ラギアクルスに育てられたんですけど……え、呼吸法?何ソレ? ([]REiDo)
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番外編
異界人による鬼滅ラジオ 第0回




 本編関係なし、茶番全開メタさ全開ラジオ形式の設定告白集。


 

海斗「…………異界人による鬼滅ラジオー……ってなんだおい、ここどこだ。誰かいないのか!?おーい!!!」

 

カンペ『呼んだかい?』

 

海斗「うおっ!?誰だ!?」

 

カンペ『どうも、今回の進行役のカンペです』

 

海斗「あ、はいどうも流星海斗といいます。……じゃねえ!つい元社会人の癖であいさつしてしまっちまった!」

 

カンペ『頭、盛大に抱えて大変そうですね』

 

海斗「アンタのせいだ!アンタの! つ-か、一体ここはどこなんだ!?あたり一面真っ白で先が見えないし何もないし、一体全体なんなんだこの空間!?」

 

カンペ『作者が作った空間です。ここは本筋も時系列も関係無しのやりたい放題、死者も生者も参加可能、破壊も殺害も不可能!トーク形式で進行する場所です。二次創作ならではの特権ですね!!』

 

海斗「いろいろメタいわッ!! おい、この世界のデバックどうなってやがる。作った奴は頭おかしいんじゃねえのか!?」

 

カンペ『それを言ってしまえば本末転倒ですよ。その頭がおかしい作者からあなたが生まれたんですから』

 

海斗「…………なんか不意に作者に殺意が沸いたぞ。おい、その馬鹿作者はどこにいる?とりあえず雷切を一発……いや五発ぐらいぶち込んでやる」

 

 

ビクビクビクゥッ!!!

 

 

海斗「……まあいい。とりあえず俺をここに読んだ説明をだなーー」

 

カンペ『作者ならいますよ、あそこに。カップ麺を食べながらゲームしてますが』

 

海斗「ヨッシャッ!、ちょっと締めてくるから待ってろッ!!!」

 

 

ダダッ!!(猛烈全力ダッシュの呼吸)

 

 

 

 

 〜〜〜しばらくお待ちください〜〜〜

 

 

 

 

海斗「ふぅ、スッキリした。で?俺をここに読んだわけは?」

 

カンペ『背後で細切れにした状態の作者を置いてそんなこと言えるのはあなたくらいですよ。”命を大事に“の心情はどうしたんですか』

 

海斗「どうせ死なないんならいいだろ」

 

カンペ『それもそうですね』

 

 

良くねえっ!!死なない、つっても痛覚はあるんだよっ!生きたままサイコロステーキ化とか軽く拷問だからなっ!

 

 

海斗「後ろでなんやかんや文句言ってる作者は置いておいて、結局俺どうしてここにいるんだ?」

 

カンペ『呼びこんだのはそこの作者ですよ。私は文字どおり進行役をさせてもらうためにいるだけのなので」

 

海斗「へー、それでラジオね…。……え?てことは俺解説なの?」

 

カンペ『はい』

 

海斗「一人で?」

 

カンペ『他に人がいるように見えますか?』

 

海斗 カンペ「『………………』」

 

 

海斗「事情を聞かせてもらおうか」

 

カンペ『作者にお願いします』

 

 

 

 

 

 〜〜しばらくお待ちくだ(ry〜〜

 

 

 

 

 

海斗「で?本編創作の気分転換がてらにこの企画を作ったと。あ?この企画第0回?参加する人間が出てくるのは第1回になってから?それで俺に解説役を任せたと。 何?今後もしてもらいます?……あぁ、めんどくせえぇ…」 

 

カンペ『と、いうわけで。さっさと始めてしまいましょう』

 

海斗「ああ。もうこの作者には着いていけん」

 

カンペ『では始めていきましょう。第0回目のお題は『流星海斗の誕生経緯と本人のスペック』です』

 

海斗「あ、そこ第1回じゃないのか……」

 

カンペ『資料によりますと……、生命の観測者的な存在にしたかったらしいですね。何でも、異常なほど命を大事に扱う人間として成立させたかったらしいです』

 

海斗「自意識過剰だが、その性格は今現在も維持中だな」

 

カンペ『最初は鬼滅世界に真っ先に転生させるつもりだったが、それではなんとなく納得がいかなかったらしく、生命をテーマにした世界に移行させる為に、モンハンの世界に転生させたと』

 

海斗「なんと無くってなんだ、なんと無くって……」

 

カンペ『転生報酬として強大な強さを授けるだけの展開が嫌だったんでしょう。一時期は、鬼殺隊正式隊員として“柱”になる予定もあったらしいですよ。

 

海斗「ご都合設定ぇぇ……」

 

カンペ『まあ、結果としてはモンハンの世界で、数々の努力の修練をこなし、柱にも匹敵するような強力な強さを身につけたわけですが。コレについて何か一言ありますか?』

 

海斗「……まあ、辛かったわ辛かったが、それなりにいい感じの実感はある。いい父親も居るし」

 

カンペ『それはよかったですね。……さて、お次は『流星海斗のスペック』についてです』

 

海斗「コレは結構気になるな。自分の能力がどれくらいなのかは、是非とも知りたい」

 

カンペ『コレについては、作者がモンハン越しに詳細のステータスを書いてくれました。どうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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【挿絵表示】

 

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海斗「スキル多!?10ってなんだ10って!?チートかよ!?」

 

カンペ『まあ、”強さの参考に”という感じですから。……それにしても、これはなかなかに強化され尽くしてありますね』

 

海斗「ゲーム内だったらF産レベルのチート性能だな。どれと無くデメリットのスキルもないし」

 

カンペ『極みシリーズのモンスターに勝てた原因はーー間違いなく[一撃必殺の心得]でしょうか』

 

海斗「そうだろうな。アレが無かったら多分、ジンオウガを一撃で瀕死に追い込むことできなかっただろうし。何しろ、あの時俺もう体力0寸前だった筈だからな」

 

カンペ『なるほど。所で、何故こんな強化を大量に施すことができた理由。知りたくないですか?』

 

海斗「? なんだよ?」

 

カンペ『それはですね……あの世界のモンスターは全てーー』

 

 

あ、バカッ!言うなッ!!

 

 

カンペ『全て、上級からG級までの先鋭だったんですよ。だからこその、そのチート性能というわけです』

 

海斗「………………………」

 

カンペ『ちなみに、世界の設定をしたのは作者なので、必然的にもモンスターの設置をしたのも作者ですよ』

 

海斗「……………………………………………………」

 

 

 

バカカンペッ!!んな余計なこと言うなよ!! ヒィェエエ!?待て待て無言で俺に近づいてくるな!その武器と手に持ったキノコを仕舞えぇえええ!?ギャァアアアアア!?!?

 

 

 

 

 

〜〜しばらくお待ち(ry〜〜

 

 

 

 

 

カンペ『鬱憤は晴らせましたか?』

 

海斗「おう。教えてくれてありがとな。これでアレも俺の辛さを思い知っただろ」

 

カンペ『さて、これにて第0回異界人によるラジオは終了です!次回の第1回をお楽しみに!』

 

 

 

 

ピクピク……(体を粉微塵に切り刻まれ、ドクテングダケを無理に食わされ、激痛によって動けなくなった作者の成れの果て)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






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始まりの一章
モンハンの世界か…… え?狩りをしろって?


そこはもはや誰にも認知されることがない大自然。

そして彼の者が現れる時。

その竜は再び起きる。


 

 俺は死んだ……のか?

 

 

 瞼は開かないし…手足は……駄目だ、指一本も動かない。

 

 確か……俺は海に足を運んで日頃の疲れを癒しに行って……断崖絶壁の場所で風に当たっていたら岩が崩れて……

 ……分からない、記憶が途切れてるみたいだ。

 

 ふわふわと体が浮かんでいるのを感じる。

 ここは海の中だろうか? それとも、もう死んでいて魂だけが浮かんで漂っているとか…? まあ、目蓋を開けられないから分からないが。

 でも、聴覚だけはあるみたいで、何やら鼓動のような音を感じる。

 

 自分の心臓の音?……だといいんだが……

 

 ごぽぉ。と。

 何かが上に向かって上がって行くのを感じる。

 泡?というより空気か?

 それでも上が有ると言う概念がまだがあることに安心だ。

 死後の世界? なんて言うのを信じたことはないが、もしあったとしたら上下左右なんて概念はないだろうし。

 

 

 


 

 

 

 

 あれからどれくらい経っただろう?

 

 よく分からない場所に漂い続け、体感時間は2日ほど。

 最初は息苦しかったこの場所も、48時間もいたら慣れてきた。

 

 四肢はいまだに動かないから、頼りになるのは聴覚のみ。

 

 ……正直に言ってしまうと、ちょっと楽しかったりする。 

 音の種類を予想して、自分の周りで何が動いて、漂っているか。

 何も見えない状況だからこそ、それを予想するのは楽しかった。普通ではできない体験だ。

 

 

 ただ…時々遠くからでも耳が痛くなるくらいに聞こえてくる大きな叫び声。

 というより、咆哮だろうか?

 明らかに生物の声量じゃない。

 ライオンでもこんな耳をツン刺すような声は出さないだろう。

 

 しかも、その咆哮は時間が経つごとにどんどん近づいてきてる。

 内心ビクビクである。

 初めて聞いたときは心臓が止まるかと思いました、はい。

 

 

 


 

 

 

 そして、その時はいきなり来た。

 

 背中から体が持ち上がる感覚を感じる。

 目指す場所は、上。

 

 漂い続けたあの空間を離れ、体が地上へと持ち上がる。

 上から下へと四肢が引っ張られて痛いが、この感覚は前世にもあった。

 

 これは……海の底から上へと強制的に浮上させられる感覚だった。

 

 

 ザバァアン!!と。

 俺は打ち上げられるように飛ばされた後、地面に激突し転がり回った。

 

「〜〜〜ッ!!」

 

 身体中に激痛が走り悶絶するが、ふと気づく。

 

 ()()()()()()()()

 

 あの空間では何も見えず、四肢も動かない状況だったためか久々に忘れていた。

 

 これは……手が、足が、首が、目蓋が。

 正常に動く感覚だ。

 

 

 ゆっくりと、痛めつけないように目を開く。

 顔を下に向けてるため茶色の地面しか見えないが、久しぶりに見る自然の風景に感動する。

 

 次は、手を動かす。

 長期間動かしていない筋肉をいきなり動かせば痙攣するのは目に見えているのでナマケモノのようにゆっくりと自分の体を持ち上げ仰向けにする。

 目に見える空は雲ひとつもなく非常に快晴だった。

 

 続けて足、首、掌と。

 どんどんまともに動く四肢を確認して立ち上がる。

 

 「おお……。おぉ……?」

 

 目の前に広がる広い海。

 果てなく続くそれは、本当に美しかった。

 打ち上げられられたというなら、やっぱり俺は海に沈んでいたのか。と理解した。

 まあ、なんとなく予想はついていたが。

 

 

 その綺麗な風景に見せられた俺は危機感を感じていなかった。

 後ろから近づく巨大な気配に気づくまでは。

 

 

 

 それは、大きすぎる体格。

 一瞬、ワニかと思ったが、まるでモノが違う。

 なにせ全身が見えない。

 認識できる限りで、全長3000cm?それ以上?巨大すぎて分かるわけがない。

 

 その生物は俺にその体を向けて顔を見てくる。

 

 「なっ……!?!?」

 

 確信を持った。

 ワニ? とんでもない! そんなものよりたちが悪い!

 あれは、あの悠々たる姿は。

 俺が子供の頃に憧れ続けてきたあの姿は──!!

 

 

「ラギア……クルス……!?」

 

 

 モンスターハンター。

 前世でそのゲームの看板モンスターである火竜に対をなす大いなる存在。

 

 

  大海の王者

 

 海竜ラギアクルス!

 

 

 『GAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!!』

 

 

 


 

 

 

 

「?」

 

「どうしたんだ炭治郎? 急に止まりやがって」

 

「いや…。一瞬潮の匂いがして…」

 

「潮って…。ここ森の中だぞ。早く行くぞ!」

 

「あぁ……うん」

 

 確かに匂いがしたんだけど……。

 海の濃厚な匂いが……。

 

「炭治郎?」

 

「ああごめん!すぐ行く!」

 

 やっぱり気のせいか? 

 

 

 


 

 

 

 

 あれから4年が経った。

 前までは不慣れだった大自然での生活も今となっては慣れてきた。

 

 かと言って、ここまでくるのに苦労しないわけがなかった。

 よく分からんキノコ(ドキドキノコ)を食って、腹を壊したり。

 魚を取るために海の中に素潜りしていたら大量のルドロスが俺に襲いかかってきて死にそうになったり。

 

 なんかもう……色々しっちゃかめっちゃかだった。

 でもなんとか生きています。(涙目)

 

 

 ラギアだが……あの海竜には色々不思議な点があった。

 

 一つは生態系が不自然だということ。

 何しろ大きすぎる。

 本来なら──というよりゲームの中では約2500cmまでが平均的な全長だが、あのラギアはどう見ても4000cmは確実にある。

 それ故か、食欲も半端じゃない。

 海中に生息するエピオスをいつも1日に20頭以上食べている。

 俺がここにきて4年は経っているから単純計算で……29200頭?

 

 ほんと……いつか絶滅するんじゃねえか?

 

 

 そしてもう一つ。

 

 頭の中にラギアの声が流れて聞こえてくるのだ。

 それも割と大きな声で。

 そして、返事を返す時は同じく俺も頭の中で話しかけないといけない。どうやっているのかは聞いてみたんだが答えてはくれなかった。

 

 慣れるまで、何回も偏頭痛を起こしたっけな。 

 ……思い出したくねえからやめよう。

 

 まあ、色々あったが今ではラギアが俺の育ての親だ。

 狩りの方法とか。太刀の使い方を教えてもらったりもしている。

 

 

 ────けどラギアさんや。特訓だからといって、電流を俺に向けて放ったりするのはやめてくださらないか?

 

 ──────あとこの『呼吸法』って何?口からじゃなく皮膚から息をしろ。とか無理ゲーだろ。

 俺は魚類じゃないんだけど。

 

 原作でもこんな事をあのハンター達はやっていたんだろうか……

 

 

 

 まあ、かくして。

 

 俺は今日も狩りをする為、自分の手で作ったマイホームの壁際に立ててある『鉄刀』を持ち、多くの脅威が待つ大自然へと向かう。

 

 

 ああ、そうだ呼吸法の名前だけど『海電の呼吸(かいらいのこきゅう)』て言うらしい。

 

 

 



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水平線のその先

「……ふっ!」

 

 真正面から飛んで噛み付いてこようとするルドロスを横に回って回避する。

 そして着地した瞬間を見逃すことなく手にしている太刀で首を一刀両断。

 だが、まだだ。

 

 周りを見ると、7匹のルドロスが俺を見ている。

 これは、ラギアが咆哮で脅し俺に仕向けたモンスター達だ。

 

 特訓の日々。

 今日も今日とて俺はモンスターを相手に鍛錬を続けている。

 

 

 

 正直、最初はよく生き残ったな、と今でも思う。

 4年前の俺と比べると戦闘技術が段違いだし。

 なんなら、何度か肉を噛みちぎられて死にかけたし。

 まあ、それが経験にいかせているからいいっちゃいいんだけどな。

 

 

 

 今度は2匹のルドロスが水弾を俺に向けて吐き出してきた。

 1つは太刀で切るが、もう一つは間に合わないと判断し横に飛び回避。

 俺に攻撃してきたルドロス以外は俺を殺すのは無理だと判断したためか海に向かって飛び込んだ。

 少数犠牲で多数逃亡といった形にしたらしい。

 

「あっちゃぁ……」

 

 思わず声を出す。

 4年もこう言う鍛錬をしてきた為こういう行動をするモンスターは何度も見てきた。

 だが、『大海の絶対強者』に脅され、なおかつそれに歯向かった場合、そのモンスターは一体どうなるか?

 

 

 『GAAAAAAAAA!!!!!!!』

 

 

 バチバチバチィイイ!!!!と。

 海に最大出力の大放電が放たれる。

 

 あの感じだと、直接あの電流が当たったらしい。

 現に、皮膚が黒焦げになったルドロスの死体がぷかぷかと浮かんでいる。

 あーおそろし。(他人行儀)

 

「さて」

 

 俺もさっさと終わらせるとしますかね。

 

 

 

 “海電の呼吸 参ノ型 雷水全断”

 

 

 

 勝負は一瞬で決した。

 

 というより、元々勝負にすらなっていなかった。

 その呼吸をした時にはルドロスは後ろ足で逃げ帰っていたからだ。

 

「……もう、これ狩りじゃ無くなってきたな」

 

 ラギアと要相談だなと思い、俺は『鉄刀』を肩にかけ海に飛び込んだ。

 

 

 


 

 

 

 俺はラギアに『話がある』とだけ言って合流した。

 

 

『ほう。ならばお前は強者と競い合いたいと?』

『そういうこと。小型のやつだともう俺の印象が強すぎて逃げ帰るんだよ。それに、狩りっていうのは強いやつを狩猟してやっと『狩り』っていうんだよ』

 

 

 自分より弱いやつに目を付けて狩ることを『狩り』とは言わない。

 そんなもの、ただの『虐待』だ。

 それに、ここで弱いやつを虐めて自分が強い、と優越感に浸ることはできない。

 それはいつか慢心を生んでしまう。

 自分の限界を決めつけるような愚かな行為だけはしたくない。

 

 

『当面の目標は『ジンオウガ』と競い会えるくらいかな。あの高速移動についていけない様じゃとても強くなったとは思えないし』

 

 

 超高速に水中を動き回るラギアの背電殻に背中を預け、リラックスした状態で俺は言う。

 

 今の俺は『海電の呼吸』を常時発動しており、水中でも地上と同じ様に息ができる。

 

 呼吸と言っても()()()()だが。

 

 海の中にある僅かな空気を皮膚で吸い込んで呼吸をする。

 それが『海電の呼吸方』だ。

 

 習得するのには多大な時間がかかった。

 まず、新鮮な空気を大量に取り入れる為、肺の中の空気を全部出す。

 そして、水中の空気を感じ取り取り込む。

 口で取り込むより圧倒的に肺活量が多い為、肺の空気を全て吐けないと肺が割れてしまう。

 正直、これを覚えるより失敗しないか?と考えると怖すぎた。

 

 電気にも耐性があって、今の俺ならラギアの超帯電状態にも触れられる。

 と言っても、痺れるものは痺れるので好きで触りに行くことはない。

 

 

『好きにするが良い。私が教えられることは全て教えた。あとはお前がどう伸ばすかだ』

 

 

 ラギアは目の前の標的を睨みつけて言う。

 

 刹那、ラギアの主食であるエピオスに突進しながら大きく開けた口で噛み殺した。

 

 当然のことだが、当のエピオス本人は蛇に睨まれたカエルの様に動くとすら敵わなかった。

 

 

『ひゅー。今回は結構大きいな。中もいい感じに身が詰まってそうだ』

『祝いだ。一緒に食そうじゃないか』

 

 

 よっしゃあ!と。

 この世界で青く染まりきった髪を揺らして俺は喜んだ。

 

 

 


 

 

 

 

 ラギアの一方的なまでの食料調達を終えて、俺達は陸へと上がった。

 

 パチパチと火を起こす焚火の音が非常に気持ちいい。

 最近気づいたんだが、この世界に来てから俺は音フェチになってしまった様だ。 

 きっかけは、……まあ、海で身動きが取れなかった頃だろうな……。

 

 ラギアと俺の横には大漁に積み上げられた20頭ほどのエピオスの山。

 ちなみに俺は味に飽きない様に、マイホームからいろんなキノコを混ぜて作った調味料を持ってきた。

 マヨネーズ、ケチャップ、塩……その他もろもろなんでもござれ。

 ラギアはマヨネーズが好みだったらしい。

 

 素材調達はわざわざ森に入らないといけないから面倒ではある。

 まあ、今日は出し惜しみしないけどな!

 折角の祝いからな!

 存分に楽しまねえと!

 

 

『時に 海斗(かいと) よ』

『ん?』

『お前は……ここを出てみたいと思ったことがあるか?』

 

 

 あの大漁に積み上げられたエピオスを平らげ尽くした俺とラギア。

 海の向こうを眺めているラギアにそんなことを問われた。

 

 

『なんだよ急に。あの壁のことだろ。だったらーー』

『答えよっ。ここを出たいのか出たくないのか』

 

 

 少し。

 ほんの少しだったが、ラギアが声を荒げた。

 

 珍しかった。

 俺に向けてそういうふうに言ったのはもう2年も前のことだったから、少し怖かった。

 

 

『……少なくとも、海の中で言った当面の目標を達成するまではここにいるよ。でも、やっぱり気になるって言ったら気にはなるよ。何しろ世界の果てがあるなんて思ってもいなかったし』

 

 

 ほんの少し前ーーー1年前のことだった。

 

 ある日、その日の鍛錬を終えた俺はラギアに乗ってそこに連れてかれた。

 海の中で休んでいるのも束の間。

 そこについた時、俺は驚愕した。

 

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 その先に風景は続いているのに、そこから先は壁になっていて通れなかった。

 

 不思議で、不自然で、怖くて、()()()()だと思った。

 

 

『俺はこの大自然が好きだからさ。まだ離れたくない気持ちはあるんだよ。でも、それ以上に()()()が気にもなっている』

『ならばーーー』

『けど……それと同時に怖いんだ。()()()に行ってしまったらもう戻れないかもしれない。大好きなこの場所に戻れないって考えると……どうしようもなく怖くなるんだよ』

 

 

 本当は行ってみたい。

 あの先に、あの幻想の先に。

 何があるのかを見ていたい。

 けど、今はそれはできない。

 ラギアに恩を返せていないから。

 

 育て親に、恩を返せていないから。

 

 だから俺は強くなる。

 それが唯一ラギアの気持ちに応えることができる方法だから。

 

 

 この青髪と金眼に懸けて。

 必ずラギアには恩を返さないといけないのだ。

 

 

 その言葉を最後に、その日はもう俺とラギアが言葉を交わすことはなかった。

 

 




 

 『海電の呼吸(かいらいのこきゅう)

 口からではなく、全身の皮膚から呼吸を繰り出す呼吸法。
 空気があるところでは何処でも使えるが、水中だとその効力は絶大に向上する。
 息は永遠に続き、動きはラギアクルスの如く素早くなり、電気の影響をほとんど受けることがなくなる。
 そこから生まれる『型』は大自然の災害を及ぼすかの様な威力を誇る。


 “海電の呼吸 参ノ型 雷水全断(らいすいぜんだん)

 その一刀は刀に水と雷を乗せ、すべての敵を一刀の名の元にひれ伏せる。
 斬られた箇所は電撃に焼かれ焦げ落ちる。




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砂漠ならざる者の長 そして、始めの一歩

サブタイはクエスト名。(アレンジあり)

分かる人にはわかるはず。(超マイナー)


 昨日は色々あったが、とりあえずラギアに言った当面の目標を達成しようと思う。

 

 ……と言っても、またまた鍛錬の始まりなのだ。

 

 

 『海電の呼吸』は確かに使えてはいる。

 だが、それは水中ではよく使えているわけであって地上ではあんまし上手く使えていない。

 

 理由としては、地上での皮膚呼吸の難度だ。

 勿論のことながら地上と水中では空気の量が違う。

 それが意味するのは『一呼吸に吸う空気の量の調整が難しい』ということだ。

 

 本来、『海電の呼吸』は水中に特化した呼吸法で、地上では扱うのが水中の数倍くらい難しくなる。

 何しろ、吸いすぎたら自分の肺がパンッ!はい、おしまい状態だ。

 これ程までに扱いにくい呼吸はない。(迫真)

 

「まずは慣らさねえとな」

 

 マイホームの近くにある巨木に背中を預け目を閉じる。

 

 まず、空気を感じる。

 そして風を、自然の動きを聴覚で、感覚で感じる。

 理解ができたなら、一度目を開け、もう一度閉じる。

 それを10セット、2時間かけて行う。

 

 自然の流れは1秒毎に変わっていく。

 揺れる葉の動きはいつか落ち、風の風力は自然の気分で変わる。

 だから、それを理解しなければ周りの空気濃度が変わっていくのに分からず空気の吸いすぎで死に至る。

 

 

 終わったなら次は呼吸だ。

 息を口から吸って吐き、吸って吐き、吸って吐き、吐き、吐き、吐いて肺に空気が無くなったのを確認したら息を止める。

 ここから皮膚呼吸をするには、いつもは水と一体化する感覚をイメージするのだがそれではいけない。

 

 地上に、大量の空気に流されないためには、どうすればいいか。

 

 答えは明白だ。

 その空間に慣れ浸しむ。用は()()()()()()()()()()()

 

 (っ……!!やべえ!!!吸いすぎた!!!!)

 

 「かっ!!!はあぁ!!!」

 

 最初は上手くいくわけがなく、勿論失敗。

 今までもやってきたのだが成功率は50%ほど。

 

 つまり、成功と失敗は両立している。

 

 失敗した場合のことを考えると……思わず冷や汗をかく。

 だが、そんなものはとっくに慣れた。

 

 失敗は成功の元。

 今日も俺は成功を掴み取るため頑張ります(根性)

 

 

 


 

 

 

 森の中。

 

 ヒヒーン!と鳴くケルビを見ながら目的地に向かうために歩く。

 勿論、肩にかけてあるのは『鉄刀』である。

 歩いている最中にも『海電の呼吸』の鍛錬を忘れてはならない。

 というか、体を動かさない呼吸法なんてあるはずが無いだろう。

 

 道中でアオキノコ、マンドラゴラ、薬草、ハチミツを採取しながらゆっくりと目指す。

 

「よお」

 

 そしてそこに着く。

 

 足を向けた先はジャギィの巣。

 時間は昼頃、モンスターは勿論飯を食いに自らの巣へと戻る。

 

 そしてそこにはそのボスが……

 

『GAU…GAU…GAAAAAAUUU!!!!!!!!』

 

 ジャギィのボス。

 

 ドスジャギィ

 

 俺が初めて対峙する、初めての大型モンスター。

 

 今まで確認しなかったわけでは無いが、ラギアに止められていたため今まで挑むのを断念していた。

 

「さあ、狩り合おうか」

 

 

 始めよう。

 

 ラギアに恩を返すための第一歩だ。

 

 

 

 

「はぁ!」

 

 先手必勝。

 太刀を引き抜きドスジャギィへと向けて振り下ろす。

 

 だが届かず。

 寸前のところで後ろに飛ばれかわされた。

 俺の動きが止まったところに、群れの中の下位ジャギィが俺に噛み付いてくる。

 

 俺は片手を地面につけ、腕のバネの反動でそのジャギィにドロップキックを喰らわせた。

 その様子を見た他のジャギィが単体だと無駄だと判断したのか、ジャギィとジャギィノスが集団で向かってくる。

 

「ふぅぅぅ………」

 

 集団戦は好都合。

 一気に数を減らさせるからなぁ!

 

 

 “海電の呼吸 伍ノ型 大雷輪”

 

 

 居合の構え。

 そして抜刀。

 

 向かってきたジャギィに向けて振った切っ先が通った箇所に、天から雷撃が降り注ぐーーー!!!

 

 

 ビシャァアアン!!!という轟音が空間に轟く。

 

 

 黒煙の中、立っているのは俺のみ。

 向かってきたジャギィ達は皮膚が黒くなって炭化しかけていた。

 ……技を繰り出した俺がいうのもあれだが、えげつないなぁ。俺はああなりたくは無いな。

 まあ俺電気あんま効かないんだけどな。(自慢)

 

「さて……あとはお前だけだ」

『GURUUUU……GAAAAAA!!!!!』

 

 その咆哮と共に突進してくる。

 真正面では力負けする可能性を鑑みて横に転がり回避。

 

 それを見たドスジャギィは迎撃するかの様に、尾を振り回す。

 

「っ…!」

 

 その攻撃を鉄刀で受けとめる。

 重量が乗った一撃。

 思わず自身に響く衝撃に顔をしかめた。

 

「ぬぉぉおおおりゃぁあああ!!」

 

 尾を弾き、隙が生まれたドスジャギィの足に気刃大回転切りを喰らわせる!

 

『GAA!? GAUUU……』

 

 足の腱でも切ったのか。

 大回転を喰らったドスジャギィは横に倒れ、立ち上がれなくなった。

 

 

 

 

 勝負は決した。

 大自然の中、動けない獲物を狙わないモンスターはいない。

 俺は勝利の余韻に浸るが、慢心はしなかった。

 

 あのドスジャギィは目が死んでいない。

 諦めることはしないのだ。

 

 まさに、野生。

 最後の最後まで争い続けるその生物はボスの名にふさわしい。

 

『GA!?』

「動くなよ、今から切った足に薬草を塗ってやるから」

 

 俺は敬意を払った。

 この、勇者に──英雄に生きてほしい。

 ここに来るまでに持ってきた薬草とアオキノコを合成した『回復薬』を倒れているドスジャギィの足に塗る。

 

 元々こうするつもりだった。

 親を見失えば、子は道を失う。

 

 それだけはしたくなかった。

 さすがに、殺意を向けて向かってくるモンスターに容赦はしないが

 

 親を殺す

 

 これだけは許容できなかった。

 

 その痛みを俺は前世で知っているから。

 

 その甘い考えを捨て切ることはできなかった。

 

「よし。治るまで襲われない様にここで待ってやるから。ゆっくり休めよ」

 

 ほんと、馬鹿げたことをしているんだろうな。

 でも、そんな自分を俺は気に入っている。

 

 俺、生命(いのち)が大好きだし。

 

 

 


 

 

 

 その後、夕方まで待ってやったらドスジャギィは一人でに起きて、俺に背を向けて去っていった。

 心配しにきたのか、他のジャギィも近づいて去っていく姿は、なんだか大家族の様でほっこりする光景だった。

 

 

 

 あっ、ちなみに大型モンスターなんだけどぉ。

 

 この大森林にはイビルジョーとかもいるよヤッタネ!(白目)

 

 

 




 

 “海電の呼吸 伍ノ型 大雷輪(だいらいりん)

 居合の型。円形に振るその居合は、その刀の切っ先を辿りその箇所に天撃が繰り広げられる。
 その雷撃はあらゆるものを焦がし、炭と化す。


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静寂切り裂くは、霹靂の鼓動

 

 ドスジャギィとの対峙から半年が経った。

 

 あれから、頭より感覚で覚える派の俺はとにかく近辺に居る大型モンスターに挑みまくった。

 クルペッコ、ロアルドロス、ボルボロス、ギギネブラ、ウラガンキン等々……

 

 ……なんで大森林の中にウラガンキンがいるのかは分からなかったが…*1

 

 一番ビビったのは……クルペッコに挑んだ時だ。

 アイツ、お得意の声真似で何か呼んだと思ったら出てきたのイビルジョーだぜ。

 しかも怒り狂ってるやつ。

 

 もー無理だって悟ったね。

 だってまだそん時、呼吸全然上手くいかなかったし。

 成功率だって頑張って60%しかなかったから。

 

 というわけで、20分の全力疾走の上、速攻海にダイブした。

 まあ、これも『狩り』の醍醐味というものなんだろう。

 

 ただし、その後逃げてきたのをラギアに見つかり2時間の間大放電の刑を受けました。ツライ。

 

 

 

 それはそれとして、取り敢えず経験値を積みまくった俺は、地上での『海電の呼吸』の使い道について大体コツを掴めた。(と思う…)

 

 まず、平面での戦闘は絶対にしてはいけない。

 『海電の呼吸』は水中での機動力はあるものの、地上では少しばかり足が早くなるくらいの効果しかない。

 ラギアも地上戦を嫌っていたのはこういうことだろう。

 

 十ノ型に地上戦特化の技があるっちゃあるんだが……

 あれ、地面に刀刺せなきゃ使うことすらできないからな。

 

 取り敢えず、以下の点から平面戦闘は避けるべきと学んだ。

 

 

 それと言ってはなんだが、樹海での戦闘はなかなかいいものだった。

 全然駆使してなかった、『全集中の呼吸』を使うことでアクロバットに動くことができるようになる。

 

 欠点としては、いったん息を吐かないと『海電の呼吸』が使えないところか。

 

 

 


 

 

 

 そして今日はいよいよ、雷狼竜ジンオウガとの対峙だ。

 ……はっきり言うと、柄にもなく緊張している。

 

 今はこうやって悠々と歩いているものの、内心ビックビクである。

 

 これで、ようやく自分の強さを証明できる。

 けど、負けてしまうことも考えるとやっぱりビビってしまう。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 そう証明されてしまうのもまた怖いのだ。

 恩を返せないのも心苦しい。

 

 けれど、この覚悟だけは本物だ。

 だから、絶対に負けられない。

 

 負けることは、許されないのだ。

 

 

 

 

 

 

 そこに着く。

 

 待っているのは勿論の事、俺の相手。

 

 

『GUOOOOOOOOOON!!!!!!』

 

 森の王

 

 雷狼竜ジンオウガ

 

 

 その咆哮と超帯電状態への変貌と共に俺もふんどしを締め直す。

 

 最初から全力全開。手加減の余地などあり得ない。

 

『全集中の呼吸』

 

 まだまだ使いきれていない感がある呼吸だが、この攻撃を避ける為にはこれしか無い。

 自らが雷を纏い神速の速度でその狼は迫りくる──!!

 ビヒュン!!という音と共に消えていくそれはもはや瞬間移動に近しい。

 

「っ!ふっ!」

 

 ギリギリかわした。

 反応もできた。

 

 3年前、初めて見た時みたいに見失うことはなかった!

 確かな成長を感じる。

 

 が、そんな余韻に浸る暇もなく目の前の脅威は向かってくる。

 

 

『GUAAAA!!』

 

 

 太刀を引き抜く。

 抜刀したその刀には寸分のブレはない。

 目の前の標的を斬る。

 ただそれだけが今の俺の目的。

 他の雑念は必要ない。

 

 雷狼竜はその大きな体を廻し、超電雷光虫を塊として俺に放つ。

 

 当然、生身の体に当たってしまえば黒焦げは確定。

 瀕死級の致命傷となる。

 

 だが──

 

 

「ふっ!」

 

 

 バシュン!!と、何かが焼ける音がした。

 何かとは、自身の服。

 虫が当たる前に『海電の呼吸』をした俺は、その虫へ一直線に向かい、迎撃を試みる。

 

 結果は無事。

 体組織が焼け切られる感覚がないのを確認、だが多少の痺れを感じた。

 

 それで十分。

 間合いに近づき、一刀を振ることができるならそれでいい!!

