学戦都市アスタリスク~語り部の魔術師~ (リコルト)
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入学と新たな出会い(中学三年生)編
プロローグと設定&用語


初めての方は初めまして。「学戦都市アスタリスク~調律の魔術師~」を見ていた方はお久しぶりです。

この度、私の好きな作品である学戦都市アスタリスクの小説を新たに書くことを決意して、この作品を創作することになりました。
「学戦都市アスタリスク~調律の魔術師~」を閲覧したことがある読者はこの作品のプロローグを見た後に、この作品の設定に既視感を覚えるかもしれませんが、この作品は
「学戦都市アスタリスク~調律の魔術師~」の設定を基にリメイクしたような作品です。

ヒロインも前作?に続いてシルヴィアとノエルにしようと思っています。それでも良いよ!という方はこの作品を読んでくれると嬉しい限りです!

長くはなりましたが、それでは本編をどうぞ!




 

 

「ーーーめでたし、めでたし。はつかねずみがやって来た。話はこれでおしまい……」

 

 そう言って、僕は語った物語を語り終える。すると、それと同時にこの物語を聞いていた老若男女のギャラリーの拍手が沸き起こる。

 

 

 

ーーここはフランスのとある田舎街

 

 大規模な都市化が進む各国の都会の風景とはかけ離れた中世のお城、町並みが魅力の街だ。

 

 やはり、物語を語る場はこういう物静かな広場が良い。統合企業財体の一部の常連からはドームを借りてまで豪勢にやろうと言われるが、あまり乗り気ではない。

 

 というより、僕自身は語り部の拘りとして金持ちの為だけに聞かせるのではなく、『万人に聞いてもらいたい』という気持ちがある。まぁ、かの童話作家、シャルル・ぺローは貴族の為だけに物語を語ったと言われてるけどね。

 

 そう思いつつ、僕は広場にある噴水の側に置いておいた荷物をしまっていると、長い白髪が特徴の俺と変わらないぐらいの年齢の見知った少女がこちらに近づいてきた。

 

「本日のお話も面白かったでしたよ、シオン」

 

「カーリーさん……見てたんですか」

 

 この白髪の少女の名前はカーリー。

 

 簡潔に説明すると、僕の育ての親だ。他人から見たら、一見同い年同志に見えるが、彼女の方が年齢は上で、すでに成人もしている。というか、僕が初めてカーリーさんと会った時すでに今の外見だったから、詳しい年齢は俺でさえも知らない。

 

「カーリーさん、会議の方は?」

 

「無事終わりましたよ。ここの町長さんは話が分かる人でした。お陰で、私達の組織である『ライブラリー』に支持と資金の支援をしてくれるそうです」

 

 そう嬉しそうに言いながら、カーリーさんは僕の荷物の整理を手伝ってくれた。

 

「それは良かったですね。でしたら、そこにある評判のパスタの店に行きません?お話を聞いていた女性に教えてもらったんですよ」

 

「それは名案です。実はちょうどお腹が空いていたのです。奮発して大盛でも注文しましょう」

 

 僕は仕舞い終わった荷物を片手に持ち、カーリーさんとその店に向かおうとすると、二人の女性が僕達の道を遮った。

 

 片方はサングラスをかけた表情が読めない長身の女性。温厚というようなオーラはなく、どちらかというと冷酷と表現した方が分かりやすい人だ。

 

 そして、もう一人は栗色の髪をして、帽子を深くかぶった僕と同じくらいの年の可愛い少女だ。前者のサングラスの方と比べて、フレンドリーな感じで誰とでも仲良くなれるような感じを醸し出している。けれど、表面からでは分からない何かを隠しているな。少なくとも、普通の少女では無いだろう。

 

 素性も遮った理由も分からない二人に俺は警戒して、煌式武装に手をかけようとするが、カーリーさんがそれを見据えたようにその手を静止させる。

 

「まさか、このような場所でお会いするとは。今日は何のご用件です?ペトラ様」

 

 カーリーさんはサングラスの女性に訊ねた。

 

「別にアスタリスクを抜けてまで貴女とお話を来たわけではないわ。今日、用があるのは貴女の隣にいるその子によ」

 

「えっ?……」

 

 予想外の答えに僕は困惑する。カーリーさんと話している辺り偉い人なのは分かるけど、まさか僕の方に用があるなんて。

 

 すると、帽子をかぶったもう一人の女の子が僕の目の前にまでやって来て、僕の手を掴んだ。

 

「お願い。君の力を貸してもらいたいの!特殊文化保護組織『ライブラリー』所属の稀代の魔術師(ダンテ)()()()()()君に!」

 

「は、はぁ………」

 

 

…………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………

 

 

 これは一体どういう状況だろう………

 

 いきなり、現れた初対面の可愛い女の子に手を握られ、力を貸してもらいたいとお願いされた。

 

 カーリーさんの方を向いてヘルプを要求するが、彼女もまだ状況を掴めていないようだ。僕の方を向いて首を横にひねっている。

 

「あの、力を貸すのは別に構わないんですけど、名前を教えてくれませんか?」

 

 僕はまず、目の前の彼女に名前を訊ねた。

 

「ああ!そうだよね、君にはまだ名前を名乗っていなかったね!少し待ってて………」

 

 そう言いながら、彼女は帽子を脱ぎ、髪に隠れたヘッドフォン型の髪飾りに触れると、彼女の栗色の髪は鮮やかな紫色へと変化した。

 

「私の名前はシルヴィア・リューネハイム。よろしくね、本宮シオン君」

 

 

 

 

………えっ?

 

 

 

 

 

「シルヴィア・リューネハイム?まさか、先日の《王竜星武祭》で準優勝したあの?」

 

「うん、そうだよ!」

 

 まさか………正直名前を聞いた今でも信じられない。アスタリスクの一角であるクインヴェールの序列一位であり、世界的トップアイドルである彼女が僕の目の前にいるなんて。

 

 けど、だとすれば理解はできる。彼女から出ていた只者ではない気配、そして変装をするまで姿を隠す理由が。だって、こんな場所に世界的トップアイドルがいたら、大騒ぎだもんな。

 

「ということは………」

 

 僕は先程、カーリーさんにペトラ様と呼ばれていた女性に視線を向ける。シルヴィア・リューネハイムと対等に話せるペトラという名前は知る限り一人しかいない。

 

「ええ、そうよ。私はペトラ・キヴィレフト。クインヴェールで学園長をしているわ」

 

 やはり……。カーリーさんと見知った仲だとは思っていたが、クインヴェールの学園長だったのか。

 

 

 僕はこの急展開な状況にしばらく頭を悩ませていたが、落ち着いた所でもう一度目の前のシルヴィア・リューネハイムに訊ねた。

 

「成る程、怪しい人物で無いのはよく分かった。で、僕に何をして欲しいって?」

 

「実はある人を探していて、シオン君にはその人を君の魔術師(ダンテ)の能力で探して貰いたいの」

 

 成る程、探し人か。学園長もいるから一体どういう危ない案件かと若干ヒヤヒヤしたわ。けど、シルヴィアさんやペトラさんの顔からして………

 

「もしかして、その探している人ってシルヴィアさんやペトラさんの大事な人か何か……」

 

「うん、その人の名前はウルスラ。私に歌を教えてくれた先生で、ペトラさんの旧友。数年前から行方不明で、私もずっと探しているけど、なかなか見つからなくて」 

 

 そう言ってシルヴィアさんは深刻そうな顔をした。アイドルをしている以上シルヴィアさんにとって歌がどれだけ特別なものかは理解出来る。そのウルスラさんは今のシルヴィアさんを形成した親とも言って良いだろう。

 

 

 

 一応、統合企業財体の幹部であるペトラさんがいる以上、僕個人の意見だけで手助けをするかを迷ったためカーリーさんに相談したが、カーリーさんは僕の自由にして良いと言ってくれた。

 

「分かった。協力するよ」

 

「本当に!?ありがとう!」

 

「ああ、少し離れててくれ」

 

 そう言って嬉しそうに跳び跳ねる様子だったシルヴィアさんを僕の近くから離れさせ、僕の腰に付けていたホルダーケースから一枚の栞を取り出す。

 

『さぁ、語ろう。グリムが遺した物語を。顕現せよ、全てを見通す魔法の鏡よ』

 

 僕がそう言うと、栞が輝きだし、僕の周囲に星辰力(ルイーナ)が集まり始める。しばらくすると、集まった星辰力は鏡の形となり、僕の前に現れる。

 

「これがシオン君の、『語り部の魔術師(メルヒェンテラー)』の能力…」

 

 突然、能力によって現れた魔法の鏡にシルヴィアさんだけでなく、ペトラさんも呆気に取られていた。

 

「ああ、僕の能力は物語を顕現させる能力。今回出したのはグリム童話の有名な作品『白雪姫』に出てくる何でも答えてくれる魔法の鏡だ」

 

 僕はシルヴィアさん達にそう説明しながら、鏡の前に立ち、その表面に触れる。

 

「鏡よ、鏡。シルヴィア・リューネハイムが探しているウルスラさんの居場所を示せ!」

 

 そう言うと、魔法の鏡は虹色に輝き始め、僕達にウルスラさんのいる場所を示し始めた………

 

 

 

……………………

 

 

 

……………………………………

 

 

 

…………………………………………………

 

 

「くっ!!」

 

「シオン君!!」

 

 地面に片膝をつける僕を心配そうにシルヴィアさんが駆け寄ってくる。僕とシルヴィアさんの前には先程まで虹色の輝きを放っていた魔法の鏡、それが光を失い無残に割れていた姿があった。

 

「カーリー!これは!?」

 

「……分かりません。今までに無い形です」

 

 僕達の後ろでもカーリーさんとペトラさんが予想外の結末に困惑する中、僕はシルヴィアさんに肩を貸して貰い、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……恐らく、ウルスラさんには僕の能力すら通さない何かがある筈です。それをウルスラさんが意図的にやっているのか、それとも他の誰かによって行われているかは分かりませんが。……すいません、失敗してしまって」

 

 力が及ばず、良い結果を出せなかった面目無さに僕はシルヴィアとペトラさんに謝るしかなかった。

 

「別に謝る必要は無いよ。私達が無理にお願いしたことだから。それに、最初の一瞬だけだったけど、ウルスラの姿が見えたし、アスタリスクの何処かにいる事は私とシオン君の能力で確証が持てたから、私達としては十分な収穫だったよ」

 

「シルヴィの言う通りよ。貴方は十分私達の要望に答えてくれたわ。だから、頭を上げなさい」

 

「………分かりました」

 

 そう言われてしまい、僕はペトラさん達に促されるような形で、二人に下げていた頭をゆっくりと上げることにした。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「………お二人はこれから?」

 

 僕はここに来た目的を失敗という形ではあるが、果たし終えたペトラさん達に訊ねた。

 

「すぐにアスタリスクに帰るわ。私もシルヴィも明日はアスタリスクで仕事が入っているから」

 

 成る程、学園長とアイドル。ここでゆっくりしている程、暇では無いということか。

 

「そうだ!シオン君、電話番号交換しようよ!君とはまた近い内に会える気がするんだよね!」

 

「え、あ、はい」

 

 そう言われて僕はシルヴィアさんに携帯を取られ、半ば強引的な形で電話番号を交換することになった。シルヴィアさんに携帯を返して貰うと、そこには本当にシルヴィアさんの電話番号が入っており、しかもお気に入りとして追加されていた。

 

「それじゃあ、また何処かで会いましょう」

 

「まったねー!シオン君!」

 

 二人はそう言って、僕に別れの言葉を残し、その場を後にした。

 

「……シオン」

 

 しばらくして、取り残された僕にカーリーさんが後ろから声をかけてくる。

 

 

 

「……お腹が減りました」

 

 うん、知ってた。この悲しそうなトーンで話す時のカーリーさんはお腹が減った時である。時計を見ると、レストランに行こうと話してから一時間以上経過していた。

 

「分かりました。行きますよ」

 

 こうして、僕は空腹でフラフラの状態のカーリーさんの手を取り、レストランへと向かった。

 

 

……………………

 

 

 

…………………………………

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

「そう言えば、シオン。実は貴方に特待生の推薦状が届いているのですよ」

 

「特待生?何のですか?」

 

 思い当たるものが無いため、カーリーに問い返すと、カーリーさんは大盛の二倍の量がある特盛のパスタがあった空の大皿をどけて、懐にあったポケットから封筒を取り出し、机に置いた。

 

「これ、ガラードワースの校章ですよね。まさか、特待生の推薦って……」

 

「ええ、そのまさかです。シオンに届いたのはガラードワースの特待生入学の推薦です」

 

 僕はカーリーさんから封筒を受け取り、中身を確認すると、僕の名前が書かれた特待生入学の通知が記されていた一枚の手紙が入っていた。

 

「それにしても、どうして僕が?」

 

 ガラードワースに特待生に入るような理由に思い当たる節が無く、カーリーさんに訊ねた。

 

「実はこれを薦めたのはある貴族からなんです」

 

「ある貴族?」

 

「メスメル家。ガラードワースの運営母体であるEP(エリオット=パウンド)を支える大貴族で、シオンがいつか助けたノエル・メスメルの一族です」

 

「っ!!?」

 

 それを聞いて、僕は驚きを隠せなかった。まさか、先日助けた()()()がそんな大貴族の出身だったとは思いもしなかったからだ。

 

「………良いんですか?僕達の組織はどこの統合企業財体にも肩入れしない不干渉を掲げていた筈です。僕の為だけにそれを取り下げるのは……」

 

「別に構いませんよ。確かに私は組織の長として不干渉を掲げていましたが、それは私達の方針が他の統合企業財体と噛み合わなかっただけです。シオンには話していなかったのですが、最近クインヴェールの運営母体であるW&W(ウォーレン・アンド・ウォーレン)とEPが私達の組織の動きを支持して、つい先日この二つとは同盟を組むことになったのです」

 

 マジか、それは知らなかった。あ、だからペトラさんと見知った仲で話していたり、僕がシルヴィアさんを手助けする事に肯定的だったのか。

 

「それはつまり、僕がガラードワースとさらに密接な関係なるためのパイプになれと?」

 

 今までの話を理解した上で、カーリーさんにそう訊ねると、彼女は首を横に振った。

 

「いえ、これは命令ではありません。私はシオンに純粋にアスタリスクでの学園生活を楽しんで貰いたいだけです」

 

「アスタリスクでの、生活?」

 

「シオンは私に拾われて、育てられて、色々な知識と技術を学んできました。今のシオンの実力だと、アスタリスクでも上位の序列に楽々と上がれる筈です。けれど、その知識と技術を得る代わりにシオンには同世代の友達というものがほぼいません。それは当時、発展途上だった私の組織を支える為だったのは十分に理解しています」

 

 カーリーさんはそのまま真剣に話を続ける。

 

「だからこそ、今のシオンにはこの機会を使って打ち解けられる人達を作って欲しいのです。彼処では実力を互いに高め合える者、自分を支えてくれる者、色々な人達に会える筈です」

 

 カーリーさんのこんな真剣な表情は見たことがなかった。カーリーさんは本当に僕のことを考えた上で、この考えを伝えているのが僕の気持ちに響いてくる。だから、僕も答えは決めた。

 

 

 

「分かりました。僕はアスタリスクに行きます」

 

 

 

 




オリジナル登場人物

・本宮スバル

『二つ名』語り部の魔術師(メルヒェンテラー)

特待生入学によりガラードワース中等部3年に所属予定の黒髪の少年。特殊文化保護組織『ライブラリー』所属の魔術師で、その実力は他の統合企業財体が警戒する程。
童話にまつわる能力が使え、二つ名のように各地で物語を語る講演会を開いている。

・カーリー

年齢不詳、経歴不詳の白髪の不思議な少女?
本宮スバルの育ての親であり、特殊文化保護組織『ライブラリー』のトップ。
仕事をすると、お腹が減りやすくなる体質で度々息子であるシオンに手を焼かせている。


オリジナル用語

・特殊文化保護組織『ライブラリー』

カーリーをトップに、シオン等が属している組織。
都市化や最先端化を進める他の統合企業財体の方針に反するように、環境の保全、文化的遺産の保護、貧しい地域への支援等を主に活動している。
最初はシオン等数名しかいない組織だったが、統合企業財体から何らかの理由で迫害された人達を集めた所、数年で統合企業財体に引けを取らない規模にまで拡大。現在もその規模を拡大している。
最近、統合企業財体であるW&WとEPと方向性の一致で、同盟のようなものを組んでいる。
ちなみに本拠地はアスタリスクから飛行機で4時間離れた場所にある人工島である。



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アスタリスク到着

 

 

「ふぅ、ここがアスタリスクか」

 

 本拠地からアスタリスクに最も近い空港まで4時間近く飛行機に乗り、そこから30分程の船旅を経て、ようやくアスタリスクの港に着いた僕は船から荷物を降ろし、アスタリスクの景色を眺める。

 

「流石は統合企業財体が六つも揃って形成した場所。今まで見てきたどの街よりも大きいな」

 

 これだけの街を作れるなら、他にもお金の用途があるだろうに。うちのメンバーの大半なら、貧困地域の経済支援等に使うだろうな。出身が統合企業財体同士の争いで、経済問題になった国の人が多いし。

 

 

 そう思いつつ、僕は目的地である聖ガラードワース学園への道を確認し、そこに向かって歩きだした。

 

 

……………………

 

 

………………………………

 

 

…………………………………………

 

 

「ここだな」

 

 目的地であるガラードワースの正門前の近くで立ち止まり、僕は目の前に大きく広がる敷地とこれから通うであろうお城のような学舎を眺めていた。

 

 それぞれの学園の校舎はそれぞれモチーフがあり、ガラードワースは欧州地域の出身の生徒が多いため、西洋建築の建物が校舎以外にも多く見られた。まぁ、中国出身の生徒が多い界龍では中華建築が多いと聞くが、僕的にはそっちよりもこっちで良かったと思う。僕の活動地域も欧州辺りが多かったし、ライフスタイルが落ち着くんだよな。

 

 初めて見た大きな校舎等の建物をしばらく確認した後、校門に向かい、敷地内に入ろうとするが………

 

「おい、そこの君!勝手に入るな!」

 

「そうだぞ!ここは我々高貴な者しか入れない神聖な場所だ。部外者を入れる事は許されない!」

 

 偶然、校舎の敷地内から僕が入るのを目撃していたガラードワースの生徒であろう二人の男子生徒が校門を一枚挟んで阻止しようとしてきた。

 

 この性格………絶対貴族出身だな。雰囲気で何となく分かるし、選民思想を語っている奴は典型的な貴族だと言うのはライブラリー所属時代に嫌と言う程知ってきた。

 

「いや、僕は特待生入学の推薦状を貰って「だまれ!貴様のような平民出身みたいな奴に我々ガラードワースが特待生の推薦状を送る筈が無いだろう!虚言も大概にしろ!」

 

 そして、こういう奴等程人の話を聞かず、雰囲気や見た目で判断しようとする。こういう奴等って苦手なんだよな~。武力で解決したら、大事になるし。

 

 

 そう思いながら、二人の無駄な話を聞いていると、彼らの後ろから爽やかな笑顔をした金髪の男子生徒がこっちにやって来る。

 

 彼らは僕に夢中で気が付いていないが、あの人……かなりの実力者だ。しかも、近付いてくる度に殺気みたいなオーラが伝わってくる。この人は……?

