ゾンビランドミカ (裏方さん)
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第一章 別れと出会いと
ゾンビィ?
(衣ちゃん推しで良かった~)
2期がますます待ち遠しいっす。
待ち遠しくて、つい駄作投稿してしまいました。
文章力無く読みにくいとは思いますが、
ご辛抱いただけたらありがたいです。
ではよろしくお願いします。
”カチャカチャ♬”
よし出来たっと。
ふむ、見た目は上出来。
ちょっと茶色の焦げ色も美味しそう。
どれどれ、ちょっと味見。
”ぱくっ”
う~ん、甘くて美味しい。
やっぱり卵焼きは甘いのが美味しい。
これをここに詰めてっと。
よし、今日のお弁当準備完了。
さてとそろそろ起こさないと、えっと今何時・・・げ、や、やば!
も、もうこんな時間。
”ドタドタドタ”
「ね、ね、起きて。
遅刻しちゃうよ。
はやく起きて朝ご飯食べて」
「ふぁ~、おはようさん」
「うん、おはよ。
あ、でもマジあんま時間ないから、顔洗っちゃって。
すぐ朝ご飯にしよ」
「ん、あ、ああ。
ふぁ~」
すごく眠たそう。
昨日も帰り遅かったもんね。
毎日、お仕事ご苦労様。
ふふ、あんだけ社畜にはならないって言ってたのに。
でもさ、あの感じだと今日が何の日か憶えていないよね。
今日はさ、わたしと彼が初めて・・・・・・
へへ、あれからもう5年か。
あの後、なんかいつの間にか同棲しちゃって。
・・・・・・ふふ、幸せ。
あ、やば!
こんなことしてる場合じゃない。
朝ご飯朝ご飯。
・
・
・
”スタスタスタ”
「はぁ~、仕事ってのはやめることはあっても、終わることはねえんだよな。
学生時代も社会人になっても変わらん」
「はいはい。
今度からはちゃんと残業断ろうね」
ふふ、こんなバカな会話しながら彼と通ういつもの通勤の道。
とっても幸せ。
でもさ、あの交差点で彼は千葉駅の方に、わたしはバス停のある方に
別れないといけない。
寂しいなぁ、また夜まで会えないんだ。
ずっと一緒にいたい、ずっとこんなバカな会話続けていたい。
ずっとこうやって手を握っていたい。
ずっと、ずぅっと。
「はぁ~あ、働きたくねぇ」
「はいはい、わかったわかった。
わかったからそんなに負のオーラ出さないの。
今度、またキツネっ娘のコス着てあげるから」
「・・・・・・お、おい。
お前は世話やき狐っ娘さんか」
「もふもふしたいんでしょ、もふもふ。
好きなだけさせてあげる」
「ちが~う!
お、俺はあんな社畜じゃねえ」
「う、うそ」
「いや、うそって、あのな」
「だってあのアホ毛といい、目の感じといいそっくりじゃん」
「・・・・・・くそ、反論できねぇ」
ふふ、そうなんだよね。
昨日お布団に入って一緒に見てたあの深夜アニメ。
あの主人公、彼にそっくりなんだよ。
目の腐り具合とか。
へへ、それにロリのところなんかも。
「冗談冗談。
あのさ、わたしもっとお給料たくさんもらえるよう頑張る。
だから専業主夫の夢、もうちょっと待ってね」
「ば~か、冗談だ。
そんなことしてみろ、お前のお父さんに殺されるって~の。
仕方ねぇ、豊かな老後のために働いてくるか」
「うん、豊かな二人の老後のために頑張ろう~」
”スタスタ”
「あ、そうだ。
お前、今度の日曜日は何も予定無いか?」
「え、日曜日?
あ、うん、特に予定無いよ。
でもなんで?
・・・・・・はっ!
も、もしかして一日中、エ、エッチなことするつもりじゃ。
そ、そりゃ、わたしもあれだけど、一日中は身体が 」
「ば、ばっか、違うわ!
ま、まぁなんだ・・・・・・あ、あ、挨拶に行こうかなって。
一度ちゃんとお父さんに挨拶にな」
「え、とうちゃんに?
ほ、ほんと?」
「ああ。
・・・・・・一応ちゃんと考えてるから、いろいろとそれなりに。
それとこれ」
「ん、なにこの小箱?」
なんだろう?
なんか綺麗に包装されて。
こんなのいつの間に?
でも開けていいのかんなぁ?
なんかもったい。
「ま、まぁなんだ、いいから開けてみてくれ」
「うん」
”ぱさぱさ、かぱっ”
「あ、指輪!」
「まぁ、や、安物だけど。
今日はそのなんだ、い、一応、き、き、記念日だから。
そ、その、貰ってくれるとありがたい」
”だき”
「う、うれしい」
「ば、ばっか離れろ。
人見てるじゃねえか」
「いいじゃん、憶えてくれてたんだ。
・・・ありがと♡」
「お、おう。
あ、か、会社遅れっから」
「うん」
「じゃあな、行ってくるわ」
「魔王さんによろしくね」
「・・・う~、やっぱり行きたくねぇ~
はぁ~」
”とぼとぼとぼ”
「いってらっしゃい。
・・・・・・あ、あのさ、今日は早く帰ってきてね」
「・・・お、おう」
・
”スタスタスタ”
へへ、そっか、とうちゃんに会いに来てくれるんだ。
それに指輪まで。
そういえばこの前、なんかしつこく指触ってくると思ったんだ。
うれしいな。
どうしょうかなぁ~、はめちゃおうかなぁ。
・・・うん、やっぱり今日帰ってからにしよう。
だって彼にはめてもらいたい。
それまで大切にリュックの中に締まっておこ。
”かぱっ”
えへへ、この中に・・・・・・あ、お弁当!
やばっ、お弁当渡すの忘れた。
急がないと、彼電車に乗っちゃう。
”ダー”
・
”イライライラ”
ん~、な、長い。
この交差点の信号、いつも変わるまで長いんだよ。
やばいやばい、もう電車乗っちゃう。
お弁当、せっかくうまくできたのに。
えっと~
”キョロキョロ”
よ、よし、だ、大丈夫だ。
あのトラック、まだあんなに遠いし。
それに誰もいないから、今のうちに渡っちゃえ。
それ!
『おねえちゃん』
えっ、な、なに?
い、今の声って!
”キョロキョロ”
いない。
そ、そっだよね、いるはずないか。
・・・・・・う、うん、わかった。
わたしはまだそっちに行っちゃいけない。
ごめん、ありがと。
ちゃんと気を付けるね。
・・・ふぅ~、さてっとスマホスマホ。
ラインで謝っておかないと。
”カチャカチャ”
ごめんなさいっと、そんで
”ブォー”
え、なに?
ト、トラック!
な、なんで、だってここ歩道、歩道だよ。
”ブォー”
う・・・・・・そ。
”ドンッ”
「ぐはぁ!」
”フワ~・・・・・・・ドコ!”
「う・・・うう、死、死にたく・・・な・・・い」
”キキキー”
「え、い、いま、なにか当たって。
や、やばい!」
”ガチャ”
「ひ、人じゃないだろうな。
くそ、いつも間にかウトウトしちまって。
え、えっと~」
”キョロキョロ”
「だ、誰もいない?
気のせい?
い、いや確かに衝撃が。
後ろ、トラックの後ろか?」
”ダー”
「はぁ、はぁ、何もない。
・・・・・・は、そうだ。
き、きっと犬か猫だったんだ。
それでどっかに逃げて・・・
そ、そうだ、そうに違いない。
はは、そうだ、なんだそうなんだ。
だって何もない、何もないから。
は、はは、ははは、危なかった。
千葉から佐賀まで帰らないといけないんだ、気を付けないとな。
よ、よ、よし、い、行こう」
”キュルル、ブォー”
ーーーーーーーー
”ちゅんちゅん”
「ん~いい朝だ。
今日は何か良いことありそうな気がする。
もしかして今日こそは目覚めるかもしれん。
・・・・・・目覚めてほしい。
今までいろいろ試してみたんだ。
だが全然目覚めてくれん。
はっきりいって、もうどうすればいいのかさっぱりわからん」
「ワンワン」
「ん、おうロメロ。
今日も元気だな」
”なでなで”
「なんでお前だけ目覚めることができたんだろうな」
「ワンワン、はぁ、はぁ、はぁ」
「なんだ、腹減ったのか。
ほらゲソだ」
”ぽい”
「ぐおーがうがうがうがう」
「おまえが喋れたらな」
「はぁはぁ、わんわん!」
「なんだもっと欲しいのか?
ほら、とってこい!」
”ぽい”
「ぐぉー」
「は、しまった。
家の外に」
”キュルルル、ブォー”
「な、なんじゃい?
トラック?
こんな道をなんてスピードで飛ばしてくるんじゃい!」
”ブォー”
「は、ロ、ロメロ。
ちょ、ちょっと待て」
”キキキー”
「ば、ばかやろー
き、気をつけろ・・・・・・え、ぬ、ぬいぐるみか?
はぁ~、長距離運転で疲れてんだ。
さっさと帰って寝よ」
”ブォー・・・・・・・・・・・・ドサッ”
「危なか、なんて運転すんじゃい。
大丈夫かロメロ。
・・・・・・あのトラック、荷台の屋根から何か落として」
”スタスタスタ”
「ま、マジか、お、女?
お、おい大丈夫か?」
”ちょんちょん”
「・・・・・・・し、死んどー
な、なんで人の家の玄関で死んでるんじゃい。
・・・ど、どやんすっとかこれ!
警察になんか話したら、家宅捜索されるかもしれん。
もし家宅捜索されたら・・・まずかことになる。
どやんする、どやんすっか。
まったく、今日はなんて日だ」
ーーーーーーーー
「・・・・・・」
「う、う、うう、うううう」
”ふら~、ふら~”
「・・・・・・ちっ」
「う、う、う」
”ガブッ”
「え~い、うっとうしい。
人の頭かじるんじゃないわい、このぼけ~
しっしっ」
「う、う、うう、う、ううう」
”ふらふらふら”
「はぁ~、しかしどうすれば目覚めるんじゃい。
もーなしてよかかわからん」
「う、うう、う、ううう」
”ガブッ”
「お、おおー
や、やめんか、このふーけもん!
あっちいかんかい!」
「う、う、う、う」
”ふらふらふら”
「まったくはらんたつ。
・・・そういえば、こいつも死んでからもう一年か。
名前はなんて言うんだ?
適当に放っておいたからなんも気にしていなかったが。
ん、確かこいつのリュックって」
”スタスタ”
「えっと確かここらへんに。
おお、あった。
このリュックに何か名前わかるようなもの入っていないか?」
”ガサガサ”
「えっと・・・お、あった、車の免許証。
・・・・・・これがこいつの名前か。
ぷぷぷぷ、この写真、がばい地味な顔。
え、えっと後は何か」
”ガサガサ”
「・・・・・・何だこの箱?」
”カパッ”
「こ、これって・・・ふむ。
そっか、こいつ・・・・・・・
ほ、他にはなにか」
”ガサガサ”
「ん、チョコ?
ふむ」
”パク”
「ぶほぉー
か、辛かー
ぺっ、ぺっ!
はぁ、はぁ、はぁ!
な、なんだこれ
ワ、ワサビ味、チョコのワサビ味だと!」
「う、うう、ううう」
”ガブッ”
「・・・・・・
え~い、うっとしいんじゃい。
ほれ、俺の頭じゃなくてこれでも食ってろ!」
”ばく”
「ほれ食え!」
”ぱく、ぱく”
「もっと食え!
え~い、この一箱全部食え!」
”ぱくぱくぱくぱく”
「う、う・・う・う・・・・・・・・・うがぁ!」
”ドタバタドタバタ”
「うが、うが、うが、うが!
う゛ー」
”ドタ”
「げ、ぶっ倒れた。
お、おい大丈夫か?」
”チョンチョン”
「・・・・・・」
「し、死んだ・・・・・・い、いやもうこいつ死んでたんだ。
だが」
「・・・・・・」
「ピクリとも動かん
も、もう訳わからんわい」
ーーーーーーーー
「・・・ん、ん~、ふぁ~」
あ~よく寝た。
え、えっと、あれここって?
”むく”
えっと~、ここどこ?
わたしなんでここに?
・・・ん? わたし、わたしって誰?
”フラフラフラ”
う~ん、なんかあたまが変。
それになにもわからない。
”ガチャ”
えっとそんなことよりさ。
「誰か~いませんか~」
”しーん”
誰もいないのかなぁ。
でも、さっきの部屋の電気ついてたし、パソコンも電源入ってたから
きっと誰かいると思うんだけど。
”スタスタスタ”
・
はぁ~、しっかしどんだけでかい家なんだ?
い、いったいいくつ部屋があるの?
”ガタッ”
へ、こ、この部屋?
今この部屋から物音が。
”ガチャ”
「あの~誰かいますか?
はぁ?」
「う、うう~」
「う~、う、う、う~」
「あ゛~、あ゛~」
”フラ~、フラ~”
な、なにこれ、ば、化け物!
化け物がいっぱい。
”すとん”
あわわわわ、こ、腰が、腰が抜けて動けない。
「う、うう、う~」
ひ、ひやー、こ、こっち来た。
い、いやー、こ、怖い。
「だ、誰か~」
”バタン!”
「シッ、シッ」
「う~、うう、ううううう」
”フラ~、フラ~”
は、よ、よかった。
あっちいった。
「お前、目覚めたのか?」
は、誰かわからないけど人間。
こ、このサングラスの人、人間だよね。
・・・・・・え、目覚めた?
まぁさっき目が覚めたんだけど。
あ、それより
「あ、あの、あの化け物って」
「・・・」
「あなたあれ知ってるんですか?
あれなんなんですか!」
「見ての通りゾンビィじゃい」
「ゾ、ゾンビィ?」
ゾンビィって、あの映画に出てくる奴だよね。
・・・・・・ほんとにいたんだ。
はっ、だったら危ないじゃん。
食われちゃうじゃんか。
なんでこの人平気なの?
と、とにかく警察、警察に電話しなくちゃ。
”ごそごそ”
あ、あれ、スマホがない?
どこやったんだ?
あ、そんなことより通報通報。
「すみません、スマホ貸して下さい」
「何をするつもりだ」
「なにをって、警察に電話を」
「・・・・・・その前にこの鏡を見てみろ」
「鏡?
・・・ひゃっ!」
な、なにこれ?
鏡の中にも化け物が・・・・・・
うしろ、わたしの後ろに化け物がいる?
”クルッ”
あれ、何もいない?
なんで?
・・・・・・はっ!
「こ、こ、これって」
「そうだ、これはお前だ。
お前もゾンビィなんじゃい」
「・・・・・・」
な、なんなんだこの人。
わ、わたしが化け物って、そんなわけないじゃん。
な、なにいってんのかなぁ~
あは、あは、あはははは。
こ、これは何かの間違いなんだ、きっと。
「お前は一年前に死んだ」
「・・・・・・うそ・だ」
「嘘じゃない。
間違いなく死んだ。
そしてゾンビィとして甦ったんじゃい」
「あ、あ、あんた、な、なに言って・・・」
死んだ。
わたし・・・死んだって。
うそだ!
わ、わたし死んでない。
だ、だってほら生きてる。
ちゃんと生きてるじゃん。
死、死、死んでなんかいない!
「わたしは生きてる、生きてる!
ば、馬鹿なこと言わないで!」
”ダー”
「・・・・・・そっか目覚めたのか。
それならきっとこいつらも」
・
・
・
”ダー”
嘘、嘘、嘘、嘘、嘘だ!
わたし、死んでなんていない。
だ、だってほら、ちゃんと生きてる。
何言ってんだあいつ!
ばっかじゃない。
「はぁ、はぁ、はぁ」
ちゃんと、ちゃんと生きてるもん。
死んでなんかいないもん。
”スタスタ、スタ”
・・・・・・はぁ、はぁ。
『この鏡を見てみろ』
『お前は一年前に死んだ』
でも、あの鏡に映ったのってわたし。
やっぱり死んだの?
・・・・・・もう、何が何だかわからない。
・
・
・
”とぼとぼとぼ”
死んだ・・・死んだ・・・死んだ。
化け物、わたしは化け物。
・・・・・・化け物・・・なんだ。
だったらこれからどうすれば・・・・・・
あいつのところに戻る?
いや、絶対いや。
あんな奴のとこなんか戻らない。
で、でももうこんなに暗いし、どこか泊るとこ探さないと。
どうしょう。
「にゃ~、にゃ~」
あ、子猫。
へへ、かわいい。
どうしたの、捨てられたの?
おいで抱っこしてあげる。
うんしょっと。
「にゃ・・・ブギャー!」
「え?」
「シャー!」
”ガリガリ”
「ひゃっ」
い、いきなり引っ搔かれた。
やっぱり化け物だから怖がられたのかな。
そ、そんなに怖いのわたしの顔?
あ、あそこの喫茶店で。
”タッタッタッ”
スー、ハー、スー、ハー
こ、怖いけど、やっぱりもう一回確かめたい。
”そ~”
「・・・・・・」
間違いない。
窓ガラスに映った顔・・・・・・・やっぱりわたしは化け物なんだ。
なんで、なんでこんなことに。
・・・も、もうやだ。
”カァー、カァー”
へっ、あ、カラス?
”バサバサ、バサバサ”
はっ、いつの間にかカラスがこんなにたくさん。
な、なんか取り囲まれてる。
暗闇に目だけ光ってて、めっちゃ不気味なんだけど。
あ、あっち行こ。
”スタスタ”
”バサバサ、バサバサ”
ひぇー、なんかついてくる。
みんなついてくる。
や、やだ、怖い。
”カァー!”
「ひゃー!」
”ダー”
・
・
・
「はぁ、はぁ、はぁ」
なんとかまいた。
めっちゃ怖かったよ。
だってずっとついてくるんだもん。
も、もういないよね。
”きょろきょろ”
はぁ~よかった。
でもどうしょう。
このまま明るくなって誰か見つかったら大変なことになる。
今のうちにどこか居場所見つけないと。
人に見つからないような場所無いかなぁ。
”とぼとぼとぼ”
でもさ、ここってどこなんだろう。
日本なのは間違いないんだけど。
あ、橋!
そうだ、橋の下だったら隠れるとことかありそう。
雨とかも防げそうだし。
”スタスタスタ”
ん、あ、標識たってる。
えっとなんて書いてあるんだ?
町田川、佐賀県・・・・・・佐賀県。
そっか、ここって佐賀県なんだ。
って、佐賀県ってどこだっけ?
んとんと、四国だったけ?いや違ったような・・・
ま、まあいいか。
それより、この橋の下って住めそうかなぁ。
どんな感じ?
ちょっと降りてみよう。
うんしょっと。
”スルッ”
え?
「ひゃー」
”ゴロゴロゴロ、ドカ”
うへぇ~土手から転げ落ちた。
へへ、でも全然痛くないや。
やっぱ化け物んだもんね。
へ? あれ、あそこに見えるの、あれってわたしの・・・・・・身体!
え、な、なに、なんでわたしの身体が、えっと~
げっ! あ、頭もげてるんだ!
やばいやばい。
「う~ん」
だめ、頭だけじゃ動けない。
ど、どうしょう、か、身体動かせる?
「ん~、ん~、動け~」
”むく”
や、やった、立ち上がった。
ほ、ほら、こっち、こっち来て。
違う、そっちじゃない!
ん~、むずかしいよ~
「ん~、ん~」
そうそう、こ、こっち、はやく誰かに見られちゃうから。
ふぅ~、やっと来た。
”ガサッ”
え? や、やば! なんか物音がした。
もしかして誰かいるかも。
はやく頭くっつけないと。
ほ、ほら早く頭持ちあげて。
うんしょっと。
”ひょい”
えっとくっつくかなぁ
「えい!」
”ガチッ”
よ、よし。
大丈夫だよね、もう取れないよね
・・・・・・やっぱりわたし死んでんだ。
今更だけど実感した。
あ、そ、それよりその草むらからさっき物音が。
”そ~”
「あ、あの~誰か」
「ワンワン!」
え、犬?
「ウー、ウー」
はは、わたしに怯えてんだ。
仕方ないよね、こんなんだもん。
何もしないからおいで。
ほら。
”ガブッ”
いた・・・くない。
はは、全然痛くないや。
”なでなで”
「う~、う~」
「ごめんね驚かせて。
いいよ、もっと思いっきり噛んでも。
わたし全然痛くないから・・・痛くないんだ。
あのさ、わたしさ、死んでんだって。
へへ、へへ」
”なでなで”
「くぅ~ん」
・・・・・・やだ、やだよ。
”ポタ、ポタポタ”
うう、ううううう、うぐ、うぐ、ううううう。
こ、こんなのやだよ。
”ぺろぺろ”
お前、怖くないの?
わたしこんな顔してるのに。
「くぅ~ん、くぅ~ん」
ありがと。
お前やさしいね。
”ぎゅ”
「うううう、うわ~ん、うわ~ん」
「くぅ~ん、くぅ~ん」
・
・
・
・・・や、やっぱりやだ。
こんなんで生きていたくない。
「死のう。
でもどうやって。
そ、そっだそこの橋桁に紐ひっかけて、そんで首吊って」
「それでは死なん。
さっき頭もげても生きてたろ」
「じゃ、じゃあさ、そうだ川で溺れて」
「無理だ。
ゾンビィは息しとらん」
「じゃ、じゃあさ・・・・・・・・・って、あ、あんた!」
「お前そんなに死にたいのか」
「あ、当り前じゃん。
こ、こんなになって生きてたって!
・・・こんなんで、ど、どうしろっていうのさ」
「そうか。
なら、ついてこい」
「え?」
・
・
・
”パン、パン、パン!”
「うが!」
”バシュ~”
「げ、げぇー!」
あ、頭吹っ飛んだ。
あのゾンビィ、頭吹っ飛ばされた。
”パン、パン”
い、いやもそのゾンビィ、死んでるから。
そ、そんなに撃たなくても。
「どうだ、このビデオのように死にたいのなら頭を吹き飛ばすしかない。
跡形もなくなるぐらいにな」
「ううう」
「お前が死にたいのなら」
”ブン、ブン、ブン!”
「さ、俺がこのバットでお前の頭吹き飛ばしてやろう。
このスイカのようにな。
見ろ!」
”バシ!”
”グシャ!”
ひゃぁ~、ス、スイカが!
「死にたいなら、俺がこのスイカのようにお前の頭をグシャグシャにしてやる。
それとも、それが嫌なら・・・そうだ、このガソリンをぶっかけて
焼き尽くしてやろう。
全てを燃やし尽くして灰になるぐらいにな。
どっちでもいいぞ、お前の好きなほうを選べ」
「・・・・・・」
「ほらどうした」
「・・・・・・」
「さっさとどっちか選ばんかい!」
「・・・わ、わたしは 」
「あ、そうだ。
死ぬ前にこれ返しておいてやる」
「え?
なにこの箱?」
「お前が大事そうに持ってたもの・・・だろう、きっと」
なんだろう。
綺麗な箱、何入ってるんかなぁ。
”かぱっ”
えっ、指輪?
”ぎゅ~”
な、なに、なんか変。
わ、わたし死んだはずなのに、痛みなんて感じないはずなのに。
なんで、なんでこんなに胸が痛いの?
・・・この指輪っていったいなに?
「さてっと。
で、どっちがいいんじゃい。
バットか灯油か、さっさと好きなほうを選べ!」
「・・・・・・」
「え~い、もうよか!
ほら、さっさと頭出せ~い。
このバットでグシャグシャにしてやるわい。
グシャグシャのグチャグチャの、なんかこうグワーて感じにしてやるわい」
”ブンブン、ブンブン”
「・・・・・・」
「ほれ」
「い、いや」
だ、だってこの指輪。
この指輪見てると、心が締め付けられてすごく苦しいんだけど、
でも、な、なんかうれしくて・・・・・・うれしいの!
だからこのままじゃ
「え~い、往生際が悪い。
今楽にしてやる。
死ね~い!」
「いや! 死にたくない!」
「・・・」
「わたし死にたくない!
ううううううううう、死にたくない、死にたくない」
「・・・なら生きろ」
「え?」
「お前が生きたいというのなら、俺がお前の居場所ぐらい作ってやる。
だから生きろ」
「・・・・・・生きたい、わたし生きたい」
最後までありがとうございます。
投稿、不定期ですがまた見に来ていただけたらありがたいです。
ではではです。
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アイドル?
前回、突然ゾンビィとなってしまったオリヒロ。
それでもゾンビィとして生きていくことを決めて。
巽はそんなオリヒロに居場所を。
さてオリヒロは。
ではよろしくお願いします。
「いつになったら目覚めるんじゃい・・・・・・・・・・・・さくら」
・
・
・
”ブルブルブルブル”
「うううううううう・・・」
”ヒュ~、ガタン!”
「ひゃー」
”ガバッ”
え、なに!
ま、窓か~
ちゃんと閉めたはずなのに今晩は風強いから。
はぁ~、だめだ~怖い、怖い、怖い、怖い、怖くて眠れん!
だ、だってこの家にはさ、あの化け物・・・・・・ゾンビィっ娘達がいると思うと。
いやわたしも同じ化け物ってわかってるけど。
そ、そんでもさ・・・
『うう~、う、う、う゛う゛ー』
『あ゛~、あ゛、あ゛~』
”フラ~、フラ~”
『うがー!』
や、やっぱり怖いって!
ど、ど、どうしょう。
・・・し、し、仕方ない。
今日は、あ、あいつの部屋で寝ようかなぁ。
一人で眠るなんて絶対無理だもん。
そ、それにさ、いくら何でもわたしなんかに手出さない・・・と、思うし。
だって、わたしの身体、腕も胸もお尻も包帯だらけ。
それにこの顔・・・ゾンビィだし。
”ギィ~”
「ひゃー!」
”ダー”
・
・
・
”トボトボトボ”
ん~、どこ行ったんだろ。
あいつの部屋にもいなかったし、外にでも行ったのかなぁ。
人には外出禁止って言ったのに。
しっかしほんとこの家ってすごく不気味。
この廊下なんかも薄暗くて。
それにさ、なんかさっきの部屋、オリみたいなのあったし。
何なんだろうこの家。
ううう、やっぱ今にもなんか出そう・・・・・・
って出てるんですけど、ここに!
はい、わたしゾンビィ!
・・・でもさ、やっぱり怖いもんは怖いんだい。
うう、やだよ、こんなところであのゾンビィっ娘達に出会ったら死ぬほど怖い!
いや、もう死んでんだけど。
はい、わたしゾンビィ!
っておい!
でもさ、こんなバカなことでも言ってないと一人でいられないよ。
くそ、どこいったんだあいつ!
「お、お~い・・・・・・」
・・・あれ、あいつ名前なんて言うんだっけ?
そういえばまだ聞いてなかった。
”トボトボ、トボ、スタ”
・・・・・・名前・・・か。
わたし、名前なんていうんだろう?
うううん、名前だけじゃない、どこに住んでたの? いくつなの?
死ぬ前って何やってたの?
・・・・・・何もわからない。
はは、なんもわからないや・・・なんも。
知りたい! わたしは誰? 何者?
・・・はっ!
そうだあいつなら何か知ってるかも。
うん、きっと何か知ってる!
よ、よし!
「お~い、サングラスの男!
どこだ~、出てこ~い」
”スタ、スタスタ、スタスタスタ”
・
・
・
う~ん、あいつどこにもいないや。
あ、あと探していない場所は・・・・・・はぁ~あの部屋っか~
やだな~
”スタスタ”
ん、あ、電気ついてる。
やっぱりあいつ、あの娘達の部屋にいるんだ。
う~、あのゾンビィっ娘達は寝てるといいんだけど。
"ドン!”
「ひゃい!」
え、な、なに?
なんかあの部屋から、いますごい音が。
「・・・なんでじゃい」
えっとこの声って・・・やっぱりあいつここにいたんだ。
でもどうしたんだろう大声だして。
ちょっと覗いて・・・
”そ~”
ん、うそ!
あ、あいつ、あのリボンの娘抱きしめてる!
げっ、あいつゾンビィも守備範囲なのかよ。
あっぶなかったー
あのままあいつの部屋で二人きりになってたら、もしかしてわたしも。
い、いや、そんなことよりあの娘ってさ、まだ意識ないんだよね。
・・・なにもわからないことをいいことにあいつー
ケダモノ、女子の敵!
ぶ、ぶん殴ってやる!
「・・・さくら、お前はアイドルになりたかったんじゃなかと」
「えっ」
アイドル?
今あいつ確かアイドルって言ったの?
それにあの娘、さくらって言うんだ。
「お前をアイドルにするため、仲間も集めたんじゃい。
最高のアイドルグループをな。
だからこんなところで寝てる場合じゃなかろうが。
さっさと目覚めんかい。
・・・・・・俺が、俺がお前をアイドルにしてやるんじゃい」
「う、う、う゛う゛、あ゛ー」
やっぱりアイドルって言った。
それに仲間を集めたって。
なんかようわからないけど、あいつわたし達をアイドルにする気なの?
あの娘のために。
でもさ、あの娘ってあいつの何なんだ?
彼女、彼女さんなの?
・・・・・・ふぅ~、どっちにしろ今は何か訊ける雰囲気じゃないや。
名前、今度にしよう。
”スタスタスタ”
「おやすみなさい」
ーーーーーーーー
”ちゅんちゅん”
「ふぁ~あ」
はぁ~、結局昨日はほとんど眠れなかった。
風が強くて、窓とか物音がする度に目が覚めちゃってさ。
”トボトボトボ”
でもほんとはさ、物音がしなくても眠れんかった。
だってさ、昨日はあんな衝撃的なもの見ちゃったんだもん。
そっかー、あいつはきっとあのさくらって娘のことが・・・
へへへへへ、からかってやる!
あいつどこにいるかなぁ。
きっと朝ご飯だよね多分。
・
・
・
”ガチャ”
あ、いた!
やっぱ朝ご飯食べてた。
ぐへへへへ、そうやって平然としていられるのも今のうちだぜ。
いじりまくってやる。
”スタスタスタ”
「あ、あのさ」
「お早うございます」
「えっ」
「お早うございます!」
「あ、あ、あの、お、お、お早うございますです」
”ペコ”
「うむ、挨拶は基本だからな。
挨拶できん奴は認めてやらんからな」
”もぐもぐ”
「あ、う、うん。
へ、あ、あの何これ」
”もぐもぐ”
「ん? これは玄海漬けじゃい。
なんだ知らなんのか、このちょ~有名な佐賀の名物を」
”パクパク”
「・・・そんなもん知らない」
「なんも知らんのじゃの、この馬鹿ゾンビィ。
よくそんなんで生きていられるの。
・・・って死んでんのかお前。
まぁ、なんも知らんどうしょうもないお前に教えてやろう。
これはだな、クジラの 」
「う、うっさい!
そんなこと聞いてんじゃないやい。
この朝ご飯なんなのって聞いてんの!」
「なんなのってなんじゃい」
「あのさ!
朝ご飯ってとっても大事なんだよ。
眠っている間に消費したエネルギーをしっかり補充して、
そんで身体を目覚めさせるの。
それに健康にも影響あるんだからね!
それなのになんでその大事な朝ご飯がさ、ご飯とその何とか漬けだけなの」
「そんなもん、面倒くさいからに決まってるじゃろ」
「あ~ん、もう!
そんなんじゃダメじゃんか。
ちゃんとしっかり栄養摂らないと。
いいからちょっと待ってて」
”スタスタスタ”
「冷蔵庫のもの使わせてもらうね。
えっと、何があるかなぁ」
”ガチャ”
「ん~、卵と・・・」
「・・・・・・」
・
・
・
「るんるんるん♬」
”カタカタ”
よしで~きたっと。
ふむ、我ながら外見は美味しそう。
でも味のほうはちょっと心配。
だって・・・
「はいお待たせ。
卵とひき肉があったので、そぼろ丼にしてみました。
それと、かぼちゃと豆のスープ。
どうぞ召し上がれ」
「ちゃんと食べれるんだろうな」
”パク”
「ん!」
”パクパク、もぐもぐ”
「ん、んー!」
”ドンドン”
「あ、ほ、ほら、あんまり慌てて食べるから。
はいお茶、このお茶飲んで」
”ズズ、ズー”
「ふぅ~」
「大丈夫?
あ、それとさ、味の方はどう?」
「・・・・・・美味い」
「そう?
良かった、えへ。
なんかさ、味見しても味がわからなくて。
正直、ちょっと心配だったんだ」
「まぁ、ゾンビィだからな」
「ううう、それ言わないで。
ゾンビィ忘れようとしてるのに。
・・・・・・あ、そっだ。
あ、あのね」
”もぐもぐ”
「ん、なんだ?」
「あのさ、名前、何ていうの?」
「いぬ・・・・巽、巽幸太郎じゃい」
「いや、あんたのじゃなくてわたしの」
「へ?
・・・・・・わ、わかってたわい。
冗談、冗談じゃい。
お、お前はだな・・・」
「わたしは?」
”わくわく”
「・・・・・・みか」
「みか?」
「そ、そうだ、お前の名前はみかだ」
「えっと~、わたし何も憶えて無いんだけど、それがわたしの名前?
みか、みかか~
なんかいい!
えへへへ、みか、みか、みか・・・わたしはみか!
あ、あのさ、どんな漢字?
ね、どんなの?
やっぱ、みかの”み”って美しいの美だよね。
実っていう字もあるけど、やっぱ美しいだよね。
あとさ、”か”は華麗とかそんな感じ?
それとも花とか夏とか?
あっ、香っていうのもあったね。
ね、ね、どんな漢字なの?」
「・・・し、知るかそんなもん!」
「へ?」
「俺が今勝手につけた名前じゃい。
え~い、漢字漢字ってうるさいんじゃい。
そんなもんいちいち考えてられるか。
面倒くさいから、お前なんかカタカナで十分じゃい。
それでいいじゃろこのボケ~」
「い、今つけた?
・・・・・・そ、そっか、わたしの本当の名前じゃないんだ。
あんたも知らないんだねわたしの名前」
「本当の名前なんて知らん。
お前はある日突然この屋敷の玄関前に捨てられてた。
死んでな」
「・・・そ、そうなんだ」
わたし捨てられてたのか。
ははは、わたしって誰なんだろうね。
なんで死んだの?
なんで捨てられたの?
わからない、なんにもわからない。
う、ううううう。
”トボ、トボトボトボ”
「お、おい、どこへ」
「巽さん。
・・・・・・わたしって何者なんだろうね」
”ガチャ”
「う、うう、うううう、うわ~ん」
”ダー”
「何者っか。
教えるわけにはいかんのじゃい・・・・・・美佳」
・
・
・
”とぼとぼとぼ”
わたしって誰なんだろう。
死んで捨てられたって最悪じゃん。
なんか悪いことしたのかなあ。
”ワンワンワン””
え、あ、ロメロ。
そっかお前ここで見張っているんだっけ。
そうだよね、勝手にこの家の敷地から外に出るわけにはいかない。
それがあいつとの約束だった。
それに、こんな顔したのが町の中を歩き回ったら・・・パニックだよね。
「ワンワン」
わ、わかった、もどるから。
ちゃんと中にいるよ。
”スタスタスタ”
でも、今は誰にも会いたくない。
一人になりたい。
だって・・・・・・ちょっと辛い。
どこかにいい場所無いかなぁ。
もしあいつが探しに来ても見つからないような。
”ポツ、ポツポツ、ポツポツポツ”
ん、あ、雨降ってきた!
やば、ど、どっか雨宿りできるとこない?
・
・
・
”ザー、ザー”
本降りになっちゃったね。
でもいいや、ここ雨防げるしなんかすごく落ち着く。
狭くて暗くて、ちっとゲソ臭いけど。
なんにもないわたしにはちょうどいい。
ふぅ、な~んか落ち着いたら眠たくなっちゃった。
「ワンワンワ、ワン♬
・・・ワン?
ウー、ワン!」
ん、なに?
あ、ロメロっか。
門のところで番してたんじゃなかったっけ?
「ワンワン! ワンワン!」
なに、もしかしてどけって?
ほほ~、あんたこのわたしに喧嘩売ってんだ。
「うっさい、この犬小屋はわたしが占拠した。
あっち行け!
ヴー、ワンワンワン!
ガルルルル!」
「キャン!
キャンキャンキャン」
ふっ、勝った。
この犬小屋はわたしがもらった。
・・・・・・って何やってんだわたし。
はぁ~、なんか疲れた。
・
・
・
「スー、スー、むにゃむにゃ」
”ガチャ”
「まぁ焦らないことだ」
「はい」
ふぇ、な、なんだ?
ふぁ~、なんか寝ちゃってた。
えっと~、ん、誰、誰だあの人?
玄関であいつとなんか話してる。
”スタスタスタ”
あ、やば、こっち歩いてきた。
見つからないように隠れてなくちゃ。
「心が眠ったままというのなら、その心を揺さぶる何かが必要ということだな」
「心を揺さぶる何かですか」
「そうだ。
まぁ、それでも駄目なら、いっそのこと脳みそに直接刺激を与えるとかな。
あ、物理的な刺激じゃないぞ、なにかこう内側からな」
「刺激ですか」
「ああ。
それはそうと、えっと”元祖ゾンビィ村肥前夢街道プロジェクト”だったか?
あれ、お前は本気なんだな」
「ゾンビランドサガプロジェクトです。
・・・本気です」
「・・・そうか。
まぁいろいろ大変だけど頑張れや。
じゃあな」
”スタスタスタ”
なんだ今の話?
ゾンビランドサガプロジェクト?
そういえば、あいつ昨日さくらって娘になんか言ってたな。
確かアイドルがなんだかんだとか。
マジ? あいつマジでわたし達をアイドルに。
そっか、あいつが言ってたわたしの居場所ってそれなんだ。
・・・・・・アイドル、アイドルか~
ぐふふふ、わたしがアイドル。
あ、でももしアイドルになったら、わたしのことなんかわかるかも。
よ、よしこうしちゃいられない。
あいつに協力して、あのゾンビィっ娘達なんとか意識取り戻させなくっちゃ。
”ガシ”
「へ?」
”ガタガタ”
「あ、あれ?
んー」
”ガタガタガタ”
「・・・・・・こ、小屋から出れん!」
・
・
・
あ~、大変な目にあった。
手とか足外して何とか抜け出せたよ。
ゾンビィで良かった。
えっと、そんなことよりあいつあいつ!
えっと~、あっいたいた!
やっぱあの娘のとこにいた。
「う゛う゛~、う~、ううう゛~」
「あ゛ー、あ゛ー」
・・・・・・当然、この娘達もいるよね。
やだな~やっぱ不気味だし。
気が付かれないようあいつのとこに。
「・・・さくら」
「ねっ!」
「おわっ!
な、なんじゃい、いきなり俺の背後に立つんじゃない。
その顔、怖いじゃろうが」
怖い・・・ぐそ、その娘も同じゾンビィじゃん。
ま、まぁいい、ここはアイドルになるため我慢我慢。
「彼女・・・目覚めないね」
「・・・・・・そうだな」
でも、どうすれば彼女達って目が覚めるんだろう。
目を覚ましてくれないと、アイドルになれない。
ん~と・・・・・・あっ!
「ね、ね、巽さん、わたしはなんで目覚めたの?」
「え?」
「だってわたしもずっと彼女達と一緒だったんでしょ。
だったらなんでわたしだけ?」
「なんでって・・・・・・・・・・・・・・・・・・
は! ワ、ワサビじゃい!」
「えっ、ワサビ?」
「お前は目覚める前に大量のワサビチョコ食べたんじゃい。
そうしたら急にう゛がーって倒れて。
そうか、きっとワサビの刺激がお前の脳みそに刺激を与えて。
そ、そうだ間違いない。
ちょ、ちょっと待ってろさくら。
今、目覚めさせてやる」
”ダー”
「巽さん?」
・
・
・
「う゛ー、う゛、あ゛ー」
ひゃ~こ、こっちくんなー
や、やだよ~、巽さん遅いよ~
どこ行ったんだろう?
なんかすごい勢いでこの部屋を飛び出していったけど。
でもさ、ほんとワサビなんかで目覚めるのかなぁ。
”バタン!”
「はぁはぁはぁ。
さくらー、持ってきたぞ」
「え、で、でも巽さんそれチョコじゃ」
「あのチョコはもうない。
お前が全部食べたからな!
お前が」
「なんか、ご、ごめんなさい」
「それにあれは限定商品だったみたいで、どこにも売っておらんかった。
そこでだ、これじゃい!」
「それなに?」
「き、貴様!
これを知らんとか!
本当にな~んも知らんのじゃな。
これは唐津の名物、ワサビ漬けじゃ~い!」
「ワサビ漬け?
で、でも巽さん、いったいいくつ買ってきたの!」
「近所のスーパーにあったの全部じゃい」
「・・・・・・」
「これを食べさせれば、きっと目覚めるはず。
さっさとなんか皿もってこいかい。
なるべくでかいやつ、いや、この家で一番でかいのもってこんかい」
「え? あ、うん」
”タッタッタッ”
・
・
・
「はい、お待たせ」
「おお、これじゃこれ!
この皿にこのワサビ漬けをだな」
”ドサ”
「この皿にワサビ漬けを」
”ドサドサ”
「この皿に 」
「ちょ、ちょっと巽さん!
どれだけワサビ漬け載せるの」
「これ全部じゃい」
「全部って、それ50箱以上あるじゃん。
はぁ~、そんなに食べさせて大丈夫なのかなぁ」
”ドサドサドサドサ”
「よし、これでよか。
えっと~」
”キョロキョロ”
「おい、さくらはどこだ?」
「う~んと、どこだどこだ?
あ、いた!
ほら、あの窓のとこ」
「おお、いたいた
ちょっとこっちに連れてきてくれ」
「あ、うん」
”タッタッタッ”
「さくらちゃ~ん」
「う゛ー、う゛う゛、ううう、あ゛ー」
「ほ、ほら、巽さんが呼んでるからあっち行こ」
”ガブッ”
「ひゃ~、あ、頭噛まないで」
「う~、う゛、あ゛ー」
う~ん、取れない!
さくらちゃん、頭離してー
「巽さ~ん、頭噛まれた。
さくらちゃん離してくれない~」
「よかけん、そのままこっちにこんかい」
「う、うん」
”ズルズルズル”
あの~、さすがにこれちょっと重たいんだけど。
また頭もげそう。
巽さんがこっち来てよって、え?
「た、巽さんうしろ!」
「う゛、う゛う゛、う゛う゛う゛」
「うしろってなんじゃい?」
”ガブ、ガブガブガブ”
「お、おわー、たえ、お前何してんじゃい」
「う゛ー」
「はなせ、皿離せ。
ワサビ漬け食うな。
く、食うな、は、離せ!」
”ガブガブガブ、バリバリ”
げ、さ、皿食べてる!
い、いくらゾンビィでもそんなの食べたら。
「ね、皿は食べちゃダメ。
身体に悪いから、ほらこっちに頂戴」
「う゛ー」
「ぜ、全部食いおった。
ワサビ漬け全部食いおった」
”へなへなへな”
「た、巽さん、大丈夫?」
い、いや、そんなにへこまなくても。
「う゛ー、う゛ー!」
え、な、なに?
”ジタバタジタバタ”
な、なんかこの娘暴れてる!
すごく苦しそう。
やっぱあんなにいっぱいワサビ漬け食べたから。
「た、巽さんこの娘大丈夫?
えっと、確か名前は 」
「こいつは山田たえ、伝説の山田たえじゃい」
「おおー、この人が」
「お、お前知ってるのか?」
「うううん、知らない」
「知らんのか~い」
”ポカ”
「だ、だって~、伝説って言うから・・・」
「う゛がー!」
”どさ”
え、なになに?
あ、たえちゃん倒れた。
なんかピクピクしてる。
だ、大丈夫なのほんとに?
「仕方ない。
しばらくたえの様子を見てみるか。
もしたえが目覚めれば、今度こそさくらに食べさせよう」
”つんつん”
大丈夫かなぁ、たえちゃん。
なんか突っついても全然動かないんだけど。
・
・
・
”スタスタスタ”
「ルンルンルン♬」
「ん、なんだ、とても機嫌良さそうだな。
なんかいいことあったのか?」
「だ、だってさ、えへへへへ」
「な、なんじゃい、き、気持ち悪い」
「巽さん! わたし頑張るね」
「なにをだ?」
「なにをって、もういけずなんだから~
ア・イ・ド・ル♡
巽さんが言ってたわたしの居場所って、アイドルってことだったんだよね。
うん、わたし歌とかダンスとかいっぱい練習して頑張るから」
「お前どこで聞いてた!
・・・・・・言っておく、お前はアイドルじゃない家政婦だ」
「へ?」
「お前は家政婦じゃい!」
「は、はぁー!」
”ぷにゅ~”
「ふにゃ~、な、なにを。
ほ、ほっぺ引っ張らないで~」
「お前のどこがアイドルじゃい。
この地味~な顔のどこがアイドルなんじゃい、このボケ~
お前の居場所はこの家の家政婦に決まっとるじゃろが!」
「か、家政婦!
で、でも、ほ、ほら地味な娘が好きだって人も。
だからわたしもアイド 」
「そんなもんいるかい
いても小数点以下の誤差じゃい。
お前なんぞ地球がひっくり返ってもアイドルになんてなれんわい!
この地味女ー」
「ひどー!
うううううううう、うわ~ん
巽のバカー
うぇ~ん、あんたなんか大嫌い!」
”ダー”
「・・・・・・お前をアイドルにするわけにはいかんのじゃい」
・
・
・
巽の馬鹿、巽の馬鹿、巽の馬鹿!
「ワンワン!」
うっさい、ロメロあっち行け。
この犬小屋はわたしがもらったっていってるだろうが!
「ガルルルルー、ワンワンワン!」
「キャンキャンキャン」
ふん、思い知ったか!
くそ、なんでわたしだけ。
わたしだってアイドルやりたいもん。
それなのに家政婦だとー
くそくそ、巽の馬鹿。
人の顔、地味地味地味って言いやがって。
そんなもんゾンビィなんだからわからんだろうが。
・・・ゾンビィだから
・・・・・・ゾンビィ・・・わたし達ゾンビィ。
さくらちゃん達も顔とかこんなんなのに、アイドルなんて無理なんじゃ。
きっと怖がられて、あのビデオのように殺されるって。
頭グシャって!
絶対アイドル無理じゃん。
ーーーーーーーー
”ちゅんちゅん”
「なんだ、お前こんなとことで寝てたのか」
ふぇ~?
はっ、もう朝?
そっか昨日ここで寝ちゃったんだ。
えっと~なに?
げ、巽!
「風邪引くぞ」
「ふん、ほっといて!
わたし、ゾンビィだから風邪引かんし。
あ、あと家政婦なんか絶対やらないんだから!」
「・・・まぁいい。
ちょっと来い」
「え?
い、いや、絶対行かない」
「いいからくるんじゃい!」
”ぐぃ”
ぐへぇ~
そ、そんなに頭引っ張らないで。
か、身体が犬小屋に引っかかってるから出れない。
だ、駄目だって~
「ちょ、ちょっとま 」
”すぽっ”
「ひゃ~
ほら、そんなに引っ張るから頭もげたじゃんか!
いやちょっと待ってて、身体がまだ犬小屋に」
「お前の身体に興味はない」
「はぁ!
そんな問題じゃ。
・・・・・・えっと、なんか今すごく傷ついた気がするんだけど」
・
・
・
”スタスタスタ”
「まったく、頭もげるの癖になったらどうすんのさ」
「そん時はそん時じゃい。
接着剤でくっつけてやる。
二度と取れんようにがばい強かのでな」
「・・・・・・
で、たえちゃんの様子はどうなの?」
「ん、いや、まだ眠ってた」
「そう」
”スタスタ、ピタ”
「ほら入れ」
”ガチャ”
え、ここってあのゾンビィっ娘達の部屋だけど?
「う゛、う゛う゛う゛、う゛ー」
「あ゛ー、あ゛あ゛あ゛ー」
”フラ~、フラ~”
げ、やっぱ起きてるじゃん。
う~、いつ見ても怖いんだよ。
・・・あれ、たえちゃんいない。
巽さん寝てたって言ったのに。
どこに行ったんだ?
は、もしかして目覚めて、わたしの時みたいに外にいったんじゃ。
だとしたら、たいへ
”カブッ””
「へ?」
”カブカブ”
「た、たえちゃん!
やめて、わたしの頭噛まないで~」
「う゛う゛、う゛、う゛、う゛ー」
「ちょ、ちょっと巽さん助けて」
「はぁ~、駄目だったか」
「そ、そんなとこで落ち込んでないで助けて~」
「あっちいってろ、しっしっ!」
「う゛う゛、う゛~、あ゛~」
”フラ~、フラ~”
はぁ~、助かった。
なんかよく頭噛まれるんだけど。
ゾンビィってそんなに頭が好きなのかなぁ。
頭、頭
”ジー”
巽さんの頭・・・・・・
ごくり。
「な、何見てんじゃい。
お、お前、いま変なこと考えて無かったじゃろな。
まぁいい。
ちょっとそこに座れ」
「え?
あ、うん」
「さてと始めるか」
・
・
・
”ペタペタ、ぬりぬり”
「あ、あの~巽さん
いったいさっきからわたしの顔になにを」
「え~い、だまっとれ。
ほらみろ、また失敗しただろうが」
”ゴシゴシ、ゴシゴシ”
「ふ、ふぇー、や、やめれー
だから顔こすらないで。
ぷふえー」
・
・
・
「よし、こんなもんじゃろ」
「お、終わった。
もう!
さっきからわたしの顔で何を遊んで 」
「いいからそこの鏡台に座って鏡を見てみろ」
「え?
あ、うん」
”スタスタスタ”
うんしょっと
まったく人の顔で何して・・・・・・・・・・・・
えっ! こ、これって。
「た、巽さん、こ、これ 」
「これがお前の顔じゃい。
生きてた時のな」
こ、これがわたしの顔
レイヤーボブに奥二重、へへ、それにちっちゃい鼻。
・・・ほんと、なんかこれと言って特徴のない普通の顔だね。
「これがわたしっか」
「まだじゃい、ほれ」
”サッ”
「え、眼鏡。
この眼鏡って?」
「お前の死んでたところの近くに落ちてた。
おそらくお前のものだ。
そしてこの地味眼鏡をかけた顔、これがお前だ」
「そっか、これがわたしなんだ」
「わたしって何者なんだろうって、お前言ってたな。
お前がどこで何をしてたのか俺にもわからない。
だから、お前の問いに対して俺がしてやれる答えはこれぐらいだ」
「巽さん」
この人、結構いい人なんだ。
ときどきさ、なんかめっちゃ腹立つこと言われるけど、でもほんとはやさしくて。
それにわたしに生きろって言ってくれたし。
はっ、そういえばなんかよく見れば善人そうな顔して。
そうだ、謝らないと。
わたしそれなのに巽さんのこと馬鹿って、大嫌いって。
「あ、あの、巽さん 」
「撤収~、撤収じゃい!
ほれさっさとそこどかんか~い!」
「へ?」
「なにボケっとしてるんじゃい。
練習は終わったんじゃい。
今からが本番じゃい。
さっさとさくら連れこんかい!」
「へ?
れ、練習?
・・・・・・あ、あのわたしってもしかして練習台だったの」
「決まっとるじゃろ。
お前の顔、地味じゃから練習するにはちょうどよかったんじゃい。
その平べったーい顔、がばいメイクやりやすかったからの~
そんなことどうでもいいんじゃい、さっさとさくらを連れてこんかい」
・・・・・・や、やっぱこいつ嫌い!
やっぱどっから見ても胡散臭い顔してるし。
一瞬でもこいつのこと善人と思ったわたしが恥ずかしい。
「さっさといかんかい、この地味眼鏡ゾンビィ」
「・・・・・・」
き、今日のところはこの眼鏡に免じて許してやる。
でも、い、いつか仕返ししてやるからな!
く、くそー
えっと、さくらちゃんさくらちゃんと。
”キョロキョロ”
あ、いたいた。
あの壁のところ。
へへ、リボンしてるからすぐわかる。
「えっと、さくらちゃ~ 」
””ガブッ”
げ、またかー!
また頭噛まれた。
も、もう噛まれてばっかり。
これ、絶対頭に歯形ついてるよ。
はぁ~、わたしの頭ってそんなに美味しそうに見えるのかなぁ。
さくらちゃん離してくれそうにないし、仕方ないこのまま。
”ズルズルズル”
「巽さん、さくらちゃん連れてきたけど、先にこれどうにかして」
「また噛まれてんのかい。
え~い、さくら口開けんかい」
”かぽっ”
「うー、ううー、う゛がー」
「動かないよう、さくらを押さえていてくれ」
「え、やだー」
「いいから押さえんかい」
「だ、だって、きっとまたガブッって。
・・・も、もう!」
”だき”
「う゛、う゛がーう゛がー!、う゛がー!」
”ジタバタ、ジタバタ”
「え~い、ちゃんと押さえておかんかい」
「む、無理だってこんなの。
なんかめっちゃ力強いし」
”ガブッ”
「ぐぇー、また噛まれた」
「ち、仕方ないの。
さくら、これで食ってろ」
”パク”
「う゛? う゛が」
”もぐもぐもぐ”
げ、し、静かになった。
なにこれ?
え、えっと、ゾンビィってゲソ食べさせると静かになるの?
は、もしかしてだからこいついつも胸ポケットにゲソを。
「ね、巽さん。
ゾンビィってゲソあげれば静かになるの?」
「そうだ」
「だ、だったらはじめっからそうせんかい!
わたしまた頭噛まれたんだからね。
まったく!」
「いいから始めるぞ、ちゃんと押さえていろ」
「あ、う、うん」
・
・
・
”ペタペタ、ぬりぬり”
へぇ~可愛い。
これがさくらちゃんなんだ。
「た、巽さん」
「なんじゃい」
「可愛い♡」
「あ、あったりまえじゃい」
そっか、これならアイドルできるよね。
他のゾンビィっ娘達もさくらちゃんみたいに可愛いのかなぁ。
・・・・・・だったら敵わない、やっぱわたしには無理だ。
あ、でもあの小学生みたいな子もアイドルやるの?
「ね、巽さん、あのちっちゃい・・・・・・」
”ヌギヌギ”
へ、こ、こいつ、さくらちゃんになにしてんだ。
「お、おい!
あ、あ、あんた何してるの!
なんでさくらちゃんの服脱がせてるの!」
「何してるって、顔だけじゃアイドルできんじゃろ。
身体の方のメイクも必要に決まっとるじゃろが」
「や、やめ!
そ、それ以上は 」
「あ、ほれ、ヌギヌギ、ヌギヌギっと」
「え~い、やめんかい!
貴様、女の子を裸にして何をするつもりなのさ、このドスケベ!
身体の方はわたしがするから。
いいからメイクのやり方教えなさい!」
「お前なんかにできんわい。
俺がこのメイクの技術を習得するのに、ハリウッドでどれだけ苦労したことか」
「覚えるから!
必死で覚えるから、これは絶対ダメ」
「チッ」
あ、今、チッって言った、チッて!
まったくこの男は。
ん、あ、でもこうやって見ると、さくらちゃんも包帯だらけなんだ。
手とか足首、それとお尻とかも。
”ごく”
む、胸でかい。
このブラ、何カップなんだろう。
・・・・・・ん、ちょ、ちょっとまった。
・・・包帯・・・だらけって
わたしは・・・胸もお尻も・・・・・・包帯で・・・
「お、おい!
いいから正直に答えろ!
このさくらちゃんの包帯、き、貴様が巻いたのか」
「ああ、そうだ」
「わ、わたしのもか?
わたしの包帯も貴様が 」
「あたりまえじゃい。
他に誰がするんじゃい」
「き、貴様ー!」
”べし”
「ぐはぁ」
へ?
あ、なんかいい感じ?
チョップしたとき、なんだかすごく気持ちよくて。
なんだろう?
「な、なにをするんじゃい!」
は、そ、そんなことより、いまはこのドスケベを!
「なにをするんじゃいじゃないんじゃい!
よ、よくもわたしの裸を!
貴様わたしの裸見たな!
この馬鹿ー」
「仕方なかろう、その包帯には防腐剤が 」
「仕方なくなーい!」
”ベシベシベシ”
「ぐはぁ~」
あ~、快感。
ぐへへへ、日頃の恨み思い知ったか!
あ~すっきりした。
・・・で、でもわたしこいつに裸全部見られたんだ。
わたしだけでない。
このゾンビィっ娘達全員の・・・・・・
こ、このドスケベにもう一発天罰を。
「う゛がー!!」
へ?
さ、さくらちゃん?
どうしたのいきなり。
”ドタ!”
「さ、さくらちゃん!」
最後までありがとうございます。
オリヒロのアイドルの夢ははかなく消えて・・・・・・
・・・家政婦のミカ
ご、ごほん!
え、えっと、次話でようやくさくらが。
また次話でお会い出来たらありがたいです。
ではでは。
(不定期更新ですみません)
※す、すみません。
さくらちゃんの包帯、腕と足首、それにお尻と太腿でした。
胸は・・・
修正します。
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ライブ?
今年もよろしくお願いします。
今話も見に来ていただきありがとうございます。
前話にて突然倒れたさくら。
さくらとオリヒロは・・・
ではよろしくお願いします。
※クロスですが、今話は俺ガイルキャラあまり(・・・ほとんど)でないです。
すみません、ご了承願います。
「はぁ~、はぁ~」
”きゅっ、きゅっ”
「よしっと」
ふぅ~、やっと窓拭き終わった~
しっかしほんとにでっかい家。
お昼前から掃除始めたのに、まだ窓拭きしか終わらない。
もうすぐ晩ご飯作らないといけないのに。
う~ん、床の拭き掃除とか明日やろうかなぁ。
でもさ、こうやってお掃除とか食事の準備とかやってると、すごく気持ちが落ち着く。
その時だけはゾンビィだってこと忘れられるから。
・・・・・・ゾンビィ・・・っか。
「・・・・・・うぐ」
くそ、落ち込んだってしょうがない。
ほらほら、さっさと床拭きやっちゃおう。
・・・・・・うん、頑張れ。
よ、よし、んじゃまずはこの部屋から。
”ガチャ”
「・・・・・・」
ほんとに巽さん、さくらちゃん達をアイドルにする気なんだ。
この部屋見ればわかる。
板張りの広い空間に防音設備、それに壁一面のでっかい鏡。
ここはさくらちゃん達がレッスンするために作った部屋だよね、きっと。
”スタスタ”
この鏡に映った顔。
これがわたしの生きてた頃の顔なんだ。
へへ、ほんと地味な顔。
でも、でもさ
・・・うれしいい。
だって、自分のこと何もわからなかったから。
やっと、少しだけ・・・・・・
”ぎゅ”
そしてね、これがわたしの生きてた時の身体。
今朝、さくらちゃんの後、わたしにも巽さんがメイクしてくれたんだ。
でもね、こうやって抱きしめても何のぬくもりも感じない。
・・・死んでんだもんね。
ね、鏡の中のわたし教えて。
わたしさ、なぜ死んだの?
死ぬ前なにしてたの?
名前は?
年は?
もしかして好きな人とかいたの?
それでさ、この指輪ってその人にもらったの?
知りたい、わたしのこともっと知りたい。
だから教えて。
「・・・・・・」
はぁ~、なにやってんだか。
無理だよね、答えてくれるわけないじゃんか。
・・・でも思い出したい、いつかちゃんと思い出したい。
ほんとの自分が知りたい。
”ポロ、ポロポロポロ”
「ううう」
”バシ、バシ”
駄目だ駄目!
しっかりしろわたし。
泣いたって仕方ないだろう。
ほんとちょっと油断するとすぐこれだから。
頑張るって、いつも笑顔でいるんだって決めたんだ。
だからちゃんとしないと。
”にこっ♡”
うん、笑顔、笑顔。
「うし!」
あ、でもさ、この特殊メイクほんと凄い。
巽さんっていったい何者なんだろう。
ハリウッド仕込みだって言ってたけど、これってさどこから見ても人間。
誰もゾンビィなんて気が付かないよ。
顔だけじゃない、身体も・・・・・・
で、で、でも、身体のメイクは自分でやれるようにならないと。
だってさ!
『ほれヌリヌリ、ペタペタっと』
『うっ』
『ん、なんじゃい?』
『な、なんでもない、なんでもないです。
あは、あは、あはははは』
『・・・・・・なんじゃいまったく。
あっそれ、ヌリヌリ、ヌリヌリっと』
『あ~ん』
『おわ! な、なんて声出すんじゃい』
『だ、だ、だって~』
う、うううう。
は、早くメイク覚えよう、自分で出来るようにならないと。
じゃないとまた・・・・・・
くそ、あのバカ! 変なとこ触りやがって。
・・・・・・う~
あ、そういえばさくらちゃん大丈夫だったかなぁ。
顔のメイクした後、急に倒れちゃったから。
身体のメイクしてる間もピクリとも動かなかったし。
掃除終わったら様子見に行って来なくちゃ。
”ふきふきふき”
・・・でも、さくらちゃんでかかったなぁ~
くそ、ゾンビィのくせにうらやましい!
・
・
・
”ごそごそ”
「ふむ、免許証に書いてある住所は千葉っか。
あいつ千葉に住んでたのか。
えっとあとリュックに入ってたのは財布とハンカチ、お弁当箱?
お弁当箱入っていたのか」
”パコ”
「げっ!
