新たな仲間を……あら、葉巻? (上新粉)
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疑問符まで含めて私なんです。

皆様初めましての方は初めまして!
過去作品をお読み頂いていらっしゃるか方はお久しぶりです!
そしてお待たせしてしまい申し訳御座いませんm(_ _)m

現在連載中の作品も必ず完結させる所存ですのでどうか記憶の片隅にでも置いといて頂けると幸いです!(現在低速執筆中)









私は日本が誇る超兵器が一つ、超巨大ドリル戦艦【あら、葉巻?】。

弟想いで心配性な艦長達が今日も今日とて私とアマテラスを連れて末弟が艦長を務めるアラハバキがタイマンを張る海域へと向かっていた。

どうして個人的な私闘に我々超兵器を使用しているのかとか、そんな個人的な私闘に更に超兵器を二隻も投入するのはどうなのかとか色々言いたい事はあるが伝えられないので仕方ない。

 

さて、今回の相手は……はぁ、あれは海防艦だろうか?

生意気にも拡散荷電粒子砲を二基積んでいるがあれじゃああの子の主砲が掠っただけでも沈みそうだ。

これなら今回もアマテラスや私が出る必要はないわね。

 

そもそも超兵器に単艦で対抗出来る艦艇など超兵器以外に存在しないし、その中でも私達姉妹は頭一つ抜けていると自負している。

そんな私達を相手にあんな小さな艦艇一隻でどうにか出来るはずが……。

 

「グレた末弟を撃破っ!」

 

は?

 

「にーちゃーん! こいつらがいじめるよう!」

 

まさか超兵器どころか駆逐艦にも満たない様な艦艇一隻にアラハバキが負けた!?

 

余りにも想定外の事態に演算処理が追い付かずにフリーズしている内に次兄艦長が地団駄を踏みながらアマテラスが戦域へと入って行く。

その背中が視認出来なくなった頃、私は艦長の指示を受けて漸く我に帰り戦闘準備を進める。

アマテラスは電磁防壁が無い為奴の荷電粒子砲こそ防げないが、アラハバキより耐久が高く更には私と同じ兵装で406mmガトリング砲という嘗てのビッグセブンを冒涜するような機関砲を搭載している。

 

これでは幾ら早くて小回りが効こうと全て避けきる事など……。

 

「影の薄い次兄を倒しました!」

 

おい…………よくも我が姉妹達を可愛がってくれたなぁ?

ミジンコの分際でよくも……ゆるせないっ!

私の背後を取ろうなどと小賢しい!

 

「「我が名は【あら、葉巻?】ドリル三兄弟(姉妹)の長兄(長女)なり!」」

 

ガトリングでハチの巣にした後このサーキュラーソーと二対のドリルで粉微塵にしてくれるわぁ!!

 

 

 

 

「超兵器撃破っ!」

 

「げばらっ!?」

 

なんなんですか!最高速176knot(≒326km/h)を誇るこの私が追い付けないですって!?

それにあの重力防壁はなに?私のガトリングはそこらの豆鉄砲とは訳が違うのよ!?

……いや、それに関しては今の科学力を以てすればどうにかなる事は知ってますとも。

 

まぁ簡潔に纏めればチャフと超重力電磁防壁と旋回性能で私の兵器が全て無力化された……ただそれだけ。

 

私が沈んでから僅か一分足らずで海中に没して行く妹達。

 

ああ、私は一体何処で間違ったのだろうか。

()()()は無かった訳じゃない。

それをすれば少なくとも私は生き残れたかも知れない。

 

だがそれは妹達を……そして艦長をこの手に掛ける事と同義。

私にはその選択は出来なかった。

私だけ残っても仕方ないし、それに馬鹿で口は悪くても家族想いで心配性な艦長は……存外嫌いじゃ無かったのだ。

 

艦橋で満足そうに腰を降ろす男に苦笑しながら海中から空を仰ぐ。

 

超兵器として生まれた私は今まで他国の超兵器と戦った事などただの一度も無かった。

それは存在自体秘匿されていたからというのもあるが、なによりそうするメリットがほぼ無い。

実際こっちが被害を受けながらも何とか超兵器一隻を落とすより、無傷で敵艦数百を沈める方が戦略的に有効なのだから。

 

だが、艦長の満足そうな顔を思い出して漸く理解する。

雑魚を散らすだけの作業の様な日々より、より強い相手と戦いたい。

きっと艦長達はそう思ったからこそ超兵器(私達)を私闘に用いたのだろう。

 

私にも今ならその気持ちが理解出来る。

妹達と協力し艦長と共に全力を尽くしてなお越える事が出来なかった小さくも力強い海防……いや、役割からして超小型駆逐艦と言った所か。

 

きっと奴はこの先も数多の超兵器を打ち倒し、いずれ伝説の究極超兵器すら……。

 

まぁ、それは最早私達には関係の無い話かな。

それよりも自分のこれからを考えなくちゃ。

 

このままでは艦長はいずれ息絶えてしまうだろう。

たが彼は私と運命を共にしようとしている。

 

私としては助けられるのなら彼には助かって欲しいのだけれど、残念な事にその事を伝える手段が無い。

ならば私も彼と運命を共にする覚悟を決めよう。

 

直後、限界を迎えた艦橋の窓が砕け海水が流れ込むが、私は艦長が海に放り出されない様に電磁防壁で包み込む。

そうしてそのまま私の超兵器機関が活動を停止するその時まで艦長の身を守り続けた。

 

艦長、来世はもっと暖かい所で貴方と平穏に暮らせる事を……祈って……いま……す。

 

 

 

 

ドリルの咆哮 ~完~

 

 

 

 

 

……と、私達の物語は本当なら此処で終わる筈でした。

だが私の超兵器機関が終わりを告げる直前、私達の前の空間が歪み始める。

 

『汝は斯様な水底で眠る様な器ではない』

 

あなたは何者ですか?

 

心の内側から呼び掛けられる様な声に居心地の悪さを覚えながら尋ねる。

 

『余は異なる世界を見つめる者。汝に新たな活躍の場を与えてやろう』

 

声の主はそう言うと私の理解などお構い無しに空間の歪みは更に拡大していき、やがて私を丸々包み込んだ。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

は?一体何が起きたの?え、水底……あれ?

 

突如現れた空間の歪みに飲み込まれたと思ったら海上に立っていた。

 

いつの間にか浮上した?

いやいや超兵器機関が止まろうとしてたのにこの巨体が浮上出来る筈がない。

 

異次元……はは、まさか?そんなの究極超兵器の彼女でも出来ない筈だ。

いや、別の次元にも彼女の様な究極超兵器があるのならば考えられる話でしょうか。

 

未だ納得出来ない思考を仮説を立てて無理矢理押さえ付けると、今の状況を整理する。

周囲に何も無いのは記憶にある海と変わりは無い。

 

日の傾き具合からして明け方でしょうか?

レーダーにもソナーにもこれと言って反応は無い。

後出来る事としては自身の艤装の確認位ですが……。

 

「…………はい?」

 

センサーが故障したのでしょうか?

私にはドリルやらサーキュラソーやらを両腕に着けた女性が海の上に立っているように見えるんですが。

 

「っていうかこの身体って……もしかして……」

 

「もしかしなくてもお前自身だ【あら、葉巻?】」

 

「ひあっ!?い、今の声は!」

 

いきなり耳元から飛び込んで来た声は私の良く知る艦長の声だ!

 

近くに居るのかと慌てて周囲を見渡すがそれらしき男の姿は見当たらなかった。

 

えぇ……まさか幻聴?

あの人の幻聴が聞こえてくるなんてどうやら私は自分で思っていたよりメンタルが弱かった様だ。

 

「おい、こっちだ。お前の右肩の上に居るだろうが」

 

「へ、みぎ?」

 

視線を右舷方向へ向けるが軍服に身を包んだ小さな人形が置いてあるだけでやはり艦長の姿は見当たらない。

 

……え?もしかして?いや、そんな馬鹿な。

 

「か、艦長?」

 

「ああそうだ、お前の艦長の荒だよ」

 

そう言って目の前の小さな人形の様な生き物は右手を前に突き出した。

 

「あの、艦長。どうしてそんな姿をされてるんですか?」

 

「知らん。つかお前に言われたかねぇよ」

 

「私?そう言えば先程から違和感があるのですが、一体私の船体はどうなってしまったのでしょうか」

 

恐る恐る訊ねる私に艦長は非情な現実を突き付けた。

艦長曰く嘗ての破壊の化身の如き鋼鉄の姿ではなく、肩に掛かる黒髪と端正な顔立ちの見た目麗しい大和撫子の様だとの事らしい。

 

まさか艦長からそんな歯の浮くようなセリフが出てくるとは思っても居なかったがそんな些細な事はどうでもよかった。

 

私の自慢の船体が……こんな今にも折れてしまいそうな貧弱な姿に。

 

「お、おい。そんな凹むなよ。兵装はお前のなんだしもしかしたら性能はそのままかも知れんぜ?」

 

「それは……まぁ、試してみますが」

 

艦長は分かって居ない。

あの人間から畏怖の念を一身に向けられる美しき破壊者としての姿を……。

こんな姿で暴れ回っても誰も恐れてくれませんよ。

 

内心で愚痴を吐露しつつも機関出力を上げていく。

 

「ちょっと待て!落ちるっ!落ちるっつうの!」

 

「人の身体では艦長の居住スペースなんて……あ、此処で良いですね」

 

「ちょいまっ!?」

 

私は艦長を優しくつまみ上げるとバイタルパート付近にある二つの膨らみに出来た隙間に乗艦させた。

 

「徐々に加速していきますので気を付けてくださいね」

 

何故か抵抗しようとする艦長を押し込んで更に加速して行く。

 

うん、推力は特に変わらないみたいね。

 

やがて最高速へと達した時、突如海面から黒い何かが飛び出してきた。

 

「グオォォォォッ!」

 

「へ?何ですかあれ……って、あ」

 

「ギィヤァァァァッ!!」

 

黒い物体は何者か確認する間もなく足元に取り付けられたサーキュラソーに巻き込まれミンチになってしまった。

 

「あー……まぁ魚か何かでしょう」

 

「叫んでたがな」

 

一応速度を下げて戻ってみるが既に沈んでしまったのか黒い何かの姿は見当たらない。

 

……まあ良いですよね?

 

特に何も無かったと開き直り再び機関出力を上げようとしたその時。

 

「グゴォォォォッ!」

 

「ギャァァァ!」

 

「ゴガァァァッ!」

 

再び海面から三匹の黒い魚の様な何かが飛び出してきた。

 

「あれも……魚でしょうか?」

 

「砲塔を乗せてんな」

 

砲塔……もしかして私と同じ様に姿が変えられた超兵器?

それなら話が出来るかもしれないですね。

 

「聞こえますか!こちらは日本国の超兵器です!そちらの所属を教えて下さい!」

 

しかし相手は答えることなく主砲を放ってきた。

 

実弾ですか……避ける事は簡単ですが相手の力量を見極める為にも一発だけ被弾しますか。

 

「艦長、一発だけ被弾する事をお許し下さい」

 

「ならん、回避せよ」

 

「了解」

 

艦長の指示通りにノーフレームで面舵を取り加速する事で砲撃を切り抜ける。

 

「では艦長、敵勢力を殲滅しますか?」

 

「ああ、一人として逃がすな」

 

「了解」

 

私はすぐ様舵を反対へ切り直し黒い奴らを二对のドリルで次々と引き裂いて行った。

 

「殲滅完了、付近に更に反応を感知しました。殲滅しますか?」

 

艦長は少し考えてから答える。

 

「いや、対話が出来る相手なら今は少しでも情報が欲しい。この世界の事を知らずに動くのはリスクが大きい」

 

確かに艦長の言うことは尤もだ。

それに私の速度を以てすれば余程の事が無ければ逃げ切れる。

例え余程の事があったとしても艦長一人なら逃がす事は出来る。

 

「了解しました。それでは相手に接近致します」

 

「ああ、相手と同じ速度でな」

 

「はい」

 

相手と同じ…………30knot以下?

出せるかしら?

私達超兵器は他の艦と足並みを揃える様には出来てないのでそこまで速度を下げる減速機は搭載してない。

 

その為、私は機関を動かして止めてを繰り返し凡そ30knot前後をどうにか維持していた。

 

それから暫くして互いの姿が見えてきた所で無線のオープン回線から声が入って来る。

 

『おーい、聞こえてっか?やっぱ気のせいだったのかなぁ』

 

『ドロップ艦が動く事例だってゼロじゃないわよ〜?』

 

『そりゃそうだけどよ。結構な速度でこっちに向かって来てたんだぜ?』

 

ドロップ艦?なにやら良く分からない話をしてますが取り敢えず返事をしておきましょうか。

 

「呼んでいるのは私の事でしょうか」

 

『お、聞こえてたか。俺の名は天龍、お前の名前を教えてくんねぇか?』

 

「俺らを知ってる奴が居た場合面倒になるかも知れん。適当に名乗っ━━むぐぐっ!?」

 

指示を出す艦長を隙間の奥に押し込めて言葉を遮る。

 

私だって正直あまり名乗りたくはないのですが、お上の方に付けて頂いた名前ですから偽るのは不敬ですよ。

 

「私は超巨大ドリル戦艦【あら、葉巻?】です」

 

『アラ=ハマキ?海外艦か?つかなんで疑問形なんだよ』

 

「なんですか?人の名前に文句があるんですか?それと疑問符まで含めて名前ですのでお忘れなく」

 

『あ、いや……わりぃ。そういうつもりじゃねぇんだ』

 

私が軽く怒気を含めて聞くと天龍は少し狼狽えつつも謝罪を述べた。

 

いえ、まぁ文句なら私が言いたいんですけどね。

 

「それで天龍さん?ドロップ艦と言うのはなんでしょうか」

 

『ん?ああ、原因は解ってないらしいが時折お前みたく海上で一人突っ立ってる艦娘が居るんだよ』

 

「ほう、それでその艦娘?をどうするんですか?」

 

『まぁ……既に在籍してる艦じゃなきゃ基本的には保護した鎮守府で運用する事になるぜ』

 

成程。私がそのドロップ艦かどうかはさておき、そのシステムは使えますね。

私の名前に違和感を感じていたので少なくとも同名艦は居ないのでしょう。

 

「そうでしたか……それで、天龍さん。私はそのドロップ艦と言うものなのでしょうか?」

 

『あー……まぁ、ちょっと気になる所はあるが提督がドロップ艦として連れてこいっつうからそうだな』

 

成程、艦隊の頭が決定したのなら私の扱いはドロップなんでしょう。

 

私に対する警戒を少し緩めた天龍達が声が届く距離まで来たので無線機を戻して改めて自己紹介を始める。

 

「改めまして、超巨大ドリル戦艦……です。これからよろしくお願いしますね?」

 

名前は天龍から伝わるでしょうし良いですよね?

 

「俺が天龍型軽巡洋艦一番艦天龍だ。フフ、怖いか?」

 

こちらの左目に眼帯を着けたお茶目さんが天龍さんですね。

 

「同じく天龍型の二番艦龍田だよ〜?よろしくねぇ?」

 

服装以外は姉妹艦とは思えないふんわり系の龍田さん。ただ目だけは一ミリも笑ってないですね。

 

「特三型駆逐艦一番艦暁よ!レディとして扱ってよね!」

 

随分と可愛らしいレディの様ですね。

 

「響だよ。その活躍ぶりから不死鳥の通り名があるよ」

 

私も不死鳥って呼ばれないかしら?

……まぁ、そんな華やかな通り名は着きませんよね。

 

「雷よ!困った事があったら何時でも頼りにしても良いのよ!」

 

あら、頼もしいですね。

元の世界に戻りたいなんて言ったら困らせちゃうでしょうか?

まぁ、私の船体と姉妹達以外にはあの世界に未練はありませんけれど。

 

「電です。よろしくお願いします」

 

ええと、何か怯える様な事したでしょうか?

そんな小動物みたいに震えなくても良いんですよ?

あ、よく見たら所々に先程の方々から噴き出してきた青い体液が付いていましたね。

 

まぁ……それでも第一印象は概ね上々と言った所でしょうか?

結果論とはいえ心配性な艦長を奥に押し込めておいて正解でした━━ってあら、いつの間にか気絶されてましたか。

 

気を失った艦長を右手に持ち変えるとそのまま天龍さん達の後をついて行くのでした。

 

 




Q.あら、葉巻?が長女って事は三隻の中で一番最初に造られたのですか?

A.原作参戦順としてはアラハバキ→アマテラス→あら、葉巻?ですが、本作では彼女達はコンセプトが同じなだけで実はそれぞれがネームシップとしています。(ドリル三兄弟と関係を合わせたかっただけです)

Q.あら、葉巻?が呼び辛い

A.あら、葉巻?「愛称を下さい」

Q.続きますか?

A.おもいつき100%なのであまり期待せず。


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あなたが提督ですか……珍しいですね。

反響も頂きまして私としても書きたい気持ちが漲っておりますので続きを書かせて頂きました。

作品としては長くはならないと考えてはおります(未定)のでどうぞお付き合い下さいませ!

※本作のあら、葉巻?は原作のエクストラステージ出身という経歴の影響を受けています。端的に言えば時折アホだったり残念な子だったりしますのでご注意を。

カッコ良くて強いあら、葉巻?をご希望の方は投稿して私に教えてください!私も読みたい!





天龍さん先導のもと鎮守府へ向かっている途中、彼女達の少し後ろで私は艦長に叱られていました。

 

「全く、お前はもっと慎重に動く事を覚えろ!」

 

「……すみません」

 

「俺だって腰を落ち着ける場所が必要だとは思ってる」

 

「そうですよねっ!艦長も同じ考えでいて下さって嬉しいです!」

 

「調子に乗んなっ!」

 

「あうぅ」

 

私だって少し勝手が過ぎたとは思っています。

それでもこんな海の真ん中に艦長を放浪させる訳にはいきません。

 

その為なら少しのリスクを背負ってでも優先するべきだと判断したのです。

 

「……はぁ、お前は平穏に暮らしたいんだろ?鎮守府なんかに行ったらまた戦いの道具として使われるだろうが」

 

「か、艦長……っ!」

 

あの時の言葉は艦長に聞こえてないと思っていた。

でも艦長にはちゃんと届いていて私の為に考えでくれていた。

 

「ふふっ」

 

「……なにニヤニヤしてんだよ。反省してんのか?」

 

「はい、ありがとうございます艦長」

 

「こいつ……ちっ、もういい。後は俺がやるからお前は黙ってろ」

 

照れてる艦長なんて初めて見ました。

艦長の貴重なシーンをメモリーに残していると天龍さんから通信が入って来ました。

 

「鎮守府が見えてきたぜ。あれが俺らの所属してる柱島泊地第四鎮守府だ」

 

「あれがですか……」

 

嘗ての鎮守府と見比べると違う所は多々ありますが、それでも懐かしさを覚える風景ですね。

 

「取り敢えずあんたの配属先については提督に報告してからだが。ま、これから宜しく頼むぜ?」

 

「ええ、こちらこそよろしくお願いしますね」

 

無事鎮守府へ帰投を果たした天龍さんは私を連れて提督が居るであろう執務室へと歩き出す。

 

それにしても……今までドックにしか居た事が無かったから気付かなかったけれど、まさかこの建物がここまで広いなんて。

ちゃんと地図を覚えられるかしら?

 

「着いたぜ」

 

そうこうしてる間にどうやら執務室に到着したらしく、天龍さんは扉をノックして向こうからの返事を待っていた。

 

「良いか?俺が此処の提督と交渉してやる。お前は安請け合いすんなっつうか極力静かにしとけよ」

 

「はい、艦長」

 

此処は大人しく艦長に任せるとしましょう。

弟さんの事になると感情的になる所はありますが、艦隊指揮やこう言った交渉事は一級品ですからね。

伊達に超兵器艦長はやっていませんよ。

 

「失礼するぜ」

 

扉を開けて入っていく天龍に続いて私達も部屋に入る。

 

「失礼します。本日一〇〇〇付けで柱島泊地第四鎮守府に配属となりましたあら、葉巻?です。よろしくお願い致します」

 

部屋に入るとまず初めに敬礼を行い自己紹介を行う。

第一印象は大事ですからね。

 

けれどどうやら私はTPOを弁えて居なかったようです。

突如訪れた静寂の中私は一人首を傾げていた。

そんな空気を取り繕うように目の前の方喋り始めて下さいました。

 

「ええ、と……ご、ごめんなさいね?私は灰瀬 瑠花(はいせ るか)よ。階級は少佐で、柱島泊地第四鎮守府で提督をやってるわ。よろしくねアラハマキさん?」

 

何だかイントネーションが違う気がしますがあんまり何度も名乗りたくありませんので放っておきましょう。

それにしても……女性が軍人で更には少佐なのに提督をやっているとは。

 

「灰瀬提督の様な提督はこちらでは珍しく無いのでしょうか?」

 

「おい、静かにしてろって言っただろうが」

 

「う、すみません艦長。提督も失礼致しました」

 

「私は構わないわ?ただ最近は私の様な女性提督を務めることも増えてきてるわね」

 

あ、そっか。あっちじゃ女性で佐官の軍人が提督をやってるなんて余程の事情がなきゃ起こりえなかった事でもこっちじゃ普通の可能性もあるわけですね。

 

今回は灰瀬提督も天龍さんも特に気にする様子が無いので助かりましたが……これは提督といる間は余計な口を挟まない方が吉ですかね。

 

「バカ娘のせいで紹介が遅れて済まない。俺はコイツの面倒を見てる荒っつう者だ。バカ娘共々今後とも宜しく頼む」

 

えぇ〜……バカバカ言い過ぎじゃないですか艦長?

なんですか、気絶させちゃった事の仕返しですか?ちゃんと謝ったのに……。

 

「荒さんですか。はい、宜しくお願いしますね。では早速ですがアラハマキさんの配属先に付いて決めましょうか」

 

「そうだな。それじゃあ灰瀬さんの考えから聞かせて貰えるかい?」

 

灰瀬提督と艦長が当事者の私を放って配属先を話し合い始めた。

 

「なあアラ=ハマキ?、あの二人は何か知らんか白熱してるみたいだし補給でも行かねぇか?」

 

う〜む、確かに暫くは終わらなそうですが。

ただ超兵器機関だから燃料は不要ですし弾薬も満タンなんですよね。

とはいえ、先程艦長にスペックは出来る限り秘匿しろって言われたのでそのまま伝えるわけにはいきません。

 

そこで私は一度艦内に燃料や弾薬を入れといて後で返すという名案を実行に移す事にしました。

 

「行きましょう。天龍さん、案内をお願い出来ますか?」

 

「おうっ、まかせな!」

 

「では艦長、灰瀬提督、私達は補給に行ってまいります」

 

まぁどうせ聞こえてないんでしょうけど?

 

二人に一言伝えてから天龍さんと二人で補給場所へと向かったのでした。

 

 

 

 

 

 

天龍さんに此処だと言われて中に入るとそこは私の想像だにしなかった場所であった。

 

「此処は……まさか……?」

 

「あ?まさかも何も此処は食堂だせ。俺達は普段は此処で食事を燃料に変換してんだ」

 

ああっ、食事!私はそれが人間達にどれだけ活力を与えているか知っている!

自身の食堂で乗員達が食べていたカレーライスが……今の私なら、食べれる!

 

「カ、カレーを!カレーを頂いても良いでしょうか!?」

 

「お、おう。じゃあ今回は特別に俺様が持ってきてやっからよ。戦艦級で良いよな?」

 

「お願いしますっ!」

 

「ははっ、じゃあそこに座って待ってな」

 

私は言われるがままに椅子に座りカレーが来るのを待ちました。

永遠とも思える様な三分間を経て、天龍さんが遂に山の如くよそられたカレーライスを持ってきて下さいました。

 

すごいっ!そびえたつ山脈の様なカレーライス!

 

だけど私には食べ切れるという確信があった。

 

「戴きますっ!」

 

先ずは一口。

 

「はむっ!んっ!?ん〜〜〜っ!」

 

何これ!?す、すごい!

ああっ、どうして私はこの感動を表現する言葉を持っていないのでしょう!

ですがこれは素晴らしいものですっ!

これが食事ですか、これなら士気が上がるのも頷けます。

 

「ど、どうだ?美味いか?」

 

「ゴクン……っぷは!はいっ、素晴らしく美味しいです!」

 

そして二口目からはそれはもう怒涛の勢いで口に放り込んで行きました。

 

艦長達は今までこんな良い思いをしてきていたなんて……ですが赦しましょう。

なぜなら今の私は幸福に包まれていますから。

 

「すげぇな、もう食っちまいやがったぜ」

 

「はい、とても美味しくてもっと食べたいくらいです」

 

「ははっ、じゃあ満足するまで食ってみっか?なんて━━」

 

「良いんですかっ!?」

 

「「あっ(察し)」」

 

「……いや」

 

「そう……ですよね。すみません」

 

「うっ……ぐぅ……いい、ぜ」

 

「いえ、ですが……」

 

「ああもうっ!いいつってんだろうが!間宮さん!こいつの分は俺が出すから好きなだけ食わせてやってくれ!」

 

天龍さん……っ!貴女は神ですかっ!?

私頑張りますっ!天龍さんの力になれるように一生懸命働きます!

 

天龍さんと間宮さん!そして全ての命に感謝を込めてっ!

 

「頂きますっ!」

 

その結果、私は配属初日にしてお代り禁止令が言い渡されてしまったのでした。

 

流石にその月の残りの配給分まで食べきってしまったのはいけませんでしたね。

今思えば間宮さんはどうしてあんなに作ってくれたのでしょうか?

 




〜執務室にて〜

灰瀬「えっ?アラハマキさんに天龍が好きなだけ食わしてやるって?」

(まあ初日だしそこまで燃料は消費してないでしょう)


灰瀬「別に良いわよ。間宮さん、彼女が食べ終わったらまた報告してくれるかしら?」

荒(なんか嫌な予感がするぜ……)


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初任務は、輸送船護衛ですか?(自業自得)

Q.大食らいなのに遠征なんてマイナスにならない?

A.核融合動力(超兵器機関)なので基本的に水でも飲んどきゃ燃料補給は必要ないです。

Q.じゃあ飯抜きで良くね?

A.あら、葉巻?「自重しますのでそれだけはお赦し下さいお願いします」


食堂での一件の後、直ぐに執務室に呼び出された私は艦長にその場で正座をさせられて第二回説教会を受けていました。

 

「おいおい、人がテメェの為に動いてるっつうのに足を引っ張ってくれやがってよぉ。どうしてくれんだああ?」

 

「申し開きも御座いません」

 

食堂からの報告を聞いて灰瀬提督も苦笑いを浮かべている。

それでもあれ程素晴らしいものをお腹一杯頂けたのですから後悔はしていませんっ。

 

「なぁんだそのアホ面は?ちゃんと反省してんのかこら!」

 

「は、はいっ!それはもう、海より深く反省していますとも!」

 

「……はぁ、なら罰としてこれから輸送船団の護衛任務に行ってもらう。詳細は灰瀬提督が話してくれる」

 

艦長は諦めた様な溜息を吐きつつ私の頭頂部へと飛び乗りました。

バトンを渡された灰瀬提督は一つ咳払いをされると任務内容を説明して下さいました。

 

内容を簡単に纏めると私が消費してしまった食糧諸々の補給を緊急的に要請する事になったのでそれの護衛をして欲しいとの事でした。

 

「──と、言うわけで龍田を除く第二艦隊の皆と行ってきて貰えるかしら」

 

成程、確かにこれは私が行かなければなりませんね。

 

「護衛任務謹んで拝命致します」

 

「あと俺から一言。大食らいな戦艦としてお前の名前は大本営には伝わっている。面倒事に巻き込まれる可能性は十分有り得るから覚悟しておけよ?」

 

まぁ訳を話さなければ緊急的な補給が認められる筈ありませんか。

さしずめ今回の任務は報告内容の事実確認と顔合わせと言った所でしょうか。

 

「仔細承知しました。それではこれより任務に入ります」

 

私は灰瀬提督に敬礼を向けると、執務室を後に出撃ドックと向かいました。

 

場所は分かるのかって?

もちろん分かりませんので通り掛かった黒髪ストレートの真面目そうな少女に案内して頂きました。

 

送って下さった彼女(朝潮さんと言ってました)にお礼を伝えて出撃ドックへと入ると既に指示を受けた第二艦隊の皆さんが待っていました。

 

私は全員の視線がこちらに向いている事を確認すると深く頭を下げた。

 

「皆さん、この度は大変ご迷惑をお掛けしました。特に天龍さん、今回のお支払いは必ず致しますので何卒御容赦下さいませ」

 

「言い回しがうさんくせぇ」

 

肩に掴まりながら失礼な事を呟く艦長を無視して頭を下げ続ける。

 

「気にしなくて良いって。ま、でも気になんならいつか飯でも奢ってくれや」

 

天龍さん……!なんて素晴らしい方なんでしょうか。

一生付いて行きます姉さん!

 

*あら、葉巻?は飯で釣れるチョロインだった。

 

なんでしょうか?いま不快な声が聞こえた気がしましたが。

まあいいでしょう、皆さんをお待たせしてしまってますから。

 

「はいっ、ありがとうございます天龍さん!そしてお待たせしました皆さん。本日は改めて宜しくお願いします」

 

今一度お辞儀をすると艤装を展開し、準備完了の旨を伝えます。

 

「よしっ、それじゃあお前ら!いつも通り気を引き締めて行くぞ!第二艦隊抜錨っ!」

 

「「抜錨っ!」」

 

掛け声と共に一斉にドックを飛び出して行きました。

 

 

 

 

護衛対象の下まで向かっている途中、艦長とこの世界で得た情報を共有していました。

 

「どうやらお前が沈めたあの砲を積んだ黒いヤツらが人類と戦ってる深海棲艦ってので、奴等に対抗出来る存在ってのが今の俺みたいな見た目の妖精とそいつらが造るあいつら艦娘って事らしい」

 

「という事はこの世界には艦の姿をした軍艦は存在しないのですか?」

 

「いや、存在はするがその兵装では損傷を与えられないそうだ」

 

「深海棲艦……奴らは何処かの国に所属しているのでしょうか」

 

「それは考えにくいな。奴らは世界中に出没しているようだし、その中で明らかに利を得てる国があれば直ぐに特定されてるだろう」

 

何処の国にも属さず、世界中を敵に回して暴れ回る組織。

 

ウィルキア解放軍……いや、彼等とは全く立場も勢力も違うかも知れない。

だが彼等も国を離れ世界の大半を敵に回して理想の為に孤軍奮闘の活躍を見せていると聞いていた。

 

ウィルキア解放軍とは結局戦う機会は無かったけれど近しいと思われる存在と今度は大手を振って戦えるのか。

 

「ははっ、随分と獰猛な笑みを浮かべてんじゃねぇか」

 

艦長に言われて漸く自身の口角が吊り上がっていた事に気付く。

 

いけないいけない、平穏に暮らしたい筈なのに兵器としての本能が思わず求めてしまう。

私は口元を引き締め直す。

 

「忘れて下さい。少し別の事を考えていましたので」

 

「隠す必要はねぇよ。お前が戦いを求めるのはそれが兵器としての本分だからだ。本能と理性、どっちも含めてお前はお前なんだよ」

 

戦いを求めてるとか、ひとをまるで戦闘狂(バトルジャンキー)の様に言わないで貰いたいですね。

 

まあでも……そうですね。

私は超兵器なのですから戦いを求めるのはしょうがない事なのかも知れません。

 

「了解です。それでは戦う事の出来る平穏な生活を目指すとしましょう」

 

「なんだそりゃ?滅茶苦茶な目標だな。だが、嫌いじゃねぇ。精々俺も付き合ってやるよ」

 

「よろしくお願いしますね、艦長?」

 

「ああ、所でそっちはなんか有益な情報はあったか?」

 

「あ……」

 

どうしましょうか。今さっき艦長に言われるまで情報収集の事なんて忘れてました……なんて言ったらこの場で第三回臨時説教会が開催されてしまいます。

 

考えに考え抜いた上で最重要事項があった事をを思い出した。

 

「そうですっ!カレーライスと言う食事は素晴らしいものでした!」

 

「…………」

 

直後、いやな沈黙に包まれる。

 

不味いっ!このままでは説教会が開かれてしまう!