 

「君達、一体何をしているのかな?」

 

 そう言って、金髪の男子生徒が笑顔で二人に訊ねるが、殺気を纏っているため、逆に怖い。

 

「か、会長。実はこいつがガラードワースに勝手に入ろうとしていて………」

 

「ええ、しかも特待生の推薦状を持っていると言う嘘までつくんですよ。会長からも言ってやって「君達、少しは黙ろうか」はい?」

 

 そう言って二人を黙らせた会長と呼ばれていた男子生徒は僕から特待生入学の推薦状を受け取り、中身を確認し始める。

 

「彼は僕の客人で、この僕が認めた特待生だ。君達はこの書状を確認すらしないで、僕の客人を侮辱したわけだが、この無礼はどう責任を取るのかな?」

 

「「………………………………」」

 

 会長と呼ばれていた彼の静かな怒気が詰まったような言葉に二人は恐怖を感じ、ただただ冷や汗をかきながら黙りこむ事しか出来なかった。

 

「……後でしっかり話を聞かせてもらうよ」

 

 そう言って、彼は二人を解放する。解放された二人は一目散にこの場から離れようとするが、後でまた彼に会う以上、今逃げた所で意味が無いような……。

 

「さて、すまないね。僕の学園の生徒が君に無礼を働くような事をして。君のことはメスメル家やEPから事情を聞いているよ」

 

「あの、貴方は?」

 

 先程の二人がいなくなった事で、すっかり機嫌も落ち着いた様子の彼に僕は訊ねた。

 

「ああ、自己紹介がまだだったね。僕はアーネスト・フェアクロフ。ガラードワースの生徒会長をやっている。ようこそ、ガラードワースへ」

 

 

 

 



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生徒会と緑髪の少女との再会

間を空けてごめんなさい!
大学のゼミ選択とテストがあって、なかなか執筆する時間が取れなくて……。
一応、大きなイベントも終わったので、執筆できる時間が増えると思いますので、頑張って投稿していこうと思います。



 

「さっきはシオン君に迷惑をかけたね。ガラードワースの中にはあんな感じの生徒がたまにいるんだ」

 

「いえ、大丈夫です。僕もああいう感じの人は昔から色々と慣れているので」

 

 そう言って先程の出来事について話しながら、アーネストさんと僕達はガラードワースの廊下を歩いていた。どうやら、僕の入学初日の手続きは教務課ではなく、特別に生徒会の面々で行うらしく、僕はアーネストさんに生徒会室へと案内されていた。

 

 

ーアーネスト・フェアクロフー

 

 僕も一人の星脈世代(ジェネステラ)として彼の名前を知らない筈が無い。

 

 ガラードワースが誇る序列一位兼生徒会長で、昨年を含めた獅鷲星武祭(グリプス)で、二回優勝に導いたアスタリスク最強の剣士である。僕も入学初日から彼とこんなに早く会うとは思っていなかった。

 

 

 そんなアーネストさんとしばらく話しながら歩いていると、目的地である生徒会室の扉の前に辿り着く。そのまま流れるような動きでアーネストさんは生徒会室の扉を開け、僕を中へと案内する。

 

 中に入ると、豪華なインテリアが施された室内が広がっており、そこにはガラードワースの制服を着た四人の生徒と僕が以前助けた()()()がソファーに僕達を待つように座っていた。

 

 

………………………

 

 

…………………………………

 

 

…………………………………………

 

 

「初めまして、副会長のレティシア・ブランシャールですわ。以後お見知りおきを」

 

「同じく副会長のケヴィン・ホルストだ。よろしくな、語り部の魔術師(メルヒェンテラー)

 

「会計のライオネル・カーシュだ。生徒会として君を快く歓迎する」

 

「書記のパーシヴァル・ガードナーです。貴方の事は会長達から聞いています」

 

 パーシヴァルさんが汲んだ紅茶を置かれ、茶会のような雰囲気で生徒会のメンバーであるレティシアさん達から自己紹介をされる。

 

 

そして………

 

 

「あ、あのお久しぶりです、シオン兄さん」

 

 そう言って淡い緑髪の少女ーーノエル・メスメルが頭を下げて、僕に挨拶をする。その容姿や印象はあの時とは全く変わっておらず、それらに僕は懐かしさを感じるぐらいだった。

 

「久しぶりだね、ノエル。約一年ぶりぐらいかな?元気にしてた?」

 

 彼女に優しくそう訊ねると、小動物のような仕草でコクコクと頷く。

 

 うん、控えめに言ってすごくかわいい。もう一生このままで良いと神に頼むぐらいに。並以上の関係性を持った女の子に久しぶりに会うと、ここまで意識してしまうものだったっけ。

 

 それにしてもアーネストさんが言っていた話だと今日は生徒会の面々の下、入学手続きをする予定だった筈だ。どうしてノエルがここにいるのだろうか?

 

 ノエルが生徒会に入っていたという話も聞いていないし、そもそも彼女はまだ小学6年ぐらいだから中等部から始まるガラードワースには入学していない。制服を着ていない私服姿の彼女がその証拠だ。

 

 不思議に思った僕はノエルについて訊ねてみると、アーネストさんからその答えが返ってきた。

 

「ああ、実は今日彼女の特待生選抜試験の合格通知と書類を渡す予定があってね。受け取りに来たついでに、シオン君とは縁が深い彼女にも残ってもらおうかなと思ったんだ」

 

 なるほど、道理でノエルが今日ガラードワースに来てい訳ね。それにしても、ノエルも特待生としてガラードワースに合格していたのか。

 

 ちなみに、ノエル本人に点数を聞いてみると、筆記試験では統合企業財体の一つであるEPを創設したフォースター家の嫡男に次ぐ二位の成績で、剣術や魔術師の能力を測る実戦のテストでは志願者の中で一位の成績を獲得する余裕のある合格だったらしい。

 

 筆記試験に関しては元々理解力のある子だと分かっていたからあまり心配はしていなかったが、実戦のテストで一位を取ったのは僕としても良い意味で予想外だった。

 

 ノエルに魔女(ストレガ)としての戦い方を教えた僕としてはアスタリスクに来て初めての嬉しい報告だ。後で、何かノエルに奢りたい気分である。

 

 

…………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………

 

 

「………はい、これで最後です」

 

 入学や在籍に関係する書類にひたすら名前等の個人情報を書いた僕は最後の書類をアーネストさんに手渡す。

 

 元々ライブラリーでも事務作業をしてたから、こういう作業には慣れているけど、久しぶりに嫌になりそうな書類の量だった。まぁ、書類が多い理由は僕がライブラリーに所属してるから、その分の特別な書類が増えたんだと思うんだけど。

 

「うん、書類に不備は無さそうだね」

 

 ペンを置いて手を楽にさせている間、アーネストさん達生徒会は分担して書類を確認して、不備が無いことを僕に伝える。

 

 

 

 手続きを終えた後は非常にあっさりしていて、僕の住む部屋、学校での授業等の説明をされ、最後に制服と校章をアーネストさんから頂いた。

 

 制服の形はアーネストさん達と似ているが、イメージカラーは黒色だった。おそらく着てみると、黒服をまとった執事のような感じになるだろう。

 

「さて、入学手続きを終えて制服を渡したんだけど、シオン君にはあと一つやる事があるんだ」

 

 制服を頂いて、今日から泊まることになる部屋で休もうと思っていたが、アーネストさんが言うにはもう一つやる事があるらしい。

 

 一体何の用だろう?ただ、アーネストさんから笑みがこぼれている。楽しい事かな?

 

「僕と公式試合をしてもらえるかな」

 

……………………………えっ?

 

 

 



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VSアーネスト・フェアクロフ

「なるほど……EPが僕の正確な実力を知るために実戦データを要求してきたんですか。言われてみれば、僕の戦闘記録ってあまり無い方ですね」

 

唐突なガラードワースの序列一位との試合の経緯の説明を対戦相手であるアーネストさんから受けながら、僕とアーネストさん達生徒会の面々とノエルは試合が行えるドームへと移動していた。

 

「けど、どうしてアーネストさんが……。データを取るだけなら別の方でも良かったのでは?レティシアさんとかケヴィンさんとかでも……」

 

「いやいや、シオン君のことはノエルちゃんから色々と聞いていてね。かなり強いと聞いていたから、一度戦ってみたかったんだよね」

 

はぁ…まさかアーネストさんって意外に戦闘狂(バトルジャンキー)だったんだ。さっき僕に見せた笑みも僕と戦えることに対してだったのか。

 

アーネストさんとは一度戦ってみたいと思っていたけど、こんなに早く戦うことになるなんて。アスタリスク初日に色々とありすぎ……。荷物も部屋に運び込まないといけないし、早く部屋に行きたいなぁ。

 

………:…………

 

 

…………………………

 

 

………………………………………

 

 

ドームに着いた僕達はすぐに試合を始められる準備を行い、アーネストさんと僕はドームの中心でお互い対面するように煌式武装を構える。ちなみに、ノエル達は僕達の試合を眺めようと安全なギャラリー席に座っている。

 

「あれ?シオン君の煌式武装って剣型だったのかい?ノエルちゃんからは()()の煌式武装を使うと聞いていたんだけど」

 

そっか、そう言えばノエルには銃での戦い方しか見せていなかったっけ。だとしたら、アーネストさんが誤解するのも仕方がない。

 

「ノエルの前では銃しか使っていませんが、僕は槍でも斧でも使いますよ。勿論、()も」

 

そう言って、自分の手にある剣型煌式武装に星辰力を込めると、煌式武装が起動し、青色の光をまとったブレードが現れる。

 

「それにアスタリスク最強の剣士と戦うのに剣以外を使うのは無粋ですよ」

 

「ふふっ、良いね。ますます気に入ったよ。なら、その敬意に応えて僕も全力を尽くそう」

 

そう言ってアーネストさんも構えていた()()()()()に星辰力を込め、刃に白い光を灯す。

 

あれが四色の魔剣の一振り、白濾の魔剣(レイ・グラムス)か。ガラードワースが保有する強力な純煌式武装の一つで、扱うには騎士のような常に純潔で、秩序と正義を守る姿勢と意志が代償として必要だと資料で見たことがある。その能力もかなり厄介なものだ。

 

「さぁ、始めよう!」

 

 

 

『Start Of The Duel!!』

 

 

 

アーネストさんの声と同時にドーム中に試合開始を示すコールが流れる。

 

 

開始と同時に僕は素早い動きで死角からアーネストさんに斬りつけるが、ギィンという重い音が鳴り響き、見てみると僕の煌式武装は彼の純煌式武装によって受け止められ、彼は死角の筈のこちら側を向いていた。

 

 

「残念。けど、良い動きだったよ」

 

 

……やっぱそう簡単にはいかないか。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「本宮シオン……色々な武器を使い分ける方だとは今初めて知りましたが、剣の腕も相当なものですわね。まさか、アーネストに剣であそこまで戦えるなんて」

 

「レティの言う通りだな。あちこちで講演会を開いているイメージが強くて、戦闘はからっきしだと思っていたが、全然強いじゃねぇか。こりゃ、『ライブラリーの切り札』と統合企業財体に呼ばれているのも納得だぜ」

 

「アーネストで正解だったな。俺やケヴィンやレティシアだったら、圧倒されて終わりだっただろう」

 

「そうですね。彼一人に対してチームランスロットとして戦ってもどっちが勝つか分からない良い勝負になるでしょう」

 

シオンとアーネストが戦っている場所から最も近い場所であるギャラリー席ではレティシア、ケヴィン、ライオネル、パーシヴァルら生徒会メンバーがシオンの戦いぶりを興味深く観察していた。

 

「…………すごい、シオン兄さん」

 

また、ノエルも兄さんと慕うシオンの戦いぶりに魅了され、誰よりも静かに集中して彼の戦いを見守っていた。

 

彼女にとって、シオンが剣で戦う姿は初めて目にするものだったが、彼女の記憶の中には今の戦いぶりを彷彿させる忘れられない記憶があった。それは彼と初めて知り会った最初の記憶で、同時に彼を兄のように慕うようになった大事な記憶でもあった。

 

 

彼女は思い出す……今から一年前のあの出会いを。

 

 

 



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一年前の出会い

お久しぶりです。
ようやく大学のテストが落ち着きました。



 

 

ーー1年前ーー

 

 

 当時、私はお母様とお父様と共にドイツへ家族旅行に行っていました。

 

 なぜなら、私のお父様は統合企業財体の幹部で、なかなか休みが取れないお仕事に就いておられたのですが、久しぶりに休暇が取れたため、旅行に行こうと提案してくれたからです。

 

 仕事の関係上、なかなかお父様に会えない私とお母様はこの提案を反対するわけもなく、久しぶりの家族全員揃ったお出かけを楽しみにしていました。

 

 

 

 けど、当時旅行先であんな事に巻き込まれるとは私だけでなく家族も想像がつきませんでした……

 

 

…………………………

 

 

 

………………………………………

 

 

 

…………………………………………………

 

 

 

「動くな!この娘がどうなっても良いのか!」

 

 

「んっ……!!」

 

 

 私は泊まっていたホテルのロビーを占拠した覆面の男達のリーダーに銃型煌式武装を頭に突き付けられ、腕は痛さを感じるくらい捻られて、まともに抵抗も出来ませんでした。

 

 

「ノエル!!」

 

 

「動くんじゃねぇ!そこぉ!」

 

 

 お父様が私を助けようと行動しますが、リーダー格の男が躊躇う様子もなくお父様に向けて銃を発砲しました。お父様はそれを何とか避けましたが、難なく銃を放つ彼に対して何もする事が出来ませんでした。けれど、ここで彼に刺激を与えれば、私はすぐに殺される……私の身を案じるお父様の行動は正しいとまだ小学生の私でも分かっていました。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 どうしてこうなったか……

 

 

 それは私達が夕方にドイツに到着し、泊まるホテルのロビーでチェックインをしていた時でした。

 

 

 突如、ホテルの入り口から覆面をした集団が一気に押し掛けて、ホテルのロビーにいた警備員をあっという間に所持していた煌式武装で制圧し、このロビーを占拠してしまったのです。

 

 

 覆面をした男達はホテルの入り口、階段などを押さえ、念入りに部外者が立ち入りを許さないようにしていましたが、彼らには失念がありました。

 

 

 それは私が魔女(ストレガ)だということ。

 

 

 一見、私は抵抗する手段を持たない子供に見えますが、私には類稀な魔女の能力を備えており、茨を顕現し、それを操る能力が使えました。

 

 

 私は彼らが油断した一瞬の隙を突いて魔女の能力を発動しました。私の能力で作った茨はすぐに覆面の男達を拘束しようと試みます。しかし……

 

 

「こんな物、俺達に効くかよ」

 

 

 リーダー格の男を中心に煌式武装で、難なくその茨は無惨に切り裂かれ、星辰力の粒子となって消滅していました。

 

 

 その後、私は現状みたく茨を生成した張本人として彼らに人質として拘束されてしまいましたが、分かった事がありました。

 

 

 それは彼らは只の強盗等ではなく、統合企業財体に恨みがあるテロリストのようなグループだったこと。最初から私達メスメル家を人質としてEPに交渉するつもりで、それはつまり、最初からEPの幹部である私の父を狙うために現れ、その家族である私の能力も筒抜けだったという事を表していました。

 

 

 彼らは隅から隅まで念入りでした。まさか、私の能力も彼らに知られていたなんて。その時の私にはもう打つ手がなく、私の心の中は殺されるかもしれない恐怖と絶望で一杯でした。

 

 

……………………

 

 

…………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

「おい、メスメル家の当主!今すぐ、俺達の故郷を、お前達統合企業財体に汚された土地を元に戻すと上層部に交渉しろ!お前達が流す工場用水のせいで、村のみんなは苦しんでるんだ!でないと、この娘をぶっ殺す!」

 

 

「くっ………それは……」

 

 

 リーダー格の男の威圧感のある声に命令されるも、お父様は顔に冷や汗を垂らして苦しい表情をしていました。確かにメスメル家はEPの重要なポジションにいますが、幹部でも統合企業財体のトップにそのような命令を通そうとするのは無謀に等しいでしょう。逆にそのような無理を進言すれば、反抗したと思われて、EPに存在する暗部グループを使われ、どのみち私を含めたメスメル家が黙殺されるかもしれないのをお父様は分かっていました。だから、お父様は連絡をする事が出来なかったのです。

 

 

 

「命令に従えられないなら、仕方が無いな。ここで、娘が死ぬ瞬間を目の前で見てるんだな!」

 

 そう言ってリーダー格の男が私に銃口を突き付け、私も死を覚悟した瞬間………

 

 

「ぐはっ……」

 

 

 

 突如、階段を監視していたグループの男の一人がドサッと音を立てて、降って来るように階段から落ちてきました。

 

「っ…!?そこにいるのは誰だ!?」

 

 それを見たリーダー格の男は何事かと私に突き付けていた銃口を階段に向けました。すると、私より少し年上の黒髪の少年が銃型の煌式武装を展開したままゆっくりと階段から降りてきたのです。

 

「はぁ、3日連続のドイツ講演で疲れてて、今日は部屋で寝ようと思っていたのに、何の騒ぎ?」

 

 少年は眠そうにあくびをしながら周りに訊ねますが、その場違いな質問に私を含めた全員は呆気に取られて、誰も答えることが出来ませんでした。

 

「……階段を監視していたそこにいる男、お前がやったのか?」

 

「階段?ああ、さっき僕が倒したこの人か。上の階で下に降りられないようにしていたから、少々強引な手をさせてもらったよ。でも、意識を失っているだけだから安心して」

 

 少年はまるで玩具で遊んでいるような軽い感覚で経緯を説明していましたが、私を拘束していたリーダー格の男の顔にはピキピキと青筋が立っていて、男が彼に怒っているのがよく分かりました。

 

「何の騒ぎだ?ふざけるのも大概にしろよ!こっちには人質が「動かないで」っ何だ!?」

 

 男は怒りの感情に身を任せて、私や他の人達に発砲しようとしますが、それは叶いませんでした。

 

 

 何故なら、リーダー格の男やその仲間達の四肢に床から現れた茨が巻き付いていたから。

 

 

 突如、現れたそれに誰もが驚いていましたが、一番驚いたのは私でした。あの茨は私が出した物ではありません。

 

 

 なら、一体誰がやったのか。

 

 

 それはあの黒髪の少年。彼の身体の周りからは私の倍以上の星辰力が満ち溢れていて、彼が右手に持っていた栞らしき物は緑色に輝いていました。

 

 

「グリムの章、眠りの茨姫の束縛(ソーン・バインド)

 

 

「ま、まさか…お前……は……」

 

 

 リーダー格の男は少年の正体に気付いた様子でしたが、まるで麻酔を打たれたかのようにその場で眠り倒れてしまい、それに続くように茨に拘束された他の仲間達もその場に眠り倒れてしまいました。

 

 グループ全員を難なく倒してしまった少年。人質から解放された人達は彼を救世主のように賞賛しようと声をかけようとしますが………

 

「すいません、今は寝かせてください。疲れた状態で()()を使ったからしんどくて…。そこで倒れている人達は寝ているだけですから、あとは自由にしてください。それじゃあ、失礼します」

 

 ただそれだけを言い残して、黒髪の少年は自分の部屋へ戻ろうと解放された階段を登って行きました。

 

 本当は私も彼に助けてもらったお礼をしたかったのですが、そそくさと登って行ってしまった彼を止めることが出来ず、私のお父様とお母様と共に彼の姿を視界から消えるまで見つめていました。

 

 

 彼は一体何者なのでしょうか。

 

 

 あの時、グループの男達を倒した力は恐らく魔術師の能力。しかも、茨を使う私と同じ能力。

 

 あの能力を見た時、私は彼に惹かれてしまう興味のような感情を持ったのです。

 

 あのグループのリーダー格の男は最後に彼の正体に気付いた様子でしたが、すでに倒れた状態で警察に引き渡されていた最中でした。

 

 

 お父様なら、何か知っているのでは?

