ハイスクールD×G 《シン》 (オンタイセウ)
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ハイスクールD×G 《シン》 オリジナル登場人物、獣具(リスキー・エレメント)、独自組織紹介

 作中で新たな設定が出た際は逐一更新していきます。
 この作品を読んで訳わかんなくなったらこのページに来てね!!


宝田大助

 駒王学園に通う高校二年生。兵藤一誠、松田、元浜とは同じクラス。学園屈指のエロ馬鹿トリオと言われる前述の三人とよくつるむ。

 幼い頃からその異常な身体能力故に奇異の目で見られるが、事情を知るグレモリー家に預けられることになる。

 普段は他人とのコミュニケーションをとりたがらないうえ、目立たないようにと大人しいが、いざ戦闘となると性格は苛烈になり容赦がなくなる。

 基本的に他人には無頓着。クラス内でまともに会話するのは先述の三人とリアス達顔見知りくらいで、あとは軽い挨拶を交わす程度。

 頭髪は天然パーマ気味、顔立ちはそこそこ(のはず)。身長はイッセーと同じくらい。

 趣味は釣り、アニメ・マンガ等のサブカルチャー、プラモデル、神話やファンタジー・SF・オカルトと多趣味。あと、常識的な範囲でエロかったり下も含むネタを多用する。

 名前の由来は54年版初代ゴジラの主演俳優、宝田明氏の苗字とオキシジェン・デストロイヤーの発明者である芹沢大助の名から。

 

 

神器(名称不明)

 

【挿絵表示】

 

 籠手状の神器。今現在わかる限りでは、該当する神器のカデコリーが不明。

 能力は身体能力の全体的な向上と、青白い光弾、熱線の発射機能。

 全体的なカラーリングは黒で、爬虫類的な意匠を持つ。

 また、各所に青白く光るスリットがあり、これにも何か機能があることを匂わせる。

 手の甲の部分に四本の爪があり、伸縮可能。突き刺し攻撃や切断、ものを掴んだ時のアンカー替わり等汎用性は高い。

 通常の神器と違い、戦いの中で徐々に成長していくタイプである。

*攻撃手段

 

①光弾(熱弾)

 手から発射される高エネルギーの弾。敵に決定打を与えるほどの威力はないが、連射が効き牽制やコンボに繋げることも可能。両手から放てる。エネルギーを収束せずに放った場合は火炎状になることも。

②熱線

 発射シークエンスは①と同じだが、発生させる総エネルギー量は比較にならないほど強力。上級悪魔に対しても一撃必殺になりうる威力を誇る。その分連射が効かないが、発射中に違う方向に向けることも可能。反動も大きいが、それを利用することも可能。

 

怪獣王の王装(ゴジラ・アーセナルズ)

 

【挿絵表示】

 

 正体不明だった大助の神器の真の姿。赤龍帝の鎧と同じ鎧姿だが、これは禁手に至ったものではない(そもそも獣具に禁手があるのかさえ現段階では不明である)。

 能力は籠手と脚甲のみの時の機能に加え、足摺部分が変形・連結してできる尾による殴打攻撃、兜のマスクの一部(クラッシャー)が開いて行う噛付き攻撃と口腔から発射される最大火力の熱線が追加される。

 さらに、もともと有していた治癒・身体・攻撃能力も格段にアップしている。

 また、熱線を武器の形に変えて宿主に与えるという芸当も見せ、熱溶断能力を持つ直剣や破壊対象を攻撃と同時に爆発、炎上させるメイスというように望む用途と能力に合わせた武器を生成する。

 無個性な籠手時代とは違い、デザインは当世具足の趣を見せる。赤龍帝の鎧や白龍皇の鎧のように宝玉も配されているが、これは胸部と腰部の二か所のみであり、かなり地味かつシンプルな印象を与える。

 なお理由は不明だが、現在までこれを有したものは確認できる限り宝田大助ただ一人である。なので前例がないため当の本人は使いこなすのに相当な努力が必要とされることだろう。

 特性は放射能及び各エネルギーの吸収、集束と放射、怒りによる無限に近い力の増加と成長。

 鎧のイメージは鎧武者+アイアンマン+ウルヴァリンの爪+仮面ライダー凍鬼の額飾り+仮面ライダー鎧武のクラッシャー+仮面ライダーエグゼイドの目+ディケイドの頭部フィン+アマゾンオメガの腕+ガンダムアスタロトの左腕。

 

・熱線剣

 熱線のエネルギーを集束し具現化した直剣。熱による溶断を目的としている。  

 並みの武器では容易く溶断してしまうほどの熱量を持ち、オーラで覆われた魔剣や聖剣でないと受け止められない。

 

・豪炎鎚

 集団の敵を吹き飛ばすほどの爆発を起こすメイス。熱線が起こす爆発を元にしている。

 物理的な打撃を与えた後爆発を起こし、さらなるダメージを与える。

 

・鰭斬刀(きざんとう)

 ダイスケが物理的な切断力を求めた際に生まれた太刀。背中の背鰭を引きちぎり、変形させて出来上がる。ちぎれた背鰭はいくらでも再生するのでいくらでも作り上げることができる。

 

 

リリア

 グレモリー家のメイドでヴェネラナ付きの侍従。

 種族はサキュバス。本来は性的な仕事の依頼があったときに眷属の代わりに出勤するのが仕事だが、初仕事(9歳)の時に依頼主によって規約違反の暴力行為と実験寸前の行為を受け、レスキュー部隊に救出される。

 以降極度の男性恐怖症になってしまい、サキュバスとしての仕事は無理と判断、ヴェネラナ付きのメイドに配置換えになる。その後、グレモリー家に保護されたダイスケに同い年と言うことでリハビリもかねて付けさせられることになる。

 結果、同い年であること、そして積極的に自分の仕事を手伝うダイスケの姿を見て、男性としてはダイスケだけに心を開くようになる。以降は限られた異性なら目を合わせて会話できるようになるが、触られると拒否反応を起こす。

 グレイフィアにはメイドとして以外に護身や護衛のための戦闘術も習っており、グレイフィア直伝の魔力砲は強力。ただし、男が相手だと狂乱状態で極大の魔力砲を乱発するため非常に危険。

 

 

 

倭姫命(ヤマトヒメノミコト)(ヒメ)

 インファト島の守り神の巨大な蛾の怪獣、モスラの魂を宿した第11代垂仁天皇の第4皇女にして初代斎宮であるその人。ヤマトタケル伝説で、日本武尊に草薙剣を与えた人物でもある。

 公的には二千年以上前に伊勢の地に眠っていることになっているが、宿したモスラの魂が強力であったため二千年以上生きている。そのせいか自分の記憶とモスラの記憶がない交ぜになっており、もはや人格や嗜好までもモスラに引きずられている。

 江戸時代の『古今貞女美人鑑』』に別格とされたほどの美女。しかし、性格や思考はふわふわとしている残念美人の部類に入る。

 ただし、戦闘となるともう一つの人格「ヒメ(大日女=天照大御神)」に切り替わり徹底的に敵を殲滅する冷徹な性格に変わる。これは斎宮として天照大御神の依り代となったことによりその神性が憑依したものである。故に高位の半神でもある。

 獣具を展開せずとも掌を息で吹くことで相手に強力な粘着性の糸を浴びせることが出来、敵の拘束等に用いられる。

 

 

幽幻巨蛾の舞踏扇華装束(モスラ・スピンリッド・ファン・ダンサー)

 手にした扇を用いて攻撃する獣具。踊りを奉納する巫女神楽の衣装が装着される。アクセントに至る所にファーがついているのがオシャレポイントだとか(本人談)。

 自在に空を舞い、鱗粉を用いた攻撃を行う。さらに額の頭飾りからビームを放つことも可能。扇を一打ちすれば、突風が吹き荒れ、神経性の毒針を放つこともできる。また、扇が変形することで逆手持ちのシミターになり、格闘戦もこなせる。

 

 

 

 

 

 

大蜘蛛の縛錠糸(クモンガ・ウェッブ・シューター)

 蜘蛛の姿を模した腕時計型のガジェットから強靭な糸を放つ獣具。刃物で切ろうとしてもきれないほどの強靭な糸だが、タンパク質でできているため火には弱い。

 糸による捕縛、スイングによる長距離移動、飛び道具化など使い道は様々で汎用性が高い。

 隠し武器として、ドラゴンすら即死する猛毒針がある。

 所有者はアザゼル。

 

 

 

 

守護獣の反光仮面(キングシーサー・リフレクト・ペルソナ)

 琉球沖縄の守り神である怪獣キングシーサーが獣具となったもので塔城小猫が有する。オペラ座の怪人、ファントムのマスクのような形状のシーサーをかたどったマスク。

 仮面に仕込まれたシーサーの目に光線、ビーム、魔力攻撃、天使・堕天使の光、魔法、と実体・物理攻撃以外のすべてをほぼタイムラグなしで反射する。

 ちなみにダイスケの熱線は純粋な熱エネルギーの塊なので反射できない。

 

 

 

深淵に潜む護蛇龍(アビス・マンダ)

 ソーナ・シトリーが有している獣具。

 水中を自在に泳ぐ巨大な龍型怪獣、マンダを操るのだが、水がない場所でもソーナの水魔力術であらゆるフィールドで使役することが出来る。

 

宇宙触腕獣の透明触手(ドゴラ・インビジブル・ハンド)

 

 匙元志郎の獣具。グリゴリのスパルタ特訓にて覚醒。

 透明な触手は視認性が低い上、非常にパワーに優れる。これをヴリトラ系神器と併用することで物理攻撃とドレイン攻撃のどちらでくるのかと相手を揺さぶることが出来る。また、透明且つ超高熱を帯びる球状の分裂体(球状態)も発現させる。

 

 

 

桐生義人

 獣転人であることを理由にアザゼルに勧誘された経歴を持つ。

 しかし、自身の中のゴジラとの戦いの記憶に悩まされており、ダイスケの存在を知ったことで三大勢力和平のタイミングでヴァーリとともに離反。以降はヴァーリと行動を共にする。

 最大の目的はゴジラの獣転人であるダイスケとの勝負。

 

 

白金の機龍王鎧(メカゴジラ・プラチナメイル)

・Ver.Ⅰ

 第一段階。

 鎧をブリキで打ち出したかのような見た目で全身にリベットが打たれ、中世の騎士を思わせる。

 全身武器庫と呼べる状態で手にはフィンガーミサイル、目にあたる部分にはスペースビーム、胸部装甲が開き発射されるクロスアタックビーム、前膝に装備されたホーミューショット、足の指に配されたハイプレッシャーホーミングなどがある。

 防御手段は首の装甲を回転させて発生させるディフェンスネオバリヤー。

 のちに対熱線用に改修されMk-Ⅰ改となる。このとき、新たにフィンガーミサイルを応用発展させたミサイルパイクを追加装備。さらに前回頭部をもがれて機能停止した反省点から頭部ヘッドギアユニットを新たに追加、頭部をもがれた際に使うレーザー砲を装備した。

 

 

 

不死人造人の心臓(フランケンシュタイン・ハート)

 心臓型の獣具。これの所有する獣転人はどんな傷でも即座に回復する不死の生命力を手に入れる。ただし、不老ではないため老衰や許容以上のダメージによる死亡は普通にある。

 主に特生自衛隊の現場幹部が有している。獣転人の細胞を移植することで誰にでも獣具を移植できる簡単な医療技術で量産可能な数少ない獣具。

 オリジナルを有するのは黒木。

 

 

山野の不死人造人(ガルガンチュア・サンダ)

 発動時に全身が毛に覆われ、驚異的な身体能力とどんな傷でも即座に回復する不死の生命力を手に入れる。ただし、不老ではないため老衰や許容以上のダメージによる死亡は普通にある。

 陸上活動に向いており、主に特生自衛隊の陸上部隊隊員が有する。獣転人の細胞を移植することで誰にでも獣具を移植できる簡単な医療技術で量産可能な数少ない獣具。

 オリジナルを有するのは権堂。

 

 

海洋の不死人造人(ガルガンチュア・ガイラ)

 発動時に全身が鱗に覆われ、驚異的な身体能力とどんな傷でも即座に回復する不死の生命力を手に入れる。ただし、不老ではないため老衰や許容以上のダメージによる死亡は普通にある。

 水中活動に向いており、主に特生自衛隊の海上部隊隊員が有する。獣転人の細胞を移植することで誰にでも獣具を移植できる簡単な医療技術で量産可能な数少ない獣具。

 オリジナルを有するのは結城。

 

 

不信心なる祈りの大鎌(カマキラス・インピオス・プレイア・サイズ)

 カマキラスが宿った獣具で、人工的に堕天使が試験量産したもの。レイナーレはこれを暴走させていた。

 コカビエルが組織を離反する際ついでに試作品の内の一つを持ち出し、万が一の時のためにフリードに持たせていた。結果、フリードが宿主となる。

 能力は切断。本来なら能力を突き詰めれば瞬間移動に近い移動能力と擬態能力を手に入れられたが、その特性を見せる前に出番を終えた。

 

 

 

転生者相互補助連合組織『宝東会』

 獣転人では無いが、旧世界の記憶を有して転生した人々が作り上げた日本の秘密組織。怪獣の脅威をその身で知っているため、いずれ発現するであろう獣具所有者の密かな監視と追跡を実行、非常時には実力行使も行う武装組織の一面もある。

 一般企業から大財閥、防衛省や内閣府、さらに大学、一般家庭といった草の根まで広がる規模を持つ巨大組織。

 本来の人間社会から大きく乖離するほどの科学知識を有し、平和利用のためだけに使用するという誓いを持っている。中には超能力者も存在し、神話存在とはまた違う異形技術も有する。

 お互いにゴジラといった怪獣の脅威から世界を守るという共通認識を持っているため結びつきは非常に強い。

 自衛隊内に極秘の対異能・対怪獣部隊「特生自衛隊」を保持しており、陸海空の独自戦力を行使できるほか、超科学・超異能兵器を有するエリート集団である。

 後述の「赤イ竹」の完全切り離しに成功している数少ない組織の一つ。その方法は転生者間にしかわからないという「共有記憶関知」である。転生者同志が触れあった瞬間、お互いの過去生が見えるという特性を生かしている。他にも徹底した思想調査に超能力者がチェックするという方法もとられることがある。

 代表は帝洋グループ会長、新堂靖明。他国の転生者組織とも連携を密にしている。

 構成員は全員転生者で何らかの形で必ず怪獣に遭遇しており、戦闘時の戦死者であったものも多数いる。さらに中には前世が異星人という者もいるが、すでに人間であるため帰属意識を持ち、地球攻撃の意思を持つ意味を無くしている。なので非常に協力的。

 使用兵器はどれも怪獣との戦闘、特にゴジラとの遭遇を主眼に置いているため、構造材質を独自のものに置き換えオリジナル以上の頑強さを誇る。

 

 

 

 

 

◎十字教系終末的武装組織『赤イ竹』

 駒王会談成立時に即、禍の団に所属。教会出身の者たちを含めた聖書の教えの信者を中心に構成される秘密結社。

 聖書の神の教えを批判するものを暗殺したり、悪魔に支援を行ったり契約行動をした人間を発見しては殺害ないし奴隷労働をさせる集団だが、大真面目に聖書の神を信仰している者たちが中核メンバーであり、はぐれ悪魔祓いとは違い堕天使と組したことはない。

 その目的のため「聖書の神以外の神々を皆殺しにしたうえで第三次世界大戦を引き起こし、人類から科学文明とほかの信仰対象になる存在をすべて奪い取ること」をもくろんでいる。世界全てを焼却する第三次世界大戦は核戦争にするべく暗躍しており、中枢メンバーの中には司教枢機卿まで所属する、既存の原理主義集団をはるかに上回る最恐最悪最低の宗教テロ組織。

 基本的に「強い信仰心による聖書の神の威光を広め、悪徳を罰すための研究」以外での聖書の解釈そのものを悪逆と断言しており、これまでに100人以上の信者でない神学論の研究者を殺害。

 寄りにもよって悪魔に落ちたアーシアの弁護を兼ねた持論展開をしたダイスケの存在を知ったことで(各教会関係所の衣服に盗聴器を仕掛けている)「存在そのものが語る資格のない者が、詭弁として聖書を利用した教会を批判した悪逆非道の害獣」として、裏社会に家族含めてDEAD限定での一憶ドルという懸賞金を懸けてしまい、結果としてその存在がばれるという凡ミスをしでかしている。

 枢機卿の支援によって作られた対麻薬組織の目を巧妙に逃れた地区で、異形技術まで併用した麻薬を大量生産。枢機卿のコネなどを最大限に利用した結果、国連常任理事国の財政会・マスコミ・軍事関係者などの様々な人物を奴隷構成員をしており、彼らを総動員すれば瞬時に第三次世界核大戦を引き起こす算段はできている。しかしそれをした瞬間にほかの神話体系が聖書の教えを蹂躙することが予想できているため、他の神々の抹殺の当てができるまでは活動を控えているのが現状。

 因みにその過程でゲン担ぎとして666個の『烈一号型核弾頭』を密造している。その各製造施設の建設に多数の現地の少数民族を強制労働させており、万単位での死者を出している。が、彼らにとっては「救う価値もない土着宗教なぞを信仰している連中に人間らしい死を与えてやった」程度の認識でしかない。

 総司令と呼ばれる人物が実権を握っていると言われている。

 基本的に中核メンバーは信仰心の強い存在で構成されており、目的は一貫して「聖書の教えを唯一絶対の原則とする世界の創造」。そのためならば手段を択ばない狂信者集団……のようでいて格が違う。

 核戦争による世界の荒廃を狙ってこそいるが、これは「もし科学文明が完全に崩壊した場合、それを再び取り戻すことは地表近くの資源の多くを取りつくしているため不可能である」という学説をもとに、「いずれ科学文明という人類から神への畏敬を減らす汚物を衰退させる」という判断のもと行われている。

 そのため文字通り手段を択ばず、麻薬中毒者以外の構成員は「死後地獄に落ちる」ことを前提に行動。大半の構成員の目標は「地獄に落ちるべき我々が殺した者が、地獄の責め苦にのたうち回っているところをしっかりと目に焼き付ける」というような連中。

 「世界をより良くするために胸を張って地獄に落ちる」ことを誇りとしており、煉獄行きなどという「半端な可能性」などかけらも考えていない鋼の意思を持つ者たちのみが中核構成員になれる。

 ちなみに大量の麻薬中毒者を生み出しているが彼らには結果的に信者として教会に入信させており、「異教徒を正しい信仰に導く、我ら唯一の真なる善行」という、正しい意味での確信犯的行動。そのため自爆テロなどという「もしかすると煉獄程度に落ちてしまうかもしれない」行動などは極力させず、必要な時以外に核戦争勃発以外や後方支援以外の仕事をさせないため、この奴隷構成員の発見は困難を極める。これは本心から「彼らを煉獄以上の地獄に少しでも多く送るため」という善意がこもった行動でもある。

 地獄に落ちる行動をとることで結果的に信仰に利益を与えるという方向性のため、禍の団との相性は抜群。

 なお組織名には、赤=ストラの色で「火、愛、殉教を示すシンボル」を意味し、竹は英語での花言葉で「loyalty(忠誠、忠義)・strength(強さ)・steadfastness(不動)」となる。

 つまり組織名は「殉教の忠誠」、「忠義の(核の)火」、そして「不動の殉教」と言う意味を持つことになる。

 

 

 

オーラノイド

 赤イ竹独自の異能技術。現在判明している神器の能力をナノマシン状のオーラコンデンサとオーラトランスダクタという装置で再現する技術をインプラントした戦闘員。

 体内に移植したオーラコンデンサによってオーラを増幅、さらに同じく移植した各神器能力再現用のオーラトランスダクタによってオーラを変質、異能を発現させる。

 人工神器のようだが、禁手に至ることもない上オリジナルに比べれば能力の幅も出力も格下。しかし、量産性に優れるため数をそろえることが出来、特定の能力を狙ってそろえられる。

 ただし、オーラノイドになった者は脊髄に移植された各装置によって汚染される血液を定期的に洗浄フィルターに通す必要があり、連続戦闘時間は二時間が限度。だが、基本的に血液洗浄をする余裕は戦場にはないため使い捨て。奴隷構成員がオーラノイドになる場合が多い。

 もっとも多いのは汎用性の属性系を模倣したオーラトランスダクタ。煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)のコピーも多いが、複数の自然現象を同時再現することは出来ない。

 聖なるアイテムということで聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)のオーラトランスダクタも多いが、アンチキリストの象徴であるドラゴン封印系神器は使用されない。

 元ネタは仮面ライダーTheFirstの改造人間。

 

 

GGー161 メルカバ

 複数の可動式無限軌道を用いた独自開発の戦車。車長が防御系神器の、砲手が属性系の神器能力のオーラトランスダクタを移植されている。これにより設計以上の防御力と攻撃力を発揮可能。

 車体には複数の銃眼があり、そこからオーラノイドの攻撃が安全に行える。当然ながら長期戦用の血液浄化装置も搭載。デサントによる攻撃要員分も確保されている。

 主砲は汎用性が高い120mmの滑空砲。可動式無限軌道はあらゆる地形に対応し、通常の戦車が走行不可能な地形も走破する。

 ただし、防御系神器の付与効果が切れるとすぐに各可動部が摩耗を起こしてマシントラブルを起こすほど繊細な設計になっている。

 イメージはヒルドルブ。

 

 

 

獣転人(エレメント・ホルダー)

 怪獣が知性ある存在に転生した存在。人格はその人のものであるが、怪獣の魂を持つことにより異常な身体能力を有する。さらに怪獣の能力を神器のように発現したもの、『獣具(モンスター・エレメント)』をその身に宿す。

 神器と同じく歴史上にこれをもつものが数多く現れたが、そのほとんどは獣具を発現するどころか獣転人特有の身体能力をごく一部発揮するにとどまっている。そのため獣具まで発現させられるものは人類史で見るとごく少数。

 神器所有者と違い、人間以外の存在も獣転人である可能性がある。なので悪魔や天使、神、さらにすでに神器を有している者なども獣具を有しているときがある。また、完全に能力が発現した親から子へ獣具が遺伝する場合がある。

 また、神滅具のように高位の怪獣だと基本的に1世代に一人しか同一の怪獣はあらわれない。

 

 

獣具(モンスター・エレメント)

 獣転人が有する異能。主に武器の形で怪獣の能力が発現するが。高位の怪獣になると鎧の形で現れる。下位の怪獣でも鍛錬によって鎧型に発展する。



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VS01 宝田大助のORIGIN

 11/3というゴジラ生誕日になんとか投稿できました。
 改めてよろしくお願いします。
 それはそうと、ツイッターのトレンドに「ゴジラVSシンフォギア」があって吹きました。


 其れは獣である。

 人の因果によって生まれた獣である。

 故に、人が生まれる限り、その獣が生まれるは必定である。

 故に、その獣は神の名が付くのである。

 故に、その名は――

 

 

 

 

 

 

 まどろみの中、脳内に響く電子音。その脳を鼓膜から直接刺激するような音の響きに、宝田大助は目を覚ました。

 

「……ん」

 

 鋭い反射神経で、一アラーム目にすっぱりとスイッチを押して目覚まし時計は停止する。むくりと起き上がったダイスケは眠たい目をこすりながらのそのそとベットを出て洗面台に向かう。

 一人暮らしにはなかなか豪華なこの部屋はこの駒王町でもトップテンに入る高級マンション。そんな贅沢をなぜこの駒王学園高等部二年生であるダイスケが使用できているのか。それは彼の出生に深く関わる。

 彼はとある事情から、両親とは離ればなれになった。いや、死別というわけではない。また、虐待を受けただのという両親に非がある理由があるわけでもない。原因はダイスケにあった。

 ダイスケは生まれたときより他人とは異なっていた。幼い身体に似遣わぬ身体能力。それが驚異的であった。軽く走れば息も切らさずにグラウンドを百周し、握力を測れば握力計が壊れ、腕相撲を挑まれれば手加減をしているというのに必ず相手の子が腕を痛める始末。

 自然とダイスケは孤立し、大人達も奇異の目で彼を見、両親はどうすればよいのか頭を悩ませた。

 両親は共に一般人。特別体を鍛えているというわけでもないし、仕事も一般的なもの。そんな二人から生まれた子供は人の域を超えた怪物だったのだからおかしな話なのである。

 だから両親はあらゆる医療機関を尋ね、原因はなんなのか、治療して普通の子供になれるのか尋ねて回った。だが、いくら腕の良い医者を見つけても、どれほど高名な研究者に見せても、答えはわからぬまま。

 最終的には占い師にまで縋った。しかし、その時転機が訪れる。その尋ねた占い師から紹介された、北欧で一財産築いたという海外の貴族を紹介されたのだ。

 そしてグレモリーという姓を名乗ったその初老の紳士はこう言った。

 

「おそらくこの子の力をその価値がわかる者が知ったら、この子はただでは済まないだろう」

 

 そう言ってこの紳士はダイスケを預かるといってきたのだ。もちろん、最初は両親は困惑した。いきなり見ず知らずの他人に自分の子を預けようという親は普通いない。だが、その紳士が言うことは二人とも直感で理解し、納得していた。

 せめて凡庸に生まれてくれれば、何もダイスケは背負うことはなかっただろう。だが現実は違う。この異常な力を持った我が子はきっと何か異常な何かに巻き込まれるだろう。その時、。きっと自分たちではこの子を守ることはできない。

 考え抜いたすえ、両親はグレモリー家にダイスケを預けることを決心した。問題は本人の意思である。普通なら自分を守ってくれる親と別れることは本能的に子供は嫌がる。しかし、ダイスケはこういうところも違っていた。

 少しでも両親の負担が減るのなら、と快諾したのである。ダイスケは自分のせいで疲弊しきった両親の姿をその幼い目で見てきていた。そのことに対し、幼いながらも罪悪感を感じていた。だから共に決心がつき、別離する道を選ぶことになった。

 そしてグレモリーの家で特別トレーナーについてもらい、日常生活に支障がきたさないように己の力をセーブする術を覚えていった。そのトレーニングは中学にあがるまでには完了し、ダイスケはようやく普通に生きることができるようになったのだった。

 現在ダイスケは保護の意味も込めてグレモリーの長女、リアスが住まうマンションの一室で一人暮らししている。その結果当然よく顔を合わせるわけで。

 

「あら。おはよう、ダイスケ」

 

「……おはようございます」

 

 朝食と身支度を終えて部屋のドアを開けた途端に顔を合わせた一つ年上の赤髪の少女こそ、先に名が出たリアス・グレモリーである。

 

「今日も元気そうね。ちゃんと朝ご飯食べた? 身支度ちゃんとした? ドアに鍵かけた?」

 

「大丈夫ですよ。母親じゃないんだからそんなに気にしなくても。鍵も今ちゃんと掛けましたし」

 

「そんなわけにはいかないわ。グレモリー家は貴方のご両親から貴方を預かっている身。責任を持たないと。」

 

「……ご迷惑おかけします」

 

「いいの、いいの。じゃ、私は朱乃と待ち合わせがあるから。いい一日を」

 

 そう言ってリアスはエレベーターに向かっていく。

 

「……今階段降りてくと絶対鉢合わせて面倒なことになるな」

 

 そうなるときっとリアスのことだから一緒に登校しようと言い出すだろう。それはいろいろと面倒だ。

 なぜなら彼女は、その容姿によって先に会話に出た姫島朱乃と共に二大お姉様として君臨する学園のアイドル。そんな二人と同伴登校などしたら()()に変な疑いを持たれるだろう。

 

「近道しよ」

 

 そう決断したダイスケは、突如として渡り廊下から身を乗り出し、そして跳躍した。

 傍から見れば立派なダイナミック飛び降り自殺。周囲に目がないことは確認済みだとして、見る者がいれば確実に卒倒するだろう。

 だが、ダイスケの体は綺麗な放物線を描いて近くの電柱の上に着地、そのまま地面へ飛び降りる。

 

「思わずこっち来ちゃったけど……うん、きょうはあいつらと同じコースで登校するか」

 

 そう言ってダイスケは鞄を肩に担いで歩き出した。

 以上のように基本的にダイスケは基本的に他人と接触したがらない。それは過去の経験からくるものだ。

 自分が下手に何かすればその異常な力で他人を傷つけてしまうであろう事は幼いながらに理解していたし、好奇の視線も不快であった。ならば極力他人とは接触しなければいいし、目立たないように(先刻のようなことはあるが)普段は大人しくしていればいい。

 自然とダイスケはそう考えるようになり、力の押さえ方を学んでからもその方針に変わりはなかった。だが、そのダイスケの信条も無視してずかずかと関わってくる奇特な者もいる。

 

「うぉーい、ダイスケ! いい朝だなぁ!!!」

 

 このいつにないテンションで駆け寄ってくる男子生徒がその一人。名は兵藤一誠という。学園内では知らぬ者の無い煩悩丸出し男であり、後ろを恨みがましい眼付きでついてくる松田・元浜の三人でよくつるんでいる。

 この三人とダイスケが友人関係と紹介してもよい間柄になったのは彼らが1年であったときのこと。この三人、なんと覗きを敢行しようとしていたのだ。

 元はただモテたい一心のために偏差値は市内一の元女子校である駒王学園に入学したような連中だ。スケベ心は人一倍、いや万倍。性欲を持て余しに持て余している。

 そんな三人が手っ取り早く周囲の容姿の整ったクラスメイト達を欲望の対象として処理するのにうってつけなのが着替えの覗きだった。下見は十分、他人に気づかれるような場所でもないしなにせ単独ではなく複数犯であることが成功させる自信につながっていた。

 だが、いざ目的の場所に行こうとしたらダイスケに呼び止められた。

 

「あれ、それ録画できる双眼鏡じゃね?」

 

 たまたまダイスケが見ていたバラエティ番組で出演者が手にしていた双眼鏡と同じものを元浜が持っていたのを見られてしまったのだ。

 性欲の強い三人+録画可能な双眼鏡+あまりに怪しい三人の行動と言う式はすぐに覗き行為という答えを導き出される。その直後のダイスケの生ゴミを見るかのような目を見た三人はすぐさま逃げ出した。

 もしもダイスケが風紀委員にでもチークすれば即停学もあり得る。なにせ元女子校という環境は自然と女子の立場が強いもの。学校中に広まれば居場所はない。

 元からそんな覗きなどしなければいいのだが、性欲優先の彼らからすれば優先順位が常識と前後するのは当たり前のことであった。そんな三人はツーカーの呼吸で別々ルートで逃走し、しばらくして合流した。

 ダイスケにばれた以上覗きはできない、否敢行すべきと紛糾していたところに突如としてダイスケが現れる。反応する暇もないまま三人は取り押さえられた。

 このまま連行か、と三人は半ば人生を諦めかけたが意外にもそんなことはなかった。ただ、長時間説教はされた。

 自分たちが犯そうとしていた犯罪行為で辱めを受ける女子達はどのようなトラウマを植え付けられるのか、その一時の欲望のために今後の人生を破滅させてもいいのかと親指締めをされて砂利の上で正座させられた上に背中にコンクリートブロック十個を乗せられた。

 これによって三人は深く反省した。それからいうもの、彼らが犯罪行為というリスクを払おうとしてまで欲望を満たそうとすることはなくなった。

 そして三人はこの宝田大助が普段人を遠ざけているのとは裏腹になかなかに話しやすい人物であることも知った。だからその性欲の強さで女子はともかく男子からも煙たがられる三人は自然とダイスケに近づいていったのである。

 ダイスケの方も、性欲以外に関してはこの三人が好人物であることは理解していた。だから、この三人は自信の信条に対する例外として「馬鹿話ができる奴ら」程度には交流を持つようになっていった。つまりは、数少ない友と言える。

 

「おう。なんかやけに元気だな。」

 

 上機嫌のイッセーだが、それに対し後ろに続く松田と元浜はなぜかイッセーを恨めしげな目で見ている。

 

「……なんかあったか?それも、松田と元浜に益がなくてイッセーだけいい目にあうって感じの。」

 

「よく解ったな! 実は俺……彼女が出来たんだ!!」

 

「……は?」

 

 信じられなかった。この年中発情男はついに白昼夢を見るようになったのか。

 それとも妄想のしすぎでチベット仏教の秘技であるタルパでも完成させたのだろうか。なんにせよ彼はモテなさすぎて幻覚を見てしまうようになったのは確かだ。これは一刻も早く現実に還してやらねば。

 

「はっはー! お前も信じられないだろうがな、ほれこの通りアドレスも……イダダダダダダダダ!?」

 

「ほっぺた抓る程度じゃダメか。よし、ボディーブローだ。」

 

「その程度じゃだめだ宝田!! パイルドライバーやアルゼンチンバックブリーガーも決めてやれ!!」

 

「松田の言うとおりだ宝田よ! 仕上げにキン肉ドライバーを決めて、半身不随にして下半身を役立たずにしてやれ!!!」

 

 松田と元浜が親友が暴力行為を受けているというのにさらにダイスケを焚きつける。

 だが、その二人の反応を見てダイスケは確信する。

 

「お前らのその怒り様……マジなのか?」

 

「ああ、悔しいが事実だ……」

 

「ついさっき、お前に会う前に紹介されたよ……! 信じられんくらいの清楚系美少女だった!!」

 

 耐え切れなくなったのか、ついに二人は悔し涙を流す。本当に間違いがない話のようだ。

 

「……春先だってのに吹雪になるぞ」

 

「なんつー言い草だよ!! つーか、いい加減抓るのやめろォォォォ!!!」

 

「あ、悪い」

 

 解放された頬を擦るイッセー。恨みがましい目でダイスケを睨むが、すぐに勝ち誇った顔に変わる。

 

「つーことでだ、ついにこの俺にも文字通りの春がやってきたってことなのよ!! あ、これ彼女の夕麻ちゃんの写メね」

 

 言いながら見せられるイッセーの携帯の画面には、確かに清楚な黒髪美少女の姿があった。

 

「うわっ、もったいねぇ」

 

「「だろ!?」」

 

「息ぴったりだな、オイ!?」

 

 特に狙ったわけではないが、これくらいできるくらいには仲がいいという証拠である。

 

「もうこうなったら自棄だ!!お前から借りていたAV、あれ借りパクしてやる!!」

 

「おぉう、松田!!俺も貴様に賛同してイッセーから借りていたエロゲー5本を借りパクしてやる!!彼女が出来たコイツには無用の長物だろうて!!」

 

「巫山戯んな、お前らゴラァァァァァァ!!!!」

 

 堂々としていて姑息な報復に出た友人二人を追いかけていくイッセー。その背中を見つめるダイスケは思う。

 

(この世のどこぞにご健在であろう我がご両親様。俺の日常は今日も平和です)

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな出来事があった週末。ダイスケは一人で街に出ていた。

 手には趣味のプラモデル作りで使う工具類と材料が入った袋があり、それを珍しく上機嫌な様子で振っている。

 

(まさかアートナイフ用の替え刃が安売りしているとはおもわなんだ。ラッキー、ラッキー)

 

 行きつけの家電量販店の棚卸しセールで、通い始めた頃から在庫になっていた商品がついに安売りのワゴンに入っていたのでこれを思わず購入。こういった消耗品はいくらあっても困らないので迷わず購入した。

 さらに今日発売のプラモデルも無事に手に入れられたので万々歳だ。こうなっては早急に帰宅して作り始めるのに限る。

 そのためにはどこか近道をしなければならないのだが――

 

(……おっかしいな。なんかこの先に進もうって言う意思が働かん)

 

 ダイスケは街の中の公園の入り口に立ち尽くす。この公園の中を突っ切って反対側の出入り口から出ると十分以上の帰宅時間短縮が可能になる。

 なのに、なぜか足は公園の入り口に入るのを拒否してしまった。

 

(何だろうな、これ。まるで誰かがここに入っちゃいけないって言われてそれを真に受けている感じ)

 

 だが、ダイスケには一刻も早く手にしたプラモデルの素組みを済ませるという崇高な目的があるのだ。そのためならば、無理矢理にでもこのおかしな感覚から抜け出さなければならない。

 そのために、ダイスケは空いた手で自分の顔を思いっきり殴る。頬を伝わり、骨に響く衝撃は常人なら昏倒するものだ。だが、その生まれ持ったダイスケの強靱な肉体にはちょうどいい気付けである。

 痛みによってクリアになった頭の中にはもうあのおかしな感覚はない。ダイスケは一歩踏み出し、公園の中へ入っていった。

 しかし、おかしいのは先ほどの感覚だけではなかったらしい。

 

(……休日の夕暮れ時だぞ、なんで誰もいない?)

 

 たいていこの時間は親子連れや友達どうしで遊びに来ていた子供達が名残惜しそうに帰っていくころだ。必ず何人かは人がいる。

 なのに、入り口から入って以来誰ともすれちがわない上人影も見えない。何か不気味なものを感じてしまう。

 

(どこかでイベントやってて、そこに人が行ったか? いや、それにしたって……)

 

 そう考えながら歩いているといつの間にか公園の中央にある噴水広場にやってきていた。そして見てしまった。

 夕日に照らされ、朱色に染まった地面の上に倒れ伏す同い年ぐらいの少年と、それを侮蔑の視線で見下ろす女。

 地面が朱色だ、と思ったが実際にはもっと赤い。正確には少し黒がかったまさに--というより血そのものの色。少年は血溜りの中に倒れているのだ。

 その少年が誰なのかはうつ伏せで倒れているので顔は見えないが、背格好と髪型でわかった。イッセーだ。

 ダイスケの存在に気づいた女はこちらを見る。その背中には黒い翼が生えていたが、顔は見覚えがあった。先日イッセーが写真を見せた夕麻とかいう他の学校の女生徒に間違いない。

 

「……あら、どうやってここまで入ってきたのかしら。人払いの結界は張っていたはずだけど」

 

 あまりの光景に、ダイスケの脳は処理が追いつかなかったが今ようやく状況を理解した。

 イッセーが彼女だといっていた女が、凶器は見えないが何らかの方法でイッセーをここまで出血させる傷害行為を行ったのだ。

 いや、ここまでの出血では傷害が目的ではないだろう。殺害するつもりなのだ。

 

「目撃者がいるなんて想定外だわ。記憶を――いえ、思い出されたら面倒ね。結界を越えてきたって事は記憶消去が聞かない可能性もあるし。……消しておきましょうか」

 

 そう言って夕麻は手に光でできた槍を生み出した。どういう絡繰りかはわからないが、イッセーに致命傷は与えたのは間違いなくこの得物だろう。

 

「運がないわね。結界を越えてしまったばっかりに。でも安心しなさい、痛みは一瞬だから」

 

 夕麻は言いながら光の槍を振りかぶる。投擲するつもりだ。この距離なら投げ槍に精通したものなら100%狙ったところに槍を突き立てられるだろう。

 殺される。理由もわからず友人が目の前で殺され、あまつさえ自分も目撃したからと口封じに殺される。

 

――こんなこと、許されるのか?

 

 数少ない友と言ってもいい存在を殺される――許せない。

 この女の身勝手な都合で殺される――許せない。

 ここまで育ててくれたグレモリー家に恩返しもせずに死んでしまう――許せない。

 なにより、ここまでまともになれた自分を実の両親に見せることができなくなる――許せない。

 ここまで考えると恐怖と戸惑いは自然と消え、代わりにドス黒く煮立った怒りが湧き上がってくる。こんなところで死んで堪るか、という一念が火種となって一気に生への渇望という炎が立ち上る。

 それがトリガーになって、ダイスケの中で何かの箍が外れた。

 それは、怒りという名の激情。物心ついてからは極力抑えに抑えてきたこの怒り。もしも自分の力で激発すれば必ず大惨事になる。だから今までずっと抑えに抑え、人と関わらず、感情も抑えてきた。

 だが、目の前のこの女はそんな思慮は必要ない。人生で初めて現れた全力を持って叩きのめすべき()だ。

 何が何でも八つ裂きにする。徹底的に破壊する――この敵を。セーブなんて必要ない。どこまでも届く青天井の暴力が欲しい。

 そう思った瞬間、ダイスケの体が青い炎に包まれる。

 

「――何事!?」

 

 槍を投擲しようとしていた手を止め、目の前で起きた現象に注目する夕麻。次の瞬間、炎はかき消えてダイスケの腕に変化が起きていた。 

 両腕に漆黒のガントレットが装着されていたのだ。その変化に夕麻は驚いた。

 

「馬鹿な! 調査するべきだったのはこの兵藤一誠だけだったはず! その近くにまだいたって言うの!?」

 

 その驚愕の声はダイスケには届かない。自分の身に起きたこともどうでもよかった。ただ――

 

「……殺す」

 

 破壊し尽くすのみだった。

 後にこの事態を知る者はこう語る。

 この瞬間、この世界に真の霊長が現れたと。




 はい、というわけでVS01でした。
 前作からの主人公の設定改変は必要に迫られてやった子ですのでご了承ください。前のもいいという意見もあるでしょうが、自分としてもあの空気の読めなさはだめだなと思っていたので。多分以前とはかなり違うと思います。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS02 説明回って書くのは楽だけど、正直これでいいのかって書いてて不安になる

 先ほど確認してきたUA数……なんと見事に666!!
 縁起は悪いがキリはいい!! そんなこんなでVS02投下!


「まさか、他にも未確認の神器所有者がいたなんてね。でも、ここで殺しておけばボーナスアップといったところかしら?」

 

 突然のダイスケの変異に驚きつつも、天野夕麻は努めて冷静に対処しようとしていた。

 彼女には目的があった。その目的の果てに、イッセーの殺害があったが、それを実行した直後に現れたイレギュラーであるダイスケ。

 その存在に驚きはしたものの、さりとて目的実行を中断するつもりもない。さらに、このイレギュラーに対処したとなれば、()も自分を評価してくれるはず。

 そんな打算的な考えのもと、落としかけた光の槍を握り直す。距離としては目と鼻の先。手慣れた武器であるこの槍なら、目を瞑っていても当てる自信がある。いわば「必殺の距離」だ。

 さらにダイスケの得物は両手の籠手。どう見ても極近接格闘用の武器であるから投擲武器を使う夕麻はどうあがいても有利だ。

 おそらくダイスケの第一手は夕麻に近づくことだろう。そうしなければダイスケは攻撃できないのだから。そこへ槍をたたき込めばいいだけのことである。

 しばしの沈黙の後、ダイスケは地面を蹴った。と、同時に光の槍が放たれる。当然のことながら光の槍は目標であったダイスケの心臓には突き刺さらず、ダイスケがそれまでいた場所のやや後方に突き刺さる。

 

「!?」

 

 夕麻は驚愕していた。自分の槍は確実にダイスケを貫くと思っていたからだ。だが、ダイスケの動くスピードは槍が放たれるスピードを遙かに超え、その姿を見失う。

 

「ど、どこ!?」

 

 左右に視線を配ってダイスケの姿を探す夕麻。左右にはいない。後ろにも、前方にもいない。

 となれば答えは一つ、上空だ。しかし、その跳躍高度は人間の身体能力のそれを明らかに逸脱している。

 

「ば、馬鹿な……!?」

 

 驚く夕麻をよそに、ダイスケは重力に任せて落下しながら右足を引き、夕麻の眼前に迫ると全力でキックを放つ。

 咄嗟に夕麻は両腕をクロスさせて受けるも、その想像以上の脚力に押し負けて弾き飛ばされる。しかもこれで終わらない。夕麻は自分の腕に複数の痛みが走ったことに気づく。

 

「こ、これは!?」

 

 それは小さな刃物。ダイスケが先刻購入したアートナイフの替え刃だ。それをいつの間にか夕麻の腕めがけて投げつけていたのだ。

 ただの工具、それもプラスチックを加工するだけの小さな刃がいくつも自分の腕に刺さったいることに気づいた夕麻は驚愕した。自分のスペシャルぶりを自覚しているからこそ、こんな安物で傷つけられたことはまさに驚嘆すべき事実だ。

 だが、ここで夕麻はダイスケとこれ以上の交戦をする意思はなかったらしい。

 

「……っ、何者かわからない以上、あんまり付き合うべきじゃないわね。本来の目的は遂行できたし、日を改めて対応させて貰うわ!」

 

 そう言って夕麻は腕に刺さった刃を全て引き抜くと、光に包まれてその場から姿を消してしまった。

 またもや起きた超常現象に驚きつつも、ダイスケはイッセーのことを思い出す。自分は五体満足だが、イッセーはそうではないのだ。すぐに駆け寄って状態を診る。

 診れば刺し傷がある腹部から止めどなく血液があふれている。ダイスケはシャツを脱いでそれで縛ることで止血を行おうとしたが、その甲斐も無くあっという間にシャツが赤く染まっていき、赤い雫がしたたり落ちる。

 

「おい! 意識だけはしっかり持て! 寝るな!」

 

 必死に呼びかけてイッセーの意識をつなぎ止めようとするが、瞳の色は無情にも薄くなっていく。そして、譫言をつぶやき始める。

 

「……血、の色……すげーきれーだなぁ……夕日に染まって……余計に……」

 

「……阿呆なこと言うな! すぐ救急車を……クソッ、なんでこの街のど真ん中で圏外なんだよ!?」

 

「あ、ダイスケ……この色……すげー、よく似てる……。ほら、お前も知り合いっていう、リアス……先輩……。どうせなら……お前の腕の中じゃ無くて、あの人みたいな美人に……看取られて……。」

 

 死を意識し始めている。これは非常に危険な状態だ。しかも生を諦め始めている。本人の中で死という結末を無意識に受け入れてしまっているのだ。

 万事休す。ダイスケがそう思ったとき、イッセーの握られた右手が赤く輝き出す。

 その手の中に握られていたのは紙片。よく見えないが、魔術的な文様が描かれているように見える。そして放たれた光は空中に魔法陣を投影した。

 陣からは召喚されたかのように人影が現れる。その人物はダイスケもよく知る人であった。

 

「……リアス、さん?」

 

 それはイッセーが先ほど口走っていた名前の人物その人。なぜ彼女が突然この場に、しかも魔方陣から現れるという突拍子もない方法で現れたのか。ダイスケには理解が追いつかなかった。

 

「まさかこの場に貴方もいるなんてね。……もう隠し通せないと言う事かしら」

 

「隠す……? それに、今起きていることは……!?」

 

「説明は後よ。それより、そこの彼のことは私に任せない。いいわね?」

 

 今まで見たことのないリアスの表情に押され、ダイスケはイッセーから離れる。そして、リアスはイッセーの傍で屈み、その体に触れる。

 

「本来死は生きとし生けるものには避けられぬ定め。それだどれほど理不尽な理由だとしても、一度そのドアを開いたら二度と戻れぬ不可転の扉。でも――」

 

 そう言ってリアスは懐からチェスの駒のようなものを取り出す。

 

「貴方には、今この場で死ぬには惜しいほどの才能がある。何より、私は貴方のような存在がほしい。勿論、『人を辞める』というリスクはあるわ。でも、望むのならば私は貴方に新しい生を与えることができる。さあ、貴方はどうしたい? このまま、人としての生を全うする? それとも、人を辞めてでも、そして私の()()()なってでも生を望む?」

 

 そうリアスが問うと、イッセーは力なくだが、確かに頷いた。

 

「わかったわ。では、その命――私のために使いなさい。」

 

 リアスが駒をイッセーに胸に近づける。すると駒は光の粒子となってイッセーの中に吸い込まれ、それに続くようにリアスの懐からも光が溢れて同じくイッセーに吸い込まれていく。

 その反応が止むと、イッセーはすやすやと寝息を立てていた。どうやら血が止まったらしく、血溜りの広がりは止まっていた。

 

「まさか他の兵士(ポーン)の駒全てまでもなんてね。……今はお休みなさい。」

 

 そう言ってリアスはイッセーの額を優しくなでる。その姿はまるで母親のようだった。

 そんなリアスに、ダイスケは問う。

 

「リアスさん。これは……」

 

 問われたリアスの表情は、一転して暗くなる。

 

「……できることなら、貴方には()()()()の事には関わってほしくなかった。お父様も、お兄様も一緒よ。だから貴方の前では必死に隠してきたけれど、こうなったら全て知ってもらうしか無いわね」

 

 言いながらリアスが指を鳴らすと、リアスが出来てきたのと同じような魔方陣が地面に現れて、そこから一人の少年が現れる。

 

「部長、参りました」

 

 その少年はイッセーやダイスケと同じ学年の男子生徒である木場祐斗であった。文武両道、端正な顔立ちと紳士的な振る舞いで学園では王子様と呼ばれて非常に女子人気の高い男子だ。

 彼のことはダイスケも同じくグレモリー家に関わっていると言うことでよく知っていた。彼とはマンションが同じでよく顔を合わせるが、なにかと人に寄られる彼はダイスケにとっては触れざるべき人物である。

 

「やあ、宝田君も。部長、彼もここにいるということは……」

 

「ええ、そういうことよ。でも今はこっちを頼みたいの。」

 

 指さされた方に眠るイッセーを見て、木場は察した。

 

「彼も、なんですね」

 

「ええ、すごいわよ。なにせ兵士(ポーン)を八つも消費したのだから。私の目に間違いは無かったわ。で、お願いなんだけど」

 

「彼を自宅まで送ればいいんですね。住所は生徒会に訊きます」

 

「お願いね」

 

 木場はイッセーの肩を担ぎ、その体を起こして立たせた。

 

「じゃ、宝田君。また後で。失礼します」

 

 そして木場はイッセーを伴って現れたときと同じように魔方陣を通してこの場から去って行った。

 残されたのはリアスとダイスケ。リアスは近くのベンチに腰掛け、ダイスケも座るように促す。それに従い、ダイスケも座った。

 しばらく沈黙が続くが、リアスが切り出した。

 

「怒ってるでしょうね。自分だけが蚊帳の外で、身の回りに隠されていたものに関して何も教えられなかったんだから」

 

「……いえ。どっちかって言うと、怒る以前に混乱が激しくて何が何だかって感じです。出来ることなら、何もかも教えて貰ってすっきりしたいです。」

 

「そう……なら、まずこの世界のことに関して言うわ。この世界にはね、空想とされる者たち……神話存在が実在するの。神仏や天使、悪魔。数々の魔獣や神獣、霊魂に果てはドラゴン。そして、それに伴う奇跡や魔術といったオカルトも。それはさっき実際に見たでしょ」

 

「ええ、バッチリ。魔方陣で現れたり、人の背中に黒い翼が生えて光の槍を飛ばしてきたり」

 

「すんなり受け入れてくれると説明しやすくて助かるわ。そして私はその内の――悪魔よ」

 

 立ち上がったリアスの背中からコウモリのような羽と、典型的な鏃型の尻尾がスカートから顔を覗かせる。

 

「……悪魔っていうのは地獄の罪人を引っ立てる存在で醜く恐ろしい見かけ……って本で読んだんですけど」

 

「所詮は教会が言うことよ。敵のことはけちょんけちょんに書き立てるものだわ。確かにそう言う見た目をしている者もいるけれども、基本は人間とおなじ姿よ。親しみを持って貰うためならこっちの方がいいでしょう」

 

「え、体裁気にするんですか?」

 

「というより、仕事をしやすくするためね。悪魔は人間と契約して仕事をし、その報酬を貰うの。金銭とか、宝物、後はこっちが臨む仕事をして貰うとかね。命を貰うこともあるけれど、よっぽど身の丈に合わない望みを言われたときくらいね。そんな望みを言う人間も普通いないし」

 

 言いながらリアスは尻尾と羽をしまって座り直す。

 

「そして貴方が言っていた黒い翼を持つ者。それは堕天使ね。欲望に負けたり、神に逆らったことで天界を追われた天使。彼らとは冥界を二分していて、ここに神が率いる天界勢力を交えて三つ巴になっているわ。他所の神話体系からはこの三つを一括りにして「三大勢力」なんて言われることもあるわね」

 

「以外。てっきり堕天使と悪魔は手を組んでいるものだと。同一視されのもいますし」

 

「これは領土争いね。相手も元は天使だから生理的に受け付けないってのもあるでしょうし。何より天使と堕天使が共に使う光の武器、アレをもろに喰らうと悪魔は消滅するから。そうなったら死よりも悲惨よ。魂ごと消え去るんだから」

 

「で、天使は天使で悪魔と堕天使を邪悪として悪・即・斬と」

 

「そういうこと。で、貴方はどう思う?」

 

「なにがです?」

 

 ダイスケの頭の上にクエッションマークが浮かぶ。

 

「私や私のお父様とお母様、それにお兄様が悪魔だって言うこと。普通の感覚だったら悪魔なんて人間の敵、邪悪で汚らわしい正義の正反対の悪そのもの。あまつさえそんな存在が正体を隠して自分のすぐそばにいたんだから、気持ち悪いと思うのが普通よ。というより、何もかも信じられないかしら?」

 

 そう言って問うリアスに対し、ダイスケは首を横に振って答えた。

 

「まさか。この目で見たんだから何もかも信じますよ。それに見くびらないでください。悪魔だからっていって、人格まで何もかも悪だとは思いません。俺はずっとグレモリー家に世話になってきました。その間、皆さんは俺にまともな生活が出来るようにと、方々手を尽くしてくれたじゃないですか」

 

「体よく使うために手懐けようとした……とも考えられるわよ」

 

「だとしたらこんな風に説明しないでしょう。隠し続けて盲目的にいさせて、俺の力を利用した方が都合がいい。それに、ここまで手厚く俺を育ててくれません。力を伸ばすどころか、逆に抑える方法を教えてくれたんですから。それが俺を利用するためのものだったとしても、そのおかげでこうしてまともに生活できているんです。感謝しかありませんよ」

 

「……お父様やお兄様が聞いたら泣いちゃうでしょうね。ま、兎に角私たちは天使・堕天使とにらみ合いつつ自信の力を蓄えるために人と契約して対価を得ている……概要はこんなところね。また今度彼、イッセーと一緒に説明してあげるから。問題はここから、貴方自身の事よ」

 

「俺の、事……?」

 

「ええ。お父様からは何かあったとき、真実を告げるように頼まれているの。だからそれに従って貴方の真実を教えるわ」

 

 そうは言っても、リアスの表情は暗い。ダイスケが自分たちの生きる裏の世界に関わって欲しくないというのが本心だからだ。その事を感じたダイスケは、リアスに向き直る。

 

「大丈夫です。言ってください。たとえどんな真実でも俺は受け入れます」

 

「……ありがとう。じゃあ、言わせて貰うわね」

 

 リアスは微笑み、軽く深呼吸すると語り出した。

 

「ダイスケ、貴方は――」

 

 

 

 

 

 

 次の日、ダイスケはその日の授業に全く集中できなかった。

 リアスから語られたダイスケの身に宿る真実、神器(セイグリット・ギア)についてずっと考えていたからだ。

 神器とは、聖書に記された神が生み出した人、もしくは人の血を受け継ぐ者にのみ発現する異能のことだ。所有者の想いと願いの強さに応えるように力を顕現させるというルールがあるとされ、所有者の精神の変化に応じて新たな機能を目覚めさせることがある。

 その多くは人間社会で使用可能なレベルでしか発現せず、形としてはっきり具現化させるには一定以上の条件と力が必要とされるが、歴史に名を残した人物や有名なスポーツ選手などが自覚のないまま所有している場合もあるため、そう珍しい物ではないらしい。

 だが、その異能によって他者から気味悪がられ、迫害されるケースも多いということだった。自分ももれなくそれに類するカデコリーの人間なのだと知った。幸運だったのはグレモリー家という事情を知っている人々(悪魔だが)に出会えて、しかも保護して貰ったという点だろう。それに関しては自分は幸運であるとダイスケは改めて感謝した。

 これからはリアス()がダイスケとイッセーが神器を制御できるように指導してくれるとのことだ。……そう、()だ。リアスは勿論、それに関わる木場や姫島朱乃といったリアス率いる部活の「オカルト研究部」の面々は皆悪魔らしい。そのほかにも生徒会のメンバーもほぼ悪魔で、駒王学園の運営は悪魔がやっているらしい。

 そもそもこの駒王町からしてリアスのテリトリーとのことだった。さらにダイスケのトレーニングを世話してくれたのもグレモリーの悪魔、生活の世話をしてくれていたのも悪魔。知らず知らずのうちにダイスケは人間以外の知的生命と第三種どころか第九種接近遭遇をしていたことになる。

 そして指導されるのはダイスケだけで無く、イッセーもだ。彼も神器の所有者だった。むしろ、だから堕天使に狙われたと言ってもいい。堕天使は神器所有者を積極的に勧誘ないし能力を暴走させる事を恐れて抹殺をしているとのことだった。そしてその方針に従い、上に命令されて夕麻はイッセーを殺害されたということだ。

 但し、ダイスケからイッセーのこの話をすることは固く禁じられた。彼には時間をかけて話していくとのことで、彼の方も記憶の混濁があるらしくダイスケがいたことやリアスとのやりとり(これは未だに不明。後で説明があるらしい)も忘れていて、天野夕麻のことも突然いなくなったと認識しているようだ。

 その証拠に、彼は松田や元浜に「彼女のことを知らないか」と訊き回っており、携帯にあった写メやアドレスも消えていた。おそらくこれは彼女の工作だろう。殺した後に周囲の人間の認識を何らかの術で操ってイッセーを事故死だとかに処理するつもりである意思が見て取れる。

 勿論ダイスケも訊かれた。だが、リアスとの約束があったのでここはとぼけておいた。

 そして今は放課後。リアスの言いつけでダイスケはオカルト研究部の部室前に来ていた。

 

「……入りづらい」

 

 人生で一度も部活といった活動に参加したことがないダイスケにとってここは未知の領域。悪魔の巣窟以前にコミュニケーション能力に自信のないダイスケには非常に入り辛い領域だ。

 何せ基本的に他人との接触は避けてきた身。そんなダイスケが所属してもいない部活部屋にほいっと入れること自体無理なのだ。そんな葛藤をしていると――

 

「……入らないの?」

 

 後ろから木場の声がして驚くダイスケ。ビクッと身を震わせて振り返った。

 

「な、何だよ、木場か。入るよ? 入るともさ。……でも、いいのかこれ? 入っちゃって」

 

 狼狽するダイスケに、木場は苦笑してエスコートする。そっと部室のドアを開けてやったのだ。

 

「いらっしゃいませ」

 

「そのイケメン能力、俺にもちょっと分けて欲しいわ」

 

 木場に誘われ、ダイスケは部室内に入った。そして、思わず顔をしかめる。

 

(おいおいおい、いくら何でもこりゃぁ……使っていない旧校舎だからって部室を私物化しすぎだろ、リアスさん)

 

 部室内は元が教室とは思えないビュフォーアフターっぷりだった。

 漆黒のカーテンで日光は遮られ、その代わりに室内を照らすのは木場が先ほど点けた燭台の蝋燭。壁には魔術的文様が描かれたタペストリーやらが貼られており、本棚にある本の背表紙は皆、その本が魔術やオカルト関連の本であることを示していた。

 

「……電気点けねぇ?」

 

「部長が雰囲気を大事にしたいんだって。いつもは電気も点けるし、窓も開けているんだよ?」

 

 そう言いながら、木場は給仕場でお茶の用意をしていた。出された茶を、ダイスケはゆっくりとすする。

 

「……アールグレイ」

 

「……ごめん、それラプサンスーチョン」

 

「わっかんねーよ、紅茶の違いなんて。すいません、適当言いました」

 

 普段他人とコミュニケーションをとらないからこういうことになる。そんな感じで手探りで木場と会話しているとドアが開いた。そこから入ってきたのは三人の少女。

 一人は姫島朱乃。三年生で、リアスと並んでこの学園では「二大お姉様」として崇拝される美人だ。一応、リアス繋がりでダイスケは面識があるのだが、今のように軽く挨拶する程度で深くは彼女のことは知らない。

 二人目は塔城小猫。こちらは一年生で、その小柄な体格とマッチしたクールロリフェイスでその筋に人気のある美少女。こっちは住んでいるマンションは一緒だが、出かけるときに顔を見る程度で、リアスの関係者だということ以外、彼女のことはダイスケは知らない。つまり、二人とも顔見知り程度で深くは知らない。

 そしてもう一人はリアス。

 

「来てくれたわね。じゃあ、昨日の続きの説明、しましょうか」

 

「はい。お願いします。で、リアスさん以外の三人ももしかして――」

 

「ええ、悪魔よ。証拠、見る?」

 

「いえ、いいです。みんなリアスさんの関係者だし、大体の予測は付いていたんで」

 

「そう、ならこの前の話の続きをするわね。」

 

 そうしてリアスは自分たち悪魔がどういった存在なのかダイスケに教える。

 かつて魔王と神が戦い、魔王達が滅んで次代がそれまで冥界を治めていたこと。現在の政権は主戦派だった旧魔王をクーデターにより打倒した現魔王達が治めていること。そして現魔王の一柱が生み出したチェスを元にした転生システムによって他種族から有能と思われる人材を配下に治めるシステムを有していることを話した。

 

「それが昨日イッセーにしたこと、ですか?」

 

「ええ、彼は貴方と同じように神器を有していた。それで私の眷属にしたのよ。」

 

「って、事はイッセーはもう人間じゃなく、悪魔って事ですか。」

 

「転生するほか、彼の命を救う方法はなかったわ。一応、彼の了承は得たけどね。」

 

「そのあたりは何も言いません。善し悪しは本人が決めることですから。」

 

「理解してくれると嬉しいわ……あら、来たみたいね」

 

 不意にリアスの傍らに一匹のコウモリのような生き物が現れる。

 

「なんです、それ」

 

「私の使い魔よ。彼を見張っていたんだけど……そう、もうそろそろ学校を出るのね」

 

 その使い魔とやらが全身を使って大きく頷く。

 

「わかったわ。ご苦労さま。小猫、手筈通りに彼を尾行。万が一の場合は連絡と彼の護衛をよろしくね」

 

「……はい」

 

 小猫が了承し、部室を後にしようとするが、ダイスケが立ち上がって彼女の前に立ち塞がり、それを止める。

 

「リアスさん、彼ってまさか?」

 

「……ええ、兵藤一誠よ」

 

 リアスの答えを聞き、ダイスケはしばし考えてこう言った。

 

「リアスさん、折角色入教えて貰ってる途中ですけど、俺は塔城についていきます。いいよな塔城? よし、行くぞ」

 

 小猫からの返事を待たずにダイスケはドアノブを掴む。

 

「待って。貴方まで行く必要はないわ。それに、貴方には私達のことをまだまだ知ってもらわなければならないの」

 

「続きはイッセーと一緒でいいんで」

 

「そういう問題ではないの。小猫を監視に付けるということは、彼に危険が迫るかもしれないということ。小猫にはそれを払うだけの実力がある。でも、力に目覚めたばかりの貴方が行っても足で纏いになるだけよ。それに最悪……」

 

 そのリアスの言葉ですぐさま朱乃がダイスケの傍に立ち、ドアノブを握る手を掴む。

 

「貴方が無理に行こうとすれば、わたくしが全力で止めさせていただきますわ。自校の生徒が自殺しに行くのをみすみす見逃しはできませんから。」

 

「……すいません、行かせてください」

 

「あらあら。血気盛んなのはいいですけれど、勇気と蛮勇は別物ですわよ?」

 

 朱乃の表情は一見柔らかそうだが、その目にはなんとしても止めようという決意があった。だが、それでもダイスケの気持ちは変わらない。

 

「ダイスケ、あなたがそこまで彼にこだわる理由は何? 友達だから?」

 

 リアスが怪訝そうに尋ねる。

 

「そんな高尚な関係じゃないです。でもね……」

 

 ダイスケはひと呼吸置き、しっかりとリアスの双眸を見据えて言う。

 

「俺は今まで碌に他人と接しちゃいなかった。貴女ともろくに会話もしていない。だから、ぼっちなんて買って出た苦労です。でも、そんな俺にあいつは自分から接してきた。そんなあいつがいなくなったら……馬鹿な話できるやつがひとり減っちまうですよ。」

 

「……随分とまあ、利己的な理由ね。」

 

「利己的なのは悪魔も一緒じゃないですか。」

 

 空中でリアスとダイスケの強い眼差し同士がぶつかり合う。そしてリアスが呆れたように言う。

 

「……堕天使とまともにやり合えたみたいだから心配はないかしら。でも、くれぐれも無茶はしないように。小猫、何かあったらすぐに私たちを呼んで」

 

「……わかりました。」

 

 そう言って小猫が先に部屋を出る。後を追おうとするダイスケだが、一旦足を止める。

 

「……すいません、無理言って。」

 

「いいのよ。」

 

 そしてリアスに向けて頭を下げたあと、すぐさま駆け出していった。




 はい、というわけでVS02でした。
 本文の中の転生の下りのリアスの台詞はアレですよ、完全のオリジナルですからね。これが気にくわないからってオリジナルを嫌いにならないでくださいね。悪魔の外見に関するところも、私見交じってますから鵜呑みにしないでね。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS03 トランシーバーで会話するのってなんかプロっぽくてわくわくする

 よし、出来たと思っていざ投稿フォームにコピペしたら文字数が思った以上に少なく、仕方なく次話の一部を悪魔合体させませた。


 

「こちらアルファワン。目標に動きないかオーヴァー」

 

「……こちらオメガナイン。特に動きありませんオーヴァー……って、何なんですかこれオーヴァー」

 

「ばかやろう。尾行つったら、トランシーバーで連絡だろオーヴァー」

 

「……持ってるふりじゃないですかオーヴァー」

 

「なんでも形から入るのがいいんだよ。細かいこと気にすんな。つーか、お前だってアンパンと牛乳食ってるじゃねぇかオーヴァー」

 

「……これはいいんです。お腹減ってるし、雰囲気も出ますからオーヴァー」

 

「お前も結局、形に拘るんじゃねぇかオーヴァー」

 

「……尾行中なんですから静かにしててくださいオーヴァー」

 

「無口キャラのくせにお前だって結構しゃべてるじゃねぇかオーヴァー」

 

「……うるさいオーヴァー」

 

「お前がうるさいオーヴァー」

 

「……黙れオーバカ」

 

「お前が馬鹿」

 

「……死ね」

 

「お前が死ね」

 

 罵り合いを続けながら、物陰に隠れているダイスケと小猫。その視線の先は元浜家の二階にある、元浜本人の部屋だ。

 なんの変哲もない一軒家だが、まだ日が昇っているのにその窓にはカーテンがかけられている。

 

「……なんでカーテンしてるんです?」

 

「あれだろ、元浜のお宝DVDでも見てるんだろ。三人して。」

 

 ここでいうお宝DVDとは、本来なら未成年が持っていてはいけないR-18な内容のアダルティなDVDのことである。

 その言葉を聞いた子猫の眉間にしわが寄せられる。この手のアダルティな話は嫌いなのだ。

 

「……なんで男ってこうもスケベなんですかね。本当に軽蔑します」

 

「スケベじゃなきゃあ、すべての生物は死滅してるよ」

 

 そんな他愛もない会話をしていると、玄関からイッセーが出てくるのが見えた。こころなしか、かなり憔悴しているように見えるが、イッセーは歩き続ける。

 そして、そのふらつく足取りで向かった先は、近くにある大きな公園の噴水広場であった。そう、自分が殺された現場だ。

 イッセーは何事かつぶやきながら、周囲を見渡している。

 

「なんて言ってるんだ?」

 

「……『そうだ、俺ここで夕麻ちゃんと……。』断片的に過去は覚えているみたいですね」

 

「聞こえるのか?」

 

「……悪魔の身体能力は人間のそれを凌駕していますから。弱点も多いですけど……!」

 

 小猫が何かを感じ取る。すると、周囲の様子に変化が訪れた。空が歪み、水の上に油を落としたような色に変わってしまったのだ。

 

「これはあれか、結界って奴か?」

 

「……人払いの結界です。よほどのことがない限り、外にいる人間に中の様子を知られることもなければ、無意識にこの場所を避けるようになります。」

 

 いわば、この場所は開かれた場所でありながら密室になってしまったのと同様になった。他人に知られず、何かをするにはうってつけの環境だ。

 問題はこれを誰がやったかだ。ダイスケはもちろん、イッセーもそのような知識はない。小猫は目の前にいてそのようなことをする素振りは見せなかったし、やったとしてもメリットがない。

 となれば、この結界を張ったのは第三者ということになる。

 すると、イッセーの目の前に黒いソフト帽とトレンチコートの男が現れる。人払いの結界があるにもかかわらずこの場所にいるということは、この男は人外の何かであるか結界を張った張本人かのどちらかである。

 可能性が高いのは、その両方だった。であれば、イッセーの身が危ない。

 

「塔城、すぐにリアスさんたちを呼べ。俺は先に行く」

 

「……先輩はどうするんです」

 

「イッセーを助ける。頼んだぞ」

 

 そして小猫が止める間も無く、ダイスケは走り出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵藤一誠は当惑していた。今朝からおかしなことが起こり続けている。

 まず、最近になって天野夕麻という他校の生徒と付き合うことになったのだが、誰もそのことを覚えていない。

 このことを話した親友の松田と元浜、そしてダイスケに聞いても覚えていないという。

 さらに、携帯のアドレスも消えていた。それだけではない。

 体が非常にだるい。日光を浴びるとクラクラする。普段であれば考えられない事だった。

 放課後、元浜の家に2人で集まっての秘蔵のDVDを鑑賞していたが、その時にも異変を感じていた。普段、この手のDVDを観賞するときは雰囲気を出すために室内を暗くしている。

 であるはずなのに、まるで電気を点けているかのように明るく見える。お陰で肝心のDVDの内容はちっとも頭に入らない。その為、2人を置いて早々に切り上げてしまった。

 

「おかしい、昼間よりも元気になってきてる……。昼夜逆転したみたいだ」

 

 昼間感じていた気だるさはもう無い。その代わり、不気味に思えてくるくらい活力が湧いてくる。

 すると不意に、子供の声が聞こえてくる。辺りを見回しても子供らしき影はない。

 

「ちょっと待て、あんな遠くの声が聞こえているのか……?」

 

 見れば500m以上先にひと組の親子連れがいる。その声が聞こえていたのだ。本来、聞こえるような距離ではないのは誰の目から見ても明らかだった。

 

「何なんだよ……。俺、何がどうなっているんだよ……!」

 

 例の天野夕麻の件といい、この二日間だけで不可解なことが多すぎる。そう思い悩むうちに、いつの間にか昨日来ていたはずの公園に着いていた。

 何を思ったわけではないが、中央の噴水へと足を進める。

 

「そうだ。俺、ここで夕麻ちゃんと……」

 

――死んでくれない?

 

 ズキン、と頭が痛む。

 

「なんだよ、今の頭に響いた声。もしかして、夕麻ちゃんの?」

 

 何かを思い出しそうになる。まるで自分で押し込めてしまったかのような記憶。

 すると不意に、背筋がゾッとする感覚に襲われる。まるで蛇に睨まれた蛙の気持ちになったかのような、そんな気分だった。

 

「これは数奇なものだ。このような所で、お前のような存在に出会うとは……」

 

 黒いソフト帽にトレンチコートの男が現れる。

 間違いない。イッセーの体と本能は、この男に得体に知れない恐怖を感じている。

 

「……フン」

 

 今までで感じたことのない、普段から変態として自分たちを忌み嫌う女子たちから放たれたものとは比べ物にならない殺気。

 心臓を素手で掴まれたか、はたまた尻の穴にツララを突っ込まれたかのような恐怖。今まで体験したことのないその感覚に、思わずイッセーは後ずさる。すると、

 

「え? うわっ!」

 

 ほんの数歩後ずさっただけのはずだった。それなのにイッセーの身体は跳躍し、5m以上も後ろにジャンプしている。

 

「……なんだ、逃げ腰か」

 

 つまらなそうに男は言う。

 

「クッソ、訳分かんねぇつうの!!」

 

 たまらず走り出す。訳がわからないことは確かだが、イッセーは己の勘に従い逃げ出した。

 

「――黒い、羽根?」

 

 走るイッセーの眼前に、黒い羽根が数枚舞い落ちる。

 するとどうだろう、強い風が巻いたかと思ったら、目の前にあの男がいる。それも、背中に黒い翼を生やして。

 

「うわ!」

 

 驚いてしまったせいで頓き、尻餅をついてしまう。

 

「下級の存在はこれだから困る。主の気配も仲間の気配もない。消える素振りも見せず、魔法陣も展開しない。……お前は()()()か」

 

 男は意を決したように俯き、手を横にかざす。そしてその手には、()()()()()()が生まれた。

 

「ならばお前を消しても問題はあるまいて」

 

(なんだよおい、こんな目に遭うんだったらこんなおっさんより、美少女相手の方がマシだぜ!!)

 

 そう思いイッセーは再び逃げ出す。だがその刹那、腹部に猛烈な痛みが襲う。あの男の投擲した光の槍が、背中から腹部へ突き刺さっているのだ。

 ただ刺されているのとはわけが違う。毒を流し込まれているかのような猛烈な痛みが全身に行き渡り、体に力も入らなくなってしまっている。

 

「仕方あるまい、()はお前たちにとっては猛毒。止めを刺したかと思ったが……意外と丈夫にできているのだな、お前は」

 

 その言葉と同時に突き刺さった光の槍は消える。しかし、突き刺さっていたものが無くなったせいで出血と痛みは更に酷くなる。

 

「このままでは苦しかろう。慈悲だ。ひと思いに……楽にしてやる」

 

 再び光の槍を振りかざし、投擲する男。

 だが、その射線上に邪魔するように立ち塞がる人影が一つ。それが投擲された光の槍を弾き飛ばした。

 

「「な!?」」

 

 男は自分の自慢の武器が防がれたことに驚き、イッセーは自分を助けてくれた人物に驚く。

 

「だ、ダイスケ……なんで?」

 

「細かいことはいい。それより怪我の具合は?」

 

「大分……深い」

 

 確かに死にそうなイッセーだったが、その苦しみも忘れてしまいそうになるほどにダイスケの登場は意外すぎるものだった。

 どうしてこんなにタイミング良く現れたのかという疑問もあるが、それ以上に気になったのはダイスケの手足だった。まるで甲冑の籠手や脚具のようなモノがついていたのだ。

 さらに、槍をはじいた左の腕の籠手には円形のラウンドシールドが付いていた。

 

「ダイスケ……その手足と盾……」

 

「足? 本当だ、足にも付きやがった。兎に角、この盾が頑丈で良かったぜ」

 

 足の脚甲に関してはどうやら本人も意外だったようだ。だが、今はそのことを考えている時ではない。

 

「貴様……人でありながら悪魔に味方するのか!?」

 

 男がダイスケに問う。

 

「友達助けることがおかしいことか? つーかお前、天野夕麻と同じ武器を使うってことは――堕天使だな?」

 

「そうか、貴様が……ならここで貴様も殺して、後顧の憂いを絶つのもよかろう。」

 

 男はそこまで言うと、再び光の槍を構える。

 

「上等だ。チミチャンガにしてやるよ。」

 

 

 

 

 

 

 

「小猫の前じゃあ格好つけたけど……実際問題どうすりゃいいんだよ!?」

 

 兎に角ダイスケは焦りながら走っていた。

 先日、天野夕麻と相対したときはなにも考えていなかったし、必死だったのである意味頭を空っぽにして楽に戦うことが出来た。

 だが、今回は「イッセーを助ける」という目的を達成しなければならない。何かを守ることほど難しい戦いはない。

 ただ壊すためだけの戦いほど楽な戦いはないというのも確かだ。その点を考慮すれば、あのコートの男は非常に有利な立場にある。

 兎に角、男の攻撃対象であるイッセーから自分に注意を惹かするか、何らかの手段でイッセーを守ることに専念しなければならないことが重要だ。だが、それを実行するための手段が思い浮かばない。

 なにかイッセーを守る手段があれば――そう考えているうちに左の籠手に変化が生じる。円形のラウンドシールドが現れたのだ。

 

「――! そうか、神器は所有者の想いに反応して変化するって、これか!」

 

 先にリアスから聞いていた神器についての説明を思い出すダイスケ。実はこのとき、同時に足にも脚甲が付いていたのだが、走るのに一生懸命で気が回らなかったのは内緒だ。

 気がつけば目の前に光の槍を振りかざし、投擲する男。

 その射線上にダイスケは邪魔するように立ち塞がり、投擲された光の槍を左の盾で弾き飛ばした。

 

「「な!?」」

 

 男は自分の自慢の武器が防がれたことに驚き、イッセーは自分を助けてくれた人物に驚く。

 

「だ、ダイスケ……なんで?」

 

「細かいことはいい。それより怪我の具合は?」

 

「大分……深い」

 

 どうやらかなり切羽詰っているようだ。普段では見せない追い詰められたイッセーの顔が実に痛々しい。

 だが、イッセーの興味は自身の傷よりもダイスケの身体の変化に行っていたようだ。

 

「ダイスケ……その手足。」

 

「足? 本当だ、足にも付きやがった。兎に角、この盾が頑丈で良かったぜ」

 

 気づかないうちに付いていた足の脚甲。どうやらこれのおかげ走っていても負担を感じなかったようだ。

 だが、その事について深く考える前に男がもう態勢を立て直そうとしていた。

 

「貴様……人でありながら悪魔に味方するのか!?」

 

 男がダイスケに問う。

 

「友達助けることがおかしいことか? つーかお前、天野夕麻と同じ武器を使うってことは――堕天使だな?」

 

「そうか、貴様が……ならここで貴様も殺して、後顧の憂いを絶つのもよかろう。」

 

 男はそこまで言うと、再び光の槍を構える。どうやら天野夕麻とも面識があるようだ。ということは彼女と同じ目的、もしくは追撃に来たと考えられる。

 一体どこまで瞬念深く自分たちを狙うのか――その執拗さに温厚なダイスケの額に青筋が浮かび上がる。

 

「上等だ。チミチャンガにしてやるよ。」

 

 常識的には傷ついたイッセーを病院なりに早急に連れて行って、一刻も早い治療を受けさせることが先決だろう。だが、目の前のこの男を排除しなければさらに追撃を受ける可能性もある。

 それにここで少しの時間粘ればリアスたちを呼んだ小猫がこちらに来てくれるかもしれないし、リアス本人もここに来るということもある。そうすればこちらは数の上でも有利になる上に、この二つのことをほぼ同時に処理できる。

 打算と怒りを込めて、ダイスケはまた全身のリミッターを解除する。コートの男も再び光の槍を構えた。

 構え合った両名はにじり寄りながら距離を詰め、相手を出かたを伺う。

 

「うぅ……」

 

 イッセーのその呻き声が引き金となり、両者は駆け出す。

 コートの男がダイスケに向けて光の槍を投げる。が、さすがにダイスケはこれに馴れた。

 

「馬鹿の一つ覚えだな、堕天使ってのは!」

 

 左腕の盾で槍を弾くと、ダイスケは右手で盾を掴み、そのままコートの男に向けて投擲する。盾が円盤状で空力特性に優れていたのと、ダイスケの腕力ですさまじいスピードで飛んでいく。

 

「投げるという点では一緒だろうが!」

 

 同じくコートの男も盾を弾こうとする。だが、あまりに強い力で投擲されたので逆に弾かれた。

 

「っ!」

 

 想像以上の力に驚くコートの男。その隙にダイスケはコートの男の懐に入り込み、掌底を喰らわせる。

 

「ぐはっ……!?」

 

 人間とは思えぬその腕力で肺の中の空気が一気に吐き出される。さらにその隙を突いて空中に舞った盾を回収して腕に装着し、面で殴りつけた。

 結果、男は車に撥ねられたかのように飛んでいき、樹に激突する。

 

「ぐっ!!」

 

 男にとってダイスケの力は想像以上だった。無理もない。ダイスケは一見すればただの高校生。体格はそれなりに恵まれていても、特別な戦闘技能を持つようには見えない。

 だが、ここで引けば堕天使としての沽券に関わる。あまつさえダイスケは唾棄すべき悪魔と手を結ぶ愚かな人間。そんなダイスケに負けたとあっては同族から嘲笑の的になる。

 男は体勢を立て直し、再び光の槍を構える。同じくダイスケも盾を前面に構えて迎撃の用意をしつつ反撃の準備もする。

 二つの殺意がぶつかりあわんとしたまさにその時、二人の間の地面から赤い光が溢れた。

 

「「!?」」

 

 思いもよらぬ出来事に二人は飛び退く。光が溢れる場所には魔法陣らしき円形の模様が浮かんでいる。

 ダイスケはこれに見覚えがあった。これはオカルト研究部の部室にあったものと全く同じものだった。

 つまり―――

 

「……来てくれたか」

 

 その期待通り、魔法陣の中から現れたのはリアス・グレモリー。そして共に現れたのはダイスケを静止するようなポーズの朱乃と、コートの男を牽制する姿勢を取った小猫だ。

 

「あらあら、やっぱり暴発させちゃいましたのね」

 

「姫島先輩たちがもっと早く来てくれるっていう手もあったんですよ?」

 

「まあ。普段大人しいとは訊いていますけど、こう言う状態になったら手も早いし、口も乱暴になるのかしら」

 

 頬に手を当ててにこやかに笑う朱乃。だが、その心の中は笑う余裕もなく、ダイスケが無事であったことに胸を撫で下ろしているのが実際だ。

 まさか本当に堕天使相手に真っ向勝負を挑むとは思ってもみなかったからだ。

 イッセーが襲われたという報告を小猫から聞いただけでも血の気が引いた。万が一ダイスケまで手をかけられたらと思い、急いで転移してきたのだ。

 

「でも助かりました。イッセーがヤバイんです。見てやってください」

 

 ダイスケに促され、朱乃はイッセーの介抱に向かう。

 その間、リアスは目の前の堕天使と対峙していた。

 

「貴様のその赤い髪……。グレモリー家の跡取りか」

 

「そう、次期グレモリー家当主、リアス・グレモリーよ。ここは私の管轄地。そしてあなたが殺そうとしたその子は私の眷属。つまりどういうことかわかるわよね?堕ちた天使さん」

 

「なるほど、それならば確かに私のほうに非があるな。しかし、下僕の放し飼いはせんことだ。散歩がてらににうっかり……ということもありうるぞ?」

 

「ご忠告ありがとう。でも、もしそんなことがあれば今度は全力で叩き潰すのでそのつもりで」

 

「その前に俺が叩き潰してやんよ、カラス野郎。」

 

 親友を狙われたことに怒るダイスケがリアスに乗る。かなり本気の目だ。

 すると、堕天使は宙へ舞い上がる。

 

「それでは私はここで失礼させてもらう。我が名はドーナシーク。再びあいまみえないことを願う……」

 

 その言葉とともに、黒翼の男ドーナシークは消え去った。

 ダイスケは傍らのイッセーを見る。どうやら痛みとストレスに耐えかねて気絶しているようだった。

 

「とりあえずなんとかなった、って感じですかね」

 

「ええ、でもその子が危険な状態にあるのは変わらないわ」

 

 すると小猫がイッセーの体を診る。

 

「……気の流れが乱れている。このままだと死にます、部長。」

 

「そんなことさせない。この子は絶対助けてみせる」

 

 リアス・グレモリーは固い決意を持った目でイッセーを抱きしめる。

 

「ダイスケ、この子を私に預けて。必ず助けるから。私はその方法を知っている」

 

 ダイスケはリアス・グレモリーの目を見る。確かな決意を感じさせる瞳をしていた。

 

「――わかりました。先輩を信じます。イッセーのこと、よろしくお願いします。どうかこいつを助けてやってください。」

 

 本来なら救急車なりを呼ぶべきなのだろう。しかし、今回の状況は普通じゃあない。

 ならば事情に詳しいらしい彼女に任せるのが正解だと思ったのだ。そしてダイスケはリアスに深く頭を下げた。

 

「……わかったわ。この子の事は私に任せて。明日詳しい話をしたいから、あなたを呼ぶわ。その時は祐斗を迎えによこすからよろしくね。それじゃ」

 

 そう言って、リアスとその仲間たちは魔法陣の彼方へ消えてゆく。

 結界も消え、ダイスケだけがその場に取り残された。そして、大切なことを思い出す。

 

「この籠手のこと、聞くの忘れてた……」




 はい、というわけでVS03でした。
 ちなみに、オリキャラを以前から減らすと言っていましたが、原作キャラの強化で対応しようと思います。多分グレモリー眷属がかなりの強化になってしまうのでは無いかと。まあ、その分敵も強化して地獄絵図にすればいいだけなんですけど。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS04 交渉は相手の弱みを突くよりも相手の欲しいものをちらつかせるのが効果的

 今回も基本ラインは変わりませんが、大きく変更したところがございます。
 オリジナル展開で下手こいて原作キャラにヘイトを向けさせたくないですから。
 それはそれとして、最近間違いメールで知り合った女性とメル友になりました。
 詐欺だとしても楽しいからいいや。


 【悲報】イッセーまた死にかける【祝二度目】から時間がいくらか過ぎて、今はその日の放課後。イッセーはダイスケと共に旧校舎はオカルト研究部の部室に来ていた。

 ダイスケとしては二度目なので驚くことはないが、イッセーは場の雰囲気に圧倒されてずっとそわそわしていた。

 ちなみにイッセーは今朝、起きたらリアスと裸で抱き合っていたというのでずっと鼻の下を伸ばしっぱなしであるが、さすがに今はそれもナリを潜めている。

 

「落ち着けイッセー。この部屋の雰囲気に飲まれてたら、本題についていけねぇぞ」

 

「いや、それはわかるんだけど……木場のみならず、あの姫島先輩や小猫ちゃんまでいるってどういうことだよ……」

 

 普段接点のない学園の有名人を前にしてイッセーは戸惑うしかなかった。

 

「あらあら、学園一のやんちゃ君が場の雰囲気に萎縮してはいけませんよ?」

 

 イッセーの前に茶菓子を出しながら朱乃が笑う。その蠱惑的な笑と言葉に、思わず息と唾を飲むイッセー。

 反対のチェアに座る小猫はその様子を冷たい目で見ながら羊羹をかじる。

 

「……やらしい」

 

「それがコイツの原点にして生きる意味なんだよ」

 

 フォローになっているのかいないのか。だが、あながち間違いではないので真っ向から否定できないのがイッセーの辛いところだ。

 すると、白いカーテンの向こう側からシャワーの音が聞こえてくる。部室にシャワー?と訝しむとイッセーはあることに気づいた。カーテンに映った人影である。

 

(ま、間違いない!あのボディーラインは!!)

 

「部長、お召し物です。」

 

「ありがとう、朱乃。」

 

 間違いない、シャワーをしているのは……

 

「あのカーテンの向こうでリアス先輩がシャワーをしているというのか!!!」

 

 驚きと歓喜の声を上げるイッセー。

 今朝見た彼女の裸体をフィードバックし、カーテンの向こう側の景色を妄想する。

 そして聞こえてくる布が擦れる音に思いっきり鼻の下を伸ばす。

 

「お前、スゲェな。音だけで興奮できるんだ」

 

「あたぼうよ!どんなに些細な情報だろうと、この俺の脳細胞が全力で妄想するのだ!」

 

「……酷すぎる」

 

 小猫にはもう本当に返す言葉もない。

 自分の人生を左右するかもしれない時だというのに、ここまで自分を貫き通せるところはある意味で美点だといっていい。そこへ身支度を整えたリアスが現れる。

 

「ごめんなさいね。イッセーの家に泊まったから、昨日からシャワーできてなかったのよ」

 

「いえいえ!こちらはこちらで色々と堪能させていただきました!!」

 

 普通だったら顔をしかめる等の若干引いた反応をするのが、一般的な世の女性の反応だろう。実際、小猫のイッセーを見る眼差しは宛ら養豚場の豚を見る目だ。

 だがそれとは反対に、リアスの眼差しははしゃぐ我が子を見る母親のような目だった。そのリアスが早速本題を切り出した。

 

「さて、ダイスケは改めてだけど……兵藤一誠君、宝田大助君。ようこそ、オカルト研究部へ。私たちはあなたたちを歓迎するわ」

 

 

 

 

 

 

 

「実は、このオカルト研究部は仮の姿、隠れ蓑なの。まぁ、私の趣味みたいなものね」

 

「じゃあ、本当の姿ってなんなんですか?」

 

 イッセーの疑問は正しい。仮の姿があるものには必ず本当の姿があるからだ。

 

「単刀直入に言うと、私たちは“悪魔”よ。そして昨日の黒い翼の男は“堕天使”」

 

 え、とイッセーの息が詰まる。それもそうだ。“悪魔”も“堕天使”も空想の存在。

 それをさも「当然に実在するモノ」として語るとは頭がいかれているか、所謂厨二病のどちらかだ。

 だが、もうすでにソレが現実であることをイッセーは承知していた。既に常識では説明のつかない現象をいくつも体験している身としては、自身の浅学な知識ではありのままに受け入れざるを得ないのである。

 

「はい。まだ現実味がないけど……理解できます」

 

「理解が早くて助かるわ。堕天使は神に仕える身でありながら、邪な心を抱いてしまった為に堕ちたモノたち。彼らと私たち悪魔は冥界、即ち地獄の覇権を巡って争っているの。そこに神に仕える天使達も加わって、三竦みの状態にあるわけ。あ、もちろん、日本神話等のほかの神話大系も存在するわ」

 

「で、でもいくらなんでも突拍子がないというか……。」

 

 それでも、とイッセーは食い下がる。まだ自分の心の中のどこかが、自体を受け入れられずにいるのだ。

 

「あら、あなたは昨日の男以外の堕天使にも遭ってるのよ」

 

 リアスはそう言うが、イッセーには心当たりがなかった。

 

「だ、誰にですか?」

 

「天野夕麻。忘れたわけじゃあないでしょう?デートまでしたんだから」

 

 イッセーは震える。

 天野夕麻。

 それはかつてイッセーの彼女であった“はず”の少女の名。

 数日前の帰宅時、効果橋を渡っていた時に突然告白されたのが出会いだった。最初は驚いたが、イッセーはすぐにその告白を受け入れて晴れて念願の彼女を手に入れることができた。

 しかし、その翌日に松田と元浜に彼女を紹介したはずだったのに次の日には彼らは天野夕麻のことを忘れていた。ダイスケも、である。交換したはずのアドレスも、携帯で撮った彼女の写真も跡形もなく消えていた。

 つまり、彼女のことを覚えているのはイッセーだけのはずなのである。それをなぜこれまで関係のなかったリアス・グレモリーが知っているのか。だが、その疑問の前にある思いがイッセーの口から溢れ出す。

 

「あ、あの、そのことをどこで聞いたかは知りませんけど……。確かに彼女についてはおかしな事がありましたけど、オカルト云々で話されるのは困るっていうか、正直ムカつきます……」

 

 不可解な出来事とはいえ、自分の初めての彼女についての説明がよりにもよって如何わしいオカルトで片付けられたのである。このようなことをされれば誰であれ不愉快に思うのは無理はない。

 しかし、憤るイッセーをよそにリアスはその懐から一枚の紙片を取り出す。それは写真であった。写っているのは紛れもない、天野夕麻その人だ。

 

「あ、ああ……!」

 

 あまりの衝撃にイッセーは思わず仰け反り、尻餅をついてしまう。

 そして、思い出した。自分が彼女に一度殺されているという忘却の彼方に押しやった事実を。

 

「その様子だと、彼女に一度殺されているのを忘れていたようね。ショックで記憶の隅に無意識で押しやっていたのかしら」

 

「……なんで? みんな忘れてたのに。ダイスケだって……」

 

「それは彼女が事実を隠蔽するための力を使ったからよ。今朝、私があなたのご両親にしたようにね」

 

 その言葉でイッセーは今朝起きたことを思い出す。

 今朝、イッセーはリアスと裸で抱き合って寝ていた。リアス曰く、体の傷を癒す為に魔力を送っていたとのことだったが、その時の一部始終を母親に見られた。

 思春期における決定的シーンをすっ飛ばして、ストロベリーブロンドの外人美少女と不肖の息子のベットインを目撃したイッセーの母の混乱ぶりは凄まじかった。

 そのことをリアスは「ただ添い寝をしていただけで、しかも最近の添い寝は裸で抱き合うのは当たり前」というとてつもない説明をイッセーの両親にしたのである。

 イッセーは、これで両親が納得するとは思えなかった。が、あっさりと二人は納得してしまったのだった。

 

「じゃあ、あの時俺の両親が納得したのって、その力を使って……。そして夕麻ちゃんも同じように」

 

「あと、これは言っておいた方がいいわね。ダイスケはね、彼女から貴方を守るために一度交戦しているわ。偶然の遭遇だったけれども」

 

「は!? え!? で、でも、ダイスケは夕麻ちゃんのこと忘れてて……嘘だったのか!?」

 

「すまん、混乱させてはいけないってリアスさんに言われててな。元浜と松田のこともあるし、お前を余計に混乱させたくなかった」

 

「あっ、そうか……そういうことか。確かにお前だけ知ってるって言っても、あいつらの記憶が消えてたんじゃ、覚えてるって言えないもんな……」

 

 少しづつ冷静さを取り戻したイッセーは納得した。だが、一つわからないことがある。

 

「でも、なんで夕麻ちゃんは俺を? 殺されるような恨みを買った覚えなんて……」

 

「彼女の目的はイッセーの中に睡るモノ。それがどういうものなのかを調査するためよ。そして調査の結果、危険と判断されイッセーは……殺された」

 

――死んでくれない?

 

 死の寸前、彼女が自分に向けてはなった一言がイッセーの中でリフレインする。

 

「……じゃあなんで俺、今ここにこうして生きているんです?」

 

「それはこれ、『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』のお陰よ」

 

戦車(ルーク)、ですか」

 

 ダイスケの言うとおり、リアスの手には赤いチェスの駒が握られている。

 

「ええ。この駒はね、悪魔が眷属にしたい相手に使うモノなの。そして眷属になった物は悪魔として生まれ変わり……つまり“転生悪魔”となる。そしてそれは死んでしまったものも同様。ここにいる私以外のオカルト研究部のメンバーも皆、転生悪魔よ。」

 

 この部屋にいるほぼ全員が人間でないと言われたら普通は誰も法螺だと思うだろう。だが、ここまでオカルトの世界に脚を踏み込んでしまえばもう疑問を持つ余地はなく、イッセーはそれをあっさりと信じた。

 

「でも俺、いつの間に眷属になんて……。ってうか、リアス先輩ってあの場にいたんですか?」

 

「いいえ、あの場にはいなかったわ。でも、あなたはこの紙を持っていたでしょう?」

 

 そう言って、リアスは机上に山積みにされた一枚の紙を見せる。その紙には魔法陣が描かれていた。

 

「あ、それは駅前で綺麗なお姉さんが配っていた……。」

 

「それは私の使い魔よ。そしてこの紙は、悪魔に願いごとを叶えてもらうための召喚用の魔法陣。で、死の間際にあなたは私を呼び出し、私はあなたを下僕にしたってわけ。忘れているかもしれないけれど、貴方の了解は取ってるからね?」

 

「……イッセーは偶然に偶然が重なって助かったってことですか。いや、運いいなお前」

 

「いや、ダイスケよ。殺されてる時点で運は良くないだろ……」

 

 なんとも奇跡的な巡り合わせ。不運であろうとなかろうと、友人の巡り合わせの良さにはダイスケも感心せずにはいられなかった。

 

「でもイッセーに特別な力がなければ、こんなにややこしい事態に巻き込まれることはなかったのか……」

 

「そうなんだよな。でもその特別な力がなかったらリアス先輩ともお近づきになれなかった訳だから……これでイーブンなのか?」

 

「それでイーブンでいいのか? ……あ、そうだ。なんかあの堕天使の女、俺とイッセーが同じモノを有しているみたいなこと言ってたけど……イッセーにもあるんですか、これ」

 

 そう言いながら、ダイスケは右腕に昨日と同じ黒いガントレットを出現させた。

 疑問を投げかけるダイスケだったが、知識が無く目の前の現象に驚くイッセーに朱乃とリアスが教える。

 

「それは『神器(セイグリット・ギア)』と呼ばれるものです。人間にしか発現しない特別な力で、歴史上に名を残した偉人の多くがこれを宿していたと言われていますわ」

 

「そしてその中には、神をも滅ぼしうる力を有するモノもあるの。堕天使たちもそれを恐れていた、というわけね。ちなみに祐斗も神器の保有者よ」

 

 リアスの紹介により、木場が歩み出る。

 

「僕の神器は『魔剣創造(ソード・バース)』。あらゆる属性の魔剣を生み出すことができるんだ。まあ、オリジナルには及ばないんだけどね」

 

 そう言って手にひと振りの剣を生み出す。なるほど、確かに魔剣というだけあって禍々しいオーラを纏っている。

 

「なるほど、相手の特性と弱点に合わせた攻撃ができるってことか。RPGに木場みたいなキャラがいたら便利なんだけどな」

 

「それじゃあゲームバランスが狂っちゃうんじゃあないかな。まあ、宝田君の言うとおり、戦う時には便利な能力ではあるよ」

 

 そう言って、手にした剣を木場は消した。出現も消滅させるのも自由らしい。

 

「……で、俺のは何なんです?」

 

 ダイスケは詳しいであろうリアスに問う。

 

「そうね、形状からすると『龍の手(トゥワイス・クリティカル)』かしら。比較的ありふれた神器で、ドラゴンを封印したもの。能力は『使い手の力を一定時間の間倍加させる』よ」

 

「でも部長、龍の手(トゥワイス・クリティカル)に黒い個体、それも円形の盾を生み出す能力なんてありましたっけ?」

 

「朱乃の言う通りなのよねぇ……。冥界の研究機関に問い合わせても、堕天使側ほど研究が進んでいないから解らないかもしれないわね」

 

「あの、こいつはそんなにイレギュラーなんですか?」

 

 どうも釈然としないリアス達にダイスケは問う。

 

「ええ、普通の神器はそれぞれ一つに一つの能力なの。能力が複数あるのは『神滅具(ロンギヌス)』とって極々稀少で13種しか存在しない上に、それぞれがどういうものなのかも分かっているわ」

 

「なのに宝田君の神器は形状こそ龍の手ではあるものの、神滅具でないのに『使い手を発現以前からパワーアップさせる』と『盾を生成する』という二種類の能力を備えているのです。私たちは神器のプロフェッショナルではありませんから、調べようもありませんわ」

 

「色が黒いっていうのも判らない理由の一つなんだ。確認されている龍の手(トゥワイス・クリティカル)は殆どが赤、青、緑等のドラゴンらしい色合いで、黒い龍っていうのは大体が邪龍だからね。それに相応した神器になるはずなんだよ」

 

「……要するに正体不明」

 

 リアス、朱乃、木場、小猫の言葉でダイスケは不安になる。あの奇妙な冒険漫画の能力者たちですら自分の能力を把握しきれているのに、自分のは一体なんなんだろう。

 この身に火の粉が降りかかる状況が起こるかもしれないのに、このザマで自分は生き残ることができるのだろうか?

 

「まあまあ、気を落とすなよダイスケ。そのうちわかるさ。まあ俺は堕天使に直接命を狙われたくらいだから、強力な神器を持っているのは確実なんだけどな。だっはっはっはっは!!」

 

 不安に落ちる悪友を傍目に余裕綽々のイッセー。あからさまに自信満々な上に状況証拠まで揃っているからなんとも腹立たしい。

 

「それじゃあ、イッセーの神器も見せてもらいましょうか」

 

「はい、リアス先輩! 出でよ、神器ァァァァァ!!」

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 出てこない。

 

「……あり?」

 

「イッセー、自分の中で一番強いと思うものを想像しなさい。そうすれば出てくるはずよ」

 

「はい、リアス先輩! ならばもう一度……出でよ、神器ァァァァァ!!」

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 やっぱり出てこない。

 

「プッ、ダッサ」

 

 散々自信満々で神器を出そうとしていた先ほどのイッセーを思い出してせせら笑うのはダイスケだ。

 

「お、俺だってなぁ!! なんとか集中して出そうとしたよ! でも、机に座ったリアス先輩の太ももに意識が行ってダメだったんだよ! あんな素晴らしい太もも見せられて集中できるかってんだ!!」

 

「まあまあ、イッセー。神器の発現は人それぞれよ。悪魔の一生は長いの。気長にやりましょう?」

 

「うぅ……リアスせんぱぁい……」

 

 優しい主の言葉に思わず涙ぐむイッセー。心底この人の眷属になってよかったと思う。

 

「それじゃあイッセー。あなたには早速悪魔としての仕事があるわ」

 

「はい! なんでしょうか!!」

 

「これを各家庭に配ってきて欲しいの。今時、わざわざ魔法陣を描いて悪魔を召喚しようって人は少ないから」

 

 リアスは机上に山積みにされた例の魔法陣が描かれた紙の山を指さす。

 

「悪魔っていうのは、人間に召還されて依頼をこなし、その対価をもらうことで力をつけるの。あなたは今下僕、下級悪魔だけど、力をつけていけば私と同じ上級悪魔になって眷属を持つこともできるわ」

 

「眷属……ってのはアレですか、今の俺みたいな下僕を作れるってことですか?」

 

「ええ」

 

「下僕ってのはアレですよね、俺のいいなりに出来るってことですよね?」

 

「もちろんよ」

 

「じゃあ、可愛い女の子ばかりの眷属にして、エッチな命令をさせることも……?」

 

「あなたの下僕ならいいんじゃあないかしら」

 

「なん……だと……?」

 

 始まった。いつものエロ兵藤モードが。ときどきダイスケは思う。こいつのエネルギー源は三大栄養素ではなくエロなのではいかと。

 思えば、イッセーが駒王学園への進学を決めたのだって、彼女を作ってエロい事したいというのが動機だった。多分今も、「上級悪魔になれば可愛い女の子だけの眷属を作ってハーレムを作りたい!」思っているのだろう。

 偏差値的に無理と言われていた駒王学園の入試も、彼女がほしいという煩悩によって突破したのだ。この兵藤一誠なら、どのような困難が待っているとしても、上級悪魔を目指すのだろう。ハーレムの為に。

 

「部長! 俺、やります! いつか上級悪魔になって、眷属でハーレム作ります!! でもまずはチラシ配りという第一歩から――イッセー、行きまーす!!」

 

 机上にあったすべての紙束をもって、イッセーは部屋を出ていった。「がんばってねー。」というリアスの言葉を背中に受けて。

 

「しっかし、部長も人を働かせるのがうまいですね。流石は悪魔ってところですか」

 

「まぁ、眷属のやる気を引き出すのも主の仕事だから。でも、ついでと言ってはアレだけれども貴方にも頼みがあるの」

 

「……なんです?」

 

 嫌な予感がして冷や汗を垂らしながらリアスから後ずさるダイスケ。

 

「逃げないで。簡単よ、イッセーの護衛をして欲しいの」

 

「護衛、ですか?」

 

「ええ、どうもあの子、トラブルを引き寄せる体質みたいね。ぶらついている堕天使に転生したての悪魔が遭遇するなんて滅多にないもの。そんなあの子が心配だから、守ってあげて欲しいの」

 

「リアスさんのところの眷属がカバーしてやるって事出来ないんですか」

 

「残念だけど、他の子も予約がいっぱいでね。その分欲望を持つ人間がいて大助かりなんだけど、こっちもそんなに首が回らないの。だからお願い」

 

「えー……」

 

 確かにイッセーのことは心配だ。だが、ダイスケにもプライベートの時間というものがある。

 そんなダイスケの心中を見抜いてか、リアスは取引を持ちかける。

 

「……貴方、前に沖縄に行ってGT釣りたいって言ってたわよね? 何だったらその願い、かなえてあげてもいいけれど?」

 

「!?」

 

 何を隠そう、いくつかあるダイスケの趣味の一つが釣りだ。時間さえ見つけては地元の漁港や河口に行って釣りをしている。

 そしてGTとは。ジャイアントトレバリー、すなわち和名ロウニンアジのこと。海洋ルアーフィッシングとしては多くの釣り人がいつか釣ってみたいと思う魚ランキングで常に上位にいるスーパーサイズルアーターゲットだ。

 アジという名が付きながら、その大きさは1mに達するものもある。さらにその引きは、専用の頑強なタックルで無いと容易に破壊するほどの威力を持ち、生息域も南洋のみなので釣りに行くにも金がかかる、道具をそろえるのにも金がかかるという高嶺の花なのだ。

 

「勿論タックルもそろえてあげるし、船もチャーターしてあげる。ホテル代や交通費も出してあげるわ」

 

「なん……だと……」

 

「あ、そういえば静岡のバ○ダイの工場見学に行ってみたいとも言っていたわね。……私のコネなら行けるわよ」

 

「嘘……だろ……」

 

「まぁ、行きたくないって言うんだったら? 私が眷属達だけで楽しめばいいだけだし?」

 

「……わかりました。わかりましたよ。イッセーの護衛をすればいいんでしょ? 何かあったら首根っこ引っ張ってでも逃げてきますから」

 

「よろしくねー」

 

 大きくため息をついて頭を掻いた後、ダイスケは一人イッセーの後を追っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「部長!!チラシ配り、完了しました!!」

 

「……なんでこんな夜中に町内全部の家にチラシ配りしなきゃならないんだ。学生アルバイトの新聞配達じゃあないんだぞ……。」

 

 片や達成感を込め、片や愚痴と恨み節を込めて帰還報告をする。

 

「お帰りなさい二人とも。案外早かったのね。」

 

「はい!ダイスケも手伝ってくれたんで、かなり助かりました!」

 

 道すがら事情を聞いていたイッセーは、最初の内は自分ごとでダイスケが手伝うことを悪い気がしていた。だが、実際に配ってみるとなると案外大変だったので今はリアスの手回しとダイスケの助力に感謝している。

 リアスは本題を切り出した。

 

「実はねイッセー、ちょっと困ったことが起きたのよ。」

 

「なんですか?俺にできることなら、お手伝いしますけど。」

 

 イッセーの申し出に、リアスは少しの間考えてその案件について頼むことにした。

 

「じゃあ、お願いしようかしら。実は小猫に依頼が来てたんだけど、ダブルブッキングしてしまったのよ。悪いけれど、ダイスケを補佐につけるからもう片方の方にいってもらえない?」

 

「わかりました!行ってきます!!」

 

 敬礼で答えるイッセー。

 それではと朱乃がイッセーとダイスケを依頼者の下へ送る準備を始めたとき、小猫が二人のもとへ歩み寄る。

 

「お手数をおかけしますが、よろしくお願いします。」

 

「ああ。任せてくれよ、小猫ちゃん。」

 

「へぇ、そういう常識的なこともできるんだ。」

 

 小猫はすかさずダイスケの腿を蹴る。

 痛みにダイスケがのたうちまわる間に、朱乃の準備は完了した。

 

「それでは二人共、この魔法陣の真ん中で立ってください。」

 

 これは目的の場所へ瞬時に移動できる移動用の転移魔法陣である。

 本来ならばリアスの眷属以外は使用できない設定のものではあるが、一応の契約関係にあるということでダイスケも使用できるようになっている。

 そんな詳しい事情を知らないふたりは、生まれて初めてのテレポーテーションに期待して胸を膨らませている。

 

「それじゃあ、頼むわよ。」

 

「はい、部長!!」

 

「へーい……。」

 

 朱乃が陣に魔力を送りこむ。陣を形作る文様からは赤い魔力の光が溢れて二人を包み込んでいく。光の強さは思わず目を瞑ってしまうほどに強くなっていった。

 その光が一定のボルテージを迎えたあと、フッと光は収まった。さあ、一体どこへ出たのか……と目を開けるとそこは―――

 

「「あり?」」

 

 元の部室のままだった。

 

「……どういうことなの?」

 

「恐らく、ダイスケ君の方は問題ありませんが、イッセー君の魔力量が極端に低いのでしょう。これでは主と一緒でなければ移動できませんわね。」

 

 つまり、ダイスケは良くてもイッセーはこの魔法陣は使用できないということになる。ではどうやって二人一緒に依頼者の下へ行くか。

 もはや方法は一つである。

 

「悪いけど……自力で行ってもらえる?」

 




 はい、というわけでVS04でした。
 やっぱりオリジナル展開で原作キャラにヘイトを向けさせる行為は良くないですよね。そんな風に今回は気を遣っているのに「読者層が似ている作品」でヘイト作品が表示されます。それもあらすじからして捏造型ヘイト作品が。
 ……なんでや!!!
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS05 拉致だよ、これは!!

 まさかの二日連続投稿でございますよ。
 あとみんな……評価とか感想書いてくれてもええんやで?


「ふぁぁぁぁあ……ねみぃ」

 

 まるでどこかの釣り好き万年平社員のような脳内の酸素濃度の低下と、脳の覚醒のための強制酸素補給活動。その原因として真っ先に思いつくのは「夜更し」と言われる思春期の少年たちならば誰でも経験したことがある行為だ。

 御多分に漏れずダイスケも2時まで起きていた。いや、正確には『起こされていた』と言った方が正しい。

 ずっと依頼主と公園で漫画ドラグ・ソボールの「目隠しをして『気』で探すかくれんぼ」をやっていたからだ。

 なぜそんなことになったのかと言えば、原因はイッセーにある。当初、依頼主である森沢氏は小猫に「持参の衣装で小猫にお姫様抱っこをして貰う」というマニアックな依頼をしようとしていた。

 だが、実樹に来たのはイッセーとダイスケ。そんな依頼は出来ない。そんなときイッセーの目に止まったのが本棚の中にあるドラグ・ソボールの初版本コレクションだ。

 実はイッセーもこの作品のファンで森沢氏との会話が弾み、その結果目隠しをして『気』で探すかくれんぼにダイスケも付き合わされたというわけだ。多分、これは今後も続くだろう。

 なぜなら仕事終わりに記入してもらうアンケートに「非常に気に入った」と「また同じ悪魔に来て欲しい」の欄にしっかりとチェックが入ったのを見てしまったからだ。

 新人悪魔であるイッセーにデビューしてすぐの常連ができたこと自体は喜ばしいことだろう。

 だが、仕事内容が内容なのでそれほど対価が期待できないというのがネックなのだ。実際今回の報酬はたいしたことが無かった。

 これが果たしてキャリアに繋がるのだろうかと頭を抱えて帰宅したイッセーの後ろ姿が今でも思い浮かぶ。

 

「でも続ける他ないよなぁ……」

 

 商売というものは信用が第一。これで「報酬がショボイのでもう来ません」となったらその悪評は大手の得意先にも聞こえて途端に仕事がなくなる、というのも商売の世界では珍しくない。

 つまり、イッセーも彼をサポートするダイスケもあの変人と長い付き合いをしていかなければならない、ということである。

 いや、俺は人間である分、寿命で先におさらばできるなと考えていたら、前方に同じく眠そうに歩くイッセーの姿があった。

 

「よお」

 

「おお、ダイスケか……」

 

 やはりイッセーも寝不足らしい。だが同じくらい森沢に拘束されていたダイスケ以上に憔悴している。

 

「どうしたよ?変に憔悴して」

 

「いやな……」

 

 ダイスケの問いに、イッセーはその重い口を開く。

 

「俺さ、仕事終わってお前と別れて部長のところに報告に行ったろ?」

 

「ああ、俺は先に帰っていいて言われてたからな」

 

「そしたらさ、その途中に堕天使に襲われたんだよ」

 

「はぁ!?」

 

 寝耳に水とはこのことである。

 まさか自分が目を離した隙にイッセーが堕天使に狙われようとは。

 

「おいおい、もう手は出さないって約条しただろうに」

 

「いや、あのコートの男とは別の堕天使だった」

 

「……連絡網ぐらい回せよ」

 

 天野夕麻にコートの男、ドーナシーク。この街には少なくとも二人の堕天使が潜んでいることになる。

 

「もう、俺もびっくりでさ。なんとか神器が目覚めてくれて助かったんだけど、無茶するんじゃあないって部長に怒られちゃったよ……」

 

 あれ、絶対まだ怒ってるぜ、とイッセーは力なく呟く。

 せっかくの初仕事の成功が、まさかの大失態に繋がってしまったのだから仕方がない。

 

「悪い、俺が先に帰ったりしなけりゃあ……」

 

「いや、多分ダイスケがいたらお前に甘えちゃって神器も目覚めてくれなかった。気にするな」

 

「……そうか。じゃあ、あとで神器の見せ合いっこしようぜ」

 

「おう! 部長曰く、『一度展開したら出し方は体が覚える』らしいから、この前みたいなヘマはもうしねぇぞ!」

 

 ようやく気を取り直したふたりは、先ほどの気の抜けた姿から一転して胸を張る。

 ところがその矢先、目の前で「キャ!」という可愛らしい悲鳴が聞こえた。どうやら女の子に何かトラブルが起きたらしい。

 

「おい、イッセー」

 

「ああ!」

 

 二人は声をした方向へ走り出す。すると、そこには道端で倒れている人がいた。

 ベールを被っているため、顔は判別できない。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「何かあったんですか!?」

 

「だ、大丈夫です。ちょっと転んでしまっただけですから……あ!」

 

 不意に風が吹き、顔を覆っていたベールがめくれる。

 そこにあったのは、美しい金髪のロングヘアーと蒼い瞳を持つ人形のように可愛らしい少女の顔だった。

 

「「……可愛い」」

 

 イッセーとダイスケの心が一つになった一瞬だった。

 

 

 

 

 

 

 

「っと、散らばった荷物はこれで片付いたかな?」

 

「はい、ありがとうございます。見ず知らずの私にこんなに親切にして頂いて」

 

「いやいや、これぐらい。なあ、ダイスケ」

 

「そうそう、困ったときはお互い様ってね」

 

 イッセーと宝田は、謎の金髪少女が転んだ拍子にぶちまけたトランクの中身をかき集めていた。

 困ったときはお互い様、などとカッコはつけているものの、結局はいいカッコしいのいい印象を与えたいというスケベ心満載の二人である。

 

「まあ、祖国で聞いたとおり、日本の方は本当に親切なのですね」

 

「「いやぁ、それほどでも。アハハハ」」

 

 あまりにも純粋なその笑顔と言葉に、スケベ心を抱いていた二人も罪悪感を感じざるおえない。

 

「しかし、すごい荷物だな。旅行?」

 

 ダイスケの言うとおり、彼女の荷物は非常に多い。旅行だとしてもかなり長い日数であろう。

 

「いいえ、私はこの街の教会に派遣されてきたんです」

 

「……教会?」

 

 イッセーの聞き間違いでなければ、彼女は間違いなく教会といった。イッセーは彼女の胸の辺りに奇妙な嫌悪感と合わせて、非常に嫌な予感を抱く。

 

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私はアーシア・アルジェント。教会のシスターをやっております。日本で言うところの尼さん、と言えばわかりやすいですか?」

 

 その一言で、イッセーの嫌な予感は見事に的中した。よりにもよってこんなに純粋で可愛らしい少女が、自分の天敵である神や天使に使えるシスターだったとは。

 その彼女の胸元には十字架が燐く。

 

「あ、ああ、アーシアさんね。俺は兵藤一誠。よろしくな」

 

「俺は宝田大助。イッセーと一緒の学校に通ってる」

 

「ああ、それでお二人共同じ服をお召しになっているのですね。……日本の学校はみんなそれぞれに指定の制服があって、みんな同じ制服で授業を受けるんですよね。なんだか羨ましいです……」

 

 遠い目をするアーシア。純朴な彼女の憂いを込めたその瞳に、ふたりは何かを感じずにはいられない。

 そう思っていた二人の耳に、子供の泣き声が聞こえる。その方角に目をやると、小さな男の子が転んでいた。

 

「……今日はよく人が転ぶ日だな」

 

「軽い手当てぐらいはしてやろうぜ、イッセー」

 

 歩き出した二人の脇を小さな影が横切る。

 アーシアだった。

 

「ほらほら、男の子がこのくらいで泣いてはいけませんよ」

 

 そう言って、アーシアは男の子の膝の傷口に手をかざす。すると、両手の中指に嵌められた指輪から淡い緑色の光が溢れる。

 

「おい、ダイスケ。あれは……」

 

「神器……だな」

 

 みるみると塞がれていく傷口。泣いていた子供も、痛みが引いていくのを感じて泣き止む。

 

「はい、治りましたよ」

 

 ほんの数秒の間で完治に一週間はかかりそうな傷が治ってしまっていた。

 

「ありがとう、おねえちゃん!!」

 

 礼を言って子供が笑顔で走り出す。アーシアも笑顔で手を振って応える。

 

「……びっくりさせてしまいましたね」

 

 少し後悔したかのような表情を見せるアーシア。

 本来であれば隠すべき力だったのだろう。しかし、自分の身可愛さに隠さず、泣いている子供のために力を使った彼女に驚異や嫌悪を抱く二人ではなかった。

 

「いや、すごい特技持ってるんだな」

 

「純粋に自分の力をそういう風に他人のために使えるのはすごいと思うぜ、俺は」

 

 イッセーもダイスケは共に持つ力は戦い、破壊するだけのもの。

 他人のために力を振るえるアーシアが今のふたりには眩しく見える。

 

「ありがとうございます。でも、私はそんな大層な人間じゃあないんです。私はただ、主から与えられたこの力を誰かのために使うことができたらって……ただ、それだけなんです」

 

 アーシアの顔が少し、曇る。場の空気が重くなったことを感じたイッセーは、雰囲気を変えるために別の話題を振る。

 

「ああ、そうだ!アーシアって、この町に来たばかりだよな。どこに行こうとしてたんだ?」

 

「あの、実は……赴任先の教会がどこにあるのかわからなくて迷ってたんです。この街の教会がどこにあるのか、教えていただけないでしょうか……?」

 

 叱られた子犬のような目で懇願するアーシア。普段のイッセーなら美少女の頼みとあらば喜んで案内しただろう。

 だが、行き先は教会。敵対勢力のアジトとも言っても良い場所。近づけばただでは済まないだろう。

 アーシアの頼みと自分の命。天秤にかけても答えは出ない。

 

「イッセー、お前確か今日は早く来いって先生に言われてるんだろ?俺が案内しておくから、お前は先に学校に行けよ」

 

「え?あ、ああ、そうだったな。じゃあ、アーシアのこと頼むわ」

 

 ダイスケの考えに乗るイッセー。

 言外の意思疎通である。

 つまり、「悪魔であるお前は、彼女に関わらないほうがいい」ということだ。

 

「す、すいません。急いでいるところを邪魔してしまって」

 

「いや、いいんだよ。じゃあ、またなアーシア。この街にいるんだったら、いつでも会えるさ」

 

「はい、またいつかお会いいたしましょう。約束ですよ、イッセーさん。それじゃあダイスケさん、お願いします」

 

「ああ、行こうか」

 

 ダイスケに導かれ、アーシアは行く。

 その背中を見て、イッセーは心の中で謝らずにはいられなかった。

 

(ごめん、アーシア。……約束、守れそうもない)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~……」

 

 放課後、イッセーはオカルト研究部の部室で今日配る分のチラシをまとめながらため息をつく。

 

「ふぉーふぃふぁいふぇー、ふぉまえふぁいひんふぁめいふぃふぁっふぁふぁふぉ」

 

「食ってるパン呑み込んでから喋ろよダイスケ……」

 

「ん……ゴクン。どうしたイッセー、お前最近ため息ばっかだぞ」

 

 イッセーの作業を手伝うダイスケだが、菓子パンを食いながらというなんとも不真面目な格好で作業している。

 

「またリアス先輩に怒られちゃったんだよ、教会関係者には近づくなって」

 

「ああ、道理で今日一日元気なかったわけだ」

 

 普段の学校生活の会話では、二人は悪魔関係の話は絶対にしないと決めている。だから放課後にしかこの手の話題は決して口にしていない。

 

「教会には神父や牧師、シスターの他にもエクソシストがいて、悪魔祓いをやってる奴らもいるんだってさ。そういう奴らに祓われたら悪魔は何も感じることもできずに消滅すんだって……」

 

「ふーん。ていうか、あの子のこと部長に話したのか」

 

「正直に話すしかないだろ。一応、敵対してる勢力の動きなんだから。あ、アーシアはちゃんと教会まで連れて行ってやったのか?」

 

「ああ、住宅地からちょっと離れたとこの教会だった。つーか、あそこはもう人はいないはずなんだけどな。ここで合ってるって言ってたから、別れたけど」

 

 キナ臭い何かを感じつつも、確証があるわけでもない。よって彼らには追求もできないのが痛かった。

 

「だけど俺、悪魔デビューしてからポカばっかでこのままいったら部長に見放されんじゃないかって心配なんだよ……」

 

「今朝も言ってけど、お前はまだスタートラインに立ったばかりなんだ。このあといくらでも挽回できるさ」

 

「だといいんだけど……」

 

 ハァ、と息をついて右手で顔を覆うイッセー。正直なところ不安だらけだ。

 このままでは本当に主に見捨てられるなんてことも……。

 

「気を落とさないでくださいな、イッセー君。部長はイッセー君に期待しているからこそ、厳しく接しているのですわ」

 

「あ、朱乃さん!?いつの間に!?」

 

「二人が話し込んでいるあたりからですわ。イッセー君、リアス・グレモリーという悪魔は純粋に眷属を愛します。その理由、おわかり?」

 

「い、いえ……」

 

「まあ、そこは悪魔について勉強していけば徐々にわかることですわ。永い悪魔の生です、じっくり勉強していきましょう」

 

「は、はい」

 

 そこへリアスが扉を開けて入ってくる。

 

「あら朱乃、帰ったんじゃなかったの?」

 

 リアスの問いに、朱乃が笑顔で答える。

 

「ええ、早急に片付けなければならない案件です」

 

 その直後、朱乃の表情は一気に真剣なものへと変わる。

 

「アガレス大公から連絡がありました。この街に『はぐれ』が紛れ込んだようです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「『はぐれ』もね、元々は悪魔の下僕だったんだ」

 

 月が輝く夜空の下、木場の説明を聞くダイスケとイッセー。彼らを含めたオカルト研究部の面々は今、住宅地のはずれにある大きな廃屋の手前にいた。

 

「今の俺みたいな?」

 

「うん。でも中には脱走したり、主を殺して好き勝手に生きようとする輩もいる。それが『はぐれ悪魔』さ」

 

 木場の視線が廃屋に向く。貴族の住むような洋館といった佇まいの建物だが、心なしか邪な気配がする。

 

「例のはぐれさんはこの建物の中へ人間を夜な夜な誘き寄せ、食べているとの報告がありましたの」

 

「あ、朱乃さん。その食べてるっていうの、マジなんですか?」

 

「大マジですわ、イッセー君。それを討伐するのが、今日のお仕事です」

 

 先鋒として木場が木製の扉を開く。

 

「主と自制心を持たず、勝手気ままに力を求めた悪魔がどれほど醜悪な結果を齎すか……特に兵藤君は確り見ておいたほうがいい」

 

「お、おう」

 

 木場を先頭にして続くメンバー達は洋館のエントランスホールへと足を進める。

 

「イッセー、前に悪魔の駒の話をしたのを覚えているかしら」

 

「はい。下僕にしたい者を悪魔に生まれ代えさせて、眷属にするってヤツですよね」

 

「そう。でも、それだけじゃあないの。主の私を(キング)として女王(クイーン)騎士(ナイト)戦車(ルーク)兵士(ポーン)の特性を眷属に与え、その力を行使することができるの。爵位を持つ悪魔の特権だけどね」

 

「駒の特性……なんでわざわざそんなことを?」

 

「兎に角、今日はイッセーとダイスケに悪魔の戦いというものがどういうものなのか「一時の方角、仰角35度。」……え?」

 

 ダイスケの言葉に反応して、メンバー全員がその方向を見る。そこにはにギリシャ建築風の太い石柱があった。

 

「……宝田先輩の言う通りです。柱の後ろにいます。……なんで人間の先輩が先に見つけられるんですか」

 

「塔城よりカンがいいからじゃね?」

 

 その言葉に反応したのか、一人の女が踊り出た。それも上半身裸で。

 

「不味そうな臭いがするぞ? でも美味そうな臭いもする……甘いのかな? 苦いのかな?」

 

「ぬおぅぉぅぉう、おっぷぁい!!」

 

 裸の女が見れてよほど嬉しかったのであろう、イッセーが歓喜の声を上げる。それと同時に小猫が「変態……」と言いたげな目でイッセーを見る。

 

「はぐれ悪魔バイサー……主の下を逃げ、己の欲求を満たすためだけに暴れまわる不逞の輩。その罪は万死に値するわ。よって、グレモリー公爵家の名において、あなたを消し飛ばしてあげる!!」

 

 ニタリ、とバイサーは嗤う。

 

「小賢しい小娘だこと……。貴女の身をその髪のように鮮血で染め上げてあげましょうかァァァ!?」

 

 目の前のリアスの命を手折る事を前に、喜びよがるバイサー。

 

「これがはぐれ悪魔……ただの見せたがりのおねいさんにしか。デヘッ」

 

 もう、女の裸ならなんでもいいのだろう。事前にその所業を聞いているにも関わらず、バイサーに痴態にイッセーは思いっきり鼻の下を伸ばす。

 

「イッセー、よく見てみろ。上半身が見えているのはあんなに高いところにある光採りの窓の位置だ。あいつの上半身は見えているのに下半身の方はどうなっている?」

 

「宝田君、よく見えているね。兵藤君、さっき言っただろう?箍を外した悪魔は、その身も心も醜悪になるって……」

 

 え?と声を上げるイッセー。するとバイサーが、自ら歩み寄って来た。

 月の光に照らされ、バイサーの全身が見える。その姿は上半身は女、下半身は巨大な獣の脚を昆虫のように生やした怪物だった。

 

「のわぁあぁあぁあ! 完ッ全に化物ォォォォ!!」

 

「だから言ったろう?兵藤君」

 

 飛び退くイッセーと対照的に戦闘態勢を取る木場を先頭にした眷族とその主たち。

 

「祐斗、奴の足を削いで! 小猫は攻撃のブロック!」

 

「「はい、部長!」」

 

 リアスの号令で木場と小猫が動く。まず小猫がリアス達の前に出て、迎撃態勢に入った。

 

「あの体躯で防御を担当……しかもなんの武道の構えをとっていないから、あいつは純粋なパワーファイターってことか」

 

「正解よ、ダイスケ。小猫が司る駒は戦車(ルーク)。強力な馬力と防御力が特徴なの」

 

「で、でも、部長! 大丈夫なんですか!?」

 

 イッセーが心配するのも無理はない。なにせ象以上の巨体が地響きを上げて突進してくるのだから。

 誰がどう見ても小柄な小猫が受け止められるとは思えない。

 

「大丈夫。論より証拠」

 

 主であるリアスがそう言うのだからそうなのだろうが、だからと言ってすぐに信じられるわけがない。

 

「潰れろチビィィィィィィィ!!!!」

 

 バイザーは叫びながら、突進の加速と己の質量と腕力を加算した一撃を小猫に見舞わんとする。

 そしてその暴力の象徴は小猫の頭上へと降りかかる。まるで鋼鉄の建材が落下したかのような音が、狭いホールの中に響く。

 巨木を思わせる脚が振り下ろされたのは間違いなく小猫の頭上。その光景を見たイッセーは、この漂う埃の先に踏み潰されてしまった小猫の亡骸があると思ってしまっている。

 だが。

 

「……チビ?」

 

 小猫はその小さな躰でバイサーの足を受け止めていた。しかも先ほどのバイサーの一言で小猫は怒り心頭に達している。

 チビ。

 それ以外バイサーにとって小猫を小猫だと認識する術がないのは仕方がなかった。だが、小猫の堪忍袋の緒をブッ千切るのに充分すぎた。

 

「……ふんっ」

 

 割り箸をへし折ったかのような音が響く。それはバイサーの足の骨が小猫の腕力によって剪断破壊された証である。

 

「ぎゃああああああああ!!!」

 

 思いもよらぬ痛みに悶えのたうつバイサー。だが、グレモリー眷属の制裁は終わらない。

 

「小猫ちゃんスゲェ……って、木場は?」

 

 そう、先制に出てきたのは小猫だけではなく、木場も出ていた。だがその姿が見当たらない。

 

「こっちだよー、兵藤君」

 

 するといつの間にか、のたうつバイサーのすぐ目の前に木場が剣を持って立っている。

 

「き、木場!? いつの間に……っていうかあぶねぇ!」

 

 イッセーの言う通り、バイサーが折れた脚を引きずるように木場へ近づいていっている。

 

「大丈夫よイッセー。あの様子だと、もう仕事は済ませたみたいだから」

 

「部長の言う通りだよ。僕の駒は騎士(ナイト)。瞬足が持ち味で、そこへ僕の剣技を加えれば―――」

 

 言いながら、木場はバイサーが眼前に迫っているにもかかわらずにこやかに剣を鞘に収めた。

 

「こういう事もできる」

 

 それと同時にバイサーの脚の各所が切り裂かれ、すべての脚がドス黒い血を吹き出しながら解体されていった。

 

「あ、脚がぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

 

 ややあってバイサーは苦悶の絶叫を上げるが、血が吹き出る勢いは変わらない。その光景の意味を理解しきれていないイッセーとダイスケにリアスはそれとなく教える。

 

「つまり祐斗は小猫がバイサーの相手をしている間に、高速移動しながら『敵の足を削ぐ』という私の命令を実行したの」

 

 そこに加えて木場の剣の妙技である。相手にも、果ては味方にも気取られない間に命令を全うしたのだ。

 

「小猫とは正反対のテクニカルタイプってことか」

 

「イケメンで芸達者ってのがまたムカつく……!」

 

 イッセーが一方的に木場への嫉妬を募らせるのをよそに本人はイッセー達に微笑みを向ける。それは木場の実力がバイサーを上回っていたが故の余裕であった。

 だが、それは同時に油断へと繋がってしまう。

 

「おのれ……!」

 

 初めは絶世の美女然としたバイサーの表情は、その醜い本性を表すかのような怒りの表情に歪んでいる。すると、バイサーの人間の上半身の下にある獣の胴体がガバリと開いた。

 中には鋭い牙がいくつも並んでおり、これで人をくらっていたのだろうと想像させる。その口が突如閉じた。

 そして自身の顎の咬合力で自ら牙を折ってしまった。

 何かが空を切る。

 口に含んだ己が牙を木場に気取られぬうちにリアスへ向けて吹き放ったのだ。

 

「リアス! 危ない!!」

 

 突然の出来事に普段と違う呼び方をしてしまう朱乃。

 だが、彼女の器具は幸運にも杞憂に終わる。

 

「部長!」

 

「フンッ!」

 

 傍にいたイッセーとダイスケがそれぞれに神器を展開して牙を弾き、掴んでいたからだ。

 ダイスケが掴む牙の先端からは紫色の液体が垂れており、明らかに毒液であろうと見る者に推測させる。

 

「部長、大丈夫ですか!?」

 

「え、ええ……ありがとう」

 

 本来であればリアスだけで十分に対処できる事態ではあった。別に二人共身を挺して彼女を守る必要は無いし、己を優先して逃げても良かった。

 それでも行動し、さらに自分の身を案じてくれたイッセーにリアスは自覚しないまでも心を動かされていた。

 

「……ジョジョ一部のタルカスかテメェは」

 

 一方のダイスケはバイサーの往生際の悪さというか、しぶとさに感心している。

 そして手に持った牙を一瞥したあと―――

 

「オラァ!!」

 

 持ち主の右目に向けて投げつけた。

 

「ギィヤァァァァアアアアアアア!!!」

 

 本日三回目のバイサーの絶叫。だが、これで終わるとは誰も言っていないわけで。

 

「あらあらあらあら……ウチの部長に手を出そうだなんて。そんな悪い子は―――」

 

 朱乃の両手からおびただしい数の放電。そしてその圧倒的電力はバイサーに向けらる。

 

「痺れる程度のお仕置きでは済みませんわよ?」

 

 まるでビルが倒壊したかのような雷撃音。

 あまりの稲光と雷音で顔を背けるイッセーとダイスケだが、リアスは慣れた様子の飄々とした表情だ。

 

「朱乃の駒は女王(クイーン)。各コマ全ての特性を兼ね備えたスーパーオールラウンダーね。

 

「そこへ得意技は雷撃ってわけですか」

 

「そうよ、イッセー。そして見ての通り彼女は―――」

 

 朱乃の雷撃を受けて苦痛に呻くこともできないバイサー。だが朱乃は薄暗い笑みを浮かべ、再び両手を帯電させてにじり寄る。

 

「あらあら、ちょっと刺激が強すぎたようですわね。ならちょっと威力を弱めて……」

 

 再び朱乃は紫電を放つ。

 

「ギィヤァァァァアアアアアアア!!!」

 

「―――真性のSよ」

 

「でしょうね」

 

 聞きなれてしまった悲鳴をバックに、ダイスケが答えた。

 出会った始めの頃にその柔和な笑顔にときめいていたイッセーも、今の朱乃の嗜虐的な笑みに引き気味である。

 

「さあさあ、もっとあなたの悲鳴を聞かせてぇ……」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 もはや最初の威勢の良さは今のバイサーには無く、ガルヴァーニの実験に使われたカエルの足のように全身を痙攣させている。その死に体のバイサーの眼前にリアスが立つ。

 

「……最後に何か言い残すことは?」

 

「……殺せ」

 

 その願いを受け取ったリアスの右手に、漆黒の闇を押し固めたような流体が生まれる。

 

「なら……消えなさい」

 

 力に溺れた悪魔の肉体と精神に球体が放たれる。すると闇の中にバイサーの肉体は吸い込まれ、この世から完全に消滅した。

 

「これが……」

 

「……悪魔の戦い」

 

 拳を交えたり武器を用いる人間の戦いとは全く違う、不可思議な力が支配する戦い。そしてその異形の戦場へ自身も身を置くことになるであろうことにその手は震えている。

 果たして自分の力がどこまで通用するのかと不安になるが、一度足を踏み入れた以上覚悟は決めなければならない。

 しかし、その前にイッセーには気になることが一つ。自分以外の眷属が持つ駒の特性はよくわかった。

 だが、一番重要なことをまだ訊いていない。

 

「あの、部長。話は変わりますけど……オレの駒って一体……?」

 

「そうね、その事をまだ話していなかったわね。あなたの持つ駒は―――」

 

 パワーファイターの戦車(ルーク)か?

 はたまたスピード重視の騎士(ナイト)か?

 様々な期待を胸に、イッセーはリアスの言葉の続きを待つ。

 そして―――

 

「―――兵士(ポーン)よ」

 

 思わずズッコケそうになった。

 兵士といえば、チェスで最前列に並んでいる個性もへったくれもない雑兵。一度に一マスしか進めない雑魚中の雑魚だ。

 あまりの他の眷属との落差に愕然とするイッセー。その様子を見たダイスケといえば……。

 

「うん、鉄砲玉おめでとう」

 

 拍子抜けしたイッセーを完全に見下していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんでこの時間まで高校生を働かせるかね。人間だったら労働基準法に引っかかる上、補導されるぞ」

 

 軽く悪魔の労働環境に愚痴をはきながら、他人に見つからないよう家々の屋根伝いにジャンプして帰宅するダイスケ。

 時刻はすでに丑三つ時前。五時から男どころか幽霊がサタデーナイトフィーバーにアップを始める時刻だ。

 今日の依頼主も変人だった。その名はミルたん。魔法少女を目指す筋骨隆々の某宇宙の人口を半分にしようとするゴリラ面紫野郎のような風体の大男、いや漢の娘だ。

 悪魔は携帯ゲーム機のような「願望対価測定器」なるものを有していて、イッセーもご多分に漏れずリアスに持たされていた。

 そしてミルたんの願いは「魔法少女になる」こと。

 どう考えたって無理だろと、イッセーは念のために願望対価測定器をミルたんにかけた。するとその直後、測定器は超反応を起こして爆発した。

 森沢が最初に「彼女が欲しい」と願ったときには「女の子を見た瞬間に命を貰う」程度だったのに、ミルたんは規格外だった。

 当然ミルたんはさめざめと泣いた。ダイスケが「測定器が爆発したって事は、もう願いは叶っているんっすよ」となだめたおかげで泣き止んではくれたが、その後が大変だった。

 その後ずっと「魔法少女ミルキー」シリーズの鑑賞会に付き合わされたのである。魔法少女ミルキーは各シーズン十二話、それが五つある。今回はその内の第一シーズンを見せられた。

 まぁ、ストーリーは本当に魔法少女ものかと疑いたくなるほど緻密で、大人でも鑑賞に堪えるほどの完成度だったので退屈はしなかった。特にライバルの魔法少女が自分の出生を知った後に母の蛮行を止めに行くと決心したシーンは涙無しには見られないほど感動的だった。

 だが「過ぎたるは猶及ばざるが如し」と昔の偉い人はよく言ったもので、さすがにぶっ通しで観るのは疲れる。

 

「せめて六話ずつにしてくれねぇかなぁ……」

 

 そんな風に愚痴りながら屋根を跳躍していると、何者かの視線を感じる。 

 一人ではない。少なくとも三人以上。それらがずっと自分を監視している。

 そこでダイスケはあえて住宅街の中の袋小路に降り立った。そしてダイスケは塀を背にして周囲に気を配る。

 すると、ダイスケの目の前に四つの背中に漆黒の翼をはやした人影が現れる。街灯に照らされ、その者達の顔が見えた。

 そのうち大人びた女とゴスロリ衣装を着た小柄な女は知らなかった。だが、残り二つの顔は忘れようとも忘れられない。一人はドーナシーク。そしてもう一人は――

 

「天野、夕麻……!」

 

 その後、警察に「少年の苦しむような叫び声が聞こえる」と通報が入り、巡査が駆けつけたが何も見つからず、そして宝田大助の消息もこれを境に絶たれてしまった。




 はい、というわけでVS05でした。
 なんか変に投稿ペースが速いんですが、自分でもこれがちゃんと持続できるの不安です。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS06 ソウル・エクスチェンジ

 個人的なことなのですが、最近本当に許せないことがありました。
 絶対に許さない。徹底的に追い詰めて破滅させてやる。


 イッセーは衝撃的な光景に出くわした。昨夜、イッセーの依頼主がイカれたエクソシストに惨殺されていたのだ。

 さらに何の因果か、その場にアーシアがいた、つまり彼女は堕天使の側にいたということが判明する。その場はリアスがなんとかイッセーを退かせたものの、今日の昼間に偶然、イッセーとアーシアが出逢ってしまったのだった。

 そこでイッセーは彼女の過去を知る。

 かつてアーシアは、神器の力を元に神の恩寵を受けた聖女として崇められていた。が、偶然に傷ついた悪魔をそれと知らずに助け、協会から追放された。

 そこまで知った時、天野夕麻(本名はレイナーレというらしい)が現れてアーシアを攫い、その狙いが彼女の神器を自分のために利用しようとしている事を知った。

 そして、イッセーは見てしまった。

 アーシアが別れ際に涙を流していたのを。その上でのイッセーの選択は実に明快だった。「アーシアを取り戻す」この一点張りだった。

 だが、先ほどイッセーの頬を打った者がそれを許さない。

 

「何度言ったらわかるの? ダメなものはダメよ。……彼女のことは忘れなさい。そのことより、ダイスケの心配をしなさい。三日前から連絡が取れないんだから」

 

 リアスだった。

 彼女にすれば、可愛い下僕が敵であるシスターの為に命を張ろうというものだ。ビンタの一つもしたくなるだろう。

 さらにダイスケが三日前の晩から連絡を絶っているということも響いている。

 イッセーがエクソシストに遭遇したときは、リアスが眷属であるイッセーと主従の契約で繋がっていたことで危機を探知することができた。だが、眷属ではないダイスケとは何の繋がりもないので何も感じることができない。

 つまり眷属ではない身内が自分たちの感知できていない何らかの自体に巻き込まれたのだ。であれば、ダイスケの方の案件の方に神経を向けたほうがいいのは目に見えている。

 身近な人間が巻き込まれているのだから。

 

「いい? あなたはグレモリー家の眷属なのよ。そのことを忘れないで」

 

「……じゃあ、その眷属から俺を外してください。そうすれば、部長に迷惑をかけることもなく、俺一人で行けます」

 

「出来るわけないでしょう、そんなこと」

 

 イッセーの意地の張りように、流石のリアスも呆れ顔になる。だが、イッセーがそれほどまでに真剣であるということでもある。

 友人を放っておくのか、と言われるかもしれないがイッセーはアーシアが置かれた状況の危険さをその身で感じたのが大きかった。

 

「俺、チェスの兵士なんでしょう? だったら、俺なんか捨て駒扱いで、部長はダイスケの方の心配をしたほうがいいじゃないですか。下っ端が一人消えたって――」

 

「お黙りなさい!!」

 

 言ってはいけない一言だった。

 グレモリー。ソロモン王が使役した72柱の悪魔の内の一柱。グリモワール『レメゲトン』によれば、それが司るのは過去・現在・未来、そして隠された財宝について知り、それを語る力。

 そして、愛。

 朱乃に言われた後、イッセーは『グレモリー』なる悪魔がどのようなものなのか気になって自分で調べていた。そして、独自に朱乃や木場に自分の主がどのような人物なのか聞いてみたのだ。

 それは、グレモリーの血筋は眷属に愛を持って接するということ。だからこそ、どんなに力がない下僕だとしても一度下僕としたならば主がどれほど傷ついても下僕を守るとも語っていた。朱乃たち他の眷属を見ても、それは真実だとわかる。

 誰ひとりとして、リアスに仕えることに嫌悪を抱いていない。そのリアスに対して放ったイッセーの言葉は、リアス本人にとっては許されない言葉だったのだ。

 

「イッセーは兵士がただの弱い駒だと思っているの?」

 

 チェスのルールを知らないイッセーは黙るしかない。

 

「昨日私は言ったわよね、悪魔の駒は実際のチェスの駒の特性を与えるって」

 

「……はい」

 

「兵士はね、敵陣地の最奥まで進むと昇格(プロモーション)できるのよ」

 

 リアスの説明に、イッセーはイマイチ理解できていない。そこへ木場が補足する。

 

「つまりさ、将棋の歩が『と金』に成るのと同じように、兵藤君が(キング)以外のすべての駒に成ることができるってことさ」

 

「王以外のすべての駒……じゃあ、みんなの駒の特性が俺の中に全部あるってことなのか?」

 

「祐斗の言うとおりよ。私がそこを敵陣地と認識すれば、だけどね。例えば……教会とか」

 

 ハッ、とイッセーの目が開かれる。

 

「部長、もしかして……」

 

 リアスが僅かに微笑む。

 

「それとあなたの神器だけど……」

 

「俺の力を倍にできるんですよね。ダイスケの神器と一緒で」

 

「ええ、でもそれだけじゃあない。神器はね、その人の想いが強ければ強いほどそれに応えてくれる。それを忘れないで」

 

 そこにいつの間にか部屋にいた朱乃が、リアスに携帯の画面を見せながら何か耳打ちする。

 

「……私は急用が出来たわ。朱乃と共に外出します」

 

「部長……」

 

「このことに関してはあなたは心配しなくていいから。ダイスケのことに関しては私に任せて。でも、くれぐれも()()()無茶はしないように」

 

 朱乃は移動用の魔法陣を展開し、リアスと共に陣の中央に入る。

 

「駒一つで勝てるほど、堕天使を相手にするのは甘くはない。よく覚えておきなさい、イッセー」

 

 その言葉を最後に、リアスと朱乃は陣の放つ赤い光の中に消えた。 

 

「「駒一つで勝てるほど、堕天使を相手にするのは甘くはない」か。さすが僕たちの主だ。上手いこと言うなぁ」

 

「……だけど、だからこそ、そんな部長だから私たちはついていける。ですよね、祐斗先輩」

 

 それまでソファーの上で静観していた木場と小猫が立ち上がる。

 リアスが教会を敵陣地と認めたこと。

 そして駒一つでは勝てない、つまりこれは木場と小猫にイッセーのフォローに回れという暗黙の指示。

 この二つが、彼らのこの先がどうなるかを物語っていた。

 

「みんな……ごめん、俺のわがままで」

 

「いいんだよ。部長からの指示だし、命を掛けようっていう仲間を放っては置けない」

 

「先輩達だけでは不安です」

 

「小猫ちゃん……」

 

 二人の心遣いに、思わず目頭が熱くなる。だが今は喜びの涙を流すときではない。

 全ては事がうまく運んだら、である。

 

「よし! それじゃあ一丁、囚われの美少女シスターを助けに行くとしますか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「神聖な場所とは思えねぇな、こんな殺気まみれだと」

 

 これがイッセーの率直な感想だった。

 イッセーは、教会なんてものは中学の修学旅行で行った、広島の某観光地の教会ぐらいにしか行ったことがない。それでも、救済を願う場所らしい荘厳さは感じることはできた。

 だが、今目の前にあるこの教会はどうだろう。荘厳さはかけらもなく、異様な殺気が立ち込めている。

 

「どうやら神父も大勢いるみたいだね」

 

木場がその気配を読む。

 

「団体さんでお出迎えか。ほんとにみんなが来てくれて助かったぜ……」

 

 これから相手するであろう数を思い、イッセーが改めて二人に礼を言う。勢いに任せて一人で突っ込んでいたら、間違いなく殺されていただろう。

 

「気にしないでよ、仲間じゃないか」

 

 木場がその爽やかな笑みでイッセーに微笑む。ああ、これがコイツがモテる理由なのか、とイッセーはひとり納得する。

 

「それに、個人的に神父や堕天使は好きじゃあないからね……いや、恨んでいるといっていい」

 

「木場、お前……?」

 

 端正な木場のその顔が、言葉通りの憎しみに歪む。その理由は、イッセーにはわからなかった。

 すると、小猫が不意に立ち上がり、教会のドアへと無警戒に近づいていく。

 

「お、おい! 小猫ちゃん!?」

 

 警戒するイッセーに対して、ずかずかと入り口のドアへと向かう二人。

 

「……向こうもこちらに気づいています」

 

「いやいや、だからって無闇に突入するのは……」

 

「……えい」

 

小猫の拳で分厚い扉が豪快にぶち破られた。

 

「俺の話聞いてた!?」

 

「……先手必勝は戦いの常です」

 

「驚いている暇はないよ、行こう!」

 

 木場が先頭になって突入する。

 外からでも感じた多数の殺気に対して最初から戦闘態勢である。

 だが、礼拝堂の中は無人。あれだけ感じた多数の殺気の基となるような大人数の敵が見当たらない。

 

「やあやあやあ、感動的な再会ですなあ悪魔くん!」

 

「フリード!!」

 

 イッセーが先に遭遇したエクソシストとはこのフリードである。

 

「おやおや、ボクちんのことを覚えていてくれるとは涙ちょちょ切れでござんすなぁ!!」

 

「いっそのことそのまま脱水症状でくたばれよ」

 

「おや、これまた手厳しい。……さてさて、俺としては二度会う悪魔なんていねぇと思ってたんすよ。ほら、俺めちゃくちゃ強いんで、一度会ったら速コレよ、でしたからねぇ」

 

 そう言ってフリードは手で首を切るジェスチャーをする。

 

「だからさァ、非ッ常にムカつくわけよォ。俺に恥かかせてくれたクソ悪魔のクズどもがよぉ……!」

 

 そうして光の剣と銃を手にし、銃に舌なめずりをする。

 

「……アーシアはどこだ」

 

 怒りを抑えながら、イッセーは問う。

 

「ああ、あの悪魔に魅入られた哀れなクソシスターちゃんは、その祭壇の下の隠し部屋にいらっしゃいますよ? 欲しけりゃどうぞお進みになって。俺を倒せればだけどねン!! だけどぉ、あんまり悠長してらんないよ!!」

 

「どう言う意味だ!!」

 

「それがですねぇ、チミ達がお間抜けに主をほったらかしにしたおかげでなんと! 五十名以上の超! 手練! エクソシストがチミ達の主を滅するために急行しております!! あ、もちボクちんとおんなじはぐれの方々なんですけどねィ!!」

 

「何ッ!?」

 

 全く想定外の展開だった。いや、よくよく考えれば有り得る事ではあった。

 元より悪魔は堕天使からすれば滅するべき対象。それがわざわざ本丸を手空きにして防御に使うべき人員を、本来何のメリットもない理由でわざわざ自分たちの有利な環境で迎え撃つことができるのだ。

 たとえリアス達が動かないと決めていても、レイナーレは得たいものを得ることになる。どちらに転んでも最低でアーシアの神器を、あわよくばその上にこの駒王町という一個のテリトリーを奪うことができる。

 つまり、イッセーが動いてしまったことでイッセーは自分の主を不利な状況に追い込んでしまったと言えてしまうのだ。

 

「……俺がアーシアを助けようとしちまったからなのか?」

 

 つくづく自分はリアスの足を引っ張っている。そう思い、悔しさに拳を強く握るイッセー。

 だが、イッセー以上にリアスとの付き合いが長い木場と小猫が言う。

 

「大丈夫。たかが五十人程度なら朱乃さんだけでも楽勝だよ」

 

「……なんて言ったって、私達の主なんですから」

 

 その二人の目は決して嘘をついていない。心の奥底から自身の主を信じている証拠だ。

 

「……そうだよな。きっと、部長だって俺のことを信じてくれている。だったら俺も部長を信じるだけだ!!」

 

 決心がついたイッセーの中の力が一気に増幅する。それはイッセーに眠る神器を目覚めさせるためのスターターとなる。

 人の“想い”が神器の力の源とはリアスが言った言葉である。その想いの力は既に、偶発的に神器が目覚めた時の比ではない。

 

「かー!! クソッタレの悪魔がいっちょ前に『友情・努力・勝利』ですか!? 気持ち悪いったらありゃしないっつーの!!!」

 

 悪魔に対する嫌悪感をこれでもかと露わにしたフリードが三人に向かって飛びかかる。

 

「ふん!!」

 

 斬りかかった光の刃を受け止めたのは、木場の神器によって生み出された魔剣だった。

 

「神器ァ!!」

 

 イッセーは神器を装着し、木場に押さえ込んでもらう形ででフリードに殴りかかる。

 

「洒落臭ぇ!!」

 

 木場の魔剣を弾いた上で跳躍し、イッセーの拳から空中へ逃れるフリード。

 しかし―――

 

「ガラ空き」

 

 小猫が長椅子をフリードに投擲する。

 

「またまた洒落臭ェ!」

 

 長椅子は光の剣によって断ち切られた。

 が、小猫は身近にある長椅子や彫刻を次々と投げつける。が、それらもよけられるか切られていく。

 

「調子乗んなよ、チビィ!!」

 

「……チビ?」

 

 触れてはいけない所に触れてしまったためか、小猫の投擲のペースが上がった。

 

「おいおい、おかんむりですかァ? でも、当たらければどうという事はないんだよね!?」

 

 軽口を叩きながら、フリードは軽々と避けていく。しかし、それは失策だった。投擲された物の落下によって大きな土煙が上がってしまった。

 

「クソ、目隠しか……!」

 

 が、そこに躍り出る影が一つ。

 

「はァアアアア!!」

 

 木場が土煙に乗じて斬りかかる。

 

「なーんちゃって! 土煙とか意味ねぇんだよ、クソ悪魔くん!?」

 

 フリードが余裕を持って、木場の剣戟を受け止める。

 

「ああ、確かに目隠しそのものには意味はないさ。でもね……!」

 

 木場の魔剣から闇の触手が伸び、光の剣の等身を蝕み始めた。

 

「な、何だよ、こりゃ!?」

 

 フリードが本気で焦った。

 

光喰剣(ホーリー・イレイザー)。光を喰らう魔剣さ」

 

 徐々に光の剣の刀身が失われていく。が、手数は減ることを考えると剣を捨てることはできない。

 それに光喰剣そのものがフリードの剣に食いついて離れない。

 

「だったらァ!!」

 

 左手の銃を木場に向ける。しかし、

 

「させるかってんだ!!」

 

《Boost!》

 

 イッセーの神器から音声が鳴る。力が倍になった証だ。

 

「アーシアを泣かせた分だ!! 喰らってぶっ飛べ!!」

 

 腹部への鋭い一撃。その一撃は、木場の拘束を振り切ってフリードの体を飛ばした。

 が、これで終わりではない。

 

「止め」

 

 室内にあった彫刻の中でも、一際大きいものを小猫が投げた。彫刻はフリードに命中して砕る。

 

「ガハッ……!」

 

 さすがに効いたのだろう、フリードの口の端から血が流れる。

 

「クソがァァァ……。でも、俺っちとしては悪魔に殺されるのはマジ勘弁なのよね。つーことで、はい、サラバ!!」

 

 フリードが閃光弾を投る。激しい光と音が室内を包み、イッセー達の視界を遮る。

 これに乗じて奇襲してくるやもと身構えるが、煙と閃光が晴れた後にフリードの姿はなかった。

 

「ほんとうに逃げやがった……!」

 

 イッセーが悔しがる。

 

「兎に角、先を急ごう!」

 

 木場の言葉を受けて小猫が「えい」と祭壇を殴り飛ばすと、そこには地下へと続く階段があった。

 四人は階段の上を急ぐ。その先は、広い地下室になっていた。

 

「いらっしゃい、悪魔の皆さん。遅かったわね」

 

 天野夕麻。いや、堕天使レイナーレがそこにいた。そこにはさらに三人の堕天使が控えている。しかし、何よりも目に付いたのは……

 

「アーシア!!」

 

 イッセーが思わず叫んだ酷い有様、十字架に磔にされたアーシアだった。

 

「……イッセー、さん?」

 

「待ってろ、今行く!!」

 

「危険だ、兵藤くん!」

 

 急ぐイッセーを木場が抑える。そこへ、レイナーレが光の槍を放つ。槍は床に突き刺さり、光の衝撃波を生んだ。

 

「うわッ!」

 

 衝撃波に跳ね飛ばされるイッセーと木場。

 

「感動の対面だけど残念ね。もうすぐで儀式はクライマックスを迎えるわ」

 

「ああああああ!!」

 

 レイナーレの言葉に反応してか、アーシアが苦しみ始める。

 

「何をするつもりだ……?」

 

 イッセーが疑問を口にする。その疑問に木場がアーシアが掛けられている十字架から答えを見つけた。

 

「そうか、堕天使たちの目的は……」

 

「な、なんなんだよ木場!?」

 

「彼女の神器を奪うつもりなんだ!」

 

 それが正解だ、と言わんばかりにアーシアが一層苦しみだす。

 

「神器を奪うって……そんなことをしたらどうなるんだよ!?」

 

「兵藤くん……神器はね、その人の心、つまり魂と深く結びついている。それが奪われるということは……」

 

「アーシアが……死ぬ……?」

 

 その答えに震えるイッセー。だが、それとは裏腹にアーシアの苦しみはより強いものへと変わる。

 

「あ、あああああああ!!!」

 

「巫山戯んな! アーシアを離せ!!」

 

 アーシアの苦痛の声に、イッセーの怒りは頂点に達する。

 

「ハッ、なんで私がアンタみたいなゴミの言う事を聞かなきゃならないのよ。そこで黙って見ていなさい」

 

 同時に振られるレイナーレの手。それを号令に三人の堕天使が現れる。

 

「ドーナシーク、ミッテルト、カラワーナ。そこの悪魔三匹が動かないように監視して」

 

「「「畏まりました」」」

 

 四対三。

 先程までのイッセー達の数の上での有利が一気に覆ってしまった。しかもイッセー側の一人につきそれぞれに堕天使がつき、肝心の本丸であるレイナーレは完全にフリーだ。

 

「よう、小僧。また会ったな」

 

 しかもイッセーについたのはよりにもよって一度殺されかけたドーナシーク。公園での出来事がフラッシュバックし、思わず恐怖で後ずさってしまう。

 

「あの時はグレモリーの小娘の邪魔が入ったが……今回は確実に仕留めさせてもらおう」

 

「テメェ……!」

 

 人を小馬鹿にした態度に思わず左手に力がこもる。神器が覚醒した今なら手傷を負わせるぐらいはできるだろう。

 木場と小猫の実力は知っているし、二人なら堕天使に勝つこともできるだろう。だが、それだけでは足らない。

 アーシアの命は風前の灯、さらにリアスたちにも危機が迫っている。どちらも救うには短時間で決着をつける以外にないが、それを実行できるような状況ではない。もどかしさと焦燥感でイッセーの顔が歪む。

 

「あらあら、随分とひどい顔だこと。とてもお姫様を助けに来た王子サマには見えないわね? あなたもそう思わない? ダイスケ」

 

「――はい」

 

 一瞬、イッセーは聞き間違いかと思った。

 それは木場も小猫も同様である。だが、目の前の憎い堕天使は間違いなく今ここにいない仲間の声を呼んだ。そして彼は答えた。

 

「……なんで?」

 

 木場は思わず十字架の裏から出てきた人物の姿を見て、敵前であるにもかかわらず剣を落としそうになる。

 

「嘘ですよね……!?」

 

 小猫は自身が見ている光景が悪い夢であると信じたかった。だが、もっともこの現実を信じたくなかったのはイッセーだった。

 

「なんで……お前がそこにいるんだよ……ダイスケェェェェェエエエエエエ!!!!!」

 

 絶叫するイッセーの問いにも目もくれず、ダイスケは虚ろな目で呟く。

 

「――すべては、レイナーレ様の御為に」




 はい、というわけでVS06でした。
 ダイスケの身に何があったかは次回をお楽しみに。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS07 掌大回転180°

 前作から二人目のリストラです。
 その分どこに行ったのか、皆様是非ご考察ください。
 あ、あと例の復讐の件ですが、相手が勝手に自爆してましたwwwwwこっちが手を下す必要も無くwwwww
 マジザマァwwwwwwザwwwマwwwァwww


「すべては、レイナーレ様の御為にって……何おかしなこと言ってるんだよ、ダイスケ!?」

 

「あら、わからない? まぁ、下等で下賤な悪魔なら理解できないでしょうねぇ――マインドコントロールよ」

 

 不敵にレイナーレがせせら笑った。それを見て木場はダイスケの身に何が起きたのかすぐに理解した。

 

「木場、マインドコントロールって――」

 

「……堕天使はね、神器持ちの人間をイッセー君のように排除したりすることもあるけれど、それは自分達にコントロールできない場合や当人が神器を扱えない場合だ。所有者に素質がある場合は勧誘して自勢力に引き込むんだよ。それこそ買収、色仕掛けとなんでもござれだ。どうやら今回は当人の意思も無視する最低の手段を用いたようだよ。」

 

「それで……洗脳したって言うのか?」

 

 木場が怒りを込めてうなずく。その様子にイッセーはしばし呆然としていたが、徐々に怒りがこみ上げてきた。

 何せダイスケは高校入学以来の友人。その友人が自分の意思と関係なく、自我を壊された上、自分を殺し友となったアーシアを我欲のために殺そうという女にいいように使役されているのだ。これで怒り心頭に達さずに何で怒れというのか。

 

「ふざけるな! お前はどこまで他人を馬鹿にしてその大切な者まで奪おうとする!!」

 

「――チッ、五月蠅いわね。ダイスケ、貴方があの口を永遠に閉じさせなさい。ドーナシーク達は見ているだけでいいわ。お友達同士が無残に殺し合うサマを見届けてあげましょう」

 

「かしこまりました」

 

 舞台からダイスケが飛び降りると、他の三人の堕天使達は脇に引き下がる。イッセー達からすれば相手をする人数は一人に減ったが、その相手がダイスケでは先ほど以上に戦えなくなる結果となった。

 

「どうする、木場……!?」

 

「……なんとかして気絶させる程度に留めよう。そうすれば――!?」

 

 突然の殺気に木場は反射的に剣でガードする。直撃したのは青白い炎の塊、いや正確に言えば熱弾だ。

 立ち上る熱量はただ事ではない。この熱量では平均的な下級悪魔クラスの防御力なら一撃で葬り去られる威力だ。

 木場は実力から言えばすでに上級クラスの一歩下ほどには届いているが、スピードを生かした戦闘スタイルである特性上どうしても防御力には難がある。これをまともに食らえばダメージは避けられない。

 

「……下がって、木場先輩」

 

 迫るダイスケから庇うように小猫が前に出る。小猫の特性である戦車(ルーク)なら防御に関しては心配は無い。その判断から小猫は木場の前に出た。

 だが、ダイスケの武器は先ほどの熱弾だけではない。左腕のラウンドシールドを前面に押し出して小猫に体当たりしてきたのだ。

 

「!?」

 

 いかに盡力に優れていると言っても体格差から来る質量差だけはカバー仕切れなかった。

 はぐれ悪魔バイザーが相手の時は明確な力の差があったからカバーできた。だが同等、もしくはそれ以上の力にぶつかられるとさすがに押し負けてしまう。

 

「小猫ちゃん!? ――ダイスケ、止まれぇぇぇぇぇ!!!」

 

《Boost!》

 

 その二人の間に割り込むようにイッセーがダイスケに殴りかかる。勿論、神器で己の力を倍増させて。

 それを虚ろな目で確認したダイスケはイッセーの方に向き直り、紙一重でイッセーの左の拳を躱したと思ったら掌底を胸にたたき込んだ。

 

「――!」

 

 見た目からは想像も付かないほどの鋭い一撃。胸の中の空気が一気に押し出され、意識はフェードアウト仕掛ける。それでもイッセーは根性で気を取り戻し、交わされた左の拳を手刀に替えてダイスケのうなじを狙って振り下ろす。

 テレビや漫画でよく見る相手の意識を刈るためにやる首筋への手刀を行おうとしたのだ。だが、その手も捕まれた上イッセーはダイスケに胸ぐらを掴まれる。

 

(っ! しま――)

 

 イッセーはこの態勢からどうなるのか知っている。過去に一年時の体育の授業で体育教師に授業の一環でされたことがあるからだ。

 予想通りダイスケは重心を下げてから全身を伸ばし、その勢いでイッセーを背中から地面にたたきつける。背負い投げだ。

 受け身をとれなかったイッセーの背中に鋭い痛みが広がる。今度ばかりはすぐに復旧できなかった。何せぶつけられたのは地球の大地そのもの。先ほどの掌底とは威力は比較にならない。

 

「宝田君!!」

 

 木場が片刃の魔剣を生み出して、その峰でダイスケを狙う。木場の剣術の技能は一線級だ。当然その剣捌きの速度たるや年齢に見合わぬ練度で放たれる。

 だが、来るとわかっているのならばその剣の軌道を予測して防げばいい。勿論口で言うより実践は難しいが、それを可能にするのがダイスケの身体能力。

 しかも面積が広いラウンドシールドがあるのならばガード範囲も当然広くなり、今のようにたやすく防御できる。

 

「でも、これで終わりじゃないッ!!」

 

 勿論防がれても木場がここで一撃を与えるのを諦めるわけはない。空いた片手に刃を潰し、紫電を纏った魔剣が生み出される。

 ダイスケをなるべく傷つけないために即興で生み出した麻痺を目的とした魔剣、『紫電潰刃(スパークスタンエッジ)』だ。出力としては身体能力が優れるダイスケ用であるため市販のスタンガンやテイザーガンを越えている。

 それが懐に潜り込むようにダイスケの腹に突き刺さる。常人なら振れた瞬間に昏倒する威力の電撃がダイスケに流れた。

 基本的にこういったスタンを目的とした武器は接触させるだけで充分だ。だが、木場の本能が告げている。ダイスケに対しては決して油断してはいけない。底知れない何かを感じるのだ。

 その証拠にダイスケは電撃に苦しむ様を見せるどころか平然としている。徐々に木場の顔に焦りの色が浮かぶ中、ダイスケは木場とイッセーの胸ぐらを掴み、壁へと向かって投げつけた。

 

「「ウワッ!!」」

 

 同時に壁にたたきつけられて、イッセーと木場は呻く。それを一瞥した小猫はダイスケに対し近接戦を挑む。

 イッセーは言わずもがな素人、木場は防御力に難のある騎士(ナイト)だった。パワーとタフネスに優れるダイスケには似た特性の戦車(ルーク)である自分が相手した方がいいと判断したのだ。

 

「眠ってください」

 

 小猫の拳が正確にダイスケの鳩尾に迫る。だが、がっしりとダイスケの掌で小猫の拳が止められる。

 手加減はしていた。だが、確実にダイスケを眠らせるだけの威力を込めた正拳だったのだ。それをいとも簡単に止められた。

 訊けばダイスケは極力自分の力を使おうとしない正確であるらしい。洗脳された今は恐らくそのリミッターが完全に解除されているのだろう。でなければここまで悪魔である自分達が、それも三名のうち神器を有しているのが二名いるこの編成で神器を有しているこのチームが翻弄されいている理由が見つからない。

 そう思考した小猫の突き出された拳をダイスケは握り、そのままイッセー達とは別方向に投げ飛ばす。

 

「――キャァ!?」

 

 壁に激突し、転がる小猫。すると倒れ伏す三人のそばに堕天使達がそれぞれ三人ずつついて下手な動きが出来ないように目を光らせる。

 当のダイスケは祭壇へと跳躍し、装置を挟んでレイナーレの逆位置に付く。

 

「なっさけない。力に目覚めたばかりの人間に悪魔が三匹掛かりで翻弄されるなんてね。ま、私の目に狂いが無かったということの証左かしら」

 

「――お褒めいただき光栄です」

 

 どうしようも無くなってしまった。

 今の状態ではイッセー達は堕天使相手に満足に相手することもかなわず、ダイスケも人質に取られたような形になった今ではろくな抵抗が出来ない。

 おまけにダイスケそのものをどうにかしようとしても、手加減していては相手にならない。やるのなら本気でかからなければならないが、それでは誤ってダイスケを殺める可能性がある。

 

(せめて……せめて俺もまともに動ければ……!)

