約束の先へ (光芒さん)
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約束の先へ

半年ぶりくらいに書きました。


「今井さん、こちらはどうしたら良いのでしょうか?」

 

 紗夜が真剣な顔で針を持ちながらアタシに聞いてくる。

 

「そこは短めに持って、狙いをつけてグイッとやればいいよー」

「分かりました、ありがとうございます」

 

 実演しながら教え、それを見て理解してくれた紗夜は自分の作業に戻っていった。ちょっと前までこんな風に時間を使うことは無かっただろう。これもRoseliaのおかげなのかな。

 なんて思っていると別の方から大きな音が。

 

「うえーん、せっかく作ってたのに落としちゃったー!」

「あこちゃん、落ち着いて。私多く作ってるから、とりあえず片付けよう……?」

 

 どうしたのかとキッチンに向かうと小麦粉だらけのあことそれを見てあたふたする燐子の姿が。

 

「あららすごいことになってるね。あこ、ここはアタシと燐子が片付けておくから着替えてきなよ」

「うん、ありがとうリサ姉。ごめんなさい……」

「大丈夫大丈夫! ほら、早くいかなきゃ洗濯できないからさ」

 

 そうして悲しそうな顔をしているあこをお風呂に送りだし、残った燐子と一緒に片づけを始める。

 

「すみません今井さん。私の不注意で今井さんに手伝わせてしまって……」

「気にしない気にしない。誰にでも失敗はあるからさ、とりあえず片付けちゃお!」

 

 あこと燐子は新しい事に挑戦しているんだ。アタシはアタシができる範囲でみんなのことを支えてあげなきゃね。

 

「今井さんはこんな風に失敗したことはあるんですか?」

「そりゃもちろん! アタシなんて失敗ばっかしてたからママにいつも片付け手伝ってもらってたしね」

 

 アタシがそういうと燐子は驚いた顔をする。今でこそ手際よくお菓子や料理が作れるものの、小さなころは失敗しては作りなおしてを繰り返していた。最初からできる人間なんて一握りなんだ。

 

「そうだったんですね。頑張ろうと思ったきっかけはあるんですか?」

「まずは真剣に教えてくれたママへの恩返しかな。あとは友希那のクッキー食べてる顔が見たかったのもあったかも」

「昔から仲が良かったんですね」

「そうだね、こうして今でも一緒にいることが多いくらいだし。アタシから見たらあこと燐子も十分に仲良しに見えるけどね!」

 

 アタシの一言で照れるように真っ赤になる彼女を見て頬が緩む。こうして燐子が自分の気持ちを言葉にしてくれるようになったのも今までの積み重ねがあったからかな。

 それから二人でいろんな話をしながら掃除を続け、あらかた片付いたところでお風呂から戻ってきたあこがこちらに駆けてくる。

 

「りんりん、リサ姉、もう全部片付いたの!?」

「燐子が手際よくてササっと終わったよー! ほらちゃんとお礼言わなきゃ」

「りんりん! ありがとう!」

「う、うん。それじゃ、気を取り直してまた作ろっか」

「あこ頑張っちゃうぞー! リサ姉もありがとう!」

「なんのなんの、何か困ったことがあったらすぐに聞いてね!」

「はーい!」

 

 あこと燐子が作業に戻ったのを確認して、あこの洗濯物を取り込もうとしたところでリビングの方から「痛っ!」と小さな声が。

 どうやら紗夜が怪我をしたのだろう。そっちに駆けて行こうとしたらまたもやキッチンから大きな音が響く。

 

「りんりーん!」

 

 どうやら今日も休む暇はなさそうだ。

 

 

 

 

 

「リサ、今週の練習についてだけど……リサ?」

「……ん? あーごめんごめん、どこにする?」

 

 上の空になっていた。自分の話を聞いていなかったからか友希那が怪しげにこちらを覗き込む。

 そんなアタシは反射的に目を反らす。それを見た友希那が負け時とアタシと目を合わせようとしてくる。その目からは強い意思を感じる。

 

「貴女、最近忙しそうね。今も目に疲れが見えるもの」

「あーちょっと色々あってね……あはは~、練習には持ち込まないから安心して」

 

 それでもアタシは友希那と目を合わせられない。多分目を合わせたら一瞬でバレてしまう。これは幼馴染のカンというやつだろう。

 

