絶望したヒーロー志願者と愛を望んだ少女 (龍宮院奏)
しおりを挟む

第一話再開と終わりの始まり

「俺、大きくなったらヒーローになって、さあやちゃんを悪い奴らから守ってみせる」
小さな少年は無邪気にそう言った。
「うん!じゃあ、れいくんがヒーローになって私を悪い奴らから守ってね」
小さな少女は、その少年に無邪気に微笑み返す。
「うん!約束する、ヒーローは約束を守るから!」
「じゃあ約束だよ」
小さな指を絡ませて指切りをする。
「れいくんの事、私だいすき。だから、大きくなったられいくんのお嫁さんになる!」
少女は言う、心のままに。
「俺も、さあやちゃんの事だいすきだよ。さあやちゃんの旦那さんになる!」
少年は答える、心のままに。
 こんな綺麗な日々が俺にもあったんだ…ナノニドウシテ…。
 こんな笑い合っていた日々が私にもあったんだ…、ダカラモウイチド…。
 少年は進む、暗く深い憎しみの道を。少女は進む、脆く歪んだ愛の道を。


 なんでこんなにも全てが憎いのだろう。

「そ、そんな。うわぁ……」

爆発の荒波に飲まれ無残に消える声。そんな声を置き去りに、残骸を薙ぎ払い敵を狩る。

 

「いつの間に後ろに。けど、これでも喰らえ!」

降り注ぐ弾丸の雨。

 

「これがお前の最後だ」

ファンネルからの猛攻。

 

「あいつの仇……」

剣を構え突撃を仕掛ける者。

 

 様々な攻撃が同時に襲いかかるが、

 

「煩い……煩い……。あぁぁぁ、煩い!何だよ……本当に何なんだよ。早く消えてくれよ……、俺の目の前から早く消えてくれよ……」

見せつけるように輝く光、俺には失われた光。

 

 閃光が全てを掻き消した。勝利への希望も、信じた未来も、仲間からの思いも……。

 全てが光に飲み込まれた。

 

『battle end winner Kuremiya Rei』

システムがバトルの終了を無慈悲に告げる。

 

「だから言っただろ…、憎いって…。お前らみたいなのが、1番憎いって……」

そう言い残し、GPベースと愛機を回収してその場を後にした。

 

 憎い、憎い、憎い……、この世の全てが憎い…。

 何時、何故だったのだろうか。今となっては、憎みすぎてその理由すら忘れてしまった。

 

 そんな自分がまた憎い。どうして俺の心は、

 

「こんなに晴れないんだろう……」

眩しく輝く太陽の光が体を照らす。

 

すると、突然ゴンッ!後頭部に鈍い金属音が響き、痛みが後から襲ってくる。

 

「お前の方こそ何なんだよ!」

 

「憎い、憎いって。かってに逆恨みしてんじゃねぇよ」

声からしてさっき戦ったファイター達だろうと予想が付いた。

 

「お前のほうが消えてくれよ……」

吐き捨てるように残された言葉を聞きながら、地面に倒れ込んだ。

 それからは、囲まれて襲った奴らの気が済むまで体中を蹴られ続けた。

 それを只々、黙って耐え続ける。周りからは奇異の目で見られるが、誰も助けには来てくれない。

 持っていたカバンを腕の中に抱え込み、中に有る物のために体を盾にして耐え続けた。

 次第に意識が遠のき、蝋燭の火が消えるように、ふと消えた。

 

「あ、あの大丈夫ですか?」

 

 襲った奴らとは違う声に、事切れた意識が目覚める。

 その声へと意識を向ける。少し視界が紅く霞んでいてよく見えない。多分頭のどこかから、出血した所為だろう。

 しかし、俺への憂さ晴らしは終わったらしい。

 

「だ、大丈夫だ……」

返事をし、立ちあがる。その場を一刻も早く離れようとするが、思ったように体に力が入らずに再び意識を失った。

 消える瞬間、

「ちょ!今救急車を呼びますから」

僅かながらに聞こえた。

 

 目が覚めると、真っ白なカーテンに覆われた部屋に居た。

 どことなく消毒液の匂いが立ち込めている。

 俺はさっき……、

 

「あ、目が覚めたんだね」

まだ少し朦朧とする意識の中で、聞き覚えの有る声の人物がベッドの隣に座っていた。

 

「お医者さんが言うには、『傷は多いけど、安静にしていれば大丈夫』だって」

山吹の髪の毛をした少女は笑顔で言う。

 

「あの……誰ですか……?」

 

「ちょっと、助けた張本人に対しての第一声がそれなの?」

苦笑した後、ぷくっと頬を膨らませる少女。その姿が素直に可愛かった。

 

「あ、ありがとう」

感謝の礼を言うものの、どことなく気恥ずかしで顔を見ることが出来ない。

 

「良いよ、困っている人をほおっておけないの。それに君は、頭から血を流して倒れていたんだから尚更だよ」

 

「そうなんだ……、それで病院に……」

 

「最初はかなり焦ったんだからね」

無事に俺が目を覚ました事に安堵したのか、ほっと胸を撫で下ろしていた。

 

「そうだ、自己紹介がまだだったね。私は山吹沙綾」

助けてくれた少女は、思い出したように自分の名前を名乗った。

 

「俺は……、暮宮零」

 

「暮宮零……、じゃぁ零だね。よろしく」

友好の印と、手を差し伸べてきた。

 

「よろしく、山吹さん」

 

彼女の差し出された手を握り返す。

 

「沙綾で良いよ、私は名前で呼んでいるんだから」

 

「分かった……、沙綾」

名前で呼ぶと、満足したのか満面の笑みを浮かべていた。

 それと名前を呼ぶと、どこか懐かしい感じがした。けれど今は、まだお思い出せなかった。 

 沙綾とこうして話していると、意識がだいぶハッキリしてきた。それ故にある事を思い出した。

 

「あの、カバン!あの、カバンは?」

 

「カバン?あ〜、ちょっと待ってね」

椅子から立ち上がりどこかに向かう沙綾。あのカバンには……。

 戻ってくると、沙綾の手には望んでいた物があった。

 

「はい、これでしょ零が今言っていたのって」

 

「そう、このカバン」

少し大きめのアタッシュケースの様なカバンを沙綾から受け取る。

 そしてすぐに中を開ける。

 

「零が倒れている時に、それを凄い抱きしめて倒れていたから。一緒に持ってきたの」

沙綾が横で話しているが、今は耳に入らない。今一番大事なのは……。

 

「相棒、生きてたか……」

中に大事にしまわれた、ガンプラのセットだった。

 

「何それ?」

横から覗き込むようにして中を見る沙綾。顔が近いのは、正直恥ずかしかった。

 

「俺の相棒」

カバンから取り出し、どこか異常が無いか確かめる。腕も足も問題なく可動する。装甲はさっきの戦いで少し傷があるから直さないと。

「問題なし、良かった……」

安心して溜息が出る。

 

「そんなに大事なんだね。その相棒?が」

俺の相棒をじっと見つめながら。

 

「俺が、俺たる為のガンプラだから」

ぽつりと言葉を紡いだ。

 

「そうなんだ……、何だか本当に大事なものなんだね」

「まぁ……」

そんな会話をしていると、部屋の扉が開き看護師が入ってきた。

 

「あ、目が覚めたみたいね。ほんと、彼女が居なかったらもっと酷かったんだから。幸い、通報が早くて良かったけど」

 

「はぁ……」

そんなに酷かったのか?自分ではもう良く分からなかった。

 

「起きて話せているのなら大丈夫だと思うけど。一応、最後に検査だけするから。そこで異常がなければ退院して平気よ」

看護師は手に持った資料を見ながら言ってきた。

 

「わかりました」

隣にいる沙綾の方を見ると『大丈夫だよ』と言ってくれている気がした。

 

「じゃあ、検査をお願いします」

 

「はい、じゃあこちらにどうぞ」

看護師に連れられて、検査に向かった。

 

 それから検査をしたが、特に異常は無く無事に退院することが出来た。

 

「そういえば、零は家どこなの?」

 

 病院からの帰り道、沙綾は『心配だから』とついて来た。

『心配は無い』と言ったのだが、

『怪我人が何言ってるの、良いからここまで来たんだから。付き合わせてよ』と説得されてしまい、結局負けた。

 そのため沙綾と二人、自宅の帰路を歩いている。

 

「ここから、少し行った所。近くにあの何か大きな遊具の有る公園の」

 

「あ〜、あそこか。何となく分かってきた気がする」

それから黙々と歩いていくと、自宅に着いた。と言っても、アパートの一室なのだが。

 

「零、もしかして一人暮らし?」

 

「そうだけど?」

 

「ふ〜ん、そうなんだ」

何でそんな事を聞くのだろう?

 

「どうかしたか?」

 

「ううん、なんでもないよ」

沙綾がそう言うなら、何も無いだろう。沙綾に対しては、何故だか会ったばかりなのに、凄い安心感が持てていた。

 

「今日はありがとう、助けてもらったうえに家まで送ってくれて……」

頭を深々と下げる。それを見かねた沙綾は、

 

「良いって大げさな、だからもう顔を上げて」

慌てて顔を上げるように言うので、顔を上げる。

 

「あ、そうだ。折角知り合えたんだから、また何か困ったことがあったら連絡して。これ、私の連絡先」

ポケットから連絡先が書かれた、小さな紙を受け取る。

 

「うん、ありがとう……」

「どう、いたしまして。それじゃ、またね零」

挨拶を告げ去っていった。夕暮れに照らし出される山吹色の髪が幻想的に見えた。

けどこの姿を……何処かで……。

 

「あ、沙綾」

 

「?どうかした?」

あまりの事につい引き止めてしまった。

「あ、いや……。俺と沙綾って、昔何処かで会っていたりした?それもかなり小さい頃に」

 

「……」

沙綾の顔が一瞬だけ驚いたようにも見えたが、すぐに、

 

「そんな事無いよ、今回が初めてだよ。それに小さい頃の記憶じゃ曖昧だから、きっと零の思い違いだよ」

苦笑いで返されてしまった。

 

そだよな、今日出会ったばかりで。それも助けてもらった事できっと何かを覚えたのだろう。

小さい頃の記憶なんて曖昧なものだもんな……。

「変なことを聞いたな、悪い……。じゃあな」

 

「うんん、じゃぁね。零」

 

沙綾を見送り部屋に入った。

 

「ただいま……」

誰も居ない部屋に自分一人の声が木霊する。

 玄関に飾ってあった写真をふと手に取り見てみた。

「やっぱり、他人の空似だったのかな。ヒーローになるか……」

その写真には、幼い頃の零と山吹色の髪をした少女が笑顔で写っていた。

 

 あの頃は……、この子が居たから笑えていたんだ……。

 

 夕暮れに染まる道を一人歩く沙綾は、何処か嬉しそうだった。

 それもそうだった、しかしこの事はまだ沙綾しか知らない。

 

「ただいま。お父さん、お店の方大丈夫だった?」

家に着き、お店の入り口から入ると丁度片付けをしているところだった。

 

「おかえり、沙綾。こっちは大丈夫だよ、それよりそっちの方が大変だっただろ」

 

「あー、大丈夫だったよ。最初は頭から血を流して倒れていたからびっくりしたけど。すぐ救急車を呼んで、病院で見てもらったから。安静にしていればすぐに治るって事で退院して、家まで送ってきた」

 

「そうか、そうか」

割と心配してようで、話を聞くたびに頷いてくれた。

 

「それにしても、一体何があったんだろうな?そんな怪我をするだなんて」

考え込むお父さん。

 

「わかんないよ、でも元気そうだったから。これからまた様子見に行くよ」

 

「わかった。それと沙綾」

 

「何お父さん?」

 

「何か良いことでもあったのか?さっきからずっと楽しそうな顔してるぞ?」

 

「そ、そんな顔してたかな?」

言われて自分の状態に気づいた。でもあったのは事実だ。

 

「こ、今度教えてあげるから」

と、言い残しお店から上がり自分の部屋へ向かった。

 

 部屋に入るとクローゼットの奥の方から、一つの小さな箱を取り出した。

 

「あった、あった」

蓋を開けて中を見てみると、幼い頃の私と満面の笑みを浮かべる少年が並んでいる写真が出てきた。

 写真を手に取り、そのままベッドにダイブした。

 

「やっと帰ってきたね、零……」

 

零はまだはっきりとは思い出してはいないようだけど。名前を聞いた時に気づいたんだ。

 親の都合で零はこの街を離れちゃったけど、約束してくれたもんね……。

 

「はぁ〜…、零……」

写真を抱きしめ、誰かに言うのでもなく、ただ一人天井に向かってその名前を呼ぶ。

 そして、

「今度は、こんどこそは。零、かなえさせてもらうよ……。アノトキノネガイヲ……」




始めまして、龍宮院奏です。え〜と趣味でもともと小説は書いていたのですが、この度このハーメルンさんの?様かな?のサイトでネット小説を始めることにしました。
文章の描写や、内容では力が及ばないところが有るかもしれませんが、どうか一つよろしくお願いします。
 アドバイスや、感想をお待ちしております。改めて、よろしくお願いスます。

私が一番好きなガンダムは、ガンダムデスサイズヘル(EW版)です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話入学と再始動

「れいくん、れいくん」
さあやちゃんが呼んでいる、何だろう?
 幼稚園を卒園して、また二人今度は小学生になった。
 小学校でお友達もできて楽しいけど、やっぱりさあやちゃんと居るほうが楽しい。

「なに、さあやちゃん?」

「はい、これ!お誕生日おめでとう!れいくん」
さあやちゃんの手には、少し大きめの袋に包まれた箱と、手紙が添えてあった。

「え!ありがとう」
プレゼントを受け取り、手紙を読もうとする。

「手紙は……恥ずかしいから後で……」
と止められてしまった。

「なんで〜、気になるじゃん」
せっかくのプレゼントと一緒にあるのだから、手紙の中身が気になって仕方がない。

「良いの、後でちゃんと読んでね」
念を押されてしまった。

「むぅ、分かった。じゃぁ、プレゼントは開けてみても良い?」
頬を膨らませて、拗ねた様子で言うと、

「良いよ、開けてみて」
オッケーが出たので袋を開けてみた。 
 
 すると、そこにはプラモデルの箱が入っていた。

「これ?もしかして……」

「そうだよ、れいくんが前欲しいってれいくんのお母さんに『欲しい!』って泣いて言ってたやつだよ」

「さあやちゃん……」
嬉しさで涙が溢れかえった。そしてそのままさあやちゃんに抱きついた。

「さあやちゃん、ありがとう!すっごい嬉しい!」

「ちょっと、れいくん苦しいよ…。そんな大げさだよ」
それでも、抱きしめて離れようとしない。

「このガンプラ、大事に作る。それでもって、このガンプラでガンプラバトルを始めて強くなるね」

「言ったね〜、ちゃんと大事に作ってね」
笑いながら、抱きしめ返してくる。

「うん、絶対絶対大事にする」


まただ、また昔の夢を見た。この街に帰ってきてから、否あの少女と出会ってから。

「山吹沙綾、まさか……もう10年以上も前のことなんだから……」

そんな淡い期待なんて……もうしないって決めたんだから。

 その後顔を洗い、簡単に朝食を済ませ早めに家を出た。今日は早く学校に行く必要があったのだ。

 

「行ってきます」

玄関に置かれた写真に挨拶を告げて。

 

 学校に着くや否や、目的の職員実に向かった。

 

「おー、きたきた。よろしく零くん」

そうこの街に引っ越すことになった為に、学校も転校することになったのだ。

 

「いや〜、まさか純一郎の息子が私の教え子になるだなんて」

今話しているのは、これから転入することになった花咲川学園の教師の一人、紅葉谷秋葉先生。

 僕の父・純一郎の高校時代の同級生だそう。それでいてどうやら僕の担任の先生だそうだ。

 

「よろしくお願いします……」

姉御感が強いなこの人、何か圧も強いし。

 

「それで、心の準備は出来てる?」

紅葉谷先生が尋ねてきたが、良く分からなかった。

 

「その顔はもしかして、知らないのか……。純一郎……、そこの説明はちゃんとしておけよ」

紅葉谷先生の背後から何とも言えない、ドス黒いオーラが一瞬チラついだが……怖いので見なかった事にした。

 

「えーと、あのそれで心の準備って?」

恐る恐る聞いてみると、心底楽しそうな笑顔でこちらを見ていた。

 あ……、嫌な予感がしてきた。俺の中の第六感が、危険信号を爆音で鳴らしている。

 

「この花咲川学園はね、2年前までは女子学校だったの」

あ……、さらに危険信号が。

 

「それで共学になったのはつい最近の事で」

 

「何となく分かってきました……」

言いたいことの予想は、胃が痛むくらいにつく。

 

「この学校の男女比率っていうの?が、男子が2か3くらいで、女子が7か8って感じなんだよね」

 

あ、高校生活の終了のお知らせか。

 

「あははは……。終わった、コミュ障な俺にどうしろと……」

 

「いや、ちゃんと男子も居るから。1クラス辺り、えーと8人位?」

紅葉谷先生が急きょフォローを入れてくる。

 

「それでも女子が多い……」

心の本音がボソッと漏れる。

 

「仕方がないでしょ、ほらシャキッとして!頑張る!」

バシッ!と背中を叩かれた。

 

「はい……」

転校して早々に、頭痛がしてきた……。

 

「じゃぁ、ホームルームの時に一緒に教室入るから。それまでは、何か自由に校内を探索して良いから。私部活の朝練見なくちゃだから」

職員室のソファーに1人残され、何処かへ行ってしまった。

 

