咲-Saki- 京太郎ss置き場 (五代健治)
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和誕生日ss2017

2年前に書いたもの。
これ書いてから2年もたっていることに心が折れそう。


「なぁ和、ちょっと質問があるんだがいいか?」

「? はい、何でしょう?」

 

 夏休みが開けた9月の初旬、他に人のいない部室で、和に話しかけた。

 別に二人きりになる必要はなかったのだが、ありがたくはあった。

 

「簡単な心理テストだと思ってくれればいいけど、頭・首・手・足・お腹。どれがいい?」

「はい?」

 

 和が怪訝な表情を浮かべる。まぁ普通そうだよな。

 

「うん、直感でいいから。深く考えないでくれ。別に答えた部分を斬って命を奪うとかそんなミステリー小説みたいなことはないから」

「余計に心配になりますよ、その補足………じゃあ、手で」

「手だな? わかった」

「結局なんなんですか?」

「気にしないでくれ、そんじゃお疲れ」

「?」

 

 和の疑問を打ち切り、俺は部室から出て携帯を取り出した。

 通話のコールが9回目に入ったあたりで、相手が出る。

 

『もしもし、すみません。お嬢様の前でして』

「いえ、俺の方こそすみません。それで頼んでいたことですけど、手になりそうです」

『なるほど。では材料をそろえておきます。今日は5時ごろいらっしゃるのですよね?』

「はい、じゃあまた後でお願いします」

『ええ、お待ちしていますよ』

 

 

 そんな和に疑問を残すようなやり取りから約1か月後。

 長野には早くも寒波がき始めていた。

 

「「「「「和((ちゃん))、ハッピバースデー!」」」」」

 

 パンパン! と、クラッカーが部室で鳴らされる。

 

 さすがにどでかいホールケーキは持ち込んでいないが、各自が簡単なお菓子を持ち込んでのプチパーティーが開かれる。

 部室でこんなことをしていいのか疑問だが、ベッドを設置したりとやりたい放題なのは今更だろう。

 

「はい! プレゼントだよー!」

 

 それぞれからプレゼントが手渡されていく。

 

 咲はエトペン柄のブックカバー。

 優希は手作りタコス。

 染谷新部長は実家の割引券。

 竹井先輩は雪だるま型の髪留め。

 そして俺からは、ラッピングされた包み。

 

「ほい、和。どうぞ」

「ありがとうございます。

 わぁ………!」

 

 包みを開けた和の笑みがさらに広がる。

 中から出てきたのは、手の甲の部分にエトペンの柄が入ったピンクの手袋だ。

 

「すごいです!

 これ、どこで買ったんですか!?」

「あ、いや………手編みなんだけど………」

「手編み!?」

 

 和が手袋を回して、まじまじと全体を眺める。

 

「夏休みが終わったころに、和に訊いただろ?

 頭・首・手・足・お腹だったらどこがいいって。

 頭だったら帽子、首だったらマフラー、手だったら手袋、足だったら靴下っていう具合に考えていたんだ。

 ちなみにお腹の場合は腹巻を考えていたんだけど、女の子へのプレゼントにそれはどうかと思ったから手袋を選んでくれて助かった」

「すごいです………! 須賀君、本当にありがとうございます!」

 

 顔を赤くしながら手袋に頬ずりする和を見て、俺の胸の中にも嬉しさがこみ上げる。

 

「早速つけてもいいですか?」

「ああ、最近寒くなってきたし、丁度いいと思って作ったわけだし」

「それにしても、京ちゃん編み物出来るのは知ってたけど、そんなにうまかったっけ?」

「龍門渕の執事さんに教えてもらったんだ。1か月賭けて何とか間に合わせることが出来たよ」

「ふふふ………エトペンてぶくろ………えへへ………///」

「のどちゃん喜び方が半端ねーじぇ」

「ハギヨシさんにもお礼言っておかないとなぁ」

 

 その後お菓子を食べるために和も一旦手袋を外し、パーティーも済んで部活が始まり、6時にはお開きとなった。

 

「お疲れさんじゃ。鍵はわしが返すから先にあんたらは帰りんしゃい」

「はーい」

 

 最後に染谷部長が部室の鍵を閉め、俺達は先に帰路に着いた。

 

「あの……須賀君………」

「ん?」

 

 帰り道、咲と優希との距離が少し離れた隙に、和が俺の服の裾を引っ張る。

 

「今日は本当に、素敵な手袋をありがとうございました。ありがとうございます」

「ん………どういたしまして」

 

 満面の笑みを浮かべる和を正面から見据えるのが照れくさくて、にやける口元を手で覆って顔を背ける。

 

「その………来年も、欲しかったら言ってくれよ。今度は俺一人で何とか頑張るからさ」

「須賀君………。そうですね…………じゃあ」

「?」

 

 和が、俺が口元を隠している手を取ってどかせる。

 その行動の意味を理解するより早く

 

ちゅっ

 

「!!?×▼@?!*!○!¥!!?」

 

頬に触れた柔らかくもほんの少しだけ湿った感触に動転する。

 

「来年だけじゃなくて………もっと先まで。毎年1個ずつくださいね」

「え? あ、え? そ、それって………」

「さ、行きましょう。咲さんたちを待たせてはまずいです」

「お、おい?」

 

 和は俺の声を無視して、少し距離の離れてしまった咲たちの元へと駆けて行った。

 その時の俺は呆けて結局その場にもう数分立ち尽くしてしまったのだが―――――

 

 

 あれから10年。

 

 寒い時期に一緒に出掛ける時、和は俺が最初にプレゼントした手袋をいつもつけてくれている。

 自宅に帰ってからその手袋を取り、中から結婚指輪をつけた和の綺麗な手が出てくるのを見る度に、俺はとても幸せな気分になる。




のどっちいぇい~


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京和ss①

干したての布団でぐっすり眠っていた時に思い付いた話だった気がする。


「よいしょ……っと」

 

 5月の上旬、よく晴れた日。

 マンションのベランダから、午前のうちに干しておいた布団を取り込む。

 太陽の光を浴びたそれは、癒し成分のかたまりだ。

 

 暖かさを失わないうちに取り込み、ベッドの上にシーツ、敷布団、掛け布団と重ねていく。

 

「和ー、布団取り込んだぞー」

「はーい」

 

 同棲中の彼女を呼ぶと、すぐにパタパタと可愛らしい足音が向かってくる。

 ふんす、 と少し上気した様子の彼女も、干したての布団が待ち遠しくて仕方ないようだ。

 

「えいっ」

 

 ぼすっ と、彼女がベッドへダイブする。

 ふかふかの布団に全身をすり寄せる彼女は、小動物のようで愛らしい。

 

「のーどかっ」

「ひゃんっ」

 

 そんな彼女と布団を取り合うように、俺もベッドへとダイブする。

 太陽の匂いと彼女の甘い匂いに包まれ、これ以上なく幸せなひと時を過ごす。

 

「ふぁ……ぅ……」

 

 ひとしきりじゃれあいを楽しむと、和があくびを漏らす。

 時刻は午後3時。お昼を食べてから掃除と洗濯を二人で済ませ、日の傾く夕方まで、干したての布団で一緒に寝る。

 起きたら眠気覚ましに買い物に行き、二人で夕飯を作る。

 彼女とゆっくり過ごすパターンの1日だ。

 

「京太郎くん」

「ん」

 

 俺があおむけに寝て、その左脇に和が収まる。

 身体を俺に密着させ、俺の左胸の上に頭を乗せる。

 布団が吸い込んだ太陽の温かさと、彼女の温もりに包まれ、幸福感で満たされる。

 

「京太郎くん……」

「んー?」

「布団が温かいですね……」

 

 ぷっ、 と俺は少し小さく噴き出す。

 

「なんだそれ、俺は『死んでもいいや』って答えればいいのか?」

「ダメですそんなの」

 

 ぷぅ と、彼女が頬を膨らませるのを、左胸に伝わる感触で感じる。

「わかってるよ」

 

 前に和に聞いたことがある。

 俺の左胸を枕代わりにするのはどうしてかと。

 すると和はちょっと恥ずかしがったあとこう答えた。

 

『なんていうか……こうしてあなたの心臓の音を聞いていると、すごく幸せになるんです。

 ああ、自分の好きな人が生きてる って、感じられて……』

 

 それ以来、俺達が寝る時は、いつもこの恰好で寝ている。

 和は俺の心音を聞きながら、俺はそんな和の頭を撫でながら、身も心も一緒の時間を過ごす。

 

 大卒でプロ入りし、日々戦う彼女を休日はこうして支える。

 プロとして鎬を削り、公私ともに凛とした態度を貫く一方、二人きりの時はこうやって甘えてくれる彼女が、何よりも大事でいとおしい。

 

「京太郎くん………」

「んー…?」

「とっても……しあわせです…………」

 

「ああ……俺も」

 

 こんな1日の過ごし方を、ずっと無くさないでいられる関係でありたいなと心に願いながら、俺達は、多分世界で一番幸せな昼寝を始めた。




私にしては結構短めな気がする。
和の話は割と頻繁に浮かぶけど、一つ一つは短い話かな。


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姫子ポケモンGOネタ

たしかポケモンGOに復帰したころに描いた作品だったはずです。
姫子は可愛さの化身なので今度また書きたいです。


「須賀―、今月のポ○モンGOのコミュニティデーっち、日曜日だっけ?」

 

部活が終わって、寮まで戻る途中。

最近始めたスマホゲームを遊びながら、姫子先輩が尋ねてくる。

 

「あー、今ニュース見たんですけどね、今豪雨で中部辺りが大変じゃないですか。しばらく延期するみたいです」

「そーかー、やいしょんなんなー」

「や、やいしょん……?」

「じゃあしょうがない、ですね」

「あ、なるほど……」

 

煌先輩が訳してくれて、姫子先輩がなんて言ったのか理解する。

 

「今月はゼ○ガメだっけ? なして人の始めた月に限っち割とフツーんポケ○ン出してくるかいな」

「ミニリュ○、ヨーギ○スと来たんだからタ○ベイと来てよさそうなもんですけどねぇ」

 

 先月俺が月に一度の珍しいポケモンが大量発生する日に、半日中外に出て乱獲をしているところを見て姫子先輩もポケモ○GOを始めたのだが、初めての大量発生のポケモンが微妙なので御機嫌斜めだ。

 

「まぁこのタイミングで水タイプの○ケモンを出すのも、色々不謹慎とか言われてしまうとすばらくないですからね。

 あ、私はちょっとこちらに。近所のセブ○で被災した方々への募金をやっていたので、微力ながらお力添えを」

「お、俺もいきます」

「う、うちもー!」

 

 さらりと煌先輩が本人にその気はないのに耳の痛くなることを口にしたので、俺も姫子先輩もあわてて後を追う。

 セ○ンって一応ポケ○トップでもあるし。

 

(ありがとうございましたー)

 

「お、今捕まえたピカ○ュウ高個体値ですね。お気に入り登録しとこ」

「おや私も目を引くものがあると言われましたね」

「ええー!こっちんは普通っち言われたばってん!」

 

「トレーナーレベルで高個体値のポケモンが出やすいとかあるんですかね?」

「須賀君は今トレーナーレベル幾つでしたっけ? わたしはそろそろ28になりそうですが」

「こないだ37になりましたね」

「うちまだ12にもなっちなかんばってん……」

「まぁ姫子先輩はまだ初めてひと月経ってませんし、仕方ありませんよ」

「須賀ー、ちょーどげんポケモンあっけんか見しぇてちゃ」

「え、えっと、見せろってことですか?」

「そーばい」

「え、えっと……それはちょっと……」

「? 減るもけんもなかやろ。ほら見して」

「わ、ちょ!」

 

 姫子先輩が俺の手を押さえて、スマホの画面をのぞき込む。

 不幸なことに、俺の今の手持ちはお気に入りを優先的にソートして並べている。

 

「うわー、CPの3000以上んのえらいいっぱい……あれ? アメあっけんんにこれだけ進化しとらんやん?」

「え、えっと、その……」

 

 姫子先輩が差してるのは、先月の大量発生の時に捕まえた色違いのヨーギ○ス(♀)だ。

 ニックネームは………『姫子』。

 画面端には相棒マークまでついている。

 

「「…………」」

無言になる俺達をよそに、画面をタップされた姫子は飼い主に構われて喜んでいる。

 

「あ、あの……姫子先輩……」

「須賀」

「は、はいっ!」

 

 静かな姫子先輩の声に、かえって恐ろしさを感じてしまう。

「こんゲームっち、ポケモンば撫でたりげなできよったっけ?」

「え、えっと、ゲーム本編の方じゃないので撫でる機能はありませんけど……」

「そーか」

 

 姫子先輩はスマホを持っていない方の俺の手を取って、自分の頭にのせると

 

「もし『姫子』の可愛くるて撫でたいっち思った時な………うちん頭ば撫でな」

「え………」

 まんざらでもない表情で、そう言った。

 その可愛さ満天のはにかみに、俺も自分の顔に熱が籠るのが分かる。

 

「こほん」

 

「「!!」」

 

「お二人とも、仲がいいのはすばらですが、私のことを忘れるのはすばらくないですよ」

「「は、はい!」」

 

 数日後、姫子の相棒のサ○ダースには、『京太郎』というニックネームが付けられたそうな。




なんのこっちゃって思う方は、ヨーギラスの目元を見ればわかると思います、

あと誰か僕に姫子を紹介してください。


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姫子×京太郎 序章(?)

