メスガキをわからせたかった大人がメスガキになってしまっただけのお話 (千智)
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本編:メスガキをわからせたかった大人がメスガキになってしまっただけのお話
【実況】モモぴゅんVSプラチナちゃんスレ●~*×3【終盤】


お前がメスガキになるんだよ!!!

※R-15は『メスガキ』を多用しているので念のため

(2022.11追記)
※主人公の名前は『プラチナ』ですが、ボマーのプラチナとは何の関係もありません。
なんで? って思う人は投稿日時見て。見ろ。(豹変)


【実況】モモぴゅんVSプラチナちゃんスレ●~*×3【終盤】

 

 

1 名前:名無しさん@爆弾魔

ボンバーバトルのモモぴゅんVSプラチナちゃん実況スレです

今日こそモモぴゅんのリベンジなるか

 

前スレ

ttps://xxx.xxxxxx.xx/xxxx/xxxxxxxxx

 

2 名前:名無しさん@爆弾魔

・ボンバーバトルって?

ダイブ型VRゲーム、「ボンバーバトル」のことです

ここでは基本的に4VS4の拠点防衛戦のことを指します

攻撃を受けたり、負けたプレイヤーは男女問わず脱ぎます(重要)

 

・モモぴゅんって?

言わずと知れたボンバーアイドルユニット「プリティ・ボンバーズ」のリーダー

タイプはブロッカー。対戦して負けたら罵ってくれます

 

・プラチナちゃんって?

最近台頭してきたプレイヤー。最近モモぴゅんに連勝中

タイプはブロッ……ブロッカーなのかこいつ……?

 

それ以外の質問に関しては総合スレやwikiで。

 

メスガキ総合スレ

ttps://xxx.xxxxxx.xx/xxxx/xxxxxxxxx

 

ボンバーバトル@wiki

ttps://wiki.xx/xxxxxxxxxxxx/

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

147 名前:名無しさん@爆弾魔

モモぴゅん頑張ってるなー

 

151 名前:名無しさん@爆弾魔

癒しのアイドルボイスにカメラへの流し目サービスがない

起訴

 

152 名前:名無しさん@爆弾魔

いうて今日負けたら連敗記録二桁だし

そりゃ必死よ

 

157 名前:名無しさん@爆弾魔

でもこの流れって、もういつもの流れでは……?

 

159 名前:名無しさん@爆弾魔

【速報】プラチナちゃん勝利宣言

 

160 名前:名無しさん@爆弾魔

あっ(察し)

 

163 名前:名無しさん@爆弾魔

終わった(落胆)

 

171 名前:名無しさん@爆弾魔

でもプラチナちゃんの勝利宣言って結構ガバガバだし

ワンチャンあるやろ

 

173 名前:名無しさん@爆弾魔

無様なワンちゃん?(難聴)

 

215 名前:名無しさん@爆弾魔

【速報】モモぴゅん敗北

 

216 名前:名無しさん@爆弾魔

知 っ て た

 

217 名前:名無しさん@爆弾魔

予 定 調 和

 

221 名前:名無しさん@爆弾魔

モモぴゅん「モモぴゅんまだ負けてないし~!」

かわいい

 

224 名前:名無しさん@爆弾魔

おくちわるわるも良いけど負け惜しみもよき

 

255 名前:名無しさん@爆弾魔

しかしこれで10連敗か

 

258 名前:名無しさん@爆弾魔

配信戦では10連敗

非公式で何度もやってるけど、ほぼ負けてるらしい

 

262 名前:名無しさん@爆弾魔

前に野良で組んでやったけど、モモぴゅんってブロッカーでも指折りでしょ

それに負けなしのプラチナちゃんつよつよすぎない?

 

271 名前:名無しさん@爆弾魔

強いよ

少なくとも配信戦では負けたことないし、野良戦でも負けたって話は全然聞かない

ってかスキルがチート

 

311 名前:名無しさん@爆弾魔

本日のプラチナちゃん勝利宣言「はい勝ち〜〜〜、プラチナちゃんはメスガキなんかに負けないのですぅ〜〜〜〜〜」

 

は〜〜〜〜〜〜???? 

お前がメスガキなんだが?????

大人はメスガキなんかに負けないんだが??????????

 

313 名前:名無しさん@爆弾魔

負けてるんだよなぁ……

 

315 名前:名無しさん@爆弾魔

負けてないが????????

野良戦であと一歩ってところで敗北を期してなんていないんだが????????????

 

320 名前:名無しさん@爆弾魔

やっぱり負けてるじゃないか(呆れ)

 

326 名前:名無しさん@爆弾魔

でも目の前でされる生ドヤ顔勝利宣言は大変よろしかったです

押し倒したくなった

 

327 名前:名無しさん@爆弾魔

わかる

 

328 名前:名無しさん@爆弾魔

わかる

 

329 名前:名無しさん@爆弾魔

わかる

あのガバガバ勝利宣言好き

 

333 名前:名無しさん@爆弾魔

まだ勝利確定してないのに勝利宣言するプラチナちゃんをすこれ! よ!!

 

341 名前:名無しさん@爆弾魔

あえて勝利宣言させてからベース破壊して唖然としてるプラチナちゃんをわからせたい

 

343 名前:名無しさん@爆弾魔

そうなったら「はい負け〜〜〜」になるの?

 

355 名前:名無しさん@爆弾魔

プラチナちゃん「はい負け〜〜〜、プラチナちゃんはメスガキだから大人に負けちゃうのです〜〜〜〜〜」

 

360 名前:名無しさん@爆弾魔

負けてるのに余裕ありそうで草

 

361 名前:名無しさん@爆弾魔

そもそもメスガキは襲わせるのが目的なのでこれは実質勝ちなのでは?

 

 

 ●~*

 

 

「あっ、プラチナちゃん! お疲れサマー!」

 

 ガチャリと音を立てて部屋に入ってきた彼女を見つつ、私は今まで見ていたスレを指で弾いて閉じる。

 アホの子ことシロさんである。どのくらいアホかといえば、以前に「お疲れ様の『様』は『サマー』、つまり夏の意味で、お互いに疲れましたが夏のようにハツラツとしましょうという意味である」と嘘を教えたら本当に信じて、未だに信じているほどアホの子である。

 

「シロさん、お疲れさまなのです」

「うん、お疲れっ! あれ、今何かしてた?」

「ああいえ、ちょっと今日のリプレイを見ていたのです」

「おー! プラチナちゃんは勉強熱心だねっ!」

 

 えらいえらいとお姉さんぶるシロさんに頭を撫でられる。

 悪い気はしない……のだが、シロさんは今回、対戦相手のチームであった。爆散させて半裸を見させた、そんな相手に恨み言の一つもないのだろうか……

 ……ないの、だろうな。その無邪気な顔を見てそう思う。

 脱がされることに対して一端の羞恥心はあるようだけれど、相手が憎いとかは思わないみたいだ。そんなことを考える必要がないほど脱がされている、ということもあるだろうが。

 いや、しかしながら。躍起になって私を脱がそうとしてくる、どこぞのメスガキとは大違いだ。

 などと、くしゃくしゃになる髪(無論、ログアウトしてログインすれば元に戻る)を眺めながら考えていると、噂をすればであろうか、シロさんがきた時とは比べ物にならない勢いで扉が開いた。

 

「やっぱりまだいた! バカシロも!」

 

 ピンク色の髪に、ピンク色の服……というよりは、桃色というべきであろうか。シロさんのように、その色をモチーフにしたアバターが部屋に飛び込んできた。

 いつものような(大)人を小馬鹿にしたような眼つきは鳴りを潜め、少しばかり涙を浮かべた吊り目が私を睨む。

 今日の配信イベントを組んだ、私の第一の敵であるモモコである。

 

「あっ、モモコちゃん! お疲れサマー!」

「お疲れ様じゃないってーの! ってかバカシロはこっちのチームだったでしょ! なんでそんなチビチナの頭なんか撫でてんの!」

「えー、だって私とプラチナちゃんは仲良いもん」

 

 ねー、と笑顔を浮かべてくる彼女に私は苦笑する。

 一度バトルした時からこの距離感である。仲がいいも悪いも関係がないのではなかろうか。

 ……まぁ、モモコを挑発するのには丁度いいし、そのまま利用はさせてもらおう。

 

「まぁ? 私と変わらない身長のくせにチビなんて言ってくるよわよわさんには入ってこれない仲なのですー」

「目ぇついてんの!? モモぴゅんの方が断然大きいし……って、よわよわじゃないし!」

「いやいや、フレンドマッチ含めたら何連敗なのですかぁー? ほらほら、さっさと答えてくださいなのです、よわよわモモコー」

 

 ぷーくすくす、と煽るように口元を手で押さえる。

 ここ最近の数ヶ月、未だに負けなしである。無論モモコも例外ではない。

 なので反論できないのか、顔を真っ赤にしてぐぬぬ、とでも言いたそうな悔しげな表情をする。

 

「むぬぐぐ……! きょ、今日のバトルはノーカン! 練習だし!」

「は~、ノーカンなのですね~? それじゃあ宣言していたリベンジマッチはどうするのですかぁ~?」

「8時にフレンドルーム! 逃げたらモモぴゅんの勝ちだかんね!!」

 

 するとモモコは手元でメニュー画面を操作して、ログアウトの手順を踏む。

 光の向こうに消えていく寸前、べー、っと精一杯の反抗心を見せる。

 その光景を見るだけで私は満たされる。

 

 ああ──嗚呼。これだ、これこそ、だ。

 これこそ、このメスガキをわからせたという証明。私が絶対的優位であるという事実の確認。

 そうしてまた一歩、私は強靭な大人への一歩を進む。

 

「それじゃあシロさん、私もお暇するのです」

「あ、うん! またやろうねー!」

「はい、それでは……なのです」

 

 まるで元気の良い犬みたいな返事を聞きながら、私は現実へ帰っていく。

 一瞬の明暗のあと、VRバイザーごしに自室を見渡す私は、そういえば今日はベッドで横になったのではなくソファーに腰掛けて接続したのだったと思い出した。

 そのままをバイザーを外してゆっくりとソファーの横に備え付けた台において、そのまま私を包み込むぐらいに大きい椅子へ改めてもたれ掛かる。

 

 ふぅ、と一つため息を一つ吐く。そのままぼんやりと目を開けて、つらつらと意識を視界の右下へと向けた。

 そこにNEWとメッセージがあり、それを認識するとわからせ度:47%→49%という文字が開く。

 2%の上昇である。下した私自身が充実感を感じても相手は負けがこんでいる中の一敗であるという認識なのであろう、それほどわからせ度の上昇は見られなかった。ここ最近は連勝に連勝を重ねているから、モモコ本人も悔しいとは思うが仕方がないと思っている部分もあるのかもしれない。

 それにしたって渋い。また一つ、深くため息を落とした。

 すると、忘れていたようにくぅ、とお腹が小さく鳴る。この家には私しかいないのだから誰も聞いてはいないのだが、少しだけ恥ずかしい。

 あくびを噛み殺し、軽く身体を動かす様に捻った。小さく、関節の音が鳴る。

 

「なにか、買いに行く……のです」

 

 独り言にまでついてくる語尾が嫌になる。

 部屋着をそのままソファーに投げ捨て、少しばかりダボッとしたサイズ大きめのシャツとズボンを身にまとう。

 長い髪は隠すようにすべて服の内側にしまい込み、その上からパーカーを纏う。勿論、パーカーのフードを被るのも忘れない。

 どう見てもファッションとしてはアウトな気がするが、そこまでしないと目を欺けないだろう。良くも悪くも今の私は見目がいい上に、わかる人ならわかってしまうのであるから。

 

「いってきまーす、なのです」

 

 靴を履いて、最後に玄関に置いてある鏡で私の姿を確認する。

 フードの下からちらりと覗く私の前髪は金とも銀とも取れるような色をしていて、その更に下から覗く瞳には、よく見ればまるで何かのキャラクターのように星の模様が浮かんでいるのが見て取れるだろう。

 それは奇しくも、『ボンバーバトル』で最近名前が売れてきているプレイヤーである『プラチナ』、そのアバターと同じである――――というより。この服を同じものに着替えてしまえば、そのものであった。

 

 

 ●~*

 

 

 私、『白金円』は転生者である。

 そして、この世界は『ボンバーガール』の世界――――とは、また少し違うのかもしれない。

 何故なら彼女たちはプレイヤーのことをマスターだとかご主人とか呼んでいたのに対し、この世界ではリアルに存在する彼女たち自身がプレイしている上に、女の子だけではなく男も入り混じってバトルしているのだから。

 ちなみにアバターそのものはどちらの性別でも作成できるが、声はリアルのものが反映されてしまうためバレバレだ。ボイスチェンジャーを使う猛者もいるが、分かる人にはわかる……らしい。

 

「まー、好き勝手言ってくれるのです」

 

 それはさておき。

 食後に少しお高いカップアイスを食べながら、眼前に表示されているスレを流していく。

 この世界に転生して便利になったのは、このAR──拡張現実機能であろう。先ほどのメッセージはともかくとして、ライン的なメールやゲームができるし、インターネットにも接続できる。その関係としてダイブ型VRゲームが開発されたのも頷ける経緯だ。

 そんな世界でも匿名掲示板文明は廃れていないようで今日もモモコと私の配信戦実況スレが立っていたし、専用板こそないものの『ボンバーバトル専用スレ ●~*×443』なんてある辺り、その人気度や注目度も伺える。

 

 そんな中、私が眺めているのは『メスガキ総合スレ』である。

 総合の名の通り二次三次問わない話し合いがされている。勿論『ボンバーバトル』のプレイヤーも例外ではなく、アクアやグリム(何故か、プレイヤーネームにはアロエがついていないがグリムアロエそのもの)の名前も上がる。だが、その中でも一番上がるのは、どうしてもモモコである。