・・・・・・に、臭うと思ったら。
まっ、仕方ない、このリュックずっと放置していたからな。
あ、あと他には、ん、手帳っか。
何書いてあるんだ?」
”パラパラ”
「ふむ、こいつ保母さんだったんだな。
園児のこといっぱい書いてある。
それにしても、好きなものや嫌いなもの、良いところ、注意することとか
一人一人のこと細かく記録してある。
・・・・・・いい先生だったんだな」
”パサッ”
「ん、写真?」
”ひょい”
「ふ~ん、この腕組んで一緒に写ってる奴、これが指輪の相手か。
しかしこの目・・・・・・まるでゾンビィだな」
”ドタドタドタ”
「ん?
は、やばっ。
ど、どこかリュック隠すところは」
”ガチャ”
「巽さ~ん、ご飯できたよ~」
「なんじゃい。
ド、ドアを開ける時はちゃんとノックしろと言っただろうが!
常識知らん奴はもうメイクしてやらんからの」
「あ、ごめんなさい。
あのさ、ご飯できたから冷める前に来てね」
「わかった、今行く」
「うん」
”スタスタスタ”
「あ、危なかった。
このリュック、ここに置いておくのはやばいかもな。
あいつに見つからないようにどこかに隠さないと」
・
・
・
”ザー、ザー”
「はっ!」
”きょろきょろ”
「・・・・・・はぁ?」
”すく”
「・・・・・・」
”ギィ~、ギィ~”
「・・・・・・」
”トボトボトボ”
「・・・・・・」
”ガシャーン”
「はぁっ?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
「あぁ!」
「うがぁ~」
「はぁ!」
”ダー”
・
・
・
”スタスタスタ”
あ~なんか今日はすっごく疲れた。
だって、この家無駄にでかいんだもん!
結局、掃除終わらんかったし!
もう、なんか身体中の骨がギシギシいってるよ。
ゾンビィでも疲れることってあるんだ。
ふぅ~
”ザー、ザー”
しっかし、今日はずっとすごい雨。
これじゃ外の水道使えないや。
仕方ない、今日は洗面所で身体だけ拭いて終わろうっと。
あー、わたしもお風呂入りたいよ~
あったかいお風呂にザブーンって入りたい。
それにさ、この服ずっと着っぱなしだし。
「・・・・・・」
”クンクン”
う~、なんか匂うかも。
はぁ~、服ほしい。
”トボトボトボ”
ん、あれ、なんでここの窓、ガラス割れてるんだ?
朝掃除したときは何ともなかったのに。
げ、あっちの窓も割れてる。
な、何があったんだ?
・・・あ、も、もしかして。
”ダー”
「さ、さくらちゃ~ん」
”ガチャ”
え、えっと~
”キョロキョロ”
い、いない!
この部屋に寝かせておいたはずなのに。
・・・・・・さくらちゃん目を覚ましたんだ。
・
・
・
”ドタドタドタ”
どこ? どこ行ったのさくらちゃん。
”キョロキョロ”
いないいないいない、どこにもさくらちゃんいない。
他のゾンビィっ娘達は二階でうろついてたけど、さくらちゃんだけいない。
家の外に出て行ったのかも。
だとしたら、ヤバッ!
・
”タッタッタッ”
「はぁ、はぁ、はぁ」
あ、玄関が開いてる。
やっぱりさくらちゃん、家の外に行ったんだ。
まずい、誰かに見つからないうちに早く連れ戻さないと。
傘、傘っと。
”タッタッタッ”
で、でも、もし家の外に行こうとしてもロメロが見張ってるはず。
今日は、ロメロ吠えていない。
だったもらまだ家の中に。
そうだよ、きっとまだ家の中に・・・・・・・
「ぐぉ~、ぐぉ~」
「ロ、ロメロ!」
「ワン?」
「き、貴様ー、なに爆睡してんじゃ~い、このボケー!」
「ギャワン、キャンキャンキャン」
く、くそ、番犬のくせして。
でもやばいな、だったらやっぱり外に行ったんだ。
だとしたら、早くさくらちゃん探しに行かないと。
「何してるんだ?」
「あ、た、巽さん!
え? な、なんでスコップ?
この雨の中で何してたの?」
「な、何でもいいじゃろ。
それよりどうしたんだ?」
「ん、あ、そうだ。
大変なの、さくらちゃんが外に出ちゃたみたい」
「家の中にはいないかったのか」
「うん、探したんだけどどこにもいない。
それに玄関も開いてたし」
「さくら!」
”ダー”
「あっ、待って。
わ、わたしも行く」
”ダー”
・
・
・
「来るな~」
「ひゃっ」
「なんだお前は!」
「えっ、なん?」
”くる”
「あっ、ふぇ!」
・
「はぁ、はぁ、はぁ」
どこ行ったんだろうさくらちゃん
この雨でメイク取れてなかったらいいんだけど。
もしゾンビィってわかったら、きっとあのビデオのように殺されちゃう。
”きょろきょろ”
「巽さん、どこにもいないね」
「・・・ふむ。
もしかしたら反対の道だったかもしれん。
お前一度戻ってみてくれ」
「う、うん」
「あ、ちょっと待て。
これ持っていけ」
「え、スマホ?」
「お前、使い方わかるだろう」
もしさくらが見つかったら電話してくれ」
「えっと~
うん、なんとなくわかると思う。
あ、でも電話番号は」
「ちょっと待ってろ」
”カシャ、カシャ”
「発信、ポチッとな」
”ブ~、ブ~”
「この番号だ」
「わ、わかった。
じゃ 」
”パーン”
「た、巽さん!
今のって」
「ああ、向こうだ」
「うん」
”ダー”
・
「ゾンビィ?」
”ギロッ”
「ひゃっ」
”ゴン!”
「・・・・・・」
”タッタッタッ”
「はぁはぁはぁ、あ、さくらちゃん。
げ、お巡りさん、し、死んでるの?
巽さん、あんたまさか」
「大丈夫じゃい。
気絶してるだけじゃい」
「そ、そう?」
”つんつん”
ほんと?
ピクリともしないけど、だ、大丈夫だよね。
あ、でも雨ひどいし、こんなとこに置いておくわけには。
「おい、なにしてる。
ちょっとさくらをおぶるの手伝え」
「あ、ごめん、ちょっと待って。
うんしょ、うんしょっと」
”ズル、ズルズル”
「何してるんだ?」
「だってお巡りさん、このままにしておくわけにいかないじゃん。
せめて雨のかからないとこにおいてあげないと」
”ズルズル”
ふぅ~、ここならあんまり雨かからないね。
”ペコ”
ごめんなさい。
あ、傘かけておきますね。
返さなくてもいいですから。
風邪ひかないでください。
ほんとにごめんなさい。
よしっと。
「巽さんお待たせ。
えっと、さくらちゃんをおんぶさせればいいんだね」
「ああ。
それとスコップと傘を頼む」
「うん、じゃ乗せるね。
うんしょっと」
”ドサッ”
「・・・・・ぐぅ」
「え、どうしたの?」
「な、なんでもない」
”スク”
「か、か、帰るぞ」
”ふらふら”
「巽さん大丈夫?
なんかふらついてるんだけど」
「なんともないわい」
”ふらふら”
「あ、待って」
”パサッ”
「はい、傘」
「お、おう」
”ふらふら、ふらふら”
「ね、巽さん」
「なんじゃい?」
「よかったね、さくらちゃんの意識戻って」
「・・・・・・これからじゃい」
「うん」
ーーーーーーーー
”ジリジリジリ”
よしっっと、焼き魚完成。
ふふふ、うまく煮崩れせずに焼けた。
この最後の塩が大事なんだよね。
あとはジャガイモと人参のお味噌汁。
どれどれお味は。
”ごく”
美味い・・・・・・はず!
だって、味わからないんだもん。
でもさ、なんだろう。
不思議とお料理憶えてるんだ。
”カサ”
へ?
”カサカサ”
「ぎゃー!」
ご、ご、ゴキちゃん!
G、G、Gが出やがったー
ど、ど、どうしょう。
え~い、このスリッパでも食らえ!
”バシ”
”サッサッサッ”
げ、外れた、こ、この野郎!
”バシ、バシ、バシバシ”
”サッサッサッ”
く、くそ、すばしっこい。
”ブゥ~ン”
ひゃ、こっちに飛んできたー
い、いやー
”ブンブン”
「あ、あっちいけー」
”スポッ”
げ、ぐわぁー、服、服の中入ったー
”ドタバタドタバタ”
「い、いや、いや、いやー」
”ガチャ”
「なんじゃい、うるさい。
なにやってんじゃい」
「た、巽さん、助けてー
G、Gが服の中に。
と、とってー」
「ば、馬鹿者、服の中に手を入れて弄るわけにいかんじゃろ」
「だ、だって」
”ガサガサ”
「いゃー、中で動いてるー
い、いいから、弄ってもいいからGとって」
「服を脱げ」
「えっ・・・・・・スケベ」
「ば、馬鹿そんなつもりじゃないわい。
服脱げば出てくるじゃろう」
「ううう、み、見ないでよ」
「見ても包帯だらけじゃろうが」
「うっさい」
”ぬぎぬぎ、ぱさっ”
「ね、G、身体についてない?」
”もぞもぞ”
「ほらそこ、服の中でうごめいているのがそうじゃろう。
スリッパでホイ」
”グシャ”
「ほれやっつけたぞ、これでいいだろう」
”べし!”
「な、なにすんじゃい」
「き、貴様ー
な、なにした、い、今なにした!」
「なにってゴキブリを退治したんじゃろうが」
「バカー
服、服が、うわーん!」
”ベシ、ベシ、ベシ”
「や、やめ~い」
・
”ゴシゴシ、ゴシゴシ”
あ~あ、汚れはとれたけど、なんかこれ着るのやだ。
でも、服これしかもってないし。
う~、着替えほしい。
あ、それとエプロンも。
・・・・・・そうだ。
・
”もぐもぐ、パクパク”
「ふむ、美味い。
あいつ、料理はマジ美味いな。
味はよくわからないって言ってたけど」
「ねぇ~巽さん、えへ♡」
「おわ、な、なんじゃい。
だから急に背後に立つんじゃないって言ってるだろう。
まじ、その顔、怖いだろうが。
心臓に悪いんじゃい、このぼけ~」
「う~」
くそ、思いっきり可愛い子ぶったのに。
決めポーズも、か、鏡見て練習したのに。
・・・・・・ま、まぁいいけど。
「・・・で、なんじゃい」
「あ、あのね、一生のお願い」
「一生って、お前もう終わってるけどな」
「・・・・・・」
・
・
・
”ピョンピョンピョン”
「スキップ、スキップ、ルンルンルン♬」
へへ、やったー
前借り成功!
今月分の家政婦のお給料、前借りしちゃった。
どんな服買おうかなぁ~
めっちゃ可愛いのにしようかなぁ~
それとエプロンも欲しいし。
・・・でも、ちょっと心配。
ゾンビィなってから人前にでるの初めてだし。
大丈夫かなぁ、ほんとバレないかなぁ。
あ、トイレ。
ちょっと確認してこよっと。
”スタタタタタ”
どれどれ
ふ~、顔は大丈夫だよね、さすが巽さん。
でも身体のほう大丈夫かなぁ。
自分でやったからちょっと心配。
それとさ。
”くんくん”
だ、大丈夫だよね、臭くないよねわたし。
消臭スプレーいっぱいかけてきたから。
・・・・・・よ、よし、行こう。
・
・
・
”ムク”
「はぁ?
なんやたっけ?
あっ」
”スタタタ”
「なんなんこれ?
なんでわたし・・・
思い出せん、なんもわからん。
わたしは?」
「お前は源さくらだ」
「あっ、さっきの」
・
・
・
”キョロキョロ”
う~ん、目移りしちゃう。
あれもこれもほしい。
ほんと、この商店街って結構品揃えいいんだもん。
それにいろんなお店あるし。
へへ、あの喫茶店のケーキ、美味しそうだったなぁ~
今度行ってみたい。
よし、次お給料もらったら、
「あっ!」
”タッタッタッ”
かわいい。
こんなエプロンほしかったんだ。
これ何のゆるキャラかなぁ~、鳥、緑色の鳥だよね。
まぁ、なんでもいいや。
とにかくこの目の感じがたまらなくいい。
うん、これにしよう。
えっと、あとは~
”キョロキョロ”
ん?
あ、あれっ!
”ダー”
これさくらちゃんのと同じブラウスじゃない?
確かこんな感じだった。
・・・さくらちゃん、昨日撃たれちゃったんだよね。
・
・
・
「アイドルとしてサガを救うんじゃい」
「無理です。
ちょっと考えたいことがあるので一人にしてください」
「・・・・・・」
”ガチャ”
「・・・意味わからない。
なんなのアイドルって」
”スタスタスタ”
「そんなのできるわけなかやろ」
”ガチャ”
「ただいまー」
「え?
あ、ひゃ」
「あっ、だ、大丈夫だよさくらちゃん」
「え、わたしのこと知っとるんですか」
”ニコ”
「こんにちわ、さくらちゃん。
わたしミカっていいます。
この家で家政婦やってるの。
えへ、これからよろしくね♡
でもよかった、ほんとによかったね意識が戻って」
「・・・・・・」
「え、あ、あのさくらちゃん」
「怖くないんですか?
わたし、顔こんなんですよ。
普通、こんなの見たら驚くんじゃなかと!」
「あ、い、いや、別に。
あ、あの、だって」
「よかった?
あなた本当にそう思っとると?
こんなになって生き返って、あなたは本当によかったねってそう思っとるんですか。
信じられん」
「あ、い、いやそういう意味じゃなくて。
えへへ、あ、あのね、わ 」
「あなたにはわからんとです。
わたし、ゾンビィなんですよゾンビィ!
それだけやない!
なんも記憶がない、なんもわからない。
それなんにアイドルやれなんて。
・・・へらへら笑ってなんかいられる状況じゃなかと。
あなたみたいに笑ってられないんです!」
「あ、いや、あの 」
「いいです。
どうせあなたにはわからんじゃろけん。
もう二度とわたしに話しかけんでください。
いいえ、もうわたしの前に現れんでください!
・・・マジウザイ」
”ガチャ”
「あ、そこわたしの部 」
”バタン!”
「あ、あのさ、さくらちゃん」
「・・・・・・最低」
「・・・さくらちゃん。
ごめん、聞いてほしい。
わ、わたし、わたしもねゾンビィなんだ。
なんかさ、死んでこの家に捨てられてたんだって。
これね、この顔は外出するんで巽さんがメイクしてくれたの。
だからさこうやって」
”ゴシゴシ”
「ほら、メイク落としたら・・・化け物なんだ。
それとね、わたしも同じだよ。
生きてた頃のことなんてなにも憶えて無い。
・・・名前すらわからない。
ミカって名前はね、巽さんがつけてくれたんだ。
だからほんとの名前・・・知らないんだ」
「・・・・・・」
「・・・わたしも目覚ましてこの顔見た時、もう死にたいって思った。
だって、だって・・・・・・こんなのやだもん。
でも、でもね、わたしこのままじゃ死ねない。
巽さんが拾ってくれたこの指輪。
この指輪を見ると、いつも”ぎゅっ”て胸が締め付けられるんだ。
きっと何か特別な想い出があると思うの。
どうしてもそれを思い出したい。
だから、それまでわたしは死ねない」
「・・・・・・」
「でもさ、実際どうしたらいいのかわからないんだ。
どうすれば記憶が戻るのかわからない。
・・・だから、今は笑うしかない、笑って頑張らないと。
だ、だってそうしないと、笑っていないとわたし・・・・・・う、ううう」
「・・・・・・」
「ぐす。
あ、ご、ごめんね。
えへへへ、変な話しちゃった、この話はおしまい。
あっ、ここにブラウスと替えの服置いておくね。
あんまりお金なかったからそんなに選べなくて。
気にいらないかもしれないけど我慢してね。
じゃ、じゃあね。
・・・・・・ごめん、もう話しかけないね」
”トボトボトボ”
「・・・・・・・」
・
・
・
「ロメロ~、ご飯だよ~
ごめんね、いつも驚かして」
「ウー、ワンワンワン!」
「ごめんっていってるじゃん。
そんなに吠えないでよ~
ほら、いままでのお詫びにドッグフード買ってきたんだよ。
それもちょ~お高いやつ。
奮発したんだからね。
はい、どうぞ」
”クンクン”
「美味しいよ~
ほら食べな」
”プィ”
「え?
食べないの?
これ高かったんだよ~、ほらここに国産原料のみ使用って書いてあるし。
ほら、食べなって」
”プィ”
「な、なんで~」
”スタスタスタ”
「なにやってんじゃい」
「あ、巽さん、お帰りなさい。
ロメロがさ、ドッグフード食べてくれなくて。
折角買ってきたのに」
「ふ~ん。
ロメロ、ほらゲソだ」
”ポイ”
「ワンワンワン♬」
”ムシャムシャムシャ”
げ、ロメロ、めっちゃ美味そうに食ってる。
このドッグフードよりそっちがいいの?
う~、マジ高かったんだよこれ。
とほほ。
「ん、お前服買いに行ったんじゃないのか?
なんでいつもの服のままなんだ?」
「あ、え、えっと、まぁ~いろいろあって」
「まぁいい。
それよりちょっと段ボール運ぶの手伝え。
あと一つ車に積んであるから」
「え、あ、うん。
でもこれ何入ってるの?」
「うん?
ああ、これじゃい。
ジャジャ~ン」
「おおー、Tシャツ、Tシャツだ。
あ、なんか番号書いてある。
こっちはスカート。
うわ~かわいい。
ね、ね、これわたしのもある?」
「・・・・・・」
「あははは、無いよね。
これきっと衣装だよね、さくらちゃん達の」
「お前のもあるぞ」
「え、うそ、ほんと?
あ、ありがと巽さん♡」
「そうだ。
今、俺が着せてやろう」
「え、やだ、こんなとこで服脱ぐの」
「大丈夫だ、その上からでも着れる」
「え、あ、大きいサイズのやつ?」
「ほら、ばんざ~い」
「あ、うん。
ばんざ~い♡」
”ばさ”
「おおー、すごく似合う。
思った通りじゃい。
めっちゃ似合ってるじゃないかい」
「・・・・・・・」
”わなわなわな”
「・・・なんだこれは」
「なんだってなんじゃい」
「こ、これは何だって言ってんだ!」
「お前本当になんも知らんのじゃな。
まったく世話のかかるゾンビィじゃい。
これは割烹着って言ってな、」
「知ってるわ!」
”ベシ”
「ぐはぁ」
「な、な、なんでわたしは割烹着なんだ!」
「うるさいわい。
お前は家政婦だろうが。
それにすごくよく似合ってるだろうが。
そうだ、そんなお前に伝説をつけてやろう。
今日からお前は伝説の割烹着マスター、給食のおばちゃんミカだ」
「いらんわいそんな伝説!」
”ベシ、ベシ、ベシ”
「おわ、や、やめ~い。
なんじゃい、折角伝説つけてやったのに。
もういい。
ほらさっさと段ボール家まで運べ」
「ううう、くそ~」
「あ、そうだ。
後でそこの車、公園に止めておいてくれ」
「え?
わ、わたし、車なんて運転できるの?」
「・・・・・・・で、できるんじゃないか。
ちょっと運転席座ってみろ。
俺は助手席座るから」
「あ、う、うん」
”ガチャ”
「うんしょっと」
”バタン”
「いいか、まずこのサイドブレーキを解除する」
「うん」
「それでその左側のペダルがブレーキだ。
ブレーキを踏みながら、このレバーをDにいれてみろ」
「うん」
「それで左足をペダルから離して、右足の方のペダルをゆっくり踏め。
いいか、ゆっくりだぞ」
「あ、はい」
”スー”
「あ、う、動いた」
「よし、じゃブレーキ踏んで、レバーをPに入れろ。
あとはバックしたいときはレバーをこのRに入れろ。
以上が基本だ。
あとはこれが方向指示器、道を曲がる時に使え。
まぁ、大体これが基本だな。
どうだ、お前でも運転できるじゃろ」
「う、うん」
「それじゃ車は公園の端にでも止めておいてくれ」
”スタスタスタ”
「あ、う、うんやってみる」
・
・
・
”ガチャ”
ふぅ~、結構時間かかった。
でもまぁ何とか停められたし。
えっと~、巽さんどこかなぁ。
車のカギ返さないと。
え~と。
”スタスタスタ”
・
あ、ここにいた。
・・・さくらちゃんも。
あと他のゾンビィっ娘達も。
”ガチャ”
「あの~巽さん、車停めてきたけど。
って何してるの?
なんでメイクを?」
”ペタペタ、ぬりぬり”
「なにボケ~とみてるんじゃい。
さっさとメイク手伝わんかい。
時間が無いんじゃい」
「あ、うん。
でもさ、さっきの衣装といいメイクといいどうしたの?
それに時間がないって」
「今からライブに出るんじゃい」
「あ、そうなんだ・・・・・・ライブ?
・・・・・・はぁー、ライブ!!
ラ、ラ、ライブするの。
だ、だってさくらちゃん以外の他の娘は」
「大丈夫じゃい。
ほら顔のメイク終わったやつから、身体の方を頼む」
「大丈夫ってほんとかなぁ。
あ、でも身体のメイク、わたしがやってもいいの?」
「ああ。
まぁ、そこそこセンスあるようだしな。
それに今日、買い物行っても気付かれなかったんじゃろ」
「う、うん」
「ほれ、まずこいつから」
えっと、このポニーテールの娘は誰ちゃんだっけ?
そういえば、さくらちゃんとたえちゃん以外は名前って聞いてないや。
「えっと~」
「この人は伝説の特攻隊長、二階堂サキちゃん」
「えっ。
あ、さくらちゃん」
「えへ。
あ、あの~ミカさん。
さっきはごめんなさい」
”ペコ”
「わたし、ミカさんのことなんも知らんのに勝手なこと言って。
本当にごめんなさい」
「・・・さくらちゃん。
わたしなにも気にしていないよ。
わたしも最初そうだったもん。
どうしたらいいのか、どうすればいいのかな~んもわからなくて。
すっごく不安で、不安で、めっちゃ不安だった。
だから、だい 」
”だき”
「さ、さくらちゃん?」
「ミカ・・・さん」
「・・・お互い、早くなにか思い出せるといいね」
「はい」
さくらちゃんも不安だったんだよね。
わたしもそうだった。
だからわたしは何も気にしてない。
・・・・・・ん、あれ?
おかしい、わたし達ゾンビィなのに。
こうやって抱き合ってると不思議にあったかい。
あったかいや。
・・・・・・でも!
さくらちゃんやっぱり胸でっかい、くそ!
・
・
・
”キキキー”
「ついたぞ。
さくら、今ドアを開けるからみんなを降ろしてくれ」
「あ、はい」
「ミカ、お前は車を駐車場に停めておいてくれ」
「え、た、巽さん、無理だって」
”ガチャ”
「俺はこいつらを控室に連れて行かないといけないからな。
頼むぞ。
スマホ、持ってたろ。
なんかあったら連絡しろ」
”バタン”
「い、いや、ム、ムリだって
ちょ、ちょっと待って、た、巽さ~ん」
”ゾロゾロゾロ”
「げっ、い、行っちゃった。
ど、どうする、も、もう知らないからね!」
・
・
・
”ノロノロノロ”
えっと~、駐車場どこかなぁ。
なんかすごく狭い道に入ってきちゃったんだけど。
あ、あそこやっと広い道に出られる。
広い道に出れば何か標識があるかも。
なんとか一度会場に戻らないと。
それじゃここを右折して。
”パキッ”
へっ?
あ゛ー、か、鏡、ドアミラー取れた!
”キキキー”
やばいやばい、ドアミラーが。
”ガチャ”
うんしょっと。
えっと、ミラー、ミラー、ミラーはどこだ、どこに落ちた?
”きょろきょろ”
あ、あった。
”ひょい”
えっと、これくっつくかなぁ
ね、念じれば必ずくっつく・・・・・・はず!
だ、だってわたしゾンビィだもん。
超常現象だもん。
「くっつけ、くっつけ、くっつけ、うりや~アンデッドパワー!」
ど、どうだ。
く、くっついたよね。
”ぽろ”
げー!
ど、どうしよう、どうしょう、巽さんに怒られる。
”ブッブー”
へ、あ、ト、トラック!
”ブゥオー”
「ひゃー!」
「気をつけろー、ぼけーと突っ立ってんじゃねぇ、このバカヤロー」
「・・・・・・・」
”がくがくがくがく”
「・・・・・・いや、いや、いや」
”へなへなへな”
「うう、ううううう、い、いやー!!」
・
・
・
「だからライブなんて無理って言ったやないですか!」
「なにがじゃい。
なかなか盛り上がっていたじゃないか」
「あれのどこが盛り上がってたって言うんですか!
たえちゃん達が暴れてただけやなかとですか。
それに会場の人にがばい叱られて、もう出入り禁止って言われたし」
「そんなち~さいこと気にするな。
それよりさっさと帰るぞ。
ん? 車はどこじゃい?」
”キョロキョロ”
「あいつどこに車停めたんだ?
ち、えっとスマホスマホ」
”カシャカシャ”
「・・・・・・」
「おー、俺じゃい。
今から帰るぞ。
車どこに停めたんだ?」
「・・・・・・」
「おい?」
「・・・・・・・ううううう」
「どうした、なにかあったのか?」
「・・・ト、トラックが。
こわい、こわくて身体が動かない」
「いまどこにいるんだ?」
「わ、わからないよ!
こんなとこ来たことないし。
周り真っ暗だし。
も、もうやだよ!!」
「・・・わかった、このままスマホ切らず置いておけ。
今、お前を探し出してやる」
「・・・・・・た、巽さん」
「お前がどこにいようと、きっと俺が探し出してやる。
だから安心しておとなしくそこで待ってろ」
”きゅん”
「・・・・・・うん」
な、なんだろう。
胸がなんか変。
・・・巽さん。
もしかしてわたし巽さんのこと・・・・・・
「こ、幸太郎さん!
純子ちゃんがいない、リリィちゃんも」
「はぁ!
さ、探せ、とっとと探さんかい」
「あ! サキちゃん拡声器持ってきちゃったの。
だ、だめー、うるさいから怒鳴らないで」
「止めろさくら
こんな夜分に、通報されるじゃろうが」
「拡声器、離してサキちゃん。
ん~、離してくれない。
ちょ、ちょっと待って愛ちゃん、愛ちゃんまでどこにも行かないで」
「おわ、た、たえ、頭にかみつくんじゃない。
ミ、ミカ、ちょ、ちょっと待ってろ。
必ず 」
”プ~、プ~”
「巽さん?
・・・巽さん!」
た、大変だ、みんな暴れてるんだ。
だってみんなゾンビィだもん、言うこと聞くはずない。
このままだとお巡りさん来て撃たれちゃう。
みんな撃たれちゃう。
ど、どうしょう。
で、でも身体が震えて。
『ミカ・・・さん』
さくらちゃん。
”バシッ”
な、何やってんだわたし。
しっかりしろ!
さくらちゃんが、み、みんなが大変なんだ!
わたしが、わたしが行かないないとみんなが。
”ガチャ”
待っててみんな。
”バタン”
い、今行くから。
”キュルル、ブゥオー”
とにかく、いま来た道を急いで戻って。
「うぉりゃー!」
”ガリガリガリ”
・
・
・
”ブロロロンー”
や、やった、会場見えてきた。
あ、駐車場!
駐車場って、会場のすぐ横にあったんだ。
”キョロキョロ”
えっと~、あっ、巽さんいた!
「巽さ~ん」
”キキキー”
「お、おうここだ。
身体、大丈夫か?」
「あ、うん、ごめんなさい」
「いや、身体が大丈夫ならそれでいい。
さくら全員いるか?
さっさと撤収するぞ」
「あ、はい」
”ガラ”
「ほらみんな車のって」
「まったく。
さくら、お前がゲソを全部食べさせてしまうからこんなことになったんじゃい」
「だ、だって、みんな控室で暴れるけん」
「ご苦労だったなミカ。
よし運転代わろう。
いまそっちいくから、助手席に移れ」
「あ、い、いや、巽さん、わたし運転して帰ろうかなぁ~
ほ、ほら巽さん、疲れたろうから」
「いや、大丈夫だ。
お前のほうが疲れただろう。
今そっちに・・・・・・・・・・・・」
「・・・あ、あの~、巽さん」
「・・・おい」
「えへ♡」
「ミラーはどうした」
「は~い、ここにありま~す。
あの~、なんか取れちゃったみたい。
な、な、なんでだろう、わからないな~」
「この横の傷は」
「へ、傷?
いや~暗くて見えないな~
傷なんてある?
た、巽さん、目が悪くなったんじゃ 」
「このボケー!
傷だけじゃない、ここ、凹んでるやないかい!
はっ、バ、バンパー外れとる!」
「だ、だって~」
「こ、こ、こ、この大ボケー!!」
「ひゃ~、ご、ごめんなさい」
ーーーーーーーー
”スタスタスタ”
「あ、ミカさん、ベランダにいたんだ。
昨日はご苦労様でした」
「・・・・・・」
「あのねミカさん。
わたし、昨日のライブの時、不思議な気持ちになったの。
心が揺さぶられるようなすごく幸せな気持ち。
わたしそれをどこかで感じたような気がして。
わたしもそれがなんなのか確かめたい。
だから、わたしアイドル続けていこうと思う。
きっとアイドル頑張っていれば、それがなにか思い出せるって
そんな感じがして」
「・・・・・・」
「え、えっと、ミカさん?」
「ううう、うわ~ん、うわ~ん」
「えっ、ミカさんどうしたの?」
「巽が、巽が」
「幸太郎さん?」
「巽が車壊したから、一生ただ働きだって!」
「え、あ、そ、そうなんだ」
「やだー、お給料ほしい!」
・
・
・
”カチャ、カチャ、カチャカチャカチャ”
「ふぅ~、大分プレゼンの資料できた。
あと一息だな。
さて、さっさと終わらせ 」
”ヌ~”
「お昼休みまでお仕事?
ご苦労様」
「うわー
だ、だからいきなり顔近づけるのやめてください」
「え~、頑張ってる君にお姉さんからのご褒美なのに~」
「褒美っていうのなら形あるものにしてください」
「ブ~、相変わらずだね君は」
「それより何の御用ですか。
何か用事あるんでしょ」
「あのさ、君は有休まったく使っていないんだって。
土曜も会社来てるっていうし」
「まぁ、家にいても無意味な時間を過ごすだけですし。
それなら仕事してた方が有意義ですから」
「ふ~ん、社畜にはならないって公言していた君がね~」
”つんつん”
「だ、だから頬つっつくのもやめてください」
「ね、このデータ保存した?」
「え?
ええ、一応自動保存は三分に設定していますけど」
「さすがマメだね~
じゃぁ」
”プチ”
「げっ!
あ、あ、あんた何するんだ」
「いいじゃん。
それよりさ、君に特別業務を与えてあげる」
「きょ、拒否します」
「ざんね~ん、これは部長命令で~す。
だから君に拒否権はないんだなぁ~」
「お、横暴だー
くそ、で、な、なんですか」
「あのね、比企谷君 」
今話も最後までありがとうございます。
更新が大変遅くすみません。
次話、八幡に下った命令とは?
また不定期ですが、また見に来ていただいたらありがたいです。
ではでは
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絶望それとも希望?
すみません、更新遅くなりました。
今話も見に来てくれてありがとうございます。
前話にて目覚めたさくらちゃん。
さて残りのメンバーの目覚めは?
セリフが多く、読みにくくてすみません。
よろしくお願いします。
「ありがと、さくらちゃん。
また後でね」
”スタスタスタ”
ふぅ~、さくらちゃんにいっぱい愚痴聞いてもらったらなんか気が晴れた。
さてっと朝ご飯の準備しよっと。
今日は何作ろうかなぁ~
『お前なんか、一生給料無しじゃい』
・・・・・・ロメロのドッグフード、あったよね。
ぐふふふふ、き~めた。
「るんるんるん♬」
”スタスタ・・・スタ”
『わたし、アイドル続けていこうと思う。
きっとアイドル頑張っていれば、それがなにか思い出せるって
そんな感じがして』
そっか、さくらちゃんアイドル続けていくんだ。
それで何か思い出せるかもって。
・・・・・・わたしは・・・どうしたらいいんだろう?
どうしたら思い出せる?
わたしには、わたしにあるのは・・・この指輪だけ。
”ギュッ”
な、なんだろうねほんと。
なんでこの指輪見るたび、こんなに胸が締め付けられるんだろう。
とっても辛くて、でもなんか暖かいもの感じて。
”ポロ・・・ポロポロ”
へへ、ゾンビィでも涙出るんだ。
”グスッ”
ううう、はやくちゃんと思い出したい。
”トボトボトボ”
「・・・奇跡 感じてみたいんだ♬」
へ、このなんだ?
ダンススタジオからなんか音楽聞こえる。
誰かいるの?
”ガチャ”
「よかはい、よかはい、よかよかはいはい♬」
”くねくね”
げっ、な、な、なんだあれ。
た、た、巽さんなにしてんだ。
「あ~、よかよかっと」
”くねくね”
「プー! ゲラゲラゲラ」
あっはははは、お、お、おかしいー!
な、なにあれ、よかよかって。
「ゲラゲラゲラ」
だ、だめ、わらったらだめ。
巽さん真剣にやってるから。
「よかよかよかよかよかはいっと」
「プー! ギャハハハ、ゲラゲラゲラ」
だ、だめだー、おかしい~、し、死ぬ~
いや、わたしもう死んでんだけど。
”ガチャ”
「おい!」
「ゲラゲラゲラ、はっ!」
「なにしてる」
「あ、い、いや、そ、その~」
「お前、もうメイクしてやらんからな」
げ、やばい、マジ巽さん怒ってる。
こ、ここは謝っておかないと。
「ご、ごめんなさい。
でも、何やってたの巽さん?」
「な、な、なんでもないわい」
「だ、だってさ、こんな感じで」
”くねくね”
「よかよかって。
プ~、クスクス」
「・・・おい」
「ご、ごめんなさい、調子にのりました。
さくらちゃん達の新しい曲の振付だね。
・・・・・・クスクス」
「・・・お、お前踊ってみろ。
今見ていただろ」
「えー! 無理だよ、ムリムリムリ。
憶えているわけないじゃん。
・・・笑い死にそうで、そんな余裕なかったし」
「うるさいわい!
人のこと散々笑いよってからに、よっぽど自信があるんじゃろが!
え~い、ミュージックスタート!」
”カチャ”
「げー! う、うっそ」
「タタターン、タタ、タタターン♬
目覚めRETURNER 願えばいいんだ♬”」
「ちょ、ちょっと待ってー」
・
・
・
「刹那のソウルにCut IN♬」
お、終わった。
ほとんど創作、あんなの一回見ただけで憶えられるわけないじゃん。
でも巽さん、なんも笑わなかったけど・・・・
ずっとああやって腕組みして見てた。
笑うの通り越して呆れられたのかなぁ。
「・・・だ、だから無理って言ったじゃん」
「・・・・・・」
「あ、あの~、巽さん?」
「・・・ちょっと待ってろ」
”スタスタスタ”
なんだ?
なんかマジな顔してたけど。
あ、なんか持ってきた。
「あ、あの~巽さん?」
”バサ”
なんだこれ?
これを見ろっていうの?
えっ、これって。
「この曲の振付のメモだ。
一人一人の分のな。
これ、明日までに覚えろ」
「はぁ? はぁー!
ムリムリムリムリ、ムリ―!
覚えられるわけないじゃんか!
ほ、ほらこれ7人分もある」
「そんなもん、死んだ気になって覚えんか~い
・・・・・・ってお前もう死んでるだ、出来るだろう」
「い、いや、そ、そうだけどさ」
「いいか、明日ビデオ撮るからな」
「げ~、お、覚えられなくても知らないからね!」
くそ、ビデオ撮るって何の罰ゲームだよ。
あ~あ、疲れた。
ゾンビィでも疲れんだからね。
ちょっと座ろ、えっと~
「あ、ちょっとその椅子貸して」
”ひょい”
でもなんでビデオ?
ま、まぁいいけどさ。
「うんしょっと」
”ビリッ!”
「げぇ!」
どこ、どこ、なんかどっか破れた。
”キョロキョロ”
「けつだ。
尻が裂けてるぞ」
「えっ」
げー!
パ、パンツのお尻裂けてる。
これしか穿くものないのにどうしょう。
これってなんとかうまく縫えるかなぁ。
「お前この前、服買いに行くって前借したはずだ。
それなのになんでまだ同じ服とズボンなんじゃい」
「あ、あの、いろいろありまして~」
「まったく、本当に世話のかかるゾンビィじゃい」
”スタスタスタ、ガチャ”
い、いやちょっと待てぃ。
世話のかかるって、食事に洗濯に掃除、お、お風呂だってあんたしか入らないのに
わたしが洗ってんだ・・・って、あれどこ行ったの?
まったく。
”パラパラ”
この振付、巽さん一人で考えたのかなぁ。
それにこの曲や歌詞も。
ほんとはすごい人なんだ。
さくらちゃんも巽さんも頑張ってんだね。
それに比べてわたしは・・・・・・
”ガチャ”
「あ、巽さんどこいってた 」
”バサ”
「うっぷ。
い、いきなりなにを」
「それでも着ておけ」
着ておけって・・・・・・ジャ、ジャージ。
うわ~、だっさ。
げっ! な、なんか胸のとこに名前書いてある!
お、おい、こ、これ着るのかよ。
”ドサッ”
「へっ、た、巽さん、それって」
「なんじゃい、見てわからんのかい。
ジャージに決まってんだろ」
「じゃなくて、それ全部 」
「あいつらもいずれ目を覚ますだろうからな。
その時のレッスン用にって、この前買っておいた」
・・・・・・全部って、全部同じジャージ、紫色の。
あ、ぜ、全員の名前書いてる。
こ、こ、ここは学校かー
こんなの絶対誰も着ないって。
「あ、あの、巽さん、こ、これ」
「なんじゃい、気に入ったのか?
そうじゃろ、そうじゃろ、何せ俺が選んだんだからな」
・・・これがいいのかよ。
巽さんの感覚って、もしかしてちょっとやばかったりする?
まぁ、才能のある人ってちょっとズレてるっていうけど。
「あ、それとあいつらが目を覚ましたら、服とか必要なもの
お前が準備してやってくれ。
ずっと同じ服ばかり着せておくわけにもいかんだろうからな。
・・・お前の分もな」
「えっ、でもわたしはもう前借して 」
「昨日は怖い思いさせたからな。
これでチャラじゃい」
「巽さん。
・・・・・・ありがと巽さん」
「キャー」
”ガチャーン”
え、な、なに?
だれの悲鳴?
それになんか割れる音。
”ダー”
「あ、巽さん、ちょっと待って、わたしも 」
”ダー”
・
・
・
”タッタッタッ”
「はぁ、はぁ、はぁ」
あ、巽さんいた。
あの部屋の中覗いてるけど、さっきのはここからだったの?
でもこの部屋って確か。
「巽さん、どう?
な、なにがあったの?」
「なんや騒がしいありすんな」
「ふぁ~、寝た寝た、あん!」
「あ、あの、お、おはようございま~す」
え、この声ってさくらちゃん?
なに、なに、中で何が起こってるの?
巽さん見えな~い。
そこどいて。
「どうやらようやく目覚めたようだな」
目覚めた?
あ、あの声、そっかゾンビィっ娘達目覚めたんだ。
「お前、あいつらをミーティングルームに連れてこい」
「え、巽さんは?」
「俺は先にやっておくことがあるんじゃい」
”スタスタスタ”
「あ、巽さん、ちょっと待っ 」
「お前、何か知ってんだろ!」
え、あ、部屋の中の様子はどうなってるの?
”そ~”
「あ、あの、わ、わたし達はゾンビィで」
「はぁ! なんだそりゃ。
なんであたし達、ゾンビィになってんだ!
あ゛ー」
「あ、いや、その、わたしにもわからないかなぁ~って」
「お前なめてんのか」
「ひゃ、ご、ごめんなさい」
や、やばい。
でもあの娘ちょ~怖い。
た、確かあれってサキちゃんだったっけ。
や、やだな~
なんか関わり合いもちたくない。
「お前、ぶっ殺すぞ」
「ひぃ~」
あ~ん、もう!
”ガチャ”
「あ、あのみなさん!
お、おはようございますです。
こ、こ、この状況につきまして、今から巽さんが皆さんに説明するとのことなので、
ミーティングルームまで来てください」
「巽?
誰だそりゃ。
なんであたしらが行かないといけないんだ。
そいつにここまで来いって言っとけ、おら!」
「ひゃ!
あ、あの、で、できましたら、ご、ご足労頂ければ幸いかと、えへへへへ」
「何へらへらしてんだ、あ゛ーん!」
「ひゃ~!
お願いします、お願いします、お願いします。
そ、その~、あ、そうだ。
わ、わたし、今からここの部屋お掃除しないといけないので
よろしくお願いします」
”ペコペコペコ”
「ちっ!」
「さ、さくらちゃん。
ごめん、みんなを案内して。
お願い」
「え、あ、はい」
”ドカドカドカ”
びぇ~、こわかった~
あの娘キライ。
・・・で、でもみんな目覚めたんだ。
これでもう突然かじられる心配なくなったんだ。
それにこれでみんなでアイドルが
”ふら~、ふら~”
えっ?
”ガブッ”
ひゃ、た、たえちゃん。
「あ゛~、あ゛~」
・
・
・
「は~い皆さん、目覚めましておめでとうございま~す。
俺は謎のアイドルプロデューサー巽幸太郎様です。
これからお前らには佐賀を救うためにアイドルをやってもらう」
・
「うんにゃうんにゃ、お前らをアイドルにする男、巽幸太郎さんじゃ~い。
お前らは俺が選んだ。
そして佐賀のアイドルとして、必ず世間を揺るがすことになる。
その第一歩として、早速明後日、佐賀城で行われる鯱の門ふれあい
コンサートに参加してもらう」
「ムリに決まってるでしょ」
「決まっとらんわ。
昨日のライブのようにやっとけばいいんじゃい」
「はぁ、何昨日のライブって」
「なかなか盛り上がっておったぞ。
なぁ、さくら」
「え、まぁ、その~はい」
「わかったらさっさとレッスンじゃ~い」
・
・
・
”ゴシゴシゴシ”
ふぅ、今日のお掃除はこれでよしっと。
ん~、今日も一日頑張ったっと。
そういえばさ、なんかさくらちゃん明後日コンサートに出るって
言ってたっけ。
みんなレッスン頑張ってるかなぁ~
きっとあのダンス練習してるんだ、くねくねって。
でも巽さん、なんでわたしに明日までに覚えておけって言ったんだろう。
・・・・・・ん! あ、もしかしてわたしも一緒に?
ま、まさか。
でももしそうだったら・・・
ちょ、ちょっとレッスン見にいってこよう。
”タッタッタッ”
・
「よかはい、よかはい、よかよか」
あ、巽さんの声聞こえる。
どれどれ。
”ガチャ”
やってるやってる・・・・・・やってな-い!
レッスンしてるのさくらちゃんだけじゃん。
リリィちゃん本読んでるし、ゆうぎりさんはロメロ撫でてるし。
純子ちゃんは・・・・・げ、たえちゃんに追っかけられてる。
あと愛ちゃんは・・・
な、なんかさくらちゃんをすごく睨んでる。
な、なんで?
「よかったい、よかったい、よかったい」
ん、あれ?
今朝やってた振り付けと違う。
あんなのなかったけど?
まぁいいや、あとで聞いてみようっと。
・・・ん、あれ、そういえばサキちゃんは?
”バタン”
「あっ」
「何見てんだお前」
「あ、い、いや、べ、別になにも。
じゃ、じゃ」
「おいお前」
「はい!」
「お前はなんでアイドルやらんと?」
「へ、アイドル?
あ、う、うん。
巽さんがさ、お前の顔は地味すぎるからアイドルなんて無理って。
へへ、だから・・・」
「お前もあいつの言いなりか」
「え?」
「言いなりかって聞いちょろうが」
わたしが巽さんの言いなり。
・・・・・・違う。
言いなりじゃない。
『お前の居場所ぐらい俺が作ってやる』
『お前がどこにいようと、必ず俺が探し出してやる』
わたしは、わたしは巽さんを信じてる。
なんもわからなくて、どこにいればいいのかもわからないわたしに、
ちゃんと帰る場所を与えてくれる。
だからわたしは
「わ、わたしは巽さんのことを 」
「お前はあいつの女やろ。
もうよか」
”スタスタスタ”
「へっ、女?
ち、違う、サキちゃん違うから」
・
・
・
”刹那のソウルにCut IN♬”
「はぁ、はぁ、はぁ」
こ、こんな感じかなぁ。
ふぅ~、やっとさくらちゃんと愛ちゃんの分マスターしたぁ。
はぁ~、あと5人分かぁ。
これ、今晩中に覚えられるかなぁ。
巽さん、明日ビデオ撮るって言ってたし。
・・・・・・でもなんでわたしこんなに必死に練習してんだろう。
別に覚えられなくても。
『お前はあいつの女やろ』
へっ!
ち、違う、巽さんはそんなんじゃなくて。
・・・そりゃ時々すごいなぁ~とか、やさしいなぁ~とか思うけど。
でも多分違うと思う、多分。
それにきっとそれだけじゃないと思う、頑張ってるの。
さくらちゃん、めっちゃ頑張って練習してた。
すっごく頑張ってるのわかった。
・・・・・・少し羨ましかった。
わたしも何かこう生きてるって感じたい。
も、もう死んでるけど、それでも生きてるって感じたい。
だからこうやって頑張ってダンス覚えれば、もしかしたらわたしも一緒に。
それにほらサキちゃん達もライブしたら目覚めたから、
もしかしてわたしの記憶戻るかも。
よ、よし、ちゃんと覚えよう。
そんで巽さんにもう一回、アイドルやりたいってお願いしてみよう。
きっと巽さんなら。
ーーーーーーーー
”ちゅんちゅん、ちゅんちゅん”
へへ、へへ、へへへへ。
や、やったで、ちゃんと覚えたで~
”ふら~、ふら~”
ざ、ざまあ見ろ、7人分全部覚えたかんな~
”どたっ”
も、もう駄目。
身体中、ギシギシって軋んでる。
こ、このまま休みたい。
あ、でも、休んだら全部忘れそうで。
で、でも少しだけ・・・
駄目!
は、はやく巽さんにビデオ撮ってもらうんだ。
そ、そして・・・・・・
”すく”
た、巽さんの部屋に行かないと。
”ふら~、ふら~”
・
”とんとん”
「なんじゃい」
”ガチャ”
「あ、あの巽さん」
「ん、なんだ朝ご飯できたのか」
「い、いや違くて。
あの、お、覚えたから
みんなのダンスの振付覚えたから。
それで 」
「ん?
なんじゃい、朝ご飯でないんかい。
今日はちょっと忙しいんだ、さっさと朝ご飯つくらんかい。
仕事さぼってるんじゃないぞ、このボケ~」
「へ、あ、あのビデオ」
「ビデオ?
そんなもん、いつでもいいんじゃい。
そんなことより朝ご飯を 」
”ベシ”
「ぐはぁー」
”ベシ、ベシ、ベシ”
「や、や、やめんかい。
げ、グ、グーはやめろ」
「このボケー」
”ボコッ”
・
・
・
”ガタンガタン、ガタンガタン”
「ふぁ~あ」
「あらやっとお目覚めかしら、居眠りヶ谷君」
「お前それまだやるのか?
それに結構ムリあんだろ、それ」
「・・・・・・いいじゃない」
「ま、まぁいいけどな。
・・・それよりなんでお前まで新幹線なんだ。
飛行機でいけばいいだろ、向こうで合流すればいいんだし」
「あ、あなたが」
「俺が?」
「なんでもないわ。
それより、あなたの方こそよくこのプロジェクトに参加する気になったわね」
「なんといっても魔王様からの命令だからな。
断ると後が怖い。
それに 」
「それに?」
「・・・いやなんでもない。
だが、大丈夫か?
このプロジェクト、東地グループとの共同事業ってことだけど、
あそこ代替わりしてからあんまりいい話聞かねえぞ。
結構ムリに事業拡大してるっていうじゃねえか。
このプロジェクトも全国展開するって話なんだろ」
「ええ、それは私も知ってるわ。
でもお父さんの後援会会長だし、これまでの付き合いもあるから
お母さんも無下にできないの、ごめんなさい」
「そっか。
でもお前が謝るようなことじゃねえだろう。
会社としての判断だからな」
・
・
・
「なにしてんじゃい、さっさと乗らんかい。
おいていくぞ」
「あ、ちょっと待って巽さん」
“ふら~、ふら~”
徹夜したから身体結構ガタきてんだって。
それなのに、それなのに。
ぐぅおー
な、なんかまた怒りが込み上げてきた!
「お待たせ!」
”バタン”
「おい、また車壊す気か。
これは代車なんだから気をつけろ。
・・・なんだまだ怒ってるのか」
”ブロロロン、ブー”
「ふんだ!
で、どこ行くの?
さくらちゃん達のレッスンほったらかしてさ!」
「さくらにはちゃんと自主レッスンさせてある。
今日は商工会に行くんじゃい」
「商工会?
え、ちょ、ちょっと待って、わたしジャージのままだし」
「構わん」
「いや、わたしが構うから」
くそ、だって近くの商店街にいくもんだと思ってたから。
そろそろ食材を買ってこないとって思ってたし。
ううう、くそ、商工会に何しに行くんだ。
向こうのお偉いさんとか出てこないだろうな。
やだなぁ、このジャージ名前書いてあるし。
「ミカ」
「え、あ、はい」
「お前、何か俺に話があったんじゃないのか?
今朝、何か言いたそうな顔してたからな」
・・・巽さん。
なんやかんや言って、ちゃんとわたしのこと見てくれてるんだ。
そっか。
「あ、あのね巽さん」
「却下」
「へっ? あ、あの~、まだ何も言ってないけど」
「どうせめんどくさいことじゃろがい!
そんなもん却下じゃ~い」
「き、貴様―!」
く、くそー、こいつのこと一瞬たりとも信じたわたしが馬鹿だった。
もう絶対信じてやらん!
「冗談だ。
言ってみろ」
め、め、めんどくさーい!
もうやめて、ただでさえ今日は疲れ切ってるのに。
・・・で、でも。
「あ、あのね巽さん。
わ、わたし、ちゃんと7人分のダンス覚えたの」
「うむ。
昨晩はずっとダンススタジオの照明ついていたからの。
帰ってから早速ビデオ撮らんとな」
「あ、う、うん。
それでね・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ん?」
「・・・わ、わたしもアイドルやりたい!
昨日、さくらちゃん頑張ってるのみて、わたし少し羨ましかった。
だって、わたしには何もないから。
わたしも、わたしもなんか生きてるってこと感じたい。
だから 」
「却下だ」
「へ、な、なんで。
・・・やっぱり顔が地味だから?」
「地味な顔してるアイドルだっていないわけじゃない」
「だ、だったら」
「だめだ、お前をアイドルにするわけにはいかんのじゃい」
「なんでさ!
そ、それにさくらちゃん以外、みんなやる気ないじゃん。
どうせ明日だって。
だったらわたしが、わたしがみんなの代わりにさくらちゃんと一緒に」
「それでは何も解決せん。
あいつらの問題はあいつらが解決するもんだ。
お前になんとかできるものじゃない」
「・・・・・・なんだよそれ。
馬鹿ー!」
”べし”
「ぐはぁ」
”キキキー”
「あ、危ないじゃろが!」
”バタン!”
「た、巽さんの馬鹿、ボケナス、八幡!!
大っ嫌い!」
”ダー”
「ミカ、車に戻れ・・・・・・
馬鹿、ボケナス、八幡っか。
・・・やっぱり、お前をアイドルにするわけにはいかんのじゃい」
・
・
・
”ウィ~ン”
「すみません、お電話頂きました巽ですが」
「あ、すみません、しばらくお待ちください」
「あ、はい」
”スタスタスタ”
「お待たせしました。
これがさっき話していた主な観光施設とかイベントの資料です。
それではよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそよろしくお願いします。
では失礼します」
”スタスタスタ”
「な、雪ノ下、その観光施設とかイベント全部回るのか?」
「あまり時間もないのだけど、折角佐賀まで来たんですもの
なるべくたくさん見て回りたいと思うの」
「そうか。
それなら明日からは手分けして見て回るか」
「そうね。
なるべく二人で見て回りたいけど仕方ないわ」
「じゃ明日、俺は佐賀城のイベントメインで回ってみるわ」
「ええ、お願い」
”ウィ~ン”
「あ、すみません巽さん、お待たせいたしました」
「あ、いえ。
あの、さっきの人達は?」
「ああ、千葉から来た雪ノ下建設の人たちですよ。
なんでも佐賀のリゾート開発を検討されているとか」
「・・・そうですか」
「巽さん、どうかしました?」
「あ、いえなんでも。
それでお話というのは」
「あ、そうそう。
実は久中製薬さんの慰安旅行なんですが 」
・
・
・
くそ、巽の馬鹿。
なんでだよ、なんでわたしだけ駄目なんだよ。
ダンスだってちゃんと覚えたんだ。
あんなやる気のない人達よりよっぽどわたしのほうが。
・・・・・・なんでダメなんだよ。
”トボトボトボ”
ん、あ、あれサキちゃん。
なんでこんなところに?
いや、そんなことよりメイクもしてないし、誰かに見つかったら。
止めないと・・・・・・で、でも、もしこのままサキちゃんがいなくなれば
もしかしてわたしが代わりに。
はっ! な、何言ってんだ。
・・・・・・でも
・
・
・
”スタスタスタ”
ど、どうしよう、どんどん繁華街の方に行っちゃう。
幸い、暗くなってきたのもあって、今のとこ誰にも会わなかったけど、
繁華街に行けば絶対誰かに。
”スタスタ、ピタ”
「おい!」
「あ、はい!」
げ、見つかってた!
”ズカズカズカ”
や、やば、なんかこっち来る。
ひゃ~、お、怒ってるし!
う、逃げたいのに足がすくんで。
「なんかようか」
「あ、い、いや、その~、ど、どこに行くのかなぁ~て」
「ちっ!
ずっとコソコソつけてきやがって」
「あ、いや~、その~なんていうか、えへ、えへへへ」
”ぐぃ”
「ひゃ、あ、あの、は、離してサキちゃん」
「あたしはヘラヘラしてる奴が一番気に入らねぇんだ。
それに人の顔色ばかり窺いやがって。
お前のような根性のない奴、大嫌いなんだ」
「・・・・・・」
「なんとか言え!」
なんだよ、どいつもこいつも。
どうせわたしのことなんて誰も!
「・・・・・・好きで笑ってるんじゃない」
「あ゛ーん、なんか言ったか?」
「・・・・・・」
「チッ、もういい。
勝負しろ」
「え?」
「あたしと勝負しろって言ってんやろうが」
「勝負って?
あっ、ジャンケンとか?」
”ビシ!”
「ひゃっ」
「勝負ったらタイマンに決まっとるやろが。
言いたいことがあるんなら、こぶしとこぶしで語るのが手っ取り早い。
それで、あたしが勝ったらもう二度とついてくるな、わかったか。
まぁ、ハンデはくれてやる。
お前に先に殴らせてやる。
ほら殴ってみろ」
「や、やだ」
だ、だって、そんなの勝負ならないじゃんか。
ど、どうみたってサキちゃんヤンキーだし。
絶対殺されるし。
「やだじゃねえ、いいから殴れ!
殴らないならあたしから」
ひぇ~、もう!
「えい!」
”ぺちょ”
「はぁっ、なんだそれ?
お前、なめてんのか。
気合が入ってねえんだ気合が!
しっかり気合入れろ
あ゛ーん!」
く、くそ。
も、もうこうなったらやけくそ!
ど、どうせ、もう死んでんだ。
「うぉりゃー!」
”ベシ”
「ぐはぁ」
”ズデン”
「ひゃー」
”ダー”
「やるじゃねえか、いいチョップって、あ、てめぇ待ちやがれ」
「いやー待たない!
ご、ごめんなさい!」
”ダー”
・
・
・
「はぁっ!」
「あの~、確かにツインを一室って承ってますが」
「お、おい雪ノ下、お前知ってたのか」
「そんなわけないじゃない。
宿泊は姉さんが予約したって」
「「・・・・・・」」
「あ、あの~お客様?」
「すみません。
他に空いてる部屋ありませんか?」
「あいにく恵比寿まつりの関係で、本日は満室となっておりまして。
多分、他のホテルも同じかと。
明日からならなんとかもう一部屋ご準備できると思いますが」
「マジか」
「仕方ないわ。
それで結構です。
明日からはお願いできるかしら」
「畏まりました。
それではここにサインを」
”カキカキ”
「さっ、行くわよ比企谷君」
”スタスタスタ”
「な、お、おいマジか」
「ええマジよ、仕方ないじゃない」
「だ、だけどな、俺も一応男だから」
「あなたを野宿させるわけにはいかない。
だって間違いなく不審者で捕まるでしょ。
・・・・・・それにあなたにそんな度胸ないじゃない。
この前も 」
「いや、それは理性があるといえ」
「・・・・・馬鹿」
・
・
・
”キョロキョロ”
「はぁ、はぁ、はぁ
くっそ、あいつどこ行きやがった。
ぜってぇ見つけてやっからな」
げ、サキちゃんこっち来やがった。
怖い怖い怖い、まじ怖い。
う~臭いけど、このゴミ箱から出れない。
めっちゃ怒ってるから、見つかったら絶対殺される。
”パク、ムシャムシャ”
あ、サキちゃん、またスルメ勝手に持ってきて。
あれ、みんなのご飯なのに。
それにめっちゃ減ってたから、巽さんにお前勝手に食ったろって
疑われてんだ。
”ごく”
でも、う、美味そう。
「ヴー」
”ゾロゾロゾロ”
え、なに?
「あ゛-ん、なんだお前ら」
「ガルルルル、ウォン!」
げ、や、野犬?
なんかいっぱい野犬集まってきた。
そ、そっか、サキちゃんのスルメの匂いにつられて。
・・・いや、それだけじゃない、きっとわたし達ゾンビィだから
なんか引き付けるんじゃ。
「なんだお前ら、やんのかー!
ちょうどいい、いまあたしチョ~機嫌悪んだ。
上等、全部まとめてかかってこい。
おらぁ!」
「ウォン!」
「うりゃー」
”バキッ”
「ガルルル!」
”ボカ、ボコ、ドス”
「キャンキャン」
「ヴー、ガゥ!」
「おりゃー!」
”バキッ”
やばいやばい、サキちゃんすごいよ。
野犬次々って倒してる。
タ、タイマンやらなくてよかった。
ほんとに絶対殺されてた。
「ウ゛ー」
「え?」
「ガゥ!」
「ひゃー、こ、こっちにも来た!」
「あ゛ー、てめぇそんなとこにいやがったのか!
勝負の続きすんぞ」
「サ、サキちゃん、いまそんな場合じゃ」
「ガゥ!」
「サキちゃんあぶない」
”どん”
「あ、てめぇいきなり 」
”ガブ”
「ひゃっ」
”ドサ”
げ、こいつ重たい。
くそ、いつまでのっかっかてんだ。
いい加減、腕を離せ!
”べし”
「キャンキャン」
ふぅ~、今のうちに。
「ヴー、ガルルルル」
げ、いっぱい来た。
に、逃げないと。
「「ガゥ、ガゥ、ガゥ」」
”ドカドカドカ”
やだ、やだ、やだ、重たい!
噛まれてる、足も、手も噛まれてる。
くそ離せ!
「ガゥ!」
あっ顔、顔はいや。
え、えーい、あ、あっちいけ!
「えい、えい」
”ベシ、ベシ”
「グゥオー、ガブ、ガブ」
いや、いや。
「ガブッ!」
・・・や・・・・・・だ・・・・・・・・・・・・よ・・・
・
・
・
”ガチャ”
「お待たせ比企谷君。
お風呂どうぞ。
・・・・・・え?」
”キョロキョロ”
「どこに行ったのかしら?」
・
・
・
「・・・・・・う~ん」
はっ!
あ、わ、わたし死んでないんだ。
犬、犬は?
”キョロキョロ”
いない。
よ、よかった、助かった~
・・・でもサキちゃんもいないや。
やっぱりどこか行っちゃったんだ。
そっか・・・・・・
わたし、どうしょうっかなぁ。
やっぱり帰りづらい。
巽さんにあんなこと言っちゃったし。
はぁ~あ。
「うんしょっと」
”バタ”
あ、あれ、なんで起き上がれ・・・
えっ?
・・・・・・あれ?
う、腕・・・腕がない。
左の腕が、な、なんで!
あ、どこ、どこかにおってない?
「うんしょっと」
どこ、どこだろう。
”キョロキョロ”
う~ん、暗くてわからない。
・
・
・
”カランカラン”
「いらっしゃい」
「あ、すみません客じゃないんで」
「ああん?
じゃ何の用だ?」
「すみません。
ちょっと人捜してるんですが。
えっと」
”ガサガサ”
「この写真の女の人、どこかで見かけた憶えないですか?
お客さんできたことがあるとか」
「うん?
