新しい“好き”という気持ち (小鴉丸)
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ep 01 いつもの日常
僕の中のリクサラを書き切りたいと思います。よろしくお願いします。
学校が終わり放課後、ミカミ・リクとヒダカ・ユキオはいつものようにガンダムベースへ向かっていた。
「今思うと凄いよね、あんな戦いがあったなんて」
「もう2ヶ月も前だもんなぁ」
第二次有志連合戦、暴走したレイドボスとの戦いが終わりサラが俺達の世界に来れるようになった。
その戦いから2ヶ月経ったある日、リクとユキオは当時のことを思い返していた。何故か、と聞かれると自然な流れでそうなっていたのだ。
学校帰りにいつものようにガンダムベースに行くとサラが笑顔で迎えてくれる。今では日常になってる光景だが昔……当時では考えもしなかったことだ。
「僕らみたいな普通の学生があの中心にいただなんて……何かの作品に入ったみたい……」
隣を歩くユキオはあの激戦を思い返しながら軽く感動に浸ってるようだ。
「それにさ!」
「わっ」
急に肩を掴まれ驚くリクを気にすることなく今度は興奮気味のユキオは鼻息を荒くしながら語る。
「最後のリっくんとサラちゃんなんてそれはもう物語の主人公とヒロインそのものだよ! いやー、思い出しただけでも感動するなぁ」
「あ、あはは……(感動したり興奮したり、忙しいなぁ)」
苦笑いするリクだが本人も当時のことを思い返す。
あの時は無我夢中だった。ただサラを助け出したくてという一心だけで行動しているようなものだったから。
「主人公とヒロイン、か」
今まで考えたこともないような言い方をされて内心驚く。
でも、どの作品の主人公達もあんな思いで必死に手を伸ばしていたのかな、なんて考えるのは少し楽しいというか胸が熱くなるものはある。
そんな中「あー」とユキオは何か思い出したように口を開く。
「……そう言えばリっくんってさぁ」
「ん?」
「サラちゃんのことどう思ってるの?」
「……サラ?」
突然の質問に意図が全く分からずに微妙なトーンで返事をしてしまう。
「あ、いや、別にどうってわけじゃなくて少し気になって」
なんかややこしい言い方だな、というのが先に思ったことだった。
「大切な仲間だって思ってるよ。それはユッキーも同じだろ?」
「そうだけど……」
口篭らせるユキオはまるで別の回答を待ってるようにも思えた。しかしリクにはユキオがどんな回答を求めてるのかが分からない。
「……好き、なのかなぁ……って」
「? 好きだぞサラのこと」
何故か照れるユキオとは真逆にリクは真顔で返す。
「もちろんユッキーもモモも、コーイチさんやアヤメさん、ナミさん、みんな好きだ」
「あ、あぁ……そういう……。うんうん、そうだよね、リっくんはそういう人だよね……」
一瞬期待に満ちた目を向けられるがすぐに冷めたように肩を落とされる。
リクとしては普通に答えたつもりだったが、その答えはユキオの待ち望んでいたのとは遠くかけ離れていた、らしい。
1人混乱するリクをよそにユキオはとぼとぼと歩き始める。
訳の分からないリクはそんな親友の背中をただ追いかけた。
「え、お、おい! どういうことだよユッキー! 言わないと分からないだろー!」
「リク!」
「おわっ」
「リク待ってた!」
「だから危ないってサラ。受け止めれなかったらどうするの」
「? リクならちゃんと受け止めてくれるでしょ?」
「いやそうだけどさ」
そのやり取りを少し離れた場所で見ていたユキオは自然と呟く。
「……これだよ」
「お、ユキオくんこんにちは。来てたんだね」
「コウイチさん……」
その呟きに反応、した訳ではないだろうがこのガンダムベースの店員でありリク達のフォース ビルドダイバーズのメンバーの1人であるナナセ・コウイチがユキオに声をかけた。
「どうしたんだい元気がないように見えるけど」
「まぁなんというか……」
ユキオが一点を見つめてるのでそちらに視線を向けるコウイチ。視線の先にはいつものやり取りをしているリクとサラが笑顔で会話をしている。
「リクくんとサラちゃんがどうかしたのかい?」
「……あれで付き合ってないんですよ?」
素朴な疑問。コウイチはユキオの言葉に対し「あー」と声を漏らす。
「あの2人はそういった感情はなさそうだもんねぇ」
「それは分かってるんですけど……見ててモヤモヤしません?」
「…………まぁ」
返ってきたのは間を置いた返事。しかしその間は肯定の意を含むもので、コウイチもそう思ってることの証明でもあった。
実際にあの2人が知ってるかどうかは分からないが、GBN内でそういう噂は広まっている。
第二次有志連合戦での最後の抱き合うのだったり、戦闘中継でよく映る2人一緒にコクピットに乗るのだったり、サラが手を重ねるのだったり……例を上げるとキリがないくらいだ。
「だけど」
コウイチは2人を優しい目で見ながら言う。
「そういうのは2人がそれに気付いた時に背中を押してあげようよ。無理に気付かせても、変に焦りそうなだけだし」
「そう、ですね……。なんかすいません、変なこと聞いちゃって」
「別にいいさ、ユキオくんくらいの年齢ならそういう感情は普通だよ」
珍しく頭をポンポンと軽く叩かれながら言われる。そうして会話が終わったところでリク達の場所へ戻るユキオとコウイチ。
あの2人がそういう感情に気付くのはまだまだ先の話なのだろう。そう、この時は思っていた。
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ep 02 リクとサラ
「リク、こっちこっち!」
GBNにログインしたリクとユキオは別行動を取っていた。
そもそも今日はログインしているのがリク、サラ、ユキオのみというのもある。
モモカは部活、アヤは学校、ナナミとコウイチは今日はガンダムベースを優先している。そんな訳で今日はフォースでの活動ではなく個人個人での行動になった。
ユキオはフォース 百鬼のドージと予定があったらしくすぐに別行動となり、今はリクとサラの2人になっていた。
「そんな走ると危ないぞー」
「あははっ、大丈夫ー!」
何が大丈夫なのかは置いといて、リクは楽しそうに前を行くサラの後ろを歩く。
それにしても、最近のサラはよく笑うようになったと思う。
自分では気付いていないだろうが、サラはみんなに笑顔を振りまいている。その笑顔は見る人の心を癒してくれて、どこか温かい気持ちになる。
そんなサラとリクはというと、現在はログインゲートから街へ移動して、特に目的なく店を転々としていた。
「わぁーっ!」
目に映るもの全てに興味を示すかのようにキョロキョロとしながら色々な店を見ている。
「(あ、そっか)」
おそらくだが、サラはこういう所に来たことがあまりないのだろう。少なくともリクは一緒に来たことがない。
あるとすればロータスチャレンジ後に大量のビルドコインを手に入れた時、モモカと出掛けた時だろうか。
それを抜きにするなら、少し違うがベアッガイフェスだろう。
「リク、リク! これ見て!」
「ん……おぉ、美味そう! じゃあこれ食べよっか!」
こくこくと頷く。
サラが目を付けたのはワッフルだった。メープルの甘い匂いに惹かれたのか、ピタリと移動をやめ、その店の前に止まった。
「すいません、これ2つください」
「2つですね〜。……ってあれ?」
「ん?」
注文をすると店の人に顔を凝視されてしまう。
普通に注文したつもりだが、なにか失礼なことをしてしまっただろうか。急に不安になってしまう。
「あなた達ビルドダイバーズの?」
しかし続いた言葉はその不安を打ち消すものだった。
「え、えぇ」
「あなたがリクくんでこっちが……あらあら、やっぱり可愛いわねぇ〜」
店の人はサラをジロジロと見る。
当の本人はいつも通りの様子だが、たまにリクにも視線を向けてくるから、変にむず痒さを感じてしまう。
「私、ビルドダイバーズを応援してるの。前のフォース戦見てたわよ。リクくん相変わらず上手よね〜」
