれが発売されることを知った時、テイルの事だから絶望しただろう」
あのゲームは大勢の被害者、死亡者を出している。事前にそれを知っていて、何もできない。彼の性格からしておかしくなるくらい、抱え込んだろう。
「ある意味、彼奴のコミュ障じみたのも、この先に何が起きるか考え込んでればね」
シノンは苛立ちながら呟くと、全員、テイル以外がため息を吐く。いま彼はこの世界の事をよく知っているため、アイテムの買い込みでシークと共に出かけている。
「みんな、テイルのことなんけど」
「言いたいことは分かるよキリト君。ううん、きっと誰にも答えなんて出ないよ」
「ああ、デスゲームのこと、俺はテイルができる範囲のことはしていたと思う。彼一人じゃ、できないことばかりだったんだ。その中で彼は、最も幼い最年少プレイヤーたちを支えていたのは事実だ」
あの過酷な現実で、レーティングより下の年齢層がいまも元気に過ごしているのは彼のおかげだ。少なくても俺はそう思う。
みんなそれは分かるからこそ、この話はもう終わりだ。
そう考え込んでいたら………
「ユウキ?」
「あのねアスナ。少し、
そう呟いた時、俺はテイルの話、テイルの考え方でおかしなことがあるかと首を傾げたが、ユウキの言葉で気付くことになる。
それは本人がそんな事は考えていない。いないからこそ気づかなかったこと。
それがどういう意味を持つか、この時の俺は想像もできなかった………
◇◆◇◆◇
「信じています、信じていますよ。あなたのことを………」
そう呟きながら、彼らを見守るお面屋。
「例え傷を受けていても、必ずや成し遂げると」
暗闇の中、ただ静かに、静かに見守り続けた………
ユウキが気づいた違和感、ムジュラの仮面により自信を付けたスタルキッド。
謎が謎呼ぶ中、次はついに沼へと急ぐ。
それではお読みいただき、ありがとうございます。
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第6話・沼の戦い・狂いだす物語
一応、この先の事はある程度説明したが、全てが全てその通りになる訳ではないだろう。テイルは俺たちに物語、ムジュラの仮面のストーリーの進み方は教えたが、内容は教えていない。
教えてくれたのは、今から行く四つの場所にボス戦があり、タイムリミットがある事。
「タイムリミットですか?」
「ああ。三日の間に、勇者は時の歌で巻き戻りなどを繰り返して、四つの場所を巡るのが本来の流れだ」
だが、俺たちはそう何度も時の歌に頼る事はできない。本物の勇者はいないのだし、また同じことができる保証は無い。
だからこそ俺たちは三日の内に全ての場所を回ることにする。場所らしい場所には、テイルの情報通りの町や集落がある。まずは情報集めにデクナッツ族の王国、沼へと進む。
馬車に揺られる中、俺はテイルの事を考えていた。
あの時ユウキが、彼が全てを話してくれた後、ユウキが気づいた事が真実かどうか。
「どう思うシノン?」
「………正直、言われ無きゃ気づかなかったわよ」
そう話し合いながら、ユウキを膝に乗せて、フェリサを肩に乗せて馬を操るテイルを見てみる。彼自身に問題がある訳では無い。あるはずがないのだ。
ならこの違和感はなんだ?
喉に魚の骨が刺さったような違和感に気づきながら、馬車は進んでいく。
「この先は沼か、なにが待っているんだか」
「うんそうだ………って、キリト君!?」
アスナが俺が持つ物に気づいて驚き、シノンたちも気づいて、驚いたり呆れたりする。
「キリト君、それって……?」
「デクナッツの仮面だよ。もう外れたから、問題ないと思って拾ったんだ」
「あんた、収集癖をそんなところで………」
「ん? あーキリトー」
馬車を操るテイルが首を傾け、馬の扱いを隣に座り、案内するシークに預ける。どうもこの中で、生きている馬を操れるのはテイルとシークだけ。当然と言えば当然だな。
「どうしたテイル?」
「その仮面、俺が知っている『デクナッツの仮面』は取り外し自由で、デクナッツ族に成れるからな~」
「呪いのアイテムかなにかか?」
「呪いって言うより、その種族の魂が宿ってる」
「えっ!?」
その話を聞き、仲間たちは一斉にチャットを見る。
「し、知らないっ! そんなの知らないわよ!!」
チャットは驚きながら馬車の中を飛び回り、ピナが目で追う。
なんとなく居心地が悪くなり、テイルたちの方へ移動するチャットを見ながら、俺は仮面を懐に仕舞う。その様子にアスナたちは呆れた目で見ていた。
そんな中で、俺たちはジャングルのような場所へとたどり着いた。
◇◆◇◆◇
「ここがデクナッツ族が暮らす国………のはずなんだが、これはなんだ?」
ジャングルのような熱帯林が広がる中、独特の臭いが辺りから出ている。川らしい水辺は、うっすら紫色であり、チャットはおかしいわね?と悩む。
「なんか臭くない? なにか腐ったような臭いがするわよ?」
「はい、いくらなんでもおかしいです」
シークが首を傾げ、リズとシリカが鼻を押さえる中、テイルだけは難しい顔をして、水を見る。
水に僅かに触れようとした時だ。
「待ってッ!!」
そう声が聞こえたと思ったら、木々の間から無数の猿たちが現れ、すぐに手を引く。
「あなたたちは?」
「オイラたちはこの辺りに住んでるモンだ。いま水に触れない方が良いぜ」
「この辺の水はもうドクが混ざって飲めないんだ」
「毒だって? どういうことだ?」
キリトの言葉に、猿たちは安全な場所を紹介して詳しい話を話し始める。
ここ最近、沼地に毒が広がって住めなくなってきて困っていた。
そこにデクナッツ族の姫が、川の上流にある神殿が怪しいと猿たちに相談して見に行くと、化け物が姫を捕まえてしまったとのこと。
「姫さんはオイラたちの大切な大切な友達なんだっ!!」
「オマエたち、武器持ってる。強いか?」
「バケモノ退治して、姫さん助けてくれよ!?」
猿たちに懇願される中、テイルは難しい顔をしながら聞いていた。
「みんないいよな?」
「俺たちにも関係あるんだろ? いいぜ、助けに行こうぜ」
キリトは即座に頷き、ユウキもやる気に満ちた顔で頷く。
だがクラインが少しだけ疑問に思い、尋ねてみた。
「そのデクナッツ? の姫さんなんだよな。国の奴らはなにしてるんだ?」
「それは………」
猿たちは言いにくそうに口を閉ざし、テイルは難しい顔をする。
「ともかく情報が欲しい。その毒が流れているところに行くためにも、一度デクナッツ族の国には行ってみよう」
テイルはそれに静かに頷き、彼らは奥地へと足を勧めた
◇◆◇◆◇
案の定と言うか、デクナッツ族の王国はすぐに見つかり、中に入るだけになるが………
「ここはデクナッツ族の王国の城だッピ」
「よそ者は来るところじゃないッピ!!」
そう言われ、門番が通してくれず、少し離れた位置で様子を見る。
「んでどうするよ? こんなんじゃ神殿に出向いた方が速いんじゃないか?」
クラインがそう言うが、できれば止めておきたいことがある。
「悪いが中の様子が気になる。俺の知識通りなら少しまずいことになってるはずだから」
「だけど、デクナッツ族以外は入れてくれないですよ?」
アスナの言う通り、デクナッツ族じゃ無ければ城には入れない。
だがここはゲームじゃない。
「俺は入れるさ」
そう言いながら狼の姿へと変わり、この姿で使える『センス』を研ぎ澄ます。匂いはもちろんの事、この姿なら通れそうな道を視覚化できる能力。
剣を弾き咥えながら、俺は俺で城の周りを確認する。
城は木の城壁で囲まれていて、ほとんどは木材で作られた建物だ。その中で隙間を見つけて、そこに潜って壁の向こう側へと向かう。
ユウキたちには悪いが、狼に成って理由も言わない為か騒いでいたが、あえて無視して先に進んだ。
◇◆◇◆◇
テイルが狼の姿になると、臭いを嗅いでから、土を掘って壁の向こう側に行ってしまった。
「テイルって時々勝手に動くよね」
「あのバカッ!! 一人で行動するなんて………」
ボクは呆れながらテイルの通った道を見ながら、そうシノンが眉間にしわを作りながら呟いて、頭上に生えている木々の枝を見る。
そして《アルティメットファイバーガン》、略してUFGを取り出して、枝に飛び移った。
「シノのん!?」
「ごめんなさい。銃が重いから私一人で行くわ」
「ボクもこちら側から行こう」
そう言ってお姫様にしては身軽に動かして木々を飛び回り、シノンの側に来るシーク。そのまま二人して城壁を飛び越えて行ってしまう。
「シノのん!? シークさんまで!?」
「行動力あり過ぎだぜ全く………」
「そうねって………あたしたちの中で一番行動力のあるバカはどうしたのッ!?」
リズの言葉にボクらはすぐにキリトを探した。
だけど見渡している中でキリトの姿は無く、門番の所で黒い服を着たデクナッツが通り過ぎていくのを確認する。
「キリト君ッ!?」
アスナは驚きと共にその名前を呼んだけど、黒いデクナッツはそのまま城内へと進むんで行った。
◇◆◇◆◇
俺が入口から堂々と入っていくと、懐からユイが出て来て呆れた顔で見て来る。
「パパ、ママたちに黙って来ていいんでしょうか?」
「いいんだよ。こうでもしないとテイルは先に進んでたし、テイルが言うまずいことってのも気になるんだ」
テイルがいまの状況を無視して城の中を優先するには意味があるはずだ。
ユイが少しだけ悲しそうに考え込み、俺の肩に座り込む。
「どうしてテイルさん。全部ご自分だけで解決しようとするんでしょうか……?」
「それは………」
分からない。彼の性格だからと言えばそれで終わってしまうが、もしも【何か別の意味】があったとしたら………
そう考えていると、様々な動物の鳴き声、いや泣き声が聞こえ出す。
「? なんだ?」
俺が木造の廊下、その先を覗き込むと、多くの動物が木の棒に括り付けられて、その下に火を点けられようとしていたところだった。
「なんだこれは!?」
◇◆◇◆◇
キリトが見たのは、デクナッツ王の横暴だった。
「さあ自白しろ、姫を攫ったのはどいつじゃ!! 隠すと全員火あぶりじゃッ!!」
「王よ、どうかお気を鎮めくださいませ」
執事であるデクナッツ執事は、こんな事よりも姫を探し出す方が良い。そう言うが王は聞く耳を持たず、兵士たちに火を点けるように命じた。
「待ってくれデクナッツ王ッ! 彼らは犯人じゃない。姫を攫ったのは沼地の神殿にいる怪物だッ!!」
急いでキリトが大声で叫んだが、デクナッツ王は気にも留めず、執事だけがえっ?と顔を上げていたが、兵士たちが火を点けようとした時、一匹の狼が閃光のように動く。
「なんだっピ?」
兵士たちが混乱する中、木の棒に括り付けられた動物たちの縄を、咥えた剣で斬り助け出す狼。
「彼奴じゃ~~~ッ! 彼奴が姫を攫ったんじゃ、間違いないッ!!」
「お、王よ。それよりも先に、あの黒服の者から詳しい話を」
「ええいうるさいッ! 王家に立て付く者を捕まえよッ!!」
その叫びに兵士たちが狼へと卒倒するが、すぐに壁や床を蹴り、縦横無尽に動き、兵士の手をかいくぐる。
「うまい。この隙に王様を止めるぞ」
「パパッ!?」
ユイの叫び声に気づき、足を止めたキリト。
いつの間にか蛾が羽ばたき、城の至る所を飛んでいた。
「いつの間に……この蛾は?」
瞬間、女性の悲鳴のような声が響き渡り、壁が壊された。
「なんだ?!」
キリトが土煙の中から巨大な剣を見つけ、崩れた壁の向こう側から巨大な蛾が入り込む。
それと共に入ってくるのは、仮面を付けた大男。
『我は
「か、神ッ!?」
「おお神よ~~!!」
王がすぐに頭を下げ出したが、オドルワは気にせず、王に告げた。
『デクナッツ王は我への貢ぎ物を怠けた。よって姫を生贄をもらい受けた』
「ひ、姫をッ!?」
「か、神よッ! どうかそれだけは、それだけはッ!!」
『ならぬ、この城にいる全ての者に罰をッ!!』
盾と剣を持つ密林仮面戦士オドルワが『ガモーズ』を引き連れて暴れ出す。
女性のような叫び声を上げるガモーズ。動物たちに襲いかかろうとした時、別の悲鳴が響き渡る。
「もう一匹かッ!?」
「イッヤァァァァァァァァァァァァァ、蛾、巨大な蛾ッ!!」
「あ、アスナさん。落ち着いてください」
ガモーズに泣き叫ぶアスナと、それをなだめるリーファ。ユウキたちも壊されていく城に驚きながら、シノンたちも中に入ってきた。
「騒がしくなったと思ったらこれはなに?」
「………邪悪な気配、とても大きなものが三つ……?」
そうシークが呟く中、仮面を取り、キリトはオドルワの剣を止め、仲間たちに叫ぶ。
「こいつらが元凶らしいッ! クライン、アスナはこっちに。後のみんなは巨大蛾を頼むッ!!」
「そっち!? わたしそっちでいいのねッ!?」
大急ぎでこちらに来て、その細剣を振るい、オドルワを押し出すアスナに、内心先ほどの勘違いがバレないことを祈るキリト。
そんな中テイルも狼から人に戻り、最後の動物を助け出した。
「キリト、一気に畳みかけるぞ」
「おうッ!」
そうして剣を構え出した時、オドルワの仮面の奥、その目が怪しく輝く。
『神に逆らう愚か者たちよ、神の裁きを受けよッ!!』
その時、空気が一変した。
「? 暑い?」
急に現れた熱気に驚き、次の瞬間、お城の天井が吹き飛んだ。
「ひぃぃぃぃぃ!?」
「あ、あれは……?」
王と執事が驚く中、空にとぐろを巻く、赤い竜に、テイルは息を飲む。
「な……んで………」
「テイル?」
「なんで彼奴が、違うあの時は子供だったはずだ。だけどこの気配、そんなまさかッ!?」
「テイル君?」
テイルは青ざめた表情で竜を見る。
『さあ偉大なる竜よ、愚かな者どもを火に包み込めッ!!』
それと共に雄たけびを上げる邪竜の名、『灼熱穴居竜ヴァルバジア』。
テイルが偽物だった頃、勇者の友人にして、
突然現れた神を名乗る仮面戦士。その後に続き現れる魔物。テイルたち、テイルに刻まれた傷が開く。
来年もよろしくお願いします。お読みいただきありがとうございます。
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第7話・退治する龍
巨大な蛾のモンスターと共に現れる仮面の戦士。そんな中で新たに現れた竜に、テイルは動揺し始める。
紅蓮の炎を纏う邪竜が城を焼き尽くさんと襲い掛かる。
それと対峙し続けられたのは、一人の剣士。
「やめろッ! お前があの竜なら、もうやめてくれッ!!」
剣士の悲痛な叫び声をかき消すように、その雄たけびが空気を震わせ、デクナッツ族は怯え、動物たちは震えあがる。
竜の瞳にそれが一つ、雫のように黒い何かがこぼれていく。その様を見られたのは、姿を偽る一人の巫女姫。
(なんなんだこれは、一体………)
シークは困惑する中、剣士は叫びながらも竜の突進を防いでいた。
◇◆◇◆◇
「ピナ!!」
泡のプレスを吐き、ガモーズの動きを止め、リズとユウキが畳みかけるようにソードスキルを叩きこむ。
「ぷっはっ~ソードスキル使えてよかったです………」
「使えなきゃ、絶対あたしらお荷物だったわよ!!」
詰まる息を吐くリーファ。リズの方はゲームのように硬直時間がある為、少し冷や冷やしながら戦った。
シリカが切り裂かれたガモーズに戦々恐々しながら見て、シノンはリロードをしている。
そんな中、ユウキは三人と一人の方を見た。
「テイル?」
「テイルさん、あの竜を知っているのかな?」
炎を吐き出す竜の炎をギリギリで躱したり、盾で防いだりするテイル。どちらにしても熱気で身体の至る所は煤だらけであり、盾を持つ腕はすでに熱で焦げだしていた。
それでも痛みよりも叫びが強く、彼はずっと叫び続けている。
「………この世界で傷付くと、ボクらどうなるの……?」
ユウキの言葉にゾッとするシリカたち。だけど、だからこそ、テイルのいまの行動を止めなければいけない。
そう考え込んでいると、ユウキの方に二つの妖精が激突する。
「いった~!?」
「あつ~いッ! このままじゃ私たちまで丸焦げよッ!」
「なに考えてるのあのバカッ!」
チャットとフェリサ。テイルの側にいた妖精がやってきて、フェリサは苦しそうにテイルたちを見る。
「フェリサ、もしかしてテイルさんとあの竜の関係を知ってるの?」
リーファの言葉に、苦虫を噛み潰したように顔を歪め、それが真実かどうか、考え込む。
「あ、あの方は、『赤の龍』様のご友人なのですか?」
デクナッツ王の執事が恐る恐る話しかけてきた。その言葉にフェリサがいち早く反応する。
「赤の龍ってどういうことッ!? あの龍が何なのか話なさいッ!!」
「ひぃ!? は、はいぃぃぃぃぃぃぃ」
執事が言うには、遠い異国の地より来訪した赤の龍。力を司り、この地の巨人に頼まれてから、世界を巡る中で立ち寄る場所として、この地方に立ち寄ると言う龍の一種。
ゴロン族にとっては神であり、精霊の一種では無いかと言われる存在。
「竜族だと、そう成長していてもおかしくない。だとしても、なんでまた彼奴が………」
苦し気にテイルを見るフェリサ。その様子にユウキは熱気に驚きながらね、静かに尋ねた。
「フェリサ、あのドラゴン。テイルの………」
「違うわ……テイルの友人じゃない。時の勇者の友人よ………」
そう悲し気に呟き、目の前の光景を見つめた。
◇◆◇◆◇
踊るように剣を振るうオドルワ。だがそれをかいくぐり、剣を振るうアスナとキリト。クラインのサポートもあり、押していた。
『あの者にヴァルバジアは討つことはできぬ。大人しく神の裁きを受け入れよ』
「どういうことだ。彼とあの竜の関係を、お前は知っているのか!?」
『ふふっ。本来ならまじりあうことは無い、時代と世界を行き来する。まさに愚かな男だ』
(ッ!? 本当に彼とあの竜を知っているのか? ならあの竜はどんな関係だ?)
「キリトッ!!」
クラインはとっさに生えていたバクダン草を引き抜き投げつける事で、横なぎに振るわれた剣を吹き飛ばし、キリトはすぐにその場から飛びのいた。
「考え事は後だ! いまは目の前の奴をどうにかしないと」
「ああ………」
キリトは静かに踊り狂う相手の攻撃を避けながら、ユイが腰辺りにある小瓶を見つけ、何かに気づく。
「パパ!? あのボスエネミーの腰にある小瓶から声が聞こえます」
「あの子瓶、ユイが飛び込められていたのと同じ………クラインッ!!」
「おうよッ!」
クラインはすぐに駆け出し、キリトは小石を掴み、力を込めて狙いを定める。
シングルシュート。投擲のソードスキルを放つと、小瓶は壊れ、中から出て来たものをクラインが確保して、すぐに避難した。
「やっぱり、誰か閉じ込めていたのか」
『己ぇぇぇぇぇぇ、生贄を返せぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!』
そう言い、クラインに斬りかかろうとするが、その背後、後頭部に銃声が鳴り響く。
『ガアァァァァァァァァァァァ!?!』
「油断大敵」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
崩れたところ、シーク、リーファ、ユウキが各々の武器を叩きこみ、巨大な悲鳴を上げて、身体が灰になるオドルワ。
「やったか!?」
身体や武器が消える中で、たった一つ残る物があった。
黒い闇が仮面をかぶるようにそれは宙に浮き、静かに浮遊している。
『無駄だ。いまだ邪竜が健在の中で、我は完全に滅びはせぬ』
そう言い、その暗闇は竜の頭上へと飛び、暗闇が竜の頭部に張り付くように覆い隠す。
それを見たテイルは、ただ目を見開き、剣を見つけた。
◇◆◇◆◇
思い出せるはずがない。その時の俺は『勇者』で偽物だ。
この竜は間違いなく、時の勇者が子供時代、森を出て間の無い頃、人に捕まり売られかけていた竜の子。
心が、魂が悲鳴を上げる。
この竜はもしも魔王が健在なら七年後の世界で、魔王の手によって邪竜としてゴロン族を襲い、何人も命を奪っていた。時の勇者は何度も対峙するが、呪いを解くことはできず、その首を斬りおとすしか道は無い。
【マタ、俺ハ君ヲ殺スノカ?】
それしかないのはもう分かっている。盾を持つ腕は焼け焦げていて、持っているのがやっとだ。
ボロボロの身体の中、痛みが走る。
心が、魂が、精神が痛いと叫んでいた。
(また俺は、分かっていて進むのか………)
それしかないのは分かっている。自分が勇者では無いし、それ以上も以下もできないのは理解している。
そう思い、剣を握りしめた………
「『スー』『フィツラ』『ヘイン』『アウストル』」
言葉が紡がれ、紡がれた言葉が身体を癒す。
「よかった。回復魔法、使えた~……」
「テイル君ッ!!」
駆けつけたアスナたちが俺を見つめ、キリトたちは走り出す。
「待て、待ってくれッ!! そいつは俺が、俺がやらなきゃいけ」
「違う、違うよテイル君ッ!!」
そう言ってアスナが俺を止め、その手に回復魔法をかける。
「あの竜の子の事はフェリサちゃんから聞いた。テイル君、あの竜を助けたいんでしょ?」
「そ、れは……だけど、いまそんなこと、言ってる場合じゃない」
周りは熱気により火が点き、徐々に森が、沼が火に覆われ出す。
このままじゃいけない。いけないからこそ、この手で俺が………
「テイル君ッ!!」
そう叫び声と共に頬に痛みが走る。
アスナは泣きそうな、悲しそうな顔で俺を見つめた。
「お願い、わたしたちを頼って………。あなたまであの頃のキリト君みたいに、一人で全部背負わないで」
「………アスナ」
「そうですよテイルさん。いまはあたしたちが付いてます。勇者じゃなくても、テイルさんは凄いんですから」
「リーファ………」
「ユウキからの伝言です」
そう言ってボロボロの俺は、回復魔法のおかげで持ち直し、熱ダメージ軽減魔法をアスナから受けながら………
「『みんなで助けよう♪』、それがわたしたちの選択です」
その言葉を聞き、俺は一体どんな顔をしたのだろうか。
しばらく黙り込み、そして………
「ああ。アスナ、リーファみんな。力を貸してくれ」
そして俺は、暴れ出す火の竜へと再度立ち向かう。
◇◆◇◆◇
「まずはあの仮面を剥がすぞ!!」
キリトの言葉に、流れ込むように闇の糸みたいなものを切り裂く。
だがすぐに液体のように仮面本体からそれが流れ出し、顔に掛かる竜の子に張り付いた。
「うぅ~。ねばねばする………」
「だけど、切れちまえば散りみたいに消えるな………」
リーファは切った感触に嫌悪する中、クラインは斬った黒い闇を睨みながら、空を泳ぐ竜の子を見る。
「ともかく問題はこの魔法が切れる前であることと、空が飛べないところか………」
キリトは僅かに自分を覆い光る、アスナとリーファの魔法を見る。熱や火に対する耐性を上げているが、それでも有効時間がある。その内になんとかしなければいけない。
だが相手は空を飛び、強力な火を吐く。このままではこの地域は火の海だ。
「俺に任せてくれないか?」
「テイル!?」
キリトたちと同じように魔法をかけてもらい、剣を握りしめて前を見る。
そして何をするか話した後、それを聞き、みんな納得して頷く。
「けど、危険なことを自分からするんだから、後でお話ね」
ユウキはそう言い、囮になる為にキリトと共に前に進む。
その様子に肩をすくめ、静かに剣を持つ手を強めた。
「行くぞ」
そう決意して、剣を振り上げた状態で構え、その時が来るのを待つ。
◇◆◇◆◇
「こっちだよッ! ボクらが相手だッ!!」
『こざかしいッ!』
竜を連れたオドルワは、その巨体を生かして突撃する。彼らが待っていた攻撃に、キリト、クライン、ユウキは構える。
突撃した竜の子を見るキリトたち。すぐに剣を構え、それを………
「「「でえいやぁぁぁぁぁぁ!!」」」
『ッ!?』
オドルワは行動に困惑した。いままで竜への攻撃はしなかった彼らは、竜の頭部を頭上から叩くと言う行為をした。
その程度で傷を負うとは思えないが、その時に気づくべきだった。
(やっぱりこいつ、竜の身体と仮面のダメージが繋がってない)
仮面は頭上に浮いたままだが、少しだけ吹き飛んだおかげで、仮面から離れた竜。
粘着力がある暗闇がいまだに竜に張り付いているが、その間へと飛び込む剣士が居た。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!」
いままで貯めた力を開放するように、テイルは咆哮を上げて竜と仮面を繋げる闇を睨む。
巨大な円が描かれるように身体をひねり、大回転斬りを放ち、全ての闇を纏めて切り離す。
『なにッ!?』
それは、過去。時の勇者だった頃、竜の首を叩き斬った技だった。
(だけど、今度はお前を、助ける為にッ!!)