さあ、憶えはないな。
あんた、なんでこの人捜してるんだ?」
「え、あ、ま、まぁちょっと連絡がつかないからって、
知り合いから頼まれたもので」
「そうかい。
すまなかったな見覚えがなくて」
「あ、いえ。
こちらこそお仕事の邪魔してすみません」
「よかったら一杯飲んでいくか」
「他にも探してみたいのですみません」
「そうかい」
”ガチャ、カランカラン”
「お邪魔しました」
”スタスタスタ”
「・・・・・・ふむ」
”カシャカシャ”
「もしもし」
「ああ俺だ」
「どうも」
「なぁ、この前写真見せてくれたお前のところの家政婦ゾンビィだが」
「ミカですか」
「ああ、それ。
今、そいつを探してるって男が店に来てな」
「・・・・・・」
「一応、お前に伝えておこうと思ってな」
「どんな男でした?
何か特徴とか」
「そうだな。
ああ、目が腐ってたぞ。
なんかゾンビィみたいにな」
「・・・・・・そうですか」
・
・
・
”ガサガサ”
無い、無い、無い。
どこにも無いよ~、わたしの左腕。
ど、どうしょう。
だって、あの左の指には・・・・・・
やだ、やだよ。
どこ、どこ、どこ。
な、なんでないんだ!
ーーーーーーーー
”ガチャ”
「・・・・・・」
”とぼとぼ、とぼ、とぼ”
「ん、やっと帰ってきたんかい。
今までどこにって、お前その恰好は」
「・・・・・・」
”バタン!”
「お、おい」
「うっさい、
ほっといて!」
「なにがあったんじゃい。
アイドルのことなら 」
「うるさいうるさいうるさいうるさい。
うるさいんじゃい、このボケー!
どっかいけー!」
「・・・・・・」
”スタスタスタ”
「うっ、うっ、ううううう、うわ~ん、うわ~ん」
やっぱ腕無かった。
どこ探しても無かった。
きっとあの犬に持ってかれちゃったんだ。
そんで今頃・・・・・もう食われちゃったんだ。
腕だけじゃない指輪も、あの指輪ももう。
「ううううううう」
・・・死のう。
も、もう、生きてたってしょうがない。
だって、だってあの指輪がなかったら、
あの指輪の秘密知りたかったからわたしは。
もう生きてる意味なんて・・・ない。
”ドンドン”
「うっさい、あっちいけって言ってんだろ。
もうほっといてよ、バカー!」
”シーン”
「・・・・・・もう・・・ほっといて」
でも、どうやって死のう。
やっぱり灯油かなんかで。
・・・・・・灰になったらさ、どっかいろんなとこ飛んで行けるかなぁ。
今度、今度生まれ変われたら、わたしもう少しだけでいいから・・・
「うりゃー!」
「へっ、なに?
窓の方?」
”ガッシャーン”
げ、あ、足!
”ボコッ”
「ぐはぁ~、な、なんで足が」
”ズデン”
「あ、わりぃ。
そこにいるなんて思ってなかったからよ」
「・・・な、な、なんなのよ」
「いやだってな、ドア鍵かかってるし。
窓から入るしかねえだろ。
そんなことより、ほら」
”ポイ”
「え、あ、う、腕!
わたしの腕」
「取り返すのにちょっと時間かかっちまってな」
「よ、よかった!
指輪ある、指輪あった」
「なんだお前、腕よりその指輪のほうが大事なのか」
”こく”
「だって、この指輪はわたしの宝物。
わたしなんも憶えて無いけど、この指輪を見つめていると、
いつも心がキュッて締めつけられる。
きっとこの指輪にはわたしの大事な想い出があるはずなんだ。
わたしは、それを思い出したい。
いつか必ずきっと。
だから」
”ぎゅっ”
「この指輪はわたしの宝物」
「ふ~ん。
まぁなんでもいいけどな。
じゃあな」
”ガチャ”
「サキちゃん!」
「あ゛ーん」
「ありがとサキちゃん、ニコ♡」
「・・・・・・チッ!
言っとくがな、あたしはまだお前のこと好きになれねえからな」
「あ、う、うん」
”バタン”
「なんでぇ、あんな笑顔できんじゃねえか」
”スタスタスタ”
・
・
・
「いってらっしゃいませ」
”ウィ~ン”
「さてっと、じゃ俺は今日佐賀城の方行ってみるわ」
「ええ」
「んじゃ、また後でな」
「・・・比企谷君」
「ん?」
「あなた本当はなぜこのプロジェクトを受けたの?」
「それは昨日行っただろ。
お前の姉さんに逆らったら後が怖いから」
「比企谷君!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・ずっと」
「ずっと?」
「あいつ、高校の時からずっと嬉野温泉行きたいって言ってたんだ。
あの時からずっと」
『旅行ってさ・・・・・・お、温泉だよね!
どこ? 嬉野温泉とか?』
「あいつすげぇ行きたがってた。
結局、なんかいろいろあって連れて行ってやれなかったんだけどな。
だからもしかしたらあいつ佐賀に・・・・・・」
「・・・・・・」
「このプロジェクト、まずは佐賀からだっていうだろ、だから。
はは、本当はもっと早く来ればよかったんだ。
でも俺は・・・
なんか理由がないと来れないなんて本当に女々しいな」
「・・・・・・そう。
それで昨晩帰ってこなかったのね。
今日の夜もあなた」
「ああ。
そのつもりだ」
「・・・・・・あなたやっぱりまだ」
・
・
・
ヌリヌリ、ペタペタっと。
うん、これでよし。
「たえちゃんご苦労様。
さくらちゃんありがと、もういいよ」
「う゛う゛う゛」
「た、巽さん、みんなのメイク終わったよ」
「お前ら、メイク終わったのならさっさと車に乗らんかい。
イベントに遅れるじゃろがい」
「あ、あの、た、巽さん」
「さくら―!
さっさとたえを連れて行かんかい」
「はーい。
あ、でも幸太郎さん、顔のメイクが」
「そんなもん着いてからじゃい」
「巽さん、あのね」
「愛! お前らもさっさと行かんかい」
「巽さん!!」
「な、なんじゃい」
「あ、あの、ごめんなさい」
”ペコ”
「わたしちょっとどうかしてて」
「お前は今日は留守番じゃい」
「え?
あ、いやでもわたしも佐賀城に。
もう、アイドルになりたいなんて言いません。
わたしもみんなと一緒にいたい」
「お前なんか今日はどこにも連れて行ってやらん。
おとなしく家で謹慎してろ、このボケー」
「ほ、ほんとにごめんなさい。
もう二度と今回のようなことはしません。
だからわたしも一緒に」
「・・・・・ミカ。
何があったのかは知らん。
だが昨日は大変だったんじゃろ。
だから今日は・・・・・・」
”なでなで”
「今日は家でおとなしく休んでろ」
「巽・さ・・ん」
「お前にはきっとお前にしかできんことがあるはずだ。
俺はアイドルがお前にしかできんことだとは思えん。
いいか、それが何か探すんだ。
お前ならきっと見つけることができる。
俺はそう信じてる。
だから今日はおとなしく休んでいろ」
「うん」
「あ、そうじゃい。
帰ってきたらこの前の振付、ビデオ撮るからの。
ちゃんと準備しとけ。
間違ったらもうメイクしてやらんからの」
「うん・・・・・・は、はぁ!」
「出発じゃ~い」
げ、や、休んでる暇なんてないじゃん。
もう一回思い出さないと。
くそ、あのボケー!
・
・
・
”スタスタスタ”
「これが候補に挙がっていた洋館。
確かに、なかなか趣のある建物ね」
”カシャ、カシャ”
「この外観はこのまま残しておいて、内装だけを手直しすれば。
裏の方はどうかしら」
・
「届け、届け、熱いキモチ。
刹那のソウルにCut IN♬」
「はぁ、はぁ、はぁ」
よ、よし、な、なんとか思い出した。
ちょ、ちょっと休憩。
うんしょっと。
”ドサッ”
ふぅ~、まったく何が休んでいろだあの馬鹿。
やさしいんだか何だかわからない。
でも・・・
『お前ならきっと見つけることができる。
俺はそう信じてる』
わたしにしかできないことっか。
なんだろね。ほんと。
『身体のメイク、わたしがやってもいいの?』
『ああ。
まぁ、そこそこセンスあるようだしな』
・・・メイクっか。
そっだ。
ちょっとやってみよう。
・
・
・
”カシャ、カシャ”
外観はこれぐらいでいいかしら。
それとこの公園、ここ駐車場にちょうどいい広さね。
ここも押さえておかないと。
・
ペタペタ、ぬりぬりっと。
「ふんふんふん♬」
できた!
へへ、割といい出来。
わたし結構腕上がったんじゃない?
まぁ、巽さんには遠く及ばないけど。
「ウ~、ワンワン!」
「お、怒んなくてもいいじゃんロメロ。
ほら鏡見てみ。
ちゃんと男前にメイクできたでしょ」
「・・・・・・ワン!」
”ガブ”
「ひゃ
う~、トラウマが」
”ダー”
「あ、ロメロちょっと待って。
そんな顔で外に出たら」
・
「えっと、もう少し近くから見れないかしら。
少し門の中にお邪魔して」
「ウ―、ワンワン」
「えっ!」
”タッタッタッ”
「い、犬!」
「ワンワンワンワン」
「ち、違う!
な、なにあれ、じ、じ、人面犬!
キャー」
”ダー”
「お~い、ロメロ機嫌直して~
ほらゲソあげるから」
「ウ~、ワン♡」
ーーーーーーーー
”コソコソ、ひそひそ”
「・・・チッ」
「いや~比企谷君、まさか君がね~」
「何のことです」
「みんな言ってるよ~
君が雪乃ちゃんに手を出したって。
それも無理やり」
「な、なにもしてないです」
「そう?
でもさ、雪乃ちゃん逃げるように一人で佐賀から帰ってきたし。
それに帰ってからずっと寝込んでるんだよ~
なんかケダモノがケダモノがって譫言言って」
「・・・・・・」
「いや~、君も男だったんだね」
”つんつん”
「ケ・ダ・モ・ノ」
「あ、あんたこそ!
俺達のホテル、ツインで予約したのあんただろうが」
「え~、なんのこと?
お姉さんよくわかんな~い」
「くそ!」
「ね、比企谷君・・・・・・責任取ってよね」
「え、えん罪だー」
最後までありがとうございます。
今話で、フランシュシュのメンバーも目覚めて
(たえちゃん除いて)ようやく本格活動?
八幡もあやうくミカと接触しそうになり・・・
次話、GE・・・ゲリラライブ編!
また見にきてくれたらありがたいです。
ではでは
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バトル?
お身体、くれぐれもご自愛願います。
さて、今回はゲリラライブ編。
佐賀城イベントを通しアイドルをめざすことを決めたサキ達。
そんな中、急遽行われることになったゲリラライブ。
その結果・・・・・・
ではよろしくお願いします。
”カシャ、カシャ”
「ふぅ~、でぇきった!」
ダンスの編集完了っと。
あとはこの編集したDVDをみんなのところに。
へへ、でも自分の踊ってる動画を編集するってなんか恥ずかしい。
だけどさ、これで少しでもみんなの力になれるなら。
・・・・・・ゲリラ・・・ライブっか。
急だよね。
これも彼女達のためなんだって巽さん言ってたけど、
大丈夫かなぁ~
・
”ひょい、ひょい”
『刹那のソウルにCut IN♬』
”ピタ”
『はぁ、はぁ、はぁ、た、巽さんどう?』
『・・・OKだ』
『はぁ~、お、おわった~
もう動けない』
『ご苦労だったな』
『で、でもさ、巽さん』
『なんじゃい』
『明後日、ほんとにライブするの?
急すぎない?』
『・・・あいつらが本当にアイドルをやっていくというのであれば、
自分達が今いる位置を知る必要がある。
目指すべき目標がいかに遠くにあるかをわかるためにな。
そして、それはなるべく早い方がいい』
『巽さん』
『お前はこのビデオを編集してあいつらに渡してやってくれ。
愛や純子はともかく、他のやつらは覚えるのが大変だろうからな』
『う、うん』
・
自分達のいる位置っか。
巽さん、さくらちゃん達をアイドルにするためいろいろ考えているんだ。
さくらちゃん達も歩き始めようとしている。
みんな動き始めてる。
それなのに、わたしは・・・・・・
わたし何がしたいんだろう。
う~、わからん。
くそ!
”ゴクゴク”
ぷふぁ~、美味しい。
へへ、この紅茶わりとうまく淹れられたと思うんだ。
この透き通ったきれいなオレンジの色。
蒸らし方が大事なんだよね、蒸らし方が。
・・・てさ、ほんとは味なんかわからないんだけど。
でも不思議と心が豊かになる気がする。
あ、そういえば、
『お茶のあるところには希望がある』
たしかどっか外国の作家さんが言った言葉だ。
”ゴク”
「ふぅ~」
・・・・・・きっとわたしにも希望が見つけられる。
そう信じたい。
「うん!」
さてっと、みんなにこのDVD持っていっていかないと。
あんまり時間ないと思うし。
んじゃ、パソコンシャットダウンし・・・
ん!
な、なんだこのフォルダー?
”開けたら殺す”
・・・何ていう名つけてんだ!
逆にちょ~すげー気になんだけど。
はっ! も、もしかしてこれ巽さん・・・・・・
ぐふ、ぐふふふふ。
き、きっとエッチな画像保存してんだ。
巽さんのスケベ。
”キョロキョロ”
へへへ、残念でした~
わたしはもう死んでま~す。
だから開いてもいいよね~
それじゃ。
”カチッ”
「・・・・・・」
な、なにー、パスワードだと。
パスワードかけてんのか!
くそ、巽のくせして生意気な。
ええーい、絶対見てやる。
”カシャカシャ、カシャカシャ”
・
「ゲリラライブは明日の朝、唐津駅の駅前広場で行う」
「あ、明日!」
「今日一日で歌や振りがどうにかなるわけないでしょ」
「そんなもん寝ずに覚えろ。
まぁゾンビィのお前らに睡眠なんて必要ないがな」
”スタスタスタ”
・
「z・o・m・b・i・e・l・a・n・d・s・a・g・aっと」
”カチャ”
「・・・・・・うー!」
これも違うのかー!
パスワードなんなんだ。
くそ、こうなったらなんとしても見たい見たい見たい、見たーい!
うんにゃ、絶対見てやるー
他に巽さんがパスワードにするとしたら・・・・・・ま、まさか。
「S・A・K・U・R・Aっと」
”カシャカシャカシャ”
あ、開いた!
・・・・・・巽さん・・・ま、まぁいいけどさ。
そんなことより、どれどれ巽さんはどんなエッチな映像を。
”わくわく”
「でへへ」
「何してんじゃい」
「え?
げ、げぇー、巽さん!
あ、い、いや、あの、その」
「え~い、DVDの準備ができたのなら
さっさとあいつらにもっていかんかい、このボケー!」
「は、はい、ごめんなさ~い」
”ダー”
「まったく油断も隙も無い」
”カチャ”
「・・・・・・ふぅ~」
・
・
・
”スタスタスタ”
くそ~、あと少しでフォルダーの中を見れたのに。
でも今度こそ隙をみて。
「・・・・・・」
さ、さ、さてっと、みんなもうレッスンしてるかなぁ。
あとから差し入れに飲み物もってこないと。
”ガチャ”
「えっと~、こんにち・・・・・・わ」
「目覚めReturner 願えばいいんだ♬
気持ち 光り始めたんだ♬」
”シュパッ、シュパッ”
愛ちゃん、純子ちゃん、二人で振りを合わせてる。
へぇ~、もう歌もダンスも覚えたんだ。
すごっ、さすが元トップアイドル!
それに比べこっちは・・・・・・
「なんだこれ、グラサンの置いていった資料じゃなんもわからん。
なぁさくら、ここんとこの振付わかるか」
「え~と、あ、そこは多分こんな感じだと」
”フリフリ”
「さくらちゃんここは?」
「リリィちゃんここはね」
苦戦中っか。
へへ、さくらちゃんみんなから聞かれて、これじゃ自分の練習
できないや。
よし、ここはやっぱりこのDVDの出番。
「ご苦労さま、さくらちゃん」
「あ、ミカさん」
「あんね、これ一人一人のダンスの振付を録画してきたんだけど、
見てみる?
多分、その資料よりはわかりやすいかと」
「え、本当ですか。
ありがとうございま~す。
愛ちゃん、純子ちゃん、ミカさんがダンスの振付ビデオを」
「わたしはもう覚えたからいい」
「わたしも大丈夫です」
「そ、そうなんだ。
じゃあ、ミカさん早速だけどお願いします」
ま、まぁ二人は別格だからね。
さっきの見てたらわかるし。
じゃ、じゃ~二人の分は覚えなくてもよかったかなぁ~
・・・う~、せっかく徹夜して7人の分覚えたのに。
それに、たえちゃんの分だっていらなかったし。
ん、あ、そういえば、ゆうぎりさんは?
”キョロキョロ”
あ、いた。
な、なんか正座して瞑想してるんだけど?
も、もしかしてそれで覚えてたりして・・・・・・
「ミカさん?」
「あ、ごめん。
じゃ、まずさくらちゃんのからね」
”カチ”
・
・
・
「あ~、ビデオ見ても難しいな。
これ明日までに覚えれるのかよ」
「リリィも自信な~い」
「あ、あのさ、よかったらわたし教えよう・・・かな?
一応、わたしみんなの振付覚えてるから。
ほら、さくらちゃんも自分の分覚えないといけないし」
「お前すげぇな。
みんなの振付、よく覚えられたな」
「う、うん。
じゃあさ、まずリリィちゃんからね」
・
・
・
「だからサキちゃん、そこ恥ずかしがらない!」
「だ、だけどよ」
「あのね、恥ずかしがってる方が目立つから」
「え~い、こ、これでいいか」
”ふりふり”
「サキちゃん可愛い。
くすくす」
「て、てめぇ、ちんちく!」
・
・
・
「刹那のソウルにCut IN♬」
”ピタ”
「はぁはぁ、どうだミカ?」
「うん、OKだと思う。
それじゃ、あとはみんなとのフォーメーション覚えないといけないね」
「フォーメーション。
マ、マジか」
「うんマジ。
さくらちゃん達もね」
「そうだね。
サキちゃん、リリィちゃん、早速、休憩してから全員練習しよう。
ね、愛ちゃん、純子ちゃんもよかと?」
「ええ」
「そうですね」
「あっ、ゆうぎりさん。
あの~振付けもう覚え 」
「さくらはん、任せておくなさいまし」
マ、マジか。
ゆうぎりさん、ずっと瞑想していただけなのに覚えたっていうのか。
そ、そういえばゆうぎりさんも、生前は結構有名な花魁さんだったっけ。
なにげに凄いメンバーなんだよね。
”わいわい、がやがや”
でもなんかさくらちゃん、すごく楽しそう。
すっかりサキちゃん達と打ち解けて。
愛ちゃん達とは・・・・・・まだちょっとみたいだけど。
あ、そうだ。
「じゃ、わたし何か飲み物持ってくるね」
「ミカさん、わたしも一緒に」
・
”スタスタスタ”
「へぇ~、佐賀城のイベントの時にそんなことがあったんだ」
そっか、それでイベントから帰ってきてから、さくらちゃん達の雰囲気
変わったんだ。
・・・でも、たえちゃんステージで頭取れたんだ。
よくゾンビィって気が付かれなかったよね。
「・・・あの~ミカさん」
「ん、なにさくらちゃん?」
「ミカさん、幸太郎さんと付き合っとるんですか?」
「え?
は、はぁー!
い、いや付き合ってなんかないから。
で、でもなんで?」
「あ、サキちゃんが付き合ってるんじゃなかとかって。
それにお二人、なんかいい感じだし」
げ、そ、そんな風に見られていたのか。
そりゃさ、巽さんってときどきめっちゃやさしいし。
そんで、ナデナデって頭を撫でられた時なんか、わたしすごくうれ・・・
いや! ないない。
巽さんはさくらちゃんが好きで。
このプロジェクトもさくらちゃんの希望をかなえたいからで。
だから
「さくらちゃん、それは絶対ない!」
「え?」
「だって考えてみ。
あのちょ~テキトーな奴だよ。
あんな人と付き合ったらさ、いつも振り回されて疲れるだけだし。
それに、知ってる?
あの人、同じ服ばっかり5着も持ってんだよ、上下まったく同じやつ。
まったく、どんなこだわりだよっていうの」
「そ、そうなんだ。
・・・あっ」
「それにさ、知ってる?
あいつ、パソコンにエッチな画像とか保存してるの」
「あ、あの~」
「きっと夜中にコソコソそれ見てるんだよ。
いや~キモ!」
「ミ、ミカさん」
「だから、あんなキモ男と付き合うことなんて絶対ないって」
「キモくて悪かったな」
「え?」
「お前なんか、もう絶対メイクしてやらんからの」
”スタスタスタ”
「あ、い、いや、ち、ちがう!
巽さん待って~、違うって~」
「ふん!」
「あ~ん、話聞いて。
お願い」
”ギュ~”
「え、え~い、腕離さんかい」
「いや~、メイクして~」
”ドタドタ”
「・・・・・やっぱりがばい仲よかと」
・
・
・
”コンコン”
「巽さ~ん」
「・・・・・・」
ん、あれ? 巽さんいないのかなぁ。
”ガチャ”
あ、いるじゃん。
・・・まだ怒ってるのかなぁ。
「巽さん。
あ、あのさ、晩ご飯できたよ。
腕によりをかけてつくったから、きっとメッチャ美味しいよ。
だから、さ、さっきのことは平にご容赦を」
「・・・・・・」
”カシャ、カシャ”
ん、なんかすごく集中してパソコンしてる。
気が付かないのかなぁ。
でも、なにしてんだろう?
は、ま、まさかあのエッチな画像を。
巽さんも男だからね。
・・・・・・ぐへへへ。
”そ~”
気付かれないように後ろに回ってっと。
どれどれ、どんなエッチなやつを。
”チラ”
「へ、な、なに! エッチなのじゃない」
「うぉー、び、びっくりした。
何してんじゃい」
「へ、あ、あの~晩ご飯ができたからって。
でも巽さん、これ何してるの?」
「あいつらのホームページじゃい」
「へ~」
”ぐぃ、ピタ”
「え、え~い、顔近いわい。
か、髪の毛がこそばいじゃろうが」
「いいじゃん、サービスサービス。
ふぇ~、巽さんこんなこともできんだ」
「あたりまえじゃい。
そうだ、お前ビデオぐらい撮れるじゃろ。
明日、あいつらのゲリラライブを撮影しろ。
このホームページにアップするからの」
「え、う、うん。
あ、それよりも、冷めちゃうから早くご飯食べちゃって」
・
・
・
「気合が足りねえんだ!」
「気合いっぱい入れてるもん」
「喧嘩はおやめなんし」
「えへへ」
”スタスタスタ”
「・・・・・・・」
”ガチャ、バタン”
「・・・ごめんなさい」
”スタスタスタ”
「あ・・・」
”ガチャ、バタン”
「さくら、今はやる気あるやつだけでやるしかねぇ」
「・・・うん」
「もう一回最初からだ。
音楽流すぜ」
・
”ガチャ”
「巽さんごめん、ちょっとビデオカメラの使い方が・・・
ん、あれ?」
”キョロキョロ”
巽さん、どこいったんだ?
さっきまでここでホームページ作ってたはずなのに。
お風呂にでも行ったのかなぁ。
「・・・・・・・」
チャ、チャーンス!
巽さん、お風呂に入ったら20分は出てこないからね。
早速パソコン立ち上げってっと。
”カチ”
ぐふふふ、今度こそあのフォルダーの中を。
・
「出来るわけないでしょ」
「本気でそう思っているのか?」
「あ、あたりまえでしょ」
「ならば、なぜお前らはアイドルだった。
あいつらはゾンビィだが生きようとしている。
お前らはいつまで腐ったままでいるつもりだ」
”スタスタスタ”
・
よ、よしそれじゃパスワードを
S・A・K・U・R・Aっと。
”カシャ、カシャ”
へへ、さて巽さん、どんなエッチな画像保存してんだ。
カチッとな。
”カチッ”
ん、あれ、フォルダーの中は写真一つだけ?
ま、いっか。
それじゃこの写真をっと。
”カチッ”
・・・・・・・・・・・・さくらちゃん・・・か。
ーーーーーーーー
”ブロロロン”
「「・・・・・・・」」
な、なんか車の中の雰囲気が重い。
だって愛ちゃんと純子ちゃん、車に乗ってからずっと黙って外見てて
一言もは喋らない。
どうしちゃんだろう。
メイクの時も喋らなかったけど。
もしかして緊張してるとか。
い、いや二人にそれはないっか。
”ちら”
それに比べて、さくらちゃん達はなんかすっごく緊張してるのわかる。
メイクする時も顔色悪かったし。
・・・・・・まぁ、メイク前はゾンビィだからね。
”ドクンドクン!”
げっ、リリィちゃん心臓飛び出してる!
ど、どんだけ緊張してんの。
もうすぐ唐津駅に着くけど、こんな雰囲気で大丈夫かなぁ。
う~ん、やばいよねなんとかしないと。
えーと、そ、そうだ、
「いや~、今日はほんと天気いいねぇ~
空なんかも、さすが唐津だけにからつっと晴れて」
「「・・・・・・」」
げ、す、滑った!
く、空気おも!
雰囲気なんかさらに悪くなったし。
はっ、なに!
なんかみんなの目が・・・いや~そんな冷めた目で見ないで。
うううううう、みんなの緊張和らげようと思っただけなのに~
「「・・・・・・」」
だ、だめだ、耐えきれん!
「た、巽さん、ここらへんで降ろして」
「ん、なんでじゃい」
「わたし駅のホームから撮影するから。
ほらここ高架だから公園全体撮れると思う」
「そうか」
”キキキー”
「じゃあ、ライブ終わったら合流するね」
「ああ。
また後でな」
”ガチャ”
「うん」
”バタン”
ふぅ~、なんとか脱出できた。
でもあんな雰囲気で、ほんとライブできんのかなぁ。
すごく心配なんだけど。
・
「この駅前という戦場で、道行く人々に奇襲をかけ撹乱し勝利をもぎ取ってこい!」
「「・・・・・・」」
「ハイOK,ハイGOGOGOGOGOGO。
ハイGO、ハイGOGOGO。
ハイGO、GOGO」
ハイGO・・・GO」
”ゾロゾロ”
あ、みんな出てきた。
そろそろだ。
えっと、ビデオはっと。
うん、バッテリーも十分。
よし、じゃ早速。
あれ? 愛ちゃんと純子ちゃんは?
車から出てこないんだけど・・・・
「え~、うちらフランシュシュって言います。
気合入れて歌うけん、よろしくー!」
は、はじまった。
やば、とにかく録画スタートっと。
みんな、頑張れ。
「目覚めReterner 目覚めたなら♬」
・
「振り返ってみて ぐるぐるぐるぐる♬」
”ドン”
「あっ、いたい」
「リリィちゃん!」
あ、リリィちゃんぶつかった。
ちょっと心配だったんだ。
個々の振付覚えるのに時間かかって、フォーメーションの練習あんまり
できなかったからなぁ~
”ゾロゾロゾロゾロ”
ん、げ、見てた人みんな行っちゃう。
そっか、さくらちゃんダンスやめたから。
やばいやばい、は、はやく続けないとこのままじゃ誰もいなくなる。
「みんな、落ち着いていこう」
さくらちゃん頑張れ~
「・・・・・・」
え、ど、どうしたの?
なんかさくらちゃん、固まってる・・・・・・あ、歌詞忘れたんだ。
ど、どうしょう。
・・・わたしが代わりに。
あ、でも、ここからじゃ遠くて、間に合わない。
「あ~、でも少し怖いの~♬」
へ?
「そんなことないから、ほらね♬」
あ、愛ちゃん、純子ちゃん。
車から出てきくれたんだ。
よ、よかった~
「無敵、夢見るキモチ♬
超、超、超、超、大、大、大、DIE!」
へ~、やっぱり二人が入ると全然違う。
やっぱ元トップアイドルは伊達じゃない。
なんか一気に華やかになった。
他のみんなも引っ張られて、なんかいい感じ。
へへ、みんないい表情。
「届け届け、熱いキモチ♬
刹那のソウルにCut IN♬」
「以上! フランシュシュでしたー」
・・・終わったー、何とか最後まで踊りきった。
でもこの動画、ホームページにアップできるかなぁ~
・・・ま、まぁいっか、初めてのライブだもん。
みんな頑張った。
さてっと、それじゃ急いでみんなに合流して。
「撤収じゃ~い、ハイGOGOGOGO!
GOGOGOGOGO、ハイGO!
ハイGO、GO、GO~」
え?
”ブロロロロ~ン,キュルルル、ブォー”
あ、あれ?
え、えっと~
い、いや~ちょっと待ってほしいな~
「・・・・・・」
ま、マジか!
げぇ~、行っちまった、ひ、ひど!
ど、ど、どすんだよ。
わたしどうやって帰ればいいの~
・
”ブロロ~ン”
「ね、ねぇ、幸太郎さん」
「なんじゃいさくら?」
「あの~ミカさんは?」
「え?
・・・・・・あ、あ゛ー」
・
・
・
”ギシ、ギシ”
うへ~、く、くそ、あ、足が・・・
う~ひどい目にあった。
くそ、巽の野郎おいてきやがって。
結局、ここまで歩かされて、道だってよくわからないのに。
絶対許さねぇからな、ふん!
”カシャカシャ”
ん?
あっ、今日のゲリラライブ、もうネットに載ってる。
・・・・・・やっぱ厳しいなぁ~
でも、まぁこうなるよね。
たえちゃんがゲソ食べてたのは仕方ないとしても、途中でダンスやめちゃったし、
歌詞も忘れたからね。
”コンコン”
「ミカいる?」
え、あれ、この声って愛ちゃん?
どうしたんだろ?
さっき純子ちゃんに紅茶持っていった時は、そろそろ休むって言ってたはずだけど。
”ガチャ”
「愛ちゃんどうしたの?
そんなパジャマ姿でうろついてたら、巽さんに襲われちゃうよ。
へへ、あれでも一応男だから」
「そんなこと・・・あるわけないじゃない。
あなたも自分の顔、鏡で見て知ってるでしょ」
「・・・・・・」
「そんなことより、あなた今日のライブ撮影してたでしょ」
「う、うん」
「だったら見せてほしんだけど。
あ、今パソコンで見てるのってライブの時の映像?
ちょっと見せてもらうわね」
”スタスタ”
「あ、ちょっと待って、これは」
「・・・・・・学園祭の方がマシ。
なにこれ。
今日のライブに対する書き込み?」
「・・・・・・まぁ、最初の方はちょっとあれだったからね。
それと、今の時代はさ、こうやってなんでもすぐネットで
拡散されちゃうんだ。
いいことや・・・・・・特に悪いことなんかはさ、すぐこうやって叩かれて」
「・・・・・・」
「あ、で、でもさ、愛ちゃんも純子ちゃんもさすがだね。
ダンスなんかすごくキレキレでさ。
なんか二人が出てきてから、一瞬で雰囲気変わったように見えた」
「どこが!
あんなあの全然ダメ。
まったく動けてない。
ここで言われているように、本当に学園祭以下の状態。
それは自分自身が一番よくわかってる。
やっぱり大分なまってる、もっと練習しないと」
「・・・そ、そっかなぁ」
「それと、今日わたし達はアイドルとして最もしてはいけないことをした」
「いけないこと?」
「さくらが途中でダンスをやめた。
わたし達がアイドルを、本物のアイドルを目指すというのなら、
それは絶対にしてはいけないこと」
「愛ちゃん」
「もともと練習不足なんだからリリィが転ぶのは仕方ない。
でも、さくらがダンスをやめたのはアイドルとして失格。
「・・・・・・」
「やっぱりわたし達には厳しさが足りない」
「愛ちゃん」
「・・・・・・あのさ、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」
「う、うん」
・
・
・
「ぐるぐるぐるぐる♬」
「あっ」
”ドサ”
「大丈夫、リリィちゃん」
「う~ん、やっぱりここの移動難しい」
「さくら!」
「え、愛ちゃん?」
「あなた昨日もそうやって途中でダンスやめたでしょ。
昨日はゲリラライブだったけど、もしあれがちゃんとしたステージで
そして同じことをしたらわたし達は終わってた。
ステージを途中で投げ出すようなアイドルなんて誰も認めてくれない。
あなた本当にアイドル目指すつもりあるの?
いい、本物のアイドルを目指すというのなら、そんな仲良し小好しの甘さはいらない。
あなたには、いえ、わたし達にはもっと厳しさが必要」
「で、でも」
「だからわたしから提案がある。
入って」
え、あ、やっぱ愛ちゃんやる気なんだ。
どうしょう。
いやー、こんな雰囲気で出て行くなんてメッチャきついんだけど。
や、やだな~
・・・で、でもこれがみんなのためになるのなら。
”ガチャ”
「あ、あの~、こんちはです」
「いい、今日からミカにフランシュシュに入ってもらう。
そしてこの中の一人が補欠になってもらう。
わたし達に足りないもの、それは競い合う心と現状に対する危機感。
誰よりも強い向上心をもって、他の誰よりもうまくなるという心を持たなければ
本物のアイドルなんてなれない」
「そ、そうかもしれないけどよ」
「だから・・・・・・
さくら、あなたには外れてもらう」
「え?」
「愛、ちょっと待て!」
「愛ちゃん」
「・・・愛さん」
「あなたは昨日アイドルとしては絶対してはいけないことをした。
だから、外れてもらう」
「何勝手なこと言ってんだ、あ゛ー
そんなことはリーダーであるあたしが絶対許さねぇ」
「・・・いいわ。
それなら、勝負しましょう」
「勝負だと?」
「そう、さくらとミカで勝負してもらう」
「勝負ってタイマン、タイマンか」
「・・・ダンスバトルよ。
さくらとミカにダンスで勝負してもらう」
「ダンスバトル?
んなもんさくらが勝つに決まってんだろ。
なんたって根性が違う。
な、さくら」
「そ、そげんことなかと」
「それじゃどちらのダンスがうまいか、わたし達が見て判断しましょう。
負けた方は当分控えに回ってもらうから」
・
・
・
「バシっと決めたい このSucceed♬
止まっちゃいけない このProceed♬」
”シュパッ、パシッ”
「ま、マジか」
「ミカちゃん凄い」
へへ、だってさ昨晩、あれだけ愛ちゃんに練習してもらったんだもん。
それこそ眠らずに。
だから、自然と身体がこの曲に反応して勝手に動いてる。
少し身体ギシギシいってるけど、なんかすごく楽しい。
「届け届け熱い気持ち
刹那のソウルにCUT IN♬」
「はぁはぁはぁ」
お、終わった。
ふぅ~、ちょ~気持ちよかった。
なんか生きてるって感じして。
「・・・・・・」
へ、あっ、さくらちゃん。
「さ、リーダー、どっちが勝ったか判定して」
「・・・・・・ミカ・・・だ」
「うっ」
・・・さくらちゃん
「じゃ、他のみんなの意見は?」
「「・・・・・・」」
「それじゃ決まりね」
・・・さくらちゃん。
なんかなんか。
やっぱりこんなのやめたほうが。
「あ、あは、そうだね」
え、さくらちゃん。
「うん、愛ちゃん、わたしもそう思ったと。
ミカさんのダンス、すごくキレがあった。
今のはわたしの負け。
・・・・・わたし、もっと練習するけん。
がばい練習して、そしてもっとうまくなってもう一回挑戦する。
だからミカさん、それまでフランシュシュをお願します」
”ペコ”
「・・・・・・」
「じゃ、じゃあわたし、ちょっと」
”ダー”
「さ、さくら」
”ガチャ、バタン”
「「・・・・・・」」
「さ、なにしてるの。
練習するわよ」
「愛、お前これでいいのかよ」
「なにが!
言っておくけど、今日はさくらだったけど、次にさくらと代わるのは
この中の誰かわからないからね」
「「・・・・・・」」
・
・
・
”ドタバタ、ドタバタ”
「飯じゃい飯じゃい」
”ガチャ”
「ミカ、晩ご飯できたか?
出来てるんならさっさと呼びに来んか~い。
このいけずが」
「あ、幸太郎さんちょっと待って」
「へっ? さ、さくらなんでお前が晩ご飯作ってんだ」
「あ、いや~、まぁいろいろありまして。
今日から当分の間はわたしが・・・」
・
・
・
”カタ"
「こ、幸太郎さん、はい、どうぞ」
「お~、お~、できたか。
もう腹ペコじゃい。
・・・・・・な、なんじゃ~い、この黒い塊は!
墨、墨食わせる気か」
「あははは、ちょっとハンバーグ焼いてるときに考え事しちゃって。
幸太郎さん、もう一回作り直すからそれ返し 」
「・・・・・・まったく」
”パク”
「う、に、にがー」
”パクパク、パクパク”
「こ、幸太郎さん」
「た、た、たまにはこんなのもいいだろう。
よく言うじゃろう、良薬口に苦しとな」
”パク”
「・・・・・・幸太郎さん」
・
・
・
”スタスタスタ”
う~ん気になる
さくらちゃん大丈夫だったかなぁ。
ご飯にお風呂の掃除、それに洗濯物の片付けとかやること結構いっぱいあるんだよ。
あ、そっだ! 巽さんのシャツのアイロンかけとかないと。
「よかたいよかたいよかっと」
え、さくらちゃんの声?
家の外から?
「よかよかよか」
さくらちゃん、ここで練習してんだ。
「よかよかよかよかっと。
ふぅ~
・・・わたし負けんと。
がばい練習して、きっとあの場所に戻って見せる」
さくらちゃんすごい必死に頑張ってる。
競争心と危機感。
愛ちゃんの言ってたことってこういうことだったんだよね。
今のさくらちゃんを見たらきっとみんなも同じように。
・・・よかった。
あとは適当な頃合い見てさくらちゃんと交代してっと。
『・・・・・・それでいいのミカ』
えっ、だ、だれ?
『わたしはお前だ。
それよりほんとにそれでいいのか?』
だ、だってもともと愛ちゃんとはそういう話だったから。
『みんなが認めた通り、わたしのほうがダンス上手いじゃん。
だったら、わたしがこのままやった方がみんなのためになるんじゃない?』
みんなのため?
『そう、みんなとわたしのため。
それにさ、アイドルになったら記憶も戻るかもしれない』
記憶が。
・・・・・・わ、わたし。
ーーーーーーーー
”ガバッ”
「は、い、今何時?
8、8時!
やばか、寝過ごした。
今日から幸太郎さんの朝ご飯作らないといけんかった」
”ドタバタ、ドタバタ”
「まだ起きてないといいんだけどなぁ、幸太郎さん」
”ガチャ”
「おお、さくら、どこいってたんじゃい。
なかなか今日の朝ご飯は美味かったぞ」
「え?」
「昨日の晩ご飯の出来から心配しとったんだが、なんじゃいやればできるじゃないか」
「あ、あの~」
「うんうん、お前はできる子だと前から思ってたぞ」
「あ、い、いや、あの」
「それより、シャツのアイロン終わってるか?」
「シャツ?
・・・あ、ちょ、ちょっと待ってて」
”ダー”
「そ、そうだったと。
昨日、幸太郎さんに言われとった。
やばい、すっかり忘れてた。
急いでアイロンかけんと」
”ガチャ”
「えっとシャツどこだっけ?
確かクローゼットの中に。
・・・え、全部アイロン掛けてある。
なんで?」
・
・
・
「ホラね振り返ってみて。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる♬」
「サキ、そこ入り遅い。
リリィも周りよく見て。
またぶつかるよ」
「・・・・・・」
「ごめん愛ちゃん」
「それじゃ、もう一回初めから」
「・・・・・・チッ」
”スタスタスタ”
「サキ、どこ行くの」
「ちっと休憩だ」
・
・
・
「いかんいかん。
朝ご飯もシャツのアイロンもきっとあれミカさんだ。
わたし昨日からなんもまともに出来てない。
せめてちゃんと掃除ぐらいはせんと。
よし、それじゃまず窓拭きから」
”キュキュ”
・
「「刹那のソウルにCut IN♬」」
「はぁはぁはぁ、じゃ、ちょっと休憩」
「はぁ、はぁ、はぁ」
ふぅ~、やっと休憩。
あ、飲み物。
みんなに飲み物持ってこないと。
・・・でも結局サキちゃん戻ってこなかった。
愛ちゃん、みんなのためだって言ってたけど、このままじゃ・・・
「愛はん、サキはんのことよろしかったでありんすか?」
「・・・・・・」
「リリィ、サキちゃん呼んでくる」
「放っておきなさい。
やる気のない人がいたらみんなの迷惑になる。
それならいない方がいい」
「・・・でも」
う~なんかムード悪い。
この前まではみんな和気あいあいで練習してたのに。
このままじゃ駄目だってわたしにもわかる。
うん、まずはサキちゃん呼んでこよう。
そんでみんなでちゃんともう一回話し合いして。
「あ、あの、わたし、何か飲み物持ってくるね」
”テッテッテッ”
・
”きゅきゅ”
「ふぅ、きれいになったっと。
でも、あと掃き掃除と雑巾がけ。
はぁ~大変。
こんなのミカさん毎日やっとったのかなぁ。
あ、そうだ今何時?
やばい、お昼ごはんの準備しないと」
”とぼとぼ”
「・・・・・・今頃、みんなレッスンしてるかなぁ。
・・・目・・・覚・・め・Returner♬
願え・ば・いいんだ・・・奇跡、感じてみたいんだ♬」
・
”スタスタスタ”
「ち、まったく愛のやろう、気に入らねえ。
くそ、族のころだったらよ、ぶん殴って言うこと聞かせてやるとによ」
「素敵、ワクワクなほど 超大、大、大♬」
”ひょい、ひょい”
「ん、さくら。
あいつ、ここで練習していたのか」
「刹那のソウルにCUT IN♬」
「・・・・・・やっぱり納得できん」
”スタスタ”
「はぁはぁはぁ。
あ~すっきりした。
さてさっさと掃除終わらせんと」
「さくら」
「え、あ、サキちゃん」
”ぐぃ”
「え、サキちゃん?」
「いいからちょっとこい」
「あ、まってわたしまだ掃除が、それに昼ご飯を」
「そんなもんあとだ」
・
・
・
”タッタッタッ”
やば!
ついでにお昼ご飯の準備してたら遅くなっちゃった。
・・・でもサキちゃんもさくらちゃんどこ行ったんだろ。
あ、でも急がないともう休憩終わってるよね。
ん、あれ、ドア開いてる。
「だからなに!」
「納得いかねえって言ってんだろ」
え、愛ちゃんとサキちゃん?
な、なんかまずい雰囲気。
「サキ、わたし達は本物のアイドル目指すんじゃなかったの。
だったら、なぁなぁじゃ無理。
ポジションを競い合って実力で奪い取るぐらいじゃないといけない。
あなたもリーダーなら 」
「だから補欠か。
あたしはそれが気に入らねえんだ。
仲間だったらもっとこうなんか違う方法あんだろ」
「どんな方法」
「そ、それは・・・」
「さ、サキちゃんもういいよ」
「よくねぇんだ、さくら。
いいか愛、フランシュシュのリーダーはあたしだ。
今からさくらも一緒にレッスンする」
「認めない」
「あ゛ーん!」
げ、愛ちゃんとサキちゃんが。
やばい、このままじゃほんとにフランシュシュが駄目になっちゃうよ。
ど、ど、ど、どうする、な、なんとかしないと。
・・・・・・く、くそ!
「もういい。
サキ、あなたとはもう一緒には 」
”ガチャ”
「あ~あ、なにやってんだか」
「あ゛ん!」
「ミカ」
「サキ、なんだよお前。
折角、愛を唆してやっとこのポジション手に入れたのによ。
わたしはアイドルになりてえんだ、邪魔すんじゃねえ」
「てめぇ」
「ミ、ミカ」
「それによ、この前のダンスバトルでわたしがさくらに勝ったんだ。
文句なんてな~んもねえだろう。
それをグダグダ言いやがって、ほんと女々しい奴だな」
「・・・お前やんのか」
「へ、また暴力?
あんたそれしかないの、あったまワル~
だからヤンキーなんて嫌なんだよ」
「マジ表出ろ」
「さ、サキちゃん、ミカさんも落ち着いて」
”ぎゅっ”
「さくら、手離せ」
「サキちゃん、暴力は駄目だって」
「ちっ、仕方ねえな。
じゃあさ、もう一回バトルしてやるよ、サキ」
「なんだと」
「聞き分けのねぇお前のために、もう一度ダンスバトルしてやるって
言ってんだよ。
それで、さくらがわたしに勝てたら補欠代わってやるよ。
その代わり、わたしが勝ったらフランシュシュのリーダーもらうからな。
そしてサキ! もう二度とお前にでかい口叩かせねぇ」
「上等じゃねえか。
さくら、いいかこんな奴に負けんじゃねえぞ」
「あ、い、いや、でも」
「さくら、お前アイドル続けたいんじゃなかと」
「あ、う、うん」
「決まりだな。
サキ、勝負は明日だ。
さてっと、わたしは疲れたから休憩してこよ~と」
”スタスタスタ”
「明日からわたしがリーダーか。
・・・サキ、お前こき使ってやるからな」
”バタン”
「・・・・・・」
”へなへなへな”
こ、怖かった~
す、すげ~怖かったよ~
マジ死ぬかと思った。
絶対、寿命ちぢまったし。
・・・・・・いや、もう死んでるから。
で、でも、もう後戻りできないよね。
やるしかない、やるしかないんだ。
だったらわたしは・・・
”スタスタスタ”
・
・
・
”シュパッ、シュパッ”
「届け届け、熱いキモチ♬
奏でるソウルにCut IN♬」
”ドサッ”
「はぁ、はぁ、はぁ」
だめだ、も、もっとキレをよくしなくちゃ。
も、もう一回初めから。
うんしょっと。
”スク”
「ミカ」
「え、あ、愛ちゃん」
「なんであんなことを言ったの」
「え、な、何のことかなぁ~」
「あんたがわたしを唆したって嘘を」
「あ、あれ。
あ~、あれは本心。
わたしさ、わたしだってアイドルになりたかったんだ。
だから愛ちゃんの提案、ラッキーって思ってたんだよ。
まさに渡りに船ってやつ。
だから、愛ちゃんの誘いに乗ったフリしてたんだ。
だってさ、巽さんに何回お願いしても駄目っていうから。
・・・・・・だからこのポジションは絶対に渡さない!」
「ミカ」
「ほら、練習してんだから邪魔しないで。
明日は絶対に勝つんだから」
「・・・・・・」
”スタスタスタ”
愛ちゃん。
・・・・・・わたし負けないから。
・
・
・
「届け届け、熱いキモチ♬
刹那のソウルにCut IN♬」
”ピタ”
「よし、さくら大分よくなった。
あたしが見ててもわかる」
「うん、リリィもそう思う」
「はぁはぁ、う、うん」
「いいか、ぜってぇ明日負けんじゃねえぞ」
「さくらちゃん、リリィも応援するね」
「うん、負けんばい。
わたしは必ずあの場所に戻って見せるっちゃ。
・・・あ、でもそろそろ巽さんの晩ご飯作らんと」
「さくら、そんなもん、あたしが作ってやる。
お前は練習続けろ」
「サキちゃん。
あ、で、でも」
「いいから任せとけって」
「うん」
・
・
・
”シュパッ、ピシ!”
「所為がでるな、ミカ」
「巽さん」
「純子から聞いた。
お前、本気でアイドルやりたいのか」
「・・・巽さん。
巽さん、わたしは!」
”スタスタスタ”
「ん、あれは幸太郎はんと、ミカはんでありんすな。
いったいこんなところで何を」
・
・
・
「・・・だから!
だからわたしは後悔したくない。
明日はわたしができる最高のダンス踊って見せる」
「・・・・・・そうか。
なら勝手にすればいい」
”スタスタスタ”
「・・・ミカはん」
・
・
・
”ガチャ”
「サキちゃんありがとう。
晩ご飯できた?
・・・え、こ、これ」
「いや~、里芋の煮っころがしを作ろうと思ったんだけどな。
ちょっと失敗して」
”ガチャ”
「お~いさくら、晩ご飯できてるか~
今日の昼ご飯もなかなか美味かったぞ。
ん、サキなんでお前もいるんじゃい?」
「あ、ば、晩ご飯はサキちゃんが」
「・・・ん?
で、晩ご飯は 」
「あ、あの~ここに」
”カタ”
「・・・・・・な、なんじゃいこの黒い塊は。
墨! また墨かー!」
「うっせ。
そんなもん食っちまえば一緒だろうが」
「こ、こんなもん食えるかボケ!」
「いいから食べろ!
ほら口開けろ」
「や、やめろサキ」
”パク”
「ぐぅおー、に、にがー」
ーーーーーーーー
”ガチャ”
「今日は逃げんできたな、ミカ」
「はぁ?
なんでわたしが逃げないといけないの?
あんたバッカじゃないの?」
「チッ!
んじゃはじめっぞ。
さくら、負けんじゃねぇぞ」
「さくらちゃん、ガンバだよ」
「それじゃ、さくらもミカも準備はいい?
始めるから」
「まてぇ~い!」
”ガタン”
「お前ら俺のいないところでなに面白いことしとるんじゃい」
「幸太郎さん」
「なんだ、グラサン邪魔すんな!」
「安心しろ、邪魔はせん」
「だったらおとなしく 」
「チーム戦じゃい」
「はぁ?」
「この勝負は3対3のチーム戦で競ってもらう。
お前らはグループだろうが。
だからやるならチームでやらんかい。
ダンスの出来だけじゃない。
さくらとミカ、お前らと他のメンバーとの息の合い方でも勝負してもらう」
「そうか。
ならよ、わたしはさくらのチームだ」
「リリィも」
「・・・・・・」
「さくらのチームはサキとリリィか。
ミカ、お前と一緒に踊ってくれる奴はいないようだな」
「・・・・・・」
「グラサン、勝負あったな。
見ての通りこいつには誰も 」
「わたしがミカと踊る」
「愛ちゃん」
「・・・・・・勘違いしないで。
不戦敗は許さない」
「・・・・・・」
「ならミカはん、わちきも一緒に踊らせてもらうでありんすな」
「ゆうぎりさん・・・・・・ありがと」
「お前ら決まったらさっさと準備せんかい。
始めるぞ」
・
・
・
”シュパッ、シュパッ、ビシッ!”
「目指せ目指せ最上! 最良!
怖いものなどない! ナイ! ナイ!」
「なんだこいつ・・・・・・すげぇ。
動きキレッキレじゃねえか。
昨日よりももっと 」
「サキちゃん、止まってる」
「あ、わりぃ」
「「ビシッっと変えたいこのChanging♬
ステップやめないこのdancing♬」」
”シュシュ、パッ”
「どうだ純子」
「見ての通りです。
今日のミカさんのダンスは今までで一番。
見ていて引き込まれます。
それに愛さんやゆうぎりさんとも息があってて」
「そうか」
「・・・でも」
「でも、なんだ?」
「ミカさんのダンス、見ていて悲しくなります。
なぜなのかわかりませんが」
「そうか」
「「刹那のソウルにCut IN♬」」
はぁはぁはぁ
終わった。
わたしが持ってるもの全て出し尽くした。
もう思い残すものはない。
あとは巽さんに・・・
「はぁはぁ、判定はどっちだグラサン」
「そんなもん、決まってんだろが」
「・・・チッ、やっぱりそうか」
「ああ。
勝負は・・・さくらの勝ちじゃ~い!」
「は? はぁー!
な、何言ってんだグラサン!」
「あ~あ、やっぱりそうか~
くそ、負けちまった。
もう少しでリーダーになれるとこだったのにな~
・・・仕方ない、わたしの負けだ」
「お、おい、お前もなにを 」
”ガチャ”
「負け犬は去るのみ」
”スタスタスタ”
「グラサンちょっと待て。
あたしでもわかった、今のあいつのダンス半端じゃなかった。
なんか本気の魂っていうもん感じた。
だから今の勝負は 」
「さくらの勝ちじゃい。
お前は何もわかっとらんの~」
「はぁー!
この勝負は誰がどう見たってあたし達の負けだったじゃねえか。
個人のダンスといい、チームとしての完成度といい。
何がわかってないって言うんだグラサン!」
「いいかよく聞けサキ」
「お、おう」
「・・・・・・俺はまともな飯が食いたいんじゃ~い。
も、もうあんな苦いのはいらんのじゃ~い!」
「はぁー!
なんだそれ。
そんなの理由になってないだろうが!」
「え~い、うっさいわい。
俺がさくらの勝ちと言ったら勝ちなんじゃい」
「納得いかねぇって言ってんだろ!」
「納得いかなくても納得しろ、このボケ~」
「なんだと!」
「まぁまぁサキはん。
幸太郎はん、幸太郎はんが話さないのなら、わちきから話すでありんす」
「ゆうぎり姉さん、何か知ってんのか」
「なんでお前が?
や、やめろゆうぎり!」
”ぼこっ”
「ぐへぇ」
「てめぇは黙ってろ!
姉さん、何知ってるんだ」
「あれは昨晩のことでしたなぁ。
ミカはんと幸太郎はんが 」
・
『わたしは、愛ちゃんの言いたいこともわかる。
本物のアイドル目指すなら競争心は絶対に必要だもん。
なぁなぁで出来るもんじゃないってわたしもそう思う。
・・・でもさ、それだけじゃきっと駄目なんだと思うんだ。
わたしたちはゾンビィ。
みんな誰も頼れるものがいないんだ。
とうちゃんもかあちゃん、兄弟や友達もいない。
わたし達にいるのはこの仲間だけ。
だからメンバーのこと温かく思いやる気持ちってさ、
きっとそれと同じくらい大事なんだって思う。
だからさ 』
”ぺこ”
『お願いします巽さん』
『断ったらどうする』
『・・・巽さん、ゲリラライブの時、わたし置いてったよね。
帰ってくるの、めっちゃ大変だったんだけど。
足なんかギシギシて軋んじゃって。
断ったら一生恨むから』
『お前の一生はもう終わってるだろう』
『そ、そうだけど』
『・・・・・・お前は、お前は本当にそれでいいのか』
『うん。
それにさ、わたしさくらちゃんのダンスも歌も大好き。
なんかさ、頑張ろって感じにさせてくれるの。
そんなのどんだけ頑張ってもわたしにはできない。
それってさ、今のフランシュシュにとって、とっても大事なものだと思う。
だからフランシュシュに必要なのはわたしなんかじゃない。
・・・さくらちゃんなんだ』
『・・・・・・』
『へへ、みんなとダンス出来てとっても楽しかった。
もっとさ、みんなと一緒に踊りたかったけど、明日が最後。
・・・だから!
だからわたしは後悔したくない。
明日はわたしができる最高のダンス踊って見せる』
『・・・・・・そうか。
なら勝手にするがいい』
・
”ぐぃ”
「おい、グラサン!
今の話マジか」
「・・・・・・」
「な、なんなの!
あの馬鹿」
”ダー
「あ、愛!
ちょっと待て」
”ダー”
・
・
・
”とぼとぼ、とぼとぼ”
終わった。
これで良かったんだ。
愛ちゃんもサキちゃんもみんなのこと思う気持ちは同じ。
二人が傷つけあう必要なんて何もないんだ。
だとしたら、きっとこれが一番いい解決方法。
うん、これしかない。
で、でも
「・・・う、うぐ・・・うううう、ううううう」
・・・もっと、もっとみんなと一緒にいたい。
”パシッ!”
くそ、負けない!
そう決めたんだ、わたし負けないって。
そんで、そんで最後は笑ってって。
”ニコ”
「さようならみんな。
・・・ありがと」
”ペコ”
・
”ダー”
「ミカ!」
”ガチャ”
「あなた、勝手なこと言わな・・・・・・・なんで」
”へなへなへな”
「・・・ミカ」
”タッタッタッ”
「愛、落ち着・・・・・・って、お、おいマジか」
”タッタッタッ”
「はぁはぁ、あ、愛ちゃん、ちゃんと話し・・・合お・・・う。
えっ!
な、なんで、なんでミカさんの荷物なかと。
ま、まさか、さ、サキちゃん!」
「あの馬鹿!」
最後までありがとうございます。
前回投稿から約2か月も・・・・・・
大変遅くなりすみません。
最近、なかなかパソコン使える時間がなくて・・・・・・
うー、自分だけのパソコンが欲しい!
・・・す、すみません、言い訳っす。
次話は何とかもう少し早く投稿できればと。
さて、みんなの前からいなくなったオリヒロはどこに。
さくら達は? 巽は?
次話、また見に来ていただければありがたいです。
ではでは
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ただいま?
さて、前話にて洋館を出ていったミカはどこへ?
また、サキ達はどうする?
巽は?
そして千葉ではあの男が再び・・・
今回、ほぼ会話ばっかりです。
大変読みにくいと思いますが、ご容赦いただきたくお願いします。
「・・・・・・」
”すくっ”
「・・・・・・」
”ズカズカズカ”
「そこどいて!」
「どこに行く気だ、愛」
「決まってるじゃない。
あの馬鹿を連れ戻しに行くのよ!」
”スタスタ”
「そうだ、いいからそこどけグラサン!
愛、あたしも一緒に行く」
「・・・やめておけ。
今、お前らが連れ戻しに行って、あいつが素直に戻ってくると思うのか」
「けど!
・・・・・・わたしがあんなこと言わなかったら」
「いや、愛だけの所為じゃねぇ。
・・・・・・あたしもムキになってた」
「愛ちゃん、サキちゃん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
”ガシガシ”
「あ~くそ、面倒くせー!
確かにあいつ変なとこで頑固だからな~」
「あいつもそれなりの覚悟があって出て行ったんだろ。
そう簡単に戻ってくるとは思えん。
ならば、お前らが今やることは他にあるはずだ。
お前らは、お前らにしかできないことをしろ」
「「・・・・・」」
「いいな」
”スタスタスタ”
「・・・・・・なんでこんなことに」
「愛ちゃん」
「・・・愛、さくら、グラサンの言う通りだ。
今は、あたし達にできることをやるしかねぇ」
”こく”
・
”とぼとぼとぼ”
「・・・・・・」
どこ、行こうかなぁ~
行く当てなんかないもんな。
でも、でもさ、できるだけ遠くに行かないと。
そうでないと、わたし弱いから。
きっとみんなのところに帰りたくなって・・・
だからもっと遠くに。
・
・
・
「「届け、届け、熱いキモチ♬
刹那のソウルに Cut IN♬」」
”シュパッ”
「はぁはぁはぁ。
よし、次だ、次の曲やんぞ。
さくら、音楽スタートだ」
「あ、はい、ちょっと待って。
今スタートするから」
”タッタッタッ”
「・・・・・・こいつらは大丈夫そうだな。
さて行くか」
”ガチャ”
「あいつはメイクをしていなかった。
ならば、人に出会うわけにはいかないから、そう動けるものじゃない。
だとしたら、まだきっとこの近くにいるはずだ。
今なら近くに」
”スタスタスタ”
・
・
・
”とぼとぼ、とぼとぼ”
あ、千代田橋?
そういえば、ここって確か前に来たところだ。
目覚めて何が何だかわからなくて、あの家飛び出して。
へへ、またここに戻ってきちゃった。
”ピカ! ゴロゴロゴロ”
「キャー」
か、雷!
やば、それにあの雲、今にも雨も降りだしそう。
え、えっと、とりあえずこの橋の下に避難して。
”ズル”
「ひゃ」
ふ~、あっぶなかった。
ここの土手、結構急だから気を付けないと。
・
・
・
”ザー、ザー”
「くそ、雨、土砂降りになってきた。
パンツまでずぶ濡れじゃい。
う~気持ち悪い。
・・・そういえば、あいつも傘を持っていかなかったはずだ。
いつも使ってた傘、まだあったからな。
だったらこの雨できっとどこかで雨宿りしているはずだ」
”キョロキョロ”
「まったく・・・・・・どこにいるんじゃい、ボケが」
”バシャバシャバシャ”
ーーーーーーーー
”タッタッタッ”
「ヒッキー、ごめん待った?」
「おう、すげ~待った」
「む~、これでも優美子達との約束断ってきたんだからね。
急に今日の朝、電話してくるから。
今度からはちゃんと事前に言ってよね!
・・・・・・いろいろ準備とかあるんだから」
「す、すまん。
いや、そんなに待ってないんだ。
つ、つい」
「えへへ、でも安心した。
ヒッキーはヒッキーのままだ。
あの頃と何も変わってない。
・・・・・・正直、少し心配してたんだ」
「由比ヶ浜。
・・・・・・いや、変わったぞ」
「え?」
「今ではれっきとした正真正銘の社畜だ」
「そ、そうなんだ」
「じゃ、行くか」
「うん」
・
・
・
”ザー、ザー”
・・・・・・雨・・・やまないな~
ここ数日ずっと降ってる。
それも土砂降り。
これじゃどこにも行けない。
少しでも遠くに行こうと思ったのに。
・・・もっと遠くに。
「・・・・・・うそ・・・つき」
ち、違う、本当だもん。
だ、だけどさ、雨じゃ仕方ないじゃん。
うん、仕方ない。
雨が止んだらわたしは、わたしは・・・
・
・
・
”ガチャ”
「よう」
「ゆきのん、大丈夫?」
「いらっしゃい由比ヶ浜さん。
大丈夫よ、来週から出社しようと思っていたところだから。
えっと~、そちらの方はどなたかしら?」
「お、おい」
「冗談よ。
比企谷君、あなたにも迷惑かけたわ。
ごめんなさい」
「ああ、まったくだ。
佐賀の出張先から何も言わずいなくなって、いきなり長期休暇申請だもんな。
会社では、変な噂で持ちきりだ」
「ええ、姉さんから聞いたわ」
「ヒッキー、変な噂って?」
「あ、い、いや、ま、まあ変なやつだ」
「んん?
