失われし時を求めし者は....... (バーバラすこすこ侍)
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異世界に来てしまった
第1話:九死に一生を得た



 初めまして。バーバラすこすこ侍です。
 ドラゴンクエストシリーズを書くのは初めてなので些か至らない点があるかもしれませんが、何卒よろしくお願い申し上げます。


 では、どうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――さあ、時はみちました。今こそ、すぎさりし時へ。

 

 白く背の高い「時の番人」の声とともに、勇者エルバが剣を引き抜く。

 しばしの間を置き。意を決したように剣を振り下ろす。

 金色に輝く『時のオーブ』が砕け、皆で力を合わせて作った『勇者のつるぎ』の破片が宙を舞う。空間が振動し、眩い輝きが視界を明るくする。

 

「エルバ! 俺達は、もう一度お前と旅をするからな!」

 

 青髪の青年、カミュの、別れを惜しむ声が響く。これから過去に戻ろうという、自らの相棒への言葉だ。

 エルバはその声に振り向き、「心配はいらない」とで言うかのように力強く笑いかける。それからエルバはカミュ以外の6人の仲間たちを見渡す。カミュには、まるで一人一人の姿を目に焼き付けているように感じられた。表情には少し悲し気な色が含まれている。お前はただ一瞬別れるだけなんだからそんなにそんなに悲しそうな顔するなよ、とカミュは思った。固い決意は揺らぐことは決してないのは分かっている。しかし、感情は正直なのだ。それは伝説の勇者の生まれ変わりであろうと、人の子なれば当然のことなのだ。

 

 『時のオーブ』の輝きが増していく。その輝きに徐々にエルバの姿が消えていく。これから旅立つ相棒へ、最後に気の利いた言葉をかけてあげられるほどカミュは器用な人間ではない。自分でもそれが分かっている。だからこそ、こういう時は素直に思いついたことを言うべきであるとも理解しているつもりだ。届くかはわからない。届かないかもしれない。もうすでにエルバの意識とは過去へと向かい始めているのかもしれない。だが、それでも、と。精一杯に声出した。

 

 

「また会おうな……!!」

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

「あーあ、行っちまったな」

 

 先ほどまでの輝きが嘘のようだと、カミュ達7人は皆思った。エルバの姿はどこにも見当たらない。残っているのは折れてしまった『勇者のつるぎ』の破片と、その柄。それに『時のオーブ』の残骸である。

 

「最後の最後まで頑固なお方でしたわね。どうかベロニカお姉様や過去の私たちの下へ無事にたどり着けますように……」

 

 金髪のショートヘアーの女性、セーニャが言う。過去に戻り最愛の姉であるベロニカの死をなかったことにし、元凶であるウルノーガの野望を阻止して世界の崩壊を未然に防ぐことをエルバに託した。エルバのことを愛していたのではないかと、そして、勇者を導くという使命の下に生きてきた存在である彼女はこれからどうしていくつもりなのだろうかと、ふとカミュは思った。

 

「そうじゃの。それに、わが孫ながら本当に立派になったものじゃ……。育ててくれたテオ殿とぺルラ殿には本当に頭が上がらないわい」

「いつもどこかぼんやりしてて危なっかしいけれど、エルバならきっと過去の世界も救ってくれるはずよね」

 

 小柄で恰幅のよい老人、故ユグノア王国先代国王ロウと、デルカダール王女のマルティナが後に続く。16年前に娘のエレノアとその婿アーウィンを失ったというのに、今度は孫のエルバまでもがいなくなる。その事実をロウがしっかりと受け止めていることに、デルカダール王国の英雄であり、勇者の盾であったグレイグは尊敬の念を覚える。

 自らの思い違いがベロニカの死、そして世界の崩壊を招いた原因の一端になっているということに、責任感の人一倍強いグレイグは、自分の無力さを感じられずにはいられなかった。

 

 軽い沈黙が場を支配する。時の番人が不思議そうにその様子を眺めている。

 

「ほーらっ! 暗い顔しないの! そんなんじゃ過去に戻ったエルバちゃんがちゃんと自分の力を発揮できないでしょ? 私たちがまずしっかりしないとダメじゃない」

 

 エルバの決意は固く、それに応えるべく仲間たちも見送る決意をしたものの、やはり皆の表情は暗いものである。世界中の人を笑顔にすべく旅をしていた旅芸人のシルビアでさえもそれは例外ではない。しかし、まずは自分が皆を元気づけようと動き出す。そこがパーティのムードメーカーであるシルビアらしいといえる。

 自分だって悲しいはずであってもそのような行動に出るシルビアの姿を見て、他の5人も前を向かなければならないと気付かされたようだ。

 

「そうだな……そうだよな。俺たちがこんなんじゃエルバに示しがつかねぇってもんだよな」

 

 カミュの言葉に皆一様に頷く。魔王ウルノーガを打倒した面々ということもあって、精神面は常人のそれよりも遥かに強いものとなっている。

 

「すぎさりし時を求めた勇者は旅立ちました。皆さんはもうこの場所には用はないはずです」

 

 空気を察したのか、『時の番人』が6人に語り掛ける。表情が無くて感情が読み取れないが、空気を読むことができるんだな、とカミュは思った。それ以前に感情というものがあるのかが甚だ疑問ではあるが。

 

「そうね。私たちはエルバがいなくなったことを最後の砦、イシの村の皆に伝えなくてはいけないわ。それに、お父様やそれ以外の多くの人々にも」

「そうですわね。勇者と力を合わせて守った世界を、これからは私たちだけで守っていかなくてはなりませんわ。エルバ様はもういらっしゃらないのですから」

 

 魔王ウルノーガを討伐したとはいえ、ウルノーガの手によって生み出されたと思しき魔物の残党はまだまだ世界中にいる。それらが街に被害をもたらさないとも限らない。魔物が世界からいなくならない限り真の平和が訪れることはないのだ。

 

「勇者エルバがいなくなった今、俺は勇者がいなくなった世界を守る盾となろう」

 

 グレイグが力強く宣言する。体格が大きくても案外繊細なグレイグがここまで立ち直ったのならもう心配いらないわね、とシルビアは秘かに思った。マルティナも同じようなことを考えていたようで、2人は目を合わせて少しだけ笑った。

 

 

 

 「さあ、帰ろうぜ! 俺たちにはまだまだやるべきことが残ってる!」

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

 

 俺が住んでいる地域では滅多にお目にかかることのできない一面の雪景色に胸が躍る。一歩踏み出すと、サクッと子気味のいい音を立てて足が沈む。もう片方の足でやってみても同じことが繰り返される。

 

「やばい、超楽しい。なにこれ、すごいなこの雪」

 

 20歳にもなって語彙力が壊滅的である。いくら世間一般で成人といわれる年齢であっても、こういう時は少年のようになってしまうものである。仕方のないことだ。

 

「周囲を見渡してみても、一面の銀世界。木にも雪がどっさり乗っていて、でっかい氷の塊もあって、そのすぐ近くに太鼓を持った魔物ようなものまでいる。……魔物?」

 

 どうやら浮世離れした出来事に無意識のうちに現実逃避をしてしまっていたらしい。とにかく魔物のような得体の知れない物体から見つからないように岩陰に身を隠した。なにあれ、目は赤く光ってるしよくわからないメロディで太鼓をずっとたたき続けてるし。

 

「今更だけどここどこだよ……さすがに寒すぎだろ。てか俺さっきまで浜松からの電車に乗ってたはずなのに……。あれ、でもなんかこの風景どこかで……」

 

 高校を卒業してかれこれ2年と少し、今の会社にもようやく慣れて徐々に軌道に乗ってきており、このまま数年以内には結婚して子供も生まれて、今の会社に定年までお世話になるのかなぁとぼんやり考えていた矢先の出来事である。

 会社帰り、疲れた体を引きずって電車に乗ったはいいものの、いつもの駅にそろそろ着くはずだなと思っていたがなかなか着かず、疲れのせいで感覚がおかしくなっているのかと思っているうちにそのまま寝てしまった。はっと気が付いたときにはこの雪原のような場所に倒れていた。今思い返してみても意味が分からない。一緒にあったカバンの中の荷物を確認したが、会社で作成した資料と半分飲んだ緑茶のペットボトル。それから筆記用具とスマートフォンだ。頼みの綱のスマートフォンはなぜか電源が付かないのでどうしようもない。モバイルバッテリーなんて持っていなかったため完全に"詰み"である。

 

「まさかここがネットでよく聞く都市伝説の『きさらぎ駅』なのか!? ……いや、そんなわけないない」

 

 一つの仮説を考え付いた。しかしその考えはすぐに振り払う。突拍子もないことは今起きていることだけにしてほしい。

 

「ん、まてよ? これはもしかして夢なのでは?」

 

 こちらのほうがよほど現実的な考えである。夢である方が現実的とは、なんともややこしいが。

 

「てことはあそこにいる奇怪な姿をした魔物みたいなやつも夢に出てきてるだけの存在なのか! どっかで見たことある姿だと思ってたけど、もしかしたら起きてる間に何かしらで見ていたのかもしれないな。夢って現実で見たものに大きく影響されるっていうし」

 

 そうと決まれば、と岩陰からでて太鼓のようなものを持つ魔物に近づく。どうやらこちらの存在にはまだ気が付いていないようだ。

 さらに近づく。抜き足差し足忍び足。気分は後ろから友達を驚かせようとするいたずら小僧だ。そうこうしているうちに、2メートルほどの距離まで近づいた。

 

「近くで見ると思ったよりもでっかいんだなぁ。でもやっぱりこの姿どこかで……」

 

 うーん…と唸っていると、魔物がこちらを見た。真っ赤な両目がこちらをしっかりと捉えている。これは夢なのであまり恐怖は感じないが、想像より5倍は赤く光っている。パトカーもびっくりなんじゃないか、と場違いにもほどがあることを思った。

 

「ウォッ! ウォッ!!」

「うおぁ!?」

 

 突然魔物が、頭の上に『!』が付いたような勢いで襲い掛かってきた。かろうじて横っ飛びして躱したが、反応できていなかったら大けがをしていたかもしれない。俺にもこんな反射神経があったんだと、ずっと文化部に所属していた自分を褒めた。

 

 

「……って、は? おいちょっと待てなんで追いかけてくるんだよ!! しかもなんかよくわかんない紫色の熊みたいなのもいる!?」

 

 予想外の事態に無我夢中で走る。雪に慣れていないのと、通勤用の革靴というのもあってとにかく走りにくい。太鼓持ちと熊がともにそれほど足が速くないのが救いだ。しかし、いくら逃げたところでこちらが先にばててしまうのは目に見えている。それに、よくみるとそこかしこにたくさんの魔物がいるようだ。今はそちらに構っていられる余裕は無いのでとにかく魔物がいない方向に逃げる。他のがどんな姿をしているのかなんて二の次だ。

 

「てかこれ本当に夢なのかよ! 現実感ありすぎだろ!!」

 

 冷たさで両足の感覚が麻痺している。このままでは、死――。

 

「死ねるかぁ!」

 

 疲労と冷気でガタガタになっている両足に鞭をうって力を振り絞る。2体の魔物の気配察知圏内から抜けられたのか、追ってくることはなくなった。

 

「やばいってこれ。意味わかんねぇよ。いったい何が起きてるっていうんだよ」

 

 どうにかこうにか再び岩陰に身をひそめる。火事場の馬鹿力というやつが発動してくれたらしい。

 ここは空間が湾曲しているため奥が見えないが、この岩陰の向こう側にはさらに雪原が広がっているようだ。大きな氷の塊があって登れはしないが、壊すか溶かすかすればここから上にも行けそうだ。上のほうが案外安全かもしれないが、俺にはこの氷はどうしようもないので考えないことにする。

 地べたに座り込んでいるため尻からひんやりと冷たさが伝わってくる。濡れてしまうだろうがこの際構っていられる心の余裕なんてない。また魔物の襲撃があるかもしれないのだから疲労の回復に専念する。入ってきたほうの岩陰から顔を出して確認しても魔物は今のところ見当たらない。

 

「ここから先どうしたらいいんだよ俺は。どこか人がいるところはないのかよ」

 

 これが夢ではなく現実だとするならば、思い当たるのは異世界転生。しかしよくある異世界転生というものは必ずと言っていいほど町の中に飛ばされるはずだ。あとは何かしらの特典付き。それなのに、どうして俺はこんな雪原に飛ばされていきなり死にそうな目に遭遇しているのか。

 そして、先ほどからどこか既視感を覚えるこの風景。太鼓の魔物は見たことがある気がする。何かが引っかかる。それらを解き明かすために、今はとにかく人がいそうなところを目指すしかない。

 

「そろそろ移動するか……っ!?」

 

 立ち上がり岩陰から出ようとした矢先、背後に気配を感じた。背中に冷たいものが走る。どうやら背後の警戒を怠ってしまったようだ。

 機械から発せられるモーター音のようなものが聞こえる。十中八九魔物であるが、機械音がすることにどうにも胸騒ぎが止まらない。機械の音がする魔物とか俺が知ってる現実世界のゲームに似たようなのがいたなぁ、とここで考えるには危機感がなさすぎることが頭によぎった。

 魔物が近づいてくる気配は今のところない。恐る恐る振り返る。もしかしたら動くことによって相手に何かしらの反応があるかもしれないが、背中を向けているのは怖すぎるため、決死の覚悟で体を回す。

 

「っと。え、嘘だろ……?」

 

 振り返っても攻撃されることがなくて一安心ではあるが、それよりも大きな問題が発生した。本格的に自分が置かれている環境のせいで混乱してきた。というのも。

 

「これって、キラーマシン……だよな? なんでこんな……」

 

 思わず後ずさる。がしかし、背後には先ほどまで身を隠していた大きな岩。万事休すだ。

 俺が昔から大好きなゲームに出てくる敵、キラーマシン。現実で見るのならどんなものだろうと思っていた。想像していたより少しばかり背丈が小さいが、武器の凶悪さがゲームのそれとは明らかに異なる。本物の『殺し屋』のものである。ゲームで見るような生易しいものではない。

 

「これは……終わった……。どうか、どうかこれが夢でありますように……」

 

 キラーマシンが徐々に近づいてくる。攻撃態勢に入ったのかもしれない。

 もう神に祈ることしかできない。俺が仮に異世界転生していたとして、これがあのゲームの世界なら、蘇生呪文はあるのだろうか。運よく誰かに見つけてもらえたら協会に連れて行ってくれるだろうか、などと現実逃避じみた考えばかりが頭に浮かんでくる。

 

 うずくまって目を瞑る。成す術はないので、どうにでもなれと身を委ねる。これが悪い夢でありますように、と恐怖に震える声にならない声で何度も何度も呟き続けることしかできない。

 キラーマシンが右手を振り上げる気配がする。右手は剣と弓どっちだっけ。あ、弓は振り上げないよな。だったら剣だ。と意味もない思考が加速する。思考とは対照的に時間がスローモーションに感じる。

 

 もうなるようになれ、と痛みに備えて歯を食いしばる。

 

 

 

「忌まわしき魔物よ! そのお方から離れなさい!」

 

 ……しかし、痛みが来ることはない。代わりに聞こえてきたのは、美しい琴の音色と女性の声。

 不思議と心が落ち着く。落ち着いている場合ではないのにもかかわらず、だ。

 声は知らないが音色には聞き覚えがある。キラーマシンが存在するのであれば、この世界はやっぱり……。

 

 俺はうっすらと目を開ける。そこには、何かに縛られているように体が思うように動かせないでいるキラーマシンの姿があった。この現象はこの琴の音色が起こしているのだろう。

 

「これでも喰らいなッ!!」

 

 目を開けてすぐ、キラーマシンの背後から何者が攻撃をする。速くて目で追えなかったが、3回くらいは攻撃していたと思う。キラーマシンの目と呼ぶべきところが消え、光となって消滅した。

 

「は……ははっ……助かった……」

 

 安心感からか、ぺたりと尻から地べたに座る。腰が抜けてしまった。

 

「おい、大丈夫か? 危ないところだったな」

「私たちが来たからもう大丈夫ですよ」

 

 キラーマシンを倒してくれたのは、男女の2人組。1人は青い紙をツンツンに逆立てている青年。もう1人は、金髪のショートヘアーで、前髪をヘアバンドで上げている。

 よかった。もう助かったんだ。そう思った瞬間、とてつもない眠気が襲ってきた。いろいろなことが短時間に置きすぎて疲れてしまった。さすがに耐えきれなくなって俺はそのまま雪に体を預けた。

 

「お、おい! どうした! くそっ! 魔物にやられたのかもしれねぇ、回復呪文を頼む!!」

「わ、分かりました!」

 

 そっか、回復呪文か。それに2人のこの姿、俺はやっぱり来てしまったんだと実感した。『ドラゴンクエストXI』の世界に。

 

 青髪の青年カミュと金髪の女性セーニャ。この2人に見つけてもらえたことは、不幸中の幸いだろう。もう安心できる。

 2人は慌てながらどうしようかと話している。現実世界で救急車を呼ばなきゃいけない場面では、きっと俺もこういう感じなんだろうな、と思った。

 

 

 

 そんなくだらないことを考えているうちに、俺の意識は遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ありがとうございました。みんなのトラウマキラーマシン先輩。
 書き溜めが少々あるので、しばらくは問題なく投稿できそうです。
 匿名投稿にする理由は特にありませんが、強いて言うならなんとなくです(笑)

 お気に入り登録、感想、高評価お待ちしております!
 それでは、また次回!


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第2話:カミュとセーニャ

 お疲れ様です! 最近友人に勧められてdアニメストアに登録しまして、ずっと気になっていたアイドルマスターシンデレラガールズを履修中のバーバラすこすこ侍でございます!

 デレアニめっちゃいいですね!(物書きとは思えない語彙力) おかげで執筆が進んでおりませんが……。

 近況報告はこれくらいにして、では、どうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 後頭部に柔らかな枕の感触がする。体にかかっている布団も温かくて、どこか安心感を覚える。まるで実家の自分の部屋にある布団で寝ているかのような感覚だ。

 俺は寝る前何をしてたんだっけ。……あれ、思い出せない。寝つきと寝起きはすっきりするタイプなはずなんだけどなぁ。最後は確か、すごく寒くて、それから……。

「……はっ!?」

 

 寝る前に自分に降りかかった災難をようやく思い出して、がばっと起き上がる。右を見ると木で作られた壁があった。どうやらここは木造の建物らしい。左を見ると、青髪をツンツンに逆立てた青年がいた。

 

「ようやくお目覚めか。体の具合は大丈夫そうなのか?」

「えっと……はい、大丈夫そうです。ご心配ありがとうございます」

 

 少し体の調子を確認してから答える。徐々に頭が冴えてきて、自らの現状に対する焦燥が襲ってくるがそれをこらえる。

 

「なんか堅っ苦しいなおい。まるでセーニャみたいだ」

 

 カミュは苦笑しながらツッコミを入れる。ゲームで見ていた時からずっと思っていたが、とにかく顔がいいのでどんな表情をしていても似合っている。

 

「はぁ、まあ。少々混乱しておりまして。あの、ここは?」

「あんなことがあったんじゃしょうがないよな。ここはシケスビア雪原の北のほうにある小屋だ。普段はここらの魔物の生態を調べつつ魔法の研究をしている学者が使ってるんだ」

「シケスビア雪原、ですか……。ご丁寧にありがとうございます。あの女性はどちらへ? 確か、セーニャさん、と呼んでましたよね?」

 

 勿論名前など最初から知っているが、知らないというフリをする。俺はこの世界の人間ではないのだから。

 

「セーニャなら、温かいスープを飲めば元気になるはずだって言ってその辺でスープに入れる野草を採集してるぜ。この辺に育つ野草は寒さに強く味もいいんだ。さすがに作るのは味的な面であいつには任せられねぇけど、そういう草の知識とかは俺より詳しいからな」

「そうなんですね。何から何までありがとうございます」

「いいってことよ。魔物に襲われてるアンタを見つけたのはセーニャだし、お礼ならあいつに言ってくれ」

「分かりました」

 

 2人ともとてつもなく親切だ。ゲーム内の知識しかないが現実にこのように関わってももそれは変わりないらしい。

 

「そういやアンタの名前ってなんていうんだ? 俺の名前はカミュだ」

「俺は零です」

 

 忘れてた、というように聞いてくる。確かにいつまでも名乗らないのは失礼だと思ったので素直に答えた。この世界で苗字に意味はあるのか分からなかったので下の名前だけ。れい、という響きからよく女の子に間違われていた。

 

「レイか。いい名前だな。俺のことはカミュでいい。あと敬語もいらない。よそよそしくて背中が痒くなってくる」

 

 茶目っ気たっぷりに言う。顔がいいせいか、めちゃくちゃ様になっている。ホストとかをやったら間違いなくナンバーワンになれそうだ。歯が浮くようなセリフとかを言わせたら黄色い悲鳴が上がること間違いなしだと思う。

 

「んじゃあ遠慮なく。よろしくね、カミュ」

「ああ、よろしく。しかしまぁ、どうしてレイはあの場所にいたんだ? それにそんな寒そうな格好で。世界各地を旅してきたが、そういう服装をしている国や村はなかったと思うが」

 

 あー……。と歯切れの悪い返事しかできない。どう説明すべきかなんてすぐに思いつくはずもない。電車に乗って寝落ちしたらいつの間にかゲームの世界の中だったなんて言えない。それにこの世界の住人は自分たちがゲームの中のキャラクターだなんてわかるわけがないのだから。

 

「んー……迷い込んだ、としか言いようがないというか何というか……。この辺には来たことがなくてね。あと、服装は一応俺の故郷では正装扱いされてるものなんだけどね」

 

 会社務めなのでスーツを着用しているが、この世界ではこの格好では浮いてしまうのか。こういう感じの装備があったような気がしなくもないが、まぁ気にしないことにする。

 

「迷い込んだ、か。よくわかんねぇな。正直服については何も言うつもりはないけどあんまり奇怪な格好してると目つけられたりするから気をつけろよ」

「ありがとう」

 

 ぼんやりとごまかして『迷い込んだ』とは言ったものの、"違う地域"からではなく"違う世界"からなのでどう説明すべきか。いつかは話さなければならないことだとは分かってるが、どのような反応をされるのかが怖い。多くの不思議な経験をしている2人ならばおそらく問題ないのであろうが、怖いのであまり言いたくはない。

 それと、海賊みたいな格好になる所謂おしゃれ装備で普通に出歩いている人に注意されても何一つ説得力がない気がするのは、恐らく普通だろう。

 

「ただいま戻りました。あ、お目覚めになられたのですね! 良かったですわ!」

 

 脳内でモヤモヤと考えていると、セーニャが帰ってきた。右手には野草の入ったかごを持っている。

 

「魔物から助けていただきた本当にありがとうございます。なんとお礼を言ったらいいのか」

「お気になさらないでください。無事で本当に安心いたしました。今からスープをお作りいたしますので少々お待ちください」

「いや、スープは俺が作るからセーニャは座ってろよ」

「いえ、私に作らせてください」

「だめだ。お前は外にいて冷えてるんだから暖炉の前で暖まっておけ、いいな?」

「……分かりました」

 