「じゃぁ見て回るかな……」

さすがに職員室に1人で居るのは気まずかったので、校舎を見て回る事にした。

 

 が、それも結論から言うと失敗だった。

 転校してきた初日、何処に何があるのか分からずに学校内を散策するなんてした為に、現在、絶賛迷子状態である。

「ここ何処だよ〜、もう分かんないし。俺の通っていた所より広いし……」

辺りを見回しながら、さらに歩き進めた。

 すると、ある教室の前で足が止まった。

 そこの教室の名札には、『模型部』と書いてあった。

 

「開いていたりするのかな?」

冗談半分に扉に手をかけると、あっさりと扉が開いた。ここの部活、不用心過ぎるだろ……。

 

「失礼しまーす」

一応挨拶をしておく、もしも誰か居た時の為に。

朝ではあるが、カーテンで閉ざされたせいで部屋は夜の様に暗かった。電気のスイッチを探して、スイッチを入れるとその世界は広がっていた。

 明かりがついて部屋が見渡せる様になり、見えなかった棚からこの部で作られたであろう作品が並んでいた。

 その中でも、特にガンプラの種類は他の模型とは比べ物にならない量だった。

 

 最初に見に留まったのは、機動戦士ガンダムに登場するジオン公国軍のドムだった。ドムは重量感のあるボディがすごく好きで、それでいて足にホバーシステムを搭載する事で高い機動性を持っている。黒い三連星のガイアが言った、「俺を踏み台にした!」の台詞も好きで、とてもお気に入りの機体。

 

 次に目に留まったのは、これまたジオン公国軍の高機動型ザクだった。その中でも、白狼と呼ばれたエースパイロットのシン・マツナガ専用機であった。

ザビ家の三男である、ドズル・ザビ中将直結の部隊に所属していた、その白いボディはジオンの白い悪魔と言えるだろう。今まで見てきた物の中でも1番綺麗だった。

 

「こっこれは……アナタは!」

 

 今までのイメージをひっくり返し返してきた、伝説の機体。

 ガンダムデスサイズヘル(EW版)が、鎌を振りかざすポーズで置いてあった。

 死神であるこの機体は、パイロット、デュオ・マクスウェルの

 『俺を見た奴は、みーんな死んじまうんだぜ!』の死神らしからぬ台詞で敵を殲滅するのが印象的。

 その他にも、ジム・カスタム、ガンダムF91、バウ、ギラー・ドガーなどにも見入ってしまった。

 

「それは去年のコンテストに参加した作品でね。これでもあと少しで優勝だったんだよ」

振り返ると男子生徒が怪訝そうに、こちらを見ていた。

 

「あ、すみません。模型部って書いてあって、気になって……、そしたら扉が開いてて……」

慌てて勝手に入ってしまったことを謝罪する。

 

「良いよ、基本的にこの部屋は作品の展示の部屋だから。ケースには鍵が掛けてあるから」

ケースの傍を指差し、そこを見ると鍵が付いてあった。

 

「そうなんですね……」

 

「だから、全然見てくれて構わないよ。むしろ大歓迎だよ!」

そう言って男子生徒は、楽しそうに笑っていた。

「ねぇ、もしかして君もガンプラを作ってたりする?」

 

「作ってますけど…」

 

「じゃあ、バトルはするのかい?」

男子生徒の目がキラキラと輝いていた。

 

「昔はしていました……、今はしてません……」

 

「そうなんのかい?残念だよ、君からは強い何かを感じるのに……」

悲しそうに項垂れていた。

 

「あれ、誰かもう来てる?」

すると他の生徒、ここに来るから部員かな?が入ってきた。

 

「あ、おはようございます。部長は、今日も早いですね……」

あ、この人がこの模型部の部長なんだ。と、感心していると来たばかりの生徒に、こちらの顔を見るや鬼の形相で睨んで近づいて来た。

 

「お前が……、お前がなんでここに居る」

 

「えーと、突然なんですか……?」

見ず知らずの人で、記憶にも無いので尋ねると、どうやら向こうの何かいけないものに触れたらしく火に油を注いだ状態だった。

 

「昨日のバトルを思い出せ……、4対1でのバトルを……」

胸ぐらを掴まれながら、昨日のバトルについて思い出す。

えーと、何だっけ?バトル……バトル……。

 

「あ、『俺たちに敵う奴なんて居ないな』って言って、その後実際には手も足も出ずに殺された……」

 

「お前……」

胸ぐらを掴む力が強くなっていく。

 

「おい、もうやめないか」

部長さんが、危険とみなして止めに入ってくれた。

 

「いいか2人共落ち着け」

 

「分かりました、部長……」

大人しく部長さんの言う通りに引き下がった。

 

「それと君は、さっき『ガンプラバトルはしてない』と言っていたよね」

部長さんがこちらを見る目が変わったのが、簡単に分かった。

 

「うちの部活でも、かなりの実力を持った彼を倒したんだろ。それ程の実力が有りながら、何故バトルを辞めたと嘘をついた」

 

「あなたには関係無いです……、失礼しました……」

部室から、早足で立ち去ろとするのを止められた。

 

「待って、確かに君がバトルを辞めた理由には関係無い。が、昨日君が戦った彼と僕は関係がある」

 

「だから何ですか?」

 

「僕と、ガンプラバトルをしよう」

真剣な眼差しで見つめてくる。

 

「嫌だと言ったら?」

 

「その時はその時だけど、君は申し込まれたバトルは拒否しないだろ」

口元に笑みを浮かべいてた。

 

「その根拠は?」

 

「根拠なんて無いさ。あるのは、1人のファイターとしての直感が、そう叫んでいるんだよ。それを信じてるだけだ」

この人、言っている事はめちゃくちゃだけど……。

 

「そうですか……良いですよ。やりましょう、ガンプラバトルを……。今の内にあなたを殺しておいた方が良さそうですし……」

 

「ありがとう、戦ってくれて」

最初の頃の笑顔を見せていた。

 

「それじゃあ、体育館に移動しようか。バトルはそこのバトルシステムで行おう」

 

「体育館にバトルシステムが?」

教室を出て、体育館に向けて歩き出す。

 

「そう言えば、君の名前を聞いていなかったね。名前は?」

 

「暮宮零(くれみや れい)……」

 

「暮宮零……何処で聞いたような。あ、僕は工藤烈(くどう れつ)。3年生だよ」

 

「工藤先輩ですね、覚えました」

 

「先輩って事は、歳下なのか」

 

「そうですね……僕は2年生なので」

 

「それじゃぁ、宜しくね暮宮零君」

 

体育館に着くと、既にバトルシステムの用意はされていた。

 さっきの人がやってくれたのか?準備万端の状態でいつでも開始できるようになっていた。

「あははは……、これまた盛大に準備されたな……」

苦笑する工藤先輩。それもそうだ、観客?見物人がビッシリ居たのだ。

 

「あのこれは……?」

 

「って暮宮君、大丈夫?顔を真っ青をだよ」

 

「ちょっと人が多くて酔ってきたかもです…」

重度のコミュ障と過去のある事件以来、人が大勢の場所が無理になっていたので、この場所はまさに地獄だった。

 

「え、そんなに!でもまだ100人位しか居ないよ?」

流石にこの状況で酔えば驚かれるのも当然か……。

 それでも深呼吸して心を落ち着ける。

「大丈夫です……、もう平気ですよ……」

先程に比べれば、全然マシだ。

 

「なら、良かった。それじゃぁ始めようか……」

バトルシステムに互いのGPベースを取り付け、相棒をカタパルトに乗せる。

 

「やっぱり持っていたんだね、自分のガンプラ」

 

「先輩、分かったてたから、ガンプラを貸すか聞いてこなかったんですね」

嫌味をふんだんに込めた声言ってみると、凹んでいた。

 

「まぁ、もういいですけどね。それじゃぁ、ルールについては?」

 

「ルールは、単純にどちらかが降参するか、どちらか一方が戦闘不能になったらで。時間無制限、ダメージレベルは公式大会のやつでいいかな?」

 

「お好きにどうぞ、どんなバトルでもやる事は変わらないので」

 

「そうか。じゃぁ、始めよう!

 

工藤烈 ストライクフリーダムガンダム・クロイツィン 空を舞う」

 

「暮宮零

ガンダムアディルゲン 絶望を汝に」

 

こうして今、2機のガンプラが戦場へと飛び立った。




初投稿ながら、皆さん読んでくれてありがとうございます。
お気に入り登録までしてもらって、本当にありがとうございます。
今回はバンドリ感があまり無く、ガンダム要素が強かったですが、
次回は沙綾をメインにポピパのみんなも出そうと思ってます。
本当に読んでくれてありがとうございます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話思い出と遭遇

今回は前書き・過去の思い出を中身にしてるので無しです。
ちゃんとポピパの皆んなが出てきます。


「見てみて、これさあやちゃんがくれたガンプラ。お父さんにも手伝ってもらって、カッコよく作れたよ」

そう言って、作ったガンプラを見せてくれた。

「すごーい、すごくカッコいいよ」

私はあまりガンプラを知らなかったから、実際にあげたやつも零がずっと欲しいそうに見ていたからあげたもの。でも、そんな私でさえ、零が作ったガンプラはとても良く出来ていると思った。

「やったー!」

私に褒められて、はしゃぐ零。

「それでね、このガンプラを使ってガンプラバトルをするの。さあやちゃんがくれた、このガンダムサバーニャで、始めてのファイトをするの」

「ガンプラバトル?」

私が分からず首を傾げると、すっと私の手をとり、

「説明するより、見てもらった良いや」

「あ、れいくん。ちょっと待ってよ」

颯爽と走っていく。

 走る零に必死に付いていくように走っていくと、目的地に付いた。そこは、私がガンプラを買ったお店だった。

「おじさーん、ガンプラバトル始めたいんだけど」

「お、坊主か。どうだ、ちゃんと出来たかガンプラは?」

「うん、これ」

どうやら、この模型店の店長さんとは知り合いのようだ。

「どれどれ、おー。しっかりスミ入れも出来てるし、つや消しまでしてるとは、中々よく出来てるじゃねか」

れいのガンプラをじっと見つめる店長さん。

「それで、坊主…」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる店長さんが、こちらを目を細めて見てきた。

「その一緒に居る、嬢ちゃんは彼女か?」

少し怖くて零の背中に隠れてしまった。

「おじさん、怖がってるんじゃん」

「おぉ、すまんすまん。だって、ガンダムやらヒーローのロボットばっかり見てたお前が途端に友達を連れてくるから。それも女の子の」

「そうだっけ?だって、ガンダムはカッコいいし、ヒーローは僕が成たいものだし」

零は楽しそうに言った。

 それを聞いた店長さんは、溜息を付いていた。

「はぁ、全くこいつは…。あぁ、怖がらせてごめんよお嬢ちゃん」

ひょこっと、顔を出す。

「大丈夫です…」

「そうかい、それなら良いんだけど」

最初はびっくりしたけど、以外に良い人なのかな?

「ねぇ、それでバトルしたいんだけど」

零が店長さんの言葉を遮る。

「わかったよ、じゃぁ今準備するから。ほら、こっち来な」

「やったー、ほら行くよ」

店長さんに付いて行くと、大きな機械が部屋の真ん中に置いてあった。

「GPベースは持ってるのか?」

「あるよ、お父さんに買ってもらった!」

「よし、じゃあセットしておけ。今回は初めてだから、最初のお試しプレイのモードにしておくから」

「分かった」

「良し、準備も整ったし。良いぞ」

すると、機械から青くて綺麗な光が出てきた。それが、形を変えて街を作っていく。

「綺麗…」

「お嬢ちゃんも、初めてだったか。これはね特殊な結晶・粒の塊で出来ているんだよ」

準備を終えた店長さんが話しかけてきた。

「そ、そうなんですか」

「そう、そしてその特殊な粒がガンプラを動かしているんだよ」

「へぇ〜…」

良くは分からなかったけど、すごいことだけは分かった。

「さあやちゃん、見ててね」

ガンプラをセットした零君が手を振っていた。

 そっと手を振り返し、零が「暮宮零 ガンダムサバーニャ行きます」と声を掛けるとガンプラが実際に空を飛んでいた。

「すごいよ…、やったー。俺のガンプラが飛んでるよ」

凄いはしゃぎっぷりで、飛んだり走ったりを繰り返していた。

「あいつ、いっつもこの店に一人で来てたんだよ」

「え?」

店長さんが楽しそうにガンプラを操作する、零を見ながらそう言った。

「毎日、学校帰りやって来て一人でショーケースのガンプラを眺めてるんだよ。そうかと思いきや、今度は全く違うヒーロー物のロボットのプラモデルの箱をじっと見つめてるんだよ。ずっとだよ、ランドセルを椅子にして色んな物を眺めていたよ」

「れいくんがそんな事を?」

思わず尋ねてしまった。

「あぁ、ある時尋ねてみたんだよ。『友達は連れてこないのかい』って、そしたらなんて答えたと思う?」

思わず息を飲んだ、その答えを聞くのをどこか怖いと思ってしまう自分が居たから。

「『みんな、おにごっことかの方が良いんだって。でも僕、そういうのあんまり好きじゃないから…。それにこの事を話すとみんなから笑われるから…』

『なんでさ?』

『みんなヒーローを見るのを辞めて、他の物を見てるのにまだ見てるから馬鹿にされるから。それに…』

『それに、何だ?』

『僕にされることを、僕以外のその連れてきた子が、僕と同じように馬鹿にさせるのは嫌だから』」

「れいくん…」

「驚いたよ、まさかそんな事考えてるだなんてよ。なぁ、坊主は本当に小学生か?」

「れっきとした小学生です、私と同じ」

「そ、そうか。そう怒るな、ほらアメちゃん」

「ありがとうございます…」

ちょこんと手の上に、小さなアメの包み紙が。

「良いってことよ、それより坊主とよく一緒に居るのか?」

「?一緒だけど?」

もらったアメを、口の中で転がす。

「坊主が友達の事で、もう一つだけ言っててよ。『ずっと一緒に居てくれる子が居て、女の子なんだけど。小さい頃から二人ずっと一緒で、最近じゃ、学校であんまり声掛けられないけど。休みの日とかに、二人で遊ぶんだ』って、今みたいな笑顔で話してたぞ」

「そうなんですか?」

「あぁ、そりゃもう。俺と、ガンプラの話するときより目が輝いてるぜ。でも、『学校』でってなった瞬間に泣きそうな顔してよ。なだめるのが大変だったよ」

「確かに、学校じゃやっぱり女の子の友達が多いからどうしても…。

それに『あの子いっつも一人だし、それにずっと何か絵を描いてるよ』

『何か、他の男の子が遊びに誘っても遊ばないんだって』

『なんだか、感じ悪いね』って、女の子の中でもそういうのばっかりで…」

「そうか…。坊主も好きな事してるだけなのに、大変だな…」

店長さんと話をしていたら、いつの間にか暗くなってしまっていて零のバトルを見ることが出来なくなっていた。

「おーい、さあやちゃん。見てた?今の狙撃!すごくない!一発だよ、全部一発で倒せたよ!」

そんな事を知らない零は、夢中でバトルしていた。

「ご、ごめん。な、何?聞き逃しっちゃった」

慌てていつもどおりにしようとするが、零はコマンドを選択肢バトルを辞めていた。

「あ、れいくん。バトル止めちゃってもいいの?」

「だって、さあやちゃんが悲しそうなんだもん…」

「え?」

「俺たちずっと一緒に居たんだから分かるっての、何かあったんでしょ?」

零がこちらを心配そうに見ていた。

「ううん、何でも無いよ。だから、ほら続けてよ。私、れいくんのバトルみたいな…」

「分かった…」

心配させないと誤魔化したが、零には余計に怪しまれた。

「あのさ…」

「何?」

突然振り向き、

「『れいくん』って呼ぶの、もう辞めて…」

「え、どうして…なんで…」

「これからは『れい』って呼んで…これがもう一度見せる条件」

「分かったよ…れ、れい…。でも、急になんで…」

「何となくっていうのと、俺は強いから…。周りから馬鹿にされても、自分の好きを貫き通せるから…」

「れい…、聞いてい…」

「だから、学校では気にしないで…。俺のこと気にしてれば、さあやちゃんにきっと何か言われるから…」

零は、頬に涙を流しながら、微笑んでいた。

「だから…、そんなの見たくないから…。だから、学校では他人のふりをして…。家とか、ここで遊ぶときは前と変わらないから…」

このとき、行動は自分でもビックリしていた。口よりも先に手が出ていたんだから、初めて零を引っ叩いた。

「馬鹿言わないでよ、何でそんな風にれいが苦しまきゃいけないの。ねぇ、どうして?」

「それは…、だって俺が学校で耐えていれば、こうして学校以外でさあやちゃんとまた過ごせるから」

「私は、学校でもれいと過ごしたいの。れいと笑っていたいの、それに昔言ったよね『俺が、さあやちゃんを守るって』だったらその言葉通り守ってよ」

零の胸の中で、ぽかぽかと握りこぶしを作って殴る。

「痛いよ、さあやちゃん、痛いって…」

「馬鹿、れいの嘘つき。あのとき約束を守ってよ…」

次第に殴る力が弱くなり、しがみついて泣いてしまっていた。

「なぁ、坊主…。その子はさ、坊主が思ってるほど弱くはないんだ。ちゃんと嬢ちゃんなりに考えているんだよ、だからさそれを受け止めてやれ」

おじさんが頭を、わしゃわしゃと雑に撫でる。

「そんな事言ったって…、だって俺はさあやちゃんが傷つくの見たくないし…」

「でも、嬢ちゃんは坊主が傷つくところが見たくないんだよ」

「それは……」

「坊主、じゃあ一つだけアドバイスだ。よく聞けよ」

おじさんがいつもの優しい顔ではなく、厳しい顔で見つめてきた。

「うん」

「ヒーローはいつもどうやって戦っていた?お前が好きなガンダムのパイロットは、どうやって戦っていた?その事をよく思い出せ」

ヒーロがどう戦うか?ガンダムのパイロットがどう戦うか?どういう事?