 

 

……………………

 

 

………………………………………

 

 

…………………………………………………………

 

 

「語り部の魔術師、ですか?」

 

「ああ、そうだ。彼の名前は本宮シオン。ライブラリー出身の魔術師で、統合企業財体からはライブラリーの切り札とも呼ばれている実力者だ。ただ、戦闘時のデータがあまりに少ないから、先程までは私もその実力は半信半疑だったぐらいだ」

 

 そう言って、お父様は先程の彼の素性について説明しました。どうやら、お父様もあの能力と実力の差を見て彼の素性に気付いていたようです。

 

 あの後、私達はロビーでチェックインを済ませ、ようやく自分達の部屋に入れました。彼が倒したグループの男達は警察に引き渡されたのですが、被害者の一人として警察から事情聴取を受けていたのです。どうやら、あのグループの男達は彼の能力の茨によって一週間は目覚めないと医師から判断されたようです。

 

 最初に階段から彼によって落とされた人も胸の辺りに星辰力で作られた茨の棘が刺さっており、彼もグループの男達と同じような症状らしいです。元アスタリスクの生徒で、戦闘経験があるお父様が言うには彼が持っていた銃型煌式武装から能力として放たれた物だとか。

 

「で、では、お父様。あの時の茨は……」

 

「ああ、彼は物語を能力として扱う魔術師だ。相手を眠らせてしまう茨、そんな物が登場する物語はノエルも知っているだろう」

 

「いばら姫……ですね」

 

 私がそう答えると、お父様は頷きました。

 

 

『いばら姫』

 

 

 グリム童話、ペロー童話の両方に載っていて、一部では『眠りの森の美女』とも訳される世界的に人気な童話の一つ。

 

 魔女に呪いをかけられ、100年もの眠りについたお姫様が王子様のキスで眠りから目を覚ます、言わずも知れたハッピーエンドの作品で、私が子供の頃に最も読んだお話でした。

 

 物語を能力として扱う魔術師。その能力の可能性は私の茨を扱うだけの能力より広く、それを扱う彼のスペックも私の比ではないでしょう。

 

 けれど、それらを踏まえた上で、私はお父様にある事を訊ねなければならないと思いました。

 

「あ、あの、彼はライブラリーの魔術師なんですよね?なら、いつか彼と戦わなければならない時が…」

 

 私が知るライブラリーの常識。それは統合企業財体とは敵対関係にあるということ。現にある統合企業財体とライブラリー間で武力戦争に発展する事が有ったぐらい非常に仲が悪いのです。

 

 それを聞いたお父様は深い息を吐きながら、私にゆっくりと説明しました。

 

「ノエル。将来お前はメスメル家の当主としてEPを支える立場だから話しておくが、統合企業財体に勤める全員がライブラリーと仲が悪いわけでは無い。中にはライブラリーと仲良くしたいという者達もいる。私もその中の一人だ」

 

 そのままお父様は話を続けます。

 

「各統合企業財体の中にはいくつかの派閥が存在する。穏健派、改革推進派、中には改革推進派が発展した過激派もある。先程襲撃してきたグループが話していた工場用水の件も過激派が我々穏健派の反対を押し切って実行したものだ。まぁ、このような事態が起こった以上、過激派や改革推進派の発言力が弱まるがな」

 

 そう言って、お父様は嘲笑するような複雑な表情で、私に近づき、肩に手を置きました。

 

「ノエル、お前も利益だけを追求するような大人だけにはなるなよ。他人の気持ちを考えて行動すれば、その分お前を助ける仲間は増え、敵は減る。それさえ考えていれば、私はお前の友人関係等には今後一切口を出さないつもりだ。もちろん、先程の彼についてもな」

 

 

 

………………………

 

 

 

……………………………………

 

 

 

………………………………………………

 

 

 

 お父様との会話を終え、夕食を食べた後、私は気晴らしに夜の散歩に出かけようと一階のロビーに降りてきました。

 

 お父様も先程の出来事をEPに報告をしなければならず、電話が忙しいそうでした。外出したついでにお疲れのお父様に飲み物でも買って帰りましょう。

 

 そう思いながら、ロビーの広い待合室を通って、外に出ようと思うと………

 

「ねぇ、そこの君」

 

 待合室の方から声をかけられ、その方向に顔を向けると、そこには夕方私達を助けてくれた少年、本宮シオンさんがソファに座っていました。

 

 疲れが取れたのか、彼の顔には気だるさが感じられず、こうして見ると、聡明で同年代には見えないような気品さを感じられました。

 

「あ、あの、先程は私達家族を助けていただきありがとうございました」

 

 私はすぐに彼の元へと向かい、頭を下げてお礼を言いました。そう言うと、彼は笑顔で「別にお礼をされる程のことはしてないよ。ひとまず、座ろうか」と空いているソファへと座らせました。

 

 ソファに座った私を確認すると、本宮さんは胸ポケットからあるものを取り出して机に置き、私に見せました。

 

「これは君のだよね?」

 

「は、はい、そうですが……」

 

 本宮さんが私に見せてきたもの。それは私が夕方の事件の時に作り出した茨の破片でした。 

 

 あの時、全ての茨は男達によって消滅したのではないかと思っていましたが、その時の破片がまだ残っていたのは作り出した私も驚きました。

 

「やはり、君のものか。実は僕が起きた理由は下の階が騒がしかったのもあったけど、下の階で魔女が発する強い星辰力を感じたからなんだ。僕はその時、その星辰力を発した君に話があって来た。君に魔女の能力の使い方と戦い方を教える為にね」

 

「えっ?」

 

 本宮さんの話に全く理解が出来ず、首を傾げていると、本宮さんは先程私に見せてくれた茨を目の前で指で弾いて、星辰力の粒子へと変えました。

 

「この茨はおそらく君の家族を守りたいという意志が強く反映されたから部分的に今さっきまで残ったのだろう。けれど、簡単に切り裂かれたり、指で弾いて消えるような茨じゃ君の家族や大事な人を助けられない。そこで、お節介じゃなければ、君に魔女の能力の使い方と戦い方を少しこの夜の時間に教えようと思うんだ。幸い、茨を使う能力は僕も持っているから参考になると思うよ」

 

 まぁ、僕も予定があるから付きっきりだと数日位しか見られないけどね、と本宮さんは言いますが、私は彼に訊ねずにはいられませんでした。

 

「そんな事をして良いんですか?だって本宮さんは「ダイバーシティ所属の魔術師。統合企業財体の敵。だから、何?それぐらいで僕が君に優しくしない理由にもならないよ」

 

 本宮さんは私の訊ねたい事が全て分かっていました。どうしてダイバーシティ所属である彼がEP所属の私にここまでするのかを。

 

「夕方の出来事から君達の家系が統合企業財体に関係があるのは分かっていたよ。ダイバーシティの仕事柄ああいう人を沢山見てきたからね。だから、君には敢えて詳しい詮索はしないでおく。ここで僕が聞いているのは()()としての君だ」

 

 それから本宮さんは私に魔女としての戦い方を教える理由を教えてくれました。

 それは世界的にも稀有な魔女や魔術師を怪物や化け物とあまり良く認識されていないのが深く関わっていました。何人もの魔女や魔術師が異端な能力のせいで迫害される、本宮さんはそういった人達を自分の魔術師である境遇を生かして、ダイバーシティに保護したり、能力の制御の仕方や魔女としての生き方を教えていたのです。

 

 私もその迫害される気持ちは同じ魔女として十分共感できました。そして、本宮さんの身分を考えない優しい性格に気付け、それがさらに彼への興味と好意を増させるきっかけとなったのです。

 

 

 私はこの時決めました。

 

 

「教えてください。私に魔女としての能力の使い方を、戦い方を。能力を使いこなせるようになりたいんです!」

 

 

 本宮さん……いえ、シオン兄さんみたいに強くなって、兄さんの横に立つことを。

 

 

 

 



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語り部の魔術師の実力

 

「くっ!!」

 

 剣同士の接触し、金属音と共に弾けあう。それと同時にシオンはアーネストから距離を取るために後退をし続けていた。

 

 本来のシオンなら、つばぜり合いを制して、懐に入り、その間合いで速攻を決める戦法も取り入れただろう。

 

 だが、今回の相手はトップクラスの剣の使い手。それも危惧すべき点ではあるが、シオンにとって最も危惧すべきなのはアーネストが持つ白濾の魔剣であった。

 

(白濾の魔剣の恐るべき効果は物体をすり抜け、任意の対象のみを切ることが可能な点。彼の攻撃を数秒でもガードなんかしたら、すり抜けられておしまいだ。回避しか出来ないってかなり辛いな)

 

 そう思いつつ、アーネストの剣撃を回避したり、剣で流したりとひたすら彼の攻撃に受け身になっているシオンにアーネストは話しかける。

 

「良い分析力だね。僕と白濾の魔剣(この子)との戦いとして最も模範的な戦いだ。でも、受け身になっているだけじゃ勝利は掴めないよ」

 

「それは自分がよく分かっていますよ。だから、僕も出し惜しみはしません!」

 

 そう言って、シオンはアーネストから一気に距離を取り、魔術師の能力を発動する。

 

灰かぶり姫の硝子槍(サンドリヨン・プリズランス)!」

 

 シオンが持つ水色の栞が輝きを見せると、シオンの背後に氷のように透き通り、鋭く尖った無数のガラスの槍が現れる。

 

「貫けぇ!!」

 

 そして、シオンの言葉によりガラスの槍が雨のようにアーネストに降り注いだ。

 

「サンドリヨン……なるほど、シンデレラの力というわけか。だけど、これぐらいでやられる程、序列一位は甘くはないよ!!」

 

 シオンの能力を確認する練習試合とはいえ、アーネストも一人の戦いを好む人としてわざと負けるわけにはいかないと決めていた。アーネストはガラスの槍により衣服を傷つけられたりはしたが、白濾の魔剣で殆ど振り払い、素早い動きでシオンの元へと剣を突き向ける。

 

髪長姫の巨塔(ラプンツェル・フルビルディング)!!」

 

 アーネストがシオンの元に迫る間際、シオンの手にある黄色の栞により、アーネストとシオンの間に10m近い巨大なレンガ造りの塔が現れる。

 魔術師の能力で作り上げた物だとはいえ、これほど大きな物を顕現させたシオンにギャラリーの人達は驚き、アーネストはすごく興奮していた。

 

「驚いた!!こんな物も作り出せるとは!!けれど、盾の代わりに作ったと言うなら、僕達には効果が無いっていうことを忘れてないかな!」

 

「いえ、忘れてませんよ。僕もこの塔は防御の為に使っていますが、アーネストさんにはこうやって使うんです!」

 

 そう言って、シオンは栞に星辰力を込め、さらに黄色に輝かせる。

 

 すると、10mもある大きな塔が鈍い音と共に少しずつ崩落し、上から無数の大小の瓦礫としてアーネストに降り注いだ。

 

「これはっ!くっ!?」

 

 塔の近くにいたアーネストさんは回避する余裕もなく、巨大な塔の崩落に巻き込まれてしまう。

 巨大な塔の崩落により、スタジアムに砂塵が巻き起こり、詳しい状況も分からない中、シオンは煙の中から最後の一手に決めかかった。

 

紅き子を襲う狼の一撃(レッドウルフ・ストライク)!」

 

 剣型煌式武装の刃が紅色に染まり、業火を纏った一撃がアーネストの胸元にある校章を捉える。

 

 

 

 

『チャリンッ!!』

 

 

 

 

 その瞬間、金属音にも近い金属音と何かがカランと地面に落ちる音がスタジアムに響き渡る。

 事の結末を見るために、ギャラリーで見ていたレティシア達はスタジアムに降りてくる。

 

 そこで彼女達が見たものは…………

 

 

「残念、引き分けのようだね」

 

 

「ええ、そうですね」

 

 

 砂塵と土砂によって白い制服が汚れているものの、シオンの胸に白濾の魔剣を突き付けているアーネストと紅色にも染まった剣型煌式武装をアーネストの胸に突き付けるシオンの姿だった。

 二人の校章はお互いの胸には無く、二人の近くに割れた状態で落ちていて、その状況が先程の試合が引き分けであったことを裏付けていた。

 

「ふぅ、勝ったと思ったんですけどね」

 

「いやいや、序列一位に引き分けるだけでも十分すごいからね。また君とは戦いたいものだよ。今度は()()の君とね」

 

「ふふっ、そういうアーネストさんだって。白濾の魔剣の代償で思うように剣士としての()()を出せていなかったじゃないですか」

 

 そう言って笑いながら、二人はその場で疲れたように座り込む。その様子を見てレティシア達は彼ら二人に飲み物やタオルを持ってこようと控え室に駆け出し始める。

 再び二人きりになったスタジアムで、アーネストはシオンに話しかける。

 

「これで生徒会とガラードワースの生徒達は君の実力を認めただろう。改めて歓迎するよ。語り部の魔術師、いや本宮シオン君。君のこれからの為にこの学園を存分に利用すると良い」

 

「はい、よろしくお願いします。アーネストさん」

 

 そう言って、二人は握手を交わしたのだった。

 

 

 





ライブラリー報告書

・語り部の魔術師の能力
 
 語り部の魔術師の能力は物語に関わる物であれば、具現化し、その特殊な能力を自身や武器に付与できる子供の夢のような能力である。
 しかし、能力を使うにはその物語への詳しい意欲的な知識と媒介となる物が必要である。
 現在シオンが使える物語はグリム童話のみで、彼が持つ栞はカーリーが西洋で見つけた「グリム童話の原典」というグリム兄弟の遺物を基に製作された物である。
 今、ライブラリーの数名の精鋭達が極秘任務で他の物語に関係する遺物を世界各地で捜索中である。

               


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学園生活を始めて数日……

 

 

 

 アーネストとの試合から数日。ガラードワースの生活も自分で言うのは変だけど、ほぼ馴染んできたと思う。初めての学園生活だったから、最初は困った時もあったけど、アーネストさんやレティシアさん達が親切にしてくれたお陰でそんなに苦労はしなかった。

 

 何より………

 

「ノエル、ここに行くにはどうすれば良いかな?」

 

「10号館の第12講義室ですね。でしたら、私が次に受ける授業の教室も近いので、一緒に行きましょう。シオン兄さん」

 

 僕には専属のようにノエルが付いていた。入学したての頃にあまり困らなかったのは彼女の存在が一番大きいと思う。

 

 実は僕が入学してきた翌日、ノエルが僕の部屋の前で制服姿で待っていたんだ。

 どうやら、合格通知を貰った日からノエルも事前に受かった生徒として授業を受け、学生寮に生活するように言われていたんだって。

 

 ノエルが僕の専属のサポートをしているのは僕とノエルの仲を知っているアーネストさんの計らいだとか。ガラードワースの授業のシステムは必修以外は好きな授業を選ぶ履修制だし、まだガラードワースの生活に不安な所があったからノエルの履修科目に合わせたんだ。それにより必修以外はほとんどノエルと行動している。

 

 

 さて、次の授業を行う教室に向かう間にこの数日にあった出来事を話そうか。実はこの数日間に色々な出来事があったんだよね。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 まずは序列についてかな。結論から話すと、公式序列戦で序列6位になりました。

 そして、ノエルも公式序列戦を行って、序列は7位。入学したてなのに大出世だよね。

 

 理由はアーネストさんが僕達に公式序列戦の推薦をしてきたことかな。色々な特典等の話をされて、断る理由がなかったから引き受けてみたけど、まさかその数時間後に公式序列戦の挑戦が来るとは思っていなかったよ。しかも、序列6位と7位だ。

 

 挑戦を受けて、戦った後に分かった事なんだけど、序列6位と序列7位の二人はもう少しで大学部を卒業して、この学園を去ることになるから、それまでに自分達の序列の後継者となるような生徒を探していたんだって。

 

 そんな時に、生徒会長であるアーネストに相談したら、僕とノエルをその後継者に推薦したらしい。

 何から何までアーネストさんの手のひらで転がされているような感じはするが、最終的に決めたのは彼らだったわけだし、肩の荷が下りたと喜んでいたから、アーネストさんには何も言わないでおこう。

 

 もう一つは生徒会に入ったことかな。ガラードワースでは序列上位12名の冒頭の十二人(ページ・ワン)には生徒会に入ることが義務づけられているんだって。

 

 最初は自分はライブラリーの人間だから、EPが運営のガラードワースの最上位機関に所属するのはどうかと、アーネストさんに流石に固辞したんだけど、既にEPの人にも許可を頂いていたとか。

 

 EPの人達もよく許可を出したよね。数年前まで同盟の『ど』の字も出ない関係だったのに。EPの最高責任者変わったんじゃない?

 

 まぁ、そんな事は置いといて、EPも許可した以上、固辞する理由も無くなったから生徒会に入ることになりました。

 

 生徒会に入って、最初にやったのは事務作業だった。星武祭の後始末や入学してくる生徒のデータ整理、やることは膨大だったけど、ライブラリーではカーリーさんの代わりに事務作業をやって来た経験があったから、生徒会の即戦力となった。事務作業に慣れていないノエルの手伝いもしたよね。

 

 後は初日みたいにガラードワースの生徒に悪い意味で絡まれなくなったこと位だね。公式序列戦の時に改めて多くの生徒に見せた実力と生徒会に入った事が原因かな?普通に同級生とも仲良くなったし、後輩や先輩からも挨拶をされるようになった。

 

 それをカーリーさんとアーネストさんに報告したら、それは良かったと言ってくれてたけど、二人から同じ忠告もされたんだよね。

 

 

『シオン君はこの数日でアスタリスクの新たな台風の目となってしまった。今もアスタリスクは君の話題で持ちきりだろう。だからこそ、他の学園の人達は君に興味を抱いている。くれぐれも外出する時は注意してね。特にあの()()()()だけはね』と。

 

 

 

 

 

 




ライブラリー報告書

▼本宮シオンの煌式武装

・多様式型煌式武装『メルヒェン・イマジンズ』
 ライブラリーが誇る技師と設計者が考案した本宮シオン専用の煌式武装。
 多種多様な能力を扱うシオンのために想像すれば、武器もそれに合った形に変化するという特殊性を持つが、未だに銃や剣系統以外の姿を見せた事がない。
 これでは煌式武装の持ち腐れだが『これはシオンが使う今の能力にあった形が銃や剣しか無いのか』それとも『シオンが戦いにくいから使わないのか』と製作者二人が白熱した議論を繰り返しているのはライブラリーの製作関係部署の人達しか知らない秘密である。




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他学園の動き①

 

 

 本宮シオンがガラードワースに入学してから早数日。彼一人によりガラードワースは新たな体制へと動き出そうとしていた。

 

 ライブラリー出身の魔術師という経歴、『語り部の魔術師』というネームバリュー、これらを兼ね備えている本宮シオンがガラードワースに入学し、入学早々に序列上位入りしたという事実はガラードワースだけに影響を与えるのみならず、他の統合企業財体及び他の各学園に影響と衝撃を与えていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーー星導館学園ーー

 

 

「語り部の魔術師の入学ですか……。星武祭が終わって早々ガラードワースは大きく動き出しましたね」

 

 そう言って、生徒会長室で電子新聞の記事を眺めているのは星導館学園序列二位の実力を持ち、生徒会長の座に就いている女子生徒、クローディア・エンフィールドである。

 

 彼女が見ていたのは本宮シオンについて書かれていたアスタリスクの記事で、それを見終えると、それを指で横にスライドし、今度は彼女のちょっとしたツテで入手した本宮シオンの公式序列戦の記録を閲覧する。

 

 それを見たクローディアは他学園の長として彼の実力を認め、星武祭での要注意人物として警戒し、同時に個人的には彼に対して興味を抱いていた。

 

「ひとまずは様子見ですね。いずれ彼とは接触したいとは思っていますが、ガラードワースに所属し、ライブラリーが関わっている以上余計な事はしない方が良いでしょう。今頃、『銀河』の人達は新たなライブラリーとW&WとEPの同盟関係について対策をしていますしね」

 

 そう言ってクローディアは記録映像を見るのをやめ、机に乗っかっていた資料に手をかける。

 

「こちらはこちらで出来る事をやりましょう……そう言えば本宮シオンさんと()なら一体どちらの方が強いのでしょうね?」

 

 その二人が戦う姿を想像して、腹黒そうな笑みを浮かべるクローディアは一枚の特待生の資料を眺めるように右手に持った。

 

 その資料の氏名欄には『天霧綾斗』と刻まれており、今は余計な事を行わず、星導館学園に新たな嵐を起こしてくれるだろう彼を迎える準備を彼女は一人で着々と整えていたのだった。

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーーアルルカント・アカデミーー

 

 

 

「にゃっはぁ~~!見てよ見てよ、カミラ!ガラードワースに新しく入って来た彼!記録を見ても超絶強いんじゃない?絶対序列六位の実力じゃないでしょ~、これは!」

 

「(まさか、あのエルネスタが他校の生徒にここまで関心を持つとはな)ああ、流石はライブラリーが誇る魔術師だ。噂ではあのアーネスト・フェアクロフと一度戦い、引き分けたと聞いている」

 

 薄暗い技術室。色々な部品や設計図、それにお菓子が散らばっているその部屋で本宮シオンの戦いの記録を見ているのは部屋の主である『彫刻派』の筆頭、エルネスタ・キューネと彼女の少なき親友である『獅子派』の筆頭、カミラ・パレートだ。

 

 彼女達も本宮シオンに影響を受けた者達の一人で、彼の戦いに非常に興味を示していた。

 だが、彼女達は本宮シオンだけに興味を示していた訳ではなかった。むしろ、本宮シオンよりも彼女達の興味を引く物が戦いの記録に写っていたのだ。

 

 

「ねぇ~、カミラ。彼の使っている()()()()だけど、煌式武装に詳しい君はどう思った?」

 

「………稀にみる素晴らしい性能だと思うな。一つの煌式武装だけで、太刀や大剣など形や大きさを変えられるし、多種多様な銃にも変換できる。この記録だけではシルヴィア・リューネハイムの使う煌式武装に似ていると思わせるが、恐らく他の槍や斧のような武器にも変えられるだろう。そして、これを作ったのは恐らく………」

 

「やっぱ、カミラもそう思う?こんな見たことがないシステムの煌式武装は一人しかいないよね。世界が認める程のライブラリーの万能の天才技師……()()()()()()()()()

 

「ああ、ライブラリーに所属している以上彼の煌式武装を作成したのは間違いなくドーロットだろう。で、お前は何を企んでいる?まさか、ドーロットをライブラリーから引きずりだすのか?あの人は世間嫌いが有名で、ライブラリーの本拠地から出た事がないと噂される変人だぞ?」

 

「そのまさかだよ~。あの人から何かアドバイスを聞ければ、私が今作っている自律式擬形体(パペット)の完成度もさらに高まるし、カミラも煌式武装の分野で何か教えてくれるかもしれないよ~?」

 

「それは、そうかもしれないが……ドーロット以前にライブラリーがこちらの要望に応えるとは思えないぞ。只でさえ、うちの統合企業財体は営利主義の塊みたいな存在なのに」

 

「まぁ、口だけでお願いするだけじゃ門前払いだよね。そこで、私は秘密兵器を使いま~す!」

 

「秘密兵器だと?」

 

 そう言ってカミラはエルネスタに訊ねると、エルネスタは自分の机に置いてあった頑丈な木箱を持ってきて、その中身をカミラに見せ付ける。

 