 彼女たちはアイドルユニット『プリティー・ボンバーズ』としてリアルでも顔出しをしている。そのため二次専用の人も三次専用の人も入り込みやすいのだろう。

 

 そして、最近そのリーダーであるモモコはあるプレイヤーに対して執着気味だ。

 自らは違うとばかりに彼女たちを『メスガキ』とこき下ろし、試合終了間際には勝利宣言。終いには『なのです』なんて特徴的な語尾すらある彼女も、外野からはメスガキと判断されるに十分だった。

 つまり私こと『プラチナ』も、メスガキ認定されているのである。

 

「…………むぅ、なのです」

 

 モモコ達より声こそ小さいものの、私をわからせたいという人間は一定数いる。私にとって、それは甚だ不満だ。

 何故なら私は大人である。

 本来なら。私こそ屈強なる肉体で、思う存分にメスガキ共をわからせるに然るべき存在なのだ。彼らはその同士とも言うべきで、本来なら手と手を取り合う仲間なわけだ。

 しかし何の因果であるか、今の私はこんな少女の身体に身をやつし、アバターそっくりの外見のため外にでることすらも気を使わなければならなくなっている。そんな私の姿に対してやれ屈服させたいだの、やれ敗北宣言させたいだの……私が少し不機嫌になる理由もわかるだろう。

 本来なら私も弁明をしたい。お前らの目的は私ではなく、あのメスガキどもであるのだと声を大にして言いたい……ところであるのだが、最近は言葉だけではなく文章にも自動で語尾がついてくるのでそれもできない。

 

 スレをそのまま閉じて、私はじろり、と視界の端に常に表示されている2つの項目とパーセンテージを睨む。

 1つは、先程少しばかり上昇した『わからせ度』。これはそのまま、メスガキをわからせることができた分だけ上昇するものだ。

 そしてその下にもう1つ──『メスガキ度』が存在する。そのパーセンテージは『わからせ度』より少し多く、62%の数字を表示していた。

 

 死して、私がこの姿となって目が覚めたとき、この部屋のテーブルの上には1つのメモが置いてあった。

 曰く、『自らの在り様を示せ』。

 私は大人で、そしてメスガキをわからせる使命を帯びた強靭な大人だった。それこそが私の本当の姿であり、私はそれを知っている。

 つまるところ、この『わからせ度』を上げきれば私は真の姿を取り戻すことができるのであろう。

 逆に、『メスガキ度』──私が敗北を期したり、メスガキであるという認識をしてしまった時に上昇する。これが上がれば上がるだけ、私はメスガキに近づいていく。この語尾も、30%を超えた時についてきたものだ。

 何故か『メスガキ度』が上がれば『ボンバーバトル』の能力値も上昇しているためそこからは敗北自体は殆どしていないのだが……この『なのです』調に慣れてしまうにつれて『メスガキ度』もほんの少しずつ上がっていってしまっている。

 このままだと私が元の姿を取り戻すよりも前に私の精神すらもメスガキになってしまうのではないか? そんな考えが脳裏をよぎる。

 

「……はっ。私がそんなのに乗っ取られるわけないのです」

 

 鼻で笑い飛ばす。

 その乗っ取ってくる精神だって、所詮はメスガキのものだ。そんなものに私が負けるわけがない。

 なぜなら、大人は子供に負けないため。

 

 2つ目のアイスに手をつける。

 口から伝わるひんやりよりも強い、キンとした冷たさが私の思考をじんわりと冷やしてくれる。

 

 それにしたって、今日の上昇率は先程も確認した通り2%だ。そろそろ別のターゲットを見つける必要がある気がする。

 しかしアクアも気まぐれに潜ったり配信戦をしているが、それほどバトルに積極的なわけではない。じゃあグリアロの方はというと、基本的に神出鬼没でたまにしか巡り会えない。それに、どちらも負けた相手に執着するようなタイプでもないので定期的にわからせるには少し難しいだろう。

 いや、プレイヤーの中には勿論私の知らないプレイヤーもいる。大半が外見とロールプレイだけのネカマであるが、中には女性プレイヤーもいるし、もしかしたらその中に私がこちらにきた後に実装されたキャラクター、引いてはブロッカー(メスガキ)もいるかもしれない。モモコのアイドルユニットの『プリティ・ボンバーズ』の他メンバーも生意気そうな顔をしていたし、もしかしたらその内プレイヤーとして参戦してくるかもしれない。そう考えたら、最近はたまにしかしていなかったが、少し前のようにモモコの相手だけではなく野良戦を繰り返すのが手っ取り早いだろう。

 野良戦では男性プレイヤーも多く、躍起になって私を攻略し(わからせ)ようとしてくるためリスクはそれなりにあるが……虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。逆に返り討ちにしてくれよう。

 

 時刻を見ると19:30を回っている。タイミングを見計らったかのように、メッセージ受信の報告が眼前に表示された。

 当然相手は先程軽くわからせてやったモモコであり、そのメッセージはというと『逃げたらマジおこだかんね!』とのことだ。

 

「……まぁ? 色々やるにしても、とりあえずはこのよわよわを完膚なきまでにわからせてから、なのです」

 

 『逆にそっちが逃げてもいいのですよ〜?』とメッセージを返し、私は最後の一口を食べてから座ったままぐっと背伸びをする。

 そして力を抜きつつ、腕下ろす。息を吐き出しながら目を開くと、ふと自分の両手が目に入った。

 白く小さな、幼い手。そこから伸びる腕も細く、大人であった頃に比べてそれは随分と頼りない。きっとこの手を掴まれでもしたら振り解くことすら難しいに違いない。

 

「……負けないのです」

 

 しかしその両手をぐっと握りしめ、私はまた一つ決意を再確認する。

 絶対に自分の身体を取り戻してやるのだと。

 そしてその時こそ──メスガキどもに、強靭な大人というものを知らしめてやるのだと!

 

「私はメスガキなんかに! 絶対負けたりなんかしない! のです!!」

 

 そして私は、モモコをわからせにボンバーバトルへと赴くのだった。




※続かない


・メスガキをわからせようとボンバーガールを始める
→中々勝てない
→気付けば勝つためにブロッカーをやっている
→自分がメスガキになるんだよ!!!

ボンバーガールの筐体数もっと増えろ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


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【プラさんを】ボンバトでボコボコにしてやるにゃん♪【わからせます】

 ピンポーン、とインターホンが鳴る。

 

「……んぁ?」

 

 椅子に座ってダメになっていた私はそれに反応してのっそりと体を持ち上げるのです。

 勘違いかとそのまま玄関のある方を見ていると、違うぞと主張するようにもう一度チャイムが鳴ったのです。

 

「あー、はいはい。いまでるのですよーっと」

 

 とりあえずのためのパーカーを被り、ぽてぽてと足音を鳴らしながら考えるのです。果たして、私の家に来るような用件は何かあったかなと。

 基本的に私の家に来るのはネット注文した荷物。基本的に外出で外見を晒せない私は、食事や日用品以外をネットで済ませているのです。

 ……しかし今日はそんな荷物が届くような日でもないし、特に心当たりがあるわけでもないのですが……

 

「んぇー……?」

 

 セールスかなにか? それなら私の至福のひとときを邪魔した罪を償ってもらう必要があるのですが?

 ドアチェーンをかけたまま鍵を開く。

 と、同時に勢いよく扉が開かれるが途中でチェーンが引っかかってガチャン! と大きな音を立てたのです。

 

「ひっ」

 

 しかしそんなことを予想もしてなかった私が多少なりとも驚くのは仕方がないことなのです。

 私はつよつよな大人ですので、チェーンをかけていたことをすぐに思い出し不法侵入しようとした輩に対して鼻を鳴らして胸を張ったのです。

 

「ふ、ふん。どこの誰かは知らないですが、考えることなんてお見通しなのです。大人しく尻尾を巻いて帰るがいいのです、さもないと警察のお世話となるのですよ──」

 

 変態ロリコン野郎、と続けようとしたところで。

 その扉一枚挟んだ向こう側から、聴き慣れない鈴を転がすような声(メスガキボイス)が聞こえてきたのです。

 

「それは、あたしも読んでますよぉ〜?」

 

 次の瞬間に隙間から何やらゴツいハサミのようなものが滑り込んできたかと思えば、鈍い音を立ててチェーンが分断されたのです。

 えっ、と思うまもなく開かれた扉の向こうには声から既に想像のついていたメスガキ──若干大人びて見えるのはきっとその大きな胸のせい──が仁王立ちで立っていましたのです。

 そしてその左手には今し方ドアチェーンを噛み切ったチェーンカッターが握られていて──いや、それよりも。

 私は、こいつに見覚えがあるのです。画面越しに見る時と勿論服装こそ違えど、このドヤ顔をしているメスガキを私が見間違えるはずがない……!

 

「こんにちにゃんにゃ〜ん、この天才アイドルが来てあげましたよ〜」

「まさか……パイン、なのです……!?」

 

 モモコ率いる、プリティ・ボンバーズ。そのサブリーダーであるメスガキ──通称、パインがそこにいたのです。

 私の呟きに対してニンマリと笑顔を浮かべたパインはそのままズイッと一歩、身体を私の前へと踏み出して。

 

「とりあえずお邪魔させて貰いますね、白金さん……いえ」

 

 そして私の被っているフードへと手をかけて。

 そのまま、ぱさりと頭から外したのです。

 

「プラチナさん?」

 

 

 ●~*

 

 

「はー狭っ苦しい家ですね、この天才を招待するには少々お粗末なのでは?」

「……勝手に入ってきておいて何をいってやがるのです」

 

 椅子に座って私の部屋をぐるりと見渡し、そんな文句を垂れるパインの前に水を置く。

 

「そんなに嫌ならさっさと帰ってもらっても構わないのですよ、私は」

「いえいえお構いなく〜」

「はー??? 最初から構うのは私なのですが?????」

 

 さっきは不覚をとってしまったのですが、ここは私の城。例えアクアだろうと大きな顔はさせないのです。

 溢れない程度の勢いでテーブルにお茶の入ったコップを叩きつけ、私もパインの正面に座る。

 

「で、モモコの影に隠れてる二流アイドルがなんのようなのです?」

 

 お茶を口に含んだタイミングで挑発を投げかけると一瞬だけパインの動きが止まり、お茶を口の中へと流し込んだのです。

 ……中々うまく隠しましたが、止まった一瞬眉がぴくりと動いたのは見逃してないのです、手応えありなのです。

 パインは一つ咳払いを行い、取り繕うかのように攻撃的(メスガキ)な笑顔を私に向けました。

 

「単刀直入に言いますね〜」

「いいからさっさと言って帰れなのです、モモコならまだしもボンバトにも参加してない二流アイドルはお呼びじゃないのです」

「…………、そのボンバーバトルで、あたしと勝負してもらいます」

 

 ……ふぅん?

 私はその言葉を受けて、自分の眼が細くなったことを自覚したのです。

 私はそんな安い挑発に乗るほど馬鹿ではないのですが、改めてこのパインという存在を思い返します。

 

 パイン……『プリティ・ボンバーズ』のメンバーは名前にフルーツが入っているのですが、おそらく芸名でしょう。本名は当然の如く知らないのです。

 今は私服で、その極めて遺憾な乳袋を露わにしていますが、常ならモモコと同じようなアイドル衣装を身にまとって、歌って踊っているのです。

 まぁ、私にとってはその程度しか知らない存在なのです。あくまでもモモコのおまけ……そんな認識だったのですが。

 こうして、近くで見てみるとまた違った感情を私は持ったのです。

 即ち──このメスガキを理解さ(わから)せなければ、と。

 

 私のセンサーに反応した以上、引くわけにはいかないのです。

 しかし、大の大人が目の前に垂らされた餌にすぐさま食いつくわけにもいかないのです。

 勝負は既に、始まっているのですから──!

 

「はー、なんで私がそれを受けなきゃいけないのですかぁ〜?」

「それは勿論、モモさんへの踏み台にするためですけど?」

 

 間髪入れずの返しに、私は一歩遅れて感情が沸騰しそうになるのを感じたのです。

 それを押さえ込むように私は自分に用意したお茶を手に取り、一息に飲み込みます。

 

「あれあれ〜? もしかして自分がそんな、この超天・才アイドルのパイにゃんに注目されてるとでも思ったのですか〜? ちゃんちゃらおかしいですねぇ」

 

 ニンマリと目が笑ったまま、パインはクスクスと忍び笑いを溢します。

 

「なんの間違いかはわかりませんが、モモさんはあなたに執着している様ですしぃ、私の本格的なボンバーバトルデビューと同時にライバルを再確認して頂こうかなー、と」

「ははぁ、そういうことなのですか。なら、手加減した方が良いのですね、私が勝ってしまったら台無しなのですから」

「別にそんなのはいらないですよぉ、だってパイにゃんは──」

 

 そこで挑発的に私の瞳を覗き込む。

 意地の悪そうな笑みを浮かべて、パインはその後を続けた。

 

プラチナさん(メスガキ)には負けませんから♪」

「受けてたってやるのです。さっさと日時を言えなのです」

 

 ……もとより、断る理由なんてそもそもないのです。

 私が彼女をメスガキと感じた以上、私は大人として彼女をわからせなければならないのです。これは真理なのです。

 故に、ここまで(大人)勘違い(馬鹿に)されて乗らないわけにはいかないのです。

 

「そうこなくてはです♪ では、日時ですが来週の日曜日、19時からでどうでしょう」

「来週なのですか〜? そんなに時間空けて、自信もないのですか〜?」

「今日明日でも勝つのはパイにゃんですけど、それじゃ見る方も少ないのでつまらないじゃないですか〜? だから一週間は宣伝させてもらい大勢を集めさせていただこうかと」

「上等なのです、首を洗って待ってるといいのです」

 

 私の宣言も意に介さず、ふふんとせせら笑ったパインは『お暇しますね』と席を立ちました。

 別に見送る気もない私は座ったまま『さっさと出て行けなのです』と返し、去っていくパインの背を睨んでいたのですが。

 居間から出るための扉に手をかけて、くるりとこちらを振り返ったのです。

 

「そういえば」

「なんなのですか」

「いえ、別に。そういえば、言い訳を塞いでなかったなぁと思いまして〜」

「……だから、なんなのですか」

 

 んふふ〜、とパインは手をかけたドアに寄り添う様に身体を寄せて、少しの隙間を開けるとそのままそこに滑り込み、こちらを覗き込みながら少しずつ閉めていくのです。

 

「別に私が負けたからと、白金さんの事をバラすつもりはないのでご心配なく」

「────は、」

「では、さよならですにゃ〜♪」

 

 思いがけず私が立ち上がろうとした期先を制する様に扉を閉め、続いて玄関の扉も開いて閉まる音がしたのです。

 片膝をついて立ち上がりかけた私はそのまま膝をたたみ、ぶつけようのない怒りで歯を強く噛み締めました。

 

 パインは、『(プラチナ)のリアル』という最大の手札を使わないと宣言したのです。

 つまりそれは、それを使ってしまえば相手にならない、とメスガキによくある大人を舐め腐った行動であり。

 そしてそれを一番事前交渉の最後に持ち出すということは、勝負をする前から負けているのだと私に叩きつけることに他ならず。

 眼前にこれでもかと言うほどデカデカと表示されている、ポップアップ(《メスガキ度が上がりました! 76%→79%》)など目に入らないぐらいに私の怒りが有頂天に……79パーセント!?

