ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜 氷雪の融解者 (Edward)
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序章 始まり

ファイアーエムブレムの聖戦の系譜、当時この世界観が大好きで何度もプレイしていました。
なんといっても親子二世代にわたるドラマが大反響でしたね、なにもわからずカップリングして悲惨な結果に、何てことも今はいい思い出です。
私の悲惨はエーディン×デュー(スキルが貧相)とかクロード×ティルテュ(バルキリーの杖がお飾り&スキルが貧相)などなど・・・。
あまり更新は早くないですが、ゆるりといきますのでお願いします。


ユグドラル大陸、この大陸はかつて暗黒神が降臨した呪われた地である。

降臨した暗黒神ロプトウスの化身は、当時最大の王国であったグラン共和国を瞬く間に滅ぼしてロプト帝国を建国、人々に永き苦しみを与え続けていくこととなった。ロプトウスは宿主の肉体が滅んでも直系の子供に憑依し永遠の圧政を引き続け、絶望の底へと誘った。

近隣の国もその圧倒的な軍事力の前に取り込まれ、全土を支配する直前まで侵食された。人々の期待する反乱軍も壊滅寸前まで追い込まれ、唯一の拠点となったダーナで決死の戦いに挑もうとしていた。

戦いの前に祈りを捧げる12人の若者の前に奇跡が起きる、12の神が彼らの前に降臨し暗黒神へ対抗する能力をお与くださったのだ。その奇跡により反乱軍は息を吹き返す。

拠点を取り戻し、各地より人々が反乱軍に加わりロプト帝国打倒に拍車がかかった。

それでも長い長い死闘の末、ロプト帝国とロプトウスの化身を打ち倒す事に成功する。呪われた地はたくさんの犠牲の中でようやく平和を手に入れたのであった。

その後、神々の力を手に入れた若者達は荒れ果てた大陸の復興を行い約100年の時が流れる。

ロプト帝国とその暗黒神の闇は歴史の中の存在となり、聖戦の逸話と共に脈々と受け継がれる系譜と聖遺物のみが現代に伝わり続けるのであった。

 

 

ユグドラル大陸の最北端に位置するシレジア王国は一年の半分が雪に覆われた厳しい地域、大戦に活躍した12の聖戦士の1人で風使いセティが故郷に戻り興した国である。

セティからその能力を受け継いだ現国王は聖遺物である風の奇跡を駆使し、内外の脅威から救い出す者として永くこの国を平定し続けていた。

 

その国王統治の元、風の魔力を扱う魔道士とシレジアで育つ天馬を操る騎士は古来より国を護ってきた。

世継ぎには国王の息子であるレヴィンもセティの力を継承し、この国は安定するとすべての国民が安堵していた。

しかし国王の兄弟であるダッカーとマイオスは次期国王にレヴィンが即位する事に異論を唱え、王宮から離れて機会を伺い出したのである。

レヴィン王子は実力者ではあるがまだ若い、各々の息子と変わらない年齢の男に指示される事に抵抗があるのだろう。

それに現国王は数年前より病を患いその力が低下した事により軍部をダッカー王弟が指揮し、執務をマイオス王弟が握らせてしまった事がシレジア王国にとって痛手となっていた。

 

そんなシレジア王国のマイオス王弟には多数の子供が存在し、その中に異端児とも言える者がいた。この物語の主人公である。

名はカルトといい、青年と呼ぶにはまだ幼い印象を残す男子が父マイオスの元を離れシレジア城にて魔法の訓練に明け暮れていた。

 

 

 

 

「ウインド!」

魔道書を右手に抱き、左手を前に突き出して初歩の風魔法を使用する。放たれる一撃は真空の刃となり対象の人形を切り刻む、最近は威力がましてきているのか王宮の上位魔道士が使うエルウインドと同等に近い物になってきていた。セティの血が俺の風魔法の力に作用しているからだ。

 

親父にはセティの聖痕は一切でていない、伯父貴も同様である・・・、その事も現国王に強く劣等感を抱いて反発心を産んでいるように思えた。

その親父達には出ていない聖痕が、何故か俺には出現した。レヴィンほど顕著でないので、風の奇跡であるフォルセティは使用できないが他の魔道士よりも成長速度が速く、魔力も日々増してきているように感じた。

ダッカーの伯父貴にも子供が何人かいるが聖痕を見かけた子もいた、ムーサーとか言ったかな?出来ればダッカーのようにならないで欲しい。

 

「やってるな!」国王の子であるレヴィンが声をかけてきた、翠珀の髪が美しくウェーブがかかり整った顔は王宮に描かれている絵画の聖戦士セティとよく似ている。俺とはえらい違いだ。

隣には天馬騎士のマーニャが護衛に就いている。彼女は常に王子の身辺警護を担当しており、その実力は天馬騎士団の四強の一角を担う程の実力者である。

 

「レヴィン、久々だな。親父さんのお加減はどうだ?」

俺は口が悪い、隣のマーニャはいつも顔をしかめるがレヴィンは俺の口調に一切気にしない。奴も俺と同様に口が悪いからだ。

レヴィンは少しうつむいた、思ったよりよくないようだが彼は気丈に振る舞う。

「親父も聖戦士の末裔、簡単にくたばらないさ。」

「そっか、大事にしろよ。お前の親父さんは偉大な国王なんだからな!・・・それと余計な心労をかけてすまんな、うちのバカ親父があんな体たらくで。」

「・・・。」

レヴィンは黙って俺の続く言葉を待っていた、それまでは聞いてくれるかのように髪と同様の瞳が俺の心を射抜いている。

「レヴィン、俺は近いうちにシレジアを出ようと思う。」

「祖国を捨てるのか?」

「・・・国王が弱体している中で親父は国王派を力で押え込む為に兵力を増強しているらしい、このまま放置すれば国内は乱れてしまうだろう。

親父の性格を考えれば、俺を引き込む算段もしていると思われるしな。それならいっそ国を出て力をつける旅に出たい。親父もまだ数年のうちは行動に出ないだろうから、その間に見聞を広げておきたいんだ。」

 

親父には正直会いたくなかったが、何度も説得しに行ったが一向に考えを改めない。戦力差があるがゆえに今は静かにしているが近隣諸国に使いを出して傭兵を雇い、新兵を採用して訓練を怠らない。

まだ数年は行動に出ないだろうが何を引き金に事を起こすかわからない状態である、その膠着状態のうちになんらかの止める手段を手にしなければならない。

 

「そう言う事か、シレジアで今までのような訓練ではお前の能力は伸びきれないだろう。世界は広い、見聞を広げてシレジアの力になってくれると信じているぞ。マーニャすまないが手伝ってやってくれ。」

 

「・・・しかしレヴィン様、そのようなご勝手な真似をされては困ります。ラーナ様を困らせないで下さい。」

予想通りマーニャは納得はしていなかった。もしかしたらマイオスの息子として寝返り、直接傭兵達に交渉する可能性もあると彼女は考えているかもしれない。

 

「カルトは俺の親友だ、親友の言葉を疑うような事はよしてもらおう。母上からは私から言っておく。だからマーニャ、カルトに協力してくれ。」

マーニャはしばし沈黙を続けていたが、レヴィンの性格は熟知しての結果だろう。無言で頷くのであった。

「感謝する。」俺は深く頭を下げて一礼し、レヴィンとマーニャに感謝の意を伝えた。

 

 

 

 

俺はレヴィンに近日に出ると言ったがこの日の夜に旅立つ事にした。

マーニャの助けを貰えば、シレジアからの脱出は簡単な物である。彼女達の天馬に乗り、空からの脱出になれば山でも川でもひとっ飛びで越えられるのだ。

しかし徒歩での脱出となると話は違ってくる。平地で他国に渡れる手段はザクソンからイード砂漠方面しか抜ける道はないからである。だがこの苦難の道を俺は敢えて選ぶ事にした。

脱走者の手助けをマーニャが幇助したとなればレヴィンの立場もないだろう、親父が因縁つける理由を増やさないためにもここは黙って独断で出た方が無難だった。

出立する直前に親父宛ての手紙を使いに出して同じ文面を宿舎にも置いてきた、これでなんとかなるだろう。

冬の時期は時化が酷くて残る手段の海路は期待できない、予定通りザクソンから抜けてイード砂漠へ、そしてイザークへ行こうと思っていた。

イザークは聖戦士であり剣聖オードが興した優秀な剣士が多い国、マージファイターを目指す俺にはちょうどいい所だろう・・・。

そう、俺はここからこの世界が暗黒に向かう計画に巻き込まれていくのだった。




カルトとシグルドを合流させるならどの辺りがベストでしょうか?今の所はイザークに向かっているのでひと悶着の後ゲーム一章のあの女性剣士で合流させようという案ともっと始めに序章の槍の聖戦士と共に合流させようか考えています。
もし、詳しい方がいらっしゃいましたら別案をお待ちしております。


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脱出

シレジア脱出編を書かさせていただきました。
大きな進展はありません、ゆっくりと暖かい眼で見守って下さい・・・。


俺がシレジアを旅立って一週間、シレジア領のザクソンの監視の眼が光る中で夜間移動に徹する。なんとか抜け出る事に成功するのだがまだまだ油断はできない、次のリューベック領を越えなければシレジア領を抜けた事にはならない。シレジア国の国境線があるのでさらに警備が厳重になる。

 

極寒のシレジアの森林地帯を夜間のうちに移動し、昼間は身を潜める隠遁生活を行っていた。今の時期のシレジアは昼夜を問わず灰色の雲で覆われており、風雪が絶え間なく襲うので視界はかなり悪い。

しばらくは見つかる事はないが国境近くは警備が厳重でそうは行かない。身を隠す森も少なく、監視用の矢倉や砦が点在する。どのタイミングで一気に国境を抜け出すかが勝負であった。

 

 

リューベック周辺にてシレジア脱出は相当な神経を使う事になる、最終的には強行突破も考えなければならない。シレジア兵と言ってもリューベック兵の所属は叔父貴の私兵だ、俺の謀略とわかれば親父と戦争になって共倒れもいいかもしれない。・・・そんな都合のいい結果には結びつかないだろう、親父の子供であるが身柄はシレジアである。そこを突かれるとシレジアにとっていい方向ではない。

 

リューベック城手前の森林地帯で夜を待っていた、今夜は新月なので一段と暗闇が濃く脱出には最適である。

後は現在止んでいる吹雪が再び吹き荒れてくれれば、行動できると踏んでいた。

この一週間、火は煙を出さないアルコールランプの熱で暖をとり、少ない簡易食糧で生命をつないでいた。いくら寒さに慣れているシレジアの民でも限界を迎えつつある、これ以上この寒さに晒されていれば凍傷が酷くなり切断にもなりかねない。暖を取るアルコールも残り少ない、今夜のうちに脱出しなければ・・・。

 

待てども暮らせど念願の吹雪はやってこない、そろそろ進まねば深夜に国境突破できないと判断した俺は意を決して進む事とする。

途中で襲われた雪熊の真っ白い毛皮を羽織り歩み始めた、見つからないでくれよ、と俺は小さく呟く。

できればリューベック城の手前にある村で少し休息を取りたいが、リューベック兵が待機している可能性もある。村を横目に見ながら森林際を伝うように歩き、異常が感じられればすぐに森林に飛び込む用意をする。

まっすぐに歩けば深夜にはリューベックを抜けられる距離まできている、しかし迂回をすればおそらく夜明け直前になるだろう、焦りを伴いながら足を運ばせた。

 

 

俺は魔道士だが、剣術を身につけたいと思っていた。

しかしシレジア軍に入隊しても魔道士か天馬騎士しか選択肢はない。

天馬騎士団は女性しか入隊出来ない上に、幼い頃から厳しい訓練を受けなければ天馬に乗る事が出来ない。

魔道士になるにも、生まれ持っての才能がなければ習得する事が出来ない。

魔法戦士と言われる存在も少なからずいるのだがとても剣士とまでは言えず、魔法の補助程度の物である。シレジアでは剣を指南してくれる人がいないので他国で修得しようと考えたのだ。

 

シレジアに剣士や騎士がいないのはこの厳しい気候に加えて山林が多い地形の為、それらがシレジアを襲ったとしても遠距離攻撃の魔道士と上空から襲うことのできる天馬騎士に苦戦を強いられてしまうからである。

 

そもそも剣を修得する理由だが、今後他国に訪れる上で剣術を見につけるのは必須項目と考えているからだ。

魔法も万能なものではない、奇襲を受けた時は動揺から集中力を欠いてしまったり、使い過ぎて精神力の低下により発動しなかったりと不安定要素が高いのだ。

安定した力を要求するならやはり己の肉体を武器に闘うのが一番だ・・・。精神的な動揺や疲労から万全ではない状態はあるが、魔法のように発動しない事はない。何より、魔法みたいな地味な攻撃より剣でなぎ倒していくほうがかっこいい!!と思っている。

レヴィンにこれを言ったら彼はあきれてしまい、

「本物の馬鹿だな・・・。」と言われてしまった。

 

くそ!見ていろ、俺は絶対に会得してやる!!

 

奴は将来のシレジア王になる男だから俺のような気苦労を理解してくれないかもしれないが、全てはお前の為だ!俺はお前が王になる為ならなんだってやってやる!

 

焦りを決意に変えていた時にわずかだが風が頬を撫でた、自然の風ではない・・・。風には獣の臭いが含まれている!

迂闊だったここはシレジアである、シレジア王以外にも親父と叔父貴が天馬騎士団も有している、上空の警戒に散漫になっていた。やはり上空には一体の天馬が上空を旋回しておりこちらを見据えている・・・。

俺はまだ未達の鉄の剣と魔法の準備に入る為、意識を集中させていく。単騎とはいえ天馬を悠然と操っている飛空能力からしてかなりの腕前である、上空の風は強いにも関わらず天馬はその場を停滞飛空をしており従者も緻密な制御を行っている。

迂闊に手を出せば、逆に殺されてしまうだろう・・・。

シレジアの魔道士が天馬騎士にサシで勝負をするなど愚の骨頂である、天馬は魔法の抵抗力が強くて従者を守っている・・・。

よほど強力な魔法を行使しないと勝ち目はない、奥の手はあるにはあるが運よくこの場を退けたとしても体力も精神力も低下した状態で脱走者の存在が知れれる事になる。次に見つかればその場で処刑される可能性もあるし、国境警備も厳しくなる・・・。

ここは様子を見よう、俺は剣をしまい両手を挙げて降参の仕草をとる。

卑怯だがこの降伏を前面的に信用して無警戒に降りてきたら万々歳だ、剣を突きつけて脅してイード砂漠まで乗せてもらおう・・・。

俺はありえない計画を思いつくが、無駄な足掻きを考えてしまった・・・。馬鹿だな、俺・・・。

 

旋回していた天馬騎士はゆっくりと俺の前に降り立った、細身の槍を携えているがまるっきりの少女である。天馬を操る能力はあるが降り立ってしまえばこちらのもの、懐の短剣を確認しながら素振りに気付かれないようにその場で畏まった。

顔を雪原に伏せているようにしているものの、相手の動向の監視は怠っていない・・・視線に気付かれないように伺っていた。

しかしその天馬騎士はなんと天馬にその細身の槍を収納部に差し入れてこちらに来るではないか!俺はあっけにとらわれてしまうがここはチャンスだ!

もう少し近づけば馬鹿な思いつきが行動できる、ほくそ笑みを抑えつつ体勢を維持する。彼女は私の行動距離まで歩み寄り、言葉を発しようとした瞬間を狙った!

「!!」

彼女に動揺の顔がうかがえた、視線の端でしか捕らえていないが今は生き残る為に最善を手段をとる。

あらかじめウインドを使用して畏まっていた自分の地面の雪を固めていた、足場が出来上がれば一気に彼女との距離を詰めて手を取り背後に回り懐の短剣を首筋に当てた。俺って、魔道士より暗殺者に向いているかも・・・・。

「俺の言う事を聞いてくれれば危害は与えない、イード砂漠まで俺を乗せてくれ・・・。」出来るだけ低音の声で彼女に囁い。

「・・・・・・、レヴィン様にそのように仰せつかっていましたのでそのつもりでしたよ。」返ってきたその回答はなぜか一面の雪原が春の草原のような、のどかで牧歌的な口調であった。

俺は短剣をしまうと彼女の正面に回る、そこにはマーニャの妹で同様に天馬騎士のフュリーであった。

「おっ、お前!まさか俺を探して?」

「カルト様をお探しするのは苦労しましたんですよ、でも見つけたと思いましたら突然襲ってきますし・・・。何をなさるのですか?」

マーニャの俺に対する警戒に対してフュリーの天然には姉妹そろって苦手である・・・、調子が狂って頭までいたくなってきたぞ。

「ああ、そういうことか・・・。マーニャーに言われて俺を国外まで手引きしてくれる予定の人物ががフュリーだったんだな」

「そうです、もう少し付け足しますとレヴィン様は即日に行動起こすかもしれないから監視するように言われたんですが部屋に赴いたときにはとっくにいなくなっていて驚きました。」

レヴィンの奴、俺の行動を見抜いてやがるな。舌打ちをして奴の頭脳の良さに辟易した、将来のシレジアには結構なんだがな・・・。

「立ち寄りそうな村を寄ってみたんですが、カルト様のような人物は見ていないというものですからこの一週間地道に探したんですよ。」

「な、なに・・・。俺の素性を言って回ったのか!やばいじゃねえか、さっさと俺を送りやがれ!!」

何、陽気に事の事情を伝えてやがる!これじゃあどんなに俺が頑張っても国境近くは厳戒態勢じゃねえか!!もう手段は考えられるものは無かった、フュリーの天馬で一刻も早く天空からの脱出しか手は残されていなかった。

「え?・・・なに、なにかいけないことしましたか?」天然娘の疑問は後回しに俺は天馬に飛び乗ってフュリーに騎乗を急がせた、陽が昇れば俺の脱走計画手段が全て使えなくなる・・・。

レヴィンの奴、頭脳は最高だが意地の悪さは筋金入りだな、これも見越してこんな天然フュリーをを俺にあてがったんだな!あんにゃろう、いつか絶対に俺の存在をありがたく感じて涙するくらいにまでなってやる!!

フュリーはレヴィンの思惑も、俺の怒りも、全く気にする様子も素振りも無くいつもの調子で天馬を南の方向へ飛ばすのであった。




フュリーいいですよね。
本編ではお間抜けキャラのイメージが強いのですが皆様はいかがですか?シャガールの言葉を鵜呑みにしたりシルヴィアとの舌戦は戦場最中とはいえないほのぼのさを感じていました。
次回はイード砂漠~イザークの模様を独自視点から書いて見たいと思います。


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イード砂漠

半年ぶりの更新になりすみません・・・。
ここからは少しずつですが進めていくように努力します。


リューベックより南下して数時間、夜の闇は終わりを告げる。東の空より太陽が徐々に昇り始め、空が白け始めてくる。

俺は視界が明るくなってきた眼下に見る、あんなに豪雪地方のシレジアも南に下れば一気に砂漠の不毛地帯が現れだす。

シレジア領はすでに抜け出ており、追っ手がやってくる様子は無い。とりあえず一安心したのだがここから他国での行動となる、さらに引き締めて行動する必要があると感じた。

期待と不安が入り混じったなんとも言えない気分となっていた、昂ぶる思いから冷静になる為に一度思考を断つように頭を振り打ち消した。

 

このまま何もせずにシレジアにとどまっているといるとどうしても親父と叔父貴により内戦により国力の消耗が先か、他国の侵害によりシレジアは窮地に追いやられると思っている。

 

最近自国も含め、近隣諸国の動きがおかしい・・・。

現在は戦争をしている国はなく、各国に多少の緊張はあるもののそれなりの平和は保たれていた。

しかしながら、その危うい緊張状態が各国が悩みを抱える危険な爆弾となっており、一つが破裂すると連鎖的に誘爆しかねない所にまで来ているのではないかと危惧している。

 

グランベル王国のバーハラには聖者ヘイムの血を継ぎ、暗黒神ロプトウスを打ち倒せる唯一の血族が興した地、現国王のアズムール王には優秀な王子クルトがおり盤石とも言えるのだが諸侯の中にはそれを良しとしない勢力もいる。

斧戦士ネールの末裔であるドズルのランゴバルド卿や、魔法騎士トードの末裔のフリージのレプトール卿などがあからさまである。

クルト王子の全幅の信頼を受けているシアルフィのバイロン卿は高潔な人物で、この2名の槍玉に上がっておりさぞ疎ましく思われているのだろう。

 

トラキアとレンスターも隣国ながらどちらもトラキア半島の統一の為に躍起になっている。

レンスターはトラキアを攻めるにも厳しい荒野の為に騎士団を派遣しても馬が足を取られてしまい攻め切ることはできず、トラキアは慢性している食糧難と人材不足がありレンスターを攻め切れる体力がないのである。

このどちらにしても、この均衡が策略で崩れた時は一機に状況が変化してしまうだろう・・・。

 

アグトリア王国はグランベルの隣国にある大国、賢王イムカにより私利私欲の強い諸侯を抑えているが、彼の崩御があればどう転ぶかわからない不安定な状況になっている。

 

ウェルダン王国も同様に国王のバトゥ王がどうにかなってしまえば、あのバカ息子達は暴走してしまうだろう。

 

シレジアは内戦一歩手前の事は俺自身がよく知っているので除けば、現在の所不安要素が少ないのはイザークのみである。

 

イザークは東方の独自性の強い国で、内部から漏れてくる情報は極端に少ない。

もしかしたら不安要素があるかもしれないが、安全な可能性も考えてイザークで剣術を学びたい。

かの地には秘伝とも言える剣技があるらしく、この目で見てみたいこともあった。

 

 

「おいフュリー、日の出の方向で南に向かっているのはわかるが、どこで俺を降ろすつもりだ!まさか考えていないとでも言わないよな!」

 

「えっ!・・・・・・・・・。」フュリーから小さい声が聞こえてきた、明らかに動揺している。

 

「おっ!おい・・・。まさか本当に何処で降ろすのかも考えてなかったのかよ・・・。」俺はフュリーの天然思考ならそれくらいやってくれそうな気がしてきた、開始早々より頭痛がするぞ。

 

「まっ!まさか!ちゃんとレヴィン王子から手筈通り、降ろす場所は決めてますよ・・・。」視線が泳いだ末にさらに南の方向を指さした。

 

「あっ!あの町です!あそこに降ろそうと考えてました!」

 

「・・・ダーナの町か、偶然にしてはいい所に飛んでいてれた、いいだろうあそこで降ろしてくれ。」

 

「カイト様!ちゃんと考えてましたよ、ただ少し道に迷っていただけです。」フュリーはここで正直な感想を述べた、こいつはかわいい奴だよ・・・。

二人はダーナに向かう為、高度を下げていくのであった。

 

ダーナはかつて120年程前に暗黒神ロプトウスに対する反乱軍が壊滅の危機を迎え、最後の抵抗に立てこもってた地である。

ここで12の神が降臨し、その力を与えて12の聖戦士が誕生。その大いなる力がロプト帝国を打ち倒した伝説発祥の地でる。

その発端となったダーナの砦はいまなお存在しており、この地をどの国も属国とせず中立都市としている一因としている。

その一因を利用しているのか治安は芳しくない。ならず者や奴隷商人、もしくは暗黒神を祭る集団もいるとの噂が立つ程である。

ダーナからイザークはそれほど遠くない。イード砂漠を通行する事にはなるが道は比較的整備されている為、準備を怠らなければ決して悪い道中ではない。

 

 

フュリーと俺はとりあえずダーナの町につくと比較的外れた場所で宿をとることにした。

天馬は他国では非常に珍しく高額で売買されしまうので町はずれの小さな森で放ち休養を取らせた。ダーナの町は大きなオアシスになっており、周辺には多少森林も存在するので天馬連れでも休息がとれたのである。

 

俺は浴室で埃を落とし、階下で食事をとりながらフュリーを待っていた。浴室と言っても水の貴重なこの地で入浴は出来ない、清拭のみで湯船に浸かる事は出来なかった。

 

フュリーは明日一番に国元に帰らせれば俺の責任も晴れだろう、あいつは天然だから同行するといいかねない。

フュリーになにかあればレヴィンに合わせる顔もなくなってしまう、それだけは回避したいところだ。

考え事をしながら席に着いた時に置かれていったコップに口を付ける。その水は砂漠地方特有の質が悪く、砂が混じった水を飲み慌てて果実酒を注文する。

 

「カルト様、お待たせして申し訳ありません。」フュリーは軽装なチュニックにて階下へ降りてきた。マーニャにしてもフュリーにしても、シレジアの女性はきれいどころが多いときたもんだ。目のやり場に困り、愛想のない返事をしたのだった。

主人もその美貌にとらわれたのか、俺の時はぶっきらぼうに出してきた食事だったがフュリーが食事に降りてきた途端にその対応は急展開して俺の気分を損ねさせてくれた。

食事もそこそこにフュリーは俺に質問を投げかけてくる。

 

「カルト様はここからどのように行動される予定なのですか?」

 

「ん~?そうだなあ、イザークに向かう予定なんだが砂漠を越えるからそれなりに資金が必要なんだ。数日は滞在して費用を捻出してからになるなあ。」

 

「そうなんですか?カルト様は王族なのに費用は持ち出しておられないのですか?」

 

「あのなあ、許可なく国をでているのに金まで持ち出せば国内が一層もめる元になるだろ?レヴィンにこれ以上の負担はかけられねーよ。」

 

「ふふっ、私にはよくわかりませんがレヴィン様があなたの手助けをしたお気持ちはよくわかります。」

 

「レヴィンには大きな借りがある、返すまで奴に不幸にはなって欲しくねえからな!」

 

「カルト様ももっと素直にレヴィン様にお伝えすればいいのに。」フュリーはくすくす笑う。

俺は硬直した、性格がひねくれている俺にフュリーのような純な感情は居心地が悪い。返す言葉を失ってしまった。

 

「ばっ!バカな事言うな!俺は・・・。」ここで正直に言葉を返す事もバカらしくなり、ひねくれ者らしい回答をする事にした。

 

「・・・フュリー、じゃあ素直な気持ちをぶつけようレヴィンにではなく、お前に。」フュリーの手を掴み、真剣な顔をしてヒュリーの顔に近づけていく。

 

「えっ、えっ!!」硬直したフュリーはこの場で顔を真っ赤にしていた。

俺は真剣な表情のままフュリーの顔に俺の顔を近づけていく・・・。

 

彼女は眼をきつく閉じて俯いた。俺はその顔に少し、ずらして口を耳元に持っていくと、こう言ってやった。

 

「実は、ここの宿代を払う金もなかったりして~♪」

彼女の顔は真っ赤になった後、真っ青になった。その後再び真っ赤にして叱責が始まるのだった。

 

叱責の後、本日の宿代と食事代はフュリーが支払う事になりカルトは再びお叱りを受ける事となったのは言うまでもない話である。




ダーナで少し滞在する予定です。
ゆっくりで申し訳ありません、ここからは定期的に更新するように致しますのでよろしくお願いいたします。


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ダーナの町にて

ほぼ無一文のカルト、やることは一つですよねえ~♪


剣士が開始早々に鉄の大剣で一気に距離を詰めにかかる、魔道士である俺にとって接近戦は不利でしかない。牽制もかねて即座に魔法で応戦する。

 

「ウインド!」風の魔法には使い方によって種類がある。今回使用した『ウインド』は突風による強い風を起こして突進する剣士の速力を奪う、そして足を止めてから再度『ウインド』を使用する。次は風の刃を作り出して足を止めた剣士に攻撃を仕掛けた、剣士はその場で体を小さくまとめてダメージを最小にしようと防御する。複数の風の刃は彼の鎧に傷つけるが腕を胸の前でクロスし、致命傷を受けないように対処していた。

剣士はウインドをやり過ごすと立ち上がり、体の損傷具合を確かめるように各部を動かす。ほとんどダメージを受けている様子はなく、剣を握り直してこちらを見据える。俺のその間に再び距離を取って次に備える。

 

大きなダメージは受けていないがこれで剣士は簡単に間合いを詰めてくる事はないだろう。単調に突進しても止められてしまう、次からは虚をつく行動を取る必要があると認識しただろう。

 

俺は上位の『エルウインド』を使用できる。当たればあの剣士に決定的な一撃を叩き込む事ができるのだが、魔力の消費が大きい上に発動前後にスキが出来てしまう。

あの剣士程の実力者ならそのスキを看破し、飛び込んでくるだろう。だから一撃の重みより使用前後の硬直時間が少ない『ウインド』を優先して使用していた。

 

 

ここはダーナの闘技場。基本的には殺生は極力しない事が条件、降参すればその場で闘技は終了する。

互いの力が拮抗すればするほど相手を死亡させてしまうケースもあるので命の保証はないが、勝利すれば賞金を受け取る事ができる。

そして勝ち上がれば同じ勝利数の相手と戦う事になり、ギャラリーも賞金額も大きくなる。5勝すれば古参の猛者がひしめき合う上位の賞金稼ぎと対戦できるが、まあ止めておいた方がいいだろう。

 

俺は昨日から闘技場に参戦して2連勝した。初戦の斧使いも次戦の弓使いも問題外で、鈍重な斧使いは間合いにも入らせず一蹴。

弓使いは標準を合わせるのが遅すぎる、引き絞る前に『ウインド』を使用して攻撃させないように戦う。

数度か引き絞られてしまうが慌てる事はない、それも『ウインド』で矢の軌道を変えてしまったので負傷は一切せずに勝ち進めた。

本当はここでやめてしまってもよかったのだが軍資金はあれば今後はこのような危険を冒すことは少なくて済むし、自身の力量がどこまで通用できるのか確かめておきたかった。

 

 

剣士は剣を構えなおすと次はサイドステップも応用して間合いを詰めていこうとしていた。

俺はその行動も織り込み済みだ、奴は一撃目のウインドをかわして二撃目との間隔を狙ってくる。どんな剣士でもそう考えるだろう、なのでこちらはその上の行動をとってやることにした。

 

剣士はどんどん距離を詰めてくる、10数メートルあった間合いは一気に数メートルになったタイミングでウインドを放った。

剣士はその場で剣を突き立てて、突風でも後方に飛ばされない体勢を取っていた。

が、そのウインドは剣士には襲い掛からなかった。

カルトはウインドを床面に放って自身を中空に追いやったのだった。

そして自身の意識を集中、次を即座に放たないと中空での有利はすぐに終わってしまう。上位魔法には少し溜めが必要だが魔力を急激に放出して少しでも早い魔法の完成を急ぐ。

 

「エルウインド!!」間に合った!『ウインド』と違い、さらに力強く強力な突風と風の刃が交じりあう。

『ウインド』では突風か風の刃のどちらか一方しか使用出来ないが『エルウインド』はその両方を引き起こす、対象者は体の自由を奪われ引き裂かれる上位魔法。

 

「あああああっ!!」剣士はその風に自由を失い、風に切り刻まれていく。

この剣士はかなりの実力者と感じておりウインドでは倒しきれないと判断した、このような異種戦闘では分があるが剣士同士の決戦だったらおそらく彼に勝てる人間はこのダーナではすぐ少ないと思える、彼の醸し出す雰囲気が俺の直感を刺激しそう判断させていた。

 

無理に空中で上位魔法を使ったので着地はひどいものであった、頭から落ちなかっただけでも恩の時なくらいである。偶然背中から落ちた時に受け身だけはしっかりできていたらしく、痛みさえ我慢できれば呼吸も問題なくできたのですぐさま立ち上がり、粉塵の向こう側を確認するが剣士を視認する事は出来なかった。

 

腰にある刃渡り60センチほどしかないショートソードを抜いて防御体勢を取り、風を用いて砂埃を吹き払った。

剣士は立っていた、左肩と腹部にダメージを与えていたが致命傷ではないらしくまだ眼光は衰えていない。

腕も利き腕ではないし両足は健在、まだ降参をする様子はなかった。

(ちっ!こっからはどうする?)

正直ここで倒せるとは思っていなかったがもっと弱っていると予想していた。

 

ここで降参してもいい、地形の利も奇襲も決闘に置いては数が知れている。

手の内をほぼ見せた俺に対して剣士の攻撃は多数のバリエーションがある。

だが!この程度で諦めるような男が今後の目標を達成できるとは思えなかった。

(考えろっ!考えを捨てるな!)自身を鼓舞して打開を試みる。

 

剣士が動いた!ダメージを追っているにも関わらず一段とギアを上げて直進する。

俺は決した!こちらもショートソードを構えて突進した。

剣士はその流れるような動きで下段からの切り上げた。

「ウインド!」俺は自身に再び風の力で 逆風を当てて突進の推力を止めに入った。

剣士はそれに気付き、さらに踏み込んでから大剣を下方より斬り上げた。袈裟懸けに俺のローブが鮮血に染められた。

「ここは、俺の勝ちだ!」

致命傷ではない、体も動く!ショートソードを振り上げて斬りつけた。

俺には剣の心得がない、手加減が出来ない為肩当てにぶつけて一命を奪うことを避けた。

剣士もそれに気づいていたようで彼は潔く降参をしてくれたのだった。

観客からはさらに大きな声援と怒号が響いた。

オッズによるとこの結果は番狂わせになったおり、俺はそそくさと引き揚げたのだった。

 

 

「一時はどうなることかと思いましたよ、この程度でよかったですが一つ間違えたら死んでましたよ!」傷の手当てを受けつつ、フュリーは説教をしていた。

「まあまあ!これで軍資金もできたし、無理はもうしないさ、だから勘弁してくれよ。なっ?」

俺は手当てを終えてベットで一つ詫びてから横にあった魔道書を持ち上げた。

決戦時だが短期間で立て続けに魔法を使い、エルウインドを使用した事により魔法力より先に精神力が尽きかけていた。

最後のウインドはほとんど推進力を止めるには至らず、その剣撃は魔道書が止めてくれていた。

血糊がついて固まり初めており、しばらくするとページもめくる事ができなくなるだろう。

魔道書は魔道士が魔法の契約時に必要な代物、だが修めてしまえば魔道書がなくても行使できるようになる。

現在となれば全くめくる事のない魔道書だが・・・俺は。

 

「ねえ・・・、ねえってば!カルト!聞いてるの!!」

「あ、ああ・・・悪い、ちょっと考え込んでた・・・。

しかし、フュリーお前最近俺に対して敬語使わなくなったな。俺に毒されたか?」

「あなたに気を使うのは止めました!路銀はないし、闘技場で死にかけるし、そんな方に敬意は払えません!水を換えにいきます。」

扉を荒々しく締めて出て行ったのだった。

俺は苦笑いをして俯いた、勝敗を決める戦いとは言え魔道書をこんな事にしてしまってそれなりにショックを受けている。これはお袋が俺に初めて魔法を教えてもらった時に譲ってくれた魔道書で、この魔道書がお袋の形見になってしまった。

 

お袋は強かったらしい。魔法の腕は一級品の上に剣技もそれなりに修めていたらしく、物理攻撃を剣技で持って防御し魔法で主に攻撃するスタイルだったそうだ。あのくそ親父には過ぎた部下だったお袋はマージファイターとして戦い、時には前線で兵を率いて事にあたり時には参謀として戦術を提供する切れ者だったそうだ・・・。

 

「すまん・・・、お袋。」俺は魔道書を再び懐に入れて詫びをいれてた。

その時だった、不意に扉がノックされたのだ。フュリーならおそらくノックはしない、では誰が・・・。

 

「空いている、入ってくれ。」俺は即座に警戒を強めて発すると無言で扉が開かれていく、そこには対戦した剣士が入ってきたのであった。闘技場の時は兜をかぶっており素顔はお目にかけられなかったが、今はその兜は外されており金髪で精悍な剣士が俺を訪ねてやってきたのであった。

 

「今日は無茶な戦闘で悪かったな、あんな勝負では納得しないだろう。」少し茶化してそうぶつけてみるがこの剣士は意外な回答をする。

 

「いや、いい勝負だった。ここまで俺の力を発揮できな状況を作り出して、自身は少ない時間の中で最大限の力を引き出したあんたの勝ちだ。」

 

「じゃあ、あんたは何でここへ?」

 

「・・・・・・。」

剣士は言いにくそうに俯いてしまった、こんな大柄で凄腕の剣士が縮こまれると怪訝としてしまう。

 

「おっ、おい!どうしたんだ?」

 

「俺に、魔法の対処法を教えてほしい。」

 

「な、なに?」

 

「俺の国にきて魔法の戦闘対処を訓練して欲しいんだ、祖国のイザークは剣豪のそろう国だが魔法の対処がまともにできていない!このままでは来る有事に備えがきかないと踏んでいる。」

 

「やはりイザークの剣士だったのか、それに訓練となるとあなたはどこかの軍に所属していることになる。素性の知れない人間にそのような事を頼むのは大胆すぎないか?」

内心はイザークに入国したかったのでこれはチャンスであるが、危険もはらんでいる・・・。できるだけ彼の内心を掴むため心理戦に入っていった、しかし剣士はふっと笑うと私の心理を読み解いたのか反撃にでた。

 

「あんたこそ、シレジアの貴族ではないのか?あのような風の使い手はシレジアでもなかなかいない手練れとお見受けするが。」これはやられたと思ってしまう、シレジアとイザークは過去においても侵略の歴史は一度もない。

それも考慮してイザークに行こうと考えたのだが、逆にそれを知っていてこの剣士は俺を招こうとしているだ。

似た思考をしている剣士がすっかり気に入ってしまいフュリーが帰ってくる前にその提案に乗ってしまうのだった。

 

「俺の名はカルト、シレジアの風使いだ。あなたに魔法の対処を教える代わりに、俺に剣術を指南してくれ。」握手を求め俺は手を差し伸べた。

 

「俺はホリンだ、これからよろしく頼む。」固く手を結ぶのであった。




ひょんな事よりホリンと出会い、行動を共にするカルト。
次回より、私の想像しているイザーク編に入りたいと思います。


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カルトの魔道書

ちょっとカルトの過去を出します。
彼の生い立ちが少し見えていただけたらと思います。


剣闘士のホリンと共にダーナを出発した三名は街道に沿ってイザークのある北西へ足を進めた。

 

ホリンと合流した事により向かう先が決まったと説明してもフュリーは祖国に帰ることはなく同行を懇願したので正直困惑する、彼女はこれでもシレジアの天馬騎士団のトップ4に位置する貴重な人材で俺の珍道中に付き合わせるわけには行かない。

それに寒さの厳しいシレジア人には暑さの耐性がない。フュリーには過酷過ぎる、天馬にも多大な負荷をかけてしまうと説得するが彼女は聞き入れなかった。長い説得でようやくソファラについたら帰国すると言ったのだが大丈夫だろうか・・・。

念の為レヴィンには文を作成し、現状と彼女の無事を報告する。よく二人で城下町にお忍びで使っていた偽名で書状を出したので臣下の者に検閲されても私だと気づかないだろう。

 

 

ダーナの町を出て丸二日、イード砂漠をまだ抜けられないらしく視界には砂の世界しか見当たらなかった。吹く風には大量の砂埃が舞い、かいた汗が肌のあちこちに張り付いてこの上なく不快感を生んだ。

 

「ホリン、あとどれくらいでイザーク領に入れるんだ?もう、砂漠は飽きてきたぜ。」

「・・・・・・、今日中には間に合わせたかったがここらで今日は野営だな。」

 

「ん・・・、まだ日没には時間があるぜ。」

俺は西日を指さしてまだ沈まぬ太陽を見た、まだ2時間は暗闇には包まれないはずである。切り上げるには少々早いような気もしていた。

 

「そこの道から外れたところに林がある、天馬を休めるならこのあたりがポイントだろう。

ここから明朝に出発すれば明日の昼すぎには国境にいける、無理をすることはない。」

 

「そっか、ありがとな・・・。相棒にも気をやってくれて。」俺は軽い礼をすると、ホリンは軽く笑みを作って返した・・・。

こいつ、口数は少ないがいいやつだな。

 

ホリンの指示通りに街道から外れて暫し歩くと確かに小さな林が存在した、水はないが地下すぐにそこまで染み出してくる層があるらしく何とか林を維持できている。

この砂漠には多少そのような林が点在しており、行商人や旅人を助ける存在となっているとホリンは言う。

 

フュリーから預かった笛で天馬に合図を送り、上空からこの地へ降り立つと早速野営の準備に取り掛かる。ホリンはソファラの嫡男と聞いているが放浪癖があるらしく旅慣れている、俺よりも手際が良くて出来上がりの早さに驚いた。

 

この辺りは飲料水がないのでダーナから運んできた水が生命線になる、天馬に括り付けた皮袋とホリンが分散してここまで運んできた。

食料は俺が受け持ち、もっはら硬焼きパンと干し肉、ドライフルーツ、ナッツ、チーズをホリンの指示で四日分ほど携帯していた。現在の所遅延はないそうなので予定通りの分量を予定する。

そこで気になる事は天馬である。食料を持ち歩いているわけではないので気になるがフュリー曰く、あらかじめ多めに食事と水分を摂らせれば数日くらいなら僅かで大丈夫らしい。フュリーは竹に入った水筒の水とシレジアの乾燥ベリーを天馬に与えていた。

 

安心した俺はアルコールに火の初歩魔法で着火させてこれもダーナから運んできた薪に火を付けると、懐のナイフで堅パンを切り分け配布する。

三人は焚き火の前で言葉少なく食事にありつく、そろそろやってくる冷気に備えるべくコートを羽織り暖を取り込むように火を囲む。

「フュリー、降りる直前に気配はなかったか?」カルトは投げかける。

「大丈夫、見渡す限り人影はなかったわ。」

 

「それなら夜襲は無いだろう、この時間に砂漠を移動する奴は少ない、警戒は怠るわけにはいかないがな。」ホリンの言葉に二人は安心し、食事に没頭するのであった。

 

 

陽が落ちると辺りから熱を奪い冷気が漂ってきた。フュリーは毛布にくるまり天馬と共に就寝に入っている、彼女と天馬は一日中空中にいたので疲労が大きいのだろう。一言断りを入れた後意識を失うように寝入ってしまう。

 

残されたカルトとホリンは火を絶やさぬようにしつつ、対面で座る。

 

「カルト殿、どうだ?いける口か?」ホリンは袋から葡萄酒を取り出して俺に促した。

「いいねえ!と言いたい所だが飲みすぎると魔法の集中できなくなる、一杯だけでいいか?」

 

「ここではカルト殿は客人だ、夜の番は俺が引き受けよう。」木の粗末なコップに葡萄酒を注ぎながら番まで引き受けるホリン。

「・・・2時間交代にしよう、日中ホリンが倒れたら砂漠で迷子だよ。」受け取ったコップで軽く乾杯をしてゆっくりと喉に流し込んだ、潤沢な香りが口に広がり砂漠での厳しい旅を癒してくれる、そんな一杯だった。

 

ホリンはふっと笑い、こちらは一気に流し込んだ、剣豪な彼らしい豪胆な飲み方である。

 

「カルト殿は不思議な男だ、あんな型破りな戦術。蛮族とののしられる我がイザークでも見たことがない。

なのに素性はシレジアの貴族とはな、世の中は広い。」

 

「それって褒めてるのか?それともあきれているのか?」

 

「無論、感心しているのだよ。

グランベルの貴族や王族とは折衝することはあったが、カルト殿のように気持ちのいい連中はいなかったよ。

闘技場であれだけの劣勢を顧みずに向かってきた者は見た事がない。」

 

「諦めが悪いものでね、さらに言えばホリン程の手腕ならきっと死ぬことはないと思っていた所はあったよ。

しかしホリン、俺の事をカルト殿というのは初対面だけにしてくれ。これからはカルトと呼んでくれて構わない。」

 

ホリンはコップを俺のコップに当てて承諾の合図を送った、彼の清々しさに俺は気分を高ぶらせてしまうのであった。

 

 

 

 

しばらくの談笑のあとホリンと俺は予定通り2時間交代の番に入った。

イード砂漠には盗賊による略奪や殺戮が横行している事もあるが、気温の低下による凍死も侮れない。火の番も必要なのだ。

 

ホリンはまず自分から俺を起こしにくるとは思えなかったので、2時間ほどで自ら起き上がり交代を進み出た。

現在は俺が火の番と周囲の警戒を行っていた。

 

火を見つめながら一冊の魔道書を取り出した、昨日の闘技場で自身の血を浴びて開く事が出来なくなった本だ。俺は血糊で破けないように注意しながら開けていった。

 

血糊がつく前まではこの数年開いたことのない本を今は無性に開いてみたくなったのだ、どうしてなのかはわからないが、覗き込むようにして確認していく・・・。

 

俺が幼少から持っているこの魔道書は落書きも沢山していた・・・、それこそ意味のない落書きから魔法がうまく発動しなくて癇癪を起こしながら殴り書きしたような物まで・・・。

 

周りの警戒も疎かになるほど懐かしむようにその落書きを見ていると、お袋の文字を見つけ俺はつい血糊をついていることも忘れて本を開いてしまった。

びりいっ!乾いた音と共に本は裂けてしまい背表紙と紙束が分離してしまった。

 

俺は慌てて紙を拾い上げた時に一枚の紙が宙を舞った。

その紙は本のページではなく背表紙の隙間に仕込まれてあったと思われる、剣で裂かれた跡も血糊をついた跡もなかった・・・。

 

その紙は細かく折りたたまれており開ききると目を通し始めた。

 

「カルトへ・・・。

この手紙はあなたが持っている魔道書が損傷したときに読めるように細工しました。

私の言いつけどおり、ずっと持っていてくれたのですね。

本を持ち続ける事により、初心を忘れないようにして欲しいと願ったのですが約束を守ってくれてうれしく思います。

 

壊れてしまった魔道書を火にかけなさい。

私は母親としてあなたに何もしてやれませんでした、だから魔法を教えた導師としてあなたに贈ります。

 

小さいあなたを残して逝ってしまう私を許してね。」

 

 

「母さん・・・。」

海賊がシレジアを襲っていた時期があり、おふくろは一団を率いて防衛に当たっていた。

海賊ごとき遅れをとる事はないのだが、馬鹿親父は海賊が溜め込んでいる財産に目がくらんで船を出して打って出ると言い出たのだ。

おふくろは親父を諌めていたが、しびれを切らした親父はとうとうおふくろに命じて出陣した。

 

おふくろの予感は的中した、船の上での戦闘は海賊の方が利が大きい。

やつらの巣窟に着く前に船団は看破されてしまった、やつらは潮の流れから引き具合まで熟知している。

シレジアの船団はかき回され、分断され、罠にはまり込んだ。

海の沈んでゆくシレジア船団の中でおふくろの船のみが生き残った。

親父からはひどい非難を受けたおふくろは心労に加えて、肺を患いあっという間だった。

 

そういえば、おふくろとゆっくり話ができたのはベットに横たわっていた時期だけだったな・・・。

 

おそらくこの時に何かを仕込んでいたんだろうな、俺は火に投げ入れようか考えたが今はやめておいた。おふくろの言っていた事をすっかり忘れいていた俺にその資格はない、紙と背表紙を元の位置に戻して懐に仕舞い込んだ。

火にかける時は俺が納得した時か命の危険が迫った時と決めた。それまではこのおふくろのくれた魔道書を大切に持ち、おふくろとの短かった時間をその時まで慈しむ事にした。

 

 

 

あれからホリンと再び番を交代し、何事もなく朝を迎えた。

多少寝不足ではあるが、頭が回らないほどではない。本当は顔を洗ってすっきりしたいところではあるが貴重な水を洗顔には費やせない。

ストレッチをしながら頭を冴え渡らせていった。

 

俺たちはまだ日が昇りきる前、つまり気温が上がる前に軽く食事を取ると早速イザークに向けて出発した。再び灼熱地獄になる前に少しでも進んで行きたい。三人は自然と意見が一致し、無言の内に準備を整えてのスタートとなった。

疲労の見える三人は早足で歩き、昼過ぎに砂漠を脱する事に成功する。砂で見えにくかった街道も今は石畳がはっきりと見える。生産性の無い砂漠から緑が生い茂る道になるだけで体感気温も下がるように感じるし、イザーク国境が近い事もあり少し元気を取り戻した。

 

 

「あの峠を越えればイザーク領だ。」ホリンは少し笑顔を見せた。

 

「早く湯が使いたいぜ、もう全身砂だらけだ。」

 

「・・・ああ、たっぷり準備させるさ。ただ、この局面を乗り切ってからになるがな。」ホリンは鋼の大剣を抜き放った。

まさか・・・、俺は前方を睨み付けるがまだ敵の姿は見えない。

上空のフュリーを見上げるが敵襲の合図はなかった、ホリンは上空の瞳よりも先に敵を察知したというのか・・・。

俺は笛を使ってフュリーに敵襲の合図を送った、上空の天馬は応答の動きをして警戒にはいる。

 

「ホリン、君の知りえる状況を教えてくれ。」

 

「前方に10名程、後方に5名程だ。おそらく正規兵ではない、賊のようだ。」

 

「了解、シレジアの戦い方をホリンにみせてやるよ。」

魔道書とショートソードを取り出して応戦体勢に入り、精神を集中させていくのであった。




カルトが8歳の時の回想でした。
ちなみに彼は現在17歳の設定です。


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一章 イザーク編 リボーの町

ようやくイザークへ到着します。
もう1人くらい明るいキャラを出したいなあ。


今俺たちは峠の頂点付近いるが連中はその先の頂上にいるらしい。ホリンはこのような事に慣れているのか慌てる様子はなく進める歩みは一行に淀まない、まるで襲撃者がいないかのような足取りである。

違いがあるのは右手に携えた大剣のみ、敵襲を明らかに察知しており人数の不利があろうとも抗い戦う意思を見せるホリンに待ち伏せている襲撃者の方がが慌ただしくなっていく。

ホリンの歩みに狼狽していたが接近されれば危険と判断した襲撃者の中で、弓兵らしき男が2名前に出て弦を引き絞った。

 

 

それが合図となりホリンは一気に距離を詰めるべく走り出す、やつらに動いている者をピンポイントで狙う程の技量はない。それに万が一にも当たるようなら俺の風魔法が弓矢を弾くことも可能だ、実際にその命中率が低い弓にあえて風で明後日の方向に逸らしてやり弓での攻撃は無意味だとういう事を証明してやった。

 

瞬く間に弓兵の懐に飛び込んだホリンは見事な横一文字の一閃をたたき込み2名の弓兵は昏倒する。

一瞬の目線で弓兵の戦闘不能を確認するやいなや敵兵の中心に躍りでる、8名の襲撃者が各々の獲物を持ちホリンを取り囲んだ。

俺はホリンに追い付き遠目より目配せする、奴の目は変わらず穏やかであった。

(こっちは心配するな。)

と言わんばかりである、悟った俺はこれ以上ホリンに参加してくる襲撃者を増やさぬよう立ち回ると決めた。

ホリンの情報では後方に5名の襲撃者が残っている、振り返り奴らを一掃して挟み討ちさせないように立ち回る事とした。

 

後方ではすでにフュリーが5名を相手にうまく撹乱させていた。弓兵がいるので距離を保つ為の高度を下げるわけにはいかないがカルト達の元にも向かわせないギリギリの間合いを保っている。その高度で襲い来る矢尻を回避しつつ天馬に括り付けていた手槍4本の内1本使用して弓兵の大腿に命中し受けた者は戦闘不能となったいた。

 

「エルウインド!!」フュリーが上手く襲撃者達を一箇所に引き止めていた場に上位魔法であるエルイウンドを叩き込む、後方にいたと思われる残りの4名を手加減した上位魔法の攻撃を受け後方に吹き飛ばす。

 

「なっ!何なんだこいつ、魔法を使うぞ!」後方にいた一人はなんとか岩にしがみついたようで驚きの表情をしていた。

 

「この姿を見て魔道士と思わないとはな、貴様らの命運はここまでだな!」

俺はショートソードを構えて盗賊のような軽装をした男に切りかかり男はシミターにて迎撃に入る。上段同士で切りかかった二本の剣は力勝負に持ち込むと盗賊風の男も力で押し切るそぶりを見せるがフェイントであった、即座に切り替えて力の受け流し体勢を崩しにかかる。

上体を回しながら曲刀の流線形で持ってうまく捌いた、力の方向を失ったショートソードは俺の上体ごとつんのめるようになりバランスを崩す。

右手を地に付け上体を跳ね上げるがその視線の先は笑みを浮かべてシミターを上段に構える奴の姿であった。

この体勢では必殺の言える一撃をもらってしまう、カルトも即座に思考を切り替える。

 

「ウインド!」

 

左手を地へ降ろして溜めた魔力を風の術式にて自身を宙空に舞いあげる、盗賊風の男はそのトリッキーな動きに反応が一瞬遅れるがすぐに立ち直り空へ舞ったカルトの落下地点でシミターを構える。

今回の空中はホリンと戦った時程の上空へは飛んでいない、とっさの判断でもあるので溜めた魔力はホリン戦程ではない。

体勢を整えて空中から攻撃を繰り出す程の魔法攻撃も剣技を打ち込む時間は無かった。

 

今回はこれで十分だった、待ち伏せる男を尻目に俺の体は真っ白な天馬の背に乗せられ再び大空にまいあがった。

 

「やっぱりまだ正面から剣でせめぎ合うのは無理があるな、ホリンと戦ったから少しは自信がついたつもりだったけどあれは時の運かもしれないな。」

 

「ふざけてないで!そんな事してると命取りよ。」フュリーの叱咤を受け、カルトはショートソードをちらりと見て項垂れてしまった。

 

フュリーは一度旋回し細身の槍で盗賊に向け滑空した、対する盗賊は上空から襲いかかる天馬に耐性はないらしく逃走を始める。

無理は無い、飛空する天馬騎士に盗賊は対抗する術はないのだ。フュリーは肩透かしを喰らうがすぐに意識を切り替えてる。

再び旋回してホリンの元へ向かった。戦意をなくした者には手を加えないフュリーに満足する、出来れば彼女には無用な人殺しをして欲しくないのがレヴィンとカルトの願いである。

 

 

現在ホリンは残りの1人となった者と対峙していた、やはりホリンに心配は無用であったのだ。9名の襲撃者は絶命はしていないが大剣の強撃を受け意識を失っているか、激痛により呻きを上げて助けを求めていた。

 

ホリンも無事ではなく多少の傷を負っているようだがその身体能力は落ちてはいなかった。

相対する剣士は・・・とても剣士のように思えない程で、体格は俺より劣っており脆弱のように感じるが目付きだけがホリンと同様の剣士としての鋭さがある。

この男は油断できない、ホリンもそれを肌で感じているのか構えを保ち出方を伺っていた。

ホリンの精悍な顔つきとは違い少年と呼べるほどに幼くあどけない、持つショートソードはホリンの大剣に比べて頼りなく感じる。それでも数回か打ち合ったのかお互い多少の息の乱れがあった。

 

ホリンが動く、少年剣士はその襲いかかる大剣に砕かれないよう捌くように受け止めを繰り返す防戦一方だった。逃げ回るような仕草でまともに戦うようには見えない。

それは一見であった、ホリンが欲を出した大振りの攻撃を見切り、針の穴を狙うかのような緻密な一撃がホリンを襲っていた。ホリンはその身体能力から体の上体をそらして回避するがかわしきれずにかすり傷を受ける。

 

ホリンはそこで一度距離を取り直そうと後ろに下がった瞬間、少年剣士は打って出る。

その体重を乗せた刺突は彼の勝機を見出した一撃であった、ホリンはこの戦闘で始めて見せた防戦であった。大剣で併せるが体勢が崩れる、少年も体当たりに近い攻撃にその場で足がもつれるように転倒した。

 

 

俺はそのタイミングで二人の間に割って入る、ショートソードを構えて少年に語る。

 

「なあ、あんた!他の仲間は逃走したぞ、認めて撤退したらどうだ?」

少年は一瞬で目付きが穏やかになり、ショートソードを鞘に収めた。

 

「たはー、きつかったー。お兄さん強いね〜。」

先ほどとは一転した彼の言動に拍子を抜かれたホリンは背中の鞘に大剣を収めた。

 

「貴様は一体何者だ?連中とは明らかに違うように見受けるが?」ホリンは鋭い眼光で威嚇にも近い口調を投げかける。

 

「ああー、おいらもう行かないと!せっかく盗賊団に入って奴らの財宝を取り返そうとしたのに、計画が変わっちゃったよ〜。じゃあまたね、ホリンさん!」

煙に巻くようにさっさと退場する少年に三人は深追いできなかった、何よりその撤退する速度に足で追いつくのは不可能とさえ思った。

 

「変わった子ね?さっきまでホリンさん凄い剣戟していたのに、あの元気さは何でしょうね?」

からからとフュリーは言うが俺はあの数回の立ち回りでホリンはほぼ全力だったと思われる、ちらりと見る彼から立ち昇る湯気は単に暑さから来るものではないと思った。

 

あのままいけば一撃必死な攻撃を受けて一気にホリンに傾いたはず、でも結果は至らなかった。

体力も体躯もホリンが上なのにホリンの方が明らかに疲弊している。

 

「あのままいけばどうなった?」俺はホリンにポツリといった。

 

「次に戦えばわかるさ。」彼はそういって疲れを隠して歩き始めたのだった。

 

 

 

イザークに入った俺たちは一度リボーに立ち寄る、彼の故郷であるソファラはここからさらに北にあるらしく今日はここで一泊することになった。

 

久々の湯浴みと食事で元気になった俺は早速リボーの町を物見遊山でふらふらと歩いていた。

さすが剣聖の国、珍しい剣があり見ていて飽きなかった。

 

今現在使用しているショートソードははっきりいって気に入らない、軽さは魔道士向きだがリーチもなくダメージもショボい。魔道士の中ではある方の体格にあう武器が欲しかった。

 

細身の剣?駄目だ、防御には向かない。

鋼の剣は、俺には重いな・・・。

 

「兄ちゃん、兄ちゃん!剣が欲しいのかい?白銀の剣があるよ!買わないか?」

 

俺はその剣を持ち上げる、鉄の剣よりも軽い!それにこの輝き!切れ味も凄まじそうだ!これこそ、俺の理想の剣!

 

「親父、これは!」

 

「3500Gだ!」

 

「・・・じゃましたな、短い付き合いで悪かったな!」

 

「兄ちゃん!そりゃないよ、手持ちはいくらだい!多少は頑張るからよ!」

 

「2000Gなら、なんとか」

 

「いらっしゃい、いらっしゃい!そこのナイスガイな兄ちゃん、白銀の剣はどうだい!安くしとくよ!」

 

「お〜い!」

 

その瞬間からその親父から俺は見えない存在になったようだ、恨めしげに俺は睨んでいると視線を感じて振り向くと。

 

「ふふっ!」一人の少女が見ていたのか?口元に手をやって笑っていた、その瞳は楽しげであり儚げな感じがして何か胸を締め付ける。

 

「嬢ちゃん、目上の失態を見て笑うたあいい趣味してるじゃねえか。」

なにか釈然としない気持ちを押しのけて明るく振る舞う、その笑顔にできるだけ優しく応えるように話しかけた。

 

「ご、ごめんなさい、そんなつもりでは・・・。」

10歳に見たない様にに見える少女は俯き加減に答えた。

当方独特の黒髪だ、艶やかで真っ直ぐの髪で後ろで結われている。

その愛らしい風貌に目を奪われる、あと十年後に是非お会いした時思ってしまう程だった。

 

「まあ、いいさ。金なし才能なしの俺には白銀の剣は縁がないのかもな。」

 

「・・・ううん、お兄ちゃんは才能があると思うな。」

 

「そうか、・・・嬢ちゃんに言われたら元気が出たよ。ありがとな。」

 

俺は懐から一つの品を取り出すと彼女と同じ高さになるように膝を折り、少女の髪に飾りをそっと取り付けた。

 

「これは心ばかりのお礼だ、瑪瑙の髪飾りって言ってなシレジアで取れるとっておきの逸品だ。君の髪によく映えるよ、風の加護があらんことを。」

少女はその髪飾りをそっと触れてから、わずかに綻んだ。

 

「じゃあな!」俺は踵を返して立ち去った。

後にして俺は思う、なぜこの品を彼女に贈ったのか?それは彼女に一つの憂いを感じたからだ。

俺の直感が彼女と自分は同じと感じ取り、あの品を渡した事の意味を確信したのはそれから少し先の未来であった。

 

 

 

少女はお世辞でも発破を掛けたわけでもなかった。

カルトから溢れ出す、雰囲気から彼には何かしらの秀でるものがあるとふんで口がそう発したのだ。

 

だが今は何かは分からなかった。でもいつか、それを見出した名もなき青年にまた会いたいと思ったのだった。

ほのかな思いと共に少女はその後ろ姿を目で追いかけていくのであった。



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胎動

リボーで一つイベントが発生します。
ちょっと長くなるかもしれません。


リボーはイザークからすれば辺境になるが中立地域と隣接しているため、いくばくかの交易があり規模としては第二の都市である。イザーク独自の品々がここから流れ、外部からの治安維持のために軍隊もイザーク屈指の軍事力となっている。統治する族長は王族に匹敵する権力と発言力があり、ソファラとは立場が違う存在である。

ホリンは族長に面会を求め、彼の居住する屋敷へと足を運んだ。

 

リボーの族長は歴代の中でも温厚であり、また人情にも厚い方でホリンのソファラとも懇意のある関係を持っている。

かつては東の蛮国と呼ばれ、他国より嫌われていたが約百年前の戦争でイザークから剣聖オードが英雄となり凱旋した。

彼は瞬く間に部族間闘争を鎮圧し、まとめあげ国家として制定したのだった。

多少強引ではあったものの、徐々に部族間の諍いは時間とオードの末裔達が一つづつ絡まった麻をほどくように対応して国家をより強固な国家制度を作り上げてきたのである。

 

徐々に部族間の軋轢もなくなり、部族間の連携が取れるようになったのは最近である。ホリンの父親も現国王の姉君と婚姻し、ホリンは生を受けた。

それがなければソファラは数ある弱小部族の中で淘汰されるか大部族に吸収されて消え失せた可能性もあった。

 

 

 

館の前には警備の剣士2名が歩哨に立っており、ホリンは書状を懐から取り出し

 

「ソファラのホリンです、命により書状の報告に参りました。クラナド様にお取り次ぎを。」と伝えた。

警備のうちの一人は書状を確認すると快諾し、屋敷内に入っていく。残りの1人は顔見知りであるため、二人になったのもあり。

 

「ホリン殿、また訓練には来てくださらないのですか?皆あなたの剣技を楽しみにしております。」

と世辞の一つをかけてくれる、気さくなイザークの民らしい事だ。

 

「そういえば最近訓練には顔を出せていなかったな、近々また参加させてもらおう。」

などと会話をしているうちにもう1人が戻ってくる。

 

「お待たせしました、すぐにお会いするとのことです。こちらへ。」と奥へ案内される。

 

 

 

 

「あなた達!何をしているの!」

リボーの町の郊外で黒いローブを羽織った男と、盗賊風の男が二人が瑪瑙の髪飾りをつけた少女を抱きかかえていた。

 

 

 

私はシレジア以外の国に出たことは一度もない、今回が初めてだった。

天馬騎士となり訓練や任務においても他国に出ることはなく、姉様には度々他国に書状を渡す任務に就いていた。

なので今回の他国での任務は嬉しく思っていた、四強の一角とまで言われるまでの天馬使いと言われても戦闘能力では姉様にはまだまだ届かない。

今回の任務で私は一回り大きく成長できる、そう思いカルトがイザークへ向かうと言われ同行を懇願した。私の本当の任務はまだまだ続けなければならない。

 

そんな私は特に新しい街にくると空中からいろんな場所を見て回るのが大好きだった、シレジアとは違う人々の生活模様を空から眺めることが楽しみになっていた。

そんな中で一人の少女を執拗に付け回している存在に気づき、空から尾行をしていた。

彼女の家はおそらく中心街の外にあるらしく、どんどん人気のない場所へ離れて行った。

間違いで有って欲しいと願って追跡していたが、とうとう一人が動きだし少女を後ろから羽交い締めにし口に布を当てられると一気に担ぎ上げられて逃走し始めた。

 

「人攫い?いけない!!」私は確信し、先回りする。

街中で他国の騎士が揉め事を起こすわけにはいかないが緊急事態である、妥協点を考えだし街外にでてすぐのところで彼らを引き止めたのだった。

 

 

「うるせえ!さっさとそこをどきやがれ!」

短剣を取り出した盗賊風の男が血気盛んに向かって来た。

私は細身の槍で短剣を持った手を石突で叩き、悶絶している所に顎を叩き上げた。もう1人は剣を携えており、気絶した同僚を見て動き出した。

一度上空に舞い上がり、間合いの外へ逃れると上空から滑空し右肩に槍の一撃を見舞った。肩を刺された男は悶絶して立ち上がることもできずにその場で倒れる。

戦闘経験は無いに等しい町のゴロツキのようで、おそらく後ろにいるローブの男が主犯と見られた。

 

「観念して、その子を離しなさい。」

槍を構え、男に警告を促すが返事も身じろぐ仕草もなく少女を抱えたまま立ち尽くしていた。彼から放たれる雰囲気が不気味すぎて見据えると嫌な汗を流してしまう。

フュリーは雰囲気に飲まれないように相手の動きに集中して行く。

 

「くくく!また供物が増えた、殺さぬようにせねばな。」

ローブの中からおよそ予測もつかない言葉に困惑を極めた、一つわかったことはこの男は自体に一切窮地に立っているとは思っていないことだった。

 

突然ローブの中から手が伸びたと思えば、突然する周囲から黒い形をなさない物が沸き立ち始めた。

 

「なっ!これは⁈」

とめどなく沸き立つ黒い物質に異様な危機感を募らせたと同時に隣に従えていた天馬が首を使って私の体を背に乗せて上空に跳ね上がった。

つい先ほどまでいた場所は突然その黒い物体に場支配され、程なくその地面は醜い爪痕を残した姿となった。

雑草はしおれてしまっていて、生きるものの活動を獰猛に侵食されたかのようであった。

 

「あれは魔法なの?シレジアの魔道士達の魔法を見てきたけど・・・。」

旋回しながらその攻撃を思案する、私が今まで見てきた魔法は自然界の力を具現化する物ばかりである。

レヴィン様やカルトの風の魔法から火の魔法も雷の魔法も経験はあるが先程の魔法は経験がなく、なにより禍々しかった。

 

「小娘よ、それで逃げているつもりか?我の魔力の前にそなたはもう蜘蛛の巣に迷い込んだも同然であることを自覚せよ。」

まるで耳元で囁かれているような声が聞こえる。魔法同様に禍々しく、生気が感じられない声であった。

天馬が突然の嗎き方向転換する、次は暗黒の矢のような物が次々と放たれており回避行動を行ってくれていた。

フュリーの乗る天馬は決して疾くはないが非常に警戒が強く、私よりも早く警戒に入り回避行動を起こしてくれる優秀な愛馬。彼女に感謝しつつ攻撃に入る。

私は愛馬に括り付けているもう一つの槍を取り出す。これは細身の槍とは違い、重量があるが落下の力を借りれば大きなダメージを与えられる。私は眼下にいる魔道士にその槍に身を預けるようにして狙いをすませる。魔道士の頭上を旋回しながら奴から放たれる暗黒の矢を回避しつつ攻撃の合間を狙った。

攻撃は愛馬が回避してくれる、それに魔法である以上天馬に護られた私たちは魔法防御が高いので威力はあるかもしれないが耐え切れば勝機も充分にある。

未知の魔法に竦む訳にはいかない、私は奮い立たせるように愛馬に旋回から急襲の合図を送り一気に急降下した。

 

 

魔道士はその攻撃を待っていたのか、口許にいやな笑みを浮かべると暗黒の矢とは違い始めに使用した暗黒の霧のような物を発生させた。私と魔道士の間を妨害するように阻み襲いかかってきた。

愛馬は旋回をするような仕草をしたが拒否の意志を鐙に送った、そのまま急降下を命じて覚悟を決める。

魔道士も私は回避すると踏んでいる、だからこそここは突き抜けて奴に一撃を与えるチャンスと踏んだのだ。

 

決死の突撃を決めた瞬間、目の前の霧が突風により弾け飛んだ。

霧散したその先にはもう邪魔な妨害物はなく魔道士のみだった、その魔道士も風の刃を受けて躱す動作が遅れていた。狙いすましたフュリーの投槍が胸部に突き刺さり、吹き飛ばされた。

フュリーは落下の速度を旋回することで緩和させて地に降り立つ、援護したのであろう人物を探すと予想通りカルトがそこに佇んでいた。

 

「遅いわよ、でも助かったわ。」

 

「わりぃな、でもバッチリなタイミングだろ。」

 

巨木の木の枝から降り立ってフュリーの横に着地した、軽口を叩いてはいるが額には汗をかいており急いで向かってくれていたことはよく理解できた。

 

「あれは魔法と言うか呪法に近いと感じた、さっき飛び込んで攻撃をしようとしていたがやめた方がいいぞ。」

 

「わ、わかったわ。でも・・・。」

私の一撃は胸部を貫いている、生きているはずがない。頭でそう理解していたが、カルトは警戒を解いていなかった。ようやく私は遺体を確認しようとしたがそこにはまだ投擲された槍が突き刺さったままのローブの男が立ち上がっていたのだ。

 

「くくく!我を殺すことなど出来はせぬ!そこの男よ、命は助けてやるから女どもを置いてここから立ち去るがいい。」

右手から暗黒の霧がふたたび吹き出し始め、カルトを威嚇する。カルトはショートソードを抜いており左手には魔道書を持ち準備を完了させていた。

 

 

 

 

 

「ウインド!」真空の刃を作り出してローブの男に放つ、奴は逃げる仕草もせず暗黒の矢で相殺する。

カルトは再度ウインドで風の塊を作り出してそれも放っていた。

「つまらぬ。」ローブの男はふたたび迎撃の矢を放ったが命中した瞬間に圧縮された風が周囲の粉塵を巻き上げて視界を奪った。

「エルウインド!」さらに広範囲に竜巻のような風が巻き起こり周囲の物体を吸い付け、竜巻内にいざなった。竜巻内には真空の刃が襲いかかり無残に切り刻まれる。

 

ホリンや道中の襲撃者に使ったエルウインドは手加減をしていたが今回は全力のエルウインドだ。手応えはある、内部にいてるやつから魔力を感じるしこの一撃でその魔力はガクッと減っているのを感じた。

 

多分奴にはなぜかはわからないが、物理攻撃にはダメージが通らないと踏んだ。さきほど不意打ちで与えた風魔法にはダメージをうけていたので一気に畳み掛けたのだ。

 

奴の魔力は俺よりも少ないように感じるが、魔法に対する防御力が凄まじい。先程の風魔法はウインドであるが、ダメージはごくわずかなものであった。

俺は手足の一本はもぎ取ってやるかの勢いで放った一撃であるにも関わらず、である。

ここで奴がまだ動けるようなら、次は逃げるための攻撃に魔力を使わなければならない。

 

「フュリー、そこの女の子を乗せて待機していてくれ。いざとなれば逃げるぞ。」

 

「わかったわ、無理しないでね。」フュリーは少し離れた少女を天馬の背に乗せて、退却に備えた。カルトのその判断でおそらく奴は生きている可能性があるとの判断をフュリーに連想させた。

 

砂塵が拡散し、内部があらわになってきつつあるなかふたたびあの暗黒の霧が発生し始め、内部より不気味な笑い声が聞こえ出した。

 

「くくくくくく!」

やはり奴はまだ生存していた、上位魔法が効かないとなると俺には打つ手が極端にすくなくなる。それなりにダメージを与えているようなら再度使用すればいいが、手の内を見せてしまった以上警戒もされるし対処方法も考えているはず。

ますます逃走を視野に入れての行動を取る必要があった。できればこいつを捉えて正体を掴みたい、おそらくであるがこいつとホリンはなにかで繋がっているように感じている。

 

彼が魔法の対処方法を学びたい事、他国で彼と出会った事、そして物理攻撃ではダメージを与える事が出来ない存在。何かの必然である事は間違いないのだからだ。

その為にもこいつを捕獲したいがなにせタフすぎる、不死身とまで思う位だ。

俺はシレジアでレヴィン以外の奴に最近負けた事はない、レヴィンは攻守ともに優秀で魔法においては死角はない。

俺は攻撃は問題ないが、魔法防御においての技術が今一つ苦手な事もあって防御に回るといつもジリ貧になる事が多い・・・。

だからこそ、攻め続けて自分のペースに持ち込みたかったのだ。

 

 

とうとう砂塵が霧散し奴の姿が見て取れた、ローブは胸部から下が破け四肢が露わとなっていた。細い手足は包帯が巻かれ相変わらず素肌は見えないが紅い血で濡れており、かなりの痛手おっている。しかし声量には衰えた様子がなく矛盾していた。

 

「仮初めとはいえ儂とここまで渡り合える無名な奴がいるとは思わなんだぞ、この体はもう使い物にならぬ、ここらで幕引きとさせてもらうがこのままやられっぱなしは気にいらぬ。」

 

「なんだ、まだやるつもりか?」俺は再度意識を集中させ魔力を身体中から搾り出そうと構える。」

 

「強弱には興味はないが、ここは譲れぬ!!」右手を振ると、一気に空間が歪んだ。奴の目線から後ろに控えるフュリーに視線を送ったのが俺の失策だった、フュリーの天馬にいた少女にも空間の歪みが発生し、消えてしまったのだ。

 

「ふふふふふ!ではさらばだ。」再び振り向いた時、ローブの男は少女を抱えて空間の歪の中へ消えていた。

 

「待ちやがれええ!!」俺の絶叫は虚しく風にかき消えて行った。




さらわれた、少女を必死に探すカルト、ホリンの秘密。
暗雲立ち込めるイザークに何が起こって行くのか、展開を考えるのは大変です。

またお時間をいただきますがお願いいたします。


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傀儡

闇にうごめく存在
イザークの動乱の発端を描いていきたいと思います。
これも奴等の思惑通りなんでしょうね。
私なりに描いていきたいのでが、誤解があればすみません。


少女の救出に失敗したカルト達、ホリンと合流するために一度宿に戻り帰りを待つことにした。彼に一連の騒動を話し、イザークとしての見解を聞くことに二人は意見が一致する。

カルトは当初かなり頭に血が上っていたのでフュリーは心配していたが、すぐに建て直してこの判断にいたってくれたのだ。

先程の戦闘は突発的であるがここからはイザーク内の問題もあり勝手な行動は制限される。無理をすれば二人を抱えているホリンに責任が及んでしまう事、今回の事件に何らか情報を持っている可能性がある事を判断しての内容だ。

何より、魔力がつきかけているカルトが今どのような行動を起こしても無駄に終わるだけだった。

 

「ねえ、カルト。あのローブの男の事だけどあなたはどのように判断しているの?」

 

「恐らく奴の使っていた魔法は、闇魔法だ。」

 

「闇魔法?」フュリーは聞きなれない魔法に戸惑いと語感からくる忌しい感覚に襲われた。

 

「ダーナの奇跡を発端として打ち倒した暗黒神ロプトウスとそれを支えたロプト教団の使う負の感情を具現化する暗黒の魔法だ。」

 

「で、でもロブトウスって滅ぼしたんでしょ。なんでまたそんな存在が残っているの?」

 

「確かにロプトウスを倒して世界は平和になったが復活を信じて闇に潜った連中もいるらしい、細々とどこかで活動をしているのだろう。」

 

「そんなこと、全然知らなかった。」

 

「百年以上前の話だからな、当時を知るやつなんていないがグランベル王国の国王はロプトウスに唯一対抗できるナーガの血筋の家系。血を絶やす訳にもいかないし、地下に潜るロブト教団の存在も根絶しようと水面下で活動していると聞くぜ。」

 

「それで、あの男は何のためにあんなことを?」

 

「フュリー、お前意外と勉強不足だな。やつらは全盛期に子供狩りといって、母親から子供を拐って火炙りをしていたんだ。世界が恐怖と絶望に染まれば染まるほど負の力を源とするロブト教団の魔力が増していくと言われていたらしい。

今回も子供をさらったことからその手の事ではないかと考えている。」

 

「じゃああの子は!」

 

「ロブト教団なら、間違いなくあの子を生贄として殺すだろう。」フュリーはようやく事態の大きさを理解した。普通に考えれば拐う目的は労働力の為や慰みものにされたりと下劣であるが命まで奪うものは少ない、殺すために拐うなんてフュリーには想像もつかなかったのだ。

 

「カルト!ホリンさんを待つ暇がないわ!早く!」カルトが先程まで取り乱していた事を理解したフュリーは、立場が入れ替わり取り乱す。

 

「フュリー落ち着けよ、どこに逃げたのか判らない連中を闇雲になんて探せない。今はホリンを待つんだ、明日の朝になればやつらを追える算段がある。」

 

「・・・待っててね、きっと助けにいくから。」冷静さを取り戻して彼女は祈るようにつぶやいた。

 

 

 

ホリンが宿に戻ってきたのは、日が落ちてきたあたりだった。彼も難題を抱えているらしく、リボーの族長に会いに行った表情は険しくなっていた。

早速帰ってきたホリンに開口一番に今日あった人攫いの件を話した、ホリンはさらに険しい顔を見せたが一通りの話を聞いてから発言をするのだろう、今は俺の話を黙って聞いてくれていた。

 

一通りの話した頃には完全に日が落ち、部屋は真っ暗になっていた。フュリーは階下で火種を貰い、燭台に火を入れて灯りをとる。

 

「カルト、俺の任務は子供が人知れず攫われてしまう事の調査だったんだ。」暫く黙って聞いていたホリンは暫く熟考した後に、二人にダーナにいた経緯を説明し始めた。

 

「攫われだしたのは2年程前だ、今回で5人目になるのだが3人攫われた辺りから妙な事に何処かに売られた形跡が見当たらない事がわかった。

攫われた子供はほとんどがダーナの裏市場で売買されるのだが、そこにイザークの子供は流されていなかった。

さらにダーナに派遣してした調査兵が帰らぬ人になったため、私が任務を受けてダーナで監視をしていた。」

 

「なるほど、だから剣闘士の真似事までして潜伏していたのか。」

 

「そういうことだ、私はカルトと戦う前にイザークの子供を連れた男に遭遇できて奴らをつけてみたのだが看破されてしまい・・・。」

 

「やつらの使う魔法にやられたと。」

 

「そういうことだ、魔法の対処に乏しいイザークの剣士では歯が立たないと感じた俺は偶然出会ったカルトに魔法の対処をイザークで訓練して再度ダーナに戻る予定だった。」

 

「そういうことか、しかしなぜそれなら手っ取り早く俺に協力を求めてあの場から追跡しようと考えなかったのか?」

 

「・・・・・・。」

 

「悪いな、言いたくないだろう。自国の問題は自国で解決したいことはよくわかる。

だが、恐らく俺たちが相手をした男と同じ男なら剣士であるホリンではまず勝てないだろう。」

 

「どういうことだ。」フュリーも同じ思考だったのか、ホリンの言葉に同調する姿勢をみせた。

 

「恐らく、奴の正体は魔法で操られていた死体だよ、剣の攻撃なんて痛覚がないから意味はない。

やつを倒すにはどうしても魔法による攻撃が必要なんだ。」

 

「どうして魔法なの?剣とか槍で攻撃することと、魔法で傷つけるのは違うことなの?」フュリーはここで口を挟む。

 

「全然違うな、魔法の攻撃は普通の防御とは違って精神にもダメージを与える事ができるんだ。

奴は死体に精神だけを憑依させて体を無理に動かしていたわけだから、肉体的な攻撃には強いがその分精神的な魔法による攻撃か極端に弱くなっていた。だからあの時は撃退に成功できたんだ。」

 

「そのような魔法があるのか、それで私の攻撃がまるで通しなかったのか。」ホリンは過去の自分の経験からも思い当たる部分があるのか理解したようだった。

 

「ねえ、それと明日になれば捜索できる方法があるといっていたじゃない?それはどういうことなの?」フュリーはもうひとつの疑問をぶつけた。

 

「ああ、それは単純だ。俺はあの少女がさらわれる前に町で会っていてな、ちょっとした縁でかみかざりをあげたんだ。

あの髪飾りは俺の魔法で細工した工芸品で、魔力の共鳴現象を利用すれば場所を特定できる。ある程度は近付かないとピンポイントまでにはいかないがな。」

 

「それは本当か!ならまだ救出できるチャンスはあるのだな。」ホリンは今回の件には解決の糸口がある事を知り、興奮気味に立ち上がりカルトを見る。

 

「ああ、しかし急いだ方がいいな。やつらは奴隷のような労働力ではなく暗黒神への捧げ物という使い方ならそんなに遠くない時期に決行するはずだ。早朝には魔力も戻るから探知してから出発したい。」カルトはそういってもうひとつ付け加えた。

 

「それと、恐らく奴等の本拠には死体を操っていた術者本人がその場にいると思う。

奴と今の俺ではまず間違いなく勝てないだろう、よほどの実力に差がない限り暗黒魔法に正面から打ち勝てるのは光魔法だけなんだ。

もし救出において奴に見つかった場合は、辛いだろうが自身の命を優先して逃走して欲しい。死んじまったら次救出するチャンスすら無くしてしまうんだからな。」

 

「うむ、本心はイザークの問題は自国でなんとかしたかったがここまで奴らを分析できているようなら君の判断に委ねるのが妥当だろう。

カルト、すまないがよろしく頼む。」ホリンは頭を下げてカルトを改めて依頼する。

 

「わ、わたしもここまで聞いてしまった以上最大の助力するわ。ペガサスナイトの私なら魔法防御能力はここでは負けないわよ。」フュリーも意気揚々と立ち上がり雄弁する。

 

「はあ、できれば君にはここらでシレジアに戻って欲しい所なのだがなあ。」

 

「何言ってんのよ!ここでシレジアに帰るなんて私の正義に反するわ。

カルト、お願い!これが終わったらシレジアに帰るからもう少し一緒にいさせて。」俺はその言葉に一瞬、頭が混乱した。こ、こいつて天然でいっているのか?

 

「あー、俺ハラヘッタかも。ちょっと下で食料を見繕ってくる。」

 

「おっ、おい!ホリン!!いらん気を使うな、間違えてるのはこの馬鹿だから。使い方間違えてるだけだから!」

フュリーは自分で言った事を頭の中で反芻してようやく事態を思いついた。さっと真っ赤になり、その感情が逆流した。

 

「なっ!なっ、カルト!!私はあの子を助けたい一心なの!茶化さないで!!」

 

「いっ、いや!フュリーの言葉の使い方の問題だろ、俺も一瞬混乱したぜ。」

 

「ふんっ!」二人の間に冷えた雰囲気が流れ込んできたホリンは仲裁に入る。

 

「まあ、とりあえず少しお腹に何か入れておこう。

明日から当分携帯食になるだろうから、今日くらいはいい物を食べないとな。俺でよければご馳走しよう。」

 

「まじか!俺イザークにきたら牛肉を食べたかったんだよ!シレジアの羊肉もいいがあの独特な風味の肉汁に憧れていたんだよ。フュリー、ホリンの気が変わらないうちに行こうぜ!!」俺は手を引っ張って下の酒場へと足を急がせた。

 

「ちょ、ちょっと!お願いだから引っ張らないで〜。」

ホリンは二人のやりとりに微笑むと階下へとゆっくりおりていくのであった。

 

 

 

「父上!なぜ、子供達の救出に軍を出されないのですか!このままでは我がリボーは救出に自ら動かぬ腰抜けと思われてしまいます!」

 

ここは日中にホリンが訪れたリボー族長のクラナドの館であり、その主は息子のクラウスに叱責を浴びせられていた。

 

「いかん!ダーナに軍を進軍させるなど以ての外だ、確かに彼の地は中立区域だが誤解を招けば隣国のグランベルや、レンスターを刺激しかねない。ここは腕の立つホリンに潜入してもらい、小規模で対処せねばイザーク全体の問題になる!クラウスよ、ここは我慢の時なのだ。」

 

「父上はあのホリンを高く買っているようだが、奴は尾行を読まれて返り討ちにあった弱者にすぎぬ!あんな余所者を信頼しているといつか後悔なされますよ。」

 

「馬鹿を言うでない!ホリンはリボーの為にここまで情報を持ち帰って奴らの動向を徐々におっているではないか!滅多なことを言うには口が過ぎるぞクラウス。」

 

「くっ!」クラウスは父にこれ以上ない理論で持って退かざるを得なかった、引き下がった彼は自室で悪態を付くのだった。

 

「くそっ!なぜなんだ!なぜここまでリボーの為を憂いて打開しようとする私の判断にいつも父上は反対するんだ!!俺にだって機会があればホリンどころか、マナナン王やマリクル王子に匹敵する器があるというのに!」

あおるように酒を飲み、グラスを叩きつけた。他者からみれば愚骨の上に始末に追えない男であるが、当の本人にはそれが全く見えない。その悲しき男は、一人愚痴に明け暮れていた。

 

「ほう、そなたにはマリクル王子にも匹敵すると。」不気味な声がクラウスの自室に響き渡る、空気は暗くて温度が下がっていくような感覚に襲われたクラウスは恐怖のあまり椅子から転げ落ちた。

 

「何者だ!」クラウスは必死に虚勢の声を上げて腰に吊るした剣を抜いた。

 

「私はここですよ、物騒な物を鞘に戻して私と語らいましょう。そう、マリクル王子にも匹敵すると言われたあなたの実力を是非お聞きしたい事ですわ。」クラウスは辺りを見回している間に、机の対面に座っている女性をみつけた。女性と言っても、性別を認識できるのは声とその体のラインからであった。

 

全身を黒のローブをまとっており、顔は一切認識できない。間からわずかに見える黒髪だけが唯一の情報だった。

ゆったりとしたローブで覆っているにもかかわらず、胸部を強調させるそのラインにクラウスは劣情を覚えてしまう。だがこの得体の知れない存在に彼は萎縮し、その場の椅子を元に戻して静かに座ることで精一杯だった。

 

「どこから入った!ドアには鍵がかかっていたはずだ!」

睨みつけるが、彼女は全く意にも介せず机の酒をグラスについで舐めるように飲み干した。一瞬見えたその妖しい唇はどこか冷笑を携えており、クラウスはさらにその雰囲気に飲まれていく。

 

「私はあなたが入って来る前からずっとここにいましたわ、あなたのリボーに対する想いと攫われた子供達を親許に返す気持ちに打たれてここで待っていたのです。」

 

「どういうことだ。」

 

「あの人攫いはただの人攫いではありません、私のように魔法に長けた者でないと太刀打ちできないでしょう。

どうでしょう?私を使ってダーナで怯えている子供達をあなた自ら救出しませんか?そうすれば、あなたが言うようにマリクル王子と並ぶ存在になるでしょう。」

 

「し、しかし。」

 

「大丈夫です、それともあのホリンが賊を討って彼の武勲に貢献するのですか?」彼の挑発はこれで充分だった、みるみるうちに顔は激昂し自らを奮い立たせた。彼女はローブの下で妖艶な笑みを浮かべていた。

 

「ホリンごときにおくれをとってたまるか!