今月初めにリハビリ代わりに描いていたはずの姫子作品。
いつの間にか10ページを超えていて死にそうになった。

すばら先輩が姫子とため口になっていますけど、
あの人姫子と二人の時はため口になります。
咲日和でやってた。


「おーい、みんなー。合宿についての返事来たぞい」

 

「おー」

「来ましたか」

 

 まこがスマホ片手に声をかけると、部室にいた一年生組が反応を返す。

 

「来られるのはうちらと龍門渕、風越、白糸台、臨海、阿知賀、姫松、千里山、そして………」

 

 そこでまこは一旦言葉を切る。

 その視線の先には、唇を真一文字に結んだ状態で直立不動になっている京太郎がいた。

 表情は真剣そのもので、もう寒さがつらい秋口の長野だというのに汗をだらだらと流している。

 

「…………新道寺じゃ、よかったな京太郎」

 

「いよっしゃああああああああああ!!!!!!!」

 

 瞬間、京太郎は諸手を挙げて叫ぶ。

 あまりの声の大きさに他の部員たちは肩を跳ねさせるが、京太郎の喜び様に苦笑しながら祝福する。

 

「よかったね京ちゃん」

「どうどう、おちつくじぇ」

「それにしてもよく許可が下りましたね」

 

「まぁ、いくつか条件があるがの。

 ゼロとは言わんが出来る限り雑務に当たってもらうから、卓に入れる回数はかなり少なくなるぞい」

「構いませんっ! むしろ卓外こそ俺のアピールポイントッ!」

「麻雀部員としてどうなんじゃそれは…………」

 

 まこの呆れた声は、有頂天になっている京太郎の耳には入らない。

 大丈夫か……とも思うが、むしろこんな有り様だからこそ、他の学校の麻雀部たちも男子である京太郎の同伴を許してくれたのだろう。

 

「ああ、ありがとうございます神様…………!」

 

 何だか今度は床に膝をついて頭を垂れ、手を固く握りしめて祈りを捧げ始めた。

 神様も謂れのない感謝を受け取っても、困るだけなのではなかろうか。

 

「これで姫子さんに会える……!」

 

 

同時刻 新道寺高校

 

「みんなー、集合ー………」

 

 新たに部長に就任した姫子が部員に号令を出す。

 しかしその歯切れの悪さに、疑問が投げかけられる。

 

『どげんしたんばい新部長?』

『元気なか?』

 

「何でんなかばい……。

こないだ言うとった合同合宿ん、日時ん詳細が決まったばい。

とりあえずウチからは一軍全員と、二軍ん上位四名がかたるけん」

 

『合宿! 

そういえば、長野ん部長ん彼氏は来るんと!?』

「うっしゃい、彼氏やなかって!」

 

 同年代の女子からかしましい問いかけが殺到するが、姫子はこれに答えず早口で合宿の詳細を一方的に告げる。

 

「以上! 何か質問は!?」

『はい! 彼氏しゃんの写真はあると!?』

「黙りんしゃい! しゃっしゃと練習せれ!」

 

 えー、ぶーぶー と、ブーイングの嵐を受けながら、姫子は頬を赤く染めたまま踵を返し、部室を後にする。

 練習開始とは言ったが、もう少しほとぼりを冷まさないと全員練習どころではない。

 

「ぜー……ぜー……、なんなん全くもう……」

「あはは……やっぱり女子高でこの手の話題は良い餌っていうか……」

 

 廊下で肩を上下させて息を整えていると、部室から様子を見に来た煌から声をかけられる。

 

「それもこれも花田が言いふらすけんやろうが!」

「いやー、ごめんごめんって……」

「はぁ……全く……」

 

「須賀君に会うたら、どうすりゃよかやろう?」

 

 

始まりは、本当に偶然だった。3ヶ月前、東京。

団体戦を清澄高校の優勝で終え、個人戦を待つまでの数日。

個人戦を控えた姫子と哩の訓練に、他の新道寺メンバーが付き合っていた時のことだった。

 

「部長、お昼ご飯はどうします?」

「まだちょっと早かし、グルメ情報でも見ながらゆっくり探してみる?」

 

 昼前の時間に一区切りついたのだが、東京観光に詳しい者がいるわけでもない。

 各自が携帯でよさそうなランチを探していた時だった。

 

 チョーテンマデアトーヒトイキ!

 アガリーチオーライ!

 

「おや、私ですね」

 

 煌の携帯が鳴り、電話に出る。

 

「はい、花田です」

『お、花田先輩だじぇ? お昼まだだったりするか?』

「おや、優希。ええ、お昼ご飯はまだですが、どうかしましたか?」

『丁度いいじぇ! 奇数人引っ張ってきて、料理対決の審判をやってほしいじぇ』

「???」

 

 中学の後輩からの要領を得ない説明に、頭の中が?マークで埋め尽くされる。

 

『ゆーき、それじゃわかりませんよ、貸してください………。

 あ、花田先輩ですか? 原村です』

「ああ、和、助かりました」

『すいません。実はうちの高校と、龍門渕高校で合同練習をしていたんですが、なぜかお昼ご飯ご飯代わりに、それぞれの陣営から料理人を出して料理対決をすることになりまして……。

 それで審査員に、清澄でも龍門渕でもない人が欲しいという話になりまして。

 今こちらに10人いるので、出来れば先輩を含めて奇数名の方にいらしてほしいと思って連絡したのですが』

「なるほど、そういうことですか。ちょっと待ってください」

 

 煌は一旦携帯から耳を放し、部員に事情を話す。

 幸いにも、反応は好意的なものだった。

 

「丁度よかやなか。みんなでお邪魔しゃしぇてもらおう」

「うちもそれでよかばい」

「わかりました。……あ、和? ちょっと多いですが、5人で行ってもいいですか?

 はい……はい……、じゃあ今から向かいますね。

 清澄と龍門渕の宿泊先を教えてもらいましたので、今から向かいましょう」

 

 和から送られたLINEメッセージを頼りに、新道寺の選手5名が対決の会場に向かう。

 

「料理対決とか実際に見るん初めてだし」

「テレビん中ん話やて思うとった」

「まぁうちらもテレビに出て麻雀やっとったわけだけど」

「ていうかお題ん料理って何?」

 

 そんなことを話しているうちに、件の会場に着いた。

 旅館の前では和と優希が待っており、合流して一緒に入る。

 

「すいません、個人戦の前日なのにわざわざお呼び立てしてしまって」

「いえいえ、構いませんよ。お昼に何を食べるか決めていませんでしたし、すばらなタイミングでした」

 

 和と煌が先頭に立ち、食堂へと向かう。

 小さめの宴会場のような部屋で、そこにはすでに清澄の選手と、龍門渕の選手らが揃っていた。

 

「うむ! よく来たな! 歓迎するぞ!」

「うーっす」

 

 顔だけは知っている猛者同士が、互いに小さな戦慄を覚えながら挨拶を交わし、座布団に座る。

 

「こーいう旅館ん厨房って借らるーもんと?」

「か、からる……?」

「こういう旅館の厨房は、お客が借りられるものなのか、と言ってますね」

 

 聞きなれない博多弁を、煌が逐一翻訳する。

 

「そこは問題ありませんわ! この旅館も龍門渕系列に組み込まれておりますので!」

 

 そしてその質問に、耳聡く会話を聞きつけた透華が声高々に答える。

 本物のお嬢様というものを始めて見た新道寺の面々が、おー と声を上げる。

 

「わかるぞいその気持ち……」

 

 今はもう慣れてしまったが、清澄の面々もその感想にうんうんと首を縦に振る。

 

「凄かー……。そう言えば、誰と誰が対決すると?」

「我が龍門渕家に使える執事と、その友人にして弟子の男性ですわ! 彼、清澄の部員でもありまして」

「それでお昼の用意を二人に任せようと思ったら、二人とも料理が上手いって聞いたから。どうせなら対決でもしたら面白くないって言ったら、ここまで本格的になっちゃって……」

 

 透華が喜々として質問に答える一方、何気ない一言で藪蛇をつついてしまった(?)久が頭を掻く。

 

(日本に執事さんているんやなあ……)

(仁美んお父さんには執事さんおらんの? 政治家やろ?)

(あれは秘書ばい)

(ちくわ大明神)

(誰だ今ん)

 

 料理が来るまで待つ間、初対面ではあるものの話したいネタはいくらでもあるため、麻雀談義に花が咲く。

 

「そういえば清澄の皆さん、優勝おめでとうございます」

「ええ、ありがとう」

 

「宮永さん、嶺上を当てるためのコツとかあると?」

「えっ、えっ、えっと、暗刻か明刻を作って、山を見ます。すると槓できるので、あがります」

「日本語んはずなんに理解できん」

 

「毎回タコス食べよーばってん、マンゴージュースんごと甘かもんの方が良うなか?」

「味は問わず、タコと名前が付いて旨いものなら何でもオッケ―だじぇ!」

「姫松か千里山に行った方が良うなかそれ?」

 

「さぁ、参りましてよ!」

 

 透華の合図とともに、お膳に乗せられた料理が運び込まれる。

 片方にはエビフライ・野菜スープ・チキンライスが、もう片方にはチキンカツ・ポテトサラダ・色合いが少し違うがこちらもチキンライスが乗せられていた。

 それぞれA,Bと書かれた紙が共に乗せられ、全員の前に置かれる。

 

「これからそれぞれの料理を食べて頂き、最後にどちらの方が美味しかったかをお答えいただきますわ。量はそれぞれ控えめにしていますので、全部食べても大丈夫かと。

 あ、アレルギーがありましたら言ってくださいまし」

 

「何か………思うたよりずっと美味しそうなんやけど」

「お金払わんでよかとが申し訳なかレベル」

 

 料理からは湯気を立て、揚げたて・出来立てなだけでなく、香りだけで両方かなり美味しそうなことが食べる前から分かった。

 高校生のする料理対決ということで、軽い気持ちで来たのだが、今更場違いな場所に来てしまったのではと緊張してくる。

 

「にしたっちゃ、何かやけにメニューがお子様ランチっぽかとは気のせい?」

 

 チキンライスに刺されたプラスチックの旗を指先でつつきながら、哩が首をかしげる。

 

「それはあれだよ、ほら…………」

「?」

 

 純の指さす方を見ると、そこでは衣が早速エビフライとチキンカツにタルタルソースを山のように盛っていた。

 その様子とお子様ランチの単語を組み合わせると、なんとなくこの手の料理が選ばれたのも理解が出来た。

 

「それじゃあとりあえず、いただきます」

「いただきます」

 

 とりあえずアルファベット順に、Aのお膳から手を付けていく新道寺メンバーたち。

 一口口にした途端、揃って目を丸くする。

 

「うっま……」

「すばら……」

「え、なにこれ、ばり美味か」

 

 顔を突き合わせ、絶句にも近い言葉の失い具合の中でその味を賞賛する。

 

「え、これドッキリやなかよね?

 帰る時になって0がいくつも並んだ金額要求されんよね?」

「そ、それはないはずですよ。優希はともかく和はそんなことするわけ……」

 

 あまりの美味しさにむしろ不安を覚える新道寺の面々。煌が恐る恐る和の方に視線を向ける。

 

「しませんよ、先輩。ですから普通に味わってください。にしても本当においしいですね……」

「なんか聞き捨てならないことを言われた気がするじぇ」

「気のせいですよ、温かいうちにいただきましょう」

 

 そう言われて新道寺の面々も安心し、そそくさと賞味に戻る。

 

「え、何このスープ。誕生日とかで行くレストランよりはるかにうまかっちゃけど?」

「こげん衣がサクサク言うんって、CMん効果音とかだけじゃなかったんか」

「もうこんチキンライスだけ山盛りで食べたかばいけど」

 

 自分達の経験を遥かに超越した料理に賛辞を飛ばしつつ、次のお膳に移る。

 

「正直Aん後に食べるってだけで気ん毒でしかなかね」

「こっちも見た目は結構……てかばりおいしそうやけど」

「いただきまーす」

 

 あの絶品の数々の後に食べられる料理人を気の毒に思いながら、次の料理に箸を伸ばす。

 

「あ、うまか」

「ん、こっちもうまかばい」

「少なくともうちよりはばり上手」

 

 しかしその懸念はすぐに消える。

 見た目を裏切らない味に、次々に称賛が寄せられる。

 

「うわ、こんポテトサラダばり甘かばいけど」

「本当や、え、ニンジンってこげん甘かもんと?」

「マヨネーズもうまかばってんひょっとして自分で作った奴?」

 

「……………」

「姫子?」

 

 その中で唯一無言でチキンカツを咀嚼しながら、無言の姫子に哩が呼びかける。

 

「うまかー……」(もぐもぐ)

「姫子?」

「…………はっ、すいません、ぼーっとしとったです」

「そんなに旨かったと?」

「いえ、旨かともそうばってん、こんチキンカツ皮に切れ目が入っとって……」

「ん? あ、ほんとだ」

「サイズは大きかばってん、ちゃんと一口サイズにも噛み切るーごとなっとって、親切ばいって……。

それに味もこっちん方が好みですばい」

「そう? うちゃエビフライん方が上かな? どっちもうもうはあるばってん」

 

 それぞれの味付けの方向性などに賛否が分かれつつも、総じて箸の止まらない幸せな時間が過ぎる。

 

「さぁ!それでは採決の時間ですわよ!」

 

 そして全員が食べ終わったころ、口の端にソースをつけたままの透華が声高々に進行を務める。

 

「うーん……両方ともとてもすばらでしたが……」

「うちらが順番ばつくるのが失礼なくらいな美味しさやったとしか……」

「わかる」

「うーん………」

  

「何ならどっちの料理人に胃袋を掴まれたいかでもいいわよー? 二人とも外見は揃っていい方だし」

「部長、またそんなことを……」

 

 悩む新道寺女子達を見て、にやにやと笑みを浮かべた久が茶々を入れ、和がそれに呆れる。

 

「……大会終わったら、女子力磨こ」

「うちも」

「うちも」

 

 大なり小なり全員がうんうんと唸った後、とうとう投票が行われる。

 

「それでは、美味しかったと思う方の札を、伏せておいて行ってください。無記名で結構ですわ」

 

 透華の手元に、それぞれがお膳に備え付けられていた、AかBの札を持ち寄る。

 

「開票は衣がやるぞ!」

「衣、わかりましたから、ちょっとお待ちなさい。両選手をお呼びしませんと。須賀さん、ハギヨシ!」

 

『はーい……』

『はい、ただいま』

 

 透華の声に応え、襖を開けて入ってきたのは、割烹着を着た揃って身長190cmはありそうな青年たちだった。

 黒髪の青年の方は穏やかな笑みを浮かべて息一つ乱していないのに対し、金髪の方は右手で目許を覆いながら肩を落としていた。

 ぜぇぜぇと荒い息遣いが聞こえ、披露しているのが見て取れる。

 

「京ちゃん凄い疲れてるね」

「いやー……さすがに疲れた。しかもその後でハギヨシさんの飯食わされて差を見せつけられるとか、心身ともにヤバい」

「はは、流石に年季が違いますから。でも初めて数か月でここまで出来るなら大したものです。

 私が修行を始めて半年した頃でも、ここまでは出来ませんでしたよ」

「ちなみに何歳の頃から修行を?」

「4つの時ですね」

「それを聞くと喜べねぇ……。んじゃ、結果はわかり切っていそうなもんですけど、お聞きしますか。

俺がBで、ハギヨシさんがA」

 

