ソードアート・オンライン −電詞都市DT− (ラナ・テスタメント)
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エピローグのプロローグ

[Virtual-City-DETROIT]

護ること(プラス)を選べず、攻撃(マイナス)しか出来ないならば、神の詞を求めて来たれ、この偽物だらけの(Virtual CITY)都市(DT)へ。

〈wait...START


 ボク、がんばって、生きた……。ここで、生きたよ……。

 

 そう呟いて、《絶剣》と称された一人の少女は眠るように息を引き取った。

 最後の、その瞬間まで仲間達に、大切な友達に看取られながら、彼女はアルヴヘイム・オンラインと現実の世界から、消えていく。

 身体から、そしてアバターから抜けるように意識だけとなった彼女は、電子データの世界の中で、《魂》とも呼ぶべきものが拡散していくのを理解していた。

 

 ――これが、死なのかなー。

 

 なんとなく、そう思う。

 自分でも、なんと軽いんだろうと思わなくもないが、皆に看取られながら逝けたのだ。悔いはない――とは、さすがに言い過ぎだが。少なくとも、後悔だけは無かった。

 晴々しい気持ちのまま、意識がクリアになっていく。

 《魂》に質量があるかどうかは分からないが、それが消えていく感じか。

 死が消滅だとするのならば、こんな風に消えるのか。出来るなら、死ぬ前に言った通り《次の世界》で、また皆と会いたかったのだが、これでは輪廻転生も疑わしい。

 そこまで思って、苦笑する。やっぱり、もっと生きたかったんじゃないかと。

 当たり前だ。スリーピング・ナイツを結成して、色んなVRMMOを渡り歩いて、アルヴヘイム・オンライン――ALOの世界に辿りついて、アスナに出会って……。そして、そこから、あまりに楽しく、最高の時間を過ごして。

 あの時間をもっと続けたいと思うのは当然だ。他の誰でも無い、自分が否定出来る訳が無い。……けど、もう、どうにも出来なくて。

 

 ――神様がもし居たら、色んな意味で残酷だよね……あ、でもやっぱり優しいのかも?

 

 自分の身体の事は酷く残酷で。でも、皆と会えた事は、とても優しくて。

 なんだかなー、とは思うが、そんなものなんだろう。きっと、神様って奴は気まぐれなのだ。

 

 そんな事を思ってると、意識が限り無く透明になって来た。ついに消えるのか……そう思う、この意識すらも、消えようとして――。

 

『残念だが。まだ、君に消えて貰っては困る』

 

 ――唐突に、声がした。

 あまりに、唐突にだ。それは、若い男性の声。でも、全く聞き覚えの無い声だった。

 

 ――だれ?

 

 消えかけの意識の中で、ただ、それだけを聞く。

 だが、声はこちらの疑問をきっぱりと無視した。

 

『《カーディナル》のシステムの中で死に行くものは、魂もこの世界に還るのか。これは、嬉しい誤算だった。君の魂は電子データに変換されつつある。つまり、私と同じだ。しかも、《大神の器》に相応しい、穢れなき身でもある。後は、私と共通設定にすれば、不老不死の条件もクリアーされる』

 

 ――なに? なにをいってるの?

 

 分からない。この男が何を言ってるのか、全く分からない。

 分からないままに、しかし男の独白を彼女は聞き続ける。

 

『君は、次の世界に行きたいのだろう? そこで、彼女や彼等と会える事を楽しみにしている。私も同様でね。だから、一緒に行こうでは無いか。もちろん、彼等も来て貰う予定だ。我々より遅れる事にはなるだろうが――』

 

 ――だから、なにをいってるのって……!

 

『異世界に行くのさ』

 

 そこで、ようやく男は彼女の声に応えた。こちらを真っ直ぐ見つめ、手を差し出してくる。だが、言ってる事は相変わらず意味不明だった。異世界とは、どう言う――?

 

『言葉通りの意味だ。我々は、オンラインの回線に乗り、全く未知の世界に行く事になる。その世界は、電子データで出来た世界――VRMMOのような仮想電子世界では無い。言わば、実在電子世界とも呼ぶべきか』

 

 意味が分からなかった。

 そして、この男の正気を疑う――異世界? 実在電子世界? もし、そんなものがあって、行けたとして。その世界で何をするつもりなのか?

 

『決まっている。真に、夢を叶える為だ』

 

 男は簡潔に応えた。白衣をはためかせ、両手を大きく広げる。そして、子供のように目を輝かせて、こう言った。

 

『真なる世界創造を果たす。その為に、私は君と共に行くのだよ。異世界の都市に。――電詞都市、DT(デトロイト)に!」

 

 そう言って男は――彼女は知らぬ事だが、かつて一つの仮想世界を作り上げ、そこに一万ものプレイヤーを閉じ込めた異才の男、茅場晶彦は、《絶剣》のユウキこと、紺野木綿季の拡散した意識を集束させ、一気に飛翔を開始した。

 

 これが、後に《DT事件》と呼ばれる最初の出来事である事など、誰も知る良しは無かったのだった――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 2026年、4月末――アルヴヘイム南西方、シルフ領、首都スイルベーンのさらに南西にある草原地帯。その、さらに向こう側にある海の向こうに、陸地が唐突に現れた。

 

「おい……? あれ、なんだ?」

「陸地? なんか、街みたいなのも見えるぞ」

 

 スイルベーン上を飛んでいたシルフ族のプレイヤーが、指差して驚きの声を次々に上げる。

 当たり前だ。海の向こうは、ずっと海が広がっていた筈なのだ。ある程度は海上を飛べるが、限度もある。もちろん、その向こうに陸地や、まして街などあろう筈が無かった。

 だが、確かに、そこには街があった。遥か遠いが、間違いなく。プレイヤー達は、突然現れた街に唖然とし。しかし、何らかのクエストが発生したが為の拡張マップかもと意気込んだ所で。

 

『『あ……!?』』

 

 ――その街は、まるで景色に溶けるように消えてしまった。僅か、三分。

 それが、ALOに幻の街が出現した時間であった――。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「てな話しがあったみたい」

 

 ALO、新生アインクラッド第22層に建つひっそりとしたログ造りのプレイヤーハウスで、俺はリーファの話しに、へぇーと相槌を打った。

 いつものように、ALOのマイホームに集まった一同で女子陣は――つまり、アスナ、リズベット、シリカ、リーファ、それに大変珍しい事にシノンは、そんな噂話しをしていたのだ。

 

「幻の街かー、拡張マップ準備してる途中で、間違って運営が出しちゃったとか?」

 

 そう言ってアスナ手製のお茶菓子――クッキーだ、をぱくりと一口食べるのは、リズベットことリズ。

 うっかりそんな事があるのかと言われると、可能性はゼロじゃないだろう。でも、相当低いとは思うが。

 そもそもALOは新生アインクラッドの第三十層以上のアップデートや、グランドクエスト第二段が進行中の筈だ。そんなものに手を出す暇はなさそうな気もするんだが。すると、こちらは何やら本を読んでいたシノンが、何故か俺をちらりと見て話し出した。

 

「それなんだけど、どうも、あの街が現れたのって、ALOだけじゃ無いみたいなのよね。GGOでも、”全く同じ時間に”、北側廃墟の向こう側に街が見えたらしいよ」

「ええ……っ、そうなんですか?」

 

 と、こちらはシリカ。どうも興味津々なようで、目を輝かせている。すると、《タップするだけで九十九種類の味のお茶がランダムに湧き出す》と言う魔法のマグカップを片手に、アスナもうーんと小首を傾げていた。

 

「なんか《Mトモ》見ると、色んなVRMMOで――と言うか、全部のゲーム内で見れたらしいよ、その街。私は見れなかったけど」

 

 アスナに続いて、女子陣が全員、私も、私もーと、頷く。ちょうど、そのタイミングは誰もログインしていなかったのだ。

 この浮遊城アインクラッドからなら、見れたかも知れなかったのだが。

 

「キリト君も見てない?」

「残念ながら。その時間は、バイトしてたよ」

 

 最近ずっとやってる《ラース》からのバイトである。そんな街があったなら見てみたかったと思う反面、どうも気に掛かる。

 何せ、全てのVRMMO世界で現れた街だと言うのだ。それはつまり、《ザ・シード》連結体により繋がった世界全部と言う事を意味する。それが何を意味するのか――。

 

「確かに、その時間帯、ネットワーク上に巨大なデータが忽然と現れてますね。でも、三分程で消えちゃってますけど」

 

 そうのたもうのは、俺の頭の上でちょこんと座るナビゲート・ピクシーであり、俺とアスナの娘でもあるユイだ。こう言った話題だと、大概はユイが真贋を見極めてくれる――まぁ、ゲームに関係無い話題でだが。そうでなくては、公平性が保てなくなるし。

 ともあれ、これで信憑性は俄然増した――と言うか、確実になったと言えた。

 

「ユイちゃんが言うなら間違いナシだね。でも、なんで消えちゃったんだろ?」

 

 アスナの疑問に皆揃って頭を悩ますが、分かろう筈が無い。しばらくして出た結論は、「分からないものは分からない。なら気にしても仕方ない」であった。興味も疑問も尽きないが、ここで考えても埒が明かない。そんな訳で、一同は別の話題に話しを切り替えていく。

 

 ゴールデンウィークの話題に移り、笑いながらしかし、俺の頭の中には幻の街の話しがずっと残っていたのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 PM22時。いつもよりちょっと早めにログアウトして現実に帰って来た俺は、アミュスフィアを外して息を吐く。

 明日は休みなので、一日中でもログイン出来たと言えば出来たのだが、何分、制限時間もある。風呂にも入りたかったので、一時中断と言う訳だ。

 リーファこと、妹の直葉も部屋から出た気配がして――て、すぐに慌てて戻った。これは、あれか。また着替え忘れて下着で出たなと苦笑した。あれで、おっちょこちょいな所があるのだ。

 さて、風呂はスグに譲るとして晩飯でも――? と、そこで気づいた。PCにメールが入ってる事に。

 誰かからのメールかと、見てみる。だが、その宛先は、全く見覚えの無いものだった。

 

「スパムか……? いや、でも」

 

 その手のメールは容赦無くブロックしている筈だ。

 なら、これはなんなのか――しかも、やたらとデータが重い。このPCはユイ用に相当メモリを増設しているのだが。

 興味を引かれ、普段なら絶対やらないのだが――メールの中身を開けてみた。

 

「電詞都市、DT? 入市状?」

 

 その中身は、VRMMOへの招待状とも言うべきものだった。どうも、今のALOからキャラをコンバートして来て欲しいらしい。詳しい話しはそこでするから、とあった。正直、胡散臭い上に強引過ぎる話しである。

 コンバートするにはアイテムや金を持ってはいけないのだ。こちらは、それなりのリスクを負わねばならない。なのに、まるで引き受けるのを確信しているような感じで――。

 

「っ――」

 

 しかし、最後の文面を見て。俺は、息を飲んだ。

 そこに書かれたものは、俺にそれだけの衝撃を齎したからだ。ぐっと呻き、内容を読み上げる。それは、こんな内容だった。

 

「『ヒースクリフと言う男が、ここに居る。これ以上は言わなくても分かってくれると思う』、か」

 

 正直バカバカしいと思った。今更、何故あの男なのかと。

 ヒースクリフ――茅場晶彦。ナーヴギア、そしてSAOを作った本人であり、そして俺達をデスゲームに強制参加させた男。SAO世界崩壊と共に死んだ筈の男だ。ヒースクリフの正体が彼だと知ってる人間は知ってるし、そうでなくともヒースクリフと言うPCを知ってるSAO帰還者は多い筈だ。だから、これはタチの悪い悪戯――そう自分に言い聞かせて。

 

「くそ……!」

 

 それが、出来そうも無い自分に悪態をついた。これは勘だが、多分、これは”本物”だ。確信とすら言える。理由も根拠も無いのだが。

 もう一度罵声を飛ばすと、再びアミュスフィアを付け直した。コンバートするには、全てのアイテムとコインを預けねばならない。今からエギルの店に預けて、それから――。

 ちらりと棚を見る。そこに今でもあるナーヴギアを見て、再びため息をついた。

 メールには、こうあったのだ。DTに来る際には、ナーヴギアで、と。全く、見透かされてるようで腹が立つ。ともあれ、コンバートの準備を整える為に、俺は再びALOにログイン。そして、三十分後、準備を整えるとナーヴギアに被り直し、『電詞都市DT』をインストール。再びベットに寝転がると、あの言葉を呟いた。

 

「リンクスタート」

 

 ――次の瞬間、俺の意識は一気に飲み込まれ。”桐ケ谷和人、と言う人間はこの世界から消滅してしまったのだった”。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ・DT入市案内。

 

 ようこそ、神の声聞くDTへ。以下の諸注意をご確認下さい。

 

「0:基本ルール」

 

 0−1。

 DTでは世界初の映像化と複数同時介入が可能な文字世界であり、百倍加圧の高速都市です。

 DT内では貴方の遺伝詞情報を元に作った通常外殻(以下、PC)で生活をして頂きます。貴方の遺伝詞情報は必要な時のみ召喚し、普段は電詞熱量削減のため、中間層に保存します。

 

 0−2。

 遺伝詞にはPCからの共鳴操作によるフィードバックがあり、PCが損傷すると本体側も同様の損傷を受けます。遺伝詞情報のバックアップは本体遺伝詞の共鳴崩壊を起こすため、禁止されておりますので注意して下さい。また、PCによる些細なトラブルを引きずったり、発展させぬよう、名前登録はなるべく偽名をお奨めいたします。

 

 0−3。

 DTでは第二神触以前の記録は全て抹消、秘匿とされておりましたが、去年に情報公開がなされました。詳しくは、DT憲兵師団、団長にお聞き下さい。

 

「1:頁(ページ)ルール」

 

 1−1

 DTは記常頁、記匿頁、言路の三概念で出来ています。記常頁は誰でも立ち入る事が可能な区画。言路は空や通路。記匿頁は言定議状態(ボードモード)用の任意隔離区画です。

 

 1−2。

 DTでは言定議状態と呼ばれる文字状態と、言解議(サイトモード)と呼ばれる映像状態を使用して活動可能です。

 

 1−3。

 言定議状態では視覚情報を言像更新を行って確認します。

 行動は代行己動詞で半自動化するため、精密、高速行動が出来ません。

 必要な場合は、適宜、映像状態である言解議状態に入って下さい。

 

 1−4。

 DT内では詞片(メール)と己動詞(プログラム)、情報体を、中間層経由で電詞転送できますが、実在物の電詞転送は安全確保のため、禁止されています。

 

「2:会話ルール」

 

 会話は言定議状態では「」で囲まれます。思考を面に出す場合は、<>で囲まれます。

 言解議状態でも思考を詞窓(ウィンドウ)として表現可能です。

 

「3:召喚紋章ルール」

 

 3−1

 言解議状態の時のみ、意志力で身体の各部遺伝詞情報を中間層からPCに召喚します。この召喚行為を字呼召喚(ダウンロード)と呼びます。

 字呼召喚では遺伝詞情報の五割を召喚します。更に意志を強くすると、大召喚(グランドロード)と呼ばれる全身召喚が可能となります。

 

 3−2。

 召喚中は電詞熱量の消費量が多くなり、空腹化、場合によっては自動的に高機能化(SD化)します。

 他、重要語句などは逐一ヘルプを行いますので、注意して下さい。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 ●「キリトのボードモード『DT憲兵師団にて』」――――●

 

 :ここはDT憲兵師団の記常頁(トップページ)、憲兵師団私室です。

 :時刻は、午前9時00です。

 :キリト様は憲兵師団内入市ロビーからこの部屋に入って来たばかりです。

 :広い部屋の中に大きな机があります。壁には賞状や盾の入った棚があります。

 :一人のPCの方がいらっしゃいます。オウガ・テライ・DLL様です。

 

キリト「……は?」

 

キリト「なんだこれ……掲示板?」

 

テライ「ははは。言い得て妙だね。その通りだよ、初心者君」

 

テライ「この会話だけの状態が、DT特有のボードモードさ、キリト君」

 

キリト「え、ええ……? 誰が居るのか――じゃないや、居るんですか?」

 

テライ「敬語は必要ない。ともあれ、ここに私は居るさ」

 

テライ「ボード中に何か見たければ、言像更新(オーバーリロード)と、心の中で念じてみたまえ」

 

《キリトの言像更新》

 

 :正面にテライ様がいます。黒人の、太った中年男性です。

 :テライ様の机の上には鳥型の青いマウスがいます。

 

キリト「――視覚情報が全部文字だけで出るのか……。そして、オーバーリロードで情報を得る、と」

 

テライ「その通りだ。なんだ、説明の必要があまりなさそうだな」

 

キリト「つまり――」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :周囲状況は変化していません。テライ氏は微笑を浮かべています。

 

キリト「こうして俺が喋ってる間にも、周囲は動いてるんだな」

 

テライ「その通り。注意して欲しいのは、オーバーリロードは二、三秒のデータしか仕入れられない事だ。何しろボードモードはDTの基礎たる文字情報の高速交換専用だ。他の用途は疎い」

 

テライ「この主観視点のボードモードの他、客観視点となるサイトモードがある。が、まあ、サイトに切り替えるより先にボードを解説しよう。――また、オーバーリロードしたまえ」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :テライ様が立ち上がって銃をキリト様に突き付けています。

 

キリト「――――っ!?」

 

テライ「ようやく、驚いてくれたな。ボードモードの恐ろしさとはこれだ。今の場合、八秒前に私は君に拳銃を向けた。だが、君はオーバーリロードしていないので気付かない。私がこれを撃てば、君はいきなり致命を告げる警告詞窓を見た上で衝撃を感じて死亡だ」

 

テライ「そして、ここでの死は本体の死にもなる。この意味、分かるね?」

 

キリト「入市案内に書いてたけど、フィードバックが入ってアバターと同じケガとかするんだっけ」

 

テライ「そう言う事だ。何、定期的に周囲を見るだけでいい。簡単だろ?」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :テライ様が拳銃を懐に納め、椅子に座り直しました。

 

 テライ「そう、初めのうちは細かく見ていくんだ」

 

テライ「ボードモードは、情報を絞って見せているだけ。自分に感じられなくてもPC――君らの言い方ではアバターか。は、存在し、代行己動詞(サブプログラム)で動いてる。だから移動も作業も食事も可能だ。だけど、サブプログラムによって行われるので精度も悪くミスも起きる。燃費と速度はいいんだがね」

 

キリト「掲示板は慣れっこだけど、これは……」

 

テライ「慣れたまえ。DTはこのボードが基本だ」

 

テライ「この高速の無感情な情報の行き来について来られない人もいる――毎秒オーバーリロードするようになってしまったノイローゼ患者とかね。だが、ボードモードは早く、便利だ」

 

キリト「慣れなかったら?」

 

テライ「残念ながら他の大部分の人間は適応している。無感情な高速の文字データをちゃんと流さず読み、言葉の端々から感情を想像で読み取ってね。それが出来なかったら、この世界では、脱落者(リタイア)と呼ばれるんだ」

 

テライ「慣れるか、気の合う者同士なら、オーバーリロードもそうそう多くする必要はなくなるさ。さて、無駄話しはここまでにしよう。サイトモードと意識して感覚を切り替えたまえ」

 

《キリト様のボードモードを終了します》

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「――と」

 

 急に目が覚めた感覚を受けて、思わず声に出してしまった。きょろきょろと見回すと、そこは部屋の一室だった。

 正面、机の向こうに一人の黒人の中年がいる。……こう、エギルと比べるとあれなんだけど、見事に中年太りした人だ。テライさんと言ったっけ?