 まるで夫婦のようなやり取りである。カミュがそこまでしてセーニャにスープを作らせたくない理由は何だろうかと思ったが、さっきの会話の中で、『味的な面で任せられない』と言っていたあたり、壊滅的なセンスなのかもしれない。

 

 髪の毛が入らないようにしているのか、ターバンのようなものを頭に巻いたカミュがスープ作りに取り掛かる。現実世界でいう三角巾だな。

 セーニャは口をとがらせて少し不貞腐れていたが、言われた通り暖炉の前に置かれている、今までカミュが座っていた椅子に腰かけた。不貞腐れている様子が可愛いと思った。

 

「セーニャ……さんですよね? 俺は零って言います」

「はい、私はセーニャと申します。よろしくお願いいたしますわ、レイ様。私のことはセーニャ、と呼んでいただいて構いません。口調も砕けた感じで大丈夫ですよ。私のは癖みたいなものなのでお気になさらず」

「じゃあお言葉に甘えて。よろしくお願いします。いや、よろしく、セーニャ」

 

 カミュの時と同じように挨拶をする。この世界の住人は基本的にフランクなんだな。日本生まれ日本育ちの俺からすると少々戸惑うが、その戸惑いを表に出さないように意識する。言語が通じる海外留学と置き換えて考えればなんとなく気が楽になる。

 

「カミュとセーニャは随分仲良しなんだね。夫婦か何かなの?」

 

 ゲーム内ではそんな描写はあまりなかったが、今現在ここが現実である以上、些細な情報も欲しいところだ。さりげなく情報収集を開始する。悩み事や怒りも一度寝たら忘れてしまう俺の脳は、こういう時にも冷静さを取り戻すのにいい働きをしてくれるらしい。

 

「いえ、夫婦などではありませんわ。私の使命が果たされた今、魔法の研究が発達しているクレイモラン王国に来てはどうか、とカミュ様が誘ってくださったのです」

 

 ちらっとキッチンにいるカミュのほうを見る。セーニャが採集してきた野草を包丁で食べやすい大きさに切っている。この世界にも包丁とまな板はあるんだな。それもそうか。

 既に気になる点はあるが、続きを促すように顔を見る。全体的な顔のパーツが整っていてとても美しいと思った。見とれてしまいそうになるが、暖炉にくべられている薪がパキっと割れた音で我に返る。

 意図を察したのか、セーニャは続ける。

 

「私はもともと回復魔法が得意でした。いろいろなことがあって、私の一番大切な方がいなくなり、その力を受け継いだことによって攻撃魔法も使えるようになりました。ですが、攻撃魔法の方は練度が高くないのです。なんとか魔王ウルノーガを打倒することには成功いたしました。しかし、世界には未だ魔物がはびこっております。どこかで修業を積み、困っている方々の力になりたいと思っていた矢先、カミュ様から先ほどご説明した内容の提案をしていただいたのですわ」

 

 なんとなくではあるが、自分が今いる世界の状況が読めてきた気がする。ほんの一部のことではあるだろうが、基本的にはゲームで経験したシナリオの通りになっているのは分かった。

 セーニャがショートヘアーであることからしても、ウルノーガがボスになった世界線であるのはほぼ間違いないだろう

 

「そうだったのか。……えっと、いくつか聞いても大丈夫?」

「ええ、構いませんわ」

「ありがとう」

 

 頭の中で今聞きたいことをリストアップしつつ話を整理していく。事務の仕事を2年間続けてきているおかげで情報をうまく整理整頓してまとめる能力が養われた。最初こそ不安でしかなかった業務内容も、今考えてみれば自分に一番合っていたのかもしれない。

 考えがそれたが、とりあえず一番聞きたいことをまずは聞いてみることにした。

 

「セーニャの、『使命が果たされた』っていうことは、どういうことなの?」

 

 確かセーニャの使命は『勇者の導き手となること』みたいな感じだったはずだ。

 『ドラゴンクエストXI』は話が好きで1度すべて話を終わらせた後、『ふっかつのじゅもん』システムを用いて、所謂"強くてニューゲーム"の状態で2週目を楽しんだものだ。それを最後までクリアして以降触れていなかったので、半年ほど離れていた。それでも内容は意外と覚えているものなので、セーニャから聞き出せればおそらくほぼ確実にゲーム内時空に照らし合わせた時間軸がわかるはずだと思った。

 

「私、いえ"私たち"の使命とは、勇者の導き手となることです。この世界で暗躍する魔王ウルノーガを打倒すべく命の大樹が遣わした勇者を、私たちが導く、ということです」

「勇者?」

 

 やはり俺の記憶は正しかった。この世界はゲームと大差ないらしい。この世界の人間でもなく、ただの一般人として認識されているであろう俺は、すべてを知っていることを悟られないよう聞いた。

 

「勇者とは、大いなる闇を打ち払う、命の大樹に愛されし存在のことです。また、ウルノーガとは命の大樹の魂をその手中に収め、一度世界を滅亡寸前にまで追いやった存在です。先ほど少しだけ名前を出しましたね」

「でも、そのウルノーガは勇者とセーニャ達が倒したんだよね?」

「そうです。多くの犠牲を払い、悲しみを乗り越えて成し遂げました。大樹の魂は息を吹き返し、この美しいロトゼタシアも元に戻りました。しかし、失われた命は戻ってきません」

「そうだったのか……」

 

 ウルノーガが打倒されて世界が平和になった後の状態、ということは、この世界は勇者が過ぎ去りし時を求めて過去に旅立つ前なのか、それとも旅立った後なのか。

 

 うーん、と唸っていると、スープができたから席につけ、とカミュに声をかけられた。テーブルの上には、湯気がモクモクと出ているスープと、おそらくフランスパンなのであろうがフランスパンのような形をしたもの、そして干し肉が並んでいた。一応現実世界のクリエイターが作成した世界なので、人間が到底口にできないようなものは世界観的にないとは思うが、どうだろう。

 『いただきます』を言うか迷ったが、2人が何もせずに食べ始めたので俺も何も言わず、心の中でだけ『いただきます』をした。

まずはカミュ特製の野草スープを一口。少し味が濃いめで、いかにも寒い地域という感じだ。コンソメに近い風味で、大変美味しい。

続いてフランスパンのようなものを少しちぎって食べる。これは間違いなくフランスパンだ。名前は分からないが、俺の中ではこの食べ物はフランスパンと呼ぶことにしよう。浸して食べても良さげだ。アツアツのスープがちょうどよく食べやすい温度になる。

 少し食べ進めたところで、先ほどまでの話の続きを、食事をしながら今度はカミュもいれて再開する。

 

「さっきの話に戻るけど、まさかその勇者とカミュとセーニャの3人だけでウルノーガを倒したわけではないよね?」

「ああ。俺たち2人と勇者エルバ、後は4人、いや、5人か。合わせて8人だ」

「実際にウルノーガと対峙したときには7人でした。しかし本来であれば、私の双子の姉のベロニカお姉様がいらっしゃったはずなのです。ベロニカお姉様は、ウルノーガの手によって命の大樹が堕ちた時、仲間のみんなを助けるために魔力を使い果たし、命を落とされました」

「そんな……」

 

 含みのある言い方をしたカミュの言葉を、セーニャが繋げる。知ってはいたが、やはりショックである。カミュも顔を俯かせている。今でも思い出すと悲しくなってしまうのだろう。

 俺はゲームの初見プレイの際、まさかの展開過ぎてしばらく放心状態になった思い出がある。セーニャが髪を切るシーンでベロニカの能力などが継承されたときの切なさと絶望感は、とてつもなく大きかった。

 

「確かにお姉様を失った悲しみは大きかったです。しかし、お姉様は今でも皆さんの、そして私の心の中で生き続けております。

 私は元々回復魔法しか使えなかったと申し上げましたが、ベロニカお姉様が得意としていた攻撃魔法が使えるようになりました。今でも私とお姉様は、2人で命の大樹の1枚の葉を共有しているのです。芽吹く時も散るときも一緒と、そう約束しましたから」

 

 セーニャは、もう悲しみには閉ざされない、と言うように強く語る。本当に強い人だと思った。双賢の姉妹は今でも双賢の姉妹であり続けている、とそんなことを考えてしまった。

 

「セーニャは普段はのんびりしてて、ベロニカには『グズ』とか言われてたけどなんだかんだしっかり者だからな」

「カミュ様はベロニカお姉様に『ひよっこ』呼ばわりされていたではありませんか」

 

 カミュがからかうような口調で言う。しんみりモードになってしまったのを察してわざとこういうことを言っているのだろう。それに気付いているのかは定かではないが、セーニャも負けじと言い返す。なにおーう! というように言い合うゲーム内では決して見ることのできない会話に、少々胸が躍る。さすがに2人を止めないわけにはいかないが。

 

「まぁまぁ、2人とも落ち着いて。あ、そうだ! 最後に1つだけ聞いていいかな?」

 

 気をそらすためにあえて少し大げさに言う。実際は、これを聞けばこの世界の現状がはっきりと知ることができるので真面目に答えてもらう場を作らないといけなかったのが大きい。

 

「まあいいか、何かあるのか?」

「私たちで答えられる範囲であればなんでもお聞きください」

 

 無事、2人の意識を俺の最後の質問へとそらすことができたようだ。両者の顔を順番に見てから、聞きたいことを口にする。

 

「2人と一緒に戦った勇者のエルバ? はどこにいるの? 自分の故郷に帰ったとか?」

 

 これさえはっきりすれば自分がそういう世界にいるのかがわかるはずだ。

 勇者が過去に戻る前であれば、過去に戻る前に勇者と話をして、『勇者の奇跡』とやらで元の世界に帰れないかと考えている。恐らくこの世界はゲームのシナリオに沿って進行しているので勇者が過去に戻るのは確定事項であると見て間違いはないはずだが、この2人と知り合えたことで、行動を共にしていればいつか必ず会う機会が来る。

 もし仮に勇者が過去に戻った後ならば、その時はもう諦めるしかないのではないか。他に考えられる手立ては今のところ思いつかない。半分あきらめモードではあるが仕方のないことだと思う。環境に順応する能力は昔から高い方だったので何とかやっていけるだろうと楽観的になってみたりする。

 

 この質問を聞いて、2人は顔を見合わせて『あー……』というようななんとも言えない表情になる。その瞬間全てを察してしまった。がしかし、何も知らないという風体を装って回答を待つ。

 

「エルバは……あいつは、過去に戻った」

「理由と方法はお話しするととても長くなってしまうのでお話しできませんが、過去に戻ったんです」

「過去に……戻った……」

 

 ……予想的中。ロトゼタシアの大地に骨をうずめることが確定した瞬間である。

 

 少年たちの夢であるゲームの世界に入ることを実現し、その世界の中で死ねるのならばまだ良いか、と思わないでもない。ポジティブに生きねば何事も上手くいかないんだよ、という母の教育がここで役に立つとは……。もう母に会えることもないだろうが。

 まぁこれが仮に何一つ予備知識もない未知の異世界ならば絶望でしかなかったのだから、不幸中の幸いとして考えておくことにした。そんな簡単な言葉で片付けられる事態ではないが。

 

「信じられないよな、当たり前だ」

「突拍子もないことを突然聞かされているのですから仕方のないことですよね」

 

 どうやら2人は俺の反応を、過去に戻ったという話が信じられないと考えている、と解釈したようだ。信じる信じないではなく"事実を知っている"ので、実際は全く別物であるが。

 

「いや、信じるよ。俺を助けてくれた2人だし、勇者の仲間で魔王の手から世界を救った人達なんだから、あまり人には信じてもらえなそうな出来事の1つや2つはあると思うからね」

 

 カミュとセーニャは驚いて目を見開く。確かにこんなことを言われたら驚くだろう。実際問題、過去に戻ることと同等かそれ以上におかしな出来事に巻き込まれている時点で、仮に事実を知らなかったとしても2人の話を信じていただろう。

 

「なんというか、まあ……簡単に人を信じるんだな」

「悪意を持った人々に騙されてしまわないか心配ですわ……」

 

 セーニャがそれを言うか、というツッコミはすんでのところで飲み込んだ。第一、今日であった人に自分たちの体験を簡単に話してしまう時点でかなりのお人よしであることには間違いない気がするので、これはおあいこである。これは言っても仕方ないが事だが。

 

 

 とりあえず、ある程度話に一区切りがついたので、食事を再開する。腹が減っては何とやら。これからのことは空腹が満たされてから考えることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 




 ありがとうございました!
 私はまたデレアニを観てきたいと思います!()

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第3話:クレイモラン王国城下町

 お疲れ様です。昨日の夜にアイドルマスターシンデレラガールズを全部観終わって大号泣したバーバラすこすこ侍でございます。久しぶりに声を出して泣きました……。
 次はなんの泣けるアニメを観ましょうかね(笑)

 違う作品の話はここまでにして、本編に行きましょう!

 では、どうぞ!


 

 

 

「よし、これで最後だ」

「分かりましたわ」

 

 食事に使った食器類を息の合ったコンビネーションで片付けていくカミュとセーニャ。後片付けくらいはやるといったが、俺たちでやるから客人は座っててくれ、とカミュに言われ、セーニャもそれに同調したため、大人しく座っている。助けてくれただけでなく客人扱いまでしてくれる優しさに、素直に甘えることにした。

 

 特にやることもないためぼんやりと皿洗いの様子を眺めていたが、傍から見ていると完璧に夫婦だ。セーニャには否定されたので婚姻関係にはないのだろうが、現在の時間軸が勇者がいなくなった後ということもあって、原作では起こりえない心情の変化というものがある可能性だってある。 

 また、この世界には水道管なんてものはもちろんあるわけがないので蛇口をひねればいくらでも水が使い放題ということもない。井戸から水をくみ上げてそれを使用し、出た汚水はろ過をして再利用する、というのを数回繰り返す。どの世界においてもやはり水は大事なんだな、と実感した

 

 そんなことを考えているうちに最後の皿を片付けたようだ。よほど冷たかったのか、2人ともすぐに暖炉の前に行き両手をさすりながら暖めている。暖めるならメラを使えばいいのでは、と思わないでもないが、余計なことに魔力を消費するのはあまり好まれないのかもしれない。ゲーム内のMPのように数値化できるものではないと思うが、間違いなくキャパシティというものはあるはずだ。

 

「皿洗いも終わったし今からクレイモラン王国の城下町に食材やら日用品を買いに行こうと思うんだが、お前も来るか?」

「クレイモラン王国? 行ってみたい!」 

 

 カミュが聞いてきたので、すぐに決断する。この世界に来てしまったのならいろいろ見て回りたいという好奇心からの言葉だ。食事中の会話で、しばらくはこの小屋にいていいと許可をもらったので、道端で野垂れ死ぬ心配はなくなった。そういう安心感もあっての返答である。

 

「では3人で行きましょう。魔法についてリーズレット様に少しお聞きしたいこともありますし」

「そういうことなら、早速行くか」

 

 セーニャの口から出た"リーズレット"という言葉を聞いて、少々考える。……確か、一度王女に成りすましてたのがバレて勇者一行に倒されたが、そのまま王女の警護人になった魔女だったはずだ。きっと2人と一緒にいれば俺も会えるはずなので、実物をぜひとも拝んでみたい。

 

「行くって言っても、帰りは暗くなりそうだけど大丈夫なの?」

 

 素朴な疑問を口にする。寝ていた時間はそれほど長くはないだろうが、恐らく昼はとっくに過ぎているはずだ。今から出かければ遅くなるのは間違いない。故に、夜間の外出は絶対に危険だろうと思ったからだ。寒さはもちろん、夜間帯の方が魔物が凶暴化するのは常識である。無論、ゲーム内知識ではあるが。

 

「問題ないぜ。これがあるからな」

 

 新しく買ってもらったおもちゃを友達に自慢するような少年の顔でポケットから取り出したのは、真っ白い羽根のようなもの。見た目的には羽ペンであるが。これは……。

 

「あ、キメラのつばさか」

「そうだ。これさえあれば城下町までも、そこからこの小屋にまでも楽にいけるんだ。レイを助けてここに戻ってくるときにも使ったんだ。道具屋にいけば結構安く手に入るし重宝するぜこれは」

 

 ま、俺はキメラ自体から盗めば金はかからないんだけどな。と得意げに付け足す。セーニャはそんなカミュを見て苦笑い。

 そういえばそんなアイテムもあったな、と考えるくらいには長らく触れていなかったものだ。『ドラゴンクエストXI』ではシナリオの序盤でルーラの呪文を習得できるので基本的に使う機会は本当にシナリオの最初の部分だけとなってしまいがちだと思う。主人公である勇者しかルーラの使い手はいないことを考えれば、他の仲間はキメラのつばさを常備していても不思議ではない。

 

「ということなので心配はいりません。では向かいましょうか」

「そうだね」

 

 通勤カバンを持っていても何も意味がないので何も持たないことにした。できればスーツから動きやすい何か別の装備に着替えたいところだが、生憎この世界に流通しているお金は持っていないのでそれはかなわないだろう。

 小屋から3人で出る。どうやらカギはかけないらしい。それがこの世界流か。

 

「それじゃあいくぜ」

 

 カミュがキメラのつばさを放り投げるために勢いをつける。キメラのつばさの使用法は簡単で、ただ行き先を思い浮かべながら放り投げるだけだという。これで一度行ったことのある場所にならいくらでも行けるのだから、とても便利な代物である。

 しかし、移動中はそのような感覚なのだろうか。それにも興味が湧いた。

 

「せーのっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

 

「あー……気持ち悪い……」

 

 成人した後の会社の飲み会で、初めてアルコールに触れたということで上司に飲まされまくった時の二日酔いがこんな感じだったなぁと、今すぐに出も胃の中のものを吐き出したい衝動を抑えるために別のことを考える。今思えばあれは立派なアルハラだったのではないか。猛烈に上司を訴えたい衝動が湧いてきた。ちなみに、セーニャがホイミを唱えてくれているが効く気配はない。こういう時って回復呪文が効くのだろうか。キアリーなら効果があるか?

 

「大丈夫ですか? まだ体調がすぐれないのでは……」

「雪原で倒れたのとは違う理由だから心配しないで。すぐに良くなるから」

 

 キメラのつばさを使用したときの移動中の様子が気になっていたが、結論から言えば、絶叫マシンのような感じだった。絶叫マシン自体は苦手ではなくむしろ得意な方だ。だが、最初に少し体に浮遊感があったかと思えば遮蔽物がない高度まで一気に上昇し、そのあとは風の抵抗は受けない、とてつもない速度の平行移動、そして、地面に激突するのではないかというほどの速度での下降。この3つの行程が一瞬で目まぐるしく変わり、三半規管がやられてしまった。思っていたよりも凄まじかった。正直キメラのつばさをナメていた。

 

「では、少し座りましょう。その方が楽になるはずですわ」

「そんじゃ、ここの教会とかでいいんじゃないか」

 

 カミュが指さしたのは、城下町の門を入ってすぐ左にある教会。たしかに、ここならゆっくり休めるはずだ。素直に賛成して教会に入る。

 満腹時と空腹時には乗り物酔いしやすいと前に聞いたことがあるので、帰りの時はもしかしたら大丈夫かもしれないが、乗り物酔いと同じにして考えてしまっていいものなのかはわからない。

 

「おお、カミュじゃないか!」

「お、おっさん久しぶりだな」

 

 入口のすぐそばの椅子に腰かけると、神父の恰好をした男性が話しかけてきた。

 

「お久しぶりですわ、神父様」

「セーニャさんもいらっしゃったのですね。本日はどうされました?」

「このお方の具合がよろしくなくて、少し休憩しようというお話になったもので、立ち寄らせていただきました」

 

 親しげに話しているが、この神父さんはストーリーに何か関係があっただろうか……と、少しずつ引いてきた吐き気を抑えるために考える。

 カミュとセーニャが神父と話している間に考えていたが、そこで、あっと思い出した。カミュのことを昔から知っているポジションの人だということをようやく記憶の引き出しから引っ張り出せた。

 

「そうだったのですね。して、このお方はお二方とはどのようなご関係なのですか?」

 

 神父がこちらを見ながらセーニャに尋ねる。確かに見ず知らずの人間と知り合いが一緒にいたら気にならないわけがない。

 

「シケスビア雪原で魔物に襲われていたのをお助けしたのですわ」

「疲労からか倒れちまったんで、雪原の北にあるいつも使ってる小屋で休ませてから、俺たちが買い出しに行くのに付き合ってもらってる」

「えっと、レイです。2人には助けてもらって、しかもご飯までご馳走になってしまったので、感謝してもしきれません」

 

 2人が順に説明したので、ついでに自己紹介。知り合いを増やしておくに越したことはない。

 

「レイさんですね。危ないところでしたね。これも神のご加護あってこそでしょう。旅人のようには見えませんが、どうしてシケスビア雪原に?」

 

 そりゃ気になりますよね、という感じである。

 

「俺にもよくわからなくて、迷い込んでしまったというか何というか……」

「迷い込んだ? うーん……不思議なこともあるものですね。世界のどこかには、違う大陸と大陸とを結ぶ"旅の扉"なるものがあると以前聞いたことがありますし、そういった類のものでしょうか」

 

 2人にも使った誤魔化し文句を使う。神父の言葉に、カミュも確かに、というようにうなずいている。旅の扉を実際に使った人間からするとわかることもあるんだろう。

 教会の建物の中の暖かさもあり、先ほどよりも吐き気はなくなっている。もう少しここで休んで入ればまともに動けるようにはなるはずだ。

 

「ひとまず、ここでゆっくりしていってくださいませ。レイさん、お困りのことがございましたら何なりとお申し付けください」

「はい、ありがとうございます」

 

 さすがは神に仕える人物とだけあって親切というか慈悲深いというか。大変ありがたいことには変わりないので、気持ちを素直に受け取った。

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、すごく綺麗な街だなぁ……」

 

 吐き気もなくなり元気になったので、神父さんにお礼を言ってから3人で外に出た。先ほどは具合が悪くてそれどころではなかったが、改めて見てみると、今まで見てきた中でもトップレベルで美しい街並みだった。住んでいた地域が雪とは無縁な場所だったため馴染みが薄い分補正がかかっているのかもしれないが、それにしても美しい。カミュが、クレイモランは世界一美しい町なんだ、と教会の中で言っていたがこれほどまでとは思わなかった。

 

 町は、30秒あれば端から端まで行けるような小さなものではもちろんなく、しっかりとした大きな町だった。

 現実として認識するならこのくらいでないと人々の営みの規模が大変なことになってしまう。仮に原作通りの町の大きさだったなら、世界の海を渡るのに5分とかからなくなってしまうからだ。

 恐らく、主に栄えている範囲はゲームで実際に動き回ることのできる場所で、ゲーム内マップには表示されないが、現実としては存在している所謂"都市郊外"のような住宅密集地が大部分を占めている。下町、とも言えるかもしれない。この広さと家の多さなら、ゲームでの情報やアイテムの収集は大変だな、と思った。もちろん人の家に急に上がり込んでタンスを開けたりツボを割ったりなどをするつもりはない。

 

「とりあえず、先に日用品を買うか」

「そうですわね」

 