前のフォース戦というのはおそらく先々週に行ったものを指してるのだろう。
第二次有志連合戦以降、リク達ビルドダイバーズの名前はGBN内に広まった。それに伴うかのように、フォース戦の申し込みが次々と来るようになっていた。
それは初めてのフォース戦、ロンメル隊に勝利した時以上の申し込み数でもあった。
という訳もあり月に何回か数を決めて、フォース戦を行っているのだ。
「あ、ありがとうございます……」
「照れなくていいのよ〜。本当に凄かったんだから」
あまりにも真っ直ぐに言われるので、恥ずかしくなって照れ隠しに頭を搔く。
そうこう話してる間にワッフルが焼き上がったらしく「次も応援してるわ」と言葉を添えられながら渡された。
「温かい……」
受けとるや否や、サラは小さな口を大きく開けてワッフルを食べた。
少し熱かったのか、はふはふと口を動かしていて、とても可愛いと思った。
「あははっ! サラちゃん可愛いねぇ〜。慌てなくても食べ物は逃げないわよ」
その言葉には耳もくれず、ただもぐもぐと食べ続けるサラは、どこか小動物に似た何かを感じてしまう。
「……リクは食べないの?」
ジーッとリクが見続けていたせいか、口にあるものを食べ終えたサラはリクにそう質問をしてくる。
その言葉で無意識の内に、サラを見続けていたことに気付いたリクは「ご、ごめん」と少し上擦った声で返事をし、ワッフルにかぶりついた。
別に謝らなくともよかったのだが、不思議と反射的にしてしまっていた。
なぜ謝ったのか分からなかったサラは、不思議な表情でリクを見上げていたのだった。
それからしばらく経ち、リク達はフォースネストでゆっくりとしている。
元々放課後でリクの時間がなかったのもあり、あのワッフルの店を見たあとは軽く街を歩いただけで終わった。
「ごめんな、あまり時間が無くて」
「ううん。とても楽しかったよ」
申し訳なさそうに言うリクと真逆に、とても満足そうに言うサラ。
何か満足できるようなことがあったとは思えないが、本人が満足そうなら良かったと思いつつ言葉を呑み込む。
休みの日なら長くいられるが、放課後とかだとやはりリクとしてはあっという間に過ぎてしまうから、悩むこともある。
どうにかしてサラと長くいたい。
最近のリクは、時間があればそんなことを自然と考えるようになっていた。
「……リク」
「ん、なに?」
展望台デッキからぼーっと夕日を眺めていると、横から声をかけられる。
そちらを向くと、サラはペンダントを両手で大事そうに包み込み、リクを真っ直ぐに見据えて言った。
「サラは、リクと一緒にいれるだけで嬉しい」
心を見透かされた、そう思ってしまう。
「みんなと一緒にいるのも嬉しい。だけどサラはね、リクと一緒にいるのが一番嬉しい。胸が、温かくなるの」
「サラ……」
サラは、ペンダントから手を離し、リクの手を両手で包み込むように握る。
「だから、心配しないで。どんなに短くても、リクといる時間は楽しいから、無理はしなくていいよ?」
あぁ、そうだ。サラは──。
「ははっ」
自然とリクは笑いが零れていた。
「ほんっ──と、サラにはお見通しだな」
でも、何故か嫌な気分はしない。むしろ安心してる、とでも言えるだろう。
……実際、サラの力にリクは何度も助けられてきた。そのことに感謝しているから、というのもあるだろう。
「それでも、俺はサラのために何かしたいんだ。もしも何かして欲しいことがあったら、遠慮なく言ってくれよ? ……恩返し、みたいなもんだからさ」
「リク……うんっ!」
タイミングよく話が終わった時に、先にログアウトしていたユキオからメールが届いた。内容はモモカの部活が終わりガンダムベースに向かってる、とのことだった。
そのメールはサラにも届いてるらしく、既にメニューを開いていた。
「それじゃあ、そろそろログアウトしよっか」
「うんっ。リク、また向こうで」
「分かった」
サラの身体が光に包まれる。
先にログアウトしたサラを見届けて、先程言われた言葉をリクは反芻していた。
『だから、心配しないで。どんなに短くても、リクといる時間は楽しいから、無理はしなくていいよ?』
「楽しい、か」
リクの言葉は誰もいないフォースネストに響き、消えていったのだった。
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ep 03 お泊まりの夜に(モモカ編)
GBNからログアウトしてフロアに向かうと、1人の少女がガンダムベースに走りながら入ってくるのが見えた。
「サーラーちゃーん!」
リクと同じ学校の制服を着てるその少女、ヤシロ・モモカはガンダムベースに入るや否や、真っ直ぐに肩乗せてるサラの元へ駆け寄ってきた。
「会いたかったよ〜!」
最近のモモカは部活であるサッカーの試合が近いらしく、そちらに力を入れている。そのため、平日は中々GBNにログインする時間がない。
しかし、こうして部活帰りにはガンダムベースに寄ってサラを迎えに来るというのはしている。
「お疲れモモカちゃん、最近頑張ってるんだって?」
「はい! やるからには勝たないと! ですからね!」
ビシッと拳を突き出すポーズをするモモカ。
「応援してるよモモカちゃん!」
「ありがとうユキオくん! 試合、絶対勝つよ!」
応援を貰ったモモカはそれはそれ、というようにリク──正確にはサラだが、の方を向き直す。
「さぁサラちゃん!」
妙に興奮気味のモモカは、手を広げてサラを受け止める体勢をとる。
しかしリクは肩に乗せてるサラを、自分の手に乗せてモモカに渡した。
「もう〜。リクくんってば心配性〜」
「別にいいだろ、一応だって」
帰る準備をしながら流すように答えるリク。
そんなリクに少し不満そうなモモカは、サラに向かって今夜何をするかを話し合っていた。
「いいもんいいもーん。今夜は私がサラちゃんと遊ぶんだからー。ねー、サラちゃん」
「うんっ」
「あー……まぁいいや。ユッキー、モモカちゃん、サラ、暗くなる前に帰ろっか」
何かを誤魔化すかのように頭を掻き、リクはユキオとモモカに帰るように促す。
「はーい」
「そうだね」
「それじゃあコウイチさん、失礼します」
「うん、また今度だね。気を付けて帰るんだよ」
コウイチの言葉に4人で「はーい」と返しガンダムベースを出ていった。
「いつも仲良しだねぇ」
「おわっ。急に出てくるなよ」
そんな4人の姿を少し離れた場所から見ていた、ガンダムベースのもう1人の店員でありコウイチの妹であるナナセ・ナナミがぴょん、と現れる。
「急もなにも、元々私ここにいたんですけどー?」
「今さっき奥から来ただろ」
ナナミの嘘に対して冷静に返すコウイチ。
嘘がバレたナナミは、バツが悪そうに舌を出し「ごめんごめん」と軽い様子で謝る。
先程までナナミは在庫の整理をしていた。
コウイチもここで働いているが、やはり先に働いていたナナミの方がそういう作業は早く終わるからだ。
……見方を変えれば、一方的にコウイチが押し付けたように見えなくはないが。
「ほらほら、そんなことはどうでもいいから、閉める準備手伝って。アヤちゃんが居ないから今日はやる気ないでしょ」
「な──っ」
予想外の名前を出され動揺するコウイチ。
そんなコウイチを見て笑うナナミはしてやった、といったように笑っている。
「ナナミお前なぁ!」
「わー! お兄ちゃんが怒ったー!」
再び店の奥に走り去って行く。
「全く……」
ため息をつきながらコウイチも閉店作業に移ったのだった。
「どーーーーん!」
「わぁ!」
モモカが自分の部屋に入るやベッドにダイブする。
「そして──キャーーーーッチ!」
ぽすっ、と中に浮いていたサラを流れるように手で受け止める。
その一連の流れが終わったあと、音がうるさかったのだろう「モモカー静かにしなさーい」と下からモモカの親の声が聞こえてきて、モモカが「ごめんなさーい!」と返事をした。
「モモ、いい匂いする」
「サラちゃんだっていつもいい匂いするよ〜」
お風呂上がりのモモカは寝間着に着替えている。