 彼はにこやかに立ち上がると、机越しに手を差し出して来た。なので手を返そうとして――。

 

「あ、あれ?」

 

 何故か上手くいかなかった。おかしいなと何回か試していると、テライ氏は苦笑する。

 

「まだアバターを動かすサブプログラムが最適化されてないな。ここは字呼召喚(ダウンロード)を見せよう。この偽物の世界に、本来の自分を五割召喚(ロード)する詞――定型のないダウンロードの詞だ」

 

 ――存在を確かめたい。

 

 次の瞬間、テライ氏の手指に一瞬だけ青白い光が宿った。天秤をシンボルにした紋章(エンブレム)だ。紋章はすぐ消え、代わり、テライ氏の手から硝子板を割った音が一つ鳴り、直後、手を握られた。

 テライ氏は肩を竦め、改めて微笑を浮かべる。

 

「ようこそ、電子で出来た偽物の――しかし、本物の都市へ。異世界からの来訪者、キリト君」

「こちらこそ、よろしく」/<なんかタコ焼きみたいな人だな――て、はぁ!?>

 

 なんだこりゃ!? いきなり、頭上に浮かんだ黒枠のウインドウを見て、絶句する。な、何故に思った事が――て、違う! 出るな!

 しかし、願い虚しく、ウインドウは次々と思考を表に垂れ流しにする。

 

「はっはっは、済まないが、緊急で君に来てもらったからね。今の君は犯罪者設定になっている。犯罪者は、思考の隠蔽や攻撃が出来ない設定(プロパティ)になってるんだ」

「そ、そうなんだ。て、あの、手、手が痛いです……!」

「私はタコ焼き顔かね?」

「いえ、違います!」/<勿論、その通りです>

 

 ……駄目だ、こりゃ。それを悟ると、すみませんとテライ氏に謝る。彼も苦笑すると、手をようやく離してくれた。

 み、見た目と違って、えらい握力の持ち主だ。さすが、憲兵師団団長!

 

「言い訳にしか聞こえんよキリト君」

「あれ――?」

 

 思考はちゃんと褒めてるのに――それはともあれ、テライ氏に向き直る。

 彼も頷き、苦笑を一つだけした。

 

「さて、では本題に入ろう。ヒースクリフ、彼の事を、ね」

 

 そう、テライ氏は再び話し始めたのであった――

 

(第一話に続く)

 




どうも、テスタメントです♪
そんな訳で、やっぱり書いちゃいました♪(笑)
しかし一人称難し難し(笑)
三人称一元視点に慣れきってるせいでどうしても(汗)
そんな訳で、電詞都市DTとのクロスです♪
どんな話しとなるか、一つお楽しみに♪


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第一話「ようこそ偽物の街、DTへ」(前編)

では、第一話であります♪
と言っても前編ですが(笑)
基本的に四千〜五千文字で切るのを目的に致します♪ ……出来るかなぁ(汗)
では、第一話(前編)どうぞー♪


 

 テライ氏の言葉に、思わず俺は息を飲む。そんな俺を見てか、彼がふっと笑うのが見えた。

 

「まず最初に。このDTは君にとって、異世界にあたる」

「へ……?」

<そう言えば、さっきも俺を異世界からの来訪者とか言っていたような……?>

 

 そんな疑問が当然のように黒枠のウインドウで頭上に浮かび、テライ氏が苦笑したのが見えた。……便利なんだか、不便なんだか。

 

「犯罪者設定状態なのもそうだが、いきなり過ぎたな。私の悪い癖だ。最初からいこう。このDT――電詞都市デトロイトは、君が元いた世界とは、全く別の世界のものだ」

「それって、ここがVRMMOの中って意味じゃなくて?」

「違う。……我々も最初は信じがたかったのだが、間違いなく君にとって異世界だ」

 

 きっぱりとテライ氏は言う。……いきなりそう言われても――と、戸惑う俺にテライ氏も頷く。

 

「なんと説明すればいいか、少し分かりにくいがね。このDTは過去の事件により、現実の都市が丸ごと電子化されてしまった都市だ」

「え……? じゃあ、ここはVRMMOじゃ――」

「それも、残念ながら違う。君の言う、VRMMOは仮想電子世界とも言うものだったろう? だがこの都市は全てが電子に置き換えられた実在のものなのだ。言わば、実在電子世界と言うべきか」

 

 実在電子世界――つまり、本当に異世界なのか……。

 未だ実感が湧かないが、ならこのDTをインストールしてVRMMOのように入れたのは何故なのか――と、これも黒枠ウインドウで表示されてしまう。

 

「疑問を一つずつ解消して行こう。まず、DTの入市状をメールで送ったのは私だ。君がインストールしたゲームは、私が作ったプログラムでね。あれは、ナーヴギアと言ったか? あの端末を用いて、君を遺伝詞分解し、電子情報化した上でネットワーク回線に乗って、こちらに来てもらう為のものだった」

「…………あの、いろいろ専門用語が――」

 

《ヘルプ:遺伝詞とは? 流体(エーテル)と呼ばれる、全てのものを構築するものに、詞形式で個性を与えているもの。遺伝詞分解とは、騎の記上技術を応用し、該当者の実体を流体に変換するもの》

 ――なんか、ヘルプが出て来たけど、それにも専門用語たっぷりなんだけど……。

 ともあれ、ようは生物の遺伝子のようなものなのか。それが、生物だけじゃなく全てを構築していると……。

 

「まぁ、そう言う事だ。そのヘルプも、我々の世界からDTに来たと言うのが前提だからな。君には、ちょっと使いづらいだろう。そんなものか、程度で構わないよ」

「はぁ……」

 

 我ながら気の無い返事をする。しかし、これでよく分かった。ゲームのような設定に見えるけど、”これがこの世界の物理法則や概念なのだとしたら”。それは、確かに、異世界だろう。

 

 漸く、観念して認める。ここは、異世界なのだと。

 

「……君は、わりと一人で結論を出すタイプだな。我々が君を騙してる、とは思わないのか?」

「あなた達にメリットがありません。……それに、騙そうとするなら、もっと”らしい”話しをするでしょう?」

 

 きっぱりとそう言ってやると、テライ氏は再度苦笑と共に肩を竦めた。その上で、こちらを見据えた。

 

「さて、ではもう一つの疑問を解こう。君を、何故、この異世界に連れて来る事が出来たかと言う事と――このDTの、今の状況をね。話すと長いので、メールに纏めておいた。愚痴も含まれているが、そこは許してくれ」

「メールはどうやって受け取るんですか?」

「既に送ってる。……君の常駐端末(マウス)はまだ優緒君が調整中か。なら、メールウインドウ表示と意識したまえ」

 

《メールウインドウを展開します》

 

■「テライのメール『キリト様へ』」

 

 異世界大使、キリト様宛。

 

 さて、君が大使となってるのに、何故犯罪者設定なのか気になるだろうから、最初に言っておこう。手っ取り早かったからだ。この街は、基本的に長期犯罪者か長期入院者でないと入市できないからな。

 では、前置きはここまでにして本題に入る。現在、DTは本来の世界と切り離された状態だ。元々それに近かったのだが、今ではDTそのものが異世界化してると言えるだろう。この原因が、そう。ヒースクリフだ。

 彼は、如何様な手段を用いてか、DTに不正入市した挙げ句、基幹OSにハッキング。今は亡き管理者である十三亜神の一人、エダムザの亜神プログラムと管理者権限を奪ってのけたんだ。全くしてやられたとしか言えない。

 そして、彼が行ったのがDTと現実世界――我々の、だが。それとの切り離しだ。正直、どうやったのか、全く見当もつかない。しかも、DTを丸ごと別の異世界に転送したのだ――君達の世界のVRMMOにね。

 このDTは外の世界の百倍速の世界だ。なので、外の三分は三百分となるのだが、その時間を用いて、我々はDTを何とか再転送。我々の世界と、君達の世界の中間辺りに留める事に成功した。……そう、このDTは今や本来の世界とも隔絶した状態にある。入市窓口は何とか設けられたがね。食料他を全て輸入で賄ってるので、危ない所だった。

 そして、そちらの世界にハッキングし情報を集めた所、異世界である事やヒースクリフの事を突き止めた訳だ。……もちろん、君の事もその時に分かった。SAO事件についても、そこで君がヒースクリフを打倒した事についてもね。日本政府に不正ハッキングで訴えられない事を祈ろう。

 ただ――何故、死亡した筈のヒースクリフ、茅場晶彦がDTに居るのか、そして何をしようとしているかは全く分からない。

 亜神プログラムや管理者権限を奪った事も含めてね。正直、嫌な予感しかしないが。

 君にご足労願ったのは、ヒースクリフの目的を看破する為に、意見を聞きたかったのが一つ。次に僅かとは言え、異世界に来たのだ。その理由をそちらの世界にも知ってもらう為。最後は、君がヒースクリフに対する切り札であると判断した為だ。

 とは言っても、君に戦闘しろと言う訳じゃない。君は、異世界大使と言う扱いだ。出来れば危険に晒したくないんだ。外交問題にも程があるからな。

 だが、逆に君とヒースクリフとの関係を鑑みるに、君の判断を尊重すべし、と言われてな。たまに、あの馬鹿は本質を突くので困る。

 我々は君に意見協力を願うつもりだ。その上で、君がヒースクリフを追うならば、協力を惜しまない。我々の切り札とも言える団員を二人出そう。

 一人は、私と同じ十三亜神――管理者の一人で、このDTの姫でもある憲兵師団少尉、優緒・ナタス君。そして、馬鹿――いや、拳聖位所有者であり、DT内最強の攻撃力の担い手、青江・正造君だ。ちなみに、憲兵師団員補佐、つまりパートのようなものなので、青江君についてはコキ使ってくれて構わない。以上だ。

 

《キリト様のボードモードに戻ります》

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

●「キリトのボードモード『DT憲兵師団にて』」

 

 :オウガ・テライ様が前にいます。

 :表情は眉をやや潜めているものです。真剣と判断します。

 

キリト「ヒースクリフ……」

 

テライ「彼が本物かどうか――については、我々には分からない。多分、君にしかね。その真贋を含めて意見を聞きたい」

 

テライ「どう思う?」

 

キリト「分かりません」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :テライ様がため息を吐きました。しかし、失望ではないと判断します。

 

テライ「率直に言うね、君は」

 

キリト「目的や手段については皆目見当もつきません」

 

キリト「ただ……本物かどうかなら。多分――いや、間違いなく本物です」

 

テライ「何故、そう言える?」

 

キリト「DTを転送したのが、俺達の世界で、しかも《ザ・シード》連結体のVRMMOだからです」

 

キリト「あれを作って、俺に渡したのは茅場――ヒースクリフですから」

 

テライ「……成る程な」

 

テライ「彼は本物か。我々のような不滅型不老不死ではあるまいに」

 

キリト「不老不死……?」

 

《ヘルプ:十三亜神について。九家十三亜神と呼ばれる者達。彼等は、第一神触実験の失敗によって、DTの都市遺伝詞ではなく、表層OSの一部として半融合した不滅型不老不死者のことです。

 彼等はDTOSプログラムの外部関数として切り外し可能であり、DTが滅びない限りは消滅することがありません。

 

 よって彼等は現DTの実質的管理者となっています。

 なお、彼等はDTOSからそれぞれ強力なマスタータイプのプログラム、《亜神プログラム》を与えられており、その力でDT内の問題に対処します。

 この亜神プログラムは本人以外が使用する時はDTOSの加圧援助が入らない為、膨大な熱量(カロリー)を消費します。

 この事から、基本的に亜神プログラムの貸し借りは行われません。九家十三亜神の内訳は別枠でお調べ下さい。

 また、十三亜神の一人、エダムザ・アーコン氏は、去年の事件中に言障(ワーズワーン)にて焼滅(アッシュ)、死亡しています。言障についても、別枠でお調べ下さい》

 

キリト「……て、事は貴方達は――」

 

テライ「DT時間で二千四百年前に不老不死になっている」

 

テライ「とは言っても、外部からのダメージで死ぬ事は死ぬんだがね。……記憶を第二神触実験前まで初期化されて復活するが」

 

キリト「なら、エダムザって人は?」

 

テライ「彼は別だ。と言うより言障が別だと言うべきだが」

 

テライ「言障は不滅型だろうが、不老不死者だろうが、容赦なく滅ぼす病でな。……彼は、それで死んだ」

 

キリト「…………」

 

テライ「まぁ、昔の話しだ。それより、ヒースクリフは間違い無く死んだんだね?」

 

キリト「ええ。肉体は、と言う注釈がつきますが」

 

テライ「それはどう言う事かね?」

 

キリト「ヒースクリフは、電子情報化して存在している可能性があるって事です」

 

キリト「アバターでは無く、純粋に電子生命体として……」

 

テライ「……成る程。我々より、よほど怪物じみてるな、それは」

 

テライ「そんな怪物が、DTで何をしでかすつもりなのか……やはり分からないか?」

 

キリト「それはさすがに」

 

キリト「ただ、ヒースクリフの夢についてなら」

 

キリト「彼の夢は、SAO――アインクラッド、と言う”異世界を作る事”でした」

 

テライ「……真に、異世界であるDTを見て、彼はどう思ったんだろうな」

 

テライ「ともあれ、君の話しは参考にさせて貰おう。十分助かったよ。礼を言わなければな」

 

キリト「いえ、それより――」

 

キリト「さっきメールで、俺がヒースクリフを追うなら協力するって書いてましたよね?」

 

テライ「先に言う。止めておけ」

 

テライ「SAO――デスゲームを体験した君に言うのも何だが、ここはある意味では、それ以上だ」

 

テライ「傷を受ければ、君自身も傷付くし、最悪死ぬ。再び死の恐怖を受け入れるつもりかね?」

 

テライ「この世界に、HPは無いんだ。”ゲームじゃないんだ、この世界は”」

 

キリト「……分かってます。分かってる、つもりです」

 

キリト「だけど、ヒースクリフがDTで何かをしようとしてる。それは、俺達の世界にも関係がある筈なんです」

 

キリト「だから――」

 

テライ「……もういい。あの馬鹿の言う通りだったな。明らかに君はマイナス側の人間なのに、どうしてプラスの彼と意見が合うんだ」

 

テライ「協力を約束しよう」

 

キリト「ありがとうございます!」

 

テライ「礼を言うのはこちらだよ。謝罪もね」

 

テライ「一応、君を憲兵師団員臨時補佐とする。青江君と同じ、優緒君の助手扱いだな」

 

テライ「まずは二人に引き合わせよう。その後で――」

 

キリト「その後で?」

 

テライ「まず、君の赦免手続きに行こうか。犯罪者のままでは、窮屈だろう?」

 

《キリト様のボードモードを終了します》

 

 

(後編に続く)

 




事情説明だけで終わってしまったぜ前編……!(笑)
まだエロい先輩やら長耳後輩やら出てないぞ、くそぅ(笑)
まぁ、大事なパートだと思うんで文字数使ったんですが(笑)
大目に見たって下さい(笑)
では、後編にてお会いしましょう♪
ではでは♪


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第一話「ようこそ偽物の街、DTへ」(後編)

なんとここまで戦闘なし。
どうした俺、何があった俺……!?
まぁ、そんな感じの回ですハイ。では、第一話後編どぞー♪


■「キリトのサイトモード『DT憲兵師団にて』

 

「と……!」

 

 ボードモードからサイトモードに切り替えるといきなり視界がクリアになる。

 この感覚にはまだ慣れないなーと思いつつ、苦笑した。すると、テライ氏が立ち上がる。

 

「切り替える際の違和感はすぐ慣れるさ。君は明らかにマイナス側だしな」

「……? さっきも言ってたけど、そのプラスとかマイナスって?」

「ああ。我々が勝手にそう言ってるだけだが――人種の区別の事だよ」

 

 そう言いながら、テライ氏は顎を撫でる。たっぷりと肉が乗ってるなとか思うと、案の定ウインドウが表示されていたが、もう気にしない事にしよう……。

 

「プラスとは、奏荷(プラス)と読む。現実の中に真実を見出だす者達の事だ。リアルの方を重視する者――程度の認識でいい」

 

 そして。と言い、自らをテライ氏は指差し、俺にも指を向ける。まるで、自分達は同じだと言わんばかりに。

 

「マイナスとは、騒荷(マイナス)――架空の中に真実を見出だす者達の事さ。私や、君のようにね」

「俺や……貴方も」

「そう。元々私は、電話フリークのハッカーと言うマイナス主流者。つまり、騒荷主流(マイナスエリート)でね。外界が苦手なのさ。人に自我を奏荷されて誤解されるのが怖くてね。君もそうだろう! キリト君。私には、君がバリバリのマイナスエリートに見えるよ」

「…………」

 

 それに、俺は何も言えなかった。自分がマイナスエリートと言われ、思い当たるフシは山とある。

 けど、”彼女”の存在がそれを否定する――。

 

「安心していい。プラスもマイナスも、本来どちらも人にあるものさ。我々はどちらか極端に偏ってるだけ。それだけだよ」

 

 そう言って話しを切ると、テライ氏はこちらに歩いて来る。扉を指差すと、笑って見せた。

 

「さて行こうか。優緒君の元に。君のマウスも受け取らなければな――そう言えば、”彼女”はあれで良かったのか?」

「え……? 何の話しで――」

 

 そこまで言った、次の瞬間。憲兵師団団長室がノックも無く乱暴に開けられた。同時に、俺に向かって突っ込んで来るのは――!