おい女よ!お前は魔法に長けると言ったな、その能力で奴らが勝てるのだろうな!」

 

「もちろんでございます、私の魔法とあなた様の兵力で一気に賊を片付けてしまえばダーナの民も侵略目的ではないことが証明できるでしょう。」

 

「そこまでいうのなら、私の武勲の一つにこも功績を残してやる!!」

 

「そうでございますとも、そしてあなたはイザークの新しい王となるのです。」

 

「そうだ・・・、俺は・・・王に・・・。」傀儡の誕生にローブの女は妖しい笑みを称えたのだった。




やはり、難しい。


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ダーナの砦

カルトの魔道書、正体は・・・。


カルト達は再びイード砂漠に足を踏み入れていた、先日踏破したばかりの劣悪環境に再び逆戻りすることは人の命がかかっているとはいえかなりの躊躇がある。

意思でその後ろめたい気持ちを断ち切り今日も前進していた、リボーの街を出てもう三日なろうとしている。

カルトの自身の魔力探査によるとダーナよりさらに南の地点、アルスターに近い場所で強い反応を見せたのだ。カルトの能力を信じ三人は交わす言葉もなく、先を急いでいた。

 

フュリーは上空からホリンはカルトの警戒が鈍っている周辺を護衛しつつ、夜はカルトの魔力回復に務めさせる為に夜番は交代で行っていた。

その甲斐もあり三日目の昼過ぎに、奴らの潜伏場所と思われる地点にたどり着いたのだった。

 

かつての聖戦で使われていた拠点地なのだろうか、砦と言うにはあまりにもひどく風化し朽ち果てている建物であった。砂漠にあるとはいえ、その劣化は加速を増しており現在は邪教とも言える物どもを匿えるようには到底思えなかった。

 

「カルト、ここなの?」

 

「ああ、反応によるとここになる。建物はともかく、ここからはかなり禍々しいしい魔力を感じるぞ。」フュリーはカルトのその言動にかなりの危険を察知した。今までイザークの警戒網もすり抜けて偵察隊もホリンを除いて全滅しているのだ、そんな連中の拠点にいまから入り込むとなると三人無事に帰れる根拠など一切ない。

 

「フュリーやはりここは引き返せ、室内では天馬が使えない。天馬の加護がなければ魔法防御は人並みになる、危険だ。」カルトは再度リボーでの忠告を口にした、フュリーはみるみるうちに表情を歪ませる。

 

「どうして!それならホリンさんも同じはずよ、私だけここで諦めるなんて自分自身許せない!」

 

「ホリンは一度連中と一線交えて危険性と対処を心得ている、俺は魔道士として奴らにアプローチできるがフュリーにはその両方がない。引き返すのが駄目ならせめてここで待機していてくれないか?」

カルトの珍しい懇願にフュリーは困惑した、ここで彼の迷惑をかけるべきではないと思っているがもう一つの可能性を示唆していた。カルトはここで命をかけてまで彼女の救出をするのではないかという事だった。

 

 

レヴィン王子からはカルトの護衛として拝命されている、カルトは私が国外に手引きするだけと思い込んでいるが実はそういうことだ。本心を言ってもよかったのだが、レヴィン王子からは出来るだけその事は本人に言わないようにも忠告されていた。

 

カルトはことごとく私に本国帰還を口にするのでその事を伝えてこのまま同行するように言ってもいい、しかし彼はそれを知るとおそらく私をまいて監視から解放する姿勢を見せるとふんだのだ。

 

フュリーのジレンマが言葉を遮るが、カルトのいう現場待機が譲歩できる提案と受け止め私は了承するのだった。

 

「わかったわ。カルトにホリンさん、絶対に帰ってきてね。」不本意ではあるがカルトの意見を聞き入れる。フュリーの精一杯の笑顔にカルトも答えた、彼女は握手を求める手に応じ握り返す。その笑顔を見つめた時に視線がぶつかり、絡み合う。

 

「ああ必ず、帰る・・・!!!!・・・・・・。だから、シレジアで待っていてくれ。」

 

「カルト・・・。」フュリーの消え入る声が罪悪感と共に俺の右手に強く残る。彼女は必死に意識を保ち、自身のみぞおちに入ったカルトの拳を握った。

動揺しないホリンもここでは、さすがに驚いたのか俺の名を呼びこの後の行動を見張っていた。

 

「すまないフュリー、君はここで万が一にも倒れる訳にはいけない。レヴィンのそばで支えてやってくれ、俺に何かあってもシレジアを頼んだぞ!」

ついに自身で立っていられなくなったフュリーの肩を抱き寄せ伝えた。彼女は一雫の涙を流し、何といったかわからないが唇が空を囁いて眠りにつくのであった。

 

 

カルトは心配している天馬の背にフュリーを乗せて鐙に固定させる。

 

「すまないがシレジアまで頼む、フュリーがここへ戻ると言っても必ずレヴィンの元に送り届けてくれ。」

天馬はその言葉を理解したのか定かではないが、私の方に一度首を乗せて小さく嘶いた後空をかけていくのであった。

 

「まさか、ここで強引にシレジアに帰してしまうとは・・・。」

ホリンは一部始終を見届けてから、感想の一言を述べる。

「この場面ではないからこそできる芸当だよ、フュリーにはシレジアでもっとふさわしい仕事がある。それを優先させただけさ。」

 

「ふっ!そういうことにしておこう、鈍感な事は戦場において大事なことだからな。」ホリンは一つ笑うが、すぐに真剣な面持ちになり背中の大剣を確かめるのであった。

 

 

 

私は目を覚ました、日常で毎朝見る天井に今は違和感を覚える・・・。

どうしてだろうか・・・、微睡みの中で自問する。

体を一つ捻じり水差しから水をカップに注いで飲み干すと頭が鮮明になってきて状況を一気に理解した。

私はカルトに不意の拳を鳩尾に受けて気を失ったのだ、いても立ってもいられない気持ちに襲われたところにマーニャが入室した。

 

「気分はどう?」

 

「ねっ!姉さん!!私・・・私は・・・。」

 

「落ち着いて、私たちはわかっているから。」

 

「私達?」フュリーは複数形の言葉にすぐ理解したのか、ベッドから降りて敬礼の姿勢をとった。

マーニャの視線の先、ドアの向こう側で視線合図を受けて入室して来るのは麗しい王子のレヴィンがいたのだ。

 

「フュリー、体は大丈夫か?しばらく休養するがいい。」

 

「しかし、レヴィン様!私は。」

 

「マーニャが言っただろう、わかっていると。

昨夜、気を失ったお前を天馬が背中に乗せて帰還したんだ、カルトの手紙付きでな。」

 

レヴィンは手紙をフュリーの前に差し出して手渡した、フュリーは手紙を開いて文字に目を走らせる。

そこには彼の想いと決意、そしてフュリーの職務放棄を擁護する内容が溢れるようにしたためられていた。フュリーは言葉を失い、代わりに溢れ出る物は涙のみになってしまった。

 

「フュリー、君の国外初任務は成功だ。休養があければ君を天馬騎士部隊長として働いてもらうぞ。」

 

「そっ、そんな!私はこの任務をやり遂げられませんでした。カルト様にも温情でこのような立場にあるだけで・・・。」

 

「カルトは人情はあるが、過大評価も過小評価もしない男だ。ここに書いている内容はあいつの素直な文面だよ。だからフュリー、自信を持ってくれ。

それに、ここに必ず救出して戻って来ると書いてある。あいつの実力を知っているフュリーならこの中で一番信じてやれるのではないか。」レヴィンの言葉にフュリーは再び涙する、もうあちらでは結果が出ているだろう。

救出か、死か・・・。祈ることもできなかったフュリーにはあとは信じることしかできないのだ。

 

「フュリー・・・。」マーニャがいたわるように手を肩に当てて労う。妹の成長を喜ばしく、その初任務の対象であるカルトが無事でいることを姉も信じた。

 

「たっ、大変です!」

天馬騎士団の一人が突然入室した、彼女はマーニャの部下であり普段は国境警備を主として行っている者だ。

 

「どうした?」

 

「こっ!これはレヴィン様、申し訳ありません。」

 

「気にしなくていい、それよりも火急のようだが。」

「はっ、では申し上げます。イザークが・・・・・・・・・。」

 

「な、なんだって!!」三人に驚愕の表情が浮かんだ、そしてカルトの無事を祈るだけであった。

 

 

 

カルトとホリンは時間をかけて周囲を捜索し、正面からの入り口一点のみとなっていた。

正面には一見は誰もいないように感じるが、カルトの感応魔法で入り口に踏み入ると奴らの探知魔法にかかることがわかり、夜に側壁より忍び込む事にした。

朽ち果てそうな外観をよそに内部は手入れをしている様子があり、ますます怪しさを感じるが内部には人の気配も生活感もなかった。

おそらく偶然迷い込んだ者に接触しないようにしている可能性があり、隠し通路などを確認する必要がある判断した。

足音も合図も最小にして捜索をしているがなにせ夜である、見分けがつかず作業能率は悪かった。

 

「カルト、どうする?朝まで待つか?」

 

「これ以上待つわけにもいかないな、できれば奴らの方から出てきてくれればいいのだが入口の警戒網にかかれば侵入は厄介になる・・・。やはり地道に探すしか・・・!!」

俺はホリンの手を引いてすぐ横の部屋に入り身を潜めさせた、先ほどより探知魔法を使用しながら進んでいたのだが入口の魔法にかかった奴がいたのだ。

おそらくその警戒でどこからか奴らが出て来る可能性があるので身を潜めたのだった。

 

「う〜ん、ここにお宝がありそうな気がしたんだけどなんにもなさそうだなあ。最近ついてないなー。」

のんきな声が響き渡り拍子抜けした、偶然迷い込んだ盗賊が警戒網の魔法にあっけなくかかり隠密行動を阻害する形になってしまった。

しかしこれはチャンスにもなりえるかもしれない、彼を陽動させれば奴らが出てきた道を辿れば彼女を見つけられることができるかもしれないからだ。

彼女の髪飾りの反応は地下からしている、どこかに隠し階段などがあり、出てきてくれれば・・・。

 

「あっ!!ここ隠し階段だ!おったから、おったから♩」

なんだってー!!あの盗賊あっけなく見つけやがった、悪運がないのかあるのかどちらにしても恐ろしい奴・・・。

 

二人はその声をする方に近づき確認すると、確かに発見していた。

この砦の貯蔵庫に大きな水瓶がありそこがそのまま階段になっているのだ、中底をその盗賊は開けたようですぐ横に転がっていた。

 

「どうする?さっきの声のした盗賊、確実に殺されるぞ。」ホリンは耳打ちするが、正直困ってしまう。

盗賊と言っても声の感じからまだ幼いように感じる、ここで見捨てて陽動に使うほど俺は外道ではない。

だが、正攻法では俺たちも相手の数が多ければやられてしまうだろう。

 

「とりあえず、奴の後をついてやつらの出方を見よう。数が多いなら逃走を優先して奴らに奇襲をかける、数が少ないなら一気にケリをつけよう。」ホリンは一つ頷いて、盗賊を追いかけた。

無邪気な盗賊は警戒するそぶりもなくどんどん奥へ進んでいく、内部は簡単な石の畳で舗装はしているがほとんど洞窟のようで所々に簡単な部屋がある程度であった。

盗賊は次々に部屋に入りお宝の物色をしており、時折何かを見つけたような声が聞こえてくる。

地下の部屋を少し覗くと、ここには多少の生活をしている様子が見て取れた。しかしながら必要最低限のものしかなく、普通の物なら生活をしていた後のように感じる。

ここが彼女のように攫われた人の受け入れ場所なのだろう、こんな悪環境に閉じ込めるなんて奴らはやはり許せる物ではなかった。

 

「わあああ!」盗賊の声が響き渡る。

俺とホリンは急ぎつつ、できるだけ音を立てないように奥の部屋に向かった。

魔法探知の方向も同じ向きである。おそらくそこに奴が、リボー郊外で死体を操っていた本体と合間見えることになると覚悟をしていた。

盗賊と、彼女を助けて逃げることは可能だろうか、必死に思案を始めていた。

 

 

「神聖な儀式の間にまで入り込むとは、汚らしい盗賊めが!ここで始末してくれる!」

 

「びっくりしたー、こんなところでなにやってるの?」少年は虚をつくためなのか、天然なのか少し素っ頓狂な台詞をついて後づさる。

 

「盗賊風情が私の儀式を説明しても無駄な事だ、死ね!」

少年は部屋から飛び出してきた、危機察知能力は高いようで逃げの一手を踏むようだ。

二人はそばの部屋に身を潜めて奴の出方を待った。

しかし、この騒ぎのなか出てきたのは一人だけであった。何処かに出ているのか初めからこの施設の使用者は一人なのか、しかしこれはチャンスである。

一人なら二人でかかればなんとかなるかもしれない。

 

どのみちこのままではあの盗賊は無事ではすまない、カルトはホリンを奇襲要員として飛び出した。

盗賊の前をふさいで彼を止める、助けるがここで一緒には戦ってもらおうという気持ちはあった。

 

「ウインド!」

突然の魔法攻撃にも関わらず、少年と相対した者は自身の魔法で相殺させた。

黒いローブで身を包み、悪趣味な杖と黒い魔道書を胸に抱いた老人であった。

 

「貴様は、あの時の。くくくく、わざわざ殺されに来たか。」

 

「拐かした人たちを返して貰おうか。」

 

「あの子なら奥で眠っているぞ、それ以外はもう儀式に使わせてもらった。」

やはり、そうだったか。カルトは舌打ちをして予想道りの結果に忌々しく感じた。

 

かつてロプト教団とロプトウスの化身であったガレは子供達を火炙りにして絶望を与え、自身の力を増していった。

現在はロプトウスの血が絶えた今、儀式によって自身の力を維持や増大させているのであろう。

 

思考を巡らせているところにローブの老人は言葉を続けた。

 

「あの時は事情もあり引かざるをえなんだか、ここを知った以上生きては帰さぬ。貴様が風の使い手なら勝ち目はないぞ、おとなしくするなら一思いに殺してやるぞ。」

 

「確かに、暗黒魔法とは相性が悪い。」

 

その瞬間にホリンは側面から飛び出して必殺の突きが老人の体を指し貫いた。

 

「ぐはあああ!」

 

「物理攻撃は今回効くだろ。」鮮血が飛び散り、老人の体がのけぞった。

ホリンは剣を一気に引き抜いて相手の様子を窺った、この相手は普通の人間ではない。

これで絶命してくれればいいが、不穏な魔法の使い手であるこの老人には最大の警戒が必要である。

 

老人から、黒いオーラが立ち込め包んでいき傷がみるみるうちに塞がり癒されて行った。

やはり一筋縄ではいかないようである、カルトもすかさず攻撃に入っていた。

 

「エルウインド!!」

老人は宙に浮き上がり、猛烈な風の刃に切り刻まれた。

 

「無駄だ!」

老人の黒いオーラがエルウインドを無効化し、体に傷つけられた攻撃も塞がってしまう。

 

「ふ、儀式を済ませる前なら殺せていただろうがな・・・。少し遅かったようだな。今の攻撃が最大の攻撃なら、もう儂を殺せる術はないぞ。」

さらに老人は黒いオーラを増していき、ゆっくりと迫ってきた。

 

「ヨツムンガンド!」

老人の暗黒魔法が一気に膨れ上がり、負のオーラが辺りを包み込んだ。

悪霊のような魂が聞き取れない呻きを発しながら襲いかかってくる、まるでいままで奴が殺してきた恨みを自身に取り込みそれを他者にぶつけるような忌々しい魔法のように感じる。

カルトはホリンにタックルし、攻撃を一手に受けた。

体の生気を奪われていくような感覚が襲いかかり、肉体を削ぎ落としていくような痛みを受ける。

 

「あああああ!!」俺も魔道士による魔法防御を持っているが想像をこえる攻撃魔法でその場に倒れた。

老人は止めとばかりに次の魔法の準備に入る。

盗賊の少年とホリンは老人に剣を突き立てるが、一向に通らない。鮮血は飛び散っているが老人の体力を奪っているようには見えなかった。

そのまま三人ともさっきの魔法でカタをつけようとしているのだろう、俺も瀕死だが魔法防御を持たない彼らが受ければ一撃で絶命してしまう。

俺は必死に奮い立たせる、俺もホリンもここで終わっていい男ではない。レヴィンをシレジアの王にする為にもここで倒れるわけにはいかない!

よろよろと立ち上がり、一つの案を思い出し立ち上がる。

老人は二人の剣の受けていて魔法が中断されている。ホリンと盗賊は突き立てた剣をさらに突き立てて苦痛を与えているのだ。

 

「ええい!邪魔をするな。」

オーラを攻撃的に放射させて盗賊は吹き飛ばされた、ホリンは必死に剣にしがみつきさらに剣を捻じる。

ホリンがくれた時間、無駄にはできない。懐から魔道書を取り出し背表紙に入っていた手紙を抜き取る。

 

「ファイアー」魔法と共に魔道書を焼き払った。

手の上の魔道書はみるみるうちに焼けていくと一つの奇跡が発生した。魔道書が突然強烈な発光と共にカルトの体も光の中に消えていくのをホリンは見た。

まるで魔道書と共に別の何かに生まれ変わってしまうかのような、神々しい光だった。

 

「あ、あの光は!やめろ!」

先ほどまでの負のオーラは光に消されていき、あれほどの攻撃を受けて平気な顔をしていた老人はその光に苦痛をあげていた。

 

「カルト、君は一体・・・。」

ホリンはただ、その光景を眺めることしかできないのであった。




魔道書の秘密は次回になります。


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侵攻

ようやく、ここで聖戦の系譜の事の発端を描くことができました。


光の中で俺は自身の変化を如実に理解した、今までの自分は仮の姿で有ること、そして魔法力が全く違う物に変化していく感覚。

魔法の才覚はほぼ血統による要因が大きい、習得を望んでも自身に魔力の器がなければ一生使えない者がいれば全く魔法に縁がない者が突然何かをきっかけに覚醒する者もいる。

 

そして魔力の器には得意とする魔法も決まっており、俺の場合はセティの血統を継いでいる事もあって風の魔法が一番能率が良かった。ウインドと同じ魔力でファイアーを使用してもウインド程の威力は出ない、サンダーも同様である。

自身の魔力の器を理解し、修練を積んでいけばその差をなくしていけるようだが、その境地に立てる魔道士はユグドラシル大陸には十人もいないであろう。それほど魔力の器を変化させる事は筆舌しがたい物である。

 

今その魔力の器は全く違う物に劇的な変化していく。それは暖かくて力強い魔力、身体から溢れんばかりに膨れ上がる魔法量と魔法に対する抵抗力。

自身の中にあった忘却の風は暖かな陽光を浴びて鮮明な記憶を呼び覚まして行き、俺の中に眠っていたものが目覚めたのだった。

 

「ぬううう!き、貴様は一体何奴なのだ!」

老人にもはや威厳はなく、光の中から現れたカルトから後退しながら虚勢を張るだけであった。

ホリンはその劇的な変化を見張っていた。

カルトのくすんだ栗の髪は銀の髪に変わり、額にはサークレットが飾られていた。

右手にはまばゆいばかりの聖書を胸に抱き、魔道士の服の上に白と銀の刺繍が入ったマントを羽織っていた。

あのくたびれた魔道書を焼いた途端の変化にホリンは全くついて来れずにいる、老人も同様である。

 

「悪いが答える気はない、貴様はここで朽ち果てろ。」

右手の魔道書を開き老人を睨む。

 

「若造が言いおるか!ヨツムンガント!!」

 

辺りより無象の邪気が集まりカルトに襲いかかる、先ほどのカルトはこの一撃に瀕死まで追い詰められたのだが今回はまるで落ち着きを払っておりゆとりすら感じる。

 

「ライトニング!」カルトが左手をかざすとまばゆい光が集まり、邪気の魔法は霧散していく。それどころかその光は老人にまで届き浄化の光を浴びせていく。

 

「ぐああああ!や、やめろ!やめろおお!!」

老人は必死に暗黒魔法を使おうと抵抗するが、発動する様子はなく。杖を狂ったように降り続けていた。

 

「無駄だ、どんな暗黒魔法を使おうと光の魔法に打ち勝つすべはない。おとなしく、闇に帰れ。」カルトはその力を抜くことなく、老人に浄化の魔法を浴びせ続けた。

 

「ぐううう!ようやくここまで力が戻ってきて完全になるまでもう少しだったところにまたしても邪魔が入るとは・・・。

しかし、ここで終わるわけにはいかぬ!貴様は厄介だ、命に代えてもここで殺す!」

老人は光の魔法の中自身の魔力を高めて抗った、小さな結界を作りだし一先ず光に抗うことに成功した老人は暗黒魔法をぶつける。老人からさらに邪悪な魔力が放たれ、決死の一撃を見舞わんと最後の抵抗にはいった。

 

「ヘル!」

老人は両手を広げて発動した、辺りの空間が歪みだしカルトは包まれていく。

カルトもここでライトニングを一度止めて防御に入った。

空間の歪みはますますひどくなり、自身の意識が遠くなっていくが魔法防御を高めればきっと防御できると判断したのだ。しかし、この魔法は肉体にダメージを与えるものではなかった。

 

ヘル、それは対象者の精神を蝕み心の傷を容赦無く抉る悪魔の魔法である。

精神を崩壊し狂人となった者がいれば、完全に動かなくなり二度と正気に戻らない者などもいる。

暗黒魔法の中でも上位魔法に位置し、ごく一部の者にしか習得不可能な魔法である。

 

「くくくく!このまま精神の坩堝に飲まれて死ぬがいい!!」

カルトは自身を見失わないように、そして魔法防御を最大限に発揮させて抵抗する。しかし一度入り込んだその魔法の効力は恐ろしく、どす黒い感情が入り込み、憎しみや怒り悲しみを最大限にひきづりだされ、過去の傷をリフレインされていく。

 

俺の負の感情からくる過去は父親とのものばかりだった。

お袋を無茶な死地に送り、自身は保身と野心を募らせた愚物。お袋以外にも沢山の愛人を持ち、俺の知らない異母兄弟は多数といる。

その中で俺は母親を早くに亡くして他の兄弟の母親どもからのいわれのない虐げ、もしくは暗殺にもあった。

毒も何度盛られて死にかけたこともあった。

そんな中でも親父から差し伸べられる手はなく、幼少期は生き残るために必死に過ごした。

虐げられても、怒りは見せずに笑って誤魔化し食事も誰かと取ることもなかった。

ダッカーの叔父貴との一悶着で死地とも言える戦闘に参加させられても、生き残った。

 

叔父貴との長い騒乱の中、親父の子供で唯一の聖痕を持っていると知った途端手前勝手に英才教育を施し、いよいよ魔力がシレジアでも有数の実力者とまでいわれだした頃になると次は俺に恐れをなして騒乱のいざこざの中で暗殺まで計画したのだ。未遂に終わり、計画も露見しなかったので親父自身が手を下したのかわからず闇に葬られたが明らかであった。

 

その頃の記憶が溢れ出し、最大限に負の感情を高められた俺は狂気に心を委ねて行った。

憎い!俺を都合のいいように扱われた後暗殺まで企んだ親父、兄弟やその母親共。今すぐ、シレジアに戻ってこの手で・・・!!

 

「おやめなさい、カルト。」

 

「!!・・・、母さん?」頭の中で女性の声が響く、懐かしいその声に俺は驚愕し狂った感情の暴走を堰き止める。

 

「闇に飲まれないで、あなたにはレヴィン王子をシレジア国王にしたいのでしょう?昏い感情では成し得る事は破滅にしかなりません。」

 

「そうだ、俺はレヴィンを王になってシレジアの安寧を願いたい。親父の手から救い出してくれたレヴィンとラーナ様の為に尽くしたい!!」

 

「さあ、行きなさいカルト。あなたには正義の風と導きの光を持つ聖戦士。強く心に願えばあなたを挫く闇はありません。」

 

「!」

ホリンは老人に剣を袈裟斬りに払った、胸部より出血が吹き出して倒れこむが奴の笑い声が不気味に響き渡った。

老人を倒してももうこの魔法を解除するすべはないのだろう、カルト自信が破る事を祈った。

カルトは闇の魔力を受け、光の魔力が目に見えて落ち込んでいくが突然開眼し今まで以上の光の魔力を放ち出した。

ホリンは闇の魔力から脱した事に理解し、笑みを浮かべる。

 

「オーラ!!」

カルトから力強い魔法力が溢れだす。先ほどまでの魔力も素晴らしかったがさらに力強く、優しい光が辺りを包み始めたのだ。

 

「カルト!」

ホリンはその力の主を見た、彼は再びその力を解放させ老人へと向かった。

 

「まさか、ヘルまで破るとは・・・。儂にもう貴様を倒す術はない。

だが、いずれこも世界は我らの物となる。」老人はよろよろと立ち上がるが、おそらく魔力を使い果たしたのだろう。転移の術も使うこともできない老人は観念していた。

カルトの上位魔法であるオーラは発動してヘルの精神攻撃を完全に撃破、さらに浄化の光は老人に移ろうとしていた。

 

「終わりだ、ロプト教団に慈悲を与えぬことはこのユグドラル大陸の決定事項。

情報を得たいが、貴様らは絶対に口は割らない。ここで執行させてもらう。」

カルトの慈悲なき、光のオーラが闇を照らし出さんと迫った。

 

「そうするがいい、闇を否定すればするほど闇の色は濃く残る。

いつの日か貴様らが絶望し、呪いの言葉を吐くその日まで待つとしよう。」

オーラが彼の体を照らした時、一瞬で肉体は消えるように白い閃光も彼方にかき消えていくのであった。

 

 

地下の禍々しい雰囲気は、カルトの魔法で浄化されたかのような印象を受ける。先ほどのオーラの魔法は頭上の障害物を吹き飛ばし、光が差し込んでいた。

暗くて辺りを見回すにも不自由であった視界は明るく、ここでの調査が程なく終えていた。

 

 

 

やはりここ運び込まれた子供達はほとんどがロプト教団の贄として犠牲になってしまったようだ。幸いにも少女のみ無事に救出する事ができ、今は気を失っているのでホリンが背中に背負っている。

凄惨な祭壇を必要な遺物のみを回収して火を放つ、その後地下の部分を封印して一階へ戻ってきた。このまま戻ってもいいのだが、少女背負ったままではホリンの戦力が落ちてしまう。出来るのであれば少女の意識の回復を待ち、話をした上で決めた方がいいと考えたのだ。

それに俺の魔力が回復すればそれなりの手を打つことができる、とも考えていた。

 

「あんた確か俺たちがイザークに向かっている時にホリンの攻撃を避け続けた盗賊じゃないか、仲間はどうした?」カルトは突然の訪問者であった盗賊に話しかける。

ホリンは火を熾して少女の体温が下がらないように配慮をしている、その間に彼の事を確認を急いでいた。これから下手をすれば彼の盗賊団とも事を起こさねばならないようなら非常に不利な状況である。

盗賊はあっけらかんとしており、手を振って笑い出す。

 

「あははは、大丈夫だよ。あれからもうあの盗賊団から取るものとって抜けたんだ。

やつらの追手から逃れて暫くほとぼりを冷まそうしていた時、以前ここで見つけた遺跡を思い出したんだ。そしたらいつの間にかあんな奴がいたから驚いたよ。」

 

「なるほどな、名前は?俺はカルトであの男はホリンという。」薪の準備をしつつ名前が呼ばれたホリンは会釈のみする。

 

「僕の名前はデューよろしく、とりあえず悪さはする予定はないから同行させてもらうと助かるんだけど。」

 

「ああ、それはこちらが頼みたい。女の子を護衛してダーナの砂漠を越えないといけないのは正直二人ではきつい、ホリンとあそこまで切り結んだ腕があるなら助けて欲しい。」

これは本音ではない、例え少年とはいえ彼は盗賊である。狙いがどこにあるのか、または本当のことをいっているのかはまだ判らないが警戒されるよりもここはこのように答えておくのがベストだろう。反論はホリンがしてくれる。

 

「カルト、盗賊を同行するなんて正気か?いつ食料や資金をもっていかれるか知れたものではないぞ。」やはりな。

 

「たしかにそうだが、先ほど述べたように今は一般女性を同行して砂漠越えをしないといけないんだ。仲間は多い方がいい。

それにデューはこの辺りを熟知している、イザークに早く帰りたいなら彼を同行してもらう方がリスクよりリターンが多いさ。それに、俺やホリンから盗むのはこの間の盗賊より難しいだろう?」俺はニヤリとしてデューを見る。

 

「あんた達から盗んで逃げるのは可能だろうけど、どこまでも追ってきそうだ。そういうのはわりに合わないし、あんた達の物を盗んでも金目のものは無さそうだ。」彼は優秀な盗賊なのだろう、この場面で盗めるとはなかなか度胸があると捉えてもいいがデューは本当に可能なんだろうと認識した。そしてその読みも当たっている、おそらく俺はあらゆる手段を使って捜索する男だ。

 

「そうか、本音を行ってくれて感謝する。ホリン、ダメだろうか?」

 

「・・・仕方があるまい、一度斬り合ったからわかるが剣の手ほどきをイザークで受けているな。それを信じよう。」ホリンはやれやれと言った感じだが、受け入れてくれたことに感謝しよう、とにかく今は休息をとって魔力の回復を急ぎたかった。

 

「デュー、ここは危険だから近くで休息をとれる場所はないか?」

 

「ダーナまで戻るには時間がかかるけど、メンゲルならここから半日もかからないよ。でもイザークに帰るなら反対方向なんだ。どうする?」

 

「構わないさ、魔力が回復すればあとはなんとかなる。案内してくれ。」

 

カルトのこの一言が多いにに運命を変えてしまうことになった事をまだ誰も知らなかった。

ホリンの言うようにデューに同行を許さなかったら、カルトが魔力の回復を優先しなければ

この運命はどのように分岐していくのか想像はできないでいた。

 

 

 

「たっ!大変です!!我が軍が、ダーナを攻撃しているとの報告が、指揮官はクラウス様です!!」

 

「なんだと!」リボー族長のクラナドは部下からの報告をイザークの客間で受けた。

本日はイザークにて定例の会議がある日で、リボーを留守にしているが守りは副官に細々と説明したはずである。特にクラウスの言動には耳を貸さないようにしていたのにもかかわらず、このような報告が上がってくるのかクラナドは混乱を極めた。

 

「さらにですが、この進軍にてグランベル公国ヴェルトマーのロートリッターが動き出しているとの情報も入ってきています。」

 

「一刻も早く、このような馬鹿げた事をやめさせねば。」クラナドは間にも合わないこの事態を収集させようとばかりによろよろと扉に向かって歩き出す。精神はもう正常を保ってられないようで足取りは不安定であった。

 

「失礼する!」よく通るその声はクラナドの意識を集中させた、そこにはイザーク王であるマナナン王とその息子であるマリクル王子が険しい顔で現れた。事態を知っているようで、そこに歓迎の世辞はなかった。

 

「マナナン王!申し訳ありません!!クラウスの独断がイザークを!!」クラナドはその場で膝と手を地に臥せ王に決断を委ねた。

 

「クラナド、貴公の人柄やイザークに対する忠義は本物であった。こんな事を起こそうとする本人がこの場にいることから奸計ではないことも存じておる。だが責は取らねばならない、この意味わかってくれるな。」

クラナドはゆっくりと王の真意を見るべく顔を上げた、そこには厳しい表情の中に悲しみをたたえた王の姿があった。クラナドはその瞬間に、いつもの取り乱すことのない族長にもどっていた。

 

「マナナン王、いままであなたにお仕えすることができた事を喜びに感じております・・・・・・。どうか、ご武運を!!」目を閉じた瞬間、クラナドは二度と瞳を開くことのできない眠りについた。マナナン王はその神剣にて一刀の元で首を撥ねた。

そのあまりの速さにクラナドは一瞬で絶命し、熱い血潮が溢れかえる。血糊がマナナン王の全身にこびりつくことも厭わず、その中で涙し。

 

「クラナド、俺もすぐにいく。待っていてくれ!」誰にも聞こえない声量でつぶやいた。

紅く染まった神剣バルムンクは明友に血を吸い、その輝きは悲しく光を放つだけであった。




誤字報告ありがとうございます。2016年3月にようやく修正できました、まだ誤字がありましたら報告の程お願い致します。


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帰還

カルトの秘密について少々出して行きます。



メンゲルに到着した四名は宿に泊まり、少女の目覚めを待った。

三人は口には出さなかったが疲労はピークに達しており、かなりほ手傷を負っている。ホリンに至っては胸骨が折れ激痛となっていた。デューが砦から盗んできた中にライブの杖を見つけ出しカルトが譲り受け、治療を施していた。

 

「まさか、聖杖も使えるようようになっていたのか。」ホリンは改めて驚く。

先に回復させたデューは痛みが消えるやいなや、ベットで泥のように眠りについていた。

 

「聖杖を見た時からなんとなく使える様な気がしていたんだ、本当に使えてびっくりだけどな。」

カルトは外見だけでその本質は変わっていない、ホリンも多少は驚いたが今や以前のように振舞ってくれて助かっている。

 

「二人で話しているうちに聞きたい。あの戦いで何があった、何が起きてそのように変化したんだ。」

「俺も、あの魔道書を燃やした瞬間に自分が理解したんだが・・・。これは母親の血がそうさせたんだ、と思う。」ライブの杖にてホリンの胸骨は及び、体力も癒し終わるとカルトは椅子に座り自身にも杖を使用する。

 

「俺は今まで魔法の才は父親から受け継いだ能力のみで戦っていたようだ。あの魔道書は俺の力を封じていたようで自身の魔力で燃やした時、俺の中にある母親から受け継いだ力を解放させる鍵だったと思う。」

 

「母親の力?」

 

「ああ、魔法の才能は血が大きく左右する。俺は父から傍系ではあるがセティの力を継承しているから風の魔法は生まれつき能力が高かった、それと同じように母親からも・・・。」

カルトは下を向いてそこから先の言葉を濁すようにつぶやく、ホリンでもその先の言葉の恐ろしさがうかがえる。

 

父親から聖戦士セティをついでいるにも関わらずその能力を凌駕する能力を母親から継承したのならその能力も聖戦士の力であることは明白であり、その性質上受け継いでいる能力はグランベルを統べる王族の親類である可能性が極めて高い。

 

「しかし、カルト・・・。お前の母親はグランベルの人間だったのか?ナーガの血筋の者が他国に嫁ぐことなどは考えられないぞ。」

ホリンの言うように聖者ヘイムの血筋は他の血筋と違い暗黒神に唯一対抗できる血筋であり、このユグドラル大陸の民より特別視されている。聖者の血と言うこともあり、婚姻には傍系であっても他国の人間と婚姻はできないし重婚も認められない。

その為、現在血筋の物は現在アズムール王とその息子のクルト王子のみとなっている。

血を絶やさないようにしたいが制約が強いので、おいそれと子供をこさえることができない。

聖者というのはなかなか厄介な存在である、くそ親父に爪の垢を飲ませたいものだ。とカルトは思ってしまった。

 

「確かに、お袋は自分の身の上を俺に話した事なかったから想像もつかないな。・・・でもまあ、よくわからんが光魔法と風魔法それに杖も扱えるようになった、苦手な魔法防御能力も上がっているようだ。あとはホリンから剣術を学べば言うことはない。」カルトのなんとも言えないその上昇志向にホリンはフッと笑みを見せた。

 

「ここまで来ても、なお目的を変えないとは・・・面白いやつだ。この子をリボーに送り返せば俺の依頼は完了になる、その後は俺もしばらく任務はないからソファラでカルトの依頼を承ろう。」

 

「頼むぜ、相棒!」カルトはビシッと指を立てて応えるのだった。

 

「う・・・ん?」

少女は小さい声を上げるとゆっくりと目覚めた、上体をゆっくりと起こし周りを見渡す。

「よお、目が覚めたようだな。

俺の事まだ覚えているか、武器屋で目的の剣が買えなかった時に話したろ?」

カルトはそう言うが、髪の色と長さが違っている為彼女は一瞬首を傾げたがあの口調と声は同一なのですぐに理解した。

ホリンは横に立ち事情を説明する、同じイザークの人間が話した方がいいだろうとカルトは思い。前面には立たなかった。

 

「私はホリン、こっちはカルトだ。君はさらわれて、イード砂漠まで運ばれたんだがこの男からもらった髪飾りの魔力を探知して君を救出することに成功した。

君が元気なようなら故郷まで送ろうと思うのだが、体調の方はどうだろうか?」

 

「私はマリアンといいます、助けていただいてありがとうございます。体調は、大丈夫です。」

 

「そうか、何事もなくて何よりだ。君の意識が戻ったようなら四人部屋のベットでは不自由だろうから隣の一人部屋を使うといい。」

 

「あ、すみません。何から何まで・・・、あの・・・私・・・。」

彼女は赤くなり下に俯く。ホリンは彼女の先の言葉を待つが一向に返答はなく、最後には困り果てていた。

 

「あ~!ホリンわかってやれよ!」

俺はフォローにでようとおもった時にはもう遅かった。

おそらく彼女はすぐに儀式に使われる身、つまり食事もろくにとらせていなかったのだ。

彼女のお腹から大きな空腹の訴えが部屋に響いた。

 

「・・・・・・腹が空いたな、そろそろ食事としようか。」ホリンは自身の腹の音と無理矢理にしたてあげて、階下へと降りていく。

いつの間にか起きていたデューと共にカルトは口をあけて間抜けな姿をさらしてしまうのだった。

 

 

 

「デュー。」ホリンは彼を呼び止めた。

食事を終え、カルトとマリアンは疲労が多いのか部屋ですでに就寝している。デューは夜の町を散策して戻って来たところであり、ホリンは日課の修練を終えての宿の中での事だった。

「あっ!ホリンさん。いいものが見つかったよ、僕値切りが得意なんだ。」彼は背中の袋を叩いてあっけらかんとしていた。

 

「君は、初めて私と剣を交えたときに俺の名前を知っていたな。なぜだ?」

 

「・・・そうだったっけ?覚えてないや。」

 

「はぐらかさないでもらおう、君は私を知っていたんだな?」ホリンには確固たる確信があるのか話を変えることもできない。

 

「・・・・・・。」

 

「君はあの時、秘剣を使っていたな。

あれがなかったらとっくに私が倒していたがそうはならなかった。」

 

「・・・ばれちゃったか~、さすがホリンさん。

そう、あれは秘剣太陽剣だよ。」

 

「!」

デューの発言にホリンは驚きを隠せなかった。

太陽剣はガネーシャの一族でごくわずかな剣士のみが扱える闘気を応用した剣技である。

 

「デューはガネーシャの剣士だったのか。

すまない、辛い過去を引っ張り出してしまった。」

ホリンは頭を下げて謝罪した。

ガネーシャの一族と我がソファラの一族、そしてイザークの一族にはそれぞれ奥義を持つ剣士が族長として存在していた。

 

ガネーシャの太陽剣

ソファラの月光剣

イザークの流星剣

 

この3つの部族は昔よりお互いの力を認めつつもお互いの領地を守り牽制をしていた。

百年前、かの聖戦でイザークの一族は神剣を持つ聖戦士となりこの地に帰ってきたときそのバランスは崩れ去った。

 

神速の剣技を扱う流星剣の使い手が誕生した瞬間、残りの部族達はイザークの一族に従うしか選択肢は残されていなかった。

ソファラの一族の他大多数が最終的にイザークの一族と共同を進めたが、ガネーシャだけは最後まで強硬な姿勢を貫いた。

 

孤立したガネーシャは、他の部族よりも文化も豊かさものびることなく以前よりひどい貧困と空腹が蔓延する一族となった。

一族は徐々に理性的ではなくなり、他の部族より略奪を行うようになった為十年ほど前にイザークとソファラでガネーシャを攻略し、壊滅させた。

 

 

 

「ううん、悪いのはやっぱりガネーシャの族長一派だよ。

変化する世の中に対応できない一族は淘汰されて当然だと思う。それにあのあとガネーシャの民に食料支援をして助けたのもあなた達なんだから。」

デューは相変わらずの笑顔で苦しい過去を話続けた。

 

「僕は弟達を安全なところまで運んでいる最中に少年剣士だったホリンさんに見つかったんだ。

僕達は族長の子供だったから殺されるのかと思ったけど、ホリンさんは僕達を切らずに逃がしてくれた。

あの時は嬉しかった。

弟達を食べさせていくために盗賊まで身をおとしたけど、僕はいつかホリンさんにお礼を言うまで生き延びる一心でここまできたんだ。」

 

「そうだったのか。」

確かに私はあの時、あの戦闘に参加し彼の言うようにデューらしき子供を助けた記憶がある。

あの時の私は一緒に参加した、イザークの姫君に心を奪われており記憶が曖昧であった。デューやカルトには絶対に言えない内容である。

 

「だから、ホリンさん。疑っていることもあると思うけど見ててほしい、僕の盗賊としての能力は役に立つから。」

 

「わかった、疑ってしまい申し訳ない。

ただ、悪いことに使うなよ。」

 

「あはは、気を付けます。」デューは笑って部屋に戻っていった、その足取りは軽く憑き物が落ちたかのようだった。

 

その瞬間、ドアをけたたましく開かれた。中からカルトは廊下側の窓を開いて天空を見上げた。

 

「どうした、カルト。」

ホリンの言葉にも耳を傾けることはなかった。

ホリンもデューも同じように窓から身を乗り出して見上げる。

真っ赤な隕石と思われる飛来物が北の方角に落ちていき、地上を赤く染めた。

 

「あっちはダーナだぞ、一体何が・・・。」ホリンは絞るように囁いた。

 

「あれは、メティオ・・・。ロートリッターか!」カルトの紡ぎだしたその内容は大きく不吉とするものであった。

 

「ロートリッター?」デューはのぞきこむように聞き返した。

 

「ヴェルトマー家が持つ炎騎士団の精鋭軍だ、メティオを扱うような連中はやつらしかいない。」

 

「ダーナで誰と戦っているんだろうか?まさか・・・。」

ホリンは恐ろしい憶測が浮かぶ、地理と位置関係を見ればイザークが絡んでいる可能性がある。ホリンは冷たい汗が流れ出ていた。

 

「ダーナが戦争状態にあるならおそらく交通も閉鎖されてイザークには通してもらえないだろう。明日はここで情報を収集してから判断しよう、ホリンそれでいいか?」

 

「ああ、そうだな・・・。」

彼の言葉はここまでがやっとであった。

 

 

翌朝、自治団の滞在する詰所にて詳細を確認するがやはり事態は最悪の方向であった。

リボーのクラウスがダーナを襲った事、即座にヴェルトマーの精鋭が対処して一夜のうちに制圧したことを聞いた四人は流石に驚きを隠せなかった。

 

「クラナド様はどうされたのだ、あれほどの御仁が短気に走ってダーナを侵攻するとは考えられない!リボーはどうなってしまったのだ!」興奮するホリンは珍しく悪態をついていた。

 

「確かに、それもあるが自国にでない自治区に短期間で準備を整えて精鋭部隊を送り出したヴェルトマーのロートリッターも少しおかしい。裏で何かが手引きしたように見える。」

カルトはそのように分析し、指摘した。

 

「カルト、それではこれはイザークとグランベルの戦争を望んでいる連中がいるとでもいうのか?」

 

「恐らく、な。それを確認する為にもイザークに戻りたいのだが、ホリンなにかいい方法はないのだろうか。」

 

「アルスターに行ってそこから海路という方法もあるが、時間がかかりすぎる。正直お手上げだ・・・。」

 

「そうか、じゃあ・・・最終手段をつかうしかないな。」カルトは少し緊張した面持ちでホリンに体を向けた。

 

「なにか方法でもあるのか?」

 

「ああ、しかしこれは賭けなんだ。うまくいかなかった場合、予想がつかない場面に出くわすこともあるがうまくいけば早くにリボーへたどり着ける。」

 

「な、なんだって。」

 

「賭けてみるか?」

カルトのその表情にそれなりのリスクを孕んでいることは十分に理解したが、イザークの動向が気になるホリンは首を縦に振っていた。焦燥に駆られてるが、全員万全でない状態で飛び出すのは無謀を超えている。今は一つ自身を抑え、休息に入ることにした。

 

 

 

翌朝、四人は体調と物資を確認してカルトの言う最終手段を待った。

彼が言うには転移の杖というアイテムを手に入れていたデューに事情を話して譲り受け、初めてなのに実際に使ってみるということであった。

はじめは二人づつ分けて使用することも考えて見たのだが転送先で簡単にお互いを確認するのは難しい為、一度に四人を転送する道を選択した。

転移の杖の文献をシレジアで読んだことがあるが人数が多ければ、距離が長ければ比例して魔力の消耗と、精度が悪くなるらしい。

聖杖を使えるようになって三日のカルトにはどのような反作用と効果が発揮できるのか、どれくらいの消耗に見舞われるのか皆目見当がつかない。

 

「いいか、始めるぞ!全員どのような場所に転送されても身構えてくれ。」

カルトの号令とともに三人はおのおのの準備に入る。

 

「俺のイメージはイザーク国境付近でデューたちと出会った丘だ。・・・・・・転移!!」

地面に七色に輝く魔法陣が現れ四人を包み込む、幻想的なオーロラが立ち込めて身体が浮き上がるような感覚になった瞬間、まるで暖炉で温めた空間に極寒の外部の風を引き込んだかのような空気を一気に入れ替えたような錯覚を覚えた、あたりを見渡すと風景は一気に変わり街の一角であった石造りの建物は消え失せ低木の茂る草原に場所を移していた。

 

カルトはその場で蹲り荒い息をたてていた、おそらく一気に魔力を消耗したのだろう。

精神力も一緒に削り取られて、へたり込んでしまったのだ。

 

「ホリン、デュー・・・・・・。どうだ、最悪でもダーナよりはイザークよりに転移できたか?」

 

「す、すごいよ!カルトさん!!ピンポイントだよ!ここはあの時ホリンさんと戦った丘だよ!」

 

「うむ、凄まじい魔法だ。一瞬でここまで運ぶとは・・・。カルトはもう一介の魔道士ではないようだ。」

おのおのが賞賛の言葉をかける中、マリアンは微笑んでカルトに寄った。

 

「カルトさん、やっぱりあなたはすごい人だったんだね。」

手を差し出した少女は嬉しそうにカルトを見つめていた。

 

「ああ、これからもっともっと腕を上げて見せるよ。マリアンは俺を買ってくれたんだ、期待は裏切らないつもりだよ。」

カルトはその小さな手を掴み立ち上がる、彼女は初めてリボーに会った時俺を褒めてくれた。あの微笑みを失わずに助けられた事を嬉しく思い、そして幸せに暮らしていけることを切に願ったのだった。




だんだん、カルトはなんでもありに見えるかと思います、しかし私の見解では魔力と精神力に限りがある為万能ではありません。
転移はできましたが大魔法に分類され一日一回が限界、かつこのあとまともな戦闘はできない状態になります。

あえてファイヤーエムブレム風にステータスをー作るなら。

カルト LV12
マージファイター(に近い)

HP 28 / 28
MP 35 / 35 ※ゲームには存在しないです、あくまで私の主観。
力 6
魔力 14
技 9
速 12
運 7
防御 6
魔防 11

剣 C
光 内緒
火 B
雷 B
風 A

スキル

追撃 連続 見切

母親の力にて魔力と魔法防御が上がりました。
以前だと 魔力 11 魔法防御 6 MP 25 のイメージでした。

魔法名 MP消費量
ウインド 3
エルウインド 5
ライトニング 4
オーラ 9

ライブ 3
ワープ ※ 人数と距離による、今回のMP使用量は27くらい。


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離別

少し、暗い話になります。


ダーナの紛争による交通閉鎖を跳躍し、リボーに転移した四名は各々の地へと散って行った。

マリアンは実家へ

デューはガネーシャへ向かい

 

ホリンとカルトはリボーの館へと急いだ。

リボーの街は賑やかで交易の行商人や旅人などで活気に満ちていたが、今はイザークより派遣された軍の巡回により厳しく規制されていた。

リボーの族長による他国侵略はダーナでのリボー軍壊滅では済まされない証と見て取れた。

ホリンはクラナドの無事を祈りつつ、このような惨状に陥った真実を知りたかった。確かに彼の息子であるクラウスは短気で結果をすぐに求める男であったが、言葉のみのもので行動力は反作用している男だ。そうそう行動に出るとは思えなかった。

 

カルトの言うように裏で手を引いているものがいるとすれば、クラウスは焚き付けられてクラナド様の意見を聞かずに暴走させてかもしれない。

しかしながらクラナド様の右腕には最も信頼し、進軍には副長が全権限を持っていたはず。クラウスの意見のみで進軍は考えられないのだ。

 

様々な憶測が頭の中をよぎる中、館に到着した。館にはやはりイザークより派遣されたイザーク軍が歩哨に立ち館の侵入を拒んでいた。

ホリンは何一つ動じる様子はなく、歩哨の兵士に内部への接見を試みた。

兵士たちに多少の緊張感が現れるがホリンは歩調を乱すことなく歩み口上を述べる。

 

「私はソファラのホリンだ。ここのかつての主、クラナド様の依頼の報告に参った。」

 

「リボーの自治はイザーク直接管理となった、事情は推し量れるがここに入ることは許されぬ。かつてのリボー兵は街の東に駐在している、そこで詳細を確認するがいい。」

 

「かたじけない、失礼する。」

ホリンはすぐに指定された地へ急いだ、カルトがまだ魔力の回復と精神力の疲弊はわかるが今は一刻も早く情報が欲しかった。

 

イザークの兵士より聞いた場所はあまりにもひどい場所であった。旧市街地の旧館であり、衛生も資材もなく生気を失った兵士達の姿であった。

前回リボーを訪れた際の気さくな兵士でさえ、ホリンを見ても表情は好転せず地を見るだけであった。

 

「おい、どうしたんだ。俺がダーナに行っている間、何があったと言うんだ。」

気さくな兵士はゆっくりと顔を上げ、時間をおいてから徐々に瞳に涙が溜まって行った。

 

「クラウス様が副長を惨殺して、一部の過激派兵士を扇動してダーナに向かったんだ。子供達を誘拐した組織をあぶり出す為に街に火まではなったらしい。

そのひどい横行にグランベルの精鋭部隊に鎮圧されたんだが、その責を追ってイザークでクラナダ様が処刑されてしまったんだ。」

 

「クラナダ様が!!」ホリンは覚悟していたとはいえ、やはり相当なショックを受けたのだろうかその場で片足をつき目を閉じていた。

 

「話の途中済まない、今この現状はどう言う状況だ?かつてのリボー軍がここにおいやられたと言うことはイザークはクラナダという族長の処刑し、首を身印にグランベルへ謝罪するように思えるにだが・・・。」

 

「そうです、マナナン王はもうじきリボーに到着されここで一泊したのちバーハラに向かわれるようです。」

 

「なるほど、だから今リボーの街は物々しかったのか。」カルトはその状況を即座に理解した。

このように部下の者の不始末を王自らが謝罪の為に相手国へ赴くことは珍しくはない、無事にイザークまで帰還するように手配をする副官達は必死の対応に追われているだろう。

 

「そ、それにホリン様・・・。マナナン王と共に向かわれるのはソファラ城主様です。」

 

「な、なに父上も向かわれるのか。」

 

「はい、自ら同行を嘆願したようです。」

 

「ち、父上・・・。」ホリンは父の覚悟をそこに垣間見た、カルトもその真意に気づき俯いた。

 

おそらく、ダーナにいる駐留部隊に赴きマナナン王は謝罪と首謀者の首を差し出す事だろう。ダーナとグランベル軍に対しての賠償を受け入れたとしてもその責の追求は免れない、マナナン王はイザークの象徴的な存在であるのでその場で処刑はないが、それ相当の人柱は必要となる。

父上はその役目を買って出たということになるのだ、リボーと協定を強く持つソファラの代表ならグランベルも落とし所としては最適となるからだ。罪人をグランベルが処刑することに意味があり、国内にも威厳が保てる。そういう落とし所なのだ。

 

国家間このような無意味な落とし所と体裁を保つ政はカルトは吐き気がするくらいだが、その真意にホリンの父親の高潔さを垣間見させられるのであった。

だからこそ、ホリンも高潔であり自身の正義を貫いてきている。この親子の殊勝さに、カルトは賛辞を讃え、しかしながらこの世に散る者を惜しく思う。

 

「ホリン様、お父上はまもなくリボーの館に到着なされます。一度お会いになられた方がいいかと・・・。」

 

「ああ・・・、わかった。情報感謝する。」ホリンは辿って来た道を折り返し始めた。

先ほどは入館を拒否されたが、父上が館に入ればホリンは入館を許可されるだろう。

他国であるカルトはここで別れ、市街地に足を運んだ。

 

市場では、先ほどの物々しい雰囲気から解放され市民の買い物で多少の賑わいはあった。

カルトはその雰囲気にそっと安心し、宿に戻る前の食事を考えていた。

そこで、マリアンがいたのである。彼女は買い物をしているだが顔には憂いの表情をしており、安堵の雰囲気はなかった。

 

カルトはその雰囲気に、おかしいと思い後をつけることにした。

彼女の家のことは聞いていないが普通の家庭なら彼女の帰還に多いに喜んでいるはず、別れて数時間で買い物をしており、憂いていることにカルトはただならないと思ってしまった。

マリアンはメモを片手に市場のあちこちにを周り、少女一人では持ちきれない荷物を日課でこなしているからか持ち上げ帰路についていた。

 

 

俺は彼女の幸せを願って助けたんだ、彼女の憂いの顔は許せない。

カルトはおそらく自身の結論に行き着いた事を必死にそうでないと言い聞かせながらつけて行った。

 

カルトも母親を失い、肩身の狭い思い幼少期を過ごした。

毒で意識を朦朧とし、義理の母による妨害で医者にもみせず三日間生死を彷徨った事もあった。

自身の回復力で床から這い上がり、奴らの前に姿を見せた時にあくびれる様子もないあの悪魔達はその日に暗殺者まで使った。

やつらがここまでする理由が自国でもない女がマイオス様の長男を産んだ事が憎らしい、だった。

 

勝手な大人の行動だが当時の幼い俺には、逃げるとか戦うとか以前にそのような自衛する術すら知らないのである。

ひたすら大人の機嫌を伺い、殴られても笑ってやり過ごしたり命令を聞いて従って行くしかなかったのだ。

 

マリアンも同様の事をされていると思うと、カルトは吐き気を催す。

そんな事はないと言い聞かせるが、虐待に敏感に反応するカルトにとってマリアンの行動は当時の自身のと当てはまる部分があり確信とばかりに脳裏が反応する。

 

マリアンは一件の藁葺きの質素な家に入っていった。

彼女の自宅らしき家は荒れており、子供を慈しみ育てていくような環境ではなかった。

家は質素でも子供のためなら掃除をして衛生を保つ、子供のために食事を作り成長を期待する。子供のために安息の場所を確保する。

内部を見てそれは保てていなかった。

 

生活用品は散乱し、外から差し込める陽が内部の埃を写していた。

眠るべきベッドには大柄で腹部が太鼓のように張った男が酒をのみ正反対に妖艶な女性が隣で寝息をたてている。

 

「マリアン!買い物が終わったらさっさとつまみと酒を出せ!お前がいなくなってから仕事はたまってるんだ、さっさとしな!」

 

「はい!ただいま」マリアンは精一杯の笑顔を向けて言われたように食事を作り、家事を必死にこなしている。

 

彼女の体に生傷があったのだがそれが暗黒教団に受けていたものだと思っていたが、それは間違いであったのだ。彼女の日常は怒声と暴力で押さえつけられ、空腹も相まって考える力を失っていたのだろう。

 

宿で一緒に食事をとり、清潔なベッドで眠っていた彼女はとても嬉しそうで、満ち足りた顔をしていた。普段の彼女には届かない願いであったのだろう。

 

カルトはいつの間にか涙が溢れていた。

本当はマリアンは俺たちに助けを求めたかっただろう、打ち明ければホリンと俺は彼女にできうる限りの支援をしたはずだ。

でもしなかった。いや、できないんだろう。子供の頭ではそれをするとまた家に戻ったときに両親から逆恨みをされるのではないかと考えるのである。

自身の辛い経験が彼女の心理を痛いくらいに共感できた。

いますぐにでもマリアンを救いだしたい、しかしここで彼女を両親から救いだしても、第三者からみればそれは暗黒教団の人拐いとなんら代わりはない。

 

カルトは飛び込みたい気持ちを押さえ込んで事態を見守る。

マリアンは水を汲みにいくのだろうか、水桶をもって外へ出ていった。

 

「ねえ、どうしてあの子帰ってきたの!あんたちゃんとあの子を売ったんでしょ!!」

いつの間にか目が覚ました女性は声をあげる。

 

「確かに売ったさ!金もここにあるだろ、しかし不味いな。あいつらに見つかったら騙したと思われたら俺たち殺されちまう。」

 

「どうすんのよ!私まだ死にたくないよ!」

 

「さっき別の仲介を頼んだ、やつらに見つかる前に別で売ればまた金が手にはいる。」

 

まさか、マリアンはさらわれたと思っていたが売られていたとは。カルトはその事態に目眩すらしていた。

自分も殺されかけた事はあるが実の親から金目当てで売られるなんて経験はもちろんない。

殺される事以上の過酷な現状にカルトは意を決した、彼女を今すぐ救い出すために!

 

 

 

家からしばらく歩いた先に井戸がある、私はそこで水桶にロープで結び放り投げる。イザークの水脈は深く、水桶を上まで戻すのは子供では重労働である。私はこの作業をどの子供よりも早くからしていた。

何度もうまくいかずに時間をかけてしまい、母からよく叩かれた。それでも私はお母さんとの暮らしはおどおどしながらも耐えられた。

 

 

その生活は続くことなく、突然大きな男の人が家に出入りし初め、ついには居着いた。

初めは優しく接してくれた義理の父親に母も少し穏やかになった、安息の日が少しだけ続いたがすぐに今のようになってしまった。

二人は働くことなく、男の人は酒をのんでわめき散らし、母は男に依存した。

 

私はあの日、あの男から住み込みの働き口が見つかったと言われてショックをうけた、家事を放棄して家を飛び出し宛もなく町をうろついた。

そんな時、不意に目に写った人が武器屋さんとのお話が凄く面白くて聞き入ってしまった。

私は自分の母親にすら、まともに話も出来ないのにこの旅人さんは初めての土地で初めて出会う人と値切交渉しているのだ。

 

私の興味は別にもあった、この人は私と同じように思えてならなかった。

てもどこが?私にはあんな風に人と接することは出来ないのに、どうして?

でも一つ確かなのは彼からあふれでる雰囲気は優しく、包み込むような慈愛に充ちていた。

 

彼は私と少し話をして髪飾りをくれた、初めて人から頂いたプレゼントに浮かれてしまい私は帰り道に住み込み先の主人と名乗る人に連れて行かれた・・・。

そのあとの記憶はなく、気付いたら窓もない部屋に閉じ込められていた。

周りから私と同じように連れて来られた子供達が日に日に減って行き、最後には私だけになる。

こわかった、はじめは仕事が決まり一人づつ出されていくんだと思っていた。

いえ、そう思い込んでいた。

 

助けて!いつも心の中で叫ぶ、誰にでもなく、どことでもなく・・・。

私を助けてくれる人なんていない、私を見てくれている人もいない・・・。

絶望の中、普段からの空腹とここにきて食事もまともにでない為気を失う。

 

真っ暗な中で町で少し話した旅人さんが頭をよぎる、もし助けてくれるならあの人がいいな。あの髪飾りをつけてくれた優しい手で私をつかんで欲しい、見て欲しい、抱きしめて欲しい、話を聞いて欲しい。

 

その願いは通じて私は助け出される、暖かい食事と綺麗なベットで休んで故郷まで送り届けてくれた。私は言いたかった。助けて、と・・・。

でも旅人さん、カルトさんにうちの現状を話しても困惑する、なによりカルトさんから拒絶する言葉を聞きたくない。それも怖い・・・。

 

リボーに帰って来た時、お母さんは心配してくれている。一縷の望みを込めて帰宅したが、何も変わっていなかった。

 

 

 

いつの間にか井戸の作業中に思考の渦に飲まれていたみたいで、作業の手は完全に止まっており頬に涙が伝っていた。

涙を手で拭き取り、再度水桶を引き上げようと力を入れるが一向にあげることができない。

空腹で力が入らない事と久々の帰宅を拒絶された母の態度のショックが大きいのだろう、彼女は懸命に引き上げようと試みる。

 

カルトはその手を包むようにロープを持ち、力強く引き上げる。

 

「カルトさん!」

 

「よう、マリアン!大変そうだな、手伝うぜ!」

マリアンが必死で引き上げる作業をカルトは軽々と引き上げて大きい水桶に移し替え、数度の作業を行い満たした。

 

「カルトさん、ありがとうございます。」

 

「いやそれほどでも、マリアンを探していたんだ。」

マリアンは首を傾げて何用かカルトの言葉を待つ、彼女の髪飾りが陽に当たり鈍く反射した。

 

「俺、またイザークを発つ事になりそうなんだ。」

マリアンの顔が暗く写る、これでもう助けてくれる人がいなくなる。私の心はなにかに鷲掴みにされたような気持ちになった。

 

「そうですか、寂しくなります。・・・・・・またイザークに、きっと来てくださいね。」

懸命に笑顔を作り、カルトに向けた。

カルトはしゃがみこんでマリアンと目線を同じにし、そして彼女の瞳を見つめる。

 

「マリアン、一緒に来るか?俺と一緒に世界を回って、自分の生き方を選べるようになりたいか?」

カルトの唐突の言葉にマリアンは言葉を失った、どうしていいかわからない表情だ。

 

「君の両親から話をつけて来た、君が家を出ると決めたのなら好きにすればいいとおっしゃられた。

だからマリアン、俺と行動を共にしよう。いつか君が君で居られる場所を見つけてそこで活躍して欲しい。」

 

「あ・・・、ああ・・・。カルト様、私・・・・・・。」

彼女はカルトに抱きつき、言葉ではなく体全体でその意思を伝えた。

彼女にはあの暗い表情はさせない、カルトの想いは少女を明るい道へと進めていくのであった。




マリアンはカルトの付き人的な存在で、シグルドでいえばオイフェのような感じです。しばらく女性キャラが居ないのでマスコット的な存在が必要と思いました。


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友愛

ここでイザーク編が終わります。
ゲームではシグルドが各地で戦争をしながらグランベルに戻るまでの数年間、イザークではグランベルに対抗し戦い続けていました。
マリクル王子先導によるものなのか、残党の反抗なのかは作中でてこなかったのですが今後もこの辺りを描いて行きたいと思っています。


マリアンに言った話をつけたというのは嘘であり、正確に言うのなら話をつけるである。彼女にはこれ以上の心労は与えたくないと考えたカルトは彼女の保護を優先し、宿に引き上げさせたのだ。

湯を使って汚れを取り服も新調し、食事を一緒に取り落ち着かせた。

彼女の手が不意に止まり、カルトを見つめる。その瞳はまだ不安と困惑した様子であった。

 

先ほどのカルトの一緒に来い、の言葉に嬉しくて返事をしたのだが時間が経つに連れてカルトに対しての配慮を始めた。

 

「私、カルト様のおそばにいて何も役に立てない。こんな私を連れて行ってくさだるのですか?」

 

「マリアン、役に立たないと思うのが違っているところだ。子供は大人の都合のいい存在になっては駄目なんだ。

これからは自分を持って、どうしたいのか?してあげたいのか?を判断するといい。

それを俺にぶつけてこれば、俺もそれに同調するか反対するかを話し合う。その中から答えを見出していきながら大人になれ。」マリアンに笑顔で答えた。

 

彼女は今まで自分の答えを出すこともないまま、大人達に酷使されて来たのだ。

いまさらそのような生き方に変えて行くには時間がかかるだろう、しかしマリアンの為にカルトは自分の生き方の中の経験を彼女には伝えて彼女なりの判断が下していけるように論じた。

 

「難しい・・・。」マリアンはポツリとつぶやく、カルトはそれに笑って頭を撫でた。

 

「そうか、そうか、難しいだろうなあ。俺にもまだまだできてないからな。」

 

「意地悪ですね。」

マリアンは少し笑って食事を続けた、その笑みには無償の自由はないことを自覚してくれた。今はそこまで理解してくれたらいいと判断した。

 

 

 

「父上!!」

ホリンは実の父に切りつけられたが何も反応はできなかった、袈裟斬りに斬られた鎧は深く傷を残し鮮血がしたたる。

片膝を地につけ父を見上げる、そこにはいつもの穏やかな顔ではなく厳しい姿であった。

 

「クラナドの指令に時間をかけ、クラウスが躍起になってダーナに進攻したことの責はお前にもあるのだぞ!

それを踏まえず、ソファラの長に会いに来るとはあきれた心掛けだな。そして私の心配か?身のほどを知れ!」

 

「・・・・・・、申し訳ありませんでした。

私のおよび知らぬこととは言え、無礼でありました。」

ホリンはそのまま畏まり、顔をあげることはなかった。

 

「ホリンよ、貴様は任務失敗の責として離反とする。二度とソファラの地へ足を踏み入れることは許さん。」父の言葉にホリンは凍りつき、動くこともできないでいた。

 

「ガーラット殿、それはいささか過ぎた罰ではないかな?」

 

「こ、これは!マナナン王、お見苦しい所を・・・。」

ガーラットはすぐさま跪き、ホリン横まで下がった。広間の全ての物が跪く。

 

「よい、ここは謁見ではない。

ホリンよ、これはそちの責任ではない。イザークをもっと団結できなかった国王の所為なのだ。

クラナドも、クラウスもイザークを憂いての行動の結果に過ぎない。今はリボーの者達には自粛してもらっているが、いずれイザークと共に立ち上がって欲しい。」

途端にあたりの者より鼓舞の声が立ち上がった。

イザーク王の器の大きさ、そして今から向かわれる劣等を払拭してこられると兵士は讃えた。

 

「ホリン、ソファラに戻るな。どのみちソファラはリボーと同じ道をたどることになり、イザークは大変なことになるだろう。

お前はそれに備えて外部に安全な場所を確保するんだ。マリクル王子とアイラ王女、そしてシャナン様が国外へ亡命できるようにするんだ。」

歓声の中父上は辺りに聞こえないように私に話しかける。

やはり、父上はもしもを感じている。マナナン王をお守りできないケース、そしてさらにイザークとグランベルの戦争を意識した内容だ。

 

「しかし父上、私もイザークに居なければお三方と外部からの合流は難しいのではないですか?」

すると、父上はそっと笑った。

 

「構わぬ、お前の中にあるオードの血が必ずお前達を巡り合わせてくれる。私もマナナン王もそう思っているぞ・・・。

先ほどは斬りつけてすまなかった、わかってくれ。」

 

「父上・・・。なにとぞ・・・なにとぞ、ご無事で!!」

父上は腰にある、剣を抜いてホリンに渡す。

 

「この剣はこれからお前が使え、イザークを頼んだぞ。」

ホリンは一礼し、駆け抜けるように喝采の広場から飛び出した。

もう、自分には戻る場所もない。イザークを飛び出して自分にはなにができるにであろうか、今度こそ父上に顔向けをできるように誓う、ホリンであった。

 

 

 

 

「そいつが、黒幕だ!俺はそいつにそそのかされたのだ!!」

ダーナの地下室でクラウスは声を張り上げた。

 

彼はダーナに子供の救出に向かった、ダーナの町に入る直前に暗黒魔道士達による一斉攻撃を受けた。

彼は出立時に漆黒のローブをきた女の助言と魔法の援護を受けて魔道士の駆逐に成功したのだ、だがその戦闘がダーナの町にも被害をもたらしたのだ。

 

ダーナはその被害、なにより暗黒魔法の攻撃を受けた畏怖よりグランベルに救援を要請した。

クルト王子は報告を受け、各公国に通達した。

アルヴィス卿はダーナに一番近い公国であり、かつ彼は主力部隊であるロートリッターは軍事訓練をしていたらしくロスなく出撃できたのである。

 

クラウスのリボー軍は子供の捜索に躍起になり、ダーナを捜索するが見つけることは出来ず市民に恐喝紛いまで行い始めた。リボー軍の中でも過激派な連中の為、横行は激しさを増していく。

ついに町に火の手まで上がりだし収集は付かなくなり、ロートリッターがリボー軍を制圧にかかったのだった。

 

リボー軍はグランベルの軍事力の前には半日もかからず壊滅した、郊外に逃げたリボー軍に大魔法メティオまで使う徹底ぶりは圧巻であった。

 

クラウスは馬車で逃走したが、交通封鎖していたグランベル軍捕らわれて、ダーナで拘束されたのだ。

 

アルヴィスは汚い言葉を使うクラウスを横目に隣に立つ黒いローブの女に視線を向ける。

 

「このように申しているが、スレイヤどうだ?」

アルヴィスの言葉を受けて彼女は妖艶にその唇を動かす。

 

「まさか、アルヴィス様はこのような戯れ言を真に受けられるのですか?

仮に私だとしても、名前も知らない女の話術にかかってダーナに攻めました。なんて話を誰が信じましょう。

なにより私はアルヴィス様とほとんど同行していましたでしょう?」

 

「確かに、スレイヤはここ一月は私の部下としてグランベルにいた。リボーへ行く時間などないはずだ。」

アルヴィスの言葉にクラウスはなすすべはなかった。

 

「リボーのクラウスよ、貴公はクルト王子が到着次第に罪状を言い渡す。それまでは心穏やかに待つことだ。」

アルヴィスは翻した、もはやこやつには用はなかった。

 

「うふふふ、アルヴィス様も芝居がお上手ですこと。」

プレイヤは前に回ってアルヴィスを悪戯に笑いかける。

 

「冗談はよしてもらおう、これでイザークはグランベルに戦争を仕掛けるのだな。」

 

「はい、アルヴィス様が真っ先にダーナの反乱を押さえましたのでランゴバルド卿やレプトール卿があわててこちらに向かっております。

功を焦ったこのお二人を使えば、きっとそのようになりますでしょう。」

彼女の言葉にアルヴィスも不敵に笑う。

 

「しかしですが、私たちにも不確定事項が発生しています。私たちが根城にしていた一つが壊滅しております。

ダーナで私たちが暗躍している最中に族が侵入し、同志を殺されました。」

 

「なんだと!」

 

「ご安心ください。そこからアルヴィス様に繋がる証拠はなく、暗黒教団の一つを壊滅させた位にしかなりません。

しかしながら守っていた者は我が教団でも上位にいた人物で、彼を倒した存在は見過ごせません。」

 

「気にはなるが、今はどうにもならんな。存在がわかれば俺も何とかしよう。」

 

「ありがとうございます、いずれ我が司教様もアルヴィス様にお会いしたいと存じています。」

 

「要らぬ、俺は利用できるものは利用するが暗黒教団を庇護するつもりはない。スレイヤ、貴様はそれを了承していたのではなかったのか?」

 

「こ、これは失礼致しました。以後お気を付けます。」

フレイヤは畏まった、アルヴィスのただならない殺気に気圧されてしまう。

不敵な笑みを讃えたアルヴィスが見る先はどのようなものであるかはフレイヤは計り知れないでいた。

 

 

「はあああ、お助けを!!」

体型の悪い男はとにかく許しを請い、この場を収めることに必死になった。

銀髪の男が自分の娘を売りに出そうとした日に突然家に入り込み、以前に売りつけた者と本日売りつける予定の男をふんじばった状態でなだれ込んだのだ。

銀髪の男、つまりカルトはマリアンの売り先の相手全てをダーナで見つけ出しそに代表格の者を捉えてこの場に乗り込んだ。

 

「貴様の画策は全てお見通しだ、さあどうする。

このままこいつらとともに衛兵に差し出してやろうか?それとも・・・。」

がくがくと震える男と奥より出て来た女は抱き合ってその尋問を聞き入る、二人はその予想だにしない状況に混乱の極致となっている。

「それとも、俺に抗って子供を救うか?

もし、その気なら場を設けてやるぞ・・・。俺に勝てば不問にしよう。」

 

「そっ!そんな!!騎士様に私どもが抗うなんて!!もし、娘が気に入ったのなら連れて行ってください。

娘はもう、従順で・・・。騎士様の思うがままで・・・。」

 

これは、カルトの一縷の望みであった。

しかしながらこの父親の回答に苛立ったカルトは下衆な笑みで近づいたこのバカを力一杯の右ストレートを左頬に入れてやった。

ほお骨を砕き、歯も地に数本落ちた彼は痛みのあまり地に伏したまま動くことはなかった。

マリアンの母は甲高い声を上げて絶叫するが、カルトは構うことなく言い捨てる。

 

「もう、あんた達にマリアンを連れて来ることはない。

子供を痛めつけた事をあんた達は後悔することになるだろう。」

その場を去ったカルトにも、涙が溢れていた。

 

「マリアン、できればここに返したかった。」

カルトは涙を拭き取り、その歩みをさらに早めた。

 

 

 

 

各々がイザークでの一日を過ごした翌日、四人は再び合流した。

デューのように晴れ晴れしい顔をした者ななく、三人は何かの決意を持った面持ちに変わっていた。

 

ホリンは厳しく

カルトは何かを見据え

マリアンは何かに決意する

 

ホリンからの状況でイザークにいてはまずくなった為、国外へ脱出することを選んだ。

イザーク情勢が悪くなった時の受け入れ先の手配、と彼は言っていたが父親にはもう一つの画策があることをホリンはまだ理解していないのだろう。

マナナン王やマリクル王子、その一族がイザークで戦い続けてしまった時のことまで考えていることだ。

オードの血を絶やさない為にホリンにイザークを脱出して欲しい、父としてイザークのリーダーの一人としての決断にカルトと感銘を受け、ホリンに伝えることはなかった。

 

デューの周辺情報によると

ダーナからグランベル領のヴェルトマーに向かう、もしくはフィノーラ経由でシレジアに向かう。

メルゲンからマンスター地域に向かう。

メルゲンからミレトスのペルルークに向かう。

 

という、陸路がある。

しかしながら、ダーナからヴェルトマーは紛争による交通封鎖があるのでイザークの民であるカルトを除くメンバーには多少のリスクが生じた。

 

その他の経路も考えられるのだが、何よりカルトはグランベルのバーハラにむかいたかった。

イザークの紛争とグランベルの動向を知り、今なにが起こっているのかを掌握する為にも一度むかいたいと考えていたからだ。

以前シレジアとグランベルで魔法戦術における討論にてバーハラに駐留しヴェルトマーのアルヴィス卿や弟のアゼル公、フリージのブルーム卿などと顔合わせをしたことがある。

とくにヴェルトマーのお二方とは懇意となり、意見交換をレヴィンも交えて討論したことがあった。

アルヴィス卿はバーハラで近衞隊を指揮しているのでうまく行けばなにか情報が引き出せるのではと考えていた。

 

「カルト、一度私たちは別行動するのはどうだろうか?」

 

「む、どういう判断だ?」

 

「カルトの目的と俺の目的は違っている、カルトはバーハラに向かいたいのだろう。

私は自由都市のミレトスに向かい、確認をしたいのだ。」

確かにそうだ、敵国のグランベルにホリンが王子達の匿う場所に選ぶはずがない。

 

「確かに、ではホリン二人ならヴェルトマーからバーハラに安全に行ける方法がある。俺はそのルートで向かう、ホリンとデューはペルルークからミレトスだな。」

 

「ああ、二人とも気をつけてくれ。」

 

「ホリンも、辛いだろうが今はできることからこなしていこう。

・・・この瑪瑙の石を持っていてくれ、これがあればマリアンを救出できたように魔法で追跡できる。」

カルトはその石を渡した時、ホリンは頭を下げた。

 

「カルト、君に会わなければあの任務を全うできなかった。おそらくダーナであの紛争に巻き込まれて死んでいた。デューも遺跡で暗黒魔法で殺されていたし、マリアンも暗黒神の生贄になっていた。

ここにいる三人は君に救われたんだ、代表して君にこれを贈りたい。礼として受け取ってくれ。」

ホリンは背中に担いていた袋から一本の剣を取り出した。

イザークに来て所望してやまなかった、マリアンと始めて出会い笑いかけてくれた白銀の剣をカルトに渡した。

カルトは受け取ると、鞘から抜きその眩しく光る刀身を見る。確かにあの時の剣であった。

 

「ホリン・・・ありがとな。」カルトも、先ほどのホリンと同様に頭を下げて感謝を伝えた。

 

二人にもはや言葉は無かった、互いに一つ笑みを浮かべると互いに違う道を歩み始める。その歩む先に彼らは必ず出会うと信じ、友愛に陰りはなかった。たとえこの先敵同士になろうとも・・・。

 




次回からはグランベル編となります、このあたりでようやくゲームの序章に当たる部分を描けるかと思います。
拙い文章でご迷惑をおかけしておりますが、よろしくお願いいたします。


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二章 グランベル編 研磨

ホリンと別行動となったカルトとマリアン。
カルトはバーハラで自身の出生を探り、この度の件で暗躍する存在の認識を確認。
ホリンは有事における緊急脱出時の秘匿先の確保をする為、ミレトス地方へ・・・。




ダーナへ侵攻したイザークとグランベルの騒乱で交通封鎖を行われている中、煩わしい検問を突破する為、転移の杖でヴェルトマーへ飛ぶカルトとマリアン。

 

バーハラとヴェルトマーはシレジアで修練に励んでいた時にレヴィンと共に訪問した事があったので転移は容易であった。

バーハラに直接転移してもいいのだが、あの国は昼夜を問わず人が往来しているので比較的人が少なくなるヴェルトマーに転移した。

時刻は4時過ぎになる、この時間を選んだのは街に人が少なくて転移の光が朝日にまぎれるだろうという配慮であった。

 

魔道士、特にこのような奇跡に力を民衆に見られるのは非常に良くない。まだ地方ではかつての暗黒神の迷信があり、子供を火炙りをする非道な地域があるのである。光の中から人が出て来たとなれば一騒動起こるかもしれないのだ。

 

聖戦士の末裔などの顔のしれた英雄ではそのような事はないが、得体の知れない人物が人外な能力を披することは極力避ける事が賢く生きる事になる。

 

「ふう、マリアン疲れたろう。とりあえず宿にでも行こう。こんな早くから遠距離転移したから二人だけでも魔力が尽きかけてるよ。」

 

「もう、カルト様ったら。だからギリギリまで歩いて行こうと言ったじゃないですか。」

マリアンは微笑みながら返してくれた。

ホリンと別れてから二週間になるが、彼女の環境適応能力が高い。徐々に子供らしく、かつ知識の遅れを取り戻していった。

 

 

 

あれから俺とマリアンはダーナに転移し紛争後の様子を探った、本当はリボーで別れるのではなくダーナに転移してから別れることも手だったのだが交通封鎖はまだ解除されていない、ホリンとデューは自力でメルゲンを目指す形となったのであの場で別れる事とした。あの二人ならきっと辿り着けるであろう。

 

ヴェルトマー軍が占拠しているのならもしかしたらアルヴィスに会えるかもしれないと思い、しばらく駐留していたが、到着時にはドズルのランゴバルトとフリージのレプトールが駐留しておりアルヴィスと精鋭のロートリッターは一足遅く本国へ帰還していた。

 

俺はアルヴィスのいないこの街に残る滞在理由もなく、すぐさまヴェルトマーに向かおうとしたのだがここで大きな事件が起こった。

ダーナに向けて出立していたイザークの王マナナンと従者が全員何者かの奇襲を受けて全滅していたとの報告が入ったのだ。

 

ここで疑惑が駆け巡った。グランベルの策謀による奇襲、イザークの過激派組織による暗殺。

しかし、謝罪の意思を持ったマナナン王が死亡する事はイザークの民が黙ってはいない。グランベルの策謀であろうがなんであろうがマリクル王子を筆頭に反グランベル勢力となり、宣戦を布告したのである。

 

ホリンの父が予想するよりも酷い内容になっており、この中立区域はもちろんの事でイザークも焦土と化してしまうだろう。

大国グランベルの前にはイザーク一国では手が負えないのは明白、だが物量で負けていても何者にも譲れない精神が後押しし、悲惨な紛争に発展しようとしていた。

 

もしこのような事も計算に入れて暗黒教団の望む破壊と絶望を得ているとするのなら、彼らの計画はもっと先にある暗黒神の復活も考えているのではないかと思ってしまう。

しかしそれは、ないはずである・・・。百年前の戦争で彼らから取り返した自由の下で血縁に当たるものは全て粛清している、歴史書にも明記しているのだ。そんな事があってはならない筈である。

 

 

話を戻そう。イザーク軍とランゴバルド、レプトール軍は二度イザーク国境近くでぶつかりイザーク軍が退けた。

国境付近にて待ち構えていたイザーク軍に急襲された。その地点はまだ砂漠地帯であり、騎馬兵を主流とするグランベル軍は白兵戦を得意とするイザーク軍の前に苦戦した。

進軍中に砂漠を横断する事による暑さと消耗、休息地点を把握されていたグランベル軍など数こそ多いもののイザーク兵にとっては歯牙にも掛けなかったのだろう。

二度の戦いですっかり敗戦色が濃くなったダーナでは両軍の兵士達は疲弊と苛立ちを隠さないでいた、時にはダーナの一般市民 にぶつけるケースもあった。

 

グランベルの両名は自国より精鋭のグラオリッターやケルプリッターをダーナに派遣していない。

イザークの反乱兵を過小評価しているのか、または自国の兵士を過大評価しているのかは判断はつかないが相手の力量分析ができない御仁達でもないだろう。これにもなにか引っかかるものを感じるが、今はここで検証をしていても何も生み出す事はできない。カルトは早々とヴェルトマーに向かうことにし、今日に至ったのである。

 

 

 

「マリアン、すまないがここに600Gあるから今日はこれで楽しんでくれ。

君の黒髪は素敵だがグランベルでは目立ってしまうのでこれを使って隠すといい、念の為リターンリングを渡しておくからいざとなればこれを使ってここに戻ってきてくれ。」

カルトはマリアンの髪に巻き布を施してうまく隠した、シレジアでは外を出歩く時に必ず巻くので手慣れたものであった。そうでないと極寒の中で頭の水分が髪で凍ってしまう、防寒以外にも必要な装備であった。

 

マリアンはこの過保護な対処にくすりと微笑んでしまう、いままで両親に邪険に扱われていた彼女にとってその暖かさはなくてはならない存在であった。

 

 

彼女を送り出したカルトは一気に表情を変えた、アルヴィスはバーハラでアズムール王の身辺警護の任も行っているのでヴェルトマーにはいないがその弟であるアゼル公子はここにいる。

ここでうまく情報を引き出し、かつバーハラに同行できればアルヴィスに接見でき、さらにうまくいけばアズムール王にたどり着ける可能性がでてくる。

 

かなり無茶があるかもしれないが、シレジアの傍系である位では直接陛下にお目通りすることなど叶う筈がないのだ。多少の縁ではあるが、地理的な状況と人間性を考えればアルヴィスに頼る他なかった。

 

性格は極めてクールで冷淡ともいえるが、根は悪いやつではない。口数は少ないが、俺とは妙に気が合い駐留中は奴と魔力比べに必死になっていた、となりでレヴィンがみていたっけ。

誰かに聞いたわけではないのだが、アルヴィスは父親と母親を一気に無くして時折暗い影を落としていた。その境遇と俺の境遇にどこか共通点があったのから気があったように思えた。

公私に厳しいやつのことだから、やつの独断では謁見は許可しないだろう。何か策がいると思うのだがその光明はまだ見出せない。

もやもやと考えることはやめ、まずはアゼルに会う為にヴェルトマー城へ向かった。

 

「私は、シレジアのカルトだ。アゼル公にお取り次ぎをお願いしたい。」

 

「アゼル公は公務中である、順を追って面会をしているので停泊先があるようなら日時を告げる手紙をお送りする。」

頭の固い兵士はこの言葉の一辺倒で話にも応じない、おそらく手紙が帰って来る事はないのだろう。

胡散臭い連中をいちいち通すわけがないので、適当な返事をして門前払いをしているのだ。

 

「では、この文をアゼル公にお渡ししてくれ。中身を閲覧しても構わない。」

こちらも考えなしに来ているわけではない、直接が駄目なら間接による準備をしていた。衛兵は無表情で受け取ると了承したのか、その文を持って内部へと向かった。

 

とりあえず、本日は文を持って行ってくれるだけで充分だった。彼の目にさえ止まればかならず俺に会いに来てくれると信じていた。

 

 

アゼルは兄とは対象的に優しい人柄で人望もあり頭の回転も早い、ただ多少臆病な所があって行動的ではない為か物事に対して躊躇う所がある。

おそらく、優秀な兄に対して多少のコンプレックスもあるのだろう。

しかしながら、そんなアゼルの愛らしく邪険にされる態度に兄のアルヴィスは内心微笑ましく思っている。俺がそれを看破した時のアルヴィスの顔は今だに忘れられないでいた。

 

 

その時だった、市街地の石畳をそんな思考を浮かべている時に強力な魔力を察知し立ち止まった。

自身に危害が及ぶような殺気混じりの魔力ではないが、近くで通常の術者とは一段上の魔力を感知したのだ。

一体どこからやって来るのか、五感を張り巡らせて集中する・・・。

カルトは感知した方向へと足を運ぶ、強力な魔力とはいえこれがこの術者の全力なら母親から受け継いだ現在のカルトなら対した術者ではない。だがこの魔力から察するにこの術者はまだ底を持っているように感じる。

カルトはその好奇心から足取りがどんどんと早くなっていった。

 

 

居住区の先には小川があり、その畔に魔力の元である術者が佇んでいた。

真っ直ぐな栗色の髪を頭頂部で結い左肩に流している、女性魔道士らしく術者のローブを纏っているがその高級な質感から上官の宮廷魔道士かどこかの公女様である可能性があった。端整な顔立ちで何より気品が感じられた。右手に持つ魔道書は雷魔法の書物でおそらくエルサンダーだ、見たことないが自身のエルウインドと似ていることからそう判断した。

 

彼女は瞑想状態らしく目を閉じて呼吸を整えている、魔力が華奢な彼女から溢れ出しあたりに緊張感を強制させる。みているカルトも息を飲んでしまう。

 

そして目を見開くと、前方にある地面に突き立てた金属製のロッドに向けて左手をかざした。

 

「サンダー!!」

左手より雷が迸り、紫電の光がロッドに命中し突き立てたロッドがその威力に宙に舞い上がった。

 

「へええ、君は雷魔法の使い手なのか。その若さでその威力は筆舌しがたいな。」

 

「誰!!」彼女はびくりと肩を震わせて振り返る。

カルトは空中に舞い上がったロッドをキャッチし、彼女の眼前に躍り出た。

 

「これはすまない、街中を歩いていたら強力な魔力を感じたものでつい・・・。」

ロッドを同じ場所に突き刺して答えた。

 

「俺の名前はカルト、これでもジレジアの血筋の者だ。」カルトは右手に小さなつむじ風を起こして魔導士であることを証明した。

 

「あ、あなたも・・・。」

 

「ああ、魔道士だ。」

カルトは軽く笑って会釈をした、だが彼女はアゼルよりも臆病なタイプらしく警戒を外してくれなかった。カルトは少し苦笑いをして話を続ける。

 

「君、少し魔力を練ってから発動までの間が遅いね。せっかくそこまで魔力を体に纏えているのに発動のタイミングが遅いから無駄になってしまっているよ。」

 

「え、ええ?」彼女は突然の言葉に理解がついて来ていなかった。

 

「はい、魔力を練って。」

 

「は、はい!」彼女は相当の素直な性格らしく、再び瞑想して内なる魔力を呼び起こす。

内より呼び起こされた魔力は次第に彼女の外へ溢れ出し、停滞させた。

そう魔力は普段は体の内に眠っている、それを精神の力で対象魔法に必要な分の魔力を体から放出させてその場に留める。そして一気に魔力と精神を混ぜ合わせて魔法へと変換する。

 

彼女はその魔力の停滞が苦手と見えた、なので停滞を訓練するよりも停滞時間を短縮させて一気に魔法に変換した方が能率がいいと思ったのだ。もちろんデメリットもあり停滞時間を長い方が一定の魔法攻撃が可能である、溜めが短いので一発一発の魔力が安定せず同じ精度がでないのだ。

おそらく訓練場でもそのように言われて、彼女なりに改善をしているのだろうがそれが原因でスランプとなり自身の長所が失われているとカルトは感じた。

 

「はい、発動!」カルトはロッドに向けて指差すと彼女は言われたとおり放った。

 

「サンダー!」

彼女の指先から放たれたサンダーは先ほどとは大きく異なり、ロッドは紫電の一閃を受けて熱に変換され歪な形に変形しその場に崩れ落ちるように転がった。地面に抜けた電撃は辺りの草を焼き、その威力は先程とは大違いであった。

 

彼女はその違いにまるで自身が打ち出したのではないというような錯覚を受けたのか両手を見ていた、カルトはニッと笑って彼女が落とした魔道書を拾い上げる。

 

「なっ、まあ訓練所ではどう言われたのか察しはつくが自身の長所は崩すなよ。君はすごい魔力の持ち主だ、それゆえに精神力が追いついていないんだよ。焦らず精神訓練をすればじきに使いこなせるさ。」

彼女に魔道書を手渡した、彼女は上目遣いにカルトを見上げた。美形である、カルトの胸になんともいえない衝撃を与える。

マリアンのような、意思と芯の強さからくる美貌とは違った。儚げな一輪の花、守り慈しみたくなるようなこの感覚にカルトは新鮮さを抱いた。

自身の周りにいた、あの天然のフュリーやマゾヒストにはたまらないフュリーの姉であるマーニャではこの感覚は抱かせない。

 

少し、トリップしたカルトは精神のみどこかに旅立ったのかその場で立ち止まってしまった。

 

「あ、あの・・・。ありがとうございます。わ、私・・・。フリージのエスニャといいます。」彼女はペコリとお辞儀し、先程の拒否反応を和らげていた。

 

「あ、ああ。よろしく、エスニャさん。」

 

「カルトさんは、どのようでこちらに・・・。」

 

「見聞を広げる為にあちこち旅をしていたのだが、ダーナの紛争であちらに行けなくなってヴェルトマーで足止めだったんだよ。ここには知人のアゼル公がいらっしゃるから、この足止めを機会にお会いしようと思ったんだが門前払いでまたまた途方にくれていた所だったんだ。」

 

「まあ、それは大変な事で・・・。ヴェルトマー公国は特に他国の方が直接謁見を願い出てもお会いできるには稀なこととお聞きしたことがあります。

よろしければ、私の姉とアゼル様と親しいので頼んでみましょうか。」

 

「それは助かる、是非お願いしたい。」

 

「いきなり正面からはお姉様でもご無理というものですので文を頂戴してもよろしいですか?お姉様がアゼル様に直接渡してくだされば、アゼル様も動いてくださると思います。」

 

「わかった、すぐに準備しよう。」

 

カルトは再び文を作成し始めた、彼女の雷魔法をみてからここまで予想どうりの筋道となり彼女には申し訳ないが予想どうりの運びとなったのだ。

それと共に、美しいエスニャの姉とも会えることは予想外の楽しみでもあった。




ヴェルトマーで鼻の下を伸ばすカルト
シレジア人とは違う女性達に出会って多少舞い上がっています。



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兄弟

カルトはとうとうバーバラまでたどり着きます。



「アゼル、久々だな。」

久々に交えた挨拶は恭しくの挨拶ではなく年少の頃と同じように話しかけた、アゼルは笑みを絶やすことなくカルトに歩み寄り、握手を交わす。

 

「相変わらず、だね。変わってないようで安心した、と言いたいけどその髪の色はどうしたの?」

 

「ああ、苦労して白髪になったんだ。」

 

「またまた。それ白髪と言うか銀髪だよね、髪の色が途中で変わるなんて珍しいね。」

 

「まあ、そんなことはどうでもいいさ。それよりアゼルはどうなんだ?俺はこのとうりシレジアを出てぶらぶらしている。」

アゼルは以前と変わりなくその柔らかい物腰と優しさを備え、そして利発は少年のままであった。

 

「僕も変わらないさ、今は兄に変わってヴェルトマーを管理している。」

アゼルの表情が少し翳ったことをカルトは見過ごさなかった、彼は以前よりアルヴィスとの確執があったがやはりまだそれは埋められることはないようだ。

 

 

 

アゼルと会うことができたのはエスニャと出会い、文を渡してから二日後であった。

翌日にエスニャの姉であるティルテュがアゼルに文が渡り、翌日にカルトに会う為にわざわざエスニャと出会った場所までティルテュと共に出張って来てくれたのだ。

この二日間連絡待ちも兼ねてエスニャの魔法指導をしていたのだが予想以上に早く、さらに本人がここまで来てくれるとは思わなかったのでカルトも流石に驚き、そして嬉しく思った。

 

 

「アルヴィスも健勝のようで何よりだ、奴に変わってということは奴はバーハラにずっと滞在しているのか?」

 

「うん、今はアズムール王の身辺警護に就いているよ。」

 

「そうか・・・アルヴィスはそこまで上り詰めたのか。・・・・・・アゼル率直に聞きたいんだがイザークによるダーナの侵攻時にメルゲンにいたのだが、メティオの魔法を見たんだ。あれはロートリッターによるものだよな。」

 

「・・・・・・うん、そうだよ。」

 

「いくらヴェルトマーが隣接しているとはいえ、精鋭をダーナに即時に送るとは考えにくい。イザークの動向は読めていたのか?」

カルトの実直な言葉にアゼルはさらに翳りを浮かばせる、重くなった唇をこじ開けるかのようにゆっくりと動かした。

 

「あの争乱の三日ほど前に、兄がヴェルトマーに突然帰って来たんだ。いつもは休暇でこちらに帰ってくるだけなのにあの日はヴェルトマーの戦力確認に帰還してきた。部隊の仕上がりの悪さに激昂した兄は、そのままヴェルトマー近郊で軍事訓練を実施すると言い出したんだ。」

 

「随分と唐突だな、ロートリッターを預かっていたアゼルとしては苦々しいな。」

 

「うん、僕の力不足が原因さ。文句は言えないよ・・・。」

 

「アゼル・・・。」

彼の落胆ぶりは予想以上であった、しかしながら彼は俺よりも若い・・・。

まだまだ成長する伸び代は大きいのだが、兄の能力の高さと比べるので自分自身を見失っているのだろう。

アルヴィスも不器用な所は以前と変わらないようでアゼルには悪いが少し微笑んでしまった。

 

「アゼル気にするな、俺だってお前の年だったら同じ結果になっていたさ。

残念ながら傍系の血と直径では生まれ持った能力が全然違ってしまう、俺もレヴィンとの差は歴然だよ。」

 

「じゃあ、僕はこれからも兄の期待に応えることはできないのかな。」

 

「言ったろ、生まれ持った能力だけで決まるわけではないさ。自分をよく知って個性の能力を見つけるんだ、俺の場合は、これだと思っている。」

カルトは腰に吊っている白銀の剣を見せる。カルトはレヴィンに劣る部分を剣で補い、剣で切り開こうと考えていたのだ。今となってはレヴィンに匹敵する能力を開花させてしまったので現在は保留となってしまったが諦める予定はない。

 

「俺も魔力はレヴィンに劣っていた、でも体格に恵まれた俺は魔法戦士として歩む事を選んだ。

アゼルにも違った能力があるんじゃないか?」

 

「そ、そんな・・・。僕には兄ほど魔力はないし、統率力もない。自分に見出せるものなんて。」

アゼルは下を向いてしまう。

 

「アゼル、そんな事はないよ。アゼルはとても優しくて、周りを気遣う心配りがあるわ!