 叫びたくなるのをグッと堪えて、しかしじっとしているわけにもいかず寝室へと駆け込みベッドに飛び込み、そして枕を力一杯叩くのです。

 

「ぐぬ、ぬぬぬぬぬぬぬ……!!」

 

 メスガキ度が上がってしまったということは、わからされてしまったということなのです。

 それも、あんなメスガキに……! つよつよな大人である私が……!

 

「ふぅーっ、ふぅーっ……いいでしょう……!」

 

 これは戒めなのです。

 モモコのおまけと侮ったことを認めるのです。しかし、次はないのです、油断はもう一切しないのです。

 与し易い相手と思わせなかったことを、次は私が後悔させてやるのです……!

 

 一週間後を楽しみに待っているがいいのです。

 メスガキがよ……私が、この手で……

 

「わからせてやるのです……!」

 

 

 ●~*

 

 

『ちゃんねるをご覧の皆さん、こんにちにゃ〜ん♪ プリティ・ボンバーズ次期リーダー、泣く子も悶える天っ・才! アイドルといえば〜……そう!』

 

【パイにゃーん!】

【パイにゃん!】

【モモぴゅん!】

 

『パイにゃんですにゃ〜! ……って、誰ですかモモさんの名前出したのは! パイにゃんですにゃー!!』

「何をやっているのですかこいつは……」

 

 ボンバーバトルに接続して既に待機していた私は、画面を投影してパインの配信画面を見ているのです。

 私に喧嘩を売ってきた一週間前から本人が散々に煽り散らかしていた甲斐もあり、急上昇ランキングや呟きのトレンドにも乗っているのを見たのです。

 それらが全部、モモコに自身を振り向かせる、つまり私を踏み台にするための前座だということを思うと、私は……

 

俄然(がぜん)、燃えてきたのです」

 

 パインはパフォーマンスかどうか知りませんが……というか私に喧嘩を売ってきた以上本音だと思いますのですが、プリティ・ボンバーズのリーダーの座を狙っているのです。

 つまりモモコとは実質的にチームメイトといえどもライバル。そんなモモコを見ているパイン本人がわざわざ私に接触してきた、ということはモモコは私に執着していると見て間違い無いのです。

 つまりこのバトルは、モモコも観戦する筈なので。

 

「わからせがいが、あるのです……!」

 

 ここでパインをわからせれば、モモコに見られている以上精神的ダメージが増えることは必至。

 つまり私のわからせ度も大きく上昇する……! そうしたなら、先週のは無かったことにしてやってもいいのです。

 

『ボンバトは、今までもパイにゃんもかる〜くやっていましたけれど、今日からは本格参戦! モモさんのお株も奪っちゃいますにゃん!』

 

 言いながら、画面向こうのパインは自らのゲームプロフィールを表示したのです。

 名前の横に表示されているランクはマスターB。十分な実力を持っていると証明できるランク……であることは既に私も知っているのです。

 裏で手早くランクを上げたのか、プレイ動画が少なかったですが他者の配信に乗ってしまっている動画でスキル構成も大まかにはわかっているのです。

 ほぼ全てがモモコと同系統のスキル。モモコのスキル自体スタンダードなものですが、パインも若干は異なるとはいえ一般的なブロッカーのスキル構成に漏れないのです。

 少なくとも私にとっては、モモコ相手に腐るほど対戦した型で、グリムよりもよっぽど与し易い相手なのですが。

 ……まぁ、それでライバルを超える、ということがパインにとっての『わからせ』ることなのでしょうね。

 

『ではでは〜、早速本日のメイーン、イベントっ! に、移らせていただきますにゃ!』

 

 画面の向こうでパインがぽちぽちと操作し、背景がバトル控え室になったのと同時、私の目の前に『【パイン】からバトルの申請が届きました。承諾しますか?』と表示がされたのです。

 一も二もなく、私はパインの配信画面を閉じて『YES』を押すのです。すると青白い転送エフェクトに包まれて、視界が反転。次の瞬間には目の前に黄色を基調としたメスガキ──パインが立っていたのです。

 空中に浮いているミンボーカメラから視線をこちらへ向けて、パインはニンマリと笑みを浮かべます。

 

「こんにちはで〜す♪ ささっ、どうぞこちらへ〜」

「こんにちは、なのです。一週間ぶりなのです」

 

 言いながら、私もカメラに映るように誘導されます。

 ミンボーが構えているカメラの頭上には今カメラに映っている画面と、伴って見ている方々の反応……つまり現在の配信画面がそのまま映されているのです。

 モモコの配信に軽く映ることは今までもありましたのですが、こうして画面の向こうを認識するのは初めてな気がするのです。

 

「それでは自己紹介をど〜ぞ、にゃ!」

「マスターAのプラチナなのです。もうすぐグラマスなので、そこのパインよりもつよつよなのです。どうぞよしなに」

 

【かわいい】

【メスガキがよ……】

【誰?】

【パイにゃんマウント取られて草】

【プラチナちゃんprpr】

 

「わ、ぁ……」

 

 私が軽く頭を下げて、それから見たチャットの速さに頭がクラクラするのです。

 別に私自身が読む必要はないのですが、配信者はこれを良く読みながら進行できますですね?

 

「ふふ〜ん? そんなにつよつよなら、勿論パイにゃんにも負けないのですよねぇ〜?」

当然(とーぜん)なのです、なんならハンデでもつけてあげるのですよ」

「つーまーり、ハンデをつけないバトルでは負けないということですよね?」

「だからそう言っているのですよ。その頭は飾りなのですか?」

 

 私がそう挑発するも、パインは全く意に介さず。

 むしろ罠に嵌ったとでもいうように笑みを深くするのです。

 

「では、そこまで自信のあるプラさんが()()()負ける様なことがあれば勿論何かお詫びをするのですかにゃ〜?」

「プラさ……? いや、なんで私がそんなこと──」

「あれ〜? もしかしてプラさん、()()()でもパイにゃんに負ける可能性があるのですかにゃ???」

 

 ……ああ、なるほど。相手の自信を逆手に取って、逃げ場をなくすというわけなのですか。

 単純で、古典的で……それでも効果的な挑発なのです……!

 

「いえいえ、たしかに()()()は怖いですからねぇ〜、()()()でもパイにゃんに負けでもして、()()()でもお詫び、もとい罰ゲームをする事になる、ということを考えたら、()()()でもこの提案を受け入れるのは……」

「わかりましたのです」

「んん〜? なにか言いましたかぁ〜?」

「わかったと、言ったのです。確かによく考えれば、()()()でもパインに負けることはあり得ないのです。だからもし負けでもしたなら、お詫びでも罰ゲームでもなんでもしてやるのです」

 

 私のその言葉にチャット欄も賑わいますが、どうでもいいのです。

 今言った通り、勝てばいいのです。そして同様に、私がパインに負けることはあり得ないのです。

 なぜなら──大人は子供に負けないため。

 

「逆に、ここまでお膳立てしておきながらあとで吠え面かいても知らないのですよ」

「くふふ〜、そうですね、吠え面かかせられるといいですねぇ〜」

 

 余裕しか見せないパインを相手に、地団駄を踏みたい衝動に駆られましたがなんとか抑えるのです。

 というか、そんなメスガキムーブは私には似つかわしくないのです。私は、つよつよな大人なのですから!

 

「では、罰ゲームは後の楽しみに取っておくとして……そろそろ、マッチングを始めますにゃん♪」

 

 機嫌が良さそうにぽちぽちと操作するのを、私は腕を組んで見守るのです。

 

「ルールは4VS4の拠点防衛戦、パイにゃんとプラチナさんは別チーム固定の、ありありルールでよいですか?」

「構いませんのですが……むしろそれでいいのですか?」

 

 ありありルールとは、ゲストあり、ランク制限ありのルールなのです。

 フレンドマッチの性質上、ルームパスワードを解放すれば今配信を見ている中からだけでも選出することが可能なのです。つまりやろうと思えばパインの味方で埋めることができると言うことなのに、その手段を取らないのが疑問なのです。同じく疑問に思ってるのか、配信コメントにも同じ様な質問が溢れていますのです。

 それを指して質問を投げかけると、やれやれというようにパインは首を振るのです。

 

「モモさんもやるときはありありじゃないですか。ならパイにゃんもそれに倣うのが筋ですにゃ」

「……変なところで律儀なのです」

 

【えらい】

【えらい】

【流石パイにゃん】

 

「それに、同じ条件でプラさんに勝つことで、パイにゃんこそチームリーダーに相応しいと皆さんに知らしめられますのでっ! うーん、この天才的発想……自分の才能がこわいっ!」

 

【すぐ調子に乗る】

【図に乗るな】

【さっきの殊勝な子を返して】

 

「なんとでも言うがいいにゃ、っと。もうマッチングが完了したみたいですねぇ〜」

 

 次々とルームに転送エフェクトが発生し、プレイヤーが出現してきたのです。

 パインチームは特に有名プレイヤーはいないですが、マスターAで揃っているのです。普通に手強いと思うのです。

 対して私のチームは──

 

「……ん? あれ、なのです?」

 

 一人、二人……何度瞬きしても、目を擦っても二人しか味方プレイヤーがいないのです。

 それにパインも気が付いたのか、軽い足取りで私に近づいてきて囁くかけてくるのです。

 

「くふふ〜? おかしいですねぇ、あと一人が来ませんねぇ〜? ラグでしょうか〜?」

「……この場合はどうなるのです?」

「一応少し待ってみますが、NPCで開始しますよ」

「……罰ゲームは?」

「勿論、あるに決まってます♪」

 

 パインのその言葉に、私の顔が歪むのがわかるのです。

 このゲームのNPCは、マスターランクにもなってれば1vs1でも余裕なのです。時折不明な行動をすることもしばしばですし、まず戦力として数え辛くなるのです。

 そうなれば実質3VS4……負けは必至なのです。

 

「まー、例え誰と組もうと、誰が来ようと、パイにゃんは圧倒的天才力で勝ってやるにゃん♪」

「くぅ……」

 

 このままマッチングか確定してしまえばパインは余裕で勝つことができるのです。だから大言を吐くのですが、私には反論する余地もないのです。

 罰ゲームがちらついて……いや、例えどんなに劣勢だろうと……屈強な大人は子供に負けるわけにはいかないのです!

 パインを睨みつけて、いざ反論しようと口を開きかけたところで──ようやく、最後の転送エフェクトが出現したのです。

 私が心の中で安堵するのに対して、パインはあからさまに不機嫌そうな顔を一瞬浮かべましたが直ぐに取り繕い最後のバトルメンバーに向き合いました。

 

「やーっと来ましたね。もう、ラグなんかでパイにゃんを待たせるなんて、承知しな、い……?」

「申し訳ありません。接続エラーで再起動をかけていたので、遅れてしまいました」

 

 ──突然ですが、ボンバーバトルのランク制に関して説明するのです。

 マスター、スーパースター、スター、レギュラー、ルーキー、ビギナーの順に高く、それぞれABCでランク付されているのは同じなのですが、マスターAの上に私の知らなかったランク……グランドマスター、通称グラマスというのが存在するのです。

 さっき自己紹介の時にも言った通り、私ももうすぐグラマスなのですが……グラマスの中でも更にトップクラスはマスターランクでもまるで歯が立たないなんてことがしばしばなのです。

 

「此度も互いに愛し、愛されましょう──どうぞよろしくお願いしますね」

 

【あっ……】

【あっ】

【愛キチ! 愛キチじゃないか!】

【セピア様!】

 

 そんなグランドマスターの一人が、彼女……『セピア・ベルモンド』──ヴァンパイアハンターの血を受け継いでいる、というのが公式設定だったハズなのです。

 そういう設定のプレイヤーである、という可能性もあるのですが……おそらく本当なのだろうというのが私の見解なのです。

 アクアとのバトルの際に高確率で出現するのですが、味方にした時のその時の頼もしさといったらないのです。勿論それ以外も、なのですが。

 

「セピアさん、久しぶりなのです」

「あらプラチナさん、お久しぶりです」

「はいなのです。セピアさんが味方なのは心強いのです」

 

 言いつつ、ちらりとパインを見ると、流石のパインもセピアさんのことを知っているのか明からさまに目が泳いで動揺を隠せていなかったのです。

 確かにアタッカーとして五指に入るとは思うのですが、普段のバトルなら二人がかりならなんとか食い止められはするのです。

 セピアさんの頭がおかしくなるのは基本時にアクアの──……あっ。

 いいこと、思いついたのです。

 