「わかりました、衣」

「うむ! ではまず一票目! A!」

 

 衣が短い腕を伸ばして掲げる手には、Aの札が握られていた。

 

 うへ、と京太郎が漏らす。

 そして間を置かず。

 

「2票目、A! 3票目、A! 4票目、A!」

 

 もうこのあたりから部屋中の人間がある結末を思い浮かべる。

 ただし、一人を除いて。 

 

「9票目、A! ………10,11,12,13,14票目もぜんぶA!」

「飽きてきたな?」

 

 純が衣にツッコミを入れつつ、料理の感想を述べる。

 

「須賀のも十分旨かったんだけどよ、やっぱどっちか選べって言われるとハギヨシのなんだよなー」

「てっきり衣からの票を狙って、須賀君がエビフライ作ってくると思ったんだけどね?」

「それも考えたんですけど、慣れてないものを作ってまで衣さんからの1票に縋りつくのも違う気がしまして……。

 やっぱり作り慣れたもので全力をぶつけるべきかと思いまして。

 出来た時は結構うまくいったと思ったんだけどなぁ……。ハギヨシさんのをその直後に食わされるとやっぱりね……」

「須賀君のはそーねぇ、毎日食べるならどっちの方がいいかって訊かれたらまた違うかもしれないけど、若干おとなしいのよねぇ。一回きりの食事として比べると見劣りするというか、おふくろの味、みたいな?」

 

 久の言葉に、異口同音に似た意見が寄せられる。

 その全員が京太郎の料理に賛辞を送りながらも、やはり順番を付けると劣ってしまうとのことだった。

 

「それでは一応最後の票を……、お? 15票目、B! よかったな、京太郎!」

「え!? マジっすか!」

「あ、それ僕が可哀想に思ってマジックですり替えておいたやつ……」

「マジっすかぁ!?」

「いや、冗談。ちゃんと須賀君にも入れてくれてる人がいたんだよ」

 

 一のジョークに京太郎が振り回されるが、それでも京太郎への投票が明らかになる。

 

「良かったなー須賀ー。これ入れたの誰だー?」

「いや、無記名の意味ないでしょそれ」

「あ……」

 

 か細く放たれた声に、部屋中の視線が向く。

 

「う、うちです、それ……」

 

 部屋中の注目を集めながら、姫子が恐る恐る右手を上げる。

 当の京太郎は、姫子と目が合った途端それまでの表情が抜け落ちていたのだが、周りは姫子を向いていたせいでそれに気づかない。

 

「えーっと、は、ハギヨシ、さん? の料理もうまかったばってん、須賀さんの方が好みに近かったちゅうか……

胃袋ば掴まれたか方やったちゅうか……はは……」

「……………」

 

 若干照れを覚えて、頭を掻きながら姫子がそういうと、京太郎が無言のまま姫子の元へ歩み寄る。

 その力のない様子が夢遊病患者のようにも見えて、周りが訝しむ。

 

「須賀君、どうかしました?」

「おい、犬、どうしたじぇ? ハウス!」

 

「え、えーっと……?」

 

 190cm近い身長で、無表情のまま見下ろされると怖いものがあり、姫子が少したじろぐ。

 何か気に障ることを行ってしまっただろうかと不安になると、不意に京太郎が膝をつき、

 

 ハシッ

 

 姫子の両手を自らの両手で握って胸の前で合わせた。

 

「えっ」

「じぇ!?」

 

 その行動に、周囲の女子はおろか、ハギヨシまでもが目を見開く。

 しかし京太郎の顔はうつむいたままなので、その表情は見えない。

 

「………新道寺女子の、鶴田姫子さんですよね?」

「は、はい」

「………さっき、あなたと目が合った時に、あなたに一目惚れしました」

「は、はい!?」

 

 姫子の顔が、急速に熱を帯びると同時に、真っ赤に染まった顔で姫子を真正面から見据えた京太郎が

 

「その上、15人いたら14人が俺のよりハギヨシさんの料理の方が旨いという中で、俺の作った方が好みだと言ってくれて、こんなにうれしいことはありません。

 どうか……お、俺の、恋人になってください!」

 

「え……」

(え、え、えええええええええええええええええ!?)

 

 心の中で、姫子が叫び声を上げる。

 恐らく周囲も同じ心地であろうが、みんな驚きのあまり声が出ないでいる。

 結果、壊れた機械のような意味をなさない姫子の声だけが漏れることになる。

 

「え、や、あの、ほんき、え、みんなみて、その、て……」

「本気です! 俺は姫子さんに、毎日俺の作った料理を食べてもらいたいと思っています!」

「ま、まいにち……」

 

 握られている手から京太郎の熱が伝わり、それが姫子の混乱に拍車をかける。

 

「はい! 毎日! 味噌汁でもスープでもお好きなのを!」

「ぶ、ぶちょぉ……」

 

 混乱が頂点に達した姫子は、涙目になりながら哩へ助けを求める。

 

「ちょ、ちょ待っ、姫子、リザベーション働いとっ………!?  …………はぐぅ」

 

 姫子の混乱を共有してしまい、哩が眩暈で倒れる。

 そして間を置かず、姫子もそれに引っ張られて気を失う。

 

「わーーーー!? 部長、姫子ーーー!?」

「ひ、姫子さん? 白水さん!?」

「須賀君とりあえず一回手離しなさい!?」

「ハギヨシ、医務室の準備を!」

 

 

 

 結局その後、京太郎が姫子と直接会う機会はなく、後日煌と和を通し、「友人として付き合い、その後で考えさせてくれ」という無難な返事に連絡先を沿えて返したのだった。

 長野と福岡の距離は決して短くなく、連絡はLINE、たまーに通話だけだったが、交流自体は続いていた。

 

 姫子のために料理を修行すると決めた京太郎の成長は目覚ましく、二人のLINEの会話記録には、最近のものほど上達しているのが目に見える京太郎の作った料理の写真が並んでいる。

 幸い京太郎も、お腹がすく時間帯には決して画像を送らないように気を利かせているが、それでも見るだけで食べることの叶わないこれは、飯テロではなくもはや飯ジェノサイドだ。

 

 

「まぁ、合宿の楽しみが一つ増えたと思えばいいんじゃない?」

「そげなわけにもいかんって……。

 あげん好き好き言われて、何も答えんのも悪かし……」

「じゃあ付き合う?」

「極端すぎ! イエスかノー以外ん返事ってなかね……」

「ノーって言うつもりなの?」

「いやたぶんそりゃなか……んやろうか。ばってん、イエスも恥ずかしか……」

「ぜいたくな悩みだねぇ」

「贅沢って……はぁ」

 

 

「須賀君に、どげん顔して会えばいいと?」

 

 

 




序章と書いたが続きはあんまり考えていないぜ! 某ライダーのようにな!

料理対決は最近の咲本編で京ちゃんと咲さんの会話見てからやりたかったネタ。
調理場借りられたりする理由にもんぷちを使ったりしたら
こんな文量になってしまっただよ。

本当の姫子はもっとかわいいから、みんな姫子をすこって。


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姫子×京太郎 1章(?)

前に書いた奴の続き
先にこれの一つ前の話を読んでね

マイラブリーエンジェル姫子の誕生日だから書いたよ

姫たんイェイ~


11月某日

 

 3連休を用いた合同合宿、その前日の金曜日。

 学校が終わり次第、清澄・風越・龍門渕の面々は電車に乗り、開催地である奈良の松実館へと向かっていた。

 

「長野って交通の便では不利ですよね」

 

 既に陽が沈み切った窓の外に見える、どこどこまでも続きそうな山々を眺めながら、和が溜め息を漏らす。

 

「西日本行きの新幹線がほぼないからなぁ。名古屋まで出ないと、のぞみとかメジャーなのは乗れないし」

「引っ越しの時は大変でしたよ……」

「俺もハンドボールで県外の学校と練習試合組む時は、試合より移動で皆疲れてたな………」

 

 県外旅行の経験がそれなりにある京太郎と和が、過去の思い出に顔をしかめる。

 

「わかる。県外に電車で向かう時は毎回衣が寝ちゃうから」

「それを毎回おぶされる俺の身にもなれよ?」

 

 二人の会話を聞きつけた智紀が同意を示し、げんなりした表情の純が息を吐く。

 

 ちなみに当の衣はというと、咲・優希・美穂子・華菜の4人とババ抜きをして遊んでいる。

 ものすごくはしゃいでおり、この後爆睡してしまうのが目に見えるようだ。

 

「名古屋に出るだけで2時間以上かかるからの。

 お前さんたちは今のうちに寝ときんしゃい」

「「「「はーい」」」」

 

 

 松実館に着くのは夜10時を過ぎる。

 夕飯は駅弁を新幹線内で食べる予定だが、到着後にお風呂に入ったりすると、もうあっという間に寝る時間である。

 

 長時間の移動で疲れもたまりやすいので、いずれ誰かをサポートする羽目になりそうな人員は今のうちに休息をとっておくようまこの指示に皆従う。

 

「ブランケットもいくつかご用意してありますので、寒い方はおっしゃってください」

「あ、すいません」

 

 ハギヨシからひざ掛けをもらった京太郎は、その言葉に甘えて目を瞑る。

 

 だが………

 

 そわそわ そわそわ

 

「……………」

 

 そわそわ そわそわ そわそわ そわそわ

 

「…………………」

 

 そわそわ そわそわ そわそわ そわそわ そわそわ そわそわ そわそわ そわそわ

 

(寝られねぇえええええ!)

 

 その中で京太郎だけは、どうにも目が冴えて眠れなかった。

 前日入りするのは、ここに居る長野組だけではない。

 白糸台、臨海、姫松、千里山といった、新幹線を使いやすい、もしくはそもそも県が近い高校は朝一番で向かうが、新道寺はさすがに遠いため新幹線を使って前日入りする。

 詳しい時間帯は聞いていないが、こっそり博多駅から阿知賀までの時間を調べたら6時間ほどかかるため、到着する時間帯は夜10時を回る。

 

 つまり、京太郎たちが到着するのと同じ時間帯になる。

 

 つまりつまり、現地で姫子に会えるかもしれない。

 

 つまりつまりつまり、あわよくば、姫子と二言三言くらい言葉を交わせるかもしれない。

 

 つまりつまりつまりつまり、あわよくば、もしかしたら、万が一、幸運にも、姫子と同じ送迎バスに乗ったりできるかもしれない、

 

(いや、流石にそれはねぇだろ……いや、でももしかしたら、もしかしたらっ、いやっ、でも……!)

 

 久々に会えた姫子が、自分のことを好きではなくとも、にくからず思う程度には好感度を持っていてくれて、結構楽しく会話がはずんだりする幸せな場面を思い浮かべては、『何調子に乗ってんだ! 身の程を知れこのばか野郎!』とそんな想像をしてしまった自分を罵る。

 

 しかしこんな恥ずかしい思考を何度も堂々巡りしてしまうのも郁子なるかな。

 恋をした思春期の男子と言うのは、若干気持ち悪くなるのである。

 

「すがく~ん」

 

 そんないじり甲斐のある後輩を目にして、我らが親愛なる元部長が放っておくわけがない。

 

「なぁにそんなそわそわしちゃって? そんなに愛しの鶴田さんに会えるのが楽しみなの?」

 

 口元をわざとらしく抑えて『ウフフ♪』なんて言っている久に対し、京太郎は

 

「は? 当ったり前じゃないですか。好きな人に会えるってのにそれが平常心保っていられますかってんです」

「お、おぅ………」

 

 毅然とした態度で言いきられ、茶化した久の方が面食らう。

 

「な、なんだかずいぶん言い切るわね」

「姫子さんを好きなこの気持ちに恥じるところなんて一切ありません」

「なんでこういう時だけめっちゃイケメンなの須賀くん?」

 

 カウンターを受けた久がたじろぎつつ自分の席に戻る。

 京太郎は「こういう時だけってなんだよ……」と釈然としない様子であったが、また目を瞑ってそわそわする作業に戻った。

 

 

(須賀君めっちゃそわそわしてるね)

(そわそわ って字が背後に見えるみたいだぜ)

(ざわ……ざわ…… に変えてみる?)