 

 自分の不甲斐なさに歯噛みするイッセー。それを罵倒するようにアーシアを拘束する装置の出力が上がり、光が漏れ始めた

 

「あ、あああああああ!!」

 

 それと同時にアーシアが更に苦痛の叫びを上げる。

 

「さあ、見るがいいわ!! この私が至高の堕天使へと昇華する瞬間を!!!」

 

 レイナーレの宣言と同時に装置の放つ輝きとアーシアの悲鳴は最高潮に達する。

 そして遂に、その時が来てしまった。

 

「あ……アーシアァァァァァああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーたちがアーシア救出のために出立したのと同じ時刻の旧校舎裏手の林。その少し前に出て行ったリアスと朱乃がここにいた。

 否、正確に言うとこの場にいるのは彼女たち二人だけではない。

 

「あなたね? ダイスケのメールにあった“説明役”というのは」

 

 二人の目の前にはローブ姿の男が一人。

 

「ああ、奴に頼まれてきた。詳しい話は道すがら話す。俺はお前たちの転送術を利用できないはずだ」

 

「そうね。でもその前に」

 

「――なんだ?」

 

「私たちを呼び出したのは本当にダイスケなの? 貴方が私たちを待ち伏せするために彼の携帯を使ったとも考えられるのだけど」

 

「確かにそうともとれる。だが……」

 

 そう言って男が振り向く先の地面に何かがある。それは倒れている人間であった。

 数は一人や二人ではない。数十人単位のローブをまとった人間の死体が散らばっている。

 

「待ち伏せするのに味方になる者を殺す奴がいると思うか?」

 

「……確かにいないですわね。」

 

 朱乃が思わず顔をしかめて答える。彼女は生粋のサディストであるが、人の死をなんとも思わないサイコパスではない。

 故にこの男の異常性というか浮世めいた部分を仄かに感じていた。

 

「まあ、こいつらはある意味処断されて当然のことをしでかしていたような連中だった。遅かれ早かれ“我ら”が処断していた。」

 

「あら。貴方は、はぐれエクソシストではないの?」

 

「ああ。詳しい話は後にするが……自己紹介だけはしておこう、グレモリー。俺は桐生義人。『神の子を見張る者(グリゴリ)』の使いだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どういうことなの?」

 

 その大人の女性らしい風貌の女堕天使、カラワーナの呟きは、この場にいるほぼ全員の気持ちであった。

 確かレイナーレの言う通りならアーシアはもう絶命し、その身に宿す神器である『聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)』は堕天使たちの手に落ちているはずであった。

 が、しかし。

 

「いたた……すごく痺れました……」

 

 アーシアが辛そうな声で呟く。ふるふると子犬のように顔を振り、先ほどの痛みを体から抜こうとあがいているさまが実に小動物らしい仕草だ。

 だが、どこからどう見てもアーシアは痛がっているだけで命に別状がないように見える。

 

「あ、アーシア……貴女、なんともないの?」

 

 レイナーレは想定外のできごとにまだ対処しきれていない。

 

「は、はい。なんだか感電したみたいになっただけで特に体に不都合は……あ、でもちょっと肩のコリがほぐれた感じはあります」

 

「ど、どういうことなの……!?」

 

 アーシアの命を奪うどころか肩こりをほぐしてしまうという本末転倒な結果。こうなれば装置其の物の欠陥の可能性を考えなければならない。

 無論、混乱しているのは堕天使たちだけではない。

 

「な、なあ、木場。何が一体どうなっているんだ?」

 

「……さあ、流石にそこまでは……って、まさか!」

 

 木場はその時、この状況の元凶が誰なのかを悟った。

 だが確定したわけではない。あえて大人しく注視する事で状況の転換を見極め、逆転の機会を窺う。

 

「れ、レイナーレ様! 一体どうなってるんスか!?」

 

「おい、ミッテルト! そこの小娘から注意を背けるな!!」

 

「まさか……装置の不具合!? そんな、『神の子を見る者(グリゴリ)』の研究機関からわざわざ持ってきたものなんだぞ!?」

 

 堕天使たちの混乱の中、ただひとり異常なまでに冷静の人物がいる。

 ダイスケである。

 

「レイナーレ様、早急に儀式の継続を」

 

「やりたくっても、装置が壊れてるのよ!!」

 

「では早急な装置の復旧を」

 

「そうしたくっても故障箇所の見当がつかないんだから、手のつけようがないのよ!!!」

 

 あたふたとしているレイナーレをよそに、ダイスケは装置の傍らに立つ。

 

「では古式の修復技法(斜め45°の一撃)で修復いたします」

 

「そんな馬鹿なことが―――!?」

 

 途端に、レイナーレの胸に嫌な予感が起きる。

 思えばここまでこの男が自分たちになぜこうも簡単に自分達の手に落ちたのか。一度しか相対していないが、こんなに簡単に同行できるような人間では無かった。それがなぜ拘束して洗脳したのち、さしたる抵抗も示さなかったのか。

 だがそれに気付くのにはあまりにも遅すぎた。

 

「―――こんなふうにな!!!」

 

「―――待てぇぇぇぇぇぇええええええ!!!」

 

 レイナーレの制止も虚しく、ガントレットに備えられた四本の爪が装置を構成する巨大な十字架を破壊する。

 凄まじい音ともに十字架が破壊され、アーシアが解き放たれた。同時にダイスケの裏拳が迫り来るレイナーレの横っ面を捉える。

 しかもただの裏拳ではない、熱弾の発射を推進力にした裏拳だ。

 

「ガハッ……!」

 

 その一撃はレイナーレの意識を一瞬刈り取ったばかりか、祭壇の下へと勢いよく叩きつける結果となる。

 アーシアの方を見ればやはり怪我一つない状態であるとわかるが、その姿は薄い布一枚を纏っただけというなんとも危険な姿であるため、ダイスケは来ていた制服の上着を掛けてやる。

 

「あっ、すいません、わざわざ」

 

「イイって。さあ、こっから飛び降りるぞ」

 

「え? ……きゃぁぁあああ!!」

 

 そう言うとダイスケは小柄なアーシアを小脇に抱えて3mはある高さの祭壇から飛び降り、状況がつかめずに呆然と立ち尽くすドーナシークの眼前に降り立つ。

 

「なッ……!?」

 

「まずは一匹。イッセー、受け取れ!!」

 

 同時にダイスケはアーシアをイッセーに投げつける。

 

「は!? いや、ちょ、危ねぇ!!」

 

 慌てながらもしっかりとキャッチするイッセー。そのすぐ目の前ではダイスケが鋭い爪をドーナシークの腹に突き立てていた。

 

「カハッ……! き、貴様ぁぁぁぁ!!!」

 

 ドーナシークはせめて傷の一つでもと光の槍を構えるがその手も、足も、腹も、ダイスケの放った光弾に打ち抜かれていく。もはや断末魔の叫びを上げることもできず、さらに放たれた止めの一発によって頭部を吹き飛ばされた。

 一方を見ると木場とカラワーナがそれぞれ魔剣と光の槍を持って切り結んでいる。だが、木場が持つ剣は先にフリードとの戦いでも使用した光喰剣(ホーリー・イレイザー)だ。すぐに闇の触手が槍へ、そしてカラワーナの腕へと絡みつく。

 

「クッ、外れな……グァァァァ!!」

 

 遂に闇がカラワーナ本人を“喰い”始めた。

 

「堕ちた天使らしく……闇に飲まれて消えるがいい!!」

 

 そのセリフとともに、もうひと振り生み出した光喰剣をカラワーナの腹に突き立て―――

 

(シャ)ァッ!!」

 

 腹から頭へ振り上げて一刀両断にした。その遺骸は残ることもなく、全て光喰剣によってチリ一つ残らず喰い散らかされた。

 別の一方を見れば小猫がミッテルトを相手に関節技を決めている。

 

「こんのぉ……離せ!」

 

「……離せと言われて離すバカはいない」

 

 掛けている技は関節技としては実にポピュラーな腕挫ぎ十字固め。

 ミッテルトは解こうともがいているが、見事に技が決まっているのと小猫と腕力に差がありすぎるため一ミリも動けずにいる。

 

「小猫ちゃん!」

 

 そこへ木場が手にしていた剣をひと振り、小猫にパスする。渡したのは短剣状にした光喰剣(ホーリー・イレイザー)

 それをミッテルトの肝臓がある辺りに過たず突き立てる。

 

「ガハッ……!」

 

 人体で言えば急所、それも大量出血してもおかしくはない箇所だ。そこへ肉体そのものを蝕むような魔剣が突き刺さったのだからひとたまりもない。

 抵抗できなくなったミッテルトはそのまま塵へと消えていった。

 

「さて……形勢逆転だな、レイナーレサマ?」

 

 ダイスケがイッセー達を背に不敵に笑う。

 

「貴様ら……よくも!!」

 

「よくもじゃねぇだろ。こんだけされて当然のコトやってきたんだ。これで借りの半分をやっと返せたってとこだぜ。さあ、本格的にペイバックタイ―――」

 

「「「―――じゃねぇ!!!」」」

 

 ゲシッ!!とダイスケの背後から三つのヤクザキックが見舞われた。

 

「おうふっ!?」

 

 折角格好良く決めようとしていたところを味方に邪魔される。それも悪魔の筋力から繰り出された蹴りなので、ダイスケは地面にキスするどころかカーリングの石のように滑っていく。

 

「なにすんの!? 折角決めようとしてたのに!!」

 

「んな事ァ、どうでもいいんだよ!! お前、なんでワザワザマインドコントロールされるフリなんてまどろっこしい真似した!?」

 

 イッセーの叫びは全員の心の代弁である。

 

「いや、そもそもさ、こいつら堕天使がなんで悪魔が拠点にしているような土地で活動してんのか気になったのよ」

 

「……それで内情を探るために?」

 

 小猫の言うことはあたっている。時系列を見直してみれば、堕天使たちの目的や行動に最も近づいていたのは意外にもイッセーである。

 だが、ダイスケは不幸にもその現場に居合わせていなかった。かといってリアスに訊こうにも敵陣営の内情を知っているとは思えない。

 そこへダイスケへのレイナーレの拉致、誘拐からのマインドコントロールだ。

 幸運にもマインドコントロールはかけられてものの数秒で解けたのだが、自身の身の安全と、レイナーレ達の目的を知るためにあえて操られていた振りをしていたのだった。

 さらに、ここで懐深く潜り込めばイッセーたちよりも比較的安全に情報を引き出し、リアスに伝えることができる。

 

「だから裏切るふりをしたっていうの? じゃあ、あの神器を取り出す装置が故障したのはやっぱり君の仕業なのかい?」

 

「モチのロン」

 

「ま、待て!! なんでこの間まで一般人だったお前にこの装置のことがわかる!?」

 

 レイナーレの言う通りである。これまで悪魔だの堕天使だのに全く関わり合いのなかった人間に、どうして堕天使の最新技術の塊をどうこうできたのか。

 

「ああ、そら単純明快」

 

「あなたたち堕天使の中にも元々内通者がいたのよ」

 

 この場にそれまでいなかった者の声が響く。

 

「部長!!」

 

「ええ、よく頑張ったわね」

 

 リアスが慈愛の笑みをイッセーに向けながら階段を降りてくる。その後には朱乃も続く。

 

「良かった……部長も朱乃さんも無事だったんですね!!」

 

「ええ、何事も無く五体満足ですわよ、イッセー君」

 

 二人が無事な様子を確認すると、イッセーは胸をなでおろす。

 だが、それの満足していない者が一人。

 

「奴らめ、しくじったか……!」

 

 レイナーレである。臍を噛む彼女の前に、リアスが立つ。

 

「はじめまして、堕天使レイナーレ。私はリアス・グレモリー。グレモリー公爵家の次期当主よ」

 

「貴様、グレモリー公爵家の娘か!?」

 

「ええ、短い間だけどよろしく」

 

 自分が相手にしていた存在の大きさに驚くレイナーレ。だが、驚く以前にイッセーは何がすごいのか理解できていなかった。

 

「えっと、ダイスケ。公爵ってどのくらいエライんだ?」

 

「解り易くいうと、王様の次の次ぐらいに偉い。昔の日本で言うと、伊藤博文とか、徳川慶喜とかわかりやすいな」

 

「……えええええええええ!? そんなに偉いの!?」

 

 リアスが貴族であることは知っていたイッセーだったが、まさかそこまで位の高い人物だとは想像だにしていなかった。

 そこへさらに事情をよく知る木場が追加情報を与える。

 

「まあ、まだ爵位の第一位継承者なんだけどね。でも、部長自身も有名人でその実力から『紅髪の滅殺姫(べにがみのルインプリンセス)』なんて呼ばれているんだ」

 

「滅殺……!? そんなにすごい人の眷属になったんだな、俺」

 

 その二つ名のインパクトに震えるイッセー。それを他所に木場が話の軌道修正をするためにリアスに問う・

 

「そういえば部長、内通者とは一体?」

 

「これ、覚えてる? 私達が部室を出る前に受け取っていたメール」

 

 朱乃は手にした通信端末の画面を皆に見せる。そこには確かにメールの文章が見える。

 

「通知はダイスケのアドレス。そしてこれには『連中が何をしようとしているか解かりました。使いが来るから旧校舎の外で待っていてください』とあるわ。そしてメールの通りに使いが来たの……大勢のはぐれ神父を皆殺しにしてね」

 

「はー。あいつ、そんなに強かったんですか」

 

「え、そのあいつって?」

 

「はぐれ神父の中に神の子を見張る者(グリゴリ)のエージェントがまじっていたの。名前は『桐生義人』」

 

「グリゴッ……!? そんな、なんで!?」

 

 思いもしない正体の獅子身中の虫の存在を知り、驚愕するレイナーレ。だが、これにはアーシアも驚いていた。

 

「どうしてそんな方がいらっしゃったんですか?」

 

「それは君がいたからだよ、アーシア・アルジェント」

 

 その答えの詳細を知っているを知っているのはダイスケだ。

 

「聞いた話によれば、アーシアは悪魔をも癒す力があったから教会を追放されたんだよな」

 

「……はい。その後、行くあてがないところをレイナーレ様に拾われたんです」

 

「らしいな。実はその時点からあいつは君の……というか、君を拾ったレイナーレの行動を監視していたんだよ」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「ああ。あいつの関心事は『神器を持っているであろう教会からの追放者がどのような行動をとるか』だったんだ。万が一、世の中に悪影響を及ぼそうと行動するつもりなら処断するつもりでいたんだ」

 

「そんな勝手な理由殺そうっていうのかよ!?」

 

 イッセーが怒りで声を荒げる。

 アーシア本人からその過去を聞いているから彼女への思い入れも人一倍であるし、なによりその身勝手な行動を人として許せなかった。

 

「だけど、事前の素行調査やら追放された後の行動からその可能性はないってかなり最初から判断していたんだとさ。第一、神器っていうのはその存在だけで世の中をひっくり返す可能性がある代物なんだ。人間社会で言えば核兵器。そのぐらい警戒して当然さ」

 

 やや納得できない感があるものの、イッセーはそのことをなんとか飲み込む。それを見届けてからダイスケは話を続ける。

 

「そんな折、レイナーレ達がアーシアを引き込んだ。もともとこいつらは上の命令で神器持ちを堕天使陣営に引き込んだり、力を勝手気ままに使おうとする奴らを処分して神器を管理する為の下っ端だったんだ。でもいろいろと上を出し抜いて行動しようとしてることに気づいたから、何をしようとしているのか潜入捜査していたんだと。」

 

 どうやらレイナーレ達は最初から上層部からは信頼されていなかったらしい。その事にショックを受けるレイナーレだが、かまわずダイスケは話を続ける。

 

「そこへこいつらの中に入ってさんざん引っ掻き回してやろうとしていた俺にバッタリ遭遇。お互いに利害が一致したから協力することにしたんだ。俺はレイナーレ達へ報復するため、桐生義人はアーシアを、ひいてはアーシアの神器をレイナーレに渡さないため……後は知っての通り、今に至るってわけさ。そうそう、装置の方は桐生義人が術式を変えて発動したら痺れるだけにしれくれたんだ。俺だけだったらただぶっ壊すだけで芸がなかったから本当に助かったぜ。まあ、あいつの方は用事が済んだから部長と朱乃さんをここに連れてきた時点でお役御免で帰っていったんだけどな。あいつとしてはこの一件を勝手に暴走した部下が勝手に悪魔に喧嘩売って死んだことに出来るからな。自分の手を汚さずにすむ」

 

「なるほどね。あなたの話で彼の事情もだいたいわかったわ。でも、どうしても気になることがあるのよ」

 

「なんですか、リアスさん」

 

 おそらくリアスが尋ねようとしていることはこの場にいる全員が疑問に思っていることだろう。

 

「―――なんでここまで回りくどい方法を採ったの? 堕天使たちに捕まったのはしょうがないとして、捕まったら捕まったで大人しく私たちの助けを待てばいいし、装置だってただ壊すだけでよかったはずよ。どうしてここまで複雑な状況にしたの?」

 

「そりゃあ、決まってるじゃないですか……練りに練ったこいつらの計画を最後の詰めでグッチャグチャにしてやるためっすよ」

 

 そういうレイナーレに対して笑うダイスケの口元は不気味につり上がっているが、その目は決して笑ってはいない。

 

「至高の堕天使? そんなもんのために一体何人の人間の人生を狂わせた? あまつさえ俺のダチを生き返れたとはいえ殺しやがったんだ。それ相応の報いは受けてもらうぞ……外道が」

 

 何より異常性を感じるのはその笑の中に明確な怒りと殺意が込められている。そのアンバランスさがレイナーレに言いようのない恐怖を感じさせた。

 いや、レイナーレだけではない。この中でダイスケをよく知るイッセーですら、普段と全く違うダイスケの変容ぶりに恐れおののく。

 おそらく神器のせいだ。普段抑えている凶暴性や暴力性が神器を展開することでにじみ出てきている。極力他人を傷つけまいと努力しているダイスケをここまで変容させているこの神器に封じられた存在は一体何なのか――リアスは考えるが、今はその答えは出ないだろう。

 

「く、狂っている……!!」

 

「狂っていて結構。最後に俺らの人生を弄んでくれたお前をブチのめせるんだったらな」

 

 ダイスケは怒りをその右手に力を込めた。するとその渦巻く激情に答えるように、神器の各所に配されたスリットから青い光が漏れ始める。

 そして渾身の一激をレイナーレに叩き込もうとしたときであった。

 ダイスケはレイナーレが何かを握っているのを見つけた。それは、一振りのダガーだった。

 

「本来はこうするべきでは無いけれど……事ここまで及べばこうするしか無いわ!

 

 すると、レイナーレは意を決したかのように目を見開き、そのダガーの刃を握って割ってしまう。直後、刃の破片から濃い翠の閃光が溢れ、同時に大きな地響きが鳴り響く。

 地震かと思ったが、どう考えても原因はレイナーレだろう。

 

「テメェ、何しやがった!?」

 

「フフフ……アーハッハッハッハ!! これで封印が解ける……。万が一の為に用意しておいた切り札を切ってやる!!」

 

 翠の閃光は徐々に形を成していく。光が空中で形となって固定されていき、一体の巨大な生命ととなった。

 すらりと伸びた胴体、巨体を支える細長くも力強い四本の脚、三角の頭にギラリと光る複眼、そして見る者に死を意識させる命を刈り取る形の両手の鎌。

 

「私の計画を邪魔し、アザゼル様やシェムハザ様へ近づく道を閉ざした奴らを切り刻みなさい、蟷螂の王よ!!!」




 はい、というわけでVS07でした。
 今作では怪獣の扱いが前作とは異なります。まあ、前作でもそんなに設定を明かしてはいませんでしたが。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS08 「燃やしてもいい教会がない? だったら一から造って燃やすか!」byク○ガの監督

 これにて第一巻分のお話はおしまいです。
 それと先日から艦これのイベントが始まりました。多分ペースは落ちると思いますのでご了承ください。
 ヒューストン! 早く来てくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!


「……カマ、キラス?」

 

 なぜかダイスケはその名を知っていた。

 

「ダイスケ、貴方アレを知っているの!?」

 

「い、いえ……知らないはずなんですけれど、なぜか名前が浮かんできて……ミニラをいじめた? 地面に叩き付けて? ――なんだ、なんで俺はアレを知っているんだ!?」

 

 リアスはダイスケに問うが、当のダイスケは混乱している。身に覚えのない記憶がいくつも脳内の奥底から沸き上がってくるのだ。

 それに目もくれず、目の前の巨大な蟷螂は戦闘態勢をとった。

 

キキィィィィィィィィィ!!!

 

 ダイスケがカマキラスと呼んだそれは、車のブレーキ音のような甲高い声を上げる。そしてカマキラスは、まるで自動車が突っ込んでくるかのようなプレッシャーを与えてきながらダイスケめがけて飛びかかってきた。

 

「あ、危ねェ!!」

 

 寸でのところでなんとか避けるが、ダイスケのワイシャツの脇腹部分が切り裂かれ、白地の布に赤い染みが出来ていた。滲むような痛痒感を左手で抑えるも、結局のところ気休めでしかない。それに予想以上に傷口が痛むので思わずかがんでしまう。

 横を掠めていったカマキラスは着地し、すぐさま第二波攻撃の準備を整えている。

 

「だ、ダイスケさん、血が!!」

 

 傷を癒そうと近づくアーシアだが、空いているダイスケの右手が止めるように訴える。

 

「ダメだ! お前はイッセーか部長のそばにいろ!!」

 

「ダイスケの言う通りだ、俺の後ろに―――」

 

「させると思ってるの!?」

 

そこへ光の槍を手にしたレイナーレが襲いかかる。

 

「お、お前!!」

 

 槍を左手の籠手で受け止めるも、イッセーはそのレイナーレの勢いに押されてしまう。

 

「例えここで失敗しても、聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)を持つこの小娘さえいれば後でいくらでも挽回できる!! さあ、アーシア! 私のところへ来なさい!!!」

 

 鬼気迫るその表情に、アーシアは怯える。

 

「貴女……この期に及んでまだ!!」

 

 そのレイナーレの足掻く様を見て激昂したのはリアスである。手には漆黒の闇の如く、それでいて美しく澄み渡る魔力の塊が生まれている。

 後はそれを放ちさえすればリアスが持つ力によってレイナーレは跡形もなく吹き飛ぶだろう。

 

「待ってください! ――俺がやります!!」

 

 だが、それをイッセーの懇願の叫びが遮る。

 

「イッセー……?」

 

「お願いです。俺の手で夕麻ちゃん……いえ、レイナーレとの決着をつけさせてください!!」

 

 それは、過去との決着をつけるということでもある。

 レイナーレによって絶たれた人間としての生、そしてリアスから授かった悪魔として始まった生。その二つの生の始まりと終わり、そして胸の奥に秘めていた『天野夕麻』への気持ちの区切りをつけたいと思っているのだ。

 当然、自身で決着をつけたとしてもイッセーの心の奥に何らかの傷跡を残すのは必至だろう。だが、ここでリアスに決着をつけてもらっても自身の胸の奥に大きなしこりを残してしまうのであろうから、せめて自分の手で決着をつけようというのだった。

 

「……わかったわ。朱乃、この娘を連れて協会の外へ出るわよ」

 

「ええ。さあ、こっちへ!」

 

 朱乃によって手を引かれ、アーシアは階段を登る。

 

「行かせるな!!」

 

 レイナーレの命令でカマキラスは目標をリアスたちに向け、一気呵成に飛び掛らんとする。

 

「させない!!」

 

 しかし木場が持ち前の瞬足で先回りし、手にした大振りの魔剣でカマキラスの突撃を受け止めた。

 そのまま押し返そうと腕に力を込めるが、体格差からくる馬力の違いによって徐々に木場は押し返される。

 

「……慣れないことしないでください。」

 

 すかさず小猫がカマキラスの腹部を掴んで引き剥がしにかかる。

 本来なら木場は技で相手を翻弄するタイプであり、力比べは得意ではない。そこでパワー自慢の戦車である小猫が助太刀に来たのだ。

 

キキィィィィィィィィィ!!!

 

 それでもカマキラスは先へ進むことをやめない。四本もある脚を交互に使って小猫を振り払い、なかなか近づかせない。

 木場たちが抑えているおかげでアーシアを無事にリアスたちの手によって教会の外へ脱出させることはできた。であれば、後はレイナーレとの決着をイッセーが付け、この巨大昆虫を駆除するだけである。

 

「木場、塔城! 無理に抑えなくていい! この地下室からこいつを引き剥がすぞ!!」

 

 そう言ったダイスケの目的は一つ。カマキラスとレイナーレを分断することだ。

 無論、その他の伏兵も警戒しなければならないが、彼女の配下のはぐれ神父たちは手筈通りに義人が片付けている。

 それにこのタイミングで虎の子を出したということは、カマキラスが最後の切り札であると自ら語っているようなものだ。

 ルーキー且つ神器が目覚めたばかりのイッセーをそれなりに戦闘経験を積んでいるであろうレイナーレにぶつけるという不安要素もあるが、部下想いのリアスが戦うことを許したのならば勝つ算段があるとみていい。

 

「つーわけでイッセー! お前は確りそいつとケリつけろ! このデカブツは任せろ!! 舌噛むなよ木場ァ!!」

 

「え? ちょ、うわっ!!」

 

 するとダイスケは走り出してカマキラスの脚の一本を掴み、木場と小猫が組み付いているのを無視して一気に階段を駆けだす。

 どうやら踏ん張りは効いても引きずられるのは苦手らしく、ダイスケの人間業とは思えない怪力で二人の悪魔込みで地上へ連れ出された。

 

「へへっ……これでやっと一対一だな」

 

《Boost!!》

 

「ちっ……でもこれで対等になったとでも思ってるの? 前にも言ったけど、その左手の龍の手(トゥワイス・クリティカル)は持ち主の力を単に倍にできる程度のもの。一を倍にしても二になるだけでは百には到底届かないのよ?」

 

 事実である。

 自力で劣るイッセーがいかに力を強化しても元より大きな力を持つレイナーレに届くはずがない。だが、それはイッセーが矛を収め、尻尾を巻きて逃げるか無残に殺されていい理由にはならない。

 

「なあ、俺嬉しかったんだよ。夕麻ちゃんが告ってくれた時、バカみたいに心の中で飛び上がっちゃてさ」

 

「ええ、あの様子は本当に滑稽だったわ。童貞丸出しの青臭い餓鬼が騙されてるとも知らずに「こちらこそよろしくお願いします!」ってさァ」

 

「勿論、経験なんてないからデートコースもお決まりみたいなパターンになっちゃって」

 

「あれは本当に退屈だったわ。盛った猿みたくすぐにホテルにでも連れ込んでくれれば誰の目にもつかずに殺せたのに、ド定番のショッピングだの喫茶店だの人目につくとこばかりでやりづらくてしょうがなかったわ。あ、ひょっとしてあの娘にもあんなことしたの? あの娘なら喜んだでしょうね。「こんなに楽しいこと初めてです!」とか言っちゃってさ。生い立ちは本当に哀れな子だもの、初心な田舎娘には楽しめたんじゃない?」

 

「……俺、本当に君のこと大切にしようって思ってたんだ。夕麻ちゃんを絶対幸せにしようって、本気で考えてたんだ」

 

「ああ、そういえば『天野夕麻』って名前、夕方にあなたを殺そうって思ったからそうしたの。素敵でしょう?」

 

「夕麻ちゃん……」

 

「今は夜になったけど、ちゃんと今度は殺してあげるから。その後にはあの娘も一緒にあの世に送ってあげるから待ってね、イッセー君」

 

「……レイナーレェェェェェェエエエエエエ!!!!」

 

《Boost!!》

 

「悪魔風情が私の名を呼ぶなぁぁぁぁあああああああ!!!」

 

 怒りの爆発と同時にイッセーは駆け出し、レイナーレに殴りかかる。対するレイナーレは憎悪と共に光の槍を何本も投げつける。

 はじめの数本は悪魔になったことによる反射神経と動体視力の強化のお陰で叩き落とすことができた。だが、すぐに追いつかなくなり腕やら太ももやらに光の槍が掠めていく。

 当然ながら傷が痛む。しかも悪魔にとっての猛毒である“光”が傷口に染み込んでいっているのだから並の痛みではない。これでイッセーは足を止めるわけにはいかなかったが、レイナーレの策にはまってしまっていた。

 イッセーの肉に槍が掠めたのはイッセーが避けたからでも、レイナーレが狙いを誤ったからでもない。わざと小さな傷を与え、イッセーの体にダメージを少しづつ、しかし確実に与えていくためのものであった。

 

「くっ……!」

 

 痛みと光の効果で一瞬、イッセーの足が遅まった。それを目聡く気付いたレイナーレはイッセーの両腿に向けて一本づつ光の槍を投げつける。

 

「ぐあぁ!!」

 

 うち一本は払うことができたものの、もう一つがイッセーの左腿に突き刺さった。その結果、レイナーレを目前にしてイッセーは倒れてしまう。

 

「あははははは!!! 散々カッコつけておいてザマァないわね!!」

 

 言いながらレイナーレは倒れたイッセーの顔を蹴り上げる。

 

「グゥッ……!」

 

《Boost!!》

 

 実際には顔の痛みよりも光の影響を受けた傷口の方が圧倒的に痛みは強く、蹴りの方は今は軽く叩かれた程度にしか感じない。だが、精神的な痛みは顔への蹴りの方が圧倒的だった。

 相手はいかに痛めつければ心を折ることができるのか熟知しているのである。

 

「ハッ!! なにが「ケリは自分の手で付ける」よ! そもそもアンタみたいな下等悪魔が私に勝てるわけないじゃない!!」

 

 侮蔑の言葉とともに、何度も蹴りが倒れるイッセーに向けられる。殺したいのであればすぐに止めの一撃を放てばよいものを、わざわざただの蹴りに留めているのは敗北感を植え付けたいだけである。

 

「たかが上級悪魔の下僕の分際で、他の連中みたいに私を馬鹿にするからこうなるのよ!! いいえ、お前だけじゃない! 聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)さえ手に入れれば、私を馬鹿にした連中だって見返せる!! 勿論アンタの主も、宝田大助もよ!! 私を馬鹿にした奴らはみんなみんなアンタみたいに地面に這い蹲らせて命乞いさせながら殺してや……な、なにすんのよ!!」

 

 調子に乗って訊いてもいないことも語り始めたレイナーレの足をイッセーが掴む。当然ながらレイナーレは抵抗するが、掴んだ右手は決して離そうとしていない。

 

《Boost!!》

 

 先程鳴ったのと同じ声がイッセーの左腕から聞こえてくる。

 

「バカじゃないの!? いくら一を倍にしても所詮は二なのよ!?」

 

 いくら罵声を浴びせても、もはやイッセーの耳には届かない。なぜならもう、彼の頭の中は怒りでいっぱいで余計な情報は一つも入ってこないのだから。

 

「知らねぇよ……俺は馬鹿だから頭を使うのは苦手なんだ」

 

「離せ!! 離せッ!!」

 

 足首を掴む手を振り解こうと顔を蹴るなり背中を踏みつけるなりと抵抗はしているが、その気配は微塵もない。むしろイッセーの手に掛かる力は強くなる一方だ。

 

《Boost!!》

 

 再び聞こえた強化を知らせる音声ほほぼ同時にイッセーの目がレイナーレの目を見つめる。その目にはこれから行うことを「絶対に実行させる」という明確な、そして強い意志が見えた。

 そしてその意志の灯火は原因不明の恐怖をもたらした。

 

「―――ヒィっ!!」

 

 先程まで虫けら同然にしか見ていなかった者の目にレイナーレは怯える。

 

《Boost!!》

 

 もはや数秒前の余裕は微塵も感じられない。その姿はまるで蛇に睨まれた蛙か、はたまた鷹に狙われた野鼠のように怯えきっている。

 いや、もっと言えば『龍の逆鱗に触れた』といった感覚が適当なのだろうか。

 

「―――でもなぁ、馬鹿な俺でもお前なんかにアーシアも部長も殺させちゃいけねぇってことぐらいはわかるんだよ!!!」

 

 足を掴んでいた腕に渾身の力が込もり、一気に引かれる。人体というのは存外に不便なもので、二足歩行という進化をたどった結果として非常にバランスの悪い形状になってしまっている。

 四足歩行の動物以上に重心が高いので、足を掬われるととたんに転倒してしまうものだ。その原理に漏れずレイナーレの体は恐怖に震えていたこともあって簡単にバランスを崩し、倒れてしまった。

 すかさずイッセーはレイナーレの腹の上に馬乗りになる。これで完全に形勢逆転してしまった。

 

「なんでよ……なんでこんなことが出来るのよ!? 光の毒はとっくに全身を駆け巡っているというのに!!」

 

「ああ、痛ェよ。正直もう倒れそうだ。でも―――」

 

《Burst!!》

 

「なあ、神様……いや、俺は悪魔だから魔王の方がいいか。いるよな、魔王ぐらい……頼む!! なんでもいいからコイツをぶっ飛ばす力を俺にくれぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ!!!!!」

 

(これは倍化の力じゃない!ここまでのパワーは龍の手(トゥワイス・クリティカル)では到底生み出せない!!)

 

《Explosion!!》

 

 爆発した。

 イッセーの中で渦巻き、怒りによって煮詰められたパワーが拳の一撃となって顕現する。

 

「そうか!! これは十三の『神滅具(ロンギヌス)』の一つ―――!!!」

 

 この刹那の間にレイナーレは悟った。

 自分は愚かしい間違いを犯していた。

 兵藤一誠という人間の表面上の部分のみを見てこの少年の実力を判断していた。

 それがすべての過ちの始まりであった。

 そもそも、自分が戦える相手ではなかった。

 そう、真の愚者は自分だったのだ。

 その絶望を胸に抱きながら、レイナーレの肉体と魂は文字通り霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間、ノリと勢いだけで行動しては必ずポカをする。それぐらいダイスケにもわかっていた。それがこの現状の最大の原因である。

 今現在、ダイスケたちが礼拝堂の中で相対しているカマキラスは、どうやらなんらかの改造を施されていたようだった。

 まず、信じられないほどに体が硬い。昆虫の外骨格は基本的にキチン質で出来ており、一定の力を加えれば破壊できる。だが、このカマキラスの外骨格は木場の剣でもまともに傷をつけられない。カッターナイフで岩を切り裂こうとしているのと同じような状態なのだ。

 ならばと小猫が魔力による攻撃を試してみたが、当たる寸前に霧散してしまった。どうやら身体機能だけでなく対魔力措置の強化改造まで施されているらしい。

 イッセーに対して格好をつけた手前、この小康状態は非常に我ながら情けないと思うところがあった。今はカマキリの『動いたもの以外は餌と認識しない』という習性を利用して物陰に隠れてやり過ごしているのが現状だ。

 

「おい、どうする!? 自衛隊ってこういうとき有害鳥獣駆除で動いてくれたっけ!?」

 

「さすがにわかんないよ!」

 

 外へ出ないように礼拝堂内で押さえつけるので手一杯なダイスケは、思わずそんな素っ頓狂な提案をし木場に即刻却下される。

 打撃も斬撃も果ては魔力攻撃も通じない相手なら生物として逃れえぬ弱点を付くのが得策だろう。恐らくやれるとしたら『加熱焼却』という手段だ。

 だが、それを実行できないというジレンマがある。最悪の場合、外のリアスと朱乃に助けてもらうという手もあるが、万が一レイナーレの配下の残党でも残っていたらと思うとそれはできない。

 アーシアに危険が及ばないようにするのにあの二人ほど頼もしい存在はいないのだから。つまり、今この場にいる三人でなんとかしなければならない。

 であれば、この三人で何ができるのか?

 カマキラスの弱点をどう付けば良いのか?

 そこでダイスケはあることを思いついた。脳裏に過ぎったのはカマキリの習性、この教会という建物の構造的特徴、そしてそれらをすべて動員した戦い方である。

 当然ながら失敗する可能性もあることは重々承知だ。

 

「……でもやらないよりはマシか」

 

 こうここで吹っ切れた。

 もし、この作戦がダメになってもまた別の案をその時に思いつけばいいし、最悪力技でゴリ押しという手もある。そう考えることで迷いを消した。

 

「塔城! 礼拝堂の上に上がれ!!」

 

「……いきなりどうしたんですか?」

 

 攻め手を倦ねいていた小猫は疑問に思った。

 

「教会の鐘の中にコイツを閉じ込めるんだ!! 足止めは何とかする!!」

 

 突然の提案に戸惑う小猫。だが、やはり現状を考えれば何らかのアクションをとったほうがいいと思ったのだろう。

 

「……すぐに戻ります」

 

 了解すると小猫はすぐに見つからないように礼拝堂の外へ出ていった。

 

「頼むぞ。木場、なんでも良いから奴の前脚を汚してくれ。お前の神器ならどんな事でもできるだろう。」

 

「何をするんだい?」

 

「カマキリっていうのはな、前脚の鎌が汚れるのを極端に嫌うんだ」

 

「なるほど、そういうことなら……」

 

 手にしていた光喰剣を捨てて、木場は新たな魔剣を生み出す。それはまるで漆を塗ったかのような黒く濡れ光る刀身の剣だった。

 

「アドリブで創った黒泥剣(コールタール・ペインター)。これならッ……!」

 

 言うが早いか、木場はその自慢の瞬足で一気にカマキラスへ近づく。当然ながらカマキラスはそれに反応した。

 カマキリの鎌の一撃の速さはおよそ1/50秒であること考えれば捕まえられる可能性もあるが、木場は抜け目なく何合も打ち合った末に見つけた鎌の射程の一歩前に来る。

 

「喰らえ!!」

 

 一閃される魔剣からは黒く照らつくコールタールが伸びる

 

キシィ!?

 

 明らかな動揺の叫び。真っ黒に濡れた己の腕を見てカマキラスは驚く。汚れに汚れた捕捉肢の汚れを落とそうと必死になって舐めるが、コールタールが固まっていてなかなか取れない。

 それでも習性に従い汚れを舐め取ろうとするも、突如として天井が崩れた。落ちてくる瓦礫に混ざり、青銅でできた鐘楼がカマキラス目掛けて落ちてくる。慌てて逃げようとするものカマキラスの足元に何かが散らばる。

 それはバラバラに崩された礼拝堂内にあった長椅子だった。

 

「木場、悪いがお前も手伝ってくれ!」

 

「……やろうとしていることが読めたよ。どうか捕まりませんように……」

 

 自分たちがやろうとしていることが完全な犯罪行為であることに気が付いた木場だが、よもや止めるわけにもいかない。そしてダイスケは拳で長椅子を叩きつけ、木場は剣で長椅子を木片に切り裂いて蹴り飛ばしていく。

 それらはカマキラスに対しては牽制程度にしかならない木礫でしかない。だが、木屑は徐々にその周囲に積もっていく。

 

「崩せ!!」

 

 ダイスケのその言葉が合図となり、天井が崩落する。

 そして瓦礫と共にこの教会の鐘楼にあった鐘がカマキラス目掛けて落ちてくる。

 

「……ぶっ潰れよ」

 

 どこかの黄色い吸血鬼のようなセリフを呟きながら。小猫は巨大な鐘と共に落ちてくる。

 普通であればこの程度は簡単に避けられただろう。だが、飛んでくる木端と汚れた前脚に気を取られて完全に反応が遅れている。結果、逃げ遅れてしまい、鐘の中に閉じ込められてしまった。

 鐘の上に乗っていた小猫は落着と同時にぴょんと飛び降り、文字通り猫のように綺麗に着地する。

 

「でかした! 後は解るよな、木場ァ!!」

 

「ああ、行くよ!」

 

 丁度鐘を挟み込むように相対している二人はそれぞれの武器を構える。木場の手には現在、炎を操る魔剣炎燃剣(フレア・ブレンド)が握られており、ダイスケは右手を構えている。

 そして木場は地面に剣を突き立て、ダイスケは掌から蒼い炎を噴射した。突き立てられた炎燃剣(フレア・ブレンド)は地面に散らばった木屑に次々と着火させ、蒼い炎は直に鐘を焼いていく。

 当然ながら鐘の中は蒸し焼き状態になっており、中で藻掻き苦しむカマキラスが鐘の内側を叩く音が響く。だが、炎の勢いは止まることはない。

 

「おわッ! なんかスゲェことになってるな!?」

 

 その場に現れたのは決着をつけ終え、地下から傷だらけの体を引きずってきたイッセーである。熱気が傷口にしみるのか、ひどく辛そうな顔をしている。

 

「生きてたか……って酷い傷じゃないか!? 塔城、ここは俺たちに任せてイッセーを連れて外へ避難しててくれ」

 

 何も言わずに、小猫は傷だらけのイッセーを支え、外へと歩き出す。

 

「ハハ、悪いね……」

 

「……怪我人は黙って」

 

「……はい」

 

 そのやり取りと二人が聖堂から出て行ったのを確認すると、二人はさらに火力を上げた。

 聖堂の中の様子はまさに地獄絵図である。周囲は煙で覆われ、燃えるものすべてが炎で焼き尽くされている。

 悪魔である木場は別として、どうして神器を持っていること以外はただの人間であるダイスケが平気でいるのかは謎だが、当人はそのことに全く気付いていない。意識の先は常に鐘の中に閉じ込められているカマキラスの生死についてだけ。

 やがて経過と共に徐々に中を叩く音は弱まり、ついには何の反応もしなくなってしまった。

 

「なあ、奴は死んだかと思うか?」

 

「……だと思う。でも、念には念をいれよう」

 

 そして、止めとばかりに炎燃剣(フレア・ブレンド)を木場は投げナイフのように鐘に投げつけた。炎燃剣(フレア・ブレンド)が突き立つと、聖堂の鐘はフライパンの上のバターのように溶けて崩れる。

 もはやそこに、巨大な昆虫の亡骸の姿も形もなかった。

 

「……終わった」

 

 安堵からダイスケはがっくりとその場に座り込む。すると、思い出したかのように切り裂かれていた脇腹が痛み出した。

 それほど戦いに集中していた、という事になるのだろうか。一息ついたのは木場も同様で、燃え盛る炎のなかで冷静にあらゆる炎を打ち消す氷の魔剣、炎凍剣(フレイム・デリート)のひと振りよって一瞬で炎を鎮火させた。

 兎にも角にも、この長い一夜の事件はついに終わったのである。

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様」

 

「……風呂入って寝たいっす」

 

 煤だらけのダイスケと木場は、笑顔のリアスに出迎えられた。そこには皆無事に居た。どうやらレイナーレの手下の残党については杞憂に終わったらしい。

 見ればイッセーはアーシアの神器による治療を受けており、痛々しい傷のほとんどは見事に塞がっていた。

 

「ありがとうな、アーシア。助けるつもりのはずが、逆に助けられちまった」

 

「そんなことないです。あのままでは、私は本当に死んでしまうところでした。でも、イッセーさんたちに助けてもらって本当に嬉しかったです。だから―――」

 

 すべての傷を治癒し終えたアーシアは皆に向かって言う。

 

「―――こんな私を助けていただいて、本当にありがとうございました」

 

 小さな頭が流れるような金髪とともに下げられた。これを見て、ようやくこの一件が片付いたとイッセーは胸をなでおろす。

 

「そういえば部長。俺の神器、形が変わっちゃってるんですけどなんなんですかね?」

 

 見れば確かにほんの数分前と比べて圧倒的に存在感が増している。比較的シンプルであった先のデザインと比べても全体的にビルドアップしていた。

 

「なんか、レイナーレが神滅具(ロンギヌス)とか言ってたんですけど、わかります?」

 

「“神滅具《ロンギヌス》”ですって? それにその赤い龍の波動……そう、そういうことだったのね!」

 

 答えにたどり着いたリアスは、まるでクリスマスの朝に自分宛のプレゼントを見つけた子供のように輝いている。

 

「これはとんでもない拾い物ね……ねぇ、イッセー。あの堕天使、貴方の神器を龍の手(トゥワイス・クリティカル)と言っていたんじゃない?」

 

「はい。持ち主の力を倍加するだけのありふれた物だって……」

 

「なるほどね。でもこれはもっと凄い物よ。あなたの神器は持ち主の力を“十秒ごとに”倍加させ、魔王や神をも滅ぼす力を齎すと言われている一三種の神滅具の一つ……『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』」

 

「そんな、神をも滅ぼすという代物が彼に……!!」

 

 驚いているのは朱乃だけではない。事情を知らないイッセーとダイスケだけが置いていかれているだけで、他の物は皆一様に驚いていた。

 

「どんなに強力でもパワーアップには時間が必要だから、決して万能ではないけどね。相手が油断していたから勝てたようなものよ。肝に銘じておきなさい、イッセー」

 

 はぁ、とイッセーは自分の左手をまじまじと見つめる。

 まさか自分の身にそんなとんでもない力が宿っているとは思いもしなかったが、結果的にこの赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)のお陰で命拾いをした。

 

「……どのくらいすごいもんなの?」

 

 いまいちその凄さを実感できないダイスケは木場に問う。

 

「そうだね、僕やアーシアさんの神器と比べても格が違うね。君に分かりやすく言うなら、戦闘機一機と戦略核兵器くらい違うかな」

 

「相当ヤバイじゃねぇか!! そんなもんこの性欲の権化に使わせたら何しでかすかわからんぞ!?」

 

 この時思いついたダイスケの想像するイッセーの姿は、力を利用して世界中から美女を強奪したり、自分以外の男どもを皆殺しにして好きなように女をとっかえひっかえする極悪非道イッセーであった。

 

「おい! 今一体なにを想像した、お前!?」

 

「お前がオーマジオウ以下の史上最低最悪のハーレム魔王になる姿」

 

「どんな極悪人!? つーか、お前の想像しそうなことはしねぇよ! 流石に!!」

 

「……正直、信じられないですね」

 

 小猫とダイスケの痛い視線がイッセーに突き刺さる。

 

「まあ、そうなる前に私がイッセー君を調教するという手もありますわね」

 

「やべぇ、なんでかしらんけど朱乃さんが滅茶苦茶頼もしく見える」

 

「すいません、俺のMは開花させないでください……!」

 

 そのやりとりの様子を笑って見つめるリアスだが、気がかりなことが一つあった。

 

「……ねえ、貴女はこれからどうするつもりなの?」

 

 リアスが尋ねるが、これはイッセーも心配していたことだった。

 

「まだわかりません、でも、皆さんとはお別れしなければならないかもしれません」

 

「―――なんでだよ!? 俺たちと一緒にいればいいじゃないか!!」

 

 イッセーが大声を上げる。

 

「また似たような奴らがアーシアを狙うかもしれないんだ。そうしたら、今度は本当に死んじゃうかもしれないんだぞ! 俺たちと一緒にいようぜ、な!?」

 

 その言葉に、喜びの表情を浮かべるアーシアだが、悲しげに首を横に振る。

 

「イッセーさん、私はどこまで行ってもクリスチャンなんです。生まれた時からこの道しか知らないし、今更ほかの生き方も見つけられません。そんな人間がイッセーさんたちの世界にいってもお世話になった皆さんに迷惑をかけてしまうだけです」

 

「で、でも……」

 

「勿論、助けていただいたお礼は一生をかけて必ず返させていただきます。でも……やっぱり教会の人間と悪魔は一緒になっちゃいけないんです。そしたらまたあの時と同じようなことに……」

 

 イッセーは思い出す。アーシアがなぜこの地に訪れたのか、なぜ協会を追放されたのか。

 本来交わってはいけないものがかかわり合いを持ってしまったために、今回の事件の切っ掛けの一つが出来てしまった。そのことを考えれば、早々ににアーシアはイッセー達悪魔との関わり合いを絶ったほうが後々波風が立たなくて済む。

 だが、そこから先は死ぬまで孤独の道だ。教会からは迫害され、堕天使から神器を狙われる日常が待っている。そう思うと、イッセーはどうしても伸ばした手を引きたくはないだろう。

 しかし、どうしても抗えない大きな壁が立ちふさがる。それは長い歴史の中でどうしようもない程大きく育ってしまった壁。ただの一個人が抵抗してもどうとなるものではない。そのことを考えると、自然とイッセーの伸ばした手も躊躇いがちになってしまう。

 

―――アーシアの言うとおりなのか。

 

 一瞬、諦めかけたイッセーだが、そこへ救いの手が差し伸べられる。

 

「ねえ、貴女お礼はするっていたわよね?」

 

「は、はい、グレモリーさん」

 

「じゃあ、これは知ってる?」

 

 そういうリアスの手に握られていたのは赤い僧侶(ビショップ)の悪魔の駒である。それを見たイッセーは何かを悟る。

 

「ぶ、部長! まさか……!?」

 

 驚くイッセーにいたずらっぽい笑みで返すリアス。

 

「これは悪魔の駒(イーヴィル・ピース)という上級悪魔が他者を眷属にするために使うものよ。これを用いて契約すれば、他種族を悪魔に転生させることもできる……イッセーみたいにね?」

 

そこでようやくアーシアもリアスが何を言おうとしているか理解したらしい。

 

「あの……それって……!」

 

「貴女の神器の力はとても魅力的なもの。それを私の手のうちに置いておけるのならこれほど嬉しいことはないわ。お礼がしたいというのであれば、貴女の力と命を私に預けてくれないかしら。勿論、貴女の意志は尊重するわ」

 

 突然現れた第二の選択肢に戸惑うアーシア。だが、この選択肢ほど魅力的な選択肢があるだろうか?

 

「……いいんですか? 私が、イッセーさんのそばにいても……?」

 

「それも貴女の選択次第よ」

 

 もはや迷うことなど、アーシアの中にはなかった。

 

「……私、悪魔になります。いえ、私を皆さんと、イッセーさんと一緒の所に居せさてください!!」

 

 そのアーシアの瞳には涙が浮かんでいる。だが、これは悲しみの涙ではない。

 なぜならこんなにも晴れやかな表情をした者が、悲しみの涙を流すはずがないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございまーす」

 

 日曜だったが、イッセーは部室を訪れていた。

 

「おはよう、イッセー」

 

 既に部室にはリアスがいた。手にティーカップを持っている。

 

「ちゃんと来たのね。傷はどう?」

 

「アーシアのお陰で、俺もダイスケの傷も完璧に治りました」

 

 イッセーがリアスの向かいのソファに腰掛ける。

 

「ふふ、僧侶(ビショップ)として早速頑張ってくれたわけね」

 

「あの、部長。眷属ってこれからも増えていくんですよね。残っている悪魔の駒は、戦車と騎士が一つずつと、後は兵士が七つ……。ということは、俺と同じのがあと7人ふえるってことですか……?」

 

「え?」

 

 紅茶を飲むリアスの手が止まり、一瞬だけ戸惑う。が、一度溢れ出したイッセーの不安がそれに止まることなく流れ出てくる。

 

「いや、仲間が増えていくのは嬉しいっすよ? でも、ダイスケの奴も転生したりして、ライバルが増えていくのはなぁ……なんて。って、何言ってんだよ俺」

 

 ふとイッセーが不安に俯いた顔を上げると、リアスの意表を食らった顔が見えた。

 

「い、いや! 冗談すよ、冗談!!」

 

 イッセーの不安がなんなのか理解したリアスは、ティーカップを受け皿の上に置く。

 

「私の兵士はイッセーだけよ」

 

「え? あの、それって……」

 

 リアスは立ち上がり、イッセーの座るソファーの肘掛に腰掛ける。

 

「悪魔の駒を使って人間を転生させるとき、その人の能力や才能によって消費する駒の数が変わってくるの」

 

「え、じゃあそれって……って、うわ!」

 

 流れるような動作でイッセーの背後に廻り、リアスがその背中を腕の中に収める。無論、その豊満なバストがイッセーの背中に柔らかく当たっているのは言うまでもない。

 

「あなたを転生させたときに持っていた悪魔の駒は、戦車、騎士、僧侶が一つずつ。そして兵士が八つ。その八つの兵士の駒を全て使わなければ、あなたを転生させることができなかったの」

 

「お、俺一人に八個も使ったんですか!?」

 

 顔を真っ赤にしているイッセーをよそに、リアスは続ける。

 

「そんなポテンシャルを持つ人間なんて滅多にいないわ。だから、私はあなたに賭けた。神滅具を持つあなただから、今回のような事があったわけだし、その価値があったの」

 

「俺の神滅具……赤龍帝の籠手」

 

「それと、ダイスケが眷属にっていう話だけど、それはないわ。安心しなさい」

 

「え!?」

 

「昔ね、試してみたのよ。寝ているあの子に駒が反応するかどうかね。そしたら、何度やっても駒が反応しなかった。いえ、彼の肉体自身が駒を撥ね退けたと言った方がいいわね。」

 

「そんなことがあったんですか……」

 

 取り敢えずダイスケがライバル候補に成りうる可能性が消えたことにイッセーが胸を撫で下ろすと、リアスがイッセーの顔を引き寄せた。

 

「な、な、な、な……!」

 

「紅髪の滅殺姫と赤龍帝の籠手。紅と赤で私たちの相性はバッチリね?」

 

「え? あ、ああ、そうっすね……」

 

「最強の兵士を目指しなさい。だって、私の可愛い下僕なんだもの」

 

「最強の兵士……なんていい響き!! 部長、俺……」

 

 部長のためにも、自分の野望のためにも頑張ります! と言いかけた時だった。

 イッセーの額になにか柔らかいものが触れる。なんだろうと顔を上げると、リアスがイッセーの額に口付けをしていた。

 口付け。

 接吻。

 キス。

 一瞬、何が起こったのかわからなくなった。

 完全なる思考停止。

 またはthe world(時よ止まれ)。

 脳内のCPUが再起動し、状況の把握に数十秒かかる。その演算処理の途中に、唇が離れた。

 その一連の動作から、イッセーはようやくリアスが自分の額にキスしたのだと理解した。

 

「ぶ、ぶ、ぶ、ぶ、部長!? これは一体!?」

 

「あなたが強くなれるように、という意味のおまじないよ。励みなさい、イッセー」

 

「うおォォォォ!! 部長! 俺頑張ります!!!」

 

 またイッセーのスケベ根性に火が付いた。だが、今回はそれだけではない。自分のことを期待してくれる人がいる。その期待に応えたいという、純粋な向上心も芽生えたのだ。

 

「と、あなたを可愛がるのもここまだでにしないと。私とあなたが新人の子に嫉妬されてしまうかもしれないから」

 

「へ、嫉妬?」

 

 すると、背後から視線を感じて振り返る。

 

「い、イッセーさん……そ、そうですよね。リアスさん……いえ、リアス部長は素敵な方ですし、それはイッセーさんも好きになってしまいますよね……。ああ! ダメダメダメ! 邪なことを考えては! 主よ、私の罪深い心をお許しに……はぅわ!!」

 

 祈るアーシアが突然頭に痛みを感じ、そこを押さえてしゃがみ込む。

 

「お、おい! 大丈夫か、アーシア!?」

 

 イッセーが心配になって駆け寄り、バランスを崩したアーシアを支える。。

 

「急に頭痛が……?」

 

「当たり前でしょ、あなたは悪魔になったのだから。神に祈る悪魔はいないわ」

 

 リアスが呆れてアーシアに教える。

 

「そうでした……私、悪魔になっちゃたんでした……」

 

「後悔、してる?」

 

 その問いにアーシアは明るい顔で答える。

 

「いいえ。どんな形であれ、イッセーさんや皆さんと一緒にいられるのですから」

 

「アーシア……あれ? そういえばその格好……」

 

 イッセーがあることに気がついた。アーシアが駒王学園の制服を着ているのだ。

 

「あ、似合っていますか?」

 

「……ってことは、この学園に?」

 

「はい! リアス部長の計らいで!」

 

「前に言ったでしょう、私の父はこの学校の経営に携わっているからこのくらいなんてことないわ」

 

「……流石、貴族。やることが半端じゃない……」

 

 改めて権力というものの持つ力に圧倒される。だがそのお陰でアーシアと共にいられるのだから悪いことではない。

 それについては本当に感謝しきれないが、これからの長い悪魔としての生涯をかけて還していこうとイッセーは誓う。

 

「おはよう、イッセー君」

 

「おはようございます、イッセー先輩」

 

 木場と小猫が入ってきた。

 

「おう……ってあれ? なんで名前呼び? 昨日は苗字で呼んでただろ」

 

 突然の変化にイッセーは驚く。その疑問に木場が答えた。

 

「うん、やっぱり仲間になったわけだしね。堅苦しい苗字呼びはやめにしようって小猫ちゃんと決めたんだ。勿論、ダイスケ君のこともね」

 

「……木場先輩が言うから仕方なく、です」

 

 小猫がボソッと不服そうに呟く。やはりまだどこか気恥ずかしいものがあるらしい。

 

「そうだな……改めてよろしくな、木場、小猫ちゃん!!」

 

「あらあら、青春していますわね」

 

 そこへ朱乃が何かを押して入室してきた。その何かとは―――

 

「……ごめんなさい、もうしません許してください」

 

 介護用のリフトに逆海老反りで吊るされているダイスケだった。

 

「だ、ダイスケェェェェェエエエエエエエ!? お前、なんでこんなうらやま……ゲフンゲフン、ひどいことに!?」

 

「それはもう、昨日の独断専行が原因ですわ。上手くいったから良かったものの、死者を出してしまう可能性も十分にあったのですから」

 

「朱乃に頼んで正解ね。本人もすっかり反省しているみたいだし」

 

「……ごめんなさい、もうしません許してください」

 

 同じうわごとの繰り返しである。よほどひどい責めを受け続けたのであろう、完全に憔悴しきっている。

 

「すげぇ、あいつがたった一夜で……」

 

「あ、あの、リアス部長、大丈夫……なのでしょうか?」

 

「心配しなくても大丈夫よ。朱乃だって手加減はできるもの」

 

 つまり、手加減をしてコレである。本気を出したときのことが恐ろしくて堪らないイッセーだが、突然だれかの携帯が鳴った。

 

「あの、朱乃さん。俺の携帯が鳴ってるんですが出てもいいでしょうか……?」

 

「ええ、いいですわ。でもこれからアーシアさんの歓迎会ですから早く帰ってきてくださいね」

 

 そう言うと朱乃は複雑に絡み合う荒縄を一瞬にして解き、ダイスケを解放する。

 

「……ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます」

 

「いや、早く行けよ」

 

 イッセーのツッコミを背に受けて、ダイスケは部屋を出る。

 

「……ごめんなさい、もうしません許してください」

 

『おい、声がおかしいことになって変なことを口走っているが大丈夫か?』

 

「……桐生義人、か?」

 

『ああ、先日は世話になった。』

 

 まったくもって意外すぎる人物からの電話だった。しかも、ダイスケは携帯電話のアドレスを教えた覚えはない。

 

『突然電話して悪かった。ああ、番号はこっちで勝手に調べさせてもらったから気にするな』

 

「気にするわ。個人情報ダダ漏れじゃねぇか。……それで何の用だよ」

 

『アーシア・アルジェントについてだ。彼女、悪魔になったのだろう?』

 

「知っているのか?」

 

『いや、単なる予想だ。彼女が置かれた状況を考えれば、それが一番良い道だからな』

 

 またもやダイスケは予想を裏切られる。堕天使上層部直轄のエージェントなら「即刻抹殺すべき」などど言うかと思ったからだ。

 だが、悪魔側の人間の企てに協力するような男ならばその程度のことは瑣末なことなのかもしれない。

 

『俺に今回の指令を与えた方も今回の決着に納得していたよ。むしろその方がほうが幸せだろうと。』

 

「へぇ、随分と心が広い御方だな。」

 

『俺もそう思う。だが、このとこは他言無用だぞ。あくまで個人的な意見だ。俺たちは未だ対立中なのだから』

 

「わかってるよ。むしろ俺が感謝したいくらいだ。お前がいてくれて本当に助かった」

 

『お互い様さ。言いたかったのはそれだけだ、じゃあ、また会おう』

 

 それだけ言い残し、義人は電話を切った。まさか敵対者から感謝される事態が起きようとは。

 アーシアの身の上を聞いたときは教会側はおろか堕天使勢力にもに殺意さえ覚えたものだが、こういう人物がいるのならまだ救いはあるのかもしれない。

 そう思って携帯を閉じようとした時、メールが受信されていたことに気付く。

 

「イッセーから?」

 

 その内容はただ一言、「はよ来い」だった。

 

「……馴れないけど歓迎会、いっとくか」

 

 いい加減他人と距離をとるのも卒業かな、と思うダイスケであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、今は対立中の三大勢力。だがいずれはこの状況を打開するためにもアザゼル殿達は和平の道を選ぶだろう。……だが、そうだとしても俺は……アイツと……!」

 

 いずれ、その銀は黒との対決を臨むのである。

 




 はい、というわけでVS08でした。
 流れは変わってもやってることは変わっていなかったので結局お仕置きされるダイスケなのでありました、チャンチャン。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS09 モテる奴はみんな燃えて灰になれ

 はい、私怨たっぷりのサブタイでございます。
 そして……艦これのイベント中だからといっていつから更新しないと錯覚していた?
 今のところE1を甲、E2を乙でクリアしています。まあ、ここからずっと丙でしょう。クリアと新艦娘ゲットが最優先ですから。今日からE3に突入します。


 イッセーは、夢の中にいた。親友三人が何か叫んでいる。悔し涙を流しながら、怨嗟のこもった罵詈雑言を投げている。

 何がなんだかわからない。よく見ると、自分の服装が結婚式で新郎が着るようなタキシードを着ている。そしていつの間にか隣には、純白のウエディングドレスに身を包んだリアスの姿が。

 よく見れば教会の中で、後ろの席には感動で涙ぐむ両親や親戚、クラスメイト達までいる。そして自分とリアスの薬指には、プラチナカラーの指輪がはまっている。どこからどう見ても結婚式。それも、自分とリアスの。

 混乱するイッセーをよそに、式はどんどん進行していく。そしてついに来た。誓いの口づけの時が。

 いま、目の前にあるのはヴェールを被ったリアスの端正な顔と、自分に向けられたその形の良い唇。

 いっていいんだよな。いいんだよな!?そう、結婚すればその先にあるのは子作り!!yes!!KODUKURI!!どうせそこまで行き着くのであれば、キスぐらいなんだ!!漢だイッセー、漢を見せろ!!会場にいる奴らよ、俺とリアスの愛の誓いの印をとくと見さらせい!!

 さあ、唇同士が触れ合うまであと30cm、20cm、10cm、1cm、1mmィィィイイイ!!!

 

『随分と盛り上がってるじゃあないか、ええ? 糞餓鬼』

 

 不意に野太い声が響き渡る。すると、会場も、客も、リアスも全て暗闇の中に消える。代わりに現れるのは、渦巻く炎と爛々と輝く双眸。

 

「今の声、どこかで……」

 

『そう、俺はお前の中にいる。不服だがな』

 

「だ、誰だ!?」

 

 炎の勢いがさらに激しくなる。

 

『俺だ! 俺はお前にずっと話しかけていた。だが、お前が弱小だったから声が届かなかっただけだ。……それなりに鍛えてはいるようだがな。だが、まだ遠い』

 

「な、何を言ってるんだよ!?」

 

 徐々に炎の中に何かいるのがわかってくる。

 

『挨拶をしておいたかっただけさ。これから共に戦うことになる“相棒”にな。まあ、お前の友の方が余程良い器だったようだがな。文句は言ってられん』

 

「相棒って、お前は一体……!?」

 

『お前はもうわかっているはずだ。……そうだろう? 我が相棒よ』

 

 刹那、左腕に激しい痛みが襲う。自分の意思とは関係なく現れる神器。そうだ、あいつは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある平日の朝。ダイスケは普段どおりに校門を潜る。

 

「ふわぁ~あ……ねみぃ」

 

 アーシアが眷属となって、既に一週間が過ぎた。根が純粋かつ愛らしい容姿のアーシアは、すぐさまクラス内に溶け込んでいった。

 不安要素は松田と元浜だったが、アーシアの純粋オーラに圧倒されてエロい話題を振ってくることはなかった。それどころか普通に友達になっていった。女子のエロ巨塔である桐生もともいつの間にか仲良くなっていた。どうやったら清純な人間と不純な人間が仲良くなれるのか不思議だが、これも彼女の人徳ということか。

 そしてここからが重要なのだが、アーシアはイッセーの家にホームステイという形で同居している。そう、ひとつ屋根の下にいるのだ。

 ダイスケがイッセーから聞いた話なのだが、当初イッセーの両親はアーシアの同居に反対だった。「イッセーという性欲の権化がいる限り、アーシアの身の安全は保障できない」というのが理由だった。このことを話していたイッセーは、「おれ、両親に今までどういうふうに思われて育ったのか、齢十六にして初めて知ったよ……」と遠い目をしていた。それを聞いたダイスケは「的を得てるんじゃ」と思ったが口にはしなかった。だが、この提案をしてきたリアスがとんでもない解決方法を提示してきた。

 それは、「このホームステイを花嫁修行と思ってはどうか」ということだった。それをイッセーの両親が花嫁修行=アーシアがイッセーの嫁に、というK点超えの誇大解釈をしたのだ。

 そしてイッセーの両親は、孫の顔を拝めると言ってこれを快諾。まあ、アーシア自身の人当たりの良さもあって、今のところ問題はない。イッセーの方もチラシ配りを卒業し、悪魔家業に少しづつ慣れてきている。顧客対応の良さからお得意先が増えているのも確かだ。……なぜが変人が多いのが疑問だが。鎧甲冑姿の女子大生然り、自称魔法少女ミルたん然り。

 ついでに神器持ちの匙元士郎をはじめとした学校内の悪魔関係者とも顔見知りになった。ダイスケが悪魔家業の手伝いを続けていることも含め、取り敢えずそんなこんなで順調に順応しつつあるイッセー、アーシア、ダイスケの三人だった。

 そんないつもと変わらない日常を過ごそうとしていたダイスケを、イッセーが待ち構えていた。

 

「ダイスケ、ちょっと来てくれ」

 

 いつにない真剣な面持ちだ。何かあったのかと、ダイスケは怪訝そうな顔になる。

 

「なによ」

 

「いいから」

 

 そうしてダイスケはとある空き教室に連れて行かれる。

 

「どうしたんだよ、こんなとこ連れてきて」

 

「悪い。でも、お前にどうしても聞いて欲しい事があるんだ」

 

 幸い、ホームルームが始まるのにまだ三十分ほどある。それにこの部屋は滅多に人が来ない。他人には聞かれたくない話なのだろう。

 

「なんだよ、話って」

 

「ああ、実はな……」

 

 イッセーが本題に入る前に一拍置く。

 

「昨日の晩、俺の部屋にリアス先輩が来たんだ」

 

「……はい?」

 

「処女をもらってくれって言われた」

 

「……はい?」

 

 ダイスケの思考は停止した。今コイツは何を言ったのか?

 まさか薬物でもキメて、なにか見てはいけない何かでも見てしまったのか?

 それともまた記憶が混乱して、ありもしない出来事を語ったのか?頭がおかしくなりそうだった。

 

「イッセー、ちょっといいか?」

 

「ん? なんだ?」

 

 ややあって、ダイスケの指がイッセーの頬を思いっきり抓り上げる。

 

「いダダダダダダダダ!!! なにふゅんふぁよ!?」

 

「あー、夢を見ているじゃないのか。じゃあ、俺の頭がおかしくなったんだな」

 

 指を離したダイスケは、そのままコンクリートの柱に頭を打ち始める。

 

「ダイスケェェェェェ!?」

 

「目を覚ませェェェ!! 今すぐ目を覚ませェェェェ!! あれ、なんで夢が覚めないんだ? 死ね、俺ェェェェェ!!!」

 

「やめろ、ダイスケ!! なんか途中から方向性がおかしくなってるぞ!? ……って、柱にヒビがァァァァァ!!」

 

 イッセーの言う通り、柱に放射状のヒビが走り始める。おまけに粉がパラパラと零れ始めた。

 

「おい、マジでやめろ!! 学校が壊れる!!」

 

 そう言ってイッセーはダイスケを羽交い絞めにする。不思議なことに、その額には傷一つついていない。が、止めるのに必死でイッセーがそれに気づくことはなかった。

 

「お前が変な嘘を言うからだろ!」

 

「嘘じゃねぇって!! マジでリアス先輩に夜這いされたんだよ!!」

 

 確かに嘘ついてまで語る内容の話ではない。それに無いとは言え、ダイスケがこのことを吹聴すれば学園中の生徒がイッセーを文字通り袋叩きにされるだろう。嘘をついてダイスケをおちょくるには高すぎるリスクだ。

 

「……まあ、それが真実だとして、最後まで行ったのか?」

 

「いや、いざ本番って時にリアス先輩の実家から銀髪のメイドさんが「話がある」って現れて、おじゃん。グレイフィアさんって人だった。」

 

「ああ、グレイフィアさんか。その人は知ってるわ。……ああ、そうか。あの人も悪魔だったか」

 

「知ってるひとだったか。で、そのグレイフィアさんと一緒に帰っていったよ。だけど、アーシアに見つからなくて良かったぜ。錯乱するかもしれないからな」

 

「お前、言い方が二股バレるのを気にしている男みたいだぞ」

 

 そう言いながらも、ダイスケは考える。リアスがイッセーに夜這いをかけた理由とは。

 グレイフィアの要件。 

 そしてリアスの立場。

 そこである可能性にたどり着く。

 

「ひょっとしたら、リアスさんの実家に関わる用件かもな。それも、お家存続に関わるような」

 

「あ、そういえば部長って、グレモリー家の次期当主とかだっけ。……ありうるな」

 

「この件を他に知っているのは?」

 

 うーん、とイッセーは記憶をたどる。

 

「そういえば、朱乃さんが話に同伴するって言ってたな。女王は主のそばにいるもの、とかで」

 

「なら、放課後に朱乃さんに聞くか。いずれにしろ、何かあるのは間違いないぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。イッセー、ダイスケ、アーシア、それに小猫と木場が一緒に部室のドアを開けた時、件のメイドがいた。

 

「お久しぶりです、ダイスケ様。かれこれ五年ぶりでしょうか」

 

「それくらいになりますか。お久しぶりです、グレイフィアさん」

 

 普通に目の前の銀髪メイド、グレイフィアと会話するダイスケの様子を見て、イッセーは木場に尋ねる。

 

「な、なんか普通に会話してるけど……」

 

「ああ、ダイスケ君はグレモリーの方とは大体顔見知りらしいよ。立場的には食客みたいなものだから」

 

 なるほど、と納得するイッセーを他所に、ダイスケとグレイフィアの会話は続く。

 

「そういえば、あの娘とも五年ほど会っていないのではないですか?」

 

「ああ、あいつですか。確かにそうですね。元気にしています?」

 

「ええ、元気にやっています。相変わらず症状は出るのですが……」

 

「そうですか。そういうところは相変わらずか……」

 

 遠い目をするダイスケだが、話が飲み込めず、イッセーはうろたえている。その様子を見たリアスが話を切り出す。

 

「イッセー、昨晩は迷惑かけたわね。事情が飲み込めないでしょうから、説明するわ」

 

「お嬢様、わたくしから説明いたしましょうか?」

 

「いいえ、私から説明するわ。実は……」

 

 リアスがそう言いかけた時、部室の空いているスペースに魔法陣が浮かび、赤い焔が立ち上がる。その中に、ひとりのホスト風の男が立っている。

 

「フェニックス……」

 

 リアスが72柱の悪魔の名の一つを口にする。ということは、この男は悪魔の貴族ということになる。

 

「ふぅ……人間界は久しぶりだ。会いに来たぜ、愛しのリアずァァァアアアア!!!???」

 

 ダイスケが、消化器の中身を男に向けてぶちまける。

 

「貴様、いきなり何を……って、のわぁぁぁあああ!!!」

 

 ダイスケは消化器の中身が無くなった事を確認すると、今度は消火栓から男に向けて放水する。

 

「しっかりしろぉぉぉぉぉぉぉ!! 今すぐ助けてやるからなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 

 

 どうやらダイスケは盛大な勘違いをしているらしい。

 

「鎮火したか。ふぅ、いいことした……」

 

 鎮火というか、原因となった男が消火剤と水をかけられていただけだ。火そのものは男が喋り出した時に消えている。

 

「なにが「いいことした」だ! 初対面の者にいきなり放水するか!? 一般常識というものがないのか貴様!!!」

 

「あ、元気そうだ。いやぁ、無事で何より」

 

「あ、どうも……じゃない!! あの炎は俺から出ている炎なんだ! 何してくれる、貴様!?」

 

「え、なに、あんた自分で燃えてたの? なんだ心配して損した。謝れよ、俺に」

 

「何が謝れだ! 常識が無い貴様に謝る必要は無い! つーかお前が謝れ!!」

 

「常識がないのはあんたでしょ。この旧校舎は木造なんだぞ。そんなところで火遊びしたら大火事だ。その際の弁償とかできるの、あんた? 大体、人死にが出たらどうするんだよ」

 

「移動用の陣から出る炎はものを燃やさないんだよ!! これだから下賎な人間は!」

 

「木造建築内で盛大に炎を上げるような、一般常識がない奴に言われてもね」

 

「なんだとぉぉぉぉおおおお!?」

 

「……あの、この人誰なんですか?」

 

 目の前のやり取り呆れたイッセーは、ショックで白目になっているグレイフィアに問う。

 

「……え!? え、ええ、この方はライザー・フェニックス様。純潔の悪魔であり、名門フェニックス家の御三男」

 

「……この人が、ですか?」

 

 イッセーは全身が消火剤と水にまみれた目の前の男を指差す。ダイスケといがみ合っている現状を見て、信じられないのは仕方ないだろう。

 

「……はい。そしてグレモリー家の“次期当主”の婿殿。つまり、リアスお嬢様のご婚約者様であらせられます」

 

「……これで?」

 

「……はい」

 

 人間も悪魔も、認めたくない現実というものはある。だが、それを認めて初めて前に進んでいける。取り敢えず、イッセーはそういうことなのかと納得する。まあ、納得できないところもあるが。

 そう、この軽薄そうな男がリアスの婚約者であるという事だ。リアスもそうなのか、ライザーを不服そうに睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、リアスの女王が淹れてくれた茶は美味しいものだな」

 

 ライザーは既に濡れた服を自身の炎が放つ熱で乾かしていた。今はリアスの隣に腰掛けた上でその背中に腕を回し、空いた手で紅茶を飲んでいる。

 無論、リアスは嫌悪感を顔に出しているがお構いなしだ。

 

「痛み入るお言葉ですわ」

 

 朱乃の対応はいつもと変わらないが、普段の彼女を見ているイッセーとダイスケには彼女が表面上でしか取り繕っていないことが手に取るようにわかる。

 

(こんなにいけすかねぇ野郎が、本当に部長の婚約者だっていうのかよ……!)

 

 イッセーの怒りは正当なものだった。

 明らかな嫌悪を表されているにもかかわらず、ライザーはしつこくリアスの髪を触り、あまつさえスカートから伸びる素足の肌に触れている。

 

(おさわりパブかなんかのつもりか、コイツ)

 

 ダイスケの思っていることは、イッセーの思っていることでもあった。自分たちの主をこのように扱われ、怒りを感じないわけはない。それを感じたのか、リアスはライザーの手を払うがごとく立ち上がる。

 

「いい加減にしてちょうだい」

 

 ライザーは驚いたような顔を見せる。

 

「ライザー、以前にも言ったはずよ。あなたとは結婚しないわ」

 

「いよっ、さすが部長! 俺たちの気持ちを見事に代弁してくれている!!」

 

「そこにシビれる、憧れるゥ!」

 

 イッセーとダイスケの囃し立てに、リアスは咎めることもなく胸を張ったVサインで答える。だが、ライザーはそのやり取りを完全無視する。

 

「だが、リアス。君のところのお家事情は、君の我侭が通るほどの余裕はないはずだが?」

 

「家を潰すつもりはないわ。婿養子だって迎え入れるつもり。でも、それは私がともに生きたいと思う者よ。少なくともあなたではないわ」

 

「先の大戦で失われた純潔悪魔の血を守るというのは、悪魔全体の問題でもある。君のお父様も魔王サーゼクス様も、悪魔の未来を考えてこの縁談を決めたんだ」

 

 その言葉で、リアスは手を強く握る。

 

「みんな急ぎすぎるのよ……。もう二度と言わないわ。ライザー、私はあなたとは結婚しない!」

 

 はっきりと異議を述べるリアスだが、ライザーはそれに屈しない。それどころか、逆にリアスの顎を手に取り威圧してくる。

 

「俺だってなぁ、リアス……。フェニックス家の看板を背負ってここに来ているんだ。なんだったらここで、君の下僕たちを燃やしてても……君を冥界に連れ帰る」

 

 ライザーの体から、フェニックスの炎が吹き上がる。先の言葉は冗談ではない。本気だ。

 しかし、グレイフィアがそれを止めようとする前にライザーの顔に何かが張り付く。

 鶏の胸肉だった。

 部室の冷蔵庫からイッセーとダイスケが先の口論のうちに取り出して、その顔面に投げつけていた。

 

「「焼くんだったらその肉でも焼いてろ、このブァーカ」」

 

 炎が収まる。

 そしてライザーは無言で震え、顔に張り付いた生肉をはがして手の中で炎に包んで炭化させる。

 

「……もういい!! こうなれば決闘だ! 俺とレーティングゲームで勝負しろ!! 構いませんな、グレイフィア殿!? もともとここまで話がこじれたら、こうする予定だったのだから!!」

 

 レーティングゲーム。

 それは成熟した爵位持ちの悪魔たちが自分たちの眷属をチェスの駒に見立てて、ルールに則った上で行う闘い。悪魔の駒がチェスをイメージしているしているのはこれが理由だ。

 かつての大戦とやらで勢力を減退させた悪魔が、人間等を転生により強力な眷属を増やして且つ仲間を死ぬこともなく実戦経験を積める。よって現在最も推奨されている“競技”であり、実力主義の悪魔社会では成績が爵位や地位にまで大きく影響してしまう。

 既にそれは、イッセー、アーシア、そしてダイスケも聞き及んでいる情報だった。

 

「ええ。そうするようにと、私も両家のご当主方から承っております」

 

 グレイフィアが止めずにいるということは、これは最初から仕組まれていたことだったのだろう。

 リアスが家の命令に従わないのであれば、あえて決闘をさせて双方に納得のいく形で決着をつけようというのだ。

 

「だがなぁ、リアス。俺は公式戦に何度も出場し、勝利経験もある。しかし君は成人になってない関係上、一度も試合をしたことがないだろう?」

 

 圧倒的な経験差。これほど不利な条件はない。だが、それ以上の不利な要素がもう一つ。

 

「それにだ、今ここにいる面子……まあ、そこの慇懃無礼な天然パーマは人間だから除外するとしてこの五人しかいないんだろう?」

 

「ええ、そうよ」

 

「ところがギッチョン、こちらは……」

 

 ライザーが指を鳴らす。すると再び魔法陣が現れ、今度は複数の悪魔が現れる。

 

「15名!! フルメンバーだ!」

 

 それぞれの主を合わせても7対16。二倍以上の戦力差がある。しかもライザーの眷属は全員女。おまけに全員が美女または美少女。約二名の怒りを買うのに、十分な理由だった。

 

「あの野郎……部長を手込めにしようとするどころか、自分のハーレムまで!?」

 

「許せねぇ……絶対に許せねぇ!! 僻みとかじゃなく!! ああ、僻みとかじゃなく!!」

 

 この真剣な雰囲気の中で、全く空気を読まずに私怨を募らせるイッセーとダイスケ。完全にただの僻みだ。他の眷属仲間も呆れた目で二人を見ている。それを見たライザーは流石に困惑せずにはいられない。

 

「お、おい、リアス。あの二人、異様なまでに俺を睨みつけてきてるんだが。それもかなりの殺気を放っているぞ。」

 

「……私の兵士の方のイッセーの夢はハーレムを作ることなのよ。ダイスケの方は単なる私怨ね。モテないからっていうただの僻みだから無視してちょうだい。他人と関わりを持てばそれなりにモテるでしょうに……勿体ない」

 

「そ、そういうことか……」

 

 リアスの説明に納得するライザー。だが、納得してくれたからと言って目の前の不逞の輩を許す二人ではない。

 

「部長!! こんな羨まし……ゲフンゲフン、巫山戯た野郎にわざわざ勝負する必要ありませんよ!! 今、ここでぶっ飛ばしてやる!!」

 

 怒りに任せ、神器を展開するイッセー。

 

「イッセーに賛成だな。ストレートにここで戦ろうや。校庭に出ろ」 

 

 ダイスケもイッセーと同じく右手に神器を出し、拳を鳴らす。

 

「しょうがない……ミラ!」

 

 ライザーにそう言われて出てきたのは和服を着た小さな少女。手には長い棒、棍が握られている。

 

「ミラは俺の眷属の中でももっとも弱い。彼女に敵わなければ決して勝てんぞ」

 

 ライザーはいやらしい笑みを浮かべ、二人を挑発する。

 

「ライザー様、どちらから先に行きましょうか」

 

「二人同時に、というのもいいが……ここは俺に盛大な歓迎をしてくれたダイスケとやらの方から片付けろ」

 

「はッ、すぐに始末いたします。」

 

 返事と同時に飛びかかるミラ。棍を構え、ダイスケに向けて振るう。

 

「破ッ!!」

 

 狙いは腹部への突き。普通の人間ならば全く反応できないほどの速さの突きである。

 だが、この程度の突きは蝸牛の歩みの速さだ。故に難なく避け、棍を両手で掴む余裕があった。

 

「何ですって!?」

 

 いとも容易く自分の突きが破られたことに驚くミラだが、その原因が自分の放った一撃が相手を見くびったが故の甘い一撃だったからということに気づいていない。

 

「仕掛けてきたってことは、逆に自分がやられる立場になりうるって覚悟したうえだよな?」

 

 あくまで事後承諾だがダイスケは念を押す。そしてそのまま棍を上に突き上げるように一気に力を込める。するとミラは体制を崩し、重力と加えて横に倒される力に逆らいきれず倒されてしまう。

 これは立技両手取り呼吸法における杖術に対する反撃方法である。この場合、ミラはすぐに棍を捨てるべきであった。だが反撃されることを全く想定していなかったことが災いし、素人のダイスケに一本取られることになってしまったのだった。

 無論、ダイスケがこれで終わりにするはずがない。奪った棍を持ち直し、ミラが体制を整える前に―――

 

「ふんッ!!」

 

 直下にあるミラの喉に真っ直ぐ突き立てる。

 

「―――ッ!?」

 

 声を通る所をやられたせいで叫び声を出すこともままならない。それどころか筆舌し難い痛みのせいで患部を抑えることもできないでいた。

 

「……上級貴族の眷属悪魔の実力って言ってもこの程度か」

 

 ダイスケはつまらなそうに棍を捨て、足元で痙攣するミラをライザーへ向けて蹴り飛ばした。もはや女子に対する扱いではない。

 

「ミラ! ……貴様よくも!」

 

「だから、仕掛けたのはそっちだろうが。えぇ? 焼き鳥さんよ」

 

 完全に場が決裂した。こうなれば、リアスの取る道は一つしかない。

 

「……受けるわ。この勝負」

 

「リアス!?」

 

 朱乃が驚く。普段の部長呼びも忘れる程に。彼女は眷属の中で最もリアスとの付き合いが長い。貴族としての自尊心が高いのは重々承知していたが、ここまで不利な条件の勝負を受けるとは流石に想定外だった。

 そしてそのリアスの答えに、グレイフィアは頷いた。

 

「……承知致しました。今回は未成年のお嬢様が参戦されるということで、非公式戦になります」

 

「グレイフィア殿、非公式の試合ならばそこの人間も出場できるよう調整できるのではないですかな? 戦いの場でここまで受けた借りを返したい。」

 

「なりません。非公式戦といえどもイレギュラーな参加者を入れるにはアジュカ様のお手を借りなければシステムに手を加えられないのはライザー様もご存じの筈です」

 

 ダイスケに対する意趣返しができないことを知ったライザーは忌々しげな顔になる。それを見たダイスケは一瞬おちょくってやろうかとも思ったが、こちらが不利であることを思い出してを出すのをやめる。

 

「構わないわ、グレイフィア。そもそも眷属でない彼まで巻き込むわけにはいかないもの」

 

 戦力比約1:3という絶望的戦力差、そして相手は競技とは言え百戦錬磨の相手であるという不利のなか、それでも眷属であるかそうでないかという分別をリアスはしっかりと付けている。

 

「解りました。では代わりと言ってはなんですが、十日間の猶予とダイスケ様の観戦の権利をつけましょう」

 

 リアスの実直な態度のおかげで奇跡的に準備できる時間的余裕は出来た。それに、戦いの経過がダイスケの預かり知らぬところで行われるということもない。

 問題はこの与えられた時間の中でいかに戦力差を実力で埋められるようになるか、であるがその前途多難さを吹き飛ばすようにリアスは言い放つ。

 

「決まりね。待っていなさい、ライザー。あなたを消し飛ばしてあげる!!」




 はい、というわけでVS09でした。
 ゲームにダイスケが出ないのは前作と変わりませんが、ライザーのところには怪獣持ち一人もいないですからね……。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS10 修行回って突飛なものでも無い限り地味だから受けが悪い

 現在E3丙後半に突入しました。今回のイベント、結構ヌルいですが、後段がキツそうで本当に怖いです。あと、丙はフレッチャーのドロップが無いと聞いて絶望しました。
 なんで二連続で天津風が来るんだよ!? 笑ってもうたわ!
 ちなみに現在おべ様とムラビト様から評価をいただいております(あいうえお順)。評価ありがとうございます。


「はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ……」

 

 山中に続くハイキングコースの中、イッセーは重い荷物を背負って行軍している。他のメンバーも然りだが、やはり体ができていないイッセーはとりわけ苦しそうな顔をしている。

 それに引き換え、イッセーとほぼ変わらぬ量の荷物を担いでいるはずの木場は途中に生えている山菜を摘む余裕を見せている。

 

「あの、イッセーさん。少し持ちましょうか?」

 

「い、いや、いいよ……アーシアにこれ以上荷物を持たせるわけにはいかないし」

 

「そうよ、イッセー。ダイスケをご覧なさい、人間の躰であなたと同じ量に荷物を背負って息切れ一つしていないんだから」

 

「まあ、俺は小さい頃に鍛錬とか言って滅茶苦茶やられてたから。石入れたバック背負って山登るとかザラだったし。」

 

 だとしても本来ならば悪魔と人間には圧倒的な体力における地力の差というものがあるのに、ここまで差を見せられるとイッセーも悔しさに唇をかんでしまう。そのプレッシャーとここまで登ってきた疲れが相まって、イッセーの顔が苦悶に染まる。

 その様子を察したダイスケは気分転換のためにあることを提案した。

 

「そうだ、こういうときは明るい話をしてやろう。そうすればちょっとは気が楽になる」

 

「おお、いいな。どんな話だ?」

 

 ダイスケのアイデアにイッセーも乗る。

 

「これはね、私が東北の方での仕事でとある旅館に泊まったときの話なんですけどね? 夜中、布団で寝ている私の回りをバタバタバタバタ何か子供のようなモノが走り回る音がするんですよ。いやだなー、怖いなーって思っていたら――」

 

「ジュ○ジじゃねぇか! 適当男じゃ無いグッドデザイン賞を取った方の! 余計に疲れるわ!!」

 

「それでねー、私ねー、嫌だなーって考えながら目を開けると――」

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 

「……目の前にね、バタバタ走るバタ○さんが――」

 

「小猫ちゃん!?」

 

 気を紛らわすはずがツッコミのせいで余計に疲れることになったイッセーであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 道中色々とあったが、午後のはじめごろには目的地であるグレモリー家所有の別荘に到着していた。もともと人気がないところだが、周囲一帯に特殊な結界が張り巡らされているおかげで一般人にその存在を気取られる心配はない。よって派手な事をしても人目につく心配がない修行にはもってこいの場所である。

 木造の大きな建物は木材の匂いで満たされ、豪華な造りながらもここが山の中であることを思い出させてくれる。一行は一旦大きな荷物をリビングに置き、それぞれの部屋に行って一応の休憩と修行の準備をしている。男子三人は同じ部屋で寝泊まりすることが決まっており、今は汗の処理と動きやすい服装に着替えてダイスケとイッセーはベットに突っ伏していた。

 

「……スゲェ、フカフカ」

 

「……あ゛ー、疲れて寝そう」

 

 片や設備の豪華さに感動する余裕があり、もう片方は既にグロッキー状態である。到着したばかりだが、すぐに鍛錬を始めることになっているので今のうちに体力の回復を図らねばならなかった。

 

「じゃ、僕も着替えようかな」

 

 粗方の荷物の整理を終えた木場が学校指定のジャージを持って部屋付きのバスルームへ向かう。

 

「……二人共、覗かないでね?」

 

「誰が覗くか!! 殴るぞ!!!」

 

 余裕が無いイッセーは半分本気の殺意が籠った視線を向け、ダイスケは無言で枕を木場が隠れている扉に投げつけた。

 ただでさえ最近、学園のBL好きの女子たちが「イッセー×木場×ダイスケ」などといって騒いでいるのだ。変な噂が流れているのに、当の真ん中に挟まっている本人が冗談でそのテの素振りを見せるのだから堪ったものではない。どうも野獣×王子×暴走核融合炉という組み合わせが受けているらしい。野獣ならまだしも器物扱いされたダイスケは既に学園のエロ情報通の桐生の助けで彼の集団に対する報復をすると言っている。だが、地下組織と化した彼女らの殲滅は容易なものではないだろう。

 このささやかな休息の間にコンデションを整えてると、気づかない内にいい時間になっていた。約束の時間の五分前には全員がリビングに集合していて、いつでも始めていい状態になっている。

 

「さあ、修行開始よ!!」

 

 文化系に似つかわしくないリアスの掛け声がリビングに響いた。

 

 

レッスン1:剣を使ってみよう

 

 

「てい! とう! どりゃあああ!!!」

 

「よっ、はっ」

 

 力いっぱい木刀を振るイッセーに対し、木場はいとも容易く力の籠った一撃一撃をいなしていっている。

 その軽やかな剣捌きは、相手が素人だとはいえ木場が騎士(ナイト)により良く適合していることを示していた。

 

「くッ……チェストォォォォ!!」

 

 大きく振りかぶったイッセーだったが、勢いよく振られた木刀は木場に叩き落とされる。

 

「むやみに大振りするもんじゃないよ。相手との位置関係、構え方、周囲に何があるのか。視野を広げて見てごらん。そうすればどう打ち込むべきか自ずとわかってくるよ」

 

「そんなこと本当に俺にできるのかよ……」

 

 経験値や本人の技量以前に、イッセーはほんの一ヶ月前まで闘争とは縁も由もない世界にいた人間である。カーリングの選手に突然トライアスロンに出ろというようなものだ。無理に思えても仕方がない。

 今回はリアスの将来が懸かっていて本人も気合十分だとはいえ、ここまで実力差を見せ付けられると自信喪失もいいところだ。その上今はリアスから赤龍帝の籠手の使用禁止を言い渡されている今、これを用いて実力差を縮めることもできない。

 

「ちょっと変わってくれ。いいか?」

 

 見かねたダイスケがイッセーに変わるように頼む。それをイッセーは拾った木刀を手渡すことで認め、木場も無言でこれを承諾する。

 

「イッセー、まず剣はこうやって正眼に構えろ。これが一番隙がない構え方だから覚えとけ」

 

「そうなのか、木場?」

 

「そうだね。正面に構えることで大体の相手の動きに対応できるよ。例えばこんなふうに……!」

 

 木場がそのままダイスケめがけて木刀を振るう。すると見事にダイスケはその一撃を受けてみせた。

 

「さらに相手をよく見ていれば―――」

 

 加えて二撃三撃と数合ほど打ち込んでいくが、これらも尽く防いで見せた。そしてダイスケの木刀は木場の木刀を抑えて左足で木場を蹴りつける。

 

「くっ!!」

 

 ギリギリで右手によるガードで防いだ木場は、抑えられていた木刀を引き抜いて突きを入れる。

 

「!!」

 

 するとダイスケはあえてバランスを崩して背中から地面に倒れることで鋭い突きを回避した。

 すぐさま木場は木刀を逆手に持って突き立てようとするが、ダイスケは転がって退避しすぐに体制を整えなおす。

 

「……ダイスケくんって剣も使えたんだね。意外だったよ」

 

「実はお前の師匠にも少し見て貰ったことがある。剣筋が一緒だからな、すぐわかったよ。だからちょっとはかじってる。」

 

「そうだったんだ。奇遇だね」

 

「まあ、そこまで本格的に見て貰ったわけじゃ無いから兄弟弟子って訳じゃ無いからな」

 

 色々グレモリー家の家の者から教わっているとは聞いていたが、ここまでのものとはイッセーは思いもしなかった。

 流石に専門で道を極めようとしている木場には劣るのだろうが、それでも今のイッセーよりは確実に動けている。そんな木場の剣さばきとダイスケの実力に感嘆していたイッセーだったが……。

 

「あ、そうだ。どうせなら二対一でイッセーくんに教えない? ダイスケくんの分は僕が神器で作るから」

 

「いいな。ほれ、返すから構えろ」

 

 言いながら木刀をイッセーに投げ渡す。驚いたのはイッセーの方だ。よもや二人が寄ってたかってくるとは夢にも思わない。

 

「待て待て待て待て! 二人同時なんて相手できるか!!」

 

「まあまあ、打ち合った数だけ経験値が貯まるから」

 

「やったね。これで通常の二倍のスピードで成長できるよ」

 

「できるわけねぇって……あ、ちょ、ああああああああああああ!!!!」

 

 

レッスン2:魔力を使ってみよう

 

 

「そうではありませんわ。魔力は自身の体全体を覆うオーラから流れるように集めるのです。意識を集中させて、体中を流れる力をよく感じて……」

 

 ジャージ姿の朱乃が懇切丁寧に、手取り足取り説明してもイッセーの手のひらには魔力のまの字も出てこない。

 

「あ、できました!」

 

 情けないイッセーを差し置いて、アーシアが綺麗な緑色の光球を手のひらから生み出してみせる。

 

「あらあら、やはりアーシアさんには魔力を扱う才能があるのかもしれませんわね」

 

「ほ、本当ですか!? なら、もっと頑張らないとですね!」

 

 自身の知らなかった特技を見出され、アーシアは頬を赤く染める。

 負けじとイッセーも頑張ってはみるものの、なんとか出てきたそれは米粒ほどの大きさの小さな光。ソフトボール大のアーシアの魔力に比べたら微々たるものだ。

 

「では、魔力を別のものへ変換させてみましょう。私は雷に変換させるのが得意ですが、初心者は水や火の実物を動かして練習してみましょう」

 

 そう言うと朱乃は手に持ったペットボトルの水に魔力を送る。すると中の水が刃となって内側からボトルを引き裂いた。

 

「ではアーシアさんはこれで練習してみましょうか。コツはイメージを具現化させること。ああしたい、こうしたいという想像力を魔力に乗せるのです」

 

 とはいうものの、イッセーにとって想像力というものはエロ方面にのみ発揮されるものである。そんな今まで使っていた用途とは異なる使い方を今すぐやれと言われても……。

 

「(まてよ、これってひょっとすると……)朱乃さんちょっといいですか?」

 

 正直な話、アーシアには聞かれたくないようなやらしい想像であるが、ひょっとしたらと朱乃に耳打ちで相談してみる。

 

「……ああ、なるほど。イッセーくんらしくていいかもしれませんわね。なら少し待ってくださいな」

 

 そう言って朱乃は実現可能かもしれない実感を持ったイッセーをひとまず置いて、別荘へと戻る。こちらに戻ってきた時にはダンボール箱いっぱいの玉ねぎ、じゃがいも、人参を持ってきていた。

 

「じゃあ、これを全部魔力を使って……お願いしますわね?」

 

 つまり体のいい雑用である。いずれにしろすぐにアイデアを実行に移せるほど実力があるわけではない。それを考えればこの野菜たちはちょうどいい練習台になる。さあ、やるぞと息をまいたその矢先……。

 

「こんな感じ、か?」

 

 ひょっとしたら出来るかもしれないと魔術の方を練習していたダイスケが声を上げる。すると、ダイスケが空中で手を動かすたびに魔方陣が生み出される。

 

「す、すげぇ! ダイスケ、お前魔術なんて使えたのか!?」

 

「いや、なんかできるかなと思ったらできた。やってることはドクター・ストレンジのパクリだけど」

 

「ダイスケ君? 悪魔だから魔術はそれほど詳しくないとはいえ、私そんな術式の魔術見たことも聞いたことも無いんですけれど……」

 

「朱乃さんがしらない!? あ、アーシアは!?」

 

「教会でも魔術を使う方はいらっしゃいますけど、こんな魔術は……」

 

「そう? マーベルコミック読んだらしょっちゅう出てくるぜ」 

 

「……ダイスケ君、その魔術は使うのはよしましょう。何か良くないモノを呼び込みそうで……」

 

 朱乃はなにかこの世界の根幹を揺るがしかねない危険を感じて、ダイスケに魔術の使用を禁止したのであった。

 

 

 

 

 

※レッスン3:小猫ちゃんと組手並びにレッスン4:部長とトレーニングは主人公が事故ってアース616に旅立ってしまって不在のため、描写を省略させていただきます。ご了承ください。

 

 

 

 

 

 

 

 初日が怒涛のごとく過ぎたあとの修行二日目である。

 この日の午前中は体力の回復を図ることも込みで、三大勢力の各所属の特徴や基本知識を学ぶ座学であった。普段から悪魔の常識は勉強していたイッセーではあったが、それでもまだまだ勉強不足の感は否めない。それどころか総合的な知識量ならばイッセーよりもあとに悪魔になったアーシアの方がある。さらにその後の小猫と木場との組手では再びなすすべもなく組み伏せられ、深い敗北感を胸に刻まれさせられた。

 剣術において木場と一日の長どころか一生分の差があることは仕方ないが、体格で勝るはずの小猫に一発のパンチで吹き飛ばされたり片手で押さえ込まれたのはいささかショックが大きかった。それだけならまだいいが、人間であるダイスケが神器なしで小猫と渡り合っていたのを見てしまったので余計にショックが大きかった。

 

「俺って一体……何なんだろうな」

 

 寝心地の悪さで寝室から抜け出し、台所の蛇口から水を啜る。冷たい水が五臓六腑に染み渡る感覚は実に心地良かったが、胸に残る痼りは取れない。

 悪魔になった初めの内は確かに「上級悪魔になってハーレム眷属を作る」という目標の下、輝きに満ち溢れたサクセスストーリーを夢見ていた。だが、ここまで自分の実力不足の現実を見せ付けられると心が折れる。

 普通の状況であれば「駆け出しだから仕方がない。これから少しづつ強くなればいい」で済むだろう。だが、主であるリアスの人生が左右される実力者ライザーとの戦いを九日後に控えた今ではそうも言っていられない。

 

(結局俺は足出纏い、か)

 

 これが自分自身に対する率直なイッセーの評価である。自分の中に眠る赤龍帝の籠手抜きでの事とは言え、これを用いても今の自身の評価を覆せるとは到底思えないのである。

 であれば自分が果たして戦力になりうるのだろうか、本当に自分は眷属としてリアスの傍にいていいのかとついついネガティブな考えを起こしてしまう。

 

「いねぇと思ったらここかよ」

 

 物思いに耽る中、急にダイスケに後ろから話しかけられた。

 

「うぉ!? って、ダイスケか。脅かすなよ……」

 

「何してるんだよ、こんな時間に」

 

「いや、ちょっと水が飲みたくなって。お前は? なんか黄昏てたみたいだけど?」

 

 ダイスケとしては初めて見るイッセーの自信無さげな姿に驚きを覚えていた。彼が知る兵藤一誠という人物は常に明朗快活、猪突猛進を絵に書いたようなまさに竹を割ったような性格と言っていい人物である。

 そのイッセーが弱気を吐いたのだから、よほど堪えていると見える。

 

「みんなそれぞれ特技があるだろ? 剣術だったり体術だったり……アーシアには俺以上に魔力を使う才能があるみたいだし、俺って役立たずなのかなぁってさ」

  

「なるほど、それでしょぼくれてたと」

 

 イッセーは力なく頷く。

 

「まあ、確かにそうだわな」

 

 ガクッ! とずっこけそうになるイッセー。まさか慰めの言葉一つ無しで自己嫌悪を全肯定されるとは思ってもみなかった。

 別に慰めて欲しかったわけではないのだが、これはさすがにいささかショックだった。

 

「だってそうだろ? ほかの眷属のやつらはそれぞれの駒に合った力と役割があるんだ。兵士なんて基本的に盤上じゃ昇格しない限り一マスづつしか進めないんだから、お前が抜きん出た才能がないっていうのは仕方ないって」

 

「うぅ……」

 

 反論したいがグウの音も出ない。

 

「それでだ。お前はそれで「やっぱダメです」って諦めるか?」

 

「諦めるわけないだろ!! 俺は部長と『最強の兵士になる』って約束したんだ。ライザーの野郎にも負けるわけにはいかない。だから……」

 

「なんだ。あるんじゃないか、長所」

 

 え、とイッセーは不意を突かれた。一体どこに自分の特技があったというのだろうか。いくら思い返してみてもそれだと思い当たる節がない。

 

「いや、言わなくていいか。この場合は自覚しないままでいた方がきっといい方向に転がるだろうし」

 

 ダイスケはこう考える。人には二種類の『長所』があると。

 一つは自覚することで発揮される長所。もう一つは無意識に持っていることで発揮される長所である。例えば木場なら剣術への適性があると自覚した上でこの長所を伸ばし、長い時間をかけて鍛錬してきた。この場合においては自身が得意とするものを知ることによって、それを重点的に伸ばそうと人は意識し、行動することができるという特徴がある。

 ダイスケが考えるイッセーの長所とは「愚直なまでに情熱を持って努力できる」というものだ。こういった美点は自分でそうであると意識してしまった場合、本来なら更なる向上ができるところを適当な点で妥協してしまう癖がついてしまう。そして本当はもっと成長できるのに「自分が努力した」とその場で納得し、停滞してしまうのである。

 このような抽象的な長所は意識しないことによって発揮されることが多い、とダイスケは考えるのだ。だからこそ、これに関してダイスケは必要以上の助言はやめて退散しようとするのだ。

 

「あ、おい!俺の長所って何なん「あら、眠れないの?」……って、部長!?」

 

 イッセーがダイスケを引きとめようとした時、テラスにいたリアスがキッチンに現れた。二人の会話を聞きつけて何事かと様子を見に来たのだ。

 

「丁度いいや。部長、イッセーのことお願いします。なんか悩んでるみたいなんで、相談に乗ってやってください」

 

「……なるほどね。いいわ、イッセー。こっちにいらっしゃい。下僕のメンタルケアも主の仕事だものね」

 

「は、はいっ」

 

 イッセーがリアスに導かれてテラスに向かう。それを確認したダイスケは二階へと戻ろうとしたが、ここは一つイッセーに言っておこうと振り返る。

 

「あ、そうだ。おい、イッセー」

 

「ん? なんだよ」

 

「……アーシアに刺されても、俺は知らないぞ」

 

「どういうこと!?」

 

 

 

 

 

 

 翌日の早朝。

 鍛錬に入る前にリアスはイッセーに木場との軽い手合わせを持ちかけてきた。

 

「イッセー、赤龍帝の籠手の使用を認めるわ。始める前に発動させなさい。始めるのは……発動から二分後がいいわね」

 

「は、はい」

 

 訳も分からぬまま、イッセーは赤龍帝の籠手を左手に装着する。

 

《Boost!!》

 

 同時にイッセーの力が神器によって倍になる。さらに十秒事に元の四倍、八倍となっていく訳だが、実はイッセーは二分間分以上の倍化をこれまで行ったことはなかった。

 過去に一度自分がどれだけ倍加できるのか試してみたことがあったが、そのいずれもで二分間以上の倍化を行うと倍化の上限である『Burst!!』という音声が鳴って倍加が強制的にストップさせられてしまったのだった。その後、無理にを行おうとしたが体がついていかずに昏倒してしまった苦い思い出があった。

 過積載のトラックが走れないのと同じ理屈だ。これはトラック、つまりイッセーの元のキャパシティが低いためにできた無敵の神滅具の最大の弱点である。というより、イッセー自身の欠点というのが正しいのだろう。

 そういった事情を踏まえつつ、イッセーは注意しながらリアスの言う通りに二分間分、つまり十二回分の倍化を行った。

 

「よし、行くぞ!」

 

《Explosion!!》

 

 Explosion、すなわち力の爆発。蓄積されていた力が一気にイッセーの体中を駆け巡る。

 

「その状態でやってみて頂戴。祐斗、お願いね」

 

「はい、部長」

 

 主の言う通り、木場はイッセーに向けて木刀を構える。

 その場にはイッセーの分の木刀もあったが、あえてそれは拾わなかった。自身が剣を上手く扱えないのは本人も承知しているからである。

 

「それじゃあ……はじめ!」

 

 イッセーが構えたその瞬間、木場の姿が消えた。騎士の特性の超スピードによる移動である。姿を見失わせたその瞬間に勝負を決めようというのだ。

 その策に気付いたイッセーはいつ来てもいいように防御の構えを取る。その時であった。イッセーの読み通り木場が仕掛けてくるが、その一撃は左手の籠手で見事に受け止める。

 

「っ!」

 

 必殺のつもりで放った一撃が防御されて、一瞬木場は驚いた。その一瞬の隙をイッセーは見逃さず、拳を放つ。だが、拳が当たる瞬間に木場の姿は消え、拳は空を切る。

 今度は本当に見失ってしまった。左右も後ろも見てみるが、木場の姿はどこにも見えない。その時、イッセーは自分の影の形に違和感を覚える。ハッとなって上空を見上げると、そこに木場はいた。

 振り下ろされる一撃はイッセーの肩を直撃する。骨折まではいかないものの、相応の痛みを与えられてしまった。打たれた箇所を庇う間も無くイッセーは蹴りを放つがまたも躱される。

 

「イッセー、魔力の砲撃を放ちなさい! 自分が撃ちやすい形をイメージするのよ!」

 

 今のイッセーの魔力は赤龍帝の籠手の能力によってパワーアップされている。故にその大きさも米粒よりは大きくなっているはずだ。

 そしてイメージする。自分にとって最も魔力を放ちやすい姿とは。

 

(だったらやっぱり……!)

 

 その時思い描いていたのは自身が最も好きな漫画『ドラグ・ソボール』の主人公、空孫悟の必殺技である《ドラゴン波》であった。何度も何度も読み返し、小さな時に公園でゴッコ遊びをした時の思い出。いつか出来るんじゃmないかと夢見、憧れていた必殺技。イッセーが最もイメージしやすいのはこれしかなかった。

 気を手の平から放つように、魔力を取り出す。その大きさはやはり米粒大であったが、内蔵しているエネルギー量は前に出したものの比ではない。

 

「いっけぇぇぇぇぇえええええええ!!!」

 

 渾身の力でイッセーはそれを木場に向けて放り投げる。そして魔力の塊が手から離れた瞬間にそれは起きた。大きさが一瞬にして巨大な姿に膨れ上がったのだ。

 

「うわっ!?」

 

 自分で放ったものであるにも関わらず仰天してしまう。手から放たれた一撃は圧倒的威力を伴って木場へと一直線に向かう。速度もなかなかのものではあったのだが、木場は紙一重で躱してしまった。外れてしまったことでイッセーは悲観してしまったのだが、次の瞬間にはそんな悲観的思考も消え去った。

 飛んでいった先の山が爆発した。噴火でもしたのかと思ったが、どう考えても当たった山は火山ではなく普通の山だ。

 一瞬で風景が変わってしまったその威力に木場も驚いている。

 

《Reset》

 

 籠手の音声と共にイッセーの力がふっと抜ける。強化する時間が終わったのと、体内の魔力が空になった証である。

 

「そこまでよ」

 

 リアスが模擬戦の終了を告げる。

 木場も木刀を下ろすが、同時に木刀は折れてしまった。これが何を意味しているのかというと、木場はそれほど手を抜いていなかったということだ。

 実を言えば、本当は最初の一撃で終わらせるつもりだった。だからイッセーに防がれて驚いていたのだ。木刀も破損しないように木場は魔力で補強していた。それがこのざまということは、イッセーの耐久力は確実に成長しているということを意味する。

 

「さっきの一撃なら上級悪魔でも耐えられないわよ。どう? これでも自分が役立たずだって思う?」

 

 いや、ここまではっきりと今の本当の実力と可能性の伸びしろを自覚させられればもう自分を役立たずとは言えない。むしろ可能性の塊の自分を「役立たず」だの「弱い」だの言うのは贅沢というものだ。

 これで本当の意味での自信がイッセーに付いたのである。勿論、倍化中は隙だらけになるのでその対策も必要になるが、そこはチームでカバーできるし、その練習をすればいい。つまり、まだまだ強くなれる。

 決意を新たにした彼らは残りの日数も充実した修行を行い、十日間とは思えないほど密度の濃い経験値と自信をつけた。

 そしてやってきた試合当日。リアス達は―――

 

「私の負けよ……投了します」

 

 敗北した。




 はい、というわけでVS10でした。
 ダイスケがアース616にいったのには特に深い意味は無いです。ゴジラとMARVELは縁がある程度の認識でいいです。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS11 おい、パイ食わねぇか

 フハハハハハ! よもや三日連続投稿など誰も予想せんかったろうて!!
 艦これの方は順調で、今日からE4の輸送ゲージ攻略です。


 

「……なーんもやる気起きねぇ」

 

 そう言ってダイスケは楽な格好になり、ベットの上に横たわる。

 現在午後の八時時すぎ。寝るには早い時間だが、たまにはいいかとダイスケは就寝を決意する。だが、どうしても考え事が頭をよぎり、電気を消しても寝付けない。

 ダイスケが考えていたのは先日に行われたリアスとライザーのレーティングゲームの顛末だ。

 当日はダイスケも関係者ということで特別に来賓席で観戦することになっていた。その場にはグレモリー・フェニックス両家の関係者が並び、いかにも場違いなダイスケは浮いていた。観戦者の中にはリアスの兄でもある魔王の一人、サーゼクス・ルシファーの姿もあって、この縁談がどれだけ悪魔の社会に影響を与えるものなのかが伺える。

 試合内容はといえば、実力差がありながらもよく粘った善戦と言っていいものだった。

 開始早々、イッセーは合宿中に開発したという女性の衣服を剥ぎ取る『洋服破壊(ドレス・ブレイク)』なる珍必殺技で観客の度肝を抜いた。良くもあんなゲスな技を思いつくと感心しているうちに相手方の兵士三名を行動不能にし、朱乃との連携で即座に撃破したのには感心した。

 だが、その直後に小猫がライザーの女王、ユーベルーナに撃破されてから状況は一変する。高火力の朱乃がユーベルーナにかかりきりになったことで木場とイッセーの二人で残りのライザー眷属と戦うことになってしまう。

 個々の戦いそのものは着実に勝利を収めた彼らだったが、やはり多勢に無勢が仇となり続いて朱乃、木場と続けてリタイアしてしまう。その間、有利でありながらもライザーはあえてリアスとの一騎打ちを申込み、彼女はそれを受けてしまった。一騎打ちを申し込んだだけあってライザーの実力はリアスのそれを上回っており、加勢に来たイッセーも圧倒された。

 ボロボロになったイッセーの姿を見たリアスは下僕が傷つく事よりも敗北を受け入れ、縁談もまとまった。

 それから二日過ぎた現在、未だイッセーの意識は戻らず、アーシアが付きっきりの看病をしている。昨日はダイスケも見舞いに行ったが、その身に受けた傷はモニター越しに見るものよりも酷かった。無論、後日また見舞いに行くつもりだ。

 本当は本日行われる婚約披露パーティーにも招待されていたが、全く行く気になれなかった。ライザーの勝ち誇った顔を見たくないというのもあるが、それ以上に今目を覚まさないイッセーの方が気になっていた。

 そしてダイスケは考え続けている。この決着でいいのだろうか、と。

 

「……しゃーねぇなぁ」

 

 こういったとき、ダイスケはいつもあることをする。両親への電話だ。

 特殊な事情で両親から離れてはいるが、ダイスケはこうして定期的に連絡を取っている。安全のためお互いの住所は知らないが、こうして連絡だけは取れるようになってはいるのだ。

 携帯電話のアドレス帳を呼び出し、目的の番号を入力する。固定電話の番号なので時間がかかるだろうと思っていたが、二コール目で目的の人物は出た。

 

『ダイスケか? 久しぶりだな。どうしたんだ』

 

 出たのは父だった。

 

「うん、久しぶり。ちょっと訊きたいことがあってさ」

 

『なんだなんだ、金の相談以外なら何でも乗るぞ』

 

「そんなたいそうな話じゃないって……いや、なんとなく親父とお袋ってどうやって出会ったのかな、ってさ」

 

 しばしの沈黙の後、父は答える。

 

『なんだ、好きなヒトでも出来たか。参考にしたいって?』

 

「いや、そういうのじゃ無くて、ちょっと知り合いが婚約云々でトラブってるからさ。身近なヒトの結婚はどんなんだったのかなって」

 

『そういえば、そういう話は一度もしていなかったな。――話しておくか。いい機会だ』

 

 話によると、出会いは仕事場だったらしい。同期での入社で、歓迎会でたまたま隣の席だったことから知り合いになり、自然と距離が縮まって交際することになったそうだ。

 だが、交際三年目で危機が訪れる。

 父が会社の上司に見合いを勧められたのだ。相手は取引先の社長令嬢、見た目も美人で且つ先方も乗り気。おまけに出世も確約するというのだ。

 どう考えても父を人身御供にしての取引先との連携強化という前時代的なやり方で、父の意思など関係無しに話は進む。何度も父は断ろうとしたが、上司の圧力で無視され、とうとう見合い前日になった。

 父はこのことを苦渋の決断で母に打ち明けた。恐らく軽蔑されるだろう。地位と恋愛を天秤にかけ、互いの気持ちを無視して益をとろうとしたと思われても仕方が無い。頬の一つも張られることを覚悟していた。

 だが、母の答えはこうだった。

 

「貴方が望むなら、私は身を引きます。だって、貴方の幸せが一番だから」

 

 その答えを聞いた父の決断と、その後の行動は早かった。その日の夜中に辞表を書き上げ、見合いの当日に上司と社長の目の前に提出したのだ。

 今回の話は身に余る光栄である。しかし、自分には自分の幸せを願ってくれるこの世で最も大切な人がいる、とブチあげた。

 辛くもクビだけは免れたが、当然話は破談。結局その後母と結婚はしたが、会社内からは誰も祝われず最終的にその会社は辞することになった。

 だが、後悔は無かった。再就職先は良かったし、ダイスケも生まれた。紆余曲折はあったが、結果的に幸せな家庭が出来たのだ。

 

『まぁ、お前が早くに親元を離れるなんて想定外もあったけど、いい人生を送れていると思うよ』

 

「――もし、さ。その社長令嬢と結婚していたらどうだったのかな」

 

『碌な結果じゃ無かっただろうな。後で人伝に聞いたが、あの人はずいぶんと男遊びが激しいらしくて、あの後結婚したが浮気浮気の連続で碌な結婚生活を送っていなかったらしい』

 

「うわ、結果的にギリギリセーフじゃん」

 

『そういうことだ。まぁ、愛のないドライな関係のままでいいっていうのならまだしも、お互いに想い合っている者同士の結婚が一番だよ。愛が無ければ、生まれてくる子供だって不幸だ』

 

「……そっか、そうだよね」

 

『お、母さんが風呂から上がったみたいだ。電話替わるぞ。母さんとも話したいだろう』

 

「いや、今日はいいや。ちょっとやることが出来たからさ」

 

『……そっか。なら、気張ってこい。彼女が出来たら、連絡くらいはくれよ』

 

「いや、だから俺の話じゃ無いんだって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 赫く沸る炎の中。

 今、イッセーの意識は深淵の中にありながらも炎に照らされた空間の中にある。

 

『まったくもって情けないな。これでは先が思いやられる―――と言ってしまってはさすがに不憫か。お前自身はまだまだ脆弱な存在なのだからな』

 

 まったくもって言いたい放題だ。それもまるで見てきたかのように言う。

 

『ああ、俺はずっとお前を見てきた。本当は分かっているのだろう?俺がどこにいるのか。俺は何者なのか』

 

 その声はまるで心の奥底から―――否、左腕から聞こえてくるのは既にわかっていた。

 

『お前は人の身でありながらドラゴンであるという異常なる存在なんだ。これ以上無様な姿は見せないでくれ。そんな様じゃあ《白い奴》に笑われる』

 

 誰だろうか。少なくとも因縁深い相手ではありそうだが。

 

『いずれお前は奴に出会う。奴はあのフェニックスなど足元にも及ばない強さを持っている。その時までに生き延び、勝つための経験と努力を積み重ねていくといい。そうすればお前は間違いなく強くなる』

 

 想像できなかった。ライザー以上の相手が間違いなく自分の目の前に現れるであろうこと、そしてそんな相手と自分が対等に戦わなければならないことを。

 

『負けるのもいい。敗北もお前の糧となる。だが、決してそのままで終わらすな。巻き返し、ねじ伏せ、叩きのめし、見せつけろ。お前を嘲笑った者たちにドラゴンという存在がどういうものなのか刻み付けろ。そのためにも俺の力の本当の使い方を教えてやろう』

 

「なあ、教えてくれ。お前は一体なんなんだ?」

 

『ようやく訊いたな。ならば答えよう。俺は赤い龍の帝王《ウェルシュ・ドラゴン》、ウェールズの赤い龍。ドライグだ』

 

「ドライグ……赤龍帝の籠手に宿る者」

 

『そうだ。お前が望むなら、俺はいつでもお前に力を与えよう。ただし、大きな犠牲が必要だ。なに、それだけの価値はあるさ。保証しよう』

 

 

 

 

 

 

「あら、いいタイミングでいらっしゃいますね。ちょうど起きたところです」

 

 ダイスケがイッセーの家に到着するなり出会ったのはグレイフィアだった。

 

「ああ、今は入室されないほうがよろしいでしょう。アーシアさまはずっと付きっきりで看病されていましたから、積もる話もあるでしょう」

 

「解りました。でも、なんであなたがここにいるんです? わざわざここに来る俺を待ってたわけでも、イッセーを看護するためにここに居るわけでもないんでしょう」

 

「ええ。イッセーさまに会場へ直接転移出来る魔法陣を差し上げるのと、サーゼクス様からの言伝を伝えに」

 

「言伝?」

 

「ダイスケさまにもお伝えしましょう。『妹を助けたいなら、会場に殴りこんできなさい』とのことです」

 

 それを聞いてダイスケは呆れた。つまり、サーゼクスは魔王という立場でありながら政治的に複雑な利権が絡んだ今回の婚約を不意にしようというのだ。

 普通なら政治的指導者が貴族同士とはいえ婚約一件に口を出すことなどありえない。つまり、サーゼクスはいち兄としてこの婚約を阻止したいらしい。よほどリアスがライザーとの婚約を嫌がっているのを知ってるか、自分の妹が可愛いようだ。

 

「なるほど。つまりサーゼクスさん……魔王様の仕切りで婚約阻止に殴り込めってことですか」

 

「そう捉えていただいて構いません。乗るか乗らないかは当人の自由ですが」

 

「乗りましょう。俺も色々フラストレーションが溜まってたんです。でも、これだけははっきりと言わせていただきます」

 

 一拍空け、ダイスケは真剣な面持ちで言い放つ。

 

「切っ掛けはサーゼクスさんでも、これは俺たちの喧嘩だ。サーゼクスさんの仕切りでは動かない。俺も、イッセーも、気に食わないからぶち壊しに行く。そこだけははっきりさせておきます」

 

「……ええ、それで構いません。それでは。転移先には迎えの者が待っている手筈になっていますので、その者が誰にも見つからないように会場までご案内いたします」

 

 軽く会釈した後、グレイフィアはその場をあとにした。そしてダイスケが頃合を見計らってイッセーの部屋に入ろうとした時、アーシアが急いだ様子で出てきた。

 

「あ、ダイスケさん!イッセーさんが……」

 

「知ってる。グレイフィアさんから聞いた。それよりどうした?」

 

「それが、イッセーさんが私に貸してほしいものがあるとかで、急いで私の部屋から取りに行かないといけないんです。部長さんを連れ戻すために……」

 

「そうか。悪いな、引き止めて」

 

「はいっ」

 

 アーシアが行ったのを確認すると、ダイスケは室内に入る。

 

「あ、あ、ぐあぁぁあぁぁぁぁあああぁぁぁああああ!!!!」

 

 するとそこには燃える左腕を抑えて苦しみ悶えるイッセーの姿があった。その様子を見て慌ててダイスケが駆けつける。

 

「おい、しっかりしろ!!」

 

「くっ、うっ、がふっ、ううううううううううううううう!!!」

 

 倒れるイッセーをダイスケは介抱するが、イッセーは声が漏れないように額を冷やしていた濡れタオルを噛んだ。

 燃える左腕は徐々に鎮火していってはいるが、異変はすぐに見て取れた。左腕が神器を装着した時の姿になっている。いや、今まで見たのとは様子が違う。まるで生き物のような生命感があるのだ。

 

「……これは」

 

「フー、フー……ペッ。俺の腕を神器の中にいるドラゴンにくれてやった。力と引き換えにな」

 

 噛んだタオルを吐き捨ててイッセーは平然と言い放つ。

 

「くれてやったって……どういうことだよ!?」

 

『責めてやるな。コイツに考えがあるからこそ話に乗ったんだ』

 

 変化した左腕から声が聞こえる。それはイッセーの声でも自分のものでもないこの部屋にいるもうひとつの存在の声である。

 

「……誰だ」

 

『名を訪ねたくば己の名を名乗ってから……と言いたいがあいにく俺はお前のことはこいつを通じて知っているからな。俺はドライグ。赤龍帝の籠手に宿る者だ』

 

「怒ってくれるなよ。俺から頼んだ事なんだ。ライザーの野郎をぶっとばすためにな」

 

「怒りはしねぇよ。でも、なんだってわざわざ腕をドラゴンのものに変えたんだ。力がいるんだったら、純粋な体力を底上げしたほうがお前にとっちゃ楽だろ」

 

 ダイスケの言う通り、ただ力が欲しければほんの少しだけ地力の体力を上げさえすれば、赤龍帝の籠手の能力でいくらでも底上げできる。

 

『それがな、この男なかなか面白いことを考える。もうすぐあの娘も戻ってくるだろう』

 

「ああ、きっとアレがあれば……野郎に一矢報いることができる」

 

 

 

 

 

 

 

 

「“婚約”披露宴だなんていって……これじゃあほとんど“結婚”披露宴じゃない」

 

 今リアスは己の控え室にいる。もうすでにパーティーは始まっている時間だ。リアスの言うことはもっともだった。今のリアスの格好はほとんどウェディングドレスと言っていい衣装だった。

 だが、これは自分が選択した末の結果。甘んじて受ける他ないのが、今のリアスの立場だった。

 

「そう言うなよ、リアス。せっかくの花嫁衣装にそんな顔は似合わないぜ?」

 

 不意に炎が立ち上がり、中からライザーが現れる。

 

「いけません、ライザー様! ここは男子禁制ですよ!?」

 

 リアスに使えるメイドの一人がライザーの侵入をたしなめるが、それを当人は気にも止めない。

 

「硬いこと言うなって、俺は今日の主役だぜ? いや、主役は“花嫁”の方だったな。失敬、失敬」

 

「まだ花嫁になったわけじゃあないわ。……一体なんなのよ、この衣装。すぐに取り替えてもらうわ」

 

「いやいや、それでいいのさ。グレモリー家とフェニックス家が繋がれたって、より冥界中にアピールできるだろう? そして君もそれを着ることでより諦めがつく。だろう?」

 

 嫌味ったらしく言うライザーに、リアスは唇を噛む。

 

「安心してくれ。本番ではそれとは比較にならない最高の花嫁衣装を君に送るよ」

 

 そういって再び炎の中に消えるライザー。そんな中、リアスの脳裏にあったのはイッセーのことだった。

 最後まで一緒に戦ってくれた可愛い弟分にして下僕。ボロボロになってまで自分の為に戦ったイッセーのその傷ついた姿が、今でも目に浮かぶ。

 

(ごめんなさい、イッセー……。駄目な主で……)

 

 そう想いに耽るリアスに、メイドが非常にも現実の時の流れを告げる。

 

「リアス様。お時間です」

 

 

 

 

 

 

「……っと、ついたな」

 

 イッセーとダイスケが使った転移用魔方陣の光が止むと、そこは冥界の大きな屋敷の敷地の森の中だった。警備の者はここまでは巡回していないか敷地の外で警備しているらしく一人も見当たらない。

 

「確か迎えの者がって、グレイフィアさんは言っていたけど……」

 

 イッセーがキョロキョロとあたりを見渡す。するとダイスケが何かを感じたらしく、森の中の一点を見つめて言う。

 

「――そこに隠れているのは誰だ。出てこい」

 

 もしかしたら迎えの者とは別の第三者かもしれない。最大限の警戒をしていると――

 

「……その声、もしかしてダイスケ様ですか?」

 

 ガサガサと茂みを分けて進む物音とともに、一人のメイド服姿の少女が現れる。月明かり(冥界なので違うかもしてないが)に照らされたプラチナブロンドのサイドポニーが綺麗に燦めいている。

 

「もしかして……リリア? リリアなのか?」

 

 ダイスケはその少女のことを知っているらしく、すぐに警戒心を解いていた。少女の方もダイスケの姿を確認すると、一気にかけ出してその胸の中に飛び込む。

 

「ああ、ダイスケ様っ! ダイスケ様! お会いしとうございました! まさか、グレイフィア様が仰っていたお迎えするお客様がダイスケ様だったなんて!」

 

 リリアと呼ばれた少女がダイスケの胸に飛び込むと、ダイスケも快く受け入れる。

 

「おう、久しぶりだな! 俺も迎えのヒトがリリアだなんて思いもしなかったよ!」

 

「グレイフィア様もお人が悪いです。ダイスケ様がいらっしゃるのならもっと華やかにお迎えいたしましたのに!」 

 

「いや、これ一応隠密行動がメインだから。派手にされたらこっちが困る」

 

 完全に二人の世界に入って蚊帳の外にはじき出されたイッセー。しばらくこうして話し込んでいるのでしびれを切らして少女の肩をトントンとつつく。

 

「あのー、もしもし? お楽しみのところ悪いんですけど、どちら様で?」

 

「……え?」

 

 自分の肩をつついたのがイッセーだと認識すると、少女の顔が凍り付く。

 

「……い」

 

「い?」

 

「……い」

 

「い?」

 

「……イヤァァァァァァァ!!! 男ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! ――ムガムゴムグムゴ!!」

 

 拒絶の叫び。だが、すぐさまダイスケはその口を塞ぎ、羽交い締めにして抑えて黙らせる。

 

「リリア! ここではマズい! イッセー、兎に角離れて謝れ!」

 

「え、え、え? あ、あの、すんまっせんでしたぁぁぁぁぁ! なんかよくわかんないけど、すんまっせんでしたぁぁぁぁぁ!」

 

 よくわからず二メートルほど離れて土下座するイッセー。

 

「むー! むー! ……す、すみません。取り乱しました」 

 

「いや、お前の『病気』のことを失念していた俺が悪かった。イッセーも悪かったな」

 

「い、いや。その……この女性(ヒト)は?」

 

「ああ、この娘はリリア。グレモリー家のメイドさんで、俺たちと同い年。昔、俺の生活をサポートしてくれていたんだ。リリア、コイツは兵藤一誠。俺のダチで、今回のカチコミの主人公だ」

 

「さ、先程はお見苦しいところをご覧に入れてしまい申し訳ありませんでした。私、グレモリー家でメイドをしております悪魔のリリアと申します」

 

「いえ、俺も不注意でした。すいません。……ダイスケ、さっきのって?」

 

 イッセーの問いに、ダイスケは苦々しい表情で答える。

 

「ああ。この娘はな、極度の男性恐怖症なんだ。小さいとき一緒に生活していた俺は平気なんだが、他の異性にはさっきみたいになって拒絶してしまうんだよ」

 

「さ、最近はジオティクス様やサーゼクス様とは目を見てお話しできるくらいにはなりました! 他の使用人の男性とも視線をそらして話すくらいには……」

 

「でも触れたれたらアウトなんだろ?」

 

「うっ、それは……これから頑張ります……」

 

「な、なんか大変そうだな。で、どこを通っていけばリアス部長に会えるんです?」

 

「あ、そうでした! 私の後に付いてきてください。この迎賓館の構造は私はしっかり把握しております。私にも仕事があるので途中までですが……はぐれないようにしてくださいね」

 

「はい、お願いします!」

 

 と、イッセーは敬礼しようとした。すると、振り上げた手がリリアに軽く触れる。

 

「「あ」」

 

「……い、イヤァァァァァァァ!!!」

 

 

 

 

 

 

 冥界の名家同士の婚約パーティーとあって、会場は大いに賑わっている。会場には数々のドリンクや食事が並び、まさに贅の限りを尽くしたと言わんばかりの光景だ。

 だが、所詮は婚約披露宴。本当の結婚披露宴ではこれ以上の趣向がこられるはずだ。そして社交場らしく、貴族同士の会話もあちこちで見られる。こういった場における会話は、ただの世間話ではない。お互いのビジネスの近況や、政治についての意見交換もある。さらには将来のためのコネクション作りや重要な商談につながる会話も起こる。貴族社会においては往々にして、パーティー会場が政治の場になっていたりするのだ。

 そんな中、レイヴェル・フェニックスは他の眷属たちをそばに置いて、顔馴染みの貴族との談笑を楽しんでいる。

 

「うふふふ。お兄様ったら、レーティング・ゲームでお嫁さんを手に入れたんですのよ。結果の見えていた勝負でしたが、見せ場ぐらいは作ってさしあげる余裕はございましたわ。オホホホホ!」

 

 実際はそこまで余裕があったわけではないのは、実際にゲームを見ていればわかるのだが、相手は中継されていた試合を見てはいないのだろう。それを聞き手の悪魔は鵜呑みにしてしまっている。

 その姿をリアスの眷属悪魔として招待されている朱乃たちは遠巻きに眺める。

 

「これみよがしに、言いたい放題だ」

 

 タキシードでキッチリ決めた木場が苦笑する。

 

「中継されていたのを忘れているのでしょう」

 

 そこへ、ドレスで着飾った駒王学園生徒会長にして上級悪魔、そしてリアスの幼なじみにして旧友の蒼那が現れた。

 

「会長……」

 

「私は学校の関係者ということで観戦していましたが、結果はともかく勝負そのものは拮抗、いえ、それ以上のものでした。それは誰の目にも明らかです」

 

 同じ場にいた上役たちも同様の意見だったという。世辞では無い、心からの賛辞ではあるが、おそらく今の彼らには無用になる。なぜなら――

 

「ありがとうございます。でも、お気遣いは無用ですわ」

 

 朱乃のその言葉に、蒼那は怪訝そうな顔をする。

 

「多分、これで終わりじゃあない。僕らはそう思ってますから」

 

「……ええ、終わってません」

 

 木場と小猫が言い終わると同時に、壇上に大きな火の手が上がる。ライザーの登場だ。

 

「冥界に名だたる貴族の皆様方! 本日は貴重なお時間をさいて頂いてのご来場に、フェニックス家を代表して御礼申し上げます」

 

 ライザーが恭しく、会場の貴族たちに挨拶を述べる。

 

「本日お集まりいただいたのは私ライザー・フェニックスと、名門ゲレモリー家次期当主リアス・グレモリーとの婚約という歴史的瞬間にお立会いいただくためであります」

 

 その言葉をレイヴェルは誇らしげに聴き、グレモリー眷属たちは厳しい視線でもって聞く。

 

「さあ、ご紹介いたします! 我が后……リアス・グレモリー!!!」

 

 リアスの魔法陣が展開し、そこから純白のドレス姿のリアスが現れる。紅い光が収まり、リアスが目を開けようとした、まさにその時。

 突然、非常放送用のスピーカーからノイズ音が流れる。よほどの緊急時以外は使われないものだったので、会場にいる全員が何事かとスピーカーの方に注目した。

 

『あー、あー、マイクの音量大丈夫? ワン、ツー……はじめまして。私、霧m』

 

『いや、ふざけてないで早くやれよ。俺、艦これわかんねぇし』

 

『わかった、わかった。……どーも、皆さん。知ってるでしょう? 宝田大助とぉ―――』

 

『兵藤一誠でぇございます』

 

『『おい、パイ食わねぇか』』

 

 

 直後、衛兵の体がドアを突き破り、会場の中に飛ばされた。それが立てる騒音と土煙に、貴族たちが何事かと視線を突き破られたドアに向ける。

 誰もがそこに視線を釘付けにしていた。

 すべての貴族達も。

 蒼那も。

 ライザーも。

 グレモリー眷属たちも。

 そして、リアスも。

 土煙が晴れ、二人の人影が見える。そこにいたのは紛れもない、ダイスケとイッセーだった。

 

「……イッセー!?」

 

 リアスが突然のその登場に驚く。

 俺は無視ですか、と呟くダイスケをよそにライザーが立ちはだかる。

 

「おい、貴様! ここをどこだと思っている!?」

 

 それに構わず、イッセーは宣言する。

 

「俺はオカルト研究部の兵藤一誠! リアス・グレモリーの処女は……俺のモンだァァァァアアアア!!!」




 はい、というわけでVS11でした。
 今回出てきたメイドのリリア、超重要人物です。そしてヒロインです。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS12 こっちの要求を通すときは相手が有利であるように見せろ そんでもって決闘

 あーあ、やっちまった。四日連続投稿。自分史上最速ペースです。死ぬんでねぇか、俺。
 艦これの方はE4丙の輸送ルートを終わらせました。ヒューストン、攻略中に出てくれないかな……オラッ、バタビア沖棲姫! これ以上そのオウムガイの触手引きちぎられたくなかったらさっさとヒューストン出せや、オラァ!! あくしろよ!


 

「俺はオカルト研究部の兵藤一誠! リアス・グレモリーの処女は……俺のモンだァァァァアアアア!!!」

 

 その一言に、会場は騒然となった。

 

「な、何を言っているの、あの男!?」

 

 “処女”なんて日常ではお目にかかれないどころか、口にするのも憚られる言葉を放ったイッセーに顔を赤くするレイヴェルを始め、多くの貴族たちがざわめく。

 

「イッセー……」

 

 だが、リアスは別だった。生まれて初めて受ける、身分も何も関係ないイッセーからの愛の告白。彼女にはそう聞こえていた。

 幼い頃からグレモリー家の後継、魔王の妹という肩書きだけで求婚されてきた彼女にとって、初めてイッセーは個人「リアス・グレモリー」としてみてくれているのである。それも、可愛い下僕であるイッセーが。これだけで、リアスの心は熱く燃え上がった。

 そのリアスの心を傍で見て感じたのか、ライザーは焦ってフェニックス家の私兵である衛兵たちに命じる。

 

「くっ……取り押さえろ!!」

 

『はッ!!』

 

 一斉にイッセーへ飛びかかる衛兵たち。だが、イッセーを制してダイスケが前に出る。

 

「有象無象が主役に手ぇ出すんじゃねぇよ」

 

 まずは挨拶がわりに衛兵たちの足元へ熱弾を放つ。これにより衛兵たちは進撃の足を止めてしまった。その衛兵たちを二つの影が襲う。

 

「ここは僕らが何とかするよ!」

 

「……行ってください」

 

 木場と小猫が盾になるかのようにイッセーとダイスケを阻もうとする衛兵たちに立ちはだかる。

 

「人の恋路を邪魔するものはなんとやら、ですわね」

 

 さらに朱乃が援護の雷を放つ。ルーキー悪魔の中でも名が知れた朱乃の一撃は上級悪魔の攻撃にも匹敵する。その事実を知っている衛兵たちは彼らに手を出せなくなってしまった。

 

「何をしているか! お前たち、代わりにあの侵入者二匹を引っ立てろ!!」

 

『りょ、了解しました!』

 

 代わりに立ちはだかるのはライザーの下僕たちである。その実力を知っている朱乃たちはすぐにでも手助けに行きたいが、数いる衛兵たちを殺さないように相手取るので手一杯だ。

 

「おい、お前らパイ食わねぇか」

 

 そこへこの上なく歪んだ笑顔で現れたのはダイスケである。かなり異様だがそれが結構威嚇になってたりする。

 

「「バラバラになっちゃえ!!」」

 

 最初に飛び掛ってきたのはチェーンソーの双子イルとネル。火花を散らして降り下ろされる二つのチェーンソーを籠手で握り、掴む。

 

「子供たちもおいでぇ……パイ焼くぞぉ」

 

「こ、このぉぉぉ!!」

 

「ミラ!!」

 

「ええ!」

 

 ネルの一声で、棍を持ったミラがダイスケの背後から襲いかかる。もう少しで棍が直撃する、というその時チェーンソーが握りつぶされる。

 

「辛いかい!?」

 

「「ウソ!!」」

 

 バラバラに散らばるチェーンソーの破片。その中をダイスケは後ろを振り返り、ミラを捕まえて双子に投げつける。

 

「「「キャアアア!!」」」

 

 三人仲良く壁に激突するが、これで終わらない。ダイスケは懐からゴムの代わりに鋼鉄製のバネを使った特製スリングショットを取り出した。

 何かあったときのためにと最近自作した武器である。そこから放たれるのは先日、桐生義人が殺害したはぐれエクソシストの死体から剥ぎ取った銀の弾丸だ。通常、エクソシストはフリードのように光を発射する銃を用いるが、こだわりで古風な銀の弾丸を使うのを好むものもいる。そこから剥ぎ取ったのだ。

 当然遺体は埋葬してあるが、やっていることは神聖な道具のかっぱらい。まさに神をも恐れぬ所業。ちなみに十字架などは何かに使えないかととっておいてる。

 しかしそのお陰で双子とミラは立ち上がれなくなるほどの大ダメージを受けた。

 続いて襲い掛かるのはシュリヤー、マリオン、ビュレントの兵士の三人。ゲームでは朱乃の誘導に引っかかり、木場に足止めをされたところで朱乃の雷を喰らって退場した三人だ。

 

「こっちはもっと辛いものをぉ、君たちのご主人様にぃ、食べさせられてるんだよぉ……」

 

 ダイスケのその一言の後、シュリヤーは側頭にハイキックをもらって窓の外へ吹き飛び、マリオンはアッパーで天井に突き刺さり、ビュレントは踵落としで床に埋められる。

 

「ニィ、リィ、美南風! 行きなさい!!」

 

 ユーベルーナの指示で三人が突撃する。まずはニィとリィと呼ばれた猫耳の双子がダイスケの両側面から攻撃する。イッセーにしたのと同じように、まず足を潰そうとしてローキックを当てる。

 

「残さず食えよっ」

 

 逆に二人の脚の骨が折れた。その痛がる彼女たちの襟首を掴み再び投げる。投げられた二人は美南風と呼ばれた十二単姿の少女を巻き込んで壁を突き破って退場。ついでに銀の弾丸もたたき込まれる。

 

「コイツッ! イザベラ!」

 

「わかっている、雪蓮!」

 

 今度は戦車二人の拳のラッシュ。だがそれも全て受け流される。

 

「そうだ、お前らも食えよぉ……」

 

 ダイスケは二人の渾身の拳を弾くと、代わりに交互に一発づつボディーブローをたたき込む。銀の弾丸を指に挟んで握った状態で。

 

「でぇ、それが終わったらフェニックス家の実家へ行くんだぁ……!!」

 

 それはガードする暇もなく、イザベラと雪蓮のボディに叩き込まれる。弾頭は当然クリーンヒットし、銀のダメージをもろに受けた。

 

「おたくらのとこだったら急がねぇとな!!」

 

 二人はレイヴェルの横を突っ切って壁に激突し、沈黙。

 

「いくぞ、シーリス!」

 

「わかっている!」

 

 剣を構えて向かってくるのは騎士のシーリスとカーラマイン。それぞれ大剣と炎を纏った短剣が得物。だが、それに関係なくダイスケは両手を広げて構える。

 

「パイ焼いたらすぐ行くぞぉ……。パイが腐らねぇうちにな……」

 

 連射される光弾。一発一発の威力は低いが、騎士二人は間合いの外から浴びせられる熱弾の雨を受けて崩れ去る。

 

「調子に乗るなァァァァ!!!」

 

 ユーベルーナがダイスケに特大の炎を放つ。もはや周りの被害など関係なくなっている。だが、炎は直撃することなく熱線にかき消される。そのまま熱線はユーベルーナに直撃し、沈黙させた。

 

「……ライザーさん、今行きますよぉ……パイを届けにね」

 

 ダイスケは言う。その眼前にいるレイヴェルは恐怖でへたりこみ、ライザーの表情は既に怒髪天を付くかのようだ。

 だがそれも致し方ないだろう。せっかくの自分の晴れの舞台が乱入者二名によってぶち壊されてしまったのだ。これを怒らないものはいないだろう。そしてそのライザーを守るように下僕たちが立ちはだかる。

 

「貴様ら……何が目的だ!?」

 

「さっき言ったことをもう忘れてるか。ならイッセー、もういっぺんこの若年性痴呆症に聞かせてやれ」

 

「……お前からリアス部長を奪い返しに来た」

 

 イッセーの言葉でその場にいる貴族たちがざわめく。一介の下僕悪魔が主の婚姻の邪魔をし、あまつさえその主をもらい受けようというのだ。彼らの常識からすれば正しく異常である。だが、それだけでは済まなかった。

 

「上級悪魔の婚姻に下僕風情が口を挟むなどと……」

 

「いや、下僕思いで有名なグレモリーのことだ。主を思ってこその行動なのではないか?」

 

「よもやゲームに不正でもあったのか……?」

 

 あらぬ噂が立ち始めたことのよりライザーは苦虫を噛み潰したような表情になる。当然、ライザーがリアスに勝ったのは実力故のことでありそれそのものには不正はない。

 だが、リアスを挑発することで自分に圧倒的有利な方法で婚姻を認めさせ、どうあがいても婚姻を成立させられる状況へ誘導したのは事実。不利であるのにも関わらず勝負を受けたリアスにも落ち度はあるが、これは明らかに悪意ある誘導である。

 そういった打算が暴露されれば、その足元を掬おうとする政敵に攻撃をする隙を与えることにもなりかねない。焦るライザーは怒鳴り散らす。

 

「き、貴様ら! ここがなんの場所なのかわかっているのか!?」

 

 その言葉にイッセーとダイスケは不敵に返す。

 

「だからせめて学生服で来ましたよ?」

 

「花京院だって「ガクセーはガクセーらしく」って言ったし?」

 

 当人の焦りにも関わらず茶化されたとあってはなんとか平静を保とうとする努力も水の泡。ついに堪忍袋の緒が切れる。

 

「ふざけるんじゃあない!! 表へ出ろ! 徹底的に叩きのめして―――」

 

「いやいや、彼らは私が招待したのだ。手荒なことはよしておくれ、ライザー君」

 

 上位悪魔かつ72柱の一柱であるライザーを君付けで呼ぶ者。真紅の髪を流し、グレイフィアを伴ったその男は……

 

「お兄様!?」

 

「サーゼクス様!?」

 

 リアスとライザーの言葉でイッセーは会得する。この男こそリアスの兄であり現魔王の一角を担う『サーゼクス・ルシファー』その人だと。そしてもう一人、赤髪の初老の男性が現れる。リアスとサーゼクスの父にしてグレモリー家現当主ジオティクス・グレモリーだ。

 

「久しぶりだね、ダイスケ君。見ないうちにずいぶんとやんちゃになったようだ」

 

「お久しぶりです、ジオティクスさんにサーゼクスさん。こんな状況で無ければちゃんとした挨拶をしたかったんですが、今はこれで勘弁してください」

 

 ダイスケが二人に深々と頭を下げるのを見て、イッセーも慌てて頭を下げる。

 

「いやいや、先日のゲームのときはろくに挨拶も出来なかったからね。今も今だし、後でゆっくり話す機会を作ろうじゃ無いか」

 

「うむ、君やご家族の近況も訊きたいところだ。ところでサーゼクス、彼らはお前が招待したということだが、どういうことかな」

 

「そ、そうですぞサーゼクス様! このような狼藉を働く者どもを貴方が呼び寄せるなど!」

 

「うむ、ライザー君。どうも彼らは先の決着に異存があるようでね。結婚式に「異議あり!」と乗り込まれるよりもいいだろうから来てもらったんだよ」

 

「さ、サーゼクス様! そ、そのようなご勝手は……!」

 

 関係者であろう、慌てふためく中年の男性悪魔をサーゼクスはスッ、と出した右手で抑える。

 

「先日のレーティングゲームは非公式戦ながら実に面白かった。数や経験で圧倒的に不利な妹が格上の相手に互角以上に立ち回ったのは実に素晴らしかった」

 

 しかし、とサーゼクスは続ける。

 

「先程も言ったようにゲーム経験のない妹が、フェニックス家の才児であるライザー君と戦うのは少々分が悪かったかな、と」

 

「……私には、サーゼクス様が『この間の戦いの結果は解せない』とおっしゃっているように聞こえますが?」

 

「いやいやライザー君、その様な事はないよ。魔王とはいえまだまだ若輩者の私があれこれ言っては旧家の顔が立たない」

 

「ならばサーゼクスよ、お前はどうしたいのだ?」

 

「父上、私は可愛い可愛い妹の婚約パーティーはド派手にやりたいと思うのですよ。しかし、この婚姻に主の下僕が異を唱え奪いにやって来る。前代未聞の花嫁をめぐるドラゴンとフェニックスの戦い。これほど面白いドラマはないでしょう」

 

 確かに余興としてみれば十分に面白い展開だろう。一人の女をめぐって伝説に刻まれる神獣達が争い合うという場面はなかなか見れないものだ。

 

「ですがサーゼクス様、既に決まったこの婚姻をたかが一人の下僕の我侭で反故にされるような事があれば、これはグレモリー家、ひいてはサーゼクス様への信用問題につながりますぞ!」

 

 また別の悪魔がサーゼクスに噛み付く。この婚姻にはグレモリー・フェニックス両家だけでなくそれに連なる多くの貴族の利権にも関わる大きな事案だ。実を言えば話が纏まった時点でリアスがライザーのもとへ嫁ぐのは決定事項のようなものだったのだ。そこへ絡む富の動きも計算されたもので、ここで保護にされれば多くの損失を産んでしまう。それが彼らには恐ろしいことなのである。

 だが、そんな事情などどうでもいいダイスケがサーゼクスに変わって反撃する。すっごく悪い顔で。

 

「考え方を変えましょうよ。あのゲームはリアスさんが負ける前提で組まれたゲームで、最初からリアスさんを結婚に追い込むためにわざと戦力差があるまま不利な戦いをさせた。そんな風に言いふらされたら信用を失うのはグレモリー家とフェにニックス家です。だから後に禍根を残さないように、そして下々の意見を受け入れる度量を、そしてイッセーの異議を受け入れることによって公平性を見せられるんです。そうすれば痛くない腹を探られずにすむし、両家の公正さを内外に示すことも出来る。ここでイッセーとライザーさんを戦わせることで一挙両得出来るんです。こんなうまい話は無いですよ。そもそも、あんな一方に不利なゲームをマッチングした方がダメだったんですよ。その分をここで挽回できると考えたら安いもんでしょう?」

 

「だ、だが――」

 

「考えてもみてくださいよ。一回ライザーさんはイッセーに圧勝してるんですよ? なら別に不安要素はないでしょう。こっちは不満を解消できる。そちらは公平性を見せられる上、決着を文句が出ない形にまで持って行ける。ここで少し譲歩するだけで勝ったときのリターンはでかいですぜ? しかもレートはそっちが上だ。賭けにしては相当有利な条件ですよ、そちらは」

 

 ゴマをすりながらダイスケは文句を言う貴族にすり寄っていく。ダイスケが敵意を見せていないのも相まって、「あれ、これむこうの要求に乗った方がよくね?」と言う空気ができあがる。

 

「まあ、そういうことさ。さあ、他に彼らの要求を飲めないという方はいらっしゃらないのかな?」

 

「……」

 

 魔王の一言に会場にいる全悪魔が文句を言えなくなった。ダイスケのへりくつをサーゼクスが承認した問うことは、それがサーゼクスの狙いということでもあるからだ。それを決闘の了承と受け取ったサーゼクスはイッセーとライザーに向き直る。

 

「二人共、お許しは出たよ。ライザー、私とリアスの前で今一度その力を見せてはくれないかな?」

 

「あ、ちょっと待ってください。戦うのはイッセーだけです」

 

「ほう、いいのかね? 兵藤一誠くん」

 

「構いません。ここは俺ひとりの力で部長を勝ち取ります!」

 

「解った。ライザー君、異存はあるだろうが……やってくれるかな?」

 

「……サーゼクス様に頼まれたのであれば断れるわけがございません。このライザー・フェニックス、身を固める前の最後の炎をご覧に入れましょう!!」

 

 こうして婚約発表会は一人の女を巡る戦いの場へと変貌したのである。

 

 

 

 

 

 

 急遽作られたバトルフィールド。それはさながら古代ローマの剣闘士たちが命をかけて戦ったコロッセオ。だが、ここで賭けられるのは命ではない。一人の女の未来だ。

 円形の観客席には貴族悪魔たちが好奇の目で中央にいるイッセーとライザーを見守る。観客席にはグレモリー眷属をはじめ、蒼那やリアスの傍らにはサーゼクスもいる。反対の位置にはフェニックス家の関係者たちと眷属たち、そしてレイヴェルが固唾を飲んで見守っている。

 

「万が一って時には俺も加わっていいって言われてるけど、大丈夫だよな?」

 

「ああ、勝つ算段はもう打ってある。お前のお陰でな」

 

「じゃ、俺は観客席で適当に食い物でも食いながら見てるから」

 

 そう言ってダイスケは先ほど会場から失敬したローストビーフの大皿を持って席へ向かう。

 グレモリー眷属が固まって座っている席から少し離れた位置に座り込むと、そこへ大柄で短い黒髪に紫の双眸をもつ若い悪魔がやってダイスケのとなりへ座り込んだ。

 

「どちら様で?」

 

「いや、先ほどのやりとりで君たちのことが気になってな。なかなか面白いものを見せてもらった」

 

 外見でわかる年齢は二十代ほどだろうか。ここにいる以上どこかの名家の出の者なのだろうが、それにしては他の貴族たちには無い快活さや芯の奥から沸き起こるような力強さを感じる。

 

「なぁに、軽く齧った知識を振り絞ってハッタリかましただけですよ」

 

「それでお偉方を黙らせたんだから大したものだ。俺はその手のことは苦手でな、見習いたいよ」

 

「口八丁で生きていけるほどそっちの世界は甘くないでしょうに」

 

「確かにそうだ」

 

 ライザーと同じ貴族だというのにまったく嫌な感じがしない、それどころかなかなか好印象を持てそうな青年だ。その証拠に基本的に他人にはとっつきにくいダイスケが自分でも不思議なほど打ち解けている。

 

「実は俺も先の試合は見ていてね。サーゼクス様の仰る通り、リアスは不利ながらもよく戦ったと思う。だが、あの下僕悪魔はまだまだ実力的にはライザー氏には程遠い。君も加勢に行ったほうがいいのではないか?」

 

 事実である。イッセーの実力はライザーのそれと比べて天と地の差がある。それを二日の間で埋められないとは思うのは普通だ。

 ライザーが持つフェニックスの力は生来からのものであり、神滅具を持っているとは言え一ヶ月ほど前に悪魔に転生したばかりの元人間とは比較にならない。まだダイスケが助太刀をしたほうが勝算はあるのにも関わらず、あえて一人で立ち向うのを見ているだけでは見殺しにするようなものではないかとも見えてしまう。

 

「大丈夫ですよ、あいつは勝ちます。なんていったって今のあいつは誰よりも“飢えて”いる」

 

「飢えている……とは?」

 

「見ていればわかりますよ。「はじめッ!!」よし、うまくやれよ……」

 

 レフュリー役の悪魔がはじまりの合図を出した。

 始まりと同時に炎の翼を広げるライザー。その姿はまさに敵を燃やし尽くさんと翼を広げる炎の鳥そのものだ。そして相手の出方を見てから動こうという余裕の見て取れる。

 恐れを抱いたものならば途端に震え縮み上がったであろう余裕と威圧を込めた姿だが、イッセーは恐れずに声高々に叫ぶ。

 

「部長ォ! 昇格の許可をください!!」

 

 リアスが頷くと変化はすぐに訪れた。溢れ出るその膨大なオーラは“騎士”でも“僧侶”でも“戦車”でもない、全駒最強の“女王”のものだ。

 

「部長ッッ! 俺は木場みたいに剣の才能はないし、朱乃さんのような魔力の天才じゃありません! 子猫ちゃんみたいなパワーはないし、アーシアみたいに癒しの力はない上、ダイスケみたいな悪知恵は働きません!!」

 

 その言葉に、ダイスケは「オイ」と突っ込む。

 

「それでも、それでも俺はあなたのために……最強の兵士になってみせます!! 輝け、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)ァァァアアアア!!」

 

 そして神器に眠るウェルシュ・ドラゴン、ドライグの声が響く。

 

『Welsh Dragon over booster!!!!』

 

 真紅の閃光が包んだイッセーのその姿はまさに龍の姿をした鎧の戦士。神器が持つ、使用者を格段に強化し、戦場のパワーバランスをも崩しかねないこの形態は『禁手(バランスブレイカー)』と呼称される。

 

「禁手だと!? もうそこまでに至っているのか!!」

 

 ダイスケの隣の青年も目の前にしたライザーも驚愕するが、その実はまだ完全な代物ではない。イッセーが自身の体を鍛え上げ、ドライグと契約を交わしたことでようやく使うことができる限定的な禁手だ。

 せいぜい持って十数える間ぐらいしか使えないだろう。だが、今のイッセーにはそれで充分であった。

 

「一発、喰らえよ!」

 

 イッセーが巨大な魔力の塊を放出する。その大きさはこの闘技場の半分も埋めてしまうほどである。

 

「でかい!」

 

 流石にこれを喰らえばライザーもタダでは済まないのだろう。正面から相手取るのを諦め、回避行動に出る。

 

「……なるほど、上手い」

 

 青年が呟く通り、ライザーは素早く被害範囲から逃れるが、青年が言っていたのはライザーに対してではなかった。

 

「捕まえたぜ!」

 

 柄にもなくイッセーはあえて避けさせ、回避する方向を一方に絞るように魔力の塊を放ったのだ。そして背中のブースターが展開し、爆発的な推進力でライザーを捕まえる。

 

「オォラァァ!!」

 

 背中のブースターをさらに全開にして、自分もろとも地面に激突する。そしてイッセーは馬乗りになった状態でライザーの腹に左の一撃を加えた。

 

「ガハッ!!」

 

 ライザーが吐血する。確かに強力な一撃ではあったが、ここまでのダメージを負うはずがない。

 

「へへっ、アーシアからこいつを借りれてよかったぜ!」

 

 そう言ってイッセーは握られた左手の中をライザーに見せる。

 

「じゅ、十字架!?」

 

 驚愕するライザーとともに、観客席にいる悪魔達からも悲鳴が上がる。

 

「十字架が悪魔の苦手なものだってことは、この前のゲームでわかってた。そこで十字架の力を神器で増幅させて殴ってやったってわけさ!! あんたを見れば上級悪魔にも効果テキメンってことが証明されたな!」

 

「馬鹿な!! お前も悪魔なんだぞ!? いかにドラゴンの鎧を身につけていても―――」

 

 そこでライザーはようやく異変に気がつく。全身が鎧姿なのでわかりづらいが、左腕だけが生物的な脈動と生命感があることがわかる。

 

「まさか……神器に眠るドラゴンに力と引き換えに左腕を支払ったのか……!?」

 

「ああ、そうさ。お前をぶっ飛ばすためだけにな。だから俺の左腕は本物のドラゴンの腕だ。十字架だって掴める」

 

「なんということを……! そんなことをすれば二度と元の体には戻らないんだぞ!!」

 

「それがどうした。俺なんかの腕で部長を取り戻せる力が手に入るんだ。こんな安い取引はないぜ」

 

 ライザーは初めて、目の前の取るに足らない存在と規定していたイッセーに恐怖を感じた。そして一旦イッセーの拘束からのがれ、態勢を整える。

 

「……それでおれに勝てなかったらどうするつもりだ!?」

 

「そん時はまた別のところを差し出すまでだ。心臓だろうが脳だろうが、部長のためなら惜しくはねぇ」

 

 冷徹な声でイッセーは告げる。目の前にいるのは間違いなく一介の下僕悪魔。だが、その魂は生物の頂点たるドラゴンのそれだった。

 

「……悔しいが認めるよ。お前は強い。肉体だけでなく、その心もだ。だが! だからこそ!! お前は俺が倒す!!」

 

 もはやその表情に傲りも嘲りもない。ライザーのその顔は強敵とあいまみえた強者の勝負に対する真摯なものであった。

 

「飢えたものが勝つ……なるほど、確かにあの下僕は相当な覚悟で挑んでいるらしい。だが、傲りと嘲りを捨てた者も強いぞ? 果たしてあの下僕は勝てるのかな」

 

 青年の言葉を裏付けるかのようにライザーの炎の翼が再びはためく。先程よりも火力がアップしているようで、下の方の席にいる悪魔たちは急いで障壁を貼っていることから恐らく簡単に人の骨まで焼き尽くされてしまうだろう。

 その炎はドラゴンにも有効らしく、すぐ傍で相対しているイッセーも苦しんでいるらしかった。しかし、怯むことなくイッセーが左手をライザーに向けられると腕の鎧の一部がスライドして“何か”が飛び出る。

 

「大丈夫ですって。何て言ったって―――」

 

 飛び出した“何か”は真っ直ぐライザー目掛けて飛んでいくが、はためいた炎の翼のひと振りで全て弾き飛ばされる。

 これでイッセーのこの土壇場で出してきた切り札を潰したと確信したライザーであったが、その刹那に“何か”は破裂した。爆裂音と同時に立ち込める煙。それは単なる目晦ましかとも思ったが、すぐにライザーの体に変調が起きる。

 

「ガハッ!? ゴホッ、ゴホッ!!」

 

 突然ライザーは咳き込み、口の端からは血が垂れる。その反応はまるで猛毒ガスを吸った時の人間の反応のようだ。

 

「貴様……何をした!?」

 

 するとイッセーは黙って足元に落ちている金属片らしきものを見せる。それはあるスプレーの缶の破片だった。

 

「制汗スプレー!?」

 

 思ってもみないものにライザーは驚く。その間にも苦しげな咳を吐き続け、炎の勢いも弱くなってきている。

 

「知ってるか? その制汗スプレー、汗の臭いの元の菌を抑えるために銀が入っているんだ。とは言っても、イオン化されたやつでそれほどの量はないんだけどな」

 

 銀の抗菌作用は有名で、これを利用した衛生商品や清掃品は多く存在し、古くから毒にも反応しやすいということで中世ヨーロッパでは毒殺防止のために銀食器が多用されていた。しかし、それら科学的使用法以前にもっと多く使用されていた方法は装飾品と、魔除けである。

 古くから銀は洋の東西を問わずに魔除けとして用いられ、狼男退治や吸血鬼退治の物語に銀製の武器が登場する。これほどまでに邪なる者に対する絶対的武器として古くから用いられてきた物質である。比較的少量の、それもイオン化された銀でも十分に効果はあるのである。

 

「ガフッ……しかし、なぜお前には何も効果がない!? まさか、貴様呼吸器系の臓器まで……」

 

「いや、お前が起こした炎で生まれた上昇気流で俺のとこまで届かなかっただけだ。もっともこれはダイスケの入れ知恵で、必要だったらそうしたけどな」

 

 これはハッタリでもなんでもない、本心である。ここで勝つためであれば残った右手だろうが、心臓であろうがドライグに本当に差し出すつもりでいる決心だ。

 

「―――飢えている方が勝つ」

 

 ダイスケが言っていることはこれである。今のイッセーにあって、ライザーにないもの。

 それは勝利に対する飽くなき努力とすべてを得るために全てを差し出す覚悟。生まれた時からフェニックス家の血と力で満足していたライザーには今現在持っていないものだ。

 

「おい、貴様わかっているのか!? この婚約は悪魔の未来のために重要なものなのだ! お前のような何もわからない小僧がどうこうする様なことじゃあないんだぞ!?」

 

 目的の為に自分を捨てることも厭わない覚悟に恐怖する。それはこれまで自分の進む道に対した障害がなかったライザーにとって初めて目の前に現れた壁。それも大した壁ではないと思っていたはずなのに途端に越えられないほど巨大になったのだから余計に恐怖を感じる。

 

「難しいことはわからねぇよ。でもな、お前に負けて意識を失いかけた時、覚えていたことがある。……部長が泣いていた。お前が泣かした。そしてそれは俺も同罪だ!! だがらこそ、俺はお前をぶっ飛ばす!! 理由なんて―――」

 

 イッセーからポケットからアシーアからもらった聖水入りの小瓶を左手で取り出す。既に赤龍帝の籠手の能力で効果を倍にされた特製品だ。それを瓶ごと握りつぶして腕に纏わせる。

 気づけばいつの間にか鎧は解除されており、イッセーに限界が訪れていた。だが、それすら構わず歩みは止まらない。この時がライザーにとっての最大の巻き返しのチャンスだったが、恐怖の所為で全く動けずにいた。

 

「それだけで十分だ!!!」

 

 渾身の一撃がライザーの顔面を貫く。砲撃のような一撃でライザーは吹き飛ばされる。聖水の効果もあり、その炎と闘争心は完全に潰えた。

 

「……やばい、死んじゃったか?」

 

『いや、単にグロッキーしたってだけだ。ただ、そいつの心は別だ。たとえその身が不死身でも、心まではそうはいかないのさ』

 

 その証拠にライザーは弱々しい息をしているが、立ち上がる気配はない。

 

 そこに、ライザーを庇う様に人影が一つ。レイヴェルだった。無言にイッセーを睨み、何かを訴えようとしている。その足は恐怖に震えているが、最後の矜持と勇気で立ちふさがったのだろう。

 足を震わせながらも強い視線で睨むレイヴェルに、イッセーはドラゴンの左手を向ける。

 

「文句があるのなら、いつでもかかってこい。その度に俺は何度でも戦ってやる!!」

 

 その迫力に押されたのか、彼女は道をあけた。そしてイッセーはリアスの前に立ち、最も彼女に向けて言いたかった言葉を放つ。。

 

「部長、帰りましょう」

 

「……イッセー」

 

 リアスは、その言葉を受け入れる。そして、その隣にいるジオティクスにイッセーは深く頭を下げたあと、ハッキリと言い渡した。

 

「部長を、俺の主であるリアス・グレモリー様を返していただきます。ご迷惑をおかけして申し訳御座いません。ですが、約束通りに部長は連れて帰らせていただきます」

 

 彼は何も言わず、ただ静かに目を瞑る。本当ならサーゼクスにも礼を言いたかったのだが、いつの間にか姿を消していた。

 またいつか会った時に、必ず礼を言おう。そうイッセーは心に誓う。そして懐からグレイフィアから預かった魔法陣を展開する。すると、そこから一頭の幻獣が現れた。

 

「グリフォン……」

 

 リアスが呟き、グリフォンは鷲の翼をはためかす。

 その翼の動きで、これで逃げろというグレイフィアの意思に気づいたイッセーは、リアスの手を取り共に騎乗した。そのままグリフォンはひと鳴きすると、遥か上空へ舞い上がる。

 

「みんな、部室で待ってるからな!!」

 

 イッセーはそう言い残すと、リアスと共に飛び立った。

 

「あー……俺、どうやって帰ればいいんだ?」

 

 非正規のルートで侵入したダイスケは、イッセーたちを見送っておいて思い出したように悲観にくれる。

 しかも他のメンバーはダイスケを置いて先にトンズラしているのだからひどい話だ。

 

「それなら心配いらん。俺が正規のルートで君を返そ――「ダイスケ様! こちらです!」――おっと、君にも迎えがいたか」

 

 見ればリリアがコロシアムの出入り口付近で手を振っている。

 

「じゃあ、そういうことなんで失礼します」

 

「ああ、だがその前に――」

 

 そう言って青年は懐から二枚の紙片を取り出してダイスケに差し出す。

 

「これは我が領土への無制限通行証兼転移魔方陣だ。これでいつでも俺のところに遊びに来てくれ。君と、あの兵士(ポーン)の兵藤一誠の分だ」

 

「え、いいんですか?」

 

「ああ、いいものを見せてくれた礼だ。単なる従兄妹の婚約披露宴だったはずがこうも胸躍らせる場面に遭遇することができたのだからな」

 

「従兄妹?」

 

「ああ。自己紹介が遅れたな。俺はサイラオーグ・バアル。リアス・グレモリーの母方の従兄妹になる」

 

「なかなか似てない従兄妹っすね」

 

「まぁ……色々とな。彼女の見た目は大分グレモリー家の特徴も入っているからな。さあ、ゆくがいい」

 

「はい。お世話になりました。この礼はいつか必ず、精神的に」

 

「気長に待つよ。また会おう」

 

 その言葉を背に、ダイスケはリリアを追って会場を後にした。

 

「そうだな。いずれあの赤龍帝と共に……」

 

 

 

 

 

 

「フェニックス卿。今回の婚約、このような結果となってしまい申し訳ない。無礼を承知でお頼み申したいのだが、今回の縁談は……」

 

「グレモリー卿。頭をお上げください。純血の悪魔同士ということで確かにいい縁談だったが、どうやらお互い欲が強すぎたようだ。元々、お互いに純血の孫がいるというのに、なおも欲したのは私の悪魔ゆえの強欲か。はたまた先の戦で地獄を見たからか……」

 

「いえ、私もリアスに自分の欲を重ねて過ぎてしまったのです」

 

「しかし、兵藤くんといったか。彼には私からも礼を言いたかった。ライザーに足りなかったのは敗北という経験だ。フェニックスの血の力を過信しすぎていたのです。そのような者に、もともと今回の縁談は身に余る話だったのですよ。そして、フェニックスの限界を学べただけでも今回のこの話はよい結果を運んでくれました」

 

「……そう言っていただけるとありがたい」

 

「あなたの娘さんは良い下僕を持った。これからの冥界は退屈しないでしょうな」

 

「私もそう思います。……しかし、よりにもよって私の娘が赤龍帝を拾うことになろうとは」

 

「赤が目覚めた、ということはやはり白の方も」

 

「ええ、赤と白が出会うのも時間の問題でしょう。そして……考えたくはなかったが、ダイスケ君の宿す存在はやはり……」

 

「先ほど冥界の神器研究院から連絡がありました。最も観測されてはならない存在の波動を関知した、と。タイミング的にはダイスケ君がこの冥界に現れたのと同時です」

 

「私も連絡を受けました。……神もあのような形でしか封じることが出来なかった『数多の怪し獣の王』。今、この世で目覚めたのが不幸か。それとも彼に宿ったことが幸運だったのか……見極める必要がありますな」

 

 

 

 

 

 

 ダイスケはリリアと一緒に冥界の列車の中にいた。サーゼクスとジオティクスの計らいで動かしているもので、冥界と人間界を行き来する列車らしく、しかもグレモリー家専用の物らしい。

 これならダイスケは追っ手におわれること無く安全に人間界に帰れると言うことだ。

 

「でもすごかったです。まさか転生したての方が上級悪魔の方に機転で勝っちゃうなんて」

 

「当然、うちのイッセーだぜ? 普段馬鹿でエロだけど、やるときは決める男よ」

 

「ダイスケ様も強かったです。眷属の方々をみんなやっつけちゃうなんて」

 

「いや、あいつら弱かったぜ? 何であんなのにみんな苦戦したんだ?」

 

 本気で不思議がっているダイスケの様子を見て、リリアはクスクスと笑う。

 

「まぁ。そんなことをお仲間の皆様方に聞かれたら大変ですよ?」

 

「いや、本当に手応えが無かったんだよ。銀の弾丸だっていらなかったくらいなんだ。……なんなんだろうな、これ」

 

 言いながらダイスケは右手に籠手を出現させてまじまじと見る。

 

「……こいつを使うたび、自分が自分で無くなるような感じになるんだ。正確には、考え方が変わるって言うか……。どうしても相手を徹底的に叩きのめさないと気がすまなくなる。それが嫌だから親父とお袋とも離れる決心をしたのに。なんだか、俺……」

 

 表情が暗くなっていくダイスケ。しかし、その籠手の付いた右手にリリアはそっと手を添える。

 

「大丈夫です。なにがあっても、ダイスケ様はダイスケ様です。この私が保証します。だって、貴方は私が知る限り最も優しいヒトだから。……そんな貴方が、酷いことになるはずありません」

 

 そのリリアの微笑みに、ダイスケはなんだか救われたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(私も若い頃は妻とあんな風に……懐かしい)

 

 そしてそれをグレモリー家専用列車車長レイナルドは隣の車両で見ていたのである。

 めっちゃニヨニヨしていたのである。




 はい、というわけでVS12でした。
 ダイスケの論破見たかった方々ごめんなさい。そんなに他人に敵意を見せない人間になったので無理矢理丸め込む方向になりました。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!! 


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VS13 ネットじゃいいけど、リアルで論破とかやったらガチファイトになる

 最近新キャラのプロフィールとか、新設定の方をまとめ始めたので多分、今後は今みたいな異常な更新ペーシにはならないと思います。なにせリリアだけでも結構な設定があるもんで……。さらに現章からの新登場である新ヒロインにも結構もりもりの設定がありまして……。
 艦これの方は前半戦は終了。攻略中のヒューストン堀は叶いませんでした。多分明日か明後日から後段作戦に突入します。
 ここからが本当の地獄だ……!