 

「パパ!」

「ユイ!?」

 

 ALOでお馴染みのナビゲート・ピクシー状態の、俺とアスナの娘、ユイ!

 ユイは、ひしっと俺の顔に抱き着くなりほお擦りしだす……て、こしょばい。

 

「ゆ、ユイ……! ちょっと、こしょばいから。それに、何でユイがここに?」

「パパったら酷いです! また私にも、皆にも黙ってアバターをコンバートなんかして、こんな怪しげな事して! GGOの時のように置いてっちゃうつもりですかっ!?」

 

 う……っ! い、痛い所を……。

 だ、だって怪しげだからこそ、ユイや皆を巻き込みたく無かったんだけど、年頃の娘である所のユイはぷんすか怒り続ける。

 く……っ! これが、父の心、娘知らずと言うやつか!

 

「パパ! さっきからウインドウに全部表示されてますからねっ!」

「げげ!?」

 

 し、しまった。さっき気にしないようにしたのが、こんな所で裏目に出るとは……。

 しかし、いくら電子世界でオンライン上で繋がっているとは言え、何故に、れっきとした異世界にユイがいるんだろう? その問いに答えてくれたのは、次の来訪者二人だった。

 

《新しいお客様が二名、この頁に入状しました》

 

 :二人のPCの方々がいらっしゃいました。フーブリッキー・テライ・SYS(シス)様と、優緒・ナタス・WAV(ウェブ)様です。

 

「はいはい、旦那は元気ー?」

 

 そう言って入って来たのは、小学生くらいの娘だった。セミロングの金髪に、利発そうな顔立ちをしている。そして、左手にポテトとそれが載ってる大皿を、右手に二〜三歳時くらいの黒髪をポニーテールにした幼女を眠ったままぶら下げていた――て、旦那? い、いやそれに優緒って、確か協力者の……?

 

「……ど、どう言う事なんですかテライさん!? これは通報ものじゃないんですか!?」

 

 旦那って! 旦那って!

 もし、優緒とか言う娘の母親がフーブリッキーって娘なら、明らかに犯罪だろう!?

 そんな俺の問いに、テライ氏はゆっくりと頷くと。

 

「うむ。――私の高尚な趣味だ」

「事案発生――――! てか、旦那あんたかよっ! この犯罪者め!」

「な……! いきなり何を言うのかキリト君。このくらいのサイズの方が捗るだろう!?」

「気にする所が間違ってる――!」

 

 そこまで叫んだ、次の瞬間。いい音がテライ氏の腹から鳴った。

 見るとフーブリッキーが蹴りを容赦無く、テライ氏の突き出た腹に突き入れてた。

 

「ちゃんと、詳しい説明をなさいよ!」

「う、うむ……! ちなみに、彼女は私の妻で、今は高機能(SD)化で五等身になってるだけだ」

「へ……? SD化……?」

 

 そう言えば、入市案内に何か書いてたような……?

 すると、ユイがひらりと顔の前に来て、「これですパパ」っとウインドウに入市案内と詳しいヘルプを見せてくれた。

 

《ヘルプ:SD化について。DTは百倍速の世界です。なので、百倍外界より備蓄熱量(カロリー)を消費します。ボードモードではかなり熱量消費を抑えられますが、サイトモードだと、熱量消費がかなり上がります。また、字呼召喚、大召喚を行うと熱量消費が更に上がる事になります。備蓄熱量の残存が少なくなると、生命維持に熱量を優先する為に、PCデータからプログラムを抜き、PC自体もSD(サイズダウン)化します。また、任意にSD化する事で消費熱量を減らす事や、外見を変える事も可能です》

 

 ――つまり、フーブリッキー。い、いやフーブリッキーさんは、SD化してるだけなのか。て事は優緒さんも、そうなるのか……?

 

「ああ。優緒君は、君のコンバートして来たアバターをこちらのPCにしたり、彼女――ユイ君だったかな? を、君のマウスにしていたんだ。しかし、忙しかったとは言え、またSD化したか優緒君は。青江君にからかわれるぞ」

「当の本人は全く働かない癖にねぇー」

 

 なんか、めちゃめちゃ優緒さんが働いてくれてたらしい。俺のアバターや、ユイをマウスとやらにしてくれてたのか。て、マウスって……?

 

「私はパパの常駐端末って事になってます。メールとか、DT内の処々の事を担当出来ます。後、熱量補給も、パパと共有出来るんですよ」

「熱量補給って言うと、飯の事か。どんな風になるんだ?」

 

 気になって聞いてみると、ユイはウインドウを出して設定変更し、ポテトが山盛りになった大皿に飛ぶと、一つ両手にとってパクリと食べた――て、口の中に広がるこれは!?

 

「ぽ、ポテトの塩味……!」

「ああ、そうそう。×2設定でポテト揚げて貰ったのよ。優緒もこれだし、一応食べときなさい」

 

 そう言って、大皿を机に置こうとするフーブリッキーさん。……確かに、お腹減ってる感じあるし、食べとくかな――と、そこでフーブリッキーさんの右手にぶら下がっていた優緒さんが目を開いた。……そういや寝てたっけ。

 

《優緒様が再起動します》

 

「ふぃ?」

『『あ』』

 

 直後、起きた優緒さんが身じろぎした動作で、フーブリッキーさんの体勢が崩れた。それは、大皿を傾け、彼女の手から滑り落ち――。

 

「パパ、お皿を掴んで下さいっ」

「お? おう」

 

 娘に言われるまま、反射的に手を伸ばす。おそらくサイトモードが俺だけだったんだろう。

 大皿が落ちるまでに掴める――筈が、まだサブプログラムは最適化してないらしく、掴めない。なら、どうするか――と考えた時点で、先程のテライ氏の字呼召喚を思い出した。

 

 ――食べ物を粗末にする事は許さない。

 

 右手が黒い光を一瞬纏い、硝子が割れるような音が鳴る。同時、手の甲の表面に黒の光で紋章が一つ展開。黒の剣が二つ重なったシンボルだ。

 これが、俺の紋章――そう思った時には軽い衝撃と共に右手が皿を確保していた。よしっ。

 

「パパ……その詞(テクスト)はちょっと情けないです……」

 

 なんだとぅと思うが、いきなりそんなカッコイイ詞なんて思い浮かばないって。

 

「貴方器用ねぇ、来たばっかりなのに字呼召喚するなんて」

「いや、まぁ……」

 

 い、言えない……。テライ氏が字呼召喚したのを見た時からやって見たかったから、ちょっとイメージしてたとか恥ずかしくて言えない……!

 

「……あー、キリト君? 忘れてはいないだろうが、今の君は犯罪者設定なので、思考が……」

「は……っ!?」

 

 し、しまった……! あ、穴があったら入りたい。だって、ネトゲユーザーなら、こんなおもしろカッコイイの、試してみたいって思うのが普通だろ。

 

「だからパパ、思考が……」

「だー! もぅ、なんだよこれ!」

「犯罪者設定だから仕方ないでしょ。早く赦免してもらいなさいな」

 

 しくしくと座り込む俺に容赦無いお言葉。くそぅ……。そんな風に落ち込んでいると、新しい人が扉から入って来た。

 

「なんじゃ、騒がしいと思ったらこのカオスな状況は」

《新しいお客様が一名、この頁に入状しました》

 

 :一人のPCの方がいらっしゃいました。青江・正造様です。

 

 扉をくぐって現れたのは、黒髪を短く刈り込んだ、痩躯の男性だった。とは言え、俺のように痩せっぽっちな訳じゃない。徹底的に余分な肉を削ぎ落としたかのような、見事に筋肉質な身体だ。……う、羨ましい訳じゃないぞっ!

 

「む……? お前は――」

「あ、はじめまして。キリトって言います」

「む。礼儀正しいのは良い事じゃ、青江・正造と言う。よろしく頼む」

 

 ――分かり合う為の初歩は、触れ合う事じゃ。

 

 直後、青江さんが字呼召喚。がしっと五割の本物の手で、こちらの手を握ってくれた。

 

 

「さて……で、優緒は、また縮んどんのか」

「せんぱいー?」

 

 手を離し、青江さんが見る先に視線を移すと、床に置いた皿からポテトをひょいぱく、ひょいぱくっと食べる優緒さんが居た。

 

「ははは、相変わらずバカみたいじゃの――」

「せんぱいー」

「て、こらこら! ポテトを掴んだまま、よじ登ろうとすんな!」

 

 油でベタベタになりつつ、青江さんの半ズボンにしがみついてよじ登ろうとする優緒さん。まさか叩き落とす訳にも行かず、青江さんが引き剥がそうとする。こ、これは……?

 

「SD化中は色んなプログラム沢山外れるから、堪えも何も無くなるのよ。ああなると、ただの幼女ね」

「ああ。……どうだろう、フーブリッキー。今度試しに二等しぐふぅ!?」

 

 再びいい音がなるテライ氏の腹――て言うか脇腹。

 ……気をつけよう。SD化には、マジで気をつけよう……!

 

「パパの幼児化……ちょっと見てみたいです」

「ええぃ、んなもん見なくていい!」

「せんぱい、おそといこう、せんぱい!」

「なんか、デジャぶるのぅ。おっさん、坊主連れて行くがいいか?」

「あ、ああ。構わない。アカラベスの所に連れて行って、赦免させてやってくれ」

「さっすがテライさんっ、だてにおなか、でっぱなしじゃないですよね!」

 

 一瞬の沈黙、そしてテライ氏のお腹回りに集まる視線。……うん、確かに太っぱらだ。

 

「……あの時も言ったが、事実じゃが叱っていいぞ。そこの坊主も一緒にな」

「そうしよう」

 

 ……犯罪者設定なんて嫌いだい。

 そう思いながら、正座させられる俺であった。

 

 

(第二話に続く)

 




そんな訳で第一話でした♪
DTの犯罪者設定で涙を流すキリト君。ええ、厨二病なら必ず通る道ですええ。
実際、思考だだ漏れだと間違いなく自殺しますね俺(笑)
では、第二話こそバトルあるといいな♪ ではではー♪


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第二話「召喚紋章発動」(前編)

はい、一日に三話とか俺張り切りすぎです(笑)
しかし、なんと言う事でしょう……!
前編でバトルまで行けなかった……!(血涙)
く、バトル直前までが今回となります。なお、エロい先輩が、エロさ爆発です♪
お楽しみにー♪


■「キリトのサイトモード『DT中央区デトロイトにて』」

 

 抜けるような青空――現実だと、おいそれと見れない筈のそれを見ながら、俺はDT中央区の市街地を、青江さんと優緒さんと共に歩いていた。

 ボードモードの方が燃費消費は遥かに抑えられるし、無駄が無いのだろうが、初めて見る異世界の風景を楽しみたかったのである。

 

「DTって、工業地域のイメージがあったんですけど、なんで中世風なんですかね?」

「む? 確か、言詞爆弾の影響があったとか、テライのおっさんが言っておったと思うが――おい、優緒」

「…………」

 

 青江さんの問い掛けを、しかし優緒さんはツーンとそっぽを向いて無視。私、機嫌が悪いですと主張しまくるその態度は、SAO時代でまだ結婚する前だったアスナさんを思い出す。

 個人的な経験として、ここはあまり刺激しない方がいいと思うんだけど……。

 

「全く、いつまでむくれておるんじゃ。なぁ?」

「いや……ははは、どーなんでしょうね……」

 

 そう、愛想笑いをしながら自分の頭上をウインドウが展開するのが、分かる。

 ……SD化から復活してみたら、初対面の男が見てた――うん、彼女じゃなくても恥ずかしくて、怒ろうと言うものだろう。

 青江さんは、案の定、俺の思考垂れ流しウインドウを見てふむふむと頷く。

 

「成る程、恥ずかしがっとるのか。やれやれ……」

 

 そう嘆息した――ように見せて、俺は青江さんの目が光ったのを見過ごさなかった。あれは、何か企んでる……!

 

 

「あ、あの……青江さん?」

「黙っておれ、坊主。ああなった時の対処方を見せてやろう」

 

 言うなり、青江さんはのしのしと優緒さんに近づいていく。あああ……! 一体何をするつもり何だ……。

 と――。

 

「優緒」

「…………?」

 

 青江さんにしては(初対面なのに申し訳ないと思うが)、努めて優しい声で呼び掛けられ、優緒さんが漸く振り向く。

 そして、青江さんは即座に行動を開始した。まず、一気に優緒さんへ踏み込み、同時右手を下から開いた状態で上へとアッパーカットの要領で放つ!

 

 ――めくりたいのじゃ――――!

 

 

 同時、詞と共に手指が字呼召喚。青江さんの指は、優緒さんの憲兵師団女子制服――緑色を基調とした服だ――のタイトスカートを確保(ホールド)。勢いよく振り上げる!

 

 ――結果。

 

「優緒、前々から言おうと思ったんじゃが」

「はぁ」

 

 頷く。何が起きたか分かってないかのように。……て言うか、分かるほうがおかしいが。俺も唖然と、その光景を見て――。

 

「たまには、もうちょっと色気のあるパンツを穿かんか?」

 

 ――直後、一気に悲鳴が炸裂した。

 それと同時に、俺の目を肩から飛んだユイが塞ぐ!

 

「な、何をやらかすんですかぁ!」

「パパ! 見ちゃダメですっ!」

 

 優緒さんと、ユイの現パーティー? の女性陣二人が叫ぶ、が。青江さんは、無表情のままだ。あ、ボードに切り替えたな……!

 ともあれ、俺も慌てて目を閉じる――しかし、緑色かぁ。

 

「パパ! 何回も言いますけど、思考まる見えですからね! 即座に忘れないと、ママに言い付けますよっ!」

「…………はい」

「先輩も! なんで、スカートめくりなんかするんですかぁ!」

「む……!」

 

 ――そこに、スカートがあるからじゃ……!

 

 わざわざサイトに切り替えて字呼召喚までして詞を使いますか。青江さんカッケェ! と褒めるべきなのか……!

「キリト君!? キリト君は、こんなダメな大人になっちゃいけませんよ!」

「パパ、いい加減にしないと嫌いになりますからね……!」

「ちょ、ユイ冗談だって!」

 

 さすがに慌てて目を開いて、言い訳――もとい、フォローに入る。こんな事でパパ嫌いとか言われたくない。

 

「ああ、もう……! サブプログラムだと、やっぱり遅いですよねぇ、こう言う時!」

 

 優緒さんはと言えば、なんとかスカートを下ろそうと四苦八苦してるらしいが、どうも慌てて、字呼召喚も出来ないらしい。

 

「あ、いたたた。ボタンが……!」

「あのな、優緒。無理に裾を下ろそうとせんで、先にベルトとタイトのボタンを緩めればいいと思うんじゃが」

 

 

 そこまで言われ、優緒さんがぱちくりと青江さんの顔を凝視する。次第に青ざめ。

 

「ど、どうしたんですか先輩! 悪いものでも食べました!?」

「……お前が普段、わしの事をどう思っているのか、よっく分かったわい。いいから、はよやれ」

 

 はっと我に帰ると優緒さんは言われた通り、うつむいて、身体をよじるようにしてスカートを戻しに掛かる。ベルトを緩める音がカチャカチャ鳴り――て、これは……!

 

「……どうじゃ、坊主?」

「俺は今、あんたを心の底から尊敬するか、軽蔑するか迷ってます」

 

 なんと言うか、こう、ほのかにエロい……。ユイがジロリと見るが、さっきも含めて不可抗力だろと言いたい。せめて情状酌量の余地があってもいいんじゃないでしょーか?

 

「そ、それより! さっきの事なんですけど!」

「優緒のパンツのデザインか?」

「あんたは俺をどうしたいんだよ!?」

 

 もう、半ば悲鳴に近い叫び声を上げる。これ以上はさすがにヤバい。犯罪者設定、マジ最悪……! てか、青江さんが外道すぎる!

 そんな風に嘆いていると、出来た娘さんことユイさんが、ため息と共に俺の顔の前に飛んで来た。

 

「私から説明します。マウスになってますから、ある程度の情報は入ってますし」

「そ、そうか! 頼むよユイ!」

 

 もう一度深々とため息を吐いて、ユイはウインドウを展開。それを読み上げた。

 

「この街は一度、言詞爆弾と言う強力無比な兵器で遺伝詞異常を起こされ、電子的に封印されてます。それが電詞都市としての始まりです。そして、十数年間もDTに閉じ込められた人々は救出された後、恐れて去ったとの事です」

「無人になったのか? でも、だからってこんな風に――」

「いえ、それだけじゃありません。このDTを研究用の実験地として与えられた当時の人々は、もはや工業都市としては不要と判断。マイナスエリートに住みやすい街に改造したみたいです。空や海を作って、工事や民家を偽物の森や石に変換して」

「自分達に住みやすいようにしたのか……」

「テライのおっさんによると、その後の神触実験が決め手だったらしいがな」

 

 と、横から口を出したのは、エロ先輩こと、青江さん。俺はジト目で見てやるが、彼はニヤリとだけ笑う。

 仕方ない人だ……そう思いつつ、気になる単語にヘルプが掛かり、ウインドウが展開した。

 

《ヘルプ:言詞爆弾。独逸が開発し、世界中で炸裂した爆弾。爆発地点から広範囲に渡り、空間さえも遺伝詞を変異させる強力な兵器であり、DTが電詞都市化した原因も、これである》

 

《ヘルプ:神触実験。世界に存在する大神と呼ばれる存在の遺伝詞を地脈炉で抽出し、器となる人間にこれを注入して、万能全能たる『大神』を降臨させる儀式。ただし、神触は『大神祭』と呼ばれる半径二百マイル超が完全昇華、消滅する災害を誘発すると言われ、途中で阻止しても、降誕機構(クエストロン)が爆裂し、大規模破壊や忘却災害(メモリハザード)が起きるとされる。

 神触実験には三つの要素が必要とされる。すなわち。

 ・大神の遺伝詞を受ける降誕機構。

 ・降誕機構を駆動させる出力炉と、大神の遺伝詞を抽出する炉。

 ・大神の遺伝詞を収める器となる借体。つまりは、不老不死の、汚れなき身》

 

 ……なんとまぁ、異世界だと神なんてのもいるんだなー。と、思っていると青江さんが苦笑する。

 

「ちなみにDTで起きた神触実験は合計三回、一度目は1977年、二回目は1982年、そして三回目が2000年――外界時間だと去年。DT時間だと百年前じゃな。最後を止めたのは、わしと優緒じゃ」

「……!」

 

 びっくりして、思わず見上げる。そんな俺を見てか、青江さんは苦笑に微笑を混ぜた。

 

「どうせ分かる事じゃから先に言っておこうと思っての」

「じゃあ、あなた達は英雄って訳ですか?」

「そんな御大層なものと一くくりにするな馬鹿者。わしらは、自分の因縁にケリをつけただけじゃ。お前もそうじゃろう? 『黒の剣士』」

 

 そう言われ、俺は黙るしか無かった。SAO事件でヒースクリフを倒した俺は、確かに英雄と言われた――けど、そう言われる度に否定的な感情があったのは間違いない。

 自分の因縁にケリをつけた。……その通りだ。

 

「ま、深く考えん事じゃ。そんなもん気にしても、いい事はそうなかろ」

「そんなもんですか」

「む。そんなもんじゃ」

 

 頷き、青江さんはそう言ってくれる。俺も頷こうとして――。

 

「と、ようやく終わりましたぁ。……あれ? 男だけで、何の話しですか? いやらしい」

「何がいやらしいじゃ馬鹿もの。男児たるもの、常にいやらしいのはデフォルトじゃ」

「ま、まさかキリト君……?」

「パパ……?」

「間に受けるなよ! て言うか、あんたも尊敬させるか、軽蔑させるか、どっちかにして下さい!」

 

 だぁー! もう、人に腹立たせる才能は、この人天才的だなちくしょう!