だが、このままでは仮面は逃げるか、また竜の子に張り付くだろう。
それは………
「チェックメイト」
瞬間、リロード済みのライフル全ての弾丸を一点へ向けて、発砲した。
一瞬だけ動きを止めた瞬間、リーファとアスナが剣を光る。
『バカなッ!? ただの人に、トドメを刺させる気だと!?』
「それでもッ!」
「ここで引く気は無いわッ!!」
頼まれた二人は全力を込めて、仮面にソードスキルを叩きこむ。
閃光が迸り、仮面に僅かに亀裂が走り、悲鳴が轟く。
その悲鳴は竜の子も放ち、その場に沈む。
仮面から先ほどとは違う暗闇が漏れ出し、そこから巨大な何かが現れた。
「あれは?」
シークはそれが精霊などの類と分かる中、何かの音色が響き渡る。
「これって……?」
ユウキたちが困惑する中、テイルだけが難しい顔をしながらそれを見た。
巨大な腕と足。それを見守り、歌が消えた時に青空が広がる。
「まずは一体、助け出したか」
そう呟き、ヒビが入った仮面を回収。こうして沼の戦いは終わりを告げた………
テイルは他人に後を任せると言う行動を取る。昔では、特に今回のようなことで他人に任せるなんて、夢にも思いつかなかった。
暗闇は、黒い感情はいまだ心の中に残る中、彼は竜が無事なことに安堵して、糸が切れたように倒れる。
「信じてました、信じてましたよ勇者さま」
そう笑いながら告げるお面屋。何物にも気づかれ無いように姿を消し、勇者の旅を見守り続ける………
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第8話・順調な始まり?
アスナ「テイル君ッ!!」
テイル「アスナ。どうした?」
アスナ「と、トイレッ! 手、手が!」
テイル「ああ。紙を渡せば五ルピー手に入るよ」
アスナ「そんなの知らないすぐに切ったから分からないお願い確認してッ!」
テイル「………」色々言いたいことがあり、言葉にできない
沼の戦いが終わり、後始末だ。俺はキリトとして様々な事は体験してきたが、現実と仮想とでは、戦いの後は天と地ほど違う。
レイド戦が終わった後、そこに残ったのはけが人や壊れた建物。やるべきことは山積みだった。
「本当に助けていただき、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるのは、デクナッツ族のお姫様だ。なんでも瓶の中に閉じ込められている間、ずっと城の様子は見ていたので、俺たちに話しかける前に父親を散々説教していた。いまだ反省を促している。
俺たちの方はテイルが一番重傷であり、肉が焦げた臭いがしていて、シークが回復魔法の他に薬を使おうと話して、部屋を借りて治療している。もしかしたら変装を解いているのかもしれない。
テイルは盾が熱している中でも使用、腕や手のひらが焼かれていたにも関わらず大回転斬りと言う技を使った。ユウキやアスナに説教されていたよ。
そしてその頑張りがあったからか、竜の子は大人しく目を覚まし、空へと帰る。
テイルはほっとした顔で静かに眺める中、僅かに声が聞こえた。
『あり……がとう………ている』
その言葉に彼はハッとなり、そして静かに微笑んだ。
これで安心した後、城の整備や森の被害確認。それと王様がやらかした後始末。お姫様はあれこれ動き回りながら、俺たちはシークたちが来るのを待つだけだ。
「だけど気になることはある」
「うん。あの仮面の剣士、なんでテイル君とあの竜の子の関係を知ってるの? それも無かったことに成っている事」
あの竜は時の勇者が幼少期に出会い、友達になった竜。そうフェリサから聞いたときは驚いた。
その後の歴史で、魔王によって邪竜に成り、時の勇者に討たれる歴史がある。テイルは時の勇者を『体験』しているため、幼少期からの友人だった。
「だけどこの世界では、時の勇者は戻って来てるはず」
「シークの話を聞く限り、テイルはそうだって言ってたね」
この世界、いま俺たちがいるのは『時の勇者が子供時代に戻り、自分の歴史を消した世界』らしい。
どうも時の勇者の存在で、三つぐらい歴史が分岐している。それっぽいことをテイルからも聞いていたため、俺とシノンは思い出しながら彼から聞いた話をまとめ上げ、みんなに説明した。
一つは時の勇者が時を遡り、元凶を取り押さえる時代。
一つは時の勇者が魔王を倒し、そのまま時が進む時代。
一つは時の勇者が魔王に敗北した時代だ。この世界は、勇者が時を巻き戻った時代らしい。
「だとしたら、あの竜の子は邪竜に成らず、平和な世界で生きていた。と言う事か」
「それをテイルと戦わせようとしたんだよね? その、仮面の戦士は」
「胸糞悪い話だぜ、ったく」
クラインの言う通りだが、それだと………
「それだと敵、まだ断定はできないけど、おそらくスタルキッドは、テイルが何者か、俺たち以上に知っていることになる」
あの仮面はおそらくスタルキッドと繋がりがあるのだろう。ならテイルの事を彼奴は知っている?
「だとしたら、これから先もテイルの知識を利用したことが起きる? かもしれないわね」
シノンの言葉に、俺たちは竜と対峙していた彼の顔を思い出す。
怒り、悲しみ、苦しみが混ぜ合わせた顔であり、あのままにしていたら、彼はまた罪を背負ってしまう。
誰も望まない罪。彼はそれをいくつも背負っている。これ以上背負わせる気は無い。
その時、借りている部屋がノックされ、窓からサルたちが入ってくる。
「失礼します。皆さん、いまよろしいでしょうか?」
デクナッツの姫様が、執事さんと一緒に部屋を訪ねて来た。
「おサルさんからお話は伺いました。あなたたちの活躍のおかげでウッドウォールは助かりました。改めてお礼を」
「いや、俺たちにも関係がある話だったから、気にしないでくれ」
「それは、あの竜、赤い龍の存在ですか?」
「それもある。実は」
俺たちはスタルキッドの話をしておくと、姫様たちからも妙な仮面の鬼が出て来た。
曰く、最近外国の人間を招いたり、望みや願いを叶えたりもすれば、大切なものを奪ったりすると言う噂だ。
「少し、町の話と違うね」
「ああ。俺たちの方で大切なものを奪ったりは無かったはずだ」
「ですけど、目撃例はいくつかあって、木の実を奪われたなど、そういう話を聞きます。彼も………」
その時、お姫様は顔を伏せて、何か考え込むようにうつむいた。
「彼?」
「い、いいえ。それでその……キリトさん、でしたね?」
「? ああ」
「一つだけ、お願いがございます。できればデクナッツに成った時の姿を、私に見せてはくれませんか?」
「? それくらいなら」
俺はデクナッツの仮面を付けて、デクナッツキリトになった。
姫様はそれを嬉しくも悲しくもある、そんな顔で見た後、すぐに礼を言って部屋を去って行く。
「キリト君?」
「なんで俺? 俺が何かしたのか?」
「いっ、いえ。ただ、その姿のあなた様は、わたくし目の息子と瓜二つなのです」
「執事さんの?」
リーファが首を傾げると、執事が言うには正義感があり、小鬼の噂を調べに、あっちこっち歩き回っていたらしい。
だがいつ頃か、連絡が取れなくなり、お姫様はいまだ彼が帰ってくるのを信じているとのこと。
「姫さんは息子さんが好きだったみたいなんだ……かわいそうに」
猿たちも落ち込む中、俺たちはテイルにそのことを相談することにして、装備や馬車の準備をすることにした。
◇◆◇◆◇
俺の目の前に、シークの衣装ではあるが、長い金髪と耳、サファイヤのような蒼い瞳の女性が焼けた手のひらと腕に薬を塗る。
「これは王家に伝わる薬です。効き目は良いのでじっとしてください」
「ああ」
かなり染みるが気にするほどではなく、まだ傷口に熱がある気がする。
「冷水で少し冷やした方が良いですね。馬は私が面倒を見ますから、あなたはしばらく前に出ない方が良いですね」
「いや、俺が前に出ないといけない」
それを聞き、片腕に触れている両手が強くなる。
シーク………ゼルダの顔は悲しそうに歪んでいた。
「あなたはこの傷で戦う気ですか?」
「勇者はこんな傷を負っても戦った。偽者の俺もそれくらいはできる」
「偽者ですか………」
傷口に薬を塗りながら、次に包帯を巻き始めるゼルダは、そのまま会話を続ける。
「確かに、私の国に伝わる『黄昏の勇者』とは確かに違います」
黄昏の勇者。それは時の勇者の子孫と思われるもう一人の勇者。俺とは違い、ちゃんと時の勇者の技を引き継いだ『本物』だ。
「ですがあなたはそれも体験し、物語を終わらしたのでしょう? なら」
「ならなんだ?」
俺はこの時、どんな顔をしているのだろうか?
肯定されたいのか否定されたいのか。俺の中では勇者では無いのは絶対だ。
俺は、もう勇者なんてものを背負い歩きたくも無いんだから。折り合いはついている。だからと言えど、成りたくないのは事実だ。
ゼルダはなにも言わず包帯を巻き、静かに………
「ですけど、これだけは言わせてください」
そう言って、俺の手を握りしめて………
「彼女にとってあなたは勇者です」
それにしばらく考え込む。
「それは、マリンのことか?」
マリン。本来なら『夢をみる島』で出て来る、現実にはいないはずの少女。
だがこの世界、時系列には存在する、彼女の友人だ。
「彼女もそうですが、彼女は彼女です」
「???」
それに微笑むゼルダは口元を布で隠した瞬間、紅い瞳に変わり、口調も変わる。
「ともかく傷の手当は終わった。少し城のデクナッツ族に話を聞いてから、山に向かおうか?」
「ああ。デクナッツ族も祭りに出るのか?」
「知っているかもしれないが、この地方のお祭りについて話をしておくか?」
「念のため。キリトたちもいる場所で」
それを話し終えて、俺たちはキリトたちの方へと向かうのだった。
◇◆◇◆◇
謎が広がるが、良い話があった。それは祭りの日から三日では無く、ゼルダが隠密で動いていた頃にまで巻き戻ったらしい。
「全く、もっと早くに気づくべきだった」
「すまない、俺が急かした所為だ」
俺が急かした所為でゼルダ、シークは大急ぎで馬車など用意して情報は纏めていなかった。ここで情報を纏め、三日以上時間があることに安堵する。
「これで無理しなくて済むね」
「いや、移動のことを考えると、祭りの日まで時間はやはりギリギリだろう」
「否定はできない。それでも時間があるかないかでは結果が違う」
シークはそう言い、俺だって時間はあるのは良い事だと思う。
だがもう一つの事実、祭りの日、刻のカーニバルの時、必ずスタルキッドが月を落としに来る。
「祭りの日はハイラルから王族や、様々な地方から旅人や観客が来る。そんなところにあの月を落とせば」
「大変なことになるな………」
「テイル。この調子で残りの場所を巡れば良いの?」
「ああ。スタルキッドが関係するが、いまから回る場所には残り三体、同じような敵がいる。それを倒して、封印を解き放たなきゃいけない」
「あの時に現れた、長い手と足のこと?」
アスナが首を傾げた為、それに頷き返し、静かに考え込む。
「詳しくはいまは教えられない。全てが全て、俺の知る事通りに成るとは限らない。先入観は持つべきじゃない」
「別にそれは構わない。いまのところ、チャットの弟が伝えた情報しか、この状況を打開する術は無いからな」
キリトはそう言い、仲間たちは頷き、出発する準備は済んだ。
「次は山。新たに敵が現れる可能性がある。だから………」
「水臭いわね、あたしたちが信用できないの?」
「大丈夫です、みんなテイルさんの仲間ですから」
「そう言うことだ。お前もたまには俺らのこと、頼りにすればいいんだよ」
リズ、シリカ、クラインはそう言い、ユウキは静かに手を握りしめる。
「ボクもこのままで良いって思って無い。だから手伝わせてテイル」
「ユウキ………」
仕方なく苦笑し、俺は静かに頷き、剣を腰に下ろして、弓矢の方を確認する。
しばらくこっちで戦わなければいけない。
いまだ不安は残るものの、いまは進むしかない。それ以外に道は無いのだから………
◇◆◇◆◇
黒の剣士、キリトたちは少しばかり引っかかりを持つ。
自分の事を偽者と断言するテイル。彼が話す言葉の先々、あの言葉、絶剣が気づき、意識し出した言葉が脳裏をよぎる。
「ああなんて言うことか……ッ!? このままで本当にワタクシの仮面を取り戻すことができるのか?」
そう悩む男だが、カラカラと動き回るたびに仮面と仮面がぶつかり合う。
「ええ、ええ大丈夫、大丈夫。彼はきっとなんとかしてくれる。なんたって彼は『多くの勇者を演じた』ヒーロー。必ず、必ず取り戻してくれる」
信じなさい信じなさい。己の進むべき道を、自分の力を、自分が持つもの全て。全て全て、自分を信じるのです。
「ああ、俺がやらなければいけない」
キリトたちに戦わせてはいけない。ユウキを守らなければいけない。
「俺がやらなきゃいけない……俺が、どうなろうとも………」
信じなさい、信じなさい………―――
男はそう呟きながら姿を消し、一向は山、スノーヘッドへと向かう。
不穏な空気を残す中、彼らは雪吹雪く山へと向かいます。
お読みいただき、ありがとうございます。
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第9話・雪山と変わる物語
雪が吹雪いている山の中、一匹の狼がソリを引いて雪原を駆ける。
大型のソリはその場で作られた簡易な出来物だが、ギリギリ全員を乗せる事に成功して、蒼い銀狼は縄を咥えて必死に引っ張る中、ソリに乗るアスナは複雑そうに狼を見た。
「いいのかな? テイル君、腕は怪我したままなんだよ?」
「狼の姿だと怪我は響かないのか? まあそれにしても、この人数を乗せるソリを作って引っ張るのはな………」
黒の剣士キリトは呆れながらすいすいと引っ張るウルフテイルを見ながら、ユウキたち女子は心配しつつも、固まって温め合っていた。
シノンだけは無茶ばかりしてと文句を呟く。
「焦り過ぎよ全く………」
「ま、まあどんだけ時間があってもよお、タイムリミットがありゃ、人間だれしも急ぎたくはあるわな」
クラインがそう呟くと、シノンは鋭い目で睨み黙らせた。
「けどこの寒さは聞いてないよ~」
「おかしいな……? まだこの時期は雪は降らないし、降ったとしてもここまで酷い事は無いはずだ」
シークが首を傾げながら、猛威を振るう吹雪を見つめる中で、アスナがカタカタと震えていた。
「寒いのかアスナ?」
「へっ? あっ、えっ、ち、違うよっ。わた、わたしは………」
アスナが僅かに震える中、ひと際震える時がある。
それはリーファがアスナの次に気づく。
「お兄ちゃん? 吹雪の中で何か聴こえない?」
アスナは何も聞こえないッ!!と大声で叫ぶが、リズとシリカが落ち着かせ、ユイとフェリサ、チャットが少し飛び、辺りを見渡す。
「吹雪の中、何か声が聞こえるわね? 泣き声?」
「確かに、それに似た声ですね。この山全体に響き渡るほどの声音です」
「確かこの山、スノーヘッドって、ゴロン族の集落があったわね。もしかしたら何かわかるかもしれないわよ」
「道案内できるか?」
チャットにそう訪ね、チャットはすぐにOKと言ってウルフテイルの側に行く。
その毛並みに埋もれながら、方角を支持しつつ、ユウキはシリカと共に肩を合わせていると………
「あれ?」
「きゅい?」
ユウキとピナが声を合わせ、それと共にテイルも停止して周りを見渡す。
「どうしたって言うの?」
「泣き声っぽいのと一緒に、別の声聞こえない?」
「えッ!? そ、それって………」
怯えるアスナ。視界を遮りそうな吹雪の中、その時に聞こえて来る何かは………
『無念だ………くや………ゴ………』
無念と嘆く言葉。それを聞き、リズとリーファ、シリカとユウキは顔を青ざめ、キリトとクラインはなにを言っているか耳を傾け、テイルもまた耳を立てた。
「「イッヤァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ―――ッ!?!」」
と言う叫び声が響き渡り、男性三人はそれにより耳を押さえ悶絶する。
「なっ、なにッ!? 敵!? 敵なの!?!」
「いえ、シークさんとママが声に驚いて悲鳴を上げただけです」
ユイが事態をそのまま声にして、シークの方は目が蒼くなり、ユウキを抱きしめていて、アスナもまたユウキを抱きしめていた。
ユウキは「むぎゅ………」と潰されていて、チャットは驚きながら文句を言う。
「ちょっとこんなところで大声はやめてよねっ! もし雪崩でも起きたらどうするのよっ!!」
「おい待てやめろ。そういうのはフラグって言う………」
キリトが慌ててチャットに話しかけていると、遠くから地鳴りのような音が鳴り響いていた。
「………テイル、この場合はどうするんだ?」
「ッ!!」
大急ぎで周りを見渡したテイルは、洞穴を見つけて必死に走り出す。
地鳴りは大きくなる中、山の方から白い煙が近づいているのに気づく。
「あーーーーーーッ!?」
「テイル早くッ! もっと早く!!」
「「ご、ごめんなさーーーいーーーッ!!」」
「いいからタイミングを見て飛び込むぞッ!!」
妖精たちがテイルを僅かにでもいいから先に進むよう祈りながらテイルを押し、ソリの上のキリトたちは、ソリから飛び出して洞穴に飛び込むよう、タイミングを見る。
テイルはそれを気にしつつも、ただ前に向かって全力を持ってソリをギリギリまで運ぶ。
白い津波が辺りを押しつぶす間際、彼らが洞穴へと飛び込む瞬間があった。
◇◆◇◆◇
「ぜえ……ぜえ………」
「て、テイルさん、大丈夫ですか?」
「な、分けないでしょ!?」
「て、テイルさんっ!?」
リーファ、リズ、シリカの順で洞穴の中で大の字で倒れているテイルに駆け寄り、アスナとシーク、いや変装が解けていてゼルダが申し訳ない顔でテイルを見る。
「むーむむ、むーむーむーっ!!」
「俺は良いから………ユウキ、が、つぶ、されている」
二人にしがみ付かれているユウキが手をじたばたさせているが、二人とも泣き顔で離そうとしない。
キリトとクラインもテイルと共に肩で息をして、洞穴を見渡す。
「本当に洞窟か何かか? 熊でもいそうだな」
「お兄ちゃんそれこそフラグだよッ!!」
『無念だゴロ………』
その瞬間、声なき悲鳴を上げる二人。ユウキが「むきゅう」と言う悲鳴を出す。
テイルは息が整わず、ぜえぜえ言い続け、キリトが剣を掴む。
「なんだ……?」
奥の方をのぞき込むと一枚の板があると思ったとき、うっすらと光が浮かび上がり、それが姿かたちに変わった。
『無念だゴロ………』
それは岩のような人のようなものであり、ただずっと、無念、くやしいとつぶやき続ける。
「テイル、彼は?」
「………ゴロン族、岩を食べられ、岩のような体を持つ種族です」
シーク、ゼルダが震えながらも説明して、ユウキを開放する。ただいまだにアスナを抱きしめられて、胸に顔をうずめているために苦しそうだ。
