この素晴らしい読者様に祝福を! (めむみん)
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カズめぐバッドエンド

Twitterのフォロワーさんが300人になった記念作品です!
みなさんありがとうございます!!
カズマさんがめぐみんを攻略するゲームが出たと仮定したバッドエンドを考えてみました。
期待はしないでください。


-KAZUMINBADEND-

 

俺はこの日、遂に覚悟を決め、めぐみんにプロポーズした。

そして今、返事を待っているのだが、静寂が続いている。

不安になり顔を上げると口元は緩んでいるが、困ったような複雑な面持ちのめぐみんが口を開けた。

 

「ごめんなさい。それには応えられません」

「えっ…」

 

予想していた最悪の事態が起こった。

そして、一番可能性がないと考えていた事が…

 

「遅すぎたんですよ」

「・・・」

 

う、嘘だろ?

このパターンは他に男が?

昨日までデートとかして過ごしてたのに。

でも何だが距離を置かれている気もした。

そ、そんな……

 

「もう私達…」

 

やっぱり、ヘタレてばかりで愛想つかされてしまったか。

これは別れようと告げられ…

 

「結婚しちゃってますから」

「・・・は?」

 

予想を裏切るという言葉では足りない程、めぐみんの発言に俺は付いていけなくなった。

愛想つかされた訳ではないのか?

 

「ですから、私達はもう結婚しているので、今から結婚出来ないんです」

「意味が分からないって言うか、どうなってんだよ!?」

 

拒否されなかったのは、勿論嬉しい。

だがしかし、もう結婚してるってどういう事だよ!

こいつ俺が知らぬ間に書類出したのか?

 

「私もさっぱりですよ。先週、来たる日の為に役所へ婚姻届を貰いに行ったのですが。受付の人に『既にカズマさんと一緒に提出されましたよね?』と訊かれてびっくりしました。その場は幸せ過ぎて夢だと思っていたなんて言って誤魔化しましたが、私達気付かぬ間に夫婦ですよ!」

 

めぐみんも把握していないようだ。

てか何が起こってるんだ?

 

「それって俺らが自ら役所に行ったって事だよな?」

「ええ、受付の人達の発言を見るにそうだと思います」

 

全然記憶にない。

めぐみんも同じみたいだし、何がどうなってこんな事に?

 

「私が忘れてしまっただけだと、カズマに悪くて中々言い出せなくて。すみませんでした」

 

なるほど。

この罪悪感が、いつもより消極的なめぐみんに繋がったのか。

 

「そんなの気にせず、確認してくれればいいのに、でも原因は何だ?」

 

めぐみんは俺みたいに、前後不覚になる程飲んだりもしないから、自分の記憶を疑う必要ないのに。

それに、俺らが酔ってたら役所が通さないだろう。

 

「分からないです。ただ、婚姻届を出したその翌日、私達は朝帰りだったようです。ダクネスから聞きました」

 

当事者じゃなくて仲間が結婚を知ってるってどういう状況だよ。

ダクネスがここ最近よそよそしいと言うか迫って来ないなと思ってたが理由が分かった。

別にダクネスに迫られたい訳ではない。

ただ不思議に思ってただけ。

やましい考えなんてこれっぽっちもない。

 

「朝帰り?ここ最近多くてどれか分かんないぞ」

 

盗賊活動にめぐみんを呼ぶ日が増えたのもあって、二人で宿に泊まる機会が多くなったのだった。

とは言え実際はクリスも居るし、イチャイチャもしてないけど。

 

「はい。私も考えてみましたが、どの日か分からないんです。申請日を確認すれば分かると思うのですが」

「ここ最近何か変わった事は・・・あっ、なあ、めぐみん」

 

おかしい。

あの日の記憶がある所で途切れている。

 

「何でしょう?」

「お前の家行った時の事、覚えてるか?」

 

そう、めぐみんの家に着いてからの記憶がない。

こめっこが出て来てその後は・・・

 

「え?あの日は確か・・・お、思い出せません」

 

すごく嫌な予感がする。

 

「・・・思うんだが、俺らゆいゆいさんに嵌められたんじゃないか?」

「私もそんな気がします」

 

しかし、どうやって俺らを動かしたんだ?

自己意識で動いてたみたいだし。

 

「昔、父がヘタレでも告白出来るようになるポーションを作っていて、それを作る最中に出来たのが素直になるポーションでして」

「・・・まさか副作用はその時の記憶が」

「飛びます」

 

予想通りの展開だ。

でも如何してひょいざぶろーさんが協力したんだ?

あっ、そう言えばあの日、部屋へ通された時既にひょいざぶろーさんは寝てた気が・・・

 

「あれは自白剤にもなるので、その時作った分は母が厳重に管理していたはずなのですが」

「ゆいゆいさんがそれを俺らに盛ったのか」

 

これ間違いなく単独犯だ。

 

「・・・我が母がすいません!」

 

俺はとある事が気になった。

 

「謝る事ないってまあ早いか遅いかの違いだからな。それより、確認だけど、さすがに俺ら知らぬ間に大人の階段は」

「…昇ってました。ノートに書いてあったので間違いないです」

 

結婚だけじゃなくて、やる事やってるのかよ!

こんな事ならもっと早くに覚悟決めてプロポーズすれば良かった!

如何して、俺の初めては全部気付いたら終わってんだよ!

ちくしょう!

でもめぐみんと結婚してたってのは、ちょっと嬉しいのがまた悔しい。

 

「ほんとウチの親がすいません」

「気にするなって悪いのはゆいゆいさんだし、素直になれるポーション飲んでした行いは全て、お互いしたかった事だからその、……」

「ありがとうございます。ふふ、やっぱりカズマは優しいですね。この締まらない感じも好きです」

 

さっきまでの思い詰めた表情から一変し、満面の笑みでそんな事を言ってくるめぐみんはとても美しかった。

この手玉に取られている感じも心地よく感じてしまう。

ただ一つ心残りなのは結婚したその瞬間を、俺達が知らないと言う珍事である。




改めてみなさんありがとうございます!!
こちらのお気に入り登録者数1000人の時は何も出来なくて申し訳なかったので今回はちゃんと作ってみました!
バッドエンドどうでしたか?
私が書いている時点で悪い方向に行く訳ないじゃありませんか笑


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忘れられる勇者 ー前編ー

皆さんいつもありがとうございます!
この度『この素晴らしい世界に⚫⚫を!』のハーメルンにおける評価者数が50人になったことを記念して投稿する作品です。
このストーリーは『【リレー小説】 この紅魔の乙女達に恋愛を!』の題材決めの時に勾玉さんが出してくださったお題を少しだけ変えた物に近いので宣伝させていただきます。

【リンク】
勾玉さん https://syosetu.org/?mode=user&uid=243097
リレー小説 https://syosetu.org/novel/205900/
⚫⚫を! https://syosetu.org/novel/162652/



-WASURERARERUYUUSYA (zenpen)-

 

「サトウカズマだな」

 

突然現れた男はそう言った。

質問、と言うよりは確認の様だ。

 

「そうだが、何の用だ?」

 

身なりは公務員のようにピシッとしたスーツのようなもの。

セナに容疑掛けられた時みたいに思えてくる。

 

「貴様には死んで貰う」

 

言って男は俺に近付いた。

 

「は?あんた何いっ、ぐっぁあああああ!?」

 

腹部を襲う熱さに俺は叫んだ。

今まで即死だった事を感謝する程の痛みだ。

 

「これで我々の復讐はあと一段階だ。無様に抗えサトウカズマ。フハハハハハ」

 

バニルのような高笑いをして男、いや、悪魔は去って行った。

そして俺は気を失った。

 

 

 

「・・・・・・い・・・・・・・・・」

 

何かが聞こえる。

 

「・・にい・・・・・・ど・・・」

 

まあ、殺されたんだからエリス様だろう。

 

「おい・・・・・・いちゃん・・しっかりしろ」

 

あれ?男の声?それに何処かで聞いた声だ。

 

「・・・ちゃん!しっかりしろ!大丈夫か!」

 

どうやら生きながらえたらしい。

しかし、この声は・・・

 

「だ、大丈夫だ。テイラー悪ぃな」

「そうか無事で良かった」

 

知り合いに見つけて貰えて助かった。

しかし、刺された筈なのに傷がない。

どうなってるんだ?

 

「何があったと聴きたい所だが、如何して俺の名前を?」

 

そんな事をテイラーは不思議そうに聴いてきた。

 

「如何しても、何も、昨日も一緒に飲んでただろ」

 

互いの仲間の愚痴を散々語り合ったってのに、何を言っているのだろう。

 

「・・・すまない。昨日の事はあまり覚えていなくてな。飲み過ぎて記憶が飛んでしまったみたいで」

「いやいや、もっと付き合い長いだろ。ダストとパーティー交換した時から結構経つし」

「え?その事知ってるのか?・・・君の名前は?」

「佐藤和真だよ!魔王倒した勇者の!」

「・・・魔王倒したのはアクアさんのとこのパーティーだろう?あんた本当に大丈夫か?」

 

何がどうなってんだ。

テイラーも冗談言ってるようには見えないし。

 

「悪い、ちょっと気が動転してた。これはお礼だ。じゃあまた」

「お、おい。お礼なんていらな・・・」

 

俺はテイラーから逃げ出した。

 

 

 

混乱したまま俺は屋敷に帰った。

今はちょむすけにエサをあげて癒しタイム。

しかし、何故テイラーは俺の事を知らなかった?

考えられるのはあの悪魔か。

・・・何か嫌な予感がしてきた。

 

「ちょむすけ〜帰って来ましたよ〜。今からエサの準備し・・・だ、誰ですか!?どうやってここへ!?」

 

うっ、分かってたとは言え仲間から言われるのはきついな。

 

「あっ!ちょむすけを返してください!その子が目的なのは分かってます!」

 

しかもめぐみんから言われるのが何よりきつい。

 

「何ですか?泣き落としですか?そんな手には乗りませんよ!」

 

泣いてるのか。

俺。

そりゃそうだよな。

好きな子から忘れられた訳だからな。

 

「俺の事が分からないのか?」

 

掠れるような、か細い自分の声とは思えないそんな声で聴いた。

 

「何訳の分からない事を言ってるのですか?早くちょむすけを離して出てってください!今なら見逃してあげますから」

「めぐみん?何を騒いで・・・この男はどうしたのだ?知り合いか?」

 

ダクネスが入って来た。

この感じは間違いなく忘れられているだろう。

 

「違います!帰って来たらこの男がちょむすけを餌付けしてたんですよ!それに訳の分からない事を言ってるので、どうしようか悩んでいた所で」

 

話を聞いたダクネスは臨戦態勢に入り、敵感知に感あり。

もう此処は駄目だな。

そういや、めぐみんからは敵認識されてないのは何故だろうか?

全く反応がない。

ちょむすけって言うよりウォルバクの関係者だと思っているからだろうか?

 

「何用だ?金に困っているなら幾らかはやろう。次このような事がっておい!待てっ!」

 

聞くに耐えず、俺はまた逃げ出した。

するとちょむすけが俺を追い掛けて走って来た。

 

「ちょむすけ!付いて行ってはダメです!」

「めぐみん待て。あの男は武器を持っている。近付くのは危険だ。ここは私が」

 

お前ら相手に刀抜く訳ないだろ。

って言っても通じないよな。

ちょむすけは俺を引き止めようとしているのか、足元で擦り付いてくる。

 

「ちょむすけ。お前は俺の事分かるのか?」

 

この問いにちょむすけはなーうと鳴き、顔を舐めて答えた。

 

「何を言っているのだ?そんな事より今すぐちょむすけを解放しろ!」

「言われなくても、もう離すさ。ちょむすけ、めぐみんの事頼んだぞ」

 

俺の言葉にちょむすけは悲しそうに鳴いたが、理解したのか、めぐみんの下へとゆっくり近付いて行った。

 

「めぐみん、あの男は本当におかしいぞ。今ここで捕まえた方がいいのではないか?」

「ですが、見逃すと既に言ってしまいましたし」

 

 

二人がそんな言い合いをしている中、俺は夕日が沈み行く街へと消えていった。

 

 

 

人が死ぬのは身が亡びた時ではない。

誰からも忘れ去られた時である。

あの有名な言葉を感動シーンではなく絶望的場面で実感するとは。

『貴様には死んで貰う』

この意味が分かった。

分かったからどうと言う訳ではないが、今後の身の振りが分かっただけマシだろう。

しかし、宿屋を取ろうにもこの時期はどこも満室。

馬小屋も寒過ぎて使えない。

高級ホテルくらいしかないが、一日泊まればそれで持ち金は無くなる。

俺はどうすればいいのだろうか。

頼る宛もなく、人通りの少ない路地裏で、独り憂鬱な時を過ごす。

留置所に入れられていた時の方がまだマシだ。

 

「おい、どうした?兄ちゃん大丈夫か?」

 

俺に声を掛けたのはダストだった。

嬉しさから近付こうとしたが、一歩踏み止まり、俺は一言大丈夫だと伝えて立ち去ろうとした。

すると・・・

 

「カズマか?何やってんだこんな所で?泊まるとこねえなら俺の部屋に『ダストッ!!』ってお、おい、……何が大丈夫だ」

 

俺は思わずダストに抱き付き、そのまま泣いた。

さっきまで押さえ込んで考えないようにしてた寂しさが、どっと押し寄せて来た。

 

「はあ、何一人で背負い込んでんだ。勇者様がこんなのでどうすんだよ」

「ううっ、だ、だすとは、ひくっ、おれのことおぼえて」

「……勿論、覚えてるって言ってやりたいが、悪ぃ覚えてねえ」

 

だったら如何して?

まだ会ってないのに俺の事が?

 

「テイラーから聞いたやつと同じ容姿で、絶望的な雰囲気醸し出してたから、そうだろうって思ってな」

「な、なんで……それでおれを」

「そんなのダチだからに決まってんだろ。俺が声掛けた時の表情で分かった。あいつと同じ顔だったんだよ」

 

あいつって?

 

「死んでからしか思い出せなかった幼馴染にな」

 

そう言い放ったダストは、まるで別人のような優しい顔をしていた。

そして、その幼馴染を思ってか辛そうにしていた。

 

「お前は死なせねえからな!カズマ!記憶になくてもお前はダチだ!早まった真似はするなよ!」

「ダスト、ありがとう」

「取り敢えず飯だな。所でカズマ、今金持ってるか?」

 

うん。

やっぱりこいつはダストだ。

別人かとも思ったけど間違いない。

 

 

 

ダストに連れられ、テイラーのパーティーに合流した。

話を聞いた三人は俺と言うより、ダストの行動を疑っていたが快く迎えてくれた。

一晩泊めて貰い、朝食を済ませた俺は、一度みんなと別れてあの店に向かった。

 

「へい、らっしゃい!意中の爆裂娘から忘れ去られ、知り合いのチンピラ冒険者に救われ、軽く惚れかけた小僧よ。このガラクタはいかがか?」

「要らねえし、惚れかけてなんかねえよ!変な事言うな!・・・ってやっぱりお前は覚えてたのか」

 

最悪覚えてなくても見通せば、分かるだろうけど。

 

「我輩を誰だと思っておる。成り上がり悪魔のしょぼい魔法なぞにやられる訳がなかろう。そこのポンコツ店主とて、小僧の事を覚えておるぞ」

 

バニルが言った先を見ると煙上げながら倒れるウィズが居た。

 

「ウィズ大丈夫か?」

「あっ、か、カズマさん。いらっしゃいませ。お見苦しい所をすみません。今日はお一人ですか?」

 

バニルの言う通り、ウィズも俺の事を覚えていた。

 

「まあ、色々あってな。それでバニル。さっき言ってた悪魔の魔法って何だ?」

「被術者に関する記憶、いや、記録を抹消する魔法だ。小僧の場合は記憶だけで済んでいるが、これは鬱陶しい神どもが迅速に対応したからであろうな」

 

神ども。

つまりアクアやエリスが動いてくれた訳で。

 

「アクアは俺の事、分かるのか?」

「曲がりなりにも神であるならば、この様な魔法にかかりはしないであろうな。そもそも眩しさに溢れたあの世界へ干渉出来る悪魔などおらん。チンピラ女神が姿を見せぬのは対処に追われているからと考えれば分かるだろう?」

「どうやったら元に戻る?」

 

完全に忘れ去られた訳ではないなら頑張れる。

 

「これ以上聞くのであれば」

「全部買ってやるから早く教えろ!」

 

仲間から忘れられる状態からの解放なんて、いくら払っても足りないくらいだ。

 

「おお!さすがお客様!では一つ目といこう。この魔法の効力はチンピラ女神どもによって、一週間もすればなくなる。しかし、それだとお客様の仲間が死ぬ事になる」

「そ、それはどう言う」

 

仲間って事はめぐみんとダクネスか?

 

「成り上がり悪魔はお客様のパーティー。特にお客様と爆裂娘に復讐しようと企んでおる。この先は言わずとも分かるであろう」

「めぐみんが狙われてるのか!今すぐ助けに行か、ない、と・・・」

「うむ。お客様は見事に術中に嵌ってしまった訳である」

 

あああああ!

何も考えずに帰った俺のバカ!

 

「じゃあ俺はどうすればいいんだ?」

「この後、爆裂娘と変態騎士は二人でクエストへ出掛けるようだ。後を潜伏スキルで追い、成り上がり悪魔が現れたのならば、それを倒すと言うのが、一番可能性として高いものだ」

 

カウンターで倒すって訳か。

やってやろうじゃねえか。

魔王以来の真剣な殺り合いだ。

出来ればやりたくないけど、仕方ない。

二人が危ないのだから。

 

「お客様、二千万エリス追加で、露払いは要らぬか?」

「それも頼む。全部終わったら払ってやるよ」

 

言って不敵に笑うバニルを後目に店を出た。

 

 

 

街を出て数分。

二人を見つけた。

あと、後ろを見ると、バニルとウィズが居た。

何故かウィズは凄い血相になっている。

一つ言えるのは、前に居るであろう敵の方が怖くない。

そんな気にさせる程、怖かった。

 

『アクアは今日も帰って来ないのでしょうか?』

『まあ、女神の仕事が忙しいのだろう』

『そうですね。あっ、見えてきましたよ。憎きカエルどもです』

 

めぐみんの言う通り、ジャイアントトードがうじゃうじゃ居た。

そう。

大量に居たのだ。

明らかに人為的な現象だ。

周りを見回すと、詠唱中のめぐみんに矢を向けている奴が居た。

その近くにバニルが向かっている。

露払いってそういう事か。

いや、でもこれはバニルも間に合わなっ!?

くそっ!こうなったら!

 

「最高のシチュエーションです!ダクネス、帰り頼みますよ。『エクス「『ウィンド』ッ!」・・・え?」

 

風で矢の針路を変えようとしたが無理だった。

こうなったら!

 

「『パワード』ッ!」

「・・・あっ!貴様は!めぐみんには手を出させないぞ!」

 

ダクネス達からは、死角となって見えていないのだろう。

 

「ぐっ!?・・・鉄塊でやられる海兵にはならずに済んだな」

 

そう思い、傷痕を見たのだが、何も無かった。

そこに刺さっているはずの矢がなかったのだ。

振り向いて確認するも、何処にも矢はない。

ただ血が伝っていた。

 

「何を言っている!次現れたらと言ったはずだぞ!」

「お前らとやりあうつもりはねえ!」

 

俺がそう言った直後、警官風のあの悪魔がやって来た。

 

「キミたち!大丈夫か!そこの男は指名手配中の悪魔で、くっ、私はそう簡単に負けない!」

 

こ、こいつ!

完全に二人殺そうとして近付いてた。

俺の反応が遅れて、初手がめぐみんならば終わっていた。

しかし、この状況だと、ダクネスは、

 

「何!?そうだったのか!助太刀感謝する」

 

くそっ!

一番の敵を味方と思いやがって。

近接戦は苦手だってのに、当たらないとは言え、敵が増えるのはまずい。

しかもめぐみんの奴、此方に杖構えてる。

逃げたりしたら俺は死ぬな。

 

「ダスティネス卿、ご無事で何よりです」

 

こいつの攻撃は、さっきから俺には一切向けていない。

俺が避けるとめぐみんかダクネスに当たる方向に繰り出している。

四面楚歌の方がマシだろうな。

本当にみんながそっちに心移りしてたとして、一緒に居る仲間は仲間なのだから。

 

「さあ、抵抗せず捕まれサトウカズマ!」

「捕まってたまるか!『スリープ』ッ!・・・ちっ、やっぱり効かねえか」

 

対峙した時に、レベル的に無理だとは感じていたが、残念だ。

 

「賊め!卑怯な手を!しかし、あの男も耐性があって助かった」

 

何も助かってない。

俺が殺られれば、少なくともめぐみんは死ぬ。

ダクネスは硬いから何とも言えないが。

そして、そのめぐみんはと言うと、ずっと俺を見てる。

信じられないモノを見るかのような目で俺を。

 

「姑息な手ばかりだが、一時しのぎで私から逃げられると思うな!」

 

これはヤバい。

何がって、範囲攻撃だ。

向きを変えないと二人が!

ってこいつ!

下級悪魔召喚しやがった!

ダクネスは俺が召喚したと思ってるだろうな。

 

「ふっ、流石、英雄。敵と言われてもなお、仲間を守るか。無様に散れ!」

 

剣の摩擦音で、俺にしか聞こえない声量でやつは言った。

最後は掛け声のように大声だったが、様子が変だ。

キョロキョロしだした。

なるほど。

バニルの露払いか。

ホント助かる。

 

「・・・」

「残念だが、援軍は来ねえよ!『ライトニング』ッ!」

 

言って俺は愛刀ちゅんちゅん丸を振りかざした。

 

「くっ、貴様この短時間でどうやった!」

 

今から倒す奴に言う義理はないな。

 

「お前が知る必要はない。今から消えて貰う相手にはな」

 

うわぁ、この状況でこの台詞。

完全に俺、悪役ですわ。

ダクネスが歯ぎしりしてるし。

 

「くそっ、私も何か出来ないのか。めぐみん大丈夫か?」

「へ?わ、私は大丈夫です」

 

目の前で繰り広げられる命の奪い合いに、めぐみんは怯えているようだった。

ダクネスにしがみつき、震えていた。

 

「油断したな。死ね襲撃者」

 

悪魔が告げると斬撃が二人へいや、めぐみんへと飛んで行った。

しかし、二人は気付かない。

否、気付けない。

一見すれば、俺を狙ったように見えるからだ。

 

「させるかあああああ!!」

「これでも、駄目か。案外しぶといな」

「伊達に、敵には回したくない、鬼畜のカスマさんなんて言われてねえよ。お前の誤ちはかはっ!?」

 

決め台詞を言う前に俺は崩れた。

原因は、吐血である。

 

「ふっ、これで痛手を負ったな。さあ、観念しろ。オヤジの仇!」

 

さっきのが、負荷を掛け過ぎたようだ。

何となく分かる。

体の限界だ。

 

「めぐみん、ここから動くな。私も加勢してくる」

 

もう、ダメだ。

アクア、ごめん。

俺、みんなを守れなかった・・・




後編の投稿はハーメルン及びTwitter、pixivにおいてありがたいことがあれば投稿します。
果たしてカズマさんはどうなるのか乞うご期待です!

投稿例
ハーメルン:ポイントが2000突破等
Twitter:フォロワーさんが400人突破等
pixiv:フォロワーさんが200人突破等


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忘れられる勇者 ー後編ー

皆さんいつもありがとうございます!
今回はpixivにおいて『この素晴らしい世界に⚫⚫を!』の第一話『この素晴らしい世界に決別を?』のブクマ数が100になった事を記念しての投稿です。
本当にありがとうございます!
『この素晴らしい世界に⚫⚫を!』のハーメルンにおける評価者数が50人になったことを記念して投稿する作品の後編です。
先に申し上げますと、いつも通りの駄文なので期待しないで頂けると幸いです。

【リンク】
⚫⚫を! https://syosetu.org/novel/162652/
pixiv版第一話 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9840572


-WASURERARERUYUUSYA (KOUHEN)-

 

体の限界を迎えた俺はただ見ている事しか出来なくなった。

殺されると思ったが何故か悪魔は近付かず、距離を取っていた。

 

「ダスティネス卿!危険です!今は弱っていますが、自爆攻撃の可能性があります!悪魔が動かなくなった今、高火力で消失させるしかありません!」

 

言ってやつは下級悪魔を召喚した。

まずい。

このままだと全員死ぬ。

 

「言ってる傍から悪魔の召喚を!最強の魔法使い殿、悪魔は私とダスティネス卿で何とかしますので、魔法をお願いします」

 

あれ?

全員に攻撃するんじゃないのか?

いや、各個撃破ってやつか。

面倒な俺を先に消すって言うな。

 

「これはっ!くそっ!うっ!?」

 

ここでダクネスは戦線離脱した。

恐らく何重にも状態異常を掛けられたのだろう。

体力的ではなく、何かに魘されるようだった。

スリープの上位互換かもしれない。

耐性のあるダクネスがやられるってどんなだよ。

 

「ダクネスっ!」

 

めぐみんは悲痛な叫びを上げ、悪魔も味方かのように。

 

「ダスティネス卿っ!くそっ!あの悪魔さえ倒せれば、居なくなるというのに!」

「もう撃てますが打った方がいいですか?」

 

めぐみんは悪魔に確認する。

そして、悪魔はゆっくりと頷いた。

 

「ダクネスの仇晴らしてくれる!」

 

こうして俺は、何度も見せられて、何度も魅せられてきた爆裂魔法の中心部に居る。

これ凄いな。

流石、めぐみんだ。

バニルの破滅願望が分かったかもしれない。

このまま滅ぼされるのなら、忘れ去られたまま消えるのなら、せめて、愛した人の愛した魔法で死んでやろう。

お姉さんもこんな気持ちだったのだろうか。

そう思い俺は何とか動かせる範囲で寝返りをうち、めぐみんを見る。

めぐみんの目には、何処か邪神ウォルバクを屠った時のような迷いが見える。

ダクネスが心配なのだろう。

でもこんな不完全なモノで俺は満足しない。

 

「何だよこの魔法。こんなので俺は死なねえぞ!」

 

言ってやると、めぐみんは分かりやすく敵対心を燃やした。

そうだ。

これでいいんだ。

良く考えれば、バニルが誰も死なないと言っていたではないか。

俺が死んでもバニルが何とかしてくれるって事だよな。

よし、詠唱も終わったし、あとは採点だけだ。

唱えてから発動までは、数秒の誤差がある。

そこならまだ言える。

この流れからしてもう点数は決まっている。

そう、俺は魔力の流れだけで爆裂魔法の純得点を出せるようになったのだ。

最後くらい笑顔で採点してやろう。

 

「百点満点!!」

 

爆音とか見栄えとか含めたら百二十、いや、百五十点くらいだろうな。

最後を見届けられないのが心残りだが仕方ない。

 

「『エクスプロージョン』ッ!?だ、だめっ!」

 

突如聞こえた叫び声。

正義に酔いしれた顔から一転、めぐみんは顔面蒼白となっていた。

そして、隣で悪魔は不敵に微笑み、口を動かした。

 

「安心しろ私はもう何もしない。まあ、これでこの娘は死んだも同然だがな」

 

伝え終わると悪魔はダクネスの看病へと向かった。

そして、視界が白くなり、俺の終わりを告げる。

この世界で二度目の爆裂死だな。

そんな事を考えていると誰かの声がして、体が浮いた。

その声はこう呟いた。

 

「てんい」

 

 

 

浮遊から体感で約数分。

目を開けるとエリスが居た。

やはり俺は死んだのか。

本当の意味で、蘇生も出来ずに。

ただ一つ気になるのは、何故かエリスにお姫様抱っこされて移動しているという事だ。

 

「あの、エリス様?この状況はいったい・・・」

「目覚めましたか?今はあの現場に戻っている所です。回復魔法をかけたので、もう大丈夫だと思いますが、痛む所はありますか?」

「いや、まあ、大丈夫ですけど。ここって天界じゃないですよね?」

 

明らかに天界ではなく、自然が広がっていた。

あの部屋以外を知らないから何とも言えないけど。

 

「ええ、ここは地上です。何とか間に合って良かったです。一つ質問ですがダクネスは何故倒れていたのでしょうか?」

「あの悪魔が下級悪魔を召喚して、ダクネスを集中攻撃して・・・」

「もう大丈夫です。悪魔には滅んで貰う。ただそれだけです」

 

目からハイライトが消え、ただただ恐ろしい笑みがそこにはあった。

前にアクアが言ってたけど、対悪魔になるとあいつの方がマシだな。

 

 

 

エリスが恐怖の対象となってから数分。

あの場所に辿り着いた。

すると、めぐみんは放心状態で、座り込み、悪魔はダクネスの介抱をしている。

あいつは最後まで騎士としてやるつもりらしい。

それを見ているとエリスは言った。

 

「カズマさん。私があのゴミを除去するので、ダクネスとめぐみんさんをお願いします」

 

表情で表すなら満面の笑みでエリスは言った。

しかし、目は笑っておらず、怒りに燃えていた。

笑いながら怒る人は怖すぎるって!

いや、神だった。

ってそこは関係なく怖い!

俺は返事もせずに、迂回ルートでめぐみん達に近付いて行く。

 

「『セイクリッド・エクソシズム』ッ!世界のクズ!カズマさんに働いた悪行を悔いて滅びなさい!それに、ダクネスに何をしたあああ!!」

 

そこには、激おこなエリスが居た。

悪魔はギリギリの所で躱している。

あっ、だからバニル達は出てこないのか。

納得。

二人とも排除対象だもんな。

 

「な、何だ貴様!何処から、いや、その反吐が出る程の神聖さは何だ!?」

「神の名のもとに失せろ雑種!」

 

・・・女神エリスが某金ピカ王みたいになってるですけど。

なにこれ。

怖い。

いや、訂正、怖さ倍増。

 

「何を言って・・・」

 

これが悪魔の最後の一言だった。

 

「さっさと消えろ。『破魔』ッ!」

 

こうして事態は収束したかのように思われた。

 

 

 

「・・・あ・・・・・・・・・」

 

めぐみんの声がする。

俺の事を思い出したのだろう。

 

「・・・ああ・・・・・・」

 

何だか様子がおかしい。

瞳に光が入ってないような・・・。

 

「・・・・・・あああああ!」

 

突如、めぐみんが発狂し、のたうち回り始めた。

エリスも事態を飲み込めていないのか、俺とめぐみんを交互に見ている。

俺は心配になり、近付くと、めぐみんは先程よりも大きく叫び、激しく暴れだした。

 

「如何しためぐみん!しっかりしろ!」

 

安心させようとするが症状は悪くなる一方。

 

「・・・いや、・・・・・・いや、いやあああああ!!」

 

予想だにしない拒絶。

俺は怯んでしまった。

心からの拒絶に、俺の心は抉られた。

まさか、これで痛み分けとでも言うのか?

 

「カズマさん、落ち着いてください。今のめぐみんさんをどうにか出来るのはあなただけです」

 

そんな事を言われたが、この拒絶された現状から、どうしろと?

めぐみんは未だに錯乱状態。

ダクネスも気絶したまま、エリスに介抱されている。

確かに動けるのは俺だけだ。

覚悟を決め更にめぐみんへと近付く。

すると、めぐみんは先程とは違い俺をじっと見ていた。

そして、堰が切れたように口を開いた。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」

 

めぐみんは壊れたおもちゃかの如く、ごめんなさいを繰り返していた。

 

「どうした?大丈夫か?怪我とかないか?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」

 

ダメだ。

反応がない。

これが、心が壊れると言う奴なのだろうか。

あの悪魔の言うめぐみんが死んだと言うのはこれか。

恐らく、あいつは意図的にめぐみんの記憶を戻した。

魔法を放つタイミングを見計らって。

なんて下劣な発想だろう。

ウォルバクを倒した時でさえあんなに不安定だっためぐみんだ。

この状況は納得がいく。

 

「めぐみん、俺はお前を許す。だからもう謝るな。逆に謝り続けたら絶対に許さねえからな!」

「ごめんなさ・・・・・・・・・」

 

ここでやっと止まった。

しかし、めぐみんは未だに震えている。

安心させようとまた近付くが、めぐみんも後ずさる。

 

「めぐみん、如何した?」

 

先程とは違い、会話する意思があるようで、唇を震わせながらも発声しようとしていた。

 

「・・・ほ、ほんと・・に、か、かずま、なので、すか?・・・・・・・・・」

「嗚呼、俺はここに居る。幻覚なんかじゃない」

 

確かにあの状況だと、俺は普通死んでるよな。

そして、安心させるように微笑みかけると、逆にめぐみんは塞ぎ込んでしまった。

 

「めぐみん大丈夫か?何に怯えてんだ?」

 

ここからめぐみんの告白が始まる。

 

「・・・・わ、わたしが・・・・・・・・」

「お前が?」

「・・・じ、じぶんが・・・・・・」

「だからお前が如何したよ?」

「・・・・・・こわい・・・です・・・・・・・・・・・・」

「・・・」

「・・・・・・か、ずま・・・わたしは・・・・・・・・」

 

今にも泣きそうな顔でめぐみんは此方を見ていた。

必死に涙を堪えているのが分かる。

そして、俺は無意識に近付こうとした。

するとめぐみんもまた後ずさる。

 

「・・・」

 

虚ろな赤黒い目がそこにはあった。

しかし、弱った紅い目からは何かを伝えようとする意思が見えた。

だから俺は何もせず、見守る事にした。

 

「・・・あなたを、・・・・・・すきなんて・・・」

「・・・」

「・・・・・いって、・・・・・・・こんな・・・・・」

「・・・」

「・・・・・しうちで、・・・・・・それでも、あなたは・・・・・・」

「・・・」

「・・・・・わたしを、まもって・・・きずついて、・・・・・・・・・」

「・・・」

「・それなのに・・・・・わたしは・・・・・・・・・わたしは・・・うっ」

「・・・」

「・・あなたをわすれて、・・・・・あんな、つらいおもいさせて・・・」

「・・・」

「・・・・しかも、ききとして・・・・ころして・・・・」

「・・・」

「・・なのに・・・・こんな、つごうのいい、・・・・・げんかくまで、みて・・」

「・・・」

「・・・・・さいごに、わたしのあとおし、まで・・してくれた・・・かずまは・・・・・」

「・・・」

「・こんなわたしに・・・・・すかれても・・・・・・」

「嫌じゃない!」

 

これ以上は聞いていられない。

いや、言わせてたまるか!

 

「・・・・・・いやで、あなたをすくしかくなんて・・・・・・え?」

 

発声に必死で聞き取れなかったのだろう。

そして、俺の動きに気付けなかった。

 

「嫌じゃない!って言ったんだよ!」

 

言い終わると同時に俺はめぐみんを抱き締める。

こんなに昂った抱擁をするのは初めてだ。

 

「・・・・・でも、わたしはっ!」

「お前の所為じゃない!俺だって逆の立場ならそうしたに違いない。悪いのはあの悪魔だ。あと、俺はちゃんと生きてる!幻覚じゃねえ!」

 

アイツさえ居なければこんな事にはならなかった。

めぐみんがこんなに傷付く事も。

 

「・・・なにがあっても・・・・・」

「如何した?」

「・・・なにがあってもわたしはかずまのみかた・・・・・・じゃなきゃだめで・・・」

「そんな約束覚えてたのか?てかあれ、酒飲んで巫山戯てた時の・・」

 

めぐみんの視線に耐えかね続けるのをやめた。

めぐみんにとってあの約束は大事な物だったらしい。

 

「・・・・・それでもやくそくしました・・・・・・それをわたしは・・・・・」

「そんな約束してないぞ」

「・・・え、いやでもさっき」

「確かに言った。でもな、お前が約束したのは、例え俺が街のみんなから恨まれても、世界から恨まれても。世界を敵に回しても、私はあなたの味方ですと」

 

めぐみんは何か言いたげにしているが、肯定として頷いた。

 

「言っちまえば。これだけだ。お前は何も破ってねえ。だって、恨まれたつうか敵対視されたのはダクネスとめぐみんからだけだ。更に初めから敵対的だったのはダクネスだけ。最後は義憤に駆られて、挑発にも乗ってたけど、あれは俺が仕向けたからノーカンな。他にもダストとかテイラー、キースにリーン、バニルやウィズが助けてくれた。だから街のみんなから恨まれた訳じゃないし、世界からなんて以ての外、敵にも回してない。つまり、約束の発動条件は何一つ発生してない。だから、お前は何も破ってない。あの日の約束が続いていたとしてもな」

「うぐっ、かずまは、・・・やさしすぎなんですよぉぉぉぉぉ」

 

堪えきれなくなったのか、先程までとは違い、胸に飛び込んで来た。

 

「ハイハイ。そんな俺が好きでいてくれよ。自分には資格がないだとか言われると、俺悲しくなるから」

「・・・ふふっ、わかりました。さびしがりやのかずまのためにすきでいてあげます」

 

この際だ。

想いをちゃんと伝えよう。

 

「ありがとう。俺もお前をずっと好きでいるから、安心しろ」

「よろ、しく、おねがいします」

 

まだ、話し方が元に戻り切っていないが、もう大丈夫そうだった。

俺とめぐみんは暫く、微笑みあっていた。

そして、俺はとある事実に気付く。

エリスではなく、アクアがそこに立っている事に。

 

「・・・あっ、気付いたようね。バカップルさん達」

「「だれが!」」

「いやあ、まさかエリスと交代で戻って来たら新たなカップル誕生シーンを見られるとは、ゴチでした。て事でダクネスの回復も終わったから、私ギルドで広めてくるわね!」

 

そんな事を言ってアクアは街の方へと駆けて行き、ダクネスが目を覚ました。

 

「・・・ん?ここは?カズマか?それに…」

「させるかあああ『クリエイト・アース』!『クリエイト・ウォ・・・」

「ひっ!分かった!広めないから手をこっち向けないで!」

 

こうして俺は日常を取り戻せたのであった。

ただ一つ変わった事を挙げるなら、めぐみんが正式に彼女となった事だろう。




どうでしたでしょうか?
いつも以上に注目されている(自意識過剰)気がしたのでめちゃくちゃ怯えてます笑
終わり方が雑過ぎですよね。でもこんなのしかかけないんです。すみません。

話は変わりますが、この作品製作の中で出来た天界編(現在セリフのみ)があるのでその投稿を次のありがたいこと記念に投稿しようと思ってます!
まだ完成はしてないので達成後、暫くかかるかもしれませんがご了承くださいm(*_ _)m

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ハーメルン:ポイントが2000突破等
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pixiv:フォロワーさんが200人突破等


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if

今回はpixivのフォロワー数が200を越したことを記念して投稿します!
みなさんいつもありがとうございます!
なんとか毎月投稿は出来ました。嘘はついてません。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。


-IF-

 

「あの、お金がないのですよね?良ければこれをどうぞ」

 

言ってその子は俺に二人分の登録手数料とその百倍のお金を渡してきた。

 

「えっ、えっと。こんな大金を見ず知らずの俺らにどうして?」

 

俺がそう言うとその子は一瞬俯いてから口を開いた。

 

「勿論、条件はあります。私をあなた達のパーティーに入れてください」

「え?そんな事でいいのか?しかも俺ら何もやってないけど?」

「何でもいいじゃない。お金は入るしこの子紅魔族だから即戦力になるわよ!」

 

何だか怪しい。

紅魔族が何か知らないが多分強い種族なんだろう。

この金受け取ったら、角から怖いお兄さん達が出てきて囲まれそうな気がする。

 

「先行投資ですよ。私はあなた達が魔王を倒すと人目見て思ったのです」

 

余計に胡散臭くなってきたな。

アクアは浮かれてるけど、女神だから疑う心とかないのか?

ここは一つバシッと撃退してこの女神の俺に対する評価でも上げておこうかな。

 

「本当の事言ってくれよ。話はそれからだ」

「えっ、...」

 

やっぱりだ。

急に挙動不審になった。

辺りを見回してるし、恐らく仲間でも探してどうすべきか確認しているのだろう。

さてとあと一押しでこの子とはお別れだな。

 

「どうした?話せないのか?それだとこのお金怖くて受け取れないんだけど」

「うっ、分かりました。バレては仕方ないですね」

 

ふっ、とうとう観念したようだな。

 

「本当は、その、あなたに一目惚れしました。ですから同じパーティーに入りたいって思って…」

「やっぱりか一目惚れして・・・今なんて?一目惚れって聞こえたんだが」

「うん。私の頭がおかしくなったのかと思ったけどそれで間違いないわ」

 

俺が確認するとアクアがそんな事を言った。

当の本人は恥ずかしそうに杖で顔を隠しながらチラチラこちらを見ている。

えっとあれか?

美人局に移行したのか。

ここでモテ期到来とか浮かれる俺ではない。

あと俺がロリコンではなくて良かった。

 

「本当にそう言うの良いから本当の事言ってくれ、今なら穏便に済ませてやるからさ」

「・・・も、もう一度言わなきゃダメですか?」

 

論点のすり替えを始めたし、間違いない。

異世界来て直ぐにこれではこの世界の治安が心配になってきた。

 

「そうじゃなくて、芝居はいいからさっさと本当の目的をだな」

「何か勘違いしてませんか?」

「何を?」

「私は本気ですよ?これ以外に隠してる事なんてないです」

 

往生際の悪いやつだな。

早く吐けばいいのに。

 

「またまたご冗談を。近くに仲間とかいるんだろ?余所者騙そうたってそう上手くいかないぞ」

「・・・カズマ、もしかしてこの子美人局?」

 

ここでこの・・・えっと女神も気付いたようだ。

何気に名前聴きそびれてたな。

 

「ち、違いますよ!やっぱり疑ってたんですね!」

「やっぱりも何も怪しさしか感じないんだけど」

 

最後まで認めないか。

何かぼそぼそ呟いたあとこの子は言った。

 

「信じて貰えないなら今は帰ります。でも諦めませんからね!」

 

ここまで来ると逆に尊敬するな。

さてとこんな事にカマかけてる余裕はない。

話を元に戻そう。

 

「危なかったわね。騙される所だったわ。でもあの子お金置いてったわよ?」

「一応預かるけどこの金は使わずにバイトで稼ぐぞ」

 

この時俺らは本当にあの子がまた来るとは思いもしていなかった。

 

 

 

バイトで何とか登録手数料と宿代を手にした俺たち二人はギルドで夕食を取っていた。

 

「アクアいいか。今日みたいな事がまたあるかもしれないから気を付けろよ?」

「ええ、上手い話には裏があるって事よね。気を付けるわ」

 

昼間の件でこの女神ことアクアとの絆が深まった。

かと言って恋愛対象かと言われると違う気がする。

まあ、何にせよ仲間同士の仲が良くなった訳だからある意味あの子には感謝だな。

今頃隣町にでも逃げて…

 

「それでどうすればいいのでしょうか?」

 

なかった。

いや、この子何なの?

肝っ玉座り過ぎでしょ。

如何にも人生経験豊富そうなお姉さん二人とあのロリッ娘が話していた。

 

「地道に誤解を解くしかないんじゃないかな?でもその感じだと難しそうよね」

「でもその人も凄いよね。普通ホイホイ乗っちゃいそうな話なのに断るなんて」

 

なんだろう。

これ俺の話だよな?

ちょっと恥ずかしくなって来た。

アクアにどうしようか聴こうと思ったらカウンターで飯食ってやがる。

後で絞めておこう。

 

「はい。私の思った通りの人でした」

「でもそんないい男何処にいたの?」

「そうよね。そんなイケメンで人格者に会ってみたいわ」

 

なんか凄い美化されてる気がする。

もしかして違う人の話ではなかろうか?

でもさっきの流れ的に行くと俺だよな。

 

「それでその人の名前は?」

「カズマと言うらしいです。直接聴いた訳ではないですが一緒にいた女性がそう呼んでいたので」

 

俺で確定した。

あの時はアクアの方だけが名前知ってたしな。

外堀埋め始めたのかこいつは。

どんな手使ってでも騙す気らしい。

 

「へぇー変わった名前の人だね」

「私はカッコイイ名前だと思うのですが」

 

カッコイイ名前って何だよ。

和真なんてざらにある名前・・・じゃないのかここは。

 

「・・・ねえねえ、その名前何処かで聞かなかった?」

「えっ、本当ですか!?」

 

何故こいつはここまで本気なのだろうか?

まさか家族の命懸かっているのだろうか?

そうなるとちょっと気の毒に思えて来た。

だからと言って助ける訳じゃないし、話にも乗らないけど。

 

「う、うん。確か今日冒険者登録に来た凄いアークプリーストの人と一緒にいたような」

 

そうだよな。

あの時、俺は初っ端から冒険者人生より商人の方が向いてるとか言われてたけど、アクアの奴異常なステータスで受付の人興奮してみんな見てたもんな。

知力と幸運値が低いってのが俺と真逆でちょっと気持ち的に楽な面でもあるが。

 

「え?でもあの男の子パッとしない普通の子だったじゃない。不釣り合いな組み合わせで変な服着てたから覚えてるわ」

 

おいこら、誰がパッとしないやつだ!

別にあいつとは付き合ってる訳でもないし不釣り合いだとか言われる筋合いもねえ。

何頷き合ってんだこのお姉さん方。

よし、そろそろこの二人に喧嘩売るのも併せて声掛けよ・・・

 

「・・・多分。その人です。私が好きな人は」

 

気まずそうにロリッ娘は言った。

 

「「えっ、」」

 

その驚き方は失礼にも程があるだろ。

あと俺の存在に気付いたようだ。

顔から焦りを感じる。

 

「緑と黒の服ですよね?」

 

ロリッ娘は気付いてないのか話を続ける。

 

「「あ、うん。と言うかその人なら後ろに」」

「・・・え?」

 

二人の指摘に振り向くとロリッ娘は一気に顔を紅くし、あわあわしだした。

 

「あっ、ど、何処から聞いてたんですか!?い、今のは聞かなかった事に・・・」

 

嘘とは思えない程に悶えている。

この子女優になれるって言うか直ぐに人気子役だな。

どうしたものかと後ろを見るとお姉さん二人は逃げていた。

 

「誤解を解くとかなんかそんな話ら辺だな。随分と美化されてたけど」

「ホント!忘れてください!ううぅっ」

 

やばいどうしようこの子嘘泣き始めたんだけど。

・・・めちゃくちゃ可愛い。

はっ!しっかりしろ俺。

あの女神と言いここには見てくれだけは良い奴がいるんだ。

異世界来て直ぐに借金まみれの生活なんて御免だ。

 

「分かった聞かなかった事にするから泣きやめって周りから見られてるから」

「迷惑掛けてすみませんでしたあああぁぁ」

 

そう叫んで走り去った。

・・・何だったんだ?

やっぱり家族で脅されてんのか?