 青江さんは再びボードに入ったらしく、知らんぷりである。……こうなったら、俺もボードに入るか、と思った瞬間。

 

 ――凄まじい悲鳴が、鳴り響いた。

 

「え……?」

「なんですか……?」

 

 思わずポカンとユイと一緒にしてしまう。今、それが聞こえたのは南の方だった。まだ、絶えず悲鳴が響く――と、街の中から一斉に警報が鳴り始める! これは……!

 

「……優緒!」

「はい! この警報は間違いありません! ”あれ”が出たんです!」

「あれ……? それって、一体何の事ですか!?」

 

 そう聞くと二人は揃ってこちらに視線を向ける。そして、優緒さんから答えが来た。

 

「妖物――でも、キリト君には、こう言った方がいいですね。”ヒースクリフが作った、SAOのモンスター達”です!」

 

 ――そう言われ、俺は確実に数瞬、頭が真っ白になったのだった。

 

 

(後編に続く)

 




はい、第二話(前編)でした♪
次回はバトルバトルですよー♪(張り切り過ぎ)
ええ、テスタメント大得意のバトルです(笑)
そして、キリト君の召喚紋章発動なるか……! タイトルがネタバレだぜ……!(笑)
そんな後編、お楽しみにです♪
ではではー♪


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第二話「召喚紋章発動」(後編)

はい、テスタメントです♪
いょっしゃ、ようやくバトル書けた♪(笑)
書けたはいいけど、自信無いなぁ……。
そんな第二話後編どうぞー♪


■「オウガ・テライのメール『全DT憲兵師団員へ』」

 

 DT憲兵師団全分団に下令す。

 中央区市街地にて違法贋作外殻(NPC)からの侵略、攻撃が確認された。該当地域周辺の分団は、ただちに出動部隊を出場させるべし。

 

《送り先個々のボードモードに戻ります》

 

●「キリトのボードモード『DT中央区デトロイト地区にて』」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :ここは市街中央区住宅地域の記常頁(トップページ)2629−E大通りです。

 :キリト様、青江様、優緒様は高速で移動中です。

 :優緒様は重量軽減処理を行って青江様の右肩の上に乗っています。

 :左右には民家が並んでいます。

 

キリト「こんな市街地に……!」

 

青江「向こうからしたら関係なかろう」

 

青江「優緒、住民の避難状況と、憲兵師団員の集合状況は?」

 

優緒「この周辺の住民の避難は三割完了。中央区の憲兵師団が避難誘導を行ってます。ただし、こちらに援護に来れる憲兵師団員は一人に限られるそうです」

 

青江「誰が来れる?」

 

優緒「えーと、赤街さんが」

 

青江「奴か。まぁ、防御は任せられるのう」

 

青江「後、どれくらいで来れるか分かるか?」

 

優緒「四、五分程度だと思います」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :違法NPCは数を増やしながら、中央区を北上しつつあります。

 :警告。このままでは、後一分で違法NPCと接触いたします。

 

優緒「キリト君。現場に着いたらサイトに切り替えて下さい。そこで、君にモンスターを確認して貰います」

 

優緒「それが終わったら、撤退して下さい!」

 

キリト「な……!」

 

キリト「出来る訳ないでしょう!? 俺も戦います!」

 

ユイ「パパ! 違います。今のパパは犯罪者設定ですから、攻撃出来ないんです!」

 

優緒「その通りです。一応、私から解除出来ますが、時間も数十秒になります」

 

優緒「なので、君に戦闘はさせられません!」

 

キリト「そんな事言っても……!」

 

優緒「分かって下さい! それに、万一があります。ですから――」

 

青江「おしゃべりはここまでじゃ、坊主! 撤退が嫌なら救助を手伝え。攻撃出来ずとも、それくらいは出来よう」

 

優緒「……先輩!」

 

青江「腹を決めろ、優緒。現場に連れて来た以上、何が起こるか分からん」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :違法NPCの大群が突っ込んで来ます。接触まで、後三秒。

 

優緒「――皆さん、サイトモードに切り替えて下さい! 状況を開始します!」

 

《キリト様のボードモードを終了します》

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

■「キリト様のサイトモード『DT中央区デトロイト地区にて』」

 

 一気に、視界がクリアになる。同時、視界内いっぱいに”懐かしい奴ら”が見えた。あの青いイノシシは――。

 

「キリト君、覚えありますか!」

「はい……!」

 

 ――ああ、間違いない。散々、見た。そして、遥か過去に置いてきぼりにしたモンスターだ。あれは……!

 

「SAO、アインクラッド第一層、はじまりの街付近に湧いた低級モンスター『フレンジーボア』です」

 

 言いながら、ようやく確信した。ああ、こいつらを作ったのは、間違いない。

 茅場晶彦――ヒースクリフ!

 

「これで確定ですね。……先輩!」

「この程度なら、大召喚するまでも無い……!」

 

 優緒さんに、そう応えると、青江さんは疾駆開始。

 二十数体はいようかと言う青イノシシの内、一体へと凄まじい速度で走り抜け、そのままの勢いが乗った拳を叩きつける!

 それは迷う事無く青イノシシの胴体に着弾! 一撃の元に粉砕し、ポリゴンの固まりに変じさせながら、その中を突っ切るように駆け抜け。

 

「おぉ……!」

 

 ――威の鳴る音を聞くといい……!

 

 詞が響き、青江さんの両腕から硝子が砕ける音が連続。直後、凄まじいラッシュが開始された。一撃、一撃が馬鹿みたいな威力で打撃が放たれているのが、ここからでも分かる。

 DT内最強の攻撃力の担い手って、ああ言う事か……!

 

「いえ、違いますパパ。あの人は、大召喚をしてません」

「大召喚……?」

「本体の遺伝詞を百パーセント召喚する事です。つまり、あの人は本来の五十パーセントの攻撃力しか使ってません」

「五十……!」

 

 さすがに絶句する。『フレンジーボア』は一階層の雑魚中の雑魚モンスターではあるが、まさかヒースクリフがそのまま使う訳が無い。ある程度の強化――レベルの底上げがされてる筈だ。多分、四十から五十くらいのレベル相当の強化がされてる筈。

 それを苦も無く屠るとは、どんだけ攻撃力カンストしてると言うのか。

 

「優緒、ここはいい。坊主の所へ行け」

「――はい!」

 

 打撃を放ちながら言う青江さんに優緒さんが頷くなり、腰に手を当てる。そこにある端末らしきものを叩くと――。

 

《優緒:座標固定設定解除:詞速(ラン)》

 

 そんな表示が出て、優緒さんはひらりと青江さんの肩から下りた。そして、こちらへと走って来る。

 

「キリト君、大丈夫ですか?」

「あ、はい。俺は何もしてませんから――」

 

 そこまで言った。直後、俺は優緒さんの真後ろで、とんでもない光景を見た。

 光と共に『フレンジーボア』が出現する光景、これは再湧出(リポップ)!

 青イノシシは、現れるなり優緒さんへと突撃して来る!

 

「この……!」

「きゃっ!?」

「パパ!?」

 

 優緒さんを突き飛ばし、俺はSAOの体術スキルを発動するように右拳を固める。

 体術スキル『閃打』。しかし、犯罪者設定されているので、このままでは殴れない――ならば!

 

 ――失わせない! その為の力を使わせろ!

 

 字呼召喚。同時、手の甲から硝子が割れる音が響き、拳にライトエフェクトが発生した。やはり、ソードスキルがこのアバターは使える。これならいけるか……!

 拳を青イノシシの鼻面に叩き込んだ、瞬間。俺はまた絶句させられた。

 

「な……!?」

 

 だ、打撃の感触が無い……!

 当たっている筈なのに、感触が無い。反動が無い。つまり、それは向こうにも衝撃が届いていないと言う事だ。攻撃出来ないって、こう言う事か……!

 そう思った直後、全身に衝撃がぶち撒けられた。

 

「っ……が……っ!」

 

 ――痛い。凄まじく痛い。青イノシシに轢かれたのだ。

 そのまま吹き飛び、地面に転がる。その衝撃が、またえらく痛かった。

 

「パパ……! パパ!」

「う、く……!」

 

 何とか、地面に手をついて起き上がる。すると、血の味が口内に広がった。

 ――ああ、そうか。今更ながらに理解した。テライさんが言った意味。「この世界にHPは無いんだ」その意味を理解する。

 SAOは、遊びではなくともゲームだった。だが、DTは違う。ゲームですら無い。ただの、リアルだ。

 どんなに格下だろうと、格上だろうと関係無い。ここでは、一撃致命を受ければ死ぬんだ……。

 倒れている俺に影が射す。言わずもがな、『フレンジーボア』だ。止めを刺さんと、こちらを見据え。

 

「させん……!」

 

 横合いからぶち込まれた拳が、一撃の元に青イノシシをポリゴンに変えた。青江さん……!

 

「坊主――キリト! 早く起き上がらんか! 怪我は大した事なかろうが!」

「ぐ……!」

 

 無茶言いやがる。けど、冷静に身体を見下ろすと、大した怪我はなさそうだった。さっきのは衝撃のショックで動けなくなっただけだったんだろう。

 ぐっと痛みを堪え、立ち上がる。やっぱり激烈に痛いが、耐えられなくは無い……!

 

「起き……ましたよ……!」

「ハッ。上等じゃ――優緒!」

「ハイっ!」

 

 呼ばれ、優緒さんが頷くと肩を貸してくれた。

 

「こっちです、キリト君。……先輩!」

「判断は任せる」

 

 短くそう言うと、青江さんは再び再湧出し続ける青イノシシへと飛び掛かった。

 俺は優緒さんに近くの道路脇へと連れて行かれる。

 

「大丈夫ですか……?」

「……はい」

「パパ……無茶しすぎです!」

 

 ユイからの怒りの声にも渇いた笑いしか出ない。

 街路樹に背を預けるようにして持たれかかると、優緒さんが軽く身体を触った。

 

「ユイちゃんの言う通りですよ、もう。……けど、ありがとうございます。私を庇ってくれたんですよね?」

「いや……」

 

 否定する、が。頭上に浮かぶウインドウは、はっきりと肯定していた。優緒さんは、それに微笑を一つ。

 

「意地っ張りなんですから」

「はは……」

 

 無理矢理な笑いをどうにか絞り出す。そして、青江さんの方へと目を向けた。

 『フレンジーボア』は凄まじい勢いで再湧出している。SAO時代にこれくらい出てくれたら、随分楽だったろうに――そう思わせる程だ。そして、一人で戦う青江さん。

 その姿を見て、ぐっと息を飲む――そうしないと、泣いてしまいそうだった。

 死を感じて、怖くて、そして、悔しくて。

 そんな俺を見て、優緒さんは一つ頷いた。

 

「キリト君、まだ戦いたいですか……?」

「…………」

「もし戦いたくないなら、ここにいて下さい。後は、私と先輩で殲滅します。もうすぐ援軍が来る時間ですし、問題ありません」

 

 けど、と彼女は続ける。そして――。

 

「キリト君が戦いたいと、そう願うなら。戦う力を渡します。どちらがいいか決めて下さい」

 

 優緒さんはそう言うと、後は俺を見つめた。

 死――その恐怖は確かにある。さっき味わったばかりだ。だけど、そう、だけど……!

 

「ここで逃げたら、俺は俺じゃなくなる……」

「…………」

 

 優緒さんは、黙って聞いている。俺は、そんな彼女の肩を掴んだ。そう、”だから”!

 

「俺に戦う力を」

 

 そう言うと、優緒さんは黙って頷いた。そして、青江さんの元に一緒に走る。

 

「いいですかぁ、キリト君。今から、君の攻撃管理を直接こちらで解除します! 急ぎのプログラムなので制限時間三十秒。召喚紋章を大召喚して下さい」

「大召喚……?」

「はい。キリト君の百パーセント、潜在能力も含めて遺伝詞召喚し、アバターに宿らせるんです。やり方は、字呼召喚より強い意思で願うだけです。他諸々の処理は私が行います」

 

 そう告げると、優緒さんは自分の前に透過鍵盤(スケルトン・キーボード)を展開。高速でプログラムを組んでいく。

 

「いきますよ――――!」

 

《キリト:ASB詞族特徴展開:限定解除:高速動作への耐性入ります》

 

 配られる列は複数の皆、変じる数は皆の集合。

 出る力の先は、対象の清し腕、清し足。

 其は制限なく、この街の赦し有り、我が赦し有り。

 これら全ての赦しをもって、我は己動の疾駆を合図するなり――。

 

 優緒さんが歌いながら、手や足を動かし、球型鍵盤の表面に触れていく。踊るように、舞うようにして、声と動作の流れに応じて、文字列が宙に生まれて流れ出した。

 指運と唱和によるプログラム作成。通常の倍の速度でプログラムが発され、天球起動で文字が広がっていくのが分かる。

 

「綺麗です……」

 

 ユイが呆然と呟く。俺も一瞬見とれていた。そして、優緒さんは光で描かれた天球図の中で、告げる。

 

「キリト君、攻撃管理を解除します! 即座に大召喚お願いします!」

 

《セイフティアンロック:対象の全攻撃を許可:行動可能とします:三十秒》

 

「――パパ!」

 

 ユイの呼びかけに頷きだけで応える。そして。

 

 ――我は、戦う。その為に今一度、剣をこの手に――!

 

《電詞空間内、200メートルの遺伝詞達に展開許可を与えます》

《召喚紋章:展開開始:詞速(ラン)》

 

 一瞬で、数百枚のウインドウが周囲に展開した。それは、偽物の世界に本物を召喚するプログラムと承認確認の羅列――!

 そのことごとくを否定する理由は無い。大召喚が実行成立する……!

 

 まず、両手の甲から肘の後ろまで字が走った。

 

■TYPE―AA0777:神級(ゴッド):BlackSword(ブラックソード)■

《キリト様の反射神経関係を中心に大召喚発動:全遺伝詞召喚、反応速度の上限を解除します》

 

 肘に当たる■の部分に、円いプログラムが三枚重なって高速回転開始。紋章の中心に、黒の長剣が二つ重なった紋章がくっきり映る――!

 

「これが、大召喚……!」

 

 次の瞬間、全身に衝撃が来た。そしてアバターと生身の身体の齟齬が完全に消失。どこまでも、どこまでも、意識がクリアになっていく。全ての速度が遅く感じられ、代わりに俺の知覚速度が無限に加速されていく……!

 

「キリト君! 憲兵師団から剣を二本預かってます! ユイちゃん、己動詞角錐体(プログラムトライゴン)を送りましたから、インストールして下さい!」

「優緒さん、来ました! パパ、長剣二本展開します!」

 

《兵装展開:憲兵師団正式長剣:ラン》

 

 表示が出ると同時に、二本の長剣が足元に突き刺さる。それを難無く引き抜いた――軽い。そう思うが、今はどうでもいい。

 久しぶりに二刀流の構えを取り、モーションを起こす。ライトエフェクトが、二本の長剣を走り、同時に俺も駆け出す!

 ――先程までの自分の速度が嘘のような速度だった。青江さんの脇を一瞬で潜り抜けざまに、青イノシシを一刀両断! ポリゴンに変わるのを待つまでも無く、次の標的に移り――かつて、ソードスキルを使ったように身体が動き出す。それは、全く未知の技だった。こんな技があるなんて、俺は知らない。だが、身体は動いてのけた。

 

 二刀流、全周全包囲極限技:EX・ジ・インフィニティ。

 

 

 

    −斬!−

 

 

 

 ――全ては、一瞬で決着した。その場に居た、数百の『フレンジーボア』全てを斬り捨てて、謎のソードスキルが停止する。

 そして、一気に全ての『フレンジーボア』がポリゴンに変わり、消滅した。

 

「なん……だったんだ、今の……?」

「分かりません……! あんな技、無かった筈です!」

 

 それはそうだろう。あんな技があったらバランス崩壊どころの騒ぎじゃない。

 青江さんや、優緒さんまで目を丸くしてるのが分かる。一体、今のは――?

 

《警告:キリト様の熱量備蓄が僅少となりました。早急に熱量を補給しない限り、SD化は免れません》

 

 ……え、ちょ、待――――っ!