ピンク色の寝間着は、いかにもモモカという感じでとても似合っていた。
2人でベッドに横になりながら他愛のない話に花を咲かせる。
モモカは学校でのことを、サラはガンダムベース、GBN内でのことを、それぞれ話し合った。
最近のモモカは部活の試合のこともあり、平日はリク達のようにGBNにログイン出来ない。なのでこうしてサラにどんなことがあったのかを聞いたりしている。
逆にサラはモモカの学校での話に興味津々だ。
それはやはり、自分の足の届かない場所というのもあるが、サラ自身、学校でのリク達がどんなふうなのか気になってるからである。
こういった会話はアヤやナナミの家に泊まった時も同じである。
「モモが話してる時、とても楽しそう」
ふとサラがそんなことを言う。
「そりゃそうだよ楽しいんだもん! サラちゃんも毎日を楽しそうに話すじゃない? それと一緒」
笑顔で答えるモモカにつられ、サラも思わず笑顔になる。
「うん、私も毎日が楽しい」
「でしょー?」
2人は話を再開する。
まだ話し足りない、というようにモモカとサラは眠るまで話しを続けていた。
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ep 04 とある日のガンダムベース
「いらっしゃいませ……けっ」
「……お、お邪魔します……」
ガンダムベースに入るや男の声が女性の2人組を出迎えた。
ここで男というとコウイチになるだろう。しかし、今日は違った。
「いらっしゃいお姉さん達」
「う、うん……サラちゃんこんにちは……。えっと、そちらの方は?」
そちら、というのはサラよりも先に挨拶をした人物を指している。
その戸惑いように、サラは思い出したように2人に説明を始めた。
「今日はコーイチが少し遅れてくるから代わりにツカサがお店を手伝ってくれてるの」
「ったく、なんで俺が……」
穏やかに話すサラと真逆にぶっきらぼうな態度のツカサに2人組は少し怯えながら店の奥へ入っていく。
「へ、へぇ〜……。と、取り敢えず失礼します……」
小走りに逃げ去るかのように遠ざかる女性達を睨みつけるように見ながら、いかにも面倒くさそうにため息を吐く。
そんなツカサにサラは予めコウイチに言わていたことを話す。
「『接客は笑顔で』だよ、ツカサ」
「あー?」
片足を椅子に乗せるように座るツカサは、尚も面倒と言わんばかりに適当な返事をする。
「俺はなぁ、ここに居るだけでいいってあいつに言われたんだ。接客をしろなんて一言も聞いてないぞ」
「でもエプロン付けてる」
サラはツカサの姿を上から下へと見る。
ツカサはハロがプリントされてるエプロン──ガンダムベースの制服を着ていた。
「いやこれは……」
なんで乗り気ではないツカサが制服であるエプロンを付けているのか、それは少し前の出来事が関係している。
──朝、サラとナナミはガンダムベースで開店の準備をしていた。
「今日はコーイチ遅いんだね」
「んー、そうだねー。お兄ちゃんどうしたんだろ……」
いつもなら来ているはずのコウイチがなぜか来ていなかった。遅れる時は連絡を入れるはずなのだが、まだ連絡も届いていないから不思議に思っていた。
遅くまでガンプラを触っていたのか、それともGBNにログインしていたのかは分からないが、どちらにせよコウイチにしては珍しいことだった。
「連絡の1つも入れない悪いお兄ちゃんには何か奢ってもらわないとねぇ〜」
企むような笑みを浮かべつつ作業を続けるナナミ。
サラは机の上を片付けを手伝っていて、一通り片付いたところで休憩をしていた。
そんな時、自分の立っている机が振動しているのに気付く。
「ナミー携帯鳴ってるー」
ピョンピョンと跳ね、できる限り大きな声でナナミに知らせるサラ。「はーい」と返事しながら作業を一時中断しナナミは携帯を手に取り電話に出る。
「はいもしもしー?」
『ごめんナナミ! 別の作業してて少し遅れる!』
電話に出るや相手──先程の話の中心であるコウイチは、慌てた様子で謝罪をした。
「わっ……もうお兄ちゃん! そういうのはもう少し早く言ってよ! 人手が足りな──」
『あぁそれなら大丈夫だ! 僕の代わりに1人来るはずだから! それと僕は1時間くらいしたら来るから!』
「え、えぇ?」
立て続けに話されるためナナミは混乱している。
『あーそれとサラちゃんに』
サラの名前を出されナナミはサラの近くに携帯を置く。
「おはよう。どうしたのコーイチ」
『うん、おはようサラちゃん。僕の代わりに来るやつなんだけど、サラちゃんも知ってるようにひねくれてるから、僕が来るまで面倒見ててくれないかな』
「……?」
「ちょっとお兄ちゃん! さっきから誰が来るのか名前で言ってないけど、もったいぶってるの!?」
コウイチの口調からしてサラとナナミ、両方とも知り合いなのは分かる、しかし誰なのかが分からない。それはサラも一緒だった。
『えぇ? 別にもったいぶってるつもりじゃ……。あーまぁ、取り敢えず頼む! じゃあ!』
「え、ちょ、おに──切られた……。もうーー! なんなのーー!!」
謎を謎のまま、答えを与えられずに電話を切られてしまう。
ナナミは「もー!」と声を上げていた。
「…………朝からうるさいやつだな」
そこに女の声ではない、低い男の声が響く。
その声の主を2人は知っている。2人は声のする方へ顔を向けた。
「つ、ツカサ……さん?」
「ツカサ久しぶり。メンテナンスは今日じゃないよ?」
サラとナナミはそれぞれの反応を示す。
それはそうだろう。
誰があのシバ・ツカサが来ると予想しただろうか。
その上、この開店前のタイミングといい、先程までしていたコウイチとの電話の内容といい、あまりにも噛み合いすぎている。
「なんだ、わざわざ来てやったのになんで驚いてんだよ。それとサラ。メンテの日はちゃんと覚えてるから言わなくてもいい」
それぞれの発した言葉に返事をし、まるで元から自分の場所かのようにカウンターの椅子に座るツカサ。
そんなツカサに再確認を取るかのようにナナミが質問をする。
「え、えっとー……今日のお兄ちゃんが来るまでの手伝いって、もしかしなくてもツカサさんがしてくれるんですか……?」
「そんな奇妙な出来事が起きない限り自分でこんな場所に足なんか運ぶわけねぇだろ」
そう。先程コウイチが言っていた“代わりの人”というのは友人であるツカサのことだったのだ。
「なーにが『エプロン着ないとお兄ちゃんに言いつける』だ。あいつに何言われようがなんとも思わねぇって」
ブツブツと言葉を漏らしながらも何だかんだ店番を引き受けているツカサにサラは笑ってしまう。
「というか、わざわざ手伝ってやってんだ。むしろ感謝しろって感じだぜ」
椅子に背を預け天井を眺める。
「でもツカサは手伝ってくれてる」
「……何が言いたい」
「ううん、なんでもないよ」
「けっ」
そんな会話を交わした後、サラはいつものように接客、ツカサは不器用ながらもコウイチが来るまでの時間を潰していた。
言葉使いは荒いもののガンダムの知識はナナミよりも上のため、ナナミがツカサを頼ったりする光景が何度も見られたりした。
「そろそろコーイチのやつが来る時間か。っあー、やーっと帰れるぜ」
首を鳴らしながら手伝いがようやく終わることに満足そうにしている。
別にそんなに長くはなかったのだが、ツカサにとっては長く感じたのだろう。
その間、サラはツカサの代わりに接客を続けている。
「いらっしゃいま──あれ?」
店に入ってきた男性の2人組を見てサラは止まる。
「せやからGBNで聞いた話やとここに居るんやって──お?」
お互いに目が合いつい見つめ合う状態になる。
「なになに、アークくん何かあったの?」
「……アーク?」
その言葉にもうやる気のなさそうだったツカサが反応し、椅子から立ち上がった。
「よぉ。久しぶりだなお前ら」
「──は?」
「な──っ」
ツカサは目の前にいる2人とどうやら知り合いといった風に声をかけている。
サラは直接には片方としか話したことがないが。