 

 

 

 “海電の呼吸 参ノ型 雷水全断”

 

 

 

 一撃必殺のその一刀。

 当たればダイヤモンドを切り裂くほどの切れ味を持つ一振り。

 

 最高のタイミングで放ったその型は。

 

 

 それでもなお、その神速の狼には届かない。

 

 

「ぐっがあァアアアアア!!??」

 

 

 雷狼竜は、その刀が当たる前にサマーソルトをし、自身の尾をぶつけてきたのだ。

 高速に振られたその尾を食らった俺は真後ろにあった大樹に背中から強打する。

 

 激痛が走るが、悶絶するのは後にして今は呼吸を整える。

 使うのは『海電の呼吸』

 

 あの瞬間、俺は少しばかり手応えを感じた。刀が身を削るあの手応え。

 その予想は間違っておらず、半分に割れたジンオウガの尾がそれを証明していた。

 

 

 『全集中の呼吸』はもう使わない。

 背中を強打し、高速移動できないようではもはやあの神速の攻撃をかわす手段は残されていないからだ。

 

 故に、残った道は一撃必中。

 

 最後の一振りに全力を注ぎ込み倒すしかない。

 

 

 そして。

 ジンオウガもここで決めてくるだろう。

 あちらもこちら側にもう攻撃をかわす手段がないのは察しているはず。

 

 故にあちら側も一撃必中。

 

 2度と立ち上がらないように、最大の力を貯め始める。

 

 

 

 そして。

 

 そして。

 

 そして。

 

 

 

 

「アァアアアア!!!!」

『GUOOOOOON!!!!!』

 

 

 合図はなかった。

 お互いが同時に動く。

 

 一人は血反吐を吐きながら雄叫びを、もう一頭は挑戦者に敬意を込めた咆哮を。

 

 その大森林に響かせる。

 

 

 

 雷狼竜は最大電力を込めた一撃を上から下へと叩きつける。

 

 例えかわされようが、その破壊力の余波が届き、吹き飛ばすのを目的とした一撃。

 

 だが、ジンオウガに挑戦者がかわすという思考は微塵もなかった。

 

 

 実のところ、雷狼竜はこの挑戦者を監視していた。

 いつか挑んでくるという確信があった……のかは分からない。

 ただ、挫折すらせずただひたすらと自身の能力のみで勝ち上がっていく挑戦者をみて惹かれたのだった。

 

 そして、今その最高の一撃をこの身で味わうことができることに、雷狼竜は歓喜していた。

 

 

「海電の呼吸 八ノ型!!!」

 

 

 その一刀は横から振られる。

 避けることは許されない、最高最大最強の一振り。

 

 雷狼竜は身をもって味わうことができた。

 

 必死だった挑戦者は気付いていない。

 

 確かにその刹那、満足したように雷狼龍は笑ったのだった。

 

 

「絶雷一閃!!!!!」

 

 

 ガシュゥインッ!!!!!という耳をツンざす音と共に。

 

 その2つの生命は交差した。

 

 

 そして。 

 

 

 そこに立っていたのは、紛れもなく小さくちっぽけな命だった。

 

 そして、その小さな命は。

 

 堂々たる姿で後ろを向き、倒れ伏した雷狼竜を傍観した。

 

 

 


 

 

 

「勝った……」

 

 場所は変わって海辺の岩場。

 

 一通りの手当てをフラフラとした足でマイホームにたどり着き自分を、そして負傷した雷狼竜を治して全てを終えたのを体感した。

 

 雷狼竜だが、最後の一撃で放った一刀で斬った足の腱は完全に断裂していた。

 一応、できるだけの手当てをしたが前足が再び使えるという保証が無く、もしかしたら森の王者としての威厳を失ったのかもしれない。

 

『あやつに後悔などある訳なかろうよ』

 

 頭にラギアの声が聞こえてくる。 

 そして水中からのそのそと上がって俺の隣に居座る。

 

『そう……なのかな』

『ああ、そうとも。あれはお前の全力で倒し切ったのだ。無論あちらも全力で対抗しただろう』

 

 嗚呼、泣きそうだ。

 これ以上ラギアの言葉を聞いてしまったら、決壊してしまう。

 

 

『お前はよく頑張った。その貧弱だった足で、腕で、体でよく耐えきった』

 

 

 頬に涙が伝う。

 ポロポロとそれは溢れ出す。

 

 

 

『お前はもう十分強い。お前の強さは私が証明してやる。……よく…頑張ったな』

 

 

 

 それはもう止めることができなかった。

 鼻水を垂らし、顔をぐしゃぐしゃに歪めながら、あの地平線の彼方に届いてしまうかのような大きな声で嗚咽した。

 

 努力が報われたのだと感じた。

 もう、ラギアに恩を返すことを毎日心苦しく考えなくていいとわかった俺は。

 

 

 安心した。

 

 

 

*1
基本的に火山で生息しているため




 
 ”海電の呼吸 八ノ型 絶雷一閃(ぜつらいいっせん)

 それは、一撃必殺の奥義。
 自らに雷を与えわざと空気抵抗を限界まで無くす諸刃の剣。
 型を繰り出した本人も無事では済まない。
 限界を超えた全身の筋肉の動きは激痛を伴い、その後まともに動くことは叶わない。

 ただしそこから放たれる1撃は、空気を裂き、空間を裂く切れぬものなど無い一刀と化す。
 そして放つ直前、本人の体からは金色の光が放たれるとある。





 あの森の王者であった雷狼竜の二つ名は【極み吼えるジンオウガ】であった。


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海底の文明 そこに在る未来の予言

 

 

 

「よいしょっと」

 

 ワラでできた小鳥の巣の形をした場所から、卵を持ち出して運ぶ。

 ただし、ただの卵ではない。

 『飛竜の卵』

 持ち運ぶのに相当な力を要いるほどの大きさの卵を両手で抱え、マイホームに運んでいく。

 

 

 

 あの日から5日後。

 いまだに、回復しきっていない俺の体。

 やはり八ノ型を使った反動は大きかったようで、今でも時々筋肉の痙攣が起こってしまうのだ。

 

 ラギアには安静にしておけって念を刺されたからマイホームに篭り続けていたんだが……

 どうも暇で仕方ない。

 前世みたいに暇つぶしグッズがあるわけがなく、やることと言えば『海電の呼吸』で風に乗る感覚を楽しむくらいだった。

 

 我慢ができなくなった俺は、何かしようと思い重い腰を持ち上げる。

 

 そこから『飛竜の卵』を運ぶ流れになったのは、単なる思いつきだった。

 

「タンパク質取れば回復早くなるんじゃね?」

 

 単純な思いつきだが、体も動かせるし、上手く運搬できれば飯時に栄養補給もできる。

 まさに一石二鳥。

 

 そこから、決断してからの行動は早く、俺は即刻リオレイア夫婦の巣へと向かったのだった。

 

 

 

 

『『GAAAAAA!!!!!!!』』

 

「まあそんな簡単に上手くいくわけないよな!!!!!!」

 

 

 草木をかき分けて道なりを強引に進んでいく。

 後ろからは、卵を奪われ激怒しているリオレイア夫婦が追いかけてきている。

 

 

 運搬している最中であった。

 

 少しばかり疲れた俺は甘いものを取りたくなり、

 そこでハチミツがある場所に寄り道をしたんだが……

 

 なんと、びっくりドッキリ。

 先客にリオレイア夫婦がいるではありませんか。

 これには、ぼくちん驚いちゃったよ。(白目)

 

 というわけで、そこからは察しのとうり、卵を持ちながらの全力疾走の始まりである。

 とんだ鬼ごっこだ。

 

 強走薬、念入りに飲んどいてよかったぁ。

 

 

 そして10分後

 

 

 大きな草が生えている場所に隠れやり過ごした。

 追ってくる気配がないのを確認。

 

「あ」

 

 やり過ごしている最中のことだった。

 目の前をジンオウガが通り過ぎたのだ。

 今は警戒を解いているのか、超帯電状態ではなかった。

 

 俺が斬った前足を見る。

 どうやら動けるくらいには靭帯が繋がっているらしく、少しホッとした。

 

 ラギアが、あの程度で森の王者を引退するほどやわではない、と言っていたがそれは本当だったらしい。

 前より迫力が、威厳が、微塵も衰えていなかった。

 ……ほんと、よく勝てたな俺。

 

 

 良いものを見た俺はジンオウガが去っていくのを見た後に、草むらから出る。

 ……ただし、頭上には注意せよ。

 

「…………」

 

 バサバサ!と音立てて空から降りてきたのは、ある意味俺の因縁の相手ともいえるモンスター。

 

 クルペッコであった。

 

 

『〜〜〜〜!!!』

 

 

 目が合った瞬間である。

 クルペッコは俺を嘲笑うかのようにお得意の声真似で何かを呼び寄せる。

 

 

 俺にはわかる。

 毎回、毎回だ。

 コイツはなぜいつも俺を見た瞬間にイビルジョーを呼ぶ!?

 Sなのか!? 生粋のSなのか!?

 

 

 ドスン!ドスン!と遠鳴りに鳴る巨大な足音と共に、卵を持って再逃走開始。

 いい加減あのドSクルペッコをどうにかしないと…、と考えながら俺は全力疾走を再開するのだった……

 

 

 


 

 

 

『……なぜそんなに疲れ切っている』

『いや……チョット久しぶりに不幸なデスコンを喰らったもんで……』

 

 

 追いかけてくるイビルジョーを俺は何とか巻き、疲れて休もうかと思うも束の間、ラギアからお呼びがかかった。

 んで、マイホーム出た途端、周囲警戒中の『ボルボルス』と遭遇。

 俺を敵だと思ったか、猪突猛進のごとく俺に向かって突進してきたが、

 

 まあ、そこはジンオウガの動きを見切った俺よ。

 あまりにもスローに見えすぎたため余裕を持って横に回避。

 

 が、それが運の尽き。

 

 

 ボルボルスの突進によって、後ろにある俺のマイホームが粉々に粉砕され、激突した大樹がへし折れ長年愛用していた『鉄刀』とその他もろもろの家具が潰された。

 敵ではないのを悟ったのか、ボルボルスは俺の安住の場を奪っていったのも気にしないように森の中へ去っていった。

 

 

 ……………俺? 分かるだろ!! 放心状態だよ!!! なんだったら心へし折れそうだったよ!!!!

 こうもあっさり長年住んでいた家と愛刀が亡くなったんだぞ! そりゃあ放心状態にもなるだろ!!

 

 

 結局、負け犬みたいに我が家の残骸をあさって出てきたものは、服と携帯用のポーチのみ。

 他は全て使い物にならなくなってた。

 全ての内には、ラギアに貰って今まで愛用していた太刀『鉄刀』も入っており刀身が完全に折れていた。

 

「…………………ふ」

 

 残されたものを確認した俺は絶叫したね。も〜全力で叫んだよ。

 

 

「不幸だぁぁああああああああ!!!!!!!!」

 

 

 ……今思えば、あれ建てるのには苦労したっけなぁ(遠い目)

 かかった期間1ヶ月だぜ。しかもここに来た始めの頃で知識もなく一心不乱に材料をかき集めて作った家だし。

 思い入れがある分悲しいなぁ(再び遠い目)

 

 

 

 そして、そんな思いを持ち合わせながらだが、俺はラギアとの待ち合わせ場所に向かい今に至るわけだ。

 何やらついてきて欲しい場所が海の中にあるらしい。

 

『で? 場所ってどこだよ?』

『急かすでない。もうすぐ着く』

『もうすぐって……ここ結構深いだろ、何かあるとは思え……なんだアレ?』

 

 連れて行かれて自分の目で見たものは、多分レンガで造られている直径100mはある鎌倉みたいな大きな丸い建物。

 一見見た感じ……家なのか?

 いや、天井と壁が所々崩壊しているから廃墟っていう予想も……。

 

 無いとは思うが、古代文明っていう線があったり……。(願望)

 

 

 ラギアは『私はここに残る。どこかに当たって崩落してはいけないからな』と言い、『中にあるものを持って海面に上がってこい』とも言って浮上していった。

 そして俺は、天井の穴から中に入っていく。

 

 中は勿論広い、が……暗い。

 四苦八苦しながら、何とか壁を伝って物を探す。

 

 と、思ったところで携帯用のポーチに入れていた物を思い出した。

 

「そうだ『光蟲』。瓶の中に入れっぱなしじゃん」

 

 普段だと洞窟の中でしか使わないからすっかり忘れてた。

 ポーチから光蟲入りの瓶を取り出して灯りを遮っていた布を取り外し、ランタンみたいに持つ。

 

 

 暗闇の中で明かりが灯る。

 少し長い時間、暗闇の中にいたせいか一瞬目が眩むがすぐ視界が元に戻った。

 

「…! これは!?」

 

 戻った視界。

 

 

 そして、その目で見たものは大きな壁画だった。

 そう。この鎌倉みたいな建物には全面に壁画が彫ってあったのだ。

 あまりのスケールに驚愕してしまう俺。

 

 

 一通り見てみたところ、地上にいるモンスターも俺が戦い挑んできた大型モンスターもそこには彫られていてーー

 

 そして気になった描写もいくつか書かれていた。

 

 

 大型モンスターの亡骸から脱皮するように出てくる描写。

 これは、明かにあの『ゴアマガラ』を表していると推測する。

 原作でもそういう設定だったはず。

 ……つーかこの世界に狂竜化ウイルスって存在すんのね。初めて知ったわ。

 

 

 そして、大型モンスターたちが壁みたいな物を乗り越える描写。

 壁の中に戻りたがって暴れている描写もあった為、多分無理に連れて行かされたのだと知った。

 

 ここまでは原作を見ている俺でも、まだ理解が及ぶ範囲だった。

 

 そして最後、その先の描写の俺は恐怖を覚えることとなる。

 

 

 鬼みたいなものが、モンスターを、動物を、人を食べている。

 そして、モンスターを食べた鬼が苦しみ、また別の鬼へと変貌するのだ。

 その凶暴な何かに変貌して全てを壊し尽くしていく。

 

 

 そんな、明かに狂っているような壁画が彫られていた。

 

 特に、その中で一番大きな鬼は向かってくるものを軽々となぎ倒し、人とモンスターを喰らい続けていた。

 多分だが、コイツが鬼の長ーーーつまり一番強い鬼だと考えられる。

 禍々しい眼光、変貌し尽くして鬼の輪郭が一切感じられていなかったその描写は、

 

 あまりにもリアルすぎだと思い、俺に恐怖を縫い付けていった。

 

「…………これは、本当に起こることなのか…?」

 

 古代文明とは、言い得て妙なものではあるが、言い換えると『予言』みたいなものだと信じている。

 生前の人間が何かまずい未来を感じ取り、その見た未来を書き記す。

 それが、長年の年月を持ち、美しい様子を写す。

 それこそが、古代文明であると俺は解釈してる。

 

 それを信じているからこそ、怖かったのだ。

 ラギアが俺をここに運んできた理由を推測してしまったのも含めて、 ゾワっとした恐怖が俺の心を埋め尽くす。

 

 

 


 

 

 

「? なんだこれ? 地下の隠し穴か?」

 

 観れる壁画は全て見て上に浮上する。そんな時だった。

 偶然、『光蟲』が照らした地面に穴があった。 

 気になって近づいてみたところ、下へと続く階段があり入ってみることにしてみた。

 

「これ……人骨か。初めてみた」

 

 階段を下りた先にあるのは小さな一部屋。

 部屋の片隅には生前──いや人生初めてみた人骨がひっそりと椅子に座って佇んでいた。

 少しびびったのはあったが、一番驚いたのは、

 

 この世界にも人がいたということだった。

 壁画が彫られていることから可能性があるのか?と思ってはいたがこんなにも早く確信を持てるとは……

 

「それにこれは、金床(かなどこ)と…これは大槌(おおづち)小槌(こづち)…? そして……………」

 

 そして、俺はここが精錬場だと知る。

 武器を作るための大道具それが全て揃っているその部屋には、

 

「この……この色、この武器は……ラギアの──!?」

 

 

 雷迅剣ラギアクルス

 雷双剣ツインクルス

 雷刀ジンライ

 

 

 全てが全て。

 ラギアの素材で完成している大剣、双剣、太刀が、

 

 その部屋の奥に忽然と置いてあったのを見て、触れて、そう呟いた。

 

 

 

 




UA5000言ってたのをみてびっくりしている俺氏。

今後ともご贔屓にお願いします。(感想お待ちしております)


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その過去は、すでに遠く儚く(前)


 過去話って書くの自分下手なんですよね………


 ですから、予防線を貼るようで申し訳ないと思うんですが、


 駄文です。悪しからず。




 

 

 

 『…………………』

 『…………………』

 

 

 俺はあの場を見た後、置いてあった武器ーーー及び、何故か机上にあった分厚い本を全て持ち帰った。

 流石に重量がありすぎるので浮上する際は3回に分けて往復した。

 原作のハンターも武器3本持っているところなんて見たことないしね(言い訳)

 

 

 それから、ラギアの背中に乗って海辺まで送ってもらって今に至る。

 ただ……ちょっと気まずい空気になったのか、帰る途中に喋り合うことができなかった。

 その最中にだが、決断した。

 

 あの場所について聞かないと。聞いておかないとダメだ。

 俺の中の好奇心が、探検心がそう語りかけてくるから。

 

 

 あの場所を案内した張本人に聞いておきたいんだ!

 

 

 

 

『ラギア。そろそろ教えてくれ。俺を、なんであんな場所に連れていったんだ?』

 

 持ち帰った武器を俺の隣に重ねて置いたところで、懐かしむように水平線を眺めるラギアに話しかけた。

 

『そう…そうだな…。もう潮時だろう』

 

 そこからは、ラギアの実体験による昔話が始まった。

 長い永い、ずっと前の昔の話を………

 

 

 


 

 

 

 

 もう300年も前のことだ。この世界は人と、私たちが狩り、狩られ合いながらだがお互いに深く干渉しないように生きてきた。

 そこにしがらみは無く、殺し殺されあいながらもお互い平和に、平穏を過ごし続けた。

 お前もよく染みついているだろう。この世界では弱肉強食が全てということを、お前はわかっているはずだ。

 

 

 

 そんな時だ。陸に上がって休んでいる時、海の王で在る私に近づいてきた男がいた。

 長髪で、服装が『着物』という服の男は私の放つ咆哮に怖じけずに来る。

 

 私は本能のまま、その者を殺そうとした。

 だが、その男は私に攻撃を仕掛けて来ようとはしなかったのだ。ただ、惨めに攻撃を避け続けるだけで。

 私は攻撃をやめ、その者に問いを投げた。

 

『お前はなぜ攻撃してこない? お前は何故、私の前に立っておきながら殺気を出すことをしない?』

 

 そして、いきなり話しかけられて驚きながら、その男はこう言ったのだ。

 

『俺は鍛治師。武器を作ることが生きがいの、ただのバカだ。……けど、俺弱くてな、自分で作った武器を振るうことができないんだ。というより、俺はお前らを殺すことなんて今までしてきてないしこれからもするつもりはないし』

 

 ……馬鹿な。とその時は本気でそう思ったよ。

 殺す気で挑まなければ逆に殺させるこの大自然の摂理で、この男は一切の殺傷もする気もなく私の前に立ってきたのだ。

 

『……なら、お前は何故私の前に立つ? 理由もなくここに来るほど命を無駄にする者であるまいに』

 

『決まっているだろう』

 

 

 その男はあっけらかんに笑って言った。

 

 

『俺は鍛治師だぞ。アンタの武器を作りたいに決まっているからじゃないか』

 

 

 それが、その男『 鉄鍛治(てつかじ) 』との最初に出会い。

 

 そして、お前があの場所で見た人骨の正体だ。

 

 

 

 

 

『私の武器を作るだと? 私を倒す気もない人間がどうやって私の素材を苅り取るというのだっ!!』

『そう怒るなよ。いや、悪いのは俺だけど。俺はアンタと話し合いをしにきただけだって』

『話す? 話すだと? 話なら私と肉体言語でするがいい。もっとも、武器を持たぬお前ではできぬだろうがな』

『なんでそんな血気盛んなんだ……。戦闘狂すぎるだろ。せっかく会話できるんだから話そうぜ、なぁ』

 

 

 ふざけた男だったよ。

 攻撃し続ける私に向かって、その男は私が放つ電撃を避け続けながら何度も軽口を叩き続けたのだ。

 

 そして、そんな不毛な言い合いを続けて2時間ほどが経った時、諦めたように男は言った。

 

『たくっ……。しゃーねえなぁ……。今日はもう遅いし帰るわ』

 

 もちろん私は返す気はなかったーーが、電撃が当たらず避けられ続け、ついには距離を取られて背を向け颯爽と去って行ったのだ。

 ……正直に言ってしまうと、あれほど悔しいと思ったことはなかったよ。

 屈辱とも言うのか? とにかく、ただただあの時は悔しかったさ。 

 

 意気消沈していた私が、海に潜ろうとしたその時。

 いま先ほど去って行った男が戻ってこう言ってきた。

 

 

『また来るからよ! そん時はちゃんと話し合おうぜ!!』

 

 

 その時に感じた情は、よくわからなかったが。

 新しい試みとして、そうすることもいいのか?と思ってしまったのだ。

 

 

 

『へー! アンタほんとに王様なんだな!』

『私が決めたわけではない。人間が勝手に決めただけのただの名称だ』

『もらえるもんは貰っとけよ。たくっ素直じゃねえなぁ〜。俺なんか他人からもらった余り素材だけで武器を作ってるっつうのによおー』

『ならば、武器を持ち素材を刈り取りに行けばいいだけの話だろう。その腕の筋肉は見掛け倒しではないだろうに』

『この腕は武器を鍛えるために作ってきたんだよ。別に命を好き好んで刈り取るために鍛えたんじゃねえよ』

 

 

 その男ーー鉄鍛治はそう言い、自慢するように二の腕をポンポンと叩く。

 

 私は、対話を試みることにしてみた。

 一時期の気の迷いであったのだろう。

 普段の私ならば、敵に出遭えば問答無用で狩りにかかるからだ。

 

 まあ、でも……良いものだとも思ったりもした。

 

 

 そして、2年ほど経ったある日のことだった。

 

 

『なあ……、お前は、俺がここの人間じゃないって言っても信じられるか?』

『………さあな。お前がここの人間でも、違う場所の人間でも私には関係がない』

『……こっからは相談事になるんだが、聞いてくれるか?』

『何を言う。お前と私の仲だろう。思う存分話してみるがいい」

 

 

 聞いたところ、鉄鍛治は違う世界から来たと言うのだ。

 時は明治時代、と言っておりこの世界とは文明も生物の生態も違うと言うらしい。

 そして、その世界では鬼が出るらしく、人を食べる、と言う人類に害をもたらす存在だと深刻な顔をして言っていた。

 

 鉄鍛治がこの世界に降り立ったのは7年前らしく、森の中で迷っていたところを人間の村に拾われたのだと言う。

 自分が違う世界の鍛治師だと村の村長に言った結果、村でハンターに武器を作ることを代わりに衣食住を提供する、という交換条件を提示され、今でも世話になっているという。

 

『俺は武器を作ることはできる。なんだったら、そこらへんの鍛治師には負けを取らない良い武器を作れるくらいにはな。ただ、俺は――今も昔も、俺自身で作ろうと思った武器がない。まあ、途方に暮れていたんだよ。そんで、ある時お前の存在を村長から聞いてな、もしかしたら俺の中の答えが見つかるかもしれない。……なんて、そんな柔な期待を込めてあの日お前と対峙した。逃げることしかできなかったけどな』

 

 ははは!と少しばかりむなしそうな苦笑を浮かべてそう言った鉄鍛治。 

 

『……お前は、その答えを見つけられたのか? 私の体で満足する武器を作ろうという気は起きたのか?』

 

 この時、私は解答によっては体の一部を分け与えようかと考えた。

 

『いいや? 結局、その気は起きることはなかったよ。そして気づいたさ。 俺が自分に満足する武器を作る時は、()()()()()()()()

『?』

 

 その言葉に違和感を感じることはその時の私にはできなかった。

 そして、私は鉄鍛治にこんな言葉を送ることにした

 

『そうか。その時は思う存分私の体を使って構わんぞ。お前の力作を最初に思い描くことになった最初のとさせてくれ』

 

 

 何気なく言った言葉だった。

 いつものように、今までの2年間のように軽々しく放った言葉だった。

 

 

『…………ああっ!! そうさせてくれ!! その時は必ず使い手にも良いものだと言わせられるような物を作って見せてやる! 必ず………!!』

 

 

 泣いていた。

 鉄鍛治は、その言葉を力強く言い、私の前で泣いていたのだ。

 

 

 

『ありがとうな。俺の最初で最後の友よ』

 

 

 その言葉を言い放ち、鉄鍛治は村へと帰って行った。

 

 

 そして、その十日後のことだ。

 

 

 ――鬼は出た。

 

 

 






 その男は未来を知る。

 そして、全てを託すために決意を固める。


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その過去は、すでに遠く儚く(後)


 前回に引き続き、過去話。





 

 

 

 変化があった。

 いや、ありすぎた。

 

 空は血のように紅く染まり、森はその緑を失い枯れ、生物は姿を見せない。

 

 そして、遠くからは爆音と悲鳴が聞こえてくる。

 

 私は、すぐさま陸に上がり鉄鍛治の村に向かった。

 発生させる静電気で自身を少しばかり足を浮かせ、宙を滑空するようにそこを目指した。

 

 その場所に着いた時はすでに時は遅く、

 

 村には地獄が具現(ぐげん)していた。

 

 

『人間が人間を食している……だと!?』

 

 

 草木が生えていた地は鮮血で赤く染まっており、食された者の臓腑が辺り一面にばら撒かれている。

 その時、ふと十日前に話したことを思い出した。

 

 "鬼"

 

 確か、人を食べる存在をそう言っているのを私は思い出した。

 

 

『…! 鉄鍛治!無事か!?』

『アンタか……。アンタこそ大丈夫なのか?』

『私には何も被害はない。お前は!?』

『俺は平気だ。それより、頼みがある』

 

 

 鉄鍛治は、広場で襲いかかってきていた人間の攻撃をかわし続けていた。

 柄にもなく心配して近くと、鉄鍛治は私の足を両腕で掴み、

 

 

『あれを――あの狂気に染まった村の住民を、殺すことはできるか? 細胞の隅々まで、徹底的に』

『な!?』

 

 

 とても、まともとは思えないことを言う。

 

 

『何を言う!? あの者らはお前の恩人なのだろう!! 何故そのようなことを――』

 

『頼む!!! 俺にはもう耐えきれない!!! 出来るのなら!!!』

 

 

 大粒の涙を流しながら、その男は吠えるように言った。

 

 

『早く俺の恩人たちを解放してやってくれッ!!!』

 

『っ…!!』

 

 

 仕方がなかった……とは言うまい。

 私はあの時、唯一の友人の頼みを素直に聞いた。

 

 

 そして、細胞も残らないその電撃を、私は村全体に放電した。

 

 

「GAAAAAAA!!!!!!!!!!」

 

 

 背甲の放電機関から、蓄電した電力を放出。

 ただそれだけで、村一帯が燃え、炭と化す。

 当然、そこに居た人間も例外ではない。

 

 肉も、骨も、髪も、人体を構成する何もかもが圧倒的な放電の前に炭となる。

 

 

 

 終わった時には、何も無かった。

 

 村も、人も、植物すら無く、命の痕跡は全て消えたのを確認した。

 

 

『………………これでよかったのか?』

『……ああ。良いんだ。これから、俺もその跡を辿るんだからな……』

『…なんだと?』

 

 

 その男の目には、光はほとんど消えていた。

 ただ、覚悟を決めたように拳を固く握りしめている。

 

 

『話は後だ。着いてきてくれ。もう……時間がない』

 

 

 男は重い足取りで歩き始めた。

 ただ、目的を果たすために――その足を進める。

 

 

 

 

『俺は、この世界に来る前は鬼狩りをしていたんだ。組織名は『鬼殺隊』ってやつで、とにかく鬼を狩り続ける仕事ってやつでな、俺は仕事の関係上、鬼を3年くらいだけどずっと狩ってた。永遠とな』

 

 男と怪物は歩く。

 

『そして、ある時な、鬼を狩ることに疲れたんだ。まあ、殉職率が高かったのもあったかも知んないけど……。主に疲れた原因になったのは、命を奪うことだったよ。……こんだけ言ったらアンタはもうわかったろ、俺がモンスターを殺せない理由を』

『…………………』

 

 男の独り言に私は耳を傾けざるを得なかった。

 それは、今より足を向ける先が男の最後の地になることを察してたからか。

 ――もしくは、男の覚悟が心身に伝わってしまったからか。

 

『他の奴らからは、考えが甘い!って何度も言われたよ。まあ、でも俺は優しすぎたんだ。昔から、生命を自分から奪うことは極力避けたい性格だったからな。その性格が鬼狩りをしていた時期に芽を出したんだと思う』

 

『そんで、どうしようか悩んでいた時に目をつけたのが『鍛治師』だった。生命を極力奪う機会も少なくて、鬼狩りに貢献できる仕事だったからな。すぐさま、そこに職を移したよ』

 

『後はもう、苦労の連続だった。武器の鍛錬の仕方を教わったり、前以上に腕力をつけたりして2年がすぎた頃だ』

 

『その時、俺はある森の中に居たんだが、いきなり頭痛がして意識が飛んで、よくわからない空間に浮かんでいる時に俺は()()()()()

 

 

 鉄鍛治は、何処かへと向かいながら問答用無用で話を進めた。

 

 理解ができなかった。

 

 鬼? 鬼殺隊? 訳がわからない。何なのだそれは。人を食していた者と関係があるのか?

 

『理由はわかんねえ。ただあの時、確かに見たんだよ。()()()()()()()()6()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『!』 

 

 

 6本足の黒外殻。

 

 それは、存在するだけですべての生態系を惑わせる、神出鬼没の分類不明の私たちの同族。

 

 

 黒蝕竜 ゴア・マガラ

 

 

 恐らく、だがそうとしか思えない。

 

 

 ありえない話では無かった。

 元々アレは我々同種とはこと離れた存在。

 (ことわり)から外れた存在がそのような行動を起こすのを、まるで、生まれて間もない頃に狩猟を始める獣のような感覚で理解した。

 

 

『そして、あの世界――鬼の子孫である『鬼舞辻無惨』が、この世界のモンスターを食べる光景が見えた。…………食べたモンスターの分、自身を強化しようとしてな』

 

 

 鉄鍛治は、足をとめそこに着いたことを示す。

 

 

『俺は、あの壁を埋めなければならない。あの穴からは、今もモンスターと鬼が入れ替わりで世界を行き来している。この結末を知っていた俺は、その責任がある』

 

 

 そこは、ドーム型にレンガが敷き詰められた大きめの建物だった。

 辺り一面に草木は生えておらず、その建物だけが孤立していた。

 

 

『…………俺の頼みを聞いてくれるか?』

 

『………ああ。最後………なのだろう?』

 

 

 流石、俺の友。と鉄鍛治は笑って返す。

 

 もうわかっていた。

 何故あの日、この男は泣いたのか。

 いろんな感情が入り混じっていた私の心には、冴えるようにその答えが浮かんだ。

 

 

『お前の身体を俺にくれ。最後の最後に、最高の武器を作るからよ』

 

『分かった。使えるだけ持っていくが良い。私を、お前を高みへと昇らせる糧としてくれ』

 

 

 その会話だけで、その後の行動を両者は理解する。

 

《俺が自分に満足する武器を作る時は、最後の時だってな》

 

 あの台詞は、この時のための暗示だった。

 ただそれだけ。

 

 

 その後は、ただ別れただけだった。

 

 

 壁の向こうからやってくる鬼達が、二人を見る。

 

 未来を託そうとする英雄は前へ、

 

 その英雄を支える、大海の王者は後ろを振り返らずただ英雄へと向かう敵を滅ぼすために咆哮を放つ。

 

 

 

 英雄は、建物に閉じこもり、上を見上げ、悲しむように言う。

 

 

 

「ああ…………。俺は、いい友を持ったな」

 

 

 







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生命ある者へ、その未来を示せ

『………………』

 

『鉄鍛治が私に託した最後の頼みはーーー()()()()()()()()()()()。……なんていう本当に馬鹿げたものだったよ』

 

 

 俺はそれを見届けることはできなかった。

 もしもーーただのもしもの話、一瞬でもその光景を見ることができたなら、ラギアの心情を尊像することもできたのか。

 

 そんな、浅ましい考えが自分の胸に浮かんでくるのを理解する自分がーーー今は妬めしい。

 

 その時に感じた感情など、その本人しかわからないのだから。

 だからこそ、気持ち悪かった。

 

 こんな考えを浮かべて、ただ一人『鉄鍛治』と言う男に同情し、哀れむ自分が許せない。

 

 

 だから、俺はせめてもの戒めとして自分の拳をギュッと、血が流れ出すほどに握りしめた。

 

 

『………全てが終わったのを理解した私は、いつも通りの青空を見てあそこから去った。そして、くるべき時に向けて用意を進めた』

 

 

 壁の向こうの観察。

 

 建物に籠る前、鉄鍛治に蒼白色で小さな宝玉付きのペンダントを渡され、自身の鱗にかけられたらしい。

 それは、壁の向こうへと渡る唯一の頼みづなだと鉄鍛治に言われた。

 

 ラギアは、それを利用し壁を破壊しにないように、壁の外の世界を眺めたと言う。

 

 俺がこの世界に来ることは、鉄鍛治に知らされていたらしい。

 なんでも、「鬼と渡り合えるくらいにその人間は強い、けど最初から強い人間なんていない。だから、アンタが世話をしてやってくれ」と言われ、準備を終えた後は俺を待つように眠っていたとか。

 

 

 

 そして、俺が使っている『海電の呼吸』は長い年月をかけて、ラギアが人間用に開発したらしい。

 

 ……いや、でも人間用なんだよね。

 こんな、皮膚呼吸しなきゃいけない無理ゲーみたいな呼吸法でも、()()()()()()()()()()

 

 ………………人間用じゃないときは、一体どんなことをさせようとしたんだ。

 

 

 

『ってことはアレか? ラギアは俺を元からあの向こうに行かせるために鍛えてきたって言うことだよな』

『…幻滅したか?』

 

 その言葉に、俺は首を横に振る。

 

『そんな訳ないだろラギア。例え、俺を利用したとしても、ラギアは俺の恩人で、父親だ。俺に生きる術を与えてくれた、感謝してもしきれないさ』

 

 その時、ラギアの頬に一筋の水滴が見えた――ような気がした。

 

 

『どんな考えを持っていても、ラギアは俺の父親だ。だから、まあ――ありがとな、今まで俺を育ててくれて』

 

 

 俺は頬をポリポリと掻きながら、その言葉を言う。

 

 

 まともに言えなかったその感謝の言葉は、少しだけ心地が良かった。

 

 

 

 

『そういえばさ、結局『海電の呼吸』って何がモデルなんだ?』

『ん? そうだな……確か、海の生物にとてつもなく早い動きをする奴がいたからな。その生態を参考にーーー』

 

 

『それ、多分ただの魚だよ!!! ってことはアレか…。俺は危うく深海生物の一員になりかけて………。うあぁああ!!!』

 

 

 ……訂正。

 感謝してるとは言っても、今までの鍛錬の苦痛が消えるわけでもないので、

 

 育ててくれたことと鍛錬での恨みは両立ってことで。

 

 …………つーか、よくそんな魚参考にしてこんな技が出るな。

 今でもよく分かってねえんだぞ、空から雷が降ってくる理由とか。

 

 

 さて、『海電の呼吸』もとい『魚の呼吸』の根元を知ったところで、

 

 今後の方針を確認しようか。

 

 壁の向こうに飛ばされたモンスター達は今は活動を停止しているらしいーーーが、

 ここ数年の間に、目覚めたのもいると言う。

 

 俺の役目は、『鬼舞辻無惨』と呼ばれる鬼の狩猟。

 それと、飛ばされたモンスターを探し、この世界に返すこと。

 ただし訳ありで仕方がない場合――特に『ゴア・マガラ』のような害を及ぼすモンスターがいる場合は、そのモンスターを狩猟すること。

 

 

 ラギアから預かったこの蒼白色のペンダントには生物を壁外に飛ばす、能力があるらしい。

 そして、その能力を使って俺もあちら側に飛ぶのだが……不安だ。

 どこに飛ばされるか気が気でない。

 

 ……嫌だぞ、いきなり上空2000mから落下みたいな、転生ものにありがちな転生方法なんて。

 

 まあ、それはそれとして、

 

 今、俺はある場所に向けて森の中を歩いている。

 

 

 

『この武器、お前はどれを使うつもりだ? あの男が気合いを込めて作ったのはいいが、お前が使えるのは太刀のみだろう』

 

 

 ラギアの過去話を聞き終えた後。

 

 ポケモンみたいに3つの中からどれを選ぶ? みたいな選択肢があの後生まれてきたのだが、

 

『全部使う』

『なに?』

『託された思いも、ラギアの体も、一片も無駄にしない。ここにある3つの武器。俺は全部使い切る』

 

 ……なんて、啖呵切ったのはいいんだが。

 中途半端なことはしたくない性格のためか、ラギアと話し合い、半年の期間をもらった。

 

 3つ持ってみると、まあ体が重いもんだ。

 歩いているだけで体が潰れそうだ、いや冗談抜きで。

 

 想像してみような。

 

 原作で、大剣を振り回してるハンターがいるだろ。当然、重いからゆっくり振るよな。

 俺も振ってみたさ。

 

 感覚としては、太刀2本分って感じかな?

 まあ、そんな重さの剣を背中に背負うだろ?

 んで、それに本物の太刀一本背負って双剣を腰にかけるだろ?

 

 するとまあ不思議。

 足が前に進まないじゃねえかこのやろう。(ちくしょう)

 

 

 ……いや、俺の筋力不足が問題なんだけどさ。

 

 

 まあ、そんなこんなではあるが今日も俺は訓練します。

 

 ただし、今回は師匠込みだ。

 

 さて問題です。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『GURU?』

 

 

 答えは、知らずもがな一度俺が対峙した相手。

 背中から目も眩むような電流を発してその獣は俺を見る。

 

 

「よう。ラギアから聞いているだろ。短い間だが………よろしく頼むッ!!」

 

 

 そう言って、突撃。

 

 

  雷狼竜 ジンオウガ

 

 

『GUOOOOOON!!!!!!』

 

 

 

 新たな力を身につけるために、俺はその獣に再び挑むのであった。

 

 期間は半年。

 

 今までよりもっと過酷な鍛錬に足を踏み込むことに、俺は躊躇しなかった。

 

 

 


 

 

 

『伝令!!伝令!! 炭治郎、禰豆子両名ヲ拘束! 本部ヘ連レ帰ルベシ!!カァー!カァー!』

 

 

 時は、大正時代。

 場所は、那田蜘蛛山(なたぐもやま)である。

 

 

 私は、冨岡さんに首を固定されたまま本部からの伝令を聞く。

 そして、鎹鴉(かすがいがらす)は3回ほど同じことを繰り返し言い続けながら夜の空を飛び回っていた。

 

 

「冨岡さん、とにかく処罰の一件は後です。今は命令を――」

 

『及ビ、冨岡義勇、胡蝶シノブ!!柱ノ両名ハ即刻、北ノ森ヘト迎エ!!ソコデハ恐ロシイ化ケ物ガ暴レテイルー!!カァー!カァー!』

 

 

 連続での指令。

 別に珍しいことではないのだが、私は鎹鴉が放った言葉に疑問を浮かべた。

 

 

(『鬼』ではなく、化け物?)

 

 

 鎹鴉はそれを1回だけ言って去っていく。

 

 

「…………胡蝶行くぞ。早く来い」

「まだ、嫌われてると指摘しまったこと根にもってるんですね……」

 

 

 冨岡さんは私の首に巻いていた腕を外すと、一目散に北へと向かう。

 

 

「それにしても、最近はほんと良く同じ任務に付きますね」

「偶然だろう。気にすることはない」

 

 

 草木をかき分け、山を抜ける。

 これで冨岡さんと一緒の任務はもう10数回以上だ。

 

 偶然にしては、なにか出来すぎている感じがする。

 

 

「……………あの森だ」

「ずいぶんと近場でしたね。那田蜘蛛山から4里*1ほどでしょうか?」

 

 

 そう言い、私達はその森の中に侵入する。

 

 そして、

 

 ボンッ!!!という轟音と共に、私と冨岡さんはその怪物を見た。

 

 

 


 

 

 

『そんじゃ、行ってくるわ』

 

 

 海辺である。

 

 俺は、あちら側へと向かう準備を進めてラギアに言う。

 

 装備は、右肩から左腰にかけた『太刀』雷刀ジンライ

 左肩から右腰に『大剣』雷迅剣ラギアクルス

 両腰に一本ずつ『双剣』雷双剣ツインクルス

 

 ポーチにできるだけのアイテムも詰め込んである。

 

 そして、あちら側に渡るためのペンダントと、『ジンオウガ』から渡された超電雷光虫を凝縮して固めた青緑色の石が付いているペンダントを首にかける。

 

 

『待て、その服ではあちらに行った時に怪しまれるだろう』

 

 

 これを着て行け。とラギアは身体から電気を放電。

 バシンッ!!!と元々、俺が着ていた服を焼き払われた刹那、気づいたら自分の体に、からせみ模様で灰薄白の和服が着せられていた。

 

 

『お〜!和服だ! いいのかラギア!?』

『良い。あちら側の服装を参考にして作った物だ。持っていくが良い』

 

 

 あんがとな。と俺はラギアに感謝の言葉を言う。

 

 

 ちなみに、放電を受けて無事な理由は、四六時中『海電の呼吸』を使っているからだ。

 『全集中の呼吸』より使い勝手が良い為、今ではこの呼吸しか行なっていない。

 

 というより、『全集中の呼吸』は俺の体に合っていないらしい。

 まあ……呼吸の仕方が仕方だからな。

 あれ口からの呼吸だけど、俺の呼吸法は皮膚からだし……

 

 結局、効率が悪かったのだ。だから、使う機会が無い。

 

 

『たまには、帰ってこい。私はいつでも待っているからな』

『その言葉を待ってたよ』

 

 

 今ある俺の故郷はここだ。

 そして、最後に帰る場所もここなのだから。

 

 

 蒼白色のペンダントを握りしめる。

 覚悟はとうに決まっている、迷いはない。

 

 

 俺は出張に出かけるように、いってきますと。

 親子のようなあいさつで言った。

 

 

『そんじゃ、ササっとクエストを済ませてくるぜ』

 

 


 

 

『…行ったか?』

『む? なんだ貴様か、どうした?弟子の送別にでも来たか?』

『あながち間違っては無い。世話の焼ける弟子だったからな』

『ふ……。お前も丸くなったものだな。海斗の影響か?』

『ほう、あの弟子の名前は海斗というのか。というより、お主(おぬし)も言えたことでは無いだろう。我と争い続けた戦闘狂が』

 

 雷を操る両頭、ラギアクルスとジンオウガが合間見える。

 

『そうかもしれないな。ところで、私以外にもアイツの影響を受けた者はいたのか?』

『……多分だが、海斗と対峙した者は全て影響を受けたと思っている』

『ほう。それはなぜ?』

強敵(とも)を殺していないからだ。少なくとも彼奴(あやつ)は、子を持つ者と自分より強い者は一切の殺傷を犯していない』

『……そうか』

 

 ラギアクルスは、海斗を厳しく育ててきたつもりでいた。

 最初は、命を殺すことに躊躇いを持っていた海斗に、無理に力を授けてきたことをラギアクルスは悔い続けてきたのだ。

 

 そして、今この瞬間、ラギアクルスは報われたと感じた。

 あれだけ、命の尊さを知っていた者に命を奪えと語り続けてなお、未だその尊さを維持し続けている海斗のことを知って安心したのだった。

 

『鉄鍛治よ。私は、間違ってなかったのだな』

 

 その言葉は、かつての友に向けて放った言葉。

 届いているかわからないソレは、

 

 虚空を反響し、響き続けた。

 

 


 

 

 さて、着いた着いた。

 

 この世界に来る時に味わった空間に浮かぶ感覚を約40分ほど味わって俺は今、森の中にいた。

 最悪、上空に出た場合のことを考えて型を出す準備をしていたのだが、気合が空回りしてしまったようだ。

 まあ、ソレはそれで良いことなんだが。

 

「――は?」

 

 さてと、早速だが。

 

 今、俺の目の前には緑色の物体が見えている。

 どんどん赤く染まっていくのだが、はてこれは一体何なのでしょう?