 特に異論はないので、道具屋に向かう。原作では売り物が少なく、冒険に必要なものしかリストに無かったがさすがにそれはなく、多くの品物が売っていた。原作の品揃えだけでは店が成り立つわけがないので、それはそうかと1人で納得している。

 

「これとこれと、あとこれも」

「カミュ様、こちらなんてどうでしょう?」

「んじゃそれも買うか」

 

 道具屋の店先に置かれていた買い物かごのようなものに次々に買うものを入れていく。この後食料品を買うことと、リーズレットに会いに行く事を考えると不安である。

 

「そんなに買って大丈夫なの? 持ちきれないんじゃ……」

「へへっ、大丈夫だ」

「この袋があれば問題ありませんわ」

 

 そう言ってセーニャがポケットから取り出して広げて見せてきたのは、何の変哲もない布製の袋だ。これだけでどうにかなるとは到底思えないが……。

 

「この袋にはな、容量の制限がないんだ。いや、正確にあるのかもしれないが、制限が分からないくらいにはめちゃくちゃ物が詰め込めるようになってる」

「え、すごいねそれ」

 

 セーニャが試しに道具屋で買ったものを入れる。普通なら袋が大きくなってズシリとした重さが感じられるはずだが、そんな様子もなくただの平たい袋のままだ。制限が分からないくらいにいくらでも物が詰め込める袋。ゲームをしていてそんなにものを持ち運べるわけがないといつも思っていたが、こういうカラクリがあったのかと勝手に納得する。取り出したいものを思い浮かべるとそれを袋から出せるそうでだ。例えるなら、国民的アニメに出てくる青狸の腹についている四次元のアレである。あの青狸はよく『あれでもないこれでもない』と道具を散らかしているので、セーニャが持っている袋のほうが有能かもしれない。買ったものをすべて詰めたらまた元のようにポケットに入る大きさにまで畳んでしまえる。本当に便利すぎる代物である。

 

「っと、ちょっと待ってろ」

 

 道具屋を後にしようとしたところでカミュがまた何かを買おうとしているようだ。買い忘れでもあったのだろうか。

 

「はい、これ。お前も持っておけ。またさっきみたいになるかもしれないけど」

 

 ほどなくしてもどってきたカミュがそう言って渡してきたのはキメラのつばさ。なぜ、と質問しようとしたが意図を察した。魔物に襲われたりなど何か起こった際、これを放り投げれば簡単に逃げられるというわけだ。単純に移動手段にもなる。しかし。

 

「もらっちゃっていいの? お金とか……」

「構わねぇよ。大して高くもないし、金なら結構持ってるから」

「……そうなの? じゃあお言葉に甘えて。ありがとう」

「いいってことよ」

 

 お礼を言ってありがたく受け取る。しかし、お金を持ってるとはどういうことだろうか。さすがにまだ盗賊家業をしているなんてことはないはずである。

 

「カミュ様は魔物を倒すことによって得られるお金をコツコツと貯めておられるのですわ。一応私も、カミュ様には及びませんが、少々貯蓄はあります。それに、カミュ様はたまにお城の兵士の方々の稽古をお手伝いして謝礼金をもらったりしておりますし、私は魔法の研究が進んでいるこのクレイモラン王国で研究をさせて頂いていて、研究資金も融資していただいております。私の場合は魔法の修行にもなりますから」

「へぇ、そうなのか。すごいんだなぁ2人とも」

 

 前を歩き始めたカミュに聞こえないようにこっそりとセーニャが教えてくれた。なるほど、強ければこその生計の立て方だ。素直に尊敬である。適材適所、といった感じだろうか。

 個人的には魔物を倒すと本当にお金を落とすんだな、ということが一番驚きであるが。

 

「どうした? 行こうぜ」

「うん、そうだね!」

 

 なんだかんだ順調に馴染め始めているな、と思った。

 

 

 

 

 




 ありがとうございました! 書き溜め全然作れてないのでピンチです汗
 これから友人の家で鍋を囲みながらお酒を飲むことになっているので今日の執筆も絶望的という……。酒と鍋と、多分麻雀もするんだろうなぁ。(おっさんかよというツッコミはなしで笑 ぴちぴちの若者です!笑)
 ☆8評価をしてくださったり感想を頂いたり、さらにお気に入りも増えて、とても励みになります! お楽しみいただけるよう頑張りますっ!

 では、また次回お会いいたしましょう!

 感想、高評価、お気に入り等お待ちしております!


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第4話:魔女の観察眼

 お疲れ様です。自室のベッドから明らかに女性の長さの髪の毛が見つかって戦慄していたバーバラすこすこ侍でございます! 彼女なんていない上に、遊びに来る女の子はショートヘアなので誰のものなのかわからないんですよねぇ……汗 その子の髪色も落ちてたものとは違うので……。

 Twitterで呟いたら、よく来る男友達の彼女のものじゃね? という意見をもらったので、もしそうなら確実にぶっころ案件ですね笑

 非リアのやっかみはここまでにして、本編に行きましょう。

 では、どうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、次は食料品だな」

 

 やってきたのは、町の東側、銀行と宿屋が併設されている建物の隣だ。ここでは日持ちしそうな食材と、無くなりかけている調味料類を買うつもりらしい。ふと疑問に思って、肉などの生鮮食品類は袋に入れている間どうなのか聞いたが、袋の中にあっても腐ってしまうらしい。袋の中だけ時が止まっているなどという都合のいいものではなかった。だがその理論でいえば、旅の間に自家栽培が可能なのではないかということに気が付いた。これが本当にできるなら、旅をしながら自給自足生活ができる。現実味がなさ過ぎて皆やらないだけかもしれないが。

 

 

 閑話休題。

 

 

 

「さっきからずっと思ってたんだけど、カミュとセーニャってずっとあそこの小屋に住んでるの?」

 

 買う食材を見極めながら問いかける。ちなみに、この世界に野菜類は普通に現実世界のものと大変良く似ていて、食べるのに抵抗はなさそうだ。寒冷地で育った野菜。高原キャベツのようなものだろう。

 

「ずっと住んでるわけではないな。不定期で城と小屋を行き来してる感じだ。少し小遣い稼ぎをするときに使ったりもする。基本的にはセーニャが魔法の研究をするために町の外でいろいろと魔物相手に試したり、古代図書館っていう雪原にある建物に調べ物をしに行くときに拠点にしたりだな。今は研究中だ。

 俺はセーニャが小屋に行くときは基本的に一緒に行くようにしてるんだ。何かあったらまずいからな。でないとベロニカに怒られちまう」

「なるほど、そうだったのね」

 

 ベロニカのことを交えておどけて話す。セーニャも思わずといった様子で笑っている。とても平和な光景だと思った。研究やフィールドワークなどの際に拠点として起臥寝食の場として用いているらしいが、仮に俺がこの世界にやってきたのがその期間でなければどうなっていたかと考えると恐ろしい。

 

 想像に震えている間に、日用品を買った時と同じように、カミュとセーニャは次々に買い物かごに食料品を入れていく。少々多い気がするがこんなに必要なのだろうか。何日か分をまとめ買いするならこれくらいなのか?

 

「ちょっと多くない……?」

「そうでもありませんわ。いつもこのくらいですし」

「へ、へぇ。そうなの……」

 

 至極当然、といった様子である。この寒い地域で外で研究活動をするのならこんな感じなのだろうか。何事も食が資本なのでこれくらい必要なんだな、と勝手に自分の中で結論を出した。

 

「……っと、こんなもんでいいな」

 

 しばらくして、買いたいものを選び終えたようだ。店主に代金を支払って、日用品と同様に袋に入れる。これでやらなければならない用事は済ませた。あとはセーニャがリーズレットに聞きたいことがあるようなので、それについていく。

 

「それでは、リーズレット様のところへ行きましょう」

「だな。暗くなる前に済ませちまおうぜ」

 

 今更ながら、"王宮"という存在とは縁遠いためとても緊張してきた。明らかに王宮内で浮いてしまう気がする。そんなことを気にしたところで何かが変わるわけではないので、感じてい緊張に大人しく身を委ねるしかないが。

 空が茜色に染まりつつある。オレンジ色に染まった街の景色は、先ほどまでとは異なる雰囲気を醸し出している。もう少し時間が経てば、この美しい町並みは宵闇に包まれ、また違った表情を見せるのだろう。雪明かりによって照らされるクレイモランを見てみたくなった。一口に雪といっても、時間帯や周囲のものによって沢山の顔があることに気が付いて自然と嬉しくなった。

 

 その雪の上を、カミュとセーニャの後ろについて移動する。王宮は町の北側にあり、町の中心部にある広場を横切っていかなければならない。沢山の人が広場にはいて、思い思いの行動をとっている。路上ライブさながらに広場の端で歌う吟遊詩人に、噴水の縁に腰を掛けて話に花を咲かせる主婦。元気に追いかけっこをしている子供たち。広場から外れたところには、楽しそうに雪合戦をしている子供もいる。混ざって遊んでみたい、なんてことを思ってしまった。雪に馴染みがないので、表には出さないがずっと雪でテンションが上がっている。非雪国民の性のようなものだ。

 

 広場と王宮の敷地の境目、アーチ状になっているところの両端に立っている見張り役の兵士にカミュが話しかけ、中に入る許可を得る。許可を得ているといっても形式上で、ほぼ顔パスも同然である。

 城の中に入ると、暖房器具などあるはずもないのにとても暖かく、思わず息が漏れる。真冬に炬燵に入った瞬間の感覚だ。

 

「ここをまっすぐ行けば王座の間ですわ。リーズレット様は王座の間にいらっしゃるシャール王女のおそばに居られるはずですので、参りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

 城は思っていたよりも大きくなく、こじんまりとしていた。

 本当に女王に会うのか、と未だ内心ビクビクしている。リーズレットだって、一応は魔女である。当たり前のことではあるが、この世界に来るまでは魔女など見たことがないので、現実として見るとどんな風に見えるのだろうか。

 セーニャを先頭に歩き、王座の間に入る。少し高い段になっているため階段を上る。護衛の兵士数人と王女、それからリーズレットが視界に入った。

 

「失礼いたします。セーニャでございます」

「セーニャさん、お久しぶりです。カミュさんも」

「ああ、どうも」

「本日はどうなさいましたか?」

「ちょっと魔法のことでリーズレット様にお聞きしたいことがございまして……」

「そうだったんですね」

 

 見知った顔ということで、王女らしくない、ただの友人とするように会話を始めるシャール。年齢は分からないが、恐らくそこまで年上ではないはずだ。城下町を彩る雪のような透き通った肌がまぶしく感じられる事からして、そうだろう。リアルで見ると一層美しく感じられる。

 

「どうしたんだい、セーニャ?」

 

 名前を出されたリーズレットが反応する。よく見てみると、魔女とはいってもそれほど人間と見た目的には差がなく、少々威圧感というか、存在感が大きい、といった感じだ。衣装? がなかなかに扇情的な気がしなくもないが、そこは気にしないことにする。また、右手に持っている槍がとても鋭利で、武器に馴染みの薄い俺からするとそれが恐怖心を刺激する。

 

「氷の呪文系統についてお聞きしたいことがあります」

「私にわかる範囲であれば答えてあげるよ」

 

 原作でもそうだったが、案外この魔女は面倒見がいい。実は中身はとても優しいんだろう。仮にリーズレットのような姉がいたとしたら頼り切りになってしまうのではないか、などと思うくらいには。

 

「私はお姉様から呪文を受け継いだことによって多くの攻撃魔法が使えるようになったと以前お話したのは覚えておいでですか?」

「ああ、覚えてるよ。アンタが王宮お抱えの魔法研究者になった初日に少し話したときに言っていたね」

「ありがとうございます。それで、元は使えなかった呪文が使えるようになっても、慣れていないせいか練度が低く、ヒャド系の呪文、特にマヒャドを使用した際にすべてが氷ではなくどうしても少し溶けた状態での攻撃になってしまうのです。ヒャドやヒャダルコではまだ問題ありませんが、規模の大きいマヒャドになるとどうしてもそのようになってしまって……。威力が落ちてしまうのがもったいなく感じてしまっていたのです」

 

 セーニャが悩みを打ち明ける。ゲームの中では、呪文を受け継いだ瞬間からベロニカと比べても遜色ないほどの威力をたたき出していたが、やはり現実としてとらえるのならばそうもいかないのだろう。いきなり上手くできるなどということは、いくら姉妹だといってもないようだ。氷が溶けかけの状態だと威力が下がってしまうものということも知らなかった。確かに、よくよく考えてみたら氷系の呪文なのに溶けていたら威力も落ちる上に魔力が無駄になるのかもしれない。

 

「うーん、なるほどねぇ。氷の魔女である私なら氷の呪文についてわかると思ったんだね?」

「そうです。お姉様が得意としていた炎を操る呪文は、幼いころから一番近くで見てきたのですぐにコツを掴むことができたのですが……」

 

 セーニャの言葉に、リーズレットは左手を顎に当てて考えるそぶりを見せる。好奇心旺盛だというシャールは興味深そうに2人の魔法談議に耳を傾けていた。カミュは話に特に興味がなかったのか、近くにいた護衛の兵士の方に行って雑談をしている。俺は特にやることもなかったので成り行きで2人の話を聞いているだけだが。

 

「マヒャドを唱える時、どういうイメージを持って唱えてるんだい?」

「イメージ、ですか……。とにかく"大きな氷の塊、とんでけー!"という風に考えながら唱えております」

 

 その『痛いの痛いの、とんでけー!』なノリは一体……。セーニャが天然系なのは知っていたが、実際に目の当たりにすると大変かわいらしく思える。

 

「ふふっ。いかにもアンタらしいじゃないか。でも、それじゃだめだ。氷の呪文ていうのはね、ただ氷の大きさを考えるんじゃなく、氷の温度まで考えて唱えないといけないんだ」

「温度、ですか?」

「ああ。例えば、0度の水があるとするだろ? 水が0度の時は氷になり始める温度だ。だけど逆に、0度っていうのは氷が水になり始める温度でもある。その温度近辺では水と氷が混在しているんだ。つまり、氷を想像するとき、しっかりと"全体が氷である温度"イメージとして持たないと話にならないんだ」

 

 氷点と融点の話だろうか。この世界にそんな言葉があるのかはわからないが、0度というように温度の概念があるなら"こういうものである"といった考え方としては存在しているのかもしれない。

 

「なるほど……! とってもわかりやすかったです!」

 

 ぽん、と手を打って納得した様子のセーニャ。どことなく学習塾の生徒と講師のような関係性に思えなくもないやり取りだったな、とぼんやり考える。

 

「やり方や考え方さえわかってしまえば、あとはアンタがどうするかだよ」

「はい! ありがとうございます!」

 

 疑問が解決してすっきりした様子を感じ取ったのか、カミュが兵士との話をやめてこちらに来る。

 

「終わったか?」

「はい! さすがはリーズレット様です。一瞬で疑問が解決いたしましたわ!」

 

 上機嫌に話しているセーニャ。勇者の仲間として世界を救ったとはいえ、年齢でいえば高校生くらいだ。年相応に見えるその姿がとてもかわいいと思った。

 

 

 

「そうそう、ずっときになっていたんだけどさ……」

 

 オホン、と空気を変えるように一つ咳払いをしてから、リーズレットが俺のほうを向く。この展開も何回か繰り返しているのでどういうことを聞かれるのか瞬時に理解した。

 

「カミュとセーニャと一緒に来たアンタ。名前はなんていうんだい?」

「俺の名前はレイです。2人とはちょっとした縁があって、今は行動を共にしています」

「へぇ? そうなのかい」

 

 興味深そうに俺のつま先から頭の頂上までじっくりと眺める。俺がいったいどうしたというのだろうか。現在の恰好は相変わらずスーツなのでそれが物珍しいのかもしれないが、そうとは思えない気味の悪さを感じる。

 

「アンタ、他の人間から感じられるのとは違うものを感じるね。……本当に人間かい?」

「……は?」

 

 突然言われたことに混乱してしまった。思わず素で返してしまったのは仕方のないことだろう。

 

「いや、言葉が悪かったね。謝罪するよ」

「いえ、大丈夫です」

 

 素直に謝罪してくれた。別段気分を害したわけではないので謝罪はしなくても良かったのだが、話がこじれるので黙って受け取った。

 

「それならありがたい。それにしても……。不思議な感覚がするねぇアンタ。只者ではない気がするよ。私が思うに、間違いなくただの人間ではないね」

「あっはは……」

 

 どういうことなのだろうか。よくわからない。俺には魔法は使える気がしないし、剣術などは平和な国である日本では極められるわけがない。剣道はあるが俺はやっていなかった。それに、真剣と竹刀は比べるものではない気がする。

 

 

「とりあえず、さっさと小屋に帰ろうぜ。日が暮れちまう」

「そ、そうですわね」

 

 困っている様子を見かねてか、2人が助け船を出してくれた。ありがたい限りである。

 そういうことなら、と未だに思案顔のリーズレットと不思議そうな顔のシャールに頭を下げて帰ろうとする。……が、しかし。

 

「……ちょっと待ちな」

 

 リーズレットに呼び止められてしまった。なんだかとても嫌な予感がする。

 振り返ってみると、もしかして? というような、何か問いたげな表情をしていた。感じた嫌な予感が胸の中で膨らんでいく気がした。

 

 

 

 

「まさかとは思うんだけど、アンタもしかして……この世界の人間ではなかったりするんじゃないかい?」

 

「…………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 嫌な予感というものは、往々にして的中してしまうものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ありがとうございました! 第一部完です!

 呪文に関してはオリジナルの考えです。矛盾点はないとは思いますが、なにか気になることがございましたら遠慮なくお申し付けください。

 ☆9、☆10評価を頂いてひっくり返りました。ありがたい限りです……泣

 これからもよろしくお願いいたします! 引き続き、感想。評価、お気に入り等お待ちしております!

 では、また次回お会いいたしましょう!


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忍び寄る脅威
第5話:異世界での新生活


 お疲れ様です。最近の4日間で100万文字以上読んで絶賛眼精疲労で苦しんでいるバーバラすこすこ侍でございます汗 皆様も眼の酷使はほどほどにしてくださいませ。

 以上、活字中毒者からの注意喚起でした!

 では、どうぞ!


 

 

「それでは、薬草とキメラのつばさ3つにせいすいで、合わせて103ゴールドでございます。……103ゴールド丁度、いただきます。ありがとうございました、足元にお気をつけてお帰りくださいませ。またのご利用をお待ちしております」

 

 王宮お抱えの道具屋で働き始めてからかれこれ数週間。ようやく店の業務をすべて任せてもらえるようになった。

 昼は働きながら夜はクレイモランの王宮でリーズレットにこの世界の文字を教わりつつ、前の世界での生活や技術、文化といった知識を逆に教えたりしている。好奇心旺盛なシャールも、俺が前の世界について話すときは興味深そうに聞いている。一国に女王に気軽に会って授業じみたことをしているこの現状にはもう慣れてしまった。

 前の世界の家族や同僚は俺が死んだものだと思っていることだろうが、戻る手段がないので申し訳ないとは思いつつも、生きるのに必死になっている毎日である。フリーターのような暮らしだが、不満は特にない。自分が住む家も見つかり、なかなかに充実し始めている。異世界暮らし、悪くない。

 

「よお、今日も頑張ってるな!」

「あ、カミュ!」

 

 普段よりかなり暇で、たまに来るお客さんの相手をしていたら、見知った顔がやってきた。

 

「今日はオレも一緒だぜ」

「マヤもいたのか。相変わらず仲良し兄妹だなあ」

「なっ……! 余計なこと言ってないで働け!!」

「わかったわかった」

 

 カミュの妹のマヤも一緒に来ていたらしい。ツンが多めの、兄貴大好きツンデレ妹。反応が面白くてついついいじってしまう。カミュが小屋で生活していない期間は基本的に2人で暮らしているらしい。時折セーニャも交えて3人でご飯を食べたりしているそうだ。表には出さないが、マヤは姉ができたような感じで嬉しそうにしている、とカミュが語っていた。セーニャの方も、年の離れた妹ができたようで嬉しいといっていた。

 

「今日はどうしたの?食材の買い出し?」

 

 話の軌道修正をする。最近はカミュに習いながらマヤも料理を少しずつ覚えていっているらしい。今更だが、見た目良し中身良し、面倒見良し、可愛い妹もいて、ついでに料理もできる。カミュには非の打ち所がない。これが俺が前にいた世界だったなら3秒で彼女ができそうなものである。

 

「今日はちょっと旅のための必需品とかを集めておきたくてな」

「ああ、そういうことね」

 

 世界が平和になったら、兄妹2人で世界中のお宝を求めて旅をする、とウルノーガを倒す前に約束をしていたそうだ。カミュが魔物を倒したり王宮の兵士に稽古をつけて必死にお金を貯めていたのは、旅に出るためにの資金を集めるという目的が大きかったというのをこの間セーニャから聞いた。この兄妹、揃いも揃って兄バカ妹バカである。本人たちに言うと身の安全の保障はないので口が裂けても言えないが。

 

「まだ出発するわけではないけど、ちょっとずつ揃えていったほうがいいと思ってさ。いししっ」

「といってもいつ出発するとかは明確には決めてないんだけどな」

 

 笑った顔がとてもよく似ているな、と思った。自分たちで勝ち取った平和な世界を、妹に見せてやりたい。そうカミュが言っていたが、世界中を旅してきたカミュがいればマヤにとってこの旅はお宝以上にかけがえのない経験になるのではないか。

 

「そういうことならじゃんじゃん買っていってね」

「安くしろよな!」

「残念だね、マヤ。特定のお客さんにサービスしてると店長に俺が怒られちゃうんだよ」

 

 店長に怒られるのは勘弁である。

 

「ほら、変なこと言ってレイを困らすな。とりあえずこれとこれと、これをくれ」

「かしこまりましたー!」

 

 一時はどうなることかと思ったが、なんだかんだ今ではこの生活に慣れて、楽しさを見出している。初めて王宮にいった日は本当にだめだと思った。あの時、リーズレットがあんな風に言ってくれるとは思わなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

 

「まさかとは思うんだけど、アンタもしかしてこの世界の人間ではなかったりしないかい?」

 

「……は?」

 

 この時、何を言っているのかと頭が追い付かなかった。全身から冷や汗が噴出してくるのを感じた。カミュとセーニャも意味が分からないというような顔をしていたのをよく覚えている。

 

「なに、考えられる可能性を口にしただけさ。……まさか、図星だっていうのかい?」

「ええっと……その……なんていうか……」

 

 思考回路が複雑に絡まり合って言葉がしどろもどろになってしまっていた。爆弾を投下した張本人であるリーズレットは、自分で言っておきながら大変驚いている様子だった。

 

「どうやら、事実なのか。それとも、それに近い状態にあるのかい? 別に、どういう返答をしても取って食ったりしないさ。もちろん捕縛したりもしない。お前たちも手は出さないで」

 

