ガンダムビルドダイバーズRe:Bond【完結】 (皇我リキ)
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プロローグ──繋ぐガンダム【ストライクBond】
繋ぐガンダム


 少年達は無邪気に笑う。

 

 手に持った人型ロボットの玩具をぶつけ合ったり、動かしたりするのが楽しいらしい。

 しかしふとした弾みで力が入り過ぎたのか、一人の少年が持っていた玩具の部品が折れてしまった。

 

 

「ガンダムの角、折れちゃった……」

 玩具を持っていた少年は先程までの笑顔が消えて、その表情を暗くする。

 友人の一人はそんな少年を見てオロオロとしているが何も出来ず、遂に少年は泣き出してしまった。

 

 少年達が無邪気に笑っていた空間は、泣き声に包み込まれる。

 

 

 そんな中で、もう一人の友人がトタトタとその場を離れて直ぐに戻ってきた。

 その少年は折れた玩具と部品を持ち上げると、手に持った木工用ボンドの蓋を開ける。

 

「……ボンド?」

「うん。学校で使った奴!」

 オロオロしていた少年が聞くと、ボンドを持ってきた少年は元気にそう答えた。

 

 

「大丈夫だよケイスケ! 壊れても直せば良いんだ!」

「壊れても……直す?」

 泣いていた少年は、木工用ボンドでお世辞にも上手く修復されたとは言えない玩具を見上げて小さな声を漏らす。

 

「直ってる」

「本当だ」

 それでも、少年達にとってはそれで充分だった。

 

 

「そうだよ。何度壊れたって、何度でも直せば良い。繋げば良い。だから───」

 これでまた、遊べる。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ───GBN。ランダムフリーバトルエリア。

 

 

 赤い閃光が走った。

 人型の巨大なロボットが二機、己の得物である実体剣を振り下ろす。

 

 剣は火花を散らしてぶつかり合った。そんな光景に、特設された観客席にいる人々は歓声を上げる。

 

 

「いけー!」

「頑張れー!」

 人々の熱中の先にあるのは、全長十七メートル以上もある巨大な人型機動兵器。

 

 MS(モビルスーツ)

 機動戦士ガンダムという作品群に登場する、人型巨大ロボットの総称だ。

 その多くは有人兵器であり、大部分は作品の中で戦争行為に使用する兵器として描かれている。

 

 

 そんなMS二機が戦っているのを観て熱狂しているのは、なにも戦争行為を楽しんでいる訳ではなかった。

 

 

「あの()()()()凄いな。獄炎のオーガとまともにやり合ってるぞ!」

「SDガンダムのフルアーマー騎士(ナイト)ガンダムを、初代ガンダムのプラモを使ってリアル等身で再現したガンプラか。完成度高いなおい!」

 ガンプラ。

 MS───ガンダムのプラモデルを総称する略称で、ガンダムと呼ばれるロボットの他にもガンダム作品に登場する多種様々な兵器のプラモデルの事である。

 

 

 ここGBNは、電脳仮想空間でガンプラを使ったバトルを中心に楽しむ世界規模のネットワークゲームだ。

 ゲームのプレイヤーは仮想空間にダイバーとしてログインし、自分の作ったガンプラを操縦する事が出来る。

 

 プレイ形態も様々で、純粋にバトルを楽しむ者やランク上げを目指す者もいれば仮想空間での情報集めや遊戯を楽しむ者等様々な楽しみ方があるのがこのGBNだ。

 

 だから人々が熱中しているのは、本当の戦争ではない───ガンプラ同士の戦い。

 

 

 

 ───ガンプラバトル。

 

 

 

「やるじゃねぇか!!」

 二機の内、赤い機体を駆るダイバーが声を上げる。

 機体のスラスターが火を拭いて、彼の機体は一度もう一機の機体から距離を取った。

 そして肩部に繋がれた巨大なバインダーを開き、両手に構えた二本の剣を構える。

 

 

「負けるものか!」

 対面する機体は機動兵器としてのMSガンダムには差異のある、西洋の騎士のような装備を身に纏ったガンプラだ。

 甲冑に大きな盾と剣。構えた剣はまるで燃えているかのように炎を纏っている。

 