 

「どわあぁあああっ!!!」

 

 最大限の危機を感じて真後ろの方向転換し緊急回避。

 

 そして、ボンッ!!と爆発。

 緑色の物体が付着していた木はへし折れ、ベキベキ!!と大きな音を立てて倒れていった。

 

 

 ここまできたら何が起きているかはもう分かるだろう。

 

 

 転生先に到着し、約5秒の間でハプニング発生だクソッタレが。(白目)

 

 折れた木が倒れ、土ぼこりが晴れる。

 ソコにいるものは――

 

 

『GUAAAAAAA!!!!!!』

 

 

  砕竜

 

 ブラキディオス

 

 

 目の前で咆哮を上げながら、黒曜石の色をし、あまりにも発達した腕を頭を持つその怪物は周りの被害など気にすること無く、超危険の粘液を辺り一面にばら撒く。

 

「…………はっ。最初の相手はお前か?」

 

 自身の背から太刀を抜刀。

 

「そんじゃあ相手になるぜ。世界を救う始めの一歩だ。準備運動がてらにはなってくれよ!!」

 

 身体から、電流を走らせる。

 発電元は薄緑色のペンダント。

 

 

 ビュンッ!!!!と遅れた音を出し、モンスターを狩る者はその太刀を振るうのであった。

 

 

*1
約15km




 
 やっと、主人公を鬼滅世界へと転生完了。

 ここまで結構グダってきましたが、ここからup主のモチベが上がってきますよぉ。




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爆砕警報、発令中 逃亡せよ

 今回は、胡蝶しのぶ視点です


 

 

 

 

 

 

 今、普通にどこにでもあるような森の中では爆裂とした爆発音が響き続けている。

 メキメキと軽快な音を立てる木々の数々は減ることをしない。

 

 そして、その爆発音から逃げる影が真夜中の闇に二つ。

 

 

 

 

「なんなんですかー!あの化け物はー!」

「…それがわかったら苦労はしない。とにかく、今は対抗策がない以上逃げるしか無いだろう」

 

 

 とにかく逃げる。

 草木をかき分け、木の枝に乗り移りながら私は嘆きながら愚痴る。

 

 それもそうだろう。

 あんな化け物がいることなど、ここにくるまでは知る由もなかったのだから。

 

 

 

 

『GU……AAァ……AァA!!!!』

 

 

「「……ッ!!!」」

 

 

 

 

 

 あまりに大きく、やまびこすらも聞こえてきそうな叫び声に耳を塞ぎ、私と冨岡さんも顔をしかめる。

 群青色の外角に身を包み、あまりにも発達しすぎてもはや人を潰すことでしか存在意義を持たないような前脚、後脚、頭殻。

 そして、10間*1にも満たす超巨大な体格が、周りの木々を(ことごと)くへし折りながらドスンドスン、と私たちに迫る。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まりは、森に入って四半刻*2ほど経った時だった。

 

「? この粘液は一体何なのでしょうか?」

 

 森の中心あたりを探索して何もない空間に出たと思ったら、あたりの木が力で折られている光景を私と冨岡さんは見た。

 そして、その木々周辺に粘液のようなものが付着しているのを私は確認して触ろうと近づこうとしたその時、

 緑色をしていたはずの粘液が、どんどん黄色く染まり始めたのだ。

 

 そして完全に黄色く染まり、そして時間を経つごとに今度は赤くーー

 

「…!離れろ、胡蝶!」

「!」

 

 冨岡さんの警告と共に、私はその粘液に近づくのをやめて後ろに飛んだ。そしてーー

 

 

 ボン!!と。

 

 

 付着していた粘液が爆発したのだった。

 その威力は”派手柱“である宇髄(うずい)さんが持つ火薬玉に匹敵する威力で、離れようとした私の体が後ろに風圧で飛ばされた。

 

 

「……………」

「……………」

 

 

 お互いに無言だった。

 

 もしも、冨岡さんからの忠告が無くあの粘液に近づいていたなら、私の体は粉々に吹き飛んでいたかもしれない。

 そう思い私は冷や汗をかくが、一番恐ろしいと頭で思ったことは違った。

 

 辺りを見渡すとーー

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「…っ!ここは危険だ離れるぞ!」

「分かってます!」

 

 

 冨岡さんも私と同じようにここから離れようと試みる。

 

 

 だが、それは叶わなかったのだ。

 

 

 

「…………………え?」

 

 

 

 

 移動しようとするも、南の方角から突如、私を目掛けて飛んでくる巨大な生物がーーー

 

 

 

「胡蝶!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 “水の呼吸 肆の型 打ち潮“

 

 

 

 

 

 

 

 私を心配したのか叫び、冨岡さんから放たれた技が巨大な生物の左前脚のほんの先端を切断する。

 攻撃しようとしていた前脚が切られ、体制を崩した巨大な生物は粘液の上に転がり落ちた。

 

 ザザッと、私と冨岡さんは粘液のない場所へ着地をする。

 

 

「すいません冨岡さん。助かりました」

「油断するな胡蝶。ここはもはや俺たちが普段から訪れているような場所ではない」

 

 

 真剣な顔でそう言ってくる。

 

 

「? 冨岡さん、なぜ右肩を支えて?」

「…………気にするな」

 

 

 その言葉に疑問を覚えるが、突然爆発音が響き渡りその思考が中断される。

 あの一面に広がっていた粘液が爆発したのだ。

 

 ボボボボボンッッッ!!!!と連鎖する爆発音と激しい閃光に思わず、目と耳を塞いでしまう。冨岡さんも同様だった。 

 

 

 

 爆煙が広がる中、私と冨岡さんは襲ってきた生物の方を見る。

 

 

 

『…………』

 

 

 

 むく、とその生物は何事もなかったかのように起き上がった。

 

「そんな…っ!あんな爆発をまともに食らって生きているはずが……!?」

 

 

 “化け物”

 鎹鴉から放たれた言葉を思い出す。

 

 ああ、たしかにその名にふさわしい、と私は感じた。

 これだけの災害を単独で起こし、かつ自身すらその中心地に居て五体満足なのだ。これが化け物でなくなんと言う?

 

 

 

 そして、その化け物は斬られた左前脚を見るとーーー

 

 

 

『GUAAAAAA!!!!!!!』

 

 

 

 森にある木々の葉を激しく揺らすほどの超特大の咆哮を放ち、私たちのいる場所へ突進してくる。

 

 

「「!」」

 

 

 

 

 ”蟲の呼吸 蝶の舞 戯れ“

 

 

 ”水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き“

 

 

 

 

 

 突進してくる化け物を、私はひらりと上空に飛んでかわし、刀を抜刀してスキだらけの体に連続の刺突攻撃を与えようとする。

 

 冨岡さんも考えることは同じなのか、同様に最速の突きを私と同じ背中に繰り出す。

 

 

 私の日輪刀は特別製で、独特で鈎針のような形をしており標的を刺し、そこから毒を流し込むことができる。

 流し込まれる毒は、相手が鬼ならば即死できるほどの超強力で致死性の毒だ。

 

 この化け物がどこにでもいる異形の鬼であったならばーーーましては上弦の鬼でない限り、即死しないことはない。

 

 

 

 だが、

 

 

 

 

 

 

 キイィン!!と。

 

 

 

 

 

 

 まるで嘲笑うかのように、私と冨岡さんの突きは刺さる前に皮膚に当たった瞬間に弾かれてしまう。

 

 驚きながら私と冨岡さんは地面に着地する。

 

 

「刃が…!」

「胡蝶。ここは撤退だ。隙を見つけてあの化け物を討つぞ。最も命を捨てたいのなら別だが」

「言い方!珍しくよく喋ったと思ったのにそんな言い方はないですよ!」

 

 

 どうしてこの人は人の神経を逆なでるような言い方しかできないのでしょう?そんなだから人に嫌われるんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今の現状に至る。

 

 作戦をたてながら、追いかけてくる化け物を避け続けている。

 

 

「それで?どうするんですか冨岡さん。私の日輪刀があの体に通らないとなってしまうと倒すのはだいぶ難しいと思いますが」

「………………」

 

 

 冨岡さんは、何か考えているように険しい顔をしたまま黙りこくる。

 

 

「あのー。作戦を考えているのは分かっているんですけど、何か喋ってください。後ろからアレが猛烈に迫ってきているので」

「……………………今現在、俺は右肩を負傷し、刀がまともに振るえない」

「そんな重大報告を今この場でしないでください、ぶち殺しますよ」

 

 

 見なくてもわかる。

 今、自分には青筋が浮かんでいることだろう。それも特大の。

 

 なぜこの人は、こんな状況で涼しい顔をしてそんなことを言えるのだろう?訳がわからない。本当に。

 

 

「お前を助けるあの時に、鬼の前脚を切った瞬間体が掠った。その時の技の反動と掠った衝撃で肩が少し脱臼したんだ」

「求めても居ない説明をしないでください。どうするんですか!? 冨岡さんがそんなことでは攻撃する手段がないですよ!」

 

 

 このまま、あの化け物を放って置いてしまったら、ここら一帯が地獄絵図となってしまう。

 それだけはなんとしてでも避けなければいけない。そのために何かしらの打開策が必要というのに……

 

 いえ…元はと言ってしまえば私の不注意で冨岡さんは負傷しているんでした……。

 本当に不甲斐ない。

 

 

 

 

 

 そう思っていた矢先のことである。

 

 追って来ていた化け物が急にその足を止め、暴れながら自身の前脚を舐め始めたのだ。

 そして、体が黄色く染まっていき、やがてはほとんど全身が染まってしまう。

 

 

 腕に付着しているのは………さっきの粘液!?

 

 そして、角のように突き出た頭殻にはその粘液が染み込んで……

 

 

 

 

 

 何を思い立ったか、化け物は頭部を地面へと叩きつけた。

 いや、突き刺したと言ったほうがいいのか。

 

 そして刹那、

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボボボボボボ!!!!!とその頭を先端に私たちの直線方面へと地面から爆発の連鎖が襲ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「!!!!!!」」

 

 その攻撃に気づき、私は左へ、冨岡さんは右へと回避しようとするも、

 

 

「ぐは!」

「…っ! 冨岡さん!!」

 

 

 冨岡さんは負傷した腕が痛むのか、一瞬反応に遅れ、爆風に巻き込まれてどこかへと飛んでいってしまった。

 

 

「はっ!!」

 

 

 そして、私も心配して気付いていなかった。

 頭を抜いた化け物が私に向かって、飛んで急接近して来たのだ。

 

 あの体格のどこに、どんな敏捷性が!?と思ったのも束の間、

 粘菌がついていた右前脚で思いっきり殴られて吹き飛ばされてしまう。

 

 

「がっ…はっ!!」

 

 

 吹き飛ばされ、後ろに佇んでいた木に背中から激突してしまう。

 

 

 衝撃で体が痺れて力が入らない。

 

 呼吸も荒れてしまって、思うように息ができない。

 

 

「これ、は……あの、粘菌?」

 

 

 まともに呼吸が安定せず、自分が今置かれている身を理解してしまう。

 あの粘菌が身体にへばりついているのだ。

 

 あの爆発する危険な粘菌がーーー

 

 

(早く払わないと……)

 

 

 

 痺れている手で服に付いた粘菌を払おうとするが、

 

 

(だめだ、今さっきみたいな時間が経って爆発する粘菌とは限らない。最悪、衝撃を与えただけで爆発してしまうかのせいもあるのだから)

 

 

 その思考は、胡蝶しのぶが薬学に精通しているからこそ出せた答えだろう。

 現に、もしこの場で服に付いた粘液をなんの躊躇いもなく払おうとしていたならば、

 

 

 間違いなく、胡蝶しのぶは服を払った衝撃によって活性化した粘液によって爆散し、即死していただろう。

 

 

 だが、危険な状況は変わらない。

 その粘菌も5秒と、時間が経てばいずれ爆発してしまうのだから。

 

 それとも、身動きが取れない胡蝶しのぶにとどめを刺そうと近寄る化け物が、その前脚を振り下ろして潰されてしまうか。

 

 

「ま、だ……。まだわたしは……死ねない……!」

 

 

 動かない手足に力を振り絞り動かそうとするも、体がそれに反応しない。

 そして、その時間が過ぎれば過ぎるほど着々と死神の足音は近づいてくる。

 

 

 そして、標的を見つけた死神はとどめを刺しに前脚を胡蝶の上へと振り下ろす。

 

 残海の念を残すように、胡蝶は目をギュッと諦めたように閉じてしまう。

 

 もうだめか……、と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして。

 

 そして。

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと見つけたぞこのやろう」

 

 

 

 

 

 バチィイイイ!!!と、

 その暴力的な言葉とその音ともに、暗い森の中で青い閃光が迸る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “海電の呼吸 壱の型 雷切”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バキィン!!!!と何かが壊れる音がした。

 

 

『GUOOOOOO!!!!!!』

 

 

 その音と入れ替わりで、死神の咆哮が森全体へと反響する。

 

 

「……一体何が」

 

 

 突然の出来事で呆然としてしまう。

 

 暗闇にいきなり眩い青色の閃光が迸ったと思えば、私を攻撃しようとしていた化け物が仰け反ったのだ。

 その化け物の脚ーーー右前脚を見ると切断されたように断線が入り込んでいた。しかも切断面がなぜか焼き切れている。

 

 

 

 

「だめじゃねえか。大型のモンスターとの戦いは全力の一撃勝負が基本だ。みみっちい攻撃なんかいくらした所でコイツの生命(いのち)には届かねえよ」

 

 

 

 

 後ろから声がする。

 うつ伏せで動かない身体だが、なんとか首を動かし、発言先の人間を見る。

 

 

 その人は……一言で言ってしまうと摩訶不思議だった。

 頭髪は海のようで爽快な青色の髪をし、眼が金色に染まっている。

 服装はなぜか、着慣れていないのか?と思うくらいにデロンデロンの袖を揺らす、からせみ模様で灰薄白の着物。

 顔はやけに落ち着いた表情で、この状況では逆に不気味に見える。

 

 そして極め付けは、手に持っている普通よりも3倍ほど大きな刀だった。

 

 

「わぷっ」

「ジッとしとけ。消臭玉だ。じきにその粘液は乾いて消えるからそれまで動くなよ」

 

 

 何かよくわからない玉を頭に投げつけられそう言われる。

 少しだけ、おかしな声を出してしまった。

 

 

「…あなたは一体誰なんですか?」

 

 

 私は落ち着いた呼吸でその人に問いを投げる。

 

 

「ん? そーだな……。正義の味方じゃねえし、転生者?つってもわかんねえだろうしな……放浪者?いやここに来たの今さっきだし……むぅ……」

「あ、あの〜?」

 

 

 何かよくわからないことをぶつぶつと言い始めてしまった。

 というより、このリラックス感は一体なんなのだろう?

 すぐ目の前には巨大な化け物がいるというのに。

 

 

「……めんど。ただの一般人って解釈でいいよ。さてと、話は後だ。さっさとあの偽ブラキを一緒に片付けるぞ」

「私もですか!?」

「当たりまえだ。一人より二人の方が効率いいからな。それに、アレとやり合ってたってことはアンタもなんかの呼吸使いだろ?」

「!」

 

 

 私が呼吸使いということを見抜いている!?

 やはりこの人、あの怪物の名前を知っているってことは何かこの化け物と関係が?

 

 

「アンタ、名前は?」

「あ、はい。胡蝶しのぶと言います」

「そっか。んじゃあしのぶ、さっさとアレ片付けて話し合いと行こうぜ!」

 

 

 その人はあまりにも大きい刀を化け物に向けて構える。

 …よく見ると、その他に今持っている物より、もっと大きな剣が1本と小さな短剣が2本背負ってある。

 

 

 

 

 

 そして、その人は笑いながら、胸につけたペンダントを握りしめ、青い稲妻を体の周りに走らせてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「海電の呼吸 陸の型 紫電一線!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 バシィ!と、目にも留まらぬ速さーーいや、もはや移動した音が遅れて聞こえるほどに早い動きで、目の前の化け物に向かっていったのであった。

 

 

 

 

 

 

*1
約18m

*2
約30分





 蝶と竜の子。
 合い見えないその二人が出会い、物語は進む。





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粉砕と鬼のクロスカウンター

 

 改行と空白が多い、との感想を受けましたので少しばかり減らしてみました。


 読みやすくなったかな?感想にどうだったかお願いします。





 

 

 

 時は、15分ほど前に遡る。

 

 

 

 

 

 

『GUAAAAAAAAAAA!!!!!!!』

「おらァアア!!」

 

 

 

 

 俺とブラキディオス。

 モンスターと狩る人間と、あらゆる物を粉砕する粘菌使いの暴力モンスターが真っ暗な夜の森の中で戦っていた。

 

 

 戦う、とは言っても殺すわけではない。

 いつも通り、脚の腱を見つけ出し斬り取って行動不能にさせるだけ。

 

 コイツと出会った瞬間、初期状態から怒り状態を示す黄色い粘菌が、ブラキディオスの身体に隅々と付いていたのだ。

 

 

 多分だが、このブラキディオスは、今さっきほど目が覚め、覚醒したのだと思う。

 そして、いきなり見ず知らずの場所に降り立ち、困惑して暴れているーーーまあ、こんなとこだろう。

 なんとなく分かるんだよな。感覚で。

 

 まあそれ故に、無駄な殺傷は控える俺はコイツを殺さない。

 動けないようにして、負傷した箇所を治療した上であっちの世界に送り返す。

 なぁに、ジンオウガとナルガを同時に相手にするよりかは全然楽だから大丈夫。

 

 

 

「っち!!」

 

 

 

 初手の一撃。

 先制は俺が取って一目散に脚に向けて剣撃を放ったが、途中で肉厚により止められてうまく皮膚に通らない。

 どうやら、肉質が想像以上に硬いようだ、危うく弾かれかけた。

 

(技出さないとダメってことかよ)

 

 正直言って、打開策ーーーというよりどうにかなる自信はある。

 壱の型を使えば、あの硬い皮膚に刃が通るくらいには全然にあった。

 

 

「あっぶな」

(でもなあ……。コイツ相手に陸の型を使っていたりなんかしたら先が思いやられる気が……)

 

 

 ブン!、とブラキディオスの腕振りを避けながらそう思う。

 

 ラギアは、この世界で脅威をもたらす『鬼舞辻無惨』という鬼について少しばかり語っていて、なんでも『あの世界の者に倒せる人間は今はいないだろう。お前でもギリギリの戦いかも知れん』と言っていた。

 つまりだ。このブラキディオスに技を使うくらい追い込まれてはそもそもの問題で世界を救う、なんてことは到底できないのだ。

 

 

(考えろ。どんな生物にも弱点は必ずある。探し出せ)

 

 

 力押し、ではなく戦術を。

 腕力だけでなく思考を使え。

 

 あの弱肉強食の中、生き残ってきた俺の観察眼と経験値をなめんな。

 

 

 

『GUAAAAAA!!!!』

 

 

 

 咆哮とともにブラキディオスが自らの前脚を、歩きながら無差別に地面に木に殴り続ける。

 一振りに一回、活性化した粘液が殴った衝撃による爆破によって、叩きつけられた地面をえぐり、木を根から粉々に粉砕している。

 

 ボンボンボンボンボン!!!!!と無限に連鎖し続けるかの様な爆発が響く。

 

 

 俺は身体能力のみでその攻撃を横へ、縦へと回避しながら弱点を見つけ出そうと試みた。

 

 

 

(見つけた! 関節だ!)

 

 

 

 そして発見。ブラキディオスの後脚と体を繋ぐ付け根の間に関節部を見つけ出す。

 

 

 あの世界の経験上、どんなに硬い大型モンスターでも柔らかい箇所はあった。

 例えばボルボルス。

 

 アレは、頭部が硬すぎる代わりに前脚が柔らかいという特徴があったのだ。

 初めて対峙した時はそれに気づくまで泥に手足を奪われてきたが、偶然強力な攻撃を前脚に食らわせて生還することができた。

 …まあ、マイホームに帰るまで泥まみれになって移動することになったが……。

 

 

(くっそ……隙を見て関節部を外したいんだがな)

 

 

 暴走して、疲労した姿を見せないため攻撃するタイミングが見つからない。

 割と面倒なもので、こっちが段々と疲れて動きが鈍くなっていくのを避けるために、急いで策を立てる。

 

 

(怯ませて、その隙に関節部を外すしかない。そのためには……頭部の破壊か)

 

 

 向かってくる攻撃を避けながら、俺は太刀を背中にかけている鞘にしまって大剣を抜刀。

 

 

『GUOOOO!!!!!』

(…………ここだ!!)

 

 

 ブラキディオスが俺に突進して頭突きをする。

 そのタイミングを見計らい、大剣でガード。真正面からでは衝撃が直に伝わって反撃ができないので、斜めに傾けて攻撃を受け流す。

 

 案の定、攻撃を流されたブラキディオスの頭部は地面へと突き刺さる。

 その刹那を見逃さない。

 

 

 

 

 

 

「喰らいーーーやがれえぇええええ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 その場で勢いよく飛び上がり、空中で大きく身体をひねらせ、大剣の重みを利用した大地を削るほどの勢いをつけた一撃を頭部に放つ。

 

 原作では『ムーンブレイク』という名前だったか。

 

 

 

 バキィイイイイン!!!!と、岩を砕いたかの様な音が響き渡る。

 放った一撃が、ブラキディオスの頭部を砕いたのだ。

 

 

『GUOOOOOO!!!!!?????』

 

 

 引き抜こうとした頭部を失ったブラキディオスが後ろへ足をもつらせる。

 

 叩きつけた大剣を素早く持ち直し、弱点ーーー関節部を目指す。

 

「ここを……」

 

 ドス、と関節部に大剣を突き刺し、

 

 

 

「外す!!」

 

 

 

 グリィ!!!と刺した大剣を時計回りにねじ曲げて関節の骨を外すことに成功。

 

 

『GUAAAAAAAA!!!!!!!』

 

 

 轟く咆哮を上げてブラキディオスが体制を崩し、木に激突して崩れ落ちる。

 俺は、巨体に潰されるのを避けながら、刺した大剣を引き抜く。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気は決した。

 身動きを取ろうとするブラキディオス。

 だが、足が動かなければ体制を取れるはずもなく、再び崩れ落ちるのであった。

 

 

 その行動を見て、俺はポーチから治療用の回復薬を取り出す。

 

 動けないうちに、外れた骨を元に戻して刺した箇所に回復薬を塗るのだ。

 まあ、やっていることは前の世界と同じだが。

 

 

 大剣をしまい、回復薬を手にブラキディオスへと近づくーーー

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 

「稀血ぃ…………稀血ぃぃぃ………………」

 

 

 

 

 何者かが背後の木から姿を現した。

 

 その男は、明かに正気を失っている様に見える。

 目を血走らせながらも白目を剥き、ボロボロの服を着てフラフラと歩くその姿はあながちゾンビと見ても違和感を覚えないだろう。

 

 

「誰だ?」

「稀血ぃぃぃぃ……………」

 

 

 問うが、反応がない。

 というよりも何かに惹きつけられてなにも聞こえていない様に見える。

 

 ますます不気味だ。

 

 

 

 

 そして、

 

 

 

 その男は、

 

 

 

「稀血いぃいいいいいいい!!!!!!!!」

 

 

 

 倒れ伏しているブラキディオスの傷口に向かって、飛びかかった。

 

 傷口には、当たり前ではあるが、どくどくと血が溢れ出している。

 関節部を貫いてなおかつ捻って骨を折ったのだ、そうなることは必然だろう。

 ブラキディオスも痛がっている様に見える。

 

 そして、その男は、

 

 そんなことは御構い無しというかの様に、傷口を広げ肉を喰らい始めたのだ。

 グジュグジュ、と汚い音が反響する。

 

 

『GUA!?』

 

 

 ブラキディオスが、痛がる様に悲鳴を上げる。

 

 

 

 

「なにやってんだてめえ!!!!!!」

 

 

 

 

 激怒である。

 俺は、そいつに向かって両腰から引き抜いた双剣を突きつけるために走った。

 

 だが、そいつは俺に気づき、後ろへと飛び下がる。 

 

 そして、血が付いた口を拭いながらこう言ったのだ。

 

 

 

「うるせえな。食事中だろうが!邪魔すんじゃねえ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ……食事?食事だと? アレのどこが食事だ。ただ弱っているモンスターを喰らって苦しめただけだろうが!!

 

 

 

「珍しいご馳走なんだよ。稀血なんだよ。それとも何か?…これ以上邪魔すると…………殺すぞ」

 

 

 

 

 ……ふざけんな。

 

 

 

 

「…………てめえがどこの誰か?とか、なぜあんなことをしたのか?なんてことは聞かねえよ。…ただ、これだけは聞かせろ」

 

 

 

 

 …………ふざけんな。

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 …………ふざけんなよこのやろう!!!!!

 

 

 

「……………ああ、わかった。お前は俺の敵だ。だから死ね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 “海電の呼吸 壱の型 雷切”

 “海電の呼吸 陸の型 紫電一線”

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”陸の型“。

 ジンオウガからもらった超電雷光虫を凝縮して石にしたペンダントを使い、そのペンダントを中心に溜め込んだ電力を放出。

 そして無論、自身の体にも感電する。

 

 だが、それが目的とする移動方の技だ。

 

 

 静電気を地面へと自身の足から放ち、少しだけ浮く。

 だが、これだけでは無い。

 

 電磁波によって、自身の周囲の空気抵抗を無力化。これにより風圧での影響は受けず常に最速の移動が可能になる。

 

 さらに、自身の感電によって筋肉の凝縮、開放。

 

 

 そこから放たれる脚力と雷による、たった一回の踏み込みの結果何が起こるか?

 

 

 

 

 ビュフィン!!!!と。

 

 俺が()()()()()()()()、雷の轟音と空気を裂く混ざった音が流れる。

 

 その速度は、かつて俺が闘ったジンオウガの瞬間移動にも近い。

 

 

 

 

 

 そして、”壱の型“。

 

 一撃必殺の”参の型“と”八の型“とは違い、手数ーーーつまりは剣撃の数を最大限に上げた技だ。

 

 先の“陸の型”と同様に腕の筋肉を凝縮させて放つ。

 ただし、ただ凝縮するだけではなく痙攣させる様にするのがコツである。

 

 するとどうなるか?

 

 

 葉っぱは、一瞬で千切りに。果物、肉などの固形物ならば0.1秒も掛からず輪切りの完成である。

 

 

 そしてその双剣版の場合はーーーーもう、言うまでも無いだろう。

 

 

 

「!」

 

 

 

 光速に近い速さで近付かれ、一瞬で全身をサイコロステーキに切り刻まれ、膨大な量の血をバシャ!、と地面に流れ落とした男の成れの果ての姿がそこにはあった。

 男は斬られたことにすら気づかず、声もあげられなかった。がーーーー

 

 

「…………おい、今、何を、した?」

「!?」

 

 

 バラバラの肉塊から、声が発せられる。

 否、それはもはやバラバラでは無い。

 

 

(なんだアレは?再生か?肉塊がどんどん重なって、頭の形に……)

 

 

 肉塊が集まり集まって、どんどんと積み上がっていく。

 積み重なった箇所から男の元の原型を取り戻していってーーー

 

 

(…………なるほど。これが『鬼』か。面倒だな。バラバラにしても再生、回復するとか。そりゃあこの世界の鬼狩りってやつも苦労するわな)

 

 

 そう考えているうちに、男は切り刻まれた状態から元の原型へと戻る。

 

 

「……すげえ。力が溢れる!なんでもできそうだ!俺は誰にも負けない!!は、はは、はははは!!!」

「………………」

 

 

 自分の両拳を握りしめ、狂った様に笑うその男を横目に、俺は今のうちに策を立てようとする。

 

 今さっきも言った様に、どんな生物にも弱点はある。

 ()()()には太陽が弱点とは書いてあったが、今は真夜中。期待はできない。

 特殊な刀ーーー『日輪刀』だったか?で頸を斬れば鬼は消滅するらしいが…………

 

 まあ、バラバラにして消えなかったんだ。俺の剣にはそう言った材質が使用されていないんだろう。

 鉄鍛治でも、別の世界の素材までは用意できなかったのかもしれない。

 

 

「知るか。バラバラでダメなら灰にしてやる」

 

 

 だが、そんなものはどうでもいい。

 どんな手段を取ってでもコイツはーーーコイツは絶対にこの世に存在させない。

 

 俺は手に持った双剣に力をいれ、技を繰り出すーーーー

 

 

「“海電の呼吸 伍の型 大雷ーー」

 

 

 そのときだった。

 

 

 

「ぐ、あ。がAぁああAあAAあA!!!!!!」

 

 

 

 突如、男が自身の胸を押さえ始めて苦しみだしたのだ。

 そして、ボコボコボコッ!!!と、何かが膨らむ音と共に、男の体が膨張していく。

 

 足は五本指から三本の巨大な指に、

 胸を押さえていた腕はどんどんと巨大な木の様な棍棒に、

 頭は頭頂部から縦に大きくなり、ブラキディオス特有のあの突起の様なものにーーー

 

 

 

「いだぁい!いだいよぉ!!やめで!お、でのからだ、こでいじょうおおぎぐならなーーーー」

 

 

 

 その言葉ーーーというより、悲鳴が最後の時だった。

 やがて、30秒ほど経った時には、

 

 

 あの男の顔を維持したままのブラキディオスの姿が完成していた。

 

 

「……………………嘘だろ?」

 

 

 人がーーいや鬼か。

 いやいや、そんなんどうでもいい。

 この世界じゃモンスターを食った奴はそのモンスターに成り果てるのかよ!?

 

 

『GUAァAAAァAAァA!!!!!』

 

 

 咆哮を上げて、偽ブラキディオスは地面に潜ろうと、地を殴る様に掘る。

 

(まずい! 逃げる気か!)

 

 そう思った時はもう遅し、

 偽ブラキディオスは、地面へと潜り何処かへと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな。お前が立ち上がるまで待ってやりたいんだけど、俺アイツ倒しに行かねえと」

 

 あの偽ブラキが去った後、俺は呻き声を上げていたブラキディオスの治療をしていた。

 喰われた箇所がほんの少しだったのが幸いだったのか、あっちの世界に送った後は、無事動ける様にはなりそうだ。

 

 

『GUOU?』

「安心しろ。ただ、元の場所に戻るだけだから」

 

 

 不安にさせない様に話しかける。まあ、コイツの言葉わかんないけど。

 

 

「じゃ、また会おうな」

 

 

 ラギアから授かった蒼白色のペンダントをブラキディオスに押し付けてそう言う。

 

 すると、神々しい白い光がブラキディオスを包みこみ、やがてその姿を消した。

 

 

 

「さて……と……」

 

 

 

 立ち上がり、憤怒に染まった顔で俺は静かにそう言う。

 

 

 

 

「偽ブラキが。生命(いのち)を冒涜した罪を身にしみて味合わせてやる」

 

 

 

 

 懺悔の時間は与えない。

 久方ぶりに感じた本気の怒りに、俺は闘志を燃やしながら森を歩き進む。

 

 あの、生き物を駆除するために。

 

 

 

 

 

 

 

 







 UA25000突破!
 総評650越え!
 お気に入り500越え!

 そして、自身初の日間ランキング15位取得です!(あの後6位まで伸びました)


 
 ほんっとうにありがたいです!!
 ただ、評価の色と量が一人だけ圧倒的に少ないことに居心地の悪さを感じたよ♪(遠回しの評価誘導)

 あと、こんなこと言ってるけど日間に乗る条件って俺わかってないんですよね。
 わかってる人、感想欄に書いてくれると助かります。


 改めて、ありがとうございます。これからも精進していきます!







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粉骨砕竜! 共闘激戦!

 今でも日間の加点式にランクインしていて驚き。
 週間に関しては40位に入ってたし。

 マジでどうしたんだろう?(不安)


 

 

 

 この一連の出来事が、冨岡義勇と胡蝶しのぶが森に入る約15分の間に起こったことであった。

 そして、

 

「やっと見つけたぞこのやろう」

 

 約30分ほど偽ブラキを探し続け、ようやく見つけた俺は、そこにいる誰かが攻撃されているのを目視して、偽ブラキの脚に神速の攻撃を繰り出した。

 

 バキィン!!!!と、偽ブラキの鉄柱の様な右前脚が折れる音がした後、仰反るように怯んで近くの木にぶつかる。

 

()()()()()()()()か……。俺もまだまだだな)

 

 太刀から放った“壱の型”での一撃は、偽ブラキの前脚を確かに折った。

 だが、それは()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

 スパッ、と豆腐の様に斬れない様では、まだ雷の速さに順応し斬れていないんだろう、と反省。

 まだ鍛錬が足りないのだろう。

 

「………」すたすた

 

 そう考えながら、俺は攻撃されていた誰かの方へ向けて歩き出す。

 そして、うずくまっているその女子を見た。

 

 ……一つ。

 そいつは女性で、超が付いていいほどの美人だった。

 蝶の羽根を模した髪飾りや羽織を着用している感じはなんとなく綺麗と思わせてしまう。

 

 問題の……二つ目。

 その女性は、刀を帯刀していた。

 

 ………いやいや、刀持ってる地点で明らかに一般人じゃ無いだろ。(お前がいうな)

 ?いやどうなんだ?この時代って刀の帯刀って日常茶飯事なのか?

 ていうか今、何時代だよ。あっちの世界はラギアがあの体験をして300年経ったって言ってたぞ。

 流石に明治は超えてるのか?だとしたら今はなんだ?まさか昭和なんてオチじゃ無いだろうな?

 

(まあ今はいいや)

 

 戦いの最中に必要ないであろう思考を中断。地面に倒れ伏した女性を見る。

 見たところ、背中から気に激突して呼吸困難に陥っているようだ。

 

(ブラキの攻撃をまともに喰らったってことは、最低限の受け身を取れているっぽいな。粘菌もべったり服に付いてるし)

 

 黄色く変色している粘菌を見てその女性の状況を理解。即座にポーチから消臭玉を取り出す。

 と、その前に……

 

「だめじゃねえか。大型のモンスターとの戦いは全力の一撃勝負が基本だ。みみっちい攻撃なんかいくらした所でコイツの生命(いのち)には届かねえよ」

 

 その女性に警告するよう、叱っておく。

 怯んでいる偽ブラキを見たところ、傷ついている箇所が左前脚の先端面しかなかった。

 つまり、それまで一撃一撃が届かないような攻撃をしていたということだ。

 

 そんなことでは、いつまで経っても倒すことなんて出来はしない。

 

 その女性は、突然現れた俺を見て驚きの表情をした。

 まあ、そんなことは御構い無し。

 ポイ、とその女性の頭に、俺は消臭玉を捨てるように投げつける。

 

 じきにその粘液が乾いて取れる、と言い残し俺は再び偽ブラキに立ち向かおうとしたところにーーー

 

「…あなたは一体誰なんですか?」

 

 そう聞かれる。

 

 …………どうしよう。俺の事情って簡単に話していいものなのか?

 でももうモンスター出てきてるし普通に狩人って答えるだけでも……

 いやいやいや、この世界にそんな奴絶対いないだろ。

 

「ん? そーだな……。正義の味方じゃねえし、転生者?つってもわかんねえだろうしな……放浪者?いやここに来たの今さっきだし……むぅ……」

 

 大困惑である。

 そもそも、まともに人と話すことなんてもう6年はしていないし。

 ラギアとは会話していたから、できるだけのコミュニケーションは取れるけどいつも口じゃなく頭で話してたし。

 

「あ、あの〜?」

 

 その女性も戸惑うように心配してきてくれる。

 

 すいません。俺、前世だと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 全部俺が悪いんです。ほんっとにすいません。

 コミュ障ですいません。生まれてきてすいません。

 

(あ〜くそ!!どうにでもなれ!!)

 

「……めんど。ただの一般人って解釈でいいよ。さてと、話は後だ。さっさとあの偽ブラキを一緒に片付けるぞ」

「私もですか!?」

「当たりまえだ。一人より二人の方が効率いいからな。それに、アレとやり合ってたってことはアンタもなんかの呼吸使いだろ?」

 

 考えるのをやめ、自暴自棄を起こすようにその女に話しかける。

 平然と話しているようだが、内心ビックビクで背中と頬からは冷や汗が止まらずで続けている。

 

(そういや、前世だと俺どんな喋り方してったけな?もう覚えてないけど)

 

 流れであんな話し方をしてしまったが……まあ良い。

 今後もこのキャラで通すことになりそうだなぁ……(遠い目)

 

「アンタ、名前は?」

 

 連携で戦うからにはお互いに名前を知っておかなければいけないため、割と自然に聞き出そうとその女子に問う。

 ……大丈夫だよな。いきなり名前聞かれて引いたりしてないよな?