 そう聞いて少し安堵した自分がいた。周りの警護兵たちも武器の構えを解いてくれた。

 そう、相手は魔女。いくら魔力を失っているからといっても、古の時代より生きている彼女であれば、俺の小さな違和感に気が付かないはずがなかったのだ。

 シャールの方を見る。シャールも少々戸惑っている様子はあるものの、敵意はないといった様子で頷いている。カミュとセーニャは真剣そうな面持ちでこちらを見ていた。

 徐々に冷静さを取り戻しつつあった。心臓は相変わらずバクバクと大きく脈打っていたが、対照的に絡まっていた思考回路は元に戻り、しっかりと物事を考えられるようになっていた。

 

「……今から言うことは信じられないかもしれませんが、すべて事実です。それだけ、先に言っておきます」

 

 意味はあまりないかもしれなかったが、保険をかけた。気の触れた人間、と思われたくなかったから。王座の間にいる、王女の護衛を含めた全員が俺の次の言葉を静かに待っている様子が伝わってきた。1つ、大きく深呼吸をしてから、続けた。

 

「リーズレット……さんが言う通り、俺はこの世界の人間ではありません」

 

 瞬間、場の空気が困惑と疑問に満ちたのを肌で感じた。当たり前だろう。

 

「しかし、この世界になにかをしようとか、そういったことは一切ありません。俺自身なんでこの世界に飛ばされたのかさえ分かっていませんので」

「……と、言うと?」

「この世界に飛ばされる直前、俺は仕事の帰りでした。今しているこの格好も前の世界の仕事着です。きっとこの世界にはないであろう乗り物に乗っている時、疲れからか寝てしまったんです。それで、起きたらシケスビア雪原にいました。俺にだって意味が分かりませんでしたよ。なんでこんなことになっているんだって、そう思いました」

 

 ありのまま、自分が体験したことを話していく。説明のしようがないことは正直に説明せずにいた。

 

「魔物とかもいて、前の世界では魔物なんて存在していなかったので最初は夢かと思いましたよ。でも、雪原で魔物に襲われて、明らかに夢じゃない、現実なんだって思って。一時は本当に死ぬのかと思いました。その時、カミュとセーニャが現れて助けてくれたんです」

 

 夢だと思って魔物にちょっかいをかけようとしたのは本当に愚かな行為だった。

 

「2人に助けてもらってからは、ご飯をご馳走になったり町に買い物に出たりと、特になにもありません。それで最後にこの王宮に来た、といった感じです」

 

 そう、言葉を結んだ。リーズレットは正直に話しても捕縛したりなどはしないといっていたのでそれを信じた。王座の間に異世界からやってきた者がいるんだから、何をしでかすかわからないといって牢に入れられてもおかしくはないと思った。非力な俺が警戒したところで、王座の間の警護という重要な任務を任されている手練ればかりの空間で何もできるはずがないのは分かっているが、警戒せずにはいられなかった。

 

「……そうだったんだね。辛かったろうに」

「え……?」

 

 思っていたのとは違う反応が来た。捕縛しないとは言ったものの、もっと敵対心を露にされたり驚いたりするかと思っていた。

 

「いきなりこの世界にやってきたかと思えば魔物に襲われたって、下手すりゃ死んでたかもしれないんだろ? 本当に、生きていてよかったね。アンタは運がいいよ」

「は、はぁ……ありがとうございます」

 

 魔女というよりは聖母のような慈愛に満ちた響きだった。俺の中の警戒心が薄れていくのを感じた。周りの様子を見る余裕も、徐々にだが出てきていた。

 

 シャールは異世界からやってきたという俺に興味津々といった様子。さすがは好奇心旺盛な女王様である。切り替えが早い。

 カミュとセーニャの方を見ても、最初こそ驚いていたものの、今は別段変わりなさそうだ。目が合ったカミュが、面白そうなようすで口を開き始めた

 

「お前、異世界からやってきたんだな。どうりで俺たちの話をしたときに驚きが薄いと思ったぜ。エルバのあの話をしたら普通はもっと驚いてもおかしくはなかったはずだしな」

「そうですわね。雪原の真ん中であのような身軽さでいたのも納得です。小屋での不思議な言動も」

 

 驚きが薄いのは、この世界が前の世界においてゲームという存在であって、それを実際にプレイして実情を知っていたからというのがあるのだが、今ここでそれを言うと大問題になりかねないので黙っておく。都合がいいので、異世界から来たから過去に戻ったと聞いても驚かなかったということにしてしまおう。

 

「2人とも、黙っててごめん。どう話したらいいのか分からなくて。隠すつもりはなかったんだけど……」

 

 隠すつもりはなかったのは本当であるが、話すつもりもなかったのは秘密である。話すのが怖かったからだ。命の恩人に対して不義理が過ぎる考えであったのは百も承知なので反省している。

 

「気にしておりませんわ。お辛いのはレイ様ですし」

「俺も特に気にしてないぜ。それに、エルバとの旅でたくさんのことを経験したからな。多少の驚きはあってもすぐに順応するようになっちまった」

「そういってもらえるとありがたいよ」

 

 この2人には何から何まで本当に感謝しかない。この世界に来て最初に出会えたのがカミュとセーニャで本当によかった。

 

「……話は一段落したようだね。レイ。いろんなことがいっぺんに起きて大変だろうけど、心を強く持つんだよ」

「はい、ありがとうございます」

「それで、これからアンタはどうするんだい?」

 

 リーズレットの問いに、しばし考える。一応失業状態である。雇用保険などというものは当たり前のようにないので、自分で生きる道を切り開いていかなければならない。

 

「とりあえずは仕事を探そうかと思います。どの世界にいたってお金がないと暮らしていけませんし。魔物と戦ってお金を稼ぐなんて到底できる気がしませんからね」

 

 率直に、思ったことを話した。

 

「……アンタ、思ったより肝が据わってるんだね。気に入ったよ」

 

 ふふん、と面白おかしげにリーズレットが笑う。魔女に気に入られてしまったらしい。

 

「それでは、小屋でお話していた通り、しばらくは私たちの下で暮らすということでよろしいですか? この世界に慣れるまでは知っている人がそばにいたほうが良い気がいたしますわ」

「それには同意見だ。それに、レイの世界の話も聞いてみたいしな」

「2人とも、ありがとう」

 

 俺としてもそのほうがありがたかった。ゲームと違って小屋の大きさは3人でも十分だし、ベッドも3つあったので問題はなさそうであった。ちょっとしたルームシェアである。

 

「なら決まりだね。何かアンタに回せるような仕事があれば斡旋してあげるから気軽に言いな」

「何から何まで本当にありがとうございます」

 

 どうなることかと思ったが、案外何事もなく終わってほっとした。正直な話少し拍子抜けした節もあるが。

 

「一応、異世界から来たことはあんまり言わないようにしておいたほうがいいだろうね。今ここにいる人も、ここだけの秘密にしておくように」

 

 それには納得だった。異世界人であると知られたら何があるかわからないからである。

 

「……では、小屋に帰りましょうか」

「だな。いくぞ、レイ」

「分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

 ぼんやりとあの時のことを思い出しながら商品の値段を計算していたら、いつの間にか手が止まってしまっていたようだった。

 

「ん、ああ。ごめんごめん。なんか、初めて王宮に行った日のことが懐かしいなとか考えてたらね」

「過去のことに浸るのもいいけどちゃんと仕事はしてくれよな?」

「だから悪かったって」

 

 計算を再開する。最初に覚えたこの世界の文字は挨拶。その次に数字である。この2つができさえすれば、とりあえずは困らないからである。言葉自体は通じるのが救いだ。

 

「合計で758ゴールドでございます。760ゴールドお預かりいたしましたので、2ゴールドのお返しです。ありがとうございます」

「あいよ」

 

 接客業という名目上、知り合いだからといっておざなりにはできない。先ほど計算の手が止まっていた事については見逃してほしい。

 

「それにしても、かなり適応したなお前」

「まあね。環境に適応する力は前の世界にいた時から高かったから」

 

 店には相変わらずお客さんは来ないので、暇潰しにもなるし丁度いいと思い会話をする。ちなみに、マヤはもう俺が異世界人であることは知っているので問題ない。

 

「一種の才能かもな。俺たちと小屋で生活してる時も既にいろいろと身についてたし」

「あれは多分母親の教育の賜物だと思う」

 

 家事は実家にいたころから手伝わされていたので、知らず知らずのうちにスキルが向上していた。仕事を始めて一人暮らしをするようになってからそれを実感して人知れず母親に感謝したものである。拝啓、母上。私は元気です。敬具。まるで小学生の一行日記である。

 

「結局すぐに仕事と住む家も見つけてきてびっくりしたぜホント」

「それはただ運がよかったんだよ」

「リーズレットに王宮で経営してる道具屋で人が足りてないから働いてくれないかって言われたからこの仕事始めたんだっけか」

「そうそう。それに、仕事をしてくれるならこの建物の2階の居住スペースを使っていいって言ってくれたから即決したよね」

 

 なぜ王宮経営の道具屋の上の階に居住空間があるのか謎でリーズレットに聞いたら、道具屋として使うために建物の買い上げた際、1階は売り場で2階を在庫の倉庫にする予定だったのが、思いの外建物が大きく倉庫として2階を利用しても空間が余ってしまったということだった。不動産屋という概念のないこの世界では物件の見取り図もなければ契約も個人間で行われるので、たまにそういった情報の違いが生まれるのだそうだ。その情報の違いがあったおかげで住む家を決めることができたのだから運がいい。

 

「広い空間に1人で住んでるのマジで羨ましいなぁ。おれもそういうところで1人で暮らしてみたいぜ。広い部屋に集めたお宝とか置いてさ、寝る前に布で磨くんだ」

「そういう想像はお宝を集めてからにし、ろ!」

「いてっ」

 

 想像の世界にトリップしようとしていたマヤにカミュが軽くチョップを入れて現実に引き戻す。

 

「スペースが余りまくってて結構無駄にしてるんだけどね。だから、今度みんなで俺の家に集まってご飯でも食べようよ。仕事も家も見つかって、王女たちには俺の世界のことを教えたり、逆に文字とかを教えてもらったりしながらなんとか暮らしていけてる。本当に恵まれてるよ。皆には本当に感謝してる。だからその恩返し」

 

 これは本心である。雪原で魔物のえさになっていたら、今頃は体内から排出されて土に還っている頃だろう。生きていることに感謝だ。

 

「何事もなく暮らせてるのなら助けたこっちとしても嬉しいもんだぜ」

「兄貴に感謝しろよな!」

「ああ。もちろんセーニャにも。あっ、いらっしゃいませ!」

 

 話に花を咲かせていたら、次のお客さんがやってきた。気付けば結構時間が経っていたようだった。

 

「……っと、お客さんが来たみたいだし、俺たちはそろそろ行くとするかな」

「また来るからなー」

「またのご来店をお待ちしております!」

 

 手を振って出ていく2人を見送る。あの2人がお宝探しの旅に出て行った寂しくなってしまうな、と思ってしまった。

  

 後のことを考えて感傷的になっても仕方ないので、切り替えて接客に集中するとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ありがとうございました!

 仮に自分が異世界に飛ばされたら一瞬で死ぬ自身があります()

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第6話:夢見の力


 お疲れ様です、彼女持ちイケメン2人ととある世界遺産に3人で観光に行ったら、彼女へのお土産トークが始まりとても悲しい思いをした非リアのババすこ(略)でございます泣
 3人ともオタクで、私が小説を書いていることは知っているので、「お前らの話を恋愛小説でネタにしてやるからな??」と言ったら「それが誰かに読まれるならむしろ本望だ」と……。はぁ……(溜め息)

 はい、というわけで本編へどうぞ!
 


 

「あー、疲れた」

 

 夕方になって交代の店員が来たので今日の仕事は終わりである。今日はお客さんがあまり来なかったので疲れるようなことはしていないが、何となくそう言っておけば働いた感じがしそうだと思った。

 仕事が終わりといっても、この建物の2階に住んでいるので退勤というよりは休憩に近い感覚で帰宅した。

 

「あ、何か買ってこないと食べ物ないか」

 

 この世界には冷蔵庫いった文明の利器はないが、呪文のおかげで食料品を冷蔵、冷凍保存しておける魔道具があるので問題ない。電気を使わず環境にやさしいので、CO2のようなものを排出することもない。

 帰宅してその魔道具を確認したらあまり食料品の類が入っていなかったので、先ほど退勤したばかりの1階の店に行く。王宮お抱えの店というだけあって品ぞろえは一級品である。社割制度的なものがあるので買い物はもっぱらここでしている。基本的に前の世界とあまり変わらない食べ物が売っているので、意外と日本食が簡単に作れたりする。もちろんレトルトなどといった便利なものは技術力的に存在しない。

 

「お疲れ様ですー」

「あら、レイ君どうしたの?」

「食材の買い物です」

 

 交代した人と軽く会話してから買い物に入る。人間関係はそこそこ上手くいっている気がする。勿論俺がこの世界の人間でないのは伝わっている。秘密にしていて何か不測の事態があった時に同僚に余計な不安と心配を与えることになってしまうためである。俺が話しても混乱を与えるだけだったので、そのあたりはリーズレットがうまくやってくれた。

 

 

「あ、レイ様。ここにいらっしゃったのですね」

 

 ぼんやりと何を買うか考えながら品物を選んでいると、セーニャが入ってきた。出会った時はショートヘアーだったが最近は伸ばしているらしい。今はどちらかといえばミディアムに近くなっている。

 買い物だろうか。たまにいろいろ買いに来るので特段久しぶりというわけではないが。

 

「どうしたの?」

 

 口ぶりからして俺のことを探していたようであるが、何か用事だろうか。

 

「急ぎというわけではないのですが、レイ様に会っていただきたい方がおりまして」

「会ってほしい人?」

 

 いったい誰だろうか。この世界で俺の知り合いなんて両手で数えるほどしかいないので、顔見知りという可能性は低い。会ってほしい人ということは、異世界生活中という俺の置かれている状況に関して理解してくれる人ということになるが。

 

「ええ。とりあえず買い物が終わったら少し付き合っていただいてもよろしいですか?」

「そのくらいなら問題ないよ」

 

 時間的にもまだ晩御飯というほどではないし、その人物が個人的に気になっているから会ってみたい。

 セーニャとかかわりの深い人物。もしかしたら旅のメンバーだろうか。そう考えたらより一層会いたくなってきた。

 

「もしよろしければ、用事が住んだ後、私が晩御飯をお作りいたしましょうか?」

「……い、いや、大丈夫。俺が自分で作るから」

 

 

 ……セーニャの手料理は遠慮したいので丁重にお断りした。

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

「それで、どこでその人と待ち合わせしてるの?」

 

 あの後買い物を手早く終わらせて魔道具に入れて整理した。今はセーニャとともに街を歩いている。

 

「王座の間ですわ」

「待ち合わせにしてはなんとも分かりやすすぎる場所だな……」

 

 渋谷ハチ公前もびっくりの待ち合わせスポットである。広場の噴水の前とかではだめなのだろうか。

 

「成り行きでそうなったのですわ」

「なるほどね。で、その待ち合わせの人ってセーニャの旅の仲間とか?」

 

 シャールと普通に会えるくらいでセーニャの知り合いと言ったらこのくらいしか思いつかない。まぁ、この国の王女様は好奇心旺盛すぎて軽率に旅人と会おうとするので、謁見というよりはただの王女から旅人への質問タイムになってしまうのだが。噂ではお土産を持っていくと大変機嫌がよくなるんだとか。なんともちょろい女王様である。

 

「いえ、私の仲間ではございませんわ」

「あれ、そうなの?」

 

 そうなると誰がいるのだろうか。俺が異世界人であることは簡単に他人にばらしてしまえることではないことはセーニャも分かっているはずなので、それを話しても問題ない人なはずだが……。

 考え込んでいる様子を見てか、セーニャが続ける。

 

「心配する必要はありません。会っていただきたいという人は、私の故郷の長老様でございます」

「長老って、聖地ラムダの?」

「ええ。なにか用事があったのか、先ほど王国にお見えになったのです。たまたまリーズレット様の所に行っていたので少しお話ししました。それで、長老様であれば何かレイ様にとって良いことが聞けるのではないかと思ったので、長老様に会っていただきたい方がいるから、と言ってお待ちしていただいているのですわ」

「そういうことだったのね」

 

 それなら納得だ。聖地ラムダの長老といえばかなりの人物である。そのような人と知り合いになることができれば、この世界での生活が楽になるかもしれない。

 セーニャの言う通り俺にとって有益な何かが聞けるかもしれない。

 

「そういうことですので、お会いすることに関しては問題ありませんわ」

 

 そうだね、と言って引き続き王宮に向けて歩く。初めて王宮に行った時は緊張していたが、今では日常生活の一部となっているので特に何も感じない。昼間働いている時にも思っていたが、いくら事情があるといっても王女にいろいろ教えたり、逆に教えてもらったりしているのはなんとも不思議な感じである。その等価交換によって文字を覚えつつあるので不満はない。むしろ感謝している。

 

「それにしても、まだまだ寒いですね」

「そうだね。いくら雪国って言ってももう少ししたら春なんだしそろそろ暖かくなり始めてもいいころなはずなのに」

 

 雪国事情は分かりかねるが、いくら年中気温が低いといっても四季の変化によって多少の変動くらいはあるだろう。沖縄県だって冬には20℃くらいになってたりするくらいなのだから。

 

「時が経てば自然と気温も上がってくるはずですし、気長に待ちましょう」

「それもそうだよね。ちょっとロトゼタシアの機嫌が悪いだけだよね」 

「ふふっ、なんですかそれ」

 

 小さく笑ったセーニャがかわいらしくて少々ドキッとした。カミュもそうだが、見た目がいいのでいろいろな表情が様になる。仮に前の世界で女子高校生をやっていたら学校中の男の憧れの対象になっていただろう。セーラー服がとてもよく似合いそうだ。ドジっ子生徒会長ポジションにでもなったら間違いなく大人気だ。

 

「……それにしても平和だなぁ」

 

 少々考えが逸れてしまったので、周囲の風景から拾った適当な話題に変換する。元気に駆け回りながら雪合戦をしている子供たちを見ていたら自然とそんな言葉が漏れていた。

 

「そうですわね。ウルノーガを打倒して取り戻した平和を大事にしていきたいです」

「勇者の仲間たちがいれば何かあっても大丈夫だと思うけどなぁ。ホントに何かあった時は頼りにしてるよ」

「はい、頑張りますね!」

 

 胸の前で力強く両手で握りこぶしを作る。きっとセーニャ達なら本当に何かあっても世界を救ってくれるのだろう。すごく安心していられる。勿論世界に何も起きないことが一番いいのだが。

 

 頭を使うことくらいしかできない、魔法も剣術も無理で非力な俺にとっては何もできる気がしないので、頼みっきりになってしまうことになるのがなんだか申し訳ないな、などとやはりどこか他人事っぽく考えてしまう自分がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

 

「お、来たね」

「昨日ぶりかな」

 

 王座の間に入ると、最初の時に比べてだいぶ打ち解けたリーズレットに声をかけられたので軽く挨拶をした。2,3日に1回は会っているので今更無用な気遣いはいらない。

 

「こんにちは」

「こんにちは、王女」

「シャールでいいっていつも言ってるではないですか」

「一国の王女相手にそんな馴れ馴れしくできないって。タメ口にするのが限界」

 

 タメ口も大概馴れ馴れしいいと思うんだけどね、と脇でリーズレットが呟いていたがスルーすることにした。

 

「長老様、お会いしていただきたいと言っていた方をお連れいたしましたわ」

 

 軽く挨拶を済ませたところでセーニャが本題に入る。シャールとリーズレットがいる場所から少し離れたところに長老らしき人がいた。間違いなくあの人である。

 

「おお、セーニャや。感謝するよ」

「いえいえ」

 

 長老がこちらに近づいてきた。ゲームで見るよりも小さくて不思議な雰囲気を醸し出している人物、というのが第一印象である。

 

「はじめまして。私は聖地ラムダの長老のファナードです。セーニャがお世話になっているようでありがとうございます」

「こちらこそはじめまして。俺はレイと申します。セーニャさんには命を助けていただいたりそれ以外でもいろいろ助かっていて、逆にお世話になっております」

 

 ひとまず自己紹介。この世界においてはコミュニケーションが何よりも大切である。SNSのようなもののないので"リアルの人柄"が極めて重要だということをこの数週間で学んだ。

 

「して、セーニャ。何故レイさんを私に合わせようと?」

 

 勿論気にならないわけがない。この人になら安心して話せることはセーニャから聞いた時点で分かっていたが、実際に会うとそれが間違いないことを確信した。

 

「端的に申し上げますと、レイ様の現状について聞いていただくためです」

「現状……?」

 

 疑問符を頭上に浮かべながら俺の方を見たので、ここからは俺が話したほうがよさそうだ。

 

「はい。実は俺は、この世界の人間ではないんです」

「……と、いいますと?」

 

 ファナードの表情が訝しげなものに変わった。続きを促している様子だったので黙って続ける。

 

「言葉の通り、ここではない別の世界です。言葉は通じても文字が違う。流通しているお金も、風景も違う。そんな世界です」

 

 ファナードは驚いた様子で俺を見ている。さすがの長老と言えど仕方ない。最初は皆びっくりするはずだ。当たり前の反応である。

 

「なぜこっちの世界に来たのかは全く分かりません。仕事を終えて、この世界にはないとある乗り物で自宅に帰っている最中に寝てしまって、起きたらシケスビア雪原にいたものですから。魔物に襲われていたところをセーニャさんとカミュさんに助けていただきました」

「そのようなことが……。しかし、運がよかったのでしょう。命の大樹のお導きがあったのですね」

 

 この世界は何かあるたびに『命の大樹』を引き合いに出しがちである。今でこそ慣れたが最初の頃は"またか"、と一人で思っていた。

 

「そうかもしれません。そのあとはクレイモランでリーズレットと王女の保護の下生活させていただいております。今は毎日楽しくやれてるので、人間その気になれば何でもできるみたいですね」

 

 厳密には保護ではないが、そういったほうが分かりやすいだろう。最後の言葉は完全に本心から来ている。余計な心配を与えないようにと少々ネタっぽくまとめた。

 

「それなら良かったです。私としても安心いたしました」

 

 聖地の長老というだけあってみていると心の落ちつく笑顔である。セーニャの笑顔にも同じような効果があるのは、きっと育ってきた環境がいい影響を及ぼしているのかもしれない。

 

「……ところで、少々気になった点があるのですが聞いてもよろしいでしょうか?」

「はい、なんでしょう?」

 

 話が一区切りついたところでファナードが話題を転換する。どうしたのだろうか。

 

「私には、夢見という不思議な力がございまして、少し先の未来を寝ている間に夢で見ることがあります」

「……夢見、ですか」

 

 そういえばゲームでもそんなものもあったな、といった認識である。ここではあまり関係がないような気がするが、夢見がどうしたのだろうか。

 

「数日前、寝ている間にこの世のものではない存在とセーニャが一緒にいる場面を夢で見たのです。この世のものではないというのは、どうも夢での映像の中でその存在だけが上手く視認できなかったからそう思っていただけなのですが、もしかしたらこの夢はレイ様とお会いすることを示唆していたのかもしれないと思いまして」

「なるほど。うーん……不思議ですねぇ」

 

 この世のものではない、という表現に少々傷つきかけたが、理由を聞いて納得した。姿かたちが分からないのならそう思いたくもなるだろう。

 

「他にはなにか特徴的なことはありませんでしたか?」

「些細なことでも構いませんので」

 

 セーニャが質問する。夢の中にはセーニャも出てきていたのだ、他に何かないか気になるのは当然だろう。

 

「そうですね……。上手く言葉にはできないのですが、もう1つ、不思議なことがありました」

「どういったことでしょうか?」

 

 やはりまだ何かあったらしい。この夢見の力で得られる情報は曖昧で断片的だった記憶だが、それを聞いておいて損はないと思った。

 

「どうも、セーニャとレイ様らしき影の周囲の景色だけ流れるのが遅かった、といった感じでして……。2人と周囲の景色との間に流れる時間にズレが生じていた、とでも表現できるかと」

「時間の……」

「ズレ……?」

 

 イマイチ意味が分からない。人と景色の間で時間がずれるなどということがあり得るのだろうか。いや、そんな現象は聞いたことがない。

 

「私にもよくわかりません。これが何を示唆しているのかは皆目見当がつきません。ですが、何かの兆候かもしれないので、覚えておいてくださいませ」

 

 そう言って、ファナードは言葉を結んだ。なんとも意味の分からない話である。

 

「え、ええ。分かりました」

 

 なんにしても、役に立つかはわからなものの少し興味深い情報が得られたのでお礼を言う。深いことは後々考えばいい。

 

「何か夢見に関することで私たちにやっておくべきことはございますかね……」

「見た張本人の私としても詳しいことは分からないんだ。今はとにかく、何があってもいいように旅に出られる準備をすることと、カミュさんにもこのことを伝えていてもらえると嬉しいよ」

「分かりましたわ」

 

 さすがにこういう時に頼りになる存在である。伊達に聖地の長老をやっていないというわけだ。

 

「それでは、私はここで失礼いたします。シャール様、リーズレットさん、ありがとうございました。レイさんとセーニャも、体調には気を付けて。何か聞きたいことがあればセーニャとともにキメラのつばさでラムダの里にまでお越しくださいませ」

「はい、ありがとうございます」

 

 ファナードはその場にいた人々に挨拶をすると、王座の間から出て行った。おそらくそのままキメラのつばさでラムダまで帰るのだろう。

 

「とても不思議なお話でしたわね」

「うん、そうだね」

 

 見送ったセーニャは顎に右手の人差し指をあてて考え込んでいる。分からないことを考えても答えが出ないのは分かり切っているので、俺はもう考えることはやめた。なにか手がかりを得られたときに考えればいい。

 

「私としても気になるので、こちらでもいろいろ調べてみようと思います」

「魔女として長く生きてるけど私にもまだまだ知らないことがあるらしいね。何かないか探してみるよ」

「ありがとうございます」

 

 シャールとリーズレットも協力してくれるそうだ。こういうことの人出は多いに越したことはない。

 

「とりあえず、帰ろうか」

「ええ、そうですわね」

 

 今はとにかく日常生活を大事にすることにした。

 

 

 

 

 

 

 





 ありがとうございました! ようやく話が動き出す(かも?)という感じです。長い前置きでした。

 夢見の話を書いていて夢見りあむの顔がずっと頭の中にいたのはここだけの秘密です笑

 大変うれしい感想を頂きました。本当に励みになります! 未熟ですがこれからも頑張っていきたいです! 次回以降もよろしくお願いいたします!

