S09地区、ここは鉄血とグリフィンの両者がシノギを削り合う激戦区。
これは、その地区にいくつも点在している前線基地に着任した
沢山の書類を抱えた人形が一人、前を確認しながら殺風景な廊下を歩いている。
「今日は変なことしてないといいけど……」
ため息を吐いて書類を運ぶ人形はM1911、通称ガバメント、又はガバ子ちゃんと呼ばれている。最も、後者で呼んだ場合いい顔はされないが。
そして彼女は執務室の前で止まり扉を開ける。
「指揮官、今回の遠征の書類ですけ──」
ガバメントは指揮官を見て言葉を失う。そう! 何故なら、強面でこの基地の戦術人形達から怖がられている指揮官は何時も身に着けている赤いコートではなくSIBAINUと犬のデフォルメされた顔がプリントされているエプロンを身に着けていた。
「おう、丁度ええ所に来たのぉ……」
「し、指揮官?」
その異様な光景にガバメントは声を引きつらせる。
「戦が始まる……準備せぇ……」
「は、はいっ!!」
そして、二人は今──
自転車をニケツしてグリフィン管理下の街を爆走していた。
「し! 指揮官!? 戦ってなんのことですか!?」
「今は喋るなァ!! 舌噛むでェ!!」
強面の指揮官はガバメントに警告する。だが、少し目を話した瞬間! 交差点から黒塗りの高級車が顔を出す。
「指揮官!? m──」
ガバメントが警告する前に指揮官の操る自転車は黒塗りの高級車に激突する。ガバメントはぶつかった反動を生かして華麗に一回転して着地するが指揮官は窓ガラスを突き破り車内へと飛び込んでしまう。
「なっ!? お、お前はっ!?」
「……あれ? お前、鉄血の──」
「指揮官!? 大丈夫ですか!?」
「
そう、指揮官はこの街へと侵入していた処刑人と偶然鉢合わせてしまう。だが指揮官は処刑人が攻撃してくる前に車から抜け出し困惑気味のガバメントを連れて
「おい! 追うぞ!」
「はいっ!」
それを逃すまいと処刑人とリッパーは指揮官達の後を追う。そうしてしばらくハイエンドモデルと人間の指揮官との奇妙な追いかけっこが開催される。
指揮官達はこの街にある大型のショッピングモールの中に入り込む。それを逃すまいと処刑人達も中へと入る。
「クソッタレが! おい! お前はこっちから回り込め! 逃がすなよ!!」
「了解!」
処刑人はリッパーに回り込むように指示を出して指揮官達を追いかける。
しばらく後を追うと指揮官とガバメントの背中が見えてくる。
「追い詰めたぜェ!!」
その声に指揮官は振り向く。そして処刑人を指差しこう言った。
「お前はあっちやァ!!」
「ん!?」
いきなり敵であるはずの指揮官から指示を出され困惑してその指示に従ってしまう処刑人。そして指さされた先には90%OFFと書かれた旗が棚に刺されており、主婦達がその商品を奪い合っている。
「アカン! このままやと商品がなくなるッ!」
指揮官はその主婦の群れの中へとガバメントを連れて突入する。その後を追い処刑人とリッパーも混沌の戦場へと突入する。
だが、新兵の三体は商品を取れずに
「お前ェ! これ持っとけ! お前はこれやァ!」
──────────
────────
──────
────
──
そうして戦は終わり指揮官達は人気のない階段の踊り場で集まっていた。
「あほんだらァ! 大の大人が雁首揃えて……トレーナー二枚に靴下一足にちゃんちゃんこやとォ!」
「狙ってた
(((めっちゃ怒ってるやん)))
指揮官は並んでいる鉄血人形に大声で叱咤する。それを処刑人達と後ろでそれを見ているガバメントはなんとも言えない表情をして固まっている。
「
((……指揮官?))
「嘘つけェ! こんな指揮官いるわけねぇだろ!」
処刑人は怒りのあまり懐に隠し持っていた拳銃を指揮官の額へと向ける。
それを慌ててリッパーは止めに入ろうとする。
「処刑人様!? ここで騒ぎを起こしては……」
指揮官はその隙を突き拳銃を弾き足を掬い寝技をかける。
「ぐっ!?」
指揮官の素早い動きに対応しきれず転ばされてしまうが人形の特有の膂力で振り払う。
だが処刑人は身体に違和感を感じていた。
「なっ!? これは、いつの間にっ!?」
そう、処刑人はいつの間にかちゃんちゃんこが着せられていたのだ。
「これから……寒くなるからな……」
それを聞いて処刑人の脳裏に一つの思い出が浮かび上がる。
『おいおい、こんなのいらねぇよ』
『いいえ、つけておきなさい。いずれ必要になります』
それを思い出した処刑人は目を抑え膝をつく。
(……代理人っ!)
「処刑人様っ!?」
指揮官は満足そうな表情を浮かべ買い物袋を手に持ち基地への帰路につく。この一連の動作を後から眺めていたガバメントは静かに呟く。
「なに、これ……」
だがその呟きは誰にも聞こえることはなく、宙に消えてなくなるのであった。
極主夫道、1~3巻まで好評発売中!この小説を読んだなら買おうね!
そして反応があったら続く……かもしれない
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第二話
ここはS09地区にいくつも点在している前線基地の一つ。
ここの指揮官の朝は早い。起床ラッパが鳴る前に布団から起き上がり私室の洗面台に向かい顔を洗い、髭を整える。寝巻きから着替え、スラックスを履く。その時何も着ていない上半身にはびっしりと刺青が入っており身体は隈無く鍛えられている。黒いワイシャツを羽織りその上からSIBAINUと犬のデフォルメされた顔がプリントされているエプロンを身に着ける。
髪をセットしサングラスを掛け呟く。
「よし」
何がよし、なのだろうか? 見ず知らずの人が見ればその手の人間としか間違われない様な人相でニヤリと笑みを浮かべ私室を出る。
彼が向かう先は食堂、そう!
戦の時間である!
