理を超える者 (クズ餅)
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一章 世界に理を見せる者
それは始まりの光


新ジャンルに挑戦してみた。

注意としては、この作品には、オリ設定やバグ。そして作者の深夜テンションが含まれております。
以下の要素が駄目な御方は、軍隊も真っ青なほどの回れ右をして、ほかのポケモン作品に向かってください。

そっちの方が、確実に面白いので。


思えば、あの日から僕の目標は決まっていたんだ。

 

「攻めろケッキング!のしかかりだ!」

 

「……」

 

 

あの日、ホウエンで行われていた、ポケモンバトルの大会。年に一度行われる、地方の実力者が集う大会。ジムリーダーの父さんが出る試合を、僕はテレビで見ていた。

対戦相手は、僕が住んでいたジョウトではあまり有名ではなかった人だった。そしてエースのポケモンはケッキングだそうだ。

 

その時の僕は、父さんの勝ちを確信していた。だってそうだろう、僕の父さんのセンリは、ホウエン地方でのジムリーダー。しかも、ノーマルタイプの使い手で、父さんの相棒もケッキングだった。どこに負ける要素があるのか、心のそこからそう思っていた。

 

 

 

「目障りだな」

 

 

その一言が、発せられるまでは。

 

相手のトレーナーがそういうと、相手のケッキングは悠然と父さんのケッキングに近付き___

 

 

 

 

正面から、ケッキングののしかかりを受け止めた。

 

 

「なに!?」

 

 

父さんの驚く声をマイクがひろっていた。当たり前だ、ポケモンは棒立ちでバトルをするのではない。技を読んで回避をしたり、出来なければ防御をするというのは当たり前の行為だ。

 

何故、という疑問に脳内を支配される。この大会はホウエンでも名の売れた大会であり、それ故に実力者も多く参加している。父さんだってそうだ。ジムリーダーとは地方における最高峰のトレーナーの総称、その名に恥じない実力と、実績を見せてきているのだ。

一瞬の空白が会場を包む。

 

「ボサッとするなケッキング!距離をとりながらきあいだまだ!」

 

 

その空白からいち早く立ち直ったのは、やはりと言うべきなのか、父さんだった。

一瞬とはいえ呑まれかけた父さんは、接近は危険だと判断したのか距離を取った。そしてその最中、きあいだまを溜めだした。

きあいだまは威力が高い技だが、その分集中力が必要である。きあいパンチのように完璧な隙を見せなければならないわけではないが、それでもこの技には、莫大な集中力がかかる。

 

それを距離を取りながら、その間敵から目を離さずに力を溜めることが出来るのは、他ならぬ父さんのケッキングが優秀であるということなのだ。

 

 

「何が狙いかは分からないが、反撃しないなら攻めるまでだぞ」

 

 

父さんの問いかけに、彼は答えない。ただただじっと、己のケッキングの後ろ姿を見ていた。

 

 

「……そうか、なら全力で打ち込んでその態度を崩すだけだ」

 

父さんの言葉に、ケッキングは答えるように込める力を増やした。そのきあいだまの威力は、カメラ越しでも分かるほど強力な力の集合体だった。

 

 

「やれ!ケッキング、きあいだまだ!!」

 

 

放たれたきあいだまは、一直線に敵のケッキングに向かって飛来していった。攻撃を受けてからのケッキングは、不気味な程に静かに、何もアクションを起こさずに父さんのケッキングを眺めていた。

それはきあいだまを放たれてからも変わらなかった。まるで無感動に、飛来するきあいだまではなく、父さんのケッキングを眺めている。

 

父さんは困惑していただろう。相手の意図が掴めない、何故攻撃を受けたのか、何故何も行動しないのか、ジムリーダーに赴任してからそこそこ経つが、そんな敵は今までいなかったのだろう。

 

かくいう僕も、初めて見るタイプの彼に疑問が尽きなかった。だからこそ、彼のポケモンがどんな事を起こすのか、それが知りたくて彼のケッキングをじっと観察していた。

 

きあいだまが今か今かと敵のケッキングに迫り、ついにその身へと振りかからんとする、僅か数メートルにまで達した時、敵のケッキングが漸く動いた。

 

 

右手を前に真っ直ぐと伸ばした。たったそれだけだった。

その目を見た時、僕は激昴しかけた。どういうつもりなのか、彼は、彼のポケモンは僕の父さんをバカにしているのか、そう腸が煮えくり返っていた。

 

飛来したきあいだまは、ケッキングが伸ばした右手に着弾した。

 

 

瞬間、起こった爆風がスタジアムに吹き荒れた。

 

会場を映していた固定カメラは爆風で吹き飛び、観客席にいたカメラマン達のカメラは、巻き上がった砂塵で視界を塞がれた。

めくれ上がった地表が観客席にまで吹き飛ぶような、天災的な一撃。当たり前だ、技を放ったのはあのケッキングだ。

 

ケッキングは、多くのトレーナーになまけという特性で敬遠されがちのポケモンだが、その身に秘められたポテンシャルは想像を絶する程のものだ。その力は現存するポケモン達の多くを凌駕すると、父さんが自慢げに言っていた。

そのケッキングが、限界まで力を込めて放ったきあいだま。それをまともに受けた敵は、一溜りもないだろう。

 

圧倒的なまでの威力による、蹂躙。観客達はその爆風から身を守りながら、父さんの勝ちを確信していただろう。あのケッキングが、あれ程の力で、しかもきあいだまを放ったのだ。

まともに受けたのだ、無事なわけがない。多少力のある挑戦者が、頑丈なポケモンを見せる為のパフォーマンスで失敗し、受け止め切れなかった。観客の誰もがそう信じ、歓声を上げていた。

 

 

___でも、本当にそうか?

 

 

「やったわユウキ!流石お父さんね!」

 

「ああ……そうだね」

 

 

隣で一緒に見ていた母さんの言葉に、僕は曖昧に同意した。

だが口では同意していても、僕は何か嫌な予感がしていた。

 

父さんを信用してない訳じゃない。むしろ信用しているからこそ不安なのだ。

 

 

 

あれ程傲慢な態度と、その耐久力を見せていたケッキングが、()()()()()()()()()簡単に倒されるだろうか?

 

答えは、返されなかった。

 

ただ一言で、僕の予想の答え合わせが行われた。

 

 

「キング、()()()()

 

 

今だきあいだまの余波で砂塵舞うそのフィールドに、彼は問いかけた。その様に観客は嘲笑していた。あの威力のきあいだまを受けたノーマルタイプのポケモンが、倒れぬはずがないと。

 

いくらケッキングとはいえ、そのようなことも分からないのか、観客は口々に彼を冷やかすような言葉をかけていた。

 

 

 

Guooooon!!

 

 

 

それを遮ったのはきあいだまを受けた、片手を前に突き出した体勢で唸り声を上げた、彼のケッキングだった。

 

呆然となるスタジアム、それも当然だ。さっきまで倒れ伏していると思っていたポケモンが、牙を剥き、主を貶されたことに対して怒りを見せている。

先程までの戦いにおいて、何も映さなかったその瞳を、怒りに染めてこちらを睨み付けているのだ。

 

 

「静まれ、お前が向けるべき目は目の前の同族だ」

 

 

フンッと鼻をならし、主の言葉に従うケッキング。傷ひとつない身体に、受けた掌も、少し焦げ付いた程度で何も支障はないらしい。

そして向かい合ったケッキングは、何かを思い出したのか、再び彼の方を向き、そして首を横に振った。

 

彼の問は、「届くか?」という一言のみ。つまり……

 

 

 

 

 

お前を脅かすにレベルに届くか?という問に、ケッキングは否と返したのだ。

 

 

「さすがに正面から貶してくれるのは…少し腹立たしいな」

 

 

その挑発ともとれる発言に、父さんは苛立ちを隠せなかった。無理もない、先程の彼の言葉は、今現在に至るまでの自分と相棒の努力を、それを貶されたのだ。これに怒りを覚えないトレーナーはいないだろう。

 

 

「すまないな、俺は力不足というものが嫌いでな。どうしても口にしてしまうんだよ、気に触ったか?ならば謝罪しよう」

 

 

尚も父さんを挑発する彼に、会場からブーイングが起こる。傲慢過ぎる態度に、会場にいる全ての人、もしかしたら画面の向こうの人達でさえも敵に回しているかもしれない。

 

でも僕だけは、彼の態度だけでなく、その言葉を浴びる彼の目を、じっと見ていた。

 

その目は、罵声を発する会場や、対戦相手である父さん、それに相棒であるケッキングさえも見ていなかった。

彼は、一体何処を見据えているのだろう。

 

 

「では此方からいかせて貰おう」

 

 

そう言って、彼は漸くケッキングに目を向けた。

攻撃体勢に移行する彼に、父さんは即座に身構える。いつ来ても対応出来るように、自分のポケモンに指示が出せるようにした。

 

それに対して、彼はなんの感情も映さない目で相棒のケッキングを見つめ、口を開いた。

 

 

「キング、小手調べだ。威力を抑えてのきあいだまだ」

 

 

そう指示を出し、その指示に対して、父さんが何かケッキングに言おうとした瞬間__

 

 

 

 

 

父さんのケッキングは、一瞬の間に消えてしまった。

 

 

何が起こったのか、恐らく会場の人は分からなかっただろう。突如として消えたジムリーダーのケッキングに、観客は動揺を隠し切れずざわついていた。

 

でも、この時僕は、自然と答えが分かっていた。今でも不思議に思うのは、何故この時、僕は初めて見た彼の事を、そして彼が起こすことに対してあのように信を置く事が出来たのだろうか。

 

その答え合わせは、すぐに示された。

 

 

強烈な破裂音が、突然スタジアムに響いた。その耳を疑うような音に、不意打ちだった為かその場に居合わせた人々は耳を塞ぐ。耳朶を震わせる害から身を守るために取った、当たり前の行動だ。

でも、この時父さんだけが耳を塞いでいなかった。

 

なんせ……

 

 

 

 

「ケッキング!!」

 

 

その音は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から発していたからだ。

ぐたりと項垂れているようにも見えるケッキングに、審判が駆け寄る。そしてケッキングの様子を確認すると、審判は手を挙げた。

 

 

「ケッキング、戦闘不能!!」

 

 

呆気なく発せられた敗北宣言、審判から出た言葉に、誰もが信じられないとばかりに声をあげた。

その中の誰かが言った、彼はイカサマをしたのだと。何か小細工をもって父さんのケッキングを陥れたのだと。

 

それに同調した観客から、ブーイングが飛ぶ。しかし、その中でも、僕と当事者の父さんだけは、何が起こっているかが理解できた。

いや、正確には理解したというよりも、推測を立てたというだけだ。

 

あの瞬間、確かに彼のケッキングからは、きあいだまを貯める気配がした。では何故、父さんのケッキングが吹き飛んでいるのか。

 

 

それは、彼のケッキングが、恐らくだが僕等が見えないレベルでの、高威力かつ超スピードなきあいだまを放ったのだ。

現に、倒れたケッキングの腹部には、きあいだまを思わせる球状の跡があった。

 

 

だが、最も恐ろしいのはここじゃない。

 

 

「…ケッキング、俺は小手調べと言ったぞ。まだ加減はできただろう?」

 

 

彼のケッキングは、これは魅せ札にすらならないのだと、なんでもないように彼は言った。

 

その後の事は、語るまでもないだろう。

あの後、彼は当然のように父さんの手持ちを蹂躙した。彼の手持ちを、ケッキング以外全く見せず、彼はその全てを薙ぎ払った。

 

立ち向かう全てを、真っ向から受け、そしてそれを吹き飛ばす。その圧倒的なまでの力と、王道的なまでの姿。

 

きっと彼は、相棒にそうあれと願い、キングと付けたのだろう。事実その期待に答えるように彼のケッキングは強くなったのだろう。

あの強さに至るまで、一体どれほどの修練と、どれほどの時間が必要だったのだろう。どれほどの覚悟や、どれほどの絆があれば、彼らのようになれるのだろう。

彼らのその背景に、想いを馳せると共に、僕はその姿に、無意識にも憧れてしまった。

 

 

 

 

……嗚呼、その姿は、ポケモンとトレーナーとしての在り方は、何と羨ましくも美しいものだろうか。

 

眩いばかりのその姿、画面越しではあるものの、僕はその姿に惹かれた。

 

 

 

いや、この言い方は相応しくない。

 

僕は正しく、彼__リヒトのその強さと美しさに、幼かった僕の両眼は、彼の光に焼かれてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

side リヒト

 

 

スタジアムは、余りの出来事に静まりかえっていた。

 

ホウエン地方における、非公式のこの大会。ポケモンリーグにおける、公式の大会では無いものの、全国中継をされる程の知名度を誇る大会である。

 

その大会で、前代未聞の出来事が起こったのだ。

 

 

 

全くの無名、今の今まで名前すら出なかった男が、ホウエン地方のジムリーダーの本気の手持ちを、嬲り倒したのだ。

会場こそ静まり返ってはいるが、その外は大騒ぎだ。なにせポケモンリーグ公認のジムリーダーが、公然の場での公開処刑にも等しい敗北を喫した。リーグは今各方面からの電話が鳴り止まず、対応に追われていた。

 

 

そうとは知らぬ会場では、対戦者である男__リヒトがケッキングをボールに戻して、踵を返して歩き出した。最早ここにようは無い、そう言わんばかりの態度の彼に、誰も制止の言葉をかけない。

 

さっきまで嬲っていた相手にすら、一瞬でさえも視線を向けない。冷徹な男だと、観客は誰もが考えていた。

 

 

 

では、観客が考えているリヒトの姿はそうであろう。だが、渦中の彼の心境はと言うと……

 

 

 

 

 

「(やっべぇぇぇぇジムリーダーボコしちまったァァァ!!明日からどんな顔してホウエン歩きゃいいんだよ畜生めぇぇぇ!!!)」

 

 

……死ぬほど、現状にビビっていた。

 




続かない。


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それは始まりの光 裏

早速評価付けてくれた人が居てビックリしました。
あと、自分から始めたけど勘違いもの書くの死ぬ程難しいのなんとかして(懇願)

あと、この話から、オリ主の内面が出ます。


時間は少し巻き戻って、試合開始5分前。

 

選手控え室として当てられていた個室にて、彼_リヒトは静かに椅子に腰掛けていた。

彼は少しも身動ぎすることも無く、部屋に居る自身の手持ちを見つめていた。

 

その目は、真っ直ぐポケモン達を見据えており、ポケモン達もまた、彼をしっかりと見つめ返していた。

試合準備の為に彼を呼びに来たであろう係員の男は、その雰囲気に、部屋へと踏み込めないでいた。今その部屋にあるのは、彼とポケモン達との物言わぬ会話であろう。試合に望む前に、そういったルーティーンを取る選手も少なくない。

 

その神妙な空気に、彼は扉の前で立ち竦んだ。

 

 

 

 

 

「(どうしよ、お腹痛くなってきた。)」

 

 

 

……実際は、そんな大層なものではなく、1人のアホが腹痛に苦しんでいるだけなのだがり

 

 

 

 

 

ここでリヒトについて、説明を入れるとする。

 

彼、リヒトはメンタルクソ雑魚のパンピー野郎である。

幼少期より、先程試合に出したケッキングのように、何故か捕まえているポケモンがクッソ強いだけであり、本人にはそこまで強くないと思っている塵メンタルである。

 

彼は、俗に言う転生者である。

前世ではそこそこの高校に通い、そこそこの大学に進学した、いわゆる大学生だった彼は、ある日サークルの先輩にアルハラをされて、急アルで倒れてしんだ不幸な男だった。

 

だが、そんな彼が目を覚ましたら、ある街に生まれた赤ん坊だった。

 

そこからは、特に語ることの多いわけではない。

普通に育ち、遊び、彼が十歳の時、母親にボールを渡されて、「取り敢えずジム制覇してきなさい」と言われ家を飛び出さされたのだ。弱冠十歳のリヒト少年、漸くここがポケモンの世界だと理解した。

 

そしてそこから、彼の人生は大きく動き始めたのだが、それはここで語るべきではあるまい。

 

問題は、さっきの試合である。

 

 

「(指示出してなかったからって正面から受けんなよォ!)」

 

そう、この男、さっきの試合を黙って見ていたのでは無く、単純になにも言えなかったのだ。

彼は、とてつもないビビりである。大舞台で緊張し、セリフを噛み、言葉が詰まったりする、ノミの心臓である。

 

では、ここで先程までの彼の心境を踏まえて、彼の発言を、振り返ろう。

 

 

 

まず始め、緊張でパニクってたリヒトをよそに、向こうがのしかかりを仕掛ける。

 

しかしここで、リヒトの目の前に、ハエが飛んでいた。

 

 

目の前のバトルそっちのけで、目の前にハエにイラついたリヒトは、思わず呟いた。

 

「目障りだな」と。

 

すると何を勘違いしたのか、キングはそれを目の前の相手の技だと勘違いし、虫けらのようにただ目障りなだけと主が断定したと思い込み、それを前に小細工は無用と、正面から受け止めた。

 

これには会場もセンリもビックリ、そしてリヒトが1番ビックリ。

 

 

「(えっ、なにしてんの?)」

 

 

間接的にだが自分のせいであると、リヒトは思いもしていなかった。

 

一瞬出来た空白も、センリの指示がそれを終わらせた。距離を取った相手のケッキングが、きあいだまを溜めるのを見たリヒトは___またもやパニクった。

 

 

「(弱点技じゃん!!あれ食らったらやばいやんけ!!)」

 

 

そうだよ(肯定)

そう思いながらも、メンタルクソ雑魚のリヒトは、指示を出そうとして、どもった。この大舞台、全国中継で放送されている自分、そして対戦相手がかのジムリーダーという条件が重なった時、リヒトはどうなるか。

 

 

結果、リヒトは声を一時的に失った。

 

「(ああああ声出ねェェどうしよ指示出さないとヤバいでも避けろぐらいしか思い浮かばないけど声出ねぇしこれヤバいヤバいヤバい)」

 

 

中身が分かれば、周囲が引くくらいパニクってた。まともな思考が働かない状態になった彼は、回らなくなった頭で、解決策を弾き出した。

 

 

「(アイコンタクトにかけるしかねぇ!)」

 

 

この男、アホである。エスパータイプならまだしも、ノーマルタイプであるキングに、そんな事出来るわけがない。だがテンパっているアホはそんなことも分からず、キングに強い眼差しを向けた。

 

 

「(頼むキング!お前との付き合いは長い、だから俺の気持ち伝われ!!)」

 

 

そう祈るように思いながらの強い眼差しに、キングは気付いた。そしてその眼差しをしっかりと見返し、主の意思を__

 

 

「(我が主は、このような羽虫の如き敵に私が臆することを望まれていない。あの眼は、「正面から敵をねじ伏せよ」という、確固たる意思を私に伝える為のものなのか!承知致しました、我が主よ!)」

 

 

 

 

 

__1ミリも正確に受け取っていなかった。

 

 

まるで意思疎通が出来ていないキングは、主の仰せのままに(言ってない)ねじ伏せる為、自身の右腕を前へと伸ばし、そのきあいだまを受け止めた。

 

 

(what the fuck?)

 

 

普段使わないようなスラングが思わず脳内を過ぎった。というか、リヒトの動揺が天元突破していた(グレンラガンは未視聴)。

旅を始めて2年、いくらメンタルクソ雑魚でもここまで動揺したのではと思うくらい、リヒトは動揺していた。

 

 

それはなぜか?

 

弱点技を正面から食らって、自分のポケモンが負けたと思ったのか?その後の観客からの侮蔑の眼が気になったのか?

 

否、リヒトの動揺の種は、そのどれでもなかった。

きあいだまが着弾し、砂を巻き上げ、キングの周囲を覆った。

 

その砂塵の中で、リヒトはキングの無事を()()()()()()()()

しかし、その胸中は焦りで一杯だった。その表情には一切の揺るぎは無く、傍目から見れば何一つの不安もないように見えるリヒトは、ある1点でとてつもなく焦っていた。

 

 

 

「(やべぇぇ、キングがバグってるのバレたァァ!!!)」

 

 

そう、リヒトが懸念していたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう、リヒトの手持ちは、自他共に認める程にバグっているのだ。

 

それは、少し前に遡る。

ある日、リヒト少年(十歳)は、初めて仲間になったケッキングをボールから出して、野生のポケモンと戦闘をしていた。

しかし、そこはトウカの森、低レベルのポケモンでは全く敵にならず、どうしようかと思案していたリヒト少年に、事件が起きた。

 

なんと、野生のキノガッサが現れたのだ。

 

前世ではポケモンを嗜んでいたリヒト少年も、これには仰天。なんせトウカの森には、キノココはいてもキノガッサはいなかったのだ。

しかし、動揺していたのはリヒトだけで、既にボールから出していたキングは、先制攻撃とばかりにキノガッサに、アームハンマーを叩き込んだ。

 

ケッキングの圧倒的力から叩き込まれたアームハンマーに、キノガッサは堪らず吹き飛ばされる。

 

だが、その一撃は瀕死に至らず、キノガッサは体勢を建て直し、こちらに向かってくる。

 

 

この瞬間、リヒト少年は諦めた。

 

 

なんせ、キノガッサのタイプはくさ・かくとう。つまりケッキングの弱点技を保持している可能性は大で、しかも、自身のポケモンがケッキングなのである。

 

 

ケッキングには、致命的な弱点として、特性「なまけ」が存在する。その効果は、所謂ゲーム内において、2ターンに1度しか攻撃出来ないということだ。

しかし、リヒトが置かれている現状は、ゲームでは無く現実。しかしながら、なまけという特性がある以上、その行動にはかなりの制限がかかる筈だ。

 

そう考えていた時、ありえない事が起きた。

 

 

すぐ真横を抜けた、一陣の風。

その余りの風圧に、一瞬顔を庇ってたたらを踏んでしまうリヒト。しかし、いつまでも目線を敵から逸らしてはいけないと思ったリヒトは、すぐにキノガッサに目を向けた。

 

 

そこには、地面にキノガッサを叩きつけているケッキングが居た。

 

 

 

「……は?」

 

 

あまりにもあんまりな光景に、リヒトは思わず呟く。

 

 

そう、この光景が表していることとは!

 

 

 

 

 

このケッキング、なまけないのである!!!

 

ケッキングとして持たされた圧倒的ハンデを、暴力的な力を半減させる為の枷を、なんとこのケッキング、自力でなんとかした。……いや、自己進化を果たしていたのである。

 

これにはリヒト少年、腰が抜けそうな程ビックリ。

 

しかし、これだけでも驚きの事実だが、その後に、更にリヒトの頭を悩ますような事実が発覚した。

 

 

それは、ムロジムにて起こった。

そこで、彼はジムリーダーのトウキとの戦いにて、キングで圧倒的な蹂躙を果たしていた。

そこで調子に乗っていたリヒトに、トウキはガチのポケモンとして、ハリテヤマを繰り出した。

 

その瞬間、我に帰ったリヒトはビビった。そういや弱点やったわ、どうしよ、当たったら即死やんけ!!

テンパるリヒトだが、時すでに遅し。先制とばかりに繰り出されたはりてを、ケッキングが正面から受けてしまい___

 

 

 

 

 

 

__はりてをした手を掴んで、ゼロ距離からきあいだまを叩き込み、ハリテヤマを戦闘不能に追い込んだ。

 

 

(what?)

 

これにはリヒト少年数日ぶりにビックリ、尚トウキはもっとビックリ。

 

弱点技を食らったキングだが、虫に刺された程にしか反応せず、なおかつ弱点技でもないきあいだまで、相手のハリテヤマを瀕死にした。

 

 

 

 

このケッキング、素のスペックもバグっていた。

 

 

 

 

これらの経験を通して、リヒトは学んだ。彼は別にチャンピオンを目指しているわけでもなく、特別目立ちたいわけではない。

というか、目立ちたくない。ジムには一応挑戦するが、いいつけだけであってやりたい訳でもない。

 

だからこそ、彼は決意した。

 

 

 

 

「(目立たないようにしよう)」

 

 

もっとも、どだい無理な話ではあったが。

 

 

 

 

そして、場面は戻りスタジアムへ。

その砂煙の中、リヒトの顔___は変わらなかったが、心は大層死んでいた。

 

 

「(あーあ!折角ジムバッジ2つでサボってたのにここでバレたら確実に母さんに言われんじゃん!何サボっとんねんわれェ!とか言われんの嫌や!)」

 

 

前世持ちでも、母親には頭が上がらないらしい。

頭の中で文句とこれから起こることへの忌避感を募らせていた彼は、ふと、あることを思いついた。

 

 

「(せや!キングに手加減してもらって、接戦でした感出せばまだいけるやろ!)」

 

 

お前ここまでやって何言ってんの?

 

だが、アホのリヒトはそれでいけると思ったのか、未だ砂煙の中に居るキングに対して、声を掛けた。

というか、そもそもこの状況でキングが無事だと思われていなかったので、まずここで失敗を1つしてしまう。

 

 

「キング、(今からきあいだま撃ってもらうけど、相手まで)届くか?」

 

 

つぎにリヒト、言葉選びのチョイスを失敗する。()で括られた圧縮言語が酷すぎて、最早別の意味に聞こえてしまうものになってしまった。

 

 

「(いいえ主よ、これでは私たちには到底及びません)」

 

 

ほら見ろ、お前の相棒間違って伝わってんじゃん。

間違って伝わった内容、リヒトが伝えたかったことは相棒にもまともに伝わらず、当然そんなセリフは他人には伝わらず、観客達から嘲笑を受ける。

 

 

「(どうしよっかな〜……万が一失敗しようもんなら…いっそシンオウにでも高飛びしようかなぁ…)」

 

 

しかし、この男自分に向けられた嘲笑の声さえ聞いていなかった。彼の頭を占めているのは、この後起こりうる事への対処と、保身しかなかった。もっと周りに目向けろ、馬鹿にされてんぞ。

とまあ、こんな風に嘲笑を受け流して(聞き流して)いたリヒトだったが……

 

 

 

 

 

 

 

 

「(貴様等!誰に向かってその下卑た視線を向けている!!)」

 

 

キングが、それを見過ごす筈が無かった。

 

 

『私の敬愛する主を何故愚弄する!そこでただ居るだけの力の無い貴様らに、我らがあるじより遥か格下の!吹けば飛ぶような塵芥共が、身の程を知れ!!』

 

 

「静まれ、お前が向けるべき目は目の前の同族だ(ヘェア!?なんで叫んでんの?お客さんビビってるじゃん!!!)」

 

 

お前(の為)じゃい!

 

知らぬが仏とは言うが、こいつのアホさには仏も三度許すまい。しかし外面だけは保てている(印象最悪)リヒトは、このまま何事もなく行けば、計画通りにキングが接戦を繰り広げ、それっぽく目立つ割合を減らそうと企んでいた。

 

 

「さすがに正面から貶してくれるのは…少し腹立たしいな」

 

 

しかし、その企みは、リヒトにとっては予想外の発言で全て吹き飛んだ。

 

 

「(怒ってらっしゃる?!キングの咆哮を挑発と捉えられてジムリーダー様が怒ってらっしゃるぞーー!!)」

 

 

お前じゃい!(二度目)

 

少し前の自分の発言が、今自分の首を締めている。自分の埋めた地雷に引っかかったアホは、そうとは知らず慌てふためく。冷静に考えれば自分の発言に気づくのだが、如何せん今日のリヒトはテンパっていた。

 

「(これは不味い!公衆の面前でジムリーダーを怒らせるとか嫌って下さいって言ってるようなもんだ!……よし、取り敢えず謝ろう)」

 

 

 

「すまないな、俺は(仲間を強くできなかった自分の)力不足というものが嫌いでな。どうしても(不甲斐なくて)口にしてしまうんだよ、(煩くて)気に触ったか?ならば謝罪しよう」

 

 

再びリヒト、言葉選びに大失敗する。圧縮言語は止めろとあれほど……。

 

 

しかし、リヒトがどう思おうと事態は止まらない。リヒトの言葉を当然挑発と受け取った観客達は、一斉にブーイングをする。確かにこれは擁護できない。

しかしリヒト、意外にもこれに動揺していなかった。極度の緊張の中で遂に精神が進化したのか?いや、そんなわけも無い。

 

 

「(まああんだけ五月蝿かったら怒るわ。騒音罪って前世でも結構問題だったし)」

 

論点がズレていた。

 

観客、センリ、手持ちのどれとも心を通わせていないリヒトは、ただ1人だけズレているこの男は、自分の勘違いにも気づかず、口を開く。目指すは接戦の演出、それ以外にはあまり興味がなくなっている。

 

 

「では此方からいかせて貰おう」

 

「(ま、手加減すりゃ耐えれるでしょ。いくらバグモンでも相手ジムリーダーやし)」

 

「キング、小手調べだ。威力を抑えてのきあいだまだ」

 

 

そう指示し、キングがきあいだまを溜める作業を見て、リヒトは安心した。ああ、これなら大丈夫だろうと。表に感情がでるなら、おそらくホッと一息ついただろう安堵感が彼を支配していた。

 

 

「(うんうん、いいよーキング。指示通り()()()()()断然力込めてない、うんうんこれなら多分耐えれ__)」

 

 

 

次の瞬間、キングから放たれたきあいだまが着弾したセンリのケッキングが、スタジアムの壁まで吹き飛ばされていた。

 

 

「(は?????????)」

 

 

ここでリヒトは、大きな誤算をしていた。

 

1つ目は、溜める力を減らしすぎたことによる、スピードの短縮だ。

普通、きあいだまは練度が高くなっても、発動までに多少の時間がかかるのだ。

しかし、あまりに力を込めなかったが為に、恐ろしい速さでチャージが完了し、放ってしまった事。

 

 

そして、2つ目はというと…

 

 

 

「(えっ……装甲紙すぎない?)」

 

 

この世界に生まれて、キング以外のケッキングを知らなかったが為に、相手の力を見誤った事だった。

これが普通のポケモンならば、センリのケッキングも1度や2度ならば耐えられただろう。なまけがある為即座に反撃は出来ないだろうが、それでも反撃のチャンスはあっただろう。

 

 

だが、今回は相手が悪かった。そう言うしかないだろう。

 

 

「(え?待って?いや立ってよ!?これで終わったら俺が虫けらでも薙ぎ払ったみたいじゃん!?それって印象最悪じゃん!!!)」

 

お前は何を言っているんだ?(外人)?