テイルはそれにツッコミを入れるべきか、こっちに話をするべきか、息を整えようとしている。
「確かこの辺りに住んでるんだったな」
『………おめえ、オラの声が聞こえるゴロ……?』
そのゴロン族は話しかけてきたため、キリトはクラインと顔を合わせる。シリカ、リズは、アスナからユウキを引っ張り出そうとしていて、リーファはテイルの背中を擦っている。ゼルダは顔は怯えていないが、震えていた。
「………」
ゼルダに服の裾を掴まれているシノンが顔で「あなたたちが話なさい」と訴えていた。
「俺の名前はキリト、こっちはクライン。あんたはいったい……?」
『オラの名は『ダルマーニ3世』。誇り高き、ゴロン族の戦士の一人だゴロ』
「その戦士さんが、なんでまた……幽霊って奴なのか?」
クラインの言葉に違うと呟き、自分の身に起きたことを語りだす。
◇◆◇◆◇
ゴロン族が住むスノーヘッドに住まう彼らは、この土地から採れる石を食い、繁栄していた。
だが山に『仮面機械獣ゴート』という魔物が現れ、集落を含めた山全体を雪で閉ざしてしまったのだ。
『オラは戦士として、ゴートを倒さなければいけなかったゴロ』
だからダルマーニ3世はゴートに戦いを挑んだ。
『オラのパンチで雪も氷も粉々にしてやるゴロ!!』
『ふん、頭の中も石でできた種族が』
最初は一対一で戦っていた。
必殺の炎のゴロンパンチを決め、トドメを刺そうとした瞬間、変化が起きる。
『ゴロッ!?』
突然何も無いところから衝撃が走り、バランスを崩したところ、突然見たことも無い魔物たちが流れ込む。
刀を持った大型の魔物とその配下が流れ込み、そのうえ見えない攻撃が加わり、追いつめられる。
『ひ、卑怯だダロッ!! 正々堂々勝負しろ』
『そんなことをする必要は無い。お前はここで倒れ、いや』
ゴートは静かに何かを呟くと、暗闇が浮かび上がり、それが矢の形になる。
『お前はスノーヘッドが雪に潰される様を見ていろ』
その矢が放たれ、矢に刺さると共に谷へと落ちていく。
雪のおかげで死ぬ事は無かったが、矢が身体に溶け込むと、身体を自由に動かす事が出来なくなり、そして………
◇◆◇◆◇
『そしてオラは一枚の仮面になったゴロ………』
「仮面になった? だって……?」
テイルは驚きながら仮面を持ち上げる。それはゴロン族のお面であり、ダルマーニ3世は悔しいと呟く。
『戦いに負け、里も守れず、あの子との約束も守れないゴロ………』
「あの子?」
『この吹雪と共に聞こえる泣き声の子ゴロ………』
雪によって閉ざされているが、洞窟の外はずっと吹雪いている。吹雪の音とともに聞こえる泣き声は、小さな少年のもの。
『長老の息子、オラが帰ったら、炎のゴロンパンチを教えるって約束した。その約束すら守れず、あの子に寂しい思いをさせて、何もできず、ただ泣き言しか言えないゴロ………』
「ダルマーニ………」
やっと落ち着いて、ユウキも呼吸を整え、テイルと共に話を聞く。ゼルダとアスナは距離を置くが、話を聞いてしんみりしている。
「まだだ」
そうクラインが呟くと、キリトが持つお面を持ち上げた。
「ダルマーニさんよ、まだ終わってねえよ」
『ゴロ……?』
「俺がお前さんの力を使って、そのゴートを倒してやるッ!!」
そう言ってそのお面、『ゴロンの仮面』を付けることにより、姿を変える。
「うおおぉぉぉぉぉぉッ!! 熱いハートが沸き上がるゴロォォォォッ!」
『お前、オラの代わりに戦ってくれるゴロか?』
「当たり前だ。ほかの奴だって俺たちがなんとかしてやるし、いま泣いてる坊主も任せておくゴロ」
「いや、ゴロはいいでしょ?」
「けどまあ」
「やる事は変わらないわね」
リズは苦笑しつつ、シリカとシノンは微笑み、キリト、テイルも頷き合う。
「ダルマーニ3世、後は俺たちに任せてくれないか?」
『ああ、ああ頼む、頼むゴロ!!』
その時に、この洞窟の奥があり、そこを通れば出られるかもしれない。その話を聞き、彼らは洞窟の奥を進み、そこからまずは里に向かい、そこからゴートのもとに向かう話になる。
「うおおぉぉぉぉぉぉぉ―――ッ!!」
テイルの代わりに、ダルマーニ3世の熱いハートを受け継いだクラインがソリを引き、雪の中を進む。
「………忘れてくれ」
「ごめんなさい、ほんっとごめんなさい………」
シークに戻ったゼルダ、正気に戻ったアスナが謝り続ける。
「ゼルダ、お前力を持っているから、慣れてないのか?」
「むしろ見えるから苦手なんだッ!」
僅かに暗示が解けているシークが文句を言い、テイルは腕をさすりながら先を見る。
「テイル、ゴートの話だけど」
「ゴート一人のはずだ。なのに見えない何かや手下の従えた魔物は知らない」
「テイルも知れない事か、気を引き締めていかないとな」
「ああ」
テイルは山の頂上を睨むように見つめる中、ユウキはテイルを心配しながら、フェリサのように傍に居続けた。
「うおぉぉぉぉぉぉ―――」
こうして彼らはゴロンの里に向かい、ダルマーニ3世の遺志を継いだのだった………
テイル「ゼルダだと暗示が解けて女の子に戻るんだな」
シーク「普段なら問題ない、問題ないんだ………」
テイル(よく近衛隊長とかがこいつの旅を許可してるな………)
ユウキ「テイル~しばらくでいいから狼になってよ~」
そんな会話をしながら、テイルはゴロンになれば転がり、より早くなることを伝えるのに、数時間かかった。
お読みいただきありがとうございます。
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第10話・雪山の決戦
ゴロン族の里に来た俺たちは、クラインがダルマーニ3世のフリをしつつ歓迎された。
「いいのかな?」
「仕方ない、いまはな」
彼、テイルはそうすぐに割り切っているが、俺には
なにより、いま彼はずっと山の向こう側、おそらく敵がいるであろう山しか見ていない。
「キリト君」
アスナに話しかけられ、俺は少し彼から距離を取る。
「やっぱり、その、いまの彼は変だよ」
「ああ………」
自分ばかり負担を被り、自分だけで解決しようとする。
慢心でも何でもなく………
「それ以外に考えがない………」
そう、彼はまるで、それ以外に考えがない、未来が無いように考えている気がしてならなかった。
◇◆◇◆◇
この悪癖らしきものに気づいたのはユウキだ。
ユウキは気づいた。例え先の事が確定していなくても、彼の『知っている事』と『知らない事』があまりに極端である事。
「テイルって、ボクがその、死んじゃうところまでは知ってたんだよね? それはどの辺なんだろう?」
「どの辺……それは………」
「ほら、ゲームとかアニメ、小説って1話2話でお話は完結しないよね? ボクの話だけ知っていて、キリトたち、SAOで起きた事、結構長い期間だよね?」
「確かに、ユウキだけ詳しいのは少しおかしい……?」
「い、いやけどよお。俺だって、人気アニメのキャラクターが活躍した話だけは知ってるってこと、よくあるぜ?」
「メインヒロインじゃなく、お話の中でのヒロインとかですよね?」
「まあ確かに、その話だけ知ってるってことは、あるのかしら?」
クライン、シリカとリズが首を傾げる中で、俺もまた考え込む。
「彼は、俺が物語の中心だったって言ってたから、言いづらかったんじゃないか?」
「まあ、あんたの軌跡がフィクション化されてたらねえ」
「そうだぜ。あの人気女性プレイヤーの閃光の副隊長さんと仲良しだったんだ。ラブコメ間違いなしだぜ」
「そうなのか!?」
「正直、否定できないところはあると思う……」
リーファはそう言い、俺は少し落ち込むと、ユイが懐から出て来て………
「確かに、その作品の作り方で、テイルさんが知っている情報、矛盾点がいくつかあります」
「矛盾点?」
「まずはユウキさんに付いてだけ、詳しく知っている事です。ご病気なのは知っていても、詳しい病名まで知っているかですね」
「………テイルは確か、病気にかからないを願っていた。事故とかじゃなく、後々症状に出るものなのは知っている?」
そうなると少しおかしい。俺も物語の内容は知らないが、知っているキャラクターなどはいる。だが、詳しい内容までと言われるとすぐに答えられない。
「願いも、混乱していたためと言われれば何も言えませんが、『事件が起きない』、または『病気にならない』はダメだったのかどうか、テイルさんが聞かなかったのでしょうか?」
………
俺たちの知るテイルは、いまの彼だ。その前なんて分からない。
実際の状況も特殊過ぎて何も言えない。だが質問も何も無いのは引っかかる。
「すぐにそんなものかと納得したか………」
「けど彼、後々になって後悔したりしてるわよ? これが正しかったのかどうかって。彼には悪いけど、あまりの事に考え込む時間が」
「………いや、彼は『悩んでいる時間』がある。冷静になれる時間はあったはず」
シノンの言葉に、俺は彼の話を思い出す。彼は悩んだと言っていたはずだ。
だがどう考えても状況が特殊過ぎる。それで最善はなんなのか、誰にだってわからないが………
「だけど、彼奴の知る知識が偏り過ぎてる」
デスゲームが起きる。これもまたそうだ。
ソードアートオンラインがそのままタイトルらしいから、こちらの世界でそれが出れば分かるだろう。だけど彼はもう一つ知っているはずだ。
妖精たちが活躍するALO。こちらも知っているはず。少なくてもユウキは主にプレーしているのはこちらなのだから。
「………穴だらけ過ぎる。SAOの事件を知らなくても、デスゲームがどのゲームを指すか分からないと、SAOをデスゲームと認識しないはず」
「ちょっと待って、彼は、いや」
シノンの言葉に彼の言葉の中で『穴』を探す。
そして見つけてしまった。
「黒の剣士、俺がメインだって、話の中心だと知っていた」
「? それがなんだって………」
全員が疑問に思う中、一人だけが答えにたどり着いた。
「なんでキリトを中心に事件が起きるのに、何もしなかったの?」
その言葉に、ユウキの言葉に全員が疑問に思う。
彼は事件の被害者を止めたかった。誰がどのような経緯で死ぬかは分からない。
攻略中かはともかく、彼の性格、いまの性格からして、物語で死ぬだろう人物を見逃すか?
「彼なら知らなくても、有名プレイヤーの顔を探して、俺を特定。その後なら、裏で俺のサポートを勝手にしそうだ」
むしろする。自分のギルドを支えながら、無理矢理身体を行使して戦う彼のスタイルに当てはまる。
もしも彼が、サチたちの時に現れたらと、俺は考えてはいけない考えをしてしまう。
(何を考えるッ!? サチたちの死を予測出来てても、できる事はたかが知れているだろッ!!)
俺は俺に嫌悪しつつ、頭を思いっきり振る。
だけど彼なら俺の情報、少なくてもトッププレイヤーたちの情報は集めているはずだ。
だが彼はしていたのは、ギルドでの活動だけで、そう言った物語に関わろうとした事は無い。むしろ避けていた。
自分の知る物語が狂うから避けた? 違う。
「彼は物語が狂うとか、そんな不確かな事を信じる質か?」
いや違う。彼は流れに身を任せていたが、確信的な何かがあった。デスゲーム、SAOがどのようにクリアされるか知らないのにだ。
デスゲームが起きないのなら、デスゲームが解決するかも分からない。
だけど彼はSAOがクリアされると確信だけはしていた。信じたかっただけか?
「それでも考えられない」
彼の当時の性格上、確実性を上げていたはずだ。なら確実に、トッププレイヤー全員を知っていて、様子を確認している。俺なら確実にそうする。
物語は順調か分からないなら、せめて安心できるように情報を集めるはずだ。
「彼の中でデスゲームは起きるか不明なのに対して、デスゲームはクリアされるのは確定されている」
この矛盾はなんだ?
最後には彼は関わったが、彼の違和感が消えない。彼らしくない。
「なんなのよ」
シノンは歯を食いしばりながら堪えていた。
「彼奴はできない事に、分からない事に苦しんでるのに、何なのよこの引っかかりッ!」
「シノン………」
「何かあるのなら明かしてやるッ! そうでないと彼奴は………」
ずっと自分を許せずに、苦しみ続ける………
◇◆◇◆◇
クラインはダルマーニ3世のフリをしながら、まだ魔物がいるから出て行き、しばらく帰れない事を告げる。
吹雪の中で響き渡る泣き声を放つ息子さんは泣くが、クラインはしっかりと泣き止ましながら、必ず帰ると約束していた。
テイルはそれを複雑そうに見ながら、ずっと山を見る。まるで自分がしなければいけないと言わんばかりに。
「テイル」
「キリト」
「君は思いつめ過ぎだ。俺たちもいるんだ、任せてほしい」
「………すまない、だけどこれは俺がしなきゃいけないことだ」
「テイル………」
彼はそう言って建物の外、吹雪く中で準備している。
もしも彼の考えに理由があるのなら、変えなければいけない。
それが、仲間である俺たちがするべきことだ。
◇◆◇◆◇
吹雪の中で立ち尽くすのは機械の魔物。
『懲りずに来たか、ダルマーニ3世』
「この卑怯者、仲間がいるんだろ? 姿を現せゴロッ!?」
その瞬間、聞き覚えがある声が響き、出て来る魔物に、俺たちSAOプレイヤーは驚愕した。
「『ルイン・コボルド・センチネル』!?」
「なんでSAO、あの鋼鉄の城のモンスター。第1層のボスの取り巻きがいるんだッ!?」
それに刀を持つ魔物、第1層ボス『イルファング・ザ・コボルド・ロード』が現れる。
『月より生まれた魔物たちよ、偽りの勇者とその仲間たちを討ち取れ!』
「まさかここまでややこしく………」
「みんなッ! ボスモンスターは任せたゴロ!」
そう言ってゴロンクラインはゴートへと立ち向かい、テイルは弓矢を構えたまま、シークとシノンを見る。
「私たちは見えない敵に備えます」
「そっちは任せたわよ」
「分かった。行くぜみんなッ!」
それに返事をして、全員が自分の戦いに集中した。
◇◆◇◆◇
突進してくるゴートを躱し、炎のゴロンパンチを叩きこむクライン。それでも慣れない姿であり、雪に足を取られ、突撃により吹き飛び続ける。
「あなたいまの姿だと躱せないわよ! いまは元に戻りなさい!」
チャットが周りを飛び、話しかけて来るがクラインは首を振る。
「へっ、いまのオレは漢の戦いしてるんだよッ! このままの姿で勝たなきゃ、ダルマーニ3世はあのガキんとこに帰れねえ!」
その時、仮面であるはずのゴートの表情に、不敵な笑みが浮かんだ気がしたクライン。すぐに防御したら何かによって吹き飛んだ。
「テメエ!? 恥知らずにもほどがあるだろ!!」
そう叫びながらそれがもう一度攻撃を仕掛けようとした時、同時に二か所、そこに矢が放たれた。
響き渡る何者かの悲鳴に、ゴートが代わりに驚く。
『なんだと?』
「『まことのメガネ』が存在しないから負けないとでも思ったか?」
片腕を包帯で包み込むテイルは無表情に吹雪を睨む。
吹雪の中で何かの形がくっきりと浮かび、それが何なのかすぐに分かった。
「『暗黒幻影獣ボンゴボンゴ』。種が分かれば、後は繰り返すだけだ」
そう言った後、少しだけ顔を反らすテイル。その後ろから
それは的確にボンゴボンゴの核を貫く。
『バカな!? 見えないものをどうして』
「何千回繰り返したと思ってる? シルエットだけ分かれば、核の位置は分かる」
忌々しく語りながら、矢を構え、同時にボンゴボンゴの両手を貫く。
ゴートはくっとそちらに注意を向いていると、ガシッと角を掴まれた。
「捕まえたぜッ!!」
『!? 己ッ!』
力比べが行われる周りで、クラインの邪魔、シノンへの攻撃をさせないよう、シークがシノンを、残りはコボルドロードの手下と斬り合う。
「キリト君ッ!」
「任せろ、これくらい、やっとやるせぁぁぁぁぁぁッ!」
切り捨てられた配下の魔物を無視して、そのままコボルドロードへと突き進む。
「スターバースト……ストリームッ!!」
ソードスキルを叩きこみ、コボルドロードは吹き飛んだ。
「なに?」
リズはコボルドロードが吹き飛んだ瞬間、まるで煙のように配下の魔物が消えたのに驚く。
キリトたちも驚きながら、剣の世界の魔物たちが消えたことを確認して、ボンゴボンゴの方を見る。
「ゲームじゃないんだから。こういう手も使わせてもらうよ」
そう言ってシークが持っていたペイント、インクを核へと投げるリーファ。それによって位置がバレたいま、ユウキ、アスナがソードスキルを叩きこむ。
悲鳴が鳴り響き、ボンゴボンゴもまた消えたのを見て、肺に貯め込んだ息を静かに吐き出すテイル。
「リーファの作戦がうまくいったな」
そう呟きながら、最後の戦いをしているクラインとゴートを見る。
追い詰められているクライン。崖の淵に追い詰められたが、クラインが叫び声をあげ、そのままゴートを持ち値上げた。
『バカなッ!?』
投げ飛ばされたゴートは地面に激突し、そのまま崖へと落ちていく。
崖に落ちたゴートの悲鳴がこだまする中、突然の光が崖下を照らして、一つの仮面がクラインの側へと飛び、離れた位置に立ち尽くす巨人を確認する。
「ゴートの仮面。これで二つ目の封印は解かれた」
「そうみたいだ」
「雪が……吹雪が止んでいく」
リーファの言葉に全員が空を見ると、青空が広がり、太陽の光が大地を照らす。
猛吹雪が止んだおかげで、彼らはそのまま下山する事が出来た。
◇◆◇◆◇
「これで二つ目の封印が解かれました。その調子で頑張ってくださいね、勇者さま」
お面が入ったリュックを背負い、下山する者たちを見ている者。
静かに笑いながら、ふとっ考え込む。
「とはいえ、保険はかけていても、ドキドキしますね」
そう言いながら、暗闇の中に歩き出し、その場を去る。
「頼みますよ勇者さま。そして黒の剣士さま」
信じています、信じています……
そう呟きながら、彼はその場を後にした。
本命テイル、保険キリト。
次回牧場編。オリジナル要素たくさん。
お読みいただきありがとうございます。
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第11話・物語の横道
スノーヘッドから下山した俺たちは、シークが手配した宿で休む話をしていた。
クラインはゴロゴロと語尾が付き、リズにツッコミを入れられながら、俺はユイを肩に乗せ、馬車を操るテイルの隣で揺られている。彼もフェリサを肩に乗せている。
気の抜けたと言うより、リラックスしようと気を抜いている彼は、ぼそっと呟いた。
「ミルクロードか、こっちがこんなルートになるなんてな」
「分からないのか?」
「目的を優先していたから、ぶっちゃけ、どんな場所をどんな風に歩いたか曖昧なんだ。さすがに寒い場所や暑い場所くらいの違いは分かるがな」
ゲームで見る景色と現実で見る知識は違い過ぎる。そう呟きながら前を見る。
その言葉を聞いて、彼が想像もできない旅をしていたのが分かる。だけど結局はそれだけだ。俺ができる事はあるのだろうか?