彼が食堂に着くと既にこの基地の古参人形であるスプリングフィールドが朝食の下準備をしていた。
「あら、おはようございます。指揮官」
スプリングフィールドは聖母の様な笑みを浮かべる。それに対して指揮官もニコリ……では無くニヤリ、とこの基地に慣れていない人形が見れば腰を抜かす様な笑みを浮かべる。
「おはよう、ええ朝やなぁ……」
「そうですけど、もう少し笑い方は柔らかくした方がいいと思いますよ」
流石に古参のスプリングフィールドも苦笑いを浮かべる事しか出来ず本音を少しオブラートに包んで助言する。
「ん? 柔らかく……こうか?」
それを聞いた指揮官はまた笑みを浮かべる。が、先程と何が変わったのか分からない獰猛な笑みを浮かべる。これには流石のスプリングフィールドも苦笑いを浮かべざるを得ない。
「……はい、朝食を作りましょうか」
もう何も見なかった事にしてスプリングフィールドは朝食を作り始める。
指揮官もその横で朝食のおかずを作り始める。傍から見れば仲のいい夫婦に見えるが指揮官の人相が人相の為組の頭とその極妻にしか見えない。
そうして料理を粗方作り終えると丁度朝食の時間となる。
続々とこの基地の人形達が朝食を摂りに食堂へと集まってくる。
指揮官とスプリングフィールドは次々に朝食を人形達に渡していく。
この時指揮官の顔を見ても何も動じないのは古参人形、そして指揮官から顔を逸らして朝食を受け取る人形は新参者、ととても分かりやすい反応を示す。
そうして全ての人形に朝食が渡ったのを確認して指揮官も朝食の乗せられたトレーを持ち席に座る。
「それでは皆様のお手を拝借致します! ではッ! いただきます!!」
指揮官の音頭を合図に人形たちは一斉にご飯を食べ始める。
今日のメニューは白米に味噌汁、鮭の塩焼き、ひじきの煮物など標準的な和食だ。勿論、コレは指揮官の趣味である。
そして指揮官は素早く朝食を食べ終わり厨房に戻りまた包丁を握る。
「指揮官、今日のお弁当はなんですか?」
「今日の弁当が知りたいか……? やんちゃモンやのぉ……」
指揮官がニヤリ、どころではなくニチャァ……と言う擬音が聞こえてきそうな笑みを浮かべる。最早その笑みになれてしまったガバメントは特に何も言わずに急かす。
「何でも良いから教えて下さい」
「まぁ、待っとれ……中身は開けてからのお楽しみや……」
そう言って厨房の奥に引っ込んでしまう。
そして弁当を作り終えて厨房から出る。時間は九時半、この時間ならガバメント達はまだ待機部屋でいるだろうと考えた指揮官は弁当を持ち待機部屋へと向かう。
だが待機部屋には誰も居ない。おかしいな、と思い壁にかけられた時計を見ると時計の針は十時を指していた。
「なん……やと……!?」
指揮官は急いで私室にあるアタッシュケースに弁当の中身が崩れない様にジップロックに入れてから崩れないように慎重に入れる。
グリフィン支給のコートを着て中折れ帽を被り、マフラーを首に巻く。
そして愛用のママチャリで前線基地から飛び出していく。
「お弁当ぉ忘れとるでぇぇぇぇぇ!!!!! 」
そうして勢いよく飛び出した指揮官は検問で捕まっていた。
「もう一度聞くけど……職業は?」
「指揮官です」
検問の人形たちはまた言葉を失う。
すると二体の内一体の人形がとある事に気がつく。
「お、お前ッ!? まさか"
「知っているんですか先輩ッ!?」
「あぁ、一晩の間に単身丸腰で抗争相手の事務所を十ヶ所潰したと言われている伝説のヤクザッ!
その説明を聞いた人形は驚きのあまり指揮官から視線を外してしまう。
指揮官はその隙に懐へと手をのばす。
「!? おい! 動k──」
そして懐から取り出されたのはスーパーのクーポンであった。
「ここは一つこれで……ほな」
「待って待って待って」
この後弁当は無事届けられた模様。
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続いた
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第三話
誤字修正しました。リリマルさん、ありがとうございます
「失せろォ!」
怒声と共に一体の人形が店から放り出される。灰色の髪色と血を思わせる真っ赤な瞳が特徴的な女性型の人形。
バッテリー残量が少ないのかヨロヨロと起き上がり店前から移動する。
「どこに行っちまったんだよ……アニキ……」
人形はフラフラと宛もなく彷徨う。すると何処かでみた後ろ姿を見つける。
「何ィ!? キャベツ一玉百円やとぉ!?」
そう、また
アニキ……? と彼女が困惑するのも無理はないだろう。何故なら現役では考えられない姿をしているのだから。
「買い占めたらァ!」
そう大声を上げてスーパーの店内に入っていく。彼女はしばらく放心していたが気を取り直してあとを追いかける。
店内に入っていった彼女は"アニキ"を探す。どうやら既にレジに行っていた様で会計を済ましている。
「アコギな商売しとりまんなぁ……」
「はい……?」
急いで追いかけた彼女は嬉しそうな表情を浮かべて話しかける。
「アニキ……ッ!」
名前? を呼ばれ振り返る指揮官は振り返る。
「お前……シカゴかッ!? ──あ、ポイントカードあります」
感動の再開の瞬間でもポイントを付ける事を忘れない。流石
そして二人は店を出る。ある程度歩き指揮官はペットボトルのリサイクルBOXに移動してカードを翳しペットボトルを投入していく。
「今の今まで何してたんだよアニキ! 散々探し回ってたんだ!」
だが指揮官は何も言わずにペットボトルをリサイクルBOXに押し込んでいく。
「パクられた奴も何人かいるが……組は解散、兄弟達は皆バラバラになっちまった……」
指揮官はスーパーで買った食材をママチャリの買い物かごへと入れる。
「なんでヤクザやめたんだよ!! アニキ……ッ!」
指揮官はタバコを取り出して火を付ける。一息吸い込み口から紫煙を吐き出す。
「場所……変えよか」
「……!」
シカゴはゴクリと唾を飲んで表情を引き締める。
そうして彼らが向かったのは料理教室である。
そう、料理教室である!!