お互いに見合う硬直状態の中、先に口を開いたのは白髪の青年だった。
「シバ……ツカサ……」
「よぉ奇遇だな“アーク”に“ゼン”」
こんにちは小鴉です。
ここで少し最後に出てきたキャラについて説明をします。
既に読んでる方は分かるかと思いますが、説明をしますとアークとゼンというキャラはアニメ ビルドダイバーズの公式外伝コミックである“ガンダムビルドダイバーズ ブレイク”に登場するキャラになります。
アニメと連動している部分があり、この作品ではその部分を使っていこうと僕としては考えています。
外伝を読んでないと伝わらない部分が今後少し出てくるかも知れませんが、できる限り分かりやすく書いてくつもりなので、よろしくお願いします。
(分かりにくい部分がありましたら感想にてくれれば次に投稿する時に前書き等で説明しようと思います)
長くなりましたが僕からのお知らせを終わります。
今回も読んでくださりありがとうございます。
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ep 05 ちょっとした再開
3人の雰囲気が突然変わった。
アークとゼンはツカサを警戒するように、ツカサは何かを企むかのように笑う。
「おいおい、そんなに警戒するなよ」
「別に警戒なんて……」
「ゼンくん」
何かを言いかけたゼンをアークが制止する。
「それより、そっちこそなにしてん。あんたみたいな人がここに居る方がおかしいってもんやろ」
しかし張り詰める空気は変わらなかった。
ツカサはここに縁こそはあるものの自ら進んで足を運ばない。それはここにいる誰もがそう思っている。
「はっ。そんなの聞いたところで何になる? 別にお前らには関係な──」
「ツカサ!」
そこに、一際大きな声が響く。
他人から見ても緊張の走っていた空気を打ち破ったのは、第三者の人物──遅れてやって来たナナセ・コウイチだった。
全力で走ってきたのだろう、コウイチは息を切らしながらガンダムベースに駆け込んできた。
「はぁ、はぁっ……! ツカサ──ってあれ?」
そこでコウイチはその場の妙な雰囲気に気付く。
気付くというか、ツカサがアークとゼンを睨むように見ていたのを、コウイチがおかしいと思ったのだ。
そう思ったコウイチの行動は早かった。
「ばか……お前っ。す、すいませんお客様! こいつが何かしたなら謝りますので、どうか──」
グイ、とツカサの頭を鷲掴み下げたのだ。
「……俺は何もしてねぇ!」
頭を捕まれ無理矢理下げられたツカサはイライラしながらその腕を振り払う。
それもそのはず。ツカサは実際コウイチが思ったようなことはしてないのだ。
「はぁ!? だって変な空気だっただろ! お前、絶対なにかやっただろ!」
「挨拶しただけだっつーの! 変に捉えたのはお前だ!」
コウイチとツカサの言い合いがヒートアップしていく。アークとゼン、そしてサラはその様子を見ることしか出来ずに眺めていた。
当然、言い合いをしているから声は大きい。ガンダムベースに来ている何人かの客はチラチラと2人の方を見ていたりもする。
その声はその場に居るもう1人の店員の耳にも届いていたようで……。
「ちょっと! 騒がしいと思って来てみたらなんで2人で喧嘩してるの!!」
声に気付いたナナミが見るからに不機嫌な様子でやって来た。
「いやこれは──」
「お兄ちゃんもツカサさんも、ちゃんと仕事して!!」
有無を言わさない程の剣幕で2人を怒鳴るナナミ。
そんなナナミ達をアーク達はやはり、ただ眺めることしか出来なかった。
『……疲れた、帰る……』
ナナミの説教後にツカサはそう言って店を出ていった。
慣れないことをした反動の疲れと説教による謎の疲れが重なったことによるものだろう。
その足取りはとてもフラフラとしていて、どれだけの疲れかが目に見えて分かった。
そんな自分の親友の状態に対しコウイチは「明日には治る」と言いすぎたと反省するナナミに言っていた。
「な、なんや……あのシバでもあんな顔するんやな……」
「う、うん。意外……というか凄かったね」
「こ、こほん!」
驚く2人にコウイチが一つ咳払いをし話しかける。
「ご、ごめんな君達……というか
アークがツカサのことを「シバ」と呼んだのを聞き逃さなかったコウイチはそのことを確かめるべく質問をしたのだ。
それを聞かれたアークとゼンは少し答えに悩むように考え込む。
「知り合いっちゃあ知り合いやけど……」
「まぁ、ただ知り合いってだけかな」
「そっか……」
苦笑い気味に言われる。
きっと向こうにも言いづらい事情があるのだろうと察したコウイチはそれ以上聞くのをやめた。
そこで思い出したように自分は店員、相手はお客様ということを認識する。
「あっ……と、取り敢えずごめん! あいつのせいで変な時間使わせちゃって! えーと、本日はどんな要件で?」
「要件っちゅーか……」
その言葉にアークはコウイチの後ろ──机の上に立つサラと目を合わせながらこう言った。
「サラと会ってみたくて、な」
「ふふっ」
そのアークの言葉にサラはどこか嬉しそうに微笑む。
「?」
そんな2人にコウイチは首を傾げていたのだった。
コウイチは2人がいつ知り合ったのか、どういった経緯なのかをアークから掻い摘んで聞いていた。
「──成程。あの時にアークくんとサラちゃんは出会ったんだね」
2人が出会ったのはサラがELダイバーとして身を追われていたあの頃。リクやコウイチ達のフォース“ビルドダイバーズ”のフォースネストから去り、運営の手から逃げていたあの時だ。
サラはそんなある日に寝ているところをたまたまアークに見つけられたらしい。
「うん。今でも『ちゃうねん』は覚えてる」
「いや、だからそれはちゃうね──違うんだって」
楽しそうに笑うサラと頭を抱えるアークは何だかんだ見てて楽しそうに思える。
「それに──」
「ん?」
サラはアークから視線をずらし、今度はゼンを見る。
「ゼンのことも、私は覚えてるよ」
「え? 俺?」
サラとは真逆に身に覚えがないような声をゼンは上げる。
「あの時は悲しそうにしてたから……あまりゼンは覚えてないだけかもしれない……」
「あの時……あっ」
その言葉でゼンもいつサラと会ったのかを思い出したようだ。
「でも今は違う。とっても、いい表情してる……2人とも」
何かを問いかけるように言う。
そのサラの言葉にアークが少し笑い、反応をした。
「ははっ! それはサラもやろ」
「私も……?」
アークは一呼吸置いて話す。
「あの時の俺らはお互いに大切なんが欠けてた。だけど、俺もサラもその後に繋がれたんやろ? 大切な人達と」
アークは今でもあの時サラに言われた言葉を覚えている。
それは一生忘れることのない言葉だろう。
「『本当に会いたい気持ちを込めれば必ず繋がってくれる』サラが言った通りホンマにあの後ゼンくんと俺は会えた。それはサラもやった」
第二次有志連合戦のきっかけとなったあのリクのメッセージはサラの思いが届いた結果でもあるだろう。
「今は1人じゃない。それが俺達もサラも、いい表情をしてる理由なんやないか?」
そのアークの言葉にサラは少し驚いたように口を開けている。
「そう、だね。私もリク達と繋がれてとても嬉しかった、だから自然と……ふふっ」
「はははっ!」
2人は同時に笑い出す。
それはきっと、2人にしか分からない感情なのかもしれない。
しかし、その瞬間の2人はサラの言ったように、アークの言ったように、とてもいい表情をしていた。
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ep 06 2人の関係
「あの時の話もいいけど、今の話もしよー!」とゼンが言ったので、その後アークとゼン、そしてサラは会話を楽しんでいた。
因みにコウイチは仕事に移りこの場から離れている。
その話の内容は様々で、GBNでアークとゼンは今何をしているのか、サラはここで何をしてるのか、などのお互いに知りたいことや最近の出来事などを話し合って会話に花を咲かせていた。