「ところでチャット。どうして俺の懐に隠れてるんだよ?」
「う、うるさいわね。レディーには色々あるのよッ!」
「レディーって、妖精だろ?」
「ふん!!」
フェリサに目を殴られ、悶えながらも馬の扱いはしているテイル。大岩が道の先にあって先に進めない。
「なんだこれは?」
「岩で道が塞がっています」
その為に馬車を止める。
彼は流れる動作で爆破した。なんでだよ。
◇◆◇◆◇
なぜか目の前にある障害を排除したら怒られる。テイルはそう思いながら地面の上で正座させられていた。
「いや問題ないように言わないでくれないかな? 岩の撤去作業してた人もいたし、いま全面的に謝っているところだし」
「すいませんすいません」
「ええよ~おかげでオラたちの仕事も片付いだ~」
だが「オラが壊したかっただ………」と言う言葉が聞こえ、アスナが謝りながら、テイルはシノンに叩かれた。
ともかく先に進み、牧場へとたどり着く。
「さっきの岩の所為で客が少ないみたいだな」
「馬車はどこに止めればいいんだろう?」
「お客さーーんっ!!」
馬車道の先、大きな建物と牛や馬、鶏など放し飼いしている牧場から、一人の少女が満面の笑みを浮かべ、両腕を力いっぱい振りながらこちらに来る。
「お客さんが来た。もう大岩は無くなったのね」
「ああ」
「………」
シークが呆れながら横目で見るがテイルは頷き、少女が馬車を止められる場所まで案内する。
少女の名前はこの牧場と同じ『ロマニー』であり、お客様が久々に着て嬉しそうに話してくれた。
「他に道は無かったのか?」
「他に道はあるけど、その場合は港町かクロックタウンが近いの。他だとゴロン族の里とかね!」
馬車を止める中でキリトの質問に答えながら、後はと呟く。
「後は迷子の人たちぐらいね」
「迷子の人たち?」
「よく分からないけど、ジーエムとか、ウンエーがどーとか言ってる人。だいたいは勝手にどっか行ったりしたりしてるの」
そう言い、馬車馬を止めさせた後、宿を取る為に建物に入る事になる。
「テイル」
そんな時、キリトたちはシークと共には建物へ入ろうとしていたテイルを引き留める。
「彼女の話、どう思う?」
「あー………確かに気にはなるが、まさかそんな訳がないと思いたい」
「けど、もう私たちのこともあるし、なにより私たちの世界、VR世界で小鬼はいるのよ?」
「………」
テイルは黙り込み、考えたくない事を考える。
そう思いながら全員で中に入ると………
「あれれ? キリト?」
「えっ? キリトですか?」
「………」
その時、テイルはあまりの事に体制を崩しかけ、キリトたちも絶句する。
目の前にいたのは………
「ストレア? プレミア!?」
仮想世界の住人であるはずの少女たち。そして………
「テイル……その怪我はなに?」
「あっはは………知ーらないっと」
トレジャーハンターである彼女は頬をかき、すぐに離脱。背後に炎を背負う鍛治師の妖精がそこにいた。
「………助けてくれ」
「んー自業自得だと思うなー」
ユウキはそう言い、テイルはうなだれた。
◇◆◇◆◇
言葉の暴力でボコボコになったテイルの代わりに、キリトがテイルの事情と、現状を説明する。
ストレアとプレミアがへぇーと驚き、レインたちは信じられないと言う顔をしながら、それでも信じると頷き、そして再度自分一人で抱え込んでいたテイルを攻めてボコボコにして、彼女たちの話に移る。
「わたしの方は、ALOにログインして、武器の材料がなくなったから、素材集めにフィールドに出た時、変な仮面を付けたエネミーに会った後からだよ」
「スタルキッドか」
「フィールドなのに、表示が何も無くてなんだろう?って見てたら、変な霧みたいなものが辺りを包んで、気が付いたらウインドウが開かなくなって、みんなと出会ったの」
「アタシたちはSA:Oで、仲良くフィールドで遊んでたら」
「急に不思議なお面を付けたエネミーが現れました」
「初めは噂のエネミーだと思ったんだけど、なにかおかしいなーって思ってたら、いつの間にかね」
そしてストレアたちは噂のエネミーで、キリトに話したら喜ばれそうだから後を追っていたら巻かれ、気が付いたらレインと遭遇したらしい。
「わたしはALO、ストレアたちはSA:Oのアバターのままでこっちに来た見たい」
「ああ、確かにそのままだな。俺たちの時みたいな変わってない」
「テイルたちは、どっちかって言うと、SAO、ソードアートオンラインの姿だね。テイルはそのまま現実と変わらないし」
「そうだな………」
考え込むキリトたち。彼らと自分等の違いを考えて、どうしても消え方やある人物に思い当たる。
消え方は霧に包まれてはいたが、それは途中まで。それでも途中で飛べなくなる事態はあり、その後に別の方法でクロックタウンたどり着いた。
(もしも最初の移動で、すでに別の、この世界に来ていたと仮定して、最後の入り口みたいなものだな。あれがどういう意味か分からない)
そして次にテイルがいるかいないか。あれはテイル側、シノンの証言で知った、彼がこちらに来る時だ。そう言えば………
「シノン、君がこっちに来た時、変化は一回だけか?」
「………一回だけね。彼もそう」
シノンとテイル、彼らの移動は同一の物。自分たちは霧とテイルたちと同じ。
この違いから見た目や装備が変わったのだろうかと思いながら、テイルは尋ねた。
「レインたち以外にも、同じようなプレイヤーがいるようだけど、彼らは?」
「あの人たちなら、新フィールドとか言って出て行ったよ。わたしたちはどうするか考え込みつつ、とりあえず人手不足なこの牧場で厄介になってる」
「まだ朝からですが、だいぶ上達しました」
「上達?」
「うん聞いて聞いて♪」
ストレアの話は、どうもこの牧場は夜中にたびたび、家畜が盗まれる被害が出ている。
その理由を犯人を知っているから、退治しないといけないらしい。
「退治って、それはなんなんだ?」
「あいつらよ」
そう静かに呟き現れたのは、弓矢を持つロマニーだった。
「彼奴らって?」
「うん、実はね………」
彼奴らは、毎年カーニバルが始まる時、真夜中に現れる。ぼうっと光るたまに乗って現れる。
そして牛小屋に来て、牛を攫う。だから自分が守らないといけない、とのこと。
「おねえさんがいるんじゃないのか?」
「あなたも姉さんのこと知ってるのね。町でも美人の一人だもの」
そう言った途端、テイルは無数の貫くような視線を浴びて膝を付く。
姉はこのことを話しても信じてくれない為、ロマニーはともかく今夜現れるだろう彼奴らに備え、弓矢で追い払う準備をしているらしい。
テイルはユウキに捕まりながら、放っておけない事やレインたちはすでに了承している事から、手伝うことにした。
◇◆◇◆◇
各々が部屋に移動する際、キリトはアスナとシノンを連れてレインの部屋を訪ねる。
確認しなければいけない。SAO時代の彼の事を。
「レイン、いま時間あるか?」
『キリト君? うん、平気だよ』
「アスナとシノンもいるんだ。レインに聞きたいことがあってな」
レインは聞きたいことと首を傾げながら部屋に三人を入れて、詳しい話し合いが始まる。
「テイルの事だけど、それで聞きたいことがあるんだ」
「テイルが転生者、なにか二次創作みたいなことになって、勝手に色々悩んだりした件?」
「それもあるけど、レインもすんなり信じてくれたんだな」
「それは……少しだけ分かる気がしたから」
少しだけ曇るレイン。悲しそうに呟き、過去を振り返る。
「彼奴、テイルはギルドに入ってからしか知らないけど、実際はテイルがいて初めて運営できてたの」
「確か彼のギルドは、攻略組を支える事を主体で動いてたな」
「うん。実際攻略組だけじゃなく、生産系ギルドや個人プレイヤーを繋げたり、ギルド同士の架け橋になってたよ」
けどねと言葉を結び付け、レインは少しばかり表情を曇らせながら、当時を振り返る。
「ギルドの運営は常に火の車だったはずなの。実際は言っている通り、テイルがいて初めて運営できていた」
「ああ聞いてるよ。確かギルド運営で必要な資金やアイテム、情報はほとんど彼が仕入れていたんだよな」
「うん。それはうちのギルド、《血盟騎士団》でも有名なソロプレイヤーだからね」
彼は常に無理をしていたとレインは覚えている。食事する時間や寝る時間、人との交流を全て削れるだけ削り、全てをフィールド探索と言う初歩的なことで支えていた。
「確か当時の彼は謎に包まれてたんだよな」
「実際は移動スピードが速いし、特別なことはしていなかったからね。単純に数をこなしてただけ。わたしとかがなに言っても聞く耳持たなかったし」
「………それじゃ、やっぱり彼が攻略組の情報を集めるのは無理か」
「えっ?」
レインに対して、テイルへの違和感を伝える。それを聞いたレインもまた、難しい顔をしながらも、静かに受け入れて頷く。
「うん、確かにいまの彼奴の事しか知らないけど、クリアされるのが分かっている気がした」
「本当か?」
「ええ。当時は頼もしいなって思ったけど、彼奴の事情を知ると、攻略組の情報集めを欠かしたのはおかしいと思う」
「どう言うことかしら………」
「本人に聞くのが早いけど」
「少し聞きにくいもんね。色々と悩んで苦しんでるのに、そんなこと聞けないよ」
「ああ………」
◇◆◇◆◇
キリトたちが悩んでいる頃、テイルはゼルダから治療を受けていた。
「だいぶ良くなったな」
「早く治る代償に、それなりに染みるのですが」
「痛いくらい気にならない」
そう言う時、ゼルダは僅かに悲しそうに見つめる。
「まだ少し、あなたたちの話を理解していないと思います。ただ漠然に、苦しい日々と聞いています」
「勇者の力の事か? それは自業自得さ」
勇者の力を求めた愚か者の代償だと思えば、痛みに慣れた事は安いのだろう。正直、染みると言われているが、いまだ我慢できる範囲だ。
「感じているものを口にしないのは、辛い事ですよ」
「口に出すほどじゃない」
「あなたは………」
呆れながら包帯を巻き終え、テイルは手に力を入れ、痺れなど取れているか確認する。
「それに、実際体験が無ければ、みんなを助けることはできなかったと思う。色々大変だったからな」
「そうなんですか」
「ああ」
目を閉じて思い出すのは、資金のやりくりに頭を痛めているギルドの幹部たち。それを助ける為に資金を提供し続けた日々。
やる事は何事も変わらず、いつかキリトがゲームをクリアする日を待ち続けていた。
(そう言えば、確かホロウに飛んだとき、キリトと出会ってびっくりした。
その後に
「ん?」
「どうしましたか?」
「いや」
何かおかしいな? 何かがおかしい。
(なにが………)
その時、頭に何かが聞こえ出す。誰かの笑い声が、頭の中で響きだす………
「テイル?」
「………あ、ああなんだ?」
「……いえ、少し。なんでもありません」
ゼルダはそう言う。やはり痛みの所為か、考えが纏まらない。
ともかくいまは夜に備えなければいけない。
あのトラウマイベントに遭遇するとは思わなかった。回避できるのならしなければいけない。
意識を集中して、考えを切り替える。
真夜中の時間、あのよく分からないものを射る。それがいまやるべきことで、考えるべきことだ。
そのはずなのに………
俺は一体、何を考えていたのだろうか。
心の中で疑問が残りながらも、時の針は止まらずに針を動かし続けた………
テイルはSAOでリーファのことを知っていました。それに疑問を持ちますが、なにに疑問を抱いているか気づいてません。
テイル「作者のミスか?」
そ、それではッ! お読みいただきありがとうございます。
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第12話・牧場と陰り
フィリア「よーし、頑張るぞ」
ユウキ、プレミア「「おー」」
アスナ「なんだろう、物凄く悪い予感がするわ………」
テイル(宇宙人でゴリ押しすればいいだろう)二人を見ながら考える。
ロマニー牧場の夕暮れ、外では弓矢の練習をしている仲間たちを見守るテイルとキリト。
「キリトは練習しなくていいのか?」
「俺はいざとなれば剣があるからな。って、テイルはなにしてるんだ?」
懐の辺りが気になるキリト。テイルは呆れながら懐の中にいるチャットを見せる。
「フェリサはユウキのサポートしてるからいいんだけど、なにしてるんだか」
「チャット、どうしてお前、そんなところに隠れてるんだ?」
「そ、それは………」
そう聞いている時………
「すいません」
そう後ろから話しかけられ、二人は振り返る。
そこにいたのは、この牧場の経営主の娘、長女『クリミア』だった。
「申し訳ありません。妹の我が儘に付き合っていただいて」
「いや、こちらが勝手にしていることだから、気にしないでくれ」
「それでもです。あの子たら、お手伝いもせずにお客さんまで巻き込んで………」
そう言いながら頬杖を付く少女。父親がのんびり過ぎて、ちゃんと働かないから彼女たちが働いているらしい。テイルは複雑そうにその話を聞き、キリトが疑問を投げかけた。
「妹さんの話は本当なのか? その」
「ええ、時々祭りが近くなると、牛が一頭いなくなります」
「………大変じゃないのかそれは?」
キリトが疑問に思うと、いやと首を振る。
「そうなんですけど、しばらくすると『あの子たち』はちゃんと返してくれるので、いまではロマニーの友達のイタズラ、そう片付けてるんです」
「? イタズラ?」
「はい。この牧場、クロックタウンから外れた森に棲む子と妖精たちのイタズラです」
そう言って、あまり本気で追い返さないでほしい。そう頼み込み、彼女は仕事に戻る。しばらくその後姿を見送った後、すぐさまテイルの懐から出て行く妖精を捕まえるキリト。
「おいチャット」
「し、知らないわよ~。なにも知らないわ~」
この知らないはどこか震えていて、どうやらこれの仕業はスタルキッドたちらしい。
それを聞いてテイルは静かに………
「………なあキリト」
「言いたいことは分かる」
「ああ」
そういままで呆然としていたテイルは、静かに矢筒を確認し出す。
「いままではお遊びでも、いまのスタルキッドなら」
「なにしてくるか分からない」
すぐに彼らは行動に移り、仲間たちを驚愕させた。
◇◆◇◆◇
月明かりが照らす中、ロマニーは牛小屋で待機して、小屋の動物たちを落ち着かせる。各々が詳しい話を聞き、現状は警戒するだけしている。牛小屋は宿を兼ねている建物から離れていて、その建物で各々が守れるよう、四方を囲む。
テイルは周りを見渡せるようにど真ん中に待機して、牛小屋の屋根上にシノンがフェリサと共に待機していて、チャット曰く、普段からの進入通路である道にシーク、リズ、シリカ、リーファがいる。
別の方角は各々が待機して弓矢や武器を構えている。連絡係として妖精たちが飛び交う予定だ。
「テイルが言うには夜中の二時らしい。そろそろだ」
彼が言うには始まりは夜中の二時、そこから朝まで掛かる。牧羊犬が宇宙人っぽい(アスナたちが変に怖がるために宇宙人と説明して言い聞かせた)ものに反応、牛小屋に近づけてはいけない。弓矢以外の攻撃は効かなかったとのこと。キリトも一応弓矢を腰から下げて待機していた。
「何も無ければいいんだけ……ッ!?」
言いかけたユウキは物音に気づく。
何かの飛行する音が鳴り響きながら、何かの声や悲鳴が聞こえ出す。
「キリト君これ!?」
「クロックタウンの時計塔で聞いた、悲鳴か?」
そして無数の影が人型になり、よく分からないものも浮遊して、光を放つ。
「あの宇宙人っぽいのは弓矢以外は効かないってテイル君が言ってたが、周りの影は」
「確か剣とか効いていた」
「パパ」
「ユイはみんなに指示を回してくれ、俺はアスナたち弓矢のサポートをする」
「分かりました!!」
ユイはすぐに飛び回り、攻撃が始まる。
犬が吠える中、影が牧羊犬に攻撃を仕掛けて、テイルがそれを切り払う。
「なにがどうなってるんだか」
シノンが的確に射貫き、影も近づかないようにクライン、リズ、リーファが払い、残りは弓矢や取り逃した影を払う。
「野郎、牛小屋だけに影やなんか宇宙人的なもんが向かってくるな」
「宿に向かわない事は良いんだけど、数が多すぎない~!?」
リズたちの悲鳴と共に、テイルはただ素早く疾駆する。シノンは犬の声に合わせて弓を射て、ユウキたち剣士は影を斬っている。
宇宙人っぽいのは弓矢しか効かないが、どうにか追い返していると………
「そろそろ朝日が昇りそうです!!」
シリカの言葉に全員がもうすぐ終わると確信する。テイルからの話で、朝方になれば終わるのは知っていた。
だがキリトだけがそれに疑問視する。
(本当にこれで終わるのか?)
そう思ったとき、嫌な予感がしたため、牛小屋の方へと走り出す。
「キリト」
テイルは宇宙人たちを射貫く中、ユウキもまた影を追い払っていると………
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」
はっきりと悲鳴が牛小屋から響き渡り、キリトが牛小屋へと流れ込む。
目の前には影のような形無い闇が、ロマニーを捕まえていた。
◇◆◇◆◇
影は扉を破壊して建物の外に出て、テイルは驚愕に顔を歪め、全員が振り返る。
「ロマニーッ!」
影は形を取るのは仮面を付けた赤い蜥蜴のような怪物であり、それはテイルの記憶を刺激した。
「その姿、『ジークロック』か!?」
それに驚きながら、四足歩行の怪物は鉄球付きの尾を振り回し、炎を吐いた。
「テイルッ!?」
レインの叫び声を無視して、流れるようにシーカーストーンを取り出し、爆弾を生み出す。
「仮面を壊すにはこいつしか無い。仮面を壊したらコアみたいなものに一斉攻撃」
「待てテイルッ!」
「ッ!?」
攻略方法を口にしたテイルもキリトに止められ、理由を知り顔を歪めた。
仮面にはすでに宝石のような物が付いていて、その中にロマニーがいる。
「爆弾は危険かクソッタレッ!」
「他に攻撃方法はッ!?」
分裂して機動を変える火の玉を避けながらキリトが叫んだが、テイルは首を振る。
「ハンマーが無いと………だけど、こいつを倒した時に使うハンマーの変わりは俺は持っていない」
「ハンマーなら任せるゴロッ!」
そう叫びクラインはゴロンの仮面を付け、ゴロンクラインに変身して、
「必殺の、ゴロンパンチッ!!」
転がりながら一気に接近して仮面を叩き壊すつもりで殴りつけた。
それにヒビが入るのを見たテイルとキリトは、お互い目線で合図を送り、すぐに動きを合わせる。
クラインは同じ攻撃を叩きこむ中で、所々で現れる影の排除と宇宙人の排除。
そしてクラインのパンチが叩きこまれ、仮面が割れた。
「テイルッ!」
「任せろ」
仮面が割れた瞬間、ロマニーは空に投げ出され、テイルがすぐに抱きしめて確保する。
ジークロックが雄たけびを上げて火を放とうとした時、金色の鎖が突然ジークロックを捕らえた。
「動きを止めたぞッ!!」
「ユウキ、アスナッ!!」
「うんッ!」
「ええッ!」
ピタロックで動きを止められたジークロックのコアに、全員がソードスキルを叩きこむ。
悲鳴を上げると影に戻り、朝日が丁度差し込んだ瞬間、それは溶けていく。
他の影や宇宙人たちも同じであり、ようやく一息つけた。
◇◆◇◆◇
「皆さん本当にありがとうございますっ!」
クリミアは騒ぎを聞きつけて駆けつけたところで全て終わっていて、ロマニーはテイルの腕の中で気絶していた。
「外傷は無さそうだから、しばらくすれば起きるだろう」
「ええ本当に……どうしてこんなことに………?」
首を傾げるクリミア。理由を知っているが全員話す気は事はせず、ロマニーは後に成って大騒ぎではしゃいでいる。
「とりあえず何事も無くってよかったよ」
「そうね、この後はどうするんだろう?」
「夜通し戦ったんだ。一日ずらして、明日の朝に海に出向こう」
「それしかないね」
そう話し合いが終わり、全員が一休みする事にしたのだが、キリトの部屋、アスナとシノンが揃っている間、テイルの事に付いて話し合う。
「テイル君の言う通り、朝方になったら終わってよかったよ。あのままだったら牛小屋に宇宙人が忍び込んでたし」
「その場合どうなっていたか分からないけど、彼が念入りに動いていたから、良い事は無かったろうな」
アスナとキリトはそう話し合う中で、シノンは難しい顔で考え込む。
「本当に彼は念入りに事を進めてたのかしら?」
「シノのん?」
「今回イレギュラーが遭ったけど、実際失敗したらいけないのなら、キリトの弓矢の練習はもう少しさせてそうだと思ったから」
「おいおい。そんな事………」
無いと言いたいキリト。だがなんとなくその言葉は出てこない。
念入りに動いていたが、数が多かった。それにキリトは疑問に思う。
「テイルはあの数を捌くことはできるだろうか?」
キリトは牛小屋に迫った宇宙人を思い出す。影を除外してもその数は多い。テイルは良く動いていたが、一人であの場所を守り通す事が可能かどうか分からない。
なのに、彼はそれを心配する素振りは一切なかった。だから自分たちも安心していたが………
「さすがに妙だな。数でどうにかできると踏んでいても、安心するとは思えない」
もしも彼の中で今回の襲撃は予想以上に数は多く、手数が多かったとしても、彼が数でどうにかできると考えていても、彼が安心できるかと言われれば………
「あの後悔ばかりするテイルが安心するなんて私は思えないわ。絶対に牛小屋は安全だって思わなきゃね」
「シノのん………」
「キリト、アスナ。私はやっぱりテイルの中で、確定された未来がある気がする。まるでそうなると根拠も無いのに思い込んでいる節が」
「それは………だけど、どうして彼はそう思う? いまの彼は折り合いも付いているし、なによりここは現実だ。ゲームや仮想世界じゃない。彼がそれを勘違いするはずはないだろ?」
「そうだけど………歯がゆいわねッ!」
少しイライラするシノンに、アスナはまあまあと落ち着かせる。
「ともかくいまは海の所で様子を見よう。テイル君も、少しだけ彼の様子を見守ろう。何かあれば力を貸す。そこは変わらないわけだし」
「だな……いまはそれしかないか」
キリトたちはそう話し合う中で、テイルもまた動いていた。
「ありがとうございます、なにからなにまで」
「いや」
ロマニーが念には念を入れて休ませるために、テイルはクリミアの手伝いをしていた。
「後は町までの配達か。それも手伝おうか?」
「本当ですか? ならお願いします。今晩は少し心不足って。お客さんは強いですから、心強いです」
そう話し合いが終わり、約束を交わす中で、レインはテイルを見つけた。
「テイ………」
テイルに話しかけようとした時、その後ろ姿に影が差す。
以上に濃い暗闇を見た時、レインは目をこすり、もう一度からの背中、心臓の位置を見たが………
(何も無い、見間違い、だよね……?)
そう思い彼を呼び、剣の手入れをする話をする。
誰も闇には気づかない。暗い暗い闇の深さ。後悔と言う闇に気づく者はいなかった。
テイルに陰りず見える中、順調に物語が進む?
まだオリジナルは続きます。お読みいただきありがとうございます。
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第13話・寄り道の終わり
弓矢の準備をして荷馬車の手伝いをするテイル。牧場の娘であるクリミアが、町までミルクなど食料を運びに行くところ。
「助かります。ミルクロードの大岩も無くなったですけど、心細かったですから」
「別に気にしなくていい」
「その通りだ」
そう、怪我した腕を見に来たところ、話を聞いたシークが手伝ってくれる。クリミアの話では祭りの日に来るゼルダ姫などの著名人の為に、いっぱい運び込みたいと言う。おいしいチーズやクリームをいただいてほしいとのと。
「なにか言いたいことがあるのかい?」
「別に何も無いよ。シーク」
なんとなくアスナと共に黒パンにクリームをたくさん乗せて食べていたシークを見ていたテイル。そう言い終えたところ、クリミアが馬車を操り、一度クロックタウンに向かうことになる。このことはキリトにはすでに話を通している。他のみんなは徹夜の防衛戦の疲れから、まだ眠っている者もいる。
二人だけで彼女の手伝いの為に町へと繰り出した。
◇◆◇◆◇
二人が、テイルとシークがクリミアさんと共に町に繰り出してしばらくして、俺はユイ、チャット、フェリサの相手をしていた。
ここは俺とテイル、クラインが借りている部屋。クラインはレイン、リズの手伝いに駆り出されている。テイルの武器の手入れらしい。
レイン曰く、彼は癖があり、注文が多いらしい。盾一つも妥協しない方がいいとのこと。
ここは現実の世界であり、どこまで仮想世界の技術が通じるか分からないが、できる限りサポートしたいとのこと。
クラインはハンマー以外の重い物を運ぶ際に手伝いで駆り出され、牧場のクワなどの整備ができる部屋を借りて、俺たちの武器の手入れをしている。
俺はと言えば、娘であるユイの、妖精の会話に耳を傾けていた。
「妖精さんにも、色々と違うところがあるんですね~」
「なに言ってるのよ? あんたもフェリサと同じ、成長した妖精じゃない?」
「それはどういうことだチャット?」
「ふっふーん♪ あんたたちは何も知らないのね。聞きたいなら教えてあげないことも無いわ♪」
そう胸?を張りながら、チャットは得意げに話しだす。
「いい? 妖精にだって長い時の中で成長はあるわ。あたしのような妖精が大抵だけど、力があって、長い年月を生きている妖精は人の姿なのよ」
「まあそう言うこと、傍から見れば私やあなたは長生きした妖精だと思われるわ」
「はぁ~そうなんですか? ともかく、この人型の妖精は珍しいんですね」
「まあ、姿かたちなんて妖精は気にしないから、別にどうでもいいことなんだけどね。人の姿だからって何が変わるわけでもないし、中には大きな姿で住処が少ないって話も聞くわ」
「そうなんですか~」
そう妖精の姿のユイは感心しながら楽しく話をしている。そうしていると、ドアがノックされた。
「キリト君いる?」
「アスナか、ああ、いま開けるよ」
アスナを部屋に招き入れると、妖精たちもそちらを向く。アスナは妖精たちの団欒を見て微笑みながら、アスナの要件を聞く。
「プレミアちゃんたち、シークさんの力を借りて先に町の方を見てるって。馬車もこれ以上人数を増やすことできないし、町の方を見ておきたいんだって」
「確かに、ここは彼が知るゲームじゃないからな。なにかしてる可能性がある」
スタルキッド、操られてるって雰囲気は、チャットの話を聞く限りしっくりくる様子らしい。チャットもイタズラはよくしたが、それは大人がターゲットであり、酷過ぎるのはしなかった。
だからだろうか、この牧場のイタズラも遊び相手のいないロマニーの相手をしているから、見逃されていたという話だ。まあそれでも酷いとしか言いようがないが………
「ところでキリト君、少し思うんだけど」
「テイルのことか?」
「うん………」
テイル。所々で彼の発言の中で、この世界をゲームの世界と照らし合わせているところを感じる。
朝方におばけ、じゃなくって宇宙人の襲撃が終わると言っていたが、実際は大型の影を倒した後だと俺は思う。
妙な優先順位ができていて、それが普段の彼ではあり得ない優先の仕方だと、俺たちは思う。
「テイル君が優先にするのは他人。たぶんユウキが一番だと思うんだ」
「ああ、後は親しい人、次に無関係な人か。自分を最後にしているのがな………」
「それはあんたが言える事なの? まあ、彼奴、勇者と同じようにお人好しだからね~」
フェリサがジト目で俺を見ながらそう呟く。
その時に俺はあることを尋ねた見た。
「フェリサは勇者の事を知ってるんだよな? その勇者、どんな人なんだ?」
フェリサは話を振られ、少し考え込む。
「テイル似、って言いたいけど、どちらかと言えばガキね。彼奴と違ってすぐに怒鳴るし、綺麗な子には鼻の下伸ばすし」
「そうなのか?」
「けど、大事なところは同じ。自分よりも他人を優先して、誰かを守る為に実力以上のことをやり遂げる。そんな奴、私たちは彼のことを『最後の勇者』と呼ぶ」
「最後の勇者?」
「私はかぜのさかなから、この世界に産み落とされた妖精。だけどかぜのさかなのおかげで、少しだけ外の知識、世界がいくつも分岐した歴史を知ってるの」
多くの勇者の中でこの世界は、時の勇者と黄昏の勇者が活躍した世界。自分がいる世界では無いらしい。
「彼はその中で追体験のように、勇者の歴史をなぞったのか」
「ええ。ってか、確かに勇者の技術を求めたけど、なんでそんなことになったのか分からないわ」
「そうなんだ」
アスナが不思議そうに頷きながら、それで彼の違和感だけど………
「確かにおかしいけど、もしかしたら抜けてないだけかもしれない。彼は追体験はさっき言った通りなぞるように過ごしたからね。勇者よりも先のことを知っていても、身体が動かないって聞いたわ」
「テイル君が?」
「ええ。誰かが勇者を庇った命を落とすとか分かっても、動くことも何もできなかったって言ってたし、後で忘れてほしいとか言われたけどね」
「そうか………」
俺ももしサチの事を先に知っていて、その場面を体験しないといけない。考えただけで顔が歪みそうになる。
体験する時間が多い彼は、先の事を考えて憂鬱になっただろう。そう考えながら、俺はあることに気づく。
彼は技術が欲しいと言ったが、そんなことも含まれていたか?
