まんぼうちゃん (海原翻車魚)
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始まりの1ページ

 どうも、海原です。
 今回は二次創作の方ではなく、書き手の書きたかったものの投稿となります。(まあ、時間が取れなくて収穫祭の時期とモロに被りましたが。)
 一次創作は久々なので至らないところばかりですが、この話にお付き合い頂けると書き手冥利に尽きます。
 それでは、どうぞ。


__________________________序章(とある男)________________________

 

 現代日本。

 都内のアパートの一室。

 年季の入った室外機のけたたましい駆動音が部屋に響く中、真ん中に横になっている住人の男と、カーテンで日差しが遮られている部屋の暗さと相反する明るさ最大のテレビ。

 男は眩しさで目を細めながら昼のワイドショーを見ていた。

 

 『今日未明、……町の山中で………ちゃんの遺体が発見されました。遺体は死後二、三日経過しており警察は現在加害者と思われる両親に対し容疑を追求しています。』

 

 このナレーションと共に写し出された被害女児の親の写真を見た男は。

 「ガキがガキ作ってお涙頂戴ってか?くそ食らえだ。」

 そう悪態をつくほど両親の年齢は若かった。

 親の写真をアングルを変えて写している映像が流れる間、被害女児をどうしたのかの供述の音声を流していた。

 学校をサボっていたのかと疑いたくなるほど拙い喋り方と逆ギレする録音音声がテレビから吐き出される。

 要約すると、被害女児の両親の親からは二人とも勘当され子供が第一次反抗期に入ったことに腹を立て凶行に及んだそうだ。首を絞めて殺した後は持ち運びしやすいように四肢を切断し達磨にし切断面を焼いたとも。

 この手のニュースは男の好みでは無いらしく長机に座った芸能人や専門家が議論を始める前にテレビを消してしまった。

 今日の依頼は何だったかと男はぼやいた所で呼び鈴が鳴らされる。

 この部屋にはインターホンや覗き穴は無く外に出てみないと訪問者が分からないし、それに付け加えてチェーンロックなんてプライバシーに配慮した物も無いためドアを開けてみないことには誰が来たかなんて分からない。

 やれやれと思い男は鍵をひねりドアを開けた。

 男を訪ねてきた者は男の知る人間ではあったが、どうしたのかと話しかける余地もなく男を消音器付の拳銃で撃ち殺した。

 その後、とあるアパートの一室から広がった不審火のニュースが同じワイドショーに取り上げられることになるのだが男が知ることは永久に無い。

 

 

 

 

 

 

___________________序章(悩める人ならざる者)____________________

 

 

 「はあ…。」

 溜め息を一つ。

 人間達の住む世界で言う接客業を担当する僕はとても厄介な案件を回された。

 そもそも、最近増えてきた転生者を因果律を弄ることによって増加率を減らす為の部署なのにどうしてこちらにまで転生の斡旋をしなければならないのかと自問する。その行動に意味は無いがそこまで関係ない仕事を回されると苛立ちが募る。

 営業だから笑顔を忘れるなという上司の言葉がフラッシュバックする。天界と呼ばれるこの白い部屋に来る者の魂は皆等しく眠りについているというのに笑顔を取り繕うとは意味が分かりかねる。

 ここに魂が回ってくるということは、いよいよ本部署に魂が殺到しているのだろう。転生でも何でもいいからちゃんとした部署に仕事を回して欲しいというのが切実なところだ。

 「さて、今回の魂は…。」

 座っていた机から徐に顔を上げる。

 不幸にも溢れた死者の方々は如何程に?