(どうやるんだよ)

 

 寝るに寝られない京太郎を眺めて面白がっていた龍門渕の面々の内、智紀が京太郎の肩を揺らす。

 

「須賀君須賀君、起きてる?」

「えっ、あ、はい。どうかしましたか?」

 

 そこで智紀が手にした携帯に目を落とし、

 

「新道寺から連絡。急な用事で学校全体で参加できなくなったって」

 

 その瞬間、比喩でも何でもなく京太郎という存在が、周囲の空間空間を巻き込んで

 『ぐにゃあぁ~~~~……』となった。

 

「あああっ…………!」

 

 悲嘆にくれ始めた京太郎を見て、慌てて純たちがフォローに入る。

 

「待て待て! 須賀、落ち着け! 嘘だから! 智紀の冗談だから!?」

 

 嘘であることが分かると、京太郎の輪郭は次第に落ち着きを取り戻し、冷や汗を大いに流しながら息を吐く。

 

「ごめんごめん、須賀くん。ほら、智紀も謝って」

「フヒヒ、サーセンw」 

 

 パシィン! と智紀の頭から小気味のいい音が鳴る。

 純に頭を引っ叩かれた智紀は頭を押さえながら元の席に連れていかれた。

 

「まったく……何なんだみんなして」

 

 予定外に疲れながら、京太郎は目を瞑るのだった。

 

 午後10時24分

 奈良県越部駅

 

「はぁ~~~やっと着いた…………」

 

 案の定ダウンした優希や衣を背負うメンバーを含み、3校の生徒たちが皆駅で降りる。

 

「さっむ!」

 

 山から吹き下ろす11月の風が、容赦なく全身を冷やす。

 急いで駅のホームを後にし、送迎車が待っているはずの駅前に出る。

 

「おー、でっけ………」

 

 『松実館』と書かれた車が、2台泊まっていた。

 

「中型車……あ、規格が変わったから準中型車だっけ?」

「何人乗りだし?」

「運転手入れて11人のはずだな」

「流石教習所行ってるだけはある」

 

 中々個人では所有されないサイズの車に興味を示した面々が言葉を交わす。

 そうしている間にも風は止んでくれないので、急いで分乗する。

 

「じゃあ10人ずつ……あれ? たりない?」

「え?」

 

清澄: レギュラー5名+京太郎 = 6人

龍門渕: レギュラー5名+ハギヨシ = 6人

風越: レギュラー5名+二軍上位4名 = 9人

 

計21名

 

「……………」

 

 自然と、全員の目が京太郎とハギヨシのお手伝い要員2名に向けられる。

 

「ぬかったわ……11人バスに運転手が含まれるのを失念していたわ」

「阿呆」

 

 頭を押さえる久に、まこの容赦ないツッコミが刺さる。

 

「衣ちゃんと優希ちゃんなら膝の上に乗っけて抱えるとか……」

「大荷物は後ろに乗っけられるけど、手荷物サイズは各自持たなきゃならないし、スペース的に難しいね」

「てか一応今は後部座席でも全員シートベルトしないと道交法違反だし、夜中の山道だしあぶねーだろ」

 

「須賀君……」

「ハギヨシさん……」

 

 京太郎とハギヨシは何も言わずとも心を通じ合わせ、

 

「「最初はグー! じゃんけんポン!」」

 

 京太郎:パー

 ハギヨシ:チョキ

 

「んんんんんんんんん!!」

 

 開かれた己が掌を睨み付けて、唇を噛み締めながら唸る。

 

「済みません須賀君。ブランケットを2枚置いていくので、どうかこれで耐えてくれると……」

「ああ、大丈夫です。往復で20分程度なら耐えられると思いますし……。ほら、優希起きろー。車乗るぞー」

 

 寝ぼけ眼の優希はまこたちに任せ、申し訳なさそうにする面々を手を振って見送りながら、京太郎は外灯がぽつんと一つだけある無人駅の前にあるベンチに座った。

 

「お、思ったより寒い……」

 

 さぁてそこらの自販機で暖かいコーヒーでも買うかと思ったら、残念ながらそんなものは無い。

 侮るなかれ奈良県の特急電車が止まらない駅。

 

「し、しんどい……」

 

 電車の中でろくに眠れなかったうえ、この気温は頭が痺れる。

 息をするたびに、胸筋から喉にかけて嫌な震えが生じる。

 京太郎はそのうち睡魔と戦うので手いっぱいになった。

 

『……わ、寒……』

『はや……行……しょ……』

『送迎……まだ……』

 

 背後の駅から聞こえてくる声にも、頭が働かない。

 ふらつく体をやじろべえの様に保つのが精一杯になっていた頃。

 

『あれ……須……』

『ほんとだ……賀君……』

 

 ポンポン ポンポン

 

 誰かに肩を叩かれて、はっとする。

 

「あの………須賀君……大丈夫……?」

 

 姫子が、京太郎の顔を心配そうに覗き込んでいた。

 

「あ…………」

 

 瞬間、意識が覚醒する。

 

「須賀君、お久しぶりですね」

「旅館に着く前に会うとは思わんかったわ」

 

 姫子の後ろから、煌と哩が顔を覗かせ、

 

『え? 部長の彼氏しゃん!?』

『え、部長のこと待っとったと?』

『この寒い中部長に会うために!』

 

 初めて京太郎を見る二軍部員は色めき立っている。

 

「そこ! しゃあしか!

 ………えっと、須賀くんは、何で一人で?

 清澄の人達は?」

 

 姫子は姦しい後輩たちを一括すると、京太郎に向けて質問する。

 

「えっと、しょうもないことに………」

 

 京太郎は計算ミスで一人分送迎車の席が足らず、じゃんけんに負けて寂しくここで次の車を待つ羽目になったことを説明した。

 

「鬼か!」

「こん寒空で一人待つってどげん虐めばい」

 

『部長。彼氏しゃん温めてあげましょうよ、人肌で』

「凍死するわ!」

「ははは……」

 

 何と反応すればいいのかわからない京太郎は、曖昧に笑ってごまかす。

 

「えっと、須賀くん………」

 

 姫子は少し逡巡した後、ペットボトルカバーで包んだボトルを京太郎の方に差し出した。

 

「ぬくかやつばってん、飲む?」

「え………」

 

『間接キス! 間接キスばい!』

『部長ってば大胆!』

 

「黙りんしゃい! えっと、須賀くん、寒そうやし……よかったら思うて……」

「えっと……」

 

 京太郎は大いに悩んだ。

 ここで素直に「はいいただきます」と言っていいものだろうか。

 姫子の純粋な心遣いはもちろんうれしい。

 だが後ろの部員さん達が言ったように、間接キスであることも事実。この状況でわずかながら下心を持ってしまう京太郎を誰が責められよう?

 さながら下心を自覚してしまった京太郎は、果たしてこれを受け取っていいのだろうか。

 

「は、早う飲みんしゃい!」

 

 姫子はそんな京太郎の葛藤を見透かしたかのように、ボトルを手に押し付けてくる。

 こっちも恥ずかしいのだから早くしろと言わんばかりの態度に、京太郎も飲まざるを得なくなる。

 

「い、いただきます……」

 

 出来るだけ、口をつける面積を小さくするようにして、京太郎は何口かお茶を飲んだ。

 

「ありがとうございます……」

「ん……よか……」

 

 ビュウ!

 

「寒っむ!」

 

 その時、ひときわ強い風が吹いて、その場にいた全員が悲鳴を上げた。

 

「あ、ブランケット2枚あるんで、よかったら誰か使いますか?」

「い、いや、須賀君ん方がずっと待っとって寒かやろ。自分で使いんしゃい」

 

 京太郎が使っていたブランケットを2枚とも誰かに譲ろうとすると、姫子が欲しそうにしつつも断る。

 

「いや姫子、お言葉に甘えよう。須賀君それ片方貸して」

「は、はい」

 

 仁美が前に出て、ブランケットを片方貰う。

 

「まずこれを姫子の肩に掛くる」

「え?」

 

 そして貰ったブランケットを姫子に掛け、

 

「そして姫子ば須賀君ん隣に座らしぇます。須賀君、そっちに詰めて」

「は、はい」

「え?」

 

「はい完成。見よーだけでぬくうなるのう」

 

 仲良くブランケットを掛けて並ぶ二人を見て、他全員がにやにやと笑みを浮かべる。

 

「ああ、なんか温こうなってきたっちゃんおじいさん」

「奇遇ばいな、わしもばいじゃばあさん」

 

「やかましか!」

 

 

プップー!

 

 その時、送迎車が丁度戻ってきた。

 一刻も早く室内に避難したいため、みんなが我先にと乗車した結果。

 

「あ、あれ?」

 

 残されていたのは、最後尾の二人席のみ。

 

「須賀君と姫子は一緒に座りんしゃい」

「な、何で手前から座るっちゃん!?

普通奥からやろ!」

『ぶちょー、はようしてくださいー』

『寒いですー』

 

「むぐぐ……!」

 

 姫子は唇を噛んで唸ったが、実際早くしないと運転手さんにも迷惑なので、仕方なく奥の席に座る。

 

「し、失礼します……」

「い、いちいち言わんでよかばい」

 

 京太郎も出来るだけ体を小さくして、その隣に座る。

 

『発車しまーす』

 

 そうしてやっと車が動き出す。

 車内は暖房が利いていて、京太郎も安堵のため息を漏らす。

 

「あーあったけぇ……」

「あ、ブランケットありがとうね。返すわ」

「いえ、いいですよ。旅館着くまでお貸しします」

「そう?」

 

 姫子も言葉に甘えて、ブランケットを被る。 

 そして数分、互いに無言の時間が過ぎる。

 

「う…………」

 

 うつら、うつら と、舟をこいでは目を覚ます京太郎。

 

「眠い?」

「すいません、急に温かくなったら眠気が……」

「寝とってよかばい。着いたら起こすけん」

「あ、じゃあすいません……」

 

 来る途中も眠れなかった京太郎は、そのまま眠りに落ちる。

 

「……………」

 

 することもなくなった姫子は、なんとなく京太郎の寝顔をずっと見ていた。

 こんなに体は大きくて、でも年下で、料理が上手で………自分のことを、本気で好きな男の子。

 

(まずか、本気で恥ずかしか)

 

 そこまで考えて、つい目を逸らしてしまう。

 しかし夜の山道より車内の方が明るく、窓は車内のみを反射して外はろくに見えない。結局、自分の横にいる京太郎が映って見えてしまう。

 

「……………」

 

 こうして京太郎の横にいることに、何の不快感も覚えていない。

 若干のむず痒さはあるが、不快ではない。むしろ、もう少しこうしてゆっくり京太郎を眺めたいと思っている自分がいる。

 

 ガクン

 

「わっ?」

 

 車が大きなカーブを曲がった拍子に、京太郎の身体が姫子の方へ傾く。

 丁度二人の肩から肘が触れ合う。

 京太郎はすでに深く眠ってしまっているため、傾いたまま起き上がらない。

 

(なんか……)

 

 しかし意外にも、肩越しに京太郎の熱は感じない。

 互いに厚着なせいか、布地の感触くらいしかわからない。

 京太郎の息遣いを感じる、京太郎の匂いが伝わってくる。

 でもそこには人肌の温もりがない。

 

(なんか……残念、って、何が!?)

 

 もっと左肩に感じる熱があればよかったのにと思っている自分に気付き、姫子は思考を無理やり引き戻した。

 でも、京太郎が気付いていない今はちょっとだけ、いや、もっと近寄ってみたくて。

 ブランケットを握る力が緩んだ京太郎の手を、自分の左手でそっと握り締めた。

 体が温まり始めたことで、ドクドクと血が通っているのを感じるが、まだ冷たい。

 右手も使って包み込むと、ようやくぬくもりを感じる。

 

(この手で、握り締められて………)

 

 4か月近く前、自分はこの両手に手を握り締められて、京太郎に熱烈な求愛をされたのだ。

 そう思うと、胸に心地よい温もりが広がった。

 

(また、握り締めてほしか……)

 

 この大きな手に、また触れたい。触れてもらいたい。

 京太郎の方に体重をかけながら、姫子はそう願った。

 

「あ………」

 

 そうしていられたのは、ほんの2,3分。

 車が減速し、松実館の看板が見える。

 名残惜しさを感じながら、姫子は佇まいを直した。

 

(次はいつやろ………)

 

 起きている彼に面と向かって頼むのは、まだまだ恥ずかしくて出来ないけど。

 また、この手に触れたいなと恋焦がれながら、姫子は京太郎を起こす。

 彼が目を覚ました時、『こっちに倒れてきてびっくりしたばい』と、何でもないようにケラケラ笑って見せて、今はまだ、年上のお姉さんみたいな余裕を見せることにして。

 




今回はこれでおしまい。
人生最後の春休みの終わりを目前にして色々創作意欲が湧いて来たよ。

今回からこっちの話にもアカウント持っていない人でも感想書けるようにしたから、
どしどし送ってね。
それだけ次の話が早く来ます。


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竜華誕生日ss2019

今年書いた誕生日ssを上げていこうかなと。
りゅうたんイェイ~


「あれ、京太郎も休憩しとんの?」

 

 部室の隣に設置された休憩室兼談話室で京太郎が休憩していると、竜華が入ってきた。

 

「ええ、飾りつけの準備からケーキ作りまであれやこれや忙しかったですから」

 

 今日は竜華の誕生日パーティ。

 部員たちは先週から部長の誕生日を祝うために、今日の本番へ向けて(本人はだらけたまま動かない)園城寺総監督の指揮の下、準備を重ねていた。

 特に京太郎は高い位置の飾りつけや、部長を除き女子力が皆無である部員たちの代わりにケーキを用意したりと大忙しであった。

 パーティが始まって一時間近く経ったころ、問題なくパーティが進んでいるのを見届けてから、京太郎は隣の談話室へ移動して休んでいた。

 

「そっかぁ、おおきに。ケーキめっちゃおいしかったで」

「はは、お口にあったようで。竜華さんも休憩ですか?」

「うん、部活の後にさらにパーティやるとさすがに疲れるしな」

 

 ジュースを片手に、京太郎の座ったソファーに竜華も腰掛ける。

 

「なぁ京太郎?」

「はい」

「膝枕してくれへん?」

「はい?」

 

 すると竜華は言うが早いか、京太郎の膝に頭を乗せ、体を伸ばした。

 

「どうしたんですか、急に?」

「いやぁ、なんか甘えたなってな? でもいいやろ、こんな美少女に膝枕できるんやで?」

「どうせなら膝枕してもらいたかったですよ」

「あはは、男の子やったらそうやろなぁ。今度京太郎の誕生日の時にはやってあげたるわ」

「あと半年以上あるんですけど……」

「あはは……んー……」

 

 竜華は一旦会話を切り、もぞもぞと位置を調整する。

 

「竜華さん?」

「いやぁ……やっぱだめや。枕にしては硬い」

「そりゃ俺男ですし……」

「いや、ちょい待ち。枕には向いてなくても椅子には向いてそうな感じや」

 

 竜華は一旦体を起こすと、いきなり京太郎の両膝の上に腰を下ろした。

 

「りゅ、竜華さん?」

「じっとしとき、今いろいろ試してんねん」

 

 京太郎の動揺をよそに、竜華は膝の上で座る位置を何回か直す。

 その度に密着の度合いが強くなり、京太郎からしたらたまったものではない。

 

「ああ、これがええわ」

 

 最終的に竜華は京太郎から見て右方向を向く形で膝の上に乗り、京太郎の左肩に頭を預けて枕代わりにした。

 

「丁度ええおさまりやん。このまま休まして」

「え、いや、あの、流石にこれは、その……」

「ええやん誕生日なんやし。ちょっとはわがまま聞いてーな。梅雨入りで最近寒いねん」

(むしろ俺にご褒美になってますよ!)

 

 そのまま竜華は京太郎の言葉を無視し続けて数分、そのうち寝息を立ててしまった。

 ベッド代わりになっている京太郎からしたら、頭を抱えるしかない。

 

(ほんとに寝ちゃったよ……にしても)

 

 顔と顔の距離が10㎝もない場所にある竜華の寝顔を見つめる。

 美少女というほかない容姿、長いまつげ、綺麗な黒髪。ついでに胸元に押し付けられる頭と同じぐらい大きなおもち。

 なおかつ快活な性格で、家庭的でもある。

 まさに非の打ちどころのない、京太郎にとってどストライクな女性だ。

 そんな相手をこんなに近くで見つめ続けていると、頭の隅に邪な想いが湧いてくる。

 

(い、いかん。煩悩退散煩悩退散。せっかく枕代わりに使ってくれるほどの信頼を失うわけにはいかん。そうだ、素数を数えるんだ。 素数が1匹、素数が2匹……!)