「………」
技術的な面でダンジョンの攻略、ボス戦の追体験は分かる。だがストーリー、物語まで体験させる事は含まれるのか?
彼は自分の事を偽物と言うが、本物から技術を叩きこまれて、彼は勇者と言っても過言では無いんじゃないか? 少なくても、ユウキにとって彼は勇者のはずだ。
(おかしい、彼の転生特典と彼が実際に受け取った物に違和感があり過ぎる)
俺はそんなことを考えながら、彼が向かったであろう町の方角を見つめた。
◇◆◇◆◇
彼らは荷台の中で、肩を寄せ合いながら沈黙を守り続けていた。クリミアは馬を扱っているし、荷物の中には繊細な物もある。話しながら運転はしない。
シークは別段話す事は無いし、テイルは元々話をするより、聞いてくれる方なので、道中話すことは何も無く、ただただ静かだった。
「そう言えば、スタルキッド、あの子のイタズラはいつから始まったんだ?」
シークがそう訪ねると、クリミアは少し困った顔をしている。昨日のイタズラの件はもう伝わっている。初めは信じられない顔をしていたが、戦いの後が物語っていたために、信じられた。
「だいぶ前、お父さんがサボり始めるようになってから、ロマニーも働かないといけなくなって、それで」
(あの父親、後で話し合いしておいた方が良いんじゃないか?)
テイルはそう思いながら、その中でイタズラを通して遊んでいるのは分かっていた。スタルキッドは寂しがり屋であり、ただの子供だ。
「ムジュラの仮面の所為か」
シークがそう呟いていると、クリミアは馬車を止めた。
「あら?」
道が鉄の柵で塞がれていて、馬車で通ることはできない。
「迂回するしかないわね………」
それを何度か繰り返し、シークは弓を確認しているテイルに気づき、何かあると思い自分も構え出す。
『イェーイッ!!』
そうしていると、馬にまたがり仮面、ガロのお面をした男二人が現れ、その手に持つフォークを振り向けて来る。
「こいつらは野党か」
「殺さないように気を付けるか」
「ぜ、全力で走り抜けますッ!!」
クリミアがそう叫ぶと共に、彼らが向かってくる。
テイルはすぐに矢を構え、そのお面に向かって放つ。その一撃を受けたが、暗闇が吹き出て、びくともしていない。
「あのガキが言った通りいまのオレ様たちは無敵だぜイェーイッ!」
「気分がハイだぜイェーイッ! いまならロマニー牧場を潰せるぜイェーイ!」
そんなことを口走りながら、イェーイイェーイと叫び続ける。
「これもスタルキッドが?」
「だが無意味だ」
矢を二本番え、同時に放つテイル。何度も何度も繰り返し射貫く中、イェーイと叫ぶ二人組の様子も変わり出す。
「イェーイ……なんだ?」
「イェーイ………どんどん力が抜けて来るぜイェーイ……」
「まだだ、あのガキに牛を盗ませたり、ミルクビンを散々壊したんだイェーイ。このまま終われなイェーイぜ………」
「なにを口走っているんだか」
シークは呆れながらイェーイイェーイと農具を振り回す二人組。一気に接近してきたき、その刃先がシークの顔を捕らえた。
「しまっ」
赤い血が舞う。
「ッ!?」
シークの目の前で傷付くのはテイルの片手、矢を手放してシークを守り、口で弦を引っ張り、覆面へと放つ。
ガロのお面に当たり、お面が取れた瞬間に馬から落ちた男。暴れ止まる馬に激突しかけて、もう片方も馬から落ちる。
こうしてゴーマン兄弟は捕まり、ロマニー牧場のイタズラは全て憲兵に知られてしまった。
◇◆◇◆◇
「大丈夫ですか?」
町の役所でクリミアが手続する中で、俺は怪我の治療を受けていた。
シークからゼルダに戻りながら、借りた部屋で薬を塗り、包帯を巻く。
「全く、盾が無いのに、よりにもよって盾の腕で………」
「心配かけてすまない」
「なんとなくユウキたちの反応が分かり出しました」
そんなことを言いながら、さほど深く無く、少し切った程度の傷に安堵しながら、腕を見る。
「これからは無理をしないでください。それとありがとうございます」
ゼルダは説教が終わると、静かに頭を下げた。
「構わない。顔に傷がつかなくてよかったよ」
「全く………だからと言ってあなたが傷付かなくていいでしょうに」
呆れながらホッとするゼルダ。それよりも気になる事を気に行くことにする。
治療が終わる頃には、クリミアの配達も、犯人の引き渡しも終わっていた。
いましばらくは錯乱しているが、詳しい話を聞きだすとスタルキッドに牛へのイタズラを進めたのはこの兄弟らしい。他にも余罪があり、現在調べているとのこと。
「あなたたちのおかげです、どうもありがとうございます」
「いや気にしないでくれ」
「それでもお礼をしないと………うちのミルクで良ければ、今日のご飯と明日の朝食を楽しみにしてください♪」
微笑むクリミアに、静かに頷く。
これでゴーマン兄弟のイベントが終わり、やっと一息つく。
全てのイベントをやらなければいけないわけではないが、牧場のイベントは放っておけなかったからよかった。
こうして『何事も無く』全て片付いてよかっ………
(………?)
なぜ俺はゴーマン兄弟へ平気に弓を放った? ゲームじゃないんだから当たり所が悪ければ危険なはずだ。
考えれば考えるほど頭と胸が痛くなる。
「………まあいいか」
少し目まいがし出し、そう呟いて切り替え、帰りの馬車に揺られて牧場へと戻る。
後日談ではあるが、ロマニー牧場のクリームを気に入った姫君がいて、なぜかそのうわさが流れる頃、クリミアたちの父親はなぜか反省して仕事に打ち込むようになるらしい。
これもだが、後日の朝食、アスナと共にクリームをたっぷり乗せた黒パンを食べるシークがいた。二人揃ってクリームが好きらしい………
アスナ「もぐもぐ……♪」
テイル(この笑顔もあの地方に入ればどうなるか、気が重い)
ユウキ(テイル……なにか悩みがあるのかな?)
お読みいただきありがとうございます。
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第14話・港町の海賊
その甲板で一人のゾーラ族が膝を付く。
【お前はこれで終わりなッ!!】
空に浮くそれが放つは黒い閃光。それがゾーラの青年の胸を貫いた。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!!」
悲鳴が響き渡り、笑い声がこだまする。
荒ぶる嵐に悲鳴はかき消され、それは静かに宝箱に封じ込められた………
牧場の一件が終わり、武器の点検と身体の調子を取り戻した一向。馬車に揺られ、港町である『グレートベイ』へと向かっていた。
「テイル、腕の調子はいいのか?」
「もう傷跡も目立たなくなっているし、痛みも問題ない」
「テイルの問題ないは問題あるよもうっ!」
ユウキは頬を膨らませ、アスナたち女性たちも不満そうに表情を変え、アスナが心配しながら訪ねる。
「本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。少なくても痕には残らないって」
「いまのテイル君、あまり信用できません。お願いですから無理はしないでください」
「手厳しいな………」
「自業自得でしょ」
フェリサが呆れながら肩に座り込み、ユウキもまた心配そうに見つめる。
「そろそろグレートベイだ。すまないが変わってくれないか?」
シークが馬車を止めて、テイルに手綱を渡す。何故と疑問に思いながら代わり、シークは荷馬車の奥へと引っ込んだ。
「どうしたんだシーク?」
「ああ………」
素顔を隠すシークだが、少し言いにくそうにしながら、静かに呟く。
「グレートベイはこの辺りの集落や、クロックタウンみたいな町に繋がっていてね。海路からこの辺りに来る人が多く利用するんだ。他にも色々な海路と繋がっていて、大きな港町なんだ」
「へえ、そいつは楽しみだな」
「ええそうですね。その町がどうしたんですか?」
クラインたちが感心し、リーファが疑問を投げかけると、シークは顔を反らしながら答える。
「今現在『ゼルダ姫』が滞在していることになっている町でね、王国の騎士団も何人かともに滞在してるんだ」
「えっ、それってまさか、あなたのこと?」
シノンの言葉に頷くシーク。テイルは呆れながら納得した。
「ゼルダ姫はいまはマリンと入れ替わってるんだったな。それを知るのは」
「近衛隊長のインパだけさ、マリンには苦労かけている」
「よく入れ替わっていても気づかれないわね」
「ほんの少しの衣装と、髪の色を変えていると、案外気づかれないんだシノン。まあ普段から素顔を隠していたり、衣装を派手な物にして、顔の印象を認識させないよう工夫してるんだ」
「なによその話」
「今世のゼルダ姫は、よく予知夢を見るから夢姫とも言われていて、天災などを看破してる所為で、人から距離を取られてるんだ。歌姫であるマリン以外、まともな友はいないんだ」
自嘲するように語るシークに、ユウキが顔を覗き込んできた。
「ボクたちはシークの友達だよ」
「ユウキ………ああそうだね、君たちは友達だよ」
そう話し合いながら、ともかくシークはなるべく港町の人と関わらないようにしたいらしい。
「ん……?」
そんなことを話していたら、検問のような入口がある。その光景に首を傾げながら、憲兵が前に出て来た。
「止まってください」
テイルは指示に従いながら止まり、荷物などのチェックを受ける中で、こちらの武器などを見て衛兵はああと納得する。
「もしかして、あんたたちも海賊退治に来てくれた人たちか?」
「海賊?」
「ああ、ここ最近、グレートベイは謎の嵐で漁師は漁に出れない中で現れやがったんだ。それで海賊退治に腕自慢を募ってるんだ」
「そうなのか」
「ああ。異国から来た著名人も捕まって、いま港は大騒ぎ」
「著名人?」
受け答えするテイルは首を傾げると、衛兵は困った顔でああと頷く。
「歌姫マリン、ゼルダ姫のご友人様だよ」
その後すぐにシークはゼルダに戻って、今現在ゼルダが使っている屋敷へと急行した。
◇◆◇◆◇
「キリト~、話は大方聞き回ったぜ」
「それじゃ、テイルたちが戻る前に纏めておくか」
俺がそう言うと、港町で集めた話を纏めることにした。
いまいるのはグレートベイの宿の一つ。食堂も兼ねている場所で、本来ならカフェみたいに流行ってそうだが、客のほとんどは俺たちのような武器を持った者ばかり。
いまのグレートベイは腕自慢の傭兵や旅人たちが集まり、情報交換など盛んであり、海賊の話で持ち切りだ。
海賊はマリンと言うテイルとゼルダの友人だけじゃなく、『ダル・ブルー』と言うバンドメンバーや、他にもカーニバルの関係者を攫っているらしい。
海賊船は霧と共に現れる。そう言われるほど同時に発生して、船が襲われたとのこと。
「嵐の方は、どうやら特定の地域で発生しているらしいの。なぜかそこから動かず、ずっと」
「その話は本当かアスナ?」
「そうなると、またスタルキッドとか、テイル君の知識と関わってそうだね」
リーファの言葉に同感していると、テイルが頭を痛めながら宿に入ってくる。
「テイル君、こっちこっち」
「? テイル一人、シークや一緒に付いて行ったフェリサはどうしたの?」
「フェリサはシークの方を任せた。途中で近衛隊長さんに捕まって、事情を聞くと共に助け出す為に無理させないために捕まった」
テイルの話では、マリンもできる限り避難誘導や奥に引っ込んだが、海賊は不可思議なほど早く動き、守りに入った者たちが気を失い、気が付いたら攫われていたらしい。
だが問題が一つ発生している。
「マリンは歌姫じゃなく、巫女姫として攫われた」
「それってゼルダ姫の代わりに攫われたの!?」
アスナの言葉に頷くテイル。シノンも難しい顔をしながら、それを聞いたシークはどうしたのか、テイルが言った通り責任を感じて突っ込みそうだから捕まったらしい。
「隊長さんの話じゃ、動きが明らかにゼルダを攫う動きをしていたらしい。倒したはずの手下もおかしいってさ」
「おかしい?」
「全身分厚い鎧で、手応えに違和感があった」
「船の上でそれはおかしいわね」
「ああ、海の上で活動している連中にしては、装備が徹底し過ぎてる。海の中に落ちれば一発で終わるからな」
「他に何かないのか?」
他の人に聞かれないように話し合う中、テイルは少しばかり考え込む。
「少し引っ張られるが、攫われた者の中にいるバンドメンバーが関わっているはずなんだ」
「ああ、ゾーラ族? だっけか。そのボーカルが攫われたって」
「ちなみにそれを知ったメンバーが先走ったってのは?」
「ああ、ギタリストが助け出しに行ったって話だぜ」
クラインとのやり取りに、彼は少しばかり混乱している。
「俺の知らない流れだ。海賊や嵐は分かるが、攫われた人物も関わりある人だが、直接さらわれた訳じゃないんだ」
詳しい話を聞くと、ボーカルの子はグレートベイを守ってきた一族の血筋で、ギタリストは勇者の血筋。グレートベイの異変に、協力者を呼ぶ為に不思議な卵を吐き出すボーカル。
スタルキッドに唆された海賊が卵を盗み、それを取り戻すためにギタリストが戦うが深手を負う。時の勇者がそれを助けるが手遅れで、彼の思いは仮面と成り、勇者を助ける流れ。
「だが時間が、流れがおかしい。明日傭兵たちは海賊船がある嵐の側まで船を出すし、攫われた人数に、マリン以外にもカーニバル関係者がいるんだ。このままだと海のスタルキッドの手下と戦うことができない」
難しい顔でそう呟くテイル。それにユウキは袖を掴み、心配そうに見つめた。
「テイル落ち着いて」
「ユウキ、だけどな………」
「テイルが心配なのは、ボス攻略? それともそのギタリストさん?」
その言葉にハッとなるテイル。しばらく考え込み、顔を手で覆いながら考え込む。
「………悪い、この言い方じゃ、ギタリストが重傷おわないといけないみたいだな。戦う場所が水の中だから、意識し過ぎていた」
そう思いつめた顔で呟き、ここでの気を付けないといけないことは、ボーカルを初めとした攫われた人たち、海賊、助けに向かったギタリストだ。
「もしも海の中で戦うことになるのなら、アスナの魔法に頼ろう」
「うん任せて、杖がちゃんとあるし、魔法は使えるか確認済みだよ」
アスナの言葉に頷きながら、もしもの事を考えて動こうと話し合う。
「それじゃ、テイルは海賊のボスへ向かいながら、俺たちは攫われた人やギタリストの安全確保。もしもギタリストが仮面になっていたらその仮面を回収しておく」
「さすがによく分からない奴が手にしているのは気にかかる」
「それじゃ、それで行こう」
こうして話し合いが終わり、一度宿に引っ込むことになる。
◇◆◇◆◇
テイルにおかしなところがあったが、そう言えば海賊退治にもおかしな話があった。
テイルは一人部屋でキリトと詳しいやり取りをしている中、不意にキリトが疑問に思う。
「そう言えば、討伐隊は、海賊の居場所が分かっているのか? 明日出発するんだろ?」
「ああそう………誰だ!?」
いまテイルとキリトだけが会話していると、窓の外にある木々が揺れ、一人の妖精と人影が流れ込む。
「どうにか来られた」
「シーク!? どうしてここに?」
「インパの包囲網を突破したからだよ。そっちはもう討伐隊に参加することは決まったんだろ?」
「ああ、ったく、困った姫様だよ」
「いまのボクは姫じゃないよテイル」
そんなやり取りの中、シークは難しい顔をして手に入れた情報を話しだす。
「ボクのところで分かったのは、海賊船はすでに様々な人を攫っていて、その内の一人が逃げ出して、港町の衛兵に駆けこんだらしい。奴らは嵐の側で隠れてると」
「そうだったのか」
「その人が場所は分かるらしく、案内を買って出ているが、少し怪しい」
シーク曰く、町娘らしくそれらしい技量があるとは思えないらしい。だが手がかりがない中の為、決行する流れになり、明日の朝に出るとのこと。
「少し怪しいな」
「なんかあれば二手に分かれているから、少し不安だな」
「そうだね。捕まった人たち、すでに先行しているギタリスト。優先するべきことは多い」
「海賊のも怪しいわね。変な術で動いてたりして」
「冗談にならないことを言わないでくれフェリサ」
そんなやり取りの後、シークはアスナたち女子部屋に厄介になり、明日に備えることに。
「………なにもなければいいんだが………」
◇◆◇◆◇
【ここで終わりここで終わり♪】
それらは嵐の中で詩を謳うようにささやき合う。
【偽物の勇者はここで物語を終わらすの♪】
【だって偽物、紛い物。そんな勇者は必要ないない♪】
【偽物勇者♪ 呪われた勇者♪ 間抜けに罠にはまって終わるのよ♪】
それは楽し気に笑いながら、船は嵐の中を突き進む。
一つの箱に閉じ込められ、一人の少女。ヴェールで素顔を隠し、ずっとお守りを握りしめる少女は嵐の空を見つめる。
「………勇者ってまさか………」
その呟きは風にかき消され、船は荒海の中を突き進む………
漫画版メインなので、谷に置いての彼らの行動はダイジェストで。
敵亡霊「親方さまお呼びで」
敵亡霊「貴様なに奴!?」
それらの言葉を話す瞬間、閃光に切り捨てられる。情報を出しながら散る彼らは閃光を称え、彼らは呆れながら先に進む。
テイル「押さえろキリト!!オカリナを奏でられない!?」
アスナ「離してテヲハナシテきりと君」
キリト「おばけじゃないからなアスナ、やり直しができるわけじゃないからやめるんだ!」
ユウキ「隊長さんも一人で倒したからねアスナ……」
シーク「………」離れた位置にいる
リズベット「このメンバーでこの地方攻略大丈夫なのかしら…?」
パメラ父「ああ、アア……」
この後テイルがいやし詩を奏でて助かりました。アスナは目が据わったまま、この世界を睨みつけ、シークは時々テイルに抱き着いたりします。シノンは時々置いていく選択を取ろうとしてしまう。
お読みいただきありがとうございます。
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第15話・ピンチ
アスナ「いっやああぁぁぁぁぁぁぁぁムシぃぃぃぃぃぃぃしかもでかい、それに骸骨いっぱい聞いてないッ!なんなのこの地方ッ!ここだけ滅びればいいと思う!」
キリト「テイルクライン、アスナは俺が抑えるからその仮面虫は任せた! リーファたちは周りから出て来る骸骨を」
クライン「任せろキリト。でっやーーーー」巨人の仮面で巨大化する。
テイル「シーク!?いや、ぜ、ゼルダッ!?抱き着くなこら離せ?!」ふくらみが当たってあたふたしている。
シーク「もう嫌です我慢の限界ですいっやあぁぁぁーーーーーッ!?」
シノン「なにいちゃついてるのよそこぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!?」スナイパーで活躍する。
リーファ「ともかく、小さいのは足止めしないと。ああクラインさんがやられた」
大型仮面虫ツインモルド「イヤヤモウ」
シリカ「任せてくださいッ!!」巨人の仮面を付ける。
テイル、キリト「「えっ………」」シリカが巨大化した後、空を見上げてしまう。
ユウキ「………テイル?」ハイライトオフ。
シノン「男は目を潰しなさい!!」
大型仮面虫ツインモルド「イヤヤモウ」
テイル、キリトがいない中、アスナとシークは乱心。シリカは巨人化でやらかし、彼らは最大の危機に瀕した。
荒れた海が近づいているためか、木々が軋む音と共に風が吹き荒れる音が鳴り響く。テイルは静かに考える。
「海賊、霧………嵐はともかく、この二つ」
引っかかりがある中で、ユウキが部屋に入ってくる。
「テイル、霧が出て来た。もうすぐ船が旋回する場所に来るって」
「ずっと海の上で旋回する………まさか」
「テイル?」
「ユウキ、もしかしたら」
テイルはある物語をユウキに託し、彼らは海賊船と遭遇、すぐに船へと乗り込んだ。
◇◆◇◆◇
「邪魔だこの野郎ッ!!」
海賊のほとんどは全身鎧姿であり、様々な武器を使用する者。海賊と言うより城の騎士だ。
「キリト君、大丈夫?」
「ああ大丈夫。向こうも大丈夫だろうか……?」
俺は二手に分かれたテイル、ユウキ、シーク、シノンが海賊たちの頭を潰しに、他の者たちが進む中を追って行った。
なぜか彼らは真っ直ぐ道を知るかのように進む中で別れ、俺たちは他の者たちのように海賊たちの相手をしつつ、人質の解放へと進む。
「とはいえ、船内には入れたが、どこにいるんだ?」
船は巨大な客船のように大きく、俺たちが乗っていた船を優に超える大きさだった。この船事態がまるでダンジョンのように入り組んでいて、その中を突き進む。
「キリト、でかい扉があったぜ!」
「慎重になクライン」
「わーかってるって」
扉を慎重に開ける。隙間から部屋の中を覗き込み中に入る。
「ここは……倉庫?」
なにやらガラクタみたいなものがたくさんある中、少し中を見て回る。
「キリト君、ここ少し変だよ?」
「ああ、これは……パン?、食料まである」
「どっちかだけなら物置か食糧庫なのは分かるけどよぉ。両方あるっつーのはおかしくねえか?」
「はい、食料はだいぶ傷んでいますけど、古すぎると言うより、ずっと放っておいたから腐ったって感じです」
シリカの言う通り、食料の入った袋や木箱の中身は、ちゃんと管理していれば何日か持ちそうな物ばかり。ガラクタと一緒に仕舞っておくなんておかしな話。順番からして、食料が先にあったところにガラクタを置いたって感じだ。
そう中を確認していると………
『無念だ………』
そう声が響き、アスナが引っ付き、ユイが懐から飛び出る。
「パパママ、皆さん。奥から声が聞こえます」
「海賊か?」
『こんなこと……なにが勇者の………』
「なにか違う気がするわよ」
リズの言葉に、俺たちはガラクタをどけて部屋の奥を見る。部屋の奥には一つの宝箱があり、そこから声が聞こえる。
「開けてみるぞ」
「き、キリト君、なにか嫌な予感がするんだけど」
「安心しなさい。むしろだから開けるのよ」
リズがアスナを引き取り、肩を叩く中、俺は宝箱を開ける。
そこには一枚の仮面が収められていた。
◇◆◇◆◇
「こっちだこっち!」
がたいのでかい男を筆頭に、町の衛兵などが突き進む中を追いかける。
甲板は嵐の所為で濡れていて、雨に打たれながら戦う傭兵や腕自慢たち。その中でちゃんとした集まりだけ、なぜか真っ直ぐに進む。
「真っ直ぐ先頭へ向かってるな」
「どういうことだ? 彼らはこの船の構造を知っているのか?」
「知っていたのならなぜ全員に情報を伝達してない?」
そう疑問に思い、少し先に進み、最後尾の男に話しかけた。
話によると丁度海賊船に着く前に、海賊の事を伝えた者が密告しているのが発見されたらしい。
どうやら逃げる際に助けてくれた少女。話によればマリンらしい少女の安否が気になり、忍び込んだと言って、どこにいるか話しだしたとのこと。
「なんで最初の頃にその話をしない?」
「実際また見るまでどの辺か分からなかったらしいぜ。無理も無い」
その話に疑問に思いながら、倒す海賊の手応えにも疑問に思う。それは中身の無いゴースト系を倒す時の感覚だ。
口には出さないが明らかに人では無い感覚なのは、俺以外にも察している人がいる中、ついに船首へとたどり着いた。
『来たな………』
「離してッ! 離してよ!!」
「マリンッ!」
シークが叫び、それに気づいて一瞬戸惑うが、シークの名前を叫ぶマリン。
フックのような片腕でマリンを縛った縄を引っ掛け、それが顔を上げた。
「おいおい」
それは骸骨そのものであり、それが雄たけびを上げると、船の看板が騒がしくなる。
どうやら本性を現したようだ。
「この船は海賊船じゃなく、幽霊船なのね………」
シノンがそう呟くと、船首のさらに先、舳先まで移動する。マリンを助けに出向こうとする男たちだが……
「だ、ダメだ。舳先が濡れていて、こんな濡れた丸太の上歩けるかよッ!?」
足場が濡れていて滑りやすい道、踏み外せば最後、渦を巻き荒れ狂う海へと落ちるだろう。
「ならどいててくれ」
「ッ!?」
マリンが俺の顔を見て驚き、頬を緩ませた中、なにも躊躇いも無く剣を抜き前へと進む。
骸骨船長の周りに剣が何本も浮き、紫の炎を纏う骸骨船長は不敵に骨を鳴らす。
「悪いがその姫様から離れてもらおうか」
「テイル!」
「問題ない」
足場が悪いところでの戦いなぞ慣れている。あの頃の感覚を思い出せ。
そうして骸骨船長との闘いが始まろうとしていた。
◇◆◇◆◇
「これは、ゴロン族の仮面と同じ」
『……? 声が聞こえるのか?』
「は、はひッ!?」
「アスナさん、落ち着いてください……」
アスナはリーファたちに任せて、俺とクラインは仮面を手に持つ。すると幽霊のように仮面に宿る魂。ゾーラ族?の青年が姿を現した。
『オレはゾーラ族の『ミカウ』。君たちは? まさかあの幽霊たちを倒しに?』
アスナが悲鳴を上げる中、それと共に甲板からも悲鳴が聞こえ出す。
「幽霊? それっぽいとは思ってたけど、この船は幽霊船だったのか!?」
『ああ、『巨大仮面魚グヨーク』が操る幽霊海賊船。俺も黒い矢に射貫かれて呪いをかけられた』
「黒い矢?」
『そうだ。仮面を付けた小鬼から、な』
「スタルキッド」
ここで思わぬ名前を聞き、さすがに驚く中、彼から捕らえられている者たちの居場所を聞く。
『頼む彼女を、俺たちの歌姫を助けてくれ。俺にできることはなんだってする』
「任せてくれ、君の力を借りるよ」
『ありがとう。それと気を付けてくれ、奴ら『手負いの偽者』ならこれで殺せると言っていた』
「手負い? 偽者って………」
彼、ギタリストから最後にもたらされた情報を聞き、急いで彼がいる場所へ急ぐために、人質たちのもとへと急ぐ。
無理をしていなければいいが………
◇◆◇◆◇
浮遊する剣を的確に弾き、キュキュと鳴る舳先の上で雨に打たれながら剣を振るう。
こちらを切り裂こうとする刃を盾で防ぎ、どうにかマリンを助け出す道筋を探す。
(後で怒られるかな……)
そう思いながら、マットのロープだろうか、さっきから骸骨船長の後ろで大きくぶら下がって揺れている物が見える。相手が大きく剣を振るったとき、オーバーに弾かれて、身体を後ろへと倒す。
「「「テイルッ!?」」」
三人の悲鳴が聞こえる中、片足だけを舳先へと引っ掛け、重力に逆らうことをせず、そのまま倒れる。
片足をフックのように引っ掛けながら下を通り、勢いのまま身体を浮かせ、相手の後ろ、ロープへと《アルティメットファイバーガン》、略してUFGを使う。
なんてことはない、シノンの腰に下げていたこれを前に出る時に拝借して、下をかいくぐっただけだ。
うまくいくとは思って無かったが、うまく背後を取ることができた。後で怒られるだろうか?