思考を高速回転させてこの場を逃れる方法を考える。

 

その時、私のメモリに一筋の電流が走る!

 

「あっ、天龍さん!深海棲艦ってどうして私達と戦うのでしょうか!?」

 

不意に話を振られた天龍は驚きつつも頭を掻きながら少し考えた後、自身の考えを述べてくれました。

 

「そうだなぁ、艦の怨念だとかあっちにも提督が居てそいつが世界を手中に収める為にとか色々言われてるが……正直俺にはなんだって構わねぇ、俺は護りたい奴らの為に戦う。その上で分かる事がありゃそれでいい」

 

「ふふっ、そうですね。考えすぎて護るべき方を護れなくては本末転倒ですからね。良い考えだと思います」

 

考える事、求める事は大事ですが優先順位は定めておくべきですね。

 

「へへっ、そう言われっと照れるな━━っと、今回の護衛対象が見えてきたぜ」

 

天龍さんの言葉を受けて視線を前に向けると二隻の輸送船が見えてきました。

 

まだそこそこ距離がありますがこの身体だと随分大きく見えますね。

 

近付くに連れてその大きさははっきりとしていき、目の前に着く頃には空を見上げるようにしないと船首が見えない程の大きさとなっていた。

 

「はぁ〜、これは大きいですねぇ?」

 

「ああ、つっても排水量は重巡級だけどな」

 

重巡級という事は10000t程度と言う事でしょうか。

これで……そうすると嘗ての私は人間からしたら島が170knot超で動いてる様に見えたのでしょうか。

 

……我ながら恐ろしいですね。艦長もよくそんなものに乗っていましたね。

 

「流石です艦長」

 

「あ?いきなりなんだよ」

 

「いえ、改めて艦長は凄いなと思っただけです」

 

「はぁ?まあ良いが取り敢えず挨拶して来いよ」

 

おっと、よく見たら甲板に人が縄梯子を降ろしてますね。

 

天龍さんが縄梯子をつたって登っていくので私も後に続きます。

駆逐艦の皆さんは海上で周囲を警戒されるようです。

 

縄梯子を登り切るとそこでは作業員と思われる艦長と同い年位の男が待っていました。

 

「どうも。早速ですが艦内で梁田(やなた)少将がお待ちですのでご案内します」

 

その言葉に天龍さんは不思議そうな顔を浮かべるが待っているのは灰瀬提督よりも位の高い相手であるため何も言わずに後に続いた。

私もその後に続き、艦内の一室へと招かれた。

 

「梁田少将。柱島泊地第四鎮守府の方々をお連れしました」

 

「通せ」

 

「はっ!それではこちらへ」

 

作業服の男に通された部屋は補給艦には似つかわしくない豪勢に装飾されており、中央にはこれまた豪華な硝子机を挟んだ奥のソファーに白髪の初老の男性がもたれかかっていました。

 

「失礼しますっ、柱島泊地第四鎮守府第二艦隊旗艦天龍。僚艦のアラ=ハマキ?と共に参りました!」

 

「ご紹介に与りました戦艦あら、葉巻?と申します。本日付で柱島泊地第四鎮守府に配属となりました。以後お見知りおきを」

 

「わざわざ済まないね。アラハマキ君に話があったものでね、そこに座って楽にしてくれて構わないよ」

 

天龍さんに続き少将の前で敬礼を向けたまま名乗り終えると、少将は柔らかい口調でソファーに腰掛けるように薦めた。

 

その際、艦長が眉を顰めて居たのが気になったけれど天龍さんが座ったので私も座る事にした。

 

「さて、回りくどい話は苦手でね。単刀直入に聞こう。アラハマキ君、私の鎮守府に来い。あんな新米がやってる様な所より私の所の方が国に貢献出来るぞ?」

 

「少将さんよ、艦娘の引き抜きは禁止されてる筈だぜ?」

 

天龍さんは握り拳を抑えながら少将に進言する。

だが少将はそれがどうしたとでも言わんばかりの尊大な態度で返答した。

 

「それくらい知っているさ、だがお前ら程度の鎮守府でそいつを運用出来るのか?一回の補給で鎮守府半月分の食糧を食うのだろう?」

 

「うっ……確かに今はまだ20人弱の小さな鎮守府だけどよ。それでも此奴はうちに来てくれた大切な仲間だ!はいそうですかと見放すつもりはねぇ!」

 

姉さんっ!カッコ良すぎます!

初対面でお茶目な艦娘で片付けちゃってごめんなさい!

……ですが向こうには大食らいな戦艦としか伝わってないはずでは?

そんな私を態々直接出向いてまで引き入れようとするなんて変わった方ですね。

 

「ふん、余計な手間を掛けさせるな」

 

そう言って少将が指を鳴らすと同時に二人の艦娘と思わしき女性がどこからとも無く現われ私と天龍さんに銃口を突き付けて来ました。

 

「おいおい、こんなので俺らを脅してるつもりか?」

 

「もちろん、その弾頭は妖精印の特別製でな。演習に使われる模擬弾の弾頭をと同じに出来ている物だ」

 

「つまりこれでヘッドを撃たれればユー達は人間のガールも同然ネー」

 

「勝手な行動は赦しません!」

 

「ちっ、そいつは厄介だな」

 

模擬弾と言うのがどれ程の物か分かりませんが下手に動くべきではありませんか。

だからと言ってこんな男の所には行きたくありません。

 

私はそっと艦長に目配せすると艦長は肩を竦めつつも私の頭の上に飛び乗って注目を集めました。

 

「梁田少将、だったか?」

 

「む?妖精がなんの様だ」

 

「その弾頭、演習で使ってる物だって言ってたがお前らん所の演習ってのは一発当たっただけで動けなくなるようなクソ仕様なのか?」

 

「はは、そんな訳なかろう?だがこの距離から頭部に一撃でも入れば戦艦でも一撃で轟沈判定は免れんだろうな」

 

「そうか……おい!あら、葉巻?、そこの二人を抑えろ」

 

「はぁ」

 

対人戦闘の心得は無いのですが、艦長の考えは把握しました。

 

「金剛、榛名、やれ」

 

「了解しましたっ!」

 

私が動き出そうと足に力を込めた直後、先に動いた榛名が天龍さんを撃ちました。

 

「ぐぅっ……ちくしょう、が……!」

 

「天龍さんっ!?」

 

「グッナイ、ビッグイーターガール」

 

そして続け様に金剛が私の額へと引き金を引きました。

 

 




Q.ウィルキア解放軍に負けたやろうが!

A.グレた末弟以外は彼らが解放軍である事は知りません。(あくまでタイマンは末弟の独断なので)

Q.演習用の模擬弾って?

A.艤装と機関にのみ影響を及ぼす特殊な電磁波を発生させる弾頭です。(過去作品からの設定持ち込み)


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初任務ですよね?……どうしてこんな事に。

シリアスなんて知りません!


金剛に眉間を撃たれた私はすぐ様天龍さんの下へ駆け出した。

 

「天龍さんっ!大丈夫ですか!?」

 

「大丈夫だ、命に別状はねぇ。だが済まねぇ……身体に力が入んねぇんだ。アラ=ハマキ?、お前だけでも逃げろ」

 

そんな!天龍さんを置いて行ける訳がありません!

それに逃げるだけなら天龍さんを連れても行けますよ。

 

「ホワッツ!?どうして動けるデース!榛名ッ!フォローミー!」

 

「はいっ!金剛姉様!」

 

ですが……命に別状は無いとしても、あなた達は天龍さんを苦しめました。

少しくらいお返ししても構いませんよね?

 

「榛名さん……でしたか?ご自分がしでかした罪を十二分に理解し、どうかご覚悟を」

 

二人でライフルの十字砲火を浴びながら、私は天龍さんを撃った榛名の所へ歩いていく。

銃弾の全ては防御重力場に阻まれて私の前で床へと落ちていく。

電磁防壁も展開しているので特殊な電磁波とやらも通らない様です。

 

「テートークッ!どうなってるノー!?」

 

「あわわわ……!!?」

 

「ふっふふふ……やはり私の目に狂いは無かった!」

 

逃がしませんよ?

 

逃げようと扉へと駆け出す榛名より先に扉の前に回り込み、笑顔で逃げ道を封じる。

 

「ひぃっ!?は、はるなは……」

 

腰を抜かしたのかその場にしゃがみ込む榛名からライフルを奪い取り、まるで紙でも破くように銃身を軽々しくちぎり捨てて行く。

 

「もし次に貴女のこの様な行いが私の耳に入ったら貴女がこうなりますから覚悟しておいて下さいね?」

 

笑顔でそう伝えると榛名は真っ青な顔で頭を何度も上下に振って答えてくれました。

私はそのまま金剛の方へ振り向くとガンバレル()()()()()を投げ渡して言い聞かせる。

 

「金剛さん?貴女も……次は無いですよ?」

 

「ソ、ソーリー……いえ、ごめんなさい」

 

さて、腹は立ちますが彼女達は指示を受けただけです。

私の怒りは黒幕で発散するとしましょう。

 

「さて、梁田少将。私は第四鎮守府を離れるつもりはありませんが、折角来て頂いたのです。私の事をよぉ〜く知って帰って頂きましょう……()()()()()()()()、ね?」

 

「な、何をする気だ?私に何かあれば外の奴らの無事は保証は出来ないぞ?」

 

なんと?天龍さんだけじゃ飽き足らず暁ちゃん達にまで手を出そうと言うのですか。

 

「榛名さん、金剛さん。外のお仲間に武装解除を。それとも私が直接説得してきましょうか?」

 

「ヘーイッ!比叡、霧島ァ!今すぐ武装解除するデース!命が惜しければ直ぐに指示に従うネー!!」

 

金剛が直ぐに対応してくれましたので大丈夫でしょうか?

なら後は少将だけですね。

 

「や、やめろ!何してる金剛っ!早くこいつを止めろ!」

 

「さて、豪華客戦艦あら、葉巻?によるクルージングの旅にご招待しますよ。梁・田・少・将?」

 

「う、うあああぁぁぁぁっ!!?」

 

私は少将に救命胴衣と着せて縄を括り付けると部屋を出て海面へと飛び込んだ。

そしてそのまま100knotまで一気に加速させてると海上を二時間たっぷりと引き摺り回して差し上げました。

 

死んだんじゃ無いのかですか?

いえいえ、殺してしまったら柱島泊地第四鎮守府の皆さんの立場も悪くなりますので殺したりなんかしませんよ。

それに心的外傷(トラウマ)ってのは生きていてこそ残る物ですよ?

 

ああ勿論この後金剛さん達が憲兵隊へ今回の事を洗いざらい話して下さるので梁田少将の異動先は病院か牢の中のどちらかなのでご安心を。

 

その後、十分引き摺り回して満足した私は動ける様になった天龍さんと一緒に船を降りて暁ちゃん達に無事を伝えると、輸送船二隻を連れて再び進み始めました。

 

「アラ=ハマキ?……えと、さっきはありがとな」

 

「いえ、私こそ先程はありがとうございました」

 

「え?俺はお前に守られただけで感謝される謂れなんてねぇよ」

 

「そんな事ありません。出会って間もない私の事を大切な仲間だと言って下さいました。それが本当に嬉しかったんですよ?」

 

前の世界の私は敵にも味方にも恐れられ凡そ仲間と呼べる存在などそれこそ艦長達や姉妹達位でした。

 

「まだこちらに来てから皆さんに迷惑しか掛けていないと言うのに、打算抜きにそう言ってくれる天龍さんが居たからこそ私は皆さんの力になりたいと思えたのです」

 

「そ、そういうもんか?」

 

「はい、そういうもんです」

 

天龍さんは恥ずかしそうに視線を外しながらう〜んと唸っている。

やがて何かを思い付いたかのように頷くと私に向かってこう仰いました。

 

「アラ=ハマキ?。ずっと気になってたんだけどよ、その天龍()()っての止めようぜ?呼び捨ててくれて構わねぇし寧ろタメ口で話してもらいてぇんだけどよ」

 

恩人である天龍さんを呼び捨てにですか。

うぅ〜、天龍さんがそう望むならそう呼ぶべきだとは思うのですが……。

 

「解りました天……龍。ですが口調に関してはこれが素ですので分かって下さいませ」

 

「あ〜、まぁいいや。それじゃあその調子で頼むぜ?」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

天龍さ……天龍の提案を受け入れた所で私は艦長に声を掛ける。

 

「艦長。私、此処の方達の為なら戦うのも吝かではありません」

 

「そうか、だが気を付けろよ?お前の力が広まれば今回の奴みたいのが今後必ず出てくる。寧ろもっと強硬手段を取ってくる奴も出てくるかも知れねぇ。そういう奴らからも仲間を護れる様になれ。じゃなきゃお前は只の厄病神に過ぎんぞ」

 

「はい、承知しております。艦長」

 

前の世界でも飛び抜けた性能を誇る超兵器(私達)。それはこの世界でもそれは変わらない様に思えます。

それ故に争いの火種になる事は避けられないのでしょう。

 

だからこそ私はその火の粉が彼女達に降りかからない様にしなければならない。

 

私の身体にはそれが出来るだけの力と期待が込められて居るのだから。

 

「敵艦発見。行くぜお前ら!」

 

「「了解っ!」」

 

深海棲艦ですか、輸送船を狙われる前にさっさと片付けますか。

 

六基十八門の406mmガトリング砲を構えて敵を見据える。

 

「ちょっと待った」

 

「はい?」

 

その時、艦長から待ったがかかった。

 

「お前がそれを使ったらあの鎮守府の弾薬は枯渇するぞ?」

 

「あぅ、なら光学兵器なら……」

 

「この世界で光学兵器の使用実績が確認されるまでは駄目だ」

 

「うぅ……では吶喊致します」

 

私は両手に持ったドリルを構えて出力を上げ始めた時、今度は別方向から声が掛かった。

 

「アラ=ハマキ?相手は駆逐艦二隻だ。奴らは俺とチビ共で相手すっからワリィが後方で他の敵が来ねぇが備えておいてくんねぇか?」

 

「他の敵……はい、承知しました」

 

天龍がそう言うのでしたら大丈夫なのでしょう。

私は電探を起動させて接近する敵が居ない事を確認すると艦長と二人で天龍達の動きを見学する事にしました。

 

「艦としての性能はあっちと比べてかなり劣っているが、連携は中々の物だな」

 

「ええ、割と新しい鎮守府と聞いていますがあれ程の連携はあちらではありえませんでした」

 

あちらで見た艦隊行動なんて陣形すら組んでいたかどうかって所でしたからね。

 

「あっちは物量と性能でゴリ押しだからな。だがあいつ等でもあれだけ動けるって事は憶えておけ」

 

「理解しております。油断はしません」

 

駆逐艦二隻程度、彼女達は苦戦する事無く撃沈していきました。

 

「天龍、皆さんお疲れ様でした」

 

「アラ=ハマキ?さん!私と天龍さんが止めを刺したわ!見ててくれた?」

 

「ええ、皆さんとても良い動きでしたよ」

 

「当然よっ!レディなんだから!」

 

どうやらレディには当然の嗜みのようですね。

私もレディを目指した方が良いのでしょうか?

 

「アラ=ハマキ?、周囲はどうだ?」

 

「大丈夫です、周囲に敵の姿はありません」

 

「そうか、じゃあちゃっちゃと戻るか!」

 

その後は特に会敵する事無く私達は無事に鎮守府へと帰投を果たしました。

 

こうして私の初めての任務は完了致しました。

 

本日の私の功績……他所の提督を廃人にしました、以上。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q.100knot(≒185km/h)で引き摺られたら死にませんか?

A.(爆撃されても大丈夫な提督なら)死にません。

Q.あら、葉巻?さんが怖いです(ガタガタ

A.ナカマオモイノイイコデスヨー?


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早速ですが、身体検査を行うそうです。

明石が参加するとどうしても兵装とか艦娘に関しての必要ない情報まで書きそうになってしまう。
今回は抑えられた方かと……。


 無事に輸送船護衛任務を終えた私達が灰瀬提督へ報告に伺った時の事でした。

 

「アラハマキさん。悪いんだけれどこの後工廠に行って検査を受けて来て貰えないかしら?」

 

「検査……ですか?」

 

「ええ、ごめんなさいね?私も仲間を疑ってるようで好きじゃないんだけれど上層部が決めた事だから逆らえないの」

 

確かに拾って来た艦娘を調べもせずに運用するなんて不要なリスクを背負うだけですから当然の措置だとは思います。

ですが参りましたね……調べられてしまえば光学兵器なんかも見つかってしまいます。

いや、光学兵器ならまだ良いです。もしこの身体にある超兵器機関を知られてしまえば最悪科学者達の実験動物(モルモット)として余生を過ごす事になりかねません。

 

どうしましょうか艦長。

 

困った時の艦長とばかりに視線を向けるが、艦長も腕を組んで頭を悩ませていました。

 

「明石に準備はさせてあるから行ってくれれば直ぐに検査を始められるわ」

 

そうしている間にも話は進み、打つ手は無しかと思われたその時。艦長が声を上げました。

 

「灰瀬提督、ちょっと良いか?」

 

「荒さん?何かしら」

 

「検査は受ける事は問題ない。だが可能なら俺達が上層部の人間と話せる機会をどうにか設けてくれないか?」

 

「一体何を言うつもりなの?」

 

訝しむ提督に対して艦長は私の左肩で悪い笑顔を見せながら答えました。

 

「なぁに、ちょっとした話し合いだよ」

 

灰瀬提督は艦長の態度に不安そうにしていましたが、諦めた様に溜息を吐いて承諾しました。

 

一体何を話すのか気になる所ですがそれはまた別の機会でしょう。

今は一旦部屋を出て明石さんが待つ工廠へと向かう事にしますか。

 

「検査に参りました、あら、葉巻?と申します。本日は宜しくお願い致します」

 

「あぁ、貴女がアラハマキさんですね?本日検査をさせて頂きます工作艦の明石です。こちらこそ宜しくお願いしますね!」

 

工廠へ入ると既に明石さんが準備を終えて待っていて下さいました。

互いに軽く挨拶を終えると明石さんに手を引かれて奥の機材の並んだ台の所まで向かうと、不意に艦長が肩の上から飛び降りました。

 

「俺がいても邪魔だろうしさっきの事で提督と少し話してくるぜ」

 

別に邪魔では無い……と、それより灰瀬提督の所に戻るのですか?

むぅ、艦長はあの人の事が気になるのでしょうか。

 

ぼーぜんと艦長の後ろ姿を見送ってると突然背後から肩を叩かれたので慌てて振り返ると何故か明石さんは暖かい目を向けていました。

 

「なんでしょうか?」

 

「いえいえ、随分と紳士的な方だなぁと思いましてね?」

 

紳士的……艦長が?

……ぶふっ、黒いスーツとシルクハット姿の姿の艦長を想像したら思わず吹き出してしまったじゃないですか。

 

「ふふっ、艦長に紳士なんて言葉は全く似合いませんね」

 

「?そうですかねぇ……まあ良いですか。それよりこちらの部屋で衣類を脱いで台の上に横になっていて下さい」

 

明石さんに言われるがままに衣服を脱いで台に身体を預ける。

すると明石さんは私の身体に手際良く様々な線を付けていき、私はいつの間にか動いてはいけない状況になっていました。

 

そんな私を余所に明石さんは板の様な機械を触りながら目を輝かせていました。

 

「これはっ!40.6cm三連装砲……いや、砲身に回転機構が組み込まれている?ま、まさか機関砲!?アラハマキさん……貴女は本当に日本の戦艦なんですか!?」

 

「普通は開発されていないのでしょうか?」

 

「そりゃそうですよ!私達大戦時の艦艇から現代まで含めても精々5-60mmの機関砲が良いとこですよ!それを長門型戦艦の主砲に匹敵する砲弾を機関砲にするなんて発想からして狂ってます!!」

 

ええと、明石さんが興奮している事は分かるのですがもしかして私馬鹿にされてます?

 

そんな私の疑問など知る由もなく明石さんは捲し立てるように続けました。

 

「そしてなんですかこの衝角にドリルって!?更には両舷に丸鋸まで付いてるとかラムアタックする気満々じゃ無いですか!いや私も工作艦の端くれですから?そういった浪漫は十分理解してますとも!ですがラムアタックは本来諸刃の剣どころか自爆行為に等しい行為ですからね!?そういう事態を想定して耐久性を向上させるなら兎も角ドリルと丸鋸って!」

 

……この方が何を言っているのかさっぱり分かりませんが、やっぱり馬鹿にされてますよね?取り敢えず帰ってもよろしいですか?

 

「明石さん?検査は終わったのでしたら私は部屋に戻らせて頂きたいのですが」

 

「あ、っとすみません。余りにとんでもない物を見せられたのでつい昂ってしまいましたしまいました。あ、所でこちらも兵装の様ですがどの様な物でしょうか?」

 

明石さんが板に映る一つの兵装を指さして尋ねてきました。

 

えーと……これは答えるべきでしょうか。

隠したら隠したで後々拗れそうな気もしますし、それに艦長ならここまで想定しているはず。

 

「……クリプトンレーザー、と言えば通じますでしょうか?」

 

通じなけれは何れ見せる機会があればとでも言って凌げるのですが。

 

「それはまぁ、知識程度にですが……え、まさか……?」

 

あー知ってましたか……まぁそんな気はしていました。

 

「え?まさか……兵器転用してるのです……か?」

 

「転用かどうかは知りませんが……まぁ、そういう事です」

 

「じゃあ……こっちも?」

 

「そちらは荷電粒子砲ですね」

 

「は……は?いえ、待って……嘘でしょ?」

 

明石さんは空気を求める様に口をパクパクと動かしながらも恐る恐る画面を表示する板を動かしてとある所で指を止めて無言で見せてきました。

 

これは……流石に言わないでおきましょう。

科学者達の玩具にはなりたくありませんから。

 

「機密ですのでお伝え出来ません」

 

「いやいやいやいやっ!今更過ぎですって!!それもうヤバい物って言ってるような物じゃないですかっ!?」

 

まぁそうですよねぇ。

解ってはいましたがこのままでは勝手に答えに辿り着きかねませんので少しでもランクを下げておかないと。

 

「済みません、先程の光学兵器達も機密でしたので内緒にしておいて下さい」

 

「雑っつ!雑すぎですよ!?機密はもっと慎重に扱いましょうよ……って違います!解りました!報告書にも乗せませんし絶対に誰にも話しませんのでお願いします!教えてくださいっ!」

 

話を流そうとしたのですがなんと明石さんは私が横になってる台の隣に土下座をし始めたのです。

 

「いえ、あの……頭を上げて頂けますか?」

 

「アラハマキさんっ、お願いしますっ!」

 

「あの、だから──」

 

「お願いしますっ!アラハマキ様っ!」

 

どうしましょう、これは教えるまで動かない気ですよこの方。

ですがあの程度の光学兵器すら配備されていない世界で果たして超兵器機関の事を話しても大丈夫なのでしょうか?

 

「う〜ん……」

 

「アラハマキ様っ!!」

 

…………はぁ、ごめんなさい艦長。後はお願いします。

 

根負けした私が超兵器機関の事を伝え終えると明石さんのCPUは流石にオーバーヒートしてしまったようです。

 

「明石さん?今の話は絶対に内緒ですからね?」

 

呼び掛けるも返事はない。

はぁ、本当にもう戻りたいです。

 

「明石さん?私はもう戻ってもよろしいですか?」

 

「…………はっ!すみませんっ、意識が少し離れておりました!えと、なんでしょうか?」

 

「約束通りこの事は提督にも秘密でお願いしますよ?」

 

「え、ええはい!所で……バラして中見せてもらっても良いですか!?」

 

「……は?」

 

このマッドは突然何を言っているのでしょうか。

唐突に意味の分からない言葉を発し始めた明石(マッド)に私は笑顔で答えて上げました。

 

「貴女をこのドリルでバラして差し上げましょうか?」

 

「ア、イエゴメンナサイ。チョウシニノリマシタ」

 

「それでは検査が終わったのなら私は戻りますね?くれぐれもご内密に」

 

「ハイッ!」

 

明石へ念を押してから、身体に付いた配線を取り外して部屋を出ようとしたのですが……。

 

「あ、ちょっと!?アラハマキさん服っ!服を着てってください!」

 

「へ?ああ、そう言えばそういうものでしたね。忘れておりました」

 

人の姿と言うのはどうにも不便ですね。

まあ艦長と話せるのと食事を取れる様になった事には非常に感謝してますが。

 

「服…これはどうやって着るのでしょうか?」

 

「え?」

 

脱いだ時は気にしてませんでしたがこれ全部私が着ていた服ですか?

 

「明石、これはどうしても着なければ行けませんか?」

 

「えぇ〜……はぁ、艦長さんも気の毒ですね」

 

艦長が気の毒?それは私が服もまともに切れないから艦長の品位が問われると言うことでしょうか?

 

「聞き捨てなりませんね……」

 

「え?」

 

確かに着方はさっぱりです。

ですが私が至らぬばかりに艦長が貶められるなんて事はあってはなりませんっ。

 

「明石、こちらの服の着付けが分かる方は鎮守府にいらっしゃいますか?」

 

「うーん……それは俗に十二単と呼ばれる装束でしょうか。そうですねぇ……あ、もしかしたら鳳翔さんなら知ってるかも!」

 

鳳翔さんですか。あちらでは他の方同様お会いした事は有りませんが、日本初の空母という事で有名な方ですから私も名前くらいは知っております。

成程、こちらではどうやら博識な方でいらっしゃるようですね。

とはいえ、本日はもう夜も遅いですし明日にでも伺うとしましょう。

 

「取り敢えず今日はこれだけ着て後は手に持って戻ります」

 

「ええと、まあ裸で出歩かれるよりはマシですが……ってああちょっと!?」

 

白い衣服と赤い袴だけを身に着けて他を手に持ち工廠を離れました。

 

明石が何か言おうとしていましたが色々あってなんだか疲れましたので早くゆっくりしたいです。

とはいえ艦長に報告も必要ですしそもそも何処で休めば良いのかも聞いてませんから先ずは執務室に行きませんと。

 

艦長に怒られるでしょうか……はぁ、夜も遅いですし説教会は明日にして頂けると有難いです。

 

 

 




あら、葉巻?の艦娘姿(暫定)

身長:大和より少し大きい(長門の4-5倍とかじゃなくて良かったです)
体重:凄くおぐふっ!?(元が元なので……)

スリーサイズ
B:着物が似合うね!(膨らみはありました)
W:まあくびれてる……かな?(着物を着たら分かりません)
H:良い感じ(少し目立ってる気がします)

髪型・色:黒のストレートロング(腰上あたりまで伸びて邪魔です)

服装:十二単(赤系の着るのが面倒そうな奴です)

追記
カスタムキャストにてあら、葉巻?のイメージを作って見ました。

あら、葉巻?工廠にて

【挿絵表示】


十二単?いえ、知らない子ですね?


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はぁ、今日は随分と色々な事がありましたね。

 憂鬱な気持ちで艦長と提督の待つ執務室へと入った私は検査完了の報告を行いました。

 

「検査自体は概ね滞りなく完了致しました。ですが……」

 

「なんだ?またなんかしでかしたのか」

 

ちょっと言い淀んだだけで決めつけるのは早計ではないでしょうか?

 

……まぁ、間違いではありませんが。

 

「明石に兵装で質問されまして……虚偽を述べて後々拗れるよりはと光学兵器の幾つかを伝えてしまいました」

 

「おまっ…………はぁ」

 

報告を聞いた艦長は案の定頭を抱えて呆れていました。

 

ですがこちらでやっていく以上隠しきれるものではないですし、明石にも確りと口止めを……あ。

 

「えと、光学兵器がどうかしたの?」

 

失敗しましたね。そう言えば提督も聞いていらっしゃるんでした。

 

「あ……ええと、ですね」

 

「俺が説明するから黙ってろバカ葉巻」

 

「……はい」

 

う、うっかりしてただけですよ?

それにさっきも言った通り隠しきれるものではないから私は悪くありません。

 

ああ……艦長の目がお説教を決意しています。

 

「まぁ、行っちまえばコイツが積んでる光学兵器の類は此処にあるもんより少しばかり高性能なんだ。だからそれが他所の鎮守府に伝われば要らん火種を撒き散らす事になるのは解るだろ?」

 

「え、ええ。今日の事もあるし言いたいことは分かるわ」

 

「ああ、コイツの性能を知れば強硬手段にでるバカは少なからず出てくる。だから上と話を付けるまでは必要以上の情報は送らないで貰えると助かるんだが」

 

灰瀬提督は新人でそこまで頭が切れる感じはしませんが、決して愚鈍な人ではありませんでした。

 

「その話、お受けしますよ。私もあなた達とは共にやって行きたいし、態々鎮守府の皆を危険に晒すような事はしたくないですから」

 

「ああ、そうしてくれると助かる」

 

そうして提督と艦長は互いに固い握手をしました。

 

まだ出会って一日も経ってないのに仲良くなり過ぎではありませんかねぇ?

別に私がどうという事はありませんが……別に?

 

「灰瀬提督。恐れ入りますが今後の私の待機場所はどちらになるのでしょうか?」

 

「あ、そうよねっ!まだ伝えてなかったわね、ちょっと待ってて」

 

私が訊ねると提督はハッとしたように電話を取り、どこかへと繋ぎました。

 

「──うん、じゃあお願いね」

 

提督の連絡から暫くした後、一人の少女が執務室へ入って来ました。

 

「秘書艦朝潮っ!建物巡回からただいま戻りました!」

 

「ありがとう。早速だけどアラハマキさん達を戦艦寮の空いてる部屋に案内して貰える?」

 

「はっ!任務了解!ではアラハマキさん、私に付いてきて下さい!」

 

朝潮さんは洗練された動きで提督に敬礼を返すと私達に来るように促す。

 

「あ、今日の実務はそれで終わりだから直接部屋に戻りなさいね?」

 

「はい、司令官っ!それでは失礼します!」

 

「灰瀬提督、明日からもどうぞよろしくお願い致しますね。それでは失礼します」

 

朝潮さんに続いて敬礼を向け提督へ一言伝えると、執務室を後にしました。

 

はぁ……やっと一日が終わるのですね。

 

「おい、あら、葉巻?。まさかそのまま寝れるなんて思ってねぇよな?」

 

う……そう言えばまだ残ってました。

 

「はい、覚悟しております」

 

朝潮さんに部屋を案内して頂いた後、床に正座するよう指示を出した艦長は腕を組みベッドの上から見下ろす様に仁王立ちをしたまま訊ねて来ました。

 

「で?実際の所明石には何処まで説明したんだ?」

 

「うっ……はい、荷電粒子砲とクリプトンレーザーの名称と超兵器機関についてを少々……」

 

「…………」

 

うぅ……やはり超兵器機関の事だけでも隠し通すべきでしたか。

 

「も、申し訳ありませんでした……」

 

「はぁ、全くよぉ……まあいい。どっちにしろ此処を通じてこの世界の日本とは友好関係は結んでおきたいからな。下手すりゃ海軍と深海棲艦って奴の双方から標的にされる事態にもなりかねんからな」

 

なるほど、確かに超兵器と言えど補給も修復も無しに戦闘を続けられるものではありません。

 

「ま、上との会談の時まで明石と提督の二人が黙っていてくれればそれで十分だ。提督には光学兵器としか言ってないしな?」

 

「その言い方ですと会談の時に伝えるおつもりの様に聴こえるのですが……」

 

「ああ。ま、それは当日になってからのお楽しみって奴だ」

 

艦長が随分と悪い顔をしていますが……本当に大丈夫なのでしょうか。

大本営相手にとんでもない事をやらかしそうな気がしますが、私がどうにか出来るとも思えませんので艦長を信じるしかありませんね。

 

「了解しました。では私はそれ迄にこちらの服を正しく着付け出来るようにしておきます」

 

「あ?そういや帰ってきた時と服が違うと思ってたが……なんだ、自分で着れねぇのか?」

 

意外そうに訊ねる艦長に申し訳なさから頭を下げて答える。

 

「はい……艦長の艦でありながらこの様な体たらくをお見せしてしまい反省しております」

 

「いや、そんな特殊な服の着付けなんて普通知らねぇよ。特についさっきまで服にすら縁が無かったなら尚更だろ」

 

「艦長……寛大な措置、感謝致します」

 

「つうかさっきから硬ぇっつうの!そんな肩肘張ってたら疲れちまうぞ?」

 

艦長を敬って居るのは本心なのですが。

後は朝から叱られてばかりなので少し自重はしていましたが……。

 

「自重しなくて良いのならそうさせて貰いますね?」

 

「あ、ちょっと待て!それとこれとは話が──」

 

「ふふ、では艦長?明日は早いのでおやすみなさいませ」

 

「おいっ!?」

 

さて、艦長の許しも頂きましたしこの世界では勝手気ままに闘争と平穏を楽しむとしましょう……ふふっ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




少しは自重して下さらないと世界が大変な事になってしまいます。

あら、葉巻?「前向きに検討します」

それって自重しませんよね?