「セピアさん、今日は一つお願いがあるのです」

「あら、なんでしょうか?」

「私がわからせて(愛を教えて)あげようとしている人がいるのですがなんともうまくいかないのです。なので、セピアさんからも説教をしてもらいたいのです──あそこにいる、パインというのですが」

「にゃっ!?」

 

 私の言葉に驚いたようにパインが声を上げて、ぐるりとセピアさんの首がパインの方へと向く。

 それは単純明快で、つまりセピアさんのヘイトをパインに向けさせればよいのです。

 普通のバトルならなんとか抑えられるというのも、とあるスイッチが入ってなければのお話。そのとあるスイッチというのは勿論『愛』、なのです。

 愛を愛し、愛に愛されしセピアさんは愛を布教しており、そのためならどんな手段も愛故に(いと)わないのです。愛さえあれば全てが救われると信じているその性質は、まさに愛狂い。故に一部ユーザーからは『愛キチ』と呼ばれているのです。

 私から目を背けたセピアさんがどんな顔をしているかわかりませんが、多分すごい笑顔を浮かべているのでしょうね……と思っていたら凄い勢いで近寄ってきたパインが冷や汗をダラッダラに垂らしながら『失礼しますっ!』と私の腕を掴み、これまた凄い勢いで集まっていた場所……厳密に言えばセピアさんから遠ざかるのです。

 そうして今度は私の肩を凄い形相(俗に言うお目目ぐるぐる状態なのです)で掴み、ガクガクと揺さぶりながら抗議してくるのです。

 

「なっ、なんてことするんですか!? これもうセピさんが私を執拗に狙ってくるのですけどっ!?」

「いや、なの、ですね。パインが、言ったの、ですよ?」

 

 言いながら私を揺するパインの腕を押さえて、息を整えるのです。

 多分、私も満面の笑みを浮かべていたことでしょう。

 

「誰が来ようと勝てるのですよね? 奮闘、楽しみにしてるのですよ」

 

 同時に待機時間一杯になり、聴き慣れたボイスで『ボンバーバトルスタートします!』とアナウンスが流れるのです。

 互いに転送される姿を見ながら、最後にパインの声が聞こえてきたのでした。

 

「ぜっ、たいに! わからせてやるにゃあぁあああああああ!!」

 

 そんな負け惜しみを聴きながら、視界の端に現れた『NEW!』のメッセージへと意識を向けるのです。

 そして開かれた、『わからせ度:73%→74%』の文字に達成感を感じながら、私は呟くのです。

 

「まっ、後はアーカイブだけで勘弁してやるのです」

 

 少なくとも、今日は。

 今からセピアさんにやられるパインの姿を楽しみにしながら、私は改めてバトルへと意識を向けるのでした。

 

 

 ●~*

 

 

【プラさんを】ボンバトでボコボコにしてやるにゃん♪【わからせます】:配信済

 

 

「なんでこうなるの〜!?」

 

【あーあ】

【だから言ったのに】

【見て損した……時間の無駄だったわ】@モモぴゅん

【モモぴゅん!?】

【モモぴゅんもようみとる】

 

「モモさん!? てっ、天才的想定外っ!!」

 

 配信アーカイブには配信を見ていたモモコの失望コメントと、破損した服から覗く肌をなんとか隠そうとしながら喚くパインの映像が残っていたのです。

 なんとか愛(物理)を教えてあげようとしているセピアさんから、壁を出現させて逃げながらボヤきます。

 

「うう……パイにゃんはただ、プラさんに破損衣装で一曲歌って踊ってもらって、モモさんとそれを笑うつもりだっただけなのにぃ〜」

 

【は? なんで勝ちにいかないんだ】

【天才的失望】

【負けたらお前がやれ定期】

【アイドルグループが素人を笑い物にするとか悪趣味すぎて草】

 

「見つけました♪」

「にゃにゃにゃっ!?」

 

 横合いからブロックを破壊してきたセピアが、その大剣……いや、いつの間にかチェーンソーになってるのです。チェーンソーを携えて現れました。

 ……パイン視点なので、完全にホラーなのです。

 

「ゆ……許してにゃ……」

「だーめ♪」

 

 そしてセピアさんのチェーンソーが唸りを上げると同時、鼓膜がなくなる前に私はそっと動画を閉じましたのです。

 

 ……とりあえずこのあとは、ベースを守っていた私は知らないことでありますのですが。

 最終的にはパインが破損衣装でヤケクソにライブをしていた、ということだけ追記しておくのです。




プラチナちゃんがこの世界に飛ばされたのはパイン実装直前のため、パイン以前以降のキャラは知りません。

※今度こそ続かない
けど、アンケートは設置

ボンバーガールの筐体数もっと増えろ
ボムガキももっと増えろ


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【朗報】メスガキプラチナちゃん、────になる【動画あり】

※グリムアロエ回です。


 ……突然ですが、ボンバーバトルにはボンガとは違うVRゲーム特有の機能が存在するのです。

 それは敗者チームに対して勝者チームが相手の衣装を変更できる、というものなのです。

 基本的に相手を貶めることになるのでマナー的に使われない機能ではあるのですが、アバターが筋肉系のもので見るに堪えなかったり、そもそも事前の罰ゲームとして決めておいて着替えさせる、というのは往々にしてみられる光景なのです。

 そして私はその機能を悪用されてしまい、心の中までこの口調になってしまったというわけなのですが……

 じつに、それは一月程前に遡るのです。

 

 

 ●~*

 

 

 視界が暗転して、一瞬の暗闇の後に視界の中心から世界が構築されていく。

 何度も見た、ロッカールーム兼控室のような自室……ボンバーバトルのマイルーム。

 今私が座っているログイン用の椅子やベッド以外は、あたかも試合前の控え室のような場所だ。

 

 ボンバーバトルは基本的なバトルは無料で行える。だがアバターや服装、またスキルなどに関しては課金制のシステムをとっている。

 課金は運営がデザインしたものをガチャなり販売なりで購入してもいいし、一定のお金を払うと導入できる自作、またその導入したものを販売できるシステムもあるのでそういったものを用意するガチ勢もいる。

 ちなみに、プレゼントも可能だ。勿論無差別でなくフレンドになってなければいけないという縛りもあるが……そのフレンドになっている、シロさんからは変なアイテムが送られてくることがある。

 なんかセミとか……おでんとか……最近だと、モモコから『なんか見つけた』というメッセージと共にプレイヤーメイドの私のデフォルメ顔の髪飾りが送られてきていた。何でそんなものがあるのか……どれも多分、一生装備や設置することはない。

 

 ちなみに、私のアバターや服装に関しては私がこのゲームに挑むことを知っていたように初めから設定・反映されていた。

 でなければ今の姿とそっくりなアバターを自分で作成するわけがないし、こんな、ふりふりな魔法少女もさながらな服装を導入するわけがない。

 ……ついでに言っておくと、一部の衣装を除いてこのゲームを始めたての初心者が着ている中性的なデフォルト装備に変更することもできない。何かしらのロックがかかっているようで、私をこの世界に送り込んだ存在の陰謀を感じる。

 逆に、変更できる一部の衣装に関してだが……これはまぁスクール水着だったり、メイド服だったり……私が着るわけない服装ばかりだ。

 

 ……とりあえず閑話休題。

 ともかく、私のマイルームはほぼデフォルトのままだということだ。

 それこそアイドルでマイルームガチ勢のモモコからはああしろだこうしろだ、もっとかわいくー、だの言われたこともあるが、『そんなことに拘ってるから私に勝てないのですよ〜?』と煽るとすぐにバトルへと移行する。

 勿論私の勝ちで終わり、翌日にモモコ趣味のマイルーム家具が送られてきて、それを私はボックスに放り込み、後日またマイルームに来た時に『なんで折角モモぴゅんがあげたのに置いてないの!?』とキレられてまたバトルすることになるのがこの頃の一連の流れでもある。

 

「そのモモコは……今はログインしていないようなのですね」

 

 エメラ、セピア、モモコ、シロ、クロと並ぶフレンドリストはどれも点灯しておらず、それは全員ログインしていないことを示していた。

 セピアさんもいない、ということはアクアもログインしてないということとほぼイコールだ。

 とすれば、だ。

 

「単純に、ランクマでランク上げでもする……のです」

 

 強制的についてくる語尾はさておき。

 現在の最上位であるグランドマスターは全プレイヤーでも一握りだ。勿論マスター帯ならグラマスともマッチングすることがあるので負けてしまう(わからされる)リスクをとってまでランクマに臨む意味は薄いのかもしれない。

 しかしながら、だ。私が先にグラマスへ辿り着くことでモモコが悔しがるだろうことは想像に難くない。

 それならば多少のリスクは負ってでも挑戦するのが男というものだ……そう、強い大人というものだ!

 

「では、ゴーボンバー、なのです」

 

 厳密にはまだゴーボンバーではないけれど。

 手元の画面を操作して、4vs4の拠点防衛戦にエントリーをする。すると同時に一瞬だけの浮遊感、それから切り替わるように視界が暗転する。

 バトル開始待機中は白い四方の部屋に転移する。唯一あるものといえば決定したバトルステージを示す巨大モニターぐらいのものだろう。

 ちなみにフレンドマッチなどで部屋を立てるときにはこちらもオリジナルの待機部屋を設定できる。そこまでガチな人は少ないが。

 手元で掲示板やSNSを表示する間も無く、次々と参加エフェクトが表示されてまずは自チームのプレイヤーが出現する。

 

「どうもよろしくー……あっ、プラチナちゃんだ」

「ん。どうぞよしなに、なのです」

 

 マッチングした味方のプレイヤーに挨拶を交わしつつ、念のためロール・スキルセット画面を開いておく。

 キャラクター選択でキャラクターと応じたスキルを選べた元の世界のゲームとは異なり、このゲームはキャラクター選択はできない。しかしランダムマッチである以上ロールが被ることもある。なのでプレイヤーは、マッチング画面でロールやスキルをセットし直せるのだ。

 ロールはもちろん、『ボマー』、『アタッカー』、『シューター』、『ブロッカー』の四種類。それぞれでボムの設置数、スピード、体力の上限値が決まっていて、加えてスキルはそれぞれのロールに対応したものを四種類までスキル欄にセット、二種が使用可能・リキャスト開始されるので折を見て使い分けるというのは私のよく知る元々のボンバーガールとそう変わらない。

 おまけとして、同レベル帯で使えるスキルは一種類まで、極々一部のスキルはスタイルのステータス上限を若干上限するというのもあるが、後者はあまり関係のないことだ。

 

「それにしても、私の名前もそこそこ売れて来たのです?」

「ボンバトやってる人でプリボン……特にマスAのモモぴゅんを知らない人はいないし、そんな子と張り合ってるメスガ……んんっ、かわいい女の子プレイヤーがいれば、そりゃもう……あ、ブロッカー譲りますよ」

「……かわいいかどうかはさておき、私はモモコなんかに負けるわけがないのですから、まぁ有名になるのも当然といえば当然なのです。ブロッカー良いのですか、私マスBでそちらはマスAなのですけど」

 

 私のメインロールはブロッカーだが、他のロールも出来ないことはない。というか多少なりともできないでマスターBまで上がれるわけがない。

 それは他の人も同じではあるが、ランクが高い方がメインロールも強いというのは常識ではある。

 なので、まだマスBである私より、マスAである彼の方が上手なのでは、と思うのだが……

 

「いやいやモモぴゅんの配信試合見てても遜色ないと思うし、多分俺より上手いから全然大丈夫だよ」

「そうなのですか? でも悪い気がするのです……なんなのですかその微妙そうな顔は」

 

 私が殊勝な態度をとっていると不愉快とまではいかないが妙な表情を見せられた。

 なのでそのまま突っ込みをいれると、同意を求めるように他の二人を見る。私も釣られて見ると、一様に同じ表情をしていた。

 

「いや……だから、なんなのですかその顔は」

「いやだって……なぁ?」

「うん……なんて言えばいいのか……ええっと、噂になってるほど生意気じゃないんだなって……」

「……私のことをなんだと思ってるのですか」

 

 『メスガキでしょ……』という自チームメイトの心の声が聞こえたような気がした。それに対して声を荒げそうになってしまうが、深呼吸して何とか抑える。こう言う反応もたまにある、珍しいことではない。

 しかしメスガキ総合スレやらボンガ対戦スレやら配信戦実況スレでわかっていることではあるが、どうにも私を知る人……つまりモモコの配信戦を見ている人は私とモモコの対決をメスガキ大戦と思っている人が多いようだ。

 草の根活動ではないけれど、ここはズバッと大人として……そう! 大人として! 優しく諭すように、誤解を解くべきだ。

 

「あのですねぇ、私だって人は選ぶのですよ?」

「……というと?」

「モモコみたいに、私の様な立派な大人を舐め腐るメスガキには相応の対応をしますが、そうでなければキチンと礼儀は払うのです」

「大人……?」

「大人……」

 

 大人でしょうが!! と声を大にして言いたい。けれど、今のこの身体でそんなことを言っても失笑をもらうだけなのは流石に私だって理解している。

 

「なので、私はプレイでそれを証明するのです。ブロッカーはご厚意通りもらいます、完封してやるので──」

「あーっ♪ 誰かと思ったら情けな〜いおねえちゃんだ〜♪」

 

 その声を聞いた瞬間、私はチームメイトから視線を外して周囲を素早く見渡す。

 そして私はすぐにそのメスガキを視界にとらえ、その名前を呼ぶ。

 

「グリム……!!」

「きゃー、こわーい♪ そんな興奮しないでぇ」

 

 くすくすと口元に手をやりつつ、一切たりとも怖いと思ってないその姿。

 私を三度も敗北に追いやったメスガキ、グリムアロエそのものだ。……プレイヤーネームは何故かアロエが外れてグリムのみになっているが。

 

「おねえちゃんは、少しは強くなったのかな〜?」

「はっ、当然(とーぜん)なのです! 今度こそ私が勝つのですよ!」

「うーん、それはちょっとむつかしいかなぁ?」

 

 そう言うとグリムはくるりとその身を翻す。

 そして挑発する様に腰を突き出し、人差し指を自らの唇に寄せて、私に向かってポーズを決めた。

 

「だっていくらおねえちゃんが強くなっても、私の方が強いもん♪」

 

 ……………………。

 落ち着いて……落ち着いて私……深呼吸、深呼吸……

 すー、はー……すー、はー……………………はー!!!????