ちょっと心配だし、後付けてみるか。

 

「カズマ、何処行くの?私お風呂行きたいんですけど」

 

・・・この駄女神はほっておこう。

 

 

 

紅魔族とか呼ばれる種族の子を追いかけ初めて数分。

彼女は魔道具店に入っていった。

 

「失敗しましたあぁぁ」

「お、落ち着いてください。やっぱり初めから恩着せがましく言った方が良かったんじゃないですか?あの額は確かに素直に喜べる額じゃないですから」

 

なるほど。

この優しそうなお姉さんが元締めか仲介人か。

天然そうな顔して怖い事してんな。

巨乳なのに勿体ない。

 

「ウィズはそう言いますが、私はカズマに少しでも好かれたくて」

「一目惚れなんですよね?はやる気持ちは分かりますがゆっくり少しづつの方が変な疑いは掛けられなかったと思いますよ」

 

・・・あれ?

この人も外堀の一人か?

こういう店って冒険者よく来るからかな?

 

「でも、好きな人がお金に困ってたら助けたくなるじゃないですか」

「そ、それは登録手数料だけなら怪しまれなかったのではないでしょうか?」

 

確かにそれだけならラッキーくらいの乗りで受け取ってたかもしれない。

 

「それを早く言ってくださいよ!私カズマに警戒されちゃいましたし、さっきは話聞かれて恥ずかしくて逃げちゃいましたし、もうカズマに近付くの無理ですよ」

 

・・・こうやって見てると嘘ついてない気がしてきた。

これ全部嘘だったら怖過ぎる。

でも俺なんかに如何して?

それこそギルドのお姉さん二人が言ったようにパッとしないやつなのに。

 

「・・・こうなったら最終手段で行きましょう」

 

店主のお姉さんに気付かれた気がする。

どうしよう。

今出て行くの気まずい。

 

「何か手があるんですか!」

「少し値は張りますが惚れ薬を」

 

いきなり何言い出してんだこの店主さん。

てかこの世界にそんな物あるのかよ!

 

「惚れ薬・・・それならってダメですよ!そんなの!私は自分の力であの人に!」

「今ので誤解は解けたと思いますよ?」

 

そういう事か。

この子の真意を俺に見せようとしたのか。

 

「でも惚れ薬があれば・・・え?今なんて言いましたか?」

 

・・・欲望と葛藤する所もあるらしい。

 

「誤解は解けたと思いますよ」

「如何してそんな事が言え・・・あ!」

 

俺に気付いたその子はまた赤面し、わなわなと震えていた。

 

「よ、よう。あの後気になって後付けてたんだけど、本当だったんだな。ごめん。仲間の件受ける事にするから」

「ああああああああああ!!ウィズ図りましたね!こんな店我が爆裂魔法で」

「めぐみんさん落ち着いてください!!そんな事されたらウチだけじゃ済まないですから!」

 

めぐみんと呼ばれた魔法使いはウィズと言う店主に止められていた。

あだ名にさん付けるってどうなってんだろ?

 

「はあ、こうなったら自己紹介ですよね?」

 

言って魔法使いの少女はマントを翻した。

そして変なポーズを取ってから言った。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の天才にして爆裂魔法を操りし者!」

 

・・・この子中二病患者だったのか。

てかめぐみんって名前なのかよ!

 

「何か失礼な事考えてませんか?」

「べ、別に・・・・・・えっと俺の名前は佐藤和真。最弱職の冒険者にして魔王討伐を目指してる者だ。まあ、諦めつつあるけど」

 

ポーズは流石に恥ずかしいから口上だけ似せといた。

するとめぐみんは目を輝かせていた。

最後の一言までは。

 

「あの諦めつつあるって言うのはどう言う」

「ほら一緒にいた青髪の奴いるだろ?あいつが浪費家で武器整えるのに時間がかかりそうで」

「お金ならありますよ?」

「そ、そういやそうだったな」

 

この状況俺はどうするべきなのだろうか?

自分に一目惚れした子からお金貰うって色々ダメな気がする。

そもそも何故惚れたのだろう?

 

「一ついいか?」

「はい。何でしょう?」

「俺の何処が良かったんだ?」

 

質問に対して悩むこと無く真っ直ぐな目で答えた。

 

「バイトしている所を見掛けて、その働きぶりですね」

 

色んな所でカルチャーショック受けながらバイトを転々としてたからな。

しかもどれも褒められたようなものでは無い。

 

「それ何のバイトしてた時だ?」

「ギルドでウェイトレスしてた時のです」

「二時間足らずでクビになったんだけども」

「畑で秋刀魚が採れる事知らなかったのでしょう?それまでの話ですよ」

「・・・嗚呼」

 

こんな子に見られていたとは気付かなかった。

そりゃあ。

初めの方は気が利くなとか褒められてたけども。

それで惚れるのだろうか?

 

「初めは変わった服の人だなって見てました。それで業務外の仕事を幾つもしていたのを私は見ていたんです。普通は与えられた仕事しかしないのに勤勉な人だなあって思ったんです」

「・・・」

 

なんだろう。

俺の本性知られたら不味い気がする。

引きこもりしてたなんて言えない。

 

「そこから気になり始めて、他のバイトをしている所にも何度か遭遇するうちに気付いたら好きになってしまって、お金に困っていると聞いたので助ければ仲間に入れてくれるのではないかなと思ったのですが軽率でした」

 

大金を出したのを反省してか恥ずかしそうに髪を掻くめぐみん。

どうしよう。

この子は俺の上辺だけ見てるようだし、あまり宜しくないパターンだよな。

 

「難しい顔してどうかしましたか?」

「いや、俺なんかでいいのかなと思ってさ。ほら秋刀魚がどこで取れるか知らない程には世間知らずだぞ俺?」

「構いませんよ。世間知らずでも、元引きこもりでも全く問題ないですよ」

 

こんな子が他にいるだろうか?

いや、居ない。

ギルドでの俺の評判はこいつの話で大体分かる。

タイプとは違うけどここは手を取るしかないだろう。

だってこの子可愛いからな!

今後の成長に期待ってやつだ。

 

「そ、そこまで言われたら……今元引きこもりって言わなかったか?」

「ええ、…もしかして違いましたか?すみませんでした」

「謝らなくていい、あってるから」

 

急に気まずくなってきた。

視線を逸らすと店主さんが微妙な視線を送っていた。

そりゃあヒキニートとか聞いた後だとそうなるよな。

 

「でもどうして知ってるんだ?」

「二人が冒険者登録した日、ギルドに居た人からヒキニートと呼ばれていたと聞きましたので、引きこもりのニートの略かなと思いまして」

「…悔しいけど合ってる」

 

めぐみんはほっとしたのか表情が軽くなった。

相手が引きこもりのニートで安心するなとツッコミたいがやめておこう。

 

「あの、一つ確認ですがアクアさん?はカズマとはどういう関係ですか?」

「あいつは腐れ縁?みたいな所かな」

「そうですか。良かったです」

 

やばい。

この笑顔の攻撃力高過ぎる。

 

「返事はもっとお互いに知ってからでいいのでよろしくお願いしますね?」

「あ、嗚呼。よろしくな」

 

この世界に来て数日で新たな仲間兼俺の彼女候補が出来た。

 

 

 

「今日もいい夢だったな。記憶消して夢見られるとか中々すごいよな」

 

さっきのサキュバスの夢サービスで、頼んだもしめぐみんが一目惚れしていたらと言うものであった。

しかし、俺も馬鹿だな。

普通に手を取ってたらもっと楽しめただろうに。

夢と思ってない故の弊害もあるってことだな。

次はそこも考慮して頼むか。




今回は夢落ちとなってますが、平行世界に祝福を!を作っていた時のボツを転用しただけです。
手抜きですみません。忙しくてこれくらいしか出来なかったのです。
次の記念作はちゃんとしますから御容赦ください!


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仲間との決闘

二週間あけ、一話しか挙げられませんでした。すみません。
メインキャラ決めるのに迷走していたのと、戦国無双をやり過ぎてたのが原因です。
前者は二週遅れで、後者は一話だけになった理由です。
今回の更新はハーメルン●●を!の総合評価ポイントが2000を突破したことを記念した投稿になります。
いつもありがとうございます。
今回はいつもとは違うキャラ視点です!


-NAKAMATONOKETTOU-

 

俺は今機嫌が良い。

理由は単純。

ダチが奢ってくれてるからだ。

やっぱりタダ飯程美味いものはない。

 

「また、アクアのやつ俺のツケで飲んでやがったよ。めぐみんはめぐみんで勝手に爆裂魔法放って帰ってくるし、ダクネスはスライム売りの行商人見つけると迷惑かけるし、なあ、アレ何とかできないか?」

「お前が無理なら無理だろ。いいか、お前の所の三人娘はお前以外制御出きっこねえ」

 

いつもの愚痴を聞かされる。

これだけで奢ってくれるなら安いもんだ。

あのじゃじゃ馬三人を操れるのは伯楽(カズマ)のみってもんだ。

 

「いやいや、めぐみんはゆんゆん、ダクネスはクリスがいるだろ」

「じゃあ残りのアクアはお前が夫として面倒見ろよ。なんにせよ三人同時にってのはカズマにしかできねえよ」

「誰が夫だよ。はぁ、ダスト今日のクエスト変わってくれないか?ダクネスが昨日、勝手に引き受けてきてさ」

 

熟年夫婦漫才いつも見せられてるし間違っちゃねえだろ。

とは言え気になってる女は他にいるっぽいな。

本人は自覚してねえか、してても踏ん切りついてないだろうから、言ったところで否定するだろうが。

 

「奢ってくれたことには感謝してるがそれは無理な頼みだぜ、今日は俺らもクエストで……」

「ダストあんた、またカズマに奢ってもらってるのね?カズマ、その誘い乗るわよ」

「ちょっ、リーン!」

 

面倒な時にきやがった。

他人事だと思って勝手に引き受けやがって。

カズマの解放された喜びの表情からしてやばいのは間違いない。

それに前回のでもうこりごりだってのに、リーンめ!

 

「いいのか?」

「ええ、前から三人でまたカズマと組みたいなあって、話もしてたしちょうどいいわ。それにダストは、カズマに色々して貰ってるみたいだからね」

「よきゃねえよ!それにまだ三人娘がいいって言ってないだろ?」

 

前回もあの三人は初め嫌がってた。

ここにかけるしかねえ。

しかし、この場で決まったら先にカズマを連れてリーンが行っちまう。

誰かが来るのを待つしかないか。

 

「それなら大丈夫だ。俺があいつら上手く焚き付けておくから」

「具体的に言うと?」

「俺が負けたらなんでも言うこと聞くとかそんなあたりだな」

 

勝つこと分かってて言ってる。

くそっ、ジリ貧だ。

いや、俺は賭けに関係ねえか。

負けるのは癪だが、アイツらと組むなら仕方ない。

 

「誰が何でもするのだ?」

 

お嬢様いいタイミングと言いたいが、何でもするって単語に反応してるのがまずい。

負けた時にカズマから何されるか気になって、やる気を出しかねん。

爆裂娘あたりが止めてくれれば、ダチも黙るだろうがまだ来ねえのか。

 

「俺だよ俺。ダクネス、悪いけどまたダストとクエスト組んでもらう。で討伐数がお前らより少なかったら俺が何でも言うことを聞く」

「分かった。二人に伝えておこう。私達が負ければ逆も然りだな?」

「それは別に……ああ、そうだ。じゃあそういうことで」

 

やっぱり、乗り気に。

しかも珍しくカズマが、自分だけの罰ゲームで賭けしようとしてたってのに、付け加えやがった。

カズマ、なんか楽しそうだな。

何頼むか想像してるのか。

 

「カズマ、話は終わった?テイラーとキース呼びに行くわよ」

 

リーンに呼ばれてカズマはギルドを後にした。

二人とも微笑みあってて無性にイライラする。

 

「・・・あいつ、カズマのこと好きなんじゃないかって偶に思うんだがよ。お嬢はどう思う?」

「お嬢と呼ぶな!・・・リーンの想い人がカズマ?私は他の人物だと思うのだが」

 

このお嬢様、とんでもないこと言い出した。

あいつに好きなやつがいるのか?

そんな素振り一度も見たことねえが……

 

「誰だ?」

「見ていれば分かるのだが、まあ、貴様には無理か」

 

じっと俺を見たまま真顔でそんなことを言う。

俺には無理って舐めてんのか?

それに見てれば分かるだ?

あいつそんな分かりやすいことしてるのか?

まさか俺が知らないだけでみんな知ってるとかだったら許さん。

 

「おい、それどういう意味だ」

 

こいつ、ニヤニヤするだけで答えねえつもりだ。

くそっ、リーンさえ来なければご機嫌にタダ飯食えてたってのに……

ちょっと待てよ。

カズマ、金払ってねえ!

・・・あっ、大したことないか。

悪妻がよくやってるカズマにつけといてって言えばいいのか。

 

「ダクネス、何を話してるんですか?」

「ねえ、カズマ見なかった?何処にも居ないんだけど」

 

今更きやがった。

いっそのこと今日は二人ともあの馬鹿げた日課に行って来なけれりゃよかったのに。

 

「カズマなら、お前らを俺に押し付けてリーンたちとクエストの準備に向かったぞ」

 

ほら見た事か。

二人ともすげえ嫌そうな顔してる。

これはあれだ。

何もせずに今日はゆっくり休もう。

ここで宴会してりゃあこの三人の監視も出来るだろう。

 

「カズマは討伐戦で勝負だと言っていたぞ。何でも一つ言う聞く権利を賭けてな」

「なるほどなるほど。面白そうじゃない。前回は悲惨な終わり方だったけど、今度はちゃんとカズマなしでも戦えるって見せつけるのよ!」

 

一番面倒なやつが、やる気に……

面倒くさがって行きたがらないと踏んでたが、余計なこと言ったか。

 

「私は不参加です。約束がありますからね。その罰ゲームとやらに私は入れないで下さいよ」

 

一番好戦的な紅魔族が乗らないとは、これまた予想外。

約束って何だ?

ぼっちと遊ぶことか?

一番の火力持ちがいなくなると辛い。

ここは何とか引き止めなければ。

しかし、やけに不機嫌だな。

カズマにポイされたのが、気に食わないとかだろうか?

 

「紅魔族は売られた喧嘩は買うんだよな?逃げていいのか?」

「逃げてなどいません。それに、カズマが私たちと勝負するために始めたことでは無いのでしょう?」

 

こいつまさか見てたのか?

くっ、仕方ない。

諦めるしかないか。

 

「そんなに私が必要ですか。では代わりにこの子を連れて行くといいです」

「わっ、めぐみん!?気付いてたの?」

「ぼっちがこそこそ覗いてることくらい分かります。今日一日私の代わりに働いて下さい。では私はこれで」

 

いい置土産してくれるな。

ゆんゆんが、いればまだ勝ち筋もあるってもんだ。

めぐみんよりも断然強い、いや、扱い易いか。

カズマのやつも本人居ないとめぐみんが最強だって言ってるしな。

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ。私は何すればいいの?」

「私の代わりに、友達であるあなたが、アクア達とクエストを受けるのです。分かったら私を引き止めるのはやめてください」

「う、うん」

 

ぼっちの扱いはピカイチだな。

まあ、こいつは誰でも扱いやすいと思うが。

 

「で、どこ行くんだ?カズマが戻った時に伝えといてやるからよ」

「出来れば行きたくない場所と言えば伝わりますよ」

 

言って仲間のプリーストを見るめぐみん。

なるほど、自称美人プリーストの所か。

ダチと一緒で面倒なのに、よく絡まれてるな。

 

「・・・何処かは何となく分かったけどよ。ならクエストに来れば良くねえか?」

「約束破る方が面倒になるので」

 

確かに約束破ったから何でも言うこと聞けとか、言いそう。

苦労してんだな。

カズマ程じゃないにしても。

 

「まあ、何だ。頑張れ」

「ありがとうございます。ダストも私達を勝手に引き渡したカズマに勝ってください。応援してますよ」

 

相当お怒りだ。

クエスト選びに戻って来たら、一応伝えとくか。

 

「お、おう。善処する」

「ねえ、めぐみんは何処に行くの?」

 

ここで、事実を告げるとダル絡みされるだろうな。

他の二人は気付いてるみたいだし、説明しなくてもいいだろう。

 

「さあな。守らないと面倒な相手なんだろうぜ。それより、どのクエスト選ぶか決めるぞ」

「あ、あの。どうしてダストさんが仕切ってるんですか?」

 

さっきまで大人しかったから、理解してるものかとばかり思ってたんだが、どうやら違うらしい。

しかし、これじゃあパーティー交換じゃねえな。

一人代替者、しかも上位互換。

カズマが戻って来たらどんな反応するだろうか。

 

「めぐみんが言ってたろ?カズマが、パーティー交換しやがったんだ。リーンと結託して」

「・・・」

 

遠い目をして、何か言いたげなぼっち。

この表情、何か良くないことを考えてるのは間違いない。

 

「おい、なんだよその顔は」

「いや、その。ハズレ引いたような気がして……」

「「「誰がハズレだ(よ)!」」」

「す、すみません!」

 

こいつ、普段大人しいのに、毒舌なのがたまに傷だ。

しかし、言いたいことは分かる。

カズマが手網握ってないこの二人と組むのは不安だからな。

 

 

 

「じゃあまず、誰がリーダーか決めましょう!」

「カズマの代わりなんだから俺だろ」

「ダストさんがリーダーって何か嫌です」

 

こいつ、カズマに誘われたら喜んで臨時パーティー組んでたクセに俺だったら嫌ってのはどうなんだ?

ちくしょう、俺とカズマの何が違うってんだよ!

嫉妬とかではないが、腹立って来た。

 

「嫌なら、いいんだぜ。今度めぐみんに会った時に、友達の頼みも聞けないやつだって伝えたら、今後お前の評価がどうなることやら」

「わ、分かりました!ちゃんとやりますから!」

 

さてと、ぼっちが抗命する可能性はこれで無くなった。

あとは問題の二人だ。

どっちも勝手に敵へまっしぐら。

これだけは避けねば勝てない。

 

「分かったならよし。カズマ達はカエル狩りをするらしいから、俺らもカエル狩りだ」

「ジャイアントトードね!今日こそはあの憎きカエルどもに天誅を下してやるわ。もう粘液まみれになるなんてごめんよ!」

「今日はこそはアクアみたいに粘液まみれに……」

 

同じパーティーとは思えない真逆の発想だな。

これを毎日扱うカズマの凄さを身に染みて味わう日が再び来ようとは。

今頃、カズマはリーン達とわいわいやってんだろうなあ。

俺だけ惨めに思えてきた。

・・・いや、アクシズ教徒の待つ教会に行くよりかはマシか。

 

「まあ、何にせよ。あいつらより先に出て少しでも多く討伐するぞ」

 

 

 

ギルドから飛び出した俺たちは、正門へ向かって歩いていた。

いつもとは違う顔ぶれに不思議そうに知り合い達が見ていた。

一々説明してやる暇もなければ義理もないし、気にせずに、カズマ達に勝てる作戦を練っているとこの街の名物でもある有名人三人がそこに居た。

 

「ダクネスさん、少しいいですか?」

「久しぶりだな。三人揃って何かあったのか?」

 

この街、いや、ベルゼルグ一のアイドルグループアクセルハーツの三人だ。

カズマがプロデューサーとらやをやってるおかげで、近しい存在に思える。

 

「握手会で迷惑行為をする人がいるのよ」

「その対策をカズマに頼もうと来てみたのだが、いつもとは違う顔ぶれで少し驚いてる」

「俺とカズマのパーティー交換第二弾ってやつだ。めぐみんは先約あって、代わりにこいつが入ってる」

「なるほど。しかし、困ったな。カズマを頼みにやってきたのに、不在とは」

 

相当頼りにされてるみたいだ。

まあ、企画とか作戦考えるの得意だからな。

バニルの旦那が、高評価するのも頷ける。

エリス・アクア祭りの企画も最高だった。

あれは町中の男共がカズマを崇めてたからな。

 

「カズマが帰ってくるの待てばいいのよ」

「でも、クエスト終わりで疲れているところに相談するのは悪いですよ」

「じゃあ、俺様が臨時プロデューサーやってやるぜ。今日は俺がカズマの代わりだからな」

 

面倒なことこの上ないが、この三人冒険者としてのは腕は確かだ。

ここで、手伝って恩を売れば、討伐数のかさ増しも出来る。

勝ち筋が見えて来た。

 

「いいのか?」

「リア、ちょっと待って、この男にカズマみたいな才能があるか分からないのよ?」

「エーリカちゃん!ダストさんが助けてくれようとしてるのにダメだよ!」

 

三人は意見が揃わないか。

一秒でも多く時間が欲しいんだが、どうしたものか。

アクアとダクネスは、傍観者決め込んでるし、ゆんゆんは、何故かジト目で俺を見ていた。

 

「ダストさん。何企んでるんですか?変なことしたらリーンさんに言いますよ」

「いいか、三人の悩み相談をして、解決したらクエスト手伝って貰うんだ。それに、これを機会にあの三人と友達になれるかもしれないんだぞ」

「アクセルハーツのみんなと、と、友達に……」

 

ちょろいな。

悪い男に引っかからないか心配になってくる。

そういう輩が現れないように気を配っておくか。

 

「で、どうするんだ?俺は一つ案を思いついたけども」

「どんな案なの?」

「ちょいと金がかかるが、魔道カメラで写真を撮って、ブラックリストを作るんだ。あとはそれを警備員に渡せばいい」

 

魔道カメラ代はカズマにツケとけば何とかなるだろう。

三人とも納得してくたみたいで良かった。

問題は解決したし、あとは本題に入るだけ。

 

「ダストさん、いつも自分がされてることじゃないですか」

「誰がブラックリストに入ってるって?俺はな。出禁になってもブラックリストには載ってねえよ」

「出禁になってる時点で同じようなものでしょ!」

 

はあ、リーンがいなくて静かになると思ってたが、ここにも煩いのがいたか。

とは言えここはアクセルハーツの面々との会話が優先だ。

ゆんゆんは無視するに限る。

その理由はまあ、見てれば分かる。

 

「で、俺の案はどうだ?俺がカメラマンのフリして潜り込めば、撮影も出来ると思う」

「その案はいいと思うけど、イベントは明日なの」

「明日の対策ができないのは困ります」

「いいか。平和ってのはな。犠牲の上に成り立つんだ。明日を乗り切れば、そのあとはブラックリストでちゃんと排除できるだろ」

 

しかし、今までそういう客が居なかったことが驚きだ。

トロールが来たってのは抜きにしてだが、この街はあの店があるとは言え他の街でもライブはやってるだろう。

劇場の団員が、迷惑客に困ってるって話はよく聞くし、あると思ってたんだが、案外この国は治安がいいのか?

 

「しかし、明日しか来れないと言うお客さんのことを考えると...」

「分かった。明日問題起こすようなやつがいればこの俺が追っ払ってやる。それでいいだろ?」

「まあ、それなら構わないが。カメラマンはどうするつもりなんだ?」

 

取るに足らない問題だ。

これで話はまとまったも同然。

 

「そこはこのぼっちもいれば何とかなるだろうよ」

「だ、誰がぼっちですか!絶対手伝いませんよ!」

「だそうだ。ゆんゆんにとってお前らは大した...」

「て、手伝います!ダストさん変なこと言わないでください!」

 

やっぱちょろい。

金の面もちょろけば助かるんだが、最近はリーンの入れ知恵で、堅く断られる。

俺の財布を尽く、潰しやがる。

 

「ゆんゆんありがとう。あとは魔道カメラをどうするかなのだが」

「カズマにつけときゃいいだろ。問題は解決。ってことでちょっと手伝って欲しいんだが時間あるか?」

「それが魂胆だったのね?」

 

急に喋りだして、嫌な言い方するな!

自分を利するためって分からないのか。カズマがバカだバカだと言ってるのがよく分かる。

 

「あたし達を利用してお金儲けなんて考えてるなら甘いわよ」

「そうじゃなくて、今日一日クエストを一緒に受けて欲しいんだ」

「それもある種の金儲けなのではないでしょうか?」

 

金儲けか。

カズマみたくプロデューサー料を貰えるならあやかりたいが。

今はあいつらに見直させることが優先だ。

カズマカズマってうるさいんだよあいつらは。

 

「三人の討伐した分はそっくりそのまま渡す。俺らが欲してるのは討伐数だからな」

「ああ、実はパーティー交換と同時に、討伐数を競っていてな」

「分かった。カズマ達とは何度か一緒にクエストを受けているし、二人が交換しているなら、これはいつもと同じことだ」

 

物分かりがよくて助かる。

これで勝ち筋は見えて来た。

 

「でもその理論でいくと、めぐみんさんが向こう側で参戦できるんじゃあ」

「心配いらねえよ。カズマがパーティー交換してご立腹だったからそれはねえ」

 

もし、あの二人が組んだらプリーストまで着いていい勝負になっちまう。

下手したら爆裂魔法で逆転勝利ってのも有り得る。

 

「まあ、なんにせよ。このメンバーなら勝てるぜ」

 

 

 

街を出るまで、多くの人に見られた。

いつもと違う顔揃いで、有名人三人。

この街の人間じゃなきゃ、美人六人引き連れたハーレムパーティーに見える。しかも、その内三人はかの有名なアクセルハーツのメンバー。

カズマに感謝だな。

何かデカくなった気分だ。

「ねえ、ちょっと話聞いてるの?」

「わ、悪い。考え事してた」

「それでカエルはどこら辺なのよ。歩き疲れたんですけど」

「もう少しだ。それと街を出て十分も経ってないからな」

 

ったく。

折角浸ってたのに台無しだ。

いや、この二人預かった時に覚悟してたはず。

 

「なあ、ダスト。ジャイアントトードが何処にいるかも大事だが、ゆんゆんを何とかしてくれないか」

「分かった。何とかするから周りの警戒とあいつの見張り頼む」

 

今の今まで静かだったのは、主に塞ぎ込んでるゆんゆんが原因。

まあ、俺の所為なんだが。

 

「ゆんゆん、そろそろ元気出してくれ、めぐみんに言いつけるぞ」

「ダストさんが騙したんじゃないですか!!」

「結果的にそうなっただけだ。提案したのは向こうだったろうがよ」

 

アクセルハーツの提案で、分隊して、別のクエストを受けることになった。

一緒に戦って友達プランが崩れてこの調子となっている。

向こうはとっくに友達だと思ってると言ってみたが、見え透いた嘘は要らないなんて言われて対処に困っているところだ。

これ、あれだ。

爆裂娘の方がまだマシだ。

 

「で、でも!」

「いいか?今日は俺がカズマで、お前がめぐみんなんだ。この意味わかるか?」

「…ダストさん、私とイチャイチャしたいんですか?」

 

そういや、こいつ爆裂娘から毎日惚気を聞かされてるんだったか。

こっちはカズマからだが、好きなのか聞いたらどもる当たり、どっちが男でどっちが女か分かったもんじゃねえ。

めぐみんが、カズマを好いてるってのはギルドの常識つうか、女性冒険者で、カズマに奢ってもらった事のあるやつは、身を持って知ら示されてるって言うか。

一つ確かなのは、みんな早く付き合えって思ってることくらいか。

 

「ちげぇよ!俺はカズマと違ってガキに興味ねえんだ。そこじゃなくて、パーティーとしての話だ」

「…分かりました。めぐみんとの約束もありますし」

「分かればいいんだ。兎も角、クエストに専念してくれ」

「はい!」

 

こうして、ダストは問題児三人を引き連れ、カエル狩りに向かうのであった。

ん?急に誰視点だよって?

それは、ご想像にお任せします。




次の投稿は今回の続きです。
今度こそちゃんと完成させたられるように頑張ります。


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最後の決意

お久しぶりです。
またもや遅くなりました。
本当に申し訳ございません。
今回は何とゆんゆんがダストにあることを告げます!
この回はTwitterのフォロワーさんが400人を突破したことを祝して更新しています!
皆様ありがとうございます!


-SAIGONOKETSUI-

 

「ダストさん、私ずっと言おうか迷ってたんですけど」

 

息を荒げながら、何かを決心したかのように、ゆんゆんは言った。

正直色んな事が起こりすぎて内容が入ってこない。

 

「でも、もう言いますね。こんな最後は嫌ですから」

 

なるほど、俺に打ち明けたい話があるらしい。

にしてもこんな時になんの話をする気なんだ?

色々大変だってのによ。

 

「ずっと前から思ってたんですけど・・・」

 

 

 

遡ること数時間。

俺はジャイアントトード交戦中だった。

 

「くそっ、あの二人は何やってんだ!」

「言ってないで早く助けないとまずいですよ!向こうから新手が来てますから!」

「分かってるっての!お前はお嬢の方を頼む!」

「はい、ダクネスさんのフォローですね!」

 

なんでこうなった。

まさか、ジャイアントトード見るなり、女神の怒りの拳とか訳の分からないこと言って飛び出すなんて誰が予測できるよ。

クエストにまで女神設定持ち込むな!

しかも、相手は死ぬとか言いながら、カエルピンピンしてるし、なんなら捕食されてるし、マジで何考えてんだ。

加えて、捕食されたのを見て、私もヌルヌルにとか言って、鎧を脱ぎ捨てて走ってったお嬢様もなんなんだ!

大剣振り回してる割に、近くの岩が砕けるだけで当たってねえ。

一度捕食されかけたが、カエルにも選り好みはあるらしい。

今何が面倒かと言うと、捕食されずに放置され放心状態になってる事だ。

いっその事捕食されてくれれば、その間ジャイアントトードは動かないってのによお。

「おい、大丈夫か。自称女神さんよ」

「本物よ!カズマみたいなこと言わないでくれる?でも、ありがとね」

「頼むから急に突っ込むな。憎きカエルに勝ちたいんだろ?」

「あら、よく分かってるじゃない。カエルとカズマに勝たないといけないのよ!」

 

お前は全く分かってないと言いたいが、面倒だ。

放っておこう。

自発的に囮を引き受けてくれる仲間だと思えば、ストレスを感じずに済むだろうしな。

ゆんゆんの方も何とか終わったみたいだ。次の作戦をと言うかちゃんと指示を出しておかねば。

もう昼時だってのに、ジャイアントトード二体はまずい。

アクセルハーツの面々が稼いでくれたとしても負ける可能性を秘めてる。

 

「だ、ダストさ〜ん!助けてください〜い!」

「どうし、た・・・なんだよこの数!!」

 

二十匹程の魔物群れと言うか集団がゆんゆんの背後にいた。

って、ダクネスはどこいった?

・・・あっ、居た。

まだ落ち込んでたのか。

よく見たらゆんゆんは結構移動してたんだな。

 

「えっと、さっきフォルスファイアを使ったからよ」

「いつの間に、てかなに勝手にやってんだ!」

「前そうやって言われたから静かにやったのよ」

 

隠してやる方が悪質だ!

なぜ気付けなかった。

いや、そんなことより、今をどう対処するかだ。

 

「やっちまったことは仕方ねえ。ともかく走るぞあんなの相手に出来るわけがない」

「ゆんゆんはどうするのよ」

「あのガキは放っておけばいいんだよ!見ろ!ちゃんと攻撃の届く範囲まで近付いたやつから倒してるだろ」

「でも、あのままだと魔力切れになるんじゃない?」

「・・・それはまずい。ダクネスを何とか元に戻せるか?」

「ええ、できるけど、その必要はないと思う」

「はあ?・・・ああ。そうかもな」

 

アクアの言葉に、ダクネスを見ると、本人曰く武者震いとやらをしているらしい。

傍から見るとただ興奮してるヤバいやつだ。

今はそいつしか頼れないってもっとヤバい状況なんだと思い知らされる。

 

「ゆんゆんが魔物の軍勢に襲われているだと!?なんて羨ま、いや、危機的状況なんだ!今すぐ私も加わり、じゃなく、クルセイダーとして助けに行かねば!」

 

ああ、魔物の存在教えれば良かったのか。

さっきまで見せない方がいいと思ってたから失念していた。

これで、時間稼ぎは出来るはず。

攻撃は当たってないが、デコイのおかげでゆんゆんへ向かう魔物はいなくなり、無事に合流出来た。

 

「はぁ、はぁ、急にどうしてあんなに魔物が・・・しょっ、初心者殺しがこっちに向かって来てます!」

「くそっまた新手か逃げるぞ!ララティーナ!街の方に逃げるぞ!・・・おーい!バツネス!早くしろ!」

「ら、ララティーナと呼ぶなあああ!ば、バツ・・・ぶ、ぶっ殺してやる!」

 

ヘイトために成功。

これで、一人残る可能性は無くなった。

とは言え問題は続いている。

後ろには三十は下らない魔物の軍勢。

中には初心者殺しなんて強敵もいる。

対してこちらの戦力は、魔力切れ寸前の魔法使いに、攻撃の当たらない壁役、やる気を出すと悪い方向に物事を進める天災。

神様、いや、カズマ様。

どうか、この俺を助けてくれ!

 

「ちょっと、もう、足が限界なんですけどお」

「こんな時に何言ってんだ!とにかく街に近付けばほかの冒険者もいる。それまで辛抱しろ!」

 

体力はヒールで治らないし、いよいよもってお荷物だな。

・・・いや、待てよ?

確かアークプリーストの扱える全てのスキルを覚えたとか言ってたような。

 

「おい、早く休みたいか?」

「もちろんよ。あんたがおんぶしてくれるの?」

「ちげえよ。速度上昇系のスキルないのか?」

「あるわよ?」

「それをみんなにかけてくれ」

「分かったわ。『スピード』ッ!」

 

指示出さないと支援魔法使わないってふざけてるのかと言いたいが、知力が平均以下だったと思い出すと、怒りよりも哀れみの方が大きくなるなこれ。

街まであと二十分、支援魔法を考慮すると少し早まるだろうが、逃げ切れるのか?

到着までに他の冒険者がいることを願うしかないか。

最悪カズマ達でもいいから助けてもらわなきゃこの数は捌ききれない。

 

「ねえ、あそこに誰かいるわよ?」

「冒険者か?」

「何だかこの魔力の流れ身に覚えがあるのだが、これは確か」

「爆裂まほ───」

 

ゆんゆんが全てを言い切る前に俺たちは、爆風によって飛ばされた。

多分これで魔物から助かったんだろう。

ただ一つ問題がある。

着地する先にそれはそれはトゲトゲした岩が多いこと。

しかも、俺の前だけ。

つまり、着地したら絶対に、

 

「いだああああああ!?」

 

腕が動かない。

胸も痛いし、これは肋骨折れてるだろう。

うっ、息もしずらい。

あっ、これ死んだかも。

ヤバい気が遠のいて・・・

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

あれ?遠のかない?

「気付いたのね。凄い傷だったけど、何とか死なずに回復できたわ」

「お、おう。それは助かった。で、どうなったんだ?」

 

一度ならず二度も助けられるとは、今度金が入ったら奢ってやるのもいいかもしれない。

調子付いたら宴会も盛り上がるし、楽しく酒も飲めるから悪くない。

今日の討伐報酬で、やるか。

幸い今回のクエストはギリギリ成功している。

 

「爆裂魔法で魔物はいなくなりました」

「そうか。なら良かった。帰るぞ」

「ダメよ。今の討伐数じゃカズマ達に勝てないかもしれないもの」

 

討伐数バトルか。

正直、負けても俺はどうでもいいんだが。

 

「分かった。街に向かいながら探して見つけたら戦う。これでいいな?」

 

全員異論はなく、帰路に着けた。

今回も散々な目にあったが何とか無事に帰れそうで安心した。

ゆんゆんがいてもこの危うさとは、カズマの苦労がより分かった。

 

「ねえ、思ったんだけど、さっきのってめぐみんの爆裂魔法よね?」

「多分そうだと思うが、めぐみんの討伐数は含められないだろう。代わりにゆんゆんが参加している以上は」

「そうですよね。でもどうしてめぐみんはあそこにいたのでしょう?」

「頼まれてた相談が討伐クエストみたいなのだったら有り得る話だ。それより、討伐数バトルのこと考えて魔物を探せよ」

 

ここら辺はまだ魔物のいる地域とはいえ、遭遇率は低い。

この状況下で吉と出るか凶と出るか。

一体出てくるだけならラッキー。

何もでなければ、運がいいのか悪いのかよく分からない。

大量にいたり、初心者殺しみたいなのが居たりすれば最凶。

俺とアクアの幸運値を勘案すると凶が出そうだ。

 

「あれ、ゴブリンじゃないですか?」

「だな。一体だけだから簡単だろうけど、勝手に動くなよ」

「はい!」

 

・・・ゆんゆんしか返事しない。

大丈夫だろうか?

既に二人とも俺の話より、ゴブリンの存在に首ったけ。

ここは先手必勝。

 

「・・・あっ!一人だけで行ったら危ないわよ!」

「ああ、カズマが一度いたい、目にあったからな・・・」

「俺をひ弱なカズマと一緒にするな!」

 

そういや王都でカズマがゴブリンにボコられたって話聞いたな。

カズマ曰く、深入りしすぎて囲まれたそうだ。

ゴブリンに囲まれる時点でどうかと思うが、カズマの実力なら健闘した方なのだろう。

 

「ほら。倒せたろ?」

「でも、あの後ろの全部は無理よね?」

「は?・・・ちょっと待てさっきこんなに居なかったろ!」

 

振り返るとそこにはゴブリンが十数体いた。

おかしい。

周囲の確認はしたはずなのに。

 

「多分、他のゴブリン達は寝てたんだと思います。ダストさんの攻撃で目覚めたみたいです」

「解説はいいからお前も何かしろ!」

「ダストさんが勝手に動くなって!」

「お前じゃなくてそこの二人に言って、おい、あの二人どこ行った?」

「お二人ならあそこに」

 

指さす方を確認すると。

 

「ダクネス!ちゃんと攻撃当てなさいな!私の支援魔法の意味が無いじゃない!」

「私だって真剣にやっている!」

「カズマに勝たなきゃいけないのよ!」

「分かってはいるが、当たらないものは当たらないと言うか、アクアも戦えばいいのではないか?」

「・・・それもそうね『ゴッドブロー』ッ!相手は死ぬ!」

 

神の怒りの拳とやらはそれなりにゴブリンに効いたらしい。

・・・って、本当に死んでる!

まあ、まぐれだよな。

打ち所が悪かっただけ。

あんな必殺技あってたまるか。

 

「向こうは大丈夫そうですし、こちらも何とかしましょう!」

「一つ確認だが、あとどれ位魔法を使える?」

「上級魔法を数回です」

「中級魔法を五回くらい使ったら待機してくれ」

 

そこそこ街も近いこんな場所にゴブリンがこんなにいるなんて誰が想像出来るんだ。

これはカズマみたく無計画に突き進んだからでは無い。

しかし、どうしてこうも上手くいかないんだ?

 

「分かりました!」

「・・・なあ、ゴブリンどんどん増えてないか?」

「そんなはずは・・・本当ですね」

「これ囲まれようとしてるだろ」

「走って逃げますか?」

 

お嬢様方は状況に気付かず、各個撃破してるが、このままじゃアクアの方がバテルのも時間の問題。

早く逃げ道を作らないとまずい。

幸い二人のいる方角が街だから、正面突破するしかないか。

 

「それしかなさそうだな。とりあえず二人と合流するぞ。街まで行けばほかの冒険者も居るだろうし、そもそも追いかけて来ないかもしれない」

「でも逃げ道はどうするんですか?もう、完全に囲まれてますよ?」

「正面突破だ。二人と合流したら街の方向に上級魔法撃てるだけうってくれ」

「任せてください!」

 

・・・思ってたのと違う。

ゆんゆんがいれば何とかなると思ってたが、世の中そんなに甘くねえな。

カズマは誰とでも組める当たり、人の能力の見極めが上手いんだろう。

 

「二人とも逃げるぞ!カズマに勝ちたければ、四の五の言わずについてこい!」

「えっと、もう少しこのままでいたいのだが」

「そんなこと言ってないで行くわよダクネス!カズマに勝つんだから!」

「『ライト・オブ・セイバー』ッ!」

 

進行方向のゴブリンが殲滅され道が出来ていく。

カズマへの勝利に対する執念から、アクアがダクネスを引っ張ってくれているのが助かる。

にしても一発でも直ぐに塞がりそうな数ってどうなってんだ?

まさかゴブリンがここで繁殖してたとか?

 

「『ライト・オブ・セイバー』ッ!」

 

よし、無事切り抜けた!

あとは後ろからやられないように警戒するだけ。

足の早いやつがいればそいつから倒せばいい。

 

「『ライト・オブ・セイバー』ッ!?」

 

ゆんゆんは詠唱を終えてすぐに変な声を出した。

振り返るといつぞやの爆裂娘みたく倒れていた。

 

「おい、大丈夫か!魔力切れしたのか?アクア様よ!お嬢連れて先に行っててくれ」

「様付けとは分かってるじゃない!任せなさい!」

「お、お嬢と呼ぶなああああ!!」

 

騒がしいが、まあ、向こうは逃げ切れるだろう。

あとは俺らが逃げ切れるかどうか。

 

「す、すみません。動けないです!助けてください」

「ちょっと待ってろ」

「えっ、ちょっとダストさん何して・・・おんぶですか?」

 

こいつは何すると思ってたのだろうか。

爆裂娘が言う通り、このぼっちはむっつりなのかもしれない。

 

「こんな時に変なことするわけねえだろ」

「そ、そうですよね」

 

くそっ、おんぶって案外疲れるんだよな。

めぐみんは軽かったら楽だったが、ゆんゆんはそれなりに重い。

がしかし、背中に当たる感触はなんとも言い難いやる気を湧かせる。

役得とはこのことだ。

カズマが前にウィズをおぶった時に良かったって言ってたな。

 

「後ろまだ追いつかれてないな?」

「はい、私が倒れる前よりは近いですけど、まだ大丈夫です」

 

街までおよそ五分。

これを早いと思うか遅いと思うか。

現状は後者だ。

いくらやる気を湧かせる物があるとは言え、おんぶしながら走るのはしんどい。

しかも少しでもペースを落とせば、ゴブリンの餌食。

考えただけでゾッとしない。

ってあぶね!

あいつら弓届く範囲まで迫ってる!

 

「・・・あ、あのう」

「なんだ?はぁ、はぁ、要件は手短に頼むぞ」

「ダストさん、私ずっと言おうか迷ってたんですけど」

 

こんな時に何改まってんだこいつは。

魔力切れのせいか息も上がってる。

結構真剣な話みたいだが、走るので精一杯なのと、飛び道具への警戒で、内容が全く入ってこない。

 

「でも、言いますね。こんな最後は嫌ですから」

 

何か伝えたいのは分かった。

しかし、こんな時に何を言うんだ?

どうでもいいことなら逃げ切ってから絶対しばく。

必死に逃げてる最中だってのに、無駄話に付き合わされるわけだからな。

 

「ずっと前から、思ってたんですけど・・・」

 

早く言えよ!

その言い方はすげえ気になるじゃねえか!

 

「今私、セクハラされてますよね?」

「し、してねえよ!自意識過剰だろ!」

「違いますよ!初めはおんぶってこんなものかなって思ってましたけど、小刻みに手が動いてるのってそういうことですよね!」

 

カンのいいガキは嫌いだよ。

俺の活力を奪おうってか!

 

「その手の動きを糧にして、今自分が助かってると思え!」

「開き直りですか!?あと、背負い直す時に胸の感触みてるのも分かってますからね!街に戻ったらわかってますよね?」

 

何だって助けてる相手に文句言われなきゃならねえんだ!

いっその事ここら辺で置いて行ってやろうか。

 

「うっせえ!俺は今、動けないお前を何とか安全地帯まで連れてこうとしてるんだよ!ちょっとくらい我慢しろ!」

「嫌ですよ!もしこのまま殺られたら、最後の記憶がセクハラされてたことになるんですよ!」

 

うるせえガキだなあ。

カズマはおんぶ中にセクハラしても、気付かれないって言ってたのにどうなってだよ。

あれか?

めぐみんは気付いてて黙ってるのか?

・・・絶対わざと揉ませてるな。

 

「安心しろ。俺はカズマみたくロリコンじゃねえから」

「全然安心できませんよ!それに揉まれるならまだカズマさんの方がマシです」

「それはどう言う意味だ!お前あれか、前、カズマに子供が欲しいとか言ってたの本気だったのか」

 

騙されて言ったのは分かってても思い出す度に腹が立つって言ってたから、相当お怒りだった。

 

「違います!あれは仕方なかったんです!ってどうしてその話知ってるんですか!?」

「この前めぐみんがリーンに話してたの聞いてたからな。お前の発言にイライラして仕方がないって」

「もう半年も経つのに言ってたんですか!?」

「ああ」

 

そんなに前の事だったのかよ。

一ヶ月前くらいのノリだったぞあれは。

・・・めぐみんは嫉妬深いのか。

カズマも苦労しそうだな。

 

「・・・と、ともかく!セクハラはやめてください!」

「嫌だと言ったら?」

「リーンさんか警察に訴えます」

「リーンに頼むわ」

 

どっちにしろ慣れてるが、逮捕歴が増えるのはちょいと面倒だ。

その分魔法を向けられるかもしれねえが、リーンの方がマシだ。

 

「そこは普通辞める所でしょ!」

「俺様がそんな脅しに屈するとでも?選択肢があるならマシな方選ぶっての」

「さっき私がカズマさんの方がって言ったのと変わらないと思うんですけどって、もう街に着きましたね」

 

言われて前を見ると、数人の冒険者と二人が居た。

これで何とかなったな。

気付けばゴブリンは街まで来たってのにまだ追いかけて来てるが、待機してるのはレベル三十辺りのベテラン揃い。

問題ないだろう。

・・・後で討伐数聞いてかさましするか。

 

「二人とも逃げきれたみたいで良かった」

「怪我してない?」

「大丈夫だ。こいつのおんぶ変わってくれねえか?走り疲れて休憩したい」

「分かった。私が変わろう」

「ありがとうございます」

 

何か言いたげな顔をしてるが、俺はガキに用はない。

一時の活力にさせてもらっただけだ。

用が済んだら、もはやただのお荷物。

・・・いや、やっぱり、落ち着いてからあの感触味わっとけば良かったかもしれん。

 

「全員無事で良かった。カズマが戻ったらドレインタッチしてもらうといい」

「は、はい」

 

さっきまでの威勢のよさはどこへ行ったのやら。

コミュ障には仕方の無い話か。

あとはギルドに報告して、カズマ達の結果とアクセルハーツの討伐数聞いて、圧勝するだけだ!




今回はガンダムオンラインとか言うクソゲーにハマって忘れてしまったのが原因です。
次こそはサボった分全部投稿できるよう頑張ります。
この編は次で終わると思います。


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決闘の勝敗

またもや投稿が遅れすみませんでした。
パーティー交換の勝負が今回終結します!
是非ご覧ください!
この回ではTwitterのフォロワーさんが500人を突破したことを記念して更新しました。ありがとうございます!