ゆきのん知ってるの?」
「・・・・・・比企谷君が、あ、あの、強引に私を・・・その・・・あ、あの」
「強引に?
・・・・・・えっ、うそ!
ヒ、ヒッキーの馬鹿!
ちゃんとゆきのんに謝って!」
”ぽかぽか”
「ば、ばっか、噂だって言ったろ。
そんなことがあるわけないだろう」
「ほんとう?
何もなかったの?」
「あたりまえだ
俺の理性を見くびるな」
「由比ヶ浜さん、この男にそんな度胸があると思って」
「そ、そだね。
ヒッキーにはそんな度胸ないもんね」
「お、おい!
まったく。
それより雪ノ下、東地グループとの打ち合わせって来月だったろ」
「ええ」
「来週、もう一度佐賀に行くつもりだ。
嬉野の方とか回れなかったからな。
お前はどうする?」
「わたしは・・・・・・行けないわ。
会議の予定が入ってるから」
「そっか。
じゃ今度は一人で行ってくるわ。
あ、そうだ、洋館の調査は終わってたのか?
まだなら俺が 」
「終わったわ!!」
「「え?」」
「あ、ご、ごめんなさい。
洋館の調査はもう終わってるから。
大丈夫、そこは行かなくていい」
「そ、そうか」
「・・・・・・」
・
・
・
”ぐぉ~、ぐぉ~”
「お~い、グラサン入るぞ」
”ガチャ”
「グラサン、ちょっと振付でわからないところが・・・・・・って。
てめぇ、また今日も昼寝してんのか!」
”ぐぅあ~”
「いい加減に目を 」
「寝かせておきなんし」
「ゆうぎりねえさん。
だがよ、こいつここんとこ毎日ずっと寝てるだけじゃねえか。
あたし達のレッスン全然見に来ないでよ」
「幸太郎はん、毎晩ミカはんを探しに行ってるでありんす。
いつも夜になると出かけて、朝方までずっと」
「マ、マジか」
「マジでありんす」
「・・・・・・そっか」
”ペコ”
「グラサン頼む、必ずあの馬鹿探し出してくれ」
・
・
・
「じゃ、そろそろ俺帰るわ。
由比ヶ浜、お前はどうすんだ」
「あ、あたしは・・・
ね、ねぇゆきのん、今日久しぶりにお泊りしていい?
いろいろお話したい」
「えっ。
ええ、いいわ」
「よかった。
じゃあヒッキーをエレベータのところまで送っていくね」
「い、いや一人で帰れ 」
”ぐぃ”
「いいから。
ほら行くよ」
・
”スタスタスタ”
「ね、ヒッキー」
「ん?」
「ゆきの・・・・・・」
「なんだ?」
「・・・・・・うううん、何でもない」
「そっか。
由比ヶ浜、今日はすまなかったな」
「え、あ、うん」
「さっき言った通り会社で変な噂がたってるからな。
一人で雪ノ下のマンションに行くわけには・・・・・・
まぁなんだ、何かお礼しないとな」
「じゃ、じゃあさ、出張のお土産お願いね」
「お、おう。
何か希望とかあるのか」
「う~ん何がいいかなぁ~
あ、ひこにゃんのキーホルダーか何か。
あんまり高いのもなんだし」
「ひこにゃん?」
「え、あ、ほら兜被ってる犬のゆるキャラあるじゃん」
「・・・・・・由比ヶ浜、それ滋賀のゆるキャラだろ。
俺が行くのは滋賀じゃねぇ、佐賀だ佐賀。
それに犬じゃない、あれは猫だ猫!」
「へっ?
あ、い、い、いいじゃん、滋賀も佐賀もなんか似てるし!」
「まったく。
まぁ佐賀のゆるキャラといったら」
”カシャカシャ”
「こんなのどうだ、壺にゃん」
「う~ん」
「じゃこの唐ワンくんとか」
「ちょっとスマホよく見せて」
”ぎゅ”
「お、おまえ、ちか 」
「ん?」
「い、いや、なんでもない」
「ふ~ん。
あ、ほらこのゆっつらくん可愛い。
これがいいかなぁ~」
「お、お、そ、そ、そっかわかった」
「・・・ね、ヒッキー」
「あん?」
「いまドキドキした?」
「ば、ばっか、ドキドキなんてしてねえし」
「えへへ。
あ、エレベータ来たよ」
「おう」
「出張・・・気をつけてね」
「ああ」
「行ってらっしゃい」
「・・・・・・お、おう、行ってくる」
・
・
・
”ポツ、ポツ”
あ、雨やんできた。
そろそろ暗くなってきたし、もう行かないと。
いつまでもここにはいたらいけないんだ。
”すく”
さてと、とりあえず橋のとこまで登ってっと。
うんしょっと
”スタスタスタ”
『あったまワル~
だからヤンキーなんて嫌なんだよ』
・・・サキちゃんにひどいこと言っちゃったなぁ~
謝りたい。
愛ちゃんにも嫌なこと言っちゃった。
さくらちゃんや純子ちゃん、リリィちゃん、ゆうぎりさんにも嫌な思いさせた。
みんなに謝りたい。
でも、戻れないんだみんなのところには。
あの場所にはもうわたしの居場所はない。
もうわたしにはどこにも居場所はなんてないんだ。
”トボトボトボ”
・・・・・・わたし、なんでゾンビィなんかになっちゃたんだろう。
そのまま死んでいればよかったのに。
そうしたらこんな思いしなくてよかったのに。
もう疲れたよ。
”ズル”
へっ?
”ズルズルズル”
あ、雨で土手が濡れてるから。
げ、やばい
”ズデン!”
「ひゃー」
”ゴロゴロゴロ”
げ、こ、転がる~
あっ、い、石ー!
”ゴツン!”
「ぐはぁ~」
・
・
・
”ガチャ”
「ただいま~」
「え、あ、あのお帰りなさい、由比ヶ浜さん」
「さてっと」
”ドサ”
「由比ヶ浜さん?」
”ポンポン”
「・・・・・・ゆきのん、ここ座って」
「え? ええ」
「ね、本当は何があったの?」
「え、な、何がって?」
「洋館で何があったの?」
「あ、あの、い、犬に追いかけられて」
「それだけじゃないよね。
さっきのゆきのん、すごく変だった。
なんかわかるよ。
ね、洋館で何かあったの?」
「・・・・・・べ、別に」
「そう。
じゃいい、もう聞かない」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・ごめんなさい」
「ゆきのん」
「洋館で犬に追いかけられたのは本当の話。
でもそれだけじゃない。
あの時 」
「あの時?」
「犬に追いかけられた時だけど」
『お~い、ロメロ 』
「聞こえたような気がしたの、彼女の声が」
「彼女?」
ーーーーーーーー
「さて行くか」
”ガチャ”
「ん?」
「・・・・・・」
「そんなとこで何してるんじゃい、愛」
「・・・今日も探しに行くの」
「なんだ知ってたのか」
「わたしも行く」
「いや、いい。
それよりお前たちは 」
「ちゃんとレッスンはするつもり。
あんた言ったでしょ、ゾンビィに睡眠はいらないって。
それに今回の件は元はといえばわたしが原因。
だからわたしが・・・・・・」
「・・・だがメイクしている時間はないぞ」
「大丈夫。
この帽子とマスク、それにこのジャージ、名前入りで恥ずかしいけど
あんたが買ってきたこのジャージ着ていくから。
これなら肌の露出少ないし、下を向いていれば気付かれない」
「そうか」
・
・
・
”スタスタスタ”
「今日は商店街を抜けていくことになるが、大丈夫か」
「だ、大丈夫。
ね、あの馬鹿、まだここら辺にいると思う?」
「わからん。
だが、あいつもメイクしていないから動けるとしても夜間だけだろう。
移動手段も足しか無い。
だからそんなに遠くには行ってないはずだ」
「そうよね」
”びゅ~”
「あ、帽子!
ちょ、ちょっと待って」
”ガヤガヤ”
「愛、ちょっと待て。
人が来る」
「で、でも、このままじゃ」
”だき”
「ちょ、ちょっと、何を 」
「いいから、しばらく静かにしてろ」
「・・・・・・」
”スタスタスタ”
「本当なんですって大古場さん。
唐津神社に幽霊が出るって噂があるんですって」
「そんなものいつものヤラセかガセネタだろ。
いちいち取材なんて行ってられねぇ」
「え~、よかやないですか。
どうせ特集のネタに困っとーやけん。
行きましょうよ取材~」
「時間の無駄だ。
ん?
ったく、最近の若いもんはこんな路上でいちゃいちゃと」
「う、羨ましか。
俺も彼女ほしか~」
「おい、行くぞ」
「あ、待ってくれんね大古場さん。
取材よかとですから、誰か紹介してくれんですか」
”スタスタスタ”
「ね、今の聞いた?」
「・・・・・・」
「ちょ、いつまで抱き着いてるつもり!」
”ぐぃ”
「なんじゃい、照れてんのか。
愛ちゃんおぼこいの~」
「馬鹿!」
”ボゴ”
「ぐはぁ」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。
ね、今の聞いた?」
「じょ、冗談だろうが。
ああ、唐津神社だったな」
「噂になっているのだったら急がないと。
さっ、行くわよ」
”テッテッテッ”
「愛、そっちじゃない、こっちだ」
「し、知ってるわよ」
・
・
・
「カァ~、カァ~」
”バサバサ”
「ひゃっ」
「案外ビビリ―じゃの」
「ビ、ビビッてなんかない。
ちょっと驚いただけよ。
そ、それよりミカいないわね」
”キョロキョロ”
「やっぱりガセネタだったのかもな」
「・・・・・・」
「もうちょっと裏の方まで行ってみるか」
「そうね」
”ガサガサ”
「ひゃっ!
・・・ち、違う、何でもないから」
「愛」
「だから何でもないって言っ 」
「違う。
あれを見てみろ、境内のところだ」
「え?」
「う゛~、う゛う゛う゛~、うがー」
「ミ、ミカ!」
「あ゛ー、あ゛ー」
”ふら~、ふら~”
「あれって」
「ああ、目覚める前の状態に戻ってる」
「な、なんで」
「わからん。
だがこのままここにいて誰かに見つかったらまずい。
とにかく連れて帰るんじゃい」
「ええ」
”タッタッタッ”
「ミカ、帰ろ」
「あ゛ー、あ゛ー」
”ガチャン、ガチャン”
「え、ねっ、これ。
ミカの足首のとこに首輪?」
「ああ、犬の首輪だ。
そこの木に鎖でつながれているようだな」
「だ、誰がこんなことを」
「わからん。
だが、」
”キョロキョロ”
「・・・誰もいないようだな。
急いで連れて帰るぞ。
それと、このことは誰にも言うな。
わかったな」
「ええ」
”ジタバタジタバタ”
「あ、暴れないでミカ。
今この首輪取ってあげるから」
「うがー、うがー」
”バタバタ”
「ミカ、大人しくして!
ちょ、ちょっとあんたも手伝いなさいよ」
「ほれ」
”パク”
「よしよし、いい子じゃい。
少し大人しくしてろ」
「あ゛ー」
”ガチャン”
「よし外れた」
「え、な、なんで?」
「決まっとるじゃろ。
ゾンビィにはゲソじゃい。
これ食べさせておけば静かになる。
ほら愛ちゃんも、あ~ん」
「馬鹿!」
”ボカ”
「ぐはぁ!」
「まったく」
「な、なんじゃい、もうやらんからな、ゲソ」
「いらないわよ!
ほら、さっさと帰る 」
”ギ~コ、ギ~コ”
「ちょ、ちょっと待って。
あれ、警察」
「ふむ、とにかくどこか隠れる場所・・・・・・」
””キョロキョロ”
「隠れる場所なんて。
・・・・・・!」
”バッ”
「これ貰うわよ」
「ゲソなんかどうするんじゃい?」
「ミカ、ほらゲソ、ゲソよ」
「あ゛ー」
「とってきなさい」
”ぽ~い”
「あ゛う、あ゛う!」
”ダー
「よし。
あとは」
”だき”
「ん、な、何の真似だ」
「いいから、さっきのように恋人のフリして」
「ん、あ、ああ」
”ぎゅ”
「ん、お~い、こんな時間に何してるのかなぁ~
さっさと帰らないと逮捕しちゃうぞ。
うん、これ逮捕だな逮捕」
「愛、こっちに来るぞ。
ミカを連れて逃げだ 」
”ドン!”
「へ?」
「きゃ~、お巡りさんこの人チカンです」
”へなへな”
「いきなり抱き着かれて、いろんなとこ触られて。
お願いです、逮捕してください。
うわ~ん」
「チ、チカン!
おいこら、お前逮捕だ。
これ現行犯逮捕だな」
「あ、い、いや、あの」
「うわ~ん、うわ~ん、ううううう」
「ほらこの娘、しゃがみこんで泣いてるじゃないか。
許せないんだなこれは!」
”ガチャン”
「げ、手、手錠」
「怖いです。
さ、さっさとこの男、交番へ連行してください。
お願い!」
「わ、わかった。
ほら、お前いくぞ」
”ぐぃ、ぐぃ”
「い、いや、ちょっと」
「うるさい。
話があるのなら交番でじっくり聞いてやる。
さっさとこい!」
「あ、あの、ち、違う 」
”ズルズルズル”
「ふぅ~、行ったわね。
さてと、今のうちにミカを連れて帰らないと」
・
・
・
”ドタドタドタ”
「愛! マジか、あいつ見つかったのか!」
「ミカさん」
「う゛う゛う゛、うが~!」
”ふら~、ふら~”
「な、なんだ、これどうなってんだ」
「愛ちゃん、これって」
「神社で見つけたらこうなってたの。
ミカ、目覚める前の状態に戻ってるって巽が」
「そんな」
「・・・さくら、あたし達はライブで目覚めたって言ったよな」
「あ、う、うん」
「なら、あたし達にできることは決まっとる」
「わたし達にできること?」
「行くぞ、愛、さくら」
「え、サキちゃんどこに」
「決まっとるやろうが。
・・・・・・ダンススタジオだ」
・
・
・
「みんな、円陣組むぞ。
さくら、さっさとCDプレイヤーおいてこっち来い」
「あ、うん」
”ガシッ”
「あのダンスバトル、間違いなくあたし達の負けやった。
あたしは、負けっぱなしのままなんて我慢できねぇんだ」
「サキちゃん」
「だから、だからあの馬鹿、あたし達のダンスと歌でぜってぇ目覚めさせてやる」
「わたしも!
好き勝手やって出て行ったミカには言いたいことが山ほどある。
だから必ず目覚めさせる!」
「愛ちゃん」
「・・・わたしは、ミカさんが淹れてくれた紅茶がまた飲みたいです。
それに美味しい紅茶の淹れ方教えてくれるという約束は必ず守ってもらいます。
だから、きっちり目覚めてもらいます」
「純子ちゃん」
「ダンス教えてくれた時のミカちゃん、すっごくやさしかった。
それにうまくできた時、たくさん褒めてくれたの。
とっても嬉しかった。
リリィ、ミカちゃんともっとお話ししたい。
だから、ミカちゃんに目覚めてもらいたい」
「リリィちゃん」
「あ゛あ゛あ゛、う、う、う」
「たえちゃん」
「わちきは一度ミカはんとじっくりお酒飲みたいと思ってたでありんす。
大人の女同志いろいろと話したいこともありましたからな。
だからミカはんにはきちんと目覚めてもらうでありんす」
「ゆうぎりさん」
「さくら、お前はどうなんだ」
「わたし、ミカさんのダンス見て負けたと思った。
わたしのアイドルになりたいって想いがまだまだ甘かって思い知らされた。
だからあれから今日まで絶対負けられんと思ってがばい練習した。
練習してわかった。
わたしは、わたしは絶対本物のアイドルになりたかって!
わたしのこの想い、ミカさんに伝えたい。
だから絶対に目を覚ましてもらうけん」
「・・・さくら」
「あ、それはそうと、ミカはんがこのまま戻らないのであれば、
今度から身体のメイクも幸太郎はんにやってもらうしかありませんな」
「「はぁっ!」」
「お、お、おい、絶対目覚めさせっぞ!」
「う、うん」
「絶対!」
「頑張りましょう!」
「巽やだー」
”ガチャ”
「あ、あ、あ、愛ー!!
お前、なんてことしてくれたんじゃい。
おかげで、おかげでひどい目にあったじゃろうが、このボケー!」
「グラサン、音楽スタート!」
「へ、あ、あの~」
「グラサン!」
「はい」
”カチャ”
「目覚めRETURNAER 願えばいいんだ♬」
・
「あ゛あ゛あ゛・・・う゛・・・あ゛ー」
”ふら~、ふら~”
「え~い、おとなしくあいつらのステージを見ろ」
”ガシ”
「うがー、うがー」
”ドタバタ、ドタバタ”
「本物のアイドルっていうにはまだまだほど遠いが、
あいつらなりに必死にお前を目覚めさせようとしている。
よくその目で見るんじゃい」
”ぐぃ”
「うが」
「目指せ目指せ、最上! 最良!
怖いものなどない! ナイ! ナイ♬」
”シュパッ、シュパッ”
「うがが・・・うが・・・う・・・うう・・・ううう」
「な、涙?
お前泣いてるのか、も、もしかして目覚め 」
”ガブ”
「うぉぉー」
”ガブガブ”
「ええ~い、頭を離さんかい!」
「うが」
・
「刹那のソウルにCutIN♬」
「はぁ、はぁ、はぁ」
「あ゛・・・う゛う゛・・・う゛う゛う゛・・・」
「お前にはあいつらの思いが伝わっているんだろう。
さっきから流してるその涙が証拠じゃろうが」
「う゛、う、う」
「なら、いつまでそうやって眠っているつもりだ!
え~い、いい加減に目を覚まさんかい三ヶ木美佳ー!!」
「・・・う?
・・・う゛・・・・・・う・・・うがー!!」
”ドタバタドタバタ”
「うがー!」
「お、おい何しやがったんだグラサン!」
「何もしとらん」
「そんなわけねえだろう。
こいつがばい苦しんでるやなかと!」
「・・・・・・」
「うが!、うが!、う゛がー!」
「ミカさん、落ち着いて」
「ミカ!」
「うが、うが・・・うが!!」
”バタ”
「「・・・・・・」」
「お、おい、さくら、もしかして、し、死んだのか!」
「ミカさん!」
「・・・・・・う゛」
「どうなんださくら!」
「いやもともと死んではいるんだけど、死んでないというか。
あ、でも死んでるから、え、えっと~」
「どっちなんだ」
「あ、あの、う、動いとる!」
「そ、そっか、死んでねぇんだな」
「いや死んでるけど」
「・・・・・・。
え~い、せからしかー
よし、みんな次の曲いくぞ」
・
・
・
”トボトボトボ”
あれ、ここどこだ?
なんかどっかでみたような景色。
あ、あれ、あの家!
”タッタッタッ”
うん、この家なんか見たことがある。
この綺麗に整理された花壇とか、補助輪のついたちっちゃな赤い自転車。
そして
『打ったー、ホームラン!』
家の中から聞こえてくる野球中継の声。
うん、なんか憶えがある。
”ガチャ”
へ、な、何してんのわたし。
勝手に家のドア開けて。
で、でも・・・
「お邪魔しま~す。
どなたか 」
『あ、おねえちゃ~ん!』
へ?
”ドタドタドタ”
ん、なに?
なんかちっちゃい子がこっち向かってくるんだけど。
え、おねえちゃん?
今、おねえちゃんって言った?
『おねえちゃん、お帰りなさ~い』
「あ、あの~」
『お帰り』
「う、うん、ただいま」
『ね、ね、おねえちゃんあそぼ!』
えっとやっぱりわたしのことおねえちゃんって。
あ、でもほら、ちっちゃい子から見たらわたしおねえちゃんだから。
きっとそうだ、そういうことなんだ。
『おねえちゃん?』
「あ、な、何でもないよ。
えっと~何して遊ぶ?」
『えっとね、プリキラーごっこ!』
「うん」
・
・
・
「ぐはぁ~、やられた~」
『やった、やった』
へへへ、なんかすごく楽しい。
それになんだか懐かしくて。
なんでだろう。
ずっとこうやって遊んでいたい。
”すぅ~”
え、あれ?
この子、なんか薄くなってきてない?
ほ、ほら、足なんか透けて床が見えるんだけど。
「あのさ、なんか身体が透けてきてるよ」
『え?
あっ!
・・・・・・そ、そっか、もう時間なんだ』
「え、時間?」
『うん、もうおねえちゃんが帰る時間』
「えっと~、帰る時間って?
わたしまだ帰りたくない。
ここで一緒に遊んでいたい」
『おねえちゃんは帰らないといけないよ』
「な、なんで?
だってわたしここが楽しい。
ずっとここにいたい。
こうやって一緒に遊んでいたい」
『・・・ここは死んだ人の世界。
おねえちゃんは死んだけど、まだ魂はこっちに来ていない。
きっと向こうの世界でやり残したことがあるから。
だから、まだこっちの世界にはいられないの』
「・・・やり残したこと、やり残したことって何?
わたしにはわからない。
ね、教えて。
わたし何をやり残したの?」
『大丈夫、おねえちゃんはわかってる。
何をやり残したのか、きっと思い出せる。
だから 』
「やだ!」
『おねえちゃん!』
「だって、だって・・・・・・
もうわたしに帰るとこなんてない」
『大丈夫、みんなは許してくれてるよ。
きっとおねえちゃんが帰ってくるの待ってる』
「・・・・・・で、でも」
『おねえちゃん、わたしはおねえちゃんのこと大好き。
いっぱいいっぱい大好き。
本当はもっとずっとずっと一緒にいたい」
「・・・・・・」
『でも、でも我慢して待ってる。
だって今のままじゃ、おねえちゃんいつまでも彷徨い続けることになるから。
だから、ここでいい子にしておねえちゃんのこと待ってるね』
「わたしも!
わたしも美紀のこと大好き!」
『おねえちゃん!
美紀のこと、美紀のこと思い出してくれたんだ。
うれしいー 』
「えっ?
あっ!」
そ、そうだ。
この子、わたしの妹。
どこに行くのも、なにもやるのもいつも一緒で。
わたしが学校から帰ると、さっきみたいに玄関まで全力で走ってきて、
そんでめいっぱいの笑顔で言うんだ、
『おねえちゃんお帰り。
ね、あそぼ』
って。
とってもとってもかわいくて大切だった妹。
でも、わたしの所為で、わたしの所為で・・・・・・
わたしが馬鹿だったから。
『ありがとう、おねえちゃん♡』
”すう~”
「ま、待って!
美紀、美紀ー!」
・
・
・
「「立ち止まった日々に笑顔で手を振り♬
新しい夢見よう♬
ヨミガエレ~♬
ヨミガエレ~♬ 」」
”シュパッ”
「「はぁ、はぁ、はぁ」」
”タッタッタッ”
「ど、どうだグラサン」
「・・・・・・」
「まだ目覚めねえのか。
よし、みんなもう一回初めの曲から」
”ズカズカズカ”
「ん、あ、愛?」
”ぐぃ”
「はぁ、はぁ、はぁ。
いい加減に目を覚ましなさいよ!」
”ゆさゆさ”
「愛ちゃん落ち着いて」
んん、ん~
へ、あ、愛ちゃんとさくらちゃん。
あ、サキちゃんやみんなも。
えっと、あれ、ここってダンススタジオ?
わたしなんでここに?
”フリフリフリ”
「どれだけわたし達が心配してると思うのよ」
愛ちゃん泣いてる。
・・・え、え~と、確かわたし橋のところで石で頭打って。
なんかよくわからないけど、みんな心配してくれてる。
・・・・・・謝らないと、うん、ちゃんと謝らないと。
だって、わたしはみんなと一緒にいたい。
で、でも、何て言えばいいんだろう。
目覚めたよ~
い、いや、そんな雰囲気じゃない。
なんかみんなすごく重い雰囲気だし。
”ブン!”
へっ?
「なんで、なんで目を覚まさないの!」
「あ、愛、お、落ち着けって」
”ブンブンブン”
あ、愛ちゃんそんなにゆすらないで。
頭が、頭がくらくらって・・・
うぷっ!
や、やば、なんか気分悪くなってきた。
も、もうやめで~
「あ、あの、も、もう、め、目覚まし 」
「このバカー」
”ブン!!”
「ひゃっ」
”スポッ”
「あ、頭!」
「飛んでった~」
「あらあら」
「ひぇ~」
”ひゅ~”
「幸太郎さん、そっちにミカさんの頭が。
キャッチして」
「任せんかい!
とぉー」
”ガシッ”
「ど、どんなもんじゃい」
「ナイス、グラサン!」
も、もうだめ、限界・・・・・・うぷっ。
「ぐうぇー」
「ぐわー、や、やめんかい、や、やめー」
・
・
・
”トントントントン、トントントントン”
げ、巽さん凄く怒っていらっしゃる。
さっきからあっち向いて机をトントンって。
うへぇ~話しかけにくい。
で、でも、
「あ、あの~」
”ギロ!”
ひゃ~、睨まれた。
し、仕方ないよね。
だって、我慢できなくてシャツの上に・・・・・・しちゃったもんね。
「・・・・・・え、えっと」
「このボケー」
「ご、ごめんなさい。
あんなに頭振り回されたから我慢できなくて」
「そんなことを怒ってるんじゃない。
なんで黙って家を出て行った」
「・・・・・・巽さん」
「お前の居場所はここだ、ここしかないんじゃい。
どれだけあいつらが心配してたと思うんじゃい」
「・・・・・・ごめんなさい」
「ここにはお前のことを真剣に心配してくれる仲間がいる。
お前のために必死になってくれる仲間がいる。
・・・お前のために泣いてくれる仲間がいる。
だから」
「・・・だから?」
「もうどこにも行くなミカ」
「う、うん」
「わかったらもういい。
あいつらが待ってる。
さっさと謝ってこい」
「はい。
・・・・・・巽さん」
「なんじゃい」
「ありがと。
じゃ、行ってくる」
「ああ」
”ガチャ”
「「うわー」」
”どたどた”
「サキちゃん、さくらちゃん、愛ちゃん」
「ば、馬鹿、だから押すなって言ったろ」
「だってリリィも心配だったんだもん」
「お怪我無かったでありんすか?」
「う゛う゛う゛」
「リリィちゃん、ゆうぎりさん、純子ちゃん、それにたえちゃんも。
・・・・みんな」
”ペコ”
「みんなごめんなさい。
・・・・・・ただいま」
最後までありがとうございます。
無事ミカも洋館に戻ることができ、また少しだけ記憶も。
一方、八幡がまたしても佐賀に。
次話、第一章最終話、嬉野温泉編です。
二人は出会うことができるのか、それとも・・・・・・
あっ! すみません、その前に番外編の予定です。
嬉野温泉編はその後で。
また見に来ていただければありがたいです。
ではでは。
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うれしいの?
すみません、ほんと更新遅くて。
今話は嬉野温泉編。
この駄作の第一章最終話です。
生きている時から嬉野温泉に行きたかったミカ(べ、別の駄作での話ですが)
さて無事温泉に入ることが・・・
また一路、佐賀へと向かう八幡。
二人は出会うことが・・・
ではよろしくお願いします。
”スタスタスタ”
「ん!」
”ダー”
「まさか」
”ジャラジャラ”
「ち、逃げやがった!
くそ、折角特注のケージ準備したのに。
えーい!」
”ガチャン”
「だが、どうやってどうやってこの首輪を。
とてもあの化け物には外せねえと思ったんだが。
・・・もしかして仲間いるのか?
どっちでもいい!
絶対探し出してやる!」
ーーーーーーーー
”のしのしのし”
まったく!
絶対二度寝してんだ巽さん。
今日は何か大事な用事があるって言うからちゃんと起こしたのに。
これじゃなんにもならないじゃん。
”トントン”
「お~い巽さん。
ご飯冷めちゃうから早く起きて。
それになんか大事な用事あるんでしょ?」
「・・・・・・」
「開けるよ」
”ガチャ”
「ぐぅお~、ぐぅお~」
はぁ~、やっぱりまだ寝てた。
「巽さ・・・・・・」
「ぐぅお~」
・・・よく寝てるや。
これだけ気持ちよさそうに寝てたら、なんか起こすのかわいそうになってきた。
それとさ。
”なでなで”
いつもありがとね巽さん。
ほんとすごくすごく感謝してるんだ。
こんなわたしのこと心配してくれて。
「ぐぁ~」
へへへ、ほんとよく寝てる。
もうちょっと寝かせておいてあげたいけど、
マジそろそろ起こさないとね。
”ゆさゆさ”
「お~い、巽さん。
はやく起きて朝ご飯食べちゃって。
ね、ねぇ、たつみ 」
「う、う~ん」
「あ、やっと起きた。
巽さん、お・は・よ♡」
”にこ♡”
「う、うぎゃー!」
「へ?」
「・・・・・・な、なんじゃいこのボケ!
寝起きになんてもの見せてんじゃい。
がばい怖いじゃろうが!
この馬鹿ゾンビィが」
く、くそ、こ、こいつ!
”べし!”
「ぐはぁ~、い、いた!
な、なにすんじゃい」
「ふん!
いいから、さっさと朝ごはん食べてきて。
それに今日はなんか大事な用事あったんでしょ」
「大事な用事?
お、おお、そうじゃった、そうじゃった。
ところで今何時に・・・・・・
げ、もうこんな時間。
このボケー、もっと早く起こさんかい!」
”バタン!”
ぐぐぐぐぐぐぐぐ。
お、お、おのれー
「ちゃんと起こしただろうが!」
う~、まったくあの男は。
それにしても。
”キョロキョロ”
はぁ~ぁ、部屋散らかってるな~
ほんと足の踏み場もない。
雑誌とかDVDとか観たらちゃんと片付けておけって、もう。
「うんしょ、うんしょっと」
”ぱさっ”
ん、なんだこれ?
なんかのデザイン集?
”パラパラ”
もしかして新しい衣装のデザイン?
でも・・・・・・・・・・・・ださ! めっちゃださ!
・
・
・
「・・・というわけで、活動資金が無くなりました~」
「はぁ! どやんするとや!」
「無くなったら稼ぐしかないじゃろうがい。
そこでだ」
”バタン”
「営業?」
「でも佐賀にアイドル呼ぶ企業なんてあるの?」
「はいあるんですー
さすが俺。
営業先は佐賀の大手製薬会社久中製薬。
上手くいけばタイアップのチャンス!」
「タイアップ」
「まあわからんけど
営業ってやつはいつやると」
「今からだ」
「はぁ!」
「慰安旅行に出演予定の芸人が来られなくなったらしい」
「だからなんでそうやって無茶なことさせるの」
「少な~いチャンスを逃さんためじゃい。
このご時世、アイドルの需要は限られている。
そしてお前らゾンビィは無茶しても死なん!
となればやらん手はない」
「ん~」
「とりあえずいつも通りやって、チョチョチョっと実力みせてやれい。
ちなみに場所は嬉野温泉だ」
「温泉!」
・
・
・
ぬりぬり、ペタペタっと。
これでよし。
「はい、リリィちゃん終わったよ」
「ミカちゃんありがとう」
「どういたしまして」
さてっと後はわたしだけだね。
それじゃヌギヌギっと。
へへ、リリィちゃん、ほんと可愛いかったなぁ~
でもやっぱまだ小学生だね。
胸なんかもぺったんこで。
”ちら”
ふふふふ、勝った。
見よこのそびえ立つ双璧、さすが大人の女!
・・・・・・って小学生相手に何やってんだか。
さ、さっさと身体のメイクやっちゃおうっと。
”ぬりぬり、ペタペタ”
・
・
・
「ふんふんふんふん、ふ~ん♬」
”ぬりぬり”
よしっ完成っと。
へへ、今日はちょっと日焼け気味にやってみました。
だってもうすぐ夏だもんね。
上手くできてたら、今度みんなにもしてあげようっと。
どれどれ鏡、鏡はっと。
”じ~”
「ふむ、ふむふむ」
よし完璧だ。
健康的な小麦色のボディの完成。
我ながらメイクの腕上がったんじゃない?
そんじゃあとは巽さんに。
”スタスタスタ”
「るんるんるん♬」
へへ、温泉か~
ちょ~楽しみだなぁ~
確かネットに嬉野温泉は日本三大美肌の湯って書いてあったから、
きっとお肌とかすべすべに。
それにみんなで一緒に入ったら楽しいだろうなぁ~
あ~早く温泉入りたい。
「へへ、温泉、温泉♬」
さっさと巽さんに顔メイクしてもらわなくちゃ。
えっと巽さんのほうはどうかな?
”ひょい”
あ、巽さんの方も今やってるさくらちゃんで終わりだね。
んじゃ、終わるまでここで待ってよっと。
うんしょっと。
”すとん”
はぁ~、それにしてもさくらちゃんやっぱかわいいなぁ~
リボンとかもよく似合って。
それにあのどやんすボディ!
”ごくっ”
あれ、絶対F、Fカップぐらいあるよね。
う~、うらやましい。
・・・・・・・・・・・・重たいのかなぁ。
・
・
・
”イライラ、イライラ”
・・・・・・遅い。
くそ、巽さんさくらちゃんだけ特別に時間かけてない?
なんかすごく念入りのような。
気、気のせいかなぁ。
「よし、これでよか」
あ、終わった!
よ、よし、じゃ次はわたしっと。
「さてっと。
おい、お前らメイク終わったらすぐ出発だ。
さっさと準備しろ」
「た・つ・みさん」
「なんだ」
「なんだって、ほら、もう一人お忘れ」
「もう一人?
いや全員のメイク終わったが」
「へ?
あ~ん、もう相変わらずイケズなんだから~
はい、次はわたしの番」
「・・・ミカ、お前は留守番だ」
「そうそう、わたしは留守番・・・・・・は?
はぁー、な、なんで!
留守番なんてやだ!
わたしも温泉行きたい!」
「お前は留守番」
な、なんだと。
こいつ真顔でなんてこと言うんだ。
い、いや、き、きっとなんかの聞き間違いだ、うん最近耳遠くなったかも。
「たつ 」
「留守番!」
「ぬおおおおおー!
わ、わ、わたしも連れて行け」
「駄目だ」
「ぜ、絶対にか!」
「絶対にだ」
「ま、ま、マジでか!!」
「マジだ」
「げ、げ、げ、厳密にか!!!」
「絶対、マジで、厳密にだ!」
”ぶるぶるぶるぶる”
「うおー て、てめぇ!」
”ベシベシベシ”
「い、いた。
や、やめんか。
そのチョップ、マジで痛いんじゃい」
「お、おいミカ、落ち着けって。
ほ、ほら、どうどうどう」
「ウー、ガルルルル」
「・・・なぁ、いいじゃねえかグラサン。
ミカも連れて行ってやれよ」
「スポンサーから宿泊を提供されたのは、俺とお前らフランシュシュの8人分だけだ。
だから連れて行くわけにはいかん。
お前は留守番だミカ。
それにどうせお前らは温泉には 」
”べし”
「ぐはぁ~」
「た、巽のばぁーか!
大、大、大嫌い」
”ダー”
「あ、み、ミカさん待って」
「いててて。
さくら、いいから放っておけ」
「そげなわけには」
”ダー”
「なぁ、一人ぐらい増えたって黙っていればわからねえだろう」
「そうはいかないわ」
「愛」
「いい、もしミカを連れて行って、そのことがホテルにバレたら、
わたし達だけじゃないスポンサーさんにも迷惑がかかる。
一人分の宿泊代を騙したことになるのだから。
タイアップを考えているのなら、そんなリスクを負うものじゃない」
「・・・だけどよ。
なぁグラサン、なんでミカはフランシュシュのメンバーに入れてやらないんだ?
初めからメンバーに入れてればなんも問題ねえのによ」
「そうだよ、ミカちゃんダンスもすごく上手だし」
「・・・地味だからじゃい」
「「はぁ?」」
「そんなもん決まっとる。
あんな地味な顔したアイドルなんてどこにもいないんじゃいボケー」
「はぁー!
なんだよそれ」
「巽ひど~い」
「え~い、うっさいんじゃい。
メイク終わったんならさっさと出発の準備せんかい」
・
・
・
「うううう」
「ミカさんもう泣かんと。
あ、そうだ、わたし温泉のお湯汲んで持って帰ってくるけん。
それで行水でも」
「いらない。
温泉の素、巽さんのがいっぱいある。
嬉野温泉のもあったから」
「・・・・・・
じゃ、じゃあ、わたしもう一回、幸太郎さんにお願いしてくるけん」
「もういいよ。
ありがと、さくらちゃん」
「ミカさん」
「・・・・・・あのさ、ほんとは温泉なんてどうでもいいんだ」
「え?
じゃなんで温泉って」
「・・・たださ、みんなと一緒にいたかっただけ。
だっていつも一人だから。
まぁ仕方ないけど、わたしはフランシュシュのメンバーじゃないし。
メンバーになりたくてダンスとかいっぱい練習したけど、
わたしはさくらちゃんや愛ちゃん達と違って可愛くないし、
ゆうぎりさんなんかすごく綺麗だし。
それに比べたらわたしなんか・・・・・・
だからアイドル無理ってわかってる」
「そ、そげなこと」
「いいのいいの、自分のことは自分がよくわかってる。
だからアイドルじゃなくてもいいんだ。
・・・ただみんなと一緒にいれたらそれだけで」
「・・・ミカさん。
あ、そ、そうだ!
お土産、なんかお土産買ってくるね。
お饅頭とかお菓子とか」
「ありがと。
でもいいよ。
お饅頭とかもらっても、わたし味覚ないから」
「じゃ、じゃあキーホルダーとかなにか」
やさしいなぁさくらちゃん。
でもさくらちゃん達、ただ働きでお給料なんてもらってないから
キーホルダーとか買えないはずじゃ。
「え~と、それとも他の何か・・・
あ、陶芸品とか」
どうしょう、さくらちゃん真剣に悩んでる。
とてもお金ないでしょなんて言える雰囲気じゃないし。
ん~と、ん~と、何か・・・・・・
あっ、そ、そうだ!
「じゃ、じゃあ、お土産入らないから、それより」
「それより?」
「お願い!
一回でいいから、そのどやんすおっぱいさわらせて!」
「へ、どやんすおっぱい?」
「お、お願い!」
「い、いやー
ミ、ミカさんやめて」
”ドタバタ、ドタバタ"
「ぐへへへへ」
「ミ、ミカさん、顔こわい。
あっ!」
”どた”
「ちゃ~んす」
”ずっしり”
「げ、お、重い」
・
・
・
「愛、ミカは唐津神社のこと何も憶えていないんだな」
「ええ。
千代田橋で転んで頭を打ったところまでは覚えていたみたいだけど、
その後のことは何も覚えていないみたい。
確かに土手のところに割れた眼鏡が落ちてたから、
そこで頭を打ったのは間違いないと思う」
「そうか。
いいか唐津神社でのことは 」
「わかってる。
・・・ね、ミカをメンバーに入れないのは、そのことがあったから?」
「ああ。
・・・・・・だがそれだけじゃない」
「他に理由があるの?」
「・・・・・・愛、あいつはお前らと違って死んでから
まだ一年ちょっとしかたってない。
もしかたら死んだことを知られていないかもしれない。
そんなあいつがアイドルになってネットとかで映像が広がったら、
必ずあいつを知っている人が現れる。
その時、一番辛い思いをするのはのはあいつだ。
俺はあいつにそんな辛い思いをさせたくないんじゃい。
それぐらいなら、俺が嫌われている方がいいに決まってる。
だからあいつをメンバーにするわけにはいかんのじゃい」
「・・・・・・そう。
意外とやさしいのね」
「意外は余計じゃい」
”タッタッタッ”
「ごめんなさい、遅くなりました」
「さくら!
なにしてたんじゃい、遅いんじゃいこのボケ。
さっさと車に乗らんかい」
「あ、はい」
「お前もだ、愛」
「ええ」
”スタスタスタ”
「・・・やさしいっか。
そんなわけないわい。
俺は、俺の都合であいつをあのまま死なせておいてやらなかったんじゃい。
だから、それぐらいは当たり前のことなんじゃい」
・
・
・
「ふぁ~、着いた。
電車、乗り過ごした時はどうなるかと思ったが、何とか佐賀に着いた」
“コキコキ”
「う~ん、さすがに千葉から佐賀までの電車移動はきつい。
身体中が悲鳴をあげてる。
それに 」
”ぐぅ~”
「腹減った。
仕事の前に腹ごしらえないとな。
なんといっても出張の醍醐味は、出張先の美味しいものを食べることにある。
そのため俺は駅弁も食べずに我慢したんだ。
しかも今日は一人。
美味いものは一人でじっくりと味わうのが一番。
味覚はもちろん、視覚、嗅覚、聴覚、触覚。
五感の全てを研ぎ澄まし美味しさを感じるのだ。
それを邪魔する会話など、美味しいものに対し礼を失する以外何物でもない。
わいわい賑やかに楽しく・・・もとい!
わいわい喧しく騒ぎながらしか食べることができないリア充共には、
本当の美味しさを感じることはできない。
すなわち、ボッチこそが真のグルメ家なのだ」
”ビシッ”
「・・・・・・」
”ガシガシ”
「・・・・・・メシ食べよう」
”スタスタスタ”
「佐賀の名物といえば、いかしゅうまいにシシリアンライス、わらすぼ。
そしてなんといっても佐賀牛。
黒毛和牛の最高ブランドだからな。
きっとすごく美味いに決まている。
だが!
すでに俺の気持ちは固まっている。
折角佐賀に来たんだ、なら行くところは決まっている。
昨日、しっかり店の場所とか確認したからな。
ふふふふ、さて早速 」
「ずいぶん楽しそうね」
「え?
は、はぁー、な、なんで」
・
・
・
「はぁー」
”きゅっ、きゅっ”
よしっ、窓拭き終了。
へへ、すごく綺麗になった。
ほら、まるで鏡見たいにピッカピカで・・・・・・
へっ!
「うぎゃ~、ば、ばけもの!」
”きょろきょっろ”
「・・・・・・」
なんにもいない。
そ、そっか、これわたしの顔っか。
いい加減この顔になれないと。
それにしても。
”ジー”
今日は眼鏡してないから、より一層ゾンビィ感が増してるや。
これなら寝起きの巽さんが驚いても仕方ないっか。
「・・・・・・はぁ~」
さてと、さっさと掃除終わらせちまおうっと。
”スタスタスタ”
あとはこのミーティングルームだけ。
それじゃ。
「失礼しやーす」
”ガチャ”
って、もうみんな嬉野温泉に行ったから誰もいないんだけど。
それにしてもこの部屋、相変わらず不気味。
部屋全体が薄暗いし、特にこれ。
”こんこん”
なんで牢屋かオリかわからんけど、こんなのあるんだろう?
もともと何の部屋だったん?
う~ん、よくわからん。
ま、いっか、お掃除お掃除っと。
まずは椅子を片付けて。
”ガタガタ”
・・・そっか、みんなこの椅子に座ってミーティングしてるんだよね。
きっと巽さんがあの黒板のところに立って。
へへ、なんか学校みたいで楽しそう。
わたしも参加したいなぁ。
アイドルは無理だとしても、せめてミーティングぐらい一緒に。
そ、そうだ!
わたしの分の椅子もここにおいてといて、なんかしな~と座ってよう。
わたしあんまり存在感ないから喋らなければ絶対気付かれない。
それにこの部屋の薄暗さなら。
んで、いつの間にかいるのが当たり前のようになって。
よ、よし早速椅子!
えっと~、他に椅子ないかなぁ。
”キョロキョロ”
この部屋には無いか。
仕方ない、食堂の椅子ひとつ持ってこよう。
ん!
あ、段ボールめっけ。
この段ボール使って椅子作っちゃおう。
この前、椅子の作り方ネットに載ってたんだ。
”スタスタ”
へへ、このくらいの大きさなら大丈夫だね。
よし、早速カッターと定規持ってきて作っちゃおう。
あ、でもこれ中に何入ってんだろう。
今までこの部屋にこんな段ボールなかったはずだし。
なんだ?
・
・
・
「ステージは18時開始だ」
「わかりました」
「俺が観光している間、きっちり練習して置け。
レッスン用に娯楽室借りておいたからな」
「はい。
・・・・・・え、幸太郎さんが何の間って」
「観光じゃい。
わしゃ観光じゃ~い」
”キュルルル、ブロロロ~ン”
「「・・・・・・」」
「さぁ~て、あたしらどやんする?」
「どやんするって?」
「はぁ?
お前マジですぐやる気じゃないよな」
「練習せんと」
「するさ後で!
なんでグラサンだけ好き勝手やりよってかって話だろ」
「いかんて」
「はぁ! お前ぶっ殺すぞ」
「え、ええ~」
「うちらほとんど屋敷の中でレッスンしよるとぞ。
そんで、今こうやって嬉野来とんだぞ」
「リリィも散歩したい」
「はい、ちんちく来たー」
「ちんちくじゃないもん、リリィだもん」
「う~ん」
「わずかでしたら、ええやありませんか?
わっちにもこの時代の町、見せてくださんし」
「メイクしてるし、みんな一緒だし。
リリィ達もゾンビィバレしないように気をつけるから」
「んだな、ちんちく」
「リリィだもん」
「う~ん。
・・・みんながいいのなら」
・
・
・
”パクパク、もぐもぐ”
「・・・サイゼ。
まさか佐賀に来てまでサイゼ」
「いや、折角佐賀に来たんだ。
ここはサイゼ一択だろう」
「はぁ~、言っている意味が分からないのだけど。
マニュアル通りに作っているのだから、どこで食べても同じじゃない」
「違うぞ雪ノ下。
まぁリア充のお前にはわからないだろうが、
サイゼのようにマニュアルを徹底しているところでも、調理前の準備や
加熱のタイミング、温度・時間の管理等で店毎に微妙に味の違いがあるんだ。
ましてや県が異なれば。
論より証拠、みろこのミラノ風ドリアの味」
”ぱく”
「うん、やはり何かが違う。
きっと加熱時間が・・・・・・
いや、それだけじゃないもっと何かが。
そ、そっか、何か隠し味を入れてるのに違いない
はっ、も、もしかしてこの味は、佐賀の名産、ピリ辛薬味醤油”雷様の隠し味”
を使ってるんじゃないのか」
「・・・頭が痛くなってきたのだけれど」
”パクパク”
「で、なんでお前佐賀に来たんだ?」
「飛行機で来たのよ」
「・・・・・・お前それぼけてるのか?
確か今週会議だから来れないって言ってたろ」
「はっ!
・・・ご、ごほん。
か、会議は明後日だから、今日の夕方の飛行機で帰る予定よ。
どうしても会議の前に確認したかったことがあったの」
「確認?」
(回想:あの日の雪ノ下のマンションで)
『聞こえたような気がしたの、彼女の声が』
『彼女?』
『ええ』
『ね、ねぇ、ゆきのん彼女って?』
『三ヶ木さんよ』
『美佳っち!』
『ええ。
はっきりとはわからない。
でもあの時、洋館の方から三ヶ木さんの声が聞こえたような気がしたの』
『そっか』
『あなたも憶えてるでしょう、三ヶ木さんが突然いなくなった時の比企谷君の姿 』
『う、うん』
『三ヶ木さんがなぜ突然いなくなったのかはわからない。
でも、もし比企谷君が洋館に行って、もしそこで三ヶ木さんと出会って。
もし、また同じように彼女がいなくなったら。
・・・きっと彼はあの頃、あのゾンビィのような状態に戻ってしまうと思う。
だから、わたしは比企谷君を洋館には・・・・・・行かせたくなかった』
『ゆきのん』
『・・・・・・』
『・・・ね、ゆきのん。
あたしは違うと思うの。
美佳っちのことだから、いなくなったのはきっと何か理由があるんだと思う。
それで美佳っちがまたヒッキーの前からいなくなったとしても、
でもあたしは、それでもあたしはヒッキーは美佳っちに会うべきだと思う』
『由比ヶ浜さん』
『美佳っちの理由、それが何か、ちゃんとはっきりしないといけないんだと思うんだ。
だってこのままじゃ、今のままじゃヒッキーはずっと引きずったまま。
そんなんじゃ、ヒッキーもゆきのんも・・・・・・あたしも始められない。
このままじゃ誰も先に進めない』
『・・・・・・』
『ゆきのん』
『わ、わたしは 』
”だき”
『行っておいで・・・佐賀に
うううん、行くべきだよゆきのん』
『・・・・・・ありがとう由比ヶ浜さん』
(回想終わり:サイゼリアの二人)
「お、おい雪ノ下?」
「洋館で確認したいことが残ってたの」
「だったら連絡してくれれば、俺が明日の予定終わってからでも 」
「それではだめ。
わたしがちゃんと確認しないといけない」
「そっか。
だったらそっちの方は頼むわ。
俺は吉野ヶ原の方に」
「いいえ。
あなたも一緒に行くのよ」
「いや、それは非効率的だろ。
折角二人いるんだ、ここは手分けしてだな」
「これは上司命令よ。
いいから一緒に来なさい」
「・・・・・・」
・
・
・
「あ、みんな、ほら足湯あったよ」
「おお、早速入ろうぜ」
「うわ~い、リリィが一番!」
”ちゃぽ~ん”
「あ、てめぇ、ちんちく!」
”ちゃぽ~ん”
「気持ちよか~、生き返る」
「もう生き返ってますけどね」
「「・・・・・・」」
「あ、ゆうぎりさん、わたし達も足湯に」
「さくらはん、こっちのこれはなんどすか?」
”こんこん”
「あ、これは足蒸し湯といって。
えっと 」
”カタン”
「ほらここの箱の中に足を入れると
ここの下の方から温泉の蒸気がでてきて」
「へぇ~、よくできてますな」
・
・
・
「結構雰囲気あるじゃねえかこの洋館」
「ええ」
「で、何を確認忘れたって言うんだ?」
「それは・・・・・・」
”スタスタスタ”
「お、おい、アポとってるのか」
「いいえ」
「だったら、いきなりはまずいんじゃ 」
”ピンポ~ン”
「すいません、どなたかいらっしゃいませんか?」
・
・
・
「ねぇ、愛ちゃん」
「・・・」
「わたし達、これからちゃんとアイドルとしてやっていけるかな?」
「さくらが思うちゃんとしたアイドルって?」
「えっと、歌って踊ってみんなに喜んでもらって、
元気になってもらって」
「そうなるには練習も意識もまだまだ足りない」
「・・・もっともっと練習すればなれるかな?」
”バシャ”
「・・・・・・」
”スタスタスタ”
”カタン"
「・・・・・・」
”スタスタスタ”
”カタン”
「わたし一生懸命頑張るけん。
ゲリラライブの後に言ったこと嘘じゃないけん」
”カタン”
「あたしもやるからには、半端なことはしたくねぇ」
「芸事にこの身を捧げる覚悟は当の昔に」
「リリィも業界の厳しさ知ってるよ」
「・・・」
「わたしは」
”カタン”
「ずっと一人でやってきました。
正直、今のグループでの活動に戸惑いを感じる部分はあります。
ですが、みなさんが本気で取り組むということであれば、
わたしも努力しないといけませんよね」
「純子ちゃん」
「但し、わたしは無理だと思ったらすぐに抜けるからね」
「絶対そうならんようにする」
「しゃっ! 今日もアッと驚くようなライブにしてやろうぜ」
「なになに、それどんなの?」
「わからんけど」
「どのように今宵のお相手をお慰めしたらいいのでありんしょ」
「ゆうぎりさん、言い方」
「ま、まずはその会社の商品を知らないとだめなんじゃないですか」
「そ、そうか、わたしたちまだサガンシップZを使っておらんで」
「よし、すぐもどってやってみんぞ」
「うん」
「あ、で、でもサガンシップZってどがんしたっけ」
「さくら、お前知らんのか?」
「あ、う、うん。
えっと~、誰か車に積んだと?」
「「・・・・・・」」
「マジか」
・
・
・
「はぁ、はぁ、はぁ」
”ギ~コ、ギ~コ”
や、やった、登り切った。
こっからはしばらく下り坂。
へへ、自転車の醍醐味って、やっぱ下り坂だよね。
さっきの坂もそうだったけど、下り坂を下りる時の風を切る感覚って最高。
ん~っと。
”キョロキョロ”
よし前方人影無し、視界クリアー!
それじゃ。
「ミカ、ママチャリ号、行きま~す!
どりゃ~」
”シャ~”
うひゃ~、風気持ちいい~。
いぇ~い。
あの上り坂を頑張った甲斐があった。
はぁ~爽快だなぁ~
”シャー”
あ、でもちょっとスピード出過ぎ。
少し減速減速。
ブレーキっと。
”ギュ”
・・・・・・あ、あれ?
”ビュー”
え、えっと~
ブレーキ!
”ギュ、ギュ”
・・・・・・う、うそ。
うぎゃー!
ブ、ブレーキが利かない。
うげ、ど、どうしょう。
あ、そ、そうだ足、足の裏の摩擦で。
はっ、だ、段差ー!
”ドン”
う、うげっ。
”ヨロヨロ、ガシャン!”
ふぇ~、し、し、死ぬかと思った。
”がばっ”
はぁ~、くそ、あんなとこに段差あるなんて気がつかなかったよ。
あ、そ、そうだサングラス!
今日、巽さんのサングラス借りてきたんだ。
壊れて無かったらいいんだけど。
”キョロキョロ”
あ、あった。
うんしょっと。
”ひょい”
う~ん、大丈夫だよね、壊れていない。
よかった~
結局、今日顔のメイクしてもらえなかったからなぁ。
一応、マスクして帽子も被ってきたけど、サングラスもしてないとバレるよね。
いくら佐賀の人口は少なめっていっても、そこそこ人とすれ違うし。
それにしてもここどこだ?
たしかさっき標識が。
えっと~、あ、あった。
んと武雄市、そっかここ武雄市か。
それにあそこに見えるのきっと佐世保線だから、うん嬉野温泉まであと少し。
よしそれじゃもうひと踏ん張りっと。
”ぐき”
げ、あ、足首が変な方向に。
やばいやばい直さないと。
”ぐぃ”
ふぅ~何とか向き戻った。
ゾンビィでなかったらやばかった、捻挫どころじゃなかったし。
ん、そういえばなんか膝もギシギシいってるし、腰もなんか変。
これはすこし休まないとかなぁ。
でも、確かステージは18時からって黒板に書いてあったから、
あんまし時間ない。
きっとこれ必要だと思うし。
それに・・・・・・へへへ、これ持っていけばきっとわたしも温泉に入れる。
ホテルまで行っちゃえば、巽さんもさすがに帰れとは言わないよね。
ふふふ、温泉温泉、みんなと一緒に♬
よし、それじゃ急ごうっと。
”ぐき”
ぐは~、膝が・・・・・・
ど、どうしょう、動けん。
やばいやばい、やっぱ自転車で嬉野温泉までって無理だったかなぁ。
身体中が悲鳴上げてる。
ど、どうしょう。
はぁ~、仕方ない、しばらくここで休んで様子を・・・・・・
あっ、そうだ!
”パカ”
これこれ、サガンシップZ。
ほら、これ筋肉疲労とかねんざ、関節痛によく効くって書いてある。
・・・でも、ゾンビィにも効くかなぁ。
ま、いっか、どうせこのままじゃ動けないし物は試しだ。
”びりびり”
それじゃこれをまずは腰に貼ってっと。
”ピタ”
は、は、はひ~
な、なにこれ、なんか腰がすごく楽になって。
はぁ~、気持ちいい、これゾンビィにも効くんだ~
よ、よし、じゃあ次は膝にっと。
・
・
・
”ピンポ~ン、ピンポ~ン”
「なぁ、やっぱり誰もいないんじゃねえのか」
「・・・そうね、お留守なのかしら」
「俺、ちょっと裏の方見てくるわ」
「え、ええ」
”スタスタ”
「あ、もし犬が出てきたらすぐに呼べ」
「え、ええ。
ありがとう、やさしいのね」
「そのためだろ、俺を連れてきたのは。
じゃあな」
”スタスタスタ”
「・・・・・・ばか」
”ピンポ~ン”
「やっぱり誰もいないのかしら」
”スタスタスタ”
「何か用か」
「え、あ、あの、すみません。
もしかしてこの洋館の方ですか?」
「いや、この家の知り合いのものだ。
それよりお前は?」
「あ、申し遅れました。
わたしは雪ノ下建設の雪ノ下といいます。
これはわたしの名刺です」
「ん、雪ノ下建設?
なんだ千葉の会社じゃねえか。
千葉の建設会社がなんのようだ?」
「あ、あの、今、佐賀のリゾート開発事業に取り組んでまして。
それでこの洋館の方にお話が」
「そうか。
で、誰もいないのか?」
「そうみたいですね」
「なんだ、いないのか。
なら帰るか」
「あ、あの」
「ん?」
「すみません、この写真の女性がこちらにお住まいではありませんか?」
「・・・・・・この人は?」
「あ、あの私の友人です。
ずっと連絡がつかなくて心配してたら、この辺で彼女を見たという情報が
あったもので。
もしご存じでしたら 」
「いや、この家にこんな女は住んでねぇな」
「そ、そうですか」
「ああ、間違いない。
まぁ、この家には同じような年頃の娘が何人か住んでるからな。
きっとその中の誰かと見間違ったんだろう」
「そうですか」
「すまないな、力になれなくて」
「いえ、ありがとうございます」
”ペコ”
「じゃあな」
”スタスタスタ”
「・・・・・・・・・・・・よかった」
「お~い雪ノ下。
裏の方にも誰もいないぞ」
「そう。
それじゃ帰りましょう」
「え、も、もういいのか」
「ええ、十分よ」
・
・
・
「さくら、どうだ車あったか?」
「うううん、こっちの方にはなかった」
「そっか」
「さくら」
「あ、愛ちゃん、純子ちゃん。
どう、幸太郎さんの車あったと?」
「いいえ、向こうの駐車場にも無かったわ」
「ち、やっぱりあいつ観光楽しんどるんやなかとか」
「仕方ないですね。
こうなったら戻ってくるまで練習していましょう」
「そうだな」
”ブロロロン、キキキー”
「お前らレッスンもしないでなにやってんじゃい」
「あー、巽!」
「グラサンやっと帰ってきたのか」
「幸太郎さん、車のドア開けて」
「ん、どうかしたのか」
「いいからさっさとドア開けろグラサン」
「なんじゃい」
・
・
・
「じゃ、俺はこのままこの電車で吉野ヶ里の方に行くから」
「ご苦労様。
あまり無理しないでね」
「え?」
「なにか?」
「い、いや、なんかお前さっきからすげぇー機嫌よくない?
ずっと鼻歌歌ってたし」
「べ、別に。
普通だけれども」
「そうか?
じゃあ、お前も気を付けてな」
「ええ。
それじゃまた会社で」
「ああ」
・
・
・
”ガサガサ”
「どうださくら、そっちあったと?」
「うううん。
純子ちゃん、助手席のほうはどう?」
「こちらにもありません。
観光ガイドならありましたけど」
「はぁー!
やっぱお前観光しちょったと」
「あたりまえじゃい。
で、お前らなに探してんじゃい?」
「サガンシップZの箱だ。
グラサンお前知らんとか?」
「そんなもん知らんわい。
そんなことよりさっさとレッスンを 」
”ブ~、ブ~”
「なんじゃい」
”カシャカシャ”
「どうしたミカ」
「あ、巽さん、ね、今どこ?」
「どこって、ホテルの駐車場だが」
「何て言うホテルだったけ?」
「華翠苑だが」
「んと華翠苑、華翠苑・・・
あ、あった!」
「はぁ?
お、おいミカ、お前今何て」
「いたー!
お~い、巽さ~ん」
”シャー”
「は、はぁ?
ミ、ミカ、なんでお前が」
”キキ―”
やっぱりブレーキの利き悪い。
やば! 自転車、と、止まらない。
このままだと巽さんに。
「た、巽さん、そこどいて~」
「へ?」
「ど、どいてー」
「お、おう」
”ひょい”
あ、でも!
巽さんよけたら、後ろの車に当たっちゃうじゃん。
え、えーい!
”ぐぃ”
「へ?」
”どごっ!”
「ぐはぁ~
な、なんで避けた方に」
”どたっ”
「た、た、巽さん大丈夫?」
「ミカさん」
「なんだミカ、お前何しに」
あ、そ、そうだ。
これ渡さなきゃ。
「サキちゃん、はいこれ忘れ物。
これ必要じゃなかった?」
「あ、サガンシップZ」
「掃除してたら見つけて。
きっといるものだと思ったから」
「マジか。
お前、これ持ってくるため、ここまで自転車で来たのか。
すごか根性あるよな」
「えへへへ、でももう足ガタガタ。
じゃ、わたしは早速温泉に 」
「まて~い。
いたたた」
「巽さん大丈夫?」
「ミカ、お前メイクも無しでここまで来たのか」
「え、う、うん。
あ、でもほらマスクしてるし、帽子も被ってきたし。
それに巽さんのサングラスも。
身体の方は一応メイクしてるし・・・・・・」
「このボケー
お前は危機意識が足りないんじゃい!」
「だ、だって」
「だってじゃないんじゃい。
ええ~い、ミカお前はこの車に乗ってろ。
いいか、絶対この車から出るんじゃないぞ!