 男が一、女が一、物が一。

 正確に言うなら、“烙印付き“の男とこれまた烙印の付いた未来を閉ざされた女児、不思議な形のぬいぐるみが一つだ。

 “烙印付き“は経歴自体に傷は無く烙印が付くような者ではないと直ぐに分かる。罪人の犯した業を天界では烙印と蔑んでいるのだが、目の前の男の魂には業は見当たらなかった。ふと目についた男の職業で漸く合点がいった。

 人を傷付けることすらしたことがない暗殺者。

 この男の烙印は今世で首を突っ込んだ狭い世界での烙印が魂に刻まれたパターンだ。

 「最初から面倒だなあ。」

 烙印付きである以上、管轄は天ではなく地になる。

 しかし、経歴と烙印が一緒でないと地獄へは落とせない。

 ひとまずは保留だ。

 この幼女は…。

 おかしいな?経歴に烙印が付くわけが無いのに…。

 規定にはこんな珍妙なパターンの対処法は無い。

 管轄を下に持っていく方が廻すより楽なんじゃなかろうかと他の同僚が聞いたらとんでもないと言われることを思ってみる。

 こっちも保留だ。

 最後の物の魂だが…。

 どうも幼女に寄り添おうとしている風に見える。魂を弄り、幼女に近付けてみると二つの魂はとても安らいでいた。

 どうしたものかと唸っていると後ろから僕と似た中世ローマ風の服を纏った女がヒールの音を鳴らしながらこちらへ来た。

 そいつは透き通る様な明るいベージュ色の髪をしていて、瞳は慈愛を感じさせるように茶色い。

 「ふーん…。」

 蠱惑的な声で僕と魂達を一瞥すると、同業の女は口を開いた。 

 「一緒…っていうのはどうかしら?」

 ドキリとさせられる一言に感じるが、これが素のままで紡がれるのは日常茶飯事だ。最近もコイツのこういう発言が原因で他部署に追いやられた奴もいたなあと思ってみたは良いもののコイツの対処を先に済ます。

 「一緒ってどういうことだ?」

 「貴方、遅いし短いのねえ?」

 ねっとりとしているのにしつこくない発言は艶かしさを帯びていた。しかし、言葉の色気に騙されるなかれと言い聞かせる。誰が短小遅漏包茎だ。

 「誰も貴方が被っているとは…。」

 「ほっとけ!それよりもこの魂はどうするんだよ。つーか、一緒って何さ。」

 「あら、熱いのねぇ。」

 「普通に喋れ!普通に!」

 「もう…いけずぅ。」

 「…ったく。原始的解決策を実行しようか?」

 握り拳をこしらえてふりかぶりかけている僕を見て、制止するようにと右手の掌を突きだし左手で咳払いをする女。反撃する策を講じておきたい。

 「一緒っていうのは…そうねえ。」

 言葉を探すように考え込む女。言語化してから話せというんだ。

 やがて文章に出来たのか喋り始める。

 「繋がりがあるのは女の子と物なのよね?」

 「よく分かるな。」

 「まあね。」

 女はその滑らかな髪をサッと流し、自慢気な顔をこちらに見せる。

 まともに相手をする必要は無いと心の中では流し要点のみを話すように促す。

 「それで男と女の子は接点が無い。なら、物と男の魂を同じ素体に突っ込んじゃえば良いのよ。丁度、ウチの部署が考案したやけっぱちの案があるじゃない?」

 「げぇっ?!“アレ“をやるってのか?!つーか、上に認可通してないだろ!」

 “アレ“とは『孤児虎児化計画』のことだ。略称は"コジコジ"。名前や略称こそふざけているが、神もしくは使徒たる天界の者を特殊な能力を付加した幼い転生者につけて転送・転生させるというものだ。虐待が多い昨今ならすぐに可決されること間違い無しの案だ。