 

「さぁ、お前の強さを……もっと俺に食わせろぉ!!」

 硬直状態から、先に動いたのは赤い機体だった。

 

 スラスターを吹かせて前進する機体は、肩部のバインダーも相まって凄烈である。

 それを見て後退りそうになる対面の騎士。そのパイロットは息を飲むが、これはバトルだ。

 負けても死ぬ訳ではないが、だからこそ負ける訳にはいかない。

 

 

「くそ! くらえ、炎の剣!」

 甲冑を着た機体は、燃える剣を横に振り炎の波動を飛ばして牽制を謀る。

 三度払われた剣から放たれた炎をしかし、赤い機体は一撃を交わして残りの二つを両手の剣で受け止めた。

 

「嘘だろぉ!?」

 悲鳴を上げながら巨大な盾を構える騎士に、赤い鬼のような機体が肉薄する。

 

 

「うぉぉおおお!!」

「ちくしょぉぉ!!」

 雄叫びを上げる男の刃が、騎士の甲冑ごと機体を三つに裂いた。

 

 

 爆散する機体。

 それと同時に歓声が上がる。

 

 

 Battle End

 モニターにそう表示されて、赤い機体のパイロットは口角を吊り上げた。

 

 

「惜しかったなぁ」

「でも九連勝じゃねーか。また獄炎のオーガが十連勝かぁ?」

「ランダムフリーバトル、六連勝からダメージに補正が入るのに勝ち続けてるのおかしいだろ」

 歓声に混じるそんな声。

 

「十連勝の特別報酬の称号って、十連勝二回するとどうなるんだ?」

「経験値ボーナスと、なんか凄い量のビルドコインに変換じゃなかったか?」

「ズルだろ。いや、十連勝なんてそんな出来る訳ないけどさぁ」

 GBN内に新しく設置されたランダムフリーバトルエリアは、その名の通りランダムで対戦相手が決まりバトルをする。

 十連勝する事でゲーム内で使用出来る称号などが手に入るのだが、現在対戦中のプレイヤーはその一歩手前である九連勝まで勝ち進んでいた。

 

 

「彼も流石ね。一年前から更に磨きがかかってるわ」

 観客達がいう獄炎のオーガというプレイヤーは、一年程前から名前の売れ出した凄腕のダイバーである。

 

 

 GBN内で()()()()()()()()()()での活躍もあり、ゲーム内ではかなりの有名人だ。

 

 

 

「さぁ、次の相手は誰だ。食い足りねぇぞ!」

 まるで九連戦した後とは思えない覇気を見せるこの男こそ、オーガという人物である。

 フォース百鬼を率いるリーダー、獄炎のオーガの名は伊達ではない。

 

 

「お、次の対戦相手だぜ」

 観客の一人がそう呟いて、特設ルームにいるダイバー達はバトルフィールドやモニターに視線を映した。

 

 

 

 エリアのどこからともなく現れた穴から、一機のMSが飛び出す。

 機体の色は全体的に灰色で、バックパックから肩までのみ青い部品が目立つ機体だ。

 

 両肩部には円錐状の部品が取り付けられていて、緑色の粒子を漏らすその部品を見てオーガは口角を吊り上げる。

 

 

「───ツインドライヴか……っ!」

 GNドライヴ。ガンダムOOに登場し、劇中にて太陽炉とも呼ばれる()()()()()()()()()()だ。それを二つ装備しているから、ツインドライヴ。

 オーガの機体は類似する擬似太陽炉という装備を有し、さらに彼が最もライバル視する人物もその装備を使用している。

 

 

「獄炎のオーガ、か。運が良いのか悪いのか……っ!」

 灰色の機体のパイロットは、舌を巻きながら苦笑い気味に声を上げた。

 スラスターを吹かす機体は一気に加速して、オーガの機体へと肉薄する。

 

 そして構える得物はオーガの機体と同じ一対の実体剣。

 威勢よく突進してくる相手にオーガは口角を吊り上げて、不敵に笑った。

 

 

「懐に飛び込めば!」

「威勢だけか確かめてやる!」

 突進する灰色の機体。対するオーガは正面から受け止める事を選択したのか、両手の剣をクロスして構える。

 