「そう、それならいいのだけれど。それでも疲れた顔をしているリサは心配だわ」

 

 語尾が小さくなり、そこでアタシは初めて友希那と目を合わせた。その瞳は僅かではあるが涙で潤んでおり、見惚れてしまうほど美しく、そして儚げに感じた。

 心配かけすぎたろうか。アタシは少し焦りながらも言葉を投げかける。

 

「大丈夫だって。体に異常が出てくる前にちゃんと休むから」

 

 今はこんなことしか言えない。笑顔はぎこちない。でもこれ以上口にしてしまえばこれまでの計画が破綻してしまうかもしれない。全部は友希那の為に、みんなでやってきたことだから。今はこれが精一杯。

 

 アタシの言葉を聞いて少し安心したのか友希那そっと微笑んだ。さっきまでの様子は一ミリも見当たらない。なんとか窮地を脱したと思っていた。

 

「そうね。病気になってからでは困るもの。それじゃあリサ、こっちに来て頂戴」

「ん? わかった」

 

 手招きする友希那のほうへ近寄ると彼女は自分の膝をポンポンと叩く。

 

「今は異常が出てないのでしょう? それならこうして時間のある時に休むべきだと考えたの」

「うん、それはわかるんだけどさ。その手は何?」

「何って膝枕をしようと思っていたのだけど」

「え?」

 

 驚くアタシに友希那はキョトンと首を傾げる。その顔からは「なにかおかしいこと言ったかしら」という意味を感じれる。

 

「いくらあれでも膝枕は……アタシ達もう高校生だよ?」

「別にいいんじゃないかしら。私はよく公園やドラマでこうしてるのを見たことがあるけれど」

 

 知らないうちに友希那がいろんな世界に目を通していた。嬉しさ半面寂しさ半面……違う違うそうじゃなくて、今は真っ当な理由を答えねば。そう思いながら頭をひねっていると友希那がこちらを覗いてくる。そして上目遣いでこう言った。

 

「私じゃ、嫌かしら……?」

 

 滅相もございません。アタシの陳腐な考えは一瞬で消え去り、頭には膝枕に寝るという一文しか出てこなかった。

 

「友希那がそこまで言うなら少しだけ休ませてもらおうかな」

「ええ」

 

 そして彼女の膝にすべてを預ける。最初こそドキドキしていたものの、段々と心地よさが勝り気づけば意識を手放していた。遠のいていく意識の中、彼女の声が少しだけ聞こえた。

 

「いつもありがとう、リサ」

 

 

 

 

 

 いよいよ明日が本番。アタシと紗夜、あこ、燐子は最終準備に取り掛かっていた。

 

「紗夜、クッキーの生地作りは終わった?」

「はい、あとはオーブンで焼くだけです」

「オッケー! 燐子とあこは飾り付けはどこまで進んだ?」

「あとはあこ達が手に持ってる分で終わりだよ!」

「終わったら、何をしたら良いでしょうか……?」

「とりあえず一通り終わったら休憩にしよっか!」

 

 みんなにそう伝え、アタシも自分の作業を終わらせる。

 料理の下ごしらえを終え、明日やることをメモ帳にまとめ上げる。あとは終わった仕事の確認と片付けをしたら終了だ。

 

「よーし、みんな休憩にしよっかー」

「やったー! あこもうクタクタだよー……」

「私もちょっと……」

「こちらもキリよくなりましたので休憩します」

 

 各々がやるべきこと終えたようなので休憩タイムに入ることにした。

 あこと燐子はリビングに戻ってくるなりソファでぐったりしており、紗夜も顔こそ涼しいものの少し呼吸が荒い。それだけみんなが真剣にやってくれてると考えるだけで胸が熱くなってくる。本当にいいメンバーだなと、改めて感じた。

 

「それじゃあ休憩用に焼いておいたクッキー出してくるね! みんな飲み物なにがいい?」

 

 それぞれの注文を聞きキッチンに向かう。さっきまで動いてたこともあって開けた冷蔵庫の風がものすごく冷たく感じる。

 

「今井さん、何か手伝うことはありますか?」

「あーありがと。飲み物注いでもらってもいい?」

 