確かに、目立ちにくいかれしれないけど・・・。私はそんなアゼルが好きよ。」

 

ティルテュが話に割り込んで彼を援護する、彼女の優しさとアゼルの優しさはグランベルの諸侯達にはない稀有なものだと思う。

しかし腐敗した宮廷体質はその優しさを飲み込こんで偽りと奸計の前に挫折し、人は人でない感情に染められてしまうのだ。おそらくアルヴィスは優しさを持つアゼルにはその影響をうけないように一人で宮廷の政を受けてきたのであろう、アゼルは変わらずにアルヴィスは相当その影響を受けてしまっているように思えるのだった。

 

ティルテュの失言で赤く染まってしまった彼女をとりあえず突っ込まないようにして話を続ける。

 

「アゼルには馬を操る能力があるじゃないか、体格はなくても馬上での戦闘能力を伸ばせば体格も関係ないんじゃないか。俺は魔法戦士だが、アゼルは魔法騎士を目指して見るのはどうだ?」

 

「魔法騎士?」

アゼルは自分を考え直す、確かにアゼルは乗馬の技術が素晴らしく体格が恵まれているようなら騎士を目指す選択もあった。自分の血筋で魔道士に固執するあまり見失っていた。

 

「そ、そうよ!アゼルには乗馬の技術があるわよ。機動力と魔法力を併せれば、アゼルにも活かせる能力があるわ。」ティルテュもその提案に賛成の意見を述べた。

 

「馬は魔法の発動に怯えるかもしれないが、訓練次第でなんとかなるかもしれん。どうだアゼル?一つ賭けてみる価値はありだぜ。」

カルトの提案にアゼルは一気に表情を引き締めた、決意の現れである。

 

「カルト、やってみるよ!今までにない事だけど先人の常識を超えてみせるよ。

ありがとう、カルト!」

 

アゼルの一つの成長をカルトとティルテュ、エスニャは多いに喜んだ。

いつの日か魔法騎士アゼルの誕生を待ち、その時にはこの大陸の不安分子を吹き飛ばす一つの光明になってくれることを望むのであった。

 

 

 

グランベルの首都、バーハラ城の中庭に一つの光が現れ不測の事態に衛兵が集まり出した。

その光の中より、四人の若者が現れる。

ヴェルトマーから転移したカルト、アゼル、ティルテュ、エスニャは衛兵の取り囲む中で堂々と正面玄関を無視して張り込んだのだ。

賊扱いにされてもおかしくないこの状況であるが、ヴェルトマーのアゼル公子とフリージのティルテュ公女とエスニャ公女の三名をしらない衛兵などいるはずもなく槍を構えていたが、即座に降ろされた。

衛兵隊長がアゼルの前に歩み寄った、顔は案の定険しいものである。

 

「アゼル公子、兄上が近衛の者であるが些か不躾な訪問であるな。その者はグランベルでない者と見受けるが、名乗って貰おう。」

 

「おいおい、いくら他国の者と見受けても自分自身名乗らない輩に名乗る必要はないな。」

挑発とも取れないその発言にアゼルですら一瞬動揺してしまった、敵国ではないにしても訪問手段も強引であるにも関わらず一歩もひかないカルトに場数を感じた。

 

「・・・・・・。失礼した、私は衛兵隊長のリカルドだ。」

 

「シレジア国、マイオス王弟の長兄カルトだ。よろしくな。」カルトはリカルドの手を拾い上げて無理矢理握手をする。明らかにリカルドの表情は凍り付いているがカルトのその読めない行動に戸惑い、飲まれて行く。

 

「リカルド隊長、申し訳ありません。

カルト公子は以前にここへ魔道士養成に滞在していたことがありまして移動に転移の魔法を使ったのです。本当は正門前に転移するつもりでしたが、記憶違いでここへ飛んできてしまったのです。

本当に申し訳ありませんでした。」

アゼルの詫びにリカルドは一応の納得はしたのか、溜飲を飲み込んだ。

 

「兄上はどちらにおられますか?」アゼルはリカルドに語りかける。

 

「今は自身の執政室におられます。よろしければ兵をやって面会の場を設けますが。」

 

「お願いします。」

グランベルの首都であるバーハラの城は途方もなく大きい、有事の際に各諸公とその主力部隊を抱えるくらいの規模はあるかと思われた。

現在のグランベルは隣国のイザークとの騒乱もあり各諸公が集まっているらしい、そんな中で大胆にも転移を行ったカルトの胆力には驚かせてくれた。

先程のアゼルの一言は嘘から出た一言である、カルトは始めから中庭に狙って転移したのだ。しかしながら成功するとは露とも思えず、成功した時のリスクを考えていなかった。

この大陸で複数人の人間を転移させるなんて離れ業を行うなんてカルト以外には思いつかないだろう。思いついたとしてもその膨大な魔力を一度に消費すれば足腰もたたないくらいに披露するはず、しかしカルトは息切れもへたり込む様子もなくリカルド隊長を言い負かすその大胆さには感服してしまった。

 

聖杖まで使いこなしているカルトに、以前とは全く違う人物に思える。性格こそはカルトそのものだが潜在能力の高さは、以前とは雲泥の差があるのだ。

それに彼のまとっている雰囲気は、兄達のような聖戦士の気概まであるように思える。

アゼルはカルトの言っていた、魔力の劣等感で魔法戦士を目指していたと言っていたが現在の所はどうなんだろうと思ってしまった。

 

「待たせたな、アゼルがバーハラに登城するとはどのような要件だ。」

アルヴィスは厳しくも口調は穏やかだ、この気難しい男は相変わらずのようでカルトは胸を撫でた。

 

「兄上、シレジアのカルト公子がお見えになられました。兄上に是非お会いしたいととの事でしたのでお連れしまた。」

 

「シレジアのカルト公子か、久々だな。しかし随分雰囲気が変わったな。」

 

「アルヴィス公は、変わらずで何よりだ。」

 

「カルト公子、積もる話はあるが今は有事である。できれば用件は速やかにお願いしたい。」

 

「では、駆け引きなしに言わせてもらう。アズムール王に謁見をお願いしたい。」

 

「断る。現在は有事である、例え信用できる者でも他国の者に王にお会いさせることはできない。」

アルヴィスの即答にカルトは少し顔を歪める、予想できたとは言えやはりここまで拒絶されると穏やかでいられなくなる。

 

「クルト王子にもお会いできないだろうか?」

 

「同様だ、今はお会いさせる訳にはいかぬ。」

 

「譲渡案はないのだろうか。」

 

「伝言か文でよければお伝えしよう、ただし検閲はさせてもらう。」

二人の言葉の攻防が鋭く続く、特にカルトの引かない姿勢に三名が気を揉んでいる。

カルトは王に会って何を伝えたいのか言ってくれない、おそらく王に伝えるまでは誰にも言わないつもりであろう。しかしアルヴィスは許すはずもなく水かけ論争に発展しつつあった。

 

「・・・アルヴィス、俺たちがいつも互い違いした時の解決方法でいこう。」

カルトとアルヴィスは頑固で一歩もひかない性格の為衝突は日常であった、能力の高い二人はよくいつもの方法で解決していたのだ。

 

「俺たちはあの頃と違っている、グランベルトして・・・。」

カルトの怒りはここで爆発した、机に拳を突き立てて天板を破壊する。派手な音と共に土台を残して崩れ去る。

 

「寝ぼけたか!アルヴィス!!

俺たちは以前、国の概念や利権を超えて話し合う場を作っていこうと誓ったじゃねえか!!貴族だけではない、みんなが住み良い世界を作る為にはどうすればいいかいつもはなしていただろう!」

カルトはアルヴィスに詰め寄り睨みつける、カルトはそれほどまでにアルヴィスを買っていた。

彼はハンデとも言える生い立ちに正面から受け止め、現在の地位まで登りつめたのだ。アゼルから聞いた話でカルトは自身の活躍のように喜び、讃えていた。

彼の言う誰もが住み良い世界の第一歩になると信じていたカルトの想いとアルヴィスの思惑に違いが生じていたことに誰よりも感じ、反発したのだ。

 

「カルト公子・・・。いいだろう君の言う方法で決着をつけよう、だが決行は明日だ。

明日の朝に決着次第で君の条件を聞こう。」

 

「そこで負けたのならすぐさま引き上げよう。後腐れなしだ。」

カルトの表情は崩れることはなく、怒気をはらんだまま答えた。対するアルヴィスは表情を崩す事はなかった。

 

 

 

「一体なに考えて入るのさ!兄上と勝負だなんて!」

アゼルの叱責にカルトは下を向いて反省のポーズであった。カルト自身こんな結末など考えてはいなかった。

アルヴィスの言葉に熱くなり、つい言ってしまった短絡的な物だった。そんな言葉に過剰に反応してしまった自分自身も驚いている。

 

「すまん、アゼルつい売り言葉を買ってしまった。

しかしながらチャンスはできたじゃないか。」

 

「兄上と一対一で勝てた人はここ数年では見たことないよ、それもほとんど3分もかからないんだよ。」

 

「本当か!あいつそんなに強いのか。」

 

「兄上はもともと魔力が強い上に、ファラフレイムを受け継いでからは負けなしだよ。

カルトも聖戦士の神器の力は威力だけじゃない事くらいは知ってるでしょ。」

そう、聖戦士直系のみが扱える神器を持つと身体能力も向上する。

 

シレジアのフォルセティを受け継いだ聖戦士は疾風のごとき速さを持っていた。

それはもう人の限界を超えた動きであり通常の物では到底辿り着くことはできない領域である。

 

「兄上の魔力と魔法防御能力の前に打ち勝てる人はこのグランベルではいないと思うよ。」

 

「そうか、まあ勝負は時の運!

短時間で相手の力量を押さえ込んで、自身の力を最大限に活かせば勝機もあるさ。」

 

「でも、カルトはどうしてもアズムール王にお会いしたいのでしょう。勝てなきゃ会えないわよ。」

ティルテュは髪をいじりながら話に割り込む、彼女はどうも難しい話は苦手らしい。エスニャに関してはアルヴィスに啖呵を切ってからオロオロしっ放しで状況に追いつかず頭が真っ白になっていた。

 

「ん、ああ!どうしても会いたいが、会えないこともまた運命かもな。その時はその時さ、今はまたアルヴィス と手合わせできる事を感謝するよ。」

 

「男の人の考えることはいまいち解らないわ。」ティルテュも話はいいとばかりにエスニャの隣に座って居眠りを始める。

 

「カルト、君と一緒に連れてきた子はヴェルトマーで預かってはいるがあの子は一体?」

 

「戦災孤児でな、しばらく預かっているのだがどこかにいい環境があればそこで過ごしてもらおうと想っているのだ。」

 

「あの子、髪を隠してはいるがイザークの子供だよね。」

 

「ああ、ここにはさすがに連れてこれなかったからな。少しだけ申し訳ないが頼む。」

 

「わかった、でもこの動乱はまだまだ大きくなりそうだからこれが済んだらすぐにグランベルからでたほうがいいよ。」

 

「ああ、気を使わせてすまない。」

アゼルもあまり言いたくないだろう、自身の保身ではなくカルトとマリアンの身の保証を心配してくれているアゼルに感謝するのみだった。




カルトはアルヴィスに勝てるのか!
次回に続きます。


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聖痕

アルヴィスとの戦います、下馬評ではカルトの勝率は一桁でしょうね。


翌朝、まだ衛兵も動き出さない時間に魔道鍛練場に四人は集まった。

アルヴィス本人はすでにこの場にいており入る前よりその魔力を解放させようと精神を練っていた。

 

「よう、準備は出来ているみたいだな。」

 

「ふ、カルト公子もな。」

二人はかつて出会った時のように、しがらみを捨ててこの場に全ての力を注ぐべく望んでいた。

カルトは距離を取り、構える。

アルヴィスは構えることなくその場にカルトを見据えている。

場の空気が一気に変わる、アルヴィスからは魔力と共に熱気をはらみカルトからは冷気が立ち込める。

 

カルトはアルヴィスの炎対策に風による冷却作用により氷を作り出す。

以前は風で炎を押し返す事ばかり考えていたが、あれから応用と対策は充分練ってきた。

 

「ファイアー」アルヴィスの右手から下位魔法とは思えない熱量が発せられた。

 

「ウインド」カルトもまた下位魔法とは思えない風が巻き起こり炎を吹き飛ばそうと発せられる、その風には氷雪も混じり炎の温度も相殺する。

二人の間には炎が氷を蒸発させ、風が炎を引きちぎる。凄まじい自然現象と、魔力が辺りに溢れて傍観者まで迫る。

 

拮抗していたように思われたせめぎ会いは徐々にアルヴィス優勢となりカルトはその圧力で上体が揺らぎ表情に余裕がなくなってきた。

やはり聖戦士の神器を持つアルヴィスには能力値向上もあり、正面からの衝突には勝ち目はなかった。

アルヴィスはまだ余力がある様子でその表情は変わらない、魔力を少しづつ加えてカルトに圧力をかけていく。

 

「エルウインド!」カルトは双方のぶつかる魔法を強引に下方から上位魔法をぶつける事で上方に追いやった。魔力の制御から解放された魔法は蒸気を伴い相殺されていった。

水蒸気が晴れ、視界が鮮明になると場にはアルヴィスのみとなっていた。アルヴィスもすでに事態に気づいている、視線を動かして視認を急ぐ。

 

「ウインド!」圧縮空気がアルヴィスを襲う、即座にファイアーにて圧縮空気を熱膨張を引き起こさせて破壊する。

 

「くっ!」次はアルヴィスの顔にゆとりがなくなった。

カルトの連続魔法に、アルヴィスの連続魔法が追い付かなくなってきているのだ。

 

カルトは先程の魔法のせめぎ会いで発生した蒸気を目眩しに使い、その間にウインドを使い上空で姿を消した。天井の梁に隠れアルヴィスが視認行動をしているときに一気に魔力を解放、ウインドの連続魔法を繰り出したのだ。

とうとう連続魔法のウインドに対応しきれなくなったアルヴィスにその攻撃が当たり後方に吹き飛んだ、さらに追い討ちのウインドが吹き飛んだアルヴィスに襲いかかる、

一通り攻撃を与え終わるとカルトは地上に降りたって吹き飛んだ壁面に集中する、アルヴィスがこれくらいでまいるわけではない。

ここからが本番である、カルトはさらに魔力をあげようと精神集中を怠らなかった。

壁面では瓦礫となった壁からアルヴィスがゆっくりと立ち上がる、神器を持ち聖戦士と化したアルヴィスは自身の能力に加えて魔力と共に防御能力も向上しているとアゼルは言っていた。

カルトはここに来て、アゼルの言っていた負け無しの言葉を痛感した。

 

「神器がなかったら、今ので公子の勝ちであっただろう。だが武具能力も強さの一つだ。」

 

「ああ、気にしてねーよ。」内心では悪態つきまくりであるがカルトは笑ってもアルヴィスの挑発を受け流す。

 

「ねえ、やばくない?カルトに勝ち目ないよ。」ティルテュはアゼルの袖をつかんだ。

 

「このまま正面から撃ち合えばカルトに勝ち目はないな、でもカルトの魔法速射能力と身体能力は兄上を上回っている。あとは兄上の防御を上回る魔法があれば勝ち目はあるよ。」

 

「カルトさん。」エスニャは祈るように手を胸に抱いて見つめていた、勝敗よりも彼の無事を願い続けていた。

 

 

「素晴らしい潜在能力だ、聖戦士でないのが不思議な位な。

しかし私が聖戦士である以上、聖戦士でない者に負けるわけには行かぬ。」

アルヴィスの表情に戦慄を覚えた。

その時に通常の炎とは違い、朝日のような山吹色の炎が立ち上ぼりアルヴィスの手のひらに圧縮されていく。早朝の肌寒い空気が一気に温度を上げていった。

 

「兄上!お止めください!!カルト公子を殺すつもりですか!」

アゼルは二人の間に入り制止する、炎の最大顕現とも言える聖戦士唯一の魔法ファラフレイム。

ひとたび放てば辺りは焼き尽くされ、魔法防御能力の無いものはこの世に残らないとまで言われる超魔法。

 

「カルト公子、どうだここてやめておくか?」

アルヴィスは笑みを浮かべて俺に語りかける。あの魔法は俺の通常の防御では即死だろう、絶対に約束された死の選択。

 

「まさか、それを防いだらお前に一撃を叩き込んでやる!」

カルトは聖杖を取り出してアルヴィスのファラフレイムを受ける覚悟を取った。

 

「や、やめて!アルヴィス様!カルト!!」エスニャの悲鳴が響くなか、アルヴィスはアゼルの足元をファイアーを爆発させて強引にその場から立ち退かせてカルトにファラフレイムを放つ。

 

「マジックシールド!!」

聖杖は光を放ちカルトを包み込む、しかしそんな防御魔法一つでアルヴィスの攻撃をなんとか出きるわけがないのは承知している。

が、カルトは全魔力を注いでシールド作成しているため幾重にも重なりファラフレイムがシールドを破壊しながらもシールドが作成されていく構図になった。

さすがのアルヴィスも防御されていることに気付き驚きの顔をしている、カルトの常識はずれた手段にただただ驚嘆するのみであった。

 

しかしながらこの硬直は長くは続かない、持ちうる魔力が尽きかけてきたカルトはマジックシールドにつぎ込める量を維持が出来ず。幾重にもあったシールドが薄くなっていき、ついにはファラフレイムが突き破った。

カルトは炎に包まれ後方に吹き飛んだ、アルヴィスはすぐさま魔法を停止させカルトに治療の聖杖で火傷を回復させていく。

この決戦にも近い勝敗はアルヴィスに軍配が上がったのだった。

 

 

 

「うう、アゼルか。俺は負けたんだな。」意識を回復させたカルトは心配そうにするエスニャとアゼルが視界に入り、その表情から読み取った。

 

「ああ、負けたね。でも善戦だったよ。」

よろよろと立ち上がるカルトにアゼルは笑みを称えてその勝負を労う。

 

「慰めはよしてくれ、アルヴィスはまだ全力ではなかったさ。それにファラフレイムも着弾の直前に足元に落として直撃させなかったからな。それに回復までしてくれた様子だし、完敗だよ。」

正直な感想だった、もし光魔法の最大顕現であるオーラを使用したとしてもあのアルヴィスに打ち勝てないと判断して光魔法は秘匿としたのだ。

 

「さ、言い訳はここまでにしてヴェルトマーに戻るとするか。魔力を結構使っちまったから歩いてだけどな。」

カルトはそういって立ち上がろうとしたとき、マジックシールドの聖杖をまさに杖がわりにしたのだが見事に粉砕してしまい再び床に戻ってしまった。

 

「いってえー!いってえなー!!」

カルトは床で頭でも打ったのだろうあわててアゼルは助け起こそうとしたのだが、その痛みは床にぶつけた物ではない事に気付いた。

カルトの大粒の涙は自身の力不足を悔いるものであり、その魔道に純粋な探求から来ていることを知ったアゼルは胸を打たれた。

兄上には誰も勝てていない事実を知っても諦めず、負けて悔しがるカルトを見て自身に足りていないものがまざまざと見せられたのだ。兄へのコンプレックスが魔道の向上の弊害になり、目を背けていた自分が途端に恥ずかしい存在になった。

自分にもこの涙を流せるようになろう、彼は密かにそう決意したのだった。

 

 

 

アゼルはヴェルトマーに帰還するために馬車を手配しに鍛練場より離れ、フリージの姉妹もバーバラに来ているレプトール卿の元へ向かった。

特にすることもなく、鍛練場から宛がわれた部屋に戻ろうと足を運んでいた。

しかし、バーバラの城は広くて考え事をしながらのカルトは完全に迷っていた。

 

「君、そこの君!そちらは王家の居住区だよ。」

 

「あ、ああ。すまない。どうやら迷っていたらしい。」

カルトは声をかけられた男性に謝罪し、別の通路に足を運ぼうとするが呼び止められる。

 

「君は、グランベルの人間ではないね。

もしかして、昨日騒ぎになった渦中の人かい。」

 

「そうだ、転移魔法の失敗でな。お騒がせして申し訳ない。」

 

「それは嘘だね、転移魔法の失敗でそんな都合のいい事はないだろう。」

カルトは考え事をしていてその男の言う事をうわべでしか聞いていなかった。突然転移の魔法の特性を見抜いていたのでようやく男の話をまともに聞く気になり顔をあげたのだった。

 

そこにいたのは、以前に一度だけ見たことのある人物だった。ブロンドの髪をまっすぐに伸ばし、品位のある端整な顔。そして気品のある出で立ち。

グランベル国王アズムール王の一子、クルト王子であった。

突然の出会いにカルトも一瞬呆けてしまう、言いたいことがたくさんあるにも関わらず目的を忘れてしまっていた。

 

「君は、何か目的があってバーバラに来たんだろう。

私で良ければ話を聞こう。」

クルト王子の気さくな対応にカルトは動揺の局地にいた、しかしカルトは冷静さを取り戻して頭を回転させていった。

 

「先程の非礼をお詫びします。私はシレジアのマイオス公の長兄、カルトと申します。

殿下の言うように、邪な思惑もあり友人のつてを使って強引に侵入致しました。

アルヴィス公に看破された私は、彼との勝負に負け、ここを去る約束をしております。

ですので殿下にお話をする資格すらありません。どうか、このまま静かにお見送りしていただけますと助かります。」

カルトは頭を下げて、クルト王子の申し出を断った。

 

「あっはっはっはっ!!すまない、君達は相当の頑固者だね。

カルト公子、実はこの話はアルヴィス公から頼まれてきているんだよ。」

アルヴィスが!カルトは頭の中で叫んでいた。

 

「彼は、あまり私と話をする事は無いのだが突然私に申し出て来たので驚いたよ。君に会ってあげてほしいとね。

だから、少しで申し訳ないのだが君の話したいことを聞かせてもらっていいかい?」

カルトはアルヴィスの計らいに感謝する。

彼は、この度の勝ち負けで面会の許可を決めたわけではなかったのだ。

その面会にどこまで決意があるのかを試された気が、今になってしてきた。そう考えると彼の一言一言が、意味を為していく。

ファラフレイムを使う直前に続けるか否かの確認が最もであった。

 

「それでは私の私室で話を聞こう。」

と言うとついてこいとばかりに踵を返して王室のみの廊下へ歩いていく。カルトは無言で従った。

 

 

「アルヴィス様、よいのですか?あのような者にお会いさせて。我らの計画に支障はでないのですか?」フレイヤは回復魔法を施しながら心配を口にする。

 

「問題ない、奴がどのような情報を持って面会を求めてきたのかは知らんが私を気取っている様子はない。」

 

「会話を傍受したいのですが、クルト王子が我らの魔力を感知されると厄介ですので控えております。」

 

「それでよい、クルト王子は本日にでもダーナに向かわれるからな。」

アルヴィスの口に笑みが浮かぶ。

 

「そうでございましたね、入らぬ心配申し訳ありません。」

 

「かまわぬ、それよりフレイヤ。イザークに配下の手配は問題ないか?」

 

「ぬかりはありませんわ、イザークに足留めするために活きのいい生餌をまいておきます。」

 

「クルト王子がいないバーバラはさらに忙しくなるからな、汚れ仕事は任せたぞ。」

 

「仰せのままに!では」フレイヤは転移を行い、アルヴィスから消えるのであった。

 

 

クルト王子の私室に入ったカルトは、勧める通りに椅子へ腰掛けた。

王子の部屋は調度品に溢れ、さまざまな文献や著書で溢れていた。博識なアズムール王に匹敵する幅広い知識と、文献の解析に優れているクルト王子は王子であり学者である。魔法の能力も非常に高いらしいが、公式な場での披露はなくベールに包まれている。

 

カルトの魔法探知でクルト王子を探る、さすが聖戦士のトップに位置するナーガの末裔。底の知れない大海を見ているように感じるがその暖かな魔力に不思議な安堵を覚えた。

 

「さて是非君の話を聞きたいところだが、君は不思議な雰囲気がある。まず君は一体何者なんだい?そこが君の聞きたいことにも繋がるような気がするよ。」

 

「お察し頂き有りがたく思います、まずこちらをご覧下さい。」

カルトは額にあるサークレットに手を伸ばし、魔力を込めた手でゆっくりと外した。額にはセティとは違う聖痕が現れる。

 

「!!そ、それは!なぜ君が。」クルト王子は自身の聖痕に手をやり驚愕する。自分と全く同じ物がそこにあるからだ。

カルトは再びサークレットを身につけ、話しを続ける。

 

「私もこれがあることを最近気付きました、母の魔法により封印されていまして暗黒教団との戦いで覚醒致しました。」

 

立ち上がって驚いたクルト王子は椅子に座り直し、落ち着きを取り戻す。彼の頭の中で様々な憶測と推察をしていたのであろう、まだ結論よりもカルトの話しを聞く方が大事と判断したようだった。

 

「まさか、君はシギュンの子なのか?」

 

「?いえ、私は名乗った通りマイオス公の子です。

母の名は、セーラと申します。」

 

「失礼、今のは忘れてくれ。」クルト王子は顔色が悪くなった、何かとんでもないことを暴露したような気がするがカルトはできるだけ考えないようにして話しを進める。

 

「私は自分がなぜ、このような力を持つのかが知りたくてここにきました。母から受け継いだこの力はどこから来たのか、そして私は何者であるのかをアズムール王かクルト王子に見ていただきたかったのです。」

カルトはその思いを打ち明ける、私はまた厄介者の血でしかないのなら悲しいがそれでも自分の存在意義を見出だしたかった。

 

「君は事はおそらくお父上が全てを知っていると思う、私の口からは断定できないので控えさせて貰うが父上にに今から君と会うように工面しよう。」

 

「ありがとうございます!」

カルトは深々と頭を下げて、敬意を表したのだった。

 

「君と私が親族とは・・・、確かに先ほど初めて会った時言いようのない親近感を感じたが・・・。

いやはや、こんな事があるとは・・・。」クルト王子は動揺しているのか、独り言に近いように語り出す。

直系ではない者にここまで聖痕がはっきり浮かんでいる事に人為性を感じているのだろう、カルト以上にその事を父親であるアズムール王に問いたがっているのはクルト王子の方だ。

カルトは一抹の不安を感じながらアズムール王に真実を聞く覚悟を決めるのであった。




次回、カルトの運命。


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霹靂

更新遅くなり申し訳ありません。


クルト王子はその後アズムール王に俺が接見できるように尽力して下さった。王という立場上、一介であり他国の一公子に2人で会うことなど不可能に近い。

それを可能とする為に、強引とも言える方法を使って謁見することとなった。

 

クルト王子にお会いしたその日の夜、与えられていた部屋にいた。アゼルには事情もろくに話さず、先にヴェルトマーに帰ってもらった。

帰り際に彼は「カルト、頑張ってね。」の一言に俺の意思をくんでいてくれた事に感謝する。

指定された時間にクルト王子に渡されていた杖に魔力を送り合図を待った。その杖の先端に聖石が埋め込まれており、魔力を送ると緑に輝いた。

熱を持たないその冷光にカルトは心を奪われていると、脳内に直接語りかけられていることに気づいた。

 

「そなたがカルト公子だね、話はクルトから聞いている。早速だが準備はできているかね?」

 

「はい、ではお願いします。」カルトは緊張の面持ちで返答した。

準備というのは王に話した後、ここに戻ってこないとの意味であるからだ。装備品も、持ち物も自分の手に持っており心構えている。

 

するとカルトの魔力ではない魔力が杖を通じて発動し、魔法陣が出来上がる。カルトはその送られてくる魔力を阻害しないように杖の聖石にのみ魔力を集中させた。

そして魔法陣は輝きだし、カルトの身が包まれて行き、その場から消えたのだった。

 

 

閉じていた瞳を開くと、周囲の光景は変わっており初老の老人が杖を持ち立っていた。あれほどの魔力を使いながら息も切らしておらず、高齢にも負けず背骨も曲がっている様子もなくすらっと立っていた。

これがグランベルを統べる国王、アズムール王本人と疑う余地はなかった。

 

「アズムール王、招聘の術の使役ありがとうございます。」

 

「いささか久々なもので心配ではあったが、うまくいってなによりだ。」

その優しい口調に、カルトは微笑んでしまう。

 

「クルトから話は聞いている、そなたにはヘイムの血が流れていると・・・。確かにそなたから感じ取れる気配、ヘイムの血は間違いないようだ。」

カルトはその言葉に堰を切ったように反応した。

 

「王、なぜ私にあなた達の血が流れているのですか?私のようなシレジア出身の者にそんな気高い血があるとは到底考えられません!」

 

「・・・。」アズムール王はただ黙ってカルトの言葉を待つ。

 

「・・・おそらく、母上からその血を受け継いだようですが母上は一切の身の上を打ち明けておりませんでした。

父上にも訪ねたことはありますが母上は一般の出身の身で軍に入り、その魔力の強さから将軍にまで抜擢されて父上に見初められたと聞いています。」

 

「・・・・・・。」アズムール王は静かにカルトの話を聞き、沈黙を続けていた。

その表情は穏やかであるが、瞳の中には動揺と驚嘆に見舞われていると感じ取り、王の言葉を静かに待つことにした。

 

調度品の柱時計から小気味のいい秒針の音だけが部屋に残り、服の擦れる音一つもない静寂が続いた。

どれくらい王の言葉を待っていたのだろうか、悠久にも一瞬にも判断が取れなくなっていた頃にアズムール王はその沈黙を破った。

 

「カルト、そなたはクルトをみてどう思う。」

 

「クルト王子ですか?博識で、行動力もあり、魔力も潜在能力から測っても王以上の能力を感じます。」

 

「そなたなら、もしクルトが敵として出会った時にどういう戦い方をする?」

 

「・・・?そうですね魔力では絶対に負けると思いますので魔法を囮に武器攻撃を考えます。・・・!」

話の途中でアズムール王の言いたいことが判明し口を止めた、カルトはアズムール王に向き直りその心中を探る。

 

「その通りだ、魔力は強力だがクルトには肉体的な強さがない。

あやつは生まれながらに身体が弱く何度も病にかかっておった、医者の見立てでは成人まで生きてはおれぬと言われほとんどをベットで過ごしていたのだ。

儂はクルトに申し訳ないと思いつつ、ヘイムの直系が絶えてしまう事を恐れる日々を過ごしておった。」

 

「し、しかし!ロプトの血は途絶えたはずです。なぜそこまで直系こだわる必要があるのですか?

確かにこの百年で直系を失った家もありましたが政略結婚でまた神器を扱える者にが産まれるではないですか。」

 

「他の家ではそういこともあるだろうが、ヘイムは・・・。ナーガの血はそういう訳にはいかぬのだ。

先の大戦でロプトに加担していた血筋のものは全て粛清した、だがこの大戦に一石を投じて反乱を起こしたマイラの功績があり彼だけは粛清しなかったのだ。

彼には厳しい制約をつけ、ヴェルダンにある精霊の森に隠れ住む事になった。」

 

「なっ!!」カルトは史実に隠蔽された恐るべき内容に動揺する。

 

確かに、暗黒神の申し子が再び復活するという世迷い事を今だに信じている領主も存在し意味の無い魔女狩りや子供狩りを行う地域もまだ残っている。

もし今の事実が世に広がれば疑心暗鬼に苛まわれ、一層の狩りが加速するのであろう。カルトはその恐ろしさを肌で感じ、事実の秘匿を必要を感じとる。

 

「マイラの意思を汲み取ったが、ナーガの力をいつでも行使できるようにしておくことが最良ということですね。」

 

「うむ、その背景もあり儂は取り返しのつかぬ事をしてしまったのだ。・・・・・・、儂には歳の離れた妹がいた。その意味がわかるな?」

 

カルトは喉の渇きを一気に感じた、禁忌による血の集結。その集大成が自身であることを自覚する。

意識が遠くなるようにも感じた・・・、おそらく王は私への配慮もあり口を出せずにいたのだろう。

 

「妹はすでにあるものと婚姻する予定だったにも関わらず、儂は身勝手な手段を取ってしまった。そのショックからその後すぐ行方をくらましてしまい、二度と会うことも叶わなくなってしまった。

おそらく、その後たどり着いた地はシレジアでそなたの母親を産み育てていたのであろう。娘は生まれもったその力でそなたの父と出会いカルト、そなたが産まれたのだ。

すまぬ!儂の過ちでそなたにも、母上にも不遇な境遇があっただろう許してくれとは言わぬ、だが償いはさせてくれ!」王は頭を下げていた、グランベルの・・・大陸の頂点に立つ者が俺に頭を下げているのだ。

 

カルトは慌ててその手を取り頭を降った。

「頭をおあげください、私はあなたに償いも賠償も求めているつもりはありません。

ただ、私は自身の出生が知りたかった。・・・それだけです。」

 

「し、しかし・・・。」王の言葉を遮り、握った手を強く握り直した。

 

「王!私は償いの言葉よりも先に言いたいことがあるのです、御無礼ですが許していただきたい。」

カルトはの言葉に王は無言で頷く。

 

「お爺様、お初にお目にかけられて・・・嬉しいです。」

2人は涙を流し、その場に崩れたのであった。

 

 

 

「これから、カルトはどうするのだ?」

落ち着きを取り戻した2人は椅子に腰掛けてグラスに入った水を飲みながら語りかける。

 

「できるものなら、このままバーハラにとどまって欲しいところだが。」

 

「お言葉はありがたいのですが、私はその事実を凍結して世界を回りたいと思います。」

その言葉に王は落胆と、平穏な表情を混ぜ合わせたようになっていた。まだまだ困惑しているのだろう、時間が必要と考えた。

 

「そうか・・・、何かあったらいつでもここに来るがいい。ここはお前のもう一つの故郷と思っていてくれ。」

 

「ありがとうございます、また落ち着いたらここに立ち寄 ります。」

 

「・・・カルト、もし世界を回るのなら一つ使命を与えていいだろうか?」

 

「?なんでしょうか」

 

「ナーガの書を探し出して、ロプトウスの書を封印してくれ。」

 

「!!」カルトはその一言に雷のような衝撃を受けた、つまりナーガの書は紛失していることであり聖者として現在機能していないことになり。

ロプトウスが降臨した時に対処できないこととなるのだ。

 

「順を追って説明をしよう。」王の言葉を聞き漏らすまいとカルトは固唾を飲んで聞きいる体制をとった。

 

「なぜ、グランベルは共和制をとっているのか分かるか?一国で七人もの聖戦士を擁しているのは異常と考えたことはないか?

他の国は聖戦士の一人が国を起こして王として君臨しているのに、隣国のアグストリアも共和制ではあるが聖戦士は一人だ。」

 

王の言うことは最もである、聖戦士一人の力は一国に匹敵する能力とカリスマ性を持つ。

戦争が終われば一国の王となりたかったものが多かった筈なのに、グランベルにてヘイムの下で結束されるなんて事は考えにくかった。

 

「ナーガの力はロプトウスに対抗できる唯一であると同時に他の聖戦士が束になっても簡単には屈しない力を持つにも関わらず、ヘイムを除くグランベル六人の聖戦士はナーガの血筋を守ろうとしたのだ。」

 

カルトは必死にその言葉の意味を探り続ける、強者にも関わらず守らねばならないとはどう言うことなんだろうか。王の言葉を何度も反芻し、答えを紡ぎ出そうと臨んだ。カルトはさらにその前の王の使命を考えた上で一つの結論が生まれた。

「ナーガの書で持って、ロプトウスの書を封印していた。」

 

「そうだ、神々の品は破壊はできない。負の最大顕現であるロプトウスの書を封印するには対をなしているナーガの書で持ってしか封印できなかったのだ。

ヘイムはロプトウスになり得る存在が出てきても書を手に入れないようにしたのだが代わりに自身は他の聖戦士に保護してもらう道を選んだのだ。」

カルトは世界の創造ともいえるその仕組みに深く理解し、王の言葉が染み渡って行った。

 

「では、なぜ書の封印が解かれてしまったのですか?」

 

「書は封印とは言えナーガの書を持ち出せばロプトウスの書の封印が解けてしまう不安定なものであるからな。

この城の厳重な場所に安置しており、さらにヘイムが結界を張って何者も入り込めないようにしていたのだが結界を破り二つの本を持ち出した者がいたのだ。」

 

一体何者が破ったのだろうか?聖戦士くらいの絶大な能力なら可能かもしれないが、そんなことをするメリットがどこにもない。

やはり暗黒神を信仰する者の中から結界を破るほどの強者が行ったようにしか現在は考えられなかった。

 

「わかりました、ナーガの書とロプトウスの書の捜索してみます。」

カルトは王に宣言し自身の目的に追記する、国王は微笑みを讃えてその回答に安堵する。

 

「それとな、シレジアの国王が崩御が近い情報も入ってきている。

反国王派のダッカー公とそなたの父であるマイオス公はそれぞれのやり方で反抗しようとしているようだが、三つ巴の効果もあり硬直状態を維持しているが崩御があればすぐに内戦になるだろう。

目的もあるだろうが、一度戻ってみてはどうだ?」

 

「そう、ですね。一度帰ってみて策をレヴィンと論じてみようと思います。今の、ヘイムの力を得た私なら何か出来ることがあるかも知れません。」

 

「シレジアの内戦も、大陸の不安因子の一つ。カルト申し訳ないが頼んだぞ、無理はせずにな。」

王の優しさがカルトの身にしみ渡る。

 

「これは儂からの餞別だ。先ほど使ったから用途はわかるな?」

先ほどここまで転移した杖を受け取る、アルヴィスに破壊されたがマジックシールドの杖と同様でこの大陸にはない杖である。

あらかじめ自身の魔力に込められた品を手掛かりに手元に引き寄せる魔法で、レスキューの杖という聖杖である。

 

「ありがとうございます。ではお爺様、行ってまいります。」

カルトは転移の魔法を用いてその場から退場した、アズムールは目を細めてその場にいた孫に祈りを捧げるのであった。

 

 

 

カルトと行動を別にしたデューとホリンは無事に自由都市ミレトスに到着した。イザーク館に足繁く通い、国内情勢を確認していたのだがここで事件が発生する。

イザークとグランベルとの戦いは初戦ではイザーク領にも足を踏み入れることなく防衛線で食い止めていたのだが、グランベルの大軍による物量に物を言わせた攻撃がとうとうイザークの防衛線を突破され乱戦になった。

ちりぢりになった互いの軍であるが、少数部隊のイザーク軍はさらに少なくなり各個撃破されてしまう。

マナナン王はここでいつか訪れる敗北を察知したのか、自身の子であるシャナン王子と妹君のアイラ様を包囲される前のタイミングで国外脱出をさせたのだ。

 

ホリンの父親言う通りになったのだが、逃走経路が予想出来なかった。

アイラ様は自由都市であるミレトスを目指すと予想していたのだが、グランベルを突っ切って逃走しているらしい。

この逃走経路を塞がれていたのか、世間を知らない王女の逃避行に問題があるのかは定かではないが自身の誤算であった。

ホリンはデューとともにミレトスからグランベル公国のシアルフィ領へ抜ける大橋へむかうのだった。

 

「カルト、君は今頃どうしているだろうか?できればまた、一緒に旅をしたいものだ。」とホリンが呟き。

 

「何行ってんのさ、早くアイラ様達と合流しないとイザークの将来がなくなっちゃうよ。」とデューが突き返す。

 

「ふっ、そうだな。・・・合流しなくてもアイラとシャナン王子は運命が生かしてくれるように思えてならないがな。」と一人つぶやくのであった。

 

潮風吹き抜ける大橋を渡る二人、国境の検問があるがすでにデューの手引きで憂いはなかった。

デューの仕事の良さにはホリンも驚かさせる。どのようにしてこんな事ができるのか聞いてみたところ、彼らは仲間達で出資しあってギルドを作り様々な地にネットワークが張り巡らせてあるそうだ。

その地の有力者や果ては国家の権力者などと繋がり、情報から資金融通、果ては暗殺までまで請け負う事もある。

 

そのギルドを使ってデューは本日の検問者に賄賂をすでに渡しているのだ。受け取った検問者から偽造の通行許可を発行してもらい、既に受け取っている。

検問で彼らは全く疑われる事なくグランベル国内に入り込み、アイラ達を捜索する行動を起こしていくのであった。




異大陸の武具はこれからも出てくる予定です。


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開戦

しばらく更新が遅くなりまして申し訳ありません。

バーハラでの一件の後にシレジアに戻り、国王崩御の話を作っていたのですがグランベル編においてシレジアを書くことはおかしいと思いました。
さらにシレジアでの内容が膨大になっていまい、話がダラダラとしている感じが否めませんでしたので本編のシレジアの時には挿入する形に至ってしまいました。

時を数ヶ月移行させ、ヴェルダンの侵攻から始めさせていただきます、申し訳ありませんがお願いいたします。


イザーク滞在中で日夜の気温が激しくて感覚を忘れていた時期があったが、あの時は冬であったが時は移ろい春を迎えていた。久々に訪れるグランベルはシレジアとは違い、樹々は鮮やかな緑を讃えており陽射しは穏やかであった。

シレジアの春は著しく遅い、雪解けにはまだまだかかるのでカルトの心は少し綻んでいた事を後ろにいるマリアンは悟ったのだった。

 

その時に上空を飛来している一頭のペガサスが降下しカルトの馬に速度を合わせてきた、疾風が一瞬立ち込めマリアンは目を細める。

「カルト!急ぐわよ!ここで出遅れてはシレジアの名折れよ。」

緑髪の女性はカルトにさらに進軍を早めるように急かした、山道に近いこの街道を天馬に任せて話しかけるところに彼女のスキルの高さをうかがわせた。

「戦場に入る前に一度休息を取れせないとこちらにも無駄な被害がでるぜ、後続の徒歩部隊と合流するまで休息してから前線になだれ込みたい。」カルトはそこで彼女の提案を却下する。

「しかし!」

「フュリー、焦るなよ。心配いらないさ、残留部隊とはいえどもシアルフィの次期当主はかなりの御仁だと聞く。物の数だけの蛮族どもに遅れをとることもないだろうしシレジアの部隊が全面に戦えばシアルフィの威信にも傷が付く。

俺たちは無理せずに合流して、足を引っ張らないように戦う事だ。」

「・・・わかったわ、でもシアルフィ軍が劣勢とわかったら私たち天馬部隊は真っ先にいくわよ!」

 

彼女の天馬は一度嘶くと、再び上空の天馬の群れに戻っていった。

真っ白い天馬の群れは美しく、飛び去った後に舞い落ちるその翼の羽根は雪のように舞っていた。

マリアンはその姿を眼で追いかけていた。

「マリアンも乗ってみたかったか?」カルトは語りかける。

彼女は首を横に振って見せたのだった、そしてカルトの腰に回した腕に力を入れて背中に顔を埋める。

 

カルトは苦笑する。

マリアンは一度天馬乗りになってみたいと練習をしたのだが、一向に成果はなかった。

天馬に乗れるのは基本は女性のみである、伝承によれば穢れをしらない処女のみとあるがそのような制限はない。

しかしながら、天馬は幼い時に訓練を始めていれば始めているほど天馬の心を通じやすい。この謂れが捻れて伝わったのではないかと現在では言われているのだ。

マリアンも十分に幼く、資質は持っていると思ったのだが天馬は彼女と意思を通ずることなく断念しざるを得なかった。

 

「私はこの剣でカルト様に役に立ってみせます、馬も天馬も私には必要ありません!」

彼女は意気揚々として腰に吊った剣を叩いた。

「ああ期待してるよ、だが全面には立たないでほしい。今は経験と場数を踏むことだけを意識していてくれ。

君を失うと悲しむ人がいる事を忘れないでくれよ。」

カルトのこの言葉だけでマリアンは満ち足りていく・・・。

 

マリアンはイザークで未来を閉ざされた小さな世界を生きていた、笑顔で取り繕いその場をやり過ごすことだけを考えてきた。

家事を全て押し付けられて苦しかった、食事を作っても自分に行き渡らずひもじかった、そんな小さく暗い世界をこじ開けて助けてくれたのがカルトだ。

マリアンの今の世界は、カルトに与えられた世界。だからこそ彼女はカルトについていき、いつか彼の役に立てるように自身を研磨すると決意したのだ。ヴェルトマーでカルトと別れたわずかな時間で教えてもらった剣の扱い方、そして何より大切な心構え。

ヴェルトマーを離れシレジアに行ってからも鍛錬を続け、彼女はこの度のグランベルとの不可侵条約を反古にして攻め込んだヴェルダンの応戦に志願した。

もちろんカルトは最後まで反対していたのだが、マリアンの強い意志により彼はとうとう折れてしまいそばを離れないという条件付きで参加を許したのだ。

 

 

カルトはバーハラに赴く際にマリアンをヴェルトマーに預けたのだが、戻ってきたときに彼女の心が著しく力強くなっていたことに気づいた。そこからシレジアに戻り数ヶ月でさらに強く成長し、今では剣の鍛錬とともに心身が良い方向に向かっていた。

彼女をイード砂漠の遺跡で救出してから明るくなったのだが、カルトに依存している行動が目立った。

バーハラから戻った時にアゼルから聞いたのだが、残されたマリアンは不安げに部屋から出ず、カルトの名前を呼んで泣きじゃくっていたらしい。

みるにみかねたアゼルは、自身の部下にいた女性の聖騎士にマリアンを託したそうだ。自分ではどうしようもなかったので同じ女性同士、解決策があるとみたのだがそれは物凄い荒療法となってしまった。

彼女はマリアンを鍛錬場で模造剣を用いて実戦さながらの鍛錬を行い出した、マリアンはひどく打ちのめされていたらしいが彼女の一言一言に呼応されるように眼に力が宿りいつしか気合いの声と剣戟が響きだした。

終わった頃には、全身汗と泥と傷だらけになりながらも剣を握ったまま息も絶え絶えに倒れていた。

おそらくその荒療治と女性騎士から何かを掴み取ったようだが、マリアンはその話をしてくれることはなかったのだった。

 

 

グランベルにはシアルフィ軍と合流して救援の書状を送っている、海路でフリージに到着したシレジア軍はフリージ城を駆け抜け森林区域にて徒歩部隊を待ち、その徒歩部隊を第二波として休息と待機を命じて騎馬部隊と天馬部隊が一気に戦場に躍り出た。

フュリーから上空での戦場様相によると少数部隊の個々戦闘が行われている状況で、ユングウィ周辺が激戦区となっているようだ。

そこへまっすぐ向いつつ応戦体制をとることになった。

 

村を襲っているヴェルダン正規兵か単なる賊かわからない連中をフュリー率いる天馬部隊が始末にかかった。

騎馬部隊はそのまま南下し、ユングウィの北に駐留する一個部隊と戦闘となるがヴェルダン兵は背後にユン川の支流に阻まれて撤退はできない、橋を渡ろうとしても一気には渡れないので迎え撃つしかないのだ。粗悪な武器を手にした集団はカルトの部隊へ怒声とともに襲いかからんとした。

シレジアの騎馬部隊はカルトが作り出した少数部隊、グランベルから贈られた良質の騎馬を活かすためにカルト自ら率先して乗馬技術と騎乗訓練を行ってきたのだ。今、その部隊が始めて実戦で効果をあげんと統率された部隊は応戦に入る。

「ウインド!」馬から降りたカルトは魔法をあらん限り、撃ち放つ。騎乗はできるのだが、魔法の行使となると馬上では不可能なカルトは白兵状態になるしかない。馬を従者に任せて、マリアンを自身の護衛に魔力の開放から苦戦を強いられている騎士へ援護攻撃を行う。

 

魔法を使えるものは皆無なようで、魔法の抵抗のないヴェルダン兵はその摩訶不思議な攻撃に為す術はなく倒れていくのであった。

風の魔法は三大魔法の中でも威力は低いと言われているが、速射ができて応用の効く魔法と自負している。火も雷も威力は絶大な攻撃力を誇るが、その分応用することは難しいとカルトは捉えている。

風は突風を起こせば火を助長し、風を妨げて雷を通さない真空を作り出す。真空の刃は無二の刃を発生し、風の冷却作用は氷を精製するのだ。

 

騎馬部隊の陣形を崩さない突撃にヴェルダン軍は為すすべもなく倒れていくが、槍の突撃をよけて懐に潜り込まれた敵兵に斧による重攻撃をうけて負傷したものを少なからず発生していた。

カルトは回復に切り替え、瀕死状態のものから手当てしていく。

 

「マリアン回復中は周りに意識が集中できない、周囲の監視を頼む。」

「は、はい!」 抜剣状態のマリアンは再度周囲の警戒を行う。交戦中において背後からの奇襲が一番警戒するべき状況である。カルトとマリアンは後方にいるのだがいまだに後方からの奇襲がないのは、予定通り天馬部隊と徒歩の魔道士部隊が背後を守っていると思われる。

 

重傷者を瞬く間に安静状態まで回復していく、この度の戦いには参戦はできないが命を失わない限りまた戦場に復帰してくれる事を祈りつつ回復の聖杖を振りかざすのであった。

一通り命に関わる者の手当てを終えたカルトは後方の弓騎士部隊まで進み出た。

 

「状況はどうだ。」

「敵部隊さらに後方よりシアルフィの騎士団と思われる一個部隊が参戦しています。」

「そうか・・・一気に片付けるぞ!合図にてアーチの陣を伝えろ。」

従者が即座に伝令部隊を使って陣の変形を送る、突撃と後退を繰り返す現在の攻撃から後退し迎え撃つ陣形に切り替えた。

普通ではこの陣形は守り一辺倒の援軍を待つための時間稼ぎや相手の攻撃を凌ぐために使用される事が多い、だがカルトの軍ではこの陣形は別の意図がある。

 

カルトは魔力を大きく開放し精神の集中を行う、常人でもみらるくらいの魔力が体を覆い発動の時を待つかのように対流している。

そしてその半不可視の魔力が徐々に金色に変化していきカルトを輝かせた。

右手に持つ魔道書を胸に抱き、左手で降りかざす。

 

「オーラ!!」

カルトの発動の一言で天より光の柱が落ちてくるかのように敵陣に一筋の光が降り注ぐ。

光に飲み込まれたヴェルダン兵は一瞬で倒れ、残った者たちはその惨状に恐慌状態となり陣形が瓦解。逃げ道を求めて散り散りに逃走を始めだした。

 

「す、すごい・・・。」

マリアンはこの光景をみて立ち尽くした、一個部隊が一つの魔法でほぼ鎮圧させてしまう程の能力に驚くだけであった。

 

「威力は大きいから使いどころを間違えると仲間まで被害が出る、陣形がはっきりしている時だけしか使えないけどね。」

さすがのカルトも一気に魔力を消費してしまい若干の疲労が見えるが、まだまだ余裕ぶっている。

マリアンは少しほころんでしまうのであった。

 

 

この度の各戦場にて一番のヴェルダンの一個部隊をカルト率いるシレジア騎士団がほぼ撃破したことにより数の有利はなくなり、各地の部隊は残党の処理となった。そこはシアルフィの救援に来た者たちが撃破していると報告が入ってきたのでカルトの部隊はその場で待機し、ユン川の跳ね橋を上げて警戒しているエバンスからの増援警戒に当たらせた。

その間にヴェルダンに奪われたユングウィの奪還にシアルフィ軍が突撃を敢行しており、シグルドの元へ各国の猛者どもが集結しつつあった。カルトもまたマリアンとフュリーを連れてユングウィの前に向かう。

 

「カルト様、シアルフィ加担には大義名分があると思うのですが随分物々しい感じですね。攻略前だからでしょうか?」

連合軍は各国の混成部隊となり、意思統率は取れているが物々しい雰囲気を醸し出していた。伝令のみが交錯し、部隊間には一切の干渉を持たず淡々と事を運んでいるようにマリアンにも感じた。

 

「いや、この部隊には各国の思惑と奸計ががあるからだ。同盟とは言っても政治部分での優劣や他国との複雑な関わりがこの部隊を支えているんだ。一つ何かが違えた時には隣の同盟が敵対するからな。お互い余計な火力を見せたくないのさ。」

マリアンはその異様さをまじまじと見据えながらカルトに向き直る。

「カルト様も、ですか?」彼女の真っ直ぐな眼差しをカルトは受け止める、彼女には説明してもなおこの状況に理解ができないのであった。

 

「そうだな、本心といえば自国の為でもない事にここまで真摯になる必要はないかもしれないな。」

「そうですか・・・。」マリアンが少し俯いて応える、カルトはすっと笑って彼女の頭を撫でた。

 

「そんな賢い生き方を俺は知らないしこれからもする必要はない、俺が俺でないやり方をしてしまってはマリアンに今まで言ったことが嘘になるだろう?だから、マリアン。俺がおかしいと思った時は君が俺を止めてくれよ。」

「!・・・。はい、私が止めてみせます。だからカルト様は立ち止まらないでくださいね。」

カルトは混成部隊の奇異な視線の中を突っ切っていくのであった。

 

 

ユングウィ城内戦と化した戦いにおいてヴェルダン兵は孤立している状態の為、戦意は低く次々と投降を呼びかけており制圧をほぼ終えていた。

前線までカルトは突き進むと一人の騎士が重傷を負っていて騒然としていた、一人回復に憶えのあるものが必死の手当てを行っているが、ライブ程度では間に合う状態ではないカルトは走り寄った。

「手を貸そう、それでは間に合わない。」言うなりカルトは聖杖を取り出して、魔力を解放させる。

「え、それはリライブ?」回復をしている騎士よりもさらに明るい光が重傷者の傷をみるみると塞いでゆく。

絶望が漂う中、突然の来訪者の強力な回復に歓声が上がる。

「これでよし、大量の血液が失われているからしばらくは動けなだろうが危機は脱した。」血色の失った顔をしておるが、規則正しく上下する胸部に安堵する。

 

「あ、あなたは?」回復を行ってた騎士はよくみれば女性である、それも身分のあるものとすぐに伺えた。

「俺はシレジアのカルト、グランベルとの同盟により救援にまいりました。」

「あなたは高度な魔道士なんですね、この部隊には回復魔法が使える者がおらず助かります。

私はエスリンと申します、兄に変わってお礼申します。」

「兄?ということはシグルド公子の妹君ですか?」

「はい、今はレンスターに嫁いだ身でありますがこの度キュアンと共に救援に来ております。」

レンスターとグランベルとは同盟関係ではないのだが、シアルフィとの政略結婚によるものだろうか?

いや、たしかシグルド公子とキュアン王子は懇意の関係もある。その線が有力だろう・・・。カルトは思考を拡大して結論に至る。

 

「私たちシレジアとほぼ同じでありますね、早速ですがシグルド公子にお会いし是非共闘の意をお伝えしたいのだが。」

「わかりました、あなたのような御仁がいてくだされば兄もきっと心強く思うでしょう。こちらへ・・・。」

 

 

ユングウィの内部は短期間とはいえヴェルダン軍に制圧され、ひどいものとなっていた。

戦利品とも言える金品はすでにヴェルダン兵に持って行かれており、男は抵抗した挙句に斬り殺され女は嬲りものになった挙句に殺された者や、ヴェルダンに連れ帰られたものもいた。

残された家族のすすり泣く声が無情にもあちこちから響いてくる。マリアンはカルトのマントの裾を握り、怯えている。

 

「これが戦争だ。負けた国は人の命も、尊厳も、権利も奪われる。一番に犠牲になるのは何も力のない市民達だ。

だからこそ、地位のあるものは率先して市民を守る義務があると俺は考えている。」

「カルト様・・・。」

「マリアン、君にはもう二度と辛い思いをしないようなシレジアをレヴィンと共に作る。

だから、戦争が終わったらシレジアで暮らしてくれ。」

「はい、その時をお待ちしております。」彼女は一筋の涙を流して答えるのだった。

 




数ヶ月、シレジアでの内戦により、さらにLVアップしています。
今回もあえてファイヤーエムブレム風にステータスを作るなら。

カルト LV17
マージファイター(に近い)

HP 35
MP 44 ※ゲームには存在しないです、あくまで私の主観。
力 9
魔力 17
技 12
速 16
運 10
防御 8
魔防 13

剣 C
光 ☆
火 B
雷 B
風 A

スキル

追撃 連続 見切

さらに魔力と速さが上がりました。

魔法名 MP消費量
ウインド 3
エルウインド 5
ライトニング 4
オーラ 9

ライブ 3
リライブ 5
ワープ ※ 人数と距離による。
マジックシールド 8 杖を失った為、現在使用不能


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戦術

頑張って更新したいのですが、戦争中にキャラが多数登場するような場面を文面にするなんて狂気ですね。
難しすぎてうまく進みません。


「シレジアのカルトです、グランベルとの同盟により救援に参りました。」

「君がシレジアのカルト公か、その若さで内戦を制圧するなんて驚いたよ。」シグルドは挨拶を交わして一言を受けた。

 

「いや、あれはレヴィン王の働きによるものだ、俺は手助けしただけにすぎない。」

「いや、王位即位の時の演説を新聞で見たが、レヴィン王ははっきりとカルト公の力添えがなければ私は即位を避けて逃げ出していたと伝えていたじゃないか。」

 

「まあ、そのことはまたゆるりと話そう。ユングウィは奪還できたがこの有様では取り戻して一件落着とは行かなそうだ。やつらの戦力はまだまだエバンスに残されているらしいし、ユングウィの公女さまも見当たらないんだろ?」カルトの言葉にシグルドは真剣な眼差しを戻した。

 

「確かに、エーディンもまだ見当たらないと情報が入ってきている。一刻も早く、現状を把握しないと・・・。」

「シグルド公子、エーディン公女はヴェルダン領に連れ去られた可能性が高い、やつらは若くて美しい女性を連れ帰った節がある。急いでエバンスで救出しないと厄介なことになるぞ。」

 

「!!なっ、それはどういうことですか?」シグルドも隣にいる従者であるオイフェもカルトの次の言葉に息を飲んだ。

「ここを通る時に市民の声を聞かなかったか?娘が連れて行かれた、妻がさらわれたと言っていたじゃないか。情報部だけの声だけでなく市民の生きた声を第一に考えないと、情報に翻弄される事になる。」

カルトの一言にシグルドも、オイフェも言葉をなくしてしまった。シグルドは能力は高いがまだまだ戦の本質が見えていなかった。

戦で一番犠牲になるのは市民たちであるのだ、その市民を直視せずエーディンの行方ばかり追っておるシグルドやオイフェには聞こえていた悲鳴を悲鳴としか捉えていなかった。

その叫びを聞いていたカルトだからこそ、私は救われたのだとマリアンは実感したのだった。

 

「もしエバンスからさらにヴェルダン領に連れさらわれた場合を考えてみると、無理に攻め込めば次は俺たちが侵略者になっちまう。国家間の意見を考えれば、エバンスで奪還してグランベルに早々とヴェルダン領から帰還するのが現状の最良策と思える。」

「た、確かに。シグルド様、カルト公のおっしゃる通りです。すぐさまエバンスに向けて進軍しましょう。

ユングウィの後処理は私が指示しておきます。」

オイフェはカルトの言葉に逸早く察知し、行動を促す。予想以上に時間がないことを自覚した彼の動きは素晴らしく、カルトは笑みを作ったのだった。

「俺の部隊がすでに近くで待機をしている、跳ね橋をあげているが我らの天馬騎士団の前に地理の不利はないからな。」横にいるフュリーに合図を送ると呼応して彼女は頭上にいる天馬を呼び寄せ、たちまち大空へ飛び立っていった。

「天馬を見たのは初めてだが、あそこまで訓練されていると人馬一体の感じがするよ。」

「彼女は我がシレジアの天馬騎士団の四強の一角、天馬の扱いは彼女が一番とまで言われている。

彼女たちに任せておけば奇襲は必ず成功する。」

シグルドは無言で頷き、カルトの意見に従ったのだった。

 

 

「カルト!」

混成部隊となり、各国の部隊が思い思い進軍する中でシレジア騎士団の先頭を行く私に声がかかった。

振り向くとそこにはしばらくぶりのアゼルと、初対面の者が私の横に追従する。

 

「アゼルか、数ヶ月ぶりだな。」

「君こそ!突然グランベルに来たかと思えばすぐにシレジアに帰って、帰ったかと思ったら突然シレジアの内乱で君が活躍してセイレーン公になったと新聞が踊った時はひっくり返りそうになったよ。」

アゼルの突然のまくし立てにカルトは少し反省する、グランベルにいた間は彼に迷惑と混乱を引き起こさせてしまった事を思い出す。

 

「すまない、急を要する事態が立て続けに起こってしまい説明をしていなかったな。」

「ううん、それでグランベルの僕の所に訪ねてきた理由をそろそろ聞けるのかな?」

「・・・・・・・・・、アズムール王にお会いしたのはシレジアの前国王が崩御寸前でその瞬間に内乱になることはわかっていた。

だからレヴィンと計画して俺がアズムール王にお会いしてシレジアとグランベルを同盟するように取計らったのだ。しかし、会談中に前国王が危篤状態と聞いたので急いで祖国に帰る形になってしまった。」

 

「そういうことだったのか?しかし、いきなり直訴に近い無理な内容をよく一人でやりきろうとしたね。

無茶というよりも無謀だよ。」

 

アゼルの驚きよりも呆れたと言った発言にカルトは乾いた笑い声が出そうになるがぐっと堪える。

これはカルトの方便で、アズムール王との関係確認が取れたことで後ほどできた同盟提案であり本当の理由をここで暴露することはできない。現在カルトの秘密を知る者はレヴィンとラーナ様と親父だけであった。

 

「その後の大筋は新聞の通りだ、国王崩御して異を唱えるマイオスこと俺の親父とダッカーの叔父貴に説得したレヴィンを引き連れて攻め入ったのさ。親父は捉えた後大幅に軍縮を条件でトーヴェ公に監視付きで現状維持、叔父貴は説得も虚しく徹底交戦の末に戦死した。後味は悪かったがレヴィンもやる気を出してくれたし、結果良好って所だな。」

 

カルトの言葉にアゼルは視線を強めた事にカルトは警戒を感じた。そこに不快な意思表示があり、そして拒絶に近い感情が瞳に投影されていることが伺えた。

「たしかにこれで親族によるシレジアは反王政派は潰えた、でもそれで八方が治るわけではない。次の反王政派が出来るたびに君とレヴィン王は血の粛清を続けるつもりか?叔父さんに当たる人を死に追いやり、次はその子供達が反対派に回った時も粛清を続けるつもりなのか?」

 

アゼルの言葉にカルトは正面から向き合い、言葉の重みを受け止める。

アゼルの瞳を見つめていると数ヶ月前とは違い、彼にもしなやかな強さが出てきている事に気付きカルトは微笑んでしまった、まるで弟の成長を喜ぶ兄のように透明な笑顔をアゼルに向けてしまう。

アゼルはその笑顔に戸惑ったが、その意を汲み取り避難をすることはなかった。

 

「すまない、今の言葉に笑顔は失敬だな・・・。

アゼル、確かにその通りだ。俺たちのした事は正義ではない。シグルド公子は内乱を収めたと言ってくれたが、他にも親族殺しや独裁的と言われている面もある。

俺もレヴィンも正義なんて物はどうでもいいんだ。シレジアの国に、民に危害を与えるものは正義であったとしても除外しなければならない。それが民の上に立つものの正義であり、責任であると俺は思うからだ。」

 

「それでは、王政は一体何の為にあるというんだ?君たちは何がしたいんだ。」

アゼルはレヴィン王とカルトの行動に全く理解ができないでいた、民を導く存在であることが諸公の存在であり選ばれた人種と教育されてきていた彼にとっては異文化では括れないほどに混乱をきたす内容であるからだ。

 

「レヴィンも俺も目指していることは一つさ、王政の撤廃だよ。権力集中の廃棄、民による指導者選任による民主国家を設立することが夢なんだよ。」

「なっ!」

「快楽を貪っている者が貴族というだけで民を虐げている王政体質にはうんざりしていたのさ、レヴィンも王として即位を決意したのはこの計画を最高権力の立場から行おうとしてるんだよ。

ラーナ様にお教えしたらさぞ、お悲しみになるだろうが、きっと許してくださると信じている。」

 

アゼルはそのスケールの大きさに呆気に囚われるしかなかった、自身の保身どころか立場すら投げ出すような思想を持っているカルトにアゼルの常識は及ぶことができず頭も中で反芻しても受け止められるものではなかった。

兄も、アルヴィスも差別のない世界を作ると奮闘しているが、カルトの唱える民主主導で政を行うなんて思考は一切ない。自分が民を導き、平定する為の手段としてどのように進めていくのかを考えているのである。

 

 

「さて、おしゃべりはここまでのようだ。フュリーが奇襲してくれている間に一気に跳ね橋を降ろしてしまおう。」

カルトは平野の向こうに見える国境線にもなっているユン川が見え、そう伝える。

 

対岸の向こうには大量のヴェルダン兵が跳ね橋をあげて再び侵攻を始めようとしているのだが、天満騎士団の上空からの牽制でまだ跳ね橋は下げられていなかった。

その一因にグランベル側の川にはシレジアの魔道士部隊が天満騎士たちの支援を行っていたのが大きい。

 

上空からの手槍による投擲攻撃を風魔法で追い風にすることで遠距離かつ、武器の速度をあげていてヴェルダン兵は苦戦をしている。

追い風になるということは向こう側では逆風になるので弓の攻撃は、天馬達には届かずにヴェルダン兵のみが傷ついてしまい跳ね橋までたどり着いていなかった。

 

しかし、それは序盤の接触だけにすぎない。徐々に態勢を整え出したヴェルダン兵が決死の突撃で跳ね橋あたりまで到達しようとしていた。

「フュリー様、このままでは跳ね橋が抑えられます。跳ね橋が下されれば、魔道士部隊の被害が・・・。」

後方で戦況を確認していたフュリーに前線からの報告が副官よりなされた、もう少し時間を稼ぎたいところだがこのままでは報告者の言う通り魔道士部隊がヴェルダン兵の前線部隊と正面衝突となる。

「そうね、ここまで時間が稼げただけでも充分・・・と言いたい所だけど私の計画はここからよ。

お願い、私の代わりに指揮をお願いしてもいい?」

 

「あ、あの一体何をなされるおつもりですか?」

「今のタイミングで私にしか出来ないことがあるの、15人ほど連れて行くから単独ではないし無理をするつもりはないの。お願い。」

突然のフュリーの申し入れに副官は思いとどまららせようと思案するが、シレジア四天馬騎士である彼女の成される事に彼女は承諾をしてしまうのであった。

 

「大丈夫、いざとなれば奥の手もあるから心配しないで。

あなた達は相手に上空から陽動して後方からくるシアルフィ軍に前衛をお願いして、私はそれに乗じて回り込みます。」

「わかりました、どうぞくれぐれもお気をつけて。」

「ありがとう、いつも無茶をおしつけてごめんなさい。

でもあなたがいるから私は安心できる、いつかきっとお礼はするつもりよ。」フュリーは近くにいる者達を連れてさらに高く舞い上がっていくのであった。

 

 

ユン川の戦闘はさらに激しさを増していく、三千近くものヴェルダン兵がとうとうシレジアの天馬騎士と魔道士の攻撃を物量ではねのけ、跳ね橋におろすことに成功し一気に渡り始めた。

フュリーの指示通りに動いていた天馬部隊と魔導士部隊はすでに後方へ逃れており、代わりにシアルフィ軍400にグランベルの協力部隊、主にアゼルの連れてきた炎の魔道士50にレックスの騎士団50。

そしてキュアン王子の援軍であるレンスターの騎士団200、シレジアの天馬部隊が100に魔道士部隊が50である。

戦力を数で言えばシアルフィの混成部隊は1/3の戦力であるが、各部隊の戦闘能力はヴェルダン兵とは違い統率が取れており攻撃方法も多彩である。

各騎士団を全面に立て上空からは天馬部隊、後方からの魔法攻撃に回復援護まで機能しているため、ヴェルダン兵には対処できない攻撃の数々に疲弊が早く、たちまち恐慌状態に陥った。

 

 

 

 

シグルドや各諸公達は、戦闘経験の浅い者の鍛錬も兼ねておるのか後方で前線に出ることなく出方を伺っていた。前線と支援も落ち着いており、実践をこなすには適当なものであった。

 

「シレジアの戦い方をしかと見させていただきしたが見事ですね、同盟国なっていただいたことを感謝しました。」

シグルドはカルトに投げかける、もしここにシレジアの天馬部隊がいなければユン川跳ね橋を通過して広域に散らばられてしまった恐れもある。

他の領地に入られてしまい、ユングウィと同様の略奪が行われるとシアルフィに責任追及にまで発展しイザークにいる父上が危うい事になる。

 

カルト公はそこまでを即座に考え及び配下を待機させていた事に感謝した、私やキュアン達は西からの進軍だったのでユングウィに全軍向かうしかない。北からのグランベル公子達は空中部隊のような奇襲部隊はないので跳ね橋を下がるまで手出しはできず、逆に奇襲を受ける可能性があった。

 

「俺たちは騎馬部隊が少ないからな、どうしても奇襲攻撃に近い戦い方になっちまう。正面からのぶち当たれば大国グランベルに挑む馬鹿はいないさ。だから、今回の騒乱は腑に落ちない。」

 

「それは、今イザークへ兵力が投入されているからではないのですか?」シグルドは模範とも言える回答を口にする、彼は実直で好感は持てるのだが指揮官としては向いていない。やはり軍師とも言える人物が必要と感じる。カルトはシグルドの危うさを垣間見てしまうのだった。

 

「確かに、今なら現にユングウィを制圧して資金から領地を手に入れることに成功したが、態勢を立て直したグランベルにヴェルダンは勝てると思っているのか?」

シグルドはそこでカルトを見張りカルトの言いたいことが少し飲み込めた、ヴェルダンは最終的には勝ち目のない戦いに望んだ意図が読めないのである。

 

勝ち目のない弱小国が大国に挑む時、それは大義名分がある場合が多い。

イザークのマナナン国王が謎の死を遂げて、前後状況からグランベルに謀殺されたとなり決起したマリクル王子のように、決死と亡国になろうとものような意思がない限り、無謀な戦いを起こすことはないのである。

 

ではヴェルダンはどうだろうか?彼らには大義もなければ、理不尽を受けてもいない。

グランベルは同盟を結ぶ事はほとんどないが、不可侵条約により互いの領土の保証を締結している。

 

その中でヴェルダンはユングウィを襲って領土を奪い、金品から人身までヴェルダンに持ち帰ったのだ。

エーディンはヴェルダン領に連れさらわれている状況をまだ飲み込めていなかった。

 

「シグルド、この騒乱の裏で何かが動いている。目の前だけの戦闘に集中していると取り返しか付かなくなる。お互い気をつけよう。」カルトはそう言って、再び前線に目を見張るのであった。

 




マリアン

ソードファイター
LV1

剣 B

HP 22
MP 0

力 7
魔力 0
技 10
速 11
運 3
防御 5
魔防 0

スキル 追撃

鉄の剣
リターンリング
カルトの髪飾り《スキル 祈りが追加》

彼女もようやくシビリアンからソードファイターに昇格、一般人だったのでスキルなどなく
兵種スキルの追撃のみ。 慰みでカルトの髪飾りに祈りが入っている事にしました。
空想の世界ですが、リアリティにいってみたいです。 《カルト以外は》


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光陰

進みが悪い回になっています。
申し訳ありませんが、伏線要因となっていますのでご容赦ください。

※期末の追い込みで次回更新は四月以降、異動があればもっと遅れてしまうかもしれません。


エバンスから一台の馬車が南下していた。

天蓋付きの馬車の為、内部をうかがうことはできないが馬を御している二人の男性をフュリーは確認する。

一時先頭を離れたフュリーの一個団体はユン川から南に下り、おそらく標的と思わわれる物を発見し、悟られないように上空で旋回を行っていた。

「カルトの言うとおりね。」

フュリーは彼の頭の早さに常に驚かせられるが、今回が一番冴え渡っているように思われた。

それはユングヴィでのことだった・・・。

 

 

 

「フュリー、君の天馬部隊が今回の騒乱を一気に終わらせる存在になる。危険を伴うがやって欲しい事がある。」

それはシグルド公子に対面する直前にかけられた言葉であった。

「私はあなたの部下として同行してるのよ、何でも言って。」

 

「ユングヴィで先ほどの青年を治療した時に思ったのだが、彼の傷はまだ受けてからそう時間は経っていなかった。市民の話によると内部まで制圧されていたのは2時間も経っていないと聞く、それならば捉えられた市民の中にエーディン公女もいるのではないか?

この街に押し入った首謀者は人相からガンドロフ王子と推測できるのだが、彼はマーファ城を根城にしている。エバンスには一時は待機しているだろうが時期を見てマーファまで連れ帰ると推測する。」

 

「それが、どうしたというの?だから早くエバンスに向かわないと。」

フュリーは少し苛立ちを見せる、このような説明では子供に説明しておるような物だと錯覚したのだ。

 

カルトは一層低い声で周囲を警戒しながらフュリーに説明を続けた。

「闇雲に進軍するだけでは色々と厄介な事もあるのさ、こと国家間となると思惑や利害が出てくる。

マーファにまでエーディン公女をガンドロフが連れ帰り、シグルドがマーファまで進軍するとヴェルダンの半分以上を侵略することになっちまう。そうなればもう一つの隣国のアグストリアにも余計な刺激を与えかねないし、グランベル内にシアルフィの領地拡大の思惑があるなどと吹聴を受ける可能性もある。

エバンスからマーファには向かうガンドロフ王子を止める事ができればエバンスまでの進軍でシグルドはシアルフィに戻り、政務は国家間の条約に則って処理できるだろう。」

 

「でも!悪いことをしているのはヴェルダンよ。どうしてそこまで細かいことにこだわる必要があるの、ヴェルダンに断固とした制裁を与えないとヴェルダンは味を占めてまた同じ事を繰り返すわよ。

カルトはユングヴィの人たちがかわいそうと思わないの?」

フュリーは周囲から聞こえる啜り泣く人達に感化しているのだろう、涙すら見せている。同じ女性としても感化されることは難しくない。

 

「気持ちはわかる。しかしだ、ヴェルダンも国王やそれに準ずる立場の人間がユングヴィを襲っただけで市民は無関係だ。それを一括りにして制裁を加えればヴェルダンの市民がユングヴィと同じように悲しむ人が増える。憎しみと悲しみを無用に増やさずに済ましたほうが本当の勝利者と俺は思う。」

カルトはフュリーの肩を叩いて自身の主張を言述べる。

 

カルトの説得はヒュリー心にと響いた、シレジアに戻る前のカルトが話せばフュリーはおそらく浸透しなかったのであろう。しかし、シレジアに戻ってきたカルトは自身の親ですら市民の為に犠牲にしようとさえ行動したのだ。

 

表面上はカルトの父親は何とも思っていない、レヴィンの邪魔するなら快く抹殺するとさえ言っていた。

この言葉通りの状態になったカルトは父親の喉元まで剣を迫らせていたのだ。レヴィン王が止めなければ、殺していただろう・・・。

カルトは顔面蒼白、全身を震えさせていた。眼からは止めどなく涙が頬を伝い、言葉にならない唇が無音の声を発していた。幼少時代にあったトラウマをもっていてもなお、彼の脳裏には父に生きて欲しいと言う願いがどこかにあったのだ。

 

市民の為に自身の父親すら手にかける意気込みがあるカルトがいうと説得力があった。

自身の国もどうようの事があっても彼は苦しみながらこの決断を選択し、市民に虐げられても、殺されても彼は曲げないのだとフュリーは感じていたので彼の言う言葉の重みを真摯に受け止めたのだった。

 

そのカルトに託された指令、必ず達成してみせる。

フュリーはその決意を持ち、眼下にいる悪漢に鉄槌を振り下ろすがごとく睨みつけるのであった。

 

 

 

「ガンドロフの兄貴、俺もう我慢できねえ。キンボイスの兄貴のところによってしけこみましょうぜ!」

品のない、言葉で兄貴と呼ばれた男はこれも卑下た笑みを隠すことなく部下に見せていた。

 

「もう少し我慢できねえのか、マーファにはキンボイスの城にはないような設備が整ってんだぜ!

そこで楽しんだ方が百倍はいい思いができるだろう。」

「でもよう、味見くらいしても・・・。」

部下の男が物欲しそうに馬車の幌の中にいる、うなだれた女どもを見る。目線が合う度に怯えて啜り泣く度に部下の男は一層卑下て見せた。

 

「もう少しだ!マーファまで帰り着けば、たっぷり遊ばせてやるよ!

それにあの、エーディンって女はサンディマに渡せば次はアグストリアのゴタゴタにも便乗させてくれるそうだぜ。」

「兄貴、本当ですか!俺は金髪美女が多いあの国の女を一度でもいいからコマしてみたいと思ってたんすよ。」

「だったら、早く仕事を終えようぜ!ほら、急げ!」部下に、馬を鞭打たせ速度を早めさせようとした時だった。

 

 

ガンドロフはこの山道における奇襲には場慣れしており、柄の悪い荒くれ者が多いこの国では王族の者は特に奇襲される。兄弟は現在は三人しかいないが、本当は妾を合わせて二桁もの兄弟がいた。

 

弱い王族は奇襲や、罠にあい次々と命を落としてしまうこの国で生き残るには天性の勘と戦闘経験が必要であった。

その勘が突然、自身のに危険が迫っている!と感じ取り、一瞬で部下を馬車から突き落として自身も跳躍で飛び降りたのだ。

馬車の馬は天空から降り注いだ槍に貫かれ、自身が座っていた部分にも数本の槍が突き刺さり地面にまで貫かれていた。

 

ガンドロフの勘は一瞬の影に反応していた。

フュリーももちろん光と影による察知は充分に警戒しており、太陽の位置と高さでそれを察知されないように行動していた。そして太陽が雲により陰った一瞬で頭上に回り込み一団の投擲を行ったにもかかわらず、ガンドロフは影の中にあるさらに暗い影に反応して回避に成功したのだった。

ヴェルダン深い森の中の移動では昼にも関わらず夜の如く暗い場所があり、その移動の経験がここで活きたのである。

 

フュリーは奇襲に失敗し、彼らの行く手を阻むように降り立った。馬車の中からは歓声と助けの声を混じらせて、フュリーたちの善戦を希望した。

 

「このまま投降して人質を解放するなら命まで取る気は無いわ、ヴェルダン国のガンドロフ王子。」

槍から剣に持ち替えたフュリーは警戒を解くことなく、ガンドロフに挑発に近い口調で投げかける。

 

ガンドロフは奇襲による危難を振り払い、怒気に近い感情を表に出していたが今は平静を保とうとしている。

自身の戦力はたった2名に対して、天馬の数は15にも及ぶのである。さすがのガンドロフもこの状況で下手な動きは致命的であることを察知している、野生の勘が彼の行動を抑制していたのだ。

 

「こりゃ、参ったな。まさかエバンスで交戦中にこのルートに目をつけた奴がいるなんてな。

グランベルにも、お坊ちゃんやお嬢ちゃんではない泥臭い奴がいたもんだ。」

ガンドロフは右手に持つ、自慢の斧を地面に放り投げて手を挙げた。部下もそれに従い抵抗をしない真似をする。

 

「私は、あなたと話をしたくもない。抵抗する気がないのなら縛につきなさい。」

「へいへい、よーござんすよ!っと」

天馬の騎士団のメンバーが天馬のから降り、ガンドロフの腕に縄を巻く瞬間を狙っていた。

彼の強靭な跳躍は街道脇の木に飛び立ったのだった。

部下と、自身が抵抗しないことを見せて天馬から降りて制空権を減少させてからの跳躍に天馬騎士団も反応できないでいた。部下を見殺しにガンドロフは脇目も触れず森林にその身を隠していく。

 

「あばよー!」

「待ちなさい!」フュリーは天馬に戻り、天馬に合図を送るが反応しない。

天馬にはガンドロフよりも警戒するべき者を認知し、フュリーに警戒を呼びかけていたのだ。

 

他の天馬にもフュリーの天馬の警戒がつたわり、一瞬にて一団は固まりその異様な天馬達の警戒に神経を傾けたのであった。

 

 

 

ユン川の攻防に決着がついたシアルフィの混成部隊は立てこもるエバンスの攻略に急いでいた。

ユングヴィではシレジアは全面に立ち過ぎたこともあり、城内戦闘には参加せず周囲の警戒に務めていた。

 

 

「フュリー達は上手くやってくれているだろうか。」

負傷兵の回復をシレジアの魔道部隊が受け持ち、慌ただしく出入りする野戦病院でカルトは不意に心配する。

あのマイペースなフュリーがカルトとの旅からシレジアの内戦の戦闘経験で一気に逞しく成長している。

引き際も要領を得ていると感じての任命だったのだが・・・、カルトは一抹の不安をつい口にしてしまった。

 

「大丈夫ですよ、フュリーさんはきっと帰ってきます。」

マリアンは優しい笑みを見せてカルトを和ませる、カルトはその黒髪をそっと撫でて笑顔で返すのだった。

 

「カルト様」

「クブリか、どうした?」

クブリは魔道士隊の指揮をとる、フュリーと並ぶ存在で常に深いフードを被り顔が見えない。

かつては父マイオスの部下として魔道士隊を指揮していたが軍縮したマイオスから引き離され、カルトの部隊に編入したのだった。

風魔法と聖杖の扱いはシレジア屈指の者で、フードの中を見た者は驚くらいのあどけない少年なのだ。

 

「はい、紛争中でしたので報告が遅れたのですがフリージの縦断中にカルト様に会見を求める者がいましたものでここまでお連れしております。丁重に同行のお断りをしたのですが、地位のあるものでしたので我らの権利では拒否できず。お連れ申しました。」

「なに?いいだろう、ここにお連れしてくれ。」

 

クブリは部下のものと一緒にその人物はやってきた、部下が杖と魔道書を持ち無抵抗をしめしている。

栗色の髪に、雷の文様の魔道書にカルトは場所を忘れてしまう。

「エスニャ!どうしてここに?」

「カルト様に、どうしてもお会いしたくてまいりました。」

カルトは部下から彼女に杖と魔道書を返還するために受け取った、もちもん彼女に敵意はないのは明白である。

「すまないこのような無作法を、さあ・・・!」

エスニャに杖と魔道書を渡そうとした時に彼女はカルトに抱きつき、親愛の証を示したのだった。

カルトの思考も、クブリの「ほお!」という言葉に飲み込めれて停止するのであった。

 

 

「すみません、感極まってしまいまして。」

「あ、ああ・・・いい・・・ってことですよ。あはは」乾いた笑いでその場を取り繕うので精一杯であったカルトは、必死に話をきりかえる。

「しかし、まさかエスニャがフリージを飛び出してきたとは驚いたよ。」

 

そう、彼女はシレジアがフリージを縦断中に瞬間的に思い立って魔道士部隊に追いついて無抵抗になってまでここまで追いついてきたのである。

以前見たおどついた雰囲気のある彼女とは思えない行動にカルトは意表をつかれてしまった。

 

「カルト様、私をこのまま魔道士部隊に入れてください。」

「な、なんだって・・・しかし、君はフリージ家の・・・。」

「お父様にはもちろん、お兄様にもお姉さまにもお伝えしてません。」

エスニャの顔が曇り、俯いてゆく。彼女の動向にゆっくり聞くため、同じ目線になりその先をまった。

 

「グランベルにヴェルダンが侵入したにも関わらず、お父様もお兄様も関心を示さないのです。

シレジアやレンスターまでグランベルに、いいえシグルド様の助力に駆けつけたのに政治的な牽制の為に沈黙を続けるお父様に反感を感じました。

お姉様も色々思う事があったようですが、今はエッダのクロード様にご執着のようでフリージにとどまると言われておりました。」

 

「お年頃とはいえ、お前の姉さんはなんというか・・・天然だな。」

「・・・・・・、お姉様は周りが見えなくなる人なもので・・・。でもいつかお姉様もフリージを出る事になりますでしょう。」

 

「そ、そうか。事情は理解した。しかし、シレジア軍に入るには少し強引すぎるところがある。

シグルドの所に行って、エスニャも助力する事にすればいい。」

「あ、ありがとうございます。」

「君がいれば、頼もしい事この上ないよ。私の風、アゼルの火、そしてエスニャの雷。三大魔法の終結だな。」

「はいっ!」彼女の笑顔が戦場に咲いた瞬間であった。

 

 

 

「シグルド公子、久しぶりだな。」

「アルヴィス卿、どうして卿が・・・。」

 

「陛下が心配されていてな、私に見てくるように命じられたのだ。

戦況はどうだ?」

「はい、なんとかエバンスまで戦線を押し戻せました。

敵国に入っての攻略には不本意ではありますが、ユングヴィのエーディン公女の早期救出により突入いたしております。」

 

「うむ、それを聞いて安心した。エーディン公女の無事救出を陛下も私も願っている。

ところでアゼルが君の軍に加わっていると聞いたのだが。」

「はい、黙ってきたようでした。戦力に厳しい我が軍には心強くあります、できればこの戦いの間だけでもご助力いただきたいと思うのですが。」

 

「そうか、無事ならいいんだ。アゼルは私にとって残されたたった一人の弟、できればヴェルトマーにいて欲しかったがやむを得まい。アゼルをよろしく頼む。これは陛下から君に渡して欲しいと頼まれた物だ、受け取ってくれ。」

「陛下が私に、なんと名誉な事だ。陛下にシグルドが感謝していたとお伝えしてください。」

 

「承知した。

では私は陛下をお守りせねばならない、王都へ戻らせてもらう。シグルドよ、武運を祈る。」




エスニャ

LV3

マージ

雷 B
炎 C
風 C

力 1
魔力 9
技 10
速 6
運 7
防御 2
魔防 6

スキル
必殺

魔法

サンダー 3
エルサンダー 5

※この世界では複数の魔法を扱える人間は稀と説明しておりますが、実際にいうと戦闘に使えるレベルを指しています。カルトもエスニャも火起こしレベルくらいなら火も扱えます。


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意思

仕事が忙しい中、急遽宿泊になり時間ができたので勢いで執筆してみました。
淡路島から一気に書いてます。


「カルト・・・。」アルヴィスはシグルドにアズムール王から預かった白銀の剣を渡した後にカルトと会見した。

「あの時以来だなアルヴィス、負けたにも関わらずあの取り計らいに感謝する。」カルトは一つ礼を言って頭を下げた。

 

現在エバンス城内まで攻略したシグルド達は、ヴェルダン軍の掃討にかかっておりもう少しで完全に制圧できる状態にまでさしかかっていた。

一通りの重症者の治療を終えたカルト達はヴェルダンからの増援に対処すべく陣営を構えていた、エバンスから食料等を持ち込まれ休息をとりつつの対応をしていた所にアルヴィスの突然の訪問だった。

カルトは人払いをし、アルヴィスと二人になってからの会話である。

 

「何の事だ?あの時に帰ろうとした貴公にたまたま出会ったのがクルト王子であっただけの事だ。」

「・・・・・・まあいいさ、そういう事にしておこう。」

カルトは笑って返すと、アルヴィスは平静の態度を貫いた。昧の悪さがあるのだろう。

 

「・・・・・・。」

「アルヴィス?どうしたんだ。」

アルヴィスは静かに佇んでいたが、不意に懐へ手を入れると、一つの魔道書を取り出す。

 

「これは陛下からお前に渡して欲しいと頼まれた品だ、そして感謝の意を伝えてほしいと言っておられた。」

その魔道書は光魔法のもう一つの高位魔法であるリザイアである、カルトはみてすぐ判断できた。

オーラの魔法習得からこちらも物に出来ると思っていたが光魔法を習得できる魔道士は少ないからか、見つけることはできないでいた。

「アズムール王が私に?」本を受け取ったカルトはアルヴィスを見る、無言で頷くアルヴィスに表情を読み取ることはできなかった。

「アズムール王のご厚意に感謝すると伝えて欲しい。」とカルトはアルヴィスに伝える。

 

「カルト、君はいつから光魔法を使えるようになった?リザイアは高等な光魔法、一握りの物しか扱えぬ魔法だぞ。」

「・・・・・・。」さすがのカルトもここでは即答が出ない、アズムール王がリザイアをアルヴィスに託した時点でカルトの境遇を伝えたものと推測していた。

おそらくアズムール王はアルヴィスに本心は伝えずに、カルトはなんらかの特別な存在として認識して貰うための行動ではないかと想像し、結論に至る。その意図を汲んだカルトは必死に言葉を紡ぎ出そうと思考を回転させた。

「もともと光魔法の素養があったようだ。

あの時アズムール王に謁見した時に私の素養を見出され、魔道書を賜ったのだ。」

 

「・・・それは、陛下の縁者であるといっているようなものだ・・・。違うか?」

アルヴィスの鋭い視線がカルトの誤魔化しを正確に貫く、彼の洞察力はグランベルにおいても抜き出る者はいないであろう。

彼の生い立ちと謀略を察知しなければならない環境において疑念を正確に読み通す能力は、悲しいことではあるが疑うことこそ本質が見えてくる世の中を渡り歩いた業である。

 

「・・・やはりお前には気付かれたか、おおよそその通りとだけ言っておこう。

シレジアとグランベルが同盟したあたりでおかしいとでも思ったのか?」

これ以上の詮索されると核心部分まで追求されてしまう、カルトは涼しい顔をして話の論点をずらそうと画策する。

 

「以前に術を交えた時に陛下や王子の纏う魔力に近い物を感じた、君の風の魔力に混じってもう一つの資質があることを知ったのだ。光の魔道士は限りなく少ない、初級のライトニングまでなら扱えるものはいるが陛下の賜ったリザイアは聖者の血を受け継ぐ物しか考えられないからな。

カルト、君は古に別れた聖者の血を継いだ者と推測したものだ。」

 

アルヴィスはやはりまだ核心までの追求はできていない、カルトはそこに安堵する。

もしアルヴィスにその事が露見すれば間違いなく俺はグランベルに連れ帰られるだろう、そしてアズムール王から拝命したナーガとロプトウスの書の捜索と世界に暗躍する暗黒教団の目的を見出すことができなくなる。

せめて捜索が終わるまでは自由に動ける身でありたかった。

 

アズムール王はおそらくアルヴィスにその事が露見してもいいくらいの覚悟でカルトにリザイアの書を渡したとおもわれる。

が核心の意図はそこではないように思えた、クルト王子という絶対的な存在がいる今ではカルトの存在は国家を揺るがしかねない、露見すればアズムール王の立場は盤石では無くなるはずである。

そんな中でアルヴィスに露見してもいいと思えるこの行動にはカルトの思考ではまだ結論が出ないのであった。

 

「さすがアルヴィスだ、君の推測からの結論に脱帽する。

できればこの事は口外してくれないように頼む、アズムール王もこのような遠回しにアルヴィスに伝えたかったようにも汲み取れる。」

「無論だ、陛下のご意志に背くつもりはない。カルトお前の口から聞けてよかった。

これからも裏表なく対等に付き合ってくれると嬉しい。」

 

「ああ、俺も同じ意見だ。これからも俺の目標でいてくれよ。」

二人はようやく笑顔を見せるのであった。

 

 

 

フュリー達天馬騎士団は天馬達の警戒にかかり、ガンドロフを追走できずにいた。

それはフュリーが一度イザーク領のリボーで戦った、暗黒魔法の手練れの者と同様の感覚であった。

悍ましく、底知れぬ恐怖を肌で感じた。

 

「気をつけて、魔法の手練れがいるわ!天馬から離れないで。」

フュリーは一団に投げかける、必死にその悍ましい殺気の位置を特定する為に周囲に気をやった。

 

「フュリー様、あちらを!」

一人の騎士が指差した方向に暗黒の靄のような物が見えており、それが禍々しい六芒星を形どっていると気付いた瞬間にその黒いエネルギーが稲妻の閃光のようにこちらに迫ってきた。

 

「くっ!」フュリーは背中に括り付けていた一本の杖を取り出して地面に突き刺した。その杖は瞬く間に白い光を放ち地面に五芒星を展開して一団に光の弾幕を作り上げた。

 

それは、カルトがフュリーに持たせた結界の杖である。

自身の魔力を物体に付加させ、持ち主に対して一度だけ魔法を行使できるものであった。

カルトはエンチャントマジックとも言える、武器や持ち物に魔力を停滞させて特殊な能力を持たせる事ができた。マリアンにわたした髪飾りなどがそうである。

 

古のエンチャンターは今でも現存する炎の剣や守りの剣のように魔法の発動を何回も行うことのできる武具を作っていたらしい、しかしカルトのできる武具は一度使えば破損したり、永久効力であっても絶大な力を付加できないでいた。

 

しかし、この局面においては一団の生を確実にしていた。黒い閃光はカルトの結界の杖が守りきり、役割を終えた杖が一瞬に砕ける。

「今のうちに人質を乗せて退却する、急いで!」

遠距離魔法とおもわれる攻撃を防ぎきると次弾を打ち込まれる前に退却の指示をだした。

先ほどの攻撃は相手位置が正確に把握できないと命中できるとは思えない、一刻も早く撤退する必要があった。

馬車の中に乗り込むと11人の女性が載っており、助けが来たことを認識した彼女たちは一斉に指示に従い馬車を飛び出した。

「あなた達はシレジアの・・・。」

「はい、シレジアの天馬騎士団です。シグルド様要請で人質救出に参じました。

話は後にしてペガサスの後ろに、増援と遠距離攻撃がきます。」

 

各々が天馬の後ろに乗り込み、順次飛び立っていく。ヒュリーとエーディンは全員の様子を伺ってからその殿を飛んだ。

 

「ああ、これでまたグランベルに帰れるのですね。シグルド様とあなたに感謝致します。」

「私はフュリーと申します、この作戦を考えついたカルト公にも是非お会いしてください。」

「ええ、シレジアの厚意をユングヴィの代表してお伝えします。」

二人は微笑みあって森林を滑空していくのであった。

 

その時、耳に空を切り裂いて迫り来る金属片に気付いた。フュリーはとっさに天馬に方向に転換を手綱と鐙で指示を送るのだが間に合わず、天馬の右臀部に手斧が命中したのだった。

天馬の翼は推力を失い、滑空から失速まで一瞬であった。

 

地上に落とされた二人のうちフュリーは地上に落ちる寸前に天馬から飛び降りて受け身をとるが、背中と左腕を打ち付けてしまいわずかに呻いた。エーディン公女は墜落の衝撃を受けて気を失っている。

意識を失うわけにはいかなかったフュリーの咄嗟の判断であった、すぐに腰に差している細身の剣を構えて敵襲に備えた。

 

「お嬢ちゃんいけねえなあ、俺が素直に尻尾巻いて逃げ帰ったとでも思ったのかあ?」

茂みから先ほどの逃走したはずのガンドロフが再び眼前に現れた瞬間、自身の甘さが引き起こしたミスに気付き叱咤する。

おそらく先ほどの逃走はフェイクであり、遠距離魔法はそのフェイクを隠すための手段であったのだ。

派手で威力の大きい遠距離魔法に警戒がいってしまいガンドロフが追走している可能性を見事に消されていたのだ。

 

「殿を飛んでいたのは失敗だったなあ、俺の手斧なら無音攻撃は可能だしあの高さだったら充分届くぜ。

女どもを取られちまったが、あんたが手に入ったのならまあよしとするか。」

ガンドロフの卑下た笑いがフュリーを恐怖に駆り立てられる、精神的優位を失ったフュリーは冷静さを失い正面から斬りかかる。

ガンドロフは涼しい顔をしてその一撃に合わせるように斧を降りかかり、刀身の薄い刃は一瞬で砕け散る。

その威力に突き飛ばされたフュリーは倒れこむが諦めるわけにはいかない、ここで諦めることはエーディン公女の命運をも諦めることになるのだ。地面に伏されそうになるも右手で支えて回転し、身をひねって立ち上がる。

「兄貴〜、やっぱり助けてくれると思ってましたぜ。」

茂みからさらに先ほどの部下が顔を出す、ガンドロフ逃走後捕縛したあの男は気にくくりつけておいたのだが復帰したガンドロフが縄を解いてこちらに向かっていたのだろう。

 

「お嬢ちゃんは甘いなあ、命を助けたからといって俺の部下は恩に着る奴はいないぜ。」

「そうそう、俺は気にしないぜ。」

フュリーは後ずさり腰のバックに手を伸ばすが、ガンドロフは即座に距離を詰めてフュリーを羽交い締めにする。彼女は天馬に聞こえる笛で救援をしようとしたがガンドロフの野生の勘が彼女の希望を即座に奪う。

「何を企んでいるか知らねえが、余計な真似はさせないぜ。」

「くっ!私はどうなってもいい。彼女と天馬にだけは手を出さないで!」

彼女の必死に嘆願にガンドロフと部下は少子抜けを起こして笑い出す。

 

「お願いできる状況か?お前たち二人は如何あっても俺に隷属されるのさ!」

「こ!この人でなし、きっとカルトが貴様たちを地獄に落としてくれる。」

 

ガンドロフは涼しい顔をして部下にフュリーを投げつけるように押し出す。

足元のおぼつかないフュリーはふらふらと部下の元に足が進んでしまい、受け止められてしまう。

 

ガンドロフは天馬に刺さった手斧を引き抜いてエーディン公女を担ぐ

「ふ、この場面で啖呵を切るとはいい度胸じゃねえか。おい、我慢できなかったっけ?ここで遊んでやれ!