 刹那、両者の刃がぶつかり合って火花が散った。

 パワーは互角───とは言い切れず、オーガの機体が灰色の機体を押し始める。

 

 

「威勢だけかぁ!」

「そんな事!!」

 しかし、次の瞬間機体の頭部が火花を散らした。

 オーガの機体に叩き付けられる銃弾。頭部に装備されたバルカンが連射される。

 

 

「何!?」

「押し切る!!」

 大したダメージではない───事はない。

 

 このランダムフリーバトルでは連勝すればする程、攻撃の被ダメージが大きくなるのだ。

 ただのバルカンだが、今のオーガには無視出来ない。オーガは一度距離を取ろうと機体を持ち上げる。

 

 しかし灰色の機体はそれを追うように地面を蹴った。バルカンを撃ち出したまま、赤い機体を追い掛ける。

 

 

「オーガが引いたぞ!」

「十連勝阻止か!」

「……あの機体、OOガンダムがベースじゃないわね」

 歓声に混じって盛れるそんな声。モニターをよく見て機体の頭に意識を向けると、その声の主は「なるほど」と笑みを漏らした。

 

 

「もう一度踏み込んで!」

「威勢だけじゃないその強さ……不味くはねぇが───浅ぇ!!」

 踏み込む灰色の機体。しかし先に飛んで上を取ったオーガの機体はバインダーを展開し、各部に設けられた砲身からビーム砲を放つ。

 この距離で広範囲に放たれたビーム砲を避けるのは至難の技だ。爆炎と砂埃に包まれたフィールドを見て、観客達は溜息を漏らす。

 

 

「うわ、これでオーガの十連勝か」

 誰かがそんな言葉を漏らした矢先、砂埃の中から銃弾が連射された。

 

「……ほぅ」

 刃で銃弾を弾きながら小さく声を漏らすオーガ。

 晴れていく砂埃の中で、灰色の機体は未だに立っている。

 

 

「───GNフィールド」

 ───緑色の粒子に包まれて。

 

 GNフィールド。

 太陽炉が生成するGN粒子を機体の周囲に展開し、事実上のバリアとして運用する武装だ。

 

 勿論、いかな太陽炉が半永久機関とはいえどエネルギーの生成量には限度がある。

 無限に使えるという事はなく、さらに実体剣等を防ぐ事が出来ないという欠点もある代物だ。

 

 

 しかし強力な防御装置である事には変わりがない。その証拠に、灰色の機体はあれだけの砲撃を受けてもしっかりと地面に立っている。

 

 

「そうだ、こういうバトルが食いたかった!!」

 口角を吊り上げて、今度はオーガが仕掛けに動いた。

 

 頭上から刃を構え降りてくる赤い機体。

 GNフィールドの弱点、実体剣を彼の機体は持っている。

 

 

「あなたはOOガンダムを知っている。その機体のGNドライヴも、()()()()()()もそうだから。だから───」

 灰色の機体は迫り来るオーガの機体に対して迎え撃つように構えた。

 しかし機体のパワーはオーガの方が上である。そのまま攻撃を受ければどうなるか、観客は今度こそ終わりだと表情を曇らせた。

 

 刃がGNフィールドを抜ける。

 

 

「───だからこそ、実体剣でGNフィールドを突破しにくる!!」

 刹那、灰色の機体のパイロットは操縦桿のレバーを捻ってカーソルを合わせ───

 

 

 

 

「あの機体!」

 

 

 

 

「───フェイズシフト、オン!」

 ───灰色の機体に刃が叩き付けられた。

 

 

 振り下ろされた刃の衝撃に、再び砂埃が舞う。

 しかし静まりかえったフィールドの中でオーガが見たのは、目の前で灰色だった機体に色が付いていく異様な光景だった。

 

 灰色だった機体は刃に斬り裂かれる事なく、全身を青と白の配色に飾り───その身体で刃を受け止めている。

 

 

 

「……フェイズシフト装甲、だと」

 フェイズシフト装甲。

 ガンダムSEEDに登場する、装甲に電流を流す事で特殊な金属を相転移させ物理的な衝撃を無効化する装甲技術だ。

 