 

 頭の中で2,3,5,7と、素数型のオブジェクトが上に積み重なり、やがて太陽の光を浴びながら宇宙の彼方へと続いていく光景を思い浮かべて無の領域に入る。

 するとそのうち、疲れも手伝い、竜華の後を追って本当に寝てしまうのだった。

 

 

(………いくじなし)

 

 片目をうっすら開けて、寝息を立て始めた枕役を覗き、竜華はほんの少し頬を膨らませると、人の気も知らず寝息を立てる京太郎により体を密着させて寝るのだった。

 

 

 

「さーて、結構時間たったけどどうなったかな」

「誕生日なことを笠に着て甘えまくればイチコロやーって、流石に単純すぎひん?」

「あれで部長奥手やから、結局何もないに1票」

「ああ見えて草食系な京太郎が必死で求愛を躱しまくるに1票や」

 

 隣の部室で飲み食いを続けていた面々が、こっそりと廊下から談話室の様子をうかがう。

 京太郎へ想いを伝えるにはどうしたらいいか乙女(メス)の顔を浮かべた部長に、攻めあるのみとアドバイスした彼女らの頭の中は、期待と面白が半分ずつ詰まっていた。

 

「あれ? なんも音せぇへんで?」

「ほんまでっか? ソファが軋む音とか、荒々しい吐息が漏れるとかないんですの?」

「お前は何を期待しているんや」

「あれ? 二人とも寝てへん?」

 

 ドアを静かに開けて忍び足で入り込むと、そこにはソファの上で密着して眠る二人の姿があった。

 それを見て、彼女らは「おぉ」と小さく歓声を上げる。

 

(上手くいったってことですかいね?)

(たぶんな………なぁ、竜華へのプレゼントで額縁あったよな?)

(ええ、ウチが贈りましたけど。ハート柄でピンクのめっちゃ可愛い奴)

(よし泉、監督に言って印刷室使えるようにして来い。もいっちょプレゼントや)

(らじゃーっす)

 

 30分後。

 先に目を覚ました竜華が目にしたのは、自分と想い人が肩を寄せて眠る写真の納められた額縁であった。

 その隣には数々の「おめでとさん!」「お幸せに!」といった祝福の言葉が綴られたメモが置いてあり、顔を真っ赤にした竜華は慌ててそれらを隠そうとしたが、同時に京太郎が目を覚ます。

 

 写真とメモを隠しきれずに混乱が極まった竜華の口走った、勢いに任せて隣の部屋まで丸聞こえだった愛の言葉は、結婚式でも散々いじられることになったとか。




修論が地獄以外の何物でもないけど、今までに書き溜めたもののっけて行こうかなと。

もう一つの方は許して。推敲だけでもがっつり時間とられるんです……。


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京淡ss①

本編での淡の体形の変化見てて『京ちゃんが見てたらこうなるだろうなぁ』と思って書いた話。
あの大きさは嫌いな人もいると思うんですが、私は好きです。
本人がつらくない範囲であれば大きくて悪いことはないと思うんです。

※ちょこーっとエッチな話だから、現実と空想の違いが分かるお友達だけ読んでね。


「キョータロー! 部室までおんぶー!」

「おああ!?」

 

 放課後の掃除が終わり、さぁ麻雀部へ向かおうという時。

 真後ろから俺の背へ跳びかかってきたのは、俺のクラスメイト。

 先月のインターハイでは女子麻雀団体戦大将を務め、チームを見事逆転優勝へと導いた。

 元からスーパールーキーとして名高かったが、2学期が始まった今もこうして俺なんかと変わらずに付き合ってくれる。気の置けない良い奴ではあるのだが………そんなコイツにも、夏の前後で大きく変わったことがあった。

 

 むにょん

 

「ま、待て淡! ストップ、一旦降りろ!?」

「むー、なんでー?」

 

 むにょんむにょん

 

「いいから、降りてくれ! 後生だから!」

「ごしょー? なにそれ?」

 

 むにょんむにょんむにょん

 

(のおおおおおおおおおお耐えろ俺の理性えええええええええ!!!)

 

 背中にジャストミートで当たるおもちの感触に混乱する中、必死で理性を保とうとする。

 半ば振り払うようにして淡を降ろし、肩で大きく息をする。

 

「むぅー、キョウタロー最近付き合いわるいー。前は おっしゃふりおとされるなよー! ってノリノリだったのに」

 

 実に可愛らしく頬を膨らませる淡を正面から見る。

 そして、俺がおもちをこよなく愛する男であろうとなかろうと、否が応でも「それ」が目に入る。

 

(HどころかI……いや、下手するとKかL………)

 

 バルン、 という擬音がふさわしい、超特大のおもち。

 この夏休みの間に、せいぜいBカップ程度だったそのおもちは、今や国内指折りのビッグサイズに成長していた。

 インハイ中の数日間は特に成長(?)目覚ましく、俺の目がおかしくなったのかと思った。

 だが今も目にするこのおもちは紛れもない現実だ。

 

「いや、俺は変わってない。断じて変わっていない」

「えー? ウソだー」

「いいから、とにかくふつーに行こうぜ。ふつーに」

 

 いくら俺がまだまだ子供で、いざ事に踏み切る勇気のない骨なしチキンだとしても、この凶悪兵器を携えて以前と変わらぬスキンシップをされると限界はあるのだ。

 新学期が始まって10日も経っていないが、いったい何度こいつのおもちにルパンダイブしそうになったかわからない。

 おかげで悶々とした毎日を過ごしている。

 

「ふつーなんてつまんないー」

「わかったわかった」

 

 そう言っている今も、俺の腕に両手で絡んでくる。

 必然的に掴まれている腕はおもちに挟まれ……否、埋もれている。

 手をつなぐなんて前はどうということなかったのに、今じゃそれだけで試練だ。

 

 ひっひっふー、ひっひっふーと呼吸を落ち着けながら、部活棟に向かうために会談に差し掛かったところだった。

 淡がプルプルと振るえたかと思うと

 

「やっぱ我慢できないー! おんぶー!」

 

 階段への一歩目を踏み出した瞬間、淡が再び背中に飛びついて来た。

 もちろんその一歩目は階段を踏み外し、ガクンと視界が下がる。

 のれんに腕押しと言わんばかりにバランスを崩した俺にしがみつこうとしていた淡も、それは同じだったようで

 

「え?」

 

 淡の意外そうな声が聞こえた瞬間、血の気が大きく引いた。

 

「淡!」

 

 俺はとっさに淡の方へ手を伸ばし――――

 

 

 

 

「お前というやつはあああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 保健室に、弘瀬部長の雷が落ちる。

 

「あわああああああああ!?」

 

 湿布と包帯の巻かれた腕で両手で頭を庇うようにする淡の胸ぐらを掴み、烈火のごとく怒声を浴びせる。

 

「階段から落ちて怪我をしたのはまだいい! 誰しも不注意なことはあるだろう! だが階段を下りている人間の背中に飛びつくとは何を考えとるんだ貴様ああああああああああああ!!!!」

「あわわわわああわわあ!?」

「あまつさえ両手首を捻って麻雀が出来んとは………階段から落ちて保健室に運ばれたと聞いてっ、心配して飛んで来たらこれか………!!!」

 

 もはや怒りが言葉では表せなくなってきたのか、プルプルと震えながらどんどん赤くなっていく部長。

 正直耳を塞いで逃げたかったが、知らぬふりをするのも心苦しいので助け舟を出す。

 

「あ、あの部長?」

「あ”ぁ”………!?」

 

 こわい。俺には全く怒っていないと分かっていてもこわい。

 

「そりゃ淡が悪いのはそうなんですけど、その前にコイツが飛びついてくるようなことしちゃったのは俺なんで、その…………難しいと思うけど、あんまり怒らないでやってください」

「須賀、お前がそう言ってもな……」

「そ、それにほら! 不幸中の幸いというか、2,3日で完治するって、先生も言ってましたし! 俺に免じてって言うのも変かもしれませんけど……」

 

 淡は両手首と左足首を捻ってしまったが、軽度のもので今週中に治る。

 俺も淡を抱く形で庇ったから手や腰、顔が痣と擦り傷だらけになったが、これだって来月までには見えなくなるだろう。

 

「はぁ………」

 

 部長は片手で顔を抑えると大きくため息を吐き、天井を見上げて10数秒黙りこくった。

 

「……入部以降、照やそいつの飼育係や裏方として尽力してくれたお前に免じて、今日はもうここでおしまいにしてやる。ただし治ったら、全部ではないが言いたいことは言わせてもらうからな!」

「はぁい…………ごめんなさいスミレ」

 

 しゅんと萎れた淡が頷く。

 部長が保健室を後にすると、部屋には静音が戻った。

 

「………じゃ、今日はもう帰るとするか。お前歩け無さそうだけど、おばさんに迎えに来てもらうか?」

「あ、今日いないんだった……。9時ごろまで帰ってこないって……」

「おじさんは?」

「出張中……帰ってくるの明日の夜だって……」

 

 淡が困り果てた様子になる。松葉杖を借りるにしても、今の淡の手だとそれも厳しいだろう。

 

「はぁ……」

 

 俺は弘瀬部長のそれに比べればずっと浅いため息を吐くと、淡に背を向けてしゃがみこんだ。

 

「ほら、乗れよ」

「え」

「おんぶ、家までしてやるよ。どうせ途中まで一緒だし」

「え、えっと……」

「なんだよ、おんぶしたいんじゃなかったのか」

「う、うん」

 

 淡はいつもよりおずおずと手を伸ばし、俺におぶさった。

「じゃ、帰るか」

「うん………」

 

 

 帰り道、9月の東京はまだまだ日が高く、暑さも堪える。

 ときたま校外を走っている運動部の生徒たちとすれ違いながら、俺と淡はしばらく無言のままだった。

 実のところ俺はというと、肩を掴めない淡がいつもより手足を俺に絡めているので、その分強烈に感じられる背中の感触から現実逃避していただけなのだが。

 

「キョウタロー……」

「んー? どした?(平常心平常心平常心平常心……)」

 

「ごめんね。痛かったよね?」

「そこまででもねーよ。お前こそ、手足捻った時はすっげえ痛そうだったじゃん。2,3日で治るって聞いたからよかったけど、それまではほんと生きた心地しなかったんだからな?」

「ごめん……」

 

 淡が俺の首筋に顔をうずめてくる。

 ふわりと漂ってくる淡のいい香りと、珍しくしおらしい態度にも動揺してしまう。

 

 淡は家に着くまで静かなままでいた。

 

「ほら、着いたぞ。鍵貸してくれ」

 

 30分近く歩き、やっと淡の家に辿り着く。

 玄関を開けると、ムワっと立ち込めた暑苦しい空気が流れて来た。

 

「リビングでいいか?」

「……着替えたいから、部屋まで連れてって」

「ええ?」

 

 淡の部屋は行ったことが無いわけではないが、高校生の男女が家に二人っきりの時に女の子の部屋で一緒になるというのはどうにもむず痒いというか、了承しがたいものがあった。

 

「キョウタロー……」

「……わかったよ」

 

 弱弱しい淡を放っておけず、2階への階段を上る。

 部屋の扉を開けると、それまで通った部屋のどれとも違う空気が鼻孔を埋め尽くした。

 暑苦しくはあったが、その分凝縮された、淡の匂い。女の子の匂いが、俺の脳をクラクラと揺らす。

 

「ほら、降ろすぞ」

 

 淡をベッドに降ろした。そして文字通り肩の荷が下りた身体を伸ばす。

 いくら淡の身体が軽くても、流石に30分も背負っていると腕や肩に来る。

 

「うーん………痛てて」 

 

 身体を伸ばすと、階段から落ちた時にぶつけた部分が痛みを発した。

 

「キョウタロー……」

「ん、どうした……あ、そっか、着替えるんだったな。悪い、出てくよ」

「顔、見せて」

「え?」

「ん」

 

 ベッドに腰かけた淡が傍に寄るように手招きするので、膝をついて目線を合わせる。

 すると淡は俺の顔や腕に手を伸ばし、痣になっている部分の表面を指先でかすかになぞった。

 

「痛かった?」

「え、いや大したことは無かったけど……」

「キョウタロー」

 

「私のこと……キライになった?」

 

 淡が、涙を流していた。

 

「は、はぁ? な、なんでそうなるんだ?」

「だ、だって……キョウタロー、最近私のこと避けてるし、私のせいで怪我させちゃったし………」

 

 淡はぐすぐすと泣き声を漏らし、手の甲で涙をぬぐいながら聞いて来た。

 

「い、いやそれは、その………」

「ごめんなさい……もうワガママ言わないから、キライにならないでぇ……キライになっちゃやだぁ……!」

 

「あ、淡!」

 

 泣きじゃくる淡の両肩を掴んで、こっちに向かせる。

 

「すまん、お前は悪くない! 問題があったのは俺だ!」

「え………」

「そ、その、インハイの途中から、お前がすっごい俺の好み……ぐ、具体的にはむ、胸が、すごい勢いで成長したのを見て! よくわからなくなって!」

「ふぇ?」

 

 男子からいきなりお前の胸が大きくなったと言われて、淡の視線が俺の顔と自分の胸部を往復し、往復するたびに顔が赤く染まっていく。

 多分俺もそうだろう。女の子に向けて、最低なことを言っている自覚と羞恥心くらいある。

 

「お前は元々すっごい可愛いし、仲もよくていい奴だなって思っていたんだけど、その……それだけじゃ収まらなくなって……お、お前が女性として魅力的に感じすぎて!」

「あ………あわわ……」

「そ、そのまま前と変わらないスキンシップをされたら、その、え……エロいこととかも考えるようになっちまって、あんまりそういうのって、よくねぇだろ? それで、理性とか保つために、お前との距離をとるようになってたんだ。だから、その……」

 

 俺は一度そこで息を呑み。

 

「お、お前が好きなんだ! 淡! だから、お前のことを嫌いになってたりなんかしない! 絶対!」

 

 勢いに任せて、淡の心配を否定した。

 