 

《キリト様をSD化します》

 

「パパ! 大丈夫です♪ 私がお世話します♪」

 

 直後、待ったとも言えず、俺は二等身になったのだった――。

 

 

(第三話に続く)

 




はい、第二話後編でした♪
キリトの謎ソードスキルですが、これについては後々をお楽しみに、て事で♪
ちなみに大召喚したキリトは、潜在能力までアバターに宿るので、数値化がそもそも出来ない戦闘能力になります(笑)
反射速度においては、DT限界速度をぶっちぎってしまいまする。まぁ、これは青江も優緒も同じなんですが。
そんな訳で、第三話もお楽しみに――♪


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第三話「リアルへの帰還」(前編)

ども、テスタメントです♪
第三話(前編)をお送りいたします♪
今話は、キリト君の”あれ”が判明します。ええ、あれが(笑)
そんな第三話。どぞー♪


 

 ――これは、夢だ。俺はそう思う。そう信じる。

 

「はい、パパ♪ あーん♪」

「ほらキリト君、こぼしちゃダメですよぉ♪」

 

 ああ、そうさこれは夢さ夢だとも! ちくしょう……!

 

「まぁ、気をしっかりもって生きるんじゃな、キリの坊。……ひょいっと」

「あ、先輩! 取り上げちゃ可哀相ですよぉ!」

「ほらパパ泣かないで、よしよしです♪」

 

 遊んでるだろ皆ちょっと――! てか、青江さんあんたは本当に極道だ!

 

《キリト様の熱量備蓄規定量に達しました。SD化から復帰、ボードモードに移行します》

 

●「キリトのボードモード」『デトロイト王城にて』」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :ここらはDT北区、デトロイト王城内です。

 :キリト様の前に、優緒様とユイ様がいらっしゃいます。その後ろに、青江様がいます。

 :三人はそれはもう生暖かな視線と表情です。

 

キリト「俺を……! 俺を弄びましたね……!」

 

青江「台詞だけ聞くと、なんか、わしらが悪い事したみたいな言われようじゃの」

 

優緒「先輩は悪い事してたじゃないですかぁ。お皿取り上げたりして」

 

ユイ「本当です。パパ可哀相でした! ……でも、可愛いかったです♪」

 

キリト「皆嫌いだ……!」

 

優緒「まぁまぁ、落ちついて下さいキリト君。あの後、ここまで連れて来るの大変だったんですから――可愛いくて」

 

ユイ「ええ、本当に大変でした――もっとナデナデしたかったです」

 

キリト「だ――! もう、いいですって! それより状況はどうなってんですか、青江さん!」

 

青江「なんで、わしに聞くんじゃ……」

 

青江「まぁいい。市民に被害はゼロ。ただ、市街区はいつくかの家屋が破壊されておったな。そちらは、補償されるんじゃろ?」

 

優緒「ええ。市民に死傷者が出なかったのは幸いでした。なんとか事後処理も終えてます。キリト君の治療も完了してます」

 

キリト「あ、本当だ。痛くない」

 

優緒「わりと死ななかったら、どうにかなりますからね。この世界は」

 

キリト「そうですか……」

 

キリト「あの、いろいろ聞きたい事あるんですが、いいですか?」

 

優緒「はい、構いませんよ。なんでしょう?」

 

キリト「俺、字呼召喚や大召喚で、ソードスキル――ゲームのシステムアシストを利用した技なんですけど、それが使えたんですが、なんででしょう?」

 

優緒「あ、それは私がやっときました」

 

キリト「優緒さんが?」

 

優緒「はい。キリト君のPC――アバターを作る際に、向こうのゲームのアバターをコンバートして貰ったじゃないですか」

 

優緒「コンバートしたアバターを改造して、キリト君のアバターを作ったんですが、その時にアバターの中にソードスキルやバトルスキル、マジックスキル等などのプログラムがあったのを発見しまして」

 

優緒「削除されてたのも含めてサルベージして、キリト君のアバターにインストールしておいたんですよ」

 

キリト「削除されたのもって――あ、二刀流……!」

 

ユイ「はい。今のパパのアバターは、SAO、ALO、GGOで培って来た、全てのスキルをプログラムとして持ってます」

 

キリト「そりゃもうチートだなぁ」

 

優緒「向こうに帰る際に、いくつかのプログラムを凍結しておきますんで安心して下さい」

 

キリト「そ、それはどうも、ありがとうございます」<ちょっと勿体ないなぁ>

 

ユイ「……パパ、また思考ウインドウ出てますよ」

 

キリト「う……!」

 

優緒「各スキルを使う際には、字呼召喚か大召喚の使用が前提になってますんで、注意して下さいね」

 

キリト「分かりました」

 

キリト「……それで、これは本命の質問なんですけど。俺、最後に変なソードスキルを使ったんですが。何をやったかちょっと覚えてなくて」

 

キリト「よかったら教えて貰えると……」

 

優緒「あー、私からはちょっと難しいですねぇ」

 

優緒「なんで、ここは専門家にお願いしましょう♪ せんせーいお願いします♪」

 

青江「誰が先生じゃ誰が」

 

青江「やれやれ。さて、何をやったか――か、多分、ソードスキルとか言う奴じゃとは思うがな」

 

青江「キリの坊。お前は、あの時。”DTの描写フレームを遥かに超えた速度”で数百もの斬撃を放ち、イノシシ共をまとめて屠った」

 

キリト「描写フレームを超えた速度……?」

 

優緒「大召喚時は、DTのシステム限界を超えた力も行使可能です」

 

優緒「先輩と私が合一召喚紋章を大召喚した攻撃力は、DT限界を超えた威力を使えますし」

 

キリト「成る程……。ん? 合一召喚紋章ってなんですか?」

 

優緒「あー……そのですね、何と言いますか」

 

優緒「DTでは、設定共有化する事で二人一つのオリジナル召喚紋章を設定する事ができるんです」

 

優緒「で、先輩と私はそれを設定してると」

 

キリト「えー、それは、つまり?」

 

優緒「……はい」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :優緒様はうつむいています。顔は真っ赤です。

 :青江様はそっぽを向いてます。

 

ユイ「もう、パパったらデリカシーがありません!」

 

キリト「わ、悪かったよ」

 

キリト「でも、そんな事も出来るんですね」

 

ユイ「あ、パパ。ママの事を思い出してます♪」

 

キリト「う、別にいいじゃないか……!」

 

青江「そこまでにしとけ。キリの坊、そろそろサイトに切り替えろ。アカラベスのおばはんの所に行って、赦免してもらいに行くぞ」

 

キリト「あ、最後に一つだけ。……キリの坊って?」

 

青江「何じゃ嫌か?」

 

キリト「……いえ――」

<ちょっと、嬉しいです>

 

青江「キリの坊、見えとるぞ」

 

《キリト様のボードモードを終了します》

 

■「キリト様のサイトモード『DT中央区、デトロイト王城内にて』」

 

 再び視界がクリアになると、俺は苦笑を一つした。

 どうも医務室のベッドに寝かされていたらしく、そこから立ち上がる。

 

「それじゃ、お義母さんの所に行きましょうか」

 

 そして、青江さんと優緒さんに連れ立って歩き始めた……て、お義母さん?

 

「ああ、テライさんから聞いてませんか? 私、DT女王のアカラベス・チューブズリーブの義娘なんですよ」

「そう言えば、優緒さんの事、お姫様とかメールであったような」

 

 なんか、優緒さんのイメージがお姫様って感じじゃないからつい、忘れてた。

 優緒さんは、俺の頭上に浮いたウインドウを見て微笑する。

 

「自分でも分かってるんですけどねぇ。庶民派でしょ?」

「えーと……」

「お前の場合は初対面からあれじゃったからからじゃろ」

「あ、ひどー」

 

 ……うん、その通りです。

 とはさすがに言えないけど――て、ウインドウに出るから意味が無い……!

 

「その厄介な犯罪者設定も終わりじゃな。ちと、惜しい気もするが」

「……俺はちっとも惜しくありません」

 

 なんせ、この設定のせいで恥はかくは、死にそうになるわと散々だったのだ。

 これ以上は何も無いと信じたい。

 

「ふ。甘いのぅ、キリの坊、お前は犯罪者設定を甘く見とる」

「な、なんですって……! まだ、この期に及んで何かあるんですか!?」

 

 

 バカな! これ以上、何があると……!

 

「あー、先輩?」

「黙っておれ、優緒。……同じ男として、わしはこの事実をキリの坊に告げねばならん。そう、これは義務じゃ!」

 

 そこまで言う程とは、一体何が……。すると、青江さんはくるりと振り向き、こちらの肩をがしりと掴む。手に、力が入っていた。ごくり……。

 

「キリの坊、今のお前はな――」

 

 そこで一息つき、そして。

 

 ――お前は今、”去勢”されとるんじゃ……!

 

 ――な、なんだって――――!

 

 ぴっしゃーん! と、雷が落ちたように衝撃が身体に走ったのを自覚する!

 そ、そんな馬鹿な……!

 思わず、そろりと手を当てる――な、無い! なんにも無い!

 

 ――そ、そんな……!

 

「あのー、二人とも詞使ってまで何やってんですか」

「パパ、大袈裟です」

 

 な、何を言うかなこの二人は! 男にとって、これはショック以外の何ものでもないぞ! しかし、これが分かるって事は、青江さん。あんた、まさか――。

 

「そう、わしもかつて犯罪者設定じゃった。わしの去勢が発覚したのは、優緒と事に及ぼうとした時でな」

「て、わ――! 何ぶっちゃけてんですか先輩!」

 

 今度は優緒さんが騒ぎ出すが、俺はそちらには構わない。今や、青江さんに同情と共感を覚えるばかりだ。

 

「あ、青江さん……!」

「安心せぃ。赦免して、管理設定から去勢は戻せるわい」

 

 それを聞いて、俺はどっと安心する。よかった……! 本当によかった!

 

「もー……二人とも、恥ずかしいからやめて下さい。もう到着ですよ」

 

 顔を真っ赤にしながら、優緒さんは扉を開ける。

 俺も続いて、女王の間に入ったのだった。

 

《キリト様のサイトモードを継続します》

 

 

(後編に続く)

 




はい、第三話前編でした♪
ちなみに、青江が発覚した時は、マジで事に及ぼうとした時です(笑)
しかし、さすがエロい先輩。去勢されていても、高スペック過ぎるぜ……!(笑)
では、第三話後編でお会いしましょう♪
ではではー♪


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第三話「リアルへの帰還」(後編)

はい、第三話後編でございます。これで、第一部と言うかプロローグ部分が終わりとなりますな(笑)
そんな第三話後編。どぞー♪


■「キリトのサイトモード」『DT王城内にて』」

 

「あらあら、賑やかね。優緒、正造。その方が?」

 

 DT王城の、一番荘厳な部屋。その奥まった場所に、一人の女性がいる。

 赤紫のドレスに白髪交じりの髪の女性だ。そうか、彼女が――。

 

「ええ、私がDTの代表、十三亜神のアカラベス・チューブズリーブです。キリト、異世界からの来訪者よ。歓迎しましょう」

 

 そう言って、椅子から立ち上がり出迎えてくれるアカラベス女王。そんな彼女に、優緒さんが近寄りながら頬を膨らませる。

 

「もー聞いて下さいよ、アカラベスさ――じゃなかった義母さん。まーた、先輩がセクハラするんですよ全く。キリト君もちょっと染まってきて、もー」

 

 

 な、何を言うかな優緒さんは! 断じて誓って言うが、染まってなんかないぞ! って、ああ、ユイまで頷いて……!

 

「だって、パパ。明らかにDTくる前と後じゃ変わってます。ちょっと変態ちっくになってます」

「な、なってない!」

「おやおや。なら、赦免はしないほうがいいかしら?」

「ちょっとぉ!?」

 

 ここまで来て赦免されないのは、さすがに困る。冗談だとは分かってはいるが、この設定に散々泣かされた身としては焦ろうと言うものだ。

 そんな俺の肩にポンと乗せられる大きめの手、青江さんだ。彼は、む。と一つ頷き――あ、嫌な予感。

 

 ――男とは、常に変態(ろまんちっく)なのだと言わんか、キリの坊……!

 

 ――ぜってぇ、嫌です……!

 

「……二人とも、字呼召喚で遊ばないで下さいって。燃費使うんですから」

 

 盛大に字呼召喚して硝子の破砕音と共に叫び合う俺らに、優緒さんが深々とため息を吐く。いや、だって、こう、ノリって大切じゃないか。

 

「はいはい、分かりました。キリト君も立派な変態さんって事で」

「ひどい冤罪だ……!」

「む。それは、わしも変態と言われとるように聞こえるんじゃが?」

『『うん/はい/ええ/』』

「……即答しおったな貴様ら」

 

 いや、だって何を今更。青江さんが変態でエロいのは、もう分かりきってる事だし。

 

「キリの坊。貴様、ふっ切れおったな……?」

「事実ですんで」

「じゃあキリト君が変態さんなのも事実って事で」

「それについては断固否定します!」

「もう、パパ。ちょっと騒ぎすぎです。迷惑になりますよ」

 

 ユイに嗜められて、思わず閉口してしまう俺。そして、俺達を見て、アカラベス女王がコロコロ笑っていた。

 

「ふふっ。申し訳ありませんね。異世界からの来訪者と聞いてましたが、私達とあまりメンタリティは変わってないようで」

「パパの場合、ちょっと影響受けすぎですけど」

 

 そんなに染まってるかなぁと思いつつ、DTに来てからの行状を思い浮かべようとして、即座に取りやめた。

 人間って認めたくない事あるよなぁ……。

 

「さて、雑談はここまでにしましょう。キリト。貴方をDT女王権限で、赦免いたします。その後で優緒から設定された犯罪者管理プログラムを切って貰いなさい」

「え……? 優緒さんが、俺の犯罪者設定を組んだんですか?」

 

 じゃ、じゃあ去勢も――? そう思って見る先、優緒さんは気まずそうに笑っていた。

 

「犯罪者設定にする際の最条件なんですよー。私は悪くありませんよぉ」

 

 む、そう言われると何も言えない。けど、納得も出来ないなぁ。

 そして、アカラベス女王が設定ウインドウを展開すると《キリト様を赦免いたしますか? Y/N》の表示が出た。……ここで、隣にいる変態さんやら、前にいる小悪魔さんだったらNを押しかねないけど、そこはさすが女王。Yを押してくれた。よかった……!

 

「キリト君? 犯罪者管理プログラム切って上げませんよ?」

「……す、すみません」

「わしには謝らんのか?」

「青江さんのはただの事実ですから」

 

 睨み合う俺達男二人にため息を吐いて、優緒さんも設定ウインドウを展開。次々と犯罪者設定が解除され――。

 

「あ、思考ウインドウも出なくなった……!」

 

 頭上に浮かびまくっていたウインドウが出なくなった。よかった、本当によかった……! それに――ある。

 

「キリの坊。どうじゃ?」

「ええ……! ちゃんと戻った感覚があります!」

 

 ある意味、思考ウインドウより遥かに嬉しい。もう少しで、男としての自分に疑いもつ所だったし。

 

「やっぱりパパ、ちょっと影響受けてます」

 

 ここでなにおぅと言い返さなかった自分を褒めたい。ともあれ、これでようやく俺は犯罪者の立場から脱したのだった。

 

《キリト様のサイトモードを終了します》

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

●「キリト様のボードモード『DT憲兵師団にて』」

 

 :DT憲兵師団入市ロビー前です。

 :キリト様の前に、テライ様、フーブリッキー《設定変更、以下フービー》様、青江様、優緒様がいらっしゃいます。

 

キリト「それじゃ、俺は向こうに戻って、菊岡さんに事情を説明しておきます」

 

テライ「ああ。済まないな、小間使いのような扱いで」

 

テライ「ネットワーク上のゲーム世界とは言え、我々がそちらに出現したのは事実だからな。ヒースクリフの対応も含めて、話してくれると助かる」

 

フービー「犯罪者設定は次から該当されないから、安心してこっち来なさい。ああ、そうそう優緒。彼のプログラム、凍結封印して上げた?」

 

優緒「はい、やっておきましたよぉ。二刀流を始めとした、いくつかのスキルを凍結封印しておきました。向こうでは、前と全く同じのアバターになります」

 

優緒「ただ、ユイちゃんはこちらと同じマウス設定で、そちらに送りますね」

 

キリト「え? そうなのか、ユイ?」

 

ユイ「はい。マウスのままの方が便利ですから」

 

ユイ「マウスとしての機能は向こうでも使えますが、滅多な事じゃ使わないで下さいね、パパ」

 

キリト「分かったよ。GMにバレない事を祈ろう」

 

優緒「あ、そうだユイちゃん。これ」

 

《優緒様からメールが届きました。プログラムトライゴンが送付されてます》

 

ユイ「これ……。パパの、字呼召喚と大召喚のシュミレートプログラムですか?」

 

優緒「はい。練習用に使って下さい。さすがに完全再現は出来ませんが」

 

キリト「いえ、助かります」

 

テライ「君がこちらに来て10時間程――現実世界では、360秒。6分程だ。向こうに戻ったら十分に身体を休めてくれ。また君がここに来るのは、向こうで半日以上先となるかな?」

 

キリト「はい。向こうの半日――12時間だと、こっちでは1200時間、50日も経つんですね……」

 

テライ「外界との時間の差異は仕方ないさ。こちらではその間にヒースクリフの情報について集めておこう。ついでに、菊岡氏がこちらにこれるようにも取り計らっておく」

 

キリト「ありがとうございます。……やっぱり、来ると来ないじゃ分からない部分がありますし」

 

キリト「その時は、やっぱり犯罪者設定で?」

 

テライ「いや、今回は急ぎじゃないので何とか大使設定プログラムを組むさ。手間が掛かるが仕方ない。君の場合と違って、予定が決まってる分。なんとかなる。……さすがに、思考ダダ漏れはまずいだろうからな」

 

キリト「ですよねー」

 

フービー「あなた。今、心の中で舌打ちしてるでしょ」

 

キリト「……そんな事はないですとも」

 

ユイ「ボードモードでも、パパは分かりやすすぎです」

 

キリト「む……」

 

優緒「まぁまぁ、それじゃ――ほら、先輩からも何か」

 

青江「とくに何もないわい。……それに、すぐ来るんじゃろ? キリの坊」

 

キリト「はい」

 

青江「なら、今度は稽古ぐらいはつけてやる」

 

キリト「よろしくお願いします」

 

青江「そして、男児のあるべき姿を見せてやろう……!」

 

キリト「それについては遠慮します!」

 

優緒「……ボードなのに、よく先輩が変態発言したのが分かりますねぇ」

 

ユイ「パパ……」

 

キリト「だー! 最後の最後まで! 稽古の時は、絶対、泣かせますからね青江さん!」

 

青江「受けてたってやるわい。……じゃあな、キリの坊」

 

優緒「また半日後に、よろしくお願いしますね」

 

フービー「気をつけなさいね」

 

テライ「くれぐれも、菊岡氏にはよろしく頼む。ではな、キリト君、ユイ君」

 

キリト「……はい。では、また!」

 

ユイ「また、お会いしましょう♪ では♪」

 

《キリト様とマウスのユイ様が入市ロビーから出られました。コンバート機能起動。キリト様、ユイ様の全状態をリアルに復帰します》

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……はっ!」

 

 次の瞬間、俺は自室のベッドの上から跳ね起きた。

 キョロキョロと部屋を見渡す。――DTに赴く前の、部屋のままだ。……いや、時間だけが僅か6分ほど進んでいる。それを確認して、ため息を吐いた。

 思わず夢だったのかと疑いたくなるが、DTで感じた痛みがそれを否定する。

 

「電詞都市DT……か」

 

 そう呟いて、ナーヴギアを頭から取り外した。

 今までのVRMMOワールドとは似てるようで全く違う世界。戸惑う事も多かったが――焦がれる想いがあるのは、どうにも否定出来なかった。

 まるで、SAOへと最初に踏み込んだような感覚。ゲームですら無い、異世界に焦がれる自分がいる。

 ――茅場、あいつも同じ想いだったのか。それは、直接聞いてみるしか無い。

 ともあれ、まだ日付も変わらない内に菊岡に事情説明しておこうと、スマホを手に取り。

 

「おにーちゃーん」

 

 扉の向こうから聞こえて来た声に思わず飛び上がった。こ、この声は疑いようも無い。義妹の直葉!