 オーガの刃は実体剣でありGNフィールドを貫通するが、フェイズシフト装甲を貫く事は出来ない。

 

 

 灰色の───否、青色の機体のパイロットは舌を巻きながら、剣を振り下ろして動きを止めたオーガの機体に己の得物を向ける。

 

 

「この距離なら避けれないだろ!」

 青色の機体は、頭部のバルカンを放ちながら剣を振った。

 

 

 捉えた、と。

 

「その強さ───」

 バトルを見守る殆どのダイバーがそう思った刹那。オーガは自らの剣から手を離して機体の両手を開く。

 

 

「な!?」

「───俺に食わせろぉ……っ!!」

 そして、彼の機体は青い機体の二本の剣を掴んだ。歓声が上がる。

 青い機体のパイロットは「マジかよ!」と悲鳴を上げた。

 

 

「……くそ、一旦距離を。トランザ───」

「───鬼トランザム!!」

 青い機体が地面を蹴って距離を取ろうとしたその時、オーガの機体は赤い光を放って青い機体を蹴り飛ばす。

 

 地面を転がる青い機体から視線を外さずに、オーガの機体は姿勢を落とした。

 溶岩が周りを囲む。その中から引き抜いた剣は、まるでマグマを纏っているかのように燃えていた。

 

 

「───うぉぉぉおおおお!!」

 その剣を構え、突進する。

 

 地面を転がる青い機体にその刃を交わす術はない。そして、この()()()はいかなフェイズシフト装甲といえど防ぎ切る事など出来ない。

 

 

 

 炎の剣は機体を貫き、爆炎を上げた。

 

 

 

 Battle End

 勝者、獄炎のオーガ。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 特設された観客席に、一人の少年が足を踏み入れる。

 

 

「はぁ、負けた負けた……。でもやっぱり楽しいな、ガンプラバトルは」

 茶髪にパーカー姿のその少年は、バトルフィールドに横たわる自分の機体を見て苦笑い気味に言葉を漏らした。

 

 この少年こそ、先程獄炎のオーガと戦っていた機体のパイロットである。

 

「ねぇ〜、あなた。さっきの()()()()()のパイロット?」

 それに気が付いた一人のダイバーが、ゆっくりと少年に近付いて声を掛けた。

 ねっとりとしたその声に、少年は目を見開いて顔を持ち上げる。

 

 

 少年の視線に入ったのは、引き締まった筋肉を見せつけるように下腹部までファスナーを下ろしたツナギに、ボレロを羽織った強烈なファッションをした男だった。

 少年は「ヒィッ」と声を漏らして後退りする。俗に言うオネェさんだ。

 

 

「あら、急に声を掛けられて驚いちゃったのね。ごめんなさい。私はマギーよ」

「マギー……あなたが?」

 マギーと名乗る男は自己紹介と同時に手を伸ばし、自分のプロフィールが表示されたコンソールパネルを少年に見せる。

 

 このマギーもオーガと同じくGBNでは有名人だ。

 それを知っていたからか、少年は彼が本物であると分かると慌てて伸ばされた手を取って頭を下げる。

 

 

「す、すいません! 変な態度を取って!」

「良いのよ良いのよぉ。急に話しかけられたら誰だって驚いちゃうもの」

 マギーのその言葉に少年は「いや、まぁ……ハハッ」と苦笑いを溢した。

 

 驚いたのはそこではない。

 ただ、悪い人でない事は確かなので少年は幾分か警戒心を解いて「ストライクのパイロット……そうです、ね」と答える。

 

 

「あら、ストライクベースであってたわよね?」

「そうですよ。ストライク」

 GBNで戦うガンプラは、自分でオリジナルの改造を施す事が可能だ。

 勿論、ガンプラを素で組み立てる事が間違いという訳ではない。ガンプラは自由である。

 

 

 そして先程オーガと戦っていた少年のガンプラは、ガンダムSEEDに登場するストライクと呼ばれる機体を改造した物だった。

 

 

 

「彼とあそこまでのバトルを繰り広げるなんて、私の知らない強者がまだ居たって訳ねぇ。感慨深いわ。やっぱりGBNは広い」

「あ、いや。俺なんて全然。……ていうか、GBNは今日始めたばかりですし」

「え」

 少年の言葉に、マギーはキョトンとした顔で固まる。

 