わかったか、この馬鹿ゾンビィ!」
「え゛ー」
・
・
・
「・・・・・・暇」
今頃、みんなのステージ始まってるかなぁ。
見たかったなぁ。
それに温泉、入りたかったなぁ~
頑張ってサガンシップZ持ってきたのに、あれからずっと車の中。
そりゃメイク無しできたのは悪かったけどさ。
誰にも見つからなかったからいいじゃんか。
「はぁ~ぁ」
それにしても、あれからずっと車の中。
めっちゃ暇なんですけど~
んと、何か暇潰せるものないかなぁ。
巽さん、どっかにエッチな本隠してない?
”ガサガサ”
「・・・・・・ん、これなんだ?
嬉野温泉観光ガイド?」
”ペラペラ”
あ、足湯、この近くに足湯あるんだ。
行ってこようかなぁ。
ほ、ほらこの近くだし。
それにもう暗くなってきたから。
”キョロキョロ”
いいよね。
歩いてる人もいなそうだし。
万一、人と出会ってもマスクと帽子、それにこのサングラスがあるから
ゾンビィなんてバレない・・・はず。
よ、よし。
”ガチャ”
へへへ、足湯足湯足湯♬
”ダー”
・
”トボトボトボ”
えっと~、確かここら辺のはずだけど。
あ、あった。
ここだ、ほらあそこに足湯ある。
”キョロキョロ”
よし、誰もいないよね。
では早速。
「温泉温泉♬」
”ちゃぽ~ん”
ふぇ~、やっぱ気持ちいい~
サガンシップZもよかったけど、やっぱ温泉サイコーだよね。
入ってるの足だけだけど、それでもなんだか足元から体中がほっこりする感じで。
今日の疲れが全部とれるよう。
ほら膝もすごく楽になって。
”バシャバシャ”
へへ、へへへへ、やっぱ抜け出してきてよかった。
・
・
・
”バシャバシャ”
「ふんふんふ~ん♬
はぁ~生き返った」
はっ!
”キョロキョロ”
純子ちゃんいないよね。
へへ、いつもならここで純子ちゃんが決め顔で言うんだ。
「わたし達、もう生き返ってますけどね」
な~んつって、なんつって。
「・・・・・・」
みんなも今頃温泉入ってるのかなあ。
もうステージ終わってる時間だもんね。
温泉、みんなと一緒に入りたかったなぁ~
・・・・・・はぁ~
あ、そういえば、巽さんあとで食事持ってきてくれるって言ってたっけ。
抜け出したのバレたらやばいし、そろそろ帰ろ。
”ガタ”
へ、あ、やば、誰か来た。
か、顔見られないようにしないと。
とにかく、もちっと奥の方に。
”そー”
ここなら隅っこだし薄暗いから、気付かれないはず。
「はぁぁぁー」
”ちゃぽん”
な、なに?
今、なんかすごい溜息が聞こえたんだけど。
”ちら”
あの人、仕事帰りかなぁ、背広姿だし。
ずっとうつむいたままで、こっちに気付いていないみたい。
だったら今のうちに退散退散。
うんしょと。
「はぁぁぁぁー」
・・・・・・大分疲れてるんだあの人。
こっからはうす暗くてよく見えないけど、
なんか全身から黒いオーラーみたいなのが見えるような気がする。
お仕事うまくいってないのかなぁ。
ま、まぁ、わたしには関係のないことだから。
「はぁぁぁぁぁー」
・・・も、もう!
「あ、あの~、大丈夫ですか?」
「ひゃっ」
え、な、なに?
なんかすごく驚かれたんだけど。
は、もしかしてゾンビィってバレた?
でも、顔見られてないはず。
薄暗いし、こんだけ離れてるし。
それにマスクもサングラスもちゃんとしてるし、帽子だって。
う、うん、大丈夫なはず・・・
「あ、す、すみません。
他に人がいるなんて思っていなかったもので」
「あ、は、はい」
よかった、気付かれてなかった。
で、でもどうしょう、なんかわからんけどつい声かけちゃったから、
ちょっとこのままじゃ帰りづらい。
・・・少しだけなら。
「お仕事、大変そうですね?
お忙しいんですか?」
「え、あ、まぁ。
・・・仕事ってものはやめることはできても、終わることはできないものですから」
え、あ、あれ?
今のって
『はぁ~、仕事ってのはやめることはあっても、終わることはねえんだよな』
う、うん、どこかで聞いた気が。
「それに忙しいって漢字は心を亡くすって書くんですよね。
本当、こんなに忙しいと心がなくなりますよ。
今日だって本当は夕方には嬉野温泉に着いてるはずだったのに、
横暴な上司に振り回されて結局こんな時間に・・・
あっ、す、すみません。
何言ってんだ俺、いきなり初対面の人に」
”ガシガシ”
「あ、うううん。
わかるような気がします。
横暴な上司っていますもんね。
わたしだってほんとはゆっくり温泉に入りたかったのに、
横暴な上司の所為で足湯で我慢してるんですよ」
「そ、そうですか」
・
・
・
「雪ノ下建設・・・ですか」
「ああ、そうだ。
お前のところの家政婦ゾンビィの友人って言ってたぞ」
「・・・・・・」
「これで二人目だ。
気をつけろよ」
「わかりました」
「じゃあな」
”プー、プー”
「雪ノ下建設・・・あの時の女か」
”スタスタスタ”
「・・・さてと大人しくしているか、あのボケは?
お~い、飯じゃい。
飯持ってきてやったぞ。
いいか、なんと佐賀牛、佐賀牛じゃ~い。
がばい感謝せんか~い。
まぁ味のわからないお前には、正にゾンビィに真珠だがな」
”シ~ン”
「え、あ、あれ?
なんじゃい、まだ怒ってるのか?
いいか、温泉といってもお前もさくら達もメイクしてるから
温泉には入れないんじゃい」
”ガチャ”
「だからいい加減に機嫌を・・・・・・
い、いない。
ま、まさか」
”ダー”
・
・
・
「本当に魔王と氷の女王なんですよ俺の上司は」
「あははは。
で、でもさ、結構あなたのこと買っているからじゃない?
それに、ほんとはあなたもお二人のこと信頼してるって気がする」
「ま、まぁ、あの二人、人格以外は完璧ですから。
でも俺はどっちかというと、買われているというよりも飼われているって感じで」
「え?
あっ、あはははは」
「はははは」
「そうだ。
ね、お仕事で佐賀の観光名所回ってるって言ってたでしょ」
「え、あ、はい」
「それじゃ、宝当神社にはもういったの?」
「宝当神社?」
「あ、うん。
なんでも宝くじを買った地元の人が祈願してもらったら
すごい高額当選したんだって。
それから宝くじの祈願に来る人が絶えないんだって。
なんかすごいご利益があるって評判になっているんだよ」
「へ~
それはどこにあるんですか?」
「あ、あのね高島って島にあって、
そんで唐津城の近くに宝当桟橋って定期船の乗り場があるの」
「ありがとうございます。
早速、明日の予定が終わったら行ってみます」
「あ、よかったらわたしが案・・・」
「え?」
「あ、うううん、なんでもない」
な、何言ってんだわたし。
案内なんてできるわけないじゃん。
そんなの巽さん絶対許してくれないし。
でもなんだろう。
なんかこの人と話しているとすごく楽しくて、うれしい。
・・・・・・へ、うれしい?
うれしいの?
「そうですか。
あ、じゃ俺そろそろホテルに。
このままだと、飯にありつけなくなりそうなので」
「あ、う、うん」
「・・・・・あ、あの、よかったらホテルまで送りましょうか?
女性一人だと危ないといけないので」
「あ、大丈夫。
わたしの泊ってるホテルすぐそこだから。
それにもうちょっとここにいたいなぁって」
「そうですか。
それじゃ、暗いですからお気をつけて」
「あ、あの~」
「はい?」
「え、あ、あの・・・・・・な、なんでもないです」
「そうですか?
それでは」
”ぺこ”
「あ、そうだ。
よかったらこれどうぞ」
”ごそごそ”
「え?」
「あった。
えっと外観はなんか黄色と黒色で禍々しいけど、
これ、千葉の誇るソウルドリンクですので。
俺も大好物です。
ここ置いておきます」
”カタ”
「あ、ありがと」
「ま、また会えるといいですね」
「・・・はい」
「じゃあ」
”スタスタスタ”
行っちゃった。
”ぎゅっ”
はぁ、はぁ、はぁ。
あ、あれ、なんだろう、なんかすごく胸が苦しい。
な、なんで急にこんな・・・
と、とりあえず深呼吸して。
”スー、ハー、スー、ハー”
だ、だめだ、どんどんひどくなる。
どうしたんだろう、なんなんだこれ。
なんでこんなに苦しいんだ?
はぁ~
ん、あ、あれ、あの人がおいてった・・・
”ヨロ、スタ、スタスタ”
えっと、なんか千葉のソウルドリンクっていってたけど。
うわぁ~、なんかほんと禍々しい。
・・・でも、これを見てると、心なしか少し楽になってきた気が。
”ひょい”
マックスコーヒー?
このコーヒーが千葉のソウルドリンクなんだ。
美味しいのかなぁ。
さっきの人も大好物だって。
まぁ、でもわたしは・・・
ま、いっか。
ちょっと飲んでみっか。
”カチャ”
「頂きます」
”ゴクゴクゴク”
「えっ!
あ、あ、甘い、めっちゃ甘い」
な、なんで?
わ、わたし味覚なかったはず。
い、いままで何食べても、何飲んでも、全然味を感じなかったのに。
”ゴク”
甘い。
すごく甘い。
な、なんでだろう。
それに・・・・・・な、なんか懐かしい味。
”ポツ、ポツポツ”
あ、あれ、わたし泣いてる。
なんで泣いてんだ?
わからない!
なんかなんか、なんもわからない。
だけど!
「ううううううう」
「ミカ!」
「あっ、た、巽さん」
”ズカズカズカ”
「な、な、何してんじゃい!
車から出るなって言ったろうが、この大ボケー!」
「うううう、うわ~ん」
「へ?
あ、い、いや、な、泣かんでも。
わ、わかればいいんじゃい、わかれば。
まぁ無事でよか 」
「うわ~ん」
”タッタッタッ”
「お、おい、どうした?」
”ドン”
「ううううう、うわ~ん、うわ~ん」
「ど、どうしたんじゃい?」
「わからない、わからない、わからない!
わ、わからないけど、なんかわからないけど、うわ~ん」
「・・・・・・」
ーーーーーーーー
”ザザ~ン、ザ~、ザザ~ン、ザ~”
昨日のあれ、何だったんだろう。
なんか急に胸が苦しくなって。
そんでこのコーヒー飲んだらなんかすごく悲しくなって。
・・・マックスコーヒーっか。
なんだろうねこのコーヒー。
・・・・・・・・・・・・それとあの人。
「・・・・・・」
ん、あ、あれ高島からの定期船。
あの人、あの船に乗ってるのかなぁ。
昨日、予定が終わったら行ってみるって言ってたし。
『また会えるといいですね』
・・・・・・もう一度、会いたい。
・
・
・
”ザブン、ザブン”
「宝当神社っか。
マジご利益あるんだな、なんかすごい人だった。
これは今度のプロジェクトのいい目玉になるかもしれないな。
あの人にお礼言わないとな。
・・・・・・あっ、連絡先」
”ガシガシ”
「・・・・・・はぁ~」
”ザブン、ザブン”
「ん、海から見る唐津城もなかなかだな。
写真写真っと」
”カシャ”
「あ、あんなとこに綺麗な砂浜もあるじゃねえか。
洋館からもそんなに遠くねえし。
一応、写真撮っておくか」
”カシャ”
ーーーーーーーー
”カチャ、カチャ”
「これでよしっと。
ふぅ~、なんとか東地グループとの打ち合わせには間に合いそうだな」
「比企谷君、ご苦労様。
紅茶淹れたのだけどどうかしら」
「え、あ、すまん頂く」
”ゴク”
「はい、これもどう?
佐賀のお土産に白玉饅頭買ってみたのだけど」
「・・・なにが望みだ雪ノ下。
はっ、もしかしたらまた何か仕事を」
「べ、別に何もないわ。
お、お土産が余ったからよ。
いらないのなら無理にとは 」
「いや、ならいただく」
”パく”
「うまい」
「・・・そ、そう、よかった。
で、どう?
資料、間に合いそう?」
「あ、ああ。
あと何枚か写真を取り込んで終わりだ」
「そう、さすがね。
あら、この写真って?」
「ああ、これは宝当神社だ」
「宝当神社?
予定していた観光のリストにはなかったと思うけど」
「ああ。
ちょっと嬉野温泉で教えてもらってな。
何でもすごいご利益がある神社らしい。
取材に行った時も参拝の人で凄かったからな」
「そう」
「あ、あとこれ」
”カシャ”
「これは定期船からみた唐津城。
海の方から見るとまた一段とかっこいいよな。
それと」
”カシャ”
「これはあの洋館の近くの・・・・・・砂・・・浜」
「洋館ってあの洋館の近くの?」
「・・・・・・」
「比企谷君?
どうかしたのかしら?」
「・・・・・・美佳」
最後までありがとうございました。
今話にてとうとうミカ・・・美佳を見つけた八幡。
さて、次話からは第二章。
ミカの記憶は、八幡とは。
あ、あれ、これはゾンビランドサガの・・・・・・
す、すみません、また見に来ていただいたらありがたいです。
では、ではでは。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
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第二章 再会と・・・そして始まりと
それぞれの想い
大変ご無沙汰いたしました。
今話から本駄作の第二章です。
前話にてとうとう美佳をみつけた八幡は・・・
一方、美佳の身の回りにも不穏な・・・
ではもしお時間がありましたらよろしくお願いします。
「・・・・・・そこにいたのか」
”ガタッ!”
「やっと、やっと見つけた」
”スタ、スタスタ”
「待ちなさい!
仕事中にどこに行く気なのかしら」
「・・・雪ノ下、やっと見つけたんだあいつを。
俺、俺は 」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・ふぅ。
いいわ、あとは私がやっておく」
”ガチャ”
「すまない」
”タッタッタッ”
「・・・・・・」
”カチャ、カチャカチャ”
「・・・・・・そう、あなたやっぱり佐賀にいたのね」
・
・
・
”シュパッ、シュパッ”
「「届け、届け 熱い気持ち♬
奏でるソウルにCut IN♬ 」」
へぇ~、みんな歌もダンスもすっごく上手になってる。
ゲリラライブの時が嘘みたい。
ダンスの息もぴったりでさ、ほんと雰囲気が変わった。
みんなすっごくイキイキしてる。
・・・・・・ゾンビィなのに。
「「ビシッと変えたい このChanging♬
ステップやめない このDancing♬ 」」
「・・・何かあったのかなぁ」
「・・・うががうががが」
「・・・・・・少し羨ましい」
「・・・・・・うが、うがががが」
「・・・・・・へ?」
「・・・・・・うが?」
「た、たえちゃん!」
「うが」
「いないと思ったら、ここでなにしてるの。
みんなと一緒にレッスン 」
”ムシャムシャ”
「あ゛ー!
ま、また勝手にゲソ食べてる。
いつの間に取ってきたの、しかも袋ごと。
駄目だって、勝手に食べちゃ。
ほら、ゲソ返しなさい」
「う゛がー!」
「う゛がーじゃなくて。
勝手に食べたら、またわたしが巽さんに怒られるんだからね」
「うが!」
”ガブッ”
「げ、袋ごと食べたー
吐き出しなさい!
袋ごと食べたら死んじゃうから」
「うがうが」
「ほ、ほら口開けて。
う~ん」
”ぐぃ~”
「うががが、うががが」
「「刹那のソウルに Cut IN♬」」
「はぁ、はぁ、はぁ、それじゃ少し休憩しましょう」
”スタタタタタ”
「はぁはぁ、今のどがんでしたミカさん」
「たえちゃん、袋出して~」
「ミカさん?」
「え、あ、さくらちゃん。
ごめんね、ちょっとたえちゃんが。
あ、うん、ダンスとか完璧、ばっちりだったよ。
みんなの息もあってるし、動きもキレキレだったし。
なにも言うことなかったよさくらちゃん」
「本当!
よかった~」
「・・・・・・ね、さくらちゃん。
なにかあった?」
「え?」
「あ、いや~気の所為かもしれないけど。
なんかみんなの雰囲気が変わったような気がして」
「あ、うん。
あのね、嬉野温泉のイベントの前にみんなでフランシュシュのこれからのことを
話し合ったと。
それでみんなでアイドルのトップ目指して頑張ろうってことになって。
なんかさ、ああやってみんなで話し合ったの初めてで、がばい良かった」
「そうなんだ」
「お~いさくら、次の曲やんぞ」
「あ、は~い。
じゃ、またあとで」
「うん、頑張って」
”スタスタスタ”
「・・・・・・みんなで・・・か」
「・・・・・・うが・・・が」
「・・・はぁ~」
「・・・うが~」
”ムシャムシャ、ゴクン”
「んっ!
あ、たえちゃん、飲み込んだらだめー
ほら袋吐き出して!」
・
・
・
「どういうつもりかしら。
今日の当番は姉さんだったはずよ」
「えー、だってしようがないじゃん。
お仕事もう少しかかりそうなんだもん。
と、いうわけで雪乃ちゃん食事の準備よろしく」
”プー、プー、プー”
「あ、ね、姉さん!
・・・・・・まったく、昨日も同じこと言ってたじゃない。
はぁ~、なにか食材買って帰らないといけないわね」
”コツコツコツコツ”
「・・・・・・今頃、もう大阪あたりかしら」
”コツコツコツ、コツ、コツ”
「・・・・・・これでよかったのよね、きっと」
”ブ~、ブ~、ブ~”
「え、由比ヶ浜さん?」
”カシャ”
「もしもし」
「やっはろー、ゆきのん。
ね、もうお仕事終わった?」
「え、ええ。
今、もうすぐ駅に着くところだけれど」
「あのね!
今日、会社の帰りに偶然いろはちゃんと会ったの。
それで今からお食事に行くところなんだけど。
ね、ゆきのんも一緒にどう?」
「え、あ、わ、わたしは 」
『と、いうことで雪乃ちゃん食事の準備よろしく』
「はぁ~」
「ゆきのん?」
「由比ヶ浜さん せっかくだけど 」
「雪乃先輩、お久しぶりでーす!
お食事行きましょ。
わたし、雪乃先輩といっぱいいろいろお話したいです」
「一色さん。
・・・・・・そうね。
わかったわ、行きましょう」
「やったー
あ、そうだ。
雪乃先輩、もしかして先輩もご一緒ですか?」
「いえ、比企谷君は今頃
はっ!」
「え、雪乃先輩?」
「・・・・・・ど、どうして?」
「もしも~し」
「ごめんなさい。
後から必ず連絡するわ」
”プー、プー、プー”
「・・・・・・」
”カツ、カツカツカツ”
「こんなところで何をしてるのかしら」
「え、あ、雪ノ下。
い、いや、ま、まぁその、なんだ」
「あなた、佐賀に行ったんじゃなかったの」
「・・・・・・」
「比企谷君!」
「あ、あのな、ほ、ほら、東地グループとの打ち合わせって明後日だろ。
や、やっぱり仕事を途中で投げ出すなんてって思ってな。
それで 」
「・・・そう。
わかったわ」
「・・・」
「つまりあなたは上司の私を騙して仕事をさぼったというわけね」
「いや、さぼったわけじゃ」
「これは懲罰の対象になるわ。
そうねお給料の30%カットってとこね」
「お、おい、別に騙したわけじゃ」
「あら、反省もしてないようね。
それに無理やり上司に仕事を押し付けたって、そこも考慮する必要があるわ。
・・・50%カット」
「い、いや、それはお前が」
「それともクビがいいかしら」
「・・・・・・」
「クビが嫌なら本当のこと言いなさい」
「・・・・・・」
「比企谷君!」
「・・・・・・怖くなった」
「え?」
「怖くなったんだ、あいつに会うのが。
はは、本当おかしいよな。
あいつが急にいなくなって、その理由がわからなくて。
ちゃんと会って、ちゃんと理由聞いて、それでちゃんと・・・・・・
ずっとずっとそのことばっかり考えていたのに。
それなのに、いざ居場所がわかったってなったら、
やっと会えるかもしれないって思ったら急に・・・・・・怖くなったんだ」
「怖くなった?」
「あいつは、あいつなら俺は何も疑わず信じられるって思ってた。
でもそれは俺の勝手な思い込みで、俺だけがそう思ってただけで、
本当はあいつも他のやつと一緒で。
・・・・・・怖いんだ、あいつに裏切られったってことになるのが。
はは、おかしいよな。
希望を持たず、心の隙を作らず、甘い話を持ち込ませず、ボッチ道を極めた
俺なのに、あいつと出会って、付き合って、一緒に暮らす中で、
いつの間に人間強度がリア充並みに低下してしまってた。
・・・今の俺では耐えられないのかもしれない。
だから、だったらやっぱり会わない方がいいんじゃないかって」
「・・・・・・」
「なぁ雪ノ下 」
”バシッ!”
「ぐはっ」
”どさ”
「雪ノ下、何を」
「あまり私の親友を貶めるようなこと言わないでいただけるかしら。
あなたの目、その目はやっぱり死んだ魚の目なのね。
三ヶ木さんのあなたへの想いを信じられない、そう思うなら思いなさい。
そんなあなたは一生、誰一人信じることはできない。
お望み通り、孤独の人生を歩みなさい」
「雪ノ・・・下」
「・・・ね、比企谷君。
思い出してほしいの。
彼女の行動には必ずなにかしら理由があった。
そしてその理由はいつも大事な人を守るため。
そのため進んで自らを・・・・・・
だから私は、そんな彼女だったから・・・だから私は!」
「ゆ、雪ノ下」
「・・・そんなのあなたが一番よく知ってるはずじゃない」
「・・・・・・」
「いいから、佐賀に行きなさい。
彼女に会いなさい。
そして・・・理由を聞きなさい。
そうでないと、あなたはきっと後悔する」
「雪ノ下」
「私の親友を信じてあげて」
「・・・・・・わかった」
「そう。
それなら今からでも 」
「いや、佐賀に行くのは東地グループとの打ち合わせの後だ」
「比企谷君、あなた 」
「打ち合わせ終わったら、少し休み取らせてくれないか?
必ずあいつに会って、理由を確かめてくる」
「・・・あなた、入社してから有休をまったくとっていないって
人事部で問題になってるわ。
この際、こっちの問題も解消しなさい。
申請は私がしておいてあげる」
「すまん。
・・・・・・雪ノ下」
「なにかしら?」
「ありがとう」
「・・・・・・馬鹿。
あ、その代わり」
「その代わり?」
・
・
・
”ドン!”
「まだ見つからないだと!」
「は、はい」
「あれからどんだけ経ってると思うんだこの役立たずが」
「し、しかし古怒田さん、この写真だけじゃ」
「ああん!」
「い、いえ、なんでも・・・」
「いつも大金渡してるんだ、それなりの働きをしろ」
「はい。
・・・・・・あ、あの~」
「なんだ?」
「この化け物は見つけられませんでしたが、ちょっと耳に挟んだことが」
「ん?
なんだ言ってみろ」
「あ、はい。
嬉野温泉で噂になってるんですが」
・
・
・
”ゴクゴク”
「う~ん、美佳先輩といえばそう見えないこともないけど。
この画像じゃ小さくてよくわからないですね。
拡大してもぼやけてるし」
”パクパク”
「それにこの人眼鏡してないじゃん。
美佳っちいつも眼鏡してたから、その印象が強くてちょっとわからないかも。
ヒッキーはわかるの?」
「いつも眼鏡してたわけじゃないだろう。
普通に寝る時は外してたし、あ、それに風呂入ってる時も眼鏡してなかったし。
だからよくシャンプーとリンス間違えてな」
「「・・・・・・」」
「え、あれ?」
「・・・ヒッキー」
「・・・一緒にお風呂入ってたんですね」
「・・・馬鹿」
”ガシガシ”
「まぁ、まぁなんだ。
・・・・・・根拠なんてないんだ。
だが、俺にはわかるんだ、これはあいつだってことが」
・
・
・
”キュキュ、キュキュ”
『あのね、嬉野温泉のイベントの前にみんなでフランシュシュのこれからのことを
話し合ったと。
それでみんなでアイドルのトップ目指して頑張ろうってことになって。
なんかさ、ああやってみんなで話し合ったの初めてで、がばい良かった』
”ジャー”
・・・・・・みんなでってなんだよ。
わたしはみんなには入っていないのかよ。
「・・・・・・」
”ゴシゴシ”
・・・ほんとはさ、わかってんだそんなの。
わたしはアイドルじゃないから、みんなと同じ目標なんて。
・・・なら、わたしは、わたしの目標って。
わたしは何をやりたいんだ。
”スッ”
「あっ!」
”ガチャン!”
や、やっちゃった。
このお皿、巽さんのお気に入りだったのに。
「あ~あ、また怒られちゃう」
”カチャカチャ、カチャカチャ”
『お前にしか出来ないことがあるはずだ』
って、巽さん言ってたけど。
わたしにしかできないことってなんなんだ。
・・・・・・わかんないよそんもん。
第一、わたしってなにもんなのかもわからないのに。
ミカって名前も巽さんが。
・・・わたし、誰なんだよ。
「はぁ~」
兎に角、まずはお皿片付けないと。
”カチャカチャ”
「ん、あっこれ」
”ひょい”
へへ、ほんと禍々しいやこのデザイン。
マックスコーヒーっか。
めっちゃ甘くて、なんかすごく懐かしい味がしたんだ。
『これ、千葉の誇るソウルドリンクですので。
俺も大好物です』
・・・千葉か~
あっ、もしかしたら千葉に行ったらなにか思い出せるかも。
そんで、もしかしたらわたしが何者で、そして何をしたいのかも。
それにもしかしたらあの人にもまた・・・
『ま、また会えるといいですね』
”カァー”
ま、まただ。
なんだろう、あの人のことを思うと顔がこんなに熱くなって、
そんで胸がドクンドクンって高まって、キュッって苦しくなる。
そう、この指輪を見ている時みたいに。
・・・・・・もう一度会いたい、あの人に。
だからわたしは
「行ってみたい、千葉に」
「千葉がどうかしました?」
「へっ!
あ、じゅ、純子ちゃん。
い、い、いや、べ、別に何でもない、何でもない。
そ、そ、それよりどうしたの?」
「あ、あの、紅茶を 」
「紅茶?
うんわかった。
お皿片付けてから淹れるからちょっと待ってて」
「いえ、そうではなくて。
もしお時間よろしければ、美味しい紅茶の淹れ方教えて頂けませんか?」
「え、紅茶の淹れ方?
あ、そうだ約束してたっけ。
いいよ、ちょっと待っててね」
・
・
・
「お客さん、タクシー来ましたよ」
「あ、すみません。
ゆきのん、ほら帰るよ」
「う、うううう」
”ふらふら”
「由比ヶ浜、大丈夫か?」
「うん大丈夫。
それじゃ、あたしゆきのん送っていくから、いろはちゃんをよろしくね」
「おう。
あ、そうだ由比ヶ浜」
「ん?」
「これ渡しておくわ。
頼まれてた出張のお土産。
なんか渡しそびれてたからな」
「あ、ゆっつらくんのキーホルダー。
憶えてくれてたんんだ。
ありがとうヒッキー」
「おう」
「・・・・・・あ、あのねヒッキー」
「ん?」
「・・・よかったね」
「ああ。
じゃ、またな」
「うん。
またねヒッキー、いろはちゃん」
「はい、結衣先輩もお気をつけて」
”スタスタスタ”
「さてっと、俺達も帰るか」
「う~ん」
「大丈夫か一色」
「大丈夫じゃないみたいです。
少し飲み過ぎました。
先輩、すみませんがおんぶして下さい」
「は? はぁー!
断る、断じて断る」
「なんでですか!
こんなかわいい後輩を置いてさっさと帰る気ですか。
気分が悪くて動けない後輩を一人残して」
「いや、し、しかしだな」
「一人残されたわたしがどうなると思うんですか。
きっとどこかに無理やり連れ去られて、あんなことやこんなことを。
そうなったら、先輩、責任取ってくださいね」
「わ、わかった。
ほら、さっさと乗れ」
「へへ、ありがとうございま~す♡」
”どさ”
「お、おも 」
”パシッ”
「いて」
「今何か言いました?」
「い、いや、なにも。
じゃ帰るぞ」
「は~い」
”ゆさ、ゆさ”
”むにゅ”
「・・・・・・あ」
”ゆさ、ゆさ、ゆさ”
”むにゅ、むにゅ”
「・・・・・・う」
”ゆさゆさゆさ・・・ゆさ”
”むにゅむにゅむにゅ・・・むにゅ”
「・・・・・・」
「・・・先輩、わざと揺らしてますよね」
「え!
あ、い、いや、そ、その 」
「・・・・・・いいですよ。
このまま大人の関係になっても」
「お、大人の関係・・・」
”ごくっ”
「はっ!
ば、ばっかお前」
「げ、本気にしたんですか。
マジキモいんですけど」
「ち、くそ!」
「先輩」
「ああん」
「・・・・・・雪乃先輩のあんな姿、初めて見ました」
「・・・ああ」
「先輩、少しは雪乃先輩のことも気をかけてあげて下さいね」
「そうだな」
「それと結衣先輩のこともですよ」
「ああ」
「・・・・・・・・・・・・わたしのことも」
「え?」
「な、なんでもないです!
あ、あともう一つお願いがあります」
「断る!」
「即答!
いいんですか、わたしの胸の感触楽しんで、あんなことやこんなことしたって
雪乃先輩と結衣先輩にチクっちゃいますよ」
「お、おい、なんだあんなことやこんなことって。
・・・・・・で、なんだ」
「先輩。
・・・美佳先輩、見つけたら一番に教えて下さい」
「一色」
「まったく、高校の時からいっつも好き勝手ばっかりやって!
どれだけわたしが・・・
だから、だからわたしは・・・・・・今度こそいっぱい怒ってあげるんです!」
「・・・わかった」
「お願・・・い・・・しま・・・す・・・・・・ね・・・」
”す~、す~”
「へ、お、おい一色」
「くぅ、くぅ」
「マジか」
・
・
・
”ゴクゴク”
「何か違います」
「へ、あ、いや、美味しいよ。
これはこれで十分に美味しいから」
「いえ、ミカさんがいつも淹れてくれる紅茶に比べたらやはり何か違います。
もう一回、初めからお願いします」
「う、うん。
それじゃお湯を沸かすところから」
・
・
・
「それじゃ、その沸騰したお湯を勢いよく注いで。
勢いよくがポイントね」
「はい!」
”ジョボジョボ”
「こ、こんな感じでよろしいでしょうか?」
「うん。
そしたらすぐ蓋をして、あとはじっくりと蒸らすだけ。
ほら、茶葉がポットの中で浮き沈みしてるでしょ。
これが美味しい紅茶のコツ!」
「あ、はい。
浮き沈みしてます」
”ジー”
へへ、純子ちゃんポットの中をじっと見てる。
なんかめっちゃ可愛い。
やっぱり昭和のトップアイドルはゾンビィになっても違うね。
昭和っか。
そういえば、純子ちゃんこう見えてわたしよりずっと年上なんだよね。
あ、でも確か純子ちゃん19歳って言ってたから、わたしのほうが年上?
えっと、この場合どうなるんだ?
う~ん。
「あ、あの~ミカさん、何か?」
「え、あ、なんでも」
「そろそろでしょうか?」
「あ、うん、そだね。
それじゃカップに」
「はい」
”とぽとぽとぽ”
「あとは、この最後の一滴が大事なんですね」
「そうそう。
これが大事なんだ、このゴールデンドロップが」
”ちょぽ~ん”
「それでは頂きましょうか」
「うん、いっただっきま~す」
”ゴクゴクゴク”
ぷはぁ~
うん、美味しい。
これはこれで十分美味しいと思うんだけどな~
それに、
”たぷたぷ”
さ、さすがに6杯目はきつい。
お腹が紅茶でたっぷたっぷ。
もうここらへんにしとかないと。
”ごくごく”
「ふぅ~」
「じゅ、純子ちゃんどう?」
「・・・・・・なにか違います」
へっ、う、うそ。
い、いやほんと美味しいって。
「ミカさん!」
「は、はい」
「もう一回お願いします」
「ひ、ひぇ~、も、もう飲めましぇ~ん。
勘弁して~
うっぷ!」
や、やばい、でちゃうでちゃう。
も、もう絶対無理。
「仕方ないですね。
それじゃ今日はここまでにしておきましょう。
・・・・・・ところでミカさん」
「あ、はい」
「何かあったんですか?
ミカさんがお皿を割るなんて珍しい」
「え、あ、あの・・・・・・」
「よかったら話してくれませんか?
お力になれるかわかりませんけど」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ど、どうしょう。
純子ちゃんほんと真剣に見つめてる。
マジで心配してくれてるんだ。
・・・・・・純子ちゃんなら。
うん、純子ちゃんならきっとわかってくれる。
サキちゃんに言ったら絶対からかわれるし、
愛ちゃんには怒られそうだし、さくらちゃんはこんなのあんまり経験なさそうだし。
ゆうぎりさんは経験豊富そうだけど時代が・・・
リリィちゃんはお子ちゃまだし、たえちゃんは・・・・・・
きっと、きっと純子ちゃんなら千葉にって。
「あ、あの、ごめんなさい、余計なことを 」
「違う、余計なことだなんて。
純子ちゃん・・・・・・あのね」
「はい」
「あ、あの、こ、こ、この前、嬉野でね・・・」
・
・
・
「そうですか、嬉野温泉でそんなことが。
それでミカさんはもう一度その人に会いたいと」
”こく”
「へへ、なんだろうね。
なんでかよくわからないんだけどさ・・・・・・会いたい」
「・・・恋をされたのですねその人に」
「こ、恋!」
「ええ」
「い、いや、でも、だって、い、一回しか。
その人にはそん時に一回しかあったことないのに。
話したのも10分か20分ぐらいだよ」
「恋に回数や時間なんて関係ないといいます。
出会った瞬間に恋に落ちることもあるとか」
「・・・純子ちゃんもそんな経験あるの?」
「い、いえ。
ア、アイドルに恋愛は厳禁ですから、わたしは・・・」
「・・・・・・そっか恋っか~
えへへへへ」
「ですがミカさん!!」
「あ、は、はい」
「わたし達はゾンビィです。
だから恋なんてものは」
「・・・ゾンビィだから人を好きになってはいけない」
「当り前です」
「・・・・・・」
そうだ・・・よね。
わ、わかってる、わかってるけど純子ちゃん。
・・・でも、どうしてもわたしは。
だってこのままじゃ・・・・・・このままじゃ嫌なんだ。
わたしは、わたしだって!
・・・純子ちゃんならわかてくれると思ったのに。
「ミカさん、わたしたちはもう死んでいるんです」
「う、うん」
「わかってくれればいいんです。
わたし達はゾンビィ、だったらゾンビィはゾンビィらしく」
「・・・ゾンビィらしくってなんなのさ」
「えっ?」
「純子ちゃんだって!!
自分達だってゾンビィのくせにアイドルしてるくせに!
そんでみんなでアイドルのトップとるって!
みんなは、みんなはあんなにイキイキしてるのに!
それなのに、それなのにさ、わたしは夢とか希望とか持っちゃいけないの。
わたし生きてるんだよ。
死んでるかもしれないけど、それでも生きてる。
だからわたしも生きてるって感じたい!
・・・あの人のこと思うと、こんなにここが、この胸が痛いんだ、苦しんだよ。
だから」
”ダー”
「純子ちゃんの馬鹿!」
”バタン!”
「ミカさん、ミカさん待って」
”ガチャ”
「あっ」
「・・・・・・」
「聞いていたんですか」
「ああ」
「・・・わたしは間違っていたのでしょうか」
「・・・」
「巽さん」
「純子、お前は間違ってはいない」
「・・・・・・そうですか」
”スタスタスタ”
「・・・だがな純子。
この世の中、間違っていないってことが全て正しいっていうことじゃない。
お前にはお前の、ミカにはミカの、それぞれの正解がある。
いずれお前にもわかるだろう」
ーーーーーーーー
”ガチャ”
「あ、お早うございます大古場さん」
「おう、お早う」
「あ、大古場さんこれなんすけど。
なんかポストに匿名の投稿が入っとったみたいなんすよ」
「投稿?」
「ええ。
なんか嬉野温泉に亡霊が出たって記事で。
関係者のインタビューと写真とかもあるみたいで」
「どれ見せてみろ」
「あ、はい」
「・・・ふむ」
・
・
・
「なぁ、本当に俺達だけで良かったのか?
せめて陽乃さんも」
「いえ、先方の古怒田課長さんから、まずは担当者同士で話を詰めましょうって
ことだったから」
「そうか」
”スタスタスタ”
「・・・あの、比企谷君」
「ん?」
「一昨日はごめんなさい」
「いや、俺は何もしていない。
お前を送っていったのは由比ヶ浜だしな」
「そう。
一色さんはちゃんと帰れたのかしら。
彼女も結構飲んでいたみたいだったけど」
「・・・・・・」
「比企谷君?」
「い、いや、な、何もしていない。
あいつ寝てたから、そ、それで仕方なく家に 」
「・・・家に泊めた」
”こく”
「あきれた」
「い、いや、マジ何もしてないから。
あんなこともこんなこととかも」
「あんなこと?
・・・そんなのわかってるわ。
あなたに一色さんに手を出す度胸なんてないもの」
「・・・・・・」
「気をつけなさい。
一色さんに変な噂でもたったらどうするの」
「ああ」
”スタスタスタ”
「・・・・・・私だったとしても泊めてくれた?」
「泊めない」
「え、そ、そう。
まだアルコールが残ってるのかしら変なことを聞いたわ。
忘れてくれると嬉しいのだけど」
”スタスタスタ”
「・・・一色の家は知らないからな」
「え?」
「お前のマンションは知ってる。
だからちゃんと送ってやる」
「そう」
”スタスタスタ”
「・・・それに陽乃さん、こえ~し」
・
・
・
”スタスタスタ”
「すみません、雪ノ下建設の方ですか?」
「え、はい」
「お待たせしました、古怒田です。
えっと 」
”スー”
「いえ、今着いたところです。
雪ノ下建設企画部課長の雪ノ下です」
「あ、すみません頂きます。
課長、あなたが・・・」
「どうかしました?」
「あ、いえ。
わたしはちょっと今名刺を切らせてまして。
担当の古怒田です。
それでは、早速会議室に」
”スタ、スタスタ”
「・・・・・・あ、すみません古怒田課長」
「え?」
「あの、部下の比企谷です」
「あっ。
すみません、お一人かと」
「・・・なんかすみません、比企谷です」
・
・
・
”ムスー”
「なに不機嫌な顔してるのかしら」
「べ、別に」
「普段から存在感がないあなたが悪いんじゃないの」
「・・・・・・」
”ガチャ”
「お待たせしました。
えっと、コーヒーでよろしかったですか?」
「あ、課長、課長自ら」
「気になさらないでください。
すみません、今ちょっと手の空いてるものがいなくて」
”カタ”
「あ、いえ、ありがとうございます」
「君もすまなかったね。
ちょっと急いでたから」
”カタ”
「いえ、慣れてますから」
「・・・それでは早速始めましょうか」
「ではまず私たちの企画案からご説明します。
比企谷君、資料を」
「どうぞ」
「それでは当社の企画案をご説明します。
今お配りました資料につきまして、詳しくご説明させて頂きますので、
スクリーンをご覧ください」
・
・
・
「っというように、一部の施設の改築は必要となりますが、
既存の施設の有効利用により、佐賀の魅力を高めることが可能と考えます。
それとこちらが施設の買収リストです」
「・・・既存の施設の再利用か」
「はい。
新たに施設を作らなくても、佐賀には魅力ある観光資源が溢れているというのが
わが社の見解です。
それらの有機的連携により 」
「失礼ですが、佐賀の都道府県の魅力ランク調査結果知っていますか」
「・・・45番目」
「そう。
47都道府県の中の45番目。
ちなみに去年は46番目。
魅力ある観光資源に溢れているというなら、この結果はどう思われますか」
「それは」
「・・・・・・キラーコンテンツがない」
「そ、その通りだ。
えっとヒキタニ君」
「・・・比企谷です。
福岡なら博多ラーメン、大分なら別府温泉、熊本なら阿蘇山や熊本城、
長崎ならグラバー園やちゃんぽん、そういった県をイメージするものが
佐賀にはない」
「そうなんだ。
有田焼や伊万里焼と聞いて佐賀をイメージするだろうか。
だからこそ、だからこそなんだ。
我々の企画案通りこの一大テーマ―パークを作って、佐賀のキラーコンテンツと
する必要があるんだ」
「ですが」
「そのためには、当然雪ノ下建設さんにも大いに力になってもらいたいと思っています」
「・・・・・・」
「それではそういうことで」
「宇宙ワールドって知ってますか?」
「・・・ああ」
「それならよかった。
すぐお隣の長崎には日本最大の面積を持つテーマパーク”ハウステンボス”がある。
それに少し羽を伸ばせばUSJも。
佐賀のキラーコンテンツにするには、少なくともハウステンボスに勝つぐらいの
ものが必要となってくる。
それに設備の老朽化対策やマンネリ打破のための刷新とかも必要でしょうから、
そういった諸々のことを考えるととても莫大な費用になる。
とてもこの企画でそれを回収できるとは思えない。
それこそ宇宙ワールドの二の舞ですよ。
失礼ですがお宅の企画案には乗れませんね」
「・・・」
「比企谷君」
「すみません、言い過ぎました」
”ガシガシ”
「・・・もしハウステンボスに勝てるものがあるとしたら?」
「えっ」
「古怒田課長、そんなものあるんですか」
「・・・・・・まぁいい。
わかりました、基本的には貴社の企画案で進めましょう。
最終的には年末の役員会の議案に上げたいと思います」
「はい」
「早速ですが、佐賀の支店に本件のプロジェクトチームを置くことになります。
雪ノ下建設さんのご担当の方にも是非佐賀に来て頂きたいのですが」
「・・・わかりました。
おってご連絡させていただきます」
「では」
「はい」
・
・
・
”スタスタスタ”
「ったく」
「すまない」
「もう社会人なんだから、少しは言い方に気をつけなさい」
「うっす」
「・・・でもありがとう。
さすがにあの企画案では」
「ああ。
陽乃さんからもお付き合い程度のものだから、
お互いの傷が深くならないようにって釘刺されてるしな」
「ええ。
父さんの選挙の件がなかったらお断りしていたはずよ」
「向こうの社長さん、後援会会長だもんな」
「ええ」
「・・・・・・なぁ」
「なにかしら?」
「いや、ちょっと気になることがあってな」
「気になる?」
「ハウステンボスに勝てるもの。
あの古怒田って課長の態度なんか気になってな」
「・・・そうね」
・
・
・
”ゴクゴク”
「ふぅ~」
「少し飲み過ぎじゃねえか」
「・・・・・・」
「会ってしまったんだな。
それで記憶を思い出すため千葉に行きたいっか。
そんなに言うなら行かせてやったらどうだ」
「あいつを一人で千葉に行かすわけにはいかないです」
「そうか。
・・・なら、あれを返してやったらどうだ?」
「あれとは?」
「お前が隠したあれだ。
あれ見たら記憶戻るんじゃねえのか?
あの娘も自分が死んだことはもう納得しているんだろう。
だったら返してやってもいいんじゃねえか」
「納得しても、頭で納得していても、頭と心は別です。
あいつはすごいさみしがりなんです。
もし記憶が戻ったら、きっとあいつはさみしくて平気でいられなくなる。
きっと・・・・・・」
「ならどうするつもりだ」
「・・・・・・」
ーーーーーーーー
ん~と、巽さんいるかなぁ~
”キョロキョロ”
リビングにもいないっか。
部屋にもいなかったし、どこ行ったんだろう。
お願いしたいことがあるのに。
ん?
”わなわなわな”
どうしたんだろうさくらちゃん。
なんか雑誌観て震えてるけど。
それに顔色が・・・・・・それはメイクしていないだけっか。
ふむ、それにみんなもなんか様子が変?
どれどれ、雑誌に何か書いてあるの?
”ひょい”
嬉野温泉の怪?
暴れまわる亡霊?
ボ、ボウリング生首?
え、えっと、これってもしかしてみんなのこと?
あ、巽さんがスポンサーがダメになったって言ってたのもこのことが。
「さ、さくらちゃん」
”のしのしのし”
あ、巽さん来た。
げっ、なんか、めっちゃ怒ってらっしゃる。
とても千葉に行きたいってお願いできる雰囲気じゃない。
ここは、君子危うきになんとかだ。
今は退散退散っと。
ごめんねさくらちゃん!
”ダー”
「あ、ああああ」
”わなわなわな”
「次やったら坊主」
「温泉行った時のだ。
書かれちゃったね」
「どこの出版社だ
締めに行こうぜ」
「ごめんなさい。
次からはもっと慎重に行動します」
「まあまぁ、わっちらもみんな足湯に入ったでありんすから。
あんなふうにみんなで語らうのは初めて。
楽しかったでありんす」
「だね。
仲良くなった分、きっとパフォーマンスもよくなるよ」
「ゆうぎりさん、リリィちゃん」
「それにわっちらは疲れ知らずでありんす」
「姉さんの言う通りだ。
次で取り返そうぜ」
「うん」
「しゃ!
気合入れて、活動資金稼ぐぞー」
「「おー」」
「活動資金はあくまで手段だからね」
・
・
・
”トボトボトボ”
『わたし達はゾンビィ、だったらゾンビィはゾンビィらしく』
ゾンビィらしくっか。
その通りだよね、あの時のわたしどうかしてたんだ。
はぁ~、純子ちゃんには悪いことしちゃったなぁ。
わたしのこと真剣に考えて言ってくれたのに。
ちゃんと謝らないと。
・・・でも、でもさ、やっぱりわたしは千葉に行きたい。
千葉に行ったらきっとわたしのことが何かわかる気がする。
だから巽さんにお願いしてバイトさせてもらうんだ。
そんで電車賃稼いで。
”トボトボ、ピタ”
・・・巽さん、いるかなぁ。
「ミカ?」
「え? あ、愛ちゃん」
「あなた何してるのこんなところで」
「え、あ、あの」
「巽に用事あるの?
ちょうどよかったわ」
”カチャ”
「いいかしら」
「なんじゃい、ノックぐらいしろ。
常識じゃろがい」
”トントン”
「これでいい?」
「・・・・・・」
「なにしてるの。
あなたも用事があるんでしょ。
ほら早く入りなさい」
「あ、あの~」
「ん?
おお、いいところに来たなミカ。
ちょっとそこに座れ」
「え、あ、はい」
・
・
・
”ペタペタ、ぬりぬり”
・・・・・・な、なんなんだ?
いきなり巽さんメイク始めたんだけど。
今からどこか出掛けるのかなぁ。
それにメイク、なんかいつもと違うような気が。
”ジー”
げ、愛ちゃんさっきからずっとこっち見てるし。
な、なんなんだ、なんかめっちゃ怖いんだけど。
「あ、あの~巽さん、なんで今頃メイクを?」
「ふむ、こんなもんじゃろ。
どうだ愛」
「ええ、いいんじゃない。
これなら」
「それなら例のものを頼む」
「ええ」
む、無視―
でも例のものってなんだ?
あ、愛ちゃんなんか紙袋持ってきた。
そういえばさっき用事があるからって愛ちゃんのメイクしたけど、
どっか行ってきたのかなぁ。
「あ、あの愛ちゃん」
「いいからじっとしていて。
あ、その前にこれ返しておくね。
眼鏡の修理終わってたから」
「あ、さっき用事があるからってこのことだったんだ。
わざわざ取りに行ってくれてありがと。
へへ、これがないと落ち着かなくて。
あ、でも、じっとしていてって何を?」
・
・
・
「これでいいかしら」
「ふむ、いいじゃろいいじゃろ。
ほらもういいぞ、鏡を見てみろ」
ふぅ~、やっと終わった。
何だったんだ、夕飯の準備とかしないといけないのに。
あ、でもさっき愛ちゃんつけてくれたのってエクステ?
でもいったいなんで?
ま、とにかく鏡、鏡っと。
”スタスタスタ”
「え、あ、あれ?
巽さん、何この顔」
「イメチェンじゃい。
お前この前、日焼けしたメイクしていただろう。
それに合わせてみたんじゃい。
これからお前のメイクはこれでいく。
どうだ、これなら今までの地味~なイメージと違って、
お前でも少しは健康的で活発な感じがするだろう。
今までのお前から360°反転じゃ~い」
「・・・巽さん、360°回転したら元に戻るから。
でもなんでこんなメイクを?」
「いいか、お前には今日からフランシュシュのマネージャーになってもらう。
そびためのメイクじゃい」
「・・・えっ、マ、マネージャー!
わ、わたしが?」
「そうだ」
「無理無理無理無理無理、絶対無理!
そ、そ、そんなのわたしできるわけないじゃんか。
マネージャーなんてやったことないのに。
そ、それより巽さん、わたし千葉に」
「お前だけが頼りなんじゃい。
お前に俺を支えてほしい」
「わ、わ、わたしが頼り?」
「ああ、お前が頼みだ。
俺の右腕として支えてくれ」
「頼み・・・・・・巽さんがわたしを?
う、うんわかった!
わたし、マネージャーやってみる。
そ、そっか~、わたしマネージャーか~
えへへへへ、し、仕方ないな~
だ、だって右腕だって、支えてくれって。
えへへへ」
”にこにこ”
「・・・ちょろいな」
「ちょろいわね」
「え、ちょろ?」
「いや、なんでもない
早速じゃが、明日テレビCMの撮影がある」
「テレビCMの撮影!」
「そうだ。
お前は明日、あいつらのメイクが済んだら現地に先乗りしろ」
「先乗りってわたし一人で?
で、でもわたし何やったらいいのかわからないし」
「いつもの通りでいい。
お前に初めから完璧なものなんて求めていない。
いつものお前のままでいいんじゃい」
”スタスタスタ”
「あ、た、巽さん待って」
・・・いつものままでいいって言ったって。
アイドルのマネージャーってなにすればいいんだ。
はっ!
「あ、愛ちゃん」
ーーーーーーーー
”ギ~コ、ギ~コ”
「はぁ、はぁ、はぁ」
や、やっとついた伊万里夢みさき公園。
CMの撮影って、ここで良かったよね。
えっと~
”ガヤガヤ”
あ、よかった。
あの人たち撮影の人達だ。
ほらカメラとかレフ版とか持ってる人いるし。
「・・・・・・ふぅ~」
よ、よし。
”スタタタタ”
ちゃんと昨日、愛ちゃんに教えてもらったんだ。
マネージャにとって大切なこと。
それは
『あ、愛ちゃん、だずげで~
わ、わたしどうすればいいの?』
『はぁ~、まったくあの男は。
仕方ないわね。
いいミカ、まず一番大事なのは挨拶。
明るく元気に挨拶しなさい。
挨拶できない人は認めてもらえないから』
わ、わたしのマネージャーとしての第一歩。
頑張れミカ。
「おっはよーございまーす!
今日はお世話になります。
フランシュシュのマネージャーの・・・・・・」
「ん?」
「なんだ?」
「だれあれ?」
え、えっと、わ、わたし名前・・・・・・
名前なんて言うんだ―!
え~い、なんか適当に佐藤とか鈴木とか。
あ、で、でもどうせならなんかかっこいい方が。
そうだな~、如月、神楽・・・
う~ん、どうせなら外国人っぽいのもいいかも、ほらエリザベスとか。
あっ、クリスティーナとかもいいなぁ。
”ざわざわ”
げ、やば!
そんなこと考えてる場合じゃない。
えっと、
「あ、あの、フランシュシュのマネージャーのローレンス・ミカです」
「ローレン、へ?」
「お、おい、あの人って」
「ああ、もしかして可哀そうな人じゃね」
”ひそひそ”
げ、や、やばい。
やっぱ、ローレンスはさすがにまずかったかも・・・
「あ、あの~」
「ロ、ローレンスさん、よ、よろしくお願いします」
「よろしく、ローレンスさん・・・・・・ぷぅ、ぷぷぷぷ」
「し、しゃーす」
げ、やばいやばい。
み、みんなから痛い子を見る目で見られてる。
あの人大爆笑してるし。
う゛~
ど、ど、どないしょ~
ん~
「この機材、ここでいいすっか」
「お~い、テント立てるの手伝って~ 」
あ、そ、そっだ、そんなこと考えてる場合じゃない。
みんな準備で忙しそうだし。
『いいミカ、それと周囲への気配りを忘れないこと。
現場の雰囲気をよくすることも大事な仕事なんだからね』
わたしも手伝わなくっちゃ。
え、えっと~、だったら何を。
”キョロキョロ”
「あ、それも運ぶんですか?
わたし手伝いますね」
「あ、ロ、ローレンスさん、ありがとう。
じゃ、テントまでお願いします。
・・・・・・クスクス」
「・・・はい。
あ、あの、ミカでお願いします」
・
・
・
「あの鳥、可愛くない」
「てめぇちんちく!
ドラ鳥の不死鳥コッコさんに失礼やろが」
「コッコさん?」
「なにやっとるんじゃいお前ら。
こっちこんかい」
”ゾロゾロ”
「こちらがこのドライブイン鳥の社長さんじゃい」
「こんにちわ、初めまして」
「「こんに 」」
「ちやーっす!」
「うっさ」
「本日はありがとうございます。
皆様には思う存分うちの宣伝をしてもらいたいと思います。
まずは中に入って、当店自慢の焼き肉を食べてください」
「「うわ~」」
「「ありがとござい 」」
「ぁざーす!」
・
・
・
”わいわい、がやがや”
やっばいな~
そろそろ撮影始まりそうな感じだけど。
巽さん達まだ到着しない。
何してんだろう。
「マネージャーさん、カメリハやりたいんですが、
フランシュシュさんはまだですか?」
「あ、す、すみません。
今確認します」
「はい、お願いしますね」
ほ、ほら怒られたじゃんか。
もう!
”カシャカシャ”
車混んでるんかなぁ。
時間忘れてることはないと思うから。
と、兎に角、電話しないと。
”プルルルル、プルルルル、カチャ”
「はい、もしもし」
「あ、巽さん!
な、なんやってんの。
もう撮影始まっちゃうよ」
「あー、たえちゃん、生肉は駄目だって!」
「純子はん、そのはちみつ黒酢カルピスどうでありんすか?」
「はい、すごく美味しいです!」
「あ、サキちゃんまたリリィの育てたお肉食べたー」
「あん!
焦げてんじゃねえか」
”ワイワイ、ガヤガヤ”
「・・・・・・お、おい巽。
お前ら何やってんだー、おら!」
「何ってドライブイン鳥への理解を深めるためにだな。
って、お前ら食い過ぎじゃ~い」
「く、食いすぎ?
・・・てめぇ!
いいからさっさと来い、この馬鹿!」
”プー、プー、プー”
く、くっそー
あいつら、肉食ってやがった。
ま、まったく!
「あの~マネージャーさん、フランシュシュさんは 」
「あ、あの、い、いまこっちに向かってます。
それまで、わたし代わりにやります。
7人分頑張りますので。
えっと~、あ、あの着ぐるみ着ればいいんですね」
「着ぐるみ?
え、あ、はい」
・
・
・
「ドライブイン鳥♬」
”ピシッ”
「はい、一応OKです」
はぁはぁはぁ、き、昨日絵コンテとかCMとかチェックしておいてよかった。
でも
”ちら”
へへ、結構この鶏の着ぐるみ似合ってんじゃない?
えっと鏡、鏡っと。
あ、あった。
「ドライブイン鳥♬」
えへへへ、このしっぽとか可愛い。
今度自分で作ってみようかなぁ~
「は~い、監督さん入ります。
お願いしやーす!」
「「ご苦労様です」」
え、監督?
あ、あの緑の帽子のちょっと太めの人?
そっだ、こんなことしてる場合じゃなかった。
『それと、監督とスポンサーさんのご機嫌を損なわないこと。
できるだけコミュニケーションをとって、顔を覚えてもらうこと。
また次のお仕事頂けるかもしれないからね』
よ、よし。
”スタタタタ”
「監督さん、おはようございます。
フランシュシュのマネージャの・・・・・・ロ、ローレンス・ミカです。
今日はよろしくお願いします」
「ローレン・・・・・・」
「・・・・・・」
「よ、よろしくね。
でも、マネージャんさんがなんで衣装着てるの?」
「あは、あははは、いろいろとありまして」
「そう?
それよりそろそろ始めようか」
「しゃーす」
げ、ま、まずい。
えっと~
”キョロキョロ”
ま、まだ来てないよね巽んさん達。
ど、どうしよう。
いないってわかったら絶対にマズイ。
なんとか時間稼がないと。
え、えっと~、あ、そうだ!
”ダー”
早起きして準備しておいてよかった。
”ダー”
「か、監督さん!」
「おわっ、び、びっくりした。
どうしたの?」
「あの、これ作ってきたんですよサンドウィッチ。
よかったら食べてください。
ほら、戦の前の腹ごしらえっていうし、是非どうぞ」
「ふむ。
どれ」
”パク”
「お、う、美味い。
このツナとレタスのサンドウィッチ美味しいね」
「こっちの卵サンドも自信作なんですよ。
あ、皆さんもどうぞ。
いっぱい作ってきましたから」
「しゃーす」
「頂きま~す」
「あ、よかったら紅茶もどうぞ」
・
・
・
”カシャカシャ”
も、もう何やってんだ巽さん。
撮影、遅らせるのもう限界だって。
ほら、さっさと電話出ろってんだあの馬鹿。
「もしもし」
「もしもしじゃな~い!
な、何やってんだ。
もしかしてまだお肉食べてんのか!」
「仕方ないじゃろうがい。
社長が次から次へとお肉出してくれるんだから、食べないと失礼じゃろうが。
まぁ安心しろ。
今ドライブイン鳥を出るところだ。
そうだな、ここからならあと17分ぐらいで着く」
「じゅ、17分も!」
そんなの、もたないよ~
ほら、みんな集まってきたし。
どうすんだよ、撮影始まちやうよ~
・・・・・・ん?
あ、いま巽さん確か。
「ね、ね、巽さんもしかして 」
・
・
・
「君、そろそろ」
「あ、はい。
それでは集合お願いしやーす!」
”ゾロゾロ”
「諸々準備よろしいでしょうか~
まずは出演していただく・・・・・・
あれ、そういえばフランシュシュさんは?」
「・・・・・・」
「まさかまだ来てないんじゃないだろうね!」
「マネージャさん?」
「ぐふ」
「ぐふ?」
「ぐふふふふ。
監督さん、フランシュシュが遅れているのには、のっぴきならない理由が
あるからなのです!」
「理由?
ふむ、どんな理由かね?」
「それは」
「それは?」
「それは!」
”ごく”
「そ、それは」
「着いてからっということで」
「・・・・・・」
・
・
・
”イライライラ”
げ、や、やばい。
いくら温厚な監督さんでもそろそろ限界だよね。
巽さん、お願いだから早く来て―
「え~い、もう待てない。
主演がいないのなら今日の撮影は」
「す、すみません。
も、もうちょっとだけ 」
”キキキー”
「あっ、来た!
き、来ました監督ー」
”バタン”
「おい、お前ら早く降りてこんか~い」
”スタスタスタ”
「お待たせしましたフランシュシュのプロデュ 」
「邪魔!」
”ドン!”
「きゃい~ん!」
「皆さ~ん、お待たせしましたー
ドライブイン鳥の社長さんで~す。
はい、拍手~」
「「おおー」」
”パチパチパチ”
「君、連絡してなかったのかね」
「い、いえ、確か」
「すみません、私が忘れていました。
先ほどフランシュシュさんから言われて思い出して。
一緒に連れてきてもらいました」
「そうですか。
いやお待ちしてました。
さ、さぁこちらへ。
あ、君 」
「はいは~い。
社長さん、椅子をどうぞ。
フランシュシュのマネージャーやってます・・・・・・ロ、ローレンス・ミカです。
よろしくお願いします。
あ、紅茶どうぞ」
「ローレン・・・・・・
あ、ありがとうございます」
”どさ”
「肩凝っていませんか?
お揉みいたしますね」
「ど、どうも」
”ぐぃ”
「お、おい」
「あ、巽さんいたの?」
「さっき思いっきり突き飛ばしたじゃろが~い。
それよりローレンスって、お前ローレンスなのか?」
「う、うっさい、いろいろあんだ。
それより、ほらみんな準備準備、あのテントに衣装あるから。
あ、さくらちゃん、たえちゃんお願い」
・
・
・
「「ドライブイン鳥♬」」
へへ、楽しかったなぁ~撮影。
たえちゃんなんてコッコさんに噛みついちゃってめっちゃ大変だったけど。
さくらちゃんや愛ちゃん、みんな頑張ってた。
鳥、最後は鳥になりきってたし。
「なんだ、まだそれ観てたのか?」
「うん、だって愛ちゃんが言ってたし。
映像チェックするのもマネージャーの仕事だって。
でもみんなすごいね、こんなに面白いCM作っちゃうんだもん」
「・・・あいつらだけの力じゃない」
「うんわかってる。
監督さんや音響さん、照明さんとか現場の皆さんの力だよね」
「お前もじゃい」
「え?」
「このCMは、お前も含めて全員で作り上げた作品じゃい」
「わたしもみんなと一緒に」
「ああ」
「そ、そっか、そうなんだ。
えへへ、わたしも一緒に」
「「焼き鳥1番、鳥めし2番、3はサラダで♬」」
「・・・・・・巽さん」
「なんじゃい」
「わたしね、今日なんかすごく楽しかった。
そりゃ巽さん達、なかなか来ないから大変だったけど。
でも、なんかすごく生きてるって感じがした」
「ゾンビィなのにな」
「へへ、わたし生き返っちゃいました。
・・・・・・あのね、わたし頑張ってみるマネージャー」
「そうか」
「どれだけできるかわからないけど、自分らしく精一杯頑張ってみる」
「無理はするな」
「うん。
あ、それはそうと巽さん、今日お肉食べてたよね。
お土産は?