 まさか、こんな短時間に無断でコンバートした事などわかろうはずも無いと、息を飲む。

 

「ど、どうしたんだスグ? ノックせずに呼ぶなんて」

「あのね、お兄ちゃん。さっき、ちょっとした用件があって。私、ALOにログインしてたんだー」

「…………」

 

 ――冷や汗が背を伝う。ま、まさか。いや、確か前も……!

 

「そしたら、何故かフレンドリストからキリト君が消えてたんだよねー。で、エギルさんに聞いてみたら――」

「ごめんなさい」

 

 無断コンバートがバレてるのを察し、即座に謝る俺。だが、二度目となるこれにスグは容赦しなかった。

 

「向こうで皆、説明待ってるから。すぐ来るように」

「え、でも今からって――」

「メールしたら、皆すぐに集合したよ」

 

 直後、鳴り響く俺のスマホ。メールだった。送り主は、恋人のアスナ。……メールを見るのは、果てなく勇気がいったが、震える手で開き――。ひぃぃと、悲鳴を上げかける。

 そこには、たった一文だけがあった。

 

『三分以内』

 

 何を、どう三分以内なのか分かってしまうあたり、ツーカーだな俺――とか言ってる場合じゃない!

 慌ててナーヴギアをかぶろうとして、間違えたとアミュスフィアを手に取るのだった。

 

 

(第四話に続く)

 




はい、第三話後編でした♪
この後のキリト君の行方については合掌と言う事で(笑)
いや、次話で書きますが(笑)
次回はキリトのDTでの設定を前文に載せるかな?
ではでは、次話もお楽しみにー♪


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第四話「異世界交流」(前編)

はい、テスタメントです♪
早速の第四話をお届けします♪
その前に、キリト君の都市シリーズ的紹介いってみましょう♪

 Name:キリト。
 Style:近接斬剣士。
 Extension:ASB詞族(高速動作耐性)。
 Story:異世界からの来訪者、言わずと知れたSAOの主人公。SAOで二年間戦い続けた結果、桁外れの反射速度と洞察力を身につけるに至る。それは、VRMMO最高とも言われる程。
 DTに来るにあたって、コンバートして持って来たアバターを優緒が気合い入れて改造。結果、ソードスキルを始めとした各スキルをプログラムとして保有し、しかもアバターのステータスは、ゲーム上のものと同一と言う凄まじいカスタム具合となっている。また、召喚紋章を大召喚した際には、知覚が時間の速度を超越しかね無いレベルの反射速度となる。
 ヒースクリフこと茅場晶彦が何をするか見極める為、また止める為にDTでの戦いに臨む。

 召喚紋章:『黒剣士(ブラックソード)』
 キリトの反射関係を中心に発動、遺伝詞召喚し、反射速度の上限を解除する。
 大召喚時には、反射速度と共に知覚速度が段階的に加速していっていた。

 こんな所でしょうか♪
 では、第四話前編、どぞー♪


 ALOにある新生アインクラッド第22層のマイホーム。

 ログハウスのそこは、アスナとユイと、俺の家であり、仲間達との憩いの場でもある。

 

 ――そこで、俺は容赦なく正座させられていた。い、いや、別に足は痺れないんだけど、そんなものとは比較にならないものが俺を先程から貫いていた。

 アスナ、リズ、シリカ、リーファ、シノンの女性陣からのそれはそれは冷たく鋭い眼光である。DTなら、これだけで当たり判定がでるんでわと疑いたくなるような威圧を伴いまくっていた。

 

「……つまり、また、私達の誰にも相談せずに、勝手に、死ぬかもしれない所に行ってたんだね?」

「…………はい」

 

 アスナさんの素敵な笑顔が、今はひたすら怖い。

 いや、最初こそは言い訳――と言うか、言い分を主張してたんだけど、そのたんびに細剣やらハンマーやら短剣やら直剣やら矢やら魔法やらが降り注ぎ、俺は抵抗を諦めた。てか、怖いよ皆……!

 

「あの、ママ。私も着いていきましたし、これ以上は――」

「ユイちゃんはいいのよ。キリト君が一人で行くのを何とかしようとしてくれたんだから」

 

 そうやってユイを撫でるアスナ。なんか、俺と扱いが違いすぎませんか……?

 

「キリト君? こっちだと思考出ないかもだけど、顔には出てるからね?」

「そ、そうなの?」

「お兄ちゃん分かりやすいもん」

 

 そう言うリーファに、うんうんと頷く一同。そ、そうなのか……ちょっとショック。

 

「こないだ幻の街の話しした時に、思ったんだよね。キリトはこれに首突っ込みそうって」

「シノンさんの予想通りでしたね」

「巻き込まれ体質は健在よねー」

 

 シノン、シリカ、リズがにこやかに笑いあう――が、こちらに向ける視線は大変冷たい。

 ああ、仲間は誰もいないのか……。

 

「キリの字よ、モテる男は辛いねー」

「……うるさいよ」

 

 こっちを見ながらニヤニヤ笑うクラインとエギル――この二人は、断じて味方では無い。そう言い切れる。

 そして、その後1時間に渡って説教された後、ようやく俺は解放されたのだった。うぅ、身体的には疲れが無いはずなのに、やけに疲れた……。

 

「それで、お前はまたDTって所に行くんだな?」

「……ああ」

 

 エギルに言われ、俺は頷く。アスナを始めとした女子達は、一様に表情を曇らせたが、これだけは譲る気は無い。

 

「なんで、お兄ちゃん、そこまでして……!」

「あそこにはヒースクリフ、茅場晶彦がいる。そして、何かをやろうとしてるんだ。放っておけないよ」

 

 つい先程も問われたそれに答えながら、リーファ――スグの頭を撫でてやる。

 奴が向こうで暮らす程度なら、どうでもいいと俺も思っただろう。だが、あいつはDTをこっちに持って来たのだ。なら、こちらにも何かしらの影響がある事をするのは間違いない。

 ――それを、俺は止める。いや、止めたい。何より、大切な皆と、俺自身の為に。

 

「キリト君……」

 

 そっとアスナが手を握ってくれる。本当は、アスナも一緒に来たいのだろう。いや、皆そうだと表情が語ってる。だけど、誰一人として俺はそれを許すつもりは無かった。

 DTは偽物の、電子の世界。だが、あそこはゲームでは無いのだから。

 

「お前の話しが本当なら、女の子達ならともかくよ。俺達はどうなんだ?」

「ああ、なんなら店を閉めて――」

「いや、これは俺の我が儘だから。お前達を巻き込めないよ」

 

 DTはフィードバックで、本体にもダメージが来る。その為、俺達男連中ならとクラインもエギルも言ってくれるが、俺はそれにも首を横に振った。

 二人とも、SAO事件があったとは言え、立派な社会人だ。もし、一生ものの後遺症でも負ったら目も当てられないだろう。

 

「言ったろ、これは俺の我が儘なんだ。それに、向こうは向こうでちゃんと手伝ってくれる人達がいるからさ」

「ったく、水臭ぇ野郎だ」

 

 それでも、ふんと嘆息だけで済ませてくれるあたり、クラインは人が出来てる。エギルも、ため息だけ吐いていた。

 

「私も、これ以上は何も言わないけど……。キリト君、必ず帰って来てね。怪我とかしちゃやだよ」

「ああ、約束するさ」

 

 アスナに頷き。皆を見渡す。――皆、大切な仲間だ。だからこそ、頷きだけを返してくれた。

 

 ありがとう。心の中でそれだけを呟いて、俺も頷く。

 

「しっかし、まさか異世界とはなー。お前も、いよいよ行く場所に節操が無くなって来たな。どんな世界だったんだよ」

「……一言で言うのは正直難しいな」

 

 話題を切り替えるように聞いてくるクライン。皆も興味あったんだろう、好奇心に満ちた目を向けて来るが、説明するにはあの世界の概念から語る必要がある。

 そんな困る俺を見てか、ユイが小さな羽を羽ばたかせて皆の前に出た。

 

「私が、パパの行動をログとして取ってます。映像つきで出せますよ」

「そっか、ユイは今は俺のマウスなんだっけ、それじゃちょっと頼め――」

 

 ……そこで思い出したのは、DTでの数々の行状。特に青江さんによるセクハラだ。

 あれは……! あれはまずい!

 

「あ、あのーユイさん? ちょっとご相談が――」

「……分かってます」

 

 仕方ないパパです、とばかりに嘆息しながら頷く愛娘。出来た娘や……! ほんまに出来た娘や!

 

「……? キリト君、なんの話し?」

「なんでもないさっ! ほら、始まるぞー!」

 

 一瞬、疑いの目を向けるアスナを誤魔化す為、あえて声を張り上げつつ展開したウインドウを指差す俺。

 訝し気な目となるアスナさんだが、映像が始まるとそちらへと視線を向ける。ふぅ、助かった。

 

 そんなこんなで、俺はDTでの説明を皆に伝える事が出来たのであった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 『ダイシーカフェ』東京御徒町の細い路地に、昼間は喫茶店の、その店はある。

 AM11時。俺は、そこからアミュスフィアを使い、フルダイブをしていた。目的は優緒さんに送られた、字呼召喚と大召喚のシュミレートによる練習を行う為である。

 さて、なんでそれをこの寂れた(エギル曰く、夕方から夜は結構賑わってるとの事)カフェで行っているかと言うと、理由は二つある。

 一つは、ここで菊岡と待ち合わせしており、直接ここからDTに行くつもりだと言う事。

 そしてもう一つは、ギリギリまで召喚紋章を使った戦闘の練習を行いたかったのである。

 コンバート機能を使い、優緒さん特製のシュミレート室である所の真っ白な空間に入った俺は、擬似的に再現した字呼召喚を使って剣を振るっていた。

 

 ――疾れ、前に!

 

 詞を飛ばし、擬似的に字呼召喚。同時、アバターがぐっと加速し、起こしたモーションからライトエフェクトが発生する。

 

 片手剣スキル:ホリゾンタル・スクエア。

 

 水平四連撃の斬撃が、鮮やかな軌跡を描いて走る――まだだ。モーション終了のベストなタイミングを見計らい、再び字呼召喚!

 

 ――繋がれ、速さの先に!

 

 硝子が砕けたエフェクトと共に、剣がライトエフェクトを継続。ソードスキルが繋がる――!

 

 片手剣スキル:バーチカル・スクエア。

 

 ホリゾンタル・スクエアから、さらに四連の斬撃は走る。モーションの終了タイミングで、更に字呼召喚。

 

 ――まだだ、もっと速く!

 

 片手剣スキル:ヴォーパル・ストライク。

 

 ジェット噴射を思わせる猛烈なエフェクトと共に、突貫する俺――だが、モーション起動した直後に字呼召喚! ”ソードスキルのモーションを途中でキャンセルする――”。

 

 片手剣スキル:サベージ・フルクラム。

 

 ヴォーパル・ストライクのモーション途中で強制発動された重三連撃の斬撃が、凄まじいサウンドエフェクトを撒き散らして走る。そして、そこでようやく俺は停止した。

 長い長い、呼気を吐き出す――。

 

「スキル・コネクトならぬ、スキル・キャンセラーってとこかな。立派なチーターだな、もう」

 

 苦笑してそう思う。もちろん、DTではチート云々は関係ないが、一介のネトゲユーザーとしては、ちょっと複雑なものがあった。

 それに、字呼召喚を連続で行う必要もある。つまりそれは、熱量消費――燃費が激しいと言う事も意味していた。

 いざと言う時の切り札だな、と思いつつ、次は大召喚を試してみようとして。

 

「なんだよ、何もねぇな。こんな所で練習かよ、キリト」

 

 そう言って入って来たのは見慣れた野武士面、クラインだった。こんな真昼間にどうした不良社員。

 

「いや。お前が昼から向こうに行くって言うじゃねぇか。見送りに来たら、なんか面白そうな事やってたからよ」

「別に必要ないって言ったろ」

 

 そう、今日の昼から菊岡を伴ってDTに入市するつもりだったのだが、それを昨日と言うか、今日に皆に伝えると、全員が見送りに来ると言い出したのだ。

 だが、いくら何でも大人数過ぎたので、見送りは断ったのである。それに、向こうは百倍速の世界だ。「行っちゃったねキリト君」「そうだね……」「ただいまー」「!?」――なんて言う大変気まずい事も起きかねない。

 なので、後からアスナが来るくらいだったのだが。

 

「昼飯のついでだ、気にすんなよ。ところでキリの字、召喚紋章っての、ここなら俺も使えるんだよな」

「ああ、多分。て言うか、字呼召喚しなきゃソードスキルも使えないぞ、ここ」

 

 俺の台詞にふむぅと唸るクライン。すると、刀を正眼に構えて一気に振りかぶった。同時、詞が飛ぶ。

 

 ――ぶった斬る!

 

 直後、硝子が割れるような音と共にクラインの両腕に浮かぶ召喚紋章。

 

 刀ソードスキル:緋扇。

 

 上下に素早く斬り分け、止めに突きが放たれる。

 モーションを最後まで行い。クラインはにやりと笑った。

 

「成る程なー、これはこれで面白ぇかもな」

「ああ。本来のソードスキルも良かったけど、これは必殺技って感じするよな」

 

 笑いながらそう言うと、クラインも苦笑してこちらに振り向いた。そして、刀を向けて来る。おいおい……。

 

「いいじゃねぇか。一本、戦ってみようぜ」

「まぁ、いいけどな。ここHPないし、まともに食らっても痛みは無いだろうし」

 

 もちろん、刃を打ち込まれた不快感はあるだろうが、それこそ本来のSAOやDTとは比較になるまい。

 俺も手に握る片手剣を構えた。……ちなみにこの剣は、ユイ作成のプログラムである。なんと我が愛娘は、優緒さんからプログラム作成機能まで与えられていたのだ。高機能だなぁ。

 多分、クラインの刀もそうだろう。コンバートは、アイテムや金は適用されない。

 互いに構えをとった俺達は、不敵に笑い合い――全く同時に字呼召喚!

 

 ――モテねぇ男達の恨みを思い知れ、リア充!

 

 ――仕事しやがれ不良社会人!

 

 刀ソードスキル:辻風。

 

 片手剣ソードスキル:ヴォーパル・ストライク。

 

 居合いの要領で放たれた横薙ぎの刀と、ジェット噴射を思わせる勢いで放たれた突きが真っ向から衝突!

 弾き(パリィ)が発生し、お互いにノックバック状態となる――ふっ、甘いぜクライン!

 

 ――まだ俺のターン!

 

 字呼召喚による、スキル・キャンセラー発動! ”ノックバックによるディレイを強制的に破棄する――!”

 

「はぁっ!? なんだそりゃ! てめぇズリぃぞ!」

 

 聞く耳持ちません。てな訳で――。

 

 ――くたばれ、野武士面!