 が、頭の固い上が難癖をつけて渋っているのが現状だ。自分としては認可がおりてから存分に他部署でやってほしいのだが。

 目をつむったまま思案に暮れていると魂たちの場所あたりから何かをやらかしてる女の声がした。

 「お仕事終わりぃ!」

 「バカ野郎おおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 馬鹿・即・打。

 満足げな表情をしているであろう女の後頭部を容赦なくぶん殴る。腰を入れた拳じゃないだけ感涙にむせび泣いて欲しい。

 そこには物に突っ込まれた男の魂。

 男の人格や肉体、幼女の今後の心配とこれから書く始末書や目の前の馬鹿の処遇への憂いが瞬時に脳内に沸き上がりリフレイン。

 「僕知らね。」

 「どうしてぇ?」

 先程のような艶かしさ溢れる発言のエロスは薄れ、焦りが言葉尻に見られる。

 どうやらこちらが何を企んでいるか察したらしい。

 反撃する策は思ったよりも早く決行出来そうだ。

 机から引き出しを開け、インク付きの羽根を走らせる。

 自分でも驚くほど速く書けた。恐らく30秒もかかってない。

 顔をあげると横にワタワタと慌てたアホ女が大量の汗を浮かべた顔でこちらを見ていた。

 僕はこの時、地獄の鬼ですら引くほどの笑顔を浮かべたと自覚があるぐらい下卑た笑い顔を女に向けたまま決定打を撃ち込む。

 「じゃあ僕定時なんで。」 

 「どうしてええええええええええええええええええええええええええええええええええええ?!!!!!!」

 うるさいと指摘しようと思ったが上司への始末書、並びにコジコジの試運転にとやらかしたヤツの名前を載せた報告書を上に提出しに行った。 

 

___________________________序章_________________________________

 

 わずか3歳の小さな小さな女の子は目を覚ました。

 眠たそうな目をぷにぷにとした手でゴシゴシとこする。

 やがて自分がどこで起きたのかを幼いながらに漠然と理解した。

 周りが木で出来た知らない家であること。その家の中のベッドで自分が寝ていたこと。そんな自分のそばには安心感を覚えるぬいぐるみがあること。

 「…んぼちゃ!」

 幼女の胴回りよりも一回りも二回りも…。否、それよりも大きな魚のぬいぐるみを自らの細く短い腕を使って抱く。ぬいぐるみはタオル生地で元の魚であるマンボウをデフォルメした形状をしていた。色は白や水色が目立ち全体的に明るい。

 女の子は『まんぼうちゃん』と言っているつもりなのだが、舌足らずでキチンと発音できてない。

 しかし、そんなことはどうでも良いと言わんばかりに幼女はぬいぐるみと戯れていた。

 

 

 「ここどこ?」

 ひとしきり遊んだ幼女は体を起こすとそんなことを言った。

 自分の身の丈ほどの高さのベッドから降り立った女の子はぬいぐるみを抱えたまま広いログハウスの探検をし始めた。

 大人が大の字になって転がりまわっても余りある広さの家の探検は女の子にとって新鮮であったと同時に疲れる行動だったのであろう。布団のかかった机、いわゆるコタツのそばにぺたんと座り込んだ。

 「………?………?…aaaaa?あー、あー…。日本語ってこうよね?」

 ぶつぶつと聞こえる誰かの声に幼女は思わず、

 「だーれ?」

 と声を発した。

 「あら、起きたの?」

 「?」

 幼女にとって知らない声の主が立ち上がりこちらに向かってくる。

 知らない人が来たら逃げるというどこかの誰かの知識が少女の脳内に警鐘を鳴らしかけたが、安らかな声音がそれを消し去った。

 声の主は座っている女の子にとっては天を衝く巨人に見えた。

 巨人は寝そべって幼女に向き合った。

 「おはよう、マナちゃん。」

 「マナ?」

 聞いたことの無い名前で呼ばれたことに少女はキョロキョロと周りを見回し、ぬいぐるみを指さして首を傾げた。顔を女の子に向けた女性は首を横に振った。

 「マナはあなた。」

 マナは寝そべった女性の表情に少しくもりがあったことに気付かずに言葉を連ねた。

 「そーなの?」

 「そうなの。」

 女性は顔をそらすと笑顔を作りマナを見る。

 「私は、そうねぇ…。」

 寝そべった人は周囲をキョロキョロと見渡して少し悩んだあと、

 「私のことは『お姉さん』か『ナナさん』と呼んで?」

 とマナに言った。

 「なーしゃん?」

 「うんうん。」

 「おねちゃん。」

 「お姉さん。」

 「おねーたん。」

 「もう…。マナちゃんったら、ウフフ。」

 舌足らずな発音に苦笑しながらもちゃんと発音出来るのはいつになるかを楽しみにしようと考えるナナと彼女がにこやかに笑っている理由が分からないものの同じように笑顔を見せるマナ。

