吾輩は転生者である、名前はまだ無い。
どうやら死んだら一般人は天国や地獄へ行くのではなく転生するらしい。そしてその書類待ちの最中で一人『ぼけー』っとしているのが僕だ。
普通に死んだ場合は記憶を綺麗に消されて転生するらしい。しかし、不慮の事故や他殺などといった人には所謂『特典』というものが付与されるそうだ。
僕も一応は他殺という括りにはいるので特典というものが貰えるらしい。
実のところ僕はそこまで長生きしていない、というか小学生にもなっていない。両親からネグレクトを受けていたので過度な栄養失調で死亡したらしい。さっき死役所の人から聞いた。
ともあれ僕は最近では珍しい『転生科特典付与室』という部屋に連れてこられた。数年に一人来るくらいの頻度の場所らしい。
全て渡されたプリントに書いてあった。
『えー、久しぶりだなここで仕事すんの……じゃー始めよっか』
スーツを着た気だるそうなおじさんの言葉によって僕の判定が始まった。
『えーっと、白戸 黒尾 5歳、極度の栄養疾患で誰にも発見されることなく死亡。生前は母親から暴力を受けており乳歯とはいえ前歯が二本臼歯が一本欠けている』
そこまで知ってるんだー、と思いながらおじさんの話を聞く。
正直に言う鏡で歯なんて見てなかったから欠けてるのに気付かなかった。
『近隣住民から異臭がすると警察に連絡が入り仏となった君を発見に至り、両親は三日後に発見され逮捕される。これで間違いないね』
僕が死んでからのことなんて分からないんだから、どうと言われても困る。でも多分これって僕のことだよね……。
「はい、多分そうだと思います」
『おや中々歳の割にしっかりしてるじゃないか……おっとすまないそうでもしないと生きてこられなかったんだね』
確かにその通りだ、常に敬語で話さないと殴られたし僕がしっかりしないと周りの人達に助けてもらうこともできなかった。実際助けてくれた人なんていなかったけど。
『うん。君には三つまで特典を付与するように申請しよう』
「あの、すいません。その『とくてん』ってなんですか? 何か貰えるんですか?」
『ああ! そうだった君は学生でもないし本なんて読んだことないから君達の言うところの『テンプレ』というのを知らないんだね』
「てんぷれ?」
『ああ、忘れてくれ。君には知る必要のないことだよ…………そうだな特典というのは一括りにすごい力とだけ思っててくれたらいい。それは才能だったり武器だったりと形は色々なものがあるが、大半のものはあって困るものでは無いから問題ないよ』
その大半以外が気になったりもするのだが……気にするなと言われた以上気にしない方がいいのだろう。
『何か要望はあるかな?』
「えーと……それじゃあ美味しいご飯が食べられるようにしてください」
『あはは! そうだね今どき栄養疾患で死ぬような子供だ、美味しいご飯は食べたいよね……あーいや、悪気があったわけじゃないんだ、気に触ったなら謝るよ。そうだなー』
あ、これなんかいいんじゃないか? と言いながら分厚い辞書のようなものから一枚ページを破りこちらへと見せてきた。
そこには『トリコの世界で料理人として大成できる器と才能』とかかれてある。
『食べたいなら自分で作れるようになればいいと思うのだけどどうかな? ……ああ! なるほど『トリコ』は分からなくて大丈夫だよ。恐らく君の来世には全く関係の無いことだから』
『さあ、どんどん行こうか。次はどんな特典が欲しい?』
「……えっと、いや、……あの。もう大丈夫です。よく分からないので」
『あれ? 君は無欲なのかい? ダメだよこんな場はもう訪れない。君みたいな
そう言われて少し考える。
「えっと、なら運を良くしてください。まともな家の子に生まれられるくらいの」
『そうだね、君にそれは必要なことだと思うよ。よし、じゃあコレだね』
『幸運』
『これで選択問題なんかは問題ないね。あ、まだ小学生にもなってなかったのか……これは失敬。とはいえこれで最後は何にするか』
そういうが何となくこの人は僕への特典を誘導しているような気がする。さっきも運について敢えて強調していたように見えなくもない。