「難しいか、じゃあヒーローのロボットをよく見てみろ」

言われてショーケースに飾ってあるヒーローのロボットを見る、一体どういう事…。

「おじさん、そういう事なの…」

正解かどうなのかは分からない、けどそれが今俺が出した結論ならそれを信じるしかない。

「さあやちゃんはさ、俺が傷つくところが見たくないんでしょ。でも、俺もさあやが傷つくところも見たくないんだ」

「でも、私はれいが傷つくのを見たくない…」

「分かってる…だから、さあやが俺を守ってよ」

「え…」

「俺はさあやちゃんを。さあやちゃんは俺を。お互いがお互いを守る、助け合い」

「……」

泣いて赤く腫れてしまった目で、見つめてくる。

「おじさんの言葉で思い出したんだよ、ヒーローは一人で戦ってるんじゃない。仲間と戦ってるんだって、まぁさあやちゃんは仲間って言うよりは家族だけど」

「れいの…家族…」

「だって今までずっと一緒に居て、普段からやることは二人一緒で兄妹みたいなんだから。でも、俺のほうがお兄ちゃんな」

「むぅ、それは違う。私のほうがお姉ちゃんだから」

「いや、そこは俺だって」

「私だって」

「「ぐぬぬぬ」」

おでこを合わせて睨み合っていると、自然と笑いが溢れた。

「ははは、やっぱり楽しいな。さあやちゃんと居る時は」

「ははは、それはこっちのセリフだから」

そして、改まって言おうとすると恥ずかしくなってきたが、

「俺がお前を守る、だから俺を支えてくれ」

「分かった、私がれいを支えてあげる。そのかわり、私をまもってね」

「「うん」」

そして、もう一度仲直りでハグをした。

「いや〜、若いっていいなぁ。おじさんも、子供のころそんな事したかったな」

「おじさん、それ…今言う…」

色んなものが一瞬にして崩れ去ったよ。

「あはは、悪い悪い。よし、それじゃあ感動の印にガンプラバトル、ちゃんと始めるか」

「おじさん…、まぁ良いけどやるけど」

「れい、今度はちゃんとれいのバトル見届けるから」

「ちゃんと見ててよ」

そう言って、再び零のガンプラが空を駆け抜けていった。

 

「零…。ふぁ、夢だったのか」

昨日は結局、零との思い出を思い返しているうちに寝むってしまっていたらしい。時計を見ると、お店に出なくては行けない時間だった。

「やばっ!これは流石にやばいよ」

慌てて寝間着から制服に着替えて、階段を駆け下りてお店の方に出た。

「あ、さーや。おはよう〜、どうしたの〜?今日は遅かったけど?それに髪もボサボサだよ?」

するとそこには我が山吹ベーカーリの常連の一人、羽丘女子学園の青葉モカが居た。

「おはよう、モカ…。いや、ちょっと昨日遅くまで練習してて」

その場で適当な言い訳をする。

「そうなんですか〜?本当ですか〜?」

モカはこういう観察力は本当に鋭いのだ、

「本当だよ、最近どうもスランプ気味だから」

「ふ〜ん、そうなんだ〜。でも、あんまり夜遅いと体に悪いよ〜」

納得してくれたようで、今回はこれ以上の探りを入れてこなかった。

「うん、気をつけるね」

「ホントですよ〜、それじゃあこれください」

トレーに乗った大量のパンを今日も買っていくモカ。毎回思うのだが、これだけの量を食べて何で太らないのか…モカのお腹の中はブラックホールなんじゃないかと思う。

「はいお釣りね、いつもありがとう」

「いえいえ、山吹ベーカーリーのパンはモカちゃんの生命線ですから」

「そんな重要な役目を果たしているの、うちのパン」

「そうで〜す、あ、そろそろ行かないと〜」

「もうそんな時間?」

「それでは、モカちゃんは学校に行ってまいります」

「いってらっしゃ〜い」

モカを見送って、しばらして私も学校に行くことにした。

「お父さん、行ってくるね」

お店をお父さんに任せて、学校に向かった。

 

 学校への道を歩いていると、少し行った所に同じバンド(Poppin'Party)のギター・ボーカルの香澄とキーボードの有咲が歩いていた。

「おはよう、香澄、有咲」

「おはよう!さーや」

「おはよう沙綾。なぁ、香澄をどうにかしてくれ。朝からうるさくて仕方がないんだよ」

「だって、今日は転校生が来るんだよ」

香澄の言うとおり今日は、転校生が来るらしい。それも、同じ学年の。

「それにして、2年の5月の半ばだぞ。なんで、こんな時期に転校生なんだよ」

「ミステリーな予感」

「うわぁ、どっから現れるんだよ」

「おたえ〜、おはよう」

「香澄、おはよう。沙綾もおはよう、有咲もおはよう」

「おはよう、おたえ。それにして、突然現れるからびっくりしたよ」

ギター担当のおたえが、有咲の背後からむくっと現れたのだ。さすがに、これはびっくりした。

「でもそうだよね、この時期に転校してくるって中々聞かないもんね」

ましてやここ数年で共学になったばかりの女子校であるなら、尚の事おたえが言うように『ミステリーな予感』だ。

 そうして4人で仲良く登校こうしていると、校門のところで先に来ていたらしいりみりんが慌てた様子で駆け寄ってきた。

「おはよう…、はぁはぁ…」

「おはよう、りみりんってどうしたの?」

「何かあったのか?」

香澄と有咲が尋ねる。

「はぁはぁ、何だかよく分からないけど体育館に…」

「体育館?何かあったけ?」

おたえが頭を悩ませる。体育館か、何かあったけ。

「あ、もしかしてあの機械?」

香澄が思い出したようで、それに反応しておたえが。

「あ、あれだ。何か、プラモデルの戦う機械だ」

「バトルシステムだ、それくらい覚えろ」

「何で有咲は覚えてたの?」

「アレの管理は、一応生徒会が管理してるんだよ」

生徒会ってそんな事までするんだ。

「なんだか、何でも屋だね」

ちょっと面白そうだったのからかってみた。

「ちげぇし、生徒会はそんなんじゃないから」

「はいはい、ごめんて。それで、体育館で何があったの?」

体育館に何が有るかわかったので、本題に戻った。

「体育館にすごい人混みが出来てて、さっき見に言ってきたの。そしたら、模型部の部長さんが戦ってて」

「それなら、良く有るんじゃないの?模型部、ガンプラバトルもするって言ってたし」

そう言うが、大きく首を横に振られた。

「そうじゃないの、確かによくバトルはしてるらしいけど。相手が問題なの」

「どういう事?」

「さーやちゃん、昨日チャットのグループで男の人助けたって言ってたよね」

「うん…、怪我もそんなにで退院したけど」

昨日の事件はあまりのびっくりしたので、ついグループで話してしまってみんなは知っている。

「よく見えなかったからなんとも言えないんだけど、さーやちゃんが言っていた人と特徴が似てる気がして…。それにもしそうだったら、その人包帯とか巻いていたりする…?」

「いや、分かんないけど。たぶんまだ着けてると思うけど…」

「さーや、どうしたの。急に黙って?」

香澄が心配そうに声をかけてきた。

「香澄、もしかしたらりみりんが言ってるの昨日私が話していたの本人かもしれない」

「え、じゃあその人体にまだ傷が…」

「それってかなり危険じゃねぇかよ」

おたえと有咲が焦り始める。

「間違いだとは思いたいけど、断片的に聞く限りそうとしか…」

「なら、早く行かないと。その人かどうか確かめないと」

香澄は走り始めていた、体育館に向けて。

「私達も行こう、この目で確かめないと」

香澄の後追うようにして、体育館に向けて走り始めた。




初回投稿からお気に入り登録してくれた皆様、そして読んで頂いてる読者の皆様、
いつも有難うございます。
今回はポピパのみんなを出させてもらいましたが、何かあんまり出番が少なくてごめんなさい。
零の小学生時代の思い出が、だいぶシリアスチックに書かせてもらいましたが、小学生らしさが段々なくなってしまって…。
それでもこれで零と沙綾が再び出会います、次回は本格的にバトルを開始したいと思ってます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話絶望の始まり

今回はガンダム要素がかなり入っています!


こんな大勢の人に囲まれて見られて、バトルするのは正直好きではない。が、今はそんな事を気にしている時間は無かった。

 バトルフィールドは宇宙空間で、コロニーの残骸や撃墜されたモビルスーツの残骸のオブジェクト無数に存在するサンダーボルト中域を思わせるフィールド。

 しかしそれがこちらの狙撃を行うのには最適で、場所を選んで準備する。

「GNロング・バスターライフル起動」

コロニーの残骸の一部に身を潜めて、敵の出現を待つ。静寂が支配する擬似的に再現された宇宙空間で、ただ一人動きがある時を狙う。

「居た…」

スコープから敵・ストライクフリーダムの機影が映る。GNロング・バスターライフルから、一直線に赤いビームが放たれる。

「ちっ、やっぱり交わしてくるか…」

だが、そんな事は計算済み。その避けた先に向けて、もう一度赤いビームが放たれる。当たったはずだが、何処か違和感が拭えない。

「その距離からの的確な射撃、相当やりこんでいるね」

爆風の中現れたのは、工藤烈の世界の穢を知らない純白雪のようなストライクフリーダムガンダム。

 ストライクフリーダムガンダム・クロイツェンが此方を睨んでいた。

「僕が思っていた以上に楽しめそうだよ、それでこれはさっきのお返しだよ」

そう言って高エネルギーライフルからビームを連射してきた。先程の射撃で位置がバレてしまっているため、避けることに集中する。

 昨日戦った奴らとは大違いだ、この街にも面白いやつがいるじゃねぇか。

「楽しませてくれよ、なぁ…部長さんよ」

 

 明らかに口調が変わっている、先程の会話からは思いつかないほどに変化している。これがもしかして、暮宮くんの本性なのか。なら、なおのこと面白い。

「良いだろう、なら僕の本気を見せてあげよう」

その宣言どおりに、工藤先輩のストライクフリーダム・クロイツェンの機体速度が上がっていく。

 

 このまま至近距離戦闘に持ち込まれたら厳しい、そう判断しスコープの中から機体の動きに合わせていく。それも機体が次に向かうであろう進路に向けて撃っていく。

 しかしそれを紙一重で、僅かにすり抜けていく。そして遂に徐々に距離を詰められていき、

「ようやく出会えたね、君のガンプラ。ガンダムアディルゲンに」

そう出会ってしまったのだ、この時はまだ彼があの『絶望の旋律者』だとも知らずに。

「ガンダムサバーニャがベースだね、君の機体は」

「そうですよ、まぁだいぶ改造はしましたけど」

「それにしても、黒と赤のサバーニャか。随分とイメージが変わるね、原作はもっと明るいから」

「良いんですよ、俺の相棒なんですから」

今現在こうして会話を理路整然と行っているが実際は、視界で確認できる範囲にまで接近してきたストライクフリーダム・クロイツェンをGNピストルで狙撃し、アディルゲンへとさらに距離を詰めようと狙撃を交わしながら近づいているのだ。

 そして、遂にストライクフリーダム・クロイツェンが距離を詰めビームサーベルで斬りつけた。それをGNピストルのブレード部分で受け止めながら、至近距離でさらに撃ち込んでいく。

 ここまで近づけたのだが、思ったように取り付けない。ならば、これで…。右手に備え付けられた攻盾システム・トリケロスの細長い槍状のミサイル・ランサーダートを撃ち尽くす。

 が、やはり次々とアディルゲンの狙撃で撃ち落とされていく。しかし実際にはそれが目的だった。

「何だこれ、前が見えない。煙幕…」

咄嗟のことで状況が分からずに混乱するが、冷静になり気づいた。

「ミラージュコロイドか…」

攻盾システム・トリケロスが採用されていた機体は全て、隠密行動・潜入などに特に能力を発揮するものに使われていた技術。それの実態が暴かれないように、こうして煙を発生させ視界を潰しその間にミラージュコロイドを発動させるって考えか。まんまと相手の思う壺だ…。

 すぐさまにミラージュコロイドに対抗するためにレーダーを熱源探知に変更する。ミラージュコロイドは視覚・電磁的な探査の追跡を不可能にするが、機体のスラスターから吹き出される熱や音は隠しきれない。そこをついていけば、勝機は有る。

「今君は、『ミラージュコロイドの弱点である熱源や音を利用すれば勝機が有る』と思ったはずだが…。そんな弱点を僕が見逃すわけ無いだろ」

声を辿るがやはり姿はおろか、レーダーにも反応がない。

 その場を脱出しようと、機体のスラスターを吹かす。が、それをさせまいと何かが足を掴んでいた。

「亡霊か何かかよ!このフィールドの?」

掴まれた足の周りをGNピストルで狙撃で牽制する、すると今度は掴まれていた足が突然離されバランスを崩し宙を舞う。

「少しばかり、動揺し過ぎなんじゃないかな?操作に精細さがかけているよ」

宙に浮き出た瞬間に、狙撃の嵐にあった。

「っく…、行けビット」

ガンダムサバーニャに搭載されているGNホルスタービッドを展開し、シールドして利用して狙撃を防ぐ。そこに連続して次々と放たれるビームや、ストライクフリーダム特有のレールガンの弾、ドラーグーンから放たれる攻撃を、GNピストルで撃ち落としながら防いでいく。

「凄いよ…ほぼ全ての攻撃を防ぎ来るなんて。でもまだ僕の事を見つけ出せていなんだろ」

声はしていても、やはり何処に居るのかが掴めてこない…。先程の弾道からある程度の予想は着くけれど、今となってはもう移動しているはずだから意味がない。

 こんなにも分かり易く敵の策略にハマって戦うのは、初めてだ。

「はぁ〜…、すぅ…はぁ〜…」

一度呼吸を整えて心を落ち着かせる。確かに言われたとおりに焦っていた。

 周りは見ず知らずの人が観客として見ていて、そしてさらには思ったように戦えていないことへの苛立ち。それも少しずつ収まっていく、心を沈めて周りを見渡していく。

「…、そこ」

傍から見たら何もない宙に向けてライフルを撃っているようにしか見えないが、実際には…、

「ようやく見つけたようだね…」

攻盾システム・トリケロスが爆発する寸前で切り離す、ストライクフリーダム・クロイツェンが居た。

「えぇ、先輩が言っていたとおり。少し集中に欠けていました…、でも今からは違いますよ」

姿を表したストライクフリーダム・クロイツェンに対し、GNビットを展開し、胸部のGNミサイルポッドからもミサイルで攻撃を放つ。

 ビットから来るビームを交わしながら、ミサイルを撃ち落として行く。

「やっと見つけてくれたようで、それじゃあここからは小細工無しでやらせてもらうよ」

背中のバックパックから槍・オキツノカガミを手に接近戦に発展した。ピストルをビッドに戻し、腰のアーマーからビームサーベルを抜き出しオキツノガミを受け止める。

「遠距離戦向けの筈なのに、近接戦闘にも対応するだなんて」

「別に弓兵が剣を使っちゃいけないだなんて、そんなルールは無いですから」

連続した突きを繰り出されながら、ビームの刃で受け流していく。繰り出される槍術の空きを縫っては、レールガンを撃ってくる。これには避ければオキツノカガミの方で装甲を貫かれてしまう為、避けることが出来ずに装甲を破壊させるしか無かった。

 しかし、それを連発されては困るので、こちらも再びピストル撃って右のレールガンを破壊する。この時かなり距離を詰めてピストルを撃ったために、爆風に覆われて左手の装備の脅威を見抜けなかった。

「やはり、弓兵は剣を握るべきではないよ…。弓兵はやはり狙撃に専念するべきだったね」

サバーニャの胸部を鉤爪状の手甲・ツムハノタチで貫いたのだ。胸部の装甲を貫通し、その刃は中で引っ掛かりを作り離さない。

「楽しかったよ、君とのバトルが…。でも、もう終わりにしよう」

中身を掻き乱すうようにねじ回しながら、ツムハノタチを引き抜いた。そして、引き抜かれたアディルゲンに対して使える砲撃を全て使用し破壊した。爆発が巻き起こり、ギャラリーの生徒たちもその光景に歓声が上がる。

 けれどその歓声を嘲笑う声がしていた。

 

「っくく…、くっハハハ…。そうだよ…、そうでなくちゃ…」

 

「何?今ので勝負は決まったはず…。まさか…まだ」

爆風が消え去ると、アディルゲンは装甲の殆どを失いながらもそこに存在していた。

 

「俺と相棒はこんなものじゃ、死にはしないさ…」

誰にも見えないコックピットで不敵な笑みを零す。

 

「さぁ、ここからが本当の絶望の幕開けだ。その身にとくと刻むと良い」




オリジナルの機体を投入させてもらいました。武器名はそのまま使わせてもらってます。
原作機をリスペクトです、本当は機体の方で精一杯でした…。
今回も楽しんで頂けたら、何よりです。それでは次回に…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話暗闇の中・光の中