-KETTOUNOSYOUHAI-

 

戦勝ムードの俺たちはギルドで宴をしていた。

アクセルハーツだけで二十数匹も討伐したらしいし、俺らもなんだかんだあったが十五はくだらない数を倒している。

これで負けるなんてことないだろうと、カズマのツケにして俺たちはじゃんじゃん飲みまくって、食っている。

 

「あの、こんなに頼んじゃって良いんですか?」

「俺たちの勝ちは約束されてんだ。気にせずに宴を楽しめよ」

「そうよ!カズマが負けなのは確実なの!ゆんゆんも盛り上がってこう!」

 

アクアはとっくに出来上がってる。

正直に言って、だる絡みされるのが面倒だが、今はゆんゆんかアクセルハーツの誰かに行くから俺にはなんの害もない。

 

「ゆんゆんの言う通り、これは頼みすぎでは無いか?」

「いいか?カズマは負けたら何でも言うこと聞くからってこのバトル始めたんだぜ?」

「しかし、まだ決着はついていないぞ?」

「勝ちだと分かってるんだ。問題なんてない!」

 

こんな時だけ常識人みたいなこと言われても困る。

それにもう全部カズマのツケで頼んでるからどの道、俺らが支払う必要はない。

人の金でする宴会程楽しいものがあるだろうか。

いやない!

 

「ダストさん。もし仮に私達が負けたらどうするんですか?」

「そん時は俺が払ってやるよ。まあ、勝ちは決まってるからな」

 

心配性な奴らだ。

俺とアクアを見習えってんだ。

楽しい宴が下がっちまう。

 

「よっ、祝いの『花鳥風月』!!」

「さっすが女神様!もっと凄いの見せてくれ!」

「ノリがいいわね!それじゃあ取っておきを」

 

あれどうやってんだろう。

あんなでかい鳥隠す所なんてないはずなのに。

気になるが、今が楽しければそれでいい!

 

「なんだか賑やかですね。勝ったんですか?」

「勝ったようなものだから前祝いだ」

「絶対勝つ自信があるのよ」

「そうですか。私がいなければ全滅してそうでしたけど」

 

やっぱりこいつだったか。

ドヤ顔がウザイがここは我慢。

 

「あれは助かった。奢りだから何でも頼んでいいぞ」

「気前がいいですね。そんなに倒したのですか。討伐報告が終わったら頼みます」

 

これで楽しむ人間が増えたな。

早く帰ってこい。

驚くあいつらの顔が目に浮かぶ。

 

「楽しかった!ホントカズマって凄いよ!」

「土作って泥水からの氷結のコンボは強かったな」

「カズマの狙撃の腕も凄かった!これは俺らの勝ちだろ」

 

浮かれてるな。

やっぱりリーンがカズマをべた褒めしてるのはモヤモヤする。

テイラーとキースも褒め過ぎだし、緩みすぎだ。

しかし、対象的にカズマはそこまで浮かれていなかった。

 

「まだ安心できないって、向こうには恐らくゆんゆんが、ほらいるだろ」

「一緒にいるだけでしょ?」

「そうだといいんだが」

 

さすがカズマと言った所か。

予測してたか。

まあ、めぐみん込のゆんゆんプラスだと思ってるだろうけど。

それだけじゃ甘いぜ。

 

「派手に宴やってるけど、随分余裕があるの」

「おう、こっちにはアクセルハーツがついてるからな!」

「「「「え!?」」」」

 

これが見たかったんだよ!

絶望に満ちた表情。

バニルの旦那はここにいなかったこと後悔するだろう。

 

「ちょっと待て!こんなのズルだろ!」

「あんたズルして勝手嬉しいの?」

 

キースとリーンがうるさい。

テイラーはカズマの反応を待ってる感じだ。

テイラーのカズマに対する信頼はウチのメンバー以外だと一番だろうからな。

俺は敢えて黙っていると、リアが前にでた。

 

「カズマ、すまない。いつもパーティーを組んでいるから加算してもいいと思ってな」

「分かった。謝ることねえよ。俺の我儘で始めたことだし、俺は報告行ってくる」

 

言ってたカズマはテイラーと受付へ向かった。

そして、残る二人に俺は詰め寄って告げる。

 

「カズマは物分かりが良くて助かるぜ。カズマ達が賭けやってんだ。俺抜きで勝手に進めたお前らも何か言うこと聞けよ」

 

勝ったも同然の状況で、持ちかける賭けはいいな。

しかもこの状況下で断れる奴らじゃない。

 

「わ、分かった。できる範囲で、常識の範疇なら何でも聞くわよ」

「ああ、これまでの借金帳消しとかは無理だぞ」

 

先手を打たれたが、頼みたいことは問題ない。

ここまで賭けでいい気になれるのはいつぶりだろうか。

 

「あ、あのう。ダストさん」

「何だ?今こいつらと話してるところなんだ。後にしてくれ」

「わ、分かりました」

 

全く、今大事な話してるってのにゆんゆんは空気を読む力をもうちょい身につけた方がいいと思う。

そうすりゃあぼっちも解消されるはずだ。

 

「ねえ、ゆんゆんが何か言いたげだけどいいの?重要な話なんじゃないの?」

「お前ら、負けだとわかってて賭けなしにしようとしてるだろ。そうはさせねえぞ」

 

魂胆が丸見えだ。

俺は引っかかりやすい男じゃねえ。

 

「逃げる気はねえよ。それで何して欲しいんだ?」

「キースにはいつもの店七回奢ってもらう」

「それくらいならいいけど、...おい、こんな時に言うなよ」

「いいか?カモフラージュに喫茶店でも奢れよ」

「はあ、分かった。それでいい」

 

よし、さり気なく二個の要求を飲ますことに成功。

さて、あとはリーンとテイラーだが、まずはリーンに告げよう。

 

「リーンお前には俺と・・・」

「勝負だ。ダスト。計算が終わったぞ。・・・あれ?邪魔だったか?」

 

間が悪く、テイラーが戻ってきた。

カズマが報酬担当になったのだろう。

 

「・・・いや、あとでもいいぞ。で、テイラー。どっちから言うんだ?」

「どっちからでもいいぞ」

「じゃあ、俺らからな。まず四人で十七、アクセルハーツの三人が二十三。合計四十だ!」

 

リーンとキースの悲壮感がより際立ってきた。

勝手に交換したお前らが悪い。

俺のありがたみを噛み締めておけってな。

 

「そうか。俺らは二十九だ」

「「よっしゃあ!!」」

 

俺とアクアの二人で喜び合う。

他は大して喜んでない。

何故だろう。

こんなにも喜ばしいことなのに。

 

「で、追加で三十六な」

 

後からやってきたカズマがそんなことを言い出した

今更何を言っても無駄って・・・

三十六?

 

「三十六って何処から来たのよ」

「そうだそうだ!急に数が増える訳ねえだろ!」

 

この短期間にどうやってそこまで増やせるのか。

仮にカズマがそこらの冒険者から聞き出したとしも論外だ。

普段共闘をしてるパーティーなんてない。

 

「お前らアクセルハーツと組んだだろ?だから俺らも他と組んだだけだ」

「オレたちはいつも何処かとつるんでねえ。それこそカズマのパーティーくらいだ」

「そうだよ。カズマ、頑張って探して来てくれたんだろうけど無理だよ」

「俺達は負けだ」

 

さっきとは逆でこっちの二人の方が物分かり良くなってる。

しかし、カズマのこの自信はどこから来てるんだ?

そう思ってカズマを見ていると、カズマの背後から突如ちびっ子が現れた。

 

「真打登場!」

「め、めぐみん!?ど、どうしてめぐみんがカズマといるのよ!」

「ふっ、我が力に魅了されしカズマと契りを交わしたまでです」

「つうことで、俺らの勝ちだからな」

 

どうなってんだ!

不機嫌だったじゃねえかよ。

しかし、ウチはめぐみんとの共闘はやっていない!

これで退けられる!

 

「カズマ、おかしくないか?」

「何が?」

「俺らとお前の嫁さんは組んでねえぞ」

「誰が嫁さんだ」

 

横で顔真っ赤にしてるロリっ子以外に誰がいるよ。

ご本人が契りを交わしたって言ってたろうが。

 

「それよりこいつは今、ゆんゆん枠だぞ?ゆんゆんとはクエスト受けてるだろ?」

「・・・え?」

「カズマ、よく言ってくれた。ダスト、賭けは負けた方が何でも言うこと聞くんだよな?」

「そうね。私達三人一つづつよね?」

「安心しろ、金に関わることは頼まない」

 

安心できるか!

テイラーの要求は安心できるかもしれんが、あとの二人がまずい。

キースはさっき俺が言ったことを丸々だろう。

リーンに関しては何言い出すか分からねえ。

 

「所でダスト。アクアが見えないんだが知らねえか?」

「そこにいただろ?」

 

さっきまで宴会芸を披露していた場所を見るもダクネスとシエロが話しているだけで誰もいなかった。

逃げやがった。

 

「アクアさんならめぐみんがカズマさんと一緒に来るの伝えたら用事を思い出したと言って出ていきましたよ」

「二人が接触してるの知ってたら教えろ!」

「伝えようとしましたよ!ダストさんが聞かなかったんじゃないですか!」

 

あっ、そう言えば何か言ってたな。

『あ、あのう。ダストさん』

『何だ?今こいつらと話してるところなんだ。後にしてくれ』

『わ、分かりました』

あっ・・・

完全に俺のミスじゃねえか。

くそっ、しっかり聞いておけば良かった。

 

「あいつが逃げたってことはこの宴会、俺のツケでやってるだろ」

「はい、勝敗はつくまではやめた方がいいと止めたんですけど」

「ダストとアクアが聞かなくてな。ここは一つ不在のアクアの代わりに私を口汚く罵ってくれ!」

 

ダクネスは通常運転のようだ。

カズマが無視を決め込むと、放置プレイだとか言って喜んでる。

やっぱり、人は見た目より中身だな。

 

「でももし負けたらダストさんが払うと言ってましたからカズマさんは払わなくていいですよ」

「お前何言ってんだ!」

「そうか。ダストあとは頼んだ。俺は逃げたバカを捕まえに行く」

 

言ってカズマは嫁さんを引き連れ去って行った。

・・・って見てる場合じゃねえ。

金がねえ。

ここは一つアクアみたく逃げるしかねえ。

 

「あんた、どこ行くつもりなの?まさか食い逃げなんてしないわよね?」

 

先読みされ、三人に道を塞がれた。

他の道をと思ったが、何処もダクネスやら、アクセルハーツの連中やらがいて逃げ場がない。

 

「俺は今宴会やった分を払えるだけの金持ってねえんだよ!お前らそこを空けるか金をくれるかどっちかにしてくれ!」

「どっちもしないわよ!金がないなら働きなさい!」

「それにもうカズマのツケで通ってんだ。問題ないだろ」

 

そもそも精算は済んでる。

今俺が今払わなければならない訳では無い。

カズマにはおいおい返せばいい。

 

「はぁ、カズマには俺から返しておくが、しっかり俺に返せよ」

「流石テイラー!リーダーはやっぱり違うぜ」

 

持つべきは優しいリーダーだ。

カズマもちょっと煽てりゃ奢ってくれる優しいリーダーだ。

 

「よいしょしても額は減らさないからな」

「そんなつもりじゃねえっての」

「テイラーにお金返すまで、あんたの報酬は生活費以外全部テイラーのだからね」

「それはねえだろ!」

 

労働対価もなしに誰が働くって言うんだ。

働いたら負けってカズマも言ってたくらいだ。

 

「それいいな。あと俺らは金貸さないからな」

「リーンとキースの人でなし!」

 

こいつらに人の心はねえのか?

仲間がこんなに困ってるってのによ。

 

「・・・バカはほっといて、何頼むか決めない?」

「だな。ダスト頑張れよ」

「何でこうなったんだああああ!!」

 

 

 

 

 

遡ること数十分。

 

「今回は完全に負けたな」

「いや、まだ可能性はある。受付終わったら先に戻っててくれ」

 

ゆんゆんが組むのは知ってたけど、まさか、アクセルハーツと組むとは思っても見なかった。

まずい展開ではあるが、受付にめぐみんがいる。

つまり、めぐみんも何かしらを討伐したようだ。加えて、受付に結構時間がかかっているようだからそれなりの数だろう。

ゆんゆんがめぐみんの代わりならば、めぐみんをゆんゆんの代わりとして、仲間にするのは問題ないはず。

 

「あっ、カズマ。負け確定の今の気分はどうです?私たちのありがたみが少しは分かったのではないですか?」

「お前らって言うかアクセルハーツとゆんゆんが強いって話だろ?」

 

三人の実力は誰よりも理解してる。

そのつもりだ。

だがしかし、手放しで冒険を楽しめるのは間違いなくテイラー達と行ったクエスト。

これは間違いない。

 

「アクセルハーツはともかくゆんゆんを持ち上げるとは喧嘩売ってるんですか?」

「そんなつもりはねえよ。俺の中で最強の魔法使いは誰でもないお前だからな」

 

ゆんゆんは一番尊敬する人ではあるが、めぐみんより上かと聞かれれば、ケースバイケースとしか言いようがない。

魔力勝負や一発の攻撃力、討伐数ならめぐみんが勝つだろうし、近接戦も含めた戦い、魔法使いとしての汎用性の高さとなればゆんゆんに分がある。

 

「煽てても何も出ませんよ?」

 

俺の目論見は当然バレている訳だが、ここで引き下がる訳にはいかない。

 

「めぐみんの討伐数を加算させて欲しい」

「嫌です」

 

予想通りの即答。

顔すら見ようとしない。

 

「そこを何とか!」

「私たちを勝手に交換したカズマの言うことは聞きたくないです」

 

やっぱり、怒ってるのか。

自分は近所の子と盗賊団作って遊んでるってのに、いかなものか。

俺のやってることってそれと大して変わらない気がするんだが。

 

「そうは言うけど、めぐみんが参加しないのは知っててやったんだぞ?」

「・・・だから何だって言うんです?さっき聞いただけでしょう?」

「昨日セシリーから聞いてたし、お前があいつとの約束断らないのは分かってたからな」

 

前回みたく、開始早々爆裂魔法を放って勝負所じゃないってことは避けたかった。

それに、変な所で撃たれたら後々面倒だからな。

何処の組織から賠償請求されるか分かったもんじゃない。

 

「・・・それでも仲間を勝手に交換した事実は変わりませんよ?」

 

こいつの仲間想いは、人一倍だな。

・・・まあ、裏切る時はあっさり裏切ってくれるんだが、そこはおいておこう。

 

「今日じゃないけど、爆裂魔法を一日三回撃たせてやる」

「いいでしょう!」

 

やっぱめぐみんには爆裂魔法。

これで勝ちの可能性が出来た

 

「と言うと思いましたか?私を安く見られては困ります」

 

世の中そう簡単にはいかないもんだった。

 

「アクアとダクネスをあてにしてるようですけど、負けた時はどうするんですか?あと、私が手伝ったことで得られる利益を交渉材料にするのはどうかと思うのですよ」

 

めぐみんを舐めてた。

紅魔族は頭がいいか。

それを普段役立てて欲しいけど、言ったら怒らせるだけだしやめとこ。

 

「負けても約束は守る。絶対にだ。勝ったら俺が楽に履行できるだけだ」

「具体的に言うと?」

「それは秘密だけど、嘘は言ってない。例の魔道具持ってきてもいい」

 

等と言ってみたが、全く宛はない。

ハッタリもいい所だが、この際手段を選んでられない。

 

「そこまで言うならいいでしょう。その代わり、明日から毎日付き合って貰いますよ?」

「ついて行けばいいんだろ?分かった。それで討伐数は?」

 

またあの日課か。

最近ゆんゆんと行ってたからな。

久しぶりに行くとなると、なんと言うか楽しみにもなる。

とは言え、三日目辺りから起きるの面倒になるだろうな。

こいつ、爆裂魔法の為なら布団を剥がすという荒業も辞さない覚悟でやってくる。いや、もう捲られてるか。

 

「ざっと三十は超えてます。勝ちはほぼ確定ですよ」

「分かってて、受けないつもりだったのか?」

「ええ、カズマに負けて欲しかったので」

 

相当不機嫌だったようだ。

今は協力してくれる程に落ち着いてるけど、交換の話聞いてすぐなら話すら聞いてくれなかったろうな。

 

「・・・じゃあ、どうして受けたんだ?」

「せっかくのアクアとダクネスに何でも言うことを聞かせる権利を私の為に使うと言ったことと、そうですね。一番はやっぱり」

 

何でもか。

そうだよな。

あの二人に何でもさせられたんだよな。

まあ、めぐみんに魔力をって言うのも何でもさせるに入るけど、こいつの言う通り、自分の為にも使えた訳だ。

他の理由は、爆裂魔法を三回も放てるからとかだろう。

爆裂魔法の為なら霜降り赤蟹食べてから爆裂魔法放つくらいだからな。

・・・やっぱりこれおかしいよな?

 

「惚れた弱みと言うやつですかね」

 

・・・それはズルいだろ。

「あの、黙り込むのはやめて欲しいのですが」

「俺は急にデレるのやめて欲しいんですけど、ちゃんと事前に教えてくれよ」

「そんなムードもへったくれもないことしませんよ。なので慣れてください」

 

こいつ、開き直りやがった。

いや、この場合めぐみんが正しいと思うけど、俺には厳しい。

しかも無自覚でやってくるのが余計にタチが悪い。

 

「早く行かないと負けになっちゃうんじゃないですか?テイラーが報告してますし」

「そうだな。あっ、ついてくるなよ?」

「もちろん分かってます。ヒーローは遅れて来るものですから」

 

流石は紅魔族って所か。

こういう時のお約束は心得てる。

 

「―――ってことがあったんだ」

「やっぱり聞かなきゃ良かったです」

「そうは言うけど、この話できるのゆんゆんしかいないんだぞ?」

「別に私じゃなくてもアクアさん達やアクセルハーツのみなさんもいますよね?」

 

ゆんゆんはもう飽き飽きだと言ったふうに他の相手へ促す。

そんなに面白くない語りしたかな?

 

「いいか?あの三人は賭けの参加者で、アクセルハーツの三人も別行動だし、ただの協力者。ゆんゆんだけが一緒に行動してた代理人なんだよ」

「でもこの話絶対めぐみんもしに来ますし、めぐみんから聞けますよ?」

 

なるほど。

同じ内容を聞く予定があるから、聞くべきじゃなかったってことか。

 

「知ってるか?伝言ゲームはどこかで事実と異なる描写が入るんだ。ちゃんと生の声を聞かなきゃいけない」

「その、私、同じ話二回聞かないといけなくなるんですよ」

「別の視点で物語が聞けるんだぞ?」

 

自分でも嫌なことは分かるけども、ゆんゆん以外に話し相手がいないのも事実。

ここは押し切るしかない。

 

「カズマさんから軽めの惚気入りを聞いて、その次に惚気増し増しのめぐみん語りを聞く気持ちが分かりますか?」

「・・・俺惚気なんてしてたか?」

 

全く身に覚えがない。

めぐみんが魔性だって話はしたけど、いつ惚気話なんかしたっけ?

 

「・・・ともかく、めぐみんが近々この話で惚気に来るのはカズマさんの話を聞いて分かりました」

「まあ、そのなんだ。迷惑かけて悪い」

「カズマさんが謝ることないですよ。めぐみんのより、短くて軽めで、普通に楽しめましたし」

 

あいつ話し出したら止まらないしなあ。

・・・俺の話でそうなってるってなんか嬉しいけど、恥ずい。

 

「そうか?でも聞かなきゃ良かったって言わなかったか?」

「ですから、めぐみんから同じ話をカズマさんから聞いた倍以上の時間をかけて聞かないといけないそこが問題なんですよ」

 

あいつ、どんだけゆんゆんの時間拘束してんだ?

でもそれを毎回聞くくらい予定ないってことだよな・・・

たまには声かけてみるか。

 

「・・・いつもありがとう。所であいつどんな話してる訳?」

「それは言えません。と言うか話すの恥ずかしいです」

 

何話してんだあいつは。

すげえ気になるけど、ゆんゆんが可哀想だからやめとこう。

 

「じゃあいい。でも、めぐみんって言う共通の話題を、仲間以外で話せる友達はゆんゆんだけなんだ。分かってくれ」

「そ、そうですか。めぐみんがこっちに来る前の話とかなら全然いいですよ?」

「それ面白そうだな。今度頼む」

 

こうしてゆんゆんとの密会が始まったのだが、三度目にして現場を抑えられ、ゆんゆんを入れて転生前の話をさせられたのはまた別の話。




次回はカズ○○を主題にこのシリーズを更新します。
今回から投稿日が水曜日に変更となりましたのでよろしくお願いします!


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一人旅(仮)

本日二度目の投稿です!
早く週一投稿をデフォにしたいです。
カズ〇〇が何かご確認ください!
この回ではpixivのフォロワーさん300人を突破を祝して更新しました。みなさんいつもありがとうございます!


-HITORITABI (KARI)-

 

 

「俺暫く一人旅するわ」

 

なんの前触れもなく、夕食中に俺は言った。

 

「楽しんで・・・今なんと言いましたか?」

「一人旅と聞こえたが」

 

そんなに俺が一人旅するの変だろうか?

ダクネスだって、時たま王都へ家の用事とは言え一人で行ってるのに。

 

「一人旅するんだ。一ヶ月くらい」

「急にどうしたのよ。もしかして商店街のくじ引き当たったの?」

 

商店街のくじか。

一等当てすぎて、出禁になったんだよな。クリスと俺。

発案者ができないっておかしいだろと抗議したが、俺らがいると他の人が当たらないからだそうだ。

カジノといい、くじ引きと言い、幸運値の数少ない使い所だってのに出禁にされるのは納得出来ない。

 

「いいや、たまにはお前らのお守り忘れてのんびりしたいんだ」

「私が代わりに動けばいいだろう?」

「何を言ってるんですか?この私が対応すれば十分です」

「なんて二人は言ってるけど、私が居れば大丈夫よ」

 

こいつら自分は常識枠だと思ってやがる。

このパーティーに常識人が俺以外居るわけない。

 

「・・・お前らの面倒はウィズとゆんゆんに任せてるから」

「どうしてリッチーに面倒見られなくちゃいけないのよ!」

「そうですよ!どうしてゆんゆんなんかに任せられなきゃならないんですか!」

「二人ともそういう所だぞ?それでカズマいつから出るのだ?」

 

アクアとめぐみんの反発は予想通り。

そして、誰も付けられてないことでダクネスが調子に乗ることも。

ここまで反応が読みやすいとこの後の展開も恐らく予想通りに進むだろう。

 

「明日の早朝だ。因みにダクネスが何かやらかしたら即時親父さんに連絡が行くようにしてあるから」

「な、なんてことをしてくれたんだ!」

「「そういう所」」

 

意趣返しを二人からくらうダクネス。

まあ、そうなるわな。

常識人なんてここにいないんだから。

 

「一番大人しくしてたやつにはちゃんとしたお土産をやる。もし、俺が呆れる程のことをやったやつには土産はやらん。土産話もしないからな。全員がダメだったら土産は迷惑かけた関係各所に配ることになるから」

「分かりました。行くのは止めませんが、一つ聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「本当に一人旅ですか?」

 

心配そうに尋ねてくる。

めぐみんの質問は正しい。

本当は同行者がいる。

だが、教える訳にはいかない。

 

「さっき説明した通りだって、一人でのんびりしたいから旅するんだよ」

 

俺の返答に納得はしてないように見えたが、頷くと質問は終わったのか、ちょむすけに餌をやりにキッチンへと向かって行った。

 

「私も聞いていいか?目的地は何処なのだ?」

「俺も知らん、適当に馬車乗り継いで、面白そうな街に滞在する予定だから」

「へぇー、自分探しの旅みたいな感じなのね」

「まあ、そんな感じだ」

 

全然違うけど、表向きは丁度いい設定になるか。

しかし、一ヶ月か。

一ヶ月も本当に一人旅するとして、のんびり過ごすよりも、誰かが何かやらかしてないか心配で早く帰りたい方が勝ってくる気がする。

ウィズとゆんゆんも流されやすいし、親父さんへの連絡網も常に有効か分からないし、急に行くのが怖くなってきた。

やっぱり、断っとけば良かった。

でも今更過ぎるか。

一ヶ月ってのは予備的な日数も含めてるし、少し早まるかもしれないし、まあ、何とかなるだろう。

 

「もう質問はないか?ないなら俺は明日に備えてもう寝る」

「「「おやすみ」」」

「おやすみ」

 

さて、明日の準備して寝るか。

 

 

 

眠りについてからどれ程たっただろうか。

俺は物音で目が覚めた。

部屋はまだ暗い。

時計を見ると二時だ。

こんな時間に誰が何をしているのだろう。

そう思い、辺りを見回すと俺のカバンを漁る泥棒が居た。

 

「確保!」

「きゃっ!?」

 

盗っ人はかわいい声を上げて驚いていた。

顔を確認するとよく知る人物であった。

 

「・・・めぐみん何やってんの?」

「カズマこそ、急に背後から襲ってくるとは大胆になりましたね」

 

男の部屋に自分から入っといて、襲われたとか理不尽すぎるだろ。

それにこいつ俺のことなんだと思ってんだ?

俺はヘタレじゃない!

やる時はやる男だからな!

 

「誰が襲ったって?泥棒かと思ったんだよ」

「違いますよ。私は少し捜し物をしてただけです」

「何探してたんだ?」

「それは内緒です。あっ、これもしもの時に使ってください。使わない戦利品ですから」

 

言ってポケットから出したのは、ゆんゆんから巻き上げたマナタイト。

めぐみんからすれば魔力を感じるだけのただの石ころでも、俺にとっては使える便利グッズだ。

 

「マナタイトか。ありがとう。で何しに来た?」

「内緒と言ったら内緒です。私は戻ります」

 

本当に何しに来たんだ?

寝てる間にマナタイトを入れに来ただけってのも有り得なくはないけど、明日の朝でもいいはず。

めぐみんの行動に謎は深まるばかりである。

 

「おい、何か取ったりしてないよな?」

「してませんよ。・・・カズマ、あまり無理はしないでくださいね?」

「え?・・・」

 

それはどういう意味かと聞こうと思ったが、めぐみんは既に部屋から去っていた。

これは、気付かれたか?

それとも旅の途中でって意味だろうか?

意図が分からないし、何を探していたのかも分からない。

色々気になってカバンを調べるも何もなくなってないし、綺麗に整頓までしてくれている。

めぐみんが何をしていたのか気になり、考えを巡らせていると、太陽が上り、約束の時間は近付いていた。

朝食をと荷物を持ってリビングに行くと、誰もいなかった。

でも書置きと朝食が置いてあった。

多分筆跡的にダクネスだろうか?

朝は早いだろうから先に作っておいた。一人旅、心置き無く楽しんで休んでくれ。ダクネスより。

何となく分かってきた。

あの二人、俺が出ていくまでに優しくしてポイントあげる作戦だろこれ。

俺は騙されないぞ。

帰ってウィズやゆんゆんからの報告を受けるまでは何も判断材料にはしない。

まあ、二人の単純な気遣いかもしれないし、普通に嬉しい所はある。

アクアからは何もなかったと思いきや、玄関にフィギュアが置いてあった。

手紙によると、私達が恋しくなったらこれを使いなさいだそうだ。

アクア、めぐみん、ダクネスをそのままフィギュアにしたような精巧さで、もしこれが日本で売られたら多分、万単位で売れると思う程のギミック付き。

滑らかな動きで、可動させても音はしない。

そして、なんと!

お宝をスティールできる機能までついてる!

これは絶対売れる。

でも他の誰かに渡るのは嫌だなこれ。

あれ?アクアのだけ取れない。

自分だけ守りやがったなこいつ。

まあ、アクアのパンツに興味はないけども。

・・・壊れたら嫌だし、置いていこう。

 

 

 

フィギュアを部屋に片付け、集合場所へと急ぐ。

フィギュアいじりに熱中しすぎて、ギリギリ間に合うかどうかな時間になってしまった。

 

「あっ、やっと来たね。寝坊したのかと思ったよ」

「それは無い。ただ時間忘れて遊んでただけだ」

「約束があるのに、遊んでた方が問題だと思うんだけど」

 

不満そうに頬を膨らます銀髪の少女を見ていると、走って来た疲れが一瞬にして無くなった。

なんてことはなく、すごく疲れたから早く馬車に乗って休みたい。

 

「そんなことより早く行こうぜ。一緒にいる所を人に見られたら不味いし」

「・・・間違ってないけどいけないことしてる気がしてきたよ」

「義賊っていけないことだろ?」

 

王城で盗み働いといて、今更何を言っているのだろうか?

その他にも悪徳貴族とは言え、泥棒なのは間違いない。

 

「そうじゃなくて、浮気してるみたいな感じの」

「めぐみんとダクネスがそれっぽい雰囲気出してはいるけど、俺のメインヒロインはお頭なんで、問題はない!」

 

俺は一応フリーだからな。

あの二人、ちょこちょこ好きですアピールするけど、盛り上がった所でやめるからタチが悪い。

いや、めぐみんに関してはさりげなく、直球で来るけども、踏み込んだことはしてこない。

他の誰かに告られたら、二人の名前出して断るだろうけど、まあ、そんなこと起こらねえし、別にいいけど。

 

「問題大ありだよ!あたしはダクネス応援してるから余計に背徳感があるし」

「もしもの時、俺はクリスにとんでもないものを盗まれたってアクアに言うから大丈夫」

「全然大丈夫じゃないから!親友の好きな人を取るとか論外だよ!」

 

等と供述しているが、めぐみんはともかくダクネスにも内緒で行くと言い出したのはクリス本人である。

背徳感がとか言うなら話を通しておけばいいのに。

まあ、話さないってことはそれだけヤバい仕事させられるんだろうなと覚悟はしてる。

 

「女盗賊が男を寝取るって設定よくあると思うんだ」

「・・・一応私女神なんですよ」

「女神様が嫉妬深いってのもよくある設定です。離島にある女人禁制って女神の嫉妬を避けるためでしょ?」

 

女神が嫉妬して災害起こすから入るなって言うのは、よくある伝承。

最近じゃ男女平等がどうのと言って、解禁されたりしてるけど、本当に女神が怒って災害が起きたらどうするんだろうと思ったりしてた。もちろん、何も起きないだろうと言うのが大前提なんだけども。

まあ、アクア見てるとそんな女神がいてもおかしくないって思う。

 

「はあ、こういう話をダクネスやめぐみんにしてあげたら、それこそキミが欲しがってる彼女もできると思うんだけど」

「その理論でいくとクリスが彼女になってくれれば解決すると思う」

「もうこの話は終わり!」

 

クリスをからかい過ぎた。

この後、馬車に乗って隣町に着くまで話しかけても無視された。

 

 

 

「クリスさ〜ん。聞いてますか?アクセルでのことは謝りますから、口聞いてください」

「・・・もうからかわないと約束するならいいけど」

 

相当ご立腹のようだ。

エリスをメインヒロインだと思ってるのは事実だし、からかってはいるけど嘘はついてないのに。

 

「善処する」

「で話は何?」

「仕事はこの街でやるのか?」

 

ノープランと言うか。

ただ義賊の活動を遠出してやるとしか聞いてない。

なぜ俺がここに来たかと言うと、いつものように初めは絶対手伝わないと堅く決意したものの、エリス様口調で上目遣いされたら断れなかった。

アレはずるい。あんなのされて断れる男は居ない。

 

「次の街だよ。ここは中継点。駅がないから馬を休ませてから出るんだ」

「俺たちは昼飯とるんだな」

「そうなるかな。あと、今日はここで泊まるからね。何か食べたいものとかある?」

「クリスの手料理」

 

クリスが料理出来るか知らないけど、一度は食べてみたい。

某キャラクターのように、一口食べれば卒倒なんてものじゃなければだが、クリスは普通に作れると信じている。

いくら異世界と言えど、普通に調理してあんな劇物を作れるはずがない。

 

「さっきの約束忘れてない?」

「俺は至って真剣だ」

 

からかっていると受け取られたようだが、俺は至って真剣。

同じ女神だからアクアの料理と近しいものな気もするけど、逆にこっちの食堂とかで出る現地食かもしれない。

 

「・・・料理する場所ないから外食にして」

「ボロネーゼとかピロシキとかビビンバとか食べたい」

 

アクセルや今までこう言った食べ物をみなかったが、この街にはあるかもしれない。

魔王を倒す為に来た割に、アクセルから殆ど出てないからな。

他の街は新鮮で楽しい。

 

「分かった。決める気ないね?あたしが決めるよ」

「俺正直に答えてただけなのに酷くないか?」

「ここの喫茶店にしよう。売ってないものを言うからでしょ!」

 

朝からかい過ぎたのが悪いのは分かるけど、この言われようはツラい。

ないだろうとは思ってた。

でも、食べたいから言ったんだよな。

 

「俺、この世界で何があって、何がないのかよく分かってねえんだよ。焼きそばパンあるのに焼きそばは売ってないし、ピザもどきも売ってるけど、本格的なイタリア料理はないし、基準が分からないから聞いたんだけど」

「・・・ごめん。ちゃんと聞くべきだったね。少なくともこの街にそう言った料理はないよ。場所によっては日本人が伝承してたりするから、バラつきがあるのさ」

 

やっぱりか。

再現できる料理だけが、どんどん広まったって感じなんだろうな。

 

「ここは、ハンバーグとか食べられるよ」

「じゃあハンバーグとジュースで」

「シュワシュワじゃなくていいの?」

「仕事中は飲まねえよ」

 

酔っ払って、二日酔いで日数伸びるなんて馬鹿なことしたくないし、早く帰りたい。

まあ、帰りはクリスと二人旅できるって考えると案外楽しめる気もしなくは無い。

 

「そういう所はしっかりしてるんだね」

「アレか?やっぱりデート的な感じで食べたかったのか?」

「ち、違うよ!意外だっただけだから!」

 

失礼なことを言うな。

俺はいつだって真剣だっての。

 

「お頭がそれでいいなら、俺は酒飲みますよ」

「飲まなくていいから」

「へいへい。クリスの奢りでいいんだよな?」

「うん。さっきデートとか言ってたのに、奢らせるんだね?」

 

デートしてないのに何を言ってるのだろうか?

 

「それとこれとは話が違う。まあ、デートだって言うなら払わないことも無いけど、これ形式的にはクリスが俺に依頼した仕事だろ?」

「いいよ。あたしが出すから」

 

と言いながらも結局は割り勘になった。

何故かと言うと、食事中の会話で色々あったとだけ記しておこう。

 

「ご馳走です。所で宿ってどこら辺なんだ?」

「まだだよ。ということで宿探し行ってみよう」

 

やけにテンションの高いクリスと共に喫茶店を後にし、宿屋街を目指すのであった。




次回の更新は●●を!の予定です!
始めカズめぐで正解と思った方は、間違いです!
今後はカズクリでこの記念投稿シリーズは上げます。
何の記念に上げてたか書いてなかったので、随時加えていきます。
次回更新もよろしくお願いいたします!


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夜の街で

お久しぶりです。
今回はカズクリ編の続きです。
いつもより短いのは、ご勘弁を。
違和感を覚えた場面を削除したらこの文字数になってしまいました。
何とこの素晴らしい世界に●●を!の話数が50を超えてましたので、それを祝して更新します!


-YORUNOMACHIDE-

 

昼食を終え、宿屋を探すこととなった俺とクリスはホテル街に来ていた。

 

「すみません。一人部屋二つ空いてますか?」

「ごめんなさい。全部屋埋まってるのよ。他を当たって頂戴」

 

とまあ、こんな感じで行く宿行く宿で断られている。

最低二人部屋でもと言う隙を与えずに、満室を告げられる。

何でもお祭りが近く執り行われるらしく、祭りに向けた準備で、人が集まっているのだとか。

俺達運がいいはずなのに、全くついてない。

 

「昼食前に宿探ししてればこうはならなかった」

「迂闊だったよ。宿場町って程の街じゃないから普通に空いてると思ってたんだけどなあ」

「こうなったら野宿するしかないんじゃないか?」

 

街の近くなら野宿も比較的に安全にできる。

二人であっても心配はいらないはずだ。

 

「それはおすすめ出来ないよ。この辺は男性がよく行方不明になる街でもあるから」

「それってまさか・・・」

「キミの考えてる通りだよ。トラウマを蘇らせたくないから伏せておくよ」

 

配慮はありがたいけども、察した時点でオークの恐怖はもう蘇ってる。

あの時はアクアが本当に女神のように見えた。

お母さんのような安心感があった。

いや、まあ本当に女神なんだが、そこは置いておいてだ。

多分、あの時にめぐみんかダクネスが膝枕してたら惚れてた可能性はある。

 

「何考えてるの?」

「オークに襲われた後に膝枕してたのがアクアじゃなかったらってことを考えてた」

「変なこと考えてないで、泊まる場所を考えてよ」

 

なんて事を言ってくるクリスを無視し、俺はめぐみんから順番に膝枕シミュレーションをしていた。

めぐみんだったら、初めは見惚れてるだろうな。

・・・でも、途中から年下の女の子に慰められてるのが惨めになってきそう。

ダクネスだったら、たわわに実ったアレを堪能出来るだろう。

でも枕が硬そうなのと、慰めより、お花畑な妄想が始まってそれ所じゃなさそうだな。

・・・結局アクアしかあの頃はないのか。

いや待てよ?

俺が一番尊敬している人を忘れてた。

俺の貞操を守ってくれたゆんゆんを!

そういや、ちゃんとお礼出来てなかったな。

 

「俺今度からゆんゆんに危機が迫ったら飛んで行けるようにしよう!」

「急にどうしたのさ」

「恩返しの話だ。そうか。ゆんゆんの膝枕が正解だったのか」

 

うん。

ゆんゆんならめぐみんと同い年とは言え、そこまで年の差を感じさせる容姿ではない。

怯える俺にちゃんと向き合ってくれるだろう。

ダクネス程じゃないにしても、めぐみんよりも育ってるし、完璧だ!

 

「バカなこと言ってるとめぐみんやダクネス、本人に言うからね」

「ちゃんと泊まる場所考えるんで勘弁してください」

「よろしい」

 

膝枕シミュレーションはアクセルに帰ってから、例の店に頼るとして、宿屋か。

冒険者御用達の馬小屋は、野宿と同じ理由で危険だし、キャンセル待ちも確実性に欠く。

何かいい方法はと、考えているといつの間にか歓楽街に着いていた。

 

「もしかして遊び通して、寒さを凌ぐつもり?」

「馬車で寝ればいいかなって」

「魔物に襲われたりして眠れないかもしれないよ?」

「そうは言うけどこれ以外に何があるってんだよ」

 

他に案が浮かばないのか黙るクリス。

リスクはあるけど、一番確実だ。

でも、昨日も寝れてないから出来ればちゃんと寝たい。

日本で寝床の確保が難しい時の裏技を思い出せ。

車中泊はないし、ネカフェもない、留置所は論外だし、他には・・・

 

「あっ、一ついい案がある」

「どんな!」

 

凄い食いつくな。

やっぱりちゃんと寝たいのだろう。

 

「ただ、聞いて怒らないって約束して欲しい」

「もちろん。それでちゃんと屋根があって鍵の閉められる所のなら文句は言わないよ」

「じゃあ、黙って着いてきてくれ」

 

行き交う人に、話を聞きながら目的地へと向かっている。

話を聞く限りでは、今からでも泊まれるらしい。

クリスは検討がつかないのか考えを巡らせているようだった。

 

「そろそろどこに向かってるか教えてくれても良くないかなあ?」

「教えるも何ももう見えて来てるぞ」

「見えて来てるって風俗店とか賭博場とかしかないよね?」

 

歓楽街なんだから当然だろうと言いたい。

しかし、ここまで来て気付かないとは、察しが悪いのか、そういう店を知らないのか?

 

「ほらあそこ」

「・・・本気で言ってる?」

 

店の存在は知ってるみたいだな。

ただ考えになかった感じか。

 

「屋根があって鍵のある場所だろ?」

「確かにそうだけど……」

「つうことで、お頭手組んで入りますよ」

「う、うん……」

 

義賊活動をしていて良かったと思える数少ない場面。

恋人繋ぎとか初めてだ。

・・・あれ?

そういや前にも恋人装った事があったような?

あっ、ストーカーがいるとか何とかで偽装したものの、ストーカー容疑かけられた少年と共に爆裂されたあれか。

よく考えたら俺の初めてめぐみんじゃねえか。

しかも甘酸っぱい雰囲気とかじゃなくて、形式的なやつ。

少しガッカリしてクリスを見ると落ち着かない様子だった。

 

「どうかしました?」

「・・・潜入より帰ってからが怖くなってきたよ」

 

何故怖くなったのか理由を聞いても教えてくれなかった。

 

 

 

「いらっしゃい。どんな部屋がお望みだい?」

「えっと、シングル二つの部屋ってまだ空いてますか?」

「シングル部屋は改修中だよ。付き合いたてかい?」

 

なんだかんだあって、恋人繋ぎをやめた結果無難な設定に落ち着いたようだ。

ラブホテルに来る日が来ようとは……

そもそも日本だったらまだ利用できない施設だ。

 

「まあ、そんな所です。大きめの部屋ってありますか?」

「一番高いけど、大丈夫かい?」

「これで足ります?」

「大丈夫よ。はいこれ、鍵とお釣りね」

「ありがとう」

と難なく寝床を確保した。

確保したのだが、クリスがソワソワしていて寝るのはもう少し後になりそうだ。

 

「ねえ、これみんなにバレたらどうするつもり?」

「その時はクリスに誘われたっていう」

「何でさ!ここを提案したのキミじゃない!」

 

などと供述しているが、もしこれがバレてめぐみんルートとダクネスルートが絶たれてしまったら、責任を取ってもらわなきゃならない。

 

「俺がここを提案することになった理由は?」

「あたしが神器回収を頼んだから」

「つまり、お頭が俺を神器回収に誘わなければ、この状況はなかったってことだ」

 

もしこの活動をしていなければ、屋敷でちょむすけやゼル帝と戯れて癒されていただろうに。

・・・いや、クリスと添い寝できる今の方が絶対いい状況だ。

 

「・・・はあ、言っていいけど二人は事情知ってるんだからちゃんと説明してよね?」

「アクアにも知れたらどうするつもり?」

「先輩は、お酒とお金で黙らせるしかないよ」

 

流石は後輩。

アイツの扱いはよく理解してるな。

アクアのお守り役として、常にいて欲しい。

祭りの時とか、アイツ大人しくなってたし。

 

「どっちから風呂入る?」

「先に入っていいよ。あたしは作戦考えてるから」

「長風呂だって文句言うなよ」

「図面とか確認してると時間はあっという間にすぎるから大丈夫かな」

「分かった」

 

こうして了承を得たはずなのだが、風呂から上がるとご機嫌ななめなクリスさまがそこにはいた。

 

「いつまで入ってるのさ」

「文句なしって言ったよな?」

「それにしても長い!あたしはね!一緒に作戦立てたいんだよ!」

 

と言って俺にまとわりつくクリス。

酒の匂いはしないが、この構ってちゃんぶりは酔った時のアクアに近い。

 

「・・・何か飲んだか?」

「このオレンジジュース美味しかったよ。助手君も飲んでみなよ」

「・・・絶対何か入ってるだろこれ。それより、作戦の話だろ?」

 

クリスの誘いを断り、机に広がる見取り図を持ち出して心を落ち着かせる。

 

「そうだね。でもカズマくんが居れば大丈夫だから、今は一緒にゆっくりしよう!」

 

後ろから抱きしめられて動けなくなる。

こういう不意打ちでドキドキさせられるの多い気がする。

盗賊服の露出度の高さもあって、密着感が凄い。

どうしようか。

オレンジジュースもどきの所為でこうなってるのは間違いない。

でもだ。

この状況で振りほどくのは勿体ない気もする。

どうすりゃいいんだ!

 

「クリス、このままだと本当にクリスが誘って来たって説明をすることに……」

「スー……スー……」

 

知ってたよ。

いつもと同じ。

クリスもめぐみんやダクネスと同じく、昂らせるだけ昂らせて終わるパターンだってことだ。

ベッドに移してソファーで寝るか。

 

「お風呂まで連れてって」

「・・・このまま?」

 

持ち上げ方が悪かったのか目を覚ましてしまった。

持ち上げ方はお姫様抱っこだが、眠った人を運ぶにはこれしかないだろう。

 

「うん」

 

ここまで素直に頼まれると断れない。

抱き上げてることで上目遣いになってるのも攻撃力が高い。

 

「はぁ、しょうがねえなあ」

 

クリスを風呂場まで運んでから俺は眠りについた。

 

 

 

目覚めるとソファーで寝たはずなのに、ベッドの上にいた。

・・・隣にはクリス。

えっと、俺は昨日部屋に着いてから何か摂取したか?

何も覚えてない。

クリスと添い寝なんて貴重な経験を覚えてないなんて……

 

「んー!よく寝た。今日も一日・・・か、カズマくん!?」

「クリスも覚えてないのか。いよいよ何が起こったか分からないな」

「ちょっと待って頑張って思い出すから、確か宿を取ってカズマくんがお風呂に入って……」

 

言葉が途切れ、みるみるクリスの顔が真っ赤に染まっていく。

昨日のこと覚えてたのか。

 

「き、昨日のあれは違うから!多分あのドリンクに何か入っててその、人肌が恋しくなったって言うか、その、ね?」

「分かってる分かってる。クリスが俺のこと密かに想っていて、オレンジジュースもどきに入ってた何かのせいで想いが表面化したんだろ?」

「そうそう。ってちがーう!」

「違うと言うと?」

 

からかってはいるものの何があったのかすごく気になってしょうがない。

早く教えて欲しい。

 

「だからその、あたしがキミのことどうとかって話じゃなくて、あと、ベッドに移したのはソファーで寝苦しそうにしてたからであって他意はないから!」

「クリスがそう言うならそういうことにしとく」

 

何も無くて良かった。

安心して、クリスをからかうのに専念できる。

クリスは今も尚パニック状態であった。

視線があちこち動いて動揺してるのがバレバレだ。

 

「そろそろ出た方がいい時間じゃないか?」

「そ、そうだね。出発時間近いし」

「ちょっと待てって、着替えないと行けないだろ?」

 

寝巻きのまま飛び出そうとするクリスを引き止め、着替えを済ませた後に宿を後にした。

宿を出る時昨夜はお楽しみだったねと言われたせいで俺達は自分たちの知らない何かがあったのかもしれないと探り合い状態となり、また街に着くまで喋ることは無かった。

 

 

 

次の街へ無事に到着。

やはり俺らの運は強いらしい。

この前みたいなことが起こらなければ自信持てるんだが……

とは言え、いつも何かと襲われてるのに比べると安全な旅路だ。

 

「さてと、今日は真っ先に宿屋に向かうよ」

「朝起きたら添い寝させられてるのは目覚めが悪いからな」

「・・・ともかくホテル街に向かうよ!」

 

あまり数日前の話はしない方がいいかもしれない。

凄く機嫌が悪くなった。

 

「一人部屋を二つだよな?そんなに予算あるのか?」

「予算はたっぷりあるけど、この前のことを考えると、もうシングル二つの部屋だったら問題ない気がしてきたよ」

「じゃあ、二人部屋にしようぜ、手続きも早いし」

「そうだね。不測の事態に備えてコストカットは大事だよ」

 

この時の判断を俺達は後悔することとなるのであった。




次回更新の予定作品は未定です。
ちゃんと週一投稿に戻すのが今の目標です。


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カエルと爆裂と

今回の投稿は「この素晴らしい世界に●●を!」のpixivにおける総閲覧数が十万人を突破した記念で更新しました!
爆裂なんてタイトルしてますけどめぐみんは出ません。
つまりどういうことかというと、そういうことです(説明になってない)
睡魔と戦いつつギリギリ間に合わせた字数も質も超低クオリティなので、期待しないでください。


-KAERUTOBAKURETSUTO-

 

ラブホ事件のような事態を避けるべく。

ホテル街に来た俺たちは好条件の宿屋を探していたのだが……

 

「シングルの二人部屋って空いてます?」

「すまないがウチは冒険者お断りだよ」

「そ、そうですか」

 

とこのように門前払いを食らっている。

金に物を言わせて泊まろうと試みたが出処の分からない大金は怖いとのことで拒否された。

俺たちは今、窮地に立たされている。

 

「またラブホ行くしかないんじゃねえのかこれ?」

「いやいや、何処かは空いてるって、次はあそこ行ってみよう」

 

言って入っていったのはこのホテル街最後の宿。

つまり、ここで断られると俺たちは詰む。

 

「シングルの二人部屋、空いてますか?」

「空いてますよ。料金は一万五千エリスになります」

 

最後の最後で部屋が取れた。

俺たちの運がようやく仕事しだしたと言っていいだろう。

 

「これでお願いします」

「一万五千エリスちょうどですね。はい。こちらお部屋の鍵になります」

「ありがとうございます」

 

支払いを済ませたクリスがドヤ顔で鍵を見せてくる。

こんなことでドヤ顔されても困る。

 

「今日はちゃんと部屋取れたよ。昼食取りに行こうか」

「ギリギリセーフだったけどな。荷物置いていかないのか?」

「何があるか分からないからね。フル装備で行動しないと」

 

何って何が起こり得るんだ?