 

手遅れの事に大慌てのリヒト、しかし無常にもケッキングはボールに戻される。その様をただ呆然と見ていたリヒトは、泣きそうだった。

しかし、涙どころか表情筋1つも動いていない。

 

生まれつき、何故かリヒトは、表情が一切変わらないのだ。両親も病院へは連れていったが、原因は分からない上に病気でも無いと診断された。

当時のリヒトは、顔動かないとか動揺バレなくてラッキーくらいにしか思っていなかった。

 

 

しかし、ここに来て、リヒトは自分のその体質を呪った。もっと動け表情筋、仕事放棄してニート決め込んでんじゃない、もっと働けと。

 

依然動かない表情筋と、進んでいく事態に、意識が遠くなってきたリヒトは思った。

 

 

 

 

(どうせ転生するなら、牧場〇語かルーン〇ァクトリーとかのほのぼの系が良かった)

 

 

……牧場物語はともかく、ルンファクはそこそこ波乱あるんですが。

 

 

そんなことを思いながら、リヒトは立ったまま、膨れ上がったストレスと緊張で意識を手放した。

 

 




ちなみにこの後、ちゃんと試合終わる頃に起きていそいそと帰ったリヒト君。

この後の話どうしよう?手持ちとの出会いか、原作主人公君等のキャラとの絡みか、いっそオメガルビー基礎にしてるのにシンオウに高飛びするか。

うーん迷う。あと、ポケモンのバトル描写のお手本になりそうな小説教えてください。


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覚醒ノ刻(アウェイクニング)


受験に向かう途中の道で投稿。

後1つこの作品について、この作品は、作者が寝る前の暇つぶしでうつらうつらしながら書いているので、思いつきかつ支離滅裂でなお、ちょいちょい恥ずい文が多くあります。それでも大丈夫な方はどうぞお読み下さい。

またそれに耐えられない、うわーアイタタター!と思う人等は我慢してこのクソ作品を見て、その上で改善点を下さい。
明確な理由無しに人を批判するのは、お兄さん傷付いちゃうぞ( ﹡・ᴗ・ )b!←(ちょっとした批判を喰らえば明確に更新が遅れるアホ)


 

きっとあの日、あの場所であったことを、私は一生忘れはしないだろう。

 

 

あの時私を照らした光に、私を救ってくれた輝きに、私を屈させたあの威光に。私は未だに魂を灼かれているのだろう。

 

だが、私はこの身を灼く輝きを、苦しいと思ったことは無い。私を突き動かすこの疼きを、煩わしいとは思わない。

陽光は強すぎれば身を焦がし、その身体を害するが。しかし、陽光がなければ生物が生きることは叶わない。

 

 

私にとって、彼は___主はそういうものなのだ。

 

私に、いや私達にとって絶対の存在。私達の中にも、主への想いがそれぞれ違う。師のように慕う者、父のように慕うもの、自分という下僕の主人と慕うもの、信仰すべき神として慕うもの、はたまた己の恋慕する相手として慕うものまでいる。

 

どのような形であれ主は受け入れるだろう、あの人はそういう人だ。あの人は全てを受け入れ、導くのだろう。

 

 

 

だからこそ、私のこの想いすらも主は受け取り、赦してくれているのだろう。

 

 

主は、私にとって___

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

 

 

敵の攻撃_ガルーラのメガトンパンチを自分の身で受け止める。しかし、その攻撃は、私を脅かすには至らない。

次の攻撃_グロウパンチが私の顔面を捉える。自身を捉えた拳が力を増すのを感じるが、それでは私を動かす事は出来ない。

三撃目、大きく開けた口から覗く牙_かみくだくが私の首に襲いかかる。牙を突き立てたが、その牙は私の皮膚を削れない。

四撃目、はかいこうせん。しかし私には及ばない。

 

五撃目、じしん。それでは私は揺るがない。

 

六撃目、しかし私には届かない。

 

七撃目、結果は同じであった。

 

八撃目

 

九撃目

 

十撃目……

 

 

 

……嗚呼、ここまでくればもう解る。矮小なるこの身でも、ここまでくれば理解も及ぼう。

気付けば、二十撃目に至る()()の行動に、私は行動を始める。

 

途中小細工を弄じたソレは、姿が変わり、2()()()()()私に向かってきた。しかし、それもまた同じ事。頭数が増えようが、それは等しく同じでしかない。

 

 

『結局貴様らでは、我らが主を愉しませるには値せんか』

 

 

呟き、右腕を真っ直ぐと掲げる。

ゆっくりと見せつけるように掲げ、頂点へと達した掌を、ゆっくりと小指から曲げる。人間がする所の、カウントダウンのように、それを行っていく。

 

そして最後の指を握ることで、私は拳を作る。緩慢に上げたその拳は、力すら入ってなく、本気とは言い難いおざなりなもの。

 

 

しかし、この程度にはこれで十分すぎる。

 

 

ようやく気づいたであろうソレは、私から距離を取ろうとした。が、その身体が動くことはない。あれだけ至近距離で私に攻撃をしてきたのだ、それは私に命を差し出している……つまり、私の射程範囲、いつでも殺せる場所に居座り続けているも同然なのだ。

親も子も、まとめて掴みあげたソレに、私は拳を見せつけた。

 

 

『アームハンマー。少しは耐えて、愉しませてくれたまえ』

 

 

___そう、無意識に私は呟いていた。

 

瞬間、その拳を振り下ろす。

 

私に掴まれ、逃げ場を無くしたソレは、頭頂部からアームハンマーを喰らってしまった。

 

接触、直後に地面に突き刺さる。まとめて叩きつけたソレは上半身が完全に埋まり、その場に走った亀裂は、スタジアムの端まで走った。

 

訪れる一瞬の静寂、時間が静止したとさえ思う空白の中、私は掴んでいた手を離し、ソレを真っ直ぐ見据える。

 

叩きのめした、完膚無きまでに牙を折った。立ち上がる道理もないだろう。

 

だがしかし…その可能性があるなら………

 

 

 

ソレに、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そんな私の思考を断ち切るかのように、ソレは何の行動も起こさないまま、沈黙を保ったままだった。

 

 

 

決着が着いた、今日の最初に比べれば、幾分かマシなものだったが、蓋を開けてみればどうにも全て等しく弱者だった。

これではいけない、これではなにもならない。この程度では私は倒せない、この程度では私を喰らえない、これでは私は脅かされない。これでは__

 

 

 

 

 

 

__我らが主の渇きは、満たされない。

 

 

チラリと後方に居る主へと視線を向ける。

主は私の方に、真っ直ぐと視線を向けていた。

 

…いや、正しくは私を見て、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

私は主の元へと向かう。この戦いですら出さなかった速度で私は主の元へと伺い、膝を付き、頭を垂れる。

 

「ああ、よくやったキング」

 

 

心からそう思っているだろう労いの言葉、その言葉に我が身は感謝に震えながら、また同時に悲しさを覚える。

また、我が主を動かす程の()は現れなかった。

 

 

__ああ、お前ならばもしかして___

 

 

あの日、私が我が主……いや、我が王に出会ったあの日。貴方に掛けられた言葉が今でも忘れられない。脳裏に焼き付いたその記憶が、私にそれを為せと毎日私に囁く。

もっと

 

もっと

 

もっともっと

 

もっともっともっと

 

もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと。

 

 

 

もっと強い者を、もっと高みに上り詰めた者を!我らが道に強敵を!!

 

 

それが、それこそが私の使命。それこそが__

 

 

 

 

 

 

私が、主に報いる唯一無二の手段である。

 

 

 

 

__________________________

 

 

私が生まれ落ちたのは、トウカの森と呼ばれる、森林だった。

そこは、主に聞くには比較的穏やかな場所だと言っていた。事実人の通る場所の近くにはポケモンもさほど寄り付かない。なまじ居たとしても、それは生まれて間もない子供や小さなポケモン達だ。

そんな、鬱蒼とした木々があるだけの森。そう人々は思っていた。

 

だが、その奥には、魔窟が存在していた。

 

深く入れば入る程、激化する闘争と、殺し合いによる生存競争。その坩堝であった。

毎日のように、私の周りでは同族が倒れていった。さほど難しい話ではない、野生ならばどこにでもあるような、生存競争による淘汰でしかない。ナワバリから一歩出るだけで、ゴミクズのように吹き飛ばされて、森の肥料となるような、そんな世界だった。

私の生まれたナワバリは、父や祖父の力が強いのもあり、規模こそ小さいが、森ではかなりの力を誇っていた。

 

幼い私は、その姿に、絶対の安心感を覚えていた。そして、次は私がこうなる番だと、明確に感じ取っていた。

 

しかし、そんな日々も長くは続かなかった。

 

 

 

 

 

 

始まりは、人間で言うところの叔父が死んだことだろう。こちらのナワバリに入ってきた虫達を追い払う途中、別のナワバリの同族に殺された。

 

最初は偶然だと思っていた。たまたま運が悪く、叔父は死んだのだと。しかし感情とは簡単に折り合いが付けられるものでは無く、私は1日中泣いていた。

 

次に、祖父が死んだ。ナワバリの長を務めていた祖父は常に狙われる立場にあり、それもまた仕方ない事にだったのだろう。

 

しかしその疑問は、膨らんでいった。あまりにも出来すぎている、聞けば他の同族達による争いは一時的に鎮静しており、争うものなどいないという。

 

 

そして最後に、両親が死んだ。

 

同盟を結んでいた他の同族達に襲われたそうだ。父の手下に、最期の言葉が伝えられた。

 

 

 

 

『どうか生きてくれ、この地獄で、お前はなんとしても生き残れ。そして、不甲斐ない私たちを許してくれ』

 

この言葉で、私は全てを悟ったのだ。

 

他の同族達が争いを止めたのは、我々を共通の敵として認識し、それを討伐する為に、私達以外が団結していただけなのだった。

地獄だと思っていたこの場所は、私達にとって更なる地獄と成り果てていたということを。

 

『若様、ここまでです。父君もいなくなり、我々には淘汰される運命しか残っておりません。しかし、今なら若様だけならば逃げれましょう』

 

 

よく父についてきてくれた同族が、私に言う。本心から私を案じてくれる彼の言葉に、周りを見渡す。つい先日、周りの大人達と同じ姿になった私は、同族を束ねる資格はあろうが、前に出る程の力は無いだろう。

皆を束ねる王ならば、一族で逃げるのが吉なのだろう。私はその義務がある、それを為さなければならない理由がある。

 

 

しかし、それでも__

 

 

 

 

 

『いや、それならば逃げるべきはお前たちだろう』

 

 

私は、逃げる気等毛頭無かった。

 

 

『しかし!』

 

『私は、現時点でのこのナワバリの王だ。私の決定は絶対だ、それが聞けないのか?』

 

 

閉口する同族に、私は心の中で謝罪をする。

父に認められてすら居ない私は、王を名乗るのは烏滸がましいことなのだろう。事実、私は上に立つような者では無い。そんな素質もなければ、そんな器量がある訳もない。

 

だが…

 

 

 

 

 

『お願いだ、お前達。私の我儘を聞いてくれ…お願いだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

私にこれ以上、家族を失わせないでくれ……』

 

 

王というのは、我儘を通しやすいのだ。だから、利用させて貰えるなら、使うまでだ。

 

 

『……では、私達に若様を失えと言うのですか?』

 

『私は死なないよ。私は王の器ではない、人の良すぎる祖父や父とは雲泥の差だ。だからこそ、私は生き残るだろう』

 

 

そう笑いかけて、私は敵の方向へ歩を進める。

 

 

『でも、王の器でなくても、下に着くものが居なければ、長とすら名乗れないからな』

 

 

その言葉を最後に、私は敵に向かって突貫した。

 

踏み出した足が土を蹴り、敵へと接近する。拳を握り、その瞬間に意識を研ぎ澄ます。

 

敵を眼前に、手が届く。父の仇達に、あの王であった我らが血族を害した愚か者達に。

静かに流れる思考と、動く身体。緩慢な思考とはまるで別の生き物のように、私の身体は敵を屠るための最適解を叩き出す。

 

振りかぶる敵の右腕、開いた掌から爪を突き立てるその様から、『きりさく』なのだろうと当てをつける。

 

瞬間、振られた掌を身を低くして回避。そして、すれ違いざまに『アームハンマー』を叩き込む。

 

接触__そして離れる敵の身体。

 

何度も地にバウンドし、吹き飛ばされる惨めな敵の姿。同族のその様を見た敵は、たじろいだ。少しだけ下がる足、気圧された有象無象、その全てを視界に収めた私は、()()()()()()()()()()()()()()

しかし、その絶対の隙すら、敵はたじろぎ襲ってこない。

たかが雑兵ごときに、何を恐れることがある。貴様らは王を殺したのだ、我らを束ねる王を、卑劣な手を使ってまで殺してみせたのだ。

 

 

 

 

ならば、その王の敗残兵程度に遅れをとる事等、死した兵達は許しはしない。死なずとも、この敗残兵は許しはしない。

 

身体を縛る重さが抜けたと同時に、私は地を蹴った。目の前の敵を、仇を、愚者共を、その一端までもを殺すまで、私は止まる気等毛頭無い。何故なら私は所詮敗残兵、王を失った兵には、失うもの等最早存在しないのだから。

 

 

迫る敵、怯える仇共、当たる拳に吹き出す血潮。全てが私の五感を刺激し、感覚を鋭敏化させる。

それと同時に、私は身体から痛みが抜けていくのを感じ取った。意識の集中、気分の高揚、なんでも良かったが、それがありがたい。

 

 

身体を貫かれる痛みには、流石に足を止めてしまうだろう。

 

衝撃に、身体が吹き飛ばされる。動かない時を狙われれば避ける事も叶わないのだ、少し不便な身体だ。

 

 

腕を貫かれ吹き飛ばされる最中、敵を見据えていた瞳に、誰かの背中が映った。

父では無く、祖父でも無い。ましてや同族ですらない誰かの背中が。死が近くなればなるほど、幻覚というものを見るのだろうか。

 

もう王は居ない、私が王になるべきで、私の前に立つもの等居はしない筈なのに、それは私の前に立っていた。

でも、私はその背中を見て___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__何故か、それに縋りたいと思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

 

 

 

全身が引きちぎれそうな痛みに身体を苛まれながら、私は木に背中を預け、呼吸を整えていた。

向かってくる同族を何体殺めただろう、何体の臓腑を引き摺り出して、どれ程を血の海に沈めただろう。

 

不意に、咳き込んだ。その拍子に口から血が溢れ出す。

 

それと引き換えに、どれ程身体を抉られただろう。受けた攻撃は数知れず、何度私の命を削り取っていったのだろう。

だが、良い事もあった。死地に追いやられながらもこの身は、殺戮に適応した。殺し始めた時には、身体が鈍くなりやすかった。一撃を敵に叩き込むにつれて身体が重くなり、少しの時間を経て身体がまともに動くようになる。しかしそれは仕方ない事だ、私の同族達もまた同じで、それは生まれ持った性という、覆せなかったことだ。

 

しかし、それでもそれは、殺すには邪魔だった。

 

気付けば私は、()()()()()()()()()()()()

お前は邪魔だ、失せろと。私の道に立ち塞がるなと。自己を構成する遺伝子を、私の血族に受けていた繋がりを、私は私の殺意だけで切ってしまった。

 

ふと思えば傲慢な思考だっただろう、摂理に抗い、そうまでして殺したかったのか。

 

 

 

………ああ、殺したかったのだ。

 

許せなかった、奴らが。祖父や両親達を裏切ったあの無法者達が。

 

 

しかし、それよりも許せないものがあった。それは……

 

 

 

『結局私は、父達のような王の器ではなかったのか……』

 

 

敵を前にした時、私は敵に侮られた。

王とは、存在すらも他とは違うものだ。その姿は敵を畏怖させ、その後ろ姿は仲間達を鼓舞し、安心させる。

 

私には、それが出来ない。そう、わかってしまった。

 

父の背中に憧れたのではない、父のようになりたかったのではない。

 

 

 

私は、ただ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

私は、所詮王の背に傅く立場の者だったのだ。

 

私は…誰かに……私を導いてくれる誰かに………

 

 

そんな王等…最早何処にも居ないのに……ならば私は…私は……

 

 

回らなくなってきた思考に、鞭を入れる。まだ全てを殺した訳ではない、残党があと数匹残っていだろう。それが来るかもしれない。

 

そう思っていると、不意に足音が聞こえた。

 

足音は小さく、しかしゆっくりとこちらに近づいてくる。その音で同族では無いと分かったが、それが警戒しない理由にはならない。

音の先に視線を向ける、しかし鬱蒼とした木々に覆われ、陽の光さえまともに届かないこの森では、ましてや傷付き消耗したこの身では、それが何者か等、分かりはしない。

 

無力な私に、音の主は悠然と歩き続け、そして止まった。距離は凡そ5mにも満たない程度、襲われようが、最悪相討ちにまでは持って行けるだろ___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迷っている、ようだな」

 

 

聞こえてきたのは、少し幼い、高い声だった。

私は愕然とした、声から分かる、幼さでも無く、その言葉が人間の言葉だった事でも無い、全くの予想だにしない事に。

 

 

「大方、何か目印でも失ったか?それがなければ歩けないような、大事なものを」

 

 

私の心の核心を突く言葉でも、力を持った私にそのような言葉を投げかける命知らずさでも無い。

 

ゆったりと、しかし確実に私に近付く。しかし私はそれを拒めない、拒まない。嗚呼、何故なのか、何故こんなにも___

 

 

 

 

 

 

 

 

「ならば、俺の手を取り、共に行くか?一人ならば難しいだろう。だが二人なら……たどり着けるだろうな」

 

こんなにも、私は心を癒され、安心しているのだろう

 

 

声の主は、少し物音を立てて何かを探す。鞄を漁り、その中から何かを探し当てた。

 

 

 

その時、木の枝から一羽、鳥が羽ばたいた。

 

その鳥は、木々に覆われたこの森の空を、まるで切り裂くように飛び立っていった。

飛び立った鳥の道に、少しだけ開かれた木の葉の隙間から、陽光が差し込んだ。そしてそれは、今まで暗闇に隠されていた、声の主を照らしだした。

 

 

 

 

()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

顔の造りはとても整っているが、声の通りにまだまだ幼さが残っている。上背もさほど伸びてはおらず、その姿はとても小さく頼りないようにも見えた。

 

 

だがその目は、その覇気は隠せはしなかった。

その目に宿る意志の強さは、その身に秘めた才能は、その身から溢れ出し、私の身体を震わせる。私の本能を刺激し、思わず私は膝を突き、跪いてしまった。

 

その()()が手に持つボールには、見覚えがある。そのボールは、人が私達を捕まえ、仲間にする為のもの。それらに入り私達は、人と旅をする。

 

ならばこそ、私はこの御方のお目に叶ったのだろう。

 

 

 

 

 

嗚呼……何と素晴らしい。身に余る光栄だ。

 

 

放物線を描き飛んでくるボールは、私にとって福音のように降り注ぐ。それを受け取った時こそ、私の悲願は達成される。

私の身にボールが触れ、光が私の身を包み込む。

 

 

 

「お前は……『キング』だ。これからよろしく頼む」

 

__はい、我が主、我が王よ。私はこれより、その名を現すように、その名に恥じぬ力をお見せしましょう。

 

 

私が入ったボールを持つ主に、私は心の中でそう誓った。

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

私にとって、我が主は絶対にして超然たる王である。

 

 

我らを従え、我らを指揮し、我らを教担し、我らを運用する。

 

 

最高にして最善の、王である。

 

 

私はいつまでもあの日を忘れることは無いだろう。

 

 

私と、我が主達の全てが始まったあの日を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(色違いのアゲハント追っかけてたら迷った)」

 

 

 

尚、実際の主は阿呆の模様。

 

 

キング、それ最高最善の王やない、最低最悪の阿呆や。

 





この後の話では、シンオウに高飛びするアホを書くか、アホに憧れたユウキ君が相棒のアチャモとトンチキやるか迷ってます。

ちなみに、トンチキは分かりませんが、リヒト君は確実にシンオウに高飛びします。

尚、厄ネタはいっぱいある模様。


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北へ


ガラル地方の話か増えてる……ウレシイ…ウレシイ…(ニチニチ)

それはそれとして、ゴウカザルとバシャーモをリストラしたゲーフリを許すな(鉄の意志)


バケツをひっくり返したように降り注ぐ豪雨の中、一人と1匹が上空を飛んでいた。それも、とんでもない速さで。

その身に打ち付けられる雨や、上空で固まった雹やあられにも身を晒しながらも、止まる様子は微塵も無い。

 

何かに急かされているのか、あるいは急かしているからこそ、ここまでの速さを出せるのか。

それでも、1匹ならまだしも、一人に置いては異常極まりない光景だろう。

 

 

 

()()2()0()0()0()()()()()()()()()2()で飛行しているにも関わらず、()()()()()()()()()()()()なのである。

 

 

気温も酸素も低い高高度を、まるで付近へと遊びにでも行くような格好でその男は飛んでいた。しかも、戦闘機と同等のスピードの中、全くの無表情で。

 

イカれている、そう形容するのが一番当てはまるような、正気を疑うその様。何が彼を急かすのか、何を為すために、彼は急ぐのか。その答えは__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

母さ〜〜〜〜ん!!!僕は今!シンオウ地方に居ま〜〜〜す!!シンオウ地方は、今日も雨で〜〜〜〜す!!!

 

 

 

 

 

野郎、マジでシンオウ地方に高飛びしてやがった。

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

 

事の次第は、少し前__ホウエンの大会に遡る。

 

全国放送、他の地方の人も見守る中で、手持ち一体でジムリーダーのガチパを6タテしたリヒトは、選手控え室に戻る__ことは無く、そのままの足で会場を後にしようとしていた。

妙に綺麗な姿勢で、しかしとても速い足取りで、会場から出ようとするリヒト。その胸中は、ある思いでいっぱいだった。

 

 

「(はぁ〜〜〜⤴︎あぁ〜〜⤵︎親から電話着てる〜〜〜出たくねぇー!お前今まで何しとんねんとかはよバッジ集めろとかたまには顔出せとか言われるんやろなぁ〜〜絶対説教されるやんけ!!!!てかここおったらオカン絶対来るやんけェ!!)」

 

 

とどのつまり、逃げようとしているのである。

前世持ち12歳、母親の説教が怖くて逃亡中。字面にするとなんと情けないのだろう、この内心を見ればポケモン達も嫌になりそうなものである。

しかしこの男、一切の無表情である。顔に出ないと言っても限度がありそうなものだが、リヒトには一切現れない。だから周りにはそんな情けない事を思っているとは思われない。

外見に救われている?のだろうか。

 

 

「(早いとこ逃ーげよ、オカンだけじゃなくて他の奴も来るかもしれん。というかホウエンにいる間に会いたくない人間腐る程いるからダッシュしよっかなぁ)」

 

 

逃げたくて早歩きから駆け足に変えようとしているリヒトは、もうスタジアムの非常口付近まで来ていた。そうまでして会いたくない相手とは、一体誰なのか。

そうして、非常口の前に立ったリヒトは、急ぎ気味にドアノブに手をかける。開いた扉から、外の光が差し込み___

 

 

 

 

 

 

 

 

「相変わらず何か急いでいるね、少しゆっくりしたらどうだい」

 

 

 

 

 

 

 

「(ダイゴだァァァァァァァァ!!!!)」

 

 

 

いい笑顔のダイゴ(会いたくない奴)に出会った。

 

 

「帰ってきたならば連絡くらいするべきだ、親御さんも心配してたし、親父も気にしていたよ」

 

 

「(お前ん家ことある事に俺に付きまとうじゃん!!親父は旅行誘ってくるしお前は勝負仕掛けてくるじゃん!ふっ⤴︎︎ざけん→な⤵︎よお前!)」

 

 

本気で嫌そうだった。というかしれっとチャンピオンと大社長と家族ぐるみの付き合いをしていた。そも何故旅行が嫌なのか。

 

 

__陽キャに囲まれて旅行とかまぢ死ねる。

 

 

カス程くだらない理由だった、これだからコミュ障陰キャは(辛辣)。

しかしそんなコミュ障の内面等知らぬダイゴは、陽キャ特有のグイグイ距離を詰めてくる。それを嫌がり、ジリジリと後退するリヒト。スタジアムの非常口で行われる謎の攻防、何してんだこいつら。

 

 

「……俺は行く所がある、そこを退け」

 

「残念だが、僕は君のお母さんから君を捕まえるように言われているんだ。大人しく捕まるか、抵抗して捕まるかしかないさ」

 

 

はいかYesかのような2択を迫るダイゴ、余程強く言われているのか、彼は意地でも通さないと言わんばかりのその威圧は、さすがチャンピオンと言ったところだろうか。

 

 

「(こ…こいつ、捕まりたくなくばバトルしろってか!?最初からお前がバトルしたいだけやろがい!知ってんだぞてめぇがバトルジャンキーなことは!!お前さっき抵抗しての辺りで口元笑ってただろ!)」

 

 

しかし、リヒトは知っていた。これは言いつけにかこつけたバトルの催促なのだと。

いい笑顔で、腰のボールに手をかけるダイゴの姿に、リヒトは背中に冷や汗を流しながら、どう逃げるかを必死で考え出した。

 

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

 

 

 

リヒトは何の因果か、一年前からダイゴと関わりがあった。それは冒険をし始めて、バッジを2つ取った時の事だった。

その時のリヒトは、石の洞窟に来ていた。当時まだ手持ちがキングだけだったリヒトは、手持ちの補充と、旅のサボりの為に足を踏み入れていた。

 

 

「(ココドラ欲しいなぁ〜、ボスゴドラかっこいいんだよな。別にキングでワンパンで終わるけど、せっかくだから仲間ほしいよなぁ)」

 

 

ショップでボールを買い、ルンルンで__顔は無表情__で歩くリヒト、その時リヒトは、何処から音が聞こえたので、足を止めた。

荒い息遣いから、ポケモンだと思ったリヒト。即座にキングを呼び出し、警戒する。

 

 

「(強いポケモンとかいやだなぁ、多分キングでワンパンだけど。もしかしたら流れ弾飛んでくるかもしれんし。まあワンパンだけど)」

 

 

ワンパンで済むならビビんなよ。

 

内心ビクビクしながら、音の先へと歩みを進める。歩く度にその息遣いに近づいていき、遂にその正体が分かった。それは___

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ……こ、この化石は…!ずっと探していたつめの化石!これを……これを探していたんだ!!!」

 

 

顔を紅潮させ、興奮して今にも化石に顔を擦りつけそうな、変態だった。

 

一瞬、リヒトは何が起こっているか理解しなかった。目の前の大惨事とも言える光景に、全身が硬直していた。そして、その変態を見て、もう一度固まった。

 

 

「(ファッ!?大誤算(ダイゴさん)やんけ!!)」

 

 

まさかまさかのチャンピオン、化石に頬擦りしてハァハァしている変態は、現ホウエンチャンピオンだった。これにはリヒト君びっくり。

では、ここで質問。皆様は自分の少し先に、化石に頬擦りしてハァハァしている権力者が居ます。その場合、どうするでしょうか?

 

 

A. そっと逃げましょう。

 

 

驚く程洗練された無駄のない動きで、リヒトは踵を返す。まるでその動きを長年練習してきたような、綺麗な踵の返し方だった。

そのまま真っ直ぐ歩み去ろうとするリヒトだが、何か忘れていないだろうか。

 

 

「ゴアァァ!!!」

 

 

野生のポケモンが跋扈する場所なのだ。

 

 

 

 

やせいの ボスゴドラ が あらわれた。

 

 

▼キング の アームハンマー

 

 

▼いちげき ひっさつ

 

 

▼やせいの ボスゴドラは 倒れた。

 

 

キングのアームハンマーを食らったボスゴドラは、断末魔を上げながら吹き飛ぶ。殴った地点からおよそ数十メートル先の壁に轟音を立ててぶつかり、ようやく止まる。今日もキングはこわれてる。

 

しかし、ここで冷静さを取り戻したリヒトは、気付く。

 

 

__俺、変態の権力者から逃げてるんだった。

 

 

そう思いいたり、後ろを振り向く。そこに広がっていた光景は……

 

 

 

 

 

「目があったら、ポケモン勝負だよね?」

 

 

 

 

 

▼随分いいスーツを来た件の変態が 力ずくで隠蔽を図ってきた!

 

 

▼リヒトは 目が死んだ。

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

 

あの後、あわやバトルという所で、ヒーローインタビューと称してリヒトを追いかけてきたテレビ局の人間を、その場にいたダイゴに押し付けることによって逃げ出したリヒトは、その足でホウエンから逃げ出した。

 

そして現在、リヒトはシンオウの空を暴走している。道交法が空に適応されるならばマッハ2で飛行するリヒトは確実に捕まる。というかそもそも普通ならそんな自殺行為生身では耐えられない。

 

 

「(いや寒いって!スカイダイビングじゃないんだからもっと高度落とせよ!雨粒が弾丸みたいになってるし、アホみたいなスピード出してるし、高度と風で凍傷になるわ!!)」

 

 

意外と大丈夫そうだった。

文句を心の中で言うリヒトは、しかしホウエンからシンオウまでの間で半袖にも関わらず凍傷にすらなっていない。人間辞めてませんか?

 

 

「(母親がマサラ出身だからって俺はそこまで人間辞めてないんだよ!)」

 

人間辞めてますね(確信)。

 

愚痴る人外は、乗っている自分のポケモンを軽く叩く。どうやら少し抗議をしたいらしい、そういう意味でポケモンを叩いたのだが。

 

 

『なにマスター?あ、もっと急いでってこと?分かった!』

 

 

ここでマッハ2から3に加速。言葉は口に出さなきゃ伝わらないぞ。喋れリヒト。

 

「(いや何してくれてますの?????)」

 

 

強まる風とかかるG、降り注ぐ豪雨に半ギレになるリヒト。しかし逃げ出したのは自分であり、それに付き合わせているのに文句なんて言えはしない。そう思っているリヒトはぐっとこらえる。

 

しかし……1つだけ思うことがあった。

 

 

 

「(……テレパシー使えよ……ラティアスよ)」

 

 

そう思わずには居られない、リヒトであった。





ガラル地方の話書きたいですよね、別に主人公はリヒト君じゃなくていいですけど。
なんかこう、クソ強ユウリちゃんに振り回されたり、色んな人に目を付けられるクソ雑魚メンタル主人公とか、ガラルの勘違いものとか欲しい。

というか、ポケモンの勘違いもっと増えて、お願い(懇願)。


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揺るがす龍


ヒャッハァ!!ガチャピンの時間だァ!!