シカゴはエプロンを身に着けている。彼女の豊満な肉体がエプロンにより強調される。
それを周りのおば様たちはカップルかしら~と噂をしている。
「は~い、今日はチーズコロッケを作りま~す」
指揮官は真剣そうな表情をしてノートをメモに取っていく。
そして教えの通りにテキパキとこなしていく。それに対してシカゴは中々に苦戦している様だ。
「シカゴ、ちょっと貸してみぃ……」
シカゴの調理途中の具材を借りてテキパキと下準備していく。指揮官は途中何かに気がついた様でシカゴを呼んで手を重ねて一緒に調理する。
「えぇか? これはこうするんや。そうすればもっと上手くなる」
「へっ!? あ、アニキ……ッ!?」
顔を真っ赤にして離れようとするが周りのおば様たちはくっつけようとして来る。
そうしてシカゴにとっては長い間、彼の腕の中で顔を真っ赤にしていた。
「よし、完成や!」
指揮官はとても綺麗に揚げたチーズコロッケをバランス良く盛り付けている。
周りのおば様たちやシカゴもお~、と言った反応をする。
「お~……じゃないだろッ!! 何をしてるんだアニキは!!」
シカゴは着ていたエプロンを床に叩き付ける。
「アタシ達は
シカゴは指揮官の服の襟元を掴む。
「シカゴ……」
指揮官はシカゴの襟元を掴む手を優しく離す。そしてテーブルに置いてあったチーズコロッケを手に持つ。
「俺はもう足を洗った……今は指揮官や──俺は俺のやり方で
そう言い手に持ったチーズコロッケを差し出す。それを聞いたシカゴは唖然とした表情でフ……フフ……と危なげな笑いを浮かべる。
「フ……フフッ……フハハハハ!!! ふざけるなァ! 何が暴力じゃ何も守れないだ! 平和ボケしたのかッ!!」
シカゴは今まで胸の内に溜めてきたものを一気に吐き出す。そして差し出されたチーズコロッケを振り払ってしまう。
振り払われたチーズコロッケは重力に引かれ床に落ち散乱してしまう。その瞬間、人形の目にも止まらぬ速さで腰の入ったビンタが飛んでくる。
それを受け身を取れずに吹き飛ばされた彼女は窓ガラスを突き破り道へと飛び出し、何度も転がり壁に激突してようやく止まることができた。
シカゴは何をされたのか理解が及ばずポカンとしている。その隙に指揮官はシカゴに詰め寄り馬乗りになりビンタを何度も食らわせる。
「ぼ ぼ 暴力! 」
その後シカゴは【ケジメ】として指揮官の部下となったのであった。
極主夫道!1~3巻好評発売中!皆も買え!(ダイマ)
日刊が続いてて草生える。感想と評価ください(強欲)
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第四話
それと先に謝っておきます。ごめんなさい
グリフィン管理下の大型ショッピングモールにて。
一人の従業員が品出しをしていた。すると後ろから声を掛けられる。
「すみません」
こう言った職業で声を掛けられるのはよくある事なので笑顔を浮かべて振り返る。
だが今回の客は一味、いや一味では済まない。二味も違った。
身長はかなり高く恐らく180cm後半だろうか、髪はオールバックで綺麗に纏められており、掛けているサングラスの奥からは鋭い眼光が覗いている。額から右目の下までにかけて長い一直線の傷があり、恐らくそう言った家業の人だろうと、誰でも想像出来るだろう。
「白い粉の棚って──どこですかねぇ?」
声を掛けられた定員はスっと表情と目のハイライトを消し答える。
「……ないです」
すると男の後ろからカーボーイハットを被った小柄な女の子がぴょこりと顔を出す。
そう、我らがコーラちゃん事、SAAだ。
「すみませ〜ん! 多分指揮官は小麦粉とかの事を言ってるんだと思います!」
すると店員は表情を取り戻り小麦粉が置いてある棚に案内し、そそくさと去っていく。
指揮官は小麦粉をカートに置いた買い物かごに入れ牛乳を買うべく飲料売り場へと向かう。するとSAAは売られていたコカ・コーラの2Lペットボトルを五つほどカートに入れる。
「いや、こんなにいらんやろ」
「え〜何本あったっていいじゃん」
「アカン! 飲み過ぎや!」
そう言いコーラのボトルを元あった場所に戻してしまう。コーラを戻されたSAAはちっとも懲りずに、指揮官がカートから視線を外した隙にまたかごに入れる。
その勝負を何度も様々な場所で繰り返す。ゲームコーナーではソフトをねだり、プラモデルコーナーではRGのZガンダムをねだり、挙句の果てにMGのディープストライカーを買って欲しいとねだる。
その度に指揮官はアカン、アカン、アカン! と繰り返す。
「も〜!! ちょっとぐらい買ってくれてもいいじゃん!」
彼女にとってMGのディープストライカーはちょっと、の範囲内らいしが帳簿をつけている指揮官からすれば、ちょっと、所の騒ぎでは無い。
「このちょびヒゲ! グラサン!」
SAAは言葉という名の鉛玉を指揮官のハートにぶち込む。少し後ずさりするが、流石は元伝説のヤクザ。
「わがまま言う子にはもうピコピコ買わへんで!!」
どうにか体勢を立て直しSAAを叱る。だがそれは傍から見れば(話の内容はさておき)子供を恐喝しているようにしか見えない。
それに気が付いたSAAは指揮官の手を引いて一度安静に話せる場所、カフェへと連れていく。
「何名様で──スッ」
席の案内に来た店員は指揮官の顔を見て思わず顔を逸らしてしまう。
プロ根性で何とか指揮官達を席に案内した店員は、素早く水とメニューを置いてバックヤードに飛んでいくように逃げてしまう。
指揮官は何も気にしていないが、SAAはやっぱり慣れてる自分たちがおかしいんだな、と再確認する。
そして心苦しいが、ズバリと本音を言って、それを聞いた指揮官は眉を顰める。
「俺が……怖がられてる? そんな訳あるかい」
「いやあるよ」
最早否定を許さぬ程の即答である。
「なら店員さん呼んでみてよ」
「はぁ? 仕方ないのぉ……」
指揮官はすっと手を挙げて店員を呼ぶ。それに店員は反応して近づいてくるが
「は〜い、なんで……す──」
そっと横を向いて違うお客さんの所に言ってしまう。
「ほら」
何とか注文を済ました二人はお互い頼んだものを口にしながら話を進めていく。
「その服装がダメなんじゃない?」
そう言って指揮官の着ている服を指さす。上から下までいかにも高そうな真っ黒のスーツ、その上にSHINOBIと共にデフォルメされた犬がプリントされたエプロンを着るという、斬新すぎてどの時代も追いつけない様なファッションをしている。
「服……やと?」