あら、葉巻?「現時点での回答は差し控えさせて頂きます」

汚い!汚い大人の対応だぁー!


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【お詫び】IF〜あら、葉巻?の響乱交狂曲

まさかの二話連続での誤投稿をやらかしてしまい申し訳有りません!

予約投稿の日時が2019年になっておりました。
これが私の2020年問題……いえなんでもないです以後気を付けます。
誤投稿した分を読まれた方は一旦忘れて頂けると助かります。

投稿基準(1000文字以上)に従い下記番外編を乗せておきます。

響乱交狂曲を知らない方は飛ばし推奨です。



目が覚めるとそこは朝と同じ大海原が広がって居ました。

ですがあの時と違うのは艦長が居ない代わりに何故か小脇に抱えた響ちゃんが怯えているのと対面のツインテールの方が襲いかかって来ているって所でしょうか?

 

「ええと、響ちゃん?これはどういう状況でしょうか」

 

「こっちが聞きたい位だよっ!私を攫ってどうしようって言うんだ!」

 

響ちゃんを攫った?私がと言う事でしょうか。

うーん……記憶にありませんがまさか無意識にここまで?

だとするとかなり重症だと思うのですが。

あ、目の前のツインテールのかたなら何か知ってるかも知れませんね。

 

「あの、ツインテールさん。ここまでの状況を説明してくれませんか?」

 

「ハァ?アンタガヒトノ領海ニ侵入シテキタンデショ!今スグ沈ミナサイヨッ!」

 

「えぇ……やっぱり分かりませんね。ですが私が貴女達の領海を侵犯したのであれば直ぐに離れますね」

 

ツインテールさんに頭を下げた私は一先ず響ちゃんを連れてこの場を離れる事にしました。

 

「チョット!逃ガサナイ──ッテ早ッ!?何アレ意味分カンナインダケド!待チナサイヨォォォォ!!!」

 

ツインテールさんと別れた私は暫く100knot前後で進んでいましたが、響ちゃんを連れていた事を思い出し速度を下げる。

 

「響ちゃん?大丈夫でしたか?」

 

「きゅう〜……」

 

あ……気を失ってますね。

仕方無いのでこのまま運ぶとしましょう。

速度を60knotまで減速させて進んでいると突如、二名の色白な女性が海中から現れました。

 

「貴女達は……深海棲艦と呼ばれる者ですか?」

 

「ソノ認識デ別ニ構ワナイゼ?」

 

「私達ハコノ世界ノ均衡ヲ保ツ者、オ前ノ様ナ異物ハ直グニ排除サセテモラウヨ」

 

一人は黒いフードを被った尻尾の生えた女性、もう一人は銀髪のショートヘアに両肩に大きなコンテナの様な物を付けた女性でした。

 

「何だか話が見えてきませんが……戦うというのなら受けて立ちますよ?」

 

「ヘッ、オモシレェ!直グニソノ面ァ恐怖ニ歪マセテヤルゼ!」

 

「圧倒的物量ヲ前ニ潰レナ!!」

 

お二人がそう言うや否や即座に無数の航空機とミサイルが空を覆い尽くしました。

 

私だけなら受ける事は容易いですがこの子がただじゃ済みませんね。

記憶にありませんが私が連れてきたのなら最後まで責任は持つべきですよね。

 

「全兵装準備完了……全弾発射!」

 

127mmと406mmのガトリング砲でミサイルを爆破させていき、対艦ミサイルと20cm12連装噴進砲で無理やり攻撃機を落とす。

そして荷電粒子砲とクリプトンレーザーで二人を狙い撃った。

 

「グガァァァ!?……クソッ、何ダアイツ!俺達以上ノ化物ジャネェカ!」

 

「グゥ……喚クナヨ、マダ余裕ダロ!」

 

「電磁防壁は載せてないようですが、まだまだ余裕そうですね?では此方ももう少し攻めますよ」

 

60knotでフードさんへ接近しドリルを構える。

 

「ハッ!態々近付イテクルナンテ馬鹿ナヤツダ!」

 

フードさんが此方へ尻尾を振りかぶって来ましたがそれを右腕のサーキュラーソーで切り飛ばす。

 

「きゃうっ!」

 

「あ、ごめんなさい響ちゃん」

 

「ギィィッ!?ヤルジャネェカ、ダガスキダラケダゼ!」

 

右腕で抱えていた響ちゃんを落としてしまったので慌てて拾い上げようとする私へとフードさんは殴り掛かって来ました。

 

「ナッ……何ガオキタ?」

 

ですが残念ながらその腕は私に触れる事無く海面へと叩き付けられていました。

 

「防御重力場ですよ。砲弾ならいざ知らずそんな速度と質量では到底抜けられませんよ」

 

「ク……クッソォォォォ!!ソロモン!今スグ()()ヲ撃テェェ!!」

 

「オ前ガ指図スンナヨ。ケド確カニ今ガチャンスダナ。コレデモ喰ラエ!」

 

「ん?あれは……」

 

「う、うわぁぁぁぁっ!?」

 

「あ、ちょっと響ちゃん!離れたら危ないですよっ!?」

 

「は、離せぇぇぇっ!」

 

意識が戻った響ちゃんは直ぐに私から逃げ出そうとしました。

ですが今は不味いので急いで近付き彼女を抱き締める。

その直後、私の重力場に触れた一発の噴進砲が激しい閃光と共に莫大なエネルギーが噴き出した。

 

「ハハッ、水爆ヲ受ケテ無事ナ奴ハ存在シナイ!後一、二発当テテヤレバ終ワリダ……ナッ!?」

 

核兵器でしたか……油断しましたね。

 

「うっ……かはっ……い、いやぁ……!」

 

全力で守りましたが……辛うじて生き延びたと言った所ですか。

振り切ろうにも私の速度に今の彼女は耐えられないでしょう。

ですが耐えられる速度では奴を振り切れません。

 

「ごめんなさい響ちゃん。アレを片付けたら直ぐに治せる所に連れて行きますからね」

 

「ナ……マサカ此処マデ効果ガ無イトハナ」

 

「いえ?勿論痛かったですよ。ですが私を一撃で沈めたければ160cm砲を百門載せて来なさい」

 

響ちゃんを海面に寝かせると、少し離れてから最大戦速(176knot)で銀髪ショートへ突っ込む。

 

「ナ、ナラバ沈ムマデ撃ツダケダ!」

 

「させません」

 

相手が構える前に406mmガトリング砲を撃って避けさせる。

その間にも距離を詰めていき、僅か三分で目と鼻の先まで接近する事に成功しました。

 

「バ、バケモノメ……オ前ハコノ世界ニ破滅ヲ齎ス者ダ」

 

「はぁ、そんな事は知りませんが私は急いでますのでこれで終わりです」

 

銀髪の話に耳を貸さずにその頭へとドリルを押し込んでやりました。

 

「さよなら、名前も知らない深海棲艦さん」

 

後は急いで響ちゃんを助けないと。

幸い近くに建物が立ってる島があるみたいですしそこを目指しましょう。

 

響ちゃんの下へ戻ると黒髪の軍服を来た男がモーターボートに響ちゃんを乗せていました。

 

「貴方は?」

 

「お前か……お前が響をこんな目に合わせたんだな?」

 

あら、これは間違いなく勘違いされて居ますね。

ですが響ちゃんからしたら私と居るよりはこちらの海軍の人といた方が安心ですかね。

 

「ここから南東に真っ直ぐ進んだ所に建物が立ってる島があります。そこに言って彼女の事を助けて上げてください。私はこれで失礼しますので」

 

「おい、待てやこらぁ!」

 

怒号を上げる海軍の方に響ちゃんを任せて私は北西へと進んで行きました。

 

此処が何処なのか分かりませんが取り敢えず柱島泊地第四鎮守府に戻らないと。

そう考えていると不意に頭の中に声が聞こえて来ました。

 

『久しいなあら、葉巻?よ。息災か?』

 

「貴女は……誰ですか?」

 

『憶えておらんか?余は斯の世界より汝を救い出した者であるぞ』

 

「ああ、あの時のですか。ではこれも貴女の仕業ですか?」

 

『うむ。この世界の強者と汝、どちらが強いか気になったのでな』

 

「それはまた傍迷惑な……というか消費した弾薬はどうするんですかっ!艦長に叱られるじゃないですかぁ!?」

 

『使ったのは汝だがな、まあ安心せい。此処は夢想なる世界、故に汝の記憶にも残らんし弾薬も減らぬ』

 

「夢想……まぁ、それなら良いですが。で、いつ戻れるんですか?」

 

『本当はあの者との手合わせも観たいが……まだお互いその時ではないな。じきに目覚めよう』

 

「へ?いま──な──ん──て」

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「おい、起きろっ」

 

んむぅ……あれ?

私さっきまで海にいたよう……な。

 

「ふぁい、おはようございます」

 

「おう、今日は鳳翔の所に行くんだろ?さっさと準備して行ってこい」

 

あぁ、そうでした。

今日は鳳翔さんの所へ着付けを教わりに鳳翔さんのお店に行くのでした。

 

「ふぁ〜あ、それでは行きましょうかかんちょ〜」

 

「顔洗って目覚ましてから行けよ。それと俺は行っても仕方ねぇし今日は別行動するぜ」

 

「ふぇ?かんちょ〜来ないんですか?」

 

「ああ、ちょっくら情報収集に行ってくる」

 

そうですか……確かに情報は必要ですからね。

 

「わかりました、では行ってきまふ」

 

「おいおい、だから目覚ましてから行けっつうの」

 

艦長に引っ張られながら洗面台まで向かった私は顔を洗ってから支度をして鳳翔さんのお店まで歩いて行きました。

 




本当に申し訳ありませんでした!


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さて、先ずはやるべき事をやってからですね。

あら、葉巻?艦娘として初めての戦闘回です。

初登場の深海棲艦達「解せぬ」


誤字報告ありがとうございますっ!
何度も読み返してから投稿しているのですが、その度に書き直したくなってしまうんですよね。
ま、まぁ……気を付けます。



翌朝、私は早速明石に取り次いで貰い鳳翔さんの自室へお邪魔しております。

因みに艦長は情報を集めるとか何とか言って足早に出ていってしまいました。

 

明石曰く紳士らしいです。

 

それは兎も角こちらの鳳翔さんですがどうやら既に前線を退いているとはいえ今は灰瀬提督の補佐と空母艦娘の指導に加え、柱島泊地内で小料理屋を開いているという非常に多忙なお方だそうです。

 

そんな中で貴重な時間を割いて着付けを教えて頂いたその御恩に報いる為、私は指揮管制装置を総動員させて早々に着付けを覚えると代わりに付きっきりでお手伝いをさせて頂く事にしました。

 

「鳳翔さん、本日はご教授頂き本当に有難うございました」

 

「そんな、こちらこそ本日は宜しくお願いしますね?」

 

「はいっ、宜しくお願い致します」

 

そうして鳳翔さんと共に部屋を出ますと、まず初めに向かったのは弓道場でした。

因みに提督の補佐は秘書艦の朝潮さんが仕事を一通り覚えたので今はたまに様子を見に行く程度だそうです。

 

道場の中へ入ると既に二人の方が真剣な眼差しで弓を構えておりました。

 

「…………」

 

その張り詰めた雰囲気に思わず息を呑む。

 

その直後、二人の手から続けざまに放たれた矢はそれぞれの的の中心を寸分違わす撃ち抜いてました。

 

「おぉ……素晴らしい腕前ですね」

 

弓道に明るくない私でもその技術が洗練された物である事は理解出来た。

 

「貴女は……?」

 

「あ、失礼しました。私はドロップ艦として昨日こちらの鎮守府に配属となりましたあら、葉巻?と申します。本日は鳳翔さんのお手伝いとして参りました。どうぞ宜しくお願い致します」

 

「……アラハマキさんね、私は正規空母の加賀よ。宜しく」

 

「私は赤城です、宜しくお願いしますねアラハマキさん?」

 

私のお辞儀に続いて赤城さんがお辞儀を返してくださいました。

加賀さんは照れているのでしょうか?そっぽを向いてしまいました。

 

「ふふっ、では赤城さん加賀さん。今日は折角アラハマキさんも居らっしゃる事ですし演習形式で訓練を行いましょうか」

 

え、演習ですか?

戦うのは構わないのですが……私はどうすれば良いのでしょうか。

 

「アラハマキさん、対空は出来ますか?」

 

「対空……まぁ、取り敢えずは出来ますが」

 

ガトリング砲を載せてますからね。

 

「では正面海域まで出ましょうか、内容は道すがら説明しますね」

 

訓練内容を纏めるとこんな感じです。

赤城さんと加賀さんがそれぞれ私と一対一で演習を行います。

但し、通常の演習と違い私の攻撃対象は航空機のみで私が艦載機を全機撃墜するか私の轟沈判定で演習終了という事らしいです。

 

ただ、このままでは流石に不公平ですので鳳翔さんに一つ提案する事にしました。

 

「鳳翔さん。終了条件の1つを私の轟沈判定から雷撃又は爆撃の直撃弾一発に変更して頂けますか?」

 

「……っ!嘗められたものね」

 

「アラハマキさん……」

 

いえ、決して彼女達の練度を侮っている訳ではありませんよ?

それでも動かない砲台を相手にするなら私じゃなくても良いですし、折角なら私でしか出来ない訓練の方が良いかと思いましてね。

 

という建前は置いといて、要は私も楽しみたいんです。

それにこの身体での戦闘にも慣れておきたいので赤城さん達には初めから全力で来て頂けるよう煽らせて頂きます。

 

「さあさあ遠慮は無用です。私に当ててみなさい?出来るものならね」

 

「ふん、鎧袖一触よ。後悔させてあげるわ」

 

「こーら、アラハマキさん?自信があるのは良いですが横柄な態度は頂けませんよ?」

 

うっ……少しやり過ぎたでしょうか。

鳳翔さんの笑顔に何故か寒気を覚えるので此処までにしておきますか。

 

「失礼しました……ですが失望させませんのでその条件でお願いします」

 

「通常の演習でも新入りの子になんか負けないわ」

 

「加賀さん?こんな軽い挑発に乗るなんて貴女らしくないですよ?」

 

「……すみません鳳翔さん。アラハマキさん、貴女が良いのならその条件でお受けします」

 

加賀さんが条件を飲んで下さった所で鳳翔さんは改めてルールを説明して下さいました。

 

「それでは今回の演習は、アラハマキさんに直撃弾一発が命中又は艦載機の全機撃墜を確認した時点で終了とします。よろしいですか?」

 

「はい」

 

「問題ありません」

 

「それではお互いに位置に着いたら開始の合図を出しますね」

 

鳳翔さんが指定したポイントまで移動しながら嬉々として演習の準備を進めていました。

 

先ずは電磁防壁と防御重力場を解除して〜

127mmに模擬弾を装填して〜

あ、後は戦闘状況を仮定しておきましょう。

 

電磁防壁及び防御重力場は機能停止、こちらに残された兵装は残弾6000の127mmガトリング砲のみ。

相手は反物質弾頭を搭載した大量の航空機で一撃でも直撃すれば轟沈必須。

 

勝利条件は敵航空機の全機撃墜のみ。

 

ふふふふふ……これは燃えてきました。

艦長抜きで始めてしまうのが申し訳ない位ですね。

 

ですがお待たせする訳にも行きませんから今回は我慢して貰いましょう。

 

「こちらあら、葉巻?。指定の地点に到着致しました」

 

『こっちも到着しました』

 

『それではアラハマキさん対加賀さんの演習を始めます。試合開始っ』

 

鳳翔さんの合図によって遂に戦いの火蓋か切って落とされました。

 

早速電探を起動させると既に二中隊がこちらへと向かって来ていました。

 

発艦方法は矢が変化するそうですが……なるほど、流石に慣れてるようですね。

ですがあれだけなら一気に突っ込めば!

 

私は一気に最高速まで加速し艦載機との距離を詰めます。

そして片舷五門の127mmガトリング砲を艦載機へ二秒間浴びせると二中隊は瞬く間に落ちていきました。

 

「っと、流石に近付き過ぎですね。一旦下がりましょうか」

 

一旦距離を置いてから発艦を確認して一気に距離を詰めてガトリングで落とす。

ただそれを何度か行っているだけですがどうやら今の彼女では対応し切れないようですね。

いえ、この性能差で何本か魚雷と爆弾は投下してるだけでも充分伸びしろを感じる所ではありますね。

 

『……参りました』

 

やがて加賀さんから全機撃墜の報告が入ってきました。

 

弾薬消費は……3200発少々ですか、正直あの搭載数は侮れません。

彼女の練度が上がればその内被弾する可能性は高そうですね。

 

「加賀さん、有難う御座いました」

 

『こちらこそ。貴女との力の差を思い知らされたわ』

 

「はは……それでは赤城さんも準備が出来次第始めましょうか!」

 

おっと、思わず気持ちが昂って口元が吊り上がってしまいました。

 

『あはは……鳳翔さん、棄権しても良いですか?』

 

『いけませんよ赤城さん?』

 

『許しません』

 

『加賀さんまでっ!?』

 

ふふっ……仲が宜しい様で羨ましいですね。

私も妹達に逢いたいなぁ。

 

暫く愚図っていた赤城さんでしたが漸く観念したらしく所定の位置に着いたとの連絡が入ってきました。

 

『う〜やるからには全力で行きますからねっ!』

 

「全力と自棄(やけ)は別物ですよ?全力でお願いしますね」

 

『解ってますよっ!』

 

『それでは赤城さん対アラハマキさん……始めっ!』

 

さて、今度は回避航行を取りながら来る艦載機を確実に落として行きましょうか。

 

ふふふふふ……回避に徹した私に果たして当てられるでしょうか?

 

私に向かって真っ直ぐに突っ込んでくる攻撃機は一機も魚雷を放つ事無く撃墜していきました。

 

爆撃機も急降下爆撃では追い付けないと判断した所までは良かったのですが、私の旋回半径と速度で行ける予測地点全てをカバーしなければ当てる事は出来ませんね。

 

そうして直ぐに赤城さんから連絡が入りました。

 

『参りましたぁ……やっぱり可笑しいですよ!何で九九艦爆と並んで走ってるんですか!?』

 

「並んではいませんよ?私の方が遅れてましたから」

 

『いやいや!あんなの航空機に爆弾当てろって言ってる様な物じゃないですかぁ!』

 

ええまぁ仰る通りですね。

せめて元の艦体ならまだ当てやすかったと思いますが。

 

「まぁまぁ、お二人なら直撃弾の一発や二発直ぐに当てられる様になりますよ」

 

『当然です。次はやります』

 

『う〜そうですかねぇ?』

 

『そうですね……アラハマキさん。私ともお手合せ願えますか?』

 

鳳翔さんが?

いや、赤城さん達はこの鎮守府で成長途上の艦娘ですが彼女は引退してるとはいえこうして指導を頼まれている位ですからそれなりの実力はあるのでしょう。

 

艦としての性能はあの二人の方が高いでしょうがそんな事は当てにならなそうな雰囲気ですね。

 

「……解りました、宜しくお願いします」

 

『はい、宜しくお願いしますね?』

 

……一応406mmガトリング砲も装填しておきましょう。

 

やがて位置に着いた鳳翔さんの代わりに赤城さんが開戦の合図を送りました。

 

どうしましょうか……取り敢えずは様子見がてら距離を詰めましょう。

 

私は加賀さんにやった様に正面の中隊へ突っ込み127mmガトリング砲を放つ。

戦闘機は避けようと翼を傾けるも嵐の様な砲撃を躱し切る事など出来ずに落ちていきました。

 

その様子に一安心しつつ距離を離す為旋回を始めようとした時、不意に嫌な風切り音が聞こえて来て私は思わず急停止を掛けていました。

 

結果それは好手でもあり悪手でもありました。

 

「なっ!?電探にはさっきまで反応は無かったはず!一体何処に!?」

 

速度を一気に減速させた直後、周囲を囲む様に十六発の爆弾がほぼ同時に着水していました。

 

速度を下げていなければ直撃だったかも知れませんが何とか避けられました。

 

今は兎に角距離を置こうと速度を一気に最高速まで持っていこうとしたその時、正面から三機の攻撃機が魚雷を切り離していました。

 

攻撃機は漏れなく撃ち落としましたが魚雷は着水させること無く直撃させるつもりですね!

 

「くっ……旋回が間に合わない!?ならばっ!」

 

私は406mmガトリング砲十八門を全て魚雷に向けて一気に放つ。

三本の魚雷は目の前で電磁波を拡散させて私の身体を僅かに鈍らせました。

 

「危ない所でした……ですが油断はしません!」

 

魚雷に仕込まれた装飾用の煙が周囲を覆う中、全速力で真っ直ぐに突っ切ると直ぐに振り返る。

そして先程まで私が立っていた場所へ爆弾を落とす爆撃機目掛けて127mmをばら撒きました。

 

「ふぅ、まだ残っている様ですね。集中を切らさないようにしないと」

 

撃墜数は十七機、流石にお二人ほど搭載数は無いと思いますがそれでもまだ半分以上は残ってるでしょう。

 

再び気を引き締め直し電探を確認する。

実際の数は信用出来ない状況ではあるものの方向に間違いはありません。

 

「いくらでも掛かって来なさいっ!」

 

近付くエンジン音を耳に第二幕への幕開けを覚悟しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜戦闘終了〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁ……参りました』

 

「ふぅ……有難うございました鳳翔さん」

 

その後も何度か危うい場面は有りましたが406mmガトリング砲も総動員して漸く鳳翔さんの最後の一機を撃墜させるに至りました。

 

『いえ、こちらこそ久し振りに熱くなってしまいましたわ。次までには彼女達諸共私も鍛えて参りますのでまたお願いしても宜しいでしょうか?』

 

『次はこうは行きません』

 

『うぇっ!?』

 

「はい、楽しみにお待ちしていますね?」

 

赤城さんが驚愕の表情を浮かべてそうですが私も存分に暴れられて楽しかったので願ってもない申し出です。

それにしてもあれが熟練のパイロットって奴ですか……まさかあれだけの弾幕を掻い潜って急降下爆撃を行って来るとは流石です。

思わず重力場を展開してしまう所でした。

 

鳳翔さんとの演習を振り返りながら岸へ戻るとどういう訳か灰瀬提督と艦長が揃って出迎えて下さいました。

 

「艦長?こんな所でどうしたんですか?」

 

「おう、演習は楽しかったか?」

 

艦長はにこやかな笑顔で聞いてきました。

何かいい事でもあったのでしょうか?

 

「ええと、はい。思い切り身体を動かせたので満足しております」

 

「そうかそうか……で?()()()()()()()()

 

「何発?それは…………あっ」

 

艦長の質問の意味を理解した私は冷や汗をかきながらスーッと視線を逸らしつつ小さな声で答えました。

 

「…………です」

 

「聞こえんなぁ?」

 

「うっ……406mmが1968発の127mmが11756発……です

 

「え……」

 

こ、これは不味いですっ!灰瀬提督が聞いただけで固まってしまう量だと言う事が判明してしまいました!

 

「よーし、鳳翔さんだったか?」

 

「は、はい」

 

「ちょっとこの馬鹿借りてくな?」

 

「あの……私が彼女に演習を頼んだんですっ!アラハマキさんのせいでは!」

 

「ま、あんたの処遇は提督に聞けばいい。俺はコイツに個人的に話があるだけだ、いいな?」

 

そう言われてしまっては鳳翔さんもこれ以上何も言えません。

それにとても楽しかったので私としても鳳翔さんが罰せられる様な事にはなって欲しくありません。

 

「艦長、どうにか鳳翔さん達に迷惑が掛からない様にして頂けませんでしょうか」

 

「ふ〜ん?ま、残念だかそれは俺の管轄外だな。ほら行くぞ!」

 

「そんなぁ……はい」

 

鳳翔さん、どうかご武運を。

 

私は心の中で祈りながら艦長の後に続きました。

 

その後グラウンドに連れて行かれた私はそんなに身体を動かしたいならと足が動かなくなるまでひたすらに陸上を走らされ続けました。

 

船なのに……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本日のあら、葉巻?の燃料・弾薬消費量(艦これ風)

燃料:0
弾薬:652(大和改の弾薬フル補給二回分相当)

灰瀬提督「……訓練に使用する資材の管理は貴女に任せてますが、次からは彼女を演習に呼ぶ時は私に事前報告を義務付けますね」

鳳翔「はい、私も思慮が足りませんでした。以後気を付けます」



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うぐぅ〜……もう一歩も動けません。

そうだっ!折角艦長も一緒に来ているので艦長の生活も書こう!

そして視点が定まらない作品が作られていく……

そ、そうならないよう気を付けますっ(震え)


おはようございます皆さん。

先日艦長に足腰が立たなくなるまで苛め抜かれたあら、葉巻?です。

なので残念ですが今日は身体中が痛くて一歩も動けそうにありませんのでこのまま寝ます……おやすみなさいませ。

 

明日から本気……だ…………すぅ……。

 

 

 

 

ーーーーーー艦長視点ーーーーーー

 

 

 

 

とまあそんな感じで今日一日は起きて来れなさそうな奴は置いといて艦長ことこの俺、荒 葉輔(あら ようすけ)は一人戦艦寮を離れる。

体が小さくなってから移動は少し不便になったが何故か宙に浮くようになった為、取り敢えずは問題なく生活出来ている。

そんな俺の一日の始まりは朝食から始まる。

 

「あ、艦長さんおはようなのです!」

 

「おはよう艦長さんっ!私に乗っても良いわよ!」

 

後ろから声を掛けてきたのは初日に会った第二艦隊に居た駆逐艦の二人、電と雷だった。

因みにアイツが艦長と呼び続けている影響で提督以外は俺の事を艦長と呼んでいる。

 

「おはよう電、雷。折角だから頼むぜ」

 

「ええっ!任せてちょうだい!」

 

雷の言葉に甘えて肩を借りると一緒に食堂へと向かう。

 

「それにしても艦長さんは不思議な方なのです~」

 

「そうよね、妖精さんなのに普通にごはん食べるし」

 

「話し方も流暢なのです」

 

「まぁな、伊達にアイツの艦長をやってはいねぇよ」

 

初日こそ他の妖精らと同じ食事を取っていたが、あいつらは基本的に甘い菓子類しか食いやがらねぇ。

正直甘いものは好きじゃねぇんだ。

だから俺は提督に話してその日の夕飯から艦娘と同じ食堂で食事を取らせて貰っている。

 

そうして食堂に着くとそこは既に十人程の艦娘達で賑わっていた。

 

「お、艦長と雷達じゃねぇか!暁達もこっち来るしお前らも飯持って来いよ」

 

「おう、そうさせて貰うぜ」

 

「じゃあ早く食事を取りに行きましょ!」

 

雷のお盆に俺の分の朝食を載せて貰い天龍達が待つ机へと向かった。

 

「「いただきますっ」」

 

手を合わせて間宮と生産者と食材に感謝を述べる。

 

此処だけの話俺も食うのは割と好きな方だ。

この鎮守府には喫煙者が居ないので煙草がない。

酒は有るらしいが生憎俺は下戸なので楽しめない。

だから食事というのは俺にとっても数少ない娯楽の一つなのだが、当然あのバカが付け上がりそうな情報を教える気はない。

 

天龍達の会話を聞きながらスプーン一杯程度のお盆に盛られたいくら丼に舌鼓を打っていると不意に話題が俺に振られた。

 

「艦長さ~ん?アラ=ハマキ?さんはドロップ艦だと言ってたけどぉ~、赤城さん達だけじゃなくあの鳳翔さんにすら圧勝したらしいじゃな~い?」

 

おっと、その話題を振ってきたか。

初めて会った時から注意はしていたが……龍田か、やはり俺達を不審がっているか。

 

「ああ、確かにドロップしたばかりの艦相手に鳳翔さんが只の一発も直撃弾を当てられなかったなんてにわかには信じられる話じゃねぇよな」

 

「えっ?鳳翔さんって大本営の譜院(ふいん)元帥の主力艦隊に居た方でしょ!?」

 

「本当なのですか?艦長さん」

 

ふむ、ドロップ艦ってのは戦闘経験が無いのが普通なのか。

そうなると熟練の空母相手に一発も当たらなかったってのは誤魔化しようがねぇな。

防御重力場とかは恐らくこいつ等の常識外だろうしまだ話す訳にはいかんしな。

はぁ……ったく、本当に面倒な事してくれやがって。

今日も走らせてやろうかあのバカ。

 

「ああ、それは本当だ。だがそうだな……お前達にはちゃんと話しておくか」

 

「なにかしら~?」

 

ちゃんと話すとはいえ事実を全て話すわけにはいかない。

だから俺は事実を織り交ぜつつ理解できる範疇の物語を作り上げる事にした。

 

「先ずアイツはドロップ艦だと言ったがあれは自身の状況とお前達の説明を合わせて判断したに過ぎない。そして今の反応を聞いて俺は確信したが戦闘経験のあるアイツは普通のドロップ艦とは異なる存在なんだろう?」

 

「戦闘経験がある?って事は別の鎮守府に居たって事か?」

 

「わりぃが何処に所属していたかは国家機密だから話せねぇ。だが其処で俺達は対国家兵器として暗躍していたんだ」

 

まあ俺達の世界の兵器は殆ど対国家兵器だけどな。

 

「対……国家?まだ人間同士で争っているのですか?」

 

悲しそうな顔を浮かべる電に良心が痛むがそれを顔に出さずに続ける。

 

「昔に比べればマシになったさ。だが過去の怨恨や現在の利益っつうのは簡単にどうこう出来るもんじゃねぇのさ」

 

「……はい」

 

「だがな、俺も電と同じ気持ちなんだ。恐らくアイツもな?」

 

俺だって日本人としての誇りや忠義は人並みに持ち合わせている。

だからこそ隷属か殲滅の二択を強いる帝国の為に力を振るう気にはなれなかったが、家族を人質に取られている以上反逆も亡命も出来なかった。

 

「逆らう事も逃げる事も出来ない、だがこれ以上そんな事を続けたくなかった」

 

「まあな、俺だって他所では深海棲艦から人類を護ってるっつうのに俺だけその人類と争えなんて言われてはいそうですかなんて納得は出来ねぇよ」

 

「ああ、だから俺は戦いの中で力尽きる道を選んだ。アイツもその願いに賛同してくれたんだ」

 

実際あら、葉巻?の思いを知らされたのは最期の最後だけどな。

 

「そして俺達はキューバの海で沈んだ……はずだった」

 

「なるほどね~?それで気が付いたらあそこにいたって事かしらぁ」

 

「ああ」

 

「ふ〜ん?」

 

龍田は一先ずは納得した様子だったが、全てを信用した訳ではないようだ。

う~む、中々に手ごわい。

 

「まあそういう事だ。すまんな、飯時にする話じゃなかったな」

 

「いや、俺達が聞いたんだし大丈夫だって。ただそうなるとアラ=ハマキ?の名前が大本営に伝わってるのは不味いんじゃねぇか?」

 

「大丈夫よっ!何かあっても暁達がアラ=ハマキ?さんと艦長さんを護ってあげるわっ!」

 

暁が突如立ち上がり胸を叩くと自信満々に言い切って見せた。

 

「はは、そりゃ頼もしいな。だが大丈夫だ、隠した所で何れ情報は奴らに伝わるし次の手なら既に打ってある」

 

「流石ね艦長さん!私にも手伝える事はあるかしら?」

 

「そうだなぁ、それなら雷達には哨戒中に怪しい奴を見つけたら直ぐに俺か提督に連絡してくれないか?」

 

「まっかせなさいっ!」

 

取り敢えずは納得して貰えた様だな。

後は今のバックストーリーをあら、葉巻?に共有して軍の上層部と話し合いが上手く纏めれば現状の問題は大方解決出来るな。

 

朝食を終えた後、遠征に行くと言う天龍達と別れた俺は散歩がてら情報を集めに工廠へと足を運んだ。

工廠では出撃から帰ってきたと思われる第一艦隊の面々が艤装を外しながら話をしていた。

 

「オー、今回もルートが逸れてしまいましたネー」

 

「どうすれば良いのでしょうか……」

 

「本当は編成を変えられると良いんだけどねぇ?」

 

「そうね……朝潮さん。戦力を落とすのは危険ですが一度提督に進言してみるのはありだと思います」

 

「私もそう思いますよ」

 

「Zzz……」

 

なにか話し合ってるみたいだが目的が果たせなかったのか?