 私の方が強いが!!???? 大人が子供に負けるわけないんだが!!?!!???

 

「……空いているのは、ボマーなのですよね?」

「え、あ、うん……プラチナちゃん?」

「ブロッカーは譲るのです。任せたのです」

 

 チームメイトに念のため空いているロールを確認してブロッカーからロールの変更をする。(あつら)え向きに空いていたロールはボマーだ。

 防衛側である時、基本的にブロッカーはボマーの、シューターはアタッカーの相手をするというのはもはや常識である。つまり逆にいえば、ボマーになればブロッカーが詰めてくることが多い、とも言い換えられる。

 つまりこの状況で上回れば……いや、たらればではない、上回るのだ。

 上回って、完膚なきまでに叩きのめす。他のバトルに負けても、このバトルにだけは負けてはいけない。

 

「今回こそ、完膚なきまでにやっつけてやるのです!」

「きゃ〜、かっこい〜♪ それじゃあおねえちゃんがあたしに勝てたら、たくさん誉めてあげるね〜♪」

『ボンバーバトル、スタートします!』

 

 待ち時間がゼロになり、アナウンスが響く。

 ここに来た時と同じように視界が白い光に染まっていく中、私は最後までグリムを睨みつけた。

 そのグリムは最後まで余裕そうな表情を崩す事はなく、そして視界が暗転する。

 

 ステージはパニックアイランド。波とカモメ、それからサメが飛び跳ねる音を聞きつつ、私は胸に手を当てて気持ちを落ち着ける。

 グリムはスキルに大回復スキルを採用しないことが多く、トリッキーな戦法を好んでいる。なのでその分ゲージを削られた時は立て直すまで時間がかかる。

 なので勝負は一瞬……私がクロと同じ、ギガボムをぶち込んで勝負を一気に決める……!

 

 マスCに上がった直後の1回、それから野良で偶然当たった2かいの敗北。

 その敗北の度に私は強くなったが、それとこれと話は別だ。

 今日こそ、今回こそ……

 目を閉じながらもそう決意をする私の耳に、アナウンスが届く。

 

『ゴー、ボンバー!!』

「わからせてやるのです……!」

 

 言いながら、まずはレベルを上げてスキルを解放するために私は動き出した。

 

 

 ●~*

 

 

「こっちも行き止まりだよ〜♪」

「むーっ!! それなら押し通るまでなのですっ!!」

 

 橋のギリギリのところでボムをブロックに変えたグリムに対し、私はスクリューボムを叩き込む。

 渡る前に既に置いていた自ボムとの誘爆が発生して自分にも爆風がかかるけれど、そのスタンは僅か1秒、問題ない。

 スクリューボムで切り開いた先には既にグリムがボムを置いて封鎖しているけれど、その誘爆でブロックを消すようにボムを配置、2回のスキルを使って築かれていた2重の壁はそれで剥がれる。

 

「あらら」

「追い抜いてやるのです!」

「いかせないよ」

 

 ボマーとブロッカーの最大速度は同速。なので同時に動くと追いつくことはできない。

 グリムは私の眼の前でハードブロックを挟み行き止まりを作るように再度ボムを配置、爆発する寸前にブロックに変えて更に遅延を計る。

 遅延系ブロッカーとしてお手本のようなムーブだ。破壊するためにボムを設置しながら舌を巻く。

 少しずつ戦線を押し上げていくが、最後の難関はやはりボトルネック。

 基本的に真ん中か出口に置いておけばそれだけで突破が出来なくなる。そしてその二つに置かれた上でくらい抜け前提で突っ込もうにも直前でブロックに変えられるとそこから更に二手遅れる。

 

「ほらほら、どうしたの〜? がんばれ、がんばれ♪」

「はー、今怒った今決めたのです! お前絶対サキュバスチアにしてやるのですっ!」

 

 サキュ……? と少し首を捻っているグリムはさておき。

 一先ずボムを置いてブロックを破壊しようと試みるが、二つ目に差し掛かる頃には既に向こうのスキルのリキャストが終わっている。

 自分の設置したボムが目の前でぽんっ、とブロックに変わる。

 

「は〜い、残念賞♪」

「むぅううううううううう!!!」

 

 ブロック越しであるのでその表情は見えないが、声からして意地の悪い表情をしていることはわかる。

 

「スクリューボムッ! なのです!」

 

 設置して数秒、一直線にまとめてブロックを消し飛ばす。

 爆風が消えると同時にボトルへ一直線。目の前でグリムがボムを設置して行く手が阻まれる。

 また爆発寸前にはブロックに変えられる。どうしたものか、と考えると同時。

 

「そこにいていいのかなぁ?」

 

 グリムが笑いながら、ボトルネックのど真ん中で足踏みしていた私の真横を駆け抜けていく。

 ……ボムを設置しながら。

 前後と足元、左右は壁の私に逃げ場はなく。

 

「んにっ!?」

 

 次の瞬間、私は衣装を破損させながら爆散した。

 爆散したとは言ってもすぐに消えるわけではなく、体力がなくなった後は移動やスキルの発動、ボムの設置ができずにリスポーンまでの数秒間はその場にとどまることになる。

 流れた撃破ログを見ながら歯噛みしてグリムを睨みつけると、ひらひらと消えゆく私に手を振ってきた。

 

「ばいば〜い♪」

 

 次の瞬間にはベース横のスタート地点に出現する。同時にシューターにやられたのか、今回の相棒であるアタッカーも出現した。

 アタッカーも私の姿を確認すると同時に、移動を開始しながら視点を私の顔から下に落とす。

 その視線を感知した私は当たらないと分かっていても裏拳気味に拳を真横に振るった。勿論すり抜けたが、目の前に拳が迫るというのは当たらないと分かっていても心臓に悪い。相手はビックリして遅まきながらも避けるような動作をした。

 

「なーに見ているのですか、見せ物ではないのです」

 

 ボンバーガールの時は衣装が破けた一枚絵が出たりするだけで特にSDキャラ上での異常はなかったが、今となっては別だ。

 撃破を重ねられる度に段々と衣装が破けていく。最大5段階まで破けるため、先程ので5回目の被撃破だった私は既に色々なところの肌が晒されている。ちなみに負けた場合には問答無用で剥がされる。

 ちなみに破ける部分は固定ではなく毎試合ランダムに破かれるため、画像合成されて殆ど裸に剥かれているプレイヤーもいるとかいないとか。

 

「いや……せっかくだからスクショ撮っておこうかなと」

「お前ぶっ飛ばすのですよ」

 

 バトル中多少は仕方がない。リアルと一緒の身体とはいえ仮にもVRで作り物の身体だしと認めている部分はいいにせよ、画像として残ってしまうというならは話が別だ。

 勿論仮にも全年齢対象であるので局部は絶対に見えないが、胸周囲の破損を手や腕で隠しておく。

 

「これで負けたら、お前本当(ほんとー)に覚悟しておくのですよ……」

「シューターもシューターで強いんだけど……まぁ頑張るけど」

 

 もう残り時間は僅か。アタックはあと2回あるかどうか。

 私のスキル2にはタワーを折った時を最後に温存されているギガンティックボムがある。

 残りゲージからみるに、これをうまく決められれば勝てる。……が、勝ち筋はできるだけ多い方がいい。

 

「というわけで、私は念のためリスポ開けに行くのです。別にシューターの弾を全て食らって落ちても構わないのですよ」

「うい、よろしく」

 

 アタッカーがシューターを翻弄してうまく弾切れにさせればそれはそれでよし。仮に即落ちしたとしても弾が切れて無防備な間を私が押し込めばいい。落ちるのが早ければリスポ地点から更にもう一度アタックできる。

 マップを見るにアタッカーはセオリー通りシューターの守っている方向へ向かい、スキルで無敵になってかシューターを追い越してベースへ直行しているのがわかった。

 シューターにヘルプでも求められたか、先程私とぶつかった橋とボトルネックで壁を作っていたのか忙しなく動いていたグリムは身を翻してベースへと入城していく。

 

「よーし、今なら無傷で突入できるのですよー!」

 

 多分私の方はラストアタック、グリムが態々作っていた壁を抜ける意味もない。

 シューターが守っていた方の橋を駆け抜ける。アタッカーが揺動しているようなので、こっちに気を配っている余裕はなさそうだ。

 息を潜めてこっそりベース側に近寄る、と同時。

 

「ウォールマジッって、ちょっとぉ〜!」

「どうかお許しください〜っ!」

 

 ポンッ、とボムがブロックに変わる音がしたと同時に、幾つもの爆発が重なる。

 おそらく想定してなかったことが起きたのだろうと突入すると、案の定敵二人がスタンしていて味方のアタッカーは体力ゲージがゼロ、帰還エフェクトが発生している。

 そんな中素早くベース内へと侵入した私は、ボムを置くべくベースの中心に向かう──わけではなく。

 向かう先は、スタンしているグリムだ。

 

「……!」

「お返し、なのです」

 

 壁際にいたグリムを足元を含めてL字にボムで囲う。この時相手の足元から置くのがミソだ。近ボムが3発分、計300ダメージ。

 相手のベース内なのでダメージは半分の150。それでも致死のダメージだ。アタッカーが頑張ってくれたのか、目算ではギリギリ達してるように見える。

 お互いに親指を立ててグッドと示しつつアタッカーが消えるのを見送り、満を辞して私は必殺のボムを召喚する。

 

「勝つのは私なのです! ギガンティックボム!」

 

 ギガンティックボム、通称ギガボムはスキルボムにしては珍しく周囲1マスしか攻撃範囲がない代わりにダメージは500、近ボム5回分の能力がある。ベース内での体力満タンブロッカーですら確殺できるボムで、クロさんもよく愛用している。

 そんなボムすらもグリムはウォールマジックでブロックへ変換できるが……先に倒してしまっていれば関係ない。

 勝った(わからせた)────!

 

「今のはヒヤッとしちゃった……♪」

 

 ぽんっ、と私が退避したと同時にギガボムはブロックへと変わる。

 唖然としながら真横を見ると、煤まみれのグリムが笑っていた。

 

「っ!」

 

 なんで落ちてないのか、その言葉を飲み込む。私もアタッカーも目測を誤った。残っているグリムの体力ゲージがそれを示している。

 いや、しかし。まだ間に合う、うまく近ボムを当て続ければ競り勝つこともできる……!

 そう思い、まずは目の前のソフトブロックを壊すためにスクリューボムを置いて。それと同時に、三本の矢が飛んできた。全てではないが、二本が私に突き刺さり──ダメージのエフェクトと同時に動きが非常に鈍重になる。

 速度のデバフ。仮に無敵になっていたとしても逃れられないスキル能力。

 

「やっ、やりましたぁっ!」

「ナイスだよっ」

 

 私はなんとかその場から離れようと試みるが、もはや速度デバフの入っている状態ではろくに離れることなど出来ずに自分の置いたスクリューボムの爆風に巻き込まれる。

 自分のボムであるのでダメージは受けないし、相手のベースに100ダメージは入ったにせよスタンは近ボム相当の3秒程。まぁ、2マスも離れられなかったので普通のボムでも同じではあったが。

 そして、勿論その隙を逃すグリムではなかった。

 

「いち、にの、さんっ、と」

 

 ブロッカーのボム上限である3つを使い、私がハードブロックで移動できない以外の三方を綺麗に囲う。

 スタンが解除されて、速度デバフもほぼ同時に解除されたが、私がそれから逃れられる術はなく。

 

「こっ、この……!」

 

 最後の抵抗に足元にボムを置く私を尻目に。

 グリムはまた挑発的に笑った。

 

「おねえちゃん、みっともな〜いっ♪」

 

 そして私は、当試合通算六度目の爆散をすることになった。

 

 

 ●~*

 

 

「ぐぬぬぬぬぬぬ…………!!」

 

 結果発表。チーム的には勿論敗北、仕事をうまく果たせなかった私がチーム内貢献度でも4位に納まることになってしまった。

 試合終了後は準備時と同じルーム空間に集まることになり、感想戦をするなり、リベンジのために同じ相手と組んだり戦ったりしてもいい。

 まぁしかし……敗北チームの衣装は最大まで破損しているものではあるが。

 

「いや、俺らはもうバトル中で最大までやられてたんだから関係なくない?」

「まだ勝負のわからないバトル中と、バトル後は違うのですっ!」

 

 それに、バトル中はまだ皆バトルに集中するのであまり他人の衣装を見てる余裕などないがバトル後はバッチリ見れる。浴びる視線も多いことは以前からこの身体で理解している。

 ……まぁ、敵チームは半分が女の子だから大したことではないが……

 

「というかなにお前達は敵に混ざって私を見てるのですかっ!? スクショ撮るななのですっ!」

「え、でもプラチナちゃんの敗北破損衣装って中々出回らないから貴重だし……資料として……」

「なんの資料なのですか!?」

 

 後で調べたらプレイヤーメイド衣装で有名な人だった。衣装もプレゼントされ、珍しく私が着れる普通の衣装になるのは別の話。

 とりあえず現時点で私から見て全方向が敵だった。どれもこれも、と私はその原因であるグリムを見やる。

 この空間に留まるのは個人の自由で、私もこんな姿を晒し続ける気は正直ない。ないのだが、このメスガキが残っている以上先に背を向けるわけにはいかなかった。

 それに、プレイを見直したらやはり私は間違ってなかったことがわかったのだ。一言言ってやらないと気が済まない。

 

「っ、グリムッ! 今回は実質私の勝ちだったのですっ! そっちのシューターが、パプルさんでさえなければっ!」

 

 グリムばかりに目が行って気が付かなかったが、相手のシューターはパプルさんだった。

 パプルさんのスキルは番えた後に素早く放たれる矢のスキルだ。気付いた時には飛んできているその速さもさながら、随一の特徴は味方や施設に当たった時は回復する能力にある。ボンバーバトル内では中々見ない、レアなスキルに分類されている。

 パプルさんは私がグリムをボムで囲んだのを見て、矢をグリムに放った。その結果グリムの体力が150を上回って生き残り、私のギガボムを変換することに繋がったようだ。

 

「あ、ありがとうございますぅ……えへへ」

「褒めてないのです! あ、いや、ナイスプレーだとは思いましたのですが!!」

 

 敵ながら天晴れと思うプレーは往々にしてある。ボムコンボだとか、ボイススキルモーションで電車を避けるだとか……今回も自分が使うことがあったら選択肢に入るな、と思うプレーだ。

 しかし、それは今回に限って! というのが本音である。

 今回だけは、絶対に負けてはいけなかったのにぃ……!