空き巣が入るとかか?

 

「おすすめのお店が向こうにあるからそこに行こう」

「どんな料理なんだ?」

「そこはお楽しみということで」

「期待値上げて大丈夫なのか?」

「もちろん。味は保証するよ」

 

と本人が言ってるのだから相当美味い物が食べられるのだろう。

 

「そういや、目的地まであと何日かかるんだ?」

「この街での活動が四日間で、移動時間が大体四日だから八日だよ。そんなに早く帰りたいの?」

 

一ヶ月って伝えたけど、案外早く終わるのか。

まあ、早く終わる方が安心出来るけど。

 

「いや、そういう意味で聞いたんじゃないぞ?でもまあ、帰れるなら早く帰りたい。誰かがやらかしてないか心配だし」

「じゃあ、帰りは近道しようか」

「・・・行きもやってくれたら嬉しかった」

「帰りにしか使えない帰り方なんだよ。紅魔の里にテレポート屋を使って行くから」

「なるほど、逆はできないのか」

 

テレポート屋は一方通行の時がある。

出発時のテレポート屋は登録しているけど、行先のテレポート屋は出発時の場所を登録していないパターン。

これだと帰りは他の交通手段を使うか、出発点を登録しているテレポート屋がある街に行くしかない。

 

「そういうこと」

「・・・ってちょっと待て。紅魔の里に行くのか?」

「そうだよ?それがどうかしたの?」

「いや、それならもうちょっとお金とか持ってくれば良かったなって」

 

変にお金を持っていくと怪しまれると思って旅費として適量な分しか持ち合わせていない。

まとまった額を送りたかった。

 

「どうして?」

「めぐみん家は慢性的な金欠状態らしいから」

「・・・それでお金持っていく発想なのに、まだめぐみんと付き合ってないのが不思議なんだけど」

 

仲間の家族を心配するのは普通だろう。

それにこめっこが飢えているのが可哀想だ。

 

「なんでそうなるんだよ。俺はこめっこがひもじい思いをしないためにだ」

「ふーん。そういうことにしといて上げる。で、気になってたんだけど、今、めぐみんとダクネスどっちが好きなの?」

「ノーコメントで。それでも言えって言うならクリスって答えるぞ俺は」

 

どっちが好きなのかと聞かれると困る。

多分、めぐみんなんじゃないかなと思ったりもするけど、確信に迫るものがない。

だってめぐみんロリっ子だし、容姿だけで言えばダクネスの方が好みだからな。

 

「意味が分からないけど、もういいよ。言わなくて」

「言わなくていいなら黙っとく」

「所で先輩のことはどう思ってるの?」

 

クリスが聞きたいのは恋愛対象として的な意味だろうが、そもそもあいつを異性として見れない。

 

「アクアは、ちょむすけとゼル帝より下のペット枠だな」

「・・・それは流石に酷いんじゃないかな?」

「ちょむすけとゼル帝は借金してこないからな」

「・・・」

 

流石に言い返せないらしい。

借金の女神さまと食費しかかからないペットならペットの方が上に決まってる。

 

「・・・えっと、お店はここだよ」

「・・・日本で見たことのある看板なんだけど、関係あるのか?」

 

デカデカと掲げられた看板には多くの国の人達が知っているであろう多国籍企業のファストフード店と同じMのようなイラストがあった。

いくら多国籍企業のチェーン店だからって、流石に異世界にまで進出してるわけないよな?

 

「それは中に入ったら分かるよ」

 

言われるがまま入店すると、他のお客さんのテーブルに置かれている食べ物は予想通りハンバーガーだった。

これはバイト経験のある日本人がやったのか?

 

「いらっしゃいませ!ご注文はお決まりですか?」

「とりあえずスマイルください」

「・・・すみませんお客様。スマイルと言う商品はございません」

 

スマイルは元々商品じゃないけど、まあ、いいや。

野郎のスマイル貰っても嬉しくないし。

 

「そうですか。じゃあフィレ〇フィッシュください」

「すみません。そう言った名前の商品は扱っていません」

 

あの超人気ハンバーガーチェーン店の看板パクるなら置いとけよ。

結構好きなメニューなのに。

 

「この店の名前聞いてもいいですか?」

「マクロナルドです」

 

マクロ経済みたいな名前してるな。

際どい所せめてるし、絶対日本人の仕業だ。

俺がやるなら完璧に味とか内装揃えるけどなあ。

そしたら、他の転生した日本人がこぞってやってくるだろうし。

 

「・・・チキンナゲットあります?」

「はい」

「ポテトとチーズバーガーは?」

「ございます。その三点ご注文なら当店オススメのチーズバーガーセットがドリンク付きでございますがどうなさいますか?」

 

普通の商品はあるみたいだ。

いや、フィレ〇フィッシュも普通だとは思うんだけども。

 

「じやあそれ一つお願いします」

「・・・あたしはハンバーガーセットで」

「かしこまりました。チーズバーガーセットにハンバーガーセットですね。少々お待ちください」

 

店員さんは逃げるようにバックヤードへ駆けて行った。

 

「目立つことしないで欲しいんだけどなあ」

「だってこんな店見つけたら気になるだろ」

 

看板だけでそこら辺にあるバーガーショップと変わらない品揃え。

お楽しみと言われた割には拍子抜けだ。

 

「お楽しみとか言うから期待したんだよ」

「それはそうかもしれないけど、あの店員さん逃げってったよ?」

 

俺は悪くない。

悪いのはこの店を作った日本人だ。

中途半端な再現でこんなパクリをするのが悪い。

 

「この街って温泉あるのか?」

「突然だね?温泉じゃあないけど大衆浴場ならあるよ?」

「混浴は?」

「有るわけないでしょ。大衆浴場なんだから」

「だよな」

 

なんて馬鹿なこと話してると別の店員さんが注文の品を持ってきた。

・・・包み紙までパクってるのに、コップは普通のカップなの、手抜きすぎだろ。

 

「お待たせしました。チーズバーガーセットとハンバーガーセットになります」

「ありがとう」

「いただきます。おっ、味は近いな」

「そう。だからここのお店に連れてきたんだよ」

 

クリスがお楽しみにと言ってたのは理解出来る。

あのお店の味だ。

異世界で食べられるとは思ってもみなかった。

 

「でもポテトが別の所のやつだぞこれ。同じくMが頭文字のとこ」

「そこら辺は妥協点と言うかその、ね?」

「期待値上げすぎたな」

「う〜、そうかも」

 

凄いのは凄いけど、ハードルが上がり過ぎて、クリスには悪いがなんだこの程度かって感じがしてしまった。

 

 

 

パチモンファストフード店での昼食を済ませた俺たちは、この街のギルドに行き、お手軽なクエストを受け、路銀を稼ぐことにした。

と言う名目でギルドで潜入調査だ。

なんでもそのギルドの中に神器があるらしい。

現在は受付でクエストを受注している所だが、神器らしきものは見当たらない。

 

「サトウカズマさんとクリスさんですね。ジャイアントトードの討伐クエストですね。頑張ってください」

 

特に怪しまれることもなく、クエストを受けられた。

直ぐにクエストには向かわず、この街の冒険者にジャイアントトードの生息域とその周辺に出没する他のモンスターに関する情報を聞きつつ、神器に繋がる情報がないか調べていた。

しかし、これと言った情報はなく、単にカエル狩りをして終わりそうだ。

 

「バインド!カズマくん今だよ!」

「『エクスプロージョン』!!」

 

めぐみんがいたら絶対に出来ないマイトもどきを使った擬似爆裂魔法でカエルを屠っていく。

この倒し方楽しい。

 

「色んな意味で今回のことめぐみんには言えない気がする」

「何言ってんだ?『エクスプロージョン』!『エクスプロージョン』!よし、これで討伐完了だな」

 

 

久しぶりに楽しいクエストだったな。

負けない確実性のあるクエストがちゃんとできるなら俺は趣味としてクエストをちゃんと受けてるな。

 

「そうだけど、これ、めぐみんは知ってるの?」

「ああ、今度これ作ってるの見たら全部潰すって言ってた」

「・・・めぐみんが居ないからってやりたい放題だね」

 

居ない人のことを気にせずに色々楽しむのが旅の楽しみの一つだと思うんだが。

まあ、浮気とかそう言うのは良くないけども。

 

「めぐみんが居ないんだから、爆裂枠は俺がやるしかないだろ?」

「別に爆裂枠とかないからやらなくていいけど」

「でも強かったろ?」

「そう言われると何も言えないよ」

 

この後、初心者殺しに襲われるなんてこともなく、普通に街に戻ることが出来た。

いつもなら絶対こんなに上手くいかないのに。

やっぱり、パーティーを組む相手は大事だ。

 

 

 

報酬を貰い、結局、神器を見つけられなかった俺たちは大衆浴場で疲れを癒し、ホテルへと戻った。

部屋に入った俺たちは入口で立ち尽くしていた。

何故ならば、ベッドがなんとシングルベッドが一つしかないからだ。

部屋そのものは二人部屋サイズで、明らかにそこにもう一つベッドが存在したようなスペースはあるものの、何故か一つしかない。

 

「助手君。君変なこと頼んだりしてないよね?」

「するわけないだろ?受付に話聞くしかないだろ」

「そうだよね」

 

受付に聞きに行くとまさかの答えが返ってきた。

 

「お二人の仲を応援して、当店のサービスでございます。二人で寝ることも可能なサイズですのでご安心ください」

 

変な配慮がなされていた。

しかも元に戻して欲しいと言ったら別の三人客の部屋に回したからもうないそうだ。

他の宿は泊めて貰えないし、ここで泊まるしかない。

流石に勝手なことをしたということで宿泊費はタダにして貰えたが、ソファーもない部屋でこれはどうしたものか。

 

「あたしが床で寝るから。カズマくんがベッドで寝てくれればいいよ」

「そういう訳にもいかないって、俺が下で寝る」

 

ずっとこの調子で平行線。

このままじゃあ譲り合ってる間に夜が開けそう。

 

「・・・こうなったら添い寝するしかないな。めぐみんとも何回かしてるし、俺が何かしないのは保証されてるようなものだし」

「・・・分かったよ。でも、このこと絶対に誰にも言わないでよ?」

「言うわけないって」

 

酔ってたら言うかもしれないけど、それは黙っとこう。

 

「分かったよ。その代わりこっち見ないでよ?」

「へいへい」

 

背中合わせに布団に入る。

・・・あれ?

何故だろう。

さっきまで何とも思ってなかったけど、急に緊張してきた。

まずい、これ眠れないやつだ。

クリスのことだから何か仕掛けてくるとかはないだろうけど、意識して眠れない。

 

「カズマくん。まだ起きてる?」

「起きてるけど?」

「やっぱりそっち向いていいかな?下がないのが見えると眠らなくてさ」

 

仕掛けてくるのは別だけど緊張度の上がることをご所望のようだ。

ここで断ったら二人とも寝不足になるだろうし、それだけは避けないといけないし、仕方ないか。

 

「いいけど変なことしたら寝させないからな?」

「変なことなんてしないから、動かないでよ?」

「ああ」

 

反転したクリスはものの数分で、寝息を立てていた。

こちとら緊張して眠れそうにないってのに、めぐみんと言いクリスと言い、男と一緒なのに寝るの早過ぎないか?

もうちょっと警戒とかしろよ。

いやまあ、クリスにはめぐみんと何も起こってないから安心しろって言ったけども。

 

「カズマ・・・けっこんおめ・・・・・・」

 

なんて夢見てるんだろうか。

俺が見たいその夢。

てか相手誰だ?

 

「・・・・・・んぱいもおしあわ・・・・・・」

 

何となく相手が誰か分かった俺は無意識のうちにクリスの頬を引っ張っていた。

 

「い、痛ッ!何するのさ!せっかく寝てたのに」

「変な寝言言ってるから起こしただけだ」

「変な寝言?」

 

見てた夢のことは覚えてないらしい。

キョトンとしたままこちらの説明を待っていた。

 

「それはもう甘い声でカズマくんって呼んでた。夢の中で俺とナニしてたんです?」

「そ、そんな夢見てないはずだって!」

「はずってことは可能性はあると」

 

こうやって焦るクリスを見るのは楽しい。

照れて、顔真っ赤にしてるのがいい。

 

「いや、ないから!」

「まあ、冗談だから安心してくれ」

「ホントに心臓に悪いから変な事言うのとするのはやめて!」

 

クリスがイラッとする寝言言ったのが引き金となったわけだし、無意識のうちにやってたから仕方ない。

まあ、俺が悪いんだけども。

 

「でも変な寝言言ってたの事実だぞ?断片的に言うと俺とアクアが結婚する夢見てたろ」

「・・・えっと、別に二人が結婚してもおかしくないような気はするんだけど」

 

俺とアクアが結婚?

さっきの意趣返しだろうか?

 

「いくらクリスでも、怒るぞ?」

「怒らせるつもりとかはないけど、今のは撤回するよ」

「ともかく、寝るにしても変な夢見るのはやめてくれ、眠れないから」

「うん。気を付ける」

 

こうして二度目の就寝チャレンジが始まった訳だが、二度目は緊張はなく、さっきの苛立ちを忘れようとするうちに気付けば眠っていた。




手抜きと言われても仕方ない出来で、カズクリ好きの皆さんには申し訳ないです。
恨むなら、私ではなくワクチンの副作用を恨んでください……


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地獄と天国

お待たせいたしました。
先週は創作できる精神状態ではなく、回復したところにいせパズがリリースされたのでできず、今週は投稿前に眠るなどして遅くなりました。
すみません。
今回はカズクリエリです。
何を祝しての更新かと言いますと、柴犬さんにウォルバクさまとちょむすけのイラストを描いていただけたからです!
リンク張っておくので是非柴犬さんのかわいいイラストをご覧ください!
https://twitter.com/shibakenhr/status/1430562136896335874


-DIGOKUTOTENGOKU-

 

目が覚めると知らない天井だった。

隣を見るとクリスが眠っている。

そういや昨日クリスとまた同じ宿で泊まって添い寝したんだっけ。

寝顔を拝めるとは、来た甲斐が有るってもんだ。

カメラがあれば撮りたい。

でも魔道カメラって高いし、簡単に手に入らないからな。

 

「ふわぁあああ」

 

寝起きも可愛い。

 

「カズマくん。おはよう」

「おはよう。クリスって寝顔も寝起きも可愛いな」

「・・・だからそう言うのはダクネスやめぐみんに言ってあげてよ」

 

ことある毎にダクネスとめぐみんの名前持ってくるよな。

別に二人と付き合ってるわけじゃないのに。

 

「ちょっと何言ってるか分からない」

「・・・それが分かったら彼女も出来るんじゃないかな?」

 

余計に意味の分からない事を言い出した。

仮にかわいいとか言えてたとしたら紅魔の里から帰って直ぐって言うか、爆裂魔法を覚えさせた時にめぐみんに告白してると思う。

多分、お前のこと一生支える的なこと言って安心させるのも含めて。

その直前にゆんゆんとかに俺のこと私の男とか言ってたし、前日にはバレンタインチョコ渡すとか好きとか言ってたからな。

彼女を作るって意味では多分こうだと思う。

 

「クリスに可愛いって言ってるからクリスが彼女になってくれると?」

「誰もそんなこと言ってないんだけど、と言うか前にめぐみんに好きかもしれないとか言ってたんだよね?」

 

クリスには求婚してるって面において、一番関係進んでると俺は主張したい。

がしかし、ここで問いただしたいのは別にある。

 

「それはそれ。これはこれ。てかめぐみんのやつあの時のこと話してるのか?」

「・・・そ、そうだよ。ゆんゆんに自慢しててね」

 

これは多分、めぐみんは話してないな。

よく俺らのこと見てるとか言ってたし。

 

「・・・クリス。いや、エリスさま。何処まで見てました?」

「え、えっと、二人が混浴したり、褒め合ってる所や抱き合って寝てたなんて見てませんからね!」

 

間違いなく絶対見てるなこの人。

なんなら仮に誰かと一線超えても見てるんじゃないか?

まあ、相手がクリスだったら話は変わるんだけども。

 

「・・・帰ったらやっぱり今回の旅のこと洗いざらいめぐみんに話します」

「ちょっと!なんでそうなるのさ!」

「俺はここで誠実な所を見せて更なる進展を!」

 

めぐみんからの信頼を厚くして、この旅をめぐみんルートを進む踏み台にする!

と言うか盗賊団に憧れてるめぐみん的には俺の活躍聞いたら喜ぶんじゃないか?

 

「添い寝とかラブホテルに泊まったことは?と言うかダクネスには言わないの?」

「・・・それは隠す方向で。ダクネスに言うと単純に説教されそうだから」

「確かに・・・。でももし、めぐみんに話してたらあたしが言うからね」

「・・・やっぱり何も言いません」

 

宿泊関係は隠さないとまずい。

多分、一番困るのはクリスだろうけど少なからず俺も絞られるだろう。

 

「よろしい。で今日はどんなクエスト受けるつもりなの?」

「クリスを攻略するクエストとか?」

「これ以上言ったらカズマくんに迫られたってギルドに広めるよ?」

 

俺としては全く問題ない。

前にクリスが俺のパンツ盗ったの見てた冒険者がその話広めたせいで、変態カップルかもしれないとか何とか噂されてたのをダスト経由で聞いたから間違いなく困るのはクリスだ。

自分から外堀を埋めにいく行為だからな。

 

「じゃあ俺はクリスに二人旅に誘われて同じ宿に泊まったって広める」

「・・・もう話を広めるとか報告するとかで駆け引きするのやめにしない?」

 

お互い損しかしない脅しだと気付いたようだ。

こっちとしてもめぐみんルートとダクネスルートの可能性が少しでも減るアクションは起こしたくない。

まあ、そのままクリスルート突入ならそれはそれで構わないけれども。

 

「始めたのクリスだろ?でもそうだな。もうやめとこ」

「今度こそ、クエスト行ってみよう!」

 

朝から変な話してたけど、俺達の冒険が今日もまた始まろうとしている。

しかし、いつもウチでクエスト行くよりも楽しんで行くのは、アクア達に申し訳ない気分になる。

複雑な気持ちだ。

なんと言うかクリスじゃないけど、それこそ浮気してるみたいな感じがする。

 

 

 

いざクエストと意気込んでギルドに着いたものの、大半のクエストが受注済みで残っていたのは採取系のみだった。

もっとこう戦う系のクエストがしたかった。

 

「なんで冒険者がキノコ狩りするんだ?」

「そりゃあ魔物に襲われる可能性があるからだよ。あと男の人はアレがいるからね」

 

存在を過ぎらせるだけでも身震いしてしまう。

相当トラウマとして刻まれてるらしい。

 

「・・・と、ともかく。早く終わらせて帰ろう。ギルドの食堂に居れば情報も入るだろうし」

「じゃあ今日はもう帰ろうか」

「まだ終わってないだろ?」

 

五十個以上は必ず採取しなければならないって言ってたのに、まだ三十も採れてない現状で、何言ってるんだろうか。

こんな所でクエストのペナルティくらうのは割に合わない。

 

「実はね。キノコ狩りは出来高制で特に個数指定はないのさ」

「五十は取らないとって言ってなかったか?」

「目標は高くって言うでしょ?」

 

・・・嘘は言ってないってか。

やってること悪魔と変わらないだろ。

 

「俺もう帰っていいか?」

「だ、ダメだって!カズマくんが居ないとダメなんだから!」

「そうか。クリスにとって俺ってばそんなに大事な存在になってたのか」

 

めぐみんにもダクネスにもこんなこと言われたことないしな。

こう必要とされてる気がして嬉しい。

 

「そうなんだけどそうじゃないって言うか、カズマくんすぐそっち方面に持ってくよね?」

「それがどうかしたか?」

「・・・と、ともかくギルドに戻って再調査だよ!」

 

逃げるように街の方へと駆けていくクリスを見ながら俺は思った。

こういう冒険も悪くないなあと。

一度色んな町を回ってクエスト受けるなんてのをみんなでやるのも楽しそうだな。

宴会気分でアクアが盛り上げて、めぐみんが爆裂して、ダクネスのお家パワーでVIP待遇。

悪くないなって思えたら気が楽だけど、現実はアクアがアンデッドを呼び寄せて、めぐみんが変な所で爆裂して大騒ぎで、ダクネスが魔物目掛けてまっしぐら。

楽しむどころじゃないか。

 

「はぁ、楽しく生きたい」

「あら、じゃあ私たちと楽しく生きてみる?」

 

声のした方を見るとそこにはオークの集団がいた。

クリスは居ないし、街まで十分以上はかかる。

やっぱり来るんじゃなかった!

 

「・・・お断りします!」

「ちょっと待ちなさい!逃げたわ!囲め囲め!」

 

こんな所で捕まってたまるか!

てかさっきよりオークが増えてるんだが!?

 

「今よ!突撃!」

 

あっ、捕まった。

もう終わりだな。

せめてアクアの支援魔法があれば・・・

ダクネスのデコイでもいい!

めぐみんの爆裂魔法は・・・俺も死ぬな。

爆裂魔法?

あっ、マイトモドキがあった。

 

「こっち来んじゃねえ!『ティンダー』!擬似爆裂魔法三十連発くらいやがれ!『エクスプロージョン』!!」

 

ポケットに入れてた俺に感謝だ。

魔法を使った事で警戒して、距離を取ってくれたのも使いやすかった。

 

「「「ぎゃああああああ」」」

 

こうして俺は何とか逃げ切ることが出来た。

めぐみんには悪いけど、今後ダイナマイトを増産するしかないと思うのであった・・・

 

 

 

何とか貞操の危機を脱して、街に着いた。

なんだってトラウマを再び体験しないといけないんだ。

門の前で待っていたクリスを見つけるとクリス目掛けて走っていき、そのまま抱き着いた。

トラウマのせいだろうか。

クリスに縋り付きたい衝動を抑えられなかった。

 

「ちょっ、ちょっと。守衛さんたちに見られてるから!急にどうしたのさ!」

「オーク怖かった。クリスの膝枕欲しい」

 

今ので色々察したのか守衛さん達は俺に同情の視線を送った後、違う方向を向いてくれた。

これはもう普通には癒えることのないダメージなのだから。

 

「ええっと、怖かったのは宿屋で話聞いてあげるから落ち着いて」

「膝枕してくれないなら、俺アクセルに帰ってめぐみんかダクネスになでなでしてもらう」

「わ、分かった!膝枕すればいいんでしょ」

 

クリスに膝枕してもらえる日が来るとは思いもしなかった。

・・・こんな状況下じゃなかったらもっと嬉しいけど、それはそれとして置いておこう、

 

「ねえ、カズマくん。さっきから戻ってきた冒険者から凄い視線を感じるんだけど」

「・・・」

 

クリスの言う通り、男性冒険者からは羨望の眼差しが、女性冒険者からは場所を弁えろと言った視線が飛んでくる。

でも傷心してる俺には関係ないことだ。

 

「そろそろ戻ろう?ギルドにキノコ持ってかないとだし、その、膝枕は宿屋で続きしてあげるから」

「・・・ああ」

「オークってそんなに怖いの?」

「「「怖い」」」

 

守衛さん達も声を揃えて言った。

あれは全種族の雄にとって敵だ。

 

「そ、そうなんだ。あの、こんな所ですみませんでした」

「彼は英雄だよ。お嬢ちゃん。迷惑なんかじゃない。一人で逃げられたということはオークを討伐してくれたのだろう?」

 

そうか。

アイツら相手に走って逃げるとかできないのか。

この世界はほんとろくでもないな。

 

「お邪魔しました」

「敬礼!」

 

警備兵の皆様方からの最高級の敬礼がこの街の抱えてたオーク問題の根強さを感じさせる。

こういうの悪くないな。

 

 

 

「勇者カズマにカンパーイ!」

「「「カンパーイ!」」」

 

ギルドに到着し、討伐報告すると受付の人が『オークを三十五体も討伐!?』と叫んだ為に、気付けば勇者扱いでよいしょされてる。

今日の食費がタダになったのと、この街で一番のホテルの一番高い部屋に泊めて貰えるそうだ。

 

「魔王軍幹部と渡り歩いて来た人はやっぱり違うな!」

「一人でオークをあんなに沢山倒せるなんて凄いよ!」

 

とまあ非常に心地のいい状況で、オークのトラウマなんて吹っ飛んだ。

今は俺がいない所でみんな盛りあがっている。

調査をしても怪しまれないと、クリスはギルド内を捜索してる。

俺はと言うと静かにタダ飯を頂いていた。

すると記者風の手帳にペンを持った女性が取材してもいいかと尋ねてきた。

 

「サトウカズマさんは四人パーティーですよね?後の二人はどちらに?」

「俺の仲間は今アクセルにいます。クリスと二人で旅に出てるので」

 

この記者が書いた新聞がアクセルに届くことはないだろうと思って答えてるけど、大丈夫だよな?

王都の記者だって言うし、王都の新聞はアクセルに届かないからな。

わざわざ取り寄せない限り知る由もない。

 

「あの方はサトウさんの恋人ですか?」

「そうだと嬉しいんだけど、クリスはただの友人だ」

 

何度かプロポーズしたことはあるとか言いかけたけど、危ないなこれ。

酒飲む前で良かった。

 

「なぜ二人でこの街に?」

「ここで路銀稼いで目的地に向かうためかな。冒険者としてやるべきことがあるんで」

 

このギルド内にある神器の回収とか言えないし、最終目的地は貴族の屋敷らしいし、濁す他ない。

 

「やるべきこととは?」

「詳しくは言えないけど盗賊スキルが活きてくる活動かな」

「なるほど、サトウさんとクリスさんは盗賊職の同業者として組んでいるのですね」

 

普通そう思うよな。

まあ、盗賊職がオークを短時間に三十五体も倒せるわけないんだけどな。

 

「いや、クリスは盗賊だけど、俺は冒険者だからな。ほらこんな風に『クリエイト・ウォーター』」

 

近くにあった空のコップに水を入れる。

記者は意図が分からず困惑しているが、続けて盗賊スキルを使う為に俺はクリスに向けて手を翳し唱えた。

 

「『スティール』」

「あっ!?」

 

クリスがこちらを睨んでくるが無視だ。

にしてもなぜ俺の窃盗スキルは下着が盗れるのだろうか。

こういう時にパンツが盗れると困る。

 

「あの、これは」

「ランダムに物を盗る盗賊のスキルですよ。パンツが取れたのは偶然ですから気にせずに、クリス悪い・・・この人に向けてやる訳にはいかないだろ」

「・・・そりゃそうだけど、出来れば呼んでからにしてよ」

「分かった。とまあ、冒険者として色んな業種のスキルが使える訳です」

「オークを一掃されたのはどのような方法ですか?」

「えっと、それは・・・」

 

ダイナマイトの存在はあまり公にしない方がいいよな。

 

「説明が難しいというか、俺自身殺るかヤラれるかだったんで、ガムシャラに戦って勝てた感じでどうやったか覚えてないですね」

「ギリギリの戦いだったということですね。今日はありがとうございました」

「こちらこそありがとうございます」

 

これでまた俺の名が売れるな。

アイリスも喜んでくれるだろう。

 

「やっと終わったみたいだね」

「まあな。それでどうだった?」

「全然見つからなかったよ」

 

結構調べてたのに、見つからないとは。

本当にここに神器があるのか?

 

「場所間違ってるんじゃないか?」

「そう思ってスキル使ってみたらやっぱりこの建物なんだよ」

「あの関係者以外立ち入り禁止の所はどうだ?」

 

唯一怪しいとすればあの場所だけだ。

関係者以外立ち入り禁止とあるが、関係者らしき人物が通った所を見たことがない。

 

「となると潜入しかないかもね」

「その前にあの厳かな感じが何かだけでも聞いてみないか?」

 

という事で聞き取り調査をした所エリス教の御神体等々宗教的な物が安置されてるらしい。

何故か信仰対象である当の本人はここの存在を知らないみたいだったが、ある策を俺は思いつき、作戦の決行は明日になった。

そして、所変わって今は宿屋にて、休養を取っている。

 

「膝枕するとは言った。言ったけどこれ絶対違うよね!」

「これも膝枕の一種だ。何も違うことはない!」

 

顔を上げて抗議して、また元に戻す。

うつ伏せ膝枕最高だ。

この旅に来てからと言うもの役得なことが多いと思う今日この頃。

 

「これバレたら絶対面倒な事になるよ」

「ここ最高級のホテルで防音対策バッチリだって」

「はぁ、それでこれはいつまですればいいのかな?」

 

まだ始めて五分も経ってないのに何を言い出すんだろうか。

俺がトラウマを負った永遠にも等しい恐怖はこんな短いものじゃない。

 

「あと十分くらい」

「そんなに!?」

「で、一旦休憩挟んだらエリスさまの格好でまたお願いします。仰向けとうつ伏せ各十分づつで」

「えっ!?」

 

めっちゃくちゃ顔赤くしててかわいいな。

これだよこれ!

俺が求めてたものは正にこの癒しだ!

 

「やってくれなかったら俺今から帰る」

「うっ、わかったよ。この後でいいんだよね?」

「そうそう」

 

これで三十分間の休養が確定した。

俺もうこのまま成仏してもいいわ。

 

「はあ、あたしの幸運値ってなんなの?」

「それは俺も常々思ってるよ」

 

まあ、今は自分の幸運値の高さに感謝して、膝枕を堪能してるけども。

日常生活では、誰かが借金抱えてくるわ。魔王軍幹部と戦う羽目になるわで、幸運値高いってなんだよってなる。

 

「カズマくん。一つ聞いてもいいかな」

「どうぞ」

「もし、あたしが一時的に身動き取れない状態になっても何もしないって約束できる?」

 

なんてことを言い出した。

質問の意図がよく分からないが、俺としては何を今更と言いたい質問だった。

 

「愚問だな。爆裂散歩って知ってるか?」

「・・・そうだったね。その、クリスとしてより、ちゃんとエリスとしての方がいいかなあと思ってね」

「えっ、わざわざエリスさまとして俺に膝枕する為だけに降臨してくれるんですか?」

 

俺としてはエリスさまぽい服と髪型に近付けてって思ってたけど、どうしよう。

ここに来て俺の幸運値が仕事を始めてる気がする。

 

「この街の男性の反応からして、相当怖かったのだろうと思いまして、先に帰ってしまった負い目もありますから」

「エリスさま、結婚してください」

「・・・やっぱりやめます」

「謝るんでなかったことにしないでください」

 

はね起きて、土下座して頼み込む。

エリスの膝枕だけは何がなんでも体験しなければ!

メインヒロインの膝枕を望まない主人公がいるだろうか?

いや、居ない!

 

「しょうがないですね。ちょっと待っててくださいね」

 

言ってクリスは椅子に深く腰かけると、直ぐに魔力切れを起こしたかのようにぐったりして目を閉じた。

なるほどこのことか。

でもこの椅子窮屈そうだし、ベッドに移した方がいいよな。

そう。

これは別に意識のないクリスを勝手にお姫様抱っこしたくなったとかそういうのでは無く、ただ単にクリスを思っての行動だ。

よし、これでいい。

後はエリスを待つだけ。

でもどうやって出てくるのだろうか。

そもそもクリスとエリスってどうなってるのだろうか?

と考えてるとクリスの身体が激しく光り、発光が終わるとそこには横になった俺のメインヒロインがそこにいた。

・・・この抱き枕売ってたら全財産注ぎ込むなこれは。

 

「あれどうして天井をってあれ?ベッドの上ですね?カズマさん何かしましたか?」

「ベッドに運んだだけで、何もしてないです。嘘発見器持ってきてもいいくらいです。あと、膝枕は今度はベッドの上で、正座だと足痺れますし」

「そ、そうですね。えっと、これでいいですか?」

 

ベッドの端に座り膝をポンポンと叩くエリスに俺は見惚れていた。

 

「あのう。そんなに見られてると恥ずかしいです」

「その綺麗なので見とれてました」

「そう言うのいいですから早くしてください!恥ずかしいんですからね!」

「はい」

 

怒ってる所も可愛いな。

俺もうこのままエリスルートに入りたい。

これが好意からやって貰えてるなら期待できるけど、ご厚意でやってもらってるだけだからな。

脅したからだろうって?

ちょっと何言ってるか分からないな。

 

「それじゃあ失礼します」

「先にうつ伏せなんですね」

 

俺は何も答えずにエリスの枕に顔を埋めていた。

幸せだ。

今エリスに魔王倒して来いって言われたら単騎突入も辞さない覚悟ができる。

何度か語りかけられた気がしたけど、全部無視していると声がしなくなった。

俺はこの天国のような心地を無の状態で浸っていたかった。

膝枕開始からどれくらい時間が経っただろうか、うつ伏せ膝枕に満足して顔をあげるとエリスは眠っていた。

えっ、これってあれか?

仰向けで寝顔を拝みながら膝枕出来るのか?

俺は明日死んじゃうのか?

等と考えながら仰向けになった訳だが、目を開けると天使がいた。

いや、女神なんだけども。

とにかく超かわいくていつまでも見てられる。

カメラがあれば撮りたい。

俺の脳内カメラに焼き付けられるだけ焼き付けとこう。

 

「・・・にゃう・・・・・・」

 

にゃうって何?

可愛すぎて無理、辛い。

これをエリスが目覚めるまで続くって考えたらヤバい。

俺、マジで成仏されないかな?

心が洗われて、未練なくこの世から去りそうなくらい幸せなんですけど。

 

「・・・・・・かずまさん・・・」

 

あっ、不味い今のでかずまさんが起きた。

どうしようかこれ。

このままだと限界が来そう。

多分十分はもう経ってるよな。

よし、今日は寝よう。

戦略的撤退をしなければ。

 

「・・・・みゅ〜・・・・・」

 

やっぱり後ちょっと見とこうかな。

こんなこともう二度とないだろうし、こんな可愛い生物見なきゃ損だ。

 

「・・・んー?カズマさん??えっと、おはようございます」

「おはようございます。エリスさまって寝顔も寝言も可愛いですね」

 

と言ったのを最後に俺は気を失った。

 

 

 

「・・・『睡眠』ッ!!ああ、反射的に眠らせてしまいました。でも始めてから一時間は経ってるみたいですし、もう大丈夫ですよね?早くクリスに戻って寝ないと明日に響きますからね。・・・可愛いですか、カズマさんの寝顔も・・・って私は何を!?」

 

朝まで独り、悶々とするエリスさまが居たとか居なかったとか・・・。




あなたさまがこれを読み終えているころ。私はめぐみんに命を狙われ、逃亡生活を送っている事でしょう。探さないでください。
みなさんくれぐれもめぐみんを怒らせないように気を付けましょう。
次の更新は日曜日で、幼馴染の子が主人公のシリーズです。
何故命を狙われたかと言うと、めぐみんのフリしてカズマさんにプロポーズして進展させてあげようとしてバレました。以上です。


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ギルドの聖域

先週は投稿出来ず、すみませんでした。
今回はTwitterのフォロワーさんが575になったことを記念して投稿します。皆様ありがとうございます!これからもよろしくお願いいたします。
何故575かと言うと最近はサボってますがこのすば川柳をTwitterで詠んでるからです。
作中にモブのオリキャラが出てきますので、苦手な方はご注意ください。


-GUILDNOSEIIKI-

 

目覚めると隣で美少女が眠っているなんて事もなく、一人でベッドの上だった。

クリスは自分の部屋に行ったらしい。

高級ホテルは寝室が二つある部屋だったのだ。

寝返りをうち、時間を確かめるとまだ朝というには早い時間だった。

二度寝するかと思い、再び布団を深く被ろうとしたその時、事件は起きた。

 

「きゃああああああああああ!!」

「何事だ!大丈夫かクリ、ス?」

 

部屋に入ると着替え中だったのか下着姿のクリスがそこにいた。

そしてそんな状況を見られて恥ずかしがるでもなく、助けを求めて引っ付いてきた。

朝からカズマさんを起こさないで貰いたい。

 

「ああ、あそこに黒い奴が!」

 

クリスの指指す先には、めぐみん曰く、漆黒の魔虫なる存在がそこにはいた。

虫が苦手なのかGが苦手なのかはさておき、役得なこの状況作ってくれた存在には一応感謝しつつ、このままだと理性が持ちそうにないので、クリスを離して、退治に向かう。

 

「何だ。そんなことかよ。ほい。これでいいだろ」

「ありがとう」

 

歓喜のあまりハグしようと近づいて来たのが見えたので、全力で阻止にかかる。

 

「ストップ!これ以上近付いたら押し倒すぞ」

「・・・あっ」

 

やっと自身の置かれている状況を理解したみたいだ。

耳まで赤くしてて可愛い。

 

「じゃあ俺は部屋で待ってるんで」

「・・・うん」

 

ダブルベッドとかじゃなかったから、膝枕イベントで終わりだろうと思ってたけど、これはこれでよかった。

気分転換に玄関に着くと新聞が投函されていた。

記事を見ると最強の魔法使いは何処へと言う題名で、めぐみんに該当するであろうデストロイヤーなんかを討伐したのは誰だ!?って言う人物探しが行われている記事と、奇跡の蘇生魔法使い現る!?と言う見出しでこれまたアクアを指しているのだろうけれども、中身の人物像が誰だよって内容のモノ。あとは何故か王家の懐刀のダスティネス家ご令嬢のララティーナに想い人は仲間の少年って言う間接的に俺名指しの記事があった。情報提供者はバルターとか言うダクネスに気がある人だろう。

・・・って待て。俺の記事ねえじゃん。

昨日の取材がまだ記事になってないにしても、もっと何かあってもいいだろう。

そう思って隅々まで確認すると存在するには存在していた。

でもそれが何かは伏せておくことにする。

 

「どうしたの?新聞に何か書いてあったの?」

 

着替えが終わり、いつもの服でクリスがやってきた。

 

「ダクネスの好きな人は俺だって書いてある」

「ちょっ、ちょっと待って!そんなことがどうして記事になるのさ!」

 

クリスの驚きももちろんなんだけど、この記事は多分バルターに対しての取材中に、好きな人は誰かみたいな話をオフレコでって言ったのに、匿名ならいいだろうみたいなノリで書かれたやつだと思う。

書かれてる内容は結構、詳しく書かれているし、完璧なガセ情報とは言えない。

 

「ほらここ」

「・・・な、なんだ。匿名の投稿記事か。ここに書かれてることは誰も信用してないよ」

「そういうものか?」

 

どこの世界でもタブロイド紙みたいなのはあるんだなあ。

ここのは普通に王都の新聞の一部だけども。

 

「まあ、この記事がアクセルで読まれればそうはいかないと思うけど」

「多分ダクネスが数ヶ月ギルドに行けなくなるな」

「そうだね」

 

そんなことを話ながら支度を整えて、本日の任務へと向かうのであった。

 

 

 

「すみません。ここ通して貰えませんか?」

 

立ち入り禁止の看板の前に立つ、警備をしてる冒険者に尋ねてみる。

入れて貰えないだろうってのは分かってるけど、ものは試しだ。

これで金銭要求してきて買収できるなら早いけど、なんと言うか生真面目なやつってのはここ数日の張り込みで見てての感想だから汚職はしないだろうなあ。

しかもこの人、寄りにもよって俺が英雄として担がれてた時にいなかったから、英雄パワー使えないし残念だ。

因みに今はクリスは現在、エリスとしてここにいる。深くローブを被り、周りからは見えないようにしていて、何でも認識阻害の術式が埋め込まれているらしい。

何処かの主人公が死に戻りしてる物語の銀髪のメインヒロインが付けてそうだって?

ウチだってメインヒロインの銀髪美少女が来てるんだから問題無いはずだ。

 

「ここに書いてある文字が読めないのか?関係者以外は立ち入り禁止だ。司祭様からそう命じられている」

「この人エリス教の中でも司祭さんなんて目じゃない程のトップの人なんだけどもダメ?」

 

エリス教の司祭が入れるなら、エリスが入れない道理はない。

俺は何も間違ったことは言ってないのに、冒険者の男からの視線は明らかに冷ややかなものだった。

 

「馬鹿な事を言うな。最高司祭様も私は見たことがある。冷やかしなら帰れ」

「だから、言ってるだろ?司祭って役職よりも上位の存在だって」

「・・・キミ、医者に診てもらった方がいいぞ」

 

ほう。暗に俺の頭がおかしいと仰る。

それなら俺の対応は決まっている。

ここは紅魔族に習うしかない。

 

「おい、表に出ろ!その喧嘩買おうじゃないか!」

「ちょっ、ちょっと!めぐみんみたいなことしなくていいから!す、すみません。えっと、でもこの人が言ってることは正しいので、通して貰えるとありがたいのですが」

 

俺に任せろと言っていたからさっきまで黙っていたが、喧嘩に突入したのは流石に不味かったか。

俺としては戦いを通して友情を的なの想定してたのに。

 

「なんなんだよあんたら。わかった。司祭様を呼んで来るからそこで待っていろ。司祭様が認めれば通ればいい。その時は謝罪する」

「いえ、この人の対応も悪かったので、その時はお互い様ということで」

「ああ」

 

何とか司祭と会える。

司祭に会えればこっちのもんだ。

ここから先は楽に調査できるだろう。

 

「キミ、本当に一回医者に診てもらった方がいいよ」

「何でそうなるんだよ」

 

クリスにまで言われるとは思ってなかったし、俺が何したって言うんだ。

 

「あんなにも露骨な言い方するとは思ってなかったし、普通に司祭様に合わせてくださいとかでも良かったでしょ!挙句の果てに喧嘩始めようとするし。バカなの?」

「それだと門前払いされるかもしれないから、舐められないように上からだな。開き直ると俺のパーティーにバカじゃないやつはいない。俺が一番常識的だけども」

 

俺だって酔い潰れて迷惑かけたりはしてるから、そこについては認める。

とは言え全般的に俺は常識人だからな。

アイツらと一緒にされても困る。

 

「はぁ、それだと考え方がダストと変わらないよ。その開き直り方凄く厄介だよ」

「・・・それはなんか嫌だな。まあ、とにかく司祭に会えるならこれでいいだろ?」

「まあ、そうなんだけど」

 

と話が良い感じ?に終わった所で警備の冒険者と司祭らしき人物が出てきた。

 

「この二人です。司祭様」

「初めまして。この街の司祭きゃらめりです」

 

キャラメルみたいな名前の人が出てきた。

黒い髪に紅眼の女性。

セシリーみたいな金髪のシスターを想像してたからびっくりだ。

 

「紅魔族の方なんですね」

「ええ、元はアークウィザードでしたが、信仰に目覚め、アークプリーストとなりました」

 

信仰に目覚めたらこんなにもまともな自己紹介と、話し方ができるのか。

この人の爪の垢を煎じてアイツらに飲ませたい。

 

「なるほど」

「御二方はこの先に通して欲しいのですね」

「ええ」

 

これは通して貰える流れなのだろうか。

それとも引っ張るだけ引っ張って、お帰りくださいと言われるパターンなのだろうか。

 

「そしてそちらのローブの方がエリス教の中で私や最高司祭殿よりも上の立場の方であると」

「はい。最悪俺を信用出来なくても一人だけで何とか頼みます」

 

俺が入る必要はない。

クリスの正体が分かっているなら、司祭が何か事を起こすなんてしないだろう。

 

「この者の非礼をお詫びします。ここでは話せないでしょう。中へどうぞ。安心してください奥には誰もいません。貴方はここでの警備を続行しなさい」

 

冒険者はこちらに頭を下げてから、任務に戻った。

本当に真面目だな。

一応俺も頭を下げて置いた。

後ろから圧を受けてだけれども。

司祭に連れられて、入った部屋は如何にも祭壇なのだが、なんと言うか邪教の祭壇を思わせる造りになっていた。

 

「どうですか?この祭壇は。カッコよくて趣がありますよね?」

 

ああ、この人も根は紅魔族なのか。

そうだよな。

信仰心だけで、紅魔族の中二病が無くなるわけないよな。

 

「仲間の紅魔族に見せたいくらいです」

「お仲間に同胞がいるのですか?」

 

同胞って言い方も紅魔族らしい。

普通なら同郷とかだろうし。

 

「めぐみんってのがいます」

「ゆいゆいの娘ですか。あの子も冒険者をする年になったのですね」

「ゆいゆいさんの知り合いでしたか」

「魔法学院の同級生でしたからね」

 

世間は狭いとはこのことだろう。

確かに歳はゆいゆいさんくらいの年齢に見える。

 

「アイツの小さい頃ってどんなでした?」

「可愛い赤ちゃんでしたよ。めぐみんちゃんがおしゃぶりを取れた辺りで私は里を出たので、そのあとは分からないですけど」

「めぐみんがおしゃぶり・・・」

 

めぐみんにおしゃぶり咥えさせたら、何か犯罪臭が凄いことになりそう。

それ以前に咥えさせようものなら爆裂魔法の餌食にされかねないけども。

 

「はい。変な想像しない。えっと、どうして通して貰えたのでしょう?」

「御二方の目的はこの神器であっていますね?」

「ええ」

 

話が速すぎて、逆に怖くなってきた。

さっきのゆいゆいさんとかバブみんとかの話で警戒が緩んでしまってるけど、ちょっと警戒しないといけないかもしれない。

 

「そして、そちらのローブの方がエリス様の遣わせた巫女なのでしょう?微かながら神のオーラを感じます」

「ぶっちゃけると巫女じゃなくてエリス様です」

「なるほどエリス様ご本人でしたか。えっ?ご本人?えええええええ!?」

 

いやはや、面白い反応が帰ってくるとは思ってたけど、驚きのあまり転けそうになるレベルとは。

ダクネスが真実を知ったらどんな反応するんだろう。

凄く気になってきた。

 

「何ぶっちゃけてくれてるの!今のはもう巫女ということで話進めればよかったでしょう!」

「だって、紅魔族の人だったら、神と直接話した者とかって名乗りたいだろうなあって」

「貴方、中々わかってますね!紅魔族になれますよ」

 

めぐみんに名前褒められる時もいつも思うけど、紅魔族的なセンス褒められても何も嬉しくない。

 

「お断りします」

「・・・あの、本当にエリス様なのですか?」

「はぁ、はい。私がエリスです。貴方はこの街の男性を守って欲しいといつも祈っていますよね。この人がオークの大半を討伐し、願いは叶いましたよ」

 

・・・え?