済ませたらさっさとマーファに帰ってこい!」

 

何を言っているのかわからないフュリー対して部下の男は鼻息を荒々しく押し倒す。

「兄貴、その言葉待ってました!遠慮なくいただくぜ!」

「きゃ!な、何を!」

草場に押し倒され、色欲に塗れた男が顏を近づける。

ガンドロフはそのままエーディンを連れて立ち去っていくの止めようとフュリーは必死に叫ぶが男に組み敷かれた状態では身動きも取れず見るしかなかった、それどころか自身の純潔をも奪われる恐怖にも苛まれていく。

 

屈辱だった、カルトの命にも答えられずに敵の大将にいいようにあしらわれて現在は下品な男に陵辱されようとしているのだった。しかしここで諦めるわけには行けない、カルトはこれまで絶望とも言える状況からも危難を振り払い今日までに至ったのだ。

 

胸当てを肩口の革をナイフで切断、チュニックを切り裂かれながらもフュリーは股間に膝蹴りを見舞った。男は痛みでナイフを振り回し左腕を刺されるがフュリーは怯むことはなかった。刺された左腕を捻り、ナイフを取り上げると男の太腿部に突き刺したのだ。

 

「ぎゃあ〜!!」

部下の男はさらに素手を振り回して上半身のチュニックを強引に切り裂いてフュリーの肢体を露わにする。

少女と女性の境界線である、甘美な裸体に負傷をした男を未だに魅了した。怪我により萎縮したと思える性欲を呼び起こし、本能が男を突き動かしたのだ。

フュリーはその予想外の行動に再び境地に陥る、左大腿部にナイフが突き刺ささったままフュリーに欲情をぶち撒ける。

とうとう下半身にまで手を伸ばす下衆にフュリーの抵抗する力が残っていなかった、今まで荒くれの男に抵抗できていたこと自体に奇跡に近い。フュリーには再び自身の筋力を呼び起こす底力は残っていなかった。

(レヴィン王、カルト様・・・ごめんなさい。私は穢されてしまいます、その前に屈辱から逃れる事をお許し下さい。)

フュリーは舌を上下の歯の間に挟み込んだ、純潔を奪われる前に自決を選んだのだ。

 

 

もっとレヴィン王に仕えたかった、カルトに認めて欲しかった。レヴィン王とカルトの作る新しい時代を見たかった。

私よりも力ない市民はもっと屈辱を受けていたのだろう。このような事を受けてなお奴隷に身を落としても生きている彼らを尊敬した、でもフュリーには耐えられるものではない判断であった。

(私の体を穢しても、私の魂は穢せない!!)

フュリーは決死の思いで自身の舌に自決の想いを発したのだった。




少し暗い回になりました、少し卑猥な表現が出ていますが事実戦争にはそのような側面があると思いまして表現しました。

しかしフュリーにはそのような死亡フラグはありませんのでお付き合い下さい。


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死生

時間がない、ですが頑張りました。
誤字チェックに時間をかけられませんでしたので間違っていたらごめんなさい。

※ここでグランベル編は終わりとなります。


ガツン!!

フュリーを押さえつけていた圧力と重みがなくなり、身体が自由になる。

ゆっくり瞼をあげると、部下の男は天馬の体当たりによって吹き飛ばされフュリーの前に立ちふさがったのだ。

 

ガンドロフにより臀部に深い傷を負い、その斧を抜かれたことにより夥しい量の失血があるにも関わらずに主人を守ろうと奮闘していた。

「このやろう!やりやがったな!!」再び逆上した悪漢は斧を持ち天馬に襲いかかる。

 

「や、やめて!この子に手を出さないで!!シュリー、逃げて!!」

逃走するように指示するが、天馬のシュリーは逃げることをしなかった。

 

もう飛ぶことのできない天馬は大地を駆けて体当たりを繰り出すが普通の馬よりも駆け足の遅い天馬の体当たりなど当たることはなかった。シュリーはそれでも何度も切り返して当たらない玉砕を続ける。

 

「シュリー・・・、もうやめて・・・。」

フュリーは消え入るようにつぶやく、切り返すたびに滴る血液であたりは赤く染まっていく。

それでも必死にフュリーを守ろうと奮闘するシュリー。

 

必死に立ち上がってシュリーを助けようとするが、悪漢との攻防で精根が果てているフュリーにうまく力が入らないでいた。

 

「このやろう!」悪漢は斧を振り上げて体当たりを繰り返すシュリーに応戦する。

フュリーはぞくりと悪寒が走る、次の一撃をシュリーが受ければ間違いなく絶命してしまう。

シュリーは切り返す度に体当たりの速度が落ちてきているのだ、自分が何とかしないといけないのに・・・。

どうしてここで動けない、自身の身体を呪った。

 

「やめて〜!!」

フュリーの悲鳴は二人に向けられた、悪漢を止めるため、そしてシュリーを止めるために叫ばれた物であったが中身はまるで違う想いであった。

 

しかし無情にもその想いは届く事は無く、シュリー体当たりを繰り出して悪漢は斧を振りかざした。

 

シュリーは首筋に斧の一撃を受けて大量の血液が飛び出す。動脈を切断されながらも、シュリーは最期の力で悪漢の首に噛みついて同様に動脈を切断する。

その刹那に二人は血飛沫の中、無音でその場に崩れていった。

 

ブチン!フュリーの中で何かが切れる音がした。

形容のし難い感情の濁流が飲み込まれていくが感覚を無くし時間が止まる、思考は停止しているがその場の光景だけは鮮明に記憶され、次第に目の前が暗転していった。

 

 

 

「フュリー!しっかりしろ!!まだだ、君には成す事がある!」

倒れて行きかけた体を受け止めていたカルトは檄を飛ばして暗転する世界から引き戻す。

 

彼は帰還してくる天馬の群れにフュリーがいない事を即座に確認し、帰還ルートを地上から追跡してきたのだ。応援を呼ぶ時間が惜しく、砕けた杖の魔力探知をかけながらの到着であった。

 

 

カルトは同時に回復魔法を施してくれていたようで、痛んでいた四肢も疲弊した筋肉も落ち着きを取り戻していた。

しかし、疲労から回復した魔法は精神を癒したわけではない。突然その喪失感と、無力感が自身に襲いかかった。

涙が溢れかえるフュリーに再びカルトの檄が走った。

「まだだ!フュリー、君にはまだこの子に出来ることがある。

祈りを捧げているんだ!」

カルトはシュリーの元に先ほどガンドロフが砕いたフュリーの細身の剣の柄を持って歩んでいく。

「カ、カルト・・・。何を・・・。」

 

「残念だが、死者を生き返らせることなど出来ない、だが魂の想いが強く残っているこの子の願いを遂げさせてやる事はできるかもしれない。だからフュリー、祈っていてくれ。」

カルトは右手を水平にかざすと、光の魔法陣が出来上がりシュリーの遺体が呼応するように光り出す。

カルトが何をしようか理解できないが、カルトにならシュリーの何らかの助けをすることができる。

フュリーは両手を握りしめ祈りを捧げた。

 

 

カルトはさらに魔力を放出し輝く魔法陣をシェリーの遺体に移動させると暖かなその光はシェリーの体を光の粒子に変えていき、溶けるように遺体が消えていく。

そして完全に遺体は消え失せると虹のような粒子がカルトの持つ細身の剣に纏っていった。

 

「体を失いし者よ、恭順せし者に還る為に新しい命を生成せよ!」カルトの祈りとも言える言葉の後、剣の柄を一振りすると、一気に形付いた。光は霧散し、柄だけであった剣に刀身が宿ったのである。

カルトは一息つくとフュリーに歩み寄り、その剣を祈っていた手に添えたのであった。

 

「フュリーともっと共にしたい、君を護りたいあの子の心が自身の体を剣に変えて宿ったんだ。

この細身の剣も長年フュリーと共にあった剣、二つの心と体が今君の手に形を変えて帰ってきたんだ。」

 

「カルト・・・、ありがとう・・・。でも、今は泣かせて欲しい。」

彼女の嗚咽が森林に悲しく響き渡る。深き森はこれから彼女をどの様に慰めていくのであろうか、それともさらに過酷な運命があるのか。カルトにも予想がつかないのであった。

 

 

 

 

カルトとフュリーは一先ずエバンスに向けて帰還の徒についていた、カルトの頬には立派な紅葉が付いており、いまだに痛みが引かず熱を帯びた頬をカルトは撫でながら涙していた。

そう、カルトは上半身の裸体のフュリーをほとんど無視し、大魔法を使いしばらく会話していたのであった。

我に帰ったフュリーから早速のお礼、いやお釣とでも言うのか左頬を強かに打たれた。

 

「乙女の双丘を見た罰よ。」今はカルトのマントを上半身巻き、切られた胸当ての革を布で補強しての出で立ちである。

「へいへい、でも言い訳ではないぞ。あのエンチャント魔法の奥義は死んで間もない状態でしか使えない大魔法なんだ。それに、フュリーの乳に欲情していたら集中力が持続・・・」

再び、カルトの反対の頬に紅葉が打ち付けられた。

「そんな言い方をしないで、あなたはシレジアの王族なんだから。」

「はい・・・、反省します。」

カルトはとぼとぼと歩き出す、がフュリーはその頬に口づけをする。

「あちっ!」

唇の感触よりも頬の傷みにカルトは飛び上がる。フュリーは少しはにかんで笑いかけた。

「カルト本当にありがとう。

でも残念だったわね、唇の感触がなくて。」

 

「フュリー、お前・・・。」

喪失感から、彼女は自暴自棄になってこんな事をしたのかと一瞬思ったのだが彼女の瞳にはさらに力強い光が宿っていた。

 

「安心して、カルト。私は負けない、この剣に誓います!

だからカルト・・・お願いがあるの。聞いてもらえる?」

「ああ、どういう内容だ?」

彼女の口から出た内容にカルトは驚愕を隠せない物であり二人はしばらく問答の末、彼女の考えに賛同してしまうカルトであった。

 

 

 

エバンス攻略!

押し寄せた大量のヴェルダン兵をごく少数で撃破、ヴェルダン王国の一部まで制圧した報告はグランベル内外に及んだ。グランベルでは大きな歓声と喝采が響き渡り、隣国であり大国のアグストリアでは震撼に見舞われてとうとう二国間では済まされないような激動の前触れをカルトは感じていた。

 

まずはエーディン公女の救出失敗、これによりシアルフィはエーディン公女を救出する為のさらなる戦争を仕掛ける大義を持てた事を意味する。

前回のヴェルダン侵入ではユングヴィの金品を略奪などで痛手を負ったが、今度からはグランベルによる制裁と救出という名の侵略が可能になりシグルドはヴェルダン王国から恨みを一身に受ける事になる。

 

そしてその後はグランベルの役人共が押し寄せてきて、属国扱いとなっていくのであろう。アズムール王が如何に博識高く、良識を持っていても足下の事情にまで精通は出来ない。

この百年大国として安泰し続けてきた国家体制はとうに腐敗し、破綻している。属国となったその末路は想像に容易く、吐き気を覚えるのであった。

 

 

エバンスはヴェルダンに位置しながらグランベル領とアグストリア領に隣接し、有事の際に起こる小競り合いには常に名前が挙がる土地である。その為民は圧倒的に少なく軍事拠点としての意味でしかない場所となっており、街というより砦の印象が大きい。

 

以前はアグストリア領であったのだが、かつてここよりグランベルに攻め込もうとした際にエバンスをヴェルダンが侵攻しアグストリア軍がグランベルに内で孤立し全滅した歴史があった。

 

その時よりエバンスはヴェルダン王国の領土になったのだがこの歴史を物語るように、迂闊にここから進軍を進めると第三国の侵攻で攻略されてしまい退路を断たれてしまって全滅するケースがある。

 

エバンス内にてバーハラから派遣された将軍などとエーディン公女救出の軍議をするのだが、シアルフィに退路を護る後衛部隊に割く戦力は無く、他の諸公達もイザーク遠征の最中でもある現状ではヴェルダンに派遣する程の戦力は建前上では持ち合わせていなかった。

 

軍議が難航を極める中、アグストリア連合王国ノディオン王であるエルトシャンの従者がシグルドの背後を守るとの書状が持ち込まれた。将軍たちは罠だと騒いだが、シグルドはアグストリアとは無関係に友人の申し出を快諾し、感謝の書状を即座に作成し従者に渡したのであった。

 

シグルドの、どんな状況下においても友の申し出を損得なしに受け入れるその情の厚さにカルトは笑みを浮かべた。これからのグランベルに必要な人材が彼であるのだろう、クルト王子が彼と同様の気質を持つバイロン公と懇意にしている理由がよく理解できる。

しかし懇意にするということは、特別扱いされない者の嫉妬は計り知れない。グランベルの不穏な空気をカルトは感じていた。

 

 

軍議にてノディオンの使者の申し出を乗るか反るかの軍議になるが、シアルフィの部隊が率先していることからシグルドの提案通りになった。バーハラに将軍達も強く反発すれば侵攻に成功した時の立場はなくなるとの判断だろう、逆にうまくいかなければシグルドに全ての責任を負わせればいい。

やはり連中は気に入らない、カルトは会議場に興味はなくその場を後にしたのだった。

 

 

「カルト様・・・。」呼び止めるのは従者であるマリアンであった。

「やはり俺にはお偉いさんが行う会議には参加しない方がいいようだ、聞いているだけで眠くなる。・・・ところでマリアン、また闘技場に行ったな?」

カルトは彼女の纏う雰囲気からすぐに察する、少しづつではあるがホリンのような剣士としての実力をつけているように感じた。

 

「あうう、やっぱりばれましたか・・・。」彼女の言葉にやはりと思い、軽く拳骨を落とした。

「・・・それで、今回はどこまでやったんだ?」ギロリと彼女を睨み付けて正直に話すように仕向ける。グランベルに来てから隙を見ては闘技場に通うので心配の種が後を絶たずに頭痛がしてくるのだった。

 

「5連勝しました、けど次の方の雰囲気がすごかったので始めの斬り結びで降参しました。私と同じ女性剣士で、あんな早い剣捌き始めて見ました。」

 

「何だって・・・。」カルトはその言葉に少し引っ掛かる物を感じて聞き返す。

「もしかしたら、その女性剣士・・・。黒髪の剣士ではなかったか?」

「はい・・・、よくご存知ですね。長い髪の女性で凄く美人な剣士でしたよ。」

 

「この馬鹿、それはきっとホリンが探している女性だ。」

「えっ!じゃあそれはイザー・・・、ムグッ!」彼女の口を押さえる。

(馬鹿を続けるな、ここでそれを言って誰かに聞こえたらどうする?)

「むぐむぐ」(すみません。)カルトは手を離して開放する。

 

「しかし、何でまたヴェルダンに来ているんだ?

ホリンの予想ではミレトス辺りに逃げるのではないかと言っていたはずだ。」

 

「世間知らずで適当に逃げていたとか・・・。」マリアンは軽く答える。

カルトは軽くマリアンを睨み付けて小さくさせるのだが、あながち間違っていないのかも知れない。

 

それとも、剣の腕に過信してグランベルを突っ切ってきたのかもしれない。

いや、剣の腕に過信している可能性があるとすれば、グランベルに敵対しているヴェルダン王国に傭兵として参加して復讐をするつもりではないかとまで考え付いた。

王子を匿っているとはいえあの気丈なイザークの民の気質を考えれば、そのくらいの可能性もある。

 

どちらにしてもホリンと連絡を取る手段が出てきた。奴はまだミレトスにいるのだろうか・・・。

 

 

 

 

ホリンはなんとアグストリアのイディオンにいた。彼はグランベルの動乱前にエバンスに着いた時、アイラはどちらに向かったのかわからずホリンは予想の本命アグストリアに向かいデューは意外性な一面を考えてヴェルダンに向かった。

 

イディオンで情報を収集している時にグランベルとヴェルダンの動乱が起きてしまい、アグストリアからヴェルダンに戻る術を失っていたのだ。

情報収集を行っていてもアグストリアには情報が一切ない事から、ヴェルダン領にいる可能性が高くなり、ホリンは焦りを覚えていた。

 

僅かな希望に賭けてイディオンの城主、エルトシャン王に謁見を願い出てようやく会見できる場へと進むことが出来たのであった。

城門の歩哨兵に謁見嘆願を申し出て早四日が経過していた、父から譲り受けたイザークの国家紋章の剣を見せてようやくの対応であった。

 

 

「お初にお目にかかれて恐縮でございます、イザークのホリンと申します。」

会見の場にホリンは方膝を付け、足許から視線を外さずに申し上げた。

イザークの貴族とは言え、亡国となる寸前の状態になっているので国家威信はない。アグストリアのイディオン王に謁見として当然の対応であった。

 

「ホリン殿、頭を上げていただきたい。イザークの状況はアグストリアにまで報告は来ているが痛み入る状況に心中をお察しする。」

ホリンはゆっくり顔を上げてその姿を見上げた。獅子王と二つ名を持つエルトシャン王は力強い眼光を放ち、気遣いの言葉を発してはいるが相手を見下すことも過小評価をする様子はなくホリンの本質を見抜くが如く見据えていた。

「エルトシャン王、心遣い感謝いたします。実はこの度お願いがありまして参上いたしました。突然の申し出とは申しますが、どうかまずお話を聞いていただきたい。」

 

家臣たちは値踏みするようにホリンを見据える、彼はイザークのソファラ城主の息子である。対応を間違えればグランベルに敵対の意を持つ事になりかねない状況で素直にホリンの言うお願いを聞けるとは思えなかった。

しかし、この交通封鎖を突破するにはイディオンの許可がどうしても必要となる。ホリンは賭けに出たのであった。

 

家臣たちの同様の中エルトシャンが進み出る。

「申してみろ、グランベルからはイザークの姫と王子が立ち寄れば身柄引き渡しをアグストリアに要求されているが亡命者まで引き渡せとは言われていない。できるものなら協力しよう。」

家臣どもが一層ざわめきたつがエルトシャン本人は歯牙にもかけぬとは言わんばかりの立ち振る舞いであった。

ホリンはこの男の人格に感謝する。自身の中でも話ができることから徐々に伝え、ヴェルダンへの交通封鎖を解いてもらう事に尽力しているのであった。




フュリーの剣 シェリーソード

剣 フュリーのみ使用可能

威力 10
重さ 2
命中 100
防御 +5
魔法防御 +5

カルトのエンチャントマジックを用いて、天馬のシェリーの体と魂を細身の剣に封入し具現化した細身の剣。
カルトの作る武具の中でも突出した名剣だが、複雑な条件をクリアした事によりつくる事に成功した。

複雑な条件 武具も愛馬も大切な存在だった。
二つとも破壊されて間も無い状態だった。
使っていた主人が側にいた。


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三章 ヴェルダン編 ジェノア城

ヴェルダンは聖戦において重要な部分と捉えています。
書く量が多くなりますがお付き合いの程お願い致します。


「要は貴様は喧嘩を売りに来たわけだな。」

カルトは白銀の剣を一気に振り抜いて横一線する、驚愕に色塗られた青年は自慢の斧の柄で防いで止めた。

「貴様!何をやっているのかわかっているのか!」

「分かっているさ、喧嘩を売られたんだら買ったまでだ。」

カルトはすぐさま、ウインドを発動させて風の塊を至近距離からぶつけ後方の城壁まで吹き飛ばした。

 

 

エバンスにて一騒動が起きた。

エーディン公女の救出失敗を叱責していたドズル家のレックスがカルトに皮肉を交えていた時であった。

カルトは当初、その言葉を甘んじて受けていたのだが事態は変貌する。

 

シレジアの天馬騎士団、特にフュリーへの避難が大きかったのであるが、カルトは怒りを押さえ込み「天馬部隊の失敗は上官である私の責任、責めるのであれば私にしてもらおう。」と対応していた。

 

レックスはそのつまらない返答にカルトへの興味を無くしたのか、立ち去り際の一言がカルトに火を付けた。

「市民を連れ帰ってきてもエーディンを連れて帰れなければ何の意味もない。」

 

この一言が冒頭の戦闘のきっかけとなったのだ。

 

レックスは柄を持ち直してカルトに迫る、その立派な体格に圧倒的な筋力で遠心力を巧みに巨大な斧を操っている。ヴェルダン兵とは違うその扱いの高さにカルトも心底感心するが、今はこの馬鹿の鼻っ柱をへし折る事に燃えていた。

 

「ウインド!」カルトは再びレックスに向けて魔法を発動させる、その効力の予想にてサイドステップでかわそうとするが発動する様子はない。

「はははは!焦って精神が乱されたか!死ねっ!」

レックスも全く手加減する様子はない、その暴力の塊とも言える一撃をカルトの脳天に目掛けて振り下ろされた。

カルトは脱兎のようにその一撃をかわして距離をとる、レックスはその敵前逃亡のような逃げ方に呆れてしまう。

 

「威勢がいいのは不意打ちの時だけか、貴様のような奴がシレジアの部隊長とは人材不足な国だな。」

挑発を発するレックスにカルトは眉をひそめる。

 

「あんたは、自国の民がヴェルダンに攫われたのになぜあんな事を言ったんだ?エーディン公女も市民も同じ女性、意味がないとなぜ言う。」

 

「それが何だと言うんだ?貴様はエーディンを救出する事が目的だったんだろ?」

「確かにそうだ、しかしエーディン公女のみを救出しても自国の民が攫われたままでは彼女に笑顔は戻らない。あのお優しい公女はそう思うはずだ。」

 

「馬鹿な事を、エーディンと一般市民を同じに考えている貴様の方がどうかしている。話にもならんな。」

レックスは斧を肩に担ぎ、カルトを見下す。カルトは笑みを作ってレックスを見据えた。

 

「王族の繁栄を助ける市民を軽視する奴は俺が許さない、一度頭を冷やすんだな。」

カルトは右手を水平に流すとレックスも前方の空間が一気に爆ぜた。

 

「うおお!」

爆風にさらされたレックスはユン川からエバンスに引き込まれた生活水路まで吹き飛ばされ、頭から落ちるのであった。

 

カルトは先ほどのウインドをある所定の空間に作用させて圧縮弾を作成していた、タイミングを見計らって風の圧縮を解放し爆発のような現象を作り出したのだ。

手加減をしなければ手足ももぎ取ってしまうくらいの威力があるので魔力のコントロールを必要とする高等技術である。

 

 

「カルト!レックスは僕の友達だよ、何て事をするんだ。」

「すまん、俺もちょっとやり過ぎたよ。つい・・・。」

アゼルの叱責にカルトはお決まりの謝罪を口にする、彼の言葉を何度聞いてきただろうか。兄アルヴィスへも簡単に挑発をしてしまうふてぶてしさにアゼルはとても年上と思えなく感じる、まるで癇癪をおこした弟のように弟の思ってしまうのであった。

 

「でも、たしかにエーディンがあの場にいればカルトの言う通りになると思うよ。彼女は思いやりがあって、みんなから愛されるような方だからね。」

「そうだなあ、アゼルも愛している人だからなあ。」

 

「カルト!」アゼルが振り向いた時には逃走していたカルトであった。

 

 

 

「カルト様・・・。」

アゼルから逃げ出した後、エスニャとマリアンが城内に入る手前で声を掛けられ立ち止まる。

 

「マリアンにエスニャ、どうしたんだ?」

 

「フュリー様はどちらに行かれたのでしょうか?まだ手当も十分にされていないのに。」とマリアンが

「やはり、エーディン様を救出できなかったことが原因なのでは。」とエスニャが語りかける。

 

「今の彼女にはそんな心配は無用さ、きっと彼女は大きくなって帰ってくる。

信じて待とう。」カルトは二人に笑顔で答えた、無論カルトの内心心配ではあるが彼女の意思をあの時挫けば成長する機会がないのかもしれないと思い許可したのだ。

 

「しかし、天馬の失った彼女は・・・。」マリアンはこの数ヶ月でフュリーの原動力に相棒のシェリーが拠り所になってのは承知している、だからこそ精神がタフではないフュリーを心配してくれているのだ。

 

「彼女は次の相棒を探しに精霊の森に向かったんだ、きっとシェリーの剣が導いてくれるさ。」

カルトは命を散っても尚、彼女を護る存在にもう一度信頼するのであった。

 

「ところで、二人ともどうしたんだ?俺を探していたように思えたのだが・・・。」

「!すみません、うっかりしていました。ホリン様がノディオンのエルトシャン様とエバンスに来訪されています。」マリアンが慌てて話す。

「何!?ホリンの奴、無茶をするな。」

「今、シグルド様とお会いしており、その後カルト様にも是非おはなしがしたいとの事です。」

「わかった、すぐに行く。」

 

 

「貴公がシレジアのカルト公か、ホリンやレヴィン王からも度々話しを聞くが随分と型破りな御仁と聞いていたがここまで若いとは思わなかった。」

エルトシャンは清々しいとまで思えるほど率直な感想にカルトは好感の印象を与えた。

自信があるからこそ揺らぐことのない意志、後悔をしたくないからこそ言いたい事を伝えるその目に最近では見ることのできない王としての器を垣間見たかるとであった。

 

「さすが、隣国にまでその獅子王の名を轟かせるエルトシャン王、その気概の鋭さに圧倒されてしまいました。

シレジアのカルト公です、お見知り置きいただきまして恐縮でございます。」

カルトは大きく頭を下げて、礼を尽くす。

 

エルトシャンは一つ笑みを作るとさらに歩を進めてカルトとの距離を詰めた。

「レヴィン王からも聞いていると言った筈だ、貴公はそんなに殊勝な男ではないのだろう?」

 

再開の挨拶を後回しにしているホリンはこの2人の動向を見守った。

エルトシャンがエバンスに来た理由の最大は友であるシグルドに会いに来たのだが、それと同じくらい意義があるカルトへの訪問はホリンには些か理解できないでいた。

 

頭を上げたカルトはいつもの口調や物腰に変わっていた。

「レヴィンの奴め、余計な事を・・・。

エルトシャン王、あなたの言う通り私は少々言葉が悪い。構わないようならいつも通りに言わせてもらう。」

 

「ああ、俺も腹の探り合いは苦手でな。できれば単刀直入が俺のスタンスだ。」

 

カルトは笑みを作った。

「では、シレジアとしての話しをさせてもらおう。

現在エバンスにシレジア軍が駐留しているのはグランベルに対して同盟国と宣言したレヴィン王の意思であり、俺はその意思の元でシレジア軍の統率をしている。

ヴェルダン国が今後ユングヴィのエーディン公女の引き渡しを拒否し、紛争になった場合はこのままシレジア軍も参戦する。

しかし、アグストリア連合王国がヴェルダン側と同盟等を締結している場合、我らは即刻全軍引き上げる事をセイレーン公カルトの名を持って約束する。」

 

ホリンはその言葉を吟味する。

つまりグランベルとの同盟を結んではいるがアグストリアともなんらかの盟約を持っており、シレジア国としては大国グランベル以上に重要な盟約である事が伺えた。

 

「了承した、しかしアグストリアとしては全く知る由もない事だ。

ヴェルダンとアグストリアには交易はない、シレジア軍が侵攻しても問題はない。」

 

「では、王は私になぜお会いしているのですか?」

「これはシグルドにも伝えたのだがヴェルダンと事を起こした場合、野心あるアグストリアの貴族どもがグランベルに諍いを起こそうとする存在が多少ならずといるのだ。

私が背後を守るのだが、間違ってもシレジアは参加しないように心がけて欲しい。」

 

「と、いうことは貴族と言うのは西側か?」

カルトのその言葉にエルトシャンは頷く、カルトはその厄介な人物を思い浮かべて苦笑いをするもだった。

 

「お気遣い感謝いたします、その情報がなければレヴィンに顔向けできなくなるところでした。」

「察しがいいな、我が軍が君達を護る。背後を任せてくれ。」

 

「心強いです、できればヴェルダンもここでエーディン公女を引き渡してくれれば大人しく全軍祖国に帰還できるのですが・・・。」

「難しいな、近年ヴェルダンはバトゥ王の統治により随分大人しかったのだが血気盛んな王子達の鬱憤が一気に上がったのだろう。グランベルのイザーク遠征が引き金となってしまったな。」

カルトの意見にエルトシャンの的確な意見が暗い影を落とすのであった。

 

 

「ホリン道中の話は楽しかった、姫君救出がうまくいったらまたノディオンに来てくれ。歓迎する。」

エルトシャンは室内退出にてホリンにも笑みを送り、この場から颯爽と出て行った。

獅子王エルトシャン、黒騎士ヘズルの血筋で魔剣ミストルティンの使い手。

その必殺の一撃を受けたものは間違いなく絶命すると言われている絶対の剣。

 

彼やアルヴィスのように神器を持つ者と自身のように持たない者では同じ直系でもここまで明確に差が出る事を意識してしまうのであった。

ナーガの書を手に入れた時どのように変化するのであろうか?

彼らと肩を並べられる存在になれるとは思えないカルトであった。

 

 

 

カルトの願いも虚しく、ジェノア城よりキンボイス王子率いる一団が出撃しているとの情報からシグルドは迎え撃つ体制をとった。

マーファに使者を送ろうとした矢先の出来事で、やはりヴェルダンは強硬な姿勢のようであった。

 

出撃しているキンボイスの軍勢は先の戦いの数に任せた連中とは違い、多少の訓練はされているのかそれなりに統率は取れているらしい。油断するわけにはいかない情報がもたらされていた。

 

フュリーがエーディン公女と接触した森のさらに南側にジェノア城があるらしく、その森を抜けるか迂回してジェノア城に向かう必要がある。さらに敵には地の利があり大軍を擁している。

彼らの戦術を読み切らないと包囲され、下手をすればエバンスを奪還されてしまう恐れまである。

退路と補給物資の供給元を奪われた軍に勝ち目はない、部隊の侵攻状況を逐一確認する必要があるのだ。

 

カルトは即座に上空からの目があるシレジアの天馬部隊に侵攻状況の確認と奇襲を、魔道士部隊は後方待機からの魔法支援を命じてカルト本人はシグルドと共に騎馬部隊の後方へ付く事とした。

魔道士部隊とは伝心の魔法でクブリと連携できる、がそれは滅多に使用することはない。

それ程クブリは優秀な魔道士であり指揮官でもあるからだ、カルトが指示を出す前に対処をしている為に使う事は皆無に近かった。

 

 

「シグルド公子、ジェノア兵が森を抜けた所で迎え撃とう。森の中では奴らの方が戦術に長けているだろうし、後続部隊に被害が出る。注意を前衛に引きつけて天馬部隊をジェノア城に送って奴らの陣形をみだす。」

 

「しかしここ数戦の戦いで奴らも空中への警戒を意識しているはず、大弓など準備されていたら天馬部隊に被害が出るぞ。」

 

「確かにそうだしかしながら我らには時間がないぞ、ジェノアを叩いてマーファに攻め上る時間が。」

カルトの言う時間はもちろん、エーディン救出における時間の事である。

ジェノアから敵軍が出撃してきたのはガンドロフ王子の発令があったからであろう。それは南の森で逃げた王子がマーファに辿り着いたことを意味し、エーディンもマーファに連れ帰られた事になる。

彼女が城に囚われながらも彼女の無事を保証させる為には、この進軍でマーファ城も緊急事態にさせて人質に手を出す時間を無くさせる事が先決となるのだ。

 

「分かっているさ、しかしここヴェルダン国には弓の名手の部隊がいると言われている。

シレジア部隊に大きな被害があってはグランベルとしても申し訳ない、君が優れた頭脳の持ち主とは知っているのだがここは私の作戦に乗ってくれないか?」

総指揮官のシグルドにここまで言われてはカルトも何も言うべき言葉は無かった、カルトは笑みを浮かべてその言葉に従うのであった。

 

 

キンボイスの部隊はまさに力押ししか考えない猪突猛進ともいえるスタイルで、自慢の森林戦には持ち込まず突撃を繰り返すのみであった。いくら統率が取れていても実戦で効果がなければ意味がない、それはなによりキンボイスの指揮官としての能力の低さが伺わせた。

 

初戦の戦闘では森林内での交戦となったが、グランベル軍は退却と見せかけた後退にまんまと突撃し、現在は平野での交戦に移り変わった。

平野になれば騎士達にとっては水を得た魚、騎馬による移動力駆使し陣形をくんだ突撃にて瞬く間にジェノア軍が劣勢になっていった。

そこへ、シレジアの魔道士部隊の魔法攻撃とユングヴィにて重傷を負いつつも今回参戦したミデェールの弓騎士部隊が後方攻撃も前衛に貢献し被害も少なくしていた。

ジェノア軍は撤退し、増援部隊と合流して再度進行する予定のようであった、そこはシレジアの天馬部隊がその動向を天空からの伝令によりもたらされた。

 

この瞬間をシグルドは待っていたのであった。

シグルドの騎馬部隊は一気に森林の西側から駆け抜けてマーファ城に向かったのだ、残された一部の騎馬部隊と徒歩部隊がのみでキンボイスのジェノア城を攻める形をとった。

 

確かに本部隊が半壊したキンボイスの部隊は増援を隠し持っているとは言え本部隊より火力は劣る、部隊を二つに割ることは一つの賭けに近い。

マーファ城にはキンボイスの部隊を大きく上回る数の戦力が温存されているのだ、しかしシグルドはその大胆な計画を自身を先頭に実行する事を迷いなく決めた。

彼は自身の騎士団にキュアン、ミデェール、アゼルの部隊を引き連れてマーファに全速で向かった。

残されたレックスの部隊にカルトのシレジア部隊と混成部隊が参加する形となり、ホリンやエスニャもこちらに残る形となったのであった。




この小説内でのルールを少し書かせていただきます。

ゲームでは特性上剣は斧に強く、槍に弱いというような設定はありません。
魔法も同様で優劣はありませんが光と闇は互いに打ち消しあう存在です。

魔法はMPがあり、無限に打ち出せるわけではありません。
精神力や感情が大きく乱れているときは魔法もまともに発動しない時があります。

スキルは存在しませんが、太陽剣、月光剣、流星剣は物語上面白くしたい意味で取り入れています。ゲームのように反則的な強さではありません。

聖遺物を持っている者の能力値上昇はこの小説でも取り入れています。
よって彼らにまともに戦えるのは同じ直系の聖遺物を持った者でないと対抗できません、ゲーム上では装備していないと能力値上昇できませんがこの小説では手元にあれば能力値が上昇しています。

直系の者でも、聖遺物を持たないと聖光は発しません。
ただし、聖痕を持つ者の中にはわずかな聖光を察知する者がいます。


以上となります。
この小説のルールに疑問等がありましたら連絡いただければ私なりの見解を追記いたしますのでお願い致します。


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城内戦闘

更新遅くなりました。
四月に入っても厄介な仕事が多くて、たまりません。


カルト率いるシレジア軍とレックスのグランベル軍はジェノア城の北の森林を東から迂回するように回り込みジェノア城へ急いだ。

敵軍の前衛部隊が瓦解した瞬間を狙ったのでジェノア兵が森林から抜けてエバンスには向かっていないと推測している。

念のため一部の天馬部隊を森林をの北に待機しているが信号がこないことよりまだ問題がないことを意味していた、一刻も早くジェノア城にたどり着き城前決戦に持ち込みたいカルトはさらに騎馬部隊を急がせた。

ここでジェノア城での戦闘に持ち込めばマーファに向かったシグルド軍の背後にも、エバンスに向けて進軍は不可となる。シグルドの発案の大胆さは戦力を二分してしまう危険性と共に、どちらかの瓦解は全滅をも意味しているのである。

その状況下においてジェノア城決戦に自国ではないシレジアのカルトとグランベル内ではシアルフィ家と相当な軋轢を持つドズル家の公子を任命してしまうシグルドの胆力には驚くべきものがある。

 

マーファ決戦においてマーファ周辺はこのウェルダン国では珍しく平地が続いている、マーファ軍は数こそ多いものの連お中が得意とする奇襲攻撃は限られてしまうだろう。

シグルドが選出した自身の部隊とレンスターの騎馬部隊を中心とした陣形で臨めば、少数でも突破できると信じての部隊分けと思われた。

ジェノア城においては奇襲を察知する空中部隊である天馬部隊と多彩な攻撃方法を持つ魔法部隊、最大の攻撃力と防御力を誇るレックスの斧部隊が先陣突破をする清濁併せ持つこの部隊が相応しいとシグルドは判断したと思われた。

 

確かにこの部隊分けは適切ではあると思うが、カルトとレックスの軋轢は一切考えていない。カルトは正直苦笑さえしてしまう。

シグルドにももちろん二人のエバンスでの事は耳に入っている、それにも関わらずこの部隊分けをした理由は彼なりに私達への処罰でもあるのだろう。

 

カルトはレックスの動向を確認するように、ちらりと並走している彼を見る。レックスもその視線に気付き険しい顔をする。

「カルト公、とりあえず以前の件は後回しだ!忘れたとは言わないが貴様より武勲をあげて騎士として勝たせてもらうぞ!」

 

レックスはそういうなり速力を上げてカルトの前へ出て行く、その姿にカルトは苦笑ではなく微笑に変わっていくのであった。

彼もまた聖戦士の末裔、カルトのいう言葉を理解したのだ。

豪快なランゴバルト卿の性格が彼にはいい方向に伝わったのだろう。いや正確にはドズル家は大きくなり政治に介入した結果、あのようなに変化してしまったと思われた。

 

ジェノア城では再編成を終えた兵が我らを視認するや否や突撃に入る、まずは騎馬部隊と衝突し激しい怒号と蹄の音が交錯する。

初めのうちはシアルフィ軍優勢であったがジェノア兵は森林からも現れ、陣形を乱されて乱戦となる。

後方支援部隊が多いシアルフィ軍は後方部隊の機能が今ひとつ働かない為に今までのようにスムーズにジェノア軍を撃破できないでいた。

 

カルトにも敵兵が襲ってくることがあり、マリアンが下馬するなりジェノア兵と斬り結んだ。

ジェノア兵はマリアンと二度鍔迫り合いとなるが技量があるマリアンの前にすぐさま袈裟斬りをくらい倒れこむ、すぐさま主人の方を向き直り確認するが心配はない。

カルトに向かってきたもう一人はカルトの剣で血潮の溜まりに生き絶えており、さらに魔法の一撃の準備までしていた。

 

「ウインド!」左手より繰り出された風の刃は苦戦している者への援護するために射出され、まともに受けたジェノア兵は右腕を切り落とされてその場に倒れこんだ。

 

「サンダー!」女性魔道士のエスニャもカルトに続いて魔法を放つ、雷の魔法は放たれた瞬間に光の速さで空気中に放電され狙われたジェノア兵は何が起こったのかわからないまま昏倒していく。

魔法で具現化された雷は自然現象で起こる雷とは違い、破壊力は微々たるものである。しかしエスニャほどの魔道士であればサンダーも強力な一撃となり、屈強な男であっても倒れてしまうにである。

 

「マリアン、気をぬくな。」

ホリンもマリアンの背後によったジェノア兵を一瞬で首を撥ねて危機を払う、簡単に人の首を飛ばすホリンの技量をマリアンが疑う余地はない。

ここまでの技量になるまでホリンがどれくらいの戦闘と訓練を積んできたかわからない、しかし自身が強くなるに従って目標となる彼までの道のりが遠く感じてしまうのであった。

 

戦闘が一時間を経過する頃、暗雲漂う事が予兆するように大粒の雨に見舞われた。

視界が思ったより悪く、天馬部隊も飛行を続ける事が困難となる、カルトは天馬部隊をエバンスに撤退を命じ、地上部隊のみでの戦闘維持をすることとなった。

 

レックスの斧騎士部隊とシレジアに魔道士部隊に被害が出たが敵兵はほぼ壊滅となり、捕縛する処理が続いた。キンボイスは不利と見るや場内に逃げ込んだとの情報が入り、すぐさま城内戦へと切り替えた。

 

 

「ちっ!城内戦闘とは、潔くない奴だ。俺の斧の錆にしてくれる。」

「確かに。しかしここは焦らないほうがいい、不利で逃げ込んだようにも思えるが城内戦を想定した奇襲を展開している可能性もある。」カルトはレックスを諌める。

「そんな連中が騎馬相手に平地で戦闘なんかするか?

時間がないんだ!とっとと奴の首をシグルドに差し出せばいい!!」

 

ジェノア城内の詰所を制圧したシアルフィ軍は兵たちの休息と、救助による作業を行いつつ軍議に入った。

ジェノアに入ったばかりで市街地では戦闘が行われており、市民たちは民家から出ないように声をかけつつジェノア兵の排除し制圧区域を広げていく作業に入っている。

 

市民たちはキンボイスに圧政を敷かれているようで、民家にジェノア兵の確認の度に押し入るが圧政者の始末を涙ながらに懇願する者がいたそうだ。孤立したジェノア兵は追い詰められ、自ら捕虜として進み出るものが横行し始めた。最後の戦いに臨もうとする者は少ないようだ。

しかし少数精鋭が背水の陣で臨む者達のみで構成される事になる、慎重に事を進めなければ余計な被害が出るとカルトは予測したのだが豪快なレックスは一気に攻め登らんと勇ましげに捲り上げる。

 

「レックス公子急ぐ気持ちも分かる、しかし今は先ほどの戦闘での被害を立て直すための時間と救援物資が必要だ。

この街に来たての私たちには救援物資はエバンスからの運搬しなければいけない、天馬部隊に命じているので今少しの時間が欲しい・・・、それに・・・。」

カルトは俯き加減にその先の言葉をかき消した、その行動に今この場にいる者は見張ってしまう。

今まで明快に答えを導き出し、グランベルの重鎮を前にしても一歩も引かないカルトが言葉を選んでいる光景は初めて見流もにでったからであった。

カルトのそばにいるマリアンやホリン、エスニャもクブリもその先の言葉に予想がつかずにいる。

 

「カルト公、どうされたのだ?」レックスはその先を促す。

「できれば、ジェノア内の方達にも救援物資を与えて欲しい。」

カルトは俯いた顔を上げてその先を伝えた。

 

「グランベルの防衛では自国の為から各村や町から救援物資や金品を譲ってもらったが、ヴェルダンに入ってからそのような物資供給は一度もない!ここで分け与えてはこれからの進軍が困難になることくらいカルト公も理解しているだろう!」レックスは強く口調で嗜める。

これは怒りではない、正当な意見として最もである。軍の維持を第一とするならばレックスの発言は意にそうものである。

「レックス公子の言うことは最もだ、しかしヴェルダンにきてから救援物資を頂けることを拒否され続けている理由があるんだ。」カルトは重々しく伝える。

 

レックスはヴェルダンの人々が我々に救援物資を拒否されてきている事は自国を守るために、侵略するグランベル軍を助けるような連中はいないと安易に考えていた。しかし、カルトは救援物資を拒否される理由を見つけ出していた事に驚きを見せる。

 

「この国は豊かな土地で食料も豊富な国だ、他国に輸出できるくらいなのだがバトゥ王の二人の王子による無理な徴税で村々には十分な食料はないらしい。我々に救援物資を渡したいが、渡す余力もない村々ばかりだった。

さらにこの辺りでは疫病が蔓延しているようで床に臥せっている子供や老人が教会に押し寄せている。

我々はエーディン公女の救出する為で、単なる侵略者でないのならば支援するべきだろうと思う。」

 

レックスの考えた安直な考えではヴェルダンの村々は自国に押し寄せるグランベル軍に対しての嫌がらせ、としか考えていなかった。いかに大義があるからといっても自国を制圧するかもしれない連中に金品や物資を渡す民なんているわけがないと思い込みもあってその思考になっていたのだ。

貴族であり、騎士としての素養を受けてきたが他国の戦力とは違う情報の中から相手の状況を掴み取りここで支援をしようと考えるカルトの思考は自身には全くなく愕然とした。

 

カルトと先日の言い争いからレックスは綺麗事を言うだけの気に入らない連中の一人として扱っていた。

ここまでの戦闘の運びから有事におけるここまでの配慮にレックスは感心してしまう。

自身の部隊からレックスの部隊までの戦闘状況に合わせた魔法の支援、回復の徹底。天馬部隊の支援と、隊列変更。城内にもつれ込む前の詰所での打ち合わせ場所の確保と、各村々の状況と支援物資の提供の指示。

 

レックスには細部における状況判断から、発令のタイミングまで全て一人でできるようには思えなかった。

いや、わかっていても思考を切り捨てて出来ることしかしなかったのではないかと判断した。

カルトという男は気付いた事は決して切り捨てない男なのだ。レックスはそう判明した時、自然と笑顔が出ていた。

 

「カルト公いいだろう、あなたの言う通り支援物資の提供をしようではないか。

しかし!条件はある。この城内戦闘で、キンボイスを捉える事を条件とする。」

レックスの意見に皆一堂に固唾を飲んだ、その条件は簡単な事ではない。いつどこで襲われても敵将を殺さずに捉えて連れ帰ることは殺す事より難しい、その条件をレックスは突きつけてきたのである。

 

一同はカルトに再度見張った、城外へ逃げられても殺してもアウトなこの条件を普通の者は受けるわけはない。下手をすれば自身の部下に命を奪われる危険もある。

 

それを見越してレックスはこの条件をつけたのだろう。

部下の命を優先にするか・・・、自国でもない民の命を優先するか・・・。

それは以前の啀み合いであった、エーディン公女と市民の命を天秤にかけたカルトにたいしての真偽を問う事にもつながっている事になるのだった。

 

「わかった、やるだけの事はやってみよう。キンボイス王子を捉える!」

カルトは高々と宣言するのであった。

 

 

 

「なんという体たらくだ!」

キンボイスはテーブルに手を打ち付けてあたりの部下どもに強く当たる。

長年付き従った部下もシアルフィに投降し、生き恥を晒して生にしがみつく者が多く反撃の機会を失いつつあった。いまもなお城下では投降が続いており戦力が軒並み低下しつつあった。

キンボイスの重鎮のみがかろうじて残っており軍議を開くことができる状態ではあったが対抗策など思いつく者がおらず、先ほどのくだりとなった。

 

「しかし、なんとか城内に逃げ延びて命を拾いましたがここから脱出してマーファに向かうには無理があります。我らも投降する事が賢明かと・・・。」

「黙れ!ここまでグランベルの連中にいいようにされてマーファに逃げ帰るなどできるか!」

キンボイスには多少のプライドがあるのだろう、彼の唯一の頭脳とも言える老兵の言葉に聞く様子もなく一喝する。

「しかし兄貴、このままじゃあ俺らの首がすっ飛ぶのは時間の問題だぜ。」

「わかっている!残された方法は奴らをギリギリまで引きつけて抜穴から城外に脱出する方法しかない。

部下に命じてタイミングを見て城と城下に火を付け、そのゴタゴタに乗じて抜穴から城外へでる。」

正気とは思えない方法を思いついたキンボイスの目にはもはや正気とは思えぬ光を宿していた。

 

「しかし抜け道を通ってもそこから追っ手がくれば抜け道の出口と挟み撃ちとなります、抜け道に殿を務める者が必要です。」老兵は進言する。確かに抜け道は城外へ抜けられるが、町の外まで抜けられるわけではない。町の外にはグランベルの軍がいる上に抜け道を辿って来られれば挟まれてしまうことなど明確である。

殿を務める強者などヴェルダンには王子たち以外には存在しない、数での勝負がヴェルダンの唯一の勝利方法なのだからである。

 

「わかっているさ、俺に一つ策がある。貴様らは何も考えなくていい。」

キンボイスは不敵な笑みをたたえて部下に伝令していくのであった。

 

 

グランベルの混成部隊がジェノアに入ったその日の夜にジェノア城攻略に向けた。早めに休息をとらせた入城選抜部隊を引き連れ強行突破に入る。

 

ジェノア側に余計な時間を与えるとプレッシャーからどのような凶行に及ぶ事かわからない、シグルドのマーファ攻略にも迅速に合流したい事も踏まえた結論であった。

カルトが一番に無事に得たいものはジェノアには近隣から徴収した大量の食料、おそらく奴らは敗戦が濃厚になれば敵に渡らないように火にかける恐れがある。

これだけは絶対に死守する事がカルトの密かな想いである、いくらレックスが約束で食料援助を行ってもここの食料が得ることが出来なければ今年の収穫までに餓死する者が出てしまうだろう。シグルドの進軍がヴェルダンの民にとって悪い結果にならない為にもここは踏ん張りどころと捉えた。

 

城門にいた警備兵を切り崩して一気に中へ躍りでる、途端に鋼と鋼が撃ち合う音と漢共の怒号が響き渡る。

レックスの斧騎士部隊も全て下馬し徒歩での入城によりジェノアの思惑は的を得ていると分析する。

追い込まれているとはいえ、機動力を使えない状況に持ち込んだキンボイスの策はそれなりに効果がありジェノア兵は一進一退の攻防を見せた。

 

「エルサンダー!」エスニャの強力な上位魔法が前線の一角を切り崩し、クブリの回復魔法が前線から離脱する者を再び前線に復帰させることにより徐々にジェノア兵を後退させ、中庭を突破し入城に成功するのであった。

中庭にはまだ残党が残っているのでさらに部隊は分散する。レックス、ホリン、エスニャと精鋭の少数部隊が城内に入りキンボイスの掃討に移ってゆく。




マリアン

ソードファイター
LV6

剣B

HP 27
MP 0

力 9
魔力 0
技 13
速 15
運 5
防御 6
魔防 0

スキル 追撃

鉄の剣
リターンリング
カルトの髪飾り 《スキル 祈りが追加》
こっそり通っている闘技場と戦闘でLVアップしています。

ゲームでは闘技場で連続してラウンドを戦うとLVアップの変動値がおかしくなるそうですね。あれだけ戦ったのにLV時にHPアップだけとか、思い当たる節があります。(怒)


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決闘

ジェノア城内戦闘を描いてみました。
大群戦闘と、個人戦闘をここで切り替えてみたのですが矛盾等があると思います。

このあたりの運びをよくご存知の方はアドバイス等いただけたらとおもいます。


ジェノア城前戦闘における雨も降り注ぎ熱を奪う中、漢共の怒号はいまだ衰えることはなく夜の闇に響き渡っていた。住民たちは怯えるように家に閉じこもり、嵐が通り過ぎることを待つかのように身を寄せ合っていると思われた。

 

そのような事をふと考えながら食料庫に向かっていたカルトは予想通り火をつけようとする悪漢共を見つけ出し捉え、同じような事をする連中の炙り出しを急いだ。

幸運にも雨という現状もあり火の回りはかなり遅いであろう、しかし一度炎にまでなれば消し止めることは容易ではなくなってしまう。慎重に事を運ぶ必要があった。

 

カルトは先陣を切って城内に入った精鋭を見送り後方部隊に回っていた、キンボイスを捉えると明言したが状況をみれば今は後方部隊の支援が優先する必要があった。

天馬部隊より雨の中の強行軍でエバンスから食料や医薬品が運ばれ、重症者への看護部隊を結成する為に必要な手配は山程ある。そんな中でレックスもホリンはともかく、エスニャや、マリアンまで行ってしまうとは思えず苦笑してしまう。

 

 

「カルト様、こちらはあとは私めでなんとかなるでしょう。そろそろ先陣部隊をおってはいかがですか?」

クブリは一通りの回復を終えた様子で、カルトに恭しく助言の一つを指し示した。

 

「ああ、そうしたいところだが実は魔力の使いすぎでね。もうエルウインドを使えば完全に空になりそうだ。」

ここまでの戦闘でほとんど死人が出ていないことが彼の魔力による支援の大きさを伺わせた。もちろんクブリの回復魔法もかなりの効果を得ているが、カルトの方が瀕死の者を優先で処置していたので魔力の瞬間的な消耗が大きかったのだろう。ほとんどリライブを使いっぱなしのように思えた。

クブリも魔力に自信を持ってはいるが魔法量においてはカルトに敵わない、推測するにクブリの倍近くは有していると判断している。

 

「それにね俺はここにいた方がいいと思うんだ、俺の中で何かがそうさせているんだ。」

カルトのあまりに直感的な感想にクブリは首を傾げてしまうそぶりをみせるが、カルトはフッと笑って再び眼前にそびえるジェノア城を見上げた。

街中には怒号の声が響く中、これが産みの苦しみである事をカルトは祈った。

「クブリ、明日はきっと晴れるだろう。朝日は俺たちを歓迎してくれるだろうか?」

「無論です、カルト様の御心のままに・・・。」

 

 

城内ではいまだ喧騒と血煙の舞う惨劇が続いている、レックスとホリンの二強が襲い来るジェノア兵をいとも簡単に撃退し、進路を確保し続けた。

外の戦闘と大きく異なるのは通路における戦闘が多く、対峙する瞬間は一対一になるケースが多い。そうなれば数における有利はさほどなくなってしまい、戦闘力の高い二人のみで先を切り開いてしまう。後ろに控えるマリアンもエスニャも付いて回るだけの存在になっていた。

マリアンもまだ年少兵、さらに女性ということより持久戦には不利があり、エスニャの魔法は屋内では自軍に被害をもたらす場合があるのでおいそれと魔法は使えない。

いざという時の支援程度で良いとホリンからは言われていた、しかし戦闘に参加できない歯痒さが心中にあるのであった。

 

一階の中庭に差し掛かった時、屈強な2名の戦士がホリンとレックスに立ちふさがる。

一名は今までのジェノア兵が使っていた粗末な斧ではなく戦闘用に作られた絵の長いバトルアックスを持ち、その武器を扱うための体格も良くレックスも長身であるがその身の丈を超えている。彼はレックスに挑発じみた態度でもってレックスに勝負を挑む。

もう一名は剣士、鋼の剣を持ちホリンに向きこちらも勝負を挑む、この者もその身のこなしをみて相当な熟練者である事が見て取れた。

ホリンはその男へと立ち向かうべく進み出すが、マリアンはその歩みを阻み剣を抜く。

 

「馬鹿な、これは俺の役目だ。」

「いえ、ここは私が引き受けます。ホリン様は先に進んでください。」

マリアンから確固とした眼光がホリンを制す、彼女の言葉は意志を持っているかのようでホリンは拒否することができないでいた。しばらくのにらみ合いで察したホリンは

「・・・・・・奴らの狙いはここで強者を縛り付けて、この先でなんらかの罠を仕掛けている。持久戦に持ち込まれるなよ。それと、奴の実力と君の実力は拮抗している。」とマリアンに投げかけた、彼はマリアンに背後を任せる決断をしたのだ。

「はいっ!かならず追いかけます!」

マリアンは自ら死と隣り合わせの死闘へと足を踏み入れるのであった。

 

 

 

レックスが先に動く、今回は徒歩での戦いを考慮していたのかいつも使っている馬上用の斧ではなくハルバードに持ち替えていた。槍のリーチと斧の破壊力を併せ持つ万能武具であるが相当のセンスと筋力が要求される、レックスの使用する第二の愛具である。

 

相手側のもつバトルアックスよりもリーチがある、全速からの刺突をくりだした。

ジェノアの戦士は身を捩って穂先の右側に回避し回転よりの横薙ぎを放つ、レックスも即時に穂先に回転を加え手元に引き寄せるとハルバードを縦に持ち直し横薙ぎを受け止めた。

二人の上腕筋が一気に膨れ上がり力量を測り合う。歯をむき出しにして噛み締め、全身の力が腕力に集中させた。

ジェノアの戦士の方に腕力勝負は分があった、体重差もあるのだろうがレックスの体は徐々に押し負け始め苦悶の表情をさらけ出した。ジェノアの戦士はそんな状況の中でも力の誇示はなかった。それは彼が本物の戦士であり、誇りを持っている証である。慢心から油断はなく敵であるレックスに敬意すらしているようにも伺えた。

 

とっさにレックスは重心をずらしてハルバードの受けている角度を変え、横薙ぎのバトルアックスに上からの力を与えて地に叩き落とした。そして柄の部分の下側からジェノアの戦士の顎を突き上げた。

「がっ!!」

鈍い音が響く、ジェノアの戦士は脳を揺さぶられ地に仰向けになり昏倒した。彼はしばらく脳震盪で動くことはできないであろう。

レックスはハルバードの斧部を目の前に突き出して勝負ありを宣言する。

「殺せ、もはや悔いはない。」

「・・・貴様の一撃には意思があった、ジェノアの兵士ではないな?何を隠している。」

「・・・・・・・・・。」

「まあ、いい。おい!誰か!こいつを捕縛しろ!!」

レックスはハルバードを肩にかけ、もう一人の決闘者を確認するのであった。

 

 

マリアンは中段に構えて相手の出方を待つ、そして相手の眼を見据えた。それはホリンから学んだ事である。

《全ての初動は眼から始まる》

マリアンはホリンの言う通り、眼の動きは身体と連動する事を知り一先ずは見るのである。

ジェノアの剣士は正眼に構えからじりじりと間合いを詰めていく、マリアンも少しづつ円を描くようにしながら間合いを逐一確認していく。

 

ジェノアの剣士が動く。正眼からの飛び込みからの刺突にマリアンは剣先を横薙ぎを入れて軌道を変えながら身を捩って回避する、剣士はそのまま体当たりを試みるがマリアンは予想をしていた。

女性であり、まだ未発達な体躯では力押しされると勝ち目はない。マリアンはその小柄な体格と柔軟な体を鍛え上げて短所を長所になるように研鑽し続けている。

 

マリアンは突撃するジェノアの剣士を見事な跳躍で回避する、前転宙返りで170㎝強もある剣士の頭上を越えたのだ。

彼女の身の軽さと身のこなし、柔軟さは特に素晴らしくカルトが見出して戦闘に応用するようにヒントは出したのだがここまで昇華せさるとはカルト自身も披露された時は驚きを隠せなかった。

 

剣士の背後を取り横薙ぎの一撃を入れる、辛うじて剣を受け止めて防御したが体勢が悪すぎる。マリアンはここを逃さず連撃を仕掛ける。

横薙ぎから袈裟斬り、切り上げ、唐竹割りと繰り出すが剣士に大きな一撃を入れることができずに距離を置いて間合いを取り直した。

 

剣士はマリアンがここで距離をとった事を悟り、攻撃に入る。

勝機とばかりに連続攻撃を繰り出し決定打を与え切れなかったマリアンは体力切れを恐れたからに違いない。と剣士は悟ったのだ。彼女の呼吸の荒さが物語っている、再び剣を交えて斬り結び始める。

 

「くっ・・・!」

マリアンは苦悶の表情を浮かべる、剣を打ち合うたびに手に衝撃が走っているのであろう。非力なマリアンは徐々に握力を失い打ち負けてきている。

 

とうとう剣圧に飛ばされたマリアンは体勢を崩した、剣士はここで強撃の一撃を加えんと追いすがる。

打ち下ろしの一撃をマリアンの肩口にふりおろす。

勝った!と剣士は疑わなかっただろう。マリアンは体勢を崩しておりとても回避も受ける事もできないで状態であるのだ。

 

なのに剣士の剣は空を切り裂き、地面に打ち付けるだけであった。

一瞬剣士の動きが止まる、思考の坩堝に入ったのだろう、マリアンはそれを逃さない。

剣士の胸部に袈裟懸けに斬りつけた。

「ぐはっ!」

胸部を抑えてうずくまる。マリアンは一歩下がって剣についた血糊を払い、鞘に収める。

 

「見事な一撃だったな。」レックスはマリアンに賛辞を送る。

「レックス様、有難うございます。」

「最後の宙返り、バックステップからのジャンプして斬りつけるあの一連の動作。カウンターで決められたらたまらないだろうな。」

レックスのその言葉は、マリアンにもだが剣士にも言った言葉でもある。

剣士は上を見上げ、敗因を知った事に納得がしたのか清々しい顔になった。マリアンはその表情を読み取り、彼とは違った顔をするのであった。

 

彼は剣を逆手に持ち自害する覚悟を決めていたのだ、自身の腹部につき入れようとした剣をマリアンは握り止める。

「・・・!!」

剣を伝って血に落ちる血は剣士の血ではない.、マリアンが鍔元を直接握り妨害した事による物である。

剣士は渾身で最後まで力を緩める事がなければそのまま自害できた、しかしながら敵に阻止された事による驚きにより止めてしまった。

 

「なぜ?そこまでして止める。」

「あなたは勝機があった時の一撃は私を殺すほどの一撃ではなかった。だから私もそうしただけです。」

「・・・そこまで見抜かれていたとは、・・・私の負けだ。」

剣士は剣を投げ捨て、敵意を喪失させるのであった。

 

 

 

ガンドロフはマーファに着くなりエーディンを手篭めにしてしまいたいところであったが、シグルド公子の策略で防衛準備に追われてしまう。

苛立ちを隠せないまま持ち場に着いたガンドロフは、エーディン公女を地下牢に放り込んでしまった。

それは他の荒くれどもが手を出す恐れがあるための防止策である、鍵は自身さえ持っていればとりあえず手を出される事はないからだ。

放り込まれたエーディンはシグルドが救出に向かってきている事に感謝し、無事にきている事を祈るのみであった。

静寂の暗闇で一人の祈りを続けている時、不意に雑音を感じ目を開ける。地下の牢屋から外の喧騒はかけ離れていて聞こえてこない、その中で何かをこすり合わせるような音が聞こえている事に気付きエーディンは牢屋の格子から外を確認する。

 

放り込まれた、隣の牢屋に誰かがいる。約1日ここに放り込まれたにも関わらず隣の存在に気付かないその希薄感に少し驚いた。

 

コトン!

乾いた音がすると、次は何か金属と金属が当たる音がする。

 

カチャカチャ・・・カチリ!キィー・・・。

牢が開く音がした。

 

ここでようやくエーディンは脱獄している事に気付き声をかける。

「もし・・・もし!」

 

するとすぐにあどけない軽装の少年が表した。少年は一度小さな声で喋るジェスチャーを送りエーディンが了解したと返されてから声をかける。

「こんばんは、君がイザークのお姫さん?」

「えっ?私はユングウィのエーディンです、違いますよ。」

「そっかあ、ここに姫さんが囚われていると聞いたからコソ泥の真似までして捕まったんだけどなあ。

エーディンさん、だっけ?ここから出たい?」

無言で頷くと少年は笑顔で鍵に細工を施し出す。

「待ってて、ここの鍵なんておいらにはあってないような物だからね。

おいらの名前はデュー、少しの間よろしくね。」

 

牢から脱出し、デューと名乗った少年はまるで自分の庭を歩いているかのように熟知した足取りで城外へのルートを歩き出す。デューは夜のこの時間帯が昼夜の切り替えのタイミングである事が月の位置から割り出していた。

人の出入りが多いが引き継ぎが曖昧なこの城ではデューの事もエーディンの事もどこまで認識しているかはっきりしていない。今夜が脱出のタイミングと認識していた。

 

牢からすぐに客室の鍵を開けて窓より中庭にでる、茂みを使用して身を隠匿しながら中堀へ向かっている。

この中堀から外堀まで繋がっている事を知っているデューは水路から脱出を選んだ。

「エーディンさん、泳ぎは大丈夫?」

「え、ええ溺れない程度に・・・。」

「一応この浮き袋を使って、極力頭を出さないようにしてね。夜でも夜目の効く連中ばかりだから音は立てないようにしてね。」

「わかったわ。」

二人は中堀にゆっくり近付き体を水に沈めていく、まだ春になったばかり水はかなり冷たいが連中もそこに頭がある。警戒は緩い事からの判断であった。

 

 

二人は無事に中堀から外堀、そして城下街の川まで脱出に成功する。

岸から上がった二人はすぐに地下水の入り口で一度周囲の警戒と休息を取ろうと移動を始めた時であった。

デューの足元に一本の弓矢が刺さり、行く手を遮る。

 

「貴様は地下に囚われていた者だな。・・・!あなたは・・・?」

宵闇から声をかける者がいた、エーディンには闇を見通せる目はないがデューにはある。

即座にその者を認識して、声を発した。

「ジェムカ王子・・・。」

デューにとってはこの場面で一番であってはいけない者に会ってしまったと思えた。

バトゥ王の中で一番の切れ者であり、王の懐刀に近い存在のジャムカには生半可な小細工は通用しない。

彼の弓の能力は随一で、狙われた者は必ず屍になってしまう事より付いた第二の名は《サイレントハント》と呼ばれ畏怖されてきたのだ。

 

「まさかつけられていたなんて・・・、参ったな。」デュー後ずさり言葉とは裏腹な態度をとってみせる。

ジャムカはそのデューの行動をほとんど無視し、隣にいる美しき公女に再び返答を求めた。

「私は、ユングヴィのエーディンです。」

 

「まさか、あなたが・・・。」

ジャムカは弓を下ろす事なく、デューとエーディンに近寄る。月夜の闇で二人の確認ができていないのであろう、警戒しながら視認を急いだ。

その一瞬を見逃さないデューはジャムカに不意の一撃を決めるべく、ジャムカに挑むのであった。




人物紹介

レックス

ドズル家のランゴバルト卿の次男坊として育つ。
彼は父上や兄であるダナンとは違い、次男としての奔放さからか権力や政権には囚われず自身の正義を拠り所にしている節がある。
曲がった事を特に嫌う事が特徴であるが、父の対面もありシグルドとは必要以上に親交を深める事はなかった。唯一アゼルとは年が近くヴェルトマーと親交があった為、仲が良い。
騎士として貴族としての素養は高く、攻撃力とタフさから常に自ら前線に立って敵軍を屠る姿は味方の士気を高める起爆剤となる。



クブリ

シレジアの魔道士
かつてはトーヴェのマイオス公に仕える司祭として活躍していたのだが、シレジアの内戦によりマイオス公は敗北し武力放棄を命じられた。
クブリは息子であるカルトにその身を委ね、彼の魔道士部隊の責任者として行動を共にする。
ゲーム上のグラフィックではフードを被ったおっさんでだったが、この小説内では若干の年齢で相当な魔力を持った少年である。フードの中を見た者は少ないがかなりの美形である。
風の魔法と聖杖を使いこなすシレジア一の魔道士。


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秘剣

ようやく、あの最強剣士様登場です。
防御に見切り、攻撃に流星剣なんてまともに勝てるユニットなんて存在しないでしょうね。


ホリンは突き進む、レックスとマリアンが譲ってくれた機会を無駄にはできない。抜き身の剣のまま中庭を越え、通路を突き進み玉座へ突き進んだ。

王の間はどの城にも特徴があり必ず一階に存在する、それはバーハラの城でもこのジェノアでも変わらない事がこのユグドラシル大陸の特徴である。

一階全体は王と近衛兵などが執務を行う場所であり、二階以降は宿舎と考えると分かりやすい。

 

ホリンは王の間に突き進むが肝心の主人はおらず、空の玉座が主人を待つかのように佇んであるのみであった。

(やつらはどこに!)

ホリンは見渡す、この騒乱の喧騒の中で脱出したのだろうか?いや、それでは先程の強者を使って足止めする理由がない。やはり時間を稼いで脱出する手段を講じている筈である。

しかしホリンは二人の間をかけ抜けて最短に近い時間で玉座まで侵入したのだ、多少のジェニア兵と切り結んで来たが、一人10秒も満たないうちに倒してきている。

 

(このどこかに、緊急脱出用の通路がある!)

ホリンはここで確信する。

もし、ここ以外にあったとすれば鉢合せをする筈である。それがないという事はこの間に隠し通路があると断言できる。

ホリンは部屋の様々な調度品がある中で怪しい部分を見渡して調査する。壁を探り、音で空洞を確かめて行くがそのような痕跡はなく他を当たる。

 

「不自然を感じる事が大事なんだよ。」ホリンは突然、デューが言っていたことを不意に思い出す。

以前に、イード砂漠でデューがいとも簡単に地下への隠し通路を見つけ出した事を聞いた時の一言であった。

 

デューはあまり物事を言葉にする事は得意ではない、彼の曖昧な言い回しで唯一わかった言葉がそれであった。

ホリンなりの解釈では物事には順序があり、矛盾点は存在しない。そして矛盾点は作為であり、意味を持っていると言いたかったのだろう。と思っている。

 

 

ホリンは一度深呼吸を行い、再度見渡してみる。

もし壁が動く仕掛けなら、足元の絨毯に皺ができる筈だがその様子はない。

絨毯の下に隠し通路があったとしても絨毯が綺麗に敷き詰められているこの状況では壁が動く事と同様に不可能である。

ホリンは絨毯を丹念に見つめているとある一部分が僅かに湿っている事に気付く、なぜこんな所に?

雨が入り込んだ事に、気付き上を見上げる。

するとある一角のみ人が一人出入りできるだけの大きさで、正方形を描くように染みを作っていた。それは先程のまで空いていて人がくぐり抜け、閉められた痕跡に違いないと断言した。

ホリンは王の間を出て二階に駆け上る、王の間の真上を目指し友人のデューに感謝をする。

 

 

王の間の上は大きなバルコニーになっており大きなガラス戸を観音開きに開く、雨はすっかり止んでおり漆黒の暗雲より、月が出てこようとしていた。

 

その月の光を頼りにキンボイスを見つけようとするが、気配にて目の前に誰かいる事に気付きホリンは身構えた。

 

「機転のいい男だな、しかしここを看破してしまった以上ここより先へ通すつもりはない。」

闇夜からテノールのよく響く声がホリンを制する、その声の持ち主は低いが女性の物である。

ホリンはこのするテラスの端を凝視した時、待ち望んでいた月の光が射し込んだ。

 

マリアンの髪よりもさらに深い漆黒の黒髪を持ち、腰まで真っ直ぐに伸びる長い艶やかな髪は月の光を反射させていた。端正な顔には強い意志を持ち、目の光はどこかやり場のない怒りを発していた。

 

ホリンはその鬼気迫るその迫力に息を飲んだ。初めて年の同じような剣士に、一瞬ではあるが気圧されてしまったのだ。

そしてこの女性剣士に確認しなければならない、父上とマリクル王子が命をかけて守ろうとしたお二方である事を・・・。ホリンは必死に声に出そうとするが、女性剣士から発する殺気にうまく声に出せずにいた。

ホリンの脳内は混乱に満ちている、そんな中でも必死に思考する。彼女は傀儡になっている可能性のみを思案する。

 

だが、これ以上の思案はできない。女性剣士は剣を抜き、ホリンに威圧し始めたからであった。

「どうした?ここを看破したほどの男だ、ここを通りたいのだろう。

私も時間がない、立ち去らないというのであれば不本意ではあるが排除させてもらうぞ!」

 

女性剣士は腰をかがめると一気に間合いを侵食する、ホリンはその速度に驚愕し剣戟を受け止める。

ガキィ!

両者の剣が交錯する、がこの交差は一瞬であった。体を入れ替えた女性剣士はこれもまた凄まじい速度でホリンの死角である右側面に剣を支点に高速移動し、その支点から起動を変えてホリンを切り上げた。

「!」

速度は凄まじい物ではあるが、正面から勝負を挑まれて競り負けた事などここ数年なかった。父上ですらホリンから一本をとったのはもう四年ほど前であり、最近では負けなしであった。

 

今の一撃は、模擬戦では一本を取られてもおかしくない程の衝撃であった。しかし今は実践であり、死闘である。命の灯火が消えるまでに至っていない一撃に弱気になるわけにはいかない、ホリンは気迫を絞り出し女性剣士に対抗の一撃を見舞った。

 

女性剣士は一気にホリンの間合いの外へバックステップし、構え直す。

「ほう、あれをうけて戦意をなくさないとは。グランベル軍にも少しは骨のある男がいたようだな。」

 

「グランベル軍?」

「ああ、憎いグランベル軍とは幾度となく手合わせさせてもらったが集団でなければ吠える事も出きないような軟弱な連中ばかりであった。」

 

「なるほど、イザークの君にはさぞ屈辱の仕打ちであっただろうな。

そんな烏合の衆に国を滅ぼされつつあるなんて事は。」

ホリンのその言葉に女性剣士は殺気に続いて怒気を孕ませる。

 

「貴様、言ってはいけない事を言ったな!」

この言葉にホリンは断定する。月夜で顔を全て見たわけではないがイザークの珠玉を守る姫君、アイラ王女である。この挑発に彼女を傷付け、全力になってしまった事は痛恨であるが思考が不器用なホリンにとって自分ができる最良はこれしか方法がなかった。

こうなっては自分の命をかけて彼女に想いをぶつける事しかない!そい悟ったホリンもまた闘気を呼び起こし、彼女の全力に答える事にする。

 

暗雲が徐々に晴れていき、十五夜の月が剣士を照らす。冷たい光を照らす二人の剣に輝きを宿った時、行動に移す。

 

先手はアイラ、闘気をまとった彼女は初速から最大速度を発揮する。

それは闇夜に流れる流星群のようで瞼の瞬きも許さ神速剣、一瞬で間合いを侵略されたホリンではあるがまだ彼は動かない。まるで力を直前まで溜めて一気に打ち出すかのように闘気を内に秘めていた。

アイラの初撃がホリンの額に差し掛かった時、ホリンの初撃が打ち上げられた。

 

アイラの秘技流星剣とホリンの月光剣が相対した瞬間であった。

アイラはその初撃を撃った所で第二、第三の太刀がホリンを襲うつもりであったがその剣技は強制的に遮断された事に即座に理解する。

 

それは刀剣である。彼女の剣は半分の所で裁断され、使い物にならなくなっていた。

アイラはグランベルの剣士の技量に驚き、理解する。

 

「き、貴様は一体!」

剣を無くした剣士は、剣士ではない。ホリンは父上の言葉を反芻する。

《話を聞く耳を持たぬ剣士は、剣を叩き壊せば良い。》

ホリンには、この道しか残されていなかった。カルトのように言葉を相手の胸に響かせる事ができないホリンにとって唯一の方法であり、実行できた事を父に感謝する。

 

「アイラ王女、私はソファラのホリンです。不躾な対応で申し訳ないと思っていますが、おそらく監視が付いている可能性があったので剣を破壊し、捕縛されるように致しました。」

「・・・・・・。」

「私は、マナナン王と父上よりアイラ様とシャナン様の亡命先を手配する命を受けておりましたがアイラ様に余計な苦労をかけてしまいました。申し訳ありません。」

頭を下げ、謝罪を口にする。

「もし、よろしければこれからでもアイラ様のお力になりたい・・・」

ここまで口を出した時、ホリンの頰を強かに打った。乾いた音が闇夜に響きわたる。

 

「ふ、ふざけるな!そのような命を受けていたとはいえ、グランベル軍に身を置くなど以ての外だ!

散っていった者達に何と説明するのだ!」

アイラの怒りが再びホリンに襲いかかる、剣としては無類の強さを発揮する彼女ではあるがイザークから一度も出た事がないお姫様である。世間には疎く、融通も利かない。

 

ホリンは今一度、カルトに出会ってから行動で持って示した若き指導者の行動を振り返り、国家間の蟠りを消していく姿を言葉で表現した、拙い言葉であるが彼は紡ぎ出す。

「確かに、イザークにとってグランベルは憎い存在であります。しかし戦争はそんな国家間の諍いであって、人々の心まで同じではないのです。

シアルフィのシグルド殿、そして友と言うだけで国家間の枠を越えて救援にこの地に入ったレンスターのキュアン殿、親族間で諍いはあっても正義の志しを同じくするレックス殿は敵国でありながら我らの剣士の志しと同じではないですか?」

「・・・・・・・・・。」

「アイラ様、力になります。シャナン王子を救出しましょう!

そしてシグルド殿やカルト殿に事情を説明しましょう、きっと彼らの処遇は私達の恐れる結果にはなりません。」

ホリンはうずくまるアイラに跪き、決断を委ねた。自身の思いは全て伝えたつもりである、あとは彼女の心のみ。嘆願するようにホリンは瞳を閉じて決断を待つ。

 

 

朧となっていた月が再度光を射し込んだ時、アイラは決断する。

「私は負けた身だ、イザークの教えがそうであるなら強者の裁きに従えだな。

ホリン殿、先程は失礼した。今からでも間に合うなら力を貸して欲しい。」

 

ホリンはいつの間にか立ち上がり儚げな笑顔を見せている彼女に魅了される。あの時戦場で見た彼女を見て魅了されたあの時と同じ思いが湧き上がる。

月の光を受けている彼女の笑顔は真の笑顔ではない、シャナン王子を救出し本当の笑顔を見るまでホリンの戦いは終わらない、決意を新たにし彼女の差し伸べる手を握りしめるのであった。

 

 

 

暖炉で炎に包まれた木材が爆ぜる音にエーディンは目覚める、豪華ではないが平民では決して住むことができない質実剛健な家財道具に包まれた部屋で覚醒した。

マーファの地下牢に閉じ込められていた彼女の思考は現状を掴めない、微睡みの中で必死に思考し始めた。

 

不意にドアを叩く音がし、給仕の者が入る。

若くはないが老人といえば失礼にあたる夫人がバスケットに軽食を入れているのか、鼻腔から食欲を掻き立てる匂いを携えて入室する。

彼女は穏やかな笑みを送り、話しかける。

 

「お目覚めになりましたか、体調のすぐれない点はありますか?」

「大丈夫です、ご看病ありがとうございます。」おそらく、意識を失っている間彼女が世話していくれていると思われたエーディンは感謝を伝える。

 

「いえ、私はジャムカ様の命に従ったまでです。お気になさらずに。」彼女の言葉に彼女の記憶は一気に回復する。

「!・・・。デュー、デューさんはご無事ですか?」

 

「え、ええ。もう一人の少年のことですか?大丈夫ですよ、彼は元気にしています。

それよりもあなたの方が心配でしたのですよ。」

 

「・・・?」

「冷たい水入られて濡れた服で無茶なさったのですね、意識を失って高熱を出したのですよ。

ジャムカ様がお連れしなければどうなっておられたか。」

夫人はそう言って、軽食を差し出して退出する。エーディンに食事の邪魔をしたくないという配慮だろう。

しかし、彼女は食事に手を出さずに俯いてしまう。

 

「食べた方がいい、体に触る。」

横たわるベットの窓から声がかかり、エーディンは外に顔を向ける。

 

立派な樫の木の的に向かい、弓を引くジャムカである。

彼の正確無比な矢は既に命中している矢を見ればわかる通り、ほぼ全てが真ん中を射抜いていた。

今放った矢も、30メートルはあるであろう距離を瞬く間に空を裂いて真ん中を射抜いた。

 

「ジャムカ様。」

「様は余計だ、ジャムカで結構。」再度弓を放ち、真ん中を射抜く。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「礼も不要だ、この度はこちらに非がある。

あんたは体力が落ち着けばデュー共々シアルフィ軍に身柄を渡すつもりだ。」

 

「ジャムカ、あなたはどうするのですか?」

 

「俺は、兄上には協力する気はない。兄上であっても今回の件は自身でけじめをつけてもらうつもりだ。

だがシアルフィの軍がヴェルダンまで侵攻するのであれば容赦は、しない!」

ジャムカの弓がさらに力強く放たれ、的ですら2つに割れて樫の気を深く抉る。

エーディンを振り返ってみる彼の目には鋭く、そして悲しく輝いていた。

 

「あなたに次お会いする時、そのような目をされない事を神に祈ります。」

 

「祈りは、届かないさ。この国はもう神には見放されている。」

ジャムカの絶望の表情が、エーディンの心に無情の想いが響くのであった。




この度のホリンとアイラの決闘はいかがでしょうか?
私なりにかなりの時間と、校正に時間をかけて温めていた文面であります。

連撃の流星剣ですが、一撃必倒の月光剣を受けて剣が破壊したという結果にしました。

ゲーム上では防御力無視という、比較的地味な能力でしたがこの小説では斬鉄剣に近い能力も有していると独自解釈の上での内容となっています。(鎧を切り裂いてダメージ、剣に当たれば武器破壊)

秘剣には剣士の持つ闘気を加味しております、心と体の充実感、一体感がなければ成功しない物と解釈を私自身は思っています。

皆様もいろんな解釈をお持ちとは思いますが、よろしくお願いいたします。


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枯渇

前回の話の都合で文字数か少ない影響か、今回は文字数が多くなってしまいました。
今月からまた忙しくなりそうなので一気に掲載しております。

また次回以降は、更新が遅くなりますのでご容赦ください。
そろそろ脱字や、誤字も解消していきたい・・・。


テラスの隅に隠し扉が存在し、キンボイスはここから地下への隠し通路を準備していた。

隠し扉の先には小さい部屋になっており、すぐに螺旋階段で一階を通り越して地下へと向かっている。

一階の王の間から直接この螺旋階段へ行く事ができないのは、やはり隠匿性を高める為にあるのだろうとホリンは考えた。

 

 

戦闘を終えた二人は、ここまでの事情をアイラから聞きながら隠し扉の先を進む。イザークはやはりグランベル軍の主力がイード砂漠を突破されてから一気に形勢は悪くなったそうだ。

イード砂漠での戦闘では、グランベル軍主力の騎馬部隊が砂漠の不利に対して地の利を得ていたイザーク軍に軍配が上がっていた。

多大な物量において有利なグランベル軍は執拗な進軍が続き、疲弊したイザーク軍をリボーまでやむなく退却する事になりグランベル軍はイード砂漠を超えてイザーク国境まで進軍を許してしまった。

マリクル王子はここでアイラにシャナンを託しリボーの大規模戦闘の混乱に乗じさせ、わずかな従者と共に国外へ脱出させたそうだ。

先ほど中庭で出会った二人がアイラの言う従者であるらしい、二人共死を覚悟してアイラへ敵兵が向かわない為のカモフラージュをしていたそうだったがホリンの索敵が上手くいってしまったのが予想外であったのだろう。

 

当のアイラはキンボイスの奸計に会いシャナン様を人質に取られてしまう。

逃避行のうちに資金が底を尽き闘技場で資金稼ぎをしながらジェノアにたどり着いたのだが、凄腕の黒髪の剣士という部分にキンボイスはグランベルの賞金首になっているアイラ王女と看破した。

キンボイスが城主である以上、闘技場の公平さも関係がなく出場中のアイラの控え室に押し入って中にいたシャナンをさらったそうであった。

彼はアイラとシャナンをグランベルに引き渡す以上に、自分の護衛として利用する手段を選び、この度の状況となった。

 

螺旋階段を降りて行くアイラの足が止まる、それはそこより先が水で満たされ、先へ進めなくなっているからである。

「な、なぜ水で満たされているんだ!私は確かにテラスでキンボイスがここへ入っていく姿を見ていたぞ!」

ホリンは水をすく上げ、一口を口に含む。

 

「これは貯水されている飲料水か地下水だな、おそらく奴らが通過した後にここを満たすような措置を準備していたのだろう。

アイラ達を時間稼ぎに使った理由は逃げる時間を作るわけではなく、ここを満たす時間を稼ぐ為だったんだろう。」

「奴からは二時間稼いだらここから脱出していいと言われていた。宿敵のグランベルが相手だったので二人は死をかけて望んでくれて、私にはシャナンがいるから時間を稼いで脱出しと欲しいとまで言ってくれたのだ。

奴め!初めから私達を見殺しにするつもりだったんだな!」アイラは壁面に拳を叩きつけて激昂する。

「やつらは必ず市街の何処かから脱出するはずだ、時間ロスするが正面からでて探してみよう。」

ホリンは来た道を帰ろうとするが、アイラより同意の言葉は帰ってこない。

振り返ると、鎧を捨て服を手をかけているアイラがいて慌ててホリンは制する。

 

「ま、待て!落ち着くんだ!この水を進んでも息が持つわけがないぞ!

それにどこから水が噴き出しているのかわからないんだ、水流に巻き込まれたら一巻の終わりだぞ!」

 

「しかし!これではキンボイスに追いつかないぞ!・・・シャナン!」

「・・・・・・大丈夫だ、先程も言ったが奴らもここから市街の外までの脱出口なんて準備出来ているはずもない。

市街になら一人、この事態を想定しているかも知れない男がいる。奴になら、託せる!」

ホリンはそう伝えると元の階段を駆け上がる、ホリン自身にもそんな都合の良い根拠はない。だがそれを信じるに足りる程の天命を持つ男がいる限り、その祈りにを現実になると信じている。

シレジアに貴族として産まれながらグランベルを統べる力を持ち、その自由な思想と意思がまたここでイザークを救う一石を投じるのではと考えているのである。

 

アイラも後を追う、ホリンの言う根拠について云々言ったとしても彼の言う通り正面まで戻って市街を探し回るしかない。清流とはいえここで溺れ死んでは元も子もない事は明白である。

彼の言う全幅の信頼を置ける者の奇跡に頼りざるを得ない事に歯痒さを覚えてしまうのであった。

 

 

「なんて奴らだ!これだけの戦力差でなぜ奴らはここまで来れるのだ!!」

ガンドロフの叫びに腹心共も怯えて口を挟めない、ただただ頭を下げて謝罪の意を示す。

マーファの平野における戦いは血で血を洗う戦場と化していた、ただ闇雲に城から出陣してくるマーファ軍には指令もなく突撃のみ。

多大な人数差による優位だけでは、猛者であり適切な指揮官を要するシアルフィ軍を圧倒する事はできなかった。

 

シアルフィ軍はシグルドとキュアンが自ら戦闘を切って正面からであるが陣形を乱す事なく敵兵を屠った。

一定の時間前線に立った者はすぐに中衛の者と交代し、疲れによるミスをなくしエスリンが後方支援の回復にて死傷者は最小に抑える事が出来ていた。

夕刻になると一旦退却し、野営にて明日の戦いの会議を行う徹底ぶりに2日目にはマーファ軍は半壊状態と化していた。

そこにアゼルのエルファイアーが敵陣に火柱を上げ、戦慄しているマーファ軍にシアルフィ軍は畳み掛けた。

 

「はあ、はあ・・・。シグルド今日はこのまま突撃するのか?」

さすがのキュアンも連日前線の戦いで疲労困憊なのだろう、しかし敵兵の勢いが減退してきているここが勝負所とも見ていた。決断の厳しい状況にキュアンは親友の決断を聞いてみたくなった。

 

「はは、さすがキュアンも疲れているようだな。

ここは勝負所と思うが、我が軍も疲労は限界にきている。一度退却する。」

キュアンの心の中ではこのまま突撃し、マーファを叩くと思っていたので少々疑問に思ってしまった。

「少し早く退却する事が条件だ。こちらが退いてあちらも引くようなら、マーファを叩くのは今夜だ。」

「夜襲をかけるつもりか?ここに来て思うのだが、夜はあちらの方が有利だぞ。」

キュアンはジェノア前の森林戦で少々痛い目をあっているので確認する。

 

「それは奴らが一番承知しているさ、だからこちらに夜襲はないと考えているはず。警戒された日中戦闘も無警戒の夜襲も似たような物かもしれないが充分浮足立つだろう。

今日の戦闘で奴らの戦意がかなり落ちているから夜襲する程の奇策は考えていない。ならば、こちらから先手をかけて一気にガンドロフを討つ!」

 

シグルドの強き意志がキュアンの心を高揚させる、かつて士官学校にエルトシャン、シグルドと共に学んでいたが、シグルドはとんでもない奇策ばかりを提案し教官から賛美ではなく驚嘆ばかりを送られているように感じた。しかし彼の言う提案は実をよく得ている作戦であり、型にハマれば物凄い可能性を秘めている作戦でもあった。

一番優秀なエルトシャンですら「シグルドが敵司令官だったなら頭痛がしそうだ、奴ほどやりにくい男はいないだろう。」とまで言わしめた男であるからだ。

その男の決断にキュアンはどのような結果が起こるのか、心が高揚していくのであった。

 

 

 

ジェノアの市街地、一角にある貯水池のほとりにうごめく五人の影がゆっくりと動き出す。

城からの脱出に成功したジェノアの幹部3名にキンボイス、そしてイザークの珠玉であるシャナンである。

貯水池の調整路を通過した5名はその後水路の扉を開けて貯水池の水を城内に引き入れて通路を塞いだ事を確認し、次は市街地の外へ向けて行動していた。

 

シャナンは猿轡に手を後ろ手に縛られ、叫ぶ事も似げ逃げる事も出来ず俯いていた。

 

「兄貴、もうこのガキは用済みだし、さっさと殺して逃げましょうぜ!」

「馬鹿野郎、このガキは最後の砦だ。グランベルの連中に手土産を渡して詫びれば命は助かるかも知れねえんだ。」

「さすが兄貴、今回の脱出でも頭が冴えてますぜ。」

「ふん、貴様に言われても嬉しくないぜ!しかし、まさかあいつらここまで強ええとは思わなんだ。

この分じゃあガンドロフ兄貴のマーファもおしまいだろう。山賊にでも身を落として暴れ回る方がお似合いかもな。」

「ヴェルダンの跡取りが山賊稼業とは、先代に申し訳が立たんのう。」

老人の幹部が嘆き悲しんだ。

「うるせえ、やるだけはやったんだ。ガンドロフの兄貴が欲目さえ出さなければ、もう少し面白かしくできたものを・・・。」

彼は根っからの快楽主義の人間のようで貴族でも山賊でも、自身の思うように生きる事が楽しみな愚物である事を改めて認識した老人はため息をついた。

老人はキンボイスの幼少時代から教育係としてバトゥ王より命を賜り、自身の出来る限り王族として市民の上に立つものとして教育していたつもりであった。

しかし、このヴェルダンにおいては王族の常識は通用しなかった。王族同士であっても水面下での暗殺や領地争いを繰り返し、王子たちの心は黒く荒んでいく。キンボイスも例外ではなく、食事で月に2人は毒味係が死んでいく、ヴェルダン城への登場の度に族に襲われ護衛が死んでいく環境で成人の頃には精神がとっくに蝕まれていた。

 

老人はかつてこの状況を説明し、王に説明を求める。対してバトゥ王はこう言った。

「王子たちに罪はない、罪があるにはその周囲にある欲望なのだ。

欲望は一人歩きし、欲望を持たぬ者に欲望を植え付ける。王子たちを矢面に立たせて自身の欲望を得る為の道具に使われている。ワシの子達もすでに6人も失い、ヴェルダンの湖畔で何度泣いたことか数え知れない。粛清しても粛清しても、それでも止まないこの悲劇の連鎖を止めて欲しい。

この悲劇を潜り抜けた3人が力を合わせて立ち上がってほしいとワシは思うのだ。」

 

老人も当時はその言い分を理解し、共感を得る部分はあったのだがそこに死角がある事を王は思い至らなかったのだろう。

《王子たちにも、欲望の種は植えつけられてしまったのですよ。バトゥ王。》

それは父親だからこそ認めたくない部分である、賢王とは言われていても人の子から脱する事のできない限界に落胆を覚えてしまうのであった。

 

 

「キンボイス王子だな。」

「だ、誰だ!」キンボイスは咄嗟に反応し、闇に向かって威嚇する。

木の根元に胡座をかいてこちらを見据える瞳にただならない威嚇間感じて萎縮する。幹部たちは反応する事も許されず佇む他の選択肢を与えられずにいた。

 

口元を緩め、ゆっくりと立ち上がる。

「俺は、シレジアのカルトだ。貴様らを待っていた。」

「待っていた、だと?」

「ああ、あんた達がここの池を調整した瞬間に水位の変化に感応魔法で反応できたんだ。

そして転移魔法でここへ来たのさ。」

カルトはジェノアの食料焼き討ちの作戦時当たりを探っていた折に怪しい場所に目印を施し、変化がある度に魔力反応を起こすように細工していたのだ。

 

「き、貴様!俺たちの作戦をそこまで、誰かが吐いたのか!」

キンボイスは周りを見渡す、幹部どもは驚愕し首を横に降るのみであった。

「いや、劣勢になって自ら逃口のない城内戦闘を持ちかければ、普通は行き着く結論だ。」

カルトは白銀の剣を抜きキンボイスに突きつける、キンボイスも背中の斧を抜き構えた。

幹部も意を決したのか、老人を除く2人も武器を抜いてキンボイスに加担する。

 

「やっちまえ!」

キンボイスの号令に2人の幹部は剣を持ちカルトに襲いかかる。

 

袈裟斬りを剣で受け、すぐさま弾いてもう一人の剣を受ける。が、体勢を整えたもう一人が再び斬り合いに参加する波状攻撃を受けた。

「俺たち三人はいつも暴れまわってきた仲だ、立ち振る舞いの間合いもお互い熟知しているんだ。反撃する時間も与えないぜ!」

キンボイスをちらりとみたカルトは戦慄を覚える。

さっきまで持っていた斧ではなく、木で細工された見た事もない形状の弓が右手に装着されていた。

それは手甲のように装着されているが手首の辺りに十字になるように木がクロスされ、引き絞られた弦に引っ張られしなっていた。そして引き絞られた弦が肘辺りで短い矢がセットされており支点となる部分には鉄であしらった係りの仕掛けを操作していたのだ。

直感的にカルトはなんらかの飛び道具と認識し、回避しようとするが幹部達の執拗な逃げ口を封鎖する攻撃に軌道から身をそらす事はできない。キンボイスの放つ短い矢が胸部に襲いかかる。

 

「ウインド!・・・!!」

疾風を呼び起こし、急所への攻撃を回避できたが至近距離からの攻撃で体から完全に外す事は出来ない。

肩口に突き刺さり苦悶の表情を浮かべる。

さらに2人の幹部は、カルトに斬りかかり一太刀は受けるがもう一撃を胸部に受ける。

 

カルトはウインドを放って三人に砂塵を伴う突風を放って距離を取る。

ローブの下から鮮血が滴り落ち純白を紅く染め上げる、カルトは聖杖を取り出して回復を処置しだす。

「ライブ!」

淡い光が患部を照らす、胸部と肩部が徐々に癒えていくがカルトを見つけられる方が早い。

再び弓をセットさせ、その短い弓が放たれる。

「くっ!」

ライブを中断させて横へ跳ぶ!