 

「グリムも、なんとか言ったらどうなのですか!」

「ん〜? そうだにゃあ……勝ちは勝ち、負けは負け。仮に局地的に負けてたとしても最終的に勝ってれば問題はなかったよね〜?」

「ぐっ……」

「あたしもそう。最後はおねえちゃんに上手くやられかけちゃったけど、チームとして上回ったんだからあたし達の勝ち、なんだよ?」

 

 手元で何かを操作しながら適当に言っているが、グリムの言う通りではある。

 反論……何か反論を……と必死に頭を絞っていると不意に画面操作をしていたグリムの顔がこちらを向いた。

 

「そ・う・い・え・ばぁ……おねえちゃん、さっきのバトル中、何か面白い事言ってたよね〜?」

「な……なんのことなのですか」

 

 にんまりと意地悪そうな表情を浮かべたグリムに、思わず私はたじろぐ。

 続けてグリムは手元を動かし、今自分が表示している画面をルーム内に公開した。ルーム内の巨大モニターにその衣装画面が映る。

 それは、赤を基調とした上がスリングショット水着に似た、下はスカートで、おまけとして紫系統のポンポンが付いている衣装で。つまるところ。

 

「あたしに勝ったら、サキュバスチアを着せる、とかなんとか」

「ッスー……」

 

 俗に言う、サキュバスチアコスチュームだった。思わず私はその公開された画面から目を逸らす。

 その場で思いついた言葉だったとはいえ、こんな露出度高い衣装が本当にあるとは思わなかった。それをいえば元々のボンガもそうなのだけれど。

 

「……そん、な、こと。言いましたー、のですかね〜……?」

「見たよ言ったよ聞きました♪ あたしみたいなちっちゃ〜い女の子にこんな衣装を着せようだなんて、おねえちゃんは本当におもしろ〜い♪」

 

 次はどうなるのか、とでも言うかのように私とグリムの会話に聞き耳を立てて静まり返っているルームの中。

 グリムはその顔に満面の笑み(メスガキスマイル)を湛え、続けて口を開く。

 

「そんなに面白いおねえちゃんに、この衣装を着せたらもっと面白いと思うんだ♪」

 

 そんな、とんでもないことを言ってくれた。

 それに対して私は即座に反論を返す。

 

「わっ、私は嫌なのですよ! 無理矢理にするのはダメなのですっ!!」

 

 元々グリアロといえばサキュチア、サキュチアといえばグリアロであったため、本当についつい口走ってしまっただけだ。そもそも無理矢理衣装を変更するのはマナー違反であるため、無理矢理にはするつもりはなかった。

 ……言葉で打ち負かしてわからせるつもりではあったが。認めれば合法だ。

 それを見抜いているのか、グリムは私をコンコンと追い詰める。

 

「あれあれ〜? あたしを負かせたら着せるつもりだったんだよね〜、おかしいね〜?」

「それはっ、その……その場のノリと勢い、なのです……」

「ノリと勢いで、あたしはこんなえっちな衣装を着させられるところだったんだぁ〜? じゃあ、あたしもおねえちゃんにノリと勢いで着せちゃお〜っ♪」

 

 くすくすと、グリムは笑いながら続ける。

 

「逃げたかったら逃げてもいいよ♪ でもそうしたら次からは、負け犬(ま・け・い・ぬ)……って呼んであげるね♪」

「っ……」

 

 実のところ、逃げること自体はそう難しいことではない。メニューからマイルームに飛ぶなり、次のバトルに参加するなりしてこのルームから移動すればいいのだ。

 きっと、サキュチアを着た私はネットに晒されるだろう、黒歴史となるだろう。そのことを考えればグリムに負け犬と呼ばれることぐらいどうってことはない。

 どうってことは、ない。私が周囲からこんな衣装を着る人間だと思われるなら、一プレイヤーからの呼び名如き些細なものなのだから。

 

「グリムが……」

「ん?」

「グリムが言ったのですよ……局地的に負けても、最終的に勝てばいいのですと……」

 

 表示されているサキュバスチア衣装を見る。

 ご丁寧に三面図まで掲載されていて、一見スカートの下になって見えない部分までしっかりと載っている。

 有体に言って……有体に言って、エッチだ。デザインした人も、着る人も気がしれない。これを着たらメスガキわからせ層からそういった目で見られるのは間違いない。

 

 だが、私は。

 どんなに他の人間から私自身がメスガキと思われようと、わからせ対象だと認定されようとも。

 メスガキに舐められることだけは、認められないのです(・・・)────!!

 

「今回は負けを認めてやるのですっ、着てやるのですよっ、アレを! だから私を負け犬なんて呼ぶことは絶対に許さないのですっ!!」

【メスガキ度が上がりました! 69%→75%】

【メスガキ度が75%になったため、一部のスキルが強化されました!】

 

 私はグリムにそう言い放ったのです──って!

 つ、遂になのです調が心の中まで侵食してきたのです!? なにやらまたスキルも強化されたみたいなのですが、それはそれ、これはこれ、なのです!

 というかスキル強化はきちんと提示してるのにこのデメリットはなんで掲示してないのですか! おかしいのですっ、景品表示法違反なのですっ!!

 

 いや、落ち着くのです……ちょっと、思考がメスガキに引っ張られている気がするのです……

 とりあえず、この口調に対して文句を言うのは後……今は何よりも、グリムに宣戦布告しておくことが最優先だ……なのです。

 私はグリムをキッ、と睨み、そして宣言する……のです。

 

「次こそは、絶対に負けない(わからせる)のです……!!」

 

 この口調の分まで、絶対に……!

 そんな気迫を込めたのがわかったからか、グリムもまた頷き返してきたのです。

 

「次はのーみそまでめちゃくちゃにしてあげる……♪」

 

 バチバチと、火花が散ったような感覚。

 次こそは、絶対にわからせるのです……そう決意する私をよそに。

 

「あ、それはそれとしてこのコスチュームは着ようね♪」

 

 グリムは私に衣装を着させるための投票開始ボタンを押した。

 

 

 ●~*

 

 

【朗報】メスガキプラチナちゃん、サキュバスになる【動画あり】:再生数152,240

 

『もっと腕を高く上げて、こうっ! ですよっ』

『こっ、こうなのですか……?』

『そうですっ、そのまま、がんばれっ、がんばれっ』

『が……がんばれっ、がんばれっ』

『もっと、語尾を艶かしくするといいと思うなぁ♪』

『な、艶かしく……? が、がんばれっ♡ がんば……ってお前! 何撮ってやがるのですか!?』




『また遊ぼうね、おにいちゃん♪』

※またしても続かない。
けれどアンケートはまた設置。
軽率にここすきしていけ?

うちの近くのボンガ筐体増えろ……増えて……
ついでに録画台もちょうだい……


22.07.11
私はどうすればいいのだ……
プラチナちゃん……お前……消えるのか…………?


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白金円の休日

(わからせ度)薄め、(メスガキ度)濃いめ


「……寒いのですね」

 

 言うほど、寒いわけではないのですが。

 しかし私の頬を撫でる寒風はやはり冬がすぐそこまで近づいていることを実感させるのです。

 ……まぁ、だからこそ私も外出できるわけなのですが。

 もぞもぞとマフラーから口を出し、ほう、と息を吐くのです。

 すると白い息が一瞬だけ形を作り、そして消えていくのでした。

 

「しかし……人多いのです」

 

 この世界、この姿になって以来初めて出る都会はやけに広く、また人混みが酷く感じるのです。

 すれ違う人の目が私の姿を追いかける……気がします。自意識過剰だと思いますのですが、その度に私はキャスケットを深く被り直すのです。

 

「全く……これでしち下らないパフォーマンスでもしたらぶっ飛ばすのです……」

 

 拡張現実(AR)で時計を意識すると視界に今の時間が表示されました。

 まだ時刻まで幾分か余裕があるのです。

 あまり見て回ってないこの世界、少しは見てみるのもいいかもしれないのです、と私は足を人混みの中へと向けたのです。

 

 

 ●~*

 

 

「『プリティー・ボンバーズ プレミアミニライブチケット』ぉ……?」

 

 そんな電子チケットが送られてきたのは、突然のことだったのです。

 家の中で麗かな日中の日向ぼっこをポカポカと謳歌していたところだったのですが、そんな中にぴこんと軽快な音を立てて私にそれが送られてきたのです。

 

「……なんなのですか、これは。売ればいいのですか?」

 

 プリボンといえば、小さな女の子から大きなお友達まで人気のあるユニットなのです。

 私も興味があるのか? は??? メスガキなんか好きなはずは全然ありませんのですが??????

 まぁそんな感じで人気はあるので売れば売れるとは思うのです。ただこういうのって、最近は大体シリアルナンバーが……あったのです。抜け目ないのです。

 

「んー、どうしよう、なのです」

 

 ARで表示された電子チケットをぴん、と弾くのです。一定の距離をふわふわと漂って、離れすぎるとパッと消えました。

 盗まれる心配もなく本当、便利なのです。呪いのようについて回ることを除けば。

 

「……別にいく必要はない、のですよね?」

 

 モモコより『来ないと絶許だかんね!』とのメッセージもありますけれど……いつも私に絶許しているモモコが言っても説得力ないのです。

 というわけで、当日はいつも通りボンバトをやるつもりだったのですが。

 

【大型アップデートのお知らせ】

【いつも『ボンバーバトル』をご利用頂きありがとうございます!】

【この度、『ボンバーバトル』は大型アップデートを行い、『ボンバーバトル レインボー』へと生まれ変わります!】

【つきましては以下の日程でボンバーバトルへのログインをすることはできません、ご了承ください──】

 

「……マジなのですか」

 

 大型アップデート自体は望むところなのです。スキルの上方下方修正や新バトル要素、衣装など心躍る情報は盛り沢山なのです。

 しかしながら問題はその日程で、見事なまでにプリボンのライブ日程に重なっていたのです。

 こうなってはライブをぶっちぎってなにをしていたのか、という話になるのです。

 ……あ〜、本当はその日もボンバトをする予定だったのですけどね〜、言い訳考えるのも面倒くさいのですし〜、アップデートで休みなら仕方がないのですよね〜?

 だから、仕方がなく行ってやるのです。感謝するといいのです。

 

 余りこの身体を晒したくはないので出不精、また外に出る時でもダボダボな服を着て人目を誤魔化している私ですが、他所行きの服がないわけでもないのです。まぁ、準備して届いた日以来一度も袖を通してないのですが。

 イメージとしてはパンツルックのアメリカンスクール生、的な。結った髪をキャスケットで隠しつつメガネでもすれば、魔法少女風衣装のプラチナとは印象も繋げづらいハズなのです。

 というか、そもそもとしてリアルと殆ど同じ姿のアバターでバトルするとかなんなのですか、馬鹿なのですか。

 

「ああ、もう割と気温も下がってきているのですね」

 

 当日の天気や気温を見ると、最大気温は15度程度。天気は晴れなのですが、それでも肌寒さは感じそうなのです。大体いつも厚手の服を着ているので気がつかなかったのです。

 日付もそう遠いわけではないですので、念のためすぐにでもコートやマフラーを頼んでおいた方がいいのですね。

 ……別にライブを楽しみになんてしてないのです。ただ、寒いのが嫌なだけなのです。

 そう思いながら私はネットショッピングのページを開いて良さげなものを物色し始めるのでした。

 

 

 ●~*

 

 

 女の子は買い物が長い、とはよく言うのです。かくいう私も、両親や姉妹の買い物に付き合った時は服の物色に1時間2時間は余裕でかかっていたのも覚えているのです。

 だからと言って、今の姿になった私が買い物に時間をかけるかといえばそんなことはなく。

 

「……飽きたのです」

 

 そもそも服や小物を物色してもこれからライブを見にいくというのに荷物になるだけなのです。

 公園でゆっくりするのもありですが微妙に寒いので却下。喫茶店でお茶を飲むのもありですが、そこまで時間が余っているわけでもない、微妙な時間帯なのです。

 

「となると、無難にゲーセンなのですね」

 

 カラオケなどでもいいのですが、ちょいとあの独特な雰囲気をひさびさに楽しむのもいいかもしれないのです。

 ちなみにカラオケやらゲーセンやらなにやらもVRで既に存在はしますが、やはり実際に身体を動かしたりするのとは別物のようで今でも廃れていないのです。

 そんなわけでゲーセンに足を向けた私なのですが、休日であるからか人でごった返していました。

 どのゲームも人が盛り沢山なのです。やることないのですか?