俺が死にものぐるいで逃げて倒したの、この人の祈祷のおかげになっちゃうの?

なんならエリスの手柄になっちゃうの?

 

「この方が英雄カズマ殿ですか。エリス様、この方を遣わせてくださりありがとうございます。まさかエリス様のご尊顔を拝する日が来ようとは・・・」

 

きゃらめりさんの反応を見てると、いつものアクアに対する扱いを改めた方がいいのでは無いかと言う気にさせる。

でもアイツのやってる事を考えたら、現状でも充分だな。

借金作ってくるやつにお小遣いやってるわけだし。

 

「いえ、オークの討伐は偶然カズマさんがオークに襲われ必死で戦った結果です。私は何もしていませんよ」

 

一瞬でもエリスを疑った俺が馬鹿だった。

アクア曰く、エリスが盛ってるのは胸だけだからな。

うん。

誰よりも謙虚な人だと忘れていた。

 

「カズマ殿。この街を代表して御礼申し上げます。神器以外に何か欲しい物があれば仰ってください」

「えっと、魔法の威力が向上する魔道具だったり、防御力が上がる装備品だったりがあれば欲しいです」

「申し訳ございません。そのようなものは有しておりません」

 

そう上手くはお土産を調達出来ないか。

自分で選んだ物の方がいいか。

 

「ならゆいゆいさんとひょいざぶろーさんの馴れ初め聞かせて欲しいです」

「それならいくらでも話しますよ。あの二人さっさとくっつけば良いのにと思いながらずっと見てたので、でもくっつく時は一瞬で驚きが大きかったですよ」

 

なるほど、ダストとリーンみたいなもどかしい関係って訳か。

話が気になる。

 

「えっと、私は神器を持って戻らないといけないので、話はその間にお願いします」

「「はい」」

 

話によると両方想いの状態が長かったらしい。

話を聞くと流石めぐみんのお母さんと言いたくなるアプローチをしていたようだ。

そして二人が付き合うようになったのは、ある日突然で、何があったのかは分からないと言われた。

絶対あの人なら押し倒してるとか考えながら、ひょいざぶろーさんから告白したのかもしれないとも思い、結局の所どっちなのか分からずじまいだった。

でもまあ、めぐみんが意図的アレをやってるのではないと分かった気がする。

やっぱりアイツは魔性のめぐみんだな。

めぐみんの両親の話を聞いたら今度はダクネスの両親の話を聞きたいな。

イグニスさんに今度会ったら聞いてみよう。

 

「お待たせしました。まだ話の途中ですか?」

「今終わった所で、俺とエリス様が付き合ってるって話してました」

「ち、違いますよ!なんて嘘ついてるんですか!」

 

顔真っ赤にして抗議してくるこの表情がまた可愛いんだよなあ。

 

「安心してください。そのような話はしていません。一つ気になっていたのですが、御二方はどのような関係なのでしょう」

「簡単に説明すると俺が何度も死んで、無理矢理何度も蘇生させて貰ってるので、そのお返しに神器回収をしてるって感じで、恩返しみたいなものかなあと」

 

ほぼほぼデタラメな設定だけど、嘘は言ってないから、これでいいだろう。

もっと踏み込んだ話をすると巷で有名な義賊は俺たちだって話もあるけど、流石にそこまでは言えないよな。

 

「・・・ということです。納得して貰えましたか?」

「ええ、御二方の神器回収の手助けが出来るのであれば今後も助力を尽くしますので、この街で活動する際はお声かけください」

「ありがとうございます」

 

ダクネス以外の協力者が出来てよかった。

しかも共通の知人がいて、話しやすい関係だ。

この人がこの街の神器回収してくれたら俺が呼び出される回数も減るだろうし、最高だな。

 

「そう言えばどうして神器を祀ってたんですか?神のお告げで、神器を見つけたら安置するようにとか言われてたんですか?」

「いえ、ただ単に、祭壇に神器があったら厳かでカッコイイだろうなあと思いまして、見つけた時に持ってきました。ここの祭壇もその時に教会とは別の場所の方が良いと思って造ったものですから」

「・・・紅魔族ってそういうの多いですよね」

 

基本的には普通の人って感じだから忘れがちだけど、この人紅魔族だったの忘れてた。

さも当然と言った感じで話をしているきゃらめりさんに俺もエリスも軽く引いている。

 

「と仰りますと?」

「観光地化するために封印された神を拉致して再封印するとかそう言うやつです」

「その方がカッコイイじゃないですか」

「・・・やっぱり紅魔族なんですね」

 

紅魔族ってやっぱりよく分からない。

こんな連中のいる中で常識人だったゆんゆんの苦労がひしひしと伝わってくる。

そりゃあ、紅魔族のノリについてけないよな。

 

「ええ、エリス様の御前でなければ、紅魔の名乗りをしていましたよ。初めは巫女様と思っていましたが」

「見せてもらってもいいですか?」

「私も見てみたいです」

 

紅魔族の名乗りは見る分には、楽しい。

やる側はあまりやりたくないけど、今みたいに関係者しかいない状況なら問題はない。

 

「では、失礼します。我が名はきゃらめり!紅魔族随一のエリス教徒にして、神と対話し、この街の安寧を望む者!」

 

やっぱり紅魔族の名乗りは迫力があっていいな。

名乗られたら名乗り返すのが礼儀だろう。

そして、ここで俺が名乗ればエリスも名乗らざるを得なくなる。

エリスの名乗りを見たいその一心で俺はノリノリで名乗りをあげるのであった。

 

「じゃあ、俺も失礼して、我が名はカズマ!、最弱職の冒険者にして、神と共に神器を回収する者!」

「・・・えっと、ここ私も名乗りをあげる所なんですか?」

 

俺ときゃらめりはコクリと頷き、名乗りを待つ。

エリスの紅魔族風名乗りを見られるなんて滅多にない機会だ。

 

「え、えっと、コホン。我が名はエリス!幸運の女神にして、世界の平和を望む者!」

 

照れながらのポージング超可愛いです。

ビデオカメラがあれば撮って起きたかった。

 

「エリス様。ありがとうございます。この御恩一生をかけて返させていただきます」

「そこまですることはないですよ。でもそうですね。また神器を見つけた際は祈祷の時に話してもらえれば助かります。あと、今日のことは内緒ですよ?」

 

エリスの内緒ですよは小悪魔感があって、いつ見ても可愛い。

この仕草はチート級だと思う。

 

「はい!承りました!」

「では私達は帰りましょうか。カズマさん」

「はい。きゃらめりさん今日は楽しかったです。また今度めぐみん連れてきますね」

 

めぐみんには一人旅してる時に世話になった人とか適当なこと言って、紹介しよう。

 

「是非来てください。最大級のおもてなしをしますよ」

「その時に式挙げたらいいんじゃ・・・」

 

何か変なことを言い出したエリス。

小声で聞こえてなかったのか、きゃらめりさんが不思議がっている。

 

「エリス様?何か仰いましたか?」

「独り言です。きゃらめりさん、この街の信者達のこと頼みますね」

「もちろんです」

 

と、このようにして、俺たちの任務は呆気なく終了した。

めぐみんと式挙げろとか言われたこと以外は特に問題なく話は終わった。

こんなことならクエストとかやる必要は特になかった気がする。

でもまあ、ゆいゆいさん達の話聞けたのは楽しかった。

そして、何より別れ際にきゃらめりさんと二人でサムズアップしてる一番の盛り上がり所であるエリスの紅魔族の名乗りを見られた事が最高だった。

脳内で永久保存しなければ。

 

「よう。以後不審者は来てないか?」

「はい。先程は御無礼を」

「良いってことよ。それより隣町までの便っていつから出てるんだ?」

 

律儀なやつだなあ。

こういう奴が周りにもっと居れば楽なのになあ。

 

「今日の五時には出るはずだ」

「情報助かる」

「これを持って行け」

 

巾着袋を渡された。

中味は見ずともお金だと分かる。

何故金を渡されたのかが分からない。

 

「何だこれ?」

「キミ街で有名な英雄カズマだったんだな。あの後、ギルド連中に絞められてね。オーク討伐ありがとう。感謝の印だ。路銀はいくらあっても困らないだろう?」

 

なるほど。

オーク討伐と、謝罪の二つか。

それなら納得だ。

 

「ありがとう。またこの街に来たら一緒に飲もうぜ」

「ああ」

 

現地に良き友も作れたことだし、今回は順調に進んでるなあ。

 

「・・・ねえ。出会い頭に険悪な関係でも打ち解けられる程にオークってヤバい存在なの?」

「アレは経験しないと分からない。アクアにバブみを覚えるくらいにはヤバい」

 

皆が美人だったから、ずっと見惚れてしまうなんて言うことにも繋がったし、アレはマジでヤバい。

 

「バブみって何?まあいいや。とりあえず車の席を取りに行こうか」

「へいへい。時間まではホテルでゆっくりしよう」

「荷物取りに行かないといけないしね」

 

俺達は馬車の切符を買うとホテルに戻り、チェスもどきのボードゲームをして時間を潰した。

俺がめぐみんのいつも使う戦法で勝ちまくっていると、クリスがキレ出したので、そこでゲームは終わり、時間的にも丁度だったので、馬車乗り場に向かうのであった。




本日の夜にもう一話あげますので、先週分はご容赦ください。
言い訳しますと日本酒とボジョレーヌーボーと酎ハイ、その他諸々を友人宅で呑み、ちゃんぽん酔いして、創作所じゃなく、その後も課題や、友人との映画鑑賞、教習、仕事と、忙しかったのです。そして、何より、九時や八時に眠たくなって仮眠のつもりがぐっすりということが多かった1週間でした。
もうそろそろでTwitterのフォロワーさんが600人突破しそうなので、ここの続きを近い内にあげられるかもしれません。


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出会い系馬車

ハッピーニューイヤホンズ!
と言うことで、一日遅いですが、あけましておめでとうございます。
新年をお祝いしての投稿です!
今年もよろしくお願いしますm(*_ _)m


-DEAIKEIBASYA-

 

クリスの言う最終目的地へと向かう馬車にて、出発時刻を待っていた。

四人乗りではあるものの、現状他の客がいないために貸切状態。

このままだといいなあと思っていたのだが、世の中そんなに甘くはなかった。

 

「失礼します」

「はーい。ってゆんゆん!?」

「え?クリスさん?カズマさんも!?お二人で何してるんですか?」

 

出来れば知り合いには会いたくなかったのだが、仕方ないか。

でもまあ、ゆんゆんで助かったな。

ここはちょっとびっくりさせてみるか。

 

「愛の逃避行ってやつかな。アイツらには内緒で駆け落ち中」

「えっ、ええええええ!?」

「ち、違うからね!」

 

うんうん。

急な事に驚き顔を赤くするゆんゆんに、恥ずかしがって必死に否定するこれまた顔を赤くしたクリス。

いい眺めだ。

 

「ってのは嘘で盗賊系のクエストを二人で受けてる所だ」

「そ、そうですよね。カズマさんはめぐみんですもんね」

「俺がめぐみんって何のことだ?」

「えっと、こっちの話です。すみません」

「クリスも分かった風に頷いてるけどなんの事だよ」

 

二人だけわかってるみたいな感じでイラッとする。

どうせ、俺はめぐみんの保護者だとかそういう話だろう。

 

「分からなくても問題ないよ。その内分かるだろうし」

「・・・あっ、そうだゆんゆん。これ、あげる」

 

その内っていつだ?

そんなことよりも大事な話を思い出した。

 

「えっと、これは?」

「もし、身に危険を感じたらこの魔道具で俺を呼んでくれ。可能な限り早く助けに行くから」

 

支度する時に魔道具店で見つけた警報装置をゆんゆんに渡す。

これは使用者が鳴らすと、対になる装置を持っている人に警告音と共に居場所を通知してくれる優れもの。

 

「ど、どうしてこんな物を私に?」

「ゆんゆんは俺の命の恩人だから」

「命の恩人ですか?」

「昨日、オークに襲われて、紅魔の里近くで味わったトラウマを思い出してるんだよ」

 

あの時のことは絶対に忘れない。

ゆんゆんをパーティーメンバーになんて考えたりもしたけど、めぐみんがいるからな。

 

「あっ、あの時の」

「俺決めたんだ。ゆんゆんのことは何があっても守るって」

「あ、ありがとうございます」

 

ソロは危険が多いからな。

少しでも安心材料と言うか支えになるのが恩返しになると思う。

 

「ここだけ聞くとプロポーズが成功したみたいに見えるんだけど」

「え、えっと」

 

クリスのせいでゆんゆんがパニック状態になってパンクしてる。

こうなったゆんゆんは変な事言い出すから危ない。

ここは俺が早く話題を変えないと!

 

「一応言っとくけど、俺が好きなのは」

 

って何言ってんだ俺は!

まずい。

ゆんゆんが俺への興味で元に戻ってるけど、今度は俺がヤバい。

 

「好きなのは?」

 

くっ、こうなったら言うしかない。

俺が愛するアイツの名前を言ってやろう。

 

「俺が好きなのは、俺の嫁は俺の布団だ!」

「・・・布団?」

「カズマさんって、お布団と会話出来るんですね!」

「ゆんゆん、そういう意味じゃないから」

「え?」

 

めぐみんがゆんゆんは無機物とも友達になれる本を読んでたと言う話を聞いてたけど事実だったとは……

めぐみん、疑って悪かった。

 

「ともかく、俺が好きなのはめぐみんだからさっきのはプロポーズじゃない」

 

・・・あれ?

なんか俺、今おかしなこと言ったような気がする。

でも二人とも頷いてるしな。

多分間違ったこと言ってないと思う。

 

「最初からそう言えば良かったのに」

「やっぱりカズマさんもそうなんですね」

「お、おう。なんかゆんゆんは勘違いしてると思うけど、取り敢えずそういうことだ」

 

ゆんゆんは俺が布団と会話できると思ってる気がする。

「も」って表現が表してる。

 

「あ、あの、いつから好きなんですか?」

「いつから?まあ、気付いたら片時も離れたくない存在になってた」

 

不登校始めるよりも前から布団とはあまり離れたくなかったしなあ。

学校行かなくなってからはほぼ一緒に過ごしてたし。

 

「クリスさん聞きましたか!」

「うん。まさかカズマくんがこんなにもめぐみんのこと思ってるなんて思わなかったよ」

「ちょっ、ちょっと待て。なんでめぐみんの名前が出てくんだよ。今布団の話だろ?」

「・・・俺はめぐみんが好きだからってさっき言ってたよね?」

 

変な感じはそういうことだったのか!

 

「いや、違うからな。ちょっとめぐみんのこと考えてたから置き換わっただけだって」

 

ゆんゆんの話でめぐみんが話してたの思い出してからだ。

無意識に本音がポロリではない。

 

「さっきめぐみんのこと思い浮かべるようなことあったかな?」

「なかったと思いますよ。それでもめぐみんのこと考えてたってことはやっぱり!」

 

ゆんゆんが凄く目をキラキラさせてる。

この子は俺とめぐみんの関係何処まで知ってるんだろうか?

多分、めぐみんサイドの話は嫌ほど聞かされてるだろうからな。

 

「だから違うって、確かにアイツのこと好きかもしれないなあって思ったりはしてるけど、そういうのじゃないって」

「かもしれないって何さ」

「だって今クリスに求婚されたら二つ返事で了承するからな」

 

なんの迷いもなく、手を取ると思う。

だってクリスは常識人だし、俺のこと甘やかしてくれるし、エリスさまだし、メインヒロインだからな!

 

「そんなこと起こらないけど、分かったよ」

「気になってたんですけど、カズマさんとクリスさんはいつからの仲なんですか?」

「えっと、カズマくんにパンツ盗られた時からかな」

 

数少ない常識枠のゆんゆんになんて事言ってくれてんだろうか。

これは責任取って貰わないといけないと思う。

 

「・・・カズマさん、最低」

 

ゆんゆんからの冷めた目は何よりも俺の心を抉ってくる。

 

「ち違う!あれは事故だから!その後めぐみんのもとれたけどアレは俺の意思じゃない!てかクリスこそ、俺にパンツ盗られたリベンジとか言って俺のパンツ盗りにきてただろうが」

 

よし、ゆんゆんの冷たい目が俺からクリスに移った。

クリスも怯んでるみたいだ。

やっぱりゆんゆんの冷たい目は攻撃力が高い。

 

「クリスさんって男の人のパンツが好きなんですか?」

「ち、違うから!アレはカズマくんのだから意味があったていうか」

「あっ!好きな人の下着が欲しいってことですか!」

 

何故そっち方面に話が行くのだろう。

そう言えばめぐみんがゆんゆんはむっつりだと言ってたっけ。

 

「それも違うよ!単に目には目を歯には歯をって感じで…」

「そうかそうか。俺のパンツくらいいくらでもやるぞクリス?」

「カズマくん。これ以上言うとバチ当てるよ?」

 

どうせアクアみたいなしょうもないやつだろう。

トイレに行きたい時に誰か入ってる的な。

 

「バチって言うと?」

「めぐみんかダクネスといい感じになった瞬間に邪魔が入る」

「・・・それいつものことなんだが?てか、邪魔がなかったら俺はとっくにめぐみんと紅魔の里で大人の階段登ってんだよ!逆にアレ何とかしてくれよ!」

 

あの日シルビアが現れさえしなければ、俺は今頃めぐみんと・・・

 

「こんなこと言ってるのにめぐみんのこと好きだって認めないなんて、やっぱりカズマくんはアクアさんの言う通りツンデレだね」

「ツンデレ、そう言えばめぐみんがカズマさんはツンデレでヘタレだって言ってました」

 

二人揃って言いたい放題言ってくれるな。

いや、二人っていうかアクアとめぐみんのせいなんだけども。

 

「よし、帰ったら真っ先にアクアとめぐみんを絞める。これで俺がアイツのこと好きだと思ってないのも証明できるだろ」

「とかいいつつめぐみんとひっつきたいんでしょう?」

 

ニヤニヤしてるクリスがウザイ。

頬っぺた引っ張ってやろうか。

 

「はぁ、もういい。分かった俺はめぐみんが好きだ。好き過ぎて一秒でも早く会いたいから帰る」

 

意図を理解してないゆんゆんが凄く眼を紅くして惚けてる。

対象的にクリスは慌てて取り繕うと慌てている。

 

「お、落ち着こう。帰るのは良くないよ」

「いいや、片時も離れたくない存在だからな」

「わ、分かった。さっきのは謝るから、帰るのだけは勘弁して!」

「しょうがねえなあ」

 

帰るとか言いつつも、ここから変える方法分からないからそもそも無理だけどな。

これ以上めぐみん関係で弄られるのは止めたい。

 

「カズマさん!」

「ゆんゆん?どうした?」

「私、カズマさんとめぐみんのこと応援してます!」

「お、おう」

 

純粋な目で言われたら否定出来なかった。

それに何処か心地よかった。

応援してるとか言われたの初めてだからだろうな。

俺のこれまでの努力はもっと褒められていいと思う。

アクアじゃないけど、もっと俺を褒めて褒めて甘やかして欲しい。

 

「一応言っとくが俺はツンデレじゃないからな。仮に俺がツンデレだったらクリスにぷろ『あああああ!!』」

「クリスさん!?」

「ごめん。今、すっごく大きいドラゴンが見えたと思ったらでかい鳥の影だったよ」

 

プロポーズしてないと言おうと思ったけど、無理だった。

プロポーズした俺が隠すのならわかるけど、どうしてされた側のクリスが騒ぐんだ?

 

「ドラゴンじゃなくて良かったです」

「そう言えば、ゆんゆんはこんな所で何してんだ?」

「私は修行です。めぐみんを超えられるように!」

「いつもはアクセルだよな?」

「昨日バニルさんから、この紙に書かれた指示通り、行動すればめぐみんを超えられるって聞いたんですよ!」

「・・・それ見てもいいか?」

「どうぞ」

「えっと、馬車に乗り目的地へ。馬車の中であった男性と共に行動しろ?」

「カズマさんのことですよね?」

「でも、俺次の街ではクリスと活動しなきゃなんだが」

「大丈夫だよ。ゆんゆんも一緒に街回ろう」

 

潜入とかどうするのだろうと思っていたが、この後ゆんゆんが眠ってから聞いた話によると、次の街は現地協力者がいるらしく、潜入とかはないようだ。

故にゆんゆんがいても問題ないよとの事だ。

そんな話を聞いて楽観視していた俺は後悔することとなる。

 

 

 

最終目的まではまだ数日かかるらしく、また、中間地点の街で宿泊することになった。ここでも活動はするらしいけど、楽に終わる算段が着いてるらしい。

ゆんゆんはバニルが宿を用意してくれてるらしい。

そして、俺たちはと言うと全然宿が見つからない。

もはやゆんゆんがバニルで俺らを嘲笑ってるようにも思えて仕方ない。

 

「俺たちの幸運値って何だよ!」

「あたしが聞きたいよ!行く街行く街で宿屋が空いてないなんて滅多にないのに」

「こうなったらラブホしかねえ」

 

ゆんゆんがこの街にいるから、あまり使いたくない手だが、この際仕方ない。

それに一回泊まったことがあるしそこまで気にしなくてもいいかもしれない。

 

「残念だけどこの街にはないよ」

「・・・じゃあどうすんだよ!」

 

なんで今回の旅は泊まる所に苦労するんだ・・・

いつもなら簡単に宿取れるのに。

まさか、移動中に厄介事に巻き込まれない反動なのか?

 

「野宿しかないかなあ。この辺はアクセルと変わらない周辺環境だから安全だよ」

「野宿かあ。それしかないか・・・」

 

初めの街では野宿って言い出したの俺だったけど、今日まで宿泊してたらから出来ればしたくない。

とはいえこうなっては仕方ない。

 

「夜は決まったから夕飯にしよう」

「中央広場の近くに美味しい店あるのか?」

「ないよ?」

「・・・じゃあどうしてゆんゆんとの集合場所そこにしたんだ?」

 

中央広場が下車地点だったから確認したけど、あの辺は食べ歩き用のお店しか無かった。

レストランが見え始めたのは商店街に入ってからだ。

わざわざ遠い中央広場にする理由が見つからない。

 

「明日、馬車に乗る前の集合場所でしょう?」

「ゆんゆんがクリスさんのオススメの店楽しみだなあって言ってたぞ」

「えっと、それはもう店名伝えてあるよ?」

「いつの間に?」

 

俺はずっと起きてからな。

寝てる間に話が決まったとかそう言うパターンじゃないのは確かだ。

 

「カズマくんが宿屋の場所聞いてる時にね」

「ああ、あの時か」

「と言うことで夕飯行くよ!」

 

楽しそうだなあ。

つまりこの街にはいいご飯があるってことだよな。

 

「で今日は何食べるんだ?」

「それは着いてからのお楽しみってことで」

「へいへい」

 

毎度このパターンだな。

まあ、何が出るのか考えるのも楽しいんだけど。

偶には何が食べられるのか知ってから入りたい。

 

「カズマさん!クリスさん!」

「おっ、ゆんゆん丁度いい所に、今日の夕飯何か知ってるか?」

「今日はパスタの美味しいレストランってクリスさんから聞きました」

「そうか。今日はパスタか」

 

ゆんゆんには話してると思ったが、当たりだったな。

パスタか。

ボロネーゼかカルボナーラかその他にも色々食べたいのはある。

 

「あ!カズマくんそれズルい!」

「えっと、何か私不味いことしました?」

「いいや。何も。それより、凄く今更な質問なんだけどいいか?」

 

俺は今更ながらゆんゆんがここにいると言う事に違和感を覚えた。

それを確認しないとな。

 

「はい。なんですか?」

「めぐみんの監視頼んでたんだけどそれってどうなってるんだ?」

「バニルさんが、めぐみんは何もしないから頼まれてくれと」

 

バニルが言うなら確実なんだろうけど、一番謝りに行く先増やすのはめぐみんだと思ってたから意外だな。

俺の予想だと、喧嘩吹っかけて母数を増やすのがめぐみんで、アクアは借金作る系、ダクネスはモンスター商会からの苦情等々挙げてない事も含めて何か起こってると思ってた。

確率的にはダクネスだけが何もしないのが一番現実的と踏んでたけど、違ったみたいだ。

 

「ほう。それで他に何か言ってなかったか?」

「えっと、他には何も」

 

そう簡単に他の誰かがやらかさないかは分からないか・・・

 

「その、なんだ。一応アイツの言った通りの言葉で教えて欲しい」

「ええっと、確か、爆裂娘は小僧のことで悩み何も起こさぬから心配せず依頼を受けるが吉。何かあれば代わりにウィズさんが動く故心配するなと」

 

めぐみんが悩んでるってことは、やっぱり目的がバレてるのか。

これはちゃんと何か買って帰らないとな。

てかウィズにはアクアのことも頼んでるのに、重荷になってなきゃいいんだが。

・・・待てよ?

バニルの考えが読めた。

ウィズをアクアとめぐみんの監視に付けて、ガラクタ仕入れさせない為だな。

バニルも苦労してる。

だからあんなに協力的だったのか。

ああ、ガラクタ買って、誰がやらかすか聞いとけば良かった。

 

「そうか。なら大丈夫なんだろう。飯行くぞ!」

「ちょっと待って!お店通り過ぎてるよ!」

「・・・お、おう」

 

レストランに入ると老若男女問わず視線を集めた。

右にはクリス。左にはゆんゆん。両手に花だ。

やっぱり俺は運がいいのかもしれない、クリスもゆんゆんも常識枠だし、可愛いからな。

こう言う日があってこそ幸運値が高いと言える。

 

「凄く見られてますね」

「前来た時はそんなに見られなかったから余所者だとかじゃないと思うよ」

「多分この状況じゃないか?」

「と言うと?」

「自分で言うのも癪だが、俺パッとしないのに、美女二人と一緒ってのが目を引くんだろうよ」

「「・・・」」

 

二人とも照れて黙ってしまった。

あの三人ならここでドヤ顔してくるに違いない。

何なら待遇改善を要求するだろう。

 

「で、でもこんなにも見られるものですか?」

「そ、そうだよ。いくら何でも視線が多いって言うか」

「そう言われると確かに、ずっと見られてるのはおかしいと思う」

 

二人とも顔真っ赤にしてて可愛い。

俺、この旅に出てよかった。

 

「カズマくん」

 

クリスがそう名前を呼んだ瞬間に周囲の人が急に立ち上がって言った。

 

「英雄カズマ様だ!!」

「英雄がこんな所にいるなんて!」

「握手してください!」

 

と、夕食を食べる所じゃなくなった。

あとから聞いた話によるとオークを倒した話がこの街にまで伝わっていたらしい。

あの街出身の者が多い街だったから、この熱気らしい。

容姿は茶髪と銀髪のカップルって情報が出回っていたようで、ゆんゆんがいたから確証が持ってなかったと言う。

 

「カズマさん凄い人気ですね!英雄って呼ばれてましたし」

「この前の街でオークを大量に討伐したからな。死ぬ気で」

「もしかして、その時に戦って思い出したからこの魔道具を?」

 

流石紅魔族は違うな。

察しがいい。

 

「ああ、トラウマがフラッシュバックして、ゆんゆんを誰よりも尊敬するだけじゃ足りないって気付いた」

 

あの恩を返せてなかった。

もっと早くに気付くべきだったのに。

傷心仕切ってたのと色々とドキドキさせられてたので、あの時はそこまで考えが至らなかった。

 

「えっと、そんな、大したことは」

「ともかく何かあったら駆け付けるから遠慮なく使ってくれよ」

「わ、分かりました」

 

これで話は終わった。

ギャラリーのいない個室に移して貰えたから後は、ゆっくりパスタを楽しむだけだ、




次は今日投稿予定です。
間に合わなかったら寝正月したものだと思ってください・・・


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突然の休暇

今回をどのお祝い事にするかまだ決まってない程、皆さんに感謝することが多いです。本当にいつもありがとうございます!
今回が何かは後で前書きに追記します。
エイプリルフールに投稿したくて、放置して金曜日までゆっくり出来るなと思ってしまったのが遅くなりました笑
Twitterで午前中に呟いたカズマさんが魔王になる話はエイプリルフールの嘘なので投稿しません。


-TOTUZENNOKYUUKA-

 

個室での食事は今しがた終わった。

普段なら雑談をここでするのだが、今は沈黙が続いている。

静かな部屋に移ると話し始めが難しくなることがある。

それもお互い仲がいいけれど、あまり揃うことの無いメンツが集まるとよくある気まずい現象が、今、発生している。

 

「・・・」

「・・・」

「・・・」

 

入店した時の話の流れが途切れてしまったのが痛い。

何か共通の話題はないだろうか。

クリスとゆんゆんか。

一番話が出来るのはめぐみんの話だが、それを俺から始めると今日の流れ的にいじられるからなあ。

それに移動中に大半の話しちゃってるのも話題に困る要因だ。

 

「「「あの……」」」

 

話し掛けるタイミングまで被って余計に気まずくなった。

こういう時にアクアが居れば盛り上げてくれるのにな。

タラレバ言っても仕方ないか。

 

「えっと、今日の予定なんだけど、あたし一人で行きたい所あるからカズマくんはゆんゆんと二人でゆっくり観光しててもいいよ」

「初めてのホワイトな待遇にびっくりなんだけど」

「そんなことないって!ほら、膝枕とかしてあげたよね!」

 

言われてみれば今回は待遇のいい旅だったと気付かされた。

そして、この話が出たことで、会話がまた途絶える可能性が出てきた。

 

「・・・」

「何でそこで黙るのさ!」

「だって、ゆんゆんが、ほら」

 

顔を真っ赤にしてゆんゆんが惚けたまま動かなくなっている。

膝枕と聞いただけでこうなるのは大袈裟な気もするけど、ゆんゆんには少し早かったのかもしれない。

 

「えっと、ゆんゆん?これは違うんだよ?色々あって」

「多分、何も聞こえてないと思う。後は俺が話しとくから用事とやらに行ってこいよ」

「任せたよ」

 

さて、この後どうしたものか。

ゆんゆんと二人って商店街巡りした時以来だっけ?

いや、めぐみんが帰る間屋敷で二人で待ってたこともあるか。

 

「ゆんゆん、そろそろ店出ないと迷惑になるからこっちに戻ってきてくれ」

「・・・へ?あれ?クリスさんは?」

「クリスはさっき言ってた用事を済ませに行った」

「そ、そうですか」

 

とりあえず、店から出て、近くの公園のベンチに座り落ち着いてから誤解をとくことにした。

移動する間は近くに落ち着いて話せる場所はないかとかそう言ったことしか無かった。

 

「ゆんゆんに言っておくことがある」

「本当に愛の逃避行だったんですね!」

「全然違うから、めぐみんにまだ返事してない段階でそんなこと出来るかよ」

 

って俺は何を口走ってるんだろうか。

これじゃあめぐみんのこと好きと言ってるのとほぼ変わらない気がする。

 

「やっぱりカズマさんはめぐみんが本命なんですね。私はお二人のこと応援してます!」

 

応援か。

ゆいゆいさんの強引なのとは違う、クリスのもなんて言うか、付き合ったらそれを祝福するって言うスタンスだし、恋愛としてはダクネスの恋を応援してるってパターンだから、俺はついでだ。

直接俺を応援してくれるのはゆんゆんが初めてだ。

ここに来るまでも応援すると言ってくれたし、この際否定するのは止めよう。

 

「・・・一度聞いてみたかったんだけど、アイツは俺の事どんな風に話してるんだ?」

「それは直接めぐみんから聞いた方が絶対いいですよ!いつも私に話してること全部カズマさんに直接言えばいいのになあと思ってますから」

 

アイツは本当に何話してるんだろうか。

凄く気になる。

 

「ゆんゆんは、俺の事どう思ってるんだ?」

「まだなのは知ってますけど、めぐみんの彼氏のように思ってます」

「そ、そうか」

 

この認識からしてめぐみんはゆんゆん相手に恋愛自慢してるなこれ。

風呂に入ったこととか話してマウント取って勝負を強引に勝つあの手法。

 

「あっ!さっきの膝枕の件はちゃんとめぐみんに話した方がいいですよ。何か事情があるんですよね?」

「えっと、言わなきゃダメか?」

「私、未だにカズマさんの子供が欲しいって言ったことでグチグチ言われてますから、結構嫉妬深いのは間違いないですよ」

「えっ、あの時からなのか?」

 

あの頃は特に何も無かったと思う。

一緒に風呂入ったのが、俺にとってアイツを恋愛対象として見るようになったきっかけだけど、だからと言ってそれで好きになったかと言われれば否だ。

単なるロリっ娘枠から、守備範囲内のロリっ娘に格上げされただけだからな。

めぐみんからしてもあの時、俺を好きになるなんてないと言ってたし、どのタイミング何だろうか。

 

「あの時はよく分からなかったけど、凄くイライラしてたらしです」

「そうだったのか。俺、てっきり紅魔の里に着いてからだと思ってたからさ。驚いた」

「カズマさんはどうしてまだ返事してないんですか?」

 

おっと、痛い所をつかれた。

一応、好きとは言ってるんだけどな。

断言してないのが問題だけども。

 

「俺だって勇気出して言ったことあるぞ?全部タイミング悪く邪魔が入ったり聞こえてなかったりしただけで」

「私でよければ邪魔が入らないようにお手伝いしますよ?」

「気持ちは嬉しいんだけど、警報が鳴るとかのレベルだからな」

 

シルビアが来るとか、アクアが帰ってくるとか、ダクネスが変なスイッチ入って部屋に来るとか、ダクネスと進展しそうな時は、アクアかめぐみんが来るし。

俺の恋はどうなるんだろうか。

 

「・・・呪われてませんか?」

「俺もそう思ってるけど、アクアは何も無いって言うんだよな」

「アクアさんが否定するということは呪いではないのですね」

 

やっぱりみんなアクアのアークプリーストとしての力は信用してるのな。

死の宣告を祓ったのも、蘇生魔法使ったのも知ってるし、食堂で怪我したやつが居たらその時の気分でだが、回復魔法かけてるからな。

有名なのは当然か。

 

「単純に邪魔が入らない場所を求めるのなら方法はあるにはあるんだけどな」

「それなら実践すればいいだけなのでは?」

「めぐみんの実家でゆいゆいさん主導の同衾なんて、ムードもへったくれもないだろ?しかもそれでさえ邪魔が入ったことあるし」

 

閉じ込められて「ピーしないと出られない部屋」同然の状態で進展させるとかそんな気は起こらなかった。

いや、もちろんめぐみんが付き合ってくださいとか直接言ってきてたら即オーケイだったけど、それはまた別の話……

 

「・・・あの、今みたいに誰も知り合いのいない街にデートに誘うと言うのはどうでしょう?」

「俺とめぐみんだけで何処か行くとか怪し過ぎないか?」

「私がめぐみんを誘ったことにして、カズマさんは新商品開発のための素材集めに出たとすれば分からないと思います」

 

ゆんゆんって本当にいい子だよな。

俺とめぐみんがどうなろうと関係ないのに、デートの為の算段までしてくれるとは。

仲間に引き入れたいけど、めぐみんがうるさいと言うか絶対拗ねるからな。

 

「悪くないけど、多分、アクアがついてくって言うんだよなこういう時。でも爆裂散歩の延長でデートするのはありかなって考えてるから、その時は頼む」

「任せてください!」

 

トラウマの恩師として、友達として、ゆんゆんを大事にしていこう。

俺の恋路を応援してくれてることへのお返しも含めると出来る支援は惜しまないようにしよう。

・・・べ、別にめぐみんのこと好きだって、認めた訳じゃないからな!

 

「所でなんだが、デートって何するんだ?」

「えっと、デートスポット巡ったり、ショッピングしたり、露店巡りが定番だと本に書いてありました」

「そうか。なら今日は露店巡りするか」

 

予行演習とお返しを目的として、今日は全部俺の奢りでもてなししよう。

そして、いつも手玉に取られてるけど、ちゃんとリード出来るように今回でデートの流れを掴んで、あいつを照れさせてやろう。

 

「・・・え?」

「出会ってすぐの頃にも露店巡りしたよな」

「そう、ですね。あの時の冬将軍は今も大事に飾ってますよ」

 

俺としては恥ずかしい思い出だが、ゆんゆんとの良好な関係が築けたイベントでもあるな。

カッコつけて射的で狙撃禁止と気付かずにスキル使ってぬいぐるみ取ったら、怒られて倍料金払ったっけ。

 

「あれは恥ずかしい所見せたな」

「そんなことないです!あの時のカズマさんカッコよかったですよ!」

「そ、そうか?」

 

ゆんゆん的には嬉しかった方が勝ってるみたいだな。

良かった。

でもまあ、既に色々と俺の悪評は知られてるから、今更気にした所で遅いけども。

 

「めぐみんはいい仲間と出会えたんだなあってあの時凄く感動しました」

「ありがとう」

 

普段よいしょはされるけど、心のこもった褒め言葉ってあまり貰ってないから凄く嬉しい。

特に常識人のゆんゆんからって所が大きいと思う。

 

「あの、私なんかと一緒で大丈夫なんですか?」

「クリスが二人でゆっくりって言ってたろ?」

「帰ってからめぐみんが」

「友達同士の遊びにケチつける権利は誰にもねえって」

「ともだち、分かりました!」

 

・・・何か騙してるみたいで変に罪悪感がある。

嘘は言ってないし、本心なんだけども。

いざとなればクリスの指示でしたと言って切り抜けよう。

 

 

 

露天商が集まってる広場までやってきた。

予行演習だと意気込んでやってきた訳なのだが、いざ到着したら何したらいいのか分からずにブラブラ周辺を歩いてるだけだ。

 

「なあ、ゆんゆん。さっき言ってた本で露店で何するか書いてなかったのか?」

「食べ歩きとか、アクセサリーを買ってプレゼントするとかが書いてありました」

「食べ歩きはさっき食べたばかりだからちょっと後に回して、ショッピングするか」

 

食べて直ぐに食べ歩きとかスイーツ系でもキツい。

一つくらいなら別腹もあるから食べられるけど、それはそれこれはこれだ。

 

「はい!あの、カズマさんは何か欲しい物ありますか?」

「ないけどどうした?」

「この魔道具のお礼をと思いまして」

 

緊急通報の魔道具か。

あれ自体がお礼だからそれのお礼を返されたら俺何も恩返しできてないことになるじゃん。

 

「お礼も何も俺からのお礼の品なんだから要らないって、それよかゆんゆんの欲しい物ないか?一応デートの練習も俺としては兼ねてるからさ」

「えっと、でも」

「それに、普段めぐみんから自慢されてる分、自慢できる話作れるだろ?」

 

ゆんゆんが喜ぶと言うか、ゆんゆんのメリットになるのはめぐみんに対抗出来る話だよな。

しかも相手が俺だったら余計に悔しがるだろう。

 

「カズマさんからのプレゼントなんて言ったら睨みきかされて終わりですよ」

「名前伏せればいいんじゃないか?」

「最近ダストさんといること多いので、そっちだと思われるのだけは嫌ですから」

 

ギルドでゆんゆんがダストに惚れたとか、付き合ってるとか何とか噂が流れてるからな。

まあ、ダストはリーンだし、ゆんゆんもその事知ってるし、加えてこの反応は違うな。

ゆんゆんも変な噂立てられて可哀想だ。

 

「そりゃそうだ。そういや、ダストとはいつからの付き合いなんだ?アイツとより、リーンと一緒にいる方がいいと思うんだが」

「ダストさんが難破から救うマッチポンプを仕掛けてきたんですけど、そこにバニルさんが登場して、そこから二人が友人になりました」

 

アクセルで関わらない方がいいやつ筆頭の二人じゃねえか。

バニルは悪感情取ろうとしてこない間はそこまで悪くはないし、その筆頭に数えられてる俺が言うのもなんだけどな。

うちのパーティー全員って巫山戯てると抗議したいけど、めぐみんがそいつらに私刑下してるからもう何も言えないんだよな。

 

「よく分からないけど、分かった。リーンとはどうなんだ?」

「ダストさんに紹介してもらったんですけど断られちゃいました」

「まあ、ダストの紹介だと裏があるって思うから断るのも無理はないかな」

 

断られた時のゆんゆんはショックだったろうけど、俺だって断ってる。

まあ、一旦断ってからゆんゆんが一人の時に声掛けたりはするだろうけど。

 

「カズマさんもそう考えるんですね」

「ああ。それとリーンからしたらゆんゆんは憧れの存在だろうし、急に友達にって言われたら余計に怪しむって」

「私なんかが憧れの存在ですか?」

 

過小評価がゆんゆんの悪い所だよな。

上級魔法が使える現役の冒険者はアクセルでも指で数えられる程しかいないし、数多くの冒険者を俺含めて助けてるし。

 

「ゆんゆんは実感無いかもだけど、結構ギルドで人気あるぞ?」

「ほ、本当ですか?」

「新人冒険者がピンチの時に助けてるんだろ?この前ダストが新人冒険者達にゆんゆん先輩に近付くなって囲まれたらしいし」

 

ダストから愚痴で聞いた時は、俺も囲む側になるつもりだと言ったら怒られたけど、正直な話めぐみんも何とかしないといけないって俺に相談しに来るレベルだからな。

 

「・・・それ、大丈夫だったんですか?」

「アレでも中堅以上の実力はある方だからな。何とか追い返したってさ」

「いえ、新人冒険者の方達です」

 

ダストの心配は必要ないと分かっていたのか、そもそも心配してないのか。

新人冒険者援護のクエストを受けてるゆんゆんからしたら新人たちの方が心配なのは当然か。

 

「何とか追い返したって言ってたけど、幅広い人脈利用して逃げ切っただけだから大丈夫だ」

「それなら良かったです。その幅広い人脈ってどんな方面なんですか」

 

ゆんゆんの表情が曇ってる所からして、裏の繋がりとか気にしてそうだけど、そこは安心して欲しい。

とても健全な組織への人脈だから。

 

「善良なる市民の味方お巡りさん」

「・・・どうして警察がダストさんを守るんですか?」

「ダストが非番の警官に荒くれ集団に襲われると言って盾にして逃げたらしい」

 

いくら取り締まってる相手だったとは言え、見知った相手が助けてくれと言えば助けるのが人情ってもんだ。

警察じゃなくてもそうするだろう。

 

「助けを求められたら断れないのが警察官ですからね。特に見知った顔なら特に・・・」

「そう。新人冒険者達も警官に止められたら何も出来ないからな」

「普段自分を捕まえる人を味方にするなんて何か狡いですね」

 

狡いか。

やっぱり、俺の考える方法って狡猾なのか?