「この二つは……本か?」

 

「そう!私のコネをフル活用して手に入れた品々だよ!実は今ライブラリーは数人の諜報員を使って、世界の童話作家達の遺物を集めてるんだって!」

 

「なるほど……それらを使ってライブラリーと交渉するというわけだな」

 

 そう言ってカミラとエルネスタは木箱の中身を見ながらニヤリと笑みを浮かべるのだった。

 

 

「今年の鳳凰星武祭の優勝は私達のものだね」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーーレヴォルフ黒学院ーー

 

 

「チッ、ライブラリーがアスタリスクに自身の切り札を送ってくるとはな」

 

 赤髪の小太りな青年、ディルク・エーベルヴァインはその知らせにイラつきつつ、情報が載った新聞紙を机に叩きつけた。

 

「気に入らないな。よりにもよって何でこのタイミングだ?まさか、俺達の計画が気付かれたのか?……クソッ、あの白髪ロリババァが」

 

 ディルク・エーベルヴァインは思い出していた。

 

 数年前、ディルク・エーベルヴァインが生徒会長になったばかりの頃だった。彼はレヴォルフの運営母体である『ソルネージュ』のある計画に参謀として参加していたのだ。

 

 それは南アフリカ地域に眠るレアメタル及びマナダイトの資源獲得だった。当時、南アフリカ地域の資源鉱石はまだ他の統合企業財体も手を出しておらず、ソルネージュはそれをチャンスだと思い、この計画を実行したのだ。

 

 だが、南アフリカ地域にはある反対勢力がいた。それがライブラリーだった。

 

 ライブラリーは南アフリカ地域の自然や文化遺産を保護しており、ライブラリーの諜報員がその情報を聞き付けると、ライブラリーはすぐに南アフリカ地域へと駆け付けた。

 

 ソルネージュもライブラリーが駆け付ける事は想定済みで、この際にライブラリーにも痛手を与えようと、数百人の兵と数百体の自律式擬形体という万全の状態で整えて、南アフリカ地域へと武力侵略を開始した。ディルク・エーベルヴァインも後方で司令官としてこの戦いに望んでいた。

 

 

だが、その侵略作戦は僅か30分で終了した。

 

 

ソルネージュの圧倒的な敗北だった。

 

 

 ソルネージュの計画の準備は万全だった。しかし、それをライブラリーはたった30分間で叩き潰したのだ。ディルク・エーベルヴァインの作戦も含めてだ。

 

 しかも………

 

『こういう事には子供を巻き込みたくないんですよ。汚れ仕事は大人の仕事です』

 

 ライブラリーの切り札と呼ばれていた本宮シオンの手を借りず、ライブラリーは主であるカーリーとその他4人の計5人という戦力だけでソルネージュを侵略部隊を蹴散らしたのだ。

 

 ソルネージュはその戦いで死亡者は出さなかったものの、兵士達は二度と出兵出来ないような傷を負わされたり、貴重なマナダイトで作った自律式擬形体を壊されて全てライブラリーに回収されたりと被害は甚大だった。

 

 さらに、そこにカーリーが戦後被害として十数億という金を賠償金として支払わせたのがソルネージュにとってかなりの痛手だった。

 

 ソルネージュからしてみれば、ライブラリーは何の被害もなく、こちら側が被害者だと異議を申し立てようとしたかもしれないが、カーリー達少数の面子でこの被害を出した衝撃が大きく、反感を買ってライブラリーと全面戦争をしたら、ソルネージュが滅ぶかもしれないという推測が立ったので、ソルネージュの幹部達全員は賠償金の支払いに仕方なく応じるしかなかった。

 

 

 これが後に伝わるライブラリーと統合企業財体の伝説的な武力戦争の末路とライブラリーと統合企業財体が仲が悪くても、現在絶対に武力戦争を起こさない理由である。

 

 

 

「あの白髪ロリババァは俺が完璧に組んだ作戦を玩具で遊ぶ子供みたいに崩しやがった。しかも、ソルネージュからは作戦の責任者として説教されるし、人生で断トツの屈辱的な体験だったぜ。クソッ!数年経った今でもあいつだけは気に食わない!」

 

 

「………白髪、白髪って貴方はさっきから誰の事を言っているの?……もしかして、私?」

 

 生徒会長室に気配を漂わせずに入って来た白髪の少女、オーフェリア・ランドルーフェンはディルク・エーベルヴァインに訊ねる。

 

 オーフェリアの声で彼女の存在に気付いた彼はいつもの不機嫌そうな顔をさらに不機嫌にしたような顔でオーフェリアに振り向いた。

 

「……テメェ、いつからそこに?」

 

「……ついさっきよ。貴方の怒鳴り声みたいな声は廊下まで響いていたわよ」

 

「チッ。なら、さっきの件は忘れろ。俺は少し気分転換をしてくる」

 

 そう言って彼は机を蹴るように席から立ち、生徒会長室から出ていく。

 

 

「……彼が不機嫌な理由はこれね」

 

 彼が出ていった生徒会長室に一人残されたオーフェリアはディルクが叩き付けた新聞紙を手に取り、本宮シオンの記事を眺めていた。

 

「(物語……ね。私も昔は好きだったわ。孤児院でユリスと何度も同じ本を読んだんだっけ)」

 

「本宮シオン……貴方は私の運命を変える力は持っているのかしら」

 

 

 

 



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他学園の動き②

 

 

ーークインヴェール女学園ーー

 

 

「ペトラさん!これどういう事!?」

 

「……どういう事とは?」

 

 学園長室に勢いよく入って来たシルヴィアはこの部屋の主であるペトラに週刊誌を見せ付ける。それを見たペトラはその件かと心の中で思っていたが、シルヴィアの問いかけに敢えて疑問という形で問い返したのだった。

 

「シオン君がアスタリスクにいる事だよ!しかも、何でガラードワースにいるの!」

 

「別に良いじゃない。W&WとEPがライブラリーを通じて同盟を組んでいるのだから、入学するのがガラードワースなのはあり得ない話じゃないわ。まぁ、カーリーに聞いた話だとガラードワースにシオン君の知り合いがいたのが一番の要因らしいわよ」

 

「ここにだって知り合いはいるでしょ!?ペトラさんの目・の・前・に!」

 

「……シルヴィ、まずクインヴェールは女子校よ。そんな所に男の子であるシオン君を入れるわけにはいかないのだけれど」

 

 シルヴィアのあまりの言い分にペトラは頭を抱えて呆れてしまう。

 

(前にシオン君とフランスで会って、別れた後もシルヴィは私にシオン君についてひたすら聞いてきたし、余程彼が気に入ったのでしょう。シルヴィの年頃なら、一つぐらい恋をするのは良い事ですが……)

 

 まさか、シルヴィが自分の為にシオン君を女子校に入れようとしている現場を本人が見たら、ドン引きでしょう。彼にはフランスでのシルヴィの印象をそのままにしておくべきですね。

 

「そう言えば、彼からは連絡がありましたか?前に彼と連絡先を交換したでしょう」

 

「それが一回も連絡がないの。アスタリスクに来たなら、連絡して来ても良いのに」

 

「シオン君もアスタリスクに来て間もないから、彼にも色々と用事があって忙しいのでしょう」

 

 そう言ってペトラは可愛らしく頬を膨らませて怒りを表しているシルヴィアを宥めていた。

 

「……そんなに会いたいなら、シオン君に会いに行けば良いじゃない。私の勘だと、アスタリスクに来たばかりの彼なら街を見学している時期じゃないかと思うわよ」

 

「えっ!良いの!?いつもなら、外出にも厳しいペトラさんがここまで……もしかして()()!?」

 

 シルヴィアはペトラの言葉に顔を赤らめる。

 

「……何の()()かは敢えて触れないでおきますが、シオン君ならば、人柄的に問題も無いですし、これ以上貴女のそれを拗らせ続けても私が困ります。なら、早期解決が一番です」

 

「やった~!!それなら、早速外出の準備をしてこようっと!」

 

 そう言い残して、ペトラからシオンに会いに行く許可を貰ったシルヴィアはさっきまでの様子を一変させて、上機嫌に学園長室を出ていった。

 

 

 学園長室に一人取り残されたペトラは苦労から解放されたように溜め息を吐く。

 

「……シルヴィの機嫌が良くなるのは良いことですが、何も起きないと良いですね」

 

 

 そう言ってペトラは独り言のように天井を向いて、厄介事が何も起こらないようにとただ一人祈るのであった。

 

 

 

 

 

ーー界龍第七学院ーー

 

 

 

「ホッホッホ!遂にカーリーの子がアスタリスクへと足を運ばせおったか!うむうむ!その素材も金剛石のように煌めいておるわい!今からでもウチに来て、妾と一度対戦したいものよ!」

 

「またですか……」

 

 中華風のオリエンタルな生徒会長室で、興奮を抑えられないように本宮シオンの戦いの記録を見ているのは界龍第七学院序列一位、多くの人々が『万有天羅』と敬う童女、范星露。

 

 また、彼女の戦闘狂の発作みたいな言動を聞いて、頭を悩ませているのは彼女の弟子であり、彼女の事務的な補佐も務めている界龍第七学院序列五位の趙虎峰である。

 

「さて虎峰よ、お主から見て彼はどうじゃ?」

 

「本宮シオン君ですか?そりゃ、十分に強いと思いますよ。戦ったら、確実に僕は負けるでしょう。それが一体どうしたのですか?」

 

「うむ、確かに今のお主なら彼に負けてしまうじゃろう。けど、彼はまだ未完成じゃな」

 

「未完成?」

 

「言葉通りの意味じゃ。彼はまだ魔術師の本質的な能力の片鱗しか扱えておらぬ」

 

「(そう言えば、カーリーは昔から物語に関わる遺物を探しておったな。そこでもし、彼の持っている栞が彼の能力の発動条件で、その栞が遺物で作られておるのなら……)」

 

「………虎峰よ」

 

「はい?何でしょう、師父?」

 

「今から妾は黄辰殿で探し物をしてくる。決して中には入ろうとするではないぞ」

 

「えっ!?黄辰殿でですか!?あそこには歴代の万有天羅が遺した大量の品々がある筈です。僕も手伝いますよ」

 

「大丈夫じゃ、探し物はすぐに見つかる。それでは虎峰、後の事は頼んだぞよ」

 

 そう言って、自分の弟子である虎峰を生徒会長室に残して、星露は黄辰殿へと足を運ばせる。

 

 

(カーリーの子には妾からアスタリスクに来たプレゼントを渡さねばならぬのう♪)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

ーーライブラリー本部ーー

 

 

 

「カーリー殿、お久しぶりです」

 

「ええ、お久しぶりですメスメル様。今はメスメル最高理事でしたっけ?」

 

「はい、一年前は色々とありましたが、あの件があって改革派が失脚してから、つい最近私がEPの理事を務めることになりましてね。今、こうしてライブラリーと同盟を組んでいるのが我々穏健派の第一歩だと考えています」

 

 

 アスタリスクから遠く離れた人口島。そこにはライブラリーが活動するための本拠地があり、一般の人は立ち入ることが出来ない島であった。 

 

 そんな場所に足を運んだのは濃い緑色の髪が目立つ男性で、彼はEPに新たに就任した最高理事であり、メスメル家の当主であるクリフ・メスメル。此度は彼の真向かいで話をしているライブラリーの当主、カーリーに用事があって来たのであった。

 

「そう言えば、シオンはどうですか?そちらでも元気にしておりますか?」

 

「ええ、もちろん。今ではすっかりガラードワースの生徒のように馴染んでいますよ。それに、シオン君目当てで入って来る生徒が新たに増えて、ガラードワースにさらに活気が湧いてきそうですよ」

 

「うふふ。それは良かったです」

 

 シオンの事や世間話について二人はしばらく談笑をし続けると、二人はようやく今回の対談の本題に入ろうとする。

 

「そうだ、カーリー殿。こちらが貴女の欲していた物です。これを探すのには苦労しましたよ。まさか、EPが所有していたイギリスの廃墟と化した博物館の奥にあったのですから」

 

「…………拝見しますね」

 

 クリフから頑丈なケースを受け取り、カーリーはそのケースの鍵を開けると、中には一冊の風化しかけている台本と一昔前ぐらいの使うのは不可能であろうカメラが入っていた。

 

「クリフ様……こちらが」

 

「ええ、イギリスが代表する戯曲家ウィリアム・シェイクスピアが使っていた台本と同じくイギリスを代表する童話作家ルイス・キャロルが生前使っていたカメラです。これをライブラリーに寄付しようと来たのが今回の本題です。お納めください」

 

「よろしいのですか?こんな貴重なものを?」

 

「はい、実際このような物を今更欲しいと思う方はEPにはいなかったですし、これは一年前にシオン君に助けて貰ったお礼だと思って受け取って下さい。それに物語を能力とするシオン君の力にきっとなりますから」

 

「……分かりました。大事に使わせて頂きます」

 

 

 後日、ライブラリーの製作部署では大きなプロジェクトが進められていた。それはクリフから頂いた遺物を基にシオンの新たな栞を作り出すプロジェクトである。

 

 

「ふふっ、シオンの新たな成長が楽しみです」

 

 

 

 

 

 





感想・アドバイス等待ってます!


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歌姫との再会

 

 

「ここが中央区か……」

 

 入学してから早々ガラードワースの序列上位入りを果たしてしまい、生徒会への入会や序列上位者に与えられるプライベートルームへの引っ越しなど濃密な数日を送っていた僕は昨日ついにそれらから解放され、アスタリスクに来て初めての休日と言って良い日を過ごそうと思っていた。

 

 ただ、初めての休日と言っても足りない生活必需品の買い物だけで終わってしまうだろう。だって、本当に忙しかったんだから。

 

 ちなみに、今日ノエルは同じ学年の子と用事があると言って連れてきてはいない。わざわざ僕だけの為に案内させるわけにも行かないし、同じ学年の友達がいるのは良いことだからそちらを尊重しよう。

 

「それにしても流石はアスタリスク。学園も大きかったが、中央区はその数倍はある大きさだな」

 

 見渡してみると、ファストフード店、喫茶店、レストラン、雑貨屋、ゲームセンター、さらには映画館やショッピングモールもある。学生の生活には決して困らない程充実している。

 

 自分が持っているデバイスで、電子案内図を見ても飲食店だけで100は軽く越えているし、雑貨屋はその2倍以上だ。さらには、路地裏や小道も多くあって、アスタリスク初めての人なら迷子は避けられないだろう。

 

 今更ノエルに案内をお願いするのも悪いし、他の生徒会の人達も入学式直前の打ち合わせで頼むのは迷惑だと思うからなぁ。やっぱりここは自分だけで散策して、目的の物を見つけたら、その店で買うことにしよう。

 

 

……………………

 

 

………………………………

 

 

……………………………………………

 

 

 

「………………………」

 

 

 どうしよう……誰かに尾けられている。

 

 確かに序列入りを果たしたから、知名度が上がって、話しかける人は何人か見かけたけど、今回は雰囲気がまるで違う。ただのファンだったら、こちらも声をかけやすいけど、気配の消し方が並の人じゃない。ライブラリーで消された気配に気付く訓練してきた僕じゃないと気付かないぐらいだ。

 

 レヴォルフとかの刺客だったら、不審な行動を見せ次第正当防衛をしかねないが、後ろを軽く見た限りただの帽子を被った女の子である。ここはもう少し接近させつつ、様子を見るべきかな。

 

 

 そう思いつつ、僕は歩幅を変えてゆっくり歩くように調節すると、後ろで尾行している女の子は徐々に距離を詰めてくる。

 

 

 

 そして……

 

 

 

(動いたっ!!)

 

 

 

 女の子は一気に距離を詰めて僕の背後間近に迫る。それと同時に僕は腰に携帯している煌式武装に手をかけて女の子に構えようとするが…………

 

 

「だーれだっ!!」

 

 

「ひゃいっ!?」

 

 

 えっ?なにが起こったの?

 

 

 急に接近した女の子によって目隠しをされ、同時に背中に当たる柔らかい感触で、思わず変な声が出てしまった。予想外過ぎて煌式武装を起動する気も出てこない。

 

 

 というより、僕の背中を襲う柔らかい感触ってまさか………結構大きいっすね、お嬢さん。

 

 

 いやいや、そうじゃない。何を確認しているんだ僕は。ひとまず、この状況を打開しないと。冷静になるんだ、本宮シオン。

 

 

……………

 

 

…………………………

 

 

 

 冷静になってみると、この人の声ってフランスで聞いたあの人の声に似ているんだよね。だとしたら、心の中で世界的アイドルにとんだセクハラ発言をしてしまったわけだけど。マジでごめんなさい。

 

 

「……もしかしてシルヴィアさん?」

 

 

「ピンポーン!!久しぶり、シオン君!」

 

 

 目隠しを外され、鮮明な景色と共に背後の女の子を初めてはっきりと直視すると、そこにはフランスで会った時とあまり変わらないような姿で変装しているシルヴィアさんの姿だった。

 

「驚かさないでくださいよ、シルヴィアさん」

 

「ごめんごめん。街を歩いていたら、偶然シオン君を見つけてね。ところで、シオン君は一人で何をしているの?」

 

「えっ……ああ、実は足りない生活必需品を買いに来たんです。それで、初めて中央区で買い物しに行こうと思ったら、なかなか広くて。散策でもしながら、手頃なものを買おうと思ってたんです」

 

「ふ~ん、なるほどね~」

 

(流石はペトラさん!先見の明が冴えてる!しかも、一人とか最高のタイミングじゃない!)

 

「ねぇ、シオン君。良かったら、私が一緒に案内してあげようか?」

 

「えっと……それは嬉しいんですけど、大丈夫なんですか?ほら、クインヴェールってアイドルが多いからスキャンダルとかって大変じゃないですか。僕と一緒だとシルヴィアさんやペトラさんに迷惑がかかると思うんですけど?」

 

「全然大丈夫!ペトラさんからも許可は貰っているし、シオン君はすでに序列上位者なんだから堂々としていれば良いんだから!」

 

(まさか、私の心配をしてくれるなんてね。ますます君の事が気に入っちゃったよ。いっそのこと変装を解いてシオン君と歩いている所をスキャンダルにして貰っても構わないんだけどな~)

 

「そうですか。なら、お言葉に甘えてシルヴィアさんにお願いしようかな」

 

「うん、よろしくねシオン君。あと、そのシルヴィアさんっていうのと敬語は今後は無し!年も同じなわけだし、気軽にシルヴィって呼んで欲しいな♪」

 

「えっ」

 

 えー、女性なら気軽に名前で呼べるけど、愛称ってかなりレベル高いなぁ。しかも、相手は世界的アイドル。学園の友達にもシルヴィアさんのファンがいるけど、この現状話したら一生恨まれかねん。

 

「いや、シルヴィアさ「シルヴィ」……シルヴィアさ「シ・ル・ヴィ!」………よろしく、シルヴィ」

 

「うんうん!よろしくシオン君!」

 

 

 二回チャレンジしたけど、駄目だったよ……

 

 

 



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歌姫とのお買い物と新たな騒動?