本気のガンプラバトルの続きです…。どうぞ…。


 香澄の後を追うように体育館に駆けてゆく。体育館に着くと、りみが言っていたように人混みが出来上がっていた。

「すごい人の数…」

目の当たりにした光景に思わず声に出てしまった。

「ここからじゃハッキリと確認できないね」

おたえが冷静に言う。

 すると香澄が何かを思いついたようで、

「二階のギャラリーの方は、まだスペースが有るよ」

人があまり居ない所を見つけ、そこからみんなで見ることにした。

「二階に上がってみたけど、案外見えにくいね」

りみが目を凝らしながら言う。それでも一階で全く見えないより、ぼんやりと見えるだけでも有り難い。

「じゃぁ?これは?」

「おい、おたえ何漁ってるんだ?」

おたえは自分のカバンからスマホを取り出し、カメラを起動させた。

「これでたぶん…、あ、見えたよ」

カメラのズーム機能を利用して、戦っている人を確認しようというものだった。

「って、嘘だろ!そんな簡単に見えるわけが…、って見える」

有咲がおたえのスマホ覗き込み驚きの声あげ、

「おたえ〜、私も見る」

「あ、私も」

見えることが有咲によって保証されたので、香澄とりみもスマホを取り出し覗き込む。

「すごい、ちゃんと見える」

「これなら顔も何とか見れるし、もしかしたらバトルの方も…」

りみが言葉を発する前に有咲がそれを遮った。

「見えた、え〜とあれが模型部の部長の方で。こっちのは…なぁ沙綾」

有咲が怪訝そうに聞いてきた。

「どうしたの?」

「模型部の部長は分かった、でもあの対戦相手の方はよく分からないんだよ」

「どういう事?」

わけが分からなくて、聞き返す。りみは私が『助けた人かも』って言っていたから、確かでは無いのだけれど。

「いや、昨日の助けったっていうその人、私達と同じくらいの歳で今包帯を何処かに巻いているんだよな?」

「そうだよ。実際には歳は聞いてないけど多分同じくらい、それと包帯は多分傷がまだ治ってないからつけてるはずだよ?」

「もしそれが本当なら、包帯が見えないし、カメラも若干ぼやけて特徴が曖昧にしか判断出来ないから難しいぞ」

スマホのカメラでズームしながら部長さんと、零と思われる人物に目を向ける。コクピットの中だからハッキリとは見えない、さらには包帯は制服で隠されていて確認できない。

 けど、あの目付きは…。

「零だ…、戦ってるの昨日私が助けた人だよ…」

そうハッキリと口にした。

「「「「嘘(だよね)(でしょ)(だろおい)!」香澄、りみ、おたえ、有咲が一斉に驚く。

 そして、次の瞬間に零の方から声が上がった。

 

『アディルゲン N_I_T_R_O発動。全てを絶望に塗り替えろ CAST・OFF』

 

「アディルゲン N_I_T_R_O発動、全てを絶望に塗り替えろ CAST・OFF」

右手の操作レバーからコマンドを選択し、N_I_T_R_Oを発動させた。

 黒く、漆黒のオーラが機体から溢れ出し染め上げる。そして黒に染まった装甲が、一斉に吹き飛んだ。

 

「装甲を全て切り離しただと!そんな、この状況で一体何を…」

その言葉の続きは現れなかった、なぜなら言葉が見つからなかったからだ。

 

 今まで外装はサバーニャの機体だったのが、中から別の機体が現れた。

 

『SYSTEM・All Green START・RIDERフォーム』

バトルシステムの機械のアナウンスの声が響く。

 

「これがアディルゲンの、相棒の真の姿だよ」

そこに現れたのは、サバーニャの面影を感じさせない別のガンダムだった。右足は簡素な装甲で覆われ、左足は真っ黒な装甲で覆われ左右非対称。両腕は足とは違って左右対称で少し角張ったウイングが備え付けられていて、腰まわりも先程に比べて鋭利なものに変化していた。

 胸に動力源のGNドライブを付けながらダクトと装甲でしっかりと覆っている。唯一サバーニャの面影を感じたのは同じアンテナのデザインを持った端正な顔立ちだった。

 

「来い…、RIDERパック」

 

 シールドと一体化した機動SYSTEM・RIDERパックを発艦させ装着する。右足の前後に大型武装ZERO・ウイングガンを装着する。左手に大型の武装一体型シールド・メガキャノンシールド、右手には再びGNロング・バスターライフルが備わった。

「どうですか、俺の相棒ガンダムアディルゲン・RIDERフォームを見た感想は?」

「これが君の本当のガンプラ…、ならさっきまでのは」

「このSYSTEMを使おうか正直悩んでいたんですよ、でももう…良いやって…。貴方を絶望の底に叩き込んでもいいやって、そう思えたんですよ!」

GNロング・バスターライフルをストライクフリーダム・クロイツェンに向けて撃つ。避けようとするが先程より威力が比べ物にならないほどに威力が強化され、右足を掠り破壊される。

「何なんだ…この威力。ここまで機体性能が上がるのか」

右足を破壊されたことで、一旦距離をとるためにミラージュコロイドを使い回避行動を行おうとするが、

「あのさ…、もうその手を使わせるわけ無いじゃん…。行け、ビット・ファンネル」

GNビットとRIDERフォームで備え付けられたガンダムデルタカイのプロトフィン・ファンネルを放つ。その一つ一つのビットとファンネルを全て自ら操っていく。

 本来ならビットやファンネルはCPUによるコマンド選択式の自動制御か、ファイター自らが操作指定を組んでやっていく。が、ごく稀に戦闘中に自らの操作で全てのビット・ファンネルを操作していく人もいる。そして、今戦っている彼のビットとファンネルの動きを見ると、そのごく稀な人物だと。

「…っく、行けファンネル!」

こちらもドラグーンを放ち、ビームライフル、レールガンを撃ってビットとファンネルの撃墜を試みる。しかし実際には放たれるビームを、まるで別の位置から見ているかのように交わし撃墜される。

 それは何故か、理由は先程発動させた『N_I_T_R_O』が効果を発揮しているからだ。

 そもそもN_I_T_R_Oとは一般兵が擬似的にニュータイプを再現するための物で、空間認識能力を大幅に上げる。

 しかし、その代償として脳に直接情報を上書きしているため、パイロットへの負担が大きい。ガンプラバトルでは、脳に負担は掛かることは無いが、操縦がより困難なものに変化し、特殊状態であるために時間制限が設けられている。

 

 何故暮宮君とバトルした彼が、手も足も出なかったのかがようやく分かった。ドラグーンが一機また一機と落とされる共に感じる、この滑らかなファンネルの操作。撃墜されたはずの機体が蘇り再び戦いは続く。ファイターの中でそんな都市伝説があったが…。

 

「僕の勘違いならそれで良い、でも一つだけ聞きたい。君が噂の『絶望の旋律者』なのかい?」

 

 その言葉を聞いて、見ていた生徒たちの一部がざわめき始めた。そしてそのざわめきは感染症のごとく蔓延していく。

 

「嘘でしょ…、何であの化物がここにいるの…」

 

「あいつが活動している場所って、ここよりも遠くに居るはずじゃねぇのかよ」

 

「私、聞いたこと有る…」

 

「何?何なのその『絶望の旋律者』って?」

 

「ガンプラバトルの中で、こう暗黙の噂?都市伝説みたいのであるの」

 

「戦った相手のガンプラを、跡形もなく砕くんだって」

 

「それもフィールドによって、殺し方が違うんだって」

 

「貼り付けにされて、切り刻まれたとか」

 

「遠距離装備だけで、姿を見せずに蜂の巣になるまで撃ってくるとか」

 

「そんなの甘いな。俺が聞いたのは、体を真っ二つに引き裂かれたらしいよ」

 

「うわぁ…ひっど…」

 

「何それ、それ本当にファイターなの?」

 

「さぁな、それでも実力は確かに有るからな」

 

「でも、さっき言ってたあの『N_I_T_R_O』とか言うシステムで、ズルしてるんじゃないの?」

 

「あ〜、ありそう」

 

「じゃあ、早く倒されないかな?だって化物じゃん、その話を聞く限り」

 

「あんな『絶望の旋律者』って呼び名が有るけど、何にも旋律を奏でて無いし」

 

「じゃあこれは『最低の屑プレイヤー』」

 

「いや、それだったら『イカサマの化物』とか良くない?」

 

「あ、それ良いかも。『イカサマの化物』あいつらしくて良いじゃん」

 

「でしょ、あははは」

 

観戦する誰かが楽しそうに笑った。

 

 操縦レバーを握る手に力が入る。まただ…、何も知らない奴らが俺を嘲笑う。周りの噂を信じて疑わず、真実も知ろうとしないまま…。殺ったことはあった…、無残に殺したことは事実だ…。

 でも、言い訳・理由を言えるのなら…。あの頃の俺は、一人で暗闇を彷徨っていたんだ…光を見ることが嫌で。見ることが億劫になっていたんだ…、人を信じることが怖くなって辞めていたんだ。その時に自分に残った唯一の逃げ場がここ《ガンプラバトル》だった…。

 

「またなのかよ…、ここでも俺は…。また噂で、噂だけで…」

 

 あぁ…憎い、憎い、憎い!こんなにもこの世界が…、どうせ誰も信じてくれないんだ…。あの時と同じように…。もう良いや…。もはや自暴自棄だった、何処にいようと現実は変わらないんだ。 

 

 だったら…お前らが言う化物の…、化物の力を見せてやる…。

 

「思い知れよ、人が絶望に飲まれた時の真の力を」

 

ビットとファンネルの遠距離狙撃で攻撃をしていたが、自らGNロング・バスターライフルを使って狙撃を開始する。この一撃、一撃に殺意と憎しみを込めて…エネルギーを溜めて解き放つ。

 

「絶望の闇に飲まれて…、お前も…墜ちろ!」

 

「ねぇ…沙綾…」

周りの話を聞いた香澄が悲しげな顔をして、制服の裾をちょこんと、引っ張っていた。

「香澄…」

 そんな香澄を見て、黙って手を握ることしか出来なかった。

「ねぇ、さーや。昨日助けた人って、そんなに悪い人なの?」

あたえが真っ直ぐこっちを見つめていた。

「そんな事無いよ…」

「何で、さーやはそう言えるの?」

「ねぇ、おたえちゃん。なんでそんな事…」

りみが心配そうにおたえを見る。

「だって…、零は…」

私の次の言葉を発しようとした次の瞬間、

 

「黙れ!」

 

対戦相手の部長さんの声が体育館に響き渡った。

 

「良いか、これだけはこの場にいる全ての者に言っておく!だからよく聞け!確かに彼とバトルをして、実際にそうなったのかもしれない。だけど、今ここで彼と過去にバトルをしたことの無い・見たことのない奴が彼を侮辱するな!」

 

ざわめいていた生徒は一瞬にして、静まり返り黙りこんでしまった。

 

「そうなんだろ、結局はこうして言ってみれば黙り込んでしまう!知りもしなのに、彼とのバトルから溢れ出るこの思いを知らないのに知ったような事を言って、彼を嘲笑うというのなら。君達の方が、余程最低だ!」

 

誰かが言う、彼に破れたファイターの一人なんだろう。

 

「でも、そいつのやって来た事を知れば、あんただって今みたいに味方でいられるのかよ」

 

「そうだ、そうだ!」

 

「一度でも、見たこと有るのかよ」

 

暮宮への批判が、一気に工藤の方へと向かう。

 

 けれど、

 

「だから、どうした!君が彼に一体何をされたかは知らないし、僕はそれを君から聞く必要も無い。過去に彼がどれだけの事をしてきたのかは、今まここで彼が語ってくれている。言ったはずだ、『彼とのバトルから溢れ出るこの思いを知らぬのに知ったような事を言って、彼を罵るというのなら。君達の方が、余程最低だ!』とね。それでも、言うのなら僕がまとめて君達のガンプラバトルの相手をしよう。ファイターなら、ファイトで決着を着けようじゃないか」

 

烈は一歩も引く気は無かった、何故なら確信したからだ。彼とのバトルで彼が本当は優しい人なんだと、そして彼が今まで様々事で苦悩し苦しんで来たことを。その苦悩の思いがきっと今のガンプラに込められていて、だからなのかガンプラが『助けてくれ』と泣いている。そんな気がしてならない。

 

「暮宮君、いや『絶望の旋律者』。君の全てを僕に出し給え…、君のその絶望を僕が祓う」

システムからコマンドを選択していき、

 

「EXAMシステム発動」

 

放たれたビームを僅かのところで交わし、純白のストライクフリーダム・クロイツェンが真紅に輝きを放ち始めた。

 

「零は、私の幼馴染なの。だからよく知ってる、でも零はまだ思い出してないけど…」

私は零との関係を打ち明けた。

「なら、あの人は良い人だね」

それを聞いたおたえの反応に正直、頭が追いつかなかった。

「へ?」

すると今度はおたえの視線は、私から零に向かっていた。

「部長さんが言うとおり、あの人と戦った事が何のに言うのは酷い…。それに、あの人から聞こえてくる」

「おい、おたえ聞こえて来るって何が?」

有咲が分からないといった様子。

「聞こえてくる、あの人から音楽が…。叫んでる、悲しみを苦しみを歌ってるような音楽が…」

「それじゃあ、わかんねぇっての。つまりはどういう事だよ?」

有咲がおたえの言葉の意味を理解できずにテンパり始めた。

「分かんないけど、聞こえるような感じがするの…。信じて…」

もしおたえが言うように本当に零から音楽が聞こえるのなら、それは零の心の叫びなんだ。

「どうやったら、聞こえたの?」

おたえに零から感じた音楽を感じる方法を聞く。

「おい、沙綾まで」

「でも、有咲…私も聞いてみたいの。零が今どんな思いなのか」

「おたえ、私も聞きたい。沙綾の幼馴染なら、きっとそんな悪い人じゃないもん」

「おたえちゃんが感じたさあやちゃんの幼馴染の音楽を聞けば、きっとみんなが言ってた事をしたのかも分かるんだよね?」

「私が聞いたのはあくまでも断片的だから、でも聞けばりみが言ったみたいに分かると思うよ」

「ほら、有咲も」

信じていなさそうな有咲だったが、

「分かったよ、たく…。香澄が言うとおり、沙綾のお墨付きがあればそれを信じるよ」

「有咲〜、ありがとう」

「ちょまま、いきなり抱きつくな」

香澄とおたえが有咲を抱きしめる。ひとしきり有咲に抱きつき、満足したようで今度は真剣な眼差しで零を見つめた。

「それじゃあ、その零の方を見て。そしたら、心をゆっくりと沈めて…感じて…」

おたえが言うとおりにやってみた。最初の数秒間は何も聞こえてこなかったが、次第に聞こえてくるような感覚がしてきた…。

「これが…零の音楽…心の叫び」

「さーやも聞こえたんだね…」

「香澄…」

「何だか泣いてるような気がする…」

「私もそんな感じがした、何処か暗い所に居る感じで」

「りみもそれ感じたのか、私も似たような感じ」

「きっと誰にも言えなかったんだと思う…、それが積もり積もって今に」

おたえの言葉を聞いて、唇の端をぎゅっと噛みしめる。

「でも、さっきよりは明るくなってきてる。あの部長さんが周りに言ってからのほうが、少しだけ晴れたように聞こえる」

最初の方を聞いていたからその違いがさらに分かるらしい。

「ねぇ、部長さん何かパワーアップしてるんだけど?」

りみが震えるような声で、バトルシステムを見ながら言う。

「おい、あれかなりヤバイぞ!あれ調べてみたが、機体の能力値が一定時間爆発的に上がるやつだぞ」

有咲がスマホを見ながら驚きの声を上げる。

「でも、さっきからさーやちゃんの幼馴染の方は動いてないよ…」

零の方は先程からピクリとも動いていない。それを見てりみは心配そうに見つめる。

 

 もしも零があのまま動かずに居たら、部長さんにやられちゃう…。そんな見たくない…、私見たくない…。

 

 そう思ったら頭より体が勝手に動いていて、次の瞬間には思いを叫んでいた。

 

「零〜!零は化物なんかじゃないよ」

 

 部長さんが俺を庇っただと…、何でこんな俺を…。今日あったばかりで、たった一回バトルしただけなのに…。こんなにも化物だと、何だのと言われてきたんだぞ。それの一体何を分かると言うんだ…。こんな俺の何を…。

 

 絶望に飲み込まれていた心に、微かに光が差し込めた。けれど、満杯に注がれていたグラスに、新たな液体を少しでも加えれば溢れかえるように、心の中がグシャグシャだった。

 

「俺は…、憎い…。俺は…世界が憎い…はずだろ…。だから今まで…」

 

動けなくなった、今まで突き動かしてくれた原動力が何なのかが分からなくなってしまったせいで。今、目の前にはEXAMシステムを発動したストライクフリーダム・クロイツェンが迫ってきているのに、その姿がモノクロでゆっくりと動くように沈んで見えた…。

 

「もう分からないよ…。ごめん相棒…、お前をこんな目に…」

 

操作レバーを握る手が弱まり、手放そうとした。その時だった、

 

「零〜!零は化物なんかじゃないよ」

 

何処からか聞いたことのある懐かしい声がした。

 

「零は、私の、私を守ってくれるヒーローでしょ!だから、零は化物なんかじゃないよ。だから、周りの言葉に惑わされないで。零はたとえ何があったとしても私のヒーローなんだから」

 

「ふっ…ふふ…。あははは…」

 

その言葉を聞いて思わず笑ってしまった。あまりにも唐突で、周りの全てをひっくり返すその一言に。心に溜まって今にも溢れかえりそうな水を、汲み上げてくれた。

 

「はぁ…そう言えばそうだったな。俺は化物なんかじゃない!」

 

モノクロの世界に再び色が染め上げ、再び操作レバーを握りしめる。

 