「そういえば、なんで2人はここに私が居るって分かったの?」
最初に思ったサラの疑問。
別に隠してるわけでもないが、逆にみんなに言いふらしてるわけでもない。なのでサラとしては、どうしてこの場所が分かったのかが気になっていた。
「最初は風の噂、かなぁ。元々は俺が小耳に挟んだ程度の話だったんだけど、それを聞いたアークくんが必死に聞き回ってね。それで場所が分かったわけ」
「ちょ……ぜ、ゼンくん!」
ゼンが話すのを恥ずかしそうに止めようとするアーク。しかし、ゼンは話すのをやめなかった。
「アークが?」
「その時は俺も理由は知らなかったけど、何かをサラちゃんと話したかったみたいだね。まぁそれが、さっきの話なのは聞いてて分かったけどね」
少し恥ずかしそうに話すゼンは照れ隠しに頬を掻いていた。
「アークにとってゼンはとても大切な仲間、だから。あの時、少ししか話してないけどそれはよく伝わってきたの分かる」
「〜〜〜〜っ! ありがとー! アークくん!」
サラの言葉に感極まるゼンは目を逸らしつつ立っていたアークに抱き着く。
「な、なんやゼンくん!? 急に抱き着かんでもええやろ!?」
「だってアークくんがそんなに俺のこと大事にしてくれるなんて……嬉しくて〜!」
真っ直ぐに気持ちを伝えられて恥ずかしいのかアークは、やはり目を逸らしつつも答える。
「……当たり前やろ。俺ら“
「ありがとーアークくん!」
「あ〜も〜! 分かったからそろそろ離れてくれやゼンくん!!」
ベタベタと引っ付くゼンを押しやるように手で押し返しながらアークも反撃する。
そして話を逸らすために大切な仲間繋がりでサラに質問をした。
「そ、それ言うんならサラだって一緒やろ?」
「私?」
「ビルドダイバーズのリク。あの子がサラにとって大切な人なんやちゃうん?」
「うんっ。リクもみんなも大切な仲間」
そこにアークから力づくで離されたゼンが加わる。
……余計な言葉を添えて、だが。
「それはそうでしょ。だってリクくんとサラちゃんは付き合ってるんだから」
「──ん?」
「??」
「え……?」
ゼンの言葉に対し不思議そうに反応する2人。それを見てゼンも変に声を出してしまう。
「なんや……リクとサラって恋人同士やったんやな」
「え、あれ、違うの? あれで?」
初めて知ったという感じのアークと冗談と思うゼン。
そのことを確かめるべくゼンはサラに直接聞いてみた。
「サラちゃんってリクくんと付き合ってる……んだよね?」
「? 付き合う? 遊びになら前付き合ったよ?」
「えっとー……リクくんのこと好き?」
「リクのこと? 好きだよ?」
「…………」
頭が痛くなり額を押さえるゼン。
話が噛み合ってるけど噛み合ってない状態。おそらくこれは続けても意味がないのかもしれない。
それを見越したアークが変わってサラに聞く。
「サラはリクが大切なんやな」
「うん、リクはとても大切な人。私と、一緒に居てくれるから」
アークにとってのゼン、それがサラにとってのリクである。
「つーわけや、ゼンくん」
「えー……でもだって、あれ絶対恋人──」
「あーもう! ええから、今日ははよログインするんやなかったんか!」
「え、あ……アークくん、そんなに押さなくても……!」
ドタバタと騒がしいままログインスペースへ2人が向かう。
「(……好き?)」
2人が奥へ行ったあと1人残ったサラは先程ゼンに言われた言葉を考えていた。
サラ自身、リクのことが好きだ。
それはコウイチやユキオ、モモ、アヤメ、ナナミ……ビルドダイバーズのみんなやGBNで知り合った人達、ここガンダムベースで知り合った人達も、みんなが大好きだ。
しかしどうやらゼンの言っていた“好き”はサラが思ってる“好き”とは違うらしい。しかし、サラはそれがどういう意味かが分からない。
「サーラーちゃん。……どうしたの、浮かない顔してるけど?」
「ナミ……」
1人で悩んでいるところに作業の終わったナナミがサラの様子を見に来た。
「えっとね、アーク達と話してて少し分からないことがあったから悩んでたの」
「アーク……あぁ! さっきの2人組ね。それで悩んでることって? 私でよければ話聞くよ?」
その言葉に「もしかしたら」と悩みをナナミに打ち明ける。
「ねぇナミ」
「うん」
「好き、ってなに?」
「うん?」
サラの悩みに対しナナミは目を丸くする。
それもそのはず、ナナミが思ってた悩みとかけ離れてた上に簡単なようでとても難しい悩みだったからだ。
「す、好き……好きかぁ〜」
直前にどんな話をしたらサラがそんなことを悩むのか不思議に思いつつ、ナナミは考える。
ひとえに好きと言っても2種類ある。よく使われることだが“like”か“Love”かというのだ。
サラの場合おそらく“like”の意味合いが強いと思うが……。
「うーんとねー、あくまで私が思うにだけど、好きって言うのは安心する、って感じかな〜」
「安心?」
「うん。一緒に居ると安心する、心が落ち着く……あとは楽しいとかかな? そんな人のこと、かなぁ」
「それなら私はみんなが好き。楽しいし安心するもの!」
「ふふっ! そう言ってもらえると私達も嬉しいなぁ〜! あ、だけどねサラちゃん」
そこでナナミは言葉を付け加える。
「あくまでこれは私の“好き”でその意味は人によって変わることが多いの。だから今度は他の人にも聞いてみてみるといいんじゃないかな」
サラの“好き”がハッキリと分からない以上はナナミからは深くは言えない。なので少し卑怯かもだが他の人を頼ることにした。
そのナナミの提案に納得したのかサラは頷いた。
「分かった! それなら今日リク達が来たら聞いてみる!」
「うんっ! いいんじゃないかな!」
リク達がガンダムベースに来るまでの数時間、サラはとてもワクワクした様子でその時まで過ごしていた。
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ep 07 サラの質問
その日の放課後、ユキオとモモカは困惑していた。
今日は息抜きに、とモモカがGBNにログイン出来る日。そしてアヤも日程が空いていたため、ガンダムベースに足を運びログイン出来る日という、久々にビルドダイバーズのメンバーが揃う日だった。
ガンダムベースに着いたリク達はサラやナナミ、コウイチと挨拶をしたあと、アヤが来るまでの時間でGBNにログインする準備をしていた。
そんな時、何でもないことを話すかのように、自然に出たサラの言葉でユキオとモモカは困惑することになった。
「リク」
「ん? なに?」
「リクの好きはどんな好き?」
「? ……好き?」
サラは至って真剣に、リクは訳が分からないというふうに首を傾げている。
実際、何故こういうことをサラが聞いたのかを知るのはナナミだけだが、そのナナミは仕事をしているせいで理由を聞けない。
「どんな……って、好きは好き、だからなぁ」
「うん。サラもそう思う」
ついでに言うと、2人が話す内容に困惑しているのも事実だ。
「だけどナミが『好きの意味は人によって変わる』って言ってたから」
「あぁ、それで俺に聞いてみようと思ったわけか」
リクは成程、と頷くもののすぐに唸り出す。
結局のところリクの“好き”の答えが出ていないからだ。
「うーん……」
そこには答えを考えるリクをただ無言で見守るサラ──達を変な気持ちで見るユキオとモモカ、という変な構図が完成していた。
「り……リっくん、頑張れ──!」
「リクくん……!」
謎の応援が聞こえる中もリクは必死に考える。そして……。
「……こ、これ一体どういう状況……?」
少し遅れて到着したアヤがその光景を見て不思議に思うのだった。
「──つまり、サラちゃんは好きの意味が知りたいってこと?」
「うんっ」
ことの成り行きをサラから聞いたアヤは少し考えた後サラに質問をする。
「因みにだけど。サラちゃんの“好き”はどんなの?」
「私の?」
言われればサラ自身そのことを考えていないことに気付く。
好きな物はいくらでも思い付く。だけど“好き”とは何だろうか?