 感想、お気に入り登録、高評価等お待ちしております!


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第7話:サマディー王国にて

 お疲れ様です。匿名投稿なのをいいことに前・後書きで好き勝手やっているババすこでございます! 匿名じゃないほかの小説では猫被ってるので、この姿が私の本当のキャラクターです()
 (多分)いつか匿名を解除するので、その時はほかの小説での優等生感を鼻で笑ってください笑

 では、本編をどうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 ファナードが来てから一週間が経った。結局めぼしい情報は得られることなく、そして何も起こることなく日常生活を送っていた。その時に聞いた話はカミュと、なぜかマヤにも共有されることになった。

 情報を知っている人が増えたところで特に変わることはなかったので、前述の通りになっているわけだが。まぁ、今はそんなことは考えずに楽しもう。というのも。

 

「久しぶりにこっちのほうに来るとやっぱりあっちぃな……暑いの苦手だ……」

「兄貴だっせぇな。何回も来てたんだろ? ちょっとはシャンとしろよ」

「うるせぇな。そういうお前だって今にも死にそうな顔して汗だくになってるじゃねぇか」

「オレはこっちに来るのは初めてだからいいんだよ」

「んな自分勝手な……」

「まぁまぁお2人とも、とりあえず水分を摂ってください。でないと倒れてしまいますわ」

 

 カミュとマヤ、セーニャ、そして俺の4人でサマディー王国のウマレースを観に来ていた。なんでも、『ろくに休暇も取らず働き詰めだから少しは休め』とのことで、半ば強制的に休暇を取らされた。かなりホワイトである。休めと言われても何もすることがないなと悩んでいた時に、カミュがウマレースを観に行かないと誘ってくれた。セーニャも来るのは分かっていたが、マヤも一緒に来ることになった。『兄貴はオレがいないとだめだから』とか言っていたが、間違いなくマヤの方が離れたくないのだろう。ツンデレな妹は早く兄離れすべきだと思う。

 

 先ほどキメラのつばさで王国にやってきて、今は城下町を歩いている。クレイモランの城下町は歩きなれたが、他の国に来るのは初めてなのでとても新鮮な気分である。欲を言えば船などを使って実際の旅っぽく旅行してみたかったが、そんな時間はないので致し方ない。泊りがけではあるので、ゆっくりと街並みを楽しむことにしよう。2人のように俺も暑さでなかなかにやられているが。

 

「確かに、めちゃくちゃ暑いよね……。前の世界では砂漠なんて行ったことなかったからなぁ」

「へぇ。それじゃどんなとこだったんだ?」

 

 マヤが興味深々と言った様子で聞いてくる。

 

「大きな建物がいっぱいあって、人も大勢いて、夜でも活気があって栄えてるとこかな」

 

 東京に住んでいたかのような説明だが、実際は浜松市の隣くらいの地域に住んでいただけである。浜松駅周辺ならそう言っても恐らく問題ないので嘘はついていない。脚色はしているが。

 

「結構都会だったんだな。地域はそうだけど、国としてはどんな感じだったんだ?」

「春夏秋冬の差がはっきりしてて、四方を海に囲まれた島国だったな」

「自然が豊かそうでいいな」

 

 実際豊かである。この世界も負けず劣らず雄大な自然に囲まれているのでなかなかに好きだ。特に雪の美しさにはすっかり魅せられてしまった。

 

「俺が暮らしてた時の話は王女とかリーズレットには話してるけど、3人にはあまり話せてなかったもんなぁ」

「そういえばそうですわね。こんどゆっくり聞かせてください」

「もちろん」

 

 なんだかんだ日本が大好きな俺なのでいくらでも語れそうな気がする。意外と旅行とかも行ったりしていたので、住んでいなかった地域でもそれなりに語れるだろう。写真も見せたかったが、この世界に飛ばされてきてからスマホは壊れてしまっていて電源が付かないのでそれはかなわない。エッケハルトに試しに魔力を注いでもらったが動かなかった。

 

「それよりさ、さっきからずっと気になってたんだけど、なんか周りの人、みんな歩くの少し遅くない?」

 

 なんとなくそう感じただけであるが、気になったので聞いてみた。遅いといっても、本当に少しだけである。

 

「そうでしょうか?」

「クレイモランの人って意外とせっかちなとこあるしそれに慣れちまったんじゃねぇのか?」

「うーん……。まぁ、そうかもしれないね」

 

 考えても仕方ないので諦めた。この世界のことはこの世界の住人の方が詳しいのできっとそうなのだろう。実際、たまに道具屋でも会計が混んでるときは列に並んでるお客さんが皆イライラしているのが分かる。

 

「っと、着いたみたいだぞ」

 

 そうこうしているうちにレース場の観客席入口に着いたようだ。受付の人に入場料を支払って、良い場所がないか4人で探しつつ歩く。いい具合に日陰になっている4連番席を確保することに成功して、ひとまず落ち着いた。

 

「当たり前だけど、ウマレースって観るの初めてだから緊張するなぁ」

 

 前の世界では、競馬なんて観たこともなければ興味の欠片さえなかったのだから当然だ。

 

「俺とセーニャは観たことあるよな」

「そんなこともありましたわねぇ」

 

 2人が懐かしそうに呟く。

 

「勇者と旅してた時に来たのか?」

「ああ。この国の王子が誕生日を迎えたお祝いのレースって時に、王子が馬に乗れないからって背格好の似たエルバを代役にしてレースに出場させたんだよ」

「え、まじかよ!」

 

 マヤは驚いているが、俺からしたらそんなイベントもあったなという感じである。『ドラゴンクエストⅧ』のチャゴスほどではないが、ヘタレっぷりが板についたいいキャラだった。最後はしっかりしてくれたので個人的にはポイントが高い。チャゴスは生きている価値なし。

 

「あまり大きい声では言えない話ですがね」

「そんなことがあったんだ」

 

 仮にも将来国を背負って立つ存在の人間がそんな卑怯ともいえる真似をし、それに巻き込まれたのだから印象には残るだろう。決して口外してはいけない話なのは間違いない。

 

 『うおおおお!』

 

「お、始まるな!」

 

 話に花を咲かせていると、会場の熱気が一気に高まった。レースが始まるようだ。人生初ウマレース、しっかりと楽しんでいきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウマレースってすごいんだねぇ」

 

 いくつもレースを観て、とりあえず最初に思ったのはそれである。会場に入る前に感じた違和感はどこへやら。完全に楽しんでいた。

 前の世界での競馬のようにどの馬が優勝するかで賭けのようなことも行われている。さすがは人間。どこの世界、たとえ創作の中の世界であっても考えることは同じらしい。

 

「世界が平和になって以降、ウマレースの観客動員数が飛躍的に増加したそうですからね」

「これも俺たちがウルノーガを倒したからだって思うと心の底から嬉しくなってくるぜ」

 

 自分たちが勝ち取った平和を多くの人が享受しているのを知るのはやはり嬉しいのだろう。世界的に称えられてもおかしくないほどの事を成したのにそれを大っぴらにして威張ることなく生活しているのだから、平和な世界を実際に見て静かに喜ぶくらいはバチが当たることはない。むしろ本来であれば称えられるべきなのである。本人たちがそれを望んでいるかは別として。

 

「次で最後のレースとなります!」

 

 総合司会のようなポジションにいる男性の一声によって会場からは『えー!!』『さっき始まったばかりだろー!!』『まだ来たばかりだぞ!!』など多くの残念そうな声が聞こえてきた。もちろん時間は十分に経過しているわけで、さっき来たばかりだ、というのは楽しすぎて時間が過ぎるのが早いという意味なのは容易に理解できる。ちなみにマヤもそれらの歓声に混じって声を上げていた。なんだかんだ一番楽しんでいたようだ。ノリノリである。

 

「残念なのはわかりますが仕方のないことです。ですが、それにふさわしい選手を厳選しております! そして! ラストレースを彩るスペシャルなゲストをお呼びしております!!」

 

 途端に湧く会場。あちらこちらでお祭り騒ぎである。思わず一歩引いて見てしまうレベルには。

 

「それでは、ご登場いただきましょう! この方です!」

 

 司会の紹介でスペシャルゲストが出てくる。……かに思われたが、一向に姿を現さない。先ほどまでの盛り上がりが嘘のように、今度は会場の人がざわざわしだした。

 

「どうしたんでしょうか……」

「もしかして、ゲストが逃げ出したんじゃねーの?」

 

 マヤがそんなことを言い出す。そんなことがあっては暴動になりかねないだろう。

 

「いったいどうしちまったんだろうな。……って、おい! あそこ見ろあそこ!!」

 

 突然カミュが大声をあげてどこかに指をさす。その先はレース場のオブジェの上。よく見ると、そこには人影があった。カミュが大きな声を出したことによってそれが徐々に伝播していき、皆がその一点に集中する。

 

「あそこにいらっしゃるのって……」

「ああいう登場の仕方はまちがいない。あいつだ」

 

 カミュとセーニャがこころなしか嬉しそうにしている。俺にもこの登場の仕方は心当たりがあるようなないような……。

 

 会場がどよめきに包まれているのを察したのか、オブジェの上にいた人影が華麗に飛び降りた。かなり高いところから着地したにもかかわらず、階段を2段ほど飛び降りましたと言わんばかりの綺麗な着地。素晴らしい身のこなしだった。ここまで見て、俺もようやくその正体に気が付く。その様子に会場は大盛り上がり。

 

「あの人って……」

 

 いまだに嬉しそうに人影を見ている2人。マヤは何が何だかわからない様子。それも仕方ない。

 

「あいつは、俺たちの旅の仲間だった、旅芸人のシルビアだ」

「観客を盛り上げることに関して右に出る者がいないレベルの素晴らしい旅芸人ですわ」

「シルビア……か」

 

 予想通りだった。ゲームで見ていた時は単純に高いところから飛び降りてきがちなキャラだと思っていたが、実際目の当たりにすると人間離れしていて驚くことしかできない。これが本物なのか、と思わずにはいられなかった。

 人影の正体がシルビアだと気が付き始める人が増え、今日一番の大盛り上がりを見せるウマレース会場。完全にシルビアの独壇場である。

 

「みんな~! 楽しむ準備はできてる~?」

『うおおおおおお!!!』

 

 まるでアイドルのライブのようである。今にも『後ろのほうまでちゃんと見えてるからね~!』とか言いそうな雰囲気だ。

 

「後ろのほうまでちゃんと見えてるからね~!」

「ほんとに言ったよ……」

 

 思わずびっくりしてしまった。こればかりは仕方ないだろう。

 

「ゴ、ゴホン。それではシルビア様。定位置にお着きくださいませ」

「了解よ~。司会者ちゃん、あとはよろしくね!」

 

 司会者自身も動揺しているのか些か声が震えている。事前に打ち合わせもなくこんなことをするなんて、とても自由である。

 

 心底楽しい、といった様子で愛馬に跨り、定位置に着くシルビア。ラストレースも5人で走ることになるが、シルビア以外の4人からしてみれば自分が注目されることはないのだからたまったものではないだろう。

 司会者がレースを始める合図をすると、会場は嘘のように静まり返り、始まる瞬間を今か今かと待ちわびている。

 スタート位置の左側に、雷管を持った人が立つ。引き金が引かれればその瞬間、参加者たちは走り出すのだろう。シルビア以外の選手は皆、近隣では強いとされている魔物が数多く生息しているバクラバ砂漠の調査という重大な任務を任されている手練ればかりである。いくらシルビアと言えど油断はできないだろう。

 

 会場中の人間の心音が聞こえてきそうなこの空間、そこに雷管が発する、パンッという子気味いい音が鳴り響き、一斉にウマがスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

 

「やーすごかったな! ウマレース!」

 

 やや興奮気味にマヤが言う。ずっとバイキングの元で暮らし、黄金化など様々なことがあってウマレースなど観たことがないマヤにとって、この上なくエキサイティングなものになったのは間違いない。

 

「うん、すごかったね! またいつか来てみたいな」

 

 俺も思ったことを素直に言った。自分を忘れて心の底から楽しめるのはとてもいいことである。次からは俺だけでもここにキメラのつばさで飛んでこられるので、気軽に来られる。機会を見て、カミュやセーニャに頼んで世界中の国や地域に連れて行ってもらえれば、そのあとは簡単に1人旅ができそうだ。都市をただ飛び回るだけなのを旅と呼べるのかはわからないが。非力な俺にとって外の世界を旅するのは一人では絶対に無理だ。

 

「なぁ、せっかくだしシルビアに会いに行ってみねぇか?」

「あ、いいですわねそれ!」

「会いに行けるの?」

「知り合いだっていえば多分大丈夫だろ」

「んじゃ会いに行ってみたい」

「了解。行くか」

 

 カミュとセーニャ以外の勇者の仲間と初めて会えることになった。これは大変嬉しいことである。

 いまだ興奮冷めやらぬ状態のマヤと話したり、4人で仲良くシルビアがいるであろう場所を目指した。ウマレースが終わって間もないので、まだパドックにいるはずである。そこに向かって歩を進めた。

 

「着いたな」

「だね」

 

 しばらく歩いてパドックに着いた。シルビアのウマは遠目から見ても分かりやすいくらいには派手な装飾がなされていたのですぐに見つけることができた。

 

「シルビア様、いらっしゃいませんね」

「だな。あの人どこ行っちまったんだ?」

 

 セーニャとマヤが不思議そうに呟く。カミュも、シルビアのオッサンならウマの手入れしてるかと思ったんだけどな、と同意している。

 

「しょうがねぇ、とりあえずいったん外に出――――」

「カミュちゃ~ん!!!!」

「うおぁ!? あっぶね!!」

 

 一度仕切り直すために外に出ようとカミュが振り返ったその時、いきなり走ってカミュに飛びつこうとしたのはシルビアだった。さすがの身のこなしで間一髪回避した。勢いあまって転ぶかと思われたシルビアの方もしっかりと受け身をとっていつの間にかキメポーズをしている。

 

「どうして避けるのよ~」

「どうしてもこうしてもあるかっ! オッサンにくっつかれても嬉しくねぇよ!!」

「カミュちゃんのいけず~」

 

 実際に目の前で見ると、恐ろしく顔の整ったキャラの強いオカマである。いきなりテンションが高すぎる。

 

「お久しぶりです、シルビア様」

「セーニャちゃん、久しぶり~! 元気してた?」

「ええ!」

「ウマレースの時、下からみんなのこと見えてたわよ~?」

「え、見えてたのか?」

「もちろんよ、マヤちゃん! マヤちゃんも久しぶりね!」

「ああ!」

 

 旧友と会ったためかとても楽しそうに会話を弾ませる3人。一瞬だけ疎外感を感じる場面であるが、こういう時は必ず、知り合いに挨拶を済ませた後に俺に話を振ってくる。

 

「……ところで、3人と一緒にいたアナタ。どなたかしら?」

 

 予想通りである。しばらくこの世界で暮らしているとこのくらいわかってしまう。これから他の旅の仲間と会うことになれば絶対にこうなるはずだ。勿論旅の仲間とその身内であれば俺の素性を話しても問題はないと判断している。

 

「俺の名前はレイといいます。ちょっと縁があって3人と行動を共にしてます」

「ちょっとした縁、ね。なにか訳ありかしら?」

「察しが良くて助かります」

 

 パドックでは大きな声で話せる内容ではないので、一度外に出て人気のないところに移動し、詳細に俺について話した。

 

「……なるほどね。だいたいの事情はわかったわ。とても大変な思いをしたのね」

「いえ、最初こそ大変でしたが、今ではこうやって普通に暮らせてますしなんてことないですよ」

「レイちゃんがそういうなら大丈夫なのね。何かあったらこのシルビアお姉さんがなんでもて手伝ってあげるわ!」

「ありがとうございます!」

 

 シルビアはキャラこそ濃いが、中身はとても他人思いでいい人だ。何かあったら確実に相談に乗ってくれるだろう。

 

「シルビア様は、これからなにか用事などはありますか?」

「特にないわね。一晩泊まったらソルティコの街に帰るわ。今日の夜は久しぶりにサーカスに顔を出そうと思って」

 

 ウマレースに出たばかりだというのに、次はサーカスだ。表には出さずとも疲れているはずなのに、それを見せずだ。すべてはお客様の笑顔のため行動しているのだろうか。尊敬である。

 

「まだサーカスまで時間はあるし、せっかくだから少しお話ししてましょ?」

「ええ、そうですわね」

「俺たちも大丈夫だぜ」

 

 カミュとセーニャが答える。俺もマヤも特に異論はなかったので頷いた。

 

「それじゃ、喫茶店にでも行きましょう!」

 

 ビシッっと音がしそうな勢いで指をさしシルビアが歩き始める。久しぶりの再会なので積もる話もあるのだろう。ゲームにはなかったが、この世界にも喫茶店はある。マヤもいるので酒場より喫茶店のほうが癒合がいい。

 

 

 

 

 この時、最初に感じた違和感のことなど、とうに忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 ありがとうございました! 「後ろの方まで見えてるからね〜!」(天海春香風に)(アイマス無印ネタ)
 登場人物が増えてくると一人称ミスやら口調のおかしな点はないかなどいろいろ苦労しますね汗

 徐々に読者様の数が増えてきて、より一層頑張らないとな、となっております。 書き溜めが若干減っているので少々投稿頻度が堕ちる可能性もありますが……。リアルがちょっと楽しく忙しい時期なので……。
 
 次回以降もよろしくお願いいたします!

 感想、お気に入り、高評価等お待ちしております!


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第8話:異変は既に……

 お疲れ様です。寒くなってきて朝布団から出られない毎日が続いているババすこでございます笑 今年の冬は炬燵買っちゃおうかなぁどうしようかなぁ家から出られなくなりかねないしなぁでもなぁ……(以下無限ループ)
 気温差が激しいので、皆様も体調にはお気を付けくださいませ。

 今回は短めですが、本編へどうぞ!


 

 

 

 

 

 場所は変わり、喫茶店に来た。外の茹だるような暑さが嘘のような涼しさである。砂漠の中でオアシスを見つけた時ってこういう感覚なんだな、と一人で納得してみたりする。

 5人それぞれ好きな飲み物を注文した。皆で摘まめるように、とシルビアが軽食を注文してくれた。ここでの食事代もシルビアが奢ってくれるそうで、申し訳ないと思いつつも、4人でお礼を言ってお言葉に甘えることにした。軽く雑談をしながら注文の品が来るのを待っている。

 

 店内は静かな雰囲気で。座席はカウンター席が7つ。2人掛けテーブルが3つに、4人掛けがテラス席の2つと室内を合わせて4つ。あまり広くはないが決して狭くもないという絶妙な規模の店で、サマディーの城下町のはずれの方にある、知る人ぞ知る名店といった様子である。常連客で成り立っている店なのだろうか。

 

「お待たせいたしました。ご注文のお飲み物と軽食セットでございます」

「ありがとうございます」

 

 頼んでいた飲み物等が届いた。シルビアにもう一度お礼を言ってから口をつける。俺が頼んだのはアイスコーヒー。この世界にもコーヒーがあるのは知っていたが飲むのは初めてである。独特の苦さと香りが口いっぱいに広がり、ふぅ、と思わず声が出る。どんなものかと思っていたが普通のコーヒーと何ら変わりないので、クレイモランに帰ったら自分でも淹れてみようと思った。他の面々も、思い思いの飲み物を飲んで口元を綻ばせている。

 

 どことなくレトロな雰囲気を醸し出している壁紙と、カウンター席の近くの壁に掛けられている、誰をモチーフにしているのか分からない個性的な色彩の肖像画も、この喫茶店の空気を落ち着けるようにしてくれているようだ。もし前の世界でこのような喫茶店を見つけたら間違いなく通い詰めていることだろう。読書をしたら集中できそうだ。クレイモランでも今度喫茶店巡りをしてみようと心に決めた。

 

「最近はどう? 楽しくやれてる?」

 

 一息ついたところでシルビアがセーニャに尋ねた。

 

「ええ、おかげさまで。魔法の研究と修行を一生懸命させて頂いております。徐々に魔法の練度も上がってきていて、修行の成果を実感しておりますわ」

「そう、ならよかったわ! セーニャちゃんなら絶対問題ないって信じてたもの!」

「いえいえ、そんな、ありがとうございます!」

 

 やや照れ気味にお礼を言うセーニャ。その様子を見て微笑ましそうに笑っているシルビアはまるで母のようだ。長年オカマをやっていると母性が芽生えてくるのだろうか。

 

「カミュちゃんとマヤちゃんとも仲良くできてるみたいで何よりよ。エルバちゃんも喜ぶでしょうね、きっと……」

 

 慈愛に満ちた笑みから一転、少し悲しげな笑顔を見せた。一瞬だけ場の雰囲気が暗くなった。シルビアはそれを払拭するように、頼んでいたアイスティーを一口、口に含んだ。

 しかし、含んだまま飲み込まないでいる。何をしているのだろうか。

 

「あの、シルビア……さん?」

 

 呼びかけると、こちらを見て勢いをつけるかのように顔を反らした。……まさか、口に含んだアイスティーを吹きかける気では……?