 

 

 

 

 

 幼女とぬいぐるみと女神、マナとまんぼうちゃんとナナの渡航記はここから始まる。

 

 

***************************

 

 

 

 

 二人と一個が出会って半年経った頃、若草の緑溢れる草原に笑い声が響く。

 「きゃははははは!んこー!」

 「ぶっ?!」

 笑いながら猫を追いかけるマナと琴線に触れて噴き出すナナ。

 「まてーにゅこー!」

 「マナ!おいでー!」

 「なーにー?」

 呼ばれてすぐに振り向きてくてくとナナに駆け寄るマナ。

 ナナはマナと視点を合わせるためにしゃがみ、マナの両肩に両手を乗せて、

 「ね・こ。」

 と発音の修正を試みた。

 「ぬ・こ!」

 「ね・こ。」

 「よろしくおねがいします?」

 「なんでなのよ…。」

 予想していない答えに頭がついていかずに数秒ほど固まるナナ。 

 ナナのフリーズした理由が分からず、マナはナナの両頬に手を添えて、

 「ねこ!」

 と笑って言った。

 マナのちゃんとした発音に我に返ったナナ。

 ナナはマナの頭を撫でながら笑顔を浮かべた。

 「お昼ご飯にしよっか。」

 「うん!」

 小さい手と大きな手が繋がりゆっくりと帰路に就く。

 

 

 

 ドアにかかった小柄なベルが家主たちの帰宅を告げる。

 ナナはキッチンの近くの冷蔵庫を開けると小首を傾げた。

 「お昼の材料がない?」

 「おねーちゃんどうしたの?」

 ナナは少し考えたあとマナに向き合った。

 ナナはマナの頭の後ろに手を回すと自分の額にマナの額をくっつけた。

 「ふむふむ。今日食べたいのはハンバーグね。」

 マナにとってはこの行動はもう驚く行為ではない。

 ナナはマナの考えていることのうち、すぐに知りたいことはこうやって額をくっ付けては思っていることを読み取っていることを半年間ずっとやってきたのだ。最初の内はマナは驚いていたが半年も繰り返していれば慣れてしまう。

 「ご飯の材料を買ってくるからお留守番しててね?」

 「うん、わかった。」

 「寂しくない?」

 「まんぼうちゃんがいるからだいじょぶ。」

 「すぐ帰ってくるから。」

 そう言うや否やドアを勢いよく開閉して外に出たナナ。

 おでかけの挨拶を言う間もなく出て行ったナナの姿を見送ったマナは、ぬいぐるみを持たず家の中を歩き始めた。

 半年の歳月でマナは家のどこに何があるのかをおおよそ理解していた。

 「ごほんよむ。」

 そうつぶやくとマナは本棚に手を伸ばした。

 本棚には下の段に子供向けの絵本や図鑑の類がギッシリと、中段には辞書や百科事典にCDやラジカセ。それとなぜか水晶玉が濃い紫のクッションの上に大切そうに置かれている。

 上の段はマナには見えないが文庫本やコミックの類が所狭しと並んでいた。

 マナは絵本の一冊を本棚から取り出すと本をベッドの上に乗せた後によじ登った。

 寝転がった姿勢でマナはまんぼうちゃんに絵本を読み聞かせた。

 読み終わった本を元あった場所に戻したマナは別の絵本を取り出しベッドによじ登っては読み聞かせ、本を元の場所に戻す。

 この一連の動作を数回繰り返したマナ。

 本を読むことに飽きたマナは踏み台を引っ張り出す。

 「きらきらのたま!」

 マナはこの水晶玉が以前から気になっていた。

 理由としては、ナナがこの水晶玉で綺麗な景色やこのログハウスの近くの生き物を見せてくれるのだがマナが水晶玉に触ろうとすると『触らない方が良い』とやんわり怒られてしまうためだ。駄目と言われれば益々興味が湧く年頃。