という訳で、続きです。


『マスターのこと?大好きだよ?』

 

ある日の昼下がり、我が主が今夜の宿の予約をしている間、私は仲間の1人のラティアス__ラピスにある問いを投げかけた。

 

__お前は、我が主のことをどう思っているのか、と。

 

 

我が主の人望を疑っている訳ではない、寧ろ疑う理由など存在しないのだが、それでも私は私の義務としてそれを聞き出す必要があった。そしてそれを把握することは、私にとっても重要なことである。

 

ラピスは、主の手持ちに加わった4体目の仲間だ。既に配下の者が居た中で、私は1匹の異常な者を見つけた。

 

 

その者は、我が主の配下として過ぎた感情を持ち合わせていた。

 

有り得ない感情を持ったそのものを、主は許容し、手元に置いてはいるが、私はそれを認めた訳ではない。しかし、主の決定を疑う等臣下として有り得ない。確かに時には意見すら必要だが、それは今ではないだろう。

 

だからこそ、私は問わなければならない。

 

果たしてこの者は、我が主に相応しい配下なのか。

 

それに見合わぬ者ならば、私が躾ける必要があると。

 

 

しかし、ラピスから帰ってきたのは、屈託の無い笑顔と純真な好意だった。

 

 

『……質問を変えよう、我が主を、どのような存在だと考えている』

 

『うーん、キングみたいに王様って訳でもないしな〜』

 

 

少し悩むように、うんうんと唸るラピス。その仕草だけでラピスが危険な思想を持った者ではないと分かる。

ラピスは、純真なのだ。彼女はまだ生まれて間もない、幼子のようなあどけなさや、純粋さを持っている。それは分かっていた筈だ。少し私は焦っていたのだろうか。

 

 

『あっ、分かった!私がマスターをどう思っているのか!』

 

 

長考が終わったのか、嬉しそうな顔でこちらを向く。そして私に近寄り、満面の笑みでこう答えた。

 

 

『マスターはね、私にとって__________』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『__お父さん、かな?』

 

 

無邪気に、しかし少しだけ恥ずかしそうに言う彼女の笑顔に、私はホッと、息をついた。

 

願わくば、このまま純粋に育つように。

 

 

 

 

奴のようには、ならないように。

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

シンオウ地方の片田舎、カンナギタウン。昔を伝える町として知られるこの町は、シンオウの歴史において重要なヒントとなる遺跡が存在している。その少し寂れた、しかし存在感を放つ町。

 

 

『着いたよマスター!』

 

「(バッカお前上空50メートルで落とす奴がおるかぁ!!)」

 

 

その上空50メートルで、準伝に落とされたアホの心の声がとても煩い。

 

「(いや「着いたか」って言った俺も悪いけどだからってここで放り出します?カーナビじゃないんだから着地まで案内しなさいよ君ィ!!)」

 

だったら声にだして伝えろ(正論)。

相も変わらずのコミュ障と勘違いで落とされたリヒト、ここで彼の逃避行は、いや人生は終わってしまうのか。

 

 

「まだだ!!」

 

 

そういうと、リヒトは体の向きを変え、踵から地面に、斜め気味に付けると、地面をガリガリと削りながら滑り出した。は?

 

そも着地をしている時点でおかしいのに、何故そのままの勢いで滑るのか。というか靴は無事なのか。

 

 

「(母さんが高い所から落ちたら足から地面に着けば大丈夫って言ってたし、滑ればセーフってばっちゃんが半笑いで言ってた!!(謎理論))」

 

おまえは何を言っているんだ。

 

 

しかし何故か理にかなっているのか、靴も無事でその後数十メートルを滑った後に停止した。怪我をしている様子も無く、靴も無事だ。

 

靴も無事だった。本人もおかしいが靴の耐久もおかしいのではないだろうか。

 

 

突然のダイナミック降下を終えたリヒトは、体に着いたホコリを軽く払うと、ぐるりと辺りを見回した。そこにあるカンナギタウンの景色を一瞥したのち、深呼吸をした。

 

「(リラックスできる、空気も美味しいしのどかだ……まるで実家のような安心感だ。寧ろここが実家なのでは?)」

 

 

お前の実家はミシロタウンだ、正気に戻れ。

世迷言を吐くリヒトは、そこでスマートフォンを取り出す。そしてある名前を1度押し、電話をかけた。

 

10数回のコールののち、その人物は電話に出た。

 

 

「……は〜い、もしもし……どなた?」

 

「シロナか、研究で徹夜をするのは仕方ないが、程々にしておけ」

 

 

現シンオウチャンピオン、シロナだった。しかし、電話口の彼女はいつものクールなイメージでは無く、どこか疲れていて気だるそうだった。

研究者としての側面もあるシロナは、シンオウの歴史について研究している。その結果研究にのめり込み、徹夜等珍しくない。そう思ったリヒトは、そのまま要件を伝えることにした。

 

「少しカンナギタウンに立ち寄った、お前の実家に挨拶に行く」

 

「…そうなの……お祖母様に宜しくね……」

 

「(寝ぼけてんなぁシロナ、こういう所が多いから敬称付けないんだけど、まあ言っても無駄でしょこの人)ああ、分かった。宜しく伝えておこう」

 

内心で歳上を軽く詰ったリヒト、しかし嫌っている訳では無く、仕方ないやつだなぁと思っているようだ。こんなアホにそう思われてるとか、シロナさんもっとしっかりした方がいいですよ。

そうして、要件が終わったリヒトは、通話を切るためにボタンを押そうとした時、新しく電話から声が聞こえた。

 

 

「……えっ!!リヒト君!?ちょ、ちょっと待っ」

 

ブツリと切れた通話、まだ何かを言おうとしていたシロナだったが、リヒトの耳には届かなかった。

 

 

「(徹夜明けでしんどいだろうし、電話しないようにしとこ)」

 

 

ここでリヒト、スマホの電源を切る。そのためシロナから掛け直されたことに気付かない。哀れシロナ、可哀想に。どんな要件があったのだろうか。

 

「(さてと、じゃあばあちゃんに挨拶してくるか!なんか前に来た時に「うちに来たかったら何時でもおいで。ついでにシロナもプレゼントするよ」って真顔で冗談言ってたな〜。しかもからかう為にわざとシロナと俺の布団一緒にしてたし、「昨日はお楽しみだったねぇ」とか言うし、面白いばあちゃんだ)」

 

 

それは外堀を埋めようとしているのでは?

あまりに危機感が無いリヒト、というか12の子供に何させようとしているのだろうか彼女は。いやまあ、孫とナニさせようとしているのだろう。曾孫でも見たいのだろうか。

 

 

フンフンと鼻歌を心の中で歌いながら、楽しげに__無表情で__歩くリヒト、なんでこいつこんなに楽しげに罠に飛び込んでいるのか、コレガワカラナイ。

 

 

そうして歩き、1件の家にたどり着く。その扉の前にあるインターホンを軽く押し、要件を伝えた。

 

 

「リヒトです、シロナに了解を得て挨拶に来ました」

 

 

通る声で言うリヒト、しかし家の中から誰も出て来ない。不思議に思ったリヒトは、再度インターホンを鳴らすが誰も対応しない。

留守なのだろう、そうリヒトは思いつき、踵を返して帰ろうとするリヒト。しかし、振り向いた先には、リヒトを覆うように立っていた影が1つあった。

 

一瞬止まるリヒト、しかしゆっくりと影の正体を確認するため、顔を上げる。そこには、顔立ちの整った、茶髪の女性が居た。

リヒトよりいくつか歳上であろう彼女に、リヒトは見覚えがあった。というかなんなら彼女たちに用事があってここに来ていた。

 

故に、挨拶はせねばなるまいと、リヒトはあまり開かない口を開き、挨拶をした。

 

 

「お久しぶりで___

 

 

 

 

 

 

 

「姉さんが欲しければ私を倒してからにしなさい!!」

 

 

 

 

「……は?」

 

 

唐突に叫ばれた意味不明の文言に、リヒトが一瞬呆けた。その瞬間、彼女は脇に控えさせていた自身のポケモンに、()()()()()()()()()

 

 

「ルカリオ、はどうだん!!」

 

至近距離で、しかも高威力の技を繰り出した女性。普通に考えて錯乱しているか明確な殺意を持っているとしか思えないこの行動に、リヒトは内心、こう考えていた。

 

 

「(田舎って…みんなこうバイオレンスなのかな)」

 

 

田舎に謝れ。

 

しかし、アホな考えとは裏腹に、脅威は迫っている。対ポケモン用の技であるはどうだんを人間に向けるという行為は、当然起きてはならないことである。

 

迫り来るはどうだんに対し、リヒトは特別焦るわけでも無く、ポケモンをだして応戦しようとした。出すポケモンはもちろんキング、だって安心だから。

 

しかし、物事とは何事も思惑通りに行く訳ではない。

 

突然、腰に付けていたボールの1つが、激しく揺れ出した。そしてそれに呆気に取られるリヒトをよそに、そのボールが独りでに腰から外れ、スイッチから地面に落下し、中に居たポケモンが解放された。そして__

 

 

 

 

 

 

 

「…ヴィーラ、じしん」

 

 

大地を揺るがすその一撃で、ルカリオを打ち砕いた。

 

 

一瞬のことだった。それこそ、瞬きをする間に終わってしまう程の、圧倒的なまでの瞬殺。

 

飛び出したそのポケモンは、リヒトの指示を聞くと同時に、技の準備に入った。その身で、自然すらを意のままにする技を行使する為に、手を振り上げ、そしてその手で持って、()()()()()()()()()()()()

 

そしてそのままの勢いで腕を振り下ろし、地を揺らす。その攻撃に、ルカリオは自身の技を消されたという事実に気付かぬまま、瀕死となり、意識を落とした。

 

 

吹き飛ばされた相棒の音で、我に帰る女性。何が起きたか、一瞬足りとも分からなかった。しかし、どうなったかは分かってしまった。

恐る恐る、正面へと視線を向けた女性。しかし、それを見た彼女は、恐怖に支配され、竦んでしまった。そこに居たのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しやりすぎだ、だが、良い速さだ。ヴィーラ」

 

 

主であるリヒトに、鉄仮面のまま褒められ、体を撫でられる。紫の体躯を持った__ガブリアスだった。

 

 

気持ちよさそうに体を擦りつけるガブリアス、嬉しそうにしているその顔、だがその眼は、彼女を捉えていた。

 

 

彼女はその眼に___

 

 

 

 

 

 

 

 

___強烈な、己への殺意を読み取ってしまった。

 

 

 





ガラル地方は絶対に書きます。それによってこちらの更新が遅くなることは有り得るでしょう。


だが私は謝らない。


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欠陥

ポケモン追加来たぞ!みんな、DLCは持ったな!行くぞ!!!

しかしバシャーモとゴウカザルが居ないのでゲーフリは許しません。


初めは、多分嫉妬だった。

 

2年前、私はこのカンナギタウンに姉さんが帰ってきた時に、彼に初めて出会った。その時は彼はまだ10歳、1人前ではあるがまだまだ子供だった。姉さんが嬉しそうに紹介をしてきた無表情の彼に、私は少し戸惑ってはいたが、それでも仲良くしていたと思う。

 

バトルもした。当時の彼の手持ちはまだ六体も居なかったが、それでも彼の手持ちの2匹に、私の仲間は尽く負け続けた。圧倒的だったし、こんなに強い人は姉さん以外では初めてだった。

多分、仲は良かった。シンオウをまわっていた彼は、近くに立ち寄ると、必ず私たちの家に顔を出したし、私もおばあちゃんも彼を歓迎していた。

 

 

でも、ある日から彼が疎ましくなった。理由は、姉さんが彼の話ばかりするようになったからだ。

 

研究や仕事が忙しい姉さんは、滅多にうちに帰ってこない。仕方ないことだと分かっているし、それに駄々を捏ねるほど私も子供じゃない。

 

でも、偶に帰ってきた姉さんが話題に出していたのは、決まって彼の事だった。やれ彼が何処へ行っただの、彼がつれないだの、トラブルにばっかり巻き込まれているだの、彼の話が湯水の如く溢れるのに、私は嫌気が刺した。

 

だから、これはちょっとしたイタズラのつもりだった。冗談で、技を繰り出すフリをしたつもりだった。そうすればビックリするだろうし、普段の鉄面皮が取れれば私もスッキリするだろう。

 

でも__

 

 

 

「……止まれヴィーラ」

 

『殺す!殺してやる!!リヒト様に牙を剥きやがって!醜い虫けら風情が!その首へし折ってやる!!』

 

 

失敗した、殺しそうになった。そして今私は殺されそうになっている。突然飛び出した彼のポケモンに、私の手持ちが蹂躙された挙句、手持ちが居なくなった私に対して、彼のガブリアスは、明確な殺意を持って私に向かってきた。

 

 

『何故止めるのです!?こいつに生きる価値等無い!貴方様に害をなそうとするなど我々への冒涜に等しい!それだけは許してはなりません!!』

 

「何をそんなに怒り狂う…ただの戯れだろう」

 

 

そう言ってのけた彼に、私は先程の命の危機と同じくらい恐怖を感じた。戯れ?さっきまでの自分の生命の危機の事を言っているのだろうか?それならば私は、親交のある彼が恐怖の対象になってしまう。

ポケモンの技は、人を簡単に殺せる。たいあたりだってまともに受けてしまえば怪我は避けられまい。

 

だが、私のルカリオが放ったのは、はどうだんだ。たいあたりとは訳が違う、対ポケモン用に放つ、倒す為の技だ。それに、はどうだんにはある特性がある、それは必ず当たるという事だ。

 

あの時の彼は、ポケモンを出して迎撃するそぶりすら見せられなかった。

 

 

まるで、それを自分の手持ちが防ぐのを分かっていたように、身動ぎ一つしなかった。襲いかかるそれに、体が強ばるわけでもなく、それを対応しようと考えるわけでもない、その先がどうなるのかと分かっているように彼は何もしなかった。

 

 

『あの女の血族だからといって庇う必要はありません、即座に殺しましょう。この弱者が一体誰に手を出したのか、それを理解させねば__』

「……俺の言うことが聞けないのか?」

 

 

瞬間、私は背筋が凍る感覚がした。

 

冷めた声で言う彼のその両眼が、見たことも無い程に昏い、闇のようだった。声音は冷めていて、まるで何かに興味を失ったようにも見えてしまった。

その決して大きくない体から、何かが噴き出すような姿を幻視した。まるで昏く、禍々しい。なんとも悍ましいまでの恐怖が溢れだしていた。

 

 

『……あ、も、申し訳ありませんリヒト様。出過ぎた真似を……』

 

「…最近、お前は暴走する事が多く見えるな」

 

 

彼のその一言にビクリ、と肩を跳ねるガブリアス。その様を見ているのかどうか、こちらを向いてない彼の表情は分からない。だが__

 

 

「疲れたのだろう?ならば()()()()()()()()。なに、空いた穴は奴を呼ぶ。だからしっかりと休め」

 

『そ、それだけは御容赦を!私には、私にはここしかありません!!』

 

 

すがりつくようなガブリアスの様子を見て、彼のその顔は、その声音に見合った氷のような顔をしているのだろう。私はそう、理解してしまった。

この2年間、無表情だが、可愛い弟分として接してきた彼。何故彼が手持ちに敬われ、畏れられているのかついぞ分からなかった。だが、今身をもって知ってしまった。

 

 

「…失礼しました。お怪我は?」

 

「え、ええ。大丈夫よ、ありがとう!」

 

 

不意に、こちらに歩み寄り手を伸ばしてきた彼に、その手をとる事を少しだけ躊躇ってしまった。

しかし、せっかくの好意を無駄にする訳にもいかず、私は彼の手を取った。

 

そして触った彼の手は__

 

 

 

 

 

 

 

__まるで先程までの彼を表すかのように、氷のように冷たかった。

 

 

「……ッ!?」

 

「…ああ、すみません。少し冷えたままでした」

 

 

咄嗟に握った手を離してしまった私に、申し訳なさそうな声音で謝罪する彼。何故そんなに冷たいのか、何故そんな手の冷たさで平然としていられるのか、何もかもが分からなかった。

 

分からない、数年の付き合いがあるはずの彼。その何もかもが、未知であり、恐怖の対象となってしまった。

彼を恐れる私のそんな思考を、まるで見通すようなその空虚な瞳が、私をじっと見る。その視線は、先程襲われた時に、倒れて下敷きにした私の右腕を見ていた。

 

「重ね重ね、申し訳ありませんでした」

 

「い、いいのいいの!元はと言えば私が仕掛けたことだし、むしろ私が謝らなくちゃ__」

 

 

そう言って、彼に向かって謝罪しようと思った私は、彼の次の言葉を__

 

 

 

 

 

()()()()()()()()、目くじらを立ててしまって」

 

 

__私は、上手く理解出来なかった。

 

 

「あ…の、程度?」

 

「ええ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

その瞬間、込み上げてきた吐き気を抑えられた私を、この先一生褒めてやりたいとさえ思った。

確かに、過去ポケモンの技を受けてしまった人間のデータの中で、はどうだんに被弾した人がいた。

 

あの時は確か、被弾した腹部の骨が砕け、内臓に深刻な被害を及ぼしたと聞き及んでいる。姉が研究者ということで、我が家にも沢山文献があり、その中にも、他の事件の概要などがあった。

だがどれも、死んでいなくとも深刻な怪我を負っているものだらけだった。

 

 

だが彼は、それを()()()()()()()()()()()()()()()()()

まるで、死ななければ何一つ問題は無いと、骨が折れる事など些事でしか無いと言わんばかりに。

その様に、私は強烈な吐き気を覚えた。

覚悟が決まっている人間は、このシンオウ地方にも確かにいる。ポケモンと共に研鑽を積む人間の中にも、強くなる為に、他を全て捨てるような人は、確かに存在する。

 

だが、誰しもが、人としての本能を捨てた訳ではない!

 

人ならば、痛覚が存在し、命の危機を回避しようとする筈だ。

 

 

だが彼は、強くなる為に、己という生き物の本能さえ犠牲にして、削ぎ落としたというのか?

そんなものは不要だと、生きてさえいれば闘うことは出来ると、生き物の本来備わっているそれを、不純物として捨て去ったのかと。

 

込み上げた嘔吐物を、必死に飲み下す私を、彼は不思議そうに、あるいは心配そうに見つめている。

だが私はもう、彼と目を合わせられそうに無い。

私には、彼という人が理解出来ない。その圧倒的な強さも、狂信的なまでの信頼を得る求心力も、そして彼の生物としての欠陥も。

 

震えが止まらない。こんなことになるなら、知らない方がマシだった。今までのようにただ嫉妬していて、それでも自分の弟分として接していられる時のほうが幸せだった。

 

私は、彼に手を出すべきではなかったのだ。

 

この後の人生で、私はこの日の行動を一生後悔し続けるのだろう。

 

彼に手を出すべきではなかったのだと。

 

 

 

__________________________

 

 

 

 

 

「(何怒ってんのこの子、働き過ぎでストレス溜まってんのかな?)」

 

 

今しがたお前がやられた事を思い出せ。

 

はどうだんブッパした女性がSAN値チェックをしている中、件のリヒトはというと、キレて暴れ回ったヴィーラに、ガチで理由が分からず内心首を傾げていた。何故分からないのか、お前はどうだん打たれたんだぞ。

 

 

「(はどうだんか?いやはどうだん位でそんな怒るか?きあいだまなら分かるけどはどうだんならチクッと来るだけやん…)」

 

 

人間辞めてませんか?(again)

 

しかしそんなツッコミをする人がいる訳でもなく、さりとて表に出す訳もないリヒトに、間違いを正せる人間など何処にも居ないのだ。

 

 

「(1回休暇取らせようかなぁ、ヴィーラずっと手持ちで連れ回してるし、シンオウの家でゆっくり過ごしてたらストレスも無くなるでしょ。()()()を代わりに連れて行けば穴埋めは出来るし)」

ナチュラルに手持ちが一番嫌がる事をしようとするリヒト、こいつなんで手持ちに慕われてるのか、全員マゾなのだろうか。

しばらく考えていたリヒトだったが、まあいいやと切り上げて、目の前の女性を見る。その女性__シロナの妹が何かを我慢するような表情を浮かべていることに気付いたリヒト、そのまま少し近づいたリヒトは……

 

 

 

 

「挨拶もすみました…それでは失礼します(トイレ行きたいのか、なら何も言わずに立ち去るのが礼儀!!)」

 

何も分かってないわコイツ(呆れ)。

そうして本人としては他人に思いやりができる男として、踵を返すとスタスタとカンナギタウンの出口へと歩き出した。心做しか少し気遣いが出来た(出来てない)からか誇らしげな感じだった。

 

 

誰かこいつをシバキ倒せないものか。

 

 





そりゃマッハ2で飛行してる奴の手は冷たかろう。


ちなみに私は、月末の方になると少しだけ創作意欲が湧いてまいります。

しかし古戦場が始まるので、恐らくまた更新が遅くなります。クソ雑魚騎空士の私でも、一応頑張りますので古戦場に集中します。
もし更新があったなら、それは私が古戦場から逃げた時でしょう。


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焔の拳

何故お前がそこ(日間)に居座ってやがる。

沢山の評価、感想、誤字報告ありがとうございます。自分は割とこういった感想なんかで喜んでくれていると分かると、筆が乗るタイプの現金な奴です。

取り敢えず古戦場2勝したので、息抜きに投稿。

ちなみに今回、原作のキャラを出しますが、口調に自信が無いし、本編をプレイしたのが何年も前なので大分あやふやです。
つまり、早くダイパリメイクを出さないゲーフリが悪い、QED。


風を切る音と、何かを破裂させたような乾いた音が響いている。

 

しんしんと降り積もる雪の中、断続的に響く乾いた音と風を切る音が、周囲の空気を揺らしていた。間隔は短く、されど音は衰えることなく同じ大きさを保っている。

木々に囲まれたこの雪原、その中にポツンと建つ大きめのログハウス。その前で、焔を揺らしながら、それは拳を振るっていた。

 

突き出した正拳、そして数瞬遅れて響く乾いた音と風を切る音。先程までの音の正体は、音を置き去りにし、振るわれた事を風という自然現象にすら気付かせることを遅れさせる程の正拳突きだった。

そして伸ばしたままの拳をゆったりと横にずらしたかと思えば、そこから行われたのは、先程までの超常的な鍛錬を思わせる素振りではない、緩やかなものだった。

 

円を描くように体を動かし、空を切る腕。その動きに合わせて揺れる焔と、飛び散る火の粉。そして足をずらし、足取りを変え、緩急をつける。

 

それは、先程までの鍛錬のような「武」ではなく、華やかで誰かを魅了するようなまでの、美しい「舞」だった。

体勢を変え、速さを変え、目まぐるしく、そして華やかに変わり続けるその「舞」は、人の居ないこの雪原に置いておくには勿体ない程に美しいものだった。

 

しかし、それでもその動きには、舞にしてはおかしな点がある。

 

足運びも、その振り付けも、何もかもが完成されていて、いや、()()()()()()()()()、美しかった。

 

だが、しかしその舞には、()()()()()()()()

 

 

本来舞や踊りとは、観客に見せる為に、大きく、華美に見せようとするものだ。大きく体を使い、そのイメージする何かを幻視させるような、そんな動きを見せるのだ。

だが、それの舞は、何かを見せるための振り付けや、誰かに見せる為といった大袈裟さや、華美さが感じられなかった。

 

言うなれば、究極的に無駄を削ぎ落とした、無駄が入る事をよしとしない効率的な動き。

足運び、手の振り、身体使いの全てが、何かを幻視させるものでは無い。だがしかし、よくよく目を凝らしてみると、そこには何かが見えてくるのだ。

 

 

同じように「舞」を踊る、相手の姿が。

こちらは少し違う、それとは違う、激しいものだった。言うなれば、攻撃的とも取れるその動きは、危うくそれと接触する恐れすらある程だった。

 

 

 

いや、正しくはそうでは無い。初めから見ていたのに、何故気付かなかったのか。

 

それは「舞」を踊っていた、しかし、そう勘違いしていただけなのだ。

それは、初めから踊っていたのでは無い。幻視する相手も、踊ってなどいなかった。

 

攻撃的に見えていたそれは、実際当てるつもりだったのだろう。出なければ、余りにも殺気が強すぎる。あそこまで殺気立つ等、そんなものは舞ではありえない。

それの、余りにも無駄のない動きも、なにもかもが美し過ぎて、気付かなかったのだ。

 

 

 

それは、戦っていたのだ。虚空に描く敵を、まるで舞を感じさせるほどの美しい所作で。

 

やがてその二人の戦いは終幕へと向かう。

虚空に現れ出す相手は、それの動きに業を煮やしたのか、少しだけ焦った攻めをした。真剣勝負でも、何ら隙にはならないような、少しの乱れ。ただ強いだけなら、それは何も問題ないのだろう。

 

だが、それが幕引きの合図だった。

 

焦った敵の拳を、それが手首を返す動きでずらす。すると前方にかかっていた体重により、重心がズレる。

慌てる敵に、それは流麗な動きで体を翻すと___

 

 

 

 

 

___虚空を裂くような一閃で、意識を刈り取った。

 

 

顎に叩き込まれたその裏拳に、虚空の敵は明確に体を崩す。脳を揺らされた敵は、なすすべなくその身を雪原へと投じ……突如として消えた。

 

 

「……エンキ、食事の時間だ」

 

『了解です師よ!俺も腹が減りました!!』

 

「(元気良いなぁ、もうちょっとさせた方がよかったかな?)」

 

 

後ろのログハウスの扉から顔を出した少年に呼ばれ、それ_ゴウカザルは弾んだ鳴き声でログハウスへと入っていった。

そのしっぽは揺れていて、その頭の焔はごうごうと燃え盛っていた。

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

「(いやーキッサキシティに別荘作ってよかったぁ、ファイトマネー使ったから結構デカくなったけど、静かだし雪景色は綺麗だし、手持ちがトレーニングしても周りに怒られないし!)」

 

 

カンナギタウンの悲劇(仮)の後、再び手持ちのラピスに再び乗り、キッサキシティに向かった。ちらほらと雪が降り始めていたのだが、先程までの薄着でそのまま飛んでいった。バカかな?

 

 

「(いやーやっぱりマッハはだめだよ、うん。飛ぶのは慣れてるし大体800キロまでなら耐えれるけどマッハは無理だよ)」

 

バカではなく化け物だった。そのぼうぎょの努力値もっと頭に振った方がいいのでは?

そうツッコむ者は何処にもおらず、リヒトはグルグルと大鍋をかき混ぜる。存外楽しそうに__やはり無表情で__料理をするリヒトの後ろでは、手持ちのポケモンが待ち遠しそうに覗き込んでいた。

 

 

『ああ、美味しそうな匂いがします。リヒト様、本日はカレーでございますか』

 

『マスター!マスター!どうしてカレーなの?』

 

「…何故か、大鍋でカレーを作れと言われた気がした」

 

アホすぎて異次元の電波を受信したらしい、マサラ人とは皆こうなのか?……まあ、一回石化しても蘇るし、そんなもんか(偏見)

リヒト(アンテナ野郎)は鍋を混ぜるのを止めると、ご飯をよそった皿に、カレーのルウをかけていく。掬ったお玉から香るスパイスや食材から溶け出した旨みが直接匂いとなって立ち上る。

 

堪らず飛び込んできたのは、ラピスだった。伝説で語られるポケモンではあるが、精神状態は手持ちで一番幼いラピスは、こういったところでの自制というのは中々効きづらい。

 

 

『美味しそう!早くちょうだい!』

 

「焦るな……カレーは逃げないさ。それにラピスのはこちらだ」

 

 

そう言ってリヒトは、大鍋の隣にある二回り程小さい鍋から、ルウをよそい、ラピスの持ってきた皿にかける。先程の大鍋のものより、甘めの匂いがした。

 

 

『ラピス、お前は辛いのが駄目だろう。我が主がお前用に作ったものだ、ちゃんと感謝の言葉を伝えなさい』

 

『分かったよキング!ありがとうマスター、僕大好き!!』

 

 

嬉しそうに感謝を述べ、そそくさと食卓に戻るラピスを、リヒトとキングは暖かい目で見ている。どうも父性が芽生えているのか子供を見守っているようにも見える。キングはともかくリヒト、てめぇはだめだ。

食卓についたラピスを見ていたリヒトは、ついで渡された皿の持ち主に、振り返った。

「……それで、お前はどちらだ?」

 

「そうね、いつもは甘めだけど、今日はそっちの辛い方にしようかしら」

「…辛いぞ?」

「ひょっとしてバカにしてるの?」

 

 

不満そうに口を尖らせながら、大鍋からよそわれたルウをかけたカレーを持って食卓につく()()。そのまま手を合わせ、食事への感謝を述べ、スプーンを取って一口。

 

 

 

 

念の為置いておいた牛乳をがぶ飲みした。

 

「…こっちに甘口がある、それと交換しろ」

「え…ええ、あなたがそうして頼むなら、私も聞いてあげないことはないわ」

 

「(目の端に泪浮かべてなに言ってんだこの成人女性)」

 

 

心中であのリヒトに呆れられているとも知らず、女性は取り繕った(出来てない)顔を浮かべるその人に、リヒトは少しだけ、感情を表に出した声で言った。

 

 

「ところで、何故お前はここにいる__シロナ」

 

 

まだ辛さが舌に残るのか、ちびちびと牛乳を飲んでいるシンオウ地方現チャンピオンに、リヒトは呆れを滲ませて、自分のカレーを持って食卓についた。

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

リヒトとシロナの出会いは、およそ二年前。

あの日、シロナはたまたまそこにいた。チャンピオンとしてその座を守り続ける日々と、シンオウの歴史を調べる研究者としての生活に、少しだけ嫌気が差していた。

自分が選んだ道である、二つを両立させるということが嫌なわけではない。だが二つとも、少しだけ行き詰まっているのだ。

 

チャンピオンになって数年、未だに自身と張り合うような者はおらず、多くが四天王の前に破れ去る。これではまだ、自分がジムを巡り、切磋琢磨していた時期の方が楽しかった。

シンオウの歴史も、調べる過程で行き詰まってしまった。その所為でここ最近は少しボーッとしている事が増えている気がする。

 

 

「…駄目ね、気分転換にカンナギタウンに帰ろうかしら」

 

そう言って、手持ちのポケモンを呼び出そうとした時__

 

 

 

 

少し離れた道路から、耳を劈く轟音が聞こえた。

 

 

「な、なに!?」

 

 

慌てながら、ボールを持ったまま音の元へと駆け出して行った。もしかして野生のポケモンが暴走したのか、そう頭の片隅で思っていたシロナは、目に入った光景に、愕然とした。

 

そこには、拳を突き出した状態で動きを止めたゴウカザルと、その後ろから対戦相手であろう女性のエリートトレーナーを、空虚な瞳で眺める少年がいた。

 

 

「…エンキ、ご苦労だった」

 

 

少年の労いの言葉に、ゴウカザル_エンキは右手に拳を作ると、それを左手の掌に当て、そのまま綺麗に腰を曲げ礼をした。

ポケモンとトレーナーの間に行われる行為とは、一線を超すその二人の様に、シロナは愕然とした。

あのゴウカザルの眼には、大きな喜びの感情と()()()()()()()()()が見えていた。本来親愛等が浮かぶその眼に、そんな感情が浮かぶなど、初めてのことだった。

 

まるで、親愛を抱くなど恐れ多いと言わんばかりの深い礼。それを当然のように受け取る少年に、シロナは非常に興味を、そして苛烈なまでの戦意を滾らせていた。

 

 

「…また、か」

 

 

するとそんな戦意を感じ取ったのか、少年はこちらに一瞥もくれず、そう呟いた。

 

「あら、連戦で疲れていたのかしら。それはごめんなさいね」

 

「……この程度のことなら、いつもの事だ。それに、この程度で疲れる程、()()()()()()()()()()()()

 

 

そういった少年に、シロナは背筋がゾクゾクする感覚を覚えた。

 

ああ、彼は本物だ。

彼こそが、私のこの渇きを満たしてくれるのだろう。

シロナは、全身の血が沸き立つような感覚を感じた。もう何年もこんな感覚を味わっていない。目の前の強者を捩じ伏せたい、自慢のポケモンと共に、相手に自分の方が上だと、思い知らせたい。

 

「……下手な肩書きも、経歴もここでは無意味だ。この場では、ただどちらが勝つか、という事だけだ」

 

 

不意に呟かれた少年の言葉、それにシロナは獰猛に口の端を吊り上げる。少年は、暗にこう言っているのだ。

 

 

__「チャンピオンとしてのメンツや、年季なんかは関係ない。例え俺に負けたとしても黙っといてやる」と。

 