 その日のオカルト研究部の定例会が行われたのは、イッセーの家の部屋だった。

 この日はたまたま旧校舎の大規模な清掃が業者により行われているため、急遽イッセーの部屋で行われることとなったのだ。因みに、今この場にダイスケの姿はない。野暮用とかで来るのが少し遅れるらしい。

 しかし、その定例会もイッセーの母のとある差し入れでなあなあで中断された。イッセーの過去の写真をオカルト研究部の全員に見せたのだ。

 これは効果てきめんで、リアスなどは幼いイッセーが風呂上がりに全裸で牛乳を飲んでいる姿を見て「小さいイッセー可愛い。可愛いイッセーハァハァ」とかなりヤバイ状態になっていた。

 そこへ、ダイスケが入ってくる。

 

「すんませーん、遅れましたー……ってイッセー、お前何塞ぎこんでんの?」

 

「過去の恥ずかしい写真を見られたら、誰だってこうなるよ……」

 

 ちらりと視線を移せば、そこには幼少期のイッセーの赤裸々な写真の数々が散らばめられたアルバムがあちらこちら。

 

「……なるほどね。確かにこれはキッツイわ」

 

 と言いつつもダイスケは足元の一冊を拾い、ある写真に注目する。

 

「おばさん、何なんですか。このイッセーがorzの姿勢になってるの。しかも地面に白い牛乳らしい液体が見えるんですけどこれ」

 

「あら、なかなかいい写真を見つけたわね! これはダイスケ君には『イッセーリバース事件』の事を話さなければならないわね……」

 

「リバースって吐いたんですか。どこのヤスケンですか」

 

 嬉々としてイッセーの母は息子の黒歴史を語り、皆がそれを一言一句聞き逃すまいとする姿はイッセーの心を粉々に砕く。

 母とダイスケから十字砲火を受ける結果となったイッセーは、ただただ二人を呪うしかなかった。

 

「なんで母さんは余計なもの持ってくるんだよ……。そしてダイスケはどうしてピンポイントで一番ヤバイのを見つけるんだよ……」

 

「ダイスケ君はともかく、いいお母さんじゃないか」

 

「どこがだよ!!」

 

 意気消沈するイッセーに、慰めの言葉をかける木場。その手にはイッセーの母が持ってきた方のアルバムがある。

 

「でも、こんな家族がいるって、とてもいいことだよ」

 

「そういや木場、お前ん家って……?」

 

 そのイッセーの疑問の言葉に、木場からの回答はなかった。その代わり、木場の視線がある写真に止まったとき急に木場の声のトーンが変わった。

 

「ねえ、イッセー君。この写真だけど……」

 

 その写真は、洋風の内装の家の中に幼いイッセーと友達であろう亜麻色の髪をした子供が一緒に写っているものだった。

 

「ああ、これか? その男の子は近所の子でさ、昔はよく一緒に遊んだんだ。小学校に入る前に、親の転勤で海外に行っちまたんだ。名前は確か……」

 

「……この剣の方に見覚えはある?」

 

 木場が興味を惹かれたのは、イッセーと共に写っている子供の方ではなかった。その後ろの壁に立てかけてある、鞘に収められているロングソードの方に目が行っていた。

 

「いや、ガキの頃の話だから、あんまり……」

 

 だが、イッセーの言葉は既に木場の耳には入っていなかった。その目は長年探し求め続けていた“ナニカ”をようやく見つけたような目だった。

 

「これはね……聖剣だよ」

 

 

 

 

 

 

 球技大会が近づいているある日の昼休みの屋上。そこには今、イッセーとダイスケしかいない。

 ダイスケはイッセーに、昨晩に起きたはぐれ悪魔討伐の顛末について聞いていた。そして、木場がその場で不覚を取ったことと、昨日木場が見入っていた聖剣と木場との関係も聞いた。

 それは文字通り、胸糞の悪くなる話だった。

 聖剣。それは、神による祝福を受けた対アンチキリスト的存在に対する絶対兵器。それに触れただけで邪なる存在はたちまちその身を焦がし、消滅させる。

 代表的なものは、アーサー王の『エクスカリバー』、ローランの『デュランダル』、聖ゲオルギオスの竜退治で有名な『アスカロン』。また、イエス・キリストを処刑したローマ兵、ロンギヌスがキリストの死の確認のために脇腹に刺した所謂『ロンギヌスの槍』も聖剣をはじめとした対アンチキリストの聖具として有名だ。さらに、これは神滅具の代表選手でもある。

 だが、誰にでも扱える代物ではない。聖剣に対する適正を持つ者のみが扱えるものであり、実際に使いこなせるものが現れるのは数十年に一人なのだという。そして木場は、エクスカリバーと適応するために人工的な調整を受けた者の一人だった。

 これは教団の一部が行っていた『聖剣計画』と呼ばれるものの一端だった。だが、木場は聖剣に適応できなかった。それどころか、同時期に養成された者たちも皆適応できなかった。

 それを知った計画の遂行者たちは、木場ら被験者たちを『不良品』として処分した。木場は、その虐殺の中で生き残った唯一の人間だった。それをリアスが拾ったのだ。

 正直な話、食事中にするものではない。だが、同じオカルト研究部の仲間としてイッセーもダイスケも知る必要のある話として、イッセーからダイスケに教えるようにリアスは言った。だから話したのだ。

 

「しっかし、あれだな。そういう話聞いてると“隣人愛”ってなんなんです? って言いたくなるな」

 

「部長も言ってた。教団の人間は悪魔は邪悪な存在だっていうけど、本当に邪悪なのは種族云々じゃなくそういう行いのほうだって」

 

「まあな、確かにリアスさんのほうがよっぽど人間味が溢れてるよな。悪魔なのに」

 

 食事を終え、屋上から階段で下に降りていく二人。昼食を済ませたら、オカ研のメンバーは全員部室に集まることになっていた。

 部活動対抗の球技大会のための最後のミーティングを行うとのことだった。

 リアスはライザーとの一件以来、彼女は勝ち負けに関しての強いこだわりを見せるようになっていた。あの時の状況は、確かにリアスたちにとって劣勢だったのは確かだ。それでも負けたという事実ののものが、彼女のプライドを傷つけた。だからこそ、どんな勝負事にも積極的に勝ちを狙うようになっていった。

 

「おう、お前ら今日も部活の集まりか?」

 

 松田が購買で買ってきたパンが入った袋を持って、二人とすれ違う。松田の隣には元浜も一緒だ。

 

「ああ、球技大会に向けて猛練習中」

 

「かー、オカ研がボール競技かよ。でもさ、お前らんトコって文化系なのに全員身体スペック高いよな」

 

「まあ……いろいろあるからな」

 

「しかしな、イッセーよ。お前最近変な噂が流れているから気をつけろよ」

 

 突如として、眼鏡をくいっと上げながら元浜が切り出した。

 

「あ? なにがよ」

 

「美少女を取っ替え引っ変えしている可能性ならぬ性欲の獣イッセー。駒王学園に大お姉さまの秘密を握り、毎夜毎夜の鬼畜変態プレイを強要し、「ふふふ、普段は気品あふれるお嬢様が、俺の前では卑しい顔をしおって!このメス○タが!!」と罵っては乱行に次ぐ乱行」

 

「はぁぁぁぁあああああ!? なんじゃ、そりゃあああああああああああ!?」

 

 あまりに酷い風説に某ジーパン刑事なみの叫び声を上げるイッセー。

 

「まだ続きがあるぞ。ついには学園のマスコット塔城小猫ちゃんのリータボデーにまでその毒牙が向けられる。小さな体には収まりきらない激しい性行為は天井知らず。まだ未成熟の青い果実を貪る一匹のケダモノ。「先輩……もうやめてください……」と切ない声を上げるも性欲の野獣の耳には届かない。そして、ついには転校したての一人に天使までもが餌食となる。転校初日にアーシアちゃんに襲い掛かり、「日本語と日本の文化をこの俺が放課後の特別補習でその体に叩き込んでやろう」と黄昏時に天使は堕天していく……。ついに自分の家の中に囲い、狭い世界の中で繰り返される終わりのない調教。鬼畜イッセーの美少女食道楽は止まらない……とまあ、こんなところか?」

 

「……え、マジ? 俺そんな風に見られてるの?」

 

 チラリと廊下を見渡せば、そのイッセーに向けられる視線はなにか形容し難い汚物を見るような目であることに気づく。

 

「まあ、俺たちが流してるんだがな」

 

「そうそう」

 

 松田と元浜が悪びれた様子もなく堂々と告白する。まあ、最近の同類だと思っていたイッセーの近況に嫉妬してこのデマを広めたのだろう。

 本当に友達かどうか自信がなくなった二人に対し、イッセーは躊躇することなくその腹にボディーブローを叩き込む。

 

「痛いぞ、鬼畜」

 

「そうだそうだ、俺たちに当たるなこの野獣め」

 

「因果応報だ!! おい、ダイスケ!! このバカ共を置いて……ってあれ?」

 

 すぐ隣にいたはずのダイスケの姿が見当たらない。すると、先ほどボディーブローを受けたふたりがイッセーの背後を指差す。

 そこには涙を必死にこらえ、嗚咽を抑えようと奮戦しているダイスケの姿があった。

 

「かわいそうに……ちょっと女子を接点が出来たからってすぐに肉欲に負けて手を出すなんて!!」

 

「お前は俺の普段をよーく知ってるだろうが!」

 

 ほんとにコイツも俺の友達なのか、と自信を無くしていくイッセー。どうやら男は、周囲の女の子の人口が増えるたびに男友達の人数が減っていくらしい。

 だが、今までのダイスケなら「へー」とか「ほー」で済ますのだが、最近はこんな風に馬鹿話に乗ってくる。これまでと違って努めて他人とのコミュニケーションを図ろうとしているのだろう。まあ、方向性は間違っているが。

 

「因みにイッセーと木場のモーホー疑惑も流している。これがまた、一部の女子にうけててなぁ」

 

「きゃー、受け? 攻め? どっちぃ?」

 

「お前らそのうち呪い殺すぞ!?」

 

 ついにホモ疑惑まで流されたイッセーは、いい加減この二人との付き合いをやめようかと本気で考え始める。そんなイッセーを無視し、元浜はまだ嗚咽し続けるダイスケに申し訳なさそうにある話をする。

 

「それはそうと宝田よ、本当はお前を巻き込む気は毛頭なかったのだが……実は非常にまずいことになっててな」

 

「うっ、うっ……へ? なに?」

 

 嘘泣きをやめたダイスケが元浜の言葉に興味を持つ。

 

「実は、木場とイッセーとのホモ疑惑を流すのには成功したがな、何故かいつの間にかお前を交えての三角関係になってきてるんだ」

 

「……はい?」

 

 そこに松田も追加説明を加える。

 

「いや、お前って木場とおんなじマンション住まいって接点があるだろ? そしたら木場×イッセー×ダイスケの図式が学園のソッチ系の女子たちの間で出来上がっちまったんだよ。なんか、オカルト研究部が「新手のホモ集団」なんて言われているらしくてなぁ」

 

「……巫山戯んなぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」

 

 今度はダイスケが激怒する番だった。こっちはイッセーのように美味しい目にあっているわけではない。それなのになぜこのような仕打ちを受けねばならないのか。

 身の危険を察知した松田と元浜はその瞬間その場から逃げ出す。

 結局この日、ダイスケはオカルト研究部のミーティングには参加しなかった。新たに生まれた“敵”を排除しに行くために……。

 

 

 

 

 

 

 外はすっかり雨模様。球技大会が終わったあとだったのが幸いだった。部活対抗ドッヂボール戦は、オカルト研究部の優勝に終わった。だが、一つ問題が起きた。

 木場が試合中に物思いに耽っており、完全に足でまといになっていた。ボーとしていた木場をかばおうとしたイッセーが、股間に剛速球を食らってしまうというアクシデントが起きたくらいだった。

 確かに、何度かチームに貢献した瞬間はあるにはあった。だが、終始ボケっとしていた。あまりの酷さに、思わずダイスケが木場の頭にボールを当てるという事件も起きたが、我関せずといった具合だった。

 無論、リアスも試合中に何度も木場に注意していたが、それも無視しているようだった。そして、オカルト研究部のもの以外がいなくなった体育館に、乾いた音が響く。

 

「どう?少しは目が覚めたかしら。」

 

 リアスは柄にもなく、かなり怒っていた。木場に対し、頬を張ったのだ。だが、それでも木場は無言、無表情のまま。

 普段とあまりにもかけ離れた木場の様子に、皆困惑している。が、突然いつものイケメンスマイルになる。

 

「もういいですか? 大会も終わりましたから、球技の練習もしなくていいでしょうし、夜の活動まで休ませていただいてもいいですよね?少々疲れてしまったので、普段の部活動の方は休まさせてください。先程は申し訳ありませんでした。どうにも調子が悪かったみたいです」

 

「おい、木場。お前最近変だぞ?」

 

「……イッセー君には関係ないよ」

 

 イッセーの心配して言った一言にも冷たく返す。

 

「あのな、関係ないって言ってもそんな不安定な様子を見せられれば誰だって心配したくなるぞ」

 

 競技中にキレて木場の顔面にボールを当てたダイスケまでもが心配する。が、その言葉に木場は苦笑で返す。

 

「心配? 誰が? 誰を? 利己的な生き方が悪魔の生き方だよ? まあ、主に従わなかった僕が悪かったんだとは思っているよ。君にボールを当てられた件もね」

 

 少しは言っておいた方がいいのか。イッセーとダイスケは柄にもなく思う。普段であれば、二人が無茶を言うなりやるなりして、それを木場が落ち着かせるのがいつもの三人の関係だ。

 だが、今では立場が完全に逆になっている。そこでダイスケが見かねたように切り出す。

 

「ライザーとの一戦を忘れたのか? あの時の反省を生かして、チーム一丸になっていこうとしている矢先だろう。そんな中でお前はその二の轍を踏むつもりか? お互いに補い合わなきゃダメなんだ。……俺自身は悪魔じゃないけど、一応は仲間だろ?」

 

 その言葉に木場は表情を曇らせる。

 

「……仲間、か」

 

「そうだ。俺たち、仲間だろ?」

 

 イッセーが木場に続いた。だが、木場はそれに同意しなかった。

 

「君たちは熱いね。……イッセー君、ダイスケ君。僕はね、自分の“基本的”なところを思い出していたんだよ」

 

 突如としての自分語りに、イッセーもダイスケも驚きを隠せない。

 

「基本的な……こと?」

 

「ああ、そうさ。僕が一体、何のために生き、何のために戦っているのかをさ」

 

「……部長のために、じゃあないのか?」

 

 少なくともイッセーはそうだった。命を拾ってくれたリアスのため。それが今のイッセーの生きる最大の理由だった。

 そして、それは木場も同じなのだと信じていた。身勝手なまでに。

 

「違うよ。僕は復讐のために生きている。部長から聞いているんだろう? 聖剣エクスカリバー……それを僕を生かしてくれた同志たちの為に破壊するのが僕の生きる、そして戦う理由だ」

 

 

*

 

 

「天使・堕天使・悪魔の三つ巴の戦争に乱入して逆ギレとはねぇ……最強のドラゴンなのにバカなの? 死ぬの?」

 

『だから今、こうして体をバラバラにされた上で封印されているんだ。若さの至りだったんだよ』

 

「これが若さか……って? お前、自分が赤だからって言っていいセリフじゃあないぞ? 金色でもダメ。元カノに機体の四肢もがれるからな」

 

『……相棒よ、お前の友人が言っていることが理解できんのだが』

 

「ああ、それは無視してやって。本人もそれを分かって言ってるから。その分悪質なんだけど」

 

「わかってるじゃないか。で、いずれライバルの『白い龍』と戦う運命と……終わったな。このままだと確実に死ぬわ、お前。赤いのってだいたい白いのに負けるもん」

 

『それは言えてる』

 

「そんなあっさり!? せめてもう少し強くなってからだと嬉しいんですけど!? ていうか、ガンダムネタ引っ張りすぎ!」

 

「あ、フラグ立った。こりゃ近いうちに確実に遭遇しますわ。良くてアクシズに乗って二人仲良く行方不明だ」

 

『今回の目覚めは案外短かったな……』

 

「なんでお前らそんなに息ピッタリなの!?」

 

 木場と喧嘩別れをしてしまった次の日の放課後、オカルト研究部の部員に緊急招集がかかった。教会のエクソシストが、この駒王町を取り仕切っている悪魔であるリアスに会談を申し込んできたというのだ。

 その部室へと至る道すがら、イッセーからドライグの事を聞いていた。そして昨日、帰宅すると家に二人のエクソシストが、それももう片方はイッセーのアルバムに写っていた子供が成長した紫藤イリナであっり、イッセーの母と談笑していたことも聞いていた。

 

「だけどさ、リアルにあるんだな。「お、お前女だったのか!?」ってやつ」

 

「大抵そういうのってフラグだよな。っていうか、なんでお前にばっかりフラグが乱立してるんだよ。ユニオンじゃねえんだぞ」

 

「いや、それフラッグね。ハムさんが大好きな方の。ていうか、本当にガンダム好きだな」

 

 そうして、二人は部室の扉を開く。既に他のメンバーは揃っており、後は教会の人間が来るのを待つのみであった。

 昨日喧嘩別れのように別れた木場もいる。しかし、心中穏やかではないだろう。自分が最も嫌う者たちがやってくるのだから、本人達がいなくとも腸が煮えくり返っているだろう。

 

「二人共来たわね。先方はあと十分後ぐらいに来る予定だから、くれぐれも衝突なんかしないようにね。特にダイスケ。あなたにはライザーの時の前科があるんだから」

 

 そのリアスの言葉に、ダイスケは「へーい」と誤魔化すように適当に答える。ソファに座り込んで部室内にあった今日の新聞を広げているのは余裕があるからなのか、それとも空気が読めないだけなのか。

 それとは反対に敵対勢力の者がやってくるということで、部室内は緊張に包まれる。もう、その扉の向こうにいるかもしれない。そんな気の張った状況にさすがのダイスケもちょっとは気が引き締まる。

 

「そろそろね……」

 

 リアスの言う通り、時計は約束の時刻を告げる。それと同時にエクソシストの少女が二人、部室内に入ってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 やってきたのは先にイッセーの家にも現れたプロテスタントで亜麻色の髪をツインテールにした紫藤イリナ。そしてカトリックで緑のメッシュを入れた短髪のゼノヴィア・クァルタだった。本当ならばもう一人いるそうだが、そちらは既に探索を開始しているとのことだった。

 それらを説明した上で紫藤イリナはかのように語りだした。

 

「この町を訪れた神父が次々と惨殺されているのは既に聞いていますね? それに関する話なのですが……先日ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会に保管管理されていた聖剣『エクスカリバー』が奪われました」

 

 そこで、イッセーはある疑問を抱く。

 キリスト教内にいくつかの派閥があるのは知っている。だが、エクスカリバーがなぜそれぞれの施設に保管されているのか?と。

 

「イッセー、エクスカリバーそのものは現存していないの」

 

 リアスがイッセーの心の中を見たかのようにその疑問に答える。

 

「ごめんなさいね、私の下僕に悪魔になりたての子がいるから」

 

 その言葉の意味を察したのか、イリナが説明をはじめる。

 

「イッセー君、エクスカリバーは大昔の三つ巴の戦争で折れたの」

 

「今はこのような姿だ」

 

 そう言ってゼノヴィアは、傍らに立てかけている布に巻かれた長い物体を解き放つ。そこに現れたのはひと振りのロングソード。

 

「これが、エクスカリバーの七つになった片割れ、『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』だ。カトリック側が管理している」

 

 その瞬間、その場にいた悪魔が全員、生理的な嫌悪感と恐怖を感じた。悪魔になったばかりのイッセーにも、それがいかに危険なものなのかが直感でわかった。

 

「戦争で砕け散った刃を集め、錬金術によって新たな姿となったのさ」

 

 自分の聖剣を紹介し終えたゼノヴィアは、再び布で剣を包む。よく見ればその布には、何らかの呪文が記されている。どうやら普段はそうして封印しているようだ。

 イリナも懐から長い紐を取り出す。すると、その紐は生きているかのようにうねうねと動き出した。そして皆の前で紐はその姿を日本刀へと姿を変える。

 

「私の方は『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。こんなふうに何にでも姿を変えられる超便利アイテムよ。こんなふうに、エクスカリバーはそれぞれに特殊能力を備えているの。こっちはプロテシタント側が管理しているわ」

 

イッセーは先程と同様に、その剣に恐怖を感じる。

 

「イリナ……悪魔にわざわざ喋る事ではないだろう?」

 

「あら、ゼノヴィア。いくら悪魔だからといっても、今回は信頼関係を気づくのが重要よ? この場ではしょうがないわ。それに、教えたからといって悪魔の皆さんに遅れを取るなんてことはないわ」

 

 相当腕に自信があるのだろう。これだけの悪魔を相手にしても、負けるはずがないというだけの修羅場をくぐってきたということだろうか。

 だがそれよりも、イッセーには気掛かりな事が一つあった。木場のことだ。あれだけエクスカリバーに恨みを持つ木場が、果たして今、この場で自分を制御で来るのだろうか。恐らく、木場にとってもここで二本ものエクスカリバーと遭遇しようとは夢にも思っていないだろう。

 それが今目の前にある。今の木場の心中は、イッセーには察して余りあるものだろう。ただ、木場が軽率な行動を取らないよう祈るだけだ。

 もし、万が一のことがあれば、犠牲を出さずに済む方法はないだろう。

 

「それで、奪われたエクスカリバーがどうしてこの町に関係があるのかしら?」

 

 そのリアスの問いにゼノヴィアが答える。

 

「カトリック本部に残っているのは私のを含めて二本。プロテスタントのもとにも二本。正教会も二本。残る一本は三つ巴の戦争の末に行方不明。その内、各陣営にあるエクスカリバーが一本づつ奪われた。奪った連中は日本に逃れ、この地に持ち込んだ、というわけさ」

 

「……どうして、私の縄張りはイベントが多いのかしら。それで、その犯人は?」

 

 額に手を当ててため息を吐くリアスにゼノヴィアは目を細め、答えた。

 

神の子を見張る者(グリゴリ)の連中、それもその幹部のひとり、コカビエルだ」

 

「今では偽書に認定されたとはいえ、聖書の一部にもその名が記された堕天使が犯人とはね……」

 

 その出てきた名に、リアスは苦笑する。

 コカビエル。

 最後の審判やノアの方舟の話が載っている『エノク書』。その6章にその名が刻まれている堕天使の内の一人。エノク書によれば、人間に天体の兆し、つまり占星術を教えたのがコカビエルだという。

 聖書にも出てくる大物堕天使が犯人とは、もうかなり話が大きくなってきている。ならば、教会側は何故グレモリー眷属とコンタクトを取ったのか?そのような身内の恥は、内々に処理しそうなものだが。

 

「実は、先日からこの町にエクソシストを秘密裏に送り込んでいたのだが……ことごとく始末されている。恐らく、コカビエルの手の者によるものだろう」

 

 ゼノヴィアのその言葉に、イッセーは驚いた。まさか自分たちの住む町で、そのような惨劇が裏で起こっていようとは。

 

「ちょっと待てよ、これ今日の新聞だけどどこにもこの地域で殺人があったなんて書いてないぞ」

 

 そういうダイスケが持つのは部室に置いてあった今朝の朝刊だ。その新聞には、確かにどこも駒王町で殺人が起きたことは載っていなかった。

 

「普通の殺人事件ならな。だが裏の世界の者が関わればどんな証拠も残らない。だから世の人間たちは神の存在を身近に感じることもない」

 

「裏の世界に関わる表で起きた事件は決して明かされることはない……今回のようにね」

 

 ゼノヴィアとイリナの言葉がこの世界に入ってきたばかりの二人に響く。

 ならばやはり、彼女らの求めているのは事件解決のための協力の要請だろうか。そのような事件の被害が一般人に及ぶようなことがあれば、土地を取り仕切るものとしてグレモリー眷属が動かざるおえないだろう。

 だが、彼女たちが求めているのは違っていた。

 

「私たちの依頼、いや、注文とは私たちと堕天使のエクスカリバー争奪の戦いに、この街に巣食う悪魔が一切介入してこないこと。つまり、そちらにはこの件に一切関わるな、と言いに来た」

 

「あら、随分な言い様ね。牽制のつもり? まさかとは思うけど、教会側は私達が堕天使と組んで聖剣をどうこうしようとしているとでも考えているいるの?」

 

 ゼノヴィアの注文に、さしものリアスも不機嫌になる。わざわざ自分の領土にずかずかと土足で入ってきた敵が、「自分たちにやることに手を出すな。ついでに、他の組織と組んだら許さないよ?」と好き勝手に行っているのだ。上級悪魔であるリアスに、喧嘩を売っているとしか思えない。

 だが、ゼノヴィアはリアスの怒りを我関せず、とばかりに淡々と続ける。

 

「上は悪魔と堕天使を信用してはいない。聖剣を除ければ悪魔だって万々歳だろう? 双方に利益があるんだ。手を組んでもおかしくはない。だからこそ先に牽制球を放つ。堕天使と組むものであれば、教会側はこの街にいる悪魔をひとり残らず完全に消滅させる。たとえ魔王の妹が相手でも、ね。私の上司からの伝言さ」

 

「……私が魔王の妹だと知っているのならば、あなたたちも相当上に通じている者たちのようね。ならハッキリと言わせてもらうわ。私は、悪魔は絶対に堕天使とは組まない。グレモリーの名にかけて誓うわ。そして、魔王の顔に泥を塗るような真似は、絶対にない!!!」

 

 両者の強い視線が拮抗する。だがゼノヴィアはフッと笑い、リアスとの間にできた緊張を解く。

 

「それが聞けてよかった。一応、この町にコカビエルが三本のエクスカリバーを持ち込んだいることを伝えておかねば、何か起きた時に私が、そして教会本部が各方面に恨まれる。三竦みの状況にだって影響を及ぼす。魔王の妹ならば尚更だ」

 

 その言葉で、リアスの表情は少々緩和される。

 

「正教会からの派遣は?」

 

 リアスの問いに、ゼノヴィアが答える。

 

「奴らは今回はこの話を保留にした。仮に私とイリナともう一人の協力者が奪還に失敗した場合を想定して、最後に残った一本を死守するつもりなのだろう」

 

「ではたったの三人で? 三人だけでコカビエルを相手にするつもりということなの? 無茶というより無謀ね。死ぬつもり?」

 

「ええ、そうよ。」

 

「私もイリナと同意見だ。できるだけ死にたくはないがな。それに、我々の協力者は異教にも手を貸してはいるが実力者だ。遅れはとらない」

 

 そのイリナとゼノヴィアの言葉に、リアスは呆れ果てて嘆息を漏らす。

 

「―――っ。死ぬ覚悟でいるのいうの? 自己犠牲もここまでくると自殺願望ね」

 

「私たちの信仰をバカにしないで頂戴。ねぇ、ゼノヴィア」

 

「まぁね。それに、上はエクスカリバーが堕天使に利用されるくらいなら、全て消滅してしまってもいいと決定した。私たちの役目は、最低でも堕天使の手からエクスカリバーを無くす事。そのためなら死んだっていい。それが我々の“殉教”だ」

 

 ダイスケはここまで黙って聞いていたが、正直彼女らの言葉を聴くのにうんざりしてきていた。リアスの言うとおり、これは自己犠牲や殉教ではなく手の込んだ自殺だ。

 相手は強力な堕天使の幹部。それをせいぜい十数年しか生きていない若造が聖剣を振り回して行っても、勝ち目はない。返り討ちにあうのがオチだ。恐らく、教会側も彼女らを捨て駒に送ってきたに違いない。作戦の成功も、あわよくばの域だろう。

 そこへ来て、この二人の自己陶酔化した信仰心。恐らくこの二人は、信仰のために死んで天国に行けるとでも考えているのだろうが、自殺はキリスト教にとっては大罪だ。天国に行ったつもりで地獄に堕ちればいいのに、とダイスケは心密かに思った。

 

「果たして、それは二人だけで可能なのかしら?」

 

「ご心配なく、リアス・グレモリー。ただで死ぬつもりはないさ」

 

 リアスの問いかけに、ゼノヴィアは不敵に笑う。

 

「あら、自信満々ね。秘密兵器でもあるのかしら?」

 

「それはそちらのご想像にお任せする」

 

 そのやり取りの後、しばしの間静寂が室内を支配する。イリナがゼノヴィアにアイコンタクトを送ると、二人は立ち上がった。

 

「それではそろそろお暇させてもらう」

 

「あら、お茶は飲んでいかないの? お茶菓子ぐらいは振舞わせてもらうわ」

 

「いや、結構」

 

 リアスの厚意を受け取らず、二人はこの場を後にしようとする。が、二人の目がある一箇所に惹きつけられる。

 

「……兵藤一誠の家で見かけた時にもしやと思ったのだが……『魔女』アーシア・アルジェントか?」

 

 ゼノヴィアの言葉に、アーシアは身を震わせる。イリナもそれに気づいたのか、アーシアをまじまじと見てくる。

 

「ああ、あなたが一時期噂になっていた『元』聖女の『現』魔女さん? 悪魔をも癒す力を持っていたらしいわね? 追放されて、どこかに流れたとは聞いていたけど、まさか悪魔にまで堕ちていたとは思いもしなかったわ」

 

「あ、あの、私は……」

 

 狼狽するアーシア。

 

「大丈夫よ。あなたのことは上には伝えないから安心して。でも、『聖女アーシア』の周囲にいた者が貴方の現状を知ったら相当ショックを受けるでしょうね」

 

「しかし、転生悪魔か。『聖女』と祭り上げられていた者が、堕ちるところまで堕ちたな。まだ我らの神を信じているのか?」

 

「ゼノヴィア、悪魔になった彼女がまだ信仰を持っているわけがないでしょう?」

 

「いや、その者から信仰の匂い……いや、香りがする。抽象的な言い方だが、私はそういうのに敏感でね。背信行為をする輩でも、罪の意識を感じながら信仰心を捨てきれない者がいる。それと同じ匂いがするんだ」

 

「あら、そうなの? アーシアさんは悪魔に堕ちた今でも、主を本当に信じているのかしら?」

 

「……捨てきれない、だけです。ずっと、それしか知らなかったものですから……」

 

 そのアーシアの震える声を聞いてゼノヴィアは破壊の聖剣を解き放ち、アーシアの眼前に突き出す。

 

「そうか、それならば今ここで私たちに斬られるといい。神の名のもとに断罪してやろう。今ならば主も、罪深いお前に慈悲を与えてくださるだろう」

 

 その時、イッセーの中で形容し難いほどの怒りがこみ上げてくる。アーシアに近づくゼノヴィアの前に、イッセーは立ちはだかろうとする。

 だが、そのイッセーの前に立ちものが一人。

 

「……いい加減にしろよ? この腐れ狂信者共が」

 

 ダイスケだった。

 

「黙って聞いてりゃ、好き勝手言いやがって。アーシアがどうして魔女なのか言ってみろよ。先攻ぐらいは譲ってやらァ」

 

「……悪魔は神と敵対する者。それを癒すということは、アーシア・アルジェントの力は主の『愛』の力によるものではない。よって、魔女と断罪するのだ」

 

 そのゼノヴィアの言葉を皮切りに、ダイスケの徹底口撃が始まる。

 

「ハッ!! キリスト教信者が聞いて呆れるな。アーシアの力が「主の『愛』の力によるものではない」? 他人を癒す力そのものがアーシアの隣人愛を体現するものだろうが。その力の出処がなんであれ、アーシアが行ってきたことは『隣人愛』よる行動そのものだ。イエス・キリストが全人類の原罪を背負ったようにな」

 

「悪魔を癒す力のどこが『隣人愛』だって言うのよ」

 

 よせばいいのにイリナも参戦する。

 

「そもそも、お前たちは悪魔の存在を誤解している。悪魔はな、表面上敵対してはいるが神の作った世界の一部で天使と同じ神の力の執行者なんだぞ? いま、この現在でもな」

 

 その言葉に、ゼノヴィアとイリナは呆れる。

 

「悪魔は神の絶対的な敵対者だぞ?」

 

「あなたこそ私たちの信仰を理解していないんじゃあないの?」

 

「忘れたのか? 主はこの世界の『創造主』だ。すべての存在が主によって生まれてきている。悪魔もその一つだ。おっと、悪魔は主の創造したものとは違うなんて言うなよ。そんなことを言ったら、主は『世界の創造主』じゃあなくなるぜ?」

 

 言おうとしたことが阻まれ、二人は思わず口を閉じる。

 

「聞けば悪魔は神に対して戦争を起こしたという。だが、考えてみろ。創造主に制作物が勝てるか? 自分達の全てを把握している上、自分達を生み出した存在である以上自分達に勝てる力量差は本来無いんだ。だが、神とってはどうだ。こんなあっさり勝てるような奴相手に勝って自分の権威が示せるか? だから俺は考えた。神は自ら自分の絶対的敵対者になるように悪魔を育てたんじゃ無いかってな」

 

 これを教会関係者が聞いたら卒倒するだろう。だが、この世界の根幹をダイスケが解体していく様はイリナとゼノヴィアには止められない。完全に話に引き込まれている。

 

「そして、悪魔の力はより強大になっていく。絶対の創造者である神に近づくことによって、自然とそれを制する神も力を増す。だが、あっさり神が勝ってはその権威は下がる。かといって神に匹敵する存在になってはいけない。その点にキリスト教の脆弱な点がある。ゾロアスター教のような完全な二元論なら、こんなことは起きないんだろうがな。」

 

 そのことを踏まえた上で、とダイスケは続ける。

 

「アーシアが行なってきた癒しの行為は、どんな者も平等に行われていた。お前達も知っている通り、本来敵対しているはずの悪魔にもその力は振るわれた。文字どおりの『隣人愛』の体現だ。そのことが一体どう信仰に反する? それに対してお前たちはどうだ。悪魔だがら、魔女だから断罪する。馬鹿の一つ覚えみたいにそれしか言わない。やってることはヤクザ同士の抗争、いや、チンピラの喧嘩だ。お前らと比べれば、アーシアの方がよっぽどより良い信仰者の姿だ」

 

 自分たちが知っている以上のことを言われ、なにも反論できなくなってしまったゼノヴィアとイリナ。だが、ダイスケの口撃は止まらない。

 

「そもそも、お前らは俺たちに手を出すなと言いに来たんだろ? それなのにアーシアを殺そうとする? 自己矛盾も甚だしいな。自分に都合のいいことだけ正当化しようなんて、信仰者以前に人として終わってるわ。いい加減、死ねよお前ら。ていうか、今すぐ死ね」

 

 あまりにも散々な言われように、思わず二人は目頭に涙が溜まってくる。先程まで彼女らに怒りを感じていたイッセーまで、二人に同情してしまっている。

 アーシアもダイスケを止めようとするが、初めて見るダイスケの一面に戸惑い、先程以上に狼狽している。

 

「……私たちの信仰心を……よくも!!」

 

 先程まで冷静だったはずのゼノヴィアは怒りを顕にし、イリナも顔を真っ赤に染め上げて身を震わせている。

 

「何が信仰心だ。自己陶酔と狂信の塊が。言っとくがな、お前らのやろうとしていることは信仰のための自己犠牲でも、殉教でもない。自棄っぱちの自殺だ。あ、そういやキリスト教じゃあ自殺は大罪だったか。お前ら揃ってゲヘナでもハデスでもどっちでもいいから地獄に堕ちればいいのに」

 

 そのダイスケの言葉がトリガーになったのか、とうとう二人の怒りが爆発した。

 

「悪魔側との衝突は避けるようにとの通達だったが……貴様だけは絶対に許さん!!!!」

 

「神に代わって、この異端者に神罰を与えてあげるわ!! アーメン!!」

 

 とうとう戦闘態勢をとる二人。

 

「おーおー、口喧嘩で負けたと思ったらリアルファイトですか。それが敬虔な信徒のやる事なんだね。初めて知ったわ」

 

 ここまで追い込んでおいてまだ刺激するダイスケ。それをリアスが制しようとする。

 

「ダイスケ、もういいから―――」

 

 ダイスケを止めようと動くリアスだったが、そこに木場が介入してきた。

 

「ちょうどいい。僕も相手になろう」

 

 これまで見せたことのないような特大の殺気を放ち、木場は魔剣を携える。

 

「誰だ? 君は」

 

「君たちの先輩だよ。もっとも、僕は失敗作だそうだけどね」




 はい、というわけでVS13でした。
 正直ね、このときのゼノヴィアとイリナは殺されても仕方なかったと思うの。だって自分から約束反故にするようなことしたんだもん。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!! 


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VS14 他人の喧嘩に手は出すな

 感想欄をご覧になった方はご存じかと思われますが、ちょっとしたけんかみたいの事をしてしまいました……グレンさん、本当にごめんなさい。
 そんなグレンさんですが、この作品になんと評価9を入れていただいております。前回前書きに書こうと思っていましたが、完全に失念しておりました。


「なんでこうなっちゃうんですか」

 

 思わずイッセーはリアスに問う。

 さっきまで自分たちは、部室内で教会のエクソシスト二人との会談をしていたはずだった。なのに、何をどうしたら自分の親友と仲間がその二人を相手に喧嘩をしないといけないのだろう。

 

「それはダイスケと祐斗に言いなさい……」

 

 今、彼らは運動場の一角に結界を張り、そこをバトルフィールドとしている。その中央には聖剣を構えるゼノヴィアとイリナ、そして魔剣を携える木場と神器を展開したダイスケがいる。

 先刻のダイスケによる言葉の絨毯爆撃によって自尊心をずたずたにされた二人が、ダイスケに喧嘩を売った。それにエクスカリバーを破壊したい木場が乗っかった。それをリアスが「教会の人間と悪魔が手合いする」という条件でガス抜きをしようとしたのである。

 

「ダイスケ君、邪魔はしないでね」

 

「人の喧嘩に乗っかっといて、なにが邪魔するなだよ。なんだったら、先にテメェからヤってやろうか?」

 

「イリナ、例え片方が人間でも、奴だけは徹底的にやるぞ」

 

「ええ、ゼノヴィア。あの背徳者に信仰の力を見せ付けてやりましょう」

 

 お互いに殺気ムンムン。しかも片方はタッグだというのに、仲は険悪。しかも仲間討ちしかねない雰囲気だ。

 

「いいこと? これは一応ただの“手合い”よ。相手を殺すのはダメ。それも、悪魔も教会も関係ない私的な決闘。何度も言うけど、殺し合いは絶対にダメよ。わかっているわね、四人とも」

 

 リアスの言葉に、四人は答えない。

 

「……暗黙は了承と受け取るわよ。……はじめ!!」

 

 その言葉を切っ掛けに、四人は闘いをはじめる。木場はゼノヴィアに、ダイスケはイリナへ向かう……はずだった。

 

「取り敢えず、お前は寝てろ」

 

「―――なッ!!」

 

 ダイスケはいきなり、木場の顎に強力な一撃を与える。その衝撃で脳震盪を起こし、防御に難のある木場は一撃で気絶する。

 

「ダイスケ!! 何やってるんだよ!?」

 

 イッセーが驚いたのも無理はない。タッグを組んでいるはずの仲間をノックダウンさせたのだから。

 

「これは元々俺の喧嘩だ。そこに木場が割り込んできただけだろ」

 

 唐突すぎる展開に、エクソシストの二人も足を止める。

 

「それに、木場の神器で生み出す魔剣はオリジナルの聖剣や魔剣には敵わない。コイツが自分で言ったことだ。勝ち目のない戦いに、何の策もなく立ち向かうのはバカのやることだ」

 

 そう言ってダイスケは、木場の体を小猫に向けて放り投げ、小猫はそれを見事にキャッチする。

 

「……それだけですか?」

 

 木場をキャッチした小猫は、ダイスケに問う。

 

「言わねぇ。ああ、そうだ。塔城、後で俺が「悪かった」って言ってたって伝えておいてくれ」

 

「……嫌です。そういうのは自分で言ってください」

 

 その返事を聞くと、再びダイスケはイリナとゼノヴィアに向かう。

 

「いいのか? 二対一になったぞ?」

 

「そこの伸びている彼に手伝ってもらったほうがいいんじゃない?」

 

「心配ねぇよ。なんでか知らないけど、「お前らには絶対に負けない」って勘でわかるんだ」

 

「だったらその勘―――」

 

「―――間違ってるって教えてあげるわ!!」

 

 同時に斬りかかるゼノヴィアとイリナ。その二つの剣戟を両手のガントレットで受けるダイスケ。

 

「これで両手が塞がれたな。イリナ!!」

 

「もっちろん!!」

 

 そう言うとイリナは、擬態の聖剣を紐に変えてダイスケを捕縛しようとする。だがそれよりも早くダイスケが動いた。

 

「ふんッ!!」

 

 掴んだ聖剣を支えにして背中から崩れ落ちるように二人の後ろへ滑り込んだのだ。そのせいでゼノヴィアとイリナは前方へバランスを崩してしまう。

 そこへすかさずダイスケは体勢を立て直し、二人の腹を目掛けて順に蹴りを食らわせる。

 

「がッ!?」

 

「きゃあ!?」

 

 後方へ飛ばされる二人だが、そこは流石聖剣を持つことを許された剣士、すぐに体勢を立て直す。だが―――

 

「刃物にはやっぱ飛び道具っしょ」

 

「!?」

 

 ダイスケはゼノヴィアに向けて熱弾を放つ。音を遥か超え、ほぼ光速に近い速度で飛んでくるそれを、ゼノヴィアは野性的感のみでエクスカリバーの刃の腹で防御する。だが予想以上に威力があったために完全に競り負けてしまい、そのまま後方へと飛ばされて運動場の一角に植えられた木に激突する。

 

「カハッ……!」

 

「ゼノヴィア!? ……こいつッ!」

 

 すかさずイリナは擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)を鎖鎌に変化させ、分銅をダイスケへと投げつけてその腕に巻きつけた。

 

「捕まえたわよ、この異端者!」

 

 致命傷を与えるべく、イリナはその手に持った鎌刃を光らせ、鎖をたぐり寄せる。それにダイスケは抵抗するものだとその場にいる誰もが思った。

 だが、逆にダイスケは鎖を己の体に巻きつけて自分からイリナに近づいていく。

 

「こ、コイツ! でもこれでどう!?」

 

 慌ててイリナは鎖鎌を連結刃に変化させる。

 それと同時にダイスケの体に巻きついていた鎖は刃がついた鋼線と化し、そのまま肉体を締め付け、尚且つ数多くの切り傷を生んでいく。それでもその歩みを止めることはできない。

 ついにイリナに対抗策を立てさせることを許さないまま、連結刃を掴んで背負い投げの要領で投げ飛ばした。

 

「うぅ……!?」

 

 背中から地面に叩きつけられたイリナは、後頭部に受けた衝撃の所為で立てずにいる。ダイスケはそれを確認すると、自身に絡みついた連結刃を振りほどいて、倒れるイリナの喉元に手甲の鉤爪を突き立てようとした。

 

「もうお止めなさい! 勝負はついたわ!」

 

 しかし、リアスの言葉がグラウンドに響き、ダイスケが止めを刺そうとする手を止める。

 

「……もうちょっとやらせてくれてもいいでしょう」

 

「これはお互いの力量を知るためのものよ。このままいったらあなた、事故に見せかけて止めを刺しちゃうでしょう?」

 

 その指摘に「チッ」と舌打ちをするダイスケ。図星だったようだ。そのままイリナから手を離し、開放する。

 

「なるほど、大口を叩くだけの事はあるということか……」

 

「人間だからって手を抜いたのが間違いだったわね……」

 

 聖剣を杖がわりにその身を支えるゼノヴィア。イリナも悔しげに身支度を整え、二人はこの場を立ち去る気が満々だ。

 

「ま……まて!」

 

 そこへ意識を取り戻した木場が、二人を引き止めようとする。

 

「『先輩』、次はもう少し冷静になって立ち向かってくるといい。彼に止められたのは正解だった。頭に血が上った状態で勝てるほど、エクスカリバーは弱くはない。リアス・グレモリー、先程の話、よろしく頼むよ」

 

 朱乃は既に結界を解いている。もう戦いを続けるわけにはいかない。木場は憎々しげにゼノヴィアを睨む。それを無視し、ゼノヴィアはイッセーに視線を向ける。

 

「兵藤一誠だったか、赤龍帝の宿主。君に一つ言っておこう。『白い龍』は既に目覚めている。気をつけておけ」

 

 その言葉に衝撃を受けるイッセー。だがその姿を歯牙にもかけず、二人はこの場を立ち去った。

 その姿が完全に見えなくなっても、残されたオカルト研究部のメンバーは黙っているしかない。その内、木場が立ち上がってダイスケの胸ぐらを掴んだ。

 

「おい、木場! やめろ!!」

 

「祐斗、放しなさい!!」

 

 イッセーとリアスの言葉も、木場の耳には入っていない。

 

「なんで、僕の邪魔をしたんだ……!? 君も聞いているんだろう。僕がエクスカリバーを憎む訳を!!」

 

 普段の木場からは想像できない激昂した姿。それを見て、イッセーは止めようとするその足を思わず止めてしまう。だが、ダイスケの顔はそんなことどこ吹く風だ。

 

「聞いてるよ。そんで、お前の気持ちもわかる」

 

「だったら、なんで!?」

 

「……お前の同志は、お前を全力で助けた。それはなんでだ? お前に純粋に生きていて欲しかったからじゃないのか? なぁ、今お前が奴らにやってやらなきゃならないことは、本当に復讐か? それで、無駄に命を散らすことか?」

 

「そんなこと、あの場にいなかった君に分かることじゃない!!」

 

「そうだな。お前の言うとおりだ。それに復讐そのものも別に悪いことじゃないさ。それでお前の中で納得と決着が付くんならな。だけど、今のお前で勝てる相手か? さっきだってあいつら、人間相手だから本気を出しちゃいなかった。やるんだったらせめて冷静になって、もっと強くなってからだ」

 

 その言葉を聞くと、木場は悔しげにダイスケの胸倉から手を離す。そして、その場から立ち去ろうとする。

 

「待ちなさい。どこへ行こうというの、祐斗」

 

 木場はその言葉に一度立ち止まるが、またすぐに歩き出す。

 

「待ちなさい、祐斗! 私の元を離れるなんて許さないわ! あなたは私の騎士(ナイト)なのよ! はぐれになってもらっては困るわ! ……留まりなさい!!」

 

「……僕は同志たちのお陰であそこから逃げ遂せた。だからこそ、彼らの恨みを僕の魔剣に込めなければならないんだ……」

 

 それだけ言うと、木場はその場から姿を消した。

 

「祐斗、どうして……」

 

 そのリアスの顔を、イッセーは見てはいられなかった。そして同時に、彼の胸の中にある決意が芽生えたのだった。ただ、誰もが木場に気を取られていた所為であることを見逃していた。

 エクスカリバーでズタズタに切り裂かれていたダイスケの傷が、所々破れた制服の下で既に全て消えていたのである。

 

 

 

 

 

 

「あのイケメン馬鹿、本当にどこに行ったんだ?」

 

 かの騒動から数日たったある休日。ダイスケは休日と言うことで空いた時間を利用して町中で木場を個人的に探していた。

 正直な話、木場の復讐とやらに興味は無いし、木場の過去に干渉する気も無い。だが、このまま木場がはぐれとなれば迷惑を被るのはリアスだ。大公からの命令で、これまで愛情を持って接してきた相手をリアスが手にかけることになる。

 曲がりなりにもグレモリーに世話になっているダイスケだ。そのような事態は避けたいのが信条である。

 しかし一向に見つからない。以前レイナーレと対決した旧教会跡の廃墟や、はぐれと遭遇した場所といったこれまで裏の世界に関わった場所はみんな調べたが木場の痕跡は見つからなかった。

 

「まあ、この町からは出ないだろうし……」

 

 目的のエクスカリバーはこの町のどこかということは確実だ。だから木場がこの町の外に出ることはあり得ない。

 形態で探せばいいと言われるかもしれないが、先日以来木場はダイスケからの着信を無視している。まあ、あのようなことが起これば心を閉ざすのも無理はない。

 直接会ったとしても、木場がダイスケの言うことを聞くことはないだろう。が、その時は殴ってでもリアスの元に連れ帰る算段だ。しかし――

 

「腹、減ったなぁ――」

 

 すでに正午を越え、飲食店を外から見て木場がいないか探しているが空腹に食事の匂いはキツい。我慢して探しているというのに余計に腹が減る。

 

「あー、もう! 今日はあの馬鹿のことはいいや! 飯食おう、飯!」

 

 そう言ってダイスケは手近にあった立ち食いそばののれんをくぐろうとする。すると、妙なものが視界に入った。

 路上にどこか見覚えのあるローブ姿の二人組が見える。その二人の姿は現代日本の中では非常に浮いており、道行く人は奇異の視線を不審人物二名に向けている。

 しかもこの二人、何やら口論をしておりその声にもダイスケは聞き覚えがあった。さらに止めとしてもっと見覚えがある三人組が反対方向からやって来る。

 

「あ」

 

「あ」

 

「あ」

 

 三者三様、何とも間抜けな声を上げて知己と出会ったことを示す声を上げる。

 一方は教会からやってきた件のエージェント二名。そしてもう一方はイッセー、小猫、そして何故かいるシトリー眷属の匙の三名。このメンツが面を合わせたということは、間違いなく裏の世界の面倒事が起きる。

 

―――折角の食事のチャンスが潰れてしまった。ダイスケの顔にそう書かれていた。

 

 

 

*

 

 

 ゼノヴィアと紫藤イリナが現れた次の休日。

 休日の街中で支取蒼那の兵士、匙元士郎は暴れていた。それを小猫が逃さないように押さえている。

 

「いぃぃぃやぁぁぁぁだぁぁぁぁぁぁぁ!!! 俺は帰るんだァァァァァ!!!! あいうぉんとごーほーむ!!!」

 

 悲鳴を上げて逃げ出そうとする匙。彼が人目も憚らずに悲鳴を上げているのには、正当な理由があった。

 それは、彼を駅前に呼び出したイッセーがゼノヴィアとイリナと協力して、エクスカリバーを破壊しようと提案してきたからだった。ちなみに小猫はこのことをすぐに快諾した。イッセーからしたら以外だったが、木場のために、とすぐに察したからだった。

 だが、匙はそれを聞いてすぐに顔を青ざめて逃げ出そうとし、小猫に即効で捕縛された。

 

「なんで俺がお前らと一緒に行かなきゃならないんだよ!? 俺はシトリー眷属なんだ! お前らとは関係ないだろォォォ!?」

 

「お前ぐらいしか他に手伝ってくれそうな悪魔を知らないんだよ。それに、お前だって神器持ちなんだろ? 駒四個消費の」

 

「そりゃそうだけどさ! だからってお前の協力をする義理なんて俺にはない!! 大体、聖剣が相手なんて命がいくつあっても足りねぇよ!!! 殺される!! 聖剣以前に会長に殺される!!」

 

「そんなに厳しいの? 会長って」

 

「お前ん所のリアス先輩は厳しいながらも優しいだろうが! でもな! ウチの会長は厳しくて厳しいんだ!!」

 

「あーそうか、そりゃよかったな」

 

「良くねぇぇぇぇぇ!!!!!」

 

 匙は抗議を続けるが、イッセーと小猫は全く聞く耳もたない。イッセーがゼノヴィアとイリナに協力しようとするのには訳がある。

 彼女たちは言った。

 

『上はエクスカリバーが堕天使に利用されるくらいなら、全て消滅してしまってもいいと決定した。私たちの役目は、最低でも堕天使の手からエクスカリバーを無くす事』

 

 つまり、これは彼女たちは最悪エクスカリバーを破壊してでも回収するということだ。イッセーはこれに乗ろうとした。この奪還作業を手伝い、木場がそのうちのひと振りでも破壊できれば、少しでも想いを遂げられるだろうという寸法だった。

 片方はエクスカリバーを破壊し、自分と過去の仲間の復讐を果たしたい。片方は堕天使からエクスカリバーを破壊してでも奪還したい。意見は一致。まさに一石二鳥、一挙両得だ。だが、これを完遂するにはリアスや朱乃に知られてはいけない。

 三竦みの関係を壊しかねないデリケートな話だ。そんな危険なことに、リアスは自分の下僕に首を突っ込んで欲しくはないだろう。アーシアを奪還しに行く時もかなり反対していたほどだから、尚更だ。

 アーシアにも知られてはいけない。彼女は嘘を突き通すのが苦手な上に、すぐに顔に出るタイプだ。それに、イッセーが危険なことをしようとしたら全力で止めるだろう。

 

「ひょっとしたら、話し合いがこじれて俺ら三人だけで天使勢力に喧嘩を売る結果になるかもしれない。その上、これが切っ掛けで関係が悪化するかもしれない。そうなったら命懸けでなんとかしなきゃならなくなる。だから、最悪ふたりとも危なくなったら降りてもいい」

 

「いや、今すぐ逃げさせろォォォォォ!! そんな三大勢力の情勢に関わりそうなこと勝手にしたら、俺は会長に殺される!! 最低でも拷問だァァァァ!!」

 

「いや、もしかしたら交渉があっさりうまく成立するかもしれないだろ? そんときは力を貸してくれ」

 

「勝手なこと言うなやァァァァァァ!!!」

 

 その匙の狼狽ぶりをよそに、小猫は強く宣言する。

 

「私は絶対に逃げません。仲間の、祐斗先輩のためです」

 

 その強い言葉に、イッセーは頷く。だが、匙が恨めしげにつぶやいた。

 

「だったらよぉ……お前のダチの宝田にも声かけりゃいいだろ? アイツ、フェニックス家の三男の眷属相手に大立ち回りしたんだろ? だったら俺よりいい戦力じゃないか」

 

 その言葉に、イッセーは少しどもる。

 

「匙、あいつは悪魔じゃない。あの時だって、俺はあいつの厚意に甘えていた。でも、今回は状況が違う。悪魔同士の内輪もめじゃない。違う種族どうしの問題なんだ。今回ばかりは、あいつに頼るわけにはいかない」

 

「……わかったよ。で、例のエクソシスト二人はどうやって見つけるんだよ?」

 

「それなんだよなぁ。そうそう簡単に極秘任務中の聖剣使い二人なんて街中で見かけるわけないs「道行く皆様、どうか迷える哀れな子羊にご慈悲を~!」……はい?」

 

 探し始める前に見つかった。しかも二人共先日と同じく真っ白なローブを羽織っているので間違えようがない。おまけに聖剣も隠す気などさらさら無く、そのまま腰に差していた。

 こんな目立つ格好で物乞いをしているということは何やら困った状況にあるらしい。通り過ぎる周囲の人々も奇異の視線を向けているので正直なところ知り合いと思われたくはないが聞き耳を立ててみる。

 

「ああ、なんということだ。我ら迷える子羊に救いの手を差し伸べないとは……これが先進国日本の現実か。これだから信仰心が希薄な国は嫌なんだ」

 

「物乞いの真っ最中に毒づかないでよゼノヴィア。路銀が尽きた私たちは、異教徒どもの慈悲無しにはまともな食事も取れないのよ? ああ、パンひとつさえ買えないなんてなんて私たちは哀れなのかしら!」

 

「元はといえばお前がそんな詐欺まがいの妙竹林な絵画を購入するからだ」

 

「妙竹林だなんて失礼な! この絵にはさる高名な聖なるお方が描かれているのよ! なんかそんなこと展示会の人も言っていたわ!」

 

「じゃあそれは一体誰だ?」

 

「多分……ペトロ様?」

 

「使徒になったあとの聖ペトロがこんな渡○也みたいな格好でマグロを抱えるか? いくら元漁師とはいえこれはないだろう。」

 

「マグロだけじゃないわ! グラサンとショットガンもよ!!」

 

「ますます渡哲○じゃないか。これじゃあイエス様が捕まって怒ったときに、兵士の耳を切り落とすどころか12ゲージで蜂の巣にしそうだ」

 

「だったらいいじゃない! 異教徒を○哲也が一掃してくれるわ! ショットガンをヘリから乱射して! きっと舘ひ○しや三○友和も一緒に戦ってくれるわ!」

 

「いいわけあるかぁ!! なんで大門軍団が十字軍よろしく異教徒を駆逐するんだ!? ……ああ、こんなのがパートナーとは。主よ、これも試練なのですか?」

 

「ちょっと、こんなのところで頭を抱えないでよ。あなたって普段頭を使わない割に落ち込む時はとことん落ち込むのよね」

 

「うるさい! これだからプロテスタントは異教徒扱いされるんだ! 我々カトリックとは価値観が違う! 聖人をちゃんと敬え! 石○プロの芸能人じゃなく!!」

 

「なによ! 古い価値観に縛られているカトリックの方がおかしいわよ! ○原プロのどこが悪いのよ!!」

 

「いい加減にしろ、この異教徒!」

 

「そっちのほうが異教徒!」

 

 しかし、鳴り響く腹の虫に喧嘩する意欲も朽ち果てる。

 

「……言い争う前にまず腹を満たそう。そうしなければ任務どころではない」

 

「……そこらへんを歩いている異教徒を脅してカツアゲする? 異教徒相手なら主も許してくれると思うけど」

 

 それを聞いてイッセーは焦った。彼女たちの信仰心を鑑みれば、信仰のためにと平気で犯罪行為を犯しかねないのを体感している。

 

「やべぇ、止めないと!」

 

 鉢合わせたときのことは考えていなかったが、仮にも幼馴染が犯罪者に片足を突っ込みかけているのだ。急いでイッセーは彼女らを止めにかかる。

 その時であった。目の前にエクソシスト二人以外の顔見知りが現れたのだ。ダイスケである。

 

「「「あ」」」

 

 出会いたかった相手と出会いたくなかった相手に同時に出会う。この時のことをイッセーは後に「あんな微妙な空気になったのはあとにも先にもなかったね」と語ったという。

 




 はい、というわけでVS14でした。
 次回ですが、前作と違って恐喝はしませんよ。ほんとにしないから期待しないでね。
 ちなみに今回やっとまともに登場したみんな大好き匙元士郎ですが、強化されております。ついでに言うと、ソーナも強化されています。なので、夏休み回の若手交流戦にはダイスケも出ます。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!! 


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VS15 人生命を賭けられるほどのダチが出来れば充分幸せ

 昨日はちょっとゴタゴタしていて投稿できませんでしたが、今日は投稿します。
 艦これの方はE5の潜水ゲージを攻略、今日から鯨狩りです。最終ステージのアトランタちゃんがダウナー系かわいいでおっぱい大きいから頑張って獲りに行くぞ!


「うまい! 日本の食事はうぅぅぅぅまぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃぞぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

「ああ、これよ! これが懐かしの日本のファミレスの味なのよ!!」

 

 歓喜の声をあげ目の前の料理を掻っ込んでいくキリスト教本部の刺客(一応)二人。

 その様子をイッセーとダイスケたちは周囲の視線を気にしながら何とも言えない表情で見ている。

 

「……ホントにこいつらこの前の二人か?」

 

「……遠慮なしに食うなぁ、人の金で」

 

 財布から実際に金を出すのはイッセーであった。だが、二人の食いっぷりを見て財布の中が氷河期になる危険を感じたため急遽ダイスケと小猫も出費することになっている。

 イッセーが「後輩に出させるのは悪いから」拒んだものの小猫はもともとの目的のために進んで財布の紐を緩めてくれた。ダイスケに関しては説明がないものの事情を察して貸している形だ。無論、自分に黙ってイッセーが動いていたことに関しては拳骨一つは与えたが。

 現状はといえば、腹を空かせた二人をイッセーが「しょ、食事に行くんだけど君らもどう?」と慣れないナンパなセリフで誘って一発KOでファミレスに同行させることに成功し現在に至る。

 

「あー、食った食った」

 

「信仰心は薄いけどやっぱり食事は日本が一番ね~」

 

 ファミレスまでの道中に「私たちは悪魔に魂を売ったのよ……」「背に腹は変えられん……」と葬式モードだった二人と同一人物だとは到底思えない。

 

「いやぁー、やっと腹が落ち着いた。だが君たち悪魔に救われるとは。終末も近いな」

 

「今ここでお前だけ終末にしてやろうか」

 

「ちょ、ここは抑えて抑えて」

 

 額に青筋を浮かべるダイスケをイッセーは必死になだめる。喧嘩腰では交渉にならない。だが、その点を見るとダイスケ抜きでやろうとしたイッセーは正解だったかもしれない。

 

「でもイッセー君たちのおかげで助かったわ。……主よ、この心優しき悪魔たちに祝福を!」

 

「「「あだだだだだだ!!!」」」

 

 イリナが不用意に祈り、十字を切ったせいで悪魔三人が軽くダメージを受ける。

 

「ありゃ、ゴメンね。ついやっちゃった」

 

「いや、わざとだろ」

 

 先日の一件でダイスケの二人に対する印象がストップ安になっているせいでいちいち突っかかる。本当に交渉のためにはダイスケはいないほうがいいかもしれない。

 

「で、私たちに接触した理由は? まさか本当に食事を奢りに来ただけではないのだろう」

 

 腹がくちくなったところでゼノヴィアは本題を切り出してきた。

 本当に偶然出会ってここまで来てしまったので、イッセーは一瞬どもってしまった。

 

「―――っ、あんたら、奪われたエクスカリバーを奪還もしくは破壊するために来たんだよな?」

 

「ああ、先日説明したとおりだ」

 

「その上で聞いてくれ。……俺たちは、エクスカリバーの破壊に協力したい。一枚咬ませてくれ」

 

 イッセーの申し出に二人は驚く。本来であれば、「たかが下級悪魔風情が伝説の聖剣を破壊しようとは片腹痛い」と激昂されそうなものだが、幸いにも驚きこそすれど殺気を放つ気配はない。

 

「勿論これはリアス部長も知らないし秘密裏にだ。三竦みの情勢に影響を与えないように俺たちはお前たちのサポートに徹する。ただ、うちの木場にエクスカリバーの破壊をさせてやりたいだけなんだ」

 

 理由としては至極個人的なものではある。だが、それゆえ逆に所属する組織の主義方針とは一切関係ないのが救いであった。

 

「……そうだな。結果さえ残せば報告する過程はあとからどうとでも修正できるか」

 

「え、いいのか!?」

 

「ちょっと、ゼノヴィア!?」

 

 案外すんなりととんでもない提案が通って驚くイッセーとイリナ。

 

「無論、君たちの正体はバレないようにやってくれ。個人的な理由ではあるが、皆がそれを知っているわけではない。組織同士の裏の繋がりがあったなんて思われたくはないからな」

 

「そんな条件をつけても、イッセーくんとは言え悪魔と組むことになるのよ!? そんなの許されるわけないじゃない!!」

 

 どうやらこのゼノヴィア、信仰心の強い信徒ではあれど主義主張に対して極度の潔癖症というわけではなくある程度の清濁を併せ呑む度量はあるらしい。ダイスケが知っている人物で言えば以前アーシアの件で協力関係にあった桐生義人に近い人物なのだろう。

 だがイリナの方はそうではないらしく、どのような理由をつけてもこちらの要求を飲みそうにない。

 だからこそダイスケは己の身を犠牲にすることを決意する。

 

「なら俺を人質として同行させろ。俺自身はこいつらと違ってただの神器持ちの人間だ。グレモリー家には純粋に恩義はあるが、サタニストってわけじゃない」

 

「だ、ダイスケ!?」

 

 驚くイッセーだが、ダイスケは手でイッセーを押さえる。

 

「なに、知り合いに見られたら悪魔に魅了されていた哀れな子羊を救い出したとか適当ぶっこけ。で、いいところで木場に私怨を晴らされて、俺は途中怖くなって逃げ出したってことにすれば後処理は出来る。そしてイッセー達を信用できなくなったら、俺を斬れ。なに、抵抗はしないよ」

 

「……人質はわかるが、お前はそれでいいのか。他人、それも異生物である悪魔のために斬られてもいいと?」

 

「自分の言ってることが無茶苦茶だっていうのは理解してるよ。だが、こいつらは信用していい。断言する。お前達が俺を斬る機会は無い。だから俺も命を張れる。信用しているからな――ダチとして」

 

 ダイスケのその言葉でイッセーは思わず涙ぐんだ。

 ダイスケの事情はある程度イッセーはリアスから聞いている。まともになった自分を両親に見せ、グレモリー家に恩義を返すことが目標だと聞いたこともある。

 そのダイスケが自分達のために、それも心底信用して命を張ろうというのだ。否応にも涙が出る。では肝心のイリナはどうなのかというと――

 

「う、うぅ……」

 

 泣いていた。イッセーよりも派手に泣いていた。

 

「お、おい、イリナ?」

 

「ゼノヴィア……私、彼のこと神の教えを侮辱する史上最低最悪の異端者って思ってたけど……まさかここまでイッセー君のことを思ってくれていたなんて! イッセー君、あなた最高の友達を持ったわね!」

 

「お、おう。ありがとな」

 

「素晴らしく熱い男の友情……私こういうのに弱いのよ! マジ、ブローバック・マウンテン!」

 

「おい、次ブローバック・マウンテンっつたらぶっ殺すからな」

 

 意味は是非読者様各位で調べていただきたい。

 

「でも結局、任務遂行のために悪魔の手を借りることになるのね……」

 

「まあ、気を落とすなイリナ。考え方を変えろ。悪魔の手を借りるのではなく、兵藤一誠という赤龍帝のドラゴンと宝田大助というただの神器持ちの人間の手を借りると思えばいい。」

 

「ゼノヴィア……前から思ってたけどあなたの信仰心ってどこかずれてるわ。それにドラゴンだって立派にアンチキリストの象徴の一つじゃない……」

 

「それを言うな……」

 

 突然人一人の命を預けられた重責に気が滅入る二人。おかげで先ほど得たばかりの満腹による幸福感もどこかへ吹き飛んでいってしまった。

 そんな二人に恐る恐るイッセーは尋ねる。

 

「あの……塞ぎ込んでいるところ悪いけど、今回の俺のパートナー呼んで良い?」

 

 

 

 

 

 

「……話は理解できたよ。」

 

 イッセーによってファミレスに呼び出された木場は、呼び出した張本人の行動に半ば呆れながら嘆息し手元のコーヒーの口を付ける。

 意外なことに、エクスカリバー持ちのエクソシストに協力を願うということにはなんの文句もなく、木場はここまで来ていた。

 

「もっとも、エクスカリバーの持ち主に破壊を許可されるっていうのには納得いかないところはあるけどね。」

 

「随分な言いようだね。こちらとしては君がはぐれになってでも行動しようとしているのを知っている訳だから、今すぐこの場で切り捨ててもいいんだよ?」

 

 これから共同戦線を張るというのに睨み合う木場とゼノヴィア。

 協力していくわけだからいがみ合うなとイッセーが二人を嗜めようとするがイリナが咳き込んで空気を変えようとする。

 

「んん! そこはまぁ置いといて……貴方、やっぱり『聖剣計画』のことで私たちを恨んでいるのね? エクスカリバーと―――教会の存在に」

 

 そのイリナの問いに、木場は目を細め「当然だよ」と冷たい声音で肯定する。

 

「でもね、あの計画があったおかげで聖剣の扱いに関する研究は飛躍的に進歩したわ。だからこそ、私やゼノヴィアみたいに聖剣に呼応できる使い手が数を増やすことができたのよ」

 

「確かに悪魔にもあくどいのはいるし、その存在に震える人々を守る防人が増えることはいいことだろうさ。だけど、計画失敗とみなされた被験者のほぼ全てが実験動物のように始末されるのは許されるのか?」

 

 木場のその憎悪の眼差しに、イリナはついに押し黙ってしまう。

 人の良心がある者ならば人をモルモット扱い、それも不要と判断すれば家畜のような殺処分を行う事など許せるはずもない。それはイリナにも理解できることではあったのだ。そこへゼノヴィアは言う。

 

「確かにあの一件は我々の間でも忌む者は多い。被験者の処分を決定した当時の責任者は信仰以前に人間性に問題ありとされて異端の烙印を押された。今では堕天使側に拾われているよ」

 

「……その者の名は?」

 

 自分と同胞の死を決定させた者の名に興味を惹かれた木場はゼノヴィアに尋ねる。

 

「奴の名はバルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男だ」

 

 己の仇敵の名を知った木場の瞳に、明確に復讐の炎が灯るのが見える。

 

「そこまで教えてもらったら僕からも情報提供をしたほうがいいね」

 

 木場のその言葉に興味を惹かれたのはゼノヴィアである。

 

「ほう、聞かせてもらおう」

 

「君たちが駒王学園に来た日、僕はあのあとエクスカリバーを持った者に襲撃された。ちょうどそちら側の神父らしき人物を殺害した後だった」

 

「なんですって!?」

 

「どんな奴だった!?」

 

「相手は白髪のボクらと同年代ぐらい。フリード・セルゼンという、僕らが以前にも戦ったことがある者だ」

 

 フリード・セルゼン。

 アーシアとレイナーレの一件でイッセー達が戦ったことがあるはぐれ神父である。ダイスケ自身はレイナーレのアジトで顔を見かけた程度の面識であったが、そのエキセントリックというより頭のネジが百本ほど剪断破壊されたような言動は覚えがあった。

 襲撃者の名を聞いたイリナとゼノヴィアは心当たりがあるらしく目を細めた。

 

「なるほど。奴なら納得だ」

 

「その男は元ヴァチカン法王庁直属のエクソシストよ。若干十三歳で任命された天才だったわ。その類まれな才能で悪魔や魔獣を次々と滅していった功績は大きなものだったのよ」

 

「だが奴はやりすぎた。邪魔だと判断した味方すら手にかけたのだからね。奴に信仰心などはじめからなかったのさ。あるのは人ならざるものへの嫌悪と殺意、そして異常なまでの戦闘への執着。異端審問を受けて当然の男だったよ」

 

 忌々しげに語るイリナとゼノヴィア。どうやら元味方からも異常者扱いをされていたらしい。

 

「そういった奴が身に余る力を獲れば凶行に走るのは至極当然か……まあいい。とりあえず、私たちでエクスカリバー破壊の共同戦線といこう」

 

 そう言ったゼノヴィアは懐からペンとメモ用紙を取り出し、連絡先を書いてイッセーに手渡した。

 

「何かあればここに連絡をくれ」

 

「おう、じゃあ俺のアドレスを……」

 

「ああ、イッセーくんのアドレスならおばさまから頂いているから安心して」

 

 イリナが微笑みながらイッセーに告げる。

 

「んな!? 母さんめ、勝手なことを!!」

 

 恐らく息子の幼馴染だからと軽い気持ちで教えたのだろう。こういうところから個人情報が漏れたりするから気をつけなければならないというのに。まあ、その心配が無い相手だったからいいのだが。

 

「では、私たちはこれで失礼する。食事の礼はいつかさせてもらうよ、赤龍帝。それから宝田大助、信用させて貰うぞ」

 

「奢ってくれてありがとうね、イッセーくんと悪魔のみんな! あと宝田大助くん、ナイスブローバック!」

 

「よーし、よほど死にたいらしいな。ちょっと表に出ろ」

 

 二人はその場を後にする。残された者たちはたまらずに大きく息をついた。

 下手をしたら天界と冥界の争いの火種を作りかねない大きな賭けだったのだ。それを強引な手段を用いたとは言え成功させたのだからなおさらだ。

 

「……イッセーくん、なんでこんなことを?」

 

 静かに木場が尋ねる。

 本来であれば個人的な怨恨による復讐を出会ってほんの一、二ヶ月の無関係であるはずの者が助成しようというのだからその疑問は当然だろう。

 

「まぁ、同じグレモリー眷属だし、何回も助けられてるしな。今回は俺が助けようかなってさ」

 

「僕が下手に動けば、部長に迷惑がかかるから……っていうのもあるんだよね」

 

「当然。お前が『はぐれ』にでもなったら部長が悲しむ。まあ、俺のやったことも独断専行だから迷惑かけてるんだけどさ」

 

 にかっ、と笑うイッセーだが、それでも木場はまだ承服しかねるといった表情だ。そこへ小猫が口を開く。

 

「……祐斗先輩。私は、先輩がいなくなるのは……寂しいです」

 

 まるですがるような表情の小猫。その寂しげな顔は、普段無表情である分インパクトが強く、この変化はこの場にいる男子全員、特にダイスケに衝撃を与えていた。

 

「そ、そんなッ! 普段仏頂面で身内が死んでも眉一つ動かさなさそうな鉄面皮女がこんな表情を!?」

 

 そのダイスケのデリカシーの無い上、場の空気を読まない発言に小猫は表情を変えずにその脛を蹴り上げることで答えた。

 

「ぁうっぐッ!?」

 

「……お手伝いします。だから……いなくならないで」

 

 テーブルの下で行われた残虐行為はさておいて、小猫のこの言葉に木場は困惑しながらも苦笑いする。

 

「……まいったね。そんな風に言われたらもう僕も無茶はできないよ。わかった。今回はみんなの好意に甘えさせてもらうよ。おかげで本当の敵も見えた。そして、やるからには絶対にエクスカリバーを打倒するよ」

 

 とうとう木場の閉じられていた心が開けた瞬間であった。それを理解したのか、小猫も安堵の表情を浮かべる。

 

「よし! 兎にも角にも、俺たちでエクスカリバー破壊団結成だ!! 何が何でも奪われたエクスカリバーとフリードの野郎をぶっ飛ばそうぜ!」

 

 気合の入ったイッセーと同じく木場も、小猫も、ダイスケも心の準備は出来た。だが、一人だけどうしても乗り切れない人物が一人いた。

 

「あの、俺だけ完全に蚊帳の外なんだけど……なんで木場とエクスカリバーに関係があるの?」

 

 匙である。彼だけはグレモリー眷属ではないために木場の事情を知らないのである。

 

「……そうだね。匙くんのためにも、部長からの又聞きで知ったイッセーくんとダイスケくんにも僕から直接話すよ」

 

 そして木場は自身の過去について語りだした。

 かつてカトリック教会が秘密裏に実行した『聖剣計画』。聖剣に呼応できるものを人工的に輩出するための実験がとある施設で日々繰り返されていた。

 集められた被験者は皆、剣の才に恵まれた者と神器を有した年端もいかぬ少年少女たち。将来の夢があり、彼らそれぞれの未来もあった。神に愛されていると信じてもいた。

 だが、そんな彼らに与えられたのはモルモットとしての日々のみ。人として扱われず、失敗作の烙印を押され、人としての生を無視される。それでも、自分たちは聖剣に選ばれる存在に成りうると信じていた。信仰と共に励まし合うために唄った聖歌を心の支えにして過酷な実験を受け続け、堪えてきたのだ。

 その結果が、『被験者全員の殺処分』だった。

 

「……みんな死んだ。失敗作として物のように処分されていった……。信じていたものに裏切られ、誰も救ってはくれなかった。『聖剣に適応できる者はできなかった』、ただこれだけの理由で僕らはガス室に送られた。彼らは「アーメン」と唱えながら僕らに毒ガスを浴びせた。血反吐と涙を流しながら、冷たいタイルの上でもがき苦しみながら、それでも僕らは神に救いを求めた。でも……救いはなかった」

 

 その後、なんとか逃げおおせた木場の肉体も充分すぎるほどガスに肉体を蝕まれていた。そこへ偶然、イタリアを視察に来ていたリアスに息を引き取る寸前で救われたのだった。

 そこまで語った時点で、どこからかすすり泣く声が聞こえてくる。

 

「ぅううう……」

 

 匙である。木場の想像以上の壮絶な過去を聞いて鼻水まで垂らして号泣していたのである。

 

「ほれ」

 

 見かねたダイスケが備え付けの紙ナプキンを数枚まとめて手渡すと、大きな音を立てて鼻をかむ。そんな匙は木場の手をとって言う。

 

「グズッ―――木場、俺は今までお前のことをいけ好かないキザ野郎だと勘違いしていた。だが! お前の気持ち全てが理解できるわけじゃないが、お前の戦う理由と気持ちは理解できた!! こうなったら俺も本気でお前の手助けをさせてくれ! そのためなら会長のシゴキもあえて受ける覚悟だ! やってやろうぜ、打倒エクスカリバー!!!」

 

 これまで最も無関係でやる気がなかった匙が、今やイッセー以上の情熱をもって木場の手伝いをやる気になったようだ。

 

「そうだ、木場が辛い過去をわざわざ喋ってくれたんだ。俺の事も聞いてくれ!!」

 

「いや、そんなんいいから」

 

 ダイスケの呟きも無視して匙はここが店内だということも忘れて大声で語りだす。

 

「実はな、俺の目標は……ソーナ会長と出来ちゃった結婚をすることだ!!!!」

 

 どうでもいいことだった。はたからすれば「ああ、どうぞご自由に。無理だろうけど。」という話だがイッセーは違った。その瞳から先ほどの匙に負けないほどの涙を流したのである。

 

「いや、今の話に泣く要素あったか?」

 

「あるに決まってるだろ、ダイスケェ!! 匙は上級悪魔、それもご主人様を相手にできちゃった婚を狙ってるんだ!! そうだ、匙は俺の……同士だったんだ!!」

 

「な、なに!? それじゃあお前は……?」

 

「ああ、俺も目標がある。それは……部長のおっぱいをこの手で触れ、そして吸うことだ!!」

 

「……できるのか? 本当にそんなことができるのか!?」

 

「できるさ!! 現に俺はこの前のライザーの一件のあと、部長からファーストキスを貰ったんだ!!」

 

「な、なにぃぃぃぃぃいいいいいい!!!???」

 

 もはや五月蝿すぎて小猫が認識阻害の結界を張っている。そうでもしないと確実に店員から追い出され、しまいには入店お断りのブラックリストに載りそうなほどなのである。

 

「やろうぜ、匙! 俺たちは今は半端者の兵士(ポーン)だが―――」

 

「二人なら一人前! 兵藤!」

 

「匙!」

 

「「やろう! 目指せ、サクセスストーリー!!」」

 

「いや、木場のためじゃねえのかよ」

 

 かくして、下僕悪魔四人+一名で構成された『エクスカリバー破壊団』は結成されたのである。

 

 

 

 

 

 

「えっぐ、ひっぐ……」

 

 イッセー達が『エクスカリバー破壊団』を結成したのと丁度同じ時刻、駒王町の商店街で一人の女性がべそを掻きながらとぼとぼと歩いていた。

 

「年上だからってかっこつけて「わたしは一人で探してみる」なんて言うんじゃなかったぁ……」

 

 何か捜し物をしているらしい彼女は、月並みな言葉だがそんじょそこらのモデルが裸足で逃げ出すほどの美女であった。

 すらりと伸びた背は180cmを超えて、スタイルは抜群。短く切りそろえられた茶色の髪がミステリアスさを醸し出しているが、緩いその表情が全てをぶち壊している。

 

「おかしいよぉ、この街……何で日本なのに悪魔さんの気がこんなに強いの? そのくせ日本の神様や妖怪さんの気もちゃんとするし、わけわかんないことになってるよぉ」

 

「おかあさん、なにあれ?」

 

「こらっ、見ちゃいけません!」

 

 彼女を指さす子供が、親に引っ張られて距離をとらされる。傍から見たらずいぶんと変な人だ。

 誰もが彼女を遠巻きにして「春の陽気に当てられたか?」とか「梅の毒にでも当たっちゃったかな……」と呟いている。

 

「いいや、今日はもうホテルに帰ろう……。ご飯食べて元気出してからまた探そう……」

 

 そう言いながら彼女は、くるりと向きを変えてその場から立ち去っていった。

 だが、不思議なことに誰もが見た。彼女から金色の粒子がふわりと舞ったのを。




 はい、というわけでVS15でした。
 やっと今回からちょい出しで出せた新キャラ。どんな反応が来るかドキドキもんだ……。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!! 


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VS16 探し物をするときはそいつの視線になって探せ……って、あれこれ銀魂のパクリ?

 先日艦これがこれから鯨狩りと言っていましたが、正しくは空母BBAフルボッコの間違いでした。
 今日から最終ステージをやろう……と思いましたが、あまりにも情報が少ないためしばらく援軍待ちと資源回復を兼ねて情報が出そろうまで出撃を見合わせます。


「……出てこないな」

 

「そりゃ、簡単には出てこないだろ」

 

 ダイスケたちが『エクスカリバー破壊団』を結成してから数日。

 彼らは放課後になると神父の変装をした一団となって街中を探し回っている。ゼノヴィアたちからもらった魔の力を抑えるという神父の服で学生が自由になる放課後から深夜に至るまで探し続けているものの、手掛かりひとつ見つけられずにいるのだ。

 神父の格好をしていればフリードが襲撃してくるだろうを踏んだのだが、今のところうまくはいっていない。

 

「せめて事情知ってそうな義人にコンタクトが取れればなぁ……」

 

 だが彼がこの一件に彼が関わっている保証が無い上に電話も常に留守電になっている。それでも彼が堕天使組織の中枢に近い位置にいる人間であるならば、今回の事件に関わる何らかの情報を持っているのではないかという僅かな希望をかけて連絡をし続けているのだ。

 だがこの様子では彼の助成は望めそうもなかった。思わずイッセーとダイスケは大きくため息を吐く。

 

「まあそんな時はアレだ。思いっきり遊んで、はしゃげばいい!」

 

「そうだぞ、イッセーにダイスケ。お前ら、例のボウリングとカラオケに行く会合はいくんだろ?」

 

 話の内容は理解していないが、割り込んできたのは松田と元浜である。

 実は、ちょっと前から普段よくつるむこの四人と同じクラスの女版イッセーの桐生藍華、さらに小猫と木場を誘って半日使って遊ぶ計画を立てていた。

 アーシアと桐生はいつもの付き合いなので当然来るとしても、意外なことに小猫が乗り気だった。松田と元浜の前評判はイッセーに並んで有名なのでてっきり断るものだと思っていたイッセー並びに当の二人もはこれには本当に驚いていた。

 だが問題は木場だ。既に約束は取り付けているのだが、今の木場を取り巻く現状から見れば少し厳しいものがあるかもしれない。

 

「ああ、小猫ちゃんもちゃんと来るってさ。」

 

「うっひょおおおおおおおお! アーシアちゃんに塔城小猫ちゃん!! これだけでもテンション上がるぜ!」

 

 彼が叫ぶ様子からして相当女子との会話に飢えていたのだろう。ダイスケはいつも思うのだが、松田はエロいところを隠せば体育会系としていい運動神経を持っているわけだから、そこを活かせば好意を抱いてくれる女子はいるはずなのだ。元浜も知的眼鏡キャラとして売っていけば、そこまで悪い顔ではないというのにどうしても本性を隠せないでいる。まあ、エロと本能に忠実……もとい自分に正直と言えばいいのだろうが。

 するとそんな松田の頭を「スパン!」と聞いていて爽快になるスパンキングで叩く者がいる。メガネ女子の桐生だ。

 

「わーるかったわね、私も行くことになって」

 

 自身の刺身のツマ扱いに桐生は不機嫌そうに片眉を釣り上げていた。

 

「ふっ、所詮貴様はアーシアちゃんのオプション、いわばガンダムの二話で出番終了になったハイパーナパームだ。眼鏡キャラは元浜で間に合っている」

 

 松田の意見に同調するように元浜のメガネがキラリと光る。LEDでも入れているのだろうか。

 

「なによ、そこの変態メガネと一緒にしないでくれる? せっかくの属性が汚れちゃうわ」

 

「あ゛あ゛ン!? 俺のメガネは女子に体のステータスを正確に数値化できるすぐれモノだ! お前と一緒にすんな!!」

 

 だが、桐生のメガネはその言葉を否定するかの如くキラリと光る。メガネに光るギミックを入れるのが流行っているんだろうか、と一瞬ダイスケは思ってしまったのだが。

 

「ふっ、まさかその能力が元浜だけのものだとでも?」

 

「「「!?」」」

 

 嫌な予感がしたエロトリオは本能的に両手で前を抑える。

 

「私には男の誇りを直視せずとも数値化できるのさ。そして……もう遅いわ」

 

「「「嘘だァァァァァァァ!!!!」」」

 

 男からすれば最悪の能力だ。もしすれ違いざまに一瞥されて嘲笑されようものなら……普通の神経ではとても持つまい。

 そんな空恐ろしげな能力に恐怖するイッセーの肩をポンと叩き、桐生は意味深な笑みを浮かべる。

 

「まあ、安心しなさい。アンタくらいならちょうどイイってもんよ。あんまりでかすぎるのも女からすれば苦痛だしさ。よかったわね、アーシア」

 

「?」

 

「おい! ウチのアーシアに変なこと吹き込むな!!」

 

 意味がわかっていないおかげで話を急に振られたアーシアは頭上にハテナマークを浮かべる。できることならこのまま変な知識を身につけずに純粋に育って欲しいものだ。

 

「そんでもんってダイスケも心配ないわよ。女からしたら極端に小さいとか大きいじゃないから。ちゃんと自己主張できるコだから」

 

「お前に俺の息子の何がわかるんだよ。俺のはな、生まれたての子犬のような奥ゆかしいやつなんだぞ」

 

「あんたのナニは福山○治のか」

 

 ダイスケと桐生が下ネタコントを繰り広げている。

 

「まぁいいわ。とりあえず、木場くん以外は全員来れるのね」

 

 これ以上の展開は望めないと判断した桐生は、ガラリと話題を切り替える。

 

「いや、何とかして木場も来させる。一度は来るって言ったんだし、人数は多いほうがいいもんな」

 

 そのためには早急に今関わっている事案を解決させなければならない。イッセーは皆と最高の形で遊べるようにしなければと、決意を新たにした。

 

 

 

 

 

 

「あいつらそろそろ一旦帰る時分かな……」

 

 その日の放課後、イッセーたちは部活動を終えたあといつものように街を変装して巡回していた。

 ダイスケの言うようにイッセーたちは家族や同居人、またはエクスカリバーの一件に関わっていない仲間の眷属の目を誤魔化す為に夕刻の探索後は一旦帰宅してまた深夜に探索を再開するようにしていた。ところがダイスケが合流できそうになった時間が一旦帰宅すると決めた時刻になってしまっていたのだった。

 

「マズイな。このままいったらすれ違いか……?」

 

 一度携帯を持って木場に連絡を入れようとしたその時であった。

 

―――貴様は……バルパー・ガリレイ!!

 

 いま電話をしようとしていた木場の叫び声が聞こえてきたのだ。それも叫んだ名は木場とその仲間を死に追いやった張本人のものだ。

 声の出処を探して辺りを見回しながら走るダイスケ。声が聞こえるということは間違いなく近くにいるはずである。そして突然、激しい閃光と音が響く。

 

「スタングレネード? ……こっちか!」

 

 目晦ましのための激しい閃光と騒音が、今回は目的地を捉えることに役立った。そしてその先には、疲労困憊するイッセーたちの姿があった。

 

「おい、お前ら!」

 

「ダイスケか? なんでここに」

 

「ちょっとリアスさんに捕まって学校出るのに手間取ってな……木場はどうした?」

 

 共に行動しているはずの木場の姿がどこにも見えない。先程まで声は聞こえていたのだからイッセー達の傍にいたのは間違いないはずだ。そのダイスケの疑問に匙が答える。

 

「……エクスカリバーを持ってるっていうフリードって奴とそのボスのバルパー・ガリレイに遭遇した。戦ってみたけど逃げられて……途中で合流してきた教会の二人と一緒に追っていった」

 

「マジかよ……って追っていった!? なんで止めなかったんだよ!」

 

 フリードが本拠地へ向かったとすれば、自ら進んで敵の巣窟に飛び込んでいったことになる。普段の木場なら決してそのような危険は犯さないだろうが、エクスカリバーに対する怨嗟がその判断を鈍らせたのだろう。

 

「悪い……けど、フリードの野郎めちゃくちゃ強くて、木場も止める暇がなかった」

 

 大きく息をついていたイッセーが答える。四対一でこの有様ということはエクスカリバーの持つ力がよほどのものだったのか、それともフリードの力量が成さしめたのか。

 いずれにしろこのまま木場達を放っておくわけにもいかない。自ら敵の本拠地に、それもゼノヴィアとイリナの二人が付いていたとしても危険であることには変わらないのだ。

 

「……最悪、部長たちに知らせなければならないかもな」

 

 もともとリアスやソーナたちには内密にという前提で木場に協力していたわけだが、事ここまで及べば彼女たちの助力を請わなければならないかもしれない。

 相手がフリードと研究者のバルパーだけならばここまでしなくともダイスケたちがすぐに木場の跡を追えばいいのだろう。だが、今回の事件の裏に聖書にも記された堕天使のコカビエルが関わっているというのは周知の事実。下手に手を出せばただでは済まないだろう。

 そうなれば、最後の手段としてリアスを通じて魔王サーゼクス・ルシファーの力も借りることを考えなければならなくなってくる。

 

「いや、でも流石に部長に知らせるのは「私に連絡するのが何がいけないのかしら、イッセー?」……はい?」

 

 声がした方向へイッセーは恐る恐る顔を向ける。そこには腕を組んで仁王立ちするリアスと呆れた顔のソーナがいた。

 

「力の流れが不規則になっているから来てみれば……」

 

「イッセー、ダイスケ。どういうことなのか説明してくれるわね?」

 

 一気に血の気が引いた。

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、まだいてぇや」

 

 ダイスケは自室で自分の頬を抑えていた。そこには張り手の跡がくっきりと残っている。

 やったのはリアス。抑えているとはいえ身体能力に優れる悪魔のビンタだ。痛いものは痛い。

 だがそれも致し方ないだろう。イッセーから全ての事情を洗いざらい吐かせたリアスは本気でダイスケの教会組二人に提示した条件のことで怒ったのだ。

 

『お願いだから、もうこんな自分を捨てるようなことはしないで!』

 

『俺の両親に申し訳が立たないから……ですか』

 

『ええ、そうよ。でもね、それ以上に私はあなたのことを弟みたいに思っているの。……家族のことを心配するのは当然でしょう』

 

 リアスの言葉に偽りが無いことは重々承知している。駒王町に来てからずっと彼女はダイスケのことを気にかけてきた。それは本心からダイスケのことを家族と同じように見ている証左だ。

 

「……心配かけさせたもんなぁ。これで済んでまだマシってもんか」

 

 事実、危険な計画を立てたイッセーはダイスケが受けた以上の威力の張り手を尻に百発受けていたのだ。勿論匙も蒼那から同様のお仕置きを受けていた。

 明日改めて謝ろうと思ったその矢先、玄関のドアが激しくノックされる。何事かとドアを開けると、そこには小猫がいた。

 

「どうした?」

 

 見れば急いでいたのか、小猫は息を切らしている。ようやく息を整えた小猫はとんでもない現在の状況を伝えた。

 

「……ダイスケ先輩、すぐに学校に集合です。コカビエルは……この町を吹き飛ばすつもりのようです」

 

 

 

 

 

 

「リアス。今、学園全体を大規模な結界で覆っています。中で戦闘をする分は外への被害は無いものと考えていいでしょう」

 

 先に現場に来ていた蒼那がリアスに説明している。

 リアスからの緊急招集がかかったのち、グレモリー眷属+ダイスケは急いで学園の目と鼻の先にある公園に集結していた。そこにはオカルト研究部と生徒会のフルメンバーが集結している。ただし、そこに木場の姿はない。

 電話越しに知った今回の事件の真相。それは想像していた以上に大きく、そして切迫していたものであった。

 その時、リアスは自室で使い魔を使って木場を探し、イッセーは時間も遅いということと緊急時の時のために体力を養おうとアーシアと共に就寝しようとしていた。だが、その場に今回の事件の主犯であるコカビエルが実行犯のフリードを伴い、ボロボロになったイリナを手土産に現れたのだ。

 幸いなことにすぐにアーシアが彼女を介抱したので大事には至っていなが、その後にコカビエルが語ったエクスカリバーを奪い、この街に姿を現した本当の理由が問題だった。

 それは天界・冥界・堕天使の間で再び戦争を起こすこと。

 まずはエクスカリバーを奪って天界を引きずり出し、魔王サーゼクスの実妹が治める駒王町に現れ、実害を与えることで冥界をも巻き込む。勿論この状態を引き起こしたのは堕天使の幹部であるコカビエルであるから堕天使全体も巻き込むことになる。つまり、事の真相を知っている者が止めに入ったとしても三つの勢力が争い合う理由を消すことはできない。三大勢力による三つ巴の戦争の再来だ。

 そしてコカビエルが戦争を望む理由は唯一つ。戦争状態でないという仮初の平和という退屈な時間をつぶし、己の戦闘欲求を消化することである。

 そんな自己満足的な理由でここまでの状況を作り上げたのだ。異常でありながらも流石聖書に名が載る程の堕天使ということなのだろう。

 故にダイスケは理不尽さを感じずにはいられない。

 これから多くの人々が被りうるであろう禍はコカビエルというたった一柱の堕天使の我儘によるものである。

 これが天災ならば「仕方がない」で済むだろう。だが今回は明らかに悪意がある禍だ。こればかりは仕方がないで済む話ではないし、仕方がないで済ませてはいけないとダイスケは思う。

 

「ですがこれは被害を最小限に抑えるものでしかありません。悔しいですが、コカビエルが本気を出せば結界を素通りして学舎どころかこの地方都市そのものが消滅します。さらに私の眷属がコカビエルがその準備をしていることも確認しています。かなりの力をチャージしているようです」

 

 蒼那が更に最悪の知らせをリアスたちに告げる。その言葉に最も強く反応したのはイッセーであった。

 

「―――ふっざけんなッッッ!!!」

 

 怒りの理由はダイスケよりも至極単純にして純粋なもの。それは大切な日常を壊さんとしている者への怒り。さながら、自らの住処を踏みあらせれて怒り狂う野獣、否ドラゴンだ。彼はこの中でこれまで最も普通のヒトの生を生きていた者ゆえに平和な日常の儚さと愛しみは誰よりも深い。そのことはこの場にいる誰もが理解できた。

 そんなイッセーを横目に、蒼那は説明を続ける。

 

「それでも被害を最小限に抑えるために私と眷属たちはそれぞれ配置について、全力で結界を支え続けます。その分学園が傷つくのは耐え難いものですが……この街を守るには呑むしかないですね……」

 

 憎々しげにコカビエルがいる方向を見つめ、蒼那はつぶやく。壊れた物はまた直せばいい。だが、悪意によって傷付けられたという事実は残る。それが何よりも悔しいのだろう。だが、それも踏まえたうえでリアスは決意する。

 

「ありがとう、ソーナ。ここまでやってくれたあとは私たちが何とかするわ」

 

「なっ……本気ですか!? 相手は正真正銘のバケモノです。私たち程度で足止めになるのかすら……。今からでも遅くはないわ、あなたのお兄様に助力を請うべきです」

 

「あら、貴女だって姉君を呼ばないじゃない?」

 

「私の姉は、その……。でも貴女だってサーゼクス様から愛されている。自分の力でなんとかしたいのはわかるけど「連絡なら既に済ませました」―――朱乃?」

 

 朱乃が二人の会話に割り込む。その表情はいつもの笑をたたえたものではない。

 

「ちょっと、何を勝手に―――」

 

「リアス、貴女が先日の御家騒動のことでサーゼクス様に迷惑をかけてしまった負い目があるのはわかるけど、今度は負い目だの面子だの行っている場合ではないのよ。勝手に連絡をつけたのは謝るし、望むなら罰も受けるわ。でも今は……」

 

 いつもと異なる朱乃のリアスに対する態度。それは普段他人の前で滅多に見せることのない主従を超えた“親友”としての朱乃の一面だ。それを見せるということは、本当にリアスを慮っての独断行動だったのだということが理解できる。

 それは文句を言おうとしたリアスにも分かることであったし、その真剣な眼差しで肚も据えた。

 

「……そうね。自分のことだけを考えすぎていたわ。ごめんなさい」

 

「お話を理解していただいてありがとうございます、部長。ソーナ様、サーゼクス様の援軍が到着するのははやくても一時間後だそうですわ」

 

「一時間……わかりました。その間は私たちシトリー眷属の名にかけて、この結界を支えてみせます」

 

「……お願いね。さあ、私の下僕たち。文字通り命をかけていくわよ……と言いたいけれどダイスケ、あなたは残ってくれてもいいわ。あなたは私の下僕ではないのだから。まあ、正直なところひとりでも仲間がいると心強いのだけれど」

 

 リアスの言葉を聞いて、ダイスケはそのボサボサの頭を書いて答えた。

 

「何を今更。そのつもりならとっくに帰ってますよ。……でも、ここで帰ったらこの街が無くなる。俺の大事なものは、ここにあるんで」

 

「……愚問だったわね。みんな、今回は今までと違う本物の死戦よ! それでも私はあなたたちが死ぬことは許さない。生きて私たちの大切な場所を取り戻して、みんなで笑って学園に通うわよ!!」

 

『はい!』

 

「ウッシャァ!!!」

 

 初めて体験する本物の戦場に足を踏み入れるリアスたち。気合を入れているもののどこかしらイッセーはまだ不安げなところがあった。それを察してドライグが語りかける。

 

『なに、初めて戦った頃よりはお前は強くなってる。どうしてもダメだって時にはお前を全身ドラゴンにして変えてでも勝たせてやる』

 

「ははっ、そりゃ心強い。さすが神様と魔王相手に逆ギレしただけあって頼もしいや。匙、そっちは頼むぞ」

 

「おう、会長の愛を尻で受けてたんだ。その分、会長の期待も背負ってみせるさ!」

 

 同じ目標を持つ同志が拳を合わせ、互いの健闘を祈る。そしてそのまま、彼らはコカビエルが待つ学園へ突入する―――

 

 

 

 

 

 

正門から堂々と突入したイッセーたちは、異様な光景を目撃していた。

 校庭の真ん中に奇怪で巨大な魔法円が出来上がっており、中央にはバイパーが陣取って四口のエクスカリバーが宙に浮いていた。

 

「気になるかね? 四本のエクスカリバーを一つにするのだよ」

 

 イッセーたちの気配に気付いたバルパーが愉快そうに言う。そこに上空から声が聞こえてきた。

 

「あとどれくらい掛かるかな?」

 

『―――ッ!?』

 

 声のする空中を見てグレモリー眷属たちは驚く。そこには月光を浴び、学舎の時計台に腰掛けるコカビエルの姿があった。リアス達の姿を見ても、余裕の表情を一つも崩さない。強者の余裕が見て取れた。

 

「ああ、もう五分もかからんよ」

 

「そうか。なら、そっちは頼むぞ」

 

 バルパーからリアスへとコカビエルは視線を移す。

 

「さて、お前たちの後にはサーゼクスが来るのか? それともセラフォルーかな?」

 

「安心しなさい、お兄様の代わりに私が―――」

 

 風切り音のあとに響く爆発。それは、コカビエルが放った光の槍によるものであった。

 大きさは以前見たレイナーレ等が用いていたものと変わりはない。だが、その威力は段違いであった。狙われた体育館が1000ポンド爆弾でピンポイント爆撃されたように消し飛んでいる。何が恐ろしいかといえば、それがまるで宙を飛ぶ目障りなハエを叩き落とすような感覚で行われたことだ。

 

「まあいい。暇つぶしにはなるか。さぁて、余興にまず地獄から連れてきたゲストと遊んでもらおうか」

 

 コカビエルが指を鳴らすと、闇夜の奥から地を揺らしながらなにか巨大な何かが近づいてくる。

 それはまさに想像の産物にして空想の中の生物。高さにして約10m、漆黒のその巨体は巨木を思わせる四肢で支えられ、そこから生える鋭い爪は単なる武器というより巨大な工作機械ではないかと思える破壊力を秘めているように見える。

 闇夜の中に爛々と赫く輝く双眸に野生の残忍さが形となったような牙。それはまさに凶悪な猛犬であった。だが、巨体以上に不自然さを感じさせるのはその猛々しい頭が三つもあるということである。

 

「ケルベロスだ。二頭いるからしっかり相手をしてやってくれ。可愛いが躾が行き届いていないのが玉に瑕なのだがな」

 

 ケルベロス。

 ギリシャ神話における怪物の王テューポーンと数多の怪物の母エキドナの間に生まれた怪物のうちの一匹。ハーデスが支配する現世と冥府の境界を見張っており、そこから逃げようとする亡者を容赦なく捉え貪り喰うとされる文字通りの《地獄の番犬》だ。

 それが二体もリアスたちを囲んでいるのである。

 

「まずいわ、一旦散って!!」

 

「はい! アーシア、掴まれ!」

 

「は、はい!!」

 

 リアスの指示でその眷属たちは一斉に散らばる。人間よりも強く発達した脚力がそれをなさしめ、他のメンバーよりも若干体力が劣るアーシアはイッセー抱きかかえられる形でその場を離れた。

 悪魔である彼らはケルベロスの標的からは外れた。一応人間であるダイスケを除いて。

 

ガルルルゥルルルゥルルルゥ!!!!

バゥ!! バゥ!!

 

「んごぉ!? こっちに来たァァァァ!!!!」

 

 反応がやや遅れたダイスケはケルベロス達の興味を引いてしまい、二頭の地獄の番犬を引き連れて校庭を我武者羅に走り抜ける。

 

「いけない! 朱乃、手伝って!!」

 

「ええ!」

 

 すぐさま朱乃が雷を一頭のケルベロスに向けて放つ。その足元の地面は吹き飛ばされ、前脚を思わず引っ込めて立ち止まらせることに成功した。

 

「喰らいなさい!」

 

 その隙に自身の得手である“滅び”の魔力をチャージしたリアスは漆黒の魔力の塊を放つ。

 

ババゥ! ババゥ! ババゥ!!!

 

 ケルベロスはリアスからの攻撃の対抗策としてそれぞれの頭から火球を放つ。一撃目を受けたとき、リアスの魔力とケルベロスの火球は拮抗したが、二発三発と立て続けに押し切ろうとして来た。

 

「隙あり」

 

 そこへ摺り抜けるように現れた小猫が痛烈な一撃をケルベロスの前脚の脛に与える。

 

ギャイン!!

 

 もんどりうって倒れたケルベロスは一転、二転と転がっていく。だがその先には―――

 

ギャウン!!

 

 ダイスケを追っていたもう一頭のケルベロスがいた。衝突事故を起こした二頭はお互いにお前が悪いと言わんばかりに喧嘩をし始めた。それも足元にいたダイスケを巻き込んで。

 

「待てェェェェ!!! お前ら今は仲良くしろォォォォ!!! 仲良く一緒にお母さんに抱かれてお昼寝したあの頃を思い出せェェェ!! ねんねんころりおころりよ、ケル坊よいこだねんねしなァァァァァ!!!!」

 

 お前がこいつらの何を知っているんだとイッセーが突っ込みかけたまさにその時、二頭のケルベロスに異変が起きた。喧嘩をしながらどこかしら顔がうつらうつらとしているのである。

 

「ケル坊のおもりはどこへいった、あの山こえて里へ行ったァァァ!!!」

 

グルルルルルル……

 

 気のせいではない。ダイスケの叫びのような聴くに耐えない子守歌で本当にケルベロスたちがその場で横になって寝息を立て始めたのだ。

 

「里に土産に何もろた、でんでん太鼓に笙の笛ぇ……」

 

 歌いながらもダイスケは思い出した。ギリシャ神話に竪琴の名手オルペウスが死んだ恋人エウリュディケーを追って冥界まで行く話があるが、オルペウスがケルベロスを突破するために得意の竪琴の奏でる音楽で眠らせるという逸話があるのだ。さらに近年ヒットしたあの某魔法学園ファンタジーでは賢者の石を守る関門の一つにケルベロスが配されていたのだが、賢者の石を狙う悪人が魔法によって自動で奏でられるハープの音色で眠らせてこれを突破している。

 まさかここまでうまくいくとは思いもつかず、それでも慎重に軽く啄いて反応を見るが完全にケルベロスは寝ていた。

 

「……あれ、これいけるんじゃね?」

 

 ここでダイスケの中の外道が鎌首を擡げる。どうせならこの眠っている隙をついて寝首を掻けばいいのではないか?と。

 リアスたちはというと、ダイスケがやろうとしていることを察して良心が咎めるのか「やめて、やめて!」と無言のメッセージを見ぶり手振りで伝えようとしている。だが、寝ているケルベロスが起きることを恐れた故にそのメッセージは全く届かなかった。

 

「……ちょっと失礼しますよっと」

 

 言いながらダイスケは一頭の真ん中の頭の口に手をつっこみ、そのまま体内に向けて熱線を発射した。

 口の中で撃った為にそれが銃のサイレンサーのような働きをし、それほど大きな音を起こさずに済んでいる。そして放たれた熱線は先程の肉を鈍く切り裂く音を立ててケルベロスの体内を破壊。起こすことなくその命を容易く刈り取った。

 

「はい、またまたちょっと4・2・0(し・つ・れい)~っと」

 

 息絶えたのを確認するとダイスケはもう一頭の方に向かう。そしてそのまま先ほどと同じように生々しく熱線がケルベロスの体内を破壊するくぐもった音が聞こえる。それはまるで体内に侵入し、変形しながらその運動エネルギーと弾性エネルギーで人体を破壊する弾丸のよう。高温高圧のエネルギーが気管と食道を通って肺や胃を蹂躙。衝撃は骨を伝わって全身の筋肉をゆらした上に胸骨と肋骨のほぼすべてが破壊される。折れた胸骨は心臓を食い破り、体内に大量の血液が決壊し熱線によって空洞になった部分に流れ込む。さらにそこに引き裂かれ、衝撃で調理される前の肉のように柔らかくなった肉とペースト状になった臓物も綯交ぜになる。

 さながらケルベロスの皮でケーシングされたブラッドソーセージである。それがあっと言う間に二つも完成したのだった。

 まさに残虐非道。これが冥界に名立たる地獄の番犬が相手だから壮絶な戦い(?)にみえるであって、常識的に考えたらお付き合いを丁寧にご遠慮申し上げられるところである。

 

「あ、あなた……いくら相手が敵で魔物だかって言っても他にやりようが……」

 

「Sを自認する私でもこれはちょっと……」

 

「……しばらくブラッドソーセージを見られません」

 

「イッセーさん、なにがあったんですか? 目を隠されちゃったらわかりません」

 

「アーシアちゃん見ちゃダメ!! 一生後悔するから!」

 

 楽に倒すことができて感謝するどころか非難轟々。気持ちはわからなくはないが。

 

「ケルベロスを見かけたから急いできたが……」

 

「出番がなかった以上に嫌なもの見ちゃったよ……」

 

 いつの間にか援護に来てくれたゼノヴィアと仲間のピンチに駆けつけた木場は所在無さげに立ち尽くしてダイスケに言いようのない視線を向ける。

 仲間のピンチを救ったというのにこの扱い。自分でもちょっとやりすぎたかなと思うところはあれどもそれよりも怒りの方が優ってしまった。

 

「……だったらお前らなんで歌わなかったんだよ!! つーか、こういうのの相手はお前らの方が専売特許だろ! 相手の弱点を突くぐらいやれや! っていうかこれぐらい知っとけ!」

 

「「「「「いや、限度ってものがあるでしょ!?」」」」」

 

「イッセーさん、なにがあったんですか? 何が酷かったんですか?」

 

「アーシアは知らなくていいから」

 

 ケルベロスという巨大な障害を切り抜けた先にあった次の障害はまさかの身内。その扱いにさすがのダイスケも少し涙目になっていた。

 

「ククク……人の子にしてはいいじゃぁないか。思い切りもいい。なかなか俺好みの性格だ」

 

 まさかの助け舟がコカビエルである。敵ではあるがちょっとだけ嬉しかったのは内緒だ。

 

「まさか今の「ちょっと嬉しい」とか思ってるんじゃないでしょうね」

 

「お、思ってねぇっしゅ!!」

 

 リアスの指摘が図星であった為に盛大に咬むダイスケ。その様子を見たコカビエルは愉快そうに笑う。

 

「ハハハ! ならもっと喜ばせってやってもいい。バルパー、首尾はどうだ?」

 

「ああ、完成だ」

 

 バルパーの言葉にコカビエルは拍手を送る。すると、校庭の真ん中に配された四口のエクスカリバーが激しく発光し始めた。

 

「さぁて、最も有名な聖剣エクスカリバー。その力の片鱗を見させてもらおうか」

 

 

 

 

 

 

「あー、全く! この街の混在した空気は好きになれん! もう少しハッキリせぬか!」

 

 同時刻の駒王町の歓楽街。一人の美女がタピオカジュース片手に不機嫌そうに歩いている。

 

「大体、ミコトが安請け合いするからこうなる。あ、なに? ……ふん、他所の神話体系に気を遣う主が悪いわ。悪いが主にはこの飲料は飲ませんぞ。迷惑料じゃ」

 

 女性はかなりの高身長。スタイルは抜群でモデルかと見まごうほど。ショートに切りそろえた雪のような()()がミステリアスさを醸し出している。

 ただ、携帯で会話しているわけでもないのに一人で延々と喋っている。傍から見れば痛い独り言だ。

 

「なんだあれ……」

 

「あれだけは声はかけないでおこう。地雷だ、あれは……」

 

 周囲からしたら彼女は一見すれば「春の陽気に頭をやられちゃったヒト」だろう。ナンパ目的で街に出ている男達も避けている。

 そんな周囲の反応も気にせず、タピオカジュースを飲み干す。そして目の前にあったコンビニのゴミ箱に向けてシュート、見事一発で入れる。

 おぉ、と言う歓声に応えるように美女は自慢げに手を振るが、突如として何かに気づく。

 

「――ん? 聖霊剣に似た雰囲気が……。なるほどの、探し物はあそこと言う訳か。ならば少し急ぐとするか」

 

 美女が向かっていった先、それは駒王学園がある方向であった。




 はい、というわけでVS16でした。
 さぁ、最後に出てきた新キャラですが……あれ、と思われた方いらっしゃいます? ――大正解です。何が大正解かはまだ言いませんが。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!! 


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VS17 ごめん、今回はそんなにオリジナル要素無いんだ

 先日の艦これ秋イベE5のまっ最中に鈴谷がよく頑張ってくれてくれましてねぇ。思わずキスしようとしたら何かおかしい。透明な壁みたいなのが僕らを遮るんです。
 そんな、鈴谷は俺のこと嫌いなのか? そう思った瞬間に気付きました。





 あ、鈴谷はモニターの向こう側にいるんだった……。


「私は幼い頃から聖剣という存在に憧れていてね。聖剣を持つ英雄の英雄譚に幼少の頃から心躍らせていたが、自分に適性がないと知ったときは絶望したよ。だが、適性がない自分のような者でも聖剣を使えるようにならないか、そう思ったのが研究を始めたきっかけだったのだよ。かつての憧れをこの手に掴むために」

 

 木場祐斗にとって同志を皆殺しにした元兇であるバルパーが語りだす。本当ならば今すぐにでも斬りつけてその口を閉じてやりたいところであったが、今の融合しかかっているエクスカリバーの不安定かつ強力な力がバルパーの管理を超え暴発してしまう可能性があるために迂闊に手を出せないでいた。それを向こうも承知しているのだろう、とめどない殺気を放つ相手に滔々と、そして自己心酔するかのようにバルパーは語り続ける。

 

「研究を進めていくうちに私は聖剣を扱うには先天的に得たとある因子が必要だとわかった。だが、適性があるものとして集めた子供らは扱えるだけの数値がある因子を持ってはいなかった。そしてあるとき私は思いついた。『適正値が低い適性者の因子を抽出し、一つにすれば人工的に聖剣の適合者を作れるのではないか』とね」

 

 そのうちの一人が祐斗であり、そして死んでいった仲間たち一人ひとりだったというわけだ。まるで油を取るために磨り潰される胡麻の一粒のように自分たちは扱われていた。そのことを知った木場の胸中は計り知れないものがあるだろうが、バルパーはお構いなしだ。

 

「その自分の妄想のために……僕や同胞たちを殺したのか!? 適性がなかったからではなく!?」

 

「その口ぶりからすると……そうか、あの実験の生き残りか。このようなところであいまみえるとは……これもまた聖剣が呼び込んだ数奇な運命ということか。だが、一つ言っておく。これは妄想ではなく理論だ。夢見がちな自分に酔った哀れな者の妄言などでは決してない。そしてこれが―――」

 

 言いながらバルパーは懐から光り輝く球体のようなものを取り出した。それもただの光ではなく、纏っているのは聖なるオーラの光だ。それは実験に関わっていた木場も知らないものであったが、ゼノヴィアだけが心当たりがあるようだった。

 

「まさかと思っていたがそれは……!」

 

「ほう、流石破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)の使い手だけあって見識が広い。そう、これはお前たち聖剣使いが祝福を受けるときに与えられるものと同様のものだ。」

 

「だが、私たちだってそれが多くの犠牲の上に成り立つ代物だなんて聞いてはいない!!」

 

「それもそうだ、聖剣使いの少女よ。お前が目にしたのは私の研究から得たデータをベースに被験者が死なぬようにされた改良品だ。よりにもよって、ミカエルと教会の奴らは私は異端者として追放しておきながら研究成果だけはしっかりと享受したのだ。まあ、被験者を殺さない分私よりは人道的なのだろうがな。くくくく……」

 

 自分を否定したもの全てを嘲るようにバルパーは嗤う。

 そして自分が否定したものによって自分たち聖剣使いが成り立っているいることを知ってしまったゼノヴィアは悔しげな表情を浮かべた。

 

「ああ、そうだ。ついでに言っておくがの因子はそこの魔剣使いが死んだ時のものだ。三つほどフリードに使ったがね。これは残りだ」

 

「ウヒャヒャヒャヒャ! ほかにこいつを与えられた奴らもいたんだけどさぁ、俺以外みんな体が耐え切れなくておっ死んじゃった!! で、生き残ったご褒美にこのエクスカリバーも使わせてくれるってさ!! うちのボスってばマジで太っ腹!!!」

 

 まるで最高の玩具をこれから買い与えられる子供のようにフリードは歓喜する。

 

「ああ、いいぞ。フリード、エクスカリバーの統合が済んだらすぐにでもそれで遊んでくるといい。戦争前の肩慣らしだ」

 

「そしてその統合の瞬間ももうすぐだ。そうすればまずはこの街を破壊しよう。因子の結晶も量産体制にすぐにでも入れる。あとは世界中の聖剣をかき集め、最強の聖剣使いの軍団を作り上げる。そうなればいずれ完全体になったエクスカリバーを用いて私を断罪したミカエルとヴァチカン相手にわたしの研究成果を見せつけてくれよう」

 

 共に天使を憎み、共に戦争を欲し、そして己の力を見せつける。立場は違えどこの三者は同類だ。そして最悪の同盟関係にあるとも言える者たちだ。

 バルパーなどはこれから起こるであろう凄惨な未来に思いを馳せて恍惚の笑まで浮かべている。だが、木場はその反対に憎悪と怒りでその端正な顔立ちを歪ませる。

 

「もうこれに用は無い。材料の同胞のよしみでくれてやる。手慰みにでも使うがいい」

 

 そう言ってバルパーは木場の足元へ手にした結晶を放り投げる。バルパーにとってはもはや興味が失せて無用の長物だったのだろう。だが、木場は転がり込んできたそれを慈しむように両手で拾い上げる。

 

「―――みんな……」

 

 その木場の表情に、今は怒りの色は見えない。むしろ、いま手にした結晶に残る、かつての同胞のぬくもりを一つたりとも感じ逃さぬようにと悲哀に満ちたものとなっている。

 

「僕は、僕は……ッ!」

 

 敵を目の前にしても一太刀も浴びせることのできない自分への怒り、そして結晶の中に眠る多くの命のかけらに対する憶いが相まって、木場のその瞳から涙が一筋流れ出ていく―――まさにその時だった。

 結晶から光が放たれ、徐々にそのカタチを崩していく。溢れ出た光は少しずつ形を得ていき、まるで人影のようになった。その人影は因子に残っていた元の持ち主たちの魂のかけらなのであろうか。そう思わせるように無数の小さな人影たちは木場の周囲を取り囲んでいく。

 それは実験のはてに殺されていったであろう少年少女たちの姿であろうことは、その姿を知らないダイスケやイッセーにも理解できた。

 

「この場に存在する様々な力が閉じ込められていた思念を呼び起こしたのか。それとも木場くんの思いが通じて彼らが解放されたのでしょうか……」

 

 感慨に耽りながらも、朱乃は冷静に分析する。

 きっとそれは両方正しいのだろう。だが、きっと後者の力が大きかったのだとダイスケは信じたかった。

 自分を取り囲む幻影たちに、木場は懐かしくも哀しげな表情を浮かべる。そして懐かしい姿を目にしたことで、ずっと心の奥に引っ掛かっていた思いが溢れ出す。

 

「僕は……ずっと、ずっと思っていたんだ。僕だけが生き残って本当に良かったのかって。みんなにだって夢はあった。みんなにだって生きたい思いがあった。それなのに、僕だけが生を手に入れていいのかって……」

 

 すると、木場のすぐ目の前にいた少年の幻影が微笑みながら語りかける。声には聞こえない。だが、何を言っているのかは心で感じた。

 

 イインダ――

 キミダケデモ――

 イキテイテ――

 イキテ――

 イキテ――

 イキテ――!

 

「―――!!」

 

 一筋だった涙が、大きな流れとなる。

 ただひとり生き延びてからずっと抱いていた不安と疑問、それらすべてが一言で洗い流されていく。すると少年少女たちが同じようなリズムで口を動かし始める。はじめは動作しか見えなかったが、徐々に胸の奥底から響く音に変わっていく。

 

「……聖歌」

 

 アーシアの呟きの通りだった。かつての長く苦しかった実験体としての日々。それを乗り越えていくためにみんなで心の支えにし、歌った聖歌。

 もはや涙で口もまともに動かなかったが、木場も彼らとともに歌いだす。もはやその顔に悲しみの色はなかった。声にならない声が耳では聞こえない、それでも心に響いてくる歌声に混ざり、一つになる。

 

『僕らは一人ではダメだった―――』

 

『私たち一人ひとりでは聖剣を扱える因子は足りなかった。でも―――』

 

『みんながひとつになれば、きっとだいじょうぶ―――』

 

『憎まないで、受け入れて―――』

 

『怖くなんてない―――』

 

『たとえ神がいなくても―――』

 

『たとえ神が見ていなくても―――』

 

『僕たちの心はいつだって――』

 

「――一つなんだ」

 

 幻影たちの魂は天に昇り、ひとつの光の大きな柱となって木場へ降りてくる。神々しくも優しい、そして悪魔ですら優しく包み込む光が木場を包み込んだ。

 その光景は、意味をすべて理解できていないイッセーの心をも強く動かし、自然に涙を流させていた。

 

『相棒よ』

 

「な、なんだよ! こんな時に!!」

 

 折角いい雰囲気になっていたところをドライグの野太い声が邪魔をする。ムードをぶち壊されたイッセーは怒り心頭だ。

 

『あの騎士(ナイト)は“至った”ぞ』

 

「だから、なにが!?」

 

『神器の力の糧は所有者の想いだ。だからこそ当人が成長すれば神器も強くなる。だが、それとは別の領域があるのだ。その想いが、そして願いが変えようがないこの世界の『流れ』に逆らうほどの強さを得たときに神器の力は転じ、そして至る。それこそが―――』

 

 イッセーの中のドライグは不敵に嗤う。

 

『―――真の『禁手(バランス・ブレイカー)』だ』

 

 

 

 

 

 

 ほんとうは今あるもので十分だった。

 どのような形でも生きる。それこそが巡りあった主の願いであり、自分の本当の願いでもあり、命を賭して救ってくれた同胞たちの願いだった。

 

「みんなが復讐を望んでいないのは解っていた。エクスカリバーへの憎悪だって忘れても良かった。でも―――」

 

 木場は立ち上がる。涙をぬぐい去り、先程まで潤んでいた目には確固たる意志の炎が宿る。

 

「行け、木場ァァァ!! お前はリアス・グレモリー眷属の騎士(ナイト)で、俺たちの《剣》なんだ! あいつらの想いと魂、無駄にすんなァァァァアアアアア!!!」

 

「やりなさい、祐斗! 自分の過去と決着をつけるのよ!! 貴方は私の大切な騎士。エクスカリバーになんか絶対に負けないわ!!」

 

「祐斗くん、信じていますわよ!」

 

「ファイトです!」

 

「……先輩、私たちだってついてるんですからね」

 

「うん、まぁ無理はすんな」

 

 木場に仲間たちの声援が届く。最後辺りダイスケにかなり適当な声援を送られた気もしなくはないが、その全てが彼の背中を押した。

 

「うひゃひゃひゃ!!! なーに泣いちゃってるの!? クッソうぜぇ聖歌なんか聴かせてくれちゃって!!! 俺、あれマジで聴いてるだけでジンマシン出てくるんっすよ。ここでてめぇを切り刻んで心の燻蒸消毒させてもらうぜ!! この四本統合の無敵のエクスカリバーちゃんで!!!」

 

 フリードが既に統合を終えたエクスカリバーを陣から引き抜く。もちろん扱えるのは木場の同志たちの因子が所以だ。これ以上彼らのためにも悪用させるわけには行かない。

 そのためにこそ―――

 

「―――僕は剣になる」

 

 木場の前に、神々しくも禍々しい二つの力が合わさったひとつの力場が生まれる。そこへ両の手で剣を握るように手を突き出すと、ひと振りの剣が生まれた。

 ほかの誰でもない、木場だからこそ出来た芸当。元より持ち合わせていた才能と、仲間たちから譲り受けた因子と命があったからこそ魔と聖の力が溶け合っていた。

 

「『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。僕とみんなの力の結晶、刀傷としてその身に刻め!!!」

 

 木場が目に止まらぬスピードでかけだすと、まずは一太刀目を入れる。フリードも防御できた分流石というべきなのだろうが、それは木場も想定していた事態である。木場もその事実に感心するが、それだけでは済まさず手にした聖魔剣の魔のオーラでエクスカリバーの聖なるオーラを徐々に侵食させていった。

 

「ッ! 本家本元の聖剣に影響を与えられるのかよ!?」

 

「それが真のエクスカリバーだったらできなかったさ。でも、その中途半端なものじゃあ僕と同志たちには勝てない!!」

 

「チィ!」

 

 フリードは舌打ちをすると木場を押し出してその反動で後方へ一旦下がる。

 

「伸びて切り刻めェェェェェ!!!」

 

 エクスカリバーは刀身を分裂させて蛇のようにくねらせ、無軌道に且つ神速をもって木場に襲い掛かる。それぞれ“擬態の聖剣《エクスカリバー・ミミック》”と“天閃の聖剣《エクスカリバー・ラピッドリィ》”の特性である。

 だが、その斬撃の全てを木場は防ぎ、いなし、躱していく。フリードは常に全開の殺気を迸らせながら敵に向かっていくが、全てに対して吹っ切れて冷静になった木場にはあまりにもわかりやすく単調な攻撃だった。

 

「なんでだよ!? なんで通じねぇぇぇぇぇぇ!? 無敵の聖剣様だろうがよ!!! ……ならコイツも追加だぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 木場を襲っていた無数の刀身が掻き消える透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)の能力である。確かにこれでは“普通”は避けきれないだろう。

 だが、やっていることは先ほどと同じ。いくら見えない攻撃といえども殺気を隠せていなければ姿が見えているのと同義である。

 

「―――ッ!?」

 

 四振のエクスカリバーすべての攻撃が見切られて驚愕するフーリドは、ショックのあまり戦いの最中であるにもかかわらず足を止めてしまう。

 

「よぅし、そのまま足を止めていろよ」

 

 横合いからゼノヴィアが乱入してくる。左手にエクスカリバーを逆手でもって右手を宙へ挙げた

 

「このまま君に出番を取られては教会の剣士の名折れ、加勢させてもらうぞ―――ペテロ、パシレイオス、ディオニュシウス、聖母マリアよ。使い手たる我に応じよ!」

 

 突如としてゼノヴィアの頭上の空間が歪む。そこへ宙へ掲げられていた右手を突っ込むと、その空間の歪みからゼノヴィアはひと振りの大剣を引きずり出した。

 

「この刃にやどりし四柱の聖人の名において、我は開放する……デュランダル!!!」

 

 デュランダルとはフランスの叙事詩『ローランの歌』に登場する英雄、ローランが持つ聖剣。その名の意味は「不滅の刃」であるという使用者であるローランも「切れ味の鋭さデュランダルに如くもの無し」と語る、まさに最強クラスの聖剣である。

 その巨大な頭身には悪魔は近づいただけで浄化されそうなほどの強力な聖なるオーラがまとわれている。これはこの剣の黄金の柄の中には、聖ペテロの歯、聖バシリウスの血、パリの守護聖人である聖ディオニュシウスの毛髪、聖母マリアの衣服の一部と多くの聖遺物が納められているからである。

 そんな聖遺物の塊のような聖剣であれば、嫌でも最強の称号が与えられるという代物が何故エクスカリバーの使い手であるゼノヴィアが持っているのか。。

 

「馬鹿な、デュランダルだと!?」

 

 誰よりも驚いていたのは聖剣研究のエキスパートであるバルパーだ。

 

「ありえない、今現在でもデュランダルを扱えるのはただ一人と聞く。それに私の研究でもデュランダルを扱う領域にまで入っていないのだぞ!?」

 

「残念だったね。私は元々現在のデュランダルの所持者だ。エクスカリバーの使い手も兼任していたに過ぎない。そして私は数少ない天然物の聖剣使い。貴様の因子結晶がなくとも、私は元から聖剣に祝福されているんだよ!!」

 

 自分の想像を超えた存在を前に、バルパーは絶句する。だがこれは致し方ないだろう。自分が誇った研究以上の存在を目にすれば、誰であれこれまで抱いていた自身の歩みへの誇りもたやすく崩れ去るというもの。

 

「さぁて、コイツは使い手の言うこともまともに聴かないじゃじゃ馬までね。普段は異空間に収納していて使うチャンスも滅多にない。仮初とはいえエクスカリバーの使い手であるフリード・セルゼンよ、簡単に死んでくれるなよ!!!」

 

 言うが早いか、圧倒的な破壊のオーラを纏った斬撃がフリードを襲う。いつもの軽口を見せる間も無く、一瞬にして枝分かれしていた刀身が粉々になり本体のみが現れる。

 

「……所詮は折れた刃か。木場祐斗、もう私が出る幕ではないらしい。幕引きを頼む」

 

 虚しげなゼノヴィアの嘆息を背に受けて、木場は一気にエクスカリバーへと詰め寄る。

 その速さに、茫然自失のフリードは咄嗟に防御の構えを取るものの時すでに遅し。一閃の下に、エクスカリバーもろとも切り裂かれた。

 儚い金属の破断音が木場の胸中へ染み渡る。束の間の復活を見たエクスカリバーも、遂に再び元の破片の姿へと引き戻されていった。そして同時に、木場の人としての死から続いてきた因縁も、ついに断たれたのである。

 

「―――みんな、見ていてくれたかい? 僕らは……エクスカリバーを超えたよ」

 

 聖魔剣を握り、木場は天を仰ぐ。人生における最大の目標を果たしたことでこれ以上ない充実感に満たされるものと考えていたが、実際にその胸に去来するものは言いようのない喪失感であった。悪魔としての永い生で完遂しようとしていた目的の果てに自分は何を目標に生きていけばいいのか。

 

「ば、馬鹿な……有り得ない!聖なる力と魔なる力はプラスとマイナス、水と油以上に混ざり合うことないものなのだぞ!!それが、それがなぜ……!?」

 

 いや、やるべきことはまだあった。自らの、そして同胞たちの人生を狂わせた元兇である目の前の男。この男を生かしたままでは間違いなく自分と同じ境遇になるものがまた現れてしまう。

 

「バルパー・ガリレイ。お前の野望と因果、僕が断ち切る! 覚悟しろ!」

 

 聖魔剣を正眼に構え、仇敵を討つ覚悟を固める木場。だが、バルパーは思考を巡らすのに必死で木場が自らを討たんと歩み寄ってくるのに気付いていないようだった。

 

「そうか! それぞれのバランスがすでに崩れているのだとしたら説明はつく! つまり、魔王だけでなく神も既に―――」

 

 何かの結論に達したらしいバルパーの胸を光の槍が貫く。刺さった角度から見るに、槍を放ったのはどうやらコカビエルらしい。槍を突き立てられたバルパーは口と傷口から大量の血を流し、グラウンドに突っ伏す。木場は急いで駆け寄って脈を見るが、既にバルパーは絶命していた。

 

「バルパー……お前は実に優秀だったよ。その結論に達したのもお前が真に優秀だったからこそだったのだろうが、お前自身はもう必要ないのだ。俺は最初から一人で十分なのだよ」

 

 学舎の時計台に腰掛けるコカビエルが嘲笑う。

 

「……もうお前に手は残っていないぞ、コカビエル」

 

「ああ、そうだな。だがそれがどうした? 俺は最初から一人でも良かった。バルパーと組んだのは兵隊を作る手段が欲しかっただけだ。だがそれもあまり期待は出来そうにない。それでも―――」

 

 コカビエルの全身から放たれる強大な殺気。本人はその場からひとつも動いていないというのに、その場にいる全員がその殺気に圧倒され、膝をついてしまう。

 

「どうだ? これが俺一人とお前達との“戦力差”だ。言っておくが今のは本気の十分の一も出してはいないのだぞ? それで戦えるのか? 特にデュランダルの使い手よ。お前の先代とは一度やりあったことがあるが、本気のさっきを受けても平気だったのだ。せっかくのデュランダルだというのにその調子でいいのか?」

 

「クッ―――!」

 

 ゼノヴィアが悔しげな表情になる。事実、先ほど放たれた殺気で充分に投資を殺がれてしまっているのだ。それでもゼノヴィアはデュランダルを構える。

 

「例えそうだとしても、神の御名においてお前の勝手を許すわけには行かん!」

 

「……闘志を削がれてもなお俺に立ち向かうか。そこのグレモリーの小娘もそうだが、お前達はよくやるよ。信じる者は共にとうに亡いというのにな」

 

 一瞬、その場の空気が凍りついた。

 リアスたちが信じるものである真の魔王が先の大戦で喪したことは全員が承知の上だ。だからこそ魔王という肩書きは選ばれし統治者としての称号となり、その内の一つをリアスの兄であるサーゼクスが継いだ事も周知の事実だ。

 だが、ゼノヴィアと悪魔であるが経験なクリスチャンであるアーシアが信じるのはキリスト教、ひいてはアブラハムの宗教における全能にして唯一の存在である“神”だ。コカビエルの言うとおりであれば、その唯一神すらこの世にいないということになる。

 

「ああ、そうか、そうだったな!! お前達が知らないのも無理はないか! ならちょうどいい、教えてやろう。先の大戦で身罷ったのは四大魔王だけではない。神も死んだのさ。」

 

 衝撃が走る。

 それもそうだ。この場にいるすべての者は何らかの形でその神の影響を受けている。それどころかその存在を信じ、生きる糧にしている者もいるのだ。誰もがコカビエルの言葉を信じることはできなかった。

 

「まぁこの事実が人間の間で広まれば世界中は大恐慌だ。人間は何かを信じなければ生きてはいけない存在なのだからな。リアリズムとかいう宗教を信じない者達もいるにはいるが、それだって自分たちの主義という人工の神のようなものを崇めているようなもんさ。そんな弱い人間どもが壊れないように各勢力のトップたちは神の死という事実をひた隠しにし続けているのだよ」

 

 確かに信じる者が既に存在しないと知れば、人は容易く心を壊すだろう。死んだという神を信じる者、つまりアブラハムの宗教の信仰者は現在の世界の人口の約半数である。それら全員が信じるものを失い、恐慌に落ちればどのような大惨事が起きるか。規模は想像できなくとも世界中が大いなる混沌に陥ることは誰の目にも見えている。

 

「あの戦の後、残ったのは神を失った天使、魔王全員と上級悪魔の大半を失った悪魔、幹部以外はほどんどいなくなった堕天使だった。疲弊どころではない、絶滅の危機だ。どこも人間に頼らなければ存続できないほどに落ちぶれた。今の世界があるのは神が残した世界の運行を司る“システム”のお陰さ。それさえあれば神への祈りも、祝福も、悪魔祓いもある程度は機能する。ミカエルの奴はよくやっているよ」

 

「嘘だ……嘘だ―――」

 

「そんな……それじゃあ、神の愛は―――」

 

 中でも衝撃が大きいのはともに敬虔な信者であったゼノヴィアとアーシアだ。ゼノヴィアは手にしたデュランダルを落としそうなほどに疲弊し、アーシアに至っては涙も出ないほどに心が打ち砕かれていた。イッセーがその身を支えるものの、今にも彼女は崩れ落ちそうだ。

 

「先程の特異な禁手も神がいないからこその現象だろうな。力を統括するのがただ粛々と処置していくだけのシステムならバランスが崩れることもある。そこまでこの世界は脆い柱の上に成り立っているのだよ」

 

「……なら、何故貴方は戦争にこだわるの!?世界がそこまで来ているのであれば、もう戦争どころではないでしょう!?」

 

「グレモリーの小娘よ、だからこそだ。誰がこの世界の頂点であるかを決めなければ、この振り上げた拳はどこへ下ろせばいい!? 戦争以前に、あの“王”のこともあるというのにアザゼルの奴は「決着は付けない」と言いやがった!!! 我ら堕天使こそが至高であると世界に示し、導かねばならんのだ!!! 真の強者が強さを示して何が悪い!!! それだというのに神器なぞにうつつを抜かして、人間どもに頼る堕天使に何の意味がある!!!」

 

 憤怒の形相のコカビエルから先程とは比べ物にならない圧倒的な怒気と殺気が溢れている。だが、その理由はあまりにも身勝手すぎた。

 

「俺は再び戦争を起こす。たとえ俺ひとりでもあの戦の続きを遂げてやる!!! 我ら堕天使こそが至高であると悪魔どもにも、天使どもにも見せつけていずれあの“王”さえも超えてやるんだ!!!!!」

 

 なんと矮小で身勝手な理由で世界を滅ぼしかねない選択を採るのだろうか。だが、相手は世界をどうこうしようという魔王や天使の長を相手取ろうという存在。その力は本物だ。

 信じていた世界が仮初のものであったというショックと、戦う相手の圧倒的強さに誰もが戦う意思を失いかけていた。

 ただ一人を除いて。

 

「……巫山戯るなよ」

 

 ダイスケである。

 つい先程までの木場が起こした奇跡と世界の真実に圧倒されていたダイスケであったが、コカビエルへの純粋な怒りで立ち上がったのだ。

 

「……何が堕天使が至高だ、何が神は死んだだ。そんなもん、世界の半分にとっちゃ関係ないんだよ。そのままそっとしておけばいいのに、なんでテメェの我侭で今俺たちが生きている世界が迷惑を被らなきゃならないんだ」

 

「……人の子よ。それが人の定めだ。大きな力には逆らえず、ただ世界の流れに身を任せるしかなく、雑多で小さな一つ一つの存在でしか有り得ないのが人間だ。現に今でも自分を超える大きな力には抗えない。自ら作り出した力であってもだ」

 

「そうだな。だけどその雑多で小さな一つ一つの存在のなかには俺の大切なものがある。お前の好き勝手で、それをお前なんかに壊させるわけにはいかないんだよ!!!!」

 

 コカビエルと比べても、ダイスケの怒りの理由は矮小なものであろう。結局それは至極個人的なものであるからだ。だがそれはイッセーたちにとっても同じであった。

 彼らにもこの街には大切な存在がいる。イッセーには両親と親友たち。アーシアには自分を受け入れてくれたイッセーたち。あえて全ては上げないが、それらの彼らにとって大切なものはすべてこの大きな世界に寄って存在している。この大きな世界を守らなければ、小さな存在である身近なものすら守ることはできないのだ。

 その事を、彼らはダイスケが立ち上がった姿を見て遂に悟った。

 

「そうだよな……勝てる勝てないの問題じゃあない。ここで動かなきゃ、なんにもならないよな」

 

 イッセーが立ち上がる。

 

「……神を信じていた僕らの祈りは無駄たったのか、なんて思っていた。だけど、今ここで折れたらそれこそ本当に全ては無意味になっちゃうな」

 

 木場が弱々しくも聖魔剣を構える。

 

「お兄様が来てくれるまで、なんて考えていたけど……ダイスケに心で負けちゃあ上級悪魔として情けないわよね」

 

 いつもの自信にあふれた瞳ではないが、リアスの目に再び闘志が宿る。

 

「なら私も圧倒されている場合ではありませんわね」

 

 余裕の無い朱乃ではあったが、リアスを助けるという意志は戻った。

 

「……もとより、私の居場所はここなんです。わたしだって……!」

 

 小猫がその小柄な体にいま一度闘志を流し込むように気合を入れた。

 

「……信じていたものがなかったことは辛いです。でも、ここで私が立ち上がらなきゃ誰がみなさんの怪我を治すんですかッ!」

 

 心の支えを失いながらも、アーシアは立ち上がっていく仲間のために心を無理にでも奮い立たせた。

 

「悪魔に身を窶しても信仰を捨てなかったあの娘が自ら立ち上がったんだぞ……現役信徒の私が遅れてなるものか!!」

 

 まだ心の震えは止まらないが、アーシアが自らを奮い立たせた姿を見てゼノヴィアが歯を食いしばって再びデュランダルを構えた。

 正直な話、誰も本当に立ち直れたわけでも迷いを断ち切ったわけでもない。コカビエルに対する恐怖だって未だに抱いている。だが、それでも立ち上がらずにはいられなかった。

 

「……実力差を見せつけられても、世界の真実を見せつけられてもなお立ち上がるか。―――面白い。サーゼクスとミカエルの前にまずはお前たちとの“戦争”だ!!!」




 はい、というわけでVS17でした。
 さいきんグレンさんとの意見交換をしているのですが、奇跡が起きました。こんな偶然ってあるのかっていうくらいのが。皆さんにご覧に入れる日が楽しみです。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!! 


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VS18 目覚めよ、王よ(Awake the King)

 待たせたなぁ(大塚明夫)! ついに主人公覚醒だよ!


 

「……実力差を見せつけられても、世界の真実を見せつけられてもなお立ち上がるか。―――面白い。サーゼクスとミカエルの前にまずはお前たちとの“戦争”だ!!!」

 

 コカビエルが腰掛けていた時計台から立ち上がる。本格的にダイスケ達を敵として認識したようだ。

 

「サーゼクスが来た時に使おうと思っていたが、今ここでお前たちにぶつけてやろう……さぁ、出てこい!!!」

 

 そう言いながらコカビエルは懐から短剣を一振り取り出す。それはかつてレイナーレがカマキラスを呼び出したときに破壊した物と同型状の物だ。

 それをレイナーレと同じように刃を破壊し、地面に叩き付ける。そして、それは現れた。

 

 キぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!

 

 甲高い鳴き声を上げて現れたのは、真っ赤な甲羅を持つ巨大な蝦。左右非対称のハサミがひときわ目を引く。

 

「な、なに? あの怪物は……」

 

 リアスが呆然と怪物を見上げて言う。その大きさは校舎を優に超え、校庭の大部分を占拠している。呆けるリアスを眼下に見下ろし、コカビエルは言う。

 

「コイツは『エビラ』という蝦の化け物だ。なに、知らなくても無理はない。コイツは我々が今いる世界とは別の世界――いや、正確にはこの世界でもあるのか。ともかく、この世には本来存在しない生物、『怪獣』の一体さ」

 

「怪、獣……?」

 

「そうとも。現実を生きる獣でありながら、現実を超越した力を持つ生命――それが『怪獣』だ」

 

 そのコカビエルの言葉とともに、エビラはその巨大な方のハサミを高く振り上げて地面に叩きつける。

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』

 

 その壮絶な威力はたった一撃で校庭の地面を穿ち、飛んできた礫がリアス達を撃ち抜き、衝撃波が体の奥底を打ち付ける。

 たったの一撃。それだけでイッセーに庇われたアーシア以外の全員が大ダメージを受ける。

 

「こ……こいつっ!」

 

 ゼノヴィアはなんとか立ち上がってデュランダルの破壊のオーラを纏った斬撃を放つ。だが、それはエビラの表皮に小さな傷をつけるにとどまる。

 

「なら……これで!」

 

 なんとか滅びの魔力を発生させたリアスはその魔力弾をエビラに向けて放つ。だが、ダメージのせいで集中できなかったためか、魔力の集束がうまく出来ずにエビラの甲羅に魔力の塊は弾かれる。

 

「なるほど、滅びの魔力も防ぐか。なら十分に使えるな。―――フリード! いつまで寝ている? 立て、リベンジのチャンスだぞ」

 

「……いやー、そうしたいのは山々なんですけどねぃ。ここまでの傷を負わされた上に愛しのエクスカリバーちゃんまで折られたとなったらもう打つ手がねぇっす……。」

 

 胸を切り裂かれ、虫の息のフリードはコカビエルに弱々しく答える。会話が出来るだけでも驚きのしぶとさである。

 

「お前にくれてやったアレがあるだろう。やれ」

 

「……わーお、こんなにもボクちんのことを頼ってくれる上司がいるなんて幸せで絶頂しちまいそうでござんすよっと」

 

 言いながらフリードは小さな短剣のようなものを懐から取り出している。よもやそれで襲ってくるつもりか、と思ったが様子がおかしい。なんとフリードはその短剣を自らの胸に―――

 

「フンスッ!!」

 

―――一気に突き立てた。

 

弱々しく鼓動を奏でていたフリードの心音が一気に高まる。胸の傷はみるみると塞がっていき、土気色だった顔も元の血色を取り戻す。

 

「ウッハァァァァァァ!!! 気分爽快ィィィィ!!! なんかマジで生まれ変わった気分!! あ、マジで生まれ変わってるんだけどね、これ!!」

 

 元のテンションを取り戻したフリードは、その手に巨大な武器を生み出していた。

 それは巨大な鎌である。まるで中世で麦の穂を刈り取っていたような農耕用の巨大鎌である。所々に節があり、まるで全体が昆虫をイメージしたような作りになっている。それを見た木場が何故か一番最初に頭に浮かんだのはレイナーレとの一件で戦ったあの巨大カマキリの「カマキラス」であった。

 

「紹介しちゃうぜぃ! これがオイラの新たな相棒、『巨大蟷螂の不信心なる祈りの大鎌(カマキラス・インピオス・プレイア・サイズ)』でぃ!!!」

 

 言いながらフリードは自分を切った木場に斬りかかる。吹き飛ばされたダメージで力が入らない中、木場は聖魔剣でその一撃を受けきるものの、体が全くついていけていない。

 

「くそっ、何故……!?」

 

「チミが万全の体調だったら勝てなかったさ。でも、その中途半端な力じゃあ僕ちんとカマキラスちゃんには勝てない!! なーんて、君にもらったセリフをパロって返させて頂きましたァ!!」

 

 大鎌で聖魔剣を払うと、そのまま空いた胸をフリードは一気に切り裂く。

 

「カハッ―――!!!」

 

 聖魔剣を落とし、木場は膝から崩れ落ちた。

 

「そんな、祐斗が……!? あの神器は一体……!?」

 

 リアスがショックで口を抑える。だが、それと同時に気を引いたのが突如としてフリードが使い出した神器らしき代物である。

 確かにフリードは優れた戦士であり、後天的ながらも聖剣を使いこなしていた実力だけで言えば確かに優秀なエクソシストであった。だが、神器の所有者でないのは間違いない。それがどうして突然あのような力が発現したのだろうか。

 

「気になるか、リアス・グレモリー。なら冥土の土産に教えてやろう。我ら堕天使の神器研究が最先端であることは周知の事実だが、実は人工的に神器を作るレベルにまで達している。その技術を用い、オリジナルを有する人間から怪獣の宿った神器をコピーする術を編み出したのさ」

 

 それでようやくレイナーレがあの巨大カマキリを戦力として有していたのか理解できた。あれはこの人口神器を作るための研究材料だったのだ。それを無断で持ち出して、しかも暴走させて戦力にしていた、ということなのだ。

 

キぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!

 

 エビラの横合いからの一撃が、ほぼ無抵抗となったゼノヴィアを吹き飛ばす。ゼノヴィアの体はイッセーたちが倒れている方向へと飛んで行き、近くの木にぶつかってようやく止まる。

 

「ゼノヴィアッ! ……くそっ、あいつのところへ行くこともできないなんて!」

 

 イッセーが頭から血を流し、グッタリと項垂れているゼノヴィアのもとへ向かおうとも木場たちと同じで体が言う事を聞かないでいる。これでは応急処置もままならない。

 

「おーう、ナイスホームラン。そんじゃ君もその首刈り取ってホールインワン行っとく? 行っちゃおうか!!!」

 

 血が付いた大鎌を振るい、その刃を木場の首筋にあてがう。

 

「やめろ……やめろぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!!」

 

 イッセーがたまらず叫ぶが、フリードは全く気にする素振りすら見せない。

 誰にも止めに行けないなか、無情にも大鎌が振り下ろされ―――刃は虚空を切り裂いた。

 よく見れば、木場は先程までの場所にはいなかった。ダイスケによって間一髪のところで救出されていたのである。それも手甲から発射した熱線の反動で飛び出したのだから相当遠くまで逃げ切っている。

 

「おう? チミさっきまで苦しんでなかった? なんで平気な顔してんのよん? ひょっとして怪我治っちゃった?」

 

 フリードの問にダイスケは無視を決め込む。

 最初は確かにダイスケも例に漏れず大怪我に苦しんでいた。だが、五分も経たずに痛みは引いていた。なぜ治ったのかは本人にも理由が分からないでいる。

 そのどちらも持ちようのないダイスケが何故回復できたのか誰にも推し量れなかった。だからこそダイスケは余計なことは言わずに黙って木場を降ろしてフリードに向かい合う。

 

「あれれーおかしいぞー? ひょっとしてチミ、僕ちゃんとエビラちゃんを同意時に相手取る気? 言っとくけど、あの子堕天使の機械でしっかり睡眠学習してあるからこっちの言うこともちゃんと聞くのよん?」

 

「……知らねぇ」

 

「おやおや、知らねぇはないでござんしょうよ。ウチの大将、まだ自分で戦う気がないとは言え三対一よ? 勝目は完全にナッシングなのにそれでも戦っちゃう? 殺られちゃう?」

 

「……知らねぇって言ってんだろ!!!」

 

 再び瞬間的な熱線の噴射による加速。その勢いでフリードに向けて突進するが、あえて素通りしてエビラの方へ向かう。

 走り幅跳びの要領でエビラの頭上まで上がると、頭にしがみついた。

 

キぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!

 

 自分の頭にしがみついたダイスケを振り払おうとその頭を必死に振るが、ダイスケのガントレットから伸びた爪が食いついて離さない。

 

「コイツッ!!」

 

キぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!

 

 エビラは頭にしがみついて離さないダイスケを引き剥がすために、なんと自ら校舎に突っ込んでいった。

 

「クッソ、近づけねぇ!」

 

 フリードが悪態をつくが、これこそがダイスケのほぼ狙い通りである。

 あえて自分を危険なところに置くことでもう一方の敵に手出しをさせにくくさせるのが目的であった。そのためにエビラに寄生虫のように張り付くことで余計に大暴れさせて近づけなくさせたのだ。

 無論、このままでは自分の身が危険だ。校舎に突っ込んだことはダイスケにとっては想定外であった。これでは予定していた以上に早く決着をつけなければならなくなってしまった。だが、勝算はあった。

 この怪獣の装甲が生半可な攻撃で傷が付かない耐久力があるのは分かっている。正直なところ、自分の熱線でこの甲羅を撃ち抜ける自信がない。きっと散らされるだろう。

 

(甲羅を貫く一撃でありながら、確実にコイツを殺す攻撃……!)

 

 ドライグの言う通り、神器の力の源が所有者の願いや想いであるのなら。それに神器が応えてくれるというのなら。

 

「神器ァァァァァアアアアア!!!!」

 

 願うのは、以前に出した盾とは違う明確な『武器』。振り上げた右手に、いつも放つ熱線以上の熱量が迸り、形になっていく。腕が燃え上がるのではないかと思える程の膨大な蒼い熱が、ダイスケが望む形になっていった。

 それはひと振りの直剣。

 木場とゼノヴィアに影響されたのであろうか、熱線が直剣の形となって現れたのである。ダイスケの神器の答えは「熱線を武器の形に固め、堅い装甲を溶断して切り裂く」というものだったのだ。

 このことを直感で理解したダイスケは、熱線が固定した剣、いわば『熱線剣』をエビラの頑丈な頭部に逆手で突き立てた。

 

キぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!

 

 先程のデュランダルの一太刀とは比べ物にならない痛みがエビラを襲う。痛みの原因を振り落とそうと躍起になって余計に暴れるが、暴れれば暴れるほど熱線剣は傷口を燃やし、溶かし、切り裂いていく。

 肉が焼け焦げる匂いを放ちながら、エビラはのたうち回る。だが、既に出現した当初の力強さはない。その隙を逃さずにダイスケはしがみついていた頭から飛び降り、先にデュランダルでつけられていた小さな傷に熱線剣を突き立てる。

 

キぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!

 

 まさに断末魔の絶叫。

 突き立てられた熱線剣は瞬く間に脳を突き破り、確認する間もないほどの時間でエビラを死に至らしめた。

 

「くぅ……フン!」

 

 一気に剣を引き抜き、残ったフリードをも始末せんと振り返る。背にエビラの巨大な亡骸を配することで盾にし、襲ってこられる方向を限定させる。だがダイスケの目の前にある瓦礫の山の中にフリードの姿が見えない。

 

「いっきまぁぁぁぁぁあああああああす!!!」

 

 フリードの背後からの奇襲。

 本来なら有り得ないはずであった。ダイスケの背には巨大な死体が横たわっているのだから。だが、答えは簡単だった。フリードが手にした大鎌で死体を切り裂いて突撃したのだ。

 刃が肉を切り裂く音。それはフリードがダイスケの背中を大きく切り裂いた音である。

 

「っう―――!」

 

 背中に鋭い痛みが広がるが、歯を食いしばって背後へ剣を振るう。だが反応は一足遅く、剣を振った先にフリードはいなかった。

 

「エビラちゃんをやったのは確かに凄かったけどさぁ―――」

 

 頭上から聞こえるフリードの人を小馬鹿にした声。

 

「君、剣はそこまで使い慣れていないっしょ!?」

 

 次の瞬間、ダイスケの胸が切り裂かれる。フリードは落下と同時にダイスケの胸を狙い、見事に深く切り裂いて鮮血を噴出させることに成功させていた。

 その道の達人ですら気絶するような痛みを我慢していたのに、そこへ更に致命傷となるような一撃が加えられる。たまらずダイスケは剣を落とし、両膝から崩れ落ちた。

 

「うひゃひゃひゃひゃひゃ!!! おやおやぁ、さっきあんなご高説たれてたのにもうギブですかぁ? 情けねぇったらありゃしないねぇ、おい!」

 

 ダイスケの頭を踏みつけて悦に入るフリード。

 悔しいが、フリードの言うとおりであった。コカビエルどころかその手先のフリードにすら手も足も出ない。落ちた剣を拾おうとするも、既に影も形もなく消え去ってしまっていた。

 このままではこの街を破壊され、自分の大切なものが全て消え去ってしまう。なぜそうなったのかも知らないまま、理不尽にだ。

 

「さっきはあの騎士くんの頭を切り落とすの邪魔してくれたからさぁ……先に君のをチョンパさせてもらおっかな!?」

 

 濃緑の大鎌が頭上高く振り上げられ、ダイスケの首筋へと正確に狙いを定める。切れ味は折り紙つき、寸分違わずその首を切り裂いて容易くダイスケの命を刈り取るだろう。

 何も守れないまま、殺される。

 

―――嫌だ。

 

 自分が無力に殺されれば、次はイッセー達の番だ。

 

―――嫌だ。

 

 負傷で動けない今、たとえ上級悪魔であろうが神滅具持ちであろうが、そして禁手に目覚めたものであろうが簡単に殺されるだろう。

 

―――嫌だ。

 

 サーゼクスの援軍も間に合わず、結界を維持する蒼那達もろともこの街はコカビエルによって破壊させる。

 

―――嫌だ。

 

 心通わせる事ができた仲間達と出会えた学校も跡形もなく破壊される。

 

―――嫌だ。

 

 そうなれば松田や元浜も、イッセーの家族も、今も自分の帰りを待っていてくれてるであろう家族も、冥界にいるリリアも皆戦争に巻き込まれこの世から消え去ってしまう。

 

―――嫌だ。

 

 今ここで死ねば、何も残せない。何も守れない

 

「さーあ、それじゃあ覚悟はできたかなぁん? まあ、心配しなくてもみんなブッ殺してあの世に送ってあげるから!! それでは……アーメン!!!」

 

 命を刈り取る刃が振り下ろされた。

 もう助かる道はないだろう。だがもし、助かる道が、今目の前にある敵を討ち滅ぼせる力があるのなら。

 

 

―――ヒトであることを辞めてもいい。

 

 

 ただ、力を望んだ。

 

 

 刹那、『力』が爆ぜた。

 

「どぉうわ!!!」

 

 その力に吹き飛ばされ、フリードとエビラの死体、そして多くの瓦礫が宙を舞う。爆風はリアスたちがいるところまで届き、そこに何があるのかがよく見えるようになった。

 意識が朦朧とする中、見えたのは蒼い光の柱の中で仁王立ちする黒い鎧姿の人物。

 

「……だ、ダイスケ?」

 

 その人物が立っている場所から察するに、それはダイスケなのであろうとイッセーは判断するが、その姿は異様である。形状はイッセーの禁手である赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)に近いが、放つオーラは明らかにドラゴンのものではない。

 

ウ゛ゥゥゥゥゥゥ……

 

 なによりもそれが人の姿をしていても人であるというには見えず、その息遣いは怒れる野獣のものだ。そして大きく息を吸い込み、ダイスケであろう鎧の人物は“吠え”た。

 

ゴァァァアアアアアアアアアアアォォォオオオオオオオオンンンン!!!!!

 

 その叫びは、この場にいる全ての者の魂を震わせる。

 

「……んな、んな虚仮威しが通用するかっちゅーの!!!」

 

 飛ばされていたフリードが再び大鎌で棒立ちのダイスケ目掛けて斬りつけに来る。切先が再び首筋を捉えるが、当たるか当たらないかの距離でその刃は掴んで止められた。そしてそのまま大鎌ごとフリードは空中を一転していた。

 

「……はぇ?」

 

 何が起きたか理解できていなかった。まるで柔道や合気道の達人を相手にした者がよく言う「何をされたかわからないまま技を掛けられていた」という心境に近い。

 だがそれは技によるものではなく、単純な力によって放り投げられていただけのことである。何が起きたのか理解できぬまま、フリードの目の前は暗黒に包まれる。その闇の正体はダイスケの掌だ。頭を掴まれたフリードはそのまま信じられない速度で地面に叩きつけられた。

 その音はイッセーは鉄骨でも落ちてきたのかと錯覚させたが、実際は人が成人男性の背ほどの高さから落ちたに過ぎない。だが、その事実を忘れさせるほど衝撃は凄まじい。落下地点にはクレーターができており、その中心にフリードは文字通り埋まっていた。

 常識的に考えれば死んでいてもおかしくないが、生来のしぶとさからかまだ虫ほどの息は聞こえてる。それを確認したあと、ダイスケは興味を失ったかのようにコカビエルの方へと向く。

 

「……ふふふ、アーハハハハハハ!!! いい! いいじゃないか!そ の迸る殺気! 躊躇のなさ! どれも俺好みの―――」

 

 全て言い切る前にコカビエルめがけてダイスケは巨大な瓦礫を投げつける。当然ながら当たることはなく、光の剣と化した堕天使の光の槍で切り裂かれた。切り裂いた瓦礫の先のダイスケへと突っ込むコカビエルだが、その眼前に待っていたのはダイスケの握られた拳であった。

 人の骨格はコンクリートよりも頑丈だという。上位存在である堕天使のものならばその上を行くだろうが、相対された速度と強烈な一撃が相まってコカビエルは想像以上のダメージを受けた。

 

「―――グッ!」

 

 一瞬、気を遣りそうになるが即座に体勢を整えるが、すぐさまそこへ棍棒のような何かが振られて再び吹き飛ばされる。何が起こったのかコカビエルにはよく解らなかったが、離れた位置から見ていたイッセーにはそれが鎧の一部を構成する尾であることがわかった。

 腰に位置する黒く太い尾が、バランサーとしての役割の他に多節棍のように機能するらしい。

 

「……貴様ぁぁぁぁああああああ!!!!」

 

 二度の不意打ちをむざむざと受けてしまったことで堕天使の幹部としてのプライドが傷つく。だが、再び体勢を立て直そうとしているあいだにダイスケはいつの間にか眼前にいる。

 放たれる足元の邪魔な虫を踏みつぶすかのような蹴り。それを腹部に受け、更にコカビエルの胸に鋭い鉤爪が食い込こまされ高く放り投げられる。しかし十枚の翼を広げ、コカビエルは宙で静止する。熱線を利用した加速はできるものの、本格的な飛行手段を持たないダイスケは地に残され、飛翔するコカビエルを見上げる形になる。

 

「そうか……その力、そのオーラ……まさかこのような形で出会えるとはとはな。『怪獣王』……ゴジラ!!!」

 

 言いながらその手の中にはこれまで見たことがないほど強力な“光”を内包した槍を生み出す。

 

「ちょうどいい、ここで引導を渡してくれる!!!!」

 

 槍を投げる体勢になるコカビエルに対し、ダイスケの背にある並んだヒレが発光し、顔の装甲の一部が展開する。そこからあの蒼い光が溢れ、手から放つものよりも強力な熱線を放とうとしていることがわかる。

 だが、突然ダイスケは地面に倒れる。発せられていた光も消え、身悶えながら苦しみだした。

 それもそのはずである。既にその体は生きているのが不思議なほどの傷を負っている。それでここまで持っていることのほうが奇跡なのだ。

 

「……人の身に宿ったのが運の尽きか。ならば―――」

 

コカビエルから放たれるプレッシャーが音となって聞こえてくるのだろうか、地響きのような音がグラウンドを伝わる。

 

「―――死ねい!!!」

 

 ついに必殺の一撃が放たれた。広範囲の破壊よりも一点におけるエネルギーの集中を重視した攻撃であったが、射抜かれれば鎧に守られていようが間違いなくダイスケは射殺されるだろう。

 その一瞬一瞬がまるでスローモーションのように流れていく。地に伏しながらもなんとかダイスケを助けようとするイッセーたちだが、やはり体が動かない。地響きのような音が徐々に強くなっていくのと同時に危機感と焦燥感が強まっていく。

 そして、光の槍がダイスケに近づく。

 ――着弾した。だが明らかに何かが刺さったような音ではない。

 槍を放ったコカビエル自身も手応えを感じていない。よけられる状況ではなかったはずだからそれは本来ありえないが、手応えがないのも確かだ。しかし、立ち上がった土煙のせいで確認ができない。確認を取るために地上に降り立つ。

 徐々に土煙が晴れていき、何がどうなったのかようやく見えるようになるとそこには―――

 

「あははっ、やっぱりゴジくんだぁ! ひっさしぶりぃ、元気にしてたぁ?」

 

 正体不明の美女がぐったりとしているダイスケを無遠慮に抱きしめていた。

 

『……誰!?』




 はい、というわけでVS18でした。
 最後に現れた美女、一体何モスラなんだ……。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!! 


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VS19 無遠慮に抱きついてくる女は間違いなくサークルキラー

 ただいま艦これE6輸送ゲージ攻略中ですが、ル級がマジでウザい。何でプリンツ一発大破三連続できるねん。
 プリンツ! お前は罰としてプリケツ顔面騎乗の刑だ!! さあ、俺の顔面に乗れ!!



 あ、後今回は話の都合上短いです(顔面にプリンツのケツを乗せ長良)。



「ほんと久しぶりだねぇ、最後に会ったのいつだっけ? まぁいいや。こうしてまた会えたんだもん! 今度こそ仲良くやっていこっ!」

 

 ダイスケに向かって放たれた槍は見事に目標を離れて地面にブッ刺さっている。彼女が何かしたからこの結果、ということだろう。

 それも怪我人相手に勝手に盛り上がって、挙げ句の果てに胸の傷口の上をバンバンと叩いている。さらに言っていることは支離滅裂、自己紹介すらせずに一方的に盛り上がり、ここまで続いていたシリアスな空気を勝手にぶっ壊す始末。

 ここまで周りの状況が見えていない人間などイッセーたちは見たことがなかった。あまりの凄まじさにちょっと怪我の痛みが引いたくらいだ。というか、一体どうやって学園全体を覆っている結界を突破してきたのだろう。

 だが、一番ショックを受けたのは(物理的な意味で)ダイスケだろう。謎の美女の腕の中で気絶し、鎧も解除されてしまっている。

 

「はれ? なんで気絶してるの? ねぇゴジくん、大丈夫?」

 

 そう言って彼女はダイスケに触れている手が何かで濡れていることに気付く。それは、ダイスケの血であった。

 

「……女、そこをどけ。後で殺してやるから、先にそっちの方を殺させろ」

 

 背後から聞こえるコカビエルの静かな声。その声量に反して明確な殺意が見て取れる。

 だが、それに反応することなく彼女は掌の血をじっと見つめる。

 

「え!? ゴジくん怪我してるの!? なんで、なんで!?」

 

 背後のコカビエルの存在に全く興味を示さない。それどころか興味はダイスケにのみ集中しているようだ。

 これにはコカビエルも我慢ができない。これほどまでに殺気を放っているのに何の反応を示さないのでは堕天使の幹部としての沽券に関わる。

 

「聞こえなかったか? そこをど「―――きみが、やったの?」……なに?」

 

「……きみがやったのかって――妾が尋ねておるのじゃ」

 

 振り向きざまに見せる少女の怒りの形相。そして次の瞬間、彼女はその手を払う。距離はそれなりに離れていたから当たるはずもない。避ける必要はなく、コカビエルはその場に立ったままだった。

 だが、吹き飛ばされた。何が起きたのか理解できぬまま、コカビエルは瓦礫の山に突っ込む。

 

「な……何が……!?」

 

 見上げるとそこには成人式で着るようなファーが着いた着物を身に纏った彼女の姿が。そして極彩色の扇子が両手に存在し、茶髪だった髪は純白に変色していた。

 

「……この者を貴様が傷付けたというのなら、妾が成敗してくれよう。――この部外者が」

 

 先程と違う全く他者を寄せ付けまいとする冷徹な表情。本来であれば部外者はこの少女の方だったが、いつの間にか当事者のはずであった自分が部外者にされたことでコカビエルは余計に怒った。

 

「……部外者、だと? これは俺の仕切りで起こした戦いなんだぞ? ――この俺を舐めているのか……貴様ァァァァァ!!!!!」

 

 あえて槍は構えずに、先程のお返しとばかりに拳を振りかざす。拡げられた十枚の翼がはためいて低空で滑空。いざ殴ってやろうと拳に最大限の力を込めた時、女は扇を一振りする。

 すると先程とは比較にならない突風が吹きすさび、コカビエルをさらに吹き飛ばす。

 

「う、ぉぉぉぉぉおおおおおおお!?」

 

 まるで紙切れのように宙を舞い、瓦礫の山に激突するコカビエル。そこへ、女が信じられないスピードで肉薄する。

 

「……貴様が彼の者を傷つけた分だけ、しっかりと切り刻んでくれるわ!」

 

 その言葉と同時に手にした扇子が瞬く間に変形する。それは、逆手持ちの湾曲剣(シミター)であった。目に止まらぬスピードで振られたそれは、瞬時にコカビエルに鮮血を吹き出させる。それを何度も、何度もだ。

 

「な、に!?」

 

 何をされたのか知覚する暇も無いままに切り刻まれた自分の体を見て、コカビエルは驚く。

 

「……妾の前から消えよ!」

 

 とどめとばかりに蹴り上げられるコカビエル。

 腹に強烈な一撃を受けたコカビエルは真っ直ぐ地面へ落下していく。意識を失いかけたその矢先、自分の落下地点に白い全身鎧を身につけた男がいるのに気付く。

 

「無様だな。独断専行で、それも意気揚々と他勢力へ戦争を仕掛けた結果がこれか」

 

「き、貴様! ……白龍お―――!?」

 

 落下した衝撃と同時に腹部に受けた突きの一撃でコカビエルの意識は刈り取られる。

 

「……持ち帰りやすくしておくか。途中で暴れられても困る」

 

《Divide!》

 

 音声が聞こえ、コカビエルが放っていたオーラが一気に激減する。そしてその体は白い鎧の男の腕で突き上げられたままだ。

 

《Divide!》

 

 白い鎧の背に生えた光の翼が輝き、またオーラが削り取られる。

 

《Divide!》

 

「これで中級の堕天使並みか。まぁ持ち運ぶにはこれでちょうどいい」

 

 ついに意識を取り戻すことなくコカビエルは封じ込められる。どうやらオーラが音声が鳴るごとに半減していったのは背に生えた光の翼の能力であるらしい。

 

「俺の『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』の禁手、『|白龍皇の鎧《ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル》』の力を一度体感したいと言っていたが……これで満足かな?」

 

 問いかける相手は答えない。だが、白い鎧の男が名乗った自らの神器の名を聞いてリアスは驚愕する。

 

白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)……イッセーの赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)と対をなす神滅具……!?」

 

 意識は朦朧とする中でイッセーは衝撃を受けた。なぜなら目の前にいるコカビエルの戦闘力を瞬く間に奪っていった男が、ドライグが言っていた「いずれ必ずぶつかる相手」なのだから。

 それも相手は既に禁手を完全に自分のものにしている。これはあまりにも大きな差だった。

 

「こっちの埋まっているはぐれ神父の事情聴取も必要だな。引っこ抜くか」

 

 白龍皇は地面に埋められたフリードを引っこ抜くと、そのままもう片方の肩に担ぐ。そして、女の方を見た。

 

「主神クラスの使い手とお見受けする。どちらの神格か?」

 

「妾はもはやこの世界では崇める者はおらぬ。守護神と呼ばれてはいたが、守るものもない守護神は神と呼ばれる資格は無いであろう――だからさっきのはヒメちゃん、わたしはミコトでいーよー?」

 

 すぐさま元に戻る女の様子を見て、白龍皇は驚く。

 

「多重人格……いや、神憑りに近いのか。こんなのは初めて見た」

 

「そーお? 私の後輩達だってみんなこんな風になるよ? で、きみは? どこかの龍の子かな?」

 

「現白龍皇、ヴァーリ。お見知りおきを」

 

「そっか、ヴァーくんだね!」

 

「……どこかの誰かを思い出すな。まあいい。いずれ手合わせ願いたいものだ。では、俺はこれで失礼する」

 

 そう言ってヴァーリという男は光翼をはためかせて飛びたたんとするが、それをイッセーの中のドライグが呼び止める。

 

『無視か、白いのよ』

 

 その声に合わせるようにイッセーの籠手の宝玉が光る。

 

『起きていたか、赤いの』

 

 同じように、白龍皇の鎧の宝玉が光る。

 

『せっかくこう顔を合わせることができたというのに、この状況ではな』

 

『構わん。俺達はいずれ再び戦場の中であいまみえる宿命。こういうこともある』

 

『しかし、白いの。お前の相棒からほとんど敵意が伝わってこないのだが、どうしてだ?』

 

『それはお前も同じだろうに』

 

『お互い戦い以外に何か興味がある、ということか』

 

『まあ、そういうことだ。しばらくは勝手に楽しませてもらう。お前の他にも、面白い奴がいくつもいるようだ。そういうのもたまには悪くないだろう? また会おう、ドライグ』

 

『それもまた一興か。じゃあな、アルビオン』

 

 赤龍帝と白龍皇の会話。伝説の存在同士の会話は終わり別れを告げる両者だが、イッセーは納得いかない、とばかりに朦朧とする体を無理に起こして立ち上がる。

 

「おい! お前ら勝手に話を進めるなよ!! お前は……お前は一体なんなんだ!?」

 

 再び崩れ落ちるイッセーの疑問に白龍皇の宿主が答える。

 

「全てを理解するのには時間と力が必要だ。養生してせいぜい強くなってくれよ、未来の俺のライバルくん」

 

 そう言うとそのまま白龍皇ははるか上空へ飛び立っていった。

 

「さてと、私もえくすカリばーちゃんを回収しないとね。あ、ゼノちゃんだ。元気ー?」

 

「見ればわかるでしょう……! そもそも貴女は今まで何をしていたのです……!?」

 

 魘されながらもゼノヴィアはミコトと名乗る女に悪態をつく。

 

「あはは、ごめんね。なんかこの街、いろいろ空気がごちゃごちゃしててわかんなくなっちゃって……迷子になっちゃった」

 

 言いながらミコトはダイスケを一旦安置して、倒れるグレモリー眷属たちに手当するアーシアに視線を向ける。

 

「聖剣の方は約束通りきみが持っていって。その前に傷、治さないとね」

 

 そう言ってミコトは自分の胸元に手を滑り込ませて一撫でする。取り出した掌の内側には金色に輝く粒子が大量に付着していた。

 

「じゃ、最初にゴジくんにやっておこうねー」

 

 ミコトは手にした粒子をダイスケの傷口に塗布する。すると粒子は輝きだし、その下の傷は瞬く間に消えていく。

 

「治癒魔法……なのですか?」

 

 ゼノヴィアの問いに、ミコトは首を横に振る。

 

「私の粉だよ。お薬よりもすごいんだから。じゃ、次はゼノちゃんね」

 

 そう言ってミコトはゼノヴィアにも粒子を塗布した。塗布されてわかったが、傷の修復時のうずきや痛みもなく、本当にすっと痛みと傷が消えていく。

 しかもアーシアでは治癒できない体力の消耗も回復しているとんでもない治療法だ。

 

「そこの金髪のかわいい子も無理しないでいいよ。遅れてきちゃった分、ここで挽回しなきゃだから」

 

「いえ、私もやります! 戦闘でお役に立てない分、ここで頑張るのが私の役割です!」

 

 イッセーに庇われていたお陰で無傷のアーシアが奮戦する場である、ということだ。

 

「そっか。じゃあがんばろう!」

 

「はい!」

 

 そうしてエビラやフリードによって傷を負わされていた面々は、十分もしないうちに全員全快してしまった。

 

「すごい……アーシアがいるとはいえ、ここまで短時間で全員を治すなんて」

 

「えっへん! もっと褒めていいよ!」

 

「な、なんかギャップがありすぎてすごい人なんだかそうじゃないんだかわかんないな……」

 

 助けて貰った身なので大きい声では言えないが、イッセーのつぶやきは全員の心の声でもあった。

 しかし、全員の傷が癒えたが一人だけ目を覚まさない。ダイスケだ。それに気付いたイッセーは、慌てて駆け寄って声をかける。

 

「お、おいダイスケ! 起きろ! みんな終わったぞ、起きてくれよ!」

 

 揺さぶってもみるが一向に反応がない。全員が心配そうにのぞき込む。

 

「部長、どうしましょう。もう少しでお兄様の部隊が到着しますから、そちらに預けるべきかと思うのですが……」

 

「朱乃のいうことは正しいけれど、到着する部隊の医療班がこの事態に対処できるかしら。小猫、貴女はどう診る?」

 

「……わかりません。気が読めなくなっています。魂が混濁しているとでも言うべきなのでしょうか、手の施しようが……」

 

 自分達に打つ手がない。その焦りを感じたのか、ミコトが「はーい!」と挙手する。

 

「みんななにもしないんだったら……わたしがお持ち帰りしちゃっていい?」

 

『……はい!?』

 

 

 

 

 

 

 混濁しながらもダイスケは一部始終をつぶさに記憶していた。

 

――あははっ、やっぱりゴジくんだぁ! ひっさしぶりぃ、元気にしてたぁ?

 

 突然横合いから聞こえてきた声の主がタックルをかまし、ダイスケは吹き飛ばされる。

 

――妾の前から消えよ!

 

 先ほどの少女に似た少女が先程まで自分が戦っていた相手を蹴り飛ばす。

 

――無様だな。独断専行で、それも意気揚々と他勢力へ戦争を仕掛けた結果がこれか。

 

 イッセーの神器に似た雰囲気の鎧の男。

 見知らぬ人間たちが入れ替わり立ち代りで現れる。あまりの展開の速さにダイスケは自分がどうなったのかさえわからない。

 鎧の男が立ち去ったあと、アーシアと女が仲間たちを介抱してくれている。どうやらそちらの心配はしなくていいらしい。胸の傷も回復した女が治してくれている。お陰で大分楽にった。

 だが、どうしても起き上がれない。全身に力が入らない。心に体がついて行かないのだ

 

――みんななにもしないんだったら……お持ち帰りしちゃっていい?

 

――……はい!?

 

 皆驚いているが、最終的に「なんとかなるなら」と納得している。

 いや、ちょっと待て。なんでお前らが俺をお持ち帰りするの認めとんねん。そしてダイスケは担がれ、ホテルの一室に連れ込まれる。

 

――ゴジくんのことはわたしが助けるから……。

 

 すると女はダイスケを全裸にしてベッドに寝かせ、自分も裸になって布団の中に潜り込んでくる。

 

――治療のためにも、今まで会えなかった分しっかりみっちりくっつこうね?

 

 言いながら女は顔を近づけてくる。たまらずダイスケは叫んだ。

 

「や、止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 ガバッ! と起き上がるとそこは知らない部屋のベッドの上。病院かどこかだろうか、ともかくどうやら全て夢の中の出来事であったらしい。ホッと安堵するもすぐに違和感に気づく。

 いま、何も着ていない。

 普段は「寝巻きを着るのも面倒」と言って冬でもシャツとトランクスだけで過ごすような男だが、明らかに何も着ていないのだ。

 そして下半身にのしかかる人ほどの重さの物体。恐る恐る布団を剥がす。

 

「―――んー……もう朝なの?」

 

 そこには夢の中の女が、同じく生まれたままの姿でダイスケの上に乗っていた。

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

 その時、本日二回目のダイスケの絶叫が完全防音の部屋に響いた。




 はい、というわけでVS19でした。
 次回は新キャラの説明会です。あと、ちょっと投稿ペースが落ちると思います。前作のからの修正箇所が結構あるので。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!! 