 コンソールパネルを開いて見せる少年のプロフィールには、ランク1と表示されていた。

 ダイバーネームはケイ。機体の名前や称号等は空欄になっている。今さっき登録したばかりという証だ。

 

 

「ケイちゃんね。……サブ垢とかじゃなくて?」

「正真正銘初心者ですよ、GBN()

 そう答えて、少年はバトルフィールドに転がる自分の機体───ストライクに視線を伸ばす。

 

 

「……お疲れさん、俺のガンプラ」

「……なるほど、そういう事ね。嬉しいわ」

 少年の視線を見てマギーは何かを察したように、満足げな表情を見せた。

 

 

「つまり、これから君のGBNが始まるのね。初戦から大変な目に遭っちゃった気がするけど、どう? GBNの事気に入ってくれたかしら」

「まぁ、刺激的ではありましたね」

 苦笑い気味に視線を逸らす少年はしかし、一度俯いてからこう言葉を続ける。

 

 

「……綺麗だって、思いました。誰かが、皆が守ったこの世界が。これまで距離を取り続けていたこの世界はこんなにも綺麗だって。……楽しかったです」

 仮想世界のどこまでも続いていそうな空に手を伸ばしながら、少年はそんな言葉を漏らした。

 

 どこか遠くを見ているようで、少し親身な表情を見せるマギーはしかし一度目を閉じてから口を開く。

 

 

「楽しんでくれたのなら嬉しいわ。これからGBNを楽しむダイバーとして、応援するわよ。分からない事があったらなんでも聞いて頂戴」

 人差し指を持ち上げてウインクをするマギーに、少年───ケイは「あ、ありがとうございます」と頭を下げた。

 

 そんな初々しい態度にマギーは一年前の事を思い出して笑みを見せる。

 あの子達も最初は───

 

 

「───ところで、名前は?」

「え、名前。ケイですけど」

「違うわよ、ガンプラの。……あれだけ心が込められて作られているんだもの。あるんでしょう? オリジナルのガンプラの名前」

 マギーの言葉に、ケイは「あー」と間抜けな声を漏らした。

 

 ただ、一度目を閉じて少年はいつかの事を思い出す。

 

 

 ──何度壊れたって、何度でも直せば良い。繋げば良い──

 

 

「───ボンド」

「ボンド?」

(ビー)(オー)(エヌ)(ディー)で、ストライクBond(ボンド)

 少年は自分の機体を真っ直ぐに見ながら、そう言った。

 

 それを聞いたマギーは満足げに彼に背中を見せる。お尻のラインが綺麗過ぎる事にケイは再び苦笑いを漏らした。

 

 

「良い名前じゃない。これからもGBN、楽しんでね」

「あ、はい。色々ありがとうございます」

「それじゃあね」

「ま、マギーさん!」

 少年が唐突に声を上げて、マギーは首を横に傾ける。

 

「あの……質問があるんですけど。GBNって───」

 続くケイの言葉に、マギーは親切に答えた。満足のいく答えがもらえた少年は嬉しそうに拳を握る。

 そんな少年とフレンド登録を済ませたマギーがその場を去ってから、ケイは少しの間自分の機体と周りのバトルフィールドに視線を向ける。

 

 

「ここが、GBNか……」

 バトルフィールドではオーガが十一人斬りを果たしていた。

 もう誰が彼を止めるんだと、観客席は大盛り上がりである。

 

 しかし時間も時間なのか、次第に人々はGBNからログアウトするようになった。オーガは勝ち続けている。

 

 

 

「オーガさん凄過ぎるよね、りっくん」

「だね。……でもそろそろ時間だし、俺達もログアウトしよっか」

 そんなランダムフリーバトルの観客席で、二人の少年がまたログアウトの話をし始めていた。

 

 二人はコンソールパネルを開いて、しかしりっくんと呼ばれた少年は辺りを見渡して首を横に傾ける。

 

 

「サラ?」

 少年の視線の先で、銀髪の少女がバトルフィールドの端に視線を向けていた。

 バトルが行われているのと全く関係のない場所に向けられる視線に、少年は首を傾げながらサラと呼ばれた少女の手を取る。

 