 

「う〜ん……よさそうなのないのですね……」

 

 クレーンゲーム、アーケード、メダル、シューティング、レトロ……など順繰りに回っていきますが、特にこれといって私がやりたくて空いている筐体はありませんでした。

 ちなみにボンバーガールもとい、ボンバーバトルは存在しなかったのです。残念なのです。

 

 そして私は最後に音ゲーエリアに来ました。勿論先客が多く、あちこちから聞き覚えのある音が聞こえてくるのです。

 そんな中で私の目を引いたのが、DJ風の機体の、確かビーマニ? でした。

 ただどこかの誰かがやっているだけなら私も気にはしないのですが、制服を着た女の子が凄い勢いで流れてくるノーツを捌いていたので思わず足を止めてしまったのです。

 私が一歩後ろで見ているのも気付かず、自分の世界に入っている彼女はその後もコンボを途切れさせることはなく無事に最後まで走り切りました。この世界に来る前に一度私もプレイした経験がありますが難易度が低いものでクタクタになっていたのでこのフルコンボはすごいのです……

 思わず拍手をしようとする私をよそに、その女の子はクールながらも通る声で呟きました。

 

「……こんなものですね」

(やった、フルコンできた! 今のあたし、すごくかっこいいいいい……!!)

 

 ……んん?

 目を瞬かせて首を振りながら、もう一度音ゲーをしていた女の子の頭上を見るのです。

 そこにはデフォルメされた女の子が、ゲームをプレイしている女の子のクールなテンションとは打って変わって全身で喜びを表現している(勿論、後ろ姿で)のが見えるのです。

 私は困惑しつつ周りを見渡すのですが、他の人は別に頭の上に何かが出ているとかそういうことはないのです。

 え、何なのですかこれは……?

 

「さて……この調子で行きましょう」

(次は何にしようかな? もう一段上のレベルとか挑戦してみようかな!?)

 

 念のためAR機能を一時的にoffにしてみますが、それが消えることはなく。

 つまりこれは個人で勝手に発生しているもののようなのですね? こういうのなんていうのでしたっけ……サトラレ? 本当にいるのですね、そういうのは……

 しかし……、なんというか……どこかで見たことあるような気がします。この後ろ姿だけではなく、その声にもどことなく既視感がある気がするのです。私は彼女を後方で見ながら考えるのです。

 というか、そもそもこの世界に私の知り合いなんてそう多くはありません。元々の世界の知り合いは存在しませんし、リアルでもVRでも関わったことのある人なんて非常に少ないのです。

 故にその答えには、比較的簡単に行きつきました。なんてことのない、私が一方的に知っているだけなのですから見たことあるのも同然なのです。

 二次元やそれを踏襲したVRアバターでなかったので辿り着くまで少し時間がかかりましたですが。

 

「ああ、グレイなのですね」

「え?」

「えっ?」

 

 ああそうだと手を打ったところで、その声が目と鼻の先から聞こえてきました。

 顔を上げると、声をかけようとしていたのか私に手を伸ばしかけていた片目が前髪に隠れた銀髪の少女……(暫定)グレイとバッチリ目が合うのです。

 視界に入るプレイ画面を見るにコンテニュー画面がカウントダウンされているところから、もしかして私をプレイ待ちだと思い話しかけてこようとしてきたのでしょうか。

 そんな彼女から出てきた声は、勿論順番を待っているかの確認ではなくて。

 

「……あなた誰ですか。どうしてあたしのこと知ってるんですか?」

(なんで!? どうしてあたしのこと知ってるの!?)

「……あー、えっと」

 

 詰め寄るようなグレイ……グレイさんから目を逸らすと、その副音声が目に映ります。

 あー、まぁそれはそう、なのです。

 仮にゲーム上でほぼ同じ見た目でプレイしていたとしても、リアル特定ほど怖いものはないのです。

 迂闊に口にした私が悪いのですが……どうせここだけの関係なのです。

 三十六計逃げるに如かず。

 

「……さらば、なのです」

「あっ、待ってっ!」

「っ!」

 

 くるりと踵を返したところの手をすかさず掴まれてしまい、思わずその手を振り払ってしまったのです。

 その弾かれた手が私の眼前を襲い、思わず目を瞑ってしまいます。

 軽い衝撃が顔を襲って、少し後退りしながら手で怪我などないか感触を確かめつつ薄く目を開けます。顔を触った手を見ましたが血などはついておらず、怪我はなかったようなのです。

 自分の手が弾かれた事でそれはそれで動揺しているグレイは私を捕まえようとせず、その手をまた伸ばしかけて空中で手持ちぶたさになっていました。

 

「あっ、ごめんなさい……逃げようとしたのでつ、い……?」

 

 ぱさりと、肩に何か乗ったような重さがかかります。

 虫かと思い払いますが、そのまま指の隙間に落ちていくような感触。見ると、鏡でよく見慣れたものが落ちていました。

 はた、と気がついて頭に手をやりますがそこに朝被せた帽子の感覚はなく、自らの髪の感触だけなのです。

 そういえば、眼鏡もないのです……先程の衝撃で眼鏡も帽子も弾かれたみたいなのです。結っていた髪も解けたようなのです。

 

「あなた、どこかで……」

「おっ、グレイ。そろそろ終わったかい? ……おや?」

「? どうかしたのでありますか?」

「あっ……いや、ちょっと……」

 

 ……増えたのです!?

 いや、正直なところなんで知ってるかなんて話しても良いですがおそらく信じてもらえない上に増えたら話も面倒臭いのです。

 素早く周囲を見渡すと、出口側の方向に丁度帽子が落ちていました。

 眼鏡は……グレイの近くなのです。仕方がない、諦めるのです……所詮伊達なのです。

 グレイが友人との説明に注意を引かれているうちに、退散するのです。

 

 

 ●~*

 

 

「失礼、なのですっ」

「あっ! 逃げるよ!?」

「待つでありますっ!」

「いいです、大丈夫です!」

 

 そう言って、彼女は今度こそ逃げ出していきました。

 それを見たウルシさんとアサギさんが追いかけようと身構えましたが、あたしは声を上げてそれを止めました。

 途中で弾いてしまった帽子を拾って、そのまま出口に向かって小さくなる背中を見送った後、二人はあたしのほうを向きます。

 

「良いのかい? 何をしたのかは知らないけど、今ならまだ追いつくよ?」

「逃げる輩は大体なにか後ろめたいことがあるのであります。グレイ殿が言うならこのアサギ、地の果てまで追いかける所存です」

「い、いえ……あたしも悪かったので、大丈夫ですから」

 

 急に名前で呼ばれちゃったからびっくりしちゃった……あの人もきっとびっくりしただろうし、悪いことしちゃったな。

 そんなことを思ってると二人があたしの上の方を向いていた。釣られて上を見るけれど、当然ながらそこにはなにもない。

 先輩方も同じようにしてる時があるけどなんなんだろう……? 流行ってるのかな?

 

「まぁ、そういうならいいよ。ところで終わったのかい?」

「ええ、大丈夫です」

 

 そう! そういえばクリアできたんだよね!!

 次はどの曲を目標にしていこうかなぁ、アレもいいけどアレもいいし……!!

 そんな私の様子を見て苦笑するウルシさん。

 

「とりあえずそろそろ行こうか。今日は元々買い物に来ただけだしね」

「そう……そうであります! グレイ殿、次の撮影の時に使えそうなものがありまして……!」

「そうなんですね……あっ、と」

 

 一歩踏み出そうとしてつま先にコツン、と何かが当たりました。

 それを見ると、先程の女の子が付けていた眼鏡でした。拾い上げてそのレンズ越しに世界を見たら、度が入ってないことがわかります。

 伊達眼鏡、でしょうか。おしゃれアイテムですね。

 

 そういえば、彼女の目に見覚えがあったんですよね……碧色の瞳、その瞳孔の中心に星が浮かんでいて……

 あたしのことも知っていたみたいですし、どこかで会ったことがあった、とか……?

 

「早くしないと置いていくよ〜!」

「あっ待ってください、すぐ行きますっ!」

 

 あたしはその眼鏡を割らないように注意しながら鞄へ入れて、二人の後を追いかけるのでした。

 

 

 ●~*

 

 

 私はゲーセンから逃げ出した後も時折後ろを振り返りながら、追いかけてきてないことを確認するのです。

 いや……見ず知らずの私を追いかけてくる程暇ではないと思うのですが。念のため、なのです。

 

「……はー、もう、なのです」

 

 びっくりなのです。眼鏡も置いてきてしまいましたし……必需品ではないので構いませんですが、変装アイテムが減るのは少し困りものなのです。

 言うまでもなく、私の見た目は特徴的なのです。様々な髪色が飛び交うこの世界、この日本でも基本的に外人と見做される(プラチナ)ブロンドの髪は目を引きますし、星型の瞳孔は非常に特徴的なのです。

 ……無論、VRアバターの私である『プラチナ』も同じ特徴を持つのです。簡単に結びつけられる状態にするとか本当に馬鹿なのですか? 私をこんな姿にした奴が誰なのかは未だ不明ではありますが、きっとバ神に違いないのです。

 

 それはさておき。

 本当なら帽子の中に再び髪を入れるため、結うのに鏡のある場所、トイレかどこかに寄りたいところですが……生憎そんなに時間もないのです。適当に帽子の中に詰めても良いですが、後で絡まって困るのは自分なのでそれもしたくはないのです。

 まぁ多分、ライブハウスもある程度暗い場所で行われるハズですので……壁の花にでもなっていればきっと誤魔化せるでしょう。

 そう思いながら私は帽子を深く被り直し、顔を少しだけ上げて。

 

「みゃっ……いたっ!」

「おっと」

 

 ビルの曲がり角で、影から飛び出してきた人と正面衝突したのです。

 体躯通りに軽い私はその人とぶつかった拍子に弾き飛ばされ、蹈鞴(たたら)を踏んで抵抗しながらも耐えきれず、尻もちをついてしまいました。

 きちんと被っていたお陰か今度こそ帽子は脱げませんでしたが、そのツバのせいで下手人の顔までが見えません。

 身体までは見えるので、足も長くスラッとしたモデル体型なのはよくわかるのです。

 そんな彼女は尻もちをついた私に上から声を投げかけてきます。

 

「すまないが急いでいてね。失礼させてもらうよ」

「は、はぁ? いや、待つので、っ!?」

 

 私はその立ち去ろうとする彼女を止めようと立ち上がろうとしますが、その瞬間足首に痛みが走り膝をついてしまいました。

 手でその足首を押さえながら見渡すと、その特徴的な金色と白が混じったポニーテールが人混みの中へと消えていくところだったのです。

 少しだけ痛みのあった足首を動かしますが、やはり痛みがあり私は顔を顰めました。

 おそらく先程の転ばないように抵抗したところで痛めてしまったのでしょう。

 

「こんちくしょう、なのです」

 

 痛めた足に気をつけつつ立ち上がり、先程の女性が出てきたビルの影に移ります。こちらも人通りは多いですが、大通りで様子を見るよりはマシなのです。

 そうしてちょっとした段差に腰を下ろし、ゆっくりと靴を脱ぐのです。

 ソックス越しに触れるだけでも熱を持っているのがわかり、どくんどくんと脈を打っているのが感じ取れます。

 

「っ、つつ……」

 

 手を滑らせつつ痛みのある場所を探りますが、指に少し力を入れただけで結構痛みがあるのです。

 ……はぁ、今日は厄日なのですね。こんなんじゃライブも楽しめなさそう……いや、元々楽しみにはしてないのですが! してないのですけど!! ……楽しめなさそう、なのです。

 折角、わざわざ都心まで出向いてきたと言うのに……はぁ。本当(ほんと)、最悪なのです。

 そう思いながら靴を履き直そうとしたところで、人影が私を覆うように差し込みました。

 

「しょうがないなー、もう」

 

 明らかに気怠そうな声色なのでしたが、その声の主はしゃがみ込んで私に目線を合わせたのです。

 紫を基調とした服を着ている彼女はそれが汚れるのも気にせずに。

 

「みしてみー」

 

 私に、手を差し伸べるのでした。

 

 

 ●~*

 

 

「水ある? 痛み止めは?」

「……飲み物はあるのです。薬はないのです」

「そだよね。じゃあこれ痛み止め……別にアレルギーとかない? 他に病気とか、のんでる薬とかは?」

「特に、ないのです」

「ん、じゃあおっけー」

 

 そう言って押し付けられたのは私でも知っている普通の痛み止めなのです。

 バッグから取り出したスポーツドリンクでそれを流し込むのをみた彼女は、一度頷いた後。

 

「触診するよー、痛かったら言ってねー」

 

 私の足に手を伸ばしました。

 固定するように左手で足首の少し上を支え、もう片方の手で少しずつ足首を可動させていくのです。

 やがて、私の足に電流が走ったような痛みがあり、思わずびくっ、と動いてしまいます。

 

「っつつ……」

「……ふむ。じゃあ、こっち向きは……」

「いっ……!」

「なるほど。じゃあここが良いかなー」

 

 私の反応を見ながら少し足の角度を調節すると、銀色の棒(帰宅後によく見たら定規だったのです)を取り出し、それを支えにしつつ手慣れた様子で包帯をくるくると巻いていくのです。

 ……外見年齢的にそうは見えないのですが……持ち歩いているものといい、医療関係者、なのでしょうか。

 

「上手、なのですね」

「まーね」

 

 彼女は特に何も言うことはなく、そのまま包帯を留め具で固定し、手を放すのです。

 固定してあるためか余計なズレで痛むこともなく、多少は歩けそうな感じがあるのです。

 

「はい、これでしゅーりょー。あくまで応急処置だから。骨まではいってないと思うけど、今日は家に帰って休んで、近くの先生にでも診てもらってー」

「あ、ありがとう、ございます……なのです。あの、ちなみに、これってどのくらい()ちますのですか?」

「保つって……あのねー、歩けばその分固定は少しずつだけどずれるし、怪我自体を治してるわけじゃないから痛み止めが効いてるうちに素直に帰った方がいいと思うよー」

 

 少し面倒臭そうにそう言った後に聞こえた『私が帰りたいぐらいなのに……』という呟きは聞かなかったことにしつつ。

 先程みたいにどうしても無理なら諦めもつく、つけられたのですが。

 今みたいに、軽くは動ける状態なら。

 

「と……友達、に。ライブに誘われてるのです……大事な、大事な用なのです……」

 

 ……私にとって、モモコやパインは当然わからせる対象ではあるのですが。

 そうでない状況なら、多少は交流してあげてもいい……そんな間柄だと、思っているのです。

 ま、まぁ? 勿論今日みたいにボンバーバトルができない、なんてそんな暇を持て余すような時の話なのですがっ!