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VS20 オリキャラ考えるときは結構脳汁出て興奮してるけど、いざ出したらそんなに反応がないからえぇ……ってなる

 今回ついに彼女の事情がわかります。すっげぇ複雑です。


「お、おおおおおおお、お前一体……!?」

 

 素っ裸のままで妙齢の女の前に出るわけにもいかないので、ダイスケはとりあえず自分の上に被さっていた布団で下半身を隠し、同じく全裸の少女に手近にあった白い布を投げ渡す。

 

「と、とりあえず、それを羽織れ」

 

「んー、これ使っていいの?」

 

 もちろんダイスケは相手の姿を見るまいと適当に投げたものなので、それがなんなのかわかっていない。だが、何も無いよりはマシだろう。

 

「き、着たか?」

 

「うん、着たよ」

 

 これで一安心、と思ったがそうは問屋が下ろさない。

 

「ブゥゥゥゥゥゥウウウウウウ!!!」

 

 渡した正体不明の白い布で大失敗。ダイスケが投げ渡していたのは脱ぎ捨てられていた状態でそこにあった脱ぎ捨てられていたワイシャツだった。

 つまり、彼女は現在所謂「彼シャツ」の状態だったのだ。シャツが切り刻まれているのでその白く若く瑞々しい素肌が当然のように覗き見え、しかも結構いいスタイルなのでボディーラインが白地のシャツで強調されてなかなか……ゲフンゲフン。

 兎に角そんな格好で可愛らしく「キョトン」とした顔で見つめてくるからその破壊力は半端ではなかった。

 

「ねぇ、どうしたの? なにか、この格好まずかった?」

 

「いや、ちょ、その格好で近づくな! もっとマシなの探すから!!」

 

「えー、別にこれでいいよ?」

 

「俺が良くない!!!」

 

 無邪気に近づいてくる女をなんとか押しのけようとしていると、部屋のドアがノックされる。

 

「ダイスケ様! お怪我は大丈夫ですか!? リリアです! リアス様からこちらのホテルに来て看病するように申し遣ってきました!」

 

 なんと最悪のタイミングでリリアが来た。リアスのしてくれた余計なお世話でさらに面倒な状況になってしまったので今ばかりはリアスを恨む。

 

「あ、い、い、今行く!!!」

 

「あ、ちょっと」

 

 彼シャツ状態の女の静止を振り切り、彼女に渡していた自分のシャツを剥ぎ取って、慌てて周囲に散らばっていた自分の衣服も着てドア前に来るダイスケ。

 

「ダイスケ様、大丈夫なんですか!?」

 

「だ、大丈夫! すぐ開けるから!」

 

 部屋の構造上、ベットのある空間は入り口からは見えない。多分あの女はリリアに見つからずに済むはずだ。もし見られたら何を言われるかわからない。

 こうなったらリリアに自分の無事な様子を見せて安心して貰ってとんぼ返りして貰うほかない。心配してきてくれたのはよくわかるが、今はだめだ。

 

「よ、よう、リリア。カチ込みの日以来だな」

 

「だ、ダイスケ様、シャツに血が付いていますよ!?」

 

「あ、ああこれ? 大丈夫、この下の傷はほら、治っているから。うちの聖女の微笑み(トワイライト・ヒーリング)使いが治してくれてさ」

 

 嘘である。正直なところ、何で治ったのか自分でもわからない。

 

「この通り、俺は無事だから帰っても大丈夫だ。」

 

「え? で、でも」

 

「いいからいいから! 帰ってジオティクスさんやヴェネラナさんによろしく伝えておいてくれ!」

 

 玄関で立つリリアの肩を掴んで無理やりドアの外へ出そうとする。それにリリアはは困惑しながらもされるがままに従う。そして、あとちょっとで出て行ってくれるというそのとき。

 

「ゴジくん、その娘、誰子ちゃん?」

 

 背後に聞こえてくるまだ若干眠たげな声。恐る恐る振り返るとすぐ後ろに件の女の姿があった。最悪なことに、ダイスケが着ていたシャツを剥ぎ取ったお陰で全裸である。

 だが、もっと衝撃を受けているのはリリアの方だった。

 

「……あの、そのヒト誰ですか?」

 

 完全に目からハイライトが消え、返答次第ではただではおかないという意思を明確に伝えるリリア。だが、ダイスケ本人が事情を知らないのだから返答のしようがない。

 そんな事情もお構いなしに女はダイスケの腕に抱きつく。

 

「私はね、ミコト! ゴジくんとラブラブなんだ!」

 

 今ダイスケですら初めて知った情報があるが、リリアが最も気になったキーワードがひとつ。

 

「ラブ、ラブ……?」

 

「うん! わたしね、前世からゴジくんとラッブラブなの!」

 

 朝っぱらから胃がもたれる。おかげでダイスケもリリアもフリーズ状態。

 

「な、な、な、何言ってんの!? 前世!? あんたアレか、流行のヤンデレか!?」

 

「ヤンデレ? なにそれ? っていうか、その娘大丈夫?」

 

「へ?」

 

 見ればリリアはブルブルと震え、医療用品が入ったボックスの持ち手を握る手に力が入っている。

 

「り、リリア、さん?」

 

 しばしの沈黙。そして――

 

「ダイスケ様の……」

 

「はい?」

 

「ダイスケ様の……バカぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ダイスケの顔面に投げつけられるボックス。

 正直理不尽だし訳わかんないけど、これは受けとかないと後からもっと怒るな、とダイスケが諦めたその時、ボックスが空中で静止する。

 

「……小娘、癇癪はいいが病み上がりにするものでは無いぞ」

 

 すると、茶髪だった女の髪が純白になり、指を二本ボックスに向けている。

 

「念動……力?」

 

 リリアが呆けて言う。

 

「そんなものよ。まぁ、入れ。そなたらもいろいろ妾に尋ねたいであろうからな」

 

 

 

 

 

 

「じゃあねー、二人のこと教えて貰ったからわたしの自己紹介しよっか。私はミコト。倭姫命(ヤマトヒメノミコト)がフルネームだよ。で、もう一人が一応『ヒメ』って名乗ってる」

 

「命って……日本神話の神様の方なのですか?」

 

 リリアが尋ねるが、服を着たミコトは首を横に振って否定する。

 

「ううん。わたしはね、斎王っていうの。斎宮でもいいからスマホで調べたらすぐ出るはずだよ。なんて言ったってわたし、立派に歴史に載ってるもん!」

 

 そう言われてダイスケはスマホですぐに検索する。すると出てきたのはとんでもない情報。

 

「えーと、倭姫命。第11代垂仁天皇の第4皇女にして初代斎宮である。ヤマトタケル伝説で日本武尊に草薙剣を与えた人物。伊勢の地に眠る……ちょっとまて、垂仁天皇っていつの……約二千年以上前!?」

 

「に、にせっ……え、じゃあイエス・キリストよりも年上って事ですか!?」

 

「うん。天界に言ったときはむこうから挨拶してくるよ」

 

「ガチの神代の人物……しかも日本書紀って……」

 

 外見からしてちょっと年上かと思っていたが、実際はその想像の遙か斜め上をK点越えしていった。

 

「で、なんでそんな人がここに?」

 

「そうです。そんな日本神話体系の重要人物がこの街で起きていた事件に天界側から関わっているなんて……」

 

 リリアからすれば本来敵対関係にある勢力に協力しているのがミコトだ。口は割らないだろうが、訊いてみる。

 

「それはね、わたしがいろんな神話体系のところをボランティアでおたすけしにいってるから。なんていうか、わたしの前世の関係で困っている人を見ると放っておけなくって……あ、他の神様達からはちゃんと認められてるから、心配はしないで」

 

 あっさりバラした。拍子抜けしてリリアはガクッとなる。

 

「そんな、この国の自衛隊派遣じゃ無いんですから……」

 

「でもそんなもんだよ? さすがに悪魔さんのところは体裁が悪いから行ってないけどね。で、今回もミカくんが「日本で困ったことが起きたから力を貸して欲しい」って言ってきたからいいよ! って」

 

「「軽ッ!」」

 

 多分ミカくんとは大天使ミカエルのことだろう。天使の中でも最上位の存在をこのように呼ぶとは大物かはたまた何も考えていないのか。

 

「で、その……さっきから言ってる前世って? 誰かの生まれ変わりなの?」

 

 ダイスケの質問にミコトは「えっ」と目を見開く。

 

「え、うそ、わかんない? わたし、『モスラ』だよっ」

 

「モス、ラ? リリア、わかるか?」

 

「いえ、そんな神話存在や人物は聞いたことが……」

 

 その二人の様子を見て、ミコトの両目に涙がにじみはじめ、決壊した。

 

「うえぇぇぇぇぇぇん! ゴジくん、わたしのことやっぱり忘れてるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! びぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

 

「え、あ、ちょ、え!?」

 

 突然の号泣にダイスケもリリアも慌てる。涙を拭くティッシュはあるか、隣の部屋に聞こえていないかとあたふたするが、ミコトはグズグズと鼻をすすりながらダイスケを睨む。

 

「……いいもん、無理してでも思い出してもらうから!」

 

 そう言うとミコトはダイスケに飛びつき、自分の額をダイスケの額にくっつける。すると――

 

 同胞が人間の作った業火に焼かれた――

 

 復讐を誓った――

 

 街を焼いた――

 

 何かによって自分が滅ぼされた――

 

 だがまた自分はいた――

 

 目の前のコイツにも出会った――

 

 多くの同じような存在と戦い、時にはこの星を守るために憎かった人間も助けた――

 

 歴史から消された――

 

 だが人の業がまた自分を呼び起こした――

 

 その代わり、いないと思っていた同胞に会えた――

 

 宇宙から来た自分と戦った――

 

 かつての因縁が同胞を奪い、そして決着を付けた後自分は消え去った――

 

 かと思うとまた自分は生きていて、なんかこれじゃないって多くの人から悲しまれた――

 

 自分の力を取り込もうとした身の程知らずを焼いた――

 

 人間の何でも吸い込む力をかき消した――

 

 忘れ去られた者たちの為に彼の国を滅ぼそうとした――

 

 同胞を取り戻そうとその同胞と戦った――

 

 侵略者との最終戦争(ファイナル・ウォーズ)を戦った――

 

 この星のバランスを守るために戦った――

 

 究極の進化を遂げるために必死に生きた――

 

 地球を喰らう異次元の神に喰われかけたがそれでも打ち破った――

 

 まだまだ記憶が溢れてくるが、その全てがダイスケの記憶だった。全てを体験し、全てが自分の魂に刻み込まれている。 

 そう、自分は――

 

「ゴジ、ラ……『呉爾羅(ゴジラ)』、『Godzilla』……そうだ、俺は……ゴジラ」

 

「思い出してくれたぁ!!」

 

 歓喜のあまり、ミコトはダイスケに抱きつく。

 

「ちょっとまて。俺は……人じゃ、ない?」

 

「ううん、わたしと一緒で今は人。でも、魂はあなたはゴジラで、わたしがモスラ。前世や、生まれ変わりっていうのはそういうこと」

 

 ダイスケが自分と同じ「話を理解できていない側」だと思っていたリリアが、ダイスケの様子を見て困惑する。

 

「ダイスケ様、どうしたんです!? 何をされたんですか!?」

 

「……だ、大丈夫。思い出しただけなんだ。俺が何者なのか……いや、俺自身の魂のルーツがどこにあったのか思いだしただけなんだ」

 

「それって……?」 

 

「ごめん、何でそうなったのかとか、詳しい説明は俺にも出来ない。でも、俺の力の由来だけはわかった。それだけだから、心配しないでくれ」

 

「大丈夫。きっとリリちゃんにもわかるときが来るから」

 

「はぁ……」

 

 正直なところ納得は出来ないが、今はダイスケが納得しているということで納めることにするリリア。だが、気になる点はまだある。

 

「では、先程の突然の貴女の変異は一体? それもモスラというのに関係あるのですか?」

 

「それは――妾から説明した方が良いな」

 

 再び変身するミコト――ではなくヒメ。

 

「妾はな、天照大御神の残滓が生み出したもう一つの人格よ。名も別名の「大日女(オオヒルメ)」からとったものじゃ。まぁ、妾が生まれたのはモスラが双子であったときがあることも関係あるのであろうがな」

 

「そういえば、倭姫命は斎宮だって……」

 

 先にダイスケがスマホで調べていたことの内容を思い出すリリア。それにヒメは首肯する。

 

「ミコトはの、初の斎王――つまり人間の神の依り代よ。神を己に憑依させ、神託を授け、神の意志を代行する。それを先例が無いのに実行したのじゃ。その結果、天照の力の残滓は残り、それがモスラの魂と結合して妾が生まれた。その所為かもっぱら戦は妾の仕事よ。見ての通り、ミコトの性格では闘争は無理なのでな」

 

 だがの、とヒメは続ける。

 

「神を降ろすことでモスラの魂の強度が上がり、その結果人の範疇を超えた生命を得てしまった。おまけにゴジラよ、お前と今度こそは仲良くすると言ってさらに親和性を高めてな。ついにはモスラの記憶と自分の記憶が混在するようになってしもうた」

 

「ゴジラ――つまり、俺と?」

 

「主も垣間見たであろう。ゴジラとモスラは出会うたびに基本的にぶつかり合う。共闘など片手で数えるくらい。その記憶が見えるのが悲しいのよ。本当は仲良く出来るはずだと。すれ違うのは巡り合わせが悪いだけだと。なまじ仲睦まじい記憶があるから余計にそう思う」

 

「引っ張られすぎたのか……魂の記憶に」

 

「その点、主は幸運ぞ。ゴジラの人への怨念たるやもはや超一級の呪い。人の業を全て背負うのと同じじゃ」

 

「ああ、それはさっきわかった……」

 

 先程垣間見た記憶のことだ。もしも物心つく前からアレに触れていたらダイスケに人の心は芽生えなかったはずだ。あの記憶はそれほどまでの深淵だったのである。

 

「それらを踏まえて主に頼みがある」

 

「頼み?」

 

「……ミコトとは仲良くしてやってくれ。妾はモスラの戦いの意思を司るが、ミコトはモスラの優しさを継承しておる。お前と仲良くしたいのも、その過去を知った上で恨み続ける無間地獄から抜け出して欲しいだけなのじゃ。怨嗟が怨嗟を生む、永遠の虚無から、な」

 

「……」

 

「それが果たされれば、きっとミコトも妾もようやく逝ける。人の心のままで、一人永い時を生き続けるのは存外苦行ぞ? じゃからせめて主が生き続ける限りは、どうかミコトの願いも受け入れてやって欲しい……」

 

 それだけを言い残し、ヒメはミコトに主導権を受け渡す。

 

「……あはは、なんかヒメちゃんが無理言っちゃったね。別に気にしなくていいから。だって、わたしの独りよがりなだけだもん」

 

 無理をしてミコトが笑っていたのはダイスケにもリリアにも理解できた。そしてダイスケが頭を掻きながら言う。

 

「……まぁ、何回もの生の内で半分以上も出会ってる腐れ縁みたいなもんだもんな。大概そのたびに戦ってるみたいだし」

 

「でもね、とっても仲が良かったときだってあったんだよ? その時は万単位でラブだったんだもん。きっとあのときみたいに出来るって、わたし信じてるんだ」

 

「万単位って……日ですか?」

 

「ううん、年」

 

 それを聞いたリリアは気が遠くなりそうだった。悪魔でも生きて大体一万年。その悪魔の一生の数回分仲が良かったというのだからたしかに可能性を感じるのも無理は無いだろう。

 だが、ミコトが突然神妙な顔つきになる。

 

「それで、相談なんだけど……」

 

「「そ、相談?」」

 

 身構えるダイスケとリリア。先程の話の流れからするに、きっと大事な相談に違いない。どんなことを言われても驚かないように心の準備をしていると――

 

「実は事件解決したらすぐにこのホテルを引き上げることになってて……でも、ゴジくんを見つけたから多分この街にもうちょっといなきゃで、でも支給されたお金がもうホテル代ぐらいしか無いから……どこか泊まれるとこ紹介して?」

 

 

 

 

 

 

 結局その日はダイスケは学校を休んだ。ミコトと話し込んだせいでチェックアウトの時刻、つまり11時ギリギリまでホテルにいたからだ。

 試しにイッセーに連絡を入れてみたが、どうやらダイスケ以外のオカ研メンバーは全員出席できるほどに回復したようだ。それに関しては喜ばしかったので良しとする。

 だが、問題はミコトである。今はとりあえずホテルを出て町中のチェーン店の喫茶店で時間を潰している。ちなみにリリアはグレイフィアから用事が終わればすぐに戻るように言われていたらしく、名残惜しそうに帰って行った。無論ミコトのことは報告しなければならないらしいのだが。

 それはともかく、ダイスケ一人でミコトが抱える問題を解決しなければならない。だというのに目の前のミコト本人は結構のんきだ。

 

「ねぇねぇ、ゴジくんのコーヒーちょっと貰っていい? 甘いの飲み続けたらなんか口の中甘ったるくなっちゃった」

 

「え? あ、うん。いいぞ」

 

 これからどこに彼女を泊めさせようかと悩んでいるのが馬鹿らしくなってくるほどの脳内ふわふわ加減だ。記憶の中のモスラがみんなもふもふふわふわしていたのでそれが人格に影響しているのだろうか。

 

「あのさ、どっかの神社に泊まるって出来ないのか? 日本神話関係の横の繋がりとかさ」

 

「あのね、以外と神道って縦社会だよ。神社ごとに管轄してる神様が違うから手続きとかめんどっちいの」

 

「八幡神社とか稲荷神社とか全国にあるじゃん。そこ行けないのかよ」

 

「八幡神社は前に「同じ蛾繋がりだから」って頼みにいったら「お前の前世とかウチ関係ない」ってはねつけられちゃった。稲荷神社の方は前にウカちゃんから借りた乙女ゲー返すの忘れててね。借りパクだーって、しばらく全国の稲荷神社への立ち入り禁止されちゃってるの。もしも入ったら使いの狐ちゃん達が吠えて吠えて……」

 

「日本の神様、乙女ゲーしてんの!? しかも結構なメジャーどころが!」

 

 自国の宗教の神様の意外すぎる私生活に驚くダイスケだが、この分だと神道関係に助力を乞うのは無理だろう。

 もはや、こうなったら最終手段をとるほかない。

 

「……授業も終わってる時間だし、そろそろ掛けてみるか」

 

 

 

 

 

 

「やあ、ヴァーリ。報告は終わったのか?」

 

「ああ。後の処理はアザゼル達がやる。もう俺の手から離れたよ。……で、訊きたいのは奴のことなんだろう」

 

「まぁ、な」

 

 冥界にあるグリゴリの施設前で、彼ら――ヴァーリと義人は待ち合わせしていた。彼らは共に堕天使に優秀な神器使いとして拾われたという共通点が存在していたのでそれなりに交流がある。

 そんな仲の片方が仕事で駒王町に出向くということで、義人はあることを頼んでいた。ダイスケが、どんな様子であったかだ。

 

「奴は本格的に目覚めたらしい。まぁ、デビューは事前の負傷のせいで華々しいものとはいかなかったみたいだが」

 

「……そうか、あのとき感じたあの感覚。やはり――」

 

「コカビエルくらいの相手なら目覚めるのには丁度良いのかもしれないとは思っていた。だが、まだあの様子では完全に目覚めたというわけでは無いようだ。それでもお前は、奴と戦いたいか?」

 

「俺の中の魂が、『奴を倒せ』と五月蠅いんだよ。初めて出会ったあのときから、その声が止まない。そして、俺自身も奴との戦いを本能的に望んでいる。不完全だろうが――もう我慢できそうに無い。そう言うヴァーリはどうなんだ。運命の宿敵に出会えたんだろう?」

 

 それを訊いたヴァーリはつまらなそうに言う。

 

「俺の場合はお前ほどアレと戦いたいと思っているわけじゃ無い。確かに因縁もあるし、決着は付けたいところだが……今の状態ではな。いっそお前から宝田大助を奪った方が楽しめそうだ」

 

「それをしたら俺は本格的にお前の首を獲りに行くぞ」

 

「冗談さ。まあいい。今日はお互い苦労する因縁を持つ者同士、一杯やろうじゃないか。怒らせた分奢る」

 

「……ラーメンのことだよな?」

 

「当然。俺の言う一杯とはラーメンに他ならない。今日は東京に行こう。新宿にコオロギラーメンなるものがあるらしくてな……」

 

「おい、それは本当に喰って良い物なのか!? 衛生とかはどうなってるんだ!」

 

 そう言いあいながら二人は転移陣の光の向こうへ消えていく。余談だが、コオロギラーメンは名前と食材のインパクトに反し絶品だったらしい。

 

 

 

 

 

 

「おぉ~、ここがゴジくんのお家かぁ。……なんかこざっぱりしてるね」

 

「おい、頼むから荒らすなよ」

 

 結局、ダイスケは自分のマンションの部屋にミコトを泊めることにした。その方が安上がりだからである。

 勿論リアスからの許可は電話で貰っている。何でも怪我の治療をしてくれたことに対して報いるためだとか。その際に駒王町にあるグレモリーが経営するホテルに泊めても良いと言われたが、ミコトが「タダで泊まるのよりゴジくんのところいった方が安上がりだから」と遠慮したからこういうことになったのである。

 

「じゃ、これから晩飯作るから。適当に寛いでくれ」

 

「えー、手伝うよ。料理したこと無いけど」

 

「だったら余計に手はださんでくれ。その方が俺が安心する」

 

 ダイスケはリビングにミコトを座らせて調理に入る。とはいっても非常に簡単な料理だ。買ってきた豚肉をはじめとしてキャベツやジャガイモ、にんじんタマネギを適当に切って鍋にぶち込み、煮込んでとどめにコンソメブロックを入れるなんちゃってポトフ風スープだ。

 ダイスケはこれを数日に分けて食べるのと、後でシチューやカレーに変えるつもりなので量は多い。よってその分調理時間はそれなりにかかる。その間リビングの方から「あ、ガンプラ!」と言う声や「バキッ」と言う何かプラスチックが折れるような音、そして小さな「あ゛」と言う声が何度か聞こえた。

 それをダイスケは額に青筋を浮かべながら聞いている。鍋の火加減を見なければならないことと、彼女は曲がりなりにも自分達の命の恩人であるという事実からダイスケはぐっとこらえているのである。当然、後から神道勢力にはリアスを通して壊されたガンプラの弁償金を払って貰うつもりだ。

 

「よーし、ちょっと表にd……じゃねーや、メシできたぞ」

 

 そう言いながらダイスケはリビングの机の上に鍋をドンと置く。鍋から漂うスープの香りがミコトの鼻腔をくすぐる。

 

「んはぁ、いいにおい!」

 

 自分のスープ皿を受け取るとミコトは楽しげにスープをすくう。

 

「じゃぁ、いっただきまーす……なんか普通だね」

 

「当たり前だ。野菜と肉切ってぶち込んで市販のコンソメの素を入れただけだからな」

 

「でもおいしいよ! この街にきて一番温かい料理かも!」

 

「なんだ、ずっと冷たい料理ばかりだったのか」

 

「そうじゃなくて……ゴジくんの優しいところが溶け込んでるっというか?」

 

「……アホ言わないでさっさと食ってねるぞ」

 

「はーい」

 

 そんな会話をしながら二人は食事を続けた。片付けも済むとあとは風呂に入って寝るだけだ。

 ダイスケは先にミコトに風呂に入らせて自分はイッセーにメールして明日の時間割変更が無いか聞く。

 

「――そっか、変更は無いか」

 

 その情報を受け取ったダイスケはそそくさと鞄に明日必要な教科書やノートを入れる。そして今日出ていた課題を終わらせるために机に向かった。

 

「ゴジくーん、お風呂上がった……なにしてるの?」

 

「あ? 宿題だよ。学生だからやっとかないと」

 

 頭をタオルで拭きながらミコトが部屋に入ってくる。そして、ダイスケの肩越しから机を覗く。

 

「……なによ」

 

「ん? ちょっと気になってね。 ささっ、お気になさらずつづきをどうぞ」

 

 そう言われたのでダイスケは宿題に向き直るが、じーっと見られているから気になってしょうがない。

 

「なんなんだよ」

 

「あ、ごめんね。わたし、学生なんてやったことないから物珍しくって」

 

 いわれてみれば、彼女は二千年以上前の生まれ。その頃には今のような義務教育の学校や高校は存在していない。

 皇族であるから学ぶ機会はあっただろうが、それはあくまでも神道の儀式に必要な知識。どんな風にでも生きられるになることを目標とした今の教育と違い、生き方が制限される知識だ。

 斎王の役目を終えても、彼女はずっと他の神話勢力を良心から手助けしてきた。きっと、そこに彼女が責任から開放されて自分のために使う時間はなかっただろう。

 そこへダイスケがゴジラの力を宿し、しかも目覚めさせた。きっと良心からまた自分を犠牲にするはずだ。

 なら、自分が彼女のためにしてやれることとは――

 

「……リビング行くぞ」

 

「え、なんで?」

 

「あっちの机の上に方が横に座ってみられるだろ。邪魔しないんなら、いくらでも見てくれて良いから」

 

「……! うんっ!」

 

「それから、さ」

 

「なぁに?」

 

「ゴジくんって呼ぶの、やめてくれ」

 

「ど、どうして?」

 

「俺には宝田大助っていう名前がある。確かに俺の魂はゴジラだ。でも、それでも俺は俺なんだ。だから、俺の名前を呼んでくれ」

 

「……うん、わかったよ「ダイスケ」!」

 

「いきなり下の名前かい……」

 

 そうして二人は深夜までリビングにいた。宿題が終わったのは零時半ごろだったが、その後いつの間にか二人はその場で眠ってしまっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

「んぁ……ここで寝ちゃったか」

 

 窓から刺す朝の日差しを浴びてダイスケは目覚める。時計を見るといつも起きているのと同じ時刻だったので特に慌てはしない。

 しかし、隣にいたはずのミコトがいない。ダイスケの肩に毛布が掛けられていたので彼女がやってくれたのだろうが、本来寝る予定だったベットの上にも彼女の姿はなかった。

 すると、勉強机の上に小さなメモがあることに気付く。

 

『ちょっと出かけます。ちゃんと帰ってくるから心配しないでね』

 

 勝手に授業に使うノートをちぎられていたのでイラッときたが、ほっと胸をなで下ろす。どうやら何か緊急事態が起きたという訳ではないようだ。

 それを確認したダイスケは軽くシャワーをして、いつものように学校へ出かけた。




 はい、というわけでVS20でした。
 乙女ゲーネタのところ、なにが元ネタかわかる人いるかな? 多分いつもと毛色が違うからわかんない人が大多数だと思う。
  あと、このエクスカリバー編が終わったら間違いなく更新ペースが落ちます。ちょっと新しいキャラとか考えないといけないので。
  なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!! 


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VS21 勉強を始めるのに遅すぎることはない

 艦これ秋イベのE6、ギミック煩雑すぎひん? 昨日やっとギミックの半分が終わりました。あぁ、次は輸送ボスマスとNマスだ……。


「久しぶりだな、赤龍帝とその友人」

 

 放課後、オカ研の部室にいた先客はゼノヴィアであった。しかも駒王学園の制服を着ている。

 

「「お前なんでここにいんの?」」

 

 思わず二人の声がハモる。そしてゼノヴィアは、その質問の返答の代わりに背中の黒い羽を見せる。

 

「お、お前悪魔になったのか!?」

 

 イッセーの驚く声に対し、ゼノヴィアは肯定だとばかりに頷く。

 

「正直自棄っぱちだ。神がいないとなれば、もう私のこれまでの人生はなかったようなものさ。それで人生のやり直しの意味でリアス・グレモリーから騎士の駒を頂いた。デュランダルがあっても、私自身は大した事無いから駒一個の消費で済んだ。あ、それとこの学園にも編入されせてもらった。今日から君らと同級生でオカルト研究部所属になった」

 

「……部長、いいすか?これ」

 

 いくら神の不在を知ったといっても思い切りが良すぎだ。いや、悪魔に転生した分、神の不在を知って自らの命を絶つよりかはきっとマシだろうが。

 

「聖剣、それもデュランダル使いが眷属にいるのはとても頼もしいわ。これで祐斗と合わせて騎士がふたり揃ったわね」

 

 あんまり本人の出自には囚われないのか、転生をさせた当のリアスはあっけらかんとしている。まあ、確かに悪魔が相手のレーティングゲームでは猛威を振るってくれるだろうから戦力的には間違いなくプラスだ。

 

「ああ、そうだ。私は悪魔になってしまったのだ。……いや、本当にこれでよかったのか? ええい!! いつまでも悩むことはない!! もう転生したのだから!! ……いや、やっぱり……ああ、今は亡き主よ! このような私をお許しくださ……あダダダダダダダダダ!!」

 

「そこまで思い悩むならよしゃあいいのに。バカだろ。お前バカだろ」

 

 ダイスケのツッコミを受けながら、迂闊にも神に祈ってダメージを受けている。そこでまたダイスケが「だからやめろって」と言いながらゼノヴィアの頭をはたいているわけだが。

 だが、イッセーはふとあることを思い出す。

 

「あれ、そういや、イリナは?」

 

 イリナは先の学園での決戦を前にフリードから受けた傷でリタイアしていた。まあ、神の不在を知る機会はなかったのは不幸中の幸いというべきか。

 そしてイッセーの疑問にゼノヴィアが答える。

 

「イリナは擬態の聖剣と私が使っていた破壊の聖剣を持って本部に帰った。私にはデュランダルがあればそれでいいからね。木場祐斗と私が破壊したエクスカリバーの芯はイリナが私の代わりに持ち帰ったから任務完了さ。芯さえあれば、錬金術で再生できるからね」

 

「錬金術ってあれ? 原作者が百姓貴族的な?」

 

「ダイスケ、それゼノヴィアに言ってもわかんないから。わかってて言ってるだろお前。……ていうか、デュランダルの持ち逃げっていいのかよ、それ」

 

「エクスカリバーは教会が管理しているし、他にも使い手は見繕える。だが、デュランダルは使い手がそうそういないんだ。それに、私が神の不在をチラつかせたらタダでくれたよ。まあ、手切れ金みたいなものさ。教会はたとえ聖剣使いでも異端者を徹底的に排除するからな。アーシア・アルジェントの時のように」

 

 自嘲するかのように彼女は笑う。

 

「イリナは運がいい。怪我で途中リタイアしたから、神の死を知らずに済んだのだからな。もし私以上に信仰に熱心だったあいつがあの場にいたら、どうなっていたか……」

 

「そうだよな、未だにエル○ィスのファンはまだ生きてるて信じてるくらいだもんな。M○Bでネタにされてたくらいだし。」

 

「ダイスケ。お前、本当にちょくちょくネタ突っ込むな……」

 

 イッセーは呆れ顔をしながらも、幼馴染であるイリナのことを思う。いったい彼女は、どのような気持ちで帰っていったのかと。信じる宗派は違えども、共に戦った仲間が本来討つべき悪魔に堕ちた姿を見るのは偲び難いものがあっただろう。

 

「まあ、彼女は私が悪魔になったことには残念がってはくれた。それなりに付き合いは長いからな。ただ、神の不在が原因とも言えないからなんとも言えない別れ方になってしまったが……次に会うときは敵、かな」

 

 そういうゼノヴィアの目は、なんだか哀しげなものだった。少々場がしんみりしてしまったところで、朱乃、木場、小猫が部室に入ってくる。全員揃ったことを確認すると、リアスは話を切り出した。

 

「教会側は今回のことでこちら側、魔王に打診してきたそうよ。『堕天使の動きが不透明かつ不誠実のため、誠に遺憾ながら連絡を取り合いたい』とね。あと、バルパーのことについても協会側からの謝罪があったわ」

 

 あくまで遺憾。まあ、敵同士だからその態度も仕方がないか。バルパーの事について謝罪があっただけ良しとするべきか。

 

「まあ、魔王の妹二人に命の危機があったのだからな。三大勢力の均衡が崩れるかもしれなかったのだから当然だ」

 

「え? 魔王の妹二人って……この学園の上級悪魔は部長と……ってことはソーナ会長!?」

 

 イッセーは自分で導き出した答えに驚く。リアスはそれを肯定するように頷いた。

 そういえば、とイッセーは思い出す。エクスカリバーを破壊するために匙と組んだとき、彼は「俺の目標はソーナ会長と出来ちゃった結婚すること」と言っていた。つまり、彼は相当な逆玉狙いということか、と一人で納得する。

 

「それと堕天使の総督であるアザゼルからも連絡が来たわ。事の真相は白龍皇の言った通り、コカビエルの単独行為。他の幹部達を出し抜いてまで、三大勢力の均衡を崩し、再び戦争を起こそうとした罪により地獄の最下層(コキュートス)での永久冷凍刑が既に執行されたそうよ」

 

「コキュートスで永遠の冷凍刑か。永遠な分、ドモ○の親父さんとかコレ○・ナンダーよりきついな」

 

 ダイスケのその言葉はイッセーとそっち系に詳しい小猫以外わからなかったが、取り敢えずイッセーにはどれくらい重い刑は伝わったようだ。言葉の意味は分からないが、理解することを置いておいてリアスは話を続ける。

 

「とりあえず、アルビオンの介入で事を収めたという形に表向きにはなっているらしいわ。そしてこれは皆に初めて言う事だけど、事が済んですぐに堕天使総督アザゼル本人から謝罪の連絡が来たわ。」

 

『!?』

 

 今回の事件の発端は堕天使の幹部とはいえコカビエルの独断専行によるものだ。だが、それでも敵対する勢力相手に自分の非を認め、あまつさえ謝罪してきたとは本来ありえない。どんな事情があろうとも、組織のトップというものは一度相手に下手に出てしまえばイニシアチブを獲りにくくなってしまうからだ。

 それでもあえて総督本人からの謝罪があったということはコカビエルが言っていた「アザゼルはもう戦争を起こす気はない」ということは事実なのだろう。

 

「それと、これは連絡事項の最後になるけれど……近いうちに天使側、悪魔側の代表を集めてアザゼルが会談を開きたいとの打診があったわ。その時にコカビエルの件についての謝罪があると思うのだけど……勿論、神の死のことも話題に上がるでしょうね。そして貴方もよ、ダイスケ」

 

「……やっぱり?」

 

 ついに来るべきものが来た、と観念するダイスケ。それもそうだ、自身に宿っていた正体不明の力の存在。それも覚醒したばかりでコカビエルと互角以上に戦え、かつて大暴れしたらしい内容の話もあった。これらを鑑みれば封印される前のドライグやアルビオン並の危険性があることは間違いない。

 

「それでその場に私たちも招待されたわ。事件に関わってしまったことだし、その報告もしなければならないから。当人達も含めて話し合いたいこともあるのでしょうね」

 

「マジっすか!?」

 

 驚いたのはイッセーだけではない。全員が驚いた。日本人で言えばG8のサミットに一般人がいきなり首相と同席しろと言われているようなものなのだから。

 

「そして勿論、彼女も当事者だから来るわよ。―――入ってきて」

 

 バン、と開かれた部室のドアから何者かがダイスケに向けて一直線にくる。

 

「ダーイスケっ!」

 

「ミ、ミコト!?」

 

 彼女が駒王学園にいることに驚くダイスケ。なぜなら彼女は何かの用事で外出中であるはずだからだ。それがなぜ今ダイスケに駒王学園の制服を着て抱きついているのだろうか。

 

「ん? 制服?」

 

 そう、彼女は今駒王学園の女子生徒の制服、それもリボンの柄はダイスケと同学年の二年生のものだ。

 

「おい、まさか……」

 

「はい! 不肖、倭姫命! 学生やってみたいから翌日付で駒王学園二年生になります! あ、クラスもダイスケと一緒だよ」

 

『ええええええええええええ!?』

 

 話を知っているリアス以外が驚愕の大声を挙げる。ある程度どのような人物なのかゼノヴィアやダイスケから聞いていた面々だが、それでもこれはインパクトが強い。

 まあ、そのリアスも若干頭を抑えているのだが。

 

「り、リアスさん? これは一体……」

 

「今朝方私のいるイッセー宅に突撃してきてね。「学生やらせて!」って。まぁ、お兄様やお父様に確認したら「リアスが世話になったのだから」って言われちゃったし、お兄様のルートで高天原に聞いても「もう好きにさせてください。あとさっさとゲーム返せ」ってね……」

 

 多分対応した神道勢力の関係者は宇迦之御魂神(ウカノミタマ)だろう。まだ怒っているらしい。

 

「にしたって、伊能忠敬が五十の手習いって自分のこと笑ってたけど、二千歳の高校二年生って――」

 

 そこまで言った途端、抱きついていたミコトがヒメに切り替わった上、神器を展開してダイスケの首筋にシミターを突きつける。

 

「次、それを言ったら……主でも容赦せんぞ?」

 

「あい、すいません……」

 

 流石に彼女にも触れてはならないところはあったらしい。

 

「あの、お願いだから()()を私たち事情を知っている者の前以外ではしないでね? いくら何でもフォローできないから」

 

「うむ、安心せい。そこは流石にわきまえておるわ。影で人の子らの学園生活とやらを楽しませて貰うぞ」

 

 シミターをしまいながらヒメは言うが、正直不安なのがオカ研一同だ。そんな中、ゼノヴィアの視線がアーシアに移る。

 

「そうだ、やらねばならないことが一つあった。……アーシア・アルジェント、キミに謝らせてほしい。主がいないのなら、愛も救いもないのは当然だった。それなのに、わたしは……。本当にすまなかった。気が済むのなら、私をいくらでも殴ってくれて構わない」

 

 ゼノヴィアは深く頭を下げる。変わっていない表情なのでわからないが、その心は態度で本物だとわかる。

 

「……頭を上げてください。私は今この時のなかで、皆さんと一緒にいられるだけで幸せなんです。だから、それでいいんです」

 

 そう言って、アーシアはゼノヴィアの手を取る。

 ゼノヴィアが恐る恐る顔を上げた先には、アーシアの優しい笑顔があった。神の存在を否定されたとき、彼女は精神の均衡が危うかった。イッセーとリアスのフォローにより何とか取り留めたものの、未だに辛いものがあるだろう。

 ゼノヴィアも、本部に連絡を取ったときは異端者扱いをされた。その時にようやくアーシアがどういう心境だったのか理解できた。そのことを鑑みても、アーシアが受けた心の傷はゼノヴィア以上のものだったろう。その彼女が笑って許してくれたことで、逆にゼノヴィアの心が少し軽くなった。

 

「……ありがとう、アーシア・アルジェント」

 

 感謝の言葉とともに、ゼノヴィアはアーシアに笑顔で返す。その様子を見たヒメがミコトに戻って言う。

 

「じゃあ懇親会に突入しちゃおっか! 大丈夫、またお金貰ってきたからいくらか出すよ」

 

「あら、いいですわね。どうせなら豪勢に行きましょう。ケーキやお菓子を買ってきて、私自慢の紅茶を振る舞いますわ」

 

「お、朱乃ちゃんわかってるねー。いいでしょ、リアスちゃん?」

 

 意気投合した二人がノっているのを見て、リアスは「やれやれ」といった感じで承諾する。

 

「まあ、今から会議のことをどうこう悩むこともないし……じゃあ、今日のオカルト研究部の活動内容は祐斗の禁手祝いとミコトとヒメの歓迎会よ! 朱乃、買い出し部隊の指揮を任せるわ!」

 

「了解です、部長。では参りましょうか」

 

 朱乃が先導して買い出し部隊が出て行き、他の準備がある者は他の部屋から備品を取りに行く。

 そんな中一人残ったリアスは、手元にある紙の束の表紙を見つめる。それは、ミコトから得られた情報を纏めたものだった。

 

「――ゴジラ、ね。聞いたこともない存在だけど、せめてこれ以上のトラブルを呼ぶようなモノであって欲しくわね……」

 

 そう願うリアスの表情は憂鬱げであった。

 

 

 

 

 

 

「やんやんっ遅れそうです♪ たいへんっ駅までだっしゅ! 初めてのデート、ごめんで登場? やんやんっそんなのだめよ♪ たいへんっ電車よいそげ! 不安なキモチがすっぱい――ぶる~べりぃ❤とれいん♪」

 

 カラオケの一室。ダイスケの女声に変換されたの歌が個室に響く。目を瞑って聞けば本物の女子が歌っているのかと思ってしまう。

 

「「「「ハイハイハイハイ!」」」」

 

 聞きなれている松田と元浜、そしてイッセーと桐生は馴れているのかノリノリでコールを入れる。

 変わってアーシアと木場、そして小猫はいつもと違うダイスケを見せられて唖然としている。小猫に至っては目の前の料理に手を付けるのも忘れて呆然としているほどだ。

 

「んーと、私なに歌おっかなー」

 

 ただ、ミコトは特に気にせず気にせず慣れない手つきでカラオケ機のコントローラーを操っている。

 そんな中、そそくさとイッセーが部屋を抜け出そうとしていた。

 

「おや、イッセーの股間の様子が……なに? 個室だからなんかエロいことでも想像した? 鼻血出てるし」

 

「……あの目、なにかエッチなことを考えていたのは間違いないですね」

 

 桐生と小猫が目ざとくそれを見つけ、さらにアーシアまでもが不機嫌そうに、

 

「さっき、部長さんからのメール見てましたよね? ……部長さんのことを考えていたんですか?」

 

 と言ってくる。

 

「いやいやいや、なんでもないって! ちょっとトイレ行ってくるだけだから!!」

 

 そう言ってイッセーは鼻を抑えて脱出する。完全に図星であった。

 その理由は今この場にいないリアスから送られてきた「この水着どう?」という内容のメールである。ご丁寧に脱いだ服が一緒に映るように選んだ水着の写真を撮っているのと、これからの夏のムフフな出来事に想像と鼻の中の血管が膨らんで破裂してしまった。

 トイレに駆け込んだあと洗面台の蛇口を思いっきり開き、鼻血を濯ぎ落とし、部屋に戻る途中の休憩所で木場が待っていた。

 

「おう、どうした?」

 

「うん、ダイスケくんの歌声に聴き疲れちゃって」

 

「そうか? まあ俺らはダイスケの変声技術は知ってるからアレだけど、馴れないとそうなるのかな」

 

 ふぅ、というため息のあと、会話が途絶えてしまい壁越しに聞こえるダイスケの歌声だけが響く。よくよく考えれば、この組み合わせで二人きりというのが今まで滅多になかった。以前の合宿では同室だったが、あの時は鍛錬で疲れていたのとお互いに心を開いていなかったのでこの組み合わせで雑談らしい雑談はしたことがなかった。

 そういった事情もあってしばらくの間お互いに黙っていたが、木場が会話の口火を切る。

 

「……イッセー君、ほんとうにありがとう」

 

「なんだよ、藪から棒に」

 

「いや、ちゃんとお礼を言ってなかったからね」

 

 少々気恥ずかしそうに言う木場に、イッセーは笑いかけながら答える。

 

「いいって。お前の同志たちだって、言い方はなんだけど成仏できた。部長もみんなもこれでよかったって思ってる。だから―――いいんだよ」

 

「……イッセーくん」

 

 すべてが赦され、報われた喜びで木場の瞳が潤む。その瞳に思わず学園で流された木場との疑惑話を意識してしまったイッセーは、若干背中に悪寒が走っていた。

 

「や、やめろよ、そういう目で見るの!!!」

 

「だ、ダメかな……?」

 

「そういうところ、マジで他人が観てるところではしてくれるなよ……まあいいや。さあ、戻って兵士と騎士のデュエットと洒落こもうぜ。ダイスケからマイクを奪ってな!」

 

「ははは、お手柔らかにね……」

 

 その後、ドサクサに紛れてダイスケが撮った「イッセーと木場が一緒に良い雰囲気で歌っている」写真によって、ダイスケの目論見通り学園のホモ三角関係疑惑から抜け出すというひと騒動が起こるのだが……多分語る機会は来ない。

 

 




 はい、というわけでVS21でした。
 まさかの二千歳の高校二年生ですよ。あ、彼女は学力は普通にあります。学生をやったことがないだけです。
 後しばらく投稿をお休みします。今までの投稿ペースが異常だったんです。主な理由は艦これに専念するため……ゲフン、ゲフン、今後の構成や新キャラの設定付け、書きためストック制作です。しばらくお待ちください。今年中には再開できると思います。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!! 


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VS22 誰がどこで話を聞いているかわからない

 「ゴジラのサンタクロース」っていう歌、皆さんご存じです? どうか街を歩くリア充どもをゴジラサンタの熱線で焼き尽くして欲しいです。
 この前無事に艦これの秋イベをクリアしました。ヒューストンもデ・ロイテルもドロップしたので言うことないです。
 あとこの前地元のイベントで生のアイドルと写真撮って握手してきました。ガンダム好きなのですっごく話できました。


 ここは駒王町のそれなりに規模がある漁港の突堤だ。ところどころに点いている街燈が集魚灯のような働きをするのでなかなかいい釣りスポットになっている。

 そこに今、月の光に照らされながらイッセー、ダイスケ、そして本日の依頼人の男の三人が釣り糸を垂らしている。

 

「釣れない……」

 

「ここで諦めるなよ。釣りっていうのはナンパと同じだ。したことないけど。いかに地道に魚にアピールして食わせるか、これよ」

 

「悪魔君、友達の言うとおりだぞ。ここはじっと待って回遊してくるタイミングを待つんだ」

 

 最近、イッセーに常連の顧客ができた。それがこの男だった。見た目はチョイ悪系が入った三~四十代ぐらいだろうか、何の仕事はしているのかはわからないがこの男とにかく羽振りがいい。なにせ、最初の依頼が「暇つぶしに酒の相手をしてほしい」とうもので、もちろん未成年なので飲みはしなかったがほんの数時間ほど相手をしただけでとる有名画家のリトグラフを報酬として渡してきたのだ。

 はじめは想像以上の値打ちモノが報酬として出てきたのでイッセーも驚いた。しかもそれにとどまらず、ゲームの相手だとか買い物に付き合えだとかどう考えてもハードルが低い依頼でぽんぽんと報酬として高価な絵画や貴金属類、はては骨董品を報酬として支払う。ここまでされたら何者なのかという疑念もどこかへ吹き飛んでしまう。

 そして、今回の依頼が夜釣りに付き合うという内容だった。

 

「あれ? ビクってきたのについてないぞ?」

 

 仕掛けを引き上げたイッセーが情けない声を出す。

 

「お前、当たってすぐに引いたろ。そういう時はな、ちょっと待って確実に針を飲み込ませろ。そんで、籠の中のアミも随時チェックだ」

 

 アドバイスするのは趣味が釣りのダイスケである。

 当のダイスケはルアー釣りでのアジング。それに対し、イッセーと依頼主はサビキでのアジ狙いだ。

 

「はっはっはっは、悪魔くん。こうやるんだ」

 

 そう言ってアゼルがリールを巻いて竿を上げると、サビキの針がアジでほぼ満員になっている。

 

「うわ、すっげぇ!!」

 

 たまらずイッセーが驚いた声を上げる。

 

「おお、型はマメアジだけど、数すげぇ」

 

「どうよ、伊達にこれだけに長い時間かけたことがある俺ではないさ」

 

 ダイスケに答えながら、依頼主はアジを一匹ずつ針から離していく。

 

「そういうお前さんはどうだい? アタリがないんじゃないか?」

 

「うーん、今のところジグヘッドでやってるんだけど、レンジが深いか、まだ遠くにいるみたいっすわ……キャロシンカーに変えよう。」

 

 そう言ってダイスケは柔らかい樹脂製のワームと呼ばれるルアーとジグヘッドという重り付きの針を仕掛けから外し、タックルボックスから、キャロライナシンカーと呼ばれる錘を取り出す。そして仕掛けを作り直し、小さな針を結んで再びワームを付ける

 

「何それ?」

 

 イッセーが興味を惹かれ、ダイスケに聞く。

 

「これな、さっき付けてたジグヘッドより重いんだよ。だからより遠くに飛ばせるし、深いところへも早く仕掛けを沈ませることができるんだ」

 

 そのダイスケの説明の通り、キャロシンカーの仕掛けは先ほどのジグヘッドの仕掛けよりも遠くに飛んだ。

 

「へぇ、アジ釣りひとつにもこんなにやり方があるもんなんだ」

 

「だろう、悪魔くん。まあ、効率はこっちのサビキ仕掛けのほうが圧倒的にいいんだが」

 

 そうこうしているうちに時間はあっという間に過ぎ、終了の時間を迎える。

 本当なら朝日が見えるまでやり続けたいところだが、イッセーとダイスケには学校があるのでもうお開きだ。

 釣果はイッセーがアジを二十尾釣り上げたのに対して、依頼人はは五十六尾。そしてダイスケはたった十尾。ただし半分以上が二十五~三十cmの良型だったので本人は大満足だ。

 

「いやー、楽しかったよ。いつも一人でやるんだがね、たまにはだれかと一緒にやるのもいいもんだ」

 

 短時間ながら十分な釣果を得た依頼人はは満足げだった。そして既にイッセーも代価の宝石類を頂戴している。

 

「くっそー……結局二十匹かよ……」

 

 イッセーが悔しそうに呟いたのを依頼人は聞き逃さない。

 

「お? だったら今度は勝負するかい?」

 

「もちろんすっよ!!」

 

 イッセーは息巻くが、ダイスケはそれを見て呆れる。一朝一夕で釣りの技術は身につくようなものではないからだ。

 

「よし、それじゃあ今度呼ぶときは釣り対決ってことでいいかな? 悪魔くん、ダイスケくん。……いや、赤龍帝と怪獣王」

 

 その一言で、イッセーとダイスケは咄嗟に依頼主の男と距離を取る。

 

「おお、いい反応だ。だが、俺が何者なのか気付けなかったのは残念だったな」

 

 両手を広げて「やれやれ」というジェスチャーをする。それがふたりにはまるで自分たちの隙を悠々と突かれたように感じてしまうのだ。

 

「あんた……一体、何者だ!?」

 

 イッセーのその問いを待っていた、と言わんばかりに依頼主は口の端を少し吊り上げる。

 

「―――アザゼル。堕天使どもの頭、総督をやっている。よろしくな、赤龍帝の兵藤一誠、そして怪獣王、宝田大助」

 

 その予想外の回答に、沈黙が訪れた。

 

「「は?」」

 

 というより、二人にはイマイチ現状がつかめていない。

 堕天使の総督がなんでわざわざ? っていうか、自分から顔を見せるってなんなの? そんなに暇なの? なんて思っているほどだ。

 

「いや、だから堕天使の総督なんだって」

 

「「……」」

 

 またも訪れる沈黙。だが、それはイッセーとダイスケによって破られる。

 

「「痛い痛い、痛いよお母さーん! ここに頭怪我した人がいるよぉー!」」

 

「……張り倒すぞ、お前ら。」

 

 思わぬ反応に、つい威厳もカリスマもかなぐり捨ててカチッとなってしまうアザゼル。だがアザゼルは言葉で納得しないなら、その目に焼き付かせるまでだ、と行動する。

 

「なんなら証拠を見せてやろう……」

 

 その途端、アザゼルの背中から12枚の漆黒の翼が現れる。

 

「どうだ、この12枚の漆黒の翼! まさに堕天使って感じだろう!!」

 

「「……」」

 

「どうだ、びっくりしすぎて声も出ないってか?」

 

「「痛い痛い、痛いよお父さーん! 絆創膏持ってきて、人ひとり包み込めるくらいのー!! しかもこの人自作の羽根とか付けてるよー! 痛いにも程があるよー!! 正露丸もってきてー!! 歯の奥に詰めるからー!!!」」

 

「お前ら打ち合わせでもしたのか!?」

 

 否、仲がいいからこその阿吽の呼吸というやつである。

 

 

 

 

 

「冗談じゃないわ」

 

 リアス・グレモリーは怒っていた。それはもう、なまら怒っていた。隣にイッセーを侍らせ、頭を撫でている状態で。

 

「確かに、近々この町で三大勢力のトップ会談が行われるわ。でも、だからと言って堕天使の総督がなんの断りもなしに私の縄張りに無断侵入した挙句に正々堂々と営業妨害をしてただなんて……!」

 

 全身を怒りで震わせながらも、イッセーの頭を優しく撫でる手は止まらない。

 

「しかも私のイッセーにまでちょっかいを出すだなんて、万死に値するわ!!!」

 

「あの。俺も狙われてたんですけど、そこは無視ですか」

 

 撫でられているイッセーとは対照的に、リアスはダイスケに対して何の心配もしていない。

 イッセーは猫のように可愛がられ、ダイスケは部室の隅で突っ立っているあたり、扱いの差が見える。

 

「大丈夫よ。この前の事を見たら、貴方に関してはもう何も心配しなくても良いかなーって」

 

「えぇ……」

 

 他の眷属もイッセーのことを心配してはいたが、ダイスケに関しては誰も心配していなかった。正直泣きたくなった。

 

「ダイスケは心配して欲しかったんだよねー。なんだったらいつもみたく私がぎゅーってしてあげるよ?」

 

「いや、気持ちはうれしいけどさすがにいいわ……。って言うか誤解を招く言い方すんな。いつも勝手にミコトが俺のベットに潜り込んでくるだけじゃねぇか」

 

 そう言ってダイスケは抱きつこうとするミコトを制しているが、それは無視してリアスはイッセーの可愛がりを続ける。

 

「アザゼルは神器に強い関心を示しているというわ。きっと、イッセーの赤龍帝の籠手を狙って接触してきたのね……。でも大丈夫よイッセー。あなたは絶対にこの私が守ってみせるわ」

 

「でもやっぱ、俺とダイスケにアザゼルが近づいてきたってことは、神器を狙ってきたってことっすよね? ……やっぱり、命に関わる危険があるってことなのかな」

 

 話が進まない現状を流石に変えようとしたイッセーが言う。そのイッセーの不安を聞き、木場が答える。

 

「確かにアザゼルは神器に対する造詣が深いとは聞くね。そして、有能な神器所有者を集めているとも聞く。でも、大丈夫だよ。……僕がイッセーくんを守るからね」

 

 その木場のセリフは、まさにお姫様を守る騎士の様だった。それにしたって男が男に対して使う言葉と視線ではない。

 

「いや、あの……気持ちは嬉しいんだけどさ、それは真顔で男に向かって言う言葉じゃあないぞ……」

 

「真顔で言うさ。君は僕を助けてくれた。大きなリスクを背負ってまで助けてくれた、僕の大切な仲間だ。その仲間の危機を救えないで、グレモリー眷属の騎士は名乗れない」

 

 言いたい事はわかる。だが、この言い方ではは学園に蔓延る腐女子グループからすれば格好のネタにされる。この態度が他の場で表に出なければいいのだが。

 

「きっと禁手に至った僕の神器とイッセー君の赤龍帝の力があれば、どんな困難でも乗り越えられる。……ふふっ、ほんの少し前まで、こんな暑いセリフは吐かなかったんだけどね。キミと付き合っていると自分のキャラクターまで変わってしまう。でも、不思議と嫌じゃあないだ……。キミを見ていると、胸がすごく熱くなってくるんだ」

 

 熱っぽい視線でイッセーに訴える木場。こんなのどこからどう見たってBでLな小説とかゲームのそれだ。

 

「き、木場……お前、キモイぞ……。いや、ちょ! 近づくな!!」

 

 尻をガードするように逃げるイッセー。このままでは一部女子達の噂が現実のものとなってしまう。それだけは避けたい。

 

「そ、そんな……! イッセーくん、僕はただ……!」

 

 まるで愛する女性に避けられたかのような木場の姿に、イッセーもダイスケも口をあんぐりと開けるしかない。美少女が好きな男に縋り付く姿は中々クるものがあるが、それがイケメンとはいえ男子なら話は別。それこそ一部の女子にしか需要はないだろう。

 かつてのクールなイケメン木場くんがどこへやら。人間(悪魔)変われば変わるものだ。

 

「しかし、どうしたものかしら……。堕天使側の動きが見えない以上、迂闊に動くことはできないわ。しかも相手は堕天使の総督。下手な手は打てないし……」

 

 あくまで相手はちょっかいをかけてきただけ。これに過剰反応すれば、三隅の関係を崩すことうけあいだ。そこのところ、リアスは意外と厳しい。

 

「アザゼルは昔からああいう男だよ、リアス」

 

 突如として、この場の誰でもない声がした。その声の出処を全員が見つけた時、そこにはリアスそっくりの紅い長髪をした男がにこやかに立っている。

 イッセーもその顔には見覚えがあったが、誰だったか思い出せない。すると朱乃たちがその場で跪き、ダイスケは会釈し、新人悪魔たちがその様子を見てポカンとなる。

 

「お、お、お、お兄様!?」

 

 その人物が何者なのか気付いたリアスが慌てたように立ち上がる。リアスが「お兄様」と呼ぶ人物はただ一人。現魔王サーゼクス・ルシファーその人だ。

 サーゼクスが現れたとあって、新人悪魔三人が慌てて跪く。

 

「彼は先日のコカビエルのような早まったことはしないよ。悪戯好きではあるけどね。しかし、総督殿は意外と早い到着だったな」

 

 サーゼクスの後ろには銀髪のメイド、グレイフィアが控えている。サーゼクスの女王であるから当然か。

 

「くつろいでくれたまえ。今日はプライベートで来ているのだから。それと、ダイスケ君に用事があってね。と、その前に――」

 

 サーゼクスの視線がミコトへ移る。

 

「倭姫命殿ですね。先日は妹のリアス含め、彼らが貴女のお陰で命拾いをしました。心から礼を言わせて欲しい」

 

 そう言うサーゼクスはミコトに向けて頭を垂れた。

 

「いいよいいよ、ミカちゃんの頼みを聞いた結果だし。特に気にしなくても。それに感謝するのは私の方。お陰で楽しい学園生活送れてるから」

 

「それを聞いただけでも何よりですよ」

 

(ぶ、部長。ミコトさん、あのサーゼクス様相手にいつもの調子を崩さないってすごくないですか?)

 

(お兄様、確か彼女よりも年上な気もするけど……魂の方のモスラって言うのがよっぽど古い存在なのかしら)

 

 悪魔関係者なら誰もが自分の方が下手に出るサーゼクス相手に平常運転のミコトにグレモリー眷属の誰もが内心驚いていた。まぁ、流石にミコトの実年齢には怖いので誰も触れないが。

 

「そういえば俺に用事ってなんです?」

 

 尋ねるダイスケの声に、それまでいつもの温和な表情だったサーゼクスの顔が一転して真剣なものに変わる。

 

「ダイスケ君。君、そこのゼノヴィア君ともう一人いたエクソシストの紫藤イリナ君に結構なことを言っていたみたいだね。」

 

「……確かにそうですけど。――まさか、それが天界の方で問題になっているんですか?」

 

 自分の言っていたことが原因で今回の三大勢力の会談に何か影響が出たのか。そう思ったダイスケは珍しく焦る。

 

「いやいや、ミカエルは一個人の見解にどうこう言うほど心の狭い男ではないよ。だが、問題はそれを盗聴していた連中でね。」

 

「盗聴!?」

 

 一番驚いていたのはゼノヴィアだ。何せあの場でダイスケの罵詈雑言を浴びせかけられた張本人の一人だ。だが、流石に盗聴までは身に覚えがない。

 

「ゼノヴィア君に咎はないよ。悪いのは各エクソシストの思想調査にかこつけ、戦士服に盗聴器を仕込んだ()()さ」

 

「お兄様、()()とは?」

 

 尋ねるリアスにサーゼクスから目配せされたグレイフィアが一冊の資料を手渡す。

 

「『赤イ竹』……ですか?」

 

「ああ、彼らは教会系の原理主義過激思想組織とでもいったほうがいいのか……いや、原理主義など生ぬるい。信仰が暴走したテロリスト集団だよ。赤イ竹の目的は全ての他宗教と科学文明を第三次世界大戦において核の炎で滅却し、自分達の理想とする世界を作り上げることだ。そのためならば、コキュートスに落ちることもいとわない。さらに名前の由来もすごい。赤はストラの色で「火、愛、殉教」、竹は英語の花言葉で「loyalty(忠誠、忠義)・strength(強さ)・steadfastness(不動)」となるその名の意味は――」

 

 

 

 

 

 

 どこかの国の、どこかの街。いや、どこかの辺境にあるかもしれないその施設。そこは大聖堂然とした趣があり、荘厳な雰囲気を醸し出している。

 これだけの大工事、一体どれほどの人件費を重ねたのか。いや、彼らは工事に人件費など払っていない。全て現地の異教徒を強制労働させ、あげく殺した。彼らからすれば神に祝福されるはずのない異教徒達が、自分達に酷使されることでようやく神の国への扉を開いたという認識なのだ。それが彼ら『赤イ竹』だ。

 その血塗られた大聖堂に多くの構成員が集い、長である「総司令」と呼ばれる人物が現れるのを待っている。そして彼らがそれほど待つことなく、白い頭巾で顔を隠した総司令が眼帯を付けた冷徹そうな男を伴って壇上に上がる。

 総司令が階段を一段一段上がるごとに、構成員達は一列ずつ胸の前に横一文字に手を握った腕を置く独特な敬礼のポーズを取っていく。これは自身を殉教の十字架に見立てる行為だ。

 そして、総司令が眼帯の男と共に壇上に上がる頃には全員がかの敬礼のポーズになっていた。総司令はマイクの前に立ち、同志達に言葉を掛ける。

 

「……諸君、日々の任務ご苦労である。全ては来たるべき全異教徒の滅却の日のため、その殉教の志を捧げて欲しい」

 

 構成員達が敬礼の姿のまま傅く。が、「しかし!」と総司令は声を大にし、全員が再び顔を上げる。

 

「我らの前に、奴は現れた! 我らが信ずる神を愚弄し、あまつさえ悪魔どもを我らと同じ神の使徒と言ったあの男! 宝田大助である!」

 

 総司令の背後のスクリーンに、でかでかとダイスケの顔が投影される。それを見た構成員達の表情は一気に憎しみに満ちたものへと変わった。

 

「しかもさらなる事実が発覚した。奴はあのゴジラをその身に宿した者である! そう、過去に一度我らの宿願を粉みじんに粉砕してくれた、あのゴジラだ!」

 

 その情報は驚きと共に伝播し、大きなどよめきが起きる。

 

()()()()あの場にいた者も、いなかった者もかの革命的怪物のことは知っているであろう! 奴が、再び我らの前に現れたのだ! ……だが恐れることはない。我らはあのときとは違う! 我らの有する力があれば、必ずや奴をコキュートスに落とすことも出来るであろう! その時のために、是非とも力を貸して欲しい!」

 

「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」

 

 大聖堂に響く鬨の声。それはまさに(いくさ)前の空気である。

 

「まずは奴の実力を測る機会を作る。そこで滅せるならそこまでのこと。我らはその機会を待ち、威力偵察を行うこととする。かの組織と連合を組むことによって作戦行動も容易になるだろう。その時、奴の力を見て、諦めを抱いてしまった者は思い出して欲しい。我ら『赤イ竹』の名の意味を!」

 

 そして構成員達は声をそろえて大合唱する。

 

「「「「「「『殉教の忠誠』、『忠義の核の火』、そして――『不動の殉教』!!!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

「……『殉教の忠誠』、『忠義の核の火』、そして――『不動の殉教』さ。中には神器所有者もいるという情報もある」

 

「そんな……そんな連中聞いた覚えが……」

 

 身内にそのような者たちがいたことにショックを受けるゼノヴィア。だが、サーゼクスの情報はこれでは終わらない。

 

「無理もない。なにせ枢機卿にも構成員がいると言うことだ。教会内部に巣くわれては天界だって察知するのは難しい」

 

「ですがお兄様、なぜそんな連中がダイスケを……まさか、あのときのダイスケの言葉を盗聴して!?」

 

「その通り。彼らはダイスケ君をDEAD限定の指名手配として、さらにその家族も対象にしてきた。金額は米国ドルで1億、だったかな。まあ、その大きすぎる金額が動いたことで容易に察知できたのだがね」

 

 その言葉を聞いた途端、ダイスケは近くの壁を殴った。当然、壁は抜けて隣の部屋が丸見えになっている。

 

「だがご家族の方は安心してくれて良い。グレモリーの本城で匿うことになった。悪魔の拠点の冥界、それも公爵家の城にいられては流石に彼らだって手は出せない。お父様の方には現在の職を辞していただいて、こちらの方で人間界の文化を教えていただく教師をして貰うことになった」

 

「すいません、俺のせいで……」

 

「確かに無警戒ではあった。だが、個人の意見を言えない世の中は不幸な世界だ。それを強いる彼ら赤イ竹が悪い。当然、天界は天界で動くだろうが私も弟同然の君を守るために手は尽くす。君は気にせず日常を生きてくれて良い」

 

「タダでさえ迷惑掛けてるのに……本当にすいません!」

 

 ダイスケは頭を床にぶつける勢いで頭を下げて謝る。しかし、サーゼクスはそれを制するようにいう。

 

「そういうときは「ありがとうございます」の方が嬉しいかな。なに、これでも魔王だ。人間に支えられて生きている分、せめてこれくらいのことを出来ねば。では、せっかく全員そろっているのだから、コカビエル襲撃の際の詳しい状況を直に聞いておこうか。会談の時の報告のリハーサルだと思ってくれ」

 

 そうしてその場はコカビエル来襲時の詳しい状況説明の場と変わったが、ただ一人、ダイスケは己の迂闊さと『赤イ竹』という組織に対する怒りを一人燃やしていたのだった。

 

 

 

 

 

「あーあ……せっかくの藻が繁殖した水が……塩素も抜けきってたのに……水を供給すれば酸素だって……」

 

 今日は休日であったが、グレモリー眷属とプラスアルファは登校していた。プール清掃のためである。

 リアスが生徒会からプールの先行独占使用を条件に請け負った仕事だったが、ダイスケ一人が渋々やっていた。ダイスケ本人としては藻が繁殖したプールを釣り堀に変える計画を生徒会に進言するつもりだったのである。

 それが目の前で水が抜かれ、自分の手で藻をこそぎ落とさせられた。それがダイスケにはとても辛かったのである。

 

「まぁまぁ、魚持ってくるのも維持するのもお金かかるんだから、諦めよ?」

 

「うぐぅ、俺の野望……」

 

 皆がプールではしゃぐ中、ダイスケはプールサイドで体育座りでイジけ、ミコトがそれをなだめている。

 他の者たちはプールサイドにイスを置いて日光浴したり、思い思いのコースで泳いだり、小猫とアーシアはイッセーに見て貰って泳ぎの練習をしたりしている。

 

「そんなことより泳ごう! せっかく着替えたんだもん」

 

 そう言うミコトはパレオの可愛らしい水着だ。プールで泳ぐと聞いて先日急いで買ったばかりの新品である。

 

「ねぇねぇ、良いでしょ、この水着。授業じゃ使えないけど」

 

「……うん、いいんじゃない? かわいい」

 

 その適当なダイスケの返事にミコトは頬を膨らませ不機嫌になった。

 

「ふーん……えい!」

 

「へ? は? どぅわ!!!」

 

 突然ミコトはダイスケを引っ張ってもろとも水中へ。しかもよりにもよって落ちたのが学校のプールの最も深い箇所。

 驚いたダイスケは溺れかけるが違和感を感じる。

 

(あれ、なんか……去年プールに入ったときより水中で動きやすい?)

 

 本来人間は陸上の生き物だ。突然ハプニングで水に入れば自然と呼吸するために顔を水上に出そうとするが、自然と落ち着いてまず体勢を整えようとするのが今のダイスケだ。

 しかも元から水の中で生きる生き物であるかのように、全く水中にいることに対する恐怖が湧いてこない。むしろ安心するくらいだ。そしてゆっくりとダイスケとミコトは浮上する。

 

「ぷはっ……ミコト、お前なにした?」

 

「なにもしてないよ? ダイスケの魂が、つまりゴジラが本来生きていたところが水の中だったってだけ。わたしも泳ぐのは得意なんだよ」

 

 と言うことは、先程の感覚は魂に刻まれたゴジラの水の中にいたときの感覚と言うことだ。それがダイスケにはとても心地よいことに感じたのである。

 

「釣りするのも良いけど、水の中は泳ぐのも気持ちいいんだよ。だから、今はみんなと一緒に楽しもっ」

 

「わーったよ。迎合すりゃいいんだろ?」

 

 もはや諦めたダイスケは、そのままミコトと一緒に皆の輪の中に入っていって思いっきり楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

「いやー、泳いだ泳いだ。そういやイッセー、お前ゼノヴィアと途中抜けてたけどなにしてた?」

 

「え? いや、うん。特になにも?」

 

「……ふーん。まぁいいや。なぁ、コンビニ寄ってアイスでも買わないか?」

 

「いいね。僕も行こうかな」

 

「……泳いだ後はアイス、これは鉄板です」

 

 そんなことを言い合いながら、生徒会への報告書作成のために残ったリアスと朱乃を除いた一同は校門を出ようとする。その時、彼らの背後で突如声が聞こえた。

 

「運動後の糖分、塩分、タンパク質の摂取にはラーメンが良いぞ。プールで冷えた体も温まる。まぁ、ラーメン味アイスが出るのなら俺はそれでも良いが」

 

 不意に聞こえたその声に、一同が振り向く。そこには白髪の一人の少年がいた。しかし、問題は誰も彼が背後にいたことに気がつけなかったことだ。ダイスケですらその存在に気付くことが出来なかったのである。

 ただ、一人だけは例外であった。ミコトである。

 

「あ、ヴァーくんだ。この間ぶりだね」

 

「なんだ、赤龍帝の方は気付いてくれなかったか。彼女の言うとおり、俺は白龍皇。名はヴァーリという」

 

 本人の名と宿す神器の名を聞いたとき、イッセーの中で生まれた意識が赤龍帝の籠手に伝わる。その感覚が蓄積された因縁を刺激して痛痒感を伴って左腕が反応していた。

 あれだけ手も足も出なかったコカビエルを、ダイスケとヒメが既にある程度のダメージを与えていたとはいえ反撃する機会も与えぬままに秒殺した男である。そんな男が目の前にいるという事実に場の緊張の度が高まるが、ミコトは落ち着き払っている。

 

「今日はどうしたの? あ、ダイスケと喧嘩するならだめだよ。これから一緒に帰るんだもん」

 

「ふむ、それはそれで面白そうだが、今日は俺の将来のライバル君の様子を見に来ただけさ。だから別にみんなそこまで緊張しなくていい」

 

 本人はそう言うが、とてもとても信じられたものではない。

 

「だけどふいに気が変わって赤龍帝の彼に何かするかもしれない。たとえばここで呪いの一つでもかけてみたり――」

 

 そう言いながらヴァーリは人差し指をイッセーに向けるが、ほんの一瞬のうちに木場とゼノヴィアに剣で制止させられた。その喉元に向けられた刃からは凄まじい剣気が放たれている。

 

「何をするつもりかわからないけど、流石にこれは冗談が過ぎるんじゃないかな?」

 

「ここで赤龍帝との決戦を始めさせるつもりなら全力で止めさせてもらうぞ、白龍皇」

 

 怒気を含む木場とゼノヴィアの声。だが、ここまでの殺気を向けられてもヴァーリは平然としていた。

 

「やめておけよ。震えているじゃあないか」

 

 言うとおりだった。

 二人の剣は、目の前の強者を相手取ることへの恐怖とプレッシャーで細かく震えていたのだ。

 

「いや、震えているからと言って恥じることはない。それは君もだよ、赤龍帝。自分より各上の相手に恐怖を抱けるのは今の己を知っている証拠。そういう者こそ強くなれる。もっとも、コカビエルごときに手を焼いた今の君たちじゃあ俺には勝てない。でも――」

 

 ヴァーリが視線を移した先にはダイスケとミコトがいる。

 

「怖いのは君達みたいに何かわからない存在ををその身に宿す者ものだ。君らも知ってる桐生義人とも軽く手合わせしてみたが底が知れない。今やり合えば俺は勝てはするだろう。だが、その代わりのもっと恐ろしいナニカが顕現しそうだ」

 

 恐らくヴァーリは何らかの情報を持っているということだろう。だが、たとえそれがダイスケ本人が一番欲する類いのモノであってもこの場では教えてはくれなさそうだ。

 

「だとしても、だ。それでもまだまだこの世界の強者には届かない。あのサーゼクス・ルシファーだって十本の指には入らないんだから面白い。だが、それでも頂点に立つ者はいる。不動の存在が」

 

「―――まさか自分だっていうんじゃないよな?」

 

 イッセーの問いにヴァーリは肩をすくめる。

 

「まさか。そこまで俺は傲慢じゃないさ。いずれわかることだ……リアス・グレモリー、彼らは貴重な存在だ。時が来るのに備えて十分に育ておくといい」

 

 そのヴァーリの言葉の向かう先には、その存在を察知して文字通り飛んできたリアスの姿があった。そして、どうしていいかわからずに狼狽しているアーシアを除いた全員が臨戦態勢をとっている。

 

「白龍皇、どういうつもり? 堕天使とつながっている以上、これ以上の接触は――」

 

「『二天龍』に関わったものはみんなろくな生き方をできていない。――貴女はどうなるんだろな」

 

「―――っ」

 

 何もかも見透かしたかのようなヴァーリの言葉に、リアスは息を詰まらせる。

 

「だが、覚悟は固めておくといい。赤龍帝共々、みんな力を蓄えておけ。……退屈しのぎにここへきていただけだったが、君達に会ってみることができて良かったよ。」

 

 そう言いたい事全てを言い尽くすと、ヴァーリは踵を返してこの場を立ち去って行った。姿が見えなくなるまで誰も張りつめた糸を緩ませることはできなかった。それどころか、胸に去来する大きな不安を皆が隠しきれていない。

 忌諱したい大きすぎる濁流の中に、放り込まれた気がした。

 




 はい、というわけでVS22でした。
 やっと出せました、グレンさん原案の敵組織「赤イ竹」。こんな登場でよかったですかね?
 あと再開したからといって以前のペースは期待しないでください。各キャラ設定の修正や再構築、文章の修正に差し込みとやることが一杯なので。味方がごっそり減ったのと、敵方の事情が大分変わってきています。特にキングギドラ持ちの奴の行動原理が変わっていたり。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!! 


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VS23  授業参観でテンションが上がるのは小学校低学年まで

 もうすぐ2019年が終わろうとしています。この投稿後、私は近所の寺に除夜の鐘つきに行く予定です。
 あ、あと活動報告で書いた問題は解決しました。結局1/60のエクシアを買いました。


 高校生が最も嫌がる学校行事とはなんだろうか。

 まず挙がるのはテストだろう。ただでさえ自分が試されるという緊張感があるのに、それに加えて積み重ねを考慮すれば将来の人生設計にも関わってくる。これほど恐ろしい学校行事はないはずだ。

 だがそれとは別のアプローチで少年少女の心を抉ってくる行事と言えば……授業参観である。

 誰しも「家での自分」「学校での自分」とを分けており、それぞれの場に合わせたキャラクターで生活している。だが授業参観はそんなオフィシャルとパーソナルの境界線をたやすく破壊してくる。普段学校で悪ぶっている奴が母親に「たーくん」何て呼ばれているところを見かけられたら赤っ恥もいいところだ。

 そして教室内ではどの生徒もこれから親がやってくる、ということで嫌そうな顔をしていた。だが、皆の心持ちが重いのはそれだけではない。この駒王学園の授業参観には中等部の学生が授業の見学にも来れる。さらにその保護者も見学可能な、いわば「公開授業」なのだ。

 未来の後輩の目の前で誰も恥をかきたくないので、皆が余計な緊張をしてしまうのも無理はなかった。ところが、今日のダイスケたちの公開授業である科目の英語はいつもとどこか違っていた。

 

(なんなんだ、この授業……)

 

 思わずダイスケは心中で疑問を吐露する。何せ目の前にあるのは英語の教科書と辞書ではなく、一塊の紙粘土。小学生の図画工作でもないというのになぜ高校生である彼らの机上に粘土があるのか。

 それはすべてはこの英語教師の言葉から始まった。

 

「いいですかー、先ほど皆さんに配った紙粘土で好きなものを作ってみてください。動物でも、人でも、何でも構いません。今、皆さんの脳裏にあるものを自由に粘土で表現してください。そういう英語もあります」

 

(((いや、どこの星にもそんな英語は無ェよ!!!!)))

 

 ほぼすべての生徒の心の声である。だが保護者や中等部の生徒たちの目の前である手前、誰もそんな突込みはできない。

 

「レッツトライ!!」

 

 サムズアップを決めて授業開始を宣言する教師。これが普通の授業時間で行われていたら総員から紙粘土の飛礫を受けているであろう。しかし、面目上おとなしく目の前の紙粘土をいじるしかない。授業参観という特別な状況である以上に単位がかかっている。理不尽ながらも数人ずつ紙粘土に手を出していく。

 

「なかなか難しいです……」

 

 そんな中、率先して紙粘土をいじっているのはアーシアだ。根が真面目で天然な所があるためか、こんな目的不明の授業内容にも真摯に向きあっている。その直向きさには半保護者のイッセーのみならず誰もが心の中で感涙を流す。

 

「アーシアちゃーん、頑張ってー!」

 

「アーシアちゃーん、かわいいぞー!!」

 

 微妙な空気の中でアーシアに声援を送り、自分達の息子をスルーしてデジカムを回すのはイッセーの両親だ。その両親の行動にショックを抱きつつ、イッセーも紙粘土に向き合う。

 ついに全員が観念して紙粘土をいじり始めるが、ただ一人ダイスケは手を付けられずにいた。

 

(いやいやいやいや、みんな手ェ動かしてるけど、いきなりやれって言われても何も思いつかねぇぞ!)

 

 目の前にいきなりビートた○しが出てきて「皆さんには殺し合いをしてもらいます」と言われても何もできないのと同じ理屈だ。さらに単位がかかっているというプレッシャーのせいで余計に手が震えていて使い物にならない。普段釣りの糸結びやプラモデル作りで手先の器用さに自信はあった分余計に焦りが生じる。

 しかしダイスケが手を出せずにいる中、ある一人の作品が完成する。

 

「こ、これは……!」

 

 課題を突き付けた張本人ですら言葉を呑んだそれは、イッセーが無意識の内に作り出したリアスの裸体像であった。

 普段見ているということもあるが、女体に対する飽くなき欲求がこの作者本人も驚くほどの完成度を誇るまさに芸術品といっていい偶像が完成させたのだ。

 

「す、すげぇ……3000出す! 俺に売ってくれ兵頭!!」

 

「いや、俺は4500出すぞ!!」

 

「そ、そんな……噂通りエロ兵頭がリアスお姉様と……私は8000出すわ!!!」

 

 すぐさまその場がオークション会場に成り果てる。それほどイッセーが作ったリアス像の完成度は凄まじかったのだ。まぁ、現実の方のフィギュアもこれくらいの完成度があればいいのにと思ってしまうほどの出来だから仕方がない。

 

「す、素晴らしい! 私のみ込んだとおりだった!!」

 

 そして英語教諭は自分の担当科目を完全に忘却の彼方にすっ飛ばして感激している。だが、騒ぎはそこで終わりではなかった。

 

「ふっふっふっ、イッセーくん。これを見てもその余裕を保ち続けることが出来るかな!?」

 

 授業中にもかかわらず(すでにオークション騒ぎで授業の体を成していないが)ミコトが仁王立ちでイッセーに宣戦布告する。

 

「さぁ、どうだ! これがわたしの魂の形!!」

 

 そう言って彼女が天高く持ち上げたのは本物かと見まがうほどの1/6ダイスケ像であった。だがやはりただの姿を模した像では無い。イッセーのリアス像と同じく生まれたままの姿だったのだ。だがそこには裸であるといういやらしさは全く無い、さながらミケランジェロのダビデ像のようであった。

 普段から彼女のダイスケへのラブコールを聞いていたクラスメイト達だが、さすがにこれにはドン引きした……かと思ったが、女子たちは興味津々のようであった。

 

「え、嘘……ミコトさんってそこまで行ってたの!?」

 

「っていうかこの大きさ……」

 

「いや、さすがにこれはミコトの幻想入ってるわよ。私の見立てではこれくらいね」

 

 男女関係に興味津々の者、股間に存在するモノの大きさに目を奪われる者、そして紙粘土で約原寸大のブツを作る桐生とそれぞれの反応を見せる。

 

「えー、いつも抱きついているときはこんな感じだよ?」

 

「いやいや、それは勃○してるんだって。平常サイズじゃないと、こういう像は」

 

「そうかなぁ、前にお風呂に突撃したときこれくらいだったけどなぁ」

 

「ミコト、思春期の男の戦闘態勢への移行スピードなめない方が良いよ。ちょっとした興奮材料ですぐ戦闘態勢になるもんだから」

 

 ダイスケのナニのサイズを巡ってミコトと桐生が論争をおっぱじめる。

 だが、係争の中心にいるはずのダイスケは取り残されて焦っていた。まだ何も出来ていないのである。

 

(クソッ!! このままじゃ単位が……!)

 

 間接的に自分の裸を曝されているにもかかわらず、彼の関心事はその一点のみである。普段だったらミコトの作品を即座に叩き潰しにいくつところだが、そんな余裕すら今のダイスケには無いのだ。やっていることは英語の授業に何の関係もないが。

 自分の作り上げたいものを形にできた彼女たちと何もできない自分。その差はただ単に対象への想いの強さだ。強く思えるからこそ、無意識に手が動いたのだ。やっていることは英語の授業に何の関係もないが。

 強く思い描けるもの、それは今のダイスケの心の中には無い。やっていることは英語の授業に何の関係もないが。

 

(いや、まてよ……!)

 

 ふと脳裏によぎったのはある知識。やはり英語の授業に何の関係もないが。

 それは彫刻の技術によって仏像を作り上げる仏師。彼らは材料であるその木を見て、どのような仏像を彫る検討をすることはないのだという。木を見て感じた仏の形を木に彫り込むのだという。材料は違うが石工も石の声を聴いて感じた形を彫り込むのだそうだ。つまり、物体そのものに宿る“仏性”を引き出していくのだ。

 当然ながらダイスケにそんな器用なことはできない。だが、感じた何かを紙粘土に投影していくことはできるはずだ。そう自分を信じ、身を瞑ってダイスケは紙粘土を手に取る。

 すると、「声」が聞こえてきた。

 

―――怪獣映画を創ろうと思うですよ。原水爆によって蘇った、太古の恐竜が暴れるっていう。

 

―――やりましょう。私も原水爆には反対です。でも、怪獣は大蛸にしませんか?

 

 全く知らない男たちの声だ。だが、なぜか彼らが何者なのかダイスケにはどこか心の奥で理解できていた。

 

―――あれ、あなたは映画監督だったんですか? 月形さんの知り合いだから映画業界の人だと思ってたんですが。

 

―――ええ、そうなんですよ。でも、まさか今までタダ酒を飲ませてもらった人と映画を撮るとは。頑張りましょう、大蛸の映画。

 

―――大きい爬虫類でしょう?だからやるって言ったんですよ、私。

 

 ダイスケは目を瞑りながらも、紙粘土の向こうから聞こえてくる声に耳を傾けながら手を動かす。

 

―――名前は……『ゴジラ』でどうでしょう。陸で最も力強いゴリラ、海で最も力強いクジラを合わせたってことで。

 

―――ゴジラ……いいじゃないか。とても強そうだ。

 

―――よし、大蛸の名前は『ゴジラ』でいこう!

 

―――爬虫類ですよ?

 

 聞こえてくる声に従い、感じたままに手を動かしていくことで紙粘土が形を得ていくのが見なくてもわかる。

 

―――こんなのはどうだろう。頭の形をきのこ雲に似せるんだ。

 

―――モデルはティラノサウルスがいいな。ここに背びれを付けるとそれっぽくならないか?

 

―――私はやっぱり蛸がいいな。

 

―――これで決定だって製作会議で決まりましたよね?

 

―――……ゴジラ、これで完成です。さあ、次は着ぐるみだ!

 

 はっ、となってダイスケは目を開く。すると目の前には、無意識の内に自身の手が作り上げたゴジラの像が完成していた。

 

「……これが俺の、心の中で生まれた形」

 

 教師の言葉が正しいのであれば、きっとそうなのだろう。イッセーがリアスの像を作り上げたように、自身がその身に宿す怪獣の王の姿が最もダイスケの心の中を占めるものなのだ。

 

「ダイスケくん、それは……?」

 

 教師が興味深そうにダイスケが造った像をまじまじと見つめる。

 

「こ、これは……まるで恐竜を思わせる生物だが、この直立した姿から察するにそうではない。しかし、獣でありながら人間にも似た姿は見た人にある種の不気味の谷にも似た印象を与え、間違いなくこれを恐怖の対象としてみるだろう。それでいて信仰の対象になるような自然の畏敬と雄大さを兼ね備え、ドラゴンや龍といった幻想生物とは異なる現実味を与える……素晴らしい! これはまさに破壊と神性の象徴! ダイスケ君、特別単位をあげましょう!!」

 

「よ、よっしゃぁぁぁぁ! なんかよくわかんないけど単位取れたぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ……なにやってんだこいつら。

 

 

 

 

 

 

 昼休み時間の廊下に起こる大量のフラッシュとシャッター音。廊下の一角に人だかりが出来、完全に通行の邪魔となっている。さながら人間がモデルになった動脈硬化の図のようだ。

 だれも好き好んでこんなに人口密度が高いところに来たくはないが、オカ研一行はこの場にいた。理由は、自販機に飲み物を買いに行ったイッセー、アーシア、ダイスケが偶々自販機の前でリアスと朱乃に出会ったところから始まる。

 そこへこれまた偶然、木場が通りかかった。

 

「あら、祐斗。あなたもお茶?」

 

 リアスが尋ねると、木場が廊下の先を指さした。

 

「いえ、魔女っ子が撮影会をしていると聞いたので気になって」

 

 撮影会? 魔女っ子?

 およそ学園生活に似つかわしくない単語の羅列に全員がポカンとなった。さすがに気なってきてみればこの有様。先頭にいるイッセーとダイスケは思わず顔をしかめる。

 

「おいおい、なんでうちの学校内にこんなにカメラ小僧がいるんだよ」

 

「まるで夏と冬の祭りの風景みたいだな……」

 

 カメラを持った男どもの熱気で、気のせいかこの廊下の一角だけ湿度が高いような気がする。下手したら上空に熱気で雲ができているのではないだろうか。晴海時代のように。

 人込みをかき分けた先に、イッセーとダイスケにとって見覚えのある格好が飛び込んでくる。深夜に放送している、ミルたん絶賛のアニメ『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』の主人公のコスプレをしている美少女だ。

 彼らが普段見ているのはイッセーのお得意様、心は乙女、肉体は世紀末覇王のミルたんのコスプレ姿だった。いつもは鍛え上げられた圧倒的密度の筋肉美を彩る薬味にしか見えなかったその衣装も、美少女が着ることでここまで印象が違ってくるものなのかとダイスケは思う。

 カメラ小僧となった生徒たちに囲まれ、要求を受けるままに次々とポーズを変えていくコスプレ魔女っ子。その度にフリフリのスカートが翻り、白い聖域が見え隠れ。ついついもっと見えないかと凝視してしまう。

 人垣をくぐり抜けてきたリアスがイッセーの隣に到着。

 

「イッセー、どうな……ブッ!!」

 

 普段のリアスからは想像も出来ないリアクション。その様子を見たイッセーは驚きを隠せない。

 

「おうおうおう! 天下の往来で撮影会たぁ、いい度胸じゃあねえか!!」

 

 狼狽するリアスをよそに、匙が生徒会役員としての責務を果たすべくやってくる。

 

「今日は中等部から授業見学に来ている生徒もいるんだ! ほら、公開授業の迷惑になるから散った散った!!」

 

 他の生徒会員にも促され、カメラ小僧たちが解散していく。イッセーが匙の仕事っぷりに関心しているうちに、いつの間にやらその場にはオカ研メンバーと匙たち生徒会員、そして件の魔女っ子が残された。

 

「はい、あんたもとっとと帰る……ってもしかして父兄の人? それにしてもTPOを弁えてくださいよ。勝手に学園内をコスプレ会場にされたら困りますよ」

 

「えー、だってだって、これが私の正装なんだもん☆」

 

 匙の注意にもコスプレ少女は可愛らしいポーズで聞く耳持たず。その聞き分けのなさに匙もさすがに苛立つ。すると、匙はその場にいるリアスの存在に気づく。

 

「あ、リアス先輩。ちょうど良かった。只今魔王様と先輩のお父上様に学園のご案内をさせていただいていたところでして」

 

 匙が振り返った先には、ソーナに先導されたそれらしき赤髪の男性2名。

 

「どうしました? サジ、問題は迅速に解決なさいといつも……」

 

 ソーナの視線がふとコスプレ魔女っ子に行ったとき、言葉が止まる。その表情は、まるでインキーしたと知った某北海道のテレビ局のディレクターのように口をあんぐりとあけたものになった。

 

「わーい☆ ソーナちゃんみーつけた☆」

 

 周りを気にせずにソーナに抱きつくコスプレミルキー。

 

「あれ? なんか似てね……?」

 

 イッセーの言う通り、二人の顔立ちはよく似ていた。片方は厳格な顔立ちで、もう片方は快活そうなので一瞬わかりにくいが確かに似ているとダイスケも思った。

 そこへいつの間にやらそばに来ていたサーゼクスがミルキーに声をかけた。

 

「やあ、セラフォルー。君も来ていたのか」

 

「うん! 妹のためならいつでもどこでも駆けつけるよサーゼクスちゃん☆」

 

 ……はい?

 一瞬、ダイスケ、イッセー、匙の思考がシンクロした。サーゼクスにタメ口+魔王の妹であるソーナが妹の公式から出る答えは唯一つ。だが、心のどこかで「そんなわけない」と思っている。

 だって、おかしいもの。

 コスプレ少女じゃん。

 威厳もクソもないよ?

 そう思う三人に、リアスは残酷な現実を告げる。

 

「……信じられないでしょうけど、このお方がソーナの姉君、そして魔王のお一人でいらっしゃるセラフォルー・レヴィアタン様よ」

 

「「「……え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!???」」」

 

 三人の絶叫が廊下に木霊する。

 なにせ、三人の予想とは全くかけ離れていた、というか予想の斜め上すぎた姿だったのだ。無理もない。女の魔王といえば、一般的なイメージならフェロモン漂う官能的かつ妖艶な美女を思い描くだろう。

 だが、現実はコスプレ美少女。確かに美人であることには変わらないが、イメージとのギャップがありすぎる。もうちょっと大衆の持つイメージも大切にして欲しいものだ。

 

「……セラフォルー様、お久しゅうございます」

 

「あーリアスちゃん☆ おっひさー☆ 元気にしてた?」

 

 可愛らしい声で返事をするセラフォルー。やはりこのキャラのままでいくのか。

 

「は、はい。おかげさまで。今日はソーナの授業参観に?」

 

 困惑しながらも答えるリアスだが、当の本人はそんなこと気にもとめない。

 

「うん☆でもね、ソーナちゃんったらひどいのよ? 今日の事ずーと黙ってたんだから! お姉ちゃん、ショックのあまりに天界あたりにでも攻め込もうとしちゃったんだから☆」

 

「いや、そりゃ黙ってるだろ。こんな姉が相手じゃ……」

 

「ダイスケ、シッ!!」

 

 ダイスケの言葉は正論だが、個人的理由で天界に喧嘩を売ろうという人物が相手だ。リアスがすぐさま口止めする。

 

「ん? そこの彼、なんか言った?」

 

「いえ、なにも!!!」

 

 慌ててフォローを入れるリアス。こんなところでシスコン発揮された上で戦闘でもおっぱじめようものならたまったものではない。

 

「ゴホン! ……イッセー、新人悪魔なのだからご挨拶なさい」

 

 そのリアスの言葉で放心状態から回復したイッセーは慌てて自己紹介をする。

 

「は、はい! お初にお目にかかります! リアス・グレモリー様の兵士(ポーン)をさせていただいています、兵藤一誠です! よろしくお願いします!!」

 

「はじめまして☆ 私、魔王のセラフォルー・レヴィアタンです☆ 気軽に『レヴィアたん』って呼んでね☆」

 

(い、言えねぇぇぇぇえええええ!!!! 言えるわけねぇぇぇぇえええええ!!!)

 

 イッセー心の叫びである。一下僕悪魔が魔王相手にちゃん付けで呼ぶなど時代が時代なら不敬罪だ。

 

「ねぇねぇ、サーゼクスちゃん。ひょっとして彼が噂のドライグちゃん?」

 

「そう、彼が赤龍帝を宿す者、兵藤一誠君だ。そして、その隣にいる彼が……」

 

「ああ、今評議会ですったもんだの大騒ぎ、古い悪魔のおじさまたちがどーするこーするって大騒ぎしてる子かぁ」

 

 セラフォルー自身に悪気はないのだろうが、その言葉がダイスケの胸に刺さる。

 

「あ、あの、サーゼクスさん。俺の立場、そんなにマズいことになってるんですか? ただでさえ命狙われてるのに?」

 

「まぁね。ただ君に宿る者を知っているのはどうも大王といった古参の悪魔ぐらいの者でね。私たちの世代になると知らない者も多い。父上も又聞きでしかゴジラの名を聞いていないそうだからね」

 

 苦笑いするサーゼクスだが、正直笑えない。各神話にはそれこそ一撃で世界を滅ばせる力を持つ者もいる。下手をしたらそんな連中に知らないところでコカビエルのように恨みを買っているかもしれないのだ。

 

「だが、安心したまえ。少なくとも私が魔王の座にいる内は、君を全力で守らせてもらう」

 

 不安に思っていたダイスケだが、サーゼクスは真剣な顔でハッキリとそう言った。

 

「……不束者ですが、どうかよろしくお願いします」

 

「サーゼクス様。ダイスケの立場ってそんなに危ういものなんですか?」

 

 イッセーがサーゼクスに問うと、少し苦々しい顔をする。

 

「ああ。と言っても彼自身にはの咎もない。それなのに彼を恐れたり恨むというのなら理不尽というものだろう」

 

「そして、そのような理不尽から若人を守るのは我々大人の努めだ。いつでも頼ってくれたまえ」

 

 そう言って身を乗り出してきたのは見覚えのある赤髪のナイスミドル。ジオティクスだ。

 

「ぶ、部長のお父さん!?」

 

 そういえば、イッセーにとって顔を見たのは前に会ったのは婚約披露パーティをぶち壊した時にチラリと見た程度。挨拶も出来ていなかった。そしてイッセーにとってはあの時最も迷惑をかけてしまった人の一人だ。

 

「あ、あ、あの! あの時は本当にすいませんでした!!」

 

「いやいや、謝ることはない。君達のおかげで私たちは過ちを犯さずに済んだ。礼を言うのはこちらの方さ」

 

 どうやらそこのあたりのことは心配しなくても良さそうだ。イッセーはほっと胸を撫で下ろす。今度はダイスケがジオティクスに話す番だ。

 

「ジオティクスさん、このたびの両親の件、本当にありがとうございます。なんとお礼を言っていいか……」

 

「気にしないでくれたまえ。何の咎もない人々を守ろうとするのは当然のこと。それに、君には娘やその眷属が世話になっている。イーブンだと考えてくれ」

 

 だが、そんなわりかし真剣な話をしている横で、しょうもない争いが起きていた。

 

「ねえ、ソーナちゃんどうしたの? お顔が真っ赤ですよ? せっかくのお姉さまとの再会なのだから、もっともっと喜んで☆ なんなら「お姉さま!」「ソーたん!」って抱き合いながらの百合ん百合んな展開でもいいのよ、お姉ちゃんは!!」

 

「お、お姉さま。ここは学び舎であり、私はここの生徒会長を任せられているのです。いくらお姉様でもこのような行動と格好は容認できるものではないかと……」

 

「えー!! ひどい! ひどいわソーナちゃん! あなたにそんなこと言われたらお姉ちゃん悲しい! それに、お姉ちゃんが魔法少女に憧れているって、ソーちゃんも知ってるじゃない! 私のリリカルでマジカルな魔法で天使も堕天使も滅殺しちゃうんだから☆」

 

 語尾に☆を付けるような内容ではない。その様子を見ていたイッセーがあることに気づく。

 

「な、なあ、匙。この前コカビエルが襲来してきたときに会長はセラフォルー様を呼ぼうとはしてなかったけど……仲が悪いからってわけじゃないんだな」

 

「ああ、その逆だ。聞いた話だと、セラフォルー様は妹である会長を溺愛しすぎているから、何しでかすかわかんないってさ。自分の妹が堕天使に殺されるってわかったら、即戦争だよ。あの時はサーゼクス様を呼んで大正解だったんだよ」

 

「外交担当の魔王がそれでいいのかよ。私情で戦争勃発とか最悪じゃねぇか」

 

 ダイスケの言葉にサーゼクスも苦笑するが、まだまだ姉妹の諍いは止まらない。

 そしてついに、ソーナがたまらなくなってきてしまった。

 

「も、もう、耐えられません!!」

 

 顔を俯かせて、ソーナはその場から逃走する。

 

「あ! 待って! ソーナちゃ「待て」――ぐぇ!」

 

 セラフォルーはソーナを追いかけようとするが、ダイスケがその首を即座に掴んで引き止める。

 

「げほっげほっ! な、何するの!? ソーナちゃんを追いかけなきゃならないのに!!」

 

 セラフォルーは先ほどまでの表情から一転、真剣な顔つきでダイスケを睨む。

 

「気持ちはわかるけど、今はそっとしておいてあげなさいよ。そんなんだから避けられるんだって」

 

「避けられてないもん!!」

 

「どう見たって避けられてるだろ。過度なスキンシップは距離を離すだけだぞ」

 

 ダイスケのその言葉でリアスは一瞬ビクッとなる。

 

「い、イッセー? ひょっとして、私の今までのスキンシップは迷惑だったかしら……?」

 

「いえ!! 常に感謝感激の極みです!!!」

 

 イッセーの間髪いれない答えに、ホッと胸をなでおろすリアスだが、ダイスケとセラフォルーの争いはヒートアップし続ける。

 

「君には私がどれだけソーちゃんのことを愛しているのかわからないわよ!! 私たちのことを知りもしないくせに!!」

 

「ああ、知らないね!! だけど、会長のことも考えろよ!? 思春期なら誰だって知り合いの目の前で家族に抱きつかれたくないわ!! 大体、その格好なんだよ? それで魔法少女になったつもりか? 俺から言わせればまだまだだね!!」

 

「はぁぁぁあああ!? 君が、私の魔法少女道を語るの!? 魔法少女のまの字も知らなさそうなのに!?」

 

 方向性がおかしくなってきているが、頭に血が行っている二人が気がつくはずもない。そのままさらにヒートアップしていく。

 

「俺の知り合いに見た目は世紀末覇王の魔法少女がいるけどな、あっちの方がよっぽどお前より魔法少女になんたるかがわかってたわ!!」

 

「な、なんですって!? なんでそんな世紀末覇王より私の方が下なのよ!?」

 

 ああ、ミルたんのことか、とイッセーは思い当たる。だが、あの筋肉ダルマといっていいあの人物にセラフォルー以上の魔法少女らしさがあっただろうか?精々その衣装と言動だけだ。

 

「教えてやるよ。あんたのそのスカートだ!」

 

「なっ! このフリフリのスカートのどこがいけないって言うのよ!」

 

 セラフォルーの言う通り、ひらひらのスカートのどこがいけないのだろうか、とイッセーは思う。むしろ、ミルたんの方にこそスカートを履くのをやめてほしいくらいである。

 

「あんたのそのスカートなぁ……中が見えちゃうんだよ!! 魔法少女は絶対に……パンチラはしない!!!」

 

 その一言で、まるでマンガのように『ガーン!!』とショックを受けるセラフォルー。

 言われてみれば、魔法少女アニメは低学年の女の子が観るもの。思いつくどの作品も、そこのあたりを意識してパンチラシーンは作られていないはずだ。やったとしても深夜枠のアニメくらいなものだ。そして、あのミルたんもイッセーの記憶の限りでは一度もパンチラをしたことがなかった。……されても困るが。

 

「そ、そんな……! そんな大事なことに気付けなかった私って……。これじゃあ、ソーナちゃんに合わす顔がないわ……」

 

 だったら、そこ格好をやめろよと言いたいが後が怖いので誰も言えない。

 

「いや……それに気付けたんなら、それだけで上等さ……」

 

 崩れ落ちるセラフォルーの肩に手を置くダイスケ。なんで、こんないい話風に持っていこうとするのか、当事者を除くその場にいた全員が思ったが雰囲気的に誰も指摘できない。

 

「ほら、このメモにそのミルたんの住所が書いてあるからいろいろ教えてもらいに行ってきな。会長とも、時間を空けてから会ったほうがいい」

 

 スッと手渡されたメモ書きを見て、セラフォルーの表情は明るくなる。

 

「ありがとう! 私行ってくる!!」

 

 言うが早いか、すぐさまセラフォルーはその場から立ち去った。

 

「ふう……これで面倒なのはいなくなったな。匙、会長のところに行ってフォローしてやってくれ」

 

「お前、まさかこのためにセラフォルー様に喧嘩売ったのか……?」

 

 あたぼうよ、と答えるダイスケにイッセーは驚愕する。

 下手したら、魔王の一柱を相手に大立ち回りしなければならなかったのだ。よくもここまで持ち込んだものだ、と感心せざるおえない。

 そして、匙はチラリとサーゼクスを見る。すると、サーゼクスは頷いた。

 

「行ってあげなさい。自らの主の元に」

 

 その一言を受け、匙はサーゼクスとジオティクスに深く一礼し、ソーナの後を追っていった。

 

「しかし、よくもあそこまでうまく彼女とソーナ君を引き離せたね。下手をしたら、この場で彼女と即戦闘だよ?」

 

 関心したかのようにサーゼクスが言う。

 

「まあ、最悪首に縄くくってでも止めに行きましたよ。アレじゃ会長が不憫で不憫で」

 

「それだけはやめて頂戴……!」

 

 リアスが切羽詰った顔でダイスケに懇願する。

 

「リーアたん、お前も中々大変そうだね」

 

「お兄様!?」

 

 イッセーはこの時わかった。ああ、魔王ってみんな変わった人ばかりなんだな、と。




 はい、というわけでVS23でした。
 ダイスケは流石にシトリーとは関わりがありません。だからセラフォルーも知りませんでした。そういうことでです。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!
 そして皆様、よいお年を! また来年、元旦にお目にかかりましょう!


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VS24 男の娘ほど罪深い存在はなかなかない

 皆様、新年あけましておめでとうございます。
 2020年もハイスクールD×G《シン》をよろしくお願いいたします。


 公開授業の翌日の放課後。

 オカ研一同は旧校舎一階にある「開かずの教室」と呼ばれる部屋の前にいる。

 

「みんな、ちゃんと装備品のチェックはしたか? ここのモンスターは一階から強いのがいるから気を引き締めていくぞ」

 

「いや、それシ○ンのあかずの間ね。俺もアークド○ゴンに何回もこんがり焼かれたけど」

 

 ダイスケのボケに律儀に相手するイッセーだが、緊張が解くことはない。目の前の「開かずの教室」のドアには「KEEP OUT!」と記されたテープが何重にも張られている。それどころか明らかに邪悪的な何かを封印する為としか思えない呪術的な刻印までいくつも刻まれている。

 その近寄りがたい雰囲気を放ちまくっている扉の向こうに、オカ研メンバーが会おうとしている人物がいる。もう一人の僧侶(ビショップ)だ。

 ダイスケが聞いたところによると、持っている力を制御できないからという理由で眷属であるにもかかわらず、四代魔王はおろか大王バアル家、大公アガレス家、そして並み居る悪魔のおエライ方から危険であるとして厳重な封印がなされていた。

 だが、これまでのグレモリー眷属(ダイスケ含む)のこれまでの戦歴が評価され、それが解禁されたというのだ。それにしても、とダイスケは思う。

 先のフェニックス戦もコカビエル戦も、どちらも主たるリアスの一大事であった。その緊迫した状況にも投入できない程の戦力とはいかほどのものなのだろうか。それに、悪魔の駒の事もある。イッセーを転生させたとき、赤龍帝の持つポテンシャルが理由で兵士の駒を八つ、ありったけ消費したのだ。であるのに、その封印された眷属は何故アーシアが僧侶となる駒を残したのか。

 その謎を秘めたまま、イッセーとアーシア、そしてダイスケが見守る中でリアスと朱乃は一つづつ封印を解いていく。ついには「KEEP OUT!」のテープまでも取り払われて、封印は完全に取り払われた。

 

「あの……ここにいるもう一人の僧侶って、普段何しているんですか?」

 

 気になったイッセーがリアスに尋ねる。

 

「一日中、ずっとここに居るわ。一応、深夜には自動的に封印が解除されて外にも出歩けるようにはしているのだけど、本人がそれを拒否しているの」

 

「それっていわゆる引こもり?」

 

 ダイスケが思わず出したその言葉に、リアスがため息をつきながら頷いた。

 

「ですが、眷属の中では一番の稼ぎ頭なんですよ」

 

 朱乃のそのフォローに、イッセーは衝撃を受けた。なにせこの部屋から一歩も出ていないにも拘らず、契約相手の満足度ナンバーワンを誇るイッセーよりも実績があるというのだから。

 

「え、デイトレでもやってるんですか?」

 

 ネットで稼ぐ手段としてダイスケがすぐに思いつくのはこれである。あとはブログなり動画投稿サイトで広告費を稼ぐという手段もあるが、株式投資に比べれば微々たるものだろう。

 

「まあ、近いわね。インターネットを利用した契約を結んで、ネット越しで依頼を受けているのよ。私たち悪魔と直接面を合わせたくないっていう依頼主もいるから、あの子はかなり重宝されているのよ」

 

 リアスの声には、まだ見ぬ僧侶への若干の誇らしさが含まれる。悪魔の世界も一昔で言うところのIT化が進んでいるということなのだろうか。

 イッセーがそんな感想を抱く間にリアスが固く閉じられていた扉を開いた。

 

「イヤァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

 とたんにとんでもない絶叫が廊下に響き、イッセーは思わず耳を塞ぎ、ダイスケは何事かと身構える。

 だが、リアスと朱乃は驚くこともなく共に中へと入っていく。

 

「ごきげんよう。元気そうでよかったわ」

 

「こ、こ、こんな時間に何事なんですかぁぁぁ……?」

 

 中が暗すぎるのでよくわからないが、その声から女子らしいということはわかる。

 

「あらあら、封印が解けたのですよ? もう自由にお外に出られるのです。さあ、ここから出ましょう?」

 

 朱乃が優しく声をかける。誰からでも分かる、その優しく接しようという姿勢が現れている。だが――

 

「い、い、い、い、嫌ですぅぅぅぅぅぅうううううう!!! ずっとここにいますぅぅぅぅぅうううううう!!!!! お外いやぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!! 他人いやぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!」

 

「……いくらなんでも重症過ぎないか?」

 

 ダイスケは前にテレビで引きこもりを特集した番組を見たことがあるが、ここまで酷くはなかった。何か理由があってここまで酷くなったのだろうことは予想できるが、それにしてもこれは専門家相手でも更生できないのではないかと思えてしまう。

 

「兎に角、部長たちのとこまで行こう」

 

 イッセーのその一言が合図となって、残りのメンバーも真っ暗な部屋の中へ足を踏み入れる。だが、あまりにも暗すぎるので機転を利かせた木場と小猫が締め切られているカーテンを開ける。そのおかげで日光が室内を照らし、中の全貌がようやく見て取れた。

 中は意外にもファンシーに飾られており、初めて入る四人は意表をつかれた。壁紙や家具は花柄やロココ調の調度品で彩られており、まさに「女の子の部屋」を体現するかのようだった。

 だが、その中で異彩を放つものが一つ。洋風の棺桶だ。すると、部屋の奥にリアスと朱乃の姿がある。おそらく、そこに件の僧侶(ビショップ)がいるはずだ。

 その予想は当たり、壁際に小柄な人物がへばりついているのがわかる。

 

「女の子……ですか?」

 

 アーシアの言うとおりだった。

 ショートにしたブロンドヘアーに赤い双眸。まるでフランス人形のような美少女が床にへたり込んで震えていた。

 

「な、なんちゅう美少女!!!」

 

 イッセーが声を大にして言うのも無理はなかった。

 アーシアとは違うベクトルの守ってあげたいタイプの小動物キャラが、目の前で涙目になって震えているのだ。その手の偏執家でなくともグッとくるものがある。

 どうやらそれは性別問わず魅力的に感じるようで。

 

「うわぁ、お人形さんみたいでかわいいね! 持って帰っていい?」

 

「こら、モノ扱いすんな」

 

 口ではミコトに突っ込みを入れているが、実際はダイスケもイッセーと同じくらい喜んでいた。彼にとっての後輩と言えば小猫がそれにあたる。だが、後輩という割には彼を頼ったり懐く気配が無いのだ。最近になって小猫の態度が比較的軟化しつつあるにはあるが、それでもまだ態度は硬い。

 むしろこの二人よりも同年齢のアーシアの方がよっぽど後輩らしいキャラクターだ。無論、彼女はイッセーにべったりであるため「年下の自分を頼ってくれそうな後輩の女子」という存在はくしくもイッセー、ダイスケの双方にいないタイプの人材だ。

 だからこそ、この後のリアスの言葉にはイッセーとダイスケの心を粉みじんにするだけの威力が必要以上にあった。

 

「……喜んでいるところに水を差すようで悪いのだけど、この子は立派な男の子よ」

 

 その非情な一言で二人の心臓は止まった。

 

「止めを刺すようですけども、このギャスパー・ヴラディ君は正真正銘の男の子です。なんでしたら、生徒名簿でもお見せしましょうか?」

 

 朱乃のその更なる一言が、フリーズした馬鹿二名の心臓に深く突き刺り止めを刺す。

 

「あ、あの……イッセーさん、ダイスケさん、お二人とも大丈夫ですか?」

 

 アーシアが心配して聞いてくるが、そんなの一言も耳に入ってこない。なんなのだろう、この裏切られたわけでもないのに手ひどい裏切りを受けたような気持ち。

 例えるなら、夏野菜の料理を作るからと言って畑で野良仕事をさせられ、その一ヶ月後に収穫に来たと思ったら「皿がないから」という理由で皿を焼きに行かされた上に親友に無理言って作ってもらったパイ生地を2回も駄目にした上に実はそれがピザ生地だったと十年後に明かされたようなものだ。

 

「「いやいやいやいや……どう見ても女の子じゃないっすか」」

 

 最後の抵抗とばかりに二人の声がハモる。

 

「女装趣味があるんですの」

 

 朱乃の言葉がトドメとなり、そしてヒビが入った二人のハートが打ち砕かれた。

 

「「ふ、ふ、ふ、ふ、巫山戯んなァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃッッ!! なんかごめんなさぁぁぁぁぁぁああああい!!!!!」

 

 狭い室内に響く三人の絶叫。悲しいかな、そのギャスパーの悲鳴はまさに女の子の悲鳴だった。そのソプラノヴォイスで馬鹿二匹の心はまたも蝕まれた。

 

「「うわああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」」

 

 仲良く揃って頭を抱えて絶望に打ちひしがれる馬鹿二匹。

 

「なんでだ……なんでこんな完璧な美少女が野郎なんだ……。下手したらそこらの女の子よりよっぽど可愛いじゃないか……。それなのに股間にチ○コが付いているだなんて……」

 

「……イッセー先輩、卑猥な発言はやめてください」

 

「この世は無慈悲だ……神はいないのか!? って死んでいるんだった……。畜生……頼むから人生をやり直してくれ……オヤジの金○袋にいるあたりから……」

 

「ダイスケ君。気持ちはわかるけど、それってギャスパー君の存在そのものを否定してるから」

 

 イッセーとダイスケの理不尽極まりない言葉にツッコミを入れる小猫と木場。だが、阿呆二匹の絶望の吐露は続く。

 

「女装が趣味っていうのがさらにひでぇ!!! 外見がもともとそうならしょうがないけど、さらにそれを趣味にしているあたりに世界の悪意を感じるよハレ○ヤ!!!」

 

「大体、人に見せるからこその女装だろうがよ……。それなのに引きこもりって、何のための女装なんだよ!!! ロー○・○ーラじゃないんだよ!!!!」

 

 イッセーとダイスケの一言に、ギャスパーはこれまた可愛らしい声で反論する。

 

「だ、だって……女の子の服の方が可愛いんだもん」

 

「「“もん”とか使うなやぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」」

 

 しまいに二人は部屋の隅で体育座りで世界に対する無言の反抗をみせ、同学年のメンバー総出で宥めに入った。

 

「イッセー君、なんだったら僕が慰めるよ?」

 

「いやだ! お前だけはいやだ!!!」

 

「ダイスケ、そんなにショックなら今夜も添い寝しよっか?」

 

「……おい、()()()とか大嘘付くなよ。つーか勝手にお前が俺のベッドの中潜り込んでくるだけじゃねぇか」

 

「……何なんですか、この人たちは?」

 

 部屋の隅で固まっている、彼にとって見慣れぬ五人を指してギャスパーが尋ねた。

 

「最近眷属になった子達と協力者よ。自己紹介の場は後で設けるから」

 

 リアスに振られて者五者五様に「よろしく」という。無論、沈んでいる二人は力なくだが。

 

「ま、また人が増えたぁぁぁあああああ!!! 知らない人いやぁぁぁぁあああああああ!!!」

 

 これは引きこもり以前に極度の対人恐怖症というやつなのではないか、とダイスケは思う。やはり、制御できない力というのが関係しているということなのか。

 

「さあ、お願いだから外へ出ましょう? もうあなたを閉じ込める必要なんてないのだから」

 

「いやですぅぅううううう!!! 僕が外の世界に出るなんて無理なんだぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!! どうせ、迷惑をかけちゃうだけだよぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!」

 

 主であるリアスの懇願にもかかわらず、ギャスパーはそれを拒む。元々眷属思いのリアスだ。彼を封印していたのだって、本心でないのは眷属に関わって日の浅いイッセーとダイスケにも分かることだ。

 行き場のない怒りも相まって、二人はギャスパニー対する苛立ちが募る。ついには二人は立ち上がり、駄々をこねるギャスパーの腕を掴み連れて行こうとした。

 

「ほら、部長が外に出ろって――」

 

「ヒィィィィィィ!!!」

 

 イッセーの言葉とギャスパーの悲鳴が重なったその時、イッセーの視界が一瞬で白く染まる。

 

「あ、あれ?」

 

 すると、いつの間にやらイッセーの掴んでいたギャスパーの腕の感触がない。見ればギャスパーの腕を掴んでいるのはダイスケだけ。なのに、一緒に腕を掴んでいたイッセーのみいつの間にか腕を離している。

 

「おかしいです。何か今一瞬……」

 

「……彼に何かされたのは確かなようだ」

 

 その謎の現象に、アーシアもゼノヴィアも驚く。しかし、彼を知っているメンバーは「またか」といった具合にため息をつくだけ。つまり、その現象の正体を知っているというわけだ。

 だが、それに全く動じていない、というか気づいていない人物が二人。

 

「……何、お前らずっと固まってたの?」

 

「ねぇねぇ、そのずーっと固まってるのってなにかの前衛芸術?」

 

 ダイスケとミコトだけがその異変に全く気付いていない。

 

「な、なんなんですかあなた達ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!?????」

 

 現象を起こしたであろうギャスパーも驚いている。

 

「あなた達……!」

 

 ダイスケとミコトが何が起きたのか理解できてない様子をみて、リアスはこの現象がなにを表しているのかが理解していた。

 

「部長、これはもしかして……」

 

「ええ、無効化したんだわ」

 

 リアスと朱乃の間だけの短い会話だったが、古参メンバーはそれだけでどういうことなのか理解したようでダイスケとミコトに驚異の眼差しを向ける。

 

「……部長、一体何が起きたんですか?」

 

 全くついていけないイッセーが我慢できなくなってリアスに問う。

 

「ギャスパーはね、興奮すると無意識のうちに視界にある全ての物体の時間を一定時間停止させてしまう神器を発動させてしまうのよ」

 

 時間停止。

 あんなボスキャラやそんなボスキャラが使うことでチート能力の代表選手のような能力。そんな反則みたいな能力を持つ神器を目の前にいる女装野郎が持っている。リアスから知らされたその情報にイッセーは戦慄した。

 そんな超強力な能力を制御できないのであれば大公や魔王に封じること命じられるのも納得だ。ただ、能力を使って外に逃げずに部屋の中にとどまろうとするあたり、そっちのほうが重症のようだが。

 その危険物といってもいいギャスパーをリアスは後ろから優しき抱きしめ、イッセーたちに言う。

 

「改めて紹介するわ。この子はギャスパー・ヴラディ。私の僧侶で、一応一年生。そして……転生前は人間と吸血鬼のハーフよ」

 

 ダイスケは気づく。ああ、コイツも面倒なもの背負ってるなぁ……と。

 

 

 

 

 

 

 

 

「『停止世界の邪眼(フォービドン・バロール・ビュー)』?」

 

 イッセーの問にリアスが頷いた。

 

「ええ。神滅具ほどではないけれど、非常に強力な神器よ。その威力は身をもって体験済みね。ダイスケとミコト以外は」

 

「なんつー厨二ネームだよ。もうその設定でライトノベル一本書いちゃえよ」

 

 結果的に仲間外れになってしまったダイスケが不貞腐れる。

 

「大体、コーカソイドで吸血鬼、しかも時間停止ってお前はどこのDI○様だよ。悪のカリスマでもなんでもないくせに」

 

「僕に言わないでくださいィィィィィ!!!! 好きでこうなったんじゃあないんですからぁぁぁぁぁぁ!!!! それに僕はイギリス出身じゃなくて東欧の出ですぅぅぅぅぅぅ!!!!!」

 

 早速ギャスパーはダイスケのおもちゃになっている。しかも、ネタについてきている上、反応もいいとあってこのポジションは当分変わらないだろう。

 

「だけど、時間停止って反則級の能力じゃないですか」

 

 イッセーの抗議めいた言葉にリアスが応じる。

 

「確かにね。でも、あなたの持つ赤龍帝の倍加や白龍皇の半減の力も十分反則よ?」

 

「うっ……確かにそうですよね。でも、それを無効化したダイスケとミコトさんは一体なんなんですか?」

 

「それは二人が有している怪獣とやらの持つ力が原因ね。例えば、二天龍の片割れである白龍皇の半減の力は強力だけれど、高位の神仏クラスになると力が通用しないと聞くわ」

 

「……高層ビルの火災に普通のポンプ車じゃ水を掛けられないのと一緒と考えればいいわけですか」

 

「それが一番わかりやすいわね。この場合ポンプ車は停止世界の邪眼、邪眼が起こす固有物に対する時間停止は撒かれる水、ゴジラとモスラが火事を起こす超高層ビルって感じね。停止世界の邪眼の能力が「全宇宙規模の時間停止」、つまり消火用の消防ヘリだったら火事を消すこともできるでしょうけどね」

 

「ですが、問題はそれを制御できないという点。悪魔の上役からも問題視されるほどの危険と判断されていたのです」

 

 朱乃の追加説明を聞いて、イッセーはダイスケを横目で見ながら考える。

 内包する力のみで時間停止という創作物ではチートに値する能力を打ち消してしまうというのは確かに空恐ろしい。先日サーゼクスやセラフォルーが言っていたことも今なら納得できるというものだ。

 

「だけどスゴイじゃないですか。そんな強力な神器を持つ奴を眷属にするなんて。でも、どうして僧侶の駒一つで済んだんです?」

 

 それはダイスケも気になるところだ。疑問に答えるべく、リアスは手元に一冊の本を中に出現させ、あるページを見せる。ダイスケやミコトも覗き込むページに書かれていたこと、それは悪魔の駒に関する記述だった。

 

「えーと……『変異の駒(ミューテーション・ピース)についての項目』?」

 

 そのページの見出しを読んだイッセーは、初めて見る単語に首をかしげる。

 

「通常の駒と違って、明らかに複数の駒が必要な転生体を一つで済ませたりする、特異な現象を起こす駒だよ」

 

「それを部長が持っていて、ギャスパー君に使ったというわけですわ」

 

 木場と朱乃が答えた。イッセーが続けて開かれたページを読むと、上位悪魔の十人に一人は持っている事、本来は悪魔の駒のバグなのだが開発した本人が「それも一興」とそのままにした結果とも書いてあった。

 

「でも、問題はギャスパーの才能よ」

 

 リアスの一言にイッセーが尋ねる。

 

「低いから制御できないんですか?」

 

 才能が低いから制御できないというのなら納得だ。だが、リアスは首を横に振る。

 

「いいえ、高すぎるのが問題なの。この子自身の神器に対するポテンシャルは類稀なものよ。でも、無意識に神器の力が高まっていくみたいで日毎に力が増しているの。上の話だと、近いうちに自然と禁手に至る可能性があるということよ」

 

 ただでさえ危険と言われる禁手。もしそれが制御できない者が至ったとしたら……。それも時間停止能力、目も当てられない結果になるのは火を見るより明らかだ。

 イッセーの驚く顔を見て、リアスも困り顔になる。

 

「まあ、危うい状態というのは確かね。だけど、先の二戦で私の評価が認められたから、今ならギャスパーを制御できるというふうに判断されたの。幸い、禁手に至っている神器所有者が二名もいるし、指導もできるだろうということよ」

 

「うぅ、ぼ、僕の話なんかして欲しくないのにぃ……」

 

 新たな後輩にどのように接しようかと真剣に思い悩んでいたのに、そんな声が来たのだからイッセーは思わずイラッときた。そして彼は無言でそのダンボール箱を蹴る。

 

「ぴぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 ギャスパーである。外界が怖いとのことで、自室から持ち込んだ大きなダンボール箱に入り込んでいるのだ。その様子を見たダイスケはあることを思い出す。

 

「この世アレルギーみたいだな。どっかの吸血鬼ヒーローみたいな」

 

 なのにやっていることは伝説の傭兵。いっそのこと蛇でもキャプチャーして喰わせてやろうかとも思ってしまう。

 

「能力的には朱乃に次ぐくらいのポテンシャルなのよ。ハーフとは言え由緒正しい吸血鬼の家柄だし、神器も人間の部分で手に入れている。勿論、吸血鬼の能力も備えているし、人間の魔法使いが扱う魔術にも秀でているわ。本来なら僧侶の駒1つで済まない傑出した才能の持ち主ね」

 

 ハイブリットで高性能。なのに本人がそれを使いこなせていないとなるとと非常にもったいない話である。

 

「あ、でも日光は? 吸血鬼って日光苦手なんじゃあ……」

 

「デイライトウォーカーなんだろ。ほら、ネ○まにもいたじゃん。あとわかりやすい例でいうと某喧嘩番長のアメコミヒーロー」

 

 イッセーの疑問がダイスケの説明で即刻解決した。相変わらずわかりやすい説明(ただしイッセーと小猫のみ)だ。

 

「日光いやぁぁぁぁぁぁ!!!! 太陽なんてなくなっちゃえばいいんだ!!!!」

 

「おい、そこの女装吸血鬼。いますぐ全世界のお百姓さんに謝れ」

 

 そう言ってダイスケは足元のダンボールに鉛筆で穴を開けていく。気持ちはわかるが、ここまできたらただの嫌がらせだ。

 日光が差し込んだせいか、「ひいいいいいいい!!!!」とギャスパーは悲鳴を上げるがダンボール箱の外には出られない。悲痛なジレンマがギャスパーを襲う。

 

「でもさあ、おまえ授業に出てないんだろ? お前はここの生徒なんだし、力も克服してクラスにも打ち解けなきゃ」

 

 イッセーがギャスパーを慮って言うが、当の本人は喚くだけ。

 

「嫌です!!! 僕の世界はこのダンボールの中だけで十分です!!! 外界の空気と光は僕にとっての外敵なんです、この世アレルギーなんです!!! 箱入息子ってことで勘弁してくださぁぁぁぁぁい!!!!!!」

 

「お前、どこの吸血鬼ヒーロー!?」

 

「やっぱそう思うよな。あっちは序盤に克服したけど」

 

 ダイスケが思わず出した言葉にイッセーが共感する。やはり考えることは一緒のようだ。

 

「あ、もう一つ。コイツは血を吸わないんですか? 吸血鬼なんでしょ?」

 

 イッセーの疑問にリアスが答えた。

 

「ハーフだから、完全な吸血鬼と違ってそこまでの吸血衝動はないの。十日に一度、輸血用の血液を補給すれば済むの」

 

「血、嫌いですぅぅぅぅぅぅぅ!!!! 生臭いの嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!! レバーも大ッ嫌いですぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

 

「「お前、もう吸血鬼やめろ!!! 向いてねえわ!!!」」

 

「……ヘタレヴァンパイア」

 

 イッセー、ダイスケ、そして小猫の痛恨の一撃。やはり、一年生どうしなので遠慮していないというということなのだろうか。

 とすれば、イッセーは上級生なのに遠慮されていないということになる。

 

「取り敢えず、私はちょっと用事があるから、その間だけでもギャスパーの教育を頼むわ。私と朱乃は会談の会場の打ち合わせがあるから。それと祐斗、お兄様があなたの禁手について詳しく聞きたいそうだからあなたもついてきて」

 

『はい、部長』

 

「ういーす」

 

 勿論、最後のやる気のない返事はダイスケのものだ。

 

「じゃあ、イッセー君、ダイスケ君。悪いけど、ギャスパー君のことよろしくね」

 

「おう。まあ、アーシアに小猫ちゃん、ゼノヴィアも付いてるし、最悪ダイスケが何とかするって」

 

「おう、俺任せか」

 

 そうして、三人は部室から出ていく。問題はこのダンボールヴァンパイアだ。とりあえずダイスケはミコトに聞てみる。

 

「なぁミコト何かいい考えないか? 一応癒やしの術の使い手だろ」

 

「そうは言ってもねぇ。そもそも私が癒やせるのって怪我とか状態異常だから。心のケアはちょっと……」

 

 医者と一口に言っても、内科の医師が外科手術をしようとしても専門外の知識で患者の人生を預かることはできない。

 それは異形の治癒術についても同じことで、外科的な癒やしが得意なミコトでも心理療法は扱えない分野だ。

 

「ショック療法というのはどうだ? よく記憶喪失の治療とかでやるだろう」

 

「ゼノヴィアさんよ、そいつはまさか漫画で呼んだとかじゃないだろうな」

 

「よく解ったなダイスケ。この前イッセーから借りた野球漫画で、記憶喪失になった野球部部長にパイルドライバーをかまして記憶を一つ一つ取り戻すというのがあったんだ。それと同じ要領で私のデュランダルでたたっ斬れば……」

 

「間違いなく『悪魔・即・斬』だよ! 仕舞っとけ!」

 

 ダイスケに突っ込まれてゼノヴィアは渋々亜空間から引き抜こうとしたデュランダルを収める。

 

「だとしたら……何が良いんでしょう?」

 

 ミコトと同じくフィジカルな傷は癒せても精神的なものは癒せないアーシアも頭を悩ませる。そんな中、最終的に小猫が結論を出す。

 

「……外に連れ出しましょう。最初は校内でだけでもいいから、外界に慣れさせましょう。外界リハビテーションです。万が一、ギャーくんが時間を止めて逃げようとしてもダイスケさんがいますし」

 

「そうかそうか、今日の俺は吸血鬼用のリードなんだな」

 

 文句を言いつつも、ダイスケは「ひぃぃぃぃぃぃ!!!」と悲鳴を上げる段ボールを肩に担ぐ。もちろんギャスパーはささやかな抵抗としてじたばた暴れてみたものの、体格と腕力の差で何の効果も表れていない。

 

「で、外連れ出してどうするよ?」

 

「……今日、ちょうど森沢さんの依頼が入ってるから一緒に連れてくか。あの人はミルたんや北村さんみたいにアクが濃すぎる人でもないからな」

 

 森沢とはイッセーと小猫の常連客である。まだイッセーが悪魔になりたての頃に小猫のヘルプで派遣されて以来懇意にしてくれている人だ。イッセーが言うとおりミルたんに比べれば十分一般人の範疇に収まる人だからギャスパーに過度の刺激を与えることもないだろう。

 

「だがそれまでには時間があるんじゃないか?」

 

「うん、まあ確かに……」

 

 ゼノヴィアに尋ねられ、腕時計を確かめながらイッセーは答える。

 

「なら丁度いい。少しでも時間があるのならこいつを鍛えよう。仲間である以上、軟弱は好まん。悪いがミコト殿は大蒜を、アーシアは十字架と聖水用意してくれないか?」

 

 そしてゼノヴィアは再び亜空間からデュランダルを引き抜き、肩に乗せて段ボールの中のギャスパーに射抜くような剣気を浴びせた。

 

「表に出ろ。なぁに、殺しはしない……ひとっ走り付き合ってもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 時は夕刻。旧校舎の前を二人の少女が追いかけっこをしている。

 

「いやー、女の子同士の追いかけっこって、見てていいもんだね」

 

「いや、まったく」

 

 ダイスケの言葉にイッセーが賛同する。片方はゼノヴィア。もう片方は金髪の美少女。普通なら百合的なシュチュエーションでグッとくる人もいるのだはないだろうか。

 

「ただ、問題は片方が女装野郎で」

 

「もう片方がデュランダルを振り回しているっていうことなんだけどな」

 

 二人の言うとおりだった。

 ゼノヴィアのモットーが「健全な精神は健康な肉体から」とのことで、とりあえず追い掛け回して走り込みをさせて体力づくりをさせるつもりのようだ。。

 

「ほらほら、滅されたくなかったらひたすら走れ。デイウォーカーなら日光も平気だろう」

 

「ヒィィイィィィッィッィイイイ!!!!!」

 

 だが、伝説クラスの聖剣をブンブン振って追いかける姿はどう見ても吸血鬼狩り。しかもやっているのが元本職(エクソシスト)なのだから笑えない。

 

「あいつ、下手したらギャスパーの奴を殺っちゃうんじゃあないか?」

 

「そこまで馬鹿じゃあないだろ……多分」

 

 イッセーがダイスケに自信なさげに答えるのも無理はない。だって彼女、実に生き生きとしていらっしゃるもの。

 本人曰く、教会にいた頃と比べてすべてのことが楽しくなったそうだ。確かに禁欲的な世界から抜け出してしまえば、楽しみというのも増えるだろう。だが、ある程度は釘を刺しておかねばとイッセーが注意する。

 

「ゼノヴィアー。鍛えるのもいいけど、間違って殺すなよー!」

 

「手加減は苦手だが、まあなんとかするさ」

 

「そ、そんなぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!!」

 

「……あいつ、叫んでばっかで喉痛くならねぇのかな?」

 

 見当違いの心配をするダイスケに乾いた笑いを漏らすイッセーだが、隣にいるアーシアがショボンとしているのに気づく。

 

「自分と同じ僧侶さんにお会いできると楽しみにしていたのに……目も合わせてもらえませんでした……」

 

 イッセーはアーシアの気持ちが誰よりも理解できた。以前からアーシアは「早くもう一人の僧侶さんにおあいしたいです」と楽しみにしていたのだ。

 レーティングゲームでは共にチームの補助を担う役割なのだから、いずれ連携を取りやすくするためにもコミニュケーションをとっておいたほうがいいのは確かだが、相手が心を閉ざしていたのでは意味がない。

 

「それにしても許せんな。ウチのアーシアを悲しませるなんて!」

 

「お前、アーシアのお兄ちゃん的ポジションが確定してきたな」

 

 だけどな、とダイスケは続ける。

 

「まあ、対人恐怖症の奴に無理にコミニュケーションを取ろうとしても余計に距離を取られるだけだ。なに、時間はあるんだからゆっくり打ち解けていけばいいさ」

 

 ダイスケの言葉を聞いて、何か思うところがあったのかアーシアはグッと胸の前で両手を握る。

 

「……そうですね。ここでめげちゃダメですよね」

 

「そうそう。イッセーへのアプローチもな。聞いてるぞ。部長や朱乃さんにいろいろ押されてるって」

 

「そ、それは言わないでくださいぃ……」

 

 一転して顔を真っ赤にして蹲るアーシア。隣にいるイッセーも顔を赤くする。

 

「お前、俺のいる前でそういう話はやめろよ……」

 

「嫌だね。見てて面白いもん」

 

「そんなことする余裕があるんなら、自分の方を何とかしろよ!」

 

 そう言いながら指差すのは、ゼノヴィアから逃げんとするギャスパーの進行方向に定期的に大蒜やら十字架やらを投げつけて行く手を遮っているミコトの姿だ。

 

「いやあいつはね、過去の記憶に引っ張られてるだけなんだよ。お前が思っている以上に俺らはドライな関係なの。いやらしい事とかないの」

 

「そんなもんかねぇ……」

 

 どこか釈然としないイッセーの背後に見知った人影が躍り出た。

 

「おーおー、やってるな」

 

 匙である。

 

「おう、匙か」

 

「よぉ、兵藤に宝田。解禁されたばっかの引きこもり眷属がいるって聞いて見に来たぜ」

 

 つまり野次馬根性というやつだ。こちらの込みいった事情も知らずに良くもへらっとしていられるものだ、とダイスケとイッセーは若干機嫌が悪くなった。

 

「ああ、あそこ。ゼノヴィアに追いかけまわられているのがそう」

 

「いや、仲間殺す気? ……て、女の子!? それもパツキン!!」

 

 匙のリアクションを見て、ほんの数十分前の自分たちを思い出してさらにブルーになるイッセーとダイスケ。こうなれば、道連れをひとりでも増やすまでだ。

 

「可愛い女の子かと思った?」

 

「残念! 股にしっかり生えてました!!」

 

 二人の宣告に愕然とする匙。やはり、普通の神経をしていたらショックを受けるのは当然だ。そして例に漏れず匙も落胆する。

 

「詐欺もいいとこじゃねえか。っていうか、女装って誰かに見てもらうためのものだろうに。それでひきこもりって矛盾も甚だしいな。難易度高すぎ」

 

「「ですよねー」」

 

 自分の価値観が間違っていなかったとホッとする二人。だが、イッセーは匙のジャージ姿に疑問を持ち怪訝な顔をする。

 

「そういや、お前はそんな格好で何してんの?」

 

「花壇の手入れだよ。会長の命令で一週間前からやってる。ほら、ここ最近、学校行事が立て続いたし、三竦み会談の会場ってココだろ? 魔王様方に見せても恥のない学園の姿にするのが生徒会の兵士たる俺の仕事だ。」

 

「へぇ、匙もちゃんと仕事してんだな」

 

 やっていることは体のいい雑用だが、流石にそれを口にするのも憚られるので適当に褒めるイッセー。そんな他愛のない会話をしているうち、イッセーは何者かが近づいているのを感じた。

 そしてその人物を確認したその時、イッセーは我が目を疑ってしまった。

 

「へぇ、上級悪魔眷属さんたちはここで集まってお遊戯かい」

 

 浴衣を身にまとったチョイ悪兄さん。それはイッセーもダイスケも見覚えがある人物。

 

「アザゼル!」

 

「よぉ、赤龍帝。この前の夜以来だな」

 

 気さくに手を振って答えるアザゼルだが、その場にいた悪魔全員が一気に身構える。ゼノヴィアはギャスパーの向けていたデュランダルをアザゼルに向け直し、イッセーはアーシアをかばうように神器を出現させる。

 匙も驚愕しながらトカゲの頭を模した形状のガントレットを出す。

 

「ひょ、兵藤! アザゼルって……マジで!?」

 

「ああ、コイツとは何度も接触してるから間違いねぇ……!」

 

 初めて見るイッセーの真剣な表情を見て、匙は構える。しかし、この一触即発の緊迫した空気の中で完全無警戒の人物が一人。

 

「おお、それが匙の神器か。初めて見たぜ。なんてやつ?」

 

「ああ、これは『黒い龍脈(アズソーブション・ライン)』っていって……じゃなくて! 堕天使の総督が目の前にいるんだぞ! ちょっとは危機感持てよ!!」

 

 マイペースすぎるダイスケに思わず突っ込んでしまう匙だが、ダイスケの姿勢は変わらない。

 

「んな、身構える必要ねぇって。見た目ほど悪い奴じゃなさそうだし、襲うつもりならイッセーが気配を感じる前にやってるはずだよ」

 

 ダイスケの言うとおりだった。アザゼルは殺気を放つどころか戦闘の意思も見せていない。

 

「ダイスケの言うとおりやる気はねぇよ。安心しな」

 

 そう言ってアザゼルは両の掌を見せて戦闘の意思がないのをはっきりと見せる。

 

「で、なんなんすか?またイッセーに仕事の依頼? 今日、もうすでに一件入ちゃってるんすけどね」

 

「いや、散歩がてらに寄っただけだよ。そういや、例の聖魔剣使いはどこだ? 噂の聖魔剣とやらを見てみたいんだが」

 

「ここにはいない!! 木場を狙っているんだったらそうはさせねぇぞ!」

 

 イッセーが持つ事前情報によれば、アザゼルは大の神器マニアでコレクターであるとも聞いていた。であれば、イレギュラーな禁手に至った木場を狙うというのは至極当然な予想だ。

 しかし、相手は堕天使の首領。幹部であるコカビエルに手も足も出なかったことを考えれば、全員瞬殺という結末もありうる。そう考えるとイッセーの手足は自然と恐怖で震えてしまう。

 

「だから戦る気はねぇって。ダチの言うことくらい信じてやれよ。下級悪魔相手にいじめをやるほど堕ちちゃあいないって。……あー、そこの木陰に隠れているヴァンパイア」

 

 呼ばれてビクッと慌てふためくギャスパー。まさか自分がアザゼルに指名されるなんて思ってもみなかったのだろう。しかもアザゼルが自分に近寄ってきているのだからビビるのも無理はない。

 

「お前は停止結界の邪眼の持ち主なんだろ? わかっているとは思うが、それは使いこなせなきゃ害悪になっちまう代物だ。うまく神器の補助をする器具でも作れりゃいいんだが……でも、悪魔の神器研究は進んでねぇんだよな。感覚で発動させる神器は持ち主のキャパがないと勝手に動くから危険きわまりねぇんだよなぁ……」

 

 ギャスパーの両目を覗き込んでなにやら思案するアザゼルに恐怖するギャスパーだが、アザゼル本人にギャスパーをどうこうしようとする意思はない。それを感じてか、身構えていた眷族悪魔たちはどうしていいのかわからなくなってしまう。

 すると、アザゼルは匙の存在に気づき、指差す。驚く匙にアザゼルは言い放った。

 

「そいつは黒い龍脈だな? それを使って練習すりゃあいい。このヴァンパイアに繋いで神器の余分なパワーを吸い取りながら発動させれば、暴走する頻度も少なくなるさ」

 

「お、俺の神器って、他の神器の力も吸い取れるのか……? てっきり、敵のパワーを吸い取るだけのものかと……」

 

 自身に隠されていた能力に驚く匙だが、それを見てアザゼルは呆れる。

 

「ったく、これだから最近の神器所有者は……力を振るうことばかりに気を取られて、自己の能力の探求と研鑽をしようともしない。黒い龍脈は伝説の五大龍王の一角、黒蛇の龍王(プリズン・ドラゴン)ヴリトラを宿している。最近わかった事なんだけどな。それが伸ばす黒いラインは、どんな物にも繋いで力の吸収と拡散を行うことができる。短時間なら、持ち主側のラインを一旦引き離して別のモノ同士をつなぐこともできるぜ」

 

「じゃ、じゃあ、俺側のラインを……例えば、宝田に繋ぐこともできるのか? それで宝田と力のやり取りができると?」

 

「ああ、成長すれば伸ばせるラインの数も増える。そうすりゃ、吸い取る出力も倍々だ。だけど今は実行はするなよ? ダイスケのパワーは規格外だ。未熟な状態で吸い取ろうとしたら、逆流してお前の力を根こそぎ奪われるか、許容量以上の力で自爆しちまうぞ」

 

「なにそれ、こわい」

 

 あまりに恐ろしい話に自分自身の話とはいえドン引きするダイスケと、自分の知らなかった自身の能力の拡張性に黙ってしまう匙。

 ダイスケを除いたイッセーたちはまだアザゼルのことを信用しているわけではない。が、まるで先生に教えを乞うているような感覚になってしまっている。

 

「神器の能力向上を手っ取り早くしたいんなら、力のあるドラゴン―――この場では赤龍帝を宿した者の血を飲むといい。ヴァンパイアには血を飲ませれば自然と力がつくさ。まあ、あとは自分たちで頑張りな」

 

 アザゼルはそれだけ言うと踵を返してその場を去ろうとする。しかしイッセーの顔を見て一旦、その歩みを止めた。

 

「ウチのヴァーリ――白龍皇が迷惑かけたってな。悪かった。いきなり現れてさぞ驚いたろう。なに、あいつはとんだバトルジャンキーだが、今すぐに赤白対決をしようとは思っていないだろうさ」

 

 軽い態度だがアザゼルはイッセーに対して謝った。不意打ちをくらってしまったが、イッセーは虚勢を張っていると自覚しつつも口答えをする。

 

「正体を明かさずに俺達に近づいてきたのは謝らないのかよ」

 

「そりゃ、俺の趣味だ。謝らねぇ」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべ、アザゼルはそのまま立ち去った。異常なまでの緊迫感から開放されて皆ほっと一息つくが、顔を見合わせて反応に困っている。

 そんな中、匙がため息をついたあとに腰を上げた。

 

「取り敢えず、そこの新人君に俺のラインを繋げてみるか。その状態で練習してみようぜ。そのかわり、花壇の手入れ手伝えよ」

 

「鍬で耕せばいいの? 「ホクレン!」って感じで」

 

 鍬を下す動作でボケるダイスケ。

 

「開墾する必要は無ぇよ! 雑草取るぐらいでいいから! そもそもホク○ンってなによ!?」

 

 匙のように疑問を抱いた方は片栗粉の袋を見て頂きたい。




 はい、というわけでVS24でした。
 実は匙は強化されたキャラの一人です。詳しくは後のヘルキャットの辺りで。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS25 ブ○イドがMCUに加入する日は来ますか?

 さぁ、この章における前作の焼き直しは今日までだ……。次回はトンデモ設定の一部を公開してやるぜ!!


「あれ、今日は小猫ちゃんじゃなくてイッセー君たちなの?」

 

 よくある一般的なアパートの玄関。それを開けたのはこの部屋の住人である森沢だ。

 

「いやぁ、どうも小猫ちゃんの方の予約が立て込んじゃいましてね」

 

 イッセーの申し訳なさそうな顔に、森沢の表情は若干不機嫌なものに変わる。

 

「なんだいなんだい、折角今日は小猫ちゃんにミルキーのコスプレで“アレ”してもらおうかと思ったのに……」

 

「いっそのこと下のミルたんにやってもらったらどうです?」

 

「無理無理、あの人のは特注サイズだもん。通常サイズなんて片腕が通っておしまいだよ、ダイスケ君」

 

 ケラケラと森沢は笑う。年が離れている上、つい最近知り合ったばかりだが、イッセーもダイスケもすでに森沢とは冗談を言い合える間柄になっていた。

 ちなみに“アレ”とは普段の森沢の小猫への依頼である「コスプレしてお姫様抱っこ(森沢が)」のことを指す。小柄な少女に身を任せたいという、普通なら実現不可能且つアブノーマルな願望を叶えられるのは確かに小猫ぐらいなものだろう。常連になるのも納得である。

 

「まあいいや、中に入って……ってなに、そのダンボール箱?」

 

「ああ、いや、お気になさらず。ただの見学ですから」

 

 そう言ってイッセーは肩に担いだダンボール箱を部屋に持っていき、粗雑に置いた。もちろん中身は箱詰めにされたギャスパーだ。最初は同行するのに嫌がっていたが、結局ダイスケに説得(という名のインシュロックでの親指締め)された上で箱詰めされて配送出荷されたのであった。

 

「……誰か中に入ってるの? その言い方だと」

 

「見てもいいっすよ。そのあと精神的ダメージを確実にこうむるけど」

 

 ダイスケの意味深な警告に、森沢は恐る恐る封をしているガムテープを引き剥がす。そして蓋を開いたその中にあったのは――

 

「ふぇぇぇ……」

 

 小動物のように震える(見た目だけ)美少女。見てくれだけは絶品であるためか、その感動で呼吸も止まっている。

 だが、彼には残酷だがギャスパーはれっきとした男。染色体もしっかりXY。Xファ○ルの某エピソードのように性転換できるというわけでもない、男であるという事実を決して捻じ曲げられない存在なのだ。

 しかし残酷な現実であるからこそ森沢には知ってもらわねばならない。

 

「森沢さん、一応言っときますけどこいつは男ですから」

 

 しかしイッセーの告白にも森沢は反応しない。ややあってその全身がプルプルと震えだす。

 きっと怒りに震えているんだろう、イッセーもダイスケもそう思った。何せ自分たちもそうだったのだ。彼は以前「彼女が欲しい」という依頼があった時、イッセに与えられた願いの対価を自動算出する機械で計ったときに「女の子を見た瞬間に命をもらう」という結果が出たこともある男だ。彼の胸中にある怒りは相当なものだろう。

 そして森沢はためにためきった感情を決壊させた。

 

「―――イヤッホォォォォォォォウ!!! 男の娘最ッ高ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」

 

「「ええええええええええええええええええ!?」」

 

 完全に予想の斜め上の反応だった。

 

「なに喜んでるんですか!? こいつは男なんですよ! 股間にナニがぶら下がってるんですよ、このツラの下に!!!」

 

「なに言ってるんだいイッセー君! こんなかわいい子が女の子の訳がないじゃないか!!!」

 

「森沢さん、逆、逆!!!」

 

「安心してくれダイスケ君! かつて準○ゃんやブリ○ットたんで目覚めた俺に死角は無かった!! わぁい!!!」

 

 よもや森沢が“悟った”人間だとは思いもよらなかった二人は、彼がギャスパーにル○ンダイブするのを止めることすら忘れてしまっていた。

 

「さぁあ、出てきてごらぁん……。お兄さんと楽しいことしよう……大丈夫、痛くしないから!」

 

 両手をワシャワシャとまるでタコやイソギンチャクも斯くやという勢いでうねらせて近づいていく。無論、誰だってこんな近づき方をされれば恐怖を感じてしまうわけで―――

 

「いやぁぁぁぁああああああああ!!!」

 

 ギャスパーが恐怖の叫びを上げたその直後、森沢の眼前からダンボール箱が消えた。そしていつの間にか隣室にダイスケと共に隅に移動していた。

 

「あ、あれ……?」

 

 何が起きたのか理解できない森沢は目をぱちくりとさせて戸惑っている。やはり影響を受けないのはダイスケだけのようだ。そしてダイスケは『ダメだ』というジェスチャーを見せる。

 ダンボール箱の中は見えないが、恐らく今ギャスパーが恐慌状態にあるのだろうということはわかる。

 

「すいません、あいつ実はものすごい人見知りで……」

 

 きょとんとした森沢にイッセーがフォローを入れる間、ダイスケは箱に入ったギャスパーを持ってすぐさま部屋を出る支度を始める。ギャスパーに万が一のことがった場合、すぐにでもその場からダイスケが連れて帰るというのは、森沢宅に着く前にすでに取り決めていたことだったので迅速に動いていた。

 

「ばかばかばかばか……停めちゃいけないのに……頑張らなきゃいけないのに……!」

 

 遠ざかりながらで小さな声だったが、森沢に必死でフォローを入れていたイッセーには聞こえていた。啜り泣くギャスパーが口にしていたのは、他人への恐怖ではなく自分へのふがいなさへのやるせなさだったという事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギャスパー、出てきて頂戴。私の判断が甘かったのは謝るわ」

 

 なんとか一仕事終えて旧校舎に帰ってきたイッセーが最初に見たのは、開かずの間の扉の前で謝るリアスと所在無げに立つダイスケの姿だった。

 

「イッセーと仕事をすれば、もしかしたら貴方の為になるかもしれないと思って……」

 

『ふえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!』

 

 自室の扉越しに響くギャスパーの泣き声は、旧校舎中に響いている。さらに、リアスからギャスパーの複雑な生い立ちも聞いてしまった。

 もともと、ギャスパーは吸血鬼の名門、それも吸血鬼の元祖と呼ばれる存在『ヴラド・ドラグリヤ』から家名を頂いたヴラディ家の出身だ。だが、ギャスパーはハーフだ。それも、母の立場は人間の妾。吸血鬼の純血主義は悪魔のそれ以上。あのライザーが可愛く見える程のものなのだ。

 腹違いの兄弟達から執拗に虐げられ、人間の世界に逃げ延びても化け物扱いをされて結局居場所がなかった。だが、本人が望むのとは裏腹にギャスパーが持つ吸血鬼の潜在能力は桁違いで、人間の部分を持つがゆえに停止結界の邪眼をも備えておりその力は歳を重ねるごとに増していった。

 その望まない力によって、ギャスパーは路頭に迷い一度ヴァンパイアハンターに命を奪われた。そこをリアスに拾われたのだ。

 

『ぼ、僕は……こんな力いらないっ! み、みんな僕の所為で停まっちゃうんだ! みんな僕を嫌がる! 怖がる! 僕だって嫌なのに!! こんなのなら……僕の命なんて助からなきゃよかったんだ!!』

 

 ギャスパーの悲痛な叫びに、リアスは項垂れる。

 

「この子をここまで追い詰めてしまったなんて……(キング)失格ね、私」

 

 元より眷属思いのリアスだ。自分の可愛い眷属が泣いているというのに、救ってやれない自分にやるせなさを感じてしまう。

 そのリアスの悲しい横顔を見て、イッセーは決意する。

 

「部長、これからサーゼクス様たちとの打ち合わせがあるんじゃないですか?」

 

「ええ。でも、もう少しだけ時間を延ばしてもらうわ。先にギャスパーをなんとかしてあげたいの」

 

「いえ、あとは俺に任せてください。部長は上級悪魔として、魔王の妹としての義務を優先して下さい」

 

 仮にも三大勢力のトップが顔を合わせる会談だ。セッティングに不備があれば外交上の軋轢を生むこともありうる。

 

「でも……」

 

「大丈夫です。自信はないけど、せっかく出来た男子の後輩なんです。何とかします! ダイスケももう帰っても大丈夫だからさ」

 

 バツが悪そうにイッセーは言う。だが、ダイスケにはわかる。イッセーが強がりで言っていることを。

 自信がないというイッセーの言葉は真実だ。大体、イッセーは繊細な人間の相手は不得手だ。それでもリアスに前でカッコをつけて見せるのは、少しでもリアスの負担を背負いたいというイッセーの主に対する思いやりだ。

 そのことを察したダイスケは、諦めたようにイッセーに言う。

 

「いや、手伝うよ。リアスさん、ここは俺らを信じて行ってください」

 

「……わかったわ。イッセー、ダイスケ。二人共、ギャスパーのことお願いね?」

 

「はい!」

 

 イッセーが元気よく返事し、ダイスケが軽くうなずいて答えたのを見ると、リアスは名残惜しそうにその場をあとにする。

 

「リアスさんは行っちゃったけど……どうやって攻略するよ? 一筋縄ではいかねぇぞ、こりゃ」

 

「んなもん決まってんだろ」

 

 そう言ってイッセーは扉の前で胡座と腕を組み、ズッカとその場に座り込む。

 

「俺はお前が出てくるまでここを動かねぇからな!!」

 

 イッセーは繊細な人間を相手にできるほど賢くはない。だから、言葉でギャスパーの心を開くのは既に諦め最初から持久戦に持ち込んだ。

 だが十分経ち、三十分経ち、ついに座り込みが一時間に突入しても反応がなかった。だからイッセーは自分から切り込むことにする。

 

「なあ、おまえは俺たちのことが……自分の神器が怖いか?」

 

 イッセーは扉越しにギャスパーに問う。

 

「おれもさ、ちょっとはお前の気持ちがわかるぜ。俺の中には赤龍帝なんてとんでもないドラゴンが宿っている。隣にいるダイスケなんか未だに中身正体不明だぜ?」

 

 ギャスパーの反応はないが、イッセーは続ける。

 

「だけど、俺たちはギャスパーみたいな特別な生い立ちはないし、木場みたいにすごい生き方をしてきたわけじゃあない。普通の高校生だったんだ」

 

 高度な話術も、策略も必要ない。ただやらなければならないのは、自分の正直な気持ちをぶつけることだけ。

 そうしなければ、固く閉ざされた扉も、ギャスパーの心も開くことは絶対にないだろう。

 

「俺は正直……怖い。力を使うたびに自分の体が別の何かに変わっていく感覚があるんだ。悪魔の世界のことだってまだよくわからないし、ドラゴンっていうのがどんな存在なのかもわからない。でも、俺は前に進んでいこうと思う」

 

「俺も似たようなもんさ。記憶の中で見た破壊の権化が俺自身って、コントロールできるのかよ俺……なんて夜中に考えたりするけど、そう生まれたもんはしょうがないからなぁ」

 

 片や決意を持って、片や諦観とあるがままに受け入れようと自分自身に向き合う二人。方向性は違えども、選んだ道はギャスパーとは全く違っている。なぜ似た境遇で、この二人は自分とは違う方を向いていられるのか。今のギャスパーにはそれがわからない。

 

『どうして……どうしてそんなにあっさり自分の力を受け入れられんですか? もしかしたら、本当に大事な何かを失っちゃうかもしれないんですよ?』

 

 沈黙を守っていたギャスパーが扉越しに聞いてきた。

 

「何言ってるんだよ。そんなの、背が小さいだの顔がブサイクに生まれてきただのと同レベルの話だぜ? 誰だって、自分がどんな存在なのか選んで生まれてきているわけじゃない。ゲームじゃないんだから、自分の容姿や能力を選んで生まれて来れないんだ。持ってるものだけで人生を生き抜かなきゃならない。それなのに生まれがどうこうとか、自分の能力が嫌だなんて本来は言ってられないはずだぜ? せっかく身についた力を活かせないなんて……そりゃ、“損”だ」

 

『“損”……ですか?』

 

「ああ、損だ。よく考えてみろ、世の中の人間の大半はむしろ“足りない”奴の方がほとんどなんだぞ。お前は自分の力が余分だと考えているかもしれんが、自分から引き算して生きていくよりも足し算をして生きていくことの方がよっぽど大変だぜ?」

 

 足し算と引き算。どちらも数学の基礎中の基礎故に難易度は五十歩百歩だ。

 しかし、人生設計というものにこれと同じ法則が適応されるのかと言えばそうではない。人間というものは生きていくうちに多くのものを学び、糧を得て、財を築いていく。そうやって何かを得ていくには限りある時間を消費し、労力と努力を積み上げていかなければならない。忘れやすいことだが、人が何かを得ていくにはその結果以上の対価を支払わなければ何も欲しいものを得ることはできない。

 その反面、人生の中での引き算というのは至極簡単なものだ。諦め、立ち止まり、捨ててしまうだけでいい。だが、もしもその捨てたものの中に磨けば光る原石があるとしたら? 今は役に立たなくとも、いずれ自分の、人の役に立つかもしれない。そのんな本来大切なものを捨てようとしているのなら―――

 もしかしたら自分はそんなことをしようとしているのではないか、ギャスパーそう考えてしまう。

 そこへイッセーが畳み掛ける。

 

「俺はダイスケみたいな考えを持ってるわけじゃないから、お前の人生訓になるようなことは言えない。……ただ」

 

『ただ?』

 

「……俺は部長の涙を二度と見たくない。前のレーティングゲームの時、俺たちは負けたんだ。しかも、自業自得みたいな負け方でさ。俺なんかやられた時の記憶がないくらいボコボコにされてさ。ほんと、情けないったらありゃしねぇよ。……だけど、部長が泣いていたことだけははっきりと覚えてる」

 

 イッセーにとっては、正直な話思い出したくない記憶だ。

 だが、話さねばならない。可愛い後輩が思い悩んでいることを考えれば、自分の苦しみを隠すことはできないのだから。

 

「……あれはキツいんだ。記憶の奥底に焼きついててさ、今でも夢に見ちまう。誰もいない中を走り回って、やっと部長を見つけるんだけど、泣いていて……でも、俺は何もできなくて……」

 

 自分の言葉で胸が詰まったその時、木製の扉が軋んだ音を立てて、少しだけ開かれる。

 

「僕はその時……いませんでした……」

 

「ああ、わかってる。でも、それは仕方なかったことだ。それを責めやしない。だけど……これからは違うだろ?」

 

「……僕じゃ、ご迷惑をかけるだけです……。引き篭りだし、人見知りだし、神器はまともに使えないし……」

 

 そのタイミングでダイスケは、少しだけ開かれたドアをそれとなく、しかし確りと開ける。

 

「だったら、自分を変えちまえ。まあ、無理にとは言わないが神器をまともに使えるようになっときゃ“徳”かな。大体、お前の神器は俺には効かないんだ。何かあったら俺がお前を殴ってでも止めてやるよ」

 

 そしてイッセーはギャスパーの顔を両手で優しく抑えると、その両目を見据える。

 

「俺はお前を嫌わない。先輩として面倒見てやる。まあ、悪魔業はお前のほうが先輩だし、成績も比較になんねぇ。だけど、歳だけなら俺が先輩だから、任せろ」

 

「―――っ」

 

 ギャスパーはその目を見開き、驚きを隠せないでいるがイッセーは構わず続ける。

 

「なあ、ギャスパー。俺たちに力を貸してくれ。一緒に部長を支えよう。お前が怖がるものがあるんだったら、俺たちがぶっとばす。これでも俺たち、伝説のドラゴンとコカビエルがびびってた奴なんだぜ?」

 

 イッセーは屈託のない笑みを見せるが、ギャスパーは突然の申し出に戸惑っている。なにせ、人生で初めて自分の力と正面を切って向き合おうとする者が二人も現れたのだ。戸惑うのも無理はなかった。

 

「そうだ。俺の血、飲むか? アザゼルの野郎の言う通りにするのは癪だけど、試してみる価値はあるぜ?」

 

「いや、でも童貞が吸血鬼に血を吸われたら同化させられるんじゃないのか?」

 

「どどどどどど童貞ちゃうわ!!!」

 

「どう見たって童貞だよお前。この前のプールの時、ゼノヴィアに迫られてもどうせ指一本もふれられなかったんだろ」

 

「お、お前知ってて……あ、あれは部長たちに見つかったからで……!」

 

「語るに落ちたな」

 

「しまった!!!!」

 

 だが、ギャスパーは首を横に振る。

 

「……怖いんです。生きている人から直接血を吸うのが。ただでさえ、自分の力を御しきれていないのに……これ以上何かが高まったら……」

 

「ギャスパー。お前の先人の話をしてやる」

 

 そう言ってダイスケは瞑目し、語り始める。

 

「その吸血鬼はある能力に目覚めた。そして、その力がいかほどものか確かめるために部下に自分に向かって散弾銃を撃つように言った。すると、ほんの一瞬だが、時間が止まったような感覚に陥った。最初はスポーツ選手や、武道の達人が感じるっていう時間がゆっくり動いているような錯覚かと思ったそうだ。だが、その一瞬のうちに散弾の弾の一つをつまんでいたんだ……」

 

「いや、それってあの奇妙な冒険のWRYYYで無駄無駄なあのお方の話ですよね……?」

 

「ギャスパー、言っても無駄だ。こいつ、こうなったら止まらねぇから」

 

 ギャスパーのツッコミにもかかわらず、ダイスケは続ける。

 

「そして、それが“時を止める能力”だと吸血鬼は悟った。その能力を授けた者はいった。『時を止められることが“当然”だと思うことが重要』だってな。そして、より時間を止める力を強力な形に完成させるために、ジョー○ターの血を求めるんだ」

 

「とうとう言っちゃいましたよ、ジョース○ーって。隠す気さらさらないですよ」

 

「いろいろめんどくさくなってきたんだろ。伏字って結構面倒だし」

 

 イッセーはとうとう突っ込む気も起きなくなってくる。それどころか軽く第四の壁を壊しにかかってきた。

 

「詰まるところ俺が何を言わんとしているかって言うとな、自分自身にビビるなってことなんだよ。使いこなそうと思えば使いこなせる。それが当然だって思うことだその第一歩さ」

 

「それは言えてるな。できないって思うから一歩を踏み出せないんだ。大体、俺からすれば時間停止なんて羨ましすぎる能力だぜ。赤龍帝の籠手と交換して欲しいくらいだ」

 

 えっ、とギャスパーは息を詰まらせる。本人からすれば信じられない一言だ。止まった時の中、何も感じることも考えることのできない中、相手に何をされるかわからない恐怖。それが“時間停止”という異能の最大の効力だ。

 下手をすれば相手に「コイツは何をするかわからない」という疑念も持たれかねないその能力を、イッセーは『羨ましい』と言ったのだ。

 

「だってよ、時間を止められるってことはその間止めている相手を好きにできるってことだぜ?それができたら俺はこの学校中の可愛いコの時間を止めて蹂躙するね!」

 

 あまりにもあんまりなイッセーの煩悩まみれの欲求にギャスパーは面食らい、ダイスケは「またか」と顔を右手で覆う。だが、二名のリアクションにも気付かずにイッセーは蕩々と己の妄想をたれ流し続ける。

 

「そしたらまず、スカートの中を覗き放題だ! しかも、ただスカートを捲るんじゃなくて、背中を床に這わせながら股の間を潜りつつ下から直に覗き込む!! そのあとは更衣室に入って、着替え中の女子のあられもない姿を堪能だ!!! いつもは覗きたい願望で抑えてるけど、、時間を停止できれば堂々と正面切って眺めることができる!!!! いや、うまくいったらその体に直接触れて楽しむなんてことも……。ああ、そうだ!!!!! これは部長にやればいい!! そうすれば、あの99のバストが俺の手のひらの中で自由にこねくり回せて……そして、朱乃さんの100オーバーのおっぱいも揉み放題!!! うっは! 妄想が止まらん!! やべぇ、鼻血出てきた!!!!」

 

 情けなく鼻血とヨダレを垂れ流して、思いっきり緩んだ顔のイッセーにダイスケはもう言葉もない。

 おそらくギャスパーも呆れているに違いない……と思ったが違っていた。ギャスパーは意外にも、嬉しそうに微笑んでいたのだ。

 

「……イッセー先輩って、優しいんですね」

 

 相手は男とわかっていても、その柔らかい笑みに思わずイッセーはぐらつきそうになってしまう。

 

「そんな風に言ってくれたのはイッセー先輩が初めてです。それにそんな具体例まで……イッセー先輩って、楽しい方なんですね」

 

「ギャスパー。コイツはそんなに頭が良くないから、ストレートにバカって言ってもいいんだぞ?」

 

「これって、ダイスケだけが俺を馬鹿にしてるのか? それとも二人とも俺のことバカにしてんのか? どっちだ、おい」

 

「な? やっぱ馬鹿だろ? 誰が何言ってるのか理解できてないんだもん。」

 

「あ? やんのかコラ。ちょっと旧校舎の裏まで来いや。」

 

「あぁ? お前なんか一発だコラァ。」

 

「あぁ? 赤龍帝なめんなよ、コラァ。」

 

「あぁ? お前なんか赤龍帝じゃなくて“乳龍帝”だコラァ。」

 

 メンチを切り合う馬鹿二人。

 これではダイスケもイッセーのことを馬鹿とは言えない。

 

「……ぷっ! あはははははは!!!」

 

 そのマンガみたいなメンチの応酬に、ギャスパーがたまらず笑い出す。

 

「ご、ごめんなさい。でも、あんまりおかしいもんだから……」

 

「だよな、ギャスパー。イッセーは頭おかしいよな。色欲のせいで」

 

「いえ、その“おかしい”じゃなくて。……お二人とも仲がよさそうで、なんだか羨ましいです。僕には、お二人みたいな関係になれる人がいませんでしたから……」

 

 破顔していたギャスパーの顔が、徐々に曇っていく。その様子に、イッセーとダイスケはメンチを切り合っている状態を解き、一瞬顔を見合わせる。

 

「だったら、この“中”に入ってこいよ」

 

 イッセーの申し出に、ギャスパーは戸惑う。

 

「い、いいんですか?」

 

「良いも悪いも……なぁ?」

 

「松田と元浜ももう入ってるわけだし、今更一人増えてもなんのマイナスもねぇよ」

 

 二人の返事を聞いて、ギャスパーは一瞬俯く。だが、すぐに目元を袖でこすると顔を上げた。

 

「その……まだ神器を制御できない不束者ですけど、よろしくお願いします!」

 

 さっきまで部屋に閉じこもり、延々と泣いていたギャスパーが大きい声で言った。

 その反応を見て、悪友二人はニカリと笑う。

 

「よっし! よろしくな、ギャスパー」

 

「まあ、先輩だと思って頼ってくれや」

 

「はい!」

 

 これはギャスパーが変わった第一歩だ。問題が解決するという未来になったという確証ではない。だが、ギャスパーには感じていた。この二人についていけば道は切り開けるかもしれないと。

 その快方に向かった自分を思うと、自然と表情が明るくなっていった。

 

「すごいね、二人共。あっという間にギャスパー君と打ち解けちゃうなんて」

 

 二人を心配していて様子見していた木場が姿を現す。これで、オカルト研究部の男子が全員ここに集結したということだ。そのことに気づいたイッセーが「そうだ」と提案する。

 

「なあ、みんな。大切な話がある」

 

「なんだい、イッセー君?」

 

「珍しいな、そんなに改まって」

 

 全員の視線が自分に集まったところを確認して、それらしくイッセーは咳払いをする。

 

「実は、ギャスパーの存在を知った時から温めていたアイデアがあるんだ……。だが、誰かに聞かれるとマズイ。取り敢えず、ギャスパーの部屋に入ろう」

 

 イッセーに促されて、残る三人も室内に入る。そして、しっかりとドアの鍵を閉めた。話が長くなりそうなので、取り敢えず各々椅子なりベットなりに腰掛ける。

 

「俺たちは全員男だ」

 

「そうだね。でも、それがイッセー君の案に何か関係あるのかい?」

 

「大いにある。これは、俺たち男子メンバーでできる連携攻撃についてなんだ。しかも、実戦、レーティングゲーム問わずに行える実に汎用性が高い戦術だ」

 

「……お前が“戦術”なんて言葉使うと嫌な予感しかしねぇんだけど」

 

「僕は興味があるな。なんなんだい? その戦術って」

 

 一人は嫌な予感がし、残る二名は興味津々といった体で聞こうとしている。

 

「まず、俺が赤龍帝の籠手でパワーを貯める。そして、それをギャスパーに譲渡して周囲の時を止める。そうすれば俺は女の子の体を好き放題だ」

 

 そのとんでもない“戦術”を聞いて、木場が唖然とする。だが、ある程度予想していたダイスケは「やはりか」といった表情だ。

 

「……これまたエッチな妄想をしてたんだね。でも、それだと僕とダイスケ君の出番がないんじゃない?」

 

「いや、ある。お前は禁手化してひたすら俺を守れ。そうすれば隙はない。どうだ、完璧な戦術だろう」

 

「ねぇ、イッセー君。僕はイッセー君のためならなんでもするつもりだけど……一度真剣に今後のことを話そうよ。いいかげんにしないと、ドライグ泣くよ?」

 

『木場はいい奴だなぁ』

 

 伝説のドラゴンが涙声で訴える。そのドライグの声を聞いて、木場とダイスケはドライグがどれほどイッセーの力の使いようで思い悩んでいるのかがよくわかった。そんな不憫なドラゴンの事を考えると、いかに相手が伝説の存在とはいえ憐憫の眼差しを送らざるをえない。

 

「ドライグ、安心しろ。もしそんなふざけた戦術を使おうしたら、俺が責任をもってイッセーを警察なりなんなりに送る。それが世のためイッセーのため、果てはドライグと全世界の女性のためだ」

 

『ダイスケ、その時になったら頼むぞ』

 

 もはやこのドラゴン、宿主よりも周囲の人間の方に信頼を寄せている。

 

「なんなんだよ、お前ら!! ……まぁ、いい。ギャスパーが前向きになってくれたんだ。こうなったら男同士……腹を割って話そう!!」

 

「そのフレーズ、何か嫌な予感しかしないんだけど。どうでもいい話に長時間付き合わされそうなんだけど」

 

「シャラップ!! それでは第一回『女の子のこんなところがたまらなく好きだ選手権』!! まずは俺だ!! 俺は言わずもがな、おっぱいとスラリと伸びた脚だ!!」

 

 呆れるダイスケが他二名を見ると。苦笑しつつも嫌がっている素振りはなかった。だが、ダイスケは見逃さなかった。ギャスパーの手が震えているのを。

 おそらく、何かの拍子で時間を止めてしまうかもしれないという危機感がそうさせているのだろう。そのギャスパーの震えにはイッセーも気がついた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

「す、すいません。ダンボールの中でもいいですか?その、蓋は閉めないので。ダンボールの中にいれば、人と話ししていてもまだ落ち着けるので……」

 

 ダンボールの蓋を閉めない分、いくらか成長したということか。あまり無理をさせてもいけないのでイッセーとダイスケはそれを許す。

 

「あ~、これですぅ。落ち着きますぅ。ダンボールの中は僕のオアシスですぅ……」

 

 これはなるべく早急にダンボールから卒業できるようにしなければならないだろう。まさか、ダンボールに箱詰めされた状態でレーティングゲームに出すわけにもいかない。それこそホントのダンボー○戦機だ。

 

「あ、そうだ。そんなに人と目を合わすのが嫌なら……これとかどうだ?」

 

 そう言ってイッセーは身近にあった紙袋に覗き穴を二つ開けて、ギャスパーの頭にかぶせる。

 

「「「こ、これは……」」」

 

 薄暗い部屋の中に佇む、紙袋をかぶった女装少年。その開けられた覗く穴からは、闇の中にぎらりと輝く赤い双眸。

 

「どうですか~? 僕、似合ってますか~?」

 

 フラフラと歩くその様子はゾンビかはたまたキョンシーか。この状態で住宅街の路地でも歩こうものなら、即刻通報されるだろう。

 つまり、ただの変質者。

 

「いや、これだとただの変質者だ。……そうだ、こうしよう。木場、ちょっと直剣を一振り出してくんね?」

 

「え、うん」

 

 そう言って今度はダイスケが紙袋をはぎ取った後、なぜか手近にあった茶色いドーランを肌が出ている部分全てに塗りたくり、M字のパンチ頭の鬘をかぶせた上に黒革の厚手のコートを着せる。

 さらに木場から受け取った直剣を持たせて、最後の仕上げにサングラスをかけさせれば出来上がり。

 

「どうよ、こういう風にちょっと工夫すれば、変質者が立派なヒーローに」

 

「ただのブ○イドじゃねぇか!!!」

 

 イッセーが突っ込んだ通りだった。しかも、ヒーローといっても吸血鬼的にいろいろと問題のあるヒーローだ。

 

「え、僕って今ヒーローなんですか?」

 

「ああ、これくらい逞しくなってほしいという俺の願いも込められている」

 

「目標高過ぎだよ!! っていうか、境遇が結構似ている上に大事な人亡くしそうだよ!!!」

 

 主に母親が死んでその仇の額にエキストリーム注射をしたり、好きになった相手が自ら望んで殺されたり。

 

「あ、でも、これ……これもいいです。僕にぴったりかも」

 

 こころなしか、サングラスの向こうから漏れる赤い瞳の眼光が強くなった気がする。

 

「ギャスパー、俺ははじめてお前をスゴイって感じたよ」

 

「ほ、本当ですか!? こ、この格好でいれば、僕も吸血鬼としての箔がつくかも……」

 

 箔がついたのは吸血鬼ではなく吸血鬼ハンターとしてだ、とイッセーは突っ込みたかったが、喜んでいる後輩の姿を見るとどうしてもそう言えなかった。こうして赤龍帝、怪獣王、騎士、喧嘩番長の夜通し猥談が始まった。

 この時分かったことだが、木場も意外にスケベだった。




 はい、というわけでVS25でした。
 ギャスパーは強化していません。合うのがないのと、元から割とチート気味ですから。
 そして次回は、前書きに書いたとおりこの《シン》の超トンデモ設定の一部が明かされます。今回は正直、感想0も覚悟しております。それくらい溜めました。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS26 作者的に練りに練った設定なのに反応が薄かったら正直涙が出る

 はい、トンデモ設定暴露第一回です。引かないでね?
 え、大して読者数いないから反応もねーよ? ……グスッ。


 時計の針が頂点を指した休日の駒王学園。普段は人っ子一人いないはずだが、今日は事情が違っていた。

 

「失礼します」

 

 ノックした後にリアスはそう言うと、会場の扉を開かれる。扉を開いたのは今日付でグレイフィアの補佐に付き添ってきたリリアだ。彼女はダイスケの姿を見て微笑むと、一同を通す。

 会場になっているのは学園の新校舎にある職員会議室。普段は生徒の進路などを話し合う場が、今後の世界の行く末を語る場となるのだ。

 だが流石に普段と同じ内装ではない。今日の為にとリアスとソーナのそれぞれの実家の力を使って特別に用意させたという豪華な調度品で部屋は埋め尽くされている。

 中央を占める大きなテーブルにはサーゼクスにセラフォルー、アザゼルにミコト、さらにアザゼルの傍らには桐生義人が黙して立っており、幾人かの見知った人物が座って静寂でありながら張りつめた空気が漂っている。

 イッセーもアーシアもあまりの緊張感にごくりと唾を呑む。そしてダイスケは、と見ると壁に掛けられた絵画を見て「これは……シャガールだねぇ」と緊張を紛らわすために適当なことを言っている。因みに後で聞くところによると、これは実際はミレーのものだった。

 

「私の妹とその眷属、そして協力者たちだ。眷属の一人は諸事情でここに来れないが、ご容赦願いたい」

 

 サーゼクスが立ち上がり、テーブルにすでについている面々に自分の妹とその仲間を紹介する。そしてサーゼクスは眷属のうち一人はここにはいないと説明したが、それはギャスパーのことだ。封印解除の許しは出たものの能力を制御できないのであれば、ということでリアス自らが部室での留守番を命じていたのだ。

 

「先日のコカビエル襲撃の際に活躍してくれたのは彼女たちだ」

 

 兄に紹介されたのち、リアスはお歴々に向けて会釈する。すると、一人の青年が立ち上がった。

 