数ある中で1番に思い付くのは、ナミの言ったような一緒に居て落ち着く人、アークに言われた大切な人……だろう。そしてそれは──。
「私……リクが好き。だから私の“好き”はリクだと思う」
「「!?!?」」
「あ、あはは……」
サラの発言に当然驚く外野2人になんとも微妙な様子のアヤ。
追い打ちをかけるかのように、その会話を聞いていたリクがそこに割り込んで更に話をややこしくするような発言をする。
「え、そういうのでいいの? それなら俺もサラが好きだよ」
「リっくん!!」
「サラちゃん!!」
その様子を見ていたユキオとモモカはすぐさま名前を呼んだ方に抱き着きに行く。
「流石だよリっくん! もうなんて言うか、清々しいくらいだよ!」
「え、何が?」
モモカとサラは身長差があるため近くに寄って目線を合わせるだけだが、ユキオは普通に後ろから抱き着いた。
ガンダムのことを話すようなテンションとは違う感じで盛り上がってるユキオをリクは冷めた様子で対応する。
「ごめんごめん! ナナミのやつが手伝えって言ってて──って、随分盛り上がってるね。何かあったのかい?」
「あ……こんにちはコウイチさん。えっとですね、サラちゃんが“好き”を調べてるらしくて……」
そこまでアヤが言ってコウイチは何か納得したように「そういうことか、ナナミのやつ……」と呟く。
「何かあったんですか?」
「『面倒なことになってたらごめんね』なんて言われてたから何だろうな、って……。確かにこれは面倒だなぁ」
頭を掻きながらその不思議な空間を眺めている。
「まさかこんなことになってるなんて。これ、どう収拾をつけるんだよ……」
「と、とりあえず時間に身を任せときましょうか」
盛り上がる4人とそれを見守る2人で分かれたその日は、結局GBNにログインすることはなかった。
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ep 08 お泊まりの夜に(アヤメ編)
『あ、アヤくんとサラちゃんは帰ってていいよ。こっちは僕が何とかしとくから』
『え……でも……』
『大丈夫大丈夫。僕も含まれるけど男は単純だからね、言いくるめるのは割と楽なもんさ』
『えっと、それじゃあ……』
──なんていうやり取りの後、アヤはサラと共にガンダムベースを出て家に帰宅した。
その後ガンダムベースに居たメンバーがどうなったかというと、宣言通り上手くコウイチが収拾を付けたという。
「アヤメの家、久しぶりに来た」
「そっか。前に来たのは結構前だったもんね」
アヤの家にサラが泊まるのは約1ヶ月ぶりくらい、学校や家の都合が中々合わなかったから泊まれなかったのだ。
「でも今日から元通りだよ。私、モモカちゃん、ナナミさんの3人だね」
「うん! またSDガンダムのこといっぱい聞けるから嬉しい」
「私も嬉しいよ。サラちゃん勉強熱心だから教えがいがあるからね」
ビルドダイバーズの中で唯一のSDガンダム使いであるアヤの話をサラはいつも目を輝かせながら聞いている。
逆にそれはアヤも同じで、そうやって楽しそうに話を聞いてくれるサラがいるからアヤ自身、とても楽しく話せれているというのもあるが。
アヤは今夜は何を話そう、と考えながらガンプラを机の上に並べる。
丁度サラの目の前にアヤのRXー零丸を置いたところで、サラが思い出したようにアヤにあのことを問いかけた。
「そういえばアヤメ」
「ん? 何かあったサラちゃん?」
「アヤメの“好き”も聞いてみたい」
「……わ、私に来ちゃったか〜」
薄々アヤも質問されるんだろうと思っていたためそこまでの衝撃はなかった。しかし、いざ自分が答えるとなるとどういう風にすればいいのか悩んでしまう。
学校内でそういった経験がないアヤにとって、この質問は中々の難問だった。
女友達の話を聞くことがあっても自分のこととなると、そんなに話題があるわけではない。
「んー……」
そう、あるにはあるのだ。しかしそれを話していいのかと自分の中で悩んでいるだけで……。
「…………」
口ごもるアヤを無言で見つめるサラ。
そんなサラは自分の前にある零丸に手を触れ目を閉じた。
「それじゃあ──」
零丸に触れたままサラは再び質問をする。しかしそれは他の人ではなくアヤだけに向けた質問で……。
「アヤメ、コーイチを見てる時何か違う。あれはいつも何を考えているの?」
「え!?」
サラとしては普通の質問だったのだが、アヤからしてみればそれは的確すぎて怖い質問であった。
「頼りない……優しい……嬉しい──」
「ま、待って! それ以上言わないで! 自分で……自分で言うから!!」
サラは機体を通し心を見抜く。
アヤは普段口に出さないことを見透かされてムズムズと変な気持ちになる。
それは
嘘だろう、という気持ちもあるがリクはそれが聞こえたという。そしてそのおかげで今のダブルオースカイが存在する。
「き……気になるから、見てる……」
「気になる? コーイチが?」
悪意のない純粋すぎる質問に苦しめられる。
「う、うん。一緒に居ると自然と視線がそっちに行っちゃうの。自分でも無意識……でも、心が暖かくなるの」
アヤは思い出す。零丸を改修した際にコウイチに褒められたことを。
あの時から、少しづつ変わっていったのだと思う。
「……サラちゃんは」
誤魔化すかのようにサラに話を流す。
だけどこれは、アヤの抱く気持ちの名前を知らないサラへのヒントとなるだろう。またそれは──。
「そういうこと、ないかな? その人が来るのを待ってたり、一緒に居て楽しい人。無意識にその人を考えたり……その人を追ったりすること」
「私……?」
サラはまだビルドダイバーズのみんなと出会う前のことを思い出す。
データの海、その中で人々の想いから生まれた。色んな感情があったと思う。
生まれたばかりのサラは何も分からなかった。自分がどうすればいいのか、何をすればいいのか。
だけどそんなある日、1人の男の子に目が止まった。
その男の子はGBNに触れたばかりで、ただただ楽しんでいた。真っ直ぐに、純粋に、ただただゲームを楽しんでいた。
『──リク』
そんな男の子がサラは気になった。
そしてその興味は、今でも残っている。
「私……」
むしろ昔よりも大きくなって。
「アヤメのコーイチに当てはまるのはリクだと思う。だって、いつもリクのこと考えてるから」
「ふふっ、そっか」
アヤは真っ直ぐに言えるサラを凄いと感じた。
「(きっとサラちゃんはその気持ちに気付いても堂々と言えるんだろうな)」
「アヤメ」
「ん、どうしたの?」
サラは微笑みながら、それでも少し悩みが晴れたような表情でアヤと話す。
「今日はそのことについて話したい。アヤメがコーイチのことどう考えてるのか」
「うぇっ!? う……そ、それなら私はサラちゃんがリクくんをどう思ってるか聞きたいかな〜?」
2人の話は続く。夜は、まだ長いのだから。
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ep 09 お誘い
「おーいリク君、サラ君! こっちだ!」
極東ベースのロビーにあるカフェコーナーの入口で2人を呼ぶ声が聞こえる。
「キョウヤさん!」
名前を呼ばれたリクはそちらへ駆け出す。そこには2人を呼んだクジョウ・キョウヤが手を振り立っていた。