 顔から火が出そうになる。恥ずかしさで体中の筋肉が捻じれるようだ。

 だけど、死ぬ気で淡から目は逸らさない。ここで目を逸らせば、自分の中で大事にしたい、誠実さだとか、淡へ対する想いの真剣さだとか、そんなものが嘘になってしまうような気がしたからだ。

 

 一方でこんな滅茶苦茶な告白をされた淡はというと、涙目のまま顔を真っ赤にして、口を半開きにしていた。信じられない、という表現がよく似合う。

 

「きょ、キョウタロー………」

「は、はい」

 

 1分近くして、淡が俺の名前を呼ぶ。

 

「キョウタローは………私のおっぱい、大きい方が、好きなの?」

「だ、大好きだ!」

 

 うわ、ひでぇ。結構ハズレに近い回答をしてしまったという後悔が押し寄せる。

 

「お、おっぱいとか押し付けられて、嬉しかったの?」

「すっごい嬉しかった! 嬉しすぎておかしくなりそうだったくらい!」

 

 おいまて、お前それはねぇだろ と、直後に理性が俺の言動を諫める。

 

「い、インハイだと、私よりおっぱい大きい娘とかいたけど、その娘たちの方が、好き……?」

「そんなことは無い!」

 

 淡の肩を掴んだままの手に力を籠め、

 

「た、確かに俺はおもち……む、胸の大きい人は好きだけど、お前がいい! お前が、一番好きだ! 淡じゃなきゃ、嫌だ!」

「あ、あわ………」

 

 淡の表情が、一層赤く、羞恥を帯びたものになる。

 だけどそこに歓喜の色も交じっているように見えるのは、俺の勝手な願望か。

 

 淡はゴクン と喉を鳴らすと。

 

「キョウタロー……」

「ああ」

「そ、その………」

 

「お、おっぱい……触ったり、した、い……?」

 

 蚊の鳴くような消え入りそうな声で、淡がそう聞いて来た。

 瞬間、視界が真っ赤に沸騰しそうになった。

 

「っ………! おっ………!」

 

 咄嗟に唇を噛んで、淡をそのまま押し倒しそうになった腕に待ったをかける。

 

「あ、淡………だ、だから………」

 

 ぜぇぜぇ と、必死で情欲を押し止めて、言い聞かせる。

 

「そ、そういうのは、その、だめ――――」

 もはや視界の平衡も覚束ない俺の腕を、淡がとったかと思うと

 

「きょ、キョウタロー! んっ……」

 

 むにょん

 

 これまでは背中や腕で上着越しに感じていた「それ」の感触が、俺の掌を襲った。

 

「キョウタローが、触りたいなら、触っていいよ……! わ、私だって、好きな人と……」

 

「京太郎と………エッチな、こと、したいもん……」

 

 その言葉で、俺は考えることをやめた。

 

「淡っ………!」

「んむっ……!?」

 

 淡の唇を、俺の唇で塞ぐ。否、蓋ぐなんて生易しいものではなく、奪う尽くすように侵す。

 淡も最初は動揺していたが、すぐに俺に負けじと求めてくる。

 

 そして、熱烈な貪りあいと並行して、淡の胸部に手を伸ばし、心行くまでその感触を味わう。

 

「あ、淡、本当に、怖かったり、いやだったりしたら今言ってくれ、俺、もう止められそうにない……!」

「や、やめちゃヤダ……! も、もっと、もっとキョウタローの好きなことして……!」

「淡………!」

 

 淡を腰かけていたベッドに押し倒し、全力で抱きしめる。

 淡も、怪我をした手首以外の場所で力を籠め、俺に全力で抱き付いてくる。

 

「淡……!」

「キョウタロー……!」

 

「「大好き」だ……!」

 

 

 

「お前たち……何かあったか?」

「え?」

 

 翌週の月曜日の放課後。

 手足の完治した淡と一緒に部室に向かい、仁王立ちで待っていた部長の前に一緒に立つと、部長が最初に示したのは怒りではなく疑問だった。

 

「いや……ずっと手をつないでいるからな。いや、お前たちなら特に変ではないんだが、なんとなくな……?」

 

 元々俺達の中がいいことを知っている部長は、何も変ではないように感じつつも、どこか腑に落ちないようだった。

 

「スミレ、ごめんなさい」

 

 すると手をつないだままの淡が、ぺこりと頭を下げた。

 

「これからはちゃんと気をつけます。キョウタローにも迷惑かけないように、しっかりします」

「え、あ、ああ……そうだな? そうしてくれ……?」

 

 部長は素直な淡に面食らったのか、そのまま話は終わってしまった。

 

「何だかすぐ終わっちゃったね?」

「ああ、せっかく怖くないようにって手つないでたのに」

 

 さぞかし怒られるだろうなと思った俺は、お説教の最中怖くないように、淡の手をずっと握ってやろうと思っていたのだが、想像に反してお説教は即座に終わってしまった。

 

「ま、いっか! それじゃあ淡ちゃんの復帰戦、いってみよー! テルー、スミレー、キョウタロー! 卓ついて!」

「やけにハイテンションだね?」

 

 きの○の山と、た○のこの里のパッケージを両方開け、いっぺんに2大勢力を喰らっていた照さんが、淡のテンションに首をかしげる。

 

「そりゃもーね! 高校100年生どころか、大人のジョセーになった淡ちゃんのデビュー戦! みーんな飛ばして勝っちゃうよ!」

「大人の、じょ……せ……!?」

 

 部長が俺の方を振り返ると同時に、俺は無表情のまま顔を背ける。

 

「お、おまえらまさか……!」

「?」

 

 照さんはわかっていないようだったが、部長はその意味を理解したようで、口を開けたままプルプル震えていた。

 

「キョウタロー! ちゃーんと見ててね?」

 

 どうせ一番に飛ばされるのは俺なんだろうなぁ と、素直な意見を飲み込み、苦笑を交えて応える。

 

「ああ、ずっと傍で見ててやるよ」

 

カン

 

 

 




おっきなおもちは正義。
ドラゴンもそう言ってた。


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淡誕生日ss2019

趣味の執筆が出来ていなかったから、お気に入りの咲キャラの誕生日ssを書いてきた1年だった。
これが今年最後の話やね。

ひとつ前の話とつながりはないよ。


ガチャリ

 

「すまない、遅れた……」

「あー! スミレ―! スミレは誕生日祝い持ってきてるよね!?」

「何だいきなり……」

 

 菫が部室の扉を開けると、涙目の淡が大声で駆け寄ってきた。

 騒がしいことはいつものことだが、初手から大声をかけられると面食らう。

 

「みんなひどいんだよー!?

 どうせ誰かが準備するだろうって、結局誰も誕生日プレゼント用意してくれなかったんだよ!?」

「なるほどな……」

 

 菫が部内に目を配ると、確かに淡の誕生日だからと言って普段と何か変わった箇所は無いようだった。

 誠子はやや申し訳なさそうに頭を掻いているし、尭深は我知らずとお茶を飲んでいる。照に至ってはそんなもん知るかとばかりに自分用のお菓子をほおばっている。

 

「一週間以上前からもうすぐ誕生日誕生日だとやかましく騒いでいたのが裏目に出たな。それを聞いた全員が、お前を祝ってやる気を失った上に、誰かがやるだろうと思ったわけだ」

「全員って、じゃあスミレも……」

「うむ。淡、誕生日おめでとう。プレゼントなぞないがな」

「ひどーい!!」

 

 菫が微笑を浮かべて頭をなでてやると、淡はぽかぽかと叩いてくるが、それを無視してソファに腰かける。

 

「須賀の奴もいないのか? 奴にすら見限られるとは、残念だったな淡」

「寮に取りに戻るものがあるって言ってた」

「プレゼントだもん! 絶対にキョータローはプレゼント持って帰ってくるもん!」

 

 淡はぷんぷんと頬を膨らませるが、その様子を見て菫は揶揄うのが面白くなってくる。

 

「どうだかな? 少しは来年の誕生日はプレゼントをもらえるよう、今からお淑やかに振舞うようにしてみたらどうだ!?」

「そんなの高校101年生らしくないし!」

「そこは200年じゃあないのか……」

 

 相変わらず像が見えてこない100年生とやらに困惑を覚えながら、菫が呆れる。

 

コンコン

「!」

 

 その時、チーム虎姫専用の部屋をノックする音が聞こえた。

 ノックするのはメンバー以外の部員なので、淡は京太郎が来たのかと大いに反応した。

 

『すいません、須賀です。今入って大丈夫ですか?』

「ああ、大丈夫だ」

『しつれいしまーす』

 

 ガチャリ

 

「キョータロー!」

「どわぁ!?」

 

 京太郎が入って来るや否や、淡が突進して抱き付き、涙を浮かべて訴えかける。

 

「ねぇ! キョータローは誕生日プレゼント持ってきたよね!?」

「は? いやまぁちゃんと準備したけど……」

「キョータロー愛してるー!!」

「おいおい………」

 

 ドアの外に押し返す勢いで抱き付いてきて、一歩も中に踏み入ることが出来ないので、京太郎がどうしたものかと菫たちに助けを乞う視線を送る。

 

「お前以外、淡に誰もプレゼントを用意しなかったんだよ。

 毎日毎日ああもうるさく騒がれては用意する気も失せてしまってな」

「だと思いましたよ……。ほれいったん離れろ」

 

 京太郎は淡を剥がすとソファに座らせ、手にした紙袋から簡単にラッピングしたお菓子を取り出す。

 

「ほい、どーぞ。上手くできたかは保証できないけど」

「おお! なにこれなにこれ!? 花びら!?」

 

 プレーンのマフィンの隣に置かれた真紅のジャムのビンが目につき、淡が手に取って様々な角度から眺める。

 

「また変わったものを選んだな。食用花のジャムか?」

「バラのジャムです、前から使ってみたいなとは思っていたのでいい機会に。ほれ、これにつけて食えよ」

「いただきまーす!」

 

 淡が早速マフィンの上にジャムを塗り、大口を開けてかぶり付く。

 

「むぅーーー! むぅいいむーー!!」

「飲み込んでから言え」

 

 口にマフィンを含んだまま歓声を上げる淡を、どぉどぉと京太郎が諫める。

 尭深から分けてもらった緑茶を差し出すと、淡はぐびぐびと呑み始める。

 

「おいしーー! 褒めて遣わすぞキョータロー!」

「そりゃどーも」

 

 バシバシと背中を叩いてくる淡に苦笑を漏らしながら、京太郎は別の袋を取り出す。

 

「こっちは食用花のゼリーです。人数分用意したんで、良ければ皆さんもどうぞ」

「そうか? 済まないな」

「いえいえ、普段お世話になっているお礼です」

 

 京太郎がプラスチック容器に入れられたゼリーを配り始めると、今まで遠巻きにマフィンへ熱烈な視線を向けていた照もこちらに押し寄せる。

 我先にと奪い合う淡と照を尻目に、部室で小さなお茶会が開かれる。

 

「ふむ、食べたことはなかったが、なかなかいけるな」

「んー、味はいいけどフルーツゼリーとかと比べると、食べ応えに欠けるなー」

「まぁそう思ってマフィンとか準備……あ、いけね」

 

 京太郎は思い出したように紙袋の底に手を伸ばすと、小さな箱を取り出した。

 

「ほれ、こいつは力作だぞ。誕生日おめでとう、淡」

「なになに? おおーーー!」

 

 箱から覗いたのは、ケーキの上にリンゴをバラの花弁の様にカットして幾層にも重ね、タルトの上に乗せたものだった。

 

「すごいすごーい! なにこれ、リンゴ!? どうやって切ったの!?」

「口で説明は……ちょっと難しいな。まぁ必死で頑張ったよ。こっちは食べ応えあるから、ゼリーで足りなければ、夕飯に差し支えない程度に食

「いただきまーす!」

「聞いちゃいねぇ」

 

 幸せ満面な笑みを浮かべる淡が、早速タルトを口にする。

 

「あ、おい淡待て……、せっかくの造詣だし写真を撮ろうと思ったのだが……」

「この笑顔は笑顔で中々いい写真になると思いますけどね」

「それには同意だがどことなく腹が立つな」

「んむぅ?」

「何でもない。いいから食べてろ」

 

 自分のことが話されているのか気になった淡が顔を上げるが、すぐにまた食べる方に夢中になる。

 

「これ、バラだけじゃないよな? 何種類くらい入ってるんだ?」

「花びらだけじゃわかりにくいけど、多分バラと、赤菊と……ベゴニアと、パンジー……リナリア?」

 

 尭深がゼリーに入った花びらを1枚1枚見て、その種類を当てていく。

 それを聞き、慌てて京太郎が口を開く。

 

「ああ、ドライフラワーにしてあるのもあるから、リナリアとかまだ咲くのには早いのも買えるんですよ」

「へー……ん?」

 

 尭深は眉根を寄せるとゼリーの容器を一旦置きしばらく考え込む。その後私物化しつつある棚に向かい、一冊の本を取り出す。

 そして何ページかめくると静かにその本を閉じ、息を吐く。

 お菓子に夢中になっている淡と、それを見て嬉しそうにしながらも、どこかもどかしそうにしている様子の京太郎。

 その風景に羨望の念を覚えつつ、手にした本を淡の目の前に置く。

 

「淡」

「むぐ? ……んくっ、何、タカミー?」

「これ、私からの誕生日プレゼント」

「え?」

 

 お古の本を渡され、淡が?マークを浮かべる。

 その意味を理解する前に、尭深は菫と誠子に声をかける。

 

「弘瀬さん、亦野さん、ちょっと運びたいものがあるので手伝ってくれません?」

「ん? いいけど……あれ? 尭深―――

「あ、荷物運びなら俺が……」

「須賀君はだめ。ちょっと男の子には手伝ってもらいにくいものだから」

「え、あ、はい……」

「行きましょう。あ、淡はゆっくり食べてていいよ」

 

 尭深の唐突な提案を妙に思いながら、菫と誠子も後に続き、部室には淡と京太郎の二人が残される。

 

「何この本?」

 

 尭深がくれた本は、「四季の花ことば全集」と銘打たれていた。

 淡は何と無しにその本を適当にパラパラとめくるが、それを見る京太郎の表情は硬直する。

 

「えっと、バラは『あなたを愛しています』だよね、有名だし。

 で、何だっけ? 赤い菊は……あ、これも『愛しています』なんだ。へぇ~~。

 それで、ベゴニア? は………あれ?」

 