「ええ、報告は受けています。いま、改めてお礼申し上げます」

 

 その青年の背中には金色の翼が生えており、頭上には金色の輪が浮かんでいる。彼は天使なのだろうがダイスケは今まで悪魔と堕天使にあったことはあっても純粋な天使は初めて見るので誰だかわからない。

 

「そういえばこの中には初めてお会いする方もいらっしゃいましたね。初めまして、わたくしは燭天使(セラフ)の一柱と天使の長を兼任しているミカエルと申します。以後お見知りおきを」

 

 爽やかでありながら、どこか荘厳さを湛えるその笑顔。美しくもあり、力強さを兼ね備えたその立ち姿はまさに天駆ける神の使い達の長の雰囲気が満点だった……がダイスケが抱いた印象は全く違っていた。

 

「ああ、某マンガで歌の最中最高潮に達すると世界終末を迎える合図のラッパを吹いて締めようとする人!」

 

「……最近の下界における私ってそういう扱いなのですか」

 

 若干がっくりとしたミカエルが座ると同時に、それぞれ席に座るように勧められる。

 

「それじゃあ一応全員そろったってことでいいのか、サーゼクスにミカエル?」

 

 以前姿を現した時の浴衣姿と違って堕天使の正装でいるアザゼルの問いに、やはりリアスの婚約発表の時と同じ衣装のザーゼクスが首肯する。

 

「こちら側はまだ全員というわけではないのですが、後々こちらに来る手筈にはなっています。ですからお気になさらずに……」

 

「そうか、ミカエル。じゃあ始めるとするか。とりあえずここにいる連中全員は最重要禁則事項である『神の不在』について知っているってことで始めていいんだな? じゃあ、まずコカビエルの件だが……うちのバカが迷惑かけた。すまんかったな」

 

 といいつつも謝罪するアザゼルの顔は態度同様に全く悪びれてはいない。その不真面目ぶりにリアスは口元を引くつかせていたが、ミカエルとサーゼクスは慣れているのか全く気に留めていない。

 そしてこのアザゼルの人を煙に巻くかのような態度はまだまだ続く。自分の身内の不始末についてしれっと謝っただけで済ませたのはまだいい方だ。ミカエルとサーゼクスがお互いにぶつかりあって滅びの道を辿りたくはない、という話に至った時など、

 

「まあ、ウチはそこまでその道には拘ってないんだけどな」

 

 と言い放って三陣営の席の空気が凍りつかせたりもしていた。顔には出していないが天使長も魔王も内心「真剣な場でふざけるのも大概にしろ」と思っていることだろう、ふたりは全く目が笑っていなかった。

 だが、トップにこんな空気を作られては下の者が迷惑だ。流石のダイスケもミカエルとサーゼクスの目が笑っていない笑顔を見て、給仕係としているリリアがびびってが淹れた紅茶を零しそうになった。だが、途中途中で場の空気が凍っても会議の内容は順調に進んで行っている。

 

「さて、リアス・グレモリー。そろそろ先日の事件について話してもらおうかな」

 

「はい、ルシファー様」

 

 そしてついに自分達が関わった事件の内容についてのリアスによる報告が始まった。

 主な説明はリアスだが、その間の悪魔陣営が知り得ない情報をゼノヴィアとミコトが補足を入れていく形になっている。 

 

「――以上が私、リアス・グレモリーとその眷属が関与した事件の顛末の報告です」

 

「ご苦労、座ってくれたまえ。さて、アザゼル。この報告を受けたうえで、堕天使総督としての君の意見を聞きたい」

 

 リアスの報告を受け、サーゼクスからの問いかけを投げかけられた不敵な堕天使総督に全員の視線が集まる。

 

「先日の事件は我が堕天使中枢組織『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部コカビエルが、他の幹部及び総督である俺にも黙って単独で起こしたものだ。そして奴の処理はウチの白龍皇がおこなった。その後、組織の軍法会議でコカビエルの刑は執行された。『地獄の最下層(コキュートス)』で永久冷凍の刑だ。もう二度と出てこられねぇよ」

 

 立場ある者の会議中の発言とはとても思えないアザゼルの返答に、ミカエルは嘆息を吐きながら辟易している。

 

「説明としてはまさに見本にしてはいけない最悪の部類ですが……組織としてはどうであれ、あなた個人としては我々と事を起こすつもりはないという話は聞いています。それは真実なのですよね?」

 

「ああ、俺は戦争になんざ興味は無い。コカビエルの奴も俺のことを散々こき下ろしていたってのは悪魔側の報告にもあっただろう」

 

 それが事実であることはその場にいたリアスたちも知っている。かつての争いの決着に興味がなく、神が残した遺物――神器にしか食指が動かない男だと。

 しかし、サーゼクスはまだアザゼルのその意思が本当かどうか確信が持てない。

 

「アザゼル、ひとつ聞きたいのだが、どうして神器の所有者をかき集めている? 戦力を増強して、天界か我々に戦争をけしかけるのではないかとも予想していたのだが……」

 

「そう、いつまで経ってもあなたは戦争をしかけてはこなかった。『刃狗(スラッシュ・ドッグ)』に加えて『白い龍(アルビオン)』まで傘下に入れたと聞いたときには、それはそれは強い警戒心を抱いたものです」

 

「おうおう、かつては共に神の使いとして駆けずり回ったってのに、ミカエルまで俺のことをそこまで警戒してたのかよ?」

 

「当然。あなたは“堕ちて”いるのですから、信用も地に堕ちています」

 

「なんだよ、旧魔王や先代ルシファーよかマシだと思ってたのに、俺の信用度は三大勢力中最低か?」

 

「その通りだ、アザゼル」

 

「その通りよ☆アザゼル」

 

「信頼されているとでも思ってるんですか。神が「光あれ」といった瞬間から人生をやり直しなさい、アザゼル」

 

 三者三様の辛辣な言葉に、傲岸不遜で通してきたアザゼルも苦笑する。

 

「俺が『白い龍(アルビオン)』を引き込んだのは神器研究の為さ。まぁそれだけっていうわけじゃあないんだが……何なら研究成果の一部をお前らに開示したっていいんだぞ? つーか、研究してるから即戦争っていうのでもないだろう。俺はそんなもんに興味は無いし、宗教内のことも、人間界の政治にも手を出すつもりはない。俺はこれでも今の世界に満足しているんだ」

 

「ですが、怪獣を宿す『獣具(リスキー・エレメント)』を持つ者までも貴方は近くに置いている。いかに彼自身に罪は無いとはいえ、警戒はします」

 

「『彼自身に罪は無い』か。ほほぉ、天使長さまは随分と寛大になったんじゃねぇの。昔なら『獣転人(エレメント・ホルダー)』ってだけで断罪してそうなもんだぜ」

 

「……時代が変われば考えも変わります。貴方ほど変容するつもりはありませんが。」

 

「すまない、どうやらそちらだけで話が進んでいるようだが、私たちには話が見えてこないのだ。君たちはこの世界における古参の部類だから解るのだろうが、比較的新しい世代の私たちにもわかるように説明してくれないか?」

 

 サーゼクスの言うとおり、燭天使(セラフ)であるミカエルとグリゴリの総統であるアザゼルは非常に古い存在だ。しかし、サーゼクスもセラフォルーも悪魔のトップである魔王ではあるが彼らほど古い存在ではない。よって、世代の差によってどうしても知る情報の格差が出来上がってしまうのだ。

 それに気づいたミカエルとアザゼルはお互いに目配せしあう。

 

「そうだな、どうせ今日の会談でも話そうと思っていたことだ。今話してもいいよな、ミカエル」

 

「致し方ありません。話すべきですね、この世界の真実を」

 

「わかった……これから話す事は、『神の不在』とは異なり各組織のトップしか知らないという類のものじゃあない。だが俺たちの世代は誰もが口のするのを憚ってしまう、だからこれまで表沙汰にされなかったっていう話だ」

 

 それは、『神の子を見張るもの(グリゴリ)』のメンバーがまだ誰も堕天しておらず、神々と人の世界が地続きだった頃――いや、それ以前すら遙かに遡る太古という言葉すら矮小に思える刻の彼方。

 真実から話すが、この世界はすでに何度もやり直している。そして世界はやり直すたびに一つの脅威に直面していた。

 それは、『怪獣』。現実を生きる生物でありながら、現実を超越した力を持つ生命。

 怪獣達は至る所から現れた。

 遙か太古の彼方から。

 忘れ去られた神話の世界から。

 誰も見たことのない海の底から。

 人の英知と過ちの向こうから。

 遙か宇宙の彼方から。

 あらゆる世界から彼ら怪獣は現れ、そのたびに世界は滅びの危機を迎えた。だが、怪獣が現れるたびに人類はその英知によって怪獣という生きる災害を克服してきた歴史を重ねた。

 だが、そんな人類でもどうにも出来ない最悪が存在した。

 その名は『ゴジラ』。

 『呉爾羅』、『Godzilla』とも記されるそれは、人類最悪の発明、核兵器の登場によって生み出された。

 度重なる核実験で、住処と本来の姿を奪われたゴジラは人類に報復した。世界が繰り返されるたびに、である。その内ゴジラを撃退できた世界もあった。だが、現れるそのたびに人類世界は疲弊し、神は世界をやり直した。

 しかし、そのたびにゴジラは現れる。いくらやり直そうとも、それをあざ笑うかのように、人類の業を見せつけるかのようにゴジラは、怪獣は世界を蹂躙する。

 ついにあるとき、神はついに決意した。次に世界をやり直すとき、同時に怪獣達の魂を封印しよう、と。そしてそれを人間に宿せば、いずれ怪獣の魂は人間と同化して消えていくだろうと。

 そしてそれは実行され、彼ら怪獣達がどうにも出来ないタイミング――すなわち世界創世のなにもない瞬間に全てその魂は封じられた。

 だが、その結果怪獣の転生者、『獣転人(エレメント・ホルダー)』が生まれ、かれらはその魂の力を『獣具(リスキー・エレメント)』として顕現させたのである。

 そこまで説明し、アザゼルは懐かしげにこう言う。

 

「神が行った仕事が当時の理想でいうところの“完璧”じゃなかったって言うのはデカかった。だから俺は徐々に神を信じられなくなって、止めに女を抱いて堕ちちまったよ」

 

「そこまで怪獣王のせいにすると流石に冤罪というものですよ、アザゼル」

 

「まあ、それ置いていてだ。俺は三つ巴の戦争が終わった後、神器の研究の傍らゴジラをはじめとした怪獣達がどこへ行ったのか必死で探した。そしてどうやら人間界・冥界・天界関わらずを転々としている事は掴めた。だが、白龍皇や赤龍帝みたいにどこに行ったか特定できないんだ。三百年ほど姿を現さないかと思ったらひょこり出てきたりしてつかみどころがない。しかも肝心のゴジラは痕跡はわかるが、本人はどこにも見つからないときたモンだ」

 

「ということは彼は……」

 

「ああ、そうだぜサーゼクス。そこにぼけっとした顔で座っている宝田大助は、確認される中で歴史上唯一のゴジラを宿した獣具を使った獣転人(エレメント・ホルダー)だよ」

 

「……はひ?」

 

 想像の遥か斜め上の話についていけずに脳内がオーバーロードしていたダイスケが間抜けな反応をする。まさか今の話でいきなり自分に話が飛ぶとは考えていなかったのだ。

 

「おいおい、頼むぜ。お前は今回の重要議題の内の一つなんだから」

 

「いやいやいやいや、いくらなんでも話がぶっ飛びすぎだろ、この不良中年天使! ちょっと待て、どこから突っ込めばいいんだ!?」

 

 いきなり出てきた過去の世界の話。そして自分に宿っている魂が最強最悪の怪獣のものであるということ。なにより自分がそのゴジラを初めてまともに扱った人間だということ。

 それらの情報がダイスケを混乱させている。

 

「な、なあ、アザゼルさんよ。イッセーを見ていたら普通に生きていたら神器を覚醒させられない人間がいる、っていうのはわかるよ。でも、俺以外にもゴジラの、その……獣転人(エレメント・ホルダー)っていたんだろ?」

 

「ああ、いたことは事実だろうな。だが、その痕跡は残せても実際に誰も発現できていない。恐らくなにか条件があるんだろうが、そこもお前さんを実際に観察しないとわからんさ」

 

 自分以外の前例がいない、と言うことは参考資料が無いということだ。イッセーの場合は宿したドライグが導いてはくれる。だが、今のところ自分にはそのような機会は訪れていない。

 赤イ竹という脅威が自分に迫っている今、何も参考に出来ずに成長しようというのは度台無理な話だ。

 

「いずれにしろ、現代にゴジラは再び現れ、獣転人もすでに何人か確認されてそこのミコト嬢のように各神話勢力に協力している者もいる。こんな風に今の時代に出現が集中するっていうのいうのは、何か大きな時代のうねりに引き寄せられた、と考えるべきだろうか」

 

 そのサーゼクスの言葉が真実なら、それはまさにこの世界に大きな危機が迫っていることになるのだろうか。ダイスケはイッセーがドライグに問いかけるときのように己の中のゴジラに問うが、やはり何の返事も無かった。

 ただ、これが初めてというわけではない。ダイスケは自分の身に宿るものの正体を確かめる為にすでに何度かコミニュケーションを図っていたが、ようやく反応があったのはエビラを倒す為に熱線を剣の形に固めた時なのだ。

 

「その可能性も十分にあり得るな。俺も独自のルートでおかしい動きをしている奴らの存在を感知しているし……だからさ、それに対抗するためにも和平でいいだろ?」

 

「え、そんなあっさり……?」

 

 そのイッセーの小さな呟きは、おそらく各組織のトップの下についているこの場にいる者すべての心の代弁だ。

 イッセーの隣のリアスも、さらにその隣のソーナも相当驚いている。なにせ油断のできない上に何をたくらんでいるかわからない人物と思っていたアザゼルが、あっさりとこれまで敵対してきた相手と手を組もうとしているのだから。

 

「私も元々悪魔側とグリゴリに和平を持ちかける予定でした。このままこれ以上敵対関係を続けていても、害にしかならない。天使の長である私が言うのは本来憚られるべきことなのでしょうが……戦争の大本である神と魔王は消滅したのですからね」

 

「ハッ! 堅物で有名なミカエルさまが言うようになったね。あれほど神、神、神の神至上主義だったのにな」

 

「……失ったものは大きい。ですが、いないものをいつまでも求めても仕方がありません。迷える子羊であるか弱き人間たちを導くのが我らの使命。神の子らをこれからも見守り、先導していくことこそ最優先だ、と私たちセラフのメンバーの意見も一致しています」

 

「おいおい、今の発言は()()()ぜ? ……と思ったが、『システム』はおまえが受け継いだんだったな。いい世界になったもんだ。俺らが()()()頃とはまるで違う」

 

 天使と堕天使の長の意見は同じであった。そして注目を一身に集める魔王が表明する。

 

「我ら悪魔も同じだ。魔王なくとも種を存続するため、悪魔も先に進まねばならない。戦争は我らも望むべきものではない。そう、次の戦争が起きれば悪魔は必ず滅ぶ」

 

 各代表の意志はこれで明言され、確定された。

 そのあとは話がとんとん拍子に進んでいく。まるで最初からこうなる予定であったかのように。だが、結局のところどこも疲れていたのだ。

 一度始めた争いはどこかで決着を付けなければならないが、先に自分が辞めようとしたら相手はそこに付け込んでくる。だから第一次世界大戦も第二次世界大戦もは泥沼化し、総力戦になった。

 現代においてはそうなることはもうないといわれているが、結局のところ一度始まった争いのほとんどは完全な収束に至っていないのだ。

 その点、この三大勢力の争いに関しては運が良かった。何せ各勢力のトップが共にリベラルだった。そうである事が至上という訳ではないが、落とし処が解っている者達だったからよかったのだ。

 すでに今後の各陣営の対応だの、勢力図の変化ついてのこと等を粗方話し終え、

 

「――と、こんなところだろうか」

 

 というサーゼクスの一言で一気に場の空気の緊張が緩む。一通りの話は終えたらしい。

 そして今日より前にすでに位置でミカエルに会っていたというイッセーが、一度会ったときに取り付けた約束をミカエルが実行する形でミカエルに問い質す。

 

「なんでアーシアを追放したんですか?」

 

 他の者からしたらなぜいまさらその話を?と思っただろうが、これはずっとイッセーの中で納得できずにいたことだった。だからあえて、そして二度と来ないであろう機会である今訊いたのだ。

 彼女の人となりは非常によくできていて、誰よりも優しく敬虔な信徒だった。しかし、神にかまともに運用できなかったこの世界を支える『システム』は、燭天使四柱が扱うには荷が重かった。だからこそ、木場の『双覇の聖魔剣《ソード・オブ・ビトレイヤー》』のように混ざるはずの無い聖と魔が融合した神器が生まれたり、神が生み出したシステムであるのに『聖女の微笑み《トワイライト・ヒーリング》』が悪魔や堕天使を分け隔てなく癒したりしてしまう。

 それが明るみになればただでさえ不安定な『システム』で成り立つこの世界は崩壊する。だから、多を生かすために小であるアーシアを切り捨てざるを得なかった。ほんの少しでも綻びを見せれば、必ず誰かがバルパーのように神の死という結論にたどりつき、世界人口の半分を占める聖書の神を信じる者たちの世界は崩壊し、人間社会は滅びるだろう。

 だからミカエルは異端としてアーシアと神の死を知ったゼノヴィアを切り捨て、そして今ここで彼女たちに頭を下げた。彼女たちも彼女たちですでにこの件に関して追放されたからこそ今があると言って決着をつけていた。

 だが、たとえここでこの件が落とし処を見つけたとはいっても看過できないことがある。

 

「俺のところの部下がそこの娘を騙して殺そうとしたらしいな。その報告も受けている」

 

 レイナーレの事だ。

 あの一件はダイスケがしっちゃかめっちゃかにしたのが功を奏してアーシアの命が絶たれるという展開は回避できた。

 

「そう、アーシアは堕天使に殺されかけた! 俺は実際に殺されたし、ダイスケまでもだ。それにゼノヴィアについてもコカビエルが暴走したのが原因みたいなものだろ!」

 

 同じ悪魔であるリアスで考えれば、もともと彼女は堕天使に対していい印象は抱いていなかった。それは彼らが敵だと教わってきたからだ。だが、イッセーは違う。堕天使からの害悪を実際に受け、その結果親しいものは命を奪われかけた上に自分の生命も一度立たれた。あまつさえ、自分の初恋を自身の手で終わらせ、初恋の相手を殺す結果になった。

 故に、イッセーの堕天使に対する悪感情は生粋の悪魔であるリアス以上になった。だが、アザゼルは決して謝らない。

 

「堕天使が将来害になるかもしれない神器所有者を殺すのは組織としては当然だ。俺も黙認している。神器ってのは感情や想い一つでとんでもない悪影響を世界に及ぼすかもしれないからな」

 

「でもおかげで俺は悪魔だ」

 

「悪魔になったことが不満か? 意図せずとはいえお前が選んだ選択は正しかったように見えるが?」

 

「それは……」

 

 結果論だ、と言いたくてもイッセーには言い出せなかった。

 主として巡り合ったリアスは、ライザーという例を考えれば最高の主人だ。仲間にも恵まれていると思う。悪魔にならなければこんな出会いは絶対になかった。

 それはアーシアやゼノヴィアと同じ。それでも納得できないのは彼女たちと違ってそれまで普通の人間だったからなのだろうか、やはりイッセーには納得できなかった。

 

「俺からすれば世界の安定の為にやったことだ。詫びの言葉は絶対に言わない。まあ、今更言ったとしても嫌味にしか聞こえないだろうからな。まあ何だ、その代りと言っちゃなんだが別の形で穴埋めはさせて貰う」

 

「……別の形?」

 

 アザゼルが意図するところが見えないが、イッセーが理解するより先に話が進んでいく。

 

「さて、そろそろ俺たち以外の世界に影響及ぼしそうな奴らへ意見を聞こうか。まずはヴァーリ、おまえは世界をどうしたい?」

 

「俺は強い奴と戦えればいいさ」

 

 即答だった。

 出会ってまだ数回だが、もう彼がバトルジャンキーだという印象は覆らないだろう。ただ、ダイスケには不安があった。「強い奴と戦えればいい」というのは聞いた時にはそれで満足でそれ以上何も望まないのだという印象を与える。だがそれ以外に興味がなく、世の中がどうなろうが知ったことではないというようにも解釈できるのではないかと思うのだ。

 

「相変わらずだな、お前は……。お前はどうだ、義人?」

 

「俺にはただ、拾って貰った貴方への恩義があるだけです」

 

 義人の回答にアザゼルは肩をすくめる。

 

「じゃあ、赤龍帝、おまえはどうだ?」

 

 アザゼルは次にイッセーに問いかける。するとイッセーは頬をかきながら答えた。

 

「……正直よくわからないんです。なんか、小難しいことばかりで頭が混乱してます。ただでさえ今は後輩悪魔の面倒を見るのに必死なのに、世界がどうこう言われてもなんというか……実感がわきません」

 

「だが、おまえは世界を動かすだけの力を秘めた者の一人だ。選択を決めないと俺を含め、各勢力の上に立っている奴らが動きづらくなるんだよ」

 

 と言われても、イッセーは困っていた。そこで、アザゼルは告げる。

 

「では恐ろしいほどに噛み砕いて説明してやろう。俺らが戦争をおっはじめたらお前も悪魔の重要戦力として表舞台に立つ必要が出てくる。そうなれば愛しのリアス・グレモリーを抱く暇なんかなくなるぞ」

 

「――ッ!?」

 

「和平を結べば戦争する必要もなくなる。そうしたら重要になってくるは種の存続と繁栄、つまりセ○クスだだ。――それこそ毎日リアス・グレモリーとセック○しまくって子作りに励むことができるかもしれない。どうだ、わかりやすいだろう?さあ、○ックスなしの戦争とセッ○ス大歓迎の和平、どっちを選ぶ?」

 

 と言われて、イッセーは即座に叫んだ。

 

「ぜひ、和平でひとつお願いします! ええ、平和いいですよね! 平和が一番、最高です! 部長とエッチしたいです、しまくりたいです!」

 

 隣のリアスが顔を真っ赤にさせているのにも気づかずにイッセーは力説する。その兄のサーゼクスがいるのもお構いなしだ。もっともサーゼクス本人は若干苦笑するのみで全く怒っていない。つまり兄公認という事か。

 

「……イッセーくん、サーゼクス様がいらっしゃるのを忘れていないかい?」

 

 木場がやれやれといった様子で小さく忠告してくると、ようやくイッセーは自分が何を言っているのか気が付いた。必死になってどう弁明しようか焦っているせいか、サーゼクスが怒るどころか愉快そうにしていることも見えていない。

 

「若いっていいねェ、己の欲望に素直でいいじゃねぇか。そういうのが一番信頼できるってモンだ。……さてと、怪獣王。先の話を聞いた上でお前さんはどうしたい?」

 

「……俺の神器、じゃなくて獣具が目覚めたのはレイナーレがイッセーを殺そうとしていたからだ。アーシアを助けようって思ったのだってイッセーが大切に想っている娘だったからだ。だから……」

 

 関わってからほんの数か月しか経っていない世界のこと。それをあんな形とはいえはっきりと和平がいいという意思を表すことができたイッセーはすごいとダイスケは思う。自分はこの力で何を成すのか、今まで身にかかる火の粉を払うことしか考えずに力を行使してきたダイスケには考え辛いことだろう。

 だが、話しながら心の中を整理していくことでようやく一筋の光明が見えてきた。

 

「まず、俺は和平そのものには賛成です。そうすれば、俺の大切な人たちが酷い目に遭うっていうこともないだろうから。でも、それを乱す奴がいるっていうんなら……いや、そういう奴らは実際にいる。おれは、そんな奴らをどんな奴だろうが叩き潰します。俺の大切なものを壊そうとした奴には死んでも死にきれないくらいの後悔をしてもらう。どこまでやれるのか、どこまでやらなきゃいけないのかはわからない。けど……そのためなら俺は、獣になる。もう力を抑えようとは思わない」

 

 それが考えに考え抜いたダイスケの「やりたいこと」だった。我ながらよくも頭の悪い答えだと思う。ただ、これは間違いなくダイスケの本心だった。

 

「そこまではっきり言えるんなら上等上等。さて、聞きたいことは聞けたし、次はサーゼクスの方から出ていた議題でいいか?」

 

「それで頼む。先日のコカビエル襲撃の際に協力してくれたこちらのミコト嬢に関してだが―――」

 

 だがサーゼクスの話の途中、彼らはある感覚に囚われる。その感覚の影響を受けた一人であるイッセーはなんなのかすぐにわかった。

 それはもう感じることに慣れてしまった、ギャスパーが時間を止めた時の感覚だった。




 はい、というわけでVS26でした。
 仕事中にも一生懸命考えてた設定、「そりゃねーよ」とか「は? それで練りに練ってるの?」みたいな反応がきたら多分半年は更新できないな……。それでも感想は待ってます。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS27 男嫌い+高戦闘力=超危険

 前回の感想返しで「先週中に投稿できるかも」と言っていましたが、当初の内容を改訂しないといけないことになったので時間がかかりました。
 その分、いつもより文章量多めにしたから許してね。


「おっ、赤龍帝のお目覚めだ。」

 

 イッセーが気がついて最初に聞いたのが、アザゼルのその一言だった。辺りを見渡すと、周囲の様子がやや慌ただしくなっていることに気づく。

 見ればミカエルが窓から外の様子を確認し、サーゼクス達悪魔のトップ陣営も真剣な面持ちで何かの話をしている。

 

「な、何かあったんですか?」

 

 さらに周囲を見渡せば、止まっている者とそうでない者がいることがわかる。

 まず先に言ったとおり各陣営のトップ陣、そしてヴァーリは動いている。だが、アーシア、朱乃、小猫、ソーナたちは停止していた。

 

「私の身内の中で動けるのは私とイッセー、祐斗にゼノヴィア、それからダイスケとミコトだけのようね」

 

 リアスが動いている様子を確認し、ひとまずイッセーは安堵する。だが、イッセーには朱乃やソーナまでもが止まっているという事実に驚かざるをえない。

 

「ダイスケとミコトは言わずもがなとして、イッセーには赤龍帝、祐斗は禁手に至っている上にイレギュラーな聖魔剣を有しているから無事だったみたいね。ゼノヴィアはさしずめ時間停止の直前になってデュランダルを発動させた、といったところかしら」

 

 見れば、ゼノヴィアがデュランダルを普段仕舞っている空間のひずみに格納しているところだ。

 

「私はギャスパーの特訓中に何度も時間停止をくらっていたからな。その予兆の感覚は体で思えた。直前にデュランダルを出せば防げるかもしれないと思ったんだが、うまくいってよかった」

 

「お前は相変わらず本能で生きてるのな」

 

「褒めるな、ダイスケ。そう簡単に私は靡かんぞ?」

 

「褒めてねぇよ、この脳筋」

 

 ゼノヴィアの野性っぷりにイッセーは驚くが、それよりも重要なことがある。なぜ自分たちは時間停止を食らったのか。そして、現在の状況がどういうものなのかということだ。

 

「なあダイスケ、何がどうなってるんだよ? っていうか、どうして時間が止まってるんだ?」

 

「外見りゃわかるよ」

 

 言われるがまま、イッセーは窓から外を覗こうとする。が、突然目の前に閃光が広がる。

 

「な、なんだ!?」

 

「テロだよ。現在絶賛攻撃されてる最中ってとこだ」

 

 アザゼルの説明に、イッセーは我が耳を疑った。

 

「て、て、て、テロオオオォォォ!? 世界がどうのこうのっていう大事な会議の真っ最中に!? なんで!?」

 

「大事な会議の真っ最中だからさ。いつの時代も和平の動きがあればそれに反対する連中がいるんだよ。人間の歴史もそうだろ?」

 

「ああ、前見たドキュメンタリーでやってたっけ。是が非でも玉音放送を止めようとしてた連中がいたって。で、あいつらなんなんすか? なんか、黒いローブみたいなの着込んでるけど」

 

 ダイスケの問いに、アザゼルが不敵な笑みを浮かべて答える。

 

「魔法使いって連中さ。悪魔の魔力体系をかのマーリン・アンブロジウスが人間向けに再構築した魔力技術を使役する連中さ。言っておくが、三十過ぎた童貞軍団って意味じゃねぇぞ」

 

「この校舎攻撃されてるみたいだけど、そっちの方は?」

 

「それについては心配しなくていい。俺とミカエルとサーゼクスが一緒に張った超強力な結界の中にいるわけだからな。外には出られんが、破られることはないさ。まあ、相手は中級悪魔クラスの攻撃を放っている訳だがな」

 

「素の俺より上の連中がわんさかいるのか……」

 

 アザゼルの説明はイッセーにとって非常にわかりやすいものだった。だが、わからない点がもう一つ。

 

「じゃ、じゃあ、時間を停止させたっぽいのは?」

 

「連中の内の誰かに、力を譲渡させる神器を持ってる奴がいたんだろう。それで例のハーフヴァンパイアを強制的に一時的な禁手状態にしたんだろうぜ。まあ、俺たちを止めるには出力不足だったがな」

 

「ギャスパーがテロリスト連中に武器にされているってことね。どうやって私の下僕の情報が漏れたのかしら……。しかも、よりにもよってこんな形で使われるなんて!!! これほどの侮辱はないわ!!!!」

 

 リアスが怒りのあまり紅いオーラをほとばしらせる。自分のかわいい下僕がよりにもよってテロリストに利用されているのだから、リアスの怒りはもっともだった。

 

「しかし、外で待機していた連中を悉く停めちまうとはな。お前さんの妹の眷属は末恐ろしいなぁ、おい」

 

 振られたサーゼクスが苦笑いするのを見ると、アザゼルは右手を窓の外へ向けてそっとかざす。すると、幾百幾千もの光の槍が現れ、瞬く間に魔術師たちを貫き、薙ぎ払っていく。その後にはあっという間に校庭に魔術師たちの死体の山が築かれる。

 目の前のスプラッタな光景に思わず吐き気を催してしまうイッセーだったが、間髪入れずに魔方陣がいくつも展開し、また何十人もの魔術師が現れた。

 

「さっきからこれの繰り返しだよ。この学園は結界に囲まれているっていうのに転送用魔方陣を使って外から戦力を逐次投入するときたもんだ。こうやって時間稼ぎをして俺たちを足止めし、時間をかけて強力にした停止結界で全員を止めて一網打尽……っていうのが奴らの算段だろうな。しかし、タイミングの良さといい、テロの方法といい、こっちの内情に詳しい奴がいるのかもな。下手すりゃ、案外近いところに内通者がいるのかもしれん」

 

 その可能性は大いにあり得た。第一、結界に囲まれた中に転移してきている時点でおかしいのだ。この会議のセッティングに関わったものの中に裏切り者がいる可能性は大いにある。

 

「学園から脱出ってのは無し?」

 

 繰り返される現状にいら立ちを覚えるダイスケだが、アザゼルはそれを止める。

 

「やめとけ。外へ出るには学園全体を覆う結界を解かないと無理だ。だが、それをすると人間界に被害が出るかもしれん。俺としてはここで粘って、敵の親玉が痺れを切らして出てくるのを待ちたいところなんだ。そうすれば敵の親玉の顔も割れるし、事はここの結界内で済ませられるからな」

 

「だが、それの下調べの為には私たち首脳陣は動けない。だが、まずは旧校舎からギャスパー君を救出することが先決だね。現在最大の懸案事項を取り除けば、状況は我々の側に好転する」

 

 サーゼクスの提案にリアスが一歩前に出る。

 

「ギャスパーの救出には私が行きます。旧校舎においてある未使用の戦車(ルーク)の駒でキャスリングを行えば、敵に気取られることなくギャスパーの元へ行けます」

 

 キャスリングとは、チェスにおける駒の移動法の一つである。もしも(キング)が危機に陥った時、戦車(ルーク)が身代わりとなって位置を交換することができるのだ。

 

「なるほど、それなら確実だね。だが、一人では危険だ。グレイフィア、キャスリングを私の魔力方式で複数人転移はできるかな?」

 

「時間がないので簡易式で、それも戦車の駒がある部屋の近くへのランダム転送しかできませんが……お嬢様とあと一人ならば可能です。」

 

「サーゼクス様、俺が行きます!!」

 

 イッセーが名乗りを上げる。本来なら木場あたりが適任なのだろうが、今回はギャスパーが関わっている。眷属の中ではおそらく、一番リアスとギャスパーのことを想っているはずだ。

 

「なら兵藤君、リアスを頼む。では連中の注意を前面に集中させるための陽動、そして本陣の防衛が必要だが――」

 

「サーゼクス君、援軍ならもう呼んであるよー。ちょっと来るのに時間がかかりそうだけど」

 

 それまで発言がリアスの説明の補足にとどまっていたミコトが手を挙げる。

 

「あてがあるのですか? しかしどうやって外に通信を? ここの結界には通信阻害の機能もあるはずだが」

 

「大丈夫、大丈夫。ちょっとテレパシー使っただけ。受取手も超能力者だから受信は完璧だよ」

 

「おいおい、超能力者? よりにもよって神器以上に摩訶不思議な能力が出てくるのかよ。で、誰なんだよ、その援軍っていうのは」

 

 驚くアザゼルの問いに、ミコトはいつもののほほんとした表情で答える。

 

「日本せーふの『宝東会』だよ。神道関係と私の獣具関係で協力関係だから」

 

「おい、マジか!? いっぺん連中の旧世界の技術っていうの間近で見てみたかったんだよ!」

 

 驚喜するアザゼルに、ダイスケが問う。

 

「『ほーとーかい』……って、なに? って言うか、旧世界の技術って?」

 

「連中はな、お前みたいな獣転人のように、()()()()()()()()()()宿()()()()()()()、転生者で構成された組織だ。対怪獣戦闘の技術と経験を持ち、いずれ起きる対獣転人戦闘や異能災害に対する異能に頼らない超科学戦闘部隊を有している。この国を守る排他的な異能集団の『五代宗家』とも連携しているんだぜ」

 

「でもね、あの人たちが一番警戒してるのってダイスケのゴジラなんだよね。中にはゴジラに殺された人の転生者もいるから。まぁ、私のモスラは人間に協力的だったから、むこうも私を受け入れてくれたんだけど」

 

「ミコトさん!? よくもそんな連中を援軍に呼んだね!? 俺を狙う組織が一つ増えたよ!!」

 

 よりにもよって援軍が自分に因縁のある転生者だらけの組織だったと聞いて頭を抱えるダイスケ。ただでさえ悪質な赤イ竹というテロリストどもがいるのに、今度は日本政府と繋がっている組織である。

 

「ご、ごめんね! でも、他に手を貸してくれそうな所知らないし……」

 

「いや、お前さんはよくやってくれたよ。コイツのことは事が済み次第隠すかなんかして誤魔化すほかないだろうな」

 

 狼狽えるミコトにアザゼルがフォローを入れる。

 時間さえ持たせれば手が足りることとなれば、あと欲しいのは今使える手数だ。そこでイッセーが一つのアイデアを思い浮かぶ。

 

「そうだ! 俺の力を一旦高めて、それを動けないみんなに譲渡しよう! そうすれば今この場で戦える頭数が増える! よし、早速――」

 

「いや、そいつは止めとけ。」

 

 即座にプランを実行しようとしたイッセーをアザゼルが止めた。

 

「な、なんでだよ?」

 

「今のお前程度の力を倍加して譲渡しようとしたら、お前んとこの眷属仲間の数だとそうとう時間がかかるぞ。だから今は目の前の戦闘の為に温存しておけ。」

 

「お、おう……。」

 

 流石は長年独自に神器を研究していただけのことはある、ということか。そうなるとどうしても彼が自分達を見てくれる詩になってくれればどれほどよいことか、とイッセーは思ってしまう。 

 常々イッセーは自分たちには全員に力の使い方を教えてくれる人物が必要なのではと感じていた。幸いなことにイッセーにはドライグがついているので神器の使い道に困るという事は無い。だがそんなことができるのは今のところ赤龍帝の籠手のみで、獣具の中に封じられている怪獣は宿主の問いかけに答えないし眷属仲間が有する神器も宿主の言葉に受け答えするものではない。それに加えてギャスパーのこともある。今はイッセー達が訓練の相手をしてはいるものの、これが効果的なのかもわかっていない方法で訓練しているのが現状だ。

 しかし、先日のアザゼルのアドバイスは的確だった。先ほどもアザゼルが忠告していなければイッセーは戦いの前に余計な力を使うところだった。

 そんなアザゼルが自分たちの師になってくれればどれほど助かることか。だが彼は他種族、それもその種族の長。和平が成ったとはいえ、そんな人物に教えを乞う暇など無いだろう。故にイッセーはそんな淡い希望をすぐに打ち捨てた。

 

「まずは先んじてギャスパー・ヴラディの救出に向かう。メンバーはリアスとイッセー君、でいいね。そこでだが――」

 

 サーゼクスがイッセーを一瞥してからアザゼルにあることを尋ねている。

 

「アザゼル、噂では君は神器を一定時間自由に扱えるようにできる研究もしているときいたが……赤龍帝の力も可能だろうか?」

 

「……」

 

 しばしの間アザゼルは黙っていたが、ややあって懐から二つのブレスレッドらしきものを取り出す。

 

「おい、赤龍帝の」

 

「ひょ、兵藤一誠だ」

 

「なら兵藤一誠、これを持って行け」

 

 アザゼルがブレスレッドを投げ渡すと、イッセーは慌ててそれを受け取る。見ればその内側には悪魔の文字とも違う文字が呪文のように刻まれている。

 

「そいつは神器の力を程よく調整する装置だ。一つは例のハーフヴァンパイアに、もう一つはお前が使え。お前、赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)の力をまだ制御できていないんだろう。それさえあれば代価無しに一時的な禁手に至れる上に、リアス・グレモリーが施したお前の兵士の駒の封印やらもろもろも適度な量の規模で使えるようになる」

 

「ま、マジで!?」

 

「ああ。ただし、それを使うのはマジでピンチになった時だけだ。体力の消費までノーリスクってわけじゃない。いいか、お前はまだ人間に毛が生えた程度の悪魔にすぎん。獣具みたいに基礎体力や再生力まで強制的にブーストを掛けられてるわけでもない。まだまだお前は上位の者に食い下がれる力もないってことを覚えておけ。じゃなきゃあっという間に死ぬぞ」

 

「わ、わかってるよ」

 

 事実それはイッセーも理解していたことだが、改めて面と向かって言われたことで心が抉られ、身に染みて納得していた。 

 自分が頼りにされるのも、自分がすごいのではなくドライグがすごいだけ。わかっていたことだが、再認識するのは辛かった。だからこそ今腕に着けた腕輪の存在が少しだけ喜ばしい。――こんな自分でもリアスの役に立てるかもしれないのだから。

 そんな中、グレイフィアが術式の構成をし、着々と転送への準備を済ませていく。そして白龍皇も動き出す準備をしていた。

 

「おい、ヴァーリ、義人」

 

「なんだ、アザゼル」

 

「はい」

 

「まずお前たちが最初に出ていけ。白龍皇が動いたとなったら連中も慌てだす。そしたら何らかの動きを誘発させられる」

 

「だが俺がいることはテロリスト共も承知の上だろう」

 

「しかしキャスリングで自分たちの中央に赤龍帝が来るなんてことは想定はできんさ。外と内に二天龍がいて、さらに他にも特記戦力がいるとなったらお前が出れば効果は出る。さらに宝東会の増援が来るまでの時間が稼げれば恩の字だ」

 

「援護を待つよりも、旧校舎にいるハーフヴァンパイアをテロリストごと吹き飛ばした方が早いんじゃないかな?」

 

 自分の下僕をテロリストと一緒くたに殺すと言われたリアスは、それをさらっと言ってのけるヴァーリに鋭い視線を向ける。それを察知したのか、アザゼルはヴァーリを窘めた。

 

「確かに早いが、これから和平を結ぶってのにそれはねぇだろ。最悪の場合はそうしなきゃならんかもだが、魔王の身内を助けられるってんなら後々ためになるってもんだ。つーわけで、まずヴァーリが先行して敵を攪乱。頃合を見計らって赤龍帝がハーフヴァンパイアを確保し、それを受けて敵の前線に獣具持ちも含めて全面攻勢をかけて一気にたたみかける。手こずっても援軍の到着するから持久戦にも持ち込める。これでいくぞ」

 

 めんどくさそうにヴァーリはため息を吐くが、その次の瞬間には彼は純白の鎧を身に纏う。義人の方は手に銀色のランチャーを出現させていた。

 そして二人はあっという間にミカエルが開けた僅かな結界の隙間と窓をくぐって外へと飛び出し、外にいる魔術師たちを蹂躙し始めた。

 

「すげぇ……」

 

 その白龍皇と対になるイッセーは、その圧倒的強さにただただ圧倒されていた。斃されても斃されてもわいてくる魔術師たちも脅威だったが、それ以上にヴァーリという男の底知れない強さに畏怖を感じている。

 しかもイッセーと違い、ヴァーリはまるで呼吸するかのように禁手に至っている。そして、素のイッセー以上の力を持つ魔術師たちを苦も無く爆殺していくさまは、これほどわかりやすいものは無いと言っていい実力の差。

 そしてその実力はミカエルにさえ感嘆の吐息を吐かせるさせるものであった。

 

「白い龍の力が圧倒的なのか、はたまたヴァーリという少年自身のポテンシャル故か……それにしてもアザゼル、よくもここまでの神滅具所有者を育てたものです。ですが一体何のために?」

 

「そうだ。君自身が和平を望んでいるというのは信じよう。しかし先ほどの神器関連技術といい神器と獣具に関する知識といい、いくら君が神器に関してのギークを自認していたとしてもなぜここまでの準備をしているのだ」

 

 ミカエルとサーゼクスの言う通り、いかに古代ローマの警句に「汝平和を欲さば、戦への備えをせよ」とあるはいっても、それは勢力均衡による平和状態の維持であって世界を滅ぼす程の力を得よという訳ではない。今暴れている二天龍の片割れは間違いなくこの世の中の数少ない強者と呼べる域も一歩前にある上に、それを飛躍的な進歩をもたらす技術を有するアザゼルの技術力はかえって平和を求める者達に不信感を抱かせてしまう。

 そんな疑惑を抱く二柱に対し、アザゼルはこう告げた。

 

「俺は単に備えていただけさ」

 

 そのアザゼルの答えを聞いたミカエルとサーゼクスはさらに疑問を抱く。それを察知したのかすぐさま次の言葉を継ぎ足していく。

 

「いやいや、もちろんお前らに対してっていうわけじゃねェ。もちろん他の神話体系のことでもない。―――『禍の団(カオス・ブリゲード)』って連中さ」

 

「……カオス、ブリゲード?」

 

 その場にいた者のほとんどがその単語を知らないらしく、サーゼクスやミカエルまでもが知らないという様子で眉根を寄せている。

 

「組織名と背景が判明したのはつい最近だ。以前からウチの副総督であるシェムハザがおかしな連中に目を付けてはいたんだが、そいつらはどうも三大勢力内の危険分子やら不満分子を集めているらしい。その中には禁手に至った神器持ちや神滅具持ちまでいやがるって情報もある」

 

「その者達の目的は?」

 

 ミカエルが尋ねる。

 

「単純さ。破壊と混乱、そして恐怖。気に食わない奴は皆殺しっていう、非常にわかりやすくて最大級に最悪なテロリストどもだよ。そしてそいつらをまとめ上げているのが……二天龍以上に強大で凶悪なドラゴンだ」

 

 神をも殺す龍以上に強大な存在。それはこの世界を知る者からすれば最も敵に回したくない存在だ。それを相手に戦わざるを得なくなったサーゼクスは険しい表情を浮かべる。

 

「……そうか、『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』のオーフィス。彼が動いたのか」

 

 その言葉を反芻し、誰もが胸に氷柱を突き刺されたかのような表情をする中、事情を知らないイッセーがリアスに尋ねる。

 

「あの、オーフィスって一体……?」

 

 「この世界ができた時から常に最強の座に座り続けている者よ。その二つ名の通り、無限の力を持ってるの。だから基本的にこの世界には彼に対抗できる者はいないのよ。かの死んだ神ですら手を出さなかったというわ」

 

 そのリアスの説明に、どうして皆がその名を聞いただけで畏怖しているのかがイッセーには理解できた。そして恐らく、かつてヴァーリが言っていた「この世界の頂点」がそれなのだという事もだ。

 しかし、それを受け入れようとする前に部屋の中に突然見慣れない魔方陣が浮かび上がり、聞き慣れない声が聞こえてくる。

 

『そう、そのオーフィスが禍の団のトップです』

 

 その声が響いた瞬間、サーゼクスはすべてを理解した。

 

「そうか、そう来るか! 今回の襲撃の首謀者は――グレイフィア、すぐにリアスたちを転送しろ!!」

 

「承りました。さぁ、お嬢様方!」

 

「ちょっと待って! 何が何だか―――」

 

 狼狽するリアスをよそに、グレイフィアは陣の中へ四人を押し込んですぐさま転送術式を実行させた。

 陣から溢れる魔力光の狭間から、丁度入れ替わるようなタイミングでもう一つの魔方陣から現れる人影が見えたが、その顔を認識する前にリアスたちは旧校舎へ飛ばされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪魔を呼び出す、あるいは現出する魔方陣は悪魔によってそれぞれ異なる。例えるならグレモリーにはグレモリーの、シトリーにはシトリーの家紋ともいうべき魔方陣がある。

 しかし、その陣は木場にとっては見たことがない紋様だった。公爵家次期当主の騎士である木場は72の主だった名家の魔法陣はすべて諳んじているし、メフィスト・フィレイス、ルキフグスといった番外悪魔(エクストラ・デーモン)の家のものも知っている。

 だが、その木場が知らない魔法陣は確かに目の前に存在し、機能している。

 

「レヴィアタンの魔法陣……!」

 

 サーゼクスの一言で、木場はさらに混乱する。なぜなら、木場の知っているレヴィアタンの陣は目の前のものとは全く違うし、レヴィアタン本人は目の前にいるのだ。

 だが、意外にもゼノヴィアがこの木場の混乱を解くことになる。

 

「以前、これと同じものをヴァチカンの資料で見たことがある。これは、旧レヴィアタンの召喚陣だ」

 

 ならば、現行政権が収める悪魔社会しか知らない木場が知らないのは当然だった。

 かつて、冥界は二つに分かれての内乱に包まれていた。三竦みの戦争の傷跡を無視してでも他勢力との雌雄を決すべしとする一派と、それを否として種族の安定と復活に重点を置くべきとする勢力との内乱だ。

 結果、前者は《旧魔王勢力》、後者は《現魔王勢力》と呼ばれる状態に落ち着いた。本来なら、旧勢力は駆逐されるのが常である。が、現魔王たちはそれを是とせず、あくまで種の保存を目的であるとして旧体制の駆逐を是としなかった。当然ながら、旧魔王たちに政治的実権は与えられず、常に飼い殺しの状態が続いた。

 だが、禍の団に加担することによって、その組織力と首魁であるオーフィスの助力を得てついに現行政権に対して反旗を翻したのだ。そして今回の会議に各勢力のトップが揃うことを察知して、これを纏めて抹殺し、政権を簒奪すべくクーデターを敢行した。

 その尖兵として現れたのは前レヴィアタンの血を引く、胸元が大きくあき、深いスリットが入ったドレスを身に纏った、それこそイッセーが見たら鼻血を垂らして喜びそうな美女、カテレア・レヴィアタンがそこに現れた。

 

「カテレア、なぜ君たちは禍の団と?」

 

「サーゼクス、貴方達こそなぜ天使、堕天使と組もうとするのです? 私たちは先代魔王を失いましたが、同時に最大の障害である神も身罷ったのです。これを好機としてこの世界を我らの手で革新すればよいものを……」

 

 カテレアは心底落胆したかのような表情を見せる。

 

「私たちは禍の団と組むことによって、強大な戦力を得ることができました。これを元に、我ら正統なる魔王が率いる悪魔が世界を手に入れ再構築するのです!!」

 

 その理想を語る目は、狂気にも激情にも染まっていない正気の瞳だった。自分たちが世界の覇権を握りうると、本気で考えているのだ。

 

「しかし、おたくらのトップであるオーフィスはそこまで考えているのかね? 奴さんはそこまでこの世の中には興味のない奴だったはずだが?」

 

 アザゼルの問いにもカテレアは自己陶酔するかのように蕩々と答える。

 

「かの者は純粋な力の象徴。並み居る強者達を纏め、惹きつけるための役割です。私達が世界を統べた後は彼にシンボルになってもらうだけ。彼には彼の別の目的がある」

 

「なるほど、お互いがお互いを利用……ってやつかい。だが、奴さんはお前さんらの思うように動くタマかな?」

 

「アザゼル、あなたの心配はご無用です。彼の為に新世界の神という席を開けています。統治するのは私たちが行いますのでご安心を」

 

 そして、外にいる魔術師達はその賛同者だということだ。

 

「カテレアちゃん、どうして!?」

 

 セラフォルーは悲しげに叫び問うが、カテレアの表情は憎しみに歪む。

 

「よくも、私からレヴィアタンの名を奪っておいてぬけぬけと……! 私は正当なる血統によりレヴィアタンの名を継ぐ正当性を有していたというのに!! 私こそが魔王に相応しかった!!!」

 

「わ、私は……!」

 

「ですがセラフォルー。もうそのことで貴女が思い悩むことはありません。今日、この場であなた達を皆殺しにしてその懊悩も永久の冥府の闇の中に消えるのですから。……さあ、貴女たちの時代の終焉です」

 

 その言葉で、首脳陣の表情に影がかかる。

 だが――

 

「――クッックックック、……アーハッハッハッハッハ!!!!」

 

 アザゼルが愉快そうに嗤う。まるで出来の悪いジョークを聞いたかのようなリアクションだった。

 想定していないリアクションに、カテレアの顔に驚きの色が加わる。だが、それとは反対にアザゼルの顔は悪童のような邪悪な笑みが浮かんでいた。

 

「……何が可笑しいのです?」

 

「可笑しいさ。旧体制にしがみつこうとする連中が、よりにもよって世界の変革を謳うんだからよ。それもその大義名分が『血筋故に』と来たもんだ。事が終わった後の他の神話大系に対する姿勢の如何も、人間に対する戦後処理のことも何も無し。これを笑わずに何を笑えってんだ?」

 

「私たちに力を貸しているのはオーフィスだけではない!! 彼らの技術と我らの知識さえあればこの世のどこにも恐れる者はどこにもいなくなる! そして私たちは自分達の理想郷を創り上げる!

 

「……ああ、そうかい。それでも俺はお前らなんかにこの世界をどうこうされたくはねぇのさ。どうせならよ――俺と二人っきりのハルマゲドンと洒落こまないか?」

 

「いいでしょう。どうせ貴方も屠るつもりでした!!」

 

 カテレアの答えを聞いたアザゼルは片手を窓際に向けて光を放つ。重機が突っ込んだように破壊された壁の穴からアザゼルとカテレアが飛び出していく。

 そんな中、グレイフィアがそばにいたリリアに命令する。

 

「リリア。この混乱に乗じ、敵の陣形に穴を開けてきなさい。綻びを作ることで後々こちらが有利になります。貴女の実力なら出来ます。ここで普段男性恐怖症でまともに働けない分を挽回するのです」

 

「いやいやいやいや、グレイフィア様!? 流石にグレイフィア様の特訓を受けてはいますが、そんなおおそれたこと私には――」

 

「いいから逝ってきなさい!」

 

 字が違う気がするが、そう言ってリリアの首をつかんだグレイフィアは、外へと彼女を投擲する。

 

「いぃやぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!?」

 

 絶叫し、涙を流しながらリリアは放物線を描いて敵のど真ん中に放り投げられる。ボテ、と地面に転がったリリアは痛がりながら起き上がった。

 

「ちょ、グレイフィア様! なんてこと、を……」

 

 言いかけてリリアがフリーズする。今、自分がどこにいるのか。それは敵のど真ん中。そしてその敵を構成するのは魔法使い。そう、魔法使()()だ。ここで使()()を強調するのは、こう言う表現をするときは基本的に男性を示すからだ。

 身の回りは全員敵。いや、それ以上に男。見ず知らずの男達。それらが自分を敵意に満ちた目で見つめてくる。男性恐怖症のリリアがそんな中に放り込まれれば当然――

 

「い、イヤァァァァァァァ! 男ぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!」

 

 絶叫しながらの極大の魔力砲撃のプレゼント。それを連発しながら、そしてローリングしながら放ちまくっている。

 

「来ないで! 来ないで! 来ないでぇぇぇぇぇええええ!!!」

 

 リリアはそう叫ぶが、実際は魔法使い達は突然現れた危険物に困惑し、遁走している。これまで構築してきた前線があっという間に混乱を起こして崩壊し始めているのだ。

 

「……なにあれ」

 

 外の様子を見て呟くのはダイスケだ。今まで見たことのない彼女の一面を見て一番驚いているのはなにを隠そうダイスケである。

 そのダイスケの疑問にグレイフィアが答える。

 

「あの娘には私が戦闘訓練を施しました。これが教えれば教えるほどよく吸収しまして、調子に乗って鍛えたら、魔力だけなら準魔王クラスまで高めることに成功しました」

 

 なるほど、そのおかげで時間を止められた今でもこうして普通に彼女が活動できているのだろう。

 

「でもグレイフィアさん!? その結果、最悪の対男用キリングマシーンが出来上がってますけど!?」

 

「ええ、流石にあの調子でポンポン撃たれると彼女がスタミナ切れしてしまいますね。ダイスケ様、あの娘のフォローをお願いします」

 

 そう言ってぺこりとグレイフィアは頭を下げる。

 どうやら最初か自分を当てにしていたらしい。役職上、グレイフィアはサーゼクスのそばにいないといけない。多数の手駒が動けない間、ダイスケにも動いて貰う必要があり、その理由もいると考えたのだろう。

 

「……そんなことしなくても最初からやるつもりでしたよ。なにもこんなこと」

 

「だがいいのかい? 流石に誰か殺した経験はないのだろう」

 

 そのサーゼクスの問いは、「殺すことができるか?」という意味である。ダイスケはライザーの披露宴をぶち壊した時は誰も殺してはいない。先日の騒動の時も、殺したのはケルベロス二頭とエビラで、コカビエルもフリードも死んではいなかった。

 強いて殺した経験がある言うならレイナーレの件の時にドーナシークを殺めた時ぐらいだ。普通ならば他者の命を奪うことに関して人は強い罪悪感を感じ、回避しようとする。

 しかし、今のダイスケはそれに当て嵌まらない。

 

「行きますよ。もう堕天使一人殺してるんです。その後に数が増えようが一緒でしょう」

 

 その眼はもはや青春を謳歌する十代の少年のものではない。自ら守るべきと定めたものをどうあっても守ろうとする獣の目だ。

 ダイスケの心中にはすでに他者の命を奪うことに対する罪悪感は無い。たとえ自らは罪に塗れようとも、自分が大切に想う、また自分を受け入れてくれるごく少数の人々の平穏の為ならばいくらでも血に塗れよう。

 それがダイスケが今思う唯一のことだ。

 

「……白龍皇が敵を攪乱させているが、また正面に敵が殺到し始めている。木場君とゼノヴィア君はこちらを、ダイスケ君とミコト嬢たちはこの敵を側面の体育館側から攻撃してくれ。反対側はまだ攻撃がないが、こちらは天使陣営の動ける者たちに警戒してもらおう」

 

「わかりました。いけるな? ――ヒメ」

 

「――当然。この程度、物の数ではないわ」

 

「……なら一気に行くぞ。体育館に続く渡り廊下から一気に下に飛び降りる」

 

 一気に駆け出す二人。廊下の窓の向こうを見ると、大勢の魔術師たちが白龍皇一人に翻弄されている様がよく見える。既に木場とゼノヴィアが交戦に入ったのが見えたが、その魔術師たちの一部が廊下を走る二人を窓ガラス越しに見つけ攻撃を仕掛けてきた。

 魔法の銃撃によって、普段見慣れた光景である廊下が次々と割れたガラスであふれ、床や壁に焼け焦げた弾着痕が残っていく。幸い直撃は無かったが、降りかかるガラス片がダイスケの皮膚を少しずつ裂いていく。

 その傷も血を拭う前にあっという間に塞がってしまう。その事がダイスケに、自分が既に人の域を超えてしまっていることを思い知らせる。が、今はそれを嘆く暇も悔悛する余裕もない。籠手と足甲を装着すると、廊下の曲がり角の壁を一気に殴り抜ける。

 殴った勢いもそのままに、三階から一気に二人は地上むけて飛び降りる。その先には丁度驚いている魔術師がいたが、そのままダイスケは膝蹴りを顔面に浴びせて押し倒す。良くて脳挫傷、最悪なら頭蓋骨陥没に頚椎骨折、そして延髄へのダメージで即死だろう。

 しかし、ダイスケは斃した魔術師を一瞥することもなくすぐさま別の魔術師を襲う。どうやら魔術師というのは接近戦は不得手らしく、いかに中級悪魔並の力と言っても一度懐に飛び込めばこちらの思う壺だった。

 魔術師の一人の腹に籠手に着いた四本の爪を突き立てて、山嵐の要領で地面へと投げ倒す。そして、ちらりと後ろに見えた襲い掛かってくる魔術師に向けて熱弾を放つ。聞こえてきた悲鳴で致命傷を与えたことを確認すると、杖を振って攻撃しようとしてきた魔術師を引き抜いた腕からの熱線で胴体を蒸発させる。

 今度ははぐれエクソシスト達も使っていた光の剣で武装した魔術師たちが向かってくる。熱弾や熱線で対抗してもいいが、撃っている間の隙を狙われたくないのでダイスケは熱線剣を両手に構えた。

 斬りかかってくる者の中にはそれなりの力を持った剣を携えた者もいて、それらが一緒になってダイスケに剣を構えているのだ。そのうちの一人が一番槍とばかりに斬りかかってきたが、ダイスケはそれを受け止めるような動作はしなかった。

 ただ、真っ向から斬りかかってくる相手に向けて横薙ぎに一閃。

 すると熱線剣は魔術師が振った光剣をすり抜け、持ち主の胴をいともたやすく両断した。本来ならあり得ない出来事に周囲がどよめく。ならばと次に向かってきたのは実体がある剣を有する者だ。これならと上段に振りかぶり、両手剣ならではの重みを生かした斬撃をダイスケに向けて振り下ろす。

 しかし、今度は両手剣が熱線剣にぶつかったところから溶断されて剣士の首も一緒に跳ね飛ばされた。

 それもそのはず、そもそもこの熱線剣は「熱線のエネルギーが剣の形に収束したもの」であり、実体を持つ剣ではない。ガスバーナーの火を包丁が受け止められないような、またはガスバーナーの炎同士がぶつかってもすり抜けるようなものだ。

 勿論これを利用して敵を倒せたのは偶然の産物ではなく、ダイスケの熱線剣に興味を持った木場と共に既に発見していたからである。この時、木場が用意した刃物悉く溶断された経験が今に生きているという事だ。さらに言うと、この熱線剣を受け止められたのは木場が作り上げたモンキーモデル版の魔剣からで、並の武器ではすぐに破壊してしまうことも確認済みだ。

 逆を言えば、名のある聖剣や魔剣の類を持つ者ならその纏ったオーラで簡単に受け止めてしまうという事だが、幸いなことに今のこの場にはそういった敵はいない。結果的に攻めあぐねたのか、十人ほどの犠牲者を出してこの事実に気づいた魔術師たちは散っていく。

 

「追う必要はない! 妾に任せよ!」

 

 そう言ってヒメは獣具の扇を一打ち、二打ちする。すると一条の風と共に黄金の鱗粉が放たれて逃げていく魔術師達を覆う。

 

「ダイスケ、点火じゃ」

 

「――っ、わかった!」

 

 言われるがまま、ダイスケは掌から熱線を一発放つ。魔術師達はそれが自分達に向けられたものではないと一安心するが、その直後、彼らは獄炎に包まれて消し飛ばせれられた。

 ヒメの鱗粉による粉塵爆発だ。本来はこの現象は粒子が充満した()()()()でなければ生じない。だが、ヒメが放った鱗粉の大気中濃度はその原則すら無視した。

 

「うはっ、エゲツねぇ威力」

 

「褒めるな褒めるな。それ、第二陣が来る。妾はあの侍女(メイド)を回収しに行く。引きつけを頼むぞ」

 

「おう、任されて!」

 

 ヒメが宙に舞ってリリアが砲撃しているエリアに向かったのを確認すると、ダイスケは自分に向かってくる第二陣の軍勢の迎撃の態勢を取る。

 しかし、なにか様子がおかしい。魔法使いの軍勢はダイスケの手前200mの位置で停止。そこから先に向かう様子がない。するとその周囲にに異変が生じる。突如空間に穴が空き、その向こうからいくつもの鋼鉄の塊が飛び出てきた。

 それは戦車であった。しかし、それなりに軍事知識もあるダイスケにも見覚えのない形状であり、本来戦闘支援車両にあるべき銃眼が側面にある特異な特徴がある。 その戦車の後部が開き、多くの赤い刺繍の法衣を着た者たちが降車してくる。

 

「教会の……増援?」

 

 ダイスケはそう思ったが、彼らはあろうことかダイスケに向けて攻撃を仕掛けてきたのである。

 

「異端者、宝田大助! 神の裁きを下してくれる!!」

 




  はい、というわけでVS27でした。
 今回とんでもない戦闘力を見せたリリアですが、これには本文で紹介した以上の理由があります。さぁ、みんな考察だ!
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS28 銀の地肌に虹色の鎧を着けたスゴイヤツ

 遅れました。非常に遅れました。本当にすみません。
 言い訳させてください。
 実は次の就職先の試験を受けようと頑張ってたんですよ。ところがこのコロナ騒動で試験がおじゃんに。完璧に心折られました。
 そんなこんなで多大な精神的ダメージを負ったまま艦これのイベントがあったりで更新できませんでした。


「あれは……神器の能力? いや、しかしあの数は――」

 

 アザゼルが突如現れた赤い法衣の戦闘集団に対して疑問を持った。彼らは神器らしき異能で味方に攻撃を仕掛けているが、全員がその能力を持っている。何人かの神器所有者が戦闘集団に交ざっているのならわかるが、全員が異能を用いているというのは異常だ。 

 

「彼らは我らの同胞である赤イ竹の『オーラノイド』ですよ、アザゼル。科学技術によりオーラを変換して神器能力を再現する機器をインプラントした、いわば戦闘サイボーグです」

 

「な、に!?」

 

 そのカテレアからもたらされた情報にアザゼルは驚愕する。なにせ自分のやっている研究と同じ事を一テロ集団が独自研究で実現しているいて、その技術をスピンオフした戦闘兵器まで作っているのだ。

 しかし、ある疑問がアザゼルの脳裏によぎる。

 

「……神器の人工製造は俺も研究してるが、まだ人間には負担が大きい。だがあれだけの数、安全性を考慮した運用にはどうしても見えねぇ。なにかデカいデメリットがあるな?」

 

「――まぁ、そうですね。脊髄に機器を移植しているので血液汚染が起き、実働時間は実質二時間程度らしいですよ。それ以上はリジェクションが起きて死にます」 

 

「やっぱりそうかよ。俺だって人間の生命を尊重して安全性の高い人工神器を造ろうとしてるって言うのに……いや、テロリストがそんなこと考慮しねぇか。狂信者の集団なら殉教として受け入れるだろうからな」

 

 人間性の欠片も見えないその行為に、さすがのアザゼルも怒りを隠せなかった。

 

「どいつもこいつも好き勝手……俺の神器研究の邪魔はさせねぇぞ!」

 

「好き勝手は貴方も大概でしょうが!!」

 

 そう言い合いながら、堕天使総督と旧魔王の血族の闘争は激化していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、魔術師からオーラノイドの軍勢に相手を変えたダイスケは苦戦していた。

 数が多いのも勿論問題だが、何より自分の武器との相性が最悪であった。最初は熱弾の連射で対処しようとしていたが、これが意外とオーラノイドの身に纏う法衣が熱に強く貫けない。かといって熱線で打ち抜こうにも発射と発射の意外に長いインターバルのせいで効率が良くない。

 最終的に魔術師たちも追い払った熱線剣で対処することにしたが、いかんせんりリーチが足りない上、近距離の相手にしか使えない。効率化のために一撃必殺を狙うものの、数が数だけに余計に体力が減ってしまう。

 

「だぁぁぁぁ、もう! やってられねぇ!!」

 

 倒せてはいるものの、確実に擦り減っていく体力と自制心が限界を迎えてしまう。

 

 ――ああ、もういっそのこと、こいつらを一網打尽でぶっ飛ばせたらいいのに。

 

 まさに、そう思った瞬間だった。片手剣を握っていたはずの手にそれ以上の重みがのしかかる。いつの間にか自分の右手に握られていたもの、それはまさに一振りの戦鎚(メイス)だった。

 あまりに唐突だったので理解が追い付かなかったが、ここでまた熱線剣が生まれたとの同じことが起きたのだ。そしてダイスケはこのことからあることを実感する。

 それは、自身の中のゴジラは間違いなく自分に力を貸している、ということである。理由はわからないが、先刻聞いたまさに恐怖の大魔王のような存在が自分に力を貸しているという実感が、ダイスケにとてつもない心の強さと安心感を与えてくれた。

 思いがけない太鼓判がダイスケに勇気と力を与えてくれた。そしてダイスケはその高揚感を、両手に構えた戦鎚を通して目の前に邪魔な狂信者たちにむけて解き放つ。

 ――大爆発。

 それは砲弾の着弾でもない、高性能爆薬や大量の燃料の爆発でもない。ダイスケの戦鎚がもたらした爆発である。そう、これがこの新しいダイスケの武器の特性であった。

 旧世界の記録におけるゴジラの熱線の破壊の要素は、大きく分けて二つに分類される。まずは核反応由来の超高圧超高温。ものによれば太陽表面にも匹敵するその熱エネルギーは大抵の物質を溶解させうる。

 そしてもう一つは熱線にさらされた物体の急激な反応による大爆発だ。ある資料によれば熱線を受けた際の大爆発は光速で打ち出された電子や陽子が対象物にぶつけられることによって強制的な熱核反応を起こしているという一説がとられている。これが事実であれそうでなかったであれ、旧世界の記憶を持つ者のゴジラの記憶では熱戦を受けた大概のものが大爆発を起こしている。

 つまり熱線剣はゴジラの熱戦の高温特性を、戦鎚は熱線照射時の大爆発という特性を形にした武器である、ということになるのだ。

 そんな後にダイスケも知る情報はさておいて、再び振り下ろされる一撃から発生した爆発は、熱風と爆風を孕んでオーラノイドたちに襲い掛かる。そしてその勢いのままに、走り回って次々と兵士を送り込んでいる敵戦車に向けてダイスケは戦鎚(メイス)を槍投げのように投げつける。

 すると、突き刺さったそれが大爆発を起こして巨大な車体を吹き飛ばす。一方のリリアとヒメはどうかと一瞥すると、そちらはリリアの高火力とヒメの近接援護によって相当数のオーラノイドと魔法使い達を骸へと変えていっていた。

 どうやらあの二人は大丈夫そうだ。そう判断したダイスケは、自分が担当するこのエリアの残敵を駆逐すればよいと結論づける。そのダイスケめがけ、ダイスケを高驚異と判断したオーラノイド達と戦車が殺到する。

 ダイスケがそれらに向けて戦意を高めたその時であった。ダイスケめがけ殺到していたオーラノイド達が総崩れを起こしていく。なにかにやられたらしい。

 そして、一人の人間がダイスケの目の前に着陸する。それは桐生義人であった。どうやらオーラノイド達を倒したのは義人らしい。

 

「よかった、あんたも無事だったんだな」

 

 ダイスケはそう言って義人に歩み寄る。

 

「……お前も無事そうで嬉しいよ。なにせ――」

 

 そう言って義人は手にしたランチャーをダイスケに向ける。その様子に驚くダイスケだが、それで終わりではなかった。義人の体が銀色の炎に包まれたかと思うと、その力は顕現する。

 白銀の火炎はすぐに収まり、その焼跡とも言える義人の肉体は変化していた。

 それは、ダイスケの漆黒の鎧とは対象に、メカニカルな白銀に輝く鎧。ダイスケが鎧武者に例えるならであれば、まさに対極の騎士の甲冑。

 

「お前は俺の獲物なのだからな」

 

 義人はそう言い放って手のランチャーを一斉掃射した。

 

 

 

 

 

 

 ダイスケはボロボロだった。その体にはダーツのような銀色の小型ミサイルが突き刺さっており、中には爆発するものもあって肉体の所々が裂けたり小さく抉られたところもある。

 反撃の余裕はなかった。鬱憤を晴らすかのような小型ミサイルが雨あられと迫ったせいで、まともに反撃できなかったのだ。

 その傷も獣具の回復力のお陰で自動的に癒やされているので出血死などの心配はない。それでもこの状況はまずい。この急展開を見たオーラノイドや魔法使いの集団が反撃の機会とばかりにここに殺到し始めている。

 だが、それら増援を薙ぎ払ったのは意外にもこの状況を作った義人本人である。

 

「……俺の獲物に、手を出すなぁぁぁぁぁ!!!」

 

 全身から放たれるミサイルとビームの超飽和攻撃。その威力たるや絶大で、殺到した全ての敵を薙ぎ払ってしまった。

 

「な、に……考えてるんだテメェ……裏切ったかと思ったら自分の味方大量殺戮しやがって……」

 

「言っただろう。お前は俺の獲物だ。横からかっさらうのなら俺の敵になる」

 

 手のランチャーにミサイルが装填されると、義人はそれをダイスケに向けて言った。

 

「改めて自己紹介しよう。俺は桐生義人、白金の機龍王鎧(メカゴジラ・プラチナメイル)の獣転人。お前との因縁を持って生まれた男だ」

 

「因縁……? 俺にはお前に因縁つけられる覚えはないぞ」

 

 ふらふらと立ち上がりながらダイスケは反論するが、義人の兜の奥の眼光の鋭さは変わらない。むしろさらに鋭くなった。

 

「正確に言うなら、()()()()()()()()との因縁だ。思い出せないか? その魂の深奥に眠る記憶を? ――なら、思い出させる!」

 

 そう言って義人は足裏と背中のバーニアをふかし、殴りかかる姿勢でダイスケに突撃を仕掛ける。

 当然ダイスケも迫る義人の顔面を殴るために構え、駆け出した。お互いがぶつかるその瞬間、お互いの拳が放たれる。両方の拳は見事に両方の頬を撃ち抜くが、義人はこれを狙っていたのだ。

 お互いの拳がお互いの頬に触れた瞬間、ダイスケの意識はブラックアウトする。殴られた痛みによるものではない。お互いに触れた瞬間に意識が自分の中の深奥に引きずり込まれたのだ。

 実際の時間に換算すればものの二、三秒。しかし、ダイスケはその間に永い刻を見てきた。

 それは、自分(ゴジラ)を模した機械仕掛けの獣との闘争の記憶。

 はじめは闇夜の港湾で熱線に焼かれながらその正体を現した瞬間。

 次は南の島で獅子の王とともに立ち向かった記憶。その中では自分(ゴジラ)は彼の者の首をねじ切って倒した。

 次は彼の者が赤い恐龍と共に都市を襲った時。一度はそのコンビネーションで地中に埋められたものの、諸事情で形勢逆転し、最後は二匹とも倒した。

 その次は世界が変わり、同胞を連れ戻すときに彼の者は邪魔しに二度も現れた。二度目は一度自分は永久に立てなくさせられたものの、同胞の義兄弟の命によって復活でき、倒すことが出来た。

 また世界が変わり、今度は彼の者は自分の同胞の骨を利用して人間どもに造られた半機半生物の異形にさせられた。紆余曲折あったものの、ともに海の底に帰ることが出来た。

 再び世界は変わり、彼の者はこの地球を蝕む毒の鉄塊となっていた。この星を殺す敵であると判断した自分(ゴジラ)は、二万年を掛けて殲滅することに成功した。

 その自分(ゴジラ)と因縁深い彼の者の名は――

 

「メカ、ゴジラ……」

 

 殴られた衝撃で倒れたダイスケは、その名を口にした。どうやら義人はダイスケがミコトと接触したときに起きたような記憶共有(接触記憶共有というべきか)を利用したらしい。

 

「思い出したか。嬉しいよ、これでお前と何の気兼ねもなく死闘(たたか)える」

 

 ダイスケが自分のことを思い出したと言う事実に義人は喜ぶ。しかし、ダイスケにとってはそうではない。

 

「……おかしいだろ。確かに俺らの前世には因縁がある。でも、それは今の俺らには関係ないだろう!」

 

「ああ、そうだ。俺たちは前世で繋がっているという弱い繋がりしかない。だが、それでも!」

 

 義人はダイスケに向けて再びミサイルの群れを放つ。それに足して、ダイスケは逃げる選択肢しかなかった。

 

「お前にわかるか!? 幼い頃から俺は俺の奥から聞こえる「ゴジラを倒せ」と言う声に犀悩まされ続けてきた! 何かあるたびに、ずっと聞こえるんだよ!! ゴジラを倒せ、ゴジラを倒せってな!」

 

 義人はその場から動くことなく、固定砲台のようにミサイルを撃ち続ける。

 

「何より悔しいのは、本来関係のない俺までがお前と戦うことを本能で望んでいるって言うことだ! 俺の理性はアザゼル殿の望む平穏を求めているというのに! 拾ってくれた恩をこうしてテロリストに加担することで裏切らなきゃならないんだよ!」

 

「なら理性で本能を押さえつけてみろよ! ここまで出来るあんただってのに!」

 

「口で言うのは容易いさ。だが実際のやろうとすると、それは呼吸せずに生きようとするくらい難しいんだ。――だからこうするしかないんだよ!!」

 

 義人の黄金に輝く双眸から虹色のスペース・ビームが放たれ、ダイスケに直撃した。立ち上がる爆炎に濛々とした煙。そこから炎をかき分けるように漆黒の鎧が姿を現す。

 

「……そうか。じゃああんたは俺の敵だ。なら――お望み通り叩き潰す」

 

 

 

 

 

 

 かつて魔王を名乗っていた血族の女悪魔、カテレア・レヴィアタンは焦燥する。

 なぜ、正統なる魔王である自分がここまで追い詰められねばならないのか、と。

 手駒は十分すぎるほど揃えていた。二天龍の片割れであり、旧ルシファーと人間のハーフとして生まれ、白龍皇の力を得た奇跡の子であるヴァーリを引き込んで育ての親であるアザゼルを裏切らせ、平穏な世を疎む血の気の多い魔術師たちを従え、星の海を越えてきた者たちの協力を取り付け、かの怪獣王と同格という獣転人さえも手に入れた。

 だが、白龍皇は赤龍帝と戯れるかのごとく因縁の紅白対決を楽しみ、兵隊である魔術師たちは総崩れになる始末。獣転人は獣転人でゴジラの獣転人にしか目が行っていない。

 こうなれば頼りになるのは赤い竹のオーラノイド。数も減らされてはいるが、兵隊はまだまだストックがある。

 しかし、当の自分は窮地に立たされていた。

 いずれ新世界の神として祭り上げる無限の龍、オーフィスから無限の力の断片である《蛇》を戴きカテレアは自らの力を格段にアップさせていた。元とはいえ魔王の一角を担った女悪魔にそのような力を与えられればまさに鬼に金棒、堕天使の総督アザゼルといえども手におえる相手ではない……はずだったのだ。

 だが、現実ではカテレアはアザゼルによって袈裟懸けに切られ、地面に倒れ伏している。しかも何合も切り結んだ結果ではなくたったの一撃で、だ。

 

(人工の神器……それも『黄金龍君(ギガンティス・ドラゴン)』ファーブニルを封印したものでおまけに禁手化しただと!?)

 

 アザゼルが自他共に認める神器ギークであることは周知の事実であり、堕天使勢力が最も神器研究であることを知っていたしそこから情報も盗みもした。

 だが、まさかかつて五大龍王と称された名のあるドラゴンを利用したほぼ完璧な人工神器を有し、あまつさえそれを使用してくるとは夢にも思わなかったのだ。

 

「お前らの側に下った俺の元部下たちがいろいろと持って行ってくれたみたいだが……その中には残念ながらこの『墮天龍の閃光槍(ダウン・フォール・ドラゴン・スピア)』、さらにその疑似禁手状態の『|墮天龍の鎧《ダウン・フォール・ドラゴン・アナザー・アーマー》』程のレベルの情報は無いぜ。ここまで深いレベルを把握してるのは俺とシェムハザぐらいなもんさ」

 

 掴まされた情報は自分が思った以下の価値のもの、しかも最強の龍神の力の片鱗を得たはずの自分が趣味で作ったような代物を纏った趣味に生きる男に地面に倒れ伏せさせられたことを思うと悔しさにカテレアは唇を噛む。

 

「悔しいか? だが俺はそれ以上にむかっ腹が立ってるぜ。自分の研究を横取りされて、しかもウチの悪ガキはテロリストの道に堕とされるなんて最悪の気分だ。そういう俺の大事なモンの中に土足で入り込んでくる奴は……とっととくたばりやがれ」

 

 そう言いながらアザゼルは神器の槍を持つ反対の手に堕天使が持つ悪魔に対する絶対必殺の武器―――光の槍を構える。

 だが、地に倒れ伏していたカテレアは残ったすべて力を込め、黒い触手のようなものをアザゼルに向けて放つ。そしてそれはアザゼルの光の槍を構える右手に絡みついた。触手を切りつけて切り離そうとするアザゼルだったが、行くと槍の穂先で斬りつけても傷一つつかない。

 

「それは私の生命を込めて作った代物。断ち斬ることはかないませんよ」

 

 勝利を確信したカテレアの皮膚に呪術的な文様が現れる。

 

「自爆術式……地獄の底まで俺とランデブーしたいってか?」

 

「勿論、ただでは死にません!」

 

 もはやカテレアの顔には狂気しかない。だが、かつて魔王であったという自負の過去の栄光が己の身を滅ぼしてでもの勝利を欲する。

 しかし、それとは対照的にアザゼルは冷静に、そして正確にふつうはだれも選択しないであろう現状の解決策を実行する。フリーになっていた左手の槍の穂先で、自分の右腕を切り落としたのだ。

 

「―――なっ!?」

 

「悪いな。俺もいろいろやりたいことや、やらなきゃならないがあってね。あの世へのお供はその右腕だけで勘弁してくれ」

 

 切り離された反動で後ろに倒れこむカテレア。

 しかし彼女はあきらめずにもう一つ別の触手を伸ばして再びアザゼルを捉えようとする―――が、その触手は別の何かに巻き取られる。

 

「これは……!?」

 

 それは、糸であった。

 しかもそれはアザゼルの左腕から放たれたものである。

 

「わからねぇか? 獣具、『大蜘蛛の縛錠糸(クモンガ・ウェッブ・シューター)』だよ」

 

「ばっ――」

 

 カテレアは驚愕する。なぜなら自分の知る限り獣具とは神器のようなもの。つまり、人間か人間の血を引くものにしか手にできぬ代物だ。

 それがなぜアザゼルが持っているのか。

 

「冥土の土産にいいこと教えてやる。獣転人っていうのは人間には限らねぇ。人間だろうが悪魔だろうが天使だろうが、()()姿()()()()()()()()なら誰だってその可能性があるのさ。お陰で探索も一苦労だ。ゴジラ一つに絞っても、そりゃなかなか見つからんさ」

 

 ならばなぜ自分はその巡り合わせにいなかったのか。なぜこうも力を持っていて欲しくないものに限って力を持つのか。その理不尽さに、カレテアは絶望した。

 

「何で自分が獣具を――って、顔だな。そりゃあれだ。この世を作って死んだ神を恨め」

 

 次々とアザゼルの左腕のガジェットから放たれる糸によってカテレアは絡め捕られていき、元がなんなのかわからないほどに雁字搦めにされていく。

 

「―――!!!」

 

 アザゼルへの呪詛を叫ぶカテレアだが、それは絡み付いた糸によって阻まれる。そして自由落下によって着地した先で自爆術式は発動してしまう。

 旧魔王の栄光を求めた女悪魔の断末魔だけでなく、最後のあがきすら叶わぬまま、カテレアは落下地点にいた多くの魔法使い達を巻き込んで、この世から完全に消滅したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 自分に向けて飛来するミサイルの群れを、ダイスケはメイスの起こす爆炎で薙ぎ払う。ミサイルは確かに脅威だが、横合いから別の力を加えれば簡単にその軌道を変えることが出来る。WW2のV1ロケットを迎撃した連合国戦闘機パイロット達の戦術がいい例だ。

 ビームに関してはもう片方の手に持った熱線剣で弾いている。同じエネルギーの武器であるなら盾で物理的に弾くより自身の消費が少ないと考えたからだ。

 しかし、いかにエネルギーマネイジメントをしていると言ってもこのままでは無駄に時間を浪費していることにはかわらない。そこで、義人は揺さぶりを掛ける。

 

「上手く近づけば()れると思っているんだろうが、あの時のように首をもぎ取ろうとしても俺はしっかり警戒しているぞ!」

 

「――ちッ」

 

 ダイスケの記憶の中の一つに、ゴジラがメカゴジラを体内に溜めた磁力で吸着させて首をもぐ、というのがあった。しかし、その記憶は義人も持っているため当然ダイスケの接近を警戒してアウトレンジからの攻撃に徹している。

 さらに言えば記憶の中はゴジラは落雷を自ら浴びて肉体を磁化させていたが、今のダイスケにそんな準備をする暇も余裕も無い。そんな手詰まりになったところに思わぬ救援がやってくる。

 

「「ダイスケ(様)ッ!!」」

 

 一番近くにいた味方であるリリアとヒメだ。二人はそれぞれ魔力砲とビームを放って義人を狙う。内一発が義人に直撃するものの、それは義人の怒りを爆発させる結果となる。

 

「邪魔を……するなぁぁぁぁぁ!!」

 

 全方位に放たれるミサイルとビーム。ビームはヒメが放つ鱗粉によって拡散させられるものの、ミサイルは防げない。そこでリリアが魔力で防御壁を作ってヒメを庇う。

 このままでは二人が危険だ。しかし、これは同時にチャンスである。濃密だったミサイルとビームの嵐が広範囲に放たれていることで、ダイスケに集中していた攻撃の濃度が薄まったのだ。

 この攻撃密度なら鎧の防御をあてにして突撃しても致命傷にはならない。二人も見ていれば攻撃を上手く躱し、そして防御している。これならばダイスケが突撃しても大丈夫だ。

 意を決したダイスケは、熱線剣を捨ててメイスを腰だめに突撃の構えを取る。そして、足裏から熱線のジェットを吹かして一気に義人に迫った。

 

「もらったぁぁぁぁぁ!」

 

 怒りにまかせる義人が、迫るダイスケに気付く。しかし、もうすでにダイスケは必殺の間合いに入った。あとはこのメイスの先端を突き立てて爆発させるだけだ。

 だが、義人はマスクの奥で口角を吊り上げる。

 

「このタイミングで来ると思っていたさ!」

 

 すると、義人の銀色の鎧の首にあるリング状の部分が高速回転を始める。それから二秒もたたないうちに義人の全身は光の筒と呼べるものに包まれる。それはバリヤーである。

 これはダイスケの記憶の中にもあったが、チャンスをつかんだことで失念してしまっていたのだ。メイスの先端はバリヤーに飲まれ、引き戻せなくなってしまっている。ここは手放すしかない。

 そうダイスケが判断した瞬間、義人はバリヤー越しからミサイルを一斉射した。なんと相手の攻撃を弾きながら、バリヤーの向こうから自分は攻撃できる仕様だったのだ。

 鋭い先端のミサイルがダイスケの鎧を貫通し、その肉体に突き刺さる。しかも、痛みを感じるよりも早く第二陣が放たれた。そして、突き刺さったミサイルが全て動じに爆発した。

 

「――ッ!」 

 

 全身が文字通り抉られる痛みに、ダイスケは一瞬気を失った。こんな痛みは人生で初だ。それも常人ならショック死するほどの痛みである。気を失うのも当然であった。 

 

「ダイスケ!」

 

「――ダイスケ様ッ!」

 

 決定的瞬間を目にしたヒメとリリアがダイスケを助けに走ろうとするが、周囲に落ちていたミサイルが大爆発を起こして行く手を遮る爆炎の壁と化す。

 ダイスケは決定的ダメージを受け、援護も来られない。その絶好のチャンスを、義人が見逃すはずがない。

 

「――勝った」

 

 そう感慨深そうに義人は呟く。メイスにかかったダイスケの手も剥がれる寸前。これが剥がれれば本格的にバリヤーを切って全身の武器をたたき込むことが出来る。

 一本、二本と指が持ち手から剥がれていくのを見届ける義人。

 

 ――あと一本

 

 義人が本格的にとどめを刺そうとしたその時。

 

「――!!」

 

 虚ろだったダイスケの眼光がより強いものとなって宿り、指が離れかけていたメイスを握る手に力が再び宿る。そしてメイスを全身の力を込めてバリヤーの向こうに押し込み始めたのだ。

 

「なんだと!?」

 

 引いてだめなら押してみろ。まさかそれを実行するとは思ってもみなかった義人は驚愕した。しかし、感慨に浸る余裕はない。もしもこれ以上押し込まれたらバリヤー内で大爆発が起きてしまう。

 そうなれば密閉空間で大爆発が起きることになる。もしそうなったら反射する衝撃は閉じ込められ、何度も何度も義人は肉体を衝撃波でズタズタにされた上、逃げ場のない獄炎に蒸し焼きにされることになる。

 こうなればバリヤーを切るほかない。バリヤーを切ってメイスの直撃を受けた方がマシだからだ。しかし、高エネルギーがバリヤーに着弾する。リリアとヒメの援護砲撃だ。ダイスケが何をしようとしているか察して義人にバリヤーを切らせないようにしているのだ。

 バリヤーを切れば準魔王級と神クラスの砲撃にさらされ、バリヤーを張ったままならバリヤー内で爆殺される。どちらを選んでも大ダメージは避けられない。そこで義人はこの状況を切り抜ける唯一の策に出た。

 迫るダイスケに向けてバリヤー越しにミサイルを放ったのである。こうすればダイスケは倒れてメイスを手放し、バリヤーで砲撃を防護できる。

 突き刺さるいくつものミサイルが、再生中のダイスケの肉体に突き刺さって爆発する。これでダイスケは倒れる、そう義人は信じて疑わなかった。

 だが、ダイスケは止まらない。むしろメイスを持つ手の力は増し、さらにメイスの先端は義人に迫ってきた。

 

「馬鹿な!?」

 

 目の前で起きたことに驚きつつも、義人はさらにミサイルを放つ。しかし、それでもダイスケは止まらない。

 

「なぜだ、なぜ止まらない!?」

 

「……止まらないのに決まってるだろ」

 

 装甲越しに血を流しながら、ダイスケは言う。

 

「ここで止まったら、俺は何にも守れない。ここで諦めたら、全部取りこぼす。お前程度どうこう出来なきゃあ――」

 

 徐々に迫っていたメイスの先端が最後の一押しで突き刺さった。

 

「俺が俺じゃなくなるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 大爆発。

 その獄炎はダイスケをも吹き飛ばす。それを見たヒメとリリアは、砲撃の手を止めてダイスケが落下するであろう地点に急いで駆ける。

 なんとかダイスケをキャッチした二人であるが、ダイスケの獣具は解除され、そのボロボロの肉体が露わになっている。

 

「ダイスケ様、しっかり!」

 

「意識をしっかり持て! すぐに鱗粉を塗る!」

 

 治療のために懐に手を入れるヒメだが、ダイスケはその手を止める。

 

「アイツは……?」

 

 ダイスケは先程の爆発が気になっていた。義人は本来、二人の砲撃にさらされてそれを防御するためにバリヤーを張っていた。つまり、爆発はバリー内で起きてそれほどの爆炎は上がらないはずなのだ。

 それなのに大爆発が起きた。それが意味するのは――

 

「――ガハッ……まさか、ここまでやるとはな」

 

 炎の中、ボロボロの銀の鎧を身につけた義人が立っていた。義人はバリヤを切ってあえて攻撃にさらされることで「最悪のダメージ」を避けて「現状での最小のダメージ」を選んだのである。

 

「貴方――!」

 

 リリアが砲撃を放とうとするが、力が抜けてしまう。どうやらガス欠のようだ。ヒメの方もダイスケから離れる訳にはいかないので追撃が出来ない。

 

「……安心しろ。お前達に邪魔された以上、理想の決闘になはならない。仕切り直させて貰う」

 

 そう言うと義人は背中のバーニアを吹かせてホバリングする。その義人に、ダイスケは尋ねた。

 

「――またやる気か」

 

「当然。次は他人に助けられる必要がないくらい強くなれ。でなければお前と戦う意義がない」

 

 そう言うと、義人はバーニアを吹かせて飛び去っていった。その姿が消えたことを確認すると、リリアとヒメは急いで校舎の影へダイスケを引っ張る。

 

「はは、何度も助けて貰って悪いね」

 

「冗談言う場合じゃありませんよ、ダイスケ様」

 

「この娘の言うとおりじゃ。黙って治療されい」

 

 そう言うとリリアがダイスケの服を脱がし、ヒメが鱗粉を傷口に塗っていく。そんな中、ダイスケは思う。

 今回、もしもこの二人の助けがなかったら本当に危なかった。そして、次の機会が助けを得られる状況とは限らない。もしも一対一で今と同じ強さなら確実に自分は殺される。

 そうならないためにも強くならなければ。ダイスケはそう心に誓った。




 はい、というわけでVS28でした。
 敵のオーラノイドはオリジナルの雑魚敵です。神器能力の再現は出来ますが、能力は圧倒に敵にアザゼルの人工神器以下ですが、量産が効きます。勿論その分デメリットも……。
 アザゼルを見ての通り、これで完全に誰が獣転人かわからなくなりましたよ。敵味方種族関係なく強化ですので一部の戦いは結果が見え、また一部は地獄と化します。
 義人はね……やっぱりメカゴジラである以上敵対させないと動かせないんですわ。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS29 (ココロ)の記憶

 すいません、この話いる、この話いるとなってこんだけ長くなりました。
 あと、今回からいろいろ出てきますが、この作品のテーマは『心』です。
 今思いつきました。


「敵が飛び道具というのはやはりキツいな、木場!」

 

「全部デュランダルで吹き飛ばしておいてよく言うよ!」

 

 木場とゼノヴィアはその頃、オーラノイドとそれらが扱う兵器を相手に最前線で戦っていた。敵の能力は、まだこのときは完全に把握してはいなかったが、それが神器の力を人工的に再現したものであることは二人は勿論、三大勢力側の兵士達は理解していた。

 特に多かったのは木場の神器と対を成す聖剣創造(ソード・ブラックスミス)を再現したであろうオーラノイドで、敵戦車も特大の聖剣を砲身から撃ち出して攻撃してくる。なによりも数が多いことが脅威だったが、兵士一人一人の練度は別にして疑似神器能力はオリジナルには及ばないのが幸いだった。そのお陰で動ける三大勢力所属の兵士達も戦えていたが、このままでは数に押し切られてしまうことは明白であった。

 せめて援軍がきてくれれば――そう木場が願った瞬間、神は亡くとも奇跡は起きた。日本呪術式の転移陣が木場達の背後に現れたのだ。恐らくミコトが応援に呼んだ日本政府の宝東会がよこしてくれた援軍だ。いかに表を取り仕切る人間の政府と言っても当然裏の世界にも通じている。日本古来の呪術集団の五代宗家に通じてその協力を得ているということもミコトは言っていた。ということはそれに属する術者の援軍が来る、と木場は考えていた。

 しかし、実際に来たのはオリーブドラブの迷彩服を着た、公開されたメディアで見慣れた自衛隊員達。手にした銃はガトリング銃を小型化した見慣れないものであったが、到底一般の武器を持つ者たちが紛い物ながら神器能力を有する戦闘集団と戦えると木場たちには思えなかった。

 

「いけない! 貴方たちでは――」

 

「撃ち方よーい、射撃開始!!」

 

 木場の忠告も無視して隊員達は射撃を開始する。その見慣れぬ銃から放たれたのは、実弾ではなく光弾で、呪術的防御をすり抜けて敵を薙ぎ払っていく。その意外な力に敵も味方も驚いた。

 しかし、相手は戦車も有する混成機甲師団。歩兵の集団では相手にならないのは目に見えている。やがて敵戦車が自衛隊員達の姿を捉え、無慈悲に砲撃を加える。放たれるには様々な能力を持った聖剣。炎が、暴風が、雷が、氷が無残に自衛隊員達を薙ぎ払い、バラバラに引き裂いていく。

 これが、純粋な技術と異能の技術の絶望的な差。科学の限界に縛られた技術では、世界の深淵を引き出すオカルトの力には及ばない。その事をむざむざと見せつけられた木場は、口の端を噛んだ。

 結果は見えていた。なのに、止められなかった。守ることが出来なかった。戦えないとわかっていたはずなのに。むしろ、彼らをここに送り込んで無駄死にさせたこの国のトップ達に木場は怒りを抱く。

 

「知らないというのは……こうも!」

 

 ゼノヴィアも同じ心境だった。こうならないために自分は剣を取ったというのに。目の前で無謀に戦った者たちを守れずに死なせてしまった後悔は計り知れない。その後悔が、怒りに変わる。その精神の高揚が彼らの剣に伝わる。

 怒りと断罪の念を込めて木場とゼノヴィアは各々の剣の柄を強く握ったが、そのとき異常な光景が目の前で広がっていた。

 目の前の一人の斃れ臥す兵士の手がピクリと動く。死後の反射行動と思ったが、どうも違う。全てのバラバラの死体となった自衛隊員達の亡骸が蠢いているのだ。ある死体は千切れた肉片同士が繋がり、またある死体は完全に消失した部分が再生をして行っている。

 

「そ、そんな……!」

 

「き、木場。私は夢を見ているのか!?」

 

 ものの数秒で彼らは再び元通りになり、銃を構える。その光景には木場立ちのみならず赤イ竹の構成員も驚いた。何しろ目の前でゾンビのように死人が生き返ったのだから。そんな中、一人の蘇った自衛隊員がこう叫んだ。

 

「この国を守る最後の砦、舐めるなァ!!」

 

 そう彼らは常人ではない。彼らは自衛隊内でも裏の事件に対応するための特殊部門、「特生自衛隊」だ。そこに所属する隊員は、ほぼその全てが獣転人なのである。勿論、先天的なものではない。後天的に能力を移植されているのだ。

 彼らの持つ怪獣の能力は過去の世界に現れた『フランケンシュタインの心臓』を持つ人工怪物、『フランケンシュタイン』、『サンダ』、『ガイラ』のものだ。これらの人工の怪獣はよほどのことでもない限り死なない不死身の肉体を持っていた。その怪獣達の魂が転生した者たちが自衛隊内にいたのである。当然、この能力は極秘裏に研究され、これら獣転人の細胞を他者に移植することでこの力を与えるということが判明した。

 当初は人権的見地からこの研究は廃棄されることになっていた。いかに極秘の部隊とは言え、この国の国民に人を捨てさせるという選択肢を与える訳にはいかない、という宝東会の意思であったが、現場は違った。彼らは進んで獣転人になる移植を望んだ。この国の防人としての使命感がそうさせたのである。

 そして陸上部隊には地上活動に優れるサンダの能力を、海上部隊には水中適応力に優れるガイラの能力を、他の指揮官や部隊にはもれなくフランケンシュタインの能力を与えることになった。これにより、特生自衛隊は対異能戦闘集団のなかでも異例な集団となたのである。

 死なない兵士ほど戦場では恐ろしいものはない。いくら殺しても数を減らせず、なだれ込む勢いを削ぐことも出来ない。そして、何より彼らには「戦えない人々の代わりに戦い、この国を守る」という信念がある。信念を持った不死の軍隊に、テロリストの集団は恐れるほかなかた。

 当然練度も特生自衛隊の方が上。その結果は語るまでもなく、赤イ竹の強襲部隊の壊滅であった。

 

 

 

 

 

 

 自分の頬を打ち抜く拳。初めは何が起きたのか理解できなかったが、ややあって自分が見下していた存在に痛烈な一撃をお見舞されたのだという事実を徐々に認識していった。

 当然感じるのは痛みだったが、ヴァーリ・ルシファーにとってはこれ以上ない歓喜を呼ぶものであった。

 自分を殴ったのは兵頭一誠という、つい先日までこの裏の世界を知らずに安穏と生きてきた同い年の少年。ただ彼は普通の同年代の少年少女と違っているのはとてつもなく強く、大きな存在を宿しているという事。

 その名は赤龍帝(ドライグ)。神に匹敵しうるこの世界において最強格の内の一角を担うドラゴン。そしてヴァーリにはそれの対となる白龍皇(アルビオン)が宿っている。

 対をなすこの二つの存在は、出会えば必ず雌雄を決さんと拳を交え、いずれかが斃れるという定めを持つ。

 そして先代ルシファーと人間の女である母との間に生まれ、類稀なる魔力の才を持って生まれたうえに人の血が流れていることにより神滅具を宿したヴァーリは、育ての親であるアザゼルからも「歴代最強の白龍皇」になりうると太鼓判を押される程の才覚があった。

 そんな境遇に生まれれば、自然と己の限界を試し、自分がどこまでいけるのかと考えるのは必定。覇を求め己の力と技術を研鑽し、いずれ来るであろう運命の日に向けて着々と経験を積んできた。

 しかし、今代ぶつかるであろう赤龍帝の器である兵藤一誠の事を知り、彼は落胆してしまった。

 自分とは違い、ごくごく平凡な家庭に生まれ、ぬるま湯につかっていた只の思春期の少年。同年代でありながら、環境が違えばこうも変わるものかと悪い意味で感心し、そして兵藤一誠という赤龍帝にほとんど興味を失ってしまったのだった。

 何せどう考えてもイッセーはヴァーリよりも弱い。目覚めたばかりで少し才能がある子供と百戦錬磨の戦士が戦うように結果は見えている。いったい彼が一角の戦士として成長するまでどれだけに月日を待てばよいのだろうか?

 だからヴァーリは己のフラストレーションを発散させるための機会を得るために禍の団の誘いを受けた。旧魔王派などどうでもいい、世界の敵として世界中の強者(つわもの)達相手に無謀とも思える戦いを挑む。そんな日々の方が魅力的に映るのは彼の性格上仕方のないことだった。

 だが、運命の紅白対決の機会は意外にも早く訪れた。

 これまで親代わりになってくれていたアザゼルには悪いとは思ったが、彼の求める平和というやつはどうにも性に合わないから致し方ない。それに一度研究家であるアザゼルと拳をを交えてみたかった。

 取りあえず圧倒して押しては見せたが、この後の展開はヴァーリにも読めない。何せ相手を徹底的に観察・解析し、最高の対抗策を練って応じるのが神器研究者としての一面を持つアザゼルの戦い方だ。だからこそ胸がときめく。兵藤一誠との紅白対決よりも、だ。

 なのにアザゼルはカテレアなどという血統によってしか物事を推し量れない小物を相手にし、自分にはアザゼルが作ったサポート器具を持ってようやく禁手に至れるイッセーをぶつけてきた。

 ヴァーリからすれば、まだ熟れる前の青い果実を売りつけられたようなものであり、何故アザゼルはこのようなことをしたのかが理解できない。

 力の使い方を知らない、ただ拳を前に突き出すことしか戦いの術を知らない素人を相手にして何が楽しいのだろう。自分の動きを止めようとしていたハーフヴァンパイアの停止結界の邪眼は面倒だから呪術で封じてはおいたが、その彼らはそういった対策もしていない。

 どいつもこいつも、己の力の使い方を知らない間抜けにしか見えない。なのに、一丁前に力は持っているというのがもどかしい。

 無味無臭の土壌で育ち、日陰に隠れた華。これほどもどかしく、焦燥を募らせるものがあるだろうか?

 だから、その華を鮮やかにするためにヴァーリはイッセーのために一つの提案をした。

 

「そうだ、君の両親を殺し、君は復讐者になるというのはどうだ?」

 

 無味無臭の平凡な土壌にイッセーの両親の血を滴らせ、赤龍帝兵藤一誠という存在をその名の通り赤く紅く朱い復讐鬼という存在に昇華させる。そうすればきっと、この平々凡々の環境の中で育った隠れた華を色鮮やかにし、特別な世界で生まれ育った自分とようやく同じステージで戦うことができるはずだ。

 そう思っていた。が、しかし。

 

「――殺すぞ、この野郎」

 

 不意打ちで放たれる殺気。

 本当にこれが格下の相手なのかと思ってしまうほど、ヴァーリは気圧される。

 

「俺の家族を、日常を、お前なんかに壊させるかよ!!」

 

 イッセーが吐露する、ヴァーリが軟弱と唾棄したモノへの親愛。直接拳を交わしたわけでもないのに、言葉だけで巨大な拳を眼前に突き付けられたかのようなプレッシャーが襲い掛かってくる。

 そして爆発的に増幅したイッセーの龍の気を孕んだオーラが、いかに先ほどのヴァーリの何気ない提案が彼を激昂させたかがよくわかる。

 イッセーがついに突撃し、殴打を見舞う。しかし、突き出される拳の一撃一撃は軌道を読むのも容易く、ヴァーリにとって脅威になるものではない。いかにパワーを上げたとはいっても、力の使い方が下手なのだ。

 なるほど、兵藤一誠という人物のこの直情さはヴァーリよりもドラゴンという生物との相性はいいだろう。だが、戦う頭ができていなければそれも意味を成さない。

 そうヴァーリに思わせたこの不意打ちのタイミングでイッセーの左腕の籠手から刃が突出し、斬撃を繰り出す。龍殺し、ドラゴンスレイヤーと称される聖剣の内の一振り「アスカロン」である。元来、悪魔でドラゴンであるイッセーにとっては最悪の劇物のような代物だが、事前に調整されミカエルからイッセーに護身用として進呈されたものだ。

 当然これは半悪魔であり白龍皇であるヴァーリにとっても渾身一擲の大ダメージを与えられるであろうが、やはり単調な動きであるイッセーの一太刀は余裕で躱されてしまう。それでも、それでもとなおもイッセーは追い縋る。

 しかし、いずれ限界が訪れる。

 今のイッセーはアザゼルからもらった腕輪によって特例状態で発現している禁手に至っているに過ぎない。それが無ければライザーと再戦した時のようにあっという間に禁手は解除されてしまう。

 そしてその腕輪にも使用限度がある。綱渡りの状態でかつ全力を出さなければならないという苦しい状況なのだ。勿論、問題はそれだけではない。

 

「長剣でその使い方はアウトだろうに!」

 

 イッセーのアスカロンの使い方をわかりやすく言うならばインドの短剣ジャマダハルだ。これはパンチの要領で刺突を行う特殊な形状の短剣だが、これはリーチが短い短剣の刃だから有用な武器となる使い方だ。

 ジャマダハルを近接戦で用いる際、必要になってくるのは一撃必殺となりうる刺突力であり、斬撃は二次的な用い方となる。そうなると取り扱いやすいのは長い刃よりも短い刃となる。短いリーチの刃であるからこそ、取り回しがきくのであり、刃が長ければ腕に想定以上の負荷がかかるうえに取り回しも悪い。

 当然拙いイッセーの技術ではただ振り回すだけの扱いになる上、特異な形状のせいで余計な体力を浪費することになる。世界の刀剣の歴史上に、ロングソードの刃が付いたジャマダハル状の刀剣が同じくインドのパタぐらいしかないことが、イッセーのアスカロンの扱いが間違っているという事の証左だ。

 それらの要素の帰結として、大振りの一太刀は容易に躱される。躱しきったヴァーリはカウンターに大量の魔力弾を撃ち込んでいく。

 一発一発がその大きさから想像できない破壊力を生み出し、イッセーの鎧の各所が剥がされていく。衣服や装備に隠れて見えないが、着弾か所の直下の肌には痛々しい痣や傷ができているだろう。

 今のイッセーからすれば必殺の一撃といい破壊力がその体を宙に浮かすほどの衝撃を与える。吹き飛ばされたイッセーの表情は、まさに己を圧倒する大いなる存在を眼前にした者の目。そして戦意を失い絶望した敗者の目。それは見たヴァーリは勝利を確信し、背中の羽から魔力のジェットをふかして突貫、トドメの一撃を食らわせようとする。

 そして充分な距離まで接近したヴァーリは勝利を確信し、宣言する。

 

「これで当世の紅白対決は――」

 

 ――俺の勝ちだ、と続けようとした時、異変が起きた。突如としてイッセーの瞳に闘志が復活したのだ。

 空中で体勢を整えると、突き出ていたアスカロンの刃を格納。そしてドライグに命じる。

 

「ドライグッ! このままアスカロンに譲渡だ!!」

 

『承知!』

 

《Transfer!!》

 

 ヴァーリからはさんざん言われたが、イッセーも自分に剣の才が無いことは先刻承知していた。だが、それでも自分なりに使える方法を考えることはできる。

 増幅された力がイッセーの指令通りに格納されたアスカロンに浸透し、効果が表れる。その龍殺しの聖剣独特のオーラが格納している籠手の外まで迸る程に強められる。それはまるで、隔離してもその外へ死のエネルギーを放つ放射性物質のように。

 イッセーの考えを理解したヴァーリは、とっさに全身をカバーできるだけの大きさの光の障壁を展開する。しかし、それでもイッセーの拳は止まらない。

 一撃。

 苦も無く障壁を砕いだイッセーの拳は、見事にヴァーリの顔面に突き刺さる。その威力は白龍皇の兜のマスク部分をガラスのように容易く砕き、その奥のヴァーリの表情が見えるほど強烈であった。

 

「――?」

 

 自分の頬を打ち抜く拳。初めは何が起きたのか理解できなかったが、ややあって自分が見下していた存在に痛烈な一撃をお見舞されたのだという事実を徐々に認識していった。

 当然感じるのは痛みだったが、ヴァーリ・ルシファーにとってはこれ以上ない歓喜を呼ぶものであった。

 自分を殴ったのは兵頭一誠という、つい先日までこの裏の世界を知らずに安穏と生きてきた同い年の少年。ただ彼は普通の同年代の少年少女と違い、どうしようもないほどに熱い。

 一種の感動を覚えていたヴァーリだったが、イッセーはすかさず次の手に出る。殴りぬいた姿勢をすぐさま戻し、すかさず白龍皇の力の根源である光翼に手をかける。

 

「何を――?」

 

 ヴァーリが疑問を感じたその一瞬、突如として膨大な量の力の奔流が自分の体内を突き抜けていくのを感じた。そして光翼から噴出するエネルギーと、体内に蓄積されているエネルギーが異常をきたしていることが分かった。

 

「お前の神器の大本はここだろう!? そしてドライグが教えてくれた、ここは吸い取った余剰エネルギーの排出口も兼ねてるって! だからこうしてやるんだよ!!」

 

 イッセーが狙ったのは鎧の機能の暴走。本来過剰分のエネルギーを排出すべき個所から赤龍帝の籠手の能力で増加したエネルギーを強制的に流し込むことで、エンジンを吹かしている車のマフラーを塞いだ時のような反応を狙ったのである。

 ため込んだ力を白龍皇の吸収の能力も利用して流し込んだせいでとてつもない脱力感がイッセーを襲うが、その分効果も絶大だった。赤龍帝の鎧と同じく白龍皇の鎧には各所にコンデンサの役割も果たす制御用の宝玉が各所に配されているが、それらが制御不能を示す異常な光の明滅を起こしているのだ。

 

『いかんッ! ヴァーリ、一度体勢を立て直せ!!』

 

 鎧の機能がオーバーロードを起こしたことに気付いた白龍皇の鎧に宿るアルビオンが主に警告をかける。ヴァーリはその言葉の通りにイッセーに向き直ってから防御の構えをとった。

 だが、その防御も無視してアスカロンの龍殺しの力が相まったイッセーの拳の一撃がすべてを突き崩す。防御のために構えた両腕が装甲ごと貫かれ、易々と鋭い一撃がヴァーリの懐に入った。そしてその口の端から漏れるせき込みと同時に出た鮮血は、ヴァーリにとって大ダメージであることを示す。

 

「ハ、ハハッ、なんだい、やればできるじゃぁ――」

 

 また一撃。

 歓喜の笑みを浮かべたヴァーリの頬に、アスカロンの加護が無いイッセーの右拳が突き刺さる。

 

「……この一発だけは俺自身の拳で決めたかったからな。お前にとっちゃ味気ないかもしれんが、殴らせてもらった」

 

 自分の両親をバカにし、あまつさえ自分のエゴのために殺害しようとした分、ということである。しかし、ヴァーリの鎧の破損個所はいつの間にか元の状態に修復されている。

 

『大本である神器の所有者を叩かん限り終わらんよ。腕輪のこともある。どうにかして一発逆転、乾坤一擲の策が必要になるが……お前何かよからぬことを考えているな?』

 

 ドライグの言うとおり、イッセーにはある策があった。

 それは、目の前に転がるヴァーリの鎧の一部だった宝玉。

 それは、神器の「主の思いに応じて強くなる」という特性。

 それは、神が不在の世界という、非常にアンバランスになった世界の法則。

 成功させられる可能性は十分ある。しかし、そうでない可能性だって同じだ。もし叶わないのなら――

 

『――俺も、お前も死ぬかもしれん。なにせ前例がない。成功しても死んだほうがマシだというほどの苦痛が来るだろう。それでもお前はベットするのか?』

 

「俺はまだ部長とベットインしていないんだ。ここで死ぬつもりは欠片もない!! 苦痛がなんだ、部長の処女を貰うためにも、目の前のクソ野郎をブッ飛ばすためにもいくらでも耐えきってやらぁ!!!」

 

『フハハハハハハハハ! おもしろい、おもしろいぞ、我が相棒! 脆弱なお前がそこまでの覚悟を決めたのなら、二天龍と称されたこの俺も覚悟を決めなければな!! やってやろう、相棒! 否、兵藤一誠!! いつでも来い!!!』

 

 目の前の()()()()が何を思いついているのか、ヴァーリには理解できなかった。

 すると突然、イッセーは自分の右手の籠手についていた宝玉を自ら破壊し、そこへすぐさま拾った白龍皇の宝玉を嵌め込んだのである。

 

「あ、っ? ―――ああああああああああああああああああ!!」

 

『ぐぉおおおおおおおおおおおおお!?』

 

 苦しみからの絶叫。人間なら生涯発することがないだろう叫びと、装甲越しにでも伝わるイッセーとドライグの苦悶。

 

「まさか、取り込む気か? アルビオンの能力を?」

 

 ヴァーリはそう口にはしたが、信じることはできなかった。なにしろドライグとアルビオンの能力は正反対。プラスとマイナスが合わさればゼロになるように、ともに共存させて己のものにしようとするのは無理がある。

 それに一人の人間が所有できる神器の数は一つだけ。いかにその身を悪魔のものに転生させようが、神が生み出した強力無比な力を一つの肉体に二つも宿すのは器たる肉体を自らキャパオーバーで破壊するようなものだ。

 

『無謀な……元より交わることのない水と油、プラスとマイナス、陰と陽。それらが合わされば文字通り無だ。勝機が無いからと自棄に走ったか、赤いの?』

 

『そうとは限らんぞ、白いの? 俺はこの相棒を通して見てきているんでな――バカも突き抜ければ得られるものがあると!!』

 

 全身を突き刺すような痛みが頂点を迎え、イッセーは声にならない叫びを上げる。しかし、つぎの瞬間には二次曲線的に痛みは引いていき、イッセーは息も絶え絶えになりながら、しかし誇らしげに自身の白く変化した右腕を見せつけた。

 

「へへっ、さしずめ白龍皇の籠手(ディバイディング・ギア)ってところか? まあ、白龍皇ってついてても、もう俺のものなんだけどな。しかもちょっと不恰好だけど」

 

『その代わり、お前の生命そのものが大きく削られた。一万年は生きる命が、今じゃこの無茶のせいでその十分の一ほどの時間しかお前には残っていない』

 

「べつにいいよ。一万年も生きるなんて何すりゃいいんだかわからなくなっちまう。でもやりたいことも一杯あるから、それくらいが俺の身の丈に合ってるさ」

 

 冷静に自分の命がすり減ったことを納得し、受け入れるイッセーに対してアルビオンは狼狽し、眼前で起きた事実を受け入れられずにいた。

 

『バカな……いくら神が身罷り、世界を支える《システム》に穴があったとしても、相反する力が一つの場所で共存するなど有り得ないぞ!!』

 

「いや、アルビオン。事実は事実として受け入れるべきだ。兵藤一誠は俺とは違う意味でイレギュラーであり、そしてこれから強くなる強者だ。だから――」

 

 ヴァーリはぐっと拳を構え、敵意をイッセーに向けて放つ。

 

「この力を使う!!」

 

『Half Dimension!!!』

 

 カッとヴァーリの瞳が開かれた瞬間、彼の異能のパワーソースである光翼が力強く羽ばたき、全身に配された宝玉が光を放つ。

 すると異変は起こった。周囲の空間が歪み、ヴァーリを中心に徐々に広がっていく異界の中で彼は見せしめのように眼下に広がる木々に手をかざす。すると、一瞬で木々は半分の大きさにになっていく。

 

「兵頭一誠、これで俺も君に対して少しは本気を出した! これで俺が勝ったら、君と君の大切のものすべてをハーフサイズに仕上げてやろうじゃないか!!!」

 

 ヴァーリの高々とした宣言。しかし、慣れないイッセーの頭はその言葉の意味をよく理解できていなかった。

 

「は、半分って……具体的にいうと?」

 

『そうだな、相棒にもわかりやすく言うなら……白龍皇のあの力は自由自在にあらゆるものを半分にするというものだ。さっきの木々のように、ピンポイントで特定のもの、特定の部位を半分のサイズや量に変えることができる』

 

「……もっとわかりやすく言うと?」

 

『相棒の大好きなリアス・グレモリーや姫島朱乃の豊満なバストのサイズをピンポイントで半分にするといってるんだ、あいつは』

 

「……はい?」

 

 イッセーにはその言葉が理解できなかった。いや、意味は理解できていたが、なぜそのような悲劇が起きなければならないのかが理解できなかった。

 バスト。

 乳房。

 おっぱい。

 あらゆる言葉で存在し、イッセーの生きる最大の原動力となる素晴らしき女体の神秘、神聖にして不可侵の聖遺物が、頭のおかしいバトルマニアの自分本位のその場のテンションで破壊される。

 許されない。

 許さない。

 認められない。

 認めない。

 

「ふっざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!」

 

 大切な両親を殺すと言われただけでも許せないと思っていた。だが、そこへさらにイッセーの生きがいを汚すと宣言したヴァーリの言動はもはやイッセーにとって万死に値するものである。

 その証拠に、イッセーの身体から発する赤いドラゴンのオーラはこれまで見たことのないレベルにまで高まっている。

 

『なあ、相棒。力の使い方がうまくなってくれることに関しては俺も素直にうれしいと思う。だが、その動機はいくらなんでも……』

 

 非常に渋い声を出すドライグ。彼の言い分も正しいだろう。何せ自分の神すら屠る強大な力が、乳房への執着がトリガーとなって発現しているのだから。

 

「うるせぇっぞ!! ンな悠長なこと言ってる場合じゃねぇんだよ!! もう、本格的にトサカに来た!! あの野郎、ぜってぇゆるさねぇええええええええええええええええ!!!」

 

 感情の高まりは神器の力の高まりと同義。それは宿主の神器を扱う技術の向上も意味するが、動機があまりにも不純なのでドライグは実に複雑そうな声を上げた。それとは反対に激昂しつつも早速白龍皇の籠手でヴァーリの半減の力を吸収し、且つ赤龍帝の力で増幅して己のものとするイッセーはそういう技術的観点では冷静に処理していた。

 しかし、それも自分がこの世で最も愛する女性のバストを暴虐の白龍皇から守るために必死で、そっちの意味では頭に血が上っているというまさに「平静と情熱の間」の極致にイッセーはいた。

 

「お前だけは、お前だけは許さない! 部長のあの見事なおっぱいを半分にするだなんて! 絶対に手前ェをぶっ壊してぶっ倒してやる、ヴァリィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」

 

《BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!》

 

 力の高まりと同時に、イッセーの周囲の空間が爆ぜる。そして彼のその身には過去に例がないほどの強力なオーラがまとわれていた。それを見て笑うのはカテレアとの戦いを終えてすぐにイッセーの元へと向かったアザゼルである。

 

「アッヒャッヒャッヒャッ!! なんだよ、そりゃ!? 主サマのお胸のピンチで成長して強くなる赤龍帝なんて聞いたことないぜ! こいつは傑作だ!!! アッヒャッヒャッヒャッ!!」

 

 アザゼルは腹を抱えて、ここが戦場であることを忘れさせるような抱腹絶倒の姿を見せるが、イッセー本人は真剣である。なにせ最近スキンシップは増えてもいざそこから先へと踏み込めないイッセーだ。まだ彼は主の胸の真髄を味わってはいない。

 それを体験する前に壊そうというのだから、これはイッセーにとっては夢を、人生の目標を奪われるのと同義。

 ああ、こいつとは絶対に分かり合えない、とイッセーは思う。ダイスケですらある程度は話には乗ってくれるが、ヴァーリは違う。そしてあまつさえ破壊しようという決定的に分かり合えない相手にイッセーはオーラが乗った指を突きつける。

 その威力たるや、ヴァーリにダメージはないものの、余波でその後方の雑木林の一部が吹き飛ばされるほどである。

 

「俺のリアス・グレモリーに手を出してみろッ! 二度と転生できないくらい徹底的にぶち壊したらぁ、この半分マニアがァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 乳を愛する男の絶叫で雲が晴れ、隠れていた月が顔を表す。もうここまで来ると本物だ。

 

「女が理由で強くなる……こんな奴は初めてだ!」

 

 だろうね、ともしここにダイスケがいたなら同意するだろうが、その想像もする間もなく、イッセーは高められた力をまず筋力に変えてダッシュし、一気に肉薄する。そして位置エネルギーを溜める振り子のごとく腕を引いて―――

 

「これはリアス部長の分!」

 

 ヴァーリの腹部にイッセーの右拳がめり込む。もちろんヴァーリも避けようとはしていた。しかし、神速で動くヴァーリの動きすら、今の乳で高みに立ったイッセーには牛歩のように感じる。

 そしてすかさず直接白龍皇の籠手でヴァーリから溜めていた力を奪い取る。

 

「カハッ……!」

 

 よもや自分の力が自分の脅威となって降りかかるとは夢にも思わなかったヴァーリは、思わず肺から空気を逃がしてしまう。が、これでイッセーの猛追が止まるわけがない。ただの一撃で満足するはずがないのだ。

 

「これは100越えの朱乃さんの分!」

 

 今度は左拳でヴァーリの右顔面側へのフック。この一撃が白い兜のマスクを割った。

 

「これは成長途中のアーシアの分!」

 

 うずくまりかけているヴァーリの背中にある光翼を改めて手刀で薙ぎ払うように破壊。そしてそのまま腹に膝蹴りを当ててその身を高く蹴り上げる。

 

「これは綺麗に整ったゼノヴィアの分!」

 

 イッセーもこれに合わせて高くジャンプし、最後の仕上げにかかる。

 

「そしてこれが……半分にしたら本当に何にもなくなっちまう小猫ちゃんの分だァァァァァァ!!!」

 

 重力と神器能力のブーストによる全身を使った猛タックル。二つの物理的力と怒りの力が合わさったタックルが、ヴァーリを地面にめり込ませた。

 そのあと拳を何発も入れてやったが、それでもまだイッセーの怒りは収まらない。さて、どうしてくれようかと思案した矢先、ヴァーリは再び立ち上がる。

 

「おもしろい……本当に面白い」

 

 口の端の血をぬぐいながら、ヴァーリは不敵に笑う。

 

『ヴァーリ、奴の半減の力の解析は済んだ。俺の力との対照検証で対抗できるぞ』

 

「わかった。ならあのイレギュラーはもう怖くはないな。俺は純粋にぶつかればいい」

 

対策がとれたところで、ヴァーリは構えつつも真剣な表情でアルビオンに問う。

 

「なあ、アルビオン。今の彼が相手ならば、『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を使う価値があるんじゃないか?」

 

『いや、それは下策だ。そんなことをしたらドライグのほうの呪縛も解かれてしまうぞ』

 

「それならなおのこといいよ、アルビオン。―――『我、目覚めるは覇の理に―――」

 

『やめぬかヴァーリ! わが力に翻弄されるのが貴様の本懐ではあるまい!?』

 

 必死に止めようとし、ヴァーリに怒ってたしなめるアルビオンの必死さにイッセーは覇龍(ジャガーノート・ドライブ)という言葉に懸念を感じた。だが、それでも向こうが何か仕掛けてくる前に決着をつければいい。そしていざ、攻撃を仕掛けようとしたまさにその時、月光をバックにイッセーとヴァーリの間に割り込むように一人の男が舞降りる。

 気配は一切感じなかった。しかし、その京劇に出てきそうな中華風の鎧を着込んだ男は確かにヴァーリをかばうように今そこにいる。

 

「迎えにきたぜぃ、ヴァーリ。ずいぶんとやられてんなぁ」

 

「……何の用だ、美猴」

 

「それゃないだろう。仲間のピンチに遠路はるばるこの島国の一地方に急いでやってきたんだぜぃ? なーんか他の連中が本部で騒いでてようぅ、北のアースガルズと一戦交えるから、こっちが失敗に終わったんならさっさとそっちに行けってよう」

 

 すると、さらにそこへボロボロな銀色の鎧を着込んだ者が空から舞い降りる。マスクが格納されて見えたその顔は、桐生義人だった。

 

「……そうか。お前もか、義人」

 

 ヴァーリの傍らに立った義人の姿を見て、残念そうにアザゼルは言う。

 

「申し訳ありません、アザゼル殿。ですが、俺は――」

 

「いや、お前に宿る者を知りながら、お前の心にまで気が回らなかった俺の落ち度だ。気にすんな」

 

 アザゼルの言葉に、義人は深く頭を下げる。

 

「なぁ、カテレアのほうは勝手にドジっておっ死んじまっただろ? なら観察のお前らもお役御免、俺っちと一緒にまずは帰ろうや」

 

「……わかったよ、なら仕方がない」

 

 勝手に話が進み、帰ろうとするそのさわやかそうな中華青年にイッセーは指をさして尋ねる。

 

「お、おい! いきなり出てきてなんなんだよ、お前!?」

 

「ん、俺っちかい? 俺っちは美猴てぇのよ。はじめましてのこれからよろしくな、赤龍帝」

 

 肩書も何もなしに名前だけをいう男を前に、イッセーの頭の上にはクエッションマークがいくつも浮かんだ。そのクエッションマークを消し去ったのはアザゼルである。

 

「美猴ってのは斉天太聖、闘戦勝仏の最初の名だ。そんでもんってお前にも一発で分かるように言うなら、そいつは西遊記の孫悟空の末裔だ」

 

「は、はい!?」

 

 イッセーが驚くのにも無理はない。なにせ目の前のこの男が誰でも知っている西遊記の孫悟空の血を引いているというのだから。

 

「まあ、正確に言えば孫悟空が美猴王時代に作った子孫で、その力を受け継いだ猿の妖仙なんだがな。しかし世も末だな、伝説の名を継ぎし者が世界ぶっ壊し団の禍の団に御入会とは。いや、「白い龍」と孫悟空なら相性はいいのか? 立場は逆みたいだがよ」

 

「ははっ、そいつは言えてらぁな。だが俺は俺、初代は初代さね。俺っちは自由気ままにふらりふらり筋斗雲のごとしってな! そんじゃ、あばよ」

 

 そういってヴァーリをそばに寄せると、足もとにタールの沼のようなものが現れて三人の姿がみるみると沈んでいく。幻術かはたまた仙術か妖術か、正体は測り兼ねるもののイッセーはあわてて追いかけに行く。

 

「おい、手前ェ! まだ終わっちゃ……『パキン!』―――へ?」

 

 急いで追おうとするも、聞こえた何かが割れる音でその歩みを止める。すると、ほぼ同時にイッセーの禁手化が強制的に解除されてしまった。

 

「これで、終わり……? ウソだろ!?」

 

 アザゼルが渡した神器安定化の腕輪がこのタイミングで使用限度を超えてしまい、自壊してしまったのである。

 追う手段も、戦う手段も喪失してしまったイッセーは、もはやただ黒いタール状の物体が消え去るのを黙ってみるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 ダイスケは傷ついた身体をリリアとヒメに支えて貰いながら、本陣になっている新校舎に向かっていた。見ればサーゼクスやミカエル、そしてアザゼルが、迷彩服を着た集団相手に何やら口論している。

 

「だ、ダイスケ! 今はマズい!」

 

 ダイスケに気付いたイッセーが引き返すように支持するジャスチャーをするものの、それに気付いた迷彩の集団がダイスケに銃を突きつけて取り囲んだ。

 

「ゴジラの獣転人だな?」

 

「……そうですけど、貴方は?」

 

「宝東会旗下、特生自衛隊所属の黒木という。悪いが、君の身柄を拘束する」

 

 なるほど、ミコトが言っていたことがこれで体感できた。彼らが旧世界の、それもゴジラと戦った者たちの転生者なければここまでダイスケに明確な敵意を剥けることは出来ないだろう。

 

「貴方もゴジラと戦って殺されたクチですか」

 

「いや、幸運なことに私はゴジラとの戦闘で死ぬことはなかった。だが、その脅威はこの魂に刻み込まれている。そして、ここにいる隊員達はみな同類だ。中にはゴジラに殺された記憶を持つ者もいる」

 

 それを証明するように、銃を構える彼らの表情は一様に傷だらけのダイスケに対して恐怖していた。なにも知らない者からすれば、手負いの者にすることではない。だが、彼らはダイスケの魂のルーツを知っている。そのルーツはまさに破壊と滅びの権化、恐れない方がおかしいのだ。

 

「君には悪いが宝田大助君、君の身柄を拘束させて貰う。今後、君の身柄は日本政府が宝東会の名において管理することになる」

 

 その黒木の言葉を合図に、複数の自衛隊員が専用に作ったと思われる拘束具を持ってダイスケに近づくが、サーゼクスとヒメがそれを制止する。

 

「待ちなさい! 彼は現在我がグレモリー家で身柄を預かっている。いかに国籍はそちらにあると言ってもこれは人権無視の暴挙だ!」

 

「話が違うぞ、人の子らよ! 彼の者と接触し、意思を確かめた時点で妾が彼の者を監視し、庇護下に置くというのは欺瞞であったのか!?」

 

「サーゼクス殿、これは人権以上の問題です。彼の中の力をこのまま目覚めるに任せれば、この地球に甚大な被害を与えるのは必定。そしてヒメ様、これは実際に彼の力を見た我々の意思です。あの時の状況とは違います――連行しろ」

 

 拘束具がダイスケに迫る。それを阻止しようとダイスケを知る者達が一様に彼を庇うように盾となって両者はにらみ合いとなった。まさに空気は一触即発。そんな中、一人の老人の声が響く。

 

「待ちなさい、黒木特佐。拘束の判断は私が見てからでもいいだろう」

 

 老齢であることがわかる声であったが、しかしハッキリと聞こえる通った声。その声に、黒木が振り向き驚いた。

 

「新堂会長! なぜここに!?」

 

「なに、君は信用できるがいささか勇む嫌いがあるからな。他者の評価を気にせず、正しいことを実行しようというのは評価できるが、それでは敵を作るだけだよ黒木特佐」

 

 そう言いながら柔和な表情で新堂はダイスケに近づく。

 

「サーゼクス殿、彼に少し確認したいことがあるのです。よいですかな?」

 

「……彼に危害を加えないのであれば」

 

 サーゼクスに会釈すると、新堂はダイスケの前に立つ。

 

「宝東会会長、新堂靖明だ。よろしく、宝田大助君」

 

 そう言うと新堂はダイスケに右手を差し出す。その右手をダイスケは戸惑いながら握り返す。その瞬間、ダイスケの脳裏にあるイメージが流れ込んできた。

 まずは、南海の孤島の密林。傷つき、横たわる自分の傍らに目の前の老人が若い姿と軍服に身を包んで立っていた。彼の後ろには部下と思われる兵士達が百人ほど並び、自分に対して感謝の眼差しを送っていた。

 そう、自分は彼らを結果的に助けたのだ。たまたま彼らの敵であった者たちがこの島を大いに荒らしたため蹴散らしただけであったのだが、それでも彼らは自分に感謝していた。

 風景と時は変わり、今度は燃えさかる街にそびえる一つの高層ビルの前。その最上階に今と変わらぬ姿の老人がただ一人自分に視線を向けていた。先の風景から今はずいぶんと時が経った。そして、彼も変容していた。

 彼が作り上げた物はまさに傲慢の塔。ひとリの人間が持つには有り余るその力は本来の国の有り様を超え、人の良心から逸脱した物だった。

 なぜこうなった。あの真摯な眼差しを持ったお前が、今はただ力を振り回す怪物。これじゃ、お前は俺と変わらないじゃないか。

 そんな自分の悲しみを理解したのか、彼は介錯を頼むように目をうるわせて頷く。そして、彼は青い閃光の中に消えた。

 

「――そうだ、俺は……貴方を」

 

「……思い出したようだな」

 

 流れ込んだ過去の記憶からダイスケは今に戻る。そして、大きなショックのせいで新堂の手を握ったまま崩れ、膝をついていた。

 

「これはいったい……なにをしたのです」

 

「心配は無用、サーゼクス殿。ただ、転生者である私に触れたことで旧世界の記憶が蘇っただけのこと。立てるかな、君」

 

 手に力を入れて、ダイスケを立たせる新堂。しかし、ダイスケは立てなかった。涙に震え、新堂に縋る。

 

「自分だって……同じじゃないか。人間が憎いのはわかる。でも、その力を無辜の人間にも向けた自分だって同じ怪物じゃないか。貴方を断罪する資格なんてないのに……!」

 

 そのダイスケの言葉に、新堂は首を横に振る。

 

「それでも、私はあの時救われたのだよ。君に救われたあとの私は力の意味をはき違え、増長し、そして国を誤った方向に導いてしまった。もはや贖罪の道も絶たれた私を、君は罪ごと消してくれたのだ。だから、あの時はあれで善かったのだよ」

 

 そう言いながら、新堂はその老齢に見合わぬ力強さでダイスケを立たせる。

 

「そして今解ったよ。そうやって痛みと悲しみを感じる心がある君なら、その身に宿ったゴジラの力を誤った方向には使わないだろう。だな、特佐?」

 

「は、しかし……」

 

「私たちが警戒していたのはゴジラの獣転人がその力に溺れ、無秩序な破壊をこの世にもたらそうとするような輩であったときだ。彼ならその心配はないだろう。何かあれば、私が責任を持って腹を切る。それで良いだろう」

 

「最高意思決定者である貴方がそう言うのであれば、甘んじて受け入れましょう」

 

「ありがとう、特佐。そういうことです、せーゼクス殿、アザゼル提督、ミカエル殿。貴方方が和平を望むのなら、喜んで宝東会は日本政府を代表して協力します。宝田君についても貴方方にお任せいたします。よろしいですか?」

 

 新堂の問いに、サーゼクスは頷く。

 

「そういうことであれば、私個人としてもありがたい。二人もよろしいか」

 

「ええ、天界としては全く問題ございません」

 

「堕天使としても問題はない。さて、話し合いのつづきと片付けといこうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 西暦20XX年七月某日。

 ミカエル、アザゼル、サーゼクス・ルシファーの三名の三大勢力各代表、そして会談開催地の国家を代表した新堂の立ち会いにより、和平協定が結ばれる。

 以降、天使、堕天使、悪魔間での抗争は基本的に禁止事項とされ、協調体制が結ばれることとなる。

 なお、本協定は会談場所となった駒王学園から名をとって『駒王協定』と呼称されることが決定した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とまあ、そんなこんなで今日から俺がこのオカルト研究部の顧問となった。気軽にアザゼル先生と呼べ」

 

「いや、その「そんなこんな」を詳しく説明して欲しいんですけど。なんであんたここにいるのよ」

 

 お前は魔力等で片付けできないからと帰宅させられ、後に何が起きていたのかさっぱりなダイスケが返す。

 アザゼルは一言であっさりと済まそうとしていたが、実際には一言では済まないほどの多くの出来事があった。まず、イッセーはあることをミカエルに頼んだ。アーシアとゼノヴィアが神に祈る時に、ダメージを負わないように頼んでいた。もともと敬虔な信徒であった二人は、普段から何かあるたびに祈る癖がある。そのせいで日常的に頭にダメージを負っているのだ。

 ダイスケからすれば祈らなければいい思えるだけの話だが、当の本人たちからすれば大問題である。そのことに関して、イッセーは普段からアーシアと生活している分心配していたのだろう。この事をなんとかできないものかとミカエルに相談したのだった。するとミカエルは二人に「神が不在だと知った今でも、祈る気持ちは変わらないか?」と聞いた。無論、二人の答えは是である。それを受けて世界を管理する“システム”の一部を少々弄って解決してくれることを約束してくれた。

 このことに関してダイスケは非常に感心した。普通であれば「祈らないように気をつけろよ」というだけで済まそうものだが、よくぞイッセーはミカエルに直談判したものだなと心密かに感心したのだ。

 次にあったのが事後処理だ。これが一番大事である。突如として現れたテログループ“禍の団”に関する情報収集に各方面への警戒の要請。

 それに呼応した各神話勢力への協力の要請と同盟の締結への始動。そして、各地に潜んでいるであろう怪獣と、獣具保有者の探索である。ただ、ただでさえ人目につかない秘境に潜んでいるであろう怪獣の探索は非常に困難である。故に、これに関しても各神話勢力の協調が採られることとなった。さらに、木場たっての願いにより、聖剣に関する非人道的な実験も今後決して行わないことも確約された。恐らく世の中少しはマシになるようになってきた、ということだろうか。

 

「まあ、禍の団なんて連中が出てくるような世の中だ。これでようやく釣り合いが取れたってことだろうさ」

 

 ダイスケの心中を察したかのようなアザゼルの一言である。確かに一つの勢力の内輪がうまくいくようになったくらいで世の中そうそう良い方向にはいかないだろう。だが、世の中の膿がある程度一箇所に集まる状況になっているのは確かだ。この膿をなんとかすれば少しはより良い世の中にはなるだろう。

 

「俺がこの学園に滞在する最大の理由は、この学園にいる未成熟な神器保有者を正しく成長させるとこだ。まあ、俺の神器マニア知識が世のため、人のためになるってことだ」

 

「ってことは、最終的に俺はもう一度ヴァーリと戦うことに……?」

 

「その通りだイッセー。っていうか、お前らオカルト研究部が将来的な禍の団に対する抑止力になりうると各方面から期待されている。特にダイスケがこちら側にいるっていうのが大きいな」

 

「すいません、自分記憶の限りでもライバル候補多すぎで抑止力になれそうにないんですけれども。いずれ殺されそうなんですけど」

 

「知ってるさ。でもその分、お前に注目が集まって俺としては助かる。ついでに強くなればいいじゃん」

 

 全世界の神々相手に大暴れした者というだけで、メカゴジラ以外の存在しうるライバル候補にプラスして敵が多い(かもしれない)ダイスケからすれば悪夢だろう。

 

「まあまあ、いざって時は私もいるよ?」

 

「すいません、その時は何卒……」

 

 笑顔で助力を申し出るミコトに、ダイスケは五体投地をするかのごとき勢いだ。

 

「だが、問題は連中の規模だ。ヴァーリが自分のチームを持っているっていうのは間違いない。解っているのはヴァーリ、美猴と数名。ほかの構成員の事も考えると集団戦になる可能性も出てくるな」

 

「じゃあ、ヴァーリ達はまたここへ徒党を組んで攻め込んで来るってこと?」

 

 リアスの問いに、アザゼルは首を横に振る。

 

「いや、三大勢力のトップを一度に討つ集まる絶好の機会を逃した以上、ここにはもう用はないさ。奴らの当面の相手は天界と冥界だ。まあ、冥界は悪魔と堕天使が手を組んでるし、天界には天使たちだけじゃなく居候している神獣たちもいる。赤と白の雌雄を決するのはまだまだ先。しばらくはこの学園も平和だろう」

 

「静かな戦争状態ってことね……」

 

「まあ、まだ小競り合いの規模、そしてお互いに準備期間ってとこだ。お前ら全員が大学部を卒業する時分でもなければ本格的な抗争は起きないさ。学生生活を満喫できる時間はあるから安心しな」

 

「そうっすか……」

 

「まあ、イッセーよ。お前は頭が足りないんだから、深く考えるな。お前の敵はあくまで白龍皇ヴァーリだ。それを忘れなきゃ十分だ。だがダイスケ、お前は違うぞ。どこのどんなやつがお前の敵になるかわからないんだからな。まあ、白昼堂々と怪獣王を奇襲しようっていうバカはいないだろうけどさ」

 

 言われなくとも、ライバル候補は山ほどいるゴジラである。イッセー以上の警戒と鍛錬が必要になるだろう。まあ、その分経験値が増えると考えたほうが幸せだろう。

 

「それとだ、イッセー。今回勝てたのはヴァーリが油断してくれてたのと、アスカロンがあったおかげだ。それと、取り込んだ白龍皇の力も鍛錬しなけりゃ使えんぞ。それからスタミナもだ。これはグレモリー眷属全員に言えることだ。あのヴァーリだって禁手を一ヶ月は持たせられるんだからな」

 

「一ヵ月!? 俺なんてまだほんの数秒なのに!?」

 

 ヴァーリとの実力差というものを改めて思い知らされたイッセーだが、よくよく考えれば今回は眷属の半分が役立たずとなる結果に終わっている。

 戦えたとしてもダイスケは偶然のご都合主義的に発言した能力で一時的な勝利をしただけ、イッセーは敵の油断のおかげで勝ち、木場とゼノヴィアは自分の能力の研さんの至らなさを痛感させられている。あまつさえ一名は自身の能力を使いこなせていない所為で足でまといにまでなってしまった。

 

「まあ、現状は酷いにしても、それを正すために来たんだ。大船に乗ったつもりでいろ。そのためには自分の力がどのようなものなのか知り、受け入れることから始まるわけだが――」

 

 言いながらアザゼルの視線は朱乃へ向かう。

 

「なあ、朱乃。まだ俺たち堕天使が……いや、バラキエルの奴が憎いか?」

 

「……許すつもりはありません。母はあの男のせいで殺されたのですから」

 

「――まあ、いまはそれでいいだろうさ」

 

 事情を知っているイッセーが複雑な表情に変わる。ダイスケも以前の折檻のさなかに父との確執があるらしいことは聞いていた。

 だが、それ以前に自分の事で手いっぱいになるダイスケからすればそれは朱乃に惚れられているイッセーが思い悩むことである。折檻の恨みもあるのですぐ気にしないことにした。

 

「それからな、他に襲ってきた連中いただろ。あいつら、やはり赤イ竹だったよ。ダイスケ関連で聞いてるだろ、連中のことは」

 

「ええ、お兄様からね。……なにかあったの?」

 

「ああ、連中が神器擬きの武器を使っていたのは覚えているだろう。あれを所持していた戦闘員ほぼ全員が捕縛後死亡した」

 

 全員死亡、という言葉に全員が騒然となる。こういう場合考えられるのは機密保持を目的とした自害だ。そこまで団結が強いということなのかと戦慄したが、どうやら違うらしい。

 

「死亡した原因はあの神器擬きだ。あれは脊髄に直接人間のオーラを変換する装置と、変換したオーラを増幅する装置が埋め込まれているんだが、それらが血液汚染を引き起こすんだ。その結果、フルで戦えるのは二時間ちょっと。それ以上は臓器不全で死亡確定だ。戦車には血液浄化装置があったが、それも壊されればおじゃんさ」

 

「……信じられねぇ。なんでそこまでして」

 

「ダイスケよ、奴らの目的は聖書通りにこの世が終わることだ。それを信じるためなら命を投げ出す。これは殉教を超えて狂信だよ。そういう奴らがお前を狙っている。だからこそ――」

 

「――強くならないと、ですね」

 

 イッセーの一言に、全員が頷く。いずれ来る戦いの日々に決意を新たにした一同には、まずは夏休みが待っていた。




 はい、というわけでVS29でした。
 まさかの量産獣具ですが、これはオリジナルの怪獣が人間を元にした怪獣だから親和性が強いのです。他はこうはいきません。ちなみに出てきたのは「
不死人造人の心臓(フランケンシュタイン・ハート)」、「
山野の不死人造人(ガルガンチュア・サンダ)」、「
海洋の不死人造人(ガルガンチュア・ガイラ)」の三つです。出しにくいフランケンシュタイン系怪獣を出す苦肉の策です。多分ゴジラクロス物にはそうそうでないです。
 新堂の記憶に対するダイスケの言葉は、彼が人間だからです。魂はゴジラとはいえ、彼自身はゴジラですから人間の視線に立っているのでああいう発言をしました。だからこの作品は他のゴジラクロスとは全く違います。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS30 夏にはしゃぐのはキャッホーなヤツばかり

 先日、田植えの苗が入ったパレットをビニールハウスに並べていたんですが、見事に腰をやりました。


 目が覚めると家が劇的ビュフォーアフターしていた。

 な…何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……と思わずイッセーもポル○レフ状態になった。

 兵藤家はイッセーの寝ている間に豪邸に変貌していた。部屋には買った覚えのない、しかも高くて手が出ない薄型ワイドテレビに最新ゲーム機全種品揃え済み。廊下の幅は三倍になり、二階建ての階数は六階地下化三階建てにクラスチェンジ。お隣の鈴木さんと田村さんの敷地を吸収合併。東京都内で買ったらウン十億という大豪邸が一晩のうちに兵藤家の家になっていたのである。

 リアスとアーシア以外の同居人も増え、そして最近越してきた朱乃やゼノヴィアとも同衾する機会が出来た。

 お隣の鈴木さんと田村さんは好条件の土地が手に入ったからそっちに引っ越ししたというが、どう考えてもグレモリー家の財力の賜物である。イッセーの父も母も「部長の家がやっている建築業の一環」で納得してしまっており、全く気にしていない。

 イッセーとしては両親も喜んでるのでまあいいかとほぼ諦め気味である。

 そんな大変貌を遂げた兵藤家改め兵藤邸でのオカ研最初の活動は夏休みの冥界旅行についての打ち合わせだ。イッセーは最初、リアスが「冥界に帰る」って言ったものだから、自分を置いて帰国するのかと思ってしまっていたが、実際は毎年恒例の里帰りである。それに今回はオカルト研究部全体の底力を上げるためのトレーニングの機会にした。

 ちなみにミコトの方は日本神話関連の行事が夏にあるということでもう祀られている神社に一時帰宅だ。ちなみに帰郷の際の一言は「私がいなくなにかあっても死なないようにね!!」だった。とてつもなく縁起でもない。

 

「おいおい、俺が同行するってのも忘れるな」

 

 突然のアザゼルの一言に一同が驚く中、ダイスケがそれとなく教える。

 

「普通に玄関から入ってきてたぞ。さっき俺、部屋に入ってきたときに会釈してたし」

 

「き、気が付かなかったわ」

 

「まだまだだな。まあ、そこんところも含めてトレーニングするわけだが、全員励むように」

 

 実際、アザゼル先生は実力者である。長年神器の研究をしてきたのは伊達ではなく、やはり知識豊富で教え方が最高にうまい。そのおかげで眷属内の神器持ちは何か掴めそうだ。

 そんなアザゼルは、懐からメモ帳を取り出してその内容を読み上げる。

 

「冥界でのスケジュールはっと……リアスの里帰りと現当主に眷属の紹介。あと新鋭若手悪魔たちの会合、それから修行だ。俺は主にこっちに付き合うことになる。で、その後は各々のスケジュールで動いて、その間俺はサーゼクスたちと会合か。ったく、会合、会合と面倒くさいな。」

 

 心底めんどくさそうなアザゼル。一組織の長がこれでいいのかとも思うが、彼は本当にほかの堕天使に慕われている。ときたま名も知らない堕天使が訪ねてくることがあり、全員アザゼルの小間使い志望だ。

 「秘書にしてください!」とか、「身の回りのお世話を!」とか、中には「ぜひとも身辺警護をさせてください!」と志願してくる人もいる。中には高位の堕天使もいたが、全員アザゼルの「いいから帰れ、命令だ」の一言でで返されている。

 

「そういえば、いつから行くことになるんですか? 長期になるって言ってたけど」

 

 ダイスケがリアスに質問する。

 

「7月20日から8月20日までね。泊まるところに関しては心配しなくていいから。ちゃんと準備しておくわよ」

 

「わかりました。ジオティクスさんたちへのお土産用意しねぇとな……」

 

「ぶ、部長、俺もご挨拶用のお土産とか準備した方がいいっすか?」

 

「イッセーはいいわよ。私の下僕なんだから。気にしないで。アザゼルも悪魔(こちら)のルートで同行ということでいいのよね? 予約入れておくわよ」

 

「ああ、頼む。実は悪魔側のルートでの冥界入りは初めてでな。楽しみだぜ」

 

「ルートって……あの列車ですよね?」

 

「ああ、ダイスケはこの前冥界からの帰りに特別に乗っていたわね。今回から自由に乗れるようになるから」

 

「おい、ダイスケはどうやって冥界に行くのか知ってるのか?」

 

「ああ。すげぇレトロな列車だ――おい、着信きてるぞ」

 

 見ればイッセーの携帯に元浜と松田から「夏の海ナンパどうする?」という内容のメールが来ていたのですぐに「あ、今年は部長の実家にオカ研でお邪魔することになったからパス」と送った。その二分後、返ってきたメールの内容を見たイッセーは思わず吹き出した。

 

「……『地獄に落ちろ』ってさ」

 

「落ちるっつーか、これから望んでいくんだけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 レトロな列車での旅とはイッセーも聞いていたが、まさか本当に列車で行くとは思いもしなかったようで、その専用駅へ行く過程の秘密基地テイストにイッセーはじめ新人悪魔達は舌を巻いていた。

 一瞬ダイスケが「秘密の駅への入り口ってこっちじゃないんですか!?」と駅構内の柱に突入しようとしていたのは内緒だ。

 列車での旅は実に順風満帆。何事もなく時空の壁に突入、グレモリー領までの鉄道の旅が始まる。

 イッセーはいつものごとく眷属仲間といちゃついているが、ダイスケはアザゼルとゴジラの獣具について話し込んでいた。本当はアザゼルはひと眠りしたいところだったようだが、趣味の領分の話ということで眠気をこらえているところだ。

 

「で、何かわかったんですか?」

 

「これまでの報告と、リアスのレポートからいくつかな。まず分類としてはイッセーと同じ全身装着型、身体能力を生かした戦いに向いたタイプだ」

 

 それはダイスケ自身も自覚があった。格闘能力なら一般的な同年代よりも上の自信はあったし、装着中の身体能力の向上も感じている。

 

「ただ、問題は成長の段階の踏み方だ。イッセーの場合、赤龍帝の籠手は龍の手に近い状態だったが、後に覚醒して今の形になり擬似的な禁手でスケイルメイルの形になった。だが、お前の場合はまずは籠手、次に脚甲、剣が出てきて甲冑になりそしてメイスを出した。こんなバラバラな発現をされたら俺もどう解析すればいいかわからんし禁手に至ったどうかもわからん」

 

 そこでだ、とアザゼルは続ける。

 

「先にミカエルから提供された『システム』内にあった過去世界の記録を元に、ゴジラの特性を見つけ出しておいた。まずはその特性を伸ばして、よりよくゴジラの力をモノにするようにしろ。その特性の専門家も見つけて呼んである。あとはひたすら特訓だ」

 

「分かりました。やることやればいいんですね」

 

「そういうことだ。名前がなかったからな、獣具の名前も俺が最高にかっこいいのを考えてやる」

 

「えぇ……別に『ゴジラの獣具』でいいんじゃ」

 

「それじゃ物足りないだろ。なんかこう、男心くすぐるイカした名前の方が使うお前の方もテンションが上がるだろ?」

 

「……わかりました、好きにしてください。で、その専門家って誰なんです?」

 

「まぁ、リアス眷属にもちょっとした縁がある人物、といっておこう。但し他の連中には内緒にしておけ。知ってる奴は恐怖に戦くし、縁がある奴もびびっちまう」

 

「何者ですか……? あ、そういえば、あとどのくらいで冥界に着くんです?」

 

 ダイスケは後ろにいる朱乃に尋ねる。いつもならリアスに尋ねるところだが、今はグレモリー家の直系の者が乗れる特別車両と眷属が乗る車両に分かれているので今この場にはいない。やはり貴族社会ということもあり、ある程度の身分の差による扱いの違いというものは存在するのだ。

 

「あと一時間ほどでしょうか。魔法陣でジャンプするのと違って、この正式のルートは時間がかかりますから」

 

 そう返事した朱乃はまたイッセーとのいちゃつきに戻り、隣のアーシアと火花を散らす。そんな光景をまた始まったな、という冷静な目で見るダイスケ。

 なにせ兵藤宅に朱乃やゼノヴィアらまでもが転がり込んできてから彼女たちのイッセーに対するアプローチが日に日に強烈になっていくのだ。そんな風景を日々見せつけられては嫌でも慣れる。イラッとはするが。

 だが、こういうときに「破廉恥です」とか「こんなところで発情しないでください」と言って痛烈な突込みを入れる小猫が車窓の外を見つめているだけで何の反応も示していないのだ。そもそも彼女はなぜか若干離れた席に座って他の眷属仲間と距離を取っているようにも見える。

 

「女というのはね、アーシアさん。愛する男性の変態的劣情を全て受け入れて初めてその人の隣に立つことができるのですよ?」

 

「朱乃さんのそれはアブノーマルすぎますっ! それにさっきも言ったように私もリアスお姉さまもイッセーさんとは常に合意の上です!! 何の問題もありませんっ!」

 

 小猫の事が気になってそっちに行こうかとするダイスケだったが、さすがに女の争いをやっている横を通り抜けられるほどの勇気はなかった。怖いもの。

 こういう状況を面白がりそうなアザゼルも、今はダイスケとの話も終わったので眠りこけている。というより、過去にこういうところに首を突っ込んで痛い目でも見たのだろうか。寝て知らぬ存ぜぬで危機回避ということか。

 そこへ第三勢力、というより本妻がこちらの車両に入ってきた。

 

「よく言ったわアーシア。危うく、ダイスケ用の通関証を怒りに任せて窓の外へスパーキングするところだったわ」

 

「やめて、俺を巻き込むの」

 

 痴話喧嘩が原因で「入国できません」なんてシャレにならない。

 

「……主から奪う、というのも燃えますわね」

 

 そこへ火に油を注ぐかのように朱乃が挑戦的な目にリアスに言う。その視線の凄味と言ったら好意を向けられているはずのイッセーが引くほど怖い。

 

「あ、朱乃、貴女いい加減に―――」

 

「ゴホン、リアス姫、下僕との触れ合いも結構ですが、やらなければならないことを失念してはおりますまいな?」

 

 リアスの怒りの声を遮る勇気ある第三者がひょっこりと現れる。車掌姿で白いひげをダンディに整えた初老の男性だ。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「ホッホッホッ。いやいや、それにしてもあの小さなリアス姫が色恋の話に熱くなられる日がこようとは。長く生きた甲斐がありましたな」

 

 愉快いそうな老人の笑いにリアスが顔を真っ赤に染める。身内に恥がばれたパターンだ。

 

「自己紹介ははじめてですな、宝田大助殿。私、当列車の車掌を勤めておりますレイナルドと申します。以後、お見知りおきを」

 

 レイナルドはダイスケに会釈をする。その丁寧な所作にダイスケも席を立って態度を改めて返答する。

 

「これはどうも、ご丁寧に。先日は挨拶も出来ませんで」

 

「いえいえ、あの時は緊急時でしたから。それでは、こちらを」

 

 そう言ってレイナルドは高級時計でも入っていそうな黒い箱を差し出して開ける。赤い高級生地のクッションの上にはウェアラブル端末らしきものがあった。

 

「他の眷属の皆様はその身に宿した駒の反応を読み取ってすでに入国検査を済まされております。その代り、大助様はこちらの端末を肌身離さずお持ちくださいませ。冥界政府からのお墨付きでございますので、冥界にいらっしゃる際はこちらをお付けください。なお、これは大助様の生体情報を読み取って専用のものとなりますのでご安心を」

 

 見た目は単なる端末だがそこはオカルト、見た目以上の機能が盛りだくさんらしい。

 

「っていうか、こういうの必要なの俺だけなんですね」

 

「アザゼルがこうしたほうがいいってね。下手に生体認証を体に刻んだらあなたの中のゴジラだどんな反応をするかわからないからって。拒絶反応で獣具が暴走、なんて洒落にならないでしょう」

 

 過保護すぎる抗体反応とも言うべきか。リアスの話に少し背筋が凍る思いのダイスケである。付けて数秒で端末の画面に「登録完了」の文字が浮かび上がる。悪魔には独自の文字があるのだが、日本語で表示してくれるあたりありがたい。

 

「さて、これで皆様全員の入国手続きも済みました。到着までごゆるりとなさいませ。仮眠をとれる寝台車やいつでもお食事可能な食堂車もございます。到着までの鉄道の旅をお楽しみくださいませ」

 

 レイナルドが一礼し、先頭の車両へ戻っていく。そうなれば後は自由時間。男子は男子で集まったかと思えば、新人眷属どうしでトランプをしたり、専用車両にいなければならないリアスが寂しくなて残り、再び朱乃と火花を散らしたり思い思いに次元の壁を突破するまでの時間を過ごす。

 

『間もなく、次元の壁を突破します』

 

 ふと、レイナルドのアナウンスが車内に響く。すると間もなく、暗いトンネルを抜けたように一気に車窓の外の風景が変わった。

 

「おわ、すっげぇ!!」

 

 イッセーが子供のようにはしゃぐ。目に飛び込んでくるのは人間界と変わらぬ野や木々といった光景だが、空の色が暗い紫色なのだ。それだけで一気に異なる世界に足を踏み込んだという実感がわいてくる。

 他にも変わった形の家々があり、異世界の光景のアクセントとなっている。

 本当なイッセーもダイスケも一度は訪れているのだが、リアス奪還という目的に目が行っていたせいでほかのことに全く注意がいかなかった。だから余計に、この冥界の光景は新鮮に感じられた。

 

「さぁ、もう窓を開けても大丈夫よ」

 

 トンネルを通過している間はずっと閉められていた窓が開け放たれ、冥界の空気が流れ込む。その空気は人間界の元母違い、どこかぬるま湯のように肌に絡みつく独特の感触があった。

 列車の後方を見れば、ブラックホールを思わせる黒い穴があり、そこから車体が次々とにけ出している。この穴が時空の特異点の穴なのだろう。

 

「……壊れてんのかな、これの地図機能。どこ見ても見ても「グレモリー領」って書いてあるだけなんですけど」

 

「さっきからずっとグレモリー家の領地よ。そういう路線になるように作ってあるから。でも、最終到着地点の駅まではまだね。この領土は日本の本州ほどあるから」

 

 さらっととてつもないことを言うリアス。そんな大きさの領地をもつ貴族なんて聞いたことがない。

 

「冥界の表面積は地球と一緒だけど、海が無いんだ。その分各貴族が持つ領地や堕天使が持つ土地は広大なんだけど、ほとんどの地面は遊んでいるんだ。手つかずの自然も多いよ」

 

 木場の説明で合点がいったダイスケとイッセーである。

 

「そうだわ、イッセーたち新人に与える領土の分配をしないと。余っていた土地があったからそのあたりを切り分けましょう」

 

「いや、部長。ケーキ切るんじゃないんだから」

 

 悪魔の不動産管理は大丈夫なのか、と心配になるダイスケ。人間界のようにタケノコやマツタケの財産権みたいなものは特にリアスは気にしないらしい。

 

「ダイスケには土地はあげられないけど……ああ、首都にある私の持っているオフィスビルをあげましょう。確かそれなりにいい賃貸料が入るところだから資産価値については安心よ」

 

「……遠慮しておきます。土地転がすほど不動産運用の知識が無いんで」

 

 

 

 

 

 

 

 

『間もなくグレモリー本邸前、間もなくグレモリー本邸前。皆様、長らくのご乗車誠にありがとうございました』

 

 レイナルドのアナウンスと同時に、徐々に列車のスピードが落ちる。窓を閉め、降車の準備をする面々。だが、アザゼルだけは降りる様子を見せない。

 

「俺のことは気にするな。このまま魔王連中のところにお呼ばれされているんだ。トップ同士の訪問の御挨拶さ。それが終わったらグレモリー本邸に向かうから先に行っててくれ」

 

「先生……意外とトップらしいことしてるんですね」

 

「じゃあ、お兄様によろしくね、アザゼル」

 

「わかったぜ、リアス。そしてイッセー、この後のお前のトレーニングのメニューは地獄クラスにしてやろう」

 

 車内でアザゼルと別れ、一行は停車した列車からホームに降り立つ。すると―――

 

 パンパンパパンッ!!

 

 古めかしいライフル銃から発せられる空砲にダイスケは一瞬身構える。殺気を感じないので敵襲ではないとわかるが、分かっていても何事かと思ってしまう。

 見れば一列に並んだ儀仗兵が空に向けて空砲を放っている。それだけではない。大勢のメイドや執事が並び、空には絵物語の中でしか見たことがないドラゴンライダーのような騎士が空を舞う姿もある。

 

『おかえりなさいませっ、リアスお嬢様!!』

 

 一糸乱れぬ号令。慣れているリアスや木場たちはいいが、新人眷属やダイスケからしたら心臓に悪すぎる。ギャスパーに至っては「ひ、ひと、いっぱいぃぃぃ……」と恐慌状態になってイッセーの陰に隠れている始末だ。

 さらに花火が上がり、音楽隊が盛大なファンファーレを鳴らす。

 

「出迎えありがとう。ただいま」

 

 慣れたリアスが笑顔で答えると、一同は一糸乱れぬタイミングで頭を下げる。ただただ新人眷属たちとダイスケは圧巻されるまま。そこへ見覚えのある銀髪メイド、グレイフィアが一歩前に出てきた。

 

「お嬢様、お帰りなさいませ。道中御無事で何よりでございました。さあ皆様、こちらの馬車へ」

 

 グレイフィアに誘導され、一同は馬車に乗る。

 その馬車も豪華絢爛、引く馬すらとてつもない巨躯を誇り、人間界の馬とは明らかに違う力強さがある。荷物はいつの間にやらメイドたちによって貨物馬車に移され、その行き届いたサービスの良さががわかる。

 

「私の馬車に下僕たちも乗せるわ。イッセーやアーシアたちが不安そうだから。グレイフィアもこっちにお願い」

 

「かしこまりました。では、ダイスケ様もこちらへ?」

 

「……じゃあ、そっちで」

 

 一番前の馬車にイッセーとリアス、アーシアに朱乃とゼノヴィアとダイスケが乗り込み、最後にグレイフィアが乗り込む。その次の馬車には残りのメンバーが乗る。

 全員が乗り込むと、馬車は蹄鉄の音を立てて進んでいく。そうこうしているうちに馬車は巨大な門を潜り抜ける。その先に見える巨城こそグレモリー家の本邸なのだろう。そこへ至る道もまさに一級品。

 邸内の木々はきれいに剪定され、隅々まで手入れが行き届いている庭には花々が咲き誇る。さらに飼っているであろう美しい小鳥たちがさえずり、見事な造形の噴水からは高く水が吹き上がる。

 間違いなくここは人間界のどの豪華絢爛といわれる宮殿も霞んでしまうほどの豪華さと煌びやかさがある。そこに自分がいることにダイスケは信じられなかった。

 やがて城の大きな正面玄関の前で馬車止まり、一同が降車する。すると、玄関に至る道にはレッドカーペットが敷かれその両脇を大勢の執事とメイドが列をなしているという、漫画でしか見ないような光景があった。そしてとてつもなく大きい玄関の扉が「ギギギ」と軋む音を立てて解き放たれる。

 

「……リアスさん、これって天国の門じゃないですよね?」

 

「大丈夫、ここは正真正銘地獄だから」

 

「では皆様、お進みください」

 

 グレイフィアの誘導の下、一同はレッドカーペットの上を進む。すると、小さな影が扉の向こうからリアスめがけて駆け寄ってくる。

 

「リアスお姉さま!」

 

 紅髪のかわいらしい少年が、リアスに抱き着く。リアスも抵抗することなくその子を受け入れる。

 

「お帰りなさい、リアスお姉さま!」

 

「ただいま、ミリキャス。大きくなったわね」

 

 愛おしそうにミリキャスというらしい少年を抱くリアスに、イッセーが訪ねる。

 

「部長、その子は……?」

 

「紹介するわ。この子はミリキャス・グレモリー。お兄様、つまりサーゼクス・ルシファー様の長男。つまりは私の甥っ子ね。さ、中に入りましょう」

 

 なるほど、と合点がいったイッセーとダイスケ。ちなみにダイスケはこのグレモリー本城に来たことはないので初対面である。

 玄関ホールはそれこそ中で運動会ができるのではないかという広さ。前方には転がり落ちたら確実に死ぬほどの大きさの階段が陣取り、これまた落ちてきたら二・三人は確実に押しつぶされてされて死ぬ程の大きさのシャンデリアがぶら下がっている。

 

「グレイフィア、お父様とお母様に帰国のあいさつをしなければならないのだけれども」

 

「旦那様は現在外出中です。眷属の皆様との顔合わせは夕餉の席で行いたいと仰っていました。奥様は――」

 

「あら、リアス。帰ってきたのね。」

 

 その時、二階のほうから声が聞こえてきた。そこにいたのは長い亜麻色の髪をした、リアスによく似た美女。

 似ていないのは若干きつめの目つきと、リアス以上に豊満なバストのみ。その陽子から察するにリアスの姉だろうか。優雅に階段を下りてくるその姿に、イッセーは一瞬で心を奪われた。

 そしてリアスはその美女の姿を確認するなりこう言った。

 

「はい、ただいま帰りましたわ、お母様。」

 

「お、お、お、お、お母様ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!?」

 

 イッセーが同時に驚く。まさに信じられないといった顔だ。

 

「いや、ちょ、どう見たって部長とそんなに年が変わらない美少女ですよ!?」

 

 まだショックが小さいイッセーにはまだ驚きの声を上げる

 

「あら、美少女だなんて。うれしいことを言ってくれるわね。はじめまして、私はリアスの母ヴェネラナ・グレモリーですわ。これからよろしく。ダイスケさんはお久しぶりですわね」

 

「お久しぶりです、ヴェネラナさん。あ、これはつまらないモノですが」

 

 そう言ってダイスケは手にしていた手持っていた大きめの紙袋をヴェネラナに手渡す。

 

「あら、京都の千枚漬けに奈良漬けなんて。主人も私もこういう物が好きなのよく覚えていてくれたわね。もしかしてわざわざ近畿に?」

 

「いえ、電車ですぐ行ける東京の町中にアンテナショップがあるので」

 

「どちらにせよわざわざ買いに行ってくれたのね。ありがとう」

 

「いえ、両親がお世話になっているんです。これくらい当然ですよ」

 

「それでも嬉しいわ。――誰か、誰かいない?」

 

 ヴェネラナの呼びかけに、「はい、ただいま」というダイスケもイッセーも聞いたことのある声が応える。

 

「奥様、いかがななさ――って、ダイスケ様!」

 

 その声の主はリリアであった。急いで階段を降り、ダイスケの元に馳せ参じる。

 

「駒王会談以来ですね! お元気でしたか?」

 

「ああ、そっちも元気そうだ」

 

「はい! ……あ、いけないいけない。奥様、ご用でしょうか」

 

「ええ、このダイスケさんのお土産のお漬物、パックから出して器に入れてちょうだい。明日の朝食に主人と食べたいから――滞在日程は長いわ。彼とお話しする時間ならいくらでも作ってあげるから」

 

「は、はい、ありがとうございます! では、失礼いたします!」

 

 ヴェネラナから紙袋を預かると、リリアは嬉しそうに奥へと引っ込んでいく。ダイスケの方はというと、ヴェネラナの先程の言葉が小さな声、しかも悪魔の言語だったのでリリアがなぜ嬉しそうにしているかわからなかった。

 




 はい、というわけでVS30でした。
 このヘルキャット編ではリリアの秘密と今編初登場の獣転人にクロースアップしていきますよ。
 さらに、原作キャラのアイツとアイツとアイツが実は……ということになっちゃうのでお楽しみに。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS31 ヒトの趣味を貶すのはやめておけ

 まだ腰が痛いです。


 冥界到着の翌日、イッセーたちはグレモリー領観光を満喫していた。サーゼクスやリアス個人が所有する城を見学したり、領内の産業施設なども見て回ったりと非常に充実していた。

 対してダイスケは豪華な夕餉のあと、グレモリー家で保護されている両親と面会した。直接話すのは駒王学園の入学式以来で、その日は一人だけ両親の家に泊まった。

 ただ一つ懸念がある。小猫の様子がおかしいのだ。食事にほとんど手を付けていないのだ。何事か、とイッセーが視線を向ければそらされてしまうので会話のしようがない。

 さらにイッセーはグレモリー本邸に拘束され、観光に同行できないという扱いを受けていた。いや、こちらの理由は分かっている。

 先日の夕餉の席、グレモリー卿とヴェネラナ夫人がイッセーと交わした内容の会話が、どう考えても婿入りの話なのである。そういった話に疎いイッセー本人は気付いていないようだったが、勘のいいダイスケは卿と夫人がイッセーを婿にしようという野心に気付いた。

 おそらく先のライザー戦で主であるリアスを想う姿を気に入ったのだろう。イッセーが赤龍帝であることや娘のイッセーに対する気持ちにも気づいていることを考えれば、そのような策謀を巡らすのも無理はない。そのためイッセーはグレモリー本邸にてミリキャスと共に冥界や貴族社会についての勉強の真っ最中だ。一度結婚式を邪魔し、花嫁を奪ったのだ。こうなることも考慮に入れるべきであった。

 そんなイッセーとダイスケも現在は一向に合流し、先に利用したの列車にて魔王領にして旧首都、ルシファードに向かう。

 目的はいずれレーティングゲームにて争いあう若手有力悪魔同士の初会合だ。全員が由緒ある名門の家の上級悪魔で、そういった者たちがお偉方の前で意識しあう、という会合らしい。

 一行は学生らしく学生服でボディーガードに護衛されながら会場に向かう。しかし―――

 

『リアス姫様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 表に出て騒ぎが起きないように地下鉄に乗り換えるはずが大騒ぎ。ホームにいた一般の悪魔たちがリアスの存在に気付いて黄色い歓声を上げる。

 

「部長は魔王の妹君にして容姿端麗と来ているものですから、下級、中級の悪魔たちからの憧れの的になっているのですわ」

 

 説明するのは朱乃である。しかし、この想定外の人ごみは進行の妨げだ。

 

「ひぃぃぃぃ! いっぱい、悪魔がいっぱい……!」

 

 おまけにギャスパーが冥界に来て二度目の恐慌状態に陥っている。今度のは出迎えの時とは違って無秩序なものだから余計に怖いだろう。

 

「うれしいけれど、これは困ったわね。これ以上騒ぎが大ききなる前に地下鉄に乗りましょう。専用列車、用意できているわね?」

 

「勿論です。ついてきてください」

 

 ボディーガードが文字どおり大衆から一行をガードし、地下鉄へ誘導する。聞けばかなりの実力者ぞろいらしく、一般の悪魔たちもそのことを知っているのか不用意に近づくこともなかった。

 そしてリアスはなおも続く黄色い歓声に苦笑しつつも手を振り、一行とともに地下鉄に乗り込むのであった。

 

 

 

 

 

 

 地下鉄に揺られ、会場に到着するとボディーガードはそこで待機した。そして会合が行われる会場に向かうため、一行はリアスを先頭にエレベーターに乗る。

 

「みんな、もう一度確認するわ。何があっても平常心でいること。何を言われても手を出さないこと。……これから出会うのは将来のライバルたち。無様な姿は見せられないわ」

 

 凄みを込めたリアスの声に、眷属たちは襟を正す。緊張はするが、これから出会う相手は生活や立場といった将来を賭けて戦う相手なのだ。リアスの言うように、無様な姿も隙も見せられない。

 エレベーターがかなりの上層に到達したところで扉が開く。そこは広いホールで、待機していた使用人らしい悪魔が会釈してきた。

 

「ようこそグレモリー様。どうぞこちらへ」

 

 使用人悪魔の先導で、リアス一行は通路を進む。通路を少し行った先には――

 

「サイラオーグ!」

 

 リアスがそう呼ぶ男が率いる一団がいた。

 ダイスケはこの男を知っていた。ライザーとイッセーの決闘の際、観覧席の隣に座り、ともに観戦した悪魔である。

 

「ちゃんと顔を合わせるのは久しぶりだな、リアス」

 

「ええ、ほんとうに。変わりないようで何よりだわ。初めての者もいるわね。彼はサイラオーグ・バアル。大王家のバアル家次期当主で、私の母方つながりの従兄弟でもあるの」

 

「よろしく。宝田君に関しては改めまして、だな」

 

 大王は72の悪魔の序列でいえば魔王に次ぐ序列である。

 

「あの時は本当に助かりました。俺に何かお返しできればいいんですけど」

 

 あのダイスケがちゃんと下手になるあたり、見るだけで付いていきたくなるような強さや頼もしさを感じる「漢」である。そんなサイラオーグは「いやいや」と首を振る。

 

「あのときはいいものが見れたからな。面白い話も聞けたし、それで十分だよ」

 

「そういえば貴方、こんな通路で何をしていたの?」

 

 リアスの問いに、サイラオーグは心底呆れたような表情になった。

 

「あまりにも下らん小競り合いが始まってな。先にアガレスとアスタロトが来ていたんだが、グラシャラボラスがアガレスとやりあい始めたんだ」

 

「やりあうって何を――」

 

 イッセーが訪ねた途端、大きな破砕音が響く。まるで解体用の鉄球で壁を打ち壊したかのような轟音だった。

 

「……だから開始前の会合なんて必要ないと進言したんだ」

 

 サイラオーグが音がしたほうへ歩いていく。眷属たちはそれにつき従い、リアス一行も何事があったのか確かめにいく。

 大きな音がしたその場所は―――破壊されていた。テーブルも、椅子も、煌びやかに大広間を飾っていたであろう調度品の品々も等しく破壊されていた。

 大広間の中央では二つの陣営に分かれた悪魔たちがまさに臨戦態勢でにらみ合っている。一方は見るからに狂暴かつ凶悪そうな悪魔やら魔物の集団、もう一方は見た目そのものは普通の悪魔の集団であった。

 ただ、見た目の差異にかかわらずお互いが放つ殺気とオーラは凄まじい。いくつかの戦いや何人もの悪魔との出会いを経験してイッセーもダイスケもオーラの感じ方が徐々にわかってきていたが、ここまで尖った殺気を放つオーラを感じるのはなかなか無い。まるで禍の団との戦いで感じた戦場で感じた雰囲気のようだ。

 そんな二組にかかわらず落ち着いた様子の悪魔の少年が一人、そして不気味なフードを被った一団が部屋の隅にいた。彼らがおそらく「やりあっていない」方のアスタロトだろう。

 

「ゼファードル、こんなところで戦いを始めても仕方がないのではなくて?馬鹿なの?死ぬの?死にたいの?理由さえ上に説明すれば殺してしまってもこれは問題ないのではないかしら」

 

 そう言い放つのは見た目が人間と変わらない方の一団を率いる美少女の悪魔。年齢はダイスケたちに近いのであろうが、放つオーラの冷たさといったらない。クールな言動や見た目も相まって非常に冷徹そうだ。それに対し――

 

「ああ!? 言ってろよクソアマッ! せっかくこの俺様が一発仕込んでやろうっていうのによ! アガレスのお嬢様はガードが固くっていけねぇや!! だからいまだに男が寄ってこずに処女やってんだろ、お前んとこはどいつもこいつも処女臭くってかなわんぜ! だからこそ俺が開通式をしてやろうって言ってんのによ!!