 

 

「そういえば、シオン君は何かを買いに来たって言ってたけど、何を買いに来たの?」

 

「歯みがき粉と香水だね。一応、ライブラリーからは持って来たんだけど、そろそろ切れちゃって。後は店にあればで良いんだけど、詰め替えのシャンプーぐらいかな」

 

 街を案内されている最中、シルヴィは僕のお目当ての物が何かと訊ねてきたので、僕は欲しい物をそのまま素直に打ち明ける。香水とかシャンプーとかって女性の方が多く使うから詳しい感じはあるし、シルヴィにオススメのお店を紹介して貰うのも良いかもしれない。

 

「歯みがき粉に香水、シャンプーね。なら、私が使っているお店を紹介してあげるよ。品質と品揃えがアスタリスクの中でもとても良いお店だよ」

 

「助かるよ。なら、そこに行こう」

 

 流石は女の子。やっぱりこういうのは女の子に一日の長がある。それにしても世界的アイドルが御用達のお店か。案外とんでもない場所かもしれない。

 

 

………………

 

 

……………………………

 

 

……………………………………………

 

 

 シルヴィに連れられて彼女がオススメする店にやって来ると、そこは普通の百貨店のような学生が簡単に利用できそうな大きな店だった。

 

 てっきり数回行ったことがある銀座みたいな高いお店かと思っていたが、そうではなかったようだ。

 

 そう思いつつ意外そうな顔をしていたら『たまにテレビの取材とかではシオン君が想像しているようなお店は使うけど、基本は利用しないかな。世界的有名人っていう肩書きはあるけど、お金は豪遊しない方だよ。今でも、ファストフード店とかの味が恋しくて、食べに行くぐらいだもの』とプライベートな情報を教えてくれた。

 

 意外にも庶民的な歌姫である。シルヴィの感じから豪遊するような人物ではないとは思っていたけど、ここまで庶民的だと普通の女子学生にしか全然見えない。

 

 ちなみに、その時に『シオン君はこういう生活の人って好きかな?』とシルヴィに世論アンケートみたいな事を聞かれたので、僕は自分の心を嘘偽りもなく、好きとシルヴィに話した。だって、豪遊するような貴族じみた生活はあまり憧れがないし、家庭的なタイプの女性の方が接しやすいから。

 

 そう言ってシルヴィに返答したら、シルヴィは嬉しそうに謎のガッツポーズをしていた。

 なんでだろう?まさか、アイドルの在り方について人知れず悩みを抱えていたとか?相談されたら付き合うが、こちらからはあまり触れないでおこう。

 

 

……………………

 

 

………………………………………

 

 

 

「そう言えばシオン君っていつもどういう種類の香水をつけているの?」

 

 目的の歯みがき粉とシャンプーの詰め替えパックを見つけ、最後の目的の物である香水が売っているコーナーを移動しながらシルヴィが僕に訊ねる。

 

「柑橘系のものかな。けど、柑橘系の香水を使い始めたのはここ最近なんだ。カーリーさんやライブラリーの他の女性の人に勧められてね。でも、昔は無香料タイプの物を使っていたよ。ちょっとした知人に叱られてね……」

 

「ちょっとした知人?」

 

「うん、その人ね。ちょっとしたレストランを開いているんだ。それで、料理ができる僕をしばらく臨時で雇った時があって、その時にカーリーさんの計らいで柑橘系の強めの香水を使って行ったら……」

 

 

『シオン、アンタ柑橘系の香水をつけているでしょ?それ使うとワタシの料理の香りが霞むんだよね。大方カーリーさんがやったのは分かるし、今日は初日だから許すけど、次同じ事やったらただじゃおかないから』

 

 

マジで殺されるかと思うぐらいキレられた。

 

 

 あの人は昔から料理に対してのプライドがすごく高かったからね。僕の料理の腕を認めて雇ったのは分かるけど、基本は僕に対して嫌悪感が漏れてるからなぁ。仲が悪いのは意識の方向性の違いが原因だけど。あの人の料理は大衆向けより富裕層向けの人用なんだよね。

 

「へぇ~、そんなことがあったんだ。っていうか、シオン君って料理が得意なの?」

 

「まぁ、そうだね」

 

 元々ライブラリーの仕事で、自炊をする機会もあったし、何よりカーリーさんがお腹を空きやすい人だったから、昔は今の数倍の頻度で料理をしていたっけ。そのせいで、料理の腕は無駄に上達しちゃったんだよね。

 

「シオン君の料理か~。食べてみたいな~」

 

 そう言って、シルヴィは香水を選んでいる僕の方を見て瞳で訴えてくる。上目遣いで、しかもキラキラと輝かせている瞳でだ。

 

「うっ…分かったよ。近い内にね」

 

「やった♪」

 

 自分でも分かっているが、僕は女の子にこういう事をされると非常に弱い。何というかあまり女の子が困る姿を見たくないんだよね。

 

 まぁ、別に料理を作るぐらいなら、自分にとっては朝飯前だし、別に食材があれば大丈夫だけど。

 

 

…………………

 

 

…………………………………

 

 

…………………………………………………

 

 

「シルヴィ、今日はありがとう」

 

 目的の物を無事に買えて、お店からシオンとシルヴィアは出てくる。二人が出る頃には冬という時期もあって夕方前なのに日は暮れそうになっていた。

 

「どういたしまして。私も久しぶりに息抜きが出来たから楽しかったよ」

 

 シルヴィアもシオンと二人きりでいた時間が楽しかったのかシオンと会った時よりもすっきりと晴れ晴れとした笑顔をシオンに見せていた。

 

「次会うのは入学式が終わってからかな?確かシルヴィはライブツアーがあったよね?」

 

「うん、もうすぐワールドツアーが始まって練習とかもしなくちゃいけないしね。しばらくはシオン君とは会えないかな」

 

 そう言って、シルヴィアは寂しそうな表情をシオンに見せる。

 

「なら、定期的にシルヴィには連絡をするようにするよ。アスタリスクに来てからは忙しくて一回も連絡ができなかったから」

 

「本当っ!?約束だよ!」

 

「もちろん。それと君の先生のウルスラさんの行方は僕が代わりに探しておくから」

 

「えっ……どうしてっ?」

 

「どうしてって。それはシルヴィが困っているからだよ。あの時に失敗したから、もう断念しようって気持ちは僕には無いよ。僕もお願いされた以上最後まで付き合うからね」

 

 実はシオンはアスタリスクに来てからウルスラの捜索を自分の能力を使って連日行い続けていた。

 

 けれども、捜索は失敗し、彼の能力で作った魔法の鏡は割れるばかりであった。それでもシオンはシルヴィアのお願いを忘れることなく、諦めずに捜索を続けていたのだ。

 

 そのシオンの行動にシルヴィアは衝撃を受けていた。本来なら私事のため、シルヴィアは自分で解決しなきゃいけないと思っていた。

 

 けれども、あまりに手掛かりが少なく、彼女の親代わりとも呼べるペトラにもウルスラの捜索は止められていたのだ。それは彼女を危険な目に会わせたくないという気持ちの表れで、シルヴィアはもちろん分かっていた。

 

 だからこそ、シルヴィアは嬉しかった。まさか、軽く頼んだぐらいのお願いを彼は忘れずに今日まで熱心に協力してくれていたから。

 

「シルヴィ?何で泣いて?」

 

「うん……ありがとう、シオン君。なら、お願いしても良いかな?」

 

「うん、任せておいてくれ」

 

 

 

 その後、僕はシルヴィが泣き止むまで彼女に付き合っていた。このまま別れるのも彼女には酷だと思うし、むしろシルヴィは喜んでいたから。

 

 

………………

 

 

……………………………

 

 

……………………………………

 

 

「たっだいまぁー」

 

 シルヴィが泣き止むまで彼女に付き添い、彼女をクインヴェールの近くまで送った後、僕は自分が住んでいる寮に帰って来た。

 

 といっても、この寮は冒頭の十二人に与えられる特典で、入居者は十二人しかいない。だからこそ、ただいまと言っても返事は一切帰って来ない。

 

 なんか物寂しさはあるよね、うん。

 

 そう思いつつ、自分の部屋があるところまで向かうと、自分の部屋の前にはノエルと金髪の少年が立っていた。一体誰だろう。

 

「あ、シオン兄さん」

 

 僕の存在に気付き、ノエルが声をかけてくると、金髪の少年もこちらの方を向く。

 

 少年の視線……あまり良い感じではなさそうだな。むしろ、妬んでいるような。

 

「ノエル、部屋の前に立ってどうした?それとこの少年は一体?」

 

「そ、それが………」

 

「おい、語り部の魔術師!」

 

 そう言って金髪の少年は僕に口を開いた。

 

 

「僕と決闘をしろ!」

 

 

 

 はいっ?

 

 

 

 



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フォースター家の嫡男



グリムノーツももう最終章……
出た頃からやってましたが、時間の流れってあっという間ですね……。




 

 

「なるほど、エリオット・フォースター君ね」

 

 そう言って作った夕飯を自分の部屋でノエルと一緒に食べながら、彼女から今回の決闘の経緯を聞きつつ、対戦相手の彼のデータを眺めていた。

 

 ちなみに、今夜の夕食は昨日食べたハンバーグの残りを使ったミートソースパスタである。ノエルから聞かなくてはいけない事もあったし、今日は仕込みが必要のないメニューにしてみた。

 

「序列は十二位、ノエルとは同じ学年か。……あー、噂のフォースター家の嫡男ね」

 

「はい……私とエリオットお兄ちゃんとは幼なじみだったんですけど、昔はあんな感じじゃなかったんです。でも、最近になってシオン兄さんの話をするとさっきみたいに機嫌が悪くなって、ああいった感じに……」

 

 ノエルも彼について随分と心配している様子だった。まぁ、幼なじみという仲で彼を誰よりも知っているノエルからして見たら心配するのは当たり前だよね。

 

 それにしてもなぜお兄ちゃん呼び?僕は年上だから分かるけど、彼はまだノエルと同い年だよね?まさか、言わせてるパターン?いや、それは無いか。というより無いと思いたい。フォースター家の嫡男にそんな性癖があったら、アウトだよ。

 

「でも……まさか決闘を申し込むとは。ガラードワースでは決闘は禁止なのに、よくアーネストさんも許したものだよね」

 

 本来、ガラードワースでは原則的に決闘は禁止している。それはガラードワースの厳格な校風を守るためだが、EPを創設した一族の嫡男がそれを破るのは皮肉にしか見えない。

 

 生徒会長で、決闘を許可する権限を有するアーネストさんにこの決闘について確認をしてみると、一応の形で容認したらしい。後から聞いてみると、最初はアーネストさんも決闘を反対していたが、エリオット君が決闘を申し込むことを諦めきれず、ここは僕の実力を実際に感じて落ち着いて貰った方が良いと思って容認したようだ。

 

 一応、僕にも断る権利があり、別に断っても良かったかもしれないが、後からネチネチと言われるのは非常に面倒臭い。アーネストさんが言うように実力を示すのが一番良い解決策だろう。

 

「…元々エリオットお兄ちゃんは悩んでいたんです。ガラードワースに来る前から」

 

「悩んでいた?」

 

 そのまま訊ね返すと、ノエルは話を続ける。

 

「エリオットお兄ちゃんの家系はEPの創設者の一族の家系なのはシオン兄さんも知っていますよね?」

 

「ああ、もちろん。彼がノエルと同じように入学した時は噂にもなっていたよね。『フォースター家の期待の新入生』と。まさか、そのプレッシャーが彼を精神的に追い詰めてしまったと?」

 

「はい……昔からそういう危なっかしい面が前からありました。みんなの期待に応えなきゃという思いが人一倍強かったんだと思います。でも、今回私達と同じ代に入ってきたある生徒によってその実力を悪いように比較されてしまった」

 

「それが僕で、彼より序列が高い僕は人知れず精神的に追い詰めてしまい、ついに彼は堪えられなくなって、僕に決闘を申し込んだわけか」

 

 エリオット君が僕に決闘を挑んだ理由はこれで分かった。一言でまとめる事が出来るならば、僕への私怨と片付けられるが、彼の心情を察するとそう簡単な話ではないだろう。

 

「あ、あの別にシオン兄さんが悪いとか思ってませんよ。もしこれで転校したら……泣きます……」

 

「いや、泣かないで。転校する気もないから」

 

 そんな泣きそうな顔をこちらに向けないでくれ。話の流れからノエルが僕を悪人扱いしてないのは十分に理解しているから。

 

 一番危ないのはこんな夜遅くに僕の部屋でノエルが泣いているという状況だから。レティシアさんやアーネストさんに説教されるのは勘弁だし、学校でノエルを泣かしたと誤解された噂を流されたら、社会的に詰みだから。

 

 

 ひとまず、エリオット君の事は戦ってから考えることにしよう。決闘前に彼のストレスの原因である僕が彼の悩みを解決しようと行くだけで、彼との溝は深く大きくなってしまうだろうし。

 

 

……………

 

 

 

…………………………………

 

 

 

…………………………………………………

 

 

ー決闘日当日ー

 

 

語り部の魔術師(メルヒェンテラー)……今日は貴方に僕の全てをぶつけます!!」

 

 

 決闘日当日、エリオット君の申し込みに応じるべく指定された練習場へと足を運んでいた。

 

 公式序列戦とは違い、特例で認められた決闘であるため、ギャラリーは一切おらず、いるのは見届け人として来ているノエルとアーネストさんだけである。フォースター家の息子が禁じられている決闘を申し込んだ事を他の生徒に見せないように配慮したのだろう。

 

「エリオット君。君も確か一人の剣士だよね。ここは公平に僕も剣一本で勝負するかい?」

 

「いえ、結構です。そんな言い方をするとまるで貴方が手を抜いていると感じてしまうので。僕は貴方の本気の実力が見たいんです。会長と引き分け、ノエルが慕うほど認めたその実力を」

 

 その言葉と共にエリオット君は鞘からクレイモア型の剣型煌式武装を引き抜く。彼は僕の実力の全てを知ろうとしている。剣士同士の正々堂々とした戦いを捨てる程、彼の決心は非常に固いようだ。

 

「分かった……怪我しても知らないからね」

 

 エリオット君の決意を確認して、僕は多様式型煌式武装『メルヒェン・イマジンズ』を剣型から片手剣型と片手銃型の二つの煌式武装へと分解し、形を変える。

 

 

 これが僕が最も得意とする戦闘スタイルだ。

 

 

 近距離から中距離までに対応したバランス特化のスタイル。自分の戦い方は相手の出方を分析して戦う戦い方だから、このスタイルが一番落ち着くし、最も得意とするものなのだ。

 

 

『二人とも準備は良いね?』

 

 

 ギャラリー席からのアーネストさんの言葉に僕とエリオット君はコクリと静かに頷く。

 

 

 さてと、本気を出して欲しいと言った彼に応えて、能力も出し惜しみは無しで行こうか。

 

 

 

『Start Of The Duel!!』

 

 

 

 



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VSエリオット・フォースター





 

 

 名家の嫡男というステータスは非常に厄介なものだ。まるで、一生解けない呪いのような。

 

 人生に勝ち負けをつけるとすれば、僕の友人達は満場一致で勝ちだと言うだろう。特に僕の場合は世界を支える六つの統合企業財体の内の一つを創設した一族だ。将来に何の心配ない。レールに乗ってしまえば、待っているのは安定した将来の終着駅だ。

 

 

 だが、名家の嫡男というだけで、そのレールには乗ることは出来ない。いや、出来るわけがない。

 

 

 難なく歩けるようになり、言語能力も発達した三歳の僕に待っていたのはそのレールに乗るための試練と呼べるような教育だった。

 

 午前中は経営や経済の座学。午後からは剣術の練習。ちょっとした休憩の最中でもマナーや作法に気をつけなければいけない生活だった。

 

 また、当時の僕ぐらいの年齢の子だと休日は親と遊ぶのが一般的だと思うが、僕は親と社交界に出て並みならぬ貴族や有力者に顔を出すばかりだ。

 

 

 一度は僕は我儘を両親に言った事がある。

 

 

 何故、僕は他の子のように遊んではいけないのかと。何故、ここまで僕に課題を与えるのかと。

 

 

 その時、私の両親は声を揃えて言いました。『お前を一族の恥にしたくないからだ。お前はEPの為に何事も一番でなくてはいけない』と。そう言って二人は僕の我儘を軽く流して、僕を()()にするための教育にさらに力を入れるようになりました。

 

 

 僕は上に立つものとして何事も()()でなくてはいけないんだ。

 

 

………………

 

 

…………………………………

 

 

 普通の人々が学校に入る時期になると、僕も同じように学校に入るが、同時に始まるのが今後の将来の為に誰と付き合うかの品定めであった。

 

 恋愛や結婚の話じゃない。将来自分の利益のために誰と友人関係を結べば良いかという話だ。

 

 それは欧州屈指の貴族の令嬢、EPを代々支える家系の御曹司など色々いる中で、友達選びをするということ。大抵は僕に媚を売るような人達ばかりでうんざりする日々であったが、一人の少女が僕のその疲れた感情を抑えてくれた。

 

 

 名前はノエル・メスメル。

 

 

 EPを支えるメスメル家の一人娘で、名家の嫡男というステータスに対して胡麻すりをするようなイメージがなく、年相応の少女のように普通に接してくれたのが、日常生活において何よりも救いだった。

 

 たまにお兄ちゃんと呼んで慕う困った少女ではあったけど、不思議と嫌な気分はすることは無く、魔女であった彼女が虐められていた時はいつも助けていた。

 

 今さら失礼だとは思うが、彼女に好感が持てたのは彼女が僕よりも劣っていたからだと思う。彼女は一番になろうとしなければならない僕のライバルでは無かった。他の令嬢達や御曹司達は僕に何かで勝ってしまいそうな才能を有していた。

 

 それが彼女達に対して落ち着かなかった理由で、あまり好感が持てない理由であった。彼女達はいつでも僕を越せるライバルだった。

 

 名家以前に貴族というものには他の貴族に対して好き嫌いが存在する。もちろん、フォースター家にもアンチと呼べるような人達は存在している。

 

 そういう奴等は一度何かで僕が負けたぐらいで揚げ足を取るような奴等だ。そういう噂が広まるだけで、僕はもちろん、家族も追い詰められる。僕の家系は人の上に立たなければいけない家系だからだ。

 

 実力不足と判断された場合、僕の代わりがそのレールに乗るだけである。しかし、僕のせいでEPの創設者の家系というものに傷が付き、先人達が積み上げた物を全て壊してしまうのが一番怖かった。

 

 だから、学校でいるときはいつもノエルと一緒にいることにした。ノエルは僕と一緒の時が一番落ち着くと一度僕に話した事があるが、それは僕も同じ気持ちだった。彼女といる時がそのプレッシャーのような解放されるような時間だったのだ。

 

 

 あの頃までは……

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

 

 ガラードワースへの入学が迫って来た頃、ノエルに劇的な変化が起きた。

 

 それは彼女の星脈世代としての実技的な面が格段と向上していたことだ。体力面も大きく変化していたが、特に変化していたのが、彼女の茨を操る魔女の能力の扱いだった。

 

 かつては茨をうまく扱えず、暴走してしまった事があった彼女の能力は人を簡単に拘束出来たり、人に攻撃出来たりと誰もが羨む実用的な能力となっていた。事実、この能力で僕と同じぐらい実力を持つ生徒を負かしていて、彼女を虐めていた生徒達は唖然とするしかなかった。

 

 

 ノエルの成長は幼なじみだったら、素直に喜ぶべきだろう。ましてや彼女がお兄ちゃんと慕う者であるならば。

 

 

 けれど、僕は素直に喜べなかった。

 

 

 彼女は僕を追い詰める(ライバル)になってしまった。

 

 

 僕と同じぐらいの実力を持つ生徒がノエルに倒されたと証明された僕はすぐに彼女の成長の秘密を探ろうとした。

 

 試しにノエルに聞いてみると、やはり秘密であるのか、顔を赤らめて僕に話さなかった。

 

 顔を赤らめている経緯は分からないが、彼女は何かを隠している。ドイツに数日間に旅行に行っただけで、彼女がこんな劇的に強くなる筈がない。彼女の成長はテクニック的な面もあり、ドーピングではないだろう。

 

 あれこれ独自にノエルの成長について探ろうとしていると、メスメル家が旅先である一人の少年に会った事が発覚した。

 

 

 名前は本宮シオン。

 

 

 特殊文化保護組織『ライブラリー』所属の魔術師で、僕とそんなに離れていない年齢にも関わらず、全ての統合企業財体から警戒される程の実力を持っているとされるライブラリーの切り札的存在。

 

 この件を踏まえて、改めてノエルに訊ねると、僕の予感は的中しており、彼女に魔女としての戦い方を教えたのは彼であった。

 

 彼はノエルに魔女としての戦い方を付きっきりで教え、別れた後も彼がノエルに残していった魔女としての能力や身体能力を底上げするメニューを元にノエルは鍛練していたのだ。

 

 最初に訊ねた時に教えてくれなかったのは、EPの創設者の嫡男である僕にライブラリー所属の彼の話をすることに躊躇ったからだそうだ。事実、全統合企業財体はライブラリーの目の敵にしている。

 

 けれども、本宮シオンについて知った上で、ノエルに訊ねたら、彼女は自慢するようにスラスラと彼についての話を僕にするのだ。

 

 

『わ、私ね、将来はシオン兄さんの横に並べるような人になりたいの。い、今はまだ届かないけど、いつか絶対にシオン兄さんに追い付くから』

 

 

 シオン兄さんか………。

 

 

 なら、ここにいる(お兄ちゃん)は何なんだろうか。

 

 

 シオン兄さんに追い付くと言った彼女に僕はどう写っているのだろうか。すでに僕は彼女に追い越されてしまった存在なのだろうか。彼女にお兄ちゃんと呼ばれる事に初めて嫌悪感を覚えた。

 

 

 それ以降、ガラードワースの特待生試験まで密かに自分を鍛え上げるために、彼女とは以前よりも疎遠な関係を維持し続けていた。もう一度、彼女に慕われるような存在になるために。

 

 だが、ノエルには筆記試験で勝ったものの、実力試験では負けてしまった。この結果は僕を精神的に追い詰める結果であり、さらにそこに泣きっ面に蜂という言葉を連想させる出来事があった。

 

 

 それは本宮シオンの入学。

 

 

 ノエルをここまで鍛え上げた元凶がここに入学してきたのだ。

 

 しかも、入学してきて早々に序列一位のアーネスト会長と引き分け、さらにノエルと共に序列六位と七位の地位を獲得した。入学してきて序列十二位を取った僕でも凄いと言われるのに、これではあまりにも自分が惨めで仕方がなかった。