 

「ふ~」

 

 思わず両手で顔をガードしていた。アイスティーを吹きかけられるかと思ったが、それはなかった。恐る恐るガードを解いてシルビアの方を見る。

 

「……えっ?」

「ふふんっ、どう? すごいでしょう? これぞまさしくアイスティーってね」

 

 シルビアの口元からはアイスティーでできた氷柱が出ていた。それを右手に持ち、得意げに言ってくる。

 

「すごいです……。って、さすがにびっくりしましたよ! アイスティーを吹きかけられるかと思いましたよ」

「うふふ、ちょっとした旅芸人ジョークみたいなものよ」

 

 自分が原因で雰囲気が暗いものになるということがないようにしたのは容易に理解できた。やり方に驚いてしまったが。カミュとセーニャはシルビアのこういうところを理解しているのかあまり驚いた様子を見せなかった。

 

「すごいすごい! どうやったんだ?」

 

 マヤは目を輝かせていた。普段ツンツンしているがこういうところは年相応といったところか。

 

「あら、タネを明かしちゃったら意味がないじゃな~い。女と旅芸人はね、秘密が多ければ多いほど価値が上がるってものよ。うふふっ」

 

 そう言って自分で作ったアイスティーの氷柱をバリバリと食べ始めた。飲み物を無駄にしないところがいかにもシルビアらしいなと思った。

 

「うまいこと言って誤魔化したな? くっそ……」

 

 どうやるんだ? と考え込んでいるマヤを見てカミュは"兄"の笑みを浮かべている。今この空間が、とても平和に思えた。

 

「カミュちゃんは、上手くやれてる?」

 

 今度はカミュの方に話を回した。この人、トークスキルもとてつもなく高いらしい。場を和ませたり話を回したり、スペックが異常である。

 

「まぁ、何事もなく。上手くいってるよ。金もだんだん貯まってきてるし、もう少しでマヤとの旅に出られそうだ」

 

 未だ考え込んでいるマヤの方を見ながら嬉しそうにカミュが話す。名前を出された事によって思考を中断し、マヤも2人の話に耳を傾け始めた。

 

「世界が平和になったら2人でお宝探しの旅に出る、だったわよね。その約束、果たせるといいわね」

 

 先ほどセーニャの話を着ていた時は母のような笑みを浮かべていたが、今度は弟を見る時のような笑みを浮かべていた。年長者だからというのもあるのだろうが、人の話を聞くこととそれに対する相槌が非常に上手い。

 

「ああ! 平和になった世界をマヤにも見せてやりてぇんだ。ロトゼタシアの美しさを体中で感じて、成長してほしいと思ってる」

「兄貴……」

 

 なんとも素晴らしい兄妹愛である。俺にもこういう兄が欲しかったと思ってしまった。カミュは照れ隠しなのか、アイスココアを飲みながらカップで顔の大半を隠している。

 

「マヤちゃんとの旅もだけど、もう1人、ちゃんと考えなきゃいけない相手がいるんじゃないの?」

「ぶふっ!?」

 

 シルビアの爆弾発言によってカミュが盛大にココアを噴き出した。幸い、服にはかかっていないようだが顔がココアまみれである。

 

「なんてこと言ってくれてんだよオッサン! 誰がそんな……!」

「あら、本当にそうだったのね」

「そんなことは……いや、そうだけどよ……」

 

 今の会話で俺はすべてを察した。シルビアの一言に大きな反応を見せてしまったことで誤魔化せないと悟ったんだろう。カマをかけられてしまったようだ。

 

「カミュ様、お顔がココアまみれですわ。どうぞ、こちらをお使いくださいませ」

「あ、ああ。ありがとよ……」

 

 セーニャから手ぬぐいを受け取ったカミュは、ガシガシと乱暴に顔を拭いている。俺からするとどう見ても、完璧に照れ隠しである。シルビアは完全にニヤけている。ついでに俺もニヤけている。薄々そうなんじゃないかと勘づいてはいたが、やはりそうだったかといった印象だ。

 マヤとセーニャは何が何だかわからないという様子できょとんとしている。

 

「アタシからは特に何も言えることはないけど、まあ、頑張りなさいね」

「……余計なお世話だよ、ったく」

 

 セーニャとカミュを交互に見ながら言う。カミュは顔を赤らめながら不貞腐れたように呟いた。

 

「よくわかりませんが、頑張ります!」

 

 セーニャは相変わらず分かっていないようである。両手を胸の前で握りこぶしにして気合を入れていた。

 

「これは苦労しそうですね……」

「そうね……」

 

 アナタも気が付いていたのね、と俺に言いつつカミュに同情していた。他人事ではあるが、大変そうである。

 

「そ、そんなことより! さっきのシルビアのレース、すごかったよな! な!!」

「え、ええ……。そうですわね」

 

 カミュが強引に話題を転換した。何が何だかわからないままに話が進み、突然カミュの様子が変わったことでセーニャが些か驚いている。マヤの方を見るとこちらも驚いている様子だった。マヤも"鈍感側"なのは意外だった。

 

「本当に、すごい走りっぷりでした!」

 

 さすがにカミュが可哀そうだったので俺も話を広げた。

 

「ありがと~! アタシと愛馬のマーガレットちゃんが組めば、サマディーの手練れたち相手でも負けることなんてないわ!!」

 

 あの派手な装飾がなされたウマはマーガレットというのか。今の今まで知らなかった。

 

「……と、言いたいところなんだけど、どうも様子がおかしかったのよねぇ」

「様子がおかしかった……?」

 

 遠くから見ていた限り、とてもそのようには見えなかったが、何かあったのだろうか。

 

「うーん、なんていうのかしら……。選手のみんながどうも遅かった? ように感じたのよ」

「遅かった?」

「ええ。接待でもされてたんじゃないかってくらい」

 

 接待プレイをラストレースでやることがあるのだろうか。特別なゲストを呼んでいるのなら花を持たせる必要が出てくるかもしれないが。しかし。

 

「騎士道精神を重んじるサマディー王国でそんなことがあんのか? それこそ接待なんてやろうもんなら騎士道精神に反するとか言いそうなもんだけどな」

「ええ。全力で立ち向かってこそっていうのがこの国の考え方よねって思ってどうにも気になってるのよ」

 

 やはりそういうことだろう。俺も同じことを考えていた。俺以外の皆もやはりその結論に至っていたようだ。テーブルの上に軽食を軽く摘まんでからシルビアは続ける。

 

「まぁ、レースの結果はあたしが1位だったって言ってもそんなに独走状態ってわけでもなかったし。違和感を覚えたっていうのも気のせいだと思うわ。今日は私もマーガレットちゃんも調子が良かったのかもしれないわ」

 

 実際の所、そこまで独走状態でなかったのはそうだが、とても競り合っていたというわけでもなかった。それでも観客席から観ていて何も感じなかったのは、会場の雰囲気と、ゲスト扱いされている人物が1位であったという特別感などがが原因だろう。

 

「もともとシルビアだってウマの扱いは上手いんだし、普通に実力以上の力が出せたってことなんじゃねぇのか?」

「アタシとしてもそういう風に考えてたほうがいいわね。自惚れじゃないけど、結構ウマの扱いには自信があるんだから」

「シルビア様はなんでもできますものね」

 

 そういうことにしておこうと話がまとまった。これ以上はサマディー王国の闇に触れてしまいかねない。

 

「なんか褒められて照れるわね。ありがと。とにかく、選手たちにこんなことを言ったら煽ってると取られかねないからここだけのお話で、ね?」

「そうですね」

 

 その意見には同意だったので素直に言った。さすがはシルビアである。

 

 

 

「――――だから、さっきアタシが感じた"アタシと周りの時間がずれているような違和感"は忘れてしまいましょう?」

 

 

 

 なんに気なしに発したであろうその言葉に、俺とカミュとセーニャは凍り付いた。

 

 

 少々謎が残る会話。その最後に発したシルビアのこの言葉でようやく俺たちは、既に"事"が始まっているのだということに気が付いた。

 

 

 

 

 

 




 ありがとうございました! 喫茶店の描写は私のお気に入りの店を参考にしております笑

 完結までの道筋は立てているのですが、駆け足にものんびりにもならない構成ってやっぱり難しいですね……。創作は奥深いです。

 それでは、また次回お会いいたしましょう!

 感想、お気に入り、高評価等お待ちしております! 実は感想が一番嬉しかったり……(小声)


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第9話マヤの決意

お疲れ様です。名古屋で二時間並んで食べた、歴史を刻めのラーメンの味が忘れられないババすこでございます。
 日曜日にデレマスの名古屋でのライブがあって、チケットを格安で譲っていただいたので行ったのですが、初現場で満足度も高く、泣いたり笑ったりテンション上がって暴れたりととても楽しかったです。スペシャルゲストのDJ K〇〇さん(一応伏字です笑)の盛り上げ方が半端なく、暴れすぎて筋肉痛です汗
 遊んでたら書き溜めが尽きたのでこれから頑張ります!!

 では、本編へどうぞ!!


 

 

 

 

 

 

 

「そうでしたか。サマディー王国にてそのようなことが……」

 

 サマディーでシルビアと話した後にサーカスにも誘われたが、それを断ってすぐにファナードのいる聖地ラムダに来た。今はラムダの中心の広場で話をしている。正直なところサーカスも観たかったが、それどころではない。喫茶店でシルビアが言った言葉が俺たちの中で引っかかって気になるからだ。俺とセーニャとカミュがシルビアの言葉に反応し、サーカスに誘われて行く気満々だったマヤにも俺たちが気が付いたことを伝えた。まだ幼いながらも状況をしっかり理解して判断を下せるので、マヤもすぐにラムダに来ることを了承してくれた。宿をとっていたがそれはキャンセルするほかなった。

 

 シルビアにそんなつもりはなかったはずだが、ファナードの夢見について聞いた内容とシルビアのウマレースを喩えた言葉の重なりがどうにも気になった。俺たちの反応が変だったことにシルビアはすぐに気が付いたので、夢見のことを説明した。心底不思議そうにしていたが身に覚えのあることだったので腑に落ちる部分もあったようだ。何の気なしに放った言葉でこのようになるとは思わなかったようだが。とりあえずはシルビアにはサーカスの方に行ってそこで様子を見てもらうことにした。何かあればすぐにクレイモランの王宮に来るよう伝えてある。

 

 

「目立った被害があったりしたわけではありません。俺も何となく城下町に入ってから町の住人の歩くのが遅いなと感じていましたが、こうなってくると偶然にしてはどうも同時に起きすぎている気がしなくもなくて……」

 

 ただの偶然といってしまえばそれまでだが、なにか引っかかる。

 

「クレイモランで暮らしながら情報収集とかって考えてたけど、もしかしたら長老さんの夢見の出来事ってのは世界規模なのかもしれない。それに、サマディーの国で何かが起こってるって考えるのはまだ早い。だけど、何かが起きるかもしれないのは確かなはずだ」

「私たちにできることがあればなんでもやりますわ」

 

 カミュもセーニャもファナードに思ったことを言う。勝ち取った平和を享受している今、再び世界に脅威が訪れようとしている現状にただ指をくわえているだけでは嫌なのだろう。

 

「事態はもしかすると急を要するのかもしれません。ですが焦っても何も始まりません。古い書物を読み返してみてもこちらの方で得られた有力な情報は何一つなかった以上、今は皆さんの情報が最も有力なものとなっています。私共でもっと文献を参照するので、皆さんは世界を回って情報と、再び仲間集めてくださいませんか?」

「そういうことならお安い御用だぜ」

 

 事態の規模が分からない以上、とにかくしらみつぶしに世界を回るしかないのかもしれない。サマディー以外にもこの現象が起きている国や地域がある可能性もあるからだ。どうなるのか分からないのであれば、勇者の仲間もいたほうがいいのは納得だ。情報を共有してそれぞれ各地に散らばって調査をすれば効率も格段に跳ね上がる。

 

「俺たちは旅に慣れてるけど、レイ、お前はどうするんだ?」

「俺は……」

 

 ゲームの中の世界ではないのでどれほどの規模なのか想像もつかない。基本的な街の移動はキメラのつばさで済むが、どうしても魔物と対峙したり野営をすることだってあるかもしれない。前者はともかく、後者のパターンは役に立てる予感がしない。確実に足を引っ張ることになる。

 前の世界での事務処理といった仕事内容的には、文献をあさって情報を整理していたほうが身の丈に合っていていいのかもしれない。だが。

 

「世界を回る、か……」

 

 この世界を見てみたいという欲もある。通常では来ることなど無理な世界。クリエイターによって作られた架空の世界。自分の生き写しの主人公で歩いたものとは似て非なる広大な世界。それを自らの足で旅してみたい。

 

「戦闘においては前線に出る必要性はございません。ですが、サマディー王国で違和感に最初に気が付くほど感覚と観察眼が鋭いレイ様が一緒に来てくだされば心強いです」

「俺たちはこの世界の魔物とはだいたい戦ってるんだ。1人を守りながら戦うのなんて余裕だぜ?」

 

 セーニャもカミュも、そう言ってくれている。

 

「レイはさ、この世界とは違う世界から来たんだろ? だったら自分の目で世界を見てみたいとは思わねぇのか?」

 

 悩んでいると、マヤから思わぬことを言われた。見くびっていたわけではないが、まさかマヤにそんなことを言われるとは思わなかった。言っていることは完全に俺の心の中で考えていることそのままである。

 

「……オレは自分の目でこの世界のすべてを見てみたい。そして、お宝もこの手に収めたいんだ。レイがいかないのならオレが行く。いや、レイが行くとしてもオレもついていくからな!」

「え、おい! マヤ!」

 

 すかさずカミュが反応した。俺とセーニャ、長老までもが驚いている。それはそうだろう。まだ幼い妹が危険な旅についていきたいといっているのだから。5年も黄金化していたことで成長が止まっていた期間分、カミュと年齢が離れている。旅に出れば年齢関係なく辛いこともあるのは間違いのないことだ。それを知ってマヤはついていこうとしている。

 

「オレだって世界が危ないって時にじっとしてられないよ! それに、オレは前にウルノーガのせいでクレイモランのみんなに迷惑をかけちまってる。みんな俺が原因だって知らないし、知ってる人だって何にもなかったようにオレに接してくれる。前に兄貴に慰めてもらって吹っ切れたと思ったけどやっぱり罪悪感が捨てきれないんだよ!」

「マヤ……」

 

 今まで溜め込んでいたのか、自分の胸の内を吐露している。やはり幼いながらもしっかりと自分のやってしまったことを受け止め、反省できるのだ。しかし、その反省できるほど成熟した精神だからこそ、罪悪感に押しつぶされそうになっているのもまた事実である。

 

「オレは罪滅ぼしがしたい。そして、助けてくれたみんなの役に立って恩返しもしたいんだ。いつかオレも旅に出る時が来るってわかってたから、王宮の兵士に頼んで秘密で特訓もしてもらってたから魔物相手でも十分戦える」

「お前、いつの間にそんなことを……」

「兄貴が雪原の小屋にいる間だよ。そうじゃないと絶対止められるだろ? 兄貴が城下町でオレと一緒に暮らしてる期間は時間を見つけて合間合間に自主的に特訓してた。バレないかどうか気が気じゃなかったけどな。それくらいオレは本気だ。兄貴風に言えば、これはオレの"贖罪"なんだよ」

 

 そう、マヤは言葉を結んだ。カミュを含めた、マヤの話を聞いていた人は皆何も言えない。沈黙が場を支配する。マヤがそこまで考え、行動していたとは思わなかったからだ。春が近づいてきていてもなお冷たく肌を突き刺すような風が、俺たちの間を吹き抜けていった。

 

「……そうか」

「オレを連れて行ってくれるのか?」

 

 沈黙を破ってカミュが小さくつぶやいた。その反応にマヤが嬉しそうに反応した。しかし、カミュの声色は、先ほどと変わっている様子はない。

 

「そこまでマヤが考えてくれてたのは、兄として素直にうれしい。だけど……やっぱり連れていくことはできない」

「どうしてだよ! オレが足手まといだっていうのか!?」

「違う! お前のことが心配だからに決まってんだろ!」

「え……?」

 

 カミュが声を張り上げた突然のことにマヤは驚いて声が震えている。兄妹2人の話に口をはさむつもりはないので、俺もセーニャも長老も静かに見守っている。

 

「俺は、マヤが黄金化した時、もう2度とお前の声は聞けないんだと思ってた。俺があげた首飾りのせいで黄金化して動けなくなって。何も考えたくなくてその場から逃げ出して、エルバと出会って、ウルノーガに支配されていたマヤを救って、もう聞けないと思ってたマヤの声を聞くことができた。やっと、マヤと2人で暮らしていけると思ってたんだ。……俺は、もうお前を危険な目に遭わせたくない。2度と声が聞けなくなるなんてことが起こってほしくないんだよ」

「おにい、ちゃん……」

「お前の気持ちは本当にうれしい。でも、ここは俺の言うことを聞いてクレイモランに残ってくれ」

 

 互いの意見がぶつかっていても、その本心は互いを思うが故である。どちらが正しいとか、間違っているとか、そんなちゃちな問題ではない。

 

「……ごめん。それでもオレは、行くよ。心配してくれるのも分かる。だけど、オレだっていつまでも守ってもらうだけは、嫌なんだよ……!」

「っ!?」

 

 マヤが言い終わるや否や、その身体が黒い瘴気に包まれる。何事かわからない俺たちはその場で身構えた。

 

「オレにはこの力がある。守ってもらうだけじゃない。自分の力で戦える。ちゃんとやれるんだ」

「マヤ、なのか……?」

 

 身体を包んでいた瘴気が晴れたと思ったら、そこにはかつてウルノーガの手下として勇者の仲間たちと対峙したキラゴルドの姿のマヤがいた。正確にはキラゴルドのような黄金の姿ではなく、マヤとカミュの髪色と同じ、綺麗な青色をしている。

 

「ああ」

「どうして、そんな姿に……?」

「……オレだって最初は驚いたよ。まだ黄金化の呪いが残ってたのかって怖くなった。だけどなんともなかったんだ。それに、この力は自分の意志で操作できる。身体能力だって上がるし自我だって保てるんだ。ずっと秘密にしてたのは謝る。だけど、兄貴に言ったってまた余計な心配かけることになるかと思って言えなかったんだ。でも、今なら言える」

 

 キラゴルドの姿のまま、マヤは話し続ける。今こうして会話を続けていられることが、マヤの発言の何よりの証拠となっている。人間1人くらいであれば簡単に引き裂けそうなほど鋭利な爪、背中から生えた大きな角、透き通る海を思わせる青色をしたその大きな身体は、普段のマヤの姿とはかけ離れている。

 その姿を解いてもとのマヤに戻って、続ける。

 

「だからさ、オレも一緒に連れて行ってくれよ、な?」

 

 今までで一番穏やかながらも強い意思がこもった声色。マヤが本当に本気であることが伝わってきた。

 

「……分かった。そこまで言うならマヤも連れていく」

「本当か!?」

「ただし! 泣き言は言わせないからな? それに、戦闘で危ないと思ったらすぐに他の人を頼ること、いいな?」

「ああ! もちろん!!」

 

 年相応といった様子で嬉しそうにはしゃぐマヤを見て、しょうがねぇなと呟いているカミュ。それを見て、やはり兄なんだなと思った。妹が成長しているのが感じられて嬉しく思っているのは間違いない。

 妹を第一に考える兄と兄を第一に考える妹。この2人は、互いを思うがあまりに意見が対立していたのだ。素晴らしい兄妹愛だと思う。最終的に兄が折れて丸く収まるといったあたりがこの兄妹らしい。

 

「レイも、もちろん行くよな?」

 

 そんなマヤが俺のほうを向いて聞いてきた。マヤの話で有耶無耶になっていたが、俺はまだ結論を出していなかった。しかし、2人の話を聞いて俺の中ではもう決まっている。

 

「うん、俺も行くよ。この世界を見てみたい。足手まといにしかならないとは思うけど、いいかな?」

「ああ! 兄貴もセーニャもいるし、オレだっているんだから大丈夫だ。何かあったら守ってやるよ。いししっ」

「2人より3人のほうが魔物との戦いも迅速ですし、レイ様を守るのもぐっと楽になるはずですわ。これから仲間も増えればもっと楽になります」

 

 皆の気持ちが嬉しい。本当に、この人たちと知り合えてよかったと心の底から思った。

 

「どうやら、話はまとまったようですね。今日はもう夜になってしまいますし、今日1日、多くのことがあってさぞかしお疲れでしょう。疲れは何をするにも天敵です。ぜひともラムダの宿屋に泊まっていってくださいませ。宿の主人には話を通しておきますので」

「ありがとうございます」

 

 そう言ってファナードは宿屋の方に歩いて行った。

 サマディーへの旅行はもともと一泊二日の予定だったが宿をキャンセルしてしまっていた。クレイモランに戻っても良かったが、ここは長老のご厚意に甘えることにした。聖地を散歩するのもいいかもしれない。

 

 せっかく慣れた道具屋の仕事を放棄することになってしまうが、それはリーズレットには謝っておこう。きっと彼女であれば許してくれるに違いない。旅から帰ってきたら必ずまたあの店で働こうと心に決めた。

 

「改めて、これからよろしくね」

「ああ、よろしく頼むぜ」

「よろしくお願いしますわ」

「よろしくな!」

 

 旅の仲間だけでなく、日常の一部になりつつあった身の回りの人々にも沢山迷惑を掛けることになるかもしれない。この埋め合わせは無事に帰ってきてからしっかりやる。

 

 自分勝手な考えかもしれないが、それでもいいかもしれないと思った。

 

 

 

 

「本当は初めて世界を巡るなら兄貴と2人だけがよかったけど、こういうのもいいよなっ」

 

 誰に聞かせるでもなく、小さな声でマヤは呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ありがとうございました! マヤの変身は「ドラゴンクエストⅥ」のアモスみたいな感じと説明すればお分かりいただける方もいらっしゃるかと思います。「アモスもだしマルティナのデビルモードがあるならこれもいけるじゃん」って感じで思いつきました笑

 前書きでも触れましたが、書き溜めが尽きたので時間があるときに頑張っていこうと思います。前回の話で急激にお気に入りが増えたり、評価バーに色がついてニッコリオタクスマイルになったので、より一層気を引き締めていきます!! 次回以降もよろしくお願いいたします!