「急に誘ってしまって申し訳ない。久しぶりに2人と話したくなってね」
「いえ! 俺も話したいって思ってたところです!」
「はは、それは嬉しいね。さて、立ち話もなんだし中に入ろうか」
「はいっ!」
3人でカフェコーナーへ足を運ぶ。
今日はキョウヤに誘われたためGBNへ丁度ログインしていた2人がその場へ向かったのだ。
「今日は僕の奢りだ、何でも好きなのを頼んでいいよ」
「!」
その言葉にサラは目を輝かせる。そして素早くメニューを取り出しパラパラとページをめくる。
そんなサラを苦笑いでリクは見ていた。
「……こうやってゆっくり話せる日があるのは、とても良いものだね」
「そうですね……」
約2ヶ月前の第二次有志連合戦、それがあったからそう思ってしまうのだろう。
お互いに守りたいものを背負いながらの戦い。絶対に負けられない、絶対に勝たないといけないそんな戦い。
その戦いはリク達ビルドダイバーズが照らした未来への可能性が示され終わりを迎えた。
「──見苦しいかな。今でも思うんだ、あの時、もっといいやり方があったんじゃないか……って。あんな形で戦わなくてよかったんじゃないかって」
「キョウヤさん……」
キョウヤの言葉はいつかリクが言った言葉に重ねられる。
『いつかあなたと戦いたい! 戦えるようになれますか?』
『……待ってるよ』
憧れから来る純粋な気持ち。その純粋から生まれた言葉は2人が予想もしない結果で叶ってしまった。
結果として2人は全力で戦った。
数ヶ月前にGBNを始めたプレイヤーと現チャンピオンが全力で戦ったのだ。そしてそれは、1人助っ人が入ったもののリクの勝利として幕を閉じた。
その時のことをキョウヤは今でも悔やむ。自分の不甲斐なさに、自分の弱さに。
「でも──」
リクは思い出す。
あのレイドボス戦で全ダイバーが繋がった時を。キョウヤが背中を押してくれた時のことを。
「それでも、キョウヤさんは俺達を進ませてくれました。前へ……未来へ、進ませてくれました。その事を、俺は今も感謝しています」
「そう言って貰えて本当に嬉しいよ。気が軽くなる」
微妙に重い雰囲気が漂う中、それを元気な声が振り払う。
「リク! 私これ食べたい!」
2人が話してる間サラはずっとメニューと向かい合い注文を決めていたのだ。
そんなサラの様子に2人は思わず笑ってしまう。
「ははっ! サラ決めるの早いよ」
「リクの分も決めてるんだよ? えっと──」
メニューを指差しながらリクとサラは幸せそうに笑い合う。その姿をキョウヤは久々に見た気がし、この笑顔が残ってよかった。と、心から思う。
「おや、それだけでいいのかい? もっと頼んでもいいんだよ?」
「いいの?」
「勿論。なんせそのために呼んだようなものだからね」
「やった! ありがとうキョウヤ!」
「あ、ありがとうございます!」
キョウヤは思う。本当に、この笑顔が失われなくて良かったと。
「リク、リク! これも美味しそう!」
「うわっ、ほんとだ! ……でもサラ、食べれるの?」
「うんっ! リクと半分にして食べるから大丈夫!」
「勝手に決められた……」
「はは、リク君大変だね」
「うう……。キョウヤさんも見てないで助けてくださいよぉ〜」
こうしてゆったり出来る時間があるのは、2人のおかげでもある。
そのことを口には出さないが、心の中で感謝するキョウヤであった。
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ep 10 相談
「ところでリクくん話というのは?」
サラが満足そうな表情を浮かべているのを見ながらキョウヤが話を切り出した。
「あ、はいっ! えっと……ちょっとした悩みなんですけど……」
「ははは。遠慮する事はないさ。悩みなんていつでも言いに来ていいのに、僕でよければ力になるからさ」
「あ、ありがとうございます……!」
リクは戸惑いつつも嬉しく感じた。
GBNを始めたきっかけであるトッププレイヤーから“いつでも”と言ってもらえるのだ。
いつの間にかリクとキョウヤは深い絆で結ばれていて、お互いに心を許している関係になっていた。
「それで質問なんですけど」
「うん。僕でよければその悩み、解決させてくれないかな」
リクはキョウヤの目を見据えて最近の悩みを打ち明ける。
「好き、って何なんでしょうか?」
「…………ん?」
聞き間違いか、と首を傾げる今キョウヤ。
そう、リクの悩みというものはキョウヤの考えていた悩みとは全く違うものだった。
「──成程、そういう事なんだね」
一連の流れを聞き終えたキョウヤは飲み物を口にする。
「なんか俺の知ってる“好き”とみんなの言う“好き”が違うらしいんですよね。ユッキーもモモカちゃんも何か変な反応してたし……」
キョウヤは美味しそうにパフェを食べるサラをチラリと見る。
「うーん……」
キョウヤは微妙な表情を浮かべながらなんと返すか悩む。
おそらくだが、リクの知りたい“好き”というのは恋愛方面の……男女間での交際などで使う好きなのだろう。だけどリク本人はその好きにたどり着かない。だからキョウヤを頼ってきたのだろう。
「(さて、どういう風に返すか……)」
「はいリク。あーんっ」
「ってサラ、少し待っててよ」
悩むキョウヤをつゆ知らず、サラはいつものようにマイペースなままだった。
「そうだ、時にリクくん」
「? はい」
「君はこの世界を──GBNを、ガンプラをどう思ってるんだい?」
その質問はいつかリクが発した言葉に通づるものがあった。そして勿論、と言わんばかりにリクは反応する。
「大好きです。この世界も、ガンプラも、俺に色々なものを授けてくれましたから」
「──そういう“好き”と同じさ、リクくんが今探しているものは」
「同じ……?」
リクは分からないというように首を傾げる。
「何かを大切に思う気持ち。それは形あるものでも無いものでも同じさ」
「……?」
全く分からない様子のリクを見てキョウヤは少し面白くなりクスリと笑ってしまう。
「ん……。今日のキョウヤさん、何だか意地悪ですね……」
「ははっ、そうかい?」
……でもねリクくん。答えはすぐ近くにあるんだよ。
心の中でキョウヤは語りかける。名前のないその想いにリクが気付くことを信じて。
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ep 11 ボーイズトーク
「──って事があってさ」
「キョウヤさん……」
リクはこの前の出来事をユキオに話していた。GBNチャンピオンであるキョウヤとの他愛のない会話。そして、リクの最近の悩みである事について。
リクとしては真面目な話なのだが、ユキオはいつものように真摯に相談に乗ってくれるわけでなく、どこか諦めたようなトーンで頷き続けていた。
「ちょっとユッキー。聞いてるの?」
「リっくん」
そしてなんの前触れもなくガシッとリクの両肩に手を置いて。
「作戦会議をしよう!」
「…………はぁ?」
そんな事を言ったのだった。
「──と、言うわけで! 第1回! ボーイズトーク〜!」
「いぇ〜〜い! ボーイズトークよぉ〜!」
「どうしてこうなった……」
リクは頭を抑えため息をつく。
先程の出来事、それからのユキオの行動はとても素早かった。連絡をありとあらゆる人に入れ、場所を確保し、モモカなどにはそれっぽい理由を付け見事男子限定の話し合いの場を作ったのだった。