 

「あ、はい。胡蝶しのぶと言います」

 

 あ、よかった。引かれてない。

 胡蝶しのぶ、か。……まあ、服装と似て名前にも『蝶』が入っているんだろうけど。

 それにしても、『蝶』を押し売りしているよな。セールスマン並みに。

 

 まあ、呼び方に関してはしのぶで良いかな。胡蝶ってなんか呼び捨てにしてる感強いし。(違う)(6年間、人と接してこなかった弊害)

 

「そっか。んじゃあしのぶ、さっさとアレ片付けて話し合いと行こうぜ!」

 

 そう言って、俺は手に持った太刀に力を入れる。

 さっきは余裕こいて逃してしまったが、次は逃がさない。

 

 最初から全力全開で、この偽ブラキを駆除してやる。

 

「海電の呼吸 陸の型 紫電一閃!」

 

 そう言った時……ちょっとにやけてしまった。

 いや、誰かと共闘するなんて初めてだし、なんだったらこの世界に来る前に楽しみにしてたから。

 ……誰だって、初めての体験は楽しみになるよね。ね!。(押し付け)

 

 


 

 

 

 ザンッ!!バシィ!!ザンッ!!、と剣が肉を断ち、雷の如く移動する音が辺りに響き渡る。

 一度、相手の肉体を斬り落としては神速の速さで移動。そしてその繰り返し。そんな戦闘がこの森では行われていた。

 

 状況は青い稲妻を身に纏わせて攻撃している側が圧倒的に優勢である。

 擦り怪我の一つもなく、攻撃し続ける姿はまさに鬼神と言っても過言ではなかった。

 

 だがーー

 

 

(ちぃ!!)

 

 

 咆哮を荒げながら肉体を切られ続けているソレは、ボコボコと音を立て、斬られた箇所を再生、復元して再び猛威を振るおうと試みる。

 時3分。斬り尽くしたであろう100以上の肉片はその姿を塵に変え、再びその怪物の肉体へと戻っていく。

 

 

(これで137か。このヤロウ、いつまで回復は続くんだ?そろそろ蓄電が切れるぞ)

 

 

 続き続ける攻手一方の状況に不安を感じる。

 ジンオウガから授かったペンダントの電力が少なくなってきた。そろそろ()()がしたい。

 

 “陸の型”は常時、俺自身に放電を浴びせなければ高速移動を可能としないのだ。

 充電方法は、自然の雷を自身に浴びせペンダントに電力を送るか、自然発生する静電気をコツコツと貯めることしか方法がない。

 

 

(それに、切れ味も心配だ。そろそろ砥石で研ぎたいところだが……)

 

 

 猛撃が続く中、枝の上に立ち呼吸が落ち着いて応戦をしてくれているしのぶへと話しかける。

 

「しのぶ!こいつの動きを止めることはできるか!?」

 

 しのぶは顎に人差し指と親指を当てながら、

 

「肉体部に私の刀が当たってくれればなんとか!私の毒なら倒すことも容易ではありますが」

「肉体部ってことは体の内部ってことだな。だったなんとかなる!」

 

 太刀を強く握り直す。

 狙うは周りに振り回し続け、木をバキバキとへし折りまくっている尻尾。

 

 

 “海電の呼吸 参ノ型 雷水全断”

 

 

 刃の上で超高速で回る海水。その上に電撃を乗せ空気抵抗を無くし、ダイアモンドすら斬れる一刀を放つ。

 ズバァッ!と、前脚より柔らかい尻尾は持ち主の肉体を離れ地面にこぼれ落ちる。

 

「今だ!しのぶ!」

「!」

 

 しのぶは、斬られた断面に移動し、傷口にその刀を振るう。

 

 

 ”蟲の型 蜻蛉ノ舞 複眼六角“

 

 

 超高速の突き技。

 しのぶから放たれたのその技は、傷口を6箇所ほど突いた。

 

 

 胡蝶しのぶは、鬼の頸を斬ることが出来ない。

 『鬼殺隊』の女性隊士の中でも特に小柄で華奢な人物であり、その分瞬発力や移動速度に優れてはいる。が、同様の理由から柱の中で唯一鬼の頚を斬ることができない剣士でもある。

 しかし、薬学に精通し、藤の花から「鬼を殺せる毒」を作り出した張本人だ。

 

 それらを利用し、胡蝶しのぶは鬼を毒殺するという偉業を成し遂げ、柱の一角となったのだ。

 

 そして、今程傷口に突いた毒は、その藤の花から作った毒である。

 並の鬼であるならば、即死。

 下弦、上弦の鬼でも分解するのに時間がかかるため動きを止めることは容易い。

 

 

 だが、そこに例外が存在したなら?

 

 鬼でもなく、ましてやモンスターでもない。

 そんな例外が存在したならどうだ?

 

『GU…GAAァAァAA!!!!!』

 

 その怪物は、付いてもいない尻尾を振り回す。

 勿論、リーチが足りない分振り回した先がしのぶに接触することはなかった。

 風圧だけが体を押し、仰反るだけで済んだ。

 

 だが、問題はそこではない。

 

「毒が――効いていない!?」

 

 対象に向けて刺した毒は、足元を少しだけ痙攣させるだけで、倒れる、体が崩れ去るなどの症状は出なかったのだ。

 二度語るが、しのぶが刺した毒は、鬼を即死させる程の強力な効能を持つ。 

 

「元々こいつらに毒の耐性は結構付いてるからな! 毒で1発即死、なんて夢は見ないほうがいいぞ!足もとをすくわれるからよ!」

 

 しのぶの反対方面、木の後ろで武器を研いでいる海斗はそう言う。

 

(なんですかそれは!?)

 

 あまりにも理不尽だとしのぶは嘆く。

 仕方がない。元々は異世界からやってきたイレギュラー。元のルールが通用するとは限らないのだ。

 

「っし!武器は研ぎ終わった。()()()()()()()()()

 

 その言葉と共に、誰かが森の奥から飛び出した。

 それは、しのぶが知っている人間。無口でぶっきらぼうだが実力は確かな、同じ柱の一角。

 

「俺に指図をするな」

 

 冨岡義勇、水柱の名を持つ剣士である。

 

 


 

 

(しのぶが時間を稼いでいる隙に……!)

 

 俺は、粘膜の接触防止のため、急いで木に後ろに隠れ、すぐさまポーチから砥石を取り出す。

 基本、あの世界では長期戦をすることがないため使う機会があんまりなかったが、この状況では仕方ない。

 何しろ、何度も血肉を切った時の返り血で剣がベトベト、血糊で切れ味も落ちかけている。

 

 斬れきれず、反撃を喰らう。…なんてこともあっちではあったから念用に保険をかけるくせがついてしまった。

 

「……あ?」

 

 ザザッ、と草をかき分ける音が聞こえ、反射反応で警戒態勢を取る。

 

「…………」

 

 草をかき分けて出てきたのは、刀を持ち、左右で違う柄を継いだような羽織を着用した男。

 右半分が色付きの無地、左半分は亀甲模様の着物。

 

 一目見た俺はこう思ってしまう。

 

(…………服のセンスねぇ――…)

 

 正直な話、ちょっと引いた。

 いやだって明らかに格好がおかしいもん。それとも何か?この格好が今の標準なのか?だとしたらおれもっと引くぞ。

 

「……何をしている」

 

 あっちの方から話しかけられる。答えるが、その間も俺は武器研ぎを止めない。

 

「見りゃわかるだろ。戦ってんだよアレと」

 

 ほれ、と俺はしのぶが傷口に刀を突いている瞬間の場所を指差す。

 

「そうか。なら今すぐこの森を出ろ。アレは俺が倒す」

 

 ……………あれ? 今、会話成立したか?

 

「いやいや、アンタだけじゃアレ相手はキツいだろ」

「問題ない。右肩を外しているが、アレを倒すのには十分だ」

「いや嘘だろ。アンタ顔青ざめてんぞ。だいぶ痛むんだろ」

「問題ないと言っている」

 

 不毛な言い合いに発展。

 ……こいつアレだ。空気読めないタイプだろ。

 話したいことが上手く話せなくて他の奴らから嫌われるような典型的なコミュ障だろ。 え?何でわかるって?……言わせんなよ?(怒)

 

「………ちょっと見せてみろ。応急処置ぐらいしてやる」

 

 このままだと自殺願望を持ったまま偽ブラキに向かっていきそうなため、研ぎを一時中断しその男に近づく。

 

「…………何故見ず知らずの人間に怪我を見せなければーーー」

「いいから見せろ馬鹿!というより大人しくしろ!」

 

 抵抗する素振りを見せるから、無理やり近づいて右肩の布をひっぺがす。

 こういう相手は、話させずに猪突猛進のごとく攻め入るほうが話が早い。

 

(大きく腫れてんな。これは…打撲か? いや違う、肩の位置が少しずれてんな。脱臼といったところか)

 

 どうやら、外れた骨を無理にくっつけたみたいだ。

 

(無理してるぽいが、だいぶ痛いんだろうな。こんな蜂に刺されたみたいに大きく腫れて…)

 

 顔を青く染めるのも無理はない。

 俺は、ポーチから、飲んで体調を整えるのもあり、塗って傷を塞ぐのもありの万能薬『回復薬』を取り出した。

 

「…………おいお前。何をするーー」

「いいから。ちょっと痛むぞ」

 

 指先から電気を放電させ、羽織の男の右肩に肌を焼き焦がすほどの電気を放つ。少し顔が歪んでいたが気にはしない。

 こうするのは理由がある。

 

 まずは傷口の消毒。

 この男は言っていなかったが、多分あの偽ブラキの攻撃を食らって怪我をしたんだと思う。

 仮にも、粘菌だらけのモンスター。どんな菌が付いているかも分からない。

 念には念を入れたほうがいいだろう。

 

 そして、回復薬の浸透をしやすくする。

 硬い皮膚を焼き焦がして、回復薬を塗った際、細胞の隅々まで浸透させるのだ。

 これをすることによって1から5ぐらいの差が生まれる。

 言いやすくすると、5時間もすれば完治する。

 

 ……ほんと、いつもお世話になってます『回復薬』先輩。これからもよろしく。

 

「ところでアンタ誰なんだ? 刀持ってるってことはしのぶの知り合いなのか?」

「…………それがどうした」

「いや、だったら一緒にアレ倒さないか?さっさと倒したほうが肩の負傷が悪化せずに済むぞ」

 

 ウッ、と事実を言われたのがシャクなのか言い籠る。

 羽織の男は諦めたように、

 

「………いいだろう。足は引っ張ってくれるなよ」

「いや負傷者に言われたくはないよ」

 

 と言ったが、俺がもう一回正論を言い再び言い籠る。この状況では完全に俺の主導権だ。文句は言わせん。

 

「アンタ、名前は?」

「………冨岡義勇」

「そっか。じゃあ義勇。ちょっとしのぶの援護を頼む。俺はちょっとアイツを倒す準備をするから」

 

 策はある。

 ただ、それは少し準備ーーー電力の充電が必要だ。

 研ぎもまだ終わっていない。

 故に、時間稼ぎが必要だ。アレを完全に打倒するための一手を準備しなければいけない。

 

 そして、所有時間1分の作戦会議を行う。

 

「アレの頸は斬れるか?」

「止まっているならば何とかなる。ただ、動いているとなると今の俺では少し難しい」

 

「…………………(作戦内容中略)というわけで、お前には決め手を頼んだ」

「……わかった。そうするしかないのだろう。なら仕方がない」

 

 そんじゃ……行きますか!

 

「っし!武器は研ぎ終わった。後は頼んだぞ義勇!」

「俺に指図をするな」

 

 

 行くぞ偽ブラキ。生命を冒涜した罪をその身で味わうんだな!

 

 

 





 総合評価が1000行きそう……

 やべぇ。どうしよう。すごい緊張する。




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獰猛な砕竜と成り果てた鬼は、何を思う

 
 生存してますよ。
 文化祭があってろくに書けませんでしたよ。

 半日で書き終えましたよ。
 疲れましたよ。(満身創痍)


 あ、Twitter晒しまーす。(狂気)
 https://twitter.com/daina85297802





「冨岡さん!?」

 

 いきなり木の裏から飛び出てきた同じ組織の人間に驚くしのぶ。

 

「…………だいぶ苦戦を強いているようだな」

「平然と戻ってこないでください。おかげ様で死にかけましたよ。腕は平気なんですか?」

 

 隣に降り立ち、何気なく語りかける義勇。

 何事もなくいつも通りに話しかけられたことがしのぶにはムカっときたのか、こめかみに血管を浮かべてそう返す。

 

「…………多少の痛みはある。だが、アレを相手にするくらいに動かすことはできる。胡蝶はどうだ?」

「私は、少し息がしづらい……ですね。背中を強打したものですから、体も痺れかけています」

 

 すぐさま、お互いに今の体調を確認する。

 この辺りは、しっかりチームとしての連携を取れている証拠だろう。

 いくら不仲(?)でも鬼殺隊最強の九本柱を務めるだけの実力と状況判断は持ち合わせているということだ。

 

 

「お前の方が重傷か。なら邪魔にならぬよう、後ろで休んでいるといい。ここは俺が受けもっーーー」

「しのぶより、お前の方が重傷だっつうの馬鹿!」

 

 

 言い切る前にぽかっ、と頭を軽く拳で殴られる義勇。

 殴った張本人は、今先ほど木の影から出て近づいてきた俺。

 武器の研ぎと出来るだけの充電を終えて、前線に戻った。準備万端で。

 

 

「…何をする」

「何をする?じゃねえ! お前肩外れてたんだぞ。わかるか?一歩間違えば骨が削れている可能性あったからな!?」

「……色々と疑問点はありますが…詳しくは聞きません。だけど、これだけは言わせてください。()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……俺は嫌われてーー」

「いや、別に嫌ってはない。ただ圧倒的に手間がかかる性格で四苦八苦してんだよ!」

「!?」

 

 

 そう言われて、義勇の目に光が輝く。……なんか周りに花みたいなものがホワホワと浮かんでいるのは錯覚か?

 どうやら、義勇は初対面の人間に自分は嫌われていないことを面と向かって告げられたことがかなり嬉しいようだった。

 

 その代わりに、俺は全身全霊を込めた大声を上げて口論したが。

 しのぶに関して言えば、またこれか……。と思いながら顔に手を当てて落胆していた。

 ……お疲れしのぶ。お前も苦労人だな。

 

「下らない口論は後だ! しのぶ、ちょっと来てくれ渡したいものがある」

「渡したいもの?」

 

 これ、とポーチからあるキノコを取り出し、しのぶに投げる。

 

「わっ、ってこれ……キノコですよね?なんでこんなものを」

 

 突然、物を投げられて脊髄反射で受け取ったしのぶが海斗に問う。

 

「そのキノコには多量の麻痺酵素が含まれていてな。お前にはこのキノコとお前の鬼を殺す毒を合わせて、あの偽ブラキを動けなくさせる毒を作って貰いたい」

「それはまた……無理難題ですね。あの化け物が暴れている最中に私に新しい麻痺毒を作ってくれ、と。そう言う事なのでしょう?」

「足止めは俺と義勇がする。だから、お前は麻痺毒が完成したら合図するよう頼む」

 

 俺たちのことは気にしないで毒作りに集中してくれて結構だから、と言い残して俺と義勇は再び暴れ始めた偽ブラキへと走る。

 ちなみに、しのぶに選択権は用意していない。ごめんな。

 

 あまりにも突然の出来事に呆気にとられたしのぶは虚空にこう呟いた。

 

 

「…………あの人もあの人で自分勝手な人ですね…!!」

 

 

 この時、しのぶのこめかみには勝手な行動を取る人間、2人分の青筋が浮かんでいたとか。

 おぉ、あとが怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、組み立てた作戦の話をしよう。

 

 まあ、組み立てたと言うか、ただ知ってる情報をかき集めて倒す方法を見つけたと言う感じなんだが。

 しかもこの作戦内容知ってるの、俺と義勇だけって言うね。すまんしのぶ、時間が惜しかったんや。

 

 

 とにかく、だ。

 あの偽ブラキを倒すために必要な情報は、義勇からの経由で集まった。

 後はしっかり上手に立ち回るだけだ。

 

 役割はこんな感じ。

 俺が中間役で攻撃しながらしのぶの援護かつ偽ブラキの動きの妨害役、しのぶが後衛で麻痺毒でのデバフ役、そして義勇が攻撃優先の前衛かつとどめの一撃係って感じである。(ゲーム風)

 ま、典型的なRPGゲームの役割だな。

 

 え?わかりにくい? 気合で理解しよう。そうすればなんとかなる。(強引)

 

 

 ちなみに、俺が中間役に回っている理由なんだが、

 俺の武器じゃあれは絶対倒せないのが判明したからである。

 ……はぁ。(ため息)

 

 いやね、わかってはいたんだよ。双剣で人の形をしていた時の奴を細切れにしたときから察してはいたんだよ。

 けどさ、期待ってもんはあるじゃん。あんだけ張り切って「アイツは俺が絶対倒す!」みたいなこと言ってたんだからさあ。

 少しは俺もあの偽ブラキに引導を渡したかったわけなんですよ、はい。

 まあ結局無理だったけどさ……。

 

 

「義勇! 攻めすぎだ、その位置だと爆発に巻き込まれる!」

「…………」

「なんか言え!」

「………俺は動いている」

「言葉が少ねえ!いや、言おうとしていることはわかるけども!もう少し分かりやすく言え!」

 

 

 『分かっている。当たらないように動いているからな』とでも言いたかったのだろう。

 実際、なんとなく理解はできたし。なんだったら分かったし。

 

 つーか、やっぱコイツ友達少ねえだろ。絶対。

 この口数の少なさと語彙力の欠落は絶対に、他人から会話の内容を違う風に受け取られて嫌われてるパターンだろ。

 ……コミュ障であるが故の症状なのはわかる。俺もそんな時期あったし。

 けどさ、度が過ぎてるよ!もはや私生活に支障が出るレベルじゃねえのかこれ!?

 

『……ど、うし、て、おれ、が、ザザ……こん、な、め、に…』

「!?」

 

 突然。

 それは、俺と義勇が言い争いをしながら猛撃を避けている最中の、本当に突然の事だった。

 

「………義勇。今の聞こえたか?」

「? 何がだ?」

「…………いや、なんでもない」

 

 俺にしか聞こえていない、か。

 しかも、頭に直接響くようなこの声の感覚……

 

 間違いない。ラギアと会話している時と同じだ。

 ただ、ラギアのようにクリーンには聞こえてこない。ノイズが混じっているような感覚もある。

 

 ……いや、問題はそこじゃないか。

 声が聞こえる。てことは、あの偽ブラキには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 試してみるか。

 

 

『こんな目に、ってのはどう言うことだ?』

 

 

 ラギアといつものように会話をする感じで、頭の中で話しかける。

 ものは試しの精神。ちなみにコイツを倒すと言う予定は変えるつもりはない。

 

 

『おれ、は、た、だ、ザザザ……お、なか、が、へった、だけ、なの、に……な、んで…なん、で…』

 

 

 まるで、懺悔するかのようにその鬼は語る。

 鬼に向けて放った俺の声は、聞こえていないように感じた。

 

 

『おなか、へった、もう、たえ、れな、い。もう、がま、んできな、かっ、た』

 

 

 頭の中にーーー口にも出していない声のはずなのに。

 なんでこんなにも…、どうしてこんなにも泣きそうな感情が伝わってくるのかはわからない。

 

 でも、きっと辛かったのだろう。

 

 誰かに叫びたいその感情。

 もう自分一人では耐えられないその後悔。

 起こしてしまった罪の残海。

 

 

『ごめん、ね、かあ、さ、ん。たべ、もの、わけ、て、あげ、ら、れな、くて…!』

 

 

 その懺悔の感情の奔流が俺の頭に流れ込んでくる。

 

 

『………それでもお前は、罪を成した。だから、その罪はここで断罪しなくちゃいけない』

 

 

 聞こえていなくていい。

 ただ、独り言のように俺は頭の中でそう語る。

 

 ああそうだ。

 いくら(ことわり)から外れた存在でも、結局は生命(いのち)なんだ。

 幸せの時、辛い時、悲しい時、いくつもの感情を経験した人間だったのだ。

 ………自分を引っ叩きたい。何が生命の冒涜者だ。

 

 コイツには、ちゃんと罪の意識がある。れきっとした人間だ。

 

 鬼となっても、人間の感情は持った、今を生きてきた生命なんだ。

 

 

 

 

『だから、お前もその後悔を忘れるな』

 

 

 

 自分の起こした間違いを忘れないことを。

 せめて、その後悔という名の思いを無くさないように。

 忘れないことを祈ろう。

 

「調合、できました!」

 

 合図が響いた。

 しのぶが、麻痺毒の作成したのだ。

 

「よし! その毒、コイツに打つ準備しといてくれ!! 量はできるだけ多めに!」

 

 手に持った太刀に力を入れる。

 

「義勇もトドメを刺す準備を頼む! 全力でな!」

 

 首にかけた青緑色のペンダントをギュッと握りしめる。

 そこから、辺りに生えている草を焦がし尽くすほどの強力な放電が放たれた。

 その放電は自身の身体をめぐる。

 

 全ては、目の前にいる哀れな鬼を倒すために。

 

 

「終わらせる!!!」

 

 

 開放するために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “海電の呼吸 迅ノ型 絶電羅刹“

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビュウッ!ザッ!と、音が遅れて鳴った。

 続けて同じ音が鳴った。

 また続けて、続けて、続けて………

 

「速っ……!」

 

 そして、しのぶがそう言った頃、

 

 首と胴体だけの肉塊となった、化け物の姿だけがそこには残されていた。

 四肢が、尾が切断され辺り一面に飛ばされている。それはまるで、大馬の残酷な解体跡のように。

 

『!!??!!??』

 

 その化け物は、いつ切られたことにすらも気付いていなかった。

 激痛の咆哮すらも上げられず、ただただ斬られている事実をその身に噛み締めて倒れていた。

 

 

「早くしろしのぶ!! コイツに、毒を打ちこめぇええええ!!!」

 

 

 羅刹と化し、その代償として腕を痙攣させ、近くの木に寄り掛かった俺はしのぶに向けて叫んだ。

 

「!」

 

 

 

 ”蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ“

 

 

 

 四肢を持たない倒れ伏した化け物に、しのぶは高速の突きを浴びせると同時に、海斗から預かったキノコと藤の花を合わせた作った毒を刺す。

 

 

『GUAァAAァAァAAA!!!』

 

 

 叫ぶように咆哮。それはまるで何かに争っているようだ。

 

 このブラキ、実は元を鬼の性質に似せて、再生という鬼の専売特許である体質を持っているが、

 体内の構成はそのまんま素のブラキディオスと同じなのである。

 

 つまり、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 そして、海斗はしのぶが藤の花の毒を偽ブラキに打ち込んだ瞬間を見逃さなかった。

 わずかな時間だが、()()()()()()()()()()のを見たのだ。

 

 つまりそれは、殺すことはできなくとも再生の妨害が出来ているのを証明している。

 

 

 これらの情報を合わせ、海斗は策を立てた。

 自身がしのぶに毒を打ちやすい箇所を作り、その動きを阻害する。再生もさせず、反撃できないように。

 

 そして、

 

 

 

 

 

 ”全集中 水の呼吸 捌ノ型 滝壺“

 

 

 

 

 

 この鬼にトドメをさせる、唯一の人間へと全力の一刀を振るわせる。

 自分が主人公になるつもりなど到底ない。倒せる可能性を持ったやつに倒させることに価値はあるのだから。

 

 そして、

 

 

 

 

 ザンッ、と。

 

 

 

 

 

 

 あまりにもあっさりと、ギロチンにかけられた処刑人の様に、

 

 その化け物となった鬼の頸は落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《母さん!ご飯持ってきたよ!》

 

 その少年の家は非常に貧相なものだった。ほとんど吹き抜けで雨を遮ることすらできない天井。私生活を監視してくださいと言わんばかりのボロボロの障子。

 

 

 ボロボロの衣服、藁がバラバラになり履くのも辛くなりそうな靴。

 そんな姿で、手のひらいっぱいの握り飯を持ち、自身の母親にーーー綿が、間から溢れ出ている布団に寝伏している母親に近づく。

 

 

 

《……いいのよ。あなたが食べなさい。お腹、空いているんでしょう》

 

 

 

 病弱で、年中布団の上で過ごしている少年の母親はそう言って、差し出された握り飯を息子へ押し返す。

 実はこの握り飯、少年が必死に貯めた小遣いでようやく買えた握り飯だったのだ。

 その約4日の間、少年は何も口にしておらず、腹の中は空腹で満ちていた。すぐにでも、目の前の握り飯に食いつきたいくらいに。

 

 

《いいんだ。母さんには早く元気になって欲しいから。だから食べて!》

 

 

 少年には、それだけが生きがいだった。

 ただ、早く母親に元気になってもらって一緒に遊んでもらいたい。

 それだけの為に、この4日間の間頑張って泥水をすすって、殴られ蹴られながら働いてきたのだ。

 

 母親は重々しい顔をしながら、その握り飯を齧る。

 

 笑って空腹をごまかす少年の爪は、かじり尽くされてもはや無くなっていた。

 

 

 

 

 

《母さん!いい魚を買えたんだ!食べてくれ、よ……》

 

 そんな、ひもじい生活をして10年も経ったある日だ。 

 いつも通り、空腹を我慢して母親にご飯を食べさせようと、家に向かい玄関の障子を開けて中を見ると、

 

 

 母親が、縄で首をつってぶら下がっていた。

 足はだらけきり力が入っている感じはなく、頭は一向に動くことがなかった。

 

 

《………あ、あぁあああアアアア!!!!》

 

 

 ボトッ、と地面に魚を落とし、半分発狂しながら母親の体を支えている縄を取り外す。

 

《はあ……はあ……》

 

 願わくば、生きてきてくれ、と願いながら母親の顔を見る。

 だが、そんな幻想は叶うはずもなかった。

 息もせず、顔は蒼白に染まり、全身が痩せ細った親の姿を見て、少年は全てを悟る。

 

 

《なんで……、なんで……自殺なんか……》

 

 

 泣き出しそうな顔をしてそう呟く少年の視界にある一枚の紙が目についた。

 

 

【母さんが居なくなれば、あなたの生活はもっと楽になります。もう、空腹に耐えなくても良くなります。だから、母さんの分まで生きてください】

 

 

 震えた字で、そう書かれている一枚の紙を見て、少年の涙腺は決壊した。

 クシャクシャに胸板にその紙を抱き抱え、大声で泣き叫ぶ姿がそこにはあった。

 

 その夜、少年の心は死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつしか、少年は青年となり、生きる為にはなんでもこなす人間となっていた。

 その行為には善も悪もなく、生きる為ーーーそれだけの為にはどんな事でもした。

 

 例えそれが、人殺しであったとしても。

 

 

 

 

《また土の上に米を撒いてるよ…》ボソ…

《不気味よね〜毎晩毎晩墓に来てはああやって自分の母親の墓に米を撒いているんだから……》ボソ…

 

 

 

 

 青年を嘲笑する声が聞こえる。

 まるで、幽霊の噂でもするようにボソボソと話す夫婦。

 彼の身に起こった出来事を気にする事なくそんなふうに語るのは、いつもの事だった。

 

 

 青年は働く先を見つけることができなかった。誰も、こんなボロボロの服と草履を履いた人間なんか欲しがらなかったのだ。

 故に、少年の頃のように貧しい生活はそのままだった。

 

 

《……腹が減った》

 

 

 嘆く。

 まるで何もできない自分を戒めるように、青年はそう虚空に言い放つ。

 無様だ。無力だ。生まれた意味などあったのだろうか?

 

 そう考えながら、母親の墓に泣きながら寄りかかっていた時、

 

 

 

《ならばその空腹、(ごう)により埋めて見せるか?》

 

 

 

 それは現れた。

 

 

《どうする?力を手に入れ、生き延びるか? それとも、そのまま哀れに死ぬか?貴様はどの道を行く?》

 

 

 青年に迷いは無かった。

 

 選択したのは生き延びる道。

 全てをねじ伏せてでも、生きる道を青年は選ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

《北の森へと向かうがいい。そこに貴様が求めるものはある》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 終わったのだ。

 俺の狙いどうり、日輪刀で頸を切られた偽ブラキは、離れた胴体と斬られ、散らばった四肢を塵に変えて消えていく。

 

 

『ごめ、ん、なさ、い』

 

 

 俺の頭の中には、しのぶと義勇には聞こえていない声が聞こえ続けている。

 

「………………」す…

「待った義勇。そこまでしなくて良い」

 

 斬られ、転がった頭に切っ先を向けた義勇を抑止する。

 

「………分からない。お前と言い炭治郎と言い、何故鬼に同情する?」

「……その、なんだ?炭治郎ってやつがどうとかは知らないけどよ、俺がお前を止めるのはただ……」

 

 その先を言おうと思ったが、少し悩む。

 どう伝えれば良い?俺にしか聞こえない言葉で謝り続けているから?

 それとも、ただただ抵抗できない哀れな肉塊に無駄なトドメを刺される光景を見たくないから?

 

 ………いや、前者はともかく後者は無い。

 こっちも今まで命を刈り取ってきたんだ、そんな光景を見るくらい今の俺にはどうってことないのだ。

 

 ……ならばどうする。どう伝える?

 

 

「……ただ、この世界で初めて命が枯れる瞬間を、この目に焼き付けておきたい。それだけだ」

 

 

 鋭い眼光で落ちている頸を眺め、俺はそう言った。

 説得も納得もさせる必要性もない。

 こんなものはただの自己満足の回答だ。

 

 生命大好き人間で異世界転生した俺だからこその回答だろう。

 というか、俺以外でこんなこと言うやつがいたなら、それはもう中二病患者だ。しかも手遅れレベル。

 

「………?」

 

 まあ、当然ながら俺の事情なんかカケラも知らない義勇は疑問を頭に浮かべたままである。

 そんな義勇を横目に、俺は太刀を納刀して落ちた頸に近づく。

 命が枯れる瞬間を見届ける為に。

 

 

『ごめ、ん、な、さ、い…』

 

 

 未だに、懺悔の声が聞こえる。

 ずっと、誰かに謝り続けるノイズが混じった声。

 もう声の張りもなくなって、声量も小さくなってきた。その命が枯れるまで、もう長くはないのだ。

 

 

「いいさ」

 

 

 聞こえないだろう。

 化け物となったその鬼に人間の発声器官も同じ聴覚は存在しない。

 一生、その化け物には分からないだろうその言葉を、俺は独り言の様に呟く。

 

 

「せめて最後くらい、自分自身を肯定してやれ。そうじゃないと、お前は救われないだろ」

 

 

 人としての特徴は一切なく、硬い殻で包まれたその頭部。

 塵と化そうとしているその頭を、俺はそっと撫でる。

 

 朝日が登る。

 眩しく照らす、夜の終焉を知られるその光景とともに、

 

 ふっ、と何処かへと向かっていく様に、塵となったものは空へ飛んでいった。

 その瞬間を、俺は目に焼き付ける。

 

 これが、この世界で見る初めての生命の終焉だった。

 

 

 

 

 

『あ、、、りが、、と、、う、、』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけで……単なる一般人ですよろしくね☆」

 

 全てが終わり、朝が来た。

 自称、ただの一般人である俺は、ほとんど深夜テンションのノリでくだらない自己紹介をする。

 ……だって一夜経ってんだよ、てことは徹夜じゃん。つまり頭が悪くなる時間帯じゃん。そういうことだ。(暴論)

 

「今更そんな言い分が通るとでも?」

「やだな〜、しのぶ。そんなに青筋を浮かべちゃって。もしかしてなくても怒ってる?」

「いえいえまさか。無理難題を押し付けられた上、何の事情も説明されなかったことを根になんか持っていませんよ」

 

 ちょっと揶揄う俺に対して、笑顔を浮かべてふふふと笑うしのぶ。(但し、全く目が笑っていない)

 義勇は状況についていけないのか、ずっと虚空を向いて何かを眺めている。……おい無視すんなおい。

 

「ですが、何故私たちの呼び方が名前の方なんですか〜?」

「いやそれはなんとなくで。それに名字呼びにくいし」

 

 これについては、完全にそう呼ぶ当人のせいである。

 6年間、人と接してこなかったバカには、もはや常識が通用しないのであった!

 

 

「『隠』が来るのを待つためとはいえ、こんな森の奥で足止めを喰らうなんて……本部で柱合会議がすぐにあるのに……」

 

 

 『(かくし)

 鬼殺隊の非戦闘部隊で事後処理や支援を専門とする部隊らしい。

 

 剣の素質に劣る者ーーー悪くいえば組織の落大生が就くと言う。まあ、しのぶから聞いた話だが。

 

 

「いいから休め。そのよく分からん会議も「怪我をして遅れました〜♪」って言っとけば大義名分でなんとかなるだろ」

「なんですかその最低を模倣した様なサボり方は……。しかも無駄に真似が上手い……」

 

 

 笑顔を保ちながら、頭に手を抱えて呆れるしのぶ。

 だが、軽傷を覆っていることの事実はあるのだ。俺の言い分もなかなか良いもんだろう。

 さっさと休め。社畜になりたくなければなぁ!!(ゴミ)

 

 

「俺は寝る。もう眠い。寝る」

「なんで片言なんですか、寝かせませんよ。会議であなたについて報告しなくてはいけないんですから」

「いいや!寝るね! 今だ!!」

 

 

 そう言い、木に寄り掛かって寝る態勢に入る。

 その間、約1秒である。瞬殺ならぬ瞬寝。狩りを初めて6年かけて身につけた、本当にくだらない荒技であった!

 

(起きたらこいつらはもうどっか行ってるだろ)

 

 別れの挨拶はしていないが、限界だったのだ。

 ”陸ノ型“の使いすぎですごい頭使ったし、なんだったら徹夜だし。

 

「お休みぃ〜……zzz…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの、胡蝶様?この人を一体どうすれば…」

「本部まで連れて行きます。……本人がいれば報告もしやすいですし」

「は、はあ…では」ヨッコイショ

 

(お、重い……。何貫*1あるんだこの人は……、巨大な岩を持ってる様だ。あと、息しているのかこの人?吐息が聞こえてこないんだけど…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
重さの単位、1貫約3kg




 
 “海電の呼吸 迅ノ型 絶電羅刹“
 十ある海電の呼吸の型だが、海斗が『白いナルガクルガ』を元に、自分で考えた技である。もちろんラギアからは何も教わっていない。
 切断面を焼く、切れ味が増すなどの特殊な効果はないが、移動しながらでの斬撃の速度は、全型の中で一番速い。 
 ”迅ノ型“と言う名称は、ナルガクルガの二つ名から取ったものだとか。




 大正こそこそ噂話。

 海斗が使いこなしている武器は、全て切れ味の色が白色に達しているらしい。


 

 


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柱合会議に混じった異物


 ずいぶんと時間がかかった……

 後書きにアンケート取っているので良ければ意見を。




 

 

 

 柱合裁判。

 それは、鬼殺隊の掟を反した者に課せられるものである。

 

 

 仲間同士の刃の向け合いなど、鬼に関するものも含む隊律違反を犯したものは、事次第によっては鬼殺隊剣士の最高位

 

 

 9人の最強の柱によって裁かれるのだ。

 

 

 

「な、なんだ……この人達……?」

 

 そしてここに、鬼を庇った少年が一人。重大な隊律違反によって裁かれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 また、そこに紛れ込んだ異物も一人。

 

 

 

「zzzzzzzzzz…………」

「いつまで寝てんだ、さっさと起きねぇか!柱の前だぞ!」

 

 大きな寝息を立てて砂利の上に寝そべった異世界人も巻き込まれようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「裁判の必要など無いだろう!明らかな隊律違反、我らのみで対処可能!鬼もろとも斬首する!」

「ならば俺が派手に頸を斬ってやろう。誰よりも派手な血飛沫を見せてやるぜ。もう派手派手だ」

「ああ……なんというみすぼらしい子供だ、可哀想に。生まれてきたこと自体が可哀想だ。一思いに殺してやろう」

 

 "炎柱"煉獄杏寿郎(れんごく きょうじゅろう)、"音柱"宇髄天元(うずい てんげん)、"岩柱"悲鳴嶋行冥(ひめじま ぎょうめい)の三名が裁判にかけられた花札の耳飾りをかけた少年──竈門炭治郎(かまどたんじろう)に向けて、あまりにも救いのない言葉が放たれ続けていた。

 

「殺してやろう」

「うむ」

「そうだな、派手にな」

 

 当人の炭治郎だが、目が覚めたばかりなのか目の前の状況に混乱の極みにいた。

 那田蜘蛛山にて、”水柱“冨岡義勇の力により十二鬼月の下弦ノ伍を打ち倒したまでは記憶にあるのだが、その後の記憶が曖昧であった。

 

(そうだ、禰豆子が鬼だってバレて……そうだ、禰豆子!善逸!伊之助!村田さん!)

 

 覚醒した頭で、記憶を整理した炭治郎は慌てて辺りを見渡そうとする。が、どこに居ない。

 

「お前……柱が話をしているのにどこを見てる?」

 

 柱の前で失礼だ、と注意する『隠』の誰かさん。

 

 混沌に勝る状況の中、炭治郎は目の前にいる九人の人影を見て、警戒する。

 

(この人達……物凄く強い…!)

 

 鼻がよく利く炭次郎は、目の前にいる人達が圧倒的な強さをもった剣士だということはすぐに分かった。

 

 

 

 

(うるせえなぁ……、俺寝てるんだよ。あと生まれてきたことがかわいそうって……なんだその相手の心を押しつぶすのを目的としたかのような超パワーワードは、あとジャリジャリうるせえ。……あ、この石寝心地いい…)

 

 

 

 

 

 そんなくっそよくわからない混沌と化した状況の中、海斗はある一人の『隠』に放り投げられ砂利の上へとベッドイン。

 投げた『隠』は起きろ起きろと呼ぶ、が……起きる気配がない海斗は全くと言っていいほど反応がない。

 

 実は海斗、生前もこの世界に来ても、救いのないほどの寝相は治らなかったのだ。

 実際にあったことなのだが、震度5の地震が来ても、起きることなく爆睡し続けることができた男。

 

 ──ネット内では、通称『永眠するぼっち』で、名が通っていたとか。

 

 

「うむ!それで!この青年は一体誰だ! 鎹鴉の伝令の話を聞く限り、突然連れてこられた様だが!」

『さっきからこの人、息をしてない……、あれ?息って何だっけ?』

 

 

 さすがに、一人で爆睡している海斗を見て気になったのか杏寿郎がしのぶに問う。

 “霞柱”時透無一郎(ときとうむいちろう)は寝息を立てているが、息を吸っていない海斗に疑問を覚える。

 

 まあ、その当人は気にもせず寝続けているが……。

 

 

「申し訳ありません!すぐに起こしますので! 早く、早く起きろ!!起きろぉおお!!起きてくれぇええ!!!」ユサユサ!パンパン!ボカッ!