 アタシがそういうと、紗夜はすぐに行動に移ってくれた。おかげで準備に時間がかかることなくみんなでティータイムに移ることができた。

 紅茶で一息つき、早速クッキーに手をつけようとしたら、あこが思い出したかのように声を上げる。

 

「そういえば友希那さんのプレゼント決まりました? あこ、どれが合うかわからなくて悩んでるんですけど……」

「でしたら悩んでるものを見せてください。私達の意見が参考になるかもしれませんから」

「……紗夜さん! はい、今すぐ写真出します!」

 

 そういって誰よりも先にあこの相談に乗り始めた。日菜とちゃんと話すようになって、Roseliaのみんなが一つになっていく中、紗夜は誰よりも変わったと思う。その証拠として、今日まで準備を手伝ってくれたり、自分のできることを増やそうとしているのだろう。

 あこが写真を見せる度に真剣な顔で頷き考えてる紗夜。それを見守る燐子のもとへ、アタシはササっと移動する。

 

「燐子はもうプレゼント決まってるの?」

「はい。友希那さんの好みに合わせた洋服を選びました……」

「へーどんなの?」

 

 そういうと燐子はスマホの写真を見せてくれた。すっごく友希那のイメージに合う色合いと作りになっている。猫の刺繍がいいポイントだ、これなら友希那が喜んで着てくれそう。

 

「さすが燐子だね!」

「いえ、そんな……今井さんはどんなのにしたんですか?」

「アタシ? 今年はアクセにしようかなって思ってこれにしたんだ」

 

 この前買ったヘアアクセの写真を見せる。それを見た燐子は柔らかい笑顔を向けてきた。

 

「可愛いですね、これなら学校でもつけれますし……」

「燐子にそう言ってもらえるならよかった! あとは友希那に喜んでもらえればいいんだけど」

「友希那さん、喜んでくれると思います。今井さんからのプレゼントなら尚更です」

「そうだといいなぁ」

 

 そのあとも二人で話していると、写真と睨めっこしていたあこと紗夜がこちらに声をかけてきた。

 

「今井さん、白金さん、宇田川さんがこの二種類で悩んでいるそうなのですが意見をもらっていいでしょうか?」

「はいはい。紗夜はどっちにしたの?」

「私はこちらですね」

「お、いいね。アタシもそっちいいなって思ったんだ。燐子はどっちがいいと思う?」

「私も、二人と同じのがいいと思いました」

 

 三人が一致した。あこはみんなの意見を聞き、その結果黒と白の禍々しい(?)ポーチに決めた。帰りに買っていくと言っていたので、またあとで連絡してあげよう。

 あこの悩みも解決したので、再びティータイムに戻りみんなで学校での出来事や今後の練習について話し合ったりした。

 ママが鳴らしたチャイムを合図に、日も暮れ始めていたので明日の予定と持ち物を確認したうえで解散することにした。

 年に一度の友希那の誕生日、絶対喜んでもらえるものにしなくちゃ。

 

 部屋に戻るとあこから着信が。

『あ、リサ姉! 明日のプレゼントちゃんと買えたよー!』

「お、よかったじゃん! これで明日はバッチリだね☆」

『うん! 明日は友希那さんを全力で祝うぞー! ね、りんりん!』

『そうだね。いつもの感謝を込めて祝おうね』

『それじゃ、リサ姉また明日ね!』

「うん、また明日! 気をつけて帰ってね!」

 

 通話を切るとあこから一枚の写真が。本当に派手だなーと思いながら見ていると、写真の端にキラリ光るものが。

 

「これ、なんだろう……石?」

 

 あこがポーチを買ったお店の隣の店のものと思われるある商品に目を引かれた。その後ろの滲んだ看板に何かが書かれている。

 

「なになに? 誕生日に……? あ、これいいかも!」

 

 アタシはカバンにお財布が入ってることを確認して、ダッシュで家を出た。

 

 

 

 

 

 家のチャイムがなる。駆け足で玄関に向かい、ドアを開けるといつもよりちょっとオシャレな服装をした友希那が立っていた。

 

「いらっしゃい! 待ってたよー」

「ええ、それじゃお邪魔するわ」

 

 靴を脱ぎ終えた友希那を会場へ手招く。友希那にはママが料理をご馳走してくれるとしか言っていない。他の三人がいるのは秘密にしてある。

 アタシは一度リビングに戻る振りをして、友希那を会場に送り出す。入口の前に置いておいたケーキを持ってスタンバイ……。

 