今日いっぱい頑張ったわたしへの、お、み、や、げ♡」
「わかっとるわい。
ほら、ここに焼き肉用にちゃんとお肉を買って・・・・・・」
”ムシャムシャ”
「た、たえ!
いつの間に」
「げ、たえちゃん!
そ、それ、わたしのお肉だかんね!
う゛がー!」
”がぶっ”
「あ゛ー、うががー」
”がぶがぶ”
「がうがう」
「がう―!」
「や、やめんかーい!
お前ら生肉に齧り付くんじゃない。
ミカ、お、お、お前、元のゾンビィに戻ってるやないかーい!」
「う゛がー、に、肉―」
・
・
・
”ガチャ”
「あ、古怒田さん」
「どうだ、何か情報あったか」
「ええ、サガジンの記事の効果もあって、ネットに結構入ってます」
「で、どうだ」
「面白い情報見つけましたよ。
古怒田さん憶えてますか、商店街の深夜の発砲事件の件」
「発砲事件?
ああ、あの唐津のやつか」
最後までありがとうございました。
すみません、前駄作の投稿を始めてから約4年間。
今回、ちょっと長期休暇頂いてしまいました。
これからも亀更新ですが、投稿を再開したいと思いますので
また見に来ていただけたらありがたいです。
今話にてフランシュシュのマネージャーに就任したミカ。
さて次回は・・・・・・
す、すみません、次回番外編です。
マッカン2本目、よろしくお願いします。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
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ガタリンピック ープライドと決意と・・・すれ違いー
もう少し早く更新できたらといいながら・・・・・・
え、えっと前話にてフランシュシュのマネージャーになったミカ。
でも芸能界はそんなに甘くなくて。
またミカの周辺もいろいろとざわついて
では、ガタリンピック編よろしくお願いします。
あっ、すみません。 今回もほとんど会話形式です。
では。
「ごめんね、もう今度のイベントの地元出演者枠決まっちゃっててね。
ライブのタイムスケジュールとか出来ちゃってんだよね」
「あ、いえ、こちらこそご無理を言ってすみません。
今日はお忙しいところ、お時間頂きありがとうございました。
また次回よろしくお願いします」
”ぺこ”
「じゃあね」
「あ、はい」
”スタスタスタ”
「あの娘、誰っすか?
なんか最近、局内でよく見かけますけど」
「え、あ~なんだっけ、フラ何とかってご当地アイドルの売り込み」
「へ~、ご当地アイドルってまだそんなのあったんすね」
「だな」
「あ、そんなことより会議の時間やばいっすよ」
「マジか」
”タッタッタッタ”
「・・・・・・ふぅ。
帰ろっか」
”トボトボトボ”
はぁ~、また今日もお仕事もらえなかった。
何日もこのテレビ局通って、やっと話聞いてもらえたけどさ。
”ガシガシ”
そう甘くないってわかってたけど、さすがにこう毎日駄目だと正直凹む。
・・・・・・やっぱりわたし向いてないのかなぁマネージャー
「はぁ~」
・
・
・
”キュッ、キュッ”
「発砲騒ぎのあった寿通り商店街、生首騒動のあった嬉野温泉、そしてここ!」
”キュッ”
「俺があの化け物を見つけた千代田橋。
この地図上の三点を結んだ範囲。
きっとこの範囲のどこかに隠れているはずだ」
「でも結構広いですよ古怒田課長」
”ギロ”
「あっ、す、すみません所長、古怒田所長」
「まぁいい。
いいか、金はかかってもいい。
必ず探し出せ。
俺のプロジェクトには絶対この化け物が必要だからな」
「プロジェクト・・・・・・ですか」
「ああ。
みてろ、この佐賀に一大テーマパークをつくるんだ。
ホラーとスリルのテーマパーク、ゾンビランドサガをな!
既に心当たりの土地の調査も済んでいる。
そして、この化け物はそのテーマパークの目玉になるんだ。
この化け物さえ手に入れれば、ハウステンボス何て目じゃない。
だからどんな手を使ってもいい。
この化け物を探し出して捕まえろ」
「捕まえた暁には」
「ああ、わかってる。
お前が今までに見たことのない大金、拝ませてやる。
一生遊んで暮らせるほどのな。
・・・・・・俺はこんなくそ田舎でくすぶっていい人間じゃないんだ。
必ずこのプロジェクトを成功させて、本社に戻ってやる」
”トントン”
「どうした」
”ガチャ”
「すみません、所長。
雪ノ下建設の雪ノ下課長と比企谷さんがお見えになりましたが」
「ああ、わかった。
今行くから、会議室に待たせておけ」
「はい」
”スタスタスタ”
「雪ノ下建設ですか。
確か今回の件、雪ノ下建設との共同プロジェクトだとか」
「ああ。
なんか既存の施設を有効利用するんだとか、
しょっぼいプロジェクト案持ってきやがった。
なぁ知ってるか、二十歳そこそこのガキが課長だとよ。
何の実績もねえだろうに、血縁だけで課長なんだろうよ。
まったくどこもかしこも血縁、血縁、血縁!
やだね、血縁ってのは。
気に食わねえが、下手に出て適当にいい思いさせておけばいいだろう。
まぁ、大事な金鶴だからな、金引き出すまでそれなりに丁重に扱ってやる。
さてっと、あんまり待たせてご機嫌を損ねてもいけねえ。
じゃ化け物の件、頼んだぞ」
「はい」
・
・
・
”トボトボトボ”
ふぅ~、疲れた。
さっさと水浴びして、今日は早く休みたい。
「「ぎゃ~、ぎゃ~」」
”ドタバタ、ドタバタ”
へ、なんだ?
みんな何騒いでんだ?
家の外まで、声響いているんだけど。
はっ!もしかして晩ご飯遅くなったから、
たえちゃんがお腹すかせてまた暴れてるんじゃ。
”ガチャ”
「ただいま~
ごめんね、今晩ご飯つくる・・・から。
へ?」
「てめぇぶっ殺す!」
「は、はぁー!」
”ビュン”
「ひ、ひぇ~
ちょ、ちょっと待ってサキちゃん。
なんでいきなりバット!
ちょ、ちょっと危ないって」
”ビュン”
「ひゃっ、ご、ごめん今ご飯作るから許して!」
「うぉりゃー!」
”ビュン”
「ひぇっ」
”ズデン”
あわわわわ。
いくら晩ご飯が遅くなったからって、ちょ、ちょっとやり過ぎだ。
いま避けなかったったら、間違いなく頭吹っ飛んでた。
「サキちゃん!」
”カサカサカサ”
「ち、逃げやがった。
愛、そっち行ったぞ」
「ひぃ」
「バカ、逃げてんじゃねえ。
くそ、純子挟み撃ちだ」
「あ、は、はい」
”ドタバタ、ドタバタ”
「ミカさん大丈夫と?」
「あ~びっくりした。
サキちゃん、いきなりバットもって向かってくるんだもん。
で、どうしたのさくらちゃん?」
「Gが、Gが出たとよ」
「G? ああ、ゴキちゃんか。
はぁ~、情けない。
たかがゴキちゃんごときで、大のゾンビィが何を騒いでんだか」
「ミカさん、Gは平気なんだ」
「あったりまえじゃん、この家の台所を預かるわたしがGの一匹や2匹 」
「あ、くそ飛びやがった」
”パタタタタ、ピタ”
へ、なに?
何かが背中についたような。
”カサカサ、スポ!”
「へ、ぎゃー!
G、G、Gが服、服の中にー
い゛、い゛や゛ー」
”ビョン!”
「「おー」」
”ガツン”
「げふ、て、天井」
”ドタ”
「み、ミカさん!」
「お、おい、こいつ今天井に頭ぶつけたぞ。
死んだんじゃねえのか?」
”カサカサカサ”
「ん、あ、てめぇこんなところにいやがった!
ま、待ちやがれ」
”カサカサ”
「う゛ー」
”パシッ”
「あ、たえちゃんが手で」
「よし、でかしたたえ。
今処分してやるから、あたしによこせ」
「あ゛ー」
”にぎ”
「ば、ばっかそんなもん食おうとすんじゃねえ。
ほ、ほらこっちによこせ」
「う゛!」
「う゛じゃねえって、よこせ」
”ドタバタ、ドタバタ”
「ミカさん大丈夫と?」
「う~、はっ」
「あ、気がついた」
「ほらミカ、お水。
しっかりしなさい」
”ゴクゴク”
「ぷはぁ~、生き返った。
ありがと愛ちゃん。
あ、さくらちゃん、G、Gは?」
「サキちゃんが処分してくれたけん、もう大丈夫」
「ふぅ~よかった」
「ふふ、やっぱりミカさんも怖かったけん」
「・・・・・・で、ミカ今日はどうだったの?」
「え、あ、うん、ごめん今日もお仕事駄目だった」
「はぁ、また今日も駄目だったのか!
お前気合がたんねぇんじゃねえのか、気合が」
「気合、めいっぱい入れてるつもりだけどなぁ~」
「で、明日はどうしょると」
「あ、うん、明日は唐津商工会さんにアポとってあるから」
「よしわかった。
明日はあたしも行く。
お前に本物の気合ってもん見せてやる」
「気合だけでどうにかなるものじゃないでしょ。
ただお仕事くださいだけじゃ通じないんだから。
お仕事もらうにしてもいろいろ手順とかがあって」
「そっか。
じゃ愛、お前も一緒に来てくれ。
あ、それと純子お前もな。
気合じゃぜってぇ負けねえけど、そういった芸能界のしきたりというか
ルールっていうもの、あたしじゃわからねえからよ」
「はぁ~、まあ確かにね。
芸能界の経験のないミカには難しいかも」
「サキちゃん、愛ちゃん♡」
「純子、お前もいいよな」
「お断りします」
「はぁ!」
「それはミカさんのお仕事かと。
私達が安易に首を突っ込むものではありません。
ミカさんにもマネージャーとしてのプライドがあるはずです」
「いや、だ、だがよ」
「お手伝いすることは簡単です。
ですが、それはミカさんに失礼というものではありませんか?
ミカさんがそのような甘えた考えを持っているはずがありません。
・・・ですよねミカさん」
”ジロ”
「・・・・・・」
「・・・・・・それとも、あなたのマネージャーになるという思いは、
その程度のものだったのでしょうか」
「・・・・・・」
”ドン!”
「そんな中途半端な思いでマネージャーをやられてはこっちが迷惑です」
”スタスタスタ”
「お、おい純子」
”ガチャ”
「ちょ、ちょっと待てって」
”バタン!”
「お、おい」
「待ってサキちゃん!
純子ちゃんの言う通りだよ。
わたし、もう少し頑張ってみる」
「しかしよ」
「大丈夫大丈夫!
明日は今まで以上に、もっとめいっぱい気合入れていくから」
「そ、そうか」
「うん。
じゃ、明日に備えて先に水浴びしてくるね」
・
・
・
”ガチャ”
「ふぅ~、いい風呂じゃった」
「・・・・・・」
「うぉ!
な、なんじゃい、いきなりドアの外に立ってるんじゃないわい。
びっくりして心臓止まるとことだったじゃろうが、この馬鹿ゾンビィ」
「・・・・・・」
「で、なんだ、何か用か?」
「あ、あの」
ーーーーーーーー
「行ってきます」
”トボトボトボ”
「ミカさん」
「さくら、大丈夫かよあいつ。
全然気合はいっちょらん」
「愛ちゃんやっぱりわたし達も 」
「いまはミカを信じましょう。
さぁ、私達はレッスンを 」
”ガチャ”
「お前ら全員いるか」
「あ、幸太郎さんお早うございます」
「ミカ以外は全員いるけど」
「グラサン、何か用か?
あたしら今からレッスンするところだ」
「お前らは今からプロモーションビデオの撮影を行う」
「プロモーションビデオ?」
「そうだ。
今日から放送されるドラ鳥のCMに続く、知名度アップ作戦の第2弾じゃい。
プロモーションビデオをとって、YouTubeやニコニコとか
いろんな投稿サイトにアップするんじゃい。
わかったらさっさと準備しろ」
「あ、幸太郎さん。
準備って言っても、ミカさんお仕事行かれたけん、身体のメイクが」
「心配ない、俺がやる」
「え?」
「顔も身体のメイクも俺がやる」
「はぁっ!
何言ってんだてめえ」
「巽やだ!」
「・・・・・・変態」
「え~い、うっさいんじゃ~い。
お前らが目覚めるまでは、ずっとず~と俺がお前らの身体のケアしてきたんじゃい。
包帯巻き直したり、身体拭いたり、他にもあんなこととかこんなこととかな。
お前らの裸なんか、身体の隅から隅まで見飽きてんじゃいこのボケー
いいからさっさと準備せんか~い」
「う、うそ」
「はぁー!
て、てめぇあたし達が眠っていることをいいことに、
変なことしてたんじゃねえだろうな」
「し、信じられない。
最低、絶対嫌だからね」
「・・・・・・」
「え~いうっさいんじゃ~い!
今更お前らのしょぼ~い包帯だらけの裸見たところで、
な~んも感じるかこの馬鹿ゾンビィ~」
「て、てめぇ!」
”ギャーギャー、ワイワイ”
「・・・・・・隅から隅まで見られた」
「リリィはんどうかしたでありんすか?
なんや顔色悪うおますけど」
「あ、ううん、なんでもないよ。
それにゾンビィだもん、顔色は初めから」
「そうでありんすか?
ん、純子はん?」
”ツカツカツカ”
「メイク、お願いします」
「お、おい純子」
「純子ちゃん」
「純子、あんた何言ってんの」
「私は、アイドルとして自分のやるべきことをやるだけです」
”ぬぎぬぎ”
「お、おい」
”バサッ”
「これでよろしいでしょうか」
「ああ」
「ちっ。
グラサン、変なとこ触ったらぶっ殺すぞ!」
・
・
・
”ツカツカツカ”
「すみません、お待たせしました」
「あ、いえ。
お忙しいところお時間頂きありがとうございます。
フランシュシュのマネージャーやってます、ローレ・・・・・・
ただの!
ただのミカです」
「多田野さん?
よろしくお願いします」
「は、はい、宜しくお願いします」
「さ、どうぞ座ってください。
お話、伺いましょうか」
・
・
・
「うううううう」
「なんでぇ、泣くぐらいだったらやめときゃよかったじゃねえか。
まったく」
「サキちゃん!
ほら、純子ちゃんもう泣かんと」
「す、すみません。
でも、でも、ううううううう」
「お前らなにしてんじゃ~い。
さっさと準備せんかい」
・
・
・
”トントントン”
「んー 」
「え、えっと、お願いします。
絶対いいステージ見せてみせます」
「熱意はわかるんだけどね。
ね、写真だけじゃなくて、なにか動画とかないの?
ほらさっき言ってた佐賀城でのライブのやつとか、レッスンの風景でも
いいんだけど」
「え、えっと・・・動画の方は・・・ちょっと」
「ふむ、写真だけじゃねえ」
「・・・・・・」
ゲリラライブの時の動画は撮ったけど、あれはとても見せられたものじゃない。
佐賀城や嬉野の時はステージ見られなかったし。
レッスン風景何て・・・・・・みんなゾンビィだもんな。
・・・・・・仕方ない。
土下座、もうここはやっぱり土下座しかない
今のわたしにできることはそれぐらいしか・・・・・・
よし! 見せてやる、一世一代の土下座ってやつを。
”ガタ”
「あ、あの 」
”ワイワイ、ガヤガヤ”
「ん、なにやってんだあんなところで」
「え?」
「ほらあれ、外の駐車場のところ」
駐車場?
「あっ!」
「えー、あたし達フランシュシュって言います。
今日はめいっぱい頑張るんでよろしく」
「フラン・・・ね、あれ君のグループじゃない?」
「え、あ、はい」
「ミュージックスタート!」
「「目覚RETURNER、願えばいいんだ♬」」
「・・・・・・」
「あ、あの~」
「ね、あれ許可を得てやってるの?
今日、駐車場でなんかやるって聞いてないんだけど」
「あ、いえ、多分許可は 」
「だよね。
許可得てないのにあんなことやっていいと思ってるの?
社会のルール、守ってないよね」
げ、や、やばい。
やっぱり怒られた。
これじゃ仕事もらえないじゃんか。
もう、何やってんだみんな!
”ガタン”
「す、すみません。
あ、あの、すぐ止めさせてきます」
”にぎ”
「へ、あ、あの~、なんで手を 」
「もう少しこのままで」
「え?
あ、はぁ」
「「刹那のソウルにCUT IN♬」」
「はぁ、はぁ、以上、フランシュシュでしたー」
“ダダダダ”
「こらー、お前ら駐車場で何撮影してんだー!」
「撤収、撤収じゃ~い」
”ダー”
「ま、待てー」
”バタン”
「出発じゃ~い」
”ブロロロロ~ン”
「・・・・・・」
「あ、あの~、ほんとにすみません、すみません」
”ぺこぺこ”
「・・・・・・ぷっ! あははははは。
はぁ~、おもしろかった」
「え、おもしろ・・・かった?」
「あ、ごめんごめん。
こんなに笑った久しぶりかな。
・・・・・・ふぅ~
あのね、今全国の商店街はどこもピンチなんだ。
この佐賀も例外ではない。
客足が遠のき、いたるところシャッターが締まってる店がある。
それが商店街の雰囲気をさらに悪くして、結果ますます客足が遠のいている。
商店街は負のスパイラルに陥っているんだ。
・・・・・・もう、商店街なんていらないのかもしれない」
「そ、そんなことないです!
わたし、商店街で買い物しますし、お店の人との会話も楽しいし。
それに・・・・・・いつも負けてくれるし。
わたしは商店街大好きです」
「ありがとう。
この閉塞感に覆われている商店街を救えるのは、あの娘達のような
パワーかもしれないな。
ルールとか常識とか、今までと同じ型通りのやり方に拘っていたら救えないんじゃない
だろうか。
・・・・・・もしかして、私はどこかでこういうのを探していたのかもしれない。
ね、君、もう少し話聞かせてもらっていいかな」
「え、あ、はい。
こちらこそお願いします
あ、でもその前に」
「その前に?」
「あ、あの、そろそろ手を離してもらえると~
さっきからギュって」
「え、あっ!
ご、ごめん」
・
・
・
”ピンポ~ン”
「チース、佐賀運送です。
お届け物を 」
”バタン!”
「はい、お待ちしてました!」
「うわっ、びっくりしたー
えっと、乾さんでよろしかったですね。
すみません、この受け取りにサインをお願いします」
「あ、はい」
”カキカキ"
「え、巽?
あ、あの~ここは乾さんのお宅じゃ」
「え、あ、す、すみません、間違えました」
”カキカキ”
「どうぞ」
「あ、はい。
それじゃ荷物はこちらに置けばよろしいですか?」
「あ、はい」
”ドサ”
「ご苦労様でした」
「お~い、その荷物、全部こっちに持ってきてくれ」
「「うっす」」
”ドサ、ドサ、ドサ”
「え?
あ、あの段ボールは一つじゃ」
”ドサ、ドサ”
「あ、あの~」
「何でしょう?」
「あ、いえ、なんでも・・・・・・」
・
・
・
”タッタッタッ”
やった、やった♬
初めてお仕事もらえた。
ギャラは少ないかもしれないけど、商店街の夏フェスすごく盛り上げて、
わたし達の力で商店街を救うんだ。
そんでそれをきっかけにフランシュシュも!
よ、よし頑張るぞ。
さ、早くみんなにこのことご報告ご報告っと
「ルンルンルン♬
たっだいま~ロメロ~
相変わらず、ぶ・さ・い・く♡」
「ウー、ワンワン!」
「へへ、ごめんごめん。
あとでゲソ持ってきてあげるね」
さてっと。
ん?
あ、あの後ろ姿は巽さん?
倉庫の前で何やってんだ?
”テッテッテッ”
「巽さん?
こんなところでなにを・・・・・・
げ、何この段ボールの山!」
”ぎゅ”
「ん、ん~」
”ジタバタ、ジタバタ”
「し、静かにしろ。
大声出すんじゃない。
い、いいか騒ぐんじゃないぞ。
わかったか」
”こくこく”
「・・・・・・ふぅ」
”ぱっ”
「ぷはぁー
いきなりなにすんだ!
口塞がれて死ぬかと思ったじゃんか。
・・・・・・で、どうしたのこの段ボールの山。
なにが入ってるの?」
”パサ”
「このTシャツじゃい」
げ、な、なに巽さんの着てるTシャツ。
なんかスーツ広げて、自慢げに見せびらかせてるんだけどさ、
すごくダサ!
白地になんか虹が描かれていて、
んで、フランシュシュってロゴ・・・・・・
「ぷ、ぶはははぁ!
なにこのクズみたいなデザイン。
だっさ、ちょ~だっさ」
「・・・・・・」
「それと巽さん、Tシャツ似合わねぇ~
お、おかしい、おかしくて死にそう、死んじゃう、死ぬ~」
「え~い、うっさいんじゃい!
死ぬ死ぬって、お前はもう死んでるんじゃい。
ふん! もうお前は絶対メイクしてやらんからな!
一生そのままゾンビィ顔でいろ、このボケー」
「えっ!
冗談だって冗談。
や、やだなぁ~、真に受けちゃって。
いや~そのTシャツ、よく見るとなんか味わいがあってすごくいい。
うんいいなぁ~このデザイン。
それに巽さん、Tシャツ似合ってる。
かっこいい!
うん、まさに馬子にも衣裳!」
「ん、そうじゃろそうじゃろ・・・・・・ってもう遅いんじゃい!
それに馬子にも衣裳ってなんじゃい!」
”ぷぃ”
「ひぇ~、メイク、メイクだけはお願いします。
ほ、ほらゾンビィの顔じゃマネージャーのお仕事でないから」
「ふん!
・・・・・・仕方ない。
どうしてもメイクしてほしいと言うのなら」
「言うなら?」
ーーーーーーーー
”キキキキー”
「会場に着いたぞ。
俺は車を停めてくるから、お前達はさっさとこのTシャツに着替えて
受付してくるんだ」
「げ、やっぱりそのTシャツ着るのか」
「リリィやだ、そんなだっさいの」
「え~い、うっさいんじゃい!
お前らここに何しに来たんじゃい。
遊びに来たわけじゃない、知名度アップのお仕事のためじゃろがい!
お前らプロじゃろ。
ならばプロらしくさっさと仕事せんかい。
・・・・・・なぁ純子」
「・・・・・・わかりました」
”ガタン”
「さ、いきましょうお仕事です」
「あ、待って純子ちゃん」
”スタスタスタ”
「ちっ、お前ら行くぞ」
”ゾロゾロゾロ”
「ね、純子ちゃん。
幸太郎さんと何かあったと?」
「いえなにも。
巽さんの言う通り、これはお仕事です。
私達はプロのアイドルとして私達のやるべきことをやるだけです」
「純子ちゃん」
「さ、行きましょう」
「う、うん」
”スタスタスタ”
「なぁさくら、そういえばミカどうしたんだ?」
「え、あー、車の中にはおらんやったような。
確かメイクの時にはいたはずなんだけど」
「もしかして置いてきたんじゃねえのか?
あいつだまっているといるのかいねえのかわからねえからな。
この前もよ、突然暗闇から 」
”ワイワイ、ガヤガヤ”
「ね、さくら。
私達の出場する種目って」
「あ、えっと確かガタチャリとガターザンやったとよ」
「ガタチャリって干潟の上に置かれた板の上を自転車で走り抜けるやつよね。
昨日映像見たからわかるけど、ガターザンっていうのは?」
「えっとガターザンっていうのはクレーンから下がっているロープを使って、
ターザンみたいに干潟にジャンプするとよ。
そん時の距離とパフォーマンスの得点で順位を競うと」
「パフォーマンス?
さくらはん、パフォーマンスってなんでありんすか?」
「あ、えっと演技というか芸というか」
「芸?
芸ならわっちに任せておくんなんし」
・
・
・
う、うれねぇ~
はぁ~、どうすんだこれ。
それに巽さん、露店販売の許可とってあるって言ったけど、
指定された場所ってなんか他の露店からからすごく離れているんだけど。
そのせいでここまで人流れてこないし。
”ガヤガヤ”
あっちの方は賑やかだなぁ~
えっと、たこ焼きに唐揚げ、それに焼きそば?
は~いい匂い。
風に乗ってソースの焦げた美味しそうな匂いがここまで流れてくる。
”ぎゅるるるる”
は、腹減った~
今日は先乗りだったからご飯食べてないもんなぁ。
うううううう、でもお金持ってないし・・・・・・お金。
そっだ、頑張ってなんとしてもこのTシャツ売らないといけないんだ。
じゃないと、わたし達非常にまずい。
ーーーー昨晩 倉庫前ーーーー
『え、お金がない!』
『ああ、活動資金がとうとうマジやばくなった。
どれくらいやばいかと言うと、明日の食費もないぐらいだ』
『で、でもドラ鳥のCMのギャラが確か入ったんじゃ』
『あれでこのTシャツ作ったんじゃい』
『え、えっと~、作ったってギャラ全部?』
『・・・・・・ぜ、全部じゃい』
『こ、こ、このおバカ!』
『発注数の入力間違ったんじゃい。
し、仕方ないじゃろがい、単位の入力がわかりにくかったんじゃい。
だからちょこっと間違えて』
『でもどうすんのさ。
たえちゃんなんて食事与えないと、手に負えないくらい暴れるんだからね』
『し、心配するな、対策はある』
『対策?』
『明日のガタリンピックでこのTシャツを売るんじゃい。
すでに販売の許可と露店の手配は済んでいる』
『・・・・・・誰が売るの?』
『お前じゃい』
『やっぱりー!
無理、絶対無理だって、こんなゴミみたいな 』
『メイク』
『・・・・・・う~
で、でも誰がこんなTシャツ買うのさ!』
『お前は本当にこのデザインの奥深い味わいがわからんのか―い。
この馬鹿ゾンビィが。
まぁいい、ガタリンピックの参加者は泥だらけになるんだ。
絶対、着替え用に売れるはずだ。
グダグダ言わずに売ってこい』
ーーーー現在ーーーー
・・・・・・って、昨日巽さん言ったけど、みんな着替え持ってきてるし。
そんなのあったりまえだよね。
はぁ~あ、でもどうしょう。
これ売らないと食費も無いんだよな~
「はぁ~」
え~い、くよくよ考えてても仕方ない。
ここは死んだ気になって・・・・・・ってもう死んでんだっけ。
え、え~い!
「さぁいらっしゃい、いらっしゃい!
ドラ鳥のCMで有名なフランシュシュの公式Tシャツだよ。
今からど~んとバズること間違いなし!
そのTシャツが、今日限定でたったの1,000円!
さぁ買った買った・・・・・・お願い買ってぇ~」
・
・
・
「なっ!
こんなところを自転車で走るの?
それに板の上まで泥が盛られてるじゃない」
「やっぱり映像で観るのと実際とは違いますね」
「なんだ愛、ビビったのか?
まぁ、板から落ちたら泥の中にダイブだからな。
ぐしゃーって」
「ビ、ビビッてなんかないわよ。
やってやろうじゃない」
「上等!
おい、お前らいいか、ここまできたら死ぬ気で頑張って、
ぜってぇ表彰台に立ってフランシュシュアピールすっぞ!」
「「・・・・・・」」
「アピールすっぞ」
「「・・・・・・」」
「み、みんな頑張ろう、ね、ね」
「「・・・・・・」」
「さぁ始まりましたガタリンピック名物のガタチャリ。
この細い板の道を自転車で走りきるというものです」
「は~い、それではまずデモンストレーションとして
佐賀警察の方に走ってもらおうと思いま~す。
では意気込みを」
「じゃまぁ~今日は日頃の平和を 」
「はい、それでは早速スタートしてもらいましょう。
位置についてよ~い」
「え、あ、あのまだ 」
”パ~ン”
「ふんふんふん♬」
”カタカタカタ”
「へっ、お、お、お、おおおおお、おわ、落ちる!」
”ぐしゃ~”
「は~い、こんな感じになりま~す。
では皆さん頑張ってくださ~い」
「あははは、泥だらけじゃねえか」
「それでは協議を始めま~す。
第一レースの出場者の方、スタート位置までお越しください」
「あ、サキちゃん頑張ってね」
「任しとけ、二輪じゃ負けんばい。
見てろ、ぶっちぎって優勝して表彰台決めてきてやる」
”テッテッテッテッ”
・
「それでは第一レースいってみましょう」
「ぶっちぎってやる!」
「サキちゃ~ん頑張れ~」
「位置についてよ~い」
”パ~ン”
「しゃー!」
”シャー、シャー”
「このままぶっちぎって 」
”スルッ”
「お、おわぁー」
”ぐしゃー”
「・・・・・・サキちゃん」
「・・・・・・面目ねえ」
「それでは続いて第二レースいってみましょう」
「なによ、大口叩いておいて全然だめじゃない。
見てなさい」
「愛ちゃん頑張って~」
「位置についてよ~い 」
”パ~ン”
「えい!」
”ギ~コ、ギ~コ”
「これならいけ 」
”グラ”
「え、う、うわぁ」
”ぐしゃ”
「・・・・・・愛ちゃん」
・
・
・
”キョロキョロ”
「あの唐揚げ、う、うまそ~
あ、こっちのタコ焼きも」
やばいヨダレが止まらん。
どれ他にはどんな食べ物が。
”ビクッ!”
げ、な、なにこれ!
なんてグロテスクな顔してんだこの干物?
エイリアンみたいに歯なんか剥き出しにして、こっち睨んでんだけど。
んっと、わらすぼ?
わらすぼっていうのこの干物。
へぇ~佐賀の名物なんだ。
美味しいのかなぁ。
”ごく”
はっ!
わたしなにしてんだ。
つい匂いに誘われて来ちゃった。
やばいやばい、早くお店に戻ってTシャツ売らないと。
”ちら”
はぁ~、でも腹減った。
”トボトボトボ”
・
・
・
「ガタチャリ、結局、純子ちゃんもゆうぎりさんもリリィちゃんも駄目やった。
ここは残ったわたしががばい頑張ってどぎゃんかせんと」
「それでは次のレースにいきたいと思いま~す。
位置について、よ~い 」
”パ~ン”
「うぉぉぉぉ」
”シャー”
「さくらちゃん、はや~い」
「お、これいけるんじゃねえか。
さくら、そのまま行けー」
”シャー”
「よし、いける。
あ、でも少し速すぎるかも。
ちょっとブレーキ。
へ、な、なんでこの自転車ブレーキついとらんとー」
”ぐら、ぐらぐら”
「う、うわー」
”ぐしゃ”
「「・・・・・・」」
「ま、まぁ予想してたけどな。
あいつどんくさいから」
「そうね」
・
・
・
”スタスタスタ”
「結構、人来てんのなガタリンピック。
お、あれ外人の参加者もいるじゃねえか」
「そ、そ、そうね」
”そわそわ”
「ん、どうした雪ノ下、さっきからなんか顔色悪いぞ」
「比企谷君、あ、あの私ちょっと」
”ちら”
「ん、あ、ああ花摘みか、花摘みだろ。
ここで待ってるから遠慮なく花摘んできてくれ」
「馬鹿!」
”タッタッタッ”
「ふぅ~
お、焼きそばっか。
腹も減ったし、雪ノ下が花摘んでる間に一つ」
”スタ、スタスタ”
「へ?
おわっ!
な、なんだこのグロテスクなものは。
び、びっくりした~
えっとなになに?
佐賀名物わらすぼの干物?
これって食い物なのか?」
・
・
・
「切ないでありんすなぁ」
「「・・・・・・」」
「次の方お名前を」
「あ、巽幸太郎です」
「「えっ」」
「幸太郎さん。
幸太郎さんもエントリーしてたんだ」
「なんであいつはTシャツ着てないわけ」
「それでは意気込みを」
「やったー、フランシュシュのアピールチャンス!」
「あ、頑張ります」
「他には」
「あ、あ、いえ」
「「・・・・・・」」
「なんかせ!
あの野郎、ぜってぇ泥まみれになるけん笑ってやろうぜ」
「それでは、位置についてよ~い」
”ぱ~ん”
「「・・・・・・」」
”スイスイ、スイスイ”
「「・・・・・・」」
”ちりんちりん”
「ひゃっほー♬」
「「おぉー」」
”パチパチパチ”
「「・・・・・・」」
「落ちませんでしたね、巽さん」
「しかも一着」
「チッ!」
・
・
・
「さぁー続きまして、こちらの会場で皆さんに挑戦していただく競技はガターザンです。
クレーンから下がっているロープを使って、干潟へジャンプする競技です」
「それでは、またまたデモンストレーションとして佐賀警察の方に飛んでいただきま~す。
お願いしま~す」
「よしやるぞ~
見てろよ有明か~い」
”ヒュ~ン”
「あ~ちゃ。
落ちる~」
”びちゃ~ん”
「「わっはははは」」
「こういう風に距離+飛び込むときのパフォーマンスで競ってもらいま~す。
それでは早速、最初の方お願いしま~す」
・
・
・
「では次の方お願いしま~す」
「サキちゃん頑張って」
「今度こそあたしに任せろ」
”スタスタスタ”
「それではどうぞ」
「よーし、ぜってぇテッペンとってやる。
うりゃー!」
”ビューン”
「おお、これはすごく高く飛んだぞー
さぁ、どこまで飛距離を延ばす・・・・・・・あれ?」
「う、うぇ、おわぁ~」
”びしゃ~ん”
「落ちたー、ほぼ真下に落ちましたー」
「・・・前に飛べよ」
「テッペンって高く飛んでどうするの」
「・・・・・・サキちゃん」
・
・
・
”ぎゅるるる、ぐぅぅぅぅ”
は、腹へった~
でもお金ないしな~
・・・・・・Tシャツも売れたら、なんか買おうと思ったけど、
お客さん一人も来ないし。
はぁ~
”どさっ”
「もうやだ、なにか食いたい~」
”ちょんちょん”
「ん?」
「う゛ー」
「え、たえちゃん。
なんでたえちゃんここに?
確か今日はみんなと一緒に競技に参加してるはずじゃ?」
”ひょい”
「あ゛、あ゛~」
「え、たこ焼き?
くれるの?
ありがとたえちゃん」
”ぱく”
「ん~おいしい。
表面がパリパリで、中はフワって感じで。
それにこの青海苔の香りが。
う~ん、最高!
・・・・・・って、でもたえちゃんこれどうしたの?」
「あの~」
「へ?」
「お代よろしいでしょうか?
さっきこの人が食べた分も合わせて」
「へ? へぇー!
た、た、たえちゃん!」
げ、い、いねぇ。
お、お代、お代っていったって、わたしお金なんて・・・・・・
ど、どうしょう。
「あ、あの~」
「・・・・・・は、働かせてください」
・
・
・
「面目ねぇ」
「・・・・・・」
「愛ちゃん、サキちゃん」
「二人とも全然だね」
「んだと、ちんちく!」
「まぁまぁ、二人とも喧嘩はおやめなんし。
ここはわっちに任せておくんなんし」
「ゆうぎりさん。
・・・・・・でも、ゆうぎりさんこんなのやったことあると?」
「芸事なら、少しは自信があるでありんす。
まぁ見てておくれなし」
「う、うん」
”スタスタスタ”
・
・
・
「はい、それでは次の方お願いしま~す」
「あ、ほら次ゆうぎりさん」
「いっけぇーゆうぎり姉さんー」
「それではどうぞ」
”ヒュ~”
「はい!」
「「おおー!」」
”パチパチパチ”
「はい!」
「「お~」」
”パチパチパチ”
「はい!」
「「うぉー」」
”パチパチパチ”
「す、すごいゆうぎりさん。
何かポーズをとる度に歓声が。
これだけパフォーマンスがいいのなら、
あとは普通に飛ぶだけでもきっと表彰台にいけるんじゃ。
ゆうぎりさん頑張って!」
「はい!」
”ちょこん”
「え」
「え」
「「えー」」
”ズデーン”
「は、はいじゃない。
ゆうぎりさん、どがんしてスタート台に戻ってくっと!
ほ、ほら飛距離無しだから点数が」
「「・・・・・・はぁ~」」
・
・
・
「ふぅ」
「ほらそこ!
お前手が止まってんぞ!
しっかり焼け」
「う、うっす」
くそ~あの親父め。
金持ってないってわかったら、いきなり態度変えてこき使いやがって。
・・・・・・で、でもこのたこ焼き。
”ゴク”
う、うまそ~
”キョロキョロ”
「・・・・・・」
”パク”
「あ、またつまみ食いしやがった!」
「ひゅ、ひゅいましぇん」
・
・
・
「それじゃ次の方どうぞ」
「は~い」
”ぐるぐる、ぐるぐる”
「えっと~リリィちゃん、ロープを身体に巻いてなにしとっかな?」
「なにやってんだあいつ」
「よしっと。
いっくよ~、マジカルシューティングスター」
”ビュ~ン”
「え、あのまま飛んだ?」
”くるくるくる
「「お、おおー!」」
「すごか、駒みたいに身体を回転してっと!」
「これ、飛距離も結構いけるんじゃねえか。
よし、いけー、ちんちく!」
”びっしゃ~ん”
「あへ、あへあへあへあへ」
「これは距離も稼いだぞー
点数は!
・・・・・・暫定4位!
惜しくも表彰台には届かなかった~」
「「あ、あ~」」
「4、4位かちくしょ~
さくら、後はお前しかいねえ。
頼むぞ」
「あ、う、うん」
”スタ、スタスタ”
・
・
・
「へぇ~、姉ちゃんフランシュシュのマネージャーやっとるのか」
「はい。
でもなかなかお仕事頂けなくて。
だから活動資金稼ぐために、あの露店を」
「ふ~ん
あ、そうだ、こんどショッピングセンターのイベントに呼べないか聞いてみてやる」
「ほんとですか」
「ああ、担当の奴とはちょっと知り合いだからな」
「あ、ありがとうございます」
「っで、フランシュシュって何?」
「えっ」
「ん?」
・
・
・
「それでは、次の方どうぞ~」
”ヒュ~”
「いい風が吹いてる。
この風に乗ればきっと・・・・・・
うん、信じれば飛べる。
絶対、絶対優勝すっとやけん」
「飛べ―さくらー!」
「えい!」
”ビュン”
「いける、このまま遠くに」
”スル”
「え、て、手がすべっ 」
”びしゃん!”
「ぐへぇ~」
「これは、は、腹からいった―」
「いたそ」
「得点は・・・・・・1点。
今大会最低記録です」
「まぁ、やっぱどんくさそうやもんな」
「「・・・・・・」」
・
・
・
”わいわい、がやがや”
「あったまからいった―
だがこれはかなり飛距離が出たぞ~」
「「おおー」」
”キョロキョロ”
「・・・・・・はぁ~」
「・・・・・・」
「はい、で次の方お願いしま~す」
”キョロキョロ、キョロキョロ”
「・・・・・・ふぅ~、そうあまくはないか」
「・・・・・・どうかしたかしら比企谷君。
さっきからため息ばかりしているようだけれど」
「あ、い、いやなんでもない」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
”キョロキョロ”
「・・・・・・ね、比企谷君。
少しのどが渇いたから飲み物買ってきてくれるかしら」
「飲み物?
確か露店でなにか売ってたが、それでいいのなら・・・・・・
って、いや待て!
そんなの普通は上司が部下に奢るものだろう。
なんで部下の俺が上司のお前に奢らなならん」
「いいから!」
「あ、い、いや、だが」
「いいからさっさと行きなさい」
「お、横暴だ」
”スクッ”
「ひ、比企谷君」
「ん?」
「・・・・・・でいいから」
「は?」
「ゆ、ゆっくりでいいから、さっさと行きなさい!」
「えっ、・・・・・・あ、ああ、そういう。
すまない」
”スタ、スタスタ、スタタタタ”
「・・・・・・馬鹿」
・
・
・
「・・・・・・ガターザンでもフランシュシュのアピールできんやった。
結局、泥だらけになっただけ」
「まて、まだ手がある」
「え、でもサキちゃん、エントリーしてた種目はもう 」
「25m自由ガタだ」
「25m自由ガタ?」
「ああ、この競技は確か当日の参加枠があったはずだ。
今はそれに賭けるしかねえ。
いくぞ」
・
・
・
「ご苦労様、すごく助かったよ。
たこ焼きを焼くの上手いんだな。
おかげさまで、お客さんの評判もよくて助かったよ。
これ持っていきな」
「え、いいんですかこんなにいっぱい。
さっきから食べたいの我慢して焼いてたんです」
「嘘つけ。
味見って、ちょいちょいつまみ食いしてたじゃねえか」
「えへへへ、ありがとうございます。
それじゃ」
「おう、またな」
”スタスタスタ”
へへ、やったやった、たこ焼きもらった。
これタコが結構新鮮でさ、美味しかったんだよね
どれどれ早速っと。
”ぱく、もぐもぐ”
「うま~♡」
”スタスタ”
へへ、幸せ~
・・・・・・って、あ、そうだこんなことしている場合じゃない。
早くTシャツ売らないとお金が。
「あ゛~、あ゛~」
ん、この声どこかで。
「い゛ー!」
たえちゃん。
たえちゃん、またなにか食べ物狙ってる!
「た、たえちゃん!」
「うがー」
”ぐぃ”
「いいからちょっとこっち来て」
「うがうが」
”ジタバタ、ジタバタ”
「こ、これ、このたこ焼きあげるから暴れない。
ほらこっち」
「うがうが」
”もぐもぐ”
ふぅ、何とか大人しくなった。
もう、みんな何でたえちゃん野放しにしてんだ。
これじゃTシャツ売るのに集中できないよ。
どうしょう、目を離すときっとまた何か食べようとするはずだし。
・・・・・・はぁ~仕方ない。
うううう、まだ一個しか食べてないのに。
「たえちゃん!」
「うが?」
「このたこ焼き全部上げるから、ここに座ってこのTシャツ見てて。
いい、このTシャツが売れないと、ご飯食べられなくなるんだからね。
わかった?」
「う゛がう゛が」
”こくこく”
よしっと、それじゃ。
”ダー”
・
・
・
「すみません、たこ焼き一つ頂けますか」
「あいよ、500円だよ」
「あ、はい。
お代、ここ置いておきます」
「へいお待ち」
「あ、あのすみません、この写真の人見たことないですか?」
「ん、どれどれ。
うん? これあのTシャツ売ってるねぇちゃんに似てるんじゃねえか?」
「ほ、本当ですか。
えっとその人はどこに?」
・
・
・
「いいか、これが最後のチャンスだ。
ぜってぇ優勝して表彰台でフランシュシュアピールすっぞ」
「でもサキちゃん、表彰台に立ってもこのTシャツじゃ」
「泥だらけだもんね」
「仕方ねえだろう。
汚れ落とそうと思って水浴びしたら、メイク全部とれちまったんだからよ。
泥だらけのままでいねえと・・・・・・」
「「んー」」
「あー! みんなここにいた!
ね、さくらちゃん、たえちゃんをしっかり管理してくれないと 」
「あ、ミカさんいた!
しかも同じフランシュシュのTシャツ着てっと」
「おおー
ミカ、お前いいところに来た」
「はい?」
「今からお前もこの25m自由ガタに出ろ」
「25m自由ガタ?」
「おう、この25mの干潟を突っ切るんだ。
それでお前が1位になって表彰台でフランシュシュをアピールすんだ。
幸い、お前のTシャツは汚れてねえからな。
そのままTシャツを汚さずあの表彰台に立て」
「やだ!
こんな泥の中突っ切たら絶対泥だらけになるじゃんか。
泥だらけなんて、お・こ・と・わ・り」
「んだと!
てめぇガタリンピックは誰もが泥だらけになるのがいいんじゃねえか。
・・・まぁそのことは今はいい。
出ねえのなら、そのTシャツよこせ!」
”ぐぃ”
「あたしがこのTシャツ着て出る。
ほらさっさと脱げ!」
「げ、や、やめ、こんなとこじゃやだ。
それに包帯も一緒に引っ張ってるって。
そんな引っ張ったらほどけて、ポロリ、ポロリしちゃうから」
「ポロリするほど胸ねえじゃねえか。
いいからTシャツよこせ」
”ぐぃ~”
「や、やめて~
それに胸、胸あるもん。
す、すくなくとも愛ちゃんよりあるもんね!」
「はぁ!
な、なんでそこに私を出すのよ
それに・・・・・・私のほうがあるわよ」
「そんなことないもん、わたしの方があるもんね。
いつも身体のメイクしてるからわかるもん」
「はぁ!」
”ギャー、ギャー”
「お、おいお前ら、みっともねえぞ。
お前らの胸って似たり寄ったりだろうが。
どっちもどっち、そんなにたいした胸じゃ 」
「「は、はぁー!
あんたに言われたくないわよ」」
「んだと!」
”ざわざわ、ざわざわ”
「サキちゃんも愛ちゃんもミカさんも、そがん胸のことで喧嘩せんと。
ほら周りの人見てっとよ」
”ぷるんぷるん”
「「うっ!
さ、さくらは引っ込んでろ!! 」」
”ギロ”
「ひぃー」
「さくらちゃん大丈夫?」
”ぶるぶる、ぶるぶる”
「リ、リリィちゃん、みんな怖かったばい。
なんかいつもよりがばい怖かったとよ~」
「ち、なに食べてたらそんな乳牛みたいな胸になるのよ」
「にゅ、乳牛。
ひど!」
「あははは、ちげえねえ愛の言う通り乳牛だ乳牛。
・・・・・・ってそんなこと言ってる場合じゃねぇー!
いいかミカ、これは仕事だ。
このガタリンピックで、あたし達はまだなんもフランシュシュを
アピールできていねえ。
なんとしてもこの最後の競技で勝って、あの表彰台でフランシュシュを
アピールすんだ。
お前もあたし達のマネージャだろ、だったら協力しろ」
「・・・・・・マネージャー。
う、うんわかった。
で、でもさ 」
”わいわい、がやがや”
「こんなに参加者いるんだよ。
無理だよわたしが表彰台なんて。
それもこの干潟をTシャツ汚さずになんてさ」
「大丈夫だ。
あたしに策がある」
「策?」
「この競技で一番厄介なのは干潟でも他の参加者でもねぇ。
本当の敵は 」
”ビシッ!”
「あいつらだ。
あのコースの両脇に控える奴ら、あれが一番の敵だ」
「あれなにしてるの」
「あの腕の腕章を見ろ。
あいつらは、G・O・D・S」
「ゴ、ゴッズ?
神々って、何その物騒なの」
「Gatalympic Ooze Decoration Seekers!
ガタリンピックのスタッフの中でも、この25m自由ガタの出場者を泥で装飾する
ことに、己の全てのプライドをかけているやつらだ。
泥汚れのないままゴールさせるなんて、あいつらのプライドがぜってぇ許さねえ」
「迷惑!
すっごい迷惑、そんなもんにプライドかけんなー!」
「実際、このミッションの最大の障壁かもしれねえ」
「だ、だったらTシャツ汚さずにゴールするなんて絶対無理じゃんか。
ただでさえこの干潟だよ、足をとられて進みにくそうなのに」
「あたしらがあいつらの泥からミカのTシャツを守るんだ」
「で、でもどうやって」
「輪形陣でいく」
「り、りんけ・・・・・・じん?
なにそれ?
何かの新人類?
さくらちゃん知ってる?」
「し、知らんけん」
「はぁー!
お前ら、輪形陣もしらんとか。
いいか、こうだ」
”カキカキ”
「こうやってミカを中心に他の者で周りを囲むんだ。
そしてその身を盾にして、ミカを泥から守る」
「あ、あの~、守ってくれるのはありがたいんだけど、
あの泥の中をTシャツを汚さずに突っ切るのは・・・・・・
それも一位になって表彰台になんて、やっぱ無理!」
「心配するな。
お前はあたしがおぶってやる。
お前一人ぐらいなんでもねえ。
こんな距離ぐらいぶっ飛ばしてやる」
「へ、お、おんぶ?」
「そろそろ25m自由形の女子の部を始めま~す。
出場者の方はスタート地点にお集まりくださ~い」
「よし、みんな気合入れていくぞ」
「「おー」」
「・・・・・・おぉ」
・
・
・
”テッテッテッ”
「えっと、Tシャツ売ってる露店ってここだよな。
でも、なんでこの露店だけ他の店からこんなに離れてるんだ。
はっ、そ、そんなことより」
”キョロキョロ”
「い、いないか。
だがあのたこ焼き屋の人、ここの露店にいるって言ってたよな。
そうだ、さっきからずっとTシャツを凝視しているあの人に聞いてみるか」
”ジー”
「あ、あの~すみません」
”ジー”
「あ、あの」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・そ、そっだ、このTシャツを一つ頂けませんか?
お代はここに。
あの、それでこの写真の人を 」
「ウガッ!
ウガガガガガガガ、ウガー!」
「ひ、ひぃー」
”ダー”
・
・
・
”ビシャ!”
「きゃっ」
”ドバッ!”
「ひゃ~」
あ、ほら、えっとGODSさんだっけ?
あの人達が泥かけしてくれてるおかげで前の人達が足止め食ってる。
これなら何とか追いつけそう。
「チャンス! チャンスだよサキちゃん。
前の人たち足止め食って 」
「・・・・・・」
「サ、サキちゃん?」
「お、重い」
「重い言うな」
”ビシッ”
「ってなー、なにしやがんだおら!」
「ご、ごめん。
だって重いって言うから、つい条件反射で。
それより大丈夫?」
「くそ、思ったよりこの泥に足をとられて体力が削られる」
「サキちゃん」
「このままでは勝てねえ。
・・・・・・ミカ」
「うん?」
「あたしを踏み台にしていけ。
ゴールはもう目の前だ。
あたしを踏み台にすればお前ならゴールまで飛べるはずだ。
あの時、天井まで飛んだお前のジャンプ力を見せてみろ。
それで、なんとしても前にいるあいつらを抜いて表彰台に立つんだ」
「え、で、でもあの時は 」
「お、おい、あの姉ちゃんまだ泥かかってないぞ」
「あんなんでゴールされたら、俺達の恥だ」
ひぃ、見つかった。
GODSの人達、みんなこっち見てる。
「おりゃー、姉ちゃんこれでもくらえ~」
”びゅん”
「ひゃ」
”びしゃー”
「ぶはっ!」
「あ、さくらちゃん」
「構わんと行って。
それできっと表彰台を 」
”ぶしゃー”
「うぷっ」
”バタ”
「今だ、そりゃ~この泥を食らえ!」
「はっ!」
”びしゃ”
「あ、愛ちゃん」
「なにしてるの!
早く行きなさい」
「だ、だって」
「その通りです。
ミカさん、私達がカバー出来ている間に早く!」
”びしゃー”
「ぶへ」
「じゅ、純子ちゃん!」
「何しているんですか。
あなたは、あなたの今やるべきことをやりなさい!」
「う、うん、でも」
”びゅー”
「うぷっ」
”どさ”
「純子ちゃん」
「構うなミカ!
あいつらの死を無駄にするんじゃねえ」
「いや死んでねえし・・・・・・ゾンビィだし」
でもサキちゃんの言う通りだ
純子ちゃん・・・・・・うううん、みんなの想いを無駄にはできない。
”キッ!”
ゴールまではあと少し。
いける、いける、いける。
あの時の、あのGの時のジャンプ力を思い出せば。
わたしなら絶対にいける。
よし!
「サキちゃん背中ごめん」
”ぐっ!”
「うぷ!」
”ぐしゃ”
「うあああああああー!」
”びょーん”
わたしは飛ぶ!
仲間の背を踏み台に、あのゴールを目指して!
「お、おおー、仲間の背中を踏み台にして飛んだー
・・・・・・えっ」
”びしゃん”
「落・ち・た」
あ、あれ?
「「・・・・・・・」」
「お、おい」
「あ、い、いや~、サキちゃんお久しぶり」
「お久しぶりじゃねえ!
全然飛んでねえじゃねえか」
「あは、あはははは、お、おっかしいな~」
「おかしいなぁじゃねえ!」
「だ、だって、あんときはGが服の中に入ったからであって 」
”ぐぃ”
「あ、や、やめてサキちゃん。
な、なにを」
「うっせ、てめぇも泥だらけになれ」
”ぐしゃ”
「ぐへぇ~」
・
・
・
”トボトボトボ”
「・・・・・・」
「・・・・・・いなかったのね」
「・・・・・・ああ。
まぁ、佐賀に来た早々だ、そう簡単に見つけられるとは思っていない。
そんな展開、安物のラノベでも読んだことないからな」
「・・・・・・そう」
「まぁ、時間はかかるかもしれんが 」
「あ、すみませ~ん。
道、明けてもらっていいですか?
段ボールで前が見えにくくて」
「あらごめんなさい。
ほらもう少しこっちによりなさい」
「あ、ああ。
すみません」
「いえ、こっちこそです」
”ヨロヨロヨロ”
「うんしょ、うんしょっ」
「・・・・・・」
「あの人、あんなに段ボール持って大丈夫かしら?」
「・・・あ、ああ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「えっとなんの話だったっけ」
「・・・・・・時間」
「そうだった。
・・・・・・まぁ時間はある。
佐賀に来たんだ、地道に探してみるわ」
「そう」
”トボトボトボ”
「遅いんじゃい。
なにやってんじゃ~い!」
「仕方ないじゃんか!
段ボール3つも持ってるんだよ。
前も見え難いし」
「ったくしゃ~ねえな、ほら貸してみろミカ」
「えっ、美佳?」
”キョロキョロ”
「ど、どこだ」
「比企谷君あそこ、あの黒いワゴンのところ」
「黒いワゴン」
「ありがとサキちゃん♡」
「なにしてんじゃい、さっさと乗らんかい」
「あ、あれか!」
”ダー”
「いいかお前ら、帰ったら絶対車の掃除手伝うんだ。
わかったな。
まったく、そんな泥だらけで乗り込みやがってからに」
「しっかたねえだろうが。
水で泥汚れ落としてたら、メイク取れたんだからよ」
”ブロロロロ~ン”
「ま、待って・・・・・・
はぁはぁはぁ、美、美佳」
・
・
・
まったく、あんなに怒らなくてもいいじゃんか巽さん。
そりゃさ、結局Tシャツ一枚しか売れなかったけど仕方ないじゃんか。
でも明日からどうしょう。
”トボトボトボ”
とりあえずリビングで紅茶でも飲んでゆっくり考えよう。
「はぁ~」
”ガチャ”
「あっ」
「・・・・・・」
じゅ、純子ちゃん。
”キョロキョロ”
ふぇ~、他に誰もいない。
ど、どうしょう。
『死んでるかもしれないけど、それでも生きてる。
だからわたしも生きてるって感じたい!』
『純子ちゃんの馬鹿!』
あれ以来、純子ちゃんとまともに話しできてないしな~
なんか話し辛くて。
で、でもやっぱちゃんと言わないといけない。
じゃないと、ずっとこのまま・・・・・・
う、うん!
”スタスタスタ”
「あ、あのね、ありがと純子ちゃん!」
「何がでしょう」
「今日のこと。
ほら泥から庇ってくれたし。
あとそれと・・・・・・あのね巽さんから聞いた。
あのプロモーションビデオの撮影のこと。
純子ちゃんが巽さんにお願いしてくれたんだよね」
「・・・・・・ミカさん。
ミカさんはこの前、生きてるって感じたいと言われましたね」
「あ、う、うん。
あの時はごめん、わたしどうかしてた。
折角、純子ちゃんがわたしのこと思って言ってくれたのに」
「私達は一度死んだ身。
そんな私達が、それでも生きているって感じたいのなら、
今この時この瞬間を、プライドを持って全力で生きることではないかと。
生きてやったんだと胸を張ってと言えるぐらいに。
死んだ身でこういうのもなんですが、それが私達の生きてるって
証ではないでしょうか」
”だき”
「ミ、ミカさん?」
「・・・・・・ありがと純子ちゃん。
ほんと感謝してる」
「・・・・・・ミカさん」
「あのね、今度はわたしの番。
もし、わたしで何かできることがあったら言ってね」
「ミカさん。
・・・・・・では紅茶、お願いしていいですか?」
「あ、う、うん。
とびっきり美味しいの淹れるね」
「いえ、そうではなく。
また紅茶の淹れ方、教えてくれますか?」
「え、あ、うん♡
そんなのお安いごよ・・・・・・
あ、あの~、でも拘るのはほどほどに」
「いえ、きっちりと納得するまで教えて頂きます」
「きっちりと?」
「ええ、きっちりみっちりと」
「ふぇ~」
「うふふふふ」
「でへ、えへへへへへへ」
・
・
・
”スタスタスタ”
「えっと、確か連絡があったのはこの喫茶店だな。
しっかしガセネタばっかりだからな。
今度こそ何かいい情報だといいんだがな。
古怒田の野郎、まだかまだかってうるせえからな」
”カランカラン”
「いらっしゃいませ」
”キョロキョロ”
「えっと、確か一番奥のテーブルだったな。
ん、あれか」
”スタスタスタ”
「お待たせしました班目です。
怪奇情報の連絡をくれたのはあなたですね」
最後までありがとうございます。
早く更新しないとと思いながら、なかなか・・・・・・
最終話まで必ず投稿する予定です。
もし、また気が向かれたら、見に来ていただけるとありがたいです。
では、次話サガロック編、またお会いできましたらです。
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番外編 マッカン日記
一本目 ある台風の日に
この番外編は別の物語で投稿していたオリヒロと八幡の話になります。
その中から、今話は二人の出会い編。
すみません、ゾンビランドサガのメンバーは出てきません。
もしそれでもよろしければ、宜しくお願いいたします。
”ガタンガタン、ガタンガタン”
「ス~、ス~」
”ガタン!”
はっ! はっ?
”キョロキョロ”
やば、俺寝てたのか。
「ふぁ~あ」
”ガシガシ”
新幹線乗るまでは何とか起きていないとな。
えっと、こんな時はっと。
”カチャ”
やっぱりこれだな。
”ゴクゴクゴク”
「ふぅ~」
一口飲むごと、徹夜明けの疲れた脳みそにブドウ糖が染み渡り、
活性化される。
まさにマッカンこそは千葉県民のソウルドリンク。
元気つづきMAX!
「・・・・・・」
”ガタンガタン、ガタンガタン”
ご、ごほん。
さ、さてっと・・・嬉野だな。
一応、前回回りきれなかった観光名所の最も効率的な巡り方は調べた。
何とか昼前に佐賀に着けば、明日一日はゆっくり嬉野を回れるはずだ。
唯一、気がかりといえば。
”ビュ~”
・・・やっぱり結構、風強いな。
車窓から見える木々の枝はこれでもかっていうぐらい揺れてる。
そうなんだ、千葉では今の季節になると風が強く天気の変化が激しい。
今日も出がけの天気予報で低気圧がなんだかんだって言ってたな。
総武線、徐行運転にならなければいいんだが。
”ゴクゴク”
「ふぅ~」
だが以前なら風が強いとすぐ運休になったもんだ。
それと比べると強くなったもんだ。
まあ、当時は風に弱いのは総武線だけじゃなくて、
もし台風なんかが来ようものなら、
京葉線とか常磐線とかあまたの鉄道がマヒして、
千葉は陸の孤島と化してたからな。
台風の翌日なんか、台風の所為にして堂々と遅刻できたし。
俺自転車通学だったから本当は関係なかったのだが。
はは、あの当時がなつかしい。
・・・・・・台風っか。
”ガタンガタン、ガタンガタン”
・・・・・・そういえば、あいつと初めて出会ったのも台風の日だった。
”うとうと”
・・・もしあの日、台風が来てなかったら。
”こく、こく”
・・・もしあの時、廊下の窓が・・・開いて・・・なか・・・ったら。
”ガタンガタン、ガタンガタン”
・・・俺は・・・俺たち・・・は・・・
”ぐぅ~、ぐぅ~”
ーーーーーーーー
「起立! 礼!」
”ガタガタ”
お、終わった~
さ、今日はぐずぐずしてられない。
速攻で帰るんだ。
なにせ今日は待ちに待ったあのラノベの新刊発売日!
どれだけ今日という日を待ったことか。
前巻の発売から約1年。
な、長かった~
もうあの作家、書くのやめたんじゃないかって思っていたぐらいだ。
それに前巻のラストがラストだっただけに、どれだけ悶々とした日々を
過ごしてきたことか。
その苦しみからようやく今日解放される。
だから、何人たりとも今日の俺を止めることはできない、許さない!
よし、早速由比ヶ浜に部活をサボることを伝えて帰るとするか。
「由比ヶ 」
「比企谷、後から職員室に来たまえ。
いいな」
「へっ」
な、な、な、なんだと!
平塚先生、今何と。
「す、すみません、今日はアレがアレなもんで」
”ボキボキ”
「何か言ったかね」
「・・・・・・な、なんでもないっす」
ぐ、ぐ、ぐぞー!