 

「がはははっ!必死だな!死ぬのが少し伸びただけだったようだな!」

回復を中断されたカルトに再び幹部の2人が斬りかかる。

多少動けるようになったカルトはなんとか斬り結び、危機を逃れるが再びキンボイスの弓を大腿部に受けてしまう。

 

(まずい、ここまでできる連中だとはな・・・。)

後ずさりするカルトに幹部の2人は止めを刺さんと間合いをとる。

 

2人は一気に飛びかかった、カルト自身もその拍子に飛び出して一人に集中する。

一人の剣を剣で受け止め、渾身のウインドを放つ。

もう一人の剣を背後より受けるが、対象の幹部はウインドの直撃を受けてその場に昏倒した。

 

「!!!!」背後から巨体が迫っていた。

一人をやられてしまった事へ憔悴にかられたキンボイスは斧に持ち替え、唐竹割りを繰り出していた。

カルトは自身にウインドを使って危機を脱するが、疲労は強く膝をついてしまう。

 

「はあ、はあっ!!」

「どうした?もう終わりか!ダチをひとりやられちまったが、仕方がない。

さっさと終わらせてトンズラといくか!」

残った幹部が剣先をカルトに向けた、カルトも振り絞って立ち上がるが刺突の方が早い。

カルトの胸へと突き立てようとされた時、闇夜に一つの紫電が放電する。

「サンダー!」幹部はその怒りの雷を直撃し、その場に倒れこんだ。

 

「エスニャか・・・。」彼女は魔道書を胸に抱き、普段穏やかな表情しか見せない彼女だが明らかに怒りの雰囲気を纏っている。

 

「なっ!新手か!?」キンボイスは狼狽えた。

カルトは立ち上がり、笑顔を見せる。

「次は俺の番だ!くらえっ!キンボイス!!」カルトは魔法の準備に入る。

「させるかっ!」キンボイスの弓が再び放たれる。

 

カルトはその弓を腹部に受けるが避ける事はなかった。

「カルト様!」エスニャの悲鳴が響くがカルトの表情に絶望はなく魔法を完成させる。

「リザイア!」カルトの放った魔法はキンボイスの体を包み込むとカルトから発する光とつながり、カルトの傷がキンボイスに移っていく。

「がああああ!」キンボイスは突然数カ所より痛みと傷が浮かび上がり、その痛みにより気絶するのであった。

 

「はあ!はあ!やったか・・・。」カルトはその場にへたり込んでしまう。

「カルト様!」エスニャは、カルトに抱きつきその無事を祝福する。

「エスニャ、助かったよ。さすがにやばかった。」カルトの言葉にエスニャは一瞬硬直し、カルトを見つめる。そして・・・。

カルトの頬が激しく叩かれるのであった。

「エスニャ?」カルトは驚きを見せる。

彼女の瞳からボロボロと涙が溢れ、止まる事を知らないように地に落ちていく。

「クブト様から聞きました、カルト様は今日の戦いの治療でほとんど魔法力を使い切ってしまっていると言われていました!!・・・なのに!・・なのに!・なのに!!・・・なぜあんな無茶をなさるのですか!!

少しは、ご自身を大切してください。

私は・・・カルト様が大好きです!だから!私の為と思って無茶しないでください!!」

エスニャは顔を抑えて泣いてしまう。

「エスニャ・・・、ごめん・・・。俺、傲慢だった。許してほしい。」

「カルト様・・・。」

「俺、自身の力に目覚めてから色んな事が急にできるようになってしまった。その所為で何か焦っているところがあった。

エスニャ、ありがとう。君の気持ちは大事に受け止めさせてもらった。ただ少し時間をくれないか?このヴェルダンの戦いが終わったら君に俺の気持ちを伝えたい。」

エスニャは笑顔で頷きカルトもまた笑顔で答える、2人の中で満ち足りた気持ちの瞬間であったのだった。

 

 

一方、この茶番を端で見ているキンボイス側近であった老人とシャナンはただ見ている事しかできず。

なんとも居たたまれない様子となっていたのは語るまでもないだろう・・・。




キンボイス

ヴェルダン国のバトゥ王の8人の兄弟の内3番目の子供。
小さい頃より勢力争いの道具として使われ、その歪な幼少期を過ごしてから快楽主義へと育ってしまう。
小さい事に囚われない自由な思想は、王族という窮屈な境遇を打破したい願望からきていると思われる。

手先の器用さからクロスボウを発案し、幹部の2人とコンビネーションでの戦いを得意とする。

前線に2人の幹部が手数で相手を足止めし、後方からの弓の一撃。
足が止まった瞬間に斧の破壊力を生かした唐竹割りがフィニッシュブローである。


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休息

すみません、今回は戦後処理の話が続きます。

やはりキャラが増えるとエピソードが膨大になりまして、文字数も進行も鈍感してしまいます。
一話大体5000文字をベースに作ってきたのですか、今後はこのような処理回は文字数を増やして対応に当たる予定です。

次回も少し、処理回の続きがあると思いますがお願いいたします。


ジェノア城制圧の報がシアルフィ軍にもたらされたのは、シグルドが夜の進軍を強行する今しがたの時であった。

ジェノア制圧を信じなかったわけではないのだが、その朗報に背後からの敵襲は無くなると同時に後方支援も途絶える事がなくなる事を意味している。シアルフィ軍の士気は最高調のままに敵に有利な条件であるが裏をかいた夜襲を敢行するのであった。

 

騎馬部隊の駆け足である大地を揺るがす轟音は、マーファ軍を焦りへと追い込んだ。

連日の攻防戦において夜の進軍は無かった為、油断していたマーファ軍は後手の対応となりシアルフィ軍とは逆にジェノア城陥落の報まで受けたガンドロフは一層慌ただしくなる。

市街地のすぐ外ではすでに夜番である者が対応しているが、マーファ軍の全火力が整う前に前線が崩壊してしまうのではと思えるくらいシアルフィ軍の動きは早く烈火の如きであった。

 

 

 

「マーファもここまでのようだな。」迫り来るシアルフィ軍の怒号にジャムカは装備を整え、吐き捨てた。

ジャムカの私邸ではエーディン、デューに着替えを促し、外での敵襲を伝え準備させる。予定通り、従者を使って2人をシアルフィ軍に引き渡す為の手筈を説明していたのであった。

 

「ジャムカは、どうされるのですか?」エーディンは心配と不安を織り交ぜた言葉をジャムカに問いかけた。

 

「どうもしないさ、以前にも言ったがこれは兄上の失態だからな。

俺は父上の周辺を護る任務の過程でマーファに短期駐在しているだけさ、シアルフィ軍の動向がわかればヴェルダンに帰還するように言われている。」

 

「ヴェルダンへ、帰られるのですね。」

 

「そうだ君をシアルフィ軍、グランベルにお返ししてこの度の事を謝罪すればもしかしたらマーファまでで戦争は終わるかもしれない。以前の父上ならわかってくれると思うのだが。」

 

「以前?それってどう事なんだい?」デューは投げ掛ける、ジャムカは少し憮然な面立ちになり先を進める。

 

「サンディマという魔道士が来てから父上は変わってしまった、争い事など無縁な方だったのに兄上に突然グランベル侵攻を言い渡してその様だ。イザーク遠征中のグランベルに侵攻してもその後どうなるかんて俺にでも理解できる事を父上が決断するとは思えない。」

 

「そのサンディマという奴がけしかけたって事?」

 

「一国の王がヴェルダンの歴史を調査する名目で来た魔道士の言葉を鵜呑みにして、さらに出撃を決断するなんて愚行がある訳がない。」

 

「穏健な国王が決断した違和感にその魔道士が来たタイミングは都合が良すぎるんだね、ジャムカ?」

 

「・・・その通りだ、奴が来てから全てがおかしい。

父上の提案はもともと好戦的で向こう見ずなガンドロフの兄上や快楽的なキンボイスの兄上には麻薬のように浸透していったが、俺には受け入れられない。いくらサンディマが父上を唆したとしてもここまで事態が悪くなれば父上も再考するように願い出て見るつもりだ。」

 

「そうね、まずは話し合った方がいいわ。・・・でもジャムカ、危なくなれば戻ってきてね。事情が解ればシグルド様ならきっと協力してくださいます、だがらきっとまた会いましょう。」

 

「・・・ああ、約束しよう。」ジャムカは一つ微笑むとその軽快な体躯を闇に沈めていくのであった。

 

 

カルト達混成部隊がマーファ城入りしたのがシグルドが夜襲を敢行して2日後の夕刻であった。

 

カルト達はキンボイス捕縛後に事後処理に奔走し、グランベルからの役人が来るまでの間自治できるように手配する。ジェノアや周辺地区に対して城にあった食料を返納し、天馬部隊に配布を行うと同時に教会との連携で医薬品の配給を行い、急病人や怪我人の治療を急がせた。

手配を一通り終えたカルトはすぐさまマーファに向かったのだがほぼ3日を有してしまった。

 

ガンドロフ王子の夜襲においてこちらも城内戦闘に持ち込み、城下町を最小限の被害にしてガンドロフ王子をグランベル侵攻の主犯としてその場で斬首を行った。

ガンドロフ王子の死によりヴェルダン以外の地はシアルフィ軍により制圧され、2人の王子が率いていたヴェルダン軍は全壊したと言っていい状況であった。捕虜からの情報によると、ヴェルダン城に残っているのはジャムカ王子が率いるハンター部隊のみと判明する。

 

エーディン公女救出により、シアルフィ軍はこれ以上の交戦は無意味である事を捕虜としたマーファ兵に手紙を認めて交渉の場に出るように促したそうであるが、バトゥ王からの返事はなくさらに2日が経過する。

シアルフィ軍は連日の激戦から開放され、一時の休息を得る事になった。

 

 

カルトはマーファにある一室に入る、部屋の手前には歩哨が2名立てており警戒している。

カルトを一礼をした後、歩哨の者は鍵を開けて入室を許可する。

 

中は簡素な作りになっており、ベッドには体格のいい男が横たわっていた。

体には包帯が巻かれているが、手足には錠付きの拘束具が装着され戦犯者である事が一目で判断できる。

男は体を起こす事はなく、こちらを見据える事となった。

 

「よお、体の加減はどうだ?」

「貴様がやっておきながらよく言いやがる・・・。」

 

「その傷もあんたの部下が付けたもんだ、返しただけさ。」

「・・・・・・、なぜ俺を殺さなかった?」

ジェノアの城内戦闘においてレックスに生きたまま捉える事を条件にされた対象者、キンボイスはカルトに吐き捨てた。

 

「まあ色々だ、こちらにはこちらで事情があるんだ。

死ななかっただけよかったじゃないか、と言いたい所だが一名お前の首を斬ると息巻いていた人がいるようだ。身に覚えはないか?」

 

「アイラか・・・。

今からでも連れてこい、奴に斬られた方がスパッと落としてくれるだろから苦しまなくていい。」

キンボイスは怒りでも悲しみでもなく、憑き物が落ちたかのように冷静に物事を捉えそう口にしている。

カルトはそう分析し、一つため息をついた。

 

「まあ、そう死に急ぐな。貴様には聞きたい事が沢山ある。まずは、この戦争の首謀者は誰なんだ?」

 

「親父に決まっているだろう、いくら俺や兄貴でも勝手に軍を率いてグランベルへ攻め上る事は出来ない。

親父から軍の指揮権を譲り受けて兄貴が向かった。」

 

「いや、バトゥ王は穏健派の賢王だった方だ。理由もなくグランベルを侵攻するとは考えにくい、何かあったのではないか?」

 

「・・・。」

 

「なにか、節があるそうだな。」

カルトはその表情を読み取り返答を待つ、彼の重い口は徐々に語り始めた。

 

「あれは、二月ほど前の話だ。親父には俺たち兄弟のさらに末に一人の妹がいてな 、その妹が病を患い手の施しようが無い程重症化してしまったんだ。年を取ってから産まれた初めての娘なもんで溺愛していた親父はある男を城内に入れたんだ。」

 

「男?」

 

「そいつは、各地の歴史を調査する魔道士で名はサンディマと言う奴だ。奴が妹を治療する事が出来ると言いだして疑いもせずに娘の部屋まで入れてしまったんだ。」

 

「サンディマ、魔道士・・・。」

 

「そのサンディマが妹を治療するたびに回復をしていくのだが、親父はそれから徐々におかしくなっていくように思えたよ。」

 

「どういう事だ?」

 

「感情を表に出さない親父が、攻撃的な口調をする時があったり部下の失態で牢に入れたりと以前の親父には考えられない行動があった。

なあ、あんたならどう思う?人が簡単に変わってしまう事はあるのか?」

 

「・・・、人の考え方なら解らなくはないが性格は簡単には変えられない。サンディマと言う男がなんらかの影響を与えているには間違いないな。」

 

「そんな魔法があるのか。」

 

「・・・ない、・・・はずだ。人の心まで、変えてしまう魔法など。」

カルトは目を瞑り答えるが、一つ何か引っかかる物を感じて断定できないでいた。

 

「そうか、残念だがあれは親父の意思なんだろうな。サンディマを締め上げて問い正したい所だが自身でその機会を潰した俺には資格は無いか・・・。」

 

「キンボイス、お前は・・・。」

「それ以上は言いっこなしにしてくれ、俺の首はアイラに飛ばされる運命だ。最後くらいは潔く行きたいもんだからな。・・・だからよ、一つ頼みごとを受けてくれねえか?」

 

カルトは今更ながらにヴェルダンを憂いた一言に彼もまた運命の歯車を狂わされた人間である事を理解した。その清算をする事も出来ない彼は託す人物がいるかのように見上げた顔は笑顔を作っていたのだ。

 

「いいだろう、言ってみてくれ。」

「ありがとよ、あんたと出会った時にシャナンを保護していたジジイがいただろ?

あれに捕虜の価値も、知識もない役立たずだし付いてくる部下もいない。釈放してやってくれねえか?」

 

カルトはキンボイスの顔を見る、彼にはもう快楽主義である仮面は取り払われ真意がそこにあった。

瞳は一時も反らすことはなくカルトの眼を掴むかのように見ている、それは嘆願そのものと理解する。

 

「いい世話人を得たな、キンボイス。お前は本当に馬鹿な奴だよ。」

カルトは唇を噛み締めて言い放つ。

 

「俺の国では政治の水面下は醜い勢力争いが続いている、みんな裏切りと陥し入れられる事に疲弊して正常な判断が出来なくなっているんだろうな。貴様には解らない事だ。」

 

「貴様だけとは思うな。」

カルトは小さく呟く、キンボイスがもう一度聞き返す時に同じ言葉を大きく叫び放つ。

その怒声に外にいた兵士が慌てて入ってきたくらいであった。

 

「俺は小さい時に、毒を何度も口にしてしまい死線を彷徨った。訓練という名の暴行も受けてきたし、死地とも言える戦場で放り出された事もある。

その時の俺には世話人もなく一人だった。諭してくれる人もなく、叱咤してくれる人も、優しく抱擁してくれる人もいなかった。・・・やけになる気持ちは解らんでもない。

しかしキンボイス、お前はなぜ腐ってしまったんだ。あれほどのいい世話人の話を聞いていてなお貴様は道を外してしまったのか!俺は一人だったが腐る事は決してしなかったぞ!」

 

「き、貴様も・・・?」

「ああそうだ。母親を早くに亡くした俺は権力争いの弱者として迫害され、聖戦士の聖痕が出てしまった事で嫉妬の対象になり、魔力が強大な事で実の父から畏怖される対象になった。

地獄のような日々だった、人格もなくして虚無の世界を生きているようだった。それでも俺は腐る事だけはしなかった、そこで立ち枯れてしまっては今まで生きてきた事を自分自身で否定すると思ったんだ。」

 

沈黙が流れる、キンボイスは先程のカルトの激白にショックをうけて項垂れている。自分よりも過酷な運命を受け入れて突き進んでいるカルトの行動に自身を重ね合わせているのであろう。一切の言葉が出ない状態であった。

 

「すまない、少し感情的になりすぎた。貴様の世話人の事はまかせてくれ、悪いようにはしないしない。

・・・アイラの判断がどのようになるかわからないが、希望は捨てないでくれ。・・・邪魔をした。」

 

「カルトさん、だったか?」

早々と立ち去ろうとドアのノブを手にした時、キンボイスの声がかかる。

カルトは振り返る事なく静止し、耳を傾ける。

 

「ヴェルダンを、頼みます。」彼の一言に満足したカルトは口角のみを上げて退室するのであった。

 

 

 

「エスニャか・・・。」

カルトはキンボイスの退室後、すぐの中庭の石柱を背に座り込んでいた。魔力の気配に気付いた彼は顔を起こす事はなくエスニャの接近に察知する。

 

「カルト様・・・。」

「キンボイスの会話、聞いていたんだな。」

 

エスニャは申し訳ないように俯き、肯定する。

彼女は俺の心配から後を追ってきてくれていた、非難する気はないのだが先程の会話を彼女に聞かれたくは無かったのがカルトの本音である。

 

「ごめんなさい・・・。私、あなたの事を知らな過ぎていた。

なのに、私・・・。自分の感情を押し付けてばかりで、カルト様申し訳ありません。」

エスニャは顔を手で覆って涙する。

 

おそらく、先日の平手打ちの事を言っているのだろうか。いや彼女はもっと心因的な事を言っていると思われた。静かに肩に手を当てて彼女を落ち着かせるように振る舞う。

 

「カルト様はずっとお一人で闘われていたのですね、人間不信になっておられてもおかしくないのに一人奮起してこられた方に私のような者がカルト様を支えるなんて・・・。おこがましいです。」

嗚咽が堰を切ったように漏れ出していく、彼女の気持ちが自身の胸に吸い込まれて癒されていく。

 

(忘ていたよ、この感情・・・。安らぎを・・・。)

あの頃、ラーナ様に救出される直前の俺はすっかり魂が擦り減ってしまって心が乾ききっていた。来る日も来る日も戦場に赴いて敵兵を屠る毎日、希望もなくただ黒い世界を歩む・・・。

そんな中でラーナ様と出会い、レヴィンに助けられて過ごした日々を愛おしく感じたあの頃を鮮明に思い出した。

カルトは少し、笑って彼女の髪を撫でた。

 

「俺の為にそんなに泣かないでくれ。

シレジアのレヴィン王やラーナ様に助けられてここまで歩んできた。そして今はエスニャ、君やこのシアルフィの連合軍のみんなに支えられながら進んでいるんだ。恐るものはない。」

 

「・・・はいっ!」彼女は涙を拭ってははにかんだ。

 

 

 

二人の様子を上階のバルコニーで伺っていたアイラとホリン、それにデューとマリアンとシャナンは二人を見守っていた。

当初はカルトがキンボイスの元に向かうとの事でその後、アイラはキンボイスの処断しようと画策をしていた。

カルトが情報を聞き出した後であればいいだろうと思っていたのだが、そのやりとりをみて興が冷めてしまったのか息巻いていた時の抜き身の剣はすっかり鞘に収まり、腕組みをしている。

 

「ふん、まあいいだろう。シャナンは無事だった、奴を殺しても何も始まらん。」

ホリンは笑みを浮かべて同意する、できればアイラには余計な殺害に加担はして欲しくないのがホリンの意見であった。

 

「しかしホリン、奴がお前のいう信頼できる男か・・・。」アイラはカルトを見ながらそう言うと

「ああ、奴がいなければここに俺もマリアンもいなかっただろう。シャナン様もアイラも奴がいなければどうなっていたか。」ホリンは返した。

「確かに、感謝せねばならないな。」アイラは再度笑みを浮かべる。

 

「アイラ、俺たちはこの後早々にヴェルダンを抜けてアグストリアに向かう。

シャナン様がシアルフィ軍に駐留すればシグルド公子のグランベルに対して在らぬ噂が立つ恐れがあるとカルトが言っていた、エルトシャン王にも手引きをお願いしているそうなので準備が出来次第向かうとしよう。」

 

「そうだな、恩義を仇で帰るわけには行かぬ。そうするとしよう。」

「デュー、君はここに残って俺たちとのパイプを頼んだぞ。」

「うん、わかった。」

「マリアン、カルトを頼んだぞ。」

「はいっ!」

イザークの三人は次の目的地、ノディオンへと向かうのであった。




ヴェルダン国

湖が国土の中心に存在し、その豊富な水源の恩恵を受けて大森林が存在する美しい国。
主生産業が農業で、食料事情には明るい国であるが秩序の乱れが酷く山賊や盗賊が跋扈し国軍でもってしても手を焼く荒くれどもが多い。

バトゥ王の政略により、一時は穏やかな国であったが疫病の蔓延から兄弟間の軋轢や家臣達の暴走によりガンドロフ王子やキンボイス王子の抑制が効かなくなり秩序の崩壊が訪れた。
サンディマの干渉によりさらに国内は混乱し、シアルフィ軍と対峙する事となる。


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深緑

この回、すこしらしくない回になってしまいました。
今後、すこし書き直す事になるかもしれません。



使者捕縛!

マーファにいるシアルフィ軍はその報告に落胆を露わにする。先日送り出した交渉による終結はなくなり、ヴェルダン国存亡の事態にまで引き上げられた。

 

グランベル本国から参られた使者は、戦犯であるガンドロフ王子に加えバトゥ王の処断を要求していたがシグルド公子はまず交渉による模索を探り始めていたのだ。その矢先に使者の捕縛という暴挙にとうとうヴェルダン国掃討の命が正式に通達され、即座に軍議に入る事となった。

 

円卓にはシアルフィのシグルド公子、レンスターのキュアン王子、ヴェルトマーのアゼル公子にドズルのレックス公子、ユングヴィのエーディン公女、フリージのエスニャを伴ってカルトが席に着く。

それ以外の者は円卓ではなく傍聴に近い形で簡素な椅子に座り、有力者達の言葉に耳を傾ける。

 

 

「カルト公、レックス公子、ジェノア攻略ありがとうございます。あなた方の力では問題ないかと思っていたがここまで早く落としてくれるとは思いませんでした、まずはお礼申しげます。」

シグルドのお礼に二人は頷いて返す、今からさらに大変な戦が予想される、浮かれるような言葉は必要ではないとの意思表示である。

 

シグルドはオイフェに合図を送り、次の進行を促すとすっと立ち上がり書面を読み上げる。

「では、これよりヴェルダン国攻略に向けての情報を整理したいと思います。

現在ヴェルダン国はキンボイス王子の捕縛、ガンドロフ王子の掃討により兵力の大半が瓦解しております。

しかしながら深い樹海に加えて山頂付近に立つヴェルダンまでの道のりは厳しい上に最後の嫡男であるジャムカ王子と率いるハンター部隊は侮れない力を持っています。」

 

「この混成部隊の大半は騎馬部隊だと思うが、山頂まで馬で登ることは可能なのか?」

カルトの発言にオイフェは慌ただしく紙面を探し出して情報を見つけ出す。

 

「不可能ではありませんが、馬に乗るより人が歩く方が早くつけるくらいひどい原生林との事です。

道を誤れば、精霊の森と言われる聖域があるそうで迷い込むと二度と出てこれないと麓の村では言われております。」

 

「つまり、これは・・・。通常攻略では打つ手が無い状態だな。」キュアン王子は冷静に分析し、シグルドに目をやった。シグルド公子もこれには案が出ていないようで苦虫を噛み殺している。

 

レックス「地の利はハンター部隊、迂闊に飛び込めば蜂の巣だな。」

アゼル「天馬部隊も下手に飛べば格好の標的になるし、ジャムカ王子の弓技はユングヴィのアンドレイ公子に勝るとも劣らない能力を持つと言われている。」

 

沈黙する、こちらの圧倒的不利とあちらの最大戦力が活かされるこの状況において数で圧倒しても惨敗してしまう恐れがあるので沈黙でしか返す事が出来ないでいた。

 

「少数精鋭でいこう。」シグルドの言葉に一堂が注目する。

「騎馬部隊はここマーファで待機し、徒歩部隊として経験を積んでいるもので部隊を組み山中を行こう。ハンター部隊は脅威だが数は少ない、こちらも少なくして的を少なくして臨む。」

 

クブリ「確かに、下手に大部隊で行進するよりそちらの方が魔法探知の誤差も少なくて済む。」

デュー「それならおいらは先頭を行けば暗闇でも目が利くから、視覚でやつらより早く見つけてみせるよ。」

 

カルト「それと、やつらにはサンディマという魔道士がついているらしい。」

その言葉に再度一堂はカルトに視線を集める事となった。

 

「エーディン公女救出時に天馬部隊のフュリーが遠隔魔法を受けたらしいのだが、かなりの手練れの可能性がある。そちらにも十分警戒して欲しい。」それには同意を示す頷きが返されるのであった。

 

 

「カルト公、少しお話がある。」シグルドが軍議を終えて足早に退出するカルトを引き止め、私室に招かれる。

私室に入ったシグルドはワインを取り出してカルトのグラスに注ぐ、アグストリア産のワインは芳醇な葡萄の香りが強くて他国の貴族には有名であった。カルトも何度か味わったことはあるが有事中、それもヴェルダンで飲めるとは思えずに首を傾げる。

「この間エルトシャンから譲り受けた物だよ、味が変わる前に君と飲み交わしたかった。」

 

「私のような辺境の一貴族にこのような待遇をしていただけるとは、光栄の極みです。」カルトは礼節に従い一口含む、芳醇な香りが一気に脳髄へ浸透して深いあじわいが広がった。喉を越えると一気に冷たい液体が熱を持ったかのように腹部を暖めた。シグルドも続いて飲み干す。

 

「シグルド公子、私に何か聞きたい事があるんじゃないか?」カルトの言葉にシグルドは一瞬動揺をしたかのようにかんじた。あのような大胆な作戦を打ち立ててきた彼とは思えなくらいでカルトも一瞬警戒してしまう。

 

「もう少し酔ってから言おうと思っていたのだが、キュアンに聞くには少し距離感が近すぎてな・・・。

カルト公なら聞けるんじゃないかと・・・。」ぶつぶつと何か煮え切らないような言葉を口にする、カルトは一瞬壊れてしまったのか、とまで思う程であった。

 

「シグルド公子?」カルトの問いかけに意を決したようで、振り向き直った。

「先ほど、マーファ城下で戦後処理中に美しい娘に出会ってしまったのだ。」

《は!はいいいい!!》

 

「彼女は精霊の森に住んいると言われていて、人と接触してはいけないらしい。私には意味がわからないのだが、どうしても彼女にもう一度会って話がしたいのだ。

あなたなら何か彼女に会える手段があるんじゃないかと思って声を掛けたのだ!どうだろうか?」

初めは色恋沙汰と思い、思考を停止していたカルトであるが精霊の森にいつものカルトに戻る。

 

 

精霊の森

それは、祖父であるアズムール王との謁見にて聞いた言葉の一つ。

ロプト帝国血脈の一人、マイラが反旗を翻して聖戦への道が始まった。その功績により血の粛正で唯一生き延びた者。その者が世俗を離れてなおも子孫が生きているなら会わなくてはならない、現状はどのようになっているのか知る必要があるとカルトは感じた。

 

シグルドがいう女性は、人と接触してはならない事よりマイラの末裔である事が予想できる。

マイラの血族を脅かそうと森に入り込めば磁石も効かず、魔力も探知できない聖域に常人が入り込めば二度と戻る事はかなわない。古来より人と獣を棲み分ける地として精霊の森と言われているそうである。

 

「シグルド公子、おそらくあなたが見初めてしまった女性は精霊使いの者だろう。彼女達は外部の接触を極端に拒み、自然の摂理に従って過ごしている。悪い事は言わない、彼女の事は忘れた方がいいだろう。」

 

「な、なぜだ!精霊使いと言えども同じ人間、分かり合えない事など・・・。」

シグルドは立ち上がり誰にでもなく非難する、カルトはグラスのワインを一口飲んでシグルドを見る。

 

「そうでしょうか?シグルド公子は本当に互いをわかり合えば気持ちは通じるとお思いですか?」

カルトの言葉にシグルドはゾクリとする。

まるで言った言葉を否定するような物言いにシグルドは対抗して否定したいところであったが、彼の生気を失ったような口調にその先が言えないでいた。

 

「会話をすることで分かり合える事があるのは知っています、だが今の私の話している次元はもっと先にあります。シグルド公子、あなたはその見初めた女性の本質を知った時に同じ事が言える自信がありますか?」

 

「・・・・・・・・・どういう事だ、カルト公。あなたは何を知っておられるのだ。」

「彼女の事が知りたいですか?」

「無論だ、知った上で彼女にもう一度話がしたい。」

 

「私も確証はないのでこれ以上はその彼女に会うまで何も言う事はありません。しかし、私の予想通りなら・・・あなたに恨まれてでも2人を止めるかも知れません。その時が現実になった時、あなたは私と戦う気概はありますか?」

カルトは魔道書を取り出してシグルドと対峙するかのように構える、シグルドも咄嗟の動きに腰の剣を確認するかのように身構え、カルトを見据えた。

2人の空気が途端に怪しくなる、殺気は無いが相手を見極めんが如き物々しさに眼だけが鋭く牽制している。

 

「カルト公、私にはあなたの心中はわからないが私の為にそして彼女の為に言っている事は理解した。

しかし困難は回避する事だけが最良とは私は思えない、その困難を乗り越えて支え合う事が出来る道があると信じている。」

 

「シグルド公子・・・。」

「もしカルト公の言う事が本当であれば私を止めて欲しい、彼女が私を受け入れてくれるようならカルト公の意見も聞かないだろう。

この度の戦争で数々の恩を受けた身だ、カルト公の判断において私の始末をお願いする。」

彼はここで腰の剣を鞘ごとカルトに渡す、つまり彼はどこで私に殺されても文句は言わない。

命をカルトに委ねると言うのだ。

シグルドの言う、困難を乗り越えて支え合う事にシレジアのカルトも含まれている事を意味していた。

カルトは、魔道書の持つ左手が震えていた。

 

今までシレジアとグランベルの意識しながらここまで戦ってきた、シレジアは同盟の立場でグランベルの決定に忠実でいようとするカルトの行動。

グランベルの勝利をあくまで補佐するように考えていたのだが、シグルドは参戦した時からシレジア軍にも同じ国の戦友のように振舞ってきた。これは味方の士気を上げる為のものであり彼の戦場での胆力と思うところがあったのだが、彼には表裏なくどんな国の者でも受け入れ自然体に接する。

 

いつの間にかカルトも人の裏を読んでばかりしてしまい、シグルドのような高潔な意思を読み取れないようになっていたのである。

かつて無償の愛情を注いでくれたラーナ王妃にひどい事を言ってしまった時のような気分になる。

 

 

カルトはいつの間にか持つ魔道書を下ろしていた。

「・・・シグルド公子、私こそ申し訳なかった・・・その御決意お見事です。

私はあなたの決意に従います。シレジアもグランベルも関係無く、あなたとの約束を全うしましょう。」

魔道書を胸に抱き、シレジア宮廷魔道士の御意を示す一礼をする。

 

「カルト公・・・、ありがとう。君の協力頼もしく思える。」

「憂うる問題は私におあずけください、打破して見せます。」

カルトとシグルドはワインのグラスを交わすのであった。

 

 

シグルドの部屋を出たカルトは再度考える。

もしシグルドの見初めた女性がマイラの子孫であり、その血脈の者であればロプト教団は見逃さない筈はない。精霊の森を出るという事は彼女は見つかってしまう恐れがり、捕縛されればロプトウス復活の鍵が一つ開いてしまう事になる。

さらにロプト教団がもしあの魔道書を手に入れていたとすれば、世界に再び百年前の地獄が始まる事になる。

 

いや彼女は直系ではない筈・・・、マイラが粛正を逃れた厳しい制約の中に2人以上の子を設けない事が条件だった。その条件を遵守させる為に精霊の森の精霊使い、シャーマン達監視の元で生活しているのだ。

ロプト教団が彼女を手に入れてもすぐにはロプトウス復活にはならない。

それならまだ打てる手はある、失敗しても次の手、また次の手と打てるのであればシグルドの思いを遂げさせてもいいのではと思ってしまう。

 

一度、アズムール王にお会いしてご意見を聞くべきかもしれない。そう思ってしまうカルトであった。

 

 

 

 

 

二日後、シグルドの思いは届かず、ヴェルダン攻略へと進軍を始める。

先頭にはデューがハンターの察知役で進軍し、シアルフィの下馬したノイッシュとアレク、重装備ではないアーダンがデューを護るように側に待機する。

その後ろには魔法探探知で索敵に徹するクブト、遠隔攻撃に優れたアゼルとエスニャとミデェール、攻守に優れたカルトとお付きのマリアンが控えている。

 

若干離れて後ろにはシグルドやレックス、エーディンを戦闘に、徒歩となった精鋭部隊が進軍する。

第一陣が安全を確保しながら進み、その安全エリアを進軍する事により第二陣がハンターの的にならないようにする。ハンターが射的範囲にいる場合は目視感知するデューと魔法探知するクブトで認識し第二陣の進軍を止めて排除にかかる作戦である。

 

やつらは山中で待ち伏せし、テリトリーに入ったものを射殺す事に長けた部隊であり正面から戦うタイプではない。単独行動が多いので固まって進軍するよりも能率がいいとの判断であった。

 

険しく、道とも言えない道を進む。昼にもかかわらず頭上を覆い隠す深緑により陽があたらない、その為雑草はほとんどないが木の根っこに蹴躓き声を上げそうになる。

 

「いるよ・・・。」

デューが足を止めて警警戒する。

クブリの探知魔法は自分を中心に魔力が放射され、動く物があれば反応するのだが初めから動いてなければ人がいても反応できない。その欠点を埋めるべく眼のいいデューが探知に成功する。

 

ノイッシュ、アレク、アーダンは盾を掲げて弓の襲撃に備える、いつもは接近戦用の系の小さな円型の盾を使用するシアルフィ軍だが今回は弓用に系が大きくて方形の盾を持参している。弓が通らないように陣形を組んでデューの警戒する方向へ掲げた。

その瞬間にノイッシュの盾に鋭い一撃が当たる、もしデューがいなければノイッシュの心臓を貫いて一瞬で即死していただろう。

 

ミデェールはすぐ様反撃の一撃を放つが手応えはない、おそらくこちらの作戦と動向を知る為の偵察と思われる。一射放った瞬間にその場を離れたのだろう。

こちらの手の内を報告される事は痛手ではあるが、これは仕方がないと頭を切り替えた。

 

 

「みんな駄目だよ、見つけた以上は確実に倒さないと。」進行方向からデューがハンターを引き摺りながら姿を現わす。

「い、いつの間に・・・。」アーダンが呆然とする。

「盾を掲げた瞬間だよ。それよりも気をつけたほうがいいよ、これ・・・。」

デューはハンターの遺体から装備品を抜き取り一本の矢を見せる、矢には液体が塗布されており滴っている。

 

「毒か・・・。」カルトは険しく告げた。

アレク「これは戦争ではないな、手段を選ばない連中ってわけか。」

ノイッシュ「呑気な事を言ってる場合か。」小言で一括する。

 

「でも、こういう場合は・・・。あった♪」

さらに遺体を物色する、騎士である面々はどうしても死んだ者への侮辱行為と思うのだが盗賊であり生きる為の技術に秀でたデューを非難するわけにはいかない。まさに毒で持って毒を制するわけである。

 

デューはこの手の猛毒は取り扱いが非常に難しい事は知っていた。致死にまで至る毒は当てる事が出来れば急所を狙わずとも相手を毒殺できる、しかしながらそれは諸刃の剣である。

矢を使う者ならよく分かる事だが、矢尻で自身を傷付けてしまう事があるのだ。だからこそ必ず解毒剤を持っているのである。デューは小さな袋を見つけてカルトへ渡す。

 

「なるほど・・・。」カルトも感心する、デューがいてくれて心強く感じるのであった。




極力、自身の世界観をわかりやすく書きたかったのですがなんだかごちゃごちゃしてしまいました。
カルトがどこまでディアドラの事を知っているかを書きたかったのですが不充分になってしまいました。

なんとか今後に、説明したなあと思います。


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深遠

今回も戦場での戦いがメインになりますが、少し視点を変えてみました。
活躍する人が変わり、いいかなと思っています。


「もう貴様に用は無い、死ね!」

サンディマの暗黒魔法がバトゥ王に襲いかかる、暗黒の瘴気が形を成してバトゥ王の体に覆いかかると大量の血飛沫をあげ、声を発することもなく床に倒れこんだ。カルト達もこれらの攻撃を受けていたが、魔法抵抗力のない常人がまともに受ければこのような結果になるのである。

 

サンディマにとってこの国の行く末に興味はない、その意味で言えばヴェルダンにはもう利用価値は無く役割は充分に果たしてくれていた。強いて言えばあともう一つの役割があるが、こればかりは簡単に見つかるものでは無い。この戦乱の後、荒地となった時にでも探せばいいとさえ思っていた。

 

 

「サンディマよ、バトゥを殺してしまったのか?」

背後より強烈な威圧感と共にその声に反応し畏る、ロプト教団の司教であるマンフロイが彼の背後に転移してきたのだ。

「マンフロイ様、わざわざお越しになられたのですか?心配ありません、もうこの国には戦力もありませんし役割は終えました。」

 

「では、あの娘は見つかったのですか、サンディマ様?」

マンフロイの横に佇む全身黒いローブを羽織った女性はサンディマに投げかけた。

顔はローブに隠れていて素顔を見ることはできないが、その妖艶な声量とローブを羽織っても誇張する胸部と華奢なシルエットに女性であることがうかがえる。

 

「それはまだ、見つかっておりません・・・。」

「バカ者!!貴様はまだこの事の重大さがわかっておらぬのか!」

マンフロイは激昂する、女性はサンディマにこれを焚きつけたのだが悪びれる様子はなくローブの中から光る双眸だけが静観している。

 

「我らはただ単に騒乱を起こしているわけではないのだぞ!ようやく長年の悲願を成就できる可能性を見つけたのだ、あの小僧と精霊の森にいるであろうあの娘を使って教団を再建する使命があるのだ。」

 

「はい、理解しているつもりであります。しかし精霊の森は我らを拒んでおりまして入り込む事は叶いません。彼女を連れ出すにはこの案件とは別に働きかけなければいけないでしょう。」

 

「ふむ、儂もこの事をしってから幾度となく精霊の森へ使いをよこしたが貴様の言う通り入り込む事は出来なんだ。しかしこの機会を逃すわけには行かぬ、サンディマよ貴様であればできると思っていたのだがな。」

 

「マンフロイ様、私にもこの一件を噛まさせていただきたいのですが。」

「フレイヤか・・・、いやお前にはアグストリアのバカ息子を懐柔する仕事を優先してもらおう。」

 

「あら、あの方ならもう籠絡いたしました事よ。」

「・・・そうか、なら依存はない。フレイヤはサンディマと協力してあの娘を連れてくるのだ。

サンディマはここに来るであろうグランベル軍の主力を潰しておけ、奴らを野放しにしておくと厄介になるやもしれん。」

 

 

 

 

「フレイヤ、何を企んでいる!」

マンフロイが転移で再び姿を消した後、サンディマはフレイヤに突っかかる。

 

「あら?私はあなたに協力してあげようと思って残っただけですわ。さっき、余計な事を言ってしまった罪滅ぼしも兼ねてね。」

彼女は、怒りに燃えるサンディマをよそに飄々として答える。

 

「お前の協力など必要ない!とっととアグストリアへ戻れ!」

振り返り歩み出すサンディマにフレイヤは背後から手を回して抱きつくようにしてその歩みを止める。

女性の武器を活用して胸部を背中に当て、回した手は男性器を徐々に迫るような動作で意識させる。彼女の武器は女であり、各国の要人達はその妖艶な動作に懐柔されていく。理解しているサンディマでさえ、その性の魅力に取り憑かれそうになる。

 

「放せ!フレイヤ!!マンフロイ様が貴様を優遇する意味はわかっているが私には無駄な事だ!あの娘を探すには貴様の能力は役に立たぬ、帰らぬというのであれば黙って見ておけ!」

 

「私の能力?あははは!サンディマ様は何か勘違いされておられる。

私の能力は女だけだと思っておられるのですか?」

途端彼女よりマンフロイと同様の威圧感を発し出し、妖艶な魔力が立ち昇る。サンディマはその魔力の圧力に後退り、大量の汗が流れ出した。

 

彼女は王室の間よりバルコニーへ出ると、山の麓を一望する。

「見なさい!私のフェンリルを!!」

フレイヤは天に仰いで禍々しい瘴気を放ち出す、ローブからちらりと見える漆黒の髪と詠唱する紅い唇だけがサンディマに強く印象を植え付ける。そして放たれる暗黒の弾丸、彼女が魔力で補足した対象者へと放つ闇の魔法はサンディマの魔力を凌駕しており一瞬に山林を駆け抜けていく。

サンディマは二度と彼女に魅了される事はないだろう、その禍々しさに彼の心は別のもので支配されていた。

 

 

 

シグルド率いるシアルフィ軍は最も不利な戦いを続けていた。

もう、陽が傾き始めたばかりであるが原生林の中ではもう闇が広がり始め進軍をさらに遅くなり始めていた。

 

ハンターを20人程撃破に成功したが、ノイッシュとアーダンに毒矢の一撃をもらってしまい後陣の者と入れ替わってから明らかにペースが落ちてしまう。やはりシアルフィ軍の精鋭と後陣の者とでは明らかに実践のよる経験値と研鑽が違っている、それでも残ったアレクは代わりにはいった者への叱咤激励で進軍を進めておるのはたいした者である。

ノイッシュとアーダンはエーディンの回復魔法とデューが敵より抜き出した解毒剤で命には支障はない。

山頂まで今で半分といった所であろうか、犠牲者はなく順調と思える状況であるがデューの警戒はさらに強くなっており気を抜けない状況には依然変わらないでいる。

 

「デュー、そろそろ休息を取ろう。一度休んでから、次の行動で野営できる所を探したい。

ここから先に野営できる所を、知っているか?」カルトはデューに竹筒を渡す。デューは竹筒の中身を飲みつつ、腰にある巻物を取り出して目を落とす。この山の高低図と磁石を確認しているが、彼の生きる為の技術と道を見つけ出す探査能力は素晴らしい。

カルトはこの山中の攻略はデューにかかっていると思ってはいたがここまで凄まじいとは思っていなかった。

 

「ここ、かな?この尾根のあたりなら奴らの狙撃ポイントは少ないし、見張りを立てれば主力メンバーに休息は取れる。ただ・・・。」デューの言葉は止まる。

 

「敵側もこのポイントは抑えられたくないと判断しているだろう、ここに着く前に激しい攻防戦が予想されそうだ。」カルトはデューの言いたいことを先行する。

 

「自然の高台になっている尾根を抑えられるとハンター達は頭上を抑えられたような物だから必死に防衛線を張っていると思う。

戦線をここで食い止めることができれば、野営もできなくてグランベル軍は撤退をするしかなくなる。」

 

「なるほどな、ここが決戦ポイントか・・・。総力を挙げてでもここは引くわけにはいかないな。」

カルトは気を引き締めて、後方からくる者達を見回す。

 

皆疲労は有り有りとしているが、士気は落ちていなかった。

ここまで不利な形成でも犠牲者を最小に抑え、確実にヴェルダン兵を仕留めていくカルトの辣腕に信頼を置いている証でもあった。シアルフィや他の諸侯の軍も徐々にシレジアへの信頼を得てきていることに喜ばしいカルトはここでも彼らを導ける為に自ら先頭を切っていく。

 

《カルト様!11時の方向、距離100メートルにハンター部隊の一個団体がいます。》

クブトより伝心の魔法にて直接呼びかけられた。カルトは無言で頷き、了承の合図を送ると周囲に警戒の合図を送る。デューもすぐさまその雰囲気より目を再び凝らし始めた。

 

また距離はあるが前衛の部隊は盾を掲げて弓に備える、後続のシグルド達も立ち止まり周囲を警戒に急がせる。

静寂する森にであるが、明らかに不自然な殺気が入り混じり魔性の森へと変貌していく。闇がどんどん濃くなっていき、日没が始まろうとしている中でヴェルダン戦は最高潮へと向かっていくのである。

 

「エルウインド!」カルトの先制攻撃が原生林のへと打ち込まれる。

デューの合図にて放たれた上位魔法はヴェルダンのハンターを見事に命中し、数人が風の暴君に当てられ姿を現わす。

そこへ狙い澄ましたレックスの投擲用の斧がハンターの胸部を裂いて絶命させる。かなりの後方からなのにレックスの投擲はすばらしく、威力とともにドズル家の武力の高さを思い知らしめる。

 

一気に前線部隊は弓への警戒を怠らないまま進軍する、立ち止まっていては敵の的になるので危険であってもここは敵の拠点を奪う事が優先された。

前線のノイッシュとアレクが弓をもらってしまうがそのまま盾を前面に押し切る形で走り続ける。

矢じりに毒を塗られているが士気の高い二人はここで恐慌を起こして倒れこむことは無い、そのまま勝機とばかりに無茶をする。

 

「エルサンダー!」

次はエスニャが魔法を使用する。大気にある水分を激しく振動させることにより帯電させ、魔力で絶縁して停滞し、魔力で持って対象物に誘導させる。そんな一連の動作に無駄が無い。

瞬く間に樹々に潜むハンター達に直撃し、吹き飛ばされていく中で一本の矢が音もなくエスニャに飛ばされている。中級魔法とはいえ、発動直後のエスニャには到底回避できることはできない。

その静かな矢はエスニャの心臓を寸分違わず貫く筈であった。

 

「・・・・・・・・・!?カルト様?」麗しい睫毛を上げた時、彼女の心臓が大きく動悸する。

すぐ横に先程まで立っていたカルトが自身の作った血溜まりの中に倒れており、ピクリとも動いていないのだ。

前線の面々はそもあまりにも唐突な一撃に息を飲んだ。

「ジャムカ!!」デューは怒りをあらわに、そのまま矢の方向へ駆け出す。彼には見えていたのであろう、ハンター部隊の恐るべき統率者であり第三皇子であるジャムカの存在。その彼を追うデューを静止することは誰にもできないでいた。

 

「いやあ!カルト様!!」エスニャの絶叫に各自が即座に動き出した。

後方にいたレックスは前線に躍り出て後に控えるハンターの攻撃に備える。

エーディンとクブリは即座に回復魔法を唱えて止血にかかった。

 

「これは・・・ひどい!致命傷です!エスリン様も呼んでください!」

「矢は触るな!毒にもやられている!デュー様が置いて行かれた解毒薬を!!」

途端に野戦病院と化したカルトの救命に全てが動き出した。

 

今まで快進撃を飛ばしてきたシレジアの若き指導者が一瞬で瀕死に陥ったのだ、グランベル軍は熱を奪われたのかのように憔悴していく。

 

「クブリ様、矢が大動脈まで達しています。このままでは・・・。」

「うむ、矢を抜けば大出血。抜かねば壊死して死んでしまう。」

二人の決死の回復では追いつかない、知らせを聞いたエスリンがカルトの元に到着し三人での回復を急ぐ。

 

三人の回復にてなんとか止血には成功するが、維持する事で精一杯であった。

ここからさらに回復させるには矢をゆっくり抜きながら血管を回復魔法で再構築する必要があるが、三人とも全力を尽くしており難航しているのであった。

そうこうしておるうちに三人の中で一人でも魔力が尽きればカルトは再び出血して死んでしまうだろう、だが他に手立てがなくジリ貧に陥っていく。

 

「どうすれば・・・、どうすれば打開できる!」

アゼルは必死に考える、いつもそばにして一緒に苦しみ、乗り越えていく親友に手を指し伸ばせられない自身を呪う。

《なぜ、いつもこんな惨めを感じるんだ!カルト!!》

アゼルが絶望に追いやれている時、同時のもう一人の魔道士が行動に出る。カルトの腰にある聖杖を引き抜き、回復を行おうとする者が一人いた。

「エスニャ?」アゼルは問いかける。彼女はカルトのように複数魔法を使用できるわけではない、それ以前に魔力の本質が違う回復魔法など使えるわけがない。

 

「エスニャ!やめるんだ!!」アゼルは絶叫する、エスニャの瞳には決意が宿っている。聞き耳を持っておる状態ではなく、魔力を聖杖に注ぎ出す。

 

 

魔力とは、この世界にあふれているマナを自身の体に取り込み自身の器に収める事で魔力になると言われている。

炎を得意とするアゼルにはアゼルだけの器があり炎の魔力に適した注ぎ口がある、そこに新たな系統の魔法を使用するには新たな注ぎ口を作り出す必要があるのだ。それは人それぞれの器により教えてもらってできる物ではない。

長年自身の魔力と見つめ合い、可能性を見出し、試行錯誤するしかないのである。まれにカルトのようにもともと注ぎ口が複数あり、自在に使える者も存在するがそれは稀であり聖戦士の血の賜物と言えるであろう。

未熟な者が無理に使えない魔法を使えば器を破壊し、魔法を使えなくなる可能性もある。

 

魔道士として禁忌の行為を行おうとするエスニャはアゼルの制止を聞かずに一気に解放する。

自身の雷属性としての魔力を異質な力を使う注ぎ口から強引に引き出す。彼女の聖杖と手の間から鮮血が吹き出し、彼女の口からも吐血した。

杖は反作用から手を離れるように暴れるが彼女の意思がそれを払いのけていた、右手が離れないように左手を添えて離さまいと抵抗する。

エスニャの魔力は高く、その回復が加わってカルトに照らす光は眩く、直視できないほどになった。

「エーディン様、私の魔力では止血ができても組織の再構築はできません。出血は私が押さえますので再構築をお願いします!」

エスニャの覚悟にエーディンは頷き、血管の再構築に移る。

組織の再生成には魔力を繊細にコントロールする技術が必要とされる、それは生死の淵から助けを行う場数の多さに尽きる。その最前線に立ち続けたエーディンのみが為す事のできる行為であった。

 

懸命の治療が続く、その間にもハンターが襲撃されるがレックスを始めとする後方待機の部隊が前線に立ちカルトの治療部隊に被害がでないように食い止める。

クブリの部下にも回復できる部隊が少ないが存在し、必死に彼らの命を助けているが長くは持つ様子は無い。

もし、ここでカルトの治療に失敗すれば高度な回復技能を持つ者の魔力は枯渇してしまい退却を余儀なくされる。カルトの救出に成功しても状況は変わらない可能性もある。それでも懸命の回復は続けられる。

 

グランベル軍において数々の不利を勝利に導き、非難されようとも提言するシレジアの諸侯をここで生き絶えらせる訳にはいかない。皆の想いはいつの間には国の利害を越え、一つになろうとしている。

その一役を担っていたカルトはまだ深い眠りについているのであった。




ジャムカ

ヴェルダン国の第三王子
幼少よりその俊敏な身のこなしと、弓のセンスは近隣からも名が聞こえる程の勇士である。
音もなく敵の至近距離まで忍び寄り、不意より必殺の矢を急所に射抜く彼を畏怖するようになり「サイレント・ハント」の異名を持つ。

二人の兄ほど体躯や筋力に恵まれなかった彼は生きる為にもがき、苦しんだ末に得たこの力を誇りと思っている。ヴェルダンという過酷な国に生まれた弱者を拾い上げてハンターとして育て上げていき、ついにはヴェルダン王国に攻め上ってくる敵に対して少数ながら撃退する精鋭部隊にまで昇華した。

自身にも相手にも厳しく、なにより公平でありたいと思っているが故に融通の利かない点がある。
エーディン救出には彼なりの贖罪と恋心からくる物であるが、彼は最後までその想いは口にすることは無いであろう。


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不明

ヴェルダン編も仕上げ段階となりました。
もう少しペースを上げていきたいのですが、やはりキャラクターが多くなってくると出てくるオリジナルイベントが多くなりましてペースが上がりません。他の方の小説を見るたびに、テンポの良さに感服いたします。


「ジャムカ!」

原生林の中、日が完全に落ちた頃にデューはジャムカの影を懸命に追いつきナイフを投げつけて制止をさせる。

背中を狙ったが、空気を切り裂くナイフの音で判断したのか命中寸前で空中舞い上がり回避する。

そこで体を捻りデューと対峙した。

 

「やはりデューだったか、エーディンも来ているのか?」

「うん、来ている。今ジャムカが撃った人を一生懸命治している。」

「悪いが俺の狙った者が助かった奴はいない、気の毒だがな。」

 

「・・・・・・・・・ジャムカ、オイラあんたが好きだよ。ここまで荒れ果てている国でも、見放すことなくジャムカなりに立て直そうとしている。見捨てないようにしている。

・・・エーディンはまた逢いたいと言っていたけど、ここで倒させてもらう!」

デューは剣を抜いてジャムカに殺気を向ける。

ジャムカも肩にかけた弓をいつでも射掛けるようにデューに向き直った。

 

デューが先に突進する。蛇行するようにステップを踏み、身は地を這うような前傾姿勢を保って突撃する。

ジャムカはその疾走からの一撃を再び跳躍により回避する、頭上にある木の枝を掴み半回転して枝に降り立つと即座に弓を射掛ける。

デューも幹に飛び込み矢を回避すると、ジャムカに負けない跳躍を見せて枝に降り立ち枝から枝へ走るようにジャムカに向かう。

 

デューもまたジャムカに勝るほど暗闇でも見える眼を持っていた。盗賊である彼は原生林の暗闇に慣れたジャムカとは違う環境でその眼を鍛え、実戦に応用している。

 

ジャムカの至近距離まで突進し、ショートソードの袈裟斬りにジャムカも腰にある剣で受け止める。

しかしその身体ごとの一撃に枝より二人は落ち、受け身をとって即座に相手を確認する。

 

デューはすぐさまサイドステップする、やはりジャムカは弓に持ち替え一擲放っていた。

空気の切り裂く音も最小の矢はデューのいた場所を確実に刺さっていた。

 

デューもまた、その剣尖は確実にジャムカを狙っておりジャムカの回避能力が少しでも狂えば確実に致命傷になるような一撃ばかりである。

連続攻撃の合間に足払いでデューのバランスを崩してようやく距離を取ることができた。

 

原生林は再び静寂に戻っていく。

距離を取られたデューは相手の気配が消されている事に気付いた、おそらくサイレントハントの名において最も得意な遠距離からの無慈悲な一撃を見舞うつもりだろう。デューも気配を消し、走行する音も最小にして辺りを警戒する。

先に相手を位置を認識された時に命を落としてしまう、無音の攻防戦が繰り広げられていくのであった。

 

(遠距離攻撃が強力な分、接近戦に持ち込めば勝ち目がある。と思っていれば勝機はないぞ、デュー!)

ジャムカは弦の加減を確かめつつ、デューの気配を探る。

デューの剣技は一流とは呼べないが、盗賊としての技能と剣士としての戦闘技術が合わさり独自の剣術として確立している。実際にジャムカと不利な地形で互角に渡り合っている事から油断はしていない、多少縁もあるが戦場における非常は理解している。

なのにここまでデューがジャムカと対等に戦っている事にジャムカは違和感を覚える。一瞬思考がずれてしまった時デューのナイフが飛んでくる、油断のない男である。

ジャムカは枝から飛び降り、降下しながらナイフの方向からデューの位置を割り出し弓を放つ。

 

デューはここで違和感を感じた。

矢の動きが先ほどとは大きく違っているのだ、鏃は異質な程先端分から左右の重りのバランスが違っていてとても命中できるような鏃ではなかった。それでもこちらに真っ直ぐ向かってくるのはジャムカの腕と認識し幹に回り込んで鏃の回避を行うのだがデューの意識が一瞬逡巡する、それはエーディンとデューが助けられて館にいた時のジャムカである。

ジャムカはあの時弓の訓練をしていた、最後の一撃が的を貫通した光景を思い出してデューは幹の回避を取りやめさらに後ろに飛び退く。

予想を的中したその矢は幹を貫通させて、デューの先ほどまでいた場所 に鋭く突き刺さる。汗を拭き出させたデューはここで懐に手を入れて球状の物体を地面に投げつけると大量の煙が辺りを包み始め、さらに視界が悪くなる。

即座に距離を取ろうと後退を続けた所に矢がデューの左肩に突き刺さる。

「くっ!」走る激痛を奥歯を噛み締めて殺し、転がるように岩の陰に潜んで息を飲んだ。

 

デューはすぐさま解毒薬を飲み、刺さった矢を抜いて止血を急いだ。

煙玉を使ったのは迂闊であった、おそらくジャムカは煙の動きからデューの身のこなしを予測して放ったようである。そうでなければ心臓を射抜かれていただろう、視界のないあの場面で心臓に近い肩を射抜いたジャムカは経験値も実力も一級品のハンターであった。

岩場の後ろからせせらぎの音に気付き、ジャムカの警戒をしつつ川の水を一口飲んだ。

冷えたその水はデューの脳に酸素を送り込み、癒していく。

 

(このままでは、いつか射殺されてしまう。)

デューの率直な感想であった。接近戦にまともに持ち込めない状況では常にアウトレンジから襲われるジャムカの矢に神経をすり潰している、疲労にて先に参るのは自分であるのだ。

しかし焦れて飛び出しても狙い撃ちされてしまうだけである。

 

思考の袋小路に陥ったデューは、再度逆転の望みを考える。煙玉の効力が残っているうちに何か足掛かりになるものが必要である。

口元の先ほど飲んだ水を拭いとった時、デューに一つの光明を思いつくのであった。

 

 

 

 

エスニャとエスリン、クブリの懸命な止血により、エーディンが臓器や血管の再生に注力し生命危機から脱する事に成功する。

カルトの顔から力が抜け血色が戻っている、あとは本人の覚醒が必要なのだが普段の疲労もあるのだろうか意識を戻す様子はまだなかった。

 

レックスの活躍により被害は出たものの、尾根の制圧に成功する。

デューがジャムカ王子を足止めしている為指揮官不在による指揮の低下も大きな要因になっている、ハンター部隊は不利となると早々に撤退した節がある。

尾根の野営地を手に入れたシアルフィ軍はカルトを連れて移動する。既に闇に包まれた森での移動は松明の灯のみの移動であり、余計に時間を要する。敵ハンターが潜んでいる危険もあり軍内のストレスは最大の物なっており、誰一人として話をする物がいないでいた。

 

「な、なんだ!」そんな中で後方部隊から聞こえる慌しさに気付く。

後方には、徒歩部隊としてあまり戦力にならないが前線部隊の補充と補佐部隊としている部隊が追従しているにだがその部隊に何かあったようで後方から慌ただしい混乱状態に陥っていた。

そして間も無く、伝令から衝撃の報告がもたらされる。

 

それは遠隔魔法による後方部隊に多数の被害、シグルド公子の消失である。

衝撃の報告に前線部隊は推進力をさらに失う事となるのであった。

 

 

 

野営地を手に入れたシアルフィ軍、いや指揮官不在の為今は連合軍といった方がいいのかもしれない。

残されたレックスを先導に明日からの会議を行うが、それは決していい議題ではない。

険しい顔のレックスと精彩を欠いたアゼル、無理な魔法を使用したエスニャや高度な魔法制御で回復に徹底したエーディンは疲労困憊で会議にも出席できないでいた。

会議を開いたのだがその重々しい雰囲気に先を切って話す者はなく議題の消化が著しく悪いものである、それほどシグルドの指揮官能力と潔い決断による進軍により、知らず知らずの内に誰もが指揮官として認めてきた証でもあるのだ。

 

「情けないな、これが大国の公子達の会議か?まだ負けたわけでもないのにもう敗戦処理の準備を考えているのか。」キュアンがエスリンを伴い、会議の場に入る。彼もヴェルダンの遠隔魔法の攻撃を受けたのだが、うまく回避して大きなダメージは回避したのだが足を負傷してしまいエスリンの回復魔法で歩けるようになったところである。

「馬鹿な!俺たちに敗北などない!しかしながら奴らの遠隔魔法を対処する術もなく突っ込むのは無謀、まだハンター共もまだ残っている。このまま無策で突っ込むわけにはいかない。」レックスはキュアンの挑発に舌戦する、彼も聖戦士の血を引く者、戦いにおいて萎縮する訳にはいかない気概は強く持っていた。

 

「だからこそ、カルト公の知識とシグルド公子の決断を仰ぎたいのではないか?

今シグルド公子達はいない、あの二人に報いる為には残された者で打開するしかないんだ。シグルド公子も、カルト公も必ず戦線に復帰する。それまで信じてヴェルダンへ進むんだ。」

 

キュアンの鼓舞がグランベルの諸侯達に再び力が宿っていく、大国グランベルの若い息吹はまだまだ成長途中であることをクブリは目を細めて見るのである。

 

 

 

「あ、ああ・・・・。」苦悶の表情で川に両腕を晒して喘ぐエスニャの姿があった。

(こ、これがアゼルの言っていた禁忌を犯した罪なの?)

両腕には焼き焦げた痕が残り、川から腕を上げるがその痛みに川面の上まで持ち上げることが出来ないでいた。

 

少し時を遡る。

カルトの回復を終え、彼の仮設テントから出て自身の魔力を感じて見る。

無理に使えない魔法を使った反作用はどうなるのかわからない、アゼルはそう言っていたがエスニャは自身に魔力を秘めている事を感じ取り安堵する。そして軽く雷魔法を使用した時に事態が起こる。

 

自身の魔力が調節出来ないのだ、魔力の器から必要分魔力を注ぎ出そうとしても一気に魔力が溢れ出す。

溢れ出た魔力は雷に際限なく変換され自身の体を中心に纏わりつき出したのだ。放とうとしても放つ事は出来ず、雷の帯電は体を媒介にし始める。

そしてある一瞬、帯電した電気はエスニャのすぐ近くの木に放電され、放電された腕が焼けてしまったのだった。

 

「大丈夫ですか!」エーディンが轟音で事態を確認し、エスニャにリライブを使用する。

「エーディン様、有難うございます。」焼けた腕がみるみる内に治癒されていく。もう少しでも放電が遅ければ腕はおろか全身が黒炭と化していたであろう。

 

「やはり、あの時の影響ですね。」エーディンは語りかける。

 

「・・・カルト様が助けてくださった命です、魔法くらい使えなくなっても大丈夫です。

魔力がなくなった訳ではありません、きっと使いこなしてみせます。」

彼女は健気に、気丈にエーディンに答えを返した。エーディンもその気丈さに笑顔を見せて微笑みあった。

 

「エスニャはお強いのですね、私は・・・あなたの強さが羨ましい。

・・・・・・ごめんなさい、今のあなたにはお辛いですのに。」

彼女からはエスニャと違い気丈ではあるが故に弱さを吐き出す。

 

「エーディン様?」

「・・・ふふっ、ごめんなさい。あなたとカルト様を見ていると羨ましくて。」

エーディンは一瞬弱さを見せるそぶりであったがすぐに立て直し、エスニャの話題に引き戻す。

エスニャは途端に真っ赤になり下を向いてしまう、気丈な彼女もここまでのようである。

 

「あ、あのあの・・・。」エスニャの思考は完全にパニックに陥る、今までカルトとの経緯などストレートに聞くものはいなかった事と、エーディンからそんな話題を投げかけてくるとは露とも思っていない事から最高潮に困惑した。

「エスニャもフュリーさんも、そしてデューも。カルト様に慕われているにですね。

私はカルト様と話をした訳ではないけれど、あなた達からカルト様の話を聞くたびに彼の温かみを知ってみたくなります。」

 

「えっ!それは・・・、駄目です!エーディン様までカルト様を狙われたら、私!!」

エーディンは硬直する、彼女にそういう意味をとられない様にデューの名前を出したのだが混乱しているエスニャには通じていなかった。エスニャも今になってその意味を感じ取り、さらに顔が真っ赤になる。

 

「%€~?£¥*^.?」エスニャがもう壊れたと言っていいほど訳のわからない言葉が飛び出す。

回復が終わったその手を振り回していた。

「ふふっ!」エーディンが吹き出して笑った頃、エスニャも落ち着きを取り戻していくのであった。

 

 

不意に川の対岸の草むらが動き出す。

「誰!」エーディンの凛とした声が対岸の来訪者に浴びせた時、姿を現わす。

 

「エーディン様・・・よかった。無事にここまでの来れたんだね。」

その声には聞き覚えがある、エーディンをマーファの外まで助け出してくれた恩人である。

 

「デュー?なの?」

川の対岸間際に歩み寄ってきた時月明かりが彼を、いや彼らを映し出した。

デューは全身泥と血で塗れており、右目は傷を負っている様子はないが閉じられている。

肩には敵であるジャムカを縄で縛った上で背中に抱えていた。

 

「デュー?あなたまさか・・・。」

「・・・うん、約束通り連れてきたよ。」

「デュー・・・!」彼女は祈る様に対岸のデューに涙を流して見つめる、彼は敵国であるが必ずエーディンともう一度会う機会を作って見せると言っていたのだ。

敵国の、それも腕利きの王子を捕縛するなんて簡単なことではない。殺す以上に難しい事をエーディンとの約束一つで達成させたのだ、エーディンはその感謝を言葉に乗せる事は出来ず涙が流れるのみであった。

 

対岸からフラフラと渡ってくデューをすぐさま軍が救援し、こちら側へ引き入れすぐさま治療が施される。

デューは解毒薬を持っていたとはいえ、複数の矢を受けておりここまで来るだけでも大量の出血と猛毒で意識を保っていた精神力に驚かせられた。

対するジャムカは目立った外傷はなく意識を失っているだけであった、どのような状況でこのような結果になったのか判断できないでいたが彼の勝利は薄氷での戦いであった事が理解できた。

エーディンの懸命な治療と解毒でデューもようやく一安心できるくらいにまで回復する、さすがの彼女も心労が心配になるほどである。

 

「エーディン・・・。」

「ジャムカ・・・、またお会い出来ましたね。」彼女は微笑む。

 

「デューのお陰だな、あいつが命をここまで賭けなかったらこんな結果にならなかっただろう。

例えデューを倒したとしても、俺もシアルフィ軍に倒されただろう。」

ジャムカはやはり決死の思いで戦場に望んでいた、だから勝っても負けてもエーディンに会う事はないと思っていたのだろう。しかし、デューの意志力がジャムカの決死を振り落としエーディンの願いを果たしたのだ。

 

「ジャムカ・・・。」

「俺はヴェルダンの王子だ、捕縛された以上抵抗する気はない。

だが、もし生きる事が出来た時は君の指示に従おう。」それはマーファの街でジャムカに言った一言だった。

 

(シアルフィのシグルド様に相談して、話し合えばきっと分かり合える。)

エーディンは涙を流して何度も頷く。

 

シグルドは行方不明、カルトは意識不明のまま不安な一夜は、わずかな冷光発する月明かりの元で更けていくのであった。




エーディン

プリースト
LV 8
杖 B

HP 18
MP 19
力 7
魔力 10
技 12
速 16
運 15
防 3
魔防 10


ユングヴィ家の二女、ウルの傍系の能力を持った美女。
一見聖職者のパラメーターを持っているが、弓を扱えばなかなかの腕前である。
姉と離れ離れになってからのショックにより聖職者の道へ進み出すが、未だに見つからない状況でも気丈に見つかる事を信じて祈りを捧げている。
回復技術は相当であり、止血はおろか組織を再生させる事も可能。
エッダのクロードの手解きにより、血筋の枠を超えてそれ以上の能力開花した稀な人物。


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福音

※恥ずかしいので前書き説明は致しません。


シグルドは目を覚ます。

頭が疼くように痛むが、ひどいものではない。ゆっくりと起き上がりあたりを確認する。

木でできた簡素な造りの家で一人寝かされていたようである、横にあるこれもまた簡素な木の机に水差しに包帯があることより看病されていたことには間違いなかった。

(ここは、どこだ?)

 

ベッドに寝かされていたシグルドは側にある剣や、服を整えながら状況を確認した。

確か私は後方支援部隊で挟み撃ちを警戒する為にキュアンと共に進軍していた筈、そこに・・・!!

シグルドの記憶がはっきりしていくが、それでもこの状況が掴めないでいた。

突然の遠隔魔法の直撃を受けたシグルドは、その衝撃で吹き飛ばされて軍から離脱されたのだろうと予測する。とりあえず外にでて、ここがどこか掴もうとドアに向かった。

 

扉を開けたそこには、食料と水差しを持った女性が今まさに扉を開けようとした所で鉢合わせた。

「きゃっ!」小さな悲鳴と共に手しておたバスケットと陶製の水差しを落としてしまう。

シグルドは咄嗟に腰を落としてその落下物を床に落ちる前に見事にキャッチする。

 

「ふう、間一髪でした、あ・・・あなたは、あの時の?」カルトに色恋の話をした人物が目の前に立っている。シグルドは途端にエスニャの雷の受けたように硬直した。

 

「あ、あの・・・?お怪我は大丈夫ですか?」女性は首をかしげるように投げかける、シグルドの硬直に理解ができていないようであった。

シグルドは平静を取り戻し、話に追従する。

 

「あ、ありがとう。体はおかげさまで大丈夫です。君はマーファ城で少し話をした方ですね、私はシグルドと言います。できましたらお名前をお聞かせ願いますか?」

 

「あ、すみません。私はディアドラと申します、先日は助けておただいたのに碌にお礼もせず立ち去ったことをお許しください。」

「気にすることはない、君にも事情があったのだろう?それに、こうしてまた会えたのだ神に感謝したい気分だ。」二人は見つめ合い、そして微笑みあった。

 

「ところでここは何処でしょうか?私は早く合流してヴェルダンに向かわないと行けないんだ。」

シグルドの言葉に彼女は暗い影を落とす。

 

「シグルド様、ヴェルダン城には恐ろしい暗黒魔法の使い手がいます。魔法が使えない方や普通の魔道士では暗黒魔法の前では勝ち目は薄いでしょう。

シグルド様、この先には進まずお引き返しください。」

「・・・・・・すまない、君の忠告は私を慮っている事は充分に解る。しかし騎士として、グランベルに忠誠を誓う身としてその決断はできない。

ましてや暗黒教団がヴェルダン国に居座っておる以上世界の脅威になるかもしれない、命に代えても討たねばならない理由がある。」

シグルドの決意の表情にディアドラはさらに表情が曇ってしまう。

 

「・・・シグルド様は、先ほどの魔法を受けた時に本当は倒れていたと思われます。」

「えっ!それはどういう事だ?」

 

「私はシグルド様が来ている事を察した時、近くまで見に来ました。でも精霊の森の厳しい制約の中で生きている私には、シグルド様に近寄る事は許されません。ですのでそっとお姿を見て立ち去ろうとした時に、ヴェルダン城からの暗黒魔法が放たれたのです。

その使い手は私が見た中で一番強力な魔力を持っていました、咄嗟に魔法でシグルド様をお救いしたのですが、それがなければシグルド様は・・・。」

「私は、あそこで倒れていたということか。」

ディアドラは俯いて肯定する、彼女はシグルドを必死に止めたいが故の告白であった。

命に代えても、という言葉に対しての反語として使用したのだ。

 

「ならば、尚の事行かなければならない。私の部下達は私がいなくてもヴェルダンに向かっている筈だ。

この事を早く教えてカルト公に対策を練ってもらわないと攻略は難しい。」

シグルドはディアドラに向き直り、敬礼する。

 

「忠告ありがとう、それに助けてもらった命を粗末にするつもりはありません。精霊の森にまた静かな生活が戻るよう、ロプト教団を鎮圧してきます。だから戻る道をお教えください。」

もはやディアドラに彼を止める事は出来なかった、高潔で実直な彼は止めても無駄だという事はディアドラも充分に知っていた。だからこそ彼女はシグルドに会った瞬間に惹かれてしまったのだ。

それでも、一縷の望みをかけて精霊の森に滞在してほしいという彼女の願いは簡単に瓦解する。

 

シグルドは困惑した彼女を気遣ったのか、再度外へ出ようと歩みだす。

恐らく返答がなかった事より自力でも脱出しようと考えたのだろうか、ディアドラに考える時間も引き止める理由も思いつかない。なによりシグルドに後ろめたい偽りを発してまで引き止めようとはしたくなかった。

ディアドラは決心する、それはもう二度とここには戻ってこないという想いである。

 

それは同時に、幼少の頃より徹底して教え込まれた戒めを破る事になる。どうしてあの時マーファに行ってしまったのだろうか?ディアドラは自問する、そうすれば心を奪われる事はなく何も疑問を持つ事なく精霊の森でその人生を完結していたに違いないとさえ思った。

外の世界に興味があったのは事実である。長老が体調を崩されて薬草を手に入れる名目でマーファ城に物見遊山をしたのは好奇心であった。その一時にここまで心を奪われてしまうとは思わなかった。

 

「お待ち下さい!・・・シグルド様、私も参ります。」ディアドラはとうとう運命の扉を開いてしまう一言を発する、彼女の少しの好奇心が世界の運命を暗黒に染めてしまうなど誰もが想像がつかないであろう。

 

シグルドは振り返って彼女を見つめる。

「私の魔法であの暗黒魔法を封じてみます、うまくいけばヴェルダン城からの遠距離魔法は無効化できます。」

「それは助かります、しかし君は精霊の森から出る事は出来ないと聞いた。大丈夫何ですか?」

「・・・はい、戒めを背いたら恐ろしい事が起きる。そう言われて育ってきました、本当は怖くて仕方がありません。・・・でも、これ以上自分の心に背けなくなりました。

ヴェルダンにいる魔道師は暗黒教団の者です、私の中には暗黒神の血が眠っていてそれを狙っています。」

 

「ロプトウスが、君の中に?」

「はい・・・シグルド様、こんな私でも好きになってくれますか?」

彼女は涙を流してシグルドを見る。その表情は儚く、美しい。瞳には愛情と拒絶される事への恐れが渦巻き、怯えておるようにシグルドは感じ取る。彼女の言葉にシグルドは両の手で抱き、言葉をつむぎだす。

 

「もちろんだよ、ディアドラ。一緒に来てくれ!私には君が必要だ。

暗黒神などに私たちは負けない!君の苦しみを開放して、幸せにしてみせる!」

「シグルド様!」もはや二人には言葉はなく、これが近いの言葉となった。

 

 

 

「ここは?」カルトは目を覚ます。

まだ身体に力がうまく入らなくて起き上がれない、目だけであたりを視認して言葉を発した。

「カルト様!ご無事ですか?お体の方は痛みませんか?」すぐ隣にいたエスニャは涙を流して呼びかける。

 

「エスニャ、か?俺は一体どうしたんだ?記憶が曖昧で・・・。」

「カルト様は精霊の森を進軍途中で、私を庇って弓を胸に受けたのですよ。エーディン様が必死に回復してくれたお陰で一命をとりとめたのです。」

 

「・・・そうか。エスニャは無事だったか?あの矢は確実にエスニャの心臓を狙っていた、無事で何よりだ。」カルトはまだ意識がはっきりしていないのだろう、会話に支離滅裂が所がある。

しかし彼の言う言葉にはエスニャを気遣う言葉に溢れ出ているのだ。叱責もせずにただ彼女の無事を祈っており、笑う表情すら作っていた。

「カルト様!あなたはバカです!なぜあのような無茶ばかりなされるのです。私は、私は!」

さらに泣いて、顔を手で覆ってしまう。カルトは目だけを彼女に向けてゆっくりと口火を切り出す。

 

「俺は、小さい時に母上がなくなって、親父に引き取られてからずっと戦争に少年兵として送られ続けた。

親父の恐怖統治をよく思わない民衆との内乱や、海賊共の鎮圧。そして叔父貴との戦争にも参加させらた。

はじめはその凄惨な戦争に心を痛めていた。人を殺す度に心が壊れていってそしていつしか俺は命令のままに人を殺める操り人形になっていった。」

エスニャは息を飲んだ。カルトは十数歳のは戦争に参加して人を殺めていた事よりも、父親に人殺しの道具として使われていた事である。肉親とは思えないその言葉にエスニャは掛ける声すら失う。

カルトの独白は続く。

「あれは・・・、民衆の反乱の時だった。心を失くした俺は、いつものように魔法で鎮圧していった。向かってくる者は無条件で風の刃を浴びせ続けた、男女も老若も関係なく切り刻み続けた。

その日の戦いも終わり、魔法力の尽きた俺は自軍の野営地に戻る途中で槍を受けた。自軍の兵士にだ、どうやら親父は俺を利用するだけ利用してここで破棄する予定だったそうだ。」

 

「そ、そんな・・・。」エスニャは絶句する。

 

「親父にはないセティの聖痕を持つ俺は、魔法の才能もあの年で凌駕していたからな。道具が扱い切れなくなればそうなる事が予想できていた筈なのに、俺は何も考えなかった。城では親父の女共にないがしろにされて、戦争に駆り出されて思考が停止していた。槍を受けた瞬間その事に気付いたよ、だから殺されて仕方がないと思った。

止めを刺される瞬間にラーナ様に救われた。一命をとりとめた俺はラーナ様にこっぴどく叱られ、同情され、愛情を下さった。

でも、未熟な精神のまま一般人を殺してしまった俺は心を取り戻した途端再び心が壊れた。罪悪感に苛まれて自殺を何度も試みた時期があった。」

 

「どうしたら自分は許されるのか、殺してしまった人達にどうしたら詫びる事が出来るのか、贖罪の日々が続く中で俺は大事な人を守る為に自分を捨てようと思ったんだ。大事な人を守る中で自分を殺したいと心の何処かで思っているかも知れない。」

カルトの長い独白にエスニャはようやく彼の意思が伝わる。彼は今も、これからも、罪の清算の為に行動しているのだ。

ラーナ様の幸せの為にレヴィン王を支え、シレジアの為にグランベルと同盟に漕ぎ着けて最前線の危険な戦いに赴いているカルトの原動力はここにあったのだとエスニャは理解した。

 

「カルト様、それではあまりに悲しすぎます。ラーナ様も、レヴィン王も、きっとカルト様も幸せになってほしいと願っています。私もカルト様に幸せになって欲しいと思ってます。だから・・・」

 

「エスニャ、君の言っている事は正しい。でもその先は言わないでくれ。俺にはその資格はない。」

 

「あります!この世界に不幸せにならないといけない人なんていません!たとえどんな罪を犯してしまっても、正しく生きようとしている人を呪うようなことがあってはいけません!」

エスニャはカルトを抱きしめる、カルトはエスニャの抱擁に暖かい体温を感じて目を閉じる。

 

「私に、カルト様の罪を分けてください。お互いの為に死なない事と誓ってカルト様の罪を共に清算していきましょう。」エスニャの笑顔にカルトは涙する。ラーナ様の愛情で心を取り戻したが、ここまで心を安寧にしてくれた人はいなかった。今はエスニャの気持ちに感謝と愛情を抱いたカルトは歓喜の涙しか出てこなかった。

 

 

「エスニャ、俺と共に歩んでくれるのか?」

「・・・はい。」

「辛い人生になる、君には幸せになって欲しい。」

「私の幸せはカルト様と共に歩むことです。」

「・・・・・・ありがとう、君を・・・・・・。」

二人の語らいは夜通し続けられる、その後二人は何を語ったのか、後世の子供達にも伝えられる事は無かった。

 

 

 

 

デューも目を覚ます、深手を負っていた彼もすっかり回復されて元気を取り戻した。

「目が覚めたか?」手足に拘束具にて動けぬジャムカが声をかけた。

 

「あ、ジャムカ!とりあえず殺されてなくてよかったよ。」

 

「ふ、生け捕りにされたような気分だ。癪だが貴様には恐れ入る。」

「まともにジャムカに勝てる気がしないから、うまくいってよかったよ。」

 

 

 

煙玉効力が薄れた時に、川に大きな水音がしてジャムカはその場にむかった。

(川の中に入って逃げた?)

 

確かに弓矢は水の中では推進力を失い、殺傷能力は落ちてしまう。

しかしながら息が続かずに浮かび上がった時に狙い撃ちされてしまう、そのような愚行をデューが行うようには思えなかった。

川面にデューの姿はない事から川の音はフェイクと判断し、ジャムカは五感を働かせて周囲の気配を確認する。ジャムカが川辺に来て約2分、息が続かずに浮かんでくる時期にも関わらず出てこない所よりやはりフェイクであると読む。

その時に頭上の木にいたデューは落下しながらショートソードを手にジャムカの一撃を加えるが、ジャムカは先に上を視認する。デューの攻撃よりも早く気配を捉えたジャムカは弓を引き絞りって落下するデューに狙いをつけた。

空中であるデューは回避はできない、ジャムカは勝利を確定したが極めて冷静に狙いを定めて放とうとする。

「!!」

その瞬間、足元が崩れるかのように地盤が緩み出し弓があさっての方向へ放ってしまう。足元がおぼつかなくて体勢を整えられないジャムカの両肩を掴むと回転を加えて二人は川へ落ちる。

 

(狙いはこれか!)

ジャムカはここでデューの作戦を読み切る、彼は水中での酸素切れを狙っていたのだ。

背後から手を回されて水をかくことができないので水上への復帰はできない、そうなればデューの方が先に参って酸素を欲してくれればいいのだが作戦を考えたデューの方が入水前に肺に酸素を溜め込んでいる。

 

ジャムカは打つ手がなくなるも、必死に意識を保とうとするが限界が来ていた。

ついに息を吐き出した直後、大量の水を飲み暗転したのであった。

 

 

「ダメだよジャムカ、おいらがいた川辺の場所に立つなんて。罠を仕掛ける盗賊には悪手だったね。」

デューは笑って言う。ジャムカはその笑顔に向ける顔はなく、そっぽを向くのみであった。

 




ディアドラ

精霊の森に住む巫女、精霊使い。
ゲーム上の設定はかなり扱いが曖昧で、ロプト教団に狙われているにも関わらずアグストリアでシャナン一人に護衛を任せてしまう所などに不可解な扱いが多い。といいますか、あれだけロプト教団の話題が出てくるのに対策を考えないシグルドは勤勉でないような気がします。

またマーファでシグルドと出会う会話でエーディンと知り合ったとなっているが、ガンドロフに囚われている中でどうやってお知り合いになったにだろうか。もし城に出入りしていたとなれば間違いなくディアドラもガンドロフに囚われてたような気がするのは私だけでしょうか?ディアドラもエーディンに負けず美人さんですから。
それに人との交流を絶っている人が城に出入りするとは思えない!と私は思い、私の書く小説では二人は知り合っていない設定です。
そのあたりの曖昧さを、私なりの視点で改善して書いていきたいと思います。


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包炎

思ったより進まない回になってしまいました。
短い期間に一気に書いていきたいと思いますのでご容赦の程お願いいたします。


翌朝、シグルド不在のままヴェルダン攻略に向けて尾根の野営地を後にする。シアルフィ軍には不協和音が存在していたが戦線に幾つもの功績を挙げているカルトの復帰により多少の改善が見られた。

 

カルトの功績の中で特に大きい効果はキンボイス捕獲ではない。ヴェルダン内の疫病への対応が住民感情を和らげる事になりマーファ城に侵攻に成功した時、ガンドロフの圧政による不満もあったのだろうが住民達はグランベル軍を迎え入れてくれる迄になっていたのだ。

カルトがこのような策を講じていなければ、住民からヴェルダン城攻略に必要な情報は得る事は出来なかっただろう。ジャムカのハンター部隊の数とヴェルダンへのルートなどがなければもっと自軍に犠牲者を出していたと断言できる程である。

 

 

「全軍止まれ!」カルトの制止にて即座に進軍が止む、徒歩での移動のため即座に制止できる。

「どうしたカルト公?もうヴェルダン城までもうすぐではないか?」レックスは彼の制止に疑問を投げかける。

カルト「ここから先は森を抜けてすこし平地が続く、平地にでれば間違いなくシグルド公子がうけた遠距離魔法の餌食になる。」

レックス「そうか、今までは森の中にいたから魔法が飛んでこなかったのか?しかしこの間シグルド公子が狙われたのはどうしてなんだ?」

キュアン「おそらく、あの場所は小高い丘になっていたから城からあの位置が視認出来たのだろう。」

アゼル「カルト公、対策はおありですか?」

 

アゼルに投げかけられる、遠距離魔法は決して命中率の高い魔法ではない。このまま進軍しても全滅する事はないのだが賭けに乗って闇雲に突撃をする事は危険である。

初日に逃げ帰ったハンター部隊と魔道士が連携を取っていれば、突撃で散り散りになった際にハンター部隊に狙い撃ちされる危険があった。ジャムカを捕縛して指揮系統がどのように機能しているのかわからない以上、無茶はできない。

 

「魔道士を中心に進む、暗黒魔法だが魔法防御能力の高い部隊で進めばもし遠隔魔法に命中してしまっても耐えられる。

ハンター部隊にも警戒が必要だがそれは最小限でかつ能力の高い者で対応しよう、危険には違いないがこれで犠牲者は最小に済むはずだ。」

アゼルはカルトの弱気な発言に絶対の自信は持ち合わせていない事を知る、あれだけ強大な魔力と知識を持とうとも部隊全員の命を救う事など出来ないのは当然であるが彼は守ろうと画策している。

そのカルトが犠牲者が出る事を承知の上の発言にアゼルは緊張感を高めていく。

 

《お待ちください。》

カルトの脳内に女性の声が響く、それは言霊の魔法で遠く離れた対象者と会話を行う事ができる魔法である。

相手の魔力に同調させる事で可能となる魔法である。

 

《カルト様ですね、私は精霊の森の巫女でディアドラと申します。》

《君がシグルド公子の言っていた女性か?もしかして彼と一緒にいるのか?》

《はい、シグルド様は無事です。あなた達より更に西の森の中にいます。》

《そうですか、シグルド公子を救出していただいて感謝します。

申し訳ありませんが今は有事中です、ヴェルダン攻略が終われば迎えに行きますので待機するようにお伝えください。》

 

《カルト様、今から私はヴェルダン城にいる魔道士の魔力を抑えます。協力をお願いしてよろしいですか?》

《魔力を、できますか?あの城からただならない魔力を感じます。》

《はい、長い時間とは言えませんが可能と思わます。》

《わかりました、あの城から魔力が感じられなくなったらできるだけ早く突撃します。かなり危険な策を講じなければならないと思っていました、少しでも兵士達が安心できる進軍ができるなら協力いたします。申し訳有りませんが、ディアドラ殿よろしくお願いします。》

 

カルトは軍に彼女の伝心を送り、その時を待つ。

 

作戦変更によりキュアンとレックスを先頭にアレク、ノイッシュなどの騎士団が全面に立ち、弓部隊のミデェールと魔道士部隊のアゼルとクブト、エスリンやエーディンも加わる事になった。

 

恐らく魔力の封じ込めに成功しても恐らく二時間程であろうとカルトは計算する。その時間までに平野地帯を一気に駆け抜けて再びその先の森に潜まなければならない。

残ったハンター部隊も次の森か、その手前で待ち構えていると思われる。慎重かつ一気に制圧する必要があった。

 

カルトはレックスと同行して前面に立つ、魔道士でありながら常に前線に立つ彼をレックスは心の強さに賛辞を送る。

昨日瀕死の重傷を負ったにも関わらず、回復して翌日にまた前線に立つ者など訓練を受けた兵士にもできない事である。それも二十歳にも満たない魔道士が実践しているのだ、鼓舞しない者などいなかった。

 

 

 

 

「・・・見つけた。」

フレイヤは瞑想状態からゆっくり双眸が開き、妖艶な美女であるはずなのだが酷く邪悪な笑みを浮かべるその姿は『悪い事をすれば魔女に火あぶりにされる』ロプトウスの迷信によく使われる子供の方便だが、その話の魔女そのものであった。

彼女はサンディマを餌にずっと聖女の出現を待ち続けた。この生き餌がビチビチと動き回るたびに忍び寄ってくる魚達混じってきっと大物が釣れると思っていたのだが、予想通りの収穫に彼女の笑みは抑えきれないでいた。

いますぐにでもあの場に赴いて掻っ攫いたい所であるが、バーハラでアルヴィスと戦ったあの銀髪の魔道士に気取られてしまう可能性があった。奴は聖遺物を使えるわけではないにも関わらず、アルヴィスと対等に戦い認めさせた程の男である。

もし奴に気取られれば今後の活動に支障があるとフレイヤは思い、今回は諦める事にする。

 

「チャンスはある、急ぐ事もない。」彼女は言い聞かせるようにして、役割を終えたサンディマとヴェルダンに見切りを付けた。杖のふと振りにてその場を後にする。

 

 

「なんだ!これは!!」

フレイヤが転移した直後、バルコニーにて遠隔魔法を用いてシアルフィ軍を待ち構えていたサンディマは白い魔法陣に覆われ魔力の無効化魔法を仕掛けられた。

この魔法の是非は対象者の魔力に対し、使用者の魔力による押さえ込みが大きいかにかかっているが精霊使いであるディアドラは魔道士よりも魔力が高く、高度な聖杖が扱える。サンディマも魔力は高い方であるが、ディアドラに軍配があがる。

 

サンディマの魔力の無効化に成功するが、次に重要な事は持続時間である。

魔力を抑え込む間ディアドラは精神を集中し続けなければならず、一度破られて警戒されれば再度仕掛けても以前のようにはかからないのである。

この勝機は一度のみと理解しているカルトには一秒の無駄にできない、その瞬間に突撃の命を全軍に送る。

ヴェルダンとの全面戦争はいよいよ終盤を迎え、最後の決戦が始まるのであった。

 

 

 

 

ヴェルダンより北に位置するアグストリアでは、ノディオンとハイラインにて戦闘が行われていた。

エルトシャンはエリオットの野心を知っている。必ずエバンスを我が物にしようと挙兵すると思っていた。

 

エルトシャン率いる大陸随一と言われるほどの騎士団、クロノナイツがシグルドの危機に呼応してハイライン軍と衝突する。

ハイラインの寄せ集めのような雑兵に無駄な動きのない統率されたノディオン軍に敵う事はなく敗走する。

 

「エルトシャン!これで勝ったと思うなよ、アグストリアはもうグランベルに平伏する様な諸侯はいない。貴様がいつまでもいい顔できると考えない事だ。」

敗走するハイライン軍に止めは刺さず、無力化させたエルトシャンにエリオットは悪態をつく。

 

「王よ、奴を生きて返して良かったのか?いずれ奴は同じ事を繰り返すぞ。」

ホリンまた義を感じてこの度の戦闘に参加するが杞憂に終わり、クロノナイツの戦力の高さを肌で感じただけであった。エリオットの不遜な物のいい様にホリンはエルトシャンに言葉を投げかけた。

 

「あのような男に遅れをとる私ではない、それに奴もアグストリア諸国の王子。手にかけてしまえばイムカ王がお嘆きになられるだろう。」

 

「なるほど政治部分も含めての処遇という事か、王ほどの器量があればこその決断であるな。

イザークなら奴の首はとっくに胴から離れていただろう。」

 

「・・・・・・。さあ、帰還するぞ!」エルトシャンの号令に一糸乱れぬ隊列を維持し、ノディオンへ帰路につく。無言であったが、彼の背中が物語っているように思えた。

 

(シグルド、キュアン。退路は守ったぞ、無事に戻って来い。)

 

踵を返すエルトシャンにホリンはそう解釈をしてしまう。紛れもなくこの三人には親友と呼べる絆があり、損得のなく行動する彼らの騎士道を垣間見たのであった。

 

イザークは義の国ではあるが、友情の精神はなかった。

友と呼べる者はいたが、戦争となれば友であろうと敵対すれば自分を殺して国家に尽くすことが美徳とされた。彼らは敵対することになった時、どのような行動をするのだろうか?ホリンの心はそう思ってしまう、そして彼の疑問は数年後に現実の事となる。

アグストリアもまた、戦乱の足音が予兆と共に訪れようとしているのであった。

 

 

 

ヴェルダンの攻防戦はカルトの予想通りの運びで事が進んだ、平原でのシアルフィ軍の突撃を森林に入らせまいとハンター部隊は平原での応戦するが明らかにヴェルダン側の悪手である。

ハンター部隊を指揮していたジャムカが健在ならばそのような指示はしないが、デューの的確な行動で彼を捕縛に成功した功績は大きい。指揮官がサンディマに変わり、慣れない平原での防衛を言い渡されたしまう。

彼らの持ち味である、待ち伏せからの一撃離脱ができないハンター部隊などシアルフィ軍にとって脅威ではなかった。

それでもサンディマは多少の足止めをしてくれれば問題なかった。平地に出てくれば遠隔魔法であるフェンリルで一網打尽にできる自信があったからだ、シアルフィ軍を暗黒魔法で恐慌状態にできればハンター部隊でも対応できると自負していた。

しかし、ディアドラの使用した魔力無効化によりサンディマは切り札である魔法攻撃を失いハンター部隊はシアルフィ軍を抑えきれず森林へ敗走を続ける事になる。

 

「このまま森に入る!一気にヴェルダン城を落とすぞ!」

キュアンとレックスは怒号と歓声の巻き起こる中で突撃を続ける。立ち止まる事なくヴェルダンへ向かう一軍の中でカルトは冷静であり、彼の五感から警告が発せられた。

 

それは温度である、まだ春先のこの時期に北より暖かい風を感じる。

そんな事はあり得ない、彼の感性が判断した時全軍に止まるように発するが勝利目前の軍は止まる事ができないでいた。

キュアンの軍は止まってくれるが、レックスの部隊はそのまま突撃をされていく。

 

「どうした、カルト公!なぜ止めるのだ。」キュアンはカルトの位置まで戻り、カルトに問い詰める。

「おかしい、この森は変だ。北からわずかな熱気を感じる。このまま進めば敵の罠にかかる。」

「どういう事だ?」勝利目前に水を差した事もあるが漠然とした説明に、キュアンは少し苛立ちめいた感情が混じっていた。

「わからない、うまく説明できないがとてつもなく嫌な予感がする。すまないが少し様子を見たい、この森の入り口で待機してくれ。」

「しかしレックス公子の部隊が制止せずに進んでいるぞ、どうするつもりだ。」

「デュー、すまない行ってくれるか?」カルトの後ろに控えていた彼は一目散にレックスを追って森を疾走する。デューの危険回避能力なら二次被害にならない、それに状況が怪しくなれば彼を救出する術を持っているのでカルトは彼を使う判断をした。

 

半刻ほど経過した時、カルトの予感は事象となって現れる。

森が燃えている!レックスの部隊の一部がデューと共に戻ってきた時、その報告を受けた。

火の回りが異常に早い為、レックス達はここまで戻ってくる事は出来ず森の中を彷徨っているそうだ。

 

キュアン「カルト公はこれを察したのか?どうする。」

カルト「まずいな、ディアドラ様の魔法もそろそろ限界がきているはず。ここで森を出れば間違いなく奴に狙い撃ちされてしまう。」

エスニャ「でも、ここにいても火の手が回ってきます。」

アゼル「森を迂回して湖の方から向かうルートはどうだろうか?」

デュー「やめた方がいいよ 、道から外れると迷う可能性があるよ。火が回ってきたら先に行っている人と同じ事になるよ。」

まさか国の資産である森林を焼く行為に出るとはカルトも考えつかず、最善策が浮かばない。進むか、戻るか、どちらにせよ大きな決断を要する事となる。

 

「クブリ、天馬部隊に通達して空からヴェルダンを空襲するように指示してくれ。ハンター部隊が瓦解した今なら天馬部隊が使える。」

「なるほど、天馬部隊ならあの遠隔魔法を仕掛けられても空なら回避しやすい。魔法防御も高いのでうってつけですな、早速伝令します。」クブリは伝令魔法で天馬部隊とコンタクトを取る。

 

カルト「火の手がこちらに迫ったら俺が魔法で抑え込む、今は天馬部隊に賭けよう。」

キュアン「我らには打つ手なし、か・・・。悔しいものだな。」

アゼル「いえ、僕達が善戦したからこそ天馬部隊の奇襲は効果的になると思われます。胸を張って彼女達に任せましょう。」

エスニャ「レックス公子はどうされるのですか?」

カルト「残念だがデューが戻ってきた時点でこれ以上の捜索はできない、行けば犠牲者が増えるだけだ。

彼らの運に稀期待しよう。」

カルトはエスニャの提案を一蹴する、どんな形であれ単独行動に出た彼らを追って犠牲者を増やす事は指揮する者としてできない。同様の意見であるかのように皆その意見に反対する者はなくただ黙していた。

 

《カルト様》ディアドラの声が聞こえる。

《ディアドラ様、お疲れ様でした。》

《いえ、申し訳ありません。もう少し抑え込みたかったのですが、思ったより対応能力がある魔道師のようで先ほど魔力を解かれました。》

《気にする事はありません。と言いたいところですが、連中先の森で火を放ちまして足止めされています。天馬騎士団のヴェルダン攻略が望みとなっています。》

《森に火を?何て事を・・・。カルト様、今の時期は北西から南東に風が吹く季節です。時間はかかりますが森の外周に沿って北西に向かえば火の手に合わずにヴェルダンに向かえる可能性があります。》

《それはありがたい、早速手を尽くしてみます!》

カルトは再びディアドラの指示に従い行動を起こしていくのであった。




レックスが離脱する、という事はあのイベントが発生します。
ゲーム上ではかなり不自然なイベントでしたが、私なりに不自然でないイベントに作り変えたいと思っています。
賛否あるかと思いますが、よろしくお願いいたします。


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発進

まだうだうだする回となりました、申し訳ありません。
キャラの登場にもバラツキがありお気に入りのキャラが出てこない等がありましたら重ね重ねご容赦の程お願いいたします。

ここ数日、小説作成から離れた生活を送っていたのですがお気に入りと閲覧数が一気に上がっていました。
細々としていましたので、驚きと感謝です。
20年も経過した聖戦の系譜にここまで興味がある方がいらっしゃると思うだけで励みになります。

こんないい加減な小説を見てくださった方々、ありがとうございます。
ぞしてお気に入りにしてくださった方々、よろしくお願い致します。


「くっ・・・、ここも駄目か!」レックスは先に見える紅蓮の炎を見て再び方向を変える。

遮二無二走り回るが火の手が複数から上がっているのか、逃れる先々の方向で先回りをされているような感覚に襲われる。

 

(奴らめ!火を放ったな!)