幾つも歳の下の少年に、情けをかけてやると言われたのだ。ここでお前を気遣ってやると、少年は言ったのだ。

 

「随分と優しいじゃない…!」

 

 

冗談じゃない。私と私の仲間はお前に加減される程温くない。

怒りを、それ以上の闘志が塗り上げ、冷静になる。言葉は不要、今から行うのは、お互いの強さの否定なのだから。

 

 

「生憎、今は全力が出せるポケモンは一体しかいないの。だから、一騎打ちにしましょう」

 

 

そう言って、シロナはボールを投げた。

 

そこから現れたのは、蒼色の体毛に鍛えられた身体を持つポケモン。ルカリオだった。

 

「行くわよルカリオ、あの子の鼻っ柱を折ってやるわよ」

「アオン!!」

 

 

気合い充分に声を上げるルカリオ、どうやらボールの中から今の会話を聞いていたらしく、やる気満々のようだ。

対する少年は、現れたルカリオを無感動に眺めていたが、ふと腰に付けたボールを静かに見た。見れば、そのボールの中の二つが大きく揺れていた。

 

 

「……今日は、お前達じゃない。エンキに譲ってくれ」

 

 

そう言うと、彼のボールの揺れは収まり、それを確認してから少年は、目の前に向き直った。

どうやら、連戦続きのゴウカザルをそのまま使うようだ。

 

 

「……エンキ、今日の課題は分かっているな」

 

『ええ我が師よ!』

 

 

ただ一言、そう言った彼とゴウカザルは、そのまま言うことはないと言わんばかりに前を向くと、ゴウカザルは左手の甲を前に突き出し、右手を腰辺りに軽く構えた。

 

 

そして、その左手の指を、何度も手前へと倒した。

 

分かりやすい挑発、しかし単純明快であるからこそそれは効果を発揮するのだ。

その挑発にルカリオは足に力を込めると、その地を力の限り蹴り出した。

 

 

「ルカリオ、しんそく!」

 

 

それを合図に、その戦いは始まった。




今回のリヒトVSシロナ戦は、次の話に引っ張ります。

後今回のバトル前のシロナさんは、いつかのポケカの時のイメージが混ざっている為、少々攻撃的です。
あと、感想で言及されていましたが、リヒトは光の奴隷系ではありません。あれはただのノリと勢いです。

まあ、光の奴隷系が居ない訳ではないんですが。


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神速


西日本を襲った竜巻擬きで家の屋根瓦が吹き飛ばされたので初投稿です。

今回はバトル描写を書いてみたのですが、なんともまあ、納得いかないというか、本人的には微妙になってきました。
後、感想でLight作品について触れてくる人が増えてきた為、みんな厨二心を忘れていないんだなぁと思った所存でございます。

後感想で言っていたエンペルトニキ、ごめんね、リヒト君はエンペルト使わないんだ。

リヒト君は。


『エンキは、どうしてそこまで技を磨くのですか?』

 

 

ある日の昼下がり、いつもの様にキッサキシティのログハウスの前にて、鍛錬を続けるエンキに、突然問を投げ掛けるヴィーラ。少しだけ寒いのか、身体は震えていた。

それもその筈、ヴィーラは本日のエンキの鍛錬を最初から最後まで、凡そ八時間、傍に居続けその全てを見ていた。

故に、身体は凍え、さしものヴィーラも震えが抑えられなくなっている。途中からリヒトに防寒着を渡された。

 

だが、そうして身体を暖めていたヴィーラとは対照的に、件のエンキは、腰を大きく落とし、右拳を腰だめに構えていた。

膝を曲げ、足を前後に大きく開いたその構えは、まるで拳を打ち出す直前の、力を溜めているようだった。

 

『……え?ああごめん居たのかヴィーラ』

『ええ、()()3()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()隣にね』

 

 

キョトンとした眼でヴィーラを見るエンキ、どうやら本当に気づいていなかったらしく、少しだけヴィーラは苛立った。

しかし、邪魔をしているのは自分だと思い直し、再び先ほどと同じ問を投げ掛ける。するとエンキは、体勢を崩すことなく、笑顔で返した。

 

 

『それはな、俺が弱っちい雑魚だからだよ』

 

『__タチの悪い冗談ね。貴方私をバカにしているの?』

 

 

告げられた解に、ヴィーラは静かに怒っていた。

 

ヴィーラを端的に言葉で表すと、狂信者という他あるまい。

信者ではなく、信奉者でもない。正しく狂信者である。信ずる事に狂い、他を否定する狂った信徒。

では彼女は、一体何に狂っているのか。

 

 

 

簡単だ、彼女は自身の主たるリヒトに、狂っているのだ。

 

自身を使役するリヒトを神の如く信仰し、その手先として力を振るうことを至上の悦びと信ずる彼女は、己が役目である敵の殲滅に、大変意欲的である。主の威光を知らせる為、また主を愚弄する愚者達を屠る為、日々その力を付けている。

だからこそ、そんな彼女は文字通りリヒトを盲信している。リヒトが言う事こそが真実であり、他の有象無象の者の言うこと等塵芥に等しいと、本気で思っている。

 

だからこそ、許せなかった。

 

 

 

 

『貴方、今の自虐で誰を愚弄したのか分かっているのか?』

 

 

自身より上の実力者で、手持ちの中でNo.2とリヒトに認められた者が己を愚弄するなど、それは認めたリヒトを愚弄するのに等しい事だと。

底のない沼のように濁った眼で、エンキを睨みつけるヴィーラに対して、エンキは薄く笑い、口を開いた。

 

 

『いや、俺が弱いってのはお前以外全員分かってるよ。無論我が師もな』

 

 

清々しいまでにそう言い切るエンキに、ヴィーラは戸惑う。何故恥じないのか、己の弱さを。何故主の御本に居るお前が、その弱さを平然と語るのか。

 

何故自身より強い貴様が、弱いと宣うのか。

 

 

『……恥じは、ないのか』

 

『ないなぁ』

 

『貴様は、弱いことを何故恥じる事無く言い切るのだ!!』

 

 

湧き出る怒りに、思わずその爪をエンキに向けたヴィーラ。しかしそれでもエンキは動じない。少しも動くことはなく、同じ態勢を保ち続けている。それが余計癪に触り、あわやその爪が仲間を傷つけるという瞬間、エンキは口を開いた。

 

 

『確かに、弱いということは恥じだ!強く生まれなかった我が身を呪い、才がないこの身を憎み、また過去に産まれたことを嘆いたこともあった。でもな、そんな俺に、我が師は言ったのだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『「……お前は弱い。()()()()()()()()()()。」とさ」』

 

 

そう言ったエンキに、ヴィーラは思わず爪を下げた。

未だ分からない、己を弱いと高らかに言うエンキが、それを許容する他の仲間達が。何より分からないのは……

 

 

 

 

 

 

それでいて尚、その弱さを愛する自らの神の御心が。

 

ただ、ヴィーラにはそれが、酷く眩しいものに見えていた。

 

 

 

__________________________

 

 

「しんそく」という技が、ポケモンの中に存在する。

元々はウィンディしか覚えなかった技で、その能力は中々強力なものだった。

 

それは、高威力の技でありながら、必ず先制攻撃が可能という事だ。

ある世代まで、限定で現れるポケモン達以外には持ちえなかったその技は、説明にこう書いてあった。

 

 

目にも 留まらぬ ものすごい 速さで 相手に 突進して 攻撃する と。

 

先制攻撃が可能なのだ、それはそうだろう。対ポケモン戦においての先手とはそれくらい出来ないと当たり前なのだ。

 

 

では、目にも留まらぬとは一体、どれくらいの速さなのか?

 

よくボクシングの試合等で実況が、目にも留まらぬパンチ等という事があるだろう。実際その瞬間は一瞬で、トップレベルの選手なら、いつの間にか敵が倒れているという現象が起こりうるのだろう。

しかし、それはあくまで人間から見た速さである。

それでは一体、対ポケモンにおける「目にも留まらぬ速さ」とは、一体どれ程なのか?

 

マッハを越える、そんなスピード?

 

いやいやいや、そんなものな筈が無い。ポケモンでマッハを越えるスピードを出す個体なんてごまんといるさ。

 

じゃあ、どんなの?

 

 

 

 

それはな、()()()()()()()()

 

 

 

__________________________

 

 

 

一歩踏み込んだ時、弾けるような音がした。空気の壁を叩きつけた音だろう。

 

二歩踏み込んだ時、姿が消えた。

 

そして三歩目からは、遅れて聞こえる土を蹴るような音だけが、エンキの周りから聞こえるだけとなった。

 

絶対に相手から先手を奪うというその性質上、そのスピードはどのポケモンが繰り出す技、そして個体特有のすばやさを超えなければならない。

その中で、ポケモンの技というものはとても不可思議な性質を持つ。それは、個体値に関係なく先手、もしくは後手に回るというものがあることだ。

 

どれ程の速さがあろうが、それでもその技を出せば、確実に先手がとれる技。それはゲーム時代でさえ大きなアドバンテージがあるが、では現実となったこの世界では、それはどう映るのか。

 

 

簡単だ、()()()()()()()()()()()

 

土を蹴る音が増える度、加速するルカリオは、最早影すら現れない。ただひたすらに速い、最早残像を残す程に、加速していた。

 

 

「確か、ゴウカザルは素早さに優れていたポケモン。なら、この速さについてこられるかしら」

 

 

薄く笑い、リヒトを見やるシロナ。しかし、リヒトはそんな挑発の言葉に対しても、無感動に、無表情に戦いを眺めている。

そのどうでもよいような顔に、シロナは思わず苛立つ。まるで戦いを見ていない、目の前の戦いを通して別の何かを見ているようなその眼に、プライドを逆撫でされたのだ。

 

だが、突然リヒトは、顎に手を当て考え込むような仕草を取った。そしてそのまま顔を上げて__

 

 

「…エンキ、置け

 

決して大きくない声、されど幼いながらによく通った声で、その言葉が呟かれたその瞬間__

 

 

 

 

 

 

とてつもない衝突音とともに、ルカリオが地面へと倒れ伏していた。

 

 

「なに…これ?」

 

 

突然起こったその現象に、シロナの頭は混乱していた。先程まで、圧倒的なスピードでゴウカザルを翻弄していた自分の手持ちが、瞬く間に地面に這いつくばっている光景に、頭がついて行かなかった。

何が起きたのか、それを理解する為にゴウカザルへと目を向ける。しかしそこには、ただ後ろに向けて拳を突き出した構えを取っているゴウカザルが居るだけだ。

 

 

「ルカリオ起きて!何があったの!」

 

 

呼びかける声に、ルカリオは少しふらつきながらも、立ち上がり始めた。しかしその動きはよろよろとノロマなものであり、立ち上がるまでに幾度となく追撃出来た筈だ。

 

 

『駄目だな、こりゃまるで駄目だ。ただ速いだけでなにも無い』

 

 

戦いの途中であるにも関わらず、ゴウカザルは吐き捨てるようにそう言った。勿論人間には聞こえる筈もないその言葉は、しかしてポケモンには聞こえる訳である。

 

 

『き…貴様!我が主と鍛えたこの技を、コケにしおって!!』

 

『当たり前だ、貴様のそれはただ速いだけの児戯だ。現に今、俺がお前の軌道に拳を構えただけで、お前は自滅した』

 

 

そう、今エンキがやった事は、リヒトの言葉通りに、拳を置いただけたのだ。

速すぎるしんそく、しかしそれは文字通り、神にすら届きうる速さ。しかしそれが、一ポケモンに完璧に扱う事が果たして出来るだろうか?

つまり、しんそくの弱点はその単調さである。常軌を逸したその速度により、直線攻撃しか出来ないのである。ならばそこに、その速さを利用されて破られるのは道理なのだ。

 

だが、当然のように語るエンキは気づいていない。単調だと切って捨てるそのしんそく、しかしその単調さを突くには、その速さを完璧に見切り、次の軌道にその速さよりも速く軌道に拳を置かなければならないのだ。

その発言の異常さに、ルカリオは気づいてしまった。なんだこいつは、これが名も知られぬ子供のポケモンなのかと、震え上がる。

 

 

「ルカリオ!じしん!」

 

 

しかし、シロナの指示に、その思考が目の前の戦いに戻った。

その指示通りに、ルカリオは一瞬で後退、そしてじしんを放とうとした。

 

 

そう、放とうとしたのだが__

 

 

 

『おいおい、逃げんなよ』

 

 

その後退するルカリオの真横に、エンキがピッタリと並走してきた。

驚愕するルカリオ、その驚きに一瞬身体が硬直した。しかし急いで対策を取ろうと、繰り出す技を思考した。

だがそれは、一瞬の空白を目の前の敵に晒すという結果を生み出した。

 

 

『判断が遅い』

 

 

呟かれたその言葉が終わる頃には、ルカリオは吹き飛んだ。

 

上体を大きく仰け反らせたまま、遠く吹き飛ばされたルカリオ。どうやら顔を狙われたらしく、しばらく起き上がらない。

そして、何かの攻撃を放ったであろうエンキは、またしても拳を突き出した構えのまま、制止していたを

 

 

「攻撃が……見えなかった」

 

 

目の前で起こった事に、シロナは絶望にも似た感覚を覚えた。今までチャンピオンになってから、彼女は一度も自身の手持ちが圧倒される等という経験がなかった。旅の中で成長し、自身と共に成長してきた彼らの全てが、音を立てて崩されていくような感覚に襲われる。

 

しかし、ふと思い出す。しんそくのように、確実に先手がとれる技を。今のように拳を使う技を。

 

 

「まさか、マッハパンチ?」

 

 

辿り着いた答えに納得すると共に、ルカリオを見やる。吹き飛ばされ、未だに立ち上がらないが、その眼は死んではいない。どうやら相手はこちらに情けをかけているようだが、それを逆手にとってやるとさえ考えていた。

最早シロナは、目の前のリヒトを、ただの生意気な子供と考えていなかった。目の前の者を、なんとしても倒すべき敵として、戦術を練っていた。

 

だが__

 

 

シロナの言葉を聞いたようなリヒトは、その言葉に少しだけ、不思議そうな仕草をする。相変わらずの無表情に、シロナはカラクリを暴いたと、突き付けてやろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「タネは割れたわ、それなら他にやりようは…」

 

「お前は何を言っているんだ?」

 

がらんどうの、二つの瞳が、シロナを突き刺すような幻覚に、苛まれた。

こいつは何を言っているんだ、という彼の言葉に、シロナは上下を失ったような感覚に陥る。

タネは割った、それに対策を立てるだけだ。そんな言葉は挑発だ、はったりだ、そうあらねばならないのだ。

 

まくし立てるようなシロナの思考を、全て見透かしているようなその瞳が捉えるような幻覚。それを感じたシロナを嘲笑うかのように、リヒトは口を開いた。

 

 

「あれはマッハパンチではない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただの正拳突きだ」

 

 

告げられた言葉に、今度こそ下半身の力が抜け落ちるのを自覚した。

立つ力が無くなったように、膝から崩れ落ちる脚に、自身の意思とは反するように震えている両足に、シロナは最早、言葉すら出なくなる。

 

世迷言をと切り捨てようとする思考と、目の前の少年からは一切虚偽の反応が無い。なによりその空虚な瞳が、それを雄弁に物語っている。

 

「…そろそろ、終わらせるか」

 

 

呟かれたその宣告にも似た言葉に、思わず自身のルカリオを見やる。そこには、立ち上がろうとするルカリオの目の前に立ち塞がる、ゴウカザルの姿があった。

 

 

「…ぁ、駄目、立っては駄目…」

 

 

本能からか、そんな言葉が口から零れ落ちる。しかしルカリオは立ち上がる、己に勝利を捧げる為、目の前の敵に立ち向かう為。

蛮勇を持った波動の戦士は、目の前の絶望に気付かず、愚かにも立ち向かうのだった。

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

『…ああ、我が師からのお達しだ。そろそろ終わらせろとな』

 

 

明確な挑発、そして勝つと宣誓したエンキを、ルカリオは睨みつける。

 

 

『貴様、目は節穴か?私はまだ立っているぞ。決着はまだついていない!』

 

叫ぶルカリオに、エンキはわずかに興味を持った。勝敗は歴然、今にも倒れそうな姿の自分を自覚しながら、負けていないと啖呵をきる姿に、少しだけ喜びを覚える。

 

 

『じゃあ、なんでそこまで戦おうとするんだ?あと一撃食らわせれば多分倒れるのに、どうしてそう必死になる』

 

 

少し薄く笑い、そう問いかけるエンキ。まるで答えが分かっているかのような表情に、だがルカリオは気づかない。痛みや意識の混濁で、最早前すらまともに見えていないルカリオは、だがそれすらを忘れさせるように叫んだ。

 

 

『仕える主がいるのだ!私をここまで強くしてくれた、共に歩んでくれた主が!その主に私は報いねばならない!この勝利は私だけのものではない!貴様とて同じだろう!貴様は師と仰ぐ者の為に、そして私は主の為に!己の強さを譲らないのだ!』

 

 

叫び終わると同時に、ルカリオは駆け出した。その一歩目で音の壁を超える、乾いた音が響き渡る。

二度目の、それも先程破れた技を使うルカリオに、もし観客が見ていればどう思うだろうか。滑稽に見えるだろうか、バカの一つ覚えのように、それしか出来ないのかと考えるだろうか。

 

だが違う。ルカリオは、破られていると分かっていたしんそくで、あえて向かっていった。では何故か?それは__

 

 

 

 

『成程、主と己で作り上げた、一番信頼出来る技だからか』

 

 

ルカリオにとってこの技は、ただの得意な技ではない。この技は、ルカリオとシロナの成長の証であり、数多くの敵を倒してきた、信を寄せる最高の技だからだ。

 

 

『たとえ破られていたとしても、己の信ずるものを貫き通すか…その心意気、誠に素晴らしい!』

 

 

そう言うと、エンキは構えを解いた。

戦う気が失せたのか、そうもとれるその姿に、だが、ルカリオは気を緩めない。

 

 

『(トップスピードで!今までの全てを超える素早さで!全てを絞り出して倒す!細胞全てを使い切れ!この一瞬に、己の全てを掛けろ!!)』

 

 

加速する自身の脚が上げる悲鳴すらも無視して、ルカリオは加速する。この一瞬で、全てを終わらせてもいいと、己の全てを投げた出す程に、その加速に全てを注いだ。

そして、その素早さは、頂点に達した。

 

『いざ!尋常に…勝負!!』

 

 

宣言と共に、エンキへと向かって突進するルカリオ。己の全てをかけたその加速は、だが、エンキの瞳に捕らえられていた。

そして、エンキがその軌道に拳を置いた瞬間___

 

 

 

 

 

__ルカリオが、エンキの後方から現れた。

 

 

ルカリオは、初めから自身のスピードを見切られると分かっていた。どれだけ加速しようが、それを見切られ、拳を置かれると。

 

だからこそ、ルカリオは拳を置いたと視認した瞬間に、無理矢理進路を変え、エンキの後ろに回り込んだ。

 

 

そして、エンキの拳の射程外。確実に一歩以上踏み込まないと届かない場所に、ルカリオは回り込んだ。

そして、もう一度技を放った。

 

 

『「じしん」だ!』

 

 

この瞬間、ルカリオは己の信ずる最高の技を、主に勝利を捧げる為に、ブラフとして使い捨てた。貪欲なまでの勝利への渇望、そして高いプライドさえも主の為に捨てるその忠義。そのあっぱれなまでの一撃は__

 

 

 

 

 

 

『見事だ!』

 

 

打ち込まれた、「とびひざげり」にかき消された。

 

エンキは知っていた、忠義の者がどういう選択をするのかを。主に勝利を捧げる為に生きるものが、己の意地だけの行為を選択しないことを。

 

言うなれば、()()()()()()()。敵対する好敵手を、その素晴らしき忠誠心を。

 

 

攻撃を受けて浮き上がるルカリオの身体を、ルカリオはまるで、どこか他人事のように眺めていた。ゆっくりと、スローモーションのように流れる時の中で一度、確かにエンキと眼が合った。

 

 

『素晴らしき忠誠心、素晴らしき貪欲さ。俺はあんたを見くびっていた、全霊の賞賛を贈ろう!素晴らしき好敵手よ!』

 

 

嬉しそう、確かにそう言ったエンキは、そのまま拳を構えた。まるで今から、更に攻撃を打ち込むように。

 

 

『故に、これから贈るのはそんな友たるお前に贈る、手向けだ。これが俺の、必殺の手札の一つだ』

 

 

シュウッ、と呼吸を整える音がした。大きく息を吸い、肺が膨らむ姿が鮮明に見える。まるでこれから、無酸素運動を行うように、エンキは限界まで息を溜め、呟いた。

 

 

『ホウエンの怪物(準伝)を屠り去ったこの連撃、しかと受けよ!』

 

 

そう言ってエンキは、「ほのおのパンチ」を放った。

 

 

大きく身体が吹き飛ぶ。しかし、エンキは離れない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そしてそのまま「けたぐり」を放つ。

弓なりに吹き飛ぶ身体に、また追い付き、「かわらわり」を叩きつける。

叩き付けられた勢いで、慣性のまま地面にバウンドし、そこに「グロウパンチ」の()()が叩き込まれる。

 

これこそが、エンキの必殺の手札、その一つである。息をもつかせぬ程の、技の連撃。たとえ吹き飛ばされようが逃げようのない攻撃の嵐。そしてそれら全てが正確無比に、確実に叩き込まれるという無慈悲な事実。

そして、ここまでにかかる時間は、2秒にも満たない。一瞬の内に行われる蹂躙劇に、多くは何も分からずに敗北するだろう。

 

だが、未だ続く連撃の最中、ルカリオだけは意識を保ち、それを間近で受けながら、見ていた。

 

「ダブルチョップ」で叩き付けられた身体が浮くと同時に、低空に浮く体に「ローキック」が放たれる。そして吹き飛ばされた身体を打ち付けるように「アイアンテール」を食らい、地面を何度もバウンドする。

 

ボロ雑巾のように、何度も何度も打ちのめされている。最早敗色濃厚の最中で、ルカリオが感じていた事は、喜びだった。

 

 

ああ、私はまだ強くなれると。完成等されていなかった、まだ上を目指せる、まだ上の者がいる。そして___

 

 

 

 

__その敵からの勝利を、我が主に捧げる事が出来ると。

 

 

「スカイアッパー」で空高く打ち上げられた時、終わりが近付いたと悟った。次の一撃で、恐らく私は倒れると。そしてそれがこの戦いの終わりだと。ルカリオは本能的に理解した。

 

そして、打ち上げられたルカリオの更に上空に、案の定エンキは現れた。そしてその足には、燃え上がる焔が揺らめいていた。

 

 

『楽しかったぞ友よ!しかし、今日はこれで終わりだ』

 

 

そして、その言葉と共に「ブレイズキック」が放たれ、そのままルカリオはキックを食らった勢いで、地面へと堕とされた。

 

 

見上げる空に、まだ好敵手は残っている。

それが、自身とは違う遥か高みに居るようで、笑えないのに笑ってしまいそうになる。

だが、だからこそそこへと至る価値があると、ルカリオは心の底から喜んだ。そう、拳をエンキに向かって突き上げた。

 

 

『次こそは…私が勝つ』

 

 

満足気に、そう言ったルカリオは、言葉と共に突き上げた拳を力なく降ろし、眠りについた。

そして、長い滞空から降りたエンキも、ルカリオの元へと歩み寄ると、薄く笑った。

 

 

『いいとも、だが、次に勝つのも俺だ』

 

 

欠片も勝ちを譲る気等ないその言葉に、ルカリオが起きていたなら苦笑したのだろう。そう思いながら、エンキはリヒトの元へと戻って行った。

 

 

__________________________

 

 

倒れるルカリオと、それに駆け寄るシロナ。その姿を横目に、こちらへと帰ってくるエンキ。

それ等を少し離れた所で見ていたリヒトは、相変わらずの無表情だった。しかし、その内面はというと……

 

 

 

「(はァ〜〜〜んチャンピオン倒してしもうたぁ!?!???ホウエン在住の御曹司Dさんの二の舞やん)」

 

 

これである、お前の師こんなんだぞ、大丈夫か?

しかし、そんな内面を無表情で覆い隠すリヒトに、誰も気付かない。外見だけはマトモに見えるのだ、これが始末に負えない。

 

 

「(なんでこうなんねん!?俺はただダイゴから逃げてきただけなのに!そして旅費稼ぐ為にエリートトレーナーに喧嘩ふっかけただけなのに!なんでシロナさん来はるん?)」

 

 

エリートトレーナーに喧嘩ふっかけたからでは?(名推理)

そんなこちらの思いなど、伝わる訳も無く、リヒトは慌てふためく。相手は権力者、そしてこちらはペーペーのトレーナー。何か言われたらどうしようも無いと思い込んでいる。

 

 

「(嗚呼、終わった。まじで終焉だ。どうしようも無い事実人は終焉から逃れられない)」

 

 

悪魔の踊り方止めろ。

 

くだらない言葉を繰り返すリヒトは、しかし足りない頭で思考を回す。そうだ思考を休めるな脳味噌を回せ。

そして辿り着いた答えは……

 

 

「(よし、逃げよう)」

 

 

逃亡だった。こいつ過去も未来も逃げてんな。

そうと決まれば話は速い、リヒトは手持ちからラティアスを呼び出し、速攻で逃げる準備をしようとした。

 

 

「待って!」

 

「(ファッ!?)」

 

 

突然の呼び止めに、内心めっちゃビビるリヒト。内心が表に出るなら、空中三回転程して四点着地をする程ビビっていた。

 

 

「…なんだ」

 

「名前を、教えて欲しいの」

 

 

突然の自己紹介の強要に、リヒトは戸惑う。なんだこいつ、なんで名前なんか知りたいんだ?本気でそう思っていた。

 

「何故だ」

 

「決まってるでしょう?貴方の事と、今日あった事を忘れない為よ」

 

「(こいつ…後で訴える気だな!!顔と名前押さえといて後で俺を社会的に貶める作戦か!)」

 

 

多分悔しさを忘れない為だとかだと思うんですが(困惑)。

 

バカのリヒトは、自分がどう見られているか分からない。手持ちにも、そして周りにも、自身のポケモンは強いが、それ以上に自身に向けられている、強者であるという誤解に気付かない。

結局、この後渋々名前を教えたリヒトは、黙ってナギサシティに飛んでいったのだった。

しかしこの後、何度もシンオウでシロナと出会い、最終的には勝手に家に上がり込まれるような関係になるなど、当時のリヒトには全く持って思い浮かばないであろう。

そして、そのリヒトは知らないだろう。己が他人に与える影響を。

 

『師よ、今日もよろしくお願いします!』

 

「(よし、今日は試しに合気道覚えさせよーっと)」

 

 

やっぱり、バカなので知るはずなどないのだ。

 





長い!(大体一万文字)
ちなみに次話は今まで出てきたポケモンの紹介か、幕間をやろうと思ってます。
幕間では、恐らく最序盤に出てきたユウキ君のジム戦をやると思います。アチャモを選んだユウキ君は、果たしていわタイプのジムリーダーを倒せるのか。
怒気ッ!いわタイプだらけのジムチャレンジ!〜トンチキもあるよ!

書かないかもしれない。


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人物紹介

一旦手持ちの半数を出したので、取り敢えず話数稼ぎという名の人物紹介。
人物といいながら、人間は一人だけ。あとはポケモンであるという明確なタイトル詐欺。だが私は謝らない(`・ω・´)キリッ

後感想でクソメガネを危惧する人が増えてきてるのホント草。


リヒト

 

ミシロタウン出身の12歳。メンタルクソザコナメクジの自称パンピー、出生時から表情を忘れてきたアホ。しかし無駄に顔が整っている。

10歳の誕生日に母親に、道具と少しのお金を渡されて強制的に旅に出さされる。しかしその直後のトウカの森で、色違いのアゲハントを追いかけている時に迷子になり、最初の手持ちであるキングに出会う。

その後、着々と各地でバグモンを集めて旅をしていたが、ジム巡りが嫌になって度々他の地方へと逃亡。各地で親交を深める。

母親がマサラタウン出身という事で、無駄に高すぎる耐久力と身体能力を持っている。

 

例 はどうだんを食らってもチクッとするだけ マッハ2で飛行しても寒くて手が悴むだけで済んでいる。

 

とてつもないアホで、周りから自分がどう思われているかの自覚が無い。それゆえ普通に遊びに来ただけのチャンピオンから逃げる、無意識に他人に恐怖心を植え付ける等を仕出かす。そして全く気付かない。

手持ちのバグさがバレるのは嫌な癖に、普通に手持ちに無茶振りみたいな修行をさせる。その所為でバグが加速する。

そして困った事に、影響力が無駄にある。

 

手持ち ケッキング ゴウカザル ガブリアス ラティアス ????? ????

 

手持ちとは別に、後数体レギュラーポケモンが居る。

時々トンチキみたいな事を仕出かすが、別に未知の粒子に適正がある訳でもやると決めたことを徹底的にやる訳でもない。

どっちかって言うとノリに合わせて生きているアホ。バカではない(重要)

 

キング ケッキング 特性 ????

 

リヒトの初めての手持ち、トウカの森の奥地で育つが、蠱毒のような環境の森で、家族を殺され、復讐に走る。

その後、瀕死の重症をおった所でリヒトと出会い、その威光に惚れ込み手持ちに加わる。

ぶっちゃけると作中最大のバグ。オリ設定タグの元凶。

 

タイプ一致技を食らっても倒れない所かマトモにダメージが入らない。そのくせワンパンで敵を沈める理不尽の塊。

手持ちのランキングで堂々の1位。

リヒトとの在り方としては、王とその臣下と捉えている。

名前にキングと付けられていたが、自身はあくまで臣下であり、リヒトこそが王たる器だと考えている。

現時点でキングにマトモにダメージを与えられる存在は二体程しかいない。

 

黒星は無いが、一度だけ引き分けがある。

 

エンキ ゴウカザル 特性 てつのこぶし?

 

リヒトの2番目の手持ち、現在過去は不明だが、自らの口から自身は弱いと憚らず言う男。

1日の殆どを鍛錬に費やし、その結果からかただの正拳突きがマッハパンチと同等になった育成バグの申し子。

 

ホウエンで準伝を屠った事があるらしいが、その手札さえも一つであり、まだ隠し玉があるもよう。

 

手持ちランキングでは2位、弱いという割にはやたら強い。そして現時点でキングにマトモにダメージを与えられる希少な存在。

 

 

ヴィーラ ガブリアス 特性 ????