 マナが小さい手を水晶玉に近付けた時、彼女には砂漠が見えた。

 見えた瞬間に抗い難い引力が水晶玉から発生しマナは発生源に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 風が砂を巻き上げては吹き荒ぶ砂漠地帯。

 打ち付けるような風が砂と共にマナの体を襲う。

 強い風には不思議なことに暑さは無かった。

 もっとも砂漠地帯は総じて暑いことをマナは知らない。

 目や口に入らないように立ち上がったマナはキョロキョロと辺りを見渡した。

 一面の砂、砂、砂。

 積もった砂が斜面を形成していたり吹き荒ぶ強風で斜面の形が変わること以外は代わり映えしない景色。

 そんな景色に砂埃が立ち上がる。

 そこには歪な人影があった。

 マナはその人影に違和感を覚えた。

 人はナナしか見たことがないからおかしい箇所を断言出来ないが、マナにはとにかく違和感がした。

 まず、その人影は手の指の本数や形が図鑑や百科事典に載っているものと異なることだ。砂埃のせいではっきりとは言えないが指が3本しかないように見えた。その3本も自然さが微塵も感じられなかった。平たく言えば生まれ持ったものではないことがマナにも分かるようなものだった。

 次に足のシルエットにも違和感がした。断言こそ出来ないが自分のように自然な足と先ほど見た影の足は異なる印象だった。

 最後にマナが見たのは胴だが、この辺りには違和感を感じなかった。むしろ馴染みがあるように感じたのをマナ自身は気付いており、

 「おねえさん?」

 と思わず口にしていた。

 それを合図にするかのように円状に等間隔の3本の肌色の鉤爪が砂埃から生えた。その異形は鬱陶しいと口にするかのごとく斜めに振るうと持ち主の姿を露にした。

 マナの目に入ったの腕の主は砂ですすけたぼろぼろのワンピース姿の半裸の女性だった。手や足は付け根から人工的な物、鉤爪の義手や棒のような義足を付けていた。

 よたよたと歩く彼女の垂れた髪から覗く目はどこか焦点が合ってなく虚ろだった。

 が、マナを目にした途端に眼光は鋭い光を宿し一直線に突き進み始めた。

 黒い林の中の眼光はマナを正面に捉えたまま走り、その勢いでマナに頭突きをした。

 「きゃっ…?!」

 頭突きを受けた幼女は吹っ飛んだ衝撃や痛みよりも刹那の閃きのような大量の悪感情で泣き出した。

 鋭い眼光の女性は頭を上げた勢いでボサボサの手入れのされてない黒髪を一気にあげた。

 その悪感情に満ち満ちた顔を見たからかマナはすぐに泣き止んだ。

 マナにとってはナナ以外の人を見た、目付きの悪い女性にとっては忌々しい物を見たと言わんばかりの顔を互いにしていた。

 「なんでアンタが……。あたしより幸せなのよ!!!?」

 溜め込んでいた感情が吹き出したのか女性は白目の多い目を剥き出して叫んでいた。

 悲痛な叫びと共に女性は立ったまま泣き出した。

 義手でゴシゴシと目をこすっている女性が何故か泣いているのを見たマナは短い足と手を使って義手義足の女に近寄った。

 「よしよし。」

 マナはいつも自分が泣いた時にナナにしてもらっているハグを女性にした。頭を撫でようとしていたのが狙いだったマナは納得いかないという顔をしていた。二人の身長差からかちぐはぐな光景となっているがこのあやしが最良の選択だったことをマナはまだ知らない。

 