「ん〜……なんだろ? 威圧感があるって言うのかな? ともかく、せっかくショッピングモールに来たんだから服とか見てみたら?」
「服、ねぇ……」
思い立ったが吉日という事で二人は(指揮官のポケットマネー)で支払いを済まし服を選ぶ。
だが指揮官は元伝説のヤクザ、服を選ぶセンスは常人のそれとは一線を超えていた。
まず一つ目。
ヤクザ特有の派手な柄の入った赤いワイシャツに下は白のズボンを着て靴は先の尖ったローファーを履いている。
「あ〜」
次に二つ目。
上下白のジャージで胸の部分にブルドックのデフォルメされた顔がプリントされており、横に黒のラインが入っている。因みに靴はサンダルである。
「はいはいはい」
そして指揮官は最後にとんでもない物をぶち込んできた。
たかが和服と侮ることなかれ、所謂ヤクザスタイルの和服である。
羽織を着て下には派手な柄の入った袴を履いている。トンプソンが見れば復帰したのでは無いかと驚かれるレベルだ。
「なるほど……」
最早SAAの瞳には光は失われていた。
指揮官はジャージだけ購入して服屋を出る。しばらく歩くとSAAはソファーに崩れ落ちるように座り、頭を抱える。
「全部! 一緒! 」
突如大声を上げたSAAに指揮官はビクリと肩を震わす。
「指揮官はさぁ! 話聞いてた!?」
「はい」
SAAはソファーから立ち上がり指揮官に詰寄る。
「もっとこうさ! 可愛げのあるもの選ぼうよ!」
その時指揮官は内心「威圧感すごっ」と驚いていたのであった。
指揮官は仕方なく一人で"可愛げ"のある物を探してショッピングモールの中を歩き回る。
すると、ふととある物が目に止まる。
「こッ!? これはッ!?」
指揮官はその可愛げのあるものを急ぎ購入し、SAAの元に戻る。
SAAは少し疲れた顔でソファーに身体を預けきっている。
「SAA! これならどおやァ!」
SAAはまたか、と言った表情で指揮官の方へと顔を向ける。すると今までの表情が嘘だったかのように目を輝かせ指揮官の元へと飛んでいく。
「コーラマンエプロンじゃん!!」
「ええやろ?」
「うん! 最っ高!!」
SAAのテンションは跳ね上がり指揮官の前でピョンピョン跳ねながら興奮している。
その様子を指揮官は満更でも無さそうな表情をしている。
周りはなんだアイツらと言った冷たい視線を向けているが、それにお構いなくSAAははしゃいでいる。
「ねぇ指揮官! コーラゲットだぜ! って言ってみてよ!」
「コーラを……なんて?」
「それより先ずはポーズから──」
それを遠目から見ていた子供は母親に
「ねぇ、おかあさん──あのふたりやばいよ」
と口にする。
うん、その感性は正しいぞ少年!
極主夫道!1~3巻好評発売中!皆も買おうね!買え!(豹変)
珍しく9時台に投稿出来たので褒めてください。それとついでに感想と高評価ください(強欲)
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第五話
リリマルさん、誤字報告ありがとうございます。修正しました
ここはS09地区にある前線基地の一つ。
その基地内部の洗面所に一人の男が立っていた。凶悪そうな人相をした男、傍から見れば極道者と間違われても仕方ない人相をしたこの男こそがかの前線基地の指揮官だ。
そして彼は今、ミシンを使い何かを編んでいる。
「ふぅ……完成や……」
指揮官は満足そうにニヤリと笑う。最早慣れた光景だがもう少しどうにかならないだろうか。
作り終えるとコンコンとノックする音が聞こえる。
「空いとるから入ってきてええでぇ」
指揮官がそう言うとドアが開き金髪のメイド、G36が入ってくる。
「ん? どうしたんや、G36」
「いえ、最近のご主人様の行動が目に余るものがありますので、少し注意に来ました」
そう言って彼女は部屋にあるとある物達に目を向けため息をつく。
「最近ご主人様は物を買いすぎです!」
「ん? そう──言われればそうかもなぁ……」
そう、指揮官の私室には趣味の物で溢れかえっているのだ。キッチン用品や掃除グッズ、中にはろくろ等多趣味過ぎるのでは? と思うぐらい趣味の品で溢れかえっている。
「そうかも、では無くそうなのです。少し処分してください」
「処分って言われてもなぁ……流石に捨てるのは勿体ないしなぁ……」
「そうですか。でしたら、フリーマーケットに出してみてはいかがでしょうか?」
「
ニヤリとG36に笑みを向ける。それを物ともせずに「それでは準備をしておきますので」と言い部屋から出ていってしまう。
そうして場所は移り変わりフリーマーケットにて、二人の女性が何か良いものはないか、と辺りを見回している。するとふと、猫をモチーフとしたポーチを見つける。
「見て見て、かわい~」
「ホントだ! カワイイね~」
「スミマセン、これっていくらで──」
二人は顔を上げて露店の主に値段を問いかける。が、店主を見た瞬間に表情が固まる。
「完全手作り純度100%で二百円や」
指揮官はとてもいい笑顔を浮かべる。が、その反面、二人の顔から表情が無くなった。
「あ、すみません。失礼します」
そう言い二人はそそくさと何処かへと行ってしまう。
そしてまた貴重な客が逃げてしまい指揮官はため息をつく
「店は出したものの……中々難しいシノギやで……」
しかし悩んでしても商品は売れずに時間だけが過ぎていく。
すると遠目に見知った顔が見えた。そう、シカゴとガバ子だ。二人は指揮官を見つけると手を振り露店に近づいてくる。
「よぉ、アニキ! 調子はどうだ!」
「おぉ、シカゴとガバ子か。まぁ、今んとこボウズやな」
「ガバ子……まぁ、今はいいや……それで? 指揮官は何を売ってるの?」
ガバ子は少しゲンナリとした表情をするがすぐに切り替えて露店に並んでいる商品を一つ手に取る。
手に取ったのは指揮官特製のセーターで前にデカデカと龍の柄が編まれている。
「わぁ……」
「お、これは自信作で──」
指揮官は嬉しそうな表情を浮かべ自慢しようとするがどこからともなく悲鳴が聞こえてくる。
指揮官達は急いで悲鳴が聞こえた方向へと駆け出す。
そこでは明らかにカタギでは無い大柄な男がフリーマーケットの主催者であろう男を脅していた。
「テメェ誰に許可得て商売してんだコラァ!! 組のシマで挨拶も無しかぁ!!」
「いや、でも……施設の許可は……」
「あぁ!! 払うもん払ってもら──」
「おい」
指揮官がその男に後ろから人混みを分けて近づいていく。
「暴力はやめとけ」
「何だぁ? ……アッ」
ヤクザと思わしき男は振り向き指揮官の顔を見るや悲鳴を上げそうになるのをグッと堪える。
(こ、こいつ!?