 

リヒトの4番目の手持ち、過去は不明だが、リヒトを心酔している。

色違いで、全身が鮮やかな紫色。

端的に言えば、狂信者。自らのトレーナーのリヒトを神として崇め、それ以外の神を名乗る伝説のポケモンなどを嫌う。

仲間には寛容だが、リヒトを貶すような事を言うと一瞬で牙を剥いてくる。

 

所謂、6V個体。

 

ラピス ラティアス 特性 ふゆう

 

リヒトの3番目の手持ち、過去は不明だが、リヒトを父親のように慕っている。

幼い子供のように振る舞うが、準伝である。

主にリヒトの逃亡を手伝っており、頼まれない限りマッハ2〜5の間で移動する。

 

テレパシーを使えるが、何故かリヒトの心は読めない。

 

カレーが大好き、というかリヒトの作る料理が大好き。好き嫌いせずに全部を美味しく食べられる。いいこ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地の文先輩

 

いつもキレてる人。

 

貴重なツッコミ役。

 

最近血圧が上がってきた。

 




地の文先輩強く生きて(懇願)


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幕間 光放つ少年

前に言っていた番外編、そしてこれは、一話前までの時の三年後の設定です。

物語の初めにセンリさんを6タテした事により、本来の世界戦からズレたユウキ君が、どのような旅をするのかという話の冒頭部分です。

まあ、書き終わって一言目に出た言葉は、リヒトォ!でしたとだけ。


三年前のあの日、僕は決意した。

 

リビングにあるテレビで、画面越しに戦う父さんを応援する為に母さんと見ていたその時、僕はそれを見せつけられた。

 

圧倒的な力を持って、実力者である父さんのケッキングを捩じ伏せる彼のケッキングを。

 

その圧倒的な力を持つケッキングから、全幅の信頼…いや、忠誠心を寄せられる彼を。

 

そして、他者にどれだけ罵声を浴びせられようとも、眉一つ動かさず、怒り狂う手持ちを鎮める程の精神力を持つ彼を。

 

 

三年前の僕は、父さんの応援等頭から抜けていた。ただただ画面越しに映る彼の姿から、目が離せなかった。彼の一挙一動を、その指示やポケモンの動きを、絶対に忘れてなるものかと脳に()()()()()

しかし、彼の力は圧倒的で、早まる決着に僕は非常に残念だった。もっと見ていたい、その姿を、戦いを、もっともっと__

 

 

 

 

気づけば、父さんが膝を着いていた。

 

その時になって、ようやく決着が着いたのだと僕は気付いた。隣では呆然とする母さんが、そして画面の向こうには魂が抜けたような様子の父さんが居た。しかし、僕の意識にあったのは、彼だけだった。

 

そしてその日から、僕の憧れは父さんから、あの人になった。

あの日から僕は、あの人の事を調べた。どうやら出身地は父さんがジムリーダーを務めているホウエン地方だが、それ以外ではあまり話を聞かない。念の為父さんにも聞いたが、ジムに来た事は無く、存在すら知らなかったそうだ。

 

だが、父さんを倒したあの日から、あの人の情報が増えた。

 

その中には、とても興味深い話があった。

 

どうやら彼は、地位や名誉等には興味が無く、それ故にジムを巡る等をしない。もしくは、したとしてもリーグに挑戦などをしないようだ。ただひたすらに己とポケモンを鍛え、各地を旅する。そこに名誉などの不純な物は要らず、己の道を求める求道者。

 

ああ、なんて素晴らしいのだろう。美しいとさえ思える。あの人位の年齢ならば、チャンピオン等の名誉等の承認欲求が盛んなころだろう。しかしあの人は、それを全て超越した境地に立っている。

 

 

素晴らしい、なんて眩しいのだろう。嗚呼、やはり僕はあの日からあの人のそんな苛烈なまでの美しさに、眼を灼かれていた。

 

だからこそ、憧れるのだ。

 

彼のその気高さに、美しさに、他を寄せつけぬ生き方に。

 

 

 

 

 

 

 

 

__だからこそ、()()()()()

 

 

 

旅立ちの日、ポケモンに襲われるオダマキ博士の鞄から覗く未来の相棒の眼に、自身と同じ光を感じた時に。

 

 

 

__僕は、あの人を超えると。

 

 

そう、あの日の夜、興奮冷めやらぬ身体を冷やす為に出た夜空を見た時に、自分の魂に刻みつけるように()()()()

 

 

 

 

 

 

「……良い眼だ。強い意志を、()()()()()()()()()()()。」

 

 

そして僕は三年後、あの日から夢見た邂逅を、旅立ちの日に果たされた。

 

突然のそれはまるで、旅立つ僕を祝福するように。そして__

 

 

 

 

 

 

 

__その先に待ち構えている、一年という短い時間の、しかしとても忘れはしないだろう、試練の日々を告げるようだった。

 

 

 

 

__________________________

 

カナズミシティ、自然と化学の融合を追求する街と呼ばれるこの街から、ジム巡りは始まる。

 

初めて訪れたこの街のジムは、いわタイプのジムだった。生憎僕の相棒とは相性が悪いが、それでも負ける事はないだろう。

それは自惚れでは無い、経験から来る、純真たる現実だ。僕は己のした努力に嘘をつく行為は嫌いだし、それは相棒もそうだ。

 

だからこそ、僕は少しだけ油断していたのだろう。相手は初めての相手で、初めのジムであるからこそ、というたかを括っていたのだろう。

 

だが、そんな甘い考えを打ち砕く現実が、目の前に広がっていた。

 

 

()()()()()()()()()()()()()!」

 

「アチャモ、躱せ!」

 

 

迫り来る岩石の群れを、必死に避ける相棒。しかしその挙動には疲労が各所に見られており、精彩に掛けていた。

当たり前だ、もうこの戦いは半刻を過ぎようかという程経過していた。

 

 

 

 

 

初めに出してきたポケモンは、イシツブテだった。

初めのジムに相応しい難易度の敵に、油断していたのだろう。難なく降した僕達を見た、僕と歳の大して離れていないジムリーダー__ツツジは、何かを確信したかのように頷くと、腰のボールを取った。

 

 

「…やはり貴方は、あの人の言う通り、少し違うようですね。まあ、あの人よりはまだマシですが」

 

「あの人?」

 

 

要領を得ないその言葉に、思わず首を傾げる僕に、ツツジは心底嫌な事を思い出すように吐き捨てた。

 

 

「リヒトさんですよ。貴方が来る前に、あの人から少しだけ貴方について言ってたんです。「見込のあるやつが、近々現れる」って、いきなりそれだけ伝えてきたんですよ」

「リヒトさんが……」

 

 

告げられた言葉に、胸に何か、言葉に出来ない感情が広がる。憧れの存在に、認められたことによるものだろうか。初めての感覚に戸惑う僕をよそに、ツツジは言葉を続ける。

 

 

「私は直接あの人と戦った事はありません。でも、私には出来ないです。あんな化け物は、災害と一緒です!」

 

 

少しだけ震えた様子のツツジ、どうやら昔の事を思い出しているようだ。どんな過去があったかは分からないが、どうやら彼女も、リヒトさんの戦う姿を間近で見た事があるようだ。

 

確かに、あれは一種の災害にも似ている。圧倒的な力の奔流とも、諦めるしか出来ないような怒濤の津波にも、全てを破壊する竜巻にも似ている。

だが___

 

 

 

 

 

気に入らないな

 

「……なんですって?」

 

 

少しだけ、眉を動かしたツツジを見る。その賢そうな眼から、確かに僕よりも聡明で、現実を見ているのだろう。

 

だからこそ、気に食わないのだ。

 

 

「確かにあの人は災害みたいな人だ。他人の長年の努力を、天才達の才能を、僅かな時間で全てを破壊してしまう、そんな圧倒的な人だ」

 

 

三年前のあの日を忘れない、あの日まで、僕の世界の頂点は父さんだった。鍛え上げたポケモンと、研鑽を忘れぬ父さんは、確かに強かった。

だが、それでもリヒトさんは勝った。

 

十歳で旅を許されるこの世界で、たった二年であの領域に立ったリヒトさんは、そしてそのポケモンは、いったいどれ程の努力を、研鑽を、そして修羅場をくぐったのだろう。

そして、現にあの人は、ああしてあの場に立っていた。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「だから、相手が化け物だから、という自分を守るための言い訳で、進むのを諦めるというのが気に食わないんだ。自分が諦めるのを、人の所為にするなよ。お前の歩みを止める怠慢を、他人に押し付けるのが、見ていて腹が立つんだ!」

 

「黙りなさい!!」

 

 

聞きたくないと、僕の声を遮るツツジ。すると彼女は、持っていたボールを、怒りに任せて叩きつけるように投げた。

 

そこから現れたのは、本来このような場所で現れるはずのないポケモンだった。

 

巨大な磁石と、トレードマークとも言える大きな鼻を持った、金属のような光沢を持つポケモン。

 

 

「私の相棒、ダイノーズですわ。貴方がそれ程言うのなら、貴方が私に啖呵を切るのなら。あの人が簡単に踏みつけていったこの試練を、突破してみなさい!!」

 

 

怒りで、熱くなっているツツジに、しかし何も言う気は無い。

本来なら止めるべきなのだろう、いくら僕が怒らせたとはいえ、ジムリーダーとして明らかに不平等な事を、咎めるべきなんだろう。

 

でも、僕はツツジの言葉に、引くことを止めた。

 

リヒトさんは、この試練をいとも簡単に越えていったのだと。彼女はそう言ったのだ。

それだけで、僕が引く理由は消え去った。残る選択肢は、目の前の試練に向かって進む事だけだ。

 

 

「アチャモ、行けるな?」

 

 

僕の問い掛けに、勿論だと言わんばかりに首を縦に振るアチャモ。頼もしい相棒のその姿に、僕は気合いを入れ直し、目の前の強敵に意識を向け直す。

 

 

「さあ行くぞアチャモ。初めての格上だ、出し惜しみなんてしない、全力で、やるぞ。

 

 

 

 

 

 

 

__勝つのは、僕達だ

 

 

その言葉を切っ掛けに、戦いは再び開戦した。

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

そして、今に至る。

そこでは、繰り出される技を避けるアチャモを、執拗に追い縋るダイノーズがあった。確実に追い詰める為に、一歩一歩論理的に詰めてくる。まるでツツジの論理的な思考が襲いかかってきているようだ。

 

 

「あれだけ啖呵を切っておいて、その程度ですの!?反撃でもしてみなさい!」

 

「挑発に乗るなアチャモ、じっくりと機を窺え!」

 

 

何度も何度も襲い来る攻撃の激しさに、手が出さずにいるアチャモ。それも仕方ないことだ。なんせ元々相性が悪い相手に、更にポケモンとしての絶対的な強さの差があるのだ。

 

ポケモンは、進化する度に強くなるのは、誰でも知っている。それは勿論進化前のポケモンと後のポケモンでは、そもそもステージが違う。

そんな、ポケモンとしての格の違いも加味しても、アチャモは押されている。だが、そんな攻撃にも、必ず隙が出来る筈だ。そう思い、避け続ける。

 

 

「無様ですわ!あの人ならこんな試練一蹴するわ!でも私は違う!貴方も、他の人、誰もあの人とは違うのよ!」

 

 

苦しそうに、血を吐くように言うツツジ。その表情には、まるで過去、誰かに癒えぬ傷をつけられたように、恐怖と苦しみに塗れた、絶望を浮かべていた。

 

 

「カナズミシティの前のジムリーダーは、私の父でした。父はとても強いトレーナーでした、カナズミシティの誰もが憧れる、私の自慢の父でした」

 

 

その言葉に、一瞬僕の思考が止まった。

まるで、誂えたように重なった。あの日の僕と、彼女が言う昔の事が。

 

ならばこそ、次の言葉が分かってしまう。それはあの日、僕の目の前で、経験した人が居たからだ。

 

 

「でもある日、カナズミシティにあの人が現れました!あの日、突然現れたあの人は、ジムトレーナーを蹴散らし、父に挑みました」

 

「そして父は、無残な敗北を喫しました。見極めるという役目を忘れ、己の全力を見せ、抗い……抗うことを許されないように、塵芥の如く吹き飛ばされましたわ」

 

 

悲痛に、言葉を紡ぐツツジに、僕は何も言えなくなる。

確かに僕は、あの日リヒトさんに憧れた。そして父さんは、いつかリベンジを誓い、更に努力を重ねている。

 

しかし、そのような人が全てでは無いのだ。

心折れ、挫折し、全てを諦めてしまう人も、どうしてもいるのだ。

 

全ての人が諦めない訳では無い。あの圧倒的な力の前に、屈する人は、少なくないのだ。

 

 

「あんな化け物を見て、どうして怯えずいられますの!?私には出来ません……父を抜け殻のようにしたあの人に初めてあった時私は、膝が震え、倒れ込むのを必死で堪えるので精一杯だったのです!」

 

 

恐怖に身体をかきだきながら、ツツジは叫ぶ。最早僕らは目の前の勝負に等意識が向いていなかった。あるのは悲鳴をあげる女の子と、それを見ているだけの僕だった。

 

しかし、事態は僕らを待ってはくれなかった。

 

 

突然の轟音に、思わず首を音の元へと向ける。その方向では、アチャモ達が戦っていた筈だと、砂煙が上がるその場所を見た。

どうやら、放たれたげんしのちからを、アチャモが避けていたようだった。下に向かって放たれた岩の群れを、()()()()()()()()()で回避していた。

 

 

__いや、あれでは駄目だ。

 

 

「急いでそこから離れるんだアチャモ!」

 

 

気付いた頃には既に遅く、飛び上がっていたアチャモには、飛ぶ手段は無く、逃げ道は残されていなかった。

そして、無慈悲なその宣告は、告げられた。

 

 

 

 

「…さようならです、愚かなチャレンジャー」

 

 

昏い瞳で、その手を伸ばすツツジ。そしてその手をアチャモに向けた。

 

 

 

「ダイノーズ、ストーンエッジ」

 

 

逃げることの出来ないアチャモに、その鋭利な岩達が、殺到した。

そして、逃げ道のないアチャモは、その全てをその身で受け、力なく墜落して行った。

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

「…だから、無理って言ったんですの」

 

ダイノーズのストーンエッジを受けて墜落するアチャモを眺めながら、ツツジは誰に聞かせるわけでもなく、そう呟いた。

彼が悪いのだ、身の丈に合わない力を持ち、そしてそれに勘違いをして増長したのが悪いのだ。そう、膨れ上がる罪悪感から逃れる為に、自分に言い聞かせていた。

 

 

いや、本当は分かっていたのだ。彼が言っていることは正しいのだと。

 

あの日から、私は恐怖で体が竦むようになった。あれだけ好きなポケモンバトルが、恐ろしくなっていた。

誰もが憧れる父が、一度のバトルでああも変わり果ててしまうのだと、まざまざと見せつけられた事が脳裏を離れず、いつもいつもフラッシュバックするのだ。

 

だからこそ、あの人を災害だと思うことにした。

そうすることで、あの人をどうすることも出来ないと、そう言い聞かせることで、自分を守っていたのだ。

 

 

そうして刃向かう心を殺す事で、私も父のようになりたくないと、逃げるために。

 

だが、目の前の少年は違った。

ある日、ジムリーダーとの会合があった。その中で、ノーマルタイプのジムリーダーであるセンリが、自慢げに言っていた事を思い出した。

 

「俺の息子はツツジちゃんと同じぐらいの歳だが、きっと俺より強くなる!なんせあいつは、やると決めたら、出来るまで絶対に止まらないからな」

 

 

センリさんが負けた日、彼もその姿を見ていたのだろう。あの日その実力差に、歯牙にもかけられずに一蹴され、力尽きたようになったセンリさんを、彼も見ていたのだろう。

 

それでも、彼は私と違い、あの人を目標にして、前に進んでいた。

 

それが、酷く眩しく、そして妬ましかった。同じ境遇なのに、何故自分は出来なかったのか、それを心のどこかで責めてしまう自分を自覚させる彼が、気に食わなかった。

 

 

でも、それも終わりだ。この戦いで、彼は身の程を知るだろう。あの人とは違う自分に、絶望するだろう。そして夢を閉ざすのだろう。

一人の男の子の夢を閉ざす、最低の行為。自身の臆病さの代償行為に、吐き気すら覚える。そうすることになんの意味があるのか。

 

そして、アチャモの身体が地面へと迫る。気を失い、無数の傷がついた身体では、どう足掻いても起き上がれまい。

そう、分かっている。そうしたのは自分だ、踏みにじったのも、貶したのも自分だ。

 

 

 

でももし、()()()覆されるなら。

 

そんなifは無い、そう思考を切り上げ、踵を返そうとして___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだだ!!!」

 

 

ジムに響き渡る程に、そしてジムを揺るがすようなその声に、私は思わず振り向く。どれだけ叫んでも無駄なのに、それでも叫んだその彼の姿を視界におさめる。

 

そこには、しっかりと自分の足で立つアチャモと、その後ろで、私を真っ直ぐと見つめる彼の姿があった。

 

 

「なんで…ですの」

 

思わず口から出てしまった問に、私は気づいていなかった。それだけ衝撃的な光景に、私の思考は、どこか遠くへと飛んで行ってしまっていた。

馬鹿な、ありえない、何かのまやかしだ。頭の中で浮かんでくるそれらの言葉、しかしそれらが口から溢れる前に、彼は突然、頭を下げた。

 

 

「先程はすまなかった、」

 

深く頭を下げる彼に、私は呆然とする。踏みにじったのは私だ、貶めたのは私だ、糾弾されるのは私の筈だ。なのに、彼は私に向かって頭を下げた。

 

 

「思えば、全員が僕のように行くわけではない。あの人は圧倒的で、それを前に挫ける人も居るのだと、僕はこの三年間で多く知った筈だった」

 

 

悔いるようなその表情から、その言葉の真偽は自ずと分かった。

確かに、彼程あの人に憧れる者ならば、彼を調べる内にあることを知る筈である。

 

 

 

あの人__リヒトに心を折られた人は、それこそ数多く居ると。

 

多くの土地を旅するあの人は、それだけ多くの人々と関わってきた。だからこそ、多くの人々が彼のあの異常なまでの強さに、絶望するのだ。そうして、あの人は本人の意思に関係なく、多くの人々を絶望の底へと落としていった。

 

それを、彼が知らぬ筈がない。

 

 

「分かっていたつもりだった。だが、それでも目の前にするまで実感がわかなかった。父さんは立ち直り、僕と一緒にリベンジを誓ったから」

 

「だからこそ、僕はあの人を超える為に、あの人とは別の道を行くんだ」

 

 

そう言った彼に応えるように、アチャモが一歩前に進む。ボロボロで、傷が無いところが見当たらない程の重症にも関わらず、その足取りは強く、気迫が溢れ出ていた。

 

 

「あの人は、強すぎて全てを捨てていった。天性の強者であり、並び立つ者が居ないからか、あの人は全ての人々を捨て去ることしか出来ていない」

 

 

いつかを思い出すように呟く彼、そしてその眼をこちらに向け直すと、拳を握り、言葉を紡いだ。

 

 

「でも、僕はそんな生まれながらに強いわけじゃない。ポケモンバトルは得意な方だが、あんなにずば抜けているかって言われればそこまでだし、ポケモンもまだアチャモしか居ないから、あんなにポケモンに信頼されてるなんて言えない」

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからこそ僕は、あの人とは違う道を___」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの人が捨てていった分も、僕が全て背負って、胸に刻んで進んで行くって決めたんだ!」

 

 

「あの人のように、強さの為に全てを捨てる事は、まだ出来ない。それだけ僕は強くないし、アチャモもまだまだだ。でも、戦った皆の想いを背負って、歩む事は出来る!」

 

 

力強く握る拳に、彼の思いの固さが現れているようだった。その眼は、確かにあの人に似ていて、強い瞳だった。

でも、どこかあの人とは違う、弱さを持った瞳だった。

 

 

「ツツジみたいに、心折れる人も居る。恐怖に竦み、立ち上がれない人も、無念に、諦める人も居る。でも、だからこそ僕は、その人達を捨てない。その人達は、等しく僕を成長させ、作り上げてきた人達だからだ!」

 

 

一歩一歩、アチャモが前に進む。その圧力に、ダイノーズが思わず後退る。

 

 

「自惚れですわ!そんな事をでなんになるというのです!!」

 

「確かに自惚れだ。勝手に背負って、勝手に満足して、それで僕が勝手に進むだけだ。でもね、それでも覚えてて欲しいんだよ」

 

真っ直ぐに私を見る彼は、突然微笑んだ。全てを包むように、そして鋼のように強く、微笑んだ。

 

 

「僕が勝てたのは、僕だけじゃない。ツツジ達が居たからだって、胸を張って言う為だって、僕は()()()()()!!」

 

「黙りなさい!」

 

 

告げられた言葉に、思わず叫ぶ。そして、ダイノーズに攻撃を指示した。これ以上言わせない為に、その口を閉じさせるために。

これ以上、私に幻想を見させない為に。

 

 

「ダイノーズ、ラスターカノン!」

 

 

吹き荒れる銀色の砲撃、恐ろしい威力を誇るその技は、はがねタイプの中でも有数の威力を誇る大技である。

ましてや、瀕死に限りなく近いアチャモが受けて、無事な筈が無い。

今度こそ終わりだ、最早受ければ立ち上がることは出来ない。これが、正真正銘の最後なのだ。

 

 

そして飛来するその砲撃。それが彼のアチャモを覆い隠したその時__

 

 

 

 

 

 

「そうだ、アチャモ。僕達はこんな所じゃ終わらない、終われやしない。そうだろ?」

 

 

巨大な炎の柱が上がり、ラスターカノンを消し飛ばした。

 

突如として現れたその炎に、私は唖然とする。今度はなんだ、最早手は尽きたはずだ、反抗の芽は無いはずだ。なのに何故……。

 

混乱する頭の中、しかしそれでも目の前の光景から目を逸らすものかと、何故かその光景を見続ける。

 

まるであの日、恐ろしさから目を逸らしたあの人に、立ち向かうように。

 

 

「終われないさ、僕達は。出会った時に誓ったんだ。僕達二人で()()()()()

 

 

炎から現れたアチャモの姿に、私は愕然とした。

 

その身は、雛を思わせる姿からは大きく異なっていた。

 

短い足は伸び、人型を思わせる二足歩行に。

 

そしてあどけなさを残していた瞳は、凛々しさを湛えた意志ある瞳へと変貌を遂げていた。

 

 

相棒の()()に、彼は歓喜の声をあげる。まるでそれを望んでいたように、己と相棒を鼓舞するように、高らかに謳いあげた。

 

 

「始めよう()()()()()!ここから先は、魔王による終末譚(カタストロフィ)ではない」

 

 

 

 

 

 

 

「僕達と皆の、逆襲譚(ヴェンデッタ)を!!」

 

 

まるで炎の柱は、反撃の狼煙のように立ち上る。そして、それを背にこちらに向かって1歩ずつ踏み出して来るワカシャモに、私はいつの日か感じていた、あの人を重ねていた。

 

 

 

でも何故か、どうしてか彼の方が、暖かい気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダイノーズ、げんしのちから!」

 

「ワカシャモ、()()()()!」

 

飛来する岩石群を、その硬質な爪で切り裂き、突貫するワカシャモ。その速さは進化前とは段違いで、正しく正当に生物として進化したのだと、実感させられる。

今なら、手も足も出なかった目の前の強敵に、勝てる。いまなら、なんだって出来る。ユウキがそう錯覚してしまう程に、強くなっていた。

 

「ワカシャモ、ニトロチャージ!」

 

 

ユウキの指示に、ワカシャモは炎を身体に纏わせることで応えた。

 

炎を纏わせることで、敵を攻撃するニトロチャージ。本来ならばワカシャモに進化する時には使えないが、それには、ある理由があった。

それは、ユウキとアチャモが行っていた、常軌を逸した訓練の数である。

 

ユウキはアチャモを迎えてから、アチャモに対しての知識を集めた。過去に観測されたアチャモの技を、全てを覚えた。

そして、その中からのいくつかを、映像を見せ、何度も何度も特訓することによって、無理矢理己がものとした。

そう、前例があるのなら、僕達に出来ないことは無い。

 

 

出来ないということを否定し、道理をねじ伏せたのだ。

 

 

「デタラメね、本当に誰かに似てるわ!」

 

「最高の褒め言葉だ!」

 

「皮肉なのよ!!」

 

 

荒い言葉の応酬。だが、その中には不思議と、初めの啀み合うような棘はなかった。

目まぐるしく変わる戦況。バトルの中で進化したワカシャモは、そのスピードを活かし迫るが、ダイノーズも範囲を広く攻撃するため近付けない。

膠着状態になった状況、しかしそれでも、ダメージを受けた量はワカシャモが多く、とても有利とは言えない。

 

だが__

 

 

「ダイノーズ、すてみタックル!」

 

 

この一言から、戦局は終わりを告げ始めた。

業を煮やしたツツジの指示に、ダイノーズがワカシャモに向かって突撃する。

だがすてみタックルは、当たれば強力な技だが、それは当たればの話である。

 

突撃するダイノーズを、ワカシャモは横に飛ぶことによって避ける。そして、無防備な土手っ腹に目掛けて、攻撃を叩き込んだ。

 

 

「きしかいせい!」

 

接触_そして轟音。その音が響き渡り、ダイノーズの巨体が、真横に吹き飛んだ。

きしかいせいの特性は、HPが少なければ少ないほど、攻撃の威力が加算されるというものである。

先程まで、瀕死寸前まで追い詰められていたワカシャモが、それもかくとうが弱点のダイノーズに食らわせた一撃。

 

その威力は、想像を絶するだろう。

 

 

吹き飛んだダイノーズは、ゆっくりと起き上がる。しかし、その挙動の中に、無視出来ない程のダメージが見え隠れする。

対するワカシャモも、蓄積されているダメージが祟り、最早技を撃つのも精一杯という体である。

 

 

「次で…最後ですわ」

 

「ああ…最後だ」

 

 

お互いのトレーナーがそういうと、それぞれ離れている相手を見据え、技を使った。

ワカシャモは、体の周りに纏わせる炎_ニトロチャージを。

 

ダイノーズは無数の宙に浮かぶ岩の刃_ストーンエッジを。

 

 

それぞれが展開した時、言葉もなく火蓋は切られた。

 

飛来する岩の刃を、ワカシャモは炎を纏ったまま避ける。しかし、全ては避けきれず、その鋭利な岩が体のあちこちを切り裂いてくる。

だが、ワカシャモは止まらない。全ては目の前の強敵を倒す為、敵の懐に飛び込み、この一撃を叩き込む為に。

 

避ける、避ける。致命傷になりうる刃を避け、それ以外を全て無視する。無数の傷が出来ようとも止まらないワカシャモは、ついにダイノーズの懐まで潜り込み__

 

 

 

「それを待っていました!!」

 

 

近距離に躍り出たワカシャモに、ダイノーズが突撃した。

 

ツツジは、初めからこれを狙っていた。致命傷となりうるストーンエッジを全て躱しきり、油断した所への、最大級の技を叩きつける。生半可な攻撃を喰らわないワカシャモへと取った、強硬策。

 

放たれたすてみタックルに、ワカシャモは仰け反る。まるで糸が切れたマリオネットのように、後ろへと倒れ込むワカシャモ。勝負あり、誰しもがそう思った瞬間___

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだだ!」

 

 

ユウキのその言葉を受けたワカシャモが、突如としてその状態から復帰し、再びダイノーズの前に躍り出る。

突如とした復活に、ツツジの表情は驚愕に染まる。またしても、完璧に倒したと思われる所から、奇跡のような復活を遂げたワカシャモに、疑問が抑えられなかった。

 

 

「なんでって顔してるから、教えてあげるよ」

 

 

ユウキは、拳を握っていた。脇を締め、力いっぱいに握るその拳は、何かを待っているように、震えている。

しかし、顔は冷静に、ツツジに向き合う。そして、本日見せた中で、1番の笑顔で、高らかに叫んだ。

 

 

「僕達は、一度()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

年相応の、少年の顔を浮かべ、ユウキは告げた。

 

 

「ワカシャモ、カウンター!!」

 

 

そして、超至近距離から放たれたカウンターは、正面からダイノーズに炸裂し……

 

 

 

 

……ダイノーズは、目を回して倒れた。

 

 

 

__________________________

 

 

「……負けましたわ」

 

 

死力を出し尽くし、チャレンジーを叩き潰そうとして、破れてしまった。

しかも、一時の感情に左右され、己の役目を忘れてしまうという失態を犯してしまった。

 

でも、対峙する彼は、それすらも乗り越えてみせたのだ。

巨大な、理不尽なまでの試練を前に、決意を持って前に進んだのだ。

 

 

勝利を分かち合う彼に、私は歩み寄る。すると彼も私に気付いたのか、こちらに向かって歩いてくる。その後ろでは、彼のワカシャモが私のダイノーズに近づき、健闘をたたえるように笑っていた。

 

 

「おめでとうございますわ、それとすみませんでした。本来ならジムチャレンジに私情を挟むなどご法度であるのに」

 

「気にしないで、僕にも非はある。僕は僕の我儘を、そして君は君の意地をぶつけただけの事だよ」

 

 

そう言って微笑む彼の笑顔に、眩しくて思わず目を逸らす。

どうにも顔が熱い、試合の後で体がほてっているせいなのか。少し鼓動が早くなる。

目を逸らした私に、彼は不思議そうに首を傾げると、そのまま右手を差し出してきた。

 

その手に、私は少しだけ躊躇ったが、しっかりと握り返した。

 

 

「本当に、私のこの想いを背負う、覚悟があるの?」

 

 

改めて、私は彼に問うた。

彼は、敗者の無念を背負うと、負けて、破れて、燃え尽きたもの達の全てを、背負うと言い放ったのだ。

それが、何を意味するか、彼は分かっているのだろう。

 

 

「貴方は、これから先、あの人に倒され、牙を折られた全ての人からの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

言葉通り、あの人に負けた人はごまんといる。しかし彼もまた、その全てを超えて、そして背負うと告げるのだろう。

ならばこそ、折れた者たちは彼に全てを託すのだ。

 

 

己が成し遂げられないことでも、お前なら出来るのだろう?私達を倒したお前には、あの人を超える責任があると。

 

身勝手な怨嗟の声が、期待という名の嫉妬の鎖が、一生彼にまとわりつく。彼があの人に近づく度に、それは重く、多くのしかかる。

 

立ち止まる事等許さないと、お前はあの人を倒すまで倒れる事は許さないと。巻き付くその声が、彼を一生離さないだろう。

 

だが__

 

 

 

 

「愚問だよ」

 

 

その私の、暗い心の内を祓うかのように、彼は宣言した。思わずその顔を見る。彼は、バトルの時と同じ、決意を輝かせていた。その輝きは、まるで太陽のようにも見え、私は思わず、眼を灼かれそうになった。

 

 

「誰に会おうと、誰に託されようと、そしてそれがどれだけ僕にのしかかろうとも、折れはしないさ」

 

「僕は、決めたんだ。誰でもない僕に、三年前のあの日見せられた光に、人生を決められたんだ」

 

 

力強く叫ぶその声に、私は確信する。この人は、折れないのだろう。固く、研ぎ澄まされたような彼に、私は、懐から取り出したものを渡した。

 

何せ私は、硬く、逞しいものに誰よりも詳しい、いわタイプのジムリーダーなのだから。

 

 

「託さないわ、でも、()()()()。だからこそ、私は貴方と並び、いつか貴方にリベンジを果たすわ。だから、これはその約束の証よ」

 

 

そう言って私は、いわを象った意匠のバッジを彼に渡した。

 

 

でも私は、彼に託さない。背負わせない。

だからこそ、私は彼に追いつくのだ。そして、彼に打ち勝ち、この日の出会いを、胸を張って誇ってやるのだ。

 

 

 

 

そう、私はこの日、誰でもない私自身に誓ったのだった。

 

 




ハイライトオフトラウマ持ちツツジちゃんVSメンタルクソ強ガンギマリミシロ人でした。

まあ書いてる本人も、軽く「まだだ」ってやるだけだった筈なのに、思いの外リヒトがした事が膨れ上がるし、その所為でトラウマ植え付けるし、その皺寄せがユウキ君に来るというギリシャ神話みたいなことになるとは、書き始めた時には思わなかったです。

これも全部、リヒトって奴の仕業なんだ(草加スマイル)

出てないくせに面倒とか地の文先輩キレ散らかしそう。


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幕間 喜びの日

次の章の前にもうひとつ幕間をば。
ちなみに時系列が前後しますが、これはキッサキの家にシロナさんが遊びに来たときから約2か月後位の時間軸です。

そして活動報告でチラッと言っていたんですが、Light作品タグをつけた方がいいのかという所を大分悩んでおります。なぜかって?