 友希那が扉を開けると同時に盛大なクラッカー音が家中に響いた。友希那はいきなりのことでビックリしながら固まっている。

 

「「「友希那(湊)さん、お誕生日おめでとうございます!」」」

「あ、ありがとう……」

 

 みんなに祝われてることはわかってるけど、そんなことよりビックリしているのが強いようだ。固まってる友希那の後ろから硬直を解くようにゆっくり話しかける。

 

「ほらほら、主役がそんなんじゃダメだよー? ケーキも持ってきたから早くいこ!」

 

 そういって友希那を動かすとようやく普段通りの顔に戻り、一度咳払いをしてから自分の席に移動した。さっきの顔はなかなか珍しかったなー。

 ここにいる全員が着席したのを確認し、昨日決めた順番に合わせて進行していく。

 

「それじゃ、これから友希那誕生日パーティー始めるよー!」

「我が闇の軍勢を率いし紫炎の……りんりん、ここなんて言えばいいかな!?」

「歌姫でいいと思うよ、あこちゃん」

「宇田川さんはいつも通りですね……」

「まあまあ、変にかしこまるよりいいと思うよ! ではまずは主役の友希那から一言ー!」

 

 友希那に目をやると「何を言えばいいのかしら」と言いたげな目をしてきた。「そこはなんとかして☆」と目をやると小さく溜息をつかれた。ファイト友希那。

 

「みんな今日はありがとう。私の為に集まってくれて感謝するわ」

 

 主役が座ったので挨拶はこれで終わりということだろう。では次にいこう。

 

「はい、友希那が照れているところで次は食事にしよっか!」

「別に、照れてなんかないわ」

「そんなこと言ってー、顔が赤いぞー?」

 

 指摘すると顔を反らしてしまった。このまま弄り続けても友希那が拗ねちゃうので、休憩がてら料理を運ぶことにした。ママがキッチンに作っておいてくれてるのでリビングへ向かう。キッチンにはオードブルを思わせるほどの大きなお皿に大量の料理が。ママも随分気合が入っていたようだ。

 

「おまたせー、うちのママ特製料理だよ! じゃんじゃん食べちゃってね!」

「わー、美味しそう! ね、皆さん早く食べましょうよ!」

「宇田川さん、今日は湊さんの誕生日ですよ?」

「うー! そんなこと言ってる紗夜さんはどこに目を向けてるんですか?」

 

 注意されたことへの反撃なのか、紗夜の視線について指摘するあこ。それに対してギクッと少し震える紗夜。アタシも見ていたんだ、誰もポテト盗み食いしないから安心して。

 

「紗夜、あこ。そんなに気にしなくてもいつも通りでいいわ。それに料理はたくさんあるんだから」

「友希那さん!」

「湊さんがそこまで言うなら……」

「ええ。リサ、他に手伝うことはある?」

「今取り皿もってきたら何もないよ! ちょっと待っててね」

 

 こうしてRoseliaのみんなでの食事タイムは始まった。

 学校のこと、バンドのこと、いろんな話をした。ほとんどはあこが話した内容から紗夜と燐子が膨らませ、アタシと友希那が時々答える感じ。

 たわいもない話ばっかだけど、アタシ達だからこそこの時間は何にも代えがたいものだと強く感じながらみんなの会話を聞いていた。

 

 

 

「それじゃそろそろアレにします?」

「だねー! みんな準備はいい?」

「ええ。いつでも」

「はい、大丈夫です……」

 

 食事を終え、話のキリも良くなったところで合図をする。全員の準備ができたので、友希那のバースデーケーキとクッキー、そしてそれぞれ渡すプレゼントを用意する。

 

「はい、それでは本日のメインであるお祝いタイムになります! 日頃アタシ達を引っ張ってくれる友希那のために感謝を込めて祝いましょう!」

「おー!」

「そうですね」

「はい、頑張ります」

「それじゃあいくよー! せーのっ」

 

 日頃からの感謝を込めて、ありがとうを歌う。

 

『happy birthday to you~』

 

「「「「おめでとう(ございます)!」」」」

「みんなありがとう」

 

 そう言って友希那はケーキに灯された火を消す。消し終えると同時に部屋は拍手の音に包まれた。

 