 「おねーさん、おなまえは?」

 泣き止んだ女性にマナは名前を聞く。

 好奇心で聞いたことがよく分かるくらいマナの顔は輝いていた。

 「言わなきゃ駄目?」

 落ち着いたとは言えマナを見る女性目はキツかった。

 「だめ。」

 輝く顔を一層きらめかせて女性の顔に近づけるマナ。

 「近い近い!?」

 距離をとろうとのけ反った女性は大の字になって倒れた。

 「だいじょーぶ?」

 「…なわけないでしょ。」

 その後、どのくらいまで拒否と問答が続いたかは定かではないが遂に根負けした女性がぶっきらぼうに名乗った。

 「あたしはリョウ。呪われてるからそこ、弁えて。」

 「わきまえる?」

 「理解して。」

 「りかい?」

 「知っておいて!」

 「わかった!」

 「はぁ…。まったくもう。」

 リョウのため息から数拍置いて優しい光が砂漠に降り注いだ。

 

 

 ************************

 

 「お前の担当の子供、マナだっけか。」

 机に上半身を預けたまま僕はこうなった元凶に向けてポツリと話を振る。

 「えぇ、あの子がどうしたの?」

 まさに買い物を終えた主婦と言わんばかりのぎっしりと食材が入ったビニール袋を両手に持ち、セーターとジーンズという格好をした『ナナ』と名乗るあの馬鹿女神に今しがた発生した事件をポツリと告げる。

 「あの子供、例の水晶玉の中入ったぞ。」

 ヤツの持ち出した水晶玉は様々な平行世界の一ヶ所に焦点を当てることで生態や景色を観測出来るものだ。ただ、あまりにも膨大な平行世界を観測可能なだけに"どの世界"のどこ"の"何"に焦点を当てるかという細かい設定をしなければ望む景色は見られないのが欠点だ。

 今回の問題では焦点が定まらない幼い思考とうっすらと繋がった平行世界が合わさったせいで世界側に幼女が引きずり込まれたのだ。

 「ッ?!」

 血相を変えて飛び出そうとする自称親を呼び止める。

 「まあ、待て。本当にヤバいかはライブ映像を見ながら判断しようじゃないか。」

 「なんでそんなに余裕なのよ!?」

 オロオロし始める駄女神に自棄気味の僕は

 「なあに、お前の仕事が失敗が重なれば少しは憂さ晴らしが出来るさ。」

 と、冗談が半分でもう半分が本気で放った言葉が予想外に効いたのだろう。

 「…変わったわね、貴方。」

 俯いたまま奴はそう言った。

 涙の様な水が奴の頬を伝った様な気がするが知ったことではない。

 「変わるさ。少なくとも自分が名ばかりの栄転をさせられた元凶が目の前にいるからな。少しでも不幸になり続けてもらわなきゃ割に合わない。」

 少し早口になっているのが自分でも分かるがヒートしているから仕方ない。何せ目の前のこの女が転生の手続きをロクに通さず循環を狂わせたのが問題なのだ。

 大きな川に石を投げ込んだところでどうにかなるわけでもないと言いたいところだが魂の循環はかなりデリケートなのだ。一が減ればたちまち他の世界にも影響が出る。だから、地球上の日本には子供が少なくなる未来が選択されてしまったんだ。

 いわゆるしわ寄せだ。その根本に説教とも八つ当たりともとれる文言を食らわせる。

 「大体な、お前が僕の話をまともに聞かないせいで責任とらされているんだ。分かるだろ、それくらいさァ?それじゃあ、お前のツケがキッチリ払われているかチェックの時間といこうか。」

 ゆっくりとした手拍子を二拍分。

 それだけで意図する行動がとれるこの天界は便利だ。

 人類が開発したいかなるテレビよりも大きく鮮明に映されるこのスクリーンに僕が期待する光景が必ず出るだろうという根拠が無い自信に満ちた僕はワクワクしながら投射のカウントダウンを見守った。

 そこに映されたのは絶叫しながら突っ込む黒髪で義手義足の女とマナとかいう女児が頭をぶつけ合っている光景だ。正確にいうなら突っ込んだのは四肢の無い方で、ぶつけられた方はたまらず吹っ飛んだのだ。ほんの少しだがスカッとした。