 そこで、淡のページをめくる手がゆっくりになる。

 

『ベゴニア:愛の告白、片思い』

 

『パンジー:私を想って』

 

『リナリア:この恋に気付いて』

 

 目の前の菓子に使われた花々の意味するところを知り、淡の思考がゆっくりしたものになり、まさか、と思い至る。

 しかし、「その可能性」について考え始めた途端、羞恥心が勝りすぐに思考を回れ右させる。

 

「へ、へぇ~~~! すごい偶然! ほ、ほら、見てみてキョータロー。

 このゼリーの花、みんな愛の告白って………」

 

 淡がわざとらしく明るい声を上げ、京太郎の方を見ると、そこには顔中を耳まで真っ赤にした京太郎がいた。

 その様子に、淡も言葉を失う。

 

「キョ、キョータロー……どうか、した………」

「淡………」

 

 京太郎は、本にかけられた淡の手に自分の手を重ね、握る。

 そして何かを言いかけて口を開け、言葉が出ずに閉じて目を逸らし、を何度か繰り返した。

 繋がれた手から伝わる熱と、その様子に、淡も自分の体中が熱くなるのを感じた。

 これから京太郎が何を言うのかを、否応なしに理解してしまう。

 

「淡、それは……偶然じゃ、ない。ちゃんと、その意味を知って、このプレゼント、作った、から……」

「え……」

「淡……俺は……」

 

 京太郎は一度そこで、何かを覚悟するように目を思い切り瞑った後、淡と向き合った。

 

「俺はお前が…………淡が、好きだ。友達としてじゃあなく、一人の男として、淡という女の子が、好きだ……!」

「…………………あ」

「子供っぽくても、誰かが周りで落ち込んでいたらすぐに心配するし、悪いことをしたらちゃんと素直にごめんって言えるし、いつまで経っても中々麻雀上手くならない俺に付き合ってくれるし、俺が勝ったら自分の時より喜んでくれるし………」

 

 淡は何も言えないまま、京太郎の言葉に聞き入る。

 手から伝わる震えから、京太郎が本気で言っているのだと理解しながら。

 

「俺は、そんな淡が好きだ。だから、俺じゃあ釣り合わないかもしれないけど……。

 俺の、恋人になってほしい…………!」

 

 「キョータロー…………」

 

 京太郎の告白に、淡自分の心臓が強く脈打つのを感じた。

 ドンドンと、まるで誰かから力任せに叩かれているかのように鳴り響く。

 

「きょ、キョータロー。わ、私もね……」

 

 決して淡から目を逸らそうとしない京太郎の眼差しを受け、淡が少し目を伏せて口を開く。

 

「キョータローは、いっつも私に優しくしてくれるし、スミレに怒られたら慰めてくれるし、一緒に居てすごく楽しいし………私ね」

 

 

「私も…………キョータローが………好き」

 

 

「じゃ、じゃあ…………」

「え、えっと、その、こ、恋人、に……なりたい、です」

「淡……!」

 

 淡が頷くと、京太郎が淡を自分の方へ引き寄せ、軽く抱きしめる。

 

「あわっ!?」

「ありがとう……!すっげぇ嬉しい……!」

「う、うん……」

 

 京太郎の抱きしめる力は、本当に触れる程度なので、もう少し強くてもいいんだぞというように、淡が京太郎の背に手を回して、シャツを掴む。

 京太郎にもその意図が伝わったのか、おそるおそる、ゆっくりと力を込めていく。

 

 淡もそれに応じて京太郎に身を寄せ、首筋に顔をうずめるようにする。

 

「キョータロー……私もね、今度、キョータローの誕生日に、お花の、バラのお菓子、あげるね」

「ほんとに?」

「うん……キョータローみたいに、上手にできないと思うけど………」

「何言ってんだ。好きな子が、自分の誕生日にプレゼントくれるんだぜ? それ以上幸せなことがあるかよ」

「ほんとに?」

「ああ、ほんとほんと」

 

 やっと言葉を交わせるようになってきたが、互いに内心穏やかではない。

 触れ合う肌から、相手のせわしなく脈打つ鼓動や熱を感じるだけで、どうにかなってしまいそうなのだ。

 

「キョータロー」

「ん?」

「こんなに美味しいだけじゃなくって、素敵な誕生日プレゼントくれて、ありがとう」

 

 おそるおそる、小さく震えながら、本当に触れるだけの強さで、淡の唇が京太郎の頬にあてられた。

 そのことを理解した京太郎は、嬉しさのあまり淡を思い切り強く抱きしめる。

 少し痛いくらいだったが、この時淡は出来立てほやほやの恋人に抱きしめられ、世界で一番幸せな女の子は自分だと思った。

 

 

オマケ

 

 『俺は、そんな淡が好きだ。だから、俺じゃあ釣り合わないかもしれないけど……。

 俺の、恋人になってほしい…………!』

 

「お、おい、尭深、流石にこれ以上は………」

 

 いけないと分かりつつ、どうしても誠子のスマホの画面から目を離せない菫が、良心の呵責に苛まれる。

 部室を出る寸前、カメラを京太郎と淡の方に向けた状態でテレビ通話にし、誠子のスマホに電話を入れておいた尭深は口元のどや顔を崩さぬまま指を縦に立てた。

 

(しー。通話状態だからこっちの声も聞こえちゃいますよ)

(見て見て見てほら二人とも!)

 

『私も…………キョータローが………好き』

 

(おおおおおおおおおおお!!!!!!)

 

 誠子がよくわからないニヤニヤ笑いと歓びを表す小躍りを始める。

 照は音を立てないようにお菓子を食べ続け、「京ちゃんも大人になったね……」と感想を述べている。

 

『キョータロー……私もね、今度、キョータローの誕生日に、お花の、バラのお菓子、あげるね』

『ほんとに?』

『うん……キョータローみたいに、上手にできないと思うけど………』

『何言ってんだ。好きな子が、自分の誕生日にプレゼントくれるんだぜ? それ以上幸せなことがあるかよ』

 

 (ッ…………………!!!!!) バンバンバンバン!

 

 初々しい二人の睦言を聞いて、誠子が耐えられずに音無く大笑いしながら自分の太ももを叩く。

 

(も、もういいだろう!? さすがにこれ以上はプライバシーの侵害………!)

 

 その中で唯一菫だけが止めに入る。

 しかし視界を塞ぐはずの手の指の間はガバガバで、見たいという本音が筒抜けである。

 最後の最後で抵抗し、せめてスマホの画面は直視しないでいると、

 

『あ、淡………?』

『えへへ……ちゅーしちゃった…………』

 

(おおおぉぉ! ちゅーした! 淡からちゅーした!)

(な、なあぁ!? い、いや、もういい加減に………)

 

 他人が覗いてはいけない線を本当に超えそうになり、菫が耳を塞いで後ろを向くが、

 

『淡………なんでお前ってこんなにかわいいんだよ……!?』

『ひゃあ、キョータロー!?』

 

(押し倒した! 須賀が淡押し倒した!!)

 

「そ、それは流石に待てえええええぇぇ!!!!」

「あ、菫!?」

 

 正常な判断力を失った菫が、部室に向かって猛ダッシュする。

 誠子や尭深が止める声も無視されてしまう。

 

「待って! 単に抱きしめあってるだけだから、スト―――」

 

(バァン!!)

『『うわぁぁ!!? スミレ/部長ーーー!?』』

『おお、お前ら! それはだめだ! 部室でそれはだめだーーーー!?』

『『えええぇ!!?』』

 

「あー………」

 

 部室の方から、阿鼻叫喚の混沌を極めた状況が聞こえてくる。

 

「これ絶対後で怒られるやつだよね」

「菫も素直に見守ればよかったのに」ポリポリ

「もう逃げて寮でお茶にします?」

 

 




作中に出てきた花は全部食用花です。

好きな方へのプレゼントにいいかも。
ところでだれか一つ下の次元にプレゼント贈る方法知りません?


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霞さん誕生日ss2019

京ちゃんのssまとめウィキに日記形式の話で、京ちゃんが鹿児島にいたら、
奈良にいたら、とかあるじゃん。
あれ大好き。


「うぅ~~~ん………」

「どうしたの、そんなに唸って」

 

 1年生の教室で、京太郎は頭を抱えて悩んでいた。

 休み時間中、うんうんうなってはたまに何かひらめいたように頭の上に電球を点かせ、数秒すると頭を振ってまたうなりだす。

 

 どこまでそれが続くか、京太郎を観察していた春が、流石に昼休みが終わりそうなので聞いてみる。

 

「いやな、来週霞さんの誕生日だろ?」

「うん」

「高校生になってバイトが出来るようになったし、今年からは結構いいものをプレゼントできると意気込んでいたのはいいんだけど……」

「うんうん」

「内容がぜんっぜん決まらねぇ……!」

 

 唇をかみしめたまま、京太郎が机に突っ伏す。

 そんな友人を見て春は

 

「じゃあ、霞さんに直接何が欲しいか聞いたら?」

「聞いたんだよ。今年は予算もあるからすごいもの用意できますよって。そしたら『気持ちのこもったものならなんでもいいわ』って、そんな今夜何食いたいか聞いてるのに『何でもいい』って答えるみたいなこと言われてさぁ! むしろ微妙にハードル上がってるんだよ!」

「お母さんみたい」

「ほっとけ!」

 

 だが確かに、京太郎は去年までは金銭的余裕のなかった中学生で、高価なものを贈れない分それはそれは気持ちのこもったものをプレゼントしていた。

 霞が化粧を嗜む年頃になれば学校の技術室を借りてお手製の化粧品箱を作り、市販の草履の鼻緒が靴連れを起こしてしまいやすいと悩めば自分で草履を作ってプレゼントしていた。

 

 あれと同じくらい気持ちのこもったものと言われても、そうそうネタが出て来なくても当然だ。

 

「なぁ、春は何にするか決めたか?」

「わたしのは参考にならないと思うけど…………」

「頼む! 何かヒントになるかもしれないから!」

 

 両手を合わせて拝んでくる京太郎に、春はため息を一つ着いてから答える。

 

「新しいブラ。今使ってるのがまた小さくなったんだって」

「想像以上に参考にならなかったよチクショオ!?」

 

 バァン! と、机を叩いて京太郎が落胆する。

 自分が同じようにぴったりのサイズの下着でも送ってみろ。塀の中へゴーだ。

 

(ぶっちゃけ霞さんならあらあらとか言いながら受け取って襲う口実にしそうだけど)

 

 実はそれもアリなことを知らぬ京太郎はまた頭を抱え始める。

 

「ていうか、あれよりまだ大きくなるのかよ…………」

「(ピーー)カップになったっんだって」

「(何だろう。伏字が伏字として機能して無い気がする)

 ていうかたとえ女性同士でも下着を贈るってどうなんだ?」

「私もそうだけど、実際あれだけ大きいとかなり負担。負担を軽減してくれる下着は死活問題。実用性はこれ以上なくある」

「な、なるほど…………・あ」

「?」

「それで思いついたかも………サンキュ、春!」

 

 京太郎は表情を明るくすると、すぐさまスマホで調べ物を始める。

 後でこっそり検索履歴を見て、「ブラ 手作り」とでも見つけたら待ったをかけることにして、春は自分の席に戻った。

 

 

7月16日

「霞さん! おはようございます!」

「あら、早いわね。おはよう」

 

 朝の5時半。

 霞が日課の境内掃除をしていると、京太郎がやって来た。

 軽く息を切らせながら佇まいを直し、

 

「霞さん、誕生日おめでとうございます!

 これはお祝いです!」

 

 すると京太郎は笑顔で祝いの言葉を述べた後、封筒を手渡してきた。

 事前から春に「もし京太郎が変なものを渡して来ても、叱らないでほしい。たぶん悩み過ぎてるところに私が変なヒント出しちゃったせいだから」と言われ、少し身構えて来た霞は気を引き締めて封筒の中身を確認した。

 

「あら?」

 

 そこから出てきたのは、2枚のチケットだった。

 『霧島湯ったりランド ガールズリゾート』

 

 プールと水着で入れる温泉が併設された、夏でもお風呂好きに人気な施設と、それに併設された旅館の宿泊券だった。

 中でもこのガールズリゾートというのは、女性限定のエリアの名前だったか。

 宿泊の日付も、来週から始まる夏休みに合わせており、霞の予定を考慮したものだ。

 しかもご丁寧に、女性に人気と銘打たれたマッサージプランまでは行っている。

 

「いいの? こんなものもらってしまって? 宿泊券の方はかなり高かったでしょう?」

 

「そこはバイト頑張ったので大丈夫です! 霞さん最近お疲れみたいだったから、ゆっくりしてほしくて。

 ただ本当は3枚用意できれば姫様と春も行かせてあげられたんですけど、流石にそこまでは軍資金が無くて…………今回は春からヒントをもらったので、春を誘ってやってくれると嬉しいです」

「まぁ………」

 

 そこまで頑張ってこんな高価なものを贈ってくれた京太郎に、ときめきを覚える霞。

 しかしこちらとて年長者の意地がある。

 そこで霞はゴホン、と咳ばらいをすると

 

「ありがとう京太郎君。とっても嬉しいのだけれど……これは受け取れないわ」

「え…………」

 

 京太郎の顔から笑みが消える。

 そこで霞は境内に他に誰もいないことをすばやく確認すると

 

「受け取ってもいいのだけれど、条件がいくつかあります。

 一つ目、今から出来るならプランを変更して、女性限定じゃ無くしてもらうこと」

 

 指を一本立てながら、目を瞑って早口に述べる。

 

「二つ目、せっかくのペアチケットなのだから、京太郎君が一緒に来てくれること」

「え」

「三つ目」

 

 霞は念のためもう一度傍に誰もいないことを確認すると

 

「マッサージプランもいらないわ。代わりに………一緒にお風呂に入った後、京太郎君がして頂戴。

 このみっつを守ってくれるなら、喜んで受け取ります」

「え………」

「へ、返事は?」

「は、はい! こっちこそ喜んで!」

「ふふ、約束よ? 楽しみにしているわ」

 

 




このアカウントで書いているのとは別に、
咲&アカギ世界を舞台にした脳内物語とかよく考えているんですけど、
その中だと霞さんがすっごい可哀想な悪役になるんですよね。