レックスは舌打ち混じりに言い捨ててまた方向を変える、もうすでに方向感覚は狂っておりどこに向かっているのかもわからなくなっている。とにかく森を抜けない限り打開する術はなく走り回った。レックスに従い、駆け抜けた部下も今や逸れてしまいいた。無事に帰還できている事を祈るばかりである。

レックスは数度となく危険な炎の中を走り抜け掻い潜ってきたが熱風により水分を失い、煙により酸素を欠乏させていく。そして自慢の体力も限界を迎えようとしていた。

 

レックスは最後の力を振り絞り、小高くなった山林に向けて駆け上がっていく。彼の走り回ったこの周辺ではこの地形は見た覚えがなく、この境地を打破できると信じて残数の少ない体力を注ぎ込んだ。

先ほどより熱気しか感じられなかったがこの先からは冷たい風を感じた、レックスは森を抜けられると確信し一層駆け足でその先へ視線を投げかけた。レックスの足は限界を迎えており最後は転がりようにその村林地帯の先へ潜り抜ける。レックスは倒れこみ、視線をさらにその先へ投げかける。

 

(・・・!)

森は確かにそこで終わっており紅蓮の炎は先に見えない、しかしその先には希望はなく絶望の現実を突きつけられる事となった。

そのすぐ先は崖であった、とても人が伝って降りられるような地形ではなく完全に行き場を失っていた。

その崖っぷちでレックスは絞るような声で誰ともなく言い放った。

「ここまで・・・か!」

ここに滞在し続けていればいつかは敵の遠距離魔法を仕掛けられる可能性もある、しかし退路はすでに炎で断たれている、手詰まりに陥ったレックスは手に持っていたハルバードをその場に落として大の字で倒れこんだ。

ここでようやく森林でまともにできなかった呼吸を大きく吸い込んで肺に新鮮な空気を送り込む、酸素が脳に行き届くと意識がはっきりしもう一度思考を張り巡らせ始めた。

そして荒い呼吸を整えたレックスはハルバードを握り直して立ち上がる、呼吸は整ったが消耗した体力はすぐには戻らない。足はガクガクと震えているが使い物にならないまでではない事に感謝した。

 

「グランベルの物だな!よく祖国を!!」レックスの背後より怒声が聞こえて振り返る。

その場にはヴェルダンのハンター部隊の残党と思われる男が弓を引き絞っており、レックスに怒りと共に射抜こうとしていた。

「よくも森に火をかけたな!どこまで卑劣な連中だ!」

「待て!この火はヴェルダンがかけた物ではないのか!!」レックスは質問を返す。

「当たり前だ!!この国の至宝は森と水だ、その大切な宝を自ら火をかける奴はこの国にいるはずがないだろう!」

「俺たちもそんな卑劣な手段を使う事はしない!俺も火に追われて逃れてきたんだ、火を放った側ならこんな事にはならない筈だ!!」レックスは手を上げて弁明する、ヴェルダンのハンターは警戒を解く事なく未だに標準をレックスに合わせていた。

 

レックスは崖の端にいるため矢の回避はできない、距離もあるので不意打ちも仕掛けられない。ここで戦闘となれば間違いなく射殺されてしまうだろう、矢を回避しても崖の下に真っ逆さまである。今のレックスにできる事は勝機を得るための時間稼ぎしかできなかった。

 

「誰が信じられるか!!火がお前たちでは無かったしてもジャムカ王子は貴様達が殺したんだろう!!」

彼の怒りがますます膨れ上がっていた、レックスはその瞬間に覚悟を決めた。

ハルバードとは違う、背中に括り付けてあったもう一つの斧。投擲武器として使用できる手斧に切り替えてハンターに対峙した。

ハンターはすでにレックスに標準を合わせている、その不審な動きに先に射かける形となった。

レックスはその矢に毒が仕込まれている事を忘れていない、崖の不安定な足場だが跳躍してその矢の回避に成功し手斧を投げつける。

レックスの斧はハンターの弓に当たり破壊する、重量のある武器なので弓だけではなく利き腕を負傷しハンターは恨めしそうにレックスを睨みつけた。しかしヴェルダンのハンターは恨みの眼を驚愕の眼に変化する。

 

「く!・・・。」レックスの足場が先程の跳躍で崩れたのだ、そのままレックスは崖の下へと落ちていくのであった。

ハンターは駆け寄って崖を覗き込むが落下したレックスを確認する事はできない、下にも広がる森林の深緑に飲み込まれていた。

ハンターはその場で嘲笑うのだが、サンディマの誤認識により暗黒魔法を受けてハンターももうじき絶命する運命をまだ知らないでいた。

 

 

《起きなさい》

混濁した意識に語りかける声がする。

《起きなさい》

再度声がして、レックスは目を覚ます。

一人と寝かされていたレックスは周りを見渡すと不思議な光景を目の当たりにする。自分の立っている足元は水面であった、そして足元の向こう側は森林が見える。水面にたいしてレックスは逆さに立っており上を見上げると水底が写っていた。

 

しばらくその光景を見て呆然としていると目の前の水が水流となって人の形となりレックスの目の前に現れる、純白のドレスを着込んだ美しい女性がレックスを慈しむように見つめていた。

 

「あんたは誰だ?」女性に語りかける。

「私は人間ではありません、あなたは私の住む世界に迷いまこれたのです。」

レックスは意味不明な言葉に黙り込み必死に考え込む。ここはヴェルダンの精霊の森といっていた、そんな突拍子な事があって不思議ではないと思い込事にした。

肝心なのはここさら先に彼女の言う事が信憑性を左右する事になるだろうと結論する。

 

「世界が違う?なら俺は元の世界に戻りたい、どうすればいい?」

彼女はレックスの後方を指差すとその場が光だした。

「その光に飛び込むと元の場所に戻れますが、その前に質問させてよろしいですか?」

「・・・俺に答えるものならお答えしよう。」

彼女はすっと笑顔になって、紡ぎ出す。

 

「今、精霊の森が燃えています。これはあなた達が行った行為ですか?それともあなたの敵対している者が行った所業ですか?」

女性の言う言葉にレックスは少し間を置き思考する、その上で答えを述べたのであった。

 

「わからないが、私たちではない。」

「では、敵対している者の所業というのですか?」彼女はレックスに答えに更に述べるように促す。

 

「それも違う、と思う。

俺たちグランベルの中にそんな卑劣な作戦を使うような奴はいない!それだけは神に誓ってでも断言しよう。

そしてヴェルダンの連中もそんな事はしない、彼らは自国の森や水を愛おしく話していた。精霊の森の存在も理解し敬っていた。」

 

「では、レックス殿?この所業はなんだというのですか?」

「わからないんだ、でもきっと俺の仲間が森を焼いた者を見つけてくれる。俺も見つけるように努力する。

だから、答えが出るまで少し待ってくれないだろうか?」

 

「・・・・・・レックス殿、あなたの精神と志しを確かに感じました。素晴らしい物であったと評価いたします。このままここを出てもまた火の手に遮られてしまうでしょう、これを持って行ってください。」

彼女は右手を天に掲げると、水底より斧がレックスに向けて降りてくるのであった。

手に取ったレックスは一振りして見上げる、片刃の斧でハルバードよりリーチは短いがその流線形のフォルムは風の抵抗がなく見た目に反して軽い。なにより初めて持ったにも関わらず手に吸い付く感じは以前から使用していたかのような馴染みがあった。

 

「その斧があなたを安全に導くでしょう、火を放った者の対処はあなた達に委ねます。」

「ああ、見つけて罪を償わてやります。では・・・」レックスは一礼をして元の世界へ続くと思われる光へ進むのであった。

 

 

 

 

上空を疾走する天馬に向けてフェンリルの発動されたのは3度目であった、二体のペガサスナイトが直撃を受けて大きなダメージを受けるがカルトの遠隔治療魔法であるリブローが彼女達を支える。

リライブほどの効力はないのでマーファに帰還する事になるがシレジアの天馬騎士団結束は固い、屈する事なくヴェルダン城へ突き進んでいた。

 

森林の火災は一層火の手が増し、天馬部隊のいる高度にも熱気が襲いかかりシレジアの者はその暑さに苦しんだ。煙も立ち上っており呼吸も苦しく、そこは人よりも天馬の方が参っている様子であった。

 

「カルト様、上空の気流が大火の所為で乱れております。このままでは被害の方が大きくなります。」

クブリの指摘の通りである、上空を見上げるもヴェルダンの城に到達できておる者はおらず暗黒魔法を地上部隊から気をそらす事で精一杯であった。

 

「くっ!誤算だった。皆、すまない。」

カルトはそれでも歩む事は忘れず、負傷した者を回復させながら迂回ルートを突き進んだ。

 

ディアドラの提案を聞いたカルト達は足早に迂回ルートを進む、城を時計方向に回るようにして進むため、城は見えているのだが近づいて行く様子はなく、歯痒く感じる。その間にも我が国の至宝である天馬騎士が負傷する様は見るに堪えない物であった。

 

天馬は非常に繊細で、シレジアで安定して天馬を蓄養できているのは最近である。先人の知恵と弛まぬ努力、挫折と進展に一喜一憂してようやくその成果が花開き安定した供給ができるようになったのだ。

天馬を乗りこなし騎士として昇華する人材はもっと難しい。天馬は女性にしか懐かないので背を跨ぐ騎士は当然の事ながら女性、騎士として幼い頃から素養を身につけさせてもその中から天馬騎士になれるのは20%にも満たない確率なのだ。

そんな貴重な人材を預かっているカルトは魔力切れを恐れる事もなく乱発している、クブリは心配をしての言動であった。

 

「しかしこの炎は誰が放ったのだろうか?ヴェルダンの国力を支えているのはこの森と水の筈、勝つためとは言えその代償が大きすぎます。」クブリはそう呟いた。

 

「ああ、防衛戦というのはなんせ金がかかる。攻め込んだわけではないから領地も手に入らないし、防衛に成功しても敵から資金を奪えるわけでもない。そんな防衛戦に数百年もかけて育んだ森を捨てるような真似をする奴はヴェルダンにはいないだろう。」

「では、やはり・・・。」側に控えるマリアンが口にする、彼女は慣れない森での移動に一切の言葉を発していなかったのだがここでクブリとの会話に口を挟む。

彼女は一度ロプと教団の供物にされかけた身、その忌まわしき教団の存在に敏感になっていた。

カルトは頷いて肯定の意を示す。

ロプト教団は暗黒神ロプトウスの復活を切望している、その為の犠牲など意にも介さないだろう。

 

「その為にも一刻も早く奴を倒さねばな、消火活動を行うにしても奴を倒さない限り無駄な被害が出る。」

カルトの言葉にそばに控える者達は歩速を早めていく、炎が行く手を遮る道無き道を切り開く様はこの国の行く末にも繋がることをカルトは胸に刻み込む。

 

 

 

 

天馬騎士団が必死にサンディマの暗黒魔法を回避しながらヴェルダンに向かう、ここで術者の注意を地上部隊に向けられれば魔法防御の乏しい部隊に大きな被害が出る事は副官は充分理解はしていた。

陽動の為にも自身の部隊は派手に動かなければならない、しかし動けば魔法の直撃を受ける可能性があるがこれだけは何としても避けたい。下は火の海と化している、森に堕ちてしまえば二度と空中に舞い戻る事は出来ず焼け死ぬ事になるからだ。彼女達はその決死の思いでシアルフィの部隊を支えている、副官の彼女は統率して絶えず指示を送り続けていた。

数度魔法攻撃の直撃を受けた者がいたが、地上にいるカルトの遠距離回復魔法でなんとか死者を出さずにマーファに帰還できた。しかしこれからも助かる保証はない、彼女は自身に叱咤を送りながら部隊を預かる身として常に思考を切らさずに集中し続けていた。

 

「固まらないで、常にヴェルダン城の警戒して!くるわ、全員回避!」

地上が燃え盛る中で禍々しい漆黒の矢を回避する純白の騎士団、絵師がその場に居合わせたならその情景を描かずにはいられないくらいに絵画に出てくるような空中の攻防は美しくそして苛烈なものである。

 

「今よ、全速!!1分経過したら一度停止して回避準備!」

魔法と魔法の射出間隔時間を確認していた副官は指示を出して距離を詰める、そして回避準備を取らせて警戒に当たらせた。

「距離が短い分着弾時間と命中精度が上がる、気をつけて!」

二人を負傷させてしまった失策に修正した作戦を考慮して確実に距離を詰めていく、副官はさらに引き締めながらヴェルダン城に注意を払う。

 

暗黒魔法を感じた天馬達は怯えているのか首元の筋肉が萎縮する、それを感じ取った副官は号令を出す。

「また、くるぞ!」

 

彼女達はすでに回避行準備に入っている。今回も同じように回避すればいい、そう思っていた。

人は慣れると注意力が散漫になる、ルーチンワークに潜む影を副官は忘れていた。

 

暗黒魔法を感じた天馬が萎縮する事は分かっていたがそれが全弾すぐにこちらに向けられるとは限らない、相手も人間である。何度も回避されれば、敵も修正してくる事を考えに入っていなかった副官は我に帰ってしまう。

 

回避行動のタイミングを外され、さらに今回の魔法の着弾速度は先ほどより速い。いや数回前からの魔法から速度を少しづつ落としていて今回元の速度に戻していたのか体感速度と距離の短さもあり一層着弾が早く感じた。

副官は隣の部下たちに向けられていた魔法攻撃を飛び込んで自ら受けた。

受けた途端、矢による物理的な痛みと共に全身にまるで猛毒が回って体の内部から外部にその毒が飛び出す痛みを受ける。

「ああああああ!」

気付けば、彼女と天馬は全身から血が吹き出して激痛を伴う。

 

「副官!」部下の悲痛な叫びが上がるが、彼女は意識を失ったのか天馬の首に体を預けたままピクリともしない。天馬も羽根に重傷を負ったのか、高度と速度がみるみる落ちていき大火の森に誘われるように堕ちていく。

 

カルトから遠隔魔法の回復がなされるが、天馬の傷が思ったより大きくて浮力を取り戻す時間はない。

天馬騎士団が必死に彼女の天馬に追いすがり、救出を試みるが失速した二人を持ち上げる事など出来ない。彼女の意識があれば彼女だけの救出が可能であるが、今の状況では不可能であった。

 

とうとう副官を乗せた天馬が大火の森にまで堕ちてしまい、その姿を確認できなくなる。

指揮官を失った天馬部隊はどうすればいいのか判断できず、空中に静止する。

《何をしている!回避準備!!》

カルトの送る伝心魔法で間一髪魔法の回避には成功するが、このままでは第二の被害がでる。

カルトは撤退の指示を出す為、伝心の魔法を発動させる。

 

《まだよ!全員全速!》

カルトとは違う伝心が天馬部隊とカルトに逆伝心が響く、それはつい先日の事なのに久々に聞く声に部隊は高揚する。

 

副官が堕ちた地点より再び浮上する存在に部隊は見張る、先の戦闘で天馬を失い戦線を離脱した部隊のトップであるフュリーが副官の天馬ごと大きな怪鳥の背に乗せて部隊に舞い戻ってきたのであった。

 

地上から見たカルトはその光景に笑みを浮かべて笑い出す。

彼女は以前より大きな存在となり、ヴェルダン攻略に大きな鍵となるであろう予感を確信に変えていくのであった。




ようやくフュリーを復活できました。
彼女の怪鳥捕獲も本件にいれようとしたのですが、ボリュームが大きすぎたので外伝を作って表現してみたいと思います。
またジレジアに帰ったカルトがセイレーン公になるまでのお話も外伝として制作したいと思います。
すみません、制作時期は未定です。親世代が終わった辺りがベスト、かな?
誤字、脱字修正と大変ですが少しづつ進んで参りますのでお願いいたします。


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刹那

ようやく、サンディマとの直接対決までこぎつけました。
ヴェルダン編が予想以上に長くなってしまいましたが、あと2話程後処理の話がある予定です。

外伝扱いにするか、ヴェルダン編として一緒にするのか迷うところです。

いつもより文字数が多いですがご容赦の程お願いいたします。


「う!・・・、ここは?」

フュリーの片腕である副官が目を覚ます、体から先程あった痛みが消えていき心地よい感覚に体が覚醒した。

 

「大丈夫?遅くなってごめんね。」

「フュリー様、私は・・・。」彼女は天馬から怪鳥の背の上に立って畏まる。

 

彼女はその姿勢からフュリーを見るが、以前の隊長とは劇的に違う変化を遂げていた。

まずはその目である。以前までは少し頼りない所があったのだが、光るその眼光は心を射抜くがごとく強い意志を発している。

容姿も変わり果てており、長い髪は切り落としてボサボサで櫛を通した節がない。服もあちこちほつれており、汚れも浮いているが彼女は気にもしない様子の佇まいである。以前の身だしなみに気を使う隊長とは対照的に野生じみたものになっていた。

そして能力である。

先程にカルトの伝心を逆伝心で自身の音葉を発したのはフュリーでり、現在副官の傷を癒しているのもフュリーである。彼女は魔力を宿しており、聖杖を扱えているのが一番の変化であるだろう。

 

「フュリー様、御復帰おめでとうございます。私はきっとお戻りになられると思っておりました。」彼女は涙混じりに気持ちを伝える、フュリーは笑顔で答える。

「時間がかかってごめんね。おかげで私はまた一つ成長できました、これでカルトを助けてあげられる。

あなた達にもね、さあいきましょ!私たちでヴェルダンを落とすわよ!」

「はい!」

彼女は再び大空を舞う、ヴェルダンを落として先の戦いでシレジアが受けた失態を雪ぐ為の再戦が行われようとしていた。

 

 

フュリーが戦線復帰し、天馬部隊は一気に攻め上る。

サンディマが暗黒魔法を放つがフュリーの乗る怪鳥は天馬よりも魔法の防御能力が高いのか、魔法を受けても大したダメージを与えることはできないでいた。フュリーは即座に回復魔法で怪鳥を癒してそのまま直進する。

《よう、フュリー!舞い戻ってきたらいきなりの大仕事だな》カルトから伝心の魔法が届く

《カルト!あなたがいながらこのザマは何?あなたがゆっくりしているなら私がさっさとヴェルダンを落としてあげる。》

《エーディンの件があるからな、ここはお前に譲るよ。ただし、派手にやれよ!》

フュリーは笑顔を見せて突撃を早める、天馬部隊も彼女の怪鳥の早さに追いつけない。攻撃はフュリーが一手にに引き受けるつもりであるからである。

 

 

「な!あれはファルコンではないか!!それも、エルダーファルコン・・・。あれを手懐けた奴がいるのか!!」

サンディマは暗黒魔法を意にも介せずまっすぐ向かって来る者に驚愕する、その小さな影は瞬く間に大きくなっていきこちらに向かってきていた。

魔法の効果が見られないその飛行物体に戦慄する。このままでは間違いなくここまでやって来てやられてしまう、しかしここを退けば地上部隊がやってきてやられてしまう。

 

再度フェンリルを行使するが勢いは全く衰える様子はない、玉座に踵を返して待ち受ける。

館内部ではあの図体の大きいファルコンは入ってこれない、地上部隊がやってくるがファルコンの存在が厄介と判断したサンディマは内部戦闘に切り替える事にした。

 

《サンディマさん、聖杖が使えないなら私が救出いたしますよ。》

玉座で待つサンディマにフレイヤは伝心する。

《・・・どのみちここから逃げてもマンフロイ様に殺されるだけだろう、この国と共に滅びてやる。貴様の思惑通りにな。》

《あら、私は救出したいと思って》

《もういい、これ以上の会話は無意味だ。フレイヤ、あなたが持っている野心はマンフロイ様と違う物と私は感じている。足元を掬われないように祈っているよ。》

《・・・・・・忠告として聴いておきます。では最後に、あなたに贈り物を贈ります。これがあればあなたの力も増幅されるでしょう、じゃあねサンディマご武運を祈ります。》

サンディマの手にフレイヤの言う物が転送される。赤い宝石が埋め込まれた指輪、マジックリングが彼の元に届いたのであった。

 

フレイヤは伝心の魔法を終えて失策を知る。

「ご武運を・・・か。」一人つぶやく、その表情は氷のように凍てついており温度は感じられなかった。

私達ロプト教団に武運を祈る神はいない、絶望と破壊の神を信仰する教団では何よりの違和感であっただろう。サンディマに指摘されて動揺をしてしまったのかフレイヤは頭に手を当てる。

そして漆黒のローブを脱ぎ捨て一糸纏わぬ裸体を晒すと温度のない水へと入る、ヴェルダンを離れた彼女は次の仕事がありその準備を急ぐ。端正な肢体を洗浄すると足早に浴場を後にし、漆黒のローブとは違う貴族の社交場に用いられるドレスを纏う 。化粧を施し、髪を結い、手袋まではめれば彼女は淑女として振舞う。

 

彼女のその美貌に魅了されない男は数少ないであろう。また一人標的とされる男は魅了され、籠絡し、堕ちてゆく。彼女の表情はまた氷の様に冷たくなっていく。

 

「マンフロイ様、準備が整いました。」振り向き、伝えた瞬間に転移されて現れるロプト教団の最高司祭。

その圧倒的な魔力にフレイヤですら、多少の緊張を覚える。

「うむ、では行くとしよう。」再び転移魔法を使用した司祭は何処かへと消えていく、彼らの仕込みは世界を暗雲を加速させていくのであった。

 

 

天馬部隊がとうとうヴェルダン城上空を制空し、頭上を抑える。バルコニーに着陸したフュリー達はすぐに侵入はせず地上部隊の到着を待った。地上部隊がヴェルダンの城門を抑えないことには逃走される恐れがある、今は焦らないことが重要であった。

 

《フュリー、どうした?さっさと奴を討とうではないか。》フュリーの頭に伝心魔法が伝わる。

それは、人間のものではなく、先程まで背を貸してくれていたファルコンである。

《サンディマは暗黒魔法の使い手よ、うかつに飛び込めばかえって危険です。さらに逃走経路を遮断する為にも地上部隊が城門までたどり着くまでは様子を見ようと思います。》

《臆病風に当てられたのか?私の見立ては間違っていたか。》ファルコンはフュリーを挑発する様な口調であり、フュリーもその言葉にカチンときたのであろう睨み付ける。しかし二人の睨み合いはすぐさま中断され、フュリーは溜息をつく。

《実はそうよ、あなたの魔力に護られていたからサンディマの魔法にも真っ直ぐ突っ込めました。

でもここからはあなたの体では城内に侵入できない、私の魔力だけではサンディマの魔法を貰えば致命傷になる。多少臆病にもなりますよ。》彼女は冷静に切り替え直して率直な意見を述べた、彼女の変わった箇所には危機察知能力も含まれている。

 

《そういうことか、確かにこの姿では中には入れないな。では、こうしよう。》

ファルコンの体がわずかに光りだすと、瞬く間にその姿を人間の姿へと変貌していく。体はしぼんでいきフュリーとほぼ同じ背格好になる、白髪に真っ白な肌の女性と変貌する。そしてその白い肢体は美しいが全裸での登場に天馬部隊の面々は変身よりもそちらの方に驚かされる。

 

 

「全く、何てことを唐突にされるのですか。」フュリーに与えられた戦闘服を着込んだファルコンは一回転してその自身の姿に笑顔している。

「そうであったな、人間には羞恥心という物があった事を忘れていたよ。」真顔になって弁明する。

「それで、どうして人間の姿になったのですか?」

 

「これならばフュリーの護衛として城内に侵入できるだろう、嘴や翼がないから物理攻撃は弱くなったが魔法力はそのままだ。サンディマとやらの魔法は受け持つからフュリーは奴を倒せばいい。」

 

彼女の提案にフュリーは頷く、確かにサンディマの魔法を抑えてくれれば単独でも勝機は見えてくる。

城内には戦える者は殆どいないか、どこかに集中して待ち伏せに徹しているかはわからないがバルコニーに向かってくる兵士はいなかった。天馬部隊の面々が警戒しているが動向は無い。

ファルコンが内部に入れるとなれば天馬部隊の天馬はここに残して一気に侵入する事を決めた。

 

フュリーとファルコンは一気に王族の間を抜けて階下に降りる、途中に衛兵がいたが戦意はなく投降するのみであった。ジャムカ王子が殺害されたとの情報が彼らの戦意を喪失させ、守る意味をなしていなかったのだ。

実際はデューにより彼は拘束されており存命であるが、彼らの希望である王子喪失がこの国に絶望を与えていた。

フュリーは彼らの武器を取り上げて空き部屋に入れて幽閉状態にしながら先へ進む、王の謁見場にいるであろうサンディマの影を追う。禍々しい魔力にフュリーの魔力にも感知し始め、足の歩みを急がせる。

部下に城内の武装勢力の無力化に勤しんでもらう事にした、サンディマとの戦いでは二人で対処すると決めていたのだ。魔法防御力のない部下を入れれば死人が出る可能性が高いからの判断である。

 

「この先だ!」

「はい!」重々しい扉をファルコンは蹴破ると、謁見の間にはサンディマが不気味な笑みを浮かべて仁王立ちしている。

 

「よくここまで来た!ロプト神にその身を捧げてやる。」サンディマから瘴気のような魔力が立ち昇ってゆく、遠距離魔法からでは伝わりきれていない負の魔力の恐ろしさを肌で感じフュリーは悪寒を覚えた。

「ヨツムンガンド!」サンディマの魔法発動に瘴気は辺りから発生して形造り、二人に襲いかかる。

 

フュリーはサイドステップにて瘴気をかわすとシェリーソードを抜き放つ、その軽い刀身は重みを感じる事なくフュリーの速度に併せてくれている。助走の速度は落ちる事なくサンディマにたちむかっていく。

ファルコンはヨツムンガンドを防御体制に入って耐える事を選択する、両腕はクロスして胸下で構えて両足は地に根をはるように少しかがめて衝撃に耐える姿勢を取る。

着弾し、真っ黒い瘴気をファルコンを襲うが気合の声とともに両腕を広げて払って見せた。

「な、なんだと!」魔力を底上げされたサンディマの魔法でもってしてもファルコンに致命傷となる物ではなく狼狽える。フュリーの剣が振り下ろされてサンディマは後ろに飛んで回避するが、フュリーもさらに踏み込んでサンディマのローブを裂くのであった。

 

「なかなかいい動きをするな。」サンディマは薄ら笑いを浮かべて賛辞を送る。

鮮血が床に滴り落ちるが、左手がローブの中入り数秒すると止血されたのか床に落ちる事はななった。

 

《厄介だな、奴らは回復魔法なしでも徐々に体を癒す事ができるみたいだな。》

《はい、今の動作に魔法力は感じられませんでした。特殊な能力でしょうか?どちらにしても次は致命傷を与えます。》

フュリーは再度剣を握り直して、踏み込む準備をする。

サンディマはローブの中に入れた左手でマジックリングを取り出して右腕に嵌める、フレイヤから送られた指輪を使う気になれなかったのだがヨツムンガンドを防がれてしまった事により頼らざるを得なくなってしまった。苦虫を噛み殺すような表情で敵に塩を贈られた品を使用する。

 

嵌めた瞬間、自身の魔法力が指輪を通して増幅しておる事を自覚できる、サンディマは再び薄ら笑いを浮かべて魔力を放出させた。

ファルコンはその変化に気付き、抑制の一撃を入れる。

「ライトニング!」右手から光の魔法の初級魔法が放たれる。

 

サンディマの頭上から訪れる、光の収束をヨツムンガンドで相殺させて見せる。

「・・・!」ファルコンは目を見張ってその魔力の変化を見極める、指輪嵌める前のサンディマではおそらく打ち破れないだろうと推測したライトニングを相殺した事により指輪はマジックリングと断定する。

 

フュリーはその相殺している隙を突いてサンディマに刺突の一撃を繰り出す、体重と突進を纏わせて喉元への一撃にかけたのだがサンディマは再び魔力を纏わせる。

 

《フュリー!一旦引け!!》

ファルコンの伝心が脳内に響く、サンディマの魔法発動した直後を狙ったのだが再充填を完了していた。

再びサンディマは魔法を発動させる。

 

「ヨツムンガンド!」

フュリーの周囲より瘴気が集まり出して襲いかかる、マジックリングは魔法の威力だけではなく発動後の硬直時間も少なくなるようでファルコンは焦りを覚える。

 

フュリーはファルコンからの援護は間に合わないと判るや覚悟を決める、今までカルトやシェリーに支えられて今度はファルコンに支えられた。ここ一番では自身の力で切り開く力が欲しいと誓っていたフュリーはここで引くわけには行けない。剣をサンディマに突き立てんと更に速度を上げていた。

 

剣がサンディマの腹部を貫く瞬間とフュリーにヨツムンガンドが直撃したのは同時であった、二人は声も上げずに床に倒れこむ。

 

ファルコンは即座にフュリーをサンディマから引き離して奴の動向を確認しつつ回復に入る。

「リライブ!」ファルコンの右手から淡い光がフュリーを癒していく。

「う・・・。奴は、どうですか?」フュリーは即座に意識を回復させて、状況を聞く。

 

「奴も、死んではいないがしばらく動けないだろう。どちらの回復が早く済んで、次の攻撃をできた者が勝利者だな。」

 

「わたしは、大丈夫!」フュリーは立ち上がろうと膝に力を入れるが、全身に痛みが広がりうまく立ち上がれないでいた。力を入れた筋肉に激痛が走り、出血する。

瘴気はフュリーの全身を蝕み、内部で毒のように残っているかのようであった。カルトはダーマの遺跡でこの魔法を受けたと聞いていたが彼は回復もせずに立ち上がったと聞いている、フュリーは心底カルトの意志力に感心してしまう。

 

「奴はマジックリングという魔法力をあげる指輪を使っている、その攻撃を直撃して生きているフュリーの防御力も素晴らしいさ。今は動かずに治療を受けろ。」ファルコンは温かい言葉とは違い懸命に魔法で回復に努める、サンディマの方も回復を急いでいるのだ。この勝機を失いたくはないがフュリーも重傷を負っている、今の状態で放置すれば彼女の命の保証も出来ない。ファルコンの困惑は続く。

 

一時の時間が過ぎる、サンディマの流す出血は止まっており手足が動き出していた。やはり回復はサンディマが早かった、ファルコンは舌打ちをして奴を見張る。フュリーも随分良くはなっくてきているが体にまだ力が入っておらず、逃げ出す事もできない。

 

ファルコンは長い年月で人間に姿を変える事に成功するが、能力は限定されてしまう。怪鳥の時に大きな威力を発揮する嘴や羽根が扱えない事もあるが、完全な魔道士になってしまう為筋力は脆弱になってしまうのだ。

 

サンディマの暗黒魔法に有効な魔法攻撃は光魔法であるが、ファルコンにはライトニング以上の攻撃魔法は扱えない。あとは風魔法を幾ばくか使用できるがサンディマの魔法防御力の前には有効な手段ではなかった。

 

その間にサンディマは回復を終え、ゆっくりと立ち上がる。

「ちっ!まさか小娘にここまでやられてしまうとは、でもまあいいだろう。

そいつはまだ立てないようだしな、二人仲良く死んでもらうぞ!」

再び瘴気を纏わせて、悠然と距離を詰める。

 

ファルコンはフュリーの回復を中断させ、立ち上がる。

 

「ヨツムンガンド!」

「マジックシールド!」防御魔法でその場をしのぐ事にする。

先ほどのサンディマの攻撃間隔はファルコンよりも時間が短かった、ライトニングで対抗すれば第二波で直撃してしまう恐れがあった為の対処であった。

 

「ふはははは!時間稼ぎにしかならぬわ!その少しの時間、ゆっくり祈りでも祈るんだな!」

サンディマの勝利宣言を不快に聞きながら、ファルコンは必死に防御魔法を展開する。

 

「あなただけは逃げて、これは私の戦い。ここまで手伝ってくれて充分。」

フュリーは必死に立ち上がってファルコンの横まで歩み寄る、そしてシェリーソードを構えた。

 

「・・・フュリー、私はあなたと会えて変わった。

今まで目的もなくただ数百年生きてきたが、君と出会ってからの数日間でここまで私を変えてくれたのだ。

初めて友となれた君を守る戦いは私の戦いでもあるのだ、頼む!そんな事を言わず一緒に戦ってくれ!」

「・・・ごめんなさい、私たちはまだ負けてないわね。絶対に生きて帰るわよ!」

フュリーはファルコンの右手に添えて自身の魔力をファルコンには与える、サンディマは今まで遠距離魔法も使ってきた。魔法切れを起こせば私たちの勝利になると信じたのだ。

 

「小癪なくたばり損ないが!もういい!一気に潰してやる!」

サンディマがさらに魔力を込める。一帯は漆黒の瘴気で溢れかえり、地獄のような光景になっていた。

フュリーとファルコンは絶望の中でも、見失わず最後まで自身の力を振るい起こす。

 

ファルコンは自身を変えた親愛なるフュリーの為に

フュリーは自身の目的を共有しついてきてくれた親友の為に

 

二人の思いやるその心が、この絶望な状況を凌いでいた。

 

「ふはははは、もうすぐだ!もうすぐロプト神が二人の命を刈り取りに来られるぞ!!・・・!!」狂気に笑うサンディマに異変が生じる。

 

彼の首が飛んでいるのだ、フュリーはその光景が網膜に焼きつきかのように見入っていた。

胴だけになった彼の肉体は魔法の発動が止まるなり痙攣しながら膝が落ち、崩れ落ちる。

その崩れ落ちた体の背後にいる一人の青年、レックスによってサンディマは絶命したのであった。

 

「精霊よ、仇は打ちました。」レックスは持っていた斧に語りかけていたのであった。




ファルコン

長い年月を生きたファルコンは自我を持ち、知能と魔力を得る。それらの存在はヴェルダンでは魔獣と言われ恐れられている。
フュリーが手懐けた?ファルコンはエルダーファルコンであり、怪鳥時は嘴と羽根で攻撃する。

人間に変身可能だが人間時は魔道士なってしまう為、肉体の強度が一気になくなってしまう。
女性の出で立ちだが、実際の性別は不明。



ファイアーエムブレムのマムクートを参考にして少しアレンジしました。

物語のパワーバランスを崩してしまう存在になりかねないので、変更する部分はあるかもしれません。
賛否がありましたら、感想で物申してくれますと助かります。


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外伝 1小節 心中

ヴェルダンを攻略がようやく終わりました。
我ながら長かったなあ、と思います。


サンディマが討たれた事で事態が一変する。

 

森林を焼いていた業火はグランベル軍と共にヴェルダン軍も加わり消火活動を行い、3日で消し止める事が出来た。キンボイス王子もとジャムカ王子の生存によりヴェルダン軍の感情も幾ばくか解消された事による物である。

サンディマがヴェルダンに入り込んだ二人の妹君の病の状態を確認する為、カルトは寝室へと急いだのだが彼女は息を引き取っていた。

死因を特定しようとカルトは医者と確認していくのだが、彼女の体はずっと以前から生命活動をしていなかった事が伺えたのだ。彼女はきっとイード砂漠で暗黒魔道士が使用した死者を操る魔法で誰かが操作していたのだろう、王を欺く為とは言え非道な手段にカルトは怒りを覚えたのであった。

 

 

ヴェルダンを制圧して5日が経過しても、この国の悲惨な現状に奔走し続けていた。

 

シグルドは、本国からやってくる役人達への引き継ぎを行い

レックスは消火活動の先導に立ち

アゼルはグランベルに物資の手配要求をし

エーディンは人々の救済に各地の教会へ

 

レンスターはエバンスに戻り、他国からに侵略に備え

シレジアの天馬騎士は物資の輸送

魔道士はヴェルダンにて各地からくる情報の収集と指令を行っていた。

 

この事態を一先ず終息出来たのはさらに7日を費やす事となった。

彼らの尽力によりキンボイス王子とジャムカ王子はグランベル侵攻の実行犯ではない事もあり処罰は免れる事となるが、数年の間はグランベルの監視下においての権限行使する事となる。本国から派遣されたエッダの役人が中心となりヴェルダン王国を再編成する事に落ち着いた。

しばらくはグランベルに対して賠償金を支払う形となり、二人の王子の改心具合を確認して再び独立させる条約を交わしたのであった。

 

カルトは伝心の魔法でアズムール王にヴェルダンに再編の機会を与えるように申し出たのだ。

このまま陛下が勅命を出さないまま役人が好き勝手を行えば、ヴェルダンを打ち捨てるか搾取し続ける恐れがあった為に進言する。

予想通り、初めに来た使者はこの国から私服を肥やさんと貴族共がやってきた。ヴェルダン内を値踏みするかのような嫌な視線にカルトは数日の間、明らかに不遜な表情を浮かべていた。

すぐさま国王直轄の親衛隊がエッダの役人を伴い、勅命を言い渡して貴族共の野望は砕かれるのであった。

 

 

濃厚な日を送り、エッダの役人にヴェルダン統括の引き継ぎを終えたシアルフィ軍はエバンスに戻り久々の休息を得る。全員エバンスに集まった今晩、できる限りの贅を尽くした会食を行う事となった。

 

皆、各々の場所で会話を楽しみ、飲食を楽しんでいる中で端で一皿の料理を全く口につけずに周りの人を眺めているフュリーがいた。

彼女はこのような場所は苦手であり、雰囲気に飲まれている内に端へ端へと向かい今に至るのである。

もう一つの手にあるグラスのワインを少し口につけて軽ため息をつく。

 

「よう、折角の綺麗所がこんな所にいちゃあいけないな。」

「あ、レックス公子。」フュリーは声をかけてきた威勢のいい青年に抑揚のない声で応えた。

 

「今日は無礼講だ、レックスでいいぜ。

サンディマをやっちまってすまなかったな、乗り込んだらあの状況だったもんでな。」

「あ、いえ!私こそ、助けていただいたのに碌にお礼も言えずに・・・。ありがとうございます。」

 

二人はそのあと会話が続かず、しばし沈黙が続く。

 

「・・・もう一つ、謝らなきゃならない事がある。あんたがエーディン救出に失敗した時、カルトにかなり暴言を吐いちまったんだ。俺もあとから言い過ぎたと思っちまったんだが、あいつは最後まであんたを信じていたよ。一緒に奴とキンボイスのジェノア城を攻略したんだが、奴の行動力には驚かされるばかりだった。

シレジア軍の結束力を見せてもらったが素晴らしい軍だった、これからもパートナーとしてよろしく頼む。」

レックスの饒舌ではないが真っ直ぐな感想にフュリーは救われた気持ちになる、笑顔を取り戻してレックスが求めてきた握手を交わすのであった。

 

 

晩餐も中盤に差し掛かった頃、シグルドとディアドラが登場し二人が結ばれた事を報告する。

まだ有事中という事で大々的な式は本国に戻ってからという事になるのだが、明日披露宴を行うとの事で明日も続いてのお祝い事となった。

 

カルトも次々とやってくる戦勝祝いの言葉に対応に苦慮していた。

彼もそのような祝賀の場は苦手であり逃れようとしているのだが、フュリーと違い公位を持つカルトは婦人方にも騎士にも、魔道士にも人気があり離してくれる様子はなかった。

 

ようやくひと段落した頃にはカルトは折角の衣装も着崩してしまい、疲労感のある顔を露わにしていた。

 

「カルト様、おかえりなさいませ。」マリアンが労いの言葉と共に食事と飲み物を渡す。

「ありがとう、しかしグランベルの方々は大変だな。俺には合わないよ。」カルトは果実のジュースを飲み干して愚痴をこぼす。

「カルト様それでは困ります、これからはセイレーンの公爵として立派に勤め上げてもらいませんと・・・。」クブリまで愚痴をこぼし出したのだ、そして

「それに、カルト様もそろそろ私共に報告する事があるのではないですか?」とまで付け加えた。

カルトは舌打ちをして明後日の方向を見る。

 

「・・・ああ、そうだな。お前達にはきちんと言っておかないといけないな。

マリアン、フュリーを見つけてくれないか?」

「はい・・・。」マリアンは会場に散っていく。

 

「カルト様、今だからこそ言えるタイミングですよ。」睨みつけるカルトにクブリは困ったような顔をする。フードで普段は隠しているが、ここでフードを外してカルトを見るのである。

クブリはカルトよりも若い、まだ大人になりきれない端正な少年の顔がカルトの瞳を射抜いているのである。

 

カルトは自身が思っている以上に男として、指導者として、将来の有望株として魅力的な存在なのである。

クブリは何度忠告してもカルトは自然体に余計な協力し、助言をしてしまう為に女性から好意を得てしまっていると説明しているがカルト本人が理解していないから始末が悪い。

結果、フュリーにもマリアンにも上官以上に好意を得ているように思ってしまったのだ。

 

だが、クブリには良い事と思ってしまう。

これは下世話な事なのでカルトの性格上口にできないのだが、フリージ家由縁のエスニャ様を迎える事はカルト様にとって、シレジアにとってはより同盟を堅固にすると思っていたのだ。

申し訳ない事であるが、貴族出身でもシレジアに内部のフュリーであったり、イザークでも一般人であるマリアンでは有益な婚約ではないと思っていた。

 

それは部下として従うクブリの意見であって本心ではない、クブリにとってもカルトは魅力的な指導者である。カルトが幸せであれば何も言う言葉はない。

 

クブリの思考自身でまとめ終わった時、マリアンはフュリーを、カルトはエスニャを連れて来る。

皆、カルトの発する言葉は大体察している。様々な表情をしてカルトの言葉に固唾を飲むように待つ。

カルトもその雰囲気にいささか緊張をしている面持ちで、咳払いをして意を決する。

 

「皆こんな有事の中で済まないのだが、俺カルトはエスニャと誓いの言葉を交わした。

この戦いが終わってシレジアに帰った時、彼女をセイレーンに迎え入れる。」

カルトはエスニャの肩に手を回して紹介する、エスニャは深くお辞儀をして面をあげる。

 

「紹介を受けました、フリージのエスニャと言います。

この度、カルト様の誓いの言葉を交わしてシレジアに嫁ぐこととなりました。私のような若輩者ですが皆様の愛するシレジアをカルト様と共に尽くす覚悟です。よろしくお願い致します。」エスニャの顔に決意と喜びで溢れていた。いまだ魔法発動は出来ず不安な日常を送っている筈なのだが、彼女の覚悟はそれを上回りカルトに尽くす覚悟を決めているのだ。

その顔にフュリーとマリアンはその真意まで達していない自身の内を知ったのだった。

 

 

「カルト様、シグルド公子達も自国に戻るまで式をしない予定ですが披露宴は行います。カルト様はなされないのですか。」マリアンは投げかける。

「ここはグランベルが駐留を許された地だからな。シレジアの俺たちが許可をとって行うわけにはいかないだろう。

それに俺はこのヴェルダンに駐留する間にエーディン公女と共に教会に赴いてヴェルダン兵の負傷者と、疫病で苦しむ子供やお年寄りを見て回りたい。俺がこの国にしてやれる時間は少ない、エスニャには申し訳ないがもう少し先になる。」エスニャを見つめたカルトは申し訳ないように頭を下げる。

 

「気に病まないでください、カルト様にしかできない素晴らしい事です。私にしてくださったあの温かみを戦争で苦しんだ人達をお助けしてください。」

二人にはすでに無言の情が通じている。祝福を述べるがフュリーとマリアンの心に棘が刺すように痛んだのであった。

 

 

 

 

 

《フュリー?どうした、こんな時間にここへきて》

会は御開きとなり、与えられた自室に戻らず徘徊していたフュリーはいつの間にか天馬たちが休息する仮の厩舎へ足を運んでいた。

相棒であるファルコンは他の天馬とは数段体躯が大きい為、さらに奥にある天井の高い厩舎にいた。

彼女は夕食に出された食事が気に入らなかったのか、自身で狩ってきた水牛を頬張っている所に出くわしたのである。

 

《ん?ちょっと、ね。あなたと話がしたかったの》フュリーは伝令の魔法で応える。

《そうか、少し待ってくれないか。こいつを食してからゆっくり聴こう。》

ファルコンは水牛を顎でヒョイと持ち上げると豪快にかぶりつく、辺りに骨の砕ける音が響くがフュリーには全く気にもならなかった。こんな事でいちいち驚いていたら彼女と一緒にいる事はできない。

慣れるには数日はかかるが、今はそれどころではなかった。

 

彼女は食べ終わると、寝ぐらに体を落ち着かせフュリーの話を聞く体制をとる。

しかし肝心のフュリーが口火を切る事はなく座ったそばの寝わらを持っては落としたり、指に絡めさせたりと落ち着きがない。

 

《話しづらいか?ならまた人間に・・・》

《ならないで!そのままで聞いて!》

顎を一瞬あげて魔法を使用し始めたファルコンを制止する、ファルコンは再び元の姿勢に戻るが、フュリーも先ほどと同じ仕草を初めて埒があかない。

 

《要領がえないな?どうした素直に言ってみろ。人間に言いにくいから私を選んだのだろう?》

彼女の言う通りであった、この暗い感情を誰かに言えば失望されてしまう。でも誰かに相談したい。

その葛藤がフュリーの相棒の元へ足を運んでいたのだった。

 

《私ね、ある人が好きだったの?小さい時からずっと、ずっと好きだったの。でもね、その好きな人は私のお姉ちゃんが好きなの。私、二人を応援する事にしたの?時折諦めなくて葛藤した日々を送っていたのね。

そんな時に、もう一人好きになってしまった人ができたの。でもその人は婚約しちゃった。私が好きになってしまった人はどんどん別の人を見つけていく。

私はどうしたらいいんだろう、私はどうやって・・・この思いを伝えられるようになるのかなって・・・》

彼女は精神統一ができず伝心魔法が解けてしまう、顔を覆って泣きじゃくった。

 

ファルコンはしばし彼女の嗚咽を聞いた後に人間の姿になる、フュリーの横に座ると彼女はフュリーを抱きしめた。彼女の優しい抱擁にフュリーは安堵を覚える。

「心配するなお前は魅力がある。フュリーお前なら隙をみてその雄どもを誘惑すれば子種の一つや二つ、分けてくれるさ。」

 

「・・・え?」

 

「雄はたくさんの子供を作る宿命を持っているんだ、その性に生物は逃れられない。フュリーが今から頑張れば寿命の短い人間でも、20人は作れるぞ。

私なら強くて優秀な雄を見分ける能力もある、一緒に探してやろう。」

彼女の見得にフュリーは真っ赤になる。やはり彼女は野生の獣である、知識を得ようともそに行動理念はなく人間の倫理観は存在しなかった。

 

「ま、待って!そんな事じゃないの!!私は!」

フュリーの慌てる言葉にファルコンは笑みを見せる、フュリーはからかわれた気分になり怒りをあらわにする。

 

「フュリー、獣は欲しい物は欲しいと主張する。人間には複雑な社会基盤があり倫理観がある。

獣には人間の社会基盤が理解できないが、弱い物にも生きる権利が与えられている所は素晴らしいと思う。獣は弱者が容赦なく淘汰される世界を生きているからな。

でも単純明解な生存競争を生き残り、子孫に繁栄させようと必死に爪を磨いている獣にも見習う所があるんじゃないか?」

 

フュリーはキョトンとしてファルコンを見る、彼女に言いたい事はシンプルな筈である。

自分の心のうちにもその正体はわかっている、それは失敗した時の怖さである。

結果を恐れて諦めている自分に勝機は回ってこない、何かを手に入れようとする時は何かを失う事もある。

獣達はそれを日常で体感して暮らしているのだ。

 

草食動物が肉食動物に狙われた時、肉食動物は必ずその群れで一番に弱者を狙う。草食動物は時として群れの繁栄の為に、子供や怪我して弱った者を犠牲にして生きている。その繰り返しが種としての保存されていくのだ。

肉食動物も同様である、雄が狩りできなくなれば雌は雄を見捨てる。時にはその雄を食してしまう事もある。

その厳しい生存競争の前にフュリーの相談はとても矮小な物に感じてしまう。

フュリーは立ち上がり伸びをする、涙を拭いた彼女は清々しい顔を見せた。

 

「ありがとう、少し楽になったわ。」

「そうか、よくわからないがフュリーならきっとできるようになる。応援するぞ。」

「うん!・・・あ、お礼にいい物をあげる。」

 

「ん?なんだ、いい物って?ついさっき水牛を食べたからお腹いっぱいだぞ。」

 

「食べ物じゃないの!

あなたの名前よ、あなたの名前は・・・・・・。」

 

 

 

二人の語らいを聞いている者がいた、月夜に輝く光を漆黒の髪に反射させる彼女は柔らかい笑みを浮かべるとその地を後にするのであった。




アグストリア編までの間少し、数話程寄り道しようと思います。
申し訳ありませんがお付き合いのほどお願い致します。


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祝宴

シグルドの披露宴を描いてみました。
主人公はカルトなので視点はあくまでカルトベースです。



シグルドの人柄もあり、披露宴は思ったより来訪者が多くてカルトは驚く。

シアルフィ軍に参加しているグランベル軍に加えて、アグストリアのエルトシャンまで参加し祝福者で溢れかえっていた。

シグルドは、平静を装っているが相当酒が入っている様子で時折足をふらつかせているシーンがありさらに周りを和ませた。終始彼に寄り添うディアドラは微笑みを絶やす事なく幸せを享受しており、彼女のこの先の幸せを祈るカルトであった。

 

 

カルトももちろんこの披露宴には出席する。基本的にはシグルドに所縁のある者のみとなされていたのだが、シレジアの王族が同じ地にいるのに祝福に参加しない事は失礼に当たると判断し、カルトは付き合いの浅さではあるが出席する事となった。

その為、シレジアにおける出席者はカルトのみでフュリーもクブリも参加はしていない。話し相手がいないカルトはうろうろしては食事に手を伸ばして口に放り込み、牛の様に反芻するの繰り返しであった。

 

「カルト、この度の戦いで親友のシグルドを何度も救ってくれたそうだな。友として貴公には感謝する。」カルトの徘徊の行く手を阻むのは、エルトシャンとその妹のラケシスであった。

二人は普段でも絵画になるような端正な顔にその気品溢れる佇まいである、さらに正装した二人に道を阻まれたカルトはなんとも言えぬ萎縮を感じてしまう。

 

「エルトシャン、あなたにそう言ってもらえるのは光栄だな。しかし俺は大した事をしていない、優秀な部下達の賜物だ。」

 

「あら、謙遜なされるのですか?先ほどシグルド様にご挨拶に行った時には今回の成功はカルト公による物だとはっきりおっしゃってましたわ。」隣にいたラケシスは微笑みながらカルトに伝える。

 

「ラケシス、騎士に驕りは厳禁なのだ。カルトとシグルドの高潔な意思に冷水をかける物ではないぞ。」

エルトシャンの一言にラケシスは了承したのか、一歩下がって一礼する。

 

「すまない、少々口が過ぎたな。」

「いや気になどしない。それよりエルトシャン、あの者達は元気にしているか?

ノディオンにご迷惑をかけていなければと思っていたのだが。」

 

あの者とはエルトシャンに身柄を預けたイザークの三名である。彼らをシアルフィ軍に在籍させてしまうとグランベル本国に要らぬ誤解を与えてしまうと危惧したカルトは、エルトシャンにお願いしてアグストリアに送った。

アグストリアもグランベルとは不可侵協定を結んでいるが、シレジアとグランベルの同盟協定ほど強固なものではない。グランベルにおける大罪人がやシレジアやアグストリアに駐留したとしたも、グランベルはシレジアに対しては引き渡しの権利はあるがアグストリアとの協定では強制力はないのである。

カルトはそこをついての判断であった。

 

「ああ、それこそ要らぬ気遣いだ。

三人とも元気に暮らしている、ホリンがまた会いたいと言っていたぞ。」

 

「久々に稽古をつけて欲しいとお伝えください。」

 

「わかった、伝えておこう。」若き獅子王は踵を返して去っていく、彼の持つ雰囲気はますます凄みを増しておりシグルドとキュアン以上と判断できる。

王としての立場が彼の実力を引き出している様に感じたカルトであった。

 

 

 

カルトはようやくシグルドとディアドラの眼前に立つ機会が訪れる、グランベルの者より先に行くわけにはと思っていたカルトは宴の終盤に話をする事とした。

 

「シグルド公子、ディアドラ殿この度はおめでとうございます。」

「カルト公、お忙しい中の参加感謝いたします。」シグルドとカルトは軽い挨拶のちに盃にて酌み交わす。

シグルドは言葉こそまともな返事が返ってくるが、もう顔面は真っ赤になっており、おそらくこの後は潰れてしまうのだろう。苦笑をあらわにしたカルトにディアドラも困った顔をする。

 

「カルト公、あなたのおかげでここにいる者は無事にこの式に参加する事ができた。本当に感謝します。」

 

「買いかぶりすぎですよシグルド公子、あなたがいなければこの連合軍はできていなかっただろう。私もあなたの様な方だからこそ、ここまで一緒に参加したと思う。」

 

「カルト公・・・。」

「カルト様・・・。」

 

二人はカルトに深く礼をする、カルトはこの様に言うのだがシレジアの部隊が参加していなければヴェルダンの攻略を行える事は不可能だった。疫病が蔓延する中でキンボイスをジェノアで殺し、ジャムカまで手にかけていればヴェルダンの市民はグランベルに敵意と怨恨を植え付けていただろう。

 

たとえ戦で勝ってもヴェルダンの民はグランベルを受け入れることはなく、グランベルもヴェルダンの惨状に見捨ててしまい荒れ果ててしまうことは明白であった。

カルトはこの国の疫病の現状を見抜き、食料を配布する。レックスにその意思が伝わり、キンボイスとジャムカを捕縛。さらにヴェルダン城攻略において天馬部隊の活躍により被害を最小に暗躍するサンディマを倒す事に成功、ヴェルダンの民はグランベルを受け入れてくれたのだ。

 

レックスのヴェルダンとグランベル共同の消火活動にエーディンとカルトの救済活動が両国の架け橋になっている事をシグルドは感謝しての敬礼である。

 

「シグルド公子。お祝いの席で言うのは少々不躾なのですが、私が以前忠告した事を努努お忘れなき様にお願い致します。」

カルトは少し真顔になり一言、シグルドに伝えてその場を去る。シグルドは真っ赤であった顔は一気に引き締まりカルトの背を見る、彼がマーファで言った事を思い出し戒めるのであった。

 

 

「カルト様・・・。」

「エスニャ、君もシグルド様にご挨拶をしてきたのか?」

「はい、先程。・・・カルト様はなぜお一人で行かれたのですか?」

「え?・・・そうか!・・・ついいつもの癖だな、すまない。」カルトも珍しく焦る姿にエスニャは釣り上げた眉を元の位置に戻してくすりと笑う。

 

「いえ、すこしからかっただけです。お気を悪くさせてごめんなさい。」

エスニャの冗談にカルトはしてやられたと思ってしまうが、彼女のルージュのドドレスが栗色の髪とのコントラストに見とれてしまい言葉を失う。

「あ、いや・・・うん!君のドレス、よく似合っている。」カルトは取り繕い、評価する。

エスニャは赤く頬を染めると、お礼の言葉を小さな声で返す。

 

「君には、本当に済まないと思っている。きちんとシグルド公子の様にしたいと思っているのだが・・・。」

 

「いえ、いいのです。カルト様の立場をお考えになればそう簡単でない事は承知しています。

それに、準備期間が長い方がわがままも出来ますのでゆっくり準備したしましょう。」彼女の笑顔にカルトは少し気圧される。

「あ、ああ・・・お手柔らかに頼むよ。」カルトは汗ばんで返す事で精一杯であった。

 

《カルト様、エスニャ様。クブリです。》

クブリの伝心魔法が二人の脳内に呼びかけられる。

 

《どうした?クブリ、何かあったのか?》

《カルト様、明日の件ですがジェノア北西の教会の件で相談したい事がございます。》

 

ジェノア北西の教会は、ジェノア城攻略前に訪れた地であり、この国に入って初めて疫病が蔓延している事を知りカルトが真っ先に救援した教会である。特に子供の重病者が多く、この国を制圧してからも最も多く通って治療を施した教会であった。最近は随分と落ち着き、他の場所よりも安心している地になった筈である。

 

《あの教会がどうしたんだ?》

《はい、シスターより言伝がありまして明朝に来て欲しいと言われておりました。カルト様は大変忙しい身とお伝えしたのですが、どうしてもお会いしたいと言われております。如何致しましょうか?》

 

《あのシスターが?》

カルトは教会でいつも話をするシスターを思い出す。彼女はとても謙虚な女性で、どんな困難にも立ち向かい弱音を吐く事なく従事するシスターが自身を頼ってくる事となると余程の事だろうとカルトは判断する。

 

《わかった、明日一番に向おう。

クブリ。申し訳ないがフュリーにファルコンを出してもらう手配と、エーディン公女とエスリン殿にも治療を手助けするように声をかけてくれないか?》

 

《承知しました。・・・エスニャ様もご一緒にいかがでしょう?カルト様がどんなに忙しくても、立ち寄る事を忘れない程の地です。興味はありませんか?》

 

《クブリ・・・何を言いだすんだ、余計な事だと思わないのか?》カルトは少し不機嫌に言い放つ。

 

《これは失礼致しました、エスニャ様にカルト様のご意思をお見せするいい機会かと思ったのですが・・・申し訳ありません。》

 

《いえ、クブリ様ありがとうございます。ぜひ私もお連れ下さい。》

エスニャの好奇心をくすぐったクブリの戦略に負けたカルトだった、さらに機嫌を悪くする。

 

《ではカルト様、明朝厩舎までお願いいたします。では》

 

 

 

「クブリのやつ、いったい何を考えているんだ。このような場でなければ大声を出していたぞ。」

カルトはそう言いながら思考を巡らせる。

 

(いや、奴は場に気を使う男だ。この場面だからこそ俺に叱咤されずに事を進めた節があるな、エスニャも連れていく意図は・・・・・・魔力か。)

 

彼女の魔力の復活に関係していると予想する、彼女は回復魔法の無理な使用により器が変質し魔法の発動がうまくいっていない。荒療法になるが、回復魔法の使用から魔法発動のきっかけを与えようとしているとクブリは考えてくれたのだろう。その結論に落ち着け、納得する。

 

「その教会で、カルト様の意思とはどういう意味でしょうか?」

エスニャはじっとカルトを見つめる、髪と同じ瞳を見るたびにカルトの鼓動は早くなっていく。

 

「クブリはどう意味で言ったのだろうな?俺にもちょっと説明しづらいな。

俺はただ教会で助けを求めていた人達を救っただけさ、その縁で時折協力している。」

 

「そんな事があったのですね、あの時は後方待機していたので知りませんでした。」

「そうだったな、では明日見に行くとしよう。」カルトの言葉に同意するエスニャであった。

 

 

 

 

 

「ぐわあああ!ま、参った!降参だ!」

マリアンの一刀を受け跪き対戦者は降参をする、マリアンは一振りさせて血糊を振り落として鞘に収めると観客席より歓声が響き渡った。

今の対戦でマリアンは6人抜きを達成した、まだまだ余力のある彼女はさらに7人目の対戦を申し出る。

体力不足が祟ったマーファの決闘を払拭させるため、彼女なりの体力作りを行い持久力を身につけた成果がこの度の6人抜きに繋がっていた。

 

7人目はマリアンと同じ女性剣士が出てくる、彼女は物見遊山のように現れマリアンを見据える。

「なんだい、私の相手は子供かい?つまんないねえ。」

マリアンは安い挑発と見て動揺をせず相手を分析する、そして距離を取って構えた。

 

相手はまだ構えを取る事なく、薄ら笑いを浮かべたままマリアンをみている。

その不気味な瞳にマリアンは息を飲んだ。黒髪が長く伸ばされているがアイラ王女のように手入れされている様子はない、水をかけてそのままのようなバサバサとした髪に余計不気味な印象を受ける。

 

だが強い!マリアンの危機能力が彼女の強さを推し量る、その威圧感にマリアンは武者震いをしていた。

 

「先手は譲ってあげる、どこからでもいいよ。」

彼女はさらに挑発するがマリアンの耳には届いていない、集中力が全て聴力ではなく視覚に集中している為動揺する事はなかった。

 

マリアンはじりじりと間合いを詰めていくが、彼女は全く気にする事はなく未だに構える様子はない。

先手どころか一撃入れてもよいと言っているばかりに無防備である、マリアンは上段の構えを取り最速の攻撃へと移る。

しかし、攻撃にどうしても転じる事は出来なかった。マリアンの身体中から汗が噴き出し、呼吸が乱れていく。彼女の同じ場所に立っているだけで、体力が奪われていくのである。

 

「降参します。」マリアンは頭を下げて、降参する。

観客からは非難の声が上がるが、マリアンは気にすることなく鞘に剣を収めて彼女を見る。

 

「あんた見所あるよ、斬りかかっていたら3秒もせずに地獄送りになっていたからねえ。次は強くなって私の前に来な!」

 

「すみませんが、お名前は?」マリアンはこの屈辱を忘れない為に彼女の名前を聞く事にする。

「レイミア」彼女はこの場所に興味はないとばかりに去っていくのであった。

 

マリアンは再びどっと汗が流れ出るがそれは極度の緊張によるものだけではない、自身の命が救われた安堵感でもあり剣士にとって屈辱的な事であった。

しかしながらその屈辱に負けるわけにはいかない、何があっても生きて帰る事を信条としいるので屈辱に耐えて剣を引く事にした。

彼女は確実に進化を遂げている、ヴェルトマーの聖騎士より戦う事の意思を教授され自身の人生を切り開く強さを欲した。剣士としてホリンを師事して剣技をを学び、カルトに見てもらいマリアンの身体能力にあった特技を見出してくれた。

しかしレイミアはホリンやアイラに並ぶ一流と呼ばれる領域に達しており、マリアンにはまだ遠い存在であった。

(いつか、たどり着いてみせる。)彼女は固く決意するのであった。

 

 

「マリアンすごいねえ!」マリアンの前に盗賊のデューが声をかける。

「デュー様、私なんてまだまだです。」

「ううん、こんな短期間にここまで上達する人はイザークでもなかなかいないよ。」デューは手に持った果実を投げてマリアンに渡す。

井戸で冷やされていたのだろうか、手にはひんやりとした感触がして口に含むと強い酸味と共に果汁が口に広がった。あまりの酸味に涙が出る。

「あははは!少し酸っぱすぎたかな?でも疲労回復にいいんだ、それ。」

「・・・・・・。」マリアンは涙を流しながらその果実を夢中に頬張る、疲労回復を急ぐ為ではないのだろう。

 

彼女は夢中で果実を頬張ると沈黙を貫く、デューは横でマリアンの言葉を待ち続けた。背後の噴水が、水車の動力で吹き上げられる度に陽の光に照らされ虹を作り出す。

 

「デュー様、私は何が足りて無いのでしょうか?」マリアンは俯いたままデューに投げかける。

「マリアン・・・?」

「私は、ここヴェルダンに来てカルト様のお役に立っていません。腕を磨いても磨いても、カルト様達が遠い存在に思えます。・・・・・・・私が平民だからでしょうか?今からではデュー様達のように幼い頃から戦いの術を知っている人達には敵わないのでしょうか?」マリアンの言葉は切実で、デューの胸中を抉る。

 

「・・・・・・。マリアンの言う通り、家柄の人達はちいさい頃から戦う術を学んで訓練しているから能力を見出している人は多いけどそれだけだよ。

その力を正しく使わずに腐っちゃう人だっている、マリアンは正しい心でカルトの味方になっていきたい気持ちがあればいつかカルトの役にたてるよ。」

「本当に、そんな日が来るのでしょうか?」

「うん!きっと来るよ!カルトが一番困った時に、その窮地を救うのはマリアンだよ!

だから今はその瞬間の為だけに頑張ってね。」

「はい!」彼女の奮闘は続くのであった。




次回で今回の外伝終了となります。

もっとたくさんいろんな視点でサイドストーリー入れてみたいのですが、現在の持ちネタではここまでのようです。もっとアイディアが出てこればなあと思います。


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婚姻の儀

更新が大幅に遅れてしまい申し訳ありません。

10月より予想以上の人員不足に、仕事の拘束時間が多くなりまして更新できないでいました。
5500字あたりまで出来ていたのに、あと500字書くのに一月近くかかってしまいました。

今まで二週間に一度のペースで更新できていましたが、4月まで更新が遅くなる見込みです。
申し訳ありませんが、ご容赦の程お願いします。



シグルドの披露宴の翌日、ジェノアの北西の教会・・・。

カルトが疫病で苦しんでいる惨状を知った教会で再び支援の申し出があると聞き赴く事となった。

 

転移魔法を使えば一瞬でいけるのだが、資材や人数が多いと魔力の消費が大きい。

距離はそんなに遠くないのでフュリーのファルコンで向かう事とした。彼女のファルコンなら他の天馬より体躯が大きい、一度の運搬で大丈夫だろうと思われる。

 

ファルコンに乗り込むのは従者のフュリーにエーディンとエスニャ、そして大量の資材をお願いした。

エスリンとカルトは馬が使えるので問題がなかった、カルトの後ろにはクブリがくっついている。

 

「クブリ、お前もフュリーのファルコンに乗れたんじゃないか?」

駆け足でかける蹄の音にかき消されてしまうので大きめに言う。

 

「まさか、貴女の乗るあの場に男である私めが乗るわけにはいけないでしょう。そんな事が出来るのは、カルト様かレヴィン王くらいなものです。」

 

「・・・俺もできねーよ。たしかにその場に乗ると言ったらフュリーにぶっ飛ばされちまいそうだ。」

 

「そうでしょう、今のようにカルト様の腰にしがみつく方が無難と思われます。

これぞ、腰巾着!ってやつでしょうか?」

 

「・・・、うまくいったつもりか?それに俺にはそんな趣味はない。他を当たってくれ。」

「そんな!カルト様は私が欲しいと言ってくれたではないですか?あの時のお言葉は嘘ですか?」

「滅多な事を言うな、あれは親父側から俺に付けと言っただけだ。誤解を生む発言はよせ。」

 

 

「ふふっ!」

隣で駆けていたエスリンが並走してくすりと笑う、二人は会話を聞かれている事に気付き苦笑する。

 

「男の人は面白い会話をしているのですね、兄もキュアンもそのような会話をしているのでしょうか。」

二人は俯いてしまう。エスリンは穏やかに微笑みながら言ったが、彼女の裏の顔が見える。

「男って、本当に馬鹿な生き物。」彼女が見下した表情を想像し、二人は沈黙してしまう。

 

「カルト様、失言でした。今から大変な野戦診療になります、気を引き締めましょう。」

そっとクブリは囁き、カルトは無言で頷くのであった。

 

 

教会に着いた一行はシスターに事情を伺う、教会内にいた疫病者は快方に向かっているのだが戦争で負傷した元ジェノア兵や元マーファ兵が行き場を無くしてこの教会に流れ着いたらしい。資材も、人出も足りなくなり敵国であるがカルトに相談したいとの事であった。

 

戦争で被害を受けたヴェルダンの裏側には、その恩恵を受ける事はできずにくすぶっている事を再確認する事となった。カルトはそのやりきれない実情に自身の無力さを実感する。

 

戦犯者である彼らはヴェルダンの市民から追い出されたのだろう、つい先日まで虐げられてきた市民はグランベルから派遣された治安維持部隊の威信を借りて彼らをここまで追いやったと思われた。

 

「彼らもまた狂った陰謀に巻き込まれた犠牲者だ、だが市民の怒りの矛先は彼らに向かったのだろう。

人はその憤りに対して落とし所が必要だからな。」カルトは俯いて隣にいるエスニャに言う。

 

「それでも、ここまで負傷した人を追い出すだなんて。ひどい・・・。」

 

「これが戦争だ、勝敗など関係なく実被害を受けて泣くのは諸侯や貴族ではない。兵士たちやその家族、そして街が戦火になれば一般市民が被害になる。

エスニャ、俺はこれからもこの惨状を無くすように尽力したい。一緒についてきてくれるか?」

「はい!カルト様。」

二人は、早速エーディンとエスリンの治療する現場に駆けつけるのであった。

 

負傷兵の惨状は予想よりもひどいものであった、寝床も足りずに厚手の布を木に括り付けて日差しを遮る事が精一杯。食事も排泄もとても手助けしきれる物ではなく衛生面から再び疫病が発生する恐れもあった。

エーディンもエスリンも予想以上に厳しい状態に開始早々、額に汗をしている。

 

「これでは、治療が間に合わない!一気に回復させる!」

カルトは天幕の外に出ると、杖を取り出して魔法陣を浮かび上がり発動させる。

 

「カルト様、何を!」エスニャの言葉も聞き入れないカルトは大量の魔力を放出させ、魔法陣が輝く。

その大量の魔力を感じたファルコンが首をカルトに向けると雄叫びをあげる、彼女は人の姿に変わりカルトのそばによってくる。エスニャはその変化に驚き、声も出せない。フュリーは軽く説明をしてエスニャを落ち着かせるが当の本人は意にも介せずに驚いて見せた。

 

「リザーブか」

「・・・リザーブ?」ファルコンの言葉にエスニャは反復する。」

 

リザーブ、それは術者が認識するあたりの対象者全員に回復魔法を施す回復魔法の最上位魔法である。

司祭の中でも使いこなせるのは一部の物であり、使用できても回復量はライブ程度である。

エッダのクロード公クラスなら相当な回復量が見込まれるが、司祭でもないカルトではどこまで回復させられるのか未知数である。カルトはこの大魔法でないとこの難局は乗り越える事は出来ないと見積り、賭ける事とした。

重症者から先に見たいが魔力の使用が大きくそれ以外の者に治療が施せない、しかし重症者を後回しには出来ない。そのジレンマをカルトを解消するための手段であるがその賭けに失敗すればカルトは誰一人救う事なく、魔力のみを膨大に消費してしまい今以上に過酷な回復を残された者に強いてしまう。

 

 

カルトは杖を振り魔力を一気に開放する。光が魔法陣から迸り辺りを包み込み、負傷兵たちを癒していく。

大きな回復量ではないが、一気に負傷兵を癒していくこの魔法で軽症者なら後は安静にしていれば快方に向かえるはずである。

しかし、このリザーブの魔法は消費魔力が大きい!一瞬でも気を抜けばたちまち魔力が霧散してしまうだろう。

予想以上の消耗に早計な判断だったかと思ってしまう、しかしここで中断するわけにもいかないカルトは身体中の魔力を振り出して魔法の維持をする。

そのお陰か、周りからは歓声が聞こえる。軽傷者くらいなら、全快しているだろう。

カルトは重傷者でも生命を維持できるくらいまで回復させたいと杖にさらに魔力を込めた。

 

 

「カルト様!もう大丈夫です!おやめ下さい。」

我に返ったカルトは周りを見渡す、軽傷者どころかリライブが必要であった重傷者ですら傷はほぼ癒えている。その膨大な魔力を使用したカルトを慮ったのか、エスニャは必死にカルトに呼びかけていたのであった。

 

聖杖を掲げ終わったカルトは、一息つくとその場にへたり込んでしまった。

「始めての割にはうまくいったようだな、一回で魔力が尽きてしまったよ。」カルトはエスニャに手を差し出して起こしてくれるように頼むと、彼女は自身の肩に手を回して起き上がらせる。

 

「無理してこの魔法を使えば、次はカルト様を助けないといけなくなります。戦場では使わないでください。」

「全くだ、まだまだ精進が必要らしい。」カルトはエスニャに引きづられるようにしてエーディン達の元へ向かうのであった。

 

 

 

リザーブを用いた回復で、カルトの魔力はほぼ無力と化してしまったが後は残りの者で事足りるまでに安定した。

使い物にならないカルトは一人協会の外へと追いやられ、回復を兼ねて休息する事にした。春の風は優しくカルトの頬を撫で、どこからか聞こえる水のせせらぎを聞きながら時を過ごしていた。

 

「訳を話してもらおうか、クブリ。」

せせらぎの音に混じり草を踏み分ける音を聞き分けたカルトは背後からくる部下に語りかける。

規則正しかった、踏み分ける音が途絶えその場に立ち尽くしている事が伺える。

 

「申し訳ありません、カルト様。まさか教会がここまで切羽詰まる状況とは思っておりませんでした、連絡を受けた時にすぐさま出動していればこのような事に・・・。」

 

「そうではない。」

カルトはクブリの言葉を遮る、その強い口調にクブリは珍しく黙り主人に言葉を待つ。

 

「クブリ、俺はお前を信用している。そのような言い訳は無用だ、お前が俺の為にここまでついてきてくれている事は充分に感謝している。

だから正直に話せ、お前は俺に何かを隠しているな。」

 

「カルト様・・・。」

 

「確かに協会の状況を把握しなかった事は落ち度もあるかも知れぬが、お前の目が曇ってしまったのは何かを別の思惑があったからではないのか?

責めるつもりはない、が説明はしてもらうぞ。」

クブリはその場にかしこまりフードを外して敬礼する、フードを基本的には外さない彼にとってこの敬礼こそが最敬礼である。

 

「申し訳ありませんでした、カルト様。

申し上げたいのですが、お目にかけてくださる方が早いと思います。申し訳ありませんが教会の裏にあります旧聖堂へ一緒に来ていただけないでしょうか?」

 

 

クブリの連れられるままカルトは協会の裏にある聖堂へと向かう。

教会が建つ前にあった聖堂が朽ち果て始めた為、協会を設立後は物置になっていると聞いている。そこに一体何があるのかカルトはまだ状況が飲み込めず、クブリの後に続く。

教会裏の聖堂は中庭、現在は教会であふれた人たちの野外病院と化した場の向こうにあった。途中には自家栽培の為の畑が少しあり、人工的に引かれた用水路を渡る橋を渡ってすぐに見えてくる。

 

そこでカルトは以前ときた聖堂の変化に気付く。朽ちかけていた聖堂は新たな木材と石材で修繕されており、新たな塗料で風化したひび割れは見事に埋められていた。

 

「こ、これは?あの聖堂がここまで修繕されているとは・・・。」カルトは驚嘆するように言う 、クブリは少し表情を綻ばせ説明を始める。

 

「私はここにカルト様を連れて来たかったのです。」

「な、何?どういう事だ?」

 

「私はカルト様がエスニャ様と結ばれたとしても式等は一切しない事は予想できていました、そのやまれぬ事情も理解できています。しかしエスニャ様があまりに可哀想です。

なので私は今日ここでカルト様が式を挙げるように計画を練っていたのです。」

 

「クブリ!幾ら何でも出過ぎた真似を !!」

「承知しております!しかし私は司祭です、カルト様の新たな門出を祝わなければならぬ身であります。

事情を教会のシスターに話を付け、この聖堂を修繕する事が出来れば式に使っていいと約束を交わしました。

式を挙げた後は外に投げ出されたあの負傷兵をここで救護できます。」

 

カルトはじっとクブリの言葉を聞きいる、一瞬怒りを覚えたがクブリの司祭の立場を考えた上での言葉に反論する事はできないでいた。

 

「この聖堂の修繕、キンボイス王子が率先してくださったのですよ。」

「キンボイス王子がか!!」

「はい、キンボイス王子は修復の話を聞きつけこの教会にお越し下さいました。事情を知るや否や人材も、資材も瞬く間に集めてきて私財まで投入してここを修繕したのです。

彼もまたカルト様によって救われた方です、何か思うところがあったと私は感じます。」

キンボイス王子はジャムカ王子と違い市民感情は悪く、後に派遣されたエッダの者達でさえ処断の声が多く聞こえた。ジャムカ王子を監視下の中でヴェルダンの王として育成する事が最も能率のいい更生方法である。

しかしカルトとシグルドはその提案に柔和案を提案し続け、ジャムカ王子をシアルフィ軍に受け入れてキンボイス王子をジャムカ王子の代わりとして監視下に置く事に成功するのであった。つまり、ジャムカ王子は人質になった事になる。

 

そのキンボイス王子が直々にこの教会の修復を手配したとクブリは言うのだ、彼の拘束はカルト達が想像するよりもずっと辛いはずである。私財まで投入した彼の中には快楽主義の人格は改善されて行っている事にカルトは喜びを感じた。

 

「キンボイス王子はカルト様の過去をお聞きになり、このヴェルダンで幸せのきっかけになって欲しいと願っております。その意を汲んで頂けませんか?」

 

「クブリ・・・、お前のような部下に恵まれた事に感謝する。

俺の意見をここまで変えたお前に・・・。」

カルトは微笑みをクブリに向けたのだった。

それはクブリの、エスニャの、キンボイスの、願いを聞きい入れ。カルトの本心が肯定された瞬間であった。

 

 

 

カルトの突然の式であるが、準備は万端であった。

シスターしかいない教会であるがクブリは司祭であるし、キンボイス王子は教会の修復だけではなく物資の供給まで行っていた。

名目は教会に溢れかえった負傷兵への救援となっており、クブリとキンボイス王子の奇策に気付く者はいなかった。

エスニャが聖堂でこの式を伝えた時の彼女の笑顔は生涯忘れる事のできない物となった。彼女の涙と笑顔にカルトは心の奥から彼女を慈しむ事を誓うのであった。

 

そしてその突然の式にも関わらず、先日式を終えたばかりのシグルド、ディアドラ夫妻やキュアン王子なども駆けつけ参加する事となったのだ。

 

聖堂の天井にあるステンドグラスが緑地の陽だまりを受けて七色に輝く中、式が執り行われる。

そこにはシグルド公子が行われた厳かな雰囲気ではなく、暖かくて笑顔が溢れでるような物であった。

ここはエバンスのように調理師も給仕もいないのである。

給仕はシレジア軍が率先として行う事となり教会のいる身寄りのない子供達が飾り付けを手伝ってくれたが、驚くべき点は調理はなんとキンボイス王子が自ら行うと言うのだ。彼に限らずヴェルダンの王子達は毒殺に怯える過去を持っているため自身で調理する技能を持っているらしい。その腕を振るうと言うのであった。

 

飾り付けを行った子供達も参列する中、カルト公とエスニャ公女の式が進行する。

純白のドレスは急遽あしらえたドレスではあるが、エスニャの採寸に合わせてくれたのはエーディン公女。

頭髪を結い、整えたのはエスリン王女である。

 

その装いを見事に着こなし、カルトの元に歩くエスニャには常に笑顔を湛えていた。

二人出会い、手を取って祭壇に向かう姿に七色の光が包み込まれる中、クブリの待つ祭壇にゆっくりと向かう二人に祝福の拍手が送られていく。

 

「カルト様、エスニャ様。おめでとうございます。私めのような若輩者が、親愛なるカルト様の婚姻の儀に立ち会える事を嬉しく思います。ましてや私は婚姻の儀を執り行う事が初めてでございます故、嬉しきこと最上であります。

 

では、カルト様。

我がシレジアは食料も乏しい国であります。それでもなおエスニャ様と共にこの苦しみを共有し、乗り越え、喜びを分かち合えていける事を望みますか?」

カルトは無言で頷く。

 

「エスニャ様。あなたはこのシレジアを受け入れ、カルト様と共に歩む事を誓えますか。」

「・・・はい。」

 

「よろしい、二人はここに宣言いたしました。カルト様、エスニャ様に誓いの品を・・・。」

カルトは裾より青く光る指輪を取り出し、肩膝をついて彼女の指へ滑り込ませた。

 

そしてゆっくり立ち上がり、彼女に微笑む。

「昨晩、ようやく完成させた指輪なんだ。これはイージスリングと言って、君をきっと護ってくれる。

これを婚礼の品として受けっとてくれ。」

「カルト様・・・。」彼女はまた、笑みと涙が混じり出す。

 

「これにより、婚礼の儀を終えました。二人に幸ある未来を!」

クブリは二人にライブの魔法を使い、体に光を纏わせる。

ステンドグラスの七色の光と共に純白の光が追加されるのであった。

 

 

この後の会食では、身分の隔たりもなく皆カルトとエスニャの幸せを願う宴が夜通し行われる事となった。

子供達もお腹を膨らませ、幸せな顔をして寝てしまっている。

その光景を傍目で見ながらカルトは身分制度の撤廃と、市民が安寧して暮らす国民主導制度の立案再度決起に誓ったのであった。




作中に出てきましたイージスリングですが、カルト自作のアイテムになります。
シールドリングとバリアリングを合わせたアイテムです。
実はヴェルダン攻略でマジックリングをエスニャに渡す計画で作中によく名前をだして伏線にしようと思っていたのですが、せっかく主人公がアイテムを作り出す能力があるのに既製品を渡すことに抵抗を覚えまして今回に至りました。


ようやく、外伝が終了致しました。
次回からゲームでいうと二章のアグストリアの動乱となります。

小説置いてここは 起承転結 の転にあたる部分と認識しています。

話をまとめていく中で厳しい部分でありますが、精進していきたいと思いますのでご感想やご意見等お待ちしております。


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四章 アグストリア編(内乱) 捕縛

いつもの事ながら更新が遅くなり申し訳ありません、なんとか今回から入るアグストリア編の冒頭が作成できました。

いつくもの伏線を作っていたのですがここで多少合わせていかなければならないと思い、作成していたのですがうまくいかずに時間だけを浪費してしまいました。

相変わらず、確認ができておりませんので脱字などありますが温かい目でみていただけたらと思います。


カルトが婚礼の儀を終えても彼の激務は変わらない、戦災に見舞われてたヴェルダンの復興を支援し続けていた。

世界は各地で不穏な動きを見せており、いつまでもこの地に留まっていることはできないだろう。

カルトはそう確信し、今出来うる限りの事を行う。

 

その一つにはアグストリア諸公連合にて、賢王と噂の名高いイムカ国王が病没されてしまったとの報がここヴェルダンにも届けられた。

その訃報により各国は新たな次期王となる者に注視されていく事になる。

イムカ国王は先の王による反グランベル体制を破棄し、国内の平定と維持に尽力した。軍縮を行い逼迫していた国益を公共事業に注力し、中央に位置する大森林の開拓に成功し莫大な富を得ることができた。

隣国との関係修復を行い、不利な条件も受け入れて不可侵条約をグランベルと交わしたのである。そしてそんな折にシレジアとアグストリアは同盟条約を結んでおり、グランベルよりも関係は深かった。

 

シレジアは、一年の半分が雪に覆われてしまう大地の為農耕には向かないので輸入に頼らざるを得なかった。幸いにも鉱物資源が豊富な為、アグストリアに鉱物資源を提供して食糧を譲り受けるシステムが出来上がった。

それそれまでのシレジアは慢性的な食糧難で、頼みの綱は海洋に出ての漁か山中の大型動物を狙った狩猟しか得られなかった。大陸の北端であるシレジアは海の時化が酷く漁も危険を伴い、狩猟にしても安定供給ができるわけでもない。

イムカ王はそのシレジアの情勢を見切り、開拓した食料を提供する事にしたのであった。その結果シレジアから提供される鉄鉱石により強力な武具を作成する事ができるようになり、グランベルに匹敵できる軍事力を持つようになった。

それでも不利な条約はそのまま続ける事により両国はそれなりに良好な関係を継続できていたのである。

 

イムカ国王の死によりバランスが崩れ去ろうとしている事は各国も認識しており、次期国王となる人間に警戒しているのである。

次期国王となるシャガールはかつてエバンスよりグランベルに出兵し、ヴェルダンにその奇襲を受けて一軍を壊滅させた愚物。イムカ王の謝罪によりグランベルとの戦争は回避できたがエバンス領を失い、相当の賠償金を支払う事となった。

 

その愚物が王になろうとしているのだ、隣国であるグランベルもシレジアも同様の条約が継続できるのか懸念材料となっていた。

シレジアとの貿易協定は、アグストリアにとってアキレス腱。たとえ愚物であろうともこれを反故にする事はないというのがカルトの見解だがグランベルとの不平等条約に近い条約はまず継続されないだろう。そもそもその条約の不満よりシャガールは当時出兵したくらいだと思っている。

 

その不平等な条約を溜飲したイムカ国王の苦渋の決断に理解を示さない次世代のリーダーは、不平等ではあるが条約に守られて一時の平和な時代の恩恵を感じられなかったのだ。カルトは残念と感じ、イムカ王へ追悼する。

 

 

 

「おかりなさい。」エスニャの温かい出迎えの声にカルトは微笑んで返す。

考えながらの帰宅で、エスニャに呼びかけられるまで私室に帰り付いていた事も忘れるくらい我を失っていた。微笑みは失笑に変わってしまう。

 

「また、お考え事ですか?あまり根を詰めると体に触りますよ。」

「そうだな、私室に帰ったときくらいは忘れよう。そうだ、さっきシグルド公子から頂き物があるんだ。一緒にどうだ?」

カルトはワインを取り出してエスニャに見せる。以前マーファでシグルドと飲み交わしたアグストリア産のワインで、カルトが気に入った様子だったシグルドは別に入手し、本日の譲り受けたのだ。

 

「まあ、いつもシグルド様のお気遣いに感謝しないといけませんね。

カルト様も見習ってくださいね。」

 

「ああ、善処するよ。さあそれよりも食事にしてくれない?今日も魔力を使いすぎてへろへろだよ。」

くすりと笑うエスニャは隣接しているダイニングへカルトを誘った。

 

 

カルトとエスニャは向かい合って食事を採る、金属の食器が陶器に当たる音がする中カルトはエスニャに問いかける。

「まだ、魔力は使いこなせそうにないか?」

エスニャから元気がなきなり、手に持つフォークが止まる。

 

「こんな時にすまなかった。明日休暇を取るつもりだ、明日一緒に考えてみよう。」

「本当ですか?お願いします、カルト様に是非見てもらいたかったです。」

彼女は途端に嬉しそうに食事を再開させる、それはカルトの指導を受けるとこだけではない事は言うまでもないだろう。

カルトは頬を緩ませて窓の外を見る、この束の間の平穏に家族ができた事を感謝しグラスのワインを傾けた。

この芳醇なワインはこれからも飲用できるのか、一抹の不安を感じながら・・・・・・。

 

 

 

カルトの願いは虚しくアグストリアは新国王に予想通りシャガール王子が即位された、継承式もそこそこに彼は堂々と反グランベルを提唱し、不可侵条約の撤廃と取り決めてしまい諸国は慌ただしく軍事力強化へ移行し始めた。

その報を受けて間もなくカルトにレヴィンから伝心にてアグストリアに対してシレジアの意向を伝えるべくアグスティに赴くように言い渡されたのだ。

つまりアグストリアの国家形態の変化にシレジアとの関係の確認を国王自身より言質を取るとの事である。

レヴィンには大使を出して正式に行った方がいいのではと進言したが、そちらの方が煙に巻かれてしまうらしい。

今は提唱した勢いで舌が回るうちに本音を聞き出しておきたいのがレヴィンの思いであるらしい、危険が伴っても転移魔法で逃げ帰る事ができる。何よりアグスティに渡航歴があるカルトでなら即日で行動できる事もあった

 

レヴィンから連絡を受けたカルトは翌日、 同伴にクブリとマリアンを伴い転移にてアグスティへ向かう。

遠距離転移を行う為、そのまま登城して非常事態があった時に大半の魔力を失ったままでは都合が悪い。転移は夕刻に行い、アグスティで一泊してからとなった。

 

転移に成功した三人はすぐさま城下の宿に入った。

城下町は国王が変わっても国民の生活は依然と変わっておらず、活気ある人達の喧騒は変わっていなかった。民衆の変化はないが街中で見かける軍人の多さは異様であった。

イムカ王の時は軍縮され人々は穏やかであったが、今のアグスティは喧騒に中に緊張感があり肌に感じる物がった。

マリアンもその雰囲気を察したのか、クブリと同様に街中でフードを深く被って顔を出すことはなかった。

 

「カルト様、明日の謁見ですがセイレーン公としてお務めあげをお願いします。アグストリアと貿易協定が破綻すれば、シレジアはまた食糧難を抱える日々となります。」

「分かっているさ。もうちょっと俺を信用してくれよ、ここに来るまで何回忠告しているんだ。」

クブリは室内に上げてもらった食事も手につけず、カルトに説教じみた問答を数知れず行っていた。

 

「カルト様の行動力や、戦闘力は信じておりますが交渉力は苦手と踏んでいます。

だから不安にかられているいですよ、なぜレヴィン様はカルト様に託したのか私には少し信じられません。」

 

「おいおい、行ってくれるじゃないか・・・。まあ、仕方がないか。身から出た錆でもあるな。

おそらくレヴィンは、今回の交渉の是非を俺に託しているわけでは無いのだろうな。」

 

「え、ではなぜ私達はここに行くようにレヴィン王はおっしゃったのですか?」

マリアンは水を流してんで口内を胃に流し込んでから会話に入り込む。

 

「シレジアはもう、アグストリア一国のみで食糧調達をしている訳ではないのさ。グランベルから騎馬の支援があったが食料も入ってきているし、今後うまくいけばヴェルダンのキンボイス王とも交渉して交易を計画している。

イムカ国王のように良好な関係を維持できないようであれば、切り捨てる決断も視野に入れているのだろう。」

 

「なんと、レヴィン王はそんな事をお考えに・・・。」

「わからないさ、これは俺が推測した可能性だ。もしこの交渉を以前と同じようにしようと思っているなら、俺なら俺を使う事は絶対にしないな。拗れる事は目に見えている。」

 

「・・・・・・。」二人は納得してしまう。

カルトは苦笑いをして場を誤魔化し、説明を続ける。

 

「大事な事は現状のアグストリアをよく見ておく事だ。この国は隣国であり、大国だ。

反グランベルを提唱した今、同盟条約を結んでいるシレジアに対しての何らかの圧力をかけてくる可能性がある。レヴィンはその動向を持ち帰って報告する事の方が重要視しているのだろうと俺は考えている。・・・まあ、条約の保持は出来たら出来たで御の字って所だろう。」

 

二人は同調する、どうせ反故にされ兼ねないからこちらも毒には毒で持って制するような事をレヴィン王ならやり兼ねない。

カルトはそこをついてそのように判断した、さらに奴ならこの部分すら読み切っているように思えてならない。

つくづく頭の回転が速い男である、カルトは果実酒を煽って憤りを流し込んだ。

明日は難儀な折衝をすることになる事を想定し、早めの就寝につくのであった。

 

 

 

少し時を遡る。

ヴェルダンから戦線を離れたフレイヤはイザークのマンフロイ司教の元へ転移した。

 

リボーの隠れ家に入り装いを正して司教を待つ、まだ司教はイザーク城で作戦行動中らしいがいつ転移してきてもおかしくない。

フレイヤは椅子に座るも、終始崩す事なく一点を見つめて、司教の帰還を待つ。

彼女の目には揺るぎない意志を持つかのように、最高権力を持つ男にも決して臆する事も畏怖する事もない。

穏やかな心音を維持し続けていた。

 

どのくらいの時が経つのか、夕闇だった部屋はすでに闇に覆われ壁にある鏡に自身の姿も視認できなくなる。

闇は慣れている、暗黒教団の団員は生まれた時から闇の中で生活している。闇はすでに恐ろしい存在ではない、親しい友人とも言える物である。彼女は全く変わらず、姿勢を変える事なく待ち続けた。

 

さらに闇が濃くなる頃、前方の空間が歪むとともにマンフロイ司教が姿をあらわす。

その纏う魔力にフレイヤも背中に寒気を感じる物があった。

 

「フレイヤ、ウェルダンはどうであったか?」

「はい、見つけました。シギュンの子は今シアルフィの嫡男と共にしております。」

「少々見つけるのが遅くなってしまったか・・・フレイヤ、どう判断できる?」

 

「問題ありません、むしろ好都合でございます。計画を進め、シギュンのもう一人の子がこの事を知れば嫉妬に狂うでしょう。

聖戦士に血よりシギュンの血筋を持つ彼ならば、こちら側に偏る事でしょう。」

フレイヤのことばにマンフロイの顔がさらに邪悪な笑みを湛えてその回答に満足する。

 

「人心掌握に長けておるなフレイヤ、お主がいる限りこの国の要人達は手玉も当然である。

サンディマを失った事は大きいがそれ以上の土産であるな。」

 

「ありがとうございます。・・・それと、もう一つ知らせがあります。

イード砂漠でバラン様が討たれた件ですが、その者はシレジアのカルトという人物である事が判明しました。」

「シレジアのカルトか、最近よくその名を聞くがそれほどまでの強者か?」

「はい、恐らくですがあの者は我らの計画を破る者かも知れません。」

 

「フレイヤ、それは言い過ぎではないか?