 

 

 別に二人が悪いというわけではない。実際、二人が序列を獲得したのは二人の実力を持ってこそだから。僕より二人が優れていただけだから。

 

 

 けれど、僕は簡単にそれを納得出来なかった。

 

 

 ここで、簡単にそれを受け入れたら、今までの自分の努力を否定してしまうから。一番になろうとする気持ちが失せ、自分そのものを否定してしまいそうになるから。このままでは、自分が壊れそうだった。

 

 だから、僕は無理を承知に決闘を申し出た。ノエルをあそこまで鍛え上げて、彼女が慕うようになった彼はどれぐらい強いのか、彼に追い付ける実力を僕が持っているのかを知るために。

 

 

 二人には僕はきっと最低な奴だと思われているだろう。二人の実力に嫉妬して、何も認めない愚か者だと。けれど、それでも良い。こうするしか、自分を肯定する事が出来ないぐらいまで追い詰められしまったから。

 

 だからこそ、それを代償に僕に証明して欲しい。

 

 僕には何が足りないのかを。二人にはまだ追い付いていけるような希望があるのかを。ノエルにまだお兄ちゃんと慕い呼ばれる資格があるのかを。

 

 

……………………

 

 

……………………………………

 

 

……………………………………………………

 

 

 

「はぁぁあ!!」

 

 

「くぅっ!!こんな物……」

 

 

 シオンの左手に持つ片手銃から放たれる光弾が絶え間なくエリオットに襲いかかる。エリオットはそれをクレイモア型の煌式武装で振り払う。

 

 しかし、シオンの星辰力の量は一般の星脈世代の数倍の量はある。エリオットが星辰力で作られた光弾を防御するのにも限界があった。

 

 

紅き娘を襲う狼の追跡弾(レッドウルフ・バレット)!」

 

 

 片手銃から放たれた炎を纏った紅い弾が狼の形を模して生き物のような軌道でエリオットを襲う。

 

 

「がはっ!!?」

 

 

 エリオットはこれもクレイモアで対応しようとするが、生き物のように動く弾はこれを回避し、彼の隙を突くように横腹にヒットする。当たった箇所には服が焦げたような黒い跡が広がっていた。

 

 

「ぐっ……まだだ!!」

 

 

 しかし、エリオットはその攻撃を受けたにも関わらず、怯むことなくシオンの元へと間合いを詰めていく。シオンも間合いに入れないように光弾を連射するが、エリオットの小さい体躯と素早いスピードを利用した回避により、致命的な一撃は与えられず、シオンはエリオットを近付けさせてしまう。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

「くっ!!」

 

 

 エリオットはクレイモアをシオンに向けて一撃を喰らわそうする。しかし、その攻撃はシオンの右手に持つ片手剣により難なく防がれてしまった。

 

 

「本宮シオン……流石です」

 

 

「それはエリオット君もだよ。君の年齢で、ここまで剣術を極めた人はそう多くない。けどね……」

 

 

 シオンは片手剣を大きく振るい、エリオットを間合いから吹き飛ばす。

 

 

「君の剣には何も感じられない」

 

 

「何だって…?」

 

 

「アーネストさんと戦った時、彼の剣には重厚感を感じられる重みが詰まっていた。それは序列一位のプライドと責任感を感じられる素晴らしい剣だった。けれど、君には何も感じられないん。確かにその身体を生かすなら、素早さに特化する軽い剣も個性としてありだろう。だが、君の剣はあまりにも軽すぎる。正確に言えば、君の剣はあまりにも中途半端なんだよ」

 

 

「中途…半端だって?」

 

 

「君の心の悩みが剣にまで影響しているんだ。アーネストさんみたいに序列のプライドを持った戦い方をするか、君の個性に重きを置くか、それは君次第だ。けれど、今の君の戦い方は止めた方が良い。そんな剣術じゃ星武祭では予選でしか通用しないよ」

 

 

「くっ……それは自分がよく分かっているよ!!」

 

 

 そう言ってエリオットはシオンの元に突進するが、エリオットの心中ではシオンの的確なアドバイスにとても驚いていた。

 

 

(ここまで見透かされていたなんて……。ノエルが成長し、彼を慕う理由も十分に分かる。EPの人間ではあるが、彼にもっと早く会えば、僕も今とは違っていただろうな……)

 

 

「はぁぁあぁぁあ!!!」

 

 

 エリオットは渾身の一撃を素早いフェイントを合わせてシオンの頭上から斬りつけようとする。エリオットの素早い一撃はこの決闘内では最も速い一撃であっただろう。油断してたら、普通の人は一発でおしまいである。

 

 

 しかし、相手は本宮シオン。

 

 

 その攻撃は……………

 

 

「だから、言ったでしょ。君の攻撃はあまりにも軽すぎるんだって」

 

 

 僅か指二本で止められてしまった。正確に言えば、彼の剣の刃を指二本で白刃取りのように挟んで止めている。常人ならば、彼のような行動は危険すぎて、誰もが真似をしないだろう。しかし、シオンは怪我一つなく剣を止めて見せたのだ。

 

 

「なっ!?そんなっ!?」

 

 

 流石に自分でも渾身だと思っていた一撃を簡単に止められ、驚くエリオット。また、ギャラリーでも見ていたノエルやアーネストもこの状況に驚きを隠せなかった。

 

 

「モードチェンジ。双剣(ダブルソード)

 

 

 シオンの言葉により片手剣と片手銃に分かれた煌式武装は同じ形を持つ双剣へと変化する。それと同時に双剣に星辰力が集まっていく。

 

 

「しまっ…!?」

 

 

 エリオットはその場から素早い動きでシオンの間合いから離れようとするが、すでに手遅れだった。

 

 

赤と白の姉妹の薔薇吹雪(ダブルローズ・テンペスト)!!!」

 

 

 赤と白にそれぞれ輝く刃が薔薇の花びらを舞い散らかすような竜巻としてエリオットにかまいたちのような連撃が襲いかかる。

 

 

「ぐあぁあぁあっ!!!?」

 

 

 ギャラリーから見れば、薔薇が舞い散る幻想的な風景だが、この技を受けている人からすれば、とんでもない激痛が走る攻撃であった。

 

 

 竜巻が止み、幻想的な風景も幕を下ろすと、その場に残っていたのは制服がスダボロで、生肌には無数の斬り傷が窺えるエリオット君と刃がすでにボロボロの彼の煌式武装であった。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 

「これで終わりだ」

 

 

 シオンは煌式武装を片手銃タイプに変え、ボロボロの煌式武装を持って立つ彼に銃口を向ける。また、彼の手に林檎の柄が描かれた栞を握られると、片手銃は毒々しい紫色の光を放っていた。

 

 

甘き毒林檎と眠りを君に(アップル・フォーユー)

 

 

 シオンがトリガーに手をかけた瞬間……

 

 

「……僕の負けです。シオンさん」

 

 

 エリオットは煌式武装を鞘へとしまい、両手を上げて敗北を宣言する。

 

 

「……ちなみに聞くけど、そう宣言する理由は何だい?煌式武装はまだ戦える状態だけど?」

 

 

「自分の剣を壊すまで扱うなんて剣士の風上にも置けない愚か者のする行為です。引き際はこれでも弁えています。それに貴方と戦って自分の実力を知り、同時に貴方の実力も知ることが出来ました。貴方は強い。ノエルが慕うのも納得の実力でした」

 

 

「そうか……その決断に迷いは無いね?」

 

 

「はい。この決闘で自分が知りたかった事が全て分かりましたから」

 

 

「なら………」

 

 

 

 シオンはトリガーを引いた。

 

 

 

 エリオットがいる()()の方向に。

 

 

 

「君は合格だ」

 

 

……………………

 

 

 

…………………………………

 

 

 

…………………………………………………

 

 

 

「合格……?何が?」

 

 いきなりの事にエリオット君は困惑していた。

 

「だから、君には資格があるって事だよ。ノエルと同じように僕に教えられる資格と序列一位の証である白濾の魔剣(レイ・グラムス)を持つ資格だ」

 

 

 実は僕はアーネストさんにある頼みをこっそりとお願いされていたのだ。

 

 それは将来アーネストさんが卒業したら、生徒会長になるであろうエリオット君がガラードワースの生徒会長の証として継承される白濾の魔剣の資格者になる人物であるかを見極める事だ。

 

 恐らく、アーネストさんも心配していたのだろう。今の精神状態の彼が白濾の魔剣を扱えるかどうかを。ただ、この決闘で彼がそれを扱える資格者の片鱗が見えた気がした。

 

 白濾の魔剣を扱うには騎士のような正義と秩序を守る高潔な精神が必要である。もし、あの時勝ち目が無いのに、ボロボロの煌式武装を振るってきたら、その時点で彼は白濾の魔剣に見捨てられていただろう。まさしく剣士の風上にも置けない愚か者だ。

 

 それに加えて、僕も彼を試していた。僕が彼に強くなる方法を教えるかを。結果は合格。将来性も高いし、高校生ぐらいになれば、アーネストさんに負けないぐらいの剣士に育つだろう。

 

 えっ?序列が奪われるかもしれないって?

 

 別に構わないよ。ライブラリー所属だから序列にはあまり固執してないし、もし彼が強くなったら、序列六位はあげる予定だったから。

 

「シオンさん……でも、僕は貴方に強く当たっていたから、貴方から教わる資格は…無いです」

 

「そんなのは別に関係ない。序列を争う実力主義のアスタリスクでなら、他人の実力に嫉妬するなんて日常茶飯事だよ」

 

 今更恨んでいたから何も教えないなんてそんな事する筈がない。ノエルにも言ったけど、ライブラリー所属だから何なのっていう話だ。

 

「では、僕に貴方の技術と戦い方を教えてください。シオン先輩」

 

「うん、よろしく。エリオット君」

 

 

…………………

 

 

……………………………

 

 

……………………………………………

 

 

 後日、たまに腕試しでノエルと行う模擬試合にエリオット君が参加することになった。

 

 エリオット君は僕がつけた斬り傷の治療を終えてからの参加となったが、彼の剣には以前のような悩みは見えず、ノエルにも少しずつであるが、勝てるような実力を身に付けていた。

 

 彼は鳳凰星武祭に出場しようと考えているらしいが、彼のペアによっては優勝も目ではないだろう。

 

 

 





ーノエルの童話講座ー

 ど、どうも。ノエル・メスメルです。

 今日、シオン兄さんはたくさんの童話の能力を使いました。そこで、差し支えが無ければ、少しですがシオン兄さんの能力の元となった童話を簡単に紹介しようと思います。

赤と白の姉妹の薔薇吹雪(ダブルローズ・テンペスト)

出典:しらゆきべにばら

 『しらゆきべにばら』はシンデレラや赤ずきんより知名度は低いですが、知る人は知っている有名なグリム童話の一つです。

 私もグリム童話の中ではいばら姫の次にこの話が大好きです。興味を持って欲しいためネタバレは避けていますが、シンデレラストーリーって良いですよね。

 


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白髪の序列一位

お久しぶりです。
コロナウイルスで大学が休講になりました。
オンライン授業をするって突然言われたのですが、オンライン授業がどういう物かあまりパッとしないんですよね……。 





 

 

 季節はあっという間に冬を越え、すっかり春になった。温度も厚着をする必要も無いぐらいになり、アスタリスクに植生されている桜の木が満開の花を咲かせていた。

 

 後数日で、アスタリスクの各学園で行われる入学式に向けてどの学園の生徒も最後の準備に取り掛かろうとしており、それは勿論自分も例外ではない。

 

 

「えっと……式典で使うブーケ用の花はこれとこれとこれで十分足りるかな」

 

 

 僕は中央区の大きな公園で開かれているマーケットのような場所で入学式の式典の飾り付けのための花の買い出しに来ていた。

 

 一応、花の種類はそこらの暑苦しい体育会系タイプの男子よりは知っているため、買い出しに行かされた訳なんだけど、花に一番詳しいのはノエルなんだよね。

 

 けれども、ノエルやエリオット君はあくまで特待生として早く入学しただけで、二人も入学式には参加する。入学式に参加する生徒が自分の式の準備をするのも変な話なので、二人はここ数日、春休みのように休日を取らせている。

 

 ただ、僕を含めた生徒会の面々が働いているのを見て二人は休みに反対したので、アーネストさんの会長権限で強引に休ませている。若い内に仕事中毒になると、悪いことしかないよ。マジで。

 

「はいよ、語り手のお兄ちゃん」

 

「どうも、ありがとうございます」

 

 花屋の主人であるお婆さんから注文した花を花束のような形で丁寧に受け取り、僕は注文した分の代金を支払った。

 

「さてと……一旦学園に帰ろうか」

 

 花束の状態で持っているため、他の店に入るのも邪魔だと思われるし、潰されて花が散るのは困るから、何処に行くにしても学園に一度戻るのが得策だろう。学園には女子力高い人達が早く飾り付けをしようと待っている人もいるわけだしね。

 

 別の店にこの状態で入るのは無理だと判断した僕はガラードワースへの方へと歩き始める。ひとまずは公園を出てからだ。

 

 

 公園を出ようとしたその時……

 

 

 

「……貴方が本宮シオンね?」

 

 

「……オーフェリア・ランドルーフェン!?レヴォルフの序列一位がどうしてここに………」

 

 

 

 まるで、春の暖かい季節が冬に逆戻りしたような冷たい視線を感じ、公園の入り口近くの塀へとすぐに目を向ける。

 

 すると、そこには何の気配もなく幽霊のように現れた白髪が目立つ少女が立っていたのだ。ひんやりとした冷気を全身に纏ったようなこの白髪の少女、アスタリスクの生徒では知らない人はおらず、一部の生徒達からは恐怖の対象として死神のように認識されている有名人だ。

 

 

オーフェリア・ランドルーフェン。アスタリスクの一角であるレヴォルフ黒学院の序列一位で、つい先日行われた王竜星武祭の優勝者である。

 

 アーネストさん達のように星武祭を制した並外れた実力者ではあるが、彼女は星脈世代の中でも誰よりも異質な存在なのである。それは彼女の二つ名である孤毒の魔女(エレンシューキガル)という名前が関係していた。

 

 彼女の能力は二つ名の通り毒や瘴気を扱う能力で、彼女から無尽蔵に溢れるそれらは並の星脈世代でも死に至るかもしれない程生命に有害なものである。しかも、その瘴気は能力者である彼女自身でも抑えるのは困難なものらしい。

 

 そのため、多く人々は彼女に会うのは死神に会うようなものだと恐れて好んで彼女には近付かず、彼女自身もそれを知って人前にはめったに現れない。

 

 その彼女がどうして俺の前に現れたのか自分でも理由が分からない。ただ、好意的な接触では無いという事は確かな事実だと自分でも理解できる。

 

「あの…僕に一体何の用ですか?」

 

 死神と恐れられる人物に僕は接触した目的を訊ねる。すると、彼女は顔の表情を一切変えず、機械のように僕の問いに答えだした。

 

「……ライブラリーの切り札、貴方の実力をうちの生徒会長が確かめたいらしいの…。だから、私は貴方と戦うことでしか話し合えない」

 

 そう言って、彼女は自慢の無尽蔵である星辰力を周囲に満たし始める。同時に彼女の後ろには化身のような紫色のモヤが見えるが、生存本能だけであの紫色のモヤがヤバい奴なのはすぐに分かる。

 

「くっ……仕方がない!」

 

 僕は片手に花束を持ちながら、もう一方の片手に煌式武装を片手剣のような形で顕現させる。あのシルヴィですら勝てない星脈世代にどう挑めば良いのか、勝利のイメージが全く浮かばないが、静かな闘争心を剥き出しにしている彼女に自分はただ戦闘体型を構えるしか方法が無かった。

 

 どうしてこうなったんだ……

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

ー数日前ー

 

 

「……呼び出して何の用かしら?」

 

 暗い雰囲気を醸し出している生徒会長室に呼ばれたオーフェリアは彼女を呼んだ張本人であるディルク・エーベルヴァインに問いかける。

 

「仕事だ。語り部の魔術師が俺達の計画の脅威になるのか実力を見極めてこい」

 

「……随分と焦っているじゃない」

 

「黙れ。ライブラリーは俺達の計画からしてみれば、一番未知の脅威なんだよ。実際、一時的にアスタリスクを離れていたヴァルダから最近何者かにずっと尾行されていると連絡を受けている。恐らく、ライブラリーのメンバーだ」

 

「そうなのね……で、実力を見極めてこいって具体的に私は何をすれば良いのかしら?」

 

「そこは戦うテメェにまかせる。俺達の脅威にならないと思わなければ、そのまま何もせずに撤退しても構わねぇ。ただ、俺達の脅威になると思うのならば、最悪アイツに星脈世代として活動が出来なくなる致命打を与えてこい。俺達の計画の邪魔になる雑草は若い内に摘んだ方が良いからな」

 

「……分かったわ」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「………ねぇ、花束」

 

 

「はい?」

 

 

「花束をそこのベンチに置いてくれないかしら?」

 

 

 花束をベンチに?確かにちょうど離れた所にベンチがあるから置いても良いが……。

 

 

「もしかして、両手が塞がってるから僕が本来の実力が出せないと心配してるんですか?」

 

 僕がそう訊ねると、彼女は首を横にふる。

 

「いいえ……私の毒は生き物には有害だから。あれだけ綺麗に咲いた花を枯らせるわけにはいかないわ」

 

 へぇ、メディアとかでは誰も寄せ付けない女性だとか怪物とか報道されているけど、意外に女の子らしい所もあるんだな。

 

「分かった。なら、お言葉に甘えて」

 

 僕は彼女の言葉に甘えて片手を塞いでいた花束を戦闘に影響が無い離れたベンチに置いてきた。最初はベンチに置いてくる際に不意討ちをしてくると思っていたが、彼女は何もしてこなかったね。もし、星脈世代じゃなければ、優しい女の子ではなかったと思ってしまう。こうして、戦うのは非常に残念である。僕としても彼女には怪我をさせたくない。

 

「……準備は良いかしら?」

 

「はい……おかげさまで」

 

 僕は改めて空いた片手に片手銃を顕現させ、自分が最も戦いやすい戦闘体型を取った。

 

「……なら、行くわよ」

 

 オーフェリアの言葉と同時に彼女を守るように蠢いていた紫色のモヤがシオンに襲い掛かる。

 

 

 

…………………

 

 

 

………………………………

 

 

 

……………………………………………

 

 

 

(おかしい……おかしいわ)

 

 

 ライブラリーの切り札と闘っているオーフェリアは彼に疑問を抱いていた。

 

 

(何故、私の毒が彼には効かないの?)

 

 

 オーフェリアが疑問に思っている事。それは本宮シオンが彼女に何食わぬ様子で対等に戦えているという事であった。

 

 

「そらっ!!!」

 

 

 彼は瘴気が充満している紫色のモヤの鞭のような一撃を片手剣で弾く。それにより、紫色のモヤは分散するように蒸発してしまう。彼女が劣勢に見えるその光景にオーフェリアは思わず目を見開き、彼女の運命を覆すかもしれないという一抹の希望のようなものを胸に抱いていた。

 

 

(本来、私の瘴気は純星煌式武装ならまだしも、只の煌式武装なら溶かしてしまう程危険なものなのよ。それなのに、彼の煌式武装は溶けない所か、私の瘴気が彼の煌式武装……いや、彼の星辰力を嫌がってる)

 

 

 最初はあの煌式武装に瘴気を祓う秘密があると読んでいた彼女であったが、その推測はすぐにハズレであると理解するのであった。

 

 

「はぁっ!!」

 

 

「……くっ!?」

 

 

 シオンの彼女を武器で傷つけたくないという気持ちで放った拳が彼女の細い腹に一撃を食らわす。それはオーフェリアも予想外の出来事だった。

 

 

(まさか瘴気を出している私にここまで接近……しかも、私に触れる事もできるなんて。やはり、私の瘴気が嫌っていたのは彼の特殊な星辰力!!)