 既にストライクフリーダム・クロイツェンが間近に迫っていた。

 

「俺はお前を守るって約束した、ヒーローだったな。なら…こんな所で…負けてたまるかよ」

 

ビームサーベルを引き抜き、ギリギリの所で攻撃を防ぎ弾き返す。

「ようやく、本気でやれそうだね。暮宮君、否『絶望の旋律者』」

「えぇ、あいつが俺に勇気をくれたんです…。それに先輩が俺のことをあんなに言ってくれたおかげで…」

「僕は事実を言っただけさ、それに僕は自分が認めたファイターを侮辱されるのが好きじゃないんだよ」

そう言いながら、声はどこか優しげで、嬉しそうだった。

「そうですか、何だか本当に面白い人ですね。それに嬉しかったです…俺を信じてくれたことが」

素直な言葉が零れ出る。

「そうかい…、ならここから改めて本当の戦いを始めよう」

「分かりました…。それじゃあ、その思いに全力で答えさせてもらいますよ」

「あぁ、こちらも全てを出し切らせてもらうよ」

真紅に染まった純白の戦士、漆黒に染まった真の姿を見せた戦士の最終決戦が始まった。




今回は零の闇落ち化それにアディルゲンの真の姿を降臨させました。
若干某ヒーローのシステムを使わせてもらいました…、「お婆ちゃんが言っていた…」
何か格好良かったので取り入れました…。
それに、工藤先輩が零を庇うと言うか、何と言うか…。良い人…。
次回でバトルの決着が着きます、どちらが勝つかは分かりません…。
それでは今回もありがとうございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話開幕と始まりの終わり

バトルの決着です、お待たせしました。


 ヒーローに成りたかった…。そう思ったのは確かにヒーローの番組を見ていたから、それも理由として確かにあった。

 でも実際は、もっと大きくなってからだった。人に絶望して、光を見ることを辞めた時に、もう一度見返した。

 

「あぁ…やっぱり凄いな…」

 

見ているうちに、涙が自然と頬を伝っていた。

 

 目の前で涙をこぼす人を、苦しみに苛まれる人、絶望に歪んでしまった人を、救い出してしまう。本当は彼らの中で、様々な葛藤があってその中で助けようと必死に足掻いている。

 

「俺は…成りたかった…。俺も…貴方達の様な正義の味方に…」

 

 誰かが言った、『英雄は目指した時点で、英雄に成れない』と。

 

 じゃあ、俺は今何者なんだろう…。

 

 EXAMシステムを発動したストライクフリーダム・クロイツェン。その力はこちらが発動したN・I・T・R・Oと互角の代物、いやそれ以上だった。

 そもそもEXAMシステムはニュータイプを打倒・駆逐するために開発されたシステム。人の脳波を電磁波として検知し、検知した相手の脳波から『殺気』の識別を行う。識別された脳波に応じて、敵位置の特定・攻撃の瞬間を察知して回避するといった性能を持つ。

 N・I・T・R・Oがニュータイプを再現するためのシステムに対し、EXAMシステムはニュータイプを打倒・駆逐と正反対の代物と言える。

 しかし、ここに共通点を上げるとするならばまず一つ。EXAMシステムもパイロットとの親和性が鍵と成り、親和性が合えば驚異的な戦闘能力を引き出すのだが、親和性が合わないとなるとシステムの殲滅衝動に飲まれてしまうなどの危険性が備わっていること。

 そして二つ目は、制限時間だ。ガンプラバトルでは機体に組み込まれた特殊システム(例・N・I・T・R・、EXAMシス テム)は、機体の性能を極地まで引き上げるために一定の時間制の中で可動する。それも、一度だけ。条件を満たせば再び使える特殊システムも有るが、今使われているシステムは一度きりの最終兵器でもあった。

 

 明らかに押されている、そう思いながら自分の機体を操作する。

 今には右手にオキツノカガミを持ち、槍のリーチを活かした連続突き攻撃。左手にはビームライフル持ち、オキツノカガミで作った隙間からの狙撃を。狙撃をシールドを使いビームライフルのビームを防ぎながら、ビームサーベルでオキツノカカガミに対抗する。ビームサーベルの刃から流れたオキツノカガミが、頭の横ギリギリ所を通り過ぎる。

 避けると同時、に前のめりになった所に蹴りを入れる。ストライクフリーダム・クロイツェンとの間に距離を生み出し、シールドに備え付けられていたメガランチャーをライフルと合体させる。

「GNメガバスター・ライフル 発射」

高濃度に圧縮されたエネルギーを放出する。その砲撃を機体に存在する推進力を、フルに使い回避する。

「うおぉぉぉ…」

GNメガバスター・ライフルを撃ちながら、逃げるストライクフリーダム・クロイツェンを追うように傾ける。

「馬鹿な、あれ程の威力の砲撃を撃ち続けながら…。でも、そこが本当に面白い…」

加速を続けるストライクフリーダム・クロイツェン。フィールド上に存在する破壊されたコロニーの残骸に身を潜めた。 

 が、潜めた所がバレていたようで、ビームがコロニーの残骸を貫通し破壊していく。その場から逃げ切った頃には、跡形もなく破壊されていた。

 砲撃で攻撃し攻め落とそうと思ったが、そう簡単にはいかなかった。メガランチャーをGNロング・バスターライフルから取り外し、三度狙撃体勢に切り替える。EXAMシステムを使っているために、そう簡単には当たらない。が、これまでの経験をここで…。

「また狙撃体勢に…。この状況で深追いして接近戦に発展するのを恐れたか?それとも、EXAMを使用した僕を狙撃できる自信が有るとでも言うのか…。全く、面白いよ!君は!」

ふいに笑みが溢れる。

 その行動が吉と出るか凶と出るか、その勝負真っ向から受けさせて貰うよ。

 

『君の狙撃が上か』

 

『貴方の近接戦闘が上か』

 

 『『ここで決着を付ける』』

 

 先に動き始めたのはストライクフリーダム・クロイツェンだった。紅に染まった機影が彗星の如く、高速で宇宙を駆け抜け、残ったドラグーン、レールガン、ビームライフル、胸部のビーム砲で一斉に砲撃を仕掛けてきた。

 絶え間なく降り注ぐ砲撃の雨、宙を駆け巡るビーム。

「行けビット」

ビットをシールド状に展開し、回避行動を取りながら防御していく。攻撃の合間を見計らい、ファンネルでドラグーンを撃墜に向かわせる。それに気づいた工藤先輩は、ドラグーンの標的をファンネルに変更する。互いのファンネルがビームを放ちながら、宇宙で交錯する。その光景はまるで、妖精が踊っているようだった。

 互いに特殊システムを使用しながら、機体を操作し相手を倒そうと奮起する。その中で、さらにはファンネルを自ら一つ、一つ操る。こんな戦い、今までしたことも無かった。胸の高鳴りが抑えられない、こんなに戦いが出来るだなんて。

 GNロング・バスターライフルを再び構え時には、すぐ目の前に、手を伸ばせば届きそうなほど近くに居た。それでも迷わず引き金を引いた。ヘッドパーツを掠れて、左目を破壊する。その反動で、オキツノカガミがライフル貫き、スコープ越しの右目を破壊された。

「はぁ…、はぁ…。そろそろ限界じゃないかな…」

「先輩の方こそ…、もうヤバイんじゃないですか…」

お互いにこうは言っているが、両者ともに限界が近づいていた。先輩のEXAMが切れるまで後幾つだ…。いや、それより俺のN・I・T・R・Oの方が切れそうだった…。

 なら、切れる前に…、

「ここで決める!」

GNロング・バスターライフルを投げ捨て、機体の全スラスターを吹かせ急接近する。

「遂に狙撃を辞めたか!」

近接戦闘に備え、全てのパワーを集中させる。

ホルダーからビームサーベルを引き抜こうとするが、

「でも、もうこれ以上はさせないよ」

引き抜く瞬間を狙って、実体剣・トツカノツルギの横一閃を喰らい遠くに払われてしまった。

「近接なら僕のほうが、有利だ!」

トドメの一撃と、右手のオキツノカガミで、左手のトツカノツルギで突き出してきた。それを貫通するギリギリで、両手掴んで止める。

 

 しかし、

 

「君の事だ…止められることは、想定済みだよ」

手を離そうとするも、機体がストライクフリーダム・クロイツェンの加速に阻まれて離すことが出来ない。

「くはっ…」

宙に浮かぶコロニーの残骸の外壁に叩きつけられる。ファンネルとの戦闘を生き残ったドラグーンが、両肩の装甲を貫き壁に固定する。

 

「これで、最後だ!」

 

両手に握られたオキツノカガミのビームの刃がより紅く煌めく、そして両腕を動かせないアディルゲンの胸部に、振り下ろした。

 

「俺は…ヒーローだ…。だから、常に最後の手段を残して…」

 

小さく頬の端をつり上げる。

 

「何…」

胸部を覆うように、大型の盾が出現していた。

 

「ZEROウイングガン、シールドモード」

「あの右足の武装…」

「ZEROウイングガン、ウイングモード」

盾が鳥の形に変形し、ストライクフリーダム・クロイツェンに向けてビーム砲を胸部の中心に打ち込んだ。

 しかし、打ち込まれた胸部には爆風も何も起こらない。

「一体何を…、って動かないだと!」

爆発は起こらない、その代わりに行動が出来ない。

「ZEROウイングガンのポイントシュート…、先輩。貴方とのバトルは、最高に楽しかったです。ですが、これでフィナーレです!」

両肩の装甲を壁に突き刺したまま、無理矢理に機体を動かし、損傷覚悟で引き剥がす。

「機体が動かない…なら、最後の足掻きだ。ファンネル」

両肩を貫いた2機のファンネルを操作する、

「ZEROウイングガン・LOST・ ENDモード」

鳥に変形したのを、今度は再び右足に接続させる。右足の膝上にVの字を型どったシールド状態、膝下を覆うレールガンの組み替える。さらにメガキャノンシールドを、バックパックに接続させる。

「これが俺と、相棒の必殺!」

残骸を足場に舞い上がり、

「トランザム・最大開放」

『トランザムシステム起動』

「もう一つの特殊システムだと…、そんな見たこと無い…」

漆黒に染まる機体が、所々青く・蒼く色づき始めた。

 それと共にストライクフリーダム・クロイツェンの胸部から三角錐上のレーザーのトンネルが生み出されていく。そこから、まるでこちらを誘導するかの様に、一本の線が宙に引かれていく。ライン上にビットを正方形に三つ展開し、GN粒子を正方形内に張り巡らせる。

 

「インフェルノ・ブレイカー」

 

漆黒と蒼青、二種類の輝きを放ち、右足を突き出しレーザーを辿るように、ビット内に生み出されたGN粒子のを通っていく。GN粒子を右足のZEROウイングガンにエネルギーとして蓄積させ、胸部の三角錐上のレーザーのトンネルに機体が吸い込まれるように通り抜けた。

 

「終焉の一撃…」

 

言い終わると共に、ストライクフリーダム・クロイツェンは胸部から爆発していった。

 

「Battle end winner Kuremiya Rei」

システムがバトル終了を告げ、フィールドは再び機械の表面だけになり破壊されたストライクフリーダム・クロイツェンとアディルゲン・RiderFormが蹴りから着地した状態で残っていた。

「勝った…」

勝利したことに安堵し、呆然としていた。

「お見事だったよ、負けたのは悔しいけど…。すごく楽しかったよ、今のバトル」

敗北した工藤先輩が歩いてきた。

「俺も…良かったです。先輩とこんなガンプラバトルが出来て、久しぶりに負けるかなって焦りましたけど…」

「後少しだったんだけどな…。あの変身といい、変形武装といいずるくないか?」

「良いじゃないですか、俺の相棒を最大限に強くする為なんですし」

「まぁ、ガンプラは自由だからね。それでも、暮宮君。改めて君とのバトルは楽しかったよ」

そう言って、手を差し伸べてきた工藤先輩。

「……」

その手を一瞬、握るか躊躇ったが。

「こちらこそ、有難うございました」

素直に先輩の手を握り返した。

 

「暮宮!お前は、初日から何してるんだ」

 

すると突如として、体育館の扉が勢いよく開かれ、眩い光が差し込む。その光の中から、明らかにこちらに向けての視線が痛かった。

 

「紅葉谷先生…」

目を細めて光の中を覗きこむと、先程のスーツ姿とは違い、スポーツジャージの紅葉谷先生が顔を真っ赤にして立っていた。

 

「確かに構内を回って良いとは言ったが、もう授業は始まっているんだぞ…。はぁ…、職員室に戻っても居なかったから…、はぁ…探し回っていたら…ようやく見つけたぞ…」

その目は獲物見つけたハンターの如く凶暴な目をしていた。

 

「暮宮君、逃げるなら今のうちだ…」

 

その凶暴な目を察知した工藤先輩は、顔を青ざめて、小刻みに震えていた。

 

「……はい」

 

工藤先輩の言葉を信じすぐさま、相棒を回収して近くの扉まで全速力で走った。

 

「あ、暮宮、待て逃げるな〜!」

すぐさま紅葉谷先生も追いかけてきた。

 

 近くの扉まで全速力で走ればすぐにでも届く距離だったが、先程のバトルでかなり体力と精神を消耗し後一歩のところでこと切れた。というか、意識がまた薄れて倒れたのだ。考えたら、昨日の一見で医者から『急激に激しい運動は控えてね』と言われたばかりだった。

 そのために、

「あは…、災厄の転校初日だ…」

相棒をしっかりと握りしめ、また暗闇に意識を持っていかれた。

 

「たく、転校初日何やってんだか…。本当に世話の焼けるやつだな…」

倒れた暮宮を見下ろし文句を言いながら、軽々と担ぎ上げる。

「ほら、残りの生徒も授業はもう始まっているんだから。早く教室に戻りなさい」

周りでここでしたいた事を見ていた生徒たちを、教室に戻るように指示をして、

「おい、工藤。お前は後で話を聞くからな…」

今回の件に大いに関わっているであろう工藤に、睨みを聞かせた。

「ひゃ…は…い…」

硬直した様子で返事をし、その場を去っていった。

 それにしても、バトルシステムのある体育館に居たのなら…。バトルシステムの方に目を向けた。

「純一郎、お前の息子…まだやってるよ。お前が教えたガンプラバトル…」

誰にも聞こえない声でそっと言い残し、体育館を後にした。

 

「すごかった!あのプラモデルのバトル、すっごくキラキラドキドキした」

体育館から教室への道中、みんなで先程のバトルの話になった。

「うん、特にあのバーン!ってなって、ガシャーン!って変形した所とか」

「いや、全然わからぁ…無くもないな…うん。香澄やおたえが言うように、あれは本当にすごかった」

有咲が香澄とおたえの擬音語の表現に、ツッコミを入れないということは有咲の中でも余程すごかったんだろう。

「私は最後のあの必殺技がかっこよかったよ、空中で飛び蹴りを放ったあれ」

「あ〜、あの『インフェルノ・ブレイカー』だっけ?」

りみの言いたかった技名を言うと、

「そう、『インフェルノ・ブレイカー』」

「確かに、綺麗に相手の真ん中を射抜いていたもんね」

「それに、あの技名あこちゃんとかが好きそうだったね」

「確かに、あこは好きそうかも」

そんな風に笑い合ってみんなで教室に戻っていると、

「すまん、通るぞ」

 

「あ、すみませ…」

見ると、そこには先生に担がれ運ばれている零だった。

「え、先生。それに零!一体どうしたんですか?」

声を聞いた先生は顔だけ振り返り、

「あれ、山吹はこの馬鹿の知り合いなのか?」

先生…生徒の事を馬鹿って…。

「そうですけど…もしかして?」

「こいつ、さっき私から逃げようとしたんだがな。あそこで何をやっていたかは大体想像がつくが、その影響で無理に走って気絶したらしい」

「零が…」

「あぁ、だから今から保健室に連れて行く。とは言うが、私も授業があるから長くは付き添えないんだ…」

「じゃぁ、私が付き添います」

零がこんな状態に有るなら、私がついてなきゃ。

「でも、山吹。授業はどうする、休講か?」

「零が目を覚ました時に、知っている人がいれば楽だと思うんですけど」

先生は少し悩んだ様子でいたが、

「わかった、特別に許可しよう」

「あ、ありがとうございます」

「その代わり、君達はすぐに授業に出ること良いね?」

「「「「はーい」」」」

「それじゃあ、山吹少しついて来てくれ」

「じゃあ沙綾、あとで様子見に行くからね」と香澄。

「私も授業休みたい…」とおたえ。

「あとで、今日の授業の分のノート見せるね」とりみ。

「ちゃんと起きたら、戻ってこいよ」と有咲。

「うん、分かった。それじゃあ、また後で」

みんなとここで一旦別れ、先生と担がれた零と共に保健室へ向かった。

 

 保健の先生は今日出張で居ないようで、零をベッドに寝かせるとすぐさま、

「それじゃあ、後は頼んだ。あ、二人だからって変なことするなよ」

と言い残して、先生は保健室を出て行ってしまった。

「ちょ、先生…」

先生の発言に少し残念がりながら、ベッドで寝ている零を見つめる。

「本当に格好良かったよ…零。私のヒーロー…」

そっと頭を撫でる。すると、零の安心しきった寝顔が見えてきた。撫でられるの気持ちいいようで、撫でるたびに笑顔をこぼす。

「可愛いな…零は…」

今この二人だけの瞬間が、続けばいいだなんて思っちゃ駄目だよね…。

 心の中でちょっとだけ、モヤっとする感情が何処かで渦巻いていたが、今はそれ程気にするものではなかった。それでもこの瞬間を残したいと思って、持っていたカメラを起動して…。

 

「目、覚めたかな?ヒーローさん」

「痛っつつ…、何とかな沙綾」

気がつくとまた見知らぬベッドの上で、隣には沙綾が座っていた。

「思い出してくれた?」

「あぁ、十年越しに帰ってきたよ」

「もう…、ずっと待っていたんだから」

昨日の病院で見た時と同じように、頬を膨らませる沙綾。

「待たせたな…本当…。ただいま、沙綾」

「おかえり、零」

ベッドから体を起こし、沙綾と抱きしめあった。その時に感じた沙綾の温度と匂いが、本当に懐かしかった。

「ちゃんと帰ってきたよ…」

「うん…」

それからしばらくの間、何も言わずに抱きしめあっていた。

 互いに落ち着きを取り戻した後、

「零、ずいぶんとイメージ変わったね」

「そうだな…、引っ越したときからもう十年は経っているからな」

「いや、そうだとしても。やっぱりずいぶん変わったね…、雰囲気もそうだし…バトルも…」

「別におかしい事はないだろ、人は変化していくんだから」

「うん…、そうだよね」

やっぱり、昔の零とは何かが違う…。さっきから話している時もそうだし、目つきあんなにキツかったけ…?