足を産まれたての子鹿の様に震えさせるが、何とかプライドで崩れ落ちる事を堪える。
「誰だテメェ!」
何も知らない入ったばかりの取り巻きが声を荒げるが、男は内心その言葉にとても怯えている。
「場所、移そか……」
「ひっ……あ、あぁ!? 上等だよ」
そして指揮官と子鹿組は人気のない場所で向かい合う。
「俺もそっち側の人間やったからのぉ……シマがあんのは分かる……タダで帰れとは言わん」
そう言い指揮官はおもむろに持ってきたアタッシュケースを開き中からとある物を取り出す。
「猫ちゃんピーラーや。何でも剥けるでぇ」
そう言って差し出すが大きな子鹿君はポカンとピーラーを見つめるが次の瞬間物事を理解し身体、もっと詳しく言えば足を先ほどとは比較にならないほど震わせる。
(テメェの全身の皮剥いだろかって事!?)※違います。
そして等々耐えられずに壁に手をついてしまう。
「ナメてんのかコラァ!!!」
ゴンタやのぉ、と呟き指揮官はまたアタッシュケースから何かを取りす。
「ならコレもどおや?シャークミキサーや」
(ミンチにする気かァ!?)
等々膝が許容値を超えてくの字に曲がってしまう。
「あ、アニキィ!? どうしたんですか!?」
「お前らもゴンタやのぉ……ならとっておきをやるわ」
そう言って取り出されたのはアヒルのおもちゃであった。
(これなら……耐えれるッ!)
一筋の光が子鹿君にさす。だが次の言葉でその光は失われる。
「お風呂にプカプカ浮かせるんや」
その言葉を聞いた瞬間、子鹿君の身体は謎の衝撃により後ろへと吹き飛ばされる。
(
「「「あ、アニキィイイ!?」」」
取り巻き達は後ろに吹き飛んでいった子鹿君の元へと急いで駆け寄る。
「もう……勘弁してください……」
そう、最後の力を振り絞って力尽きる
指揮官はそっと先程の家事グッズを彼へと添えてフリーマーケットへと戻っていったのであった。
極主夫道!1~3巻好評発売中!皆も買おうね!ほら俺も買ったんだからさ!
ギリギリ日刊投稿出来たので褒めるついでに感想と評価ください(強欲)
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第六話
ここはS09地区前線基地の一つ。
この基地の指揮官は今現在、洗面台の前に立ちフェイスローラーを転がしていた。
「……たるんできたか?」
指揮官は最近運動不足で身体がたるんできたのが目下の悩みらしいのだがそうは見えない。
そして場所は移り執務室にて、指揮官は今フラフープを回している。
それを副官であるガバ子は冷たい視線で指揮官を見ていた。
「何してるんですか……」
「少し……フッ、運動を、な……フッ」
そう言いフラフープを回している。だが明らかに邪魔である。そしてガバ子が飲み物を取りに出ようとすると、フラフープが手に当たってしまう。
「もう!」
ガバ子は思いっきりフラフープをはたき落とす。
「そんなに運動したいなら外でやりましょうか」
フラフープをはたき落とされた指揮官は叱られた子供のようにしゅん、としている。それを見かねたガバ子は一枚の書類を差し出す。内容はフィットネスクラブの勧誘チラシの様で体験無料キャンペーンを行っている様だ。
思い立ったが吉日と言うことで指揮官は早速でそのキャンペーンにエントリーして数日後、件のフィットネスジムにガバ子とシカゴを連れて訪れていた。
「ほぉ、ここがジムか」
「結構大きいですね」
「フィットネス以外にも色々あるみたいだな。こりゃ色々と楽しめそうだ」
シカゴはジム内にあったパンフレットを見て楽しそうに笑っている。
そして三人は運動着に着替える。ガバ子とシカゴは動きやすいタンクトップに短パンと言うラフな格好をしている。シカゴは年頃の男が見れば釘付けになるだろうスタイルだが特に気にした様子はない。そしてガバ子もシカゴには劣るものの、素晴らしいものを持っている。シカゴは胸、ガバ子はふとももがとても素晴らしい。
(あれ……笑顔?)
トレーナーはなんとも言えない表情をしているがプロとしての根性で怯えずにトレーニングを続ける。
「は~い、元気よく~! リズミカルに! 笑顔を忘れずに~最後ポーズを決めますよ~!!」
指揮官は最後のポーズを笑顔で決める。だがその笑顔はとても恐ろしいものだった。
((笑顔、こっわ……))
そして休憩時間。指揮官はシカゴとガバ子を連れて休憩スペースで汗を拭いている。
「いやぁ、楽しいなぁ……エアロビって」
「指揮官上手でしたよ。笑顔以外」
「そうだな、笑顔以外は上手かったな」
笑顔以外を強調され、少し悲しい指揮官。それを意にも介さずガバ子は話を続ける。
「そう言えばコレ以外にも無料で体験できるものがあるんですよ」
そう、エアロビ以外のフィットネスといえばヨガである。
指揮官は今マットを敷きその上でヨガのポーズを決める。すると指揮官は何かを思いついた様で口に出す。
「このポーズ、組長に派手にど突かれた後のポーズに似てるなぁ……」
似てないです。これは鋤のポーズを勝手に命名しないでください。指揮官。
その後も『ヘタこいて指詰める覚悟決めた時のポーズ』や『頭にキレイに弾が入った時のポーズ』等好き勝手に命名していたらトレーナーから「もう言わなくていいですよ~」と暗に黙れと言われる。
その後は何事もなくヨガを終えて三人は汗を吹きながら更衣室に向かっている。
「いやぁ、ヨガはなんか肌に合うなぁ……」
「合ってました……?」
「合ってただろ?」
どのあたりが合っていたのか教えてほしいものだが今は置いておこう。
「こんなに汗流したんは事務所にダンプで突っ込んで以来やなぁ……」
「あぁ、あの時は凄かったな。アニキ!」
それを聞いてガバ子は自身の記憶領域を探る。すると数年前の未解決事件が該当してしまい、先程の言葉をそっと記憶領域から削除する。
「あれは中々にスリリングやった──」
「指揮官!? そこはッ!」
そう、指揮官が開けてしまった場所は女性用の更衣室。それを理解した指揮官は思いっきり外へと飛び出し胡座をかき思いっきり頭を廊下へと叩き付ける。
「あ、アニキ!?」
「シカゴ……俺は覚悟できとる……」
そう言い両手を後ろに回して背中で手を合わせる。
「さぁ! 縛って山に埋めるなり海に沈めるなりしてくれェ!」
そう真剣に言う指揮官だったが二人はそのポーズを見てちょっとヨガっぽいと思ったのであった。
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第七話
追記
誤字修正しました、リリマルさんまたしてもありがとうございます。
お前ほんっと誤字ばっかしてんな(白目)
ここはS09地区の前線基地の一つ、そこでは現在とある事が行われていた。
「もっと角カチコまんかい!」
そう言い彼らは"道具"を持ち
「角は一番埃が溜まっとる場所や! イモ引いとんとちゃうぞォ!」
そう言い指揮官はポン刀に布を巻いてコード類の間に入れる。すると埃がキレイに取れる。
だがもう片割れはなんの反応も示さない。
「お前、シカゴが貰ってきた素人が……お前、
指揮官はガンを飛ばす。そう、ルンバに……もう一度言おう。
ルンバにガンを飛ばしているのである!