『最後は大して何も無いからクジにしようか。才能と運、世界でのし上がるためのものは既に手に入れているからね』
そう言いながらどこからともなく箱を取り出して僕へとそれを向ける。
『さぁどうぞ。これでもうズルはなしだ』
何となくこの言葉で見透かされているような気がした。
確証があった訳じゃないが、何となく……そうとしか言えない。もしかしたら僕の考えていることが分かるのかもしれない。今もだるそうだがニヤニヤとしている。
正直言ってどうでもいいので何も考えずにクジを引いた。
『ポーカーフェイス』
──それじゃあサヨナラ、転生者くん。
●▲■○○○■□▪▫
吾輩は転生者である、名前はまだない。
……嘘である。
名前は『
そして僕は転生者だ。
と言っても記憶が殆どない、あるのは『特典』と呼ばれる世にも珍しいものをさずけられた所だけ。死因などは書類で拝見したが今想像しただけで身震いするようなものだ。しかし自分のことだと言われても正直ピンと来ない。何せその記憶が無いのだから、ニュースでやっている殺人事件の被害者と同じ感想しか出てこない。
というかそれ以外にもツッコミたいことはわんさかある。
まず一つ、『幸運』なんてない。確かに選択問題では困らないけど学生では宝くじも買えないしギャンブルもできない。
なんだよ期待させやがって、確かに料理は上手く作れるけどさ……。けど調理中に『食材の声』が聞こえるのは嫌だ、なんか凄い断末魔みたいなのをあげるやつもいれば、ドMここに極まれりの奴もいる。というか焼き終わるタイミングや、捌き方ベストな調理法まで教えてくる輩もいる。というか大体そう。そこが本当に困る。調理中にガヤガヤうるさい。
そして大問題なのが『ポーカーフェイス』。
そうだな、実体験を語っても意味なんてないからな……。取り敢えず一つだけ……。
──僕の表情筋が死んだ。
あ、死んだと言っても完全に死んだ訳じゃない。ご飯も食べられるし話すこともできる(口数は少ないが)とにかく問題は無いのだが……。喜怒哀楽が相手に伝わらない。笑わない怒らない悲しまない。それはもうある意味人間として終わっているのではないか?
誰だよ『ポーカーフェイス』とかいうクソなの引いたの。
(僕だよ!!)
こんなことなら適当に引かずに、もっと真面目に引けばよかった。
そんなことを思いながら僕は今日も調理場へと向かう。
しかしながら学生の身であり実家が店である訳でもない。なんなら実家ですらない。
今世で僕は多忙な両親の元に生まれた。日本を飛び回ったり海外に飛び回ったりと多忙な人達だ。しかし前世と違い愛は受けていると思う。月に割と凄い額のお小遣いが入るので過保護が過ぎると息子自ら注意しなければいけないほど色々とやばい。
月の生活費で7桁も寄越してくる両親の正気を疑う。というか存外セレブなのかもしれない。僕自身がセレブに染まらないのは前世の影響があるからなのかもしれない。
ほら、だってあれだぞ。児童虐待だぞ。
そらなるわ。
ということで、色々あって父の弟である清滝 鋼介さんにお世話になっている?
苗字が違うのは父が婿養子だからだとか、母の実家はヤバイ。とにかくヤバイ(語彙力)。
所謂日本の名家というやつで、本当にヤバイ。
「…………」
できたご飯を食卓に並べる。
鋼介さんと少し歳の離れた従姉の桂香さん。見慣れた光景だ。
手軽に作れる目玉焼きにウインナー、そしてトースターで焼いたパン。昨日テレビでやっていたジブリを見てから今日の朝食は決まっていたと言っていいだろう。
「ほな、いただこか。いただきます」
「いただきます」
少し間を置いてから……。
あれ? 口が動かない。
頑張れ僕の頬筋とか外側翼突筋とか!!
せめて食事の時くらい普通に動け!!
「……いただきます」
(よし、言えた)
今日も清滝家は平和である。
次回、復讐者(笑)現る。デュエルスタンバイ!!
オリ主の名前
小松→松田 小太郎→松風 小太郎→松風 虎太郎
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復讐者現る
特に『銀の匙』の一話をみれば卵かけご飯を食べたくなるのは避けられない。
皆さん、卵黄の醤油漬けを知っているだろうか?