 引き続き、感想、お気に入り、高評価等お待ちしております!


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ロトゼタシアの大地
第10話:旅の始まり



 お疲れ様です。書店に入った瞬間レジにいた若い女性店員に三度見されたババすこでございます。特におかしな恰好もしてなかったですし何があったんですかね? そんなに私不細工だったのかな() まぁ、わかんないことを考えてても仕方ないですよね笑

 早いもので、もう10話です。
 では、本編をどうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 聖地ラムダで一夜を明かし、朝のうちにクレイモラン王国に戻った俺たちは、シャールとリーズレットに、サマディーであったこととファナードと話し合ったこと、それからマヤと俺がカミュとセーニャに同行することを伝えた。マヤに関してはすぐに納得したようだが、俺も同行することに最初は驚いていた。まさか俺まで旅に出たいと思っているなどとは思っていなかったのだろう。2人に同行したいと思った理由を伝えると、すぐに合点が行ったような表情をした。

 

 好奇心の塊であるシャールは、世界を自分の目で見てみたいという俺の気持ちをとてもよく理解してくれた。リーズレットの方には道具屋のことについて何か言われるかと思ったが、特に何もお咎めはなく、絶対に無事で帰ってきてまた働いてくれといった感じで応援してくれた。せっかく斡旋してくれた仕事を放棄して旅に行くといっているにもかかわらず快く見送ってくれたことが嬉しかったが、やはり申し訳なさも感じてしまった。代わりの人員が早く見つかってほしいものである。

 

 道具屋の店長も俺が旅に出ることにすぐに賛成してくれて、手向け代わりと言っていろいろと旅に役立ちそうなものを、以前町の中で買い物したときにカミュとセーニャが使っていた、多く物が入る袋と同じものにそれらを入れて持たせてくれた。その中には薬草系や聖水といった物以外に、鎧や兜、盾や装飾品といった防具が入っていた。武器は短剣が一つだけあった以外には入っていなかったが、正直武器は扱える自信がないのであってもなくても変わらないだろう。もしかしたら店長もそれがわかってあえて武器を入れなかったのかもしれない。短剣はもしもの時の護身用にと入れてくれたのだろう。何から何まで、本当にありがたい限りである。戦闘になった際にはそれらを装備することになるだろう。

 

「とりあえず最初は事情を知ってるシルビアさんの所に行ったほうがいいよね」

 

 各自が住んでいる家で旅支度を整え、クレイモランの城門の目の前で集合した。いよいよ出発だということで最初の行き先を決めねばならないと思ったので提案してみた。

 

「そうだな。まずはまだサマディーに残ってるはずのシルビアのとこに行って話をしたほうがいいだろうな」

「シルビア様はどこで宿を取ったのかご存じなのですか?」

「そういえば知らないかも……」

「それならオレが別れ際に聞いといたから問題ないぜ」

「マヤ。お前いつの間にそんなこと……」

 

 大人3人組が失念していたシルビアの居場所をいつの間にやら知っていたマヤに驚きながらも、とりあえずの行き先は決まった。シルビアを仲間にした後はどこに行くべきなのかはまたその時に話し合えばいいだろう。

 

「それじゃあ、仲間を集めに旅に出よう!」

「ああ!」

「おう!」

「行きましょう!」

 

 

 決意を新たに、4人で歩き出した。

 この目で世界を見ることができる旅が始まろうとしている。これまで経験したこととはまた違った大変さがあるのは間違いないだろう。それでも、楽しみなのには変わりない。マヤもそうであるが、俺もかなりワクワクしている。世界に脅威が訪れようとしている中でこのように考えるのは些か不謹慎なのかもしれないが、心は正直なのだ。

 

 

 

「……いってきます」

 

 誰に聞かせるでもなく小さな声で、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

 

「それで、マヤ。シルビアさんってどこの宿に泊まってるの?」

 

 サマディーの城下町に着いた。旅といってもキメラのつばさを使って飛んでくるだけなのでここまでは一瞬だった。旅には変わりない上にしばらくはクレイモランに帰ることもないので、先ほど固めた決意は崩すつもりはない。旅らしい移動手段ではないのは間違いないが。些か気が抜けそうになるのをぐっとこらえた。

 

「シルビアさんはサマディーの王宮にある要人が泊まる時用の部屋に宿泊してるらしいぜ」

「え、そうだったの?」

 

 シルビアクラスになればかなり高い宿を抑えているかと思っていたが、まさか王宮内の部屋だとは思わなかった。勇者エルバがまだこの世界にいたころの旅では何度か王族を助けているので、この待遇も納得ではある。今回は国で運営しているウマレースのゲストということもある。最初に驚きはしたが、事実を並べていくと至極当然のVIP扱いであった。

 

「まぁ、シルビア様ですから相応の待遇でしょう」

「シルビアのオッサンならいろんなマナーもしっかりしてるし問題ないしな」

 

 俺はバイキングのとこ出身だからそういうのはあんま分かんねぇんだけどな、と笑いながら付け足すカミュにセーニャは苦笑いしている。どことなくカミュもセーニャも嬉しそうなのはやはり久しぶりに旅ができるからだろうか。カミュはもちろんのこと、セーニャも見た目によらずかなり冒険じみたことが好きだというので、親しんでいた日常を離れて旅に出られる楽しさが抑えきれないのだろう。

 

「そういうわけだし、とりあえず王宮の方に行こうぜ。兄貴たちがいれば簡単に王宮に入れるだろ?」

「おそらくそうですわね」

「まぁ、いろいろと手を焼いてやったからな」

 

 方針が決まったので、王宮に向けて歩く。城下町に入ったところの目の前にある階段から登り、四角形を描く歩道橋のような道を歩く。この町はゲーム内のマップと基本的には変わらないが、やはり規模が大きく、歩道橋の幅や長さ、城下町の住宅数や店の数、広さも桁違いである。おかげで、ゲームでは簡単にたどり着けていた王宮への道のりもそこそこ遠い。暑いのもあって以外としんどい。先ほどまで寒い地方にいたのもあって余計に暑く感じてしまう。

 現実として体感してみて常々思っていたが、キメラのつばさで一瞬で気候の差異が大きい地域にまで移動したとき、慣れるまでに時間がかかってしまって大変だ。俺はもちろんそうだが、言わないだけでほかの三人もそのような様子を見せている。

 

 こまめに水分を摂って汗を拭き、体調を崩さないように気を付けながら歩いていると、王宮の入り口の前に着いた。護衛の兵士にカミュが話しかけると簡単に通行の許可が下りた。これはマヤの予想通りである。

 

 扉を開けてもらって中に入ると、外の茹だるような暑さが嘘のように涼しく感じられた。しかし、涼しくはあるものの王宮の規模もまた広大で、王座の間に続く階段までの広間の距離が長い。

 ゲームでやっていた時も、王宮に入ってすぐにある広間が無駄に広いと思っていたが、いざ現実として見てみると本当に無駄に感じる。さすがに現実では王族用の2つの部屋に繋がる扉以外にも、厨房やシルビアが宿泊していた部屋に続くと思われる通路があったが。

 

 ずっと疑問に思っていたが、この広間の大きさがあってどうして兵士の訓練場は端の方に小さくあるだけなのだろうか。外に大規模な訓練場があるから王宮内にあるものは小さくしていると言われてしまえばそれまでだが、この広間の大きさならもっと訓練場を広くしてあげてもいいと思った。猫が多く住んでいるだけというなんとも無駄な構図が生まれてしまっていているからである。生類憐みの令が制定されているわけでもないはずなのに猫が優遇されすぎではないかと思ってしまうのは仕方のないことなのかもしれない。

 

「あら、カミュちゃんたちじゃない」

 

 王宮に来たならまずは王に挨拶はしないといけないと判断して、4人で軽く雑談しながら王座の間に続く階段に向けて歩いていると、宿泊部屋に続いていると思われた通路からシルビアが現れた。見立て通りそちらはVIP待遇ルームだったようだ。

 

「お、シルビアじゃねぇか」

「シルビア様、おはようございます」

「おはようございます」

「おはよう」

 

 最初に王に挨拶してからシルビアの下に行こうとしていたのだが、手間が省けたようだ。あらかじめ4人で話し合って、何が起きているのか、そもそも何も起きていないのか。それさえもはっきりしていない今、余計な不安を与えないように王には何も深いことは言わないことにした。昨日ウマレースを観戦しに来ていて、シルビアが出ていたから会いに来た、という嘘ではない要件を伝えようということになった。かつての仲間の活躍があったり、以前から親交のある存在である王に会いに行こうと考えるのは至極当然なので、怪しまれることはないと思ったからだ。これを考え付いたのは俺であるが、なかなか悪知恵が働くな、とカミュから嬉しくないお褒めの言葉を頂いた。

 

 昨日ファナードと話し合って決めたことと王に話す内容を、シルビアと共有した。シルビアは昨日、サーカスの方にいたが特に何もなかったようで、ただの旅芸人としてサーカスに参加していただけだったようだ。シルビアの方も、余計な不安を与えるのは得策ではないということに納得したらしいので、とりあえず5人で王に会いに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

 

 

 王座の間で王に謁見し、軽く話をしてきた。メインはシルビアとカミュとセーニャだった。途中マヤの方に話が向いたのでカミュの妹だということを紹介した。俺にももちろん話の矛先が向いたが、異世界から来ていることは秘密にしておいた。俺の素性を知っている人間は安易に増やすべきではない上に、勇者エルバが"悪魔の子"と呼ばれていた時のように、異世界から人間がやってきたということは何かの前触れなのではないかといった突飛な憶測がなされる恐れもあったからだ。俺はクレイモランの王宮の見習い兵士で、教官をすることもあるカミュに付き従ってサマディーに来たという設定にした。ただの付き人程度と認識されればそれ以降は何も聞かれる心配がないとの予想からだった。実際それが功を奏し、特に何もなかった。

 

 現在はサマディー城下町から外に出てすぐの所にいる。せっかくだから未踏の大地を少しくらいは歩いてみてもいいんじゃないかしら、とシルビアが言ったこともあり、そのようにした。

 

「こうして周りを見ると、本当に砂漠地帯って感じだねぇ」

「まぁそりゃあな。ここからもっと北のにあるバクラバ砂丘に行けばもっと砂漠らしい景色が見られるぜ」

「さすがにそれは遠慮しときたいかな」

 

 暑いのは基本的に苦手である。ラーメンや鍋を暑い夏に食べることは好きだが、それとこれとは違う。

 

「さすがに冗談だからそんな露骨に嫌そうな顔するなよ」

 

 苦笑いしながらカミュが言う。

 

「そういえばレイちゃん。アナタって魔物と戦った経験ってあるの?」

 

 突然シルビアがそんなことを聞いてきた。ゲームでなら何千何万もの魔物を倒してきているが、そんなことを言っても仕方がない。

 

「ないですね。カミュとセーニャと出会った時にキラーマシンに襲われたくらいです。何もできずに縮こまってるくらいしかできませんでしたが」

「そうだったのね。それじゃあ、せっかく外に来たついでに、軽くこの辺の魔物と少し戦ってみましょうか」

「……は?」

「怖くないわよ。この辺の魔物は比較的弱いのが多いから」

「いやいや、そんな……」

 

 急に何を言い出しているのだろうかこの人は。武器を振るったこともなく魔法も使えない俺が魔物と戦うのなんて、中学生に難関大学の入試問題を解かせるようなものだ。つまり、無理である。

 

「ふふっ、そんな怖がらなくて大丈夫よ。戦うって言ってもアタシたちが前線で魔物の相手をしてるからそれを見てるだけでいいわ。元々アナタに武器を持って戦わせるつもりはないわよ。絶対これから魔物と戦うのが避けられない場面があるから慣れてもらわないと」

「あ、なんだ。それなら……。でも、それでもやっぱりちょっと怖いですね……」

 

 少し安心している俺を見て悪戯っ子のような笑みを浮かべているシルビア。どうやら少し遊ばれたらしい。俺はいじられ役属性はないはずだが、シルビアからするといい遊び道具のようだ。いつか何かしらで意趣返ししてやろうと心に決めた。

 

「弱いって言っても俺たちからしたらって話だし、ウルノーガの影響で弱いモンスターも割と凶暴化してたりするから気を付けろよ」

「マヤ様も、一応お気を付けくださいませ。何かあれば私がすぐに回復いたします」

「ああ、ありがとう!」

「あんまり戦闘慣れしてないんだから無理すんなよ?」

「分かってるって」

 

 後ろの方から戦闘を見ているだけであるとしても何があるかわからないので、店長に持たせてもらった防具類を装備して、短剣を腰に提げた。初めて着る鎧はやはり重く感じたが、軽い素材を使いながらも防御力がかなり高いというとても質のいいものだった。軽い素材で重く感じているのだから、普通のものだったなら動くことさえできないのではないか。これは本当に、店長には感謝しかない。この仰々しくも感じる姿で動き回ることに慣れなければこの世界で無事に生き抜くなどできはしないので気を引き締めなければ。

 

 全員の意識が先頭に向いたところで、荒野にいる近くの魔物に向けて、カミュを先頭にして一斉に走り出した。

 

 主に俺が戦闘に慣れるためのちょっとした戦いであるが、シケスビア雪原で襲われたことが軽くトラウマなので少し怖い。それでも、これは乗り越えなければならない壁である。

 

 

 

 俺が静かに決意を固めると同時に、サボテンのような姿をしたモンスターであるサボテンボールに、カミュが切りかかって先制攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

 





 ありがとうございました! 10話にしてやっと旅立ちですってよ汗
 まぁ旅に出てしまえばあとはこっちのものなので(意味不明)

 なんとか2,3日に1話ずつ投稿していけているので、これからも続けていきたいなぁと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。また次回お会いいたしましょう!

 感想、お気に入り、高評価等お待ちしております。


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第11話:ユグノア城跡


 お疲れ様です。リアルの出来事が立て込んで執筆が滞ってしまい、2,3日更新の自分ルールを破る羽目になってしまったババすこでございます。

 お待たせしてしまって申し訳ございませんでした。これからもこのようなことが多々起きるかもしれませんが、絶対に完結はさせる所存ですので最後までお付き合いいただければ幸いです。

 では、本編へどうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 時間でいえば正午くらいだろうか。サマディー王国周辺のモンスターで戦闘に慣れるためにしばらく戦っていたおかげか、かなり魔物に対する恐怖が減ったように思う。とはいっても、このあたりの魔物では凶暴化していてもカミュ達の敵ではないので、効果があったのかは定かではない。しかし、かなり収穫はあった。というのも、戦闘慣れしていないと思っていたマヤは、そのままの姿でも俊敏に動き回ってて攪乱もできる上に、変身すれば素早さはそのままに攻撃力が格段に上昇するというハイスペックな存在だった。加えてピオリムやバイキルトといった補助呪文も使えるため、かなり万能である。呪文に関してはすっかり忘れていたが、ゲーム内でのキラゴルドとの戦闘でも使ってきていた。それ以外のことについては未知数だったので本当に驚いた。

 

 俺は戦闘に参加することはなかったが、後方から戦況を見ていることで仲間たちにどの方向から魔物の攻撃が来るかを伝えたりできることに気が付いた。始めは意図したわけではなかったが、マヤが右斜め後ろからの攻撃に気付いていなかったので大声で指摘したことをきっかけに、徐々にではあるが、指示係のような役割をこなせるようになっていった。剣も魔法も扱えない、頭を使うしかできない俺にとってこの役割は適しているように思う。事務処理仕事をしていたおかげで戦況を見て適切な判断を下す力があったのも大きい。

 

 カミュ曰く、エルバがいた時は基本的にエルバの指示で戦っていたそうなので、その役割を代わりに俺ができるようになれば魔物との戦いは十分にできる。今はまだエルバほどの適切な指示を下せないが、ここから慣れていくしかないだろう。作戦『めいれいさせろ』といってしまえば簡単だが、実情は極めて難しい。自らも戦いながら仲間に指示を与えていたエルバはどれだけすごかったのかを痛感した。

 

 現在は、ずっと戦いっぱなしでは体がもたないということで、近くにあったキャンプ跡地で休憩している。袋に入れていた食材類と鍋を取り出し、薪を組んでからセーニャがメラで火をつける。昼ご飯は野外で適当な野菜と肉で作った鍋である。夏の暑さは苦手だが暑いところで食べる鍋は最高である。理由は知らないが冬に食べる物とはまた違った美味さがある。シルビアとはそれで意見が一致したので固い握手を交わした。

 

「とりあえず、マヤもレイも戦闘に慣れてきてくれたみたいでよかったぜ。マヤはもう問題なさそうだな。ちょっと突っ込みすぎで余計にダメージを受けがちだからそこは気を付けろよ?」

「わかった。まぁ、魔物の攻撃に当たらなければ全部問題ないだろ」

「そういうことではないんだけどな……」

 

 実際マヤはとても素早い。もっと鍛錬を積めばカミュに並べるほど素早く行動できるようになるはずだ。職業でいえば盗賊に近い動きを兄妹揃ってしているが、攻撃のテイストが違うので上手くコンビネーションできればとても強力な武器になる。まずは深追いしすぎないことだが。被ダメージが多くなればその分回復要因の負担が増すのは当たり前のことであるからだ。

 

「レイちゃんは後ろからアタシたちに指示を飛ばす役割をしてくれると嬉しいけど、慣れないうちは大変よね。あと、もし魔物から攻撃されそうになったとして、その時の対処法を覚えておいてもらわないとね。対処法といっても武器や盾でいなしたり弾いたりするだけなんだけど、タイミングを間違えると大きくダメージを受けるからあとで練習しましょ。指示の正確さはこれから磨いていけばいいわ」

「ありがとうございます。頑張りますね!」

 

 ゲーム内であった武器ガードや盾ガードの事だろう。ゲームでは確率で起こることだが、現実であれば極めれば必ずやることができる。ゼロになるとは言えないがダメージを減らすことができるのは大きい。

 指示に関してはこれから仲間が増えればもっと大変になるのは間違いない。今は4人だけなのでギリギリ指示を与えられているが、ここからはどうなるかわからない。ミスをすれば戦況が大きく変化しかねないので、命を預かっていることを再認識してもっと頑張らねばならない。蘇生魔法があるからといって疎かにしてはいけない部分である。

 

 それから、軽く雑談をしつつ5人で鍋を囲んだ。このように野外で鍋を食べるといったバーベキューじみたことは前の世界でも全然やってこなかったので、とても新鮮だった。カミュとセーニャ、シルビアの3人は完全に手馴れていたので手際が良く、これが熟練の旅人なのかと実感させられた。

 

 

 

「さて、次はどの仲間の元へ行きましょうか?」

 

 後片付けが終わり一息ついたところでシルビアが皆に問いかける。

 

「そうだな。あとはロウのオッサンと、グレイグマルティナのデルカダールコンビだよな」

「グレイグ様とマルティナ様については分かりやすいですが、ロウ様はどこにいらっしゃるのでしょうか……」

「んー……、確かにそうだよな」

 

 デルカダールの2人は何か用事がない限り城にいるはずである。しかしロウは現在どこで何をしているのか分からないという。恐らく何か意図をもって世界を回っているのだろうが、それが逆になかなか会えない原因になっているようだ。

 

「可能性があるとすれば、やっぱユグノア城跡だよな」

「そうですわね。かなりの頻度でエレノア様とアーウィン様のお墓参りをしていらっしゃいましたし」

 

 確かにゲーム内でもそのような描写はあった。何も手掛かりがない以上、ユグノア城跡に何度か行く必要があるかもしれない。下手に世界中を動き回って行方を追うとしたらすれ違いになってしまう恐れもある。

 

「それじゃあ、今日はこれから一度ユグノア城跡に行ってみて、ロウさんに会えなかったらそのままデルカダールに行ってみようよ」

 

 かえってすれ違いになる可能性があることを考慮すれば、このようにするのが一番効率が良いのではないかという提案である。

 

「そうだな。やっぱりレイは頭がいいんだな」

「マヤもなんだかんだしっかりしてるじゃん」

 

 シルビアの宿泊先をしれっと聞いていたりなどだ。

 

「決まりね。それじゃ、ユグノア城跡に向けて、出発するわよ!」

 

 

 意気揚々、といった様子で次なる行き先へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

「これが、ユグノア城跡……」

 

 荒廃した城下町を見て、言葉を失ってしまった。しばらく呆然としてようやく絞り出せた言葉がこれである。

 

「ここは何度来ても胸が締め付けられるわね……」

「ええ……」

「マヤ、大丈夫か?」

「ああ……ちょっとショックだっただけだ……」

 

 初めて目の当たりにする光景にさすがのマヤも参ってしまっているようだ。俺は画面越しに何度も目にしているとはいっても、いざ現実として目の前にするとどうしても言葉が出なくなってしまう。前の世界で災害の被災地のボランティア活動を手伝った時にも、被害の甚大さを目の当たりにして同じような感覚に陥ってしまったことを思い出した。

 

「初めて来たので辛いのは分かるが、ここには強力な魔物が多い。気を引き締めていくぞ」

「アーウィン様たちのお墓は北の方にある井戸を経由していかねばなりません。そこまで駆け抜けましょう」

 

 カミュとセーニャが呼びかける。キングリザードなどといった強い魔物が多く生息しているので、少しでも気を抜いたら致命傷になりかねない攻撃を受けることになる。今はとにかくロウがいるであろう王家の墓を目指そう。

 

 

「くっ!」

「これでも喰らいなっ!」

「メラゾーマッ!」

「皆、頑張って! そ~れハッスルハッスル~!」

 

 魔物をかき分けながら進んでいく。前衛の4人が露払い役になってくれているので俺に危険が及ぶことはない。カミュは両手に持った片手剣で目にもとまらぬ速さの攻撃を仕掛け、マヤは小さい姿のまま円を描くように魔物を攪乱しつつヒット&アウェイ。セーニャは攻撃魔法を多用して遠くからひたすら攻撃しつつ魔物の動きをけん制。シルビアはハッスルダンスで全員の回復をしつつ余裕があるときはドラゴン斬り等でダメージを与えている。時折他の仲間をかばって代わりにダメージを受けているが、それはすかさずセーニャが回復魔法で傷を癒してあげている。

 

 見ていて思わず感嘆の声が漏れるほどに息の合った戦いである。勇者エルバの仲間としてずっと行動を共にしてきた存在であるからだろうか。仲間がどこにいて何をしようとしているのかを瞬時に理解し、動きを合わせている。俺がエルバの代わりに指示役になるまでもなく、しっかりと戦えていた。俺が声を上げるのは、誰かしらが死角からの魔物の攻撃に気づいていないときに危険を知らせるときくらいだった。

 