指揮官は確かに機械音痴ではあるがこれ程までとは誰が予想しただろうか……誰だよ、こんなのを指揮官に任命した奴は。
クルーガー社長です……
それは執務室での出来事だった。本日の副官であるシカゴと他愛のない話をしながら必要書類を随時処理していく。すると近日とある行事の話になった。
「そう言えばアニキ、もうすぐハロウィンだなぁ」
「ん? もうそんな時期か……時間が過ぎるんはすぐやのぉ」
そうジジくさい事を指揮官は抜かすが、こう見えて指揮官も結構なお歳なのだ。
戸籍上は40代後半だが実年齢は恐らく50代後半、だが若く見えるので人形からは、この基地の七不思議扱いされている。最も、七不思議のうち四つは空欄のままだが……
「菓子の備蓄はあったかのぉ?」
「一応あったはずだが……この基地の子達と外から貰いに来る子供達の分を合わせると足りないな」
「そうか……ならしゃ〜ないの。シカゴ、ちょいとブツを仕入れてきて欲しい。かまへんか?」
そう言って指揮官はまたいつもの笑みを浮かべる。
「何がいるんだ? 命令してくれよ、アニキィ」
シカゴもニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。
「白い粉やァ」
「任せ──うん? 白い粉?」
シカゴは困惑の表情を浮かべ指揮官も、何かおかしなこと言っただろうか? と頭の上に疑問符を浮かべる。
「白い粉って……まさか
「ん? ハロウィンで使うんやったら
お互いに違う物を連想している様だ。そこに一体の人形が入室してくる。
「指揮官、この書類なんですけ……ど……何言ってるんですか……」
ガバ子は先程の話を少し聞いていたようで呆れた表情をする。
そして先程の話の説明を聞いてため息をつく。
「シカゴさん、指揮官が言ってるのは麻薬ではなく薄力粉だと思われます。そうですね?」
「ん? そうやけど……分かりずらかったか?」
「いや! そんな事ないさ! アタシが──」
「はっきり言って分かりずらいです、と言うか普通分かりません。もっとハッキリ分かりやすく言ってください!」
「はい」
指揮官はガバ子に怒られてしゅんと落ち込んでいる。
最早古参人形からすれば見慣れた光景である。
「それじゃアニキ! 買ってくるぜ!」
シカゴはガバ子の首根っこを掴んで勢いよく執務室から飛び出して言った。
指揮官はガバ子の悲鳴を聞かなかった事にして仕事を再開する。
そして書類を全て片付け背伸びをしたタイミングでシカゴが薄力粉と一つの箱を脇に抱えて帰ってきた。
「アニキ! 面白いモン貰ってきたぜ!」
「ん? なんやそれ?」
「自動で動いてくれる掃除機らしい。面白そうじゃないか!」
そうして二人は綺麗に片付いている指揮官の私室でなくシカゴの宿舎で試すことにした。
だが、ここで一つ誤算があった。そう! シカゴの部屋は散らかしっぱなしだったのである!
「お前……これはどう言うことや……」
「あっ……あ、アニキ!? 違うんだ! 最近忙しくてついっ!」
「やってしもうたんはしゃーない。始末つけるで」
シャツの山を前にして指揮官は忙しかったんやったらしゃーないな、と納得してシャツの山に手を突っ込む。
そうして仕分けていく事数十分、ようやく床が見えてくる。が、それと共に何かが跳ねたシャツが数枚出てくる。
「お前……やらかしたのぉ……」
「す、すまないアニキ……でもっ! 一緒に洗えば!」
何かが跳ねたシャツを一緒に洗おうとするシカゴを指揮官は肩に手を置いて止める。
「素人がァ!」
「ッス」
そして何時ぞやの時と同じような腰の入ったビンタを食らわせる。不意打ちで放たれたビンタをシカゴは避けられる筈がなくモロに食らう。
「白いモンと柄モンはシマ分けんかい! 色移るやろがァ!!」
「す、すみませんっ!」
「それと40度くらいのお湯用意せぇ!」
シカゴは言われた通りに40度のお湯を用意する。指揮官はどこからともなく袋に入った白い粉を取り出す。
「アニキ……それは……」
「過炭素ナトリウムやぁ、炭酸ナトリウムと過酸化水素を配合したもん……つまり酸素系漂白剤や! これでシミに追い込みかけるんや!」
そう言って用意してくれたお湯の中に酸素系漂白剤を適量入れてからシャツを沈ませる。
「こんなヤバいブツ……どこで用意したんだ、アニキ……」
「ホームセンター」
いつも通り恐ろしい形相でニヤリと笑い手早く処理する。
「最後は水攻めじゃァ!」
「す、すげぇ……流石アニキだぜ……」
手早く洗濯物を片付けた指揮官たちはようやく廊下から部屋に上がることが出来た。
だがここも悲惨な光景が広がっていた。
「お前……またやらかしたのぉ……」
「面目ないアニキ……」
そしてゴミを分別したりいらないものを処分したりして徐々に片付けていく。
「一先ずはこんなもんやろ。さて、"例のブツ"を出しや」
シカゴは言われたとおりに箱を開ける。中には丸い円盤のような何かが入っていた。それを取りだした二人はポカンと口を開ける。
「……なんやこれ?」
「……CDレコーダーか?」
お互い機械音痴故に的外れな物を思い描いているがそんな物のはずが無いだろう。説明書読め。
頭を悩ませながら説明書を読む指揮官達。ようやく使い方を理解出来た様だ。
そうして時間は冒頭へと戻る。
「アニキ! 次は何をすればいいんだ!」
「お前は廊下を水責めや! その後は雑巾で綺麗に拭き取れェ!」
全ては順調だった、のだがここで一つ問題が起きたのだ!