舳先に巻き付くように移動した結果、相手の背後を取り、マリンを奪い取ると共に蹴り飛ばす。
カタカタと音を鳴らしながら、骸骨船長は海に沈んだ。
「………」
「大丈夫か?」
「! テイルの馬鹿バカ馬鹿ッ!!」
そう叫びながら涙目のマリン。ユウキのうなり声や非難する視線を二人分感じる。
それを感じながら、お姫様だっこでマリンを持ち、甲板へと戻ろうと………
『ギャアァァァァァァァァァァァァ!!』
突然大波が来て、揺れ動く中、体制を崩しかけた。
『待ってたわ待ってたわこの時を』
『偽者はさっさと退場しなさいな!』
声が聞こえた瞬間、目の前にグヨークが口を開きながら、目の前に現れた。
◇◆◇◆◇
突然海から巨大な仮面の魚が飛び出して、テイルへと噛みついた。
テイルは素早くUFGを取り出してマットへと取り付けた。
それでも間に合わない。ボクらがそう思うと、マリンさんの縄に括り付け、勢いよく突き飛ばした。
マリンさんが悲鳴を上げながら、UFGでボクらのところに突き飛ばされ、シークさんとシノンが確保する。
「テイルッ!」
ボクが名前を呼ぶと、嵐の中で笑い声が響く。
「やったわやったわッ! 偽者を倒したわッ!」
「お、オメェは、避難してきた」
「ここから逃げ出したって言う女の人!?」
「そうだわそうだわ。全て偽者をここで海の藻屑にするため、ここまで案内してあげたんだわ~~」
その少女が浮き上がり、ケケケケッと笑い声をあげながら、四体の姉妹の幽霊が現れた。
『よくやったわ末っ子ちゃん♪』
『手負いの偽者はここで終わりよ終わり。だってあれは偽者、本物なんて使うはずはないわ』
『その通り、ここで偽者は終わりなのさ~♪』
笑い声を響かせながら、シノンが銃を撃つ。それを避けながら、レーザーのような攻撃をしてきた。
これはテイルが言っていた『地獄四姉妹キュバス』。
「よくも騙したなッ!?」
『これで偽者はもうおしまい、後はあなたたちだけよ』
「テイルは偽者じゃない。そんなことなんてないッ!」
きっと大丈夫、大丈夫だよね? テイル。
ボクらはテイルが戻ってきてくれる事を信じて、剣を抜いた。
◇◆◇◆◇
勢いよく水が流れる中、激流に身を任せることしかできず、空気が身体から出て行く。
噛みつかれることは回避することはできた。マリンが甲板へ突き飛ばしたのも見た。
後はこの激流の中、追撃しようとするグヨークをどうするか。
この激流の中で泳ぐことはできない。なにか無いか何かッ?!
そう思い僅かに身体を動かし、それに触れた。
それに触れてどうするか考えた。すぐに答えが出たとき、思考が止まる。
【それは勇者の物、お前が使っていいと思っているのか?】
ああそうだ、これは彼女が、彼女が勇者の為に用意した物。
【偽者が使用するなんて、驕り過ぎる】
【他の手を使え、他の手】
【なくてもお前に使う資格は無い、この偽者め】
【お前に資格は無い、勇者を名乗る資格も何もかも】
激流にもまれながら、泡が吹き出る。片腕をグヨークに噛まれ、海の底まで連れてかれる。
このままでは死んでしまう。そう思う中、俺はこれを使えない。
どうすればいい。どうすれば………
暗闇に引きずり込まれる中、俺の思考も闇へと落ちていき、そして俺は暗闇に囚われてしまった………
二重でピンチに陥るテイル。
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第16話・傷だらけの勇者
『諦めないで』
――誰だ――
片腕を掴まれ、どんどん海の深淵へと向かう激流の中で、その声が心に響く。
『あなたにはまだ手がある。それをせずに諦めるの?』
――だけどこれは――
ユウキたちが待っているのに使わないでどうする。
―それでも使ってはいけないんだ。俺の為にある物ではないのだから、使って良いはずがない―
『私にとって、あなたも大切な仲間』
――ッ!?――
悲しそうに呟かれた言葉に、ユウキやレインたちの顔を思い出し、シーカーストーンを強く握りしめる。
『忘れないで、あなたにはあなたの守るべき人がいることを。あなたは私の……私たちの仲間なのだから』
全ては飲み込まれる激流の中、俺の意識はシーカーストーンを操作し出した………
荒れ狂う海の上、波に揺れる巨大な幽霊船の上で高笑いするキュバスたち。
『邪魔者偽者をやっつけたわ~♪』
『これで遊びの邪魔はされないわ♪ もうあれはもういらないのぉ♪』
笑い合う幽霊たちの中、一人の青年が海の中に飛び込んだ。
『ッ!? なんなのデス?!』
それは黒い服が目立つゾーラ族の青年であり、アスナが甲板の淵まで来て、海を覗き込む。
「キリト君ッ!」
「任せてくれ!」
海の中を進むゾーラキリトに対して、いまだにあざ笑うキュバス四姉妹。
『無駄デス無駄デス、もうおしまいデスーーーッ!』
『手負いの偽物はここでおしまいデス』
『それでも遊んでほしいのなら』
『相手してやるデスッ!!』
ビームのように光を吐きだすキュバス四姉妹。甲板にいる者たちは必死に避ける中、ユウキはマリンの縄を斬り、共に海の中を覗き込む。
「テイルッ!」
「テイルーーーーーッ!!」
二人の叫び声は風にかき消された。かに見えた。
突然海の中に光が迸る。
『ッ!?』
しばらくして何かが海の上を跳ねあがる。
「キリト君?」
キリトだけではなく、何かを抱えている。それは青で統一された鎧を身に纏う、どこかの騎士のような姿。
「はあはあ……死ぬかと思った。助かったぜキリト」
「ああ、こっちこそ食われたと思ったぞテイル」
その鎧を着こむのはテイルであり、その姿を見てキュバス四姉妹は驚愕した。
『『ゾーラの鎧』ッ!? な、なんで……なんで彼奴が装備しているのデス?!』
『あの荒れ狂う海の中、兜や足だけじゃ身動きできずにお陀仏のはずデス!?』
『鎧に手を出すなんて、考えられないのデスッ!!』
それに驚く中、銃声が一人を貫き、一人を落とす。
『ッ!?』
「あんたたちの相手は私たちよ」
「みんな行くよッ!」
シノンはリロードしながら走り出し、ユウキも剣を構えて走り出す。
甲板の様子に勘付きながら、テイルは海の中で顔を出したグヨークに剣を向けながら、キリトに捕まる。
「さすがにゾーラの装備でも、この中を自在に泳ぐことはできない。タイミングはいいなキリト」
「ああ、バリアの張り方分かったぜ。問題ない!!」
「なら、グヨークを倒してさっさと次に行こうかッ!」
◇◆◇◆◇
『偽物の癖に本物のおこぼれをもらうなんて意地汚いデスッ!』
「テイルは時の勇者じゃなくても、勇者さんと同じだよッ!」
吐き出されたビームの中で玉の形をした物を見つけ出し、ユウキは叫び、その玉を跳ね返した。
『ギャアアアアアッ!?』
『姉さん?!』
『妹をよくも』
「食らいなさいッ!」
銃弾が何度も鳴り響く中、ビームを吐き出すキュバスたち。だがそれを避けながら、狙いの玉を見つけ、リーファが剣で弾く。
「リズさんッ!」
「はいよッ! シリカ!」
「トドメです!」
『ギャアアアアッ?!?』
リズへパスするように玉を弾き、シリカが空に浮かぶキュバスを一人撃ち落とす。
『末っ子ッ!?』
その時、銃声が鳴り響き、悲鳴も響き渡る。
『ああお姉ちゃんッ!? よくも姉妹たちをッ!』
悲鳴のようにビームを放とうとすると気、何かが自分の頭上を取った。
『なっ………』
「これで終わりだよッ!」
UFGを使い、マットとマットを飛び回っていたユウキが近づき、その剣で真っ二つに切り裂いた。
『そんな……バカな………ッ!?』
叫び声を上げ、四姉妹が消えると共に甲板の幽霊たちが消え、いつの間にか統率していたアスナが勝利宣言をする。
甲板にいる冒険者がアスナの声に喝采を上げ、リズたちはそれに苦笑した。
「あの子本物の世界で騎士団やってるわよ」
「道理で静かだったのね」
甲板の上にいた甲冑幽霊たちを倒し切り、アスナは仕切っている。その様子に仲間たちは呆れる。周りの傭兵らには勇ましく見えるが、リズたちには自暴自棄になっているようにも見えた。
「アスナさんらしいですね……」
「途中から幽霊が怖くなくなってましたねシークさんも」
苦笑し合う仲間たち。その中でユウキとマリンは、海の中を覗き込む。
閃光が時々光り、まだ海の中で戦いは終わっていない。
「テイル………」
◇◆◇◆◇
ゾーラの鎧のおかげで、激流の中でもある程度動けるようになったテイル。キリトに捕まり、グヨークの攻撃を避けながら斬りかかる。
その中でキリトがバリアを張った時、テイルはシーカーストーンを操作した。
金色の鎖が突然現れ、グヨークを捕らえた。時を止められ、動けなくなったところでキリトが一気に近づく。
激流の中でテイルはソードスキルを放ち、グヨークを切り裂いた。
◇◆◇◆◇
「ぷっはーーー」
グヨークを倒したからか、巨大な腕と足を見ながら、穏やかになる海に魚たちが舞い戻ってきた。途中で大亀に助けられ、こうして海面から顔を出すことができた。
『大丈夫かい?』
「あ、ああありがとう。途中で助けてくれて」
「テイル、無事でよかったよ」
テイルがキリトに話すのは、海中に引きずり込まれた時のこと。
「生身のままじゃ、あの激流の中じゃ動くことができなかったが、シーカーストーンの操作だけはできた」
「それで例の、対象の時を止める機能を使ったのか?」
「まあ、深いところだったから、そのままだったらキリトが来る前にまた捕まってたが………」
そう言いながら鎧を優しく撫で、鎧が作られた想いを感じ取りながら感謝する。
「この鎧は激流だろうと滝だろうと泳ぐことができる。こいつのおかげで激流の中も動けた」
「そんな便利な物、どうして最初から使わなかったんだ?」
「こいつは勇者を想って作られた鎧だ。俺に着る資格なんて無い。着る直前まで使うことなんて考えられなかったし、使う気も無かったが」
『忘れないで、あなたにはあなたの守るべき人がいることを。あなたは私の……私たちの仲間なのだから』
その言葉で使うことを決め、力を借りることにした。キリトはそれを聞き、苦笑する中で安心する。
「それより、この後が大変だ」
「大変?」
そう思っている時、視線を船に向けると、大声を上げている仲間たちの他に、ゾーラ族の娘が大きく手を振る。
「クラインの気持ちが分かるかも………」
「ギターの弾き方は教えてやるよ」
そう苦笑し合い、彼らは崩れていく幽霊船を見ながら、大慌てで船の仲間たちにそれを伝えた。
◇◆◇◆◇
キリトの方は元々引けたのか知らないが、バンドは問題なくできるため、ゾーラキリトとして人気バンド、ダル・ブルーの手伝いに出ている。
港町は祭りの前夜祭と言わんばかりに大盛り上がりであり、アスナたちは町を見に出向いている中、俺だけがここにいた。
「………インパ」
「なりません姫様」
ゼルダはいまだ、俺たちと協力してスタルキッド、引いてはムジュラの仮面の事件を解決したいと思う中、護衛のインパの説得に時間をかける。
いまだけはゼルダとしてのドレスを着こむ彼女だが、中身は変わっていない。他人に全てを押し付ける気は無い、おてんば姫だ―――
「いまなにか考えましたかテイル?」
「イエナニモ」
椅子に座り、振り返りながら睨むゼルダ。目の前に立つインパはため息を吐き腕を組む。
「姫様、あなたの気持ちは分かります。この事件には少々謎が多いです。ですが、マリン様を巻きこんだ時点、これ以上彼女に影武者を任せるつもりですか?」
「それは」
「………はあ、わかりました。マリン様が攫われたのはわたくしどもにも責任があります。ですが気になる点があります」
「気になるとは」
腰に下げている剣に手を振れて俺を見るインパ。
「わたくしはまだ、彼のことについて何一つわかっていません。彼の腕を見せてはくれませんか?」
どうしてこうなるんだろうね………
◇◆◇◆◇
インパが納得するまで試合をしたテイル。いまは祭りの光から離れ、ゼルダが泊まる屋敷から見守っていた。
バルコニーから見える港町は坂の上に立つ屋敷から見れば、光の海と言わんばかりに明かりが灯り、賑やかな音楽が流れて来る。
「こんな祭り日和に、ここにいていいのかマリン?」
そう独り言を言うと、扉の奥から物音が聞こえ、しばらくしたら開く。
「えへへ。まあ攫われた身だから、少しお休みもらったんだ」
そう言い現れるマリン。少しだけオシャレをしていているが、島にいた頃の服装と変わらない服を着こむ。
テイルの隣に立ち、同じように町を見下ろす。
「テイルこそ久しぶり。助けてくれてありがとう」
「別に構わない。俺は俺にできることをしただけだし、最後に助けてくれたのは、未来か異世界の勇者の仲間のおかげだ」
そう言い、ゾーラの姫君を思い出し、感謝の念を抱く中、マリンはその顔を見て微笑む。
「それでも、テイルが選んで、決めたことで助かったんだから、テイルのおかげだよ」
「俺は勇者なんていうものじゃないんだが」
そう苦笑する中、マリンもまた苦笑する。
「うんそうだね。君はどちらかと言えば、物語で出て来る騎士とかかも」
「そうか?」
「うん。そんな感じ」
そう笑い合いながら会話する中、しばらくしたらテイルは沈黙する。
「………町から避難する気は無いのか?」
「無いよ。カーニバルで歌わないといけないし、それに、あなたたちが助けてくれるんだもん。きっと大丈夫」
そう優しく言う彼女に対して、テイルは複雑な顔をする。
それに微笑みながら、マリンは夜の空気を胸いっぱいに吸う。
謳われるは目覚めの歌。優しい子守歌のように奏でられる歌に、耳を傾ける。
(俺は俺にできることをするだけ)
やらなければいけないことが増えた。そう考えながら町を見守る。
自分の記憶には無い町。そこは現実にここにあると言わんばかりに、人の活気と熱を持つ、実在する町。
記憶の中のゲームでも何でもない街並みを見ながら、テイルは決意する。
(やるべきことを成せ)
そう思う時、視界がズレた。
「?」
急になんだろうと思う中、歌が途切れ、マリンが心配そうに見つめる。
「なんでもない。疲れただけだろう」
「本当?」
「ああ、もう寝ることにするよ」
そう話し合い、彼は屋敷へと戻っていく。
◇◆◇◆◇
手負いと言われた偽物が廊下を歩く。姫君が与えた薬によって、火傷の跡も無くなり、腕は元通りに治る。
傷は癒え、十全に戦えるよう体調を整え、最後の場所へ思いをはせていた。
だが本当に………本当に彼は傷は癒えただろうか……?