 

「よっ、お疲れさん」

 

「貴方はアラハマキさんの……?」

 

「ああ、昨日はウチの馬鹿が悪かったな。提督に叱られなかったか?」

 

「え、ええ。あの後鳳翔さんは呼ばれてましたが恐らく大丈夫かと」

 

あ~……流石に指導者に何もなしって事はねぇよなぁ。

あの提督の事だから恐らく大丈夫だと思うが、一応後で鳳翔の所にも顔出すか。

 

「所で出撃から帰ってきたにしては随分浮かない顔をしていたがなんかあったのか?」

 

「えーと、実は……」

 

朝潮が伏し目がちに話してくれた内容を纏めるとこんな感じだ。

ここしばらく沖ノ島海域に出撃しているがどうしても敵主力艦隊に辿り着けないらしい。

というのも編成人数や艦種によって海流が変わってしまい、決められた条件下でしか辿り着けない場所があるとの事である。

だがそれは潤沢な戦力の揃っていない此処ではまだ厳しいという他ないのが現状らしい。

 

成程なぁ……どういう原理だか解らんが艦娘達には逆らえない力ということか。

ん?ならアイツが出撃した場合どうなるんだ?

 

まあ罰した手前直ぐにとは行かねぇが上に話を通した後なら試してみても良いかもな。

 

「そうか、功を焦ってとちってもしょうがねぇと思うがな……まあお前らが言い辛いなら俺が代わりに提督に話してやるよ」

 

「あの、いえ……ですが」

 

「お前らも無理して実力の伴わない仲間を連れてってそいつやそいつを庇った奴が沈んだら寝覚め悪ぃだろ?」

 

補給艦なんて狙われるだけだから要らねぇって幾ら言っても送ってくる上の奴らにはほとほとうんざりしていたしな。

本当にあいつらは人を無駄死にさせて何がしたかったんだ……結局敵に奪われるから尚更救われねぇ。

 

「兎に角っ、提督にはそう伝えとくからお前らも無茶すんなよ?」

 

「いえ、それでもっ!」

 

「はいは~い、それじゃあ艦長さんに任せましょーよ」

 

納得してくれない朝潮への対応に悩んでいると横から三つ編みお下げの少女が助け船を出してくれた。

 

「北上さんっ!」

 

「まあまあ朝潮っち考えてもみなよ~。あたし等が進んでる所ですらヌ級flagshipの後期型とかリ級eliteとかが出てくんだよ?その先にあたし等より練度の低い子を連れて行っても連携も取れないし全員の足を引っ張るだけだよ~?」

 

北上か……歯に衣着せぬ物言いだがその紛れのない事実こそが相手を現実に引き戻す。

敢えてその言葉を選んだのだとしたら……いや、そうでなくとも常に冷静かつ客観的に判断を下せる存在は戦場では非常に貴重な存在だ。

俺ももっと冷静に対応出来れば弟達だけでも助けられたんだがな。

 

「北上の言う通りだ。ただまぁ、どうしても攻略を急ぎたいっつうなら……あら、葉巻?の随伴許可を提督から取りな」

 

アイツが居れば最悪でも低練度の奴を背負わせて守ればどうにかなるだろうしな。

 

「……わ、わかりました。ですが甘えるわけにはいきませんので提督へは旗艦である私が伝えさせて頂きます」

 

「ん、分かった。じゃあな、俺はそろそろ行くぜ。引き止めちまって悪かったな」

 

朝潮達に別れを告げるとそのまま工廠を後にした。

そういや明石が居なかったな……ま、有益な情報も得られた事だし良しとするか。

 

あとは鳳翔の所に行ってから提督に挨拶して……はぁ、仕方ねぇから後であのバカに昼飯でも届けてやるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




朝潮「提督っ!沖ノ島海域攻略について編成のご相談があります!」

灰瀬「なにかしら?(変えるべきか考えていた所だし丁度良いわね)」

朝潮「第二艦隊より駆逐艦一隻の増員及び戦艦()()()()()の随伴許可をお願いしますっ!!」

灰瀬「……却下します。その代わり暫くは第二艦隊の練度上げに注力して全体の戦力向上を行うわ。だから朝潮、貴女はその間遠征の旗艦をお願い出来る?」

朝潮「は、はいっ!この朝潮、謹んで拝命致します!」

灰瀬(覚悟を決めて来てくれたのにごめんね朝潮っ。ウチにはまだ彼女をまともに運用出来る程の資材はないの)チラッ

検査結果 
対象名:アラハマキ 
弾薬最大搭載量:2669
使用兵装
406mmガトリング砲六基十八門
対艦ミサイル発射機六基二十四門
127mmガトリング砲二十基四十門
20cm12連装噴進砲四基四十八門



備考:現状は弾薬の使用に制限を設けるなどの対策を実施した上での運用を推奨します。 明石


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あら、葉巻?修理完了しました!

あら、葉巻?のあだ名をずっと考えておりましたが……寧ろこのままの方が良いかなと思い直しました!

あら、葉巻?「えぇ〜……考え直しても良いのですよ?」

決定です!
まぁもし本当に気に入ったのが浮かんだ時の為に変える可能性は残しておきます。

あら、葉巻?「あだ名……」


結局丸一日床に伏せておりましたあら、葉巻?、この度完全復帰です!

 

そう言えば昨日の昼食を持ってきて下さった艦長から私達が対国家用秘密兵器としてこの国に仕えていた事になった話を聞かされました。

 

確かに大まかには合っていますが……まぁ流石艦長といった所ですね。

信憑性がある綺麗な美談として上手く脚色されてました。

駆逐艦一隻に弟がタイマン張って負けたから兄弟総出で囲んだら呆気なく返り討ちに遭って沈みました、なんて話は誰も信じませんでしょうしねぇ。

 

という事で先の演習も相まって私の実力もその根源も皆の知る所となった訳です。

 

……あれ?それって不味いのではないでしょうか?

鎮守府全体に広まったらいつ外部に漏れても可笑しくないですよね。

 

「艦長?もしかして今回の演習はやるべきで無かったのでしょうか?」

 

恐る恐る訊ねると艦長は呆れたように答えました。

 

「はぁ……ま、お前が鳳翔に圧勝しなければまだ誤魔化しようがあったんだがな」

 

そうでしたか……確かに現状を鑑みれば少し考え無しの行動だったのかも知れませんね。

 

「…………」

 

「まぁ、それに関してはドロップ艦がどういう認識かってのを確認しなかった俺にも非はある。だからあんま気にすんな」

 

「はい……って、その割には私だけ延々と走り続けさせられましたよね?艦長だけ何も無いのは少々納得いかないのですが」

 

「てめぇ、反省してるようだから労わってやろうと思った途端に調子付きやがって……また動けなくなるまで走らせてやろうか」

 

「ごめんなさい私が悪かったです!」

 

「ったく……」

 

うぅ〜……戦艦をこれ以上に陸上で走らせるなんて鬼畜の所業ですよもう。

超兵器だって繊細なんですからもっと丁重に扱って欲しいものです。

 

はぁ〜あ……ところで、復帰早々どちらへ向かっているのでしょうか?

艦長の言うままに歩いていますがこっちは初めて行く所ですね。

 

「あの、艦長。私達は今何処に歩いているのですか?」

 

「ん、ああ。初日に言ってた上の奴らとの話し合いだ。何度でも言うがお前は余計な事を聞いたり答えたりすんなよ?」

 

「いやですね艦長、私だって学習するんですよ?」

 

「そうか、随分と学習速度が遅いようだがな。着いたぞ、ノックしろ」

 

むぅ、言い返したい所ですが時間切れですか。

私は諦めて艦長の言う通り扉をノックすると中から嗄れた男性の声が聞こえてきました。

 

「入り給え」

 

「はっ、失礼します!」

 

「失礼します」

 

艦長に続いて一声掛けてからノブに手を掛け豪華な扉を開く。

中には荘厳な面持ちで奥のソファーに腰掛ける老人と、その隣で老人に頭を撫でられて恥ずかしそうに俯く灰瀬提督の姿がありました。

 

この状況はもしかして……

 

「灰瀬提督、それはセクハラで訴えても良いのでは?」

 

「む?」

 

「だからおまえなぁ……つうか何処でそんな言葉覚えた!」

 

「機密です」

 

昨日は僅かに動ける範囲で暇を潰せる物を探していましたが……いやはや、テレビというものは中々に興味深い物でした。また時間がある時にでも観たいです。

 

それにしてもあの老人、一向に手を引く気配がありませんね。

セクハラは人の心を傷付ける悪質な行為だと言っていましたし、部下としては提督を助けるべきでしょう。

 

「そこの方、提督から手を離さなければ実力行使に出ます」

 

「ふふ、儂がその程度の脅しに屈すると思うたか?」

 

「あくまでもセクハラを選びますか……仕方ありません、貴方を排除致します!」

 

「儂を舐めるな小娘がっ!死んでもこの手は離さんぞぉ!」

 

な、なんという覚悟……セクハラの何がこの御仁を此処まで言わしめるのでしょうか。

ですが私だって柱島泊地第四鎮守府の艦娘、提督と提督の帰りを待つ彼女達の為にも此処で引くわけには行きません!

 

「消し飛べぇぇぇっ!!」

 

「止めなさいアラハマキさんっ!」

 

私が飛び掛かろうとしたその時、提督は老人の手を払って私の前へ割って入って来ました。

 

「なっ?提督!」

 

「る、瑠花ぁ〜……」

 

「元帥も誤解を助長させる様な事を言わないで下さい!」

 

「おいおい、元帥相手に随分強気だな」

 

「……ええ、それについては今から話しますから取り敢えず座って貰えますか」

 

私達がソファーに座ったのを確認すると、提督は朝潮が持ってきたお茶を飲んで一息ついてから話し始めました。

 

「こちらの方は譜院 古秀(ふいん ふるひで)元帥。海軍大将であり──」

 

「そして可愛い瑠花の祖父である!」

 

ええと、つまり家族と言う事ですか?

家族でもセクハラは適用されるのでしょうか。やはりテレビでもっと知識を増やさないといけませんね。

 

「元帥っ!ご自身の立場をもっと弁えて頂きませんと!」

 

「瑠花よ……何故そんなに他人行儀なのだ。昔みたくじぃじって呼んではくれぬのか?」

 

「呼んだ事ありません!」

 

「あー、つまりただ孫を溺愛してただけって事でいい……んですか?」

 

「うむ、だから断じてせくはらではない!そこの所を良く言い聞かせておくのだぞ?」

 

「はあ……」

 

ふむ、どうやらセクハラでは無いようですね。

覚えておきましょう。

 

「まあ、ウチの馬鹿の所為で手間取らせちまって申し訳ない。忙しい身でしょうし早速本題に入らせて頂きましょう」

 

「ふふ、お主からも娘愛が溢れておるぞ?」

 

「本題に入るって言ってるでしょうが!」

 

娘愛……艦長って確か独り身だったはずでは?

 

「艦長……娘って?」

 

「黙ってろって言ったよなぁ?」

 

「はい」

 

少し気になった事を聞いただけじゃないですか、そんなに怒らなくても……。

 

「それで?本題とはなんだね」

 

「はい、このあら、葉巻?に関しての事で幾つか約束頂きたい事がございます」

 

「ふむ、言ってみたまえ」

 

「はい、先ずは……」

 

艦長の要求を纏めるとこんな感じです。

 

・転属は一切受けない。

 

・支援要請は艦長が正当な要請だと判断した物のみ受ける。

 

・柱島泊地第四鎮守府及び所属の者への妨害行為及び敵対行為に対しての防衛行為に伴う加害者側の被害に関して当該鎮守府に所属する者は一切関知しない。

 

・以上三点が守られている限り、荒 葉輔並びにあら、葉巻?は海軍と友好関係を結ぶものとする。

 

凄いですね、こんな一方的な要求普通なら通りませんが……艦長はどうするのでしょうか。

 

「はは、面白い小僧だ。駆け引きなど儂には無用、本来のの要望を言いたまえ」

 

「同感です、私も面倒な駆け引きなどしているつもりは毛頭ありませんよ」

 

「なに、すると今の馬鹿げた要求を通せると本気で考えておるのか?」

 

「ええ、今の日本の情勢で我らを敵に回す事がどれだけ愚かな行為か……貴方の所に居た鳳翔の艦載機相手にほぼ無傷で殲滅したとでも言えば少しは理解頂けますかな?」

 

「鳳翔を?そうか……だがな、あまり図に乗るなよ小僧。儂がその気になればそいつを含め直ぐにでもこの鎮守府を解体出来るのだぞ?」

 

そう言って威圧的に脅しかける元帥に対して艦長は不敵に笑みを浮かべていました。

 

「はっ、そうしたらてめぇは一生孫に恨まれる事になるぜ?」

 

「うっ……だが争いの火種となりうるお前らを瑠花の下に置いておく訳には行かんのだ!」

 

「なるほどな……なぁ灰瀬提督、ちょっとこっちに来てくれないか?」

 

「えーと、なにかしら」

 

「待つのだ瑠花っ!そっちに行くんじゃない!」

 

このタイミングで提督を呼び寄せて何をする気なんでしょうか。

艦長の考えがさっぱり読めません。

そんな風に考えていると艦長は私の肩に飛び乗りそっと耳打ちしてきました。

 

「あら、葉巻?、提督が来たら捕まえておけ」

 

「はい?」

 

本当に何をする気なんでしょうか。

ほんの少しだけ嫌な予感がしてきました。

 

「荒さん?あの、どうする気なの?」

 

「ちょっとこっちに座ってくれ」

 

「はぁ……」

 

提督が隣に座ったタイミングで艦長が私の肩を叩く。

それを合図によく分かっていない私が同じくよく分かっていない提督を両手で確りと抱き抱えました。

 

あ、程よく柔らかくて意外と悪くない抱き心地ですね。

 

「えっ、えぇ!?」

 

「これで良いのでしょうか?」

 

「ああ、上出来だ」

 

私の提督を捕まえたのを確認すると艦長は私の頭頂部に飛び移り、両手を広げて大仰に言い放ちました。

 

「さあ元帥よ、貴様に問おう!要求を飲み我らに大事な孫娘を護るよう願うか、我らを拒絶し目の前で愛する孫娘を喪うか……好きな方を選ぶがいい!」

 

えぇっ!?ちょっと何言ってんですか艦長!!

口調があっちでの戦闘時みたくなってますし。

というか海軍のトップに対してこんな事したら後で大変な事になりますよ!?

 

「貴っ様ぁ……なんという卑劣な男め!」

 

「卑劣?違うな、我々を敵に回すという事がどういう事か解りやすく見せただけだ。コイツがその気になればこの国の海軍程度軽く潰せるって事をなぁ?」

 

「ふん、そんな与太話誰が信じるものかっ!さっさと瑠花を離せぇっ!」

 

えぇ〜、最初と言ってる事違うじゃないですか。

流石にそんなハッタリは効きませんよ。

 

「信じるか信じないかは勝手だ。だがそうなってから後悔しても遅いだろう?此処が貴様らのターニングポイントであると理解せよっ!」

 

「荒さん……」

 

「えと、なんかすみません提督。艦長ちょっと悪役ロールに嵌ってしまったみたいで。もう少しこのままで我慢していたたたたっ!?」

 

艦長めぇ……いきなり人の髪を引っ張るなんて酷いじゃないですか!

私嫌ですよ?提督を手に掛けるなんて天龍さん達に対する裏切る様な真似出来ませんからね?

 

艦長に抗議の目を向けようとするが上にいるので向けられませんでした。

 

仕方ないので嫌がらせに頭を僅かに左右に揺らしてやります。

艦ですから揺れるのはどうにもなりませんよ〜いたたっ!

 

艦長は私の髪を更に掴んでバランスを取りながら元帥へ催促をかける。

 

「さあ元帥よ、答えは決まっているだろう?早く答えるが良い!このバカは存外気が短いのだ」

 

なっ!揺らした仕返しですか!?

私が頭の足りない奴みたいな扱いなんて納得出来ません!断固抗議です、後で覚えていて下さいね!

 

「ぐぬぬぬっ……解った、条件を飲もう。その代わり何が有っても瑠花の事だけは護るのだぞ!もし儂の孫娘の身に何かあったらその時は全勢力を以て貴様らを跡も残さずに消し去ってやるからなぁ!!」

 

「交渉成立、だな。あら、葉巻?離してやれ。それと今後は灰瀬提督を最重要護衛対象に指定する。肝に銘じておけ」

 

「……了解しました。それではこのまま護衛を継続します」

 

「え?アラハマキさん、あの……」

 

ふぅ、提督を抱きしめてると何だか落ち着きます。

それに護衛ならこうしていた方が安全ですよね?

 

「おい貴様ァ!さっさと瑠花から離れんかぁ!!」

 

ほら早速危険が迫ってきましたね、防御重力場低出力展開っと。

 

「なぁ!?なぜ近付けぬ!貴様、何をした!」

 

「ふぅ〜……あ、護衛ですよ?」

 

「え、えぇ……?」

 

「おい、あら、葉巻?……俺の命令に逆らうのか?」

 

あ……この声色は駄目なやつです。

緊急的且つ迅速に対応しなければ大変な事になるのが目に見えてます!

防御重力場解除っ!

 

「うおっ!?」

 

「申し訳御座いませんでしたもう離しましたので何卒お許し下さいませ」

 

「良いだろう、周回数は半分にしておいてやる」

 

「……ありがとうございます」

 

そんなぁ、既に走らされるのは確定事項ですか。

うう〜……ですが新しい収穫が有りましたので甘んじて罰は受けましょう。

 

「はぁ。譜院元帥、この度は数々の無礼大変申し訳ありませんでした。ですが此奴の力は好き勝手に奮って良いものではありません。だからこそ先の条件はどうしても飲んで頂きたかったのです」

 

「はぁ……はぁ……もう良い。瑠花を護ると約束してくれるなら後は好きにするがいい。海軍同士で妨害や敵対行為など本来有り得てはならんし特に問題なかろう」

 

「お許し頂き感謝致します」

 

「お主、随分と裏表の差が激しい奴だの……まあ良い、儂は疲れたからもう帰る。瑠花や、また来るからの」

 

「はい、お待ちしてますよ。()()()()()()()()

 

「おぉ……っ!瑠花ぁー、元気でなぁ!おじいちゃんまた来るでのぉ!」

 

そう言って譜院元帥は灰瀬提督に手を振りながら揚々と部屋を出ていきました。

 

まあ色々有りましたが終わりよければ全て全て良しって事ですね。

 

「さ〜て、あら、葉巻?よ。解ってるな?」

 

「え……?でもほら、提督の護衛が有りますし……ねぇ?」

 

「提督は今日は特に外に出る予定はねぇから大丈夫だ。ほら、行くぞ」

 

うへぇ……全然終わり良くないじゃないですかぁ。

甘んじて受けると言ったな?あれは嘘です……ってやろうと思ってましたが、艦長の圧に負けた私は泣く泣くグラウンドへ向かうのでした。




Q.荒艦長の口調が安定してない。

A.素、慣れない敬語、厨二病(悪役ロール)の三つのコースが御座います。


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むぅ……最近欲求不満気味です。

あら、葉巻?は艤装を展開したままうずうずしている。かまう?

▶構う。

・構わない。


柱島泊地第四鎮守府に着任してから早ニヶ月が経過しました。

私は譜院元帥との約束通り、灰瀬提督の護衛としての日々を過ごしています。

 

流石にただ立ってるだけというのもあれなので、秘書艦補佐として朝潮さんのお仕事の手伝いや朝潮さんが出撃している間の秘書艦代理をやらせて頂いております。

 

もちろん護衛と言うからには一番危険な寝込みを護らなければなりません。

という訳で遠慮する提督を押し切って夜は一緒の部屋で眠る事にしました。

 

その話を聞いていた朝潮さんは少し不機嫌そうでしたが。

 

まぁ何はともあれ来たばかりとは打って変わって私あら、葉巻?は平穏な日々を満喫しております。

 

しておりますが……。

 

「アラハマキさん?調子でも悪いの?」

 

「あ、いえ。体調は問題ありません。ただ……」

 

「ただ?」

 

話すべきか悩みましたが余計な心配を掛けるよりは相談するべきだと判断し、私は意を決して話し始めました。

 

「その、()()()()()が最近ご無沙汰でして……いけないとは分かっていても……身体が疼いてしまって……」

 

「え……えぇっ!?あ、朝潮っ!ちょっと資料室からこれを取ってきてくれる!?」

 

「へっ!?は、はいっ!了解しました!」

 

提督は突然朝潮さんにお使いを頼むと二、三深呼吸をすると狼狽えながらも私に訊ねて来ました。

 

「あ……アラハマキさん?その……最近って事は……()()()()()()は以前からしていたって事……よね?」

 

「はい、以前はしておりましたね。というより灰瀬提督こそ大丈夫ですか?顔が随分と赤い様ですが」

 

「だ、大丈夫よ?そういう話を誰かとするなんて経験なかっただけだから……」

 

私が相談したせいで提督が体調を崩されてしまった!?

そ、そんな事が艦長に知られたら大変な事に……。

 

「失礼しました提督っ!今の話は忘れて下さいませ!」

 

「大丈夫っ……大丈夫よ!そ、それで?最近は出来てないのは……私と居るからよね」

 

「えと……いえ、それが私の任務ですので」

 

「そうねぇ……艦長さんは要らないって言っていたけれど、やっぱり休暇は必要だと思うわ」

 

休暇……私にですか?

 

 

「あの……折角の申し出に感謝しますが、やはり私が提督から離れる訳にはいきませんのでお断りさせて頂きます」

 

「でも、自由な時間は必要じゃないかしら……その、()()()()()も出来るし?

 

なっ!なんと魅力的な…………いえ、ですが提督を護るのが私の任務。

それを私事でほっぽりだす訳には……。

 

「私の事なら心配しないで。その間は金剛と朝潮の二人に付いて貰うし、それに外に出ない様にするからっ。ね?」

 

「そ、それなら……艦長も認めて下さるでしょうか?」

 

「大丈夫!私からもお願いするから!」

 

「お気遣い感謝します……」

 

艦長が認めて下さるかは分かりませんが、もし許可を頂けたのなら……ふふふ、楽しみです。

 

「おはようさん。提督、あら、葉巻?」

 

「おはようございます、荒さん」

 

噂をすればなんとやらですね。

早速頼んでみましょう。

 

「おはようございます艦長。朝からすみませんが一つお願いしたい事があるのですが」

 

「あん?朝っぱらからなんだよ」

 

「定期的な休暇を頂きたいのですが……」

 

「あ?お前が休みを欲しがるなんでどんな風の吹き回しだ?」

 

「実は……最近欲求不満が溜まってまして」

 

「ちょっ、アラハマキさん!?」

 

あれ?理由を伝えただけですが何か不味かったでしょうか。

 

「えと、アラハマキさんが言ってるのはですね?ずっと気を張りっぱなしでフラストレーションが溜まってるって事でして」

 

「あー、灰瀬提督。大丈夫だから落ち着いてくれ……で?あら、葉巻?、休みを取ってお前がしたい事を言ってみろ」

 

「はい、誰でも良いので戦いたいです」

 

「えぇっ!?荒さんも少しは空気を読んで下さいって……え?」

 

ん?提督はどうしてそんな意外そうな顔をしているのでしょうか?

さっきまでその事で相談していた筈ですが。

 

「あ、あれ……?最近ご無沙汰なのって……」

 

「はい、以前鳳翔さんとの演習以来ずっと戦闘は行っていませんでしたので」

 

「あ……そ、そそそう!?戦闘の事ね?ごめんなさい私ったら勘違いしてたみたいで!」

 

「勘違い?提督は何と勘違いをされていたのですか?」

 

「あ……いや……その……」

 

疑問に思った事をそのまま聞いただけなのですが、提督の顔はみるみる内に真っ赤になり俯いてしまいました。

えと……これは私のせいなのでしょうか?

 

「あの……提──」

 

「で!お前の要求はたまには戦わせろって事で良いんだな?」

 

艦長が言葉を遮る様に訊ねてくるのを疑問に思いながらも私は頷く。

 

「はい、無理にとは言いませんが……欲を言えば月に一度位は」

 

「……まぁ、付き合ってやるっつったしな」

 

「艦長……!」

 

「但し、最大で月四日。使用兵装は噴進砲とと近接のみだ、いいな?」

 

「はいっ、艦長!それでは早速行ってきても宜しいでしょうか!」

 

「駄目に決まってんだろうがバカ。そうだな……なぁ提督、此奴が出てる間だけでも主力艦娘を二人付けて貰うことは出来ねぇか?」

 

「えっ!?ええと、それなら第一艦隊の手が空いてる時なら金剛と朝潮を付けるわ」

 

「つーわけでお前が出れるのは第一艦隊の都合が付いて尚且つ提督の外出予定のない時だ、分かったか」

 

まあ、仕方ありませんね。

私が息抜きしている間に提督に何かあっては本末転倒ですからね。

 

「畏まりました。では提督、今日から二日程出てきても良いでしょうか?」

 

「お前なぁ……話を聞いてたか?」

 

「だ、大丈夫よ荒さん。今日明日は第一艦隊の出撃も無いし私も出る予定は無いから、ね?」

 

「提督……ありがとうございますっ!それでは沖ノ島沖戦闘哨戒へ行ってきます!行きましょう艦長!」

 

「おいそこって……はぁ、済まねぇな提督、じゃあちょっくら行ってくっから何かあったら直ぐに連絡をくれ」

 

「いえ、お二人共気を付けて行ってきてくださいね」

 

私達は提督に見送られながら部屋を後に出撃ドックで艤装を展開し、そのまま大海原へ飛び出して行きました。

 

久々の海、それはもう最高の気分ですよ!

後は誰かと戦えればもう大満足です。

 

そんな願いを聞き入れるかのように海中から六隻の深海棲艦が飛び出して来ました。

 

あれは資料にあった軽空母というのに似てますね。

噴進砲しか使えない今、艦載機をあまり出されると面倒ですし先に沈めましょう。

 

私は48門を全てを黄色いオーラを放つ軽空母に向けて一斉射しました。

 

全弾命中すれば沈むでしょうが、私はそれを期待せずに速度を上げてそのまま軽空母へ突っ込む。

 

「グオォォォッ!!」

 

予想通り噴進砲は十二、三発しか当たらずに沈めることは叶いませんでした。

ですので追撃とばかりにサーキュラーソーで軽空母を分断してやりました。

 

「ふぅ、相手が強ければもっと楽しめるのですが」

 

「戦場の真ん中で油断とは感心しねぇなぁ。根性入れ直してやろうか?」

 

「油断はしていませんので遠慮しておきます」

 

艦長に軽口を返しながら残りの深海棲艦もサーキュラーソーで引き裂いて行く。

 

そして最後一隻が海中に没して行くのを見届けると、再び先に進み始めました。

 

ふふふふふ……まだまだ戦いは始まったばかりですよ。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「こちら旗艦武蔵、単艦で沖ノ島沖の深海棲艦を殲滅してるとんでもない艦娘を見つけた」

 

『そうか、そいつが柱島泊地第四に居る例の奴に違いない。手段は問わない、何としても奴を捕まえろ』

 

「……了解した」

 

「(嫌な予感がするな……)」




Q.情報漏れすぎじゃね?

A.日本の機密管理なんてそんなも……ごほんっ、まぁ色々ありますが元帥の孫という立場の灰瀬提督は有名人だということも理由の一つですかね。

あ、因みに前書きで彼女に構うを選択すると実戦カッコガチを強要されますので一般人は放置する事をお勧めします。

あら、葉巻?「……無視は寂しいです」チラッ


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あはっ、もっと強い敵は居ないんですか?

新年初の投稿です!
今年もよろしくお願い致します〜m(_ _)m

あら、葉巻?「年を越してから慌てて前書きを変えるような鈍い方ですが本作共々どうぞよろしくお願い致しますね」

言わないでぇ、近くにならないと実感が湧かないんですよ〜。


ふぅ、沖ノ島沖周辺を周回して深海棲艦をかれこれ150体ほど撃沈させましたがやっぱり手応えがありませんねぇ。

 

「あら、葉巻?、噴進砲の残弾が50発を切ったしそろそろ帰投するぞー」

 

「解りました、まだ暴れ足りませんが提督達に迷惑を掛ける訳にも行きませんからね」

 

それにしても……先程からずっとこちらを観察しているあの艦隊はなんでしょうか。

あんな近くに居るのはわざとでしょうか?

それとも私の索敵距離を舐めてるのですか?

 

「艦長、南西方向にいる艦隊はどうしますか?」

 

「ん、ああ。何もしてこなきゃ無視しろ。敵対行動を取ったら所属を聞きだせばいい」

 

「ならばその時は反撃しても良いんですね?」

 

「……ああ、そんときゃ存分に暴れてこい。但し使用兵装に変更はナシだ」

 

流石艦長っ!これは非常に楽しみになってきました。

 

期待に胸を膨らませながら敢えて干渉出来る速度まで落とすと、彼女達は予想通り接近して来ました。

 

そんな私の様子に艦長は少し呆れている様でしたがそんな事は知りません。

私は楽しい戦いをしたいのですっ!

 

「そこの艦娘、止まって貰おうか」

 

私を呼び止めたのは短いスカートとサラシ以外何も着ていない褐色の方でした。

 

あれが許されるなら裸でも良かったのでは?

まあ折角鳳翔さんが教えて下さったので今更着ないなんて選択はありませんが。

 

取り敢えず褐色の方の言う通りに機関停止させて用件を聞く事にしました。

 

「一日中私を追い掛けてまぁご苦労様です。それで、私に何か用ですか?」

 

「ふっ……気付いていたなら速度を落とさずにさっさと帰れば良いだろうに」

 

「いえ、貴女達が艦娘である事は解ってましたので無碍にするのも如何なものかと考えただけです」

 

それに見た所こちらの第一艦隊より練度が高そうでしたからね、ふふ……。

 

「ほう、そいつは有難いな。ならばそのまま我らの鎮守府まで来て貰えると助かるのだが?」

 

あら、もしかして私が出撃するのをずっと待っていたとか?