確かにバランはまだ完全では無かったが我が教団で儂に次ぐ力を持っていた、そのバランを破る事ができるとは思えないが・・・。」

「シレジアの傍系程度の男ではバラン様を破れるわけではありません、しかしその者はオーラを使用できます。」

 

「何!オーラだと。それでは奴は!」

マンフロイは立ち上がり険しくなる、ドス黒い魔力が吹き上がり辺りを冷たい雰囲気になっていく。

 

「はい、精霊使いではない彼が使用できたという事は彼にヘイムの血が流れている事になります。」

フレイヤは大事である一言を結論付けて答えた。

「まずいな、それではせっかく暗黒神が降臨されてもナーガが復活してしまえば勝ち目はない。

クルトを殺害しても、その者がいればナーガが降臨出来るではないか。」

 

「ナーガの書はこちらにあります、まだ分はあるうちにこちらも手を打つ必要があります。」

「うむ、ナーガの書は我らには手を出すことが出来ぬ。カルトという者の処断はフレイヤお主に任せよう。

バランは儂の次だがお前は例外だ、頼んだぞ。」

「かしこまりました。私はアグストリアへ向かい奴らの動向を探ります。」

「それでいい、儂はもう暫しイザークで仕込みを終えたらアグストリアへ戻る。朗報を期待するぞ。」

マンフロイは転移にてその場から姿を消すのであった。

 

 

翌朝カルトは早々にアグスティ城にてシャガール国王謁見を申し出た、シレジアの大使である証を提示した一行は謁見の間に通された。

シャガール王は玉座に座ったまま一行を出迎える形となりカルトの視線が厳しくなる。

同盟国とは対等の立場の筈なのにシャガール王の態度は実に怠慢であり、大使に対しての対応とは思えないでいた。

暗雲が立ち込める雰囲気にクブリは一抹の不安を感じカルトを見つめる、カルトは一つ前に出ると敬礼を行った。

 

 

「シャガール王、お目に掛けることが出来て光栄です。

私はシレジアのセイレーン公のカルトと申します、この度はイムカ前国王が病没されてしまった事に追悼の意をお伝えいたします。」

 

「うむ、シレジアとは前国王からの同盟国としての厚い配慮感謝する。」

「・・・本日はシレジア国王よりの意思をお伝えするたびに伺いました。

我が国王は、アグストリア前国王からの盟約を維持し、これからも変わらない共栄を望んでおられます。」

 

カルトは畏まりその言葉をシャガール王に伝える、シャガール王は玉座より立ち上がりカルトを見る。

いや、この目は睨みつけているとも取れる表情であった。

 

「カルト公、シレジアは最近グランベルと同盟条約を結んでいると聞いておる。

今、この国は反グランベルを提唱したばかりだ。どちらにもつかず二枚舌で凌ぎきろうという腹積りならこの盟約は解消させてもらう。」

 

「・・・それはグランベルと関係を切り、アグストリアへ付けと仰られているのですか?」

謁見の間ではそぐわない言葉がカルトの口から発せられる、雰囲気はガラリと変わり辺りの衛兵も緊張をしていく事になった。

 

「強要するつもりはない、私たちもこれから戦争になればシレジアの金属は必要なのだ。

しかし同盟国が敵対しようとしている国にも同盟を交わしている以上、アグストリアとしては同盟を継続する事はできないと言ったまでだ。

ましてや因縁のある、エバンスにグランベル軍と共にシレジア軍が駐留している事は気に喰わぬ。」

 

「シャガール王、あなたの仰られる事は最もだ。しかしこの度の戦を宣言したのは王ではないですか?

この宣言に大義はあるのですか、あるようでしたらシレジアも王の意図を汲み必要であればグランベル国との三国会談をするように尽力致します!」

 

「ふふふ、大義?そんなものは今から作ればよい。戦とは勝った者が勝者となり弱者は蹂躙されるのみ、カルト公はまだ世の中を理解していないようだ。」

 

「・・・王、あなたの意思は受け取りました。後日、再度使者を送りこの度の件の結果をお送り致します。

これは私情ですが残念でなりません、アグストリアとグランベルが手を取り合って平和を導いて欲しいと願ってました。

戦の犠牲は常に民達である事だけはご理解頂きたいと思います・・・。」

カルトは立ち上がるとクブリとマリアンに向き直り身支度を確認する。

 

「カルト公、ここまで啖呵を切ったのだ。無事に帰れると思っているのか?」

「分かっているつもりだ、この者達は解放してくれれば抵抗するつもりはない。」

「よかろう、次の大使が来るまで身柄を引き受けさせてもらう。貴公を客人として一室設ける。

そこの者!カルト公を部屋に通せ!」

 

「カルト様!」衛兵に囲まれたカルトにマリアンは割り入り、剣に手を伸ばすがカルトがその手を制し小声で伝える。

「マリアン、エバンスに戻ったらシレジア軍を自国に撤退するように指示を出せ。クブリ、詳しい話は伝心する。

エスニャを頼んだぞ。」

 

カルトは自ら衛兵に従い、謁見の間を後にするのであった。




次回からゲームでの二章の始まりとなります。
またオリジナルからは展開が変わってきますのでお願いいたします。


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救急

アグストリア編では少しアレンジを強くしたいと思います、少しづつ原作から離れてしまう部分等ありますがお願い致します。
(ヴェルダンでもキンボイスを生存させるなど、既に変えていますが・・・。)


カルトの拘束はクブリの伝心魔法によりレヴィンに報告されシレジアに衝撃が走る。

大使を拘束まで行うアグストリアはもう大陸協定にすら規律違反を行っているのだ、レヴィンはカルトなら転移魔法で逃げ帰るかと考えていたがそれは浅はかな事と後悔する。

カルトは誰よりもシレジアに忠誠的な男であったのだ。例え協定違反した相手でも大使が任務放棄をする事はしないだろう、転移をせず状況を見定めている筈である。

「カルト、すまない・・・。」フォルセティの魔道書を握るレヴィンは自信に怒りをぶつけるのであった。

 

 

クブリとマリアンはエバンスに戻り状況の報告をシグルド達グランベル軍へ伝える事となった。同盟軍とは言え、両国に対して盟約を行っているシレジアはここでは不利でしかなかったのた。

ある者は勝手な行動を起こしたカルトを罵る者もいれば、アグストリアとグランベルの間を蝙蝠のように取り繕う者に手を差し伸べる事は出来ないと嘲笑いを交える者もいた。

マリアンはその侮蔑に肩を震わせて剣の柄を何度も握るが、その中でエスニャは毅然とした態度で持ってその言葉を受け続けていた。

その姿にマリアンは共感し、クブリに続いて甘んじて受ける事となった。

 

「そこまでだ。」シグルドの一言で場は静まり返る。

そこには各諸侯は立ち上がり、場の収拾に入る。

グランベルの騎士達にはシレジアの裏切りに見えるがそれは政治的な一面を見ない者達である、内外の事情に明るい諸侯達はその一面も見えているがおいそれと彼らの意見を聞かないわけではない。腹の中を出し尽くした頃合いを測りシグルドは私罪の紛糾になる前に止める形にしたのであった。

しかしこれを思いついたのはシグルドではない、アグストリアに囚われになっている問題のカルトである。

クブリの伝心により予想される事を予め説明し、対処を見出したのである。

 

ここで議論を間違えば反グランベルを表明したアグストリア軍と真っ先に剣を交える事になる、士気の低下は致命的になるだろう。

前回の戦闘は統率の怪しいヴェルダン軍であったが、アグストリアは大国であり優秀な騎士団を有している。

些細な綻びも許されない状況であるからこそ、カルトは体勢の立て直しを進言した。

 

「確かに、シレジアのカルト公はシレジアの大使を担ってアグスティに向かわれた。それはシレジアにはアグストリアとの同盟を結んでいたからだ、その確認の中で捕縛されただけで決してグランベルに対しての裏切りではない。

しかしながら、残念だがアグストリアとグランベルは同盟ではなくなった今カルト公を助ける事は出来ない。

と、いうのが普通である。」

場がざわめく、この先何を言い出すのか友であるキュアンは想像が出来ていた。彼には騎士道精神よりも大切な物を持ち合わせている、それがカルトを救出に向かわせるのである。大国のアグストリアと戦争になり、隣国にいるエルトシャンと対峙する事になってもその決意は揺るがない。

 

「カルト公には恩義がある。

彼のした事はグランベルにとっての不利があろうとも、彼の恩義を無にする訳にはいかない。

私はアグスティに向かう、一緒に戦ってくれないだろうか?」

シグルドはその一言を言うと場から翻し城外へ向かう。マリアンとクブリ、エスニャにフュリーも続いていく。

各諸侯も加わり、あたりは混乱するものの参加に反対した者も最後には加わっていくのであった。

 

 

 

「お待ちください!陛下!」願いも虚しくグランベルに進軍を諫めようとしたエルトシャンはシャガールの怒りを買い、地下牢に幽閉される事となる。

ラケシスの言葉を思い出すが、騎士であるエルトシャンは正面から王に進言する事しか出来ないでいた。

さらに事態は悪化してしまう。アグストリアには穏健派はエルトシャンだけであるが為に玄関口であったノディオンは空き家状態になっていた。主力であるクロスナイスはアグストリアの北部に駐留し、海賊掃討の任務についていたのでエルトシャン投獄の報を聞く事は無くノディオンは孤立してしまうのである。

 

 

 

ノディオンに残された僅かな兵と、エルトシャンの妹君であるラケシスが投獄の報を受けて隣国のハイラインに警戒する。

ハイラインのエリオットはウェルダンのいざこざにてノディオンと交戦し敗走した事を根に持ちラケシスに対して異常な固執を持っている、攻めてくる事は目に見えていた。

「エバンスに駐留しているシグルド様に救援を求めてはいかがでしょうか?」

困惑するラケシスに助言する剣士、イザークのホリンは提言する。

 

「そうしたいのは山々ですが、アグストリアはグランベルに対して反抗勢力として明言したばかり。シグルド様にお願いして兄様の立場が一層悪くなればその場で処刑されてしまいます。」

 

「確かに、仰る事は分かりますがここで後手を踏めばノディオンはハイラインに制圧されてしまいます。

まずは救援を求めましょう、エルトシャン王は隠密を出して秘密裏に救出しましょう。」

 

「そんな事が可能なのですか?」

 

「私の友人に可能な者がおります、それに賭ける価値はあると思われます。

それに、あの城にはもう一人私の友人が囚われています。

あの者も救出しなければなりません。」

 

「シレジアのカルト公ですね。あの方も、シャガールに囚われてしまっていると聞いてます。

私もホリン様の提案に乗らせて頂きます、このまま手ぐすねを引いていても何も始まりません。ここは攻めなければなりませんね。」

 

「さすがエルトシャン王の妹君、ご理解頂けて恐縮です。

すでに隠密の者はアグスティに向かっております、いい報告をお待ちしましょう。」

 

 

 

使者として来訪した者を牢に放り込む事は出来ないアグストリアは客室であろう一室に歩哨を立たせ、罪人とは違う対応が取られていた。

カルトはここに入室して丸一日になるが食事は定期的に運ばれ、排泄も歩哨に要求すれば拒否される事は無かった。

 

カルトは再三レヴィンから伝心魔法にて脱出するよう忠告されるがまだ命の危険はない、情報を少しでも得ようとこの地に留まっていた。

イザークでの反乱から始まり、ヴェルダンの裏切り、そしてアグストリアの体制の反転。各地で出会った暗黒教団の暗躍にカルトはようやくその最前線に辿り着いていると判断した。

今は少しでも情報がほしかった、今シグルドの妻であるディアドラにはマイラの血が流れている。その血の渇望はカルトにも納得がいくが今動いても暗黒神の復活は成し得ない、彼らも算段があるから動いているはずなのだが一向に読めないでいた。

 

カルトは与えられた部屋で風の魔法を応用して城内の空気の振動を傍受していた。静かな場所で精神を統一し一定の魔力を放出し続ける為、普段は使用できないがここでなら使用可能である、一般の兵士がが見ても瞑想しているだけと判断するだろう。

 

その傍受にてエルトシャンの投獄の情報が入り、カルトは行動に移す事を決める。

 

「さて、どうしたものか。」カルトは集中を解きつぶやいた。

単純に脱出するだけなら容易いが、歩哨している兵士に気付かれずに行動する事が重要であった。

歩哨の兵士は一定時間置きに扉を開いて俺の存在を確認してくる、それ以外にも食事の配膳や差し入れもある。

あれを試してみるしかないか・・・、次は心の中でつぶやく。

 

カルトは魔力を発し、再び集中を始めた。

光と風の魔力を応用すれば可能と判断したが実際効果を発揮できるかどうかは疑問符であった、光の魔法で一定空間の光の屈折を捻じ曲げるプリズムを作り出し、風の魔法でその一定空間の空気濃度に変異を付け幻を作り出すという複雑かつ高度な作業にかかりだした。

光魔法で一定空間に盲点とも言える場所を作り出し、蜃気楼を応用して自身を投影し続けるという事である。

それにより違和感なく、自身があたかもそこにいるという錯覚を作り出す事ができるとカルトは思いついた。

 

複数の属性を同時に使用する作業は熾烈を極め、一度では成功しない。

カルトは何度もそれに挑戦し、ようやく成功できたのは4度目であった。魔力を無駄に消費し、行動中に魔力切れになる可能性もある。

覚悟を持って、そっと城外の窓を開くのであった。

 

 

 

エバンスから一気に躍り出たシアルフィ軍はアグスティへ急ぐべく、騎馬部隊を全速させる。

カルトを救出するという決断をした以上手遅れになる訳にはいかない、アグストリアの諸国が動き出す前に一気に攻め上ると決断したシグルドは考えたのである。

一番の杞憂はノディオンのエルトシャンであった、彼はシアルフィの軍勢を見てどう判断を下すのかシグルド一番の懸念材料となっていた。彼とは戦いたくない、それはキュアンも同じである。

 

シグルドはノディオンに差し掛かった時、先陣はレックスやキュアン、部下のアレクとノイッシュに任せて単騎でノディオンを目指さんとさらに速力をあげた、本隊はここでアグスティへと向きを変える。

手には戦いの意思がない白い旗を上げ、エルトシャンと会談を求めんとしていた。

そこにシレジアの天馬騎士団も続く、フュリーはクブリとマリアンを乗せシグルドの後を追い始めた。

 

カルトの命によりアグストリアと戦う事を禁じられたシレジア軍はノディオンに赴いて、エルトシャンの答えを頂きこうとしていたのだった。

 

ノディオンに到着する前にシグルドはその異変に気付く、シグルド単騎と飛空単騎とは言えノディオン側からの警戒は薄くここまで接近しているにも関わらずノディオン兵が出てくる事は無かった。

ノディオンでも何かあったのか、シグルドは疑問に思った時ようやくノディオン側より数騎の騎士が出てシグルドの前で馬を御して地に降り立つ。そこにはラケシスも連れ添われていた。いよいよ只事ではないと感じる。

 

「ラケシス、どうした?ノディオンに何かあったのか?」

シグルドは馬に降り立つなり、ラケシスの元により挨拶などは一切なく質問する。

 

ラケシスはここまで気丈にしていたのだろう、彼女から頬を伝う涙が溢れ出す。

「シグルド様!エルト兄様がアグスティに囚われました。

お願いします、兄様をお助け下さい。」

「なんだって?なぜだ、なぜあれ程の男が囚われなければならないんだ。」

 

「兄様は真面目すぎるのです、単身アグスティに赴いてシャガールを諫めようとして怒りを買ったのでしょう。」

 

「そんな事があったのか。私もシレジアのカルト公がアグスティに囚われたので進軍しようとしていたのだ、ノディオンに攻撃の意思が無い事を伝えようとしたのだが・・・。」

 

「シグルド様」さらにラケシスの配下の騎士が進み出る。

 

「エルトシャン王の不在を狙ってハイラインのエリオットがこちらに進軍してきています。

今ノディオンのクロスナイツは遠征しており兵力がございません、ご助力願う事可能でしょうか?」

 

「ノディオンも危機が迫っているのか・・・。

ラケシスそんなに泣かないでくれ、君に何かあればエルトシャンに顔立てが出来ない。彼と私にはいかなる時でもお互いの窮地の時は助けに行くと約束している。

君もノディオンも、エルトシャンも、必ず助けて見せる!」

 

「シグルド様・・・、ありがとうございます。」彼女は笑みを浮かべてシグルドの助力に感謝する。

気丈に振舞っていたがその重圧に潰されていたのだろう、足元が覚束なくなっていた。

 

「ラケシス様、申し訳ありません。シレジアはこの度の進軍にてアグストリア軍と戦う事は出来ません。しかしながらここでじっとする事も出来ません、何か私達にできる事はありませんか?」

 

「あなた達はシレジアの?心中お察しします。ですが今あなた達にできる事は・・・。」

「そうですか・・・。」フュリーは落胆したけた時、相棒が語りかける。

 

《フュリー、北の方に森がある。そこで人間の叫び声が風に乗って聞こえてくるぞ、助けを求めているように聴こえた。確認してくれ。》

《う、うん。分かったわ。》

 

「ラケシス様、ここから北の方に街があるのでしょうか?そこで、救援を求めていると情報があるのですが・・・。」

「北ですか?

北の台地と呼ばれる開拓の村々が点在してます、イムカ様が国力を取り戻す事に成功した地です。まさかあの地を荒らしている者が!」

「ラケシス様!私達にその地へ向かわせて下さい。台地でしたら私達飛空部隊ですぐに向かえます。」

「お願いします!あの地が荒らされれば民が飢えてしまいます。フュリー様、アグストリアの民を代表してお願いします。」

ラケシスの懇願にフュリーは笛を吹いて一団に知らせる、フュリーは相棒に飛び乗って向かおうとする、その後ろにマリアンは飛び乗る。

「マリアンはクブリと一緒にここに残って・・・」

「私も行きます!台地に着いたら自力で降ります。」

「馬鹿な事を言わないで、地の利はあちらにあるのよ。ここは飛空部隊の私達に任せなさい。」

「賊には弓兵もいるかも知れません、私が地上から援護します。」

二人は意見を譲らない、睨み合いは続くが相棒は時間が無い事を理解している。背中に二人を乗せているのでそのまま飛空を始めた。マリアンは微笑み、フュリーは落胆する。

「マリアン、絶対に無理をしないでね。」一言釘をさすので精一杯であった。

 

シグルドは本隊を呼び戻しノディオン城北西に陣を張る、騎馬部隊の全速でここまで来たので徒歩部隊はまだ到着していない。相手の規模は不明だがここで足止めを中心に交戦し、徒歩部隊の到着を待つ事にする。

シアルフィの騎馬部隊に、キュアンの騎馬部隊、レックスの騎馬部隊は隊列を組み待ち構える。

 

「フィン、ここから正規兵との戦いになる。気を抜くな。」キュアンは隣にいる部下であるフィンに話しかける。彼は腕はいいのだが実戦経験は浅い、遠縁の親戚にあたり面倒を見ていた。

「はい!」

「騎馬同士の戦いにおいて相手の獲物に気を付けろ。槍なら突撃をさせるな、剣なら距離を取って戦え。訓練通りに動けば大丈夫だ。」

「わかりました、ハイラインに我らの力を見せてやります!」フィンはぎこちないが自身を鼓舞し、笑顔を見せるのであった。

 

数刻の後、ノディオンでは蹄の怒号が飛び交う戦場となる。ハイラインの騎馬部隊と混成部隊は激しい攻防の後、互いに後列にあった歩兵部隊も加わり混戦と化す。

優劣を付けたのがアゼルの魔道士部隊であった。

ハイラインの後続部隊は重装歩兵のみで構成されていたので魔法攻撃を受けたハイライン軍のエリオットは敗走する事となった。

 

ノディオン城陥落の危機を救ったシグルドはノディオンから賞賛を受ける事になるが、アグスティではシグルド討伐に乗り出す事となるのであった。




カルトとエルトシャン救出
フュリーとマリアンの北の台地の活躍
ハイライン城でボルドー、エリオット攻略

ここに、オリジナルアレンジを入れて書いたら何話かかるのだろう・・・。


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騎士

本日は突然の休暇となり一気に書き立てました。
この回の構想は初期の頃から温めていた案で、ヴェルダンのホリンとアイラの戦い並みに気に入ってます。

気に入った方、気に入らない方、どちらでもご感想があれば頂きたいと思います。


ハイライン城よりさらに北上した位置にあるアンフォニー城の城主、マクベスはハイラインの動きを見て参戦するかどうかを決め込んでいた。

アンフォニー国王は代々軍人でのし上がった家系ではなく、商才により地位を得て現在に至る。その為どうしても戦争となると勝ち負けよりも、損得で動く事が習慣になっていた。内密で雇った賊を北の台地に送り込み、騒乱のどさくさに金品を巻き上げるやり口は最低極まるが彼にはその様な道徳はなく利益を最優先する事が重要過程であった。

 

玉座に座ってまだ損得勘定を脳内で計算している所に一人の騎士が入室する、騎士は一礼してマクベスの前まで歩み寄る。彼の独特な装備であり、一目で異国の騎士であると判断できる。

 

一番の特徴は腰に差す剣である、鋼の長剣に加えてショートソードを帯刀している。二本とも左の腰に吊るされている事から剣を同時に扱う事はないだろうがその独特な装備は戦争代行国家であるトラキア国の騎士である事が伺えた。

 

マクベスは異国の騎士にも関わらず接近を許すのは、もちろん雇用関係にあるからであった。

彼は自身で軍を持つ事は無駄金を消費する事を身上としており、必要な時だけ必要な金を積んで動く傭兵の活用が一番の特効薬と考えている。

その特効薬の一つにようやくトラキア国から金銭契約に漕ぎ着けて竜騎士部隊を派遣できる様に出来たのであった、その劇薬の効果は高く制空権を握り侵略できる様になったのである。

 

「おお、パピヨン殿!シャガール国王との契約は如何でしたか?」

「マクベス王、お口添えのお陰で大方の契約は予定通り運べました。私もこれでトラバント陛下に朗報をお伝えできる。」

 

「そうですか!これでアグストリアは一気に軍拡出来る。グランベルに勝てる算段が整いました。」マクベスは玉座から立ち上がり、狂気の笑い声を上げた。

 

「しかしマクベス王、アグスティの帰りがけにグランベルの進軍を見た。如何するおつもりか?」

 

「杞憂はそこなのだ、折角シャガール国王に変わって北の台地の監視が無い内に財産をせしめるつもりなのだがシレジアの天馬騎士が邪魔しているとの連絡が入ったのだ。

さらにハイライン軍もノディオン北西部で撃破され、籠城戦になっていると聞く。なんとかなるだろうかと策を練っていた所なのだよ。」

マクベスの言葉にパピヨンは笑みを浮かべる、その瞳は大使から騎士の鋭い眼光に変わって行く。

 

「いいでしょう、私が自らその天馬部隊を相手しましょう。

マクベス王はハイラインが落ちた直後に、疲弊したグランベル軍に傭兵部隊を送り込めば全て片付きましょう。」

 

「な、なに?天馬部隊は何十騎にもなりますぞ!

お一人で行かれるおつもりか?」

「天馬ごとき私単騎で充分ですよ、ドラゴンの炎に焼かれて墜ちていく様を見ていて下さい。」

パピヨンはマントを翻し、玉座を後にするのであった。

 

 

カルトは4階にあった客室の窓から脱出に成功すると、上へと登っていく。階下に降りたい所ではあるが2階と3階は兵士詰所となっており無策で降りて見つかれば厄介になる。

一度王族諸侯のいる階上に上がり策を練る事にする。

カルトは窓の外枠を足掛かりに上の窓枠へ腕を伸ばすが、数センチ程届かず別の場所を探す。

おそらく城内に入り込んだ雨水の排水口があるのでそちらへ手を付き、腕のみの力で上へと持ち上げて外枠へ手を付いた。

内部をそっとみると、こちらも客室なのか内部には人の気配がない。窓をそっと開けると、一気に内部へと入り込んだ。

その部屋の扉をそっと開き、辺りに警備兵がいないと確認すると階下で使用した光のプリズムによる盲点作用にて姿を隠匿し一気に躍り出るのであった。この魔法は姿を消すだけの魔法で音も気配も消す事は出来ない。優秀な戦士なら気配を感じ取られたり、盗賊の様な感性に優れた者なら音などでも感知されてしまう。カルトは慎重に地下へと向かっていくのであった。

 

 

「あれは!」フュリーが北の台地にて横暴の限りを尽くしている賊の掃討指示を空中からかけている時、西の空から相棒と同じくらいの大きさの影がこちらに向かってくるのを察知した。

 

一直線でありかなりの速度で向かってきている、フュリーはシェリーソードから細身の槍に持ち替え向かってくる影に対応する。

 

《あれはドラゴンだ、空中戦では奴らの方が上だ。これはまずいぞ。》相棒が危険を察知して伝心で語りかける。

《ドラゴン、という事はあれは竜騎士ね。私達でなんとかならない?》

《やめた方がいいだろう。私達はともかく、部下の連中は嬲り殺されるのが関の山だ。》

《そんな、あと少しなのに。》

 

みるみる影が大きくなるとそのドラゴンの姿が露わになる。大きな体軀に硬い鱗に覆われ、その角や牙に天馬とは違う戦闘能力の高さが伺える。さらにドラゴンは火を吹くことも可能なのだ、その炎は魔法とは違う純然たる炎が故に天馬の魔法防御も関係なく焼いてしまう。

 

フュリーは部下に撤退の指示を与えこの地より離れさせ、自身は撤退する部下の殿に身を置いて竜騎士の進行を止めに入る。

 

「ほう、我を見ても退かないとは。大したお嬢さんだ。

私はトラキア国竜騎士団のパピヨンだ。」

「私はシレジアの天馬騎士団のフュリー!なぜトラキア軍がここにいる?ここで交戦すれば問題になります。」

 

「ふっ、くははは!・・・失礼、あまりにも滑稽故に破顔してしまった。シレジアは外での戦争がなかったからな、致し方ない。我らは傭兵稼業を率先している国故どの戦争にも顔を出すさ。今回も、な。」

「そ、そんな。国が他国の戦争を請け負うなんて。」

 

「醜いか?汚いか?侮蔑の声は聞き飽きた。

戦争は生きるか死ぬかのみ、正しいと思うなら俺を倒して証明するといい。」

パピヨンはドラゴンに括り付けている長槍を取り、フュリーへ向かわんと構える。フュリーも再び構え直して集中し始めた。

 

「行くぞ!」滑空し速度を上げたパピヨンはその長槍をファルコンにむける。

空中戦故に、お互いの乗り物の破壊は即死に値する。

フュリーの命より早く察知したファルコンは上昇して回避すると次はフュリーが細身の槍の旋回した一撃を見舞う。

ドラゴンの尾の近くに当たるがその鱗は固く、金属音と共に弾かれてしまった。

 

(パピヨンを狙わないと勝ち目がない。)

再び上昇して距離をとろうとするが、ドラゴンは上手く追尾しており背後を取られてしまう。

そして、ドラゴンの顎が大きく開かれる。

 

《ま、まずい!》

相棒の伝心の瞬間、大量の炎がフュリー達に浴びせられる。回避しようとするも、ドラゴンの顎が方向を変えて確実に二人を焼かんとしていた。

二人は炎に包まれながら森林に落ちていくのをパピヨンは見ながらゆっくりと降下を始めた。

 

 

「ここまでだ。」フュリーは守ってくれた相棒に回復魔法を施している所に、パピヨンはドラゴンの鞍から長槍を二人に突きつける。

 

「待って、私はどうなってもいい。この子だけは野に返したいの。」

「そうは行かぬな、我らはハイエナ。ハイエナは全てを狩り尽くす。」

「そんな・・・。」

「さあ、諦めろ。」長槍がフュリーの喉元を狙う中、その槍を止める者がいた。

漆黒の髪を持ち、小柄な体型だがカルトの為に忠義を尽くす剣士のマリアンである。

 

「貴様、何者だ。我らの獲物を邪魔するとは見上げた心掛けだ。」

彼女は返す言葉はなく、パピヨンに斬りかかり始める。

パピヨンはその剣技に圧倒され、ドラゴンに飛び乗ると宙に舞った。

 

「なんだ、あの女は!」上昇を始めていく時、悪態を付いたパピヨンは体勢を整えて眼下にいる剣士を見ようとする。

「!やつは、どこに?」眼下にはフュリーしかおらず、先程の剣士は姿を消していた。

パピヨンはぞくりと直感の寒気を感じた、それはあの天馬騎士のフュリーがこちらを見上げているがその視点はさらに上に思えた。

パピヨンは上を見上げた瞬間、それは現実となり悪夢となった。

 

パピヨンの頭上をとったマリアンは、肩口にその剣を突き立てたのだ。

「ぐあああ!貴様、一体どうやって?」

「その竜は一気に上昇できないんですね、天馬のように早かったら追いつきませんでした。」

「だから、一体!どうやって・・・。」口より多量の血を吹き出し、マリアンの捕まんと手を広げる。

「木を登って、追い越したら飛び乗ったまでです。」

 

なんだって!いくらドラゴン上昇が遅いと言っても、木に登る速度が早いなんて考えられなかった。パピヨンは動揺し、その後は受け入れたのか笑みすら浮かべてしまう。

 

「油断していたとは言え、見事。

しかし、勝負には負けたが・・・。戦争に置いては引き分けだな。このドラゴンは野に帰る・・・。そして、お前は振り落とされる。」

パピヨンは鐙を足で蹴ってドラゴンより落とし、主人の不在をドラゴンに伝えると一気に上昇を行い振り落とさんとかかり出す。

 

マリアンはドラゴンの背中から頭の角を握り振り落しから抵抗する、パピヨンは重傷を負いながらも背中の逆鱗を掴み更にドラゴンの怒りに火をつけ出した。

 

「さあ、小娘!お前が振り落とされる様を見て死ぬとしよう!」パピヨンの言葉にマリアンは振り落とされんとしがみつくがドラゴンはさらにくねるようにして振り落しに入る、これではパピヨンの言うままになる。

マリアンはしがみつく片手を離すと、ドラゴンの眉間に拳を突き立てた。

「止まれ、止まれ、止まれ!」

「悪あがきはよすんだな、ドラゴンは主人と決めた者以外には従わない。俺と共に果てるがいい。」

「私は諦めない、どんな時も生きてカルト様にお仕えする。それが私の恩返し!」

マリアンは拳に血が滲み、反対の手の握力が無くなって行こうともドラゴンを止めようと拳を突き上げ続ける。ドラゴンにとってそんな攻撃はかゆくとも思わないだろう。

しかしその攻撃なのか、ドラゴンの速度は徐々に落ちていくのである。

 

「ま、まさか!シュワルテ・・・、お前・・・。」

「この子、シュワルテと言うの?ごめんね、叩いたりして・・・。」

パピヨンは絶句する、なぜドラゴンは簡単にこの娘になびいたのか今までそんな事は例外なくなかった。

竜騎士になるには命を賭けなければならない、もし一度でも主人でないと判断された者は正式な騎士になっても突然噛み殺された者も珍しくなかった。

そんな厳しい中で竜騎士として全うできる事は誉れである、傭兵として世界の最前列で戦い続け、竜騎士として死んでいくことに躊躇いなどなかった。

それほど、人生の全てを賭けて生きた竜騎士の人生を全うする直前にこのような奇跡を目の当たりにするとは思わなかった。

「私達を元の場所に返して、できるかしら?」マリアンは語りかけるとドラゴンは理解したのか、一鳴きすると飛行を反転させ元の場所に戻り始めたのだ。

 

パピヨンの疑いは確信に変わる、彼女を主人と認めているのだ。

「し、信じられん。まさか、こんな事になるとは・・・。」

「命を取る気はありません、今なら戻ればフュリー様の回復に間に合います。」マリアンは向き直り穏やかに語りかける。

パピヨンはシュワルテの背に座り、肩口に刺さった剣を苦悶の声と共に抜き出す。

「ぐ、ああああ!」マリアンは一瞬剣を抜いて再び戦闘を開始するかと考えたが彼には戦意が無い事を知る。

彼は根っからの軍人であった、敵国であろうとその敬意を払う為マリアンは様子を見る。

 

抜き出した剣をマリアンに手渡したパピヨンは深いため息を吐き出した後、マリアンに笑顔を見せた。

 

「名を聞きたい、新たな竜騎士の名を・・・。」

「私の名は、マリアン。かつてはダーナに暮らした一般人です。」

 

「まさか、軍の者でもなかったのか。一般上がりの剣士殿が、竜騎士になるとは・・・。世界は広いな・・・。」

 

「もう喋らないで、出血が・・・。」

マリアンは近寄ろうとすると、パピヨンは手を伸ばして制止させる。

 

「必要ない、私はトラキアの竜騎士。ドラゴンを奪われた私に、祖国に帰る資格はない。」

パピヨンは両手を広げると後ろに倒れていく、マリアンは必死に追いすがるがたとえ追いついたとしても彼を引き戻す力はない。

マリアンは空を切る手を伸ばすことしかできなかった。

 

パピヨンは遠ざかるシュワルテを見ながら眼を閉じる、たった一瞬での出会いだったが彼女は間違いなく・・・。

パピヨンは大空に最期の想いを描くのであった。

 

 

 

カルトはようやく地下に囚われたエルトシャンの位置を割り出し、侵入に成功する。

脱出してから3時間位経過している、夕飯を貰ってからかなりの時間が経つ為そろそろ歩哨に経つ衛兵共に感づかれる頃合いである。焦る気持ちを抑えつつ、地下牢の前に経つ兵士3名を見張りながらカルトはタイミングを伺う。

 

風魔法で牢屋内と通路の空気を遮断する事により、音を立てても外に漏れない措置をとると一気に牢屋の制圧にかかった。

 

「な、なに!」

カルトは一人目の男に鞘のまま頭を強打して気絶させる。

「ふ、不審者め!」一人は早速抜刀して斬りかかるが、カルトはウインドを使い壁面に激突させると、同じく鞘に収まった剣で強打させた。

 

「さあ、どうする?」

「く、くそ!」兵士は敵わないと見たのか剣を捨てて手を挙げる。

カルトは彼を捕縛し、会話を聞かれないように目隠しと耳栓に猿轡まで行い。仲間の3名共々地下牢の隅へと追いやった。

 

廊下の一番奥に、カルトが求めていた人物。

エルトシャン王が闇から鋭い眼光を放ち、侵入者を見据えんとしていた、まさに檻に入れられた獅子のようである。

カルトはその牢の前に立ち、見据える。

 

「カルト公、まさかこのような形で会う事になるとはな・・・。」

「私も同感です、エルトシャン王。」

「何をしに来た、私を助けに来たとでも言うつもりか?」

エルトシャンは明らかに救出に拒絶していた、鋭い眼光は拒絶による光である事を知ったカルトは無言で頷く。

「私は、陛下に背いた罰を受けている身。これ以上騎士として恥をかかせるつもりか?」

 

「騎士?騎士とは一体どういう存在ですか?」

「騎士とは国王を守る存在だ。」

エルトシャンはカルトの質問に間髪を入れずに答える。

 

「エルトシャン王、では貴方は騎士の信念に背いている。」

「なに?」

「国があるのは、国民がそこにいるから存在するものと思わないか?

国民が認めるからそこに国王が存在し、国ができる。

騎士はその国を守る為にある、国を守る事は国民を安心させる事にある。違うか?」

「・・・。」

「今ノディオンは戦火にある、国王が捕らえられ牢で燻っている間にラケシス様はハイラインに襲われていた。

シグルド公子がラケシス様を助け出し、俺たちをも救おうと必死になっている。

エルトシャン王とシグルド公子・・・。今どちらが騎士に相応しい行動を取っているか、考えた事がありますか。」

カルト言動にエルトシャンは立ち上がり牢の鉄棒に手を回す。

 

「さあ行ってください、貴方にはやるべき事がある。」

カルトはエルトシャンに転移の魔法をかける、エルトシャンの体が虹色に輝き出していく。

「ま、待て!貴公はどうするのだ。」エルトシャンはカルトの身体にその転移魔法が対象外になっていると察知し問いただす。

「私の魔力は尽きかけています、二人は飛ばせません。

エルトシャン王、どうかシグルド公子を頼みます。」

エルトシャンはカルトの後ろに衛兵が迫ってきている事に気付くが、言葉を発する前にその場を後にするのであった。




パピヨンの登場は三章なんですが、マクベスと以前より接触がありマリアンやフュリー達に出会った為にここで退場とさせて頂きました。

マリアンのまさかのドラゴンナイト昇格は以前より計画がありました、今後彼女の独特なドラゴンナイトの成長も織り込み済みですのでご期待頂けたらと思います。

マリアン

ドラゴンフェンサー
LV10

剣B

HP 31
MP 0

力 12
魔力 0
技 17
速 19
運 8
防御 8
魔防 0

スキル 追撃

鉄の剣
カルトの髪飾り(祈りのスキル付与)
リターンリング


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交戦

更新が不定期すぎてすみません。
この回はまとまりがなく、あちこちで戦闘がおこっており話が飛びまくりです。

それ程激化していると思ってくださればさいわいです。


ハイライン城内では激しい攻防戦が繰り広げられた。

シグルドは投稿を呼びかけるが、ハイライン城主のボルドーは耳を貸す事はなく徹底抗戦を続けた。

グランベル軍には時間が無い。経過すればする程エルトシャン救出、アグストリア軍の再編成による反撃、備蓄物資の不足による行き詰まりもある。シグルドは制圧を率先して急いだ。旧友のキュアンも隣に続き、グランベルの同じ公子のアゼルやレックスも伴ってくれている。

自身の判断についてきてくれている諸侯達に感謝をせずにはいられなかった。

 

城外に息を巻いていたエリオットは逃走したが、部隊の精鋭を伴って城門すぐの所で待ち構えていた、おそらく城門で隊が絞られるのでここで交戦すれば勝機があると考えたのだろう。

キュアンの部隊は馬上槍のランスから、歩兵槍として携帯しているハルベルトに持ち替え参戦していた。

その槍捌きは馬上においても歩兵となっても素晴らしくハイライン軍は押されていく、レックスとキュアンの怒涛の突撃は快進撃となりエリオットとボルドーの親子に肉薄していく。

 

「シグルド様!伝令より、ノディオンのエルトシャン王が無事にご帰還されたそうです。」

「なに?それは本当か!」ノイッシュの言葉にシグルドは久方ぶりの歓喜の表情を浮かべる、現在アグストリアとは複雑な心境に陥っているが彼はやはりエルトシャンの救出も成し得たかった一つである事には変わりはない。その伝令に表情が緩んだがすぐに引き締め直す。

 

「カルト公は、どうなった?救出出来たのか?」シグルドの言葉にノイッシュは首を横に振る。

「彼がエルトシャン王を救出したそうです、城内ノディオンへ転移魔法を使用して脱出させたそうです。」

「なんて事だ・・・。ノイッシュ、作戦を変更するぞ。」

「はい!シグルド様、ご命令を!」

 

 

北の台地ではフュリーが戦線復帰した事により、残党狩りが行われていた。開拓地の居住区を襲っていた賊達を一掃した天馬騎士団はその大元がアンフォニー城主である事を知り、アンフォニー城への進軍をするかどうかの判断を迫られていた。

おそらく、襲撃の失敗を知れば次は情報の隠滅を図る可能性がありアンフォニーから軍が出動される恐れがある。

後手を踏めば再びこの台地が戦場になり開拓地はさらに荒れてしまう。

しかし、軍をハイラインの最前線に送り込まずにこちらへ誘導すればハイライン攻略後のアンフォニー制圧は速やかになるだろう。このような賊をけしかけて国の疲弊をなんとも思わないような王はおそらくハイライン攻略した直後のシアルフィ軍へ進軍するだろうとフュリーは見切っていた。その上でフュリーはその決断を独断で決めなければならなくなった。

 

「フュリー様、進軍しましょう。今なら奴らに奇襲をかける事が出来ます。いち早くアグストリアの王達を無力化しなければカルト様の救出が遅れてしまいます。」

副官の意見が飛ぶがフュリーの意見はそんな簡単な事ではなく複雑な物であった、それは今までのカルトの意見を聞いて来た者の意思でもあった。

「あなたの言う事は最もだわ。でも私達はシレジア軍、アグストリアとの直接な戦闘はカルト様の意思に反してしまう。

もし、彼がここにいたらどのような判断をするのか考えねばなりません。」

「ですが!それではカルト様をみすみす死地に追いやる事になります。」

「そうね・・・答えはそこに行き着いたとしても、それでも私達は考えなければならないの。私達の行動がこれからのシレジアの在り方になるかもしれないのだから。」

フュリーには困惑した表情はない。ただカルト助けるだけでは済まない事を知っているが故の苦悩を知った上で、彼女は困難な状況を受け入れ考え抜く事を選んだのである。

それは一団としてリーダーとしての資質が、彼女を聡明にしていくのである。

 

暫しの思考の後、フュリーは決断する。

「行きましょう!カルト様を助ける事も重要ですが、今はアグストリア開拓地の民の安全を最優先とします。ここからアンフォニー城を攻略します。」

一団は槍を掲げてその意思を伝えるのであった。

 

 

 

カルトはエルトシャン王の転移に成功した後、そのまま地下牢に投獄される事となった。

来賓としての扱いは剥奪され、手足には枷をつけ、携行品も没収、マッキリーのクレメンテ司祭を呼び付け魔法無力化のサイレスの杖でカルトの魔力を無力化する徹底ぶりであった。

エルトシャン脱獄によるシャガールの怒りはカルトに殴打を限りを尽くされ、力なく冷たい石畳の床に転ばされたのであった。

 

「小癪なガキのくせにアグストリアに楯突きおって!

もうシレジアには用はない、この内乱を終えたら一軍出して属国にしてやる。

クレメンテ!どうだ?魔力は抑えられたのか?」

「はい、さすがシレジアの公だけありまして簡単に抑える事は出来ませんでしたが、シャガール王の折檻で精神力が乱れたのか成功しております。暫くは破れないでしょう。」

 

「・・・くくくっ、あっはっはっは!」カルトはうつ伏せから仰向けに転がるとひとしきり笑いを発して、威嚇する。

「シャガール王、あんたは本当にこの内乱を抑える事ができると思っているのか?

いや、たとえ抑えたとしてもシレジアに攻め込む?馬鹿馬鹿しくて笑いすら出てくるね。」

「貴様!陛下に何という事を!」クレメンテは魔道の杖を持ち替えカルトの頭に打ち付ける。

 

「・・・エルトシャン王は必ずこの国の王になるだろう、あんたに使われる様な漢ではない。

それに、シレジアにはレヴィンがいる。飛空手段を持たないあんた達に攻略など出来ないさ。」

 

「シレジアの気候と地形がシレジアを守るか?ふ、はっはっはっは!

儂はシレジアとの協定は破棄する事に決めた。今までの食料や金はトラキア国に送り、見返りはトラキアの傭兵団を派遣してもらう事にしたのだ。

天馬など、竜相手では虫けらに等しいものよ。」

 

カルトの中でその予想を計算し出す、確かに竜騎士団の飛空能力はシレジアの天馬よりも高い。攻略難航のシレジアとは言えどもトラキアの騎士団が襲いかかればその牙城に穿つ可能性はある。食料の一国化もまだ完全ではないこのタイミングでは不利である事は伺えた。

 

「・・・ならば、尚のことあんた達をここで止めなければならないな。まだトラキア国が出張る前に・・・。」

 

「ふん!まな板の鯉であるお前が威勢を聞かせても何の感慨も起こらんな。

奴らがここまで来た時は見せしめに貴様の首を眼の前ではねてやる。楽しみにしているんだな!」

 

そこに配膳を持った少年兵がはいる、エルトシャン脱獄をまだ知らない少年兵はその状況に少し戸惑う素振りをみせるが

「・・・陛下!」その場に跪いて敬礼する。

「配膳か、まあいいそいつに与えておけ。

丁度いい、正規兵が来るまでこやつの監視の任に着け。」

「はっ!」少年兵は再び敬礼し、二人が退出するまで見送るのであった。

 

「・・・助けに来てくれたのかデュー。」にっ、と笑って少年兵に語りかける。

少年兵はヘルムで隠した頭を外すとアップにされた髪が下され、いつものしっぽ髪が姿を表す、そのあどけない姿が少年兵と思わされスパイである事の疑惑をことごとく躱してしまうのであった。

「おいらがアグストリア人と同じ髪と肌の色だから何とかなったよ、しかし随分酷くやられたね。」水筒に手をやると鉄格子越しに水を口に含ませる、カルトはあっという間に飲み干すしてします。

 

「デュー、悪いがこの有様で暫く動けそうにない。

魔力も封じられているから俺に構わず脱出してくれ、エルトシャン王は救出している。

それとシャガールをけしかけて色々情報を得た、デューはそれを持ち帰ってシグルド公子に伝えてくれ。」

「駄目だよ!おいらはホリンに約束したんだ、必ずカルトを連れて帰るって言ったんだ。

だからいつものように立ち上がってよ!」

デューは珍しく辺りを気にしないような声量でカルトを制止しようとする。先程まで大使としての扱いでは無くなったカルトはこの国では重罪人になってしまったのだ、シャガールの一存で命が脅かされるこの状況で残る事は命を捨てる行為に等しい。

 

「ああ、分かっているさ。俺とてここで死ぬわけにはいかない、自棄になってるわけではないさ。

ただ、俺は俺の目的の為にもまだここに残らねばならないような気がするんだ。」

カルトの目に命を捨てる失意は無い、デューはそれを信じる事にする。一つ頷くと再びヘルムをかぶった。

 

「わかったよ、でも!カルト一人にはしないよ。僕もこのまま変装してギリギリまでここで一緒にいるよ。」

カルトは一つ驚嘆の表情をするがデューの気持ちは揺るがないだろう、彼にも彼なりの仁義を持っている。

カルトは笑って同意する。

「お前も、無茶をするなよ。」デューも笑って返すのであった。

 

 

ハイライン城の城内戦はシアルフィの混成軍が圧倒的な勝利となった。

例え今回が正規軍との戦いとはいえ、物量で襲いかかるヴェルダンの軍勢を蹴散らした経験値は大きく影響していた。混成軍であるが指揮系統に不備はなく、諸侯たちの各々の能力がうまく機能し始めている事が大きいとシグルドは判断していた。

 

城内のボルドーは大広間で待ち構え、大剣を振り回してキュアンに挑むがいかんせん力量の差は歴然としており歯牙にもかけないでいた。キュアンは一閃のうちに心臓を貫き絶命させる。

 

エリオットは城門で敗走すると、父親を見捨てて城の脱出を図った。

アゼルの魔道士隊が遅れてハイライン到着時にエリオットと遭遇し、アゼルのエルファイアーにて焼死する末路となった。

 

アンフォニー城は間髪入れずにハイラインに向かってくるだろうと思っていたが、一向にその気配はなく静けさを保っていた。

「シグルド様、アンフォニーはどうやら北の台地の天馬部隊に兵を差し向けたそうです。天馬部隊の支援に向かいましょう。」オイフェは各部隊の情報をひとしきり集め、シグルドに提案する。

「・・・、部隊を二つに分ける。

エルトシャンを救出した今カルト公の命が危ない、一刻も早くアグスティに向う為にもここで本隊がアンフォニーへ向かうわけにはいかぬだろう。」

 

「人選は如何されますが?アンフォニーは正規兵は少ないですが戦闘経験の多い傭兵部隊を中心に構成されています。甘く見れば分隊を突破され、本体の背後を突かれてしまいます。」

 

「シアルフィ軍を中心に構成しよう。

騎馬部隊は北の台地に向かった部隊を、天馬部隊と連携して討つ。こちらに向かってくる部隊をアーダン隊長を中心に重装部隊で戦線を押し上げる。念の為アゼルの魔道士部隊も参加してもらおう。

残りの者はハイラインで治療を行いつつ、今すぐ出撃できる者はノディオンを経由してアグスティへ向かう。」

 

「わかりました、すぐに手配します。」オイフェは再び慌しくシグルドから離れていく、彼も徐々に自分の役割を把握し必要な情報を集めてきてくれる。シグルドの立派な右腕となっていた。

 

 

ノディオンに無事転移したエルトシャンは傷の手当も終わらぬ内にマッキリーに向けて進軍を始める、精鋭部隊であるクロスナイツ不在ではあるが残された軍を招集し瞬く間に支度を行ったノディオンはやはり国内屈指の軍と言える。

「兄様!シグルド様が来られるのを待ちましょう、いくらカルト様の命が危ないとは言え無茶ですわ。」ラケシスは止めても聞かない兄上に同行する為、馬に乗り並走する。

 

「・・・シグルドにはノディオンを救ってくれた事に感謝するがもうこの国は取り返しがつかないほどグランベルに制圧されている。」

 

「兄様・・・何て事を仰るのですか!シグルド様は悪意を持ってこの様な事をしていると言いたいのですか?

ただ、ただ兄様を、カルト様をお救いしようとしているだけではないですか、なぜその様な事を仰るのですか!」

 

「国と国の前ではその様な事は奸計による政の肥やしなる。シグルドが大きく動けば動くほど、グランベル本国では憶測の渦に飲まれていき全く別の物へと変化していくだろう。それを理解せねば、シグルドは今後苦境に立つ事になる。」

 

「どういう事ですの?」ラケシスにはおおよそ検討もつかない言葉であった。

「今はまだ、知らぬ方がいい。どのみち行く先にその答えが出てくるだろう。

俺が今なさねばはない事は、カルト公の救出とアグストリア内乱の早期平定が大切だ。

陛下には申し訳ないが武力で訴えかけてでも国外進出を止めねばならない。」

「兄様・・・。」

エルトシャンの眼には何か決意を持ち、宿る決意にラケシスは危うさが無くなっていることに安堵する。

獅子王はここから始動し始めるのであった。

 

 

アンフォニーから出撃した傭兵騎団は北の台地でフュリー率いる天馬騎士団と壮絶な戦いを繰り広げた。各地の歴戦をくぐり抜けた傭兵騎団、例え空から急襲可能な天馬騎士団も簡単に打ち破れる相手ではなかった。

森林の視界の悪さを利用して傭兵騎団に切り込み、先手を奪うが個々の判断が早く立て直した傭兵騎団は反撃に出る。天馬騎士が直接攻撃にて降下するタイミングを見計らっての迎撃に備え出し被害が最小になりつつあった。

 

フュリーは低空飛行にてファルコンの体当たりを繰り出し落馬した傭兵どもを天馬に討たせる戦法に切り替えた。

大型であるフュリーのファルコンは森林の道を縫うように飛行し、敵を視認しては一気に速度を上げる。

 

そしてその攻撃を数度繰り返した時、反撃をする者がいた。騎乗しているが大型の大剣を振るい、ファルコンに一刀を入れようと体当たりを繰り出すファルコンに猛然と馬を走らせてくる。

フュリーはファルコンの頭部付近まで移動すると括り付けてある長槍を装備し、大剣に備えた。

ファルコンは接触する直前にフュリーに攻撃を託し、フュリーは長槍であらん限りの突きを繰り出す。

傭兵はその槍を肩に敢えて受け、体を捻ってフュリーをファルコンから引きずり降ろそうとしたのだ。

フュリーはその意外な攻撃にバランスを崩し、地上へ堕ちる事となる。

彼女は無理にファルコンの背に残る事を止めて、茂みを視界で捉え身をそこへ委ねた。受け身もうまく取れたので即座にシェリーソードを取り出すと傭兵に対峙する。

傭兵もその激突に馬から落馬しており体勢を立て直して、大剣を構えた。

 

フュリーは軽く左右へステップすると傭兵へ猛然と斬り込んだ、傭兵はその身軽な多段攻撃を大剣であるにも関わらず器用に受け止める。

「やるな、いい腕だ。」傭兵は少し笑うと、大剣でフュリーの攻撃に横薙ぎの一撃を繰り出した。

武器破壊の一撃と判断したフュリーはシェリーソードで受けずに後ろに跳躍して避けると、体当たりを敢行していたファルコンが旋回して戻ってきていた事を風切り音で認識していた。再度跳躍すると、ファルコンの背に乗り傭兵に再び体当たりを繰り出した。

 

傭兵は横へ飛んで交わしたが、ファルコンは空中へ舞い上がり旋回すると再び低空飛行からの体当たりに入る。

すぐさま傭兵は馬に騎乗すると再び大剣で持って迎撃体勢をとる。

ファルコンは体当たりに入ろうとするが、フュリーはそれを制止させる。

(この傭兵に拘る必要はないわ、今は数を減らさないといけない。)

フュリーは空中から他の傭兵の存在を探すと、ファルコンに向かうように指示するのであった。

 




フュリーと交戦した傭兵、あの人です。

何とかあの一団をオリジナルの展開にしたいと思っているのですが、相当難しいです。

次回も更新が遅くなると思いますがよろしくお願い致します。


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敗走

またまた、更新が遅れてしまいすみません。
最近のシグルド公子、活躍する機会がないです。


アンフォニー城の攻略戦はヴォルツ率いる傭兵騎団は森林での戦いで兵力を失う中、フュリーと剣を交えた傭兵は退却し後方にいる隊長格の元へと帰還した。

 

「ベオ、どうだ?」歴戦の傭兵は劣勢にも関わらず、動じる様子もなく帰還した傭兵に問いかける。

 

「このままでは敗北は決定的だな。」

「そうか・・・。ベオ、お前はどうする?」

 

隊長は全てを見抜いている、ベオと呼ばれたその男は沈黙のまま真意を見据える。暫し気不味い雰囲気を過ごした後、隊長格の男は笑みを浮かべた。

 

「ふっ、傭兵にどうするとは無粋であるな。今までの給金では割に合わない仕事だ、お前は他所へ行くつもりなのだろう?」

 

「ああ、金は欲しいが割に合わない仕事はしたくない。

何よりあのマクベスは気に入らない。」

 

「俺たち傭兵は自由だ、戦うも死ぬも選ぶ事ができる。好きにすればいいさ。ただ、俺の前には敵側として出てこない事だ。」

隊長格の男は途端に殺気を伴ってベオを見据える、それは各地を傭兵として活躍し生き残ってきた猛者の忠告。

彼はベオが抜ける事への怒りでも、呪いでもなく純然たる警告を発しているのである。

 

『お前に俺は勝てない』

 

ベオはその言葉に打ちのめされる。

自身の腕にも多少の覚えがありそれなりに名声を得ていると思っていたがこの男、ヴォルツにはかなわなかった。

技の巧みさ、その大剣とは思えない剣捌き、そして人馬一体の技術にベオは未だ到達できず彼と数度手合わせをしても競り負けてしまうのであった。

 

「ああ、あんたとやりあうつもりはない。俺もまだまだやり残している事があるからな。

それよりどうするのだ、このままではみんなやられちまうぞ。」ベオの耳にもすぐ先で行われている撃剣が響いている、そろそろ本腰を入れねば戦線を離脱するにも戦うにも手遅れになってしまう。

 

「そうだな、負け犬同然に尻尾を巻けばこの先の仕事にも支障がでる。それなりの奴を首をあげて、退散する。」

 

「わかった、わたしも次の雇い主があるまでは同行しよう。」

ベオは大剣を抜いてヴォルツとともに行動し始める。ヴォルツは自身の能力に過信はしていない、状況を見定める事に長けたこの男はどんな劣勢にも生き延び金と名声を上げてきた猛者、この度の戦闘も生き延びてヴォルツ隊を維持するだろう。

ベオこと、ベオウルフは目標の男の背中を見ながら生き延びる戦いに身を投じてくのであった。

 

 

 

「馬鹿者!なんだこの様は!

これではグランベルに攻め込むどころか、この国の存在が危ういではないか!」

シャガール王は戦況の報告に怒りを露わにする、ノディオンの反旗は想定内として戦力の要であるハイライン敗走の事態にシャガール王はワイングラスを叩き割る悪態をつく。

家臣は小さくなってこの雷雲が吹き抜ける事を待つが、その怒りはそうそう過ぎ去るわけではない。荒れる国王はその矛先を狙わんと見渡すばかりであった。大臣達がそそくさとその場を逃げていく中で、漆黒のローブを纏った女性がシャガールの元へ足を運ぶ。その足取りに音はなく、シャガールも側まで来ている事に気付かないでいた。

「フレイヤ!よく儂の前にこれたものだな!」

 

「陛下、私はただ貴方様の望むままに申したまでです。

お決めになられたのは陛下ご自身ではないですか。」

 

「ぬ、貴様あ〜!」

 

「陛下には、まだ手があるではないですか。

地下に放り込んでいるあの男を人質するか、奴を解放を条件にすれば生き延びましょう。」

 

「馬鹿な!儂があんな奴らごときに命乞いをしろと言うのか!!ましてや人質をとるなどアグストリアの恥を晒すようなものだ!!

奴はこの手で処刑せねば気が済まぬ!」

 

「それも陛下のお決めになった事、そのようになされるが良いでしょう。

処刑する前に奴から情報を引き出してみせましょう、上手くいけば切り開く突破口があるやもしれません。」

 

「そ、そうだな。では早々にやってくれ、終わったらすぐに斬首刑にしてやる!」

 

息を巻いて玉座に戻るシャガールに冷笑を浮かべながらその場を後にする。

(馬鹿な人・・・)

 

シャガールの利用価値は既に無い。ディアドラを擁するシアルフィ軍がアグストリア領に誘導し、各地を制圧した段階で今回の計画はすでに成立している。

シャガールが後にどのような結果を出す事になっても些末な事にすぎない、気になる事案は地下に囚われているカルトの存在のみであった。

マンフロイ大司教ですら、かの者の存在に言い知れぬ不穏分子であると認識した。ここで摘み取っておく必要がある。

地下牢獄に着き、兵に退出を申し出ると早速カルトと相対する事となった。

 

 

 

 

「あんたは?」カルトは痛む身体を起こし、鉄格子向こうの存在に声をかける。

 

「初めまして、私はシャガール陛下のお付きのフレイヤと申します。」フレイヤはフードを外して微笑みと共に一礼する。

 

「俺に何の用だ?」

 

「まあ、酷い傷!まずは治療致しますわ。」

 

「構うな、致命傷はない。それよりも話は何だ?」

 

「・・・・・・バランを殺したのは、あなた?」

 

「バラン?誰だ、それは?」

 

「ダーナの南、古戦場の砦・・・。」

 

その一言で全てを理解したカルトは一歩引き、フレイヤを睨みつける。

フレイヤの微笑みは残虐な笑みへと変貌する。

 

「やはり、あなただったのですね・・・。」

 

「・・・・・・。」

 

「バランを殺した罪も、ここで精算してもらいましょう。私との会話が終われば斬首に処すると陛下は言っておられました。

あなたなら、その直前に逃げる可能性があると思っていたのでここで封殺させてもらいます。」

 

フレイヤは魔力を解放させると途端に雰囲気ががらりと変化し、カルトは悪寒が走る。まだサイレスの杖により魔力を封じられている今、逃げる事も攻撃に転じる事も出来ない。

だが・・・。

 

「・・・待っていたぜ。」カルトは小さく呟く。

 

「なに?」フレイヤはその言葉を耳に補足する、今から殺されようとしている者にしては可笑しな発言に耳を貸してしまう、彼は笑みすら浮かべているのだ。

 

「あんた、フレイヤと言ったか。シャガールのお付きと言っていたがそれは嘘だな、その魔力をヴェルダンで感じた事がある。暗黒教団の者だな。」

 

「・・・・・・。」

 

「確かにバランと思われる者は俺が倒した、子供を暗黒神の生贄にしているような外道は殺されて当然の報いだ。

そしてフレイヤ、あんたも裏で暗躍しているようなら容赦はしない。」

 

「何を馬鹿な事を、処刑される寸前の貴様に何が出来るのかしら?

その気になれば今ここで処断してあげてもいいのですよ。」

 

「そうは、ならないさ。」カルトは目線で合図を送ると、デューは飛び出しフレイヤに斬りかかる。

 

「!・・・。」デュー袈裟斬りをフレイヤは視線の端で視認し、ロープの中よりショートソードを装備し受け止める。金属の打ち込む高い音が響いた。

 

「まさか、伏兵がひそんでいるとはな。」フレイヤから笑みは消え、デューを静かに睨みつける。

その異質な笑みにデューすら寒気を感じるのであった。

 

デューはその寒気を乗り越え、さらに攻撃を加える。

デューの連続攻撃は非常に無駄がないが、フレイヤの防御一辺倒の剣捌きの前ではダメージを与える事は出来ないでいた。

デューの強攻撃を受け止め、鍔迫り合いになった時フレイヤは魔法による集中を始める。

 

「だめだ!魔法が来るぞ、奴に集中させるな!」

 

デューは咄嗟に切り替えて、一歩離れるとすぐさま連続攻撃に移る。

フレイヤはまた襲いかかる剣の波状攻撃に忌々しさを覚え、再び防御に入らざる得なくなった。

 

一方、カルトはサイレスの杖の効力はあるが自身の魔力で一気に打ち破る。

クレメンテの魔力程度では、カルトにサイレスの杖では抑える事は出来ない。あえてその効力に対抗せず、受ける事により奴らから接触してくる可能性に賭けていたのであった。

ウインドで鉄格子を破損させるとデューの支援に入る。

 

「リザイア!」

 

光のオーラがフレイヤの身体を包むと、フレイヤは苦しみ出しその場に蹲る。

魔力で防御を行っているがカルトの魔力の前に打ち負けフレイヤから体力を奪い攻撃と回復を行ったが、フレイヤの魔法防御も相当であり思っ程体力を奪う事は出来なかった。

 

デューはカルトの前まで後退し、フレイヤの出方を待つ。

一気に攻め込みたい気持ちはあるが、不気味な魔力を持つこの女性を前に迂闊な攻撃は危険と感じた。

 

「その光の魔法、やはりあなたは異質な能力をお持ちのようですね。誰から受け継いだのかしら?」

 

「答える義理はないな。」

カルトはすぐさまウインドを放ち、その後にデューが飛び出した。

フレイヤは魔法防御を高めてウインドを殺し、デューの攻撃をショートソードにて受け流す。

 

「リライブ!」まずは傷ついた身体を動けるようにしなけばならない、カルトは先程のリザイアに加えさらなる回復を急ぐ。

 

「この〜。」デューがまともに一撃を加えられないのか、珍しく気合の声がかかった。

デューはイザークの盗賊剣士で、腕はなかなかに立つ。それでも一撃を与えられないのはフレイヤの剣技もなかなかの領域なのだろう。

 

「デュー!深追いするな、そいつの本分は魔法だ。今のまま魔法を使わせないように隙を与えるな!」

 

デューはその言葉を無言で受け取り、大振りをなくした丁寧な剣技に戻っていく。フレイヤはまた苦境に立たされ、防戦に専念していた。

回復を終えたカルトはデューが距離を開けた瞬間を狙うため意識を集中させ時を待つ。

 

その行動を見たのかフレイヤは、ショートソードを巧みに操り攻撃回避を優先した行動を止め魔法を使う準備に入る、デューも魔法を阻止する一撃を繰り出すがまるで気にする様子はなく、袈裟斬りを受ける。

 

「ヨツムンガンド」たちまちあたりより有象無象の邪気が立ち込め、デューを包むように迫る。

「ウインド!」咄嗟に風の塊をデューに当ててその場から強引に引き離して難を逃れる。

 

「ヨツムンガンド」

 

「なっ!ウインド!」次はカルトに向かって放たれた邪気は地面にウインドを放ちその場から離れる。

 

「ヨツムンガンド」次はカルトの着地地点を狙い次の魔法を放つ。ついにカルトはその邪気の爪を被弾する事となった。

「うあああ!」カルトは必死に魔力を集中させ、魔法防御を行うがその強大な魔力におびただしいダメージを受ける事となった。

身体を蝕ませる、邪気に当てられたカルトはすぐさま回復に入る。フレイヤもほぼ同時に回復に入った。

 

が、フレイヤは一瞬に回復を終わらせて見せた。カルトはその速さに目を疑うがフレイヤはすぐさま第二波のヨツムンガンドを放った。

それもまた被弾したカルトはその場に崩れるように倒れる。

(嘘だろ、あれだけの質量の魔法を立て続けに何度も使えるなんて。魔力の底が見えない。)

 

カルトは必死に立ち上がるが、邪気に当てられたカルトは時間が経過するごとにダメージが蓄積されていくように酷くなっていく。

 

「まだまだ青いわね、それだけの能力を持っていてもあなたの経験不足では私に勝てないわ。」

デューも体勢を立て直して参戦してくれるが、防御に回らない彼女に斬りつけても同様にヨツムンガンドをもらい、昏倒する。

 

「エルウインド!」デューに貰った僅かな隙にフレイヤに巨大な竜巻状の上位魔法を叩きつける、彼女には大きなダメージを与える事は出来ないが周囲の砂埃を巻き上げるので時間が稼げる。

デューになんとか近寄るとワープの杖を使い、脱出を図る。

 

「無駄よ!」フレイヤはショートソードでカルトに斬りつける、背中を斬られたカルトは転がり吐血する。

 

「くっ!」カルトは再び魔力をありったけぶつけようと解放を急いだ。

 

フレイヤはさせぬとばかりヨツムンガンドを放とうした時、デューが背後より剣を突き立てた。

「ぐはあっ!」フレイヤから初めて驚愕の声が響く、デューの一撃は必殺の一撃とも言えるものであり。彼の剣技により、カルトのリザイアの如く体力を奪っていく。

 

「いいぞ!デュー!離れてくれ!!」

デューは突き立てた剣もそのままに、一足飛びでその場を離れる。

 

「オーラ!」

カルトの最大顕現である光魔法がフレイヤに襲い掛かる。

光の柱が降り注ぎ、浄化の力がフレイヤを包み込んだ。

 

 

 

白い爆発が終わった時、二人の前にフレイヤの姿は見当たらずデューは右往左往としていた。

 

「やった、のかな?」

「いや奴は逃げたよ、転移の魔力が僅かに感じた。」

 

「そっか、じゃあ早く逃げよう!

早くしないとアグスティのお偉いさんがやってくるよ。」

 

「そうだな、これ以上は危険だな。」カルトは転移の準備に入りだすと、デューは看守室からカルトの押収された白銀の剣を渡した。

そして二人は転移の光に消えていくのであった。

 

 

同じ頃、マッキリーのクレメンテ司祭がノディオンのエルトシャン王の前に敗北し陥落した。彼はクレメンテ司祭を捕縛し、さらに北のアグスティに向かおうとしていた。

そこにカルトが合流したのは脱出した2日後の事であった。




カルト LV23
マージファイター(に近い)

HP 41
MP 62 ※ゲームには存在しないです、あくまで私の主観。
力 13
魔力 24
技 18
速 21
運 15
防御 11
魔防 15

剣 C
光 ☆
火 B
雷 B
風 A

スキル

追撃 連続 見切


魔法名 MP消費量
ウインド 3
エルウインド 5
ライトニング 4
リザイア 7
オーラ 9

ライブ 3
リライブ 5
リブロー 6
リザーブ ※ 人数と範囲による。
ワープ ※ 人数と距離による。
マジックシールド 8 杖を失った為、現在使用不能


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業火

ゲームでの2章ではノディオン救出からハイライン制圧までスピードを求める展開でしたが、小説にするとかなり厳しいですね。

話があちこち飛んでおります、混乱している方申し訳ありません。


傭兵騎団とシアルフィ軍の衝突はさらに激化する、複数の戦場で分散されたシアルフィ軍は数の有利には立てない為シアルフィの僅かな騎士団とシレジアの天馬騎士団のみとなった。

 

天馬騎士団は大きな損害を受けており、戦闘不能の者は北の台地の村まで退却し村の教会で手当を受ける事となった。残る天馬部隊とシアルフィ軍にて最後の抵抗を続ける傭兵達を掃討しているのだが、彼らは騎士団のような忠誠心はない。制圧すれば降参してくれるので命まで奪う必要はなかった。

 

アレクとノイッシュは戦意を喪失した者から順に戦線に離れるよう指示しつつ、抵抗を続ける者の排除にかかっていた。

そんな中、一人の傭兵が二人に向けて迫る姿を補足する。

明らかに戦意が強く、混戦となり敵味方が混じる中襲い来るシアルフィ兵を大剣で難なく斬り伏せ向かってくる。

 

ノイッシュは呼応するようにその傭兵へ向かい、剣を合わせる。その大剣の威力に落馬するのではないかと思われるくらいの衝撃を受けるがノイッシュもグリューンリッター入隊直前とまで言われた騎士、気力で押し返す。

(強い!こいつは・・・。)

 

「ほう、なかなかの腕をしている。だが!俺の敵ではない!」剣の受けを大剣とは思えぬ捌きでノイッシュの剣をいなしてしまうと、旋回した遠心力と併せて胴を払う。

ノイッシュは再び受けるが、その威力に剣を砕かれてしまう。衝撃で落馬し、受け身も取ることができなかった。

 

アレクはすぐに飛び出し、傭兵に斬りかかる。

彼の持ち味である連続攻撃に傭兵も攻めあぐねる、アレクは同じ場所で戦わぬよう変化をつけ傭兵の攻撃を封殺していく。

 

「貴様もいい腕をしている、だが無駄な事だ!」

傭兵はアレクの剣を剣では受けず、体をひねって鎧の厚い部分である肩口で受けたのだ。

そして返しの一撃をアレクはまともに受け、馬から崩れ落ちる。

ノイッシュはともかく、アレクは重傷であり一刻の治療が必要な状態となった。

 

アーダンは遅れながらその地に到着した時、アレクに止めを刺そうとしている傭兵に投擲の手槍で留める。

 

「ふっ、シアルフィ軍はこの程度か?俺の名はヴォルツ、俺の首を取れる者は出てこい!」

口上を述べながらも、迫り来るシアルフィ兵を倒していくその姿は悪鬼である。輝かしいシアルフィ軍はその一人の男の前に、誇りを奪われている。

ノイッシュは馬に騎乗し、部下から剣を貰うと再度ヴォルツに挑む。

 

「うおおお!」ノイッシュは馬ごと体当たりを食らわせると、全身の体重を乗せた一撃を打ちおろす。

ヴォルツも一瞬バランスを崩すが、そのうち下ろしには冷静に斬り上げにて止めると押し返さんと馬ごと前進する。

 

「さっきより出来るではないか、友をやられた葬いか?」

 

「・・・騎士であるが故、常に死は覚悟している。

しかし、シグルド様から死よりも思い使命を持っている。

それを果たすまで、私もアレクも死なん!」

 

両手で受けていたその剣を放棄する、力を失った剣は宙に舞いどこぞへと落ちる。ヴォルツはその軌道を一瞬目で追ってしまった、それは騎士が武器を手放す事はありえない。その経験が彼の思考にノイズを発してしまった。

 

その刹那を作り出すノイッシュの頭脳の勝利であった、先ほどアーダンが投擲に使用した手槍が地面に刺さる形で近くにある事を認識してでの武器放棄。

ノイッシュはすぐさまその手槍でヴォルツの腹部を貫いたのだ。

 

「ば、バカな!この俺が?」

ヴォルツは見開いた目の落馬する、手槍が彼の墓標となるかのように柄は天を向いていた。

 

「ま、まずい!ノイッシュ、このままではアレクが!」

アーダンはアレクを抱き上げて戦友の危機に吠える。

 

「アレク、しっかりしろ!」

「アレク!」

アレクは目をゆっくり開けると、笑顔を向ける。

 

「ノイッシュ、無事か?」

「ああ、君のお陰だ!」

「そうか、良かった。これでお前までやられちまったら、立つ瀬がない。」

「いいからもう何もいうな、すぐ治療に撤退させる。」

「いや、もう間に合わないさ。だから・・・。」

 

大きな影が三人を覆うと、天より人が舞い降りる。

「ライブ!」

すぐさま杖による回復を行い出した、シレジアのフュリーである。

 

彼女は頭上より、重傷者を見つけては回復して回っていたのだ。三人の騎士が喚いている現場を見つけファルコンの速度ですぐさま駆けつけた次第である。

 

「回復中お願いね。」相棒のファルコンに命ずると、聖獣は辺りの警戒をするかのように辺りを見回す。

 

「すまない、相棒は助かりそうか?」

 

「傷は深いけど致命傷はではないわ、私の魔法では時間がかかるけど大丈夫。」

フュリーの言葉に安堵する、戦場での油断は禁物であるがまた戦友と共にシグルド様にお仕え出来ることに喜びを感じた二人であった。

 

 

 

 

カルトとデューはノディオンへ転移した、幽閉されていたこの数日間での状況を確認するには最適な場はエバンスよりこちらであろうと判断した。

 

ノディオンにはエルトシャンかラケシスがいる、カルトはそう判断したが予想は外れている事をノディオンの衛兵から伝えられた。

カルトの思いとしてはシグルド公子と協力してアグストリアの内乱を鎮圧してもらいたかったのだが、エルトシャン王はその事に戸惑いがあるように伺えた。グランベルと共闘して王都であるアグスティへ赴く事は、他国の兵力を頼って反乱を起こしていると判断されるからであろう。

エルトシャン王はあくまで自身の判断で私の救出を行い、武力で持ってアグスティへ赴いてシャガール王を説得するつもりだろうと推測した。

 

強引な手法だが、騎士として生きるエルトシャン王なら採択する。カルトは思っていた。

 

「もう一つお聞きしたい、城内にホリンとアイラが滞在していたはずだが現在も続いこちらにいるのだろうか?」

ノディオンの衛兵に訪ねる。

 

「お二人は先ほどエバンスに向かわれました、急な用事だったのでしょうか急いでいる様子でした。」

衛兵の言葉にカルトは思案する、なぜこのタイミングで前線とは遠い地に急ぐ必要があるのだろうか。

衛兵より聞いた現状をもう一度確認する。幽閉されてからハイラインがシャガールの指示によりグランベル侵攻を反対するノディオンへ兵を送る、呼応してシアルフィ軍が対応して撃破する。

そしてアンフォニーは北の台地を荒らし、ハイライン攻略に疲弊したシアルフィ軍に追い打ちをかける。

シレジア軍は台地の荒らす賊を撃破し、その時にトラキアの竜騎士を倒した。

シアルフィ軍は傭兵で集めた騎馬兵団を撃破しつつ、マッキリーと戦っているエルトシャンを援護しようと軍を分けて向かっているのが現場である。

 

やはりエバンスに向かう事はおかしい、カルトは何度もその事案を検証する内に想像が浮かべる。

(エバンスにはディアドラがいる、暗黒教団の動きを察知して向かってくれているのか?)

その思考を浮かべるが否定する。ホリンやアイラにそれを察知できる事はできない、たとえ出来たとしても剣士だけで臨むとは思えない。ホリンはイザークでマリアン救出の件で理解しているからだ。

その時、シャガールの言っていた事を思い出しピースがはまるかの様に思いついた。

(トラキアとの協力関係、つまり竜騎士団の派遣か・・・。)

 

カルトは結論に至る、つまりエバンスを空から急襲し落としてしまう作戦なのだろう。

退路を絶たれたシアルフィ軍は本国からもたらされる物資を供給する事は出来なくなり、軍の維持が出来ず分解されてしまう事になる。

劣勢にたったシャガール王の残された手段と考えれば、十分に可能性のある手段だろう。ホリンとアイラは何らかの手段でそれを看破し、救援に向かったと判断する。

 

(エバンスに向かいたいが、マッキリーでエルトシャン王とシグルド公子にも会わなければない。どうする?)

 

カルトの思案は続くのであった。

 

 

 

 

「やってくれたわね・・・。」フレイヤはとっさの判断で転移の杖を使い、致命傷になる前にイザークのリボーヘ逃げ帰る。

あと少し、転移が遅れていれば間違いない抹殺されていた。衣服も無残に焼け落ち痛ましい火傷のような後が激痛となり彼女の精神力を奪うが抗い回復を行う。

リカバーの光が灯り、彼女の傷を癒していくが治りが遅くしばらく動けそうな気配がなかった。

 

「くっ、あれだけの潜在能力があれば奴はナーガの力を使いこなせるだけの器になる。倒し損ねたのは痛手になるかもしれないわね。」彼女のつぶやきは闇の中で響く、しかし彼女の言葉とは裏腹に、表情は笑みを浮かべている。

 

「ほう、やはり奴はナーガの血を持つのか?」

「・・・誰?」その声にフレイヤは暗闇に向かって話す。

 

ここは暗黒教団のアジト、マンフロイ様か幹部の一部しか知らされていない場所にその声は意外すぎてそう答えてしまう。

足音が徐々にフレイヤに近づいていき、その姿を見たとき核心に変わる。

 

赤い髪を持つ青年、その目は闇を照らす赤い瞳を持つ筈が冷たい光を発している。

「アルヴィス様、何故ここに?」

幹部の誰かが招き入れたとは考えられない、ではどうやって・・・。一つの可能性を示唆しすぐに言い示す。

「私の転移を追ってきたのですね?」

 

「察しがいいな、貴様の魔力を感じたのは偶然だが追ってきて正解だったよ。

お前ほどの術者がここまで追い詰められた、それが奴だという情報が手に入った。」

フレイヤは状況に冷静になり、再び笑みを浮かべる。

 

「カルト様は想像以上のお方ですわ、おそらくアルヴィス様をも超える可能性を持つ器となるでしょう。」

 

「ほう、私がカルトに劣ると・・・。そう言いたいのだな?」

 

「器と述べただけですわ、それを使いこなすも持て余すのも彼次第。

それに、彼はナーガを降臨させる機会はないでしょう?」アルヴィスに向けた笑みは明らかに挑発である、アルヴィスはその笑みを笑みで返し挑発に乗る。

 

「ああナーガもロプトウスも要らぬ、要る者はこの世界を正しく導く強者である私だ。

世界に激動の時代が来たのだ。お前たち教団は聖戦士マイラの為に働いてもらう、そしてお前達も含めた全ての民が平等に暮らせる世界を作って見せる。それが私の正義であり、信念だ。」

 

「素晴らしいお考えです、これで私達も地下の神殿で怯えて暮らす教団の子供達もなくなりましょう。どうか、アルヴィス様の力でお救い下さい。」

 

「見ているがいい、本日で持ってグランベルは斜陽の国となり新生グランベルへと変貌する。」アルヴィスは右手に焔を昂ぶらせる、その炎は全土を焼き尽くす業火となる種火である事を揶揄していように思えてならないフレイヤであった。

 

 

 

街道を急ぐ。

数日前におびただしい騎馬がノディオンに駆け抜けた道を逆に向かう二人の剣士のホリンとアイラ、息も絶え絶えだがその足を止める訳にはいかない。

 

目的地のエバンス城には、数体のドラゴンナイトが飛び交い今にも攻め入ろうと旋回している所に炎と風が飛び交い妨害する。

シアルフィの連合軍は連戦で疲弊した魔道士部隊がエバンスに帰還した直後に襲われた。魔法にて空中のドラゴンナイトに対応しているが旋回して回避し、間隙を持って手槍で応酬していた。

 

目的地は見えているがなかなか到達出来ない事に苛立ちを感じつつ急ぐ二人、間に合ってくれと願わずにはいられない。

セイレーン夫人であるカルトの妻は魔法を使えないと聞く、失えばカルトの悲しみは計り知れない。

ホリンにはアイラとシャナンの事がある、カルトからイザークの私達が戦闘に参加すればグランベルの不利になるという事でアグストリアに送られたがこれ以上黙ってられなかった。それはアイラも同じである、二人は兜を被ってイザーク特有の黒髪を隠してエバンスに向かう。

 

「ホリン、どうだろうか。このままではやはりエバンスは落ちてしまうのか?」

 

「落ちるだろうな。連戦での疲労もあるがエバンスにいる部隊は負傷兵が多いそうだ、比べてトラキアの部隊は常に戦を請け負っている、特に攻め落とす経験は豊富だ。まず勝ち目はないだろう。」

 

アイラは舌打ちをする音が聞こえる。よほど彼女も恩義を感じているのだろう、イザークの民は義に義を尽くす事が信条としている。ホリンは少し笑みを浮かべると速度を上げる。

 

 

「エスニャ様!お逃げくださいまし。エーディン様が転移の杖を準備しております。」侍女がエスニャの手を引いて広間にいるエーディンの元へ急がせる。

 

エスニャはその場に止まり、侍女に問いかける。

「待って!貴方達はどうなるの?エーディン様もここにいるのですよ。私一人を逃がすつもり?」

 

「万が一の処置です。私達もシアルフィのグリューンリッターを目指す隊員、簡単に奴らの思うようなさせません。

エスニャ様はシレジアにとって、カルト様にとって大切なお方。ディアドラ様と共に退避をお願いしています。」

 

「・・・私はカルト様の妻でありますが、フリージの公女です。グランベルへの侵攻を防ぐ為に私にも戦う義務があります。ディアドラ様をシグルド様の元へお送りして下さい。」

 

「しかし・・・。」侍女はエーディンの命を受けてエスニャを説得するが、彼女は聞き入れる様子はない。困り果てた所に更に追い打ちをかける事態をおそう。

 

「私も必要ありません。」

そこへディアドラも現れる、彼女も覚悟を決めているのか魔力を解放させ応戦の準備を終えている。侍女は困り果てて一緒に現れたエーディンを見るが彼女もディアドラの説得に失敗したのか首を横に振っている。

 

「逃げる事よりみんなでここを突破しましょう、勝てる戦も勝てなくなります。

それにここにはアゼル公子もシレジアの魔道士部隊も戻ってくれています、きっと打開策はあります。」

まだ魔力が完全に戻らないエスニャは奮起の言葉をかける、それは自身にも戒める言葉である。

 

(カルト様、必ずまたお会いしましょう。)

 

強き意思を持ち彼女は拳を固めるのであった。



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演舞

エバンスの城内戦闘を描きました。

かなり、表現が難しく無理のある展開かと思いますが暖かい目で見ていただけたらと思います。


エバンスでの防衛戦は苛烈する。

クブリの指示の元でシレジアの魔道士部隊が空から侵入を試みるドラゴンナイトに風の魔法で迎撃し、ドラゴンの背に乗せられ城門から侵入を図るトラキア兵はジャムカの部隊が死守する。

 

ドラゴンナイトは約15体、その背に乗り降り立ったトラキア兵は40名程であるが空と地からの攻撃にさらに部隊を分断されてしまい苦戦する。

城内には負傷兵や、救護兵などの非戦闘員が多く戦えるものは少ない。この度のアグストリアの戦いはほぼ全軍を投入さなければいけない程、時間と人数の戦いだった。騎馬兵が圧倒し、徒歩部隊が制圧する形でアグストリアを進んだので守備に回す部隊が極端に少なくなっていた。

ノディオンの山林にいたジャムカの部隊だけでも戻り着き、守備に回れた事だけでも御の字である。

 

トラキア兵を弓で屠っていくがジャムカの部隊は先のヴェルダン戦にて僅か11名にまで減っている、いかに少数精鋭といえどもこの戦力差では地上戦はトラキア兵に軍配が上がるのは時間の問題であった。

 

「ジャムカ様、このままではここは落ちます。一先ず引いて城内で迎撃しましょう。」

 

「・・・・・・致し方がないな、城内なら狙いやすい。

撤退するぞ!」ジャムカの号令で弓を射掛けつつ、後退準備に入る。一気に雪崩れ込まれるとこの前線を突破する可能性がある、奴らに後退を見せない様攻めの姿勢を維持に努める。

 

 

 

城門付近ではその駆け引きがなされる中、とうとう辿り着いたホリンとアイラは剣を抜き放ちトラキア兵の群集に飛び込んだ。

「な、なんだ!」トラキア兵が突然の訪問者に戸惑う中、二人は一瞬にして三人を斬り伏せる。そのあまりの早業にトラキア兵は誰一人として反応出来ず、斬り伏せられた3名は痛みを感じる事なく絶命したであろう。

 

「なんとか間に合ったな。」ホリンは隣の相棒に囁く。

 

「ああ、ここからはおしゃべりは無しだ。ここを突破して、上に行くぞ!」

 

トラキア兵が構え出す時には二人は再び行動に移す。アイラの神速の疾さにトラキア兵は次々なす術もなく倒れ、ホリンの前に防御は無駄であり剣ごとトラキア兵を両断してしまう。

二人はヴェルダンの頃よりさらに剣に磨きがかかっており、トラキアの雑兵如きで二人を止める事はもはや不可能であった。

なんとか背後を取り、攻撃に移ろうとしても後方にいるジャムカの部隊が弓での支援を行い二人は目の前の敵にだけ集中できる。

 

「ホリン、ここは私に任せろ!上のドラゴンナイトを倒すにはお前の力が必要だ。行け!」

アイラは残りのトラキア兵、約20名を相手にすると宣言する。ホリンは逡巡するがアイラの実力はよく知っている、一つ頷くと城内へ飛び込んだ。

 

「同行しよう!」ジャムカもホリンと並走する。この場はジャムカの部隊とアイラに任せ、二人はバルコニーのドラゴンナイトを相手取る為に向かった。

 

最上階では魔道士部隊による牽制でドラゴンナイトがバルコニーに近寄る事が出来ずにいた、しかしトラキア側の動きには動揺はなく執拗に近づいては魔法を発動させると距離を取るを繰り返すだけであった。

 

ドラゴンナイトの面々にとって魔法による攻撃を嫌う、天馬と違い圧倒的な攻撃力を誇るが魔法防御は皆無に近い。

まともに受ければドラゴン諸共やられてしまう事もある、それ故に対処方も熟知していた。

今回に置いては、魔法を誘発させて魔力切れを狙っているのは明らかである。しかし魔法を使わねば侵入を許す事となる、そのジレンマがシレジア魔道士部隊を苦しめていた。

隊長であるクブリはその打開策にエルウインドにて一掃を狙ったが、一体ようやく撃墜できたに過ぎなかった。

 

「クブリ様!一部の魔道士が魔力切れを起こし始めました、あと数分と持ちません。」部下の魔道士が息も絶え絶えにクブリに報告する。

 

「先程階下にホリン殿とアイラ殿が入城してくださった。あと少し持ちこたえるだけでいいんだ、皆最後の魔力を振り絞れ。シレジア魔道士の意地を見せるんだ!」

クブリは珍しく大声を張り上げる、彼はここにカルトが来ない事を知っている。いや、ここに来ない様に言ったのは他ならぬクブリである。

 

今この場で運命として諦めた者はいない。非戦闘員でさえも武器を持ち、癒し手でない者も命を必死でこの場に繋ぎとめようとして重傷者の看病をしている。

頼りないかもしれない、この地を奪われるかもしれない。しかし今は一刻も早くアグスティを攻め落とし、この醜い内乱を終わらせて欲しい願いが皆にある。カルトを前線で活躍させる事が出来れば、シグルドを助け早期解決に結びつくと信じていた。

 

《ここは、この地にいる者で防衛して見せる!》

この気概に水を差す事は出来ない、クブリはそう感じカルトにそのまま前進を願った。

 

 

 

城内の謁見の間ではエーディンとディアドラが次々と運ばれてくる怪我人の看護に当たっていた。もともと負傷兵の治療に加えこの度の戦闘にてさらに負傷者が続出する、エーディンは連日の治療にて気力を失い魔力も枯渇しようとしていた。ディアドラの魔力はまだ残っているらしく、リライブを続行している。

 

(なんて魔力量をもっているの、クロード様と同じ?いえ、それ以上かも・・・。)

エーディンは感嘆する。彼女も聖痕を持つ聖戦士の末裔であるがウルは魔法に秀でた者ではない、言えば魔法の才は常人と変わりないのだ。

クロードやアゼルの様に魔法の才が聖戦士からくる者を凌駕するディアドラの魔力にエーディンは疑問を持つのであった。

 

「重傷者です!エーディン様、ディアドラ様お願いします!」さらに一人瀕死の者が運び込まれる、エーディンは枯渇する魔力を振り絞りリライブを放つ。

 

(もう少し、もう少しだけでいいから。お願い!)