 

「……大事な用、なら、しゃーないかー」

「……え?」

 

 言いながら治療をしてくれた彼女は立ち上がり、そのまま手を差し出してきます。

 思わずその手を握ると、彼女はゆっくりと私を立ち上がらせてくれた後、自らの頬に指を当てて笑顔(アイドルスマイル)を浮かべたのです。

 

「プルるんにおまかせるんっ♪」

 

 

 ●~*

 

 

「姉御ー、おまたー」

「遅いやっと来た! プルーン、あんた今何時だと思ってんの!?」

「ライブ開始15分前ですねぇ……まぁいつも通りメロさんが時間稼ぎのためにスタンバっていますし、いつもより早く来たことを喜びましょうにゃ」

 

 ……開け放たれた扉の向こうから聞き慣れた声が聞こえてくるのです。

 

「今日は私もちゃんと来ようとしてたんだから、それはちょっと心外……帰りたくなってきた」

「帰んなっ! ほら、時間ないんだからさっさとするっ!!」

「もー、怒んないでよー、今日はちゃんと理由あるんだからさー……入ってきていいよー」

 

 プルーンから声をかけられて、私は壁伝いに足を庇いながらその部屋……控室へと入っていくのです。

 そこにいたのはやはりと言うべきか、映像の中で何度も見た姿なのでした。

 

「はぁ? ……はぁ!?」

「あ、プラさん。こんにちはで〜す」

「こんにちはなのです、パイン。あと一応……初めましてなのです、モモコ」

 

 ゲーム上では何度も顔を合わせたことがあるのに初対面、というのも不思議な話なのですが。

 一応帽子を取って、目礼をするのです。

 

「ちょっ、おま……プルーン!? なんでバカチナなんて連れてきてんの!?」

「道端で足を挫いてて、今日の立ちライブはまともに見られなさそうだったから? チケットも持ってるしー、一応姉御達と知り合いだから控室(ここ)でライブ見てもらっててもよくなーい?」

「え、プラさん怪我したのかにゃ? くふふ、バカですねぇ〜?」

「……うっさいのです」

「おやおや〜? いつものキレがありませんねぇ〜?」

 

 あの人のせいではありますが、たしかに足を挫いたのは自分なのでパインの言葉も否定はできないのです……ぐぬぬ。

 チェシャ猫のようににたにたと笑っていたパインはそこで少しフリーズ気味のモモコに話を振りました。

 

「まぁパイにゃんはモモさんがいいなら構わないにゃ。元々出演者枠でチケットを送ったのはモモさんですし〜?」

「……パイン、あんたプルーン連れて先行ってなさいよ」

「……了解で〜すっ、じゃあプルさん、行っちゃいましょ〜!」

「え、プルるんまだ準備終わってない……」

「パイにゃんお手製の自動お着替え装置があるので問題ありませ〜ん」

「そんなのあったの? それじゃあ今度からギリギリで来ても問題なくなーい? …………なんかまた知らん人から説教されてる!?」

「まーた何言ってるにゃ、さっさと行きますよぉ。それじゃプラさん、また後でにゃ〜!」

 

 何やらよくわからないことを言い出したプルーンを他所にパインはその彼女を引き摺っていき、すれ違う時に軽く手をふって部屋を出ていくのです。

 今更ですが、私のことはリアルでもプラさんで固定なのですね……もしかして私の本名忘れているとかはないのですよね……?

 そう思いながら出ていった二人の方を見ていると、モモコが一つ大きなため息を吐いたのです。

 

「はぁ……あんた怪我したんだっけ? じゃあこっち来て椅子にでも座んなさいよね」

「……失礼、するのです」

 

 モモコが控室内のテーブルとその椅子を指差し、私を誘導します。

 正直なところ、立ちっぱなしは挫いてない足の方にも負担がかかるのでありがたいのです。お言葉に甘えて、ゆっくり移動しながら椅子に座ります。

 モモコはそんな私の様子を見て口をへの字に曲げながら一つ、軽く鼻息を吐きながら部屋に備え付けのテレビのリモコンに手をかけます。

 するとテレビにはまだ誰も立っていないステージが映し出され、暗い周囲ではガヤガヤとした話し声、コールの練習などが聞こえてくるのです。

 

「これで見れるわよ。ペンライトは? いる?」

「普通のペンライトならあるのです」

「あっそ。まぁ一応渡しとくわ」

 

 そう言いながら部屋の隅に置かれた段ボールからごそごそとモモコが取り出したのはトランプの柄が描かれた四色のペンライトなのです。

 一つずつライトがつくことを確認しながら、桃色、黄色、紫、緑と順に私の目の前のテーブルに並べていくのです。

 

「…………」

「な……なんなのですか。見せ物じゃないのですよ」

 

 そのペンライトを手に取って確認していたところ、モモコは私を覗き込むようにジッと見つめてくるのです。

 それに対して唇を尖らせると、モモコは杖……マジカルポテトマッシャーを手に取り身体を扉の方に向けたのです。

 

「べーつにー? 正直なところ、チビチナが本当に来ると思ってなかっただけー」

 

 じゃあ何で急にチケット寄越してきたのですか……

 それをそのまま言おうと口を開きかけたところでモモコはくるりと身体をこちらに向け、後ろ手を組みながらにんまりとした笑みを浮かべて言うのです。

 

「今日はあんたに、モモぴゅんがちゃんとプロってところを見せつけてやるんだから。しっかりと見なさいよねっ!」

 

 そう言って私の返事を聞く間も無く、モモコは控室を駆け足で出ていき。

 程なくしてテレビに映し出されたステージに四人が現れてライブが始まりを告げたのです。

 

 

 

 ……ライブについて、なのですか?

 まぁ……悪くはなかったのですよ、ええ。全然、悪くはなかったのです。




 プルーン回にしようと思ってたらよくわからん回になりました。
 あと悩みましたがプラチナちゃんはそのままプラチナちゃんで行くことにしました。むしろこっちが本家(?)

 ※次回は多分アクア回だろうけど続きません。
 一応新しいアンケートは設置。

 もっと近くの店の筐体増えろ……増えて……


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怪文書
SSS:モモぴゅんとクリスマス


SSS:スーパーショートショート(めっちゃ短い)

※本編関係ないです。
※小説じゃないです。
※くっそ短いです。
※怪文書です。
※以上を踏まえてご覧ください。




















ガチャガチャ、カチャン

 

「お邪魔するわよ〜!」

 

ガチャ、キィ……バタン

トットットットッ……

 

「うぅさむいさむい、コタツコタツ……」

 

カチャカチャカチャ……ピコンッ

ゴーボンバー!

 

「…………ねぇ」

 

デッデッデッデッデーッデッ

 

「……ねぇってば、ご主人」

 

デッデッデッデッデデデデッ

 

「……ゲーム、一回やめてこっち見なさいよ」

 

デッデッデッ……プツッ

ガチャガチャ、ポイッ

モゾモゾ……

 

「……やっとこっち見た」

 

「せーっかく、アイドルのモモぴゅんがクリぼっちのご主人を気遣って来てあげたんだから、今日ぐらいゲームはやめなさいよね」

 

「……わたしもわざわざクリスマスに来るぐらい暇なのかって? はぁ〜、そんなわけないでしょ」

 

「モモぴゅんにはご主人と違って、ちゃ〜んと予定があるの」

 

「そうじゃなかったらこんな朝早くにくるわけないでしょ」

 

「じゃあなんで来たのかって……ご主人、わかってて言ってるわよね?」

 

「……はぁ〜あ、わたし本当、なんでこんなの好きになっちゃったのかなぁ〜……」

 

「…………、クリスマスに恋人に会いにくるぐらい、普通のことでしょ…………これで満足っ?」

 

「『かわいい』って……ばか。ほーんとっ、救いようのないロリコン」

 

「────そんなご主人を好きになるのなんて、わたしぐらいなんだから。感謝しなさいよねっ」

 

「……ねぇ、ご主人。そっち、行ってもいい?」

 

「いいでしょ、別に。さっきからコタツの下で足が当たってるのよ」

 

「いいわよね? はい、じゃあ詰めて」

 

モゾモゾ……

モゾモゾ……

 

「ふぅ……ちんちくりんなご主人の家でも、コタツがあることだけは褒められるところよね」

 

「『アイドルらしくない』って? まぁ、そうかもしれないけど……」

 

ギュッ……

 

「……アイドルらしくないわたしは、嫌い?」

 

「…………ぷっ」

 

「ふふっ、慌ててんの〜、さっきのお返し〜」

 

「モモぴゅんをからかおうなんて百年はやいんだから。ご主人はご主人らしく、モモぴゅんに……っきゃっ!?」

 

ドサッ

 

「……ご主人? 怒っちゃった?」

 

「顔、近い……」

 

「…………………………」

 

 

 ●~*

 

 

「じゃあ、お邪魔したわね」

 

「……後これ、わたしからのプレゼント」

 

「あのタイミングじゃ出せなかっただけで、勿論忘れてたわけじゃないんだから」

 

「ついでに、今日のライブチケット。どーせ人気すぎてチケット取れなかったからゲームしてる予定だったんでしょ?」

 

「だから今日はもうゲームはおしまい。ご主人もちゃんと準備して見に来てよね」

 

「────アイドルのモモぴゅんからも、目を離しちゃダメなんだかんねっ!」

 

ガチャ……パタン




モモぴゅんとぴゅんぴゅんしたいだけのクリスマスだった……


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SSS:プラチナちゃんとクリスマス

SSS:スーパーショートショート(めっちゃ短い)

※本編関係ないです。
※小説じゃないです。
※くっそ短いです。
※怪文書です。
※プラチナちゃんはボマーのプラチナちゃんじゃなくて本編の主人公のことです。
※謎時空です。
※以上を踏まえてご覧ください。












「………………」

 

「…………」

 

「……っ」

 

「……やーっと、起きたのですね」

 

「いつもなら叩き起こしてるところなのですが、今日は仕方がないのです」

 

「……ん、触った感じ、熱はだいぶ引いているのですね。薬も効いたみたいでよかったのです」

 

「……全く! クリスマスをこの私と過ごしたい、なんて言っておきながら風邪を引くなんて。とんだお笑い草なのです!」

 

「…………まぁ? お前のためにわざわざ今日は空けていたので? よりにもよって今日、他に予定が空く人なんているはずもないのですし?」

 

「だから、と・く・べ・つ・に! この、プラチナサンタがお前を看病してやるのです。ありがたく思うといいのです」

 

「……は? サンタならサンタの格好をしてなきゃやだ……って」

 

「お前は馬鹿なのですか……馬鹿なのでしたね……」

 

「はぁ〜……そんな馬鹿な事言っていないで、とっととこれでも食べて寝ていろ、なのです」

 

「それは何か、って……お粥に決まってるのです」

 

「まさかというべきか、やっぱりと言うべきか……案の定フライパンしかなかったのにはビビりましたね……念のため百均で鍋を買ってきておいて正解だったのです」

 

「ほら、たまご粥なのです。ありがたがって食べるといいのです」

 

「……なんなのですか、その物欲しそうな顔は」

 

「あーあーあーあーあーあー、いいっ、いいのですっ。わざわざ言わなくていいのですっ」

 

「……はーっ…………言わなくていいって言ったのに言うのですね……」

 

「……別にやらないなんて言ってないのですが。どーしても、なのですか?」

 

「どーしても、なのですか……わかったのです……どーなっても知らないのですよ……!」

 

「すーっ……はー……すーっ、はー……」

 

「……よし。やるのです。やってやるのです」

 

「………………」

 

「……あ、あーん、なのです……!」

 

「ど、どうなのですか……?」

 

「おいしい? それならよかっ……いや! 私が作ったのだからおいしいのはとーぜんなのです!」

 

「ほらっ、はやく食べて、薬飲んで治すのですよ! あーん!」

 

 ●~*

 

「6度4分……大体平熱なのです。でも今日は大人しく過ごすのですよ」

 

「……なんでコート着てるのかって、もう帰るからなのです。今何時だと思ってるのですか?」

 

「いなくなるとさみしい、って……あのですねぇ。子供じゃないのですよ?」

 

「それともお前は、私みたいな見た目の女の子に添い寝でもしてほしいのですかぁ〜?」

 

「えぇ……一も二もなく肯定されるとそれはそれでドン引きなのです……」

 

「……、はぁ〜〜〜〜〜、しょうがないのですね〜?」

 

「私はお前と違ってつよつよな大人なので? 大人が風邪なんかに負けるわけがないのですし?」

 

「添い寝、まではしなくても。また寝るまでは側にいてやるのです」

 

「…………ほら、手出すのです」

 

「こうして、布団の中で握って……はーい、とーん、とーん」

 

「とーん……とーん……とーん…………とーん…………」

 

「…………寝ちゃったのです?」

 

「……ばーか。ざーこ」

 

「このコートの下は来年までお預け、なのです」

 

「……。じゃあ、いい夢見るのですよ。おやすみなのです」




多分ボンバーガールとして実装されてしまったプラチナちゃんガールランク120ぐらい


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