「それに沙綾も変わっただろ?この十年間で」

「あ、私?そうだね…、私今友達とバンドを組んでるんだよ」

「へぇ〜、バンドか…。今度曲聞かせてよ」

沙綾の所属しているバンド、どんなのだろう。

「じゃあみんなに聞いてみるよ、多分即答でオッケー出ると思うよ」

バンドってそんな簡単にライブするのだろうか?そういうのを知らない俺からは、良くは分からなかったが、聞けるのなら良いかな。そう思って、深くは聞かないことにした。

「そっか、楽しみにしてるよ」

屈託のない、あの頃と同じ笑顔をする零。

 あぁ、こういうところは変わってないんだ。

「うん、楽しみにしててね」

私もあの頃と同じように出来たのかは分からないけど、笑顔で零に答えた。




え〜と、タグの仮面ライダーは…あの、必殺技を少々参考にさせていただき…。
まぁ、単純にカッコいいからやりました!(開き直り)
今回で長かった、長く続けてしまった一章を完結とさせていただきます。
次回からはそれぞれのバンドとの交流を書きながら、また熱いガンプラバトルをやっていきたいと思っています。
今回も閲覧いただき有難うございました。感想がどんどん言ってください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七話遅れて自己紹介

ポピパのみんながしっかりと登場です。


 あの後も、沙綾と話しをしていた。けれど、バトルで特殊システムを重複して使ったのが原因か、頭痛と吐き気が止まらなかった。

 頭には突き刺すような痛みと、中から込み上げてくるような吐き気が襲ってくる。

 沙綾に支えられトイレに駆け込む。込み上げてくるものを、胃の中身を出し切ったんじゃないかと云うくらいに、吐いていた。

「はぁ…はぁ…、これは流石にキツイ…。うぅ、ごめん…」

トイレから戻る時は、吐き気は少しは収まったがまだ少しふらついていた。

「なんで零が謝るの。まぁ、確かに零が無茶したから自業自得だけど」

「面目ない……」

「そんな暗い顔しないで…、ごめんって」

「うぅ…沙綾がいじめる…」

零は弱っているせいか、少し精神が幼くなってる。

「ほら、保健室着いたから。また、ベッドで寝ておきなよ」

「もう良い…、外の空気吸いたい…」

「え〜、寝てないとまた倒れるよ」

「さっき寝たから大丈夫…、だから外…」

これは完全に弱りきっていて、まんま昔の零だ。そんな悲しそうな目で見ないで。

 このまま零を外に連れて行けば先生に怒られそうだし、かと言って連れて行かないと多分また体調の方が…。どうしよう…。頭の中で先生か零の二択で、ひと悶着が繰り広げられた。

「はぁ…、じゃぁ少しだけだよ」

結局この幼児退行化の零が、可愛くて面白いので連れて行くことにした。先生には、後でなんとかしてごまかそう。

「やった〜、沙綾好き」

分かってやっているのか、分かってないのか抱きつく零。もうこれは、私の負けだ…。

 

 中庭に行くと、夏の風とはいかないが爽やかな風が少し吹き始めてきた。二人でベンチに座り、零に深呼吸をさせる。

「どう?だいぶ落ち着いた?」

「すぅ…すぅ…」

連れてこさせておきながら、私の肩に頭を置いて眠ってしまっていた。

「ちょっと零…」

「沙綾…」

私の名前を呼びながら、そっと手を握ってきた。零の大きな手が私の手を、優しく包み込んでくる。

「はぁ…困ったヒーローさんだ…」

香澄たちに中庭に居ることをメールして、私も零の方に寄りかかって眠ることにした。

 

『本当にこの子達は、仲が良いわね』

『もう実の兄妹って言えるくらいに、仲良しだもんね』

『大きくなったらこの子達、一体どうなるのかしら?』

『きっと、零くんが家の沙綾をもらってくれるでしょう』

『そうなったら、沙綾ちゃんも幸せかもね』

 

「……母さん」

何で母さんが…、ってここ何処?目が覚めると、今度は外のベンチに座っていた。

「何でこうなったんだ…」

微かな記憶を辿っていくと、虚ろな記憶が蘇って…。

「は、恥ずか死ぬ…」

顔から火が出そうなほど顔を真っ赤にして、錆びた人形の様にゆっくりと肩の方から感じる温もりに目を向けた。

「零…」

何で沙綾が隣で…、それに手、おもむろに恋人つなぎ…。昔はよく意味も知らずにやったけど、今は…。

 取り敢えず、誰かに見つかる前にこの状況を何とかしなければ。

 

「あ、沙綾!」

 

 終わった、行動開始0秒で誰か来た!あ、もう完全に積んだ…。

「えーっと、君は?沙綾が言ってた、幼馴染さん?」

猫耳のような髪型をした少女が、目新しいものを見るようにこちらを見つめてきた。

「え…あ、あの…」

そして今度は、

「おい、香澄。走っていくなよって…、そいつ誰だ?」

金髪のツインテールの髪型の少女が、不審者を見るような目で睨んできた。怖い…、沙綾起きて…。しかし、一向に目覚める様子もなく…。

「あれ〜、みんな固まってどうしたの?あ、謎の転校生?」

綺麗で長い黒髪を持ち、何かを背中に背負った少女が今度は現れた。それと何?謎の転校生?どゆこと?

「急に走らないで…。お弁当の中身崩れちゃうよって…?この人は…?」

まだ増えるのか、今度は黒髪だけど短くボブカット?髪型はよくわからないが、単髪の優しそうな少女が現れた。それと、そんなに怖がらないで…。逆に傷つく…。

 完全に囲まれた。知らない人…、しかも女子…、怖い…恐い…コワイ…また何か…。どうしようトラウマが…、嫌だ…嫌だ…。沙綾、起きてよ…。沙綾…。

 

「あ、あの〜」

猫耳の髪型の少女に、話しかけらた。

 

「ひゃ、はい…」

ビックリして声が裏返ってしまった。

 

「もしかして、貴方が沙綾の幼馴染さんで良いのかな?」

「え、あぁ…はい…そうです…」

「やっぱりそうだ、ほら朝のバトルの人だよ」

バトル?じゃあ、この人は今朝のバトルを見ていた人の一人…。

「え、嘘だろ。全然雰囲気違うぞ」

「でも有咲、この人から聞こえるの朝の人と同じだよ」

長い黒髪の少女はそう言うが、聞こえるって何が?

「んんっ…」

「あ、さーやちゃん起きたよ」

この騒ぎでようやく、沙綾が目を覚ましてくれた。

「あれ、りみ。それにみんなも、もうお昼休み?」

「そうだよ、はいこれお弁当持ってきたよ」

このボブカット?の子はりみと呼ばれる人から、お弁当を受け取る沙綾。

「ありがとう、りみ。あ、零…」

「やっと起きた…、誰?この人達…」

起きて早々に零は、絶賛人見知り発動中だった。もう、高校生なんだから。

「大丈夫だよ、私の友達だよ」

「あ…友達…、オーケー…一回落ち着くから待って…」

隣で深呼吸を始める零。

「どうしたの、謎転校生くんは?」

「おたえ、それまだ言うの?」

「なんだか気に入ってきたから」

「まぁ、気に入ったなら…。あれだよ、人見知りだから。軽くウォームアップだよ、ほら丁度終わったみたいだし」

呼吸を整えたようで、

「えっと、暮宮零(くれみや れい)です…。あの…ファイターをしてます…通り名は絶望の…旋律者です…」

「お、ちゃんと言えたじゃん。でも、もうちょっと大きく言おうか」

「お願いだから、それはやめて…」

これ以上は耐えられないから。

「暮宮零、なら零くんだね。私は戸山香澄」

猫耳の髪型の子は、戸山さんか。

「よろしく…戸山さん」

「良いよ、香澄で。私だって、零くんって呼ぶんだから」

「じゃあ、香澄。よろしく…」

「あ、じゃあ次は私。花園たえ、夢は理想の花園ランドを作ること」

長い黒髪の子は、花園さん。てか、花園ランドって何?あの、某ネズミが支配しているところみたいな感じかな。

「花園ランド?はぁ、頑張ってね花園さん」

「おたえがいい」

「あ、はい。じゃあ、おたえよろしく」

「零って、この状態だと何かうさぎっぽい」

「え、うさぎ…初めて言われた…」

「あ、私、牛込りみって言います」

この人も人見知りかな、

「よろしく、牛込さ…りみの方が良いのかな」

流石に3人目だ、俺だって学習はする。

「うん、りみでいいよ。さーやちゃんの幼馴染さんなんだよね?さーやちゃんの家のパンで何が一番好き?」

「え、クロワッサン…。あとは、メロンパン」

「そうなんだ、チョココロネも美味しいよ!」

何だ、この謎の気迫は…。

「今度食べるよ…」

「うん!さーちゃん家のチョココロネは絶品だから」

「りみ、いつもありがとう」

あ、常連さんなのかな。すると残りは…、まだ睨まれてる…。

「有咲、顔怖いよ。ほら、せっかくの可愛い顔が台無しだよ」

「うっせー、そういうこと言うなし」

この子はツンデレなのかな?

「あ、そうか。私は市ヶ谷有咲」

「よろしく、市ヶ谷さ…有咲」

ここも名字で呼びそうだったが、何とか名前で言えた。

「あのさ、零だっけ?」

「あ、はい?」

 

「いつまで沙綾と手を繋いでいるんだ?」

 

「え?あ…」

言われて、思い出した。慌てて手を離そうとすると、沙綾の方が握ってきた。

 

「私と零、10年以上会って無くて…。それで無意識に、昔みたいに私から握ったの。有咲も零の手、握ってみたい?」

「別にそんなじゃねぇし、ただ単に何時までなのかなって思っただけだ…」

「そっか…」

すると沙綾の手から力が次第に抜けていき、お互いに手を離した。

「ねえ、零くんもお昼ご飯一緒に食べようよ」

香澄がここに集まった目的を果たしに来た。

「あ、良いの…。俺が居て…」

「何で?嫌なの?」

そんな捨てられた子猫の様な目で見ないで…。

「良いなら良いけど…、じゃあお弁当取って来るから…」

「何処に有るの?」

お弁当が無いのを察知したおたえが聞いてきた。

「職員室、あそこにカバン置いてきたから、お弁当もあそこに…」

それに相棒の保健室に有る、相棒の回収をしなくてわ。

「じゃあ、一緒に行く。何だか、面白そうだから」

「いや、そんな大した事は無いよ…」

「それでも行く、だってまだ場所覚えてないだろうから」

「それは…、そうだけど…」

「じゃあ、しゅぱーつ!」

おたえはいきなり走り去っていってしまった。

「あ、ちょっと待って…」

その後をふらつきながらも必死に追いかけた。

 

「おたえちゃん、零くんを連れって居ちゃったけど大丈夫かな?」

心配そうにりみが呟く。

「まぁ、多分おたえの事だから。大丈夫な…」

「沙綾、そこは大丈夫だと思うぞ…」

有咲と二人で、心配しながら零を待つことになった。

 

「ただいま…、もう限界…」

何とか相棒と、お弁当の入ったカバンを職員室から回収することが出来た。疲れ切っていたが、何とか沙綾の近くに座り込む。

「どうしたの、さらにげんなりして?」

「私は普通に学校を見学させただけだよ?」

さも平然と答える犯人。

「色々見たよ、生徒会室とか、音楽室とか、被服室とか、調理室とか、図書室とか」

「おま、まさかこの短時間で校舎内一周してきたのかよ」

「おたえ、すごい!」

「いや、香澄。そこ感心するとこじゃないから」

「それで、零くんはこんなにげんなりしきっているんだね」

りみが心配して声を掛けてくれた。

「はぁ…あぁ…、いきなり一周…」

足がもう動かない…。

「でも、場所覚えられたでしょ?」

「何とか…」

ひたすらな迄に各教室について説明してくれたから。

「あ、あとね。零、紅葉谷先生に怒られてたよ」

「おたえ、それは言わない約束…」

「それってバトルのこと?」

沙綾の質問に、頷き答えた。

「そうだよ…、『勝手にシステムを使うな』ってのと、『授業が始まっているのに』とかこってり絞られた…」

「零、絞り出されたの?」

おたえが不思議なことを言ってきた。

「いや、怒られたって意味」

「あ〜あ、そういう事」

「そういう事」

それ以外に何が、有ると言うんだ。

「それじゃあ、みんな揃ったからお昼ご飯食べよっか」

「「「「「いただきます」」」」」

香澄の掛け声と共に、一斉に食べ始めた。

「いただきます…」

少し遅れて、食べ始めた。昼食を取り終えると、先程のバトルの話になった。

「ねぇ、零って何時もあんな感じなの?」

「え、まぁ…うん」

「じゃあ、バトルの時だけ、あんなに性格が変わるの?」

やたらとおたえに質問される。

「バトルの時は相棒が居るから、相棒が居れば強くなれる…」

「あ、零くんその相棒さん、見せてよ」

「良いけど…、今かなり酷いよ…。修理しないとバトルできないし…」

そう言いながらカバンから、相棒を取り出す。

「すごーい、近くで見るともっとすごいよ」

目をキラキラと輝かせる香澄。

「ガンダムアディルゲン、今はRiderForm。これが、俺の相棒の姿」

「こんなものが作れんだ、すげぇーな」

「ありがとう、有咲。あ、こんなのも有るよ。昔の作品だけど…」

スマホに保存してある写真を見せる。

「どれどれ…、うわぁ!何だこの数、えーと二千枚だと!」

「そんなに作ったの?零くん」

りみが写真の枚数に驚いているようだが、

「実際に作ったのは軽く…あれ、幾つだったけ?作りすぎて分からないや。あははは…」

「いや、お前どうやったらそうなるんだよ」

有咲が呆れ気味に言ったので、

「え、だって俺友達いなかったから。放課後と休日はひたすらに作って、戦っての繰り返しだから。そしたらこうなった」

「おう……そうか……」

あれ?何か変なこと言った?