方法としては悪くないと思うんだけどな。

 

「まあ、その方法教えたの俺なんだけどな」

「あっ、いや別にカズマさんが狡いとかって意味じゃ」

「分かってる。それよりあそこの雑貨屋見てみないか?」

 

ここから俺とゆんゆんの露店巡りが本格的に始まるのであった。




次回の更新は未定です。
次は月曜日に投稿する予定です。
次からちゃんと月曜に週一に戻したいです。


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お土産を探して

遅くなり申し訳ございません。
書きたいストーリーと次に投稿するストーリーが一致しない事案が多発しまして……
今回はカズゆん回です。


ゆんゆんと模擬デートをすることとなり、今は雑貨屋にいる。

ウチのメンバーへの土産探しも兼ねての露店巡り。

露店と言ってるものの、今いるのは実店舗なんだけども。

 

「カズマさん!これみてください!」

「ちょむすけに似てるな」

「これ買うのはどうですか?」

 

めぐみん用に持って来いではあるけれども、何もやらかしてないと聞くともっといいものを買ってあげたいと思う所がある。

このぬいぐるみは一つ前の街でも売っていたし、アクセルでも売っていた気がする。

ゆんゆんがバニル情報を持ってきてくれたのが、逆に悩みの種になってしまうとはな。

 

「悪くはないけど、旅のお土産って感じがしないんだよな。確かアクセルでも売ってたからさ」

「カズマさんはどんなの想定してますか?」

「アイツらが喜びそうなのって考えてるけどピンと来るものがアクア以外なくてな」

 

明確に欲しい物が何かと問われて即答できるのはアクアだけだな。

めぐみんは多分修学旅行で男子が買いガチな中二病チックなドラゴンとかドクロのストラップとかだろうし、ダクネスは露骨じゃない可愛い物だろう。

とは言え、めぐみんとダクネスは喜ぶけど土産としては微妙な感じのものしか見つからなくて困ってる。

 

「アクアさんはどんなものですか?」

「お土産感が欲しいんだよなあ。地酒買ってけば喜ぶのは間違いない」

「確かにお土産っぽくて、アクアさんが喜びそうですね」

 

やはりアクアと言えば酒と認識されているらしい。

宴会芸見た時はおひねりではなく、酒を奢れって言われてるからなあ。

 

 

「先にアクアさんの酒買いに行くのはどうですか?」

「酒って重たいから後にしたいんだよな」

「あの、紅魔の里によるって話でしたよね?」

「えっと、そうだけど、それと酒が関係あるのか?」

 

話の繋がりが読めない。

ゆんゆんのことだから何か意味があるだろうとは思うけども。

それが分からない。

 

「この街から紅魔の里への輸送の定期便が明日なので、私の家に送れば問題解決だと思います。酒屋はどこも発送サービスも付けていますから」

「そうか。でもゆんゆんの家宛にすると迷惑じゃないか?」

「カズマさんには色々とお世話になってますからね!困っている友達には手を差し伸べるものですからね!」

 

友達の所を凄く強調してるし、興奮気味だからこれは断らない方がいいな。

ここで断ったりしたら落ち込まれてしまうこと間違いなし。

 

「助かるよ。族長にも一本買っておくか」

「いいですよ。この魔道具のお礼だと思ってください」

「でも、受け取るの親父さんだろ?それに届いたら場所食うだろうし。その、ゆんゆんの御家族へのお代だと思ってくれ」

「分かりました」

 

と話もまとまり、アクアとゆんゆん家へのお土産を買いに行くために酒屋へと向かった。

 

 

 

「いらっしゃい。冒険者カップルが来るのは珍しいね。どんなお酒が欲しいんだい?」

 

確かに、冒険者は酒屋ではなく、居酒屋とかギルドの食堂とかに行って飲むことしかしないのが一般的だろう。

アクセルの冒険者はそこそこお金に余裕があるから、結構いい酒を酒屋で買ってたりもする。

だがしかし、そんなことをするアクセルの冒険者は例のお店にもお世話になっているから、基本街を離れない。

つまり、アクセルの冒険者がよその街で酒を買う機会もまた同じくないのである。

 

「一番高い地酒を紅魔の里に送りたいんですけど、五本入り一箱と二本入り一箱を別々の梱包でお願いします」

「えっと、一番高いので大丈夫なのかい?」

「これで足ります?」

 

とりあえず五十万エリスをポンとテーブルに置いてみた。

 

「足りる所か多過ぎだよ。資金力を疑って悪かったね。カップル割引と、挨拶割引で十万飛んで八万エリス送料込しておくよ」

 

ゆんゆんはカップルだとか、挨拶だとか言われて固まって動かなくなってる。

アクアと熟年夫婦と言われたり、ダクネスと新婚さんと言われたり、めぐみんとバカップルと言われたりしてる俺には今更カップルと言われても動じるものはない。

 

「俺ら付き合ってないので、十万エリス払いますよ」

「そうなのかい?でもお似合いだと思うから割引価格で大丈夫、大丈夫」

「・・・じゃあ、お言葉に甘えて、これでお願いします」

 

お似合いか。

ゆんゆんが余計に話さなくなってしまった。

この旅はカップルに間違われる旅なのかもしれない。

俺としてはとても美味しい展開なんだけどな。

 

「おーい。ゆんゆん。宛先の所書いてくれ」

「は、はい」

 

宛名は二本入りを族長にして、五本入りをゆんゆん宛にすることで差別化しておいた。

同一人物から敢えて名前別の梱包で届いた物を両方開けたりはしないだろう。

 

「最短で明後日には着くだろうよ。そうだ。嬢ちゃん紅魔族だろう?」

「えっと、一応」

「実は二軒隣にある魔道具店に紅魔族にしか効力を発揮しない装備品があるらしいんだ。見に行くといい」

「情報ありがとうございます」

「おっちゃん。ありがとう」

 

 

 

言われたお店に入ると店内にはスタッフ含め見当たらなかった。

恐らくレジの奥にいるのだろう。

店を見て回っていると、厳重に閉められているショーケースの前でゆんゆんが足を止めた。

 

「カズマさん、多分、さっきの店主さんが言ってたのこれですね」

「やっぱり分かるもんなんだな」

「かなり高純度なマナタイトが使用されてますよ。ほら、値段も四百万エリスとこの店で一番高いですから」

 

指輪型のよくあるエンハンス魔道具。

紅魔族限定で高価とはいえ、こんな代物がまだ売れてないのは不思議だ。

 

「すみません。こちらの魔道具は鑑賞料をお一人様あたり、千エリス取ってますのでお支払いの方を」

「いや、これ買おうかと思ってきたんですよ。ほら」

「これはこれは!すみません。紅魔族の彼女さんに気付かずに失礼しました」

 

これ俺だけだったら鑑賞料取られてたかもしれないのか。

いや、ゆんゆんがいなければそもそもこの店に辿り着いてない。

ゆんゆんをバニルが寄越した理由が何となく分かってきた気がする。

街に戻ったら要求がありそう・・・

 

「所でこの魔道具はどんなものですか?」

「これを着用していると爆発魔法や炸裂魔法、ネタ魔法限定ですが、威力が向上すると言うマジックアイテムです」

「ネタ魔法?」

 

もちろんネタ魔法が何を意味するか分かってるけど、一応聞いておいた。

 

「ええ、爆裂魔法の別名ですよ。あんな馬鹿げた魔法を覚えるのはリッチーとかのやることなくなった者か、酔った勢いでスキル習得しちゃったとかじゃないといないでしょ。他に居たとしたら相当な馬鹿ですよ」

「・・・これ買います」

「え?本当ですか?」

 

初めに買いに来たって言ったけどなあ。

まあ、効果聞いてなお買おうと言う人はいなかったってことかな。

正直な話ここの店主へのイメージはあまり宜しくない。

 

「支払いは小切手でお願いします」

「冒険者が小切手?」

「家には金があるんで、買えますよ」

 

めちゃくちゃ疑われてる。

黙って俺とゆんゆんを交互に見るだけで商談を進める気は無さそうだ。

紅魔族ならこれを目標に貯めてやってくるとかありそうなのに。

 

「あの、ダメですか?えっと、これ冒険者カードです。もしこれが嘘なら俺を指名手配してくれればいいので」

「はあ、えっと、アクセルの冒険者ですね。サトウカズマさん。サトウカズマ!?」

 

俺の名前はやっぱりこの辺じゃ有名らしい。

明らかに態度が変わった。

まあ、これで酒を手に入れられる。

冒険者カードが偽造が簡単に出来ないものでよかった。

情けは人の為ならずってか。

いや、まあ、オーク倒したのは完全に自分の為なんだけども。

 

「すっ、すみません!御無礼お許しください!」

「で小切手で大丈夫ですか?」

「はい。どうぞどうぞ!前金の一万エリスさえ支払って貰えれば」

「これでお願いします」

 

予想より前金が少ないな。

と思いながら前金を置いた。

 

「あの一万でいいんですよ?十万も頂かなくても」

「知り合いにガラクタ仕入れて毎回泣いてるやつがいるからな。これ仕入れた分キツいだろ?今自由にできる最高額だ」

 

バニルへの感謝を込めてこの店に金出しとこう。

 

「あ、ありがとうございます!直ぐに梱包しますから、少々お待ちください」

「あの、カズマさん?」

「どうした?」

「本当に買うんですか?」

 

ゆんゆんは買った場合のあとのことを気にしてるらしい。

俺そんなに金ないと思われてるのかな?

確かに借金してた時期はあるけども。

 

「おう。めぐみんに持ってこいな魔道具だからな」

「それで、その、カズマさんはこれでプロポーズするんですか?」

 

めぐみんの彼氏と認識されてるだけはあるな。

それに応援してくれてるのもあるか。

 

「お土産でプロポーズしないだろう。それにめぐみんにプロポーズする予定とかまだないし」

「カズマさん」

「どうした?」

 

急に顔を近づけて来た。

興奮状態にあるのは目が紅くなってる所からして分かるけど、これはどのタイプだろう。

怒ってないことしか分からない。

 

「さっさと告白してください!」

「はあ?」

「カズマさんがヘタレだからと言う所始まって惚気けまくるんですよ!」

 

・・・アイツはマジでゆんゆんに何を話してんだ。

今度、ゆんゆんからゆっくり話を聞くのもありかもしれない。

 

「その理論で行くと俺がアイツと付き合いだしたらそれこそ惚気けまくるだろ」

「・・・もうこのままクリスさんと逃避行してください」

 

これは相当めぐみんに絡まれてるな。

益々めぐみんが何話してるか気になってきた。

 

「応援するって話はどこ行ったよ」

「めぐみんの話聞いてると偶に私もカズマさんのこと好きだと思われてるんじゃないかなってくらいに、凄く牽制してくるんですよ。アレ女性冒険者の間でも有名で、厄介極まりないです」

 

牽制ってなんだよ。

俺がモテない理由ってまさかめぐみんが妨害工作してるからなのか?

それ抜きにしても、そもそもモテてないのに、わざわざギルドの女性冒険者達に牽制してなにか意味があるのだろうか?

さっぱり分からん。

 

「ギルドはどうしてるんだ?」

「ルナさんが耳に蓋するので、何とも」

 

惚気を止めろなんて話、確かにルナは避けそうな話題だ。

他の職員とて、攻撃力の高いめぐみんを止めるの嫌だろうなあ。

 

「お待たせしました!こちらになります」

「ありがとうございます。これ小切手です」

「どうも。こちらこそありがとうございます。それにしてもお客さんのお仲間凄いですね。爆発魔法か炸裂魔法が使えるなんて」

「ウチの優秀な魔法使いは爆裂魔法をこよなく愛するやつですからね。凄くて当然ですよ」

 

言って俺は店の外へと向かう。

ネタ魔法と言ってた店主は今頃大焦りだろうけど、まあ、バニルじゃないけど、悪感情ご馳走様でしたってことでいいや。

 

 

「もうカズマさん!あんなこと言って立ち去るから、店主さん凄く顔を白くされてましたよ!」

「しょうがねえだろ。イラッとしたんだから」

 

呆れたように深いため息をつかれた。

俺に言わせれば最後まで敬語で通したのを褒めて欲しい。

 

「ゆんゆんだって嫌だったろ?」

「まあ、それにちょっとカズマさんカッコイイなとも思いましたけど」

「ごめん。ちょっと聞こえなかったからもう一回頼む」

 

カッコイイと言って貰えるのが嬉しい。

ここはもう一度聞いておこう。

 

「えっと、ちょっとカズマさんカッコイイなあと思いました」

「カズマさんカッコイイの所がよく聞こえないからもう一回」

「聞こえてるじゃないですか!そこだけ切り取られたら恥ずかしくなってきたからもういいません!」

 

怒らせてしまったどうしよう。

まだ、模擬デート始まってそんなに経ってないのに。

・・・喧嘩するデートだってあるし、練習にはなるか。

 

「それは残念。で次にダクネスへのお土産なんだけど、何かないか?」

 

膨れっ面でまだ怒ってるらしい。

プイッと顔を背けて、何も話してくれなくなった。

ゆんゆんの機嫌を取るにはどうしたらいいんだろ?

友達がどうのというのは何の学びにもならないからなしにして、これなんかどうだろう?

 

「ゆんゆんって怒ってる所も可愛いな」

「・・・」

 

露骨過ぎたか?

全く反応がない。

こんなことめぐみんとかダクネスには言えないな。

だってアイツらマジで怖いし。

 

「偶に思うんだけど、めぐみんじゃなくてゆんゆんが仲間になってたら可愛いし、常識人だから多分ゆんゆんのこと好きになってたんじゃないかなあって思ったりもしてるんだけど」

「カズマさん」

「はい」

 

凄く真剣な顔してる。

いつになくゆんゆんから圧を感じる。

ちょっとからかい過ぎたかもしれない。

「どうして私に言えてめぐみんに言えないんですか!」

「えっと、ゆんゆん?」

 

思ってた怒りと全くベクトルの違う抗議に驚きを隠せない。

からかわないでくださいとかめぐみんに言いつけますよとか言われると思ってた。

 

「私も商店街でぬいぐるみ貰った時に、カズマさんが仲間だったらなあとか、考えたりもしてましたし、凄く嬉しいですけど。さっきみたくめぐみんのことを想ってるならさっさと告白してください!」

「・・・ゆんゆん大好き」

 

こう、正論言われると巫山戯たくなるのが俺の悪い癖。

まあ、ゆんゆんのこと友達として好きなのは嘘じゃないし、その中でも常識人枠だから結構上の方ってのも事実ではあるんだけども。

ここまで来たらはぐらかすしかない。

 

「もう!カズマさんのバカ!」

 

煽てる作戦失敗。

次は物で釣ってみるか。

 

「クレープ食べないか?」

「食べたかったらどうぞ。ここで待ってますから」

「ゆんゆんと一緒に食べたいんだ」

「・・・」

 

完全に警戒されてる。

こうなったら引っ張って行くしかないか。

 

「行くぞ。着くまでに何食べたいか決めとけよ」

「あっ!?」

 

俺が腕を掴んで動き出すことは予想外だったようで、あたふたし始めた。

めぐみんだったら多分、俺があたふたしてるな。

それはそれとして、ゆんゆんは追いついたらそのまま恋人繋ぎをしてきた。

めぐみんと恋人繋ぎした時とは全然違う感覚に襲われて今は俺があたふたしてる。

案外ゆんゆんもこの模擬デート楽しんでるんじゃなかろうか?

なんて考えてるとクレープ屋に到着した。

 

「いらっしゃい。初々しいねえ」

「俺は練乳いちごで」

「わ、わたしは、いちごとバナナのミックスで」

 

ゆんゆんが照れてる所見るのが楽しくなってきたどうしよう。

可愛い反応ってついついずっと見てたいって思ってしまうんだよなあ。

因みに初々しいと言われて反応しないのは、露店巡りで散々言われてきたから訂正が面倒になったのである。

 

「はーい。ちょっと二人きりで待っててね」

 

店員が奥に行くと沈黙が訪れる。

ゆんゆんは俯いたままだ。

傍から見たら彼女が恥ずかしがってる初々しいカップルに見えるんだろうなこれ。

恋人繋ぎは継続中。

多分、ゆんゆんはもう頭がパンク寸前で、恋人繋ぎしてること自体に気付いて無さそうだ。

 

「お待たせえ。二人分出来たよ」

「ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます」

 

受け取ろうとした時に気付いたらしく、顔真っ赤にして照れてる。

こういう甘酸っぱいイベントを俺はずっと欲してたんだよ!

照れてるゆんゆん可愛いし、クレープは美味しいし。

めぐみんやダクネスだと何故こうならないのか不思議だ。

 

 

 

所変わって花屋さんに俺たちはいる。

正直、花を買う気は全くないのだが、ゆんゆんがデートするなら花屋さんに行きたいと言うのでやってきた。

 

「カズマさんはどの花が好きですか?」

「クリス」

「・・・」

 

ちゃんと答えろと言わんばかりに目を紅くさせて、頬を膨らませるゆんゆん。

この輝き方は怒ってる時のやつだ。

めぐみんやあるえと喧嘩してるから、怒ってる時の紅さはよく知ってる。

 

「冗談だって、特に好きな花とかはないからさ。強いて言うなら桜かな」

「桜と言えば、初めてカズマさん達が紅魔の里に来た時、満開の時期でしたよね」

「そうそう。アクアとめぐみんの三人で団子屋行って花見してた」

 

懐かしいなあ。

ゆんゆんから子供が欲しいと言われた時は凄い舞い上がってたよな。

そして、シルビアに捕まってすぐの時も・・・

あの時の俺は馬鹿だった。

相手の情報をちゃんと手に入れておけば良かったのに。

まさかオカマだとは思わなかったし。加えて封印という名のパスワード設定が日本語でされてるとか、アイツがキメラだから兵器を取り込めるとか、色々予想外だった。

 

「私も桜好きなんですよ」

「じゃあ、今度一緒に見に行くか」

「いいんですか?」

 

この場合、ゆんゆんが気にしているのは俺のスケジュール的なことより、もっと他のことだと思う。

 

「その時はめぐみんも連れてな」

「それなら安心です」

 

めぐみんが普段、ゆんゆんにどんな話してるのか余計に気になってきた。

 

「次はダクネスさんへのお土産ですよね?」

「そうなんだけど、なかなかいい物が思いつかなくてな」

「花も特産品があるのでいいと思いますよ」

 

ここに来た時に考えはしたけど、この後帰るまでにかかる時間を考えると難しい。

今日中にテレポート出来るならありなんだけどな。

 

「でも、帰るまでに枯れちゃうだろ?」

「確かに・・・あっ、まだ行ってなくてお土産見つかりそうな所わかりました!」

「本当か?」

「お土産屋さんです!」

「ゆんゆん、天才だな」

 

完全に盲点だった。

特産品を集めたお土産屋ならバラエティに富んでいて持ってこいだ。

何故今まで気付かなかったんだろう。

そして、この街最大級と言われるお土産屋に俺達は着いた。

 

「これとかどうだろう?物はもっといいの探すけどさ」

「ティーカップですか」

「ここら辺の特産品らしいし、ダクネス紅茶よく飲んでるからな。良さげなデザインで高そうなの選んで欲しい」

 

そこそこなお値段だし、魔道具と比べると見劣りする額ではあるが、こう言うのは気持ちが大事だからな。

 

「分かりました。えっと、これなんてどうですか?」

「猫と犬の入ったやつか。可愛くていいなこれ。他にはないか?」

 

女性からの評価が得られる物が多分一番いいと思う。

 

「他には、これなんてどうでしょう?」

「花柄か。しかもクリスか。これにしようかな」

「これでいいんですか?」

 

七十万エリスすると言う高さを気にしてるようだけど、四百万エリスの買い物した後だからな。

そこまで驚いてはないみたいだ。

 

「ダクネスとクリスは親友だからな。こういう趣向を凝らすのもありかなって、思ってさ」

「親友っていいですよね。私も親友が欲しいです」

「そうだな。ゆんゆんとめぐみんいい関係だと思うぞ」

「えっ?私とめぐみんですか?」

「宿敵と書いて友と呼ぶって感じだからな。今後ともウチのめぐみんをよろしく頼むよ」

「いえ、あの、こちらこそいつもお世話になってます」

「それじゃあ俺はこれ買ってくるから、店の入口ら辺で商品見ながら待っててくれないか?」

 

と一旦別れて、俺はプレゼント梱包込の支払いをして、再度ゆんゆんと合流しようしたら、ゆんゆんがナンパに遭っていた。

 

「ねえ、キミ、向こうのカフェでお茶しない?」

「え、えっと、人を待ってるので、すみません」

「ちょっと、話するだけでいいからさ」

 

言ってチャラ男がゆんゆんの手を引っ張りカフェへと歩き出した。

こんなやつ本当に居るんだな。

とか考えてる場合じゃなかった。

 

「あっ、ちょっと、待ってください!」

「おっと、失礼。俺の彼女から手離して貰えます?」

 

チャラ男の手を掴んでゆんゆんから手を離させる。

手を掴んでからの回避の動きからして、戦闘経験あるから冒険者だな。

これならいざって時も遠慮なく戦えるってもんだ。

 

「なんだお前?お前みたいなパッとしない男が彼氏?寝言は寝て言え」

 

ここまでテンプレートな場面に出くわすとわ。

逆に楽しくなってきた。

この世界にきてからというもの、この展開はよくあるあのパターン!って思ったら全然違うっていう拍子抜けなのとかが多かったからな。

 

「魔剣持ちのミツルギに勝った俺を舐めるなよ?」

「お前みたいなのに、勇者候補が負けるかよ」

 

近くで見てたギャラリーまでそーだそーだとか言い出しててウザイんだが。

普通こう言うの俺に支援来るタイミングじゃない?

 

「そこまで言うなら俺と勝負しろ。あんたも冒険者だろ?俺が勝ったらその子とお茶させて貰う」

「よし乗った。一本勝負だ」

「ああ、もちろん。ルールは相手を気絶か降参させた方の勝ちでどうだ?魔法でも物理攻撃でもなんでも、アリで」

「じゃあ始めるか」

「カズマさん!待ってください」

「ゆんゆん止めてくれるなよ」

 

ゆんゆんが止めに来るのは分かってた。

自分がお茶すればいいなんて言い出すだろうけど、そうはさせない。

男の知り合いらしきやつが出てきて、スタートの合図を出してくれるらしい。

そして、今、始まった。

 

「『クリエイト・アース』ッ!」

「は?土作ってどうする気だ?初級魔法ってことは雑魚じゃねえかこいつ」

「『クリエイト・ウォター』ッ!からの『フリーズ』ッ!」

「うわっ!?なんじゃこりゃああああああ!!」

 

突然の出来事に発狂してる所を後ろから叩いて気絶させた。

勝負あったな。

 

「じゃあ、行動不能にしたから俺の勝ちってことで、いいよな?」

 

審判をやっていた男の仲間に確認を取ると首を縦に振った。

それを見ていた野次馬たちからは拍手喝采が起こった。

後のことはその人に任せて俺はゆんゆんと二人でその場を離れた。

 

 

「ありがとうございました」

「一人にさせた俺も悪いからな」

「そ、そんなことないですよ!カズマさん凄くカッコよかったです!」

「ありがとう」

「えっと、膝枕しませんか?小説でデート中にすることだと書いてありましたし、戦った後に彼女がしてるシーンとか読んだことありますから」

「お、おう」

 

気付いたら膝枕する流れになっていた。

近くにあったベンチまで移動して、とりあえず隣に今は座ってる。

この旅でクリスにエリスと続いてゆんゆんの膝枕も堪能出来るとは、やはり運がいいのかもしれない。

これであの店に行かずして、ゆんゆんに慰めてもらってたパターンを実践出来る。

そう思って頭を下ろそうとしたその時、俺達は声をかけられた。

 

「二人ともお熱いねえ。これ、めぐみんに言ったらゆんゆんもちゃんとライバルだって認めてもらえるんじゃない?」

 

・・・結局いい所で邪魔が入るんだよな。

まあ、クリスとは邪魔入らずに出来たけど、もうちょっとこう、いつも苦労してる分ここで癒しがあってもいいと思う。

 

「クリスさん!違いますよ!これは、その、カズマさんがデートの練習をしたいと言っていたので、えっと」

 

自分も散々カップルだとか言われてきたこと忘れてやいないだろうか?

しかも自分も人前ではないとは言え、膝枕やってたし。

まあ、ゆんゆん焦らせたいだけなんだろうけど。

 

「ゆんゆんの言う通り。それに元を正せばクリスが俺とゆんゆんに一緒にゆっくりするよう言ったことから始まってるし」

「えっと、そうだっけ?まあ、そんなことより、夕飯に良さげなお店見つけたからそこに行かない?」

「分かった」

「夕飯は何か楽しみです」

 

ゆんゆんは早く別の話題に変えたいのか立ち上がって、クリスを急かして歩いて行った。

夕飯は何だろうかと、この後の任務はどうなるんだろうと考えながら二人の後を追った。




次回の更新はカズめぐしてるやつです。
投稿は今日二連続を予定してましたが、明日か明後日にします。
加えてデフォルトの更新日を月曜日から火曜日に変更します。


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裏ルート

前回の投稿で次は多分カズめぐしてると言いましたがあれは嘘です。いや、多分と書いてたので、噓ではないですね(棒)
今日はカズクリ宣教師様の誕生日なので、カズクリです。
やはり彼の御仁のスペースに行くと何故かカズクリのネタが湧いてくるのですよ。
不思議です。昨日スペースに入ってなかったら出来てなかったまだできてなかったモノですが、ほぼ一日で書いたので、期待しないでください。
私事の感謝しなければならない何の記念日かは後日追記します。


-URAROUTE-

 

ゆんゆんを交えた夕飯も終わり、各々寝床へと向かった。

事になってはいるが俺とクリスは今も起きている。

理由は簡単。

本日は活動日。

今回の旅の一番の目的だ。

 

「助手君?どうしたの?」

「きゃらめりさんの時見たく簡単にいかないかなって考えてた」

「次は貴族の屋敷にある宝物庫から盗むから簡単には行かないよ」

 

貴族か。

模範的な貴族なのか、悪徳貴族なのか。

それ次第で見つかってからの対応が変わるよな。

前に忍び込んだ時なんて、回収する対象に警備呼ばれたし、本当にこの世界はろくでもない。

 

「回収するのがまたアイギスみたいなのじゃないよな?」

「今回は指輪型の転移アイテムだから問題ないよ」

「転移?」

「任意の座標に転移出来る優れものだよ。加えて、空中でもそこに留まる事ができて、地中でも、溶岩の中でも転移したモノは安全な状態が確保されるよ。ただし、次の転移先は元いた場所しか選べないよ」

「凄いなそれ。その神器あれば俺とめぐみんの二人で魔王倒せると思う」

 

確か、最高純度のマナタイトがあれば爆裂魔法も打てるらしいからめぐみんに連発させれば勝てるな。

全財産はたいても魔王討伐の賞金がでかいだろうし、プラスになるはず。

 

「本当にキミはえげつないこと考えるよね。でも多分無理かな。魔王城は魔法阻害の結界があるから行けないと思うよ」

「はぁ、じゃあもう魔王討伐は諦めるわ」

 

折角無傷で倒せるいい案だと思ったのに。

正面切って戦うなんてウチのパーティーだと、無理ゲーだ。

今はそれなりに金もある。

慎ましく生活すれば一生生きてけると思う。

 

「いやいや、今の所一番助手君のパーティーが可能性高いから困るんだけど?」

「いやいや、魔王討伐なんてのはハツラギにでも任せればいいんだって、ハツラツみたいな名前だし」

「名前間違ってるよ?カツラギだよ?ハツラツしてないよ?」

 

・・・クリスからもちゃんと名前覚えてもらえてないのか。

可哀想に。

流石にミツルギには同情する。

 

「兎も角、魔剣やら特殊能力やらを持ってる転生者がやればいいと思う」

「何でも願いが叶うんだよ?」

「その前に死んだら意味ないし」

「・・・えっと、今日の活動先の図面がこれなんだけど」

 

何度も死んでるけど、魔王戦で死んだりしたら恐らく蘇生魔法をアクアが準備する時間なんて貰えないと思う。

クリスにも俺の考えは伝わったのか、露骨に話を元に戻しに来た。

 

「いつも気になってたんだけど、こういうの何処で手に入れてんの?あとウチの屋敷の図面持ってたりする?」

「前者については黙秘させてもらうよ。後者は持ってるよ。昔は貴族の屋敷だったし」

 

そういや、アンナだっけか、その子の親が悪徳貴族なんだったか。

それで調査対象になってたわけだ。

今や冒険者の拠点となって、必要は無くなったと言ったところか。

 

「マジか・・・。何かカラクリとかあったりしないのか?」

「そう言うのはなかったと思うよ」

「そうか。残念」

 

めぐみんかダクネスの部屋にある鏡がマジックミラーだったりしないかと思ってたのに、本当に残念だ。

アクアの部屋?全く興味無いな。

 

「西側の塀の点がついてる所に穴があるから、そこから潜入するよ」

「何でそんな所に穴があるんだ?」

「やんちゃな次男坊が抜け出すために作ったけど、その人はもう独立して離れて、知ってる使用人も次男坊に着いて行ったから誰も知らないから安全だよ」

 

何かの罠かもしれないと思ったけど、それなら安全か。

にしてもよくここまで詳細な情報を集められるよな。

それだけ聞き込み調査を入念にやったのか、あるいは。

 

「ほうほう。でなんでそんなこと知ってんの?」

「秘密だよ」

「俺らのこと見てたりしないよな?」

「してたらキミとダクネスがキスした話とか知ってると思うけど?」

 

確かにあの時は驚いてたよな。

とは言えあの時偶々見てなかっただけかもしれない。

それと俺は気付いたら頬にキスされただけで、正しくはダクネスが俺にキスをしてきた話だ。

 

「あれはダクネスが勝手にしたやつだからな」

「分かってるよ。監視なんてしてないから。安心して欲しいんだけど、それよりも入ってからは南西の厨房裏口から入るよ。ここはシェフが面倒くさがりで帰る時も鍵をしてないから、そこから入るよ」

「・・・いや、ほんと、なんでそんなこと知ってんの?」

 

さっきから情報の精度が高過ぎるだろ。

何でお抱えシェフの性格と行動パターン知ってんだよ。

何かここまで来ると怖い。

 

「情報源は気になってももう聞かないで」

「分かったよ。その内めぐみんかダクネスと進展しだしたらそれを見て活動手伝わないとバラス脅しに来るんだろう?」

「しないって!そもそも分からないから!」

 

等と供述しているが、俺が死ぬ直前のことは見てた反応だしな。

絶対に俺らのこと見てるタイミングあるだろ。

・・・でもまあ、サキュバスの店とかがバレてない所を見ると四六時中監視されてる訳では無いのは、事実な気がしてきた。

 

「で厨房から入ったらどこ行くんだ?」

「厨房から出て直ぐの分かれ道を左に行くと、階段が出てくるからそこから地下に入って、地下に着いたらここの部屋まで一直線に進んでいくよ」

「セキュリティの問題とかは大丈夫なのか?」

 

さっきからここに隠れて、巡回を待つとかそう言った類の情報が一切ないのが気にかかる。

宝物庫前には警備がいると考えるのが普通だし。

さっきから話してる感じだと確定情報に基づいて話してるような気がする。

 

「神器をタダの指輪だと思って雑多に置かれてるから大丈夫だよ。警備は外を厳戒にしてれば大丈夫って考えてる家で、今日は出張で誰もいないから何ら問題は無いよ。問題は宝物庫内にいるセキュリティ用のゴーレムくらいかな」

「・・・やっぱりおかしいよな?いつも何処にあるか探しながらなのになんで知ってんだよ。それに家の方針とか習慣まで知ってるのは流石に変だぞ?」

「・・・キミのような勘のいい冒険者は嫌いじゃないよ」

 

言いたかっただけだろって思える程に言ってからニヤッとしてた。

まあ、可愛いから許すけども。

 

「で、なんで知ってるんだ?」

「さっき話して次男坊がつい最近亡くなって、案内した時に貴方の家に神器があるのですが、これが何処にあるか分かりますか?と聞いた所色々と教えて貰えたんだよ」

「・・・リーク元が酷すぎる」

 

死んで間もない状態の人から聞き出すってどんなだよ。

いや、それで言うと死んで間もない日本人も直ぐに天国か日本での転生か、異世界転生を選択させられてるし似たようなモノか。

総じて神々の死後へのアプローチが酷いって話になるんだけども。

 

「ちゃんと次は平和な家庭に生まれるようにしたからね」

「いい感じに言ってるけど、それただの買収だからな」

 

生きてた頃の情報売って、いい家庭に生まれ変われるとかどんなだよ!そう言えばここ来る前に協力者がいるとか言ってたけどまさかこんなことだったなんて……

俺なんて魔王倒してようやっと願いが何でも叶うって段階なのに。

 

「・・・さあて、計画も話し終わったし、図面を燃やしてくれるかな?」

「はいはい。『ティンダー』移動の計画は分かったけど、ゴーレムはどうするんだ?俺たちじゃ火力不足だろ?」

「そこは助手君の機転で何とかなるはずだから気にしなくていいよ」

 

つまり無策ってことだな。

おかしいとは思った。

ここまで情報があって、警備なしなら俺を呼ぶ必要は全くない。

クリス一人で事足りる。

最後の難関を俺に処理させるのが目的だったか。

まあ、最終目的地での活動が一番ハードな可能性もあるけどな。

 

「お頭、ゆんゆんにも協力して貰うのどうです?」

「それはダメ!ゆんゆんをこんなことに参加させちゃダメ!」

「俺は参加していい理由を詳しく!」

 

そりゃあゆんゆんには汚れ仕事とかして欲しくないけども、俺が良くてゆんゆんはダメとか酷い。

最初から誰かに義賊しない?とか誘うのが良くないと思う。

俺の気持ちを利用して。

 

「だってカズマくんはもう色々とやってるし」

「お頭が誘ったんでしょうが!」

「・・・と、ともかく、ゆんゆんみたいにピュアな優しい子には頼めないよ」

「俺は汚れてて最低なやつってことですか。そうですか。今から帰ります」

 

クリスの言ってることもよく分かるけど、だからと言って俺ならば良いとされるのも解せぬ。

ここは粘って待遇改善を要求する流れに持ち込もう。

 

「そ、そんなことないよ。助手君は神器回収手伝ってくれてるし優しいって!」

「・・・そんな見え透いたお世辞で引き返すとでも?」

「今日は野宿だから、これ終わったら腕枕してあげる」

 

全く、俺がそんな手に乗ると思っているのだろうか?

めぐみんやダクネスと色々とやってるこの俺が今更腕枕何かで動じることは無い。

この旅でも膝枕をクリスからして貰ったからな。

そう、俺がここで言うべきことは決まっている。

 

「神器回収行ってみよう!」

 

クリスの手を取り目的地へと意気揚々と歩き出す俺だった。

手を繋いでる理由は魔力の温存のため、クリスだけが潜伏スキルを使うからだ。

やっぱり今回は役得なのが多いな。

 

 

計画通り、この屋敷に住んでたと言う、今は亡き次男坊が作ったとされる穴から敷地内に潜入成功。

これまた情報通り、怠惰なお抱えシェフが施錠していないとされる厨房の裏口まで難なく進み、現在扉をゆっくりと音を立てないように開けている。

本当に敷地内には見張りが居ないことに俺は驚いてる。

もしかするとここの貴族は後ろめたいことなどないのかもしれない。

 

「よし、通れる位に開けたから進むよ?」

「そろそろ俺がスキル発動するから、廊下に出たら三数えて交代で」

「三、二、一。所で助手君はダンジョンに潜るの興味無いのかな?」

 

なんの脈絡もなく、クリスは質問してきた。

ダンジョンと言えば、アクアを真剣に置き去りしようか悩む程に面倒なやつしか経験してないから出来れば行きたくない。

それにその次に行った時はダクネスと入ったらバニルと遭遇して散々な目に遭ったし。

 

「前にアクアと入ったら、アンデッドが湧きまくるわ。友好的だったとは言えリッチーに出くわすわで大変だったから行きたくない」

「いやいや、アンデッドやリッチーは滅ぼすべきだから一緒にダンジョン攻略とアンデッド退治に行こうよ。神器が封印されてるらしいから」

「断固拒否する。と言うかいくら中に人居ないからって、こんなに話してていいのか?」

 

もし話し声が何処からか聞こえてバレるかもとか想定してないのだろうか?

情報になかった小さい子供がお留守番してるかもしれないし。

 

「気配さえ消してれば問題ないよ。人の気配全くしないから。で今度一緒にどうかな?」

「断固拒否するって言ったはずなんだけど?まず、ダンジョンに行くとなるとめぐみんがうるさいからな。そこを何とかしないと俺は行かないからな」

 

ダンジョンに行くとなると最も嫌がるのがめぐみんだ。

今回はクリスと二人でって話だろうが、ダンジョンは基本パーティーで行くものだから、それを勝手にやられるのもめぐみんとしては止めに来ると思う。

それにダクネスもいい顔はしないと思う。

二人でとなると俺達が何故潜るのかは察せられるだろうし、となると危険な場面も想定できるけど、俺達二人だけでやらなきゃだからな。

アクアは、言っても着いてこないだろうからこの際どうでもいい。

 

「めぐみんも連れてくればいいよ」

「あいつダンジョン入ったら荷物持ちしか出来ないぞ?」

「こういうリスクのある潜入活動じゃなくて、ダンジョンに潜るくらいなら盗賊団としてまた今度って言ってた話にも繋がると思うけど、どうかな?」

「その言い方はずるいぞ。分かった。ダンジョンに行けばいいんだろ?」

 

俺が絶対に断れない条件持ってくるのが上手すぎる。

結局俺はクリスにも手玉に取られてるわけか。

 

「それじゃあ、ダンジョンに行くのはこの旅が終わってから一週間後だからよろしく」

「もうちょっと休ませてくれよ」

「そんなこと言ってると神器が何処かの冒険者パーティーに見つかっちゃうよ」

 

一週間あるだけまだマシか。

よし、ここは待遇のよさを引き換え条件に利用させてもらおう。

 

「しょうがねえなあ。で取り分は俺とめぐみんで九割でいいよな?」

「なんでさ!そこは三三四であたしが四だよ?寄付するからね」

「寄付するなら俺らにくれよ。俺らが貰う宝よりもよっぽど神器の方が価値高いだろ。それに一週間ですぐにまた次の活動しなきゃいけないんだぞ?」

「・・・わ、分かったよ。その代わり、神器とは別に一割はちゃんと貰うからね?」

 

これでダンジョンに行けば多分お土産代は回収できるな。

加えてめぐみんの分は多分家に送るだろうから、こめっこもちゃんとご飯が食べられる。

一石二鳥だな。

 

「ここを右だな」

「違うよ?助手君、ここの間取りちゃんと覚えてる?」

「夢の中で覚えたから、問題はなし!」

「それ問題大有りだよね!夢って何?計画話してすぐにここに来てるはずだよ?」

 

こめっこが楽しそうにご飯食べてる所想像してたら道を間違えたとは言えない。

 

「お頭静かに!もう今は潜入中だからいくらなんでも大声はダメだ」

「そうなんだけど、今のキミに言われるのは釈然としない」

 

そんなことを話してると目的の宝物庫へと到着した。

ここからゴーレムとの戦いが始まる。

 

 

 

『ようこそ。宝物庫へ。一組様二十分までの入室が許可されています。持ち出しは厳禁です。もし、持ち出し行為が発見、もしくは当機への攻撃が確認されれば、賊と認定し、捕縛します』

 

中に入ると某携帯キャリアが販売している人工知能ロボット、ペリパー君がそこにいたのだから。

それと、ペリパー君を動かす為の端末らしきモノが近くに置いてある。

 

「侵入者を見分ける機能はついてないらしいな」

「でも持ち出そうとしたら戦わないとだよ?」

 

その必要は全くないと俺は理解した。

だってこのタブレット型端末がマスターデバイスだろうから、このペルパー君の無力化は容易いだろう。

 

「いや、戦うことないぞこれ。えっとこれをこうすれば説明書が」

 

タブレットを触る俺を物珍しそうに眺めるクリス。

日本には直接行ってないのかな?

日本のことで知らないことも多々あるみたいだし。

 

『モード変更オーダーを確認。三時間スリープモードの後、セキュリティモードを再度起動します』

「ほらな」

 

ペルパー君の使い方は知らないけど、日本語で丁寧に手順が書かれていたから助かった。

ここのセキュリティザル過ぎるな。

 

「これ、ここの家の人も仕組み分からないからお宝は入れっぱなしだって話だったのに、流石助手君だね」

「日本人なら誰だってできると思う」

 

後に俺以外の日本人はスマホを知らないと言う事実に気付くのだが、それはまた別の話だ。

 

「えっと、これだよ!これ!試しに使ってみるよ」

 

クリスが見つけた指輪にはエメラルドのような緑色の宝石がついていて、輪っかは恐らく純金だろう。

すごく綺麗なものだ。

 

「えっと、とりあえず『テレポート』ッ!?」

「おお、ちゃんと使えて・・・」

 

俺たちの目の前には潜入した屋敷の周りを守る警備員達だった。

何がどうなってこうなった!

 

「何者だ!?」

「何処から現れた!?」

「おい、あの銀髪の男が持ってるのって主様の宝物庫にあった指輪じゃないか?」

 

クリスが男認定されて、涙目になってる。

まあ、そんなことよりもこの状況の方が問題だけど。

 

「賊だ!賊が入ったぞ!」

「正面入り口に人を集めろ!」

「数人は宝物庫に向かわせろ!他にも仲間がいるやもしれん!」

「あっ!巷で有名な銀髪盗賊団じゃないか!?」

「何としても捕まえろ!捕まえれば億万長者だ!」

 

何で最後の最後でこうなるかな。

しかも結構優秀な方たちが多いようだ。

これは困った。

 

「とりあえず、戻って早く離脱を!」

「て、『テレポート』ッ!?」

「お頭、馬鹿なんですか?何で転移先を正面入り口にしたんですか?」

「いや、あまり何も考えてなかったというか、あはははは」

 

こんなことで大丈夫なのだろうかと思いながらも、俺たちは屋敷からの脱出を開始するのであった。




次の更新はカズめぐと断言できます。
更新日とシリーズは未定です。


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逃亡の先に

またもや有難いことにお祝いすることが多すぎて何のお祝いかは後で決めますがいつも読んで下さりありがとうございます!
※一部を頂いた感想を参考に加筆修正しました。


「まだ遠くへは逃げていないはずだ!」

「賊は二人とは限らない!相手は王城からも逃げ出す手練だ油断するな!」

 

お父さん、お母さん。

現在、俺たちは凄い練度の高い警備隊の方々に捜索されています。

ちょっとしたミスが身を滅ぼすとはよく言ったものですね。

身を持って味わってます。

 

「この部屋に来た意味ありますか?」

「ここのセキュリティは持ち出した時点で作動するはずじゃい。アラートとか言うバカでかい音が鳴るはずじゃが鳴っとらん」

 

てか何でここの警備隊の奴らここまで練度高いんだよ!

しかも初動で警察官も結構な数入って来てるし!

後から来た女性警官みたいな緩い考えしてくれたら楽だってのによ!

 

「でもさっき外にいる所を目撃したとのご報告でしたよね?」

「あの二人には逃げられたろうが仲間が居ればそいつらを捕まえられるかもしれん」

 

ベテランぽいおっさんのせいでさっきから中々移動出来ない。

まあ、何も考えずにテレポートしてくれちゃった人が一番悪いんだけども。

 

「これまでの証言からあの盗賊は二人だけだと先の議会で結論付けられたじゃないですか」

「何処かの貴族がグルなんじゃい!内通者が複数人おるはずじゃわい!ワシはそう見てる」

 

このおっさん何者だよ。

勘が鋭過ぎて怖いんですけど!

 

「いやいや、王家の懐刀であるダスティネス家やシンフォニア家の令嬢の証言ですよ?」

「分かっとらんのう。これまで賊が入ったのは必ず後ろめたいことをしてる貴族達じゃ。正当な手続きで裁けん奴らを特殊部隊を使って懲らしめとるんじゃ」

 

・・・いや、本当にこのおっさん何者なんだよ。

ちょっと見当外れな所もあるけど大体あってるぞ。

法的な手続きを取っても回収が難しい神器回収してる訳だし。

 

「ではここも何かしら違法な取引や行為を行っていると言うことになりますが?その場合監査も行いますよ?」

「この家は反王族的立場も時には取っているから目障りだったんじゃろう」

 

中道派閥ってやつか。

面倒だなあこのおっさん。

早くどっか行ってくれないと逃げるに逃げられないってのに。

 

「・・・王女様も狙われた件についてはどうお考えで?」

「身内が狙われれば誰も疑わんとでも考えておるだろう」

「くれぐれも事情聴取に来た検察官にはこの話はしないように。下手すれば不敬罪で逮捕ですからね」

「それぐらい分かっとるわい」

 

何だか連携取れてるよな。

普段から警察とも協力してるのか?

アクセルで見る貴族の護衛は、警察とよく揉めてるから不思議な感じがする。

 

『なあ、ここの警備隊のやつら警察との連携早過ぎないか?』

『ここの家は真っ当な家だからね。警察からここら辺の治安維持も任されてるし、式典なんかでは合同で警備してるからね』

 

それでこの統制の取れた動きなのか。

別々の組織って簡単には連携取れるものじゃないからな。

特に申請もなくやってきた個人の救済ボランティアが、初動では地元当局から邪魔だと追い払われるのと同じだ。

 

『そんな家から盗み出す必要あったのか?』

『神器はそもそもこの世界にあっちゃいけない物だからね』

『それ持たせて転生させてんのお宅だろ?』

『・・・ともかく、回収しないといけないんだよ』

 

やっぱり転生計画色々と杜撰な所があるよな。

勇者候補が亡くなった時に自動で天界に戻るシステムとか作ればいいのに。

 

「こんな所で何してるんです?盗まれた物は一点だけだと確認は終わったはずでは?警察署長がミーティングすると言ってますよ?なんでも合同捜査本部が立つらしいんで、隊長も来てください」

「そうか。仕方ないのう」

 

やっと居なくなった。

伝令の人ありがとう!

危機一髪って所か。

 

「・・・今から逃げるよ」

「逃げるって言っても堂々と正面から出るだけだろ」

「まあね」

 

気絶していた警官二人に化けて、何食わぬ顔で離脱する作戦だ。

因みにその二人の警官は本日非番で、飲みすぎて倒れていただけだ。

俺たちが何かした訳では無い。

 

「お疲れさん。非番なのにわざわざ出てくるとは勤勉だな」

「近くに居たんだ。来なかったら署長にどやされるだろう?」

「間違いねえ」

 

守衛には気付かれてないようだ。

このまま通りを越して、そこからダッシュで逃げれば俺達の勝ちだ。

 

「所でお前さん達。いつものペンダントはどうした?」

「非常招集だから乱闘もあり得ると思って置いてきたのよ」

「・・・賊だあああああ!!警官に化けてるぞおおおおお!!」

 

何故バレた!

話し方だって酔わせる前に聞いてたし、間違ってないはずなのに!

はっ!ペンダントの話か!

カマかけてくれやがって、ここの警備員達、優秀過ぎるだろ!

ヤバい、笛の音がそこら中から近付いてくる。

 

「お頭早く逃げないと!」

「行かせるかああああ!」

 

守衛の人が槍を持って突進してくる。

最短距離でやってくるのを見て俺は魔法を唱えた。

 

「『クリエイト・アース』ッ!『ウィンドブレス』ッ!」

「ぎゃあああああああああ!!」

 

守衛の無力化に成功した。

でも増援の数が警備隊とこの街の警官全員って考えたら全く安心出来ない。

 

「助手君!こっちだよ!」

 

こうしてクリスに引っ張られて街中を駆け抜けることになる。

 

 

 

「ちょっ!これシャレになってない!捕まったらどうしてくれんだよ!」

「その時は一緒にお勤めしなきゃだね」

 

笑顔でそんなことを言ってくるクリス。

俺はイヤだ!

人権保障もない異世界で獄中生活なんて絶対にイヤだ!

 

「ふざけんな!責任取って貰うからな!アレだ!獄中結婚してもらうからな!」

「多分、めぐみんとダクネスならシャバで待ってくれるから大丈夫だよ」

 

無責任なこと言ってくれる。

俺が冤罪で捕まった時に脱走を手伝ってくれたのはアクアだったが、全く意味なかったな。

めぐみんが爆裂して気を引いて、それをダクネスがおぶって逃げたとかもあったっけ。

まあ、その時もアクアの持ってきた物は何の役にも立たなかったけども。

また捕まったらどうなるのだろうと考えた時、完全に真っ黒な逮捕ならアクアは絶対に助けに来ないだろう。ダクネスは何とか家の力で減刑出来るようにロビー活動してくれるだろう。ここまでは問題ない。ただ、めぐみんが何をするかを考えた時に不味いことになる予感しかしない。

 

「・・・捕まったらめぐみんが作った盗賊団を率いてカチコミに来そう。それで脱獄犯にされそうなんだが。てかそうなったらアイリスも出てきて政治的にも危なくなる気がしてきた」

「・・・あたしもそんな気がしてきたよ。絶対に捕まったらダメだねこれ」

 

捕まるのよりも、捕まってからの方が怖いってどんなだよ。

めぐみんとアイリスの規格外の力は危険度が高い。

何とか逃げ切らないとな。

 

「何としても逃げ切るぞ!ベルゼルグの為に!」

「ホントそうだよ!国の為に逃げ切らないと!」

「何を言っている!貴様らは国賊だ!」

 

仰る通り何だが、俺らだって世界のためにやってんだ!

俺らが国家反逆罪に問われるなら、俺らを止めるヤツらは世界反逆罪に問われてもいいと思う。

・・・ってバカなこと考えてないで、逃げる方法考えないと。

 

「お前らしつこいぞ!他の貴族だったらもう諦めるっての!」

「知るか!我々は警察官だ!犯罪者を捕まえるのが仕事だ!」

「ご最も。『クリエイト・ウォーター』ッ!『フリーズ』ッ!」

「なっ!?うわっ!?」

 

動けなくなったのに、勢い付いているから、足を凍らされた警察官達は続々と倒れていく。

後続はその倒れた連中に道を塞がれて救助を優先している。

一旦これで距離を取れた。

とは言え追っ手はまだ見えるから安心できない。

 

「お頭、どうやって逃げ切るつもりで?」

「先ずは隠れて変装のし直しが出来ないことには追われ続けるよ」

 

とは言えそこら中に警察がいるこの状況で、着替えなんて出来るのだろうか?