 

 

「…………えいっ」

 

「えっ?……うぉっ!?」

 

 

 シオンの拳で吹き飛ばされると思われたオーフェリアだったが、彼女はそのまま彼の腕を掴み、投げ飛ばす。序列一位のオーフェリアの体術が鮮やかに決まり、シオンは綺麗に投げ飛ばされるしか術がなかった。

 

 

「いてて……って、ちょっオーフェリアさん!?」

 

 投げ飛ばされたシオンの予想外の出来事は終わらない。草むらを背に投げ飛ばされたシオンの身体にオーフェリアが覆い被さっているのだ。彼女とシオンの距離は数十センチも離れておらず、事情を知らない人が見れば、スキャンダル不可避の光景だ。

 

 一刻もこの状況から抜け出したいシオンであったが、彼の手首及び全身は彼女の握力と体重で固定されており、彼女の胸についている柔らかいものが彼の胸板に当たっている状態である。

 

「オーフェリアさん!!離してください!降参!降参しますから!だから、僕から早く降りてください!貴女のその……身体が僕の胸に当たって!!」

 

「……………………………………」

 

「いや、何か言ってください!?まるで、僕を観察するような目で無視するのが一番この状況で怖いから!?こんな状況見られたら、社会的にバッドエンドだからぁ!?」

 

 

 彼の頭の中には今後の結末が走馬灯のように浮かんでくるのだった。アーネストさん達からの事情聴取、カーリーさんからの事情聴取、週刊誌での風評被害、ノエルからの軽蔑された視線、そしてシルヴィからの説教。最後のはどうして浮かんでしまったのかシオンにも分からなかったが、当時の余裕の無いシオンにはそれを深く考える心の余裕と時間を持ち合わせていなかった。

 

「……やっぱり……ねぇ、本宮シオン」

 

「は、はい?何ですか?」

 

 しばらく無言でシオンを押さえつけていたオーフェリアがようやく口を開く。だが、その話す距離は人と人が話す距離としてはあまりにも近く、彼女の吐息とミントを思わせる清涼感が香る彼女の髪の匂いが彼に伝わるぐらいだった。

 

「……どうして私の瘴気が貴方に効かないの?私が推測するにそれは貴方の能力かしら?」

 

「えっ、そうですが……なら、ちょっと手首を離して僕から降りてくれません?知りたいことなら、全部教えますので」

 

「……分かったわ」

 

 交渉が成立し、彼女から物理的な意味で解放されたシオンはその場に立ち上がり、腰に着けている栞をしまうケースから水色と緑色に輝く栞を取り出して、オーフェリアに見せる。

 

「オーフェリアさんは毒や瘴気を扱う能力者ですから、予めこの栞の能力を使って、自分の身体と煌式武装に当たる毒や瘴気を無力化したんです」

 

「……その栞は?」

 

「シンデレラに出てくるフェアリー・ゴッドマザーの栞です。物語通りならシンデレラにドレスと馬車を与えるという奇跡みたいな能力ですが、僕の場合だと体力の回復や状態異常の回復などに使えます」

 

「その能力……私にも使える?」

 

「えっ?まぁ、何かアクセサリーに能力付与すれば、あとは身に付けている人物の星辰力を使用してその能力を発動する事ができますが………」

 

「なら……これにやってくれるかしら?さっきの毒と瘴気を無力化する能力の付与」

 

 そう言って、オーフェリアがポケットから取り出したのは銀色に輝くブレスレットだった。

 

 

………………

 

 

…………………………………

 

 

…………………………………………………………

 

 

「成る程。まさか、オーフェリアさんが人工的に作られた魔女だったとはね。噂はずっと僕も半信半疑だったけど、本人に言われたらね」

 

「そう……私は生まれ育った孤児院の借金の代わりに実験台になったの。この能力を手にした時にその研究所は私が滅ぼしてしまったけど、その時に私を拾ったのがうちの会長さんよ」

 

 ベンチの隣で座るオーフェリアさんの話を聞きながら僕は栞を輝かせ、彼女から借りたブレスレットに毒と瘴気を無効化する付与(エンチャント)作業をする。

 

 あれだけ好戦的な様子で決闘を挑んできた彼女であったが、彼女にはもうすでに戦う意志は無いということだ。依頼されている身として彼女の行動はそれはどうかなと僕も思ってしまうが、これ以上複雑な状況にはしたくないので、敢えて黙ることにした。僕としても彼女とは戦いたくないし、彼女に襲われたくない。

 

「……そう言えば、貴方は私を怖がらないのね?」

 

「怖がる?あー……別にオーフェリアさんみたいな境遇の人はライブラリーに何人かいるからね」

 

「……そうなの?」

 

「うん。ライブラリーはそういう研究所とかで育った孤児とかも保護してるから……よし、出来た!」

 

 能力を使うのを止め、栞をホルダーにしまい、完成したブレスレットをオーフェリアさんに返す。

 

 ブレスレットが返されると、オーフェリアさんはそれをすぐに右手に装着し、感触を確かめる。

 

「……うん、感触は大丈夫そう」

 

「そうか、ならこの花束で試してみて」

 

 そう言って、僕は先程花屋で買った花束をオーフェリアに手渡す。最初は花束に触ることを躊躇っていたが、意を決して花束に触れると、花束を彩る可憐な花達は一切枯れることなく、綺麗な色を保ち続けていた。

 

「……すごい。また花に触れるなんて!」

 

 花束を綺麗に持つオーフェリアさんの様子は死神や怪物と呼ばれる理由がどこにも見つからず、ただの花を愛する女の子にしか見えなかった。研究所に行かなければ、こういう笑顔を振り撒く女の子として一生を過ごしていたかもしれないだろうに。

 

 

………………

 

 

…………………………

 

 

……………………………………………

 

 

「……貴方は少なくとも私の脅威じゃない。貴方には運命を変える力を持っているわ、シオン」

 

 そう言ってオーフェリアさんは花束を僕に返す。

 

「うんっ?これは………」

 

 彼女から受け取った花束の持ち手を見ると、花束を結ぶゴムにメモ用紙が挟まっていた。

 

「………それは私の電話番号。うちの会長さんのせいで、表立った連絡先の交換が出来ないなら。それに次からはオーフェリアで良いわよ。貴方にさん付けをされると、妙にもどかしいから……」

 

 そう言って僕に一言を残していくと、それ以上は何も言わずにレヴォルフの方へと去っていた。突然現れたと思ったら、帰るのも突然か。色々と台風みたいな人だったな。

 

「……さてと、僕もガラードワースに帰ろうか」

 

 

……………………

 

 

…………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

「……彼は脅威じゃなかった。だから、貴方の指示通り彼には何もしてこなかったわ。それなのに、どうして貴方は不機嫌なのかしら?」

 

「テメェ、俺の指示が悪いみたいに言いやがって。テメェの能力が効かないなんて十分脅威じゃねぇか。それに、自慢の瘴気が出せなくなって帰ってくるなんて嫌がらせのつもりか?」

 

 オーフェリアの所有主であるディルク・エーベルヴァインはギロッとオーフェリアのことを睨むが、オーフェリアはそれに全く動じる様子もない。

 

「で、そのブレスレットは語り部の魔術師がやったものなんだよな?テメェの力では外せないのか?」

 

「……無理ね。私には外せないわ。それに、もしここで無理に外したら、溜まった瘴気が溢れて星脈世代じゃない貴方は簡単に死ぬかもしれないわよ」

 

「チッ…クソが!」

 

 ディルク・エーベルヴァインはその説明にも苛立ちを覚えるが、それがオーフェリアの嘘による脅迫だという事に気付いていなかった。

 

 本当はオーフェリア自身でブレスレットは外せるものである。しかし、オーフェリアは今日生まれた胸の内に抱く願望のために敢えて嘘をついたのだ。

 

 

 その願望とは『自由になりたい』。シオンが話したオーフェリアと同じ境遇の者達の存在への興味、そしてそんな者達や孤児達を保護するライブラリーへの憧れ。彼女はディルク・エーベルヴァインから解放され、自分もそこに務めてみたいと思っていたのだ。彼女の思い出の地にいる孤児院の子やシスターと共に。

 

 

 そのためオーフェリアはまず自分の長所とも言える星脈世代としての才能を敢えて捨てることで、自分を所有している価値のメリットを削ろうと考えたのだ。そうすれば、モノとして見ている私を彼は所有する意味を失うから。

 

 

「星脈世代として能力を失ったお前なんてただのガキじゃねぇか!クソッ!」

 

 

 ディルク・エーベルヴァインは彼女の予想通りの反応を示し、苛立ちを露にする。すると、生徒会長室のモニターから男の声が生徒会長室を響き渡らせる。

 

 

『なら、その彼を殺せばオーフェリア・ランドルーフェンの能力も解放されるのではないかね?』

 

 

(………この声は)

 

 

「あっ?どういうこと事だ、処刑刀?」

 

 

『言葉通りの意味だよ。彼女の能力を縛っているのが語り部の魔術師の能力なら彼を殺してしまえば良い。戦力的には彼はとても魅力的だが、彼が私達の計画には賛同する希望は薄いだろう』

 

 

「……そうだな。だが、お前は星武祭で忙しいから協力は難しいだろう?なら、誰が奴を殺すんだ?」

 

 

『今、ヴァルダを追っ手の件を踏まえた上でアスタリスクに急いで帰らせている所だ。ヴァルダなら彼を倒す実力も見込めるだろう』

 

 

「成る程……なら、ひとまずその計画はヴァルダが帰ってからだな。オーフェリア、お前は余計な事を勝手にするなよ?」

 

 

(……巻き込んでごめんなさい、シオン)

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お帰りなさい、二人とも」

 

 

 場所が変わってライブラリーの本拠地がある人口島。まるで母のように迎えるカーリーの前には二人の男女が立っていた。

 

 

「いえ、女主人(ミストレス)の為ならどんな任務もきつくはありませんよ」

 

 

 一人は石炭のように黒い髪をした成人男性。身長は2m近く長身で、髪と同じ色をした黒色の眼鏡が頭の良さを感じさせる。口調も丁寧で朗らかとした様子は紳士や教授を思わせる雰囲気を醸し出している。

 

 

「兄様の言う通りです!追跡任務なんて私達にとっては余裕ですから!」

 

 

 もう一人は彼を兄様と呼ぶカーキ色の髪をした長髪の成人したばかりを思わせる女性。彼よりちょっと低いぐらいの身長であるため、二人が一緒に並ぶと兄妹ではなく、思わず恋人と間違えてしまう。性格も彼と比べると、とても明るく、その明るさを容姿でも体現するように胸元も服越しでもかなり大きい事が分かる。

 

 

 この二人はある人物……いや、あるモノを追跡するためにカーリーから極秘任務を受けていたのだが、そのターゲットに動きがあり、カーリーは二人を本拠地に帰還させたのだった。

 

 

「それで……ヴァルダ・ヴァオスの行方は?」

 

 

「何者かと交信をした後、急ぐように空港へと移動。目的の場所はアスタリスクです。細心の注意は払いましたが、尾行にも気付かれている様子だったので、バックにいる人物が帰還させた説が濃厚ですね。それとカーリーさんに新たに調査された件ですが、ヴァルダ・ヴァオスとウルスラさんは高確率で同一人物です」

 

 そう言って黒髪の男は追跡調査をした結果ファイルをカーリーの空間ウィンドウに送り、ヴァルダと呼ばれるローブをした女性の写真とペトラから手に入れたシルヴィアの探し人であるウルスラの写真が同一人物だという証拠をカーリーに見せる。

 

 

「ヴァルダ・ヴァオス……《翡翠の黄昏》の元凶で全統合企業財体が秘密裏に警戒している凶悪な純星煌式武装。最近ヴァルダがアスタリスクや世界各地で秘密裏に活動しているという噂がありましたが……まさか、ウルスラさんの体を使っていたとは」

 

 

「確かシオンもこのウルスラさんという人物を探しているのですよね?彼にこの事は?」

 

 

「まだ伝えない方が良いでしょう。相手は星脈世代すらも洗脳する最強の精神操作型の純星煌式武装です。シオンに伝えれば、恐らくウルスラさんを探すために行動を開始するのは必然でしょう。そこで、貴方達に新たな任務を与える為に招集したのです」

 

 

「新たな任務とは?」

 

 

「アスタリスクに向かい、ヴァルダ・ヴァオスをシオンには秘密裏に身柄を拘束するのです」

 

 

「やったー!私、アスタリスクにはずっと行きたいと思ってたんだよねぇ!美味しいスイーツのお店がたくさんあるし!でも、シオン君に会えないのはちょっと悲しいかなぁ」

 

 

「そう言うと思ったので、その件も含めて二人にはこれをついでにシオンに渡して来て欲しいのです」

 

 

 久しぶりにも関わらずシオンに会えないことに悲しがる妹にカーリーは大事そうなケースを見せる。中身を開き、兄妹が覗くとその中には十数枚以上の栞の束が入っていた。

 

 栞の束は二つに分かれており、一番上にある栞にはそれぞれトランプのような柄と赤と青のコントラストが映える柄が描かれていた。

 

 

「これは?」

 

 

「シオンの為の新たな栞です。これをシオンに渡して来て貰いたいのですが頼めますか?」

 

 

「了解しました」

 

 

「了解!」

 

 

 

 オーフェリアの嘘によりヴァルダが動く中、ライブラリーもその裏で二人の兄妹がアスタリスクに向かおうとしていたのを知るのはシオンにとって遠くもなく近くもない未来のお話である。

 

 

 

  

 



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高等部1年編
客人は兄妹


オンライン授業の準備で忙しいよ~!!


 

 入学式が終わり、各学園には新たな新入生が加わった事で、どの学園もこの時期は活気に溢れていた。僕とノエルに序列を譲ってくれた大学部の先輩を含めた方達は入学式前の卒業式にガラードワースを去ってしまったものの、新入生の歓迎はそれを埋める以上の活気だった。

 

 

 新入生が入りたてのシーズンということもあり、ガラードワースが所有する建物の各地では部活やサークルの勧誘が日常茶飯事。僕を含めた生徒会の面子は部活やサークルから回ってくる確認書類に忙殺され、しかも一日一日書類が増えていくので、困ったものである。

 

 

 ただそんな多忙な日が続く中、先の事を見据えた数名の剣士達が黙々と練習場で鍛練する様子もガラードワースの一つの風物詩でもあった。

 

 

…………………………

 

 

…………………………………………

 

 

………………………………………………………

 

 

「はっ!せやっ!」

 

 

「ふっ!そこっ!!」

 

 

「くっ!?」

 

 

 練習場に響き渡る剣同士が何度もぶつかり合う金属音。素早い剣撃を制し、エリオット・フォースターの顔に煌式武装を突きつけるのは晴れて高等部1年へと進級した本宮シオンである。

 

 

「……僕の負けですね」

 

 

「いや、前回よりは剣の筋も良くなってるよ。それに僕の攻撃に追い付いてこれている。練習を始めた頃より大分強くなってきてるんじゃないかな」

 

 エリオット君の顔に突きつけた煌式武装を腰へとしまい、反省会を練習場の真ん中で行う。先程の剣気と剣気の凄まじいぶつかり合いが嘘みたいなおしゃべり感覚の反省会だ。

 

 

 

 中等部から高等部へと無事進学し、高校生になった僕は新たに高等部になった生徒として恥じないような学園生活を継続している。

 

 入学してきた頃は貴族生まれの一部の生徒達に嫌がらせをされるような出来事が多少あったが、今はそんなことない。むしろ、上級生や同級生からは積極的に話しかけられるし、新たに入ってきた新入生を含めた下級生からは尊敬や憧れに近い気持ちで慕われている。現に今戦ってたエリオット君も最初は色々あったけど、今では何かと慕ってくれている。改めてこの学園に来て良かったなと思う。

 

 

 えっ?今、生徒会は忙しくないのかって?

 

 

 そりゃ、もちろん忙しい。僕とエリオット君は生徒会のメンバーだからこうして日課だった練習時間も削られてるし、エリオット君と実力の確認の意味を込めてやった今の試合も一週間ぶり近くだからね?それに僕の場合は自分のを含めて他の生徒会の分の仕事も請け負っている。

 

 理由は実にシンプル。今年の星武祭ー鳳凰星武祭に生徒会のメンバーが参加するからだ。

 

 二人チームによる参加が要求される鳳凰星武祭に誰と誰が参加するのかというと、序列11位のドロテオさん、そして今さっき試合をして目の前にいる序列12位のエリオット君だ。

 

 ガラードワースの生徒には鳳凰星武祭や王竜星武祭を狙うような生徒はあまりいない。それは獅鷲星武祭で優勝するチーム・ランスロットが物語っている。ガラードワースの大抵の生徒は獅鷲星武祭を狙っているのだ。

 

 ガラードワースの中で鳳凰星武祭と王竜星武祭を狙う生徒の傾向として、チームではなく個人戦が向いている生徒、夢の肩書きであるグランドスラムを本気で目指している生徒、そして卒業前最後の星武祭に参加したい生徒が主である。

 

 実はドロテオさんは今年でガラードワースを卒業してしまう生徒会のメンバーなのだ。今までに獅鷲星武祭に2回出場し、卒業前最後の星武祭である鳳凰星武祭が彼にとって最後の出場である。

 

 なかなか鳳凰星武祭に参加したがらないガラードワースでペアを探すのは非常に困難なのだが、そこでペアになろうと手を挙げたのがエリオット君だ。

 

 何でも他学園の生徒と公式で戦える場で自分の実力を試してみたいとか。それに彼の親からもフォースター家の嫡男の優れた実力を世間に見せたいという星武祭への参加要請があったらしい。確かに中学1年で冒頭の十二人入りは異例の実力だからね。

 

 こうして無事にペアが決まったのだが、鳳凰星武祭は星武祭の中でも開催時期が最も早く夏に始まってしまうのだ。そのため、星武祭が始まるまですでに半年を切っている状況である。なので、二人には少しでも星武祭に集中して貰おうと残りの生徒会の面子で二人分の仕事も分担しているのだ。

 

 

「ふ、二人共、お疲れ様です!」

 

 

「うん、ありがとう。ノエル」

 

 

「い、いえ、ど、どういたしまして……」

 

 

 反省会が良い具合に区切りがついた所で、ノエルが練習場に僕とエリオット君の分の飲料水とタオルを持ってきてくれた。

 

 ノエルからタオルと飲料水を受け取り、お礼を言うとノエルは素顔を前髪で隠しながら恥ずかしいそうにする。だが、ノエルが恥ずかしいそうにするのは何故だろうか?

 

 一緒に生活していて数ヶ月が経過するんだが、未だにこんな感じだ。元から気が弱いような女の子らしい性格ではあったが、僕の場合だとそれがとにかく目立つ。特に二人きりの時とか。

 

 

(………いい加減気付いてあげなよ、シオンさん。ノエルの気持ちなんて幼なじみの僕じゃなくても分かるよ。というか、生徒会の皆はシオンさん以外全員知ってるんだけど)

 

 

 ノエルの好意に未だに気付かない朴念仁をエリオットはドリンクを飲みながらジト目で静かに睨んでいたが、この視線と気持ちは今のシオンに決して届く事はなかった。

 

 

「そ、そうだ!シオン兄さん!実は生徒会長からの伝言で、今すぐに第一応接室に来て欲しいそうです!何でもシオンさんに会いたい人がいるとか……」

 

 

「会いたい人?」

 

 

 一体誰の事だろうか?学園紹介のための取材陣や僕の特集を組みたいという記者の対応はすでに終わって、ここ数日の訪問は無い筈だ。スケジュール管理に厳しい生徒会が漏らすはずも無いしね。

 

 

「分かった。すぐに行くよ」

 

 

「じゃあ、シオンさん。また後で会いましょう。僕はここでもう少し練習をしますので」

 

 

 僕はここで練習を続けるエリオット君を残して、ノエルと共に練習場を後にした。

 

 

ーー客人か。本当に誰なんだろう? 