「でも、この写真に関してその中で特に気に入ってるやつだよ。そう、俺の親衛隊!」

「ごめん……、私が悪かった……」

え、なんで俺謝れてるの?そんな憐れむような目で、肩に手を乗せて見ないで。

「なんで有咲が謝るのさ、別にこうなったのは自業自得だった……」

頭の中が真っ黒になるように、あの事が蘇ってくる…。やめて、ヤメテ、もう終わったんだ…だから…。来ないで…コナイデヨ…。

「零くん、大丈夫?」

香澄が心配そうに声を掛けてきた。

「はっ…、うん…。ちょっと…ね。今は平気だから…」

そうだ、今ここにアイツらは居ないんだから。

「ホントに?もう平気?」

「大丈夫だから、ほら」

会って早々に迷惑は掛けられい、そう思って写真の一枚を見せる。

「これ俺の親衛隊の中でも、一番の最高傑作」

「す、すごい…。綺麗な色…、ねぇ何ていうの?」

「あぁ、MS-06R-0W サイコザク・ヴァイス」

「あれ?これは『ガンダム』って言わないの?」

「りみ、こういうのが全部が全部、ガンダムじゃないよ」

「さすが沙綾、覚えててくれたんだ!」

「だって散々、零が懲りずに話してくれたんだもん。覚えてるよ」

「散々って…そんな言い方無いよ〜」

「冗談だよ、楽しそうに話してたの覚えてるよ」

颯爽と笑顔になる零。

「でも、これ何だか動きにくそう…」

りみの指摘を不敵に笑う。

「そう思うだろ…」

「違うの?」

みんなから疑問の視線が向けられる。

「全く違うね。コイツの動くところを見れば、きっと驚くぞ」

「じゃあ見たい!この子が動くのを見たい」

「香澄、零はさっきのバトルでだいぶ疲れてるんだから」

「あ、そうだよね。でも、有咲も見てみたくないの?」

「それは、気になるけど…」

「私はみたいな〜」

「私も、どんなものか見てみたい」

「ちょっと零、すごい言われてるけど。どうするの?」

沙綾が顔を覗き込む。

「良いよ、見せてやる。このサイコザク・ヴァイスの本領を」

「良いの?」

本当にみんな良い笑顔をするな…。

「でも、今日じゃなくて休日で。今日が木曜日だから、土曜日空いていればそこで面白いものを見せてあげられる」

「面白いもの?それって何をするの?」

「それを言ったら意味がない。でもヒントを上げる、沙綾」

「ちゃんとわかる奴でね」

「分かってる、じゃあヒントね。工藤先輩や俺はビルダーでありファイターである。そんな俺達みたいなのが、その実力を出しているのは何でしょう?」

「ビルダーでありファイター?」

「これがヒントだから、みんなで考えてね」

荷物をまとめ始めた、

「ちょっと零、どこ行くの?」

制服の上着の裾を掴んだ。

「さっき職員室で先生と会った時、この体調じゃ今日は無理だって言われて。

『今日は帰って休め、それで明日大器晩成の状態で来い』ってさ」

振り返り、

「だから今日は早退だよ。転校初日でこれじゃ、まずいけど」

苦笑いを浮かべる。

「じゃあ、今日はもう…」

沙綾の声が暗くなる、やっぱり見たくないんだよな…。

「でも、帰っても一人だから。何処かで時間を潰してから、帰りに迎えに来るよ」

「え、良いよそんな、二度手間じゃ」

「十年だ…、俺にだって長かったんだよ…。それじゃあ帰る時に連絡して、校門の近くにいる」

そう言うと、カバンをも持って去ってしまった。

 

「零くん、面白い人だったね」

香澄は楽しそうに笑う。

「バトルの時は怖かったけど、普段はあんなに優しいんだね」

りみは何処かホッとした様子。

「でも、沙綾が居たからじゃないの?だって沙綾が起きる前は、もっとビクビクしてたよ」

おたえは少し不思議そうだった。

「そこはあれじゃないのか、幼馴染だったからって言うのもそうだし。零だったけか…あいつの名前」

有咲が怪訝そうに、去り行く零の背中を見つめながら、

「あの零ってやつ、きっと何か相当なモノを抱えてる気がする…」

有咲は昔の自分と似たを感じたのか、心配そうに見つめていた。

 お昼休みの終わりを告げる、予令のチャイムがなり、それぞれの教室に帰った。

 

 私の中で、あの有咲が言葉は胸に違和感を残していって。




今回は集まれポッピンパーティー!的な話でした。
みんながちゃんと零と関わりを持ち始めました。それそうと…零の沙綾に対してのデレが…何かギャップがあり過ぎて、何かもうね…。
新たに出てきた、『MS-06R-0W サイコザク・ヴァイス』これは一体どうなるのか。
そしてあの事、有咲が言う『抱えているものとは』…。
今回も閲覧いただき、有難うございました。
今後とも、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八話帰り道と風紀委員

ポテト好きの…、あの先輩が…。


 あれから何事もなく、学校の授業は終わり下校となった。みんなからは、『積もる話も有るはず』と気を使わせてしまったようで、今日は一人での下校。

 零の携帯に連絡を入れて、校門に向かうと。

「お、終わったみたいだな」

「零だよね…?」

「そうだけど…、どうかした?」

「どうかしたとかじゃなくて!何にそれ!?」

真っ黒なパーカーを着た零が寄り掛かる後ろには、一台の真っ黒なバイクが停まっていた。ビックリして思わず、零かどうか聞いてしまった。

「あぁ、これ俺の愛車だよ。愛車?まぁ、良いや。名前はブラックスペイダー。このフォルム、色、もう最高でしょ」

愛おしそうに撫でているが、

「いつの間に、バイクの免許取ったの?」

「高校入ってすぐだよ?いや〜、憧れだったからさ」

「うん、憧れがあったのは分かった…。でも、こういうのって高いんじゃ…」

「え?あ〜、うん…まぁ…。そこはあれだよ、そうバイトして買いました」

凄い目が泳いでる、なんだか怪しい…。

「それより帰るんでしょ、それとも帰らないの?」

「帰るけどさ」

「うんじゃ、乗っていく?」

「ちょっと待って、二人乗りって心の準備が」

零の運転を知らないし、二人乗りって何かもうそう言うのじゃん…。

「ちょっとそこの生徒、一体学校の前で何をやっているの」

キリッとした声で、慌てふためいていた思考が収まった。この声は、

「紗夜先輩!えーと、これはですね…」

「沙綾、誰?この先輩?」

零はすでに私の背中に隠れ、紗夜先輩について尋ねてきた。しかし、私が答える必要は無かった。

「私は、氷川紗夜といいます。貴方、ここの生徒ですか?生徒でないなら、通報させてもらいますよ」

ポケットからスマホを取り出し、110を押そうと構えていた。

「え、あ…。暮宮零です、転校生で今日この高校に入ったばかりで…」

「転校生…」

その言葉を聞くと、氷川先輩は少し困った顔して考え込んでしまった。

「では仕方ないですね…、今回は厳重注意としておきましょう」

「良いんですか…?」

何故だか、あっさり許され帰されてしまった。

「だって、本校に転校して来たばかりの生徒ですよ。そんな人に、校則がどうとか言っても仕方が無いので」

「あ、ありがとうございます…」

「ですが、次は気を付けるように…。本校のイメージがありますので」

そう言って、氷川先輩は校舎の方に戻っていった。

 何だか怖い人に見えたけど、意外と優しくて綺麗な人だったな。

 

 結局帰る時、沙綾が『二人乗りをしない』という事になり、バイクを押して帰ることになった。そして話の話題は、先程の氷川先輩について。

「ねぇ沙綾、氷川先輩って案外良い人なの?」

「うん、態度はそっけないけど。本当は真面目で良い人だよ」

「へぇ〜、じゃあ頼れる先輩なんだね。あっ、あと氷川先輩すごく綺麗だったね。あんな綺麗な髪で、あの顔立ち…モデルさんみたいだったね。あれ沙綾?」

「……」

沙綾が急に黙っちゃった。何か不味いこと言ったかな?

「あの、沙綾さん?何か俺しましたか?」

「零の馬鹿…、スケベ…」

小さくだけど、俺に聞こえるように睨みながら言って、そのまま歩き始めた。

「あ、沙綾。待ってよ、ねぇ沙綾ってば」

バイクを動かし、隣を歩く。すると早足で歩き始める、追いつくようにすると更に早くなる。

「ねぇ…沙綾…。まって、お願いだから」

「……」

しばらく歩き始めて、ようやく止まってくれた。

「何をそんなに、怒ってるのさ?」

「紗夜先輩、そんなに綺麗だった…?」

どうしたんだ突然?

「まぁ、綺麗だったと言えば…綺麗だった」

「やっぱり零の馬鹿…」

「ちょ、何でよ。綺麗だったんだから、綺麗って言って何が悪いのさ」

意味が分からくて、すこしあたってしまった。

「はぁ…零はもう少し乙女心を学習しようか…」

残念そうにこちらを見つていた。

「それじゃあ、まずは私の機嫌を治すために協力して」

「わかった…。どうぞ、何なりとお申し付けください」

「言ったな〜、それじゃあ…。私と紗夜先輩だったら、どっちが綺麗か言って…」

 

その質問に、考える時間もなく即答で、

 

「え、沙綾だけど?何で、俺沙綾の方が、綺麗で可愛いと思うよ」

 

だって、一緒に遊んでいた沙綾を十年ぶりに見たら、背も髪も伸びて、大人びいた顔になっていて。でも、昔みたいに優しい面影が残っていて…。安心する…、沙綾と居ると安心する。

 

「……、何でそう簡単に…」

顔から火が吹き出しそうなくらいに、真っ赤にしてポカポカと叩いてきた。

「痛い、痛い…。だって本当の事だから、沙綾に対して嘘ついてどうするの」

今度は頬をリスみたいに膨らましていた。今日の沙綾は、感情表現豊かだな。

「むぅ…、零は卑怯すぎ…」

「え〜、また俺が悪いの?」

「そうだよ、零が悪い。ふ、あははは」

はぁ、こんなやり取り久しぶり…。本当に懐かしい…、零がこうしてまた隣に居ることがすごく楽しい。

「ねぇ、何か昔の私達みたいだね。こうやって、二人で話しながら帰るのさ」

「そうだね…、昔の俺達…」

まただ、零の様子がおかしい。こうして、過去に関する話をふると特に。

「昔の俺ってさ…、どんなだった…」

「え?昔の零、う〜ん…。そうだね、自分の好きな物にはすごく興味を示して、嫌いな物はとことん興味を示さなくて。よくヒーローごっこで危ない事して、先生に怒られてたし」

「あ〜、確かに怒られてた…」

「でも、一番は。男の子にイジメられて私が泣いていた時に、真っ先に駆けつけてくれた事かな。泣いて、怖かった所を助けてくれて…。本当に、格好良かったよ」

「だって、沙綾は俺の大事な人なんだから。泣いていたら、何処へだって駆けつけるよ」

「ありがとう、もしそうなった時には宜しくね」

「そうならないで欲しいけど、任せて」

こういうところ、変わらないね…。

 

 そうこうしていると、沙綾の家である山吹ベーカリーに着いた。

「じゃあ、無事に帰ってきたということで。俺は帰るな」

ヘルメットを取り出す。

「無事にって、そんな護衛対象じゃあるまいし」

「これは癖みたいなもんなの、だから気にするな」

「変なの、それじゃあまた明日」

「おう、また明日な」

ヘルメットを被り、バイクを走らせて帰っていった。

 

 家に着き、バイクを停めて部屋に上がる。

「淡い期待も、捨てたもんじゃないのかな……」

十年越しの再開、今の俺には沙綾が側にいてくれる。もう違うんだから…、だからここでは…。玄関の写真を眺め、決意した。

 

「ただいま〜」

「お姉ちゃん、おかえり」

「おかえり、姉ちゃん」

「沙南、純。ただいま、今日はどうしたの?」

「お母さんが、何だか嬉しそうにしてたから。だから私も嬉しくて」

「何か、『沙綾がお嫁に行く日が』と言ってたよ?」

沙南と純が何時もと違う理由は分かったが、

「何で私が、お嫁に行くことになってるの?」

あまりの事に、声が大きくなる。すると、奥から元凶である母さんが出てきた。

「あ、沙綾帰ってきてたの。おかえりなさい」

「ただいま、ってそれより、母さん。沙南と純に言った事、どう言う事なの?」

問いただすと、母さんはニコニコしながら話し始めた。

「あ〜、あれね。昨日お父さんがね『沙綾の機嫌が良い』って言うから、何か考えていたのよ」

「それで…」

「そしたらね、何時も学生さんが来ない時間に、見慣れない服の子が来てパンを買っていったの」

「それって…もしかして」

「もう、沙綾たったら。零君が、この街に帰ってきてるのなら早く言ってよ」

やっぱり早退した零だったか、それより家でパン買っていったこと何で言わなかったんだか…。

「明日は絶対お仕置きだ…」

「そう拗ねないの、向こうは気づいて無いみたいだったわよ。何かイヤホンで音楽聞いていたし」

「そうだったんだ、それで何買っていったの零は?」

「え〜と、チョココロネとクロワッサンでしょ。後は…それくらいね」

あ、りみのオススメ真面目に聞いていたんだ。

「そっか…、で、何で私がお嫁に行くって事になるの?」

「だって、昔零君のお嫁さんになるって、自分で言ってたじゃない。あれ、私の中では割と良いかなって思っていたんだけど」

「もうそれは、昔の話だから。はぁ、そんな事言って、父さんは大丈夫なの?」

「お父さんなら、『沙綾が、嫁に…』って言いながら、ショックで倒れたから、今は寝ているわよ」

あー、お父さんはもう倒れているのか、何故かもう諦め気味だった。

「で、零君はどうなの?同じ学校?」

「うん、同じ学校だよ」

「どう、久しぶりに会った感想は?」

「感想って…、そうだね…。何か、全然違った。昔の面影も有るけど、私の知ってる零じゃなかった…。何だか、凄く怖かった…。バトルの時もそうだったけど…」

「そうなの?確かに、一瞬見間違いそうになったけど。やっぱり零君は零君だったと思うわよ、それに沙綾がそう思うってことは、何かあったんじゃないの。沙綾が知らない十年の間で」

「そうだとは思う…」

「でも、沙綾は今までどおり、零君に接してあげなさい。きっとその方が、落ち着くだろうし」

「そうだね…」

「それと、付き合うんだったら早めに報告してね。お母さんは良いけど、お父さん泣いちゃいそうだから」

母さんは、また笑ってそう言った。

「お姉ちゃん、彼氏出来るの!」

「どんな人?ヒーローみたいに、かっこいい人?」

沙南と純が『彼氏』と言う言葉に、反応して騒ぎ始める。

「彼氏じゃないから、あとヒーローっていうのは合ってるかな…」

「「おー!」」

声を揃えてはしゃいでいる。

「そのヒーローさんに私も会える?」

沙南が零に興味を持ったようで、

「あ、ずるいぞ。沙南が会うなら、俺も会いたい」

沙南に対抗するかのように、純も会いたいと言ってきた。

 でも、会わせる機会なんてそんなに無いだろうし…って、有った。零も、私の妹なら大丈夫な筈だし。

「良いよ、今度そのヒーローさんに友達と会いに行くから。そしたら、一緒に行こうか」

「「良いの?」」

「ちゃんと行儀よく、挨拶とが出来るなら大丈夫だよ」

「「出来るよ」」

ちゃんと返事も出来たことだし、

「じゃあ、土曜日にみんなでヒーローさんに会いに行こう」

「「お〜!」」

「あらら、零君は家で大人気ね」

微笑む母さんは、楽しそうに沙南と純を見つめ頭を撫でた。




最近アクセス数が、急激に伸びてびっくりしています。
あ、でも読んでいただいて何時も有難う御座います。
今回は、紗夜さんを出すという。これで、ppopin'party Afterglow Roseliaの
誰かしらは出てきました。
次は、そうですね。太陽の彼女を…。
今回もご閲覧有難うございました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第九話転校したら太陽に出会った

本当に久しぶりの投稿になりました。
他の連載や、諸々の事情を含めて遅くなりました。



 はぁ…、小さく溜め息をこぼす。今これから自分が編入するクラスでは、担任の紅葉谷先生がホームルームを行っている最中である。予定では、先生の合図と共に教室に入るという予定なのだが……、中々来ない。

 

「それでは、知っているとは思うが転校生を紹介したいと思う。入って来て」

入室の合図が出たので、緊張で震える手で、扉を開けた。

 

 中に入ると、一斉に視線が向けられる。それも女子のほうが多いため、背筋が凍るような気がした。突き刺さる視線を感じながら、黒板に名前を板書していく。

「く、暮宮零(くれみやれい)です。えっと、宜しくお願いします…」

教室を見渡すと、沙綾とりみが同じ教室に居た。こちらに小さく手を振ってきた。

 

「それじゃあ、暮宮の席は…。あ、弦巻の隣が開いているからそこな」

 

「わかりました」

沙綾の隣じゃなかった……。心の中でしょぼくれながら、先生が指名した席に座る。

 

「貴方が、新しいクラスメイトね!」

席に着くと共に、すぐさま隣の席の人に話しかけられた。

 

「私は、弦巻こころ。宜しくね!」

話しかけてきた弦巻さんという少女は、ひと目見てイメージとして湧いてきたのが『太陽』だった。

 黄金色に輝き光を反射する髪、宝石のように輝く髪と同じ色をした目。そしてそれを、有無も言わさぬように整った顔。

 現実でこんな人に出会うことがあるんだと、

「……」

思わず見入ってしまっていた。

 

「あら、どうかしたのかしら?」

心配そうに弦巻さんが見つめてきた。

 

「あ、何でも無いよ……。こちらこそ宜しく……、弦巻さん」

そう返事をすると、

「こころで良いわ、みんな私をそう呼ぶから」

 

「あ、じゃあ、こころ。宜しく……」

 

「うん、私も宜しくね。零」

こころの笑顔が眩しくて、それでいて不思議と温かった。

 

 それから授業が始まった。教科書は持って来てはいたが、内容が前の学校と大分違っていて殆ど解らないままに進んでいった。所々こころに聞きながら、なんとかして授業にはついていった。

 

「終わった〜…」

最初から苦手な数学だったこともあり、疲労が溜まっていた。それを癒やすためにカバンから音楽プレイヤーを取り出し、イヤホンを耳に付け音楽を流す。先程の疲れが、どっと癒やされる。

 

「……」

それにしても先程から、やたらと視線を感じて仕方がない。イヤホンを外し、目を開けると、机の目の前で机越しにこころがじっとこちらを見ていた。

 

「あの……?何か、御用でも?」

あまりにもじっと見てくるので、視線に耐えきれずに尋ねた。

 

「さっきから何を聞いて居るの?」

こころは先程から、聞いている曲に興味が有ったらしい。

「えーと…、カッコいい曲?」

 

「どんな風にカッコいいの!?」

輝く瞳で更に尋ねてくる。

 

「何ていうか、激しいって言うか……。こう、歌詞と曲の合わさった感じが良いっていうか……」

何て説明したら良いんだろう、カッコいいって、結局人それぞれ違うから説明しろって言われても……。

 

 悶々と頭の中で、考えを張り巡らさせたが。説明の仕方が解らずに、結果、

「聞いてみる…?」

右耳のイヤホンを外し、こころに手渡す。

 

「良いの?だって零が聞いていたじゃない」

 

「構わない、口で言うよりも早いから……」

 

「じゃあ、試しに聞かせてもらうわ!」

 

こころはイヤホンを手に取り、自分の耳に付ける。

 音楽を最初の方まで戻して、再生した。

 ちなみに聞いていたのは、『仮面ライダー仮面ライダーオーズ/OOO』のオープニングテーマ曲『Anything Goes!』であった。

 

 

 

「透き通るような綺麗な女の人の声で、力強く歌っていてカッコいいわね。それに歌詞もとっても良いわ」

曲を全て聞き終わると、こころは満面の笑顔でそう言った。

 