警官全員を倒しきらなきゃ無理だろうけど、それも無理だと思う。

この状況を何とか出来る打開策は無いものかと、考えていると周囲が静かになってきた。

 

「一旦、招集がかかったみたいだね」

「つまり次は集団でやってくると?」

 

こくりと頷きこちらを見るクリス。

俺に案を丸投げする気なのがヒシヒシと伝わってくる。

 

「だったらそいつらまとめて怯ませて逃げればいいだろ?」

「どうやって?」

「そこは俺に任せてくれ」

 

 

 

潜伏スキルで隠れていると重武装の警官隊が二手に分かれて走っていった。その少しあとに、俺たちをずっと追い回してくれていた警官達がどこに行ったとか言いながら探し回っている。

多分、最初に現れた奴らが待ち伏せして閉じ込める作戦だろう。

これを逆手に取るのが最善か。

 

「お頭、合図出したら走り出すぞ」

「え?まだあの人達通り過ぎてないよ?」

「いいからほら!行くぞ!」

 

手を引っ張って強引にクリスを連れ出す。

そして、隠れていた近くにある物にぶつかって大きな音が響いた。

クリスはそれに焦っているがこちらとしては大成功。

 

「居たぞ!」

「今度こそ捕まえるぞ!」

 

あの二部隊が控えてるであろう方へ敢えて向かっていく。

丁度T字路に入り込んだ。

囲いこまれるなら恐らくここだ。

曲がった先には予想通り、重武装の警官隊が盾を構えて道を塞いでいた。

 

「止まりなさい!ここは我々機動隊が通さない!」

 

そして、逆方向へと振り返るも同様に封鎖されている。

来た道は誘導要員。

つまり、俺たちは囲まれてしまったのである。

まあ、計画通りなんだけども。

 

「貴様らは完全に包囲されている。武器を捨て、大人しく投降しなさい」

 

刑事ドラマでよく聞くセリフを自らに投げかけられるとはな。

しかし、完全に包囲と言うのは嘘だな。

だって今から俺たちが突破するのだから。

 

「『ティンダー』ッ!これでもくらえ!」

 

特性の投擲物に着火して両方の部隊に投げつける。

何が投げ込まれたのか理解してないからか全く動揺がない。

対象的にクリスは青ざめた表情をしていた。

 

「ちょっと!助手君それは死人が出ちゃうよ!流石に強盗殺人はやりすぎだよ!」

「なっ、退避!たいひいいいいい!!」

 

ダイナマイト投げたと思ったクリスのおかげで陣形が完全に崩れて突破できるな。

やはり騙すならまずは味方からだな。

 

「お頭!ぼおっとしてないで行くぞ!」

「えっ!?そっちは爆弾が!!あれ?煙?」

 

俺が投げたのはダイナマイトに見せかけたただの煙幕。

無害なのに、面白い程逃げてくれて助かった。

煙幕の後に、払い除けて強行突破する必要が無くなったし、これは楽だ。

とは言え勘のいいやつが一人くらい入る者だ。

警戒していると屋敷で見た勘の鋭いおっちゃんがそこにはいた。

 

「これは煙幕か?はっ、図られた!風を起こせる者は、早くこの煙幕を何とかせい!このままじゃ逃げられる!」

「あばよ、とっつぁん!」

 

去り際になんちゃってスタングレネードを持ってる分全部投げつける。

見た目が同じだから、さっきと同じ煙玉だと思って誰も避けていない。

魔法使いが風を起こして、煙幕を払っているけど、全く意味は無い。

機動隊達はドヤ顔して総員が固まってるけど、そのおかげで効果が最大限発揮された。

とっつぁんも騙されてくれて助かった。

 

「「「うわあああああああ!!目がああああああああ!!」」」

 

これで完全に撒けた。

警察官のほぼ全員を無力化に成功した。

後は何とか安全地帯に逃げないと。

 

「助手君って本当に悪魔的だよね」

「誰のおかげで助かったと思ってるんだ?」

「それはそうなんだけどやり方がね?」

 

何が問題だったのか知りたい。

俺の持てる武器が最大の効果を発揮して、警察を無力化出来たというのに。

と、そんなことは置いといて、変装を解き、無事に着替えも完了した俺たちは街から抜け出す為に、馬車の席を確保しようと駅にやってきた。

 

「すみません。夜行便出てませんか?」

「今日はダメだよ。何でも貴族の屋敷に巷で有名な義賊が入ったらしくて、旅客便は全て欠便でね。全く、商売あがったりだよ。ここの関所は賄賂も効かねえし困るんだよ。王都でさえ身元さえ問題なければちょっと金積めば早いってのによ」

 

馬車に乗って街からの脱出を図るも失敗だった。

御者のおっちゃんには申し訳ないことしたなと思う。

てか、やっぱり商人とかしてると賄賂とかあるのな。

街の外へ脱出不可能と悟った俺達は急いである場所に向かった。

 

 

 

「ゆんゆん!開けて!ゆんゆん!はぁ、はぁ」

「クリスさんにカズマさん?どうしたんですか?こんな時間に」

「頼む、泊まる場所を探し回ったけど見つからなくて、外が何だか騒がしくて眠れないから、巻き込まれる前に走って来たんだよ」

「どうぞどうぞ」

 

何とかゆんゆんの宿泊している宿まで辿り着いた俺達はここに身を潜めることにした。

とんだ災難だった。

でもまあ、これでミッションコンプリートならそれでいいや。

次の街で終わりだろうからこのままゆっくりしよう。

 

「ゆんゆん、突然で悪いんだけど、紅魔の里まで転移魔法で移動したいんだけど大丈夫かな?」

「大丈夫ですけど、どうしてですか?」

「泊まる場所がないからめぐみんの家に泊めて貰おうかなって」

「分かりました。一旦外に出ましょう」

 

ゆんゆんの指示に従って、外に出て、待機していると警察官がやってきた。

こっち指して銀髪がどうのとか言ってるから早くしないと不味い。

 

「ゆんゆん悪い。急いでくれ、眠気が凄いから」

 

詠唱中のゆんゆんはただ頷くと高速詠唱を始めた。

これで何とか間に合うだろう。

 

「そこの君達少し話を」

 

と声を掛けられたが詠唱に集中しているゆんゆんにその声は届いておらず、魔法が発動した。

 

「『テレポート』ッ!」

 

後から聞いた話によると、都市封鎖後にローラ作戦でも見つからなかったため、義賊の仲間の魔法使いが街にいて、テレポートで逃げたことになっているらしい。

間違ってはないけど、ゆんゆんは何も知らないからな。

因みに俺たちは単に、転移した三人組と思われているのだとか。

ゆんゆんの隣の部屋で寝ていた両名が俺達が寝る場所が無くて、騒ぎがうるさくて野営もままならないと話していたと証言して、それがそのまま認められたらしい。

何でも、夜中に騒々しいと警察にクレームが大量に入って対応に追われて、犯人探し所では無くなったと聞く。

まあ、何はともあれ、無事に紅魔の里に到着して俺もクリスも安心していた。

こんな時間だと流石にめぐみん家に飛び入りで行くのは迷惑だろうとクリスが直前になって言い出したので、今日はゆんゆんの家に泊めてもらうことになった。

寝る前にクリスから最終目的地は紅魔の里だから、旅はこれで終わりと告げられた。

やっとこのハチャメチャな旅も終わりか。

役得な事が多かったから残念な気持ちも無くはないけど、アクアとダクネスがしでかしてないか心配なのもまた事実。

後は里で一仕事して終わりだな。

あっ!

ゆんゆんの家に来て安心して、クリスから膝枕してもらう約束してたの忘れてた!

・・・里にいる間の何処かでやってもらおう。

今はゆんゆんの家だから自重することにした。




次回の更新はカズめぐしているやつで、更新日は未定です。


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あらぬ疑い

大変お待たせしております。
今回はカズクリが紅魔の里で活動します。


警備と警察に追われて、何とか逃げ切った俺たちはゆんゆんの家にて夜を明かすことになった。

ちょっと早く起きすぎたから二度寝を寝ていたのだが、誰かが俺を起こしに来たみたいだ。

 

「カズマくん。朝だよ。起きて」

「二度寝始めた所だから、あと五分」

「それってつまり目覚めてるってことだよね?」

 

ここ数日ゆっくり休めてなかったから今日くらいはふかふかのベッドでゆっくり寝たい。

聞いた話だと最後のは単に調査だけだって話だし、危険性もない少ないってことだから、それが紅魔の里ともなればもう大丈夫だろうと思ってしまう。

故にこれまでの疲れをこのふかふかのベッドで取りたい。

この旅でぐっすり眠れたのはここが初めてだからな……。

 

「ゆんゆんの作ってくれた朝食あたしが全部食べるよ?」

「どうぞどうぞ。ゆんゆんの料理は偶に屋敷で食えるから」

「そう言う問題なの?」

 

他にどう言う意味だって言うんだろうか?

ゆんゆんの手料理食べられるから来い的な意味だろうに。

 

「腹減ったら適当に買えば良いし」

「はぁ、起きないと言うならしょうがない。今すぐ起きてご飯食べることを今回の任務として命令するよ」

「まさか朝食のあと直ぐに行くとか?」

 

流石に命令と言われたら動かない訳には行かない。

だがしかし、職権乱用には毅然とした対応をするつもりだ。

 

「そうだよ?と言うかそうしても今日中に終わらないからね」

「・・・分かった。早く行こう。で、さっさと帰ろう」

「どれだけ帰りたいのさ」

 

クリスも分かってるだろうにこんなことを聞いてくる。

バニルが全員何もしないって言ってくれるならゆっくりするけども。

 

「アクアとダクネスが何かやらかしてるかもしれねえから早く帰りてえんだって、アイツらのやらかし全部クリスが責任取ってくれるならゆっくりでもいいけど」

「いや、うん。早く終わらせて帰ろう」

 

と二人でゆんゆんの待つリビングへ向かった。

何だかんだで旅の中で一番美味しい朝食は今日の朝食かもしれない。

多分、安堵感が強いからだと思う。

いくらこの後、調査があるとは言え、危険じゃないのだから。

 

「それじゃあ、今から行くよ」

「もう行くんですか?」

「早くやること終わらせて帰りたいからな。ホントはもっとゆっくりしたい所だけど」

「あっ、そうですよね。カズマさんは早く帰らないとですね」

 

バニルから何か聞いてるのか?

まあ、今更聞いた所で帰れる時間変わらないし、それなら何も知らない方が気が楽でいいよな。

 

「めぐみんに浮気疑われたらダメですもんね!」

「まあ、その、アイツに心配かけてるってのはそうだけども、別に俺とアイツは」

「はいはい。話はそこまで、これ以上いると帰れるの明後日になっちゃうよ?」

「という事だからまたなゆんゆん。色々とありがとな」

 

こうして俺達はゆんゆんの家を後にして、調査へと赴くのであった。

 

 

 

「所でどこで何するんだ?」

「この里全体の脅威査定だよ」

「査定って何だそれ?脅威なんて紅魔族だったら大半何とか倒すだろ」

「いや、どっちかって言うと神器とか日本人の作った兵器がないか調査するんだよ。で、怪しそうな伝承とか施設を探し出して回収や継続調査が必要か見るんだよ」

 

やるなら俺達が魔術師殺しと戦う前にちゃんと脅威査定して欲しかった。

てか、そうしてればシルビアとかもっと簡単に倒せただろ。

 

「・・・それ俺いらなくないか?」

「必要だよ。紅魔の里でよそ者は凄く目立つんだから」

 

その理論だとゆんゆん連れて来た方が良かったんじゃないか?

俺だってよそ者だからな。

 

「俺もよそ者のはずだけど?」

「カズマくんがこの里でめぐみんの男って呼ばれてることくらい知ってるよ。だからカズマくんに観光案内頼んでることにしたら問題ないかなって」

 

やっぱりゆんゆんの方が適任だと思う。

絶対里のこと詳しいし、次期族長ってこともあって里のための調査だって言ったら喜んで引き受けてくれるだろうに。

 

「・・・ゆんゆんに頼んだらもっと自然だろ」

「そしたら調査できないよ?」

「はぁ、で調査って具体的には何するんだ?」

 

案内役にも、調査スキルが必要ってことか。

ゆんゆんは盗賊スキルとか持ってないもんな。

器用貧乏とは正しくこのことを言う・・・

 

「サーチスキルで、神器らしき反応がないかずっとみながら街を回る感じで行くよ。ここは多分、伝承系はカズマくんがもう体験してるからその分は早いと思うよ」

「危険じゃないけど面倒だな」

「まあ、地道な作業ではあるよ」

 

ああ、この調査を俺達が来るまでにやっといてくれたら良かったのに。

俺がシルビアに拉致られることもなかっただろうに。

 

「じゃあ、先に食料買って、めぐみんの家寄っていい?」

「ルート的には最後にめぐみんの家の方が効率いいよ?」

「そうか。じゃあ、最後でいいか」

 

この選択が後々面倒なことを引き起こすことになるとは俺もクリスも考えていなかった。

 

 

 

「あっ、めぐみんの男が浮気してる」

「うわっ、最低」

 

魔力供給施設へと向かい歩いてると人聞きの悪いことを言う連中が現れた。

お馴染みの顔になってきたなこの二人。

 

「どろどろとふにふに、里によったらお前らに誘惑されたって帰ったらめぐみんに伝えといてやるよ」

「お、落ち着いて!それだけは絶対ダメ!あと、どどんこだよ!」

「そんなことしたら私達殺されちゃうよ!あと、ふにふらだから!」

「そうなると思ったから言ってんだよ」

 

めぐみんが牽制とやらをしてるって話は聞いたからな。

話したら二人が絞められることは間違いないだろう。

 

「「酷い!」」

「キミ、ホント口撃力高いよね」

「何の話だ?そうだ。二人ともこめっこの好み知ってるか?」

 

こめっこが好きな食べ物って何か色々考えたけど、何でも美味しそうに食ってくれるから全く好みが分からん。

出来れば大好物を作ってあげたいんだよな。

 

「めぐみんの男はロリコンだった・・・」

 

おっと、変態を見る目ですね御三方……。

確かに紛らわしい言い方だったけども。

 

「違うわ!飯の話だ!」

「あっ、なるほど。めぐみんの家に泊まるつもりなの?」

「そうそう。仮にこれが浮気だったらそんなことしないだろ?」

 

仮に俺とクリスのデート旅行だったとして、全く浮気では無いのだが、この里で関係否定しても意味無いどころか、この二人はめぐみんが匂わせ発言したり、私の男だと言ったりと色々否定し難い所ことを直接見てるんだよな。

 

「そりゃそうね。でまだ紹介してもらってないけど、この人が誰か聞いていい?」

「俺の師匠ことクリスだ」

「師匠って、まあ、あたしが盗賊スキル伝授したけどさ。えっと、私は盗賊職のクリス。カズマくんとめぐみんとは友達だよ。よろしく」

「なるほど。よろしくね」

「よろしく!」

 

そういやこの二人名乗りしてないな。

外の人来たら必ずやるもんだと思ってたのに。

 

「名乗りはしないのか?」

「名前間違えの訂正で言っちゃったから今更感あるからね」

「だねえ。やっぱり最初の名乗りでカッコよく決めてこそだもんね」

 

・・・紅魔族の考えなんて理解したくないのに、何となく分かってしまうのが、悔しい。

 

「所で二人で何してたの?」

「ここ来るまでに各地のダンジョン巡りして来た」

「師匠への恩返し旅みたいな感じ?」

「そんな所だね」

 

いい感じに設定を作ることが出来て良かった。

これでこの里での活動も安泰だろう。

 

「でもどうして里に寄ってく話になったの?」

「里へはクリスが観光、俺はこめっこに食料とお金をと思ってな」

「えっ、めぐみんの家にお金入れてるとかガチじゃん」

「めぐみんの男じゃなくてめぐみんの夫だった件について」

 

仲間の家に仕送りすることの何がガチなのだろうか?

と言うかどうして俺がめぐみんの夫扱いなんだ?

悪い気はしないけども。

 

「誰が誰の夫だって?」

「ささ、私達には構わずに未来の妹さんに早くご飯を持って行ってください」

 

この二人はもういいや。

ゆんゆんと一緒でそのままにしておこう。

 

「・・・お前ら、今度めぐみんが学生だった頃の話聞かせてくれたら何もなかったことにしてやる」

「「喜んで!」」

 

さてと、めぐみんの過去についてはゆんゆんがあまり話してくれないから、いい情報源を手に入れたな。

ダクネスの方は親父さんに聞けばいいけど、めぐみんの方はあまり分かってないからな。

 

「・・・バレても知らないよ?」

「俺はそれよりこの旅でクリスにされたあんなことやこんなことがバレる方が不味いと思う」

「キミ、一旦黙ろうか」

 

言って俺の口を塞ぎに来るクリスであったが、向こうからすれば口封じしてるようにしか見えない。

つまり、俺の言ってることが信憑性をますことになるわけで。

 

「やっぱり盗賊職の人って欲しいモノは何でも盗るんだね」

「めぐみんにあんたの男襲われてたわよって手紙書いとこ」

 

とまあ、クリスが悪者になりつつある。

いや、まあ、本当にこの解釈のままで居られるとそれはそれで俺も困るからちゃんと訂正は入れるつもりだけども、今はクリスの反応が面白いからほっとこう。

 

「ち、違うから!あたし何もしてないから!ちょっと膝枕とか添い寝しただけで……」

「めちゃくちゃ黒じゃん」

「真っ黒だよ」

 

墓穴を掘るとはまさにこの事を言う。

さっきまで冗談半分ぽかったのが、ガチトーンの引きになっている。

 

「いや、ほんとに何も無かったから!たまたま宿がなくてラブホテルしか空いて無かっただけだから!」

「めぐみん、あんたに同情するよ」

「いつも嫌に見せつけてくるなとか思ってたけど、こう言う人がいるからだったのか。ごめん、めぐみん」

 

クリスが喋れば喋る程めぐみんへの同情が深くなっていき、いつもの行動に原因付けされていくの面白いな。

実際はそんな事関係なく、アイツが好き勝手やってるだけなんだけども。

 

「いやいや!だから違うんだって!」

「カズマさん、誘惑に負けず、めぐみんを幸せにしてあげて」

「おう。俺は何があってもめぐみんを最強の魔法使いにしてやる」

 

もはやクリスの否定などふにふらは気にしてないようだった。

 

「ちょっと待って!カッコつけてないでキミも何か言ってよ!」

「俺が風呂上がったら出来上がったクリスが引っ付いてきて困惑した」

 

何か言えと言われたから何か言ってみた。

うん、やっぱりクリスがどんどん追い込まれていくの見てるの楽しいな。

 

「うわぁ」

「うわぁじゃなくて!あれはジュースだと思ったら違って……」

「と言うことになってるんだね」

 

どどんこの言葉にクリスは顔を覆って顰め面をしていた。

もう、助け舟出すのはいいかな。

今更否定したら逆に怪しい気がする。

 

「まあ、俺から言えることは、この旅のことめぐみんにだけは話そうとしたらクリスに止められたってことだな」

「それ今言わなくていいよね?」

「めぐみん、ホントいい男見つけたよ」

「うん。私達も頑張らないとね。それじゃまた」

 

いい男か、嬉しいこと言ってくれるな。

今度何か奢るか。

 

「またな」

「・・・めぐみんが今度里来た時にフォロー頼むよ?めぐみんにドヤされたら恨むからね?」

「じゃあ、帰ったら今回の旅について話していいか?」

「めぐみんだけだよ?」

 

言われなくてもめぐみんしか話す相手居ない。

ダクネスは多分、説教してくるし、アクアにバレたらそれこそ収集つかないことになるからな。

と言うかそれこそめぐみんが何かのタイミングで紅魔の人間と接触して、俺とクリスの話聞かれた詰問とか言うレベルじゃ済まないだろうし、起こったありのままを説明する他ないと俺は思う。

 

「所でこれいつまで続けるんだ?」

「めぐみんの家着くまでかな」

「・・・日暮れよりは早いよな?」

 

遅くなり過ぎたらただでさえアポ無しで来て迷惑かける予定なのにより迷惑をかけてしまう。

それだけは避けたい。

 

「それはまあ、泊めて貰う話しないとだからね。夜はあたし一人でちょっと気になる所調査するから大丈夫だよ」

「良かった。里ではゆっくりしたいかったからな」

「じゃあ、さっきみたいなことが起こったら直ぐに否定して、話終わらせてよ?」

 

クリスの面白い反応見れるし、クリスが訂正で粘らなければ早く終わると思う。

 

「もちろん、断固拒否する!」

 

もちろんと聞いて一瞬安心した様子だったクリスは今俺に掴みかかって来ている。

なお、体勢的には傍から見たらキスしてるように見える感じで、読唇術で見てる限り近くにいる紅魔族の人達が、こんな所で堂々と口付けするなんてとか、最近の若い人はとか、外の人って凄いねとか、アレめぐみんの彼氏じゃない?もしかして浮気現場?とか色々言われてるけど、俺は敢えて報告せずに、クリスを引き剥がして距離を取る。

 

「なんでさ!今のは了承するところでしょ!」

「俺にお約束が通じると思ったら大間違いだ!」

 

とまあ、キスの後に揉めてる感じになったことでこちら見てる人達の反応が変わっていく。

さっきよりもヒソヒソ話してる人が増えた。

多分、通信魔法使って人呼んで、テレポートでやって来たとかだと思う。

・・・紅魔族ってホント意味分からない上級魔法の使い方するよな。

 

『めぐみんの男がキスされて怒ってるし浮気じゃない気がする』

『めぐみん、ファーストキス奪われてたら可哀想よね』

『めぐみんの彼氏しっかりしてるじゃない、安心したわ』

 

と、俺の評判が上がっている。

そして、やはり里の中では俺はめぐみんの男もしくは彼氏扱いなんだなと良く分かった。

 

「はぁ、やる時はやる男だっけ?分かったよ。ちゃんとめぐみんにフォローしといてくれるならそれでいいよ」

「任せとけ。やるだけのことはやる。その後めぐみんが何するかは俺も未知数だから何の保証も出来ねえけどな」

「いや、そこは保証してよ!」

 

めぐみんと言うか、ウチのパーティーメンバー全員の行動予測なんて出来ないから何するかを保証するはずがない。

するとしたらアクアに給仕させたらほぼ100%水が出てくるってこととか、大きくて堅い目標を見つけたらめぐみんが爆裂しようとするとか、ダクネスが魔物に向かって突っ込んで行くとかそんなところだろう。

正直保証されても困る内容だけども。

 

「俺の知らない所で、俺の陰口言ってるやつを絞めてるとか誰が分かるよ?」

「・・・アレと女性冒険者への牽制はギルドで結構有名だよ?」

「は?」

 

ギルドで有名?

俺聞いたことないんだけども?

普通そう言う話って俺が何かしらのタイミングで小耳に挟むとかあると思うんだが?

 

「そもそもめぐみんの男って呼び名が広まってるの紅魔の里だけだと思ったら大間違いだからね?」

「・・・は?」

 

アイツが俺を指して私の男って言ったの紅魔族の前だけだと思ってたんだけどどうなってんだ?

まさか俺がいない所で、私の男発言してるとか?

 

「多分、街の子供でも知ってると思うよ」

「いやいやさすがに子供が知ってるのはおかしいだろ」

「よく親御さんの家に謝りに行ってるよね?」

「ああ、アイツよく子供泣かせてるからな」

 

めぐみんに話聞くと気に食わないこと言ったからとか何とか、気持ちは分かるけど相手の年齢と自分の職業が魔法使いとは言え戦闘職ってことを忘れるなと言いたい。

 

「それで、まあ、子供たちの間でとんがりボウシの魔法使いと喧嘩したらその彼氏が高級なお菓子持ってきてくれるって噂になってたんだよ」

「・・・まさかここ最近頻繁に起こってるのそれが原因じゃないよな?」

 

ガキンチョ共の間で俺が菓子くれるからめぐみんに喧嘩吹っかけようみたいなムーブが流行ってるなら俺直々にめぐみん引き連れてあのガキどもを絞めに行くぞ。

 

「それは無いと思うよ。聞いてた感じ、いくら高級菓子が手に入ると言っても、あの強烈に痛い締め上げ食らうのは二度とごめんだ的なこと言ってたし。ただまあ、めぐみんの怒りの動線をあの子たち分かってないから、毎度毎度地雷踏んでるんだと思うよ。仲良く遊んでる時もあるし」

「・・・アイツは一体街で何やってんだ?」

 

毎度毎度謝りに行くと親御さんから凄い怒られると言うよりは、もうちょっと手加減をしてやって欲しいみたいな怒られ方だったからな。

普段から遊んでるからこその話だったのか。

 

「まあ、こめっこと同じくらいの年齢の子達だから構ってあげたいと思うんじゃないかな」

「最近こめっこがめぐみんより俺たちに懐いてるからな・・・」

 

こめっこが俺たちの中で一番好きなのは間違いなくめぐみんだろうけど、会う時に真っ先にやってくるのは俺の元だし、その後もアクアに飴玉貰ったり、ダクネスの髪で遊んだり色々としてから最後にめぐみんの所へ行くからな。

めぐみんがこめっこ帰るといつも愚痴ってくる。

 

「それもあると思うよ。まあ、とにかくカズマくんはアクセルと紅魔の里じゃめぐみんの恋人って扱いだと思うよ」

「そうか。加えて、今回の旅でクリスが俺を寝取ろうとしてる冒険者って里で広まるんだな。全く、勝手に噂が広まるって怖いよな」

 

さりげなく、どどんことふにふらを抜きにして噂が広まってることを示唆しておく。

結構な人に目撃されてるから今更誰に見られたとか分からないしな。

 

「・・・それシャレになんないからやっぱり何とかして里の方で噂広まる前にあの二人に訂正してくれない?」

「多分、もうこんなに小さいコミュニティなら手遅れだから諦めてくれ」

 

田舎の情報伝達の早さを舐めてはいけない。

誰かが引っ越すとか付き合ってるとか言う情報も一日で町中に知れ渡ることになるのだから。

 

「アクセルに帰るのが怖いよ」

「安心しろ。俺も怖いから」

 

なお、怖いのはめぐみんではなく、何かやらかしてる可能性のあるアクアとダクネスによる被害金額なのだが・・・

 

「それ全然安心出来ないから!」

 

とワイワイやりながら調査続けるのであった。




就活って忙しいですね。(言い訳)
次回の更新はシリーズ時期共に未定ですが、幼馴染ちゃんは確定演出入ってます。

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pixivにてリクエストを開始しました。https://www.pixiv.net/users/17395210
書いてあるリンクからリクエストがあればどうぞ。
無くても、pixivでしか公開してないお話あるので、例にもれず駄文ですがお願いします
こんな話を書いて欲しいとか、早くこのシリーズ投稿しろやなどなどありましたら是非ご利用ください。
リクエスト始めたのはお金が欲しいから始めると言うより、お金による圧力がかかれば絶対週一投稿できるだろうなって思ったことが始めた理由です。まあ、私なんかにリクエストなんて来ないでしょうし、感想やコメントで圧力かかればそれなりの配慮はいつもしてますので、大して今までと変わらないと思いますが……
よろしくお願いいたします。


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アナログ情報社会

お久しぶりです。
就活は無事終わりましたので、卒論しばけば自由が待っています。
カズ○○が色々入っているのでお楽しみください!
間に合わせ投稿なので、いつも以上に変な所あったり、誤字多かったりするかもですが、ご容赦ください。


里の脅威査定を行っていると俺の宿敵が現れた。

しかも面倒なタイミングで。

それは遡ること数分前。

 

「にしても紅魔の里は平和だねえ」

「アクセルも随分平和だと思う。と言うかシルビア倒したから魔王軍の襲来頻度下がっただけだろ」

「カズマくん達のおかげなのは確かだね」

 

そんなつもりで言ってなかったけど、おかげとか言われてみると気恥しいな。

ふと思い返してみると実績だけは凄いもんな俺たち。

ちなみに今はお昼休憩で、草原に座って買っておいたおにぎりを食べている所。

 

「時折攻めてきてるみたいだけど、以前よりは頻度が落ちて、数もまばらみたいだよ」

「ふーん。そういや気になってたんだけど、里に神器がある可能性ってどれくらいなんだ?」

 

単純に調査するだけって気がしてきたこともあって、質問してみた。

この里に神器があったら、奉られてたり、封印されてたりしててもおかしくないからな。

 

「一割未満くらいかな」

「・・・俺必要だったのか?」

「だからあたし一人だと目立つから厳しいんだって」

 

だったらめぐみんを!と言いたい所ではあるけど、めぐみんも何だかんだで紅魔族だから、里の決まりで話せないとかって考えたら候補から外れるのか。

外部の人間かつ、紅魔族に怪しまれない協力者か。

・・・俺しか居ねえのが嫌でも理解できてしまった。

 

「神器くらい女神パワーとかで探知できねえのかよ」

「それが出来たら苦労しないよ。先輩ならやれそうな気もするけど」

「とは言えアクアから情報漏れたら困るしなあ」

「そうなんだよね。口が堅い人なら頼めたのになあ」

 

後輩に口が堅ければとか言われる女神って一体・・・

そしてそんな女神を選んでしまった俺も俺だな。

楽しようとか思うんじゃなかった!

 

「結局俺らで神器探しやら回収を地道にするしかないってことか」

「そうなるね」

「話は聞かせてもらったよ」

「「なっ!?」」

 

背後から突然声を掛けられた俺たちは咄嗟に武器に手を置いたが、相手を見てその手を下ろした。

相性が悪いとは言え聞かれて困る相手ではなかったからだ。

というか基本的に誰に聞かれてもそんなに焦ることないと言えば、ない状況だけれども。

 

「誰かと思えばめぐみんを誑かしてるダメ男だったとはね。驚きだよ」

「何だと?俺はあいつに誑かされてる方だ!この駄文作家が!」

「今の言い返すセリフとして合ってるのかな?と言うかどうして急に喧嘩が始まるのさ!?」

 

どうしても何も、俺の純情を弄んだコヤツを許す訳にはいかない!

 

「色々あったんだよ。つか何処から聞いてんたんだ?」

「話が聞こえる距離になったのは、神器探しやら回収がって所だね。基本声は聞こえていなかったよ」

「その言い方だとそれより前も近くに居たような口ぶりだな」

「君たちの行動を小説のネタに使おうと思ってね」

 

そんなことだろうとは思った。

前にめぐみんと二人で歩いてたら尾行されて、ネタ元にさせてもらったよとか言ってたし。

 

「下手なこと書くとめぐみんが黙ってないぞ?」

「それを君が言えるタチなのかい?私がめぐみんに手紙を書いたらどうなるのか楽しみだよ」

「帰ったら土産と一緒にあったこと全部話すつもりだからな。アイツに手紙書いたってなんの意味もないぞ」

「やましいことはしていないんだね?」

 

やましい事がある方が嬉しそうな表情してんな。

ほっぺた引っ張ってやろうか?

と思いつつ、俺がいじられないようにネタをぶっ込んでおこう。

 

「ここではめぐみんの実家に泊めてもらおうと思ってるくらいにはやましいことはない。俺はな。クリスに襲われかけることは何度かあったけどなんとか乗り切った」

「ちょっ!?そんなこと言わなくていいよね!なんでキミはすぐそう言うこと言っちゃうのさ!」

 

さすがお頭。

思った通りの反応が帰ってきた、

これで俺は無実で、クリスが有罪って方に話持っていけたから大丈夫だろ。

 

「これはめぐみんに強力なライバルが出来たと言う解釈でいいかい?」

「だいたい合ってる」

「違うから!全然違うから!さっきまで言い争ってたのに、なんで急に波長あってるのさ!」

 

波長があう?

この駄文作家と?

クリスは何が言いたいんだろうか?

 

「「何言ってるのか分からない」」

「え?あたしなの?あたしがおかしいの?」

「あんまり騒がしいと注目浴びるぞ?そろそろ狩りから帰ってくる人が通る時間だし」

 

目立たないように俺を連れて来てるのに自分が騒いでたら意味が無い。

と、パニック状態にあるクリスは気付いてないので、指摘しておく。

 

「よそ者と言うだけで、目立ってるからねえ。騒がしい人は余計に際立つよ」

 

あるえの言う通り。

クリスにはもう少し気をつけて貰わないといけない。

 

「・・・カズマくん、結構里のこと詳しいんだね」

「詳しいって言うか常識だろ?」

「里の子供でも知ってることだからね」

「そ、そうなんだ」

 

数回来ただけで分かる情報なんだけどな?

あるえの言う通り、誰でも知ってる話だ。

 

「そうだ。神器の場所を私が知っていると言ったら君たちはどうする?」

「・・・要求はなんだ?」

「このまま里回りを見させてもらえれば、二人がめぐみんの家に戻る前に教えるよ」

 

ネタ元になれってことか……

まあ、お金とかの要求がないから安いもんだけど、俺としてはあまりやりたくない。

だってコイツがネタにしようとしてるの、浮気ネタだろ絶対。

 

「今教えて欲しいけど分かった。それで教えて貰えるなら続けるしかないね」

「いいのか?まあ、俺は問題ないけど」

「どういうこと?里を回るだけで場所教えて貰えるんだよ?早く帰れるよ?」

「それじゃあ私はまた離れた所から観察させてもらうよ」

「分かった」

「?」

 

・・・知らぬが仏って言うし、黙っとくか。

こう言うのは取材相手が意識しない方がいい。

ドキュメンタリーの基本。

 

「カズマくんの知り合いが場所、知ってて助かったね」

「話聞かれた危機管理の方を話した方が良くないか?」

「・・・それはまた今度にしない?」

 

セキュリティの話を外でするのも問題だもんな。

とか、今クリスが先延ばしにしたであろう理由とは違うことを考えながら、あるえがどの辺にいるのか分かりもしないのに探してみる。

 

「で、どうする?三時くらいにはめぐみんの家着きたいけど」

「あと二箇所回る予定だったけど、もう食べ物とか買って、そのままめぐみんの家でもいいんじゃないかな?」

 

言われてみれば、あるえに教えて貰えるなら、里を歩き回る必要はない。

めぐみん家の食料事情をより早く解決した方がいい。

こめっこが腹空かせてるのは何とかしないと。

そんでもってアクアとダクネスが何かやらかしてないか確認しないと!

 

「そうしよう。でもって早くアクセルに帰ろう」

「・・・そんなに心配?」

「心配しかない」

 

クリスだってアイツらが何やらかすか知らない訳じゃないだろうに。

当事者と第三者じゃ全然考え方変わるのはあるけど、もうちょっと理解して欲しい。

クリスにはドMモードのダクネスが三人になったって考えて欲しい。

 

「・・・あっ、お店見えてきたよ」

「久しぶりだなここ来るの。あっ、ねりまきちゃん久しぶり!」

「お兄さん久しぶり!隣にいるのが噂のお兄さんのこと狙ってる盗賊の人?」

 

俺が浮気してる筋での広まりは無さそうだな。

俺としては問題なし。

クリスとしては大問題。

この状況放っておいても楽しいけど、めぐみんが何するかホントに検討つかないからちゃんと修正しとくか。

正しい情報広めるならねりまきに頼むのが一番だろうし。

 

「ほらな?広まってるだろ?」

「・・・カズマくん、本当にフォロー頼むよ?あたしこのままだとめぐみんに何されるか分からないんだけど」

「大丈夫大丈夫。さっきも言ったけど、俺も分からないから」

「それ全然大丈夫じゃないから!こんなことならめぐみんの同行認めれば良かったよ!」

 

今更言っても遅い。

俺は前日の昼まで全力でめぐみんを誘うように提案してた。

だって話聞いた限り、危なそうな潜入は一つだけって話だったし、これなら行けると思ってたのにダメだって言ったのクリスだしな。

もし、転生関係の話が露見したら云々とかで言いくるめられたけど、今回の旅はめぐみんいた方が良かったと思う。

クリスが自身の潔白を証明するって言う点においては。

俺としては役得な事が沢山あったので大満足。

 

「とまあ、その噂は事実じゃないから、情報修正の方頼む。めぐみん宅に食料大量に持っていく食料をメニュー代で買うから」

「めぐゆんに戻るきっかけができたと思ってたけど、違うんだね」

「俺もめぐみんも一途だからな!」

「魔道具で確かめたい所だね」

 

そんなことされたら秒でなりそう。

めぐみんは、まあ、一途だけども、俺はまだめぐみんの気持ちに答えられてないし・・・

 

「嘘発見用の魔道具なら今持ってるからお兄さん嘘言ってないよ?」

「「・・・え?」」

「お兄さん気付いてて、喋らせてたんじゃなかったんだね。というかどうして自分で驚いてるの?えっと、これだよこれ、今嘘ついたらバレバレなんだよ。例えば、お兄さんはめぐみんと仲が悪い」

 

チーン

 

「ほらね?」

「これって紅魔族が作ってたのか。ちょっと試していいか?」

 

俺知らぬ間にめぐみん一筋の男になってたのか、

壊れてないか確認しないとな。

 

「どうぞどうぞ」

「この旅でクリスに何回か襲われたが、俺は何とか耐えた!」

「ちょっ!?」

「ほう。これは面白いことになってきたね」

 

突如、横からあるえが湧いてきた。

居酒屋だから堂々と近くにいたのな。

ねりまきとあるえがクリスに対して女の敵だみたいな冷たい視線を浴びせる。

 

「違うからね。全部事故だから!」

 

とまあ、魔道具が反応しないことで、クリスの無罪が証明されたわけだが、この魔道具は使い方したいで色々楽しめるよな。

 

「だろうなあとは思ってたよ。とりあえず、お兄さん達の情報はちゃんと修正しとくから安心して」

「助かった・・・」

 

クリスはホットしたのか、イスに座ってコーヒーを飲んでる。

 

「そうだ。こめっこが好きな料理分かるか?」

「基本的になんでも美味しそうに食べてるイメージがあるから分からないなあ」

「そうか。じゃあ、適当に三日分の食料頼む」

 

こうして俺は食料を調達すると共に、謝った情報が定着しないように買収も行うのであった。

 

 

 

食料調達した俺達はめぐみんの家へと向かう。

その途中、あるえがまた姿を現した。

 

「いい取材になったよ。お宝についてはこの地図の通り探せば見つかるはずだよ」

「そうか。えっと、場所は、なあ、めぐみんの家の近くじゃねえか?」

「ああ、探すなら明日の早朝の方がいいとアドバイスしておくよ」

「なんでこんな所に?」

「その昔、封印した神器が存在すると言う言い伝えがあってね」

「もういい、その系統の話は聞き飽きた。どっかから持ってきたんだろ?」

「そうかい?なら私はもう帰るよ」

「今日は助かったよ。ありがとう」

 

 

 

「すみませーん。おっ、こめっこ久しぶりだな。食べ物いっぱい持ってきたぞ」

「・・・」

「どうした?」

「お母さ〜ん!兄ちゃんが浮気相手連れて帰ってきた〜!」

「ちょっと待とうかこめっこ!」

 

ひょいざぶろーさんは材料探しに行っていて明後日まで不在らしく、ゆいゆいさんに連れられて居間におるのだが、凄く重い空気が漂っている。

ゆいゆいさんが冷たい目をしてる。

こめっこはと言うと眠っている。

一応言っておくと、眠らされたのではなく、単純にはしゃぎすきたからだ。

 

「で、カズマさんは何しに来たんですか?」

「食料とお金を渡そうと思ったのと、泊めてもらおうかと」

 

まだ渡していなかった、めぐみんには秘密の仕送り金を渡すと冷たい視線は収まった。

次はクリスへと向けられてる。

 

「所でそちらの方は?」

「今回一緒にクエストすることになった盗賊のクリスです」

「えっと、その、よろしくお願いします」

 

ゆいゆいさんの目に怯えてか声が上擦ってる。

分かる。

ひょいざぶろーさんに詰められた時よりも断然こっちの方が怖い。

 

「娘はこのこと知っているのですか?」

「帰ってから説明するつもりです。行く前に言ったら着いてきそうだったので、危険の伴うクエストには参加させたくなくてですね」

「どんなクエストだったのですか?」

「守秘義務で話せません」

 

神器回収したり、貴族の屋敷に侵入してましたとか言える訳もなく、最もらしいこと言って交わすしかない。

 

「娘にもですか?」

「めぐみんには話せます。関係者ではあるので」

「そうですか。ではちゃんと娘に話してあげてくださいね。カズマさんこれからも娘をよろしくお願いします」

 

あれ?

思ったよりすんなり信じてくれたな?

と言うか最後の方はもう完全に娘を送り出す母の言葉だけども、聞かなかったことにしよう。

 

「分かってもらえてよかったです」

「ささ、カズマさん、お風呂入ってきてください。料理は作っておきますから」

「ありがとうございます」

 

風呂か最近ゆっくり出来てなかったし、これで疲れとれそうだな。

 

「こめっこ!カズマさんとお風呂入ってきなさい!」

「兄ちゃんとお風呂入る!」

 

親戚の家で従兄弟とか風呂入る時思い出すなあ。

いつもとは違う風呂で特別な時間っていうかなんて言うか。

 

「今度姉ちゃんに自慢する」

「こめっこ、それは止めような。アイツが二重の意味でショック受けるから」

 

この前、一緒にお風呂入ろうとめぐみんがこめっこに言った時、断られてショック受けてたし、俺と入ろうとして、アクアに見つかって失敗してたし。

とまあ、自分が一緒に入ろうとしてた二人が、知らぬ間に混浴してたらダブルショックだよなって話。

 

 

 

 

 

浮気を疑われた状態なのに、助手君はそそくさとお風呂に向かってしまった。

めぐみんのお母さん完全に私のこと敵認定してるのに、二人きりにして自分はめぐみんの妹とお風呂向かうってどうなのかと思うよ。

ああ、早くこの場から立ち去りたい。

 

「・・・クリスさん。カズマさんのことはどうか諦めて貰えませんか」

「はい?」

 

あまり怒った様子はなく、お願いベースだけど、やっぱり圧が凄い。

ついでに紅魔の里の調査しようとか考えずに、後日めぐみんと来れば良かったと思っても、時既におそしか・・・

 

「カズマさんが素敵な殿方だと言うのは分かります。ですがカズマさんはうちの娘が」

「あの、何か勘違いを」

 

やっぱり私がカズマくんのこと狙ってるって言う噂が広まってるのか。

そりゃあ、ちょっと質問しただけで解放するわけだよ。

自分が問題ないから疑われてないと判断して去っていったのは間違いだけど。

 

「お願いです。あの子のことを理解して寄り添ってくれるのはカズマさんだけなんです。どうか」

「・・・えっと、安心してください。あたしはカズマくんとめぐみんの関係を応援してますから」

 

チーン

 

どうしてこの里には普通に嘘つくと鳴る魔道具があるのさ!

と言うか何処が嘘なのか自分でも分からないんだけど!

 

「気持ちは分かります。カズマさんには想いを伝えてないのですよね?それでも仕事を装って、カズマさんを独り占めしたくて、娘に話さないように説得して今回のクエストを組み立てたのですよね?」

「いや、あの・・・」

 

私だってダクネスに話して置こうかとか色々考えてたし、カズマくんを独り占めなんて気はさらさらないのに……

結果として、盗みに入るからダクネスには言えない、めぐみんをついてこさせるわけにはいかないってなっただけなのに……

・・・ダクネス?

あっ!

ダクネスのこと応援してるからか!

これはなんと言う巧妙なトラップ!

 

「略奪愛はいずれ後悔しますよ?今ならまだ引き返せます」

「違います!ちょっと話させてください」

 

よし!

とりあえず略奪愛が目的じゃないことは証明できた。

ゆいゆいさんがちょっと驚いてるから、予想してなかった見たい。

 

「どうぞ」

「私はカズマくんのことを好きじゃないですよ」

 

チーン

 

あたしのバカ!

ちゃんと枕詞つけないからこんなことに!

ああ、ゆいゆいさんがやっぱりって言う表情してるよ。

略奪じゃなくて、単純にカズマくんに惚れてるライバルみたいになっちゃってるよ!

 

「無自覚だったのですか。ごめんなさい。こんな形で知らせてしまって」

「いやいやいや、あの、異性としてはぜんぜ」

「もう大丈夫ですよ。これ以上は苦しいだけですから」

 

ここは言ったもん勝ちの勝負!

早く異性としてはなんとも思ってないと言わないと!

せめてカズマくんかこめっこちゃんが戻ってくるまでに!

 

「ちょっと言うだけですから!それで全部誤解とけますから!」

「これはもう片付けますね」

 

言って、ゆいゆいさんは魔道具が鳴らないように抑えて取った。そして、それを片付ける為に立ち去ろうとする。

もちろん、それを黙って見てる訳ではなく、全力で取り戻し誤解をとくためにあたしは動いた。

しかし、ここで記憶は途絶えている。

 

「『スリープ』さて、夕飯作らないと。全く、素直じゃない子ね」

 

 

 

 

 

こめっこが風呂遊びに満足したので、上がって来たのだが、部屋には誰もいなかった。

こめっこはまだ着替えてるにしても二人がいないのはどうしてだろう?と考えていると背後から声がした。

 

「湯加減どうでしたか?クリスさんは疲れて眠そうだったので私の部屋で寝てもらってます」

「里中歩いてたんでしょうがないですね」

 

絶対この人魔法でに眠らせたよな?

口が裂けても聞けないけども。

こめっこが戻ってきたら面倒だから話が変な方向に行かないように気をつけるか。

 

「カズマさん、これ、カズマさんと娘の名前以外は全て書いてある書類です」

 

言った矢先に物凄い火力の物が投入された。

この人どんだけ俺とめぐみんを結婚させたいんだろうか?

 

「えっと、これは?」

「婚姻届です。後は当人同士の名前埋めるだけですから」

 

分かってはいるけど、脳が理解を拒んでたけど、分からされた・・・

 

「・・・俺とめぐみんまだ付き合ってすらいないですよ?ってもう一人保証人ぶっころりーなんですね」

「ええ、めぐみんの幼馴染で、カズマさんとも仲がいいようなのでお願いしました。そうだカズマさん。このポーションを飲むとステータスが伸びるのですが、如何ですか?副作用で結婚するまで娘のことしか考えられなくなりますけど問題ないですよね?」

 

前半は確かにって思いながら聞いてたけど、後半全く訳の分からないこと言ってたな。

副作用で結婚するまで、めぐみんのことしか考えられないってなんだよ。

惚れ薬が副作用のポーションって意味がわからん。

絶対製作者ひょいざぶろーさんだろこれ。

 

「問題大ありですって!普通にめぐみんへはプロポーズしますから!」

「録音しましたからね?あと、さっきのポーションの話は嘘ですよ、うふふ」

「あっ……」

「あまりにも結婚の報告遅いとこの音声娘に送りますからね?」

「・・・はい」

 

嫁ぐ先の家族に結婚するように脅されるってどういう状況なんだろうか?

と言うか俺も俺で、めぐみんにプロポーズしますとか何口走ってんだろうか。

完全に嵌められた・・・

一旦落ち着こう。

相手は年がら年中、爆裂爆裂言ってる爆裂狂で、毎日毎日俺におんぶ頼みにきて、一緒に散歩してる相手だぞ?

そんなやつと結婚したら、毎日爆裂散歩に付き合わなきゃ行けなくってあれ?

いつもと変わらなくねえか?

何なら夫婦で毎日共同作業してていいと思う。

いやいや、他にもあるぞ。

街の子供と喧嘩した時はどうなる?

嫁が大変ご迷惑をお掛けしましたって菓子折りを・・・

あれ?