「はい、じゃあみんなプレゼント渡していこうか!」

「あこから行きます! 友希那さんこれどうぞ!」

「ありがとう。開けてもいいかしら?」

「もちろんです!」

 

 あこの包みを開けるとこの前みんなで決めたあこのポーチが。友希那が少しだけど微笑み、それを見たあこはさらに笑顔になった。

 

「素敵なポーチね。大事に使わせてもらうわ」

「えへへ。次は誰ですか?」

「では私が」

 

 次は後ろで待っていた紗夜。紗夜は二つ袋を取り出した。

 

「こちらは練習の後に使えるものをまとめています。湊さんの体調管理に役立てていただけたら幸いです」

「ありがとう紗夜」

「それとこちらなのですが……」

 

 少し不安な表情でこちらを見てくる紗夜。大丈夫だよってウインクすると意を決して友希那に向き直る。紗夜の頑張りはちゃんと伝わるよ、アタシはちゃんと見ていたから。

 

「こちら手作りですが、あの……手袋を編みました」

 

 袋から取り出したのは手作りの手袋。ワンポイントで猫の刺繍も入れてある。これは紗夜に聞かれてアタシがアドバイスしてつけたものだ。

 

「あ、にゃn……可愛いわね」

「これから寒くなりますからね。もしよかったら使ってください」

「もちろん大切に使わせていただくわ」

 

 友希那の即答に紗夜はほっとしている。あの時もケガしてでも頑張ってたから尚更嬉しいのだろう。ちなみに友希那の一瞬の緩みをアタシは見逃してない。やっぱり猫効果は絶大ということを改めて実感した。

 なんて考えていると燐子に肩を叩かれる。いけないいけない脱線してしまった。

 

「じゃあ次は燐子だね」

「は、はい。友希那さん、こちらを」

 

 おどおどしながら、でも真っすぐ前を向いてプレゼントを渡す。友希那もちゃんと燐子を向き、笑顔で受け取る。

 

「これは、洋服?」

「はい。友希那さんのイメージと好きなものを考慮して、これを選びました……」

「そう、わざわざありがとう。流石、燐子のセンスは素晴らしいわ」

 

 素直に褒められたからか燐子は照れてしまった。だがちゃんと言えたことによる安心感と嬉しさの方が勝っていたのか、その顔からは眩しい笑顔が。隣に移動していた紗夜とあこもその様子をみて笑みをこぼしている。

 少ししたら燐子もこちらに移動してきたので、ついにアタシの番が回ってくる。少しだけ緊張してしまうのはみんなが一斉にこちらを向いたからだと思いたい。

 

「最後はアタシからだね。まずはこちら!」

 

 テーブルの下から紙袋を取り出し友希那に差し出す。彼女はゆっくり開け、中身を取り出す。

 

「これはシュシュかしら」

「うん、練習で髪をまとめる時に使えるかなってさ。友希那あんまり凝ったもの使わないから折角だと思ってこれにしたんだ」

「そうなのね。ありがとうリサ」

「うん! 何種類かあるから好きなのつかってね! そしてさらにもう一個」

 

 更にテーブルのしたから小さな箱を取り出し、友希那に差し出す。それを受けとり、目で合図を送ってきたので、アタシは首肯で返した。

 彼女は箱に視線を戻しゆっくり箱を開ける。そこには小さな石をベースにしたネックレスがキラリと輝いていた。

 

「綺麗……」

 

 友希那はそれ以外の言葉が出ないようだ。こんな反応してもらえるなら昨日急いで買ってきた甲斐があるね。なんてちょっとだけ満足感に浸っているとちょんちょんと肩をつつかれる。

 

「リサ、これつけてくれるかしら?」

 

 思いがけない一言だった。

 

「え?あっうん、ちょっとそれ貸してくれる?」

 

 ネックレスを受け取り彼女の後ろに回る。眼前には彼女綺麗な首筋が広がり、変に意識してしまう。それにこの光景はまるで恋人にするようなものではないだろうか。昔読んだ恋愛小説にこんなシーンがあった気がする。

 とはいえそんなことを気にしていたら他のみんなか変な目で見られかねない、ここは深呼吸深呼吸……。

 落ち着いて留め具を外し首に通す。銀の髪と白い肌に眩しい石の光沢が映える。つけたのを確認したら留め直して完成だ。

 