お、横暴だ。
こ、こうなったら部活だけでもサボって。
「由比ヶ浜」
「あ、ヒッキー、あのね、今日部活来てくれるよね」
「え、あ、い、いや」
「来ない・・・の?」
え、な、なんでそんな目で。
そんなウルウルした目で見られたら・・・
”ガシガシ”
まぁ、確かに夏休みが明けてから奉仕部の雰囲気があれだからな。
・・・・・・被害者と、加害者か。
「ヒッキー」
「わ、わかった。
呼び出し終わってから行くから、少し遅くなるって雪ノ下に伝えておいてくれ」
「うん。
じゃあ、待ってるねヒッキー」
「お、おう」
”タッタッタッ”
はぁ~、仕方ない。
さてっと職員室行くか。
”スタスタスタ”
夏休み、林間学校からの帰り。
校門の前に止まった一台の黒塗りの車。
見間違えようのないエンブレム。
そう、間違いない。
高校入学式の日に俺はあの車にはねられた。
その結果、三週間の入院。
俺の高校ぼっちが決まった瞬間だ。
そしてその車は校門で雪ノ下を・・・・・・乗せて行った。
被害者と加害者。
・・・わかってはいるんだ。
彼女には何の非もない。
当然彼女が運転していたわけでないし、十分な謝罪も受けたそうだ・・・親が。
俺は入院してて知らんけど。
それに轢かれそうになった由比ヶ浜の犬を助けるためとはいえ、
いきなり飛び出した俺にも非がある。
だからあの車が彼女の家の車だったとしてもそれは終わったこと。
彼女がだまっていたことに対し責める気なんて毛頭ない。
だが、だけど俺は・・・
雪ノ下は強い・・・・・・だから・・・
わかっている。
それは俺の勝手な思い込みだ。
勝手に彼女はこうあるべきだと決めつけ、理想を押し付け、
そして勝手に幻滅し、裏切られた気になっていただけなのだ。
そんな俺に俺は嫌悪感を持っている。
ただ、それだけなんだ。
”トボトボトボ”
なら、どうすればいい。
どうすれば、以前のあの関係を取り戻すことができるのだろうか。
「はぁ~」
”キャキャ”
ん、あの女子達、廊下で何騒いでんだ。
いや、そんなに窓から身体を投げ出すと危ないぞ。
・・・スカート短いし。
「ねぇゆっこ、すごい風だね」
「本当だ、あの木なんか今にも折れそう」
”びゅ~”
確かに今日は結構風が強そうだ。
そういえば、台風が近づいているってテレビで言ってたな。
「遥、これ部活中止じゃない?」
「あるある」
そっか、そうだよな。
この風なら部活中止もありうる。
いや、中止にならなくても早く切り上げるよう学校から指示がでるんじゃないか。
だって総武線、風に弱いから。
総武線だけじゃない、下手をすると千葉中の鉄道が止まる可能性あるからな。
よし、ならさっさと用事済ませるか。
そして部活が終わったら速攻であの書店に。
あ、その前に、マッカンでも。
”くる”
「あっ」
”どん!”
「きゃっ」
「うわっ」
”どさ”
いてててて。
後ろに誰かいたのか。
えっと~、大丈夫だったのか?
”ちら”
し、白ー!
しかもリボン付き!
こ、これが噂のラ、ラッキースケベなのか。
お、おお~
”ごく”
・・・・・・はっ、いや、そんな場合じゃない。
「すまん」
怪我はしてなさそうだな。
とりあえず散らばった資料を集めて。
”ビュ~”
「あっ」
やばい、今の突風で資料が一枚、窓の外に落ちた。
さっきの女子達、窓閉めて行かなかったのか。
この風だと急がないとまずい。
”タッタッタッ”
「〇△☓□、〇△☓□・・・・・・〇△☓□!」
”ちら”
あの女子、何か叫んでる。
や、やっぱり怒るよな。
だが今は・・・・・・まぁ、謝るの後だ。
”タッタッタッ”
・
・
・
”ガサガサ”
おかしいな。
ここにも落ちていないっか。
風向きからするとこっちのほうに飛んでいったのは間違いないはずなんだが。
もしかして校外にまで飛んでいったんじゃねえか。
・・・・・・マズイな、そうなると見つけるのは無理だ。
”ガシガシ”
とにかく、もう少しグラウンドのほうまで探してみるか。
「お~い、そこあぶねぇべ」
”ヒュ~”
え、ボ、ボール?
”ボゴ!”
「ぐはぁ~」
”どさ”
いててて。
な、なんでサッカーボールが。
「わりいわりい大丈夫って、あれ~ヒキタニ君じゃね。
顔面直撃したみたいだったけど大丈夫?」
くそ、戸部か。
なんでこんなとこまでボールが。
・・・あっ!
そっか、そこにあったのか。
探していた資料は校庭の木の枝に引っかかっていた。
見つからないはずだ、ずっと下の方ばっかり探していたからな。
「ごめんな~ヒキタニ君。
いや~ほら、今日洒落なんないほど風強いっぺ。
クリアーしたボールがよ、風に乗ってそんでここまで来たんだわ。
でもマジ大丈夫?
鼻血でってっけど」
「戸部!」
「え、あ、いや、マジわるかったわ~
勘弁な」
「サンキュ~
助かった。
ほれボールだ」
「え?
あ、あの、お、おう。
じゃ、じゃあ」
”タッタッタッ”
よし、それじゃ。
「はっ!」
”ピョン、ピョン”
くそ、だめだ、このままでは届かないか。
どこかに脚立か何か。
「何やっておるのだ八幡。
さっきからピョンピョンと。
その姿は、まさにヒキガエル。
ぷぷぷぷ」
「うるせぇ。
今忙しい。
材木座、あっち行け」
「ぶひー
あまりなものの言いようではないか。
我と貴様はあの地獄のような修羅場を潜り抜けてきた戦友ではないか」
げ、本当に面倒な奴。
戦友って、体育の時間に準備運動のペアだっただけじゃねえか。
今は、こいつにかまっている暇はない。
無視だ無視!
えっと、脚立か台になるものはっと。
”キョロキョロ”
「ね、ねえ八幡聞いてる?
そうだ、喜べ八幡。
とうとう我の新作が完成してだな、貴様に一番に読ませてやろうと
持ってきたのだ」
どこかに足場に・・・・・・あ、そうだ。
材木座に肩車してもらえば。
「材木座、いや戦友。
折り入って頼みがある」
「せ、戦友?
ぶはははは。
なんだ言ってみろ。
貴様と我は古より主従の関係。
主としては、僕である貴様の頼みぐらい聞いてやらんでもない。
さ、言ってみるがよい、我が僕、比企谷八幡!」
「・・・・・・」
「八幡?」
「材木座」
”ぐぃ”
「へ、あ、いやなにを。
は、八幡~」
「・・・足場だ」
”ぐりぐり”
「あたたた、せ、せめて靴を脱いでくれ。
げふぉ、あ、頭を踏むでない」
・
・
・
”そー”
「えっと、庶務先輩いるかなぁ。
他の生徒会のみんなに気付かれないように、
失くした資料をもう一回印刷してもらわないと」
”キョロキョロ”
・
”タッタッタッ”
「はぁはぁはぁ」
くそ、材木座の野郎が暴れるんで、大分遅くなったじゃねえか。
急がないと・・・
『比企谷、遅かったな』
”ボキボキ”
さ、さ、さっさとこの資料渡して職員室行こう。
”ピタ”
ま、待てよ。
さっきの女子、どんな顔してたっけ。
この資料は今度の文化祭の資料だから、きっと生徒会役員の誰かだと思うが。
生徒会の役員って・・・・・・・
ま、まぁ、普通生徒会なんてあんまり関わり合いないからな。
え~と、顔、顔っと。
・・・・・・白。
い、いや違う顔だ顔。
それも憶えていたいけど。
ご、ごほん!
絶対見ているはずなんだ。
よく考えれば必ず思い出せる!
・・・・・・白。
い、いや。
・・・・・・白。
あ、あの~
・・・・・・リボン付き。
ぐ~、だ、駄目だ~
あの白いもの以外思い出せん。
ま、まぁ、とにかく生徒会室に。
”スタスタスタ”
「ぶつぶつぶつ」
ん、生徒会室のドアのところになんかいるんだけど。
・・・何やってんだあの女子。
なんかドアの隙間から生徒会室覗いてぶつぶつ言ってるんだが。
ん、あの手に持っている資料って・・・・・・そ、そうかこいつか。
後ろ姿で顔は見れないが、手に持っているのは同じ文化祭の資料だ。
「すまん、ちょっといいか?」
”びく!”
「あ、ごめんなさい、わたし怪しい者じゃなくて生徒会の・・・
え、あ、あなた」
「・・・地味」
「はぁ?」
「い、いや何でも・・・」
やべ、つい声に出ちまった。
だけど、それくらい地味。
肩ぐらいの髪を真ん中に分けて、それをゴムでまとめて。
目や鼻や口は全て普通。
なんか何の特徴もないんだよな~
せめて眼鏡ぐらいしていればアクセントになるんだがな。
これじゃ顔憶えられて無くても仕方・・・・・・
はっ!
な、なんかすげー睨まれてんだけど。
・・・ま、そ、そうだな。
資料を追いかけるためとはいえ、ぶつかったままにしてたからな。
見たところ怪我とかはしていないようだし、面倒なことにならないうちに
さっさと資料渡して職員室行くか。
「あ、あのな、これお前のだろ」
「あ、うん、そうだよ」
「いやな、あんとき一枚窓の外へ落ちたのが見えたんだ。
急いで探しに行ったんだが、ほら、今日風が強いだろ、結構飛ばされて。
すまん、なかなか見つからず大分遅くなっちまった」
「あ、ありがとう。
ごめんなさい、なんかわたし」
「じゃあな」
さて、用事も済んだことだし、職員室行くか。
「あ、待って」
ん、なんだ?
”ちょいちょい”
え、なんだその手?
しゃがめっていうのか?
まぁ、何かわからないけど。
”ズン”
は、い、いや近い近い近い。
すげ、顔近いんだが。
な、な、なんでそんなに接近して。
もしかして資料拾ってきた俺に感動してお礼の・・・
「よっと」
”ひょい”
「うん? お、お前何を」
「はい、木の葉ついてたよ」
え、あ、木の枝に引っかかった資料とってた時に。
・・・・・・そ、そっか。
「お、おう、あ、ありがとうさん、じゃあ」
「うううん、こっちこそ、ありがと」
”にこ”
「じ、じゃ、じゃあ」
”スタ・・・スタ、スタ・・・スタスタスタ、ダー”
な、なんなんだ今の!
”ドキドキドキ”
まだ、心臓がどきどきしてる。
「・・・・・・ありがとっか」
名前なんて言うんだろ。
「・・・・・・」
はっ、何考えてんだ俺!
またそうやって勘違いを。
”ガシガシ”
くそ、また黒歴史を繰り返すところだったじゃねえか。
希望を持たず、心の隙を作らず、甘い話を持ち込ませず!
ボッチ道を極めた俺には通じない。
ちょ、ちょっと危なかったけど。
きっとあの女子にとってはあんなの普通、普通のことなんだ。
そう、それは”おはよう”とか”こんにちは”とかあいさつと同じ程度のものなのだ。
きっと誰にでもあんな風に接して、
きっと誰にでもあんな風にあの笑顔を見せるのだ。
そう、それはきっと普通のことなんだ。
・・・・・・俺はもう勘違いしない。
・
・
・
「・・・みんなが言うから、みんながそうするから、そうしないとみんなの中に
入れてもらえないから。
誰かを貶めないと仲良くしてられない、そんな生贄を求めないと維持できないような
関係なら、そんなものぶっ壊してしまえばいい」
「比企谷」
「・・・・・・林間学校のあの短い時間であの問題は解決はできないですよ。
でも問題の解消はできる」
夏休みの林間学校での一人の女子小学生に対するいじめ。
生贄は生贄らしく。
それが子供王国の腐りきったルールだ。
『惨めなのは嫌か』
『・・・・・・うん』
ぐっと嗚咽を堪えるようにうなずくその子の瞳には、今にも零れ落ちそうな
くらいの涙が溢れていた。
だから俺は・・・
「で、人間関係に悩みを抱えるのなら、それ自体を壊してしまえば悩むことは
なくなるっか」
「負の連鎖ならもとから断ち切らないといけない」
「ふぅ~、そういうことか。
まぁ、一度ちゃんと君の口から事の詳細を聞きたかったからな」
「・・・・・・うっす」
「まったく、君という奴は変わらんな」
「そんなに簡単に変わるものは主義とは言わないでしょう。
先生だって独身主義を貫いて 」
「抹殺のラスト・ブリット!」
”ドス!”
「おわ」
”ふらふら”
ぐ、い、いってぇ~
ぼ、暴力反対・・・
’どん”
え、な、なに?
なんか柔らくてあったかいものに顔が・・・・・・
え、えっと~、も、もしかして、こ、この膨らみって。
「キャー」
え、や、やっぱり!
”べし”
「ぐはぁ」
い、いってぇー
なにかが脳天にずっしりと・・・
”ズデン!”
し、死んだ。
「な、何すんだこの変態野郎」
「ほほう、なかなかいいチョップをしてるな。
確か城廻のとこの三ヶ木だったかな」
「は、はい。
あ、平塚先生、これ明日の文実の資料です」
えっ、この声ってさっきの女子?
あの女子なのか?
えっと~
”チラ”
やっぱりこの位置から顔は見れな・・・・・・白!
白にリボン。
スカートと太腿の間から見えるあの神々しいものは・・・ま、間違いない、
こ、これはやっぱりあの時の女子のおパンツ。
「おう、そこに置いておいてくれたまえ。
それで、君はいつまでそこでうずくまってるのかね。
それともその女子のスカートの中でも覗いているのか」
げ、げぇ!
「はぁ! なにこの人、最低」
「いや、ちが、決して覗いていない。
平塚先生、あんたなんてこと言うんだ。
お、俺は決して白いものなんか見てない!」
「「あっ!」」
”べし”
ぐ、ぐはぁ~
2発目のチョップ~
”ドサ”
「ひ、平塚先生、失礼します」
「おう、ご苦労だった」
”ガラガラ”
いてててて。
くそ、あのチョップ、食らう度に目から火が出て頭がクラクラと。
・・・しかし、あれ完全に変態を見る目だったなぁ。
だ、だが、あれは覗こうと思ったわけじゃない。
か、顔を確認しようとして偶然に。
だ、だから俺は無実だ。
「ひ、平塚先生!
あんた 」
「比企谷、鼻血拭きたまえ」
「えっ」
”ぽたぽた”
「あっ」
・
・
・
”ガタガタ、ガタガタ”
風、めっちゃ強くなってきたな。
部室の窓枠の悲鳴がどんどんでかくなってきた。
本格的に天気がひどくなる前に帰れればと思っていたのだが、
完全下校時間近くになって、ようやく平塚先生に帰宅を施され帰り支度を
しているところだ。
今日はもっと早く帰りたかったのだが。
ラノベの新刊買いたいし。
それに、
『なにこの人、最低』
・・・・・・いろいろあったからな。
まだあの衝撃が残ってるし。
”なでなで”
「ん? ヒッキー頭撫でてどうしたの?」
「あ、いやなんでもない」
「ふ~ん。
ヒッキー、部室閉めるよ」
「あ、ああ、いま行く」
”スタスタスタ”
「すまん待たせた」
”ガチャガチャ”
「・・・私は鍵を返しに行くから」
「うん。
じゃあまた明日ね、ゆきのん」
「ええ」
”スタスタスタ”
「行くか」
「うん」
・
”ビュ~”
うへ~、やっぱり外は風が強い。
それにあの真っ黒な雲、今にも雨が降り出しそうだ。
合羽、買ってきておいて正解だったな。
こんな強風の中、傘を差しての自転車はちょっときつい。
心折れるレベルだからな。
それじゃ帰るか。
「由比ヶ浜、俺チャリだから」
「うん。
じゃ、バイバイヒッキー。
・・・・・・あ、あのね、今日は部活来てくれてありがとう」
「お、おう」
”スタスタスタ”
・・・・・・ありがとうっか。
そろそろあの雰囲気何とかしないとな。
被害者と加害者。
林間学校の帰り、あの件があってから奉仕部の空気は重い。
全員が全員頑張って話をしようと会話の糸口を探っている、
そんな日々が続いている。
いい加減、マジ何とかしないと。
「はぁ~」
”ガシガシ”
「・・・帰るか」
”テクテクテク”
「ふんふんふ~ん♬」
ん、あ、こ、この声は。
”サッ”
え、な、なんで俺隠れてるの。
・・・ま、まぁ、職員室の件があったからな。
いま顔合わせたら待ち伏せしてたんじゃないかって思われるかもしれん。
それだけじゃない、下手したら通報されるレベル。
通報されないとしても、きっとラインとかで拡散されて明日の朝には
大変なことに。
『おい聞いたか、2-Fの比企谷、女子待ち伏せしてたんだって』
『こわ~』
『それだけじゃなくて、一日中ずっと付け回していたんだってよ』
『マジかよ』
・・・こ、ここはやっぱり隠れておこう。
君子危うきにってやつだ。
・
”キョロキョロ”
よし、もういないよな。
さ、さっさと帰るか。
・・・しっかし。
”ザー、ザー”
とうとう雨降りだしてきてしまった。
しかもこれ豪雨じゃねえか。
はぁ~、傘、自転車置き場なんだよな。
仕方ない走っていくしかないか。
まぁ自転車のとこまで行けば合羽もあるし。
それじゃ行く
「ひゃ~」
え?
”ダー”
げっ!
あ、あいつ戻ってきゃがった。
やべ。
”サッ”
く、くそ、なんで戻ってきたんだ。
”そ~”
ん、なんだあいつびしょ濡れじゃねえか。
傘は・・・・あ、あれは傘というものだろうか。
あいつが手に持っているもの、あれはワイヤーオブジェか。
お、おい、ついてたビニールはどうしたんだビニールは。
”びゅ~”
そっか、この強風で傘が。
それであんなにびしょ濡れになって。
へっ!
あ、あのシャツから透けてるピンクのって。
「お、おい、あれ」
「うほぉー」
あ、あいつ、気が付いていないのか?
通り過ぎる男子の好奇の視線に晒されているぞ。
ほ、ほら、あの男子、スマホ持ち出しやがった。
ちっ、くそ、まったく!
”スタタタ”
「はぁ~、雨降ってるのか」
「あ!」
い、いや、何その顔。
そんなに嫌な顔しなくても、まるで食事中にGを見つけたように。
いや、まぁ職員室の件があるから仕方ないけどな。
・・・・・・マジ、シャツびしょ濡れでスケスケじゃねえか。
”ゴクッ”
はっ、い、いやそんな場合じゃなかった。
えっと~
そ、そうだ、ごく自然に気が付いたように。
「お、おうっ。
は! お前・・・・」
「なに、なんか用?」
「いや、その、なんだ・・・透けてるぞ」
「はぁ?」
「じゃあな。」
”タッタッタッ”
「げっ!」
・・・よかった、気が付いたみたいだな。
まったく。
さて、あとはっと。
・
”タッタッタッ”
「はぁはぁはぁ」
よかった、まだいた。
玄関の片隅で雨が上がるの待っている。
まぁ、傘壊れてるしな。
それにあの格好じゃ帰れない。
だが、いつまでもそんなとこにいたら・・・
”スタスタスタ”
「おい」
「へ?」
”ばさ”
「そんな格好じゃ風邪ひくぞ。
あ、あのな、これ買ったばっかりだから。
まだ一度も着てねぇ~から。
まぁなんだ、嫌でなかったらこれでも着ろ。
・・・貸してやる」
「え、あ、合羽。
でも、あなたはどうするの?
合羽ってことはあなた自転車でしょ?」
「ははん、問題ない。
俺には傘があるからな。
お前の傘のような根性のない傘とは違うぞ。
すげぇ高かったから。
大事なことだからもう一回言う、すげ~高いやつだから」
いや本当はそこに無残な姿をさらしているお前の傘と同じビニールの傘なんだが。
ま、まぁ、そう言わないと合羽受け取らないだろうからな。
「な、なによ、いいじゃん別に安くたってさ。
無くなったって気にならないじゃん」
そうだよな。
俺も小学校の時、買ってもらったばっかりの傘を
いきなり盗まれたんだ。
それもビニール傘じゃないやつを。
それで雨に濡れて帰ったら、すげぇ怒られた。
めっちゃ高かったんだって。
・・・母ちゃん怒るのはそこかよ。
ま、まぁだから俺もビニール傘派だ。
いつ盗まれもいいように。
「そ、そうか。
まぁ、だから俺のことは気にするな」
「あ、でも自転車で傘って危ないって」
「ふふふ、俺のテクニックを甘くみるな。
じゃあな」
「あ、ありがと」
”ニコ”
「お、お、おう」
”タッタッタッ”
な、な、なんだあいつ。
笑うとそこそこかわ・・・・・・
ご、ごほん!
でもなんで俺ここまで。
あの女子、今日会ったばかりなのに。
「・・・・・・」
ま、まぁ、これで職員室の件はチャラのはずだ。
もうネットでたたかれるようなことはないはずだ。
だからこそ俺はこんなことを・・・したんだ、多分。
さ、さてっと。
この時間ならまだあの帰り道の書店に寄って帰れるはずだ。
今日の新刊、ちゃんと予約しておいたからな。
さっさと帰ろ。
・
・
・
”ザー、ザー”
「・・・・・・」
”ビュ~、ビュ~”
「うぐっ」
くそ、必死で自転車漕いでいるんだが、この向かい風の所為で
漕いでも漕いでも、全然前に進んでいる実感がない。
それにこの雨で濡れたYシャツが肌にくっついて、すごく気持ちが悪い。
仕方ない、傘やっぱり差すか。
この風だから傘をさすと、すげぇ自転車運転しづらくなるのだが、
仕方がない。
”バサ”
ふぅ、これで雨はしのげる。
さて行くか。
”ビュー!”
「おわぁ!」
”バキ、バキバキ、グシャ”
げ、げぇー!
お、俺の傘が・・・・・・傘がぶっ壊れた。
・・・・・・はぁ~
い、いや、まだだ。
あの角!
あの角を曲がればラノベを予約した書店。
まだ心折れるわけにはいかない。
よし!
もともとびしょ濡れなんだ。
傘なんてなくても。
”ギ~コ、ギ~コ”
ペダル重てぇ~
だ、だがここを曲がれば!
「・・・・・・な、なんだと」
”ガシャン”
な、な、なんでだ!
”ダー”
なんでシャッターが下りてんだ。
朝、ここを通った時には間違いなく開いてた。
営業していたはずなんだ。
「はぁはぁはぁ」
まだ、閉店には時間あんだろ。
なんで・・・・・・え、貼り紙?
『台風接近のため、安全を考慮し営業時間を短縮いたします』
なんだと・・・・・・
”ビュ~”
強風でいろんなものが飛ばされていく街の中で、
ただ、俺だけが雨の中取り残されていた。
「びぇっくしょん!」
ーーーーーーーー
「ふぁ~」
す、すごく眠い。
昨日の台風は一晩で去ってしまい、朝方には空は晴れて
いつもの日常に戻ってた。
くそ、本当に最近の台風は根性がない。
てっきり今日は台風を理由に遅刻できると思って、
昨日は思いっきり夜更かししてしまった。
だ、だってラノベの新刊を手に入れられなかったショックはあまりに大きく、
跡形もなく粉砕された俺の心の1万2000枚の装甲を修復するには、
録画していたプリキュアを全て観るしかなかった。
おかげでN²爆弾ぐらいには耐えられるくらいには修復できたが。
”ふら~”
や、やばい。
何とか授業は眠らずにすんだが、や、やっぱり横になって寝ないと。
そうなれば行くところは決まっているのだが。
・
”トボトボトボ”
特別棟にある保健室までの童貞、い、いや道程がやけに遠く感じる。
こんなに遠かったっけ。
だが、ようやくたどり着いたようだ。
”トントン”
「あ、はいどうぞ」
”ガラガラ”
ん、あ、先客がいたか。
女子生徒と養護教諭が雑談していたみたいだが、俺が入ってくると
お喋りもピタリ止まってしまう。
女子生徒は後ろ姿しか見えないが、居心地悪そうにスマホに目を落としていた。
なんだか悪いことをした気分だ。
「おやおや、静ちゃんのとこの子だね」
白衣を着た妙齢の女性、養護の先生が俺をしげしげと眺めてそう言った。
さ、ここからが俺の演技力の見せ場だ。
ちょっとだるそうな雰囲気を醸し出してっと。
「なんか風邪っぽくて」
完璧だ。
こういう時は無類の演技力を発揮するのが俺だ。
そろそろ風邪の使い手と呼ばれてもおかしくない。
「素人判断は危険よ。
見せてごらんなさい」
な、なんだと!
この養護教諭は俺の渾身の演技を軽やかにスルーした。
”ジー”
う、養護教諭の先生は俺の嘘を見破ろうとじっと目を見つめてくる。
い、いや、麗しき女性にそんなに見つめられると・・・・・・
わ、わりと綺麗だし。
やば、心臓がバクバクしてきた。
・・・・・・正直、年上の女性っていうのも嫌いじゃない。
むしろ10年早く生まれていたら、10年早くあの人と出会っていたら
きっと俺は・・・・・・
「・・・・・・これは風邪だねぇ」
「診断は早いっすね・・・・・・」
「だって、そんなどんよりした目をしてるんだもの。
病気にきまってるじゃない」
な、なんだと。
それだと、俺は四六時中病んでいることになっちゃうんだが。
「それに、心なしか顔赤いしね」
「・・・・・・」
い、いや、それはあんたがじっと見つめるから。
「どうする、ここで休んでいくかい?」
「あ、じゃあ」
”シャー”
「奥のベッドね」
「うっす」
”シャー”
手短に返され、素直に従った。
カーテンで仕切られたベッドにはきれいに折りたたまれたタオルケットがある。
それを腹にかけると俺は寝ころんだ。
「え、どうしたの、大丈夫?
なんかモジモジしてるけど」
「いえ、あの、そ、その~
べ、べ、別になんでも・・・ないです」
ピンクのカーテンの向こうでは、またお喋りが再開されている。
微睡みに落ちていく中、その声だけが微かに耳に残った。
・・・・・・どこか・・・で聞いたような・・・声・・・だ・・・な。
「スー、スー」
ーーーーーーーーー
”ガタンガタン、ガタンガタン”
「次は品川~、品川~
東海道新幹線をご利用の方は乗り換えです」
「ぐぅおー、ぐぅおー、スー、スー」
最後までありがとうございます。
ゾンビランドとは関係なくすみません。
本編の補足と思って、ご容赦いただけたらありがたいです。
次回投稿は、第一章の最終話 嬉野温泉編。
また見に来ていただけたらありがたく、宜しくお願いいたします。
ではでは。
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二本目 プロム 二人の別れ(前編)
すみません、亀更新と言いながらここまで更新遅れるとは。
え、えっと、今回は番外編。
前回の番外編と同じで、別の物語として投稿していた
駄作の中のプロム編(前編)です。
すみません、ゾンビランドサガのメンバーはまったく出てきません。
本編の補足と思っていただければ。
また文字数も35,000字越え。
も、申し訳ないです。
それでもよろしかったらお願いしますです。
※俺ガイル ネタバレ要注意です。
原作まだの人は気を付けてください。
「お兄ちゃん、本当にもう忘れものない?」
「大丈夫だ。
それにしばらくはホテル住まいだからな。
最低限、生活するのには困らない。
まぁ、何か必要なものがあったら連絡するわ」
「本当に大丈夫かなぁ」
”スタスタスタ”
「うふふ、本当にお兄さん思いなのね」
「あ、雪乃さん、どうもです。
こんな兄ですが、どうぞ末永く宜しくお願いします」
”ペコリ”
「ほら、お兄ちゃんもお願いして!」
「え、お、おう。
不束者ですがよろしくお願い・・・・・・ってなんか違うだろ!」
「ちっ!」
「ちっじゃねえ。
・・・まったく。
じゃそろそろ行くか」
「ええ」
「あっ!
ちょ、ちょっと待っててお兄ちゃん」
”ダー”
「ん?
お、おい小町、電車の時間まだ余裕あんから、
走らなくていい」
「らじゃー」
「本当に仲がいいのねあなた達」
「まあな、俺は小町を愛してる」
「・・・はぁ~、本当にシスコンね。
これじゃ小町さんがお嫁にいくときはどうなるのかしら」
「こ、こ、小町が嫁だと!
そんなことは俺が絶対に許さん。
雪ノ下、世の中には言っていいことと悪いことが 」
”タッタッタッ”
「お待たせー
はぁはぁはぁ。
はいお兄ちゃん、マッカン。
それと雪乃さんはミルクティーでよろしかったですか?」
「ありがとう小町さん」
「いえいえ。
ほらお兄ちゃんもありがとうは?」
「おう、サンキュ」
「まぁ、佐賀に行ったらもうマッカン飲めないもんね。
そんなお兄ちゃんに小町の心がこもったマッカンの餞別。
あ、これって小町的にポイント高い!」
「いや、普通にネットで買えるから。
ネットならポイントもついてチョ~お得!
あ、これ八幡的にポイントチョ~高い!
それと餞別は現金以外受け付けないからな」
「・・・・・・サイテーだこの人」
「・・・まったくこの男は」
・
・
・
”ガタンガタン、ガタンガタン”
「・・・・・・」
”カチャカチャ、カチャカチャ”
「電車の中でも仕事か。
相変わらず忙しいようだな」
「ええ、別の案件の報告があるから」
「それならお前は飛行機で行けばよかったんじゃねえのか?
そっちの方が時間的に楽だろう」
「ええ、私もそれは考えたわ。
でも、またどこかの小心者さんに土壇場で佐賀に行くのキャンセルされた
ら困るから。
それより暇そうねあなた」
「ん?
ふふふ、当り前だ。
俺は仕事のON-OFFをはっきり区別する方だ。
OFFの時は仕事のことなんて微塵も 」
「あら、出張中の移動時間も勤務中になるはずよ」
「い、いや、今は休み時間、休み時間中だ!」
「随分と長い休み時間なのね」
「・・・・・・」
「そんなに暇ならこれでも読んでなさい」
”パサ”
「ん、これは?」
「東地グループの古怒田課長から送られてきたプロジェクトの概要書よ。
付箋紙のところをよく見ておきなさい」
「付箋紙?」
”パラパラパラ”
「・・・お、おい、テーマパークって
第2案にテーマパークの建設って書いてあるじゃないか。
まだあきらめていなかったのかあの人」
「そうみたいね
でも確かに私たちの案ではキラーコンテンツになるものがない。
佐賀をアピールするには少し弱い。
そこがネックね」
「だがこんなテーマパークなんてもの作ったら」
「ええ。
だからなんとしても役員会の議題に上がる前にキラーコンテンツなるものを
探し出すの」
「そうだな」
・
・
・
”ガタンガタン、ガタンガタン”
「なぁ、東地の古怒田課長が言ってたハウステンボスに勝てるものって
なんだろうな」
”スー、スー”
って、おい!
移動時間は勤務中でなかったのか。
「・・・・・・」
ふぅ~
”ガシガシ”
仕方ないな。
雪ノ下、自分の有能さを証明するため、毎日頑張ってんだよな。
人一番体力がないくせに。
この若さで課長。
いくらこいつが優秀だからといっても、そこは親父さんの会社だ。
陰でいろいろ言ってる奴いるからな。
まぁ、ここは寝かせておいてやるか。
”ガタンガタン、ガタンガタン”
・・・それに今回は雪ノ下に助けてもらったしな。
あのままだったら、きっと俺は今回のこの出向の話も断っていた。
周りにも自分にも屁理屈をこねながら。
そして二度と佐賀には・・・
”ガシガシ”
・・・・・・佐賀にいるんだな美佳。
『彼女の行動には必ずなにかしら理由があった』
理由っか。
・・・バレンタイン、林間学校、文化祭、生徒会選挙、そしてプロムナード。
そう、あいつはいつも大事なものを守るため自分を傷つけた。
そして言うんだ。
『・・・わたしはわたしのやりたいことをやっただけ』
っと。
それは、もう二度と大切なものを失いたくないというあいつの願いからくるもので。
・・・あいつは幼い頃、目の前でお母さんと妹さんを事故で失くしている。
そしてそれは自分の所為だと決めつけ、自分を責め続けていた。
俺はそのことをわかっていながら、いやわかっていたつもりで本当はわかって
いなかった。
だから高校最後となったイベント、あのプロムの時。
あの時もあいつは、俺の・・・いや俺と雪ノ下、由比ヶ浜の大事なものを守るため
また自分を傷つけた。
俺は何か変だと感じながら、あいつのそんな願いに気付けず。
・・・そして俺達は別れた。
『・・・そんなのあなたが一番よく知ってるはずじゃない』
そうだよな雪ノ下。
あいつのすることには必ず何か理由がある。
俺が一番よく知ってるはずじゃないか、そんなの。
ーーーー高校三年 三学期に遡ってーーーー
”ガタンガタン、ガタンガタン”
「ふぁ~あ」
う~、眠い。
今日から三学期だっていうのに、昨日はちょっと勉強頑張り過ぎた。
まぁ受験生だからな、そんなの当り前なのだが。
それでもこの電車の振動と相まって、すげ~眠い。
えっと、どこか空いてる席はないか探すか。
”スタスタ、スタスタ”
だがこうして電車に揺られて学校に行くのもセンター試験までか。
その後はずぐに自由登校。
そう考えるとこの車窓から見る景色も愛おしく・・・
「ぐぅおー」
け、景色もいと・・・
「ぐぅおー、ぐぅー、ぐぅー、すー」
け、け、け、景色も・・・・・・
「くー、くー、すー、すー。
へへ、お腹いっぱい、とうちゃんもう食べられないよ~」
こ、こ、こいつは!
”ビシ!”
「い゛だっ!」
ま、まったく。
完璧に熟睡してたじゃねえか。
不用心過ぎんだろ、こいつは。
そんなやつにはデコピンの刑だ。
「いたたたたた」
「いい加減そろそろ起きろ。
駅、乗り過ごすぞ」
こいつには一度ちゃんと言い聞かせないとな。
一応、女子なんだから。
何かあってからじゃ遅い。
「お前、電車の中で熟睡し過ぎだろ。
全く女子なんだからもう少し 」
「う、おでこ痛い。
ううううう、い、痛いよ~」
「え、そんなに痛かった?
す、すまん大丈夫か?」
「ううううう、うわ~ん」
や、やばい。
マジ泣き出した。
そ、そんなに痛かったのか。
げ、周りの乗客の俺を見る目が。
「すまん三ヶ木」
”スー”
え、何?
指?
”にこ”
な、なにその笑顔。
はっ、ま、まさかデコピン返し!
や、やめて!
”ビシ!”
「い、いてぇ」
「へへへ、お返しだ」
「くそ、嘘泣きかよ。
心配して損した。
そんなことより、ほら駅だ降りるぞ。
いてててて」
「あ、うん。
・・・ごめん、そんなに痛かった?」
・
”スタスタスタ”
う~、まだおでこが痛い。
まぁ、おかげで目覚めたけどな。
えっとそれよりあいつどこだ?
俺が自転車を取りに行く時に、駅を出たところで待ってるって言ってたはずだが。
”キョロキョロ”
えっと、あ、いたいた。
ほんとあいつ地味だからちょっと目を離すとどこにいるのかわからん。
常時ステレスヒッキー発動してっからな。
マジ俺の上位互換かよ。
”チリンチリン”
「おう、お待たせ」
「うんしょっと」
え、き、君何するの?
いきなり荷台にって。
もしかして二人乗りする気なのか。
い、いや、この時間、他の生徒もいるんだ、そ、そんなリア充のような・・・・・・
こ、断る!
断じて断る。
そ、そんな罰ゲーム受けるわけにはいかない。
「お、おい!
なに当たり前のように荷台に座ってんだ」
「だめ?」
「当たり前だ。
いいか、自転車の二人乗りは禁止されているんだ。
それに重たいし」
”べシ”
「ぐはぁー」
ま、マジ、君のその空手チョップ痛いんだからね。
食らう度に脳みそがくらくらして。
くそ、こいつと出会ってから何発食らってんだ。
・・・・・・でも最近・・・なんか快感になってきたんだよなぁ、これ。
はっ! やばいだろうそれ!
「うっさい、重たい言うな。
最近、ほんと気にしてんだから・・・ちょ、ちょっと太ったの。
もう! ほらさっさと行くよ」
「お、降りないのかよ」
「重たいって言った罰。
ほら、学校に向けて出発シンコー! 茄子のおし 」
「や、やめろ、それ以上言うな!
・・・たく。
ちゃんと掴まってろ」
「ほ~い」
”ぎゅ~”
え、あ、いやそんなに抱き着かれると、二つのなにか柔らかいものが俺の背中を
圧迫して、えっと八幡の八幡があれになって大変で・・・
う、運転できないから!
「あ、い、いや、つ、掴まりすぎだから。
もうちょっと離れてくれない?」
「やだ」
・・・そ、そうですか。
はぁ~
・
・
・
「ふんふんふん♬」
「・・・・・・」
”ギ~コ~、ギ~コ~”
「お、おいあれ」
「げっ、朝っぱらからむかつく」
「ちっ!」
やばいな。
学校が近くなってすれ違う生徒の数が・・・
こいつ駅からずっと抱き着いたままだし。
このままだと俺のメンタルがもたん。
「・・・・・・あ、あの~」
「ふんふんふんふ~ん♬」
「も、もしもし三ヶ木さん」
「え、あ、な、なに?」
「いやご機嫌なところすまないが、そろそろ離れてくれない?
ほ、ほら、学校近くなって生徒の数も増えてきたから、
あの、その、な、なんだ、わかるだろ」
「ん~なんだろう?
わかんな~い」
こ、こいつは。
「うそつけ!
頼むから少し離れてくれ。
それに二人乗り自体本当はまずいんだからな」
「いいじゃん。
それにさ、どうせ帰りは結衣ちゃんとこうやって帰ってんでしょ。
いつも一緒に帰ってるんだから。
・・・・・・結衣ちゃんバス通学だし。
だからきっと」
「塾が一緒だからな
だから部室に顔出してから一緒に行ってるだけだ。
それに由比ヶ浜も学校から駅までは自転車だ。
塾行くようになってから、電車間に合うように自転車にしてるんだ」
「え、あ、そ、そうなんだ。
そ、そっか、そっか。
えへへへへ」
「な、何その笑み」
「なんでもな~い」
”ぎゅ、ぎゅ~”
「お、おい」
「ふんふんふんふん~♬」
げ、こいつ無視しやがった。
それになんかさらに機嫌よくなってるだけど。
はぁ~、仕方ないっか。
ちょっと遠回りだができるだけ生徒の少ない道を。
「ふんふんふふふん♬」
「・・・・・・」
”ガシガシ”
「あのな」
「ん?」
「あ、いや、まぁなんだ。
この自転車で二人乗りしたことがあるのは、小町とお前だけだ」
「え?
・・・比企谷君♡」
ーーーーーーーー
由比ヶ浜遅いな。
まぁ帰り際に教室で三浦達につかまっていたからな。
仕方ない、参考書でも読んで待ってるか。
「お、おい、あいつ」
「ん、あ、朝のリア充野郎か」
「なんであんな奴が」
”ひそひそ”
・・・・・・まぁ三学期が始まってから毎朝二人乗りだからな。
こうなることは予測できていた。
何人もの生徒に目撃されてっからな。
マジそろそろ、俺のメンタルがもたないんだが。
明日こそは何とかしないとな。
・・・・・・だけど、なんで女子ってあんないい匂いがするんだ。
いつも風呂上がりのようなすげーいい匂いがして。
「はぁ~」
もうちょっとだけ・・・いっか。
”にやにや”
「ヒッキーおま・・・・キ、キモ!」
「はっ、由比ヶ浜!」
「・・・・・・何考えてたんだし」
「い、いや、な、なんでもない、なんでもないぞ。
そ、そ、それよりもういいのか」
「え、あ、うん。
ごめんね遅くなっちゃって。
今日塾がないからさ、久しぶりに優美子達と話してたら、
なんか話がすごく盛り上がって」
「そうか、まぁいつもは塾あるからな。
今日みたいに塾が休みでないと、なかなか直接会ってゆっくり話する
時間なんてないからな。
それよりそろそろ行くぞ。
きっと雪ノ下待ってるはずだ」
「えへへへ、そうだね。
よし! 今日はいっぱいゆきのんとお話ししようっと」
「勉強だ!
今日は塾は休みだから、三ヶ木も入れて4人で勉強するってはずだろ」
「べ、勉強もするし!
・・・少しだけど」
「ったく」
”スタスタスタ”
・
・
・
「・・・・・・」
「でさ、優美子が言うから」
「そう」
「だからあたしも言ってあげたの」
”ぺちゃぺちゃ”
お、おい勉強はどうなったんだ。
部室に来てから鞄から参考書も出さず話し込んでるんだが。
き、君が言い出したんだよね、一緒に勉強しようって。
「だよね、ゆきのん」
「ふふふ、由比ヶ浜さんらしいわ」
・・・雪ノ下うれしそうだな。
まぁ俺と由比ヶ浜は塾があるから、この部屋に来てもほんの挨拶程度の会話しか
できなかったからな。
今日ぐらいは大目にみてやるか。
さ、そんなことより俺は勉強勉強っと。
”カキカキ、カキカキ”
・・・・・・しかし三ヶ木遅いな。
いつもならとっくにここで雪ノ下と勉強している時間のはずだが。
「・・・何かあったのか」
「え、ヒッキー何か言った?」
「あ、いや、何でもない」
「それはそうといよいよ週末はセンター試験ね。
比企谷君、由比ヶ浜さん、あ、あの頑張って」
「ああ」
「うん、ありがとうゆきのん。
でもさ、センター試験の前にこうやってみんなで勉強会できてさ、
なんかうれしい。
あと、美佳っち早く来るといいね」
・・・い、いや君は勉強していないんだけど。
マジ、センター試験大丈夫なのか由比ヶ浜。
「そうね。
いつもならとっくに来てるのに。
あ、由比ヶ浜さん紅茶のお替わりどうかしら?」
「うん、ありがとうゆきのん」
「あなたは?」
「あー、俺も貰うわ」
「ね、ゆきのん」
「なにかしら?」
「受験、終わってからも、うううん、卒業してからも会えるよね」
「え、ええ。
当たり前じゃない。
そ、その、わ、わたしたちは・・・・・・友達なんだから」
「ゆきのん!」
”だき”
「ゆ、由比ヶ浜さん。
あ、あの~、紅茶がこぼれて」
「あ、ご、ごめん。
・・・えへへ」
「うふふふ」
「あ、ヒッキーもだよ」
「そうよ」
「あ、ああ、わかった」
「よかった」
「なにかお茶請けだしましょうね」
・・・永遠というものはない。
それはわかっている。
俺達のこの関係も卒業すれば、いずれ時とともに変わってしまうのだろう。
色彩鮮やかに描かれた名画もいずれは色褪せしてしまうように。
でも、それでも俺は、この関係が少しでも長く続いてほしいと、
このままずっと鮮やかや色のままでいてほしいと願っている。
そのためになら俺は・・・
「・・・撞着だな、自己撞着」
維持するために努力を続けないといけない関係。
それは俺がもっとも忌み嫌っていたものじゃないか。
でも、それでも俺は・・・
はぁ~、あいつならどう思うだろうかな。
あいつなら、あいつならきっと・・・
「どうかしたのかしら」
「い、いや、なんでもない」
”カチャ”
「そう。
クッキーでよかったかしら」
「ああ、頂く」
”トントン”
「「!」」
「ゆきのん!」
「ええ、来たみたいね」
ふぅ、まったく今まで何やってたんだあの馬鹿。
まぁ、驚かせようと今日のことはあいつには黙ってたからな。
さて、これだけ待ったんだ、せいぜい派手にびっくりしてもらわないとな。
いつも地味なんだから今日ぐらい。
「どうぞ」
”ガラ”
「失礼しま~す」
「あ・・・いろはちゃん・・・だ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「え、あ、あれ、なんか・・・
あ、あの~先輩?」
「・・・はぁ~」
「は、はぁ~ってなんですか!」
「ごめんね、いろはちゃん」
「そ、そうねごめんなさい一色さん」
「もういいです。
この前も同じようなことありましたから」
”スタスタ”
え、もう帰るのか?
よかった。
まぁ、こいつがここに来ると決まって何か手伝わされたからな。
あいにく、俺達は受験生だ。
今回ばかりは手伝えないからな。
ふむ、さっさと帰り給え。
”ガラガラ”
「ごほん、やり直しです」
へ、やり直し?
え、君、帰らないの?
”トントン”
「どうぞ」
ど、どうぞって雪ノ下。
”ガラ”
「あ、いろはちゃんだ」
ゆ、由比ヶ浜、お前まで。
しかも何その満面の笑顔。
「失礼しまーす。
ああよかった。
小町ちゃんの言う通り、今日は先輩も結衣先輩もここにいたんですね。
それはそうと、えっと~」
”キョロキョロ”
い、いやさっき顔合わせたよね。
それに確か会話も。
って、なに、一色何か探してるのか?
さっきからずっと部室の中見まわしてるんだけど。
「んー」
「どうかしたのかしら一色さん」
「あのー、ここってパソコンってありましたよねー?」
「あるけど・・・・・・」
「それってDVD観れます?」
「そうね確か観れたと思うのだけれど、ちょっと待ってくれるかしら」
”ガタガタ”
「古い型だから逆に観れるな」
「へぇ~、ヒッキー物知り」
い、いやそんなに感心しなくても。
確か生徒会は例のウィルス騒動があってから、全て最新型のパソコンに更新したからな。
奉仕部のパソコンは生徒会のと違って結構古い奴だから観れるんだ。
・・・うちは予算ねえからなぁ。
お茶代も足りないから、ほとんど雪ノ下の自腹だもんな。
ごほん、ま、まぁなんだ、昔のパソコンには必ずと言っていいほどDVDドライブが
付いていたのだ。
いまは外付けが主流だが。
なんでもメーカーが調べたところ、あまり使われていないということで
取り除かれたらしい。
だけどどちらかのパソコン選べってことになったら、俺ならDVDドライブが
ついてる方を買うけどな。
メモリも容量とかもそこそこあればそんなに気にならないし。
”カチャカチャ”
「一色、なにか観るのか?」
「えっと~、DVD借りてきたんですけど生徒会のパソコンでは観れなくて。
あとそれとですね」
”ガサガサ”
「あれ、おかしいな。
確かカバンに入れてきたんだけど。
・・・あ、あった」
”カタン”
「じゃじゃ~ん」
「いろはちゃん、これなに?」
”つんつん”
「それ、随分小さいけれど、プロジェクターなのね」
「あ、わかります?
さすが雪ノ下先輩。
へへ、生徒会の予算で買っちゃったんですよ~」
”スタスタスタ”
「それじゃ、ちょっとスクリーン降ろしますね」
えっと、なに?
ここで何か見るの?
いや俺達は・・・俺はここで勉強を。
あ、あの週末にセンター試験が・・・
「それじゃ再生っと」
”カチャ”
「はぇ~、すっごい」
「結構綺麗に映るのね」
「あ、これあのドラマだよね、ほ、ほら海外のハイスクールもの」
「由比ヶ浜さん、静かに」
き、君達何やってるの?
お、おい由比ヶ浜、カーテン閉める場合じゃ。
い、いや、お、俺達はだな・・・・・・テストが・・・
そんな俺の思いはよそに、海外ドラマの上映会が始まった。
お前ら、べ、勉強しろ!
・
・
・
「ん~重たい」
”ふらふら”
「危ないよ舞ちゃん。
ほら少し持ってあげる。
うんしょっと」
「あ、ジミ子せんぱ~い♡
ありがとうございます」
「どうしたのこんなにいっぱい本持って」
「イベントの資料なんですよジミ子先輩。
今度の役員会で使うので図書室から借りてきたんですジミ子先輩」
「・・・・・・」
「それでイベントなんですが、ジミ子先輩」
「ちょ、ちょっと待った!
ま、舞ちゃん、あ、あんまりジミ子ジミ子って」
「え~、だってジミ子先輩はジミ子先輩じゃないですか~」
「・・・・・・」
「それにジミ子先輩だって、一色のこと会長って呼んでんじゃないですか。
任期終わって生徒会の役員でなくなってからも」
「だ、だってずっと会長って呼んできたから、今さら一色さんなんて」
「だしょう。
わたしだって美佳先輩なんて今更ですよ、ジミ子先輩」
「ううう、でもなんか」
「そんなことよりほら行きますよ。
落とさないようにちゃんと持ってくださいねジミ子先輩♡」
「は、は~い」
・
・
・
”スタタタタ”
「やばいやばい、めっちゃ遅くなっちゃった。
ゆきのん怒ってるかなぁ。
えっと~」
「はー、面白かった!
ね、ゆきのん」
「ええ
とっても」
「だんしんくい~ん♬ んふふっ、ふんふんふーん♬」
”ワイワイ”
「へ、あれ話し声?
ゆきのんの他に誰かいるの?」
「な、なぁ余韻に慕っているとこ悪いんだが、なんで映画の上映会なんだ」
「映画? これテレビのドラマですけど」
”ガヤガヤ”
「あ、これって比企谷君と会長の声?
でもなんで?」
「いやそんなのどっちでもいい」
「えっとですね、資料として見てたんですよ」
「資料?」
「はい。
実は今度の卒業式の後、プロムをやりたいと思いまーす」
な、なんだと
プロムって今のビデオみたいなやつだろ
卒業式の後に高そうな衣装着て、思いっ切りリア充リア充する奴。
あんなの海外ドラマの中での設定だろ。
とてもうちの学校でやるものとは思えない。
お、俺は絶対手伝わないぞ
まぁ、受験生だから無理だっていうのはわかっていると思うが。
「普通の卒業生を送る会でいいんじゃないの?
俺、ああいうの苦手だから絶対嫌なんだけど」
「あたしも楽しそうだなーって思うけど・・・・・・
ちょっと難しそうかも」
「そうね・・・・・・」
「はぁ、まぁ、それはわかってるんですけど。
・・・でもやります、ですから楽しみにしてくださいね」
「ちょっと待て。
お前、本気でプロムやる気なの?」
「ええ、やります!
先輩達にも受験終わってからでも手伝ってもらえないかなぁ~って
思ったんですけど。
いいです。
わたし達生徒会だけでやります」
そう答えた一色の瞳にはとても強い決意が宿っている。
でもなんでそうまでしてプロムがやりたいんだ?
まぁ卒業式まではまだ2ヶ月あるから、時間的にはやれないことはないが。
だがそれなりのものをするなら、予算とか人材、経験とか足りないものが
いっぱいある。
だが、なんでそんなにムキなってるんだ?
プロムといっても三年生が主役で、一色には何のメリットもないはず。
いつもの一色ならこんな面倒なことは。
「・・・・・・それは、何のために、誰のためにやるの?」
「もちろん、わたしのためです。
だってこのままいつもの通り、決まり決まった送別会やって、
それで終わったら、『はい、さようなら』ってなんかめっちゃつまらない
じゃないですか~
ここはわたし的にドバーってこれでもかってぐらいのことやって。
それで、それで・・・・・・・・・・・・自分の心に区切りつけたいんです。
ちゃんと心置きなく、先輩達を送り出したいんです。
・・・こんなんじゃ・・・駄目・・・ですか?」
・・・一色。
「そう、答えてくれてありがとう。
ではやりましょう」
「へ?
あ、あの~、雪ノ下先輩?」
そうだな。
そういうことなら仕方ないよな。
でも、あの一色がな。
「まぁ、上の判断でそう決まったんならしょうがねえな。
俺と由比ヶ浜は受験終わってからになるがそれでいいなら」
「うん、だね」
”ガタ”
「雪ノ下先輩、結衣先輩!」
”ガバ!”
「あ、暑苦しい」
「へへ、いいじゃんゆきのん」
「お二人とも、ありがとうございます」
「あ、あの~、三人で抱き合ってるのはいいんだけど」
「え、先輩も混ぜてほしいんですか?
それマジキモいんですけど」
「エロ谷君あなたって人は」
「ヒッキーそれはちょっと」
「い、いや、ち、違う。
そ、そんなこと言ってないぞ。
お、俺はだな、俺もプロムを 」
「冗談ですよ。
よろしくです、先輩」
「お、おう」
「・・・・・・」
「・・・ゆきのん?」
「比企谷君、由比ヶ浜さん・・・・・・あの、ちょっといいかしら」
「ん?」
「これは私個人の意思だからあなた達に強制する気はないわ」
「・・・・・・お、おう。
どういうことだ?」
「つまり、その・・・・・・、部長としての決断ではないから
そこに権限はないと思うの。
だから部としての活動とは考えなくてもいい。
もちろん力を貸してもらえるのはありがたいけれど。
ただ、私は一人でもこのプロムについて責任もってやり遂げる
つもりでいる、というか・・・・・・」
「「・・・・・・」」
「私は、私は、その・・・今回のプロムの件、
部長としてではなく、雪ノ下雪乃個人として受けたいの」
今一つ要領を得ない言葉に、一瞬首を傾げた。
まぁ、恐らく雪ノ下は受験生である俺達のことを考慮して言っているのだろう。
「つまり、俺達は自由参加でいいってことか」
「違うよヒッキー」
え、違うのか?
それなら雪ノ下はなにを。
「私は私の力でやり遂げたい
・・・それを見届けてもらえたら嬉しいわ」
「ゆきのんは・・・・・・自分の力でやってみたいんだよね」
「そうしないと私自身先に進めない。
あの人に追いつけない。
私はいつかあの人を超えたい・・・・・・超えないといけないのだから」
雪ノ下。
・・・あの人を超えたいっか。
あの人とは恐らく陽乃さんのことだろう。
雪ノ下の姉で雪ノ下以上に頭脳明晰かつ容姿端麗。
雪ノ下はそういう姉にあこがれ、いつも後をおっかけていたらしい。
自分の力でやってみたい。
それはそんな姉を超えるために彼女が決断したことなのだろう。
それなら俺達に反対する理由はない。
「・・・・・・いや。
いいんじゃないのそれで。
知らんけど」
「適当なことばっかり」
「それじゃ、明日から生徒会室に来ていただいてもいいですか?」
「ええ、よろしくね一色さん。
あ、でもごめんなさい。
放課後は少し待ってほしいの。
三ヶ木さんの受験が終わるまで待ってくれないかしら。
わたしは三ヶ木さんに東地大受かってもらいたい。
彼女はわたしにとって、とっても大切な友人なの。
申し訳ないけど、それまでは放課後以外の時間で手伝わせてもらうつもり。
それでもいいかしら?」
「はい、それで十分です。
いえ、わたしの方こそ、それでお願いします。
わたしにとっても美佳先輩は大事な人ですから」
”ワイワイ”
「・・・・・・」
”スタ、スタスタ、スタタタタ”
「・・・やっぱり、比企谷君にとってあの二人との関係は特別。
あんなの聞いたら、とても部室に入れないよ。
あの雰囲気は、わたしなんかが邪魔していいものじゃない」
”テッテッテッ”
「はぁはぁ。
・・・そ、そっか、自分の力でやり遂げたいっか。
だったら、だとしたらわたしにできることは」
・
・
・
「比企谷君、ところであなたどうなの?」
「ん?
あ、ああ受験か。
まぁ大丈夫だろう、今のところ順調だ。
俺よりも 」
”ちら”
「へ? な、なに、ヒッキー」
「悪いことはいいわん。
今からでも遅くない志望校替えろ由比ヶ浜」
「ひど!
だ、大丈夫だし・・・多分」
「由比ヶ浜さん、現実から目を逸らしたらダメ」
「ゆきのん!」
「結衣先輩、来年一緒に頑張りましょう」
「い、いろはちゃんまで」
「ふふ、ごめんなさい冗談よ」
「ごめんなさい結衣先輩」
「いや、俺本気だけど。
マジお前やばいぞ」
「ヒ、ヒッキ~」
「・・・・・・先輩」
「・・・まったくあなたは」
「いや、俺は由比ヶ浜のこと心配してだな。
絶対無理だろ早応大なんて」
「それはみんな同じ思いよ。
そうだとしても、もう少し言い方が・・・はっ!
・・・・・・ゆ、由比ヶ浜さん、あ、あの 」
「ゆきのんの馬鹿」
「ご、ごめんなさい」
”ブ~、ブ~”
「三ヶ木さん?」
「どうした雪ノ下、三ヶ木からか?」
「ええ。
・・・・・・三ヶ木さんからのラインで、どうしても外せない大事な用事が
できたので今日は帰るそうよ」
「そ、そうか」
「そうなんだ」
・
・
・
”ガラガラ”
「ん?
なんだ三ヶ木、まだ残っていたのか?」
「あ、平塚先生。
ちょうどよかった。
この問題わからないです、教えて頂けませんか?」
「なんだ勉強していたのかね?
どれ、どの問題だ」
・
・
・
「それじゃそろそろ帰りましょうか」
「あ、じゃ、俺カギ返して来るわ。
ちょっとマッカン買って帰りたいからな」
「そう。
それじゃお願いするわね」
「おう、じゃまたな」
「ええ」
「またねヒッキー」
「さ、行きましょう先輩」
「って、お前生徒会大丈夫だったのかよ。
何なら今からでも」
「大丈夫ですよ。
みんな優秀ですから」
”スタスタスタ”
「な、一色、お前俺達に断られるってわかっててこの話持ってきたんだろ」
「当り前じゃないですか。
先輩たちは受験生なんですよ。
そんな非常識じゃありません」
「じゃ、なんで」
「去年の卒業生を送る会のこと憶えてます?」
「ん、ああ、無理やり手伝わされたからな」
「なんですかその言い方。
・・・前の日の体育館倉庫で見たあの風景が忘れられなかったんですよ」
「前の日?」
そ、そうか、あれは去年の卒業式を送る会の前日だったな。
あの日、一色は三ヶ木に卒業する前生徒会の先輩たちとの想い出を
つくらせるために一芝居うった。
無理やり三ヶ木に飾りつけを押し付け体育館に一人残した。
後から来る前生徒会の仲間と一緒の時間をつくるために。
三ヶ木にとって前生徒会の先輩たちは特別な存在だったからな。
だとしたら一色は俺達との・・・・・・
「一色お前」
「最後の最後なんです、わたしにとっても。
雪ノ下先輩と結衣先輩、それと先輩。
みなさんたちとこうやって一緒にできるのも・・・・・・
だから、だからわたしも想い出が。
それがたとえほんの少しの時間でも」
「一色」
「・・・・・・先輩」
「お、おう」
「プロムは卒業生全員強制参加ですから、覚悟しておいて
くださいね。
あ、なんならわたしがチークお相手してあげますね。
それではです」
チ、チークだと。
「お、おい一色!」
”スタタタタ”
くそ、行ってしまいやがった。
プロムなんてリア充の祭典、参加するのもあれなのに。
チークなんて・・・はぁ~、マジありえねぇ。
”ガラガラ”
「先生ご苦労様です。
部室のカギ持ってきたんですけど」
「おうご苦労様。
そこに置いておきたまえ」
「うっす。
それじゃ」
「ん、あ、そうだ比企谷。
一つ頼まれてくれないか」
「え?」
・
・
・
「・・・・・・」
”スタスタスタ”
『さっきまで教室に三ヶ木が残ってたんだ。
もう帰ったと思うが念のため見てきてくれないか』
三ヶ木が教室に?
いやそんなはずはない。
”ガチャ、ガチャ、ガチャ”
今日は何か用事があるからって帰ったはずだ。
”ピー!”
だから教室にいるはずないんだが。
”ガタン”
・・・
「アチッ!」
ふぅ、いつも思うんだが、ここの自販機ちょっと温度高すぎない?
・・・・・・確かミルクティーだったな。
”ガチャガチャガチャ”
・
・
・
「ぶつぶつ、ぶつぶつ、う~、なんでこの解答はこうなるんだ?」
・・・・・・なんでお前教室にいるんだ。
いったい何を?
”カキカキカキ”
勉強、してるのか?
「くそ~わからん。
平塚先生に聞きに行ってこようかなぁ」
”ピタッ!”
「あ、あちぃー!」
「ほれ、ミルクティー。
んで、どの問題がわからないんだ。
数学以外なら教えてやる」
「へ、あ、ひ、比企谷君。
・・・・・・あ、あのね、ここんとこ」
「ん、どれだ?」
”ぐぃ”
「あのね」
”ベシ!”
「ぐはぁ!」
「あっちいだろうがこの馬鹿!
乙女のうなじにいきなりなにすんだ。
まったく、もう」
「いてててて。
でも、なんでお前教室で勉強してるんだ?
勉強するのなら部室に来ればよかったじゃねえか。
雪ノ下、ずっとお前が来るの待ってたんだぞ?」
「・・・ゆきのん、自分の力試してみたいんだね」
「え、お、お前もしかして聞いてたのか?
だったらなんで 」
「・・・・・・入れないよ、無理だよ。
三人のやり取り聞いたらわたしには・・・・
あのね、めっちゃ羨ましかった。
やっぱり比企谷君にとって二人は特別なんだって改めて実感した」
「三ヶ木」
「だからわたし決めたの」
「決めた?」
「明日のゆきのんのプリントで100点取るんだ」
「プリント?」
「うん、いつもゆきのんがプリント作ってきてくれるんだ。
わたしの苦手なところとか考えてくれて。
わたしね、今まで100点取れたことがなかった。
・・・明日こそ、絶対100点取るんだ、厳密に!