廊下を歩く彼に誰も気づかず、本人も気づかず血は流れる。
心に撃たれた黒い矢が窓ガラスに映る中、彼は明日へと向かって歩いていた………
次回谷を終え町に戻ります。テイルがどうなるか。
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第17話・物語の罠
アスナが無双するあまり、無関係の親子まで始末しそうになる(キリトたちがオカリナ吹くまで抑えていた)
テイルが隊長の仮面など使う前にオバケ撃破(作曲家兄弟など含む)(一部強制的に抑え込んだ)(シークとアスナのコンビプレーに全員呆れた)
最終決戦おばけの大群も出て来て、テイルなどが撃破。巨人の仮面をシリカがかぶり、巨大化してやらかす。
大ピンチの中で彼らは勝利を収めた。
刃が煌めくと共にツインモルドを斬られ、骸骨たちは悲鳴を出しながら崩れていく。巨大化したピナはリーファを頭に乗せて咆哮した。
「終わった」
「キリト君……ギリドぐん………」
「落ち着けアスナ、頼むから」
「私は王族、私は平気………」
「………離してくれゼルダ」
約二名泣きじゃくり、それを落ち着かせるキリトとテイル、お互いが抱き着いてくる彼女たちの対応に赤面していた。ユウキはハイライトが消えた目で微笑みながらテイルをジッと見つめ、シリカは真っ赤になり座り込み、リズとリーファが落ち着かせていた。その様子を無視してシノンがフェリサと共に解放された者を見つめる。
「あなたたちは何者なの? 姿を現しなさい!!」
響く音が鳴り響き、雲が晴れてその姿を見せる。
巨人は姿を見せ、歌のように話しかける。その音はフェリサたち妖精が翻訳した。
「あなたたちは全員解放したわ。今度は力を貸してもらう番よ」
「時計塔であなたたちを呼ぶわ。だから力を貸して」
歌が響きだす。シリカたちも耳を研ぎ澄ます中、フェリサたち妖精が言葉を紡ぐ。
「わたしたち、を、呼んで。このうたで」
「いま流れている歌のこと?」
「分かったわ、テイルがオカリナで奏でるから、その時に駆け付けて」
「そうよ! スタルキッドの奴を止めて」
悲しそうな音色が流れ出し、復活したシリカは首を傾げる。
「これは、なんって言ってるんですか?」
「えっと………と、も、を。ともをゆるせ? 友達を許してほしいって言っています」
ユイの言葉に全員が分からない中で、テイルは難しい顔をしてゼルダをあやしていた。
こうして四つの場所を巡り、彼らはクロックタウンへと急ぎ戻る。
◇◆◇◆◇
毛布を被り、暗示が戻るのを待つゼルダ。アスナも同じように毛布を被り、テイルに文句を言う。
「テイル君の馬鹿、ああいうとこなら初めから言ってほしいのに」
「私は大丈夫、私は強い、私は大丈夫………」
「まあまあ、テイルだって全部が全部同じじゃないから言いたくないって知ってるだろ?」
キリトが落ち着かせる中、肩に妖精たちを乗せているテイルは気にせず馬車を操る。
そんな中、ユウキがテイルの膝の上に座りながら、その頭上にあるテイルの顔を覗く。
「テイル、少しだけこの先のこと聞きたいんだけど」
「………言えるものなら」
「うん。ナベかま亭のアンジュさんのことだけど」
「………」
その時、ユウキは僅かに変化したテイルに気づく。テイルはしばらく虚空を見つめながら、僅かにヒントを出すことにした。
「俺が知るのは二つ。ゲームと物語での知識だ。婚約者がどこにいるか、俺はゲームの方で調べるから、みんなと共に物語と別の方向が無いか気を付けて行動してくれ」
時間までなと付け加え、ユウキはそれを聞き嬉しそうにはにかむ。
「見えてきたわよ」
シノンの言葉に全員が顔を上げる。もうほとんど月が側にあり、港町の入り口から客など人が入る中、町は賑やかな雰囲気と、避難する人たちで別れていた。
◇◆◇◆◇
テイルとシークはチャットを連れ、ゲームの知識から探せる場所を探し始め、リズ、シリカ、リーファはフェリサを連れ、レインたちミルクロードにいた仲間を探しに出向く。
ユウキはキリト、アスナ、シノンと共にユイを連れ、ナベかま亭を見に出向く。
人の行き来がある中だが、やはり町の人は二分する雰囲気に戸惑う者もいる。
そしてナベかま亭の裏口へ顔を出したら………
「ん?」
ユウキの前にナベかま亭の中を探る、仮面を付けた子供を見つけ、アスナがそれに反応する。
「だれ!?」
それに気づいた子供はキツネの仮面を付けた子で、すぐに離れていく。
その足元に手紙らしき物が落ちていて、ユウキが慌てて拾い、呼び止めようとしたが、すでに人込みに隠れ、姿をくらましてしまう。
「あの子なにか落としたよ、手紙?」
首をひねりながら文字を見つめるが、この世界の文字を読めないユウキ。ユイが近づき、読み上げてみる。
「アンジュへ、カーフェイより。と書かれています」
「アンジュさんの手紙!?」
◇◆◇◆◇
ナベかま亭はアンジュのこともあり、仕事は他の手伝う予定だったため、お客はいない。そんな中、ユウキが慌てて中に入り、アンジュの名前を呼ぶ。
「ごめんなさい、うちはいま避難する予定で………ってあなたは?」
「アンジュさんこれ、カーフェイって人から手紙だよ」
「カーフェイから!?」
手紙を受け取り、その文字がカーフェイの物と知ると、涙をこぼすアンジュ。
車いすに座るおばあさんと、彼女の母親が見守る中、アンジュは静かにここに残ると決意する。
「アンジュ、あんたなに言ってるの?」
「ごめんなさいお母さん、だけど私、彼を待っていたいの」
アンジュの決意に母親が困った顔をする中、おばあちゃんがまあまあと落ち着かせる。
「あんたも残るのなら、アタシも残るよ。いざとなれば『四人の巨人』に助けてもらうさ」
「四人の巨人?」
ユウキの言葉におやおやと反応するおばあちゃん。この地方のおとぎ話を聞かせてくれた。
「昔々、遠い、とおーいむかしのことさ。世界がまだ生まれてもいなかった頃、ある寂しがり屋の夢を守る、四人の巨人がいたのさ」
「四人の巨人」
「その巨人は夢が終わった後、この世界に落ちて、この地方が夢の世界に似ているからそのまま根付いたのさ」
世界が出来上がりつつある中、巨人たちは自分たちの力をこの世界を守る為に使おうと、この地方の東西南北に別れ、深い眠りにつく。
「巨人たちはなにかあれば自分たちを呼ぶよう言い残していた。だから助けて―――って叫べばいいのさ」
ユウキはその話を聞き、アンジュはここに残るために準備をし出す。
「アンジュさん、ボク、カーフェイさん探して来る。心当たりがあるんだ」
「待って」
そう言ってユウキを止め、彼にあったら伝えてほしい言葉を伝える。それを聞いたユウキは宿の外に出る。
外にはアスナがいて、キリトとシノンはいない。
「キリト君たちならあの子供を追ってるよユウキ」
「うん、あの子に会いに行こう」
そうして大急ぎで人込みをかき分けていく。
◇◆◇◆◇
「キリト」
「ああここだ」
「パパ、もうすぐ月が落ちる時刻です。早くしないとテイルさんが」
「そうだな。彼のことだから一人で進むだろう」
仮面を付けた子供。テイルが深く言わなかったが、スタルキッドの仲間と言う訳では無いだろう。
それでも念入りに用心しながら、俺はシノンと共に隠れ家のような場所に入り込む。
「ッ!?」
「探したぞ。お前は何者だ」
仮面を付けた子供はすぐに逃げ出そうとした。俺はすぐに取り押さえるが、子供のくせに力が強い。
「キリト君!? あまり乱暴しちゃだめだよっ!」
そうアスナたちが駆けつけた時、仮面が取れて、その素顔を見せる。
子供は無言のまま、静かにし出した。
「君、カーフェイさんのこと知ってるの? 教えて、カーフェイさんはどこにいるの?」
そう言われた子供は静かに………
「………ボクがカーフェイだ」
◇◆◇◆◇
カーフェイが話すのは一か月前、酒場で男友達と飲んだ帰り道、スタルキッドに子供の姿に変えられたと言う事実。姿を変えられ、この姿でアンジュに会うことはできないと思い、ずっとここで隠れ住んでいたらしい。
「これは結婚式で使う婚礼の面、太陽のお面だ。これ以外、ボクがボクである証は無いんだ。いまアンジュに会っても、悲しい思いをさせるだけだ」
「カーフェイさん………」
「頼む、彼奴についてなにか知ってるのなら教えてくれっ!! 必ず元に戻って、アンジュとの約束を果たしたいんだ!!」
それを言われたキリトたちは、少しばかり戸惑う。これからスタルキッドを止めるため、時計塔で最後の戦いをする。そこに彼を連れて行っていいかどうか。
「人数もいるし、きっとどうにかできるわよ」
「わたしもそう思うよキリト君、お願い」
「分かった。彼を時計塔に連れて、スタルキッドを止めよう」
頷き合うキリトたちに、カーフェイは感謝し、ユウキがアンジュからの言葉を伝える。
「あなたを信じて待ってます。それがアンジュさんの言葉です」
「アンジュ………もう少し待っててくれ」
その時、僅かに地響きが鳴り響き、全員が困惑する。
「カーニバルはまだ始まらないぞ。なのにこの地震は……?」
「分からないけど、急いだ方が良さそう。急ごう」
頷き合い、全員が時計塔に向かう中、アスナがユイに伝言を頼む。
「ユイちゃんは他のみんなに連絡して、わたしたちは時計塔に向かうから」
「分かりました」
「ああそれと………」
◇◆◇◆◇
ユイに伝言を頼み、時計塔に向かうキリトたち。その時にカーフェイはキリトに話しかけた。
「すまないが、君たちの中に『勇者の偽物』はいるのか?」
「!? どうしてそれを?」
「彼奴が去り際に言っていたんだ。今度は勝つ、紛い物には負けないし、矢も刺したんだからって」
「矢? テイルは矢なんか受けてないよ?」
「いままで手傷を負ったとか言われてたけど、テイル君の怪我は治ってるし、どういうこと?」
「矢だって? そう言えば、ゾーラの彼は黒い矢を受けたって………」
「仮面に成る黒い矢のこと? けど彼奴は矢を受けるどころか、なにも刺さってないじゃない」
そう言われた時、キリトは何かを考え込む。
「………見えていないのかも、知れない。俺たちが最初、あの月を見ることができなかったように」
「!? それだと、いま矢が刺さってるの?」
そう言った途端、暗闇から腕が生えた。
「きゃああああっ!?」
「なんだこれ!?」
「!? この腕は見えているのか!?」
その日、最初の日にキリトたちを襲った黒い影の腕があちこちに出現して、人々は天に向かって叫び声を上げた。
「あれはなんだ?」
「月か? まさか本当に月が落ちるのか!?」
「そんな!? あんな大きいのいままで無かったのに!??」
パニックが起き始める中、時計塔に向かうことができなくなる。
「どうしよう。時計塔に近づけ無くなってきたよ」
「それに……地響きだけじゃない。オカリナの音色が響いてる」
「テイル……ッ!?」
◇◆◇◆◇
四方から突然現れる巨人たち。彼らが月を支えだし、月の落下を止める。
俺の目の前にいるのはスタルキッド。混乱の所為か、キリトたちが追い付いていないが、問題ない。
(後は俺がしなきゃいけないことだ)
「くそくそッ! オレの邪魔をしやがって」
悔しがるスタルキッド。だがその時、違和感に気づく。
スタルキッドの悔しがるだけで、なにかしてくる訳では無い。
【キニスルナ、後はこのまま、ストーリー通りに突き進むだけだ】
………ああそうだな。この先の展開は変わらない。そう思う瞬間、背中、心臓がある場所から暗闇が噴き出し、テイルを包み込むとき、側にいたシークとチャットが違和感に気づく。
「なっ、なに?!」
「テイル?」
暗闇が消える、テイルはそこにおらず、それにスタルキッドはケケケッと笑いだす。
「このゲームはオレが主役だッ! ゲームキャラはこのままバットエンドにでも迎えてろッ!」
「ゲーム? なんのことだ!」
「スタルキッド、テイルをどこにやったの!?」
「彼奴はオレのオモチャなんだ、もうゲームは止められない】
「スタルキッド?」
チャットが違和感に気づくと、弟のトレイルが近づいてくる。
「勇者ッ!! お願い、沼、山、海、谷にいる四人の人たちを連れて来てッ!!」
「トレイルどうしたの? もう巨人は連れてきたし、勇者ってテイルのこと?」
「勇者ッ!! お願い、沼、山、海、谷にいる四人の人たちを連れて来てッ!!」
「トレイルどうしたの!? お姉ちゃんのこと分かる?」
「勇者ッ!! お願い、沼、山、海、谷にいる四人の人たちを連れて来てッ!!」
「………トレイル?」
「勇者ッ!! お願い、沼、山、海、谷にいる四人の人たちを連れて来てッ!!」
くるくるくるくる回るトレイルはいつの間にか黒い矢のような物が刺さっている。
それにチャットが悲鳴を上げると共に、シークが困惑した。
「これは」
「ケケケッ、オレのゲームはここからが本番だッ!!!」
そう叫び声をあげ、いま本当の悪夢が幕を上げた。
時計の針が歪に時を刻む。針はもう止められない。後は彼らの力を信じるしかない。
「信じてます、信じてますよ勇者様」
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第18話・悪夢と晴らす者
「ッ!?」
気が付くと見渡す限り草原が広がり、向こう側に一本の樹が見える。俺はいつの間にか月の中に入れたようだ。
いつ俺はここまで進んだ? そう思う中、身体が勝手に動く。
関係ない。後は進めるだけで終わらすことができる。
今回はユウキがいる、レインがいる。仲間たちが、友が、みんながいる。早く終わらせないといけない。これ以上巻きこむわけにはいかない。
(? 何か忘れていないか?)
【忘れていないさ】
(そうか)
俺は頭に響いた言葉に疑問も持たず、意識を前に向け、そして一本の樹の前に、仮面を付けた子供がいる。視認した瞬間、俺は剣を抜く。
ここはムジュラの精神世界。ここにいるのは敵しかいない。
「お前は誰だ」
そう口にした瞬間、それは
「ッ?!」
そこにいたのは………
「ユウキ……?」
悪魔のような翼を広げ、赤い目と白い肌のユウキがニヤリと笑う。
【さあ敵だ】
【もしかしたら操られてるかも?】
【殺すしかない】
「ふざけるな。ユウキ、ユウキなのか?! くそっ!!」
短剣らしい武器で攻撃してくるユウキを躱しながら、雑音の中でユウキを見る。
偽物か本物か、どちらか分からない以上、攻撃する訳にはいかない。
打開策を記憶の中から必死に探す。だが雑音が酷くなるばかりで、なぜかそれ以上の答えが見つからない。
何かがおかしい。そう思いながら、その『何か』が俺には分からない。
【傷つけろ!! 敵はやっつけちゃえッ!!】
【ユウキちゃんかも知れない。ゲームの情報を思い出せ!!】
「ふざっ、けろッ!」
ここはゲームじゃない。ユウキたちの世界もゲームじゃない。ゲーム? ゲームってなんだ?
【いままで通りにやれば大丈夫、攻撃あるのみ】
【いままでとは違う、ここは死に戻りを考えて………】
「うるさいッ!! ここは現実だッ! 死に戻りなんてあり得ないッ!!」
頭が割れる。何かがおかしい。そう思っていると矢が何本か迫り、空中で叩き落す。
「ッ!? アスナ?」
ユウキのように白い肌と悪魔のような翼を持つ、赤い目のアスナが弓を構え、矢を放つ。
それと共に影からまた別の人物が現れる。
「シノン、シリカ、リズ、リーファまで」
みんな白い肌に悪魔の翼を広げていて弓、短剣、細剣にまた短剣。各々が武器を生かして攻撃してくる。
「なんだこれは………」
操られているのだろうか、だとしても攻撃して対処しなければいけない。
なにかが欠けている中でユウキたちの攻撃を防ぐ。なにをどうすればいいのか急に何もできなくなる。偽物であろうがなかろうが、攻撃を防ぎ対処しなければいけないのにだ。
【ゲームには無いぞ、運営なにしてるんだwww】
【どうしよう、リセットするか~】
【攻撃あるのみッ!】
「うるさいッ!!」
俺は何をしている? 何がおかしい? 何が違うッ!?
頭の中で鳴り響く声に疑問を覚えず、俺は戸惑う。ゲームの世界でもなんでもないのに、物語から外れた展開に何もできない。
何もできないまま、魔に魅入られた者たちの攻撃を受け続ける。攻撃に転じようとすると、その考えすら頭の中から消えてしまい、俺は攻撃を捌き続けるしかできなかった………
◇◆◇◆◇
俺たちが駆けつけた時、シークと同じことを繰り返すチャットの弟がいる。
「こ、れは………何が起きてるんだ」
スタルキッドは高笑いをしながら、巨人たちも様子がおかしい。月があまりに巨大すぎて苦しんでいる。
「キリト! 弟が、トレイルがッ!」
「どういうこと、これって………」
「オレが主人公になったんだよッ!」
そう叫び声を上げたスタルキッドだが、様子がおかしい。
『痛い……やめろ………オイラはこんなこと、したくない』
「るっさいな~こいつ、いい加減にオレ様に身体を渡せばいいのに。ゴミの癖に抵抗しやがって」
そう言い、何度も飛び回り。身体を床に押し付けるようにぶつける。まるで仮面に引きずられるように飛び回り、だらんとなる身体はすぐに何も無かったかのように身体を鳴らして、空に座るような体制になる。
「お前、ムジュラの仮面か」
その様子にもうムジュラの仮面が身体を乗っ取り、スタルキッドを操っている訳じゃないことに気づく。いつからかは知らないが、もうスタルキッドに意思はないようだ。
「はっはは、正解だ黒の剣士キリト。オレはもう主人公ムジュラ様さ。これでやっとオレのゲームを始められる」
「ゲームだと……」
「まずは手始めにこれだッ!!」
空に両腕を広げ、雄たけびを上げる。町から何か黒い影、世界から黒い物体が浮かび上がり、月へと集まり出す。
その時、あれが欲しい、これがしたい、怖いなど。人々の悲鳴や欲望の声が響き渡った。
「これは、人の欲望を集めてるのか?」
「ケケッ、そうさ。こいつはオレ様だけの欲望でできていない。異世界の奴や、こっちに連れてきた奴らを取り込んで作った特製品。ただのオレの世界だけじゃないのさ」
ムジュラはまるでオモチャの自慢をするように話しだし、巨人たちは膨れ上がった月を必死に支えた。
「お前、いったいなんなんだ」
「………ムジュラの仮面さ、
「なっ………」
キリトたちはすぐにそれがなにを言っているか理解した。
「お前、テイルが、いや……時の勇者の事を知っているのか?!」
「そうさ、あの時は良くも邪魔してくれたな」
けど、そう言葉を繋げ、高笑いをするムジュラ。
「許してやるよ。いいオモチャも手に入ったし、なかなか面白かったからなソードアート・オンライン」
その言葉にキリトたちが驚く中、キリトが前に出て叫ぶ。
「お前、ソードアート・オンラインを……俺たちのことを知っているのか?」
「違和感に気づいたのは、彼奴の中に別の誰かがいることに気づいた時さ」
ムジュラが語るのは、最初の遊びを邪魔された時。彼奴の中に誰かがいると気づいたとき、それに気づいて、やられそうになった時、僅かな力を彼奴とそいつの間に差し込んだことだ。
「テイルと時の勇者が繋がっていたとき、その間にお前が入り込んだ?」
「ああそして知ったんだ。もっと、もっっっっっとっ面白いことがあるって。それがソードアート・オンラインやあの偽者だ」
ソードアート・オンラインを知った時は面白そうだと思った。
「ゲームなのに本当に死んじゃって、神ゲーだよ。オレはそれをやりたくてやりたくて仕方なかった。だから………」
一息間を置き、仮面はニヤリと笑う。
「偽者がソードアート・オンラインに向かう前に、誰にも気づかれ無いよう手を加えた」
「加えた? お前はテイルに、テイルに何かしていたのか?!」
「彼奴ってさあ最低だよ。面白くなりそうなのに、先の事知ってることを良い事に、色々変えようとしてたからさ。思い出せなくしてやったり、それ以上考えられないように、仮面を付けたんだ」
「思い出せないように、考えられないように? テイル君がソードアート・オンライン、SAO時代、目的と違って閉鎖的に行動していたのは、あなたの所為なの!?」
「そうしなきゃ、彼奴第一回ボス戦とか台無しにしてたんだぜ黒の剣士。あれってゲームじゃ最高に愉快なイベントシーンなのに。情報の中に大太刀だったり、武器を変更されてたりって情報を流そうとしたし、いざとなれば一人でモーションが変わったところを見て、それを攻略組に流そうとしてたんだ」
「なん、だって……」
キリトたちは絶句する。もしもそうなっていたら、なにかしら変わっていたかもしれない。何かが違っていたかもしれない。それを知って、なによりも………
「あれを面白いって、お前が言うのか、ムジュラの仮面ッ!」
「別にいいだろ。ゲームなんだから、遊びだよあ・そ・び。彼奴だってゲーム感覚でやっていた。実際俺が加えた【体験】だって、ゲームと同じように黙々とやってたんだ」
「【体験】? まさかお前、彼が延々と勇者の物語を過ごしたのは」
「いい暇つぶしだったさ♪」
「お前、お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
「テイル君はゲーム感覚で、SAOに来ていなかった。勇者の物語をしていない。もしもあなたがなにもしなくても、いまのテイル君みたいに、必死に誰かを助けようとしていた。あなたみたいにゲームなんて思っていないッ!」
「テイルはボクらの世界を現実にして受け入れていたんだ。お前なんかと一緒にするなッ!」
ムジュラははっと鼻で笑い、肥大化する月を満足そうに見つめる。
「いまはオレ様の強くてニューゲーム中さ。あの時と違って別世界の奴らの欲望も集めた、勇者は本物じゃなく偽者を用意した。今頃彼奴は死んでるさ」
「テイルを、彼に何をしたッ!?」
「オレの世界で、お前たちSAO世界のキャラクターを傷つけないのと、敵は倒さなきゃいけないって思いこんでる彼奴の呪いを強めてるんだ。なにもできずに倒されてるさ」
「ふざけるなよ!」
「お前らもここで終わりさ」
雄たけびを上げると共に、影から人影が生まれる。
【後一回、後一回でレアキャラが………】
【レアアイテムぅぅぅぅ~】
「こいつら、仮想世界の」
「オレが叶えてやった欲望さ、好きに使っても問題ないさ」
「ふざけやがって」
剣で攻撃し出す中、カーフェイはムジュラに叫ぶ。
「お前、ボクのことを覚えているのかッ!」
「あ? お前は、あの時の酔っ払いか。良い気味だ、ずっとそのままガキの姿でいろ」
「ふざけるな。ボクには恋人がいる。彼女が待ってるんだ」
高笑いし出すムジュラ。腹を抱えて笑いだす。
「もう遅い、このまま世界は、この町は、全部、全部壊れちまえぇぇぇぇッ!!」
地響きが鳴り響く、キリトたちは影を振り払い、カーフェイは守られている中で、下に俯く。
(アンジュ………)
「カーフェイ」
その時、カーフェイは驚き、顔を上げた。
◇◆◇◆◇
アンジュはリズたちと運よく合流して、彼女たちに守られながら、時計塔に駆け付けた。
「どうしてアンジュさんが……」
「ママ、言われた通り、皆さんにお伝えしました」
「アスナ!?」
「だってキリト君。アンジュは待ってるんだよ。姿なんて関係ないよッ!」
二人は見つめ合いながら、静かに近づいて行く。
「ごめん、心配かけて」
そう言い抱きしめ合う二人に、全員が微笑む。そんな中、雄たけびを上げるムジュラ。
「気に入らない気に食わないッ! オレの前で、幸せそうにしてるんじゃないッ!」
影がより増える中、シークが薙ぎ払う。
「どうする、状況は悪いままだぞ」
「どうすれば………くっそぉぉぉぉぉぉぉ」
キリトが叫び声を上げて、影を薙ぎ払う時、その時、光が生まれる。
「なん、だ……?」
その光はシークの手からも放たれる。
「これは………」
◇◆◇◆◇
雑音が響く中、視界も赤で埋め尽くされる。偽物と分かっていても、ユウキたちは斬れない。戦わなければいけないが、ユウキたちを倒せない。
(俺は何を考えているんだ……?)
自分の思考も分からなくなる中、テイルは剣で防ぎ続けた。
肩に刺さった矢から血が流れ、言葉が視界すら埋め尽くすほど増えていく。
そんな中、諦めかけた時だった。
――諦めないで――
いままでと打って変った。透き通るような優しい音色が響く。
――あなたは彼に認められた。あなたは黄昏の勇者と同じ、彼の遺志を継ぐ者の一人――
「き、みは………」
その時、剣に映る自分。その背に黒い矢が刺さっているのが見えた。
その矢に触れる一人の少女。妖精の羽根を持つ、輝く淡い水色の光を纏う少女。
――あなたがいたから、わたしはもう一度彼に出会えたの――
「……ナビィ………」
引き抜かれた矢と共に剣に映る少女は優しく微笑む。
『大丈夫。あなたはもう、偽者じゃない』
その瞬間、テイルは金色の光に包まれ、世界は輝きに包まれた………
冥府に魅入られた妖精と狂い踊る中、偽者の前に一人の妖精が現れて声をかける。
さあ反撃の始まり、悪夢は終わる。
お読みいただきありがとうございます。
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第19話・始まりと終わり
とある場所で男は腕を組み、首を傾げ、その仮面を見つめながら必死に悩む。
「このままではワタクシの大切な仮面が、溢れた力でなにをするか分からない。困りました、困りました」
その時、ピコンッ! 名案が浮かび上がった。遠い昔、盗まれた所為で暴走した仮面は、勇者によって退治され、その力が弱まったではないか。
「そうです、勇者様にお願いしましょう」
悪を倒す勇者、悪のお面を退治するための正義の味方。大丈夫、その変わりになる舞台や人物に心当たりがある。
前に一度、強くなった仮面が矢を放ったあの人間に勇者を演じてもらおう。そう彼は思いいたり、ある場所で仮面を小鬼に渡して、その場所と彼らの世界を繋げた。
「これで大丈夫、後は勇者様にお願いいたしましょう。なんとかなります、信じなさい、信じなさい………」
そう言い、男は微笑みながらその時が来るのを見守った。
始まりは突然で、深く考えずに選んだのは確かだ。勇者の力があれば大丈夫なんじゃないか? その程度の気持ちで挑み、重い物を背負う羽目になった。
そのおかげで、俺は戦士としてデスゲームの中で優れた能力を持って挑み、無理難題を応えることに成功。ただそれだけだ。
勇者になんかなりたくない。だってそれは、あまりに重すぎた。
称賛も好感も、全てはリンクのものであり、俺のものではないのに、俺はどこかで自分に向けられているものと錯覚する。それは違う、違うのだ。
それら全ては彼の物であり、俺がかすめ取るものでないと考えるようになって、自分が他人の大切なものを踏みにじっていると思いだす。
だけど、けれど………
もしも許されるのなら、仲間と呼んでいいだろうか?