仲間の所が嫁なだけで、今と何も変わらなくねえか?

おかしい。

他に何かあるはず・・・

そうだ!アイツに無駄に意識させられて、こっちだけ盛り上がって放置させるような魔性の女だ!

そんな奴と結婚したら、また俺だけ・・・

あれ?

結婚してるんだから理性抑える必要ないじゃん。

そのままイチャイチャするだけだな。

うん。

お互い駆け引きとかせずそのままするだけだな。

めぐみんが乗り気じゃない時さえ避ければ問題なし。

・・・あれ?

否定材料が見つからない。

おかしい。

何かあるはずなのに。

 

「カズマさん。夕飯出来ましたよ。ごゆっくりどうぞ。こめっこも早くご飯食べなさい」

「「いただきます」」

 

なんだろう。

さっきの話があったからか、凄く義実家にいる感覚になってきた。

ゆいゆいさんはクリスと食べたのだろう後の片付けでいなくなった。

親戚の子と二人きり。

いい子だから苦じゃないけどな。

 

「兄ちゃん。このステーキ凄く美味しい!ありがとう!」

「それは良かった。いっぱい食べな」

「うん!」

 

でも、まあ、こめっこ見てると癒されるな。

さっきまでの圧がなかったかのようにほのぼのする。

 

「あっ、兄ちゃんって、いつからこめっこの本当の兄ちゃんになるの?」

「ゴホッゴホッ、えっと、誰から聞いたんだ?」

「いつ頃お兄ちゃんができるのかよく聞かれる」

 

田舎の娯楽は少ないから、外の情報に群がるってやつか。

前言撤回、こめっことの会話でも安心は出来ないな。

何故ならここが、紅魔の里だから。

 

「兄ちゃんが本当の兄ちゃんになったら、毎日美味しいご飯食べられる?」

「嬉しいこと言ってくれるな。でもまあ、それは俺がこっちに住むってなったらそうなるかな」

「姉ちゃんとけっこん?する?」

「そういう話は大きくなってからな」

 

こう言うのは家族内で教育した方が良い奴だよな。

変なこと言わないうちに話終わるか。

 

「どれくらい?」

「めぐみんくらいの身長かな」

「わかった」

 

案外物分りがいいんだよな。

めぐみんにも見習ってもらいたい。




次回からは週一投稿に戻す決意であります。
投稿は木曜日の予定です。
次回の投稿シリーズは未定です。
幼馴染ちゃん出る可能性は大です。


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最後の一仕事

症状も落ち着いて元気になりました。
週一投稿の4週連続を達成しました!
この調子でずっと続けたいです。


めぐみんの実家に泊めてもらうことになった俺とクリスだったが、クリスは恐らくゆいゆいに眠らされた。

そして、俺はめぐみんと自分の名前以外全部埋められた婚姻届を何故か持ったままめぐみんの部屋に通された。

・・・娘不在の時に、その仲間の男を娘の部屋に通す親ってどうなんだ?

しかも勝手に書類揃えてくるし、部屋にはご丁寧にめぐみんの布団敷いてあるし、次は娘と二人で来てこの部屋でお楽しみくださいとか書いた手紙が置いてあるし……

次めぐみんと二人きりだろうが、仲間と一緒だろうがこの家来たら媚薬盛られた上で閉じ込められてもおかしくない……

ゆいゆいは冗談とか言ってたけど、ひょいざぶろー作のポーションなら多少変な作用あるかもしれないけど、あってもおかしくない。

・・・こんなことならゆんゆんの家に俺とめぐみん二人だけ泊まりに行った方がいいよな。

 

「兄ちゃん!朝だよ!」

「こめっこか。今行く」

「兄ちゃんおはよう!兄ちゃんのこと好きな姉ちゃんはもうご飯食べてる」

「・・・どういう意味だ?」

 

昨日誤解は解けたはずなんだけどな?

盗賊の姉ちゃんとかに呼び名はなると思ってたのに。

 

「銀色の姉ちゃんが兄ちゃんのこと好きだから、兄ちゃん取られないようにかんし?しろってお母さんが言ってた」

「あの人……」

 

俺は疑ってないけど、クリスは疑ってたわけか。

昨日眠らされてた理由が分かった。

 

「兄ちゃんは姉ちゃんの男だよね?」

「・・・ああ。朝ご飯だよな?早く行こうぜ」

「うん。兄ちゃん早く家族になってね」

「・・・」

 

もう、本当に義兄ちゃんでもいいんじゃかろうか。

義妹に当たる子には、好かれてるし、両親はおそらく反対しない。

・・・でも俺とめぐみんのペースとかあったもんじゃないな。

デートすらまともに成功してないし。

 

「兄ちゃん兄ちゃん」

「何だ?」

「ここに名前書いて」

「おう、任せとけ。よしこれでいいだ、ろ。あっ!?」

 

俺はこの時アルカンレティアでの出来事を思い出した。

しかし、今回は既に名前を書き終わった後で、手遅れだった。

既視感がもう少し早ければと悔やんでももう遅い。

巧妙に他の欄が隠されていた……

 

「お母さーん!兄ちゃんが家族になる紙に名前書いた!」

「こめっこ!待て!その紙をお兄ちゃんに返すんだ!」

「こめっこ偉いわね。カズマさん。娘をよろしくお願いしますね。この紙はプロポーズが済んだ時に取りに来てください。プロポーズの前でも構いませんよ」

「・・・はぁ、もういいです。預かっといてください」

 

・・・外堀埋まってる所の騒ぎじゃないぞこれは。

めぐみんがゆんゆんと二人で一時的に紅魔の里に戻るなんて話になって、ゆいゆいがこれをめぐみんに見せた日にはこれまでのめぐみんの積極性からして、デートのお誘いから役所かホテルに連れてかれる可能性は十分にある。

かと言って持って帰ってアクアなんかに見つかった日には、俺はもう後戻り出来なくなるし、ダグネスでも気まずいことになる。

総合的に判断して、預かって貰う方がいい。

どうせ俺の名前が書かれた婚姻届は里中の人が見ることになるのだろうし、諦めよう。

せめて俺たちの意思で出来る間に終わらせないといけない。

・・・この旅、クリスと色々あったのに、ゆんゆんに会ってからどんどんめぐみんとの関係進展させる方向に話進んでるのはどうしてなんだろう。

おかしいな。

ゆんゆんにクリスからプロポーズされたら即受けるとか何とか話してたのに……

これじゃあ受けられねえじゃん!

今プロポーズされてもめぐみんとかこめっこが脳に過って無理だ……

 

「はい。早く孫の顔を見たいので、よろしくお願いしますね」

 

言ってゆいゆいはこめっこと食べたのであろう食器を持って部屋を出ていった。

こめっこはと言うとクリスのことを監視してるのかずっと見ている。

 

「・・・クリス、このことは誰にも言うなよ」

「言わないよ。と言うかここまで話進んでるのに、まだ付き合ってすらないことに驚きだよ。早くプロポーズすれば?」

「簡単に言ってくれるなよ。俺としては自分の気持ちに整理がついてからだな……」

「同衾、混浴、ほぼ毎日実質デートしてるよね?こんなけやってたら、もうすることなんて限られてると思うんだけど」

 

同衾はゆいゆいに図られて、めぐみんと二人で閉じ込められただけ。

混浴はお互いに意識してなかった時期の若気の至り。

ほぼ毎日デートってのは爆裂散歩だろうから関係ない。

することが限られてらねえ……

 

「ナニに限られるのかぜひ教えて欲しい」

「・・・もうこの話はいいでしょ。ご飯早く食べて調査終わらせて帰るよ」

「へいへい。こめっこ、ごめんな。遊んでる時間ないみたいだ」

 

 

「兄ちゃんのこと好きだから独り占め?」

「違うからね。カズマくんを少しでも早くめぐみんの元へ帰してあげたいんだよ」

「姉ちゃんは寂しんぼ」

「こめっこ、それ、めぐみんの前で言っちゃダメだからな」

 

めぐみんからこめっこが最近冷たいとか聞いてたけど、これは中々辛辣だな。

俺としてもめぐみんとこめっこが仲良くしてる所を見てたいし、反抗期かもしれない。

とりあえずフォローだけ入れとこう。

 

「兄ちゃんはモテモテ」

「それも違うし言っちゃダメだからな」

「でも姉ちゃんが兄ちゃんがモテすぎて困るって手紙書いてた」

 

・・・それがクリスとゆんゆんの言ってたギルドで有名と言われてる牽制に繋がっている訳か。

しかもあまり聞かない方がいい内容聞いてしまったよなこれ。

 

「こめっこ。手紙の内容を他人に言ったらダメだからな」

「兄ちゃんは家族になる紙に名前書いたから大丈夫」

「・・・」

 

こめっこ、恐ろしい子……

ゆいゆいが教えこんだ可能性もあるけど、そんなのとは関係なく言ってそう。

 

「カズマくん行くよ。帰ってからが怖いんだからね」

「おう。またなこめっこ」

「兄ちゃん達バイバイ!」

 

もうちょっとこめっこに説明とかしてから出発したかったけど、クリスの言う通り、問題の先送りが出来るこめっこへの説明より優先しないといけないことがある。

アイツらが盛大なミスをやらかす前に帰らないと!

 

 

 

「完全にお兄ちゃん扱いだったね。カズマくん。でいつ結婚するの?」

「・・・んなことよりも、さっさと探そうぜ。こっちだろ。確かこの辺にあるって話だからな」

「ねえねえ、教えてよ。ほらほらお姉さんが聞いてあげるから」

 

先輩風吹かせてニヤついてるのすげえムカつくな。

他人事だと思って好き勝手言ってくれる。

 

「うっせえな。それ以上言ったら口塞いで、そのままお頭を花嫁にすっからな」

「・・・助手君、何か見つかった?」

 

これでめぐみん関係の弄りはもうしてこないだろう。

顔真っ赤にして固まってる。

この手の話慣れてないのに調子乗るからこうなるんだ。

 

「いや、何も。手掛かりに繋がりそうなのは、あった」

 

これまでの調査とかに比べたら驚く程簡単に見つかった。

この前の潜入で危機的状況になったのが嘘みたいだ。

特に隠すでもなく、普通に石碑と三段のお重位のサイズの黒くメタリックな箱が置いてある。

 

「どれどれ、これは紛うことなき日本語の石碑だね」

「ああ、何々……神をも殺せる究極の武器をこの下に収める。だってさ」

 

物騒な物が出てきたな。

・・・と言うかこれがあればレールガンもどき使わずにシルビア倒せたのでは?

いや、でも、レールガンのあの威力よりも上の神をも殺せるって言う表現になるくらいヤバい兵器ならなかった方がよかったのか?

 

「・・・神器探しのつもりが、神殺しの武器が出てくるなんてこの里はどうなってるの」

「いや、多分これは、紅魔族の単なる誇張した表現だろ。えっと、これを外したらシフトレバーがあるのか。それでここのレバーをシフトチェンジの容量で、三速飛ばして四速から五速に入れるっと。おっ、何か音がしてきた」

 

エンジン音みたいな駆動音と共に、石碑が右へ動いた。

恐らくこの下から神殺しが出てくるのだろう。

 

「助手君って車の免許取れない年だよね」

「クラッチとかアクセルのペダルの操作必要だったら無理だけど、レバーだけなら誰でも出来ると思う」

「・・・そういうものなの?」

「カーアクションのある映画とかアニメ見てたらな」

 

作品にもよるけど、車で魅せる作品とか数見てたら作り大体解ると思う。

海外のカーチェイスモノ映画とかドラマとかアニメとか、シフトチェンジについて触れる機会は多いし、車の運転に憧れもあってミッション車の作りについて調べてたことあるのも一つの理由だけど、レバーだけなら調べてなくても大丈夫だろう。

 

「おっ、出てきたこれが神殺しの武器か。ただのパチンコだぞこれ」

「この弾の方が特殊なんじゃない」

「まあ、そんなんだろうな。おっ、説明書だ。なになに、『これはレールガン(仮)使用に必要な魔力を圧縮した弾とそれを撃つためのパチンコだ。魔力の圧縮してみたらどうなるのかなとか思ったらパチンコ玉サイズまで小さくなった。拳銃とか作るの面倒だったから、これ使うやつは自分で銃と薬莢は調達してくれ。パチンコを使ってもいいが威力は核兵器並かもしれない。試し撃ちするのも怖いから何もせずにここに安置することにした。手に余るような武器作るやつとか絶対バカだろ。あっ、これ作ったの俺でした……またコイツか!くそっ!要らないもんばかりポンポン作りやがって!」

 

紅魔の里に日本語だからコイツだろうとは思ってよ。

思ってたけど、こんな趣味で適当に作りましたみたいな天災ムーブされても困る!

 

「ど、どうしたの急に」

「デストロイヤーとか、紅魔族とか、レールガンもどきとか、もぐにんにんとか作った迷惑転生者だよ」

「な、なるほどね……」

 

この転生者さえいなければ、デストロイヤーと戦うことになんかならなかったし、シルビア討伐で苦戦することもなかったし、めぐみんともぐにんにんを、めぐみんと?

コイツいなかったらめぐみんと会えてないのか……

存在否定はやめとこ。

 

「なんつうもんを雑な封印で片付けてんだコイツは、でも待てよ?」

「どうしたの?」

「これ魔王城に向けて撃ったら防御壁ごと倒せるんじゃないか?」

「そんなことしたら、転生前に聞いてる魔王討伐報酬はなしだよ」

 

手抜きしたらやっぱりダメか。

実際にやっていいと言われて、相手が魔族でも、核兵器級とか聞いて使う気にもならないけどな。

 

「そりゃそうか。これはそっちで処理しといてくれ」

「はーい。流石にこれ持ち歩けないから一旦天界戻るよ。助手君はテレポート屋に向かっておいて」

「分かった。めぐみんの家寄ってから向かう」

 

ゆいゆいに挨拶してなかったのを思い出したからな。

帰る前に一言挨拶しとかないと。

 

「挨拶は大事だもんね」

 

言ってクリスは姿を消した。

絶対娘さんをください的な意味で挨拶って言っただろアレ。

とりあえず空のまま再封印してっと。

 

「おい、そこで何をしている」

「何か見つけたんで気になって触ってただけだ」

「こんな道もない所に?ってめぐみんの夫じゃないか」

 

ここまで来るともう一々訂正するのも面倒だな。

いや、ぶっころりーはもう結婚したと思う情報渡されてるんだったか。

 

「こりゃどうも。書類の件は世話になった」

「まさかあのめぐみんが結婚一番乗りなんてみんな驚いてるよ」

「付き合ってすらないけどな」

「え?」

 

そりゃあ、婚姻届の証人欄を書かさせられたらとっくに結婚してると思うよな。

で、その相手が付き合ってすらないなんていいだしたら驚き隠せないよな。

 

「あれ、ゆいゆいさんの独断専行だからな。めぐみんは存在自体知らないし、俺も見せられるまで知らなかった。こめっこに仕込まれて自分の欄書いちまったけど」

「・・・てっきりめぐみんが頼んでのことなのかと思って名前書いたのに」

「俺達の結婚報告が遅かったらめぐみん宛に俺の名前入り婚姻届を送られるらしい……」

「なるほど。その、なんだ。めぐみんのことよろしく頼むよ。それはそれとしてどうしてこんな所に来たのか教えて貰えないかな。ここについては里の人間以外は知らない場所なんだけど」

 

おっと、まずい。

このままだと牢屋行きも有り得そうな聞かれ方だなこれ。

とは言え、相手がぶっころりーで良かった。

買収方法なんて簡単にある。

 

「ぶっころりー、ここだけの秘密の話なんだけどさ」

「いくら金を積まれても」

「サキュバスの運営する素晴らしい夢を提供してくれる店がアクセルにあってだな」

「その話詳しく聞こう」

「そんなに高くない金額で、望んだ夢が見られるんだ。そのサービスいつでも俺のツケで使っていいと言ったら」

 

本当に金額面はそこまで高くないからな。

紅魔の里から毎日通うなんてことにはならないだろうし。

 

「・・・よく考えたらめぐみんの夫になる人物なら紅魔族も同然。ここのことをめぐみんから聞いて気になって見に来たに違いない。さっ、早くテレポート屋に行ってアクセルに行こう兄弟」

「行こう行こうと言いたい所なんだけど、ゆいゆいさんに挨拶してから帰るつもりだからちょっと待って欲しい」

「分かった。テレポート屋で待ってるよ」

 

ふー、何とかなった。

あるえが条件付きとは言え普通に教えてくれたから油断してた。

アラーム的なの仕掛けられてんだろうな。

来たのがぶっころりーで良かった。

とりあえず今はめぐみんの家に向かわないと。

 

「あらカズマさん。こんな所でどうされたんですか?」

「ゆいゆいさん丁度いい所に、俺もうアクセルに帰るので挨拶に戻ろうと思ってたんですけど、道が分からなくなって」

「この辺は獣道が多くて迷い易いですからね」

 

特に疑われては無さそうだな。

ある程度石碑の場所から離れていて良かった。

 

「泊めてもらってありがとうございました」

「いえいえ、カズマさんは私達の息子ですから、家族とその客人を泊めるのは当然ですよ」

「・・・テレポート屋はどっちですか?」

 

もう訂正するのがどうでも良くなってきた。

とりあえずアクセルに帰ろう。

帰ってちょむすけに癒されながらベッドで寝よう。

 

「ここを真っ直ぐに進めば道に出るので、そこを左に曲がって道なりに行けば街が見えてきますよ」

「ありがとうございます。・・・仕送り俺もするんで婚姻届は送らないようにお願いします」

 

この旅での出費、路銀よりも買収の為の経費の方が高いんじゃないか……

しかも神器回収隠蔽の為に支払ったのよりも、私的な関係維持のための買収に支払う方が高そうなのもおかしい……

 

「ありがとうございます。これはカズマさんが受け取りにくるまで大切に保管しておきます」

「・・・お願いします。ではまた」

「今度は娘と二人で来てくださいね」

 

めぐみんと二人で来るのは止めといた方が良さそうだな。

何か企んでるのは間違いない。

今度来る時は宿屋に泊まる方がいいなこれは。

と次来た時のことを考えながら、テレボート屋へと歩き始めた。

 

 

 

 

テレポート屋の近くに来るとクリスとぶっころりーがお互い少し離れた所で俺を待っていた。

先にクリスが俺に気付き、俺の方へ駆け寄って来た。

それを見てぶっころりーもこちらに気付いたようで、こちらへ向かって歩き始めた。

 

「遅かったね。こめっこちゃんと遊んでた訳じゃないよね?」

「ちげえよ。色々あったんだよ。なっ、兄弟」

「おう兄弟。所でそこの女性は誰だい?」

「里で噂の俺を狙ってる女盗賊」

 

これ程に楽な説明はない。

ぶっころりーが警報に呼ばれて来たってことは、高確率で昨日はねりまきの店へは行っていない。

つまり、情報は更新されていないだろうからな。

 

「ああ、そう言えばねりまきがそんな話してたっけか」

「ちょっと待って!違うから!それに情報の修正するって話だったよねカズマくん」

「俺たちが行くまでは修正前の話を広めてたんだろうよ。だからこそねりまきに修正の依頼した訳だし」

 

この里において情報が最も集まる場所だからなあの店くらい。

最初の話も同級生経由で聞いたねりまきが広めたと考えるのが普通だろう。

そこを理解せずについて来ていたのかこの人。

 

「噂が事実じゃないのは君達の会話で察しはつく。それより早くアクセルに行こう」

「話の分かる人でよかった。あたしはクリス。よろしくね」

「我が名はぶっころりー!紅魔族随一の靴屋のせがれにして、自由を追い求めし者!」

「紅魔族一の靴屋ってすごいね」

 

そこに凄いと思ってる時点で紅魔族への解像度が低いな。

・・・高くても嬉しくはないけど、まあ、俺を連れて来たのはやっぱり正解だったのかもな。

 

「里に一軒しかないんだろ?」

「そうさ。だから早く継げ継げとうるさく言われてるのを断固拒否しいる所でって、そんな話よりも二人分のテレポート代を貰おうか」

「はいよって、なんでお前に渡すんだ?」

「それはこういうことさ。『テレポート』」

 

お前テレポート屋で働いてたのかよ!

これ、お金払わなくても良かった説ないか?

だって明らかにテレポート屋より離れた所で、転移してたし。

 

「いやあ。お金がなくなってきてたから助かった助かった。めぐみんによろしく言っといてくれ。あと、例の店の件また今度頼む。まだ任務が残ってるからね」

 

やっぱりか……

図られた……

去り際にそんなことを言われた。

 

「・・・さてと、帰ってきたことだし、クリス。俺はさっさと屋敷に戻ってアイツらがやらかしてないか確認してくる」

「分かったよ。めぐみんへの説明頼むよ。何かされたら恨むからね。またね」

「俺じゃなくて俺の提案蹴った過去の自分を恨め。やれるだけのことはやってみる。またな」

 

こうして俺とクリスの旅は終わりを告げた。

しかし、これは終わりであって始まりである。

事後処理と言う名の地獄の。




このシリーズの次回作はカズマさん帰宅後のお話になります。
その後は、以前のように別の読み切りとか投稿します。
次回のシリーズは●●を!です。
カズめぐ確定拠出です。


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旅の代償

遅くなりましたすみません……
色んなシリーズでどれが筆のるかやってたら、全部中途半端に出来て、時間かかりました……
今回はなんと、9999字でした!?


クリスとの義賊活動が無事?終了した俺はやっと屋敷に帰ってこれた。

バニルからめぐみんは大丈夫と聞いているから、アクアとダクネスが問題を起こしていないかが気になるが、どうなんだろうか。

何も無いといいんだけどな……

そんなことを思いながら帰っていたら城壁の近くから爆裂音がした。

そう、間違いなく爆裂魔法の炸裂した音だ。

めぐみんはやらかさないって話じゃなかったのかよ!

くそっ!あのバカ何やってんだ!

まさか、俺が街に戻ってからやらかすからゆんゆんの監視はいらないとかバニルが思ってたとか?

もしそうならアクアを嗾けよう。

全速力で音の鳴る方へと走った。

現場に到着すると親方達に囲まれるようにして地面に伏しためぐみんがいた。

俺はすぐさま親方の元まで走り、土下座して言った。

 

「ウチのバカがすみませんでした!お詫びにお金と俺とアクアとコイツとで作業手伝います」

「・・・おお、お前さん帰ってたのか。彼女を連れ帰ってくれればそれでいいぞ」

「いやでも」

 

明らかに城壁の一部が壊れてるし、これは弁償金額も結構なことになりそうだ。

それをめぐみん連れ帰るだけでいいって、意味が分からない。

土下座を続けたまま、めぐみんの方へと視線をズラす。

するとめぐみんもこちらを見ていて、呆れ顔で言った。

 

「何勘違いしてるんですか?私は依頼されて爆裂魔法を使ったのですよ?ちょっとは信頼して貰いたいですね」

「・・・え?」

「全く、帰ってくるなり活躍してる私にバカ呼ばわりとは、失礼極まりないですよ。あっ、おんぶお願いします」

 

・・・依頼でやってたのか。

それは仰る通り失礼なことを言ってるな。

うん。

バニルの言葉を信じとけば良かった。

 

「悪い。てっきり俺に会えなくてむしゃくしゃしためぐみんが遂にやらかしたのかと」

「まあ、カズマに会えなくてむしゃくしゃしてたのは事実ですけど。いくらなんでもそんなことしませんよ。ダクネスみたいに……」

 

話を聞きながらめぐみんをおんぶする。

ちょっとくらい照れるかなとか思ってたけど、全然照れてないな。

魔性のめぐみんは伊達じゃない。

てか今何か気になることを言ってたような。

 

「・・・お前、今何つった?」

「ダクネスが魔物売りから生きたところてんスライム買ってきて、自分の部屋で、スライムを誤ったのか故意なのか、出してしまって、大惨事でしたよ。アクアのおかげで浄化して済みましたが」

「・・・屋敷の中だけなら大丈夫。か?」

 

人様に迷惑かけた訳じゃないなら、お土産渡してもいいか。

もちろん、他にやらかしがあったら渡さないけども。

 

「いえ、ご禁制のところてんスライムを買ったことが親父さんにバレて、今は実家で軟禁されてます。カズマが帰ってくるまではと」

「そ、そうか。もういっそ、向こうで更生するまで引き取って欲しいんだけど」

 

何故俺が帰ってくるまでの時限式なのか。

これは俺が居ないが故の過ちだとしか認識してないのだろうか。

俺いてもやらかす時はやらかすと、一度親父さんとは話し合う必要があると思う。

はぁ、これでお土産はなしだな。

今度の誕生日プレゼントまで、置いておこう。

親父さんとこには、菓子折りでも持っていこう。

 

「それはダクネスをパーティーから追い出すのと一緒ですよ?」

「めぐみんから見ても更生は無理だと?」

「スライムまみれになって、カズマには到底見せることの出来ない蕩けた顔してたダクネスが更生できると思いますか?」

「その話詳しく!」

「・・・これ以上は話しませんよ」

 

ダメか。

ダクネスがナニしてたのか凄く気になるんだけども。

俺に見せることの出来ないって所が物凄く気になる。

 

「因みにアクアはいつも通りでしたよ」

「そうなのか?アイツが一番人様に迷惑かけてると思ってたんだが、違ったのか?」

「もちろん、やらかしてますよ。いつも通りと言ったじゃないですか。カズマがウィズに監視を頼んでたおかげでマシでしたけど」

「・・・なあ、めぐみん、このまま二人で紅魔の里行って、暮らさないか?」

「とても魅力的な誘いですけど、責任から逃げたいだけなのが丸見えなのでダメです」

 

ダメかあ。

俺としてはもう帰りたくない。

だって!アクアがいつも通りだとすると借金作ってるだろ?

多分、俺の口座からいくらか引き落とされてるんだよな……

どうしてくれようか……

 

「・・・でめぐみんは俺が居ない間何してたんだ?」

「私は何もやらかさずに……いえ、カズマのこと悪く言ってた子供を数人絞めたのと、同じくカズマのことをバカにしてた冒険者をボコボコにしたことは先に謝っておきます」

「・・・めぐみん、よくやった。ただ、子供の親御さんとこには謝りに行くから着いてこいよ」

 

これくらいならバニルの言ってた通りやらかしてないか。

いや、まあ、本当は何一つ起こしてないの想定してたんだけども。

うん。

だってコイツめぐみんだもんな。

 

「わかりました。怒らないのですか?」

「俺の為だろ?だったら別にいい」

「そうですか。私が何していたかですよね?」

 

特に照れるでもなく、普通に返してきたな。

ある意味クールな魔法使いだと思う。

普段が短気じゃなければ……

 

「ああ、それが聞きたい。俺の話は一応、アクアとダクネスからめぐみんの話聞いてからな。ほら、やらかした奴には土産話もしないって言ってたろ?」

「基本は屋敷でカズマが帰ってくるの待ってましたよ。街を歩いてたらカズマが監視頼んだせいでゆんゆんに付け回されたので、屋敷でのんびりと過ごしてました」

「爆裂散歩はどうしてたんだ?」

「最初はダクネスに頼んでたのですが、連れて行かれてしまってからはアクアにお願いして着いてきてもらいました。そう言えばゆんゆんが尾行してる気配がしなくなったのですが何か知ってますか?まさかゆんゆんが途中から盗賊職の人雇った訳じゃないですよね?」

 

俺もゆんゆんに会うまでは監視やめてるなんて知らなかったし、めぐみんからしたらゆんゆんの隠蔽スキルが上がったとか盗賊職の人が手伝ってたとかそういう話になるのか。

 

「ゆんゆんなら旅の途中であったぞ。バニルからめぐみんは俺のことが心配で何もしないって聞いたら切り上げて里に向かってたらしい」

「・・・あの悪魔何言ってくれてるんでしょうか。まあ、そうですね。この後話してくれるであろう内容を心配してました。心配で夜しか眠れませんでしたよ」

「その、心配かけたな。これ、お土産先に渡しとくよ。夜しか眠れない程か…爆裂散歩のあとも?」

 

普通に考えると寝られてるだろと思うかもしれないが、めぐみんの場合爆裂散歩の後は高確率で眠っているから、それが無いのは気になる。

 

「いいんですか?アクアとダクネスの話聞かなくて。爆裂散歩の後は全く眠れませんでしたね。やはり、カズマじゃないと満足出来ない身体になってるみたいです」

「・・・どの道めぐみんには全部話すつもりだからな。でも、そうだな。お土産はみんな揃ってからにするか。あと、誤解受けそうな言い方はやめろ」

 

クリスからも話しといてと言われてるし、俺としても話しておかないと色々と怖い。

特に紅魔の里から手紙が届いたりしたら……

クリスが泣く羽目になる。

 

「二人には話さないのですか?あと、私は事実を言ってるだけですよ?カズマの採点がないとムズムズしますし、カズマの背中じゃないと落ち着かなくなりましたし」

「片方は面倒事にしてくれるし、もう片方は説教されるだけだからな。よし分かったから、それ以上は言うな。あと、人がいる時にそういう言い方はするな」

 

こくりと頷くとめぐみんはなんでもないかのように会話を続けた。

俺はもっとこう深い問題の話してるはずなんだけども。

特に外聞に関わる重要な……

 

「私の予想通りの活動してた訳ですね。今度またと言う話は何処に行ったんですか?」

「今度ダンジョンに行く予定出来たんだけど、めぐみん来るだろ?」

「いやですよ。ダンジョンなんて私の存在価値皆無じゃないですか」

 

俺は覚えている。

めぐみんがこのパーティーに入る時に言ったあのセリフを。

 

「荷物運びでもなんでもするってパーティー入る時言ってたよな?」

「・・・今夜カズマの部屋に行けばいいんですか?」

「いや、時期は追って連絡するから…」

「いえ、なんでもするの方でカズマの部屋にですね」

 

こ、コイツはあれか?

脅しに使ってたヌルヌルプレイでもなんでもって方をやろうとしてるのか?

いやいや、そうと見せ掛けて俺をからかうつもりかもしれない。

魔性のめぐみんめ!

 

「めぐみん、カズマの部屋で何するの?」

「あ、アクア!?えっと、カズマから土産話を聞くためにそのですね」

「怪しいわね。私に内緒で美味しいお菓子二人で食べるつもりじゃないでしょうね?」

「グルメ関係でお前に黙って食べることはそうないぞ。てかお前、俺が居ない間も色々とやらかしてたみたいだな」

 

アクアへ仮に黙ってるとしたら、自分の分しか手に入らなかったとか、その場にいる人間で食べきらないと鮮度や賞味期限が切れちゃうとか、そういうの以外はちゃんと情報共有して食べてる。

 

「私は何もしてないわよ。ちょっと、酒樽の一つや二つ水に変えちゃったり、宴会芸でギルドの備品数個を消しちゃっただけだから」

「完全にやからしてんな。おい。お土産のお酒はなしだな」

「カズマさんってそこはかとなくイケメンよね」

 

露骨だ。

露骨過ぎるご機嫌取り。

しかも逆効果な部類の……

いやまあ、的確な気遣いとか出来たらそれはもはやアクアでは無い気がするけども。

 

「煽てても何も出ないし、そんな煽て方で誰が乗るよ」

「魔剣の人はこれでお金くれたわよ」

「・・・アイツと俺を一緒にするな。てか金貰ってんのかよ」

 

ミツルギとかセシリーがコイツ甘やかすから付け上がるんだよな。

ウィズもだけど、ウィズの場合は自分の生き死にに関わってるのもあるし、止めろとはあまり言い難い。

だがしかし、前者二人には是非とも甘やかすのをやめて欲しい。

言っても聞かない二人なのが悩ましい……

 

「そのお金で、酒樽代とギルドの備品代は何とかなったわ」

「・・・本当なのか?」

「はい。アクアのやらかしはそれくらいで、全部解決済みです」

「そうか。じゃあ、魔剣の人に免じてお土産をやろう」

 

想定よりもやらかし度合いが小さくて助かった。

いや、アクアのは偶然金ズ、じゃなくて親切な冒険者がいただけだから、やらかしてはいるか。

ダクネスのも、親父さんに話つけてたから、それ以上のことにはなってないし。

 

「カズマさんありがとね。どんなお酒なの?」

「まだ俺も飲んでないから分からない。それよりもダクネスを引き取りに行くか」

 

とダクネスの実家までやってきた俺達だったのだが・・・

屋敷に着くなり帰りたくなった。

 

「お嬢様落ち着いてください!これも貴族として必要なお茶会なのですから!」

「どうして私がこんな服を来てお茶会にでなければならないのだ!もう少しフリフリの着いていない服もあるだろう!」

「お嬢様への罰だと旦那様が仰られてますので、お諦めください!」

 

絶対に関わりたくはないけど、見てる分には楽しいといつもギルドで言われているのを実感している今この頃。

執事とかメイドさんとか大変そうだな。

と考えながらカバンに入れてた魔道カメラを取り出して俺はシャッターをキった。

 

「こんな服着てるのを見られて見ろ。ララティーナと言ってアクア達に…」

 

カメラを構えた俺を見て絶望の表情に変わるララティーナに追い打ちをかけるべく、その表情もまた一つカメラで記録させて貰った。

そして、なんとこの魔道カメラ最新型でチェキのように即現物が出てくる仕様なのだ。

つまり、この写真をさっきララティーナが言っていた人物に渡せば面白いことになる。

 

「よう、ララティーナ。愛しのカズマさんが帰ってきたぞ。アクア、この写真ギルドで広めてこい」

「分かったわ。大量に複製して最速で広めてくるわね」

「ま、待て!何が愛しのカズマだ!おい逃げるな!それとその写真は絶対に見せるな!お前達あの二人を取り抑えろ!」

 

とララティーナちゃんが言ってはいるが誰一人として命令に従うものは居なかった。

多分、この後で回るであろうララティーナちゃんの写真後で欲しいんだろうな。

みんなララティーナちゃんの方見ないようにしてるし。

 

「まあまあ、落ち着いてくださいよ。ここに居ることになったのはダクネスがあんなことしたからですよ?ね?私の愛しのカズマ」

 

途中までナイスフォローだと思ってたのに、急にこの子ぶっ込んでくれたよ!

使用人さん達が、お嬢様ドンマイとか口パクしてるのはちょっと意味が分からない。

だってめぐみんが勝手に言ってるだけだからな。

俺の矢印が誰に向いてるかなんて一切話に出てないからな。

因みにアクアはもうこの場に居ない。

 

「よし、めぐみん、お前は一旦黙ってろ。アクアが写真ばら撒くの見逃してくれたらお土産あげるぞ」

「な、なんだその脅しは!私はお土産なんぞで釣られる女では無い!」

「そうか。折角、クリスの花柄のティーセット見つけたのにな。残念だ」

 

流石にクリスと言う名前が出てきた以上反応するか。

さっきまでの戦闘モードから変わって動揺してる。

 

「待ってくれ。その話詳しく…」

「めぐみん。ダクネスはまだ反省してないし、更生の見込みもないみたいだから帰ろう」

「そうですね。教育は家でやってもらわないとですね。私達は帰りましょう」

「スライムの件は本当に悪かった。それにアクアについても見逃すから人をもう手遅れみたいな言い方はやめてくれ!」

「「手遅れじゃないと?」」

 

期せずしてハモった。

ダクネスが手遅れじゃないならどこからが手遅れだと言うのか聞きたい。

実際に神器がダクネスの手に渡ってた時は、親父さん全面協力になるくらいには、手遅れだと思う。

イグニスさんの心労を考えるといたたまれない気持ちになる。

 

「・・・なあ、二人とも私の事どう思ってるのだ?」

「「変態」」

「・・・分かった。二人の認識はよく分かった。しかし、淑女としてその発言は」

「ところてんスライムまみれになって興奮してた人に言われても説得力皆無ですよ。セシリーがマシに思えましたし」

 

めぐみんが言うセシリーの方がマシは重みが違うな。

いや、まあ、実際にやばさ度合いで言ったらダクネスの方が犯罪臭のするヤバさあるけども。

 

「ちょっと待ってくれ、アクシズ教のレベルは超えてないと思うのだが…」

「いや、セシリーとだったら明らかにお前の方が上だぞ?」

「・・・」

 

普通に考えて、美少女のことを性的に好きな奴と、男やモンスターに無理やり襲われることを理想のシチュエーションとしてる奴どっちがマシかと聞かれたら圧倒的に前者だろう。

ここに、アクシズ教とエリス教の情報を入れて初めて、前者が問題性高くなるくらいだ。

 

「お嬢様、もう少し淑女らしい振る舞いをお願い致します」

「くっ」

「そうだ。ダクネス。逆にめぐみんが何かやらかしてないか知らないか?」

 

一応、相互監視的な意味で、めぐみんが完全にダクネスを売ってるこの状況下で庇うなんてことはしないだろうから聞いてみる。

めぐみんに関してはゆんゆん経由のバニル情報からそこまで心配はしてないけども。

 

「・・・めぐみんか?私が屋敷にいる間は、カズマの部屋の周りで時たま見かける以外は特に普段と変わりはなかったぞ」

「・・・それを言うとダクネスもカズマの部屋の周りで何かしてましたよね?」

「お前ら俺が居ない間に部屋入ったりしてないよな」

 

二人の顔を見ると全く目を合わせようとしない。

コイツら入りやがったな。

しかも、目を逸らす時点で何かやらかしてるだろ。

 

「おい、お前らなにしたか言ってみろ」

「アクアの作ってた人形を回収しただけで他は何もしてないぞ。一緒に入ったゼル帝がカズマの日記を落として、中身を見てしまったりはしてないぞ」

「そうですよ。アクアが自分だけ守った着脱式フィギュアを回収しただけで、カズマのベッド上でびっくりしたちょむすけがトイレしちゃったりなんかしてませんよ」

 

人に迷惑かけるなと言う所は全く破られてないけど、めぐみんも結構やらかしてるなこれ。

はぁ、やっぱりまともなやつとか居ないなウチのパーティー。

とは言え、自分のフィギュアが勝手に作られてたら回収したくなるのはよく分かるけども。

 

「・・・お前らホントなにやってんの?てかフィギュア返せよ」

「「断固拒否する!」」

「はぁ、でも誰かに迷惑かけてないならいいや。めぐみん先帰っててくれ、ダクネスから見たアクアとめぐみんの話聞きたいから」

「分かりました。夕飯作って待ってますね」

「おう。それまでにはアクア連れて帰るわ」

 

めぐみんを見送った俺はダクネスに話を聞く。

と言ってもダクネスが軟禁されるまでの話しか期待できないけども。

 

「で何か二人がやらかしてる話さっきの以外でないか。アクアのは酒樽とかは聞いてる。分かる範囲で教えてくれ」

「では、アクアはそれくらいだったと思うぞ。めぐみんは色々とギルドから暴力事件について呼び出されていたと思うが、まあ、いつも通りではあったな」

「それは本人から聞いてるのと変わらないな」

 

ダクネスからは情報が聞き出せそうにないか。

監視役のゆんゆんがバニルのせいかおかげか街から離れてたからウィズにしか聞くことが出来ない状況か。

 

「私が実家に連れられるまでは大体そんな感じだったぞ。買い出し以外は基本的に屋敷から出ていなかったからな」

「・・・とりあえず、ヤバい案件はなさそうでよかった。俺は親父さんと話してくるから先帰っててくれ」

「分かった」

 

親父さんにお詫びの品を持って来たのに、逆にいつもこんな娘を抑えてくれてありがとうと高級酒を貰ってしまった。

話を聞いた限り家でも色々とやらかしてたみたいだけど、まあ、身内での問題は聞かなかったことにしよう。

 

 

 

俺はアクアを呼びにギルドに来ていた。

そして、アクアが壁サークル並の列を作ってるのを発見するに至る。

売り子はセシリーがやってるのか。

ウィズは、これを問題なしと判断したのか、それともこの二人に押し切られたのか……

後者だな。

ギルドの机に突っ伏してぐったりしたウィズを見つけたし。

 

「あっ!カズマ遅かったわね!見てよこの儲けを」

「これ全部ダクネスの写真求めてんのか?」

「違うわよ?カズマを巡るめぐみんとダクネスの恋愛バトル本よ?めぐみんとダクネスを支えるゆんゆんとクリスも出てくる作品で、みんなカズマのことはどうでもいいけど、気になってはいるのよ」

「・・・ちょっと読ませてくれ。あと、最後の一言はいらない」

 

勝手に俺のことで商売しやがって全く。

俺を取り合う話じゃなかったら引っぱたいてたぞ。

 

「一冊千エリスよ」

「ネタ元なんだからタダでよこせ。えっと、なんで俺の本命お前なんだよ!ふざけんな!俺のメインヒロインはエリス様一択だろ!」

「ちょっと人の作品にケチつけないで!ちゃんと※で実在の人物とは一切関係ないかもしれませんって書いてるでしょ!あと、あんたとエリスが釣り合うわけないでしょう」

 

何が嬉しくてアクアを本命にしなきゃいけないんだ。

今すぐ全品回収してエリスに変更させたい。

 

「かもしれませんってなんだよ。関係ないって書いとけ。喧嘩なら買うぞ・・・」

「あっ、そうだ。これがダクネスの複製のやつよ。こっちはお金とってないわ」

「これは貰っておこう。でこの本最後はどうするつもりなんだ?」

 

内容としては普段の生活を多少脚色して、一部捏造があるくらいだけども、

 

「終わりの方に書いてるじゃない」

「終わり?・・・この先の展開は現実でお確かめください?おいこら、実在の人物もろ関わってんじゃねえか」

「だからかもしれませんって書いてるじゃない。ちょっとケチつけてばかりいるなら、そろそろ完売しそうだからそれ寄越しなさいよ」

「・・・ああ、いいぞ」

 

こんなクソみたいな終わり方なのにみんな並んでるのか。

いや、無料配布のララティーナの可愛い写真目当てだなこれ。

完売って話出たのに列が無くなってないし。

 

「はい。次の人で完売です!後ろのみんなはこのララティーナちゃん生写真だけで我慢してね!」

「にしても凄いなこの列。完売するほどってことはもっと並んでたんだよなって、あれ?クリスお前何してんの?」

「何ってダクネスの生写真貰う列でしょこれ?」

「そうだけど最初は同人誌販売だったぞ」

 

まあ、クリスがあんなよく分からない本買うとは思えないし、さっき完売したからクリスは持ってないよな。

と思ったのが悪かったのか、クリスはカバンから俺が表紙に乗ってる本を出した。

 

「これのこと?」

「・・・なんで買ってんだよ!」

「さっきまでカズマくんが持ってた最後の一冊はあたしが買ったんだよ。なぜかについては、カズマくんの日常が知れるからだよ。今は写真があっ、アクアさん、あお二枚お願いします」

「いくら、クリスでも一人一枚だからね」

 

ちゃんと個数制限がかかってるらしい。

と言うかよく考えたらこの短時間でこんなに複製したのか。

漫画の方は俺がいない間に暇潰しでつくってたんだろうけども。

 

「・・・カズマくん一緒にもう一回並ばない?」

「一人一枚俺もクリスも貰ってんだからそんな転売ヤーみたいなことはできねえよ」

「だってこんなフリフリの服着たダクネスの写真なんて滅多に手に入らないし、保存用と観賞用と携帯用が必要だと思うんだよね」

「そこには激しく同意する。アクア余ったらくれないか?」

 

これは持って帰ってめぐみんにも渡さないとだし、何よりイグニスさんにも渡すべだと思う。

疲れたし、一旦帰るか。

この様子だとウィズからもアクアからも話聞けそうにないしな。

 

「余らないわよ?この列の最後尾で終わるもの」

 

オリジナルは別で持ってるみたいだし、帰ってから複製貰えばいいか。

どの道終わってから貰うつもりだったし。

 

「それなら仕方ないね。カズマくん?」

「なんだこの手は。渡さないからな」

「ふーん。『スティール』ッ!ん?なんだろこれ」

 

この人、俺の事言えないと思う。

うん。

いくら、親友の可愛い写真が欲しいからって人から取るなんて……

って、あれ?

なんか下半身がいつもより開放的な感覚がする。

・・・そう言えばララティーナちゃんの写真まだ俺の手にあるな。

これってもしかしなくてもアレ取られたよな。

 

「・・・下半身が落ち着かないんで、パンツ返してください」

「あれ?いや、もう一回、『スティール』ッ!」

「ちょっとクリスさん!パンツ盗った上にベルトとるとか何考えてんだ!カズマのカズマさんがポロンする所だったぞこら!」

「いやいや、狙ってないからね!次こそは」

 

俺は知ってる。

一度めぐみんと実験がてら窃盗スキルの取れる物確認やったら、見事三回でめぐみんがスッポンポンになってしまったことを……

即時中止して、俺は取ったものを地面に置いてすぐ部屋から出た。

アレはホントに予想外の出来事で二人とも数日喋れなかった。

 

「待った!これ絶対次ズボン行くやつだろ!やめろ!俺を犯罪者にしたいのか!」

「・・・カズマくん。犯罪者になるか、今ここでその写真渡すかどっちがいい?」

「なんて卑怯な…あっ、ルナさん。今回の主犯はコイツです。アクアが無許可でやってた責任全部こいつが負います」

 

バニルが以前相談コーナー設けてたけど、ルナさん怒らせて許可が降りなくなったと嘆いてたからここの中は許可制だと知っていた俺は、ここが無許可営業の可能性に、今、ルナさんの眉間にシワのよったキレてる顔を見て気付いた。

これにより、クリスに全責任を擦り付けることに成功した。

 

「えっ?」

「そうですか。ではクリスさん少しお話があるので来てください。販売やってた二人も逃げないでくださいね。逃げたら今度から報酬減らしますからね」

 

片付けを素早く終わらせ逃亡を図っていたアクアとセシリーだったが、逃走出来なかったようだ。

そして、今、アクシズ教の不始末をエリス教のクリスが負わさせられる面白い状況が出来上がった。

みんな自分達も何か言われないか怯えてるからこの状況をあまり楽しめてない。

 

「ちょっ、ちょっと待ってあたしは何も。ねえ、みんな、私ただ買ってただけだよね?」

「「「う…」」」

 

ここはみんなが肯定する前に、提案しないと。

アクアとセシリーのやらかしとか、100パーセント俺が席に取らさせられるのは目に見えてる。

紅魔の里で結局膝枕出来なかった分の代わりとして、身代わりになってもらおう。

偶には俺以外の誰かに責任をな擦り付けたい。

 

「今日は俺の奢りでみんな飲んでいいぞ。んじゃ俺は帰る。そうだみんな。今回の即売をやっていた主犯が誰かルナさんに教えてやってくれ」

「「「クリス」」」

「クリスさん、諦めください。ちょっと書類書いてペナルティ受けてもらうだけですから」

「なんでさ!」

 

と、証人の買収に成功した俺は、配布せずに撤収することになったララティーナちゃんの写真を全て手に入れるのであった。

そして、イグニスさんに数枚プレゼントした後に帰路についた。




前回帰宅後とか書きましたが帰ってません……次回は、ちゃんとカズマさんがお家に帰ります。お土産渡しとめぐみんとのお話がメインです。
次の更新は早く仕上がると思います……思います……


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