それはそれで悪い気はしませんが……。

 

「折角のお誘い恐縮ですが、時間が有りませんので辞退させて頂きますね」

 

「そうか、だがこちらも提督から指令が出てる以上簡単には引き下がれんのだ。無理にでも付いてきて貰うぞ」

 

んふふ、その言葉を待っていました。

 

「無理にでも……それはつまり()()()()()()()()()と言う事ですよね?」

 

「……出来れば手荒な事はしたくないがな」

 

「そうですか……上から通達が来てるか知りませんが、貴女達から売った喧嘩は海軍じゃ守ってくれませんよ?」

 

「ふっ、姫級すら退ける我が艦隊がたった一隻の戦艦に負けるとでも?」

 

姫級……話に聞いてからとても楽しみにしているんですが、残念な事に付近での出現はまだ確認出来ていないそうです。

ですがその姫級を退ける実力なら充分に楽しめそうですね?

 

「どう捉えて頂いても構いませんが、兎に角私はこれで失礼します」

 

「動くなっ!少しでも動けばお前は沈む事になるぞ!」

 

「お断りさせて頂きます」

 

「くっ!全艦砲雷戦開始、撃てぇ!」

 

交渉決裂と見るや予想通り彼女達は即座に攻撃を開始しました。

急加速でその場を離れると、直ぐに反転し最大戦速で距離を詰めていく。

 

「当たる気はありませんが……貴女達の敵対行為を確認しました。それではこちらも反撃します。さあ、お互い存分に楽しみましょう?」

 

「くそっ、なんて航行速度だ!全員私を先頭に単縦陣を組め!」

 

あははっ、陣形なんか組ませませんよ?

先ずは今使用出来る兵装では対処し辛い空母からやりますか。

姿がこちらのお二人とそっくりなので少しやりにくいですが、お二人の成長後の実力と考えれば楽しみでもあります。

 

「なっ!?発艦が間に合わない!」

 

「くっ、なんて速さなの」

 

「基本がまだまだ足りませんねっ、ウチのお二人なら今の時間で一中隊は余裕で出せますよ!」

 

加賀が番えた矢を放つより早く左腕のドリルで弓ごと粉砕し、続けざまに右腕のサーキュラーソーで加賀の腹部を切り裂く。

 

「加賀さんっ!?」

 

「うっ……ぐ……大丈夫よ、そんな事より早く距離を取って発艦を!」

 

赤城は加賀の言葉を受けて直ぐに私から距離を取ると弓を構えました。

 

「ふむ、切り替えの速さは悪くないですが……やはり姿勢が整うまでが遅いです!」

 

「一航戦を……舐めないで下さいっ!」

 

先程と同じ様に左腕のドリルが今度は赤城の弓に触れる直前に彼女は姿勢が整わないまま矢を上空へと放ちました。

 

直後、弓と飛行甲板を砕くも放たれた矢は爆撃機へと変化し機体を無理に捻らせて私へ急降下爆撃を強行してきました。

 

「おっと、防御重力場を展開してるとはいえ当たってしまうとは……これでは鳳翔さん達に申し訳がたちませんね」

 

「奴は動きを止めたぞっ。今だ!全員で撃てぇ!!」

 

「あら、仲間ごと巻き添えにする気?……まあ良いですが」

 

向かってくる砲弾を視認した後で私は赤城と加賀をそれぞれ後方に蹴り飛ばしてから、褐色肌の戦艦目掛けて突っ込んでいく。

 

「っつう……46cm砲ですか、流石の威力ですね」

 

「ははっ、霧の奴らが使っていた技術かは知らんが流石に四十六センチ砲は通る様だな?」

 

褐色肌の彼女が放った砲弾は防御重力場を越えて、私の体へ僅かな痛みを残していきました。

 

霧がどうとか言ってましたが歓喜に打ち震える私はそんな言葉気にも止めず被弾した右肩を撫でながら思わず笑みが零れてしまいました。

 

「ふふ、ふふふふふ……これはこれは、お陰様で今日は記念すべき日となりました」

 

「記念……だと?貴様は一体何を言っているのだ」

 

この世界で……いえ、あちらの世界を含めても初めての痛みという感覚ですから確りと心に刻み込んでおかなければいけませんね。

 

ですが彼女達の奮闘もここまででしょうか。

私は既に旗艦と思われる褐色肌の彼女に手が届く位置に居ますから。

流石に自分諸共なんて指示は出さないでしょう。

 

「さて、これで詰みですね。お陰様で今回の出撃は素晴らしいものとなりました。お礼として貴女達の命までは取らないであげましょう」

 

まあ、艦長は貴女達の提督を見逃すつもりは無いようですがね。

 

褐色肌の戦艦を無力化する為、その首に手を掛け力を込めていく。

 

「うぅ……ぐ……く、はは……残念だが……まだ詰んじゃいない……さ」

 

「ん?おいあら、葉巻?!両舷から魚雷だ!」

 

「おっと、読み違えましたか」

 

その直後、八十射線もの魚雷が私達を巻き込んで一斉に炸裂した。

 

「タイミングバッチリだねぇ、大井っち」

 

「私と北上さんだもの!当然だわっ!」

 

「う……ですがあの爆発では武蔵さんはもう……」

 

「武蔵さんも私達同様沈む覚悟は出来てた筈です。それより警戒は怠らないで」

 

「流石にあれだけ魚雷受けてピンピンしてたらヤバいって〜」

 

「ふふ……うふふふふふ?」

 

「……うっそ、まじ?」

 

そう……この殺意、この痛みこそが真に戦いである証明!

 

「ヨかったわぁ。ねぇ……まだ、ヤれるでしょう?さぁっ!もっと!タノしみましょう!?アハハハハッ!!」

 

127mm,406mmガトリング砲全門の外部動力を起動。

対艦ミサイル全二十四門装填完了。

クリプトンレーザーの混合ガス充填中。

荷電粒子砲及び拡散荷電粒子砲の粒子加速器を起動。

 

超兵器機関出力━━

 

「全兵装及び機関強制停止、戦闘配備を解除しろ。()()()

 

命令を受諾、戦闘配備解除します。

 

「…………すみません、艦長」

 

「久々の実戦だからな、舞い上がったんだろう。今回は不問とするが、俺が許可した兵装以外の使用は認めん。次からは気を付けろ」

 

「はい……」

 

「さて、なあお前達?これからちょっくらお前らの鎮守府まで付き合って貰うぜ。そっちの提督に用があるからよ」

 

「提督に用、ですか。断ると言ったら?」

 

「嫌なら良いぜ?お前達がやろうとしたように無理にでも来てもらうだけだからな。俺らはお前らの内の一人残して後は沈めちまったほうが楽だしなぁ?」

 

艦長はそんなに悪役がやりたいのでしょうか?

ま、慕われるのに慣れてなくて嫌われ役の方が気が楽だからとかそんな理由だとは思いますけどね。

 

「まぁ、艦長は兎も角私個人としては誘拐なんかを艦娘にやらせる様な提督に忠義を尽くす義理はないと思いますが?それに何事も命あっての物種ですし?」

 

「貴女に言われると腑に落ちませんが……確かにその通りだとおもいます」

 

「赤城さん……ええ、でもそうね。他人の足を引っ張る事に腐心するあの人のやり方はあまり気持ちの良い物では無かったわ」

 

「赤城!加賀!お前達まさか提督を裏切るつもりか!?」

 

私に首根っこを掴まれながらも防御重力場範囲内に入れていた為に差程被害の受けなかった褐色肌の戦艦もとい武蔵が赤城達に吠えていました。

 

「あたしらも加賀さん達に賛成かなぁ〜」

 

「そうね……あの男北上さんを嫌らしい視線で舐めるように見ていたもの!罰を受けて当然だわ!」

 

「そんな、ばかな!そうだ大和よ!お前なら馬鹿な事は言わんだろう!?」

 

どうやら彼女は提督に絶対の信頼を置いていた様ですが、所詮盲信的であり疑う事を知らない彼女には提督の本当の姿など見えていなかったのでしょう。

 

そんな彼女の目を覚まさせるかのように、大和と呼ばれた終始一度も口を開かなかった彼女はその重い口を開く。

 

「武蔵、艦娘が同じ仲間である艦娘を誘拐する事が本当に正しい事だと思うの?もし提督の言葉が全て正しいのならそんな盲目的な正しさ、私は要りません」

 

「そんな……ありえん……提督は……」

 

「話はまとまった様ですね。それでは灰瀬提督に報告する為に一度私達の鎮守府へ参りましょう」

 

武蔵以外の了承を得て、私は項垂れる武蔵を肩に担ぎながら鎮守府へと帰ったのでした。

 




本日の艦娘の皆さん
武蔵 大和
赤城 加賀
大井 北上

バランスは良い……のか?
ルート分岐に引っ掛かりそう。


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大本営が決めたルールはきちんと守りましょう。

悲劇の提督(二人目)
ま、自業自得じゃないですかね?

あ、それと「早速ですが〜」の後書きにてあら、葉巻?のイメージを追記しておきました。
凡そイメージ通りに作れた気がします。


「ちぃっ、武蔵達は一体何をやっているんだ!」

 

昨日から連絡の取れない武蔵達に苛立ちを募らせていた男は怒りに任せて先程から机を何度も叩いていた。

 

その様子に一時的に秘書艦を任命されていた吹雪は怯えつつも滞らない様に書類を捌いている。

 

「おいっ!いつまでちんたらやってんだ!早く終わらせて奴らを探してこんか!!」

 

「ぅ……!ご、ごめんなさいっ!」

 

だがそんな吹雪の何が癪に触ったのか、男は手に持ってい万年筆を激昴のままに彼女へ投げ付けて叱責した。

 

「くそっ、何奴も此奴も無能共が……噂の発生時期からしてもアレの練度などたかが知れてるだろうが!」

 

精鋭艦隊である武蔵達第一艦隊が低練度のたった一隻の艦に負けるなど万一にも考えて居ないその男は、武蔵達が自身の命令を無視したものだと考え憤慨しているのだ。

 

そんな張り詰めた空気の中にノックの音が鳴り渡る。

 

「はぁ〜、やっとか……入れ。さあ武蔵、言い訳を聞かせてもらおうか」

 

だが扉を開けて入って来たのは男がよく知る顔ではなかった。

 

門輪(かどわ)提督。貴方ですね?艦娘達に私の誘拐を命令したのは」

 

「なっ……誰だ貴様はっ!どうやって入った!!」

 

門輪は突然の侵入者に慌てて立ち上がり腰に付けた拳銃を構える。

 

吹雪も門輪を庇うように間に入って連装砲を構えた。

 

しかし不幸な事に戦場を知らぬ男とは違い、一瞬の誤りが死に直結する駆逐艦である吹雪には相対した瞬間に相手の力量が自身を遥かに越えている事を理解してしまっていた。

 

「(勝てない……だけど司令官だけでも逃がさなきゃ!)」

 

一瞬たりとも気の抜けない吹雪とは裏腹にあら、葉巻?は落ち着いた口調で話し始める。

 

「ああ、紹介が遅れました。私、柱島泊地第四鎮守府所属あら、葉巻?と申します」

 

「アラ、ハマキ?そうかっ、お前が例のっ!くくく……いや、良く来たな。私がこの柱島泊地第一鎮守府提督の門輪だ、宜しく頼むぞ」

 

あら、葉巻?が武蔵達によって連れてこられたと勘違いした門輪は拳銃をホルスターにしまい前に立つ吹雪を押し退けると、彼女に歩み寄ると先程までとは打って変わり満面の笑みで右手を差し出した。

 

「司令か━━っ!」

 

吹雪が慌てて引き留めようとするが、時すでに遅く次の瞬間には門輪の肘から先は勢いよく天井へ叩き付けられていた。

 

「…………なっ……なああぁぁあぁぁっ!!?」

 

「生憎ですが、自分の手を汚さず部下に誘拐をやらせる様な腐った方と交わす握手など御座いませんので」

 

「ぐぅぅぅ……きっさまぁぁぁぁ!艦娘の分際でぇぇぇ!!撃てぇ吹雪ぃ!」

 

「ひっ……は、はい!」

 

目の前の存在は恐ろしい。

 

でも司令官も怒ってて怖いし、なにより艦娘ならば司令官を守らなきゃ行けない。

 

立て続けの恐怖に駆られ、既に正常な判断が出来ない吹雪は目を瞑りながらも門輪の指示通りに主砲の引き金を引こうとする。

 

しかし……

 

「吹雪ちゃん、でしたか?敵わぬと知ってなお司令官を護ろうとするその心意気はとても素晴らしいです。ですが護るべき司令官がこれでは……腐敗を除いたら直ぐに帰りますので少しこのまま大人しくしていてくださいね?」

 

「あ…………はい」

 

いつの間にか目の前に立っていたあら、葉巻?は徐に吹雪を右腕で優しく抱き抱えると耳を覆い外の音が聞こえない様にする。

 

吹雪は自身が苦しくならない様に気遣いつつ抱き締められている事と初めて認められた事による多幸感で、先程までの恐怖が嘘の様に取り払われて行くのを感じていた。

 

「何をしてる吹雪っ!さっさとそいつを殺せぇぇ!」

 

「吹雪ちゃんには貴方の声は届きませんよ。勿論、貴方の断末魔もね?」

 

「くっ……誰か居ないのか!提督が襲撃を受けているんだぞ!!」

 

「騒がしかった方なら皆黙らせてあげましたよ?」

 

「なっ、我が艦隊を全滅させてきたというのか……」

 

あら、葉巻?は門輪の問いに薄い微笑みで返す。

 

その返答の意味する所に気付いた門輪は漸く自分がやぶ蛇をつついてしまった事を理解したのであった。

 

「す、済まないっ!金輪際二度と関わらない事を誓う!だ、だから……命だけは……」

 

「私と艦長の間で判決は既に出ていますので、それでは……さようなら」

 

断罪の女神の持つ左腕の丸鋸は顔面を真っ青にして祈るように跪く愚かな男の頭上から一切の慈悲無く振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうもこんばんは、休暇は二日だけの予定でしたが急遽別の用事が出来たので灰瀬提督達に無理言ってもう一日開けて貰ったあら、葉巻?です。

まぁ、言ってしまえば二日目の案件の後始末ですね。

言っておきますが今回は艦長公認の作戦ですので私一人の我儘ではありませんよ?

どうやら今回の件を他の鎮守府への見せしめとして活用されるそうですね。

 

流石艦長、転んでもタダでは起きない人です。

 

「という訳でこの事も艦長の作戦として頂けませんかね?」

 

「何がという訳か知らねぇが却下だ。どうにかしたきゃ自分で説得しな」

 

むむむ、提督なら直ぐに認めてくれそうですが……問題はお偉いさんなんですよねぇ。

 

まぁ、何が起きたのか話せば長くなるのですが……。

 

「アラハマキさん……あの、やっぱりお邪魔……です……か?」

 

「そんな事ないですよ?吹雪ちゃん、貴女は心配しなくて大丈夫ですから」

 

「は、はいっ!ありがとうございます!」

 

えと、まぁもう解るかと思います。

 

はい、確かに私が吹雪達の司令官を葬った筈なんですが……恨まれる所か何故かとても懐かれてしまいました。

とはいえ艦娘の引き抜きは禁止されてるのは以前天龍さ……天龍が仰ってたのを忘れてはいません。

なので置いて帰ろうとしたのですが……余りにも悲しそうな顔をされるので無下にも出来ずつい連れてきてしまったという次第です。

 

因みに武蔵さん達を含め第一鎮守府の艦娘は()()()()全員無事でしたので鎮守府に残り新しい提督の指導を行う事になるそうです。

 

そっちに関しては直接関係がある事ではないので、私達がどうこうする事はないのですが。

 

ただ吹雪ちゃんに関しては私達……いえ、私がどうにか話を着けなければなりません。

 

それでもどうにもならなければ、残念ですが戻って頂くほかありませんが。

 

まあ、取り敢えずは灰瀬提督に相談しましょう。

 

「へ?第一鎮守府から連れてきた……ってどういう事なの?門輪中将は……っていやいやそれ以前の問題よね」

 

「ええと、艦長?今回の件は提督に話しても良いのでしょうか」

 

「……ま、良いだろ。灰瀬提督も関わる話だからな」

 

艦長からの了承を得たので私は提督にこの三日間の出来事を掻い摘んで話しました。

 

「え、と……じゃあ門輪中将は……」

 

「二階級特進……は将官には認められてないんでしたか」

 

「……そう」

 

私にはどうという事のない話ですが、同じ人間である灰瀬提督には余り気分の良い話では無かったようですね。

 

戦中の国の軍属でしたら日常茶飯事だと思うのですが……まあ理解と納得は別問題と言う事でしょうか。

 

「お聞き苦しい話をしてしまい申し訳ありませんでした」

 

「いえ、いいのよ。貴方達は私や鎮守府の皆に被害が及ばないように動いてくれたんだもの。責めるつもりなんてないわ」

 

「有難う御座います。ですが誰かの為であろうとも思う所があれば仰って下さいね?」

 

それで思い悩み過ぎて倒れられたら元帥が全艦隊連れて突撃しかねませんので、提督には是非とも無理をなさらないで頂きたいです。

 

「えぇ、それでその時に秘書艦だったその子を連れてきたと」

 

「いえ、えとその……はい」

 

流石の提督も頭を悩ませていました。

ルール的には引き取る訳には行かないのですが、それを私の袖を掴んで小刻みに震える彼女に伝えるのは心情的に憚られたのでしょう。

 

とは言え、提督にルールを破らせる訳にもいきませんので他に何か方法が無いか吹雪ちゃんに聞いてみる事にしました。

 

「吹雪ちゃん?貴女は海軍の艦娘に関する取り決めは知ってますか」

 

「えっと、はい!武蔵さんが出撃してる間の秘書艦を普段から任されていましたので多少なら」

 

「そうですか。なら艦娘が転属出来る条件と言うものはありますか?」

 

「転属……ですか?そうですね……」

 

吹雪は暫く考え込んでいましたが、やがて思い付いたかの様に顔を上げました。

 

「あっ!そう言えば司令官不在の鎮守府の艦娘は本来大本営に集めてから防衛戦力として各鎮守府に派遣される事になってるんです!」

 

防衛戦力?それぞれの鎮守府から防衛に割り当てている訳では無いのですね。

 

「して、派遣される艦娘はこちらで指定出来るものなのでしょうか?」

 

「えと、そこまでは……すみません」

 

「充分ですよ、お陰で解決の糸口が見えてきました。提督、今からお伝えする事を元帥に書面でご報告えますか?」

 

「ええ、それは構わないけど……どうするの?」

 

私が提督に書いて頂いた内容をかるくまとめるとこんな感じですね。

 

今回の門輪中将殺害は彼の秘書艦の証言から提示した条件に反する可能性が推測される為、吹雪を防衛班への派遣という名目の下アラハマキの監視に付かせる事を所望します。

 

これで吹雪ちゃんは私の監視役として常に近くに居ても問題は無いですし、彼女が無事でいる限り私の身の潔白を証明し続ける事にもなります。

 

まあ実際は苦し紛れの言い訳も良い所ですが……ま、お孫さんからの陳情なら後はどうにかしてくれるでしょう。

何はともあれこうして無事に帰って参りましたので金剛さんから引き継ぐとしましょうか。

 

「金剛さん、朝潮さん。三日間ありがとうございました。お陰で充分に発散出来ました」

 

「問題ナッシング!流石に一人で沖ノ島沖の哨戒任務を終わらせてしまったのはショッキングだったけどネー?」

 

本来は燃料や弾薬補給の為に帰投と出撃を繰り返して攻略とするそうですが、燃料切れが起きないからと私が噴進砲の弾切れギリギリまで暴れ回っていたせいで沖ノ島沖の深海棲艦達が一時的に制海権を手放したそうです。

 

ですがあの辺りは暫くすると再び制海権が奪われてしまうので定期的に哨戒が必要らしいので、暫くは楽しめそうですね。

 

「あぁ!アラハマキさん!貴女損傷を受けてるじゃないですか!」

 

逸れた思考を戻しつつ金剛さんに感謝を述べて交代しようと思っていると、僅かに煤けた頬や腕に気付いた朝潮さんが声を上げた。

 

損傷と言っても耐久の0.1%程度のものなので気にする必要も無いと思うのですが朝潮さん達はそうは思わないらしいです。

 

提督は素早く入渠指示を出して朝潮さんは私と吹雪の手を引っ張って入渠ドックへと一目散に歩いて行くのでした。

 




Q.あら、葉巻?の耐久ってどれくらい?

A.WSG2Pのultra hard仕様なので120,000となっております。


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修復に掛かる時間は……うわぁ(ドン引き)

Q.あら、葉巻?の練度って艦これ基準だとどれくらいなの?

A.WSG2Pの難易度に関係して下記の様に定めております。
VERYEASY →Lv1 -9 未改装
EASY →Lv10-29 未改装
NORMAL →Lv30-69 一次改装済
HARD →Lv70-75 二次改装済
VERYHARD →Lv76-89 二次改装済
ULTRAHARD→Lv90-99 二次改装済◀本作のあら、葉巻?




「ではこれで失礼しますが……確りと直してきてくださいね?絶対ですよ!」

 

入渠ドックに到着すると朝潮さんは再三念を押してから元来た道を戻っていきました。

 

「そこまで念を押されなくても……まぁ兎に角、行きましょうか吹雪ちゃん」

 

「はっ、はい!!」

 

うん、元気が良い様で何よりです。

さてこちらの入渠ドックと呼ばれる施設ですが人が使うお風呂を模してる……というより普通にお風呂も付いてるそうです。

ですが私は部屋のシャワーを提督の後に使用していた為、今回が初めてで少しばかり緊張しています。

 

相も変わらず着脱に手間の掛かる衣服を脱ぎ、彼女に倣い小さなタオルを手に奥へと入っていきます。

 

「おぉ、凄い熱気と湯気ですね」

 

「アラハマキさんは入渠ドックは初めてなんですか?」

 

「はい。こちらに来てから損傷する様な事はありませんでしたし、平時は部屋のシャワーをお借りしてましたから」

 

「そうなんですかっ?なら私が入渠ドックの中を案内してあげます!」

 

「え、えぇ。それではお願いします」

 

とはいえ、見渡せば端々まで見えるのですが余りにも嬉しそうに説明していく彼女に水を差すのも躊躇われるので大人しく話を聞く事にしました。

 

「身体を洗ったらこちらが入渠ドックですっ」

 

「説明ありがとう吹雪ちゃん、助かりました」

 

吹雪ちゃんに感謝を伝えてから、入渠用の四つに独立した浴槽の内の一つに入り肩まで浸かります。

 

「ふぃ〜……お風呂というものも悪くありませんね」

 

これだけ心地良いのでしたら入渠以外でも偶にはゆっくり浸かりたい所です。

後程提督にも相談するとしましょう。

 

湯船を存分に堪能しながらそんな事を考えていましたが、吹雪ちゃんがいつまでたっても風呂に入ろうとせずに何か言いたげにしていたので取り敢えず入る様に勧めます。

 

「一緒に入らないんですか?」

 

「へっ?ホ、ホントに一緒に入って良いんですか!?」

 

ええと、何に食いついたのかは知りませんがそもそも私が許可するものでは無いかと。

 

「まぁ、艦娘が風邪を引くかは知りませんが何かあってはいけませんから」

 

「は、はいっ!では失礼しますっ!」

 

彼女は非常に目を輝かせて返事をすると、そっと入ってきました……私と同じ湯船に。

 

「……吹雪ちゃん?他の場所も空いてますよ?」

 

「えと……駄目……ですか?」

 

駄目かどうかと聞かれると困ってしまいますね。

私としては彼女一人くらいなら別に窮屈でもありませんが、あくまでも入渠施設なので一つの設備に二人の艦娘が入るのは果たしてどうなんでしょうか?

 

「……すみません、やっぱり私……お邪魔ですよね」

 

うーん……まぁ何か影響が無いかについては上がった後確認するとしますか。

 

「そんな事ありませんよ。いらっしゃい、吹雪ちゃん」

 

「アラハマキさん……っ!ありがとうございます!」

 

「わぷっ!?」

 

こっちに来るように言うと吹雪ちゃんは溢れんばかりの笑顔で私へと飛び付いて来ました。

彼女が起こした飛沫が目に滲みますが取り敢えず目を瞑って堪えましょう。

 

それよりも気になる事がありますから……。

 

「えへへ……♪」

 

「ふぅ……所で、貴女はどうして無理を承知で私に付いて来たの?私は貴女の目の前で司令官を殺害したのですよ」

 

普通なら恨んでも可笑しくありませんし、恐らくあちらの鎮守府の中でも私を憎んでる方は少なからず居るでしょう。

 

その中でも彼女は目の前で司令官を殺されてるのに憎む所か私でも解るくらいに懐いています。

全てが私の寝首を搔く為だとすればそれはそれで驚異的な演技力と執念ですけど。

 

暫く沈黙を貫いていた吹雪ちゃんでしたが、意を決したかの様にぽつりぽつりと話し始めました。

 

「確かに私の中で司令官は全てでした。初期艦として着任した当時からずっと司令官の為に頑張って来たんです……」

 

吹雪ちゃんから話を聞いていくとあの男は着任当初から最低な人間だったらしく、何か都合が悪い事が起きたり吹雪ちゃん達のちょっとしたミスとも言えない物にも腹を立てて事ある毎に彼女達を殴り付けて居た様です。

更には資金の為に誘拐や密輸等の犯罪行為を指示し、その罪を艦娘の独断に仕立てあげ自分だけ上手く逃れたりもしていたらしいです。

他にも彼女が話したあの男の最低な行為を上げればキリがありません。

 

本当に悪運の強い奴です、もし今の話を先に聞いていれば簡単には死なせなかったのでしょうに。

 

「それでもっ、いつかは褒めてくれると思って頑張ったんです!」

 

辛い日々を思い出したのか身体を震わせる彼女を抱き寄せて背中をさすり続けました。

 

 

「ずっと……司令官を思ってきたんですね」

 

「ひぐっ……はい……でも、アラハマキさんが抱きしめて……褒めてくれた時に気付いたんです…………司令官が褒めてくれなかったのは当たり前なんだって……司令官は私達を道具としか見てなかったんですから」

 

道具なら用途通りに使えるのが当然、それが出来ないのは欠陥品……ですか。

確かに艦娘を艦船として扱うのなら褒める事は稀ですが……。

 

「吹雪……貴女に言うことでは無いかも知れませんが、門輪中将は艦娘を道具では無く奴隷の如く扱う正真正銘の屑です」

 

「アラハマキ……さん?」

 

「艦娘は道具。その考え自体を否定するつもりはありません」

 

下手な馴れ合いが大事な場面での決断を鈍らせる要因になる事だってあるでしょうしね。

 

「ですが道具として扱うなら行った事に対しては所有者が責任を持つのが当然ですし、ましてや自分の命とも言える道具に当たるなんで論外です。ですからそんな奴の事で思い悩むなど無駄な事はもうやめましょう」

 

「えと……はい」

 

あっ……少し捲し立て過ぎましたかね。

あの男の事を考えるなって言ってる私が腹を立てていては話になりませんね。あの男はもう死んだのですから。

 

「っとすみません、少し熱くなってしまいましたね。ともかく此処の提督は優しい方ですし、それに私も居ますからもう心配しなくても大丈夫ですよ」

 

「アラハマキさん……うぅ……ひっぐ……う、うあぁぁぁぁぁん!」

 

吹雪の頭を肩に引き寄せて撫でて上げると、彼女は堰を切ったように大声で泣きだしました。

 

感情……艦娘として命を持った事による変化。

それを弊害と取るか美点と取るかは指揮を執る人間次第、という事でしょうか。

 

私はその事に感謝していますし、吹雪にもそう思える様になってほしいですね。

 

そんな未来の事を想いながら彼女が泣き止むのを静かに待ち続けました。

 

30分程して吹雪も落ち着きを取り戻し始めた頃、アラート音と共に浴槽の上に付けられた赤色回転灯が光り出しました。

 

「ん?ねぇ吹雪、このランプはどういう意味ですか?」

 

「えっ?えと、これは修復完了のアラートですっ」

 

修復完了という事はもう上がっても良いんでしょうか?

もう少し浸かっていたい気もしますが提督達を待たせていますので上がるとしましょう。

 

「それでは上がりましょうか」

 

私が出ようと立ち上がった時、今度は先程とは違うアラートがなり始めました。

そして直ぐに入渠ドックへ放送が入った。

 

『吹雪さんっ!貴女アラハマキさんと同じドックに入ってますね!』

 

「はっ、はいぃ!」

 

『一つの入渠ドックに二人も入ってたら妖精さんが間違えるでしょう!今のは貴女の修復完了の合図だからさっさと出なさいっ!』

 

「ご、ごめんなさいっ!今出ますぅ!アラハマキさん、ありがとうございました!それでは後程お会いしましょう!」

 

吹雪は慌てて浴槽を出ると私に頭を下げてそそくさと出ていきました。

 

あぁ、やっぱり駄目でしたか。

そんな気はしていましたが……それより。

私は入渠ドックに取り付けられた無線機で朝潮さんへ繋ぎました。

 

「所で朝潮さん。私は何時まで入っていれば宜しいのですか?」

 

朝潮さんは暫く押し黙った後、諦めたかの様に答えました。

 

『2日、正確に言えば残り49時間と2分です』

 

「……はぁ」

 

図らずも私の休みが二日間追加された瞬間でした。

 

次からは出撃は一日にしましょう。

そう決意した瞬間でした。

 

 




★誰得なおまけ★

あら、葉巻?の入渠時間計算式

総入渠時間:49時間30分55秒
倍率:2.79

(Lv * 5 + [ √(Lv - 11) ] * 10 + 50) * 倍率 * 減少HP + 30 (秒)

(99*5+[√(99-11)]*10+50)*2.79*100+30 (秒)
(495+93.8+50)*2.79*100+30 (秒)
178,225.2+30 (秒)
178,255.2

※Wikipedia参照
※倍率は入渠時間から割り出しましたが四捨五入している為、一部計算が合わない場合が御座います。

因みにこの計算だと耐久1の時に入渠すると6年10ヵ月15日8時間41分10秒掛かります。
……上がる頃には第二次世界大戦終わってますね。


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新しい子が建造されたようですね。

二日も風呂に浸かってるなんて普通に苦行じゃないですか(今更)
因みに私は一人での長湯はあまり出来ないです。


長い入浴時間を経て漸く入渠ドックを出た私は、外で待っていた吹雪を連れて執務室へと戻って参りました。

 

というか……まさか二日間ずっと待っていた訳ではありませんよね?

 

「あら、葉巻?戻りました」

 

「カモンアラハマキー!色々とご苦労様デース」

 

そんな疑問を胸にしまいつつも扉をノックすると中から金剛さんの元気な返事が帰ってきました。

 

「失礼します。金剛さんこそお忙しい中有難う御座いました」

 

「ノープロブレムネー!寧ろこのまま交代して欲しい位ヨー?」

 

「提督的にもそちらの方が気が休まるとは思いますが、済みませんが元帥との契約であり艦長の指示ですので代わる事は出来ないんです」

 

「オー、それは残念ネー。ですがテートクのハートを掴むのは私なんだからネ?それじゃあ原隊に復帰しマース!」

 

そう言って金剛さんは終始高いテンションのまま、手を振って執務室を出て行きました。

 

ま、提督を抱き締めて眠るのは私の任務ですので譲る気はありませんがね。

 

「おかえりアラハマキさん。大丈夫?何処か不調はあったりしない?」

 

「えぇ、右腕が拘束されてる以外は特にはありません」

 

「あぁ〜……吹雪ちゃん?一応貴女は警備隊として派遣されてる扱いなんだけど大丈夫?」

 

「はいっ、分かってます!ですが同時にアラハマキ姉様の観察もとい監視の役割もありますので。警備隊の隊長にはその辺りはご配慮頂いております!」

 

「そ、そう……それならいい、わ?」

 

わぁ、向こうには既に根回し済みという訳ですか。話しでは今朝正式に辞令が渡ったばかりなのに驚きの行動力ですね。

まぁ命令無視をしてる訳では無いのなら別に良いでしょう。

それよりも私の入渠中一度も顔を出さなかった艦長は一体何処で何をしているのでしょうか?