 あのバカにとっては幸運なことにマナに外傷が無いことがスカッとした僕をイラつかせた。

 「貴方の表情を見てみて思ったけど、職場は下の方が良いんじゃない?」

 「うるさい。」

 追い討ちをかけるようにイラつかせてくる元同僚。

 僕にとっては泣き面に蜂と言わんばかりに欠損女子と幼女は和解したような雰囲気が感じ取れた。

 「あの女児に因果を狂わせる能力を付加した覚えはないぞ…。」

 思わずそう呟いた。

 実際は使い方次第で世界を壊して作り出しかねない能力を仕方なくつけてやったのだがどうも様子がおかしい。

 自覚があるのかないのかは分からないが自分の能力を抑制か封印でもしているのかと疑いたくなるほどに力を使った痕跡が無い。

 本来ならバカ女神が担当しているどちらかが粉微塵になっているはずなのだ。どちらも生存する因果は無い、むしろ消したはず…。

 頭を回して原因を探るが能力を使用してないなら到底無理だろうというところで思考が停止する。

 「やっぱりマナは良い子ね。ちゃんと教えた甲斐があったわ。」

 「あの子供に何を仕込んだ。」

 「ふふふ、貴方に足りないモノよ。」

 「チッ…。」

 勝ち誇ったように笑うヤツの顔がどうしようもなく憎たらしい。ヤツの悪意の有無はこの際関係無い。ムカつくことこの上ない。

 「ついでに言うと…。」

 帰り道と言わんばかりに子供らの世界に道を繋いだ自称母親は聞きたくもないことを紡ごうとこちらを向き口を開いた。

 「あの・・・のう・・・のよ。」

 向こうから流入してくる風がヤツの澄んだ声をところどころ消していくために完全には聞き取れない。むしろ当方には丁度良いことだと内心言葉の続きへの興味より嬉しさが勝る。

 「さっさと行けよ、バカ女。その子供は殺すのに苦労しそうだよ。まったく……。」

 風で聞こえないことを良いことに吐き捨ててつつ、さっさと行くようにジェスチャーで促す。

 降りた奴の背中を見送りながら僕はポツリと呟いた。

 「失敗のシミュレーションはもう不要、か。」

 誰も聞いてない黒い空間に男の独白が広がる。

 

       ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 光の柱の中心としてゆっくりと砂漠に降り立ったナナは、立ち上がるのを諦めた義手義足の少女と執拗に質問を続ける幼女を視界に捉えながらにこやかに近付いた。

 足音に気付いたリョウは気だるげに首を動かすと、怒りの感情を顕にした。が、歯を剥き出しにしたかと思えば数拍置いて真顔になり溜め息を一つ吐いた。

 「まあ、出てくるだろうとは思ったけど。」

 その言葉にはどうしようもないことだと諦めたようなニュアンスがあったが、間近にいた幼いマナには分からない。

 「マナー!ご飯の材料買ってきたよー!」

 「!」

 その声でようやくナナの存在を知ったマナは手足を一生懸命動かしながらナナに駆け寄った。

 途中、マナは立ち止まってはリョウの方を向いて何度も手を振ってバイバイをしていた。

 やがて、ナナの近くに来ると声を張り上げて、

 「ねーね!またねー!」

 と言った。

 小さい体を目一杯使った身ぶりを見たリョウは自分の仮初めの手を一瞬見つめて、寝転がったまま軽く手を振った。

 

 ナナは帰りの門を開き、マナとナナの二人だけの世界に戻ろうとした間際。

 リョウは勿論、マナにも聞こえない声で、

 「小さい優しさで私の罪を償う。」

 たった一言、それだけを華奢な唇から漏らした。




 伏線を散らばせるどころか散らかしてしまいましたが、第一話はこれでおしまいとなります。
 一応、この話のオチは決まっていますがそれについては追々話していきたいと思います。
 「こういう言い回しの方がすっきりする」、「こんなシーンも良いかも」等の御意見がございましたら作者の方までお願いします。(話の根幹に関わるところの意見の方は反映できないかもしれないので宜しくお願いします。)


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