主人公の母親が脱走した元六女仙で、裏切者を始末するために
8歳の霞さんが主人公の家に放火して大やけど負わせたり。
実はそうしないと明星を処分すると脅されてしかたなくやったとか。

永水ってすっごく悪役に利用しやすいんですよねなんか。

あ、私は霞さんは好きです。


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京明華ss2019

明華の誕生日を祝ったものだったはず。
内容は誕生日とは関係ないけれども

みょんたんいぇい~


「お待たせしましたー。いくら丼と海鮮丼です」

 

「ほあぁあああああ………!」

「お、おおう……!」

 

 俺達の前にドン!と置かれたそれは、これまで口にしてきたものとは一線を画すものだった。

 震えるスプーンですくい、口に運ぶ彼女は、あまりの歓びで今にも昇天してしまいそうだ。

 

「うっま……」

 

 かくいう俺も、素人目に見ても新鮮且つ豪華な海産物が乗った丼を口にし、語彙力が死滅した感想を口にする。 

 大学の生協の広告で見たからなんとなく利用してみた格安旅行だが、これだけで春休みに北海道まで来たかいがあったと思わせる味だ。

 

「明華さん、そっちはどうですか?」

「ふぁ、ふぁいぃ……」

 

 目の前の席で口を動かす彼女は、もはや目の焦点があっていない。

 恍惚の表情を浮かべ、下に敷かれた酢飯が見えないほど積まれたイクラを味わっている。

 そんな少し不安になるほど幸せそうな彼女を見ていて、可愛いなと思う。

 

 大学に入ってから再開したハンドボール。幸いにもすぐに感覚を取り戻し、出場したインカレの予選。たまたま見学に来ていた彼女と知り合い、今ではこうして一緒に旅行に来るまでの仲になった。

 インハイで清澄の控室から見てましたと言うと、彼女は驚いた様子だったがすぐに打ち解けることが出来た。

 本当に、何があるかなんて人生分からないものだ。

 

「大丈夫ですか? あ、こっちも一口食べます?」

「は、はい。じゃあ口直しに」

 

 いくら丼の口直しに海鮮丼をつまむのってどうなんだと思いながら、彼女にいくつかある刺身を何切れか渡す。

 

「ん、こっちも美味しいです」

「よかった」

 

 今度は溶け切っていない普通の笑顔を浮かべる彼女につられて、こっちも笑顔になる。

 

「はい、じゃあ須賀君も、あーん」

「え? あ、あーん……」

 

 彼女の突き出したスプーンを口にする。

 もちろん恥ずかしさもあるのだが、それよりこのチャンスを逃したくないという気持ちに流されてしまう。

 

(期待してもいいってことなのかなぁ)

 

 こんな綺麗な人と恋仲になれたらそりゃ幸せだが、こういったスキンシップ? を気軽にしてもらえる辺り、かなり彼女から俺へ対する評価は高いのではないだろうか。

 それとも、フランスではこのくらい普通なのか? わからん。

 

(わからん)

(ワイトもそう思います)

 

 誰だ今の。

 

「はーい、松前漬けお待たせしましたー」

 

 すると追加で注文した松前漬けが届いた。

 

「わぁあ……いただきまーす」

 

 彼女はすぐに箸を伸ばし……先ほどに負けない恍惚の表情を浮かべた。

 

「明華さーん? 大丈夫ですかー?」

「はぁい……」

「いやあの、顔が蕩け切ってるんですけど」

「はぁい……」

「……………」

 

「美味しいですか?」

「はぁい……」

 

「幸せですか?」

「はぁい……」

 

「麻雀で使うのは?」

「はぁい……」

 

「明華さんはかわいいですね」

「はぁい……」

 

「今日の下着は黒ですか?」

「はぁい……」

 

「…………俺のこと好きですか?」

「はぁい……」

 

「…………」

 

「新婚旅行は北海道にしましょうか」

「はぁ……え、え?」

 

 そこでようやく、恍惚の表情が途切れ、山盛りのいくらに負けないほど彼女の表情が赤く染まる。

 何だか悪乗りしてとんでもないことを聞いてしまったが、俺も照れ隠しに松前漬けへと箸を伸ばす。

 

「あ、だ、駄目です」

 

 すると明華さんが皿を手元に引き寄せてしまう。

 

「えー?」

「へ、変なことを聞いてくる人にはあげません」

「えー、俺も食べたいのに」

「……………」

 

 明華さんは少し唇を尖らして逡巡すると

 

「お、お願い事を聞いてくれたら、あげます」

「何ですか?」

 

 明華さんが松前漬けをつまんだ箸をこちらに差し出す。

 

「さ、さっき言っていたこと、本当にしてくれるなら、食べていいです」

「へ……」

「は、早くしてください。食べたいんじゃなかったんですか?」

 

 プルプルと震える箸を突き出したまま、真っ赤な顔でこちらを見据えてくる。

 俺は一呼吸置くと、

 

「はい。あーん」

「あ、あーん……」

 

 パクリ、 とその箸を咥えた。

 

「美味しいですね」

「え、ええ………。………前にサトハに聞いたんですけど」

「?」

 

 明華さんは目を逸らすと、

 

「お、お正月に出される数の子には、『子供がいっぱいできますように』っていうお願いが込められているそうですよ?」

「ぶぐっ」

 

 危うく噴き出しそうになるのを抑え込みむせる。

 それを言った本人を見ると、俺以上に羞恥に悶え堪えているようだった。

 

「へ、へぇ? ところで明華さんは子供は何人くらいほしいんですか?」

「い……」

「い?」

 

「あなたとの子供を…………いっぱい」




ええい!
母国でハンドボールがメジャーなことから始まる
京太郎×明華の本編カップリング描写はまだか!!?


バンバンバンバンバンバンバン!!!
バン     バンバンバン!!!!
バン (∩`・ω・) バンバン!!!!!!
 _/_ミつ/ ̄ ̄ ̄/
   \/___/ ̄ ̄


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はやりん誕生日ss2019

カップリング要素は薄めの京ちゃんss界隈としてはまともな(?)はやりんです。

はやりんってかわいいですよね。
ただ「咲世界では女性同士で子供が出来ます」発言があって以来、
はやりんと良子さん、トキと竜華が素っ裸同士で一緒に居るシーンが
まるで違う意味に見えてきてしまって……。

でも女性は全員処女らしいし、きっと互いへの愛情が一定以上高まると
お腹に好きな人との新しい命が宿るのだと思うと結構素敵かもと思ったり。


「はやや~☆ 清澄高校のみんな、こんにちは~!」

「「「「「こ、こんにちは…………」」」」」

 

「こんにちは、初めまして!」

 

 清澄高校麻雀部の部室、そこにはカメラ機材を扱う数名のスタッフと共に、牌のお姉さんとして名高いアイドルが来ていた。

 話は聞いていたが、いざこうして相対すると、女子5名は圧倒され、唯一の男子は憧れのアイドルに生で出会えたことから息まいている。

 

 なぜこうなったのかは至極単純。

 数週間前、京太郎が買い出しに出ていた時のこと。

 手に取ったペットボトルの蓋に張られていたシールにはこう書かれていた。

 

『20○○年度、はやりんの誕生日企画! あなたの学校・職場にはやりんが来るよ!

 対象商品に張られたシールを集めて応募しよう!』

「ふーん……」

 

 言ってしまえば、よくある企画だった。

 しかし間の良い(悪い?)ことに、その説明文を読み終えて視線を上げたそこには、ぽつんと立っている郵便局が。

 ポケットから100円玉を取り出して、なんとなく応募してしまった京太郎を攻めることは誰もできないだろう。

 

 そして本人もそのことを忘れかけていた2週間前。

 携帯へいきなりはやりん所属の芸能事務所から電話が入り、「ご応募いただきありがとうございました! はやりんの誕生日企画、ご当選のお知らせです!」ときた。

 他の部員たちもたまげていたが、あわよくばインハイ直前にトッププロから指導を受けるチャンスかもという魂胆を持った部長からもGOサインが降り、こうしてはやりんが来訪する流れとなった。

 

「あはは、君が応募してくれた京太郎君? 応募してくれてありがとう!」

「こ、こちらこそありがとうございます! はやりんの大ファンなので、すっごくうれしいです! 一生の思い出ものです!」

「うわぁ、ありがとう!」

 

 実物のアイドルに両手を握られて感謝の言葉を述べられ、15歳の京太郎はもうメロメロである。

 はやりがスタッフとの打ち合わせで一度離れた後も、握手したその両手をじっと見つめ、ガッツポーズしたかと思うと、

 

「部長! ありがとうございます!」

「え!?」

 

 いきなり振り返り、唖然としている久に頭を勢いよく下げる。

 

「部長のおかげです! いっつもいつも掃除に買い出しに事務仕事に……部長に言われるがまま、俺が一人でやってきた甲斐がありました! もうこれからもどんっどん俺をパシってください!」

「ストップ、須賀君ストップ! もうカメラ回ってるから!?」

「須賀君それ以上は駄目です! 放送事故になります!!」

 

 興奮と高揚でややねじの外れた京太郎が、電波に乗っけにくいお礼をすると、久が大いに慌て、和やまこが口を塞ごうとする。

 

「はや? お買い物当番とかって、みんなでやってないの?」

 

 するとはやりが耳聡くそれを聞きつけて質問してくる。

 

「え、えっと……」

「はい! みんなはインハイ出場が決定したので、雑事は全部俺が担当してます!」

(須賀君やめてええええええええ!!?)

 

 久が気の利いた回答を用意する間もなく、京太郎が馬鹿丁寧に、むしろ誇らしげに言い切る。

 しかしはやりは人差し指を頬にあてるリアクションをして、残念そうな表情を浮かべた。

 

「はややぁ~……確かにそういう事情があるのはわかるけど……もっとみんなで一緒に楽しんでいる麻雀部とかを見る方が、はやりんは嬉しいかなぁ? プロとしても、牌のお姉さんとしても」

「うっ…………」

 

 しかし、そこではやりんはニパっと笑顔を浮かべると

 

「じゃあ、今日は懸賞を当ててくれた京太郎君をメインにして、皆で麻雀を楽しもうか! 青春を過ごす子供たちが仲良く楽しく麻雀をしているところをはやりんへの誕生日プレゼントにしてほしいな?☆」

「は、はい………」

「はい、けってーい!☆」

 

 こうなれば、後ははやりの独壇場だった。

 基本は京太郎の後ろに佇み、ところどころ助言を出して助け船を出す

 

「うんうん、手が育ってきたね? でも周りの皆も中張牌を捨ててきているし、もうこれより高く育てるよりは、聴牌優先かな?」

「あ、今のは凄い正解だよ! よく河を見れてるね」

「大丈夫大丈夫、和了れないとしても一度も振り込まなければがっかりしなくていいよ!」

 

 やや子ども扱いされている気がしないでもないが、流石はその道のプロというべきか。

 憧れのアイドルに見られているという緊張感がいい方向に作用し、時折迷う時は助け舟を出してもらえるおかげで、京太郎は今までも指折りのいい内容で麻雀を打てていた。

 その楽しそうなことは、カメラを回しているスタッフも口元に笑みを浮かべるほどだった。

 

 最後にはインハイに出場するみんなへのプレゼントということで、女子の皆とはやりが同卓して半荘2回を打つこともでき、麻雀部としてはこれ以上ないくらいいい経験になった。

 

「それじゃあお疲れ様でした~」

 

 そうしているうちに撮影も終わり、企画も終わりの時間となった。

「あ、はやりんさん……」

「はや?」

 

 片づけが進む中、京太郎が帰る準備を進めていたはやりに勇気を出して声をかける。

 

「今日は、本当にありがとうございました。今まで麻雀やってて、1番楽しかったです!」

「本当に? よかったあ~」

「そ、それで、その…………もし、よかったら、これ……」

 

 京太郎はもじもじと恥ずかしそうに、ラッピングされた小さい袋をとり出して、頭を下げて流行りに差し出す。

 

「た、誕生日、おめでとうございます!」

 

 その様子は、まるで好きな女子にラブレターを渡すようで、くすっと、はやりは笑みを漏らした。

 

「うわぁ、ありがとう! 何かな何かな~~?」

 

 京太郎のプルプル震える手や真っ赤な顔をみると、流石に「ファンの人からそういうのはNGなんだ~」と答えるわけにもいかず、とりあえずそれを受け取り、中身を確かめる。

 

「はや?」

 

 中から出てきたのは、麻雀牌の柄がプリントされた布だった。

 形状からして、何らかのカバーと思われる。

 

「ペットボトルカバーです。これから暑くなるし、使う機会は多くなるかなって……。

 やっぱりアイドルへのプレゼントって、食べ物やアクセサリーの類はだめだろうから、これならギリギリ許容範囲かなって………」

「はやぁ~……」

 

 まさか15歳の少年がそこまで気を利かせたものをくれるとは思わず、はやりは感嘆の息を漏らしていた。

 カバーには綺麗に萬子・筒子・索子・字牌がプリントされており、実にはやりのキャラにあっている。

 驚いたのが、洗濯表示のタグがどこにもない所から、手作りなのだろう。

 

「ありがとう、京太郎君! すごくうれしい誕生日プレゼントだったよ!」

 

 

 1か月後

 

「オゥ、はやりさんいいカバーですね?」

「えへへーいいでしょこれ?」

「どこのショップでゲットしたんです?」

「ファンの―――ううん、とあるかわいい男の子からもらったの。個人的なプレゼントとして」

「ワッツ!?」

 

 

 

おまけ

「ねぇ、咏ちゃん咏ちゃん」

「んー?」

「高卒で即プロお付きのマネージャーに就職ってどう思う?」

「はぁ? 何を言ってるのかわっかんねーんですけど」

「いやぁ、ちょっと若い燕を囲おうかと思いまして………」

「止せはやりん! 未成年に手を出すな!」

「いやぁ、でも人材としては優秀なんだよ? まだ高校生の男の子なのに、部活の裏方作業を文句ひとつ言わずに全部一手に引き受けて、ファンからアイドルへのNGラインを踏まえた誕生日プレゼントを用意してくれて、お裁縫も上手なんだよ?」

「ちょっと詳しく」




前にポケモンカードで、「応募券を集めて応募しよう! 
特賞は君の学校や会社にイーブイやピカチュウの着ぐるみが来るよ!」
みたいな企画があったのでネタに使いました。

私もはやりんと歳近くなったし、はやりんに甘えたり甘えられたい。

はやたんいぇい~


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