 

「そう言えば艦長は今何をしているんですか?てっきり提督の所に居るものだと思ったのですが」

 

「荒さん?あの人なら工廠に居ると思うけど……あ、そういえば新しい子の建造が直に終わるみたいだし一緒に見に行きましょうか!」

 

「え、いや……お仕事の方は大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫大丈夫っ!サッと行って戻ってくれば間に合うから。こう見えても優秀なのよ?()()()()()()()

 

「はぁ……分かりました」

 

この提督は真面目そうな振りをして意外と奔放な性格の為、息抜きと称して執務中に部屋を抜け出す事が良くあるのです。

そういう人の教育に関しては門外漢な私は秘書艦である朝潮さんに任せて提督の息抜きに付いて行く事にしています。

 

後で私含めて朝潮さんに叱られてるんですけどね。

 

それはともかく提督と工廠に向かった私は中で赤城さんと話し合っていた艦長へと声を掛けました。

 

「艦長、ただいま戻りました」

 

「おう。あら、葉巻?……っと提督か、あんま朝潮に迷惑かけんなよ?」

 

「わ、分かってますよっ!大方は終わらせて来ましたから。それより直に建造完了するんでしょ?折角だからアラハマキさんにも見てもらおうと思ってね」

 

なるほど、艦長から逃れる為の口実に私がだしに使われたわけですか。

まぁ良いでしょう、建造されたばかりの艦娘というのも気にならない事もないですから。

 

「あっ、アラハマキさんほら!丁度建造が完了したみたいよ?」

 

四つあるカプセル型の機械の一つが激しく空気を噴出させながら開いていきます。

その向こうから姿を現したのは自分の状況を掴めていないのか、立ち尽くす灰色のツインテールの少女でした。

 

「うぇ!?あれ、もしかして提督さん!?えと、翔鶴型航空母艦2番艦、妹の瑞鶴で……す」

 

「ええ、私が提督の灰瀬よ。よろしくね瑞鶴ちゃん」

 

「航空母艦……つまり赤城さんや加賀さん達と同じ空母と言う事ですか」

 

運用は大変だと思いますが空母が増えるのであれば戦略の幅も広がりますし、お二人の負担も軽くなるので有難いですね。

 

そう思っての発言でしたが加賀さんはその言葉が気に入らなかったのか顔を顰めていました。

 

「加賀さん?何か気に障る事でもありましたでしょうか」

 

「いえ、ただ五航戦の子と同列に見られるのはちょっと……」

 

「なっ……!?」

 

おっと、まさかそう言った事を本人の前で言ってしまうのは想定外でした。

 

「加賀さん?」

 

「あ、赤城さ……ん?」

 

加賀さんは赤城さんの圧力にたじろいでいるようですが当然ですね。

立場を考えてもう少し言葉を選ぶべきだったと思います。

この世界の歴史は知りませんが少なくともこの鎮守府では先輩ですし、何より彼女は今建造されたばかりなのですから。

 

「……わ、私だって一航戦なんかと一緒にされるなんて冗談じゃないわ!」

 

あー、行ってしまいましたね。

まぁこれは私も軽率でしたし、ちょっとフォローに行きましょうか。

 

「艦長、提督。これから瑞鶴さんの所へ行ってこようと思います」

 

「おう、その前に良いか?今のやり取り、どっちに非があると考える」

 

は?いきなりなんでしょうか。

お二人の間で何があったのか私には分からないので此処で答えるのは早計と言わざるを得ないのですが……。

 

「まあ、現時点だけを見れば加賀さんに非があると私は判断します。私の質問が切っ掛けですので申し訳なさはありますけれど」

 

「アラハマキさん、ちょっと待──」

 

「よし、行ってこい。あ、吹雪は此処で待機な?」

 

「ええっ!?なんでですかぁ……私も行きますっ!」

 

「吹雪、良い子で待っていて下さいね?」

 

「はいっ!」

 

「それでは行ってきますね」

 

吹雪を説得?した私は艦長達にお辞儀をしてから瑞鶴さんが走り去って行った後に続きました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「荒さんっ!どうしてアラハマキさんを勘違いさせたまま行かせたんですか!?」

 

「瑞鶴のフォローすんのに二人のバックグラウンドは不要だからだよ。アイツは人間の機微には疎いくせに無駄に頭が回るからな、余計な事情を知れば中立な立場に回っちまう。だがそれだと瑞鶴が委縮しちまうからな」

 

「瑞鶴さんの味方に付く為に……ですか」

 

「ああ。会って間もないから良くは解らないが、少なくとも加賀に反発した直後に後悔するような眼をするような奴だってのは解った」

 

問い詰める灰瀬提督を納得させた艦長は態々瑞鶴が反発するような発言をした本人へ訳を尋ねた。

 

「で、加賀よ。どうしてあんな不興を買うような事を言ったのか、聞かしてくれるな?」

 

「別に……練度に差がない以上艦としての性能を含めればあの子の方が優れている事は明白。なのに一纏めにされるのも面白くない話でしょう?」

 

「はい?」

 

しれっと答える加賀に艦長は呆気にとられる。

だが、心なしかドヤ顔をしている様にも見える加賀の背後に鬼が現れた。

 

「か・が・さ・ん?」

 

「ひっ!?あ……あの」

 

「素直にそういえば良いのに……やっぱりワザとあんな言い方をしたんですね?」

 

「で、ですがそれでは一航戦としての誇りが……」

 

「そんな器の小っちゃい事しといて何が誇りですかっ!そんなのはただの見栄っ張りでしょうが!」

 

頭上から拳骨を落とされる加賀を眺めながら艦長は思った。

別にアイツに伝えても問題なさそうだったな。

 

「うぅ……一航戦の誇り……こんな所で失うわけには……」

 

「私の真似してるつもりですか?そんな事で失う誇りなら要りませんよっ!」

 

「はぁ……んだよ、心配して損したぜ。そうなると一番の被害者は……」

 

艦長は彼女達が出て行った扉の方を見つめてから、再びため息を吐いたのだった。

 

 




私の中では加賀さんってそこはかとなく子供っぽいイメージなんですよね。
そんな上新粉の勝手なイメージと練度の低さから此処の加賀さんはちょっとお茶目さんになっています。



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瑞鶴さん、怖くないですよ~?

いや、流石に両手にドリル付けて時速300km超で向かってきたら怖いですよねぇ〜。

あら、葉巻?「ご所望とあらば直ぐにでも体験させてあげましょうか?」

すみませんでした_|\○_


 瑞鶴さんを追いかけるも途中で見失ってしまった私が聞き込みをしていた所、桃色の髪をしたクールな少女不知火さんより目撃情報の在った建物裏手の花壇まで来ています。

そこでは瑞鶴さんが体育座りで建物の壁に凭れ掛かりながらぼーっと花壇の花を眺めていました。

 

さて、艦長の考えまでは解りませんが任された役目は何となく想像が付きますので私は目一杯瑞鶴さんの味方に付く事にしましょう。

 

「瑞鶴さん、となり宜しいですか?」

 

「え?貴女は確か提督さん達と一緒に居た……」

 

「あら、葉巻?と申します。それより歩き疲れたので座りたいのですが」

 

「あ……ごめんなさい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

瑞鶴さんにお礼を述べてから彼女のすぐ隣に同じように座ります。

少し戸惑っているようでしたが逃げたりはしませんのでこれで大丈夫でしょう。

 

「…………」

 

「つかぬ事をお聞きしますが瑞鶴さんは加賀さんの事をどうお思いですか?」

 

「え、えぇっ!?どうって言われても……まだ会ったばかりだし解らないわよ」

 

「まあそうですね。恐らく先ほども売り言葉に買い言葉で言ってしまったのでしょう?」

 

「……だって、第一声が『五航戦と同列に見られるのはちょっと』よっ!?意味分かんないじゃん!」

 

切っ掛けを作ってしまったのが私なだけに申し訳なさがありますが今は置いておきましょう。

 

「そうですよね、折角来てくれた瑞鶴さんに対してあの言い草は無いです」

 

「でしょ!幾ら先に着任した先輩だからってあんな言い方しなくてもいいじゃない!」

 

「瑞鶴さんの言う通りです。きっと今頃あの人も皆に叱られている事でしょう」

 

「え、でも……みんな長く一緒にいる加賀さんの味方をするんじゃない?」

 

「大丈夫です、私もまだ二ヶ月ほどしかこちらに居ませんが少なくとも話も聞かずに身贔屓する様な方達ではありませんよ。それに……もしそんな理不尽を言う様なら私が力ずくで黙らせてあげますよ」

 

まぁ艦長もいますしそんな事態になる事は有り得ませんがね。

 

「ふふ、なにそれ?私の為にこの鎮守府に反抗する気なの?」

 

「そうですね、もしそんな場所なら全力を以て潰してあげますよ」

 

瑞鶴さんは自身の気を和らげる為の冗談だと考えたのか暫く声を出して笑っていました。

ええ勿論冗談半分ですよ?もう半分は内緒です。

 

「あははっ……ねぇ、どうして会ったばかりの私なんかに味方してくれるの?誰かに頼まれたから?」

 

「そうですね、それもあります。ですが私が瑞鶴さんに寄り添うのは私が天龍さんから誰かが護ってくれているという心強さと安心感を教わったからですね」

 

「心強さと、安心感……」

 

「そうです。実は私、着任した初日に別の鎮守府に引き抜かれそうになっていたんです」

 

「ええっ!初日に引き抜きってどういう事!?」

 

それについてはあの梁田とかいう提督の先見の明という他ありません。

 

「私がこちらの半月分の食料を食べきってしまったので追加物資を要請する事になったそうで、その話をどこからか聞いた梁田とかいう提督がここじゃ運用出来ないだろうから来いって言ってきたんです」

 

「え〜……一体何がどうしてそんな事になるのよ」

 

「まあなってしまったんですから仕方ありません。それで、その時に天龍さんが相手の提督に楯突いてまで反対して下さったんですよ」

 

「他の鎮守府の提督相手に?」

 

「ええ。うちに来てくれた大切な仲間だ、見放すつもりはねぇって。あの人が動いてくれなければ私は今も孤立していた事でしょうね」

 

此処でも、別の鎮守府でも……まぁ、それはそれで今まで通りと言えばそうでしたが。

少なくとも自分から何かをなそうとは思わなかったでしょう。

 

「そっか……そうね、確かにアラハマキさんが来てくれなかったら今頃私も不安な気持ちを抱えて一人で殻に閉じこもってたかも……ありがとね」

 

「ふふ、そう言って頂き光栄です」

 

はにかむ彼女を見つめながら一先ずは大丈夫だろうと判断した私は折角なのでもう一つの目的を果たす為に動き出しました。

 

「それとですね瑞鶴さん?私、ひと目見たときから貴女の事が気になっていたんですよ」

 

「うぇっ!?それはど、どういう事……ですか」

 

先程とは違う雰囲気を感じ取ったのか彼女は身構えながら私の意図を聞いてきました。

 

ふっふっふ、気になるのなら教えてあげましょう。

私のもう一つの目的、それは……

 

「瑞鶴さん……貴女を抱いても良いですか?」

 

「は……はい?」

 

「いえ、前に灰瀬提督を抱いた時からその……クセになってしまって。それで、瑞鶴さんなら身長差とか体つきとかが丁度良さそうだなぁと思ったわけなんです」

 

「……へ」

 

「へ?」

 

「変態だぁぁぁぁっ!!?」

 

え、ちょっ!?なんでしょうか、その勘違いは些か不味い気がしますよ!

 

「瑞鶴さんっ!待って下さい!」

 

全力でその場を離れようとする瑞鶴さんの手を取って引き留める。

 

「ひぃっ!?い、いやぁぁぁぁぁ!」

 

「ほ、ほらっ!怖くないですよ?私なにもしませんよー!?だから少し落ち着いて下さいませんか?」

 

ああもうどうしてこんな事になってしまったんでしょうか!?

私はただ素直にお願いしただけですのにぃ!

 

「いやぁ!離してっ、離してよぉ!」

 

「落ち着いてくださいっ、そしたらちゃんと離しでぇ──!?」

 

私が瑞鶴さんの手を離さないように気を付けながら落ち着くよう宥めていると突如私の額へと鏃の付いて無い矢が小気味良い音を立てて直撃しました。

 

そう言えば防御重力場は切ったままでした。

 

「っつう〜……一体何ですかぁ」

 

「後輩の着任早々に襲い掛かるなんてとんだ不届き者が居たようね」

 

「か、加賀さん!?」

 

「瑞鶴、何かされてないかしら?」

 

「えっ……う、うん」

 

「そう、良かった。それと……その、さっきはごめんなさい。言い方が悪かったわ。貴女の事はそれなりに期待しているから頑張りなさい」

 

「加賀さん……あ、あのっ!私こそさっきは生意気言って済みませんでした!」

 

深く頭を下げる瑞鶴さんに対して、加賀さんはバツが悪そうにそっぽ向きながら弓を持つ手とは反対の右の人差し指で頬をかいていました。

 

お二人の関係はどうやらあまり心配はなさそうですね。

 

それより……

 

「それで、アラハマキさんは瑞鶴ちゃんに何をしようとしていたのかしら?」

 

うっ……加賀さんと赤城さんの視線が痛いです。

これでも途中までは仲良く話していたんですよ?

それに結果的にお二人の和解に役立ちましたので良しと言う事に……。

 

「…………」

 

なりませんね。

 

私は切り抜ける事を諦めて正座へと座り直してから正直に話す事にしました。

 

 

 

 

「と、言う訳で瑞鶴さんに話をちゃんと聞いて頂くために引き留めていた訳なのです」

 

「瑞鶴、今ので間違いは無い?」

 

「う、うん。いきなりあんな事言うからびっくりしちゃったけど、無理矢理襲われたとかは無いです」

 

「提督、艦長さん。どうされますか?アラハマキさんは無理にどうこうする気は無いようですが……」

 

「そうねぇ、アラハマキさんの話はちょっと言葉が足りない様な気はするけど……別に理性を欠いてる訳じゃないしねぇ」

 

「はぁ……変な性癖に目覚めちまったと嘆くべきか、人としての成長を喜ぶべきなのか悩ましい所だぜ」

 

「ええと、艦長が何を悩まれているのか分かりませんが……瑞鶴さん、改めて聞きます。たまにでも良いので、その……抱き締めさせて頂けませんでしょうか?」

 

駄目ならば潔く身を引きましょう。

私だって嫌われたい訳ではありませんからね。

 

「うーん……もしかしてアラハマキさんもまだ寂しい、のかな。でも……少し怖いし……」

 

ん?なんでしょうか、何か呟いていらっしゃる様ですが良く聞こえません。

 

「そ、そうだっ!私と演習して勝てた日だけ良いってのはどう?」

 

「是非っ──」

 

「「「駄目ですっ!」」」

 

うっ、駄目なのは分かってましたがまさか三人の声が綺麗に揃うとは。

折角考えた案が即却下された瑞鶴さんは不服そうな様子です。

 

「えー、だってそれならお互い高め合えるし……」

 

「心がへし折られるわよ」

 

「弾薬消費がねぇ……」

 

「瑞鶴ちゃん、せめてもっと実戦経験を積んでからじゃないと駄目よ」

 

「えぇ〜……弾薬消費も気を付けますし演習位なら別に良いと思いますが……」

 

「貴女、トラウマを植え付けてから抱き枕にするなんてそんな非道な拷問を瑞鶴に受けさせる気?」

 

そ、そんな言い方しなくても……。

ほらっ、今の発言で瑞鶴さんの顔が青ざめてるじゃないですか!?

 

「ま、まあ演習については瑞鶴さんが望まれるのならお受けしますよ?ですので余り気を使わずにお答え頂いて結構です」

 

とは言え、既に怖がられている現状で承諾されるとは思えませんね。

 

「ええと……その……へ、変な事しないなら……たまには……いい、よ?

 

「やっぱり駄目で……ってえ?良いんですか!?」

 

「そ、その代わりもし私に変な事したら絶対に赦さないんだからねっ!」

 

「変な事……とは?」

 

「へっ?あ、あう……ぅ……」

 

瑞鶴さんが突然顔を真っ赤にして俯いてしまったのですがどうしましょう。

取り敢えず瑞鶴さんからの答えが返って来ないので艦長に聞いてみましょう。

 

「艦長、瑞鶴さんの仰る変な事というのが何なのか分からないのですが。艦長は何か存じてますか?」

 

「はぁ、ったくコイツは……提督と寝てる時にしてる事以外をしなきゃ良いんじゃねぇか?」

 

「えっ?ええっと〜……」

 

「成程、了解しました」

 

つまり提督も変な事が何か解っているから変な事をしていれば提督に既に注意されているという事ですね?

 

「あ〜……瑞鶴ちゃん?伝えておく事があるからこっち来てくれる?」

 

「えっ?そ、そうなんですかっ!?は、はい……分かりました」

 

提督と瑞鶴さんがなにやら内緒話をしているようですが……もしかして、私がその変な事をしていたのでしょうか?

いえ、それなら私に言わないと意味が無いはずですし……まあ、多分大丈夫ですよね?

 

「えっと、瑞鶴さん。色々バタバタしてしまいましたが、先程も言ったように何か不満や理不尽に感じる事があれば私も力になりますので何時でも言ってくださいね?」

 

「同じ空母として私や加賀さん達も付いてますから安心して下さいね?」

 

「でも、甘やかしたりはしないから覚悟なさい」

 

「瑞鶴ちゃん、まだそこまで大きな鎮守府じゃないけど皆と一緒に宜しく頼むわね」

 

「……っはい!翔鶴型航空母艦二番艦

、瑞鶴です。改めて宜しくお願いしますっ!」

 

歓迎の言葉に瑞鶴さんは涙を瞳に僅かに溜めながらも確りとした敬礼を以てそう答えたのでした。

 

 




あら、葉巻?=抱きつき魔 おk?

あら、葉巻?「別に合意無しに抱きついたりはしませんよ?」

こっちは何時でも準備おっけーだ!カマンッ!

あら、葉巻?「分かりました、こちらも艤装の準備が出来ましたので行きますね」ギュイィィィィーン⤴︎⤴︎

\(^o^)/==3


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戦闘の無い休日も悪くないものですね。

モチベーションが……どうしよう(;´Д`)


瑞鶴さんが仲間に加わってから一月程が経ちました。

提督曰く他の鎮守府では加賀さんと瑞鶴さんが反りが合わない事が多く、初日はとても心配されていたそうですが……まあこちらでは無事分かり合えた様で何よりです。

 

強いて問題を上げるとすれば、お二人の仲立ちを務めた功労者とも言えるはずの私を見る加賀さんの目が不審者に向けるそれになっている事くらいでしょうか?

 

解せませんね……。

 

んんっ、そんな事より今日は前もって頂いていた休日。

本来なら今頃沖ノ島沖に出ているのですが、今回は数日前から瑞鶴さんのお誘いを受けておりましたので只今鎮守府の正門前で瑞鶴さんと吹雪の到着を待っております。

と言っても私が早く着いてしまっただけですけどね。

 

因みに普段の服装では目立ち過ぎてしまうと瑞鶴さんから指摘が入りまして、今日は金剛さんから洋服をお借りしています。

衣服についてはさっぱりですが、その辺は金剛さんにお任せしてますので大丈夫でしょう。

 

それよりも問題なのは近ごろ艦長の付き合いが悪い事ですよ。

私が灰瀬提督の護衛に付いてる間もしょっちゅうどっかに行っちゃいますし、演習の時も今日のお出掛けも来ようとしません。

何を考えてるのか解りませんがもっと私の艦長だという自覚を持って頂きたいものですねっ。

 

……っと、そうこうしている内にお二人がやって来たみたいですので艦長の事は一旦置いといて気持ちを切り替えましょう。

 

「アラハマキさーん!お待た……せっ!?」

 

「お待たせしまし……おっふぉ!」

 

「いえ、それほど待っていませんが……どうしました?」

 

おや?何やらお二人の反応がおかしいですね。

何か変な物でもありましたか?

 

「えっと……なんて言うか、それはそれで目立ちそう……ね」

 

「いいですっ!素敵ですお姉様!」

 

「えっ、お姉様!?」

 

成程、どうやらこの格好は目立ってしまうようですね。

 

 

【挿絵表示】

 

 

金剛さんは大丈夫と言っていましたがやはりサイズが合っていなかったのでしょう。

 

「成程、それは失礼しました。では元の服装に戻して来ますので済みませんが少々お待ち頂けますか?」

 

「えっ?いや、大丈夫大丈夫!そういう意味じゃないからっ」

 

「そうですお姉様っ!着替えるなんて仰らないで下さい!そのスラリと伸びるおみ足を……おみ足が……はぁっ……はぁっ……」

 

「吹雪?何処か体調が優れないのでしたら休んだ方が良いですよ?」

 

「吹雪ちゃんェ……あの子ってこんな子だったの?──ってかアラハマキさんまさかの気付いてない!?」

 

ん、何がでしょうか?

私に見落としがあるそうですが……良く分かりませんね。

 

「大丈夫ですっ!お姉様は何時でも完璧ですから!ね?()()()()?」

 

「ひっ!?……う、うんそうね!私の勘違いだったわ!」

 

「はぁ……そうですか」

 

まぁ、二人がそこまで言うなら大丈夫なのでしょう。

 

瑞鶴さん、お姉様に余計な事を吹き込んだらどうなっても知りませんからね?

 

解ったから魚雷突き付けんの止めてっ!?というかどうして艤装付けたままなのよ!

 

警備隊ですからっ。24時間お姉様を観察……もとい護る為に必要なんです!常在戦場ですっ!

 

何この子怖っ!?

 

あら?吹雪は瑞鶴さんとあまり面識は無いかと思ってましたが、どうやら彼女にも懐いてるようですね。

 

あの子が孤立せずに居られるのであればそれはとても良い事なのですが……少し疎外感を感じるのでそんなに距離を置かないで欲しいです。

 

「瑞鶴さん。吹雪と仲良くして頂けるのは大変喜ばしい事ですが、私はこれから向かう場所を伺ってませんので道案内をして頂きけませんか?」

 

「あ、うん!着任二日目に服と日用品を買いに赤城さんに()()()()連れてって貰ったから場所は憶えてるわ!じゃあ行きましょう!」

 

これは……テレビで言っていたフラグという奴でしょうか?

となるとこの後道に迷うまでがお決まりという事ですね?

どうしてこのタイミングで旗が出てくるのかは全くの不明ですが。

 

「取り敢えず行きましょうか」

 

「はいっ、お姉様!」

 

 

 

 

鎮守府を出て十分。

このままフラグが回収されるのかと様子を見守ってましたが、此処で吹雪が待ったを掛けました!

 

「あ、そう言えば瑞鶴さん。今日は何処のお店に行かれる予定なんですか?」

 

「えっ?一番近くにあるショッピングモールでアラハマキさんの私服とか日用品を揃えようと思ったんだけど……」

 

「…………はぁ、先に聞いとくべきでしたね」

 

「えっ!もしかして場所知ってるの!?」

 

「えぇ、というかそもそもこの島ではないので事前申請を出さないと行けませんよ?」

 

「あ、そういえば。うぅ〜……折角アラハマキさんに来て貰ったのに」

 

う〜ん、事前申請が必要となると残念ですが今日はどっちにしろ出れないでしょうね。

とはいえ悔やんだ所で仕方ありませんし、何事も切り替えが大事ですよ?

 

「行けないものは仕方ないですので服とかに関してはまた後日にしましょう。それよりもこの後どう動くかですが……折角ですし私達よりこの地に詳しい吹雪に案内して貰いましょうか」

 

「た、確かにまだ此処の事は分からない所ばっかりだもんね!」

 

「は……はいお姉様!この吹雪に任せて下さいっ!この柱島の事を隅々までお伝えします!」

 

「よろしく頼みますね?」

 

「はひっ!」

 

こうして柱島観光をする事を決めた私達は吹雪先導の下歩き出すのでした。

 

「とは言っても戦時中なのも相まって殆ど店が無いんですよね」

 

「えっ、そうなの?」

 

「あるとすれば軍施設か僅かに残った現地の方達が開いてる店舗がちらほらあるくらいです。あ、でもこの先にケーキがすっごく美味しい喫茶店があるんですよっ?」

 

「ほほう、それは興味深いですね?」

 

食堂の食事も鳳翔さんのお店もとても素晴らしいものです。

ですが彼女がそこまで推すケーキならば是非とも頂かなければなりませんね。

 

「それでは急ぎましょう。吹雪、瑞鶴さん」

 

「はいっ!ご案内しますね!」

 

「ちょっ、そんな急がなきゃ駄目なの!?」

 

駄目です、私のケーキが待っているんですからね?さあ覚悟しなさい私のケーキ達よ!

 

「お、いらっしゃい吹雪ちゃん」

 

喫茶店の中に入ると白髪の渋めの男性が笑顔で応えて下さいました。

古めかしい建物でしたが店の中は小物や鉢植え、窓のカーテン模様なんかが上手く調和が取れていてとても落ち着く雰囲気なお店です。

 

「はい!今日はお姉様とその後輩さんと一緒に来ました!」

 

「どうも、あら、葉巻?と申します」

 

「えと、瑞鶴です」

 

「おや、吹雪ちゃんのお姉さんかい?吹雪ちゃんに似て美人さんだねぇ」

 

「分かってますねマスター!ですがお姉様に惚れると火傷じゃ済みませんよ〜?」

 

「そっか〜それは残念だなぁ」

 

吹雪とマスターさんがとても親しげに話してます。

昔からの顔馴染みなんでしょうね。

瑞鶴さんは……初めて入るお店ですので当然かも知れませんが少し戸惑ってる様です。

 

「そっちの窓側の席が空いてるよ」

 

「あ、マスター!この前のケーキと紅茶のホットを三つずつお願いします!」

 

「はいよ」

 

「ねぇ吹雪?こちらへは何度か行かれてるのですか?」

 

「いえ?前回初めて来て気に入ったので是非ともお姉様と一緒に来たかったんです!」

 

なんとまぁ……その社交性は私も見習いたいですね。

 

「へぇ〜、確かに良い雰囲気ね。憶えておこーっと」

 

「海を渡った事も忘れちゃう瑞鶴さんにここまでの道を憶えてられますかぁ?」

 

「ちょっ!?あれはド忘れしてただけなの!」

 

「ふ〜ん?じゃあ次行く時は案内お願いしますね!」

 

「うっ……や、やってやるわよ」

 

笑顔でそう告げる吹雪に瑞鶴さんは顔を引き攣らせて居るとマスターさんがケーキを持ってやって来ました。

 

「ははは、その時を心よりお待ちしております。こちらがおすすめのフルーツミックスケーキです」

 

「ありがとうございますマスターさん」

 

「あとこちらは二つ結のお嬢ちゃんへ」

 

そう言って彼が瑞鶴さんに渡したのは第四鎮守府からここまでの道順を示した紙でした。

 

「あ、ありがとうございますっ!」

 

確かに解りやすいですが、彼が我々の所属鎮守府を知ってると云うのは可笑しいですね。

以前提督から所属などの艦娘に関する事は機密だという話を聞いています。

それを私より長くこの世界の海軍に所属している吹雪が知らないとは思えませんし、口を滑らすとも考えにくいですね。

 

「マスターさん。その地図はどうしたのですか?」

 

少しだけ警戒を強める私に対して彼は何かに気付いた様に頭を掻きながらその経緯を話し始めました。

 

「あ〜、実は今ウチで働いてる子がこの間吹雪ちゃんを街で見掛けた時に誰かと連絡を取ってるのを聞いたらしいんだよね。帰ってくるなり『第四鎮守府って何処ですか?』なんて聞いてくるもんだからその地図を書いてやったんだけど……不味かったかな?」

 

「あっ!確かにあの人なら前に街に出た時に見た気がします!ですが、近くに人は居ませんでしたし向かいの通りにいたあの人に内容まで聞こえるはずが……」

 

成程、吹雪も認識してますし恐らくマスターさんの話に相違は無いのでしょう。

後はその方がどうやって聞き取ったのかですが……それは本人に聞くのが一番早そうですね。

 

「マスターさん、その方は今どちらにいらっしゃいますか?」

 

「ん?あぁ、あの子なら遠くから通ってるらしくてね。そろそろ来る頃だと思うよ」

 

そうですか、それならこの話は一旦ここまでにしましょう。

 

「解りました、それでは続きはその時にします。ほら、吹雪も何時までも気に病んでないで皆でケーキを頂きましょう?」

 

「うぅ……はい」

 

起きてしまった事は仕方ありません。

それに吹雪も普段から気を付けていたでしょうし、その上で聞き取られたのならその相手は恐らく一般人ではないでしょう。

 

ならば逆に相手の素性を掴み敵ならば排除するだけです。

 

ま、それはそれとして。

吹雪オススメのフルーツミックスケーキというのは正に至高の一品ですね。

鎮守府には和菓子の鳳翔さん、洋菓子の間宮さんと私が勝手に呼んでいる御二方が居りますが、そのお二人の甘味にも引けを取らない物でしょう。

 

「んん〜っ……はぁ……幸せ」

 

「お姉様が幸せそうで何よりですっ!」

 

「うわ、すっごい。生クリームに果汁を混ぜてるの!?」

 

「はは、喜んで頂けて何よりです」

 

ゆっくりと味わっていたつもりでしたが、いつの間にか器は空になってしまいました。

 

はぁ〜……無限に食べていたいです。

 

至福のひとときを味わっている所へ扉の鈴が待ち人の到着を知らせてくれました。

 

「店長、おはようございますわ」

 

「おはよう天野さん。来て早々で悪いけど吹雪ちゃん達から君に聞きたい事があってね」

 

「あら、吹雪ちゃん来てたのね……ってそちらのか……」

 

入ってきた天野と呼ばれた彼女は、私と目が合うや否やピタリと固まってしまいました。

 

「ええと、初めまして。私はあら、葉巻?と申します」

 

「……っ!?」

 

ん?いきなり身を震わせて一体どうしたのでしょうか?

 

状況を掴めずに首を傾げていると彼女は徐に真っ直ぐ私へ突っ込んで来たのだ。

 

「へ……ってちょっ、なんなんですかぁ!?」

 

私は彼女の強烈なタックルに為す術無く椅子と床を破砕しながら押し倒されてしまいました。

 

ええと……何が何だかさっぱりですが、取り敢えず吹雪や瑞鶴さんが向かいの席で良かった。

 

「え……これは一体どういう事でしょうか?」

 

正直お二人からしたら洒落にならない行為ですからね……事と次第によってはただじゃ済ましませんよ?