ルンバがシカゴの足先を巻き込んでしまったのである!
「いっつぅ!?」
シカゴは咄嗟のことで構えられずに転んでしまう。ただ転ぶだけならまだ良かったのだが、咄嗟に手を伸ばした事で棚に置いてあった酒瓶がシカゴ目掛けて落下する。
避ける事は出来ない、と覚悟を決め目を瞑る。パリン、と割れる音は聞こえたが衝撃はシカゴには一切届いていない。
恐る恐る目を開けると目前には指揮官の顔があった。
「あ、アニキっ!?」
シカゴは顔を真っ赤にするも周りのガラス片を見て青ざめる。
「だいじょ──」
しかし言葉が続くことは無かった。何故なら他の人形達が部屋の扉を開けて入ってくる。
「大丈夫ですか指揮官!?」
「大丈夫や……ちょいと、生意気な新入りが入ってきたもんでのぉ……」
それを傍目にルンバは酒の中を通り染みを広げたので後日ゴミ箱の中に捨てられているのを人形が発見したのであった。
哀れルンバ君。
極主夫道!1~3巻好評発売中!皆買え!!!!!!!
この時期に風邪ひくとか身体弱すぎか?
それと三日ぐらい間隔空いてすみません。言い訳させてもらうと作業PCを変更したのですがキーボードがお亡くなりになりモチベーションがあの世に行っていた為です。本当に申し訳ない(メタルマン並感)
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第八話
10月31日と言えばそう、ハロウィンである。それはこんなご時世になっても変わることは無い。
そしてこの基地はグリフィン管理下の街に近い為街の子供がお菓子を貰いに基地に遊びに来るのだ。
今回遊びに来たのは街の子供達である。
「「「トリックオアトリート! お菓子くれないとイタズラするぞ!」」」
子供達は案内された部屋の前でお菓子を強請る。すると扉を開いてジャック・オー・ランタンを被った大柄の男性が姿を表す。
それだけなら良かったのだが着ている服が指揮官のそれではなかった。
上下をいかにも高そうなスーツで固めており中には赤のワイシャツを第二ボタンまで外している。首には白いマフラーをかけている。
「ほぉれ……どのブツがええんや、言ってみ? お?」
言い方が最悪である。悪ガキ達は怯えてしまい腰を抜かす。
「なんや? イタズラしたいんか? お前らゴンタやのぉ」
だが悪ガキ達は恐怖の余り声が出せない。それを見兼ねた今日の副官、ガバ子が助け舟を出す。
「えーと……あんまり怖がらなくていいですよ〜指揮官はこう見えて優しいので」
「お、おかしを、く、くくれないと……」
「くれんと、なんや? 言ってみ?」
指揮官は被っていたジャック・オー・ランタンを外す。するとクソガキ達はまた固まってしまう。そう、この基地にいる人形達は慣れているかもれないが外部から来た子供達には刺激が強すぎるのだ。
ピッチリと固められたオールバックに鋭い目付き、それに加えて額から右目にかけて真っ直ぐと伸びている切り傷。その上にサングラスを掛け中からは鋭い眼光が覗いている。
指揮官を知らない外部の子供達には刺激が強すぎたのだろう。その場にへたりこんで泣き始めてしまう。
「あっ……」
「ちょっと指揮官!? 外さないでって言いましたよね!?」
「はい」
ガバ子は泣き出してしまった子供たちをあやしている。そしてしばらくして子供たちは泣き止んでくれた。
騒ぎを聞きつけたG36cに子供の相手を任せてガバ子は指揮官に説教をしている。
「いいですか。指揮官。絶対に
「はい」
「はい、じゃないです! これで何回目ですか! もう三回目です!」
そう、これが最初ではないのだ。だがこれでも服装などの見た目はかなりマシになった方なのである。
最初なんか仮装に力を入れすぎて子供が気を失うほどだったのだ。流石に血糊を使うのはまずいですよ!
「いいですか? 今度はぜっっっっっっっっっっったいに外さないでくださいよ!」
「はい……」
そして今度訪れたのは二組の少女である。
「「トリック・オア・トリート! お菓子くれないとイタズラするぞ!」」
「イタズラやt──」
「
Q;コイツマジ? A;
巫山戯ずに真面目にやっているのだからタチが悪い。お前そろそろクレームくるぞ、と言わんばかりの事をしているが何故か未だにクレームが来ていないのである。不思議だなぁ(すっとぼけ)
さて、話を戻そう。指揮官はガバ子に後ろから思いっきりぶん殴られ倒れてしまう。それを少女達はポカンと口を開けている。
「えっと……はい、お菓子だよ。また来てね」
頬を引き釣らせながらガバ子はお菓子を子供達に渡して素早く気絶した指揮官を部屋の中へと引きずり込む。
とりあえず身体を揺さぶってみるが全く反応しない。うんうん、と頭を悩ませるも状況は変わらない。
「とりあえずこれ以上騒ぎにならないからいいか……」
それでいいのかガバ子……
そして指揮官を椅子へと座らせたガバ子は一息ついて指揮官の姿勢を見る。足を組ませ肘をついて頭を傾けている。なんだろうか、この座り方だと勇者を待つ魔王にしか見えない。
するとそこにシカゴが執務室へと入ってくる。
「よぉ! アニキ! 今いいか?」
咄嗟にガバ子は机の下に潜り込み身を隠す。
「あれ? おい、アニキ? アニキッ!?」
シカゴは指揮官の肩を揺さぶるが全く反応がない。シカゴは顔を青ざめ急いで誰かを呼びに飛び出ていく。
(あれ? これっと相当まずいのでは?)
ガバ子は額に汗を滲ませる。急いで机の下から出ようとしすると執務室の扉が勢い良く開かれる。
「ご主人様! ご無事ですか!」
G36とシカゴが完全武装で突入してくる。ガバ子は完全に出ていくタイミングを見失う。
(ヤバい……ヤバいヤバいヤバい!!)