「zzzzzzzzz…………」

 

 

 ‘炎柱“の迫力に押されて、海斗を背負ってきた別の『隠』の一人が慌てて起こそうとするも、全く起きず。

 揺さぶる、叩く、頬を殴る。どんな手段の起こし方をしても起きないので、アホほど慌てている。

 

(………むぅ)

 

 そんな自分に起こっている出来事を気にも取らず、寝返りをする。

 もう手遅れだ。ここまで睡眠が深くなっては、自分から目を覚ますか、断崖絶壁から身を落とすしかなかろう。

 

 世界に名を馳せるほどの、寝相の悪さ、睡眠の深さは伊達ではないのだ。

 

 

「………もういい。そこの死体については後にする。そんなことより冨岡はどうするのかね。拘束もしていない様に俺は頭痛がしてくるんだが。胡蝶めの話によると隊立違反は富岡も同じだろう」

 

 

 ついに死体扱いされてしまった海斗。(涙目)

 ……そりゃまあ、何をしても起きないでなお息を吸っていないのだからそう思われても仕方ない。

 自業自得だ。(正論)

 

「まあいいじゃないですか、大人しくついて来てくれましたし。処罰は後で考えましょう。それよりも私は坊やと、そこの眠っている人から話を聞きたいですよ」

 

 その言葉で炭治郎が顔を上げようとするも、怪我によるせいか大きく咳き込んでしまった。

 しのぶから鎮痛薬入りの水を与えられ、ようやく喋れる様になる。

 

(…………………血の匂い)ピクッ

 

 その時、海斗の嗅覚に鉄味の濃い匂いが僅かに渡った。もちろん、それは炭治郎が咳き込んだことにより少しだけ吐血した血である。

 ──何かがおかしい、と感じとった海斗は眼を少しだけ開けた。

 

 

(………? 何だここ?どこだ? 俺、確か木に寄りかかって寝ていたはずなんだけど。何で白い砂利の上で爆睡ぶっこいてんの俺?)

 

 

 もちろんの事だが。

 しのぶと『隠』によって強制的に鬼殺隊本部に連れてこられたことなど、爆睡ぶっこいて記憶曖昧な頭の海斗では知る由もない。

 すぐさま状況確認。自分の身におかれたよくわからないこの状況をなんとか冷静に確認しようと試みるが──

 

(あ〜〜〜………眠い。だめだ、脳細胞を活性化でもさせねえと眠気飛ばねえ………)

 

 速攻諦めた。

 雷にでも触れることが──もしくは、放電用のペンダントに触れればすぐに目が覚めるんだが、

 刀持って和服着てるよくわからん他の連中が話し合いしているからなんか躊躇してしまう。

 ──……いや、空気って大事じゃん。壊したら壊したでなんか気まずいじゃん。そういう事なんだよな。

 

 

 

「聞いてください!!俺は禰豆子を治すため剣士になったんです!禰豆子が鬼になったのは2年以上前のことで、その間禰豆子は人を食ったりしていない!」

 

 

 

 急に隣から大声が聞こえてきて、少しビビる。

 ──て、え?鬼?なに?ここにいるの? どうしよ、なにも準備してないけど。つーか俺の武器どこだ?背中にかかってないんだけど。

 というか、こいつ結構怪我してんじゃん。よくその状態で大声出せるな。関心関心。

 …………じゃねえよ!こいつ誰だよ!つーか此処どこだ!

 

 

「あのぉ、でも疑問があるんですけど…。お館様がこのことを把握してないとは思えないです。勝手に処分しちゃっていいんでしょうか?そこの寝ている人も」

 

(!)

 

 

 気づかれないように少しだけ目線を上げる。

 桜色の髪をした女性からそんな言葉が聞こえる。

 ──お館様?ってあの本に書かれてたやつか? だとしたらここはまさか…、

 

(鬼殺隊の本部……もしくはそいつの屋敷か……、どっちにしろ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの世界で──あの家で見つけた一冊の本。

 鉄鍛治が書いた、お館様に向けての伝文を渡す必要がある。

 命を呈してまで俺に託そうとしたであろうあの本を。

 

 

「オイオイ、なんだか面白いことになってるなァ。鬼を連れてた馬鹿隊員はそいつかいィ。一体全体どういうつもりだァ?」

「困ります不死川(しなずがわ)様!どうか箱を手放してくださいませ!」

 

 

 そんなことを考えてる時だ。

 突如、顔に──体に──腕に、とにかくあらゆる体の隅々に大量の傷をつけた男が、長方体の箱を片手で持って現れる。

 ──というよりヤクザ?すげぇ眼怖いんだけど。怒ったジンオウガくらいに怖いんだけどあの眼。

 

「不死川さん、勝手なことをしないでください」

 

 おお、しのぶが怒ってる。初めて見た、つっても会ったのほんの何時間か前だけど。

 

 

「鬼が何だって?坊主ゥ。鬼殺隊として人を守るために戦えるゥ?そんなことはなァ」

 

 

 隣で倒れ伏している少年に向けて話しかけているのだろう。

 ふと、そのヤクザ(?)は、自分の腰についた刀を抜き、

 

 

()()()()()()()()()鹿()()()()

 

 

 片手に持っていた箱に突き立て、ドスッと刺した。

 

(何やってんの?そんな箱いきなりぶっ刺して……。何か入って、いる、の、か……?)

 

 疑問が浮かぶ。──そんな箱をご自慢の刀でぶっ刺して何の意味がある?と。

 

 

 そう考え、たった1秒後のこと。

 

 海斗は見た。

 箱から流れてくる赤い液体を。

 海斗は聞いた。

 箱の中から微弱ながら聞こえてくる女性の声を。

 

(………………)

 

 考える。とにかく考える。

 今見たもの、聞いたものを統合させて何が思い浮かぶか。

 寝起きの頭で考え尽くす。

 

 

 【箱+刺される+中から血+微弱な女の悲鳴=中に刺されている人間がいる

 

 

 計算が組み立った。

 憶測にしか過ぎないが、この可能性が高いだろう。

 ──そうかそうか。あの中には、今体のどこかを刺されて蹲ってる人がいるわけだぁ〜〜♪そうかそうか〜♪

 

 

 

 

 

「寝起きドッキリにしては派手すぎんぞクズがッ」

 

 

 

 

 

 ──ペンダントを掴み、電流を走らせる。

 

 ──「一日に何回走らせる気だ。そろそろ脚の筋肉焼き切れるぞゴラ。いい加減にしろ」と。

 海斗は内心叫び、目の前で起こっている不祥事をぶっ壊す為、空間を震撼させるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あり得ねえんだよ馬鹿がァ!」

 

 

 その一言で、禰豆子の匂いがする箱を刀が貫通した。

 ──実の妹がそこで眠っている箱を。

 ────あまつさえも、目の前で貫いた。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……ッ!!」

 

 

 頭に血が昇るのがわかる。許さない!

 今、この人は。

 

 ──俺の妹を傷つけたッ!!

 

 

「あ…!」

 

 

 隣にいた人が走り出す炭治郎に気づく。

 だがもう遅い。炭治郎は目の前の敵へと突っ走る。猪突猛進の如く。

 

 ──走れ、走れッ!

 ──体が痛む。どうでもいい! 妹を助けろ!!

 

 

「俺の妹を傷つける奴は!柱だろうが何だろうが許さない!!」

 

 

 ──そして。

 

 全身に多大の傷をつけた男が、たち向かってきた少年に嘲笑する瞬間だった。

 

 ()()()突然、その空間全体に聞こえた。

 

 

「いい答えだ。喧嘩振るう相手に躊躇しないその心意気、存外にいい性格してんじゃねえかお前!」

 

 

 ──刹那。

 バチイィィイイイ!!と轟音が鳴り、空気が裂けるような感覚がした。

 

「な、にが!?」

 

 一体何が起きた?急に後ろから声が聞こえて、辺り一面が光って──俺は、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「さて、と。そこの拷問大好き人間は後でぶちのめすとして──まずは自己紹介といこうか」

 

 

 目線を上げると、青い髪、目の前の相手を見据えるかのような金眼の青年が。

 俺と、禰豆子が入っている箱を抱え、やれやれと、さぞ面倒くさそうに、警戒して抜刀した目の前の人達に言い放った。

 

 

「ただの一般人、『流星(ながれ) 海斗(かいと)』だ。よろしくな、鬼殺隊最強諸君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ?誰だこいつはァ」

「言ったばっかだろうが拷問大好き野郎。流星海斗だっつったんだよ。難聴かアンタは。その見た目で齢五十越えてるとかそんなのか?」

「…………テメェ、ぶっ殺してやる!」

「おぅ!できるもんならな!かかって来いやァ!!」

 

 挑発に乗ったのか不死川が海斗に切っ先を向ける、

 

「ちょ、ちょっと待ってください!この人は一体誰なんですか!?」

 

 直前、炭治郎が柱に向けて言った。

 それはそうだ。急に現れ、禰豆子を助けてくれたと思ったらいきなり決闘(せんそう)勃発。訳がわからない。

 ただ少しばかりわかっているのは、那田蜘蛛山に登頂する途中に嗅いだ、潮の匂いが()()()()()するということだけ。

 

 その言葉を聞いたしのぶは、わかっている限りのことを言う。

 

「……わからないんですよ。昨夜、私と冨岡さんが那田蜘蛛山へと出陣して、下弦の伍を打ち倒し、坊やをここへ連れてきた。ここまでは覚えていますよね竈門くん」

「は、はい」

「その後、私と冨岡さんのみで、北の森へと向かいました。そこで、……危うく死にかけたところにこの人が現れたんです」

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 冨岡としのぶを除く、柱総員が驚愕する。

 何度もいうが、”柱“は鬼殺隊最強の剣士だ。その二人がかりで()()()と戦い、そして死にかけた。

 

「馬鹿な!お前たち二人がかりで派手に苦戦する鬼だと!?そんなもの、上弦の鬼以外には──」

「いいえ、宇髄さん。鬼ではありません」

 

 そう言ったしのぶは柱全員に言い放つ。

 

 

()()()()()()()()でした。危険な粘液を辺りに撒き散らし、爆発で周囲に災害を引き起こす。そんな化け物だったんですよ」

「ブラキディオスな」

「今、名前はいいんです。とにかく言わせてください」

 

 

 ──名前、重要だろ……、と若干凹む海斗。同情するものもいない為、砂利の上で途方に暮れている。自業自得だ。

 

「………頭は正気か胡蝶?そんな鬼、今まで確認すらされてこなかっただろう」

「お前こそ大丈夫か?なんかよくわからん蛇を首に巻き付けた変人様よう。見たって言ってんだろ見たって。何だったら証人がこの場に三人いるぞ」

 

 ──ピキッ、と。

 ”蛇柱“伊黒 小芭内(いぐろ おばない)の額に血管が浮かんだ。──言うまでもないがブチギレたのだ。それはもう、本気で。……短気なものである。

 そして、手に刀の柄を携え、いつでも殺害可能だ。と不死川に目配せして。

 

 

「死ねオラァアア!!」

 

 

 不死川がそう叫ぶと共に、最大の殺意を持って海斗に突撃する。だが、

 

 

「やだね。こっちは何か知んないけど武器ねえんだよ。だから」

 

 それを、あらかじめ予定していたかのように、

 

「全力で逃げさせてもらう」

 

 

 体に電流を走らせ、先ほどと真反対側──つまり炭治郎が倒れていた場所へと()()()

 柱の面々も目で追うのがやっとの速度。普通の人間なら見えもしないであろう空気を裂くレベルの()()()移動。

 

 

「あ、やば」

 

 

 ふと、だ。

 自分が手に持っているものを思い出す。

 

 右脇には、花札の耳飾りをつけた少年。左手には、その少年が護ろうとしたであろう妹入りの箱。

 

 ──さてだが。

 海斗は”海電の呼吸“を習得し、なおかつジンオウガとの鍛錬によって電気──もとい”雷“への耐性はピカイチである。……こんな人類、勿論のことだと思うが海斗一人だけだ。

 では、耐性を持っていない人間が。

 天撃レベルの雷を喰らった場合、一体どんな反応を起こす?

 

 正解は、──体中痙攣させて気絶する、だ。

 

「「…………」」プスプス…

「あっちゃぁ……。どうしよ、これ」

 

 あまりにも、電圧が強すぎた。

 というよりやらかした。いつも使用する時なんか一人だから気にもしてなかった。

 

 炭治郎、及び禰豆子、プスプスと煙を体から上げて見事に気絶。

 海斗には箱の中は見えていないが感覚で理解。把握完了。

 ──かんっぜんにやらかした馬鹿の惨状であった。

 

 

「逃げんなゴラァアア!!!」

「えっと、そこの桜色の髪をした美少女!この箱に入ってるのこいつの妹でいいんだよな!!」

「え!? わ、私?やだ、美少女なんて///」てれてれ///

「……何で、照れてるのかは知らんが、とにかくこいつとこの箱ここに置いてくぞ。あっちで怖え鬼たちが俺を殺しに襲ってきてるから。しのぶ、こいつの介護頼んだ」

「どうして私が……」

「じゃあな!!アデュー!!」バリッ

 

 

 後ろから、突如迫ってくる二人の鬼を華麗に避けながらそう声をかけ、そのまま逃走。

 ──くだらない鬼ごっこ第二回、開催である。ちなみに第一回はレイアレウス夫婦による卵争奪戦であった。(聞いてない)

 

 補足しておこう。

 この一連の流れは、約一分の間に起こったものであり、その間”鬼役“に買って出た柱の二人以外はこの光景を茫然と傍観していた。

 例外としては、無一郎だけ虚空を眺め続けていたことか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……胡蝶。あのド派手に逃げる馬鹿は一体誰だ。詳しく、念密に頼む」

「そんなもの私が知りたいです……」

『あの男の子、髪が逆立って……カッコイイ……』

 

 

 

 

 

 

 轟音を立てながら、馬鹿三人がくだらない鬼ごっこを続ける中。

 ”音柱“と”蟲柱“の会話が虚空を漂ったとか。

 

 

 

 

 





 今まで書いたやつ見直そうかなぁ〜?
 自分でも納得いかない文脈あったりするのかな?わからん。

 あ、お気に入り1100件ありがとうございます!


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託された思い そして覚醒したソレは…

 
 


 

 

 

 前回のおさら〜い!

 

 偽ブラキを倒した海斗は、眠気が来たためにそのまま木のそばで爆睡。が、しのぶと『隠』によって寝ているうちに鬼殺隊本部へと連れ去られてしまった!

 砂利の上で爆睡ぶっこいて他の柱が訝しげな目をする中、鬼を連れた少年「竈門炭治郎」の妹「禰豆子」が“風柱”「不死川実弥」によって攻撃されてしまい、さぁー大変!

 だが、その一幕を見ていた海斗が不死川にブチギレ。『海電の呼吸』“陸の型”を使い、自分にとっての不祥事を打ち壊しにかかったのだ!

 お陰さまで、炭治郎と禰豆子を救出することに成功した海斗は大きな声で自己紹介。さらに不死川に挑発を仕掛ける!

 そのついでに“蛇柱” 『伊黒 小芭内』も挑発に乗ってかかり、不毛な鬼ごっこが開催したのだった!!

 

 

 

 

 

 

 ──さて。

 くだらない前話の話を回想したところで、今の海斗の状況をちょっと説明しようか。

 

 

 一つ。寝起きで少しテンションがハイ↑になっている。というよりバカと化している。(深夜テンションと同じ類)

 

 二つ。無意味に炭治郎と禰豆子を傷つけてしまったのを反省。懺悔の念を抱え込んでいる。

 

 三つ。柱二人によって今にでも殺害申告を強制的に送られそうな鬼ごっこを開催。今現在も逃走中である。

 

 

 ……”元コミュ障“が一体何をしでかしているんだか。

 誰が、寝起きで初対面の相手に向けて挑発をぶつけるバカがいる?いや、ここにいるんだけど。

 

 

 まあ冗談はこれくらいにして。

 実は、挑発を向けたのは海斗の策略である。

 策──というより、確認と言った方がいいか。何の?勿論、鬼殺隊最強を誇る“柱”の実力だ。

 

 ()()%()

 

 これが、今現在海斗が出している力である。“力”と言うよりかは、逃げるための”電力“と言った方がいい。

 

 全力で追いかけてくる不死川、伊黒を直線状に逃げながら、時々に自分を殺そうとしてくる二人の太刀筋の間をくぐり抜けながら。

 あの世界で身につけた異常な観察眼で、周囲の被害と追いかけてくる二人の体内環境を元にモンスター相手にしてどれだけ力が通用するのかを見定めていた。

 

 

 ──結論としては、単独で大型モンスター連続2頭なら狩れると判断。

 

 

 ──肉質が硬くない。もしくは広範囲に攻撃を仕掛けてくるモンスター以外ならばの話だが。

 

 

 しのぶ、冨岡にも言える事なんだが──というより鬼殺隊全員か?

 鬼を相手にしているからかもしれないが。

 

 とにかく、この世界の戦闘民は“面”での攻撃に弱いのだ。

 

 対人戦を一回もした事がない俺だが、これだけは理解できた。何しろ歩くだけで災害引き起こすモンスター『古龍』を相手にしていた分、範囲攻撃に対する対応は十二分に身につかされたから。(主に古龍。特に古龍)

 だからこそ、体の動きを見ただけで弱点がわかってしまった。

 

 

 ──鬼殺隊隊員は“鬼”という対人戦しか考慮していない故、自分自身を狙ってくる“点”での攻撃に打たれ強いが、周囲をまとめて攻撃してくる”面“での攻撃にはめっぽう弱い。

 

 

 だから鬼殺隊の最強を誇る二人があそこまで苦戦したのだろう。

 身体能力と攻撃力が伴っても、さっさと一撃手を加えないと意味がない。

 ──人間の体は異常な程に脆いのだから。あいつら──モンスターにとって蟻を潰すような攻撃でも死ぬ可能性は高いのだから。

 

 だから苦戦した。

 

 

 ──……いや、まあ。世界の壁をこじ開けたゴアさんが元凶なんですけどね。アレが割り込んでこなかったらそんなこと考慮する必要なく、鬼相手に戦争していたんだろうし。

 

 そう考えると、俺がこの世界に来たのはある意味救いなのだろう。

 何しろ、今地球上でこれほどモンスターに詳しい人間はいないのだから。

 

 モンスターの存在に気付いていなかったら絶対に滅んでいたぞ人類。

 ただでさえ『鬼舞辻無惨』なんてラスボスいる上、「モンスターの肉喰ったら超強化」なんて縛りあるんだから。あの壁画の出来事が本当に起こったなら絶対に、鬼は今この瞬間にもそこらのモンスターを喰い漁る最中なのかもしれない。

 ──ま、そう簡単に喰われるような奴らじゃないがな!!逆に返り討ちにされてるだろw(経験談)

 

 

 

 ともかく、以上の点をまとめた上でまとめとして一言。

 

 ──ゴア。テメエは絶対俺が狩る。理由?元凶がテメエだからだよバカ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「離せ宇髄ィ!あのヤロォぶっ殺せねえだろうがァ!」

「いい加減にしろ不死川!もうすぐお館様がいらっしゃるんだぞ!今のままド派手に失礼を働いたらどうする気だ貴様は!」

「…………チィッ!」

 

 

「伊黒さんダメですよ。お館様がいらっしゃるんだから。め!」

「あ、ああ……」 

 

 

 十分が経った。

 爆音を響かせて辺り一面の砂利を跳ね飛ばす異様な二体一での鬼ごっこは。

 不死川が宇髄によって羽交い締めで拘束。

 甘露寺が伊黒に説教することにより終結を迎えた。

 

 ……肝心の俺は。

 

 

「………………」ゴゴゴゴ…(^◡^)

「いや……あの……反省してます。勝手にハイテンションで暴れまわったことは謝ります。……だから……あの、怖いんですけ──「何か?」いえ何も……」

 

 

 しのぶによる笑顔の仁王立ちでの無言の圧力。プラスで砂利の上に正座という形で大人しく説教されることになった。

 ──悪いとは思ってるよ。なんだったら今さっきまでの記憶を今すぐに消し去りたいね。あんだけ派手に暴れて、しかもよく分からんやつにはっずい挑発しかけて……あぁあああああ!黒歴史確定じゃねえかぁあああああ!!

 

 

「……あの?これは一体?」

 

 

 俺の不注意による気絶から目を覚ました炭治郎が目の前で起こっている異常な出来事に頭を回しながら顔を上げた。

 

「お!起きたな!早速だが大丈夫か?体は?感覚は?後遺症がないのはわかるか?」(超早口)

 

 そんな状態の炭治郎に、超速で心配しに近づく。

 ……本当はしのぶの無言の説教をさっさと抜け出したいんじゃ?というちょっとした疑問は言わないで置いてください(泣)

 

 ──まあ、心配していたのはわりと本気で、感覚不全とかなっていたら取り返しがつかないので早めの治療もしたかったというのもある。

 

「は、はい。まだ少しだけ体が痺れているけど、歩ける、くらいには」

「なるほど、属性やられだな。下手な後遺症じゃなくて安心だ」

 

 色々と困惑しまくっている炭治郎の体をペタペタ触り、障害や傷などがないか確認して、症状がそれだけということに安心。

 属性やられと言っても、軽傷の部類だろう。重度のものだと本当に歩けなくなるモンスターを何体も見た事があった。

 ……多少だが、筋肉が(ほど)けているのは大丈夫とも判断。

 

「とりあえず、はいこれ。食え」

「え?」

「ウチケシの実」

 

 腰にかけられたポーチから取り出すは、だいたいの属性やられを打ち消す『ウチケシの実』

 原作でも、いろんな属性やられにかかった時によく使われるあの青い実である。

 ──あの世界にいた時にはよーくお世話になったな、と感傷に浸るんだが実はこの()には割と苦い思い出が……

 

「その痺れを治すのに必要なんだよ。文句言わず食え」

「あ、はい。じゃあ、いただきますって……(にが)!」

 

 差し出した実を炭治郎が躊躇いもなく齧る。が、渋い顔をして吐き出しかける。

 

 そう、これである。

 この実、苦い思い出と言わんばかりに、ほんっっっとに苦いのだ!

 前世で風邪をひいた時に含む風邪薬なんて比較になどならない。というかこれ以上の苦い食べ物は存在しないんじゃないか?と思うくらいだ。

 だから俺はこの実を好き好んで齧らない。──つーか二度と食わないと決めた。

 

「良薬口に苦し、て言うだろ。嫌な顔しねえで食え」(お前が言うな)

 

 そう言うと炭治郎は苦しそうな顔をしながらも囓った実を飲み込んだ。

 

「あ……本当だ、痺れが消えた」

「そりゃよかった」

「そうですね。説教の最中に逃げ出さなければの話でしたが」

「……うん、そうだよな。見逃してはくれないよなぁ……」

「当たり前です。見逃しません──と言いたいところでしたが、時間切れのようです」

 

 ──は?

 

「お館様のお成りです!」

 

 館の中から幼い女性の声が聞こえると、柱の全員が目の前の館にザザッ、と綺麗に平伏をした。海斗と戯れていた不死川もさっきの態度とは打って変わったように、きちんとした体制でその男を迎える。

 ──お館様?

 

 

「よく来たね。私の可愛い剣士(こども)たち。そこの青年も、遥々遠い場所から来てくれたこと感謝するよ」

 

 

 綺麗な羽織を着た男が見える。顔に焼けた後みたいな痕跡が広く見られ、目が真白に染まっている。

 やはり目が少しばかり見えにくいのか歩く挙動が不自然だ。そして。

 手、足、首を全て。顔も埋まってしまいそうな。

 

 ()()()()

 

 見るからに浸食されているのが見えるそれは、人ならざる者へと変貌する兆候。つまりは──

 

 ──狂竜ウイルス、か?

 

 そんな疑惑が思い浮かぶ。

 だが、今は置いておき、足を目の前の男に向けて歩く。

 ──生きている。なら渡さなきゃな。託された物を。

 

「顔ぶれが変わらずに半年に一度の“柱合会議”を迎えられたこと。嬉しく思うよ」

 

 英雄の思いを。

 

「……お館──」

「あんたが、『産屋敷(うぶやしき) 耀哉(かがや)』でいいんだな」

「うん、そうだね。君が約束の少年かい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様、お館様の前で無礼だぞ!!」

「いいんだよ宇髄。この子は鬼殺隊員では無いからね。事情を知らないんだよ。それに、私も気にはしていないさ」

 

 不死川が何かを言おうとした矢先、俺が話したところで宝石をちりばめた額当てで左目の周囲に化粧をしている派手な出で立ちの大柄な男から注意された。

 そんな注意など気にもせず、輝哉に近づきポーチから一冊の本を取り出して──

 

 

「……あんたの子から託された物だ。丁重に受け取ってくれ」

「……鉄鍛治はどう言って命を終えたのか、聞かせてもらっていいかな?」

「悪いな。俺は思いを託されただけで、鉄鍛治本人の人生を見ていない。そうだな……いつか親友だった奴を連れてくるからそれで勘弁してくれ」

「うん。そうしてくれるとありがたい」

 

 

 その本を輝哉へ渡した。

 事情を一切知らない柱はその光景に呆然としている。……俺だって半年前までは知らなかったさ。

 

 

 鉄鍛治本人の知識を纏め記した本を輝哉に受け渡す約束なんて。

 

 

 鉄鍛治本人。つまり、あっちの世界の情報が書き記された本だ。それは救いの手、とも言っていいのかもしれない。

 不確定要素満載のモンスター達の情報がまとめて、対処法すらも載っている。

 

 地下。あの世界のただひとつ、海中の家で見つけた本はこれだ。

 生態性、植物、作物、小型から大型までのモンスターの弱点や対処方法などあの世界の様々な情報がこの本には直筆で記されている。

 恐らくだが、鉄鍛治はラギアと永遠の別れをした後に武器を作りながら執筆を並行作業で行っていたんだと思う。

 最後のページには──

 

 

 『この本を持った者。頼みがある。

 あの世界で──俺の元いた世界に産屋敷耀哉と言う男がいる。その男にこの本を託して欲しい。

 少しだけ戻ることができた時に事情は話してあるから、すぐに受け取ってくれるだろう。

 友は元気か?…まあ俺はその時にはもう死んでいるから確認なんかできないけどな。

 俺の作った武器はお気に召すかな?俺が生涯を費やして作った最高の武器だ、素材を丁寧に削っていくのは骨が折れたとあいつに伝えておいてくれ。

 

 

 お前がどこの誰かなのかは……俺にはわからない。だがこれだけはわかる。

 お前はどこの誰よりも──あの世界で最強と名を立てる“柱”よりも強い。俺の親友に育てられたんだろ?だったらもうそりゃ最強だろ。

 だから、少しは俺の元いた世界で助けになってくれると俺も救われる。

 

 

 

 ‘追記’

 ……最後になんだが。いや、これは俺のたわいない願いだ。

 輝哉は一族全員が短命で病を患い死ぬことが決定してしまっている理不尽な一族だ。その余命をお前が伸ばすことができるのなら伸ばしてやってくれ 』

 

 

 実に自分勝手極まりないセリフだ。何も知らず、何もなく、たった一人の一般人だった俺にそんな思いを託しながらその男は生涯を終えた。だが、

 

 

「約束は果たした。確かに渡したぞ。世界を救おうとした英雄の思いを」

 

 

 自身の命を使い、二つの世界を救おうとした英雄の思い。

 無下にすることなど誰ができようか。──いいや、出来るはずがない。少なくとも俺はその思いを継いでここまできたのだから。

 

 

「……ああ。約束は果たされた。だから今度は私たちが頑張らなくてはね」

 

 

 悲しそうに、一人の家族を失ったように。

 託された思いを胸に抱きながら輝哉は目を閉じ、そして開けた。

 

「この書載を直ぐに他の紙に書き写しておくれ。全て、ね。そして私の剣士(こども)たちに伝えておくれ」

「承知しましたお館様」

 

 隣にいた幼い白髪のしょうじょに本を渡しそう告げる。

 受け取った少女はその本を館の中へと持って入っていく。

 

 

「君はどうする?そのまま、元の世界に帰るのかい?」

「俺は思いを継いだ身だからな。とりあえずこの世界にとどまって、……まああんた達の手伝いをするよ。それが鉄鍛治の願いだったからな」

「そうか。なら私もできるだけのことを尽くそう」

 

 

 さて、と輝哉は言い目の前で伏している九人の柱に目を向ける。

 

「私の可愛い剣士(こども)たち。これから伝えることは、鬼殺隊総員にとって極めて重大なことだ。心して聞いて欲しい」

 

 その一言で、海斗の後ろにたたずむ柱全員が

 

「この世界に鬼と同等。もしくはそれ以上の脅威が目を覚ました」

「しのぶと義勇はもう戦ったろ。あのバケモン──モンスターの事だよ」

「〜っ!? アレが、まだいるんですか!?」

 

 事情を知っているしのぶと義勇がその言葉を聞き、一瞬青ざめる。

 

「なんだ胡蝶?知っているのか?」

「……私と冨岡さんが一緒に戦って、死にかけた怪物です。……ほんとにまだ存在するんですか?あんなものが、まだ」

「まだ、どころかウジャウジャとな。結構送られてきたらしいし」

 

 へらへらと話す俺の言葉にはまるで緊張感がない。慣れたからな。

 対して、しのぶと義勇は胸の内に絶望感を渦巻かせる。あの破壊の化身を表したような姿、一振りで周囲一帯を破壊し尽くす、鬼とはまた違う怪物がまだまだ至る所にいると。続けて俺は語る。

 

「全部話したほうが早いか?

 え〜と、実は俺この世界の人間じゃなくてな、昨日しのぶと義勇が見たようなあの怪物共がわんさかいる世界から来たんだ」

 

 俺は語り始める。この世界の新しい脅威を。

  

 本能のままに生きようとする。

 

 そんな怪物(モンスター)がいる世界の話をしよう。……ついでに俺と事情も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──同時刻

 

 目覚めたばかりのソレは何も分からなかった。

 どこの空だろうか。そう思いながら虚空を彷徨い翼を広げる一頭の影。

  

〜〜!!〜〜!!?〜!〜!?

 

 下を見れば久しく見ることのできなかったモノ(ひと)が見える。だが、見たことのない服装に困惑する。

 ──ここは何処だ。何故あの匂いがしない。と、初めて嗅いだ空の空気の匂いに疑問を浮かべながら、ソレは空を滑空する。

 ソレは山を数秒で登りきり、ソレはヒトならば3日かかると言われる道をほんの40分で渡り切った。不意に下を眺めれば今までとは違うモノ(ひと)が慌てている様子が見える。

 

 ──何もかもが小さすぎる。敵は、同種は、同じ匂いがする存在は何処だ?

 目の前にいる黒い鳥を押し退け、山を飛び越えながらそんな思考が脳を埋める。

 

 

 

 

 そして山を多々越え、あらゆる地を飛びながら自身の存在を捨て置いてきたソレは、

 

 ──匂う。

 

 不意に嗅いだその匂いに眉を寄せた。

 同じ匂い。同じ存在感。そんな直感を感じながら微かな匂いを頼りにそこへと向かう。

 

 特異に発達した翼爪、

 尻尾は棘が生えた鋏のような形状に進化しており、見ているだけでも痛々しい。

 そして、蛍光色の鱗に包まれたソレの名は。

 

 

     電竜

 

   ライゼクス

 

 

 そのモンスターは彼の者へと向かった。

 そこに何があるのかは知らないまま。

 

 

 

 

 

 




 
 大正こそこそ噂話
 
 今現在、目覚めたモンスターの血を求めて鬼たちが襲いかかっているが、総員返り討ちに遭わされている。(潰されたり、爆殺されたり、想像を絶する痛みを与え続けさせられたり)


 ありえない会話その1

鉄『お前って海斗にどんな育て方をしたんだ?』
ラ『別に辛いことはさせていない』
鉄『へー。例えば?』
ラ『何。水中で1日過ごさせたり、私の放電を浴びせたり、他の生物を呼んで戦わせただけだ』
鉄『…………そりゃぁ、うん。そうだな(これに耐えたんなら間違いなく生物界上位の存在になるだろそいつは)』


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逃亡を謀る者に電竜頭を

 
 燃え尽きてないよ。ちゃんと書いてるよ。
 というわけで、結構時間がかかってしまった15話お待たせしました。

 
 新規モンスターヒャッホイ!ジンオウガ亜種ヒャッホイ!!(狂)


 

 

「気配というのは頭で探るものではない。気配とは感覚で感じるものだ」

 

 今はもう半年ほど前。あの世界にいた時のある訓練の最中に聞かされた言葉を思い出す。

 黒と灰を合わせたような色の布地の和服を着て、人間の形をしたソレは、手に微弱な──だが、放って仕舞えばそれだけで辺りを吹き飛ばす風を俺に向けて投げた。

 

 「考えて行動することは、闘争の内では必須行動にも近い。だが、それだけではまだ足りない」

 

 まるでゴミを捨てるように気楽な表情をしながら、ソレは俺に向けて自然の災害に等しい”力“を投げつけた。

 もし当たれば風圧とその威力に弾き飛ばされ、この霊峰から落ちる。

 必死で自分の中の何かにしがみつくよう抗い、高速で移動し続けて回避、回避、またまた回避。そんな行動を繰り返して、約半日が経った。

 

 疲労困憊にも近い状況の自分を感覚で悟りながら、放たれる言葉に集中して耳を傾ける。

 

 「野生は生まれ落ちたその時からは狩り方を知らない、だからこそ生物というのは学習し生存する術を学ぶ。神羅万象、あらゆる生き物は必ずそうする」

 

 ただし、とヒトの形をしたその男はそう付け加えて

 

 「至高の領域に到達する生物は、あらゆるモノを直感的に捉えることができる」

 

 それは、もともとあった本能による感覚器官だと。学んだモノを組み替え、工夫し、調整しながら”考えるだけの“生物はまだまだ二流だと。

 

 

 「我ら古龍と呼ばれる存在のようにな」

 

 

 すでに、生物の頂に登り切っているそのモンスターは目の前にいる、ただ一人の人間へと挑発するように語る。

 俺はその言葉を頭に叩き込み、……放たれた風を回避することができず、紙屑のように空へと放り投げられた。

 

 

 そこは霊峰。そこはかつて、人々が訪れることを恐れた地。

 そして今は、未来を託された青年が己を鍛え上げようと奮闘する地。

 

 烈風と爆音に支配されたその地には、

 

 ヒトの形をしながら、強者であることを許された龍()と、

 紛れもない、弱者であったはずのただの人間が共に佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走馬灯。というものを知っているかな?

 そう、自分が死にかけるときに自信が経験した人生を一瞬で思い返すことができるあれだ。

 

 実はあれ、体験することはそう難しいことではない。その気にすらなれば割と簡単に体験できるのだ。

 例えば……うん。海の中で溺死寸前になるまで潜りづけるとか。全身を燃え上がらせてこんがり焼かれかけるとか。後は……台風で吹っ飛ばされて上空500mから落ちるとか。まあいろいろだ。

 

 ──え?なんでそんな方法思いつくのかだって? ……んなもん、実際に経験したからに決まってるからだろうが。(泣)

 あの6年間で俺が何回臨死体験を経験したと思ってやがる。優に10回は越えてるんだぞ。俺、その回数分自分の止まった心臓をラギアの放電で心臓蘇生だぞ。俺は実験動物かよ。

 ……思い出したら腹立ってきた。絶対許さねえあの()()()()()()。いつか一回殺してやる。大丈夫、あいつら()()()()()()()()()()()し。

 

 

 まあそれはそれとして。

 なぜこんな問いを思いついたか、それについて語ろうか。

 

 走馬灯というのは、いわば自身の本能によって無意識に思い返される行動原理。そして、それは誰にでも起こる現象であって誰も体験したくないであろう経験だ。反射的なまでに素早い速度で自身の記憶を遡るその集中力は、説によっては光速に近い速度だともいう。

 言ってしまえば人間は──いや生物は自身の中に”極大な集中力“という名の本能を全員持っている。

 

 そしてもし、その集中力(本能)を本質的に自分の意志で開花した場合は一体どうなってしまうのか。

 

 

 ──早々に答えを言ってしまおう。

 常時、その状態を維持することができるのならば。もしも、一瞬たりとも気を緩めることなくその集中力を発揮できるのであれば、すべての感覚器官、及び思考能力が向上する。それも超次元的に。

 

 ……初めて聞かされた時はファンタジー要素満載だな、と思ったね。んなことありえんのか、と。

 でも、まあ…ね、もう実際に臨死体験やら地獄に等しい特訓を強いられた俺よ。なんとか習得したよその集中力を。常時とは言わんまでも数分くらいだけどな。

 

 で、習得してやっと理解したわけ。

 

 

 『これ、なんだかんだ言って全集中の呼吸と同じ原理じゃん』と。

 

 

 …………そう。なんだかんだ、あんな『本能』だとか『ファンタジー』だとか言っていたものの。

肉体の能力を本人の意思によって向上させるのが『呼吸による全集中』ならば、五感覚の感度を向上させるのは『自身の集中による全集中』なのだ。

 

 わかりやすく言うと、呼吸することで移動速度や筋力が増すのが『この世界での全集中の呼吸』に対して 

 

 五感のうちいくつかの機能をある程度たたかいに支障がないほどに止めて一つの感覚に極度の集中を込める。

それをすることで自身の一つの感覚器官を特化させるのが『俺の使ってる全集中の呼吸(?)』なのだ。

 

 これならわかりやすいだろ。ていうかわかれ。説明下手なんだから俺。

 

 

 

 

 そんで、修得するにつれてちょっと感じたことがあったんだけどさ。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 いやいやほんと。比喩とかじゃないんだって。知覚過敏ほどに感じるんだよこれが。

 あれだ、わかりやすく例えると“真冬の外に裸で水風呂入る”感じ。……実体験だよ?それが?(怒)

 

 他にも、どこぞのファンタジー世界によくある『……殺気を感じる』みたいなことがわかるし。

 耳に集中したら、風切り音がすごい。うるさい。鼓膜に痛い。

 目に関しては、いろんな物が遅く移動してるように感じる。これはいい点。“陸の型”を使用してる時によく使う。

 

 クシャルが言うからには、自分以外の他の古龍、古龍級モンスターに及ぶやつは大体習得しているらしい。ありえん。

 しかも生まれたその時に身につけているらしい。さらにありえん。

 

 

 結論が遅くなったかな。じゃあこんなことを語った理由を言おう。

 

 

 

 

 

 「そうそうモンスターはな────鬼がモンスターの肉、いや血か?を摂取するとな────」

 (どうしよう……。どうしようかなぁああああ!?さっきから俺目掛けてすごい遠くの方から目線を感じるんだよなぁあああ!しかもこの圧迫感、絶対モンスターじゃん!俺ここから離れるべきだよなぁあああ!?)