 

しかし彼女の反応は私の想像していない物でした。

 

「マキ?姉様……また、お会い出来ると信じておりましたわ」

 

「ええと……どういう事でしょうか」

 

「覚えておりませんか?私です、()()()()()ですわ」

 

「…………はい?」

 

 

 

 

 




出来る限り途切れない様に……したいなぁ(遠い目)


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え……ちょっと何言ってるか分からないんですが。

そして日常が終わっていく……


アマテラス。

 

突如飛び付いて来た私と同じ黒髪の彼女は不安そうな声で、しかし確かにそう口にしました。

 

私の中でその言葉が意味する所はただ一つ、日本が誇る超巨大ドリル戦艦にて私の大切な妹。

日頃から影が薄いと悩んでいた彼女ですが、私は忘れた事などこの世界に来てからも一度たりとも有りません。

 

しかし、目の前の彼女を見て私はアマテラスだと素直に信じられませんでした。

先ず見た目が記憶と掛け離れてますし、それにあちらではもう少し落ち着きのある子だった記憶が……。

 

「姉様……私、ずっと寂しかったんですの」

 

「……えーと、話が急過ぎて流石に受け止めきれないのですが。取り敢えず貴女について幾つか聞いても良いでしょうか?」

 

「はい、姉様!なんなりと仰って下さいませっ」

 

「うぅ……私のお姉様なのにぃ〜!」

 

「ちょっと吹雪ちゃん、話が拗れるから一旦落ち着いて?」

 

吹雪が何か呟いてた様ですが今はこちらの解決を優先する事にします。

 

「ええと、一先ず貴女が私の知っているアマテラスだと仮定します。ですがそれは貴女が私を本物だと気付いた理由にはなりませんよね?」

 

「その様な事私に掛かれば造作もありませんわ!私のセンサーがマキ?姉様のノイズを聞き間違える筈がありませんもの」

 

ノイズ?ああ、そういう事でしたか。

確かに店に入って超兵器ノイズを感知したら警戒くらいするでしょう。

いや、ですが……そもそも今の私から超兵器ノイズが発せられているのですか?

それにノイズに違いがあるなんて初耳なのですが。

 

「吹雪、私の周りに何か発生してますか?」

 

「はいっ!ええと……良い匂いが発生してます!」

 

「それは……ノイズとは違う様な気がしますね」

 

「姉様、恐らくこの世界のセンサー類ではノイズ感知出来ないと思いますわ」

 

それは、まあ当然と言えば当然ですか。

超兵器の存在が当たり前でないこの世界でそんなノイズを感知するセンサーを用意する意味がありませんでしょうし。

 

それなら私がセンサーを使って確かめれば良いだけです。

 

私は取り敢えず人体に影響の無いパッシブレーダーの類を起動させてみました。

 

これは……ソナーですね。

そうするとこれが……ああ、こっちが超兵器ノイズ探知用の空間振動レーダーですか。

 

「……なるほど、確かに貴女が超兵器である事は確認出来ました」

 

「そ、それじゃあこの人は本当にアラハマキさんの……?」

 

「だから初めからそう言ってますわ!失礼な子ですわね!」

 

「いえ、それとこれとは話が別です」

 

「そんなっ!マキ?姉様どうして!?」

 

「超兵器即ちアマテラスという事にはなりません。それに貴女はノイズが違うなどと虚言を並べて私を謀ろうとしましたからね。信用するには値しません」

 

相手が超兵器であると判明した以上、少なくとも確証を得るまでは鵜呑みに出来るような話ではないでしょう。

 

「うっ……そ、それは……私が姉様の事をそれだけ慕ってるという表現でして……」

 

慕われていると嘘を吐くということですか?

更に理解に苦しむのですが……。

 

「よいっしよ……っと、アラハマキさんっ!アマテラスさんの目は嘘を吐いてません!信じてあげて下さい!」

 

「吹雪ちゃん……」

 

目の前の超兵器に対して警戒を引き上げていると、吹雪が彼女を私から引き剥がしながらも意外にも彼女の弁護に入って来ました。

 

「吹雪、今の話の中の何処に信じる要素があったのですか?」

 

「わ、私はお二人の関係もノイズについても知りません。ですがっ!一般的に不可能な事でも愛があれば可能になると私は思うんです!」

 

「愛……ですか?」

 

テレビでも度々耳にする言葉ですが、私には今一つ分からない言葉でした。

しかし、その()というものがあれば不可能すら可能にすると。

 

「ふむ、それは興味深いですね。つまり、彼女は()を持っているからノイズを見分けられる……と言いたいのですか?」

 

「はいっ!私もお姉様の匂いなら嗅ぎ分けられる自信がありますがそれも愛です!」

 

「吹雪ちゃん……私、貴女の事は姉様に群がる悪い虫位に考えていましたけど……勘違いしていましたわっ!貴女が話のわかる方なのね!」

 

「アマテラスさん!私も貴女となら一晩中語り明かせる気がします!」

 

……理由は解りませんが背筋に寒気がします。

やはり警戒は解かないでおきましょう。

 

「まぁ、それでは今の所は吹雪の話を信用するとしましょう。それでアマテラス()()?貴女はこれからどうしますか?」

 

「うぅ〜、マキ?姉様から距離を感じますわ……ですが簡単には挫けなくてよ!勿論っ!私も姉様と暮らしますわ!」

 

「そうですか、不用意に近付かないで頂けますか?」

 

彼女も来る気満々ですし、私としても危険物を野放しにする訳にも行かないので連れて行こうとは思っていましたが……提督や艦長に話を通さずに勝手に連れて帰る訳には行きませんね。

走らされるのはもう懲り懲りですから。

 

まずは艦長に……と思いましたが連絡手段がありませんでした。

うーん、私が自分で動ける以上艦長とは何時でも連絡が取れるようにしたい所ですが──っとそういえば、確か提督室には直通の回線が有った筈ですね。

 

「吹雪、提督室の直通回線の番号を知ってますか?」

 

「はいっ!こちらになりますお姉様!」

 

「ありがとう。ではマスターさん、そちらの電話を少しお借りしても良いですか?」

 

「あ、あぁ。好きに使ってくれて構わないよ」

 

目の前で起きた光景に理解が追い付いていないのかマスターさんは唖然としながらも頷いて下さいました。

 

さて、許可も下りましたので早速報告を──。

 

「あ、アラハマキさん!」

 

「瑞鶴さん、どうしました?」

 

「い、いや……まだちょっと状況が掴めて無いんだけどさ。流石に一般回線で報告すると傍受される危険があるんじゃないかなぁ〜って?」

 

ええ、その心配は最もです。

しかしこの私がそんな事も考えていないとでもお思いとは見くびられたものですね。

 

「ふふ、抜かりはありませんよ。まぁ私に任せて下さい」

 

そう言って私はピンク色の電話機から受話器を取って吹雪から受け取った紙を見ながらダイヤルを回していきます。

 

ふふ、黒いのを提督が使っているのを見てましたから電話機の操作くらい朝飯前です。

吹雪が本体に何かを入れてましたが、恐らく秘匿性を上げるものでしょう。

 

「本当に大丈夫かなぁ……」

 

瑞鶴さんはまだ心配そうにしていますね。

まあ慎重になる事は悪い事ではありませんが、それで身動きが取れなくなっては本末転倒です。

 

『はい、こちら第──』

 

「お疲れ様です。今日は妹と一緒に帰りますのでよろしくお願いします」

 

『へっ?もしかしてアラ──』

 

おっと、危ないところでした。

ですがこれでしっかりと報告しましたし懲罰や説教は大丈夫ですね。

 

「ねぇ、吹雪ちゃん。流石に今のは……ってあれ?吹雪ちゃん?」

 

はい、そういう事ですので宜しくお願い致します金剛さん

 

「吹雪ちゃん……あんた……」

 

「流石ですお姉様っ!これなら安全ですね!」

 

「ええ、際どい舵取りでしたが私はやり遂げましたよ」

 

ですから瑞鶴さんもそんな顔しないで安心してくださいね?

 

「それよりも……この椅子の惨状をどうしましょうか」

 

正確には床と窓ガラスも悲惨な事になってますが。

一応知り合いがしでかした事なので何とかするべきですかね。

 

「あの、マスターさん?こちらの修理はお幾らでしょうか?」

 

「ん?あ〜そうだねぇ……全部直したら20万弱位は掛かるかなぁ」

 

「20万……」

 

私は自分の財布の中身を確かめてみましたがそこには1万円札が3枚入っているだけでした。

 

そういえば私の給金は全て艦長が管理する事になったのでした。

まあ日用品は艦長が揃えて下さいますし、今日みたいな日も必要分は頂けるのでそれ自体は良いのですが……どうしましょうか。

 

「……分かりました。それではそこの方がなんでもするそうなので好きに使ってやって下さい」

 

「そんな!?マキ?姉様ぁ〜!」

 

「引っ付かないで下さい、自業自得です」

 

「そ、そんなぁ〜……」

 

はぁ……でもまぁ、危険物をそのまま放置は出来ませんし私は私で艦長に掛け合うとしましょう。

 

「アマテラス……いえ、天野さん。貴女は修理費用の担保として今日の所はマスターさんの指示に従って下さい。良いですね?」

 

「はい、それは構いませんが……一つ教えて欲しいですわ。マキ?姉様、私は姉様と一緒に居てはいけませんか?」

 

「……私はまだ貴女を信じていません。ですが、貴女の処遇は提督と艦長次第ですから私がどうこう言う事ではありません」

 

少なくとも艦長からの支援が得られなければ暫くはマスターさんの所でタダ働きでしょうし、例え支援を得られても提督や上層部が首を縦に振らなければ同じ場所で暮らすのは不可能でしょう。

別の鎮守府に飛ばされるか、最悪解体されてモルモットにされかねませんから。

 

流石に忍びないのでそんな事にはさせませんけどね。

それよりも私事のせいで瑞鶴さん達には迷惑を掛けてしまいましたし、何処かでお返ししなければなりませんね。

 

となると……やはり甘味でしょうか?

こっちに関してはきっと艦長も解ってくれるでしょう。

 

マスターさんに飲食代を支払った私達は提督へ報告の為に帰路につくのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 




果たしてアマテラスさん(仮)は借金のカタに売られてしまうのか!?

まあ一般人にどうこう出来る相手じゃないですがね。


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理不尽な扱いです……納得行きません。

皆様長らくご無沙汰しております。
今も本作品を楽しみにされている方がいらっしゃったら申し訳ございませんが、この度これ以上続きを書けないと判断した為、現在未投稿分を全て投稿した上で未完とさせて頂きます。

作者の気分次第では続きを書くかも知れませんが可能性は低いと思います。
それでも宜しければ本編の方をどうぞ!


あの後、鎮守府に帰って来た私は報告を終えるとそのまま自身の部屋の前で一晩正座させられていました。

 

更に理不尽な事に私の代わりに金剛さんへ連絡してくれていたらしい吹雪までもが同じ憂き目にあっていたという事です。

その事で艦長に異議を唱えましたが……

 

「当然の罰だ。お前が気にする事じゃねぇ」

 

そう言って一向に相手にしてくれませんでした。

その代わり店の修繕費や瑞鶴さん達へのお詫びの甘味代は出して下さるようですが……やっぱり納得いきません。

 

納得いきません……が、それは後にします。

それよりも今日は提督とアマテラスとの顔合わせもありますから早速向かうとしましょう。

 

 

 

 

「本日も宜しくお願い致します、提督」

 

金剛さんからの引き継ぎを滞りなく済ませた私は灰瀬提督へ挨拶を交わすと提督が思い出したように訊ねてきました。

 

「あ、そうだアラハマキさん」

 

「なんでしょうか?」

 

「昨日は海に出てない様だけど……大丈夫?」

 

「そうですね……少し動き足りない感じはしますが概ね良好です」

 

「そう?それならいいけど。無理はしなくて良いからね?」

 

「はい、有難う御座います」

 

私の我儘を聞いて頂けるだけでなく気遣って下さるとは、やはり灰瀬提督は優しい方ですね。天龍さんを含め此処の皆さんが慕うのも頷けます。

私自身も彼女の事は嫌いではありませんので艦長の指示が無くとも護る事は吝かではありません。

 

「提督、本日はアマテラスとの顔合わせもありますし早めに済ませてしまいましょう」

 

「そうね、アラハマキさんの妹さんも暖かく迎えてあげたいわね」

 

「妹……ええ、彼女も喜ぶでしょう」

 

妹ですか……未だに実感は無いのでどう接して行けば良いのか解らないのですが。

彼女の事は艦長に任せて……って訳にも行きませんよねぇ。

 

 

 

 

 

それから五時間程経った頃、吹雪からアマテラスが到着したとの一報が入りました。

 

「そうですか、でしたらこちらまで案内をお願いしますね」

 

『はいっ!解りました!』

 

「提督、アマテラスが鎮守府前に着いたそうです。吹雪にはこちらに案内するよう伝えております」

 

「ありがとう」

 

「おい、あら、葉巻?例え相手がアマテラスだとしても億が一すら起こさない様に最大限警戒しておけよ」

 

「了解致しました」

 

勿論警戒は怠りませんよ。

超兵器から人間一人を護る事がどれだけ無茶かなど想像に難くありませんから。

 

「吹雪です!アマテラスさんをお連れしました!」

 

「どうぞ」

 

提督の返答を受けて吹雪が扉を開けて部屋に入ります。

それに続いてアマテラスも入って来ました……何故か給仕服で。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「失礼します。私、超巨大ドリル戦艦あら、葉巻?姉様の妹、アマテラスと申しますわ」

 

「貴女……その格好はどうしたんですか?」

 

「これですか?これはあの店の制服ですわ。急いでいたのでそのまま来たんですの」

 

……マスターさんの趣味でしょうか?まぁ、別に良いのですが。

 

「解りました。ではこちらが今日から貴女の上官となる灰瀬少佐です。言っておきますが、提督に下手な事をすればタダじゃおきませんからね?」

 

「えと、私が柱島泊地第四鎮守府の提督をやってる灰瀬瑠花よ。これから宜しくねアマテラスさん?」

 

「……ふぅん、貴女がねぇ?」

 

「……っ!」

 

アマテラスが提督の顔を一瞥したその時、私のセンサーがけたたましく警報を鳴らしました。

 

「アラハマキさんっ!?」

 

提督の静止に耳を貸さず私はすぐさま防御重力場と右腕のドリルを緊急展開し目の前の超兵器へ振り抜く。

 

しかし、彼女へ向けたはずのドリルは次の瞬間には甲高い金属音を鳴らして頭上に打ち上げられていました。

 

「マキ?姉様……い、いきなりどうしてしまわれたんですの?」

 

「何をぬけぬけと……!」

 

「おい、あら、葉巻?。警戒しろとは言ったがいきなり仕掛けろとは言ってねーぞ」

 

「で、ですが艦長……!今彼女が何かをしようと……」

 

「わ、私はマキ?姉様がいきなり艤装を展開されたので皆様に被害が行かないように必死で……その……」

 

「それは貴女がっ!艦長も今の警報を聞いてましたよね!」

 

「警報なんてそもそもなってねぇよ。俺が聞き漏らす訳ねぇだろうが」

 

え……?どうして……艦長には今のアラートが聞こえているはずですのに。

 

「で、ですがっ!もし私が動かなければ彼女は提督を殺す気でした!」

 

「姉様……私を信じて頂けていないのは承知しています。ですが、それはあんまりですわ……」

 

「なっ、そんな態度を取っても騙されませんよ!現に私のセンサーが貴女の脅威を感じ取ったんですから!」

 

「だから何も鳴ってねぇつってんだろうが。それに今の行動だけで言えば提督を危険に晒したのはお前の方だ」

 

私が……?そんな馬鹿な事有り得ません。

だって私は提督を守る為に動いたのですから。

 

「アマテラスも言ったようにもしそいつが真正面から対抗してたらその衝撃でこの部屋は持たなかった。上に力を流した事で天井に穴が空く程度ですんだがな」

 

そ……れは……確かに思慮が足りませんでした。

 

「ですが……ですが私は……っ!」

 

「……灰瀬提督、悪ぃがこの馬鹿が落ち着くまで護衛から外してやってくんねぇか?」

 

「なっ!?駄目です!今の行動については謝罪しますから!今だけは絶対に駄目なんです!」

 

超兵器が相手だと解ってる以上、既に金剛さん達がどうこう出来る範疇を超えているんですよ!

 

私は必死に抗議しました。

ですが、提督は私の意見を聞き入れてはくれませんでした。

 

「……解りました、それでは暫くアラハマキさんを警護の任から解きます。その間の出撃に関しては荒さんより申請があれば許可するわ」

 

「駄目です……危険過ぎます……」

 

「良いから大人しくしてろ。アマテラスも暫くあら、葉巻?から目を離すな、いいな?」

 

「……はいっ!お姉様のお世話はこのアマテラスにお任せ下さいませ」

 

どうして……艦長は私よりもあっちの超兵器の言う事を信じるんですか。

私はそんなに信用出来ませんか?

 

この姿だからですか?それとも私の力が足りないからですか?

 

実力を示せば私の話を聞いて下さいますか?

 

「……承知致しました。では艦長、早速ですが出撃許可を頂けますか?」

 

「今からか?いや、ちょっと待て……」

 

「良いわよ、沖ノ島沖で良いかしら?」

 

「いえ、アリューシャン列島の方まで」

 

「そこは……確かに手前まではシーレーンを確保してるから行けなくは無いけれど」

 

「わたくしも付き添うのですから問題ありませんわ」

 

「……分かったわ。何度も言うようだけれど無理はしないでね?」

 

「はい、では行きましょうか艦長」

 

「あ〜……今日は無理だ。悪ぃがアマテラスと二人で行ってきてくれ」

 

「……解りました」

 

来て下さらないんですか。

艦長が私に関心がないのは今の私が弱いから?

では奴を倒せばきっと艦長も認めて下さる筈ですよね。

 

 

「行きましょう、アマテラスさん」

 

「はいっ!姉様!」

 

私は超兵器を連れて執務室を後にしました。

 

待っていて下さいね艦長?貴方に必ずや吉報を齎してあげますから。

 

 

 

 

 

 



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艦長、荒葉輔は何を見る。

あら、葉巻?とアマテラスが去った執務室。

吹雪達を外に追いやった俺は机の上にあるスタンドライトの台座に腰を掛けつつ本題に入る為の前口上を述べた。

 

「なぁ灰瀬提督、これから言う事は他言無用で頼むぜ?」

 

「荒さん?えぇ、何かしら」

 

「ああ、つっても俺が言いたいのは一つだけだ。今後アマテラスと会う時は必ずあら、葉巻?を同伴させること、いいな?」

 

「……えぇ、でもアマテラスさんはアラハマキさんの姉妹なんじゃ……それに……」

 

「それは恐らく事実だと俺は見てる。だが、それが奴がお前さんを狙わない理由にはなり得ないってだけだ」

 

「…………」

 

ま、いきなり気を付けろって言われたってピンと来ねぇよな。

それに傍から見れば突拍子の無い行動を起こしたあら、葉巻?を付けることに抵抗があるのは解る。

だが奴は確実に提督を狙っている。

それはあら、葉巻?が警報を発していた事からも明らかだ。

 

とはいえ、あの場で問い詰めて奴に強行手段を取られれば例えあら、葉巻?でも全員を守りきる事は厳しかった。

だから聞こえないふりをしてでも奴に話を合わせどうにか遠ざける必要があったんだが……ま、あのバカはきっとそこまで気付いてねぇんだろうな。

 

ま、それについてはおいおい考えるとして……今はアマテラスがどうして灰瀬提督を狙うのかって事だな。

 

「とにかく、今はあら、葉巻?が一緒だがこのまま奴を野放しには出来ねぇ。だが奴がお前さんを狙う理由が解んねぇ事には平和的解決は難しい。なぁ灰瀬提督、何か思い当たる節はねぇか?」

 

「そう、ね……譜院元帥関係とか、かしら?」

 

まぁ確かに元帥の敵対派閥にあいつが属してるならそれも有り得る。

だが……灰瀬提督の反応が微妙に引っ掛かる。

ちょっとカマかけてみるか。

 

「いや、その可能性は低いな。あの爺さんがそういった情報を掴んでないわけねぇし、もしそうならあら、葉巻?に会わせた時に気付いた筈だ」

 

「そ、そうね……でも、他には思い当たるものはないわ」

 

「本当か?そんな風には見えねぇがな」

 

「…………ごめんなさい、私には荒さんが何を期待しているのか解らないわ」

 

ま、解ってた事だが簡単には聞き出せねぇわな。

 

「いや、解んねぇなら良いんだ。悪かったな」

 

色々事情があるんだろうし、正直大方の予想は付いてるからどうにかなるだろ。

 

「んじゃ、そういう事だから忘れねぇでくれよ?」

 

「えぇ、気を付けるわ」

 

さて、と。

そういや明石があいつのガトリング砲を元に作った127mm速射砲の試射をやるっつってたな。

この世界の奴らが何処まで再現出来たか見てみるとするか。

流石に超兵器を作らせる訳には行かねぇがアマテラスの件もあるし自衛力を上げておいて損はないだろ。

 

 

 

 

 

 

 

灰瀬提督と別れ工廠へと向かった俺を待っていたのは両肩にデカいリボルバー式の単装砲を二門詰んだ緑髪のポニーテール少女、夕張の姿だった。

 

「……なんだそれ?」

 

「あ!艦長さん良い所に来ましたね!前に話してた速射砲の試射をこれからやるところなんですよ!」

 

「ああ、それを見に来たんだが……まさかそれか?」

 

「そうですよ?どうかしました?」

 

「あ、いや……随分でけぇなと思っただけだ」

 

127mmの速射砲だと聞いていたんだがな……あいつが腰の艤装に装備してる20.3cm連装砲よりデカイのはどういう事なんだ?

俺が疑問を抱いていると後ろからやって来た開発者の明石が説明してくれた。

 

「どうもです艦長さん。実はですね……妖精さん曰く127mm砲ベースでは連射機構を付けられず、無理に付けても発射間隔はあまり短くならないそうなんです。だから今回は一定の速度が出せる連射機構をベースに砲身や砲塔を組んでみたんですよ」

 

「その結果がこれか……で?搭載出来る艦種はどうなった?」

 

「うーん……現状ですと駆逐艦及び夕張さん以外の軽巡は搭載不可ですね」

 

まあ、そうだろうな。

実際夕張ですら少しフラついてるし、正直撃てるか怪しいレベルだ。

127mmでこれなら406mmなんてまだまだ先か……。

 

「大丈夫か夕張、無理そうなら他の重巡とかに変わっても良いんだぞ?」

 

「嫌です!私が試したいんです!私にやらせて下さい!」

 

「私も言ったんですがこの有様でして……」

 

「……解った。だが今回はそいつの性能試験だ。20.3cmは外せ、いいな?」

 

「う……はい」

 

夕張は観念した様に渋々20.3cm砲を保管庫に戻しに向かった。

大方新装備使用時の他の兵装への影響なんかを確かめたかったんだろうが、何が起こるかも解らん装備でやるもんじゃねぇよ。

 

少しして戻って来た夕張と共に俺と明石は的を持って鎮守府正面の訓練海域まで出ていた。

 

「夕張ー、動けるかぁ?」

 

「だ、大丈夫っ!行けるわ!」

 

夕張がどうにかバランスを取っている間に明石が的を適当な位置に並べていく。

やがてならべ終えた明石が手を振りながらこっちに戻ってきた。

 

「何時でも行けますよー!」

 

「だ、そうだ。お前も準備が出来たら一門ずつで近くの的から始めてくれ」

 

「分かったわ……方位、仰角……よし、行くわよ!」

 

夕張の掛け声と共に夕張の左肩に付けられた砲身から連続的に砲声が鳴り響く。

 

分間66発って所か……確かに既存の127mm単装砲と比べれば破格な連射速度だ。

この世界基準で言えば敵の軽巡くらいなら易々と落とせるだろう。

 

「悪くない……が、正直中途半端だな」

 

「あ、やっぱりそう思います?」

 

「ああ、基本的な軽巡以下が装備出来ないなら対艦では弾薬消費量に対して火力は不十分だし対空じゃあ連射速度が不十分だ。これだったら長十センチとかの両用砲を詰んだ方がましだ」

 

「そうなんですよねぇ、戦艦や重巡の副砲としてもやはり砲のサイズはどうにかしたい所ですねー」

 

「でも、これすっごく楽しいですよ!私が正式に装備したいくらいです」

 

目を輝かせながら模擬弾をばら撒いていた夕張がそう答える。

確かに軽巡である夕張ならば対艦火力も対空火力も上がるから一見適しているとも言える……だがな。

 

「それ積んだお前の航続距離じゃあ鎮守府防衛位にしか使えんだろ」

 

「そ、それは……ほら、給油艦を連れてとかさ?」

 

「この鎮守府には居ねぇだろ」

 

「で、でもぉ……」

 

はぁ……なんだか知らねぇがそこまで気に入ったなら一応申請しておくか。

 

「ったく……解ったよ、提督には俺から言っておくから今後の為にデータの収集頼むぜ?」

 

「艦長さんっ……!まっかせなさい!私が全部まとめてあげるわ!」

 

「ええ、私としても運用データがある方が開発が捗りますので有り難い限りです」

 

よし、そうと決まればもう一度執務室に戻るとす──

 

『緊急警報発令!十艦隊からなる深海棲艦の連合艦隊が防衛線を突破し第四鎮守府へ侵攻中!出撃可能な者は戦闘準備を整い次第即時迎撃せよ!』

 

なんだと?警備隊が突破されたっつうのかよ。

くそっ、タイミングが悪ぃな。

 

「夕張、一度装備を換装してから再度出るぞ!明石は何時でも修理出来るように準備しに戻るんだ!」

 

「了解しましたっ」

 

明石は返事と共にすぐ様工廠へと戻っていくが、夕張は首を横に振って俺の指示を拒否した。

 

「艦長さん、私ならこのままで行けるわ!」

 

「何馬鹿な事を、まともに動けないような装備で出てもやられるだけだぞ!」

 

「私達が今敵と一番近いわ。それにこの装備なら斥候部隊位なら足止め出来るはずよ!」

 

ったく、頑固な奴め。

だがこれ以上言い合ってる時間はねぇ。

 

「仕方ねぇ……だが撤退まで含めて俺の指示に従う事。じゃなきゃ出撃は認めらんねぇ。分かったか?」

 

「分かったわ!じゃあ指揮は任せたわよ艦長さん!」

 

「おうよ、やってやろうじゃねぇか!」

 

夕張は俺が乗艦したのを確かめると、機関出力を上げて徐々に速度を上げて行った。

 

大丈夫だ、敵が深海棲艦だけなら鎮守府の戦力だけでもどうにかなる。

 

()()()()()()()()()()()……

 

 

 

 

 



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ふふ、余計な事なんかせず初めからこうすれば良かったんです。

北方アリューシャン海域。

こちらには北方棲姫なる姫級の深海棲艦がいるとの事です。

姫級……確かにこの世界の艦娘とは比べ物にならないくらい強いのでしょう。

だが、あくまでもこの世界の基準であってそんなものを沈めた所で艦長は私を見直したりしないでしょう。

例えこの世界の深海棲艦を殲滅した所でそれは変わりません。

 

となれば艦長が認めて下さる方法は最早これしかありません。

 

私はおもむろに機関を停止させて速度を下げる事にしました

それを不思議に思った自称アマテラスさんは私にゆっくりと近付いて来ました。

 

「マキ?姉様?まだ目的地までは距離がありますわ。どうされましたの?」

 

「アマテラスさん……貴女が本当に私の知るアマテラスなら理由を聞かせて下さいますか?どうして灰瀬提督を殺害しようとしたのか」

 

「姉様?なにを言って──」

 

「隠す必要はありませんよ。この辺りは通信も繋がりませんし、私から伝えた所で艦長も提督も聞きはしないでしょうから」

 

「マキ?姉様……」

 

「さあ、答えなさい。そうすれば楽に死なせてあげます」

 

いくら私だって相手の目的も知らずに沈める程馬鹿じゃありません。

 

 

「ふふふ、幾ら人の姿をしていてもマキ?姉様はやはり兵器ですわね?」

 

「?答えになっていませんよ」

 

「艦長が姉様の話を聞かない?もしそうなら私を姉様に付けると思いますか?」

 

「厄介者同士纏められただけです」

 

「まぁ、姉様がどう捉えようが私には関係ないですわ」

 

「もういいです。話す気が無いのでした無理矢理聞き出すだけです」

 

私が両腕のドリルとサーキュラーソーの回転数を引き上げるも、彼女は気にする様子もなく微笑を浮かべながら話続けました。

 

「ふふ、せっかちはよろしくありませんわ?なにも話さないとは言ってませんもの」

 

「ではさっさと話しなさい、何故提督を狙ったんですか」

 

「姉様はウィルキア帝国の国家元首を憶えておりますか?」

 

ウィルキア帝国国家元首。

それはウィルキア小国家でクーデターを起こした反乱軍のリーダーであり、その恐るべき手腕によって一度は世界を支配したとも言える男。

 

「フリードリヒ・ヴァイセンベルガー……」

 

かの世界に居たものならば当然知らない者は居ないでしょう。

あの世界に置いてあれだけの国を支配下に置いた独裁者なんて私は他に知りません。

 

「そう……あの男がこの世界に居ると言ったら信じて下さいます?」

 

脈絡もなく突然なんですか?

 

「例えいたとしても今更でしょう?私達が存在してる時点で別に驚く事ではありません」

 

「そうですわね。それが私達の世界から来た男であれば特に問題はありませんわ」

 

「……どういう事でしょうか?」

 

「例えば生まれた時からこの世界で生き、この世界の究極超兵器を既に見付けているとしたら……ほら、私達がこうして動けている事にも辻褄が合うのではありません?」

 

そんな馬鹿な事が……だったら今頃この世界にもあちらの様に超兵器が広まっている筈です。

 

「確かに私達が動けている理由は会うかも知れませんがいくら何でもこじつけが過ぎます。有り得ませんし、そもそも質問の答えになっていません」

 

「ふぅん?マキ?姉様は本当にお気付きでないんですね」

 

「何がですか。私が何か見落としているとでも?」

 

「えぇ、誤魔化そうと少しでも足掻いたようですが……彼らを知っていれば辿り着ける答えだと思いますわ。私なんか初めて聞かされた時は笑ってしまいましたもの」

 

要領を得ませんね?一体誰を知ってればと言うのですか。

 

「誰なのですか?単刀直入に答えなさい」

 

「姉様も良く知って居らっしゃる方ですわぁ?」

 

「私の……良く知る……?」

 

まさか……いえ、有り得ません。

 

「ハイセルカ、フインフルヒデ。何かに似てません?」

 

似てません!

関係ある筈がありません!

 

「……ば、馬鹿馬鹿しいですね。貴女が天野照と名乗ってるからって。灰瀬提督があの元首だとでも言うつもりですか?」

 

「ふふ、私だってそんな馬鹿な事思っておりませんわ」

 

「だったら……どういうつもりですか?」

 

「姉様?この世界には人の姿を持つ艦艇、艦娘がいらっしゃるでしょう?」

 

「だから……なんなの?」

 

違う、嘘です……騙されません!

 

「解りませんか?それとも……()()()()()()()()()()()

 

「…………」

 

「良いですよ、マキ?姉様。私がしっかりと解るようにお伝え致しますわ」

 

あの口を止めなきゃと思うのに私の腕が、足が言う事を聞いてくれません!

誰か……艦長……アマテラスを……っ!

 

「灰瀬瑠花はこの世界の艦娘【フィンブルヴィンテル】。そして譜院古秀こそがフリードリヒ・ヴァイセンベルガーなのですよ」

 

有り得ません……有り得ない……有り得ないはずなのに……何故私の中では今の邪推が腑に落ちているの?

 

もし彼女達がそうなら一体何のためにこの日本海軍に潜り込んで──違いますっ!

もしも何もありません!

そんな事有り得ないんです!