そんで、そんでね、ゆきのん塾を卒業するの。
・・・・・・ゆきのんにプロム頑張ってもらいたいから」
「そっか」
「うん、そっだ」
”なでなで”
「げ、な、なにすんだ!
いきなり女子の頭を」
「で、どの問題がわからなかったんだ」
「あ、うん、ここのとこ」
「どれ」
・
・
・
「どうかな。
これであってる?」
「ああ、これでいい」
「へへ、ありがと。
あとミルクティーもね」
「おう」
「・・・・・・比企谷君」
「ん?」
「あ、あのね・・・」
え、な、なんでここで目を瞑る。
こ、これって、あ、あの~
い、いいのか、こ、ここは教室だぞ。
・・・・・・だ、だけど
”ゴク”
俺、俺の・・・・・・俺のファーストは教室で。
・・・三ヶ木。
”そ~”
「ごほん!
いつまでそうやっていちゃいちゃしてるつもりかね」
「えっ」
「あっ」
「とっくに最終下校時間は過ぎているのだがな。
・・・まったくゾンビィ取りがゾンビィにってこのことだな」
「ひ、平塚先生、違います!
比企谷君はもともとゾンビィです。
だってもとから目腐ってるし」
”ぎゅ~”
「いたいいたい、比企谷君ほっぺ離して」
「誰がもとからゾンビィだ。
それにそれはゾンビィじゃなくて、ミイラ取りがミイラってことでしょ。
現国の先生が間違ったこと教えてどうするんですか」
「ははは、そうだな。
さ、それより本当に帰る準備をしたまえ。
もう外は暗い、今日は家まで送って行ってやろう」
ーーーーーーーー
”カキカキ”
「よしできた!
ゆきのん先生、採点お願いします」
「ええ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「三ヶ木さん」
「え、あ、はい」
”ごくり”
「連絡はラインでなく、ちゃんと電話をしなさい」
「あ、は、はい」
「でも、プリントはよく頑張ったわね。
満点よ」
「ほ、ほんと!
や、やった」
”ぎゅ”
「暑苦しい。
み、三ヶ木さんあなたまで。
や、やめてくれるかしら」
「えへへ、今日だけもう少し」
「・・・三ヶ木さん、どうしたの?」
「ゆきのん、今まで勉強みてくれてほんとにありがと。
あのね、もうわたしは大丈夫。
絶対、東地大合格して見せるよ。
だから、明日からはわたし自分で勉強するね」
「え、あ、あの」
「だからさ、ゆきのん。
ゆきのんはプロム頑張って」
「あ、あなた、もしかして昨日の話を聞いてたの?」
「あ、う、うん」
「盗み聞きはよしなさいってあれほど」
「だって、部室に入りにくかったんだもん。
・・・それとね、わたしも受験終わったら手伝わせてもらってもいい?
絶対手伝いたいの」
「三ヶ木さん、あの」
「うん、ゆきのんが一人でやってみたいって言うのわかっているから。
だから、わたしは邪魔しない。
作り物とかみんなへの差し入れとかそういうの手伝いたい。
だめ・・・かな」
「・・・ええ、わかったわ。
お願いして、いいかしら」
「ほんと! やったー」
「でもあなたはその前に受験頑張りなさい。
くれぐれも油断しないように」
「うん。
ゆきのん、ほんとにありがと。
あのね、大好きだよ」
「み、三ヶ木さん。
あ、あの、そ、その・・・あ、あなたとここで過ごした時間。
わたし嫌いではなかったわ。
いえ、嫌いというより、す 」
「ゆきの~ん♡」
”ぎゅ~”
「ぐ、ぐるじい」
ーーーーーーーー
”ピピピピッ、ピピピピッ”
う、う~ん
ふぁ~あ、もう時間か。
さてっと。
”とんとんとんとん”
「ん、おう小町、お早うさん。
今から学校か」
「え?
あ、お、お兄ちゃん
ど、ど、どうしたのこんなに早く起きてきて」
「あ、ああ。
そろそろ生活のリズム、試験に合わせようと思ってな」
「そっか、もうすぐだもんね。
あ、じゃ今から朝ご飯作るね」
「あ、いいぞ小町。
お前、プロムの準備とかで早くいかないといけないんだろう。
自分で作るわ。
あ、これ八幡的にポイント高い」
「・・・・・・」
「ご、ごほん
で、どうなんだプロム」
「あ、うん。
今更なんだけど、雪乃さんって本当に凄い。
企画とか組織運営とかだけじゃなくて、準備物の手配、タイムスケジュール、
予算や雑務に至るまで全てに完璧で。
もう雪乃さん一人いれば大丈夫かなって感じだよ」
「だろうな」
まぁ雪ノ下の能力や経験値を考えれば、安易に雰囲気が想像できる。
恐らくあいつ一人で何でもできてしまうだろうからな。
ただ、あいつは人一倍体力がない。
そのくせ人一倍負けん気が強いからな。
事態がひっ迫すれば、平気でムリをして、それを一人でしょいこんで
限界を超えてしまう。
そしてその結果、雪ノ下が倒れたら全てが波状する。
それはあの時の文化祭で経験済みだ。
まぁ、今回は一色だ。
既に生徒会会長としての実績も十分だし、能力も雪ノ下ほどではないが
十分信用おける。
だからその辺は大丈夫だと思うが、まぁ一応念を押しておくか。
「なぁ小町。
確かに雪ノ下はなんでもできる。
だからってつい頼り切ってしまうと、あいつは全てを一人でしょい込んで
必ず無理をする自分の限界以上にな。
だから・・・まぁなんだ、あまり無理をさせないように気をかけてやってくれ」
「うん、わかった。
あ、もうこんな時間。
じゃ、お兄ちゃんもう行くね」
”スタスタスタ、スタ”
「ね、ねぇお兄ちゃん。
お兄ちゃんは、ゆ・・・・・・」
「ん、なんだ?」
「あ、うううん、なんでもない。
あんまりゆっくりしてないでちゃんと勉強してね 」
「お、おう」
”ガチャ”
「それでは行ってくるであります」
「おう、行ってこい」
”タッタッタッ”
・・・さてっと、飯食う前にメール入れておくか。
”カシャカシャカシャ”
・
・
・
”ギュルルルル―、ブォー”
「ひゃ~
ま、麻緒さん、サ、サイドカーなんだから、
も、もう少しゆっくりと。
さっきのカーブもこっちの方浮いてたから」
「だったら、なんでこんな大事な日に寝坊するの!」
「だ、だって緊張して眠れなかったんだもん」
「もう時間ギリなんだから我慢しなさい」
「う~」
”ブロロローン、ドドドド”
「いや~、やっぱり怖い!
ほ、ほら隣走ってる車近い、近いし!」
「うっさい。
ほら今のうちにおにぎり食べちゃいな」
「うううう、こわいよ~」
”ブ~、ブ~”
「ん、メール?
えっとスマホスマホっと」
”ガサガサ”
「あ、比企谷君から」
”カシャカシャ”
『今日受験だよな。
まさかお前のことだ寝坊とかしてないだろうけど・・・
まぁ、落ち着いて頑張れ。
健闘を祈る』
「寝坊!
げ、な、なんで知ってるの?
ま、まさか麻緒さんが」
”ちら”
「ん、なに?」
「あ、い、いや何でも。
あははは、お、美味しいなぁ、このおにぎり」
”パク”
「とりあえず返信返信っと」
”カシャカシャ”
『寝坊なんてするわけないじゃん。
今、東地大に向かってるよ。
受験終わったらゆっくり会おうね。
受験明けの旅行、とっても楽しみ。
じゃ、頑張ってくるね』
「えっとこれでいいかなぁ。
あ!
そ、そうだ。
ぐへへへへ」
”カシャカシャ”
『旅行、お泊りだよね。
・・・・・・わたしの全てを、あ・げ・る♡』
「へへ、へへへへへ、なにやってんだわたし。
バカやってないで削除しないと」
”ガタン”
「ひゃ」
「あ、ごめんごめん。
大丈夫だった美佳?
ちょっと道路が悪いみたい」
「・・・・・・う、うそ。
送・・・信・・・しちゃ・・・た。
ま、麻緒さん!」
「ん、なに?」
”ギロ”
「・・・あ、い、いやいいです、何でもないです。
あの、安全運転でお願いします」
ーーーーーーーー
ふぅ~終わった~
こうやって塾で勉強するのももう少しだな。
この前の模試の結果もまぁまぁだったし。
あとは受験まで風邪とかひかないようにさっさと家に帰って
過去問でもするか。
「さてっと」
「ヒッキー、やっはろー」
「・・・由比ヶ浜、塾ではその挨拶はやめろ」
「え、なんで?」
「いやなんでって・・・」
「ん?
あ、それよりさ、ね、ヒッキー、今時間ある?
今日の授業でさ、ちょっとわからないところがあって。
よかったら教えてほしいなぁ~って」
「断る!」
「そ、即答!」
「いいか、お前も早応大を受けるのなら俺のライバルだ。
ライバルに塩を送るような真似は 」
「・・・だめ?」
うっ、か、かわいい。
くそ、だからその上目使いやめろ。
そ、それってぜってぇ反則だからな。
「・・・ドリンクバーで手を打つ」
「本当!
やった、じゃ、じゃあさ、ほらあのサイゼで」
”ぎゅ”
「ほら行こ、ヒッキー」
「お、お、おう」
い、いや、その、あのそんなに腕を抱き締められると・・・
う、腕が何かに挟まれて、その何か大きく柔らかいものに。
・・・・・やっぱり90・・・あるよな。
「ヒッキー?」
「あ、い、いや、なんでも」
ーーーーーーーー
「や、やだ、見たくない」
”ぐぃ”
「いたたたた、痛い。
ま、麻緒さんそんなに耳引っ張らないで」
「え~い、往生際の悪い。
ほらさっさと受験番号入力する」
「だ、だって、試験、あんまりできなかったんだもん」
「今さらしょうがないでしょう。
だめだったら諦めて、来年頑張ればいいじゃない」
「それって、ろ、浪人。
ううう、浪人はヤダ」
「だから滑り止め受けときなさいって言ったのに」
「だって、東地大に行きたかったんだもん」
「はぁ~、ほら受験番号は何番?」
「・・・・・・」
「受験番号!」
「上から826386のナイスボディ」
”ポカ”
「誰がスリーサイズ言えっていったの!」
「ち、違う、ぐ、偶然だし」
「まったく、えっと8、2、6、3、8、6っと」
”カチャカチャカチャ”
「あとは美佳の誕生日っと、0、3、2、0」
”カチャカチャカチャ”
「よしっと
・・・・・・・・・・・・美佳」
「や、やだ、見ない!」
”ぷにゅ~”
「ふぁい? 麻緒ひゃん、なんねぇほっぺにょ?」
”ぎゅ~”
「い゛ー、いっだぁー!」
「よし、夢じゃないね。
おめでとう美佳、ほら合格だって」
「は、ほんとー!
えっとどれどれ。
『おめでとうございます』・・・・・・・おめでとうございますだ!
麻緒さん、おめでとうございますだって、よ、よ、よがっだー」
「よかったね美佳」
「う、うん、ううう、よがった、よがったよー」
・
・
・
「ふぅ、やっぱり自宅と違って塾だと集中できるよな」
「それある!
俺も家だと全然だわ」
「やっぱなんか落ち着かないよな」
”ガヤガヤ”
ふふふ、馬鹿め。
俺ぐらいのボッチになると、家でも塾でも・・・が、学校でも
どこでもゾーンにはいることができる。
小学校から話しかけられたことなかったからな。
いやそれどころか学校で一言も話さなかった日もある。
そ、その時から俺は今日の今を見つめて鍛錬してきたんだ。
この受験戦争を勝ち抜くために。
やっぱボッチ最強!
「・・・・・・」
ご、ごほん!
確か、今日は三ヶ木の合格発表の日だったよな。
まぁ、あいつのことだから不合格ってことはないと思うが。
塾の休憩時間とかスマホ見てるがまだ連絡がない。
こんなに心配するのって小町の入試以来だな。
こっちから連絡するのもあれだし、もう少し待つか。
それより、次は俺の番だな。
三ヶ木が合格して俺が落ちたら洒落にならないからな。
・・・温泉も行きにくいし。
温泉っか~
『旅行、お泊りだよね。
・・・・・・わたしの全てを、あ・げ・る♡』
す、全てって、そういうことだよな。
「ぐふ、ぐふふふふ」
はっ、そ、そうだ、こうしていられない。
少しでも時間がもったいない。
歩きながら、一つでも単語覚えないと。
”スタスタスタ”
・
・
・
「はぁー」
”ゴシゴシゴシ
「寒いなぁ~
手が悴んじゃって」
”ぴゅ~”
「うひゃ~、寒くて死にそ~
ううう、で、でもさ、ちゃんと会って報告したい。
それに学校が自由通学なってからずっと会ってないし。
早く出てこないかな比企谷君」
”ガヤガヤ”
「あ、出てきた!」
”トボトボトボ"
「ぶつぶつぶつ・・・」
よ、よし、完璧だ。
この調子で次の綴りの単語のチェックをっと。
”タッタッタッ”
「ひ、ひきが 」
「ヒッキー」
”パシッ”
「姿勢悪いよ。
ほら、しゃんとしないと駄目だぞ~
なんちゃって」
「いってえ。
ゆ、由比ヶ浜、いきなり背中を叩くな!
憶えていた単語、全部忘れたじゃねえか。
まったく」
「え? あはは、ご、ごめん。
ね、ヒッキー、あのね今日もサイゼでさ 」
「ああ、わかってる」
「えへへ、やった」
「サイゼ?」
「え、あっ美佳っち!
・・・やっはろー」
「あ、あの・・・やっはろー、結衣ちゃん、比企谷君」
ん、三ヶ木?
なんでこんなとこに?
なんだ頬真っ赤じゃねえか。
もしかしてずっと塾終わるの待ってたのか?
「おう、どうした」
「あ、ごめん。
あの、ちょ、ちょっと知らせたいことがあって来ちゃったんだけど。
邪魔してごめん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
え、な、なにこの雰囲気。
三ヶ木も由比ヶ浜も、二人とも下向いたまま黙り込んでるんだが。
なんかすごく重い。
喧嘩でもしてるのかこの二人。
確かこの前、部室で勉強会・・・という名のお喋り会の時は、
少なくとも由比ヶ浜は三ヶ木とお喋りするのをすごく楽しみにしていたはずだ。
結局三ヶ木は来なかったのだが。
ふむ、その後に何かあったのか?
「・・・あ、ヒッキー、あたしあそこの喫茶店に行ってるね。
美佳っち、またね」
「あ、うん」
”スタスタスタ”
気まずそうに由比ヶ浜は喫茶店に向かっていったのだが、
最後まで三ヶ木とは顔を合わせず。
ほんとなんかあったの君達。
仕方ない、三ヶ木に聞くか。
あ、そ、その前に。
三ヶ木は俺に何か話すことがあったんだろう。
そのためにこの寒空をずっと待っていた、頬を真っ赤にしながら。
そして、それまでして俺に話すことと言ったらあのことしかない。
だとしたらまずはそっちの話を聞く方が先だ。
「で、どうだったんだ東地大。
今日発表だったんだろ」
「あ、う、うん。
あ、あのね・・・・・・・・・へへへ、見事合格だぜこの野郎!」
「お、おう。
そっか、やったな、おめでとさん」
「ありがと。
次は比企谷君の番だね」
「ああ、そうだな」
「・・・あとね、メ、メールの件だけど」
「・・・・・・」
「・・・ごめん、変なの送った。
あ、あの~忘れてくれるとありがたくて。
冗談で打っててさ、それで消そうと思ったら、
ちょっと手元が狂って送信・・・しちゃった」
「お、おうそうなのか。
い、いや、まぁなんだ・・・・・・温泉もいいかもな。
と、泊りがけで」
「えっ!
あ、う、うん、温泉いいよね。
・・・泊りがけで」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・あ、結衣ちゃん待ってるんだよね」
「ん、ああ、今からサイゼで勉強会なんだ」
「そっか。
・・・・・・うん、頑張ってね」
「あれだったら、お前も来ないか?」
「あ、わたしは・・・・・・いいよ。
えっとね、今から学校行ってくる。
平塚先生とゆきのんに合格したの報告してくるから」
「そっか」
「うん、じゃまたね」
「おう、またな」
”スタスタスタ”
そっか、合格したのか三ヶ木。
頑張ったんだな。
はは、実際よく合格できたな。
夏までは就職するって言ってたのにな。
さて、今度は俺の番だ。
温泉が待ってるし。
よし、こうしちゃいられない。
早速家に帰って勉強しないとな。
「よし、行くぞ温泉!」
”ダー”
・
・
・
”タッタッタッ”
「はぁ、はぁ、はぁ」
”ガラガラ”
「ゆきのん!」
「三ヶ木さん、ドアを開ける時は 」
”だき!”
「え? み、三ヶ木さん」
「ゆきのん、ゆきのん、ゆきのん。
受かった、受験受かったよー」
「そう、よかったわね三ヶ木さん」
「うんうんうん」
”なでなで”
「よく頑張ったわ三ヶ木さん。
おめでとう」
「ありがと、ゆきのん。
ゆきのんのおかげだよ、ほんとにほんとにありがと」
「違うわ・・・自分の力よ、あなたは自分の力で勝ち取ったの」
「・・・ゆきのん。
あのね、プロムこれからいっぱいお手伝いするね。
作り物とか任せて、あと差し入れも」
「ええ、お願いするわ」
「うん。
・・・・・・あのね、今度はゆきのんの番だね」
「え?
ええ、そう、わたしの番」
「頑張ってね、ゆきのん」
ーーーーーーー
”カタ”
「ゆ、由比ヶ浜さん。
あ、あの~、ミルクティーでよろしかったでしょうか?」
「・・・・・・」
「す、すまない」
”ぺこ”
「い、いやちょっとな、いろいろとあってな。
ついお前が喫茶店で待ってること忘れてしまって・・・・・・
ほ、本当にすまない」
”ムス―”
「あ、あの由比ヶ浜さん、そのお詫びと言ってはなんだけど
何でも好きなもの注文してくれ。
善処させて頂きます。
だからもうそろそろ機嫌を」
「・・・・・・ふぅ。
仕方ないよね。
美佳っち合格したんだもん」
「え、なんでお前知ってるの?」
「え、だってあの後、美佳っちと電話したとき聞いたし」
「え、お、お前ら喧嘩してたんじゃないのか?」
「喧嘩?」
「だ、だってこの前のあの感じって」
「あ、あ、あれ。
あれは何でもない」
「ん?
いやだって」
「何でもないって言ったら何でもないの!
ヒッキーには関係ないんだから、馬鹿!」
「・・・・・・」
「そ、それよりさ、さっき何でも注文してくれって言ったよね」
「お、おう。
まぁ、少し手加減してくれるとありがたい」
「じゃあさ・・・・・・早応大の入試終わったら、一緒に学校行こう」
「学校?」
「ゆきのんたちのお手伝い。
美佳っちも行ってるっていうし。
ほら、あれだよあれ、えっと・・・陣痛お見舞い!」
「ぶはぁ!」
「ヒッキー、大丈夫?」
「ば、ばっか!
それを言うのなら陣中見舞いだ陣中!」
「えっ」
「まったく、お前本当に受験大丈夫か」
「だ、大丈夫だし!」
「いやその自信ってどこから来るの?
いいか、悪いことは言わん、本命を変えた方がいい。
早応大はあきらめて、例えば駿台とか」
「すん大? すん大、すんだい、すん・・・・・・駿台!
そ、それって予備校だし!」
「それだけやばいってことだ。
だからだな 」
「本当に大丈夫なんだから。
ほら!」
”ぐぃ”
え、な、なに?
自信満々で目の前に突き出したのって、それお守り?
自身の裏付けって神頼みってことかよ。
神様だって、何でも誰でも願いをかなえてくれるものじゃない。
そんなことしてたら、それこそブラック業界の社畜。
神様だって多忙で倒れてしまうっていうの。
だから神様は、願いに対して努力を尽くした人に対して最後の一押しをしてくれるもの
なんだ。
努力失くして願いはかなわん。
・・・はぁ~まったく。
「へへ、正月にママと一緒にもらいに行ってきたの」
「な、なぁ由比ヶ浜 」
「あのね、このお守りってさ、すごいご利益があるんだよ。
総武校受けた時もママと一緒にもらいに行ったんだ。
先生も友達も総武校なんて絶対無理だって言ってたのに、
このお守りのおかげで無事受かることができた。
だから今回も絶対大丈夫!」
えっ、な、なんだと!
総武校受けた時もこのお守りを持っていただと。
もしそれで由比ヶ浜が総武校に受かったというのなら、
だとしたら、なんというご利益。
そ、それってレア、いや超レアアイテムじゃねえか。
マジ☆5以上のアイテム!
”ぎゅ”
「お、おい由比ヶ浜」
「ヒッキー、あ、あの顔近い。
それに手もそんなに握られると、ちょっと痛いかなぁ~って」
「あ、す、すまん。
あのな、そのお守りどこで頂いたものなんだ」
「えっと確か北白蛇神社っていって、直江津ってとこだったと思うけど。
なんか神様の引継ぎがあってから、何でも願い事が叶うって有名なんだって」
直江津・・・・・・新潟っか。
くそ、もう入試はすぐだ。
今は時間的にも資金的にも行けそうにもない。
もう少し早くその情報があれば、俺もその超レアアイテムを。
はぁ~
「あ、ちょっと待ってね、今ママに詳しい住所を聞いてみるね」
「いやいい。
んで、その霊験あらたかな神社に早応大の合格をお願いしてきたのか」
「え、あ、ああ、ちょ、ちょっと違うかなぁ」
「え、何違うの?
じゃ何をお願いしてきたんだ?」」
「あ、あ、あのね・・・・・・ヒッキーと同じ大学にいけますようにって」
「一緒じゃねえか」
「違う・・・んだけど」
「いや一緒だろ?」
「ち、違うの。
もう、ヒッキーの馬鹿!」
「はぁ?」
「ふん!
あ、店員さん、すみません注文いいですか。
えっとこれとこのケーキ、あ、あとこのパフェも」
「お、おい」
「ヒッキーの何でも好きなもの注文してくれっていいたよね」
「え、あ、いやでもさっき 」
”ぎろ!”
「なに」
「い、いえ、なんでもないです」
・
・
・
「う~ん、このレアチーズケーキもすごく美味しい」
ううう、お、おれの諭吉さんが。
マジどれだけ食べる気だ。
好きなものと言ったけど、好きなだけとは言ったつもりはないのだが。
はぁ~
「ヒッキー」
「ん? 」
”ぱく”
「ね、美味しいでしょ」
「・・・・・・」
い、いや美味しいでしょって由比ヶ浜。
君、このフォークでさっきまでケーキ食べてたんだよね。
「ヒッキー?」
「いや、ま、な、なんだ・・・・・・これって」
「え?
・・・・・・あっ!」
や、やっと気が付いたのかよ。
ど、どうすんだ、すごく気まずいんだが。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あ、あの、ごめん」
「いや・・・・・・美味かった」
「うん。
・・・・・・あ、そ、そうだ。
ね、プロムの動画もう観た?」
「ああ、あのイメージ動画な。
小町に無理やり観せられた」
そう、それは雪ノ下達がプロムを紹介するために作ったイメージ動画で、
生徒会の公式ホームページにアップされたものだ。
何でもそれは体育館に本番さながらのセットを組んで撮られたもので、
そこにはいつもの雰囲気とはかけ離された異空間が広がっていた。
そしてその異空間ではドレスとタキシードに着飾った生徒たちによる華やかな
ダンスが繰り広げられていた。
その中でひときわ目を引いたのが男装の麗人と化した雪ノ下雪乃。
容姿もさることながら、その一つ一つの仕草は優雅で、思わず見惚れるほどだった。
相手をする一色もオレンジ色を基調としたドレスは鮮やかで、その仕草のあざとさと
相まって非常にかわいいものがあった。
だが、それより俺は
「ゆきのんすごく綺麗だったね」
「いや、それより小町だ!
あの小町のドレス姿の可憐さに比べたら、雪ノ下や一色など引き立て役にすぎん。
みろ、早速スマホの待ち受けにしたぞ」
「はは、ヒッキーらしいや。
動画以外にも準備の風景とかいろいろアップされてるみたいでさ、
今日も何かアップされてるかも」
お、おい君もしかして毎日それチェックしてるの?
マジ大丈夫なのか由比ヶ浜。
”カシャカシャ”
「あっ」
ん、どうしたんだ?
由比ヶ浜、スマホの画面見て固まってるんだが。
「どうした由比ヶ浜?」
「ヒッキー、こ、これ。
あ、あのね、他に動画があったから見てみたら」
そうやって心配そうに差し出された由比ヶ浜のスマホには、
自撮りと思われるプロムの画像が映っていた。
この女子達には見覚えがある。
雪ノ下達が作った動画にエキストラとして映っていた女子達だ。
ただその画像に映っていた女子達のドレスは胸元が大きく開かれていて、
そして必要以上に男子生徒と密着して踊っていた。
満面の笑みを浮かべながら。
・・・・・・まずいな。
「ヒッキー、これ大丈夫かなぁ」
「・・・・・・わからん。
だが今は受験に集中しろ。
これ食ったら勉強始めるからな」
「あ、う、うん」
ーーーーーーーー
「ふんふんふん♬
よしで~きった。
うん上出来上出来。
ちょ~美味しそう。
明日はバレンタインだもんね。
毎日頑張っている生徒会のみんなへのプレゼント。
へへ、みんな喜んでくれるかなぁ。
それとさ・・・・・・明日は比企谷君の入試最終日。
試験終わったら渡しに行くんだ。
そしてね、
『誰にも渡したくない、俺だけの人になってほしい。
だから俺と付き合ってほしいんだが』
あの時の返事、するつもり。
今更かもしれないけど、でもやっぱりちゃんと返事したい。
へへ、今頃まだ勉強頑張ってるかなぁ。
えっと、今何時だっけ?
・・・え、もうこんな時間だ。
やば、さっさとお風呂入らないと。
しっかし、今日もとうちゃん遅い。
また午前様かなぁ」
”ガチャ”
「あ、おかえ・・・・・・」
「ひっく
うぃ、ただいま美佳ちゃん」
「げ、とうちゃん、また飲んできた!
麻緒さんが家事手伝いに来てくれてた時は全然飲んで帰らなかったのに。
麻緒さんが来なくなってからは毎日毎日これだもん。
ね、とうちゃん、すこしは自分の体のことを 」
”だき”
「ぷはぁ~」
「ぐへぇ~、酒くせ~」
「美佳ちゃん、お帰りのチュ~」
「や、やめろ、離せこの馬鹿おやじ」
”ベシ”
「ぐ、ぐはぁ~」
「まったく!
で、何か食べれる?
それともお風呂にする?」
「美佳ちゃんの手料理たべた~い、ひっく」
「か、かわいくね~
はぁ~仕方ないな。
今なんか作るから、ちょっこと座って待ってて」
「うぃ」
「はぁ~、麻緒さんにまた来てもらおうかなぁ。
でも受験終わるまでって約束だったし」
”ムシャムシャ”
「いくらかあちゃんのお姉さんだからといっても、あんまり甘えてばかりは悪いよね。
でも・・・」
”ムシャムシャムシャ”
「ね、とうちゃん、ちょっと相談だけど」
”ムシャ”
「へ、と、とうちゃん・・・・・・」
”ムシャ、パク”
「な、なに食べてんだー!」
「何って、チョコ。
さっきチョコ食べて待っててって」
「いってねぇー!」
”パク”
「だから、食べんな!」
ーーーーーーーー
”ふらふら、ふらふら”
お、お、終わった。
も、もう脳みそのエネルギー、全部使い果たした。
もう単語一つ出てこない。
は、はやいところ、マ、マッカンを、糖分の補給をしないと。
「ヒッキー」
”スタタタタ”
「お、おう」
「大丈夫ヒッキー?
目がいつも以上に凄いことになってる」
「だ、大丈夫だ。
マッカンさえ補給すれば元に戻る。
で、どうだったんだお前」
「え、あ、ま、まぁ~あとは神のみぞ知るってところかな」
「まぁ、お前の神さん凄いからな」
「でへへへ。
あ、それよりさ、この前の約束憶えてる?」
「ん、あ、ああ、わかってる。
プロムの手伝いだったな」
はぁ~、今は思いっきり眠りたいのだが約束だ仕方がない。
まあそれに正直、ちょっとプロムのことも気になってたしな。
「んじゃ行くか」
「うん」
・
・
・
”ガラガラ”
「失礼するぞ。
ん、柄沢、一色はいないのか?」
「あ、平塚先生。
えっと、一色さんは蒔田さんとプロムのポスターを貼りに行ってますが」
「そうか。
すまんが、至急一色に応接室に来るように伝えてくれないか」
「え、あ、はい」
「副会長、小町が連絡します」
「すまない、比企谷さん頼むよ」
「はい」
”カシャカシャ”
「・・・・・・先生、何かあったんですか?」
「ん、ああ」
”キョロキョロ”
「雪ノ下はいないようだな」
「あ、はい。
今、貸衣装の打ち合わせで藤沢さんと外出しています」
「そうか。
実はな、プロムの件で保護者の方が乗り込んできててな。
君達にも一応話を聞いてもらおうと思ってな」
「それなら、私がお話を伺わせてもらいます」
「雪ノ下!
・・・ふむ、だがな」
「何か問題でも?」
「・・・・・・乗り込んできた保護者というのがだな 」
・
・
・
”スタスタスタ”
「あ、ヒッキーほらプロムのポスター提示してある。
これあの動画の時のゆきのんといろはちゃんだ」
「ああ。
あのダンスシーンの写真だな」
「本当にプロムやるんだね。
・・・ゆきのん達、頑張ってるんだ」
「そうだな」
”タッタッタッ”
「あ、いろはちゃん。
お~い、いろはちゃんやっはろー」
「え?
あ、結衣先輩、先輩!」
”ダー”
「お、おい生徒会会長様が廊下走ったら駄目だろう」
「そんなことはどうでもいいんです」
どうでもいいのかよ。
いやマジそれどうなの?
「それより大変大変大変なんです~
一緒に来てください
あ、結衣さんもお願いします」
へ?
・
・
・
”スタスタスタ”
やっぱりあの映像か。
応接室に向かう間に一色に聞いた話では、SNSにアップされたあの女子達の映像、
あれを観た保護者が学校に乗り込んできたらしい。
まぁ、あんな格好で男子生徒といちゃつく映像を見たら、親としては心配する気持ちに
なってもおかしくない。
だがその程度のことなら、
「なぁ一色、雪ノ下はどうしたんだ?」
「え、あ、雪乃先輩なら先に副会長と応接室に行ってます」
「そうか」
それなら大丈夫だろう。
大抵の保護者なら雪ノ下一人いれば説得可能だろう。
保護者が心配している点の改善を約束して安心させる。
それぐらいあいつのスキルから考えればわけのないことだ。
だとしたら、
「なぁ、雪ノ下がいるのなら、俺達必要なくない?」
「はぁ、それがですね・・・・・・
とにかく、いいですからお願いします」
「お、おう」
・・・そんなにやばいのか?
足早に先を急ぐ一色からは只ならぬ状況であることが感じられる。
それは由比ヶ浜も同じらしく、不安に表情を曇らせている。
「ね、ね、ヒッキー。
大丈夫かなぁ」
「わからん」
「・・・・・・ゆきのん」
「大丈夫だ心配するな。
いざというときは土下座でも何でもしてやる」
「ヒッキー」
そうだ、俺の108の特技のなかでも俊逸な特技・・・土下座。
ふふふ、俺の土下座にかなうものなど・・・・・・あいつ以外いない。
それにいくらなんでも土下座している生徒を目の前にして、
大の大人がそれ以上何も言うことはできまい。
それこそ大人げないと非難されるものだ。
まぁ動画でも撮れたらなおさらだが、そこまですることはあるまい。
唯一の気がかりは・・・・・・
”ドン”
「ひゃ、な、何ですか先輩」
「あ、す、すまない。
ちょ、ちょっと考え事をしてて、立ち止まったお前に」
「はぁ~まぁいいですけど。
先輩も入試でストレス溜まってるでしょうから、こんなに可愛い女子を
目の前にしたら」
「いや、そんな気は全くない、厳密に!」
「は、はぁー!
なんですかそれ!
しかも厳密にって。
もういいです、じゃ入りますね」
”トントン”
「失礼します」
”ガチャ”
「しつれ・・・」
マ、マジか。
いきなりのラスボス登場かよ。
一色が只ならぬ雰囲気だったのも納得できる。
気品と威厳の塊。
この応接室にピリピリと張り詰める緊張感を醸し出しているあの人。
・・・・・・雪ノ下の母。
そして、その横で退屈そうにコーヒーに突っ込んだマドラーをくるくる回している魔王。
いやもとい雪ノ下の姉、陽乃さん。
全ての面で雪ノ下の上位互換であり、雪ノ下が越えようとしている壁。
その様子からすると無理やり連れてこられたのだろう。
いや~凄く機嫌わるそ。
そして・・・・・・雪ノ下。
ローテーブルをはさんでその正面に座っている雪ノ下の背中は、
超然とした態度の母の視線を一身に受けてるためか、その背中は心なしか
丸まっているように見えた。
雪ノ下と陽乃さん、この二人のこんな態度を俺は今まで見たことがない。
「お待たせしました。
プロムについてはわたし達全員で話し合って決定したものです。
・・・・・・ですので、その実行可否についての議論は、
わたし達全員で参加させて頂きます」
俺の隣に座った一色は、そう言って敵意むき出しで雪ノ下母親に鋭い眼差しを
向けている。
そう、それはまるで追い詰められたネズミが猫に嚙みつこうとしているように。
だが・・・・・・相手が悪い。
相手は猫じゃない獅子、いやそれもただの獅子じゃない。
百戦錬磨の百獣の王だ。
そんなものこの人の歯牙にもかからない。
「議論だなんてそんな大げさなものじゃないのよ?
ただ、こちらの意見を皆さんにお伝えに来ただけなんだから」
やはり簡単にいなされてしまった。
格が違い過ぎるんだ。
「・・・・・・では、改めてお話を伺います」
俺達がやってきてから一度もこちらを見ることのなかった雪ノ下が、
硬い口調で切り出した。
・
・
・
”スタスタスタ”
「くそ、あの馬鹿おやじ!
生徒会のみんなの分のチョコ全部食べやがって。
はぁ~、比企谷君の分は無事死守できたからまだよかったけどさ。
もうチョコの材料あんましなかったから、めっちゃしょぼくなっちゃたじゃんか。
・・・・・・で、でも!
ほ、ほら肝心なのは気持ちだから。
このしょぼ・・・チョコには、みんなへの気持ちがいっぱい込められている。
だから、そこら辺の豪華な義理チョコより上のはず。
・・・・・・た、多分、きっと」
”がさがさ”
「はぁ~、でも実際しょぼいよなぁ~」
"ドタドタドタ"
「ジ、ジミ子せんぱ~い」
「え? あ、舞ちゃん」
・
・
・
『議論だなんてそんな大げさなものじゃないのよ?』
「・・そういうことっか」
「え、ヒッキー何か言った?」
「あ、いや何でもない」
雪ノ下の父は県内有数の企業である建設会社の社長で、しかも市議会議員。
すなわち地元の名士だ。
それに陽乃さんも総武校OBということもあって、確か学校の理事にもなっていたはず。
そんな名士であり理事の雪ノ下家に、あのネットの映像を観て心配になった保護者達が
相談にいくのは当然の成り行きだろう。
つまり今日こうして学校に乗り込んできたのは、この人の意思できたのではなく、
保護者達の代表として乗り込んできたということなのだろう。
ということは、相談に乗ったという時点で、この人にとってこの件の結論は決まっている
ということなのだ。
だから既に決定事項であり、俺達と議論する余地など初めからないんだ。
雪ノ下や一色がいくら反論しようと、そうねと笑顔で軽く受け止められて、
そしていつの間にかその決まっている結論に向けて誘導されているのだ。
この流れを変えるには、まずこの人のこの冷静沈着の仮面を引き剝がさないといけない。
だがそんなこと俺達には・・・・・・
”ガシガシ”
無理だな。
まぁ、それにもともと今回の件について、保護者達が心配するのは至極当然の
ことなのだ。
あの映像を観られたのであれば、なんと反論しようと説得力に欠ける。
それともう一つ・・・そう、駄目押しなのは、
『謝恩会は卒業生のためのものでもあるけれど、保護者や先生方、地域の方々
にとっても大切なイベントよ』
そうなんだ。
雪ノ下母の指摘された通り、このプロムには大きな問題がある。
机の上に置かれたプロムの概要書。
さっき改めて内容を確認してみたんだが・・・・・・
公開告白、プロムキングにプロムクィーン、チークタイム等々。
はぁ~、なにこれ。
特に公開告白って、これって何かのいじめ?
ま、まぁ欧米ならこれでいいのかもしれない。
だが日本ではこういった催しは、本来、卒業生が今までお世話になった恩師や、
学費を初め面倒をみてくれた親への感謝、また卒業する先輩への在校生からの
想いを表す場でもあるのだ。
だが、このプロムにはそれがない。
ただ単に卒業生が卒業ということにかこつけ、ワイワイガヤガヤするだけ。
ま、まぁもともとプロムなんてものは、リア充のリア充によるリア充のための
お祭りだからな。
畢竟、そんなものはリア充共が勝手にやりたい奴を集めてやればいい代物だ。
それに昨年まで行われてきた卒業生を送る会自体に何の問題もなかったはず。
昨年は結構好評だったって聞いてるし。
だからあえてこれを生徒会主催で執り行う理由がない。
・・・・・・だが、
『ここはわたし的にドバーってこれでもかってぐらいのことやって。
それで、それで・・・・・・・・・・・・自分の心に区切りつけたいんです。
ちゃんと心置きなく、先輩達を送り出したいんです。
・・・こんなんじゃ・・・駄目・・・ですか?』
「・・・・・・」
『私は私の力でやり遂げたい。
・・・それを見届けてもらえたら嬉しいわ』
『ゆきのんは・・・・・・自分の力でやってみたいんだよね』
『そうしないと私自身先に進めない。
あの人に追いつけない。
いつかあの人を超えたいから』
「・・・・・・」
何とかしないとな。
だが、既に戦略的に負けが決まっている勝負だ。
小手先な戦術で挽回できるものじゃないだろう。
それにこの議論もどきが始まってから、もう結構な時間になる。
いつ打ち切りを告げられてもおかしくない。
それは”プロムの中止”という最悪な結末で。
くそ、何とかそれを避けるだけの手立てはないのか。
せめて結論を先延ばしにできれば。
”ガシガシ”
・・・・・・土下座。
そうだ、今の俺にできることはそれしかない。
それこそ額が床にめり込むほどの土下座で、あの人の前に這いつくばってやる。
そんな姿の生徒に、いくらあの人でも。
最悪の結末を避けるためなら、俺の自尊心など安いものだ。
それに、幸いこの場にあいついないからな。
はは、なんの気がかりは何もない。
”ニヤ”
くくくくく、ははははは。
いいだろう、見せてやろうではないか、究極の土下座というものを!
それじゃ
”にぎ”
へ、由比ヶ浜?
なんで腕を?
すまんがその手を離してほしいんだが。
「由比ヶ浜 」
”ギュッ”
俺が何か言おうとしたとき、由比ヶ浜は一層強く俺の腕を握りしめてきた。
凄くもの悲しげな瞳で俺を見つめながら。
きっと由比ヶ浜は俺がこれからやろうとすることを理解したのだろう。
・・・土下座、やめろっというのか。
だがそれでは・・・・・・それしか方法がないんだ。
「由比・・・・・・」
「・・・・・・」
か弱い女子の手だ。
振りほどこうとすれば簡単にできるはずだった。
だがなぜか・・・・・・振りほどけなかった。
その瞳が俺にそれを許さなかった。
「・・・・・・わかった」
「・・・・・・うん」
くそ、ならどうする。
このままでは間違いなくプロムは中止になる。
”ガシガシ”
入試が終わったばかりで脳みそが働かねぇ。
圧倒的にブドウ糖が足りない。
・・・焦るな、考えろ、よく考えろ。
きっと俺達にも何か有利な材料があるはずだ。
その材料をもとに何か策を。
「それではそろそろ 」
雪ノ下母から発せられようとしていた打ち切りの言葉。
この議論もどきの結論が下されようとしている。
ど、どうする!
”キョロキョロ”
はっ!
「ひ、平塚先生!」
この人に頼るしかない。
だがそれはこの人に・・・・・・
だが、今はそれしかない。
「平塚先生、プロムは学校側も内諾はしてるんですよね。
どういう了見なんですか?」
俺の言葉とともに、出席者が一斉に平塚先生の方に顔を向けた。
先生は口の端だけで笑顔を作り、そして口を開いた。
「そうですね、私個人としましては即中止という判断はあまりしたくないですね。
当校には生徒の自主性を重んじる伝統もあります。
計画上不備のある部分を適宜修正し、保護者の皆様にご理解ご協力いただけるよう
継続協議すべきでは・・・・・・、というのが私の意見です」
俺達にとって唯一有利と思える材料、それはこの場にいる学校側の出席者が
平塚先生だけということだけだった。
学校の理事であり、地元の有力者、まして保護者会の代表として来ている雪ノ下母の
意向に逆らうにはそれ相応の覚悟がいる。
並みの教師なら委縮してプロムをやめさせる、いやそこまでは言わないでも
やめさせる方向で検討しますと答えるだろう。
それはどっちでも同じことで、プロムをやめさせるということが決定事項となる。
だが平塚先生なら、俺は平塚先生ならプロムをやめさせるとは言わないことがわかっていた。
生徒の自主性を重んじる。
それは俺の人生で唯一尊敬する恩師、この人、平塚静の平塚静たる所以である。
保護者の圧力に押されそれを否定することは、平塚静そのものを否定することになる。
だがそれは有力者の意向に逆らうことであり、平塚先生にリスクを背負わせることになる。
だがそれでも俺は平塚先生に・・・・・・姑息だな。
「先生のご意見はごもっともだと思います」
平塚先生の言葉に異論がないのであろう。
雪ノ下母はゆっくり頷いた。
「では、また改めて伺いますので。
今後は学校側とご相談させて頂いても?」
「上に伝えておきます。
すぐに日程を確認してご連絡差し上げます」
そんな姑息な俺の計算などこの人はお見通しなんだろう。
それでもこの人は自身へのデメリットなど気にせず、
平塚静たる所以を貫いた。
そして継続協議という今時点で最高の答えを引き出してくれた。
・・・・・・やっぱりこの人にはかなわない。
「お手数をおかけいたします。
宜しくお願いします。
・・・・・・陽乃、皆様にご挨拶して戻りましょう」
「あ、わたしこのコーヒーを飲んでから出るから」
「そう。
では、先に戻りますから」
そういって立ち上がると、俺達に会釈をして雪ノ下母は応接室の扉の方に向かった。
玄関まで送るのであろう、平塚先生も続いて立ち上がり扉の方に、
”にぎ”
「へ?」
俺の後ろを通り過ぎる時、ふぃに先生が俺の肩をつかんだ。
そして微笑みながら耳元でつぶやいた。
「比企谷、後でブリット三連発だ」
そう言い残して、平塚先生は雪ノ下母の後に続いて応接室を出て行った。
俺の肩に先生の温もりを残しながら。
・・・か、帰りてぇ。
ただでさえ入試の後で耐久力の下がった状態なのに、ここであの、
『衝撃のファーストブリット』
”ベシッ”
『ぐはぁ』
『撃滅のセカンドブリット!』
”バキッ”
『ぐぇっ』
『抹殺のラストブリット!!』
『ひでぶー』
”ぞわ~”
そ、そんなもの、ブ、ブリット三連発なんて食らったら・・・・・・死ぬ。
間違いなく死ぬ。
まじ帰ろかなぁ。
・
”テクテクテク”
「そ、それでどんな感じなの舞ちゃん?」
「あ、いえそこまでは。
なんか誰かがプロムの件で怒鳴り込んできたってことしか」
「そう。
あ、応接室でよかったよね」
「はい。
えっと、中入ります?」
「んと、どうしようっか」
”ガチャ”
「あっやば、舞ちゃんあっちに」
「え、あ、はい」
”ダー”
「今日はご足労頂きありがとうございました」
「いえ、先生の方こそ、お忙しいところお時間を頂きありがとうございます。
あ、ここでよろしいですのよ」
「いえ、玄関までお見送りさせて頂きます」
”スタスタスタ”
「舞ちゃん、怒鳴り込んできたってあの人?」
「あの~、恐らくそうかと。
一色からは、結構お偉いさんが怒鳴り込んできたって聞いただけだから。
その~、誰かまでは。
あ、応接室入ります?」
「ん、ちょっと待って。
中の様子を確認してから」
”ピタ”
「盗み聞きですか?」
「シー」
・
ふぅ、とにかく最悪の事態は免れた。
だが問題はこれからだ
与えられた時間はそう長くはない。
早速対策を検討しないといけないのだが、その前に一応確認しておきたいことがある。
まず間違いはないと思うのだが、これからの方向性にもかかわってくる以上、
確認しておかないわけにはいかない。
そこでずっとまずそうにコーヒーを飲んでいるあの人に。
「あの・・・・・・、保護者会の一人って言ってましたけど、会長かなんかですか?」
「違う違う、まぁ理事とかいう意味の分からない役職だし、仕事柄地元とのつながりも
あるし、娘二人がここの高校でしょ?
だからお願いされて出張ってきたわけ」
やはりそういうことでよかったんだな。
なら対策のターゲットはあの人じゃない。
「・・・・・・だから、あの人の意見なんてほとんど関係ないのよ。
頼まれちゃった以上、体裁として一言言いに来ないといけなかったんでしょう。
でも・・・・・・まぁ今回はそれだけじゃないけどね」
そういうことだよな・・・・えっそれだけじゃないって?
それ以外に何かあるのか?
”ジー”
ん、陽乃さんどこを見てるんだ?
あれって確か副会長の・・・・・・誰だったっけ。
まぁ、あの男子の名前なんてどうでもいいが、陽乃さんのあの睨むような視線は何なんだ?
・
「ジミ子先輩、何か聞こえます?」
「ん~、あんまり話の内容までは 」
「何をやってんだね三ヶ木、蒔田」
「え、あっ」
「まったく、ほらそんなところで盗み聞きしていないで、君たちも中に入りたまえ」
「「あ、は、はい」」
”ガチャ”
「いや、参ったな」
「し、失礼します。
・・・・・・あ、結衣ちゃん」
「・・・・・・や、やっはろー、美佳っち」
「失礼しま~す。
ん、ジミ子先輩どうかしました?」
「うううん、何でもない」
”スタスタスタ”
三ヶ木?
やっぱり学校に来てたんだな。
あれ、でもなんか俺すげー睨まれてんだけど。
俺、またなにかしたっけ?
ま、まぁいい、後でちゃんと謝っておこう。
・・・・・・なんかよくわからんけど。
「あ、三ヶ木ちゃん、久しぶり。
どう、受験落ちた?」
「・・・・・・あ、あの受かりました」
「ち、それは残念」
「ね、ねぇさん」
「え~、だって駄目だったら、一応もう一回うちに来ないって誘ってみようと
思ってたのに。
本当に残念」
「・・・・・・あ、ありがとございます」
いや本当に残念がってんだけどこの人。
まぁ陽乃さん、結構三ヶ木のこと気にいってたからな。
もし三ヶ木があのまま大学に進学するって気にならなかったら、
今頃は魔王様の下で社畜としての第一歩を歩んでいたはずだ。
ふむ、間違いない、確か面接に行ったって言ってたし。
そうなれば入試後の泊まりがけの温泉旅行など夢のまた夢。
そうならなくて良かった。
・・・・・・泊まりがけ。
”にこにこ”
「ヒッキーなんかキモい」
「え?」
「・・・・・・学校側の対応としては、どうなりそうですか?」
雪ノ下。
雪ノ下の暗く沈んだ声が俺を現実の世界へと連れ戻した。
そうだ、プロムは継続協議となったが、それはいつ打ち切られるか何の保証もない。
そして学校側の対応は恐らく・・・・・・
「何とも言えんな。
実のところ、SNSに上がっていた画像くらいなら、私も・・・・・・、
まぁ、私の上もそこまで問題にはしてないんだ」
そう、問題はそこじゃない。
「さすがにこう来られてしまうと、問題としては大きく見られてしまうからな。
・・・・・・それなりの対応をしないといけなくなる」
それなりの対応っか。
先生は言葉を濁したが、意味するところは一つでプロムの中止だ。
今日のところは先生のおかげで、何とか結論を先延ばしにすることはできた。
だが、理事であり地元の有力者が保護者の要望を受けて乗り込んできた以上、
このままプロムを続けられるものではない。
学校側としてもそれなりの回答をする必要がある。
それはプロムの中止。
まぁよくて内容を再度見直した上で、来年度に改めて行うかどうかを検討しますっという
ところが妥当だろう。
だがそのような理由で、一度先延ばしにされたプロムが改めて行われる可能性は
・・・・・・極めて低い。
来年になれば、きっとまた来年にと持ち越され、そしていつの間にかたち切れになってる
そういうものだ。
それに俺達・・・・・・雪ノ下は三年だ、来年はない。
「それで、・・・・・・どうする?」
「どうするといわれても・・・・・・。
計画上の不備を修正して 」
先生に答えながら雪ノ下が頭を振る。
学校側の対応がそうである以上、それが無意味であることに、あるいは不可能になったことに
自分で気付いているのだろう。
「継続協議をしている間に、理解を得られる方法を何か考えます・・・・・・」
雪ノ下はそう口にしたものの、そこにはほとんど望みがないことを確信しているように見えた。
それは俺も同じ意見だ。
だが、現状では他にできることはない。
それでも俺は・・・・・・
『そうしないと私自身先に進めない
あの人に追いつけない。
いつかあの人を超えたいから』
このプロムをやり遂げたいといった雪ノ下の想いをかなえてやりたい。
それに折角平塚先生にリスクを負わせてまでもらった時間だ。
絶望なほどに可能性はないかもしれない、希望はほとんどないかもしれないが、
それでもなんとか足掻いてみるか。
『押しても駄目ならあきらめろ』
『千里の道もあきらめろ』
はぁ~、こんな往生際の悪さ、俺のポリシーではなかったはずだが。
いつも間にか変わってしまったのだろうか。
多分それはきっと・・・・・・
”ちら”
「えっと柄沢君。
ね、ど、どうしたの?
何があったの? 」
「あ、えっとですね、三ヶ木先輩実は 」
”ガシガシ”
なら最後までもがき足掻いてみるか。
そうと決めたら。
「まぁ、そうだな。
とりあえず説得材料を揃えて、それから・・・・・・」
”ぎゅ”
雪ノ下?
ソファに横並びに座っていた雪ノ下が、俺のジャケットの袖を掴んで止めた。
「待って。
そこから先はわたし達の仕事よ。
・・・・・・わたしがやるべきことなの」
「・・・・・・そこにこだわっている場合じゃないだろ」
「・・・・・・」
本末転倒だ。
既にプロムには生徒会を初め多くの人が関わっている。
雪ノ下の想いもわかるが、だからと言ってその人達の想いを無碍にするわけには
いかない。
今はまずプロムをやり遂げることが先決だ、雪ノ下のためにも他のやつらのためにも。
だが、そんなことは雪ノ下にもわかっているはず。
それならなぜ・・・・・・それだけ余裕がないのか。
それなら、やっぱりそれなら俺が雪ノ下を。
「ゆきの 」
「・・・・・・まだ『お兄ちゃん』するの?」
お兄ちゃん?
その冷たい声の持ち主、陽乃さんがまるで憐れむような視線を俺達に向けた。
「は? 何の話ですか」
「雪乃ちゃんが自分でできるって言ってることに無闇に手を貸しちゃだめだよ。
君は雪乃ちゃんのお兄ちゃんでも何でもないんだから」
「そういうことじゃ、ないです」
違う、そんなつもりじゃない。
俺は、俺はただ雪ノ下の・・・・・・雪ノ下を・・・
「・・・・・・大事な人だから。
助けたり、手伝うのは当たり前です」
由比ヶ浜。
その弱々しく、震えるような声の持ち主、由比ヶ浜が陽乃さんを睨みつけて言った。
「大事に思うなら、相手の意思を尊重してあげるべきだと思うけどね」
「「・・・・・・」」
「いくら相手のことを思っているからって、いつも手を貸すことが正しいとは
限らないのよ。
・・・・・・君たちのような関係、何て言うかわかる?」
「姉さん、やめて。
・・・・・・わかっているから」
雪ノ下はゆっくりと落ち着いた声音で言った。
その表情に水晶のように透き通った微笑みを浮かべて。
そして俺達の方に姿勢を向け言葉を続けた。
「私は、ちゃんと自分の力でできるって証明したいの。
だから、・・・・・・比企谷君、あなたの力はもう借りないわ。
勝手なお願いで申し訳ないけれど・・・・・・。
お願い、私にやらせて」
「・・・・・・」
「じゃないと、私、どんどんダメになる。
・・・・・・わかっているの、依存してること。
あなたにも由比ヶ浜さんにも、誰かに頼らないなんて言いながら
いつも押し付けてきたの」
依存?
押し付け?
何を言ってるんだ、俺はただ・・・俺は自分が自分で望んだことをやってきただけだ。
誰のためでもなく、それは全て俺自身のために。
だから、だからそれは、
「それは違う・・・・・・。
全然違うだろ」
「違わないわ、結果はいつもそうだもの。
もっとうまくやれると思ったのに、結局何も変われてない・・・・・・。
・・・・・・だから、お願い」
雪ノ下に濡れた瞳で見つめられ、儚い声で告げられて、微かな笑みを向けられて、
俺はもう何も言えなかった。
「ヒッキー・・・・・・」
由比ヶ浜に袖を引かれ、その瞳に促され、ようやく答えることができた。
”こく”
「・・・・・・わかった」
”ガタッ”
「生徒会室に戻って今後の対応を検討します」
俺の答えを聞いて雪ノ下はスクッと席を立って言った。
その表情にはもう迷いは無かった。
あるのは決意だけだった。
”ペコ”
「行きましょう一色さん」
「はい」
・
・
・
”ジャ~、キュッ”
「よしっと。
先生、終わりました。
もう洗うものないですか?」
「おう、ご苦労。
ほらこっちに来てコーヒーでも飲みたまえ」
「げ、またカップ出してきたんですか!
やっと片付け終わったのに」
「まぁそう言うな。
いやこの豆はな、なかなか高級なやつでな。
学校でもめったに出さないものなんだ。
こんな時ぐらいしか、なっ」
「え、ほ、ほんと?
仕方ないな~、ちょ、ちょっとだけだよ」
”ごく”
「お、美味しい!」
”ごくごく”
「ふぅ~、美味い。
さっきはあまりよく味わえなかったからな」
「でも大丈夫ですか?
高級ってやっぱり結構するんでしょ?」
「まぁ一人では心苦しいのでな。
だからこうやって共犯者を作り上げたんだ」
「ひ、ひど!」
「ところで三ヶ木。
さっきの陽乃と比企谷たちの話だが、君はどう思う」
「え、あ、ああ。
・・・・・・わたし・・・わたしは陽乃さんが正しいと思う」
「ほう」
「最初に会長からプロムの話があった時、ゆきのんは自分の力でやり遂げたいって
言ったんです。
それを見届けてほしいって。
だからゆきのんのことほんとに大切に思うのなら、やっぱりここは手を出すべきじゃない」
「だが、それでは肝心のプロムが中止になるかもしれないが」
「それでも・・・それでもやっぱり手を出すべきじゃない。
ゆきのんが自分の力で頑張って、一生懸命頑張って・・・・・・
それでだめになってもそれでいいと思います。
だって大事なのは、そこからだと思うから。
なんでそうなったのか反省して、次はもっとうまくできるように頑張ればいい。
大事なのは、失敗してもそれを糧にして成長することだと思うから」
「そうか。
君はそう考えるのだな」
「はい」
「ふふふ、三ヶ木、君は強いな」
「何度失敗してもいいんです。
わたし達には絶対次があると思いますから。
今度のプロムは駄目かもしれない、でもまた次頑張れることがきっとあるはず。
だって、わたし達まだ若いですから。
えっと大事なことだからもう一回言いますね。
わたし達若いですから、わ・か・い・ですか 」
「抹殺のラストブリット!」
”ボゴ”
「ぐはぁ~」
「わ、わたしも若手だからな・・・先生の中では若手なんだからな。
ううううううう」
「せ、先生、冗談、冗談ですって。
先生~」
「ううう、ぐす。
まったく、君は、いや君たちはか。
そこまでわかっていながら、時々平気で自分を傷つける。
・・・・・・いいかね、君が傷つくことでそれ以上に傷つくものもいるんだ。
君はもう少し自分を大切にしたまえ。
君も私にとって大切な教え子なんだからな」
「先生」
「ごほん。
これは少し早いが卒業する君への送る言葉だ。
さて聞きたいことは聞いたし、言いたいことは言った。
私はまだ仕事があるのでな」
「はい」
「三ヶ木、後片付けよろしく」
”スタタタタ”
「え?
げ、せ、先生!
く、くそ、逃げやがった。
また洗い物かよ。
・・・・・・ふぅ~
でもさ、そんなことぐらい、ほんとは比企谷君わかってる。
でも頭ではわかっていてても、心は別。
だからプロムが中止になりそうになったら、きっと彼は・・・・・・」
”ごくごく”
「・・・・・・その時は・・・わたし・・・わたしが」
・
・
・
”ガチャ”
「ただいま~」
”しーん”
って、そうか小町は生徒会だったな。
親父たちもまた残業だろうし。
しっかし。
「はぁ~疲れた」
”どさ”
そういえば今日入試だったんだよな。
つ、疲れた。
腹も減ったが今は少しこのまま休んでいたい。
”ブ~、ブ~”
ん、電話?
だ、だれだ、今は正直しんどいんだが。
”カシャ”
ん、三ヶ木?
”カシャカシャ”
「もしもし、どうした?」
「あ、ごめん三ヶ木」
「ん、ああ、わかってる。
画面にお前の名前出てるから」
「そ、そだね。
あ、あのね、今学校から帰るとこなんだけど、ちょっと家に寄ってもいいかなぁ?」
「ん、ああ構わないが、だが時間が時間だ。
もう外は暗くなってるし、用事があるのなら俺がお前の家にまで行くが」
「うううん、いいよ。
だって今日は入試だったし、それにほらいろいろあって疲れたと思うし。
わたしが行くよ」
「そうか」
「うん。
じゃ、また後でね」
「おう」
”プー、プー”
ふぅ。
確かにそのほうがありがたい。
正直、こうやって横にっていると自然と瞼が塞がって、深い闇に落ちそうだ。
まぁ今日一日いろいろあって・・・・・・ってあり過ぎんだろ。
入試による睡眠不足と疲れ、そしてそれよりも
『・・・・・・わかっているの、依存してること。
あなたにも由比ヶ浜さんにも、誰かに頼らないなんて言いながら
いつも押し付けてきたの』
雪ノ下の言葉、それが俺の心を押し潰すように重くにのしかかっていて。
・・・依存っか。
あの時はそうじゃないそう思った。
俺は俺のため、俺自身が望んだことをやってきただけなのだと。
だがあの後、学校からの帰りに追っかけてきた陽乃さんに捕まり、そして告げられた。
俺達の関係は共依存だと。
「あの子に頼られるのって気持ちいいでしょ?」
陽乃さんにそう言われて思い知らされた。
俺は雪ノ下に頼られ必要とされることで、自分の存在意義を見出し、
満足感や安心感を得ていたのだと。
羞恥と自己嫌悪で吐き気がする。
心底気持ち悪いな俺。
・・・・・・でも俺は、それでも俺はきっと。
”うとうと”
『あいつは・・・・・・、何を諦めて、大人になるんですかね』
『・・・・・・わたしと同じくらい、たくさんのものだよ』
俺は、なにかを諦めることができるのだろう・・・・・か。
”ス~、ス~”
・
・
・
”ピンポ~ン”
「はっ」
やべ、熟睡してたんじゃない俺?
ちょっと横になってるだけのはずだったんだが。
「ふぁ~あ」
”ピンポ~ン”
ん、あ、そうだった。
三ヶ木、学校の帰りによるって言ってたな。
何の用事だ?
まぁあいつのことだ、こんな時間に来るって言うからには
きっと何か大事な用事があるんだろう。
”スタスタスタ”
「お、おう、遅かったな三ヶ木」
”ガチャ”
「え、あ、あれ?」
「や、やっはろーヒッキー」
・・・・・・由比ヶ浜?
最後までありがとうございました。
プロム編、気がついたら6万字越え。
急遽、前編・後編に分けることに・・・・・・
それなのに35,000字越えに。
お時間いただき本当にありがとうございました。
後編も本編のタイミングに合わせて投稿できればと。
さて、次話は本編のガタリンピック編。
今回よりはもう少し早く更新いたしたく。
では、また見に来ていただけたらありがたいです。
あ、でもプロム後編が先のほうがいいのかなぁ
でもやっぱり本編止まってるし・・・・・・
で、ではでは。
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