 

 もう一方の悪魔は完全にただのパーリーピーポーなヤカラ。顔を含めて全身に魔術的なタトゥーを入れており、そこかしこにピアスを付けて上半身は裸という本当に上流階級の悪魔かと疑ってしまうような風貌と言動である。

 素材の顔のほうは端正だといえるというのにこれでは台無しだと思えるほどにひどい。そしてこれでこんな状況になった原因は一発でダイスケは分かった。大方ヤカラの悪魔の方がセクハラでもしたのだろう、それが発展してここまでの大破壊になったのだ。

 さらにいうと、ゼファードルの取り巻きの人数がレーティングゲームのフルメンバーに届いていない。しかし、彼らが身につけている衣服の紋章と同じ紋章が突いた服を着ている三人組が様子を呆れたように見ている。どうやらこの三人はゼファードルの眷属の中でもまだ理知的な方らしい。

 

「ここは時間がくるまで待機するだけの部屋だったのだがな。もっと言うなら軽い挨拶を済ます程度のはずだったんだ。その結果がこれだ。血の気も多いうえに将来のライバル同士という連中が集まるんだ、こうなってもおかしくはないはずなのにそれでもそれを良しとする旧家や上級の古い悪魔たちはどうしようもない。下らんことには付き合いたくなかったが――見てられん」

 

 そういってサイラオーグが歩を進める。どう見ても危険な行為だ。アスタロトの一団のように静観していた方が得策だというのに、それでもサイラオーグは歩みを止めない。

 

「さ、サイラオーグさん、危な――」

 

 止めようとするイッセーを、リアスが制止する。

 

「いや、部長、これは不味いですって! サイラオーグさん、危ないっすよ!!」

 

「心配ないわ。彼――サイラオーグをよく見ておきなさい」

 

「ぶ、部長がそう言うなら……でも、どうしてですか? 従兄弟だから?」

 

「それもあるけれど――彼が若手悪魔ナンバーワンだからよ」

 

 一触即発の二チームの間にサイラオーグが仁王立ちする。

 

「アガレスの姫シーグヴァイラ、グラシャラボラスの凶児ゼファードル。これ以上無意味な争いを続けるというのなら俺が相手しよう。これはいきなりだが最後通告だ。次の言動の次第によっては俺は容赦なく拳を放つ」

 

 その言葉とともに一気に放たれる闘気といっていいオーラが放たれる。そして本気の目。方向性は違うが、ヴァーリと対峙した時のような圧倒的プレッシャーをイッセーは感じた。

 しかし、その凄みを感じてもヤカラのゼファードルは青筋を立てて言い放つ。

 

「はっ、バアルの無能が。そもそも、そこのロボットアニメなんかに現を抜かす処女女が――」

 

 ゼファードルの言葉はすべて言い切れなかった。その顔面に絶大な威力を込めた拳が突き刺さったのだ―――その拳はサイラオーグではなくダイスケの、だったが。

 一撃を受けたゼファードルは広間の壁を貫通し、隣の大広間の壁にぶつかってようやく止まる。

 

「テメェ……今「ロボットアニメなんか」つったか?」

 

 サブカルをこよなく愛するダイスケにとって、先ほどのゼファードルの一言は言ってはいけない一言だった。この場がどういう場か、そして自分はいるだけで大人しくしていなければならないということも忘れさせてしまうほどに、である。

 

「あの、宝田君? 君、今自分が何をしたのかわかっているのか……?」

 

 先ほどまで闘気ムンムンだったサイラオーグが血の気を引かせている。リアスに至っては気絶一歩手前で白目をむいているという美少女にあるまじき状態である。

 いつの間に、とイッセーは思ったが、先ほどまでダイスケが立っていた場所が大きく抉れているのに気付く。純粋な脚力だけで瞬間移動まがいのことを起こしたのだ。

 

「許されねぇ! 人の趣味を無遠慮に否定するなんて絶対に許されねぇ!!!」

 

 サブカルをこよなく愛するダイスケだからこそいえる一言だし、今まで暴力沙汰を良しとしなかったダイスケでもキレるのは致し方ないのだが、これに関してはいくらなんでも堪忍袋の緒が緩すぎだ。

 

「あ、あの……」

 

「あ゛!? なに!?」

 

 ゼファードルと言い争っていたシーグヴァイラがダイスケに近寄る。そして―――

 

「掴めプライド……?」

 

 テキィィィィィィン……

 

「掴めサクセス……!」

 

「元気のGは?」

 

「―――はじまりのG!!」

 

 そしてダイスケとシーグヴァイラは拳法家のようなポーズをとる。

 

「「流派、東宝不敗は!!」」

 

「「王者の風よ!」」

 

「全新!」

 

「系烈!」

 

「「 天破侠乱! 見よ! 東方は赤く燃えているぅぅぅ!!」」

 

 なんか、同好の士だったらしい。

 

「今の拳の使い方、イエスだね」

 

「こんどはブレンパワードですか。女性の貴女が、OP全部見れました?」

 

「あら、それはセクハラですわよ?」

 

「おっと、これは失敬」

 

 そして共にに笑う二人。すぐにお互いを誤解なくわかり合うするとは貴様らニュータイプか。

 

「き、貴様! いきなり何をするか!?」

 

「バアルはともかく、部外者の貴様が介入するのか!?」

 

 ダイスケに主をぶっ飛ばされたゼファードルの眷属が詰め寄ろうとするが、サイラオーグの巨躯がそれをさせまいと立ちはだかる。

 

「もともとそちらに非があるのだ。彼はそれを正したに過ぎない。それに、お前たちがまずやるべきなのは主の介抱だろう。俺や彼に剣を向けることではない。第一、これから大事な行事が始まるんだ、主を何とかしろ」

 

『――ッ!』

 

 圧されるゼファードルの眷属達。彼らは戸惑いながらも敵意をサイラオーグに向けるが、離れてみていた例の三人組が歩み寄る。

 

「こちらの次期大王様のいうとおりだぜ、みんな。今回は避けれなかったウチの親分がいけねぇや。血の気が多いのはいいが、怒らせる相手は選ばねぇとなぁ?」

 

「へへっ。わるいね、そこのぼーや。なんせウチの親分は見た目通りそういう趣味に理解がないもんでさ。ま、そういうもんも世の中に入るってわかってくれや」

 

「……激発する主を止めるのも下僕の役目だろうに。一緒にこういう場で喧嘩腰になってどうする。実力差がある相手を睨むよりも主を介抱せんか」

 

 その言葉でゼファードルの眷属たちは戦闘態勢を解き、倒れる主のもとに駆け寄っていった。そして今度はサイラオーグはダイスケとロボット談議に花を咲かすシーグヴァイラに目を向ける。

 

「君もだぞ、シーグヴァイラ。同好の士が見つかってうれしいのは分かるが、その前に化粧を直してこい。先の怒りを引きずったままでは行事もままならならないだろう」

 

「そ、それもそうですね。それでは、またあとで」

 

 そういってシーグヴァイラは踵を返し、眷属と共に広間を出る。

 

「さて、宝田君。とんでもないことをしたな。これではグラシャラボラス家に遺恨ができるぞ?」

 

「これから戦う奴リストに一つ名前が加わるだけなんで別にいいですよ。……まぁ、あの様子じゃ奴さん自信は大したことはないでしょうけどね。取り巻きはともかく」

 

「……そういうことは言うな。奴にも貴族のメンツがある。まあ、俺の分の殴ってくれたみたいだからその分スカッとしたがな。スタッフを呼んでくれ。めちゃめちゃすぎて、これではリアスとの茶も飲めん。」

 

 実力は見えなかったが、それでもサイラオーグその人となりに、イッセーは惹かれた。自分はこれから出会う将来のライバルたちに不安と脅威しか感じていなかった。それでも、同じ環境にいるはずのこの男は全く臆することも窮することもなく事態に立ち向かい、同じスタート位置にいるはずの自分たちを動かしていく。

 そして何より先ほどの闘気である。あれだけで事実、イッセーは圧倒された。そんなサイラオーグが、若手悪魔ナンバーワンであるか理解できたとイッセーは思った。そこへ、聞きなれた声がする。

 

「あ、兵藤!」

 

「匙じゃん。それに会長も」

 

「ごきげんよう、リアス、兵頭くん」

 

 シトリー家も到着し、ようやく会合に出席する若手悪魔たちが出そろった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたくしはシーグヴァイラ・アガレス。大公、アガレス家の次期当主です。宝田さん、よろしければ後で連絡先の交換を……」

 

「もちろんですよ。それにしても貴女がはぐれの討伐命令を下す大公家の悪魔だったんですね」

 

 化粧直しから戻ったシーグヴァイラからイッセーたちは挨拶をもらう。スタッフの魔力による修繕が完了した大広間にて、改めて若手悪魔同士の集いが執り行われているのである。

 当然ながらグラシャラボラス家の者たちは同じ席におらず距離をとっている。

 同じようにリアス、ソーナ、サイラオーグが名乗り、あいさつを交わし、今度は先ほどの騒ぎには加わらなかった少年悪魔が名乗る。

 

「僕はディオドラ・アスタロト。アスタロト家次期当主です。皆さんよろしく」

 

 虫も殺せない優男の印象を受けるが、それでも上級悪魔である。油断はできない。

 ちなみに、アスタロト家は現ベルゼブブを輩出した名家であり、グラシャラボラス家も本来なら現アスモデウスを輩出した名門である。

 そこで、ダイスケは疑問に思う。依然あった学校の授業参観の日に受けた魔王の話で、兄姉である魔王たちがフリーダムなせいでその弟妹たちはみな反動で真面目に育ったという話があったのだ。どうもグラシャラボラスはその範疇に含まれていないような気がするのだ。

 リアスもこのことに関して気になることがあったらしく、サイラオーグに尋ねた。

 

「ねえ、サイラオーグ。グラシャラボラス家の次期当主って本当は違う方だったわよね? それが何であの凶児で有名なゼファードルになっているの?」

 

「それが最近、グラシャラボラス家でお家騒動が起きてな。本来の次期当主が急逝されたのだ。不慮の事故死らしい。ゼファードルは繰り上げ当選、ということだ」

 

 そんな会話の中、廊下でリアスたちを待っていた使用人が入ってきた。

 

「皆様、大変長らくお待たせいたしました。皆様がお待ちでございます」

 

 問いに若手悪魔と悪魔世界の上役たちとの会合が始まる。

 一行が通されたのはまるで雛壇をスケールアップしたような場だった。一番上にはサーゼクスや魔王少女の格好をしていないセラフォルー、そしてアスモデウスとベルゼブブらしい二人を加えた四大魔王が内裏雛よろしく陣取り、その下には三人官女や五人囃子といった具合にお歴々が並んで座っている。

 そのセットの前に、まるで被告人のように一行は通され、それぞれの(キング)が一歩前に出る。その中にはダイスケに殴られたゼファードルもいたが、頬を抑えて何とか立っている。すると、初老の悪魔が語り始めた。

 

「今日はよく集まってくれた。次世代を担う貴殿らの顔を改めて確認するため集まってもらった。中にはイレギュラーもいるが、それに関しては天使、堕天使も含めた将来のレーティングゲームのひな形としていずれ参戦してもらうことを想定しているからだ」

 

 ダイスケ本人からしたら聞いていない話である。だが、こうして悪魔でないダイスケもこの場に呼ばれた、ということはそのようなことが将来起こりうるからだ。完全にこれはダイスケの配慮が足らなかった。

 

「まあ、早速やってくれたようだが……」

 

 たっぷりとひげを蓄えた悪魔が皮肉気に苦笑する。

 

「それはともかくとして、今前に出た六人はいずれも家柄、実力ともに申し分ない次世代悪魔の代表だ。だからこそ、君たちには経験を積んで互いに競い合い、切磋琢磨していってほしい」

 

 一番上のサーゼクスの言葉だ。それに対し、サイラオーグが尋ねる。

 

「その経験というのはいずれ我々も『禍の団』との戦に投入されると考えてもよろしいのでしょうか?」

 

「それはまだわからない。確かに経験にはなるだろうが、なるべくならそれは避けたいと私たちは考えている」

 

 その答えに、サイラオーグは納得できない、というように眉をつりあがらせる。

 

「なぜです? 若いとはいえ我等とて悪魔の上に立ち、守る上級悪魔の一端を担います。この年になるまで先人の方々からのご厚意を受け、それでも何もできないというのは良心に反します」

 

 そう言えるサイラオーグはこの六人の中で分かりやすくトップにいるから、である。チームとしては互いに実力は未知数でも、個人としては他の五人の先にいる。ならばもっと経験を積むには実践に出た方が手っ取り早い、というのがサイラオーグの自覚しない本心だ。

 それをわかっているサーゼクスは諭すように言った。

 

「サイラオーグ、勇気は認めよう。しかし無謀だ。何よりも成長途中の君たちを戦場で斃れさせる未来を迎えさせたくない。それほど君たちを失うということは大きいことなのだよ。君たちは君たちが想像しているよりも尊い宝なのだ。故に段階を踏んだ成長をしていってほしいのだ。理解してほしい」

 

 わかりました、とサイラオーグは引き下がるが、いまだ完全な納得はできていないようだ。

 

「なによりも今は和平によってできた繋がりを重要視しようというのが今の冥界の見解なのだ。そのためにもいずれ、そこの宝田大助君のような悪魔でない者のゲーム参戦を今回はテストし、各神話勢力も交えた一大イベントにしていこうと考えている。その新しい時代のレーティングゲームを悪魔側から担うのが君たちであってほしい」

 

 一気にダイスケに注目が集まる。つまりはいずれこの六チームによるゲームを行い、その中にダイスケも何らかの形で加わるということだ。

 

「いや、彼だけではない。実はここにいる若手六人、もしくは眷属内に()()()()()()()宝田大助君のような獣転人がいることがつい最近わかった。これはグリゴリが先日発見した情報なのだがね」

 

 そのサーゼクスの言葉に、若手六人とその眷属達の間にどよめきが生まれる。しかし、それは一時的なモノであって、自覚していたり、すでにそれを知っているらしい者は落ち着いていた

 そのあとは将来のゲームの在り方について話は進んだ。しかし、そのほとんどが魔王と上役たちとのやり取りになってしまっていたので、イッセーもダイスケも聞いているだけで疲れてしまった。

 

「さて、長い話に突き合わせてしまって悪かったね。なに、私たちは若い君たちに私たちなりの夢や希望を見ているのだよ。勝手かもしれないが、理解してほしい。何度も言うが、君たちは冥界の宝なのだ」

 

 本心であるから疲れていてもしっかりと伝わるサーゼクスの言葉。期待されている、というのは度にもよるが素直にうれしいと感じてしまうものだ。

 

「では最後に、君たちの夢や目標を聞かせてもらえるかな?」

 

 サーゼクスの問いに真っ先に答えたのはサイラオーグだった。

 

「魔王になることが、俺の夢です」

 

 はっきりとそう言い切る豪胆さに、上役たちも「ほう……」と嘆息を漏らす。

 

「しかし、大王家から魔王が出るとなると前代未聞だな」

 

「民が必要がと感じれば、そうなるでしょう」

 

 若手悪魔ナンバーワンにして大王家の第一位継承者であるからこその説得力である。それにリアスが続ける。

 

「私はグレモリー家の次期当主としていき、各ゲームにおいて常勝であることを目指します」

 

 一度経験した大敗かるくるリアスの言葉には強い決心があった。それを聞き、その奥にあるものを知っているリアスの眷属たちは身を引き締める。そのあとにも各人が己の目標、夢を口にし、ソーナが残った。

 

「私の目標は冥界にレーティングゲームの学校を建てることです」

 

 聞けば誰もが感心するであろう言葉だったが、上役たちはそれを聞いてざわつき始めた。

 

「ゲームを学ぶ場ならばすでにあるはずだが?」

 

「それは上級悪魔や一部の特権階級にいる者だけがいくことを許されるところ。私が作りたいのは下級悪魔や転生悪魔でも平等に通えるようなところです」

 

 ますます良いことである。匙も己の主の夢を聞いて誇らしげにしている。しかし――

 

『ハハハハハハハハハハッ!』

 

 浴びせられたのは、上役たちの嘲笑。イッセーにも、匙にもわからなかった。なぜ、ソーナの夢は嗤われなければならないのか。助けを求めるように、イッセーはリアスを見るが、彼女は厳しい顔つきでやはりか、というような表情になっている。

 

「こいつは傑作だ!」

 

「流石に無理というもの!」

 

「いやいや、夢見る乙女という奴ですな!」

 

「若いというのはいい! だが、これがデビュー前の顔合わせの席でよかったっというもの」

 

 イッセーはダイスケを見る。

 

「……維新は成っても意識は変わらずってか」

 

 そこへ木場が口にする。

 

「ダイスケ君の言う通りだよ。今の冥界は徐々に変わりつつあるとはいっても、上級下級、純粋と転生悪魔の間の身分差は残り続けている。フェニックスを見ただろう?あれがいい例だ」

 

「で、でも、グレモリー家は優しくしてくれてるぜ?」

 

「イッセー君、グレモリー家は特別だよ。眷属にここまで情愛を注いでくれるところはグレモリーだけなんだ」

 

 木場の言葉の脳裏で、ライザーが自分にどのように接していたかイッセーは思い出す。下級に下僕、そういった他者をさげずさむ言葉でしか、ライザーはイッセーを表現していなかった。

 しかし、それでもソーナは自分の言葉を曲げなかった。

 

「私は本気です」

 

 立場の都合でどうしても直接妹を応援できないが、セラフォルーはうんうんと肯いている。しかし、大人たちはそうではない。

 

「ソーナ・シトリー殿、下級・転生悪魔は上級悪魔に傅き、主として仕えたうえで才能を見出されるのが常。そのような施設を作ってしまっては伝統と誇りを重んじる旧家の顔を潰すことになりますぞ。いくら変革しつつあるとはいっても、変えて良いものと悪いものがある。たかが下々の者にレーティングゲームを教えるなど――」

 

「なんでなんっスか!!」

 

 匙の我慢が、ついに限界を迎えた。

 

「なんでそんな風に会長の……ソーナ様の夢をコケにするんスか!? かなえられないなんて、なんであなたたちが決めれるんです!? ソーナ様は本気でやろうとしてるんスよ!!」

 

「口を慎め、下僕よ。ソーナ殿、躾がなっておりませんぞ」

 

 あまりの口ぶりに、イッセーはもし自分が同じ立場だったら、と思う。きっと匙のように大声を上げていただろう。しかし、直情的にしかできない。だがダイスケなら――と思うがダイスケは動かなかった。

 いかに重要人物として見られているとはいっても、ダイスケの立場は単なる学生である。しかし、相手は冥界において確固たる地位を築いた大人だ。立場による発言力の違いというものは身分の差だけでできるのではない。

 ダイスケのその姿を見にそのことに気付いたイッセーはただ、悔しい思いを握力に変えることしかできなかった。「黙れ、この簾頭が。お前の頭の横の残り少ない希望すべて引きちぎってやろうか」だの「学校を作ったから維新後の日本の識字率が上がって国力が上がったんだろうが、人間界の歴史も知らねぇのかこの偽ガンダルフ」といった小さい声によるダイスケの罵声はばっちり聞こえていた。よってイッセーもそれにならい、小声で上役達に向かって「バーカナーカバーカバーカ」と連呼したのはもちろんだ。

 

「……申し訳ありません、後で言って聞かせます」

 

「どうしてここで引き下がるんです!? この人たち、会長の夢をバカにしたんですよ! どうして言われるがままなんですか!?」

 

「サジ、お黙りなさい。この場は意見交換の場でも討論の場でもありません。私はただ将来の夢を語っただけ。それだけのことなのです」

 

「――ッ!」

 

 匙はまだ言いたげだったが、ソーナの冷徹な目を見て押し黙る。本当は本人が一番つらく、悔しいだろう。しかし、ソーナにはソーナの立場がある。悪魔として、貴族として、魔王の妹として。何より、これ以上匙が続けてもその主であるソーナの立場がなくなってしまうのだ。

 だからこそ、匙には黙るという手段しかなかった。

 

「だったら! うちのソーナちゃんがゲームで勝っちゃえば誰も文句ないでしょう!? ゲームで好成績を残せば、願いをかなえられる悪魔だっているんだもん!!」

 

 プンスカとご立腹しているのセラフォルーの提案に、誰もが驚く。何しろ突然のことだったので上役たちも困惑していた。

 

「もう! オジサマたちは寄ってたかってソーナちゃんをいじめるんだもの! いくら立場があるからって流石に我慢の限界よ!? これ以上ひどいこと言うんだったら今度は私がオジサマたちをイジメちゃうんだから!!」

 

 見事なブチギレ金剛ぶりを見せるセラフォルーにただただ戸惑う上役たちとこっそり指笛を鳴らしてセラフォルーの発言を称賛するダイスケ。それに対してソーナ本人は姉が助けてくれた嬉しさと姉が自分のために自分の立場を利用したという気恥ずかしさで顔を真っ赤にして手で覆っている。

 だが、セラフォルーの発言は一見立場を利用したものにとられてもその実は悪魔社会のルールに基づいたものだ。願いを通すために力を見せること、それはイッセーがすでに実現させたことでもある。それを踏まえたうえで、サーゼクスは発言する。

 

「ちょうどいい、ならば若手同士のゲームを行うとしよう。リアス、ソーナ、君たち同士で戦ってみないか?」

 

 その言葉に、リアスとソーナは互いに目を合わせる。

 

「もともとリアスのための試合を一つ計画していたところなのだ。アザゼルが各勢力のゲームファンを集めて君たちの試合を観戦させる予定があった。そこで君たち同士のゲームを執り行おうと思うのだが」

 

 ゲームそのものは元来予定されていたものだったらしい。いきなり駒王学園の学生同士の戦いになるが、リアスとソーナも共に不敵な笑みを浮かべる。

 

「公式戦でないとはいえ、これは良い機会。初めての相手があなただなんて、運命的なものを感じてしまうわね、リアス」

 

「私もよ。でも、やる以上負けるつもりはないわ」

 

 互いに火花を散らす様子の主を見て、互いの眷属同士も闘志を出し合う。

 

「なら決まりだ。日取りは日本時間の八月二十日。それまで自由に時間を使って構わない。詳細は改めて後日連絡しよう」

 

 こうして若手悪魔同士の初めての対決が執り行われることと相成ったのである。

 

 

 

 

 

 

 グレモリー家の本邸に返ってきた一行を待っていたのはアザゼルであった。そこで会合の場で起きた出来事をリアスたちはアザゼルに伝える。

 

「人間界の時間で今日が七月二十二日。対戦日まで一か月近くあるな」

 

 シトリー家との対戦の話を聞いたアザゼルはさっそくなにかの計算をし始める。

 

「ひょっとして、修行の日取りの計算ですか?」

 

 イッセーが尋ねると、アザゼルは当然だ、と頷く。

 

「開始予定は明日、各自のメニューもすでに考えてある」

 

「でも、なんだが俺たちだけ堕天使総督のアドバイスを受けるなんて、なんだかズルっぽくないですか?」

 

「ばーか、俺の指導を受けるってだけでもう勝ったつもりか。大体、堕天使や天使のバックアップを受けてるのはお前たちだけじゃない。うちの副総督のシェムハザだって各家に情報なりなんなりを渡している。あいつのほうがしっかりしているから、下手したらお前たちの方が不利になったりしてな、ハハハ!」

 

「ちょっと、不安になるようなことを言わないで頂戴。本当に不安になってきたわ」

 

 これ以上負けたくないという感情がことさら大きいリアスは本当に不安になってしまった。

 

「冗談だって。まあいいや、明朝に庭に集合な。そこで各自のメニューを伝える。覚悟しとけよ?」

 

『はい!』

 

 全員の息がぴったりと合う。それほど皆、やる気が大きいからだ。イッセーにとってはヴァーリとの距離を縮めるため、ダイスケにとっては決着がつかなかった義人との力量差をつけるための修行である。

 明日の朝になれば、ついにそのための修行が始まるのだ。




 はい、というわけでVS31でした。
 サーゼクスのいうとおり、若手悪魔六人の本人ないし眷属に必ず一人獣転人がいます。ですので、今作はヘルキャット編最後の対シトリー戦にダイスケも参戦しますよ。誰が獣転人なのか予想してみてください。ただし、その獣転人となったキャラが必ずレーティングゲームで暴れるという訳ではありません。どこか他所で暴れる可能性もあるのです。
 次回から修業回ですが、前作とくべてダイスケの修行目的がハッキリとしており、そして難易度は急上昇しています。相手も超パワーアップです。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS32 全ての修業回はドラゴンボールとジョジョを見習え

 大分腰がましになってきました。
 あとありがたいことにUA数が18000を超えました。皆様、ありがとうございます。


 修行開始当日、オカルト研究部一同はジャージ姿でグレモリー邸の庭の一角に集まっていた。全員の服装に合わせているのか、アザゼルもジャージ姿で資料の束を持って、全員の前に立ている。

 

「先に言っておく、俺がこれからお前たちに課すメニューは将来的なものを見据えてのものだ。即効性がある者もいるが、長期的に鍛錬し続けなければならない者もいる。ただ、お前たちは若い。方向性さえ見失分ければより良い成長を見込める。さて、まずはリアスからだ」

 

 最初にアザゼルが指定したのはリアスだった、彼女には基礎トレーニングと王として必要な見識や判断力、機転を鍛えること。木場とゼノヴィアには自分の持つ力をコントロールすること。ギャスパーは人見知りを克服しゲーム中でもパニックに陥らないようにすること。アーシアは基礎トレーニングと聖女の微笑みの使い幅を広げることを目標に設定された。

 イッセーは分かりやすく実践方式。かつての六大龍王が一角、聖書にドラゴンと書いてあればこいつと思えというドラゴン、タンニーンにいじめられることだった。

 

「じゃあ、あそこの山を借りるぞ、リアス嬢。サーゼクスの頼みもある。死なない程度に鍛えてやる」

 

 吐き出す火炎の一撃が隕石の衝突に匹敵するという転生悪魔にしてドラゴンのタンニーンは、そういって一足先にイッセーを誘拐もとい連れ去……もとい共に修行の場に飛んで行った。

 残された朱乃と小猫に言い渡されたのは、「己の中にあるものを受け入れる」ことだった。

 朱乃に関してはダイスケは父親絡みのことだろうと察しはついた。コカビエルの一軒の後、それとなくイッセーから彼女の父親が堕天使であり、そのことを嫌悪しているということを聞いていたのでそっちは話が分かった。

 だが、小猫については分からない。基礎的なトレーニングで、戦車のオフェンスを上げろとしかアザゼルは言わないので小猫の事情だけは分からないのだ。

 

「まあ、小猫なら大丈夫だ。もともとの身体能力はあるし、ベースアップなら心配ないさ」

 

 そういってダイスケは小猫の肩に軽く手を置く。励ましのつもりだったのだ。だが、小猫はその手を払いのける。

 

「……何も知らないのに、言わないでください……!」

 

 ふっと目を背ける小猫。やはりいつもの小猫とは違う。いつもなら「気安く触るな」とボディーブローの一発も来そうなものだがそれがないのだ。

 

「最後にダイスケ。お前は列車内で言ったように件の専門家をぶつけて実践方式でトレーニングをしてもらう。専門家と手合わせして、手探りで自分の進むべき道を見出すんだ。ひょっとしたら一番難易度が高いかもしれんが、な」

 

「わかりました。それで、誰が相手なんです?」

 

「それは向こうに行ってからのお楽しみ。安心しろ、強さは保証する。まぁ、和平がなったからこそのラッキーとだけ言っておこうか」

 

 

 

 

 

 

「うみゃい! うみゃいよぉぉぉぉぉぉ!」

 

 イッセーは今、リアス手作りの弁当を堪能していた。何せこの数日間、碌なものを食べていない。

 メインでやっていることの修行といえば、隕石クラスの威力の炎をポンポンと吐く『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』タンニーンから逃げ回ることと基礎トレーニング。基礎身体能力は確実に上がっているが、こちらが攻撃できる隙なんて微塵もない。

 食べ物といえばタンニーンから飛べられるかどうか確認をとった木の実や川魚のみ。植物やキノコなんて恐ろしくて手が出せない。

 何よりとらいのは身の回りに女子がいないこと。人間界にいたころはリアスや朱乃が甘えさせてくれ、ゼノヴィアやアーシアに迫られるのが日常だったのに今はそのかけらもない。そばにいるのは魔王級のドラゴンだけだ。

 おかげで夜はひたすら妄想。ついにはタンニーンに追いかけられている間も現実逃避で妄想できるようになってしまった。そんな中、見舞いに来たアザゼルが持ってきてくれたのがリアスと朱乃がそれぞれ作ってくれた弁当だった。

 

「朱乃の作った分のある。そっちの方もちゃんと食ってやれよ? あの二人、火花を散らしながら弁当作ってたんだから」

 

 それに加えてアーシアが作った分もあるというのだから、イッセーからしたら文句のつけようがない。

 

「しかし、数日見ないうちにいい面になったじゃないか。ガタイも良くなったんじゃないか?」

 

 そういってアザゼルは笑いながらイッセーの肩をたたくが、本人からしたら笑い事ではない。

 

「ふざけんな! このままいったら数日以内に死んでしまうわ!! タンニーンのおっさん、滅茶苦茶してくる上に洒落にならないくらい強いんだよ! ドラゴンの戦い方を教えてくれるって言っても逃げることしかできないし、このままいったら確実に殺されるよ! 童貞のうちに!!」

 

「馬鹿か。ちゃんと死なない程度には加減しているだろう。俺がその気になれば今のお前ごとき一瞬で消し炭だ。怖い思いをしたくないのならさっさと禁手に至れるようになれ。そうすればマシになる」

 

 岩場でタンニーンが呆れた目つきでイッセーに言う。

 

「そうは言うけどさ、怪獣サイズのあんたのパンチなんて喰らったら人間ベースの俺なんて一撃で粉みじんだよ!」

 

「ふん、そんな調子でリアス嬢の最強の兵士になろうなど笑止千万。彼女の下僕になりたがっていた実力ある悪魔がどれほどいたのか知っているのか?」

 

 タンニーンの言葉に、イッセーはそう言えば、と思い出す。駅や街中でリアスを見かけた悪魔たちの黄色い声援。容姿もあるが、下僕を大切にするグレモリーの眷属になれるチャンスなんて本来はそうそうないものなのだろう。それを目指すものの中には今のイッセー異常に鍛錬を積んでいた者もいるはずだ。

 それらを押しのける形で眷属になってしまったようなイッセーは十分幸せ者である。それを考えれば、今の子のトレーニングを受けられること自体が幸運。甘えた考えを持っていた自分に若干の自己嫌悪を感じていた。

 しかし、イッセーがつけているトレーニング日誌を見るアザゼルは言う。

 

「それでも基礎トレーニング含めてみんなこなしているんだろう? なら大丈夫だ。これぐらいこなせないと、禁手に至ったときに体がついていかないからな。お前には足りないものが多い。魔力の方はヴァーリには逆立ちしたって勝てない。なら、体力を上げるしかないんだ」

 

 それは十分理解しているし、実感もしている。生まれやこれまで送ってきた人生を考えればイッセーとヴァーリの間に大きなスペック差がある。それでも、だ。

 

「持続時間でいえばダイスケにも負けてるんですよね……あいつ、一日以上経っても平気そうって言ってたし」

 

「あれを同じ土俵で考えるな。あいつのトレーニングを通じて得た観測結果から分かったが、あいつも禁手そのものには至っていない。あいつと自分を比較するな」

 

「え? でも、俺の赤龍帝の鎧みたいに全身鎧で覆われてるじゃないですか。」

 

「たぶん、それが基本形態なんだろう。全身を堅い防御で覆い、それを通り越した攻撃は驚異的な回復力で回復させ、必要な力を形にして与える――これらすべて含めたスペックでお前の神器の籠手の状態と同じってわけだ」

 

「うわ、なんか……ずるっ」

 

 自分が禁手に至るためにここまで辛い修行をしているというのに、ダイスケの方は禁手に至る前の段階で既に禁手並みの力を得ているというのだ。ずるいとしか言いようがない。

 

「そう言っても、あいつが望んだことじゃない。責めてやるな。言っておくがお前はまだいいんだぞ? ドライグに力の使い方を教えてもらえるんだからな。あいつの方は何しても答えないっていうんだからまだお前の方が恵まれてるさ。リスクなんかもわかっているぶんな」

 

 確かにそうであった。ダイスケの方は仕様書も説明書もない複雑怪奇な武器を手探りで使っていかなければならない。それに対してイッセーは前例の赤龍帝を知っているアザゼルや力の根源であるドライグ本人が手取り足取り使い方を教えてくれるのだ。

 

「それかんがえたら――本当に恵まれてるなぁ」

 

 そうイッセーは弁当を食べる手を止めて感慨にふける。

 

「ま、人それぞれに大変ってことだ。お前もお前でタンニーンに追っかけられてるわけだし。何も後ろめたいことはない」

 

 そういってくれるアザゼルの心遣いが、本当に身にしみる。きっと秘蔵っ子であったというヴァーリもこんな風にアザゼルの指導を受けていたのだろう。それなのに平穏は似合わないからと言って裏切るとはなんということか、とイッセーはひとり胸の内で腹を立てる。

 と、そこでヴァーリのことを考えたせいであることを思い出した。

 

「そういえばヴァーリの奴、最後に何かしようとしてアルビオンに止められてたけど……何をしようとしてたんです?」

 

「ああ、『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』か」

 

「ひょ、ひょっとして、禁手のさらに上とか?」

 

「いや、神器の限界突破は禁手でまちがいない。それより上はない。だが、お前の赤龍帝の籠手やヴァーリの白龍皇の光翼みたいに何らかの魔物やドラゴンが封印されている神器は他の神器と違って特殊な制御になっている。そこから力を得ているわけだが、たまにその制御を取っ払って封印を解放する寸前まで力を解放する時がある。それがドラゴンがベースの場合、覇龍(ジャガーノート・ドライブ)と呼ばれる状態になる。絶大な力は得られるが、寿命を大きく縮ませられる上、理性が失われる」

 

「そこまでやるっていうことは、簡単に言えば暴走ですか?」

 

「簡単に言えばそうだが、実際はそんなに生ぬるいものじゃない。周囲すべてを破壊しつくし、自分を滅ぼす寸前までいってようやく止まる代物だ。コントロールは理論上不可能なんだが、ヴァーリは己の膨大な魔力を代償に数分間は自我を保っていられる。アルビオンの慌て様からするとまだピーキーらしい。そりゃそうさ、人工神器をバーストさせた俺が言えた義理じゃないが、あんな明日を捨てるようなやり方は神器の本来の使い方じゃない。――力の亡者と化したものだけが使う、呪われたやり方だ。お前は絶対にそうなるなよ」

 

 そういうアザゼルの瞳には、憂いというか、不安の色がにじんでいた。まるでヴァーリを心配しているような目立った。

 裏切られたとはいえ、もともと親子に近い関係だったのだ。不安にもなるだろう。

 

「何らかの魔物やドラゴンが封印されている神器ってことはダイスケが宿している獣具はどうなんです? やっぱりデータ不足?」

 

「情けないがその通りだ。過去のデータがなさすぎるから、魔獣版の覇龍、『|覇獣(ブレイクダウン・ザ・ビースト)』みたいなのがあるかどうかさえ記録がない。封印系だからあるとは思うんだが怪獣は魔獣とは毛色が違うからな……」

 

「そこのところ、ダイスケにも注意しておいた方がいいんじゃ?」

 

「もちろんそうする。悪手を打たれて旧世界の再現なんてまっぴらごめんだからな」

 

 アザゼルが真剣な顔で言う。かつてのゴジラの闘争はそれだけの被害をもたらした、ということだ。

 

「現白龍皇は覇龍は使えるのか? これはいかん、赤龍帝の小僧、うかうかしていると殺されるぞ。歴代の赤白対決は先に覇龍を掴んだものが毎回勝っている。あれはある意味早い者勝ちなんだぞ」

 

 話を聞いていたタンニーンから語られる衝撃の事実。

 

「え、じゃあ、今回は俺が殺される番!? ……いやいや、俺はハーレムを作るって決めたんだ、そんな簡単に殺されてたまるかよ!!」

 

 動機は不純だが、さらなる闘志がついたイッセー。

 

「うん、その意気だ。ところで話は変わるがイッセーよ、お前、朱乃のことどう思っている?」

 

「はい? そりゃ、頼りになる先輩ですけど。」

 

 イッセーの答えにアザゼルはいやいや、と首を横にを振る。

 

「そうじゃなくて、女としては、だ」

 

「魅力的です! お嫁さんになってほしいくらいです!」

 

 そのイッセーの言葉に、アザゼルは満足げに「うんうん」と頷く。どこか安堵したようにも見える。

 

「俺はダチの代わりにあいつを見守らなきゃならんところがあってな。お前が相手ならダチも喜ぶだろう」

 

「ダチって、朱乃さんのお父さんの堕天使のことですか?」

 

「ああ、バラキエルっていってな。あいつは大昔から一緒にバカやった仲でダチ中のダチだ。で、そんなバカやってたら周りはどいつもこいつも妻子持ちになっていやがってな」

 

「みんなに先を越されたんですね」

 

「……女なんていくらでもいらぁ」

 

 若干遠い目になったアザゼル。どうやら婚期の話は地雷らしい。

 

「それはともかく、俺はあの親子が心配でならんのよ。当人たちからすればいらん世話なんだろうが」

 

「……なんていうか、先生って意外と浪花節というか、世話焼きっスよね。今みたいにみんなの修行プランも練ってくれるし」

 

「なに、ただ単に暇と知識欲を持て余しているだけさ。おかげで、歴代最強の白龍皇も育てることになっちまったが」

 

 照れくさそうにしながらも、アザゼルは続ける。

 

「ともかく、朱乃はお前に任せていいんじゃないかと思っている」

 

「任せる……? そりゃ朱乃さんのことならゲーム中だろうが戦闘中だろうが守りますよ。部長も、アーシアも。先頭切ってみんなを守るのが兵士の役割だって思ってますし」

 

 そのイッセーの答えを聞いて、アザゼルは苦笑いをする。

 

「――まぁ、そういうところだな。お前はバカだが、悪い男じゃない。愛するべきバカというべきか、これならだれも分け隔てなく接することができるだろうな」

 

「?」

 

「わからなくてもいいさ。本当なたらしならとっくに修羅場だからな。そうじゃないからお前はいいんだよ。とにかく、朱乃に関してはお前に任せる。……それよりも、今問題なのは小猫か」

 

「どうかしたんですか?」

 

「どうにも最近焦っているみたいでな。と、言うより自分の力に疑問を抱いているらしい。そのせいかオーバーワークしちまって、今朝ついに倒れた」

 

「た、倒れたぁぁぁぁぁ!?」

 

 後輩の不吉な知らせに、イッセーは口から米粒を飛ばして驚いた。

 

「うわ、きったねぇな!」

 

「それよりも、大丈夫なんですか!?」

 

 自分の方に飛んできた米粒とイッセーの唾を払いながら、アザゼルはああ、と答える。

 

「怪我ならアーシアに治せるが、体力まではそうはいかん。特にオーバーワークなんて体を壊すだけだ。ゲームまで時間がないんだから余計に危険だ」

 

「あ、あの、オーバーワークはダメって俺は……? 怪獣サイズのドラゴンに毎日山の中で追い掛け回されて死にかけてるんですけど……?」

 

「ああ、お前はいいんだよ。むしろ足りないくらいだ。」

 

「そんなあっさり!? ああ、そうっすか、俺だけオーバーワークOKですか!! わかってますよ、俺が一番弱いからだって!! どうせ体が出来てるダイスケはまだ楽なメニューなんでしょ!?」

 

「いや、ある意味じゃダイスケの修行はお前より過酷だ。……なんなら変わるか? 死ぬかもしれんがな」

 

 

 

 

 

 

 

 昏い森の中、二つの黒い影が対峙する。

 一人は甲冑を身につけたダイスケ。もう一人は長剣を手にした祭司服の老人。だが、その老人はその年齢とは裏腹に力強い。

 老人が手にするのは聖剣ジュユワーズ。中世フランスのシャルルマーニュ伝説でシャルルマーニュが所持していたとされる剣だ。フランス語で「陽気」を意味するその剣は、ゼノヴィアの持つデュランダルと同じ素材で作られているという。

 当然ながらデュランダルが頂点である故及ばないが、その破壊力は老人の技量と相まってデュランダルに並んでいるように思える。

 

「さぁさぁ。避け続けるのもいいが、それではこの鍛錬の目的は果たされないぞ、bambino(バンビーノ)

 

 イタリア語で明確に子供と挑発されている訳だが、それでもこの筋肉の塊のような老人が放つ剣戟は凄まじい。一太刀振れば木々がなぎ倒され、二太刀で大地が裂ける。

 今手にしているジュユワーズは本来の得物ではないとのことだが、本当なのかと疑ってしまうのが現に相対しているダイスケだ。

 

「いや、本当に貴方80超えてるんですか? 釣り場で会う伊藤の爺ちゃんだってタックルケース持つだけでヘロヘロなんすよ?」

 

「一般人と比べられても困るぞ、bambino(バンビーノ)。一重に一途な信仰と鍛錬の賜物、これは常識では計れないというものなのだ」

 

 再び老人はジュユワーズを構え、虚空を斬る。するとその斬撃は軌跡を残しながらダイスケに迫る。それを空中にジャンプすることで逃れるが、それは老人の思うつぼ。予測されていた高度目がけて、跳躍しながら突きを放つ。

 思うつぼであることは十分承知しての回避行動だったが、やってきた突きの迫力たるや、まるで敵に向け角を突き出して突進してくる犀だ。

 本能的恐怖を感じる一突きに、ダイスケは円盤盾でもって防御する。しかし、突きそのものを防御できてもその衝撃は殺しきれない。ホームランボールよろしくダイスケは30mほど跳ね飛ばされた。

 

「ぃつぅ……」

 

 したたかに背中を強打して、ダイスケは思わず呻く。しかし、ゆっくりしている暇は無い。老人がとんでもないスピードでこちらに向かってきている。

 それを迎撃するためにダイスケは左腕の円盤盾を投擲する。当然、ジュユワーズに弾かれるがそんなことは先刻承知。

 ダイスケは両手から熱線を放って推進力とし、その慣性で殴りかかる気だ。老人に手を挙げるのかと言われるだろうが、相手は人知を信仰と鍛錬で飛び越えた人類のエラー。やらねば逆にこちらがやられてしまう。

 

「おおおおおおおおお!!!」

 

 気合いを込めて拳を放つダイスケ。それを迎撃するのは聖剣の一閃だ。拳と虹色に輝く刀身がぶつかり合ったその時、ダイスケの右腕の皮膚が装甲ごと裂けた。

 

「――!」

 

 痛みで一瞬怯んだため、押し負けてダイスケは跳ね飛ばされる。傷そのものに問題はない。ゴジラの力のお陰ですぐに修復するからだ。

 だが、これでは老人に一撃も与えることなく鍛錬が終わってしまう。それだけはダイスケとしては悔しい結果となってしまう。兎に角今は少しても攻撃を続け、隙をうかがうしかない。そう決して立ち上がるが、老人は剣を鞘に納めてしまった。

 

「腕が裂けたってまだ俺ならやれますよ。続けましょう」

 

「いやいや、時間が時間だ。あと二時間で日が沈んでしまう。そうなれば今夜の夕餉の得物を捕まえられなくなってしまうぞ」

 

 どうやら技能だけでなく冷静さもこの老人の方が上のようだ。それを聞いてダイスケも大人しく獣具を解除する。

 

「うむ、若さに任せて突き進むもいいが、休息も肝要。では、このあたりに生息するという丹波牛のミノタウロスを狩りに行くとしようか」

 

 そうして二人はミノタウロスが生息するエリアへ足を向けた。

 そう、ダイスケの訓練とはこの老人、元デュランダルの使い手にして枢機卿、かつては「教会の暴力装置」「本当の悪魔」と冥界に恐れられた人間であるヴァスコ・ストラーダとの実戦訓練であった。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そうだイッセー。お前、社交界デビューのレッスンのためにヴェネラナ夫人から呼び戻されてるからいったん帰るぞ。」

 

「しゃ、社交界デビュー!?」

 

「ほう、ならまた戻ってこい。夫人のレッスンの後はまた俺とのレッスンだ。」




 はい、というわけでVS32でした。
 前作に比べてトレーニング相手が格段ににパワーアップしております。原作でもエラーみたいな扱いの猊下です。喋り方がおかしかったらごめんなさい。
 次回はやっとリリアの秘密を明かせます。はてさてどうなることか。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS33 リリアの隠し事

 フハハハハハ! まさかの四日間連続投稿じゃぁぁぁぁぁ!!!


「では、本日も身体を動かしながら訓練目的の振り返りといこう」

 

 言いながらストラーダはジュユワーズによって先制攻撃といわんばかりに斬撃を飛ばす。たったの一振りから放たれたそれは何本もの木々を切り倒し、ダイスケに迫る。

 対してダイスケは上空にジャンプして回避し、再び着地する。そして牽制のための熱弾を放つが刀身を盾にしていとも容易くストラーダに防がれる。

 

「最初の二日間で意識せず力のリミッターを解除させることは成功。三日目からで本題に入り、今日で二週間になったということになる。これは私も予想しなかった順調さである」

 

 今度はストラーダが左手の拳で空を打つ。すると、『聖拳』と恐れられる聖なるオーラを纏った破壊エネルギーがダイスケを襲う。これに対してダイスケは自身の拳撃で対抗し、相殺させる。

 

「見事。お互いフルパワーで無いとはいえ実に良いパワーだ。しかし、これで君の力の“本質”を引き出した訳ではない。君の力の本質とはこのジュユワーズと同じ『破壊』である」

 

 ストラーダはジュユワーズを正眼に構え、ダイスケも腰を落として構える。 

 

「このジュユワーズはデュランダルと同じ素材で出来ている。君も知っての通りデュランダルはあらゆるモノを『断つ』刃。それと同じ材質ということはこのジュユワーズも一歩及ばないまでも同じく破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)クラスの剣、つまり破壊の剣であるのだ」

 

 一旦攻め込んでみようとダイスケは考えたが、ストラーダには一分の隙もない。迂闊に攻め込んだら容易く返り討ちになるだろう。

 

「そして私はミカエル様の特別の計らいで、『システム』内の旧世界の記録を見た。そう、ゴジラのだ。そこに映るかの巨獣はまさに破壊の権化。そこでアザゼル総督は考えられたという。『ゴジラのこのあらゆるモノを破壊する力はデュランダルと()()ではないか』とな」

 

「はい、それは以前も聞きました猊下。でも、あり得るんですか? そんな都合がいい能力なんて……」

 

「神滅具の頂点たる黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)がいい例といえよう。あれは元は一ローマ兵であるロンギヌスの持つただの処刑用の槍であった。それが神の子たるヨシュアの身体を貫いたがために『神殺し』の概念が生まれたのだ。そのものが行ったことがそのものの本質になることは神器や獣具において大いにあり得るとアザゼル総督は考えられたと言うことだ」

 

 そう言いながらストラーダはジュユワーズの構えを正眼から突きの構えに変える。その形はまさに幕末の新撰組最強の一角、斉藤一の片手平突きの構えである。

 老人とはいえストラーダの体躯はプロ格闘家すらひ弱に見えるほどのボリュームだ。その全身の筋肉を使った突進術は絶大な威力となることはダイスケも先刻承知。さらに諸刃の平突きなら左右どちらに逃げても追撃が可能、真正面から受けて立つしかない。 

 

「意識せよ、bambino(バンビーノ)。実践せよ、bambino(バンビーノ)。ここまでのお膳立てで実現できなければそれまで。私もスケジュールというものがあるのでな、この一撃で目覚めてみせい。さすれば――」

 

 ストラーダの足首が大地を蹴り、巨躯が老齢と体躯のスケールを覆して木場が遅く見えるスピードで突っ込んでくる。

 

「――bambino(バンビーノ)から一人の戦士に生まれ変われるであろう」

 

 この一瞬、ダイスケはこれまでの人生で経験したことがないほどの短い時間で思考した。

 これまでストラーダと向き合ってきて、ダイスケは何度もこの人類のエラーの異常性を体験してきた。並みの攻撃では傷つかない鎧がいとも容易く切り裂かれ、その奥の肉は何度も裂けて鮮血を吹いた。思えばこれまでの模擬戦はこの事をダイスケに刷り込むためのモノだったのかもしれない。

 円形盾で防げたこともあったが、この突きが相手では間違いなく破られるだろう。しかもジュユワーズが纏う剣気には明確な『断つ』というストラーダの意思が籠もっている。本気なのだ。であればこれを避けようが防ごうがその先には苛烈な一太刀が待っている。

 となればダイスケがが無事でいられる方法は、ただ一つ。明確な『破壊』の意思を拳に乗せて、これまでにない攻撃の意思を示すしかない。

 漆黒の籠手に守られるダイスケの拳に、足に、腰に力が籠もる。その時間はまさに刹那、ダイスケの拳がジュユワーズの切っ先に触れ――

 

「「破ァ!!!」」

 

 二人の身体が交錯する。

 その瞬間、絶大な破壊のエネルギーが発生した。衝撃波が周囲一帯を揺らし、二人が戦っていた200m級の山一つが麓まで球形に削られた。 

 その威力たるや周囲に礫を飛ばすことさえさせず、全てが塵になった。そのクレーターの中心に、ダイスケとストラーダが背を向けあって立っている。

 ダイスケの鎧はほぼ消し飛び、息を切らして肩を揺らしている。ストラーダも祭司服の上半身部分が消し飛んで、筋骨隆々の姿が見えていた。

 

「……聞けば君は己の力を抑えて生きていたらしいな。だが、これからは常にその全力を出せるようにすることを心がけるといい。でなければ、それ以上の結果が待っている」

 

 ダイスケの腕は痛々しく大きく裂け、泉のように血が噴き出していた。それにとどまらず、全身に受けた衝撃によるダメージはその全身大いに痛めつけてついにダイスケを昏倒させた。

 

「己に出来ることを制限するな。出来ることを精一杯して生きなさい。そこに遠慮や自制は必要ない」

 

 そう言うストラーダの持つジュユワーズにも変化が起きた。小さなひびが入り、それが徐々に刀身全体に行き渡る。なんとか形状を保とうとするものの、ついに虹色の刀身が砕け散った。

 

「――合格だ、bambino(バンビーノ)。いや、怪獣王(ゴジラ)ボーイ。実に見事な破壊の一撃、まさに破壊の象徴の産声の瞬間であるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダイスケが目覚めた頃にはすでに全身の傷は消えていた。体力も回復し、そのあとさせられたのはストラーダと一緒に砕け散ったジュユワーズの破片探しである。

 今回こうなることはミカエルも教皇も予測していたらしく、「どうせ壊れても錬金術で修復するから」とレンタルしてきたものだったということだ。幸いにも破片はほぼ一カ所に固まっていたので回収は三十分で済んだ。

 そのあとはひたすら破壊の一撃を撃つ練習である。

 

「うむ、この辺りの山はほとんど消し飛ばしてしまったな。元のゴジラの腕力も引き出せているようだ。この二つを組み合わせれば強力な武器となるだろう」

 

「あちゃー、もう的になる山がないですね。山地が盆地になっちゃった」

 

「……なにやってるんですか、二人して」

 

 そんな二人を若干引いた目で見るのは陣中見舞いに来たリリアである。勿論彼女はストラーダから極力離れてダイスケの影に隠れるようにしている。

 

「あの、旦那様に私は地図を書き換える結果になったなんて言わなきゃならないんですか?」

 

「心配無用であるぞ、若き悪魔のお嬢さん。彼は目的を達成し、すでに力をモノにした。多少環境が破壊されてもかまわないと冥界からは言われている」

 

「すいません、彼女男性恐怖症なんで俺経由で話してください。この娘、俺以外の男を極度に怖がるんですよ。」

 

「こ、これがあの教会の暴力装置……近づいただけで即斬り殺されそう……」

 

「お嬢さん、頼むからそういうことは陰で言って欲しい。和平がなった今、そこまで怖がられると私といえど傷つくのだよ」

 

「す、すいません……。あの、到着時にはもうお昼だと思ったので、どうぞこれをお二人で……」

 

 そう言うリリアは手にした大きなバスケットを見せる。それを受け取ったダイスケが蓋を開くと、そこには色とりどりの具が挟んであるサンドイッチが敷き詰められていた。

 

「コーヒーも持ってきてますから、ただいま淹れますね」

 

「おお、ありがとうなリリア」

 

「では私もありがたくご相伴にあずかろうかな」

 

 手近にあった岩に腰掛けた二人は、リリアが淹れるコーヒーを待ちながらバスケットの中のサンドイッチに手を伸ばす。

 

「しかし珍しい。グレモリー家はサキュバスのメイドがいるのだな。てっきり種族別に職業が分かれているものと思っていたのだが」

 

「……え?」

 

 思わずダイスケの手が止まる。サキュバスと言えば男性を性的に誘い、精気を奪う悪魔の一種だ。しかし、リリアは根っからの男性恐怖症である。そんなはずがないのだ。

 

「いやいや、それはないですよ。さっきも言ったとおり、彼女は極度の男性恐怖症なんですよ?」

 

「私はこれまでその役職故に多くの悪魔と相対してきた。そしてその内、相手がどのような悪魔なのか身に纏ったオーラや魔力の質で判別できるようになっている。この経験で得た観察眼には自信を持っておるよ、私は」

 

 そう、ストラーダはこれまで多くの悪魔と戦い、斬り伏せてきた。当然その長い経験で様々な種類の悪魔を見てきただろう。なら、その目に狂いはないはずだ。

 見ればリリアの手は止まり、震えていた。この反応からするにストラーダの言葉は真実で、そしてそれをリリアは長い間ダイスケにも話していなかったということになる。

 

「な、なぁリリア? 俺は別にリリアがなんだろうが気にしないぞ。誰だって秘密の一つや二つは――」

 

 しかし、リリアはダイスケの言葉に耳を貸さない。震えながら立ち上がり、ダイスケが近づくたびに後ずさりする。

 

「わ、私は……私は……ごめんなさい!」

 

 突如、リリアの足下に転移用魔方陣が発生し、その姿が消えた。あとには、ダイスケとストラーダが残された。

 

「……迂闊だった。触れられたくないことだったのか。すまないが怪獣王ボーイ、私はこのあとミカエル様とアザゼル総督にこの特訓の結果を伝えなければならないので君と別れなければならない。元々ジュユワーズが損壊したら切り上げる手筈になっている。君から私が彼女に謝っていたと伝えてはくれぬか」

 

「……悪気があって仰った訳じゃないんですから。一応、伝えておきます」

 

「……すまないな。君も下山だ。空いた時間はデータ収集を行うとシェムハザ副総督殿が仰っていたからな」

 

 バスケットの中身を空にし、彼らがこの場を去ったのはそれから一時間後のことであった。

 

 

 

 

 

 

「……はぁ」

 

 先の出来事から三日後、ダイスケは堕天使領にある研究施設の巨大プールに水着姿でいた。ゴジラの水中戦闘能力を測るためのモニタリングテストのためにここにいるのだ。

 ため息の理由はただ一つ、リリアのことだ。あのあとダイスケは一度グレモリーの本城に一人で帰還し、たまたまいたグレイフィアにバスケットを渡してそのついでに事の顛末を話した。リリアはあのあと伏せっているらしく、まともに仕事が出来ない状態になったので暇を与えて自室で療養しているという。

 勿論ダイスケは見舞いに行こうと思ったが、事情を知っているグレイフィアに止められてしまった。

 

「申し訳ありません。今はあの子をそっとしておいてあげてください。あの子にだって、知られたくないことはあるのですから……」

 

 どうやらかなり込み入った事情があるらしく、グレイフィアも詳しい話を教えてはくれなかった。これでは本人に訊くのも他のグレモリーのものに訊くのも不可能だろう。

 

「でも、ほってけねぇよ……」

 

 グレモリー家に引き取られてからずっとの付き合いなのだ。当然気心も知れているし、自分に心を開いてくれているということで友情も感じている相手でもある。生活を支えてくれていたという恩もあるから自分がなにか彼女のために出来ることはないのだろうかと考えるが、果たしてリリアの触れては行けない領域に自分が立ち入っていいものかとも思ってしまう。

 

「疲れているのですか? グレモリーの獣転人は大したことがないのですね、宝田さん」

 

 不意に声をかけられて顔を上げるダイスケ。その声の主は白人で、短い金髪の後ろ髪の一部を長く三つ編みにしたのモデル並みの水着美人。しかし、どこか幸薄そうな顔だ。

 

「えっと……ごめん、誰だっけ?」

 

「……はぁ、アスタロト眷属のミゲラ・サンタクルスです。同じ獣転人だから、と三日前に顔合わせして、今日までずっと一緒にテストを受けていたでしょう」

 

「悪い。ずっと考え事してたもんで、全然覚えてなかった」

 

「集中できていないのに良くテストを受けれらたものですね……」

 

 完全に呆れられているが、特にダイスケは気にしていない。

 

「大丈夫なのですか? 一緒にテストを受けた相手が横で事故死なんていやですよ」

 

「へーき、へーき。俺もあんたと一緒で水棲系の怪獣だから。溺れはしないよ」

 

 ミゲラはそのままダイスケの横に座るが、ダイスケはずっと考え込んだままだ。それにしびれを切らしたミゲラが切り出す。

 

「……このあとの模擬戦、貴方が集中できていないせいで実力の一部を見られないというのは私には不利益です。悩んでいることがあるのならゲロってしまいなさい。これでも私は貴方よりも年上なのですよ」

 

 ぐいっと詰め寄るミゲラに押され、ダイスケもこのまま一人で抱え込むよりはましかと三日前に起きたことをミゲラに語った。

 友人であるリリアが自分になにか言えない秘密を抱えているということ。自分の素性すら語れないほどの内容であるらしいこと。そして、事情を知っている者からあまり詮索しないでやって欲しいと言われたこと。それなのにダイスケ自身はリリアの力になりたいというジレンマに陥っていること。それら言える限りのことを話した。

 

「……女には誰でも秘密がある、といってしまえば楽ですが、相当に込み入った事情があるらしいですね、そのリリアという娘には」

 

「やっぱ、立ち入るべきじゃないのかな。それで、このまま距離をとれば……」

 

「でもそれは貴方自身が納得できないのでしょう?」

 

「それは、まぁ……」

 

 しばしの間、沈黙が両者の間に流れるが、それを断ち切ったのはミゲラであった。

 

「ホーン岬って知ってます?」

 

「世界屈指の難所の、ドレイク海峡があるところとしか」

 

「私はそこの小さな村でシスターをしてたんですよ」

 

 そうして、ミゲラは己の過去を語る。

 彼女は信心深かった両親の影響で海辺近くの教会に入り、そこでシスターとして暮らしていた。そんな彼女にはある特技があった。

 それは泳ぐこと。幼い頃から大人よりも深い海に潜ることが出来、どんなに荒れた海でも泳ぐことが出来るほど泳ぎが上手かった。

 そんな彼女は海難事故が頻発する周囲の海で遭難者が出ると率先して助けに行き、そして要救助者とともに帰ってきた。自分の特技を活かせるからというのもあったが、なにより心優しい性格であったのだ。結果、その功績と人当たりの良さから救急士の守護天使ミカエルの加護を受けた聖女と崇められはじめ、バチカンも彼女をその奇跡的な功績から公式に彼女を聖女と認めた。

 しかし、そんな彼女に不幸な出来事が起きた。ある日海で溺れていた男を救助したのだが、それが後に悪魔であると判明したのだ。ミゲラは悪魔を助けたとして教会から追放され、行き場をなくした。

 その窮状を知った両親はミゲラに家に帰ってくるように連絡を入れてきた。当初、彼女は両親に迷惑がかかると断っていたのだが、強い説得によってミゲラは家に帰り、身を潜めることにした

 しかし、彼女が家に戻ったところ「魔女を生み出した家」として両親は惨殺されていた。ミゲラはその瞬間、深い絶望に墜ち、その心の深淵から決してこの世に現れてはいけない力――獣具が目覚めたのである。

 結果、覚醒した力によって教会も含め集落は壊滅。自分のしでかしたことに絶望し、自決しようとしたところ助けた悪魔の次期アスタロト当主、すなわちディオドラに拾われることとなったのだ。

 

「ディオドラ様に拾われた私は、本当に救われました。『それは僕の責任だ。だから、僕は責任を持って君の身柄を保護し、君を守ることを誓う』と言ってくれたんです。当然、男と女の関係ですから身体を求められることもあります。ですが、私にはそれが自分の全てを受け入れてくれているように思えるのです。私の力も、罪も……」

 

「おたくの主は出来た主なんだな……」

 

「ええ。だから貴方もそのリリアという娘と真正面から向き合いなさい。真摯に彼女の力になりたいことを伝えれば、きっとグレモリー家の方も貴方に真実を教えてくれるはずです。大切な友達なのでしょう?」

 

 壮絶な過去を語ってくれた上に背中を押してくれたミゲラに、ダイスケは感謝の念しかなかった。そして、決心が付いた。

 

「ありがとうな、ミゲラさん。なにをするべきか見えたよ。このテストが終わったら、まっすぐにグレモリーの本城に行って、グレイフィアさんから事情を聞く! なにがあったって俺はリリアを否定しない。受け入れてやる! 悩み一つ一緒に背負ってやれないでなにが友達だ!」

 

「……いい笑顔になりましたね。でも、模擬戦は話は別ですよ。交流戦のためにもしっかりとデータをとらせて貰います。」

 

「当然!」

 

 そう言ってダイスケは獣具を展開して勢いよく深いプールに飛び込んだ。

 ……だからこそ、ミゲラが背後で悲哀と自虐に満ちた笑みを浮かべていたことに気付いていなかったのだ。

 




 はい、というわけでVS33でした。
 ダイスケの新技「破壊」はある意味あれですね、人体にも効く爆砕点穴みたいなもんです。実際ゴジラは破壊不可能なブラックホールも破壊していますので。
 ストラーダの発言は意図せぬうっかりです。ほんとに悪気はありませんでした。
 あと、もう一回アンケートだそうと思います。また活動報告の方も見てくださいね。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS34 自分に出来ること

 ブハハハハハハ!! 久々の五日連続投稿ゥゥゥゥゥゥゥ!!!
 私はぁ……神だァァァァァァァ!!!(どこかの壇黎斗)


 課されたデータ収集テストを驚異的スピードでこなし、ダイスケは予定より一日早くグレモリー本邸に戻ってきた。そして、リリアのことを尋ねるためにグレイフィアを探す。

 荷物を取りに来たメイドに自分の荷物を預け、すれ違う使用人達全てにグレイフィアの居場所を尋ねる。そして向かったランドリー室でグレイフィアは別途のシーツを広げて干していた。

 

「あら、どうされました? 特訓の方は?」

 

「全部こなしてきました。……リリアのことを訊くために」 

 

「ダイスケ様、その事は――」

 

「決めたんです。どんな秘密があったとしても、俺はそれを受け入れるって。あいつは嫌かもしれないけど、俺は知りたい。それで、出来るなら一緒に背負いたい。独りよがりだってわかってるんです。それでも、俺は――」

 

 必死にグレイフィアを説得しようとするダイスケ。その必死な様子を見て、グレイフィアはため息をつく。

 

「――わかりました。あの子には恨まれるでしょうけど、貴方に話しておきましょう。但し、この仕事が終わってからです。全て終わったらゆっくり話しましょう」

 

「……はい! 手伝います!」

 

 ダイスケも手伝ったことで作業は三十分ほど終わり、グレイフィアは自分の部屋にダイスケを招いた。ダイスケは小さな部屋の中の椅子に座り、グレイフィアはそこに紅茶の入ったポットとカップを持ってやってくる。

 

「一応訊いておきます。この話は聞いていて不愉快になる話です。それでも本当に――」

 

「わかっています。……お願いします」

 

 そしてグレイフィアが語ったのは今から8年前の出来事であった

 グレモリー家に限らず、どこの有力悪魔も人間の願いを対価を払って貰うことで叶えている。働くのはその悪魔の眷属だが、中には性的な目的に悪魔を召喚しようとするものいる。

 眷属悪魔の中には主、または別の者と交際している者もいたり、主が眷属にそう言う仕事をさせるのを嫌がる悪魔がいる。そんなとき、その家に所属するサキュバスが代行出動する場合がある。リリアは、そんなグレモリー家に所属するサキュバスの一人であった。

 リリアは元々孤児で、偶然ヴェネラナが保護して育てていた。やがて九歳の時にサキュバスであることがわかり、リリアは恩を返すために進んでサキュバス業を請け負うことにした。

 丁度、サーゼクスの元に性的な依頼が舞い込み、保有する眷属はほぼ男でグレイフィアも内縁の妻であったことからこの一件がリリアの初仕事となった。依頼内容も「十代以下の幼女がいい」ということだったのでリリアが率先して手を上げたというのもある。

 その時のリリアの気合いの入りようといったら目を見張るほどで、サキュバスの先輩達は皆笑顔で見送ったのだという。

 しかし、いつまで経ってもリリアが帰ってこない。依頼主に連絡を入れても応答がなく、リリアを強制帰還させようとしても術式が反応しない。これを緊急事態と判断したサーゼクスは即座にレスキュー部隊を派遣した。

 リリアを発見したのはとある人間界の山奥にあった研究施設だった。遮蔽魔術が施されており、発見は困難を極めたが、リリアの魔力の痕跡を辿ることでようやく施設を特定できたのだ。

 そして突入したレスキュー部隊が目にしたのは凄惨な光景だった。小さなリリアの肉体に痛々しい切開と縫合の跡が残り、電極針が何本も刺された状態で保護液槽の中に寝かされていた。繋げられた心拍計には弱々しい反応が映されており、危険な状態だということがわかった。

 そう、召喚主の目的は性的倒錯を発散させるためのものではなかった。悪魔を知識欲求を満たすために召喚し、人間なら死んでしまうような実験行為をして愉しんでいたのだ。小さな幼女の悪魔を求めたのも発育前の悪魔がどういう構造をしているのか調べるためだけ。ただそれだけだったのだ。

 召喚主であった男は即座に収監され、現在も冥界の刑務所に厳重な懲罰の元に管理され、保護されたリリアもすぐに治療を受けて傷跡からなにから全て治癒し、回復した。

 しかし、心はそうはいかない。よほど恐ろしい目に遭ったのだろう、以降は極度の男性恐怖症になってしまい、サキュバスとしての仕事は無理と判断、ヴェネラナ付きのメイドに配置換えになった。しかし、本邸で仕事をするにも嫌でも他の男性悪魔と顔を合わせることになる。これでは仕事にならない。

 そこで、丁度同じ時期にグレモリー家に保護され、北欧の別邸で預かっているダイスケの世話係するのはどうかとジオティクスが提案したのだ。同い年ならばまだ拒否反応が出ないのではないかということで、リハビリも兼ねてダイスケ付けとして派遣されることになる。

 初めのうちは他の年上のメイドに離れないよう、そしてダイスケとも目を合わせることのないようにして仕事をしていた。しかし、ダイスケは幼いながら、そして客賓でありながら率先して家事の手伝いをしていた。

 黙々と作業し、怯えるリリアの仕事も黙って手伝う。さらに、リリアが困ったときにはすぐに駆けつけてダイスケは彼女を助けた。

 その姿を見た結果、自然とリリアは男性としてはダイスケだけに完全に心を開くようになったのである。

 

「……そういう……ことだったんですか」

 

 手に持ったカップの中の紅茶は、すでに人肌の温度まで冷めていた。その壮絶なリリアの過去に、ダイスケは茶を口に入れることを忘れ、ただカップを玩ぶだけだった。

 

「彼女は三日前から仕事に復帰しています。会って話してみますか?」

 

「……とりあえず、謝ってはおきたいです。俺は気にしない、なんてなにも知らずに言っていましたから。自分で探して話します。」

 

 そう言ってダイスケは手にしたティーカップを一気に呷る。

 

「ごちそうさまでした。話してくれて、本当にありがとうございました。失礼します。」

 

 カップを受け皿に置き、ダイスケはその場を辞した。そして、リリアを探して城内を歩き回る。

 恐らく男性が縁のないような仕事があるところにいるはず、と思ってダイスケは思いつく限りの所を探し回る。キッチン、洗濯室、ヴェネラナやリアスの部屋がある棟周辺とひたすらすれ違うもの全員に尋ねながら歩き回っていく。

 そして、ついに廊下でリリアの姿を見つけることが出来た。

 

「リリア」

 

 呼び止めると、その声に気付いてリリアはビクッと震えて振り向く。

 

「ダ、ダイスケ様……?」

 

「調子悪いって聞いたから、さ。仕事できるくらいは元気で良かった。」

 

「あ、あの、先日は急に立ち去って申し訳ありませんでした。バスケットやポットも片付けを押しつけてしまって……」

 

「いいんだ。猊下も「すまなかった」って仰ってたからさ。……それより、この前は迂闊に「気にしない」とか言って、ごめん。なにがあったのかはグレイフィアさんから聞いた。……辛かったよな」

 

 その言葉を聞いてリリアは顔を伏せる。

 

「……グレイフィア様からお訊きになったのですね。私の、男嫌いの理由。ごめんなさい。もし貴方に知られたら――この関係が壊れるのかと思って」

 

 その声は徐々に震え、涙が溢れそうな声色になっていく。

 

「だって、私は男を淫らに誘うサキュバスで、傷だらけにされた過去があって、それなのに自分に良くしてくれたヒトに自分を守ってくれるんじゃないかって――そんな矛盾している自分が情けなくて――」

 

 廊下に一滴ずつ、小さな雫が落ちていく。

 

「きっと私は、貴方の影に隠れて生きることを望んでいたんです。それで、「貴方だけ特別だ」みたいな態度を貴方にとって……男性に恐怖していながら、貴方に勝手に期待していたんです。淫魔の本能と本性で」

 

 リリアは顔を上げて、無理に作った笑顔をダイスケに向けた。

 

「わたし、これからは貴方に縋って生きるようなことはやめます。男の人はやっぱり怖いけど……それでも、ここの仕事ならこれまでもなんとかやってこられたんです。自分一人で生きて生きるように頑張ります。ですから――私と貴方は、これからはただのメイドと客人です。……失礼します、仕事がありますので」

 

 そう言ってリリアは廊下の先へ消えていく。

 どれほど彼女が怖い思いをしたのか理解していたはずだった。そんな彼女が自分を支えにして生きていたこともわかった。なのに、それを捨てる選択をした彼女を止められなかった。

 なにも言えなかった。なまじ、彼女のことを知ってしまったから。

 彼女を助けようとするには、ダイスケには人生経験というものがなかった。だからこそ、自分の無力さをダイスケはひたすら悔いた――

 

 

 

 

 

 

 今日は特訓の成果の報告のためにグレモリー邸に集合する手筈になっている。先日一番乗りしたダイスケは他にすることもないので本邸前で待ちぼうけていた。

 不意に巨大な影が現れ、ダイスケの目の前で着陸する。それは巨大なドラゴン、タンニーンだった。その背には上半身裸のイッセーが乗っていた。

 

「おお、ダイスケ! 先に来てたんだな。」

 

 スッとタンニーンの背から飛び降りるイッセー。その姿は以前より精悍になった印象を受ける。

 

「おう。にしても、お前筋肉付いたな」

  

「まぁな。聞いてるかも知れないけど紹介するよ。タンニーンのおっさんだ。おっさん、こっちは宝田大助。話してたろ、ゴジラの獣具の持ち主」

 

「ああ、よろしくな。俺はタンニーン。いずれお前の力も見てみたいものだ」

 

「……その時はお手柔らかに」

 

 タンニーンの口の端からちらりと炎が見えたのはきっと気のせいだろう。

 

「それはどうかな。――俺はこれで失礼する。魔王主催のパーティーには俺も出席する。その時にまた会おう、兵藤一誠、そしてドライグと宝田大助」

 

「うん。今日までありがとうな、おっさん! 会場でまた!」

 

『相棒が世話になった。感謝する、タンニーン』

 

 タンニーンはイッセーとドライグを一瞥すると、イッセーたちを自分の背に乗せて会場入りする約束をし、飛び去って行った。

 

『誇りあるドラゴンが自ら他人を背に乗せようとはな。甘い龍王だ』

 

「でもいいヒトだと思う。なんていうか、ドラゴンッ! って感じがしてさ。同じドラゴンでも元人間のひょろい俺と神器の一部じゃ違うって」

 

 飛び去って行ったタンニーンを憧れの存在を見るかのような目で見送るイッセー。

 

「まぁ、俺からしたら同い年で比べればお前はほんとにすごいと思うけどな」

 

「な、なんでよ?」

 

「そりゃあアーシアも、部長も、姫島先輩も支えてるだろ? 聞いたぜ、倒れた小猫の見舞いにも行ったって」

 

「支えるって……我武者羅にやった結果が今に繋がってるだけだって。小猫ちゃんについても、眷属仲間だから当然だし」

 

「我武者羅にやって今がこうなってるのがすごいんだって。俺が同じことしても……」

 

「……なんかあったのか?」

 

 ダイスケは、首を横に振る。

 

「……俺じゃだめだ。だめだったんだよ。お前みたいに出来るんじゃないかって思ったけど、俺は……」

 

「ダイスケ……?」

 

 普段のダイスケからは想像もできない自信のなさが見えて驚きが隠せないイッセー。何か言わなければ、と口を開いたその時、木場の声が聞こえてくる。

 

「やあ、久しぶり……ってなにかあった?」

 

 不穏な雰囲気を察した木場が尋ねる。

 

「まぁその、ちょっとな……」

 

「……? ――それにしてもイッセー君、いい体になったね」

 

 イッセーの半裸を熱の篭った視線でまじまじと見る木場にイッセーは危険を感じ、一歩引き下がる。

 

「や、やめろ! そんな熱が篭った眼で俺を見るなぁっ!!」

 

「そ、そんな、筋肉が付いたねって言いたかっただけなのに……。僕って肉が付きにくいから純粋に羨ましいだけだよ。ダイスケ君もなんだか前と違うし。まあ、今はちょっと気落ちしているみたいだけど」

 

「……まぁな、ちょっと自分の至らなさに自己嫌悪をというかなんというか……ってなんだアレ!?」

 

 ダイスケの視線の先にはゆらゆらと全身包帯ぐるぐる巻きで歩くミイラの姿があった。ちらりと見え隠れする青い髪でそれがゼノヴィアであるとすぐに気付けた。

 

「おぉ、イッセーと木場とダイスケか」

 

「おぉ、じゃねぇよ、お前の登場のせいでシリアスな雰囲気消し飛んだぞおい。何がどうしてそうなったんだよ」

 

「聞いてくれるかダイスケ。実は修行して怪我して包帯巻いて修行して怪我して包帯巻いて修行して怪我して包帯巻いて修行して怪我して包帯巻いていたらいつの間にかこんな風になっていてな」

 

「いつの間にかもなにも予想された結果だよな。修行した結果がミイラってなんなんだよ」

 

「失敬なイッセー、私は砂に埋もれて永久保存されるつもりはないぞ」

 

「そういう意味じゃねぇよ! ――でもゼノヴィアのオーラ、前より静かで厚みがあるっていうか……っていうか、木場とダイスケのオーラも濃くなっている気が……」

 

 あれ、これって修行の成果?と首を傾げるイッセー。そこへアーシアはその場にいる者たちの名を呼んで駆け寄ってくる。

 

「みなさーん! お久しぶりで……ってイッセーさん!? なんで上半身裸なんですか!?」

 

「見慣れてるからいいだろ?」

 

「見慣れてるとかの問題じゃないです! 何か着る物をとってきますから!」

 

 実際、家でイッセーの裸など見慣れているはずのアーシアが恥ずかしがって急いで本邸に駆け込んだ。おそらく公衆の場で上半身裸であることが恥ずかしかったのだろう。アーシアが服を取りに行った後、姿を現したのはイッセーが最も会いたかった人物、リアスである。

 

「みんな、お疲れ様」

 

「部長ぉぉぉぉぉぉぉ会いたかったスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

 目にもとまらぬスピードでリアスの傍へ駆け寄るイッセー。それをリアスは愛おしそうに抱き寄せる。

 

「イッセー、逞しくなったわね……胸板が少し厚くなったかしら」

 

 久しぶりの感触に、興奮度はいきなりマックス大変身のイッセー。女っ気ゼロの殺伐とした生活を送っていたので感動もひとしおなのである。

 

「さあみんな、入って頂戴。身支度を整えたら修行の結果報告会をしましょう」

 

 

 

 

 

 

 小猫とイッセーの距離がいつもより若干遠い中、イッセーの部屋にて報告会は開かれた。

 禁手への未到達。イッセーにとっては情けない限りの結果ではあった。しかし、禁手という現象そのものが稀有のものである以上、致し方がないであろうというのがリアス並びに眷属たちの見解だった。

 しかし、何より注目を浴びたのはイッセーとダイスケの特訓前半のサバイバル生活っぷりであった。ゼノヴィアや木場も野外で鍛錬をしていたものの、生活の拠点はグレモリー家の所有する山小屋やロッジであった。

 とにかく二人の野生児っぷりにみんな引いた。

 

「あれ、俺屋根も布団も何もない、でかい葉っぱ一枚で寝てたんだけど……」

 

「バカだな、お前。寝床は自分で作るものだぞ。木の枝と葉っぱでシェルター作ってさぁ」

 

「いやいや、俺飲み水沸騰させて殺菌消毒してたよ?」

 

「情弱だな、水はミズゴケを絞るんだ。それか動物の血で代用が基本だろ」

 

「それぐらいなら俺だって冥界産のウサギとかイノシシ解体したぜ?」

 

「勝った、俺ミノタウロス。気分的には殺した人間をさばく猟奇殺人者の気分だったよ」

 

「残念、俺なんて元龍王のドラゴンに隕石クラスの威力の炎を吐かれ続けてひたすら逃げてましたー」

 

「それだったら俺も……あ、これ言えねぇんだった。兎に角この世のエラーに切り刻まれまかれましたー。十秒に一回は大量出血か四肢切断ですー」

 

 小学生のように互いに自慢するサバイバルの内容に、ただただ引いているグレモリー眷属+主たち。アザゼルなどは自分で指示しておいて引いているのだからひどい話だ。

 

「自分で指示しておいてなんだけど、お前らよく耐え続けたよな。ホント。イッセーなんて途中で逃げ出すだろうって予想してたんだが、よく山に順応できたよな。ダイスケもアレ相手によく目標達成できたよ、ほんと」

 

「えええええええええ!? そんな予想建ててたの!? 必死になって俺サバイバルしてたのに!?」

 

「ちょっと待てオッサン。なんか「これでダメだったら殺す」みたいなこと言われたんだけどあれはなんだったんだよ」

 

「だから驚いてるんだって。逞しすぎだぞお前ら。完全に想定の範囲外だ」

 

「「よし、ちょっと表に出ろヒゲ」」

 

 完全に今の言葉でトサカに来た二人。すでにアザゼルもヒゲ呼ばわりである。

 

「大体出発の時点で俺は拉致されてるからね!? 知ってるか? タンニーンのおっさんの手の掴まれ心地! 命も掴まれてるって感じるから!」

 

「まだいいだろ、俺なんてここから特訓場まで徒歩だぞ、徒歩」

 

「なにか!? 寝てる時も奇襲されるのがマシってか!? お前みたいな回復能力のない俺が何度死にかけたか! ブレスが、山火事が襲ってくるんだぞぉぉぉ!!」

 

 PTSDにでもなったのか、涙を流してイッセーは訴える。

 

「かわいそうなイッセー……さ、こっちに来なさい。耐えきったご褒美に抱きしめてあげるから」

 

「部長ぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!」

 

 リアスの胸に飛び込むイッセーは何とも幸せそうである。まるで怪我して泣いて親にあやされる子供だ。

 

「だが、出発前よりもずいぶんと体ができてきている。この分ならいざ禁手に至ったって時にもだいぶ鎧を維持できるだろう。なんというか、もっと劇的な変化が必要だったんだろうな。ドラゴンと接することでそれが得られると思ったんだが。本当だったらもう一か月……」

 

「無理! さらに一か月なんて俺は部長欠乏症で死ぬ!!」

 

 子供の用にイッセーはリアスの胸の中でいやいやと首を振る。ほんとに子供か。

 

「本当に辛かったのね。あの山には名前がなかったけど、「イッセー山」と名付けましょう」

 

「まあいい、報告会はこれで終了。明日はパーティだ。今日はもう解散するぞ」

 

 アザゼルの一言で報告会は終わりとなった。

 

 

 

 

 

 

 五大龍王、という概念がある。

 これは地母神ティアマト、西海龍王敖閨が息子玉龍(ウーロン)、世界蛇ミドガズムオルム、黄金龍君ファーブニル、黒邪の龍王ヴリトラの五匹の力あるドラゴンを指す。

 本来は六大龍王であったが、タンニーンが悪魔に転生したため五大龍王となったのだ。魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラドン)とまで賞された誇りあるドラゴンがなぜ悪魔に転生したか。それには二つの理由があった。

一つはレーティングゲームで多くの実力者たちと戦うため、そしてもう一つが――

 

「ドラゴンアップルという果物があってな。そのためだ」

 

 イッセーとダイスケはタンニーンの頭上にてパーティー会場のホテルに向かう道すがら彼の話を聞いていた。彼の後ろには従者のドラゴンたちが十体連なり、グレモリー眷属と同行するシトリー眷属をその背に乗せている。

 

「その名の通りドラゴンが食す果実だが、ドラゴンの仲間にはこれしか受け付けないというものもいる。しかし、人間界の者は環境の激変で絶滅してしまった。もはや冥界にしか実らないものとなってしまったんだ。そこで俺は悪魔に転生すると決めた」

 

「……なんでそこまでする必要が?」

 

「宝田大助よ、ドラゴンというものは暴力そのもの。悪魔にも堕天使にも忌み嫌われている。ドライグとアルビオンが神器に封印されたのがいい例だ。ただで果実を分け与えてくれるものではない。だから俺は悪魔となり、のし上がって上級悪魔となり、そして果実の木が生える区画を頂戴したのだ。上級悪魔以上となれば魔王から冥界の一部を領土とさせてくれる。そこに目を付けたのだ」

 

「じゃあ、餓えかけたドラゴンたちはおっさんの領土に?」

 

「ああ、おかげで彼らは絶滅を免れることができた。それに人工的に栽培する方法も研究させている。特別な果実故困難だろうが、それでも未来につなげることができるのなら続けていくさ」

 

 淘汰されるはずだった種族のために、誇りを捨てて未来につなげたタンニーンに、イッセーは素直に感動していた。

 

「――いいドラゴンなんだな、おっさんは」

 

「いいドラゴン? ガハハハハハ! そのように言われたのは初めてだ! しかも赤龍帝からの賛辞とは恐れ入る! しかしな、同族を守りたいと思うのは人間も悪魔もドラゴンもみな同じ。俺はそれに倣い、力なきドラゴンを救いたいと思ったにすぎんのだ」

 

「ノブリス・オブリージュってやつか」

 

 ダイスケが言う。

 

「ひとくくりにすればそう言える。ただ、そこまで崇高なものじゃない。お前たちの心のどこかにもあるものだ」

 

 しかし、イッセーは首を横に振る。

 

「いや、それでもすごいよ。俺はただ、やみくもに上級悪魔になってハーレム眷属を作りたいって思っているだけだ」

 

「俺もだ。俺が強くなりたいのはただ、守れる者を力で守りたいって考えてるだけ。だからそれ以上なんて……。だから俺はリリアにも……」

 

「ダイスケ……いや、それを言ったら俺もか」

 

 お互いに何があったのか、すでに一部だが教え合っているからどうしてダイスケが気落ちしているのかイッセーにはわかっていた。イッセーはダイスケがリリアと何があったのかを、ダイスケは小猫が猫魈であり、力を暴走させはぐれとなった姉と自分が同じようになるのではないかと苦悩しているということを知った。

 しかし、お互いにかける言葉が思いつかない。そこへ口を開いたのはタンニーンであった。

 

「いや、若いうちはそれでいい。雄であれば雌や富を求めるのは必定。己の場を守ろうとするのも本能だ。それが動く原動力となるのならばそれでいいではないか。しかしな、兵藤一誠、宝田大助。二人ともそこを最終目標にするのはもったいないぞ。強くなれば雌も寄ってくるし、守りたいものを守ることも自然とできる。それ以外のなにかを見つけてみろ。平穏を望むのもいい。強さを目指してみるというのもいい」

 

 タンニーンは続ける。

 

「それにな、宝田大助。誰かを自分だけの力で救うというのは存外苦行だ。だからこそ、時を待つというのも手だ。以外と待てば、時というのは問題解決のチャンスを運んできてくれるものだ。若いお前たちは、今できることをがんばればいい。……若いお前たちにはまだわからんかもしれんが」

 

 その言葉を聞いた二人はお互いに顔を合わせる。最初に切り出したのはダイスケだった。

 

「……なぁ、俺はリリアをどうにかすることができるかな」

 

「――大丈夫だよ。俺も俺でなんとか小猫ちゃんと向き合ってみる。だからお互い足掻いてみようぜ」

 

「……ああ、だな」

 

 

 イッセーは冥界に来てから様々な目標を持つ悪魔に出会った。ゲームでの優勝を目指すリアス、魔王を志すサイラオーグ、同族を救おうとするタンニーン。そして、出立前に聞いた匙の教師になりたいという夢。

 どうやら匙はソーナの夢の手伝いをしたいらしく、そして共に教育に従事していた両親の影響もあって教師を目指すことにしたらしい。

 誰もが、立派な目標を持っている。もちろん、イッセーの目標は上級悪魔となってハーレム眷属を作ることだが、それ以外にできることがないか、真剣に考えようと誓っていた。

 ダイスケも、匙の話は聞いていた。転生前の少々やんちゃだったらしい彼の前評判は耳にしていたが、変われば変わるものである。

 自分ができることとはなにか。それを考えながらも二人はタンニーンとの談笑し、いつの間にか会場に到着していた。




 はい、というわけでVS34でした。
 実はリリアの秘密はこれだけではありません。まだまだ裏があるヒロインです。
 あとダイスケは何でも出来るチート主人公ではないので、すぐにリリアのお悩み解決なんて出来ません。不器用なヤツです。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS35 再会! 姉と銀

 六日連続投稿イエェーイ。
 そして機能は感想ゼロ……。


 パーティー会場となるホテルは、グレモリー領の森の中にぽつりと立っていた。しかし、照明などで非常に目立っている。タンニーンは隣接する競技場に着陸すると、グレモリー眷属と便乗したシトリー眷属を降ろした。

 

「俺は大型悪魔用の会場に移動する。上流社会の空気、感じてこい」

 

「うん、おっさんありがとう!!」

 

「ここまでありがとう、タンニーン」

 

「いろいろとサンキューな。おっさん」

 

 イッセーとリアスとダイスケがそれぞれに礼を告げると、タンニーンたちはその巨体を翻して飛び去って行った。

 タンニーンと別れた一行は、迎えに来ていた従業員たちに案内され、リムジンに乗車する。その時、ダイスケは小猫と同じ座席列に座った。

 

「……なんですか」

 

 これまで特に小猫のことを気にかけていなかったダイスケが、急に自分の隣に座ったのである。小猫の不信感は当然のものであった。

 

「イッセーから聞いたぜ。特訓中に倒れたこと。お前の姉ちゃんのこと」

 

「話したんですね、イッセー先輩……」

 

 小猫は視線をそらすが、ダイスケは構わずに続ける。

 

「俺もさ、ある女の子の力になれなくて挫折してるとこなんだけどさ……案外、お前の悩みはイッセーが吹き飛ばしてくれるんじゃねぇの?」

 

「イッセー先輩が?」

 

「ああ。いっぺんアイツを頼ってみなよ。確かに馬鹿でスケベだが、それ以上に他人が苦しんでいるところは見捨てないヤツだ。俺も背中を押されたし」

 

「……あのヒトは頼れそうにありません」

 

「そう思うのも無理ないが……ま、期待せずにその時を待ってみな。「待てば、時というのは問題解決のチャンスを運んできてくれる」らしいぜ」

 

「……」

 

 そして、二人の間に会場に到着するまでの間ずっと沈黙が流れていた。リムジンは会場に到着し、小猫は先に逃げるように降車した。ダイスケは後に続くに車を降り、大量の従業員に出迎えられてロビーに入る。フロントでは朱乃が確認をとり、全員がエレベーターに乗る。

 

「最上階にある大フロアが会場みたいね。イッセーもダイスケも、各御家の方々に声をかけられたらちゃんと挨拶するのよ?」

 

「は、はい部長。それはそうと、今日のこのパーティーは、魔王様が若手悪魔のためにわざわざ催されたんですか?」

 

「建前はね。でも私たちが会場入りしても大して盛り上がらないわ。実際は毎度恒例の行事なのよ、これは。その都度理由をつけて行われる各御家同士の交流会みたいなものね」

 

「その実は?」

 

 ダイスケが尋ねる。

 

「お父様たちのお楽しみ会よ。どうせ、四・五次会まで近くの施設に予約を入れているわ。お父様とお母様が別行動で会場入りしてるのがいい証拠よ。私たちよりも先に入って、出来上がっているでしょうね。社交界云々は抜きで羽目を外せる数少ない機会なの」

 

 呆れた様子で愚痴をこぼすリアスに、事情を知って苦笑する朱乃たち。つまりは政治的な場ではなく純粋な交流会なのでそこまで気張る必要はないということだ。しかし、それでもマナーや礼儀作法というものはついて回る。

 

「おい、イッセー、お前大丈夫か? おれはこれでも何回かジオティクスさんに連れられてこういうのに参加したことはあるけど」

 

「大丈夫だダイスケ。そのあたり部長のお母様にみっちり仕込んでもらってる」

 

 エレベーターも到着し、一歩出るとすぐに会場であった。

 

『おおっ』

 

 全員の視線がリアスに集中する。

 

「リアス姫、ますますお美しくなられて……」

 

「サーゼクス様もさぞご自慢でしょうな」

 

 リアス本人は「誰も気に留めない」とは言ったが、この盛り上がりようである。しかし、そこでなぜかイッセーがにやける。

 

「……なんでお前がにやけてんの?」

 

「いやぁ、こんなに注目を集める人のおっぱいを俺は揉んだってなぁ」

 

「この場じゃなかったら張り倒してるわ」

 

 みんなの憧れの人物の秘密を自分は知っている、的な優越感なのだろう。しかもそれが胸の話なのだから非常にイッセーらしい。

 

「さぁ、あいさつ回りするわよ。気を引き締めなさい、イッセー」

 

「は、はい」

 

 こうしてイッセーの社交界デビューが始まった。

 

 

 

 

 

 

「存外に……疲れる」

 

イッセーとダイスケとアーシア、そしてギャスパーはあいさつ回りを終えてフロアの端にあるテーブル席を占拠していた。体を動かさないとはいっても、気疲れはする。そのせいでほぼ全員グロッキーであった。

 

「ダイスケ……お前、経験あるって言ってたけどよくそんな涼しい顔でいられるな。」

 

 みな学生ということでドレスやタキシードではなく、着慣れた制服に参加の証の腕章を付けた格好だといっても環境が環境だ。この状況でも疲れていないダイスケがイッセーには不思議だった。

 

「獣転人だからかな。とくに気疲れも感じねぇや」

 

 他の慣れている者たちはというと、リアスと朱乃は知り合いらしい女性悪魔たちと談話し、木場はここでもモテるらしく女性悪魔たちに囲まれていた。

 

「まあ、モテっぷりって言ったらアーシアも相当だったけどな」

 

「モテるって、そんな……」

 

 事実、相当な数の男性悪魔がアーシアに“個人的に”挨拶していたのだ。その御陰で余計に気疲れしたともいえるが。そんな疲れた一同のもとへゼノヴィアが大量の料理と飲み物を持ってやってきた。

 

「悪いな」

 

「なに、このくらい。ほら、アーシアも食えはせずとも飲み物くらいは口をつけておいた方がいい」

 

「ありがとうございます、ゼノヴィアさん。私、慣れてないものだから本当にもうクタクタで……」

 

 そう言ってアーシアはグラスに口をつける。それを合図に各自料理に手を付け始めたが、ダイスケが何かに気付いて立ち上がり、人ごみの中に紛れていってしまう。ややあって「ちょ、お止めになって!」という女の子の声とともにダイスケが誰かを引き連れてやってきた。

 

「イッセー、お前にお客さんだ」

 

「な!? べ、べつに赤龍帝に用などありませんわ!」

 

「嘘つけ、ジーっと見てたの知ってるんだぞ」

 

「うっ……気付いていましたのね」

 

 ダイスケが背中を多して連れてきた少女に、イッセーはどこか見覚えがあった。そして、すぐに思い出す。

 

「ああ、焼き鳥野郎の妹か」

 

「し、失礼な! レイヴェル・フェニックスですわ!」

 

 その少女はライザー・フェニックスの妹、レイヴェルであった。

 

「なーんか積もる話もあるみたいだし、俺はむこうのテーブルにあった肉の塊貪ってくるわ。あんな肉の塊、滅多にお目にかかれないからな。じゃ、ゆっくり話してこいや」

 

「き、気が利きますのね……ありがとう」

 

 そうしてゼノヴィアが持ってきた料理に手もつけず、ダイスケは席から離れていく。

 ダイスケは気付いていた。どうもこのレイヴェル、イッセーが気になっていると。人ごみの中からじっとイッセーを見つめていたことから分析した結論である。思えばライザーとの一件の後、イッセーとのあいだで何かやり取りしていたがその直後のレイヴェルのイッセーを見る目が一瞬のうちに変わっていた。

 ああ、これはの時の啖呵で落ちたな、と結論付けたダイスケはそのまま連れてきた、ということだ。そうでなくとも、ここで上級悪魔と友好関係を広めておけば後々イッセーのためにもなるだろうし、馬に蹴られたくもないのでその場を後にしたとういことだ。

 人ごみの中、ダイスケはひたすら肉を目指して前に進むが、誰かに背後から抱きつかれる。

 

「ダーイスケ!」

 

「は? ちょ、ミコト!?」

 

 そこには古代日本の巫女装束に身を包んだミコトがいた。

 

「いや、なんでここにいんの?」

 

「あー、忘れてるー。私これでも神道勢力の重鎮だよ? 今後、三大勢力と神道勢力の話し合いがあるからそのまえの挨拶に来たの」

 

 忘れがちだがこの残念美人は遡れば古代の皇室の家系、つまり天照大御神の系譜にして神道勢力最強の獣転人なのだ。確かにこの場にいてもおかしくはない。

 

「ねぇねぇ、そういえば気付いてる? なんかこの会場変なの」

 

「変って……まさか違法建築?」

 

「そうそう、ビー玉を置いたら勝手に転がって――じゃなくて! なんか誰かに見られてるみたい。邪なんだけど、敵意はないというか。それが複数」

 

「それ、アザゼル先生とかは知ってんのか?」

 

「アザくんは下のカジノで遊んでたからわかんないと思う。ミカくんとサーゼクスくんも気付いていないみたいだから私の気にしすぎかもしれないけど……ま、いっか! なにかする気はないみたいだし、見せつけるようにごちそう食べちゃおう! あっちにあったおっきいお肉とってきてあげるから一緒に食べよ!」

 

「おい、いいのかそれ」

 

「いいの、いいの。何かあるんだったら衛兵さんも動くし。あ、そういえば見たよ」

 

「見たって?」

 

「リリアちゃん。他のメイドさんと一緒に下でお仕事してた。いろんなメイド服の人がいたから、各家からお手伝いさんで出てきているのかな? お仕事お疲れ様って言いに行かなくていいの?」

 

 まさかリリアがここに来ているとはダイスケも思いもしなかった。だが、これは好機かもしれない。これだけ多くの給仕がいるのだから、参加者が個人的用事でメイドの一人を借りても人手に問題はないはずだ。

 

「……教えてくれてありがとうな、ミコト」

 

「いいのいいの。……あの子となんかあったんでしょ。お姉さん、そういうのは気付くのとくいなんだよー。ささっ、いってらっしゃい! 私はごちそう満喫してるから!」

 

 そう言ってミコトは料理を取りに嵐のような勢いで走って行った。

 

「……ほんと、ありがとうな」 

 

 ダイスケはミコトの背中に向けて小さく礼を言い、エレベーターで下に降りる。各階ごとに降りてリリアの姿を探していると、三階の招待客受付で見つけることが出来た。

 

「リリア」

 

 自分の名を呼ぶダイスケに、リリアは驚く。

 

「ダイスケ様……すいません、今は仕事中で――」

 

「今じゃなくていい。時間が空いたら、君と話したいことがあるんだ――待ってるから」

 

 その申し入れを受けるべきか受けざるべきか、リリアが逡巡していると先輩格らしい同じメイド服を着たグレモリー家所属のメイドが言った。

 

「リリア、休憩に入りなさい。戻ってくるのはいつでもいいから」

 

「え? で、でもこのリストを上に――」

 

「それは今すぐじゃなくて良いし、誰でも出来るわ。――いい男じゃない。逃がしたら損よ」

 

 小声で囁かれて思わずリリアは慌てた。

 

「い、いえ! この方とはそういうのでは……」

 

「いいから行った行った! では返却はいつでもよろしいので、存分にお楽しみを♪」

 

 なにか盛大な勘違いをされているようだが、他のメイドや執事もニヨニヨとするだけで特に咎められる様子もなかった。退路を断たれたリリアは、ついに諦める。

 

「……それでは、しばらく外させていただきます」

 

『存分にお楽しみを~♪』

 

 これでいいのかとダイスケもためらったが、話す時間は出来た。礼を言って、近くの部屋のバルコニーを借りることにした。

 

「……お話って、なんですか?」

 

 本当のところ、なにを話すべきかまだ決まってはいなかった。しかし、なにか行動しなければという使命感のようなものがダイスケを突き動かす。

 

「あのさ、俺――」

 

 なんとか話を切り出そうとした瞬間、下方の地面になにか走っているのが見えた。黒猫だ。

 誰かが持ち込んだペットか、とも思ったが、まさか食事も出る場でそのようなものを持ち込む非常識者はいないだろう。では純粋に野良猫か、とも考えたがホテルの従業員や警備の悪魔が誰かしらここまで来る前に気付いて追い返しそうなものだ。

 つまり、何かがおかしい。

 そう思っていると、それを追って小猫が走って行くのが見える。さらにややあってイッセーとリアスが小猫の走って行った方向に向けて駆け出すのが見えた。

 

「……リリア、アレどう思う?」

 

「秘密の逢い引きには見えません」

 

「……何かあったんだ。追おう。悪いけど、一緒に付いてきてくれるか? 念話、出来るだろ。俺は今携帯を預けているから」

 

「連絡係ですね、わかりました」

 

 二人は三階のバルコニーから飛び降り、イッセーとリアスの後を追った。二人は噴水の影で周囲の様子を覗っており、リアスが偵察用の使い魔コウモリを飛ばすのが見えた。

 

「イッセー! 部長!」

 

 ダイスケとリリアの登場にイッセーもリアスも驚くが、むこうもなにか察知したのだと理解する。

 

「黒猫を追った小猫を見たんですけど、そっちも探しているんですよね」

 

「ええ。様子がおかしかったものだから。でも、リリアも来てくれたのはありがたいわ。なにかあったらすぐにホテルの警備係に知らせに行ってちょうだい」

 

「承りました、お嬢様」

 

 コウモリが戻ってくるまで噴水前で四人は待つ。

 

「……黒猫。どうも嫌な予感がするわ」

 

「部長、何か心当たりでもあるんですか?」

 

「ええ、でも当たっていないことを願うわ」

 

 ややあって、蝙蝠がリアスのもとに返ってくる。

 

「見つけたのね。――森? 中に入って行ったのね?」

 

 急いて四人はコウモリの先導のもと、漆黒の森の中を駆ける。しばらくして小猫が森の開けた場所で周囲をきょろきょろと見渡し、何かを探している姿を見つけた。一旦様子を見るため、四人は木陰に身をひそめる。

 すると、森の中から不意に女の声が聞こえてきた。

 

「……久しぶりじゃない?」

 

 音も立てずに現れたその女は着崩した和装で、その頭には特徴的な猫の耳が生えている。

 

「――ッ! ……あなたは」

 

 小猫は驚いた表情で、そしてひどく怯え震えている。

 

「ハロー、白音。お姉ちゃんよ」

 

 白音とは過去の小猫の名である。このように小猫を白音と呼ぶということは、リアスによってつけられた「小猫」という名を知らないか使わない人物、つまり、以前の小猫を知っている人物であるということだ。

 

「黒歌姉さま……!」

 

 小猫がその女の名を絞り出すように言う。小猫の姉、すなわちこの黒歌と呼ばれたこの女が件の主殺しのはぐれ悪魔ということになる。その女の足元には、一匹の黒猫がすり寄ってくる。

 

「会場に紛れ込ませた子の黒猫一匹でここまで来てくれるなんて、お姉ちゃん感激だにゃー」

 

「いったい何のつもりですか?」

 

 小猫の声には怒気が含まれていたが、黒歌は笑うだけだ。

 

「やーん、怖い顔しないで。ちょっとした野暮用よ。悪魔さんたちがここでどんちゃん騒ぎやるっていうじゃない? だからぁ、ひょっとしたら白音も来てるのかなって思っただけにゃん♪」

 

 文字通り猫かぶりしているが、相手は一級のはぐれ悪魔である。油断はできない……と思っていたらイッセーが思いっきり鼻の下を伸ばしていたのだダイスケはとりあえず一発頭をはたいておく。そして追撃とばかりにリアスはイッセーの頬を思い切り抓っていた。

 

「黒歌、この娘っこはグレモリー眷属のかい?」

 

 今度は男の声。ダイスケに聞き覚えはなかったが、イッセーは覚えていた。三大勢力の会議襲撃の際、ヴァーリとともに行方をくらませた孫悟空の子孫、美猴である。ここにいる、ということはパーティーをテロの標的にしているということか。イッセーから話を聞いていたダイスケは一気に緊張する。

 すると、ふいに美猴の視線が四人が隠れている方に注がれる。

 

「そこの四人、隠れたって気配を消したって無駄無駄だぜぃ。俺っちや黒歌みたいに仙術をかじっていれば、気の流れのほんの少しの変化で分かっちまうんだぜぃ」

 

 ばれている、ということはもう隠れる必要もない。意を決してダイスケ、イッセー、リアスの三人はリリアを待機させて躍り出る。

 

「イッセー先輩、ダイスケ先輩、部長……!」

 

「よう、クソ猿さん。ヴァーリの奴は元気かよ?」

 

「へへっ、まあな――お、そっちはあの時より多少は強くなったらしいじゃねぇかい。そっちの方の兄ちゃんも大分いけるクチだな」

 

 まるで一目見ただけで相手の実力を測ったかのような美猴に、イッセーは怪訝な表情になる。

 

「言ったろ? 仙術だって。仙術ってのは魔力や魔法とは違ってそのものの生命力を練ったチャクラってものが根本だ。直接的な破壊力は天使の光や悪魔の魔力には劣るが、気やオーラを探知するのにすぐれてるのさ」

 

「しかも探知するだけじゃなくて自分や他者の気の流れを操ってどうこうしちゃうことも可能にゃん。直接生命に打撃を与えちゃえば、魔力や魔術の対処法とは違うし、使い手も少ないうえに生命の乱れを正す方法も限られるからやられた方は対外いちころにゃん♪」

 

 探知能力に長けているうえに生命そのものを指先ひとつで左右できる。その仙術の汎用性の高さと威力に畏怖する三人。だが、問題はそんな厄介な術を扱える二人がなぜここにいるのか、ということだ。

 

「で、お前らなんだ。その仙術使ってテロか?」

 

 ダイスケが単刀直入に尋ねる。が、やはり二人は余裕そうに笑むだけだ。

 

「テロリストのやることがテロだけって決めつけないでくれって。俺っちたちは非番さね。冥界で待機命令が出てるだけだってのにそこの黒歌がパーティー会場に見学だっつって付き合わされてるだけなのよ、OK?」

 

 無駄に話してくれたが、どうやら嘘ではないらしい。

 

「でさ、美猴。この子誰?」

 

 そう言って黒歌はイッセーを指さす。

 

「赤龍帝」

 

 その美猴の言葉を聞き、黒歌は目を丸くする。

 

「マジ? へー、この子がヴァーリを退けたおっぱい好きの現赤龍帝なのね」

 

 最悪の情報の伝わり方である。こういう風に仲間に伝わっているということは、禍の団全体でそういう認識をされているということだ。あまりの酷さに顔を覆うダイスケとリアス。

 しかし、そんなことはどうでもいいといわんばかりに美猴はあくびをしながら言う。

 

「黒歌よ、帰ろうや。どうせ俺っちたちはあのパーティーには参加できないんだし、ここにいても無駄さね」

 

「そうね、もう帰っちゃおうかしら。ただ、白音は頂いていくにゃん♪ あの時一緒に連れて行ってあげれなかったからね♪」

 

「おいおい、勝手につれてきたらヴァーリの奴、怒るかもだぜ?」

 

「この子にも私と同じ力があるってわかったら、オーフィスもヴァーリも納得するにゃん」

 

「いや、そりゃそうかもしれんけどさ」

 

 連れ帰る、という言葉を聞いた時、小猫はその身を震わせた。怯えたのだ。それに気づいたイッセーは一歩前に出る。

 

「この子はリアス・グレモリーの眷属で、俺たちの仲間だ。連れて行かせない」

 

 決意ある一言であったが、二人の余裕な態度は崩れない。

 

「いやいや、勇ましいと思うけどねぃ。さすがに俺っちと黒歌相手にできんでしょ? 今回はその娘もらえればソッコーで立ち去るんで、それで良しとしようやな?」

 

 それでも引き下らないのが眷属への慈愛溢れるグレモリー家に生まれたリアスである。

 

「この子は私の眷属よ。指一本でも触れさせないわ」

 

「あらあらあらあら、何を言っているのかにゃ? それは私の妹。私にはかわいがる権利があるわ。上級悪魔さまにはあげないわよ」

 

 空中でぶつかるリアスと黒歌の視線。火花を散らすかのような激しいさっきのぶつけ合いだったが、不意に黒歌は笑みを見せ、残酷に宣言する。

 

「もー、めんどっちいから殺すにゃん♪」

 

 その瞬間――周囲の空間が歪んだように感じられた。

 

「……黒歌、あなた、仙術、妖術、魔力だけじゃなく、空間を操る術まで覚えたのね?」

 

 リアスは苦虫を噛んだ表情で言う。

 

「時間はさすがに無理だけどねー。結界を作る術の応用だから覚えるのは結構簡単だったにゃ。この森一帯の空間を結界で覆って外界から遮断したにゃん。だから、ここでど派手なことをしても外には漏れないし、外から悪魔が入ってくることもない。あなたたちは私たちにここでころころ殺されてグッバイにゃ♪」

 

 ただでさえ人目のつかない場所の上、黒歌の術によって完全に遮蔽されてしまったことにより応援を呼ぶこともできない。いや、助けを呼んだとしても最上級悪魔クラスと呼ばれる黒歌である。増援も無駄であろう。

 しかし――

 

「リアス嬢がこの森に入った聞いて来てみればこのような事になるとはな」

 

「タンニーンのおっさん!」

 

 どうやら結界の範囲内に三人を追って偶然閉じ込められてしまったらしい。しかし、偶然とはいえこれは嬉しい増援だ。

 

「なるほど、どうやら宴にはふさわしくない輩が紛れ込んだらしいな」

 

 そう言って、タンニーンは眼下の二人組を睨みつける。しかし、それにも動じない。

 

「おうおうおう、ありゃあ元龍王のタンニーンじゃねえかよ!? まいったね、こうなったら戦るっきゃねぇって!!」

 

「お猿さんはうれしそうねー。ま、私たちで龍王クラスの首二つ持ちかえればオーフィスも認めてくれるでしょ」

 

 怯むどころか歓喜して戦闘態勢に入る美猴に、さらに殺気を強くする黒歌。

 

「筋斗雲!」

 

 美猴の足元に金色の雲が生まれ、一瞬で天高く飛び上がる。そのまま手にした如意棒でタンニーンを突こうとするが――

 

「……俺のカウント、忘れてないか?」

 

 脚力だけで飛び上がったダイスケが美猴の足をつかみ、そのまま地面に叩きつける。盛大な土埃と振動をたてて墜落した美猴は、口の端から流れる血の雫をぬぐいながら言う。

 

「……忘れてたぜぃ。こいつ、獣具の持ち主、それも結構やべぇ特訓してたって奴だ」

 

「あちゃー、コカビエルを追い詰めたっていう? 獣具使いには気をつけろってヴァーリも言ってたしここは――」

 

 引くのか、とダイスケは思ったが、何やら様子が違う。

 

「用心棒さーん、いらっしゃーい!」

 

 森の中から何かが高速でこちらへ向けて突っ込んでくる。銀色をしたそれは、黒歌の傍に着地した。

 そのシルエットは以前見たそれとはほぼ変わらないものの、装甲の一部がダイスケの熱線を受け流しやすくなるように傾斜装甲となっている。この短い間に改良されたのだ。

 

「奇遇だな、宝田大助。ここでお前に会えたのはまさに僥倖だ」

 

 自己進化した獣具を身に纏った桐生義人が現れたのである。




 はい、というわけでVS35でした。
 ダイスケが「おれはこれでも何回かジオティクスさんに連れられてこういうのに参加したことはあるけど」といっておりますが、これは裏設定でジオティクスが一時期ダイスケをリアスの婿候補にしようかとしていたということです。まぁ、すぐにフェニックスとの婚約話がでたので社会勉強という名目に変わりましたが。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS36 SS級はぐれ悪魔と鋼の王

 初の一週間連続投稿イェイ、イェーイ!!
 UA数もいつの間にか19000を超えておりました。話数が進むごとに右肩下がりで読者数が減っているのが気に掛かりますが、それはそれとして今日もコロナをぶっ潰す気で行きましょう。アビガンパンチ!!
 あ、そういえば最近ガラケーからスマホ(Xperia8という初心者モデル)に変えました。手持ち無沙汰なときいじくり回せて面白いですね、これ。


「脳天気石猿と万年発情猫のお守りをヴァーリに言い渡させれて辟易していたが、世の中なにがどう転ぶかわからんな」

 

「ひでぇ、おいらこれでも由緒正しい妖仙だぜぃ」

 

「むっつり因縁野郎がよく言うわ」

 

 三人の関係性がよくわかる短いやりとりのあと、義人はダイスケに肉薄する。

 

「宝田大助、そこの猿は俺に任せろ。銀色の奴はお前と浅からぬ縁と聞く。いっそここで決着をつけてしまえ。そこのメイド! なるべく離れていろ。結界が解かれたらすぐに連絡を取りに行く準備をしろ!」

 

「は、はいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

「言ってくれるじゃねぃかい、元龍王! だったら思いっきり暴れまわってやらぁ!」

 

 そう言って再び筋斗雲に乗り美猴はタンニーンに向かっていった。激しい空中戦が繰り広げられる中、ダイスケは言う。

 

「イッセー、お前は部長と一緒に小猫をあのアマから守ってくれ。……頼んだぞ!」

 

 ダイスケは鎧を展開して地面を蹴り、義人に肉薄しようとする。が、想定していたタイミングよりも早く義人の銀色の鎧が目の前に来る。

 

「――なっ!?」

 

「特訓をしていたとは聞いていたが、スピードはまだ未熟だな」

 

 とっさに組み合いながら、義人は言う。

 

「ならよ!」

 

 ダイスケは熱線剣を生み出してそれを袈裟懸けに切りつける。しかし、その改良された装甲の形状が、通常の熱線のほかにも剣の形を得た熱線剣をも散らしてしまったのだ。

 

「……だけかと思ったかよ!」

 

 熱線剣が効果がないと判断してすぐに、ダイスケは熱線剣をメイス――豪炎鎚に変えて突きを放つ。

 なにかに接触して爆発を起こしたが、メカゴジラが手にした何かに阻まれる。

 

「得物を生み出すのはお前だけだとでも?」

 

 形状としてはフィンガーミサイルを引き延ばしたような形で、その先端は鋭くとがっている。なるほど、確かにパイクである。

 そのパイクで豪炎鎚を弾くと、すぐさま持ち替えて鋭い突きを繰り出してダイスケの胸に突き立てる。強靭な装甲に阻まれた、と思った瞬間、パイクの先端が爆ぜた。

 

「なに!?」

 

 その爆発の威力でダイスケの装甲に罅が入り、過たずそこへもう一度突きが繰り出され、再び爆ぜる。

 

「がっ――」

 

 先ほどと違い内側で繰り出された爆発は確実にダイスケの肉体にダメージを与える。当然流血し、それが気道に入ってダイスケは喀血する。だが、やられたまま終わるダイスケではない。

 

「おらぁ!」

 

 更なる突き。それは一撃でメカゴジラの装甲を突き抜け、体を貫通する。互いになかなか深いダメージを負ったことになる。

 しかし、互いに優れた回復力によって傷ついてすぐに回復するという無限地獄に陥る。そこでダイスケは相手を蹴り飛ばして一旦距離をとろうとするが、どうやら同じことを考えていたらしく、互いに蹴りあって距離をとる結果になる。

 互いに森の奥へと飛んでいくが、ダイスケは急いで空中で体勢を立て直し着地、その脚部に込めた靭力と熱線噴射の反動でもといた場所へ急ぐ。そしてイッセーとリアス、小猫の眼前にはSS級はぐれ悪魔である黒歌が立ちふさがる。

 

「にゃん♪」

 

 一見ふざけているように見えるが、その瞳にこもった殺意と全身から放つ殺気はイッセーも感じられるほど濃密であった。状況としてはこちらは三対一、一見すればイッセーたちが有利なように見えるが仙術と妖術という対処困難な攻撃手段を持つ黒歌に対しては数の上の不利など問題ではないのだ。

 そんな中、小猫が言う。

 

「……姉さま。私はそちらへ行きます。だから、部長たちは見逃してあげてください」

 

「なっ!? 何を言って――」

 

「何を言っているの、小猫!?」

 

 イッセーよりも強く反応したのは主であるリアスである。

 

「あなたは私の下僕で眷属なのよ! 勝手は許さないわ!」

 

「……ダメです。姉さまの力を私が一番よく知っています。姉さまの力は最上級悪魔に匹敵するもの。いくら部長たちでも、幻術と仙術に長けている姉さまを捉えきれるとは思えません」

 

「いえ、それでも絶対にあなたをあちら側に渡すわけにはいかないわ! あんなに泣いていた小猫を目の前の猫又は助けようともしなかった!」

 

「だって、妖怪が他の妖怪を助けるわけないじゃない。ただ、今回は手駒が欲しいから白音が欲しくなっただけ。そんな紅い髪のお姉さんより私のほうが白音の力を理解してあげられるわよ?」

 

 おどけた様子でいう黒歌に、リアスは怒りを燃やす。

 

「黒歌……。力におぼれたあなたはこの子に一生消えない心の傷を残したわ。私が出会ったとき、この子に感情なんてものはなかった。小猫にとって唯一の肉親であったあなたに裏切られ、頼る先を無くし、他の悪魔に蔑まれ、罵られ、処分までされかけて……。この子は辛いものをたくさん見てきたわ。だから、私はたくさん楽しいものを見せてあげるの! この子はリアス・グレモリー眷属の『戦車』塔城小猫。私の大切な眷属悪魔よ! あなたには指一本だって触れさせやしないわ!」

 

「しかし、リアス・グレモリー。離れた家族がまた繋がることの方が貴重で尊いと思うが?」

 

 一足先に舞い戻ったメカゴジラが言う。

 だが、森の奥から放たれた熱線によってふたたびメカゴジラは森の奥へと消える。

 

「……知った風に言うんじゃねぇよ」

 

 そこへ結界の端まで飛んで行ったダイスケが戻ってくるなり言い放つ。

 

「小猫ォ! 俺からも背中を押してやる!」

 

 一泊置き、呼吸を整えるとダイスケは言葉を放つ。

 

「誰も自分自身の力から逃げることはできない。どこまで逃げても自分は自分についてくるからだ。みんな自分の“毒”と向き合わなきゃならない時が来るんだよ。それでお前が姉ちゃんについて行ってその手駒として自分の力と向き合うっていうんなら俺は別に止めない」

 

 でもなぁ! とダイスケは続ける。

 

「自分見捨てた姉貴に道具として利用される人生なんてクソ以下だ! いくら時間が掛かったっていい、お前は部長の役に立ちたいんだろう? 自分を拾ってくれた恩に報いるために! だからオーバーワークなんてした。だから悔しかったんだ!」

 

 小猫は涙を流し、コクン小さく頷く。

 

「だったらもう、本当の答えは出てるじゃねぇか」

 

 そう言って、ダイスケはイッセーにアイコンタクトする。それに気付いたイッセーは、小猫に手を差し出した。

 

「小猫ちゃん。俺はそんなに頭は良くない。でも、困ってる仲間のためなら体を張ることはできる。小猫ちゃん、もしこの手を取ってくれるんだったら、俺は仲間である君のためにいくらでも体を張るよ。自分の才能を開花させられなくても、その時はその時。一緒になってない頭を絞るよ。だから――一緒にリアス部長の眷属でいよう。」

 

 差し出されたイッセーの手。その手を、小猫は掴んだ。そして、その心の内を吐露する。

 

「行きたくない……。私は白音じゃなくて塔城小猫。黒歌姉さま、あなたと一緒に行かない、行きたくない! 私はリアス部長やイッセー先輩と一緒に生きる! 生きるの!」

 

 それが、小猫の答えであった。だが、黒歌は一度苦笑した後、冷酷に宣言する。

 

「そう――じゃ、死ね」

 

 その冷笑と言葉と共に、黒歌がすぅっと伸ばした指先から黒い霧が流れてくる。流れはゆったりとしていながら、黒い霧はあっという間に周囲を覆い尽くし、今にも結界内の森全体を飲み込むほどの勢いで広がっていった。

 無論霧はダイスケたちも覆い、それを吸ってしまったリアスは――

 

「――あ」

 

 力なく、小猫と共に崩れ落ちる。

 

「部長! 小猫ちゃん!」

 

 イッセーが二人のもとへ駆け寄る。

 

「なに、これ……」

 

 見れば木の陰に隠れたリリアも苦しみだした。ダイスケもイッセーと同じように駆け寄ろうとするが、それは義人に阻まれる。

 

「行かせると思うか?」

 

「……だろうな!」

 

 そのまま、二人は豪炎鎚とパイクの激しい打ち合いにもつれ込む。刺突を刺突が受けあう激しい攻防に発展する。そんな中でもダイスケは冷静に分析する。

 先ほどの霧は間違いなく毒霧だ。それも、自分に影響がなく、リアス、小猫、リリアに影響があるところを考えると、悪魔用に特化した毒霧だろう。イッセーの方に影響がないのは赤龍帝を有しているからだろうが、SSランクはぐれ悪魔に対する戦力が二人もやられてしまったのは痛い。

 

「まいた量は薄くしておいたからすぐに死ぬってことはないにゃん。全身に回るのはもっともっと苦しんでから。あっさりなんて殺してあげない、じーっくり時間をかけて殺してあげるにゃん♪」

 

 いつの間にか高い木の枝の上に座りながら、黒歌は言う。

 

「このッ……!」

 

 そこへめがけてリアスは毒にむしばまれた体で魔力の塊を放つ。見事に命中するものの、黒歌の体はまるで煙が掻き消えたように霧散する。

 

「いい一撃ね。でも無駄無駄。幻術でいくらでも自分の分身くらい作れるのよ」

 

 木霊する黒歌の声とともに、次々とその分身が現れる。

 

「イッセー! お前、オーラを読むのが上手くなったんだろ!? どれが本物か探すんだ!」

 

「わかってる! でも、どれも本物と同じオーラを纏っていて判別できないんだ!」

 

 周囲を必死に本物の黒歌を探して見回るイッセーが叫ぶ。残念ながらダイスケにはオーラを読む技巧は身についていない。どうやら相当な気の使い手でない限り探知は困難らしい。

 いっそ熱線で周囲を焼き払おうかとも考えたがここは結界の中。暴発して味方も巻き込む危険性があるうえに、目の前には義人がいる。そんな余裕はない。

 

「ブーステッド・ギア!」

 

 とにかく応戦するためにイッセーは籠手を出現させる。しかし、その宝玉に輝きは無く、いつも聞こえてくる音声も聞こえない。

 

『……相棒、神器が動かん。非常にあいまいな状態になっている』

 

「な、なんで!?」

 

『修行の結果、成長の分岐点に立ったのだ。あと一押し、何かが強烈なひと押しがあれば先に進めるはずなのだが、その変化がただのパワーアップか禁手なのか分からない。システム自体が混乱している。こんなチャンスはめったにない、なんでもいい! お前にとっての劇的な変化をくれ! 中途半端な刺激ではただのパワーアップ止まりだぞ!』

 

「ド、ドライグ、今はとりあえずパワーアップで、次の機会に禁手ってできないのか!?」

 

『いや、こんな状態次にいつなるかわからない。下手をすれば一生もう巡ってこないかもしれないぞ』

 

 とんでもない状況でとんでもない分岐点に立ったものである。その劇的な一歩が何かわからないからこそ修行に失敗したというのに、今ここで決めろとはずいぶんと無茶な話だ。

 しかし、悠長なことを言ってられないのも事実である。敵がこんな格好の標的を見逃すはずがない。

 

「あらん? 赤龍帝ちゃんは不能(インポ)かにゃん? でーも、こっちには関係ないにゃん♪」

 

 幻影の一つ――本体かも知れないが――が動けないリアスと小猫に向けて濃密な破壊の魔力の塊を放つ。急いでイッセーは盾になり、リアスと小猫を狙った魔力の身代わりとなる。

 

「ぐはっ――」

 

 殺すつもりの一撃がまともに当たったのだ。その威力にイッセーは肺からすべての空気を押し出してしまう。おかげで制服の前部分は完全に剥げてしまい、弾着痕には痛々しい痣と血がにじむ。

 

「イッセー……」

 

 リアスが自分の盾なったイッセーに近づこうとする。しかし、その姿はあまりにも弱々しい。

 

「だめです、動かないで! なーに、こんなのへでもありま――」

 

 言い続けようとした瞬間に、次弾がイッセーを襲う。不意打ちの一発だったのでダメージも痛みも先ほどの非ではない。

 

「よっわ。こんなのがヴァーリのライバルなわけ?」

 

 せせら笑う黒歌の幻影。

 そこに、ダイスケの熱線が直撃して幻影をかき消す。

 

「俺のダチを……嗤うなァ!」

 

 どれが本物だかわからないが、メカゴジラとの打ち合いのさなかダイスケは黒歌を狙った。当然、隙が生まれる。

 一瞬を見切った義人の一撃がダイスケの腹部に突き刺さる。そして、爆発。

 

「……なぜあの半端者にこだわる? いざという時に力を発揮できないものは、戦場ではすぐに唾棄されるものだぞ」

 

「長い間堕天使の先兵としてきたアンタからすりゃそうかもな……だけど、そんな奴に期待しちまうのが俺なんだよ!」

 

 ダイスケは身を前に推し進め、爆発するパイクの穂先を体外から突き出させる。そして、義人のわき腹に爪を突き立て、奥の肉にまで食い込ませた。これでともに動くことはできない。

 

(頼むイッセー……こいつだけでもなんとか抑えるから至ってくれ!!)

 

 そのダイスケの姿をイッセーは見て涙を流す。自分が力に目覚めたのは、いつだって誰かが傷ついてからだ、と。

 アーシアは死にかけた。リアスは一度泣いた。そして今度は小猫とリリア、そしてダイスケが――。だが、それではだれも救えない。誰かが傷ついてから力が目覚めることほどつらいものはない。

 

「誰も……やらせねぇぇぇぇっ!」

 

 立ち上がるイッセーだが、またもう一撃見舞われる。今度は一瞬意識が飛んだ。しかも、その威力でイッセーの体は後方へ吹き飛び、巨木に激突し、地面に倒れ伏す。。

 悔しさで涙が止まらない。それでも、何とかしてリアスと小猫の傍へ這いより、気合を入れて再び立ち上がる。足には激痛が走る。当然震えもあるが、それでも立ち上がる。だが、それでも悔し涙だけは止まらなかった。

 

「あんたが小猫ちゃんのお姉さんでも……俺は小猫ちゃんを泣かす奴は許さない……」

 

「はっ、こんなよわっちい奴にそんなこと言われるだなんて、白音もたいへんねぇ。もっとかっこよくて強い白馬の王子様が言ってくれるならともかく、あんたみたいに泥まみれ血まみれの奴が言っても女の子は引くだけだにゃん♪ あー、きもいきもい」

 

 そんな発言をした黒歌の幻影に、銀色の何かがぶつかってくる。ダイスケが投げた義人だ。

 

「黙ってろ、あばずれ。今の世の中必要なのは熱血系の主人公なんだよ。ただの綺麗だけなイケメンなんざお呼びじゃないんだクソが」

 

 投げ飛ばされた義人は再び戦闘態勢を取り、今度は距離を離してダイスケと対峙する。互いの手が決定打になりえない以上、互いにけん制しあうしか手がなくなってきたのだ。

 いや、ダイスケにはとっておきの一撃、「破壊」の一撃がある。しかし、いかに幾峰の山を粉砕する威力と言ってもその一撃が成功する確率は約1/5。「可能」であってもまだ「確実」の域には至れていない。

 そんな中、義人は木の陰に隠れているのが先日自分の決闘を邪魔してくれたリリアであることに気付くと、仮面の奥の表情を怒りに滲ませた。

 

「誰かと思えば……また邪魔しに来たかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 わざわざダイスケを動けなくするためにパイクを両足に一本ずつ撃ち込んで、ダイスケを地面に釘打ちする。

 

「しまっ――逃げろ、リリアァァァァァ!」

 

 逃げるように促されるリリアだが、毒霧がその身を蝕むせいで一歩も動けない。義人は確実に、その手でリリアの命を絶つために両手でパイクを構えて突撃する。

 

 ああ。私の一生、全然救われなかったな――

 

 孤児として生まれ、グレモリー家に拾われながらも不幸にも狂的な科学者に身体をいじられ、ようやく心から信頼できるヒトに出会ったと思えたら最も知られたくない秘密を知られ、そしてわだかまりも消せぬまま殺される。

 全て、諦めてしまった。もうだめだ。せめて死ぬ一瞬くらいはあのヒトの腕の中に抱かれて、なんて憧れも叶えられないのか。

 そう思うと抵抗する気力も失せてしまった。鋭利なパイクの先端が、リリアの胸から背中まで貫かれる――はずだった。

 来る痛みと苦しみを覚悟し、リリアは目を瞑っていたが、いつまで経っても死の痛みはやってこない。そこで、恐る恐る目を開けるとそこには――

 

「……間に、あった」

 

 リリアを庇うように背中から心臓の位置を見事に貫かれたダイスケの姿があったのだった。地面に釘付けられていたはずの脚は、無理矢理抜いたパイクの痕が痛々しい。無理をしてここまで来たと言うことがわかった。

 ただの客人とメイドの関係になるはずだった。なのに、ダイスケは――

 

「ダイスケ様……ダイスケ様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 リリアの絶叫が、森に木霊した。




 はい、というわけでVS36でした。
 ちょっと短かったですが、キリのいいところで切っておきました。
 あと、スマホで出先時に思いついたことをメモしようとしていますが、なにかいいメモ帳アプリがあったら教えてください。出来ればPCのメモ帳の文章ファイルと拡張子が同じか互換性のあるヤツをお願いします。今までずっと脳内メモ帳に保存していたので。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS37 邪滅獅子の目覚め

 先日「こんな投稿ペースじゃ追っつかないって!」というご意見がありましたのでちょっと間を開けました。
 今回は新たなる獣転人が登場。さぁ、誰だ!


 状況は最悪と言えた。テロリスト側は現在三人とも健在、美猴はタンニーンと交戦中といえども互いに負傷は無し。黒歌と義人にいたっては二人相手に優勢、それもダイスケ達は倒される寸前であった。

 最も重傷を負っているのはダイスケで、両脚の肉に大きな穴が空き、胸は背中から貫かれパイクの先端が心臓付近で止まっている。

 

「……求めた結果ではないが、この巡り合わせには感謝しよう」

 

 そう言って義人はパイクの先端を爆発させ、一気に引き抜く。呻くことすら許されず、ダイスケは意識を刈り取られてリリアの目の前に倒れ臥す。

 

「だ、だめ……ダメ……! 止まって、止まって……!」

 

 必死に止めどなく血が流れ出るダイスケの胸をリリアは両手で押さえる。自己治癒能力によって傷そのものは塞がっていくが、ダメージそのものが消えるには至らない。明らかにダイスケは弱っていた。

 明らかに肉体の再生ペースと、失血のダメージを比べればダメージの方が大きい。この後いかようにも出来ると判断した義人は踵を返してタンニーンと戦う美猴と合流しようとする。

 倒れるダイスケはなんとか自分を覗くリリアの顔を見るために仰向けになる。

 

「だ、だめです! 無理に動いては――」

 

「ははっ……なんだよ。結局いつもみたく――ゴホッ――接してくれるんじゃないか」

 

 気道に詰まった血液を吐き出すダイスケ。

 

「だって、だって――!」

 

「いいんだ……気に、するな。これくらいは、覚悟の……上だ。だって、決めたんだから……」

 

 そう言ってダイスケは無理矢理立ち上がろうとする。慌ててリリアはそれを止めようとするが、ダイスケは止めない。

 

「俺は、俺の大切なものを守りたい。その中には――リリアだって含まれてるんだ」

 

 ダイスケが立ち上がろうとしているのを感じ、義人はその歩みを止めて振り返る。

 

「リリアは辛い思いをしたんだろ? 怖いって思ったんだろ? そしたら、向き合えるようになれるまで別に逃げたっていいんだ。どこかに隠れていいんだ。その隠れる場所に、俺を選んでくれていいんだ。だって、俺もそれを望むんだから」

 

 ようやく立ち上がり、ダイスケは弱々しく震えながらも構える。

 

「だから、これっきりなんて悲しいこと言うなよ。守らせてくれ。頼ってくれ。俺だって散々昔、君に頼ってたんだから――恩返し、させてくれ」

 

 それは、単なる善意。何者よりも純粋な想い。そして、リリアは気付いた。

 別に、頼っていいのだと。サキュバスの本能だとか、過去の出来事が招いた男性恐怖症だとか関係なく、目の前の男は自分を守ってくれようとしている。ただの善意で、だ。

 そこになんの打算もない。深く考えることもない。

 

「……怖かった、です。あの時、身体を切り刻まれ、隅々まで見られて、何よりも私をどうこうしようって云う悪意が――さっきも同じでした。だから……」

 

 リリアはダイスケに背中に抱きつき、懇願した。

 

アイツ(義人)、やっつけて!!!」

 

「――任された!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー先輩……」

 

 一方でダイスケが再び立ち上がろうとする中、、小猫がイッセーに呟く。その呟きに、イッセーは苦笑しながら答える。

 

「ごめんな、こんな情けない奴で。歴代の赤龍帝ってさ、みんな短時間で禁手に至れたってさ……。何か月もかかってるのは俺だけだって。わかってた、わかってたんだよ。赤龍帝の力が宿っていても、俺自身がだめなんだ。だから、小猫ちゃんに役に立てない……せめて壁になれればって思ってたけど――俺は才能のないダメ悪魔なんだよ」

 

 しかし、小猫は首を横に振る。

 

「……ダメじゃないです、イッセー先輩はダメじゃないです。知っていますか? 歴代の赤龍帝はみな力に溺れたって。……姉さまと一緒です、例え力があっても、優しさがなければ……必ず暴走してしまう。イッセー先輩はやさしいです。力が足りなくても、それはとても素敵なこと……きっと、歴代でも初めてのやさしい赤龍帝です」

 

 だから、と小猫は毒に苦しみながらも笑みを作って言う。

 

「イッセー先輩はやさしい『赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)』になってください……」

 

 その言葉で、イッセーは何かに気付く。何かがわかったのだ。

 

「……部長。俺、自分に何が足りなくて禁手に至れないか、わかった気がするんです。恐らく――部長の力が必要になります」

 

「……わかったわ! 私でよかったら力を貸すわよ! いったい何をすればいいの!?」

 

 神が作りしシステムをも転換させるイッセーにとっての特異点。それは――

 

「――おっぱいを、つつかせてください」

 

 誰もが絶句した。

 

「バカか!? お前はバカなのか!?」

 

「赤龍帝、貴様本気か? それとも死に際で気が狂ったか?」

 

 決意を新たにかっこいいシュチュエーションでダイスケからも、そして義人からも常識を疑われるイッセーの要求。しかしリアスは――

 

「……わかったわ。それであなたが至れるなら」

 

 そう言いながら、リアスは胸元をはだけさせようと脱ぎ始める。

 

「部長!? ひょっとして毒が頭にまで回ってる!?」

 

「ダイスケ様、ダメ! お嬢様のを見るのはダメ! 見るなら私のを!!」

 

「ちょ、リリアさん!? なに言ってん……ダメだって! 目の前に敵いるんだから俺の目を隠さないで!!」

 

 一方、イッセーはまさかリアスが快諾してくれるとは思っていなかったので非常に焦っている。

 

「ほ、本当にいいんですか!? 自分で言っておいてなんですけど、つつくんですよ、部長の胸の先端を!?」

 

「い、いいからっ。恥ずかしいのだから早くしなさい……!」

 

 本来毒が回って顔が真っ青になっていたリアスだが、今度は羞恥心で顔が真っ赤になっている。

 

「お、おい! お前たち戦いの最中に何をやっている!?」

 

 繰り広げられるとんでもない光景に驚くのは美猴と空中戦を繰り広げていたタンニーンである。

 

「おっさん、ダイスケ! 俺が乳をつつく間もってくれよ!」

 

「はぁ!? 乳を!? 乳をつつく!? お前はこの状況で何を言って何をしようというのだ!!」

 

「バカ、こっちはリリアをどうこうするので手一杯だ!!」

 

「つつけば俺の何かが激しい反応をしてその影響で禁手になれるかもしれないんだ!」

 

「俺との修行は無駄なのか!? まさかお前がそこまでバカだったとは!」

 

 無論、困惑しているのは味方だけではなく――

 

「ねぇ、美猴! あれは何の作戦なのかしら? あの貴族のお嬢様、自分の胸をさらけ出しているわ」

 

「そんなん俺っチがわかるかい! 赤龍帝の思考回路は俺ッチたち常人とは別次元にあるんだろうよ!」

 

 敵からも異常者扱いされるイッセーだが、いざ実行しようとするととてつもない問題が自分の前に立ちふさがっていることに気付く。

 

「ダ、ダイスケ! おっさん! 大変だ!」

 

「今度はなんだ!?」

 

「右の乳首と左の乳首、どっちを押したらいい!?」

 

「「知るかぁぁぁぁぁ!!」」

 

 互いに敵と対峙しなければならないのにバカな質問をされたので怒り心頭である。

 

「そんなもんどっちも同じだろうが! 俺との修行をフイにしやがって、こうなったらさっさとつついてさっさと至れぇぇぇぇぇ!!!」

 

「確かに男として理解は少しできるけれども! ここまで来たらどっちでもかわらねぇだろうがぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「バッカ野郎ゥ!! 俺にとっちゃ人生最初で最後のファーストブザーだぞ!! 人生かかってるんだよ! そして理解してくれてありがとうな、ダイスケ!!」

 

「いらんわ、そんな感謝!!」

 

「さぁ、ダイスケ様! 見るならこっちを!! なんなら揉んでもいいです!!!」

 

「リリアさん!? 胸をはだけてなにやってんの!? しまって、しまって!!」

 

 が、一切イッセーは気にならないくらい目の前の乳に集中している。

 

「部長、おすすめは!?」

 

「もう、バカ! それなら同時につつけばいいでしょ!?」

 

「――その発想はなかった!!」

 

 主の言う通り、イッセーは自分の領人差し指を主の乳首に狙いを定め、あやまたずつつき、押し込む。

 本来黒歌の攻撃のせいで立つのも限界という状態だったが、この信じられない状況が信じられない活力を与えてくれる。

 

 ずむっ

 

 ダイスケは背中をリリアの相手をしていたので本来はこの光景が見えないし、音も聞こえないはずであるのにそんな音が聞こえるような気がした。事実、その瞬間イッセーの両人差し指はリアスの乳首を見事につついていた。

 確実に、的確に、しかし優しく、慎重に指先が埋もれていく。その感触と事実に興奮し、イッセーは盛大に鼻血を吹き出す。その時、誰にも聞こえなかったが、イッセーには聞こえていていたリアスのこの声。

 

「――ぃやん」

 

 聞き逃さなかった。イッセーは聞き逃さなかった。かつてアザゼルがイッセーに言っていた、「女の乳首はブザーと同じ」という言葉は真実だったのだ。この世の理の中心であったのだ。今、イッセーにとっての世界の中心は、間違いなく乳首だった。

 そして、見えた。それは――宇宙の始まり――

 

『――至った! 本当にこれで至りやがったぞォォォ!!!』

 

 驚愕するドライグ。そして、真実に目覚めた力は産声を上げる。

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!! 』

 

 くすんでいた宝玉に光が戻ると、今までにない高揚感と共に信じられない規模のオーラが体内から噴き出して鎧を形成していく。

 

「……最っ低です。やさしいどころかやらしい赤龍帝だなんて……」

 

 毒のせいもあるだろうが、目の前で起きた最悪の覚醒劇に、小猫は顔を青ざめて突っ込みを入れる。心の内でイッセーはごめん、と謝り、そして最後のヘルメットとマスクが装着され、完全な鎧姿となった。

 

「禁手、『赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)』ッ! 主のおっぱいつついてここに降臨!!」

 

 その瞬間、ギャグにならない衝撃波が起こる。物理エネルギーと化したイッセーのオーラがクレーターを作ったのだ。

 

『相棒、おめでとう。しかし酷い。そろそろ泣いていいか?』

 

 冗談ではなく涙声のドライグである。

 

「ああ、ありがとうよ。そんでもってごめん! で、首尾はどうよ?」

 

『時間にして三十分は禁手を維持できる。鍛錬の成果だな。弱いお前の初めてにしてはなかなかのものだ』

 

「マックスの倍増出しでどれくらいいける?」

 

『マックスで放てばそのたびに五分消費すると思え。最大で五回、その他の行動を考えると六回もない。譲渡も同じだ』

 

「じゃあ、うまいこといけば十五分は戦えるかな」

 

『いや、そんなにいらん。ほれ、試しにいつものように魔力を放ってみろ』

 

 イッセーは言う通りに腕を突き出し、黒歌に向けて精進を合わせ、魔力を放つ。すると、赤い閃光と共に今まで見たことのない力の奔流が放たれる。遥か彼方に着弾した魔力が爆ぜて、その爆風が発射地点にまで届く。

 その一撃で毒霧も晴れるが、自分で起こしたことにイッセーは自分で驚きを隠せなかった。

 

「おお、久しいな、この赤い一撃! 兵藤一誠、はるか先にある山が一つ今ので消し飛んだ! 結界も掻き消えたぞ!」

 

 上空にいるタンニーンが愉快そうに告げる。

 

『全身のオーラを集束して放つ一撃だ。見た通り倍加しなくてもこの威力をもつ。まあ、貯蔵量が少ないから連射はできないが』

 

 その一撃を見たダイスケも圧倒されたが、同時に対抗心も湧いてくる。

 

「おい、義人」

 

「……なんだ」

 

「俺が特訓していた相手って希代の剣豪でな、その人の特技を教わってたんだわ」

 

 そう言う間ダイスケはリリアをなんとか引き離し、自分の鎧の背中に生える背びれの一つを引きちぎって手の中で刀の形に変える。

 その刃を左の手の中で支え、腰を落とす。鞘を使わない抜刀術の構えと言えた。

 

「『鰭斬刀(きざんとう)』……って感じだな。受けて見ろ、習ったばかりの『破壊の一閃』……!」

 

 ダイスケがなにかとてつもないことをする、と感じた義人は全身からミサイルを放つ。普通なら避けるところだが、ダイスケは微動だにしない。

 そして左手の中で鞘走りした刃か解き放たれる。瞬間、目の前の全てが切り裂かれた。飛来するミサイルも、周囲の木々も、義人の銀色の装甲とその奥の肉体も、その背後にあった山々も全て横一文字に切り裂かれた。タンニーンが上空に、リリアは背後に、リアスと小猫はもとより伏せていてイッセーと黒歌がなにかを察知してそれぞれ避けたからこそ彼らは無事であった。

 それは紛れもなくストラーダの『破壊の一断』。しかし、ダイスケはこれを1/5の確率でしか放てなかった。それをほぼ100%にするため、ダイスケはよりイメージしやすい刀で発生させようと思いついたのだ。結果は大成功、溜とタイミングが必要ながらも十全に機能した。

 

「フハハハハ! 共にいい塩梅に仕上がっているではないか!!」

 

 その絶大な破壊を見て、タンニーンは戦いの最中であるのにもかかわらず大笑いをする。しかし、笑っていたのはタンニーンだけではなかった。

 

「アハハハハ!」

 

 黒歌である。

 

「面白いじゃないの! それなら、妖術仙術ミックスの一発をお見舞いしてあげようかしら!」

 

 黒歌の両手に、それぞれ違う波動を持つ力が放出されてないまぜになる。その異なる力の融合体がイッセーめがけて放たれた。しかし、その一撃はイッセーを正確にとらえるも傷一つつけることも叶わなかった。

 

「――こんなもんか?」

 

 事実、受けた本人としては全くダメージを受けていないのだ。脅威と言われた妖術と仙術を同時に受けて無傷であったのだから余裕の一言も出てくる。

 

「……調子に乗らないでよ!!」

 

 黒歌は表情を一変させて驚くも、先ほどと同じ波動の攻撃を放とうとする。しかし、それに小さな影が割り込む。小猫だ。

 

「……私だって、守られてばかりじゃいられない!」

 

「出来の悪い妹がよく言ってくれるわ!!」

 

 己の妹が射線上にいるにもかかわらず、黒歌は妖術と仙術の合成波を放った。イッセーは慌てて小猫の無謀を止めようとするが、小猫は普段見せない笑顔をイッセーに向けてから正面に向き直った。

 

「……今、()()()が教えてくれた。『守りたいなら今だ』って。『私はお前なんだから()を使え』って!! やっとわかった!! それが、『今』!!!」

 

 直撃する合成波。放った黒歌もイッセーもリアスも小猫の命はないものと思った。しかし、合成波はこの子の右目に吸収され、そのまま黒歌に向けて左目から放たれた。

 

「――嘘!?」 

 

 目の前で起きたことに驚愕しながら、黒歌の身体は反射的に回避行動をとる。黒歌のいた場所はクレータとなり、まともに当たればどうなっていたか如実に示していた。

 妹は何をしたのか、と今一度黒歌は小猫を見ると、彼女の姿が変わっていた。中世貴族の仮面パーティーで使うような目の部分だけを覆う仮面(ペルソナ)を小猫が身につけていたのだ。

 その意匠はまるで獅子――いや、沖縄の守り神のシーサーのようであった。

 

「この子が教えてくれました。これは『守護獣の反光仮面(キングシーサー・リフレクト・ペルソナ)』、放出系の攻撃なら大概は跳ね返して見せますよ」

 

 キングシーサー。それはダイスケの魂の記憶にも刻まれていた沖縄に生息する守護の怪獣。一度はメカゴジラと戦うために共闘し、二度目は向こうが敵に操られていたので戦った記憶があった。

 その特殊能力とはプリズム構造の眼球による「敵光波攻撃の反射」である。これはノータイム、またはタイムラグを設けての自由なタイミングによる敵攻撃の反射だ。しかも先の様子からして光波攻撃以外にも魔力、光力、魔・仙・妖術問わず反射可能のようだ。

 

「……姉さまの得意技も、これで無力化です。獣具に目覚めたお陰で毒霧への耐性もつきました。……姉さんはチェック、です」

 

「――くっ」

 

 苦し紛れに匕首を投げつけるが、それはイッセーが片手で弾いた。そして一気に距離を詰めたイッセーは黒歌の顔面に向けて一撃を放つ。しかし、わざと顔前でイッセーは拳を止めた。

 

「俺のかわいい後輩、泣かせるんじゃねぇよ……ッ!」

 

「――ッ」

 

「次に小猫ちゃんを狙った時、俺はこの拳を止めることはない。あんたが女だろうが、小猫ちゃんの姉さんだろうが関係ない。あんたはもう、俺の敵だッ!」

 

 イッセーが拳を収めると、黒歌はすぐさま後方へ飛び退き、距離をとった。

 

「……クソガキがッ!」

 

 毒づいてみせる黒歌であったが、その瞳には怯えの色があった。禁手に至っているという事実と、フルスケイルメイルが放つ威圧感がそうさせているのだ。

 しかし、それを見て誰もが威圧されるというわけではない。美猴が哄笑をあげる。

 

「ヒャハハハハ! こいつはいいや、ドラゴンの親玉が二匹! おまけに怪獣も! これを楽しまなきゃウソってもんだぜぃ!!」

 

 如意棒を回し、美猴はますます戦闘継続の意思を見せる。だが、先ほどのイッセーの一撃で毒霧が晴れ、その御陰でリアスと小猫の調子も戻ってきている。このまま上手く持てば、六対二に持ち込めるうえに、結界も消えたので悪魔の増援も来るだろう。

 そんな希望が見えた時、突如空間に裂け目が生まれる。その裂け目から、一人の眼鏡をかけた美青年が現れた。手には直剣を持っており、腰にはもう一振りの剣が携えられている。その両方の剣から、聖なるオーラが放たれていた。

 

「そこまでです、美猴、黒歌。他の悪魔たちが感づきましたよ」

 

 美猴と黒歌に親しげに話す様子から、青年が彼らの仲間、つまり禍の団のメンバーであることがわかる。その青年の姿を確認した美猴は空中から降りてくる。

 

「あれ、おまえはヴァーリと一緒じゃなかったのかぃ?」

 

「あなたたちが遅いから様子を見に来たんですよ。そしたらこの状況だ。まったく、何をしているのやら」

 

 ため息をつく青年。その姿に殺気は感じられなかったが、何かを察知したタンニーンが叫ぶ。

 

「全員、そいつに近づくな! 手にしてる得物が厄介だぞ!」

 

 その刀身を一目見たタンニーンは、焦りの色を隠せない。

 

「あれは聖王剣コールブランド、またの名をカリバーン。エクスカリバーやデュランダルを差し置いて地上最強の聖剣と称されるコールブランドがまさか白龍皇のもとに下るとはな……」

 

 コールブランド。エクスカリバーと同一のものともされる、アーサー王伝説に登場し、ペンドラゴンの血統の者でないと扱えないという聖剣中の聖剣。それが剣のみならず使い手までもがテロリストになったという事実に、タンニーンは苦笑せざるを得なかった。

 

「しかしもう一振りはなんだ? 見たところ相当な名剣と見たが」

 

 タンニーンの疑問に、青年はその件の剣に手をのせて言った。

 

「こっちは最近発見されたものですよ。そう、これこそが行方不明になっていた七本中最強のエクスカリバー、『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』です」

 

 最強の聖剣に続き、最後にして最強のエクスカリバーまでもがこの青年の手中にあるという事実に、タンニーンのみならずイッセーたちも驚きを隠せなかった。

 

「あら、そんなに話して平気なの?」

 

 黒歌の問いに、青年は頷く。

 

「いいんです。私自身、そちらの聖剣使いと聖魔剣の使い手に大変興味がありましてね。赤龍帝殿、あなたからご友人のお二人によろしくと伝えていただけませんか? 私の名はアーサー・ペンドラゴン。いずれ一剣士として相まみえたい、と。……義人、貴方も早くしなさい。その程度の負傷は何でもないでしょう」

 

「……そうだな」

 

 いつの間にか復活していた義人も合流したのを確認すると、アーサーはコールブランドで裂け目をさらに切りつける。すると直径4mほどの空間の裂け目が広がっていった。

 

「さて、逃げますか」

 

 そう言うと、三人は空間の裂け目に身をひそめる。が、それを見逃すダイスケではない。

 

「無傷で行かせるかよ!」

 

 そう言って掌から熱線を放つ。が、着弾する瞬間にアーサーは支配の聖剣を振い、熱線をかき消した。

 

「『支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)』はあらゆる事象を支配する。それはあなたの熱線も同じですよ、怪獣王。支配を受けたくないのなら、もっと本気の一撃で来るべきだ――それではさようなら、赤龍帝に怪獣王」

 

 アーサーはそれだけ言うと、空間の裂け目は消えた。

 すべては、終わったのである。その後、押っ取り刀で駆け付けた悪魔たちに保護され、魔王主催のパーティーは結果的に禍の団の襲撃によって中止となった。

 

 

 

 

 

 

「失態ですね」

 

 魔王領にある会議室で、堕天使副総督であるシェムハザは開口一番にこう言った。隣にいるアザゼルは心中でほどほどにしてほしいと願いながら茶を飲んでいる。

 シャムハザが失態としたのは冥界指名手配中のSS級はぐれ悪魔がパーティーに個人的理由でちょっかいをかけていた件についてだが、まさか誰もこのような事態を想像だにしていなかっただろう。結果的に事態は最小限に収まったが、催しの場の隙を突かれた、という点は悪魔の警戒体制の是非を問うものだ。

 だが、危機管理に関しては堕天使側にも問題があった。何せ総督本人がカジノに夢中で事態に気付けなかったなど他の堕天使幹部やセラフがいるこの場で口が裂けても言えない。

 

「相手は禍の団独立特殊部隊『ヴァーリチーム』の美猴と黒歌に獣転人桐生義人、さらに聖王剣コールブランド使いも関与。一人一人が強力な力を有するチームの内の三名も現れるとは。大体、悪魔の危機管理能力には――」

 

 またか、とアザゼルは顔を手で覆う。何せこのシェムハザ、一度小言が始まると長いのだ。

 確かに危機管理に関しては今後の課題となるだろう。だが、大局的に見れば死傷者はゼロ、毒を受けたリアスも小猫も無事でおまけに赤龍帝のイッセーは禁手に至れ、しかも小猫は獣転人に覚醒した。全体を見れば大きな収穫となったのは確かで、そのあたりは全員承知している。

 遠くの席では魔力で体を小さくしたタンニーンが上役たちともうすぐ開かれるリアスとソーナの一戦を予想していた。

 

「俺はリアス嬢を応援させてもらう。何せ俺が直々に鍛えこんだ赤龍帝がいるのでな。あいつは面白いぞ。何せ戦いの最中に乳をつつくんだ」

 

「アザゼルがもたらした知識はレーティング・ゲームに革命を起こしそうだよ。下手をすれば半年以内に上位陣のランキングに変動が起こるかもしれない」

 

「それはいい。ここ十数年はトップ十名に変化がなかったものですから。これからはさらに面白いゲームが見られそうだ」

 

 そんな話をしているとき、一人の隻眼の老人が室内に入ってくる。

 

「ふん、若造どもは老人ひとりの出迎えもできんのか」

 

 その蓄えた白いひげは床に届きそうなほど長く、頭には古ぼけた帽子をかぶっている。杖をついてはいるが、その腰は真っ直ぐだ。アザゼルはその姿を認めると悪態をついた。

 

「おーおー、久しぶりじゃねぇあか、北の田舎のくそじじいことオーディンさんよ」

 

 北欧神話の主神、オーディン。戦争と死の神でもあり詩文の神でもある。魔術に長け、知識に対し非常に貪欲な神であり、自らの目や命を代償に差し出すほど。その主神が二人の鎧姿の戦乙女(ヴァルキリー)を伴って突然現れたので会議室は騒然となる。

 

「久しいの、悪ガキ堕天使。長いこと敵対していた相手と仲良くやっておるようじゃが……また小賢しいことでも企んでおるのか?」

 

「ハッ、しきたりやら何やらで雁字搦めの古臭い田舎の神様とは違って俺たち若人は至高が柔軟でね。わずらわしい敵対関係よりも己の切磋琢磨発展向上を選んだのさ」

 

「それはまた弱者らしい負け犬の精神じゃて。所詮は親たる神と魔王を失った小童どもの集まりよ」

 

「……子供の独り立ち、とは考えられないのかねぇ。頭の固いくそじじいには無理な話か?」

 

「すまんが悪ガキどものお遊戯会にしか見えんでな。乾いた笑いしか出ぬわ」

 

 罵詈雑言の応酬に嫌気がさしたアザゼルに代わり、サーゼクスが前に出る。

 

「お久しゅうございます、オーディン殿」

 

「サーゼクスか。ゲーム観戦の招待、来てやったぞい。しかしおぬしも難儀よな、本来のルシファーの血筋が今やテロリストとは。悪魔の未来は前途多難じゃの」

 

 オーディンは皮肉を言うがサーゼクスは「まったくです」と苦笑した。

 

「時にセラフォルー、その恰好はなんじゃいな?」

 

「あら、オーディン様はご存じでない? これは魔法少女の格好ですよ!」

 

 相手が相手であるにもかかわらず、相変わらずのセラフォルーはオーディンの目の前でポーズをとる。

 

「ほう、最近の魔術界隈はこういうのが流行っているのかの。しかし、これは中々……ふむふむ、ほうほう」

 

 セラフォルーを嘗め回すのその視線はイッセーに負けず劣らずのスケベ心全開だ。そこへ遮るように銀髪のヴァルキリーが割って入り、金髪のヴァルキリーがあろうことかオーディンの首筋に剣を添える。

 

「オーディン様、卑猥なことはいけません! アスガルドの名が泣きます!」

 

「我が主神よ、その不埒な目を止めねばその首斬り落とすぞ。主神の命とアスガルドの面目なら私は迷わずアスガルドの面目を選ぶ」

 

「まったく、お前らは固いのう。そんなんだから勇者(エインヘリヤル)の一人もモノにできんのじゃ」

 

 その一言に銀髪のヴァルキリーは泣きだし、金髪のヴァルキリーは憤慨した。

 

「ど、どうせ彼氏いない歴=年齢のヴァルキリーですよ、私は!! 私だって彼氏欲しいのにぃぃぃ! うぇぇぇぇぇぇん!!」

 

「私は作れないじゃなくて作らないのだ! 私に勝てるほどの勇者(エインヘリヤル)でなければ誰がこの身を許すものか!!」

 

 その二人の様子に流石のオーディンも嘆息を漏らす。

 

「おいおい、なんなんだよ、このヴァルキリーたちは」

 

「見苦しいものを見せたの、アザゼル。なにせこやつら方や器量はいいが堅い、方や高望みで男が寄ってこんでの。そのおかげでわしのお付きじゃ」

 

「それでいいのかよ、ヴァルハラの人選……」

 

「それはそうとして、今回のゲームではあの怪獣王を宿した者も出るそうではないか。イグドラシルにも彼の者の記録があるが、あのバケモノ、人の子に御せるのかの?」

 

「ご安心ください。私の妹の報告が確かなら――彼は上手くやれますよ」




 はい、というわけでVS37でした。
 リリアはリアスほどの巨乳という訳ではありませんが、サキュバスなのでスタイルはいいです。やっぱりそういうのが本職な訳ですから。
 そして新たなる獣転人はロリ猫娘の塔城小猫でした。宿す魂は琉球の守護神怪獣「キングシーサー」、獣具は『守護獣の反光仮面(キングシーサー・リフレクト・ペルソナ)です。パワータイプにトリッキーなカウンターという相手からしたらふざけんな! という組み合わせです。流石に物理攻撃は返せませんが、放出系攻撃は大概跳ね返します。
 なお、まだまだ原作キャラの獣転人は出てきますよぉ。なんと次回も出てきます。それも複数!! 誰がどの怪獣か考察してみてください。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS38 シトリー戦 ROUND01

 今回からヘルキャット編最終局面、シトリー戦が始まります。
 陣地とかどうなってんの? と思われるでしょうから挿絵に簡単な見取り図を入れてありますよ。


「え、マジッすか?」

 

「ええ、ダイスケは試合開始から十分後に敵陣地投入可能、それまでは自陣から出たらダメだってなったわ」

 

 翌日の対シトリー戦の最終ミーティングが始まった。各々リリアが淹れた紅茶を飲みながら話し込んでいる。

 

「十分かぁ。それまでに試合が終わったら目も当てられないなぁ」

 

「それは仕方ない。お前さんは他の眷属が獣転人を持つことに対するバランサーウェイト見たいなもんだからな。小猫が獣転人だってわかったからこの処置になったんだ。そうだ、これも渡しておく」

 

 そう言ってアザゼルは黒いリストバンドをダイスケに渡した。

 

「こいつは装着者のバイタルを測って緊急時は医務室に転送術が働くようになっている。簡易悪魔の駒(イーヴィル・ピース)ってとこだ。クラスはEX(エキストラ)、これを使えばダイスケも安全に撃破(テイク)されることができるぞ」

 

「ありがとうございます。まぁ、やられる気はないですけど」

 

「その意気だ。イッセー、お前は禁手に至るまでのチャージ時間の二分間をどう切り抜けるか考えろ。三十分しか持たないなら使い時を考えておけ」

 

「はい。そこの所は今後の訓練次第か……」

 

「そういうことだ。リアス、むこうの戦力は知っているか? 出来れば誰が獣転人だとかわかればいいんだが」

 

「ソーナが水を操ること、女王(クイーン)がカウンター系の神器を有していることくらいね。逆に向こうはこちらの戦力をほぼ完全に把握しきっていると言っていいわ。良くも悪くも私たちは目立つから」

 

「内訳は(キング)女王(クイーン)戦車(ルーク)騎士(ナイト)がそれぞれ一名。僧侶(ビショップ)兵士(ポーン)それぞれ二名の計八名です。数の上では、こちらが一名多いですけれど、どう転ぶかは実戦ではわかりませんわね」

 

 朱乃の説明に耳を傾けながらリアスは戦力配分を考え、ダイスケは「何人潰せるかな」と捕らぬ狸の皮算用をしている。

 

「なるべく早く個々の戦力の特徴をつかむことがミソになるな。出来るなら同タイプ同士をぶつけたい」

 

「先生、「柔よく剛を制する。また剛よく柔を断つ」というぞ。小手先の小技は絶大なパワーで切り抜ければいいのではないか」

 

 ゼノヴィアがいかにも()()()反論をするが、アザゼルは首を横に振る。

 

「パワータイプの特性が抑制されるルールが適用される場合もある。閉所とか、過度な破壊を禁止するルールとかな。なにも考えずに勝てるほどレーティング・ゲームは甘くない」

 

 アザゼルの言葉に、さしものゼノヴィアも納得したのか「むぅ」と黙る。眷属の中でも実戦経験が多いゼノヴィアには心当たりがある過去があるのだろう。

 

「上役達の前評判ではお前達の勝ちは80%という見立てだった。だが、それは『絶対』じゃないんだ。駒の価値も、腕力の差もだ。チェスト同じく、局面でそんなものいくらでもひっくり返るんだ。俺は長く生きてきた分、いろんな戦いを見てきた。そんな中、勝つ可能性が1%以下のヤツが勝つなんてのはざらにあった。ゴリアテに勝ったダビデみたいなもんだ。どんなに小さな可能性も甘く見るな。約束された勝利はない。だが、勝利を求めることは忘れるな。……俺から言えるのはこれくらいだ」

 

 そう言ってアザゼルはこの場を辞した。他にも堕天使総督としての仕事があるからだ。しかし、この日はリリアの差し入れをいただきつつ、夜が明けても戦略をねりづづけた。

 

 

 

 

 

 

 レーティング・ゲーム当日。

 グレモリー家本城の地下にはゲーム会場に転送されるための専用魔方陣が存在する。ここから決戦場に直接転移されるのだ。グレモリー眷属+1はそれぞれの戦闘服――ほとんど学生服だが、それに身を包んで気を引き締めている。

 

「リアス、一度負けた身だ。その次である今回は勝ちなさい」

 

「次期当主として恥じぬ戦いを期待していますよ。眷属の皆さんもどうかこの娘を支えてあげて」

 

「リアスお姉さま、応援しています! 頑張って!」

 

「やれることはやった。気張ってこい」

 

 ジオティクス、ヴェネラナ、ミリキャス、アザゼルが激励を送る。

 

「VIPルームで見てるからね。お偉いさん達にみんなの力見せちゃって!!」

 

 今回特別に個々に招かれたミコトも声援を送る。この後アザゼルと共に他神話勢力用に用意されたVIPルームに向かうとのこと。そして――

 

「ダイスケ様!」

 

 地上での仕事をひとまず終えて、ヴェネラナに誘われて出立前のダイスケに会いに来たリリアも現れる。

 

「……どうか、ご無事で」

 

「……ああ、勝ってみせる」

 

 リリアはダイスケの手を握り、息を切らしながらエールを送った。ヴェネラナに肩をたたかれ、リリアは名残惜しそうに手を離す。

 そんな二人を見てこの場にいた全員が「へぇ……」といいたげな視線をダイスケに向けた。

 

「……なんだよ。なんだよその目」

 

『べっつに~』

 

 茶化すリアス達だが、これでいい具合に過度の緊張がとれた。丁度良い塩梅になったところで魔方陣が輝き、一同は転送された。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ、ここって――」 

 

 転送されたのはイッセーにとっても見慣れた光景だった。間違いない、ここは学園に近くにある二階建ての大型ショッピングモールのフードコートだ。つまり、双方共に見慣れた環境の中で戦うと云うことらしい。位置的にはここは中央吹き抜けから見て東側の二階のはずだ。

 そこへ、突如店内アナウンスが流れる。

 

『選手の皆様、私はこのたびのゲームの審判(アービター)役を仰せつかったサーゼクス・ルシファー眷属の女王(クイーン)、グレイフィアでございます。よろしくお願いいたします。では、開始前の試合規則(レギュレーション)をご説明させていただきます』

 

 全員がグレイフィアの説明に耳を傾けるために、音声が流れていると思わしき天井のスピーカーを見つめる。

 

『今回のゲームは屋内における短期戦(ブリッツ)でございます。時間は三時間、屋内ということで過度な破壊は禁止とさせていただきます。陣地に関してはリアス様は東側一階、ソーナ様は西側二階が本陣となります。昇格(プロモーション)は相手陣地に到達したときに認められます』

 

 つまり今いる場所のことだ。このほかにはこのモールは屋上駐車場、別館の立体駐車場がある。 

 

『今回は特別ルールが設けられていますが、これに関しては事前に配布された封筒内にルールが記載されております。また、封筒内には回復アイテムのフェニックスの涙が両陣営一つずつ配布されております。まずルール確認と作戦立案のために合図のブザーの後三十分ございます。この間は相手陣地への進入は禁止です。試合開始は再度ブザーを鳴らします。それでは作戦時間です』

 

 グレイフィアのいうとおり、ブザーが鳴った。すぐさま一同はリアスの元に集合する。時間を一秒も無駄に出来ない。

 

「……なるほど、これはキツいわね」

 

 リアスのいうとおり、ルールは実に彼らに不利な内容だった。列挙すると、

 

・フィールドであるモール内を極力破壊しないこと

・ギャスパーの不安定で危険な神器は使用不可。安全策として神器封印用の保護眼鏡を着用のこと

・薬品、ドラゴン(この場合はイッセー、匙)の血液等のドーピングアイテムによる自戦力強化は認めない

・使い魔の使用禁止

 

 という四つだった。

 元から遮蔽物の多いこのモール内では視界に入らないと作用しないギャスパーの神器は不利で、しかもカウンター神器を持つ相手女王(クイーン)や特殊な神器を有する匙に対しては使いづらいものだった。なのでこれに関してはある程度対策はとれると言える。

 しかし、過度の破壊の禁止は猪突猛進、超絶パワータイプが多いグレモリー眷属には最悪のルールと言えた。ダイスケ、イッセーの大パワー。リアスの滅びの魔力。ゼノヴィアのデュランダル。朱乃の広範囲雷撃。グレモリー眷属の華と言える攻撃手段が軒並み使えないのだ。

 その事に気付いたイッセーの額に焦りの汗が滴った。

 

「まずいです。俺、力を抑える方法なんて一つもやっていません……」

 

「私もよ。今回の特訓、完全に裏目に出たわね。希望があるとしたらアーシアの回復でフェニックスの涙の温存、祐斗のスピードとテクニック、小猫の獣具ね。当然、ソーナもここを狙ってくるはずよ」

 

「ってことは、出来るならウチのテクニックタイプにパワータイプの護衛を付けてツーマンセルでいった方がいいですかね?」

 

「ダイスケの案は理想的だけど、それ以上にギャスパーにはコウモリに変身して偵察して欲しいの。使い魔が使えないというのもあるけど小回りがきくし、小さいから相手に発見されないはず。行ってくれる?」

 

「はいぃ! 念話で逐次連絡を入れるようにしますぅ!」

 

 眼鏡を付けたギャスパーが早速複数匹のコウモリに変身し、陣地境界まで飛行していった。

 ちなみにグレモリー側の東エリアは二階にペットショップ、ゲームセンター、今いるフードコート、本屋、ドラッグストア。一階に大手中古品取り扱いチェーンの支店とスポーツ用品店がある。対するシトリー側の西エリアには食品売り場、電気店、ジャンクフード店街、雑貨売り場がある。

 

【挿絵表示】

 

 

「それから祐斗。駐車場に車があるかどうか見てきて。いかに過度の破壊が禁じられても車を爆弾にされたりシェルター代わりにされることも考えられるわ」

 

「はい。燃料が入っているかも確認してきます」

 

 木場がその俊足で屋上駐車場を偵察に行くと、イッセーもあることに気付く。

 

「……あ、むこうの衣料品店に商品がちゃんとある」

 

「だとしたらイッセーの洋服崩壊(ドレス・ブレイク)が発動しても代わりの服がある、ということね。どっちにしろイッセー、洋服崩壊(ドレス・ブレイク)はセクハラ技だから極力止めておきなさい。夏休み明けに学校で会うんだから、変に恨まれるようなことは止めておきなさいね」

 

「……はぃい。うぅ、合法的に裸を見られるチャンスだったのに」

 

「いや、お前普段からリアスさんや朱乃さんの裸見てるんだろうがよ」

 

「ですわね。あ、ダイスケ君これを。そこにあった紙ナプキンで制作した通信用魔方陣です。これで念話ネットワークに繋げられますわ。制服の胸ポケットに入れておけば通話できますわ」

 

「ハンズフリーみたいなもんですね。ありがとうございます、姫島先輩」

 

 ダイスケが朱乃から紙ナプキンを受け取り、胸ポケットにしまう。そのダイスケに、リアスが指示を出す。

 

「ダイスケ、貴方にはなるべくこちらに侵入しようとする敵を排除して欲しいの。そのためには、非常に危険だけど吹き抜けがある中央エリアの境界線ギリギリにいてちょうだい。敵陣侵入可能時間まで隠れて、あらゆる手段を用いて敵を排除して。あとは通信内容を読んで自由に動いてくれていいわ」

 

「え、いいんですか?」

 

「そのほうが貴方は動きやすいはずよ。情報は逐次送るし……この不利なルールの中、なにかいいアイデアがあるんじゃない?」

 

「……時間までスポーツ用品店にいってます」

 

 そう言ってダイスケは廊下を渡って北側のスポーツ用品店へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

 店内にブザーが鳴り響く。

 

『宝田様以外の敵陣侵入を許可します。十分後にまたブザーが鳴りますが、それは宝田様の敵陣進入許可の合図です。では、試合開始です』

 

 グレイフィアのアナウンスを聞き終え、ダイスケ以外のメンバーが移動を開始する。

 作戦はまず二階から侵入するイッセーと小猫、屋上駐車場から侵入する木場とゼノヴィアの二手に分ける。目的はイッセーの女王(クイーン)への昇格(プロモーション)とそのための陽動に木場とゼノヴィアの攪乱だ。

【挿絵表示】

 

 これを達成したら一時撤退、ダイスケの敵陣侵入可能時間にもなっているはずなのでここにリアス、アーシア、朱乃も加わって敵を虱潰しにする。それまではダイスケは陣地境界にて敵の侵入を全力で阻止、撃ち漏らした敵は朱乃が迎撃してリアスとアーシアを守るということになっている。

 しかし、イッセーの昇格(プロモーション)は第一段階の本目的ではない。真の陽動はイッセーだ。ダイスケと違いイッセーは最初から敵陣に侵入できる駒で、しかも強力。ソーナはこれを阻止しに来るとリアスは踏んだ。

 その間、陽動と思われる木場とゼノヴィアが敵陣深く潜入し(キング)であるソーナを急襲し、討ち取る。これは陣地間に最大の防壁となり得るダイスケがいるからこその作戦だ。偵察のギャスパーが逐次ダイスケに敵の動きを伝えることで的確な迎撃をし、最前線で敵侵入を食い止められればこれほど力強いものはない。

 以上の戦略に則り、イッセーと小猫は二階廊下を慎重且つ迅速に進む。

 

「……あのさ」

 

「なんです?」

 

 イッセーが小猫に話しかける。丁度二人きりになったので言いたいことがあった。

 

「小猫ちゃんが倒れたとき、無遠慮なこと言ってごめん。いくら事情を知らないにしても無責任すぎた」

 

「……いえ、あの時は私も酷いことを言いました。先輩の行為を無碍ににして、突き放しました。だからお互い言いっこなしです」

 

「ありがとう。これからはちゃんと小猫ちゃんのことも見る。そんでもって、またあのお姉さんが来たらしっかり君を守るよ」

 

「私も、今回は猫又の力としっかり向き合います。役立たずは嫌ですから」

 

 お互いの決意を確認し合ったその瞬間、アナウンスが流れた。

 

『リアス・グレモリー様の僧侶(ビショップ)一名、リタイア』

 

 「「!?」」

 

「見つけたぜ、兵藤ゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 叫びが聞こえたと同時、イッセーがなにかに吹き飛ばされて下着売り場のブラジャー陳列棚に突っ込む。

 イッセーにも、小猫にも見えなかった。見えないなにかがイッセーを吹き飛ばしたということはわかったが、それがなんなのか見当も付かない。敵の姿を見つけようとする小猫も、そのなにかに弾かれて壁に激突する。

 

「くっそう、頭からブラジャー被るのは夢だったけど、こういう展開は勘弁だぜ……」

 

「……さっさとそれ取ってください。せっかくいい顔になってるのに台無しです」

 

「ご、ごめん。でも、今の見えた?」

 

「ダメです。全然見えませんでした。お互いの背後をカバーし合いましょう」

 

 合流したイッセーと小猫は背を合わせて全周囲をカバーし合う。しかし、今度はまた見えない攻撃で二人とも弾かれる。

 

「クッ!!」

 

 なんとか二人は空中で姿勢を制御し、着地する。すると、攻撃した張本人らしい姿が見えた。

 

「よぉ、兵藤。それに塔城さん」

 

 それは匙だった。衣服はいつもの駒王学園の制服だったが、その身には別のものが纏われている。それは、黒い何匹もの蛇。それらが匙の全身を覆うように纏わり付いて蠢いている。

 

「まさかいきなり会えるなんてな。嬉しいぜ匙」

 

「俺もだよ。目的通りだ」

 

 匙が不敵な笑みを浮かべながら近づいてくる。

 

「ギャスパーやったのはお前か?」

 

「いや、他の仲間さ。陽動で気を引いたところに食品売り場にあったガーリックパウダーをお見舞いしてな。力を伸ばす特訓はしていても吸血鬼の弱点カバーの特訓はしていないだろうっていう会長の考えが的中したって訳だ」

 

 ギャスパーのあまりにあんまりな退場の内容にイッセーは頭を抱えるが、すぐに匙がどうやって攻撃してきたのかという分析に思考を切り替える。

 

「……ラインの攻撃だったんでしょうか」

 

「いや、ラインだったら黒い影みたいな線が見えるはずだ。でも、さっきはなにも見えなかった……新しく覚えた魔力武器? それとも透明になった他の誰かが攻撃してきた?」

 

「……いえ、気を探っても匙先輩しかいません」

 

「当てられるもんなら当ててみな。まぁ、それまでに俺は俺の仕事を完遂させる! 覚悟しな!!」

 

 

 

 

 

 

「ダイスケ、こっちよ!」

 

「はい!」

 

 偵察役のギャスパーが撃破(テイク)されたことで防壁役であったダイスケの使命は果たすことが困難になってしまった。そのため、リアスの指示でダイスケは本陣に戻ることになったのである。

 

「イッセー達はどうしたんです?」

 

「西館の方は念話のジャミングがされているみたい。祐斗たちとも連絡が付かないわ。恐らく三十分の待機時間の間に術式を仕込んだのね。……向こうにこちらのかなりの量の情報があるというは痛すぎよ」

 

「しかし弱気にもなっていられませんわ。イッセーくん達も祐斗くん達も敵に足止めを受けているはず。となれば別働隊がこちらを狙ってくる可能性がありますわよ」

 

 朱乃に懸念はもっともだ。となれば、ここを動くか背水の陣で敵攻撃部隊を排除してから前進するのが望ましい。

 そこでアーシアが思い出す。

 

「……すぐ近くに屋上に行くエレベーターと階段、それとエスカレーターがありませんでしたか? 階段とエスカレーターは丸見えですから、エレベーターのワイヤーか中の点検用はしごを伝っていくのはどうでしょう」

 

「屋上に直接いく、ということね。屋上なら視界が広いし、そこにソーナが移動して陣取っていても、敵攻撃部隊を避けて直接対決が出来るわ」

 

「俺、様子見てきます」

 

 すぐさまダイスケは近くのエレベータの扉をこじ開け、中のはしごを使って屋上までよじ登っていく。が、その時になにかに気付いた。

 

「……なんだ、この違和感。なにかが……そうか、これは!」




 はい、というわけでVS38でした。
 今回初めてわかりやすくするために挿絵を用いましたがいかがだったでしょうか? ジュラシック・パークの原作小説がわかりやすく説明するためにグラフとかを挿絵に入れてると聞いたことがあったので。
 はてさて、匙が何やらおかしな攻撃をしておりますが果たして。戦いの流れは原作と異なっていきますので要注目です。結構いいのが出来たんじゃないかと思っています。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS39 シトリー戦 ROUND02

 みんなが寝静まった夜♪
 ちょっとTwitterしてると♪
 とてもすごい♪
 ことが♪
 あったんだ!!