 

 

 

 

 

 今現在。向こうの世界の事情とこっちの世界で何が起こっているのかを話し終え、恐々と俺目掛けて送られてくる質問を目の前の10人に返しながら、俺は遥か向こうから向けられている強力な目線をどう対処しようかとすごい悩んでいる。誰か助けて。(懇願)

 こいつら質問が多すぎるの。俺を返してくれないの。

 

 

 しのぶよぉ、気になるからと言いながら俺を質問攻めにするのはやめて。

 そこの派手派手言ってる大男、説明用に持ってきた俺の武器をペタペタ触るな。

 赤い羽織を羽織ったそこのやつも声がでかい。うるさし。

 いかにも仏教を嗜んでいそうなそこの大男もうるさい。念仏唱えまくりだっつうの。南無阿弥陀仏じゃねえ。

 さっき電気を浴びせちゃったそこの少年。何とかしてくれ、この怒涛の質問の流れを止めてくれぇええ!呆然としてないで、頼むからぁああ!!

 

 

 そして輝哉さぁん!?そんな微笑ましい目で俺達を見ないでぇ!?あんたに関しては、家族が仲睦まじく(?)話をしている感じからそんな笑みがでてるんだろうけどさぁ! これそう言うのじゃないよ!俺今だいぶ気が立ってるんだって!さっさとここ出ないと急に来る乱入モンスターに館を半壊されるんだよぉ!

 

 

 いやほんとどうしよ、どうやってこの流れから抜け出せばいいんだ?

 いきなり帰るって言っても、これ帰らせる気絶対ないだろ。何だったら「首根っこ捕まえて拘束」の流れだろ。いや逃げれるけど。

 

 

「あ、あのさぁ。俺さっさとここから出ないと────」

「帰らせませんよ。いえ、帰る場所はありませんでしたね。あなたには質問が山積みなんですよ。きっちり話していただかないと」

 

 

 これである。

 さっきからこの流れがもう数回に渡って繰り返されてるんだよ。しのぶさん?あなた怒っていらっしゃいますか?なんで?俺なんかしたっけ?なんか分からんけどごめん。

  

 と、とにかく強引にでもここを出ないと。そうじゃ無いと人類の最大防衛基地が俺のせいで崩壊してしまう。俺のせいで。(二回目)

 

 あ〜やばい。どんどん気配が近づいてくる〜…。死神の音が近づいてくるぅ…!

 

 

「……………仕方がない。強行突破するか…」

「え?」

 

 

 ……うん、冷静によく考えたらさ。

 俺、こいつらと一緒にいる必要ないんだよな。

 

 モンスターを元に世界に返すのって俺しかできないし。第一、俺鬼殺隊の一員じゃないし。なんだったらこの世界の住人じゃないし。

 ……いや、ちゃんとこの世界の手伝いには貢献するつもりだよ?だって約束したし。なんだったら誓約と制約並に誓ったから。

 

 けどさ、一緒に同行する必要はないんだよ。確かにパーティーだと効率とかは上がると思うけど、それはチームプレイができる人間に限る話だろ?

 長年ソロで狩りを続けた俺だし……なんかいやなんだよ。元々人に合わせるのって苦手な性格だったし。

 

 

 だから当分は……そうだな、一人でモンスターを壁の向こうに送りまくる旅でも続けようか。

 

 

 ……よーし!そうと決まれば早速逃げる準備だ。

 まずは電気を帯電させて。……そうだな、70%くらいでいいか。100出したら衝撃波で被害出そうだし。

 

 んで、武器を仕舞ってと。置き土産代わりに『ウチケシの実』を輝哉のそばに置いて。

 

 準備運動がてら屈伸して。

 

 気配がそろそろ背後にくるのを確認して。

 

 目の前の連中が?マークを浮かべるのも確認して。

 

 

 いくぞぉー♪せーのっ!!!!

 

 

 

 

「そぉおおおおおおおりゃああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 俺は、上空斜め上を目掛けて思いっきり飛んだ。一瞬にして目の前の風景が蒼海一色に染まる。今この瞬間、俺は空を滞空しているのだ。

 目指せ、あの雲の彼方へ!!誰にも追いつけない速度で滑空せよ、俺!!(完)

 

 

 ……なんてのは冗談で、もちろん重力によって下に落ちますよ当たり前だろ。あー空を飛んでみたい人生だったなー(棒)

 

 飛ぶ直前、“柱”達が驚愕の表情を浮かべていたな。──すまん、後はそっちで勝手に頑張ってくれ。

 輝哉、ウチケシの実食ってるといいんだが……。説明する暇なかったからな。あの黒い肌が多分狂竜ウイルスってこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 風切り音が後ろから聞こえ始めて4分程。

 一踏みごとに地面に小さなクレーターを開けながら、ふと後ろを確認してみる。

 感覚レーダー通りモンスター、『飛竜』が俺目掛けて飛行してきているのが見えた。

 

 

「あー。飛竜ね、うん。まあ予想はしていたけど」

 

 

 ここまでは予想どおり、近づいてくる速度が尋常じゃなく早かったからな。肝心のモンスターは、と。

 

「……あれライゼクスか。………ライゼクス。う…頭が」

 

 追いつかれない程度の速度で道を、森をかけ巡りながら、思いだし頭痛が起こり頭を抑える。

 

 あれは確か……2年前か。

 大型モンスターを倒し尽くしてきたあの年だ。

 飯用のアプトノスを狩っていた時に乱入してきたのを覚えている。んで、出逢ったそいつがまさかの『青電主』で……。結局撃退するのに猛烈に心身ともに消費して倒し切ったはいいものの、飯をその際に横取りされて、その晩はほぼ絶食だったなぁ。翌日はエピオスを狩って食ったけど。

 

 

「あの山で良いか」

 

 

 超高速で流れる風景の中、真後ろのライゼクスを誘い込むために真っ直線に見える山に誘導しようと試みる。

 なんとか追いつかれないように斜めに移動やらしているんだが、そろそろペンダントの充電が切れてきた。このままじゃいつか追いつかれて、道のど真ん中で戦闘する羽目になってしまう。そうなったら一般人が巻き込まれる可能性がある。……いや、こんな田舎みたいな場所で人がいるのか分からんが。

 

 まあでも、一応の保険はかけておきたい。俺の不手際で怪我をさせたらそれこそ申し訳が立たない。

 

 つーか、明治時代ってすげーな。こんな田舎みたいな風景が上から見たらいくつもあるんだから。現代だったらまずありえないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし」

 

 ある山、その山頂である。

 

「さあ、お帰りの時間だ。まあお前は目が覚めて間もないだろうけどさ」

 

 木が刈り取られて少し開けたその場所で、俺とライゼクスが相対する。

 会話が通じないのはわかっているが、俺はカッコつけるように目を細めてニヤケながら威圧的な台詞を言走る。

 

 

 

『GYAAAAAAAAA!!!!!』

 

 

 

 先制は向こう側。

 当たり前のように翼を羽ばたかせ、空中に対空しながら俺に電撃のブレスを浴びせにかかる。普通ならば避けるはずの攻撃なのだが、俺はそうしなかった。

 

 バリバリィッ!!と軽快な音を立てながら、体中に青緑の閃光が迸る。

 

 

「あんがとよ。これで………充電完了だ」

 

 

 人間には度の過ぎた現象を体現しながら、俺はそう言い、足に力を入れた。

 2年前、あの時はまだ電気による耐性はあったものの、少しの痺れがあった。それが隙となって『青電主』から危険な攻撃を浴びせ続けられたのだが。

 

 ──残念だったな。今の俺は電気への耐性は抜群だ。お前の電撃攻撃は効かねえよ。

 

 上を見上げる。

 

 

 目算10メートルほどの高さでホバリングする様に飛翔し、常に此方を付かず離れずという距離を維持しつつ。確実に射程外に自分の存在を置き、ライゼクスは維持していた。近寄るつもりは欠片もなさそうだった。呆れるほどに、有効で殺意の高い戦術だ。人間には出来ず竜には可能な戦術。

 

 圧倒的に理不尽。こっちには攻撃手段がない。

 

 半年前までの話ならばだが。

 

 

「対策済み、だっての!」

 

 

 力を込めた足で垂直に飛ぶ。電撃で強化した筋力の前では飛行など意味をなさない。ライゼクスと同じ高度に飛び、その翼に掴んだ。

 

 対等に、さらに楽に自分以外チートだらけでリアルゲーの飛竜を狩猟する方法など一つだ。

 

 

「地面に落とせば勝ちなんだよコンチクショウ!!」

 

 

 翼目掛け、抜刀した双剣でザクザク切り刻む。ライゼクスがそうはさせまいと体を捻じ曲げ、暴れ回るがもう遅い。切り込んだ切っ先はライゼクスの翼をボロボロに仕立て上げ、自らを浮かばす動力源を失わせる。

 

 動力源を失ったライゼクスが垂直に落ちる。俺はライゼクスの体を踏み場に利用して垂直に落ちる巨体から遠ざかった。

 

 空に浮かびどんどん狂いそうな平衡感覚をなんとか保ちながら、受け身をとり地面に激突。少しばかり痛みを感じる自分の体を確認しながら落ちたライゼクスを見る。

 

 

「おーおー。お怒りのご様子で」

 

 

 起き上がったライゼクスはその瞳で俺を見ていた。その眼には萎える事のない戦意と覇気で満ちていた。今にも輝きそうな程の命で溢れていた。それだけで、たったそれだけの直視だけで、俺の頬から冷や汗が浮かぶ。

 

 

 ──大丈夫。この命は奪わない。まだ清い。

 

 

 目の前で、闘志を燃やすライゼクスを見て俺は決める。

 

 

『GYAAAAA!!!!!』

 

 

 咆哮と共に、俺に突進してきた。その攻撃を軽く横に回避、その様子を眺めてから太刀を抜刀。狙い目掛けてその切っ先を向ける。

 

 

 直後、俺とライゼクスが同時に動いた。

 俺は足に力を入れ、電撃を体に帯電させて身体中へと回す。強制的に自身の筋力を増幅させる、その筋力を腕へ、足へ、

 

 

 

 

 

 “海電の呼吸 参の型 雷水全断“

 

 

 

 

 

 決着はあっけないものだった。放った剣筋がライゼクスの両足をめがけ、その腱を切断。支えを失った巨体はそのままその場へと倒れ伏した。

 

 

 

「悪いな」

「俺はお前程の奴に負けてやれるほど、もう弱い人間じゃなくなったんだよ」

 

 

 

 その言葉を発し、自分の今までの苦労を頭の隅で思い返しながら瀕死のライゼクスへと近づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……いつからだったか。命を頑張りながら殺し、自らのエネルギーのうちにしていくことに躊躇いを感じなくなってきたのは。いや、躊躇いなどはあの世界に来て1ヶ月と経たんうちに吹っ飛んでいたはずだ。

 

 けれど、自身を構成した信条はそのまま。今でもその誓いは忘れていない。

 

 

 ──命は誰であれ元々清い物。だから、その命を無下の扱うことは生命の冒涜と知れ。

 

 

 その誓いを忘れることは生涯無く、それが俺の呪いだってことはわかっている。

 だからこそ俺はこんな中途半端な狩りを続けているのだから。

 

 殺すのなら殺す。殺さなければ殺さない。そんな考えが頭の中をこんがらがっていたあの時期が懐かしい。

 

 けど、俺はこの道を選んだ。全ての生命に感謝する。そんな狂った生き方を。俺は選んだ。

 

 

 

 感謝しながら殺し、喰らい、救う。誰であれ、清い者ならば救う。

 

 

 

 

 

 

 なあ……そんな俺の生き方って狂っているのか?間違っているのか?

 

 

 

 

 

 

「まさか。()()()()()()()()()()()()()

 

 ライゼクスの足を治療しながら、俺は自問自答の答えを口に出す。

 

 

「誰だって中途半端な人間は長生きしないんだ。誰だってな。誰もが自分の生き方を一直線に決めてこの世を生きようとしている」

 

 

 そんな俺はなんだ?命を殺し、目の前にいるのが敵だと判断してなお、魂が清いものは救う?

 ……馬鹿馬鹿しい。

 

 殺すことに迷って弱肉強食の世界を生き抜くなんて幻想、叶うはずがないだろう。いつか早死にすんぞ俺。

 

「けどまあ……見ちまったからなぁ。生命の尊さを」

 

 それでもやめられない。ドラッグの如く、この生き方に快楽を覚える俺に嫌悪感を感じる。

 

 

 

「俺には心が無かった……んで俺の心を教えてくれたのが生命だったからな。せめて崇めるくらいの恩返しって訳だ。……気持ち悪いな俺」

 

 

 

 苦笑しながら呻き声を上げるライゼクスに包帯を巻き、見守るように横に座る。

 

 ほんと気持ち悪い、厨二病かよ俺。笑えるぞ。

 人の言葉を話せないモンスターの前で自分の人生について語るって、病んでんじゃねえか。

 

 

 

 

 

 

 1時間後、ほとんど足の腱がくっついたのを判断して俺はそのままライゼクスを向こうへ帰した。

 ──つーか、この個体『青電主』じゃなかったな。

 

 いつか、あいつも『青電主』になって帰ってくるのだろうか?それはそれで末恐ろしいが……なんとなく楽しみだ……

 

 

 これからどうしよーか?俺衣食住が一切合切ないんだけど。

 

 なに?山籠り?あーうん。

 

 

 生活パターンはこの世界に来ても変わらないのかよ……(泣)

 

 

 

 

 




 
 というわけで、またまた足の腱を斬ってクエスト完了。
 主人公も、モンスターの無力化には慣れてきたのだよ。


 それはそうと、15話ーーもとい第一章を終えました。


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幕間その1 その先の道へは

 

 ──風の音色、虫の轟き。

 耳を済ますたびに自然の醍醐味とも言えるあらゆる音が俺を和ませる。

 

「ああ……、今日もいい音だな……」

 

 僅かながらの幸福感を感じてはいるものの、すでに聴き慣れすぎた音だ。

 ただし、それは向こうの世界の生物の音。この世界……もとい『日本』の生物の音を聞くことは実に6年ぶりということになる。

 そんな懐かしめの音に耳を寄せながら、

 

 俺はここ五日間のことを思い返してみる。

 

 

 

 

 日本に降り立って俺が数えられている限り、5日の時が経った。

 

 初日、真夜中の森の中に転生し、ブラキディオスとの闘争ののち、乱入してきた鬼により事態がややこしくなり、この世界で初めて命が途絶える瞬間を見た。

 その後、しのぶと義勇によって(もう一人俺を担いだ奴がいたか?)強制的に鬼殺隊本部へと就寝中に連行。多少のハプニングを起こしながらだったが、なんやかんやで鉄鍛治によって託された本(ハンターノート?)を輝哉へと渡すことだができた。

 

 俺は今この世界で……この『日本』で何が起こっているのかを一切合切誤魔化すこと無く、周囲にいた連中に説明することにした。……理由は、まぁ無い。ただただとにかく知ってほしかっただけなのかもしれない。それかただ駄弁りたかったか。

 

 その最中にライゼクスが何故か俺目掛けて向かってくるのを感じ取り、鬼殺隊本部を壊滅させるわけにはいかないと判断し、無断で脱走。追いかけてくるライゼクスを山の中に誘導して、難もなく撃退した。

 

 結局、時間がなかったために輝哉と話し合うことができなかったことが悔やまれる。……昔、鉄鍛治と何があったのか、とか聴きたかったんだがな。

 

 まぁとにかく。これが日本に降り立ったわずか1日目の出来事だ。……内容濃ぃな。濃すぎ。吐きそうだわ。

 

 

 

 そして騒がし忙し戦いありの初日を終えて2日目。

 

 ライゼクスを返した俺は、即刻生命維持に大きく関わる“衣食住”を求めて必死に山の中を駆け回っていた。

 そんなもの、金さえあればなんとかなるだろう?と、言いたい気持ちはわかる。俺もそう思っていたし。

 だが、俺は異界人。しかも人など一切存在せず、弱肉強食がモットーの古代人が暮らすような世界で生きてきた俺だ。

 

 もちろんの事、そんな人間に金など一切ない。文字通りの無一文である。

 金が無ければ衣も食も住も確保することは超絶的に困難を極める。

 

 ならばせめて住だけでも確保しよう、と気合をいれて下山し空き家でも見つけようとしたが……。やめた。

 大量の武器、さらに肝心のソレが馬鹿でかい。そんなブツを背負って気軽に下山などして周囲の目に触れられでもしたら悪しき噂でも立てかれられない。

 できれば避けておきたい出来事だ。世界を救うのを手伝う、とか言っておきながら初っ端からそういう噂が立ってしまったらこっちの面目があったもんじゃない。

 最悪、敵視取られるぞ。俺が敵認定されて逆に狩られかねない。狩りにきたはずなのに狩られれる側になる。……何それ笑える、なんのジョーク?

 

 ま、まぁとにかく。

 

 考え抜いた結果、山籠りという結論に落ち着いた。その方が周囲の目を受けずに済むし、自足自給にはなるものの金を必要としない生活を送ることができる。

 ……つまり“サバイバル生活”というわけだ。

 

 

 

 

 ──……ダァアアアアッ!!!

 どうしてこうなる!? 俺が一体何をしたっていうんだ!?(巨大ブーメラン)

 

 ……いやまあ、ね。勝手に脱走したのは悪いと思ってるよ、大いに申し訳ないと思ってるさ。

 

 けどさ!?こう、仕打ちの限度ってあるじゃん!?安定した生活を送れると思ったのに!選択肢が圧倒的に用意されて無さすぎなんだよ!! 

 

 

 

 

 ………とか思いつつも、慣れというものはなかなかに怖いものだ。

 そんな愚痴をだらだら独り言のように呟いている最中、気がつけば俺は巨大な木を両手で持ち、ある場所へと向けて運んでいた。

 

 無意識だった。体が、本能の意思に従うように勝手に動いていた。

 

 ……いや、違うか。これただの社畜精神だわ。

 あるよね、こういうしょうもないことを言いながら体が社畜に染まっているせいか、気がつけばデスクに座ってPCの前に佇んでキーボードを死んだ目で叩いていること。

 …………あるよな?(疑問)あるよなぁ?(超疑問)

 

 

 

 

 

 3日目

 

 昨夜のうちに、何とか簡易的なマイホームをある洞窟の中に作成した。見た目は……まあまあの出来だと思う。原作『WORLD』の拠点のテントみたいなものが俺の目の前に佇んでいる。

 

 前のマイホームは、ボルボロスに完全粉砕された後に修復することが時間的問題で出来なかったから、その分この拠点作成にはかなりの念を注ぎ込んで作成した。あの時は、鍛錬する時間がとにかく惜しかったのだ。

 

 それはそれとし、今現状の問題はというと。

 

 ──モンスターの方だ。

 

 

 ここ数日、かなりの頻度で大型から小型までのモンスターたちが俺を目掛けて襲ってきている。

 ライゼクスのように何かの跡を辿ったのか?は、分からないが。ともかく、この3日目だけで実に数十体ものモンスターと戦う羽目になってしまった。

 ゴキブリホイホイみたいだ。……処理役が俺なのは解せん。

 

 中には、亜種個体もいた。どうやら、この世界に送られてきているモンスターは個体に分類されることなく何でもかんでも居るらしい。

 

 正直言って仕舞えば、──今のとこはそんなに強い奴はいない。

 

 いや、居たっちゃいた。だが、いっても上位個体レベル程度のもの。そんなに苦戦を強いることはなかった。

 

 ……とは言っても、疲れるものは疲れるのだ。この1日だけで何十回もの連戦、さすがの俺も寝る時間も惜しんで戦い続けるのに多大な精神力を消費してしまった。

 

 そんなわけで、真夜中の時間帯、落ち着いてきた頃にやっと就寝に入ることができ、この3日目は体内時間約1週間という感覚を感じながら終えた。

 

 

 

 

 そして4日目

 

 昨夜から就寝約3時間。耳をすませば聞こえてくるモンスターの遠吠えを目覚ましに、俺は閉じていた目蓋を強制的に開かされる羽目になった。

 

 

 初戦:『ババコンガ』難なく撃退

 2回戦:『ケチャワチャ』難なく撃退

 

 3回戦:『クルペッコ』お得意のマネマネの呼び声で何かを召喚。

 

 

 ──3回戦、もとい4回戦:『クルペッコ』『イビルジョー』いつもの最悪コンビ、居る世界が違ってもこいつらには嫌われているんだなぁと安心した。うん。(諦め)

 

 

 という流れで、4日目は初日よりかはそんなに襲われることがなく四体のモンスターを撃退。

 ──あ、勿論イビルジョーとクルペッコも撃退したよ? イビルのブレスで洞窟を破壊されかけたけどねっ!!

 

 

 まあ、この日はこれ以上戦闘を行うことがなかったから、食材調達がてらに山の中を走り回って食えそうな山菜や動植物をあさりに漁って後処理をするだけの日になった。

 

 

 

 

 

 

 そして、洞窟内で椅子に座り肉を焼きながら今の状況に至るというわけだ。

 

 「……思い返してみればロクなこと起こってねえな」

 

 誰にも届かない独り言を呟きながら、俺は目の前で焼き目をつけていく骨付き肉を眺める。

 パチパチと、軽快な音を立てて焚き火が真夜中の森の暗闇を照らしながら熱を出す。その熱を利用して血抜きをした骨の取手をつけた肉を焼いているのだ。

 それはさながら、原作の『こんがり肉』のようなジューシー感を漂わせており、落ちる肉汁が俺の食欲を引き立たせる。

 

「あぁ……明日も休みなしで戦い続ける羽目になるのか? やだなぁ……」

 

 遠い目(死んだ目?)をしながら先の見えない空を見上げた。

 

「……そいえば、鬼殺隊の方はどうなったかね? 一応、あの本にはモンスターの弱点やら俺が付け足しで書いといたが……」

 

 多少だが、不安だ。

 対人戦専門の鬼殺隊員はモンスターなどの巨大な敵を相手にすることなど……まあ、まず無いはずだ。

 

 その経験の無さによる結果が、“死”に繋がった、などとなってしまったら……

 

「……いや、考えるだけ無駄か。俺が今更どうしたところで何かが変わるわけでも無し……と」 

 

 

 寝転がりながら伸びをする。

 

 

 

 『後の祭り』

 まんまその言葉通りの言葉だ。

 俺は最適解を勝手に導き出して勝手に行動して今の現状を生み出した。そのことに以上も以下もない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 誰かが言ったか。人は必ず後悔する生き物だと言うらしい。

 いや?人に限ったことでもないか。生物全体に言えることなのかもな。

 なら、俺がその例外だろう。

 

 不安は感じているけども、()()()()()()()()。人を間接的に殺すかもしれない行為をしているにもかかわらず、後悔も()()()()のが一番の証拠だ。

 

 俺が認知しているのは目の前の命のみ。俺が興味を持つのも目の前の命のみ。

 そのことに変わりはない。今も、昔も。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「?」

 

 突然、森の奥からガサリと音がする。

 何だ?と思いながら音の下方向を眺めていると、

 

『……ヒヒィィン』

 

 鹿。

 それもかなり大勢だ。軽く10頭以上はいる。

 姿を現した理由は大体わかる。ただただ俺が焼いていた肉の匂いにつられてきただけだろう。

 

「食うか?」

 

 フッ…と少しばかり苦笑して焼けた肉を鹿の目の前に投げた。

 すると一頭が肉にかぶりつくに連れて、他の鹿も肉をむさぼり始めた。

 

「ははは!そんな急ぐなよ。まだまだ余ってるから焦らず食え!」

 

 少し生焼け気味だが、焼いていた他の肉も鹿の近くに置いてやった。

 近づく際に警戒したのか少し身を引いている奴もいたが、警戒することは無駄と判断したのか俺に身を預けてくる。

 

「お!ははっ!懐くな懐くな、くすぐったいって!ははは!!」

 

 俺の頬を舌で舐めてきた。舌特有のザラザラした感触が頬を撫で回す感覚がくすぐったくて仕方がない。

 

 ──うん、癒し。とにかく癒し。萌え要素大きすぎて半端ない。

 やっぱ大自然ってコレだよ。生前の現代社会じゃ絶対に感じられ無いもの。

 

 

 俺が唯一、一番大切にしてる──俺が唯一感じることができる幸福感だ。

 

 

(……さぁて。そうこうしてる間に何が起こるか──いつ状況が進展するかね)

 

 

 戯れながら、空を見上げ──俺はそんなことを思う。

 状況。進展。それは()()()()()()()()()()()()()()()()

 理解は重要だ。状況や先の事、人間関係だろうがなんだろうが、全てものは理解しなければ何も始まらない。

 

 そして、それが完了したら次のステップだ。

 

 

「……早くしてくれ。俺もう自給自足の生活はできるだけ勘弁したいんだよ…」

 

 

 ……進展願いが半分建前なのはツッコまないで頂きたい。

 

 

 

 

 そして──その翌日。

 

「鬼殺隊──元『隠』の今野 詩織と言います。御館様の御命により、貴方の監視をさせて頂くことになりました」

 

 その進行ステップのフラグは、洞窟内で研石で太刀を研いでいる最中に、一人の人間が目の前でそう名乗ったことによって立てられた。

 

 

 

 




 


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起源の2章
与えられた任


お久しぶりでございます。スレストでございます。
約2ヶ月、展開が思いつかなく執筆をサボっていました。反省はしている。だが後悔……もしている。
まあ、とにかく書いたんで見ていただけると幸いです!


 

「お館様直命の指令が届いたぁ!?」

「えっと、その、はい……」

 

 場所は、ある名前の無い森の中。

 そして、丁度この時間は晩飯時であることながら、与えられている仕事を中断し握り飯などを食していた女性の『(かくれ)』の隊員達。

 

 そんな時に、ある二人の会話が森の中を響かせた。周囲にいる隊員も二人に目を向けていた。

 

「ちょっ、何かしたの詩織(しおり)!?」

「いえ! いえいえ!!私何もしてませんよ!?」

「でも、お館様からの指令って……よっぽどの事がないとそんなもの私たちに届くはずないでしょ!」 

 

 声量を大にして話し合う二人の少女。

 話の内容が気になる野次馬の同じ隊所属である女性隊員も二人の周囲へと集まってゆく。

 

「そんなもの……私が知りたいですよ」

 

 俯きながらそう呟く少女──「今野詩織(いまのしおり)」は、実感がないように顔を下に向けながら掌を握りしめたり開いたりを繰り返している。

 

 鬼殺隊の非戦闘部隊で、事後処理や支援を専門とし、剣の素質に劣る者が任に就く隊──『(かくれ)

 剣士になり損ねたものが就く「剣士のサポート」を目的とした隊だ。

 

 仕事は先も言った通り、事後処理と支援だ。そして、その指令は基本的には階級が上の者、もしくは司令塔である上層部によって与えられる。

 

 だが、お館様からへの指令。それもただ一人に──なおかつ戦闘員でもない『隠』に向けられた指令など前代未聞の出来事だ。

 

「その指令書はどこ!?」

「……これです」

 

 懐から、綺麗に畳まれている紙をあせあせとしている友人へと渡すと、目にも止まらぬ速さでその紙を広げて黙読を始めた。

 気になって近づいてきた同僚の女性隊員もその後ろから覗き込むようにその紙を見ている。

 

 

「……指令内容は監視、期間は無制限で………尚、それにあたって『隠』ではなく『剣士』としての責務を与えるぅっ!?!?」

 

 

 紙を手に持っている少女は、その内容を簡潔に独り言のように呟いたと思ったら、最後の行だけを大声で叫んだ。

 それと同時に、周囲の隊士もざわめき始め、今野へと攻めるように近づいて来る。

 

「階級は甲、日輪刀などの物資は約1週間の日を開けて届ける……」

 

 体を凍らせながら読み終えたのち、ギギギ…と少女は首を機械人形みたく今野へと向け、概要を聞いていた隊員共々一緒に叫んだ。

 

 

「アンタほんと何したの!?!?!?」

 

「ですから私は何もしていませんって!!」

 

 

 

 

 

 

 今野詩織

 

 歳は17近く、髪は長すぎず短すぎずと言わないばかりのセミロングヘアーで体型は割と細め。

 頭の回転も割と早く、力仕事もできコミュニケーション能力も高いため、友人関係も豊富と言った割と現代では女子高生として大成功を果たしているであろう人間である。

 

 彼女は13の頃、順風満帆の生活を家族と過ごしていた時に、鬼に襲われてしまう。

 真夜中のたった十数分。家のなかを暴れ人を襲う名前も知らない鬼に、彼女は恐怖しへたり込んだ。

 幸いを呼んだのか、彼女の家は飲食店を経営しており、暴れ回っていた鬼によって壁から落とされた包丁でなんとか対抗することができた。

 その結果、颯爽と救援に駆けつけた鬼殺隊の剣士が鬼を倒し、九死に一生得たのだった。

 

 だが、助かったのは今野詩織とその親のみだった。

 

 彼女が慕っていた祖母と叔父が鬼によって惨殺されたのだ。

 そのことを知った今野は、泣き崩れ、いつしか鬼に恨みを持つようになり──そして、鬼殺隊の組織に入ることを決断したのだった。

 

 だが、現実は非情で力はあるものの戦闘技術が乏しかった今野は、育手に見放され『隠』の一員となったのだ。

 

「それで?朝起きたら側に鎹鴉が持ってきた司令書が入ってたってこと?」

「……はい」

 

 そんな彼女は、今現在同じ同僚の仕事仲間に押し掛けられ、身動きが取れない状況にいた。

 当然と言えば当然なのだ。天地がひっくり返るほどの出来事があったからにはその理由を知ろうとするものも少なからず存在する。

 

 ……知ろうとするものが隊の全員であるのはどうかと思うが。

 

 

…ねえ、やっぱり何か御法度を犯したんじゃ……」「あなたもそう思う?実は私も……」「こんな異令聞いたこともありませんし……

 

 

 ざわざわ、と並びに並んだ少女達から疑問と不信な声がぽつぽつと放たれる。

 怪訝な表情をして、だから違います、と言い返そうとする今野だが──

 

「はいはい!決まったことは決まったこと! そう言う指令がきたって言っているんだからそう言うことなんでしょ!!」

 

 行列の後ろから手で隊の少女達を押し除け、歩いてきた一人の少女によってその言葉はかき消された。

 

「日野さん……」

「理由はあえて聞かないわよ。そう言った指令が届いた、ただそれだけなんだから」

「だけど……ねぇ…?」

 

 再び、ざわざわと声上がる中、日野といわれる少女は大きな声で言い放った。

 

う・る・さ・い・! お館様でしょうが上の階級の人でしょうが指令は指令よ!文句がある人間はお館様にでも押し掛けなさい!!」

 

 その怒声と同時に隊の周囲が静寂に染まる。

 下を俯く隊員を眺め、頃合いだと言わんばかりに腰に手を当て、よし、と頷き──

 

「わかったならよろしい。今日はもう解散よ、明日も何があるのかわからないんだから早く寝なさい!」

 

 そう言い放ち、隊の連中が颯爽と解散したところで今野へと体を向ける。

 

「あなたも早く寝なさい。何があったのかはわからないけど、あなたに直接届いたってことはそれなりの理由があるってことなんだから。しっかり体を休ませて与えられた仕事に励みなさい」

「日野さん……」

 

 それだけ言って日野と呼ばれた女性は今野に背を向け去っていった。

 騒ぎを大きくしない為の配慮だったのを察した今野は心の中で感謝しながら寝床へとついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱりあの人……ですね」

 

 寝床についた今野だったが、やはり任のことが気になってしまうのか寝ることもままならない状態であった。

 鎹鴉が持ってきた指令書を文頭から見ては全て確認し、再度文頭から確認していくことを何回も繰り返している。

 

 その確認行動から今野は気づいた。

 

 数日前、『隠』の仕事の際にある森から鬼殺隊本部へと背負った男の名と監視対象の名が一緒なのだ。

 

「どうして彼の名前が? …もしかして何かの罪人?いえ……だとしたら本部に運んだ時、すでに裁かれているはず……」

 

 本部に運んだ際に、柱合裁判が行われていることを耳に挟んでいる今野は監視対象が罪人である可能性を考えていた。が、その考えに至るもすぐに頭の中では否定的回答が浮かぶ。

 監視対象ということは逃げ出した可能性が高いのだが、柱を相手に──それも9人総勢が集まったあの場で逃げ出せることは容易ではない。実質的に不可能に近いのだ。

 その“不可能だ”といった考えが、今野の頭を悩ませているのだった。

 

「……いえ、今日はもう寝ますか」

 

 考えるだけ無駄と判断した今野。「理由はどうあれ与えられた仕事に専念しましょう」と、独り言を呟き手に持った指令書を懐の中にしまい体を横にする。

 そして、ゆっくりと目をとじ頭の中を空にして意識を閉じた。

 

 

 

 

 

 

『…………………』

 

 真夜中の空、暗闇に紛れた浮遊する巨大な影には気づく由もなく……

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその晩。

 

「ねえ。詩織ってさ、次の任のために私たちと離れるんだよね」

「んん? まあ、そうよね。ほんと、何をしでかしたのか──」

「ということはさ、私たちのおやつを作ってくれる人って一体誰がいるの?」

「「「「「…………………」」」」」

 

 

 わーわーぎゃーぎゃー、と。

 ある寝床の一角でそんな騒ぎ声があった。

 

 

 今野詩織。

 彼女の作るスイーツ、総まとめして“料理”は隊の中でも絶品と評価されるものであった。

 暇の時間に食べるその時間は“至高の時間”だと言うものも多いため、皆からは“調理係”と勝手に決められていることに、今野本人は気付いていない。

 

 そして、そんな彼女が任のために駆り出されることは、その絶品を食す機会が多大に減ること意味するため──

 

「お館様に掛け合ってみない?」

 

 と、割とガチ目に開かれた緊急会議の提案からこんな案が出たのだった。

 

 

 それを実行しようとするものはいなかったが。

 

 

 





気づかないうちに、UAがあと5000で100000に届くのにびっくりしているうp主。
いや、ほんとにありがたいです、初めて100000に届くので感無量ですはい。

(モチベ上げてくれる方、良さげの感想よろしくです)ボソ…


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狩りの方法

お久しぶりっす。
思いっきりさぼり癖がついてしまって気がつけば6か月……

ともかく、すいません&新章をどうぞ(白目)


 手をつないだ。

 初めてつないだその手は、氷のようにひどく冷たく人の心地を感じなかった。 

 

「…………」

 

 目の前に立っている『人』を見た。

 その『人』の周りには何かを飲み漁った後の空き缶がゴロゴロと転がっている。

 『人』は自分を見ていなかった。

 

「……………………」

 

 『人』と手をつないで歩いている。

 場所は不明。だが、あたりが暗く街灯が光っているのを見て真夜中だとわかった。

 一緒に手をつないでいる『人』は、つないだ手の片手間に何かが入った缶を持っていて、その何かを飲み干した。一緒に歩いているのに『人』は足取りが不安定なことに疑問は覚えなかった。

 

「……………………ぁ」

 

 目を遮った。

 何故なら、突然自分の真横から目も眩むような光が自分を大きく照らしているから。

 後ろから声が聞こえる。数人の合わさった声が夜中の道中でこだまするのがわかった。

 

 でも、もう、どうでもよかった。

 

 諦めるように俺は……俺は──

 

 

 自分を指し照らす光に手を伸ばした。

 

 

 

 そして──

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「………ぁ、夢か」

 

 乾いた藁だらけの簡易型ベッドで意識が覚醒した。

 目を半開き──いやしっかりと意識は覚めている。十中八九、今見た夢のせいだ。

 

「ふあぁ〜〜……久しぶりに見たなぁ、あんな夢もう見ないと思ってたんだが」 

 

 テント内の懐中電灯代わりにしてあるビンに入れた光蟲を手で持ち、ランタンがわりにしながらテントを出る。

 洞窟内だと今何時もわからない。しかも暗い。光が照らさないから光合成もできない。

 

 …ここ拠点に選んだのミスったか……?いや、でもいきなりモンスターにマイホーム崩壊させられた件もあるし……(トラウマ)

 

 まあいい。それは今後の課題として。

 

「朝方だな。そして──今日で1週間経過、と」

 

 外に出て太陽光を真っ直線に浴びながら思いっきり伸びをする。

 やっぱ人間、光合成しないとな。体が腐っちまうよ。

 快晴で雲ひとつなし。今日も元気な太陽を眺めた後、そこらへんの木に正の字を一画付け足す。

 

 洞窟の中に戻り、テントの中から自分の武器とポーチを持って再度外へ出る。

 んで、ささっと洞窟を後にして食料調達をしてこようと思った矢先だった。

 

「…………?」 

 

 ……なんか視線を感じる。

 小型と大型モンスター特有のこう……圧迫されるような視線じゃなく、なんか眺められているような視線をビンビン感じる。

 

(素人か? 全集中使わないでこれだけ感じるって、見つけてくださいって言ってるようなもんだぞ)

 

 もはや、隠れんぼにすらならないくらい気配が溢れ出ている。

 場所としては俺の少し後ろ、おそらく木の影に隠れて俺を見ているのだろう。

 ……一応、殺気は無い。俺を襲ってどうにかするようなロクでも無い奴じゃ無いのは確定だとして……。

 

(可能性としては2つ。幼体のモンスターが俺を見ている可能性。もう一つが『俺自身に用がある人間が見ている』可能性か)

 

 どちらにせよ、確認は必須らしい。言っても、今この場でそいつの元に出向こうという気はない。

 なにが目的かはっきりさせるまではちょっとばかり泳がせる気でいる。

 

「っし! 今日も気合入れていくか!」

 

 妙にやる気が湧いて出てきた。目的があるとやっぱ張り切りようが違うのだろうか……てか、1週間森の中を歩き回って山菜どりやらなにやらしてたら飽きるか。

そりゃぁやる気も湧いてくるわな。最近はモンスターも来ないせいか猛烈に体を動かす機会も少ないし。鍛錬はなるべく続けてるけどな。

 

 走るように俺は洞窟を後にして森に奥へ向かう。

 今日はいい収穫がありますようにと密かに思いながら。

 

 

 さっさとこの日常的な状況に進展をくれ、とそう呟きながら俺は朝の森を駆け巡った。

 

 

 

「………………」ザザッ

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 昼ごろ。

 多分、木の間から見える日の傾きを見たところ、丁度飯時だと思う。

 状況といえば、全くと言える変わらず仕舞いで、未だに俺を見ている監視の目が一つあるだけだった。 

 と言ってもなかなか嬉しい状況で、これは“何か”ではなく“誰か”俺を見ているという証明になったというわけだ。

 何故なら、幼体のモンスターが俺を長時間──それも俺に気づかれないように監視する必要性など皆無だからである。よって消去法で可能性は後者の方へと確定。……のはず。

 

(てことは、鬼殺隊の誰かか?鬼は日の出てる時は出て来れないっていうし)

 

 人影は無いが視線を感じる感覚がなんとなく初めての感じでムズムズするが、ここで気づいている素振りをしてしまうと警戒されるかもしれないため、仕方なく無視。

 そして、昼飯時ということで携帯食としていつも持っている干し肉をポーチから取り出し──

 

「いただきま──」

 

 いつものように味わうよう、食おうとした矢先だった。

 

「……ぁ?」

 

 感じていた視線の感覚が消えた。……いや、違う。

 

 

「!!」

 

 

 異変に気づいて、俺は齧ろうとした干し肉をポーチに再度押し込んだ。

 そして、目を閉じて集中する。意識を自分の中へと。そして耳を重点にその集中力を結集させる。

 

(視覚はいらん。味覚も嗅覚も必要ない。聴覚だけに意識を集中させろ。音を聞き分けるんだ)

 

 風きり音、遠くで聞こえる川の水が流れる音、空を飛ぶカラスの音、森の中を悠々と歩いているであろう動物の鳴き声。

 全ての音が大音量で自分の耳をつん裂くように襲ってくる。鼓膜が引き裂けそうな痛みを感じながらも、俺は聴くことをやめない。

 

(グッ…!! 今聞き分けるのは動植物の音じゃ、ねえ…!! 人間だ。人間が発する音を聞け……!足音だろうが声だろうが何でもいい。それさえ聞ければそれを元に足を辿れるっ……!!)