許されるのなら褒められたい、この苦しみが癒えたらどれほどいいか。
もしも許され、受け入れられるのなら、願いを叶えられるのなら………
『君は俺たちのもう一人の仲間だ。だから俺や彼女は駆けつけた。もう答えは出ている。後は君が掴み取るだけだ』
その声は聞きたかった言葉、彼から言われたい言葉であり、俺が望む言葉。
その言葉をもらったのなら、逃げることは許されない。俺は………
◇◆◇◆◇
光が町を包み込むとき、アンジュと共に来たレインたちは光を放つそれを見た。
黄金の三角形が二つ、キリトとシークの頭上に浮かび、それが月と巨人の間に浮かぶ。
月からもう一つの黄金の三角形が現れ、光の輪が紡がれ、月を支えだす。
「これは………」
「トライフォース………」
雄たけびのような悲鳴を上げるスタルキッド。いや、ムジュラの仮面。
仮面から解放されたスタルキッドは地面に落下する。それを巨人やチャット、矢が消えたトレイルが捕まえ、激突を阻止する。
『なんで……だ……? なんで偽者しかいないいま、こんなものが現れるッ?!』
月から黒い光が放たれ、その中に隠れるムジュラ。それを追うように黄金の道が生まれ、月までの道が出来上がる。
「テイルッ!!」
ユウキが走り出し、アスナが名前を呼びながら追いかける。
シノンはキリトと目線で合図を送り、シノンは走り出し、キリトも走り出す。
「キリト君!!」
レインはアンジュたちの側により、キリトに叫ぶ。
「彼奴の事お願いッ!!」
悲痛な叫び、本当なら駆けつけたいのだろうレインは、アンジュたちを守ることにした。
ストレアとプレミアと共にアンジュたちを安全な場所に連れていこうとし、リズたちに後を頼む。キリトは頷き、光の道を走り出した。
◇◆◇◆◇
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――ッ!!」
叫び声を上げて、偽者のユウキの短剣を叩き落す。偽者と分かっていても斬ることはできないが、これくらいのことはできる。
いままでの疑問が湯水の如く沸き上がる。どうしてそれを忘れていたり、考えてもいなかったか不思議なほど、自分で自分が信じられなくなるほど、当たり前なことを忘れていた。
顔から何かが崩れていく。まるで仮面をかぶっていたようにそれが崩れ落ちていく。
「そう、だッ! 俺はSAO編は見てないが、ALO。妖精の物語ぐらいは知ってるし、キリトになにかあったかくらい、友人から教えてもらったりしてたじゃないかッ!?」
なぜ忘れていた、なぜ疑問にすら思わなかった。
キリト、アスナ、リズ、シリカ、クライン、リーファ、シノン。彼らのストーリーを思い出す。何人か始まりや流れが違うが、原作知識と呼べるものがあったことを思い出す。リーファやシノンは違うし、レインたちも関わり合いが無かったはずだ。
そんな知識の中で、キリトが一人孤独に戦うことが教えられていた。だから回避するため、最初のボス戦は情報を集めようと考えていたのに。
「なん、で行動しなかった。俺は、俺は」
それくらいの時間は作ろうと思えば作れたはずだ。何時から思い出せなくなった? 何時から考えることすらしなくなった?
その時、危ないと声が響き、背後から迫る暗闇に同化している黒い矢を剣で弾いた。
『なんだいまの声は!? くそ、何もわからない時は刺さったのに!?』
「ムジュラの仮面ッ!?」
その時、偽者のユウキが斬りかかるが、その前に刃が偽ユウキを切り裂いた。
「ユウキ、みん、なッ?!」
「テイル、偽者なんだから戦っていいんだよ!」
「そんなこと言われてもな」
冷や汗を流しながら、ユウキに肩を借りているテイル。キリトたちは武器を向けながら、ムジュラの仮面を睨む。
「お前、俺になにをしたッ!?」
『ハッ、ソードアート・オンラインを始める前に、呪いをかけたのさ』
「呪い……俺がキリトたちのことをちゃんと覚えてなかったり、考えることすらできなかったのは………」
『ああ、凄いだろ!? 全部、ぜーーーんぶッ! オレ様の力さ!』
それに歯を食いしばり、テイルはムジュラを睨む。
「転生する前は、俺はこの世界もキリトたちの世界もどこか現実的に考えなかった。それで苦しむのは自分の所為だ。だけど、その力で未来を良くしたかった。キリトの始まりを変えたり、一人でも多くの犠牲者を無くしたかった。お前は、お前はそれを、行動することを妨害していたのか!?」
『ああそうだよバーーカーッ!! 勇者じゃないお前に、偽者の分際でホンモノみたいに助けられるかよ!!』
「………確かにそうだ」
だけど、そう呟き、前に立つ。
「始まりは神が叶えるならなんでもうまく行くと思った。被害者もいなくなって、大好きなキャラクターと仲良くなって、みんなが良い方に行くと考えていた。そうするための努力を軽んじているとも知らずに」
「テイル………」
ユウキの家族は神ですらできない願い。キリトたちのことはもはやたらればの話。例えムジュラが妨害していたとして、俺は本当にディアベルを助けられたのか、第1層の出来事しか知らない俺が、物語をよくできたかどうか分からない。
だからこれはもうしょうがない。時計の針は戻せない。なにより変えたいと思うのは、この世界が創作物の世界だと言っているようなことだ。この世界も仮想世界も現実だ。
異物である俺は結局いまのいままで、この世界を創作された世界と思いこんでいるんだ。
「いまお前のしていることは許す気は無い。お前は遊びだろうが、キリトたちは本気でSAOをクリアしようとした。それは誰であろうと遊びだのなんだの言う資格はない。あの世界はキリトたちの現実だッ!」
『馬鹿じゃないの? ただのゲームにそこまで言うの? お前は俺と同じさ。あの世界で楽しく遊ぼうとした、自分がオリ主になって活躍しようとした、偽物の勇者なんだよ』
「違うッ!!」
その言葉にユウキは怒りを浮かべ、はっきりと睨みながら叫んだ。
「テイルはお前なんかと一緒じゃない。テイルは、彼はボクの家族が幸せであって欲しいと思ってくれた、ボクが救われて欲しいと願ってくれた。お前なんかに無い優しい心を持ってるんだ」
「そいつは自分が特別だと思っているバカで、なんでもよくしようとするどうしようもない男よ。けどね、あなたと違って、誰かを笑ったりしているわけじゃないわ」
「テイル君は勇者じゃないのに、誰かを救うのに必死だった。それが勝手な背負いこみだろうと、それは本当に誰かを救ったことに変わりはないわ」
「ああそうだ。始まりは俺たちの世界を半信半疑だろうと、いまは違う。この世界に生きる、一人の人間だッ!! お前のような現実とゲームの区別のない人間なんかじゃない!」
ユウキが、シノンが、アスナが、キリトがそう言ってくれる。俺の為に、俺を受け入れ、言葉を言ってくれる。
「………お前は俺だったんだろうな。俺の始まり、転生するからって半信半疑で生きていなかった俺自身だ。だから」
拳から血が流れるほど握りしめ、前を向く。
「終わらせるッ! この世界や仮想世界、あの世界全てを遊びと抜かし、誰かの大切な思い出を踏みにじる貴様を倒す。その為なら俺は、俺はなんにだってなってみせるッ!!!」
その瞬間、辺りに輝きが一つ、煌々と輝き、テイルの前に形を作る。
『それは、なんで持ってるんだよ。勇者がお前に力を貸した? そんな話あるかよ?』
それは一枚の仮面のようであり、テイルはそれをかぶる。光はそのまま姿を覆い隠す。
それは力、世界で力を欲した魔王に多く宿り、その力を行使しては暴走する結末の力。
だが、この世界、いまこの時、それは暴走は暴走だが、理性ある暴走は力を正しく引き出し、それは姿を変えた。暴走は収まり、輝きは消えて姿を表す。
「………魔王……?」
その姿にキリトは呟いた。
神々しいほどの輝きを放つ髪に青い瞳。テイルと言う人間をベースにハイリア人がいるとすれば彼のような存在だと言える姿。
レインの剣を握りしめ、巨大な盾を掲げて、その手に力のトライフォースを宿し、それに共鳴するように勇気と知恵がその手に宿る。
『なんでだよ?! 偽者がなんで、勇者みたいなことしてるんだよッ!?!』
「生憎と、偽者だろうと必要なら、勇者や魔王ぐらいやってやるさ。テメェを倒す役目、果たさせてもらう」
魔王の力を振るう勇者と、人の願いを弄ぶ仮面がいま、激突しようとしていた。
◇◆◇◆◇
四つのお面。邪悪な仮面が浮遊する中、それを両断する。
その一撃は斬撃の風を巻き起こし、ムジュラの仮面にも当たった。
『くっ、この偽者がッ!』
仮面から手足が生え、蠢くムジュラに対して、接近して斬撃を放つ。
「テイルッ!?」
「キリトたちは見ていてくれ。これは俺が、俺が解決する………」
それは一人で全てを背負い込む彼のようにも聞こえたが、その目は違う。
「これが初めて俺が俺だけで選びたいこと、選んだことだからッ!!」
斬撃で吹き飛ぶムジュラの化身は、そのまま強大な力を解き放つ。
「魔人になったか」
【ニセモノの分際で、オレの遊びの邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?】
「………ああそうだ」
鞭のような腕を斬り、盾を構え斬り込む。
「俺はそうだと言う自覚はあった、心のどこかでゲームやラノベだとか考えていた。本当にデスゲームを体験するまで、楽観視していた」
ムジュラの魔人を盾で吹き飛ばし、剣を掲げる時、ただ一言………
「だけど」
黄金の三つの三角形が輝く中、その光を纏う剣がムジュラの魔人を両断する。
「始まりはそんなものでも、いまは違う。この世界も仮想世界も現実だ、現実に起きた本物だ。そんなことも分からない馬鹿な俺を信じる仲間がもういるんだ。勇者だって超えてやらないでどうするんだよ!」
雄たけびのような叫び声が世界に響き渡る中、世界が崩れて行き、崩壊する。
「遊びは終わりだムジュラの仮面。俺はお前だけは許さない、キリトたちの世界を遊びと笑ったお前を、俺は許さない」
叫び声を上げたまま、世界は崩れて行った。
◇◆◇◆◇
暗闇の中、鬼の仮面が一つ転がっている。
「おお……危ないところだった。ワタクシの大切な仮面が………」
仮面を拾い、傷一つないことに安堵する男。だがその目の前に、一人の魔王が現れた。
戦慄する男だが、仮面を手放す気は無く、大事に抱え込みながら魔王を見る。
「さ、さすが勇者さま。ワタクシは信じておりまりした。必ず邪悪なたくらみを退けると」
「………」
魔王はなにも言わず、男はそのまま去ろうと、そうしたとき………
「っ!?!!!?」
太鼓の音が鳴り響く。ラッパやギターの音色が響き渡り、魔王はオカリナを取り出す。
「
音色が鳴り響き、四つの音が調和されていく。
その音色と共に時計の音が鳴り響く。少しずつ少しずつ、音が早まり、正しい鼓動のように、時計の針が進み出す。
「ひっ、ひいッ!?」
男は逃げ出そうとしたが、キリトたちが武器を構え周りを囲み、欲望として取り込まれていた者たちの悲鳴が解放されていく。
「かつて刻を刻むことができず、止まっているとも進んでいるとも言えぬ世界に、願いを叶える人喰いの怪物がいた」
己の力に怯えていた彼の刻が、本当の意味で動きだす。
【い、やだ。人間はオレをいつももてはやして、それを楽しんでたのに。なのに、オレは、オレ、は】
「もうお前は起きる必要は無い。終わりを刻め、ムジュラの仮面。願望を叶える力」
雄たけびのような叫び声が響く中、それが途絶えた時、一匹の化け物は天へと、黄金に輝く光へと消え去る。
仮面は崩れ去り、男は怯える中、尻餅をついて大慌てで走り出した。
「………いいの?」
ユウキは音色を奏でるテイルに聞き、演奏を一度やめ、男が去った方角を見る。
「確かに、今回の騒動は彼奴。お面屋の仕業さ。ムジュラの意識が俺の中にある云々関係なく、膨れ上がる力の吐き口に俺を選んで、ムジュラの力を弱めるために、この舞台を用意した小悪党。だけど仮面を壊したんだ。それで、もういいさ」
この仮面、鬼人ならぬ魔王の仮面を付けて、だいたいのことは分かってしまった。
ムジュラが原作知識と呼べるものに蓋をして、体験する記録が無駄に多かったりしたり、キリトたちと最初関わらないルール的なものがあったりした。強くなるムジュラの力に、小悪党である彼奴は再度押さえつける為に、勇者を求めて、この地でわざとスタルキッドに仮面を渡したことが分かった。
全てが解決したいま、もうどうしようもないことばかり。時計の針は戻らない、気持ちを入れ替えても、デスゲームが変わるわけでもない。
もしかしたら徒労に終わり、物語をよくできないし、悪くしていたかもしれないのだ。だからもういいのだ。
輝く
それにユウキは微笑みながら、新たな朝を迎えた街並みを見て、静かに微笑む。
「うん、そうだね♪」
微笑むユウキは、元の姿に戻るテイルに安堵して、その黄金の輝きが『一つだけ』離れ、シークの元に戻っていく。
三つの仮面。デクナッツ、ゴロン、ゾーラの仮面はひび割れ消え去り、三人の種族の奏で手が演奏をしながら、地面の上へと降りていく。
こうして邪悪な仮面の遊びは終わり、カーニバルが幕を上げるのであった。
ユウキ「テイルはどこまでキリトたちの冒険を知ってたの?」
テイル「キリトを中心に第1層ボス戦と、シリカ、リズの出会いを冒頭と結末。最終決戦は第75層ボス戦くらいだな。後は変わってるけど、その後のALO全体。GGOはシノンがメインっていうところで、ユウキの物語は全部だな」
キリト「そうだったのか」
テイル(アスナがキリトにやらかしたり、結婚したときとかでの話も聞いてたり見たりしてるけど、嘘は言って無い。本当かどうかわからないし)
アスナ(なぜだろう。後でテイル君とお話しないといけない気がするな♪)
お読みいただきありがとうございます。
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第20話・最終話
刻を告げるカーニバルは始まり、多くの者たちや種族が楽しむ。
樹の子の執事、その息子は姫君と再会して抱きしめ合い、岩の英雄は村長の息子に必殺パンチを教え、水の勇者は己の歌姫と共にバンドを演奏する。
祭りの中で行われる結婚式では、太陽と月のお面を奉納して祝っていた。
「オイラのこと忘れた訳じゃなかった、だから助けに来てくれた」
スタルキッドはそう巨人たちと話し合い、祭りが過ぎた頃、彼らはいるべき場所へ東西南北へと帰っていく。
スタルキッドはその後は妖精たちと共に多くの者へ謝りに行く。その中に新しい友達も加えて………
「それじゃ、お祭りを楽しもう♪」
ユウキの言葉にみんなが祭りを楽しむ。
クラインとダルマーニは共に歌と踊りを披露し、キリトはダル・ブルーたちと演奏してリーファやアスナが聞いていた。
シノンとフェリサは祭りの中でマリンやロマニー、クリミアと回っていたことに腹を立てて、ユウキとレインが説教する。
スタルキッドは新しい友達とも別れなければいけないが、彼はそれでいいと頷く。
「離れていても友達は友達さ♪」
そう言いながら、彼らは祭りを楽しんだ。
◇◆◇◆◇
夕焼けの中、キリトたちはすでにこの世界から去っている。ムジュラの仮面の事件が終わると、ウインドウが開き、ログアウトボタンがあった。
おそらくそれで帰れる気がしたテイルが話して、最終的にお別れが済んだらログアウトボタンで帰る話をして、テイル以外がすでに元の世界に戻っている。
テイルはまだ話すことがあった。夕焼けの中、彼女が来るのを待つテイル。時計塔の屋上は人が来ず、彼はいまだ騒がしく、祭りを楽しむクロックタウンの住人たちを見ていると、彼女が姿を表す。
「すいません、遅れてしまいました」
巫女姫ゼルダ。彼女は正式な服装姿で一人、時計塔の階段を上る。
「いやいいさ。キリトたちにはもう話し終えてるし」
早く帰らなきゃいけないことは変わらないが、まだ誤差だろうと思いたいテイルはそう言い、ゼルダも町の様子を見てみる。
「あなたのおかげでムジュラの仮面の危機は終わりましたね」
「ああ。まあ俺はもうムジュラのオモチャにされていたし、結局小悪党がムジュラの力を鎮める為に、わざとスタルキッドに渡るように動いたようだ」
そう言いながら黄金の三角形、トライフォースを思い出す。あれを手にしてから、そう言った事情が全て流れ込み、ゼルダも戻ってきた知恵のおかげで、それを知ることができた。
「勇者の物語を、物語の舞台に似たここで行うなんて………」
「実際は現実のクロックタウン、四方世界になんだろう。あの巨人たちもどうも俺のことを知っていた気がするし、あの夢の世界にいた巨人が、ここに住み着いたっぽいんだよな」
腕を組みうなるテイル。この辺りの真実は誰にもわからない。ただ言えることは、ムジュラの仮面を巡る物語を演じるために、ここは打って付けの場所であったのだ。
その為に自分たちは、もしかしたら呼んだのは小悪党なのではないかと思うテイル。彼だけは別口でここに来たのだから可能性はある。いまはもう解決して、なにも問題はない。
そう本人は思うが、もしもここにユウキたちがいれば文句が飛ぶだろう。
「テイルはもう戦わなくていいんだよ。そんな風に利用されたくない」
そう言いだすだろう心配する義妹に、テイルは苦笑してしまう。その話をするとゼルダもそうですねと微笑む。
「この世界の事は、この世界に生きる私たちが解決するべきです。異世界、まして関わりが無い貴方に、押し付けるべき事柄ではありません」
「………まあそうだけど」
そう言いながらテイルは不思議な感覚なのだ。昔や体験など、思い出すと後悔ばかりで、重々しい感情が湧きだしていたが、いまはそんなものはなにもない。後悔はある、だけどもうたらればである以上、もう変えられない。
そう思いながら夕陽を見ながら、ゼルダは一言言う。
「異世界の者、テイル。この世界を仲間たちと共に守っていただきありがとうございます。本当なら皆さんに言うべきことなのですが………」
「いつまでログインしてていいか分からないからね。俺は問題ないだけだったし」
時間がどうなっているか、向こうはどうなっているか分からない。早く帰るに越したことはない。
テイルだけはのんびり、慣れているため一人残ることに。なぜかフェリサはシノンと共に帰ったことに驚いた。
そんなことを話しながら、テイルは一人であることを良い事に、伝えたいことをゼルダに伝える。
「あーなんだ。俺にとってこの世界はもう関係ない世界じゃない。ここは仮想世界や向こうの世界と同じ、俺にとっての現実の一つだ」
「テイル……?」
「ゼルダ、お前は勇者を望むか?」
その言葉にゼルダは胸に手を当てて、目の前にいるテイルを見据えながら言う。
「私に勇者はいりません。この世界に生きる全ての人たちが力を、手を貸してくれれば解決できる。だから勇者がいなくとも、この世界を守るのは私たちです」
「………ああ、そうだ」
その言葉に嬉しそうに微笑むテイル。
「勇者もそうやって世界を救った。結局あの人、勇者リンクも勇者だからじゃなく、この世界に生きる者として戦っただけだ。勇者なんて称号どうでもいいんだ」
「……はい」
そう話し終え、彼はウインドウを開く。メニュー操作しながら、帰り際に………
「けどまあ」
そう彼の言葉にゼルダは顔を上げて見つめた。
「助けが必要になったら俺を呼べ。勇者だろうと魔王だろうと成って、お前を、友達を助けたいからな」
「テイル………」
「じゃあな」
そう言い、ピロリンと言う音と共に姿が消えるテイル。
「………バカな人。だからユウキに怒られるのに」
そう微笑みながら言い、静かに、そして祈るように呟く。
「そうですね、あなたはユウキ、マリンの……いえ、私の時代の勇者ですからね」
そう微笑むと風が吹いて髪をなびかせる。
ゼルダは静かに屋敷に帰り、こうして物語は幕を下ろす。
◇◆◇◆◇
気が付くと朝霧に包まれた森林、深い森の中で目を覚ます。
そこで立ち尽くしていた彼だが、なんとなくわかり、森の中を歩く。
奥へ行くと動物たちが休む憩いの場なのか、鹿やリス、ウサギなどがいる中、その中心を見る。
「こんにちは、テイル」
「こんにちは」
ある物の側に座り込む妖精の羽根を持つ、輝く淡い水色の光を纏う少女。
彼はすぐに、時の勇者の友達である彼女と分かり、彼女の側にある石碑は勇者として活躍して、その物語を誰にも告げずに眠り、黄昏に引き継がせた彼の物、墓であると理解した。
「あなたたちが最後に出会えてよかった」
「うん。彼がわたしを探してたなんて、びっくりしちゃった。もう一人いたことにもね」
そう微笑む彼女にそうかと呟く。
「あなたはこれからどうするの?」
「どうもしない。俺は今後もキリトたちと仮想世界を遊び、その中で呼ばれれば、事件を解決するだけだよ」
そう迷いなく言う彼に、彼女は困った子を見るように苦笑して、側に飛ぶ。
「大変だよ。また痛い思いをするし、苦しい思いをする」
「だけどそれは生きているから感じることだ。俺は友達の為なら、勇者になる」
いつの間にかそう言える彼に、少女、ナビィは微笑みながら頬にキスをする。
「なら頑張って、彼と彼の子孫とも違う、異世界の勇者テイル。あなたがそう我が儘を言うなら、きっと世界は遠慮なく、あなたを頼るわ」
「頑張ってみるさ。大丈夫、俺には優しい妖精や仲間、友達がいるんだから」
キスされた頬をかき、少し照れるテイルに微笑むナビィ。そして………
「!」
それに気づく。黄金のような狼が現れ、人の姿になる。
「まだ帰るのに時間がかかるから、リターンマッチがしたいみたいだよ彼? どうする?」
「俺勝ったの一回なんだけど」
「負けず嫌いな勇者たち。あなたたちその辺りそっくりよ」
そう言われ苦笑するテイルは剣を抜き、骸骨もまた剣を向け、ぶつけ合う。
「それじゃ時の勇者、デュエルだ」
そして不思議な森の中で剣戟の音が鳴り響く。勇者たちのぶつかり合いに動物たちはびっくりしながら見物する。
◇◆◇◆◇
気づいてる? あなたは『力』の素質があった。だから魔王のいないいま、『力』はあなたを選んだ。
そして『勇気』は勇者リンクがいないいま、あなたの友達に宿っていたけど、その『勇気』もあなたの中にある。
あなたはもう、ニセモノなんかじゃない。
もうあなたは、立派な勇者の仲間だよ。
ナビィはそう思いながら彼らを見守り、優しく微笑んだ。
様々な出来事を経て、偽者だった青年は本物と変わらない輝きを手に入れた。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
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