 皆が全力で戦えばこれほどまでに強く、自分の出る幕なんてないのではないか……と、自分の無力さを感じてしまうのも無理はないが、元々住んでいた世界が違うので割り切るしかない。サマディーの近くで戦っていた時に拙いながらも支持を与えられていたのは、単純に仲間が本気を出していなかったからのようだ。

 

 俺は、俺にできることをしようと心に決めた。少しずつでもいい。できることを増やしていこう。

 

 

「よし、ここだ」

 

 先ほど言っていた井戸に着いた。井戸の近くには『わるいスライムじゃないよ』と言いつつ井戸が奥に続いていることを教えてくれるスライムがいた。初めて『ドラゴンクエスト』の代名詞ともいえる魔物であるスライムを見たが、現実での姿は思ったよりもゼリー質でひんやりしていそうだった。暑い夏に抱きかかえて寝たらさぞ気持ちいいことだろう。

 

「この先にロウちゃんがいるかはわからないけど、少し探していなかったらそのままデルカダールに向かいましょ」

「そうだな」

 

 

 井戸の近くで話していたら話し声につられてじごくのつかいが寄ってきたが、カミュがそれに2本の剣で3度攻撃するはやぶさ斬りを食らわせて一瞬で倒した。容赦ねぇ、とマヤが小さく呟いていたのが聞こえた。俺も、同じことを思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

 

 井戸自体は何も特別なことはなかった。前の世界で井戸に入るなんてことがなかったのは当たり前なので少し心が躍ったが、暗くじめじめとしていて長居できそうにはないな、というのが第一印象だった。

 魔物もおらずただ単調な地下道だったので休憩の意味も込めて軽く雑談しながら歩いて抜けた。井戸の向こう側はユグノア城下町に入ってすぐの光景よりもずっとショッキングであった。崩壊した城壁に、ところどころ抉れてぼこぼこになってしまっている石畳。足元に散らばって歩きにくくしている瓦礫。それらすべてが『ユグノアの悲劇』の凄惨さを物語っていた。

 

 井戸の出口から少し歩いたところに、アーウィンとエレノアを悼んで作られた墓がある。王族の墓にしてはあまりしっかりした出来ではないが、ロウが2人を思って作ったものである。いつかユグノアが復興したときにはもっと立派な墓を作るとゲーム内で言っていた気がする。こうして現実にこの墓を見た今、そうなってほしいと切に願う。

 

「ロウさん、いねぇな」

「そうだな。やっぱりここじゃないどこかにいるって考えたほうがいいのか?」

「ロウちゃんならここにいると思ったんだけどねぇ。やっぱりダメだったか」

 

 都合よくロウが墓参りしているタイミングで会えるとは最初から思ってはいなかったが、やはりどこかで期待していたのは事実である。それは皆も同じだったようだ。

 

「それでも、せっかく来たのでお墓参りをしていきましょう」

「うん、セーニャの言う通りだね」

 

 故人に失礼のないようにするのは日本でもロトゼタシアでも変わらないようだ。

 袋の中からちょっとした食べ物を取り出してお供えする。似たようなお菓子が既に置かれていたので、その隣に置いた。そういえば亡くなった祖父のお墓参りにしばらく行っていなかったな、とここで考えるには場違いすぎることが頭によぎった。こっちの世界にやってくることなど予期できたはずがないので今更感しかないが。

 

 5人でしっかりと墓参りをした。次の行き先はマルティナとグレイグがいるデルカダールである。

 

「それじゃあ、行くか」

「そうだな。……って、ちょっと待った」

「どうしたの?」

 

 デルカダールに向けて出発する流れかと思われたが、それをマヤが遮った。一体、どうしたのだろうか。

 

「この墓に備えられてる花束、いっぱいあってほとんどが枯れてるけど、1つだけまだ新しいやつがある」

「……確かに、言われてみればそうね」

 

 人一倍目ざといマヤは気付いたことを述べた。何も気にしていなかったが、確かにマヤの言う通り明らかに1つだけ新しい花束ある。他が枯れて茶色くなってしまっているのにもかかわらず、だ。水がなければ花はすぐに枯れてしまうはずであるが、その花束はとても瑞々しく、自らの美しさを最大限に表現しようと、大きな花弁をこれでもかというくらいに広げていた。

 

「そういや、レイがお供えしたお菓子の前にすでにお菓子があったよな」

「そういえばそうでしたわ」

 

 何も考えずにお供えしたが、こちらもそうである。前の世界でやっていたお墓参りは、既に親戚の誰かが掃除をして花を綺麗に整え、お線香をあげてお供えの品も置かれていた状態ですることが多かったので、『墓参り=すでに何かが置かれているもの』という認識が無意識のうちにあったのだ。カミュ達の認識は分からないが、少なくとも俺はそうなってしまっていた。

 

「もしかして、さっきまでここにロウさんがいたんじゃないかな」

 

 頭の中でこの答えにたどり着いた。この仮説が事実なら、しばらくロウに会えることができなくなってしまいそうだ。次にロウがここに来るのをいつまでも待っているわけにもいかない上に、移動するとしても、この広大なロトゼタシアで偶然会えるなどと考えるのは無理がある。

 

「ってことは入れ違いだったってことかよ! くそっ、まじか!!」

 

 カミュが悔しそうに頭を抱える。先にマルティナとグレイグに会いに行くのは簡単だが、何度も言うように、2人と合流できたとしてもロウがいなければ話にならない。それに、ロウは博識で有名な人物なので、今回の出来事について何かしら情報を持っているかもしれない。

 

「焦っても仕方ありませんわ。とにかく今はデルカダール城へ向かいましょう!」

「ええ、そうしましょ!」

 

 皆の意見が一致したので、カミュがキメラのつばさを放り投げる態勢に入る。善は急げというくらいだ。すぐに行動に移すべきだろう。

 

 

「ちょっと待たんかー!!」

 

『えっ?』

 

 

 キメラのつばさの効果によって俺たちの体がふわりと浮いた瞬間、ユグノア城跡の裏山の方からとある声が聞こえてきた。思わずその場にいた全員の声が被る。

 

 

 しかし、その声に気が付いても、もう移動を止めることは誰にもできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ありがとうございました!

 中間テストの存在を講義の30分間前に知って急いで勉強したり(詰め込んだら八割取れました)、失恋した友人を慰めたり(酒の席で泣かれました)、野外でバカ騒ぎできるイベントに行ったり(全身筋肉痛になりました)していたら執筆が遅れてしまいました。

 作者も一人の人間ですので、ご理解いただければと思います。

 また、ご感想を頂いたり、とても励みになります。お気に入りや評価も本当にうれしいですが、読者の方々と直接やり取りできるので、感想を頂けるのが一番うれしいです。

 次回以降もよろしくお願いいたします!


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第12話:ユグノアの老賢


 お疲れ様です。書きあがっていたのにポケモンをやっていたら投稿するのを忘れていたババすこでございます汗 楽しすぎですね! 現在8個目のバッジをゲットしたところです!

 自分ルール云々言っておいてもうガタガタになってしまっているのですが、今後ともよろしくお願いいたします!!

 では、本編をどうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよおっさん、いたんなら早く出て来いよな!」

 

 1度デルカダールに向けて飛び立ってしまった俺たちだったが、向こうに着いた瞬間とんぼ返りである。帰ってきても降り立ったのはユグノア城下町の入り口なので、また魔物を蹴散らしながら井戸を超えて墓の前にたどり着かなければならなくなったのは言うまでもない。

 

「いやあ、すまんのう。最近来られなかった分、今日墓参りをしておったら聞き覚えのある声がしたからちょっと驚かせようと思っての。裏山の祭壇の方に身を隠して驚かせる機会をうかがっておったのじゃ。じゃが、話がとんでもない早さでまとまっていきおって出ていくタイミングを見失ってしまってのう」

 

 どうやら俺たちは運がよかったようで、ロウは今日墓参りをしようと、偶然ここに来ていたらしかった。そんなことだったらもう1回戻ってくるんじゃなかったぜ、と小さく呟いて不貞腐れているカミュを宥めてから、会話を続ける。

 

 

 

「改めまして、お久しぶりですわ、ロウ様」

「セーニャよ、久しぶりじゃな。髪が少し伸びて雰囲気が大人っぽくなった気がするぞい」

「ありがとうございます」

「カミュもシルビアもげんきにしておったかの?」

「ああ、もちろんだぜ」

「アタシは元気いっぱいよ~ん!」

 

 この世界に来て何度か見ている旧友との再会のシーンである。やはり勇者の仲間として苦楽を共にした存在と久しぶりに会えるのは嬉しいのだろうというのが分かる。前の世界のようにどこにいても連絡が取れるスマートフォンのような端末は存在しないので、実際に会って話さないと近況が分からないのだ。どこかに定住しているのなら手紙でやり取りはできるが、ロウのような旅人相手ではそれもできない。

 

「それとおぬしは、カミュの妹の……」

「マヤだぜ。この旅はオレもついていくことにしたんだ」

「ほうほう、そうじゃったか。世界をよく見てこれからの人生の糧にするんじゃぞ」

 

 年齢的にはひ孫といっても過言ではないほどに離れているマヤ。ロウにとっては将来が楽しみな若者なのだろう。

 

「……それで、皆と行動を共にしているおぬしは、どなたかの? というより、何者じゃ?」

「えっ?」

 

 

 最後に俺に来るだろうなと思ってはいたが、予想の斜め上の話の振られ方をして少々驚いた。警戒している様子はないが、気を緩めているというわけでもない。

 

「身構えなくとも大丈夫じゃ。カミュ達が一緒にいるということは害のある人物ではないのは分かる。しかし、おぬしの発する空気が普通の人間とは少々違うと思ったのでな。失礼な問い方をした自覚はある。すまんのう」

 

 ロウもリーズレットと同様に、俺が他の人とは違うことを見抜いていたようだ。文にも武にも長けた存在であり、博識と名高いロウには分かってしまうらしい。経験の豊富さは伊達ではないようだ。

 ロウにも俺の素性を話した。もう何度も同じ話をいろいろな人にしているので、分かりやすく上手に説明するやり方が身についてきてしまっていた。これからデルカダールの2人にも話さなければならないが、きっと同じようにすれば問題ないだろう。

 

「……そうじゃったか。どうりでおぬしは人と違うと思ったわい」

 

 心底納得がいった様子でロウが頷いた。

 

「人と違う雰囲気を感じるっていうのは、どういうことなんでしょうか?」

 

 ふと疑問に思ったので聞いてみた。何がどう違うのかは自分ではわかるはずがないからである。他人から、〇〇の匂いは落ち着くなどと言われても、自分では自分の匂いなど分からないのと同様に、だ。

 

「上手く言葉にはできんがの、どこか神聖な感じがするんじゃよ。神聖といっても少し違う気がするが、概ねそのような感覚じゃ」

「神聖、ですか……」

 

 神聖といっても俺は聖職者ではない。前の世界ではただの一般社員であり、皇族だったとかそういうのもない。しかし、ロウが嘘を言っているようにも思えないので、黙って受け止めることにした。もしかすると、旅をしていれば何かが分かるかもしれない。

 

 

「ところで、どうして皆また世界を旅しておるのじゃ?」

 

 今更じゃがの、と見る者を安心させてくれそうな笑顔で付け加える。かつてユグノア王として民を統べていた時の面影を、その笑顔に見た。さぞかしユグノア王国は平和だったのだろう。

 

「それについてなのですが……」

 

 シルビアに説明したときと同様、事細かに世界に何かが訪れようとしていることを説明した。このような説明はセーニャが一番上手である。

 

「ほう……。そのようなことが……」

「なにかお心当たりはございませんか?」

 

 ロウであれば何か知っているかもしれない。それはここにいる人間が全員思っていることだろう。ダメ元ではあるが、わずかな期待を持つことくらいは許容してほしい。

 

「申し訳ないんじゃが、ワシにも分からぬ」

「そうですか……」

 

 こればっかりは仕方がないだろう。聖地ラムダの古い文献にさえ記されていないことなのだから。ロウに責任があることでもない。むしろしっていたら、それはそれで驚くべき事態であるのは間違いない。

 

「んじゃあ、今俺たちがやるべきことは、デルカダールに行ってあとの2人を仲間にすることだな」

 

 意識を切り替えるようにカミュが言う。しかし、ここで俺はとある疑問を持った。

 

「今更なんだけどさ、マルティナさんはデルカダールの王女で、グレイグさんは英雄であり騎士なんでしょ? 簡単に旅についてこられるのかなぁ」

「ん~。言われてみれば確かにそうねぇ」

 

 俺もそうだが、きっと皆も、エルバと旅をしていた時の感覚で簡単に"一緒にいられる"と思っていただろう。だが今はその時とは違う。それぞれが居場所を見つけ、日常を過ごしている。今ここにいる仲間はまだ問題ないが、一国を背負っている王女と騎士が簡単に国を空けることなどできるはずがないのは明らかだ。

 

「確かにそうかもしれないけど、行ってみないことにはわかんないとおもうぜ? 案外何とかなるかもしれないしな。いししっ」

「ええ、マヤ様の言う通りですわ」

「まぁ、それもそうだね!」

 

 こういう時、マヤのようにがむしゃらに突き進むことができる存在の一声はとても力になる。本当になんとかなる気がしてくるのだから不思議である。何とかならなかったときは、その時に考えればいい。

 

「そうと決まれば出発ね」

「ああ、そうだな」

 

 次の方向性は決まった。今度こそデルカダールに向けて出発である。

 

「ワシは、また皆とともに旅ができて嬉しいわい。よろしく頼むぞい」

「こちらこそ、足手まといになるかもしれませんがよろしくお願いします」

 

 実際、ロウが加入してくれるのはとても心強い。老いてもなお武術に長け、回復を攻撃もできる戦闘のエキスパートが加わったとなれば百人力である。

 

「よーし、では、新たなる旅立ちじゃ! ………………あっ」

 

 

 

 かっこよく決まったと思ったのも一瞬だけ。高々と右腕を掲げた衝撃で背中に背負っていたバックパックの隙間からとある本が落ちてきた。

 

「ロウちゃ~ん?」

「おい、おっさん。アンタまだこんなもん持ち歩いてたのかよ……」

「頼れるいいおじいちゃんだと思ってたのに、がっかりしたぜ」

「いやっ、これは違うんじゃ! その……さっきそこで拾って……!」

「こんな場所でそんなもん拾えるわけねぇだろ」

「うぐっ……」

 

 地面に落ちたのは、ロウと言えばこれ! とっても過言ではない本。"ムフフ本"だった。全身を使って隠したが時すでに遅し。セーニャ以外の3人から軽い軽蔑のまなざしを向けられていた。セーニャは相変わらず純粋らしい。セーニャは『以前もこのようなものを持ち歩いておりましたね。老いてもなお勉強熱心なのは尊敬ですわ』などと呟いている。そのままの純粋なセーニャでいてほしいものである。

 個人的には"鈍感側"のマヤがムフフ本に関して知っているのが意外だったが、バイキングの手下として生活していれば目にする機会もあったのだろう。バイキングに対してかなりの偏見を持った考え方であるのは許してほしい。

 

 ロウが何かを訴えるような涙目でこちらを見てくるが、ここはさすがに俺でも養護のしようがないので苦笑いで首を左右に振り、無言の返事をする。自業自得である。

 

 

 

「こ、これは……違うんじゃあああああ!!」

 

 

 ロウの大きな弁明の声が、ユグノア城跡に悲しく響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 △

 

 

 

 

 

 

 

 新たにロウを仲間に加え、6人となった俺たちは、デルカダール王国の城下町に来ていた。

 

 命の大樹が堕ち世界が闇に包まれた時、ウルノーガの手下である屍騎軍王ゾルデによりデルカダール城は占拠され、強力な魔物が闊歩する廃城となってしまっていた。今では完全に復興したというイシの村がまだ最後の砦と呼ばれていた時、デルカダールの英雄グレイグとかつて悪魔の子と呼ばれ憎まれていた勇者エルバの2人が力を合わせて城と、太陽を奪還した。

 

 奪還した後も城は魔物の巣となっていたが、世界が平和になってイシの村の復興が終わった後に、兵士や勇者の仲間の力により城内や城下町の魔物が殲滅された。それからは物事が順調に進み、イシの村の民と兵士が一丸となってデルカダール王国はもとの美しい町並みを取り戻そうと奮闘した。その甲斐もあり、今では以前にも負けず劣らず、多くの人々が行き来する場所になったそうだ。

 

 これまでに訪れたどの国よりも城下町の規模が大きく、少し路地裏に入ってしまったが最後、まともに目的地にたどり着ける気がしない。商人や観光客、旅人や兵士、住民や野良猫野良犬。多くの人や動物が街を歩き、喧騒を構成する音となっていた。

 

 

「これがデルカダール王国かぁ……」

 

 クレイモラン王国とサマディー王国しか知らないマヤが、感嘆の声を上げる。田舎者が初めて東京に来た時のような反応である。

 

「広くて迷子になったらまずいから、1人でどっかいったりするなよ?」

「わかってるって! 一々子供扱いすんな!」

 

 口ではそう言っているが、そこら中にある屋台に目を輝かせてうずうずしている様子は、どこからどう見ても子供らしく、年相応である。素直におねだりすればカミュが何か買ってくれそうなものであるが。

 

「実際、大人でも迷子になりかねん規模の城下町じゃ。ワシらも気を付けるとしよう」

「そういうロウちゃんは女性に釘付けになってるうちにはぐれないようにね?」

 

 ムフフ本のショックから先ほどようやく立ち直ったロウが注意喚起をするが、シルビアの一言によって完全に年長者の尊厳が無くなってしまった。重ね重ね言うが、自業自得である。もとからこの設定を知っていた俺からすると、本当にこういうおじいちゃんなんだ、くらいの反応であるが、マヤからしてみると幻滅するのには十分すぎたようだ。逆に、それによってマヤがロウに対して遠慮が無くなったようなので、怪我の功名というべきか。仲間の仲が良いのはいいことであると思っておこう。 

 

「仮にはぐれた場合の集合場所を決めておこうよ。城下町の入り口から城門まで一直線の通路だとしても、何かではぐれるかもしれないから」

「そうだな。そんじゃ、上流階級の奴らが住んでる地域の中心にある噴水なんてどうだ? 割と開けてるし、城門からもそんな遠くなくて分かりやすいと思うぜ」

 

 城下町のマップを開きながらカミュが言う。何度も訪れているのでほとんど覚えているが、復興作業をしたときに街並みが変わった点があるから、と新しく地図を買っていた。1枚当たりの値段はさほど高くないので、余計な出費ではあるが問題ないのだそうだ。

 

「いいと思いますわ。皆様もよろしいですか?」

 

 セーニャの問いかけに、皆が無言でうなずく。このように、もしもの時の集合場所をあらかじめ決めておくのは俺が昔から母親に教えられていたことだ。友人と遊園地に行ったときにもこれのおかげで合流できたりしている。この世界においても役に立つはずなので、母親の教育に感謝である。

 

「そういえば、1か所行きたいとこがあったんだけど、いいか?」

「どうしたの?」

 

 一刻も早くマルティナたちに会いに行かなくてはならないわけではないが、あまり時間をかけすぎるのも良くないとは思うが、どうしたのだろうか。

 

「俺がまだエルバに出会う前に、この国の下層で活動してたって話はしたことあったよな?」

「ええ。以前お話をお聞きいたしましたわ」

 

 それなら話が早い、といってから、カミュは続ける。

 

「今回デルカダールが復興したと同時に、城下町の規模を少し大きくして、下層を無くしたらしいんだ。デルカダール王がウルノーガにのっとられてたせいで下層の環境がどんどん悪化していったって話があって、元の王様に戻った時にその下層の状況を改善しようと動いたんだってさ」

「へぇ~。そんなことがあったのね」

 

 ゲームでやっていただけではわからない情報である。稀代の賢王と謳われたデルカダール王であれば、政治関連の手腕は相当のものだろう。

 

「それで、下層で宿屋を営んでた女将もこの城下町に引っ越して新しく宿屋を立てたっていう手紙がこの間クレイモランの俺とマヤが暮らしてる部屋に届いてさ。場所とかも書かれてたし1度挨拶でもしておこうかと思ってな。一応、お世話になった人だし」

「そういうことなら、さっそく向かうとしよう。そのような心掛けは大事じゃ」

 

 義理堅いカミュならではの用事である。それならば仕方ないので、城に行く前に寄るのもいいなと思った。個人的にもう少しこの町をよく見てみたいのもある。

 

「それじゃ俺について来いよ。万が一の時はさっき言ったとおりの場所でな。先に噴水にいてもらえればいい。用事を済ませた後に迎えに行くって形で」

 

 他の皆も異論はないようなので、カミュを先頭に歩き出した。

 

 

 

 

 

 宿は城下町の東側。元々下層があった方にあるらしい。下層に住んでいた人々は基本的に東側の一角に固まって住んでいるようだ。下層の雰囲気を気に入っていた人には、デルカダール王の施策に異を唱える者もいたようだが、固まって済ませることでそれをなくし、上手く問題を着地させたようだ。

 

 東側の方は、住宅ももちろん多いが、西側に比べて商店が多い。そのせいか人通りも激しく、ところによっては、満員電車とまではいかないまでも、渋谷のスクランブル交差点のような人口密度になっていた。

 

「あ、すみません」

 

 まともに歩いても何度も人に当たってしまう。その度に小さく謝罪の言葉を口にしている。あまり人ごみに慣れていない人間なので本当に大変だ。

 

 他のみんなは慣れているのか、先ほどから人とぶつかっている様子はなかったはずだ。もとより体の扱い方が上手なので、うまく歩けているのだろう。前を歩いていた仲間の方を見る。見て何か参考になればいいのだが……。

 

 

 

「……あれ? もしかして、はぐれた……?」

 

 

 

 しかし、俺の前には仲間たちの姿はなかった。何度もぶつかって謝ったりして視線を外しているうちに、はぐれてしまったようだ。はぐれた時の対策を自分から言っておいて、まさか自分がこのような状況になるとはだれが予想できただろうか。しかし、このような時こそ冷静でいなければ。俺はもう子供ではないのだから。

 

 

 この人の数では探すのも到底無理だろう。それに、慣れていない土地で下手に動き回るのはかえって迷子になる恐れがある。引き返せばいいだけなので道は分かっている。仲間たちは用事を済ませてから来るはずなので、ここは道中の屋台をじっくり眺めつつ噴水を目指すことにしよう。

 

 

 

 

 一時的にではあるが、この世界に来てからの初めての一人旅である。楽しまない手はないだろう、と前向きに考えつつ時間を潰すことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 ありがとうございました! ロウと言えばこの演出ですよね!()

 作中の主人公の母親の教育の話ですが、実は私が実際に母から教えられてたことだったりします。なんだかんだ両親の教育はしっかりしていたと思うので感謝しているんですよねぇ(照)
 お話の中に作者である私の実体験を混ぜたりしているので、「あ、こいつこういうこと経験したことあるんだな」とか考えながら読んでいただけると多分私と仲良くなれます(誰得)

 それでは、次回以降もよろしくお願い致します!

 感想、お気に入り、評価等お待ちしております!


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