今回の話で明確にパクるし、私はが向こうの作品のニワカで勉強不足の癖に適当にキャラ借りたりするからだよ。


ゆるして(懇願)


 

少年__コウキは、生まれながらにしての強者だった。

 

身の上からは想像出来ないような、美しい金髪に、整ったその顔。そして1ミリのズレすらない完璧な黄金比によって造られたその身体。そうして生まれた彼は、多くの人から語られる程の特異な存在になった。

曰く、生まれる前から、こちらに語りかけるように何かをしていた。

 

曰く、生まれて数ヶ月で言葉を発し、明確な意思疎通を可能にした。

 

曰く、文武に秀でており、同世代は愚かどのような大人であろうと、彼は悠々と超えてきたと。

 

挙げればきりがなく、彼を知る者ならばそれこそ湯水の如く溢れ出す、彼を褒め称える美辞麗句が止まることは無い。それこそ、同世代の子供から、彼を教える立場にある教師まで、彼を尊敬するかのようだった。

 

だが、そんなことよりも彼について語ることがあるだろう。

それは、彼の異常性である。

ある日、彼の両親は幼い彼にある一つの物を与えた。

それは、ダイヤモンドをあしらった指輪だった。

彼の家は決して裕福ではなかった。しかし、美麗な彼を周りは讃え、それに相応しい身なりをすべきだと言われてきた。

 

勿論、息子を褒められて悪い気はしない。それに息子の美め麗しさは両親共に認めるものだった為、彼等は少し奮発して、小さいが本物のダイヤの指輪を買い与えた。

 

もちろん、彼は喜んだ。愛する両親に、どのようなものであれ与えられたプレゼントに、彼は歓喜し、それにチェーンを通し、首にかけた。そして、それを大事に大事に胸に抱き、眠りについた。

 

 

 

しかし、翌朝部屋に彼を起こしにいった両親は、聞きなれない我が子の、すすり泣く声が聞こえた。

慌てて扉を開けると、そこには蹲り何かを抱え込むような我が子が居た。

 

当時五歳だった息子に、親は驚愕した。さめざめと、大量の涙を流しながら悲痛な表情を浮かべる息子の手には、昨日渡したダイヤの指輪が__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__()()()()()()()()

 

 

有り得ない事だった。確かにダイヤモンドがいくら硬いと言われるとはいえ、ハンマー等で叩けば割れてしまう。強い衝撃等があれば壊れるのは仕方ない事である。

だが、五歳児の息子の部屋にそんなものはない。そんな危険なものを我が子の部屋に置くわけが無い。

 

混乱の極みに居る両親に、彼が気付く。すると彼は、その手の中にある指輪だったものを両親に見せると、深々と頭を下げた。

 

 

 

 

「ごめんなさい父さん、母さん。大事にしようとしてたのに、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

__今、なんと言った?

 

 

幼い息子の口から出た言葉を、両親は理解することが出来なかった。我が子は今、力を入れて壊してしまったと言ったのか?

通常ダイヤモンドは、ハンマー等の衝撃には弱い。しかしそれはあくまで瞬間的な衝撃によって壊されるもので、決して圧力を掛けて壊す訳では無い。

 

ましてや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

だがそれよりも、両親が驚愕した事があった。それは__

 

 

 

 

 

 

 

__壊した指輪を嘆く様が、まるで家族を失ったようだったからだ。

 

両親は前から、疑問に思っていた。それは彼が、あまりにも隣人達に対しての親和の情が深すぎる事だった。

人との距離が近いのは、問題ではないのだろう。誰かと円滑にコミュニケーションが行われ、そして良い関係を築く事が出来るというのは喜ばしい事だ。

 

だがそれでも、隣人に抱く親愛の情が、自分達家族へと向ける愛情とまるで同じなのだ。

 

 

家族と隣人では、向けるべき愛情の量は違う筈だ。誰にでも等しい愛を向ける等、通常の人間では有り得ない。また、あってはならないのだ。好きな人間もいれば、嫌いな人間も居て然るべきであり、それを通して人間関係を構築するのだ。

 

だからこそ、我が子の異常性が目立つのだ。今まで出会ったどんな者にも等しく愛情を向け、どんな物でも等しく愛でる。

 

 

我が子は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そこに、善人も悪人も、健常者も異常者も、ましてや肉親でも他人でも差異はない。

 

 

ああ、この子は異常なのだと。この日二人の両親は、思い知らされたのだった。

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

あの日から二年、彼は七歳になった。

しかし二年の月日というのは、思いの外長く、そして劇的な変化をもたらした。

彼の身体は、子供であるからこその劇的な成長を遂げた。その美しい金髪を腰まで伸ばし、体つきもあどけない幼児から少年へと変貌していた。

 

だが彼の一番の変化といえば__

 

 

 

 

 

__父親が蒸発した事だろう。

 

あの日の1年後、彼の父親は突如姿を消した。彼の誕生日、家を出る時に彼に笑いかけたまま、音信不通となった。

稼ぎ頭を失った彼の家はしかし、路頭に迷うことはなかった。

 

それは偏に、彼という才能に期待し、心酔する周りの人間による支援であった。彼という恐ろしいまでの才能をここで腐らせてはならないと、その素晴らしさに目が眩んだ人々はこぞって支援をした。

 

そして、片親となった母の働きと、周りからの期待によって彼は二年間という歳月を過ごした。その間も彼は飛び抜けた才能を見せつけ続け、全てを他者よりも優れた結果を残し続けた。

 

一度も、全力を出さないまま。

生まれながらにして強者であり、全てにおいて優れていると評される彼は、他人を愛しているが故に、その才能が他人を壊さぬように手加減して生きていた。

何事にも手加減をし、そして他人をいたわり続けながらも他人よりも上に立つ。並び立つ者がおらず、全力を出せない。それに気付いていたのは母親だけであった。

同じレベルのものが居ない、思いっきり競争が出来ない。これは優越感に浸れる訳ではなく、幼い子供のなかではストレスとなるだろう。

 

常に壊れぬように、優しく、弱く手加減をし続ける日々。何もかもを捨て去り、思いのままに壊せばいいのに。だが愛ゆえに彼はそれを出来ない。このままストレスを抱えたまま生き続ければ、息子に悪影響が出始めると思い至った母親は、ある人に相談した。

 

ポケモン研究の権威である、ナナカマド博士に。

 

 

どうか、息子が競うに値するライバルを。

 

息子が愛しても壊れぬ存在を。

 

息子の願いを__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__渇きを満たす存在を、どうか紹介してくれないか。

 

さめざめと涙を流しながら懇願する母親に、ナナカマド博士は頷いた。そして博士はとある人物に連絡を取り、仲介を頼んだ。

 

 

「シロナ、お前は彼の連絡先を知っているのだろう?何、簡単な事だ。少し彼に頼みたいことがあるのだよ」

電話口に聞こえる教え子の怪訝な声に、ナナカマド博士は少し口角を上げる。穏やかに、そして何かを祝福するように。

 

「何をするのか?至極単純なことだ」

 

 

 

 

 

 

「完璧な存在に理不尽をぶつけた時に、どうなるかという実験だ」

 

 

世界は広く、そして未知に満ち溢れている。それを子供に教えるの年長者である私の役目だ。そう内心で思いながらナナカマドは、電話を切った。

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

ある日の昼下がり、コウキはシンジ湖のほとりに呼び出されていた。呼び出し人は隣の町に住むナナカマド博士だった。

博士は何度か面識があった。1年前にポケモンについて興味を持ち、勉強をし始めた時からお世話になっている。そして現在の相棒と出会わせてくれた恩師でもある。

しかし、それでも今日ここに呼ばれた理由を、コウキは訝しんだ。前日に突然告げられたこの話に、幼いながらも聡明なコウキがなにも思わない訳ではなかった。しかし__

 

 

「(本当に…俺の求めるものがここにあるのか?)」

 

 

ナナカマド博士に告げられた言葉が、コウキをここまで連れてきた。

コウキは、この世の全てを愛している。それに肉親も他人も、有機物も無機物も関係無い。しかしながらそれらを愛そうとすれば全てを壊してしまう。

そしてコウキには、もうひとつの昔からの渇望がある。それは全力で誰かと競い合いたいという事だ。全てを愛するが故に、愛するものを壊さぬように加減をして生きていかなければならなかったコウキは、ずっとずっと求めていた。

 

 

 

自分が全力を出せる、自分の全力を受けても壊れない存在を。

 

しかし二年の月日がそれを叶わぬ事だと残酷に告げていた。他の子供達のように無邪気に、己と相手を比べて競いたい。負けて悔しがり、もっと強くなろうと努力する。

しかし、世界はコウキにその機会を与えなかった。神に祝福されたかのような全能さを誇るコウキには、同レベルの存在等皆無であり、努力等すれば誰もを突き放し孤独にする。

 

だからこそ、コウキは諦めていた。この世には自分の渇きを満たす存在は居ないのだと。自分という存在の全てを受け止めるものは居ないのだと。

 

 

だが__

 

 

 

 

「ふむ、信じられないといった様子だな。だが私は嘘を吐いて居ない、お前が望むものを、全てを満たしてくれるものが存在するのだ」

 

 

己の言葉に、絶対の自信を持つような顔をしている博士に、疑問を口にすることはなかった。

その眼にあった感情の色に、コウキは見覚えがあった。何度も見させられている、馴染み深い感情。つまり、他人が自身に向ける盲目的なまでの信仰心だ。

 

神として慕っている訳ではないだろう、そこまで目の前の人は凡愚では無い。ならばこそそれは、信仰にも似た信頼であるだろう。そうコウキは思いいたり、腰のボールに手を添えた。

 

 

今日の日を迎えるにあたり、博士からは相棒のポケモンを連れてくるように言われていた。恐らくはポケモンバトル、それもお互いの最も自信のある手札で行う一対一の勝負。

 

だからこそ、コウキは渇望する存在を期待していなかった。

 

 

「博士、俺は貴方と短いとはいえ一年を通して師事しました。だからこそ、貴方の仰ることを俺は信用出来ません。なぜなら他ならぬ貴方こそ、俺のポケモンを「他者がたどり着けぬ領域」にいるといった人だからです」

 

 

そう、コウキはナナカマドからそう評される程の飛び抜けた力を持つ相棒が居た。コウキと共に全てを蹂躙し、破壊しかねない強力なポケモンが。全てを超越するコウキの采配に耐えうるその相棒が。

であるからこそ、ナナカマドもそう言い表したのだ。唯人がたどり着けぬ領域に鎮座する。完璧な存在が振るう力を十全に発揮する一人と一匹をそう表した。

 

「ならばこそ、俺は失望したとしか言いようがない。俺の未知を相手取るならばまだしも、隔絶した俺にとって有利な立場での戦いなど、軍配は目に見えている筈です」

 

 

傲慢とも取れるその発言、自身の才能や能力を微塵も疑わないその姿勢。何年も前からそうであれと願われて生きていたコウキに身についてしまた超然としたその態度。そしてそのコウキから伝えられた言葉は、失望である。

 

彼のその言葉を聞いたものが彼の近しい人間ならば、恐れひれ伏し、許しを乞うだろう。事実コウキからあふれる幼さに見合わないその威光は、誰もを魅了し、そして誰もを従わせる魔性。

だが、そんなコウキの言葉に対して、ナナカマドは不敵に笑うだけである。まるで自身の信じぬ神を祀る信仰者を嘲るように、その瞳は同情をたたえていた。

 

 

「…君は確かに完璧だ。誰かに求められればそれ以上の結果を出し、誰かからの信仰心を受け止め、そしてその求心力を持ち続ける精神性、どれをとっても欠点がないだろう」

 

そう言ったナナカマドに、コウキは最早ここに用はないとばかりに歩きだそうとした。その相手が来るのを待つ必要はない、何故なら自身は騙されたのだから。だからこそ誰が来ようとも、それは自身が求めるものではないのだろう。

 

そうして、その場から去ろうと踏み出した。

 

 

「だがその評価は、()()()()()()()()()であるがな」

 

 

含みのあるようなナナカマドの言葉に、少しだけ足を止め振り返ろうとしたコウキの前に___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、土煙が舞った。

轟音と共に巻き上がる地表が飛び散る。突然の光景にコウキは固まり、ナナカマドは口角を上げる。まるでその顔を望んでいたように、悪戯が成功した子供のように。

 

「凡愚の中にいるからこそ、お前は全能であり絶対なのだ。当たり前だ、まるでお前だけが違う生き物のように飛び抜けていれば完璧にも見えるだろう。だが、世の中というのは案外広いものだ」

 

 

土煙が徐々に晴れていき、紛れていたものが見え始める。その轟音の原因が見えた時、コウキは思わず目を見開いた。

その中に居たのは、自分よりも少し年上の、しかし完全に成長しきってはいない少年の姿があった。ではコウキは、そんな少年がいきなり現れた事に驚いたのか。

 

 

「再三言うが、君は完璧だ。容姿も能力も、誰にも勝る正に唯人の理想だろう」

 

 

目の前の少年は、他者が完璧と称するコウキと並ぶような、美しい容姿をしていた。雪のように白い髪を風に靡かせ、その赤い双眸には何も映していない、氷のような美しさ。

では、そんな彼の容姿に驚いたのか?

 

 

「だが、それは()()()()()()()()()()である。それを踏み越えたものを、理を踏み越えた者を、まだ知らないだけだ

 

 

否、否である!全てを超越したようなコウキは、そんなことでは動じない。それくらいがなんだ、別にコウキは己の美しさを誇ってはいない、ならばどうしてそこまで動揺しているのか。それは__

 

 

「紹介しようコウキ、彼はリヒト。ホウエン地方ミシロタウン出身のポケモンバトルトレーナーであり__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最も世界を従える男だ

 

 

 

__初めて、コウキが目の前の存在に敗北を予感したからである。

常勝無敗が約束され、有象無象をひれ伏させるべく生まれたとさえ言われるコウキが、少しだけ年上の少年を一目見ただけで自身の敗北を悟った。それがどれだけ異常な事なのか、分からぬ者はいまい。

 

すると、目の前の少年_リヒトは、土煙が完全に晴れた事でコウキを視認すると、少しだけ何かを見透かすようにコウキを見やると、納得したようにうなづいた。

 

 

「……成程、()()()()()()

 

「…!!」

 

二度目の驚愕、コウキは今までの人生においてここまで驚かせられた事はなかったと、後に語った。

まるで心の底までを見透かすようなその言葉、自身の渇望、その飢えを言い当てられた事等、肉親以外ではありえない事だった。

 

それも、初めて出会った得体の知れない相手に。

 

 

「飢えて、飢えて仕方ないという眼だ。余程我慢をしたのだろう、残酷な事だ」

 

「何故、分かった…?」

 

 

言うつもりの無かった問い、心の中に留めておくはずだった疑問が口から溢れた。それ程までに動揺し、いつもの自分が保てないまで追い詰められているコウキ。だが、それを知ってか知らずかリヒトは、一歩ずつ歩み寄りながら声をかける。

 

 

「…分かるさ、お前の態度は分かりやすすぎる」

 

「…しかし、それくらいが良いのだろう」

 

 

そこまで言うと、リヒトはコウキの目の前で立ち止まった。年の差さえあれど、同年代よりも遥かに高い背を持つコウキを、さらに上から眺めるリヒト。すると、リヒトは手を伸ばし、コウキの頭を撫でた。

 

 

「…感情的でわかりやすいのは、子供の特権だ」

 

 

その言葉に、コウキは衝撃を受ける。

今まで接してきた中で、そのように自分を格下の子供と認識し、まるで庇護下にある者と扱う人間等、親以外には存在しなかった。まるで目の前の存在に何も危機感を持たない、自身が劣る所等無いと言わんばかりのその態度に、コウキは初めて、狂喜とも取れる程の笑みを浮かべた。

 

凄絶、そう表すのが最適と言わんばかりの、全てを含んだ笑み。

 

己という存在の完璧さを貶された怒り。

 

母親以外から受けたことの無い庇護への困惑。

 

頭を撫でられるという羞恥。

 

目の前の存在に対する愛。

 

 

しかし、そのどれよりもコウキの中に渦巻く感情。それは即ち喜びである。

 

_嗚呼、この男は壊れぬのだろう。他の誰よりも頑丈で、強く、そして何よりも、()()()()()()()()()()()()()()()()

自身が蹴散らされるという事は、つまるところ、全力を出し尽くせる。そして何よりも__

 

 

 

 

 

 

「戦いを始めようリヒト殿、俺は…否、()はこの日を生まれてこの方待ち続けたのだ」

 

 

口調が変わった。まるで全身の回路を入れ替えるスイッチのように、それは変わってしまった。

その瞬間、まるで世界が変わったかのような変化を、ナナカマドは体感した。己の体が、何かの重圧に屈して四肢を着いてしまうような幻覚に見舞われた。

その圧力の元を見るナナカマド、そこには目の前の喜びに対して牙をむきだして、全身で喜びを表すように手を広げているコウキの姿があった。

生まれてこの方、己に枷をして生きていたような彼である。もしやこの威圧感こそ、彼の本来の存在感なのではないだろうか。

 

「まるで獣だな…なんてものを産み落としたのだ彼女は」

 

 

一人そう呟くナナカマドは、目の前の光景を目に焼き付けんとする。

これから始まる、理外と黄金の獣との、神話に記されるだろう戦いを。

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

「…己を解き放ったか」

 

 

枷を解き放ったコウキの荒れ狂う重圧の嵐の中、リヒトは平然と呟く。まるでそよ風を受けているような涼し気な顔を見たコウキは、更に貌を狂喜で歪める。

 

「ああ、()には感謝しよう。私はこれより、悲願の成就を果たし、人生における最高の日を始められる!」

 

 

そう叫ぶと、コウキは腰に付けていたボールを持つと、力の限り投げた。するとボールはその力に耐えきれず、砕け散った。しかし、その中から光が溢れ、一体のポケモンを呼び出した。

 

現れたそのポケモンは、まるで皇帝をおもわせるような王冠と、威厳を携えた瞳を持つポケモン__エンペルトだった。

現れたエンペルトは、その瞳を目の前の存在__リヒトに向けると、無言でコウキの顔を見やる。

 

 

まるで、やっと本気を出せるのか。という喜びを表すようだった。

 

 

「ああ我が相棒よ、これこそが私が求めていたものだ。全てを超えたと思っていた私に、未知を与えてくれるこの男こそが、私達の渇望を満たしてくれよう!」

 

 

そう言うと、その言葉に答えるようにエンペルトは構える。

王者たる威厳があった先程までの佇まいとは違う、少し前傾の、前のめりのその姿。

まるで、今ここでは己こそがチャレンジャーだと言わんばかりの姿であった。

 

「…なら、答えるのが礼儀か」

 

そう言うと、リヒトは腰に着いていた二つのボールの内一つを取ると、視線をコウキに向けた。そしてもう一度ボールに目を向けながら呟く。

 

 

「手早く済ませよう、その方がお互いの為だ」

 

 

そう言うと、手に持つボールを軽く放る。放物線を描くボールが地面に落下すると、そこから現れた光が辺りを包みこみ__

 

 

 

 

 

 

 

轟音が、巻き起こった。

 

 

光に目を覆っていたコウキはその手を外すと、目の前の存在を見て、笑みを深めた。

現れたのは、四肢を着き、黒い鬣をたなびかせる狼のようなポケモン_レントラーではあった。

 

 

だが、それをレントラーというには、あまりに大きすぎた。

巨大で、堅牢で、威圧的であり、尚且つ非科学的であった。しかし正しくその姿はレントラーである。

 

目の前のリヒトのレントラーは、ゆうに全長10メートルを超えるであろう大きさを誇っていた。その体毛には紫電を纏い、空気を焼き尽くすような音を撒き散らすその様は、正に巨獣としか表せられない。

 

だが、異常はこれだけでは無い。

 

 

そのレントラーはその場に立つ同時に、その身に纏う紫電を全て()()()()()()()()()()()()。それにより、地面も、そして空でさえ雷雲が覆い尽くし、帯電した。

 

すると、コウキのエンペルトが、まるで()()()()()()()()()()()()()

いや、正しく麻痺を受けたのだろう。その撒き散らされた紫電を、存在しているからこそ受けたのだ。

 

 

「…フェアではないが、こいつしか連れていなかった。恨むなら、博士を恨め」

その言葉に、コウキは首を横に振る。このような機会を与えてくれた恩人に、何故己の予想外の事一つで腹を立てようか。感謝をしてもし足りない思いである。

 

「エンペルト、勿論行けるな」

 

 

その問に、エンペルトは頷くと、まるで麻痺を感じさせないように構える。その姿を見てコウキは、真っ直ぐ前を見据えた。

 

この日を祝福しよう、この日を刻みつけよう。全てはこの日のためにあり、またこの日から始まるのだ。

 

そう心で叫ぶコウキは、エンペルトと共に、目の前の存在に挑んだ。

 

 

「ルクス、胸を貸してやれ」

 

「貫け、エンペルト!」

 

 

そして、当事者である三人しかしらない。歴史に残らぬ神話の争いが、シンジ湖のほとりで巻き起こった。

 

 

 

 

####

 

 

「(昼飯食おうとしたら呼び出された挙句、なんかバトルすることになったんだが?)」

 

 

今いい雰囲気なんだから出てくんなお前(辛辣)

 

しかし、事実リヒトはキッサキシティの家にて昼飯を作っていた最中であり、その昼飯を胃に収めること無くここまで呼び出されたのだ。ちなみにその昼飯はシロナさんとリヒトの手持ちが美味しく頂いております。

 

そしてここでのリヒトの誤算は、大した用事じゃないと移動用のラピスと、たまたま近くに居たルクスのボールを引っ掴んで来たのである。

 

 

「(いやなんでバトルになったん?俺さっきこのイケショタに腹減ったねーって同意求めただけやん。実際なんか腹減ってそうな目してたやん)」

 

 

じゃあ飢えているとか言うな、紛らわしいだろう。

だが誰も突っ込まない、間違えを正すような人間は誰一人として居ないというのは、こうまで人を勘違いさせるのか。

 

……いや、こいつの言い回しが面倒いだけだ。

 

 

「(しかもなんで分かった?とか聞かれたから子供だから分かりやすいだろって言っただけなのになんか笑い出すし、早終わらせて飯食おうって言ったらもっと笑うし、やれ悲願だとか言うし、どんだけ昼飯食わしてもらってないのこの子?)」

 

 

昼飯から離れろ。

そう考えながら、手持ちのボールの、ルクスのボールを見るリヒト。実質こいつしか選択肢はないのだが、それでも躊躇っていた。

 

「(可愛いけど出したら引かれるし、なんかこの前変なおっさんに「そいつを寄越せ!」とか言われたんだよなぁルクス。まあ散歩がてら出しますか)」

 

 

そんな適当な考えだけで怪獣みたいなのを出すな。

しかし、そんなこちらの声など届くはずもなく、リヒトはルクスを出して、応戦してしまう。

 

 

ああ無常なり世界、アルセウスよ、仕事したまえ。





金髪金眼イケショタ獣対無表情怪物持ち少年(アホ)でした。
ちなみにコウキ君ですが、別に某怒りの日のあの人ではありませんし、言うなればあの人の要素をぶち込まれた可哀想な原作主人公君です。アルセウス仕事して?あとそしてDies iraeファンの皆さん石投げないで。

ちなみにルクスが登場時にしてきた事の紹介です。


↓↓↓


特性 雷狼庭園(らいろうていえん)

このポケモンが場にいる限り、場にいる相手のポケモン、出てくる相手のポケモンを麻痺させる。


生 き て る 内 は 全 員 強 制 麻 痺


クソオリ特性、実機であったらブチギレると思います。まあレート対戦とか厳選とかは自分やったことないんですけど。まあ他様の作品でもやってるからへーきへーき。




まあ向こうはちゃんと色々考えてるし設定もしっかりやってるけど、これはテキトーにふわっと考えているものだけなんで、あちらよりもグレードが二十段階位下がるものですけど。

そして続きは出ません。勝敗?……ほら、タイプ相性とかあるじゃん?


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二章 世界を従える者
欠落



前の話でオリ特性とか書いたんですけど、ふと考えて、ポケモン的にひらがなで技を書いた方がそれっぽいのかとかなり迷っています。

偉大なポケモン作者様の作品を見ていると、皆様ひらがななので、今後はひらがな表記の方が良いのかという点で、意見などがあればお伝え下さい。お願いします。

あと、今回から2章です。あと地の文先輩は今エーゲ海クルーズに言ってるのでおやすみです。


横殴りの風が吹きすさぶ、シンオウのある日。シロナはキッサキシティの、リヒトのログハウスに訪れていた。

しかし、そこには灯りはついておらず、あまりに静かすぎる。ただ人が居ないだけではない、特有の空虚さがあった。

 

 

当たり前だ、シロナが訪れたその別荘に、もう一年はリヒトは訪れていないのだ。三年前まではリヒトと共にこの地で二人のひと時を過ごしていた彼女は、その埃被った椅子をはたくと、その椅子に腰掛ける。

たった一年だ、それだけここに訪れなかっただけなのに、こうも寂しく感じるようになった。

 

ふと、目の前の棚を見るとそこには、五年前に撮った写真があった。妹と祖母と、そしてリヒトで並んで撮った思い出の写真だ。あの時も変わらぬ鉄面皮で、喜んでくれていないと当時の私は思っていた。

思わず笑みが溢れる、そして一つ伸びをして、立ち上がる。その際少し埃が舞い上がり、思わず咳き込んでしまう。

 

 

 

 

___……情けないな

 

そんな自分の行動に、いつも言われていた言葉を思い出す。何度も私が年上だと言ったのに、それでもその口調を崩さなかった彼の、呆れながら言うその姿がフラッシュバックし___

 

 

 

 

 

 

__私は、決壊したかのように、涙が溢れ出した。

 

 

泣き崩れる私に、ボールから飛び出してきたガブリアスとルカリオが慰めてくれる。そっと寄り添い、私の顔を伺うガブリアスと、不器用ながら背中を優しくさするルカリオに、私は自然と、すがりついて泣いていた。

 

私は、大人として失格だ。あの日、あの時に私がもっとしっかりしていれば。私達はまたここで、あの日常に戻れただろうに。

 

 

膝をつき、泣きわめく私は、絶えず謝罪を繰り返す。それが何も救う筈が無いのに、何ももたらす訳でもない、ただの自己満足だと分かっているのに。私の口から漏れ出すのは、ただの謝罪の言葉だけだった。

 

 

「ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

 

壊れた機械のようにとめどなく流れる私の声に、ただただ相棒達は、私に寄り添った。

 

 

思えば、どこか盲信していたのだろう。あの日出会った彼は、誰にも脅かされる事はないのだろうと。絶対不可侵にして、立ち塞がる全てを薙ぎ払う、神に等しいような暴虐なのだと。

盲目的に、そうやって思考で目を塞いで考えていた私への、罰なのだろう。今回の引き金となったのは間違いなく私だ、なのに、何故私はここで、無様に泣きわめく権利があるのか。

 

 

身体をかきだき、彼に謝る。謝り、謝り、そして蹲る。舞う埃が気管に入っても、私は謝り続ける、謝り続けるしか出来ないのだ。

 

 

 

 

 

 

リヒトは現在、この世界のどこにも存在しない。

 

 

そう、この世界には。

 

 

 

__________________________

 

 

事の発端は三週間前、十五になったリヒトは、シンオウ地方にてシロナの家に赴いていた。どうやら何かを見つけたようで、リヒトの意見を聞きたいようであった。

 

そうしてシロナの家に着いたリヒトがまず始めた事は、掃除であった。

 

シロナはチャンピオンである傍ら、シンオウ地方の歴史について研究をする研究者としての一面を持っている。知的なイメージを他人に持たせる女性と皆は思っているが、実の所そうでもない。なぜなら、片付けすら出来ないからだ。

 

 

「…お前もいい歳だろう、そろそろ家事くらい覚えろ」

「だ、だってそんな時間ないんだもの!仕事は忙しいし研究をしてたらどうしても汚しちゃうし、片付けようとしたら仕事が入るし……」

 

「…ハウスキーパーでも雇え、金はあるだろう」

 

「親しい人以外にそんな一面を見せないで下さいってリーグの人に言われているのよ。イメージが崩れるとかで」

 

テキパキとゴミを分別し袋に纏めるリヒトと、一向に片付かないシロナ。どこでここまで差が開くのか、シロナは真剣に考えていた。

 

 

「…あまり言いたくはないが、その歳だ。貰い手が居なくなっても知らんぞ」

 

「えー!じゃあその時はリヒト君が私を貰ってよ、お祖母様ならOKしてくれるわよ?」

 

「お前が多少家事が出来るようになったら考えてやる」

 

 

軽口を叩きながらも、しっかりと掃除を進めるリヒトに、シロナは本気で結婚出来ないか考えていた。リヒトは一人で旅をする関係上家事全般が得意である。それに顔も無表情ではあるが整っており、また収入も悪くない。

 

この三年で、各地で有名人になったリヒトは一度ホウエンに戻ると同時にデボンコーポレーションとのスポンサー契約を結んでいる。その他彼と関わりを持ちたい企業により多くの契約を結んだ彼は、最早年収という点においても、その辺のチャンピオンよりも遥かに上である。

優良物件であり、気心の知れている彼に対してそう思うのは、それ程不自然でもない事かも知れないのだ。

 

 

 

まあそれでも、別世界ならば成人済みの社会的地位がある女性が、有能ではあるが高校一年生の少年に対して真剣に結婚について悩んでいるのはどうなのだろうという事はあるが。

 

「…ところで、今日の用事はなんだ」

 

 

ようやっと床が見え机の上の資料が片付いた頃に切り出したリヒト、その言葉に思い出したかのようにシロナは食いついた。

 

 

「そう!今日聞きたかったのはリヒト君が持ってるあれ!」

 

「アレ?」

 

 

首を傾げるリヒトに、シロナは焦れったそうに机に置いてあった本を取る。いくつもの付箋やペンの跡から、余程発見があったのだと思われる文献だった。

 

 

「ここ!ここに書いてあるものって、リヒト君が持ってる()()()()()()じゃない?」

 

 

興奮冷めやらぬと言った様子でリヒトに指を指す。それにリヒトは、至極冷めた瞳で見ていた。彼が人並みに表情筋が動かせるのならば、まるで「始まったよ」と言わんばかりの、嫌そうな顔を浮かべていただろう。