 

 片手剣スキル:ハウリング・オクターブ。

 

 高速五連突きから斬り下ろし、斬り上げ、最後に全力の上段斬り! 全部まともに直撃し、クラインは真っ白な床に叩きつけられた。

 

「ふ……正義は勝つ」

「てんめぇ、何が正義だ! なんだよ今の!」

「字呼召喚を使った、強制キャンセルさ。スキル・キャンセラーって名付けてみた」

 

 ちょっと大人げ無いけど、PVP――対人でも十分、通用する事が今ので証明された。

 

「もう一回だキリの字! 次は勝つ!」

「……いや、悪いけど。ここまでみたいだな。ユイが呼んでる」

 

 どうやら菊岡が来たらしい。予定よりちょっと早い。出来れば大召喚も練習しておきたかったが……。こればかりは仕方ない。

 

「ほら、クライン。ログアウトするぞ」

「くっそー、戻って来たらもっかいだかんな!」

「仕事あるだろ、お前」

「なら仕事終わった後だ!」

 

 まぁ、時間が許せばやってやらなくも無いか。そう思いながら、俺とクラインはログアウトし、現実に復帰したのだった。

 

 

(後編に続く)

 




はい、第四話でした♪
ちなみにクライン。あの時点だと、召喚紋章はありません。DTに行ってないので設定されてないのですね。
そんなクラインに容赦なくスキル・キャンセラー使うキリトさん外道(笑)
ちなみにスキル・キャンセラーと名付けられてますが、ほぼ全てのモーションやディレイをキャンセルしうるチート技能です。これは酷い(笑)
まぁ、大召喚よりはマシなんですが(笑)
では、第四話後編にてまたお会いしましょう♪
ではではー♪


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第四話「異世界交流」(後編)

はい、テスタメントです♪
ちょっとお待たせしました、第四話後編でございます♪
今回、なんとずっとボードモードだぜ(笑)
い、いや思ったより長くなりまして(笑)
そんな訳で異世界交流と言う名の腹の探り合い。どぞー♪(笑)


●「キリトのボードモード『DT憲兵師団にて』」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :ここは憲兵師団団長私室です。

 :部屋には、三人のPCがいらっしゃいます。

 :テライ・オーガ・DLL様と青江・正造・ABS様、クリスハイト《設定変更、クリスハイト→クリス。詞速》・WAB様です。

 :現在、DT時間にて午前10:00分です。

 

クリス「ん……? これは、掲示板?」

 

キリト「ああ、説明したろ? これが、DTのボードモードさ」

 

クリス「ははぁ、成る程、成る程。これがか。話に聞くのと実際では大分違うな」

 

 

テライ「だろうね。キリト君から、ある程度の説明は受けたと見えるが……?」

 

クリス「ええ、ある程度は。貴方が、DTの代表ですか?」

 

テライ「代表の一人が正解だな。十三亜神の一人、テライ・オーガだ」

 

クリス「日本政府から今回の件について全権を任された菊岡です。こちらでは、クリスハイトで」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :テライ様、クリス様がサイトモードに切り替えました。

 :テライ様が字呼召喚を行い、クリス様と握手しています。

 

キリト「全権? 菊岡さん、あんた随分と偉くなったんだな……?」

 

クリス「いやいや、上の人達は異世界DTについて、半信半疑――どころか、ほぼ一信九疑くらいの状況でね」

 

クリス「テライ氏からの”伝言”がなければ、私を遣わせる事もなかったろう」

 

キリト「伝言?」

 

テライ「ああ、現内閣が抱えるヤバ気なネタをハッキングで入手してね」

 

テライ「それを、それぞれのメールで送付しておいた」

 

キリト「……それって脅迫じゃ……?」

 

テライ「適切な交渉と言って欲しいな」

 

クリス「あれが世間に晒されたら、内閣一発で倒れますがね」

 

テライ「君達がやってる事も大概だと思うよ、私は」

 

クリス「いやー、何の事か分かりませんねぇ」

 

テライ「おや、そうかね?」

 

クリス「ええ、そうですとも」

 

テライ「はっはっはっ」

 

クリス「ははははは」

 

青江「……おっさん共、腹の探り合いはどうでもいいから、話しをさっさと進めんか」

 

テライ「こらこら、もっとオブラートに包んでくれ」

 

テライ「今回は正式な異世界交流となるんだからな」

 

クリス「ええ。では、早速」

 

《キリトのオーバーリロード》

 

 :二人が手を離しました。

 :テライ様、クリス様がボードモードに切り替えました。

 

クリス「あなた方への日本政府の見解は、”いるかもしれない”。そんなものだとお思い下さい」

 

テライ「弱みを握られてるとは思えない上から視線だな」

 

クリス「ええ。基本的に日和見ですからね、上は」

 

クリス「その上で、我々はあなた方へ要求を申し上げます」

 

テライ「聞こうか」

 

クリス「まず一つ、今回のヒースクリフについて、対処の全てを我々に委譲する事」

 

クリス「もう一つは、ここに居るキリト君を今回の件から外す事、以上です」

 

キリト「な……!? クリスハイト、それは!」

 

クリス「キリト君、君は学生なのだよ。なんだかんだ言ってもね。そんな君を簡単に異世界で危難に合わせる訳には行かないんだ」

 

クリス「SAO事件で、どれだけ家族に心配をかけたか――忘れたのかい?」

 

キリト「っ……! それは――」

 

テライ「落ち着け、キリト君。まずクリスハイト、君達の要求だが、全部却下させてもらおう」

 

クリス「……理由を伺っても?」

 

テライ「まず一つ。ヒースクリフへの対処の委譲だが、ここはDTだ。ヒースクリフを逮捕でもしてるならともかく、彼がここで何かしらの行動を行おうとしてるのに、我々に手を出すな、などと言う要求には到底従えんよ」

 

クリス「力ずくで、と言った場合は?」

 

テライ「”そちらが先程送り込んだ兵と同じ目にでもあってもらおう”」

 

クリス「…………」

 

キリト「クリスハイト……? あんたら、まさか……!」

 

クリス「彼等は?」

 

テライ「全員昏倒して、治療室にぶち込んである。全員連れて帰ってもらおう」

 

テライ「まさか、フル装備で不正入市して来るとは思わなかったがな。ちなみに、全員叩きのめしたのは、後ろにいる青江君だ」

 

キリト「一体、どうやって……!?」

 

テライ「我々がクリスハイトに送ったプログラムを利用したんだろう」

 

クリス「何もかも、バレバレですか」

 

テライ「そう言う事だ。……これで分かって貰えたと思うが、君達自衛隊と言ったかな? その一個小隊でもこちらの一人に敵わないのが現状だ」

 

テライ「それでも、力ずくで、などと言えるかね」

 

クリス「人海戦術に訴える手もありますが」

 

テライ「無駄だ。数は残念ながら問題にならない」

 

テライ「我々個人戦力は君達の想像を超えている」

 

テライ「青江君だが――彼は”拳一つで、都市制圧力の十五パーセント”の攻撃力を持つとされている」

 

テライ「この意味。君の職業柄、分からない筈も無いと思うが」

 

青江「あー、おっさん。口を挟むようで悪いが、それは拳豪位の時のじゃぞ」

 

テライ「……そうだったか。ちなみに、現在は?」

 

青江「拳聖位は国家認定の兵器あつかいじゃから――」

 

青江「二十五パーセントって所か」

 

キリト「二十五て……」

 

テライ「まぁ流石にそんなのはDTでも彼くらいのものだがな」

 

テライ「もし、我々と戦うつもりがあるなら、十三亜神全員と憲兵師団が全力で応じようとも」

 

クリス「……了解です。私達は、貴方がたを見くびっていたようだ」

 

キリト「そもそも立派な侵略行為だろこれ。いいのかよ?」

 

クリス「勿論、良くない。なので、黙っててくれると助かるな、キリト君」

 

クリス「こちらに顔の効く議院からの”お願い”ではあったが……面目丸つぶれだな」

 

テライ「十三亜神代表、アカラベスは今回の件については、不問とするそうだ。異世界交流における些細な誤解とね」

 

テライ「ただし、二度は無い。我々が握ってるネタは政府どころか、財閥系も含まれている事を覚えておくように」

 

クリス「その気になれば日本は今日にでも終わるな……」

 

クリス「承知しました。伝えましょう。……ところで二つ目の案件についてですが……?」

 

テライ「キリト君が望む限りにおいて、我々は全面の協力を約束している」

 

テライ「なので、まずはキリト君に否、と言わせてからにしてくれ」

 

テライ「少なくとも、第三者に決められる事ではないさ」

 

クリス「……キリト君」

 

キリト「悪いな、クリスハイト。俺はDTに居るよ」

 

キリト「ヒースクリフの目的を見極める。もう決めたんだ」

 

キリト「それに――だだ下がりの日本の評価も、ちょっとは上げたいだろ?」

 

クリス「しかし――」

 

キリト「と言うか、何を今更だよ。《死銃》事件とかに散々巻き込んどいて」

 

クリス「それを言われると弱いなぁ」

 

クリス「……ご家族には承諾を得るように。これが、我々からの条件だ」

 

キリト「分かった」

 

テライ「さて、ではそちらの話しは終わりでいいかな? 次はこちらからの要求といこう」

 

クリス「少々、怖い所ですね。先程のやり取りからすると」

 

テライ「先のは全部君達に交渉のテーブルに付かせるためのものだ。ここから先はイーブンな交渉といこう」

 

クリス「助かります。で、要求は?」

 

テライ「貿易交渉だ。ここ、DTでは食料品他を全て輸入で賄っていてね」

 

テライ「元の世界と入市窓口は儲けられたが、この先どうなるか分かったものじゃない」

 

テライ「なので、そちらの日本とも貿易したい」

 

クリス「成る程、そちらについては経済産業省やらを交えないと、どうとも言えませんね」

 

クリス「流石に門外漢です」

 

テライ「構わんよ。こちらもとりあえずは、の要求だけだ」

 

テライ「貿易にあたって、こちらの金銭で取り引きする訳にもいかないだろう」

 

テライ「なので、我々は我々の技術を貿易対象とする事に決めた」

 

クリス「……踏み込みましたね。異世界からの技術、ですか。こちらでも使えると?」

 

テライ「概念がそもそも違うので一つ一つ試してみなければならないだろうな」

 

テライ「それでも――このDT由来の技術は喉から手が出る程欲しい筈だろう? 例えば」

 

テライ「”VRMMOで百倍速の時間加速で動きながらも、加齢、新陳代謝に一倍速の制限を加える”、とかな」

 

クリス「……一つ、お聞きしたい」

 

 

 

テライ「何かな?」

 

クリス「その設定、こちらで再現出来ますか?」

 

テライ「DTそのものの再現は不可能だ。だが――」

 

テライ「擬似的には可能だろうな」

 

クリス「成る程。もし、それがこちらで出来たのならば、恩恵は計り知れないな……」

 

キリト「……? それ、どう言う事だ?」

 

クリス「例えば、重病、重症患者に対して、執余時間が出来る。残り一年しか生きられないと医者に言われても、中で百年過ごす事が出来る訳だ」

 

キリト「な……!」

 

クリス「それだけじゃないな。新技術の開発等も、外の百倍速で行える。……DTもそうなんでしょう?」

 

テライ「概ね、その通りだ」

 

テライ「……で、どうするかね?」

 

クリス「確約は出来ません。が、上には話しを通しておきましょう」

 

テライ「了解だ。ああ、後、政府高官や一部財閥の人間が入市しようとしても、こちらでは一切受け付けない事も言っておいてくれ」

 

クリス「DTに行けば、百倍寿命が得られ、百倍若くいられると聞けば、喜んで亡命しそうですからね。了解です」

 

テライ「では、今回の異世界交流はここまでとしようか」

 

《キリト様のボードモードを終了します》

 

 

(第五話に続く)

 




はい、第四話後編でした♪
ずっとボードなのは、話しオンリーだったからです。
途中でサイトに切り替えようとも思ったんですが、理由がないなと(笑)
ちなみに乗り込んで来た自衛隊の装備は現在の陸上自衛隊準拠となります。
ただし、字呼召喚も知らなかった彼等がまともに戦える筈もなし。青江に叩き潰されました(笑)
さて、次回第五話はバトルありです。お楽しみにー♪


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第五話「流星の紋章を持つ男」(前編)

はい、テスタメントです。
早くも第五話前編をお届けします。
しかし、展開を早く持っていきすぎかな? ちょっと気をつけよ。
では、第五話前編どうぞー。


■「キリト様のサイトモード『DT憲兵師団にて』」

 

「っおおお……!」

 

 字呼召喚と共に、高速四連撃ソードスキル、バーチカル・スクエアがライトエフェクトを纏って発動、剣閃は迷う事なく放たれる――が。

 

「甘い!」

 

 ――我が前に墜ちぬものはない。

 

 横合いから放たれた鋼鉄の手甲つきの拳が、刃が身体に届く前に叩き墜とす。

 ぐっ、と呻き、しかし再び字呼召喚! スキル・キャンセラーと同時に叩き墜とされた剣を強制的にソードスキルで持ち上げる!

 

 ――速く、もっと速く……!

 

 水平四連撃、ホリゾンタル・スクエア! 高速で走る優緒さん特製の剣がモーションに従い、走る。

 だが、それすらも真上からの打撃が瞬時に迎撃してのけた。くそ……!

 

「どうした、キリト君。そんなんじゃ、俺の迎撃は抜けられないぜっ」

 

 ご丁寧にサムズアップして彼は笑う――あ、ムカつく。

 

「絶対、泣かせてやる……!」

「それは一度でも、俺にダメージを与えてから言うべきだなぁ」

「赤街、油断は禁物じゃぞ」

 

 腕組みしながら、そう言うのは青江さん。ちょうど、俺と彼、赤街・大悟(あかまち・だいご)の中間で審判のような立ち位置にいる。

 いっそ、二刀を使うか――と、左手を動かしながら、しかしあえて片手剣のみで俺は彼に挑む事にした。

 スキル・キャンセラーと片手剣ソードスキルでいけるとこまでいってやる……!

 

 ――まだ、俺の技は終わりじゃない!

 

 ――そうこなくては、面白みがないと言うものだよ!

 

 同時に字呼召喚! 俺の両手に一瞬だけ黒い光で二刀が交わる剣の紋章が浮かび、赤街の両腕にも赤の光で流星を思わせる紋章が浮かび上がる!

 片手剣ソードスキル、十連撃、ノヴァ・アセンション。高速でライトエフェクトを纏った剣閃が放たれ、赤街の拳が次々と迎撃を開始する――!

 

 さて、何故、俺がDT憲兵師団訓練室で赤街氏とデュエル――ならぬバトルをしているかと言うと、話しは数分前に遡る。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

■「キリト様のサイトモード『DT憲兵師団にて』」

 

 テライさんと菊岡ことクリスハイトの会談こと、交渉が終わり、俺は青江さんに連れられ、憲兵師団の訓練室に向かっていた。

 この間の約束――稽古をつけると言う約束を果たす為だ。ちなみに、テライさんとクリスハイトはちょっと話す事があるとかで置いて来ている。青江さんは、フーブリッキーさんと入れ代わっていた。

 

「そう言えば、青江さんがあそこに居たのって、テライさんの護衛ですか?」

「そうなるな、なんせ侵入された後じゃからなぁ」

 

 ああ、そう言えば自衛隊員が攻め込んで来てたんだっけ。

 しかし、自衛隊を出動出来ると言う事は、やはりクリスハイトは防衛省の人間と言う事か――?

 と、そこまで考えて、ふと疑問が浮かんだ。

 

「そう言えば、こっちに攻め込んで来た人達って、アバターどうやって作ったんですかね?」

「む……? そう言えばそうじゃな。優緒あたりにでも聞いてみるか」

「装備類まで陸上自衛隊装備と同様のものを用意出来てたあたり、どうやったんだか……」

 

 適当なVRMMOを作り、そこからキャラデータを作ったにしても、コンバートする際には装備類は持ち込めない筈だ。そもそもDT用にアバターを改造するなりする必要もあるだろうし……。

 そんな事を考えていると、訓練室に到着した。中に入ると、憲兵師団制服を着た人達が居る。どうも、武器や装備によって、それぞれ別々に訓練しているようだった。

 その中で、一カ所だけ装備が混成されている場所があった。模擬戦用の戦闘区画だ。

 へぇーと、物珍し気に見ていると、青江さんが苦笑する。

 

「ほら、キリの坊。興味津々なのは分かるが、とりあえずこっちに来い」

「あ、はい――うん?」

 

 言われ、そっちに目を向けると一人の青年が椅子に座って居た。

 歳は恐らく二十歳前後――いや、アバターなんで本当はどうだが分からないけど、本体を基準にアバターは作られる筈だから見た目どうりなんだろう。

 何やら雑誌を広げている――て、あれは……?

 

「ふぅ……」

「何がふぅじゃ、赤街。またエロ本読んどんのかい」

 

 そう、赤街氏が広げているのは日本製の18禁書物だったのである……! てか、公衆の面前で何読んでんだこの人!

 

「むぅ……? 青江さんじゃないか。なんだ、俺に用件でもあるのかなぁ? いや、分かってるよ! 勿論、あるに決まっている! Yes? もしくはYes!? どっちだ!」

「やかましいわい」

 

 青江さんが容赦なく都市制圧力の二十五パーセントとか言うめちゃくちゃな威力の拳をぶっ放す!

 しかし、それは赤街氏から放たれた拳により弾かれ、僅かに横に逸れていった。

 

「ち、相変わらずツッコミを入れさせん奴じゃ」

「いやいやいや、何するかな青江さん!? 君の拳なんてまともに受けたら、俺死んじゃうからね……?」

「死ねぃ」

 

 何故か身体をくねらせて訴える赤街氏に、青江さんはこめかみに怒りマークを浮かべて連撃開始。

 だが、その尽くを弾き(パリィ)で逸らしてのける。いくら字呼召喚してないとは言え、とんでもない精度だ。

 やがて舌打ちして、青江さんはツッコミと言う名の打撃を諦めた。

 

「くそ……! いい加減、鬱陶しい奴じゃ。変態のくせに」

「本人目の前にして変態言うかな普通! それに、青江さんに言われたくはないな!」

 

 ……いや、だから何故決めポーズ? ともあれ、赤街氏の気持ちは分からなくも無い。しかし、変態ばっかだなぁここ。

 

「キリの坊……貴様、相当に失礼な事考えとるじゃろ」

「いやいやまさか」

 

 はははーと笑って誤魔化すが、青江さんはジト目のままである。……アスナやユイにも言われたけど、そんなに分かりやすいんだろーか。あ、そう言えば。

 

「青江さん、ユイ知りませんか? DTに来た時から居ないんですけど」

「む? ああ、あのちびっ子マウスか。確か優緒が連れておった筈じゃが――お」

「パパー!」

 

 噂をすればなんとやら、ユイが優緒さんと共に訓練室に入って来ていた。

 そのまま、俺の前に小さな羽でホバリングする。

 

「お待たせです、パパ。会談は、何もありませんでしたか?」

「んー、どうだろうな。あったと言えば、あったと言えるけど」

 

 あれは会談なんて生易しいものじゃなかったような……。それはともあれ、今度はこっちから聞いてみる。

 

「ユイは優緒さんと一緒に居たのか。何してたんだ?」

「あ、そうです。パパ! 優緒さんに、パパの剣のプログラム組んで貰ってたんですよ」

 

 ……なぬ? 剣士として聞き捨てならないユイの台詞に、優緒さんへと振り返る。すると微笑んで、プログラム・トライゴンを渡してくれた。

 

「お久しぶりです、キリト君。ユイちゃんに、キリト君のパラメータと好みを聞いてデータ拾得用に設定組んでみたんですよ。どうぞ、使ってみて下さい」

 

 そう言われたら是非も無い。すぐにユイにインストールして貰う。

 

《兵装展開:”アニールブレード”:詞速》

 

「っこれ……!」

 

 表示されたウインドウと、手に現れた剣のデザインに息を飲む。

 飾り気の無い、無骨然とした片手直剣。それは、SAO――アインクラッド第一層から三層まで振るった剣であったから。

 アニールブレード。一層のクエストの報酬だった剣だ。しかし、何故これが?