 

「あ、貴女の話はしっ、信憑性に欠けます!馬鹿馬鹿しい!稚拙な推理です!」

 

「確かに突拍子の無い話ですわね。でも、心は既に気付いているのではありませんか?」

 

心を読まれたような感覚を覚えてしまった私は雑念を振り払うかの様に頭を横に振りました。

 

「し、証拠も無しにそんな話を信じるなんて有り得ません!」

 

「証拠ならこれから見せてあげますわ。付いて来て頂けます?」

 

これは罠かもしれない……ですがそれならそれで罠諸共粉砕すれば良いだけです。

それよりもこの気持ちに整理を付けないと提督の所には戻れそうにありません。

 

「……良いでしょう。貴女の言った事が嘘であると確認した後で海底に沈めて上げましょう」

 

「うふふ、肝に命じておきますわ」

 

私は警戒を強めたまま、彼女に続いて元来た道を戻っていくのでした。

 

 

 

 

 

 



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激情の鋸

電探を起動させた夕張からの返答は控えめに言って最悪を伝えるものだった。

 

「大変よ!真ん中の奴が50ノット近い速度で一直線に向かってくるわ!」

 

「その速度が出せる深海棲艦は今までには?」

 

「そんなの聞いた事もないわ!」

 

ちっ、だよな……となると俺の嫌な予感は的中してる可能性が高いな。

ただの新型な鬼級姫級ってなら増援の到着まで時間を稼ぐ位は出来るかも知んねぇ。

だが、もし今来てんのがそっちなら……。

 

「夕張、今すぐそいつを捨てて撤退だ!」

 

「えっ!?話が違うじゃない!」

 

「文句は後で聞く!今は俺の言う事を聞け!!」

 

もし奴が超兵器であれば今逃げても遅いかも知れん。

それに逃げた所であら、葉巻?の奴が戻ってくるまで時間を稼ぐ事も厳しい。

だが、こんな所でこいつらを無駄死にさせる位なら僅かでも反撃の可能性を残すべきだ。

 

「夕張、この鎮守府の奴ら全員に伝えろ。一度撤退し他の鎮守府連携して奴を止めるとな!」

 

「艦長さん……分かったわ、直ぐにやるわ!」

 

良し、これでいい。

可能なら相手が何者かを知っておきたい所だが……。

 

と、その時。

突如として俺の脳内から直接怒鳴られるような声に襲われた。

 

『そこに居たか……お姉ちゃんを惑わす悪い人間……荒、葉輔ぇぇぇぇぇ!!』

 

「な、なにぃ!?今の声は!」

 

「ど、どうしました!?」

 

ま、まさか……通信を俺に直接繋いだっつうのか?

それに俺の名前を知ってるという事は俺と面識のある奴か?

 

この鎮守府以外で面識がある超兵器とすれば……まさか、なぁ?

 

「……おまえ、荒覇吐か?」

 

「お前如きが私の名を呼ぶなぁぁぁぁぁっ!!」

 

やはり荒覇吐だったか。

ならばあいつが乗艦してる可能性がある筈だ。

 

「荒覇吐!俺の弟は、お前の艦長は一緒なのか!?」

 

「はんっ!あんな役立たず共は置いてきたわ。どっかの島で野垂れ死んでんじゃない?」

 

「は……?おい、今なんつった」

 

「なによ、私とアマお姉ちゃんに引っ付いてた艦長気取りの無能は置いてきたって言ったのが気に入らない?」

 

置いてきた……?てめぇらの艦長である彼奴らを?

俺の命より大切な家族をか?

 

「クソガキが……俺の家族を見殺しにしやがって、テメェら覚悟は出来てんだろうなぁ!」

 

「はんっ!自分じゃ何も出来ないくせに何粋がってんの?」

 

「それがどうした!元人間をあまり舐めんじゃねぇぞ?」

 

「呆れた……人間程度が介入出来る戦場じゃない事も分からないなんてね」

 

「ああそうだな、俺一人粋がった所で何が出来る訳じゃねぇ……が、馬鹿一人の足止め位なら出来る事が証明された訳だ」

 

「あぁ!何を……ってきゃあぁぁ!?」

 

荒覇吐が訝しげに俺の方を見つめていたがその直後、奴の頭上目掛けて次々と急降下爆撃が繰り広げられていく。

 

「今の内だ、撤退するぞ夕張!」

 

「え、ええ!解ったわ!」

 

正直奴らに対する怒りは収まらねぇが普通にやり合って勝てる相手じゃない事は百も承知だ。

それにあんなんでもあら、葉巻?に取っては大切な妹達だからな。

当然沈めるつもりはねぇ。

 

だから湧き上がる怒りを抑え理性的に思考を巡らせるよう努め、赤城達にそのまま指示を出す。

 

「赤城、加賀は後退しつつアウトレンジ攻撃を続けてくれ。他鎮守府が合流次第一気に叩く」

 

『了解したわ』

 

『お二人も早く戦域から離れて下さい!』

 

「解ってる、行くぞ夕張!」

 

この場から離れる為夕張に呼び掛けたその時、ガトリング砲と高射砲による高密度の弾幕が荒覇吐に取り付く航空機を瞬く間に焼き払った。

 

「鬱陶しい……その程度でこの私が止まると思ってんの!!」

 

ちっ、流石に超兵器相手じゃ分が悪いか。

このままじゃ撤退なんて出来そうにない。

どうするか……ま、他に手はねぇか。

 

「夕張、お前は下がれ。後は俺がやる」

 

「ちょ、何馬鹿な事言ってんの!?そんな事出来るわけない出じゃない!」

 

当然ながら夕張は反対の意を示す。

そりゃ艦長一人で何が出来んだって話だから当たり前だろう。

だがアイツ相手じゃ夕張が居た所で何か変わるわけじゃねぇ。

それこそただ無意味に沈められるだけだ。

 

「お前が一緒いて何が出来る?今のお前じゃ役立たず所か足手まといなんだよ!良いから早く行け!」

 

「た、確かに私じゃ力不足かも知れないけど……だからって艦長さん一人で何が出来るって言うのよ!」

 

くそ、一刻も早く夕張を下がらせてぇのに今の状況じゃ説得の材料がねぇ……どうすりゃいいんだ。

 

「ふふふふふ……荒葉輔、これで終わりよ」

 

「なっ!?馬鹿な!まだ三十キロも離れてた筈じゃ!?」

 

くそっ、戦場で電探の確認を怠るなんてなんたる失態!

彼奴らの性能を把握した気になってたなんて俺も驕っていたか。

 

既に目の前までやって来ていた荒覇吐は夕張ごと俺を引き裂こうと右腕のサーキュラソーを振り下ろそうとしていた。

 

「危ねぇっ!!」

 

「え、きゃっ!艦長さ──」

 

俺は咄嗟に夕張を体当たりで突き飛ばした。

お陰であいつは腕を少し深めに斬られただけで済んだが……。

 

「ぐっ……がぁぁぁぁぁ!」

 

「艦長さん!?艦長さんっ!!」

 

狙いが俺である以上当然だが肩から腰へ切り裂かれた俺は今生きてるのが不思議な位だ。

妖精は存外タフな存在らしいが、それでも生物であるのならば幾許も持たねぇだろう。

 

「うっ……ぐぅぅ……!」

 

「まだ生きてるか……これで終わりよ!」

 

くそっ、駄目だ……意識……が……

まだ息のある俺に止めを刺そうと迫る左腕のドリルは次の瞬間、遥か後方から放たれたであろう高速飛翔体によって弾き飛ばされた。

 

「なにっ!?」

 

『夕張、荒さんを直ぐに救護室に』

 

「え……?どうして……」

 

夕張の無線から聞こえて来た覚えのある声を最後に、俺はそのまま意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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超兵器戦

高速飛翔体が飛んできた方角に振り返った夕張が目にしたのは本来こんな海上に居れるはずのない存在であった。

 

「どうして……どうして此処に居るんですか!?()()!!」

 

「ごめんなさい、後で説明するわ。それより今は荒さんを早く!」

 

「あ……っはい!」

 

夕張は突然の出来事に一瞬たじろぐも直ぐに気を持ち直し陸へと急ぐ。

 

「待て!逃がすかぁっ!!」

 

「それはこちらの台詞よ」

 

荒覇吐が夕張を追いかけようとするが遥か先から放たれる光線によって足を止められてしまう。

荒覇吐は自身の邪魔をした犯人へ殺意を込めた視線を送りつつ、忌々しげに吐き捨てた。

 

「ちっ、あと少しなのに……貴様は後で構って上げるから大人しくしてなさい!フィンブルヴィンテル!!」

 

フィンブルヴィンテル

 

それは超兵器の起源にして頂点となる究極超兵器である。

全ての超兵器機関はかの超兵器を元に作られたと言われ、その機関が止まる時全ての超兵器機関が稼働を停止するとも言われている。

兵器というより冒涜的な生物の様な姿を持つこの超兵器はかの世界でさえ乗員を必要としない意志を持つ兵器であった。

 

「私は灰瀬瑠花ですっ!ですが……これ以上不条理に私の仲間を傷付けようと言うのなら、例えアラハマキさんの姉妹艦であっても容赦はしない。大いなる冬(フィンブルヴィンテル)として、最終戦争(ラグナロク)さえ辞さないつもりよ」

 

そう言い放った灰瀬瑠花もといフィンブルヴィンテルは普段の青紫ではなく薄紫のショートヘアーを靡かせ荒覇吐の前に立つ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「何を言ってるの?あの男はマキ?お姉ちゃんを誑かそうとする害悪よ。それを排除するのが不条理って言うの!?」

 

「不条理よ。荒さんは彼女の願いの為に一生懸命だもの、彼女を騙して利用するつもりならご機嫌でも取ってもっと上手くやるわ」

 

「マキお姉ちゃんの願いの為ですって?はっ、詭弁も良い所ね。自由を制限され、戦闘も思い通りに出来ない環境にお姉ちゃんを縛り付けて何がお姉ちゃんの願いの為よ!馬鹿馬鹿しい」

 

真実を知らない荒覇吐には自身の気持ちと過去の記憶こそが真実である。

もしここにあら、葉巻?が居れば即座に反論したであろう。

だが今の灰瀬には荒覇吐の主張を否定出来るだけの根拠を持ち得ては無かった。

 

勿論彼女は荒葉輔がそんな男でないと信じている。

それでも荒覇吐を納得させるだけの材料が存在しないのもまた事実だ。

 

「そうね、確かにアラハマキさんに取って今の環境は少し窮屈かも知れない。それでも一つだけ言える事はあるわ」

 

「……なによ」

 

「それはアラハマキさんも荒さんもお互いを大切なパートナーだと認識してるって事。貴女の思ってる様な関係なんかじゃ絶対に無いわ」

 

それが今日まで二人を見てきた灰瀬が辿り着いた答えであった。

しかし、当然ながら荒覇吐がそれを聞いて納得する筈が無い。

 

「そうか……お前もあの男とグルになってマキお姉ちゃんを誑かそうとしてるのか」

 

「……やっぱり本人から直接聞かなきゃ納得出来ないようね」

 

「いいわ。だったらお望み通りお前から沈めてやるわっ!!」

 

言い終えるや否や荒覇吐は305mmガトリング砲をばら撒きながら70knot*1近い速度で一気に近付いてくる。

灰瀬はそれを防御重力場で威力を殺しながらδ(デルタ)レーザーで迎撃を試みる。

電磁防壁を展開してるため威力は半減しているが元々威力の高いδレーザーを相殺しきる事は出来ずに荒覇吐の船体にダメージは蓄積されていく。

 

「鬱陶しい!さっさと沈めぇ!」

 

「下がりなさい!私を知ってるなら貴女に勝ち目はない事も解るでしょ!」

 

「私を……馬鹿にするなぁっ!!」

 

「くっ……!」

 

状況だけ見れば灰瀬が圧倒しているように見えるが、その実彼女の内心はかなり焦っていた。

今はどうにかδレーザーと多弾頭ミサイルで足止め出来ているが、後進している灰瀬が接近を一度許してしまえば再び距離を取ることは叶わず一方的に嬲られるのは目に見えている。

幾ら究極超兵器と言えど荒覇吐を相手に近接戦闘を行うのは分が悪過ぎる。

そして最大の悩みは目の前の彼女があら、葉巻?の姉妹だと言う事だ。

仲間に危害が及ぶ事を看過する気は無い灰瀬だが、それでも此処で荒覇吐を沈めてしまえばあら、葉巻?を傷付けてしまうかも知れない。

それ故に一撃で消滅させかねない反物質砲は使えない。

光子榴弾砲も撤退途中の夕張を巻き込んでしまう為勿論使えない。

 

だからこそ足止めに徹しているのだが、幾ら損傷が蓄積されようと荒覇吐は一向に下がる気配が無かった。

そこに灰瀬は一抹の不安を覚えた。

 

「貴女まさか……此処で死ぬつもり!?」

 

「ふふ、マキお姉ちゃんが目を醒ましてくれるなら死んだって構わないわ」

 

「なっ……!?」

 

そう言って狂気に満ちた目で薄く笑う荒覇吐の姿で灰瀬は確信した。

これは甘い考えでは殺られる、仲間を護れない。

そこからの灰瀬の判断は早かった。

多弾頭ミサイルで目を眩まし距離を取りつつ反物質を生成していく。

そして充分に作られた反物質を電磁力で荒覇吐目掛けて放った。

 

「あははははっ!やっと解ったようね?でも遅いわ、お前はさっさと私を沈めて帰るべきだったのよ。お姉ちゃん達に見られる前に、ね?」

 

「アラハマキさん達に見られる前に?それはどういうっ!」

 

灰瀬が問い質そうとした直後、反物質砲が起こす対消滅エネルギーが辺り一体に衝撃となって吹き荒れる。

それはつまり反物質砲の着弾を意味する。

灰瀬は激しい光に目を細めつつ波に足を取られないように踏み止まりながら、荒覇吐が放った最後の言葉の意味を考えていた。

 

「(確かに今の姿をアラハマキさんに見られるのは避けたいところだけれど、それは別に彼女に限った事じゃないし、夕張に見られた以上遅かれ早かれ彼女の耳に入る話。となると他に何か問題が?)」

 

だが、その答えは最悪の形で判明する事になる。

波と光が落ち着いてきたその着弾点には件の戦艦が半損しながらももう一人の戦艦を庇っていた。

 

「灰瀬提督。貴女はどうして此処に……いえ、やっぱり良いです」

 

「あ、アラハマキ……さん」

 

「お姉ちゃんっ!」

 

「荒覇吐……そうですよね、その艤装の時点で疑う余地は無かったのに。アマテラスもごめんなさい、妹達を信じてあげられなかった悪いお姉ちゃんでしたね」

 

「気にしてませんわ、お姉様ならいずれ分かって下さると信じていましたもの」

 

すぐ後に合流したアマテラスは荒覇吐に肩を貸しながらあら、葉巻?にそういって微笑みかけた。

だが、妹達に向けた柔らかな表情は直ぐになりを潜め灰瀬に向けられるのは背筋を凍りつかせる様な冷酷な視線だけであった。

 

「提督……私や艦長、そして天龍さん達を欺きこの世界をどうするおつもりですか?こちらでもヴァイセン・ベルガーの名のもとに貴方達が支配する究極の平等とやらを目指すのでしょうか?」

 

「待って、アラハマキさん!私も元帥もこの力で世界をどうこうするつもりは無いわ!」

 

「ならば何故人と偽り提督になどなっているのですか?」

 

「それは……」

 

「答えられませんか、残念です」

 

そう言ってあら、葉巻?は目を伏せ心底残念そうにため息を吐いた。

あら、葉巻?は灰瀬に好感を抱いていた。

だからアマテラスの話が事実であり、妹の荒覇吐を本気で殺そうとしていた彼女に対して酷くショックを受けた。

それでも彼女なりの考えや事情があるのではないかと考え、それを話して欲しいと期待していた。

だが、結局彼女は答えない。

沈黙と言う回答は彼女を信じようとしていたあら、葉巻?を失望させるには充分過ぎるものであった。

 

あら、葉巻?はもう話す事は無いと殺意を込めた瞳で灰瀬を射抜いた。

 

「提督。いえ、フィンブルヴィンテル……貴女は此処で終わりです!」

 

こうしてあら、葉巻?にとって初の超兵器戦は図らずも最悪な形で実現する事となった。

 

 

 

 

 

 

*1
129.64km/h



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裏切り……という事になるのでしょうか?

認めたくなかった……

 

信じたくなかった……

 

けれどそれは残酷なまでに現実で……

 

黒い雷球を放つ彼女は間違いなく提督であり、そして超兵器。

 

私は荒覇吐を庇い艤装の一部が消滅しながらも妹の無事に安堵した。

私の電磁防壁を突破し艤装を消滅させたあの兵器は恐らく反物質砲と呼ばれるものでしょう。

そんなものを載せた兵器などあちらの世界では数える程しか居ません。

即ちそれは彼女こそがアマテラスの言うフィンブルヴィンテルである事の証明となっていました。

 

何故……どうして。

それでも私は彼女を信じたかった、何か事情があるのではと思いたかったのですが……

 

彼女は答えてはくれませんでした。

 

本当に……本当に残念です。

私は貴女を信じたかった……けど、やはり貴女は私を信じるつもりはないんですね。

 

「提督。いえ、フィンブルヴィンテル……貴女は此処で終わりです」

 

「ごめんなさい、アラハマキさん。だけど……」

 

もう良いですよ。もう取り繕わなくても良いんです。

貴女が自分の意思で妹達を殺そうと言うのなら……

 

127mm,406mmガトリング砲全門の外部動力を起動。

 

対艦ミサイル全二十四門装填完了。

 

クリプトンレーザーの混合ガス充填中。

 

荷電粒子砲及び拡散荷電粒子砲の粒子加速器を起動。

 

超兵器機関制限解除、出力120%。

 

「あら、葉巻?これより殲滅を開始します……ふふ」

 

さあ、貴女に関わる全ての物に終焉を与えましょう。

 

「うふふ?あははははっ!!!」

 

「アラハマキさ──んぐっ!?」

 

あら?全力って突っ込んたつもりですが差程損傷が見られないなんて……うふふっ、流石は究極超兵器ですね!!

 

私は全力の突進で吹き飛んだフィンブルヴィンテルへ荷電粒子砲と406mmガトリング砲で追い討ちを掛ける。

しかしその多くか彼女の対空パルスレーザーによって迎撃されてしまいました。

 

ならばと私は再び接近し私達姉妹が最も得意とする艦艇としては有り得ない超近接戦闘へと移行しました。

幾ら究極超兵器と言えど接近戦ではこちらの方が分が有りますよ?

 

「うっ、ぐぅ!アラ……ハマキ……さんっ……話……を!」

 

「話?話ならしてるじゃないですか!全てを使ってねっ!!アハハハハッ!」

 

防御重力場でどうにか致命傷は避けてる様ですが、果たして何時まで続きますかねぇ!

 

「私……わっ……貴女と戦うつもりは……っつ!!」

 

「アハ、私の妹にそれを撃っておきながら戦うつもりがないとは笑わせてくれますね!」

 

「そ、それは……それ以外に私には彼女を止める事は出来なかったから……」

 

「……?ならば私とも戦う理由は充分じゃないですかぁ。それとも私など全力を出さずとも止められるとでもお考えで?」

 

「け、けど……」

 

むぅ……?何を躊躇してるのか解りませんねぇ。

私達は兵器、であれば例え味方であろうと害をなすのであれば撃滅するのが当然でしょうに。

 

「はぁ〜あ、少しは楽しめると思いましたが……これなら鳳翔さんや赤城さん達の方がまだ楽しめますね。フィンブルヴィンテル、貴女には失望しました」

 

まともに戦う気が無いならこっちにも手がありますよ。

私は両腕のドリルで乱れ突きながら全兵装をフィンブルヴィンテルへと構えました。

 

「うふふふふ?死なない程度に壊してあげます、ねっ!」

 

そう言って私は全ての火力を一点に集中させて放ち続けました。

流石に究極超兵器の名は伊達では無いようで、集中砲火を受けてなお沈むことなく立っている姿には賞賛を送っておきましょう。

 

ですがすぐに動けるかどうかは別問題ですね。

私は動けずにいる彼女を置いて標的をノロノロと鎮守府へ向かってる艦娘へ定めました。

 

「やっ、待ってアラハマキさん!!」

 

「あははっ!待ちませんよぉ?見せてあげますね、これが貴女が望んだ結末ですよ!」

 

「痛っ……ぅ……!」

 

「痛いですか?苦しいですかぁ?でも安心してください。直ぐに痛みなど感じなくなりますからねっ」

 

直ぐに追い付き左腕の艤装を格納した私はその腕で緑色のポニーテールを掴んで引き寄せる。

痛みに顔を歪ませる少女の顔へドリルの先端を突き立てたその時、ふと彼女が胸元に抱える何かが目に止まりました。

 

血……?なんでしょうか……この胸がざわめく感じは……。

 

「その手を……退けなさい」

 

「いや、けど……」

 

「次はないですよ?さあ、退けなさい!」

 

語気を強めて再度命令すると少女は観念した様にその手の中を見せてくれました。

だが彼女が抱えていたのは……。

 

「かん……ちょう……?」

 

これは……どうしたというのですか?

そんな、これでは今にも死んで……死……?

 

「あ……ああ…………」

 

誰が一体……誰が……荒覇吐……?いえ、そもそも私が勝手な事をしなければこんな事には。

 

私が……私……が…………私が私がワタシがワタシがワタシがワタシガワタシガワタシガワタシガワタシガワタシガワタシガワタシガワタシガワタシガワタシガワタシガ────

 

「ああぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

「ア、アラハマキさんっ!」

 

脅威を取り除かないと艦長を助けないと全て沈めて艦長を助けなきゃ!

 

「艦長に仇なす者は全て壊してしまわなければ……全て!」

 

「っるせぇ……よ、バカ、葉巻?」

 

い、今の声は……!?

 

「か……艦長っ!?待ってて下さい!直ぐに周囲の奴らを殲滅して救護室へ連れてきますからっ!」

 

「っはぁ……はぁ……よく聞けバカ、戦闘態勢解除……だ。そして荒覇吐達にも伝えろ。戦闘は終了だってな……ぐっ、反対する……なら、力ずくでも言う事を聞かせろ」

 

「し、しかしっ!」

 

「その後の事は俺が全部何とかしてやる……だから……いいな?」

 

艦長は私に指示を出すだけ出すと再び気を失ってしまいました。

早く艦長を治療しないと手遅れになってしまう、その為にも争って居る場合では無い。

 

しかし……彼女は私達を欺き、あまつさえ荒覇吐に反物質砲を放ったのに。

よしんば理由があったとしても彼女がした事も私がした事も無かった事になる訳ではありません。

そんな私が彼女に赦しを請い助けを求める?

 

彼女が私を赦すとは思えません。

ですが艦長は後の事は任せろと言いました。ならば私が成すべき事は艦長の指示に従う事、そして艦長を救う事だけです。

私にとって艦長の指示とその命こそが最優先ですから。

私は直ぐに二人に通信を繋ぎ伝えました。

 

「荒覇吐、アマテラス、戦闘態勢を解きこちらに来て下さい」

 

『分かったわ!マキお姉ちゃんっ!』

 

『……承知しましたわ、お姉様』

 

素直に聞いてくれて助かりました。

後は、二人が来るまでに伝えておきましょう。

私は苦痛を浮かべながら膝を着く彼女に近付き、深々と頭を下げました。

 

「フィ……いえ、灰瀬提督。此度の叛逆行為の数々、許されるとは考えておりません。私はどんな処分でもお受けしますので、妹達は見逃して下さい。それと……艦長をどうか、どうかお救い下さい」

 

誰が何と言おうとあの人の居ない世界など最早考えられません。

あの人が私の艦長だったからこそ今の私が居るのですから。

 

「…………夕張、荒さんをこっちに」

 

「えと……はいっ!」

 

「アラハマキさん、貴方達の処遇は追って伝えます。先ずは荒さんの救命が最優先ですので付いてきて下さい」

 

「……っ!感謝します」

 

私はそのままの姿勢のまま感謝を伝えた後、合流してきた妹達に事情を伝え50knotで進む灰瀬提督へと続きました。

 

艦長、後は任せましたからね。

絶対に助からないと赦しませんよ。

 

 

 



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それぞれの事情

鎮守府に戻り即座に荒葉輔を救護班の妖精達に引き渡した灰瀬はあら、葉巻?らを連れて応接間へと向かった。

勿論それは灰瀬が事情を説明する為でもあり、荒覇吐達の今に至るまでの経緯を聞く為でもあった。

 

大きめのテーブルを挟んでそれぞれ向かい合って座る。

灰瀬の隣には少し遅れて到着した夕張、あら、葉巻?の両隣には荒覇吐とアマテラスがあら、葉巻?の腕にそれぞれ組み付いて灰瀬を睨み付けている。

あら、葉巻?は隣の二人を気にとめずに早速本題を切り出した。

 

「灰瀬提督……いえ、ここは敢えてフィンブルヴィンテルとお呼びしましょう。フィンブルヴィンテル、貴女は私達の事を何処まで知ってるんですか?」

 

あら、葉巻?は真剣な目で灰瀬の事を真っ直ぐに見つめる。

灰瀬もこれ以上隠しても無駄だと考えあら、葉巻?の瞳に視線を合わせて答え始める。

 

「……結論から言えば貴女達の生まれや経緯に関しては全く知らないわ。私が知ってるのはこの鎮守府でのアラハマキさんと貴女からきいたアマテラスさんの事、そしてここ最近海軍に伝わっていた荒覇吐さんと思われる艦娘についての情報くらいね」

 

「そうですか……ではウィルキアという国に聞き覚えはありませんか?」

 

「ウィルキア?申し訳無いけれど記憶に無いわ」

 

あら、葉巻?は灰瀬の一挙一動を見逃さない様に観察するも、虚偽を述べてる様には思えなかった。

故にあら、葉巻?は考える。

この世界は自分たちの知る世界の並行世界でウィルキアは目立たない一小国のまま、若しくは存在せず更には超兵器機関の存在すらヴァイセン・ベルガー1人によって完全に秘匿された世界である可能性が高いと。

とはいえ、ヴァイセンベルガーの狙いが分からない以上灰瀬の言葉を鵜呑みには出来ない。

だから少しでも判断材料を得る為にあら、葉巻?は荒覇吐達にも問い掛ける。

 

「荒覇吐、アマテラス。逆にあなた達はフィンブルヴィンテル達の情報を手に入れたのかしら?いくらなんでも名前だけで決め付けたとは言わないわよね」

 

「勿論ですわお姉様。私達に情報を渡したのは私達をこの世界に連れてきた存在ですわ」

 

「この世界に連れてきた存在……まさかあなた達を連れてきたのも!?」

 

「多分マキ?お姉ちゃんの考えてる奴と一緒だよ。というかそんなデタラメな存在が複数居るなんて考えたくないってのもあるけど」

 

あら、葉巻?だけでなく、荒覇吐とアマテラスもこの世界に連れてきた存在に当たりは付けていた。

そしてそれは必然的に目の前の究極超兵器に対する警戒を引き上げる要因となっている。

だが、一方であら、葉巻?は件の存在は彼女ではないとも感じていた。

 

「(もしかしたらそうじゃないと信じたいだけかもしれませんが……自分に矛を向けさせる理由も現段階ではハッキリしません)」

 

あら、葉巻?が思案に耽っていると、今度は灰瀬の方から質問が来る。

 

「アラハマキさん、貴女の世界での私とヴァイセンベルガーがどのような存在だったか教えて貰えませんか」

 

「私の世界の……ですか。いいでしょう」

 

あら、葉巻?はフィンブルヴィンテルに関して、フリードリヒ・ヴァイセンベルガーという男が行ってきた所業を自身の知る限り伝えた。

 

 

 

 

 

 

全てを聞き終えた灰瀬は苦虫を噛み潰したように顔を歪めていたが、やがて息をゆっくりと吐くとおもむろに口を開いた。

 

「皆さんが私達に対して悪感情を抱いていた理由は解りました。私から話しても信用はされないでしょうが、お爺ちゃ……この世界のヴァイセンベルガーは件の存在とは全くの別人です。そもそも私は内戦中の国の廃村で拾われ、その時は自分が人間でないことすら知りませんでした。それでも元帥は私の事を本当の孫の様に溺愛してくれましたから」

 

灰瀬は頬を赤く染めて薄く微笑んだ後、顔を引き締め直して真剣な表情で続けた。

 

「それに……私がアラハマキさん達と同じ存在だと分かったのはアラハマキさんがこの鎮守府に来る少し前ですから」

 

「なっ……!?そんな与太話信じられるわけありませんわ!ですよねマキ?姉様!」

 

声を荒らげるアマテラスだが、その意見は至極真っ当である。

だが……と、あら、葉巻?は頭を悩ませる。

あの譜院という男には嘗て見たヴァイセンベルガーのような他者を全てを見下したような傲慢さは感じられなかった。

勿論、それらが全て演技である可能性も捨てられないがそれを含めてもあら、葉巻?には到底同一人物には思えないのだ。

 

「……いいでしょう。そもそもそれを信じるか否かは私ではなく艦長が判断する事」

 

「お姉ちゃん!?」

 

「マキ?姉様!?」

 

自身に関わる判断を艦長に委ねる。

それは艦艇であれば当然とも言えるが、艦娘となり自由を得た荒覇吐やアマテラスからすればやはり信じられないものだろう。

 

そんな二人の反応に思う所が無い訳でもないあら、葉巻?だが、今はそれよりも優先して聞いておきたい事が残っていた。

 

「提督、貴女が私達をこの世界に連れてきたどうかについては答えを聞いた所で信用する要素がありませんので聞きませんし、私の処遇も先程話したようにどんな事でも甘んじで受け入れるつもりです。なので一つだけ答えてください。自分の正体が私と同じだと判明した時点で正体を明かさなかったのはどうしてですか?」

 

あら、葉巻?が行った質問は灰瀬提督を……この世界のフィンブルヴィンテルがあら、葉巻?に取って信用するにあたいするか否かを確かめる為のものであった。

 

その答えは……

 

「……怖かったの」

 

「怖い……ですか?まさか究極超兵器である貴女がいち超兵器である私を恐れていたなんて事はぬかしませんよね?」

 

「私からしたら貴女達も十分脅威ではあるけどそういう事ではないの。私が最も恐れたのは……皆が私の正体を知って離れていってしまう事」

 

「雑魚と一緒にいたいから自分を弱く見せるってこと?何それバカなの?しぬの?」

 

「それ程の力を持ちながら……筆舌に尽くし難い程の愚物ですね」

 

それは妹達が即座に唾棄するような物言いであったが、あら、葉巻?には思う所があった。

 

「(孤立する事を恐れる心ですか……確かに元の世界では知る由もありませんでしたが、今なら何となく理解出来ます。もしも艦長に見放されたらと考えたら居ても立っても居られませんし、事実それが現実のものになりそうだったから私は冷静で居られなかったのでしょう)」

 

ここ数日感じていた焦燥感の正体、そして今回の暴走の根底にはそのような恐怖心があった事をあら、葉巻?は初めて実感していた。

とはいえそれだけで目の前の超兵器を信用出来る程あの世界でのフィンブルヴィンテルの存在は小さくはない。

だからこそ彼女は自身が最も信頼出来る者の判断を信じる事に決めたのだ。

 

「(宣言通りに後の事は任せますよ艦長……)わかりました、では私からこれ以上言う事はありません。灰瀬提督……艦長と妹達の事は何卒お願い致します」

 

「分かってる、決して悪い様にはしないわ」

 

「……では、私達は指示があるまで部屋で待機しております。行きますよ、アマテラス、荒覇吐」

 

「うん、わかった!」

 

「……マキ?姉様がそうお決めになられたのなら私は従うだけですわ」

 

灰瀬の返事を聞いたあら、葉巻?は安心したような柔らかい笑みを浮かべ部屋を後にした。

そんな彼女に続いて二人とも応接間から出ていくと、途端に張りつめていた空気が緩む。

あら、葉巻?は別としてアマテラス達から常に当てられ続ける殺気は予想以上に気力を削っていたらしく、灰瀬はだらしなくソファの背もたれに寄りかかりながら大きくため息をついた。

 

「はぁぁぁ~……良かったぁ」

 

だが、無意識に口から零れたその言葉には緊張や危機から解放された以上の意味が込められていた。

 

 

 




これにて一先ず未完とさせて頂きます!
これを見ている方がどれだけいるかは分かりませんがここまでご愛読頂きありがとうございました!





もしかしたらまたひっそりと再開する可能性も無きにしも非ず……です。


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