 

 

「…あれを譲れと?あれは人から預かったものだ、易々と他人に渡せるか」

 

「そうじゃないわ、私が言いたいのは調査をしてもらいたいのよ」

 

 

そう言うと、シロナは地図を広げた。そこにはシンオウ地方の地形が描かれており、そこには三つのマークを付けられている土地があった。そしてそれらを線で引き、三角形になった場所の中心に、他より大きくマークを書いてあった。

 

 

「このシンオウ地方に存在する伝承において、最も多く現れるテンガン山。そこなら私の今調べている存在について分かるかもしれないわ」

 

 

鼻息荒く伝えるシロナ、まるで欲しかったおもちゃを見つけたようにウキウキとしている彼女に、リヒトは相も変らぬ無表情でその地図を見る。視線を地図の一点から離さないような彼は、ついで言葉を発した。

 

 

「…確認だが、今お前が求める情報はなんだ?」

 

 

呟くように、しかし通る声で言われたその言葉に、シロナは目を輝かせる。そう言うという事は、経験上リヒトも付き合ってくれるという合図である。その事に歓喜し、シロナは言った。

 

 

「ええ、私が今回調べているのはある伝説のポケモン、世界の裏側に存在すると言われているかの存在__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___ギラティナの、存在の確認よ」

 

 

ウキウキと、そう言った彼女。未知の存在を前にして、歓喜に身を震わせているシロナを見ているリヒトは、やはりと言うべきか空虚だった。

 

 

「この文献では、はっきんだまはギラティナと密接な関係があると記されているわ。しかも前にそのはっきんだまを研究所で調べた時に、全く未知の物質でできているって結果が出たでしょ?この地方に存在しない、まるで反物質だって。つまりそれって、この世界じゃない裏側__つまり、ギラティナに関係があるんじゃないかな?」

 

 

興奮したように捲し立てるシロナに、リヒトは冷めた目で見つめる。その視線に気づいたのか、シロナは無意識に立ち上がっていた体勢から、落ち着くために椅子に腰掛ける。だがそこでも勢いは止まらず、続けて捲し立てる。

 

 

「だから、そのはっきんだまを持ってテンガン山の調査をしてもらいたいの。本当は私も行きたいんだけど、今リーグが忙しくて出来ないの。しかもテンガン山って上に行く程危険なポケモンが多いらしいの。私も一回だけ行ったんだけど、ある一定の高さから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

机を叩きながらそう言うシロナに、リヒトは無言で二つカップを用意すると、コーヒーを作った。少し話が長くなることを見受け、休憩を挟む為だろう。いくつかの角砂糖とガムシロップを見繕い、席へと戻った。

 

 

「…それこそしっかりとした研究として隊を組んで行くべきだろう。それに俺はデータ採集には明るくない」

 

「それは承知の上なの。それに私もそこまで人を動かせる程権力はないし、最も重要になるのは、強さよ。だってそこいらのトレーナーをかき集めても貴方の足元にも及ばないもの」

 

 

そう言い切ると、シロナは渡されたコーヒーを飲む。しかし何も入れていないブラックだった為か、噴き出しかけるのを我慢し、ガムシロップと角砂糖を多目に投入した。

それを実に冷めた瞳で見ていたリヒトは、おもむろに懐からそれを取り出した。

 

 

不思議な光沢を放つソレは、照明の光を受けて光っていた。しかしその反射される輝きは、まるでこの世のものでは無いような妖しさを放っていた。

今しがたシロナから言われたはっきんだまを手に取り、静かに眺めると、リヒトは席をたった。そしてカップとソーサーを取ると、そのままキッチンへと向かった。

 

 

「…いいだろう、行くとしよう。但しこの件については協会を挟んで、正式な依頼として発行しろ」

 

「分かってるわ、流石に天下のリヒト氏にタダ働きなんて、ファンに殺されちゃうわ」

 

「…良く言うな、現シンオウ最強が」

 

「貴方が挑まないから、ていうのが頭につくけどね」

 

 

そう言ったシロナは、飲みきったカップを持ってリヒトの隣へと向かう。そして並ぶと、リヒトのカップを横から取ると、洗い出した。

 

 

「だから、これくらいはやらないとね。依頼もして掃除もしてもらったんだし」

 

「……なら次からはもう少し食材も買っておけ、栄養を与えようにも無からものは作れないさ」

 

「貴方なら出来そうね、それ」

 

 

そう言ってくすくすと笑うシロナ。背丈も伸び、少し声も低くなったリヒトに、彼の成長を感じると共に、やはり安心すると思った。昔から絶対的に自分より上という存在が少ないからか、どうしてもシロナは甘えるようになっていた。

だからこそ、今回の依頼もリヒトに出したのだ。自分でも単体で行くのは難しくとも、彼ならば難なくこなせるだろうと、シロナは信じきっていた。

 

現に彼はすんなりと請け負ってくれた。まるで難度の低い雑事なのだろう、少しだけ面倒そうにしていたのはその為だろうと、シロナは想像していた。

 

危険なものか、リヒトならばこれくらい出来て当たり前なのだ。

 

 

 

 

 

彼女は気付いていない、自身がリヒトに、まるで信仰のような感情を向けている事を。強さを神格化し、思考を放棄して彼に委ねるようにしている事を。それを信頼という感情と嘯き、自分を騙している事を。

 

そして次の日、リヒトは軽装のままテンガン山へと調査に向かった。そして__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__リヒトからの連絡が、途絶えた。

 





作者より早く失踪する主人公。
そして今回からしばらく、前章から三年後のリヒト君15歳でお送りします。

さて、リヒト君はどうなってしまったのか、果たして無事なのか、ご期待下さい。







後、ガラルの話って需要あります?あるならリヒト君が酷い目にあいますけど。


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光に灼かれた者達


グラブルしてたのとワイルドエリアで遊び倒していたので遅れました。あと別のやつを懲りずに連載を始めたのでそれも関与しています。すみませんでした。
ちょっと前にミュウツーきてたのでソロ討伐目指しましたが、どうしても無理でした。あれやばいですね、吹雪された時に自分の手持ち含めて全部飛ばされた時には唖然としました。

それはそれとしてあの毒ロッカーマジで許さん、何回失敗したと思ってんだばくおんぱ連打しやがって。絶許。


リヒトが居なくなってからの三週間、シロナとて何もせずに居た訳では無い。そもそも、最初はリヒトの無事を祈っていた訳でもなく、ただただ依頼から逃げられたと思っていたのだ。

だからこそ、彼女は自分の持つあらゆる手でリヒトの存在を洗い出そうとした。

 

だが、チャンピオンでもあり、名の知れた研究者でもあるシロナは多くのパイプを持っているのだが、そのどの人物や機関に頼もうとも、行方が分からなかった。

それでも、彼女は探した。どうせ何処かに逃げたのだと、何も言わずに何処かへ逃亡したのだと、自分へと言い聞かせ続け。

 

 

そしてシロナは、正式な研究チームという名目で募られた捜索隊で、テンガン山へと向かった。標高が高くなるにつれて凶悪になるポケモン達に苦戦しながら、彼女は狂ったように進んだ。

 

 

 

__居ない筈がない、彼はきっとそこに居るのだ。そこで平然としているのだ。

 

 

そう、自身の内から這い上がるその事実から、目を背け続けていた。

 

そして、現実から目を背け続けたシロナがたどり着いた先にあったものは___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__血に濡れた、リヒトのマフラーだった。

 

 

出発する前に、シンオウ地方で過ごす上で必要となるとして、彼に他ならぬシロナがプレゼントした白いマフラー。それが、山の途中で無惨に打ち捨てられていた。

 

 

「…嘘、よね?貴方がそんな簡単に……」

 

 

呆然とするシロナは、思わずそのマフラーを拾い、注視する。まだ彼のものと決まった訳ではない、他の誰かの、同じ品かもしれない。そう一縷の希望を持って見たそれには、予想通りであり、期待外れのリヒトの名前が記されていた。

 

 

「__ぇあ」

 

 

喉から、声にならない声が出る。理解出来ない、理解したくない。それを理解してしまえば、かつてない絶望が自身を襲うようで、脳が理解を拒んでいた。

だがそれは同時に、その事を脳がどこかで理解しているという事であり、そうなってはもう、手遅れだった。

 

 

 

 

リヒトは、テンガン山で死んだのだと。シロナは悟ってしまった。

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

その後のシロナといえば、まるで生きた屍のようだった。

リヒトの死を確認した後、調査隊を引き連れて下山した後に、彼女は協会に事実を伝えたのち、ホウエンへと飛んだ。

 

自分が殺したようなものだ、その贖罪をする為に、そしてその事実を伝える為に。どれだけ詰られようが、それが自分に出来る事だと。暗く生気のない姿でシロナは、ホウエンに向かっていった。

 

だがそこで待っていたのは、シロナの想定していたものではなく__

 

 

 

 

 

 

「妄言はその辺にしておいたほうがいいよ」

 

 

己への、嘲笑だった。

 

ホウエンに着いた時、空港で待ち構えていたのは、ホウエンリーグチャンピオンのダイゴだった。どこから聞きつけたのか、あるいは協会の根回しなのかは分からないが、車を用意していたダイゴに連れられ、シロナはデボンコーポレーションへと通された。

 

そして、そこで事の次第を報告した。自分がリヒトに依頼を出し、返ってこなくなった。そしてそこでリヒトのものと思われる血濡れのマフラーを発見した事。

 

そして、それがリヒトの血であるという結果が出た事。

 

 

全てを話した、包み隠さず事実を話した。その場の事を、己の罪を、全てをさらけ出したシロナに、ダイゴはそう言い放ったのだ。

 

 

「……どういう…事よ!」

 

「君こそどういうつもりだい?確かにあそこは危険地帯だ、一度確認に行ったが野生のポケモンも化け物だらけだった。昔シロガネ山に行った時の事を思い出したよ」

「なら分かるでしょ!あそこでリヒト君は__」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自惚れるな」

 

 

唐突に突きつけられたその言葉に、シロナは思わず押し黙る。その言葉に込められていたダイゴの、強烈なまでの感情に口を塞がせられた。

目の前のダイゴは、リヒトが死んでるなんて1ミリも思っていない、しかし怒りを浮かべていた。何故か?それは……

 

 

「たかがあの程度の雑兵に彼が破れる筈がない、彼ならば虫けらの如く払いのけられる。手傷を負うなんて考えられない。まあちょっとドジな所もあるから、岩とかで切ってそれの止血だろうね」

 

「そんな訳ないじゃない!あの場でそんな事が起こっている訳が無い!あなたもそうよ!依頼を出した私も、そこまで盲信している貴方も、彼を過信し過ぎなのよ!彼だって人間よ、死にもするわ!」

 

 

ダイゴの言葉に、思わず堰を切ったように溢れ出すシロナの言葉。しかしそこには、自身の過ちを責めるような言葉が多く、まるで目の前に自分が居るような話し方だった。

だが、怒り言葉を発するシロナを、ダイゴは冷めた目で見つめていた。まるでつまらないショーを見せられているように、興味のないものを眺めるように。

 

 

「僕から言わせてもらえば、君も世の人間も、リヒト君の事を過小評価し過ぎなんだよ。彼も人間だ、だから?君も見ていただろう?彼がやろうとする事は全てやり遂げられ、彼の行く手に塞がるものは全て塵芥のごとくなぎ倒される。未だにそこが知れず、そして限界がない」

 

 

滔々とリヒトについて語るダイゴ、普段から無口ではないが、そこまで多く語るという訳では無いダイゴに有るまじき流れるようなその言葉。それらにはリヒトという少年に対する思いが見えていた。

だが、一番目に付いたのは、話しているダイゴの眼だった。

 

 

 

あれは、何かに狂っている眼だ。

 

 

「僕は自他共に認めるくらい鉱物が好きだ、何故なら何者にも穢されぬ程に硬くそして美しいからだ。物質どうしが繋がり合い長い時間を掛けて結晶化されたそれはなんとも言えぬ美しさを持っている。でも僕はあの日、僕の運命に出会ったのだ!」

 

感極まったように立ち上がると、その感情の大きさを表すかのように両の手を広げ、天を仰ぎ見る。それは今は居ない何かを見上げるように、そして祈るように、語った(謳った)

 

 

「彼こそが!僕が求めていた究極系!誰にも汚されること無く、誰しもを寄せ付けぬ反則的なまでの硬さ!他を蹴散らし、全てを睥睨するかのような強さ!そしてそれらは全てが彼と彼の手持ちが作り上げた強固な繋がりから生まれた恐ろしいまでの美しさ!嗚呼、あの日ようやくミクリが美しさに拘る理由が理解出来た!」

 

それは、狂気だ。リヒトという少年に狂い、そしてそれを神格化している狂信者だ。あの日シロナが戦ったヴィーラも彼に狂っていた、それと同等に狂っていた。

怖気を感じたシロナを他所に、ダイゴは更にヒートアップすると、突然シロナの方を向くと、その狂気に染まった両眼を見開いた。

 

 

「そんな彼が、()()()()()()()()()()()()命を落とすか?否、断じて否だ!彼はその程度じゃ止まらない、傷一つつかない。外的要因で彼が傷など付けられるはずもない!ましてや君が、君如きが!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()自惚れが過ぎるとしか言えないな!」

 

 

自らに詰め寄る狂気に、シロナはたじろぎ後ずさる。しかしそれでもその眼からは逃れられない。逃してはくれない、自身の信仰対象を穢そうとした者を、そう簡単に逃がしはしない。

 

 

「彼の死体を見つけたのか?彼の臓腑がぶちまけられ、屍となったその様をその目で見たのか?無様に野生のもの達に群がられる餌となった彼を君は見たのか?見てないのか?ならば僕が君に言えることは一つだけだ

 

 

 

 

 

 

 

 

__()()()、探せよ。彼は言ったぞ、彼の強さはポケモンの天性の才能もあるが、それよりも弛まぬ努力と戦いにかける本気さが違うと!純粋に彼を慕い、それ故に全身全霊をもって鍛え続ける彼らは、正に本気で取り組んでいると言えよう!だからこそ僕は思ったのだ__」

 

「この世界の人々は、未だに本気を出していないのでは?と。彼の強さのメカニズムは未だに解明されてはないが、とある博士との研究で分かった事がある。それは彼のポケモンの異常性だ」

 

 

そう言うと、興奮していたダイゴは一度語気を鎮めると、ソファに座ってコーヒーを飲んだ。だがその眼の狂気は未だに消えてはおらず、今にも飛び出さんと荒ぶっている。

そしてコーヒーを嚥下すると、静かに足を組み目を閉じた。そして何かを思い出したように笑うと、傍に控えていた男性にコーヒーを頼んだ。

 

 

「でも僕は最近機嫌がいいんだ。こんな僕の、周りとはズレているとしか言い様のない考えにも理解を示してくれる友人が出来たからね。少々歳は離れているが、それでもこの歳でこれだけ純粋な友人が出来るとは思わなくてね」

 

そういうと、少年のような無邪気な笑顔を浮かべてコーヒーを受け取る。そしてそれに口を付けると、何かを思い出したのかふと顔を上げた。

 

 

「そうだそうだ、彼が生きているという決定的な証拠を忘れていたよ」

 

「決定的な…証拠?」

 

 

今までの狂気がなりを潜めさわやかに言い放たれたその言葉に、思わず飛び付くシロナ。それに笑顔で答えると、ダイゴは近くに居た人間に、ひとつの資料を持ってこさせた。

 

 

「昔彼が件のはっきんだまを僕に見せてくれた事があってね、その際に入手の経緯を聞いたんだ。マニアとしての血が騒いだのだが、聞けばそれは無理だと思える代物さ」

 

そういうと、手元にあった資料の1枚をシロナに手渡す。それを受け取り、内容に目を通すと、思わずシロナは立ち上がり目を見開いた。そこにあったのは、今回の決定的な証拠となりうる、下手人の情報だった。

 

 

「三年前にシンオウ地方で二つの異常な力の観測が行われたっていう話を君から聞いてね、その2つともが彼の仕業だったんだが。一つはシンジ湖での彼の私闘、そしてもう一つが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シンオウ地方に伝わる伝説のポケモン、反物質を司る世界の裏側の主、ギラティナと彼の交戦だ。そしてはっきんだまはその際に獲得した戦利品さ」

 

 

そこに書いてある記録は、リヒトとダイゴの会話内容の書き起こしであり、そこには明確に、彼の言葉で書かれている事実が記されていた。

 

『テンガン山でギラティナと交戦した』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

そこには、見渡す程の闇と、大地があった。

 

夜のように深い闇が広がる空に、草木の生えぬ不毛の大地。そしてそれにも関わらず溢れ出す水が滝を成し、轟轟と水音を鳴らしている。

しかしそれだけでも異常とも言える光景だが、それを何よりも際立たせる…否、それらを消し去るほどの異常性があった。それは__

 

 

 

 

 

その大地は、何も無い暗闇に浮いていて、それに類似した島が多くその周りの空中に浮かんでいたのだ。

逆さまに、横に、斜めに浮いている島群。まるで重力を感じさせないそれらの異常性の中で、ただ一つ、やけに目を引く島があった。

 

その島は、まるで神殿のような石造りの建物と、門。そして荘厳な玉座があった。

質素でありながら、神聖さを失わないその玉座。その高潔さを表すかのように白いその玉座には、一つの人影があった。

 

そこに居たのは、リヒトだった。

足を組み、肘掛けに肘を付き、肘を着いた腕の拳に顔を乗せたリヒトは、その双眸を閉じていた。眠るように閉じている双眸は開かれるような気配を感じず、そしてその身体は双眸に合わせるように身動ぎ一つしない。

 

すると、そんなリヒトが影に覆われる。

 

その影の持ち主は、その暗闇を飛翔しリヒトの元へ一直線に向かってくると、突然姿を変えて着地した。着地の際に舞い上がった土煙が晴れると、そこにいたのは、正しくだった。

 

六本の足を地に着け、黒き一対の翼に赤い爪を持つ。銀色の体表に、まるで黄金の兜を持ったようなその神_ギラティナは、ゆっくりとリヒトの前へと進むと、その玉座に不遜に座るリヒトに対してその頭を近付け__

 

 

 

 

 

 

 

__地に頭を着け、平服した。

 

 

『おお、我が主、我が光、我が羨望。リヒト様、ようこそお越しくださいました。この卑賤な身の私めの為にわざわざその貴重な時間を割いて頂き、感謝の極みであります。嗚呼、この望外の喜びを表す言葉を持ちえぬ私をお許し下さい……』

 

 

全身全霊の、平服であった。その様は臣下のそれではなく、言うならば奴隷のようなまでの浅ましさを含んだ平服だった。自身の全てを握られていて、目の前の存在には決して適わないという姿勢を表した姿だった。

一柱の神の無様とも言える平服、そしてそれを向けられるリヒト。異常な世界の、異常な場所での異常な光景。だがそれでもリヒトの顔はまるで何も映してはおらず、その様をただの無として捉えているような顔はだった。

そしてギラティナは更に進むと、玉座に座るリヒトのその足に頭を擦り付け出した。己がリヒトの下であり、下賎な身なのだと刻みつけるように。

 

 

そしてそれを空虚な瞳で睥睨しているリヒトは___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(いやこら拉致だよ!!!!!)」

 

 

そう、心の中で叫んでいた。

なにがどうしてそうなった。





本気強要おじさんとなったダイゴさん、貴方メガネとか掛けてません?

あとギラティナの話しは、恐らく次から掘り下げると思います。無駄に周りに心労を掛けておいてこの様とはこのアホ大丈夫だろうか。

尚攫われてからかなりの時間あそこに拘束されると思うと可哀想やなぁと思ったり思わなかったり、でも結局思わなかったりしました。
あとちょいちょいリヒト君が酷い目に会うの期待してるニキ多そうで僕は嬉しいです。


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孤独に啼く

先日友人とポケモンで対戦をしました。
お互い全力で巫山戯ていたので、どちらも手持ちを同一のポケモンに固定して戦いました。

向こうはジャラランガで、自分はマホイップでした。
相手のジャラランガは全部色違いでしたが、私に惨敗してキレ散らかしてました。ドレキ連打で倒されるようなキャラ持ってくるほうが悪いです。


その神は、生まれながらにしての強者であった。

遥か昔、人間もポケモンも生まれる遠き昔に、とある創造神がこの世界に生まれると、その創造神は世界を創った。

そしてその世界に、自らの子供を三柱産み落とし、それぞれに力を与えた。

 

一人には、過去も未来も現在も、全てに遍く流れる時間を。

 

一人には、この世界が存在する空間を。

 

そして一人には、世界の全てに対となる、全てを破壊し得る反物質を。

 

 

始まりの神から生まれ与えられた、それぞれの神。創造神はその三柱に世界を任せようとしていた。だが、全ては往々にして上手く進む訳では無く、ここでひとつの問題が起こった。

それは、三柱の内の一柱。反物質を司る神が、己の持つ力を使い、暴れだしたのだ。

 

その力に溺れたか、はたまた強すぎる力を制御出来なかったのか、その神は神に与えられた力を使い、体力の続く限り暴れた。創造神と他の二柱が共に戦い、鎮めようとしたものの、その力は強大で、鎮め終わった頃には、甚大な被害が出ていた。

これに激怒した創造神は、その神をとある場所へと幽閉した。

 

それが、俗に言われる『やぶれた世界』と呼ばれる、世界の裏側である。

 

その強大な力を封ずること無く、そしてその力をもって世界を裏側から支えるようにと強制され、縛りつけられたその神は、初めこそ抵抗し、世界を裏側から破壊しようとした。だがそこから出る事の叶わない神は、いつしかその抵抗を辞め、世界を支えることに従事した。

 

時に世界の均衡を崩そうとする者を消し、時に世界の危機を人知れず救い、誰にも知られず、また他の二柱のように表の世界で信仰される訳でも無い。誰にも知られず、感謝もされず、されどその神は永遠に贖罪を続けるのだろう。

 

在りし日の神達の断罪に怯えながら、強すぎる己の力に怯えながら。

 

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

シロナ達が捜索隊を組んでテンガンざんへ登る一週間前。

 

 

テンガンざん頂上には、ひとつの神殿のようなものが存在する。

 

神話に則るのならば、創造神とその他の神を祀る古き先祖のものだろう。しかし永い時を経て風化し、崩れ、昔の形を留めなくなったその神殿では、何を祀っていたのかは定かではない。

 

そんな古き神殿の存在するテンガンざんの頂上にて、リヒトは手持ちのラピスと共にそこに居た。しかしその片腕からは血が流れており、その傷は深いように見える。

それを心配そうに見るラピスに、リヒトは頭を撫でて健在だと示す。そして近くの神殿の残骸に腰掛けると、その片腕を見遣り、ため息をついた。

 

 

「(ヴィーラ撫でてたら腕の肉持ってかれた)」

 

 

ガブリアスを素手で撫でるとかバカなのではないだろうか。

 

「(なにあいつ、特性鮫肌じゃねえだろ。なんかもっとやばいやつだったろ、なんで標準搭載なんだよ血塗れなんですけど。しかも止血に使ってたマフラー落としたし)」

 

 

お前それで死んでることになりかけてたんだが。

しかし当の本人はそんな事を知るはずも無く、あのマフラーシロナから貰ったから文句言われるなぁとか、そろそろ備蓄していた食料切れそうだなぁ等とのほほんと思っていた。腕の怪我はいいのか。

 

 

『マスター大丈夫?ヴィーラも悪気は無かったし、許してあげようよ』

 

「…怒ってないさ、それにこれくらいなら問題無い」

 

「(どうせ唾つけときゃ治るだろ、前ドラゴンクロー食らっても飯食って1日寝たら治ったし)」

 

 

じこさいせいでももっているのだろうか?

そろそろ人間として、というより一個生命体としての枠組から外れかけていると思われるリヒトだが、当人は愚かポケモン達もそんな事は気にしていない。

 

 

『でも久しぶりだね!ラスティ多分喜んでくれるよ!』

 

「…かなり長く開けたからな、しかし今日は記録と、返品に来ただけだ」

 

 

そう言うと、リヒトは懐に手を入れると、そこからはっきんだまを取り出した。どうやら今日はそれを返しに来たらしく、それ以外の事はする気はないらしい。

 

 

『で、でも多分寂しがってると思うよ?ボクもマスターと会えなかったら寂しいし、多分ラスティもそう思ってるよ!』

 

「…忘れたか?あいつはどこに居ようと俺達を向こう側から見ている。ならば今更言う事などないだろう」

 

 

そう言うと、リヒトははっきんだまを置いて帰ろうと、踵を返して__

 

 

 

 

 

 

後ろに控えていた、大量のゴーリキーに思わず足を止めてしまった。

そう、大量のゴーリキーである。いつの間に現れたのか、というか道中に一体も出てこなかったくせに何故かここで大量に現れたのである。しかも何故か全員がいい顔をしていた。腹立つ。

 

突然のゴーリキーに、さしもの鉄仮面でも分かるほどにリヒトは動揺していた。

 

そして、ゴーリキー達は突然スクラムを組むと、全員でリヒトを四方八方から囲み、突撃してきた。

あまりに突然でいて、精錬されたスクラムに唖然としていたリヒトは、そのままスクラムに押しつぶされ、身動きが取れなくなった。

すると、そのリヒトの足元に黒い影が浮かぶ。それを見てリヒトはさすがに不味いと思い抜け出そうとするが、しかし耐久全振りみたいなリヒトでは流石にゴーリキーの群れには勝てず、そのまま足元の影に飲まれていった。

 

その最中、ゴーリキーたちはサムズアップすると、まるでいい仕事をしたとばかりに汗を拭いながら帰っていく様を見て、リヒトは一つだけ、心の中で叫んだ。

 

 

「(アメフトじゃなくてラグビーかい!!)」

 

 

違う、そうじゃない(鈴木雅之)。

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

三年前のある日、その神は世界の裏側にて、ひとつの事件が起きたのを確認した。

それは、シンジ湖で起こった力の奔流。そしてそれらのぶつかり合いである。その内のひとつは、その神も知っているものだった。片方はこのシンオウ地方で生まれた者であり、全てを超越する運命を持ってしまった悲しき少年だった。

 

だが、もう一人については、神は初めて見る者だった。

 

その者は、例えるならば穢れを知らぬ処女雪のようであった。まるでうさぎのように赤い瞳と白い頭髪に、整った顔。それらはまるで美術品のようであった。

 

だが、その者を見た時に神が抱いた感情は…恐怖と、()()()()であった。

 

それは、世界の均衡を乱すものだと言うのが、永き時の中での経験で、一瞬で分かった。彼の一挙一動、彼の采配、そして彼の従えているポケモン達の異常性が、なによりも雄弁に語っていた。

 

 

あれは、世界を敵に回しても勝ちうる存在だと。

 

しかし神は、それよりも困惑している事があった。それは、彼を見ることでその身に去来する正体不明の懐かしさである。

 

まるで、いつしかの時から姿すら見ていない、あの方のようだと__。

 

 

そう思う己の思考を、無理矢理追い出した。そんな訳が無い、高々人間だ。どれだけ優秀であり、強大な力を持とうとも、それだけでは世界の守護者たる己には勝てない。

そう、己に言い聞かせた神は、その者を消し去らねばと準備を始めた。

 

 

しかし、神は気付かなかった。

 

その神は、彼に恐れと懐かしさを抱いたと同時に、ある感情を抱いていたのだと。

それに気付かない神は、彼を消さんと意志を燃やす。

 

 

 

 

その意識の底にある、彼には己にさえ勝てぬかもしれぬという、神の中で疼く感情を、盲目に無視をして。

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

その日、リヒトはシンジ湖での死闘(相手目線)を終えてキッサキの自宅へと帰宅した。そこでようやく腰のボールを離すと、そこでボールの中にいたルクスを解放した。

 

 

「…ご苦労、ルクス」

 

『久しぶりの散歩は楽しかったなぁご主人!あんなに楽しい殺し合いは久々だった!』

 

 

リヒトには伝わらぬ声で鳴くと、ルクスはその巨大な頭をリヒトへと擦り付ける。するとリヒトはその頭を撫でると、一度離して外を指差す。

 

 

「…食事を用意した、家には入り切らなかったから外で食べるぞ」

 

『飯!ご主人の飯!』

 

「…ラピスはどうする?」

 

『僕もルクスと食べる!』

 

 

そう言って、二匹は外へと駆け出していく。そしてそれを見送ったリヒトは、ロッキングチェアに腰掛けると、ホッと一息ついた。

 

 

「(何あいつ、俺より3つくらい下なのに雰囲気怖いしポケモンバグってるやん)」

 

 

どの口が言うのだろうか。

そう言われても仕方ない発言だが、その言葉は届かない。それをいいことにリヒトはどんどん心の中で愚痴る。やれ顔がいいだの獣みたいだの途中出して来たオリジナルの技名が厨二臭いだの、ブーメランばかりである。

 

そうして、声には出さずとも不満を垂れ流すリヒト。前後に体を揺らして椅子がぎしぎしと揺れているその様を見て、少し離れた所に居た二匹__キングとヴィーラは嬉しそうに微笑む。

 

 

『どうやら今回の相手は中々に良い素質を持っていたようだ』

 

『そうですね、あれ程リヒト様の心が動かされていると思うと、余程に良い存在だったのでしょう』

 

『ルクスに詳しく話を聞く必要‪がある、可能ならば私達も一目会っておきたいものだ』

 

 

主人の心中とはズレた考えをしている二人は、そう話し合いながら楽しそうに微笑む。己の主を至上とする二人ではあるが、それ故に主に並び立つような強者が現れない事を憂いている。

まるで一人だけ世界からズレているようなリヒトが、並び立つ者の居ないこの世界に飽いてしまうのではないかと、二人は気が気ではないのだ。出生の特殊さ故に強者の孤独というものを知っているヴィーラは、その虚しさを一番知っていると言っても過言ではない。

 

だからこそ、二人は強者を求めるのだ。

主に並び立ち、自らを打倒しうるポケモンを従えた存在を。

 

居ない訳では無い。過去に一人だけ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、現在は何処に居るのかわからず、また行方の分からぬ人間一人では楔としては頼りない。

故に彼等は、常に願っている。彼の領域に達する存在を、そしてそれに届きうる人間の増加を。

 

そう願う二人は、ふと己の主を見やる。そこには、椅子を揺らすのを止めてある一点を眺めていた。

まるでそこに何かがあるかのように、食い入るように見つめるリヒトに、ヴィーラは首を傾げる。そこに何かあっただろうか。そう思い、キングの方を向くと、キングもまたその一点を見つめていた。

 

 

『…何かあるのですか?それならば私にも教えてくれませんと__』

 

『我が主の傍に行くぞ、()()()()()

 

 

そう言うと、返答を聞かずにキングはヴィーラを引き摺ると、大急ぎでリヒトの元へ走った。それに戸惑うヴィーラは、訳の分からぬ行動を取ったキングに叫んだ。

 

 

『何をしているのです!?』

 

『直にわかる、それにここで気付いていないのはお前とルクスだけだ』

 

 

そう言うと、キングは顎でその一点を指し示す。再びその場所を見ると、そこには()()()()()()()()()()()()()

まだ小さなものだったが、それは確かにキングが警戒する程のものであった。

 

だが、それをいち早く認識したであろうリヒトは、それを見遣りながらも平然としていて、そのまま椅子に座りながらも悠然と言葉を零した。

 

 

「…何を隠れている、それ程この身が恐ろしいか?」

 

 

隠しようがない程の嘲りと、挑発。それが何であるか分かっており、尚且つ全てにおいて己が脅かされないという絶対の自信を持ったその発言に、その瘴気は、一瞬だけ揺らぐと、その瘴気は急速に広がり、形を形成した。

 

そこに現れたのは、翼を広げ、暗闇に眼を思わせる何かを持っただけの、影だった。それは一度咆哮をすると、その足元の影を広げてリヒト達を飲み込んだ。

しかしリヒトは、眉一つ動かさずにその闇に沈む。そしてその様を飲み込まれながら見たキングは、小さくほくそ笑む。

 

やはり、我が主はこうでなくては。どのように並び立つ者が現れようが、それでも悠然と全てを睥睨する様こそ、我らの王に相応しい。

そう、改めて己の王に心酔したキングは、沈みながらも隣で動揺するヴィーラに向かって一言だけ言った。

 

 

『今回は貴様の番だ、私とエンキが出来たのだ。貴様に出来ぬ道理はあるまい』

 

 

そう言って、リヒトと二人は影に呑まれた。

 

 

 




ちなみに私は三月末は新生活の為に引越しの準備等があるので更新速度が落ちると思われます。
その為、下手したらこのままリヒト君達は永遠にギラティナさんとランデブーさせられる可能性があります。

……まあ、ええやろ!自分に付き従ってくれて全力で服従してくれる伝説っ娘がいるなら許せるやろ!

