星空凛生誕祭2019 (『シュウヤ』)
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星空凛生誕祭2019

「凛、誕生日おめでと」

玄関を出てすぐ、お祝いの言葉を述べられた凛は、

「ほぁ〜……」

そんな気の抜けた声を上げた。

「ちょっと、せっかくお祝いしてあげたのに何よその間抜けな返事は」

お祝いした本人は、サングラスを取って呆れた表情を浮かべた。

「だって、こんな車初めて見たんだもん」

凛の目の前に停まっていたのは、艶光りする真っ赤なボディをしたオープンカー。誰が見ても、一目で高級車だと分かる。言い方は悪いが、一般的な住宅街ではこの上なく浮いている。

「この車、真姫ちゃんの?」

「そうよ」

サングラスを頭にかけた真姫は、サラリと言う。

「流石、お金持ちって感じにゃ……!」

「ちょっと、これはちゃんと自分で稼いだお金で買ったのよ。……まあ、ローンは組んだけど……」

言葉尻を濁し、髪の毛をクルクルといじった真姫は、

「そんな事どうでもいいじゃない。さ、出発するから乗りなさい」

誤魔化すように運転席に座ると、助手席のシートを目で示す。

「うん! お邪魔しまーす」

凛がシートベルトを締めたのを確認し、真姫はアクセルを踏む。

「出発にゃ〜っ!」

「ちょっ……凛! 乗り出したら危ないでしょ!」

テンションの上がった凛の期待とは裏腹に、真姫の運転するオープンカーはゆっくりと道路を進む。

「ねー真姫ちゃ〜ん、もっとスピード出ないのー? こう、ビュワーンって!」

「住宅街の一般道でそんな速度出したら危ないでしょ。それに、法定速度は守らないとだもの」

当たり前すぎる返答に凛は、

「真面目にゃ……!」

真姫が不安になるような言葉を発した。

 

 

 

 

真姫の運転で凛が連れてこられた場所は、

「…………」

都内にある、見上げる首が痛くなるほどの高層ビルだった。

エレベーターで上層へついて行った先には、

「予約していた西木野です」

「西木野様、お待ちしておりました。──そして星空様、お誕生日おめでとうございます。スタッフ一同、精一杯のおもてなしをさせていただきます。こちらへどうぞ」

超が付きそうな高級レストランだった。

「…………」

ビルに到着してから半開きの口が閉まらない凛に、真姫は呆れた声をかける。

「なんて顔してるのよ。主役なんだから、もっと堂々としてなさいよいつもみたいに」

「限度があるにゃぁ……」

一人呟いた凛は、真姫の後ろを小さく追った。

 

 

運ばれてくるフルコースを、うろ覚えのテーブルマナーで食べ──何度か真姫から注意を受けた──食後にケーキと共にバースデーの催しもされ、

「──またのご来店、心よりお待ちいたしております」

凛は人生初の高級レストランをあとにした。

「……どうだったかしら。一応、私が知ってる最高のお店だったんだけど」

「凛にはランクが上すぎて、何が何だか分からなかったよ……」

「……あんなに緊張した凛、初めて見たかもしれないわね」

下っていくエレベーターの中で、凛はお腹を押さえた。

「うーん、あんまりお腹いっぱいになった感じしないな〜……」

「まあ、そこまで量が沢山ある訳じゃないものね。そういうお店だから仕方ないわよ」

「うーん……。──あ、真姫ちゃん真姫ちゃん。行きたい所があるんだけど、連れてってくれない?」

「いいけど、どこ?」

「それは着いてからのお楽しみ! 真姫ちゃんも教えてくれなかったもんね〜」

「サプライズにしたかったんだから仕方ないじゃない……」

足取り軽やかに車へ向かう凛を、

「──って、そっちの車じゃないわよ! こっちこっち!」

真姫は慌てて追いかけた。

 

 

 

 

目的地を告げられずに言われる通り車を走らせた真姫がやって来たのは、

「……アキバじゃない」

秋葉原の街に戻ってきただけだった。

「そうだけど、目的地はここにあるんだにゃ! ──あ、そこを左ね」

細かい指示を受けながらたどり着いたのは、

「……ラーメン屋?」

一軒のラーメン屋だった。先ほどのレストランとは、比べるべくもない。場違い感漂う高級車に、店から出てきた客がギョッと目を見開く。

「ここのラーメン、すっごく美味しいんだよ! 最近オープンしたばっかりだから、意外と知らない人も多いの!」

私も知らなかったわ、と真姫は思う。

「──って、今からラーメン食べる気?」

「うん! ……やっぱりお腹空いちゃって」

「……呆れた」

颯爽と店の中に消えた凛を見て、小さく息を吐く。

「──大将! 今日誕生日だから、チャーシューサービスして欲しいにゃ!」

ドア越しに聞こえてくるそんな生き生きした声を聞きながら、

「……ま、私達にはこういう方が“らしい”わよね」

真姫も苦笑しながらドアに手をかけた。



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