 

「パパのアバターに残ってたメモリから長期間使ってた剣のデータを抜き出したんです。本当はエリシュデータやダークリパルサーを再現したかったんですけど、あれを元のパラメータでDT上に再現するには、ちょっと無理があったんです」

「そうだったのか……」

「一応、コンバート機能に手を加えて、ALOでしたっけ? そちらの装備テクスチャをこちらに変換して持って来れるプログラムを組んではいますけど……向こうの人に使われちゃいまして」

「向こう? あ! 自衛隊!?」

 

 俺の問いに、優緒さんは微苦笑して頷く。クリスハイトに入市状を送った時に、プログラムも一緒に送ったのか。しかし、なんでまたそんな。

 

「前交渉とは言え、向こうから来てもらうのに、何もなしとは行かなかったんですよぉ」

「……あー、そういやクリスハイト。鞄持って来てたっけ」

 

 契約書類やら何やら色々いるのかも知れないな。

 けど、それを逆用されたと。

 

「うぅ、武装関連をロックしておくべきでした……」

「まぁ、いきなり攻め込んで来るとは思わんからのフツー。ともあれ、過ぎた事はもういいじゃろ。それで? キリの坊、どんな感じじゃ?」

「そうですね……」

 

 頷き、アニールブレードを上から下へ。そこから斬り上げ、全力の振り下ろし、とまで振ってみて、ふむと頷く。確かに、俺好みの重い剣だ。いや、正確にはバランスが俺好みと言うべきか。

 

「いい感じですね。ユイ、優緒さん。ありがとな」

「はい、パパ♪ 気に入って貰えて嬉しいです」

「あくまでデータ習得用なんで、好きに使っちゃって下さい。次来る時は、ALOの装備をこちらに反映させますんで」

 

 となると、リズが鍛えてくれた長剣と新生アインクラッド十五層でドロップした直剣。そして、エクスキャリバーか。どれも最高レベルの武装である。それをこちらに持ち込める、と言うのはいろいろな意味で嬉しい。

 

「ふむ、調子は良さそうじゃな。じゃあ、キリの坊、赤街と仕合ってみろ」

「「……は?」」

 

 あ。赤街さんと被った。それはともかく、どう言う事?

 

「キリの坊、お前のアバターのメモリをわしも見せて貰った。対ヒースクリフ戦のものをな。奴は防御主体のカウンター型の戦法のようじゃったな。なら、わしより赤街の方が稽古になると思っての」

「えっと……て、事は……?」

「うむ。赤街は、防御主体じゃ。例のモンスター共が来た際、こいつが援軍に来る予定でな。あの時、本来なら全部の防御を任せるつもりじゃった」

 

 ……それは、また。青江さんがそこまで言うとは、赤街氏はどれ程の使い手と言うのか。

 しかし、肝心の赤街氏に全く許可取ってないように思うんだけど。

 

「青江さん! 急は困るな……! 俺にだって色々予定が――」

「おっと、憲兵師団男子寮に届けられた日本からの大量の荷物、どうするべきか」

「――よっし、さぁやりましょう。キリト君と言ったな? 覚悟はいいかな!?」

 

 展開早ぁ!? 何? 寮に届けられた荷物が何なんだ?

 

「青江さん、まさか開封はしてないでしょうね……!?」

「わしも鬼じゃないわい」

 

 返答になってない返答だけど、赤街さんは頷いて決意に満ちた視線を俺に向ける――。おいおい。

 

「キリの坊」

「分かりました。やりますよ」

 

 嘆息交じりに頷いて、アニールブレードを構える。まぁ、正直渡りに舟だ。

 擬似的な字呼召喚を使った練習はしたけど、実際DTでやってみないと分からない事もあるし。

 青江さんは優緒さんに振り向くと、優緒さんもため息を吐いて管理ウインドウを展開、何かしらの設定変更を行う。

 

《設定変更→アニールブレード、刃非有効。赤街打撃、一部非有効:詞速》

 

「これで、そこそこ派手にやっても大丈夫です。死にはしないですけど、立派に痛いし怪我の可能性はあるので十分注意して下さい」

 

 どうも、アニールブレードを斬れない設定にし、赤街氏の打撃も致命傷にならないようにしたらしい。ここら辺、便利だなぁ。

 青江さんが、俺と赤街氏の中間に陣取る。そして、手をスっと上げた。審判のつもりか――俺達、両方の顔を見て頷く。

 

「準備はいいな? お互い遠慮は無用、では――」

 

 一拍、息を吸い。

 

「はじめ!」

 

 号令と共に、飛び出した俺は字呼召喚! 挨拶代わりのソードスキルを見舞う――!

 

 

 ――試す、気に入らなければ止めろ!

 

 片手剣ソードスキル:ホリゾンタル。

 

 基礎も基礎のソードスキルだ。鮮やかなライトエフェクトを纏って、横一線に放たれた斬撃は――。

 

 ――ならば、そうしよう。

 

 字呼召喚した、赤街氏の打撃に叩き落とされる!

 軽いノックバックをバク転して勢いを殺し、俺と赤街氏は不敵に笑いあったのだった。

 

 

(後編に続く)

 




はい、第五話前編でした。
次回はバトルオンリーになるかな? お楽しみにー。
ではではー。


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第五話「流星の紋章を持つ男」(後編)

はい、めっちゃお待たせしました――! 第五話後編です。いや、申し訳ない(汗)
今回は、ずっとバトル!
お楽しみにー。では、どぞー。


■「キリトのサイトモード継続『憲兵師団にて』」

 

 ――走れ!

 

 字呼召喚と共にソードスキル発動。片手剣スキル、ヴォーパル・ストライクが、凄まじいエフェクトを撒き散らして赤街を撃つ。

 だが、身体ごと突っ込んで来た俺の突きを、赤街は剣身の横に逸れるように拳を打ち込んだ。結果、俺は彼の横を抜ける形で逸れていく――直後、見えたのはニヤリと笑う赤街!

 

「っ……!」

「お?」

 

 字呼召喚し、スキルキャンセラー! 無理矢理モーションを強制中断して転がる俺の頭上を旋風のような蹴りが過ぎていく。

 あのままだったら、直撃貰うところだった。ゾっとしながらも、今度は足、膝を基点に字呼召喚し、身体を起き上がらせる。

 今、赤街は蹴りを躱されたせいで身体が泳いでいる状態だ。そこを斬り上げれば、一本取れる。再び字呼召喚し、片手剣ソードスキル、バーチカル・スクエアを敢行しようとして――俺が見たのは、高速で回転する赤街だった。そして、スピンしながら左腕を伸ばしている。あ、マズイ――。

 

 ――薙げ、颶風の如く……!

 

 次の瞬間、横面に衝撃が炸裂! ……バックハンドの打撃がぶち込まれた、と分かったのは床に転がされた後だった。

 

「っ……ぐっ」

「ようやく直撃したか。なかなか恐ろしい反応速度だったなぁ」

 

 ぐらりと視界が揺れる――DTのフィードバックはここまでしっかり再現されるらしい。フレンジーボアの時も思ったが、やはりVRMMOと違うと認識させられる。アバターでありながら生身と同様だと。

 悲鳴を上げる平行感覚に呻きながらも、何とか立ち上がる。赤街が追撃を掛けて来ないのは正直、助かるが実戦ではこうもいかないだろう。

 無意識に構えたアニールブレードを見下ろしながら、考える。単発のソードスキルも、スキル・キャンセラーを併用した連撃も全て防がれた。なら、後使える手段は、それこそ二刀流か大召喚くらいとなる。

 後、もう一手を除けば。それが通じなかったら切り札を切ろうと心に決め、俺は字呼召喚して待ち受ける赤街へと飛び込んだ。

 

 ――まだだ、まだ……!

 

 片手剣スキル、デッドリー・シンズ。深紅色のライトエフェクトを纏って放たれる七連の斬撃が、赤街へと放たれ、やはり両の拳が弾く。

 やはり、通じない。だが、それでも。

 

 ――まだ、上がる!

 

 ――無駄だ!

 

 互いに字呼召喚! ソードスキルのモーション終了と同時に放たれる片手剣スキル、メテオブレイク。大振りの斬撃を繰り出し、タックル、更に大振りの斬撃を繰り返す大技だ。

 これで赤街の防御を無理矢理こじ開けられるか――と期待するが、赤街は防げないと分かると、逸らし、弾きと攻撃を受け流す防御に切り替える。

 これも通じない――”だが、これでいい”。

 

 ――もっと速く――!

 

 ――いい加減、諦めろ!

 

 しつこくスキル・キャンセラーで追撃を掛ける俺に、赤街はつまらなそうに詞を飛ばす。さっきから全部防いでいるのだ。

 堂々巡りを続けられては、苛立ちも募るだろう。”それが狙いだ”。

 片手剣スキル、ヴォーパル・ストライクをメテオブレイク終了のモーションに乗せて放つ。しかし、先程と同じ赤街の拳が突撃を逸らさんと走る――ここだ!

 

 ――なぁんちゃって。

 

 ヴォーパル・ストライク発動”直後にスキル・キャンセラー”! ソードスキルの発動をキャンセルし、ヴォーパル・ストライクのモーションが中断される。同時に、再びの字呼召喚! 強制的にソードスキルを発動する――!

 

「なに!?」

 

 驚愕する赤街だが、空を切った左拳は引き戻せない。しかし、なんとすぐさま反応し、右拳で迎撃して来た。構うものか!

 

 

 ――返しは痛いぞ!

 

 片手剣スキル、ハウリング・オクターブ! 高速の五連突きが放たれ、赤街の拳が真っ向から迎撃開始。しかし、さすがに右拳一つでは突きまでしか防げなかった。五連目の突きで、ついに右拳を弾き、そこからの上下上段の連続斬撃が赤街の身体を捉える。とった……!

 

「っ……!」

 

 苦悶の息を漏らし、崩れ落ちる赤街。後は一撃でも加えれば勝てる。そう確信して、アニールブレードを持ち上げる、瞬間。

 

 ――来い、流星の拳よ……!

 

 そんな、詞を聞いた。同時、くっきりと背に紋章を背負う赤街! これは!

 

 

「大召喚……!?」

「甘く見てたよ、キリト君。だから――」

 

 ――だから、俺の本気を見せよう。

 

《電詞空間内、100メートルの遺伝詞達に展開許可を与えます》

《召喚紋章:『流星』展開開始:詞速(ラン)》

 

 幾百もの表示枠が、赤街の周囲に一気に展開。それら、全てを承認し、赤街は立ち上がる。

 

「来い……!」

 

■TYPE―AA00822:帝級(インペリアル):MeteorStrike(メテオストライク)■

《赤街様の脊髄反射関係を中心に大召喚発動:全遺伝詞召喚、精密反応速度の上限を解除します》

 

 

 そして、ついに赤街は大召喚を果たした。召喚基部は脊髄。背に紋章が翼のように展開している。

 静かにこちらを見据え、来いとばかりに手を振ってみせた。ぐっと息を飲むと、俺は一気に駆け出す。

 どのような紋章かは知らない。だから、まずはぶつかってみる!

 

 ――行け!

 

 字呼召喚と共にソードスキルを発動、アニールブレードがライト・エフェクトを纏い。次の瞬間、”スキル発動前にアニールブレードは弾かれ”、俺は万歳する形で赤街の前に身を投げ出していた。これは!?

 

「返しは痛い、だったね」

 

 そう言われたと思った時には、既に打撃が叩き込まれていた。いつ放ったのか、どのような攻撃だったのか、まるで見えなかった。

 床に叩きつけられた所で、ようやく自分が倒れてている事を自覚する。なんて速さだ……!

 

「これが、俺の大召喚だ。キリト君」

「ぐ……!」

 

 痛む横面に――多分、顔面にも拳を入れられたのだろう――呻きながら、俺は何をされたのか考える。

 赤街は防御主体のカウンター型の戦闘スタイルだった筈だ。そして大召喚でのリミッター解除は精密反応速度の上限解除。

 つまり、最初のソードスキルは発動すらさせて貰えずに弾かれたって事だ。いくらスキル・キャンセラーでフェイントを掛けようにも、発動すらさせて貰えないなら意味が無い。それは、字呼召喚ではもはや勝てない事を意味する。なら……!

 

「……ユイ、剣をもう一本くれるか」

「パパ……分かりました」

 

 一瞬だけ躊躇いながらもユイは頷いて、DT憲兵師団の剣をインストールする。

 

《兵装展開:憲兵師団正式長剣:詞速》

 

 現れたのは、いつか握った直剣。DTでの最初の戦闘で握った剣だ。アニールブレードと、その剣を左右の手で掴む。

 

「二刀流……それが、君の?」

「まだだ……!」

 

 二刀流をDTで完全に――ソードスキルも含めて使うなら、字呼召喚では足りない。赤街の大召喚なら尚更だ。だから!

 

 ――この手に剣を、ただ速く、どこまでも速く。誰よりも速く――!

 

《電詞空間内、200メートルの遺伝詞達に展開許可を与えます》

《召喚紋章:展開開始:詞速》

 

 詞を飛ばすと同時、赤街と同じように周囲にメッセージウィンドウが大量に展開。その全てをやはり承認しながら立ち上がった。

 この偽物の世界に、本物の自分を、潜在能力すらも含めて百パーセント召喚する。あの時は一瞬だけだった大召喚を、再び行う……!

 

■TYPE―AA0777:神級(ゴッド):BlackSword(ブラックソード)■

《キリト様の反射神経関係を中心に大召喚発動:全遺伝詞召喚、反応速度の上限を解除します》

 

 直後、アバターと生身の差異が無くなり、意識がどこまでも冴えていく。

 肘から拳にまで展開した紋章が、煌々と輝いた。行ける……!

 

「それが君の大召喚か……! しかも神級と来たか!」

 

 赤街が歓喜するように笑みを見せ、吠える。俺は一つだけ頷くと、両の剣を構えた。

 SAOで、ALOで、GGOで、幾度もそうしたように。両の剣が、ライトエフェクトを纏う――。

 

「行くぞ……!」

「来い……!」

 

 叫ぶと同時に、俺は再び赤街へと飛び掛かる。先程の踏み込みとは段違いの速度でだ。赤街の肩がぴくりと動き、直後、拳が発射される!

 だが、今度は見えていた。大召喚し、上限解除された俺の反射速度は赤街のそれに追い付いたのか、右のライトエフェクトを纏ったアニールブレードを拳へと叩き込む!

 拳と刃が、炸裂したかのような音を立てた。二つの力が弾かれる――まだだ! 俺のソードスキル、二刀流ソードスキルはここからなのだから。

 二刀流重突進技、ダブルサーキュラー! 間髪入れずに、今度は左の直剣がライトエフェクトを纏い、時計回りに旋転して叩き付けられる。

 

「く……!」

 

 最初の一撃で体勢を崩し掛けていた赤街は呻きを上げ、しかしそれでも迎撃してのけた。再びのパリィ。本来のゲームなら、ここでディレイを課されるが、ここはDTで俺達は大召喚中だ。まだ、止まらない。

 

「「おお……!」」

 

 全く異口同音に吠え、身体を前進させる。スキル・キャンセラーを使ったように、両剣はライトエフェクトを継続。次のソードスキルを引きずり出す。対し、赤街はその全てを迎え撃たんと、両の腕を構えた。上等……! 真っ正面から倒す!

 二刀流十六連技、スターバースト・ストリーム――大召喚で放たれたそれは、SAOで放った時の数倍の速度にもなった。

 脳が焼き付くような知覚で、次々に回転しながら剣を叩き込む。だが、恐るべき事に赤街はこれに追従してのけた。DTの描写限界を超え、霞む程の速度で迫る刃を正確に弾く! 流石だ――だが、まだ……!

 

 ――まだ、終わりじゃない!

 

 ――そうだろう! そうだろうともさ!

 

 二刀流最上位二十七連技、ジ・イクリプス!

 ヒースクリフとの戦い以来となる二刀流最上位の技をスターバースト・ストリームから間を置かず放つ。大召喚により反射速度と知覚速度が加速していくのに任せたまま、太陽コロナの如く全方向から赤街へと超高速で刃が迫り、赤街は迎撃を開始する。

 凄まじいまでの反射と速度のぶつかり合いの果てに、それは起こった。

 ガシャンと音を立てて、直剣が破砕したのだ。二刀流による連続技と赤街の迎撃に耐え兼ねたのか。しかし、ジ・イクリプスも、後は右の突きを残すのみ。赤街は、耐えてのけていた。これが終われば、負ける。”あの時と同じように”……! そう直感すると同時、閃いた。今なら、あれが出来る――!

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――!」

 

 ――届けぇ!

 

「何――!?」

 

 ジ・イクリプス最後の突きに”合わせて”放たれる、ヴォーパル・ストライク!

 一気に加速された一撃が、ついに赤街の迎撃を跳ね退けた。しかし、優緒さんとユイが作ってくれたアニールブレードは、そこで役目を果たしたように先と同じくガシャンっと音を立てて破砕した。構うな!

 砕けた左右の剣の柄を握ったまま、俺は飛び上がった。赤街へと攻撃を打ち込めるのは、今をおいてない――!

 体術スキル、弦月。真下から跳ね上がった蹴りを、赤街は迎撃する事が叶わず、顎に着弾する。空気が破裂したような音と共に、赤街はノックバックし、俺は床に背中から倒れ込んだ。今、反撃されたら負けるなと確信して赤街を見る。彼はフッと笑い。

 

「見事……」

 

 ずしゃり、と床に倒れ込んだ。それを見て、ようやく息を吐き出す。大召喚も、いつの間にか終了していた。

 

「勝ったぁ……」

 

 そのまま大の字になって寝転がり、まさかまたSD化しないだろうなと戦々恐々としながらも、意識を一時手放したのだった。

 

(第六話に続く)

 




はい、第五話後編でした。
赤街とのバトルは、ヒースクリフ戦をちょっと意識してみた感じになってます。
キリトにとって、あれも一種の後悔なんじゃないかなと。結局、ヒースクリフにまともな攻撃当てられてない訳で。
そんな感じで一つ(笑)
では、次話でままたお会いしましょう。ではではー。


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