「あら、こんな楽しそうなこと乗らないわけないじゃない」
「だな。ちょうど暇してたから俺は大歓迎だ」
「僕は……まぁ流れで、かな」
今リク達がいる酒場であるアダムの林檎を提供したマギー。ユキオに声を掛けられ来たタイガーウルフことオオガミ・コタロー。苦笑いしつつ椅子に座るコウイチがリクの独り言に反応する。
やたらテンションの高いユキオは「さて本題に入らせていただきます!」と進行役を受け持つ。
「今日集まってもらったのは他でもありません。我らがフォース ビルドダイバーズのリっくんについてです!」
と、そこでコタローが反応する。
「リクがどうかしたのか?」
「あら? コタローちゃんは今日集まった理由知らないの?」
「あぁ。ただ面白い話があるから、ってしか聞いてないからな」
どうやらコタローは何故このボーイズトークが開かれたかを知らないようだ。……いや、敢えて内容を言わないことによって興味を持たせるユキオの姑息な──作戦なのかもしれない。
「ふふふ。それについては今から話しますよ」
待ってましたと言わんばかりに話す。昨日のリクの出来事を、そしてそこで何が話されたのか。
「あらぁ〜」
「へぇ、チャンプがねぇ……」
「……ふむ」
それを聞いた3人の反応はそれぞれだった。
両手を合わせてニヤニヤとするマギー、意外そうにするコタロー、そして何かを考え込むコウイチ。
「そうねぇ……。リっくんは確かにこの手の話は疎そうと思ってたけど……」
「まさかここまでとはな……」
マギーとコタローは何か理解したようなことを言ってる。そんな2人を見て、ジュースを飲みながらリクはモヤモヤとする。
「2人までユッキーみたいなこと言わないでくださいよ」
飲み物を口に含み飲み干したコタローが真面目な表情でリクに話しかける。
「“好き” か。確かにそれは人によって意味が変わるな」
リクは頷く。
「違うのはそれぞれがその言葉を聞いて思い浮かべるのが違うからだ。ここにいる連中だってそうだ、全員好きなものが違うはずだ」
付け加えるように「ガンプラは同じだかな」と言う。
それはそうだ。そうでもないとこんなに悩むものでは無い、とリクは思う。
とは言っても、リクはその言葉で仲間やライバルの顔を思い出す。みんなもそれは同じなはず……。だけど何が違うのだろうか? それがリクには分からなかった。
「──でもそれは
マギーさんが言葉を拾う。でもその言葉に更にリクは疑問が生まれてしまう。
やはりリクは自分以外は
だけど
顔をしかめていたリクを見てコウイチがこう言う。
「あまり悩まないで……って言うのはおかしいけど、本当はリクくんは知っているんだよ。ただそれ以上に目の前にある壁が厚すぎるだけなんだ」
「壁……?」
「うん。でもその壁が厚いことは悪いことではないんだ。……っと、僕が言えるのはここまでかな」
「いいアドバイスねコーちゃん」
「これくらいしか出来ないのはむず痒いですけどね」
マギーのウインクに苦笑い気味に応える。
「リクくんなら気付けるよ」
「そう、ですかね……?」
たどたどしい返事。それにコウイチは「こればっかりは自分で気付かないとね」と付け加える。
「今のリクには分からないかもしれないが、これだけは覚えててくれ。──俺達はお前の味方だ。何があっても、な」
GBNと同じような頼り甲斐のある顔でコタローが言う。
“お前の味方” という言葉の意味をリクは知らない。だけどここにいる全員はコタローの言葉に深く頷いていた。それは全員がリクの味方、ということの表れで──。
「よ、よく分からないのは変わらないけど……ありがとう。みんな」
リクは感謝の言葉を述べる。
そう。いつかきっと、その日は近いのかもしれない、その
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ep 12 その頃のガンダムベース
A:生きてます d('∀'*)
「──これはどういうことなの!?」
「まぁまぁ。モモカちゃん落ち着いて……」
「むーっ。なーんか2人の様子がおかしいと思ったら……」
アヤが学校が終わりガンダムベースへと足を運ぶと、カウンター付近で何故かモモカが腹を立てていた。ナナミはそれを鎮めようと、サラは何が何だかとキョトンとしている。
「こんにちは。えっと……何かあったんですか?」
「お、アヤちゃんこんにちはー!」
「アヤメ、こんにちは」
カウンターに集まっている面々に挨拶をし事情を聞こうとする。……が、その瞬間目の前にモモカが現れ、それを遮った。
「アヤさん聞いてくださいよ!」
「え、え?」
「リっくん達、男子だけで集まって秘密の話してるらしいんですよ! チームメイトを省くなんて……何事って話ですよ!!」
「う、うーん……大事な話、なんじゃないかなぁ?」
「そういう事じゃなくてー!」
ぶんぶんと腕を振る。
「絶対面白い話じゃないですか! わざわざ女の子だけ省くだなんて!」
「あぁ……」
そういう。
そこでようやくアヤは何故モモカが腹を立ててるのかを察した。要は面白い話に加われなかったからこういう状態になっているのだ。
「んー、でもほんとだよね〜」
ナナミも何処か腑に落ちないと言った様子で話す。
「お兄ちゃんも変な感じでどっか行っちゃったし……。あれは確実に隠し事してるやつだね」
「コウイチさんが?」
アヤはそれが意外に思った。
「私もそう思う。あの時のコーイチ何か隠してた。目を逸らされてたし、ワタワタしてたから」
「もしやコウイチさん……彼女がいたり!?」
「えぇ〜? ないない。あのお兄ちゃんに彼女だなんて、ここの人達ぐらいしか女性とかかわりないんだよ? そんな事あるわけないよー」
笑いながら2人は話す。
──が、そんな中とある人物はそれが気が気でないようで……。
「アヤメ?」
「ふぇっ!? な、なに?」
「どうして慌ててるの? なにかあった?」
「えー……っと……」
サラの質問に対し目を泳がせるアヤ。
数秒の沈黙。言葉を探すアヤをモモカとナナミは見逃さなかった。
何故動揺してるのか、何故言葉に詰まってるのか……それは──。
「アヤちゃんのその反応……それってもしかして……」
わざとすぎるパスにモモカは指を立ててどこか嬉しそうに話す。
「アヤさんはコウイチさんがす──」
「わ! わーっ! わーっ!!」
モモカの言葉を必死に掻き消す。そこにいつものクールなアヤの姿は無かった。
「……アヤメ必死そう。どうして?」
「ど、どうしてって……」
サラの質問に顔を赤らめながら言葉を濁す。
「ふっふっふ。薄々思ってたけど確信に変わりましたよアヤさん! 私は応援します!」
「お兄ちゃん……いつの間にアヤちゃんを……。でも確かにそんな感じはしてたけども……」
一方、両者の反応はそれぞれ。モモカはガッツポーズしつつアヤの応援を宣言、ナナミはブツブツと独り言をしていた。
そしてサラの方をぐるっと向いて自信満々に話す。その時のモモカはとても目を輝かせていた。
「ち な み に ! サラちゃんの疑問は私が答えるよ!」
「……?」
「向こうがボーイズトークをするならこっちはガールズトークだよ!」
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