彼女の願いも虚しく、リライブの光はもうライブ以下の効力となる。儚い光は今にも消え失せ、彼女の心を折ろうとしていた。

ディアドラも今瀕死の者の治療に手が離せない、エーディンの絶望はこの者の命運に直結する。彼女はもう一度高らかにリライブを放つ、僅かな光が再び重傷者を照らすが搔き消えようとしていた。

 

この絶望的な野戦病院に全くそぐわない状況が訪れる。突然の歌声が謁見の間に広がる、エーディンはその声量の方へ向く。

謁見の間にある玉座の前に一人の少女が立っていた、とても外で歩けない露出の高い衣装を纏った少女が歌を歌い踊りを踊り始めていた。

不謹慎と思えるその行動だが、エーディンを始めその場にいる者全てに変化があった。

 

それは『心』である。

絶望的なこの状況下でも勇気が湧き、挫かれた心が癒されていく。重傷にて呻き、苦しんでいる者達までその歌を聴き静まりかえる。

 

そして『精神』

尽きかけた魔力が徐々に癒されていくような感覚、エーディンのリライブは息を吹き返し淡い発光を取り戻す。

 

当初は不謹慎極まりないと思っていたエーディンはいつの間にかその歌と踊りを続けて欲しいと思うようになっていた。

 

(彼女は一体?)

 

そんな不思議な踊りをディアドラは知っていた、精霊使いのごく一部の者が使用できる踊りの中にマジカルステップと言われる心身に影響を与える魔法がある事を・・・。

この踊りを使える者は魔法の才と、踊りとして表現できる才能を併せ持たないと出来ない特殊魔法である。あの年で扱える彼女には特殊な能力を別に秘めている事を感じ取っていたのであった。

 

 

トラキア兵のドラゴンナイト、今回の隊長に任命された男は魔力の枯渇を狙ったヒットアンドウェイを繰り返しここらが攻め時と感じ取る。

先程まで勢いよく飛び出してきた風の魔法は現在途切れ途切れであり、威力も数段弱まってきていた。もはや至近距離で受けても防御可能と判断した隊長は全員に総攻撃を命じた。

 

前衛の五体のドラゴンナイトが滑空してバルコニーの縁に鉤爪をかける、魔道士共は室内に逃げ込んだと隊長は思い後続のドラゴンナイトにも前進を命じようとした時、事態は一変する。

 

「トルネード!」

前衛五体のドラゴンナイトは地上から伸びる竜巻に巻き込まれた。その凶暴な風にドラゴンですら逃げ延びる事は出来ず、ただきり揉むように内部で蹂躙されている。

そして竜巻内には無数の真空の刃が飛び交い、ドラゴンはずたずたに切り刻まれていく。

 

クブリの最後の力を振り絞った悪足搔きであった、半数のドラゴンナイトを屠ってもまだ半分残っている。魔道士を抹殺するには充分な数である。

しかし、ここで半数倒せば後に訪れるホリンとアイラが有利になる。彼等ならきっとここを護ってくれる、その想いを胸に最後の力を使った攻撃であった。

クブリは魔力の枯渇で立っていることもできず、その場に倒れる。トルネードを使用中に部下を階下にも撤退させてある、血を流すのは自分だけでいい。薄れゆく意識の中彼はそれに満足し、瞼が閉じられていった。

 

(カルト様、ご武運を・・・。)

 

 

トラキア兵ドラゴンナイトの隊長はその後に魔法の追撃は無くなった事で最後の攻撃と判断する、半数を失いトラバント王より厳しい叱責を受けるであろう。

 

これ以上叱責を受ける訳にはいかない、隊長は我先にとバルコニーに向かう。やはり追撃の魔法は来ない、この怒りを敵兵に向かわせるべく速度を上げる。

 

 

バルコニーに到着した隊長は、すぐ内部で倒れているクブリを見つける。

 

「貴様か!よくもここまで我が兵を殲滅させてくれたな!」ローブを掴み持ち上げる。クブリはまだ15になったばかりの少年、隊長はその重みでまだ成人ではないと判断しローブの頭部を破る。

 

「まだ子供ではないか、あの魔法をこいつが?

・・・子供だが容赦はせん、死ね!」

隊長は鋼の剣を喉元に突き立てんとするが、その動作を止める。背中に冷たい金属を突き立てられ、恐ろしい殺気を放つ存在がいたのである。

 

「よく止めてくれた、感謝する。」

「貴様、何者だ。」隊長は背後の者に、少年を渡すと一気に後退し仕切り直した、受け取った者は兜を脱ぎその姿を表す。

 

「我が名はホリン、イザークの剣士。」

「イザークの?まさか、残党がこの地にいるとはな。」隊長は飛び込み、剣を交える。

 

ホリンはその力比べを難なく受ける、力の差が歴然でありトラキア兵は両手で押しているがホリンは片手で止めており空いた左手で拳打する。

隊長は強かに右頬を打たれるが、後退しバルコニーに戻る。待っていたドラゴンに飛び乗ると空に戻り、追ってきたホリンに突撃をかける。

 

「我はドラゴンナイト。卑怯とののしるなよ!」長槍を装備してせまる。

ホリンはその突撃に対応する、ホリンも走り距離は一気に詰まる。

 

長槍を突き出す隊長、ホリンはそれを下に躱す。上体を後方に逸らして槍を躱し、そのままドラゴンの下へ潜り込む。

 

隊長は取り敢えず、今回の突撃は躱しただけと踏んだ。

ドラゴンナイトを相手にする場合、ドラゴンではなく騎士を狙うのがセオリー。下に潜り込んでは騎士を狙う事など出来ない、そう思い込んだ。

しかし、隊長の思惑は間違いであった。今まで経験豊富であった彼もホリンの様な男を相手にしていなかったのだろう、彼の規格外を計算する事は出来ない。

 

「ぐはああ!」隊長はドラゴンの背から生える大剣を胸に受ける。ドラゴンはその一撃にバルコニーで咆哮をあげてのたうちまわり、動かなくなる。隊長はそのままバルコニーに叩きつけられ再び吐血する。

 

「なぜだ、硬い鱗を持つドラゴンを一撃で・・・。それも俺ごと・・・。」

 

「悪いな、俺の剣の前では硬さなど関係なくてな。」

ホリンは血で濡れた剣を二度振って落とすと再び背に掛ける。

 

「イザークの、秘剣というやつか。」

「卑怯とののしるなよ。」

 

「ふっ、見事だ。貴様にドラゴンスレイヤーの異名を贈ろう。」隊長は頭を床に落とす、そしてその頭は二度と上がる事はなかった。

 

ホリンは周りを見渡す、十数体いたドラゴン姿を消しており今や上空には一体のみとなっていた。

そのドラゴンも攻撃を仕掛ける様子はなく、上空に停滞している。一体状況はどうなった、ホリンは見上げて警戒を続けるのであった。

 

 

 

時を少し遡る、トラキアの隊長がホリンと戦いを始めた時残りの4体は後に続いた。

しかし、それを止める者がもう一人いた。

ヴェルダン国において右に出る者がいない弓の名手、サイレントハントの異名を持つジャムカである。

足音を殺して、ホリンと隊長の戦いをすり抜けた彼は後続のドラゴンナイトに狙いを定めた。

バルコニーにいるドラゴンの存在に気付き、跳躍で隣の小さなバルコニーに飛び移ると先頭で滑空する騎士に無慈悲な一撃を見舞う。

 

心臓を撃ち抜かれた騎士はドラゴンの背より落ち、ドラゴンは野に帰っていく。

 

残り三体は一度旋回し、敵襲に警戒する。

それでいい、ホリンの邪魔をしなければ無理に矢を放つ必要はない。ジャムカは再び跳躍して同じ場に残る事を止めた。

 

残り三体は矢に射抜かれない様にとどまる事を止める、作戦の立て直しを考え始めていた時に事態は動く。

 

一体のドラゴンに突如少女が乗り込んだのだ、騎士は不意を突かれ腰の剣に手を当てるが少女はそれよりも早く一閃する。騎士はその一撃を交わすがドラゴンの背より落ちていく事となる。

 

「な、なんだと!」2体のドラゴンナイトは驚き、攻撃する事も忘れてしまう。その間少女は野に帰ったドラゴンが暴れ出し始めてその背から飛んだ。

どこに飛ぼうとするのか、もちろん少女の飛ぶ先は真っ逆さまの地面のみである。

その瞬間に上空より滑空するドラゴンが少女の足元に追い付くと背に乗せる。

 

「な、あれは・・・パピヨン様のシュワルテ!」

「ま、まずい。あのドラゴンは・・・。」

彼らが恐ろしい事を口走る前にその事が起こる。

少女のドラゴンは顎を開くと、燃え盛る火炎が彼らに浴びせられた。

ドラゴン諸共、直撃を受けた2体のはそのまま地面に落ちていくのであった。

 

「あれは、確かカルトのとこにいる女だったな。」

ジャムカはつがえていた弓を元に戻し、安全となったこの地を示す信号弓を空に放つ。矢尻の代わりに穴の空いた特殊な先端の矢は「キュー」という音を立てながら勝利の合図を送るのであった。

 

それは、ホリンが隊長を倒し終え上空を見上げて間も無くの事であった。




すべてのドラゴンが炎を吐けるわけではありません。
飛竜は本当のドラゴンから飛ぶ事に進化し、本来のドラゴンから見れば劣化種とされております。

一部のドラゴンにかつての能力が残っている種もいます、今作ではパピヨンの飛竜がそうなります。


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轟雷

ようやくアグストリア編の前半も終局を迎えつつあります。
やはりキャラ数が増えるに従って活躍の場を失う者が多くなり悲しくなってます。

当初では、もっとシグルドやフィン、アゼルも活躍する予定でしたがボリュームが多くなりすぎる事と、約二週間から一ヶ月の周期で更新しているこの小説では先に進まず無理がありまして泣く泣く割愛している部分があります。

できれば外伝などで追記していきたい、と思っていますのでこんなストーリーとかを幕間に入れて欲しい等がありましたらどしどし感想頂ければと思います。

今回もあまり物語は進みません、申し訳ありませんがお願い致します。


トラキア兵を退けたエバンスでは第2・第3の攻撃に備え負傷兵の治療と人員配置を急がれる。エバンスにいる諸侯達はその手配に追われ、まさに不眠不休の対応となる。

 

魔力の制御ができないエスニャはこの度参戦できずエーディンと共に重傷者の支援を行っていた。彼女も城内でみたあの踊りに心を奪われ、何も出来なくても出来る範囲で役に立つ事をと奮起していた。今は負傷者に使う水が尽きそうになっていた為、城内を出て水を汲み採りに向かっていた。

 

これで3往復しただろうか、しばらくの水を確保したかったので台車を引き奮闘する。この辺りの井戸水は地質の影響なのか水の溜まりが悪い、雨が降れば数日は汲み上げあれるがそれ以降は枯れてしまうのだ。

エスニャは台車を引いてユン川まで赴き数個ある樽に水を入れての往復をしていた、公女であるエスニャにとってこのような事は経験がないが今自分に出来る事はこれくらいしか出来ない。

重傷者の看病をしてもエーディン達の様に癒す事は出来ず、魔道書を持って戦う事も出来ない。

 

台車を押しながらあまりの不甲斐なさに涙が溢れる、折角あの魔法の踊りで勇気を得たのにまた心が弱くなる。彼女は健気にも涙を拭き取り再び歩き出す。

 

街道に車輪の音を立てながらエスニャは額に汗を滲ませて引き続ける、グランベルにヴェルダンダンが侵攻した時は春先であったが今はすっかり初夏の装いを見せていた。

夕方近くになり森からは夏の始まりの象徴であるヒグラシが鳴き始め、途中に見る畑からはカエルの歌が聞こえてくる。

エスニャは時の移ろいを感じ感慨に耽る。この僅かな時間の中でカルトと再会し婚儀を行った、姉さんに報告の手紙を出した時の返信は驚きよりも納得であったのが意外であった。

 

父上であるレプトールは、姉さんと私にはあまり興味がないようで手紙を出しても返答はなかった。悲しく思えるがそれは予想は出来ていて、父上は直系の血を継いだブルーム兄さんにしか興味がない上に自身も野心が強すぎるのだ。

私たち姉妹は政略結婚の道具位にしか考えていない、だから姉さんも私も不自由ない生活であるが家を飛び出したんだろうと今になって思えてきた。

姉さんも現在エッダのクロード様の元に押し入るようにして滞在している、さぞクロード様は迷惑しているのだろうと思ってしまいクスリと笑みを浮かべしまった。

 

 

その時、街道の脇の茂みより人影が勢いよく飛び出す、エスニャは小さい悲鳴をあげてしまう。

それは仕方がないだろう、彼は全身に火傷の跡があり苦痛の表情で飛び出してきたのだ。

 

「くそ!シュワルテめ!!トラバント様に報告して連れて帰ってやる。」

エスニャはその言葉と姿でトラキア兵の生き残りと判断する、そっと護身用に吊ってあるショートソードを確かめる。

 

「なんだ貴様は・・、それは水か!よこせ!!」

トラキア兵はエスニャを突き飛ばし樽の一つに顔を突っ込み荒々しく水を飲む、そして全身に水を浴びかけて火傷を冷やす。

 

「あ、あなたトラキア兵ね。その水はあげるからさっさと帰って下さい!」

 

「なに?女一人が虚勢を張りやがって、こんな火傷を負っていても貴様くらい始末できる力は残ってるぜ。」

エスニャは一歩退く、魔法が使えればドラゴンナイトとはいえ飛竜を持たないトラキア兵など雑兵に過ぎない。魔法を使えないエスニャは非力な女の子でしかないのだ、今は魔道書を取り出して牽制するしかない。

トラキア兵はその動作に魔道士と判明し、警戒する。

 

「貴様、魔道士か?なぜそんな奴が水など運んでいた。」トラキア兵は退く仕草をし、質問する。

 

「あなた達のお陰でエバンスも人手不足なの、身分など関係ないわ。」

トラキア兵が後退をゆっくりする中、エスニャは魔道書を掲げながら動向に警戒する。

 

(お願い、あきらめてこのまま逃げて・・。)

必死に眉が落ちそうになるのを必死に堪えながら吊り上げを維持する。少しでも油断すれば気弱な顔になりそうだ、駆け引きを有利にする為仕草も表情も凍りつかせる。

 

緊迫した場が続く中でトラキア兵は後退を続けながらさきほど水を飲み、体に浴びせて落とした樽まで辿り着く。

その樽を一気に蹴り上げたのだ、エスニャその樽を交わすがその間にこちらに飛び掛かった。トラキア兵は魔道書を持つ右手を掴みエスニャの身体を抑え込んだ。

 

そして彼女の腰にあるショートソードに手を掛け、鞘から抜き出しすと彼女の首元へ刃を向けるのであった。

 

「形勢逆転だな、このまま殺されたくなかったら魔道書を捨てろ。」

血の気を失ったエスニャは右手の握力を抜いて魔道書を離す、トラキア兵はすぐにその魔道書を放り投げると草場に紛れていった。

 

「へへ、お前いい匂いがするな。」

抑え込んでいるトラキア兵はいつの間にか欲情に当てられ、戦いとは違う雰囲気を発していた。火傷を負っているにも関わらずその欲望をぎらつかせているトラキア兵にエスニャは戦慄する。

 

「や、やめなさい!それ以上私に触れれば舌を噛みます。」

 

「・・・やってみろ!死体になっても気にしねーよ。」

トラキア兵の下劣さに嫌気がさす、エスニャは涙を浮かべて抵抗を試みる。

 

「どっちに転んでも犯されるんだ、諦めて楽しもうや!」

草むらに連れてこられ再び暴行せんと襲いかかる、彼女は水を汲み上げエバンスを往復している為既に力が出なくなっていた。抵抗する力がなくなりなすがままになりつつあった。

 

生きても死んでもこの男に身体を蹂躙される事にエスニャは絶望する、そして彼女は心の奥底から怒りがこみ上げてくる。

(どうせ死ぬなら道連れがいいかな、カルト様ごめんなさい。)

彼女はこみ上げる怒りに任せ、すべての魔力を解放する。

その暴れ狂う魔力にトラキア兵は吹き飛ばされ、木の幹に叩きつけられる。

 

「な、なんだ!?何か・・・。」トラキア兵が見たものは恐ろしいものであった。

 

先程までいた彼女の表情は打って変わって怒りに燃え上がり、体から雷がスパークした魔力を体を覆っていた。

以前魔力が変質したしまった直後ヴェルダンで魔力を解放させた時は自身を傷付けた、今は雷が意思を持っているかのように彼女に放電する事は無く辺りの空間に向かって放電していた。

亜麻色の髪は逆立ち、スパークの光を受けて金色に見える。恐らく雷からくる電気が髪に移ってしまい帯電し、逆立っていると思うのだがトラキア兵から見れば彼女の逆鱗に触れてしまいこの様になったと思うだろう。

トラキア兵はショートソードを振る様にして彼女に対抗しようとする。

 

「あなたの勝手な振る舞い、許しません!」

彼女が右手を上げると何処かにやられてしまった魔道書が意思を持つ様に浮かび上がり彼女の手に収まる、そして怒りの鉄槌が打ち込むべく右手を突き出す。

 

「トロン!」

夥しい放電が彼女から放たれる。エルサンダーの数倍とも言える雷がトラキア兵に放たれ轟音が響く、それはまさに怒りの裁き。

トロンはサンダーやエルサンダーのように自身の魔力を雷に変えるだけでは無く、自然界に帯電する電気を魔力で呼び寄せて一気に放つ魔法である。その威力は自然界に発生する雷にほぼ等しい、受けた者は一瞬で黒炭に変わる。

トラキア兵もその例外ではなかった、トラキア兵は言葉を発する事もなく黒炭となり倒れ込んだ。

 

超魔法を放った後我に還る、突き出した右手や体を確認して自身の変化を確認しても以前のように身体をにダメージを負っていなかった。

魔力も増している上にカルトの瀕死から救う為無理に魔力を変質させて使ったままにも関わらず、魔法を使役できた事に驚きを隠せない。

 

懐よりエスニャは杖を取り出すと「ライブ」を使用する。トラキア兵に突き飛ばされた擦り傷が癒されていく、やはり彼女の魔力は変質したままである。

 

「私は、一体・・・。どうなったの?」

 

「殻を破ったんですよ。」

 

エスニャは振り返る、そこにはマリアンとクブリの姿であった。

「申し訳ありませんエスニャ様、まさかあなた自らみずを汲みに行ってるとは知らずに遅れてしまいました。」

 

「いえ、私が勝手にした事ですから・・・。それよりクブリ、先程言いました殻を破るとは・・・。」

 

「簡単な事ですよ、あなたはもともとそれくらいできる資質を持っていたのです。無理に使えない魔法を使った訳ではなく、眠っていた力を無理に使った事による反作用で魔力を持て余していたのですよ。」

 

「これが、私の?」

 

「はい、このまま才能の大きさに使いこなせない方も多いそうですがエスニャ様は見事に使いこなせました。

カルト様は意外に脆い部分をお持ちです、それを支えてあげる事が出来るのはエスニャ様だけのように思えてなりません。どうかカルト様をお願いします。」

 

クブリは深々と頭を下げエスニャに敬礼する、主従関係では解決できないカルトの心情を理解する事が出来るのはエスニャだけと判断するクブリの気持ちが伝わりエスニャは同意に笑みで返す。

 

「クブリのような部下を持ったカルト様は十分幸せだと思います、そして私も・・・。エバンスを頼みます。」

 

「はい・・・お気をつけて。」

 

エスニャは杖を取り出し魔力を込める、虹色の魔方陣を発し姿を消すのであった。

 

 

 

 

マッキリーを制圧したノディオン軍に追いついたシアルフィ軍は共闘する為にエルトシャンと謁見する。

彼の目的であるカルトの救出と内乱の解決、そしてグランベル進出への阻止が残っている。

エルトシャンは話し合いに応じないシャガールに対する次の手はアグスティの軍部を撃破した上での話し合いをする事としていた、武力が無力化されればグランベル進出は出来ない上にアグストリアに残った戦力はエルトシャンのみとなる。意見を聞き入れるしかないと読む。

 

もうじき北の要塞であるシルベールよりエルトシャン直轄の精鋭であるクロスナイツが到着する、アグスティの精鋭騎士団であっても引けは取らないがその戦いは今まで以上に過酷な戦闘になる事は明白であった。

 

エルトシャンはシグルドの共闘は拒否しこのままエバンスへ撤退するように進言していた。二人の意思は平行線を辿っていた中、事態を進める者が乱入する。それは幾多の問題を解決に導いてきた者の帰還である。

 

「カルト!よくぞ無事で・・・。」

シグルドの労いにカルトは笑みで送りエルトシャンに向き合う、エルトシャンも笑みを讃えカルトへ歩み寄る。

 

「カルト公やはり無事だったか、貴公はあの場でやられるような器ではないと信じていた。」

 

「ああ、少しばかりやばい事態があったがなんとか切り抜けてきた。

エルトシャン王、シグルド公子と共闘してくれ。もうこの問題はアグストリアだけの問題ではないんだ。」

 

「どういう事だ。」

 

「恐らくどのような状況でシャガール王を説得しようとも無駄だ、裏でロプト教団がシャガール王を操っている可能性がある。」

 

「ロプト教団が、噂には聞いているが教団ごときが国に入るこむ事は可能なのか?にわかに信じがたい話だ。」

 

「俺はイザーク、ヴェルダン、そしてここアグストリアと来ているが各国で奴らは不穏な行動を取っている、その国の重要となる人物に接触して争いの火種をつけて回っているように感じている。

ヴェルダンではバトゥ王の子供を助ける口実で入り込み、彼を洗脳してグランベルに侵攻させた。

ここアグストリアでも、エルトシャン王を救出した後に地下牢で奴らと接触して確認した。

エルトシャン王、その上でもう一度進言する。協力させてくれないだろうか?」

 

「エルトシャン、頼む!私もここで君を失いたくない、友として共闘させてくれ。」

 

「兄様、私からもお願いします。もう、この国は私達で処理できる問題を越えてます。

ここでもし私達がシャガール王を止めてもシグルド様達がここまで来ている以上、共闘を示さないとこの後禍根が残ります。」

 

エルトシャンは黙り込み目を瞑る、彼はやはり周りが説得を試みても自身の決断をする以上考えを止めるわけには行かない。

長い沈黙を経た後、彼は決断する。

 

「シグルドすまなかった、俺達は士官学校の頃に約束した事を違える所だった。国を背負うと簡単な事が見えなくなるのだな、シグルドやカルト公を見ていると原点が見えて行動しているのだな。俺もあやかろうと思う。」

 

「兄様・・・。」ラケシスはその決断に安堵する、黙って見つめていたキュアンでさえこの時は笑顔を見せるのであった。

 

「しかしだ、シグルド。もしアグスティの軍を破ってもシャガール王の処断は許さない、身柄は私に任せてもらう。これだけは譲れんぞ。」エルトシャンの鋭い眼光がシグルドを襲う。

 

「もちろんだ、私は君が無事であるなら何も言う事はない。アグストリアの国政事情は君に任せる。」シグルドの言葉にエルトシャンは満足したのか、立ち上がり配下に伝える。

 

「よし!まとまった所で軍議を行う!

我がノディオンのクロスナイツとシアルフィ軍が加わればアグスティとはいえども負けはしない。」

 

カルトは士気が高まっていくこの場に置いても1人深く思考の中へ入り込む。

ロプト教団がアグストリアに入り込み、ヴェルダン同様何か策略を張り巡らせているが全容がまだ解らない。

奴らは何を企み、ここで何をしようとしているのかまだカルトには解らないでいた。

ロプト教団がディアドラを狙うのは間違いない、それはマイラの血から暗黒神ロプトウスの復活は見えている。だがそれだけでは弱かった、今までこの100年間マイラの子孫は残っていた筈なのになぜ今の世になって彼らが活動し始めたのか、そしてそれは何を意味する事なのか、それが突き止められなければ予防策も対抗策も得られない。

カルトは確実に真実に近づきつつある、しかし決め手に欠けるその情報に不安感が募るばかりであった。

 

アグストリアの決着は近い、この決着は今後の未来を左右しなねない一戦と心に誓うがその暗雲は晴れずにいるカルトであった。




エスニャ

LV 14

マージファイター

雷 A
炎 B
風 B

HP 39
MP 49
力 7
魔力 19
技 18
速 15
運 14
防御 4
魔防 13

スキル
連続 怒り 必殺

魔法

サンダー 3
エルサンダー 5
トロン 12

ライブ 3
リライブ 5
ワープ (最低消費量、人数と距離による)

到達レベル前にクラスアップににて全力アップしました。
連続に加えて、怒りも発動しました。


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暗転

この話でアグストリアの内乱編を終えたいと思います。
本当は二話に分けて掲載しようと思っていましたが一話にまとめてしまい、いつもより長めとなっております。
申し訳ありませんがお願い致します。


シグルドとエルトシャンの意見が纏まり、アンフォニー城に続々とシアルフィ軍とノディオン軍が到着する。

ジルベールとマディノに駐在するクロスナイツはアグスティの騎士団が出撃した折に挟み打つ作戦を取るため、北の砦で待機している様子である。

アグスティはまさに四面楚歌となり厳しい状況であるが、トラキアとの協定が出来上がっている中どこで彼らがが乱入してくるか解らない。下手をすればまたエバンスなどの他の城を襲う可能性があるので全軍集中するわけには行かなかった。

 

エバンスにはクブリとフュリーのシレジア軍が防衛にあたる事となり、ノディオンはラケシスとその親衛隊が防衛する事となった。他の城には申し訳ない程度に兵を置く事しか出来ず、残りはマディノへ集結している。

ホリンとアイラはエルトシャンの元へ戻る事となった、彼らはエルトシャンの臨時部隊として傭兵団に組み込まれ遊撃的な位置での戦いを展開する事となる。

余談であるがヴォルツが討たれた事で瓦解した傭兵騎団もまたエルトシャンの傭兵団に組み込まれ、ベオウルフを筆頭とした部隊に編入する事となる。

 

アグスティに向けた部隊が編成され、その部隊の壮大さは見事なものであった。

エルトシャンの臨時部隊とノディオン軍

シグルド、キュアン、レックス、アゼルを主とした混成シアルフィ軍は様々な火力を持ち多彩な攻撃が可能となる軍とまでになっていた。

 

アグスティ軍は進んで進軍する様子はない、シグルド、エルトシャンの全軍は隊列を組み進軍を始める。

その道のりは渓谷を越え、山道の先にアグスティがそびえ立っている各国でも有数の山城であり、ヴェルダンと同様に攻略多難の土地としての認識が一般的である。

ヴェルダンは深い森の中にある山城だがアグストリアの山肌は赤茶けている不毛の地である、進軍すればアグスティから目に見えるように捕捉されるので頭上より火矢を浴びさられてしまう。

その前にある渓谷も同様に頭上より落石などの奇襲攻撃を受ける為進軍には非常に不利となる地形である。

 

 

軍議にて様々な案を出す中でこれと言った有効手段が出せない中、カルトはある方法を提案する。それはかつてなく奇想天外でとても騎士同士の戦闘には似つかない皆を悪い意味で驚かせる方法であった。

 

「そのような卑怯な戦いをしてまで勝利を得たいのか!」

「騎士なら騎士らしく正々堂々と戦うべきだ!」

カルトの提案はそれほどの批評を受ける内容であった。

 

「確かに、この方法は騎士たりえない方法だと私も思っている。

しかし前国王がここまでに成長させたこの国を食い物に人々を不幸に陥れる戦争を仕掛け、同盟国の盟約を破棄する人物がこの国に必要なのだろうか?

この戦争に勝ち、エルトシャン王の説得を聞き入れてもこの国の為に最善を尽くしてくれるであろうか?

私のこの作戦は彼に国の先導者として自覚してもらう為に考えた方法だ!あくまでシャガール王をお諌めする為の手技である。」

カルトは批評にそう口論するが、その作戦だけではその全容はつかめなかった。順にその話を進めていく中、軍議出席者は通常に攻める事以上の重要性を理解できていくのだが実際その作戦はスケールが大き過ぎて実現できるか疑問符であった。

 

「まあ見ていて下さい、この作戦の成功にはアグストリアの人々の意思で決めてくれる。彼らがこの作戦に乗ってくれれば必ずうまく行きます。」

カルトはそう付け加えて会議を締めくくるのであった。

 

その方法を実践する為、まずは北から南からアグスティを包囲する必要があった。

渓谷には入らずその手前で包囲を行う、次に必要なのは大量の人出である。

その人出は北の台地にいる開拓者を協力をお願いする。進軍し配置した地にアンフォニーとアグスティの北へ橋を下ろして彼らを降り立たせると開拓地から得た知識を駆使し、軍の労働力と併せて大量の土嚢を積む作業を行う。

 

その作業を三日で終えると、その日の夜に北の台地にある川を堰き止め北と南の土嚢の間へと注ぎ込んだのだ。

アグスティの渓谷は一晩のうちに水で満たされ、その山城は脱出不可能な湖へと変貌を遂げる。翌日にアグスティ軍がみたその風景の変貌にさぞ驚いた事であろう。

 

今までは各国より献上される税収はこれらの渓谷を通り、得た食料により兵糧を得るが水で満たされた事で何処からも食料を得る事が出来なくなったのである。アグスティの出入り口の反対側は谷になっているが、そこから食料を運び込む事は不可能だ。

シアルフィ側から見ても陸からの奇襲も受ける事が無く、船でも作り越水を試みようものなら遮蔽物のない不安定な船の上なら魔法や弓で簡単に迎撃出来てしまう。

彼らを強制的に籠城させ兵糧を責める作戦にカルトは切り替えたのであった。

 

例え協定を結んだトラキアが食料を運び込む手段をとったとしても運搬中のトラキア軍をアグストリアは籠城させられている為支援できない、トラキアにのみ備えていれば憂いはない。第一慢性的に食料不足を抱えるトラキアが食料を支援はするはずがないのは明白である。

トラバント王は先見の明がある男である、このままアグスティと協定を結んでいても実を得る事よりリスクが多いと判断しているだろう。

 

 

作戦内容はともかくカルトの読みは的確であり、聴けば聴く程まず予想道りの展開になるとシグルドは判断する。エルトシャンですらも口を挟む事無く、カルトにこの作戦を任せてしまった事にも驚かせた。

実際にここまでうまくいってしまうとは思っていなかった、まさに全員絶句の一言である。

 

 

 

アグスティを水攻めにして10日経つ、いかに大きな城であっても大量の軍と城内を従事している者が多ければ備蓄は一気に消費されていく。常に敵側が攻めてくるかわからない状況にさらされていると余計なエネルギーを消費している為フラストレーションも溜まり、アグスティ城内は混乱の極みと化していた。

この状況でアグスティ軍側は、夜な夜な脱出者が後を絶たず内部から戦力低下していき士気が日に日に落ちていくのであった。

 

「ザイン!いつになれば何とかなるのだ!トラキアの援護はまだか!!」シャガール王は騎士団長にその苛立ちをぶつける、ザインですらその問答にうんざりしている様子であり何度も答えた同じ回答を王へ進言する。

 

「陛下、まずトラキアは我らに援護するつもりは無いでしょう。ここまで弱体してしまい、孤立してしまった我らに加担しても利を得る事はないと思っています。

城内の木材で今舟を調達しています、堰き止めている土嚢を崩して一気に攻め込みます。」

 

「いつ決行出来るのだ!もう食料も尽きかけているのだぞ!儂に草でも食えと申すのか!」

 

「今夜決行します、私はその対策に軍議を行う予定。申し訳ありませんが失礼します。」

頭を下げて退室するザインにシャガールは怒り心頭である、普段ならここで責任を取らせる所であるがもう彼以外に有能な部下はいないのである。騎士団にいた有能株は夜の闇に紛れて崖を降りて逃げてしまっていた。

 

「ぐぬぬ、どいつもこいつもどこまでも使えぬ奴らめ!

乗り切った時は全員始末してやる!」

シャガールはグラスに入れたワインを煽るとグラスを叩きつける、肩で息を荒げている彼に余裕はなかった。

 

彼は思い起こす。父王を毒殺しグランベルに反旗を表明して半グランベル派の諸侯達をまとめ上げた、穏健派のエルトシャンを牢獄に入れて邪魔者は全て消えた筈なのに・・・。

どうしてこのような事になったのか、彼は歯ぎしりをしながら唸るように発する。

「あのシレジアの小僧が来た辺りから狂ってきたようにしか思えぬ、こんど見えた時はズタズタに切り刻んでやる!」

 

さらに10日が経過する、ザインの計画する舟での奇襲作戦も簡単に看破されなす術もなく時間のみが経過する。

食料は底を尽き、騎士団は騎馬ですらも食料として喰らいとても正常な判断を保てる者はいなかった。

脱走者は後を絶たず、指揮系統は内部から崩壊していくのであった。とうとう国王であるシャガールですら食事にありつけず、空腹が場を支配していた。

そんな中、ザインが謁見の間に飛び込んでくる。

 

「シャ、シャガール陛下!シレジアのカルト様が面会に訪れました。」

 

「な、なんだと・・・。」

シャガール王はその怒りを沸々とのぼせあがるが空腹の蔓延する彼らにはかつての威光はなかった。

謁見の間に入るなり、カルトは畏まり佇んだ。

 

「シャガール王、お久しぶりです。」

 

「きさまあ、よくおめおめとここに戻ってきたものだな!」シャガールは剣を抜き今にも振りかざさん勢いである。

 

「今日は話し合いに来たのです。

どうですか、ここらで無駄な争いはやめてもとのアグストリアに戻っていただけませんか?」

 

「どういうことだ、貴様らの卑怯な策略でこの城は餓死する者も出てくるのだぞ!」シャガールの言葉にカルトは睨む、その魔力を纏った彼に言い寄らぬ圧力をかけられシャガール自身が逆に竦んでしまうのであった。

 

「・・・王、あなたがもし反グランベルを宣言し戦争を始めればこの程度では済まないくらいの戦死者が出ます。

国民には戦争の為に重税が課せられ、農村部ではもっと酷い餓死者が出ます。

アンフォニーのマクベス王はこの内乱のどさくさに紛れ賊をけしかけて私腹を肥やそうとも企んでいました、王は北の台地の惨状になにも対策をなされなかった。

この作戦は北の台地の職人たちに呼びかけ参加して成功した水攻めです。彼等の意思がこの作戦を成功させ、あなたを苦しめているのです。」

 

「おのれえ、国家に従わぬ無能な村人共め!」

 

「まだ、お解りになりませんか?」カルトの言葉が冷たくシャガールに放たれ、シャガールはカルトを睨みつける。

 

「国民は強いのです。彼等がいなければあなた達は食べる事も出来ず、戦う事もできない。まさに今この状況なのですよ、その考えを改めて頂く為に私はこの作戦を提案したんです。

どうですか、降参してやり直して頂くことは出来ませんか?もし、投降していただけるのであれば水を引き国民の代表となったエルトシャン王と和解するように呼びかけます。」

カルトはシャガールに歩み寄る、そんなカルトに対してシャガールは腰の剣を抜き胴払いを行った。

その剣は空を切り裂くのみ、カルトはジャンプしシャガールの背後に回ると左手を背中に当てる。

 

「ウインド!」

 

吹き飛ばされたシャガールは謁見の間の端まで吹き飛ばされ、背中を壁に強かに打ち付ける。

 

ザインもそばに控えていており、すぐさま剣を抜き放ち向かわんとするがカルトはザインに左手を伸ばし戦闘体勢を取っていた。その圧力にザインは突進出来ないでいた、格が違う事は先程のシャガールの攻撃で見切っていた。

 

カルトはザインに攻撃の意思がないとわかればシャガールの前に立ち、再び語りかける。

 

「シャガール王、投降してくれますよね?

このまま続けてもあなた達は餓死するだけです、これ以上無駄な抵抗をすれば本当にあなたを信じ付き従っている者ですら餓死させてしまう事になる。」

 

「・・・・・・儂の負けだ。

エルトシャンに伝えろ、後はお前の好きにすればいいと。」

 

シャガールは力無くそう伝える。国王として、男としてカルトに心中のすべてを看破され、その上でこの様な作戦で国民の総意を見せつけられ苦しまされたこの現状に返す力は残されていなかった。

 

カルトは早々と転移魔法でこの場を退散した後、ザインは国王の前まで歩み寄り涙する。

 

「申し訳ありません!私は陛下のご希望になに一つ成果を出せないおろか者です。

この度もあの男の前に何もできなかった、落ち着きましたら私を処断して下さい。」

 

「もう良いのだ、ザイン。

儂は何かに取り憑かれていた様だ、この苦しい空腹が儂に大切な事を教えている様に思える。

あのカルトという男、ここまで読み取ってこの作戦を決行していたとすれば末恐ろしい物よ。」

ザインは国王の人が変わる発言に驚愕する、それはいい意味での物であった。ザインはその言葉に付け加える。

 

「そうでありますな、アグストリアにも欲しい人材であります。」

 

「・・・エルトシャンがいる。あやつならこの国を立て直せるだろう、儂は父王を殺した身。ここで幕を引くとしよう。」シャガールの言葉にザインの疑惑が確信に変わる。

やはり父王を病死と偽り、本当は毒殺であったと知る。

 

「陛下、私もこれが終われば騎士団を去ります。

今仰った事は私の胸に秘めますので、どうか陛下は生きてください。生きてこのアグストリアを見守り下さい。」

 

「ふ・・・、エルトシャンが許してくれるならな。」

シャガールとザインは誰もいない謁見の間で吹っ切れた様に一つ笑みを送り合う。

空腹で誰もが謁見の間に向かってくる力もなく、城のあちこちで餓鬼の如く食べ物を求めて彷徨っている。こんな困窮する状態までここに留まり従ってくれたことにすら2人は感謝してしまうほどであった。

 

シャガールはカルトが置いていった食料を配布するべく立ち上がり、ザインもそれを手伝う。

先程までのシャガールなら食料を独占した事だろう。今ではその面影はなく、今はこの国の為に出来る事を優先するのであった。

もっと早く気づいてくれていればこの様な内乱はなく、イムカ王を助けるシャガール王子の姿があったであろう。

ザインはその光景が見たかった、そしてさらに繁栄していく様を見たかったのだが今となっては虚しい虚構でしかないのだ。再び涙するザインにシャガールは謝罪を口にするのであった。

 

 

 

カルトは作戦成功を自軍に伝えると早速土嚢で堰き止めた水を排水すると、約束通りエルトシャンのノディオン軍がアグスティへ進軍する。

彼等がアグスティを制圧し、使いの者が来るまで城門で待機がこの度の約束であった。

 

シアルフィの混成軍はノディオン軍より遅く進軍し、待機する。大量の物資を持った部隊のみ入城して空腹者への炊き出しと配給を急ぐ事となった。

 

「カルト公、この度は無血開城をやり遂げてくれて礼を言うぞ。

エルトシャンもあのままではアグストリアで酷い立場になったであろうが、シャガール王が変われば彼の発言を無視しないだろう。

我らの仲を保ってくれたことが何より嬉しい。」

 

「シグルド公子、あなたこそ私の作戦を最後まで信用してくれたからやり遂げたのですよ。

しかし、これからアグストリアはどうなるのだろう?例えグランベルやヴェルダンに侵攻しなかったとは言え反グランベルを唱えたんだ、お咎めなしとは言えない状況だと思うが。」

 

「何もなし、とは言えないだろう。アグスティはともかくとしてそれ以外の王はグランベルの軍であるシアルフィに敵対してきたんだ、それなりの賠償交渉はあるだろう。

エルトシャンに王位が移ってくれれば少しは対話の道があるのだが・・・。」

 

「後は、アグストリアの方針次第か・・・。」

カルトは天を仰いで運命を待つ事にするのであった。

 

昼の日差しが、西へ傾きだした頃使者ではなくエルトシャン本人が直々に城門へ姿を見表す。

シグルド公子やグランベルの諸侯達は城門へ赴き、彼の言葉を待つ事にする。

 

「グランベルの者達よ、この度のアグストリアの内乱鎮圧に大きな貢献して頂き感謝する。

しかし!約束を違い、シャガール王を討ち取った事に対し私は多いに憤慨し、グランベル混成部隊に対し私は宣戦する!」

エルトシャンの言葉に全軍は動揺を隠せなかった、カルトでさえエルトシャンの言葉の意味を理解する事に時間がかかった程である。

シグルドとカルトは咄嗟に彼の前に立ちエルトシャンの怒気に気付くが言葉を発せずにはいられなかった。

 

「エルトシャン!それはどういう事だ。シャガール王を討ち取ったなど、カルト公は説得に応じたと言っていたではないか。」

 

「シャガール王は惨殺されていた。腹心のザイン将軍共々、斬り殺されている。」

 

「馬鹿な!私は説得を・・・。」

カルトは狼狽しながらも自身の愚かさが脳裏を横切る、ロプト教団なら奴らなら動乱を扇動する為にこの好機を逃すはずがない。なぜ彼等をその場で保護しなかった、後悔が波の様に押し寄せてくる。

 

「カルト・・・。」シグルドはカルトの肩を当てて卒倒しそうな彼を支える。

 

「どんな形であれど貴公らがこの国を制圧しグランベルがアグスティまで侵攻し陛下を討ち取った事は事実、我らは城を開け渡しシルベールに退却する。

シグルドよ・・・いつかきっとこの城は、アグストリアは取り戻させてもらうぞ!」

 

「エルトシャン・・・。」シグルドとカルトもエルトシャンの硬い決意に口を挟む事は出来なかった、ただ事実と違いすぎる結果に2人の思考は追いつかずエルトシャンの怒りが止められない所にまで来ている事も分かっていた。

 

エルトシャンは城内に戻り、その日の夜に彼等はジルベールに撤退していくのであった。シグルドとエルトシャン、2人の親友は剣を交える運命に進んでいくのである。




アグストリア諸国連合

グランベル公国と違い諸侯を置かず各地域毎に国王が存在する国、現実で言えばUAEにあたる関係といえば理解できるであろうか。
その中で諸国をまとめ上げるアグスティの国王はかつては黒騎士ヘズルの血を受け継いできたのだが直系の家計が根絶してしまい、暫くの間ヘズルの持つミストルティンは扱える者が居なかった。
政略結婚の過程でノディオンにて、ヘズルの聖痕が色濃く発現し現在はエルトシャンが唯一の直系となったのである。恐らくアグストリア国内ではヘズルの血を取り戻す為に同族同士の婚姻が多々あったとみられる、後にラケシスとエルトシャンの子達は同族婚姻に抵抗感が希薄と思われる発言がある為、その様に解釈してしまう。

この逆転の状態にアグスティ国王であるシャガールに劣等感を一層与えてしまった事である。この内乱はいつか起こるべくして起こった、悲しい戦争と私は解釈しています。


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外伝 2小節 次世代

本日二話目の投稿です。

なぜ、こんなに早いかと言いますとシナリオ場で先に書き上げていたのです。
途中で思いついた内容は修正点を追記すれば、はい完成でしたので連続配信します。

ここから数話外伝に入ります。少し雰囲気が柔らかいかと思いますが、有事と休息時のスイッチと思って頂けたらと思います。


アグストリアの内戦が終わり後味の悪い結果となったグランベルの混成軍は、このままアグスティに滞在しエルトシャン率いるクロスナイツの監視と防衛の任務を行う事となった。

対話の道を再度切り開く為、数度となく使者を送るがエルトシャンからの返答は頑な物であった。シルベールには軍の増強を行っており、有事に備えている構えである。

アグスティの逃走兵を組み込み、マクベスの傭兵騎団も雇い入れた彼の徹底抗戦ぶりは本物であった。

カルトもまた数度となく直接の面会を求めたが、シグルド同様に顔を会わせる事なく徒労に終わっていた。

 

シグルド達の混成軍は全ての部隊をアグスティに集結させ、エバンスはエッダの部隊に明け渡す事となった。

ヴェルダンの整備が思ったより早く進める事ができ、エッダは一年も経たないうちにキンボイスに王位を返還すると明言したのである。

キンボイスは暫くの間多額の賠償金を支払う事となるだろう、それでもなおその事実を受け入れてヴェルダンを正常に導く為に尽力している事をカルトは喜ばしく思えた。

 

 

 

 

エルトシャンが宣戦してから約1年の月日が経とうとしている、グランベルの上層部ではこの膠着状態を抜け出す為にシグルドに攻撃する様に進言する事もあるが受け入れずに粘り強い対話の道を模索し続けていた。

 

膠着状態ではあるが時間は確実に経過している、アグスティでは今ベビーラッシュと化していた。

シグルドとディアドラとの間にセリスが産まれたのだった、ひどい難産だったらしく出産には丸一日かかりディアドラも随分と体調を崩していた。その子がグランベルの正当な嫡男である事を知る者はまだいないのである。

 

エーディンも男の子を出産していた。

レスターと名付けられたその子はウルの血を継いでおり、いつか将来にセリスを助ける存在になるのである。

父親の、ヴェルダンの血は新たな可能性の産声として誕生したのであった。

 

 

そして・・・。

「カルト様!お産まれになりました。立派な男の子でございます。」クブリの言葉に寝室に向かう。

産婆や侍女がカルトに祝福の言葉をかける中、愛する妻に抱きかかえられた子供に初めて対面する。

 

「エスニャ無事か!よく無事で、産んでくれた!

これから俺も父親か!」

 

「カルト様・・・、私もこれで母親です。見てくださいませ、この子が私達の元に来てくれたのですよ。」

産着より顔を出し、カルトに抱くように差し出す。

カルトはそっと抱き、顔を覗き込む。もう泣き止みすやすやと眠りについている我が子を見てカルトは涙を流す。

 

「軽いな・・・、こんなに小さいのに生きているのだな。」

 

「はい、この子は毎日を一生懸命に生きてまいります。私達が支えていかねばなりません。カルト様、この子の為に生きてください。」

 

「ああ、簡単に死ぬつもりはない。だがまた一つ誓いを立てねばならんな、俺はお前達の為にも死なないと。」

2人は見つめ合い、笑みを讃えた。

 

「この子の名前はどうしましょう?私は産む事だけ考えていたのでなにも考えてませんでした。」

 

「それなんだが、俺に一つ浮かんだ名前があるんだ。

いいかな?」

 

「まあ、考えてくださっていたのですか?」

 

「ああ・・・、一応な。でもエスニャが気に入らないようならやめるさ、言うだけ言っていいか?」

 

「はい・・・。」

 

「アミッドは、どうだろうか?」

 

「素敵な名前です、何か謂れがあるから決めていたのですか?」

 

「ああ、シレジアの伝承では『溶かす者』と呼ぶんだ。」

 

「伝承、ですか?」

 

「シレジアは寒い国で通っているが、なぜあの一部の地域だけ極寒の地になっているか知ってるか?

すぐ南が暑いイード砂漠があるのに、シレジアは寒いのか、考えたら事があるかい?」

 

「え?確かに極寒と猛暑が隣り合っているのは変ですね。」

 

「シレジアはかつては極寒な気候ではなく、温暖で過ごしやすい地だったそうだ。

豊富に鉱物が取れ、作物も良く育ち、海に出れば大量が連日続くような裕福な場所であったが為に隣国や賊に襲われていたらしい。

聖戦から帰ったセティは、外部から荒らされる祖国を見て彼は一つの魔法をかけたそうだ。

それはシレジアの地に冷たい風が吹き続き外部と遮断する、凍てつく秘術。

それにより作物は育たなくなったが、平和な地になり以降100年間は独立国家として存続できたんだ。」

 

「そんな伝承があったんですね、でもセティ様が決断なさった判断ですが、お辛かったでしょうね。自分の故郷を凍てつかせるだなんて・・・。」エスニャの表情が曇る中、カルトは笑みを浮かべる。

 

「でも、晩年のセティはこうも言ったんだ。

『この世界に本当の意味で平和が訪れた時、凍てつく秘術は解けて真のシレジアを取り戻す。』と。」

 

「本当の平和?」

 

「そう!だから、この子はきっと俺でもなし得ない本当の平和を導いて真のシレジアを取り戻す者としてアミッドとしたいんだ。」

 

「カルト様、きっとこの子が、アミッドが成し得てくれると思います。見てくださいませ・・・。」

アミッドの額にはカルトと同じ聖痕が宿っていた、そして母親の聖痕も受け継いでいる。

 

「アミッド・・・、まさかこの子に俺のあの血が?」

 

「カルト様?」

 

「・・・アミッド、お前も宿命を帯びて産まれてきたのだな。俺も負けてられないな!」

カルトは笑顔で息子を抱きしめる、彼の想いはアミッドにも受け継がれていくのである。

 

 

アイラもまたこの時、シルベールで出産していた、双子の兄妹を産み彼の子供は将来セリスを助ける貴重な人材へと成長するのである。

彼らはエルトシャンの元に滞在し、カルト達に会うことは出来なくなったが元気に暮らしていると定期的に手紙を出してくれていた。

 

 

ラケシスはあのアグスティの一件でエルトシャンと仲違いしており、アグスティにてシグルドの元で生活をしている。

この度の事で兄の強情さに憤慨したラケシスは、シグルドに肩入れしてしまいエルトシャンに「シグルド様と戦うならその前にミストルティンで私を好きにして!」とまで言い放ってしまったのだ。

それ以降彼女は、アグスティで剣に魔法に腕を磨くようになったのである。今日も鍛錬場で彼女の気合の声が響く。

 

「たあっ!」彼女の細身の剣がアーダンを襲う。

 

「姫様!降参です!おやめ下さい!」アーダンは息を切らして両手を上げる。

 

「アーダン!情けないわよ!この程度ではシグルド様をお守りできませんよ。」

 

「しかし姫様、私は重装歩兵で鎧を着ていない私などに勝てても何の自慢になりませんよ。」

 

「なら、誰かいないの!私にちょうどいいお相手は!」

彼女の端正な声量が響き渡る、鍛錬場にいる者達はその白羽の矢に当たるまいと首を縮こませる。

勝ってしまえば負けるまで付き合わされるはめになり、負ければアーダンのように厳しく叱責されてしまう。あのような女性にいいように言われる事は男としてのプライドが引き裂かれる思いであり進み出る者はいなかった。

 

「あの・・・、私でよろしければ一本お願いします。」

1人の少年が前にでる、まだ騎士になりたてのように思えるとラケシスは見る。目は穏やかだが意志の強さが垣間見え

、まだ体が出来上がる前の華奢なラインにラケシスはちょうどいい相手と判断する。

 

「いいわ、じゃあお願いします。」ラケシスは一礼すると細剣にて構えを取る、少年は長剣を抜き正眼に構える。

 

鍛錬場には様々な武器が置いてあるが全て刃引きされた金属剣である、金属であるが故に刃引きしてあっても下手をすれば死ぬ事もある。2人に緊張が走る。

 

「たあ!」ラケシスはステップを交えて少年の間合いを潰しにかかる。

 

女性特有のしなやかな動きに流水のような掴めぬ動き、それを我流で掴んだのだろう初見では見切れない足運び。少年はその動きから突き出される細剣に防御する事で一杯だった。

 

ラケシスの高速の突き出しに少年は足運びと体の捻りを巧みに使い、細剣を交わすと対抗して横薙ぎを展開する。

ラケシスはその細剣で薙の一撃を下から叩き上げ、身を

低くして交わすと軸足に足払いの蹴りを見舞った。

少年は見事に転倒し剣を落とす事になる、そこへラケシスは細剣を彼の胸前に出して勝負がついた事を宣言する。

 

「参りました、降参です。」少年は悔しそうにしながらも立ち上がると一礼する。

 

「せっかく間合いの大きい長剣を持っても簡単に入られては意味ないわ、あなたには普通の長さの方がバランスが取れているわよ。もう一度武器を変えて試してみる?」

 

「は、はい!是非お願いします!」少年は武器を持ち替え、ラケシスの元へ戻ってくるのであった。

 

ラケシスの授業、もとい鍛練はその少年と幾度となく続く。途中食事を採り、休憩も挟んでどちらも終わると宣言する事なく続けられた。

 

「てい!」少年の剣がついにラケシスの細剣を捉え、床に落とす事に成功する。ラケシスは荒い息を吐きながら降参に手を上げて表現する。そして腰砕けになったのか、その場で倒れ込んでしまった。

 

「すみません!調子に乗っていつまでも立ち会わせてしまいました。本当に申し訳ない。」

竹筒に入った水をラケシスに渡して謝罪する少年にくすりと微笑み、水を飲む。

 

「いえ、私も無気になってました。でも、今日は完全燃焼できた気分。こちらこそありがとうございます。」

ラケシスは溜まっていたフラストレーションを久々に汗と共に流せた気分になり、疲労はあるが心地よい気分であった。

少年はその言葉に嬉しかったのか、透明感のある笑う表情を見せる。

 

「あなた、よく私の剣に付き合う気になりましたね。裏で嫌がられていたのはわかったました。」

 

「?どうしてですか、同じ剣を上達したい者同士に嫌がるも何もないじゃないですか?」

 

「・・・女性の私に負けても?」

 

「あ、ああ!そういう事ですか?慣れてますよ。私は自国にいる時から君主の奥様に散々負け続けた上に叱咤されてましたから。」

 

「君主の奥様って・・・、あなたお名前は?」

 

「すみません、名乗っていませんでしたね。私はレンスターのフィンです。君主はキュアン様の事で、先程の女性の事はエスリン様です。」

 

「キュアン様!兄上の親友の?」

 

「はい、私はキュアン様の遠い親戚で両親を失い面倒を見てくれています。今はキュアン様に同行して槍騎士としてランスリッターに入隊するべく訓練を受けています。」

 

「そうでしたか、フィンは今回の戦いで何か思う事はありますか?」

 

「この度の遠征で、聖戦士殿の戦いをこの目で見る事が出来ていい勉強になりました。ラケシス様の兄上もキュアン様から聴いてましたがそれ以上に素晴らしい人柄とお見受けしました。」

 

「そう・・・。」

 

「ですので残念です。まさかエルトシャン様と仲違いしてしまう事になるなんて・・・。」

 

「・・・・・・。」

ラケシスの消沈し、暗い表情にフィンは笑顔で続ける。

 

「ラケシス様!大丈夫です!キュアン様もエルトシャン様もシグルド様も、言葉だけでなく心でつながっている方々です。きっと三人はあるべき姿に戻りますよ。」

フィンはラケシスの両手を両手で掴み彼女を懸命に励ます、その一生懸命さにラケシスは一瞬戸惑う。

 

「だからラケシス様もあの三人を信じてあげて下さい。きっと分かり合える、いえ!分かり合っていると思います。」フィンの演説が終わり、ふっと冷静になった時状況を確認する。

 

誰もいなくなった鍛錬場に、壁際においこれた姫君。両手を掴み、顔と顔が近い状況で絡み合う視線。

汗で濡れた肢体、上気したラケシスの表情・・・。

 

「@/#÷<々〆¥☆♪*」フィンはそのままダッシュで鍛錬場を後にする、残されたラケシスは呆然としたのち噴き出すように笑うのであった。

ひとしきり笑った後、ふたたび鍛錬場の扉をそっと開けたフィンはラケシスに

 

「また、明日鍛錬場で訓練して下さい。」

力弱いその発言にラケシスは再度笑ってしまうのであった。

 

 

 

次々と生まれ行く新しい命にアグスティでは催し事が行われる。

有事とはいえ、一度も小競り合いも起こらない硬直に軍も人々も緊張を続けるのは困難である。

お祝い事くらいはと、いう名目でセリス様の誕生祭を祝っていた時の事であった。

 

エバンスでマジカルステップを披露した踊り子もアグスティ合流にしっかり付いてくる事となり、この度正式に採用され催し事という事で踊りを披露する事となった。

エバンスの時の踊りで勇気付けられ、魔力が尽きた者はその気力を取り戻した踊りと聞いて集まったのである。

その見事な踊りに参加した一同は熱気を上げていくのである。

カルトもまた、シレジアの者達で参加しその踊りを見ていたのだった。

 

「クブリ、エバンスでは無理をさせてすまなかった。傷はもう癒えたのか?」

 

「はい、お陰様で・・・。」

 

「マリアン、君も大事ないようで安心した。しかしまさか、トラキアの飛竜を手懐けていたのは驚いた。」

 

「あの子の声がとつぜん聞こえるようになりました、フュリー様もあのような感覚なのでしょうか?」

 

「え?・・・、物心ついた時から天馬やファルコンがいた生活なのであまり意識した事ないのですが、マリアンは生まれつき持っていた能力が竜とシンクロした瞬間に開けた気がします。」

 

「私はこれから、あの竜・・・シュワルテと共に剣を磨きます。カルト様見ていてください。」

 

「ああ、でもマリアン。君はまだ成人ではない、無理はするなよ。」

 

「はい、カルト様・・・。」

 

「フュリーも、クブリもだ。お前達に何かあったらレヴィン王にどう申し開きしていいか俺にもわからないんだからな!どうして我が軍には無茶する連中ばかりなんだ。」

 

「・・・・・・カルトが一番無理するからだろ?」

 

「なんだと!どさくさに紛れて言った奴出てこい。」

すっかり果実酒でほろ酔いになったカルトは人差し指を指してなじった相手の声の方向を指差す。それはクブリでも、マリアンでも、フュリーでもなかった。

 

シレジア国の麗しき王、レヴィンその人である。

 

「な、な、な、何?」

 

「なに阿保面下げて自国の王に指差しとは、カルトきさま何様だあ?」

 

「え、え、え、何で?」

 

「アグスティはシレジアの隣だ、この距離ならシレジアからでも簡単に転移できるだろう?

それにアグストリアは以前は同盟国だったんだ、俺が行き来していてても不思議ではないだろう。」

 

「い、いやあ!レヴィン!久々!!元気?」

 

「この、うすらバカめ!」レヴィンの拳骨がカルトの脳天を振動させる。

 

「いつも、いつも、事後報告で結婚した?子供が産まれた?お前という奴は!」

 

「ま、まてレヴィン!俺にも立場がある。この祝いの席ではちょっと・・・。」

 

「・・・、まあいい。今日はお前に会わせたい人も一緒に転移してきたんだ。」レヴィンは体をずらしてカルトに誘うのであった。




ついに第一次ベビーブーム到来です、第二次はシレジアの時ですよね?

ちなみに、アミッドが本作で言う「氷雪の融解者」です。
ようやく説明できてよかった。



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思慕

外伝書くのが楽しいです。
ストーリーとは違い、好きに自分の構想を入れる事ができます。
春になり、なんだが家族とか恋人とかの話が出来ると心が弾みます。




「ラーナ様!ラーナ様ではありませんか、お久しぶりでございます!」

カルトは嬉々としてラーナへ膝をついた。

 

「ふふっ本当に久しぶりねカルト、あなたの活躍はよく聞きます。シレジアとしてとても嬉しい限りですよ。」

 

「ははっ!至上の喜びでございます。」

カルトのレヴィンとは打って変わっての対応に周りからざわつき始める、それはフュリーやクブリ、マリアンも意外すぎて目を点にしているのである。

 

「ははっ!カルトには母上を連れてきた方が堪えると思ってな、どうだ?きいたであろう。」

 

「まあ、レヴィン!私をそのような事のために同行を許したのですか?母を何だと思っているのですか?この子は・・・。」

憤るラーナに対してカルトは立ち上がり、カルトは嬉々としてままであった。

 

「いいではないですかラーナ様、私はお会いできて嬉しい限りでございます。

そうだ!先日産まれた子供をご覧になってください、今は妻も床についたままなので是非こちらへ!」

カルトの一人歩きする言葉にラーナは困った顔をするがそのまま宴の席を放ったらかしてラーナをさらうように退席するのであった。

シレジアの一同は唖然としたままで追うことも出来ず、立ち尽くしてしまう。レヴィンだけが大笑いでその姿を見送るのであった。

 

 

「すまんな、カルトは母上に弱い所があってな。しばらく会ってなかったから全開になったみたいだ。

フュリー久々だな、お前にも会わせたい人がいるんだ。」

そう言って更に背後に佇む人が1人いた。

 

「フュリー、随分逞しくなりましたわね。」

 

「お姉様!」

フュリーは涙交じりに姉であるマーニャに抱きつく、マーニャはフュリーの背中に腕を回して受け止める。

 

「先程、厩舎にいるファルコンを見させていただきました。あんなに老齢のファルコンと心を通わせるなんて、あなたはには天馬乗りとしての才能が開花したのですね。」

 

「姉上のお陰です、姉上が腕の上がらない私をずっと見てきてくれたお陰です。」

 

「カルト様に感謝しなくてはなりませんね。」

 

「・・・姉上、シェリーの事ですが。」フュリーは姉より離れ俯く。

 

「わかっています、あなたがあのファルコンの背に乗っているという事はシェリーは・・・。」

 

「申し訳ありません!姉上から賜ったシェリーを、私は!」

 

「・・・事情はわかりませんが、シェリーはきっとあなたを庇って命を全うしたのではないですか?

あの子は納得して命を懸けたはずです、いつまでも泣かないの。あなたは胸を張って生きなさい。」

マーニャの言葉にフュリーは涙を拭き取り力強く頷いた。

 

「はい、お姉様!もう泣きません。それにシェリーはまだ、私の手にあります。」シェリーは魂を剣に宿り未だにフュリーを護り続けている、あの剣を持つ限り彼女には失った物など一つも無いのである。

 

「あのファルコンの名を教えて、異国の地からやってきた古の魔獣の名を・・・。」

 

「はい、ヴェルダンの深き森で見つけましたエルダーファルコンでヴェンデイと名付けました。」

 

「ヴェンデイ・・・。いい名前ね、あなた達の活躍を期待しているわ。」

マーニャがフュリーの頭を撫でている時に1人の白髪の少女がピョコっと現れる。

左手には大皿があり少女が食すには違和感があるくらいの大きな肉ばかりを乗っけてある、それをまた少女の口には入るとは思えない大きさの肉塊を右手で放り込む。

 

「読んだか?フュリー、何の用だ。」一瞬で租借し一気に食道に流し込むや2人の抱擁に割って入った。

 

「むむっ!フュリー、それは生殖行為か?残念だがそれは同性だぞ?」

 

「ヴェンデイ!」フュリーの叫びにマーニャが硬直し、説明にはまた時間が掛かるのであった。

 

 

 

「まさか、あのファルコンがこの子であるとは・・・。ヴェンデイ殿失礼しました。」

マーニャは深々とヴェンデイに謝罪する、フュリーに事細かくこのヴェンデイと名付けたエルダーファルコンの偉大さを説明する。

ヴェルダンの国では神の使いとされまでされている存在。知能は人間を凌駕しており、人間にも扱えない魔法を多々持つ神獣である事を伝えた。

 

「あっはっはっは!ようやく説明してくれて助かるよ。

こいつときたら、私を見つけてから十日間どんなに追っ払ってもついてきて大変だったよ。喚き散らすわ、手が掛かるわで・・・。

まさか、私がこんな小娘に根気負けるとはあの時は思わなかった。」

 

「ヴェンデイ・・・あまりあの時の事は・・・。」

 

「そうであったな、まああのカルトは私の事は分かっていたそうだが知らん顔しておったからな。」

からからとしているヴェンデイにフュリーは内心はらはらものであった。

 

「ふふっ、フュリー。あなたは本当に立派になりましたね。

ここまであなたが成長しているのなら、あなたにお願いしたい任務があるの。聞いてくれないかしら?」

 

「姉上?」

 

「あなたには、レヴィン王の親衛隊としての任務に就いて貰いたいの・・・。」

 

「私が、ですか?でも、カルト様の天馬隊は?」

 

「私が引継ぎます。」マーニャの発言に一同が驚く。シレジアの天馬四天王の最強の一角であるマーニャがシレジアの離れ、最弱のフュリーが変わりに務めると言うのだ。

 

「姉上!それはどういう事ですか?そんな、突然・・・。」

 

「シレジアはカルト様とレヴィン様のお陰で随分と平定されました。

ダッカー様が討たれ、マイオス様が自粛され、分散されていた戦力もシレジアに集中してパメラもディートバもシレジアに尽くしてくれています。

あなたもそろそろシレジアに戻って自国の任務を尽くして欲しいのです。」

 

「・・・わかりました、明日シレジアに帰国します。」

 

「フュリー、突然でごめんなさいね。パメラとディートバにも説明しています。暫くは2人の指示に従ってね。」

突然の任務交代にフュリーの頭は混乱を極める事となる、マーニャの顔に少し憂いがある事をヴェンデイは見逃す事は無いのであった。

 

 

 

「どういう事だ、マーニャ。」宴の中、バルコニーに連れ出したレヴィンはマーニャに詰め寄った。

 

「レヴィン様・・・。」

 

「私の婚約を受けてくれない、そういう意味なのか?」

 

「・・・私は、戦いでしかレヴィン様を支える事が出来ない女です。どうか、お許し下さい。」

マーニャは頭を深く、深く下げて謝罪する。

 

「それに、レヴィン様には私よりも相応しい方がいます。」

 

「・・・フュリーの事を言っているのか?」

 

「あの子のお気持ち、察してあげて下さい。あの子は私よりも先に、あなたをお助けしたい一心で天馬騎士を目指しておりました。

才能もなかったあの子が、あなたの為に努力して私をも超えるくらい素晴らしい天馬騎士となりました。

シレジアで彼女を見て感じてみて下さい、きっと私より相応しいと思うでしょう。」

 

「・・・分かった、君がここまで言うのであれば言う通りにしよう。

私も意地だ、君が帰ってくるまで意思が変わらない事を見せてくれる。」

 

「まあ・・・、ご無理をされずラーナ様にお孫様を見せてあげさせて下さい。」

 

2人の意思がアグスティの夜を焦がすのであった。

 

 

 

 

宴の夜、エスリンの出産で女児が誕生した報告が入りますます盛り上がりを見せる。朝までつづきそうな勢いの宴に残る屈強な男共の狂宴にアゼルは意識を朦朧として飲まされていた。

 

「アゼル!どこかにいい女はいないのか?とうとうエーディンまでヴェルダンの王子にほだされてめぼしい人がいななくなってきたぞ!」

 

「んー?シレジアの魔道士部隊にも綺麗な女性がいたよ。レックスならアタックすればいいじゃないか?」

 

「な〜にロマンの無い事言ってんだ!俺たちゃ公子なんだぞ、何処ぞの馬の骨に引っかかったら親父共に何言われるかわかったもんじゃない。」

 

「確かにね、じゃああのノディオンの姫様にアタックすればいいんじゃない?」

 

「あれは・・・、確かにべっぴんさんだが俺には合わない気がするぜ。」

 

「・・・確かにそうかもしれないね。」

 

「アゼル!いいよなあ、お前は約束されている人がいるから余裕でよお〜。」

 

「な、何言ってるの?僕も最近会ってないからわからないよ。彼女、ちょっと突っ走る所があるから何処かでいい人に出会って一気に嫁いでいる気がするよ。」

 

「・・・お前も、気苦労が多いな。」

妙な雰囲気漂う2人の会話に割って入る者はいなかった。

 

 

 

「ねえ、シルヴィアちゃん。いい踊りだったよ。アンコールお願い!」これはアレクである。

 

「あ、いいですよ〜。ちょっと大人っぽい踊り、見せてあげる。」

 

「アレク、やめないか!シアルフィの品位を下げるんじゃない!」ノイッシュはアレクを嗜めるが酒癖の悪い相棒はこの悪癖を止める様子はなかった。

 

「ど、どうせ俺は遅いがネックな重装歩兵だ。

今回みたいな戦いで追いつけるわけが無い、チクショー!」

 

「アーダン、君もグダを巻くのもいい加減にしてくれ!

アレク!踊り子さんに手を出さない!」

 

「くっ!エーディン様!!」ぶつぶつとつぶやきながらヤケ酒を煽るミデェール、フラッシュバックのように思い出しては酒に走り潰れていく彼はもう廃人になるのではとノイッシュは思ってしまう。

 

「ミデェールももう酒は辞めるんだ、あの時ちゃんと祝福していたではないか?」

 

「わかっているさ、わかってはいるけど・・・。」

 

「騎士なら騎士らしく主人の祝福をしないか。」

 

「そうだけど・・・、エーディン様!!」またテーブルに突っ伏してしまい、新たなボトルを手に取るのである。

ノイッシュの苦悩はまだまだ続いていくのである。

 

 

 

シグルド、キュアン、ジャムカ、カルト達は我が子を眺めながらの談義をしている。

これだけの貴族達が一斉に出産ラッシュとなり乳母達もそうでで母親達のフォローにより、一つの場所に移されて対応となっていた。

 

シグルド「キュアンの初子は女児だったのか・・・。」

 

キュアン「ああ、それもノヴァの血も色濃く継いでいるようだ。ゲイボルグはこの子が受け継ぐのか・・・、こればっかりはどうにもならないな。」

 

エスリン「あら?男も女も無いですわ、この時代はどの子も強くなくてはなりませんよ。」

 

シグルド「はははっ!エスリンの気質が受け継がれればレンスターも安泰だな。」

 

エスリン「お兄様!もとはと言えば・・・。」

 

シグルド「わかった、わかった。エスリンが勝気な性格になったのは私と父上の所為だな。」

 

キュアン「フィンを鍛えるのも程々にな。」

 

エスリン「あなたまで!」

 

シグルド「まあまあ、エスリン譲りのキュアンの後継者の誕生に祝福しようではないか。」

 

ディアドラ「シグルド様、セリスも構ってやって下さい。」

 

シグルド「すまないディアドラ、つい・・・。」

 

 

 

ジャムカ「なんだか、随分と所帯じみて来たな。」

 

エーディン「まあ、あなたも人の事は言えない立場ですよ。」

 

ジャムカ「・・・、キンボイスの兄貴にも見て欲しい所だな。」

 

エーディン「ええ、落ち着いたらヴェルダンに行きましょう。・・・あなた。」

 

 

 

カルト「ラーナ様、どうですか?アミッドの愛らしさは?

是非お抱きになってください。」

 

ラーナ「ええ、こう抱いているとレヴィンが産まれてきた時を思い出します。」

 

カルト「レヴィンの奴ならすぐに本当のお孫様が産まれますよ。」

 

ラーナ「まあ!カルトったら♪」

 

エスニャ「カルト様、そう簡単に言わないで下さい。

子供を産むのは大変なのよ。」

 

カルト「そうだったな、エスニャの叫び声が一番大きかったような気がしたよ。」

 

エスニャ「カルト様!」

 

 

シグルド達ははまだ自身の運命を知らないでいた、今ここに集う子供を達が将来襲い来る暗黒の時を切り開く運命の子達である事を・・・、アミッドがこの狂いつつ事象を変えてゆく宿命を背負っている事を・・・。

今はこの刹那の時を両親の愛情を受けて育っていく事を願う一堂であった。

 

 

 

 

再び狂乱の宴に参加戻る、フィンはあの悲しい漢共に脇見もくれずテーブルに積まれた食べ物を漁っていた。

かれは線が細い体型をしているがなかなかの大食漢で、白髪の少女と食べ比べのように競っていた。

 

「人間の癖になかなかやるではないか、私と互角とはな。」

 

「人間の癖にって・・・、君みたい子に負ける訳にはいかないよ。」

 

「むう、私を甘く見おって!」さらに大皿に乗った肉厚のある骨付肉に手を伸ばし、一気に頬張る。

フィンの負け時と隣の皿の炒め物に手をつける。

 

「ちょっと、フィン!聞いているの?」

 

食べ物勝負にラケシスに呼ばれていることに気付かなかったフィンは耳を引っ張られる。

 

「痛い!いたたた!ラケシス様、酷いではないですか?」

フィンは耳を押さえて振り向く。そこには普段の有事に着ているプレートメイルではなくパーティドレスに身を包み、髪を結い上げたラケシスの姿であった。

化粧を施した彼女はまるで雰囲気が違っており、普段の彼女が凛々しい戦乙女と例えるなら今は美しき女神であった。

 

フィンは大皿を落とすがウェンディは器用に空中で拾い上げ、曰くありげな笑みを残して退散する。

(ちっ!あの食欲具合ならフュリーの生殖相手にぴったりだと思っていたのに、あれもつがいだったか。)

 

「あの、あのあの・・・。ラケシス様、私めに何か?」

 

「・・・踊るわよ!」

 

「・・・へっ?」

 

「もうっ!じれったいわね!」

 

ラケシスはフィンの手を取ると、宴の中心にフィンを連れ出す。そしてシルヴィアの踊る場にて諸侯達のダンスの輪に加わったのだ。

ラケシスはフィンの右手を自分の左手に合わせ、左手を腰に回させると軽快なステップでフィンを引っ張る。

 

「あのあの、ラケシス様!私はダンスなど・・・。」

 

「あなたも立派な騎士なのでしょう。淑女をリード出来ないようでは騎士とは言えませんわ、これも鍛錬でしょう。」

 

「ラケシス様、これはまさか・・・。」フィンは青ざめる、口に出す事すらラケシスに対して怒りを吹きあげるような気がしてそれ以上は言えないでいたがラケシスは察したのかフィンが言えない代わりに発言する。

 

「そうよ、これが今回の訓練よ。

淑女に恥をかかせた挙句、一人鍛錬場に残すようでは騎士とは言えませんわ。産後に臥せているエスリン様に変わりましてあなたを鍛錬してあげます。」

 

「・・・今回は優しい指導を賜りたいと思います。」

 

「あなた次第、ねっ!」

曲が変わり、ビートの早いダンスに変わる。フィンの足がもつれそうになるがラケシスの素晴らしい足捌きに転倒は免れるが、右に左に切り替えさせられるフィンはもう混乱状態であった。

くすりと悪戯に笑うラケシスの厳しい鍛錬は続いていくのである。




この後の話ですが、シルヴィアのお相手を考えてますが未だに結論が出ません。
クロード×シルヴィアはちょっとさすがに・・・ですね。
あれ、モロですからね。
アルヴィス×ディアドラもかなりですが・・・。

聖戦の系譜発売時はR18とかR15とか細かく指定無かったのですが、現代ではこのゲーム任天堂から販売できたのかな?色んな団体から抗議が来そうで恐いです。
もしかして、それが原因でリメイクが難しいのではと考えてしまいます。


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桜花

この回で2小節の外伝は終了となります。
書き溜めた分も終わりとなりますので、またしばらく更新はいつも通り月2話〜3話程度に戻ると思います。


宴の翌日、最高潮に達した者達は未だに夢の中を漂っていた。

会場には酔い潰れた者が残るなかシレジアの面々は中庭にて別れの準備に勤しんでいた。

カルトは後ほどフュリーからマーニャに部隊変更する事を聞くが驚く様子はなく了承する、おそらくマーニャの思惑に気付いているのであろう。

今回転送する人数がファルコンであるウェンディが増える為、レヴィンの転移ではなくカルトの転移でシレジアに帰還する事とした。

 

まだ準備が残っているのか全員集まらなくて手持ち無沙汰なレヴィンとカルトは初夏の色合いが強い中庭の植物を幾つしむ。シレジアにはこんなに多様な植物は育たない、レヴィンにとっては物珍しいものであろう。

 

「レヴィン、親父は元気にしているか?」

 

「あれだけ強欲に物事を進めてきた人だからな、権力を剥奪されて少し精力的でなくなりやつれた感じだが元気にしているぞ。」

 

「そっか、それならいいんだ。

しかしよレヴィン、親父を処断しなくてよかったのか?国家に逆らった者を権力剥奪だけなのは少し生温いように感じるが・・・。」

 

「確かに、な・・・。カルトには悪いが俺も処断する方向で進めていたんだ、これは内緒と言われていたが親父さんの処断に断固反対したのはお袋なんだ。」

 

「ラーナ様が!?」

 

「ああ、お前があまりに可哀想だと言って嘆願して回ったんだ。トーヴェの町長を説得し、シレジアの重鎮達にも説明してなんとか権力剥奪と武力放棄を条件に処断だけは免れたんだ。」

まさか、ラーナ様がそこまで尽力していたのはカルトも知らない話であった。

 

「カルトがマイオス様を仕留めようとした経緯を聞いて決心したそうだ、シレジアの為に己を殺して父親に手をかけようとしたカルトの為だけに尽力したんだと思う。」

 

「そうだったのか・・・。レヴィン、教えてくれてサンキュな。」

 

「ああ。お前こそ、マーニャを頼んだぞ。」カルトは無言で頷き、違いに健闘しあう。

現状のシレジアはまだ国内が完全に安定した訳ではない。

マイオスとダッカーは討つ事が出来たが、シレジアにはまだ沢山の権力がおりレヴィンを国王と認めても政においては認めていない輩が存在する。

その為、まだレヴィンにフォルセティを継承出来ていないのである。

 

 

「待ってください!フュリーさん!」

中庭に向かうフュリーを呼び止める声が聞こえ、振り返る。一人の騎士が彼女の元に走り寄ってくるのである。

彼女の目の前にたどり着いた騎士は息切れを正すと敬礼する。

 

「あなたは、確かにシアルフィのアレクさん?」

 

「はい!あなたに命を救って下さったアレクです。

その説はお世話になりました!」

 

「いえ、お元気になられたようで何よりです。戦争とはいえ、ご無理をされないで下さい。」

 

「はい!あなたに救われた命、大切にします。

今日、あなたが任務を終えてご帰還されると聞いたものでご挨拶に伺いました。

お名残惜しいですがお元気で!シレジアでのご活躍を!」

 

「ありがとうございます。アレクさんも、お元気で・・・。」

 

「はい!次お会いした時は是非口説かせて下さい!」

アレクの言葉にフュリーはびくっとする。彼女は真っ赤になって振り返るが、アレクは敬礼姿勢のままウインクをして返すのである。

 

フュリーは笑顔で別れるとすぐにウェンディが合流する。

「ちっ!タイミングの悪い・・・。昨日の内に言ってくれれば子種が得られたのにな、フュリー。」

 

「ウェンディ、いい加減にしないと怒りますよ。」

 

「お前だって欲しいだろう、可愛い子供が!」

ウェンディの連日にしつこいセクハラにとうとうフュリーの怒りが爆発したのか、ウェンディの頭に拳骨が落ちる。

 

「痛いではないか!折角協力しているというのに。」

 

「私は、レヴィン様が好きなの!誰でもいいわけがありません!!」

 

「ほう、それはレヴィンの子供が欲しいと。」

 

「そうよ!過程に違いがありますけど、私は・・・わたしは・・・。」

ウェンディと話している内にいつの間にか中庭にたどり着いていたのだ。シレジアの一同がいる中でのフュリーの本音が大声で炸裂したのだ。

 

「あ・・・、わ・・・、私はウェンディと一緒に空から帰ります!」ウェンディの首根っこを掴むと城外へと走り出すのであった。

 

「ま、待てフュリー!外は危ない!お前は別便で飛ばすから行かないでくれ!!」カルトは咄嗟に追いつき、説得する事となった。

 

 

 

「帰りたくないな、あんな恥ずかしい事になっちゃって・・・。」フュリーはしゅんとしょげており、顔を上げることはない。

 

カルトは一度転移魔法でフュリー以外を転移を終えており、再度魔力に集中し始める。

 

「フュリー、いいきっかけじゃない。あなたならレヴィン様を助けて行けるわ。」

 

「お姉様・・・。」

 

「元気でね、フュリー。」

 

「じゃあいくぞ、フュリー!先に運んだ場所とは違う所に飛ばすからな!」

 

「はい、お願いします。」

 

「フュリー・・・。」杖に魔力が溜まり、フュリーの足元に魔方陣が展開している時にカルトが声をかける。

 

「・・・?」

 

「ありがとな、また会おう。」

 

「カ、カル・・・」

フュリーの言葉は途中で区切られる、転移が成功し彼女は遠いシレジアへと飛ばされたのである。

 

 

 

フュリーは眩い光の中でシレジアに飛ばされ、突然の気候の変化に身震いする。フュリーのみ別の場所に飛ばすと言っていたが、どうやら城外であったようだ。

アグストリアは初夏であるがシレジアはようやく春を迎えたばかりであった、早朝のシレジアにしばらく離れていたフュリーはこの寒さに懐かしむように思った。

 

「カルト、いったいどこに飛ばしたの?」

彼女は笛を吹いてウェンディを呼びつつ辺りを見渡した。

おそらくシレジア近くの山間あたりだと思うのだが、この付近に来た事はないのか見当がつかなかった。

風が彼女の頬を撫で髪に何かが舞い落ちた、フュリーは頭に手をやって舞い落ちたそれを掴み取る。

 

「これは、何の花びら?」鮮やかなピンクがフュリーの目に飛び込んだ。

そして目の前に霞がかかっていてよく見えなかったが先程の風で視界が良くなっていく。

彼女の目の前には大きく立派な木が立っていた、その木には先程フュリーの髪に落ちた花びらがたくさん開花しておりあまりの鮮やかさに目を奪われた。

 

「見事な物だな。」

山間の樹々から白髪の少女がフュリーの前に現れる。

 

「ウェンディ」

 

「この大陸には存在しないと思っていたがあったんだな。年に一度、それも少しの間しか花を出さないが見事な色の花を見せる。」

 

「私も初めて見た。」

 

「フュリーに元気になって欲しいと願ったカルトがここへ飛ばしたんだろう、いつまでもくよくよする訳にはいかないぞ。」

 

「そうね!行きましょう、ウェンディ!カルトも分までシレジアを護るわよ!」

 

二人はシレジアの空へ舞い上がる、ピンク色の花びらを纏わせたフュリーとウェンディは空高く上がっていくのであった。

 

 

 

イザークでは長く続いたグランベルとの戦いにおいて一つの区切りがつこうとしていた、マリクル王子とクルト王子が和解に向けての準備が出来つつあるからである。

初めの戦乱は酷い有様であったが、戦場にクルト王子とバイロン率いるグリューンリッターにリングの率いるバイゲリッターが加わった事でイザーク内の鎮圧が収まりつつあった。先にイザーク内で戦闘を行っていたランゴバルドとレプトールに合流し、彼らの進軍を優先するスタイルから融和である対話の道へと切り替える。

 

マリクル王子の徹底抗戦に苦戦が続いたのであるが、ようやく地道な道のりを続ける事により対話の道へと漕ぎ着けた。

それは大変なものであった、たとえこちらの兵を殺されても相手のイザーク兵を殺す訳にはいかないからである。

捕虜とされた者も無下に扱わず、町の民には炊き出しを行い決して侵略行為ではない事を伝えていく。その戦いが2年にも及んだのである。

ソファラの町にて両国の代表者が集まり、密約を交わす所であった。その密約は限られた諸侯のみに伝えられ、従者は1名のみという条件に基きクルト王子はバイロンを連れてソファラへ赴いた。

マリクル王子も約束を違う事なく従者1名のみを引き連れ、約束の場所に両軍立ち入らない配慮を行う。

 

先に約束の場に到着したのはクルト王子、彼は早い段階より待機しマリクル王子の到着を待つ。武器の類は一切持ち合わせはなく身を守る装備すらしていない、バイロン卿も同様であった。

 

「マリクル王子、遅いでありますな。」

 

「もうじきさ・・・、これが終わればグランベルにようやく帰れるね。」

 

「はい、我々の騒動で息子に迷惑を掛けてしまった。すぐに迎えに行ってやらねばな。」

 

「シグルド公子なら心配いらないさ。バイロン譲りの勇猛さがあるし、何より彼は人を惹き寄せる力がある。

きっと各地から彼の力になる人々が集まり救ってくれているだろう。」

 

「ありがとうございます、そうであるといいのですが。」

 

「終わったら私も一緒に行こう、なんだか行けば良い事があるような気がするよ。」

 

ここでマリクル王子が部屋に入室する。

 

「失礼する、私はイザーク国マリクル王子です。」

 

「おおマリクル殿、グランベル公国シアルフィのバイロンと申します。ささ、こちらへ。」

 

バイロンに促され着座する、彼は雨除けを羽織り雨を落とす姿を見ていつの間にか外は雨が降っている事が伺える。

 

「雨、ですか。」

 

「うむ、この辺りももうすぐ雨季に入る。すまない、突然の雨で遅れてしまった。」

 

「いえ、大丈夫です。では早速ですが調印に入りましょう。」バイロンはクルト王子とマリクル王子に羊皮紙を差し出す。

 

「我々はお互いに様々な痛みを受けた。どちらが悪い、正しいと追求する事は非なる事ではない。

非なる事は、これ以上無駄に血が流れる理解しているにも関わらず突き進む事が非である。

ますば双方剣を引き、次の世代の為にも平和的解決を模索し歩み寄る為の調印である。ご意見等はあるであろうか?」

二人は沈黙のまま頷く、異論がない事でバイロンは二人に調印を促し二人はサインする。

 

「これでイザークとグランベルは不戦条約を締結しました。今後はお互いに無血での真理を模索しようではありませんか、二国の民に平和があらん事を。」

調停は恙無く終わりを見せる、このまま会食をすませ意見の論議を出し合う中で突然の悲劇が起こるのは数時間後の話であった。

 

 

リングの死が突然もたらされたたのである。彼はこの会場にマリクル王子暗殺を企て、アンドレイがそれを看破した。その結果リングを止むを得ず殺害したそうであった。

そしてリングがマリクル王子を暗殺に導いたのはバイロンである事を自白して果てたというのであった。

 

調停会場にもたらされた情報に、一同は情報の錯綜に動揺を見せるがマリクル王子もクルト王子も冷静であった。

だが周りの諸侯達は黙っていたなかった、ランゴバルドとレプトールはバイロンの凶行に憤慨しソファラを襲ったのである。

彼らはなぜソファラの会談を知っていたのか、情報は流されていない筈である。なのにリングは狙撃を企んだとされ、都合よく阻止できたなどのタイミングの良さに疑問がある。

全てが出来上がった策略に翻弄されマリクル王子とクルト王子は討たれてしまう、唯一の例外はバイロンの生存と逃走だけであった。

彼が逃げ延びてしまえばイザーグでの暗殺所業の全てが明るみになってしまう、両名はバイロンの抹殺に全力を傾けていくのであった。

 

 

 

「マンフロイ様、クルト王子の殺害確かに見届けました。」

 

「そうか!奴らめ、面白いようによく働いてくれる。」

リボーの秘密の一室にてマンフロイはクルト王子暗殺の報告に嬉々として聞き入れる、見届けたフレイヤは報告に上がっていた。

 

「マンフロイ様、これで私達の悲願ももうすぐですね。」

 

「そうだ、これでナーガ一族の血を引くものはあと三人になった。バーバラの老いぼれはもうくたばるのも時間の問題、あとはあの女とアルヴィスをなんとかせねばな。

フレイヤ、準備は整っておるか?」

 

「はい、精霊の森の巫女はシアルフィのシグルドが囲っております。例のナーガの血を持つカルトが監視しているので容易ではありません。

アグストリアの内乱が集結しそうでありましたので少しばかり策を労しまして、アグストリア内に止めるようにしております。」

 

「ふむ、イザークにはもう用はないからな。

次の戦乱では儂も参加しよう、その時にカルトという小僧とあの女を処理する。」

 

「マンフロイ様、カルトの能力は計り知れません。

マンフロイ様でも手を焼くと思います、その時は・・・開放してよろしいでしょうか?」

 

「フレイヤ・・・あれをやる気なのか?」

 

「はい、マンフロイ様には万が一があってはなりません、私は喜んで全てを解放いたします。その時は後をお願いします。」

 

「わかった・・・、出来ればあれを使わずになんとかしたい所だ。

お前にはまだまだ働いて欲しい事がある、それは最悪のケースの時にするのだぞ。」

 

「ありがたきご配慮、私も出来る限りマンフロイ様にお仕え致します。」

 

「うむ、お前には時間がある限りアルヴィスに通じて奴を誘導するのだ。あの女をあてがうタイミングも狙うのだぞ。」

 

「はい、そちらも計画通り進んでおります。

あの気位が高い性格をうまく使い、こちら側へ誘い込めております。」

 

「そうであろうな、奴はロプトの血が流れている事を知れば必ずロプトの血を含めた平等な世界を作ると言いだすと思っていた。奴の野心の高さも見えておるからな、今の体制を壊してでも上り詰めるだろうな。」

 

「マンフロイ様の言われた通りでした。私が徐々に知恵を提供し、拐かしていけば予想通りの結果になりつつあります。」

 

「くくく・・・、儂の計画通りか。いよいよ仕上げの段階だな。」

フレイヤは畏る、マンフロイの恐ろしい老獪さにただただ恐れ入るのである。マンフロイの頭脳と、フレイヤの行動力。

この二つが大陸の闇へと誘っていく事となり、シグルドとカルトはこの大陸の動乱に巻き込まれつつあるのであった。




次回より原作の3章 獅子王エルトシャンに入っていきます。
冒頭ではシャガール主導で始まりますが、彼は死んでおりますので別なスタートとなります。

楽しみにして頂けたらと思っております。


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五章 アグストリア編(撤退戦) シルベール

アグストリアの撤退戦と銘打ち、この話から新章を始めさせていただきます。
原作では獅子王エルトシャンになります、よろしくお願い致します。




さらに季節が進み晩夏となった頃、嵐の前の静けさのようなアグストリアに激震が走る事となる。

 

クルト王子とマリクル王子の殺害、そして殺害の関与にバイロンとリングによる王家簒奪を狙ったとの報がシグルドの元に入るのであった。

詳しい報告によると、バイロンはイザークの傀儡の王としてその座を密かに狙いリングと共に凶行に走ったというのだ。

リングがバイゲリッターを使い会見場所を襲う直前にアンドレイによりその計画を看破し、父親であるリングを止むを得ず倒したとの事であった。

 

ランゴバルドとレプトールは会見場所に急いだがクルト王子とマリクル王子は殺害されていたと報じられた。

すぐに両名はバイロンの行方を追い、グリューンリッターをガネーシャ付近で接触して壊滅したそうである。バイロンは打ち取れず、彼は更に奥地へと逃げんだそうであった。

 

 

「馬鹿な!父上があるそのような事をする訳がない!そんな事をして得をする事など一つもない。」

 

「はい、明らかにこれは仕組まれた事による物は明白です。アズムール王ならば判ってくれる筈