 

 そして──

 

「っ!こっちか!!」

 

 ようやく聞けたちっぽけな足音を頼りに、俺は森の中を駆け出す。

 足で地面を踏み、手で行く道を遮る葉を払い除けながら全力疾走する。

 

『GYAAAA!!!』

 

 ついぞ聞こえた咆哮に足を止める。

 小型モンスターらしき咆哮だ。視線気づかなかったのは──

 そうか。狙っていた獲物が俺を監視している誰か、だから俺に向けられていた視線が消えたのか。

 

(ってことは、そいつが何かの小型のモンスターに襲われている可能性が高いな)

 

 クッソ!と醜態吐きながら俺は再び走り出す。

 気づかなかった俺も俺だが、問題は襲われているその誰かだ。

 もし、モンスターに抵抗ができる人間なら何とか堪えてくれるはずだが……それを容易くできるほどモンスターという生物は甘くない。

 肉食で小型のモンスターなら探そうと思えば割とどこにでもいる。咆哮で仲間を呼び寄せて物量作戦で押し切るような頭を使う奴もよくいるのだ。

 

 そしてさっきの咆哮、あれが仲間を呼び寄せるものだとしたら……

 

(一刻を争う状況か…………仕方ない)

 

 危機を感じ、走りながら、手を胸へと引き伸ばす。手のひらの行先は胸に掲げている青緑色のペンダント。電力を使ってしまうが……まあ、また充電しなおせばいい。

 

「ふぅ…………」

 

 呼吸を整える。さっさと見つけ出すためには俺が早く捜索するしかない。

 

「さあ、行くか」

 

 青い閃光が周囲を漂う。そしてそれは自身を纏い──

 ビシュンッ!!と風を切る音を放ちそこにいたはずの青い閃光は一閃となってその場を去った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「ぐ……ぅぅ……」

 

 暗く、先の見えない洞窟の中。

 一寸先すら見渡すことも困難なそんなトンネルのような穴の中を、2人の女性が歩いていた。

 一人は黒子のような格好をした怪しさ抜群のごく一般的(?)な女性、もう片方の女性は背に『滅』と大きく描かれた黒い服、鬼殺隊隊士常用の隊服を身に纏っている。そして、腰に刀を携えた剣士だった。

 で、それだけならばなんの問題もない?のだが、問題は刀を携えた女性にあった。

 

「しっかりしてください!! もう少しで休める場所に着くはずですから!」

 

 黒子の女性の心配する声が洞窟内をこだました。

 

 ポタッポタッ、と歩いていた場所に血の跡が滴っていく。

 肩先から腕の第一関節にかけて、肉が見えるほどの食いちぎられるような傷跡を負い、その女性隊員はあまりの激痛に意識を手放しかけていたのだ。

 そして黒子の女性は、その女性隊士が負傷していない腕を肩で持ち上げて逃げるようにいきなり襲ってきた何かから逃亡したのだった。

 

 ……その()()。負傷逃亡中の2人は『ただの化け物』としか認識していないようで、それが『モンスター』であることに気付いていない。まだ、海斗が産屋敷輝哉に渡したノートを複写しきれず隊全体に行き渡っていないのが事の原因であった。もし、行き渡っていたならば、初見で見るモンスターの第一印象の恐怖感を緩和できてこんな状況にはならなかったーーのかもしれない。

 それでも、起こってしまったことはもう覆せない。わずかな戦闘能力しか持たない彼女らには、生死の境目を彷徨っていることには変わりがないのだから。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

(咆哮が聞こえない、此処じゃないか)

 

 捜索開始から約10分ほどが経った。森の中を駆け巡って察知した足音の主を探るが、一向に見つかる気配がない。

 まさか、と最悪の予想が頭をかき巡る。が、それは幸にも外れているようで、森全体周囲のざわめきがまだ収まっていない。

 これはまだ獲物を捉えていない証拠だ。基本、モンスターは野生に準じていて狙った獲物は逃すことをしない。だからこそ、このざわめきは足音の主が生存している証明になる。

 

 とは言うものの、いまだに手がかりがないのは事実。これではラチが開かない。

 だから──

 

(考えろ。狩りの基本を思い出せ)

 

 俺は、闇雲に探すのをやめ、足音の主がとった行動を予想し、そこからそいつが何処にいるのかを探る方向へとシフトチェンジ。

 

 俺がまだ狩りの“か”の字も覚えていない頃、俺は一体何してた? 武器も持たず、対抗策もないあの環境下において俺は何を優先してあそこを生き延びた?

 思い出すんだ。恐らく、襲われている奴は狩猟の仕方をあまり理解していない人物。それはこの状況が示している。

 

 だからこそ、そいつの考えを逆手にとれ。そこから、そいつがとった行動が導き出せる。

 

 

 

(……………………そうか。そういや、俺もよくやったな)

 

 

 

 じっくり考えること数秒。

 たどり着いた答えに俺自身納得した。……ていうか、これ忘れてたのか俺。

 初心に帰るって大事だな、と駄弁り頭をガリガリ掻きながら気持ちだけ頭を冷やし、そして再び走り出す。ただし今度は電気を消費せずに走る。

 

 なに、簡単なことだ。これからするのは、今さっきやっていた隠れんぼの延長戦なんだから。

 

 遊びに本気出しちゃ、大人の面目が立たないんだよな。

 

 

 

 

 



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狩りの方法 其の二

お久しぶりで本当すみませんっしたぁぁぁあ!!!!(光速土下座)

はい。まずは謝罪の意を述べさせてもらいます。
約半年以上の間いったい何をしていたんだと。大勢の人待たせて一体全体この大馬鹿は何をしてたか。

ぶっちゃけていうなら、設定の見直しと執筆の技術上昇をしてました。
そして、完全なモチベの低下で執筆に手をつけれていませんでした。

すみません完全に自分の私欲のせいですマジですみません。(大事なことなので2回すみません)
文句を垂れるのは後書きでします。

半年ぶりの続きをどうぞ。



 

 

 

 自分が()()()なんて、知りたいと思う人間はいるのか。

 

 世界中という範囲の中で、それを知るという勇気を持つ者はいるのか。

 

 いや、この場合は居てもいなくてもどうでもいいのかもしれない。

 

 この世の例外を問わず、()()()()()()()()なのだから。

 

 他のだれもが、同じ色を持っているの()()()から。

 

『……みんな……■■色に見える』

 

 あの目のくらむような景色──いや、景色ではなくあの場合は視色か。

 

 誰もかれもが、皆同じ色をしていた。

 

『これは──()()()()()()()()()()

 

 だからこそ俺は知りたい。

 

 

『だったら今の自分は……一体……』

 

 

 今の時代を生きる自分が一体何色に染まっているのかを。

 

 願わくば、その色が()()()()()であることを祈って。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「これは……?」

 

 先のない洞窟だと思っていた。

 負傷した隊士を抱え、一生出口の見えない闇の中を歩いている気分だった。

 そんな先も見えない絶望的な精神状態を変えたのは、洞窟を3分ほど歩いてからだった。

 

「…………光る、虫?」

 

 ビンの中を飛びまわる黄色の光点。

 不規則に動くそれはしっかりと命を持った生物と感じさせるのには十分だった。

 

 それもそのはず。負傷した隊士を抱える黒子が今、目で見ている物は「光蟲」である。そして、明かりの役割を示すかのように黒子の先も一直線上に一定距離で続いている。

 

「…………」

 

 信用性などない。だが、洞窟と命の危機という暗闇の中で、この目で見ている事実は黒子に希望を感じさせるのには十分だった。

 

 覚悟を決めた黒子は導かれるようにその先を進み始めた。

 その先に救いがあることを信じて。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

海斗は、あてになる場所を探すまでもなく、ある場所へと向かって一直線に走っていた。

 

「答え合わせの時間だ」

 

 さて、この世のものとは思えない肉食生物に襲われなんの力も持たないただの一般市民が、追い詰められた状態で起こす行動とは一体どんな行動だ?

 例えで言う状況なら、「ゴールのない迷路の中でイビルジョーに追い掛け回されてる」といったほうがわかりやすいだろうか。

 

(……例えにイビルジョーが出てくる辺り、まだ俺が狩り初心の頃のトラウマが残っているんだなぁ……)

 

あの時は確か……そうだ、飯用の草食モンスターを狩っているところに乱入してきたんだ。

逃げに回った上にそこから怪我、怪我、大怪我のバーゲンセールを食らって──いや、この話はやめよう。過去に受けた傷が痛む。

 

 話を戻そう。というより、結論を語ろう。

 

 考え抜いた結果、答えは「かくれんぼ」となった。

 

(こればかりはなぁ……自分の経験則しか確信要素がないが)

 

 だが、目的を一つに絞って急ぐ理由もあった。

 

 

 おそらく、襲われている一般市民(?)は狩猟初心者、あるいは対抗する力すら持たないガチの一般市民。

 地面に飛び散った僅かな肉片と固まっていない血を見る限りはまだ無事といえるだろう。出血は中量ほどでショック死するほどのものではない。せいぜい貧血を起こす程度のはずだ。

 

 だが、それでも怪我は怪我だ。それに、心の──精神の問題もある。

 

 人間は、急な死の恐怖に直面した際には大体の場合は冷静になれやしないものだ。

 実際に俺自身もそうだったように。そのチュートリアルを経験することは自信を鍛える一環の一種だ。

 

 だからこそ危うい。

 

(………………)

 

 ……かつて、絶望知った男がいた。

そいつは周りが諦めようと泣き叫ぶ中、ただ一人でその手を止めなかった。

 

 結果、そいつは()()を乗り越えることができなかった。

諦めようと泣き叫んだ奴は日常に戻り、諦めなかった者は後に押し寄せた絶望に飲み込まれて戻ることはできなかった。

 

 人間の感情には許容量がある。一度に毒を大量に摂取するよりたびたび消費することで生存の確率は大幅に上がるように。

 一度に受ける負の感情が多ければ多いほど人は壊れやすい。

 

 この状況も例外じゃない。

 

 ()()という状況から突然危機に追い込まれれば、今出した例の二の舞になる可能性は否定できない。

 

 そして──

 

「安心ってことは、それだけ身を預けられる環境にいるってことだ。そしてそこは……」

 

 広大な()という絶対的野生物有利エリア。

 

 

 そんな場所にある安全地帯とは──

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ありえないものを見ていた。

 

「……小、屋?」

 

 洞窟内である。

 ……再度繰り返すが、洞窟内である。

 入口から約5分ほど、点々とした明かりに導かれた先で黒子達を待っていたものは白い小屋──というか白の布で三角形の立体物として置いてある簡易的な『テント』だった。

 黒子が目をこすり何度も目の前にあるものを確認するが、現実が変わらない。蜃気楼に惑わされたかのように瞼をパチパチと開けて閉じる行為を止められていなかった。不審と疑惑が彼女の心を蝕む。──罠か、という可能性は否定しきれずにいた彼女だったが。

 

「……ア、グウッ…!」

 

 負傷していた隊士から呻き声が意図せず呟かれる。

 そして。

 

「……ッ!」

 

 黒子の決意が固まった。

 不確かな現実を理解することより、目の前にある救いの可能性を選ぶことを選択したのだ。

 負傷した隊士に一言告げて、洞窟の壁に身を預けさせてから彼女は白布のテントの前に立った。

 そして、決死の覚悟で白布の扉を潜り抜けた彼女は目にする。

 

「これは……」

 

 箱の上に大量に陳列された透明な瓶の数々、敷き布団が藁で出来上がっている寝場。

 そして、壁際に背を預けている今まで見たこともない大量の武器、「大剣」「双剣」「太刀」を。

 

 異常な光景に圧倒される彼女だったが、そうも言っていられないことは彼女自身が理解している。

 ガサゴソガチャンと、すぐさま室内を手当たり次第漁りだす。目的は隊士の傷を癒すもの、応急処置に使えるものならばなんでもいいのだ。

 と、漁りをしていたその時だった。

 

 ザッ、と。

 

 外の方から、何かが動いた音がした。

 ──負傷しているはずの隊士が自ら望んで立ち上がるとは思えない!?と、確信が持った思考と共に黒子の体に緊張が走る。

 可能性は2つなのだ、「黒子を追いかけてきた化け物の足音」か「全く別の誰か」か。

 

「…………っ」

 

 黒子の頬に冷や汗が流れる。今この瞬間、黒子は死の気配に怯え身動きが取れないでいた。

 

 そして、ズリッという布擦れと共に審判の扉が開かれる。

 

 そして。

 

「お、マジか。本当に居やがったよ」

 

 審判の結果は後者。

 テントを建てた張本人、そしてそれと同時に救いの手である者。

 

「うん、やっぱ初心に帰るって大事なことだな。俺も一回自分の狩猟について見直さねえとなぁ……」

 

 イレギュラーであり狩人、別世界からの来訪者。

 流星 海斗がそこに立っていた。

 

 ……負傷している隊士を肩に担いだままの状態でだったが。

 

「…………ちょ、下ろして……くだ…さ……」

「その人は怪我人ですので!?下ろしてあげてください!!」

「お?ああ悪い、木材運ぶ時の癖でな」

 

 その時、洞窟内で悲鳴のような声が響いた。

 正確には、海斗が藁の布団に勢いを緩めること無く隊士を置いたので、傷に響いた痛みで出た叫び声なのだが。

 

 

 

 




はい、リハビリはこんな感じです。
あと前書きで文句垂れるとか言ってましたが、やっぱしません。
自分にそんな権利ないです()精々胸に秘めて枕の上で叫ぶことにします。
あと自分、書き溜めを作らないタイプでして。書くときは大体いい展開を思いついた時に書きます。うん言い訳ですね、マジですんません。

ということで、再度。改めて。
これからもよろしくお願いします。
完結もさせていきたいと思いますので見てくれる方も末長くよろしくお願いします。
(今日この前書きと後書きだけで「すみません」を5回言うことになった……)


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狩りの方法 其の三

最悪の悲報を乗り超えてここまで来た
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=258019&uid=264132


「咆哮は止んでない。追跡もなし、順調だな」

 

 森を駆けてはや数分、酷使し続けた俺の足と聴覚をようやく止めるときが来た。

 ザンッと地面で足を止めた音が鳴る。そして到着した場所を眺めると同時に周囲の確認も怠らない。

 俺は不安要素を少しでも取り除いておきたい繊細人間なのだ。

 

「地面の血痕もできるだけ土で隠してきたし、大丈夫だとは思うが……。一応、念には念を入れようか」

 

 ポーチから「消臭玉」を取り出して、辺りに3つほど投げ込んでおいた。

 ボンッという音と共に青い煙が当たりを埋め尽くす。

 これで血液の匂いがここ一帯に充満することは一定時間無いはずだ。

 ……多分な(調合仕立てで少し不安)

 

「さて、と」

 

 今いる場所は俺の拠点としてある洞窟前。

 腕を組んで洞窟内へと足を運ぶ。

 

 そして洞窟内を歩き始めてほんの少し、ものの1分ほどで決定的な物を見つけた。

 ……物、ていうかもはや人間なんだが。

 

「ぐ……うぅ……」

「正解、でいいんだよなこれ?」

 

 ズリズリと、地面で這いつくばりながら腕を動かしなんとか洞窟の外へと進もうと、もがく少女がいた。

 動かせていない腕を見ると、何かで裂かれたような傷口が肩先から腕のあたりまで伸びている。

 そして、傷口の種類。狩り数年の俺が、見てわからないはずがなかった。

 

(間違いない、こいつが血痕の主だ。傷口の正体は爪か?)

 

 まあとりあえず。

 生きててよかった。こいつは今日()()()()()()()

 

「おい、生きてるか?」

「……あ、なたは?」

 

 ……しゃがんで少女の顔色を見ると、血の気を引いている感じがした。

 傷口が体を動かすたびに開いている。見るからに痛そうだ。

 

「この洞窟の所有者(無許可)とだけ言っておくよ。それよりもここにはアンタ一人か?」

「……まだ、奥の方に、私を助けてくれた人がいます……。私が原因で詩織は危険な目にあって──だからは私は──っ!」

「そんだけ聞けたら十分だ」

 

 少女の唇に人差し指を当てて、その先の言葉は言わせないようにする。

 どうせ、自己犠牲で奥にいる誰かとやらから離れて、迷惑をかけまいとでもしようとしたんだろうが、そんなことは今はどうでもいい。

 

 俺は目の前にいる小さな命を全力で助けるだけだ。

 

「……出血多量だな。爪が骨まで達していなけりゃ応急処置も楽でいいが、細菌が入り込んでいる可能性も考慮しとくべきか……」

 

 少女を仰向けに倒して傷口を隅々まで見渡す。そこからこれからの処置を頭で組み立てる。

 いつものことだ。狩りと対してやることは変わらない。

 

「うっし、アンタ。これからちょっと俺の家まで運んでくけど、いいよな?」

「え……、あ、はい」

「よし。じゃあ──」

「あ、あの」

 

 持ち上げようとした少女の口から、たった一言が放たれた。

 あの言葉が。あの耳にこびりつく、俺の少し嫌いな言葉が。

 

 

「助けて、くれるんですか?」

 

 

 ……少しだけ。

 ほんの頭の隅っこの方で、俺の思考が目の前の生命を救うことを拒んだ。

 まだ、決別はつけられていない。

 

 救われるべき者、救われてはいけない者。

 その区別は、まだ俺の中で決着はついていない。

 ()()()()、ずっとだ。

 

(ああ、そういえば。人を助けるのは……10年前以来だったな)

 

 でも、今は。

 

 

「ああ、助けるよ。アンタが明日を生きれるまではな」

 

 

 許して欲しい。

 まだ、ケリはつけられていないけれど。

 否定を肯定しきれていないけど。

 

(今だけはこの命を助けさせてくれよ。……父さん)

 

 自分が()()かもわからない。

 まだ俺は、そこで迷っている段階の人間なんだ。

 

 

 

 

 そして、俺は少女を担いで洞窟内へと進み始めた。

 襲撃に備えて念のため感覚の集点を視覚に寄せておくことも忘れずに。

 

 ……はて?今なんか呻き声が耳元で鳴ったような……?

 

 気のせいか?(意識を目に向けてる為少々難聴気味)

 

 

 


 

 

 

 で、だ。

 現在地は洞窟内。

 俺の家(白布のテント。典型的なモンハンの簡易拠点)

 

「染みるぞ。すげぇ痛いから布、噛み締めとけ」

「…………ッッッッッ!!!!!ガァグッアッッッッ!?!?」

 

 声にならない声が俺の耳をツン刺す。めっちゃうるさい。

 

 今、俺は痙攣する少女の体を全力で押さえつけて、応急処置を施している最中だ。

 消毒液代わりに「解毒薬」を布に染み付けさせて傷口に押している。まあ、単純な消毒作業だな。

 ちなみに「解毒薬」が消毒液の役割を担っていれているのは元の世界で確認済みだ。抜かりなし。

 

 そしてこれ、塗ると沁みてめっちゃ痛い。んで飲むのも辛い。(なんかハチミツを5回ぐらい水で洗ったような味がするから)

 

「…………ふぅ。これで終わりな。コレ飲んどけ、少しは痛みも和らぐはずだ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 消毒作業、そしてその他諸々を終えた。

 痛みに苦しむ彼女に「栄養剤」と「ネムリ草」を粉状にした物を渡してそばを離れ、それを彼女が含むのを見たらテント内を出る。

 

「……終わりましたか!?」

 

 外に出ると、黒い装束の少女(?)が焦ったように俺に近づいてくる。

 相当気に病んでいたようで目からは涙めいた物が溢れかけていた。もしかしたら泣いていたのかもしれない。

 

「ああ、一応できる限りの処置は終わらせといた。止血はアンタがやったんだろ?正直助かったよ」

「いえ……、元はと言えばここに彼女を連れてきてしまったのは私です。あんな程度の償いじゃ、償いきれません……」

「そう言うなよ。肉食のモンスターと出くわして、あの程度で済んだだけまだマシだ」

 

 最悪、肉を千切られる可能性もあるからな。

 大自然は想像しているほど生易しくはない。 

 

「……処置は済ませたつっても、傷口を直したわけじゃない。消毒を済ませた上で、「活力剤」と「回復薬」を使ってなんとか回復量を維持しているだけだ。そのうち効果も薄れてくる」

「……それは承知してます。私もそう言う仕事はよくしていたので」

「理解が早いようで助かる。んでだ」

 

 報酬の話をしよう。

 

「……わかってます。でも……」

「ん?報酬を払うのは嫌か?」

「いえいえ!?そんなことはないです!むしろこちらは助けてもらった身です。私に出せるだけのものは出せるつもりだったんですが……」

 

 怪訝な顔をした彼女は実に不思議そうな目で俺を見る。

 そして彼女は、懐から茶色の布で包まれた物を取り出しその布を外す。

 

「こんなもので、本当にいいんですか?」

 

 それは、ほっかほかの米だった。

 三角の形状をした白く特徴的な日本特有の食い物。

 つまり「おにぎり」だ。

 

「いいんだよ。俺、まだ昼飯食ってねえし。物々交換ってやつでな。対価が金だけとは限らないってことだ、覚えておくといいぞ」

 

 素直に差し出されたそれを迷いなく受け取りながらそう言っておいた。

 実際便利だ。人との交渉の幅が広がるからな。

 まあこの場合は俺は物を出してないが。

 

 

『俺がお前たちを絶対助けてやるよ。もちろんちゃんとした報酬はもらうが』

『……っ、わかりました。出せるものはなんでも出します。ですから──』 

『なんでも?ああ、ありがたい。そんじゃ遠慮なく報酬の話をしようか』

『たす…………え?』

 

『報酬はアンタの懐に持っている食いもんをもらう。拒否は無しだぞ?さっきなんでもって言ったんだしな』

 

 

 以上が、数分前の黒子との会話だ。

 少々ゴリ押し的に交渉を勝手に進めたが、時間が惜しかったのが理由だ。

 怪我してる方のやつの出血を止めなきゃいけなかったからな。

 

 ……つーか俺にとっては金以上に価値があるもんなんだよ。

 前の人生で死んでから約6年。

 ……6年だぞ!?

 

 俺は、米を、食えていなかったんだよッッ!!(悲痛な叫び) 

 

 ほんと、今思い出していれば元日本人としてはありえない食生活だった……。

 毎日毎日食うものは肉か魚か山菜……。『肉肉野菜肉野菜〜』みたいな焼肉食うリズムじゃねぇんだよ。炭水化物をくれ、主食がねえのは明らかにおかしい。

 

「はあぁぁぁぁ〜〜…………」

「……何で泣きそうな顔で上を向いているんですか?」

「いや……ここまで色々長かったなぁ……てな」

 

 覚悟を決めて下を向く。

 実際マジで。

 冗談抜きに俺のおにぎりを持っている手が震えていた。

 

「……いただきます」

「ど、どうぞ……?」

 

 食前の一言は忘れてはいけない。

 

 ……以上な緊張感が洞窟内に響き渡っているような感じがした。

 こんな緊張感初めて大型モンスターと会った時以来な感じがするぞ……。

 

「………………」

 

 ゴクリと、喉で鳴る音すら耳に入ってこない気がした。

 そして、震えた手でおにぎりを口へと運び。

 

 白い三角の巨塔は俺の口へと含まれた。

 

「……………………………」

 

 モグモグと一口。

 二口目。

 あっけなく三口目で手に収まっていたはずのおにぎりは無くなった。

 

 そして。

 

 

「………………」

「何で無言のまま上を向いて涙を!?ちょ、あの!?本当にどうしたんですか!?」

 

 

 この日。

 暗い暗い洞窟の内で透明な雫を静かに眼から流しながら。

 俺は食事の有り難みを本当の意味で思い知ることになった。

 

 

(マジでこれからは、食事に感謝して生きていこう)

 

 

 ちなみに、おにぎりの具は梅干しだった。実に美味しかった。

 

 

 


 

 

 

 

 シュキンッシュキンッ、と。沈黙の中で金属音が響く。

 何の音かといえば、海斗の持つ太刀と研石がぶつかり合って響いている音だ。

 

 行動の発端は、海斗が唐突に『怪我人が回復するまで暇だからテントの外で武器の手入れしよー』という考えが思いついたからだ。

 そう。――時間は有効に使おう!有限なものだから!と。

 海斗はそういった効率重視な行動原理で動くような人間なのだ。

 

「あの」

「ん?」

 

 手入れを施している最中に、隣で海斗の手入れの様子を見ていた少女が声をかけてくる。

 

「流星 海斗さんですよね。先刻にあった柱合会議で暴れて回ったあの」

「……何でそれ知ってるかわ知らんが、まあ俺で合ってるぞ」

「やっぱりそうでしたか」

 

 そして、一拍。

 少女が海斗の前に片膝を跪き。

 少女は言った。

 

「鬼殺隊──元『隠』の今野 詩織と言います。御館様の御命により、貴方の監視をさせて頂くことになりました」

 

 海斗の目が見開かれる。

 

 ――……驚いた。

 まさかまさかだ。

 死にかけていた少女の連れが次のステップのきっかけとは思いもよらなかった。

 

()()は時間が経てばすぐにお前へと届くだろう。海斗よ、それまでは暇でも潰すといい』

 

 ラギアの言葉を信じて海斗は、あの柱合会議とやらの後をひたすら暇を潰して待った。

 その最中、主に行ったのは生活の確立。衣食住の安定化をメインにこの5日間を過ごしてきた。

 ……まあ、途中大型モンスターと対峙をしたりもしたが。

 

 まあ、それは仕方ないって感じで結果オーライってことにしよう。と、海斗は楽観的思考に切り替えた。

 

「あー……なんだ、その。よろしく?」

「……驚かないんですか?」

「いやまあ別に、自己紹介って感じだろ」

「そうですが……あの、あなたの今の状況わかってます?――監視対象ですよ?危険人物だと思われているんですけど」

「そりゃぁまあな。先週あれだけ暴れまわったんだ。指名手配されてようがどうも思わねえな」

 

 気楽に語る海斗だが、その内心では少しだけ後悔があった。それすなわち。

 ――深夜テンションに身を任せすぎたァ!!と。

 

 海斗が()()()()に来たのは、約1週間前。

 そしてその前。()()()()にいた際は、()()していたのだ。

 

 ――そう、5徹してから即、()()()こちら側にきたのだ。

 

 なるほど、それはしょうがないとはなるだろう。

 いくら前世で社会人やっていようが、5徹もすればテンションもぶっちぎって1週回っておかしくもなる。

 眠くなければ、ブラキディオスを倒した後に速攻寝ようなんて行動はしないのだから。

 

 だが、それは海斗の中ですでに消化された(できてない)出来事。

 彼とて常に前を進む狩人。

 その程度のことでメンタルをボロボロにしていては進めやしないのだ!

 

「一応聞きたいんですけど、なんでそんな天上人(かみさま)にケンカを売るような真似を?」

「喧嘩打ったつもりはねえよ!?あれは俺の素だ!!」

 

 ――徹夜テンションが入ってるから余計な!と。

 人と話すことが実に4年ぶりの感覚なことに酔いしれながら。珍しく海斗が怒号を上げた。

 

「なおのこと正気を疑いますよ!! 柱ですよ!? 鬼殺隊最強を誇るあの御仁たちですよ!?」

 

 ――どんな神経をしたらそんな神様も恐れないような行動に出れるんですか!?と、詩織は声を荒げた。

 それもそう、普通の隊士から見たら彼らは尊敬し、畏怖する対象そのものだ。

 

「それいったら、俺も自称だが最強だっつの。少なくともあいつらとタメ張れるくらいにはな」

「……あなたが、ですか?」

「ありえないような目で俺を見るな。てか、危険人物認定されてる地点でその可能性は十分あるだろうが」

「いえ、危険人物認定されているのは――」

 

 ――あなたの行動が異常だったからじゃ。という詩織の反論は、唐突に少女の口をふさいだ海斗によって遮られた。

 何をするんですか!?、と詩織が海斗に視線で抗議するが……

 

(…………ッ!)

 

 先ほどの雰囲気とはあまりに変わり果てた海斗の様子に絶句する。

 ――静かにしろ、と。

 海斗の目は少女にそう告げていた。

 

 数泊ほど経ち。

 

 少女は怯えたようにゆっくりと首を縦に振り、それに応じ海斗が手を放す。

 

「……おそらくだが、奴らが来た。お前らを襲ったやつだ」

 

 ――そんな!?と、詩織は声も出せず内心で絶望する。

 知り合いの隊士が一撃で戦闘不能になるほどの得体も知れない化け物。

 それが数匹。逃げられたのが奇跡というものを……

 

「安心しろ、お前らの身は俺が預かっているんだ。絶対に危険な目には合わせねぇ」

 

 俯いた詩織に声をかける海斗。

 戦闘モードに入った海斗は、もはや詩織を眼中に入れていない。

 あらかじめ、五感を聴覚に集中していたのが正解だった。

 洞窟外で起こった音、わずかな足音を聞けたのだ。

 それがモンスターの類だと、詩織たちを襲ったモンスターだと分かったのは、わずかな重心のずれから発する個体別の足音を把握し、聞きわけたからだ。

 

(数体……5、6匹ってとこか。ジャギィ系の足音なのはかくれんぼの最中で把握している。問題は――)

 

 ――どうやってこの場所を特定したか。

 ケアを怠ってはいなかった。最善の注意を払い、この場へと足を踏み込んだ。

 海斗の思考は極的に集中を増す。

 果たして、答えは出た。

 

(なるほど、植物のズレか。確かに、それは直してない――いや、直しようがないな)

 

 動物、人物が通った時に生じる植物の移動。

 枯葉や芽を踏んだ際に起こる、何かが通った際にしか起こらないそれを()()()()きたのだと。海斗はそう理解した。

 

(……全く、さすがだな。本物の野生ってやつは)

 

 それは神業を行うに等しい行為だと、海斗は追っ手に称賛する。

 モンスターとて、野生そのもの。さして。それを狩ることを生業に生きている()()は。

 

「ホント、さすがだよッ!」

 

 凶悪な笑みで、武器を取り洞窟の外へと走った。

 

「あ」

「そこにいろ!俺が何とかしてくる」

 

 着いていこうとした少女を、海斗が引き止める。

 力にもならない人間を連れて行っても何もならないから。

 詩織が女の子座りで時間が流れている間に。

 

 もう、海斗の背は見えなくなってしまった。

 

 詩織にはどうしても不安だった。

 ――最悪、自分のせいでこの人は死んでしまうのではないか、と。

 

「私の、責任です」

 

 そう思った時には、少女の足はすでに動き始めていた。

 

 

 

 




後半で書き方が変わっている感じがすると思いますが、これが前で言った自分の書き方の確立の結果です。
多分、今後たびたび見かけると思うのでご了承を_(._.)_

(実際結構書きやすいししっくりくる)


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敵と天敵と狩人

最早言うことなどない……

――あるとすればただ一言
「就職活動がつらいです……(瀕死)」


 ──戦いの場に放り出され、最初に戦った相手は誰だったか?

 彼、自称『狩人』こと流星 海斗は自分に問い、その答えを光速の思考で編み出す。

 

 言うまでもなく──それは『環境』そのものだと。

 

 手ぶらかつ、心の準備すらしてないまま放り出された究極の狩猟場(かりば)

 その最初手。彼に降り注いだ最初の試練は、食料問題と生活問題だった。

 サバイバルの基本だ。彼自身も()()()()での飢えは多少なりとも経験したことがある。

 その危険性は理解していたのか、即座に取り掛かったのはそのような問題だった。

 

 だが彼は仮にも転生者。

 ──そんなもの、原作の知識があるのなら簡単に解決できる問題なのでは?

 なるほど、当然の問いだ。

 

『ラギア……クルス……!?』

 

 思い出される6年前の記憶。

 初対面(しょけん)でラギアを把握した地点で、勿論のこと彼は『原作(モンハン)』を楽しんだことがある側の人間。

 前世では、意外とガチ勢を名乗れるぐらいにはいたるところの知識はある彼。だが──

 

 ()()()で知ったアイテムのシルエット。

 だが、実際に見るアイテムの植物を見て一体どうやって()()()、そしてどう()()()

 

 そう例えば、だれもが知っている『アオキノコ』や『薬草』をどう見分け。

 必須ともいわれる『回復薬』をどうやって調()()()()、と!?

 

 ……ここまで語ればもうわかると思うが、彼が持つ知識は所詮(しょせん)──二次元(ゲーム)での知識でしかない。

 

 三次元(リアル)()()()()()()()は知識として持ち合わせていない!

 

 ……というわけ、で。

 彼の狩り初め(ゲーム)は、転生者特有の()()()()()()()()()ではない。

 ルールを把握し、データリストの空きにまっさらなセーブデータを作った──

 

 ()()()()()()()()()()であった……。

 

 その非常な現実に気づいた時の彼の心情は──

 ……はっきり言ってしまおう。

 ──無理ゲーすぎんだろふざけんなよ馬鹿野郎、だ。 

 

「あー……懐かし。あの時の期間が滅茶苦茶大変だったよなぁ」

 

 ──今も色々大変だけどさ…主に生活面……と、彼は独り言にそう付け足しながら洞窟の外へと足を踏み出す。

 

 彼のいる世界とは、だれもがうらやむような俺TUEEEE(すでにさいきょう)系やほのぼのしたゆったり生活系では断じてない。脆弱な現代人(にんげん)の身で熾烈極まる環境に適応し、それを超えてなお自身の命を懸けることが前提とした狩りへの試練が許される世界。

 そんな世界を、彼は死に物狂いの努力と、()()での経験値を駆使し自分自身の精神、体術、持ちうる技術を完全に理解した上、把握することで地獄のような現実を生き延びることができた。

 

「そういえば、最初に戦った相手も『ジャギィ』系だったか」

 

 彼は環境に適応した後、最初に戦いそして、あの世界で最初に奪った命のことを思い出す。

 

「大型系も初めて殺りあったのは『ドスジャギィ』だったな。まあ、やたらと気味悪い縁があることで……」

 

 呆れながら。実に緊張感のかけらもなく。

 目の前で自身を囲みこんでいる()()()にむけてこう言い放った。

 

「なあ、そうは思わねえか?お前らもよ」

『GURU....!』

『GUGAA!!』

「ありゃ、思わないか。まあ、俺があっちで戦ったやつとは明らかに違う集団だしな」

 

 どうやってか、それらの意図を悟り海斗は独り言をつぶやく。

 と、同時。

 

『GUGAAA!!』

 

 洞窟の入り口周辺を5、6頭でふさいだジャギィの群れ。の、さらに奥に佇む一頭。

 それを統率する明らかに他よりも大きく、皮膚の色が異なる個体「ジャギィノス」が吠え──

 瞬間、空気が一変する。

 海斗を取り巻く全ての敵が、臨戦態勢に入ったのだ。

 人間の身である彼に放たれるは、殺意。

 理由などはない。ただ、戦い合う相手に放たれる『必ず殺す』という意思の塊だ。

 ──が、海斗は動かない。動じない。

 

 それらが放つ鋭く、絶対的で極大な殺意を。

 

(おーおー、いい殺意を向けてきやがる。流石、どこまで行っても相変わらず純粋な生物(やせい)だことで)

 

 ただ一人、海斗は冷静に受け止め。

 そして──

 

「ははッ!いいねェ!!」

 

 狂気的に(わら)いながら。

 ただ純粋に。楽しむように自身の肩に下げたそれを引き抜いた。

 

 大剣──雷迅剣ラギアクルス

 

 人間が持てる限界まで巨大化させたような剣を竹を持つような気軽さで肩に担ぎ。

 

「じゃあ始めようか!俺らの命と()()をかけた戦いをよぉ!!」

 

 目の前に立つ敵に向けて、開戦の宣言を放った。

 ジャギィの群れが海斗のもとへと襲い掛かる。

 ──六体いたうち三体はその場から前へと飛んで上空から攻め、二体は逃げ場を断つため左右から海斗の様子を窺っている。その場から動くことはなかった残り一体はその集団のボス格なのだろう。

 集団が持つ意思疎通能力とでも言うのだろうか。どの個体も事前に何かを相談しているようには見えなかった。

 

 そして、ジャギィが攻撃を始めると、同時。

 海斗は自身の胸に常備下げている凝縮固させた雷光虫ペンダントを左手でつかみ。

 ──自身の体を通して、電流を右腕に持つ大剣へと帯電させた。

 

「海雷の呼吸」

 

 バチバチィッ!!と、昼間だというのに眩しいと思うそれは、青き閃光を放つペンライトのようだった。あえてそれの安全性を根本的に違う点を挙げるなら──それは常人が触れた瞬間、()()()する程度の電流が迸っていることか。

 ……そんなスタンガンよりも危険極まった凶器を海斗は上空へと投げ飛ばし──

 

(じゅう)ノ型」

 

 自分のすぐ横。

 ただの土の地面の上に、思いっきり()()()()()

 

地雷源(じらいげん)──天光(てんこう)!」

 

 ──さあ、潜り抜けてみろ。

 

 

 

 


 

 

 

 

“海雷の呼吸 拾ノ型 地雷源”

 

 俺が扱う海雷の呼吸、その最後の型の名前だ。

 海雷の呼吸で唯一、地上戦に向いている技でもある。

 体内で帯電させた電気を武器へと移し、それを地面に突き刺すことで電撃が地面を這い回り俺自身すら、どこかもわからぬ場所で吐き出された電気の塊はその場にとどまる。

 相変わらず、原理などは技を繰り出す俺ですら理解ができていないが、一つだけ言えることがある。

 

「この技に関してはなぁ……、いや全部の型に対して言えるか。俺以外が触れると死にかねねえんだよな」

 

 この技を出したら最後、戦場には触れてはいけない場所が生まれる。

 

「で、だ」

 

 不意に後ろを。

 ……さっきから気になりすぎている洞窟の入り口をジト目で見ながら呟く。

 正確には、洞窟にいくつもある大岩の()をだが。

 

「来るなって言ったんだが。なんでついてきたんだおいバカ」

「ひぅやあぁっ!?」

 

 ……今野 詩織だった。

 俺が光速で彼女の背後に位置をとり、怒り1割と呆れ9割で罵倒込みの台詞を背後から話しかけた瞬間、お化けでも見たかのような叫び声が響き渡る。

 まるで未確認生物でも見られるような目で見られてしまった。泣きたい。

 

「……様子から見るに、心配だからついてきたらしげだが。だからってホントに来るかよ?感情に身を任せすぎたらいつか痛い目見るぞ」

「っ……」

 

 今野が体をビクッと震わせた。どうやら図星らしい。

 

「まーいいや。別に攻めやしねえし、アンタが選んだ選択に文句はつけねえよ」

 

 自由に見物するなりなんなりとしとけ、と言って俺は意識を前方──ジャギィ達へ戻す。

 

「あ」

「安心しろ。言ったはずだぞ」

 

 刹那、正面特攻してきたジャギィ一匹が。

 

「絶対に、助けてやるってな」

 

 バジッバジリィッッ!!!と、何もなかったはずの地面から青い閃光が駆けた。

 それは天に届く雷の柱のようだった。

 咆哮すら上げられずに黒の肉塊となったジャギィを横目に俺は語る。

 

「【地雷原 天光】。この技は地上で根を張るように張り巡らせた電撃の塊を、その上に立つ敵に放つ技だ。言い得て妙ではあるけど、本物の地雷のようなもんだな。まぁ、俺自身どこに()()があるかわわかんねえが、とにかくそれも込みでとにかく扱いづらい技なんだよ、これは」

 

 静電気で跳ね上がった頭をかきながら俺は隣に目を向けた。

 ──今もどこにあるかなんぞ検討すらつかねぇ。

 隣にいる詩織って奴のすぐそばにもあるかもしれないし、最悪俺のすぐ側にも設置されているのかもしれない。まあ、俺の場合電撃は効かないんだけども。

 

「さぁて、お前らはどうする?玉砕覚悟で俺に突っ込むか?それとも、このまま逃げ帰ってもう一度俺の隙を待つ、か?」

 

 様子を見るように、俺は前方に佇むジャギィ達に目を向ける。

 そして。

 

『『GAAA!!!』』

 

 ああ、わかってたさ。

 ……この技を使うときは、牽制用でもあるが実際そうやって使っても敵が止まることはなかった。

 何故なら。

 

「流石だよ、野生」

 

 こいつらの中には、戦いしかない。

 勝って逝かなければ、自分の強さで生きてゆけない。

 だから、いつも止まれないんだ。()()は。

 生き抜くことをやめてしまえば、その時は。

 

 自分が死んでしまうかもしれないと、体ではない、心が死んでしまうと思ってしまうから。

 

 それほどまでに、戦いの中で生きてきた俺達は、どうしようもなく野生なんだ。

 

 


 

『『GYAッ…!』』

 

 一刀、であった。

 

「流石だよ、野生」

海斗の口から言葉が放たれた刹那、青い閃光が周囲を照らした。

その一瞬は、海斗に目を取られていた詩織ですら捉えることはできなかっただろう。

スッ……、と音すらならず水を手ですくうような滑らかな動きと共に海斗の体は光速を超えたかのような動きで襲い掛かったジャギィたちの首を刈り取ったのだ。

 

「さてと」

 

 ドサリ、と命が墜ちる音と共に海斗は言い放つ。

 

「選択の時間をやる。わかったと思うが、お前らが束になろうが俺に勝つ可能性は1割もないぞ」

『GURU…』

 

 集団の長であろうジャギィノスが唸る。 

 森林の間を吹く風が周囲の音をかき消そうが殺意の渦の中にたたずむ者たちが生む重い空気を吹き飛ばしてはくれない。

 時は一刻と過ぎてゆき、やがて。

 

「さあ、あきらめて逃げかえるか玉砕覚悟で命を捨てて向かってくるか、選べよ」

『GURU……ッ』

 

 海斗が放ったその宣言が場の決着をつけた。

 

 『挑戦者』という例外を除いた者以外、絶対的強者には誰も立ち向かいはしない。

 なぜなら彼らは生き抜くために戦うのである。

 『野生』というのは、誰もが誰も戦うためだけに存在しているのではないのだ。

 

 何かを守るために振るわれる力もある。

 

 


 

 

時と場所は移り変わり、山のふもと付近

 

 

「……正直助からないと思ってました」

「それは、俺の力不足のことを指していいのか?だとしたら少し凹むんだが」

「あ、いえそうじゃないんです。貴方の力は前に見たことがあるので」

 

 あ、よかった。こんだけ時間かけた(6年)うえでまだ守る力に値しないとか言われたら俺泣いてた――

 

「心配していたのは、貴方の人間性についてです」

「唐突に辛辣すぎじゃないかオイ?」

 

 前言撤回、泣いていいかな?泣いていいよね?泣いたほうがいいよね?