見つかればタダでは済まないだろう。このまま見つかれば解体処分を受けるのではないか、等と思考がマイナス方向に振り切れてしまったガバ子は机の中でガタガタ震えるしか無かった。
しかし、ここで奇跡が起きたのだ。
「う……うん?」
指揮官が目を覚ましたのである。
「あれ? お前らどうしたんや?」
「アニキ! 大丈夫か! いったい誰に!?」
「ご主人様! ご無事ですか?」
指揮官はポカンとした表情をする。そりゃ気絶して起きればいきなり部下二人に問い詰められているのだから。
そしてふと下を向くとガタガタと膝を抱え震えている。指揮官は自分の身に起きた事を思い出し口を開く。
「いやぁ~昨日ちょいとばかし夜ふかししすぎたみたいや。爆睡しとったわ」
それを聞いて二人は安心して肩の力を抜く。
「なんだよ……心配したんだぜ、アニキ」
「そうですか、ではお休みになられますか?」
「そうやなぁ……少し休むか。そうや、少し紅茶淹れてきてくれんか? それとシカゴはちょっとお菓子持ってきてくれんか?」
「はい、では三つ淹れて「四つ頼むわ」……はい、では失礼いたします」
「分かったぜ。それじゃ持ってくる!」
そして二人が出ていったのを確認して指揮官はガバ子に声をかける。
「ガバメント、ちょっとええか?」
ガバ子はビクリと肩を震わせて顔を上げる。目が腫れ涙目になっており、指揮官はそんなガバ子に手を差し出す。
恐る恐る手を伸ばし手を握ってくれたのを確認して机の下からガバ子を連れ出す。
「どしたんや、お前らしくないのぉ」
「だって……わ、わたしが……しきかんを……」
指揮官はガバ子の背中をなでて落ち着かせる。
そして落ち着いた頃に理由を聞く。
「なんや、そんな事をさせる訳ないやろ」
指揮官は涙を拭い頭を撫でる。
「ケツモチは任せぇ、部下の面倒を見るんも上司の役目や」
この後指揮官はガバ子達とお菓子を食べながらティータイムを満喫したのであった。
「ありがとうございます。ダーリン」
「ん? なんか言ったか?」
「いえ、気のせいじゃないですか?」
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第九話
ハロゥインの一見から数ヶ月。それから特に何事もなく、指揮官はがバ子と共に車両販売店に車を見に来ていた。
ガバ子は一度指揮官から離れ車を見ていた。
するとこの店の店員がニコニコと笑顔を浮かべながら話しかけてくる。
「お客様~何をお探しでしょうか?」
「えっと、あー……指揮官の自家用車です」
そう言うと、名前を呼ばれたと思ったのだうか指揮官がスッと現れる。
指揮官の顔を見た店員はそっと表情と目のハイライトを消す。
「で……したら黒塗りの高級車ですよね?」
「「えっ?」」
それから一度店員と離れて指揮官達は二人で車を見定め始める。
まず一台目。
「おぉ、フォルムがカッコイですね指揮官!」
「うーん……荷物の出し入れがなぁ……」
どうやらスポーツカーは気に召さない様だ。
次に選んだのは大型のSUV。
「大きくてカッコいいですよ! これとか良いんじゃないですか!」
ガバ子はこの車を気に入ったようだ。彼女の中に潜むアメリカンスピリットに火がついたのだろうか? いつも以上に興奮している。
「スーパーとか小回り利かへんで」
だが指揮官はお気に召さない様だ。
次に選んだのはステーションワゴンタイプの車だ。が、どうしてガバ子は大型車両をこんなにも推すのだろうか?
「これどうです!! いいですよねこれ!!」
「う~ん、燃費が家計にちょっと……」
これも駄目。なら何が良いのだろうか? そうして次に指揮官が選んだのは軽トラであった。
「おっ、これええやん。小回りも利くし、何でも載るし、まぁ燃費も……うん?」
ガバ子は指揮官の肩に手を置き今まで見たことのない表情をして拒否する。
「嫌っ!!」
これ程否定されたのは初めての事だったので流石の指揮官も困惑する。
流石に哀れに思った店員がそっと助け船を出す。
「あの~よければこちらは如何でしょうか?」
そう言って指揮官達を一台の車へと案内する。
その車はボックスワゴンタイプの軽自動車だった。
「こちら家庭用として大変人気でして」
店員は後部座席の扉を開け座席を倒す。
その隙に指揮官は車の後ろに回りトランクを開ける。
「こうすればトランクも広くなりまして」
その時、指揮官はとある事に気が付いた!
これ、いけるんとちゃうか? と!
そう思った指揮官の行動は素早いものだった。
靴を脱ぎ音も立てずにトランクに乗り膝を曲げて寝転ぶ。
するとどうだろうか、高身長の指揮官が横に寝転べるではないか!
「これ……人ひとり分軽く積めますねぇ……」
「そ……う、ですね」
それを確認した瞬間に指揮官はトランクを出る。
「よければ試乗されますか?」
「いいんですか!? やったやった! 乗ります! ね! 乗りましょうよ指揮官!」
指揮官はガバ子のキラキラとした楽しそうな表情に負け試乗する事となった。
指揮官はまず運転席に──乗らずに車の下を確認し、次に窓を軽く叩く。
「これ、防弾ですかねぇ?」
「防弾──ではないです、はい……」
それを確認した指揮官はようやく運転席へと乗り込む。
座席の位置や高さ、バックミラーやドアミラーを調整し、運転を開始する。
「ほなまず特売の店にカチコミかけよかぁ」
「あ、あの。他の店舗にはちょっと……」
「そうですよ指揮官。あまり他の人に迷惑をかけちゃいけませんよ。それと、周りをよく見て【かもしれない運転】を気をつけてくださいね!」
「【かもしれない運転】ねぇ……」
指揮官はそっと車を走らせ誘導員の支持に従い道路へ出ようとする。
だが! その誘導員は懐から拳銃を取り出し指揮官に発砲する!
「死ねやぁ!
──かもしれないと思った指揮官は急いで後ろに下がる。
「アカン! 下がるぞ!」
「えっ!? なんで!?」
「あのハゲはヒットマンかもしれへん!」
「そんな訳ないでしょう!」
後ろに下がる。すると今度はビール腹の中年男性が通りかかる。そして勢いよく腰からナイフを取り出して刺しに来る。──かもしれないと思った指揮官はまた車を前に走らせる。
「後ろもアカン!」
「何!? 何何何!?!?!」
そして歩道を手押し車を押して歩く一人の老人が視界に入る。その老人は手押し車からとある物を取り出す。
それはRPG-7と呼ばれる携帯式対戦車擲弾発射器である。
それを躊躇なく構え指揮官の乗る車に発射する。──かもしれないと思った指揮官はガバ子に覆いかぶさる。
「伏せろォ!」
だが老人がRPG-7を発射する訳もなく手押し車を押して歩いていく。
指揮官は疲れ果てた表情をして車から降りる。
「ガバ子……悪いが……今回の取引、俺は降りる」
この後一応車は買いました。
皆も買おうね!!!!!
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