 

「どうしたの?」

「あのガンプラ───」

 少女の視線の先。

 

 バトルフィールドの端に横たわっているのは、オーガが十番目に戦った機体。ストライクBond。

 

 

「ストライク、かな」

「───あのガンプラ、とても嬉しそうだから」

 そして、少女のそんな言葉に少年は笑みを漏らした。釣られて少女も嬉しそうに笑う。

 

 

「きっと、とても気持ちの込められたガンプラなんだね」

「……うん、きっと」

 

 

 

 

 GBN。

 ガンプラバトルネクサスオンライン。

 

 

 それは、ガンプラに魅せられた人々が夢見た世界。

 

 

 

 ───そんな世界で、新しい物語が始まろうとしていた。




はじめまして!この度ガンダム作品を書き始めることになりました。皇我リキです。
ガンダム作品は初めてなので、温かい目で見てもらえると嬉しく思います。


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第一章──幼馴染み達【狙撃手(格闘特化)ロックリバー】
welcome to GBN


 五年前。

 

 

 町外れの小さなプラモ屋。

 少年達はいつもそこで遊んでいた。

 

 プラモ屋の店長は少年達の内一人の父親で、いつもは優しく少年達に接してくれている。

 しかしいつからか、彼は仕事中いつも機嫌が悪かった。ついには店の中でガンプラを使って遊んでいた息子達を見て舌を打つ。

 

 

「父さん、ガンプラ直し───」

 少年が声をかけた時、店長は内に秘めていた何かを爆発させた。

 自分の息子が持って来たガンプラを、彼は店の外に投げ付ける。

 

 

「───な、何すんだよ父さん!」

「こんな物もう直したってな! なんの意味もないんだ!」

 子供に向けられる怒号に、少年は驚いて固まってしまった。

 

「プラモ、車に轢かれちゃう……っ」

 その光景を見ていたのは、少年達の幼馴染みの女の子で。

 

 

 彼女は店の外の道路に投げ捨てられたガンプラを拾いにお店から飛び出してしまう。

 唐突な事に誰もが動けなくて、一人の少年が手を伸ばした時───甲高い音が町に広がった。

 

 轟音と悲鳴。

 急に道路に飛び出して来た少女を避けようとして、道を走っていたトラックの運転手はハンドルを切る。

 

 

 しかし、その結果は───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 大きな口を開いて、少年は半目を開いた。

 

 

「寝不足だねぇ。何かしてたの?」

 家の玄関を開けたその少年の目の前に、一人の少女が現れて声を掛ける。

 短い黒髪を風に揺らすその少女は、少年を覗き込むように首を横に傾けた。

 

 一方で声を掛けられた少年は半目のまま口を押さえて、茶色い髪を掻く。

 

 

「一人でここまで来たのか? いつも通り迎えに行ったのに……」

 そして少年は少女を見下ろして、そんな声を漏らした。

 

 見下ろしてというがとりわけ少女の身長が小さいという訳ではない。

 彼女は、車椅子に座っている。

 

 

「ケー君が遅いから寝坊してるかもって心配で、ヒメカに手伝って貰ったんだよ」

「それ俺が怒られる奴だ……。ご、ごめん」

「あはは、私の足が動かないのは自分のせいなんだから。ケー君はいつもなんで謝るかな」

 苦笑い気味に謝る少年に、少女は困った調子でそう答えた。

 

 彼女は五年前、交通事故で骨髄損傷による下半身付随に患っている。

 少年はその事故が起きた原因が自分にもあると思っていた。

 だからこそ、近所に住む幼馴染みとしても足の不自由な彼女の面倒をよく見ていたりする。

 

 

「謝っても謝り足りないよ……」

 俯いてそう言う少年を見て、少女は表情を曇らせた。

 

「それは私の台詞だよ」

 そんな彼女の言葉に少年は「いや、それは───」と口を開く。

 そんな少年を見上げながら、少女は口元に人差し指を当てて「はい、この話はおしまい」と話を切り上げた。

 

 