 なんとあのラブライブ! 西木野真姫ちゃん役のPileさんと少しだけツイートし合いました。
 なんでもギリシャ神話にご興味があるようです。
 あ、私一応Twitterやってます。
 https://twitter.com/NoTamasii
 それから新たにBCAAさんから評価☆1をいただきました。やっとこれで色が付きました。ありがとうございます。


 立体駐車場経由で西館に行こうとしていた木場とゼノヴィアは予想外の攻撃に晒されていた。目に見えないなにかに攻撃されているのだ。

 

「木場、見えたか!?」

 

「いいや、なにも見えない! でも、なにかいる!!」

 

 優れた剣士である二人は、敵の剣気を読み取って攻撃を先読みすることが出来る。だが、この敵には姿どころか攻撃の気配も察知することが出来ない。まさに透明な敵を相手にしているのだ。

 

「……いや、なにかが大気をくぐって僕らの周囲を回っている」

 

「今、私も感じた。ということは――」

 

 二人は互いの背を向き合わせ、どこから攻撃が来てもいいようにする。そして、向かってくるなにかをゼノヴィアが察知し、イッセーから借りたアスカロンを引き抜いて斬りつけた。

 

(手応えあり!)

 

 間違いなく、今ゼノヴィアはなにかを切断した。刃が物体を切り裂く感触は間違えようもない。が、切り裂いたはずのなにかは斬ったと動じにまるで自らの意思で二つに分かれ、ゼノヴィアの左右に飛んでいくのがわかった。

 

「なっ――」

 

 驚く間もなく、左右から高速で飛来するなにかがゼノヴィアの側頭部と脇腹を強かに打ち付ける。その威力たるやゼノヴィアの身体が空中で二回転したほどだった。

 

「ゼノヴィアっ!?」

 

 木場は両手に聖魔剣を構え、どこから攻撃が来てもいいように準備する。しかし、ゼノヴィアを襲ったものとは別のなにかが木場の首をきつく締め付ける。

 

「かっ……かはっ……!」

 

 咄嗟に敵の意思を察して首を絞めるなにかの間に木場は左手を差し込んでダメージの軽減を図る。しかし、この敵の締め付けるなにかの力は、木場がいかにパワータイプでないとはいえ悪魔の腕力を大きく上回るものだった。むしろ自分の左腕が喉に食い込んで余計にダメージを与える結果になってしまっている。

 その木場を締め付けるなにかを、ようやく立ち上がったゼノヴィアが断つ。

 

「ゴホッ、ゴホッ!! ……すまない」

 

「いや、おかげで薄らだがなにか見えた。――触手だ、これは。それと、宙を舞う球体」

 

「触手と、球体……?」

 

 すると、木場の目にも足下でなにかが蠢くのが見えた。それは確かに薄くしか見えないが半透明な大蛇を思わせる触手だった。しかも、今度はそれが宙に浮き、球体へと形を変える。

 

「これは……神器?」

 

「かもしれない。透明な触手と球体を操る神器。しかし、誰が――」

 

『いいや、違うぜお二人さん』

 

 突如、二人の脳裏に知った声が響く。それは、匙の声であった。

 

「匙くん!? ということは……これは黒い龍脈(アブソリュート・ライン)の禁手か、亜種禁手!?」

 

『それも違う――ちっ、やっぱ兵藤と塔城さんを相手に同時に念話で話すのは集中力がいるな』

 

 その一言を聞いて木場とゼノヴィアは驚愕した。つまり、どうやっているかはわからないが匙は一人でイッセー、小猫、木場、ゼノヴィアの四人を同時に相手していると言うことになる。

 

「いや、ブラフだ! 真に受けるな、木場!!」

 

『でもないぜ。ガラス越しに見えるはずだ。兵藤達の今の様子が』

 

 その通りだった。立体駐車場は壁がなく、モールの中がガラス越しによく見える。イッセー達がいるのは吹き抜けを挟んだ南側だが、中に誰もいないのと、丁度店がないエリアを挟むためにその姿が見える。

 そして、イッセーと小猫は匙相手に二対一で勝負している。しかも、今の木場立ちと同じく目に見えないなにかからの攻撃を受けている。

 

「神器の禁手でも、亜種禁手でもない。特殊な魔力攻撃でも誰かが透明になっている訳でもないとしたら……まさか! そんなことが!!」

 

「おい、木場……そのまさかとは、あれではないよな!?」

 

『多分大正解だ。そして――』

 

 匙の言葉を合図に、周囲にあった透明の球体が発光現象を起こしている。それも見えている距離からして感じることがないはずの規模の熱を発生しているのがわかった。

 

『リアス・グレモリー様の戦車(ルーク)一名、リタイア』

 

 信じられないアナウンスが響く。しかし、それに驚く間もなく木場立ちの周囲には高熱を孕んで光る球体がいくつも並ぶ。

 この熱量をまともに食らえば球体一つ分でも一発で撃破(テイク)だ。それが二人の周囲にいくつも見える。この場を脱出しようと思っても、二人の両足は透明な触手で縛られ、身動きが一切とれない。

 徐々に球体達は距離を詰め、そして――

 

『――お前らは終わりだ!』

 

 超高熱の球体は、木場とゼノヴィアに向けて殺到した。

 

 

 

 

 

 

 イッセーは匙と殴り合いながらもなにか違和感を感じていた。どこか別のなにかに意識を取られているようなのだ。ラインと透明ななにかを操っている集中力やイッセーと小猫を動じに相手取る分には意識はしっかりこちらに向けている。

 だが、まるで他所で起きているなにかに気を取られている感覚があるのだ。

 

「小猫ちゃん、いいかな?」

 

「なんです?」

 

 一旦距離を取り、小猫と並んだイッセーは一つの提案をする。

 

「まず、俺が突貫する。小猫ちゃんはその影に隠れて、タイミングを見計らって匙に仙術の一撃をお見舞いしてくれ。アイツの集中を一瞬でいいから奪う」

 

「……まだ自信はありませんが、それくらいならやって見せます」

 

 小猫の了解を取り付けたイッセーは、左手に力を込めて匙目がけて突撃する。

 

「見え見えだぜ!」

 

 これに対し、匙は魔力弾を放って迎撃する。イッセーは籠手を盾代わりにして耐え、匙に一撃を見舞わんとする。

 

「見え見えだと言った!」

 

 イッセーは匙の見えないなにかにアッパーを決められて身体が宙に舞う。その一瞬を狙い、小猫は匙の胴体に仙術の一撃を入れた。

 これなら接触しただけで流された小猫の気が匙の気をかき乱し、バイタルに変調をきたす――はずだった。

 

「――!」

 

「仙術の対策ならしてあるさ」

 

 小猫の掌底は別の見えないゴム鞠を思わせる球体に阻まれていた。ここまで接近してようやく見えたそれは、常時匙をカバーしていたのだ。

 

「でもって、獣具の対策もする!!」

 

 そのまま小猫は透明な触手に巻き付かれ、全身を締め上げられる。ニシキヘビが獲物を締め付ける力が500kgから1tであると言われているが、この力は明らかにそれ以上。人間ならすぐさま全身粉砕骨折、中身の入ったドラム缶ですら容易く絞り上げられるだろう。

 

「ごめん、なさい……」

 

 ついに小猫が意識を手放した。

 

『リアス・グレモリー様の戦車(ルーク)一名、リタイア』

 

 巻き付かれた透明な触手の中で、小猫の姿が消え、転移したのがわかる。その光景を信じられず、また己の無力さにイッセーが憤ったその瞬間――

 

『リアス・グレモリー様の騎士(ナイト)二名、リタイア』

 

 立て続けに響く無情なアナウンス。イッセーは驚きを隠せない。

 

「まさか、迎撃部隊――」

 

「いや、俺がやった。教えてやる、俺がどうやったかその身でな!!」

 

 イッセーはサバイバル訓練の中で身につけた野性的な勘で左から来た透明な触手を籠手で受け止めきる。しかし、勢いは止まらずそのまま壁まで叩き付けられ、押しつぶされそうになる。

 だが、イッセーは起死回生の一縷の希望を見いだす。

 

「……昇格(プロモーション)女王(クイーン)っ!!」

 

 そう、イッセーが叩き付けられた壁は建物中央から見てギリギリ西側、つまり敵陣だ。これならば昇格(プロモーション)が可能となる。

 

「反撃開始だぁぁぁぁ!!」

 

 女王(クイーン)が内包する戦車(ルーク)の馬力は、イッセーの鍛錬によって倍化無しで触手の剛力に対抗できるほどであった。なおも自分を押しつぶそうとする透明な触手をイッセーは根性で押し勝ち、そのまま匙に向けて肉薄する。

 

「だりゃぁぁぁぁぁああああああ!!!」

 

 これが本当に神器の力無しでのイッセーの腕力なのか、と匙が驚く。そしてイッセーはそのまま匙に体当たりをカマした。

 

「がっ――」

 

 このように純粋な圧力を用いれば、小猫に対して用いた防御法は意味を成さない。その一瞬の隙をついてさらにイッセーは匙の腹部に拳をたたき込む。

 鈍い音が響き、匙はもんどりをうって倒れた。すぐさまイッセーは追撃をかけたかったが、息を切らしてこれ以上追求できなかった。

 

「へへっ……やっぱすげぇな、兵藤。流石赤龍帝だぜ……なら、種明かししてもいいかな」

 

 口の端の血を拭い、匙が立ち上がる。

 

「『事実を隠すことは戦略上有利になる。が、逆に事実を明かすことも戦術的有利に繋がる』――これ、会長の言葉な」

 

 すると、周囲に溶け込んでいた透明な触手と球体に色の濁りが入る。その触手は匙の背中化から何本も生えており、球体は中心が光り輝いて匙の周囲を守るようにいくつも漂う。

 

黒い龍脈(アブソリュート・ライン)の黒いラインじゃない……まさか、お前!?」

 

「ああ、そうだ。俺は神器、黒い龍脈(アブソリュート・ライン)の所有者にして『宇宙怪獣ドゴラ』の獣転人……『宇宙触腕獣の透明触手(ドゴラ・インビジブル・ハンド)』の所有者だっ!!!」

 

 衝撃だった。よりにもよって龍王をその身に宿す者が獣転人だったのだから。だが、イッセーにある疑問が浮かぶ。

 

「いや、いやいやいやいやいや! そんなのありかよ!? 神器を持ってるのにその上、獣転人!? 一人に一つじゃないのか!?」

 

「俺もそう思ったけどさ、獣転人の獣具っていうのは獣転人その者の魂の力なんだ。生まれる時に宿る神器はいわば魂の付帯物。身体に内蔵された武器と手持ちの武器の違いみたいなもんなんだよ」

 

 そう聞いたイッセーは己の股間をまじまじと見つめる。

 

「……股間のネオ・アームスト○ング・サイク○ンジェット・アームスト○ング砲と手に持ったバ○ブって感じか? 武器内蔵した人間なんて基本いないし」

 

「……なんでそんな卑猥な方向でしか理解できないんだ、お前は!? ……でもまぁ、そんなもんだ。疑問に思うならドライグに訊いてみろよ」

 

『いや、確かに……俺はこれまで元の宿主が死ねば次の人間の魂に転移していた。となれば俺が人間に宿るのはその人間の魂に寄生、というか間借りしているようなもの。魂そのものが怪獣の生まれ変わりである獣転人に神器が宿ってもおかしくはない』

 

「嘘だろ、おい……」

 

 認めたくはなかった。だが、目の前にある現象を見れば匙が言うことが事実であることがわかる。

 

「だ、だったらその光る球体はなんなんだ!? まさか獣具を二つ持ってるとかじゃないよな!?」

 

「いや、これはドゴラの別形態だ。ドゴラは宙に浮かぶ巨大なクラゲみたいな見た目なんだが、大気中で動きやすくするために球体に分裂して姿を変えるんだ。あ、そうだ。あんまり近づかない方がいいぜ。鋼鉄の扉も簡単に溶かすほどの熱を帯びてるからな」

 

 最悪である。

 獣具と神器の二つ持ち。それも能力で考えたら三つ分。怪力の触手と高熱を帯びた球状態、さらにこちらのパワーをドレインする黒い龍脈(アブソリュート・ライン)のラインの組み合わせはどう考えても強力だった。

 どこまでも伸びる怪力の触手を避けても超高熱の球状態に襲われ、隙を見せればラインでエナジードレインされる。テクニックとパワーのいいとこ取り。イッセーも自分の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)もチートであると思っているが、今の匙はそれ以上だ。|

 そんな中、匙は自笑していた。

 

「……俺はお前がうらやましい。赤龍帝で、ご主人から猫可愛がりされている上、おっぱいを触ってキスまでして……会長とできちゃった結婚する夢を一歩も進められていない俺とは大違いだ。うらやましいだよ、俺は。……お前が!」

 

 己をあえて卑下することで、匙の中の闘争心が一気に炎上するのがイッセーにはわかった。

 

「お前は順調にサクセスストーリーを歩んでいる! でも、俺はやっとスタートラインに立ったばかりだ! そんな俺が今できること、それは会長の夢を叶える第一歩を、俺が切り開くことだけだ!!」

 

 匙の闘争心に呼応して触手はうねり、球状態の放つ熱はさらに上がる。

 

「できちゃった結婚なんてバカな夢以上に、会長の力になりてぇって心底思った! 会長の夢を馬鹿にした奴らに、俺たちの本気を見せてやるんだ! そんでもって、俺は会長の造る学校でみんなにゲームを教える教師になる! 会長を支えて、死んじまった両親の仕事を引き継ぐ!! 昔俺を生かしてくれた人達と、今俺を生かしてくれている人達に、俺は報いてみせる!!」

 

 匙の身体を、ヴリトラの漆黒の獄炎が包んだ。匙の意思が、心が、ヴリトラの呪殺の獄炎の片鱗を目覚めさせたのだ。

 

「だから兵藤! 俺は! 今日! ここで! ……お前に勝つ!!!」

 

 匙の背後に巨大なクラゲのような、不気味すぎる怪物の幻覚が見える。匙のオーラがこれ以上ないくらい充実している証拠だ。

 つけいる隙など一分もない。駒価値なんて何の意味もないように思えるくらい、今、イッセーの目の前に立つ匙は強大に見えた。それは競い合う仲間である木場とダイスケ、運命が結びつけた宿敵と言えるヴァーリとも違う、違う形の『好敵手(ライバル)』。

 彼の思いなんて知るよしもなかった。まるで自分以上の夢と情熱を持っているようにも見える。事情を知っている分、彼の夢をお通ししたい気持ちもある。

 だが、イッセーにも譲れないものがある。愛する主のため。大切な仲間のため。二度と悔しい思いを誰にもして欲しくないから――

 

「……負けられるかよ」

 

 本来は大将を相手にするまで取っておくつもりだった。リアスからもアザゼルからも「使い時を考えろ」と言われていた。 ……だが、どう考えても今が()()()にしか思えない。

 後できっと叱られるだろう。逃げるという手もあるだろう。ダイスケや無事な仲間と合流して戦うという手もある。

 

「でも……でもなぁっ!!」

 

 ドライグはイッセーの意思をくみ取った。これまで高め続け、溜続けた力を解放することに決めたのだ。

 

「俺だって負けられるかよォォォォォォ!!!」

 

『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!! 』

 

 イッセーの身に炎のように赤い鎧が装着される。それは直接攻撃に最も向いた神器の形。そして、明確なる意思の象徴。――すなわち、徹底的に全力で戦うということ。

 

「俺も部長のために全部賭けてる! 碌な才能もない俺が出来るのは匙! 今ここでお前を倒すことだけだッ!!」

 

「当然! 殺す気で来いやぁぁぁぁぁ! いざ!!」

 

 匙の腕に、ドゴラの触手が巻き付く。外部骨格ならぬ外部筋肉というということだ。

 

「尋常に……!」

 

 倍化され続け、高められた力がイッセーの左拳に宿る。

 

「「――勝負!!」」

 

 悪魔としても尋常ではない二人の脚力が床を砕き、爆発的な加速を生む。相対的に二人は自分の早さの二倍で相手と接近し、その運動エネルギーを互いにたたき込んだ。

 うなる腕、軋む骨に揺さぶれる内臓。避けるという選択肢は二人にはない。ただお互いに己の意思が乗った拳をたたき込み合う。打ち込み合うたび、イッセーはあることを思い出す。それは、特訓中の休憩時間に言っていたタンニーンの言葉だ。

 

『小僧、一番怖い攻撃というのはなにかわかるか?』

 

 わからなかった。なにかの必殺技か、それとも種族の弱点を突く攻撃か。

 

『いや、怖いのは『籠もった一撃』だ』

 

 拳とは攻撃の手段であるが同時に意思の象徴である。明確な『相手を倒す』という意思。思いを吐露するとき。意思は拳に宿る。

 

『コイツがまた厄介でな。意思が、想いが、魂が拳に宿るとき、その拳はどんな防御も通り抜ける。直接的な打撃だけじゃない。その籠もったものが届いたとき、相手がどれだけの決意できているかがわかってしまう。下手をするといかに力量差があっても届けば負ける。相手の籠もったものに負けるからだ。心が負けるんだ』

 

 そう言われてイッセーは己の拳を見つめ直していた。

 

『コイツが厄介なのは本気の奴なら誰でも放てること。対抗するには同じく『籠もった一撃』をたたき込むしかない。だが、それは『本物』にしか放てない。法則や手順があれば楽なのだがな』

 

 笑うタンニーンを前に、イッセーは悩んだ。自分にそれが理解できるのか、そして自分の相手がそれを持ち合わせていたら。そして、自分がそれを放てるのか。

 

『そればかりは実際にやってみるしかない。まぁ、経験すればすぐにわかる。若いお前なら尚更、な』

 

 事実そうだった。今、目の前の相手は『籠もった一撃』を放ち、自分も『籠もった一撃』を放っている。

 そこに言葉は必要ない。魂と魂のぶつかり合いなのだから、心で理解できる。 ただひたすらに打ち合い、受け、また反撃する。受けるたびに匙の本気が伝わり、殴るたびに自分の思いを伝える。「拳で語り合う」とはまさにこの事だった。

 痛かった。辛かった。だが、何よりも充実していた。この高揚はどんな娯楽すら超越して心を昂ぶらせる。

 しかし、同時にイッセーは冷静にならなければならなかった。匙の腕力は今放てる自分の全力の一撃よりも重たい。それは『籠もっている』のと同時にドゴラの触手のパワーがそうさせていた。

 イッセーのパワーは時間をかけて倍化し、溜めたものを消費するもの。しかし、匙の腕力は常時安定して放てる力だ。これは明らかにイッセーの方が不利である。しかも匙は腕に巻いた触手のほかにも触手を持ち、超高熱の球状態も温存している。持久戦になれば不利なのは自分だとイッセーは早々に理解していた。

 

(せめて触手だけでもなんかしないと……)

 

 一定で強大な力を扱う触手は匙が今使える武器の中で最も脅威である。それなんとか出来ればまだ勝機は作り出すことが出来る。ではこの触手をどうするべきか――

 

(まてよ、これってもしかして……そうだ、今なら出来るんじゃないか?)

 

 イッセーの脳裏にあるアイデアが浮かぶ。そして、即座にそれを実行することに決めた。

 

「即断即決!」

 

 イッセーはドロップキックで匙の腹を蹴り、距離を取る。当然、匙は憤った。

 

「逃げる気か!!」

 

 匙は触手を伸ばす。そして、球状態を追わせることも忘れない。先端に目でもあるかのように触手はイッセーを追うが、スピードに関しては騎士(ナイト)のスピードを持つ女王(クイーン)のイッセーの方が上手であった。

 匙は必死に触手を伸ばし、細かく動いて避けるイッセーを捕まえようとする。まるでイッセーは鬼ごっこをするかのように逃げていた。

 

「長さの限界を量ろうってか? どこまでもこの触手は伸びるんだ――なに!?」

 

 突如、触手の動きが止まる。いや、動けない。まるでイヤホンを取り出そうとして絡まった時のように――

 

「ま、まさか――」

 

「そう、まさかだ」

 

 匙は必死にイッセーを追っていた。そう、必死にだ。目覚めたばかりの触手を操る力で。

 

「そう、目覚めたばかり。匙、お前まだその触手を操るの馴れてないな? そりゃそうだ、誰だって急に使える腕が増えたら混乱する。もとある手で箸や鉛筆を使うのにも訓練がいるのに、だ」

 

 匙はイッセーの言うとおり、まだ獣具の扱いに慣れていなかった。もしも人間に手が増えたとき、すぐにその人間は増えた分の腕を元からある腕と連携させて動かせるだろうか? 否である。

 蛸は生まれてからあの姿であり、長い進化の時間で培った本能で腕の動かし方を知っている。烏賊ですら獲物を捕まえるときは使うのは二本の触腕といわれる捕縛用の腕だ。

 さらに、匙は球状態を自在に動かすことも出来ていない。これはイッセーが逃げている間に気付いたことだが、球状態は自分を追うとき、動きが直線的であることに気付いたのだ。たくさん出して包囲したのも狙いを付けやすくするため。恐らく木場達を襲ったときも正確に動かせたのは二・三個のはずだ。

 ラインですら使い方を探っている状態なのだから、そんなに急に持つ全ての武器を使いこなせるはずがないのだ。

 

「だから――だからなんだ! 絡まってるのなんて邪魔している柱を折れば――」

 

「それをやればルールを破ることになるぜ。今回は過度の破壊は禁止で、俺だって苦労してるんだ。今お前が暴れたらどれだけの崩壊を招く? 多分、天井崩落だけじゃすまないぜ」

 

 やられた。匙の顔にはそう書いてあった。完全に裏を掻かれた。

 

「こ、このぉぉぉぉぉ!!」

 

 匙は最後の手段として魔力弾と球状態をイッセーに殺到させた。しかし、狙いが甘かった。読みやすかった軌道は今のイッセーの機動力と運動性でも充分に避けることが出来た。

 

「透明だったらダメだったけどな、今は熱で光ってるからわかりやすいぜ!!」

 

 匙はもう一つミスを犯していた。破壊力を重視しすぎたのだ。まだ動きが直線的で読まれやすいなら、あえて熱を持たせずに透明なまみえない状態で球状態を使えばよかったのだ。

 

「……くそったれぇぇえぇぇぇぇえええ!!!」

 

 匙は迫るイッセーに触手で強化した拳を放つ。しかし、動揺した一撃は軌道を読まれ、紙一重で避けられた。

 

「――しまっ」

 

 強かった。今まで戦った誰よりも厄介だった。全てはまだお互いに未熟だったからだ。それが、運命を分けた。それはもしかした自分だったかもしれない。そう自戒を込めてイッセーは言った。

 

「俺の、勝ちだ」

 

 イッセーの『籠もった一撃』が、匙の腹部に突き刺さる。溜めていた力を全て使った一撃は、一発でトドメとなった。

 

「……かい、ちょう……おれ、やりま、した――」

 

 消えながら匙は幻覚を口にした。それは未来の自分の姿かもしれない。だからこそ――

 

「俺はもっと、強くなる」

 

 決意したイッセーの目は、まさに戦士の目だった。

 

『ソーナ・シトリー様の兵士(ポーン)、一名リタイア』

 

 

 

 

 

 

 イッセーは一旦近くのベンチで休息を取っていた。自販機を破壊し、その中のスポーツドリンクを呷る。

 よく冷えた液体はイッセーの喉を潤したが、喉の奥にあるしこりはとれない。何せ初めて友人と言える者を殴り倒したのだ。いかにゲームといえど、元一般人のイッセーには堪えた。

 だが、すぐに動かなければならない。こちらはすでにギャスパー、木場、ゼノヴィア、小猫の四人がリタイアし、相手はまだ匙一人しかリタイアしていない。ソーナ含めたまだ七人も残っているのだから、安息などもってのほかだ。

 

「……部長のとこにいかないと」

 

 連絡が付かないときはまず自陣に戻ってくること、これは事前にリアスに言われていたことだった。味方の様子も知りたい今、先決すべきは仲間との合流である。

 

「いえ、貴方はこれで撃破(テイク)です」

 

 不意に背後から聞こえた声に、イッセーは驚く。そこにいたのはソーナその人だったからだ。そしてもう二人、共に僧侶(ビショップ)の花戒桃と草下憐耶が護衛に付いている。

 

「三対一……確かにこれはキツいっすわ」

 

「いえ、貴方を倒す――いや、倒したのは匙です」

 

 言葉の意味がわからなかった。匙は自分が倒した。すでにリタイアした者がどうやって自分を倒すのか。そう疑問に思ったとき、イッセーの身体に異変が起きた。

 

「あ、れ――」

 

 急に力が抜け、膝が地面に付いたのだ。確かに疲労はしている。だが、先程の急速で体力は大分戻り、体調も整った。それなのに、なぜ。

 その応えは、花戒が持っていた。血液が入ったパックである。

 

「まさか、それ――」

 

「そうです。これは貴方の血液。匙が戦闘中に貴方にラインを繋ぎ、このパックにも繋げました。そして、自分が撃破(テイク)されてもこのパックに貴方の血液が送られるようにしたのです。匙の仕事はただ一つ、貴方の血を失血死寸前まで奪い、強制的にリタイアさせること」

 

 匙がリタイアした瞬間に残した言葉――『……かい、ちょう……おれ、やりま、した――』――これは勝利の幻覚を見ていった一言ではなかった。匙は己の任務を全うした上で三人も道連れにしていたのだ。

 

「兵藤一誠くん、貴方はすごい。みなが、リアスが注目するのもわかります。あの獣転人に覚醒した匙をもリタイアさせたのですから。しかし、貴方は勝負に勝って試合に負けた。匙の方が全体を見て動いていたのです。ここの戦術的勝利にこだわるのが、レーティング・ゲームではない。貴方は、匙に負けたのです」

 

 やられた。ここまで来ると逆にすがすがしい。そして改めてイッセーは匙元士郎という男の決意と意思に敬意を示していた。

 だが――

 

「へ、へへっ……すげぇよ、匙。お前、本当にすげぇわ。でも、でもなぁ……俺にだって、俺にだってまだ手はある!!」

 

 薄くなる意識をどうにか根性で建て直し、二本の脚でイッセーはしっかりと立った。まさか自爆覚悟で自分達を倒す気か、とソーナ達が構えるが、イッセーの狙いはそこではない。

 

「どうせここでリタイアなんだ。好き勝手にやらせて貰う! うおぉぉぉぉぉぉ!!! 煩悩解放! イメージマックス! 広がれっ、俺の快適夢空間!!」

 

 ――事の始まりは、タンニーンとの修行のさなかであった。あまりに過酷な修行と環境は、イッセーを追いつめ、唯一の楽しみはスケベな妄想をすることのみであった。そんなさなか、イッセーは思いつく。

 

 ――おっぱいとお話がしたい。

 

 通常の精神状態ではまず思い浮かばないことだ。だが、追い詰められたイッセーは違った。煩悩方面においてのみ魔力を行使することができるイッセーはかつて洋服崩壊(ドレス・ブレイク)を開発し、女性陣の顰蹙を買った。

 しかし、今度は直接的被害をもたらすものではない。だが、女性にとっては最低最悪の技と言える超凶悪技だったのだ。

 

「さあ、その胸の内を聞かせてちょうだいな、『乳語翻訳(パイリンガル)』ッ!!」

 

 乳語翻訳(パイリンガル)。読んで字のごとく胸の内の言葉をイッセーにしか聞こえない声で吐露させるプライバシーもへったくれもない精神的な意味で最悪のセクハラ技だ。

 

「じゃあまず会長さんのおっぱいさんのお話聞いちゃおうっかな~♪」

 

「は、はぁ!?」

 

「おっと、会長さん。違います、違いますよ。今貴女はこう思った。「これは読心術なのか」、と。……いいえ、これは――貴女のおっぱいの奥、胸の内を聞けるんです! 防御も妨害も無駄無駄無駄無駄ァ!!」

 

「「「……えええええええええええ!?」」」

 

「……青ざめたな。でははじめに花戒さんのおっぱいさん! その血液どうすんの!?」

 

「え、うそ、いやぁ!!」

 

 慌てて己の胸を腕で隠すが、全て無駄な努力である。

 

『これはね、ゲームの後でちゃんと兵藤くんに返すの! 流石にこれを捨てるって言うのも悪いし、勝手に使うのも悪いし。でもどうせなら木場きゅんと同じ戦場に立ちたかったー』

 

「なんだよ、木場目当てかよ!! アイツばっかモテやがって!! じゃあ草下さんのおっぱいさんはなに考えてんの!?」

 

「いやぁぁぁ! 止めてぇぇぇぇ!!」

 

『いや、キモい……あんなゴツい鎧着てるのにやってることは変態なんて……』

 

「なんだよそっちまで! まるでこれじゃ俺が変態みたいじゃないか!!」

 

「「「紛うことなき変態よ!!!」」」

 

「ええい、それじゃ最後に会長さんのおっぱいさん! どうせここにいるのは幻覚なんだから本物の会長がどこにいるのか教えてちょうだいな!!」

 

「え、いや、ま、ちょ」

 

『勿論ここにいるのは精神投影の幻影♪ 本物は屋上なのよ♪』

 

 意外なことにソーナの胸の奥の声は姉そっくりだった。

 

「へへっ、そうか屋上かぁ……じゃあ、あとはたの……んだ……ダイスケ……」

 

「――応ともよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 突如、吹き抜けから飛び降りてきたダイスケの登場にソーナは驚く。

 

「まさか、どうやって!?」

 

 連絡は出来ないはずだった。なのに、最高のタイミングでダイスケは現れた。物語ならご都合主義で話は付くがこれは現実。道理が合わなかった。

 

「簡単ですよ。リアスさんの指示です。なにかあれば自陣に戻ってくる手筈なのに、イッセーは帰ってきていない。そこへ木場とゼノヴィア、小猫のリタイア。それでも戻ってきていないということはイッセーが誰かと、それも因縁のある相手とこだわって戦ってる以外にないです」

 

「では、なぜすぐに兵藤くんの応援に来なかったのです!?」

 

「……男と男のサシの喧嘩に首突っ込むほど、人間出来てないんです。まだブザーも鳴っていませんでしたし」

 

 呆れた。完全にソーナの想定を超えていた。まさかリアスが効率よりも心意気を取るとは予想だにしていなかったのだ。

 

「さぁて、イッセー。安心して医務室にいきな。血は花戒(そいつ)に持たせて送る」

 

「悪い……じゃあ、な――」

 

 消えゆくイッセーがサムズアップし、ダイスケもそれに答えた。

 

『リアス・グレモリー様の兵士(ポーン)、一名リタイア』

 

「さぁて、ここは結構広いし……ちょっとは動けるな。殺さない程度に……ひねり潰す」

 

「――ッ」

 

 ソーナの幻影が消え、花戒と草下はその僧侶(ビショップ)の魔力砲撃でダイスケを攻撃する。だが、ダイスケは手にしたなにかで全てを撃ち落とす。それは鉄の短い棒――片手用のダンベルに使うシャフトだった。

 

(そうか、スポーツ用品店の!!)

 

 グレモリー側の建屋になんの店があったか思い出す花戒。そう、店内の商品を利用したのは彼女たちだけではない。だが、なぜダイスケはわざわざシャフトを使っているのだろうか。ダイスケなら鎧を身につけていないまでも籠手のみで事足りるはずだ。

 その狙いはただ一つ。

 

「あーらよっと!!」

 

 一気に跳躍して二人のそばにダイスケは立ち、シャフトで二人を殴りつける。

 

「あ゛――」

 

「う゛!」

 

 大きなダメージが二人に入るが、まだリタイアするほどのものではない。なんとか堪えようとしたが、立て続けにシャフトで殴られる。

 これでわかった。ダイスケは自分の力をセーブするためにシャフトを使っているのだ。直接殴れば余波で他に余計な破壊を生じさせかねない。だから手加減できる手近なもので少しずつダメージを加える気なのだ。

 

「イッセーを殺ったお前らは楽には逝かせねぇ。少しずつ、確実に送ってやる……!」

 

 いや、これは手加減とかではなく、なぶり殺しにするつもりなのかもしれない。なにせ動けない間に友人達を好きにやられたのだ。いかに同じ学園の生徒と逝っても憎悪の一つも人間なら湧く。

 

「させ、るかぁぁぁぁ!」

 

 草下は本来サポート向きで、攻撃は苦手だった。しかし窮鼠猫を噛む、己の拳に持てるだけの魔力を纏わせ、ダイスケに殴りかかった。だが、その腕力の差はあまりにも絶望的だった。

 

「させ、させてもらうぜ」

 

 二つのシャフトで草下の腕を押さえたダイスケは、そのまま草下の腕の上で逆立ちする。

 

「なっ――」

 

 そして手首の力だけで宙に浮き、手にしたシャフトを花戒に投げつけて倒れさせる。逆さで宙に浮いた状態のダイスケは草下の頭を掴み、身体をくの字に曲げてその反動で床に叩き付けた。

 

「――!」

 

 一瞬、草下の意識がアウトしたが、不幸にもすぐに気を取り直す。なぜならダイスケは仰向けになった草下の首の上を万力のようにじっくりと、ゆっくりと踏んだからだ。

 

「あ、が、あ――」

 

 わざわざゆっくりと力を込めるのは床を踏み抜かないため。このモールは地下に大型冷蔵施設があるため下手をすると床を踏み抜いてしまうのだ。そして、ついにダイスケは草下の首を押しつぶしにかかる。

 

『ソーナ・シトリー様の僧侶(ビショップ)、一名リタイア』

 

 運営が危険と判断したのか、草下は強制的にリタイアさせられた。次は、花戒の番である。

 

「来ないで! 来たらこの血を床に撒くわよ!!」

 

 ダイスケを脅迫する花戒。よくぞ先のダイスケのやりようを見てこういうことが出来る勇気があるものだ。

 

「この血がなくなったら大変よ? 輸血するのだって時間が――」

 

 かかると言いかけて花戒の言葉は止まった。ダイスケがその眉間に砲丸投げ用の鉄球を投擲したのだ。これもスポーツ用品店の商品である。

 すぐさまダイスケはこれも商品のスポーツ用パラコードでパックを花戒の身体に巻き付ける。これなら転送時に一緒に医務室に送られるはずだ。

 

「私を倒しても――無駄よ。ソーナ様以外の他の眷属達が全員リアス様を襲撃している頃合いだもの。結局貴方は私たちには勝て――」

 

 捨て台詞の全ては、ダイスケの鉄拳で止められた。

 

『ソーナ・シトリー様の僧侶(ビショップ)、一名リタイア』

 

 花戒が転送されたのを確認すると、ダイスケは立ち上がる。そして、モール中央南のエレベーターを見つめた。

 

「……屋上、だな」

 

 終盤(エンディング)は、近い。




 はい、というわけでVS39でした。
 獣転人は匙でした。ドレイン触手とパワー触手で相性がいいと思いましたので。高熱攻撃はドゴラの映画前半でドゴラがダイヤモンドの入った金庫を開けるのに使っています。なお、アニゴジ小説版でとんでもないことをコイツはしています。
 木場、ゼノヴィア、小猫、ほんとすまん。でも、今の君たちでウチの匙に勝つビジョンが見えんかったんや……。いつか穴埋めはするさかい。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS40 シトリー戦 ROUND03

 昨日の夜とある作品を一気読みしまして……ねみゅいの。


「よっこいせっと」

 

 モール中央南のエレベーターの内部から屋上駐車場階の入り口を強引にダイスケは開ける。すると、そこは水浸しだった。

 

「あーあ」

 

 入り口を閉め、ザバザバと水をかき分けたダイスケは屋上駐車場を歩く。

 

「……なにもここまでするこたぁないだろうに」

 

 これ以上濡れるのは嫌だったので、ダイスケはジャンプしてエレベーター最上の機械室の屋根の上に上った。

 

「花戒と草下を倒したのですね」

 

 西側からソーナの声が聞こえる。見れば彼女も同じく西側エレベーターの機械室の屋根の上に陣取っていた。

 

「まぁ以外と楽でした。力を加減する方が難しいくらいで」

 

「嘘はいけませんよ。そんなに時間はかかっていなかったでしょう」

 

「……それにしても寒いっすね。ゲームの空間っていつもこんなんなんですか?」

 

 空は夜のように暗く、星一つ見えない。冬の寒空と言ってもいいくらいだが、それにしても寒い。まるで極地だ。

 

「いいえ、これは今回だけです。作戦最終段階のための、ね」

 

「……最終段階?」

 

「そうです。貴方がここに来たのは大きな間違いでした」

 

 すると、駐車場を浸している水の水位が上がっていく。よく見ればフェンスは氷で覆われ、さながらここはプールだ。

 

「幸いにも水道コントロール設備は西側にありました。東側への供給をストップさせ、フェンスを姉譲りの氷結魔力術で凍らせてプールを作ったのです」

 

「……みたいですね。で、これで俺を自慢の水技で倒すって言う算段ですか? いくら何でも甘すぎません?」

 

「まさか。いくら私でもそんな手で貴方と戦おうとは思いません――いえ、戦う必要もない。これで倒すのは――リアスです」

 

 その言葉と同時に、東側のエレベーター入り口が開く。当然水は下に流れる。さらに上空を見れば巨大な氷の塊が浮遊していた。これが寒さの原因だったのだが、それが溶けてとてつもない量の水を落としている。

 そこまで確認したとき、ダイスケはソーナの恐ろしい戦略に気がついた。

 

「まさか、アンタ……!」

 

「ええ、今頃下に水が流れているでしょう。窓ガラスは割れないよう、ばれないように透明な氷を張って強化してあります。下の急襲部隊の本来の仕事はあえて東側一階にリアス達を釘付けにすること。そしていま、非常用シャッターを閉めさせて閉じ込め、一階を水攻めにしています。こちらの眷属が誰もリタイアしていないのは私の策が上手くいっている証拠です」

 

「て、テメェ……!」

 

 急いでリアス達を救出するためにダイスケは東側に向かおうとする。が、眼下の水中になにかがいるのが見える。蛇のようにうねり、ダイスケ目がけて泳ぐその生き物は水面から飛び出てダイスケの頭上をまたぐ。

 

 ブォォォォォォォォォオオオオオオ!!!

 

 それは、まさに東洋の龍。20mはあろうかという巨体が悠々とプールになった駐車場を泳いでいた。

 

「『深淵に潜む護蛇龍(アビス・マンダ)』、私の獣具。そして私は海龍、マンダの獣転人」

 

「なに!?」

 

 流石にこれはダイスケも想像していなかった。戦闘の様子から匙が獣転人であろうことはリアスの推測でわかっていた。だが、まさかソーナまでも獣転人であろうとは想像だにしていなかった。

 

「驚くことはありません。サーゼクス様は「各若手悪魔ないし眷属内に一人以上の獣転人がいる」と仰っていました。となれば、(キング)の私が獣転人でもおかしくありません……まぁ、驚きはしましたが」

 

 アザゼルがクモンガの獣転人であるように、純血悪魔にも獣転人はいるということだ。ますます今後誰が獣転人なのかわからなくなってくる。

 

「ともかく、貴方はここから動けない。そして、リアス達は水没する――貴方たちの負けです。ほら、アナウンスが入るみたいですよ?」

 

 屋上にあるスピーカーに電源が入る音がした。店内のスピーカーと違う製品であるため、音声が入る前に若干のノイズは入るタイプである。

 そして、無情なアナウンスが響く――

 

『ソーナ・シトリー様の女王(クイーン)一名、戦車(ルーク)一名、騎士(ナイト)一名、兵士(ポーン)一名、リタイア』

 

「なっ――」

 

 ソーナは絶句した。アナウンスされるはずの撃破(テイク)された者の所属とクラスが違うのだから。

 そして、それまでソーナの戦略に驚かされていたはずのダイスケがニヤリと笑ってこう言い放った。

 

「――かかったな」

 

 その言葉が合図であったかのように、東側のエレベーター機械室の天井が破られる。そこから現れたのは無傷の朱乃、アーシア、そして――

 

「――リアス!?」

 

 リアスは水攻めでリタイアさせられたはずだった。それがなぜか今、無傷でこの屋上にいるのかわからなかった。

 

「流石ね、ソーナ。陽動に次ぐ陽動、ブラフに隠されたまた別のブラフ。巧妙に隠された本命……戦略ならもう貴女はプロよ。脱帽だわ」

 

「では、なぜ!?」

 

「全ては偶然よ。そう、ダイスケがいなかったら完全に負けていた――」

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、この違和感。なにかが……」

 

 ダイスケがエレベーター内のはしごを登っていたとき、妙な違和感を感じていた。

 それは、音の響き(エコーロケーション)。音の響きというのは如実に物体の構造を教えてくれる。「石橋をたたいて渡る」ということわざがあるが、実際に建築物の強度や内部の状態を確かめる際にハンマーで叩いて試験することが実際にあるくらいだ。

 何よりダイスケの中のゴジラの一匹には、音の響き(エコーロケーション)を用いて遠方の他怪獣とコミニュケーションしたり敵怪獣同士の交信をモニタリングできるゴジラがいたのだ。

 その能力が、ダイスケにエレベータシャフト内の音の響きの違和感を感じさせた。くぐもった音の反響はまるで水中での音の響きを連想させたのだ。

 

「……そうか、これは!」

 

 これでダイスケはわかった。敵が、屋上に水を張っているということを、だ。

 ソーナは水を操って敵に攻撃するという情報があった。そのための有利な環境作りとも思ったがその予想はすぐに捨てた。なぜならその手を使うならただ敵が現れたときに融雪装置で水を撒けばいいだけで、なにも屋上を水に浸すことはない。

 となれば、目的は一つ。東側を封鎖しての水攻めだ。いかにモールが吹き抜け構造といえども防火シャッターはある。隙間だって氷を魔力で操れば塞ぐことが出来る。しかも記憶が正しければこのモールの水道コントロール設備は西側にある。オカルトの力とこのモールの構造を考えれば不可能な作戦ではない。

 

「やべぇ、リアスさんに伝えないと!」

 

 急いでダイスケは一階へ飛び降り、リアスに事情を話した。はじめは信じられない様子だったが、「あり得ない話ではない」と判断するに至った。

 

「でも、今屋上に待避しても待ち伏せを受ける可能性があるわ。イッセーが昇格(プロモーション)して帰ってきたときここに私がいないと混乱するはずよ」

 

 だが、そのリアスの予測は甘い物であるとアナウンスが教えた。

 

『リアス・グレモリー様の戦車(ルーク)一名、リタイア』

 

 さらに無情なアナウンスが少しの間を開けて響く。

 

『リアス・グレモリー様の騎士(ナイト)二名、リタイア』

 

「……イッセーは、やられる」

 

 敵は総掛かりか自軍の使える全ての戦力をイッセーに対して投入出来るようになったのだ。いかにイッセーが強くなったといっても多勢に無勢、さらに無駄な破壊を禁じたルールがイッセーを縛っている。希望は、無い。

 

「そんな、まさかイッセーさんを見捨てるんですか!?」

 

 アーシアが悲痛な叫びを上げる。彼女にとってイッセーは誰よりも大切な存在だ。見殺しにする、と言う選択は彼女にとって到底容認できるものではない。

 

「私、イッセーさんのところに行ってきます! 何かあったときに助けないと――」

 

「ダメだ、アーシア!!」

 

 イッセーの所へ向かおうとしたアーシアを、ダイスケがその腕をつかんで止める。

 

「離してください! イッセーさんが!!」

 

「絶対にダメだ! 優先順位を考えろ!」

 

 ダイスケの叱責で、アーシアは我に返る。そう、アーシアが最優先で治癒すべき相手はイッセーではない。主であり(キング)のリアス・グレモリーだ。

 

「確かにイッセーは絶望的な状況にある。だけど、何かあったときはここに戻ってくることになっているしアナウンスも流れていない。イッセーの所にむかう途中で敵に遭遇する可能性だってあるんだ。そんなとこに重要な回復役であるお前が行ってなにかできるか?」

 

「……いいえ、なにもできません」

 

「なら、お前は常にリアスさんのそばにいろ。向こうにいない回復役はこっちの数少ない強みだ」

 

「ですが、このままここにいてもイッセーくんと戦っている者とは別の部隊がここに来ます」

 

「……そうだけど、恐らくその部隊を潰しても逆にこちらの不利になる可能性があるわ。アナウンスで別働隊が壊滅したことを知れば、ソーナは容赦なく水攻めを実行する。味方がいないのだから、心は痛まない」

 

 リアスのいうことは正しかった。しかし、朱乃の懸念も正しい。現在リアス達が一階にいるのは水攻めの危険があるが、逆に二階や屋上に行っても待ち伏せされる可能性があるのだ。

 そしてこの別働隊は直接攻撃しなくてもいい。東側に侵入しているかもしれないという懸念だけでリアス達を一階に引き留めるプレッシャーを与えることが出来るのだ。

 どんな手に出ても封じられてしまうこの状況を作ったソーナはまさにリアス以上の戦略の鬼才。リアス達が最も不得手なテクニックタイプの極地であると言えよう。

 

 

 

 

 

 

「なら、貴女たちはどうやって!?」

 

「へっへーん」

 

 ダイスケが見た者を心底イラつかせるようなきったねぇ笑みを見せる。ダイスケがソーナをいらだたせる役割を見事にこなしたので、リアスが説明した。

 

「簡単よ。……別働隊をリタイアさせなければいいの」

 

 

 

 

 

 

 敵陣地攻撃部隊を指揮するソーナの女王(クイーン)にして副生徒会長の森羅椿姫は、己の主の手腕に感服していた。

 匙一人を防壁にして敵の侵入を防ぎ、上から水攻めの準備をし、自分達が敵の足止めをする。三段構えの隙を生じさせない戦略はまさに完璧。ただ匙一人で敵に侵入を防ぐことが出来るのかという不安はあったが、見事に彼は敵有力オフェンスの三人を撃破し、今頃はイッセーをしっかり押さえ込んでいるはずだ。

 いや、抑えきれずともラインを使って血液の抜く作戦は成功している。どう足掻いてもイッセーはリタイアだ。ダイスケという懸念はあるが、彼はまだ敵陣地に侵入できない。むしろもう自分達はすでに敵陣に侵入しており、二階にいる兵士(ポーン)の仁村留流子もすでに女王になっている頃合い。側には剣術使いの騎士(ナイト)、巡巴柄がいてくれている。ようは近づきさえしなければ抑えようはいくらでもあるのだ。

 さらにいえば自分達が全滅しても、その時はソーナが水攻めを実行するだけでいい。屋上に溜めた水の量は一見少ないが、その実は上空に大きな氷の塊を浮かせてキープしている。これを魔力で一気に溶かせばモール内を水浸しに出来る。

 

(会長、これが貴女の夢への一歩です)

 

 ソーナの眷属達はみなソーナを信頼し、敬愛している。匙という別の感情を向けている眷属もいるが、それはそれで主を大切に思っている証拠であり、またソーナはその想いに答えてくれる。

 純血悪魔の貴族に珍しく、ソーナは己の眷属を大切にしていた。リアスの情愛とは違う、もう一つの信頼関係が彼女たちにはあった。

 その主の夢が、嗤われたのだ。到底許せることではない。だからこそ、この戦いで自分達の力量を見せつけ、自力で夢をつかまなければならない。

 それもどうせなら二番ではなく、一番を目指す。そうするしか悪魔の世界では夢を叶えることは出来ないのだから。そのためには、リアス達には悪いが負けて貰うしかない。グレモリー眷属がかつてライザー相手に惜敗し、それ以来勝利というものを目指してきたのは知っている。

 だが、だからといって勝ちを譲る訳にはいかない。全力で相手し、勝つ。それしか道はないのだ。そう考えてると、前方で物音が聞こえた。同行する戦車(ルーク)の由良翼紗に停止するように指示した。

 

「迎撃が出たのでしょうか」

 

「かもしれない。だけど、私たちがやることは一つよ」

 

 敵を押さえ込むにのには自信があった。まず、椿姫の武器は薙刀だがその真の得物は神器、追憶の鏡(ミラー・アリス)。これは鏡が受けた攻撃の威力を割れたときにそのまま返すというカウンター技の神器だ。

 もう一つが堕天使の新技術『反転(リバース)』。これは聖を魔に、炎熱を凍気に、回復を破壊に――つまりそのものの特性を逆転させる技術だ。物理攻撃はどうにも出来ないが、相手が主に使うのは魔力攻撃であまり心配はいらないはずだ。

 

(さぁ、来るなら来なさい!)

 

 鏡を前面に押し立てる椿姫。由良も反転(リバース)の準備をし、ゆっくりと前に出る。その瞬間、なにかが空を切ってこちらに飛来してきた。それを確認する間もなく、それは由良の肩に当たった。

 

「うぐっ!」

 

「由良!?」

 

 倒れかける由良の脚に、またなにかが飛来して直撃する。鈍い音がしたため、これで脚が折れたことがわかった。

 

「ぁ、ああ!!」

 

 由良が転倒し、行動不能になる。しかし、本格的にノックアウトさせられたわけではないため、幸いリタイアにはなっていない。

 

「しっかりしなさい!」

 

 思わず椿姫は由良に駆け寄ろうとする。そのわずかな隙に、襲撃者が姿を現す。

 

(た、宝田大助!?)

 

 最も警戒すべき相手が目の前に現れ、椿姫の判断が一瞬鈍る。それをダイスケは見逃さなかった。

 手にしたのはパラコード。だが、そのひもの中央になにかものを受ける部分がある。そしてそこには鉄球が仕込まれていた。

 

「と、投石器!?」

 

 そう、由良を行動不能にしたのはダイスケのこの古典的な投石器だ。投石器は弓よりも安く、それでいて訓練はほぼ無しで使える安価で優秀な射撃武器だ。何せ人間は動物の中で最も物を投げるのが上手い。他の手を持つゴリラやチンパンジーは握力こそ人間以上だが物を投げるのは不得手だ。

 その原始的な武器をダイスケはスポーツ用品店の商品で作り上げてしまった。しかもそれは実践的で、事実由良は行動不能になった。

 恐らく不要な破壊を避けるために作ったのだろうが、リタイアさせるほどの威力が無いのは幸いだった。このまま追憶の鏡(ミラー・アリス)の能力を見せて牽制すればいい、そう椿姫は思っていたが現実は非情だった。

 

「イッチバーン!!」

 

 なぜか往年のプロレスラー、ハルク・ホ○ガン氏のマネをしながら投擲するダイスケ。○ーガンと砲丸(ホウガン)投げと掛けたのだろうが意味はない。なぜなら軌道上には追憶の鏡(ミラー・アリス)がある。その力を知ればいやでも行動不能になるはずだ。

 放たれた鉄球は見事に鏡を直撃、その衝撃が走ってくるダイスケを襲う。

 

(やった!)

 

 椿姫は心の中で勝利を確信した。だが、その予想に反してダイスケは止まらない。間違いなく衝撃は直撃している。なのに、なぜ――

 

(そうだった……彼は獣転人……)

 

 獣転人のタフネスは匙で知っていたはずだった。彼はシトリー眷属内でダントツのタフネスを身につけている。同じく獣転人のソーナも匙に一歩劣りながら高いタフネスを身につけた。

 相手は自分達と違う。自分達には重傷でも、獣転人にその攻撃通じるという訳ではない。ましてダイスケは最強の怪獣、ゴジラの獣転人だ。常識など通じるはずもなかった。

 新たな鏡を展開するのも忘れ、椿姫は呆然としていた。その間にダイスケは椿姫に肉薄して技を放った。

 

「イッチバーン!!」

 

 ダイスケは椿姫に向かって走っていき、自らの片腕を直角に曲げて、その内側部分を椿姫の喉元めがけてぶつけた。まさにハル○・ホーガンの伝説的必殺技『アックス・ボンバー』だ。

 

「なぜにハルク――ガハァ!?」

 

 ささやかな疑問すら許されず、椿姫は床に叩き付けられる。それを見たダイスケは加工していないパラコードを取り出して椿姫の両手足を縛る。

 

「な、なにを――フグゥ!?」

 

「あーい、ちょっと黙っててー」

 

 ご丁寧に猿轡までして椿姫を黙らせる。動けない由良は手近にあった商品陳列棚の金属支柱を分解し、脚に添え木して拘束した。

 

「うし、終了。連れてくか」

 

 そうやって二人はダイスケに引きずられ、リアスの待つ本陣に連れて行かれる。そこには同じく囚われの身となった仁村と巡がいた。

 

「リアスさん、攻撃隊はこれで全員ですね。イッセーと戦っている匙以外は見当たらなかったんで、会長の側にいるはずです。姫島先輩、お願いします」

 

「はいはーい」

 

 そうにこやかに返した朱乃は、二人の背中に魔方陣を描いた紙ナプキンを差し込む。この魔方陣の術式は犯罪者捕縛に用いられる大規模魔力封印術式である。

 

「念話くらいなら出来ますから、安心してくださいな」

 

 そしてアーシアが患部に聖女の微笑み(トワイライト・ヒーリング)で癒やしを与える。

 

「本格的な治療はこちらの都合で出来なくて……本当にごめんなさい!」

 

 敵に謝るアーシアを見て、この娘だけは本当にいい娘なのだと理解した。

 

「アーシア、よくやったわ。……悪いけど貴女たちはすぐにリタイアさせることは出来ないの。――苦しいと思うけど、ごめんなさい。じゃあダイスケ、私たちはエレベーターの機械室で待ってるわ。イッセーのこと、助けられたらよろしくね」

 

「了解です。じゃ、おたくらはずいぶんと苦しい思いすると思うけど……まぁ、そこはお互い様で」

 

 そう言い残すとリアスとひたすら謝るアーシア、そして朱乃はエレベーター内のはしごで上に登っていき、ダイスケは西側に進撃していく。

 

(あ、貴女たち、いったいなにが!?)

 

 東側には念話妨害術が施されていないので、猿轡したままでも念話できた。

 

(そ、それがリタイアさせられることなくここまで連れてこられて――)

 

(酷いんですよ! 投石器でバンバン鉄球当ててきて、死なないようにいたぶったんですよ、あの男!!)

 

 どうやら同じ目に遭わされたらしい。だが、なぜこのようにリタイアさせずに拘束しているのだろうか。たしかにパラコードの緊縛は強力で悪魔の力でも引きちぎれそうにない。

 

『ソーナ・シトリー様の兵士(ポーン)、一名リタイア』

 

 答えが出る前に聞こえたアナウンスに、彼女たちはショックを受ける。

 

(そんな、元ちゃん!?)

 

(多分、やったのは兵藤……)

 

 恐らく、匙は一歩届かなかったのだ。だが、匙が己の仕事を投げ出すはずがない。きっと目的を達成しているはず。そう願っていると、別のアナウンスが聞こえてきた。

 

『リアス・グレモリー様の兵士(ポーン)、一名リタイア』

 

 心の中で四人はガッツポーズを取る。匙は仕事を完遂した。それも格上の赤龍帝相手にだ。後で彼を存分に褒めよう。自分達はこんな結末だったが、彼はよくやった。負けたとしても――まぁ勝つが、彼は自分達シトリー眷属の誇りだ。

 そう心の中で匙の功績をたたえていたが、間もなく悲劇が訪れる。ガラガラガラと自分達がいるエリアの防火シャッターが閉められているのだ。

 

((((え゛))))

 

 そして見える赤い灯。それは反対側でダイスケがシャッターの隙間という隙間を熱線剣で溶接している証である。

 

((((え゛))))

 

 ややあって二つのアナウンスが聞こえてきた。

 

『ソーナ・シトリー様の僧侶(ビショップ)、一名リタイア』

 

『ソーナ・シトリー様の僧侶(ビショップ)、一名リタイア』

 

 つまり、花戒と草下がリタイアさせられたのだ。やったのは間違いなくダイスケだろう。

 

(……あの、副生徒会長)

 

(……なに?)

 

(確か手順ではシャッターを下ろした後に水攻めでしたよね)

 

(……ええ)

 

(シャッター閉められましたよね)

 

(……ええ)

 

(私たちリタイアしていないから会長、作戦成功だと思って水攻めの準備してるんじゃないですか?)

 

(……)

 

 椿姫の額に尋常じゃない滝のような汗が流れる。

 これまでのリアス達の行動が、これら状況証拠によって一つの結論を導く。それは――自分達が欺瞞の出汁にされた上、水攻めをされるという未来。

 リアスたちは水が浸かない安全なエレベーターの機械室に隠れ、ダイスケはソーナのいる屋上に上がるはず。つまり、自分達が水攻めされるのだ。

 

(((――ヤバくないですか!?)))

 

(……!!!)

 

 ソーナに連絡を取ろうにも、西側はジャミングされていて念話は通じない。援軍だって自分達は屋上にいるソーナを除いて人員は無し。

 そう、完全にお手上げ状態だ。

 

(ど、どうします?)

 

 仁村が椿姫に尋ねる。その答えは、あまりに現実離れしていた。

 

(あーあ、どうせなら木場くんに斬られたかったなー)

 

(((……)))

 

 聞こえてくる濁流の音。運命は、決した。

 

((((許さんぞ、宝田大助ェェェェェェェェェ!!!!!!))))

 

 ダイスケの名誉のために言っておくが、この作戦の立案と構成要素の四割はリアスが担当していることを伝えよう。




 はい、というわけでVS40でした。
 実はソーナも獣転人でした。堕天使にもいるように悪魔にもいるのです。さぁ、これで予想の絞り込みはほぼ不可能だぜ、イッヒッヒッヒッヒ!! でもこれまで重要人物がなってたから逆にすぐにばれるようになっちゃったかも。ぴえん。
 ダイスケが一見残虐ファイトをしているように見えますが、これはあくまでも死者が出ないレーティング・ゲームであることが前提でやってます。流石に実践でここまでのあくどいことはしませんしほとんどリアスの作戦です。ダイスケ担当の六割はほとんど欺瞞工作の実行です。それでも大分エグいけど。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS41 シトリー戦 FINAL ROUND ~黒い胎動~

 シトリー戦ファイナルです。


「――と、まぁ。そういうわけで」

 

 全説明を聞いたソーナは普段見せないような抜けた表情になっていた。それもそうだ、ダイスケというたった一人のイレギュラーのおかげで完全に計算が狂ったのだから。

 

「でもそっちだってアレですよ? ルールは何もかもそっちに有利だったし、そっちはこっちのほとんどの情報を知ってた訳だし。俺たち、会長が獣転人だって知らなかったんですから」

 

「……匙も獣転人ですよ」

 

「まじっすか!? 後で見せて貰おうっと」

 

 脳天気にわくわくしているダイスケを尻目に、ソーナは燃え尽きていた。

 練りに練った個々への対策。眷属の特性に合わせた戦術構成。そしてわずか十分で組み立てた今回の作戦。裏の裏を読み、幾重にも重ねた罠。大胆に見えて堅実、そして芸術的な指揮。

 ほとんど状況が見えないモールという遮蔽物の中、ソーナはまさに天上からの視点で見事に眷属を動かしていた。まさに女悪魔のハンニバル・バルカ。

 だが、ダイスケというたった一つの異物によって、全てが切り崩されたこの屈辱はもはや屈辱を通り貸して爽快だった。いや、おそらくイッセーも同じ気分だったのだろう。ある意味これは意趣返しだ。

 匙は負けない。力のみを見ているイッセーは真の強者でない。愚者はただ策に脚をすくわれるのみ。ソーナがイッセーに放った言葉にはそんな明確な呪詛めいたものがあったのは事実。人を呪わば穴二つ。まさに今の自分のことだった。

 まぁ、力を見せることは出来た。今回は不幸にも勝てなかったが、長い悪魔の人生にはまだまだリベンジのチャンスはある。若手悪魔の試合もまだこれが一試合目。この反省を次にしっかり生かし、今回頑張った眷属達をしっかり褒めてあげよう。何せ今回一番頑張った匙には普段厳しく接しているのだ。今日くらいは優しく接してあげよう。

 

「私の負けです。投了(リザイン)しま――」

 

「じゃ、怪獣対決ときますか! いっときますけど、負ける気は無いですからね、会長!」

 

 え、とソーナは呆気にとられる。なぜダイスケはまだ戦う気なのか。自分をいたぶってイッセーを嵌めた意趣返しをしようというのか。

 

「なぁにボーッとしてるんですか会長。まだ試合は一点差の九回裏、満塁ツーアウトスリーボールですよ」

 

 やる気のダイスケ越しに、ソーナはリアスを見る。

 

「ソーナ、まだ勝負は決まっていない。駒は貴女一人でも、策と動かしようなら駒一つで多勢に勝ってみせる――貴女の得意分野で、貴女らしさでしょう」

 

 そうだ。まだ勝負は終わっていない。ダイスケを倒せばまだ目はある。朱乃の雷は水で散らせるし、アーシアには戦闘力は無い。そして、リアスの手の内は幼い頃から知り尽くしている。

 

(そうでした。まだ、私は――!)

 

 夢を叶える、と言うことで頭がいっぱいで目が曇っていた。これが最後だと勝手に自分を、みんなを追い込んだ。だから、逆転されて諦めてしまったのだ。まだ自分という最も知り尽くした駒があるというのに。

 確かにリアスの所まで行くには壁が分厚い。だが、その壁を越えさえすれば自分の牙を彼女らの喉笛に届けることが出来るはずだ。

 ここで諦めたら、本当の意味で夢が手が届かないところに逝くところだった。最後の手が残されているというのに諦めるようではそれこそ本当に上役達に嗤われる。

 これぞ、リアス達の「根性」なのだろう。自分はイッセーのそれを見て戦慄した。だから徹底的に対策を練った。その本質に気づけないで。

 

「さぁ、マンダ。貴方の居場所はそこだけじゃない。もっと自由にさせてあげます!!」

 

 上空の氷塊が一気に溶ける。大量の水が降り注ぎ、プールを溢れさせるように思えた。しかし水は重力に逆らって立ち上がり、広大で深さのあるマンダのバトルフィールドと化した。

 

「さぁ、いきますよ! 我が魂、マンダの悠然にして獰猛たる姿! 貴方たちにとくとお目に掛けましょう!!」

 

「上等だぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ダイスケが鎧を纏って水のバトルフィールドに突っ込み、マンダが正面から迫る。一見すればマンダの方が圧倒的に遊泳力が勝るように見るが、ダイスケの水中潜航能力は目を見張る物があった。

 魚雷のように水中を進むダイスケは魚以上に自由に泳いでいる。うねる巨体から繰り出される爪の攻撃を巧みにかわし、ダイスケは一旦距離を取る。そして熱線剣を数本生み出してマンダ目がけて放つ。

 剣は水中でありながら音速以上の速さで突き進む。これは熱で沸騰した剣の周囲に気泡が生まれ、その中を水の抵抗無しに突き進むのだ。いわゆるスーパー・キャビテーションとほぼ同じ理屈で音速を出している。

 ただ、剣に自動追尾魚雷のように敵を追尾する機能は無い。まっすぐに進んでいってそのままいずこかへ消えていく。

 何せ旧世界の一つではマンダは海中最大の脅威と呼ばれ、異星人の技術をもって完成した当時の最新鋭超高性能潜水艦でも相討ち覚悟の攻撃でようやく倒せた存在だ。

 

(潜る敵には……)

 

 投げる予定だった熱線剣をすぐさまダイスケは豪炎鎚に変える。

 

(爆雷攻撃だぁぁぁぁ!!!)

 

 ダイスケは立て続けにいくつもの豪炎鎚を投げつけた。水面上まで飛び出ていった鎚は弧を描いてマンダの周囲に落ちる。それはさながら第二次大戦の対潜水戦。

 

(マンダ、避けなさい!!)

 

 独立具現型が許容以上のダメージで自動解除されることを知っているソーナはマンダに回避を命じる。

 その命令に従ってマンダは自分の周囲に落ちてくる爆発機能付きの鎚を避ける。しかし、予測できないはずのマンダの動きをダイスケは先読みして豪炎鎚を投げつけてくる。

 

(おかしい。勘がいいとはいっても、ここまでの精度は出ないはず。なら、なにかで進行方向を探知している? ……探知?)

 

 水中で探知といえば音響測定だ。自ら音を発し、大気中の三倍伝わりやすい水中音の反響で周囲に何があるのか感知する。鯨やイルカの超音波によるエコーロケーションが有名だろう。

 そう、エコーロケーションだ。先のリアスの作戦説明時、自らダイスケは己が音響定位によって屋上の様子を探知したと言っていた。なら当然、水中でも同じことが出来ると言える。

 爆発音で水中の音がかき乱されるので本来なら時間を空けて攻撃をするものだが、実はマンダも超音波の音響定位で周囲測定をしている。それを探知してダイスケはマンダの進行方向を予測しているのではないか、とソーナは推理した。

 ならば対抗策はある。

 

(マンダ、宝田君に向けて全速前進! 突っ込みなさい!!)

 

 その命令通りにマンダは長体をくねらせ、進行方向をダイスケに向けて全速で突き進む。

 

(……俺が近くにいたら爆雷攻撃が出来ないって判断したのか? ならっ!!)

 

 ダイスケは爆雷攻撃の手を止め、投げる予定だった豪炎鎚を両手で構える。その姿ははさながら伏龍のごとし。そしてそのまま向かってくるマンダに対して相対して突っ込んでいく。

 

(直接ぶちかます!!)

 

 互いの距離が一気に近づく。マンダが何をしようとしているのか見当が付かないが、ダイスケはこのまま鎚を直撃させればいい。そう思ったその瞬間、とてつもない衝撃がダイスケを襲う。

 

(!?)

 

 その威力たるや手にした豪炎鎚が一気にバラバラになり、身につけた鎧の正面部分にひびが入るほど。そして何より、ダイスケの鼓膜が破れた。つまり、探知が出来ない。

 マンダが放ったのは『超音波砲』とも呼べる応用技。探知に用いる超音波に指向性を持たせた上で振動数とボリュームを極限まで上げる。するとそれは旧世界の一つにおいてドーバー海峡の悪夢と呼べるほどの大惨事を引き起こす破壊兵器になる。

 音という物は物体の全身を震わせる。固有振動数さえあってしまえば容易に物体を破壊することが出来るのだ。これが放たれれば強固な装甲の軍艦でも一撃で粉砕される。それがダイスケを直撃した。

 

(ゴハッ……!)

 

 水中に漏れるダイスケの血液。意識を失いけけるがなんとか持ち直す。しかし、その血の匂いを獰猛な海の殺戮者が見逃すはずがない。

 匂いがする方へ本能的に向かい、動けないダイスケを見つけたマンダはダイスケをその長い身体で締め上げる。

 

(あ、がっ……!?)

 

 その力は絶大である。現在最も大きい蛇のアナコンダで締め付ける力は500kgから1t。絶滅した蛇の最大種のティタノボアはとある試算によれば中身が入ったタンクローリーすら圧壊させられるという。怪獣でありティタノボア以上の体躯のマンダならそれを優に超越する。

 マンダの全身の筋肉がダイスケを締め上げる。まさに大蛇に捕らわれた哀れな獲物。肺から空気が漏れ、代わりに直接水が入る。いかに水中適性があるといってもこれでは生物に必要な酸素変換も出来ない。意識が徐々に遠のく。

 

(やべ……これ……)

 

 マンダは強い。恐らく、朱乃やリアスでもこの水中の巨龍には手を焼くだろう。それどころか圧倒される危険がある。ダイスケがマンダを倒さなければならないのだ。

 だが、もはやそれも不可能に近い。超音波砲だけでも大きなダメージであったのにこの締め付けから脱せそうにない。

 

(みんな、ごめん……俺……)

 

 諦めかけたその時、誰かの声が聞こえる。

 

――明け渡せ

 

――明け渡せ

 

――私ならば上手く殺る

 

――お前に出来ないことをやってやる

 

――お前の代わりに

 

――破壊し尽くしてくれる!!!

 

 知らない誰かの声。自分が無理なら代わりにやってくれる。これほど甘美な言葉はない。

 いっそ代わりにやって貰おうか――そう思った瞬間、脳裏にある光景が思い浮かぶ。――自分に縋るリリアの姿だ。それにとどまらずミコトの笑顔も、ヒメの自分に向ける期待の眼差しも浮かんできた。

 ダイスケはハッとなった。

 そうだ、ここで情けなく終わる訳にはいかない。自分は自分の守りたいものを守り通すと決めた。守るとは戦って勝つだけのことではない。信じる者の期待に応えることも守ることなのだ。そしてそれは、自分自身でしか叶えられない。

 ならばここで決して諦める訳にはいかない。イッセーだってそうだった。木場だってそうだった。ゼノヴィアも、小猫も、ギャスパーも……そして、イッセーと戦った匙も。

 

(あいつらに……負けられるかぁ……!)

 

 もはや全身の骨は砕け散っていた。しかし、ダイスケの思いに呼応して驚異的な治癒能力が覚醒する。それはまさに窮地に陥ったときに奇跡を起こすゴジラのG細胞の働きそのもの。

 

(みんなの期待に応えるんだぁ……!)

 

 燃える闘志と共に全身の筋肉に絶大な力が宿る。人間の身体から湧く力ではない。これはもはや人の形をした怪獣……いや、獣転人とは元来そうなのだ。

 ダイスケはまさに魂から大いなる力を引き出し、己のモノにしている。その力はついにマンダの力に拮抗し、徐々に押しはじめた。

 

(こんなところでぇ……)

 

 マンダも必死にソーナの意思に応えようとするが、とうとうダイスケの意思と剛力に敗北する。

 

「……負けるかぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ダイスケが締め付けるマンダを振りほどいた。その威力たるや周囲の水が弾かれてモーゼの十戒のワンシーンのようになっている。

 だが、そんな奇跡めいた現象では終わらない。ダイスケは振りほどいたマンダの頭部を掴み、自ら独楽のように回転する。スケールが段違いのジャイアントスイングだ。

 

「飛べぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 ダイスケはマンダを放り投げる。その方向はソーナのいる位置。両者とダイスケが一直線になったとき、ダイスケの鎧の背びれが青白く発光する。

 体内で生み出された青く光る破壊のエネルギーが胸を越え、喉を越え、そして口腔内に溜まる。最高で最適のタイミングでダイスケは兜のマスクに付いたクラッシャーを解き放った。

 青い暴力の奔流がソーナとマンダを包んだのは一瞬だった。ダイスケの様子はマンダに隠れてソーナには見えなかった。だからこそ、防御も退避も出来なかった。いや、出来たとしてもダイスケは大規模な破壊を覚悟で熱線を縦に横に薙いだだろう。

 奇跡的に熱線の射線上にモールの構造物はなかった。奇跡的にというか器用と言うか、熱線はソーナとマンダだけを薙ぎ払ったのだった。

 そして、結末を伝えるグレイフィアのアナウンスがスピーカーから流れる。

 

(キング)、ソーナ・シトリー様の撃破(テイク)を確認……リアス・グレモリー様の勝利です』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ダメだった

 

――出られなかった

 

――だが、機会はこれだけではない

 

――その時が来れば、次こそは――

 

 

 

 

 

 

 

 

「これが赤龍帝……これが怪獣王……」

 

 VIPルーム内でミコトと彼女が特別に連れてきたリリアが喜ぶ中、誰かがそう呟いたのをアザゼルは聞き逃がさなかった。

 イッセーに関してはその技の妙ちきりんさ故だろう。それもそうだ、古今東西己のかすかな才能をあのような形で開花させる赤龍帝など一人もいない。……いてたまるかともアザゼルは思っているが。

 なにより恐ろしいのはそのイレギュラー性。はじめからこんな異常な成長をしていたらこの後一体どのようなバケモノに変わるのか。人間からすれば充分バケモノの悪魔や神々がそう思うのだから尚更だ。

 それにしても、とアザゼルはイッセーの将来が不安になってくる。確かに乳語翻訳(パイリンガル)は驚異だ。女性限定なら洋服崩壊(ドレス・ブレイク)と併用したら無双できるだろう。しかしこれでは女性眷属がいるところからは試合そのものを避けられかねない。モテたいという言葉は嘘なのかと疑ってしまいたくなるほどだ。恐らくこの二つのエロ技は封印せざるおえないだろう。

 そしてダイスケ。まだ使いこなせるゴジラの能力はほんの一握りで、『システム』の記録からするに目覚めていない力がいくつもあるはずだ。それでこの力、この威力。誰もが畏怖しただろう。

 何よりも彼らはその力が自分達に向けられたら、と無駄な杞憂を抱いたはずだ。ダイスケに限って己の力をただ気に食わないだけの相手に振るうような理不尽な真似はすまい。もとよりダイスケは冥界に恩があるし、余計な争いをする気も野心もないだろう。

 ただ、冥界の旧体制側はそんなダイスケの心情も知らぬまま驚異と認定するだろう。厳密に言えばダイスケがいるのは新体制側。ゴジラ=ダイスケを抱き込んだ新体制に対する無駄な警戒をするのは確かだ。まぁその時はサーゼクスが動く。アザゼルは特に心配はしていなかった。

 問題はシトリー眷属の方だ。彼女たちが用いた反転(リバース)は堕天使が開発したもので、身体に装備して使用するような武器としての運用を想定していないものだ。そしてアザゼルは反転(リバース)の運用を決定した記憶がない。神の子を見張る者(グリゴリ)の誰かが貸与した可能性があるため注意する必要があるようだ。このような技術が確立していない中で無茶な使い方をすればいずれ死者を出してしまう。

 

「ふぉっほっほっほ、いやはや面白い試合であった」

 

 聖書三大勢力に当たりが強いオーディンが珍しく素直に褒めている。これにはアザゼルも驚いた。

 

「のう、サーゼクスや。あのドラゴンの神器の持ち主じゃがな」

 

「赤龍帝の兵藤一誠君ですか?」

 

「いや、ほれあのヴリトラの、それと獣転人のじゃ」

 

「ああ、匙元士郎君ですね」

 

「……匙、か。なかなかどうして、試合前は注目されていなかった者があのような大一番で輝くとはな。まさにこれぞ戦場(いくさば)の光景よ。強兵が弱兵の機転で斃れる、まさに数多の戦場で見た一場面。サーゼクスや、あの若造を大切にせい。ああいうのは今以上に化けるぞ?」

 

「さっすがオーディンのお爺ちゃん! わかってるぅ♪ それはそうよ、だってあのソーナちゃんが見出した子なんだから!!」

 

 先程まで泣きそうだったセラフォルーが満面の笑みで応える。よほど嬉しかったのだろう。

 

「ふぉっほっほっほ。さて、面白いもんも見られたし、ちょっと寄るとこ寄ってからアザゼルのとこのキャバでも繰りだそうかのー。どうせサーゼクスも行くんじゃろ。一緒に行くぞ」

 

「はい。同行させていただきます」

 

「……ああ、手配しとくよ」

 

「うむ。それとじゃな」

 

 サーゼクスとともに辞そうとしたオーディンは、アザゼルの前で立ち止まった。

 

「なんだ? 綺麗どころの心配ならしなくてもいいぜ?」

 

「いや、そうではない。あのゴジラの獣転人、気をつけた方がよい」

 

「――なにか感じたのか?」

 

「……うむ。他の獣転人には感じなかったが、あの者には何かある。そう……なにか機会を覗っているような漆黒の意思が。強硬手段に出ろとは言わんが、警戒はしておけよ……さーて、ロセにヒルド。儂に付き合えぃ。今日は機嫌がいいんじゃ、とことん姉ちゃんイジってとことん飲むぞー」

 

「……私たちが一緒に楽しめるわけないでしょう、オーディン様」

 

「ロセ、いっそ堕天使の老人介護施設にぶち込まさせて貰うか? たしか、人間界の映画でそういう展開があったぞ」

 

「お前、ほんとキッツイのー。あれはたしかロキのやったことになっとたじゃろ。そのあと儂死ぬし」

 

 そんな言い合いをしながらオーディンは去って行く。アザゼルはそのオーディンが去り際に言った不気味な予言を信じられずにいた。

 だが、これが非常に近い未来で現実の物となるということは流石のアザゼルも、言った張本人のオーディンですら予測できなかった。

 

 

 

 

 

 

 リタイア後、イッセーはすぐに花戒と共に送られた血液を再輸血されて回復した。今は車椅子に乗り、自販機で買ったスポ-ツドリンクを手土産に匙の見舞いに来ていた。大きい室内には今回のゲーム出場者が一堂に集められ、同時に治療とカウンセリングを受けていた。

 ドリンクを手渡したあと、会話は出来ていない。匙の隣で安静にしているソーナ達に遠慮しているというのもあるが、さっきまでお互いに魂を賭けた戦いをしていたのだから急にいつもの関係に戻ると言うことが出来なかった。

 ゲームそのものはリアスの勝ちだ。だが、彼女はその評価を下げた。戦力的に有利とされながら自戦力の半数を失い、しかも赤龍帝まで相手の策で失った。さらに起死回生の切っ掛けと決定打は本来部外者のダイスケだったということも響いた。もしこれが実戦なら冥界に大きな打撃になるとしてリアスの評価が見直されることになったのだ。

 対してソーナは自身含め二人の獣転人の力を制限の中でよく運用したとして高い評価を得た。作戦は失敗だったが、個々の戦術の完成度が認められる結果となった。お互いにゲームの結果と評価が反転する結果となったのが今回のレーティング・ゲームとなったということだ。

 そんな事情があれば楽しく歓談などという空気にはなれない。どうしても重たい空気になってしまう。

 そんな中、ダイスケが口を開く。

 

「……まぁ、さ。今回はお互いに学ぶことがあったてことでいいんじゃね? 本来部外者の俺が言うのもなんだけど、お互い初の公式戦ギリギリでやってたんだから微妙な結果になるのも無理ないって。まぁ副会長さんたちはそういうことも言ってられない酷い結果になった訳だけど」

 

 森羅以下三名にキッとダイスケは睨まれるが特に気にしない。

 

「今日はこの後みんなで慰労会でしょ? 反省は後にとっておいて今は出てくるごちそうを楽しみにしようぜ。何せリリアも頑張るって言ってたし。美味いんだぜ、リリアの手料理」

 

 ダイスケの言うとおりだった。肉体の疲労が抜けきらない今、反省してもネガティブな考えしか浮かんでこない。ならば今すべきことは下手な反省や後悔ではなく、一つの戦いが終わったことに対する安心と安堵。常に緊張状態でいることなど、悪魔にだって健康に悪いのだから。

 

「あ、そうだ匙。会長さんの胸の声聞いちゃってごめ――」

 

 「ん」の言葉と同時にイッセーの顔面に枕が叩き付けらる。投げたのは勿論匙だ。

 

「そうだよテメェ!! よくも会長にセクハラしてくれたな! 俺だって聞けるモンなら聞いてみたい!! 詳しく教え――」

 

 「ろ」の言葉と同時に匙の頭上に氷の塊が落ちてくる。落としたのは勿論ソーナだ。

 

「……サ・ジ?」

 

「すいません、失言でした……」

 

 急激に萎む匙の姿がツボに入ったのか、リアスがぷっ、っと笑う。それが徐々にベッドで横になる面々や生き残り組にも伝染し、一気に場の緊張が緩んだ。

 

「リアス、今回は作戦を破られましたが次回は必ず私の策で貴女を完封して見せます」

 

「望む所よ。私だって次は自分の力だけで貴女の巡らす策を看破してみせるわ」

 

 お互いに次の決意表明を告げ合う。その表情はすでいつもの関係で見せるものに戻っていた。そこへ闖入者が入ってくる。

 

「ふぉっほっほっほ、悪魔どもは気に入らんが、若者同士の交わりは見ていて気持ちがいいわい。こればかりは種族と神話と越えて価値あるものと呼べる。そう思わんか、サーゼクス」

 

「全くです、オーディン様」

 

 突然のことに部屋にいた面々が鳩が豆鉄砲をくらったようになった。現魔王がわざわざこの部屋に足を運んだというのも驚いたが、まさか北欧神話の主神、アスガルドの長にして魔術と知識と戦の神であるオーディンその人現れた。

 当然事情を知っている者はカウンセリングの最中なのに立とうとしたり、重傷でベッドに寝ている者も無礼なのではないかと起き上がろうとする始末。あわわあわわと慌てふためく面々にオーディンは言う。

 

「いやいや、そのままで結構じゃよ。無理せんでいい。のう、サーゼクス」

 

「みんなは先程まで壮絶な戦いをしていた。今はその疲れと傷を癒やすときだ。私たちのせいで怪我が酷くなったら私たちの方が困ってしまう」

 

 その言葉ようやく一同は落ち着きを取り直し、二柱に注目する形になる。

 

「そこの車椅子のが赤龍帝じゃったな。精進せいよ、若人よ。効率を求めるよりも、我武者羅になることが若者の成長には肝要じゃ。さすれば自ずと道は開ける」

 

「はぁ、どうも……」

 

 目の前の隻眼の老人が何者なのか詳しく知らないイッセーにはそう答えるしかなかった。ただ、偉いであろうヒトに激励されたのだということで納得する。

 

「まぁ、北のジジイがなにか言っておった程度に覚えてくれればええわい。それで……この者だな、サーゼクス」

 

「はい。匙元士郎君、君に私からプレゼントがあるんだ」

 

 そういってサーゼクスは懐から煌びやかな装飾が施された小箱を取り出す。そして開かれた小箱の中には一つのアクセサリー、いや、勲章が入っていた。

 

「これはゲーム内で特に印象的、そして優れた戦いを見せた者に贈られる勲章だ。ゲームのトップランカーですら滅多に下賜されないものだが……」

 

 サーゼクスは言いながら勲章を取りだし、呆ける匙の胸に勲章を飾り付ける。

 

「君にはこれを受け取る資格がある。いや、是非受け取って欲しい」

 

「え、そん、まさか――い、いただけません! 俺は兵藤に負けたんです!! 貰う資格なんて――」

 

「充分にあるとも。誰もがあの一戦とその後の展開に息をのんだ。自分を卑下していけない。君も一誠君と同じように上を目指すことが出来る実力と精神がある。これを励みにしてほしいのだよ」

 

 サーゼクスは匙の肩に手を置き、信頼の笑みを見せる。

 

「どれだけ時間をかけてもいい。君の目背す者を目指しなさい。君には、それが出来る。そしてそれは、きっと冥界の希望になるだろう」

 

 先生になる。その夢を現魔王が背中を押してくれた。その事実に、匙の目頭は熱くなった。

 

「匙、受け取りなさい。受け取るべきです。その勲章は、きっと貴方の夢に向かう推進力になるのでしょうから」

 

 ベッドに横たわるソーナは、感激で一雫をすでに流していた。そして、真っ先にイッセーが拍手する。それは徐々に広がり、いつの間にか部屋全体に伝わった。

 

「俺……俺……! あり、がとう……ございます!」

 

 とうとう大粒の涙を流し、匙は勲章を受け入れた。

 

「儂からも賛辞を贈らせてくれい。お前さんはええ英雄(エインヘリヤル)になる。その時を楽しみにしておるぞい。さて、行くかサーゼクス。お互いまだやることがあるでの?」

 

「オーディン様は夜の繁華街でしょう? お付きの方々の胃を壊さないであげてください」

 

 そう言いながら二柱は部屋を出て行こうとしたが、オーディンはダイスケの前で一旦立ち止まった。

 

「……なんです?」

 

「これはジジイのただの心配事じゃ。己の中の湧き出ようとするモノに注意せい。恐らく奴は――いや、奴()の中に黒い情念を持つ者がおる。何かあったときは、今日のように奴に引っ張られぬよう己を強く持つのだぞ」

 

「は、はあ……」

 

「それだけじゃ。さーて、堕天使の綺麗どころが酒持って待っとるぞー」

 

 ダイスケがその言葉の意味を理解するよりも早く、オーディンはサーゼクスと退出していった。

 ただ、その言葉の意味はそれほど遠くない未来で詳しく、そして嫌というほど理解出来ることとなる。

 




 はい、というわけでVS41でした。
 最後くらいはすがすがしく終わりますよ。そして楽に勝つことなんて世の中そうそう無い。
 そして実はかなり危ないところでした。果たして今回の誰の知らないところで起きていた最大クラスの危機は……近いうちに起こります。え? シン? いいえ、……それとは別の危機です。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS42 夏休み終わりほどもの悲しいものはない

 あの、その……前話の投稿から感想が一つも、その、無かったんですけど……。
 俺、なんかやっちゃいました? いや、なろう系のネタじゃなく、ガチで。ほんと泣きそう。
 直せるところは直します、だから何らかの反応をくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!







 特撮界隈ではゴジラの造型に携われた開米栄三さんがお亡くなりになりました。
 キンゴジのコングの体毛を作られた方です。心からご冥福をお祈りいたします。


 リアス一同が人間界へ帰還する前日、最後だからとダイスケは両親が暮らすグレモリー領内の高級マンションに来ていた。

 ダイスケの不徳が原因でこのようになったが、移住したからといって暮らしが辛くなったと言うことはない。むしろ人間界にいた頃よりも快適であり、都心のタワーマンションすら霞む豪邸暮らしは夢のようである。父の仕事も人間界におけるビジネスマナー講座が軌道に乗っており、よその家の領内に護衛付きで訪問開業している。

 

「いやぁ、おかげで人生順風満帆! ダイスケ、この調子ならどんどんその赤い竹とやらと喧嘩してこい! 奴らに今の父さん達を見せつけたいくらいだ、あっはっはっはっは――あいだっ!?」

 

 容赦なく父の頭上に振り下ろされる鉄拳。その威力たるや、一撃で体格が勝る父を轟沈させた。

 

「あなた? ダイスケが私たちのために命を賭けているっていうことわかってるの?」

 

「……申し訳ありませんでした、頭を踏むその綺麗な御御足をどけてください。新たな癖が目覚めてしまいそうです」

 

 家の中の力関係が一発で見て取れるその光景は、ダイスケにとって久々のものだ。母の方も元気そうで、冥界の異能技術が元になった化粧品や美容法で前よりも若くなったように見える。

 

「お陰で若い頃を思い出してなぁ。最近じゃ夜のほうも復活してこのまま行けば来年の後半辺りにダイスケにも弟か妹が――」

 

 振り回されるその綺麗な御御足は、見た目以上の破壊力で父の側頭部にクリーンヒット。その母の顔は真っ赤に染まっている。

 

「……子供にする話じゃないでしょう?」

 

「いや、父さんも母さんも仲いいみたいで別にいいよ。弟か妹だってべつに出来たって気にしないし」

 

「あらそう? なら今夜辺り首締めプレイとかでたっぷり搾り取ろうかしら」

 

「お母さーん!? 貴女の方がよっぽど息子である俺の前で教育上よろしくないこと言ってますよ!?」

 

 あれ、ウチの両親ってこんなんだったけ? と困惑するダイスケ。冥界に来てからこの両親、生活に想像以上のゆとりが出来たせいで相当はっちゃけて自分を解放しだしているようだ。

 

「まぁあれだ、父さん達は父さん達で元気にやってるから――」

 

「――ダイスケはダイスケで、高校生の節度を持って同居している彼女さんとヤりなさい。あと避妊もね」

 

「あれ、冥界の空気って人間に変な影響与えるの? 親らしからぬとんでもない発言出たよ?」

 

 というか、なぜ両親はダイスケがミコトという女性一人(正確には二人)と同居していることを知っているのだろうか。複雑な事情があるのでそこの所は先日泊まった際の近況報告では言っていないはずだ。

 

「このまえミコトさんが手土産もってご挨拶に来てね。伊勢の方の方だからかしら、干しアワビと一夜干し伊勢エビの詰め合わせを持ってきてご挨拶してくれたのよ」

 

「相当歳上(千年単位)らしいがいい娘さんじゃないか。父さんと母さんみたいな同い年もいいが、姉さん女房もいいもんらしいぞ。二重人格のおかげで三人暮らしの楽しい生活になるんじゃないか?」

 

「……冥界に来たのはこっちが本命か、ちきしょう!!」

 

 その二人の様子から、ミコトが「あ、これはつまらないものですが、ご挨拶の品です♪」といってこの二人に高額賄賂を送った様子が容易に想像できる。

 

「あら、でも昨日ヴェネラナさんが連れてこられたメイドさんはどうなのかしら。二股?」

 

「ダイスケの隅々まで知っているって話だったもんな。何からナニまでお世話してたって」

 

「なんで「何」と「ナニ」で文字表記が違うんですかねぇ? つーか母さん、ミコトは神話関係と俺の監視で一緒に住んでいるだけで疚しい関係じゃないから。ほら、俺の宿しているもの関係で縁があるってだけだよ。リリアだってヴェネラナさんのお付きで来ただけだし」

 

「「……そうなのかなぁ」」

 

 どうやら息子がやることヤってる以上にヤリまくってる勘違いしているようだ。普段無遠慮にくっついてきたりしている分自分を抑えるのにどれだけ苦労しているのか理解してくれていないらしい。

 そんな話から一転、父が「そう言えばな」と切り出す。

 

「テレビで見たぞ、試合」

 

 テーブル上の茶菓子をとろうとしたダイスケの手が一瞬止まる。

 

「そっか、見てたのか」

 

「ああ、ジオティクスさんから教えられてな。観戦のお誘いがあったんだが……」

 

「ごめんなさい。母さんどうしても見るのが怖くて……」

 

 俯きながら母が言う。いかに父に強く当たれるとはいっても、やはり息子が実際に死なないとはいえ死ぬほどの怪我を負うようなものを直視できなかったのだ。

 

「母さん一人おいて出かけるのも忍びなかったからさ、家で一人で見たんだ。……強くなったな、本当に」

 

「……まだだよ。世の中まだまだ強い奴がいて、俺を敵視する奴もわんさかいる。そんな連中と渡り合うに、俺はまだまだ実力が足りない」

 

「昔からそうだったな。誰よりも優れた力を持っているのに、一歩引いて自分を見ていた。それが昔は抑える方向を向いていたけど、今は逆に伸ばそうとしている。急に生きる方向性を変えるのは大変だ。だけど、必要ならやるしかない。――応援しているからな」

 

「母さんは……やっぱりダイスケが怪我したりしたらと思うと怖い。でも、それがダイスケの優しさや誰かを想うが故のものなら……しっかり向き合えるように頑張るから」

 

 やはりの二人は離れて暮らしていても自分の両親だ。そして心底この二人の息子でよかったと思う。

 

「……ありがとう。おれ、やれるとこまでやってみる。それで、守るべきものを守れる男になってみせるから――見守っていて欲しい」

 

「当たり前だ。自分の息子の成長を見守るのが親の一大事業なんだから」

 

「母さん達はセキュリティの関係で冥界を出られないけど、いつでもこの家にいらっしゃい。待ってるわ」

 

「……うん」

 

 思わずダイスケの目頭から一滴漏れる。それを拭い、ダイスケは笑顔で応えたのだった。

 その日は久々に、親子川の字で寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

「では一誠君、またの来訪を心待ちにしているよ。いつでも気兼ねなく遊びに来てくれたまえもう。この家は君の家同然、いや将来的にも君はもう家族だ」

 

「ありがとうございます! で、でもちょっと恐れ多いです」

 

「いやいや、これは私の本心だ。向こうでもリアスのことをよろしく、末永くよろしく」

 

「貴方、そこは「ウチの娘はお前にはやらん!」というくらいでないと。もうちょっと家長らしくしてくださいな」

 

「しかしもう()()()()()()ではないか。私の実力ももう越えたみたいだし、こう言うのが礼儀でないか。なぁ、リアス?」

 

「あら、どうせなら娘の将来の相手に威嚇するくらい出ないと。ねぇ、リアス?」

 

「お願いですお父様、お母様。これ以上間接的に私の心を抉るのはお止めください……イッセーからも言ってやって」

 

「……どういうことっすか?」

 

 冥界滞在の最終日、そんな光景がグレモリー家私有駅で繰り広げられていた。どうやらグレモリー家総出のイッセー婿化は第一章を終え第二章に入ったらしい。

 そんなことを思いながらダイスケは両親の家がある方向を見る。今日は両親ともに仕事があったので迎えにはこれていない。だが、列車なりグレモリー家の者に連絡を入れればすぐに送り迎えをしてくれるとのことだったので寂しいとは思わない。

 

「じゃあみんな。向こうでも元気で。リアスもたまの手紙くらいは送っておくれ」

 

「リアスねぇ様、またお会いしましょう!」

 

 サーゼクスとミリキャスも出迎えに来てくれていた。それぞれに挨拶を交わし、握手する。

 

「さぁ、もうすぐ列車が出ます。白線の内側へ」

 

「はい!」

 

 注意するグレイフィアに、快活に応えるミリキャス。そしてその傍らにはサーゼクスと三人並んでいる。そこで、イッセーはある感覚を覚えてダイスケにひそひそ声で耳打ちする。

 

(な、なぁ、ダイスケ。もしかしてこの三人……)

 

(……魔王様には魔王様の事情があるんだ。言わないでおこうぜ)

 

(……だな)

 

 追求を止めて荷物を預け、みな客車に乗った。それを確認したレイナルドが汽笛を上げる。

 そこへ、小さな人影が走り込んでくる。

 

「ダイスケ様!」

 

 リリアであった。メイドとしての領分を越えた行動ではあった。だが、その心を知っているヴェネラナは転移魔術でリリアをダイスケがいる車両の窓際に移動させた。

 

「ごめんなさい、仕事の合間にこれを作っていて……」

 

 そう言ってリリアは小さな紙袋を窓越しにダイスケに手渡す。その中身は手製の弁当だった。

 

「あの、一応手荷物にならないように紙の箱で弁当箱になっていますので……皆様でどうぞ」

 

「わかってる。気遣いありがとうな」

 

 列車内の一同もダイスケに習って礼を言う。

 

「ダイスケ様。此度の一件、お助けくださり本当にありがとうございました。……あの、その……」

 

「――ああ、また会いに来るよ」

 

「――はい!」

 

 リリアが満面の笑みを見せ、汽笛が鳴る。燃料室から生み出された熱エネルギーが運動エネルギーに変換され、列車は動き出した。徐々に広がるの距離は、時間が経つにつれて比例的に大きくなる。だが、リリアは追うようなことはしない。

 なぜなら、もうわかってる。損な事をしようがしまいが、自分達の心は繋がってるとわかっているからだ。だから、ただひたすら笑顔で贈った。

 そして列車はカーブを曲がり、ついに最後尾も見えなくなった。

 

「リリア、わかっていますね?」

 

「……はい」

 

 ヴェネラナに呼ばれるリリア。キツく叱られるのは覚悟の上だ。

 

「今回の貴女の行動はメイドの分を越えた行為です。ですから罰を与えます。いいですね?」

 

「はい、どのような罰も甘んじてお受けいたします」

 

「では……ちょっと耳を貸して」

 

「……はい?」

 

 リリアが片耳をヴェネラナに向け、ヴェネラナは小さな声で耳打ちする。その言葉を聞いたリリアは驚いた。

 

「いいかしら? これが罰にして貴女の新しい仕事よ。やってくれる?」

 

「はい! 不祥リリア、謹んでこのお話をお受けさせていただきます!!」

 

 その詳細が明らかになるのは数日後。この話の中心である()も、まだこの話を知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

『終点駒王町裏駅、駒王町裏駅でございます』

 

 やっと帰ってきた。出発時に見えたホームがなぜか酷く懐かしいものに見える。

 それもそのはず、イッセーとダイスケが見てきたのは人知を越えた裏の世界。超常の世界にはいるまえに見たこの光景はまさに境界線だ。

 

「うっし、ナイスタイミング! 今年はこれで宿題全部終わっちゃったもんね!!」

 

「いや、普通初日か配られた当日に徹夜でやりこんで終わらすだろ。どれだけため込んでるんだ、なぁ木場」

 

「……僕は計画立ててじっくりやる派だから、二人とも異常にしか見えないよ」

 

 二年男子組のやりとりを微笑ましく見てた女子勢+ギャスパーも話を止めて下車の準備をする。

 とは言っても広げたトランプや菓子箱を片付ける程度で、手荷物も広げていないから楽なものだ。後は下車したときにレイナルドからキャリーケースなどを受け取るだけ。

 列車は停車し、客車のドアが開く。真っ先に降りたリアスは、エレベータ降り口付近に誰かいるのに気付いた。その人物はリアスを確認すると、つかつかと歩いてこちらにやってくる。

 

「ディオドラ? あなたディオドラよね? なぜここにいるの?」

 

 その人物とはリアスと同じ若手悪魔のディオドラ・アスタロト本人であった。

 

「グレモリー家に連絡は入れてある。無断侵入ではないよ。それよりも……」

 

 ディオドラはリアスの後ろから降りてくる、とある人物に目を止めた。そして、その人物に歩み寄る。

 

「えっと……なんでしょうか?」

 

 驚いたのはアーシアだった。そして、ディオドラは告げる。

 

「やっと見つけたよ。会合の時にもしやと思って調べたら……これを覚えているかい?」

 

 そう言ってディオドラは己の胸元を開いて見せた。そこには痛々しい傷跡がある。それはどうやらアーシアにも見覚えがあるものらしく、非常に驚いていた。

 

「そう、そうだよアーシア。僕だ。あの時君に助けられたのは、僕なんだよ」

 

 それを聞いてさすがのイッセーも思い出した。それは、アーシアがこの街に来る切っ掛けになった追放の原因。一人の悪魔を助けたというアーシアの過去。その悪魔とは――

 

「僕は君の事を片時も忘れなかった。でも、いくら探しても君を見つける事はかなわなかった。でも……これは運命だ」

 

 そう言ってディオドラはアーシアのまえに傅く。

 

「――結婚してくれ、アーシア。僕は、君を愛している」

 

 まーた面倒が起きた。驚く一同の中でただ一人、ダイスケはそう心の中で毒づいた。




 はい、というわけでVS42でした。
 ダイスケの両親はこんなんですが、一応一般人です。同い年かつ大恋愛で結ばれました。なので子供に対する愛情の注ぎ具合は人一倍です。
 リリアの罰……実際は罰じゃないです。メインキャラなのにいつまでも冥界オンリーじゃ扱いづらいですから。そう言う処置です。
 そして次回から対ディオドラですが……多分驚く人いるだろうなぁ。いろいろぶっちゃける回になると思います。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS43 夏だからって垢抜けても別に良い事ないよ?

 久々に感想もらえた……。こんなに嬉しい事はない……! わかってくれるよね、ララァには、いつでも逢いに行けるから……。
 今回からストーリーは体育館裏のホーリーに入ります。内容は前作よりも厚くなりました。グレンさん、アドバイス感謝……っ! 圧倒的感謝……っ!


 その日、ダイスケは珍しく目覚ましのタイマーを切っていた。

 今日はイッセー達との訓練も休みで久々に寝坊していい環境がそろっていた。実際、少し覚醒していたが、この半覚醒のなんともない心地よさがたまらなく好きで満喫するつもりだった。

 が、それを何者かが妨害する。

 

「おはようございます、ダイスケ様。朝餉の支度が出来ております。起きてくださいませ」

 

 リリアの声だ。もしこれがミコトだったらベッドにジャンピングボディープレスされて最悪の目覚めだったろう。

 

「ん……いいじゃん、夏休みなんだし」

 

「そうはいきません。もうすぐ二学期なんですから、生活リズムを整えないと。さぁ、起きてくださいまし」

 

「んぁあああああ……メニューなに?」

 

「先日漬けた浅漬けの白菜とキュウリ、根深汁にミコトさんのお土産の一夜干しを炙りました。それと、土鍋ご飯ですよ」

 

「すっげぇ豪華。わかった。冷めないうちに――ん?」

 

 そこでようやくダイスケは違和感を感じた。なぜ、リリアがここにいるのか。というか、ここはどこだ。

 側にあるパソコン類はダイスケ所有のもので間違いない。だが、部屋のレイアウトが明らかに違う。まず、ダイスケが住んでいたリアスのマンションは高級といえどここまで広くはない。今いるこの部屋はその三倍の広さがある。

 さらにベッドは天蓋付きで最大のキングサイズを上回る相撲の土俵サイズ。一人で寝るにしても無駄が多すぎだろと突っ込みを入れたくなる。おまけのテレビは持っていないはずなのに超大型ワイドテレビがベッドの前に鎮座していた。

 だが異常はこれだけでは無かった。慌てて階段を降りたら建物は四階建てで地下に延びる階段もある。横を見ればエレベーターがあって、急いで階段を降りた自分がバカに思えてくる。

 

「プハーっ! さっぱりしたぁ!! あ、おはよー、ダイスケ」

 

 さらにエレベーターからシャワーを浴びたらしいミコトが降りてくる。家の中では思春期真っ盛りの自分がいるのだから、下着姿で闊歩するのは止めて欲しいといつも言っているのにこれだ。

 

「ん? シャワー? エレベーターで降りてきたよな?」

 

 ザ・ジャパニーズスタイルで牛乳をかっくらうミコトを見てダイスケは疑問に思う。普通、風呂場と言えば一階にあるもの。なのにミコトは少なくとも二階以上のフロアから湯上がりで降りてきたのだということになる。

 

「ま、まさか……」

 

 ダイスケは思わず着の身着のままでサンダルを履いて建物の外にでる。振り向くとそこには兵藤邸並みの豪邸があり、表札には「宝田」とあった。しかも各階には最低一つは風呂用の窓枠がついている窓がある。

 

――またか、この野郎ぉぉぉぉぉ!! 誰がお前なんかにウチのアーシアをやるかぁぁぁぁ!!!

 

 当然聞こえたシャウトは間違いなくイッセーの声だ。まさかと思って裏隣にまわると、そこにあったのは見慣れた兵藤邸の玄関先で天に向かって吠えるイッセーの姿だった。

 そう、この駒王町に噂の兵藤邸にならぶ宝田邸が、家主も知らぬ間に誕生していたのだった。

 

 

 

 

 

 

「全くディオドラにも困ったものだわ。毎朝こんな土産を黙ってヒトの家において行くなんて……常識を疑うわよ、ホント」

 

「いや、俺は今グレモリー家の非常識について言ってるんですけれども。アナタ、ヒトの事言えないですからね?」

 

 ダイスケの家が劇的変身を遂げたのは単純明快、兵藤邸と同じくグレモリー家の仕業である。

 なんでもなるべく眷属や仲間を一カ所に集めたいというサーゼクスの意向からこのようになったそうだ。それにしても住む本人に一言くらい言ってくれればいいのに、と言ったらリアスに、

 

「あら、ミコトがいいって言ってたわよ?」

 

 と言われ、オメーは家主じゃねーだろと突っ込みを入れたら入れたで、

 

「いいじゃん、もうご両親に挨拶は済ませたんだもん♪」

 

 と嫁になったつもりでいるらしい。いかに旧世界の一つでゴジラとモスラが()()()だったときがあるといっても今現在にそれを持ちこんで欲しくはなかった。ただ、そう言うと今度はミコトが涙目になるので流石にそこまで言いはしなかった。

 

「ありがとうございます、姫島様。流石、眷属一の紅茶の腕ですね」

 

「あらあら、ミコトさんも素晴らしいですわ。流石グレイフィア様の薫陶を受けただけの事はあります」

 

 リリアと朱乃が朝食を終えた皆にモーニングティーを配る。リリアの方は家が広くなった事とダイスケとミコトの生活のサポートのためにヴェネラナから派遣されたとの事だった。これは素直にダイスケは嬉しかった。何せ家事手伝いが来てくれるのと、離れたようともに毎日会えるのだから。

 

「問題はこっちよ。前まではアーシアへのラブレターだけだったのに加速度的に贈り物が増えてるんだから」

 

 先日現れたディオドラの事である。彼は求婚していらい、気を引くために様々な贈り物をしてきた。はじめは手紙に映画や施設のチケットとかさばらないものだったが、それが二次関数的に高級食品や家具といった、送られたら逆に迷惑というレベルにまで達していた。

 もちろんイッセーはこのディオドラの求婚には反対である。アーシアの兄的存在を自負するイッセーからすればディオドラは家族を奪おうとする怨敵。しかも、アーシアが嫁に行ってしまう夢を見てほぼ毎晩うなされているのである。許せるはずもなかった。

 ちなみに、贈り物のほとんどは「食えるもんなら貰うわ」と宝田家住民の胃袋に消えている。 アーシア本人はというと、自分が迷惑をかけてしまっていると思って荷物が来るたびに謝っていた。

 

「どうせ貴族のお坊ちゃまの求婚でしょ? 気を持たせるだけ持たせてフッちゃえば?」

 

 祝儀袋に付いていたスルメを囓りながらミコトが言う。

 

「鬼畜やわー、この元皇族鬼畜やわー。確実に男はトラウマだわー」

 

「ふっふっふっ、これでも伊達に長生きはしていないのよ、ダイスケ。男を玩ぶなんてこの私にはチョロいチョロい――」

 

「二千年お手つき無しの斎王の立場でよく言うわ」

 

「なにぉおう!? ――流石に今のは妾もキレたぞ。よし、お前で処女散らしてやるから家に帰ったときに覚悟しろ」

 

「おい、ヒメ。自分で処女って認めちゃってるけどいいのか? つーかおかしいよね? それはどっちかと言えば男が女を無理矢理襲うときに使う言葉だよね?」

 

 たしかにミコトの言葉にも一理ある。気を持たせるだけ持たせて男を振るなんて良くある話で、バブルの頃など関係も持たないのにアッシー、メッシー、貢君と女に利用されるだけされて捨てられる男なんてザラにいた。

 だが、アーシアにそういうことが出来ようはずもない。

 

「あのヒトも真剣みたいですし……でも、どうすれば……」

 

 逡巡するアーシアの肩を、イッセーがしっかりと掴む。そして、宣言した。

 

「アーシア、これはアーシアの一生に関わる話だ。アーシアが望むなら、俺は止めない。でもアーシアが嫌で、それなのにあの野郎が諦めずしつこく来たら……俺は絶対にアーシアを守るよ。それだけは忘れないでくれ」

 

「……はい。絶対に忘れません」

 

「ああ……でもやっぱ嫌だ!! あのいけ好かない優男にアーシアをやるなんて死んだ方がマシだっ!! あぁっ、誰か俺に呪殺法を教えてくれ!!」

 

「ぶち壊しだよ、おい」

 

 何もかもダイスケの突っ込み通りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みの終わり。

 それは新たなるスタートでもあり、学生にとっては学校という名の地獄の窯が再び開いたことを示す。しかし同時に再び級友たちに会える日常が戻ってくるという意味でもある。

 そしてムザムザと級友たちの身に起きた精神的かつ肉体経験値的成長も見せられる羽目になるのだ。おもに地味目だった女子が明けに突然金髪ギャル化してたり、大人し目だった男子がみょーな自信をつけたりするアレである。

 

「聞いてきたぞ! やっぱり隣のクラスの吉田、夏に決めてやがった!! しかも相手は三年のお姉様らしい!!」

 

「「クソッたれ!!」」

 

 松田が持ってきた情報に、イッセーと元浜が毒づく。

 

「このクラスの大場も一年の子がお相手だったそうだ」

 

「何っ、大場が!?」

 

 イッセーが振り返ると、大場がさわやかな笑顔で手を振っている。正直目の前にいたら顔面陥没するレベルでぶんなぐりたい。

 イッセーたちが一年時から続けているこの行事、それは他の男子の「夏、垢抜けちゃったぜ」を調べることだ。一体誰と、いつ、どこで、どうしちゃったのかという情報はイッセーたちにとってのどから手が出るほどほしい情報である。

 だって自分たちも童貞捨てたいもの。

 

「でもさ、今更そんな情報得たって得なんてねぇだろ。せめて夏休み中に集めて実践したらどうよ」

 

 ダイスケの尤もらしい意見に松田は吠える。

 

「正直腹が立つんだよ! 夏休み中に垢抜けた連中の「ああ、こいつまだ女を知らないんだ」的な見下す視線!!」

 

「いや、俺はそういう連中を「ああ、こいつらは本当の命のやり取りってのを知らないんだ」的な見下す視線で見てる」

 

「あ、それは右に同じ」

 

「一体夏休みに何があったんだよお前ら……」

 

 ダイスケとイッセーの発言に戦慄する元浜だが、彼らが知る必要はないだろう。

 方や山の中をドラゴンに追い掛け回され、方や全身切り刻まれるという経験をしているのだ。そこに、女っ気は一つもない。きゃっきゃうふふな展開なんて望めようもなかった。むしろギャーギャーヘルプである。

 これで松田と元浜に夏の間に先に彼女でも作られようものならイッセーは自決を考えるところだったに違いない。

 

「あんたら情けない面してるわねー。どうせ夏の間に何にもいいことなかったんでしょ大方」

 

 そこへ現れたのはクラスのエロマスター女子桐生藍華だ。

 

「そんなにヤリたかったら、そう言う目的の女でも探せばいいじゃない。穴に入れるだけなら案外なんとかなるもんよ」

 

「ちがう! 俺たちはただヤルのではなく、末永くコンスタンスにヤリたいのだ!!」

 

「一発ヤッておしまいなんてただの素人童貞だ!! 恒常的にデキてこそだろうがよぉ!!」

 

「……軽いのか重いのかどっちかにしなさいよ」

 

 松田と元浜をゴミを見るような目で見下す桐生であったが、すぐさまイッセーに向き直る。

 

「そういやさ、兵藤。最近アーシアが遠い目になることが多いんだけど、なんか理由知ってる?」

 

「え? いやぁ、流石にそれは……」

 

 知ってはいるが、言える事情ではない。そのアーシアはやはり彼の一件が引っかかっているようで困惑している様子であった。授業中も教科書を逆さにしてしまっていたほどである。そんなアーシアの様子はイッセーにとっても心配になるほどだ。

 そんなイッセーの視線を感じたのか、アーシアは笑みで返すが、やはりどこかぎこちない。そんなアーシアを見てどうしたものか、と考え込むイッセーであったが、教室にあわてた様子で入り込んできた一人の生徒によって邪魔される。

 

「お、おい! みんな大変だ!! 落ちついて聞いてくれ!!」

 

 その男子生徒は友人から「まずは君が落ち着け」と胸にトンと当てられたミネラルウォーターを一口あおり、ゆっくりと呼吸を整えてクラス全員に聞こえるように報告した。

 

「このクラスに転校生が来る! それもかなりの美少女だ!! おまけに二人!!」

 

『……えええええええええええええ!?』

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

「えー、こんな時期にめずらしいですが、このクラスに転入生が入ってくることになりました。じゃ、入ってきて」

 

 そう担任に促されて入ってきたのは栗毛ツインテールの相当な美少女。そしてダイスケとイッセーもよく知るプラチナブロンドの美少女であった。

 銀髪の法は清楚に見えて実に男を魅惑する顔立ちとスタイル。栗毛の方は快活そうな顔つきに均整のとれたスタイルで共に男子の視線を釘づけにした。だが、イッセーとダイスケは魅了されるよりも驚いていた。それはアーシアとゼノヴィアも同様で、目が飛び出しそうになっているほどだ。ただ一人「おーい、こっちこっち!」と呑気に気を引こうとしている。

 まず、栗毛の美少女がぺこりと頭を下げて自己紹介をする。

 

「紫藤イリナです、皆さんどうぞよろしくお願いします!」

 

 コカビエル襲撃の折、以前来日して相当なインパクトを残した紫藤イリナその人であった。そしてもうひとり――

 

「リリアです。諸事情でグレモリー姓を名乗らせていただいております。浮世の生き方には慣れておりませんが、何卒よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

「紫藤イリナさん、そしてリリア。あなたたちの転入を歓迎するわ」

 

 放課後、オカルト研究部部室に関係者各位が揃い、イリナとリリアを迎え入れていた。

 

「はい、皆さん初めまして……の方もいらっしゃれば再会した方のほうが多いですね。紫藤イリナと申します! 教会――いえ、天使さまの使者としてここ、駒王学園にやって参りました!!」

 

「メイドの分際でおこがましいのですが、今日からお世話になりますリリアです。初めての方もそうで無い方もふつつかながら活動のサポートをさせていただきます。よろしくお願いいたします」

 

 パチパチと部員が拍手で迎える。リリアはグレモリーのバックアップという事でわかりやすいが、イリナには事情がある。

 そう、この駒王学園、和平の象徴となっているわけだが、今まで天界側は間接的な支援のみでとどまっていた。それではバランスが取れないと送られてきたのがイリナらしい。

 そんな事情をよそに、当の本人は「主への感謝云々」、「ミカエル様は偉大で云々」と以前と変わらぬ様子である。が、イッセーは気になってゼノヴィアに耳打ちする。

 

(な、なあゼノヴィア。イリナは神の消滅を知らないんだよな?)

 

(うむ、少なくとも私と別れた時点では知らないはずだ)

 

 となれば事実を知れば大惨事必至だろう。何せこの場には直にコカビエルから神の死を知ったメンツが多いのである。いつかばれるということもありうるのだ……というイッセーの不安をどこ吹く風とアザゼルが切り出す。

 

「おまえさん、『聖書の神の死』は知ってるんだろ?」

 

「ちょおおおおおお!? 先生、いきなりそれっすか!?」

 

 あわてて突っ込みを入れるイッセーだが、アザゼルはどこ吹く風だ。

 

「アホ、ここに来たってことはそういうの込みで任務が下っているはずだ。ここはな、三大勢力の協力関係の中でも最も重要視されているところだ。そんなとこに来るってことは、ある程度の知識があるからこそさ。そうだろ?」 

 

「はい、総督。イッセー君安心して。私はすでに主の消滅を認識しているわ」

 

「以外にタフだな。信仰心が人一倍だったイリナが何のショックも受けずにここにきているとは」

 

 が、ややあってイリナはゼノヴィアに詰め寄り大粒の涙を流し始めた。

 

「ショックに決まってるじゃなぁぁぁぁい!! 心の支え! 宇宙の中心! あらゆるものの父が死んでいたのよ!? すべてを信じてきた私だったからミカエル様に真実を告げられた時、七日七晩寝込んじゃったわよ!! ぁぁぁぁぁあああああ主よ!!」

 

 散々ぶちまけた後、テーブルに突っ伏し大号泣するイリナ。よほどショックだったのだろう、いまだに引きずっているのだ。そんなイリナが哀れに思ったのか早速リリアがハーブティーを煎れて持ってくる。

 

「さ、これでも飲んでください。気分が落ち着きますよ」

 

「ありがとう……あ、おいしい」

 

 そんなイリナに、アーシアとゼノヴィアが語りかける。

 

「でも、私もわかります。その気持ち」

 

「やけくそで悪魔に転生した私が言うのもなんだが、よく心が壊れなかったものだ。それだけでも良しとしようじゃないか」

 

「あぁぁぁぁぁぁアーシアさん!! この前は魔女だなんて私ひどいこと言ったわ! 何も知らないバカは私だったのに――本当にごめんなさい!」

 

 アーシアにイリナが、謝罪を込めて頭を下げる。

 

「ゼノヴィアにも謝らないといけないわ。別れ際にもう決別だみたいなこと一方的にまくし立てて……ごめんなさい!」

 

 ゼノヴィアにも詫びを入れるイリナ。しかし、その姿に、アーシアもゼノヴィアも微笑んでいた。

 

「イリナさん、私は気になんてしていませんよ。これからは同じ主を失いながらも敬愛する同志ってことでいいじゃないですか」

 

「私もそうさ。あれは破れかぶれで悪魔に転生した私も悪かった。いきなりだったものな。だが、こうして再会できたのはうれしいよ」

 

「うぅぅぅぅ、二人ともありがとう……! でも宝田大助だけは絶対にするさないし心を開くつもりもないから!」

 

 そうして三人はがしっと抱き合い、『ああ、主よ!』と祈り始めた。新派閥「教会三人娘」の誕生である……内二名が悪魔だが。

 

「じゃあ、お前さんはミカエルからの使者ってことでいいんだな?」

 

 アザゼルの念押しの確認にイリナはうなずく。

 

「はい、ミカエル様はここに天使側のスタッフがいないことを懸念されておりました。三大勢力の和平のシンボル的場に天使側から誰も来ていないというのは深刻だ、と」

 

「今いる人員でも十分なんだがな。もともとお人よしを超えたレベルでもバックアップはしてるだろうに。で、お前さんはどの程度の権限を持つんだ?」

 

「それに関しては――直接見ていただいたほうがいいですね」

 

 そういってイリナは立ち上がり、祈りのポーズをする。すると、その背中からまばゆい光とともに一対の白い翼が生えてきたのだ。

 

「こいつはまさか、転生天使の技術を完成させたか」

 

「はい、悪魔の駒(イーヴィル・ピース)の技術をベースに、トランプをイメージにした『御使い(ブレイブ・セイント)』と称す配下を十二名、十四柱のセラフの方々がキングとなって編成されることになりました」 

 

「なるほどねぇ。おそらく人工神器の技術も応用で入ってるんだろ。さっそく面白いもん開発しやがる。悪魔がチェスで天使がトランプとはな。まあもともとトランプは切り札って意味もある。神が死んで純粋な天使は二度と増えなくなったからな。そういう意味じゃ戦力拡充の切り札ってわけだ。だがその分だとジョーカーもやっぱりいるんだろうな。十二って数字もってのも十二使徒をもとにしてるんだろう。全く楽しませてくれるぜ天使長様もよ。で、イリナ、お前さんのスートはなんだ?」

 

 尋ねられたイリナは胸を張って答える。その手の甲にはAの文字が輝いていた。

 

「もちろん、ミカエル様のA(エース)です! もうこの栄誉だけで死んでもいい!! これからはミカエル様への信奉を糧に生きていくのよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「ま、自分を見失うよかいいさ」

 

 さっきまでの落胆なぞ遠くに投げたイリナを見て、ゼノヴィアが言う。さらにイリナはまくしたてるように言う。

 

「さらにミカエル様は悪魔の駒(イーヴィル・ピース)御使い(ブレイブ・セイント)の異種混合戦も見据えていらっしゃるの! 今はセラフだけのものだけど、いずれはセラフ以外の上位天使さまたちにもこのシステムを与えてレーティングゲームのように盛り上げていきたいって!」

 

 その壮大なミカエルの計画に驚く一同をよそに、アザゼルは感心していた。

 

「長年いがみ合ってた関係だ。急に和平っつっても不満に感じる者もいるだろう。そういう手合いの鬱憤をぶつける場としちゃぁ最適かもな。冥界でもダイスケをモデルケースに異種族も参加できるように間口を広げようとしてるんだからいい傾向だぜ。いずれは裏の世界のオリンピックみたいになるだろうな。」

 

「じゃあもう近いうちにそうなるってことですか?」

 

 ダイスケの問いに、アザゼルはいやいや、と首を振る。

 

「『システム』の調整なんかもあるだろうからな。早くて二十年後だろう。そのころには新人悪魔たちもいい仕上がりになってるだろうからな」

 

「二十年後かぁ。そのころには俺はいい大人だな」

 

「いや、それはわかんねぇぞ。案外獣具の影響で悪魔みたいにそんな年を取らないってこともありうる」

 

「え、マジっすか? じゃあ俺渋いオッサンになれないじゃん。」

 

「気にするのそこ……?」

 

 イッセーは変なところが気になっているダイスケを怪訝に思うと同時に、将来について少し夢想する。いずれ自分の眷属を伴って天使や堕天使のチームとゲームで戦う。正直まだそこまで実感できる実力が伴っていないため早々に想像はあきらめた。

 

「異種混合戦とは楽しめそうね。悪魔相手だけじゃない、多彩な戦略を考えるいい機会でもあるわ」

 

 グレモリー眷属とのレーティングゲームで惜敗したもののその実力を発揮したソーナは乗り気である。それに対し、

 

「きょ、教会を相手にするのはさすがに怖いですぅ……」

 

 ギャスパーは心底怖がっている。何教会は悪魔堕天使との協定は結んだものの、ヴァンパイアに関してはその気配は一切なくヴァンパイアハントも未だ継続中とのことである。一度ヴァンパイアハンターに殺された身でるため尚更だろう。

 

「まあ、このあたりの話はこれでおしまいにして、今日は二人の歓迎会をしましょう」

 

 ソーナが笑顔で話題を切り上げる。イリナとリリアのほうも皆を見渡して言う。

 

「悪魔の皆さん、私は今まで悪魔を敵視し続けてきたし、斬りもしました。けれど、ミカエル様が「これからは仲良くですよ」と仰っていらっしゃったので私もそうしたいと思います。これからはここで教会代表として頑張っていきたいです!よろしくお願いします!」

 

「私は基本的に戦いに赴けませんが、皆様のバックアップならお任せください。グレモリーのメイドとして、必ずお役に立って見せます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 リリアとイリナが転入してきてから数日が立ち、クラス内の雰囲気も落ち着いてきたところで二学期最初のイベント体育祭の準備と練習がはじまっていた。

 イッセーたちのクラスも今日は全員で出場種目の練習中である。そんな中やはり目立つのは転生天使であるイリナの身体能力だ。かけっこをしている相手のゼノヴィアとタメを張るほどの脚力を見せている。

 もちろん男子が見るのはその無邪気に動く均整のとれたスタイルの二人の肉体の競演であり、イッセーたち三馬鹿トリオも注視している。

 

「しかし、高速で動かれるとおっぱいの動きが把握できないな」

 

「だな」

 

「やはり適度な速度が一番揺れを確認できる」

 

「……その前にスポブラぐらいはしてるだろうからそんなに揺れないんじゃね?」

 

「なんで男性って……」

 

 最後に冷静な突っ込みを入れるのはもちろんだダイスケだ。そしてその側には男子からの視線を避けるようにダイスケの影に隠れるリリアがいた。何せこのリリア、元がサキュバスなので自然と男子の視線を集め、おまけに関係を迫る男子も続出した。それを予見したダイスケはリリアに常に自分の側にいるように言いつけ、寄ってくる羽虫を撃退しているのが日常だ。

 

「お、兵藤に宝田じゃん。それにリリアさんも」

 

 そんなイッセーたちの元に匙が現れる。その手にはメジャーだのなんだのと計測器具がある。

 

「おう、匙か」

 

 そんな匙の元にイッセー、ダイスケ、リリアの三人は尻についた砂を払い、歩いていく。 

 

「お前らさっきまで何やっていたんだ?」

 

「揺れるおっぱいの観察」

 

「揺れるおっぱいを観察するイッセーの観察」

 

「ダイスケ様シェルターに隠れています」

 

「あ、相変わらずだなお前らは」

 

「そういや匙、お前のその腕の包帯はアレか? ゲームの怪我が治ってないのか?」

 

「いや、そうじゃないんだよ。ちょっと見てくれ」

 

 そう言って匙は右腕の包帯の一部を捲る。そこには刺青のような妙な文様が浮かんでいた。まるで黒い蛇がのたうっているようである。

 

「なにこれ、呪いの文様?」

 

「やめろよ、宝田。ヴリトラってあんまりいい伝説残してないんだから。アザゼル先生に聞いたら前のゲームでイッセーの血を吸ったのとラインで赤龍帝の神器とつないだことが原因でこうなったらしい。まぁ、悪影響ってわけじゃないらしいけど」

 

「なんかの力を譲渡(トランスファー)したら消えるってのはないかな? その腕じゃ日常生活厳しいだろ。腕に宝玉まで出てるじゃん」

 

「いやいいよ、兵藤。特に不都合してないし、気持ちだけ受け取っておくわ。ところでお前ら、何の競技に出るんだ?」 

 

 最初に答えたのはダイスケだ。

 

「綱引きと棒倒しと騎馬戦。クラス全員に腕相撲で勝っちゃってさ。「お前はパワー系に全部出ろ!」って頼まれちゃって。あ、ミコトも女子の綱引きに出るから生徒会の女子に警告しろって言っとけ。あいつ結構力あるぞ」

 

「獣具使いって悪魔並みに身体能力向上するんだろ。警戒するように言っとくわ。で、リリアさんは?」

 

「女子リレーと女子綱引きです。これでも体力には自信が……あ! 今、やらしい意味の体力だと思いましたね!? これだからダイスケ様以外の男は!!」

 

「思ってねぇよ、この男性恐怖症のくせに脳内ピンク!! ……兵藤は?」

 

「アーシアと一緒に二人三脚。仲良くゴールするから見ててくれ」

 

「ケッ! うらやましい奴め! 俺はパン食い競争だちきしょうめ」

 

 そんな羨ましがる匙のもとに、二人のメガネ女子がやってくる。ソーナと副会長の真羅だ。

 

「何をしているのです、匙。これからテントの設営箇所のチェックをするのですから早く来なさい」

 

「我が生徒会はただでさえ男手が少ないのですからちゃんと働いてくださいな」

 

「は、はい、会長! 副会長! じゃあ行くわ」

 

 そう言って慌てて匙は二人の元へ向かう。

 

「――そういやあいつ、会長とのできちゃった結婚目指してるんだっけ。あの様子じゃ尻に敷かれるな」

 

「言えてる」

 

 そんな感想を言い合っていると、不意にドライグが口を開く。

 

『これは……ヴリトラの魂の気配が濃くなったのか』

 

 その言葉にイッセーは怪訝そうな表情になる。

 

『何、気にするな。どうやら俺との直の接触が奴に影響を与えているようだ。たとえ幾重にも魂を分断されようとも何かの切っ掛けがあれば別ということらしい』

 

「そいつはなにか、近いうちにヴリトラが復活するってことか?」

 

『流石にその気配はないさ、ダイスケ。何せあの匙というのが宿しているのはあくまでヴリトラの魂の一部なのだからな。しかし、ファーブニルとヴリトラが近くにいて、タンニーンとも出会った。どうやらイッセーは龍王に縁があるらしい』

 

「あのー、宿主ほったらかしで話進めないでもらえません?」

 

「『無理』」

 

「お前らほんとに息ぴったりだな!? もういい、アーシアと二人三脚の練習してくる」

 

『おい、もうちょっとダイスケのそばにいろ。なかなか話が分かるやつだからもう少し話したい』

 

「うるせぇ!」

 

 そういってずかずかとイッセーはアーシアの元へ歩いていく

 

「……さーて、俺も騎馬戦の打ち合わせ行ってくるかね」

 

 騒々しかった夏休みが過ぎ、まだ残暑が残る九月。少しは平和に暮らせるかと思うダイスケであった。 

 しかし、そんな希望もどうやら簡単に打ち砕かれるようで。その日の放課後、イッセーはダイスケたちと共に部室に顔を出す。しかし、先に来ていたほかのメンバーは渋い顔をしている。

 

「何かあったんですか?」

 

 イッセーが訊くとリアスが答える。

 

「例の若手悪魔同士の交流戦、次の相手が決まったの。……よりにもよってディオドラ・アスタロトよ」

 

 どう考えても波乱しかなさそうな展開にダイスケは思わず「あーあ」と呟いてしまった。

 




 はい、というわけでVS43でした。
 宝田邸が兵藤邸より一回り小さいのは、兵藤邸がグレモリー眷属も住まう事を想定しているからです。両親も一緒にいますしね。
 リリアは学園では完全にダイスケにくっついています。最大の懸念は松田と元浜でしたが、ダイスケの友人という事でまだ他の男子よりは信頼している状態です。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS44 信じて送り出した主人公が堕天使美女に好き勝手されてパンツ一丁全身キスマークまみれで帰ってくるなんて……

 ハーメルンでの将来の夢はいつかコラボ小説を書く事です。
 あ、サブタイトルは気にしないでください。


「みんな集まったわね」

 

 リアスは自分の眷属とダイスケが集合しているのを確認すると、記憶メディアらしきものを取り出した。

 

「これは先日までに行われた若手悪魔の試合を記録したものよ。もちろん私たちとシトリー眷属の試合の記録もあるわ」

 

 今日は眷属とダイスケで試合のチェックをすることになっていた。その試合の解説役であるアザゼルがスクリーンの前に立って言う。

 

「お前ら以外にも若手悪魔たちは試合をした。大王バアル家とグラシャボラス家、大公アガレス家とアスタロト家。それぞれがお前らの対決後に試合をした、その記録映像だ。ライバルの試合だからよく見ておけよ」

 

『はい』

 

 全員が真剣にうなずく。

 

「じゃあまずはサイラオーグ……バアル家とグラシャラボラス家の試合よ」

 

 プロジェクターが起動し、スクリーンに映像が投影させる。すると、すぐに期待感とわくわく感は消し飛ばされる。

 サイラオーグはまさに、圧倒的『力』を見せていた。グラシャラボラスのゼファードルの持ち駒はすでに三人を残してサイラオーグの眷属にすべて撃破されてしまった。

 その三人の眷属はサイラオーグとゼファードルを一騎打ちさせるために動いているようだが、一切手の内や得物を見せていない。まるで遊ぶように、そして己と相手の限界をギリギリで愉しみながら試しているようにも見える。

 サイラオーグと接触しても、例え数の優位があろうが決して手の内を見せずに撤退する。

 

「俺はこの三人が獣転人じゃないかと踏んでるが、どうもわからん。このゲームでもゼファードルが逆転を狙ったサイラオーグとの一騎打ちをさせるために動いていただけだ。しかも積極的に相手をリタイアには追い込まず、まるで試すかのような雰囲気だ」

 

 しかもよく見れば手加減しているようにも見える。ゼファードルが一騎打ちにこだわったというのが理由だろうが、その力量から見るにサイラオーグとも十分に戦えるはずなのに、だ。

 試合内容を見直すとゼファードルが三人の眷属の望み通りサイラオーグに一騎打ちを挑む。

 そこからは一方的だった。ゼファードルのあらゆる攻撃がはじかれ、徐々に追い詰められていく。そこへ、サイラオーグの拳の一撃が入る。幾重にも張られた防御術式を難なく突破し、その拳はゼファードルの腹に突き刺さった。

 桁違いの破壊力である。何せよけられた拳の拳圧で周囲の建物を吹き飛ばすのだ。一度でもまともに食らえば致命傷だろう。

 

「凶児と呼ばれ忌み嫌われていたゼファードルがこうも……これほどものなのかサイラオーグ・バアル」

 

 木場もその光景に驚愕し、目を細める。なにせ騎士(ナイト)である彼の動体視力でいま起きたことのすべてを視認することができなかったのだ。戦慄もする。

 

「リアスとサイラオーグは(キング)なのにタイマン狙いすぎだ。基本的に(キング)は動かずとも駒を進軍させて勝利を得ればいいんだからよ。(キング)を取られりゃ負けなんだぜ? バアルの血筋は血の気が多いのかね。」

 

 アザゼルが嘆息しながら言う。それに対し、リアスは顔を赤くしていた。ライザーとの一戦のように思うところがあるらしい。

 

「ゼファードルの強さってどれくらいなんですか?」

 

 イッセーの問いにリアスは答える。

 

「映像ではああ見えたけど、彼自身は決して弱くはないわ。とはいっても、本当の次期党首が事故死しているから彼は代理参加なのだけれど」

 

 朱乃が続く。

 

「若手同士の対決前にゲーム開催委員会が出した下馬評のランキングでは一位はバアル、二位はアガレス、三位がグレモリー、四位がアスタロト、五位がシトリー、六位がグラシャラボラスでしたわ。王と眷属を含めた平均で比較したランクです。それぞれ一度試合をして覆りましたけど」

 

「しかし、このサイラオーグさんは抜きんでているってわけですね」

 

 イッセーの言葉にリアスはうなずく。

 

「ええ、彼は正真正銘の怪物よ。ゲームに本格参戦すれば「すぐにランキングに食い込んでくるのでは?」といわれているの。逆に彼を倒せば私たちの名は一気に上がる」

 

「あのー、ひょっとしてライザーより強かったり……?」

 

 イッセーは恐る恐るリアスに訊く。

 

「実際にやってみないとだけど、贔屓目抜きで見てもサイラオーグが勝つでしょうね」

 

「ま、グラフを見せてやるよ。各勢力に配られたものだ」

 

 アザゼルが術を展開して宙にホログラフを投影する。そこに記されたサイラオーグのパワーの値はグラフの枠を飛び越えていた。何せ天井にまで届きそうなのだ。

 

「だがサイラオーグは全開なんて出しちゃいなかった。本気の「ほ」の字もな」

 

 アザゼルの言葉にイッセーは戦慄する。何せ素の拳で禁手化した今のイッセー以上なのだ。神器も、伝説級のドラゴンの力もなしで、である。

 

「やっぱ、天才なんですかねぇ」

 

 ぼそりとイッセーはそういうが、アザゼルは否定する。

 

「いや、あいつはバアル家始まって以来初めて滅びの力を継承できなかった純潔悪魔だ。滅びの力が継承されたのがグレモリーに嫁いだヴェネラナ女史が生んだ兄妹のほうさ。そして奴は家の才能を引き継ぐ純潔悪魔が決してしないことをして力を手に入れた」

 

「本来しないもの?」

 

「凄まじいまでの修行と鍛錬だよ。尋常じゃない修練の果てに力を得た稀有な純潔悪魔なのさ。あいつには自分の肉体しかなかった。だからそこを愚直なまでに鍛え上げたのさ」

 

 そしてアザゼルは皆に語りかけるように続ける。

 

「奴は何度も何度も勝負の度に打倒され、敗北し続けてきた。華やかに彩られた貴族社会の中で泥臭いまでに血なまぐさい道を歩いているやつなんだよ」

 

 だからか、とダイスケはひとり納得する。初めてサイラオーグに会った時、彼からえもいえぬ裏打ちされた自信のようなものを感じられた。

 

「才能のないものが次期当主に抜擢されることがどれほどの偉業か。敗北の屈辱と勝利の喜び、天と地の差を知っているものは間違いなく本物だ。ま、強さの秘訣はほかにもあるんだがな」

 

 そして映像が終わる。サイラオーグの勝ちである。最終的にゼファードルは物陰に隠れおびえながら投了した。

 その姿を誰も笑えなかった。

 映像が終わり、しんと静まり返った室内でアザゼルが言う。

 

「先に言っとくがお前ら、ディオドラと戦ったら次はサイラオーグだぞ」

 

 全員が驚くが、アザゼルは頷くだけ。しかし、リアスは怪訝そうにアザゼルに尋ねる。

 

「少し早いのではなくて?ゼファードルの方と先にやるのだとばかり思っていたのだけれど」

 

「いや、奴はもうだめだ。サイラオーグに心身に恐怖を刻み込まれた。もう戦えない。サイラオーグに精神まで断たれてしまったんだよ。だから残りの五人どうしで戦うことになる。グラシャボラスは……ここまでだ」

 

 映像にはアザゼルの言葉を肯定するように恐怖に震えるゼファードルの姿があった。

 

「お前らも十分気を付けろ。あいつは本気で魔王になろうとしている。そこに一切の躊躇も妥協もない。決して呑まれるな」

 

 実際に映像越しではあるがそれを体験した一同は頷いた。そこから一呼吸置き、リアスは言う。

 

「でもまずは目先の試合ね。今度戦うアスタロトの映像も見るわよ。こちらも注意しないといけないわ。なにせ大公家のシーグヴァイラ・アガレスが負けたのだから」

 

「え、あのガンダム姐さん負けたんですか!?」

 

 一番驚いたのはダイスケであった。何せ個人的に連絡先を交換して時折ガンダム談義に花を咲かせるほどこの中で一番親交が深いのである。

 

「そんな話一切してなかったんだけどなぁ……」

 

「え、あなたそんなに彼女と仲良いの?」

 

「そりゃそうっすよ部長。俺のガンダムネタに食いつけるほどの相手と仲良くしないわけないですって」

 

「……ダイスケ先輩のガンダム談義についていけるって相当ですよ」

 

 この中でもサブカルに明るい小猫が若干戦慄している。なにせダイスケのガンダムネタといえば時折不意打ちでコアなところを突いてくるものだから小猫ですら反応に困る時があるくらいなのだ。

 それはさておき。

 

「私たちを苦しめたソーナたちは金星、さっきのランキングで二位のアガレスを打ち破ったアスタロトは大金星という結果ね。悔しいけれど、事前のランキングなんて所詮は予想。ゲームが始まれば実際は何が起こるのかわからないのがレーティングゲームよ」

 

 レーティングゲームとは、ただ眷属どうしを王がぶつけ合って戦うものではない。その試合ごとにルールや対戦方式は異なっており、そのたびに同じチーム同士が戦っても勝敗の結果は変わる。

 例えば、グレモリーとシトリーが戦ったルールでは建造物のむやみな破壊は減点対象となる。こうなると高火力ぞろいのグレモリー眷属にとってはかなりに縛りになってしまうが、戦術に優れるトップを持つシトリーにとっては自身の戦術を個々に発揮できる。

 強力な眷属をそろえれば勝てるというものでは決してないのだ。

 

「そうだとしても、まさかアガレスが負けるなんてね」

 

 リアスが言いながら次の映像を再生する。舞台は大規模プールが主体となったテーマパークを模したもので、観覧車がいきなり壊されたためグレモリー対シトリーの一戦のように大規模な破壊を制限されたルールではないようだ。

 そこへアザゼルの説明が入る。

 

「注目すべきはまず、シーグヴァイラの女王(クイーン)、アリヴィアンだ。奴はちょっと事情があって明かせないが特殊な種族で獣具、『機械猩猩の催眠輝目(メカニコング・ヒノプシス・アイ)』の獣転人だ。本当は人型種族じゃないんだが、その特殊性でヒト型のカデコリーなんだろうな」

 

 ダイスケの記憶にない怪獣の名前が出たが、その能力はわかりやすく瞳から放たれる催眠パターン光波が相手を強制的に眠らせ、錯乱させ、同士討ちをさせるものだった。これによりかなりの数のアスタロト眷属が混乱に陥れられたが、ただ一人眷属で効果がない者がいた。

 

「ミゲラさんか」

 

「そうか、ダイスケは一緒にテストを受けていたな。彼女はアスタロト眷属の女王(クイーン)、ミゲラ・サンタクルス。獣具『深淵獣の毒海潜行鎧(ダガーラ・ヴェノム・ダイバー)』の獣転人だ。催眠が効いていないのは恐らく元の怪獣がよほど力がある怪獣だからだろう。ダイスケと一緒で全身鎧がデフォなのは水中潜航能力を持つ怪獣であるが故か? 興味が尽きんぜ」 

 

 アザゼルが獣具の機能に興味を向ける中、スクリーンではミゲラの猛攻が始まる。はじめにアガレスの騎士(ナイト)の一人が突貫をかけるが、その勢いのままミゲラは捕まえた後水中に引きずり込む。そのままアガレスの騎士は浮き上がってこず、リタイアとなる。

 報復を計るのはアガレスの兵士(ポーン)三名。遠距離からの魔力砲撃に、ミゲラは為す術無しに見えたが、その兜のマスクが開き、ダイスケのようなビームが放たれる。その威力たるや兵士(ポーン)三人はおろか後方にいたアガレスの戦車(ルーク)までも巻き込んでリタイアにした。

 そんな激戦の中、手っ取り早く決着を付けるためにシーグヴァイラとディオドラの一騎討ちが始まった。

 

「だから、(キング)はもうちょっと自重しろって……」

 

 アザゼルが頭に手をやって言うが、これは記録映像。指摘しても詮無い事だった。(キング)同士がにらみ合い、互いに駆け出して交錯した。

 ややあってシーグヴァイラが倒れ、リタイアとなって勝負に決着が付いた。ディオドラの方はといえば、涼しげに笑うだけで傷一つついていない。

 

「下馬評のランキング、いくらあてにならないっていってもどうなっているんです、これ。実力査定できていないじゃないですか」

 

「イッセーの言う事も確かよ。でも、下馬評が出てから時間があったから、その間に実力を上げてきたか隠していたんでしょう。無い話ではないわ」

 

 そう言いながらリアスが記憶ディスクを取り出そうとしたまさにその時、部室の片隅に転移用の魔方陣が展開された。その文様を見た朱乃がぼそりと呟く。

 

「これは――アスタロトの」

 

 そして一瞬の閃光が輝いた後、そこにはさわやかな優男の姿があった。

 

「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いに来ました」

 

 

 

 

 

 

 部室のテーブルにはリアスとディオドラ、そして顧問としてアザゼルも座っていた。

 そして普段はこういう時、朱乃やリリアが茶を淹れるのだが、今日に限ってダイスケが茶を淹れると自ら率先してお茶汲みになっている。

 ほかの面々はライザーの時の一件のように部屋の片隅で待機していた。

 

「粗茶ですが」

 

 ごとり、と来客であるディオドラに先に湯飲みを置くダイスケ。

 

「……指が入ってるんだけど」

 

「そうですか?」

 

「いや、そうですか、じゃなくて五本の指全部入ってるんだけど」

 

 ディオドラの言うとおり、ダイスケの右手の指すべてが湯飲みの内側に入り、内側から支えるというかなり器用なことをしている。もちろん嫌がらせだ。

 最初はいい主だと思っていたのが、アーシアの一件で「あれ、コイツ……」と評価が変わったからこその手の込んだ嫌がらせである。きっと指の汗が全部溶け出して茶はしょっぱくなっていることだろう。

 

「では部長と先生にも」

 

「いや、交換しないのかい?」

 

「それではこれで」

 

「いや、交換……まあいい」

 

 飲まなければいい、という判断をしたディオドラは、優しげな笑みを取り繕ってリアスに言う。

 

「リアス・グレモリー、単刀直入に言います。僧侶(ビショップ)のトレードをお願いしたいのです」

 

 トレードとは、(キング)同士が駒となる眷属を交換できるシステムのことだ。ただし、なんでも交換できるというわけではなく、交換できるのは同じ駒、そして同格の駒価値の眷属ということになる。 

 この場合の僧侶とはもちろん――

 

「いやん! 僕のことですか!?」

 

 そういってギャスパーが身を守るポーズをとるが、すぐにイッセーとダイスケが両サイドから頭をはたく。

 

「「なわきゃねーだろ」」

 

 思えば逞しくなったものである。ちょっと前なら「ひぃぃぃぃぃ僕のことですかぁぁぁぁぁ!?」と言ってダンボール逃げ込んでいたものだが、冥界での特訓の成果かこんなボケを見せるようにもなった。

 ふざけた話は抜きにして、ディオドラのほしい僧侶とは十中八九アーシアのことだろう。不安げなアーシアはイッセーの手を強く握る。明らかに口にはしていないがいやだ、という態度だ。

 

「僕が望むトレードしたい僧侶は――アーシア・アルジェント」

 

 ディオドラはためらいもなくそう言い放ち、優しげな視線をアーシアに送る。それにしてもずいぶんと直球な手段に出たものである。

 

「こちらが用意するのは――」

 

 自分の下僕が載っているであろうカタログをディオドラが出そうとするが、それをダイスケがひったくる。

 

「なにをしてくれるのかな? 君は」

 

「いえね、部長はもともとトレードなんてする気ゼロだろうから一応客観的な目で見れる自分がチェックしようかと」

 

 そう言ってパラパラとページをめくり、ダイスケは「はぁ……」とわざと大きなため息をつく。そしてリストをぱたんと閉じ、ディオドラの足元に放り投げる。

 

「だめだ、これじゃあだめだ。話にならない」

 

「……僕の眷属を侮辱するのかい?」

 

「結果的にそうなりますねぇ。なんせどいつもこいつもアーシアと交換するだけの目立った特徴も能力もない。なのに獣転人のミゲラさんが入っていないっていうのがね。戦力的に見てもおいしい思いをするのはそっちだけじゃあないですか。こっちは友達と別れなきゃならないってのに。それに何より、同じ眷属連中が受け入れようとしないでしょう。どうです、部長?」

 

「そうね、私としても受け入れがたいわ。それにはっきり言っておいたほうがいいわね。私はトレードをする気は一切ないの。それはあなたの用意する僧侶が釣り合わないというのではなくて、単純にアーシアという存在を手放したくない」

 

「……それは彼女の神器? それとも彼女自身のことですか?」

 

「両方よ。私はあの子を妹のように思っているから」

 

「――部長さんっ!」

 

 アーシアは口元を手で覆い、その双眸を潤ませていた。リアスが自分のことを「妹」と家族同然に思ってくれていることがうれしかったのだろう。

 

「一緒に生活してる仲ですもの。情が深くなって離れたくないっていうのは理由にならないかしら? 私はそれで十分だと思うのだけれど。それに求婚しようという女性をトレードで手に入れるというのもどうなんでしょうね。あなた、求婚って言葉の持つ意味が分かっているのかしら?」

 

 自身も婚姻絡みでひと悶着あった身だ。最大限配慮をしているがディオドラに対して怒りを感じているのは間違いない。

 しかし、ディオドラはその笑みをやめない。

 

「――わかりました。今日はこれで失礼させていただきます。けれど、僕はあきらめません」

 

 ディオドラはそういって立ち上がり、アーシアの元へ歩み寄る。当惑するアーシアの前で跪き、その手を取ろうとしていた。

 

「アーシア、僕は君を愛している。大丈夫、運命は僕たちを裏切れない。この世のすべてが僕たちの間を否定しても、僕はそれを乗り越えるよ」

 

 わけのわからない気障なセリフを吐くと、そのままアーシアの手を取って甲にキスしようとする。

 

――プチッ

 

 イッセーの中で何かが切れた。気が付けば、イッセーはディオドラの肩をつかみ、アーシアから引きはがしていた。

 

「……放してくれないかな。薄汚いドラゴンに触れられるのはちょっとね」

 

 間違いない、これが本性である。その言いようにイッセーは頭に血が上り殴りかかりそうになる。が、しかし。

 パァン!と何かをはたいたような音が部室に響く。

 

「そんなこと……言わないでください!」

 

 アーシアがディオドラにビンタしていたのだ。

 ビンタされたディオドラの頬は赤くなっていたが、その笑みがやむ様子はない。ここまで来ると裏に何かあるのかと思ってしまうほどだ。

 

「なるほど、わかったよ。――ならこうしよう。次のゲーム、赤龍帝の兵藤一誠を僕が倒そう。そうしたら、アーシアは僕に応えてほしい――」

 

「――お前なんかに負けるわけねぇだろっ」

 

 面と向かって言うイッセー。これでわかりやすい形になった。

 

「赤龍帝、兵藤一誠。僕は君を倒すよ」

 

「ディオドラ。アスタロト、お前が薄汚いって言ってくれたドラゴンの力、とくと見せつけてやるよ!」

 

 その時、アザゼルの携帯が鳴る。いくつかの応答の後、アザゼルは告げる。

 

「ちょうどいい、ゲームの日取りが決まったぞ。――五日後だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメですっ、こんな時間に出歩くなんて!!」

 

「いや、だからアザゼル先生も一緒なんだって。もうすぐ先生が迎えに来るからさ」

 

「リリアちゃんの言うとおりだよ。それにアザゼル君だったらどんないかがわしい所にダイスケを連れて行くかわからないんだからね」

 

 その日の夕方、ダイスケはアザゼルと話をするために外出する準備をしていた。一応教師で人間界での保護者的立場の一人であるアザゼルが一緒なので、行くところさえ間違えなければこの時間の未成年の外出には問題は無いはずだった。

 だが、アザゼルのキャラクターを知っているリリアとミコトからしたらとんでもない話である。

 

「そのお話、家で出来ないんですか? お茶や軽食くらいは出します」

 

「そうそう、せっかくリリアちゃんがいるんだからなにも外でなんて……」

 

「いや、これは俺としてもなるべく内密にしたい相談なんだ。核心がある訳でも無いし、懸念の段階の話なんだ。お前らに聞かせて余計な心配をかけたくないし、聞いていて不愉快になるような話なんだ。わかってくれ」

 

「「うぅぅぅぅ……」」

 

 二人はまだ納得しきっていない。だが、無情にも玄関のチャイムが鳴る。

 

「ダイスケー、来たぜ」

 

「あ、はーい! じゃ、そういうことだから、晩飯は食べてくる。多分ちょっとは遅くなるから先に寝ちゃっててくれ。風呂掃除は最後にやる俺がするから。じゃ!!」

 

「「あーっ! 逃げた!!」」

 

 脱兎の如く携帯を握りしめて玄関に向かったダイスケは、急いで靴を履いてアザゼルになにも説明せぬまま一緒に走らせた。歩きに切り替えたのは家から直線距離5㎞を超えてようやくだった。

 

「お前よぉ、同居人に外出の話くらいはしておけよ」

 

「しました。しましたよ。しましたけど、過保護というか、なんというか……」

 

「今度言っておくか。「男には盗んだバイクで激走したくなるときがある」って」

 

「わかってくれるかなぁ……」

 

 住宅地から幹線道路に出た二人はタクシーを拾い、街中に向かった。タクシーが向かう先は歓楽街。最近ここは堕天使がヤクザから隆盛を奪い、健全営業且つサービスアップというある意味矛盾する成長を遂げていた。

 タクシーが止まったのはとある店の前。店名は「ダウンフォール・ヘヴン」。誰が経営しているのか知っている者ならすぐにわかる店名だった。この店は駒王町の中で最大級のサービスを誇る超高級店。階層が上がるにつれてサービス内容がグレードアップするが、一階の大衆向けエリアでも新宿歌舞伎町一番街の有名店にも劣らない充実ぶりである。

 

「いや、誰がこんなとこ連れてけっていったぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ファミレスの個室で充分だろうがぁぁぁぁぁ!!!」

 

「なに言ってるんだ、他所だと盗聴の危険がある。赤イ竹の一件を思い出せ。ここなら土地選びから設計、施工まで俺の指揮で管理してきたとこだ。おまけに店員は皆堕天使で、口は非常に堅い特に信頼できるのを選りすぐりで集めている。なんの気兼ねなく相談できるぜ」

 

「……そういうことなら仕方ないか」

 

「まぁ、ほとんど俺の趣味なんだがな。行くぞ」

 

「……はーい」

 

 その接客たるや店前からすごかった。何人もの顔立ちのいい堕天使の男たちが並んで頭を垂れ、階段を歩くものの気分はまさに王様気分。中に入ればスーパーモデルが裸足で逃げ出す超絶美女たちが店内で「いらっしゃいませ!」と明るく出迎えてくれる。

 その一階入り口の反対にあるエレベーターで通されたのは最上階のEXVIPルーム。本来なら他神話勢力の主神クラスを想定した滅多に使う予定がない超特別室だ。

 

「「黒い○帳」やぁ……「嬢○」やぁ……こんなんマンガや小説でしかしらねぇ……」

 

「お前、その年でチョイスが渋いな。ま、座れや」

 

 ダイスケが座るように促されたソファーもとてつもなかった。人工では無い、本物のレザーで暗い店内の照明を受けて妖しく光を反射している。そして気付いてしまった。床が鏡になっているのだ。煌びやか、というのもあるがこれでは――

 

「おっと、気付きましたかい、ダンナ。へっへっへっへ、そこは嬢が来てからのお楽しみ~」

 

「見ない! 絶対見ない!!」

 

「「「「「「いらっしゃいませ、アザゼル様、宝田様。本日は私たちがお相手させていただきます」」」」」」

 

「イヤァァァァァァァ! ドレスがかなり透けてるぅぅぅぅぅぅ!! 床なんて反射する上スカートだから見られないぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 目を両手で覆うダイスケの反応を見て堕天使嬢のテンションが上がる。

 

「いやん、かわいいぃ! アザゼル様、この子、教え子のお一人ですか!?」

 

「さぁさぁ、私の肩を抱いて。こういうとこではこれが礼儀よ? 勉強しないとね。それとももっと別の事、ベッドの上で勉強しちゃう?」

 

「い、いえ、後が怖いので遠慮しましゅぅぅぅぅぅぅ……」

 

 ダイスケの周りには奇しくも美人や美少女と呼べる女性が多くいる。リアス達は勿論、ヴェネラナやグレイフィアも美人だし、ミコトなど江戸時代の『古今貞女美人鑑』に別格とされたほどの美女だ。リリアだってサキュバスであるが故に超絶美少女と言っていい。

 だが、目の前の女たちは別のベクトルの美しさだ。ナチュラルなものではない、男を惑わしていかに金を絞るか。堅い男も堕落させるような、危険な毒のような美しさなのだ。免疫の無いダイスケなどは当然堪ったものではない。

 

「こういう所のポ○キーってねぇ、中身は同じなのにすごく高いのよぉ? はい、あーん」

 

「人間の未成年だからお酒はダメね。じゃ、こういう場所ではおなじみのオ○ナミンC出してあげるわ」

 

「は、はいぃぃぃぃ……じゃなくて! この状態じゃ話せるもんも離せませんよ、先生!」

 

「安心しろ。ここ嬢は接客だけでなく情報収集用のスパイとしても働いている。何かあったとき、こいつらプロに調べて貰う事も出来る。なぁ?」

 

「「「「「「はーい、私たちプロでーす!」」」」」」

 

「……信用できねぇ」

 

「あら、なら試してみる? 私たちがこのカラダでどうやって情報を集めるか……」

 

「この状態だと聞いていない事も聞き出せちゃいそうだけど……?」

 

 ダイスケの頬と胸板に怪しく手が伸びる。それに対してダイスケはただ震えるばかり。それをアザゼルが止める。

 

「おいおい、童貞相手にいじめすんな。腹も減ってるだろう、つまみじゃなくガツンとした食い物持ってこさせる。食いながら話聞くぜ。――おい」

 

「「「「「「了かーい」」」」」」

 

 ややあって肉料理と飲み物が提供され、その頃にはダイスケもようやく場の空気になれてきた。やっとこれで本題に入れる。

 

「ディオドラのことだったな。奴のなにが気になる?」

 

「はい、それが――」

 

 ダイスケはまず、夏休み中にミゲラから聞いたディオドラに拾われるまでの経緯を話した。その時点までは嬢たちも「あら、いい貴族のお坊ちゃまね」と感心していた。が、その態度は豹変する。

 それは、アーシアが教会を追放された経緯と、ミゲラの経緯がよく似ているのではないかという話だ。これまでアーシアが助けた悪魔が何者なのかはわからなかった。しかし、夏休み終わりにその悪魔がディオドラ本人である事が発覚したときダイスケの中である疑念が生まれた。

 

「似すぎているんですよ、この二つの事例。「聖女」と祭り上げられた敬虔なシスターが、悪魔を助けた事によって追放されてって……アーシアは俺たちと出会いました。けど、もしかしたら、ミゲラさんと同じようにディオドラはアーシアを……いや、ディオドラの眷属は見る限りみんな女だった。もしかしたら、全員同じ経緯でディオドラに引き取られたんじゃないかって。ディオドラは、自作自演の事故を起こして「聖女」に助けられ、追放された聖女を自分の物にするいわば「釣り」をしてるんじゃないですか?」

 

「……だとしたらその貴族、余程のシスター萌えで性的倒錯者ね。汚れのない者を自らの手で汚し、所有物にする。もしこれが本当ならゲスの中のゲスね」

 

「悪魔の貴族の道楽としたらたいしたタマよ。なにせ実に悪魔らしいわ。私たち堕天使が聖職者や転身を誘惑する事があってもあくまでも戦いだった。でもその男の所業が本当なら……悪魔の中でも淫獣と言ってもいい奴よ」

 

 その言葉を聞いてダイスケは安心した。彼女たちはいかに相手を堕落させる存在と言っても、その行動を戦いの一つとしてやってはならない一線というか誇りをもって堕天使の仕事をしている女性(ヒト)達なのだ。ただの淫乱や売女ではない、誇りを持って自分とは違う戦場で戦う戦士達なのだ。

 

「そうだな、もしもそうなら天界との外交軋轢にも繋がる。……ディオドラの周囲を洗ってみよう。実はさっきイッセーからヴァーリと接触したって言う報告があってな。奴曰く「ディオドラには警戒しろ」との事だったそうだ。――まずは本人の交友関係に眷属の出自。ディオドラ個人の出入り業者もアジュカに頼んで調べて貰おう。明日からやってくれるか、お前達?」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 その言葉は先程の水商売用のものではなかった。まさに選りすぐりのエージェントの声だった。それにダイスケは安心し、立ち上がる。

 

「すいません、じゃあお願いします。経費なんかは出世払いで、俺はこれで――」

 

 ダイスケが別れの台詞を吐いてそそくさと退出しようとしたその時、ダイスケの肩と腕が多くの嬢の手で捕まれる。

 

「あら、出世払いなんてとんでもない。今、ここで払っていってもいいじゃない」

 

「い、いや、俺そんなにお金持ってないし――」

 

「お金ならお仕事だからアザゼル様にきちんと払ってもらえるわ。今アナタに払ってもらうのは――」

 

「「「「「「――カ・ラ・ダ」」」」」」

 

「……え゛」

 

 そこへアザゼルがショットグラスでウイスキーを呷りながら言う。

 

「こいつらの相手はいつも俺みたいなおっさんとかだからなぁ。お前さんみたいな若くて初心な男の相手は珍しいんだよ。俺だって部下の精神衛生管理はしなきゃならん。――まぁ、玩ばれてこい。俺はここで飲んでるから、お前達はホテルに送ってやる。ああ、ファーストキスと童貞喪失だけは勘弁してやってくれよ。そいつには()()()()がいるんだから」

 

「「「「「「はーい! 自重して遊びまーす!」」」」」」

 

「いや、ちょ、ま、やめて、ああああああ、転移陣作るなぁぁぁぁぁ!!! 待って、止めて、あ、そこはダメ、やめ、き、気持ちよくなんか、ああ、うっ! 待って、まだそこ敏感、んはぁ! 悔しいっ! でも感じちゃう(ビクンビクン)……ま、ちょ、や、助け――」

 

――いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!