 普通に人間としてじゃなく、元社会人として泣いたほうがいいよなこれ?

 ほぼ初対面の人間に、「精神面が心配です」なんて言われたのは人生長しといえど俺は初めてなんですが。

 ……いや、俺の場合人生二度目か。

 

「いや、でも……言い方少し悪いかもしれませんがとても社会適合者とは言えない風貌といいますか何と言いますか……。そもそも柱合会議の場で大暴れをする人の神経をまともと言っていいとは思えなかったので……」

「風貌に関しては生まれつきだし、この眼も髪も人生送ってきてからは一度も変えたことはねえよ。なんだったらそんな機会すらなかったよ」

「大暴れした件については?」

「それに関してはマジですまん。深夜テンションでのおこがましい事故だ」

 

 と、まあ。

 軽口(俺にとっては結構心に響いた)を叩きながら俺と詩織は山を下っている。

 詩織の背には負傷した隊士が眠っておぶられているところだ。浅い呼吸を繰り返して目を覚ます様子はない。

 

「あの怪物……じゃなくてジャ、ジャギィ?でしたっけ?いいんですか、あんなモノたちを倒さないでいておいて」

「アンタは『戦意を喪失した少年少女を殺せ』とでもいうのか?近頃の戦争界隈でもそんな狂気的発想にはならないと思うが。命を奪う感覚が麻痺してるのか?」

「ですが」

「俺も、あいつらも、あの場に存在してる地点でたった一つの命だ。それは、お前らが憎むべき対象にしている鬼とかいう奴らも例外じゃない」

「…………」

 

 忘れないようにな、と俺は当たり前のように語り、会話の流れを切り崩す。

 

 ――これが俺の価値観だ。

 戦う相手がどんな者だろうと、例えソレが怪物だとしても。

 俺の眼にはその全てが平凡な『生命』に見え、そして同時に自分も同じモノであるということを理解している。弱者や強者の『生命の価値を決める』ものになんか興味はない。俺がいつでも気を引くものは『そこに在る生命の鼓動』のみだ。

 それ以外のものには、あまり興味が沸かない。

 

「というか、ホントにここで会ってるんだよな。病院の場所って」

「病院……というより治療院みたいなものですけど、場所で言うなら間違っていないと思います。ここに到着する前に周辺の地図などには目を通しておきましたから」

 

 そりゃ上々。優秀な人材がいる組織はほんとにいいもんだ。鬼殺隊がここまで鬼に殲滅されず生き残っている片鱗を垣間見たわ。

 ……うちにもほしかったなぁ、優秀な人材。

 

「にしてもこっちが驚いたよ。まさか――」

 

 会話と同時に山のふもとへと到着する。

 目に留まるものはとても大きな屋敷だった。

 

「『蝶屋敷』だっけか?俺が拠点にしてる山の裏側にまさか鬼殺隊の基地があるとは思わなかったぞ」

 

 ――蝶屋敷の裏山。 

 俺がいそいそと1週間の間拠点化していったその場所は鬼殺隊の治療院だったというわけだ。

 ……いや、わかるわけねえだろそんなもん。びっくりしたわ。

 

『え、この山を下りるとすぐそこに蝶屋敷がありますけど。知っててここを拠点にしたんじゃないんですか?』

 

 真顔で詩織に衝撃事実暴露された時まじで「は!?」って言ったからな。

 ……まあ、結果的には負傷している奴の治療場が見つかってよかったが。

「ごめんくださいませー」

 

場所は変わり、蝶屋敷前の玄関。

 

 鬼殺隊での顔がある詩織に「対面もろもろを任せた」といって俺は外に立っている。

 足音が遠ざかっていくのが聞こえたあたり、どうやら負傷した隊士を屋敷内に入れることができたようだ。

 んで俺は、山のふもとにある病院みたいなもんだから「田舎のように静かな場所かなー」なんて思っていた矢先だった。

 

「女の子と毎日キャッキャキャッキャしてただけのくせになにやつれた顔して見せたんだよ!土下座して謝れよッ!!切腹しろッッ!!」

 

 ……どうやら思い込みが深すぎたようだ。病院は病院だったらしい。ていうか騒がしさの点で言ったら戦場病院と同じレベルだ。非常にやかましい。

 ギャァギャァギャァギャァと、揉め事のような声の応酬を目を瞑りながら「うるさいなぁ」と思っていると土を踏む音が近づいてきた。

 

「あら、何か御用ですか」

「ん?ああいや、連れの用でついてきたんで別に俺は――」

 

 頭をかきながら振り向いてそう答える、が。

 ここで俺はしっかりと思考を巡らせるべきだったのだ。

 ()()()()()()()()()()()

 この2つのキーワードをもとにしっかりと考えておくことができていれば、このような悲劇にはならなかっただろうに。

 

 そうだ。

 

 『蝶の羽織』を着た『鬼殺隊』の隊士について思い出せていれば。

 俺はコイツに会わなくて済んだものを。

 

「御用でしたら、中へ案内しますよ?しっっかりと用件を聞いてあげますので」

 

 鬼が立っていた。

 こめかみに青筋を浮かべた胡蝶しのぶという鬼が。

 ……何も言うまい。諦めのついた俺は状況を察し最後の抵抗に出る。

 

「……一つ言い訳をしてもいいか?」

「どうぞ」

 

 俺は決めた。

 

「他意はないんだ。あの場を勝手に去ったのはお前らを危ない目に合わせないとしたわけで別にただ奇行に走ったわけじゃない――」

「言い訳は十分ですね、屋敷内でじっくりと話し合いましょう」

 

 日々の生活に対する警戒心を上げるべきだと。

 主に、胡蝶しのぶに対する警戒は常時MAXにしておこう。

 

 

 

 





久しぶりの更新だってよ……
なおこの次は

「鬼滅キャラとの出会い編」に入ります(すごく書きたかったやつ)


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『猪と金髪と狩人』


お久しぶりっす

今回は出会い編なので午前と午後で2話一気に出します


 

 しのぶにじっくり絞られてから4日ほど経った。

 あの日ほど記憶に残る日はそうないだろう。てか一生俺の頭から離れる気がしない。

 

 ……それはそうとして今日は天気がいい、実に快晴だ。日差しが肌を直接攻撃してきて少し痛いぐらいには。

 ぐっ、と背伸びをして伸縮した筋肉をほぐしながら右手で目に入る日差しを遮る。

 何してるかって?いやべつに特別なことなんかはしてないが。

 

 ただ焚火に使う分の薪を割っているだけだし。

 

 …………いや、だってやることないんだよ。

 監視にあたって俺のそばを常に居る詩織には基本的に家事を任せているし。(たまに俺の戦闘道具の手入れも)そういう俺も、元の世界に戻す対象の『モンスター』と会う機会なんて最近何故か無いし。

 なんつーか、無職で年中暇人の感覚を味わっている感じだ。生前のブラック環境が懐かしく感じるよ。

 

「あー、暇だ。うっしょっと」

 

 と、愚痴を垂れ流しながら肩を回し自前の大剣を担いで大木を()()()()()()としたところだった。

 

「勝負だッ!俺と勝負しろそこの青髪巨剣野郎ッ!!」

「…………あ?」

 

 突如、背後から大声で宣戦布告みたいなものを売られた。

 不思議がって背後を振り向くと……

 

 ……なんか、イノシシ()がいた。

 二足で立ちながら腹丸出しで腹筋バキバキな奇怪極まりない(イノシシ)が、そこにはいた。

 ……いや、あれ被り物、か?にしてはなんかすげぇリアル感が高いような高すぎるような……?

 でまあ、そんな奇怪丸出しの男(?)の腰に引きずられながら叫ぶ『少年』も一人いるんだが。

 

「やめようよ伊之助ぇ!この人見るからに強そうじゃん!なんか凄い刀持ってるじゃん!!絶対関わったらダメな人だってえぇ!!!」

「うるせぇ!!強いからいいんだろうが!!」

「なんだこいつら…………」

 

 目の前で繰り広げられるコントを眺めながら俺は目を細めながらそう呟いた。

 

 

 

『出会い、特に善逸と伊之助の場合』

 

 

 

 てなわけで、いろいろ紆余曲折(うよきょくせつ)あったところで俺のさっきまでのと今の状況を説明したい。

 

 1、俺はただ今日と明日と明後日用の薪を準備しようと木をぶった切ろうとしてた

 2、突然背後から謎の声とともに喧嘩を吹っ掛けられた

 3、イノシシの被り物をした奇人と黄色の髪をした子供のコントが始まった

 

 …………情報量多いわ。

 どんな芸人でもこんだけの情報量を一瞬で作り出すことができるだろうか?いやできまい。ていうか絶対無理だ。笑いどころか俺困ってたし。こいつら芸人向いてないわ。(謎目線)

 

 で、今の俺の状況といえば、だ。

 

 4、太刀を持った俺と木刀を両手に2本携えた奇人(伊之助)が対面して戦おうとしている

 

 ……いやまあ言いたいことはわかる。

 なんで困惑しながらもしっかりコイツの宣戦布告受けてんのか?と。言いたい気持ちはわかる、けどさ。俺はこう思うんだよ。

 

 今更、日常の中でいきなり喧嘩売られようがさ。

 あの鬼気(怪物)迫る世界で生きてきた俺の日常じゃもはやこの事態も()()と思っていいんじゃないか?ってさ。

 

 

 ――――というわけで買った。

 んで、対面に立ってる伊之助って奴は何か諸事象で獲物が無いらしく仕方ないから数秒で薪用に集めてた木の棒を簡単に加工して木刀を作ってやった。(2刀流らしく無駄に資材が減った)

 ……今さっき、有利なくせに同等の条件まで整えてやるなよ?って詩織に言われた。が、俺はこう言い返した。

 いいだろうが俺の勝手だろ。と。

 ていうか俺はこういうもんはしっかりと戦いたいもんだからな。

 つーか俺は基本売られた喧嘩は全部買う立ちだし。

 

 

 


 

 

「邪魔だ紋逸!足を引っ張んじゃねぇ!!」

 

 嘴平(はしびら) 伊之助(いのすけ)はある山に、蝶屋敷の裏山へと足を運んでいた。

 訳といえばあれだが、ただ蝶屋敷で行われている隊員の『機能回復訓練』に嫌気がさし、逃げてきたのだ。

 そして野生のシカと戯れていたところ、海斗を見つけ喧嘩を吹っ掛けたということである。

 ……なんともまあ、猪突猛進とは名ばかりの行動原理である。

 

「やだよっ!帰ろうよっ!!俺は女の子達とキャッキャしに行くんだぁ!!」

 

 我妻(あがつま) 善逸(ぜんいつ)も伊之助同様に『機能回復訓練』から逃げ帰るため近くにある街へと出向こうとしていた……のだが、伊之助に強引に首を引っ張られ裏山へ連れてこられたのだった。

 伊之助が連れてきたのには理由などない、()()()()()()()()()()()()()。ただそれだけらしい。

 この少年も大概不幸な目にあっている。

 

 

 そして今、訓練から逃げ帰った2人だったが――

 

 

「おいおい、もっと早く動いて見せろよ。そんな速度じゃ擦り傷一つも浴びせられねぇぞ」

「……ッ!うるせぇ!今八つ裂きにしてやらぁ!!」

 

 木々の覆う葉が日の光を阻むその場。

 二人は目の前で起こっている出来事に困惑――いや、驚愕しているところだった。

 たしかに喧嘩を吹っ掛けたのは伊之助側だ。そこに弁明の余地はない。善逸ももしものことが起こってしまえば全て伊之助に罪を擦り付けて逃げ帰ろうとしていた。

 ……だが、その()()()が起こる気配が一向に感じない。

 

(俺達……弱くないよね。いや、これでも俺達は鬼殺隊の隊士だ。全集中の呼吸もわからない普通の一般人に戦いで負けるわけないのにっ……)

 

 二人の戦いを横で見学している善逸は戦慄する。

 目の前に広がる光景に目が離せない。

 

(なんで伊之助が手も足も出せないまま負け越しているんだよ!?)

 

 そこに立つのは木刀を肩にかけた一人の和服を着た青年『流星 海斗』と、二刀の木刀を振り回す()()()だらけの一人の奇人(伊之助)

 呼吸も使っていないただの一般人が鬼殺隊の隊士に勝ち越しているというありえない状況があった。それは何故か?答えなど簡単だ。

 

 全集中の呼吸を使う目の前の猪よりも、呼吸を使っていない和服を着た青年の方が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 海斗は一太刀も浴びず伊之助の剣戟を躱し、対して伊之助は海斗に無数の太刀を避けられ続けながら合間から放たれる不可視の一撃を食らい続ける。

――そこには明らかな手心が加えられていることに伊之助は憤怒を覚えながら。

 

「がぁぁぁ!! 【獣の呼吸 弐の牙 狂い裂き】!!」

「あ、バカ伊之助!!」

 

 遂にキレ、一般人に呼吸を使った剣戟を浴びせにかかようと技を繰り出す。

 それを善逸が止めようと前に出る、が。

 

「ふん」

 

 海斗は動じない。そこには一切の焦りすらなく。

 ただいつものように、まるでそこらに浮くホコリを払うかのように。

 

 ゴガガガンッ!!と

 

 二刀から放たれる無数の攻撃を、手に持つ一刀で()()()()()()()

 

 ――感覚遮断。――感覚凝縮。 

 海斗はこの技を総じて【己ノ神(みのがみ)】と呼んでいる。

 『視覚』以外の全感覚を身体機能に支障が出ない極限までそぎ落とし、一つの感覚を重点的に強化する。海斗が扱う『感覚版の全集中』。もちろん視覚以外にも『嗅覚』や『触覚』に特化することもでき、その場に合わせて応用することも可能だ。

 そのジンオウガとの光速に近い戦闘を捉えてきた眼ならば。

 

 たかが『高速』程度の太刀筋など、海斗にとっては目の前で飛び回る蝶ほどのものとしか思わない。

 

「なんっ!?」

「遅いぞ」

 

 灰薄白の和服が揺れる。

 同時、怯んだ伊之助の間合いに海斗は迫り――

 

 バチィ!!という肌をはじいた音を響かせる。

 伊之助の左腕を叩き、手に持った木刀を落としたのだ。

 

「グアァァッ!!」

「い、伊之助ぇ!?!?」

「近づくなよ、金髪」

 

 心配で伊之助に善逸は近づこうとしてたのだろう。

 だが、その行動は海斗の一言で制しられる。向けられた眼光と少々あふれ出た殺気と共に。

 

「今は俺とコイツの戦いだ、お前のじゃない。……もしお前が()()に入ってくれば、俺は容赦なくお前に攻撃を仕掛けるぞ?」

(この人怖いぃ!!炭治郎助けてぇ!!!)

 

 善逸は軽く泣きながら一瞬でその足を後ろに引いた。

 その様子を見て海斗はこう思った。

 

(なんだ、来てくれりゃもうちょい楽しめたのに)

 

 ……この狩人も大概イカている。

 

*

 

 ――その後、喧嘩を吹っ掛けてきた伊之助を傷も受けずボコボコにした上最終的に気絶するまで追い込んだ海斗。(夕方になるまで戦ってた)

 後始末というかなんというか、気絶した伊之助を面倒見てくれる場所まで運ぶのだった。

 そう。

 

 隊士の治療所、蝶屋敷まで。

 

 正直、海斗本人もその思い付きには一旦待ったをかけたが、金髪の少年――善逸の泣きそうなさりげない独り言を聞き……

 

『どうしよう……しのぶさんとアオイちゃんにまた怒られるよぉ……』

 

 この少年たちが蝶屋敷の患者なのだと察し、

 にが虫――いや、ウチケシの実を嚙み砕いたような顔をして偶然という運命を呪いながら覚悟を決めたのだった。

 

 そして夕方。

 

「私の患者をこのように痛めつけて、あなたは一体私にどのような恨みがあるんですか??」

 

 当然の結果だった。

 怒り心頭、怒髪天、笑った顔のまま般若を背後に浮かせ仁王立ちする胡蝶しのぶの姿がそこにはあった。

 

(……まあ、あの猪野郎が喧嘩吹っ掛けてきたとはいえ気絶まで追い込んじまったのは俺の失態だし。……しのぶマジで()()染まってきてるし……。しばらく流し聞きしておいて逃げ帰r

「聞いているんですか?流星(ながれ)さん??」

 

 地獄の説教タイム開始。

 やけに整ったきれいな正座をした海斗の上にはしのぶの見下ろす眼光。

 今回に限っては海斗は抵抗などはせず真っ向に鬼の説教タイムを受けたのだった。聞き流しではなく真面目に。本気で声色がやばかったと海斗は後に語る。

 

 結果、時間は2時間を超えるクッソ長い説教になった。

 

 そんな中で海斗は。

 

(……コイツの作ったような笑み、やっぱり苦手だ)

 

 自分の与えた()()()()とは違う、別の()をしのぶの内にあるのを視てそう感じていたのだった。

 

 

 後日、あることをきっかけに蝶屋敷へと頻繁に顔を出しに来ることとなる海斗が伊之助や善逸などの隊士たちといろいろ関わりを持っていくのだがこれはまた別の話。

 

 そして炭治郎との再会は、近かった。

 

 

 



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『主人公と脇役』


出会い話、後編です


 洞窟内、俺の拠点もといテント内。

 

「……嫌です」

「仕方がないだろ。こうでもしないとお前触りもしないじゃねぇか」

 

 現在、俺の監視人こと『今野 詩織』は目の前で背を向けながら座っていた。

 ……詳しい対図はというと、俺は作ったベッドに座りながら詩織がその足元で正座している状況だ。改めてみると何だこの状況は……。

 そして、俺はそんなおどおどとしている状況の詩織の目元を手で覆っている状態だ。

 

「ですけど……私このようなことはしたことがなくて……」

「なら慣れろ。安心しろ、俺がアドバイスしてやる」

 

 俺の言葉を聞いた詩織が固唾を飲み込む。非常に緊張しているらしく額には冷や汗も浮かべていた。

 そして、おどおどと意を決したかのようにその手を動かす。

  

「ひっ!今何かざわざわってぇ!!」

「それただのげどく草な、あと触るビン間違えてるぞ。お前が捕まえなきゃいけない奴はこっちのビンだ」

「そ、そうですk……って今度はブニッてぇ!!!」

「それはマンドラゴラだっ!あーもう、いったん落ち着け!」

 

 悲鳴、絶叫、阿鼻叫喚。

 足元で暴れまわる詩織。なんとかして覆っている俺の手がすごい力で引きはがされそうになったいる。なんという火事場の馬鹿力。ここで発揮するものでもないだろうに。

 

 ……こんなことをしている経緯なんだが。まあ、なんだ。

 単に俺がいつも世話してる薬草類や蟲達の入っているビンの内装をメンテナンスでもしようとしていたところだったんだよ。んでな?昼飯食った後に詩織に提案したんだ。

 

『俺がここに居ない間のことを踏まえてお前に素材類のメンテナンス方法を教えたいんだが』

『あの気持ちの悪い蟲のですか!?!?』

 

 ……で、現状ってことになる。

 いやまさか俺もこれほど拒絶反応を起こすとは思わなかった。

 ――ていうか、

 

「……お前それでも『隠』とかいう事後処理部隊だったんだろ?死体に湧きまくる蟲なんて見慣れているだろうに。ウジとかさ」

「それはそれ、これはこれです!基本的に女の人はこういうものには嫌悪感がぁわひゃぁぁぁ!!!」

 

 今度は何に触ったのか、ビンに突っ込んだ手を思いっきり振り上げた。

 泣き目で再び絶叫、と共に。

 

 ガチャガチャァァン!!というガラスが割れる音が響く。

 

 ……はい、状況理解。もうこの後起こる大惨事が予想できるわ……。後片づけがめんどくせぇ……。

 きっと今の俺は死んだ魚のような目をしてるにちがいない。

 

「……あぁ、こりゃ」

「…………え?」

 

 一瞬理解が遅れたんだろう。

 キョトンとした表情をした詩織が足元に転がるビンの残骸を眺めて。

 

「ひ、いやぁぁぁぁ!!!!!」

 

 そこから再度、青ざめた表情で絶叫を上げるまでは、1秒とかからなかった。

 

 

*

 

 

 

 最近の話、蝶屋敷にお邪魔することがかなり増えた。気軽に訪れる友人宅くらいに。

 理由としては、以前詩織が引き連れていた負傷していた隊士がいたと思うんだが、アイツの応急処置の詳細を聞かれた際に『回復薬』について語ったらそれを扱うための知識を教えてほしいと言われたんだ。まあ、しのぶも一端の医者なんだろう。顔には出ていなかったが興味を持っていたのかもしれない。

 

 俺はその答えに、『今の時代の情報と鬼についての情報と交換条件なら教えてやろうか』

 という条件を出し、しのぶはそれを飲み込んだというわけだ。

 

 

 

 今宵は星の出る夜。

 今は俺なりの治療術(独学)を教えるために蝶屋敷におじゃましに来たその帰りだ。

 昔ながらの和風な廊下を歩いてる。

 

「にしても、まさか詩織が蟲に耐性がなかったなんてな。俺がいない間誰があいつらの世話をすればいいのやら……」

 

 あいつら――つまり俺が飼っている『蟲』のことだ。

 俺が居ない間のことを踏まえてあいつには何とか『蟲』に慣れてもらいたいものだ。なんせ俺の命をつなぐ生命線でもあるんだし。

 

「あいつらもしっかりとした生命なんだしな」

 

 ポーチから一つのビンを抜き出し中を眺める。

 中身にはなんて事のない、ただの『蟲』が入ってる。

 詩織の狂乱+片付けを終わらせる最中に、こいつらが動きたそうにしていたから一応持ってきたんだが。

 

「もうちょい待っとけよ。どっかにいい場所あるかどうか……」

 

 さて、こいつらどこで遊ばせてやろうか……。

 できれば拠点周辺はやめておきたい。今の詩織に見せれば『こいつら』に感動はするだろうが『蟲』でトラウマを呼び起こしそうだ。

 

「えんやこーら、どっとさ、と。……ん?」

 

 軽いステップで蝶屋敷の玄関を出る。

 と、同時。聞き覚えのある声が耳に入る。

 間違いなく、胡蝶しのぶのものだ。

 そしてもう一人。どこかで聞き覚えのある声もする。

 

「……こんな夜更けに何の話をしてるのか……と」

 

 気配を消し、感覚を閉じる。

 『視覚』はそのままに、『触覚』と『味覚』をほどほどに感じなくさせその分を『聴覚』に廻す。盗み聞きをするくらいならこの程度で十分だ。

 

「……どうし、俺たちをここへ、来てくれたんですか?」

「……禰豆子さ、の存在は、認となりました……。君たちは怪我も酷かったですしね」

 

 お、聞こえてきた聞こえてきた。

 どうやらあの屋根上で会話中のようだ。話してんのはしのぶと……あれは確か、俺が柱合会議ってやつで暴れた時に助けたやつだな。……名前は知らんが。

 

「……邪魔にならないうちに帰るか…」

 

 どうやら、俺が聞いてても何も意味ない話らしい。

 問題の『蟲』をどうするか考えながら踵を返そうとしていたところに。

 屋根上にいる隊士の。胡蝶しのぶの一言があった。

 

「それから……。君には私の夢を託そうと思って」

 

 ピタリと、踵を返そうとした足が止まる。

 それは、盗み聞きをするために気配を消している俺に言われたものではない。隣に座っているであろう特徴的な耳飾りを付けた少年に向けられたものだ。

 

「夢?」

「そう、鬼と仲良くする夢です。きっと君にはできますから」

 

 気配を消しながら屋根上にいるしのぶを見る。俺はその光景は見逃してはいけないものだと確信している。

 色覚を閉じなくて正解だった。これを。色褪せないこの光景を残しておく必要が俺にはある。

 俺の生きていく意味。生きていく過程。死んでいくさなかに記憶しておきたいものだ。

 

 ……眼を変える。

 その光景の色を一瞬だけ、()()にさせる。

 

 俺は屋根上の会話をその場で聞き始めた。

 

 

 


 

 

 場面は変わり蝶屋敷の屋根上。

 しのぶが一通り炭治郎と会話をして、去っていったところだ。

 屋根上に一人残された炭治郎は座禅を組んでいた。

 

 ――しのぶさんって不思議な人だな。

 急に俺の前に現れたと思ったら、すごく近くにくるし。

 

 あと、すごくきれいだったし――

 

「――っ、今は全集中の呼吸をなんとかしよう。よし、集中集中!」

 

 雑念を振りほどいてぶんぶんと頭を振り頬をたたいて集中する炭治郎。

 これ以上はなにか思っちゃいけない感情が芽生えそうになりかける。

 

「ふ…うぅぅ……」

 

 煩悩を取り払うかのように座禅を組みなおし息を整える。

 

 【全集中の呼吸 常中】

 

 文字の通り、全集中の呼吸を常時使用を可能とする技術である。

 炭治郎は胡蝶しのぶの弟子にあたる胡蝶カナエとの機能回復訓練にて連敗をもらい、蝶屋敷に住まう3姉妹に手拭いを渡された際に、全集中の呼吸 常中の存在を知り訓練に励んでいるわけだ。

 

「悪いな」

「…………うわっ!」

 

 と、そこに。

 

「ちょいと邪魔するぞ」

 

 世界の壁すら超えてきたイレギュラー、流星海斗が現れる。

 呼吸に集中していた――否、そうでなくとも海斗の存在を薄め獲物に近づく技術に後れを取り、気づくのが遅れ危うく屋根上から落ちかける炭治郎。

 

 竈門炭治郎、15歳。水の呼吸使用者。

 本日2度目、気づかぬまま背後を取られる経験を体感したのだった。

 

 

*

 

 

「いやぁ……悪かったなあの時は。知らずのうちに結構デカメの電気流して感電させちまって」

「あ、いえ!大丈夫です!あの後起きて渡された木の実みたいなのを噛んでみたら治りましたし……それに今は訓練もできるくらいにピンピンしていますよ」

「そうか。ならよかった……。一応後遺症とかも心配してたから、無事でいるなら何よりだ」

 

 驚きこそあったが、一瞬のうちではあったもののお互い顔を合わせた身。

 お互いに軽く自身の名前を言ったのち、柱合会議での海斗側の不手際を海斗自身が謝罪した。どうやら頭の片隅で思い込んでいたようだ。

 

「……ところでたん…竈門」

「あ、炭治郎でいいですよ」

「そっか、んじゃ炭治郎。一体、座禅組んで何の訓練してんだ?」

 

 海斗が炭治郎を呼び捨てで言いかけるが、思いとどまり名字で呼び返したのには理由があった。

 ――初めての相手に呼び捨てというのは無礼なのでやめた方がいいのでは? と、詩織の助言があったためである。

 海斗自身は聞く耳持たず、というて感じでもよかったのだが、仕事上で依頼人との関係を悪化させる可能性もあるのかと不意に思って呼び方の訂正を決断したのだった。

 

「これは【全集中の呼吸】という呼吸で……あ、でも流星さんは隊士ではなかったんでしたっけ。呼吸については……」

「ああ、安心しろ。お前が何してるのかはわかってるし、全集中の呼吸についてもわかってるぞ。俺が知りたいのは」

 

 一拍

 

「炭治郎、お前が()()()()()()()()()()()()()()()()なんだが」

 

 ()()で得られる強さではなく、強さを得ようとする()()の方を聞きたかったと。海斗はそう問う。

 

「どうといわれても……、やってることはただの瞑想ですよ。深く呼吸をして体の隅々まで空気を巡らせる練習です」

「……ほう、そういう練習方法もあったのか」

「流星さんはどんな練習で全集中の呼吸を?」

「俺か?俺はまあ、いろいろ工夫したな。1日中動き回って呼吸の最適化を考えたり、あとは息を止める時間を増やして吸い込むときは全力で吸い込んで肺活量を増やす方法とかかね」

 

 けど、と付け足して。

 

「まあ、全集中の呼吸は俺は使ってないけどな」

 

 と、語る。

 その言葉に炭治郎は驚いたらしい。目を見開いて海斗に問う。

 

「え、じゃあどうやって戦ってるんですか?呼吸もなしに……」

「ああ、呼吸を使ってないわけじゃないぞ、俺は全集中の呼吸が体に合わなかっただけだ」

「体に……?どういうことですか?」

「ん?あー、わかりにくいか。……ほれ」

 

 ふと、海斗が腕の袖をまくり二の腕を炭治郎の前に差し出す。

 困惑する炭治郎に――

 

「えっと……これは?」

「いいから、触ってみな」

「はぁ…」

 

 とりあえず海斗の腕に触れてみる炭治郎。

 そして、普通ならばあり得ない感触に違和感を感じる。

 

 ――空気が皮膚から漏れている。

 

 少しずつ、実際に触れてみてやっとわかるほどのものだが、確かに感じる感覚に炭治郎は得体のしれない気持ち悪さを感じざるを得なかった。

 まるで、木々の隙間から何か吐息のようなものを当てられたような、そんな感覚。

 

「皮膚の下から空気が若干漏れて……これって一体?」

「ぅ……、悪いがそろそろ手を放してくれると助かる」

「あ、ごめんなさい」

 

 苦顔をする海斗を目にし、申し訳なさげに手を放す炭治郎。

 それに対し、軽く腕を振り回しながら海斗は語る。

 

「触って分かったと思うが、俺の体はちょっと特殊でな。体全体、まあつまり()()()()()で呼吸をしてんだよ」

 

 今も口から息を吸ったり吐いてないだろ?と、笑って炭治郎に言う海斗だが、……当の炭治郎はドン引きである。それはもう超がつくほどのドン引きだ。言葉も出ない。

 まあそうだろ。

 そりゃ一般的に考えて、だ。

 

 口から息を吸わない地上生物がいてたまるかって感じだろう。

 ましてやそれが同じ人間ときた。

 違和感どころかこの世の疑問だ。それも生物学に対するくらいの。

 というか。

 

(この人、さりげなく自分の吐息を説明もなしに俺の手に当てた!?)

 

 そう、ここから既に問題行動だ。

 海斗の皮膚からは、常に吐息が体内と外界で交互に吐き出されている状態だ。

 体内から吐き出される吐息。

 それは逆に言えば、口を手で塞がせて自分の息を当てさせていると同義だ。それも説明すらなし。

 

 明らかにモラルが欠如している。初対面の人間にやっていいことではないだろう。

 これでもこの男、生前では社会人を張っていた人間だというのだから驚きである。

 これもあのモンスターが蔓延る過酷な環境で生き残ったうえで置いてきてしまったものなのだろうか。

 

「って、聞いてるか?」

「とりあえず、初対面の人にはこういうことやらないほうがいいと思いますよ。はい」

「え、なに、急に辛辣」

 

 閑話休題

 

「まあ、理屈としちゃこんな感じだ。()がする呼吸じゃ俺には合わなかったんだよ」

「……でも、全集中の呼吸無しでどうやって戦うんですか」

 

 炭治郎や善逸、鬼殺隊が普段使う呼吸には様々なものがある、水の呼吸に雷や炎、レパートリーは様々だ。

 ただし、それはあくまで技を繰り出すための呼吸。

 

 刃を振るう肉体面の強化はされていないのだ。

 そして、その肉体面の強化を補うのが全集中の呼吸なのである。

 

 例えば、炭治郎が水の呼吸を使い 壱ノ型 の練度を、数値で10に見立てて繰り出したとしよう。

 この時に出される技の威力は、本人の肉体に依存して倍増される。

 10に肉体の練度を10に見立てておくと、10×10(技×肉体)の単純な計算で100の威力を出せるということだ。もちろん訓練していくうえでどんどん強化することもできる。肉体をとるか、呼吸のほうをとるかは当人によるが。

 

 逆にだ。

 

 海斗の場合、いくら海雷の呼吸の練度を挙げたとて、肉体の練度が5とかではそれに見合った火力が出ないことになる。

 

 技術があっても、肉体が追い付いてこないのだ。

 

「あー、それな。……まあ、言ってわかるかはわかんねぇけど、さ」

 

 おもむろに立ち上がる海斗。

 

 海斗は、右手で自身の首につるされた凝縮雷光蟲のペンダントを握りしめた。

 途端に、その右手からは電流が流れ始める。

 それは腕を伝い――

 肩に回り―― 

 背中から足へ向かってやがて全身へ――

 そして、最後には頭を覆い髪の毛を逆なでする。

 

「…………ッ」

 

 ――その姿は、あまりにも人間離れしているものに見えた。

 

 髪の毛は静電気の影響で常に上へ跳ね上がり、灰薄白色のからせみ模様の和服は、屋根上を通り抜ける風で淡々しく揺れ、全身は青緑に輝く電流で纏わりつかれ神々しく光り輝く。

 それはまるで別の生き物を見ている感覚に近い。

 

「見てわかるだろ? 俺はそっちの人間が手に入れる()()とはまた違うんだよ」

 

 その異様な光景は、炭治郎は絶句を強いられるに十分だった。

 

「……失礼を承知で聞きたいんですけど、もしかして流星さんも鬼なんですか?」

「違う――って言いたいけど、正しい答えとしては『俺もわからん』ってことくらいだ。生まれた時からこんな体だし、太陽に晒されて灰になることもない。だからまあ、鬼ではない……と思う」

 

 ま、こんなもんだろ。と口ずさんで海斗は帯電状態を解除する。

 帯電状態になったのは、通常の人とはまた違うということを見せたかったのが目的だったので、これ以上の帯電は疲れるだけなのだ。

 

「そろそろ帰るとするよ。ここにいると煩い美人が来るかもしれないしな」

 

 海斗は屋根から飛び降りる。

 

「炭治郎ー! 強くなる方法なんてのは自分で見つけるもんだ! 定番ばかりやっていると自分なりの強さは見つけられないぞ!」

 

 最後にそう言って、海斗は蝶屋敷から去った。それはもう颯爽と。

 

 

 

 これが、炭治郎と海斗の最初の出会いだった。

 

 主人公《炭治郎》と脇役(海斗)の出会いにしては、些か普通過ぎた出会いだったの――かもしれない。

 

 

 

 



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