そのままの字の通り、卵の黄身だけをとって醤油、または味醂などに一日近く漬けさせておく料理だ。
人の好みによって漬ける時間は変わるのだが……どうやら僕の場合は違う。
『旦那!! 今すぐあげてくだせぇ!! 醤油が──!!! アッシが醤油ごときに!!』
『我を黒に染めあげようというのか!! 良かろうだが、我を侵食できるのであればな!!!』
『ふー、極楽極楽。若い衆は騒がしいの〜』
食材の声……マジいらない。
一日近く漬けなければいけないのだが、その一日間は頭の中に食材の声が響く。故に眠れない。
確かにこいつらはベストなタイミングを知らせたりしてくれるが、そこに至るまでが騒がしい。三個目の卵は当たり臭いが、一番目はとにかく五月蝿い、それで二番は痛い。
あと10時間以上もこの声を聞き続けるのが地獄でしかない。
僕自身こういった漬けたり寝かしたりする料理は好まないのだが……。今回これを作っているのには訳がある。それを話すには数日前の出来事を話さなければいけないだろう。
○○○◽︎◽︎◽︎△△
「内弟子!!??」
桂香の声がリビングに響く。というか本気でビビった……心臓が止まるかと思った。
というか鋼介さんが小さな女の子を傍らに連れている。
(内弟子ってなに!? 隠し子!! 隠し子なのか!!!??)
まさかの修羅場かと思えばそんなことは無く、親元を離れて将棋の指南を受ける人のことを内弟子というそうだ。
というかこの歳で親元を離れるなんて……。いや、何も言うまい壮大なブーメランが突き刺さりそうで怖い。
「ほら、自己紹介できるか?」
「……」
鋼介さんにそう言われるが内弟子の子は自己紹介しない。というか三、四歳の子供に自己紹介はキツいだろ。
え? 僕? 7歳ですけど無理ですよ? それが何か?
というか僕は悪くない、ポーカーフェイスとか引いたやつが悪い。
誰だよそんなクソみたいなの引いたの……。
……僕じゃん。
と、くだらない事を考えていると桂香さんは大反対しながらも鋼介さんに説得され渋々と言った具合。
「コタ、お前はいいんか?」
えー、そこで僕に振るの。てか僕も居候だからこの子のことについて僕なにも言えないし……。
というか口が動かない。仕事しろ表情筋!!
──コク
「そか」
頷くことで反応をする。
三人から四人に変わっても正直やること変わらないし、料理も一人分くらいなら苦ではない。なんならおかずが一品増えるまである。なにそれ楽しい。
だから僕は断る必要は無い。
そんな形で清滝家には清滝姓以外にも、松風と空が加わった。
尚鋼介さん経由で空 銀子の自己紹介は滞りなく終わった。
と、これまでが簡単な話なのだが……。
桂香さんは銀子ちゃんをよく思っていない。というか毛嫌いしている説が浮上するまでだ。
理由は簡単に血の繋がっている僕のようなのは仕方ないが、なぜこのこの面倒まで見なければいけないのか。みたいな理由だと思う。
中学三年で受験もあるし、色々と溜め込んでいるのだろう。
今度勉強中にホットミルクでも差し入れしてあげよう。
ともあれ鋼介さんはプロとして多忙であるし、桂香さんは受験で手一杯。自動的に面倒を見るのが僕しかいないわけなのだが……。
(……うん、ごめん。会話が続かない。というか始まってすらない)
ある程度この子の身の上事情は鋼介さんから聞いた。
病院で生活していたが、こういった内弟子のような環境に身を投じた方がいいのではないか? とか確かそんな感じだった気がする。
そんなシビアな話をされても小2にどんな反応をしろと言うんだよ。いや、何もしてないんだけどな。
取り敢えず僕は銀子ちゃんのお世話係的なものになった。
「お腹空いた」
始まりはそんな一言だったと思う。小学校から帰って鋼介さんと入れ替わりになった時に銀子ちゃんから言われた言葉だ。
というか初めての会話だと思う。
今日は鋼介さんは将棋会館の方で夜遅くなると言われていたし、桂香さんも勉強会とお泊まり会をするといって夕飯は要らないと言われている。
というか桂香さん、それは勉強しないフラグです。
今日は二人だけしかいないので早めに夕食を作ることにした。
何か食べたいものとかあるのか?
と思いつつも、先に食材を買ってしまったいるので早速調理に移る。
といっても大阪なら他県の人達が考えるのは『たこ焼き』か『お好み焼き』の二つだろう。内弟子になっているくらいなのだから、恐らく他県。ここは大阪ならではのおもてなしをしなければ(使命感)
というわけで今日はお好み焼きにしようと思う。
二人でタコパは流石に悲しくなるしな……。
どのお好み焼きにするかって?
何言ってんだ? お好み焼きはお好み焼きだろ?