 

 

……………………

 

 

………………………………

 

 

…………………………………………

 

 

 素性が不明な突然の訪問者の事を考えながら僕は第一応接室へと辿り着いた。辿り着いた僕は客人を待たせないようにと、そのままドアノブに手をかけて中に入ろうとする。

 

 

「失礼しま「わー!シオン君だー!」のぁっ!?」

 

 

 ドアを開けて中に入ると、カーキ色の髪色をした女性が僕に抱きつくように飛び出してきた。

 

「本物のシオン君だー!久しぶりー!!前より大きくなっちゃってー!元気にしてたー?」

 

「シ、シエラさん!?い、一応、元気にしてましたけど……少し離れてくれませんっ!」

 

「い・や・だー!!!」

 

 そう言って駄々をこねるように、シエラと呼ばれた彼女はさらに力強くシオンに抱きつく。彼女の主張力が激しい胸まわりがシオンの身体に密着している状態だった。

 

「は、はわわわわ…シオン兄さんが知らない女性と抱きついてる//////」

 

 シオンの後に続いて中に入ろうとしたノエルは最も近い場所でこの現状を見せられ、顔を赤くしながら誰よりも動揺している。応接室の入り口付近はすでにカオスと化していた。

 

 

「シエラ。気持ちは分かるけど、一旦落ち着いてシオンを離してくれるかな?」

 

 

 応接室の奥のソファーからシエラと呼ばれた彼女を止める声が応接室に響き渡る。まるで優しい男性の先生みたいな声がした方へ応接室入り口で戯れていた3人が振り向くと、そこには声の主である黒髪の眼鏡をした男性とヤレヤレといった様子で戯れている様子を傍観していたアーネストとレティシアが机を挟んで座っていた。

 

「フ、フラーレル先輩!」

 

「え~、フラーレル兄様が言うなら仕方ないな~」

 

 玩具を買ってくれなかった子供のように残念がる彼女はシオンを解放する。

 

 

 

「やぁ、久しぶりだね。シオン」

 

 

 

………………………………

 

 

……………………………………………

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

「改めて自己紹介をしようか。私の名前はフラーレル・マクラレン。そして、そこにいる彼女が私の妹であるシエラ・マクラレンです。兄妹共々以後お見知りおきを」

 

 

 ガラードワースに自然に溶け込むような上品な姿勢で黒髪の青年、フラーレル・マクラレンが優雅に自己紹介をする。その姿勢は彼と初対面であるアーネストやレティシアやノエルも好印象だった。

 

 

「まさか、ノエルが言っていた客人がフラーレルさん達だったなんて。ガラードワースに来るなら連絡でもしてくれれば良かったのに」

 

「悪いね。シエラがシオンを驚かせたいと言うことを聞かなくて……」

 

「えっへん!!」

 

「「いや、褒めてない(ません)から」」

 

 ライブラリー所属の先輩後輩同士の久しぶりの再会ということで、フラーレルさん達と長々と話しているとノエルが僕に訊ねる。

 

「あ、あの、シオン兄さん。シオン兄さんとフラーレルさん達とはライブラリーではどういったご関係なんですか?」

 

「ああ、ノエルは知らないんだっけ。二人は僕の先輩であり、先生なんだよ」

 

「先生、ですか?」

 

「うん、僕に星脈世代としての戦い方や幼い頃から勉強を教えてくれてね。今でも本拠地にあるライブラリーの教育機関で先生をやってるんだ」

 

「へぇー、そうだったんですか」

 

 確か僕がガラードワースに行く少し前に長期任務でライブラリーの本拠地を離れてしまったけど、それまではライブラリーの本拠地でひたすら保護した子供達に勉強を教えていた筈だ。比較的温厚な性格で孤児からの人気も高く、カーリーさんもすごく信頼している。

 

「そうだ、ウラヌスさんも帰ってるんですか?」

 

 思い出したように僕はこの場には出席していない彼ら兄妹の()()()について訊ねる。

 

「ああ、ウラヌスも一度ライブラリーに帰って来てるよ。ただ、カーリー様の命令で今はライブラリーで待機している。実際、この場もカーリー様が来る筈だったのだが、急用が出来たようでね。その代理としてアスタリスクに用がある私とシエラがシオンの元に赴いたわけだ」

 

 成る程、そういうことだったのか。普段ならカーリーさんが親の参観日みたいに来ると思っていたが、カーリーさんもカーリーさんで忙しいらしい。今度、時間が空いたら本拠地に帰省するのもありかもしれない。

 

「あっ、そう言えば二人は僕に用があって来たんですよね?用っていうのは?」

 

「実はカーリー様がシオンに遅めの入学祝いだと渡してきてね。これだよ」

 

 フラーレル先輩はポケットから小さめの鉄製の箱を取り出し、箱を見せるように開いた。

 

 箱を開けると、中から姿を見せたのは二束に別れた栞の束。その栞は僕が能力を使うために使用しているものと同じであった。

 

「これって…………」

 

 

「ああ、シオンの新しい栞さ」

 

 

 

 

 



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新たな物語と裏で動く者達

 

「シオン兄さんの新しい栞ですか……」

 

 フラーレルがシオンのためにと持ってきた箱の中身をノエルが宝石を見るように眺めている。

 

 右側にある栞の束の一番上にある一枚の栞の絵柄はトランプをモチーフとしたポップな雰囲気で、一方左側の栞の束の一番上にある一枚の栞の絵柄は赤と青が綺麗に分かれた何か神秘的な雰囲気を醸し出す絵柄でノエルだけでなく、レティシアやアーネストも興味を示していた。

 

「そう、シオンの魔術師としての能力は非常に汎用性が高い優れた能力だ。ただ、シオンの物語を顕現させる能力はそれに関わる触媒が必要でね。それが普段からシオンが使ってる栞だ。そして、その栞は物語の書き手の遺物を基に作られる。今、シオンが持っているのはグリム兄弟の栞だけだね」

 

「そう言えば………」

 

 ノエル、レティシア、アーネストは今までのシオンの能力を回想のように思い出す。

 

 

ーー『いばら姫』をモチーフにした相手を簡単に深い眠りにつかせる茨。

 

 

ーー『シンデレラ』の華やかな舞踏会に映えそうなするどい硝子の雨。

 

 

ーー『ラプンツェル』に出てくる主人公を幽閉するとてつもなくでかい巨塔。

 

 

ーー『赤ずきん』を彷彿させる真っ赤に染まった炎と狼のシルエット。

 

 

ーー『しらゆきべにばら』に出てくる姉妹を思わせる赤と白の薔薇の双風。

 

 

 

ーーこれら全てグリム童話に由来する物語なのだ。

 

 

 

「ということはその新しい栞を使えば、シオンは他の物語に関係する物を顕現できますの?」

 

 

「ええ、副会長さんの言う通りです。ほら、シオン。受け取りなよ」

 

 そう言って、フラーレルは箱から複数枚の栞の束を全て取り出してシオンに手渡しする。

 

「ちなみにシオン君!その二つの束の栞って誰の物語か分かるかな?当ててみてよ!」

 

「は、はぁ………」

 

 彼の先生的立場であるシエラの天真爛漫な問いかけに応えるためにシオンは改めてシオンは栞を眺めた。数ある栞を大まかに把握しておかなければ、能力も使えないためシオンにとってもこれはある意味で良い機会だった。

 

「………も、もしかして、さっきのトランプ柄が描かれていた栞……イギリスの童話作家のルイス・キャロルのものですか?」

 

 そんな中、あまり自信が無い様子でノエルがそれに手を挙げて答える。

 

「お、ノエルちゃん大正解!そのトランプ柄の栞の束はルイス・キャロルの栞なんだ!」

 

「ルイス・キャロル……」

 

ールイス・キャロルー

 

 その名前はペンネームで、本名はチャールズ・ラトウィッジ・ドジソン 。世界的に有名な童話『不思議の国のアリス』の生みの親であり、作家でありながら数学者や写真家という異色の経歴を持つイギリス人作家だ。

 

 不思議の国のアリスには確かにトランプに関わる話で、ハートの女王が良い例だ。栞にトランプ柄が描かれる理由も納得である。

 

 

 一つはルイス・キャロルの栞だということは分かった。ただ、もう一つの栞の方が難しい。赤と青の二つの色に対照的に分かれた柄で、これといった特徴がない。そう思いつつ、シオンは栞を一枚ずつ捲っていく。

 

「うん?これは………」

 

 捲っていくと、シオンの目に一枚の栞が目に入る。それは夜を思わせる黒色の背景で妖精が踊っている柄が描かれていた栞だった。

 

「夜…妖精…もしかしてシェイクスピアですか?」

 

「そうか!真夏の夜の夢だね?」

 

 シェイクスピアと名前を出すと、アーネストもその栞の基の物語となった名前を答えとして挙げ、シオンの答えに同意の意を示した。

 

「ピンポーン!流石はシオン君と会長さん!この栞はルイス・キャロルと同じイギリス出身の劇作家であるウィリアム・シェイクスピアのものだよ!」

 

 それを聞いたシエラは相変わらずと言って良い程クイズ司会者みたいな拍手を二人に送った。

 

「シェイクスピア……ですか?」

 

「ノエルがあまり知らなくても無理ないですわ。ルイス・キャロルの話が子供向けならば、シェイクスピアの話は大人向けの話ですもの。彼は四大悲劇と呼ばれる作品を残した人物ですわ」

 

 レティシアさんの言葉に僕も同意する。劇に興味がある子供ならまだしもノエルぐらいの年齢の子供はあまり見ない方だろう。彼の創作の中ではレティシアさんの言った四大悲劇が最も有名で、彼の作る話は大抵人が死んでしまうのだ。大人向けというのはまさに的を射ぬいた言葉である。

 

「ということは、さっきの赤色と青色の栞はロミオとジュリエットですね。だから対照的なのか」

 

 僕は改めてさっきの赤色と青色が対照的な柄が描かれていた栞に目を通してようやく理解した。対立した家同士の男女の恋をテーマにした悲しいお話。言われてみれば、これもシェイクスピアの物語だ。

 

「では、改めてこれを使わせてもらいます」

 

「うん、シオンならきっとその新しい栞もすぐに使いこなせると思うよ」

 

 そう言ってフラーレルさんの笑顔に見守られながら、僕は新たに加わった栞を手持ちのホルダーの中にしまうのだった。

 

「じゃあ、これで僕への用件は終わりですね。二人は確かアスタリスクに別の用があって、そのついでで僕の所に来たんですよね?でしたら、そちらの別の用に行った方が……」

 

 二人はわざわざ時間を削って来てもらっているのだ。そう思い、シオンは二人を心配して声をかけるが、二人はただただ口元を緩めるのだった。

 

「ああ、シオンには言い忘れてたよ。その別の用件っていうのは同じくガラードワースに用があるのさ。今日から僕とシエラはガラードワースの非常勤講師になるのさ。今日はそこの会長さんとの打ち合わせだよ」

 

「えっ!?」

 

 その言葉にシオンは驚きの声をあげる。

 

「そうだ。シオン君、ノエル。良かったら、しばらくは彼らを部屋に泊めてくれないかな?二人の部屋の申請がまだかかりそうでね」

 

「「えっ!?」」

 

 会長であるアーネストさんの言葉にシオンだけでなく、ノエルも驚きの声をあげるのだった。

 

 

「よろしく。シオン」

 

 

「よろしくね~。ノエルちゃん!」

 

 

……………………

 

 

…………………………………

 

 

…………………………………………………

 

 

 

「……あの二人。かなりの実力者ですわね」

 

「ああ……そのようだね。流石はライブラリーと言ったところかな?」

 

 

 4人が応接室を出ていった後、部屋の中に残ったアーネストとレティシアが秘密の会話をしていた。

 

「シオンが言うには二人はあまり戦闘はしないようですけど、あの二人の雰囲気は明らかに戦闘慣れしている雰囲気ですわね。ライブラリーでは先生をやっているけど、それはおそらく表の顔みたいなものですわよ」

 

「ああ、僕としては手合わせしてみたいものだよ。シオン君の先生という面でも、一人の実力者としても興味がある」

 

「もう!アーネストったら!」

 

 フラーレルとシエラをかなりの実力者だということに気付くが、二人はあまり警戒することはないという判断に落ち着いたアーネスト達で、彼らの話題は何気ない次の話題へと移った。

 

「ところで、レティシア。少し気になったんだけど、あのシエラっていう女性の方……誰かに似てないかい?」

 

「誰かって……誰ですの?」

 

「いや、雰囲気は全然違うけど普段見ているような感じがあったんだよね?」

 

「そう言われてみれば………確かに」

 

 

(けれど、()()には姉や従姉はいない筈ですわよね?きっと気のせいでしょう)

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

ーリーゼルタニアの郊外ー

 

 

「……どうやら、フラーレル達はガラードワースに無事潜入できたようですね。あの二人がいれば、シオンも心強いでしょう。ね、()()()()()()さん?」

 

 

「………………………………」

 

 

 雪が吹雪くリーゼルタニア。そんな雪原に似たような二人の白髪の女性が立っていた。一人はライブラリーの長のカーリー。もう一人はレヴォルフ序列1位のオーフェリアである。

 

「まさか、貴女が急にこちらにコンタクト仕掛けてきた時は驚きましたよ」

 

「……だって、シオンが殺されるかもしれない。あの二人は私よりも容赦しないから。私が今できるのはこうして貴女に情報を教えることだけ」

 

「うふふ……シオンも意外に女たらしですね。でも、本当に良いんですか?貴女は所有者である彼に謀反を起こしたんですよ?」

 

「……別に構わない。貴女が新たに計画した今やってるこの作戦が成功すれば、私は解放されるわ。そしたら、ライブラリーに籍を置くわよ」

 

「それは長として実力者である貴女を歓迎できるのは非常に嬉しいですねっと!……見えましたね。あれが貴女の孤児院ですね?」

 

「ええ……そうよ。さっき私の友人のユリスにも連絡したけど、貴女のいう作戦をやってもらっても大丈夫そうよ」

 

「リーゼルタニアの王女に予め連絡をするなんて用意周到ですね。なら、早速私達もこちらの仕事を始めましょうか!」

 

 

 

 

 



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動く計画

「悪いね。シオン」

 

「いえ、別に構いませんよ。冒頭の十二人だから空き部屋もまだまだありますし」

 

 

 ガラードワースの非常勤講師が決まったフラーレル先輩とシエラさんであったが、まだ非常勤講師用の自分の部屋がまだ無いという状況により、しばらくは二人をノエルと分担して部屋に泊めることとなった。フラーレル先輩はこっち、ノエルはシエラさんと男女バランスも大丈夫である。

 

 

「あっ、寝るとき気を付けた方が良いよ。未だにシエラの寝相が悪くてかなりの頻度で人の布団に入ってたり、夜這いしに来るから」

 

 

 ごめん、9割9分大丈夫じゃなかった。

 

 

「そこは……ノエルに期待してます」

 

「ふふっ、かなり彼女を信頼しているんだね」

 

 そう言って、フラーレル先輩はからかうような笑顔で部屋に持ってきた自分の荷物をドスッと置く。といっても、フラーレルさんの場合荷物のほとんどは参考書とかだけなんだけど。

 

「そりゃまあ、信頼してますよ。ノエルは僕の一番頼りになる後輩なんですから。いつも彼女には何かと世話になってるし………」

 

「うんうん、青春だねぇ。学園生活に一輪の色恋ってのも悪くはないぞ。六花だけにな」

 

 そう言ってくだらない冗談を挟みながら荷物をセットして、フラーレル先輩はさらにノエルとの関係の話題に切り込みをいれてくる。

 

「色恋って!別にノエルとはそんなんじゃ!」

 

「あれ?違うのか?」

 

「ノエルとはあくまで先輩後輩の関係です!決してそんな恋人みたいな関係じゃ無いですよ!それにそんな関係になったら、ノエルに迷惑がかかるじゃないですか……」

 

「迷惑?どうしてそう思う?」

 

「そりゃ、僕はライブラリー出身で、ノエルはEPに仕える伝統的な家系の出身じゃないですか。そういう関係になるだけで、両者の所属関係で色々と問題が起こるに違いありませんよ。ノエルには僕のせいで迷惑かけたくないし、ノエルもまだ若いからアーネストさんやエリオット君みたいなEPの御曹司といつか結婚すれば何事なく平和なんですよ!」

 

 あれっ?何でこんなに感情的なんだろう?フラーレル先輩が久しぶりの再会でしつこい所為?自分でもなんでこんなに必死なのか分からない。

 

「とにかく、言いたいことはノエルとはそういう関係じゃ無いということですから!じゃあ、風呂が湧いたのでお先に失礼しますね!」

 

 そう言い残して、浴室の中へと逃げるように駆け込んでドアに鍵をかけた。一応、防音仕様なのでお互いの声は聞こえない筈だ。

 

 

 ノエルとはそういう関係じゃ……………

 

 

………………

 

 

…………………………………

 

 

……………………………………………………

 

 

「やれやれ……シオンは色恋沙汰に鈍感なのか、積極的なのやら。さっきのノエルさんとの関係についての話なんて、それこそまさしくロミオとジュリエットの関係みたいじゃないか」

 

 そう言ってフラーレルはさっきのシェイクスピアの栞の話に絡め合わせた皮肉のような独り言を誰もいないシオンのリビングで呟く。

 

(前にメスメル家の今の当主がライブラリーに来ていたらしいが、その時にノエルさんの婿にはシオンがふさわしいと言っていたことはシオンに話すべきだろうか……。カーリー様も何かとシオンと彼女との関係には公認かつ心配していたからな。思春期って一番複雑な時だからな……今はまだ黙っておこうか)

 

 シオンが知らない秘密を今は敢えて黙ることにしたフラーレルは引き続き荷物のセッティングを行うが、突如手の動きが止まり、窓の方を見る。

 

「……やれやれ」

 

 ゆっくりと立ち上がり、その場に偶然あった筆記用具から一本の鉛筆を持ち、窓を開ける。

 

「そーらよ」

 

 そして、窓から10m近く離れた木の裏に向けて鉛筆を棒飛ばしの要領でおもいっきり投げた。

 

 

 すると………

 

 

 

 

「グハッ!?」

 

 

 鉛筆は太い木の中心を弾丸のように貫き、そのまま木の裏にいた黒装束の怪しい男の右肩までもいとも簡単に貫いたのだ。

 

「グッ!!な、何でバレて……」

 

「貴方が私達をずっと見張っている気配なんてバレバレなんですよ」

 

「っ!?い、いつの間に!」

 

 黒装束の男が後ろを振り向くと、そこには先ほど投げた鉛筆を回収しに来ましたよと言わんばかりな様子でフラーレルが立っていた。

 

「で、貴方はどこからの刺客ですか?まぁ、大方どこの誰が命令したかはすでに分かりますが、一応聞いておこうと思いまして……ね」

 

「……き、聞いてねーよ。こんな強い男が本宮シオンの他にライブラリーにいるなんてよ。お前とあの胸のデカイ女は先生として招かれたただの非戦闘員じゃねーのかよ?」

 

 男はすでにフラーレルが発する殺気みたいな感情に呑まれており、右肩から溢れる血を左手で震えながら止血することしか出来なかった。

 

「ああ、非戦闘員か。まぁ、今は先生をやったりとあまり戦闘はしないよ。……()()()

 

 フラーレルはそう言って普段から着けていた温厚さの象徴の眼鏡を外して、男にその素顔を見せる。

 

「ひっ!?う、嘘だろ嘘だろ!?その黒髪、その顔、まさか炭素の魔術師(グラファイト)!?」

 

「おっ、私の顔に見覚えがあるということはもしかして君は前職は傭兵だったのかな?」

 

 同窓会の再会みたいな感覚でフラーレルが男の右肩に触れると、男の右肩から右手の指先までが壊死したように黒くなり、炭のように崩れていく。

 

「いいっ!?嫌だ嫌だ嫌だ!!戦場の悪魔がいるなんて聞いてねーよ!?ということはあの女も()()()()()かよ!?嫌だ、死にたくねぇ!?」

 

 男はフラーレルの素性とシエラの素性を確信してしまうと、泣き顔で発狂したように残った左手で閃光弾を使い、逃げるように姿をくらました。その場に残っていたのは彼の右腕だった炭しか残されていなかった。

 

「……やれやれ、もう動きますか」

 

 そう言って、フラーレルはその炭溜まりを証拠隠滅にと同じ炭素から作られるダイヤモンドへと変えて回収すると、眼鏡を改めて着け直してシオンの部屋へ戻って行った。

 

「フラーレル先輩?窓を開けて急にどうしたんですか?風呂がちょうど空きましたよ?」

 

「分かった。すぐ行くよ」

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

………………………………………………

 

 

「どうやら、語り部の魔術師を見張っていたお前の黒猫の監視兵が何者かにやられたらしいな」

 

「チッ……黙れ、ヴァルダ」

 

「しかも、帰って来てみれば右手を失い発狂したご様子。どうやら何者かに遭遇したらしいが、あそこまで発狂したらワタシでも記憶は覗けないし、今後まともには生きられないな」

 

 そう言ってヴァルダと呼ばれた女性は男に無機質な同情をする。

 

「だが、事前の無線連絡で語り部の魔術師の弱点は分かった。それはアイツが大事にしている序列7位のあの小娘だ」

 

「なるほど、要はその女を利用して語り部の魔術師を殺すというわけか」

 

「ああ、頼んだぞヴァルダ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

《番外》

 

 

「う~ん!!お風呂はやっぱり気持ちいいねぇ。そう思わない?ノエルちゃん?」

 

「は、はい!そう、ですね」

 

(……やっぱり大きい……ですね。レティシア先輩よりも大きいなんて……。どうやったら、あそこまで大きくなるのでしょうか?)ペタン

 

「う~ん!ノエルちゃんは可愛いねぇ!こんな後輩が身近にいるなんてシオン君は幸せものだよね~!ほら、もっとこっちに来て一緒に湯船で温まろうよ!」ムニュン

 

(しかも……柔らかいなんて)

 

「そうだ!いつもシオン君がお世話になってるノエルちゃんには昔のシオン君について教えちゃおっかな~!ノエルちゃんぐらいの年齢は本当に可愛かったんだから!」

 

「えっ!?い、良いんですか!?」

 

「うん!別に減るもんじゃないし、未来の義妹になるかもしれない子だからね~!ついでに、私のスタイルの秘密も教えてあげるよ!どうやら、何かお悩みのご様子ですしな~」

 

「あ、ありがとうございます!シエラさん……いや、シ、シエラお姉さん!」

 

 

 一見、ガラードワースの所属のシエラとの生活は初対面であるノエルにとって壁のある物だと思われたが、その壁は豆腐のように崩れ、瞬殺と言わんばかりにあっという間に仲良くなったそうだ。

 

 

 




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