「でしょ…、この曲を聞くと心から元気が溢れてくる感じがする…」

 

「他にはどんな曲が有るのかしら?」

 

「え?」

言われた言葉が頭に入ってこなかった。

 

「私もこの曲が気に入ったわ。だから別の物も聞いてみたいわ」

こころは反応が無いことを気にして、もう一度言ってきた。

 

 こころは今『この曲が気に入ったわ。だから別の物も聞いてみたいわ』そう言ったんだ。

「気に入ったの?これ、特撮ヒーローだよ?しかも、割と男子小学生を対象にした作品の曲だよ」

改めて曲について話すと、

 

「それがどうしたの?『男子小学生を対象』って零は今言ったけど、ならどうして零はこの曲を聞くの?」

 

「それは……、好きだから。カッコいいって思うから……」

 

「そういう事よ!自分で好きだと思ったから聞くのでしょ?私も今好きになったから、もっと教えほしいわ!」

変わらずこころは笑顔でそう言っていた。何だこの人……。

 

「ふっ……」

思わず口から笑みが溢れる。

 

「一曲聞いただけで好きなったって……、じゃあこれ貸してあげる」

聞いていた音楽プレイヤーを、こころの手のひらに乗せる。

 

「良いの?だってこれは、零が使っていたんじゃないのかしら?」

 

「家にはちゃんとCDが有るから…、それに好きになったんでしょ…」

気恥ずかしくてこころの顔を見れずに、机にうつ伏し。

 

「そんな風に言ってくれたの…、こころが初めてだから…」

 

「……」

一瞬だけ、こころの顔が赤く染まり、

 

「ありがとう、零。今度必ず何か、零が笑顔になるようなお返しをするわ」

 

「そうか……、なら頼む……」

零はうつ伏して見ていなかったが、周りにいた人は皆、『弦巻さんのあんな笑顔、見たこと無い』と思うほどの笑顔を向けていた。

 その後も、こころと机を合わせて授業を受け昼休みになった。昼休みの鐘が鳴ると、こころは教室を出て何処かに行ってしまった。

 

「何処で食べよう…」

消え掛けそうな声で呟くと、

 

「れ〜い!お昼ご飯、一緒に食べない?」

 

「沙綾、でもみんなと食べたりしないのか?」

誘ってくれたのは嬉しいのだが、沙綾はバンドのメンバーと食べたりすると思うのだが。

 

「あれ?零も一緒に食べるんだよ?」

決まっているかの如く、答えを返す沙綾。

 

「え?だって、香澄やおたえやりみや有咲は良いの?」

 

「私は、零君が一緒の方が楽しいと思うよ」

沙綾の隣に居たりみもどうやら賛成のようだった。

 

「じゃあ、俺も一緒にたべ……」

二人からの承諾から、いざお昼を食べに教室を出ようとしたその時……。

 

 

「暮宮君……、探したよ……」

 

 

「ど、どうも工藤先輩……」

何故か息が荒く、肩で呼吸をする工藤先輩が教室の扉に立っていた。立っていたと言うより、走っていたのを急ブレーキを掛けたようだった。

 

 

 ようやく呼吸が整った所で、

 

「なぁ、暮宮君」

 

 俺の手をとり、

 

 

 

「我が模型部にぜひ入部して欲しい!」

部活動の勧誘をされた。

 

 

 

「……え?」

 

「いや、昨日の君のバトルを体験して思ったんだよ。君なら、我が模型部に新たな風を巻き起こせるって!」

工藤先輩、こんなキャラだったけ?それとも昨日のバトルの所為で、とち狂ったのか?

 

「それにきっと夏の『全国ガンプラバトル甲子園』の優勝も目じゃないって!だから、頼む!」

 

「えっと……先輩……」

目の前で凄い勢いで頭を下げられてお願いされている所なんですけど……。

 

 

 

「取り敢えず、その話は後日で良いですか?」

 

「え?まぁ、返事は早いほうが良いけど、考える時間も必要だよね」

いや、何一人で解釈してるんですか?

 

「いえ、今から沙綾と、沙綾の友達とお昼ご飯食べるので、そういう話は今無しでお願いします」

 

 

 

「「「……」」」

俺の解答を聞いて、沙綾、りみ、そして先輩の三人が固まった。

 

 

 

「ほら、沙綾もりみも行こう?香澄達も待ってることだろうし」

そんな先輩を他所に、何食わぬ顔で沙綾の手を取る。そしてそのまま、工藤先輩の横を通ろうとする。

 

 がしかし、

「いや、え、あ、あの……。暮宮君、そ、そのそういう理由なら今でも答えは……」

動揺が抜けないながらに、カタカタと震えながら再度質問してくる。

 

 流石にこれには少しばかり、苛立ちを覚えた。

「あの先輩、俺にとって相棒と沙綾は同じくらい大事な存在なんですよ……。

『相棒が立つ戦場は俺が望む場所』、『沙綾が何か俺と行動をするならそれを優先する』、

 これが俺の理念なので。ですから……、これ以上言うなら俺先輩の誘い蹴りますよ」

多分だけれど、アディルゲンで戦っている時と同じくらいの負のオーラを滲み出しながら睨みつけていたと思う。

 

「そ、そうだよね……。だ、大事な彼女さんとのよ、用事だもんね……。ご、ごめんよ〜!」

じゃなきゃ、工藤先輩が若干涙目で俺の前から走り去っていかなかっただろう。まぁ、これで問題も解決したのでお昼ご飯が食べられる。

 沙綾とのご飯久しぶりだな、と胸を弾ませていた。

 

 

「さ、沙綾ちゃん……。い、今のは……」

零から滲み出ていた負のオーラをりみも感じてようで、少し泣きそうになっていた。

 

「だ、大丈夫だよ……。ほ、ほら…、零の冗談だろうし…」

正直な事言えば、私も今の零はちょっと本気で怖かった……。あんな周りが黒く見えるオーラ出せるんだと……。

 あと、私が零のか、彼女って……。

 

「沙綾、顔赤いけどどうした?」

零が負のオーラをしまい、普段通りに戻る。そしてそのまま、顔を覗き込んでくる。

 

「べ、別にどうもしないよ!」

 

「なら良いけど……」

はぐらかした事が不満なのか、ちょっと拗ねる零。

 

「じゃあ行こうか」

 

「おう」

 

「うん」

こうしてようやく、教室を出て香澄たちの居る中庭に向かった。

 

 

 

 

 

「え、零くん部活の勧誘断っちゃったの?」

 

「一応保留にしてるけど、多分入らないと思う」

中庭には既に香澄、おたえ、有咲がお弁当を広げていた。俺達が遅れてくると、『あ、遅いよ〜』真っ先におたえが理由を聞いてくるので先輩との一件を話した。

 

「でも、うちの学校の模型部『ガンプラバトル』で強いって有名だよ」

 

「お前、それさっき私が言ったことだろうが」

香澄が復唱するように、この花咲川学園はほぼ毎年全国大会に出場している常連校らしい。有咲が言うには……。

 

「でも、俺には関係ないし。バトルは俺にとっては目的が有るわけだし、それに部活入ったら昨日みたいに絡まれるし……」

 

「零、絡まれたって?」

事情を知らない沙綾が聞いてくるが、

 

「俺も知らない?俺にバトルで負けたって言ってたけど、俺には記憶がない……」

自分で解らないことなので、どうとも言えない。

 

「そうなんだ……」

 

「俺の中で記憶に残るような奴は……、何でも無い……」

その場で言おうとしたが、やっぱりこの場で言うべき話題では無いので控える。

 

 

 

 その後も話をしながらお昼ご飯を食べていたわけだが、

「ねぇねぇ?」

 

「どした?」

 

「零のお弁当って、何か独特だよね」

俺の弁当に視線を落としながら話すおたえ。

 

「そうか、生憎飯には金を掛けない主義なんだよ」

そう言って弁当を食べる。

 

 ちなみ俺の弁当は、山吹ベーカリーのクロワッサン、茹でたモヤシ『食○るラー○和え』、後豆乳のスムージー。

 

「零、ちゃんとご飯は食べなきゃ駄目だよ」

予想はしていたけれど、やっぱり沙綾に怒られた。

 

「分かってる……、けど俺には相棒の修復の方で」

 

「零……」

言い訳をしているつもりは無いのだが、反論しようものなら容赦なく睨まれた。

 

「りょ、了解です……」

 

「よろしい、一応聞くけど家でもそんな感じ?」

流石に昼飯の一件で怒られて、家の方でも怒られるのは勘弁したい。

 

「そ、そんな事は無いぞ…」

 

「零の目がどんどん違う方向に向いてるよ」

おたえ!お前、さらっと裏切ったな!

 

「零、ちょっとそれはどういう事かな……?ゆっくり、オハナシシヨウカ?」

 

「や、その、ご、ごめんって……、だからその……」

この後盛大に沙綾からの説教が繰り広げられ、俺のメンタルはもうズタボロでした。途中、そんな俺と沙綾を見て、『なんか夫婦みたいだね』と香澄が笑顔で言っていた。

 今日は先輩には『恋人』、香澄には『夫婦』と、何かと関係を疑われたりするけど、俺と沙綾はただの幼馴染なだけだからな。付き合ってないし……。

 

「じゃあ今日は零の家でご飯作るから、帰りにスーパー寄ろうね」

お説教の執着点が何とか定まりはしたのだが、

 

「スーパー……高いから嫌だ……」

 

「もう、そんな事言わないの」

 

「だって、食費が浮いた分他の事に使えるし!」

 

 

「その結果がバイクなの?」

 

 

「「「「バイク!?」」」」

そうだ、沙綾は知ってるけど他の皆は知らないんだった。だからそんなに食いつくな、おたえと香澄は近い。

 

「そうなんだよ、零ってばバイトでお金が溜まったからって高そうなバイク買ってるし……」

なんでそこで沙綾が溜め息をつくんだよ、良いだろうがちゃんとした報酬と値引きで買ったんだから。

 

「別に良いでしょ、カッコいいんだから……」

 

「そういう問題じゃないの!」

そう言いながら俺の両頬を引っ張る。

 

「全く、一人暮らしなんだから。しっかりしてよね」

 

「りょ、りょうはいひひゃ」

やっと頬を引っ張るのを止めてくれた。

 

「でもバイクはバイトの金で買ったけど、ガンプラは一部違うぞ」

このまま怒られっぱなしも嫌なので、少しは弁明を試みよう。

 

「まさか……闇取引……」

 

「そうそう、闇取引。俺、腎臓の片方売ったんだよな、って違うわ!怖すぎだろ、闇取引って」

 

「違うの?」

 

「違うわ!」

おたえのとんでも発言に乗っかったけれど、発想が怖すぎだわ。あと、香澄とりみは怖がりすぎ。有咲と沙綾その『もう手遅れ』みたいな顔をしないで。

 

「仕事の依頼の報酬とか、バイト先でのご褒美で貰ったりするんだよ。あとは、安売りで買ったりとか」

 

「ほんとに?怪しい仕事とかしてないの?」

 

「おたえは俺に何を求めてるんだよ!俺のバイト先だってちゃんとした店だからな!」

本当におたえの考えにはついて行けないし、あからさままでにがっかりされるし……。もう、踏んだり蹴ったりだな。

 

「零くんのバイト先ってどんな所なの?」

だからさ、そんな怯えながら聞かないでよ。りみの質問には、

 

「簡単に言えば、『戦場』、よく言えば『憩いの場』で働いてる」

 

「ど、どんな所なの〜?」

 

「抽象的すぎる例えで解りずれぇ!」

言うと沙綾がまた起こりそうなので濁しておいた。

 その後はお昼休みの予鐘がなるギリギリまで、俺の『バイト先当てゲーム』が開幕された。何でか知らないが、『探偵事務所』、『マフィアの管理人』とか、物騒な物がオンパレードだった。

 特にびっくりしたのは『現代版・必殺仕事人』って言われたこと、しかも香澄に。正直、沙綾の友達関係が少しだけ怖くなった。

 

 

 

 

 

 午後の授業もこころと机を合わせて臨んだ。帰りに香澄達にバイク通学がバレて、一騒ぎが起きた。香澄は興奮、おたえは撫でるし、りみは驚き、有咲は頭を抱える。今日こそは沙綾と二人乗りをしたかったのだが、沙綾の分のヘルメットが無いことに気づいて断念した。

 

「ねぇ、今日何か食べたいものある?」

スーパーに着き、沙綾がカートーを押しながら聞いてくる。

 

「そうだな……、特に思いつかないから沙綾のおまかせで」

何時ぶりかのスーパーに、目を様々な所に向けながら答える。

 

「それが一番困るよ〜」

 

「そうか?沙綾の作る料理だ、不味いはずが無い」

 

「何その自信は、何処から来るの?」

 

「幼馴染の勘と、戦場の経験から」

 

「最初の方は分かるけど、二つ目のはちょっと分からない…」

 

「ひ、酷い……」

 

「もう、冗談だよ」

沙綾は笑いながらに、料理に使う材料を選んでいく。その光景を見ていて、『彼女』という工藤先輩の言葉がフラッシュバックする。

 けど、今の俺じゃ……、何処かで諦めるような声がする。十年の中で俺が変わってしまったように、沙綾にもきっと好きな人くらいは居るだろうし……。

 

「長かったな……」

小さく不安な思いが言葉に溶け出てしまう。

 

「零?また考え事?」

カートを停めて近づく沙綾。言われてから意識を戻すと、目の前に沙綾の顔があってびっくりした。

 

「え、あぁ……、うん」

 

「先輩の誘いの事考えてたの?」

その事も考えなくちゃな、どうやって断ろうか。

 

「俺としては、やっぱり入ろうって気はしない」

 

「それって、『絡まれた』って件があるから?」

不安そうな沙綾に、そのままの答えを返す。

 

「俺が『絶望の旋律者』として名前が知られて、機体も知られているから……。あの部活に入っていれば、また面倒ごとに巻き込まれると思う」

あの場で工藤先輩と沙綾が、俺の『化け物』を否定してくれていたけど、やっぱり……。

 

「あともう一つだけ理由がある……」

 

「そのもう一つの理由は?」

 

「十年越しに再会した沙綾との時間が……、減るのが嫌だから……」

俺と沙綾が過ごせなかった時間、変わってしまって取り戻せない時間、今の『俺』が今の『沙綾』の隣に居て良いのかすら判らないけど……。

 

「そっか……。やっぱり零は昔のまんまだね」

あぁ……、やっぱりこの笑顔なんだと思う。離れ離れになっても、思い続けていた笑顔があるんだと……。

 

「沙綾がそう言うのなら、きっとそうだと思う……」

 

 本当は理解ってる、いや理解ってるつもりだ。零が、昔の零とは明らかに違うっていうことは……。

 だって私が多分一番変わってしまったと思うもん……。零が居なくなったあの日から……。

 だけど、今こうして零ともう一度一緒に過ごせる。同じ学校で、同じ街で、学び、暮らせる。願うことは、案外間違いじゃないのかも。

 

「じゃあ、今日は零の好きな生姜焼き作ってあげよっか」

 

「良いのか……。てか、沙綾いつの間にそんな料理出来るようになったんだよ」

 

「零が居ない間に、色んな料理作れるようになったんです」

 

「へぇ〜、昔は叔母さんと一緒じゃなにも作れなかった沙綾がね」

からかい混じりに言うと、

 

「ちょっと、そんな言い方は無いんじゃないの?」

 

「だって本当だったじゃん」

 

「あんまり言うとご飯作ってあげないよ」

ぷいっと、そっぽを向いてカートを押されてしまった。

 

「え、いやごめん。俺が悪かったからさ、沙綾」

 

「知らないもん」

すぐに謝るも、中々機嫌は治らないようで、このまま険悪な雰囲気が続くのは避けたい。何か、何か良い方法は……。

 

「あのさ、今度の土曜日出掛けた時に何か奢るから……」

本当は物で許してもらう気は無いのだが、今回は仕方がない。

 

「ふ〜ん、バイク買ったり、ガンプラ買ったりで、ご飯にお金を使わない零が私に何か奢ってくれるの?」

不機嫌そうな口調で言ってきながらも、どこか顔は緩んでいるような気がした。

 

「それ位は別に……。会えなかった分の諸々も含めて……」

 

「そっか〜……」

すると今度は急に此方に近づいてきて、

 

「じゃあ出掛けた時に、零には何か頼んじゃおっかな」

俺の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。俺の方が少し身長が高いため、沙綾が背伸びをする形で。

 

「ちょ……沙綾……、恥ずかしい……」

 

「何急に照れちゃって、本当に変わってないんだから」

顔からオーバーヒートで日が吹き出しそうなのに、沙綾は満足そうに頭を撫でてきた。

 

 でも沙綾は変わってないって言うけど、

 

「沙綾の前だから、変わらない俺を出しているんだよ」

 

 決して言えない言葉を胸に押し込みながら、沙綾の温もりを感じていた。




改めて作品を読み返して、書き方を変えさせてもらいました。
前のは詰めすぎたと思って(行間が)。
こころの描写に悩んでいたのを、放って置いったというわけでは無いですが……。
こころんの絡みとか、今後の展開について考えたりしていたら止まってしまいました。
本作品は、途中で止めることはありませんので、宜しくお願いします。
他の作品の方も。

コロナで本当に様々なアニメが放送の延期、自宅待機が続いている現状ですが、
今此処で耐え抜けば、また仲間と笑顔で再開を果たせると思います。
ですので、皆さんでこの困難を乗り越えていきましょう。

今回もご閲覧していただきありがとうございました。
感想などお待ちしております。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 15~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。