広島?
お客さん、ここどこだと思ってるんでい。ここはナニワですぜ。
もんじゃ? それは東京の郷土料理だ。
正直広島とか言われても作れるけど美味しくは作れないと思う。だって作ったことないんだから。モダン焼きはあるけど……。
ともかくいつも通りに作ろうと思う。
キャベツを千切りにして肉も一口サイズにして一緒に掻き混ぜる。鉄板やホットプレートなら別々にするが、家庭にあるフライパンでは別々にする必要性は感じない。いや、美味しいけどさ。
ちなみに粉は多めだ『それ邪道〜』とか『にわか乙』とかいうやつもいるが、ちょっと待って欲しい。いっぺん食ってみろと。絶対ハマるから……しかしダイエットには向かない。
それから混ぜすぎないようにする、それは気泡が入ってて焼く時に広がらないのでフワフワしてて美味しいからだ。
と、まぁこんな感じだ。
ほら、調理中に考え事しすぎだって。
だってほら、ほかの事考えてないとヤバい奴らの雑音が入ってくるだろ(白目)。
「……」
無言で食卓に四枚のお好み焼きを中心に置く。
僕が手を合わせて食べ始めると、銀子ちゃんも釣られるように「いただきます」と言いながら僕に続くように食べ始めた。
(ちょっと舐めてたかもしれない)
銀子ちゃんはお好み焼き二枚をペロリと平らげた。
なんというか、本当に一瞬の出来事だったのだ。サメの捕食とか、カメレオンのハエの捕食だとか。それと同じようなレベルの食べっぷりだった。
「おかわり」
食べ盛りの子供にこれだけは少しダメだったか?
次からは少し多めに作るか……。
とはいえ今から何か作るにしても限られる。
締めのラーメンと言いたいところだが、幼児二人が外にいていい時間ではないので補導でもされたら後々面倒なことになるだろう。
しかし作るにも時間がかかるし……。
(冷蔵庫になんかあったっけ?)
そう思いながら冷蔵庫に手をかける。
見たところ先程のお好み焼きで使って余っている卵とキャベツ、あとじゃがいもに鶏肉が一パック。ニラにカイワレと言った具合だ。
うむ、何も無いな。お手上げだ。
料理と呼べるか怪しいが、あれで行くか……。
まずはジャーから熱々のご飯をだす。
そして別皿に卵を割って、卵黄だけを抜き卵白は熱々ご飯と欠けて混ぜる。
すると白米が卵白を吸って米がフワフワとなる、そして最後に卵黄を上に乗せて割る。
以上。
これが本当に美味しい。
普通に別々に混ぜる卵かけご飯とは食感が違うのだ。これなら顎の弱い子供やご老人にも安心して食べてもらえるだろう。
「醤油は好みで」
そう言うと銀子ちゃんは醤油をぶっかけた。
うん、かけすぎだな。
食材の声断末魔が今頭に響いたぞ。
「病気になるぞ?」
「でも、こくないとおいしくない」
なるほど銀子ちゃんは濃い方が好きなのか。
というかこの卵かけご飯は流石に濃すぎる気も……ていうか下の方で醤油が溜まっている。
仕方ない。
「明日は休みだから味の濃い卵かけご飯作ってやるよ」
「…………うん」
少し変な子ではあるが、意外と律儀な子なのかも……。と思わなくもない。
その後は一緒に風呂に入ってから将棋を指して寝た。
なんというかあれだ、内弟子でここに来るようなこなんだから下手くそな僕ではサンドバッグにもならなかったみたいだった。
全戦全敗、銀子ちゃんマジやばくね。ほんとに4歳なの?
後日、醤油漬けしておいた卵黄を白米の上で割らせて食べさせた。
結果銀子ちゃんの好物が増えたとか……。そして銀子ちゃんの実家は大阪であることを知った。大阪人に大阪料理でもてなすとか…くそ、恥ずかしい。
次回、未来の竜王来る!
ある動画でこの卵かけご飯のやり方を見つけて以来、時間に余裕がある時はこの食べ方で食べてます。マジで美味いからやってみて(切実)
俺が思うに卵かけご飯の食べ方で言い争えるのは日本人くらいな気がする。普通派と卵白メレンゲ派と醤油漬け派、それ以外にもかけるのは醤油とか塩とか偶にケチャップとかいうのもいるらしいからな。
それと地元ならではのB級グルメとか教えて欲しい。
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