という訳で失踪致します。探さないでください。


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神を呪う狂信者

コロナの影響で引越しが遅れるので初投稿です。

最近外に出ることがないので、最寄りのゲオとかで映画やアニメを見漁ってます。あれですね、ヨルムンガンドめっちゃ面白いです。それ見た後にデッドプール2と翔んで埼玉みてました。
親に、お前の情緒どうなってんの?と言われました。

あと、感想でリヒト君と引き分けた人が全員にバレてるのホント草なんですが。
その話は今後暇があれば書くつもりです。まあ、それまでには軽くキングの掘り下げた戦闘描写書いとこうと思います。


今から少し昔、シンオウ地方のとある洞窟には、ひとつポケモンの群れがありました。彼等は将来強大な力を持ち、他を圧倒するようなポケモンになれる存在でした。

その群れはガブリアス、及びその子供たるフカマル達のものであった。

 

獰猛で狡猾、そして圧倒的な破壊力を持つ彼等は、シンオウ地方でも一部にしか生息しない。そこは強者しか生存出来ない魔窟であり、故に群れはそこに住んでいたのだ。

しかし、いくら獰猛であろうと家族ではある。それ故に群れ同士で助け合い、その穴蔵で暮らしていた。

 

 

しかし、その事件が起こったのは、一匹のフカマルが生まれた事からである。

 

とあるつがいから生まれたのは、全くの異端…色違いの個体だった。そのフカマルは、通常ではありえない、体表が鮮やかな紫色であった。まるで危険な毒のような、紛うことなき紫であった。

故に、そのフカマルは群れから迫害を受けた。当たり前である、野生動物でさえ突然変異で起こるアルビノなどを嫌い群れから遠ざけるのだ。その迫害は起こるべくして起こり、フカマルは幼き身のままその魔窟に放り出されたのだ。

 

生まれて間もない幼子を、強者のひしめくその暗闇へ、なんの庇護も無く。

 

殺すつもりだったのだろう、そのフカマルの親でさえそれに賛同したのだ。異端は排除すべきだと、不吉は取り除くべきだと。そうして群れはいつしかそのフカマルを忘れ、またいつも通りの時が流れた。

 

 

そんなある日、群れの大人達が次々に殺されるという事件が起こった。

 

弱肉強食の魔窟とはいえ、彼等はその中でも最上位に位置する種族である。ドラゴンタイプという圧倒的な力を持ち、更にその中でも最上位に生まれた彼等が、まるで虫けらのように殺されたそれに、群れは恐怖に襲われた。

毎日毎日、いくらかのガブリアスが消えていった。それ故に庇護されるべき存在であったフカマル達が他の存在に狙われるようになり、次々に群れの者たちは消えていった。

 

そして、そんな恐怖が続くある日、他のポケモンに襲われていたフカマル達が逃げた先に、それは存在した。

そこには、夥しい死体があった。見ればそれは全て同じ種族であり、それをフカマル達は見たことがあった。それは、自分達の群れのガブリアスだったのだ。

その光景に、思わずフカマル達は後退りその場から逃げ出した。しかし彼は別のポケモンに襲われている途中であり、そんなことをすれば、後ろから追い掛けてくるものと鉢合わせしてしまう。

 

そして、その予感は的中し、フカマル達はその退路を巨大な岩に塞がれた。

そこには、巨大な巌のような体躯をしたポケモン_ゴローニャが居た。そしてそのゴローニャは、舌なめずりをして下卑た笑顔を浮かべると、その腕をフカマル達へと伸ばし__

 

 

 

 

 

__その身体を、バラバラにされて崩れ落ちた。

 

 

突然崩れ、死を晒したゴローニャ。その光景に理解が追いつかず、尻餅をつく。しかしそこである考えに至った。それは、そのゴローニャを無残に殺した者が、まだ居ると。

 

そうして、なけなしの力を振り絞って辺りを警戒するフカマル達。そして一匹のフカマルが、それを発見した。

 

 

 

 

 

 

体表が、鮮やかな毒のような紫色に覆われた、一匹のガブリアスを。

 

それは、積まれたガブリアス達の死体の上に腰掛けており、こちらをじっと見つめている。その視線に気付いたフカマル達は、その視線に、そしてその体躯に硬直した。

 

 

なぜならそれは、自分達と同じ時期に生まれ、そして捨てられたフカマルと、全く同じ特徴だったからだ。

 

 

『……弱い、弱すぎる。こんな奴らに私は捨てられたの?爪で死ぬ、牙で死ぬ、脚で死ぬ、何をしても死ぬ虫けら共に』

 

 

虚ろに呟かれたその言葉に、フカマル達は怒り、そして怯えた。こいつは確かにあの時のフカマルだ、だがそんなはずは無いと。そんなことはあってはならないと。

何故、何も知らぬ幼子を捨てたのに、お前が生きているのか。あの地獄の中で何故お前は生き延び、そしてこの惨状を引き起こす程の力を手に入れたのか。

 

何一つ、理解出来ない。現実として受け入れられない。

 

 

『残っているのはお前らだけ……ねえあんたら、この中に私の親って居る?どれも一瞬で死ぬから分かんないんだよね』

 

そう言うと、ガブリアスはその死体の山からいくらかを投げ寄越す。その中には、そのガブリアスの親は居なかったが、それでもフカマル達の親がいくらか存在した。

そして皆一様に、恐怖に顔を引き攣らせて死んでいた。

 

 

『殺した私が憎い?それはごめんなさいね、私はやられたことをやり返しただけ。恨むならそいつらを恨みなさい。私を捨てて、お前らみたいな雑魚を育てた群れに言いなさい、あの世で』

 

 

その言葉が聞こえた頃には、もう既に手遅れだった。

気づけば、目の前からカブリアスは消えていて、そして後ろから強烈な殺気がしていた。

振り向こうとしたが、その耳に風を切るような音が聞こえた。恐らく、その腕を横薙ぎにしているのだろう。もはや振り返ることしか出来ないが、それよりもその凶刃が首に届く方が速いだろう。

そう、スローモーションになった世界の中で思ったフカマルは、その迫り来る死に、最早抗えないと力を抜き___

 

 

 

 

 

 

『『師よ、突然呼び出されたから何も聞かなかったが、これで良いのか!?』だってさ、マスター』

 

「……上出来だ、エンキ」

 

 

突然現れた人間とポケモンが、そのガブリアスを吹き飛ばした。

そこにいたのは、まるで雪のような白い髪を靡かせた、無機質なまでの無表情を浮かべた少年と、一匹のゴウカザルだった。

理解の及ばない光景に、フカマル達が硬直していると、それを見つけた少年が一匹のポケモンに指示をする。そしてそのポケモンはフカマル達に近寄ってきて、言った。

 

 

『別に可哀想だとは思わないけど、死にたくないよね?なら逃げた方が良いよ?今からエンキが暴れるからこの洞窟崩壊するかもしれないし』

 

 

その言葉を聞いたフカマル達は、一目散に洞窟の外へと向かった。未だかつて外に出たことの無いフカマルだったが、死を目前にしたならばその葛藤を些細なことだろう。

そうしてフカマル達が逃げ出した後、突然物音がしたと思うと、そのガブリアスが起き上がっていた。

その目には、狂気的なまでの殺意が浮かんでいた。

 

 

「……協会の情報は本当らしいな…同族殺しの特異個体、確かに存在したらしい」

 

『今度はなに?虫けらが終わったら化け物でも出てきたの?』

 

『お仕事に来たの!貴方の所為で生態系がおかしくなってるんだって!』

 

『まあ別に恨みは無いんだけどな、鍛錬の一環としてぶっ飛ばされてくれ!』

 

『殺す!』

 

 

そうしてそのガブリアスは、その身を低くして突貫した。

 

 

『速さ良し!シバきがいがあるな!』

 

そしてその突貫に、笑顔でゴウカザルは構えた。

 

 

 

 

 

これが、私__ヴィーラがリヒト様と出会った、忘れたい汚点であり記念すべき日である。

あの日から私は多くを経験した。親の愛を知らぬ私を見捨てずに育て、そして現在の私を形成するに至った。その過程では、今の私では考えられない程の粗相をした。何度も反発し、殺そうとした。到底人間に放つような技では無いものを振るったりもしたが、それでもリヒト様は私を見捨てなかった。

 

まるで、子を愛し、柔らかく抱きしめてくれるように私に寄り添い続けてくれた。

私を含め、皆リヒト様の元に集まった者たちは、何処か訳ありでいて、そして世界からズレたような存在だらけだ。それ故にあるじ様以外には受け入れられず、私もあのままならいつか誰かに殺されていただろう。

 

だが、そんな私達をリヒト様は受け入れた。けして見捨てず、そして導いてくださった。

それは、世間からしたら親のような存在となるだろう。だが、幼くして両親に捨てられた私には、そのような低俗な存在と一緒にしたくなかった。それ故にリヒト様について悩んでいた私は、ある日答えを見つけた。

 

 

それは、人間が信仰するという神という存在だった。

それは既存のものとは隔絶した超越的な存在であり、あまねく全てを見守り、愛し、そして導く存在であると。

 

それを聞いた時、私はまるで雷に打たれたような衝撃が走った。

 

神、まるでリヒト様の為にあるような言葉に、私は確信した。リヒト様こそが神であり、唯一無二の絶対神なのだと。

なればこそ、私が蓋をした復讐心という黒い感情は、別の形となった。

 

なぜ、世界にはリヒト様以外に神と呼ばれる存在が居るのだろう。あの日の私を救いもせず、世界に呪いと不幸が撒き散らされている現状を救いもせずに、ただ崇められているような存在共がのうのうとのさばっているのか。

ただ管に、それが許せなかった。神を名乗るなど、我等が神と同列の存在だと嘯く者が居ることなど、私の信仰心が許さなかった。

 

 

だから私は、リヒト様に仕えると決めた時に誓ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

この世に溢れる欺瞞の神共を、残らず鏖殺すると。

 

 

 

 

 

 

 

__________________________

 

 

 

突如として自宅を襲撃されたリヒトは、目を開けると不思議な世界に迷い混んでいた。

 

暗闇ではないかという程に澱んだその空間、その中の一つの大地に降り立っていたリヒト達。しかしその大地は宙に浮いていて、似たような島をいくつも見受けられる。

見渡す限りの異常な光景、それ等を見渡したリヒトは、一度それ等を視界からシャットアウトするように目を閉じた。

 

 

「(プラチナかよぉ!俺ダイヤモンドは覚えてるけどこっちは知らねえよ!!てかなんのイベント?テンガン山以外でいきなり襲われるとか無かったやん!これがシンオウスタンダードか!?)」

 

お前がイレギュラーなだけだ。

内心騒ぎ散らすリヒト、しかし状況がそんなことでは変わらないと見ると、一度落ち着き腰を見る。そこには、待機状態のボールが二つ着いてあった。

 

 

「(中は…ヴィーラとキングか。よし当たりだ!本音を言えばヴィーラよりもエンキの方が良かったけど、背に腹はかえられないし、何よりなんかあってもキング居るし)」

 

 

そう心の中でガッツポーズを取ったリヒトは、改めて周りを見渡す。そこにあるのは相も変わらず不毛の大地の群れと暗い空だけ、呼び出した主たる存在が見当たらず、リヒトはボソリと呟いた。

 

 

「…畏れか、なんとも矮小なものだ(訳:こえー、クソザコナメクジ呼び出して何するつもりなん?)」

 

その言葉を聞いた瞬間、突如として強烈な威圧感を感じた。その発信源たる後方を、リヒトは振り返らずにチラリと視線を向けた。そこには__

 

 

 

__その顎を大きく開き、今にもリヒトを殺さんとするギラティナが居た。

 

 

彼我の距離は凡そ3メートル、リヒトのポケモンは皆一線を越す異常な者ばかりではあるが、それでもこの距離ではどうだろうか。ましてや相手は伝説上の存在、そしてその力故に()()()()()()()()()のだ。

そのどうしようも無い程の絶望的な間合いに、リヒトはその危険すら忘れてそれを眺める。そして、その顎がまさに自身を食いちぎらんとした時、思わずと言ったように呟いた。

 

 

「…ギラティナか、伝承上の存在。世界の裏に潜む()か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『神…だと?』

 

 

その言葉が聞こえた瞬間___

 

 

 

 

 

__大きく開いていたギラティナの顎が、下からの打撃で強制的に閉じられた。

 

突如発生した強烈な力場の発生に、理の存在せぬやぶれた世界を揺るがせた。それにリヒトは少しだけ目を細めると、目の前で起こった事の真相に気付き、吐きそうになった。

 

 

「(あ”ぁ”〜もうやだ〜!!()()()()()()()()()()()()()())()

 

 

というか、発狂していた。もしリヒトが表情を表に出せたのならば、人間に有るまじき顔面の崩壊が起こっていただろう。

それが隠せたのが、リヒトにとって幸運なのか不運なのか。

 

 

まあ、不運だろうが。

 

 

 

__________________________

 

とてつもない轟音と、凡そ生き物から発せられる筈のない音を立てながら後退したギラティナ。攻撃された本人たるギラティナがリヒトの方を見やると、そこには、()()()()()

 

背を向けているリヒト、まるでその背中を護るように立ち塞がるヴィーラ。しかしその目はあの日、リヒトを攻撃しようとしたルカリオに向けるものよりも強烈な感情が渦巻いていた。

 

 

『偽り、欺瞞、鍍金の神。そちらから現れてくれるとは好都合です』

 

 

その目には、悠久を生きるギラティナでさえ初めて目にするような、殺意と狂気が、まるでギラティナを縛り付けるように向けられていた。

多くの世界の敵を葬ってきた神たる者であっても、そのような異常性を見たのは初めてであるが為に、少しだけ固まっていた。だがそれを知ってか知らずか、ヴィーラはゆっくり、近づいていた。

 

 

『成程、引き込まれるまでキングが何を言っているのかさっぱりでした。私の仕事などをそうそうある筈もない、なればこそ私より優れたキングが居た方がいいだろうと。しかし我等の頂点はやはり慧眼でした』

 

 

一歩、また一歩と近付くヴィーラ。それをただ眺めていた訳では無いギラティナは、その目の前の敵の戦力を測っていた。

確かに有力な個体だ、だがしかし存在の格が違う。有象無象の中から生まれた個体としては最上級ではある、しかしそこには絶対に埋められない巨大な壁があるのだと。

そう、考えていた。だがその考えを、ギラティナは他ならぬ自身で棄却せねばならなかった。

 

 

『(これは…何者だ?その中に居た時とは別物に…私と相対した途端に、()()()()()()()()())』

 

 

決して届かぬと思われたその矮小な存在。それが一歩自身に近付く事に、格段に脅威度が跳ね上がる。そしてその勢いは、自身にその牙を届かせるのではと言わんばかりの領域まで上がっていた。

 

『リヒト様に仕える聖職者として、私は貴方に神の意を伝えましょう

 

 

 

 

 

 

『満場一致、一片の疑いもなく死刑です。貴様に存在理由は今をもって無に帰した、大人しくその首を差し出しなさい』

 

 

咄嗟に毒のようだと形容したそれは、確かにそうだろうとギラティナは自身の感性を肯定した。その小さな体躯で、矮小な存在で、しかして自身を殺しうる致死量の毒を秘めている。

まるでスズメバチのようだ、人間とは明らかに生き物として力関係が決まっている筈なのに、それでも殺しうる可能性を秘めている。

 

 

『望まぬ力に振り回され、生みの親に監禁されたお前には、個人的にも同情しましょう。それ故に他人に祭り上げられる等も仕方ないように思えましょう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!私にとって神とは唯一無二たるリヒト様その人なのだから』

 

 

そして、ゆっくりと近づいていたヴィーラは、初めてその歩みを止めた。その時にはもはや両者の間に間合いと呼ばれるものは無く、肌と肌が触れ合い、吐息が当たる程に密着しうる程接近していた。

そして、ギラティナの感じていた存在の膨張も、ピークに達していた。それを感じ取ったギラティナも、目の前のヴィーラを改めて脅威と認め、構えた。

 

 

『執行、開始。我が身は神の神罰の具現化であり、その首を落とす大鎌である』

 

『特異因子の存在を確認、世界の均衡の為に排除する。好きに恨め、その権利が貴様等にはある』

 

 

体躯の違うその両者、距離さえない、お互いの間合い等とうの昔に入っている両者は、一時もお互いから目を離さない。そして息遣いがだんだんと消えていくなかで、どちらとも言えず身動ぎをした瞬間__

 

 

 

 

 

 

 

__絶死の一撃が、世界を置き去りにする程の速度で激突した。

 

 

 




オリ特性 「殺神衝動」
自身より種族値の高い相手と戦う時、また世界に一体しかいないポケモンと戦うとき、開始時全てのステータスに三段階強化。ターン経過でもう三段階強化。
また通常時、ターン経過で攻撃、特攻、素早さが一段階強化。
実機ならゲーム機放り捨てる位のクソ仕様。

ちなみにヴィーラちゃんはルクス君より強いです、手持ちの力関係を表すと……

キング>〜超えられない壁〜>エンキ>ヴィーラ>>>ルクス>???>ラピスです。皆さん聞きました?これで3番手なんですよ?




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断罪人達


和牛券が配られそうなので初投稿です。

先日友人に「百合を書いてくれ」としつこく言われたので今回は遅れました。まあ、今回の話しとは関係ないんですけど。そのついでに百合漫画を強引に勧められるという事が起きました。

別に百合漫画が生理的に無理って訳じゃないのよ、それをこっちの意思関係無しにグイグイ勧めてくるのが嫌なのよ。押し付けダメ絶対。


『断言しよう、貴様では私とエンキには勝てない』

 

少しだけ昔、具体的に言えば二年前。私がリヒト様の信者となってまだ日の浅い頃、キングにそう言われた。

その頃の私は、心酔しているリヒト様の傍にいる為に、そして一番の信を置いてもらおうと考え、毎日のようにキングやエンキに挑んでいた。

 

少しの間しか共に居なかったがそれでもわかる程に、リヒト様はキングを信頼していた。私を打倒したエンキよりも、存在が希少でありながらもとても懐いているラピスよりも、その信頼は厚かった。

今思えば、それは嫉妬だったのだろう。自身が信仰する神に、言うなれば一番の寵愛を頂いているキングの存在が、目の上のコブだったのだ。

 

 

だからこそ私は、何度も挑み、殺そうとした。

 

だがそれは叶わず、私は傷一つ付けられずに地に伏す事になり、何度も屈辱を味わった。その圧倒的な力関係に、洗練された暴力に、そして何よりも、己を凌駕する才能に。

群れの大人さえも幼少期に殺せた私は、控えめに言って才能の塊だろう。他の個体よりも優れ、その力の使い方を学ばなくても理解していた私は、世にいう所の怪物なのだ。

 

だが、多くを蹂躙せしめるこの身を、塵芥のようにキングは吹き飛ばした。

 

 

だからこそ、私は学んだ。何度もその動きを観察し、記憶し、戦略を組み立てた。それ故に当時なれ合いを嫌っていたが、背に腹はかえられぬとエンキに頼み込んでキングの殺し方を聞いた。だが、返ってきたのは……

 

 

 

 

 

 

 

『うん?旦那の殺し方か?そもそも死ぬのか?』

 

 

まるで的外れな、使えないものだった。

 

 

『…長い時間一緒に居て、貴方は奴に土を付けられないのですか?』

 

『おう!今の所二百八十三戦全敗、内半数が一撃で負けているな!勝つどころかまともなダメージを与えたのもまだ数度だ』

 

清々しいまでに笑うエンキに、私は愕然とした。リヒト様と出会ったあの日、私を完膚なきまでに叩き潰し、半殺しにしたのはエンキだった。生まれて初めて敵わなかった相手が、殺そうとしている相手に一度も勝てなかったという事実は、私の心を折りそうになった。

 

 

『旦那はなんていうか…星を殴ってるみたいなんだ』

 

『星を?』

 

『そうそう、経験を地層みたいに重ねて、少し害を及ぼそうとしても欠片も効かないのに、あっちが手を出してきたらもうお手上げ。天災みたいに全部ぶっ飛ばしてくるんだ』

 

頭が痛そうに例えたその言葉に、まるで掛けていたピースを嵌めたように納得出来た。

まるで動かず、そしてなんでもないかのように私たちを吹き飛ばすキングのその恐ろしさを、そしてそんな彼に絶対の忠誠を誓われているリヒト様の偉大さが。

 

しかし、だからこそ私はキングを超えたいのだ。私が神の力となり、偽りの神を殲滅する為に、悉くを殺し尽くせるその力が、私は欲しいのだ。

 

才能ならある、力ならある。ならばあとはその道筋と時間である。私は一向に諦める気など無い。なぜなら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

私が、リヒト様の信者だと言うのなら。

 

 

『ではまずは、貴方を殺せるようになりましょう。幸い貴方ならまだ手の届く範囲に居そうなので』

 

『良い啖呵だ!しかし非才なこの身でも向こう五年はこのままでも勝てそうだな』

 

『言ってなさい、その首落としてあげましょう』

 

 

そうして、私は初めてリヒト様の手持ちとして仲間達と心を通わせだした。あれから二年、私は未だにキングにも、ましてやエンキにも勝てない。世界を巡り、多くの偽物をこの手で屠っても、それでも私は、()()には勝てなかった。

だが、だからこそ分かるのだ。私は()()には未だに勝てない。だが__

 

 

 

 

 

『貴様のような()()ならば、私でも殺せます』

 

 

そう叫び、私はこの腕を振るった。

 

 

 

 

__________________________

 

 

お互いの射程圏内が触れ合う。それ故に相手を殺さんと攻撃を放ち合う。

踏み込み、鎌を切り上げるようにその腕を振り上げるヴィーラ。その切り上げの為の踏み込みで大地が割れ、浮遊している土台の島の三分の一が崩れた。

 

その尋常ではない脚力に後押しされた腕は、しかし同じように殺意を持ったギラティナの攻撃に衝突し相殺される。しかしそのぶつかり合いは凄まじく、その余波だけで足元の島の亀裂が深まり、遂に崩壊した。

しかし、それでも戦いは終わらない。

 

崩壊した島の残骸を足場に、ヴィーラは跳躍する。そしてその先にあった島の側面に無理矢理足で張り付くと、その顎を開けて、「りゅうのはどう」を放出した。

圧縮され放出されたその力は、最早ただのりゅうのはどうでは無い、もっと高次元の攻撃と化していた。

 

それがギラティナに直撃する。土手っ腹に打ち込まれたそれに、思わずと言ったように体制を崩した。

それを見逃すヴィーラではない、そうして見せられた隙に、ヴィーラは張り付いていた島の側面を足場にして、全力で跳躍する。そしてそのまま何度も足場を経由し、そしてギラティナの元へとたどり着いた。

 

そしてそのまま、その喉元へと食らいつこうとしたが、そこにはギラティナは居なかった。

 

 

そして、視界から完全に見失ったギラティナに、ヴィーラの真下__

 

 

 

 

 

 

 

 

__足場に出来たヴィーラの影から、ギラティナの強襲を受け、吹き飛ばされた。

 

予想外の攻撃に吹き飛ばされたヴィーラは、遠くの島に激突した。しかし直ぐに立ち上がると、再び殺意を持って腕に力を込める。

そして真っ直ぐ向かってきたギラティナの鉤爪と、その力を纏った爪_ドラゴンクロー_同士が衝突し、()()()()()()

 

 

「…シャドーダイブにドラゴンクローか」

 

『『概ね予想通りではあります、しかし少々きな臭いです』だって、でもヴィーラが押してるよ?』

 

 

殺意のぶつかり合いとも言える正面からの殴り合いを、リヒトとキングとラピスは少し離れた島から眺めていた。

あの最初の激突の瞬間、ボールに入らずに着いてきたラピスに乗ったリヒトは高速で脱出をしていた。その直後島は亀裂が入り粉々となった。間一髪と言うべきの脱出だった。

 

 

『押しているからこそだ、それは奴とて理解しているさ。ヴィーラの専門である伝説殺しとはそう簡単では無い。それはお前自身が身に染みているだろう』

 

『うん!だってボクヴィーラには勝てないけど、ヴィーラに()()()()()()()()()のは簡単だもん』

 

 

そう言って楽しそうにするラピス。その言葉に偽りは無いとばかりに楽しそうにしている姿を見て、キングは改めて目の前の戦闘を見やる。そこでは、飛来する「げんしのちから」を正面から叩き伏せ、「ドラゴンダイブ」によってその体にぶつかる姿があった。

 

ラピスの言葉には、脚色等は一切ない。ラピスは単純戦闘能力だけで言えば手持ちでも最弱ではある。だがその特異性を引き出した場合、圧倒的格上であるヴィーラに敗北を消す事が出来る。

 

それは、ラピスの持ち得る高速戦闘能力と、そのテレパシーからなるサイコメトリーである。

生物としては破格の素早さとその読心能力を掛け合わせるならば、彼女はヴィーラの攻撃を全てかわしきり、敗北という結果にはならないだろう。

『お前のその能力のように、伝説というものはその伝承やネームバリューに相応しい特異性を持つ。かつてエンキが戦った無機物共もしかり、私が屠ったあのトカゲモドキしかり』

 

 

距離を取ったギラティナに、またりゅうのはどうを放つヴィーラ。それは島の影に隠れても止まることはなく、ギラティナの付近にある島々を破壊しながらダメージを与えていた。

 

その様子を見て、キングはラピスに言う。本当の争いはここからだと。

 

 

『ましてや、創世から存在する神と呼ばれる者だ。高々影に潜れるだけの筈もない』

 

『じゃあなんだと思う?ねぇねぇマスター!』

 

 

キングのその言葉に、ラピスは隣にいたリヒトに声をかける。その言葉に、リヒトは少しも考える素振りを見せることなく、呟いた。

それが、わかり切った事だと。

 

 

「…創造主アルセウスは、当時三体の神を作った。世界に流れる時間を管理するディアルガ、世界の存在する空間を守護するパルキア」

 

 

古くから伝わるシンオウの神話、神の作った三柱に与えられた役目の一節を語る。しかしそこで区切ると、ふとギラティナを見た。変わらずヴィーラと激突を繰り返す様子に、冷めた目で続けた。

 

 

「…時間、空間。世界を保つ為にあるその二つは神の手から託された。では、イレギュラーを起こしこの世界の管理を任されたギラティナは、恐らくは奴にも二柱と同等の、世界に対する権限が与えられている筈だ。ならばそれは何か、それは__」

 

 

 

 

リヒトがそういった瞬間だった。

 

 

再び距離を取ったギラティナに、苛立ちと殺意を持ったヴィーラは、再び「りゅうのはどう」を放とうとした。

 

圧縮された巨大な龍の力がその顎に集まり、そして収束されたその力の奔流は、指向性を持ってギラティナの方へと打ち出され__

 

 

 

 

 

 

 

 

 

被弾することは無く、ヴィーラの顎の中で暴発し、ヴィーラを傷付けた。

 

突如として起こったその現象に、ヴィーラは困惑したが、それもただの一時。ならばとその爪に力を集め、「ドラゴンクロー」を準備し_再び暴発した。

 

いつも通りの筈のその力の行使、しかしそれが完成しない現状に、ヴィーラは違和感と、また心のどこかで()()()()()()()()()。そして、渦巻いていた殺意を更に膨れあがらせた。

 

 

 

 

___偽物が、貴様も小細工か。

 

 

そう呟いたヴィーラは、真っ直ぐギラティナを睨みつける。

 

その視線を、ギラティナは真っ直ぐ見つめ返した。そして少し体をうねらせた。すると()()()()()()()()()()()()()()()()()()

パラパラと崩れたその土塊に、ラピスとヴィーラは目を見開く。しかしキングとリヒトは平然とその様子を眺めており、何一つ動揺していないようだった。

そして、その様を見たリヒトは口を開く。遮られたその言葉を、その口から告げた。

 

 

 

「世界を構成する物質への絶対的な破壊権。かの創造主がギラティナに与えたのは、反物質を操る能力だ」

 

 

その呟きは、決して大きな声とは言えなかった。だが、忠誠を誓う神の言葉を聞き流すようなヴィーラではなかった。

告げられたその事実に、隠しきれない冷や汗が伝う。目の前の偽物の、強大な力に、ヴィーラはその汗を気づかないようにして向き合う。

 

ギラティナは、じっとそこに佇んでいた。しかし先程とは明らかに違う何かが感じられた。見れば、ギラティナの視線はヴィーラでは無く、その後方で二体を見ていたリヒトに向けられていた。

 

 

『__ここまでとは、やはりあの日彼を見つけたのは間違いではなかった。種を逸脱し格を超越した貴様らは、やはりこの世界に存在してはならない』

 

そう、静かに口にしたギラティナは、正面に居るヴィーラに向き直る。そしてその巨体を揺らすと、言葉も無く襲いかかった。

 

 

その身に、破壊の権能を纏って。





オリ技 背反の権能
技を使ってから5ターンの間敵は全ての既存の技が発動しなくなる。攻撃はもちろん積み技も禁止。しかも暴発してダメージをくらう。実機なら(ry。

ほら女の子同士がイチャイチャ(殺し合い)してるだろ?喜べよ友人、百合(拡大解釈)だぞ?
尚この考え方ならブラックラグーンもヨルムンも恋愛漫画になる模様。物事は捉え方だよ諸君。

本音を言うと百合はちょっと苦手です。明確な理由としては多分、小学生時代に見た咲を、純真な当時の私が、咲と京ちゃんの恋愛麻雀漫画だと思って読み始めたからだと思います。ごめんね小学生の私、それ百合なんだ。


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