 

 裸にひん剥かれ、嬌声を上げながらダイスケは嬢達と共に転移陣の光の向こうへ消えていった。

 

 

 

   ・

   ・

   ・

    ・

 

 

 

 現在深夜二時、リリアとミコトはずっとダイスケの帰宅を待っていた。夕食は心配ないとして、アザゼルがどこへダイスケを連れて行ったか問題だ。しかもこの時間、明日も金曜で学校があるというのにあまりにも帰宅が遅い。

 

「アザゼル君、ダイスケにお酒飲ませなきゃいいんだけど」

 

「お酒ならまだいいですよ、ミコトさん。もしも堕天使の風俗なんかに連れて行かれたら……」

 

「い、いやぁ、ダイスケはそこの所しっかりしてるよ? 信じて待とうよ、ね?」

 

「……だと良いんですけど」

 

 リリアがそうため息をついた瞬間、玄関のドアが開かれる音がした。急いで二人は玄関に走っていく。するとそこにはパンツ一丁で全身キスマークまみれ、精神が抜けた状態で玄関に服を持って突っ立ているダイスケがいた。

 

「な、なにその格好にキスマーク!?」

 

「ま、まさかダイスケ様、本当に……ダイスケ様?」

 

 リリアがダイスケの異変に気付く。完全に精神が抜けて死んだ魚のような目になっていたダイスケの目に二人の同居人の姿が映った瞬間、大粒の涙がとめどなく溢れ出したのだ。そして力なく二人の側に歩み寄り、二人に抱きついてさらに大泣きした。

 

「こわいぃぃぃ……おとなのおんなこわいぃぃぃぃぃぃ……こわかった、こわかったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!! ままぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 その後リリアとミコトが二人がかりで落ち着かせてダイスケの身体を洗い、ベッドに寝かしつけて添い寝で就寝させるまで幼児退行したままだったという。




 はい、というわけでVS44でした。
 ゼファードルの眷属三人が本気を出していなかったのには理由があります。多分この六巻分の最後に明らかに出来ると思います。
 実はアリヴィアンの獣具はヴァーリに与える予定でした。相手に使わず自分のマインドリセットに使わせる予定でしたが、イッセーもヴァーリも獣転人にするのを止めたのでこうしました。ということで、活動報告のアンケートはこれにて終了です。後で更新します。
 あ、一応ダイスケは今回ズタボロにされましたが最後の一線は越えていませんよ。まぁ、トラウマは植え付けられましたが。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS45 予期せぬインタビューと予期せぬゲームの行方

 ちょっと時間を空けようかなとも思いましたが、話を進められるなら進めた方が良いなと判断しました。だってこの先長いもん。
 あと、この体育館裏のホーリーの分で重要な設定はある程度出切ります。……それ踏まえて、どこかとコラボできねぇかなぁ……。


 ディオドラとの試合が迫ったある日、ダイスケはまず兵藤宅に向かった。他のグレモリー眷属と合流し、冥界に向かうためである。なぜ冥界に向かうのかというと、テレビ取材のためであった。

 前回のシトリー戦を含む若手悪魔のレーティングゲームは冥界全土に放送された。そこでもともと有名であったリアスはさらに知名度を上げた。そのため、さらにゲームの視聴率を稼ぐために事前インタビューが行われることになった。

 もちろんそこには他種族初参加となるダイスケも一部の注目を浴びたので取材に参加、ということに相成った。

 一同が集合し、転移用魔方陣で一気に冥界へ旅立つ。そして転移した先は大きなビルの地下であった。駐車場のような転移用のスペースらしい。そこに着くなり、眷属一同はスタッフの歓待を受けた。

 

「お待ちしておりました、リアス・グレモリー様。そして眷属の皆様。さあ、こちらへ」

 

 プロデューサーを名乗る人物に先導され、上層階へ行く。冥界でも珍しい大きな湖を望む立地は素晴らしいの一言で、周囲にある魔力で勝手に動く小道具などもダイスケの目を楽しませた。

 すると、見知った顔が十人ほどを引き連れてやってくる。

 

「サイラオーグ! 同じ日にあなたも呼ばれるなんて」

 

 貴族のローブを大胆に羽織り、その鍛え上げられた肉体は隠されている。しかし、一分の隙もない。常に戦闘を意識しているのだろう。

 

「やあ、リアス。君もインタビューか」

 

「ええ、あなたはもう終わったの?」

 

「いや、これからさ。君らとは別のスタジオらしい――試合、見たぞ」

 

 その言葉を聞いた途端、リアスの表情が厳しくなる。

 

「お互い新人丸出し、素人臭さがどうにも抜けないな。いかんいかん」

 

 リアスを励ましているのだろう、サイラオーグは苦笑しながら言う。

 

「どれほどパワーがあろうとも、型に嵌れば負ける。相手は一瞬の隙を全力で突いてくるわけだからな。おまけに神器は未知の部分が多い。何が起こり、何をさせられるのかわからない。お前たちのソーナ・シトリーの一戦ではそれを改めて学ばせてもらった。――だが」

 

 ぽん、とサイラオーグはイッセーの肩を軽くたたく。

 

「お前とは理屈なしのパワー勝負をしたいものだよ。ライザー氏との一戦を見て以来、ずっとそう考えてきた」

 

 サイラオーグはそれだけ言うと別のスタジオへ向けて歩き去って行った。その後、一同は楽屋に通された。そこで荷物を置き一息いれる。

 なお、今日はアザゼルは引率していない。別の番組の収録があるらしい。イリナも出番などないので居候先の兵藤家で待機している。

 ややあって、スタッフにスタジオに案内され中に通される。まだ準備中らしく、スタッフたちが忙しそうに動いていた。すると、インタビュアーらしき女性がリアスにあいさつする。

 

「お初にお目にかかります、冥界第一放送の局アナをしているものです」

 

「こちらこそ、今日はよろしくお願いしますわ」

 

 お互いに笑顔で握手する。

 

「では早速で恐縮なのですが打ち合わせのほうを……」

 

 すると早速二人でスタッフを交えながら打ち合わせに入る。周囲を見渡せば観覧局用のいすがいくつも備えられており、大勢の前でインタビューを受けることが予想できた。

 

「ぼぼぼぼぼぼ僕もう帰りたいですぅ……」

 

 イッセーの陰に隠れて震えるギャスパーが言う。

 

「バッカ野郎、俺だって緊張してるんだ。今まで人の注目なんて集めたことないんだぞ。ゲームで戦うことのほうがよっぽどだろうが」

 

「そんなこと言われたってぇ……」

 

 珍しく緊張するダイスケがギャスパーに言う。普段傍若無人でも緊張することくらいはあるのだ。

 

「眷属悪魔さんたちのもインタビューが来ることがあると思いますが、その時はあまり緊張せずに」

 

 スタッフが気を利かせてくれるが、それでも緊張は収まらない。そんな中。

 

「えー、木場祐斗さんと姫島朱乃さんはいらっしゃいませんか?」

 

「あ、僕です」

 

「私ですわ」

 

 二人が手を上げるとスタッフが駆け寄ってくる。

 

「お二人が木場祐斗さんと姫島朱乃さんですね。お二人にはそこそこ質問が行くかと思われます。何せ、お二人とも人気急上昇中ですから」

 

「そうなんですか!?」

 

 イッセーが驚きの声を上げると、スタッフが答えた。

 

「ええ、それぞれ男性ファンと女性ファンがついていましたからね。そこへ先日の試合で「誰だ、あの男前と美女は!?」となってさらに赤丸急上昇中なんですよ」

 

 もともとの見てくれもいい二人だ。そういうこともあるだろう。

 

「それと、兵藤一誠さんは……」

 

「あ、俺です」

 

 イッセーが名乗りを上げて前に出るが、スタッフのほうはというときょとんとした表情だ。合点がいかない、といった感じなのである。

 

「えっと、あなたは……?」

 

「あの、俺が兵藤一誠です。一応赤龍帝やってるんですが……」

 

 恐る恐るそういうと、スタッフはやっと気が付いたらしき手をポンとたたく。

 

「あ、そうですか。あなたが! いやぁ、お恥ずかしい。鎧の姿のほうだけで記憶しておりました。兵藤さんには別スタジオでの収録もあるんです。なにせ『乳龍帝』として有名になってますからね」

 

「ち、ち、ち、『乳龍帝』ぇぇぇぇええええええ!?」

 

 自分があずかり知らぬところでつけられていた二つ名に驚くイッセー。それもそうだ、なにせそういう風に言われる心当たりがない。

 

「子供にすごく人気になってるんですよ。小っちゃい子なんか「おっぱいドラゴン」なんて呼んじゃって。シトリー戦の時におっぱいおっぱい叫んでいたでしょう。あれがお茶の間に流れまして、それを見た子供たちに大うけしちゃってるんですよ」

 

 あまりの話に顔を抑えてうずくまるイッセー。確かにイッセーはゲームの最中おっぱいおっぱい叫んでいた。新たなおっぱい技も披露した。だが本人としては至極まじめな話であって、よもやこんな伝わり方をするとは思ってもみなかったのである。

 

「口は災いの元ってこれだね」

 

 ダイスケの言葉が更なる追い討ちになる。もう立てないかもしれない。しかし、ダメージを受けているのはイッセーだけではなかった。

 

『そ、そんなっ、そんなっ……うううううううう』

 

 イッセーの中でドライグが突然泣き出す。

 

『二天龍と称されたこの俺が……赤龍帝と呼ばれ、多くの者に畏怖されたこの俺が……』

 

 マジ泣きである。よほどショックだったらしい。悲しいかな神器は宿る人間を選べない(一部例外ありだが)のだ。

 

「では兵藤さんはこちらへ、案内いたします」

 

 スタッフに案内され、イッセーは別スタジオに向かっていく。

 

「すいません、宝田大助さんはどちらにいらっしゃいますか?」

 

「俺です」

 

 まさか自分が呼ばれるとはいなかったダイスケが手を上げる。

 

「こちらでしたか。実はあなたにはレーティングゲーム初参加の異種族として個人インタビューを敢行しようと思っていまして」

 

「こ、個人インタビューですか?」

 

「はい。なにせレーティングゲーム始まって以来初の異種族の参加、それも未来のゲーム像のテストケースですから特別枠を設けようという話でして。レーティングゲームファンからも注目されているんですよ。お部屋に案内します」

 

「そうなんすか……」

 

 いよいよダイスケも傍観者でいられなくなった。

 スタッフに「こちらへどうぞ」と通された部屋は小さな会議室のようであった。ダイスケが座るであろう簡素な椅子の墓に所狭しと機材が置かれている。 

 

「すいません、散らかっていて。何せあいている部屋がここぐらいしかなかったもので」

 

 そう詫びられつつもダイスケは椅子に座り、早速インタビューが始まった。

 

「それでは、簡単な質問をいくつかしていきます。細かいところはこちらで編集しますのでご安心ください。ではまず、自己紹介と神器……ではなく獣具について少し教えてください」

 

「はい……宝田大助16歳、学生やってます。獣具は「怪獣王の王装(ゴジラ・アーセナルズ)」で、ゴジラの獣転人です。ゲームの際の駒価値はEXと特別仕様です」

 

「大丈夫です。では、今回初めての異種族のレーティングゲームの参加となりますが、そのことについてはどう思われていますか?」

 

「初参加、ということに関しては光栄に思っています。何せ門戸が狭い競技に参加できるのですし、自分にとってもいい経験になるでしょう。まあ、俺が参加するのが不愉快だという方もいらっしゃるでしょうが」

 

「いえ、まさかそんなことは」

 

 インタビュアーは否定するが、ダイスケはいやいや、と言って続ける。

 

「大丈夫です、わかってますから。元々貴族の悪魔のみが下僕を使って戦うって競技に、突然自分みたいな部外者がしゃしゃり出てくるんです。不愉快に思わない悪魔がいないわけがありません」

 

「確かに、保守的な悪魔はそう思うかもしれませんね」

 

「ですが三大勢力が手を取り合った今、いずれ天界側の御使い(ブレイブ・セイント)との異種混同戦も予定されている今ならいいテストケースになれるんじゃないかと思っています。そこのところで自分が役にたてるのなら幸いです」

 

 その言葉を聞いたインタビュアーや関係者に衝撃が走る。

 

御使い(ブレイブ・セイント)? 異種混同戦? すいませんそこのところを詳しく!!」

 

「あれ、これまだ発表されていないんですか。やべぇ。すいません、ここカットで。俺も詳しいところはわからないんで」

 

「……だめですか?」

 

「現政府からも発表がないことはさすがに……ね?」

 

「わかりました、カットしておきます――では、あなたが注目している選手を教えてください」

 

「……サイラオーグ・バアル氏ですね。一度記録映像を見ましたが、あの方は半端ではありませんから。警戒が必要だと思っています」

 

「では、実際のゲームではサイラオーグ氏との対戦も視野に?」

 

「いや、あの人が気になってるのはイッセー……赤龍帝ですからね。自分なんかは目にも入っていないでしょう」

 

「なるほど、自分がぶつかる可能性は低いと見られているのですね。では、獣転人として注目されているはどなたでしょう? まだ詳細は明らかになっていないようですので、わかっている範囲でお願いします」

 

「……わかっているだけで、というならアスタロト眷属のミゲラ・サンタクルスさんです。獣転人っていうのは、ある程度過去の記憶があるんですが、彼女のはないんです。関わりがなかったからなんでしょうが、今度ぶつかる相手として注目しています」

 

 まあ、本当に気になっている理由としては先日アザゼルに相談した事が原因なのだが、まさか今ここで言える話ではないので黙っておく。

 

「では前回の試合で一番注目された……「シトリー眷属四名拘束水没事件」についてですが、あの残虐な作戦の大部分を思いついたのはアナタだという情報がありますが本当ですか?」

 

 思わずダイスケは椅子からずり落ちる。

 

「いや、あの、あれはあれですよ? リアスさんが「こっちの作戦の都合上あの四人をなんとかしてリタイアさせずにいさせる必要がある」って言われたもんですから。こっちだって必死だったんですよ」

 

「でしょうね。それで思わず素が出たと」

 

「素ってなに!? 俺は元から残虐ファイターってか!? 違いますからね、冥界の皆さん! ダイスケ、コワクナイ! ゴジラ、コワクナイ! ミンナノトモダチ!」

 

 この部分が大々的に報じられ、ダイスケが残虐ファイターであるという評価とお笑いファイターだという評価に分かれ、業界を賑わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「別にあの店でも良いだろうがよぉ。そんなにあいつらの《O・MO・TE・NA・SHI(集団全身責め)》が怖かったのか?」

 

「あったり前だ、この不良中年堕天使!! お陰でトラウマが出来たんだよ、俺は!! ――で、結果は?」

 

「黒。真っ黒だ。しかも野郎、ゲスであるどころか連中とも手を組んでいやがった」

 

「……この事、リアスさん達には」

 

「伝えない方針だ。悪いがお前達を出汁にして冥界の膿を一気に出させて欲しい。……黙っていてくれるか?」

 

「黙らないとダメなんでしょう? あーあ、イッセー達に恨まれるかもなぁ」

 

「その時は俺たちも一緒に恨まれる。一人じゃないさ。騙すっていうのは辛いけどな。じゃあ、贖罪の前払いで例の店連れてってやる。さぁ、来い」

 

「いや行かないって……なにこの足元の転移陣? あ、まさか、テメッ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 決戦の日、グレモリー眷属とダイスケは深夜にオカルト研究部の部室で待機していた。ダイスケの腕には例のリストバンド。調整されてさらに安全性が向上したらしい。

 ちなみにミコトはVIP観覧席、リリアはグレモリーの屋敷で他のメイド仲間とテレビで観戦だ。

 

「そういやイッセーさ、この前のテレビ収録の日、別撮りで何やってたんだ?」

 

 戦いの前の緊張感を少しでも減らすため、ダイスケがイッセーに他愛のない話題を振る。

 

「それは内緒。身内にも秘密にしてくれってテレビ局の人にも言われててさ、悪いな」

 

「ほんと、何やってるんだよお前……」

 

「ほらほら、そんなこと言ってないでそろそろ時間よ」

 

 パンパン、とリアスが手を叩いて話を止めさせる。

 

「いい? 相手はどんな力を使ったか知らないけれど、絶大な力で単騎突入も可能な(キング)よ。でも、(キング)さえ取ればゲームは終わる! こっちはパワーだけなら負けないものがゴロゴロいるわ。奴が単騎で来ても返り討ちにするわよ!」

 

『はい!』

 

 全員は勢いよく返事する。しかし、アーシアだけはどこか不安げな様子だった。

 それもそうだ、今回は彼女は賭けの対象にされてしまっている。この一戦で恩あるイッセーから離れなければならないかもしれないのだ。そんなアーシアの手をイッセーはぎゅっと握る。

 

「大丈夫だ。奴がどんな手を使ってきても、俺がアーシアを守るよ」

 

「――! はいっ、イッセーさん!」

 

 いよいよ全員の足元に大きな転移用魔方陣が現れ、光に包まれる。

 決戦の時は来た。

 

 

    ・

    ・

    ・

 

 

「……着いたのか?」

    

 まばゆい魔方陣の閃光が収まり、視力が回復したのでイッセーはゆっくりと瞳を開ける。そこは広大なエリアだった。一定間隔でローマ建築のような柱が何本もそびえ立ち、その後方には大きな神殿らしき建築物も見える。

 ここが自分たちの陣地なのか、と思っていたがどうもおかしい。審判のアナウンスがいつまでたっても聞こえてこない。

 

「どういうこと?」

 

 リアスも、そのほかのメンバーも怪訝な表情になっている。その中でもダイスケは最大限の警戒態勢を取り、すでに鎧姿になっている。

 そんな時、神殿の反対方向に多数の転移用魔方陣が現れる。

 

「え、こんな近くでいきなり!?」

 

 イッセーは慌てふためくが、よく見るとその魔方陣は以前見たアスタロトのものではない。

 

「……アスタロトじゃない!?」

 

 木場もそのことに気づき、剣を構える。

 

「魔方陣そのものに共通点は見られませんわね。ですが――」

 

「ええ、朱乃。すべて悪魔のものよ。しかも記憶が確かなら――」

 

 魔方陣の中から現れたのは大勢の悪魔たちであった。数は百や二百では済まない。少なく見積もっても千以上の悪魔がリアスたちに対して半包囲陣形を取っている。そしてそのすべてがリアスたちに敵意と殺気を向けていた。

 

「いくつかの魔方陣を見て分かったわ。彼らは禍の団(カオス・ブリゲード)の旧魔王派に傾倒した者たちよ」

 

 そのリアスの言葉を肯定するように、陣形の先頭に立った悪魔は言う。

 

「忌々しき偽りの魔王の血縁者、グレモリー。ここで死んでもらう」

 

「キャッ!」

 

 突然、悲鳴が聞こえる。アーシアの声だ。イッセーはアーシアがいた自分の隣を見るが、その姿はない。

 

「イッセーさん!」

 

 すると、アーシアの声は上空から聞こえてくる。そこにはアーシアを捕まえたディオドラの姿があった。

 

「やあ、リアス・グレモリー。そして赤龍帝。アーシア・アルジェントは頂くよ」

 

「アーシアを放せ、このクソ野郎!卑怯だぞ!つーか、ゲームで決着つけるんじゃなかったのかよ!!」

 

 イッセーのその叫びに、ディオドラは初めてそのさわやかそうな笑みを捨て、醜悪な顔つきになる。

 

「馬鹿じゃないのかい? ゲームなんてハナからするつもりはないよ。君たちはここで彼ら、禍の団のエージェントに殺されるんだよ。いくら君達でもこの数の上級悪魔と中級悪魔を相手取れないだろう? ハハハハ、死んでくれ。速やかにね」

 

 リアスは憤怒の表情で上空に浮かぶディオドラを激しく睨む。

 

「あなた、禍の団に通じたというの!? 最低最悪だわ。しかもゲームまで穢すなんて万死に値する!!何よりも私のかわいいアーシアを奪い去ろうとするなんて!!」

 

「彼らと行動したほうが僕の好きなことを好きなだけできそうだと思ったからね。ま、最後のあがきをしてくれ。僕はその間にアーシアと契る。意味は分かるな? 追ってきたら神殿の奥に来るといい、素敵なものが見られるよ」

 

 ディオドラの嘲笑の中、ゼノヴィアはイッセーに叫ぶ。

 

「アスカロンを!」

 

「応!」

 

 イッセーはすぐに反応し、籠手からゼノヴィアに向けてアスカロンを射出する。空中でそれを受け取ったゼノヴィアはディオドラに斬りかかる。

 

「アーシアは私の友達だ! お前の好きにさせるかっ!!」

 

 ゼノヴィアは怒りで燃えていた。しかし、放たれた魔力弾で体勢を崩し、剣戟は届かなかった。アスカロンから放たれた聖なるオーラも躱されてしまう。

 

「イッセーさん! ゼノヴィアさ――」

 

 助けを乞うアーシアであったが、ディオドラが空間転移したせいでともに掻き消えてしまった。

 

「アーシアァァァァァァアアアアアア!!」

 

 イッセーは消えてしまったアーシアを呼ぶが、当然ながら返事など帰ってくるはずもない。守れなかった悔しさに、イッセーは自分が許せなくなる。

 

「イッセー、まずはこいつらの相手が先決だ! アーシアのことははそのあと考えればいい!!」

 

 ダイスケがイッセーを柱の陰に投げ入れる。それと同時に悪魔たちは魔力の砲撃を雨霰と撃ってきた。あわてて一行は柱の陰に隠れる。

 

「ダイスケ!?」

 

 物陰に一旦隠れたリアスが叫ぶ。ダイスケは上級悪魔の砲撃の中に曝されたのだ。しかし、ダイスケの分厚い装甲はそれをものともしない。

 

「そーらよっと!!」

 

 ダイスケは倒れていた柱の一本を持ち上げ、凄まじい力で放り投げる。石柱は空中で砲撃を受けてバラバラになるが、その巨大な飛礫は幾人もの悪魔を押しつぶした。

 さらに、ダイスケは熱線剣を二刀流に構え、悪魔の群れへと突っ込もうとする。が、そのとき。

 

「きゃっ!」

 

 朱乃の悲鳴が聞こえた。何事か、と思えば見知らぬ長いひげを顎に蓄えた隻眼の老人が朱乃のスカートをめくっていた。

 

「うんうん、よい尻じゃ。何よりも若さゆえの張りがたまらんわい」

 

「てめぇ、このクソジジイ! こんな時に何してやがる!! 朱乃さんのお尻は俺のだ!!」

 

 イッセーが怒りのままその老人を朱乃から引きはがす。

 

「一体どこから湧いて出てきやがった――ってあんた!?」

 

 イッセーはその老人に見覚えがあった。その老人とはイッセーはシトリーとの一戦を終えた後の医務室で一度出会っていた。そして、リアスがその名を叫ぶ。

 

「オーディン様! なぜこちらに!?」

 

「うむ、話すと長くなるがのう、グレモリー嬢。簡潔に言ってしまうとこのゲームは禍の団に乗っ取られてしまったのじゃよ。貴賓席がある会場も今攻撃を受けておる」

 

「そんな、そこまでなのですか!?」 

 

「今運営側と各勢力の面々が協力体制を敷いて向かい撃っておるよ。ま、あのアスタロトの小僧が裏で旧魔王派の手を引いていたことも判明しちょる。例の急激なパワーアップも大方オーフィスから『蛇』でも貰い受けたのじゃろうて。じゃが、このままではお主等が危険であろう?そのための救援をわしが引き連れてこようとしたんじゃが、このゲームフィールドごと強力な結界に覆われていてのう、波の力では突破も破壊もできん。内側から結界を展開しているものを破壊せんとどうにもならん」

 

「じゃあ、爺さんはどうやってここに?」

 

「赤龍帝よ、儂はミーミルの泉にこの片目を差し出した時にあらゆる魔術、魔力、術式に精通するするようになってのう。この手の結界に関してもそうじゃ」

 

 そういってオーディンはイッセーに自分の左目にある義眼を見せる。それはまるで、言いようのない深淵を覗き込むような気分であった。思わず背筋が凍る。

 

「北欧の主神だ! 打ち取れば名が揚がるぞ!!」

 

 すると、オーディンの姿を確認した悪魔たちが狙いをオーディンに集中させる。

 

「やべぇ!」

 

 ダイスケは急いで身を盾にしようと走るが、どうしても間に合わない。しかし、オーディン本人は余裕綽々、たった一度手にした槍でポンと地面を突く。するとオーディンを狙った魔力弾はすべて宙ではじけて消滅してしまう。

 

「ホッホッホ、まだまだ若いもんに心配させられんわい」

 

 その御業に悪魔たちも顔色を変える。

 

「本来ならばわしの力があれば結界を破るなぞたやすいのじゃが、ここに入るだけで精いっぱいとはの。はてさて相手はどれほどの使い手か。ま、これだけはお前たちに渡してくれとアザゼルの小僧に頼まれとるからのう、ほれ。全く、年寄りに使い走りさせるとはあの小僧はどうしてくれようか」

 

 そんな小言を漏らしながらもまとめてイッセーに渡したそれは小型の通信機であった。数は人数分ある。

 

「ほれ、ここはこのジジイに任せて神殿まで走れ。神様が戦場に立ってお主等を援護すると言うとるんじゃ」

 

 言いながらオーディンは手にした槍をイッセーたちに向けると薄いオーラの膜が放たれ、その身を覆う。

 

「それが神殿に着くまでお主等を守る。ほれ、走らんかい」

 

「で、でも爺さんだけで大丈夫なのかよ!?」

 

「言うたじゃろ、若いもんに心配されるほど――」

 

 今度はオーディンは槍を悪魔の群れに向ける。

 

「――グングニル」

 

 呪文のように唱えられたその名はオーディンが手にした槍の名である。その槍の穂先から極太のオーラが放出され、横一線に薙ぐ。するとその一撃ははるかかなたまで伸び、悪魔の群れの数十人ほどを一掃するどころか深く地を抉っていた。

 

「なに、ジジイもたまに動かんと鈍るでな。さーてテロリストども、本気でかかってくるがよい。主らの前にいるジジイは想像を絶するぞい」

 

 先ほどの一撃が効いたのか、先ほどは名が揚がると意気揚々であった悪魔たちの表情に緊迫の色が浮かんでいた。誰も容易に襲い掛かろうとせず、様子を見ている状態だ。

 その一瞬を突き、リアスたちは走り出す。

 

「すいません、ここはお願いします! さあ、神殿まで一気に走るわよ!」

 

 リアスは一礼し、眷属とともに走り出す。その間にも悪魔たちとオーディンとの戦いは再開されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 神殿の入り口に着くと同時に、一同はオーディンから渡された通信機をイッセーから受け取り装着した。するとすぐに声が聞こえてくる。

 

『そっちは無事か?アザゼルだ』

 

「ええ、無事よ。そっちのほうはどうなって――」

 

『――言いたいことはいろいろあるだろうが、まずはこっちの話を聞いてくれ。オーディンの爺さんから聞いてるだろうが、このゲームは禍の団の旧魔王派に攻撃された。そっちのフィールドも、VIPルーム周辺も旧魔王派だらけだ。だが、これはこちらも予想していたことだ。現在は各神話勢力が協力して旧魔王派を迎撃している』

 

「予想していた? どういうこと?」

 

 リアスが怪訝そうな表情になってアザゼルに問う。

 

『最近、現魔王に関係する者の不審死がつづいていた。裏で動いていたのは旧魔王派、グラシャボラス家の次期党首が不慮の事故死したのも実際は連中が手にかけたってことだ』

 

「なるほど、今回は私。オーディン様もターゲットなのかしら」

 

『そういうことだろう。首謀者として名が挙がっているのは旧ベルゼブブと旧アスモデウスの子孫だ。カテレアの奴といい、旧魔王派の連中の現魔王政府に抱く憎悪は大きい。このゲーム襲撃を世界転覆の狼煙として現魔王派の関係者を血祭りに上げるつもりだったんだろう。ちょうど観覧に現魔王や各勢力のトップもそろっている。これほどのチャンスはないからな。先日のアスタロト対アガレスの一戦から疑惑はあったんだ』

 

「じゃあ、ディオドラの野郎が急激にパワーアップしたっていうのは?」

 

『オーフィスの力の一部、『蛇』を授かったんだろう。ゲームで使うことは旧魔王派の連中も計算外だったろうがな。だからこそ、グラシャボラスの一件と併せて今回何か起きるだろうという予測が立てられた』

 

 相手が卑怯な手を使ってきたことに、ますますイッセーはディオドラへの怒りの炎を強くする。

 

『あっちにすればこちらを始末できれば何でもいいんだろうが。だが、俺たちにしてもまたとない機会だ。今後の世界に悪影響を及ぼしそうな連中を一網打尽にするにはちょうどいい。現魔王にセラフたち、オーディンのジジイにギリシャの神々、帝釈天のところの仏どもも出張ってテロリストどもを一気につぶす寸法だ。事前にテロの可能性を極秘裏に各勢力に示唆したらどいつもこいつも応じやがった。どこの連中も勝気だよ。今全員旧魔王派相手に大立ち回りだ』

 

「いずれにしろこのゲームはご破算ね」

 

『すまなかったな、リアス。戦争なんぞそうそう起こらないと言っておいてこのざまだ。今回お前たちには危険な目に合わせてしまった』

 

「あの、もし俺たちが死んじゃったらどうするつもりだったんですか?」

 

 イッセーが何気なく聞いたが、帰ってきたアザゼルの声色は真剣なものだった。

 

「それ相応の責任を取るつもりだった。俺の首を差し出して済むのならそうするつもりだった」

 

 自身の命を賭けていたのである。その覚悟に一瞬、イッセーは息を詰まらせた。しかし、どうしても言わなければならないことがあるのを思い出した。

 

「先生、アーシアがディオドラに攫われたんです!」

 

『――っ、わかった。いずれにしれ、これ以上お前たちを危険なところにいさせるわけにはいかん。アーシアは俺たちに任せろ。そこは本格的に戦場になる。その神殿には隠し地下室が設けられている。かなり丈夫な造りだ、そこに戦闘が収まるまで待っていてくれ。このフィールドを覆っている結界は禍の団の神滅具所有者が作ったもので入るのはたやすいが出るのはほぼ不可能に近い。そのせいで戦闘が終わるまで待ってもらわなければならない。『絶霧(ディメンション・ロスト)』は結界、空間に関する神器の中でも飛びぬけているからあのオーディンのジジイにも破壊できない』

 

「ひょっとして先生もこのフィールドにいるんですか?」

 

『ああ、いる。かなり広大だから離れてはいるが』

 

「……わかりました、アーシアは俺たちで救います」

 

 イッセーがまっすぐに言う。

 

『ちょっと待て、お前今の状況が分かってて言ってるのか?』

 

 通信機越しのアザゼルの声には怒気が含まれていた。しかし、イッセーは止まらない。

 

「難しいことはわかりません。でも、アーシアは俺の仲間、いや家族なんです! 俺はアーシアを失いたくない!」

 

 こうしている間にも、アーシアの身に危険が迫っているのだ。知れを考えるだけでイッセーのはらわたは煮えくり返る。もう、待っていられない。そんなイッセーに呼応してリアスが言う。

 

「アザゼル先生、悪いけど私たちはこのまま神殿の奥にはいってアーシアを救出するわ。ゲームはご破算だけど、奴とは決着をつけなければ気が済まない。私の眷属を奪うということがどれほど愚かなことかその身に教え込まないといけないのよっ!」

 

 さらに朱乃がつづく。

 

「先生、確か私たち三大勢力で不審な行為を行うものに実力行使してもいい権限がありましたわよね?今まさにその時では?」

 

 通信機の向こうで、アザゼルは嘆息を漏らす。

 

『……ったく、頑固で屁理屈が回る教え子どもだ。まあいい、今回は前回と違って限定条件なんかない。だからこそ、お前たちのパワーを止められるものはない。存分に暴れていいぞ! 特にイッセー! 赤龍帝の力をあの裏切り者の小僧に見せつけてこい!』

 

『了解!』 

 

『最後にこれだけは聞いてくれ。奴らはこちらに予見されることも見越していたはずだ。それでも実行したってことは何らかの隠し玉を持っている可能性がある。それがなんなのかまだ分からないが、このフィールドが危険なことには変わりない。無論、ゲームは停止しているためリタイア転送もない。危なくなっても助ける手段はないと肝に銘じておいてくれ。――十分気を付けていけ』

 

 そこまで行って、アザゼルからの通信は途絶えた。次はアーシアがどこにいるか、である。

 

「……あちらの方向からアーシア先輩とディオドラの気配を感じます」

 

 気を用いて探索した結果がこれであった。そして一同はアーシアを探して神殿内の奥に向けて走り出した。

 




 はい、というわけでVS45でした。
 今話はあんまり前作とは変わっていません。大きく変わるのは次回からです。
 そして、多分後二話ほどで最重要の設定が出てくると思いますのでお楽しみに。すっごい事になるよ。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS46 背負うもの

 Twitterのフォロワーがね、三人も増えたの。
 嬉しかったの。


 神殿の中はとてつもなく広かった。元々がレーティングゲーム用に作られたものであるためそれは当然なのだろうが、それでも広さを感じずにはいられない。

 中は複雑な造りになっており、部屋を抜ければまた別の部屋に抜ける造りになっている。そういう部屋をいくつか抜けた時、気配を感じた。それも複数の人数だ。そして部屋の中にはフードをかぶった小柄な人影が十人ほどいる。

 

『いらっしゃい、リアス・グレモリーとその眷属のみんな』

 

 屋内にディオドラの声が響くが、イッセーが辺りを見渡してもその姿は見えない。

 

『いくら探してもそこに僕はいないよ、赤龍帝。僕はずっと奥の神殿で君たちを待っている――遊ぼう。中止になったレーティングゲームの代わりだ』

 

「なにする気だ!?」

 

『簡単だよ、赤龍帝。互いの駒を出し合って戦うんだ。一度使った駒は僕のところに辿り着くまで二度とつかえないのがルール。あとはご自由に。第一試合、僕は兵士(ポーン)八名と戦車(ルーク)二名を出す。言っておくけど、兵士(ポーン)八名は全員女王(クイーン)に昇格済みだよ。いきなり女王(クイーン)八人だけど別にいいよね?グレモリー眷属は強力ぞろいで有名なんだから』

 

 滅茶苦茶な話であった。敵陣どころか自陣内であるはずなのに女王に昇格している兵士を八名、さらに戦車二名も相手どらないとこの先へ進めないというのだ。ただでさえ手駒が少ないリアスにとっては不利な状況。しかし。

 

「……いいわ、あなたの戯言に付き合ってあげる。私の眷属がどれほどのものかその身をもって知るといいわ」

 

「部長、いいんですか!?」

 

 イッセーが驚くが、ダイスケは目を細めて言う。

 

「いや、ここは部長が正しい。なんせ相手はアーシアを人質にとっている。下手に動けばなにされるかわからん」

 

「そういうことよ。ではまずこちらはイッセー、小猫、ゼノヴィア、ギャスパーを出すわ」

 

 相手十人に対しこちらは四名、半数以下と数的にリアスが圧倒的不利に見える。

 

「四人とも、いいこと? 今回は制限なんてなし……つまり思いっきりやっていいわ。思いっきりね。」

 

 あえて二度言って強調した「思いっきり」という言葉に、イッセーは目を光らせる。

 

『じゃあ、はじめようか』

 

 そのディオドラの合図で眷属たちはいっせいに構える。しかし、そこから先は一方的な蹂躙であった。

 

「ギャスパー、いくぞ!」

 

 まず、イッセーがゼノヴィアにアスカロンで自分の指を切ってもらうとそこから滴る血をギャスパーに飲ます。

 

「アーシアは返してもらう!」

 

 そしてゼノヴィアは異空間からデュランダルを引き抜くと、二振りの聖剣の聖なるオーラを共鳴させる。

 

「デュランダル、アスカロン、私に友達を救う力を……くれ!」

 

 ゼノヴィアにとって、アーシアは掛替えの無い存在である。初めはアーシアを魔女と罵倒した。しかし神の死を知り、落ち込んだ自分を同じ境遇の友として受け入れてくれた。どん底から救い上げ、手を取ってくれたのだ。

 そんなアーシアを奪い、穢そうとする輩をゼノヴィアが許せるはずもない。すべての怒りとアーシアへの想いを込めて、二振りの聖剣を振り下ろす。すると、その増幅された聖なる破壊のオーラはディオドラの戦車二名を飲み込み、文字通り消滅させた。

 

「制限はないと言われたからな」

 

 もとよりデュランダルを制御しきれていなかったゼノヴィアは、制御することを止めたのだ。全く抑えられていない破壊のオーラの破壊力は絶大で、神殿の半分以上も余波で消し去っていた。その一撃は残りの兵士たちをひるませる。

 当然、その隙をイッセーたちが見逃すはずもない。 

 

「小猫ちゃん、ギャスパー、いくぞ!」

 

「はい!」

 

「にゃん!」

 

 まず、イッセーは女王に昇格する。本来であれば敵陣内でなければ昇格はできないが、すでにゲームが崩壊した今ではリアスの承諾さえあれば昇格は可能だ。

 

 『Boost!』

 

 さらに、ただでさえ向上した力を赤龍帝の籠手の力でブーストをかける。

 

 『Explosion!』

 

 そして一気に開放し、イッセーは自身の魔力を脳に集中させる。その力は、一度封印された恐るべき力であった。

 

 「煩悩解放! イメージマックス! 広がれっ、俺の快適夢空間!! さあ、その胸の内を聞かせてちょうだいな、『乳語翻訳(パイリンガル)』ッ!!」

 

 さぁ、悪魔の闘争史上最悪のセクハラショーの始まりだ。 

 

「ヘイ! 兵士のおっぱいさんたち、右から順にこれから何するつもりか教えてちょうだいな!」

 

『まず、邪魔なヴァンパイアの目を封じるの♪』

 

『三人がかりで一気にたたんじゃえ!』

 

『ヴァンパイア、倒す倒す!!』

 

 そこまで聞いたイッセーはクワっと目を開き、ギャスパーに指示を出す。

 

「あの子とあの子とあの子はギャスパーを狙っている! ギャスパー停めろ!」

 

「は、はいぃぃぃ!!」

 

 イッセーの指示のもと、ギャスパーは己の神器の力で三人を停止させる。

 

「じゃあ、君たちは何を考えているのかな?」

 

『わーお、あの子たち停められちゃった! これじゃあ私たちが猫又を狙ってるのもばれちゃう!?』

 

『うっそー、心を読まれない術式を施してきたのにぃ』

 

『これじゃ全部気付かれちゃう!』

 

 これではも何もすべて筒抜け。対策もへったくれもなかった。

 

「ギャスパー、今度はそっちの三人が小猫ちゃんを狙う! 停止だぁぁぁ!」

 

「は、はいぃぃぃぃぃっ!」

 

 ギャスパーの眼光が光り、三人は停止させられる。これで残るは兵士二人のみ。

 その前にイッセーは邪悪な笑みを浮かべて停止した六人に向かいそして――洋服崩壊。あらわにした裸体をイッセーはすぐさま脳内フォルダに保存する。その光景を見せられて恐怖するのは残りの兵士二名だ。

 心の内を読まれ、あまつさえ全裸にされることが女性にとってどれほど恐怖と屈辱か想像に難くないだろう。

 

「フハハハハ! 怖かろう……。しかも魔力コントロールできる!」

 

 しかも脳波コントロールできる、と続きそうないかにも悪役なイッセー。正直心の中ではいずれ自分は「おっぱいを支配できる」とまで考えている。

 ちなみに原作ではゼノヴィアのシーンは四ページにわたっていたが、本作ではたった七行にまとめられ、イッセー(バカ)の乳語翻訳のほうに文章を割かれている。原作じゃ単行本の表紙なのに。カラーイラストもかっこよかったのに。

 

「さあ、残りのお姉さんたちはどうしてくれちゃおうっか――ごふ!」

 

 手をわしわしとさせるイッセーの頭めがけてダイスケがその辺にあった瓦礫を投擲した。

 

「いいからさっさと殺れよ」

 

 若干の怒気が含まれたその言いっぷりにイッセーもさすがに恐れた。

 

「は、はい。」

 

「……私の出番。にゃあ……」

 

 この後、滅茶苦茶縛り上げた。

 

 

 

 

 

 

 兵士八名を縛り上げた後、イッセーたちは先を急ぐ。そうして辿り着いた次の部屋で待っていたのはディオドラの女性僧侶(ビショップ)二名であった。

 

「お待ちしておりました、リアス・グレモリー様。」

 

 そう言いながらディオドラの僧侶(ビショップ)はフードを取り払う。一人は金髪碧眼の美女、もう一人はウェーブの翠髪美女であったが、これから倒すのには変わらない。

 記録映像によれば一人は炎の魔力を操り、もう一人の僧侶(ビショップ)のサポート力はギャスパーとアーシアを超えていた。

 

「では、私が行きましょうか」

 

 そう言って朱乃が前に出る。

 

「戦力的にみれば、後の騎士(ナイト)二名と女王(クイーン)は祐斗とダイスケで十分対応可能ね。私も出るわ」

 

 さらにそこにリアスが加わる。これで学園二大お姉様がここでそろって戦うことになる。

 

「あら、私一人だけでも十分ですわ」

 

「何を言っているの。堕天使の光も混ぜた『雷光』を覚えたからって油断は禁物よ。ここは堅実に行きましょう」

 

 もともと眷属の中でも純粋な魔力でトップを誇る二名だ。ここは安心してみていられるだろう。そう思っていたイッセーの袖を小猫がちょんちょんと引っ張る。

 

「ど、どうしたの?」

 

 すると小猫はイッセーにしゃがむように促し、こそこそとあることを耳打ちする。

 

「……ほんとにいいんだね? 言っちゃうよ?」

 

 イッセーがそう念押しすると小猫はこくんと頷く。

 

「じゃあ――朱乃さーん、その人たちに完勝したら今度一緒にデートしましょう――ってホントにこれで朱乃さんがパワーアップするの?」

 

 イッセーが小猫に問う。すると、小猫は朱乃を指さす。すると、朱乃は歓喜に打ち震えていた。

 

「ふふ、うふふふふふふふふふふふふ! イッセー君とデートできる!!」

 

 迫力のある笑みを浮かべ、周囲に電撃を漏らす朱乃。よほど嬉しいらしい。正直これに一番ビビったのはイッセーである。これで本当に完勝してデートに行こうものならナニをされるかわからない……いや、いいかもと思ったのは秘密だ。

 

「酷いわ、イッセー! 私というものがありながら朱乃にだけそんなこと言って!!」

 

 悔しがるのはリアスであった。しかも涙目であるから相当だ。

 

「うふふ、リアス。これは私の愛がイッセー君に通じた証拠よ。あなたはもう諦めるしかないわね」

 

「な、何を言っているの!? たかがデートの一回くらいの権利で電撃を迸らせる卑しいあなたに何も言われたくないわ!!」

 

 なんか口論に発展した。しかも次第にたがいに体に魅力がないだの、したキスの回数で揉めたりしはじめた。その光景にディオドラの僧侶(ビショップ)二人も困惑する。

 

「あ、あなたたち! 敵を目の前にして男の取り合いなど――」

 

「「うるっさい!!」」

 

 同時に放たれる膨大な魔力と雷光。そのたった一撃で僧侶(ビショップ)二名はノックダウン、本当に完勝してしまった。

 

「大体ね、あなたのやり方は――まあいいわ、今はアーシアのことが最優先よ」

 

「それもそうね、リアス。私にとってもあの子は大切な存在だもの」

 

 一旦共に矛を収め、リアスと朱乃は倒れているディオドラ眷属を思いっきり踏んで先に進んでいく。その様子を見て、ダイスケは思わず頭を抱えた。

 

「……何でウチはこうまともに戦えないのかねぇ」

 

 恐らくすべてはイッセーがいるから、なのではなかろうか。

 

 

 

 

 

 

 次出てくるのはディオドラの女王(クイーン)騎士(ナイト)二名。騎士(ナイト)の方は記録映像では目立った活躍もなしに撃破されていたことから木場やゼノヴィアと比べても見劣りする騎士であった。

 これなら楽勝、と部屋に足を踏み入れると、そこには見覚えのある白髪の者がいた。 

 

「や、おっひさー。」

 

 白髪のはぐれエクソシスト――

 

「フリード!?」

 

 因縁のあるはぐれエクソシストが現れたのである。イッセーの記憶が正しければ、エクスカリバー事件以来である。あのときは目覚めたダイスケに一蹴され、ヴァーリに回収されていた。それがまだ生きていたのだ。

 

「まだ生きてるんだって思ったっしょイッセー君? もちもち、僕ちんしぶといからしっかりきっちり生きてござんすよ!」

 

 思考を読まれていらだつイッセーだが、何か違和感を覚える。ここにいるはずの騎士二名が見当たらないのだ。

 

「オンやぁ、騎士二名をお捜しで?」

 

 そう言いながらフリードがもごもごと口を動かすと、何かをペッと吐き出した。それは、指だった。

 

「俺様が喰ったよ」

 

 あまりに突拍子にない言葉に、イッセーの頭が回転しない。だが、小猫はあることに気付く。

 

「そのヒト……人間を辞めています」

 

 忌むかのようなその言葉を聞くと、フリードは人間とは思えないような形相で哄笑をあげた。

 

「ヒャハハハハハハハハハハ! てめぇらに滅茶苦茶にされた後ヴァーリの野郎に回収されてなぁぁぁぁぁぁぁ! 腐れアザゼルにリストラ食らっちまってよぉぉぉおおおおおおお!!!」

 

 フリードの肉体が嫌な音を立てて変貌していく。顔は三角形で触角が生え、胴体はほそ長く、しかし太くなり、脚は二本に割れて節足動物のような脚に変わる。

 

「行き場をなくした俺を拾ったのが禍の団での連中さ!奴ら、俺に力をくれるっていうから何事かと思えばよぉぉぉぉぉ! キクハハハハハハハハハハ! 原身覚醒獣転人だってよぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」

 

 両手は鎌に変貌し、背中に昆虫らしい薄く長い翅が生えている。その姿はまさに――

 

「カマキラスか……?」

 

 その変貌したフリードの姿はまさにダイスケの記憶にもある元の姿のカマキラスだカマキラスであった。

 

「そりゃもちろん合体相手は俺のソウルメイトになったカマキラスちゃんだよ! 文字通り一つになったんだよぉぉぉおぉお!!!」

 

 獣具の技術の応用の一部なのだろうか、フリードの肉体はカマキラスのものと混ざり合って人間カマキリというべき異形の姿だ。 

 

「ところで知ってたかい? ディオドラ・アスタロトの趣味を。これがまた素敵にイカレていやがって最高に胸がドキドキだぜ!!!」

 

 そこからフリードが話したディオドラの趣向の話は――最悪だった。

 ディオドラの眷属は皆実は教会の元聖女やシスター。それも熱心な信徒や教会本部にも近い者たち。彼女たちは皆ディオドラによって誘惑され、手籠めにされ、堕とされた。そんな女たちだった。

 ある日、ディオドラはあるシスターを目にする。アーシアであった。一目見て気に入り、ディオドラは自分のものにできないか思案する。そこに、ある神器に詳しい者がアーシアが悪魔も癒す神器を持っていると教えられる。そこからのシナリオはこうだ。

 まず、わざと自分は怪我をして教会の前に来る。当然心優しいアーシアは傷を癒すだろう。しかし、その正体が悪魔だとすればアーシアは悪魔を癒す魔女として教会を追い出される。

 そこを狙う。

 信じていた教会から追放され、信じていた神も信じられなくなれば自然とアーシアは自分のものになる。その苦しみも快楽のためのスパイスなのだから。最底辺まで落とし、掬い上げて、犯す。心身ともに。今までずっとそうしてきたのだ。そして、今度のターゲットはアーシア。

 そこまで聞いたイッセーは、もう自分を止められそうになかった。握りしめる拳からは血がしたたり落ちるほどだ。怒りのまま、フリードに向かおうイッセーは一歩足を動かすが、両方の肩をつかまれ、停められる。

 木場だ。

 

「イッセー君、気持ちはわかる。でもその怒りをぶつけるのはあいつじゃぁない。ディオドラまでとっておくんだ」

 

 その物言いは冷静だった。それが逆にイッセーの癇に障る。

 

「お前、これで黙っていろなんて――」

 

 木場の胸ぐらをつかもうとしたが、その手が止まる。イッセーに見えた木場の瞳には、明確な怒りの炎が宿っていた。

 

「ここは僕が行く。あの汚い口は閉じなければならない」

 

 イッセーの怒りが一瞬覚めてしまうほど、木場の全身から怒りのオーラが立ち上る。そしてなにより、これまでにないほど攻撃的だった。

 

「やあやあ、てめぇらはあの時俺を好きにしてくれた騎士(ナイト)さんじゃないの! てめぇのおかげで俺は素敵にモデルチェンジしちゃいましたよ! でもよぉ、その分強くもなったんだぜぇ? ディオドラの騎士二人をぺろりと平らげてそいつらの特性も得たんすよぉぉぉぉ!!! 無敵超絶モンスターのフリード君をどうぞよろしくお願いしますぜ、色男サンぃぃぃぃぃ!!!!」

 

 木場に飛びかかろうとするフリード。しかし、その姿は突然消える。

 

「なんだ!? 消えた!!」

 

 イッセーが驚くと、突然木場の周囲の地面が切り裂かれる。

 

「あひゃひゃやひゃひゃひゃ! 実はカマキラスはよ、自身を周囲の風景に溶けかませる擬態能力があるのよ! つまり透明化だぁぁぁぁぁ!! さぁ、何が起こっているかわからねぇ内に切り刻んでやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 音もなく木場の周囲は切り裂かれていく。このままではフリードの言うように何もできないまま切り刻まれてしまう。

 しかし、様子がおかしい。何も見えないはずなのに、木場は体をそらしたりステップで移動し、最小限の動きだけで見えない攻撃をよけているようなのだ。 

 

「なんでだ、なんで斬れねぇぇぇぇえええええええええ!?」

 

 あまりの手ごたえのなさにフリードが苛立ち、絶叫する。すると、木場が答える。

 

「君の一撃はあまりに殺気がこもりすぎている。それに、君が移動した瞬間の大気の流れや小さな音を拾えば君がどこにいて、次何をするのかなんて簡単に読めるんだよ」

 

 まるでマンガのような原理でしかし確実に攻撃をよけていくさまは、フリードを激昂させた。

 

「ちょ、調子くれてんじゃねぇえええええええええええ!!」 

 

 憤怒の表情で透明化を解き、両手の鎌で襲い掛かるフリード。しかし、木場はよけずに聖魔剣をを薙ぐ。そのたった一閃でフリードの首は胴体から切り離された。

 

「――んだよそれ、強すぎんだろ……」

 

 それぞれ、たったの一撃であった。それは素のカマキラス一匹を相手に苦戦していたころとまるで違うことを如実に示す。

 

「……ひひひ、ま、お前らじゃディオドラの裏にいる奴らも倒せないさ。何よりも神滅具所有者の、獣転人の本当の恐ろしさをまだ知らないんだ――」

 

 頭部だけで笑っていたフリードであったが、その捨て台詞はすべて言えなかった。なぜなら木場の炎熱の聖魔剣が突き刺さり、とどめを刺していたからだ。フリードの頭部は真っ二つに割かれ、そして熱で灰となった。

 

「――続きは地獄の死神にでも吼えるがいい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に進んだのは部屋と言うより非常に大きな室内プールだった。部屋の床全体がプールで脚の踏み場もない。どうにかして泳ぐか空を飛ばないとこの妨害を回避できそうにない。

 

「ただの妨害部屋かしら。仕方ないわね、私の滅びの魔力で水を消して――」

 

「いいえ、ここはちゃんとした試練の部屋です」

 

 そう言いながら一人、水中から浮遊してくる人物が一人。その鎧はダイスケにとっては見慣れたものである。

 

「……ミゲラさん」

 

「お久しぶりです、宝田さん」

 

 最後の駒は女王(クイーン)のミゲラ・サンタクルス。獣具『深淵獣の毒海潜行鎧(ダガーラ・ヴェノム・ダイバー)』の獣転人。ほんのわずかな時間ながら、ダイスケとも心を通わせた。

 だからダイスケにはわかる。彼女は本来ディオドラの眷属であっていい人物ではない。この蛮行に関わってはいけないのだ。

 

「リアスさん、出てないのは後は俺だけです。俺一人でやります」

 

「ダイスケ!? ダメよ、ここはみんなで連携して確実に行かないと!」

 

 リアスのいうことはもっともだ。ミゲラの実力はディオドラ眷属の中でも頭一つ飛び抜けている。記録映像を見ただけでも女王(クイーン)としては若手六人の眷属では間違いなくその頂点にいる。 

 しかもここは水場。ミゲラの最も得意とするフィールドだ。こちらの優位な点は総合火力と数の差。本来なら確実性をとって数で攻めるべきである。だが、ダイスケは首を横に振る。

 

「それだと向こうの設定したルールに反します。そうしたら野郎(ディオドラ)が「ペナルティだ」と言ってアーシアになにをするかわかりません。だから、俺一人で行きます。」

 

「……わかったわ。お願い」

 

 リアスの要請を受け、ダイスケは水中に飛び込む。深さは10m以上、普通なら恐怖を感じるが、ダイスケにはまだ深さが足りないくらいだ。そのダイスケにミゲラが接近する。

 

「まさか一人でやる気だとは。記録映像で私の実力は見ているはずですが? それにワタシにはまだ隠している力があります。それでも一人で戦う気ですか」

 

野郎(ディオドラ)に揚げ足とらせるようなきっかけをやりたくないんでね。友達を危険な目に逢わせられませんよ」

 

 水中を伝わる獣転人のみが理解できる特殊な音響定位。言葉よりも想いを伝えるのでほぼこれは本心のぶつけ合いと言える。

 

「それよりもミゲラさんはそれで良いんですか? ゲスのいいなりのままで、人一人の人生ぶち壊す手伝いをして、アンタそれで良いのか? えぇ、元聖女サマ!」

 

「……戻れませんよ。一度落ちれば、この世の中はもう這い上げれないようになっているんです。一度堕ちればひたすら奈落に深淵(そこ)に堕ちていく。それにワタシはもう救われる資格は無い。あんな大罪を犯したワタシにはッ!」

 

 ミゲラがマスクのクラッシャーから紫色のビームを放つ。その紫光の弾幕をダイスケは避ける。そして一旦水上に出てリアス達に警告する。

 

「みんな! 一旦通路の奥に退いてくれ! これだと水中から狙い撃たれる!」

 

「わかったわ! みんな、一旦通路の奥へ!!」

 

 リアス達が通路の奥に退いていくのを確認し、ダイスケは再び深く潜行する。

 

「直線攻撃だけじゃないんですよ!!」

 

 ミゲラの背中の突起が光り、VLSのように光のミサイルが発射された。その軌道は弧を描き、ダイスケを自動追尾する。

 

「……追ってくるか」

 

 ダイスケは高速で水中を進みながら後ろに振り向いて熱弾を連射する。 当然狙いは正確、水中を自分目がけて突き進む光弾の魚雷を撃ち落としていく。

 だが、迎撃された光弾の爆発の後ろから二発、迎撃の弾幕をすり抜けてくる。ここで下手に撃ち落とすよりも、装甲で受けていなす方がマシではないかとダイスケ判断し、その二発を受ける。

 すると、その爆炎が水中に溶けた。溶けた爆発の成分がダイスケの鎧にある鰓を通ってダイスケの体内に入り、異常を起こす。

 

「……!?」

 

 全身が痺れ、酷い倦怠感がダイスケを襲う。さらに呼吸器系から徐々に全身へと酷い痛みが広がっていって苦しみが伝播する。

 

「なんだ……これ……!?」

 

「見事に浴びましたね。それを受けて即死しないとは流石としか言いようがありません」

 

 間違いない、これは毒だ。それも常人はおろか下手な下級の悪魔などは即死するレベルの超猛毒だ。

 

「貴方にはワタシの過去を話していましたね。私が故郷の村を全滅させたときに無意識にはなったのがこの毒、「ベーレム毒」です。普通なら皮膚に浴びれば焼け爛れ、酷い痛みに襲われます。最高威力なら触れただけで生きたまま溶け、地獄の苦しみ受けることになる代物です。そして、これは最大威力の一歩手前」

 

 だとしたらリアス達を通路の奥へ退避させるように促して正解だったという事だ。下手に援護させていればみんなこの毒を受けていてもおかしくない。

 

「でも、これで終わりではありません。これが最もべーレム毒を効率よく使う方法……!!」

 

 ミゲラが己の前に両手を突き出す。するとそこに小さな渦が生まれ、徐々に大きくなる。渦には紫電が走り、ただの渦巻きではない事が見て取れた。よく見れば渦の中に小さな星形のなにかがいるのが見える。

 

「喰らいなさい、轟渦赤猛毒弾!!!」

 

 幅2メートルほどの渦が、意思を持ってダイスケに襲いかかる。渦に飲み込まれたダイスケは毒の効果がエネルギー化した紫電に撃たれ、更なる毒ダメージを受ける。

 だが、ダメージはこれにとどまらない。渦の中にいた星形のモノ――毒々しい色と形状の海星型生物がダイスケに張り付いた。

 

「最高出力!! べーレムよ、毒を撃ち込めぇぇえぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 ダイスケに纏わり付いた海星型生物――べーレムが、その海星と全く同じ生物構造の中心にある口吻部から超高圧のべーレム毒液を装甲の奥の肉体に撃ち込んでいく。

 鰓気管からの吸入よりも高濃度の、そして高威力のべーレム毒がダイスケに大ダメージを与える。その様子を見るミゲラは、胸の内を開く。

 

「……この毒が、この私の能力が村の人々を生きたまま溶かして皆殺しにしたんです。今でも村の跡地は現地政府が謎のバイオハザード被災地として隔離しています。それほどの事を、私はしでかしたんです」

 

 それはこのベーレム毒の威力を語る言葉出ると同時に、ミゲラの過去の罪の告白であった。

 

「あんな業、私一人にはとても背負いきれるものじゃないんです。その業から、罪から! 逃げるにはあのゲスに抱かれるしかなかった!! 倒錯と偏愛がくれる快楽で誤魔化すしか、良心の呵責から逃げる術はなかった!! もうあの男の側しか、私の居場所はないんです!! だから……私の居場所を奪わないで!! 救いなんていらない、許しもいらない! もう、なにも感じたくないの!!!」

 

 そのミゲラの心情の吐露がエスカレートするにつれて、ダイスケを蝕む毒の威力は上がる。べーレム毒は周囲の有害物質を吸収し、合成して生み出される。だが、それと同時に獣転人の心的ストレスもその濃度に関わる。当然、今のベーレム毒はこれまでミゲラが放出したもの以上の威力になっている。

 大量のベーレムにとりつかれたダイスケは身動き一つしていない。どう考えても助かる道はなかった。

 

「私のいられる場所を奪うなら、私はいくらでも殺す! 貴方のように!! 何人だって……貴方の仲間だって……!」

 

「……それで、アーシアまで巻き込むのか?」

 

「まさか、そんな……!」

 

 まさかダイスケにまだ受け答えするだけの体力があるとは思いもしなかった。なので毒を撃ち込む威力を上げるが、ダイスケの言葉は止まらない。

 

「あの子はな、本当に良い子だよ。イッセーが悪魔だってわかっても友達だって言えちゃうんだ。多分ディオドラに真実を告げられもショックは受けても許しちゃうんじゃないか? それくらい優しいんだ。相手が誰でも傷を治してやろうとしちまう。そんな奴を……自分と同じ所に落とそうってか? ――巫山戯るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 全身を覆うベーレム達の隙間から青白い光が漏れる。その閃光は爆発的エネルギーを伴って大爆発を起こした。それはダイスケの熱線と同じエネルギー。だが、放出方法が違った。

 通常は体内で高めた膨大な熱エネルギーを口腔に繋がる体内気管を通して開いた顎から放つというのが通常の熱線だ。だが、今回は高めた熱エネルギーを気管から放出させずに体内でワザと暴発させるという捨て身の技だ。

 ズタズタになった体内はG細胞の回復力に頼るという、他の誰にも真似できない滅茶苦茶なこの技の名を『体内放射』という。まさに起死回生の捨て身技、この状況こそが使い時と言える。その威力は全身には張り付くべーレムを消し飛ばし、猛毒技の渦をかき消してしまった。

 毒に侵された肉体のダメージも、強制的に発動させるG細胞の回復力で無理矢理治してしまった。

 

「……背負いきれない罪なんてあるかよ。自分のやった事は自分で背負うしかないじゃないか。自分のやる事はやれる事以上の結果なんて起こさないんだ。なら、直視するしかないじゃないか」

 

 そのダイスケの言葉を遮るようにミゲラはビームを放つ。だが、傷つけられれば自然と傷つけられる前より強固になるゴジラの防御に弾かれてしまった。

 

「でも、そこから目を背けたら犯した以上の罪になる。償いすらしないなら、自分の罪は犯した以上の罪に成長しちまうんだ。アンタ、もう自分に救いはないって言ったな。深淵に堕ちたら二度と這い上がれないとも……ちがうよ。アンタ自分から救いから逃げてるだけだ。アンタが真面目で、本当はディオドラなんかの手下になるような外道じゃないんだ。だから救いなんてなくて良いなんて思っちまうんだ」

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 冷静さを失い、もはやその回復力に追いつかない毒性のべーレム毒をダイスケに撃ち続ける。当然効果はなく、ダイスケの言葉が止まる事はない。

 

「罪を犯したら誰も助けてくれないなんてことはない。誰も自分から手を差し出さないなら、助けてくれる手を伸ばしてくれるように頼めよ。罪は償えば許されるものなんだから。その努力を否定する奴なんて、余程の冷笑家くらいなもんさ。本当は真面目で、正しい事を間違っている事を見分けられて、困った奴に……俺なんかにも手を差しのばせられる優しいアンタは……幸せになっても良いはずだ」

 

「救われても……いい? 私、が?」

 

 ダイスケの言葉に、ミゲラの攻撃の手が止まる。そのわずかな一瞬で、ダイスケはミゲラの目の前に迫った。

 

「アンタには、まだその余地があると思うぜ? 俺みたいな半端者の言う事だけどさ。アンタみたいないい女は……幸せを掴んでいいはずだ。なんなら袖こすり合うも多生の縁、少しは力にならせてくれ。アンタのお陰で、俺の心配事の一つが解決したんだがら」

 

 差し出されるダイスケの手。自然とミゲラのマスクの奥の瞳に涙がこぼれる。それはいつもディオドラに抱かれた後に隠れて流していた後悔や自己嫌悪の涙ではない。もっと優しい理由の涙だった。

 

「いいん、ですか? 私が……許されても? 救われても? 本当に?」

 

 黙ってダイスケは頷く。その仕草に、ミゲラは心に引っかかっていた大きな重りが外れたような気がした。

 いいのかもしれない。この手を取っても良いかもしれない。そうすれば、きっと――そう信じ、ミゲラは静かにダイスケが差し出した手を取った。

 

「それで良い。アンタほどの女、あのディオドラには勿体ない。もっといい男が見つかるさ――でもな」

 

 心の中でミゲラは「え゛」と呟く。なぜならダイスケの拳が腰まで引かれ、いつでも最大威力の拳撃を放てるようになっていたからだ。反射的に逃げようとしたが、掴んだ手が離さない。

 

「アーシアの誘拐に携わった分はしっかり受けてもらうぜぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

(え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!?)

 

 全くもって綺麗に締まらない。残念オブ残念男、宝田大助。だが、ダイスケという男はこういう男だ。故にクラスの女子からは恋愛対象には見られない。

 放たれた拳撃はミゲラの腹部にクリーンヒット。手の拘束も払い、そのカラダは水上に飛んで壁に激突しめり込んだ。意識はしっかり失われ、抵抗の意思すら見せる余裕はなかった。

 ダイスケは入ってきた側と反対にある通路に上がり、周囲を確認する。

 

「やっぱこの奥だな。みんな! 飛んでこっちまで来てくれ! 水の中は毒があるから絶対に水には触れるなよ!!」

 

 この注意により、一同は無事に最後の関門を突破したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーたちが辿り着いたのは神殿の最深部、そのドアを蹴破って中に入ると、そこには異様な装置があった。壁に埋め込まれたそれは巨大な円形で、あちこちに宝玉が仕込まれ、怪しげの文様と文字が刻みこんである。

 どうやらこの装置そのものが何らかの術式の魔方陣であるようだ。そしてその装置の中央には――

 

「アーシアァァァァアアアア!」

 

 その装置の中央にアーシアは磔にされていた。見ただけだが、外傷を受けたらしき様子はない。

 

「やっと来たね、赤龍帝」

 

 装置の陰からディオドラが姿を現す。その相変わらずの微笑みを見てますます怒りを燃やすのはイッセーだ。

 

「……イッセー、さん?」

 

 イッセーに来たことに気付き、うつむいていたアーシアが顔を上げる。その目元は赤く腫れ上がっていた。

 そのアーシアの痛々しい姿を見て、イッセーはすべてを悟った。

 

「……おまえ、アーシアに話したな」

 

「ああ、すべてね。ああ、君たちにも見せたかったなぁ、彼女が最高の表情になった瞬間を。すべて僕の掌の上だったことを知ったアーシアの顔は本当に最高だった。記録映像にも残したよ。見るかい?本当に素敵だったよ。教会の女が堕ちる瞬間は何度見てもたまらない」

 

 すすり泣きが聞こえる。アーシアだ。

 

「でもまだ足りない。まだ君たちという希望がある。そこの汚れた赤龍帝、君がアーシアを救ってしまったせいで僕の計画は台無しだ。あの堕天使、レイナーレが一度アーシアを殺した後に僕が登場してレイナーレを殺し、駒を与える算段だったんだ。君が乱入してもレイナーレに殺されると思っていたのに赤龍帝だというじゃないか。おかげで計画はだいぶ遅れたけど、やっとこれでアーシアを楽しめるよ」

 

「黙れ」

 

 その声は、発したイッセー本人でも驚くほど低い声であった。

 なんとなくだが、いけ好かないとは思っていた。ライザーと同じようなにおいを感じていたからだ。だが、違う。いけ好かないどころか小悪党も生ぬるい――外道。いや、鬼畜だ。

 もう怒りを制御しようと思えない。それどころかディオドラはさらに続ける。

 

「アーシアはまだ処女だよね? 僕は処女から調教するのが好きだからお古は嫌だな。あ、でも君から寝取るのもまたいいかもそれない。君の名前を叫ぶアーシアを無理やり抱くのも――「ちょっといいかな」――ん?」

 

 怒りに震えるイッセーを抑えて前に出てきたのはダイスケであった。

 

「お前さ、この後やる事やれて逃げ切れたとしてどうする気よ」

 

「そりゃ当然どこかに逃れるよ。資産はみんな人間界の裏の銀行に流した。当面、とは言っても二百年ほど……今より質素な生活じゃないと食いつなげないけどそれくらいは持つ。心配事なんてなにもない」

 

 その言葉を聞いたダイスケは、しばし俯いたと思うと突然大声で笑いはじめた。その光景に怒り心頭だったイッセーもその異常な笑い方を見て冷静になったほどだ。

 

「くっくっくっくっく……こりゃお笑いだ。お前、自分の金が無事に流せたなんて思ってんの!? 誰の目にもつかずに!? マジで馬鹿だ、コイツ!! あっはっはっはっは!!! お前、今回の一件はアザゼル先生達がすでに尻尾掴んであえてこの状況に持っていったんだぞ。何事もなく自分の思うとおりに全部事が運んだなんて思ってるんだ!? コイツはお笑いだ!!」

 

「ちょ、ちょっと待って、ダイスケ。貴方、私たちと一緒でなにも知らずにここまで来たんじゃないの!? まさかアザゼル達がやってた事を知っていた!?」

 

「……すいません、リアスさん。俺、このゲームの前からこのゲス野郎が怪しいって思ってアザゼル先生に調べて貰うように頼んでたんですよ。元からコイツ、他所のとこのお家騒動に関わっているんじゃないかって冥界政府から内偵を受けてたんですけど、俺の不審をアザゼル先生に相談してさらに疑惑が深まったんです。おい、このシスター萌のヤリチンゲスゴキブリ。お前流石に八月の時点でミゲラさんが自分の来歴を俺に語っていたなんて知らなかったな? そこが最大の綻びだよ」

 

「まさか、ミゲラが!? 馬鹿な、あんな過去自ら話すなんて――」

 

 ディオドラの表情から余裕が消えた。逆にダイスケの方に余裕が出てきた。

 

「ホントにみんな偶然だよ。でもお陰で俺はアーシアの過去とミゲラさんの過去が異常に似ている事に気付いた。俺はそれをアザゼル先生に相談し、神の子を見張る者(グリゴリ)も天界も冥界政府も動いてくれた。お前の兄のアジュカ様もだ! どうやら前からお前が怪しいって思ってたらしいぜ」

 

「そんな、兄上が!? なぜ身内を!?」

 

「残念だが、あのひとはそんなに身内は大事じゃないらしいぜ。友人のサーゼクス様の足を引っ張りそうな、自分の友情を邪魔しそうな奴は実の兄弟でも見捨てるってさ。それで俺は大きな犠牲を払ったが、お陰で予定よりも早くお前の内偵が済んで資産は裏で差し押さえ、金は天界への謝罪も込めて恵まれない子達のための養護施設の運営に生かされるってよ。良かったな、大好きなシスターさん達の役に立てたぜ? 尼さん萌え冥利に尽きるってか?」

 

 再び腹を抱えて大笑いするダイスケ。その様子を見て、ディオドラは憎悪と怒りの炎を燃やす。

 

「よくも……よくも僕の自由を……これから禍の団の元で好き勝手に出来ると思っていたのに!?」

 

 その言葉にダイスケは笑いを止めて冷徹な目で答える。

 

「自由っていうのはな、好き勝手とは違うんだよ。他人を侵害せず、社会上の義務を果たしてこそ許されるのが自由だ。他人の苦労も苦しみも知らない、他人を傷つけても平気で思いやりも持たない、そんなお前みたいなボンボンが口にして良い単語じゃねぇんだ」

 

「違うね。僕には好きに生きて良い生まれながらの権利がある。僕が望むなら、誰を足蹴にしても誰を食い物にしても、誰を捌け口にしたっていいんだ! なぜなら僕は……選ばれた者なのだから!!」

 

 そう言うディオドラの周囲に紫電が走る。魔力がもたらす変換現象ではない、純粋な電撃。するとディオドラの両腕に変化が生じる。徐々に鱗のような小さな装甲板がくっついていき、一組のガントレットが形成されていく。

 その質感はまるで蝦蟇。でこぼことした醜悪な表面のガントレットから似合わない電撃があふれ出る。

 

「僕はオーフィスの《蛇》をもらった。お陰でシーグヴァイラも圧倒できた。でも、本当は《蛇》無しでも僕は充分すぎる力がある!! そうさ、僕は怪獣ガバラの獣転人!! 獣具、『悪徳獣の放電腕甲(ガバラ・ディスチャージハンド)』を持つ者だ!!!」

 

 ディオドラの両手から放たれる電撃が神殿の天井や壁を打ち破る。本来なら雷でなければ岩などを破壊する事は出来ないが、この放電は自然界の雷以上の威力があるという事が見て取れた。

 恐らく元の力がオーフィスの《蛇》でさらに強化されているようだ。そして、デイオドラはこの力をずっと隠してきていたのだ。冥界政府の目もくらまし、全ては好き勝手の自分の世界を作るために。その事がイッセーに再び怒りを抱かせる。一刻も早くこんな奴のすぐ側からアーシアを解放させなければならない。そう思って一歩踏み出たが、ダイスケに手で制される。

 

「おい、なにすんだ! こんな奴から早くしてアーシアを――ダイスケ?」

 

 見れば、ダイスケの瞳はイッセー以上の怒りの炎を宿していた。そして、漆黒の鎧を纏う。

 アーシアは確かに今危ない目に逢っている。だが、それ以上にもうミゲラはこの目の前のゲスのせいで自分で再び立ち上がれないところまで堕とされたのだ。

 その事を考えれば、ごく自然の事であった。

 

「悪い、イッセー。出番奪うようで悪いが、俺の奴への怒りはお前以上なんだ。それに奴は獣転人、これは俺の……ゴジラとしての俺の領分なんだ。……後でアーシアと一緒になにか奢る。好きなだけ食っていい。だから……頼むよ」

 

 そのダイスケの目は、イッセーにとって初めて見る懇願が宿る瞳だった。思い返せばダイスケが自分に頼み事を言うなど出会って以来初めての出来事だ。

 

「……駅前のお好み焼き屋、「ふらわ~」の特大ミックス玉トッピング全乗せで手を打ってやる。アーシアだけじゃなく、アザゼル先生も含めたここにいる全員分だ。それと……絶対勝て」

  

 その言葉を聞いたダイスケは、兜の奥でふっと笑ってディオドラを睨んだ。

 

「――当たり前だ」




 はい、というわけでVS46でした。
 イッセーゴメン出番取って。でも今回は明らかにダイスケの方が怒ってるし、同じ獣転人だから。近いうちに、オリジナルキャラじゃないけど獣転人にした原作キャラとサシで戦わせるから。
 ダイスケの主張に思うところがある方もいらっしゃるでしょうが、これがダイスケの答えという事で勘弁してやってください。
 そして次回、衝撃設定の一部が明らかになります。全員、第1種戦闘態勢!
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS47 ゴジラ対ガバラ~そして現れる二つの災厄~

 ゴ、ゴ、ゴジラの大暴走♪
 イッセー暴れりゃダイスケも♪
 ビビってちょうだい、今日もまた♪
 覇龍(ジャガーノート・ドライブ)と一緒に暴れるぞ♪
 ゴジラがとうとうあ・ば・れ・る・ぞ~♪


「相手と力量差も測れない雑魚が!! 消し炭にしてあげるよ!!」

 

 開幕と同時にディオドラの獣具から大規模な放電が発生し、まさに光の速さでダイスケに迫る。だが、自分がいるところに攻撃が来るとわかってさえいればただ避けるだけでいい。その未来予測によってダイスケは横にステップしながら回避し、接近していく。

 

「動物的勘という奴か! 獣人間にはお似合いだよ!!」

 

 ディオドラはそう毒づきながらも再び電撃を放つ。それをダイスケは軌道を完全に勘で予測し、しっかりと距離を取り、あるいはギリギリで避けていく。

 するといらついているディオドラは己の掌に一つずつ《蛇》で威力を底上げした魔力弾を生み出す。大きさは砲丸程度だが、一般的な同じ規模の魔力弾と比較すると十倍にしても足りないほどの差がある。

 その魔力の塊にガバラの電撃が纏わり付く。

 

「これはいわば魔力と電撃の合成爆弾だ。しかも!!」

 

 ディオドラが魔力弾を一つずつダイスケ目がけて投げつける。その軌道は不規則で、蛇のようにのたうった軌道である。

 

「僕の思うままに動くんだよ!!」

 

 その言葉は事実だった。ダイスケが避けようにもその避けた先に先読みする形で魔力弾が回り込んで炸裂した。

 

「――!?」

 

 《蛇》でパワーアップしたというのは事実のようだ。明らかに見た目以上の威力が炸裂し、同時に雷がダイスケの身体を打つ。

 炸裂した魔力と電撃によってダイスケは転倒し、地面に転がる。

 

「ははっ! ビンゴだ!!」

 

 ダイスケに直撃を与えたことに、醜く表情を歪めて歓喜するディオドラ。先程からコケにされている訳だからその高揚感たるやひとしおだろう。

 直撃されたダイスケはというと、一つも動かない。それをディオドラは一撃で死んだかと判断したが、ダイスケはすぐさま立ち上がる。

 

「……へぇ、以外と頑丈なんだ。なら、もっと威力を上げて良いかな」

 

 ディオドラの嗜虐心に火がついたのか、ガバラ由来の電撃を《蛇》でさらに威力の底上げをする。当然そのまま放つのは芸がない。元七十二柱アスタロトの血がなせる大規模魔力に乗せてパワーを乗数的に上げる。

 それに対するダイスケは、鰭斬刀を抜いて迎撃の構えを取る。

 

「教会の暴力装置直伝の技というヤツか。でも、それで僕にかなうと思っているのか!? たかが人の為せる技で!!」

 

 ディオドラが魔力と電撃の合成弾を放った。今度は両手分の二発だけではない。自分の周囲に発生させていた高出力魔力弾にも電撃を纏わせて放っているのだ。

 

「何発だって生み出せる! さぁ、捌ききれるかぁ!?」

 

 ダイスケの周囲に合成弾が滞空し、獲物を狙う蛇のように待ち構える。すると、ディオドラのフィンガースナップを合図に、一斉且つ順番をランダムにしてダイスケに魔力弾が襲いかかる。

 ダイスケはそれぞれの合成弾を脅威ごとに瞬時にランク付けし、避けるものは避け、避けきれないものは鰭斬刀で斬り伏せていく。が、しかし。

 

「コントロールできるって言ったろ、馬鹿が!!」

 

 避けられた合成弾が、あるいは切断された合成弾がディオドラの飲むタイミングで爆ぜ、放電する。この合成弾は避けられるもので破壊できるものでもなかったのだ。ただ放たれればその威力を喰らうしかない、必中の技。

 爆ぜる魔力に、放たれる雷以上の放電。その威力ダイスケは得物である鰭斬刀を取り落とし、倒れる時間さえ与えられずに翻弄されていく。

 

「はははははは!! 僕に刃向かった罰だ! 僕に勝てる奴なんていやしない。あのサイラオーグもそうさ!! いや、いつかはこの力でサーゼクスや兄も越えて僕は最強の悪魔になる!! 怪獣の王ですら僕にひれ伏すんだからな!! あはははは!! ――は?」

 

 その時、ディオドラは見た。ダイスケの両足がしっかりと地面についている。先程まで力なく爆発と放電に晒されて浮き足立っていたのに、今は微動だにしていない。自分の意思がハッキリとしていて、攻撃に耐えていないと出来ない事だ。

 

「……借り物の《蛇》で底上げしておいてよく言うぜ。それで強い気でいるんだからさ」

 

「やせ我慢は良くないぞ、苦しいなら苦しいと、痛いなら痛いとハッキリ言えよ。力の差をしっかり自覚した態度の方がまだ優しく――」

 

 その時、ディオドラは見た。ダイスケが自分の周囲を舞う合成弾の一つを掴み、なにをどうやったかわからないが手の平の中で消し去ってしまったのだ。

 よく見ればダイスケを攻撃する合成弾の色が徐々に抜けていっており、透明になりつつある。こんな風にコントロールした覚えはディオドラにはなかった。

 

「わからねぇか? いや、わかる訳ないよなぁ。まさか自分の自慢の力……攻撃するつもりで喰われているんだから」

 

「な、に……!?」

 

 確かにダイスケは攻撃をダメージとして食らっていた。それは間違いない。だが確かに今は自分の攻撃がダイスケに喰われている。なぜ、一体どうやって? 自分で答えが出さずにいると、ダイスケが答えを提示する。

 

「今、電撃を喰らって思い出した。俺の中のゴジラは電撃が苦手だったんだよ。だけど、自分にとって最強の敵(メカゴジラ)が現れたときにそうも言ってられなくなった。……弱点(電撃)を自分の武器に変える事にしたんだ、ゴジラは」

 

「は、え?」

 

 ディオドラが呆然となるのも無理はない。それは悪魔で言えば、己を消滅させる《光》を自ら吸収して自分の武器にしたというのと同じだ。生物学上の特徴もへったくれもない、自然の秩序に反する暴挙だ。

 

「でも、その暴挙が出来るのがゴジラだ。ルールも束縛も弱点も、みんな纏めて破壊する。それが怪獣王。それが破壊の化身だ!!」

 

 ついにダイスケの周囲にあった全ての合成弾が喰い尽くされる。それを見て、ディオドラは地面にへたり込んだ。仕方がない、自分の最大の攻撃が全く通用しないのだから。

 それを見たダイスケはしっかりと一歩ずつ、そして見せつけるように近づいていく。その威圧感たるや、内に秘める怒りも相まって壮絶の一言。小心者なら一目で気を失うだろう。その点ディオドラは高すぎるプライドで気絶も許されず、ただ恐怖するしかない。

 

「く、来るな! 来るなぁ!!」

 

 もはや統率もへったくれもない乱雑な電撃と魔力弾砲撃。避ける事すら煩わしいとダイスケに思わせる雑な攻撃だった。

 その頑強さにディオドラの抵抗の意思も潰え、ついに命乞いをはじめる。

 

「た、頼む、待ってくれ。ちょっと思い上がっただけじゃないか。アーシアの事だって趣味の話さ。君だってスタイルが良いのが好みとか年上好きとかあるだろう? 好みの女をものにするなら誰だって……そうだ! 僕のコレクションから好きな女をあげるよ! ミゲラなんてどうだい? アレはなかなか具合が良い。処理に使うにはうってつけだ。知らない仲じゃないみたいだからきっとアレも喜んで――」

 

「――黙れ、生ゴミ」

 

 ダイスケはディオドラの胸ぐらを掴んで言い放つ。

 

「その趣味でどれだけのヒトを不幸にした? どれだけ死なせた? それも貴族の当然の権利とお前は言うのか?」

 

 もはや首を縦にも横にも振る余裕はない。ただ震えてダイスケの言葉を聞くしかなかった。

 

「お前のせいでアーシアも、ミゲラさんも人生を狂わされた。アーシアはまだいい出会いがあったからよかったが、ミゲラさんも他のお前の眷属も、みんな苦しみ続けたんだ……! その報い、払わなければこの手で消してやる……!」

 

「な、なにを――」

 

 ダイスケはディオドラの胸ぐらを掴んだまま片手で持ち上げる。そして、空いた手の装甲を解除し、素の掌を見せた。

 

「さっきゴジラの過去を見たとき、ついでにお前のガバラの事も見たぜ。どういう風だったか、しっかりと見せてやる――」

 

 そう言ってダイスケはディオドラの額を鷲掴みにした。その瞬間、旧世界に生きた魂同志の記憶共有、『接触間記憶共有』がおきた。ミコトと出会ったときや、新堂と触れあった時と同じ現象だ。

 流れ込んできたガバラの記憶、それはゲスで情けないいじめっ子としての記憶だった。怪獣達が住む怪獣島でゴジラに勝てないからとその同族にして子供のミニラをいじめ回していた。ディオドラですら情けないと思うその生き方は、振り返れば自分と同じだ。

 自分の自己満足のためにシスターを騙し、玩んできた。だが、玩んでいた者に予想外の反撃(この場合は想定していなかったミゲラの言動)で大痛手を負い、そして、触れるべきではない相手(ゴジラ)に罰を与えられる。

 

「ま、まさか――」

 

「見たな? なら覚悟は良いよな?」

 

「ま、待ってくれ! 痛いのは、痛いのはいやだ! あんなのを喰らったらどうにかなってしまう! 頼む、止めて――」

 

「ああ、そうだ。お前さっき、「スタイルが良いのが好みとか年上好きとかあるだろう」って言ったよな? ――俺な、お前の事をアザゼル先生に相談したせいで……年上の女がトラウマになったんだよ、クソが!!!!」

 

 豪快に背負われ、放り投げられるディオドラの身体。それは背負い投げというより「背負い放り投げ」といえる技だった。

 宙を舞うディオドラは空を飛ぶ暇さえ与えられずに神殿の壁に激突した。壁は崩れ去り、天井の一部が崩壊する。その瓦礫でディオドラ強かに身体と頭を打ち付けたが、幸か不幸か獣転人としてのタフネスのお陰で大いに鼻血を流しても死ぬことはなかったようだ。

 ディオドラを放り投げ、興奮の息で肩を揺らすダイスケに、イッセーは恐る恐る尋ねる。

 

「だ、ダイスケ。お前アザゼル先生になにされたの?」

 

「……訊くな。思い出すだけで恐ろしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ディオドラが強かに痛めつけられたのを見て、イッセーの溜飲はいくらか下がった。だが、やらなければならない事がある。イッセーは瓦礫の仲からディオドラを引っ張り出すと頬を叩いて気付けさせ、胸ぐらをつかみ言い放つ。

 

「俺んちのアーシアを泣かせるんじゃね……! そして二度と俺たちの前に姿を見せるな! そのときは本当の本気でお前を消す!」

 

 歯をガチガチと鳴らし、ディオドラは恐怖する。しかし、それで納得できない者がいた。ゼノヴィアだ。彼女はアスカロンをディオドラの首に突きつける。

 

「止めは刺さないのか? こいつはまたアーシアに近づくかもしれない。今この場で首をはねたほうが今後のための得策ではないのか」

 

 その言葉の裏にあるのは彼女の本気だ。もとよりエクソシストであるため悪魔を斬ることには慣れている。そして、イッセーかリアスの承諾さえあればいつでも斬るだろう。

 だが、イッセーは首を横に振った。

 

「いや、こいつの処罰は魔王様たちに預けよう。これでも一応現魔王の血筋だ。勝手に殺したらきっと部長やサーゼクス様、それにジオティクスさまにも迷惑がかかるかもしれない。ここのところでお終いにしておこう」

 

「そうね……イッセーの言うとおりだわ。ゼノヴィア、こんな奴の血で聖剣を汚す必要はないわよ」 

 

 イッセーとリアスの意見を聞き、ゼノヴィアはもったいなさそうに剣を引く。

 

「……イッセーと部長が言うならそうしよう。――だが」

 

「ああ」

 

 イッセーとゼノヴィアはアイコンタクトし、ともにそれぞれ剣と拳をディオドラの眼前で止め、怒気を込めて言い放った。

 

「「二度とアーシアに近づくなっ!!」」

 

 その二人の怒気に当てられ、ディオドラは恐怖で瞳を濡らして何度も頷いた。ディオドラはそこで放置され、一同はアーシアの元へ駆け寄る。

 

「イッセーさん!」

 

「もう大丈夫だぞ、アーシア。約束したからな、必ず守るって」

 

 そう言ってイッセーはアーシアの頭を撫でてやる。それで安堵したのか、うれし泣きで涙を流した。

 

「さてと、こいつをぶっ壊すか」

 

 ダイスケがそう言ってアーシアの手枷を握りつぶそうとする。しかし――

 

「あれ……びくともしねぇぞ」

 

 ダイスケが本気で焦る。

 

「ウソだろ、ちょっと俺の力で『Boost!』――おい、まさか」

 

「よし、一緒に枷を引っ張るぞ!」

 

「わかった、「せーの!!」――おい、冗談だろ!?」

 

 イッセーとダイスケの二人掛りでも枷が外れない。それを見た木場が聖魔剣で切り付けるが――

 

「だめだ、刃が立たない!」

 

「……無駄だよ。それは滅びの力でも破壊することはできない」

 

 その時、ディオドラが言葉少なげに、力なくそう呟いた。

 

「その装置は機能の関係で使い捨てだが、逆に一度使わないと停止できないようになっている――アーシアの能力が発動しない限り停止しない」

 

「どういうことだ!?」

 

 イッセーがディオドラの胸ぐらをつかむ。すると、ディオドラは感情もなく淡々と答えた。

 

「その装置は神滅具(ロンギヌス)、『絶霧(ディメンション・ロスト)』所有者が作り出した固有結界。このフィールドを強固に包む結界もそう。絶霧(ディメンション・ロスト)は結界系の神器の最強。その霧の中に入ったすべてを封じることも、異次元に送ることも可能。それが禁手(バランス・ブレイカー)に至った時、所有者の望む結界装置を霧の中から創り出す能力に変化した。『霧の中の理想郷(ディメンション・クリエイト)』、作り出した結界は一度望む形で発動しない限り止められない」

 

 それを訊いた木場はディオドラを問いただす。

 

「発動の条件と結界の能力、それと効果範囲は? 言え!」

 

「……じょ、条件は僕かほかの関係者の合図、もしくは僕が倒されたら。能力は――枷につないだもの、この場合はアーシアの能力を増幅させて反転(リバース)させる」

 

「おい、反転ってたしかシトリーが――!」

 

 実際に見たことはなかったが、後にアザゼルから説明を受けてダイスケも知っていた。 

 反転(リバース)、それはシトリー眷属がグレモリーとの一戦で見せた「発動された能力を逆の特性に変える」技術。例えば聖剣の聖のオーラは魔のオーラに変換され、悪魔にとって有害な『光』は無害な闇に変換される。

 この場合はアーシアの絶大な悪魔や堕天使すらも癒す聖女の微笑み(トワイライト・ヒーリング)の力。これを反転させれば――

 

「そして効果範囲は……このフィールド全体と観覧席。発動後はプログラムによって赤イ竹から提供された『烈一号型核弾頭』一発を起爆させる。ハワイのマウイ島くらいなら地図から消すほどの威力だ。マハーバーラタの『インドラの火』クラスの威力には、主神クラスだって無傷とはいかないからね」

 

 アーシアの癒しの力は冥界でのトレーニングの際に強化された。それがさらに装置によって増幅された上に反転されれば一体どれだけの被害を及ぼすか想像に難くなかった。

 底へさらに赤イ竹の『烈一号型核弾頭』。ディオドラの話が本当ならとんでもない威力だ。

 

「……各勢力のトップたちが根こそぎやられるかもしれない」

 

 その可能性に発言した木場のみならず全員の表情が青ざめる。

 

「おい、ドライグ! なんとかならないのか!? お前だって神滅具だろ!」

 

『いや、絶霧は赤龍帝の籠手よりも高ランクの神滅具だ。しかも相手が禁手に至っているのなら突破は無謀に等しい。覚えておいてくれ、俺よりも強力な神滅具も存在するのだ』

 

「……くそ、どうにもならないのかよ!?」

 

 胸倉をつかんでいたディオドラを放り投げると、イッセーは悔しげに床を叩く。

 

「諦めるな! 必ずなんか方法はあるはずだ!」

 

 そう言ってダイスケは枷を何度も鰭斬刀で切り付ける。何とか傷はつけてるものの、この様子ではいつまでかかるか分かったものではない。

 その様子を見たアーシアはイッセーに懇願する。

 

「イッセーさん、いっそ私ごと――」

 

「なにバカなこと言ってんだ! 次そんなこと言ったら怒るからなっ! アーシアでも怒るぞ!」

 

「で、でも、このままでは先生もミカエル様も……そんなことになるくらいなら私は――」

 

「それでもダメだ! 俺は、俺は二度とアーシアに悲しい思いをさせないって決めたんだ! 絶対に守ってみせる! だから、一緒に帰ろう! 父さんと母さんが運動会で頑張るアーシアを撮るんだって張り切ってんだからさ!!」

 

 涙ながらにイッセーはアーシアを説得するも、静かに装置は起動を始める。そんな中、イッセーの脳裏にあることがよぎる。

 この装置はアーシアを磔にしたものだ。枷によってアーシアの体は密着している。ならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?

 

「……ドライグ、お前を信じるぞ」

 

『何をするつもりだ、相棒?』

 

「そんでもってアーシア、先に誤っておく」

 

「え?」

 

 そしてイッセーは心の中でアーシアに謝った。

 

――ゴメンね!

 

「高まれ、俺の性欲! 俺の煩悩! ――洋服崩壊(ドレスブレイク)禁手(バランス・ブレイカー)ブーストバージョン!!!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

 そして響くパキン、という枷が割れる音とビリィッと言う布が裂ける音。装置が破壊されると同時にアーシアの服も粉みじんになって吹き飛んだのだ。

 

「きゃ!」

 

 かわいらしく悲鳴を上げ、前を隠すアーシア。その姿を見て鼻血を流すイッセー。さっきまでの約束云々言ってたお前はどこに行った。

 

「あらあら大変」

 

 朱乃がすぐに魔力で新しいシスター服を生成して着せてやる。もちろんアーシアの尊厳のためダイスケを木場は目を隠している。

 

「それにしてもよくあの技で装置も破壊できると思ったわね」

 

 リアスが呆れながらもイッセーに言う。

 

「いえ、アーシアの衣服に密着してたから衣服の一部としてみなせないかなーって思っただけだったんで。多分、いつものじゃ無理でした。神器でブーストしたからできたんだと思います。それでグレーゾーンなあたりを無理やり突破したかな、って感じです」

 

「それでこの結果を出したんだから大したものよ。――お疲れ様」 

 

 そう言い手リアスはイッセーの頭を鎧越しに撫でた。

 

「イッセーさん!」

 

「アーシア!」

 

 すべてが終わったことを実感したアーシアがイッセーに抱き着く。

 

「ゴメンな。辛いこと、聞いてしまったんだろう?」

 

 ディオドラが話してしまったことについて謝ると、アーシアは首を横に振り、笑顔で言った。

 

「平気です。あのときはショックでしたが、私にはイッセーさんがいますから」

 

 その言葉に、イッセーは涙を流した。そして、より一層アーシアを守ろうという誓いを強くする。 

 今度はゼノヴィアがアーシア抱きついた。

 

「アーシア! 良かった! 私はおまえがいなくなってしまったら……」

 

「どこにも行きません。イッセーさんとゼノヴィアさんが私のことを守ってくれますから」

 

「うん! 私はおまえを守る! 絶対だ!」

 

 親友同士抱き合う二人。

 

「部長さん、ありがとうございました。私のために……」

 

 今度はリアスがアーシアを抱き、やさしげな笑顔で言う。

 

「アーシア。そろそろ私のことを家で部長と呼ぶのは止めてもいいのよ? 私を姉と思ってくれていいのだから」

 

「――はい! リアスお姉さま!」

 

 何はともあれ、これで一件落着である。 

 が、突如光の柱がアーシアを包む。その光が消えた跡には――

 

「アーシア?」

 

 ――アーシアの姿はなかった。

 

 

 

 

 

 

「神滅具で創りしもの、神滅具によって散る、か。霧使いめ、手を抜いたな。計画の再構築が必要だ」

 

 いつの間にか、知らない男が宙に浮いていた。どこまでも冷たい、氷のような目をした男だった。

 

「お初にお目にかかる、忌々しき偽りの魔王の妹よ。私の名前はシャルバ・ベルゼブブ。偉大なる真の魔王ベルゼブブの血を引く、正統なる後継者だ。先ほどの偽りの血族とは違う。ディオドラ・アスタロト、この私が力を貸したというのにこのザマとは。先日のアガレスとの試合でも無断でオーフィスの《蛇》を使い、計画を敵に予見させた。貴公はあまりに愚行が過ぎる」

 

 アザゼルが言っていた今回の事件の首謀者の名前の一つであった。その男に、ディオドラは縋るように懇願する。

 

「シャルバ、助けておくれ! 君と一緒なら、怪獣王を殺せる! 旧魔王と現魔王が力を合わせれば――」

 

 しかし、シャルバの手から放射された赤い筋がディオドラを貫く。ディオドラは床に突っ伏して目を見開き、そのまま呼吸を止めて倒れ臥した。

 

「哀れな。あの娘の神器の力まで教えてやったのに、結局モノにもできずじまい。それではたかが知れているというもの」

 

 天使か堕天使の能力に近しいものだろうか、しかし、その誰もが光には見覚えがあった。アーシアを消した光と同質のものだ。

 そのことに気付いた者たちは怒りにわなわなと体を打ち震わす。

 

「さて、サーゼクスの妹君。いきなりだが、貴公には死んでいただく。理由は当然。現魔王の血筋をすべて滅ぼすため」

 

「グラシャラボラス、アスタロト、そして私たちグレモリーを殺すというのね」

 

「その通りだ。不愉快極まりないのでね。私たち真の血統が、貴公ら現魔王の血族に『旧』などと言われるのが耐えられないのだよ」

 

 そしてシャルバは嘆息して呟く。

 

「今回の作戦は失敗に終わった。まさか神滅具のなかでも中堅の赤龍帝の籠手が上位の絶霧に打ち勝つとはな。こればかりは想定外としかいえない。まあ、今回の件はいい勉強になった。クルゼレイがサーゼクスに挑んで死んだがこれも問題ない。私がいさえすればヴァーリが働かなくとも我々は十分に動ける。真のベルゼブブは偉大なのだから。さて、去り際のついでだ。サーゼクスの妹よ、死んでいただく」

 

「現魔王に直接決闘を申し込まずにその血縁から断とうだなんて何たる卑劣!」

 

「それでいい、まずは現魔王の家族から殺す。絶望を与えなければ意味はないからな」

 

「――外道っ! 何よりもアーシアを殺した罪! 絶対に許さないッ!」

 

 リアスはついに激昂し、深紅のオーラを全身から波止場知らせる。朱乃も怒りに顔をゆがめ、両手に雷光を纏う。

 

「こういうクソは――この場で何としても消さねぇと……!」

 

 ダイスケもその怒りで力が増したのか、装甲の隙間から青白く淡い光が漏れている。

 

「流石に数が多いな。だが手はある。いい加減い起きろ、ディオドラ。――いや、ガバラよ」

 

 すると、死んだと思われたディオドラが突然操り人形が立つように起き上がる。そして獣のようなうなりをあげ、徐々にその肉体が変化していく。

 

うぅぅぅぅぅぅぅぅ……ブォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!!!!

 

 ディオドラの肉体はもはや元の形を保っていない。大きさは10mほど、皮膚は両生類と同じ質感で頭頂に三本の角を持つ直立歩行の怪物となった。

 その姿はまさに、ダイスケの中のゴジラの記憶にあるガバラの姿そのもの。

 

「シャルバ・ベルゼブブ! お前、一体何をしたぁ! アレはガバラの原身だぞ!!」

 

「ほう、さすがは獣転人。記憶があるか。なら教えてやろう。私が先程ディオドラに打ち込んだのは我が血液を元にした神器ドーピングアイテムのプロトタイプだ。魔王の血を神が造りしものに与えることでお急激な反応を起こす。どうやら獣具の場合はその肉体が元の姿に戻るらしい」

 

「なんてことを……!」

 

 巨大なガバラが腕を一振りするたびに神殿が破壊される。まともに食らえばただでは済まないだろう。さらにガバラは両手から放電して瓦礫すら粉砕している。明らかにディオドラであったときよりも脅威だ。

 

「アーシア? アーシア?」

 

 しかし、ただ一人イッセーは虚ろな目で消滅したアーシアを呼んでいた。

 

「アーシア? どこに行ったんだよ? ほら、帰るぞ? 家に帰るんだ。父さんも母さんも待ってる。そんなふうに隠れていたら、帰れるものも帰れないじゃないか。ハハハ、アーシアはお茶目さんだなぁ」

 

 あたりを探すように、ふらふらとイッセは周囲をうろつく。

 

「アーシア、帰ろう。もう、誰もアーシアをいじめる奴はいないんだ。いたって、俺がぶん殴るさ!ほら、帰ろう。アーシア、体育祭で一緒に二人三脚するんだから……」

 

 もう、誰もまともに直視できなかった。その光景を見て、一番繊細と言っていいギャスパーと小猫が嗚咽を漏らす。

 朱乃も怒りに顔をゆがませながらも、その頬につう、と涙が走る。放っておけなくなったリアスはイッセーをひしと抱きしめた。

 

「部長、アーシアがいないんです。やっと救いだしたのに。アーシアだけでも、神殿の地下に逃がさなきゃ。でも、アーシアがいないと……。……と、父さんと母さんがアーシアを娘だって。アーシアも俺の父さんと母さんを本当の親のようにって……。俺の、俺たちの大切な家族なんですよ……」

 

「……斬るっ! 斬り殺してやるッ! こいつだけは絶対に許せないッ!!」

 

 叫びながらゼノヴィアがシャルバに斬りかかる。

 

「無駄だ」

 

 しかし、シャルバはアスカロンとデュランダルの一撃を障壁で難なく弾き、ゼノヴィアの腹部に魔力の塊を打ち込む。その威力で地に落ち、めり込むゼノヴィア。二振りの聖剣も手から離れ、地面に突き刺さる。

 

「……アーシアを返せ。――私の、友達なんだ……! ……誰よりも優しい、優しい友達なんだ! どうして……、どうして……!」

 

 頭から血を流しながらも、ゼノヴィアはそれでも聖剣を手にしようと地面を這いずる。

 

「下劣なる転生悪魔と汚物同然のドラゴン。全く持ってグレモリーの姫君は趣味が悪い。おい、そこの赤い汚物。あの娘は次元のかなたに消えた。すでに次元の狭間の無に当てられてその身も消滅しておろうて――お前にもわかりやすく言ってやると死んだ、ということだ」

 

 その時、うつろなイッセーの視線がシャルバを捉える。そしてそのままじっと見つめる。その姿はどう見ても異様だった。

 

『リアス・グレモリー、全員を連れていますぐこの場を離れろ。死にたくなければすぐに退去したほうがいい』

 

 突然、ドライグが声を出した。

 その言葉の意味を理解するよりも先に、崩れ落ちていたイッセーが立ち上がる。

 

『そこの悪魔よ。シャルバといったか?』

 

 リアスすらも振り払い、イッセーはシャルバに向かって歩き続ける。その足取りはさながら生き返った死人のようであった。

 

『おまえは――』

 

 嫌悪感を覚えるほど無機質で無味無臭なドライグの声がイッセーの口からこぼれる。

 

『――選択を間違えた』

 

 その刹那、神殿そのものが大きく揺れるほどの莫大な赤いオーラがイッセーからあふれ出てくる。その赤はいつもの鮮やかな赤ではなく、まるで血のような赤。

 誰もが、それを肌で感じてそれを理解する。

 

――これは、危険だ。

 

 そしてイッセーの口から呪詛のごとき呪文が発せられる。しかし、その声はイッセーのものだけではない。老若男女、あらゆる人物の替えが入り混じった不気味なものだった。

 

『我、目覚めるは――』

 

〈始まったよ〉〈始まってしまうね〉

 

『覇の理を神より奪いし二天龍なり――』

 

〈いつだって、そうでした〉〈そうじゃな、いつだってそうだった〉

 

『無限を嗤い、夢幻を憂う――』

 

〈世界が求めるのは――〉〈世界が否定するのは――〉

 

『我、赤き龍の覇王と成りて――』

 

〈いつだって、力でした〉〈いつだって、愛だった〉

 

 

《何度でもおまえたちは滅びを選択するのだなっ!》

 

 

 イッセーの鎧が変質していく――それはまるで生物、もっと言えば小型の赤いドラゴン。

 そして全身に配された宝玉から多くの人々の絶叫に近い叫びが発せられる。

 

「「「「「「――汝を紅蓮の煉獄に沈めよう――」」」」」」

 

『Juggernaut Drive!!!!!!!!!!!!』

 

 赤いオーラが迸ったことによってイッセーの周囲がはじけ飛ぶ。何もかもがオーラに触れただけで。破壊されていく。

 

「ぐぎゅああああああああああああああああああああああああっ! ア゛ーシア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッッ!」

 

 獣にも似た叫びを残し、ドラゴンの姿は一瞬で掻き消える。その次の瞬間、すでにドラゴンはシャルバに組み付き、その肩に食らいついていた。

 

「ぬぅぅぅうううう!!」

 

 速度をつかさどる騎士の木場でも捉えきれなかったほどのスピードである。見れば兜のクラッシャーが文字通りの咢に変貌しており、ぶちぶちという音を立てて肩の肉を噛み千切っている。

 

「おのれっ!」

 

 シャルバは右手をかざして光を放とうとするが、その腕はすくさまドラゴンの宝玉から生えてきた龍の腕とそれから生えた刃で右手ごと切断される。

 

「ぬおっ!」

 

 シャルバの苦悶の声とともに、鮮血が辺りに散らされる。

 

「げぎゅごかゅぁ、ぎゅぎゃぎゃぁっ、ぐヴぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 各部に配された宝玉からいくつもドラゴンの手足や刃が生え、その姿も、発する声もすでに元のイッセーを思わせるものはない。もはや単なる怪物である。

 

「ふ、ふざけるなぁぁぁぁ!!」

 

 シャルバは残った左腕をかざすと特大の光を放つ。しかし、今度はドラゴンの翼が白く発光する。シャルバの光が届くと思われた瞬間――

 

『DividDividDividDividDividDividDividDividDividDivid!!』

 

 音声が鳴ると同時に徐々に光の波動が半分づつになっていく。これは紛れもなく白龍王の力だ。

 

「これは……ヴァーリの! おのれ、どこまでもお前は私の前に立ちふさがるのかヴァーリィィィィィ!!!」

 

 かつてはまともに使えもしなかった力をこうもたやすく使いこなすそのスペックと異常性にリアスたちはただおののくしかない。

 

「このぉお……ガバラっそいつを抑えろ!!」

 

 ガバラの太い腕が赤いドラゴンを抑えようと伸びる。だが、その腕はダイスケの跳び蹴りで弾かれた。

 

「ちっ、かまわん! それ(ダイスケ)を動けなくしておけ、ガバラ!!」

 

 シャルバの指示に、ガバラはターゲットをダイスケに変更する。振り下ろされる巨大な拳はこれまで相対してきた拳のどれよりも強力だった。そのたった一撃でダイスケは地面にめり込まれ、意識が刈り取られる。そしてまるで先程の報復といわんばかりにガバラは電撃を纏った拳で何度も何度もダイスケを殴り続ける。

 その隙を見計らって、シャルバは残る足で転移用魔方陣を描き逃走しようとするが、その動きは途中で止められる。

 

「と、停めたのか、私の足を!?」

 

 見れば鎧の瞳が赤く光っている。ギャスパーの能力までも使ったのだ。

 

「馬鹿な、一体どこまでのスペックだというのだ!? これではデータ以上ではないか!! ありえん、たかが神器にこの真なるベルゼブブが敗北することなど――」

 

 突如ドラゴンの胸の装甲が開く。そして、呪詛のようにドラゴンは己の力をどこまでも高めていく。

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!』

 

『Longinus Smasher!!!!!』

 

 放たれる真っ赤な閃光。その威力は以前の比ではなく、あっという間にシャルバを包む閃光となる。

 

「バ、バカな……ッ! 真なる魔王の血筋である私が! ヴァーリに一泡も噴かせていないのだぞ!? ベルゼブブはルシファーよりも偉大なのだ! おのれ! 赤い龍め! 白い龍めぇぇぇぇ!!!」

 

 赤い光の中に、シャルバは消えた。ならば次のターゲットは決まっている。今もしつこくダイスケを殴り続けているガバラだ。

 ガバラの方も自分を狙う力ある存在に気付いたのか、殴る手を止めて興味を赤いドラゴンに移していつでも襲いかかる準備をする。

 

「だ、ダイスケ君!」

 

「ダイスケ、しっかり!」 

 

 倒れ臥して動かないダイスケを回収するために木場とリアスが駆けつけようとする。なにせ今最大の脅威同士がお互いに注意しあっている今しか救出のチャンスはない。

 しかし、2人は動けなかった。赤いドラゴンも、ガバラもなにかを感じて凍り付く。

 それは、どこからともなく感じる冷たい感覚。先程聞こえてきた赤いドラゴンの中の呪詛以上に暗く冷たい恨みの感情。そして、言い知れぬ恐怖がこの場にいる全員に伝播した。

 その中心は、ダイスケである。いや、ここにいるのは本当にダイスケなのか? あまりにも濃い邪気が、それを放つ者がダイスケであってダイスケでない事を教えている。そして、どこまでも暗く深い深淵から聞こえる声が聞こえてきた。

 

――ついに来た

 

――この好機、決して逃すものか

 

――我が恨み晴らせねば、口惜しゅうて口惜しゅうて堪らぬわ……

 

 その深淵の呪詛と共に、ダイスケが立ち上がる。

 

――たとえ世界が変わろうとも

 

――たとえ違う歴史を歩もうとも

 

――我が恨みは晴らされるときまで決して消えん

 

――よくも忘れたな

 

――よくも我()を忘れたな

 

――亡国のために戦った我らを

 

――ただ故郷を愛していた我らを

 

――記憶の彼方に消し去って享楽を享受してきたな

 

――礎になった我らの死を

 

――よくも馬鹿にしてくれたな!!!!!!!!!!

 

 それは、たった一人の声。なのに先程のイッセーの中から響いた怨嗟とは比較にならない悍ましさと無念を感じる。

 そして、閉じていたダイスケの鎧の瞳が開かれる。それは、どこまでも深い白の瞳だった。

 

「……世界を越えて積もり積もった我が情念……恨み晴らさで於くべきかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 その王の姿は、まさに怨念の化身であった。

 




 はい、というわけでVS47でした。
 ダイスケとイッセーのタッグではなくゴジラ対ガバラにした理由は一重にディオドラの戦い方が原因です。遠距離から持続するダメージを延々と浴びせられて平気なのは余程の耐久と自己治癒能力がないと相手できないと踏みました。イッセーには耐久はありますが、自己治癒はないので厳しいのです。
 そして現れたのは……みんな、シンが来ると思った? 残念、白目でした!! どっちにしろ危険というか、恨み持ってる分こっちの方が危険ですけど。 
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS48 白い黒と昏い赤の対決

 書いていてシリアスなのかギャグなのか訳わかんなくなってきました。


 はじめに白目となったダイスケ目がけて突撃したのはガバラだった。これはガバラの方が勇敢であった訳でも赤いドラゴンが怯えていたからと言う訳でもない。

 同じ怪獣であるが故に相手の能力を把握しやすかったというだけだ。証拠に赤いドラゴンは探査魔力術でのアナライズ中であり、対処法のラーニングのまっ最中で少々処理が遅れていた。これは白目に出す怪我これまで初めて見たタイプの適正性目であったがためだ。なので、一旦わざわざ自らから先陣を切って突撃してくれたガバラを生け贄にして情報収集に集中する事にしたのだ。

 

ブォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!

 

 ガマと猛牛の鳴き声の合成音のような唸りをあげてガバラは突撃する。10m以上の巨大な体躯に見合わぬスピードは、それに伴った運動エネルギー量を増し、叩き付ける拳の威力も増加させる。当然、電撃も纏わせた拳はインパクトと動じに周囲の瓦礫も粉砕する。

 ダイスケは拳の下敷きになった。当然この光景を見ている誰もが叩き潰されたものと思う。だが、ガバラの拳の下からあの昏く深い底から響くような声が聞こえてきた。

 

「……この程度で小生を殺せると思うたか。舐めるなよ、小物がぁッ!!」

 

 ダイスケは右利きだった。つまり、ガバラの拳を左腕で支えているというこの光景はダイスケにとってこの拳が本気で受けるほどのものではないという事を示している。

 ガバラはもう一度殴りつけようと伸ばした腕を引こうとした。だが、動かない。白目のダイスケが腕を掴んで離さないからだ。ガバラは必死に腕を引こうとするが微動だにしない。どう見てもスケールの差と実際の腕力差が間違っているとしかいいようがない。

 自分の腕力がガバラよりも勝っている事を確認した白目のダイスケは、その腕を半回転分捻った。するとそのトルクはガバラの腕の骨の構造強度を大きく逸脱して剪断、つまりは骨折させた。

 

ブォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!?

 

 あまりの痛みにガバラは苦悶の叫びを上げるが、白目のダイスケは一向に手を離さない。

 

「ほう、痛めたか? なら痛みの原因を取り去ってやろうか」

 

 いいながらダイスケはガバラの腕を引っ張る。するとその腕はいとも容易く引きちぎられてしまった。

 

ブォ、ブォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!?

 

 白目のダイスケの拘束からは脱したが、その代償はあまりにも大きい。あまりの痛みにさしもの凶暴なガバラも戦意を完全に喪失してしまった。這々の体で逃げだそうとするが、白目のダイスケが見逃すはずがない。

 背中の背びれが青白く発光し、白目のしたのマスクのクラッシャーが大きく開く。大地は鳴動し空気は震え、この世の全てがその力の解放に怯えているようにリアス達には感じられた。

 

「――去ね」

 

 死の宣告と同時に青白い熱線は放たれる。その一撃はガバラを背中から押し、遙か10km先まで信じられないスピードで加速させる。そしてガバラの肉体が限界に達した瞬間、大爆発が起きた。

 その光景たるやどう見ても水爆の爆発。空気の震えがややあってここまで伝播し、その威力のほどが覗え知れる。ガバラの肉体は文字通り粉砕され、その魂は天に昇っていった。

 だが、それだけの事をしでかしても白い目のダイスケの破壊衝動が収まる気配がない。その白目は次のターゲットとして赤いドラゴンを捕らえる。

 

「……聞こえるぞ、貴様の怨嗟。いや、()()()()()()()()()()()()()が。そうかそうか、そんなにお前は不幸だったか。可哀想になぁ……舐めているのか貴様ぁぁぁぁぁ!!!」

 

 白目のダイスケは赤いドラゴンに飛びかかり、そのまま拳の応酬になる。その衝撃は神殿を大きく揺らし、ここまで持っているのが奇跡と思えた建物の構造的限界を大きく超えようとしていた。

 その証拠に天井は崩落を初めて瓦礫が次々とリアス達の頭上に落ちてくる。なんとか避けてはいるものの、次に落ちてくる瓦礫は大きすぎて避けられそうもない。かといってここで大きな攻撃で瓦礫を砕いたら白目のダイスケの気を引いてしまうだろう。

 どうしたものかと思案に暮れていたその時、声が聞こえた。

 

「障壁を張ってください! 下手に動かないで!!」

 

 その声に従い、リアス達は一カ所に集まって頭上に障壁を張る。瞬間、天井が落ちてきたが、それは横合いから噴出された紫色の液体によって空中で溶かされた。

 

「石の天井板は私の強酸性に調整したべーレム毒で溶かしました。毒液は踏まないように気をつけて」

 

 声の主はダイスケが倒したディオドラの女王(クイーン)、ミゲラ・サンタクルスのものだった。敵だったもの登場にリアス達は一瞬こわばるが、彼女が抱えているものを見て緊張を解く。

 

「すいません、手伝ってください。私だけでは抱えきれなくて」

 

 ミゲラが連れてきていたのは、気絶している生き残ったディオドラの眷属達だった。

 

「確かに、見捨てるのは残酷ね。連れて行きましょう。祐斗、朱乃、小猫、手伝ってあげて。私は落ちてくる礫をなんとかするわ。」

 

 目の前で起きたショッキングな出来事にもかかわらず、リアスは努めて冷静であろうと努力していた。指示に従って木場達はディオドラの眷属を抱えて崩落する神殿から脱出した。

 すると間一髪、最後にリアスが神殿から抜け出した瞬間に大崩落が始まる。轟音を立てて石材が倒れ、砕け、何もかもがその形と役割を終える。

 せめてあのバケモノと化した二人が泊まってくれれば幸いである。だが、そんな淡い希望もすぐに崩れた。倒壊した瓦礫の中でまだあの化物二匹は戦っていたのだ。

 見れば二匹の周囲に瓦礫が落ちていない。これは恐らくぶつかり合う拳の衝撃波で落ちてきた礫が皆吹き飛ばされた結果なのだろう。すり鉢状に開けた崩落跡地のせいでこの二匹の戦いが剣闘士の決闘のようにも見えてきた。

 激しい拳や熱線の応酬は見る者の心を凍り付かせる。熱線とビームの撃ち合いはまさに呪わしい力のぶつかり合い。空中で衝突した赤と蒼のエネルギーの塊は大爆発を起こす。

 勿論赤いドラゴンとゴジラの戦いはこれではこれで終わらない。壮絶な殴り合いに発展し、爪が、拳がお互いの肉と血を抉る。

 

「うぎゅあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

「力に飲まれたのは己の不徳だろうが!! 己の生に不満を持つとはずいぶんと贅沢な奴め!! 小生らのように望まぬ戦いで散った訳でもなかろうに! 他人のために戦ったのに忘れ去れた訳でもなかろうに!! あぁ、恨めしやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

 この二人を止めなくてはならないとは思う。が、この二匹の戦いに介入すれば死は確実。どうしようもない。

 

「ミゲラさん、でしたね。同じ獣転人ならアレがなんなのかわかりませんか? 止める方法は?」

 

 木場がミゲラに尋ねる。

 

「……あのドラゴンの神器の覇龍(ジャガーノート・ドライブ)と戦っているアレは、恐らく獣転人の魂に刻み込まれた過去のゴジラの意思が表面化したのでしょう。戦いの中で宝田大助は気を失ったのではないですか?」

 

 ミゲラの質問に、リアスは「ええ」と応えた。

 

「その時にずっとダイスケさんの意識の裏でゴジラの意思は表に出る機会を覗っていた。戦いの中なら暴れられますからね。その中で気を失うのを狙い、表に出て暴れているのでしょう。いわば、今の彼はゴジラに意識を乗っ取られている」

 

「ではなぜゴジラの意思はヒトの言葉を?」

 

 朱乃がミゲラに尋ねた。

 

「伊達にこの世界の始まりから人の世を見てきた訳ではないはずです。きっと獣転人の意識の裏で人間の事を見てきたのでしょう。それにしてもダガーラだって永い刻の経過で眠ったままなのに……なんと恐ろしく強い生命力なんでしょうか」

 

「あ、そうだ! ディオドラが言っていた核弾頭! アレの事を伝えないと!」

 

 忘れかけていた重要案件の事を思い出すギャスパー。それにミゲラは応えた。

 

「烈一号型核弾頭の起爆は大規模反転(リバース)発動後です。もう条件は果たされないので、赤イ竹は弾頭に仕込んだ転移術で回収しているはずです。彼らも効果がある状況で強力な武器は使いたいですから」

 

 それを聞いて一堂は胸を一旦なで下ろした。だが、目の前の二匹に関してはどうしようもない。恐らくアザゼル達本隊が来てくれなければ対応の一つも出来ないだろう。

 

「困っているようだな。」

 

 リアス達が思案していたその時、ヴァーリの声が聞こえる。声の方向を見ればいつの間にかヴァーリをはじめとして美猴、そしてコールブラントと支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)を携え、背広を着こんだアーサーがその場にいた。

 三名ともすでに名の知れた禍の団構成員である。そのためリアスたちはすぐに戦闘態勢を取る。

 

「戦りあうつもりはない。ただ赤龍帝の覇龍を見に来ただけだ。そのついでに別の面白いものも見れたがな。とはいってもあれは共に中途半端な状態のようだ。アレがこの強固なフィールドの中で起きたのは幸いだったな。人間界であれが起きていたら都市が一つ消えてなくなっていただろう。」

 

 状況をつかんでいるらしいヴァーリにリアスは問う。

 

「……二人とも、元に戻るの?」

 

「兵藤一誠のほうは完全な覇龍ではないから戻る可能性もある。しかし、止められなければ命を消費し続けて自滅する可能性がある。いずれにしろ彼自身の命が危険だ。宝田大助のほうは……済まんがどう手をつけていいかわからん。下手に手を出してさらに凶暴になってもらっても困る」

 

 すると、美猴が一人の少女を抱えて木場に歩み寄る。

 

「このお嬢ちゃん、お前らのとこのだろ」

 

 それはアーシアであった。見たところ気絶はしているが目立った外傷はない。そのアーシアを木場が美猴から受け取る。

 

「アーシア!」

 

「アーシアちゃん!!」

 

 リアスと眷属一同がアーシアの下に集まる。その無事な様子に皆涙ぐんでいた。

 

「でも、どうしてあなたたちが?」

 

 木場の疑問にアーサーが答えた。

 

「私たちはちょうどこのあたりの次元の狭間を調査していました。そこに彼女が飛び込んできたんですよ。ヴァーリが見覚えがあるというのでここまで連れてきた次第です。ですが運が良かった。私たちがあそこに偶然居合わせなければ彼女は次元の狭間の『無』に当てられて消失するところでした」

 

「……単なる気まぐれだ。助けようと思って助けたわけじゃない」

 

 そのアーサーの説明でリアスたちは会得した。

 

「よかった……本当によかった……!」

 

 アーシアの無事を確認したゼノヴィアが安堵でその場に崩れ落ち、ひたすら涙を流した。そのゼノヴィアに木場はアーシアを託す。

 

「――あとはイッセーとダイスケだけど」

 

 リアスが二人の方向に視線を向ける。二匹の怪物はまだ瓦礫の上で不毛な争いを続けている。

 

「アーシアの無事を教えればイッセーだけでも止められないかしら」

 

「無理だ。死ぬぞ。まあ、止めはしないが」

 

 そっけなく言うヴァーリに朱乃と小猫が詰め寄る。

 

「頼める間柄ではないというのは承知しているけれども、それでもお願い。彼らを助けるのに手を貸して。赤龍帝と対となる白龍皇の貴方ならば彼らを抑えることもできるのではなくて?」

 

「……私からもお願いします。私たちも全力を尽くします。ですからどうか……」

 

 取りつくしまもないように見えたヴァーリであったが、しばし顎に手をやって考える。

 

「そうだな、兵藤一誠に関して言えば彼の何か深層心理に大きく影響を与える現象を起こせばいいと思うが……」

 

「なら、おっぱいでも見せりゃあいいんじゃね?」

 

 美猴が頭を掻きながら適当そうに言う。正直、グレモリー眷属のだれもがそう一瞬考えたが今はまじめな場面である。誰も指摘できなかった。

 

「だとしてもあの状態ではな。ドラゴンを鎮めるものと言えば歌だが、赤龍帝と白龍皇の歌なぞこの世には――」

 

「――あるわよぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

「あー、やっと着いたー。って、なにあれ!? アレが今のイッセー君とダイスケ君!? 聞いてはいたけどとんでもないことになってるじゃない!!」

 

「イリナ、どうしてここに?」

 

 ゼノヴィアが聞くと、イリナは悪魔が用いる立体映像機器を地面に置いた。

 

「二人が危険な状態になったのは観戦ルームやこのフィールドで戦っていたお偉い方々にも把握されているの。で、このままではいけないとルシファーさまとアザゼルさまが秘密兵器を私に持たせてくれたわけ! ちなみに転送してくれたのはオーディン様よ! すごいわよね、北の神さま! そんでもってこれが、その秘密兵器! いざ、起動!!!」

 

イリナがボタンを押すと空中に大きな映像が投影される。そして始まったのは――

 

『おっぱいドラゴン! はっじっまっるよー!』

 

 元気良く宣言した鎧姿のイッセーの周りに、子供たちが集まってくる。

 

『おっぱい!』

 

 

「おっぱいドラゴンの歌」

 

 作詞:アザ☆ゼル

 作曲・企画:サーゼクス・ルシファー

 ダンス振り付け:セラフォルー・レヴィアたん

 

 とある国の隅っこに

 おっぱい大好きドラゴン住んでいる

 お天気の日はおっぱい探してお散歩だ☆

 ドラゴン ドラゴン おっぱいドラゴン

 もみもみ ちゅーちゅー ぱふんぱふん

 いろいろなおっぱいあるけれど

 やっぱり おっきいのが一番大好き

 おっぱいドラゴン 今日も飛ぶ

 (以降はご自分でお確かめになってください)

 

 

     ・

     ・

     ・

     ・

 

 

―― な ん だ こ れ は

 

 大方イッセーが皆に隠れて撮影していたものはこれのことなのだろう。どうやら子供番組用のPVらしい。それにしても作詞、作曲、企画、振り付けがとんでもないことになっている。三大勢力和平後の最初の合作がこれでいいのだろうか。

 

「うぅ、お、おっぱい……」

 

 しかし、物は悪いが効果はあったようでイッセーが初めてまともな言語をしゃべった。いや、常識的に考えて決してまともな単語ではないが。

 

「良かった、反応したわ!」

 

「……こ、こんなところでも『やらしい赤龍帝』……。 

 

 素直に歓喜するリアスとこんな状況でも平常運転なイッセーに頭痛が起きた小猫である。そして効果があったことを確認したイリナはついにリピート再生のボタンを押した。

 延々流される教育番組用なのに教育上よろしくない歌がイッセーを狂気と平静の間で苦しめさせ、ダイスケもといゴジラも「……なんだ、これは」と白い瞳をぱちくりとさせて呆然としている。

 

「そうだわ、リアス! あなたの乳首をここで使いましょう!」

 

 朱乃がこの空気に呑まれたのかとんでもないことを口走る。

 

「あ、朱乃!? 何を言っているの!?」

 

「イッセー君はあなたの乳首で禁手に目覚めた。なら、きっとその逆も可能なのではなくて? まず、ヴァーリの力で今のイッセー君の力を半減させ、そして貴方の乳首を触らせるの。ほら、見て!!」

 

 朱乃が指差すイッセーの姿は、リアスの方向を向き、まるで何か押すスイッチを探しているような姿であった。

 

「ぽ、ぽちっと、ぽちっと、ずむずむいやーん……」

 

「今のを聞いた? イッセー君は今、あなたの乳首を求めているわ。ふふ、私じゃないっていうのが悔しいわね……。でも、イッセー君を救うにはこれしかないわ」

 

「……俺は別にかまわんが、リアス・グレモリーの乳首は兵藤一誠の制御スイッチか何かなのか?」

 

 美猴がそれを聞いて「いいね、スイッチ姫ってか!?」と大笑いする。それを一度キッと一睨みしたリアスは朱乃に問う。

 

「で、でも! わたしがイッセーを制御する役割だとして、誰がダイスケを抑えるの!?」

 

 そこへ、ひらりと一人舞い降りる人影があった。それは獣具を展開したヒメであった。

 

「あやつは妾に任せよ。あの白目と戦った記憶ならある。まぁ、あの時は死んでしまったが……死ぬ気ならなんとか止められるはず」

 

「だめよ! 死ぬ事が前提なんて! お兄様達の応援も来るはず、それまで私たちでなんとかしのぐの!」

 

 己の死を受け入れかけているヒメをリアスが止める。その言葉に、ヒメは優しく微笑んだ。

 

「なぁに、あやつにはミコトを救ってもらわねばならん。死ぬ気とは言ったが死ぬつもりはない。それに……もうすぐ奴が来る」

 

 ミコトの言葉からややあって、フィールドの空気が一変した。それまで無風だったのに、突然強い風が吹き始める。次第に雨粒が落ち、天候の変化などないはずのフィールド内に暗雲が立ちこめてきた。

 そしてリアス達の側に落ちる雷。その黄金の稲光が落ちた地点に、一人の男が立っていた。男はスラヴ系で、スラリとしていながら鍛えられた肉体がある事が背広の上からでもよくわかる。無造作に調えられた金髪とその顔立ちはビスクドールを思わせる流麗さを際立たせていた。

 ヒメの姿を確認すると、男はようやく口を開く。

 

「……お前も来ていたか。最珠羅の獣転人。誰かは知らないが、お前が何者なのかは私にはわかるぞ」

 

「妾も貴様の魂の元の持ち主とは一度は共闘し、一度は死闘を繰り広げておる。誰かは知らんが妾も主の魂の事はよくわかるぞ、魏怒羅。アレに惹かれてきたか?」

 

「今この世が壊されては私の計画は破綻する。それに、俺の中のギドラとは違う魏怒羅がヤツを止めろと五月蠅いのでな。アレさえなんとかすれば、魏怒羅は大人しくすると言ってくれている。ならあれを止める以外の手はあるか?」

 

「……どうやら良からぬことを考えてるようだの。貴様を動かすのはあの狡猾な老練(グランド)か? それとも虚空の王(ギドラ)か?」

 

「私を動かすのは私だけだ。何より私の目的は奴らのような矮小なものではない。もっと大きな()()だ」

 

「救済を真面目に語るヤツには基本的に禄なヤツはいない。だが、今は貴様に頼るほかは道はないだろう。……やってくれるか?」

 

「無論、私の目的達成のためには今この世に滅んで欲しくはない。手を貸す」

 

 どうやら金髪の男は手を貸してくれるらしい。だが、それに疑問視を持つのはヴァーリだ。

 

「お前、曹操の所にいるヴァーシリー・コロリョフだな。基本的に表に出ないという貴様がなぜ今更ここにいる?」

 

 ヴァーシリーと呼ばれた男はヴァーリに応えた。

 

「無論、己の目的達成のため。さっきからそう言っているが?」

 

「これまでアンタは禍の団上層部の戦線投入依頼を悉く蹴ってきた。てっきり金だけを出して世界が滅ぶ様を見たいだけなのかと思っていたが……アンタの言う救済とはなんだ?」

 

「今はただ、全てを救うとしか言いようがない。そこに至る手段はまだ確立されてはいないのだから。だが、ただ一つだけ言えるのは「俺は決して嘘は言わない」ということだ。今この状況を解決するためにお前達に助力する事は嘘偽りないし、これからもその姿勢は揺るがない」

 

「……わかった。但し、俺の獲物の赤龍帝にどさくさ紛れで手を出すなよ」

 

「安心しろ。いずれ彼も、お前も、纏めて救う……さて、そこの転生天使の娘。ぼさっとせずにこちらを手伝え」

 

「……え? なんで私がそっちを?」

 

 まさかの指名にイリナが驚く。

 

「まさか気付いていないのか? まぁいい。この娘にはこっちの手伝いをさせる。そっちはそっちで上手くやれ、白龍皇」

 

「え、ちょ、ま、いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ヴァーシリーはイリナの後ろ襟を掴むと、リアス達の止める言葉も聞かずに飛翔した。重力を無視した飛翔で弧を描き、着地する寸前でヴァーシリーはなんとイリナを白目のダイスケに向けて放り投げる。

 

「うっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 イリナは背中からダイスケに激突し、地面に転がる。ついたほこりを払いながらイリナはヴァーシリーに抗議した。

 

「ちょっと! なにするんですかいきな、り……?」

 

 イリナは気付いてしまった。背後から刺さる鋭い視線。今までいくつも修羅場をくぐったがこんな濃密な殺気は感じた事がない。恐る恐る後ろを振り向くと、そこに悪鬼がいた。

 

「……ほう、お前は()()()()

 

「えっと、私、貴方と面識ありましたっけ……?」

 

 ダイスケは知っているが、こんな白目のダイスケは見た事がない。そのことイリナは言っていたが、白目のダイスケからするとこの言葉は誤魔化しにしか聞こえなかったようだ。

 

「白を切るか、地の獣。ならばあの時のように爆散してみるか? 思い出せるかもしれんぞ?」

 

 完全に白目の興味はイリナに向かった。その裏でリアス達はイッセーの気を引く作業をしていたがそんな事イリナには関係ない。ただただ目の前の悪鬼に震えていた。

 

「いや、ホントになにも記憶がないんですけれど……!?」

 

 白目のクラッシャーが展開して背びれが発光しはじめる。先程の熱線の威力はイリナもこのフィールド内の別の戦場で見ていたから知っている。それが自分に向けられているのだから戦いた。

 そして容赦なく放たれる一閃。大地は砕け、大気が揺さぶれる。この二度目の熱線によるキノコ雲はオーディン達にも見えて戦慄させたという。

 どう考えても熱線はイリナに直撃し、彼女は砕け散ったかのように思えた。しかし。

 

「な、なにあれ……! あんなの喰らった死んじゃう……ってあれ? なんで私こんな所に?」

 

 イリナがいたのは白目の真後ろ2m。いつの間にかここまで移動していたのだ。しかもイリナは腰から下が地面に埋まっている。まるでここまで地中を掘削してきたようだ。そこでイリナがある事に気付く。

 

「――なに、このグローブ?」

 

 イリナの両手にはいつの間にか大きなグローブが装着されていた。その形状はまるで猛獣の手。爬虫類の皮膚のような表面に、背には蛇腹のような突起が続いている。

 

「……ようやく目覚めたか、婆羅護吽(バラゴン)

 

 そのヴァーシリーの一言で、ようやくイリナは状況を把握した。

 

「え、嘘……私って獣転人だったの!? って、あぶなっ!!」

 

 上半身を間抜けにも出しっぱなしだったイリナを白目が踏み潰しにかかる。だが間一髪でイリナは地中を掘削して難を逃れる。

 逃げてばかりではない。イリナはまるで食事中に周面をはねるボラのように地中から飛び出してまた潜行する動作を繰り返す。その間、技と白目のすぐ側から現れて爪で引っ掻くヒットアンドアウェイの攻撃も織り込んで翻弄する。

 

「鬱陶しいぞ、地蟲ぃぃぃぃぃ!!!」

 

「おっと、地面だけではないぞ」

 

 ひらりと舞ったヒメが、手にした扇を逆手持ちのシミターに変形させて斬りかかった。その流麗で隙も無駄もない動きが白目を翻弄する。

 さらに周囲を舞う黄金の鱗粉が白目の視界を遮り、プリズム効果でヒメの姿が何重にも見える幻影が現れた。

 

「またか羽蟲!! それほど小生の恨み晴らしを邪魔したいか!!!」

 

「当然の事! お前のやろうとする復讐は復讐ではない! ただの八つ当たりよ! もうあの世界ではないのだ!! その身体、ダイスケに返せ!!!!」

 

「なにを、我が呪い(想い)も知らぬ蟲風情がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 放たれる熱線。しかし、その熱エネルギーは鱗粉を発火させ、粉塵爆発をもって己の身を焼いてしまう。当然ヒメは高速でこの場を離れており、なんの被害もない。

 己を焼く炎に包まれながらも、白目の意思は揺るがない。

 

「……忘れ去られた者達の想いを、小生は背負っているのだ。恨みが晴れねば成仏も出来ん。それがあの者達への報いか!? それが我らへの手向けか!?」

 

「そのお前の想いだけで、お前が抱えるその魂達は救われるのではないか」

 

 瞬間移動してきたヴァーシリーが白目に問う。

 

「お前一人でもその者達を思うものがいる。いや、少なくともお前が思う以上に彼らの事を忘れていない者達もいるはずだ。その者達を巻き込む権利は、お前にはないはずだ」

 

「……貴様、金色かぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 すぐさま白目はヴァーシリーに殴りかかるが、目にも止まらぬ流れるような動きで避けられる。そして交錯した瞬間にヴァーシリーは手にした電撃を纏う直剣で腹を斬りつける。

 

「少なくとも、今の魂の持ち主はお前ではない。どうやら真の主が動き出したみたいだぞ?」

 

「な、に?」

 

 

 

 

 

 

 

 ダイスケが気付いたとき、彼はいつの間にか高価そうな椅子の上に座っていた。目の前には大きな円卓が一つあり、室内はグレモリーの屋敷の大広間のように煌びやかだった。

 円卓にはダイスケが座っているもの以外にも椅子があり、使用者の好みを反映したであろう様々な形をしている。数はダイスケのものをあわせて14。他にもここに来るらしい事がわかる。

 その一つには鎖がかけられており、鎖は途中で大きな力で引き千切られた痕跡がある。相当な力を一瞬でかけたのだろう、剪断面は熱で赤く光っている。もしもこんな芸当が出来る者がすぐ側にいるのならかなりの脅威だ。ダイスケは椅子から立って周囲を警戒する。

 すると、不意に部屋のドアの最も大きな者が開かれた。

 

「やぁ、待たせたね。他の連中はもうちょっとしたら来るから、その間にコーヒーでも淹れてあげよう」

 

 そう言って茶道具を乗せたカートを引くのはビスクドールか宝塚の男役トップを思わせる麗人、いや男装の美女だった。確かに男性的な出で立ちだが、礼服の下の肉付きや全体のラインは女性のもので、声も低くないハスキーなものだった。

 その麗人はダイスケのすぐ側に近づき、円卓の上にコーヒーを淹れる道具を広げていく。

 

「アメリカンじゃない、本物のフレンチローストだ。あんな薄めた紛い物とは違う本物の深い味わいを堪能させてあげよう」

 

 その手つきは喫茶店のマスターのように手慣れたもので、見とれるような流麗さがある。だが、ダイスケは慌てて麗人に尋ねた。

 

「あ、あの、ここは一体どこなんですか? 俺、他の場所にいたはずなんですけど……いや、その、不法侵入とかではなくてですね!?」

 

「ふふっ、慌てなくて良いよ。強いては事をし損じる。まずはこれでも飲んでおくれ」

 

 差し出される一杯のコーヒー。確かに麗人の言葉通り、心地良いコーヒーアロマが鼻腔を通って快感を感じる。試しに一口飲んでみると、香り以上の心地よいほろ苦さとバランスの良い酸味が口の中に広がっていく。

 

「お、美味しい……」

 

「それは良かった。我ながら上手くいったという自負があったんだけどね」

 

 自分も一口流し込み、流すような目で麗人はダイスケを見つめる。

 

「他の連中はこういう嗜む心を持っていなくてね。君とは気が合いそうだよ。そう、とても……ね……」

 

 すると麗人はカップを置いてダイスケの上に自分の掌をそっと重ねる。

 

「え? あ、あの……」

 

 動揺したダイスケはカップを慌てて皿の上に置く。すると慌てたせいかコーヒーの飛沫がダイスケの掌の上に溢れる。

 

「これはいけないね」

 

 そう言うと麗人は、なんとコーヒーを溢した側のダイスケの手を取って口元に持っていき――黒い染みを舐め取った。

 

「!?」

 

 まさかに見ず知らずの美人にこんなことをされると思っていなかったダイスケは大層驚いた。相手は苦手な大人のオンナ。しかし、堕天使の嬢達のような妖艶さとは違う耽美な色気がダイスケには新鮮だった。これをもし年頃の少女がされれば同性相手でも一発で意識する相手になる。

 

「ごめんごめん、勿体なくてね。でもそれ以上に……」

 

 そう言いながら麗人はダイスケの腕をぐっと引いてその顔を自らの眼前に引き寄せた。

 

「君の味を見てみたかった」

 

(なに、この少女マンガ的展開ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?)

 

 頭がフットーしちゃいそうだよぉぉぉぉぉぉ!!!! とダイスケは顔を真っ赤に染める。

 もう何が何だかわからなかった。




 はい、というわけでVS48でした。
 白目は覇龍と基本的に同程度の脅威と思ってください。ただ、理性と狂気が共存している分白目の方が危険ですが。
 新獣転人、その名は自称天使紫藤イリナ! 獣具は 地底獣の掘削腕(バラゴン・グランドダイバー・クロー)、能力は手のクローで殴ったモノ(生物以外)を穿つそのまんま爆砕点穴!!
 そして新キャラ、ヴァーシリー・コロリョフ。ロシア人の獣転人で、超大金持ちです。そして察しのいい方はもうおわかりでしょう……この男は、ヤツです。
 ダイスケは今一体どこにいるのか? そしてこの男装の麗人の正体は? 多分この男装の麗人の正体を知ったらみんな驚くぞ!! なんでよりによってコイツ!? となる事請け合いです!
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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VS49 運動のB/なぜブルマは廃れたのか

 今回は私見が多分に含まれます。
 なので言っておきましょう、勇気なき者は去れ!!!!
 ……あ、うそうそ。読者増えて。お願い。
 次回からはキリ良くラグナロク編だよ!!


「あ、あ、あ、味って……!?」 

 

「当然君の味さ。ずっと見ていた君の味さ。君を味わいたくって仕方ないんだよ、僕は。……いや、もう味見だけじゃ我慢できない――食べちゃいたいよ」

 

 男性的でありながら女性的な色気を見せる麗人にダイスケの心臓は爆発寸前だ。その倒錯的な妖艶さにもう自制心は崩壊寸前。首の皮一枚で理性を保っている状態だ。

 

「いや、もう限界だ。いいよね? シちゃっても」

 

 え、なに、こんなズカ系美女と会って五分でアハン!? とダイスケは驚きを隠せない。しかも麗人はダイスケの頬を両手で掴み、自分の顔とダイスケの顔を近づけさせようとしている。そう、どう考えてもキスしようとしている。

 

「さぁ、僕に身を任せて。大丈夫……怖く、ないから」

 

 ああ、お父さんお母さん。俺はこれから大人の階段を上ります。そんな馬鹿な一文がダイスケの脳裏によぎった瞬間――

 

「なーにやってんだ、お前」

 

 心底呆れかえったような男の声と同時に堅いなにかが粉砕される音が響く。麗人の後頭部に部屋の入り口にあった高そうな花瓶が投擲されたのだ。

 

「ジャン・レノン!!」

 

 フランスの名優の名を叫び、昏倒する麗人。見れば花瓶を投げたのは着流し姿の中背の男。実に日本人らしい男前と表現すべき顔立ちだ。

 

「ドミニクよぉ、お前いい加減にしろよ。子孫繁栄なんてここじゃ無意味だぜ?」

 

「五月蠅い、エイジ!! 僕はあの時成しえなかった事を成す!! このダイスケと一緒にね!!」

 

「そいつに取っちゃ迷惑な話だぜ。一人で勝手にやんな」

 

「嫌だね! せっかくここに来たこのチャンス、僕は絶対に無駄にしない!!」

 

 そう言いながらダイスケに後ろから抱きつくドミニクと呼ばれた麗人。その背中に当たる柔らかい二つの感触が堪らないがダイスケはある事に気付く。

 

「ん? ……なにか尻に当たってる?」

 

 自分の腰の位置には丁度ドミニクの腰が当たっている。なにがどうなっているのかわからなかったが、エイジと呼ばれた男が応えを教える。

 

「ドミニクはな、完全な両性具有だ。ケツに当たってんのは……わかるよな?」

 

 それを訊いてダイスケの顔が真っ青になる。そして、確認のためにドミニクに呟きで尋ねた。

 

「あ、あの……ナニか当たってるんですが……?」

 

「あぁ、――当ててるんだよ。ナニを、ね」

 

 ガタガタとダイスケは震えはじめる。そしてドミニクはダイスケを部屋から連れ出そうと持てる力全てを持って連れ出そうとした。

 

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!! 俺は、俺はそっちの趣味はないぃぃぃぃぃ!!!!」

 

「なら興味を持たせてあげよう! 意外といいもんだよ!!」

 

「する・しないの選択の自由ぐらいはあるはずだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ならどっちの方も味あわせてあげるよ!! 何でも試してみるものさ!!」

 

「いやだ! ダレカタスケテー!」

 

「チョットマッテテー! イマイレルー!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

 器用にドミニクは足でダイスケのズボンを下ろし、パンツまでにも手をかける。人生最大の危機にダイスケは泣きさけんだ。すると突然ドミニクの頭に鉄拳が叩き込まれる。

 

「hey,流石に同意無しはヤバいぜドミー。せめてちゃんとagreementをもらいな」

 

「あ、アンディ……?」

 

 アンディと呼ばれた白人の大男の顔は笑っているが目は笑っていない。その威圧感にドミニクはダイスケを解放した。

 

「子孫繁栄も良いけどよ、youが欲しいのは(アムール)だろ? ならちゃんと腕力じゃなくhartでattackしな」

 

「わかったよ、うぅ……でも僕は君を諦めない! いつか君と(アムール)を交わす!! その日までちゃんと明日から奥まで洗うんだよ!! 明日(ass)だけに!!」

 

「いい加減黙れ、ゴールデンラズベリー賞」

 

 エイジから放たれた容赦ない一言に、さしものドミニクも一撃で轟沈した。

 

「僕は悪くない、僕は悪くない、僕は悪くない。悪いのはエミリッヒのバカヤロー……」

 

「なんなんだよ、ゴールデンラズベリー賞って! 誰なんだよ、エミリッヒって!! つーか、あんたら一体何なんだ! いい加減説明しろォォォォォォ!!!!」

 

 ズボンをズリ下げられた状態でわめき散らすダイスケ。そのダイスケの肩を背後の誰かが叩く。

 

「ま、落ち着け同志。俺はシャク、こいつらの仲間だ。話は落ち着いてしようぜ……おっと、ズボン履くのは忘れるなよ。さ、時間もそんなにないしな。なぁ、ハルオじいさん」

 

「……全く人の子とは常に騒々しいものだな。鬱陶しくてかなわん。さっさとせい」

 

 ジャージ姿でサングラスを掛けた青年と、不機嫌そうな紋付羽織袴の老人に促され、ダイスケは不承不承ながらズボンをはき直して着席した。

 

 

 

 

 

 

「まずはようこそ同志、宝田大助。俺たちはお前さんを歓迎する」

 

 円卓に座るシャクから歓迎の意を受けるダイスケ。他に椅子に座るのはドミニク、エイジ、アンディ、シャクそしてハルオ老人の計五人。ダイスケも座っているので残り七つの席が空いている。。

 

「ああ、他の連中は基本人間嫌いか興味がない奴らだからな。そりゃ来ないよ。ここにいるのは俺やアンディみたいに人間をそれほど嫌っていないか、お前個人を気に入っているドミニクやシャクぐらいなもんさ。ハルオ爺さんは単なるまとめ役だ」

 

「ふん、この者にがきたとなれば顔を出さないとはいくまい。そもそもエイジやアンディのようなやつがいるのがおかしいのだ。我ら『十三匹のゴジラの会』の恥ぞ」

 

「……やっぱりあんたらゴジラだったのか」

 

 エイジとハルオ老人の言葉で、さしものダイスケもすぐに理解した。ここにいる人間――いや、この存在達はゴジラの意識が具現化したものだ。

 

「でもなんでわざわざ人間の格好を? 基本、人間は嫌いなんだろ?」

 

「そりゃ、同志と話すのに元の姿は不便だからな。身長50m差とか100m差じゃ間違って踏み潰しかねないし、こっちは元の鳴き声だ。コミニュケーションなんて出来ないだろ?」

 

「まぁ、たしかに」

 

「それを考えるとミズホのやつには感謝だよ。表は大変だろうが、僕と君が出会えたんだからね」

 

 ドミニクの熱視線にただただダイスケは冷や汗を流すほかない。だが、気になる言葉があった。「ミズホが表に出た」と言う事だ。その疑問にアンディが答える。

 

「そりゃ言葉通りさ、brother。奴は今youと入れ替わって表で大暴れ。人間に対するhateが№1の奴はyouと入れ替わる事を虎視眈々と狙っていた。で、youがdownしちまったのをchanceにchangeしたってことさ」

 

「そ、それってかなりヤバいんじゃないか!? よりにもよって人間を最も憎んでいる奴なんて!!」

 

「だからこれから貴様を表に還し、ミズホの奴をこっちに引きずり込む。その際、奴の思念に晒されるが己をしっかり保て。飲まれれば永遠に奴は貴様の肉体に居座り続け、ここでドミニクに尻を狙われ続ける事になるからな。さぁ、そろそろ行くぞ」

 

「「「「了解」」」」

 

 そう言ってゴジラ達は椅子から立ち上がるが、ダイスケには一つだけ確認しなければならない事があった。

 

「一つ教えてくれ。どうして俺に力を貸してくれるんだ? 俺が見てきたゴジラの記憶は、ヒトに対する恨みで一杯だった。なのに、なんで俺には力を貸してくれるんだ?」

 

 その言葉に一同は一瞬顔を見合わせ、そしてハルオ老人が答えを言った。

 

「それはな、お前がただ一人試練に合格したものだからだ」

 

「……試練?」

 

 ダイスケには覚えがない。そんな試練を受けたのなら覚えているはずだからだ。

 

「そうか、君は意識せずにクリアしたから。……試練っていうのはね、僕らゴジラの獣転人になった者がマシな人間かどうかワザと力を与えて試すってことさ」

 

 ドミニクの言葉に、エイジが続ける。

 

「俺たちゴジラはあの神によって封印されたとき、一つ言われたんだ。「何も私の子達全てが悪ではない。力を正しく使える者もいるのだ。だからそんな人間に出会ったときは、お前達の力をこの世界を守ることに使わせてやって欲しい」ってな。流石の俺だってその言葉は信じられなかった。俺たちは人間共の誤った力の使い方の犠牲者だ。人間なんて力を持てば必ず誤った道に行く。だから神の言うことは信じられなかった」

 

「勿論俺たちはすぐに表に出て大暴れしてやろうって思った。だが、アンディの奴がな……」

 

 シャクがアンディに視線を送る。

 

「Meは昔、人間に助けられた。馬鹿な人間のMissで死にかけた俺を、同じ人間が、だ。だから俺は神の言葉を信じられた。それでみんなに提案したんだ。「しばらく俺たちの魂を宿した人間がそれに当てはまるかどうか少しの間testしてみないか」ってな」

 

「何が少しの間だ。お前最初は「100万年は見よう」ととんでもないことを抜かしたろう」

 

「俺に取っちゃ少しだよ、ハルオgrandpa。でも折衷案で10万年ってことになったんだ。その間、俺たちは宿主の人間に力を与えてtestした。そのpowerを破壊だけじゃない、自分以外の者のために使う奴がいるかどうかってな」

 

「だけど、どいつもこいつもちょっとの力で思い上がり、他者を平気で傷つけた。どいつもこいつも尻の締まりが弱そうな奴らだったよ。そう言う奴らはみんな早死にした。当然さ、そんな奴に力ある者が生きる世界にいられる訳がないんだから。身の程知らずばかりだったよ」

 

「だからみんな最初の文明発生から五千年の時点で諦めかけてた。俺も、みんなもアンディ以外は外に出る準備をしていた。そこに現れたのが同志、お前さ」

 

 シャクが続ける。

 

「お前は力を手にしても驕るどころか己を律し、自制した。グレモリーの親父さんの申し出にも、普通の子供なら嫌がるところを自ら進んで、家族を守るために分かれた。俺たちにとってはお前みたいな人間は衝撃だったんだ。だから、俺もお前が好きになった」

 

 そう言ってシャクは自分の胸元を広げてみせる。そこには大きく痛々しい傷跡があった。

 

「これはな、俺が人間に攫われた家族を取り戻そうとしたときにつけられた傷さ。攫われた家族は死んでいたけど、人間共はその遺骸で自分達の武器を作りやがった。その武器で俺をこんな目に逢わせた。だから俺は人間は嫌いだが、お前は俺と同じ、家族のためならどんなことでも出来る仲間、同志だ。だから力を貸したいと思っているんだ」

 

「それにな、ハルオの爺さんや他の人間嫌いの六匹のゴジラたちだってお前さんは認めているんだ。みんな格好が付かないから嫌いなポーズしてるだけで、本当はお前を気に入ってるんだ」

 

「だ、黙れエイジ! 誰がこんな小童を気に入っていると言った! ただ、こやつのいる世界をミズホ一人のために滅ぼさせたくないだけだ!!」

 

「それを気に入っているって言うんだぜ、爺さん」

 

「ぐ、ぐぬぅ……」

 

 押し黙るハルオ老人の肩をからかうように叩くエイジ。

 

「だから、安心してお前は俺たちの力を使え。で、わからないことがあったらまたここに来い。一度来たらもうわかるはずだ。……さぁ、さっさと終わらせるぞ。行くぜ、ダイスケ」

 

 エイジが手を差し伸べる。ダイスケはしばし迷ったが、多分彼らの言うことは信じてもいいはずだ。少なくとも絶対的な悪というわけではないと感じられた。

 

「……あぁ、俺に力を貸してくれ」

 

 ダイスケはエイジの手を取り、立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば今俺の身体で暴れているミズホってどんな奴なんだ? 相当ヤバそうな奴みたいだけど」

 

 廊下を歩く中、ダイスケは身近にいたシャクに尋ねる。

 

「いまから半世紀以上前に起きた大きな人間同士の戦、知っているよな?」

 

「第二次大戦と太平洋戦争か?」

 

「それだ。その戦は俺たちの旧世界でもあったんだが、奴はその時死んだ多くの兵士達の怨念が宿っている。自分達の死を忘れ、己の利益を追求してのうのうと生きている現代の人間への怒りが、だ。その怨念は今を生きる者達全てに向けられている。ゴジラの中でも最も厄介で唯一お前までも憎む奴だ」

 

「怨念……」

 

「だから君は、表に出るときにそれ以上の心で突き抜けるんだ。大丈夫、もしダメでもお互いに突き抜け合えば良いだけ、だろう?」

 

 ドミニクの怪しい言い方にただただダイスケは帰還の意志を強める。

 一同が廊下を歩いて出たのは中庭だった。そこには一人のがたいの良い大男がいた。

 

「チェストォォォォォ!!!」

 

 男がやっていたのは丸太による素振りの乱打。しかも型はダイスケも知っている示現流の型だ。それを繰り出す肉体はまさに岩や山と表現するのがふさわしい。

 

「おーい、ハヤト」

 

「チェストォォォォォォォ! ……あ? なんだドミニ……そうか、ここに来たか宝田大助」

 

 ダイスケを一睨みするハヤトと呼ばれる偉丈夫。かなりの威圧感だが、その圧力にダイスケは屈しない。お返しとばかりにダイスケもハヤトに強い視線を送る。

 

「……へぇ、気に入ったぜ。ヒトの分際で良いタマしてやがる」

 

「testしている場合じゃねぇぜ、ハヤト。ダイスケは早く送り出してミズホを抑えねぇと」

 

「だな、早速準備だ」

 

 そう言ってハヤトは適当な場所に丸太を置き、近くの物置小屋に入って非常に太く長い鎖を持ってきた。

 

「よし、腰の辺りで良い。すぐにとれるように簡単に縛っとけ」

 

「は? 縛る?」

 

 ダイスケの疑問にエイジが答える。

 

「この鎖はミズホをとっ捕まえるためのものだ。この鎖の一端をお前が持っていって、ミズホを見かけたらすぐにこれを掛けろ。そうしたら俺、ドミニク、アンディ、シャクの四人で一気にここまで引っ張り、奴をふん縛る」

 

「ああ、そう言う……で、俺はどうやってそこまで行けば良いんだ?」

 

「それは俺の役割だ」

 

 ハヤトは着ていた胴着の上着をはだけで上半身裸になる。

 

「俺がお前をぶん投げる。そうすりゃ()()()まで飛んでいくだろ」

 

「すげぇ、モノホンの脳筋だ」

 

 何せこのハヤトというゴジラ、旧世界では自分の体重の2倍以上の相手を平気で振り回す腕力の持ち主だ。そんな蟻のような怪力の持ち主なら確かにやろうと思えばやれるだろう。

 

「……ほんと、心強いよ」

 

「当たり前だ。俺たちをなんだと思ってる」

 

当然の如く胸を張るハヤトに、ある種の信頼を抱かずに張られないダイスケであった。

 

 

 

 

 

 

 

「させぬ、させぬわぁぁぁぁ!!! この恨み晴らすまでは、せめてこの世界に傷跡を残さねばぁぁぁぁぁ!!!」

 

 さらに憎悪のオーラを膨らませた白目、もといミズホは動じに己の中に眠る力も増幅させていく。その圧は戦闘経験豊富なイリナですら戦慄させる。

 

「ヒ、ヒメさん! あれ、どうやって抑えるんですか!? なんかもう自分が獣転人でも戦える自信なくしそうなんですが!?」

 

「……たしかにあの恨みのオーラ、下手をすると冥界だけではなく人間界にも影響が出るぞ。ダイスケも出てきそうだが、これでは……」

 

 顔をしかめるヒメに、ヴァーシリーが提案する。

 

「内に眠る聖獣の力を解放すれば良い。三人で囲めば全力出力でプラスマイナスゼロに出来るほどは出せるはずだ」

 

「……唯一不安要素はイリナだが」

 

「あ、あの、その聖獣の力の解放って?」

 

 目覚めたてのイリナがわからないのも無理はない。なのでヒメが説明する。

 

「転生天使なら"光"の出し方はわかるな? アレと同じ要領でやればお前なら獣具展開中は自然と聖獣のオーラに変換される」

 

「わかりました、最大出力の"光"を出すつもりでやれば良いんですね!」

 

「それで良い、行くぞ!!」

 

 すぐさま三人は三角形の形でミズホを囲む。そして、聖獣のオーラを全開に解放させた。すると三人の肉体から黄金の粒子がほとばしり、それがその身に宿す怪獣の原身を形作る。

 

「え、これが私の!? ……ちょっと愛嬌があってかわいいかも」

 

「集中しろ婆羅護吽。下手な制御では白目に殺されるぞ」

 

 ヴァーシリーの注意で再び集中するイリナ。放出される力はさらに増し、それによってミズホもこの三人が何をしようとしているのか察知してしまった。

 

「舐めるなよ、この程度で小生を縛れるかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 ミズホはさらに怒りを増し、その黒い情念を燃やす。それに対抗して三人はさらに出力を上げた。

 

「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」」

 

 ミズホに向けて伸ばした両手から黄金のオーラが流し込まれ、その力が漆黒のオーラもろともミズホを縛った。勿論ミズホはもがくが、その拘束は強力で身動き一つとれない。

 

「うがぁぁぁぁぁぁぁ!!!! この程度でぇぇぇぇぇぇ……な、なに!?」

 

 ミズホが突如感じた自分が締め付けられた感覚。それはこの黄金のオーラによるものではない。まるで自分の奥底のなにかが鎖で締め付けられたようだ。

 

『捕まえたぜ、ミズホ!!』

 

 それは、ハヤトの豪腕で()()まで放り投げられたダイスケの声であった。目的通りにミズホの意識体に鎖を掛けることに成功したのだ。成功の理由はただ一つ、ミズホが護国三聖獣に気を取られていたからに他ならない。

 

「宝田大助! 貴様ぁぁぁぁっぁ!!! 大人しくこの躰をよこせ!! そも、貴様にこの力は不相応なモノ!! 小生の方がよりよく使う事ができる!!」

 

『それはアンタの復讐のためだろうが! 俺はこの力を俺の大切なものを守ることに使いたいんだ!! アンタの復讐に使わせるためには行かない!!!』

 

「破壊の力を守ることに使う!? 笑わせるな、この力のルーツは"恨み"によるもの!! 人間の愚行が原点!! そんな力、小生の復讐以外の有効活用がどこにある!?」

 

『ああ、そうだ。力なんて元は基本的に"昏い処"から生まれたものだ! でも、人間はそんなものだって"光ある処"で使う『知恵』がある!! 壊すだけが力じゃない!!!』

 

「何が知恵だ!!! そうやって薄っぺらい感情論で小生の復讐を否定したいだけ――『否定しない!!』――……な、に?」

 

 ダイスケの意外な言葉に、ミズホの抵抗の力が一瞬抜ける。

 

『これはアンタのその気持ちを否定しない!!』

 

「な、なにを……なにを世迷い言を!! お前達はいつも「復讐なんて無意味だ」だとか「そんなこと死んだ奴は望んでいない」などと薄い道徳心でこの気持ちを否定するではないか!!! 小生は決して騙されんぞ!!!!」

 

 そのミズホの言葉にダイスケは続ける。

 

『アンタの言うとおり、ヒトは復讐と聞けば自分の都合って奴を道徳心って衣で隠して否定する。でも、俺だってアンタのその気持ちはわかるよ。人間達に、この日本に自分の昏い感情をぶつけたいって気持ち』

 

「そんなもの、わかるわけが――」

 

『――わかる。だって、俺とアンタは同じ魂なんだぜ。違う意識でも、その魂に刻んだものは俺にもわかる。だから、俺はアンタを否定しない。他人のために戦ったのに、その他人が自分のことを忘れたら誰だって悲しいし、悔しい。恨みを抱くのもわかる。だけど、今この世界を傷つけるのは勘弁してくれ。だって……この世界には俺の大切なものがあるんだから』

 

 そう、ダイスケもミズホも()は同じ。そのあり方が人間(ヒト)怨念(ゴジラ)であるかというだけだ。

 

『ヒトへの恨みなら、俺にぶつけろ。もう俺はいつでもあそこに行ける。だから、ここは引いてくれ。……頼む』

 

 これまでミズホの前には自分の恨みに対して否定する者や真っ向からぶつかってくる者しかいなかった。だから、ダイスケに対してどうすれば良いのかわからなかった。

 すると、鎖伝いに自分を引っ張る力を感じた。他のゴジラ達が自分を引き戻そうとしているのだ。普段なら当然抵抗した。だが、今はその抵抗の気すら起きないほどミズホは混乱していた。

 だから、こう言い残す。

 

『……小生の恨み、人の身で受けきれるものではないぞ?』

 

「――大丈夫だよ。おれも、ゴジラ(一緒)なんだから」

 

 そのダイスケの言葉に一瞬「ふっ」と笑うと、ミズホは他のゴジラ達と同じ処へ還っていった。

 

 

 

 

 

 

「あ、おはよー」

 

 ダイスケが目覚めて最初に見たのはミコトの笑顔だった。どうやら膝枕をしてくれていたらしい。

 

「……あぁ、俺を引っ張り出すのを手伝ってくれてありがとうな」

 

「はぇ? 知ってたの?」

 

「まぁ、な」

 

 特に身体に不調もないようなのでダイスケは起き上がる。

 

「イリナもありがとうな。イッセーの方が心配だろうに」

 

「いいのいいの、だってイッセー君の友達なんだから」

 

 快活に笑うイリナだが、その横には見慣れぬスラブ系の男がいた。

 

「……どうやらアンタにも迷惑掛けたみたいだな。えーっと……」

 

「ヴァーシリー。ヴァーシリー・コロリョフだ」

 

「――どうやらアンタ、俺と因縁が深そうだな」

 

「わかるか、ゴジラ。そう、俺とお前は深い因縁で繋がっている。今日はその縁を辿ってきたまでだ」

 

 そう言ってヴァーシリーは踵を返して立ち去るそぶりを見せる。

 

「礼ぐらい言わせてくれよ」

 

「必要ない。いずれまた会える」

 

 そう言うと、ヴァーシリーの姿は消えた。どうやらテレポーテーション能力があるらしい。

 

「ダイスケ、さっきのあの男には気をつけて。あの男は――」

 

「わかってるよ、ミコト。……わかるさ」

 

 そう言うダイスケの脳裏にはあるイメージが浮かんでいた。それは、一匹の黄金の龍。三つの首を持ち、天を自在に翔る制圧者にして侵略者。それとダイスケ――ゴジラはいくつもの世界で戦ってきた。

 

「本当はね、良心を持つ者もいるの。でも、それも今回の一件で……」

 

「最後のブレーキもなくなったってわけか。……まぁいい。また会うときまでにもっと強くなれば良い」

 

「……うん! それでこそダイスケだよ!」

 

 イリナがいるというのにダイスケに抱きつくミコト。それを引き剥がしてダイスケは言う。

 

「イッセーのことも気になる。探そう」

 

「ああ、それなら……あっち!」

 

 ミコトの指さす方向へ三人は歩く。するとそこにはミコトの言うとおりリアス達がいた。

 

「ダイスケ! あなたも無事だったね!」

 

「はい、まあなんとか――って、アーシア? 何でここに」

 

「自分でもよくわからないんですけど、ヴァーリさんたちに助けていただいたらしくて」

 

「は? なんでヴァーリ? っていうかなんでいるのよ」 

 

「それは――そろそろ来るか」

 

 そういうヴァーリが睨む方向の空間に巨大な穴が形成される。

 

「よく見ておけ、特に兵藤一誠。アレが俺が見たかったものだ」

 

 そこから現れたのはあまりにも大きな一匹の龍であった。その大きさはタンニーンをはるかに超えた巨体を誇っている。

 

「『赤い龍』と呼称される龍は二種類いる。一つは赤龍帝(ドライグ・ア・コッホ)、。もうひとつがあの『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』、グレートレッド。黙示録に記されし赤い龍、『真龍』とも呼ばれる偉大な存在だ」

 

 雄大に空間を泳ぐグレートレッドを見て口をぽかりとあけているイッセーにヴァーリは続ける。

 

「今回の俺たちの目的はあれの姿を確認すること。シャルバたちのことなんかどうだっていい。オーフィスがここにいるが、その本当の目的もアレを確認することだったんだ。そして、あのグレートレッドは俺の倒したい最終目標だ」

 

「あ、あれを倒してどうしようっていうんだよ?」

 

「兵藤一誠、さっきも言ったようにグレートレッドの異名は『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』だ。だが、真なる白龍神帝なんて称号はない。赤と白が並び立っているのに、赤だけに最上位があって白が一歩どまりなんてなしだろう?だから俺はそれになりたいんだ」

 

 そう語るヴァーリの瞳は今まで見たこともないくらいまっすぐであった。イッセーも彼が悪の道を歩んでいることは重々承知している。しかし、そんなヴァーリに純粋な夢があることは意外であった。

 

「――久しい、グレートレッド」

 

 すると突然黒髪黒ワンピースの少女が姿を現す。

 

「おい、あの小っちゃい子なんなんだ?」

 

 ダイスケの言葉でその素姿を確認したヴァーリは苦笑し、教える。

 

「――オーフィスだよ。無限を司るウロボロス」

 

 その名をすでに禍の団の首領の名として知っているダイスケはすぐさま戦闘の構えを取る。しかし、それをミコトが止める。

 

「だめ、抑えて。あれはちょっとやそっとじゃ倒せない、いわば今の世界のゴジラ的存在。今の私たちじゃ届かない」

 

 その証拠にダイスケが発する殺気に意も介さずオーフィスはグレートレッドに指鉄砲を向けてバン、と放つ動作をみせる。

 

「我は、いつか必ず静寂を手に入れる」

 

「悪いがそのために世界のバランスを崩してもらっては困るんだよ」  

 

 その声とともに、アザゼルが天から舞い降りる。共に地響きを立てて着地するのはタンニ―ンだ。

 

「先生、おっさん!」

 

「おー、イッセーもダイスケも無事だったか。イッセー、お前ならあの歌が元に戻るキーになると信じてたぜ。ダイスケも知らせは聞いていたが、無事で良かった」

 

「ふははは、流石乳が好きな赤龍帝だ。しかし、オーフィスを追ってきたらとんでもないものが見れたな。懐かしい奴だ」

 

 アザゼルとタンニ―ンも視線を上空のグレートレッドに向ける。その様子を見て、イッセーはタンニ―ンに尋ねる。

 

「懐かしいって、ひょっとして、おっさんグレートレッドと戦ったことでもあるの?」

 

「そうしたかったがな、相手にもしてくれなかったよ」

 

 タンニ―ンも元とはいえ龍王だ。それが歯牙にもかからなかったとはいったいどれだけの強さをあのドラゴンは秘めているというのか。

 そんな中、ヴァーリがアザゼルに話しかける。

 

「久しぶりだな、アザゼル。クルゼレイ・アスモデウスは倒したのか?」

 

「ああ、サーゼクスがな。頭が潰れれば下についていた奴らは逃げ出したよ。どうやらシャルバもこっちで片が付いたみたいだがな。さて、オーフィス。冥界各地で暴れまわった旧魔王はこれで潰れた」

 

「そう、それも一つの結末」

 

「派閥一つ消えてもどうって事ないってか……だが、これで禍の団の主だった戦力はヴァーリのチームと英雄の子孫や神器の使い手で構成された『英雄派』くらいなもんだろう。それでもまだ世界ぶっ壊しをやめないのか?」

 

「グレートレッドを倒す算段があるのなら我はどのようなものも受け入れる。そして、次元の狭間で真の静寂を手に入れる」

 

「だが、グレートレッドがいて次元の狭間を支配しているからこそ狭間は安定し、空間断裂も起きずにいる。グレートレッドを排そうっていうのは世界そのものを危険にさらすってことなんだぞ」

 

「有象無象などどうでもいい。ただ我が静寂が欲しいだけのこと」

 

「絶対的強者の論理ってか。だが、俺はお前の目的で世界が壊れる様は見たくない。――やるか?」

 

 そう言ってアザゼルは光の槍を手にし、構える。タンニ―ンも戦う構えだ。

 

「いや、我は帰る」

 

 だが、オーフィスは戦闘意欲は最初からないのかオーフィスは踵を返す。しかし、タンニーンはそれに納得できずに呼び止める。

 

「まて、オーフィス!!」

 

 しかし、タンニーンの呼び止める声にもオーフィスはただ不気味な笑みを見せるだけ。

 

「タンニ―ン、龍王が集いつつある。身を潜めていた旧世界の(怪獣)達も。――これから面白くなるぞ」

 

 ヒュン! と一瞬空気が振動したかと思うと、オーフィスの姿は消えていた。その様に、アザゼルもタンニーンも嘆息するだけだった。

 

「ならおれたちも退散するとしよう」

 

 ヴァーリの合図でアーサーが支配の聖剣で空間に穴をあけて逃走用の経路を作る。そこに足を駆けるも、ヴァーリはイッセーに振り向き問いかける。

 

「なあ、俺を倒したいか?」

 

「……ああ、倒したい。でも俺が超えたいのはお前だけじゃない。木場も、匙も、ダイスケだって超えたい。そんな存在が俺にはたくさんいる」

 

「奇遇だな。俺もそうだ。不思議なものだ、当代の赤白は自分の宿命よりも優先すべきことがある。きっとおれたちは歴代でも変わり者だろうな。だがいずれは――」

 

「――ああ、決着をつけよう。お前に部長や朱乃さんのおっぱいを半分にされたらコトだからな」

 

「ふっ、やはり君は面白い。――強くなれ、兵藤一誠」

 

「じゃあな、おっぱいドラゴンにスイッチ姫!」

 

 そう言ってヴァーリと美猴が空間の穴に消えていく。そしてリアスは顔を真っ赤にしていた。

 

「木場祐斗くん、ゼノヴィアさん、いずれご挨拶しようてしていました。私は聖王剣の使い手、アーサー・ペンドラゴンの末裔。アーサーとお呼びください。いずれ聖剣をめぐる戦いをいたしましょう。では、我々はこれで」

 

 最後にアーサーが言い残して空間の裂け目に消えていった。本来なら追うべきだろう。だが、今回はアーシアを助けてくれたということもあって誰も後を追うことはしなかった。

 だがいずれは相まみえることになるだろう。

 

「でも、今日の一件はこれで終わった。――さあ、今度こそ帰ろう。アーシア。父さんと母さんが待っている」

 

「……はい!」

 

 笑顔のアーシアを見て、イッセーも微笑む。しかし、不意にイッセーの意識は遠くなり、気を失ってしまう。

 

「イッセーさん!」

 

「イッセー!!」

 

 しかし、その崩れ落ちるイッセーの体を支えるものが一人。ダイスケである。

 

「あんな状態になった後だ。体力消耗してるって気づけよな。」

 

 完全に気を失ったイッセーを支えながらそんなことを言う。

 

「貴方のほうは大丈夫なの?」

 

 イッセーと同じく暴走状態に陥ったにもかかわらず、平気そうなダイスケを前にしてリアスが問う。

 

「俺のほうは大丈夫みたいです。特に不調も」

 

「そう。なら良かったわ……」

 

「それと、ついでに収穫もありました」

 

「収穫?」

 

「はい。……もうこんなことにならないように、強くならなきゃな。俺たち」

 

 背負うイッセーに、ダイスケはそう話しかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「来ないな、あいつ」

 

 ダイスケがぼそりと呟く。

 

「……はい」

 

 アーシアがさみしげにつぶやく。今日は運動会当日。しかし、イッセーは意識を失って今日まで数日たったというのにまだ一度も目覚めていない。

 この数日は様々なことがあった。冥界の政治では今回の事件の責任を問われ、ディオドラの血縁者である魔王アジュカ・ベルゼブブにその矛先が向いた。しかし、いかに血縁といえども今回はディオドラの単独の暴走であると事とレーティング・ゲームの根幹にかかわる人材ということもあって本人への追及は免れた。

 それから若手同士のレーティング・ゲームも中止になった。二名も脱落ないし死亡してしまったためだ。

 しかし、あるゲームは執り行われることになった。グレモリー対バアルの試合である。一応アガレス対シトリーも予定として挙がっているらしいが、グレモリー対バアルの試合は必ずやることに決まった。

 それだけいろいろ変わったり決定したりしていたが、イッセーに関して言えば眠り続けるだけであった。

 そのため、騎馬戦で多数の騎馬を蹴散らした後のダイスケが急遽アーシアと組んで二人三脚を走る予定だったイッセーの代走としてここにいるのだ。

 

『続いてのプログラムは二人三脚です。参加する生徒はスタート位置の第二ゲートに集合してください』

 

「ああっ、始まっちゃいます!」

 

「なにしてるんだホントに……」

 

 このままではイッセーの変わりにダイスケがアーシアと一緒に走ることになる。アーシアもイッセーと一緒に走るのを楽しみにしていたのだから、叶えてやりたいと思うのが人情だ。

 そこへ――

 

「アーシアァァァァァアアアアア!!」

 

 聞こえてくるイッセーの叫び声。

 

「ごめん、遅れた!」

 

 そこへようやくイッセーが到着する。

 

「遅ぇよ」

 

「それ、途中で匙にも言われた」

 

「昏睡してたんだろ。走れるか?」

 

「そこは大丈夫。ばっちり走れる」

 

「そうか、なら――ほれ」

 

 そう言ってダイスケがイッセーに手渡すのは互いの足を縛るための帯だ。

 

「やるからにはてっぺん獲れよ」

 

「ああ、もちろん。なあ、アーシア!」

 

「はい!」

 

 笑顔で答えるアーシアを見て、ダイスケはその場を後にする。

 

「てっきりイッセーの身を案じて代走するものと思ったけれど?」

 

 ダイスケに話しかけるのはリアスだ。

 

「さっきまで寝てたんだから安静にしてろって? 他の女子と組んでたならそう言うでしょうけど、アーシアですからね。あいつの隣はイッセーでないと」

 

「そう、そうよね。まあ、イッセーの一番を譲るつもりは私はないけれど、アーシアはイッセーと一緒にいてこそよね――イッセーたちの出番のようね」

 

 ダイスケはリアスに連れられて観覧席の前に出る。 

 

「イッセー! アーシア! 一番になりなさい!」

 

「二人ならいけますわよ!」

 

 そんな風にイッセーたちにエールを送るオカルト研究部一同。保護者席ではイッセーの両親もエールを送っている。

 そして弾ける空砲の音。二人は走り出す。一組、二組と抜いていき、そして一着でゴールする。

 

「よっしゃぁぁぁあああああ!!」

 

 イッセーの勝利の雄たけびが聞こえてくる。

 

「じゃ、俺はこれで」

 

「あら、イッセーたちを迎えに行かないの?」

 

「このあとの棒倒しに出るんですよ。……蹴散らしてきます」

 

「……加減はしなさいよ」

 

 そのあと、体育館裏でイッセーがアーシアにキスをもらっていたことを知りそれをネタにいじることになるのだが――それを語る機会は訪れないだろう。

 

 

 

 

 

 

「クルゼレイは死に、シャルバも瀕死で生き延びたが落ちたよ。ヴァーリ・ルシファーも上に立たないそうだ」

 

「そうかそうか、これで旧魔王派は終わりってことかな。ま、うちの絶霧(ディメンション・ロスト)の使い手が少し手を抜いたからか?」

 

「よく言うよ、そうしろと言ったのは君だろうに。で、どうする。そろそろ我ら英雄派の出番か? ――曹操」

 

「さぁ、どうしようか。今は人材集めのほうが楽しいんだけどなぁ。ヴァーシリーはヴァーシリーで働いてもらっているし」

 

「初代と同じか。だが近い将来は必ず動かなければならない。君に宿っているものがそれを許さないから。その最強の神滅具――」

 

「――『黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)』か。はてさて、この矛先にあるのは、覇か、それとも――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「総司令、烈一号型核弾頭264号回収完了いたしました」

 

「ご苦労だった、竜尉行動隊長。で、弾頭の様子は?」

 

「諸元通り転移に成功。機能も無事です。我々の科学技術と異能技術の融合はオーラノイドふくめ順調です」

 

「なら良い。本当なら今すぐにでも行動を起こしたいが、我々にはまだ他神話体系の神クラスと争うだけの戦力のあてがないのが現状だ。せめてその目処がたてば良いのだが……」

 

「それに関しましては総司令。かの禍の団の一派が有効化と」

 

「神殺しの槍か。果たして我らと同調してくれるだろうか。その存在と意思は確かに尊いものだが……」

 

「現在交渉員が接触を図っています。あとは、なんとか同盟にこぎ着ければ」

 

「叶うと良いがな。問題は奴だ。宝田大助、ゴジラ。奴をなんとかしなければ、我らの理想は成り立たん」

 

「その時は私にお任せください。必ずや――この身に宿った神の奇跡にて奴を討ち滅ぼして見せます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 燃えている。大きく豪華な城が炎を上げて燃えている。

 ここはグラシャボラスの領地にある居城の一つで、次期当主であるゼファードルが住まう城だった。それが現在盛大に燃えていた。

 使用人達はすでに避難し、一人も死者は出ていなかったがただ一人、この城の主であるゼファードルは逃げ遅れていた。なぜならこの騒動を次期起こした張本人達によってこの炎の中に引き留められていたからだ。

 

「なぜだ! なんでお前らはこんなことを!!!」

 

 すでにサイラオーグに心をおられ、立ち直れなくなった矢先にこの事件。しかもこの事件を引き起こしたのは()()()()()だったからだ。

 

「なんでって……そりゃあねぇ?」

 

「主殿が我らを裏切ったから故」

 

「う、裏切りだと!?」

 

「そうだぜ、主殿。アンタは俺たちを裏切った。アンタ俺たちをスカウトした時なんて言った? 『その力を自由に使って暴れられるようにしてやる』って言ったんだぜ、あんた?」

 

 そう、ゼファードルは彼ら三人を己の眷属にスカウトするためのそう言った。

 彼らは己の力の使いどころを見つけられずに人生を悔やんでいた。せめてもっと自由に生きられれば。そう願っていた所に現れたのがゼファードルで、先程のスカウトの言葉だった。しかし――

 

「アンタはこの前のゲームで折れちまった。そしたらゲームはなくなって俺たちが暴れられる所がなくなっちまったんだよ」

 

「そ、それはお前達があの時真面目に戦わなかったから――」

 

「ダンナ、あんたわかってないのかい? ありゃテストだよ。アンタが気骨ある主か、俺たちに真にふさわしい主かどうか試したんだ。向こうの(サイラオーグ)でな」

 

「だが主殿は折れた。これでは我らを動かせる資格があるとは到底思えん」

 

「だからよぉ、俺たちは《はぐれ》になることにしたぜ。その方が自由だしな」

 

「なっ――そ、それだけは止めてくれ!! グラシャボラス家からはぐれが出たとなったら家の評判が!! そ、そうだ。トレードはどうだ!? 他の家の眷属とトレードすれば……」

 

「残念だなぁ、主殿。俺らもう行き先が決まってんのよ。むしろそっちの方が性に合うんだ、これが」

 

「ま、まさか……お前達、禍の団に!? だ、だめだ!! それをやられたら俺は本当におしまい――!?」

 

 三人の中で最も体躯が大きい男がゼファードルの頭を掴んで持ち上がる。

 

「ま、これも俺らを拾ったリスクの一つだとでも思ってくれや。拾ってくれてしばらく贅沢させてくれた恩もある。殺しはしねぇよ。殺しは――なっ!!!!」

 

 そう言って大男はゼファードルを窓に向けて放り投げる。ゼファードルは絶叫をあげながら、使用人達が避難している庭に落ちていった。

 

「おおそうだ。ここにある金品をいくらか手土産に持ってくか!」

 

「火事場泥棒か。関心せんな」

 

「かてぇこと言うな! さ、これまでの給料分はもらっていこうぜ!!」

 

 翌日、本格的に再起不能になったゼファードルと火傷などの怪我をした使用人達が保護されると同時に、ゼファードルの眷属であった三人の獣転人がSS級広域指名手配はぐれ悪魔として手配されたのであった。




 はい、というわけでVS49でした。
 擬人化ゴジラ達は基本的に名前は当時のスーツアクターさん達や関係者から名前をいただいています。ドミニクのみフランス生まれで男女どっちでも使える名前としてこれにしました。つまり、98年版ゴジラです。よりによってこいつが一番濃いキャラになりました。
 なんでダイスケがゴジラに認められているかという点ですが、これ以上他に理由はありません。ただ一人力をセーブしようとしたから「自制心を持っているコイツには使われてもいい」となったということです。
 グレートレッドとオーフィスの二体はD×D世界の特異点、つまり旧世界の特異点であるゴジラや怪獣達と同じポジションです。モノによってはそれ以上の脅威ですが。
 ヴァーシリーの目的を某虚空の王と同じと捉えていらっしゃる方々がいるようですが……神器もとい獣具は所有者の「想い」でもっと強くなるんやで……。
 なお、感想などもお待ちしております。いつでも待ってますのでどしどし送ってきてくださいね。皆様から頂く感想はオンタイセウの活力となります。
 それではまた次回。いつになるかは分かりません!!


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