「はい終わったよ!」

 

 そういうと先程まで閉じていた目を開け、友希那は自分につけられている姿をみんなに確認する。

 

「えっと、みんなどうかしら?」

 

 少し不安そうな顔で尋ねるが、みんなは笑顔で応えた。

 

「湊さん綺麗ですよ」

「友希那さん……似合ってます」

「世界惑わす麗しの姫君というか……とにかく可愛いです友希那さん!」

 

 そう言われ安心した表情になった。

 

「リサ、どう?」

 

 アタシの方を振り返る。伝える言葉は既に決まっている。

 

「うん、似合ってるよ友希那」

 

 

 

 

 

 あのあと全員で記念写真を撮り、日が暮れる頃には片付けを終えて解散した。

 今は友希那と2人で近くの公演に来ている。ベンチに座り星空を眺めればいつもよりも一際輝いて見える。

 

「リサ、今日はありがとう」

「どういたしまして。次会う時にみんなにも伝えてあげてね」

「ええ、そうするわ」

 

 会話が続かない。といっても普段はアタシから一方的に話しかけては友希那が応えるって場面が多かったので、アタシがなにか思い浮かばなければ基本的に続くことはない。

 しかし少し間が空いてから口を開いたのは友希那だった。

 

「少し前だったら、今日みたいな日は無駄な時間と感じていたかもしれない」

 

 確かに昔の友希那は音楽以外に目もくれなかった。彼女の心にはそんな余裕すらなかったようにも感じる。

 

「でも今日してもらったことは凄く嬉しかったわ」

「そうだね。またRoseliaの絆が強くなったかもしれないね」

「ええ。私達が目指す頂点に到達する為には確実に必要だとそう思えた」

 

 友希那の目を見ると彼女の目からは力強さが溢れていた。

 

「友希那にそう言って貰えるなら準備した甲斐があったよー。あこは粉まみれになるし、紗夜はケガするし大変だったけどね」

「それなら尚更お礼は言わなきゃいけないわね」

「うんうん、そうしてあげて」

 

 そういえば、と思い出したように友希那がこちらに尋ねてくる。

 

「リサがくれたネックレス、あれにはなにか特別な意味があるのかしら?」

「そうだね。あれは友希那の誕生日石を使ってるんだ」

「そんなものがあるのね」

 

 友希那は意外だと驚いてるようだ。アタシも誕生日石だけならそこまで気にしてなかったけど、その意味があの時送られてきたあこの写真についていたのだ。

 

「そうだよ。その意味が友希那にピッタリでさ。これしかない! って思ったんだ」

「どんな意味なの?」

「仲良くなるって意味もあるし、チャンスをつかめるって意味だよ。Roseliaがひとつになったり、この前のフェスでまた一歩FWFに近づいたり、そんなところから友希那に合うなって」

 

 友希那はアタシの話を聞きながら少し考えていた。何を考えているのかは今のアタシには分からない。

 

「なるほどね。確かに今の私に合うと思うわ。でもひとつだけ違うことがあるわ」

「え?」

「チャンスは石やおまじないに掴ませてもらうんじゃない。私達が自ら掴むことだわ」

 

 彼女の言葉には重さを感じる。よく考えてみれば今までもアタシ達は自分達で道を見つけてきた。それは確かに自分達の意思だと友希那は思ったのだろう。

 

「だからこれからもたくさんの練習とライブを通して、必ず頂点に咲く。それが私……私達Roseliaよ」

 

 彼女は強くそういった。

 友希那の言葉に思わず涙が出そうになる。ちょっと感動してしまった。

 

「リサ、どうして泣いてるの?」

「だってぇ、友希那がいい事言うから感動しちゃって……」

「貴女は相変わらずね。でもその優しさにいつも支えられている」

 

 そっとアタシの肩に手を置いてくれる。

 

「これからもRoseliaには貴女が必要なの、リサ。Roseliaに全てをかける覚悟はある?」

「うん! うん! これからも友希那とRoseliaの為に頑張る!」

 

 これからもこうしていられるように、友希那と誓ったあの日の約束の為に、アタシはこれからもみんなの力になっていこうと思った。

 

 この後も感動のあまり泣き終えるまで友希那にそばに居てもらった。夜空の星が先程よりも眩しく見えた、そんな気がした。



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