「遅刻するよ」

 そう言って少女は自分の手で車椅子を動かす。

 少年はハッとした表情で「待て待て」と彼女の車椅子を押した。

 

 

 

「ユメカ、なんか今日荷物多くないか?」

 車椅子を押しながら、少年は少女の鞄を見てそんな言葉を漏らす。

 彼等はこれから学校に向かうのだが、それにしては鞄が大きい。

 

「あ、そうだ。今日ヒメカと私、ケー君の家に泊まるから」

 ユメカと呼ばれた少女は、顔を持ち上げて後ろから車椅子を押す少年を見上げながらそう言った。

 

「は」

 と、少年は口を開けて固まる。

 

 

「今日からお母さん三日間出張なんだ。ケー君パパとママには言ってあるんだけどな?」

「聞いてないし……」

 いい加減な自分の親を思い出しては、少年は目を半開きにして苦笑いを溢した。

 

 

「邪魔かな? 何か忙しいの? 寝不足みたいだし」

「あ、いや別に……。あはは……」

 口籠っていると、視界に二人の通う学校が見えてくる。そうなると道に登校中の学生も増えてきて、一人知り合いを見付けた少年は話を切るように口を開いた。

 

 

「おーい、タケシ。おはよう」

「ケイスケか。おは───じゃ、ない……。俺はタケシじゃない。ロックだ! ロックリバーと呼べ!」

 少年にタケシと呼ばれた彼等の同級生は、右眼が隠れる程片側に伸ばした髪を掻き毟って声を荒げる。

 

「あー、はいはい。イシカワ君」

 その同級生にケイスケと呼ばれた少年は、苦笑い気味に彼から視線を逸らしてそんな言葉を漏らした。

 

「ロックだって言ってるだろ!!」

「あっはは」

「ほら学校着くぞタケシ」

「だからロック!」

「ここはロッカーだよ、タケシ君」

「いや別にロッカーとロック間違えてる訳じゃないから! 俺がロッカーな───間違えた俺がロックなの!!」

「ほらとっととロックに靴入れろロッカー」

「ロッカーじゃねーよ!!」

 朝から騒がしく、少年少女は笑顔を見せる。

 

 

 幼馴染みとの生活は昔からほとんど変わらない。

 

 

 ───ただ、一人がこの場にいない事を除いて。

 

 

 

 

 

 放課後。

 

「なぁ、タケシ」

「ロック」

「もう良いからそれ」

「よくな───」

「ガンプラってまだやってるか?」

 そんな質問を投げ掛けるケイスケ。タケシは眉間に皺を寄せて、彼から視線を逸らした。

 

 

「……やってないな。やる気になれないさ」

「そっか」

 タケシの言葉に寂しそうな表情を見せて、ケイスケは教室の窓の外を観る。

 

「あいつは絶対にやってないぞ。……お前は、やってるのか?」

「……うん。やってる」

「まぁ、その方が良いかもな」

 そう言って、タケシは「……俺は帰る」と手を挙げてケイスケに背中を見せた。

 

 

「お待たせー。帰ろ、ケー君」

 少しして、別の教室からやって来たユメカがケイスケに声を掛ける。

 ケイスケは「お、おう」と遅れて反応して、いつも通り彼女の車椅子を背後から押した。

 

「ボーッとして、どうかしたの?」

「今日から土日、家に泊まるんだよな?」

 今朝の話を思い出して、ケイスケは彼女にそう聞き返す。今日は金曜日で、三日間の出張の間という事は連休の間丸々という事だ。

 

「そうだけど……やっぱり邪魔かな? あ、勿論ケー君の邪魔するつもりなんてないんだよ。私は部屋の隅っこで大人しくしてるから、さ。本当は家に居れば良いんだけど、お母さんったら心配性で。あはは……」

「いや、むしろ都合が良いかもしれない。ユメカとしたい事もあったし」

 身振り手振りでワタワタと言葉を漏らすユメカに、ケイスケは顎に手を当てながらそう返事をする。

 

「私としたい事……?」

「うん。ユメカが良ければだけど」

 そう言って車椅子を押すケイスケ。家に帰るまでの時間、二人は口数は少なくともどこか楽しげだった。

 

 

 

「お邪魔しまーす」

 ケイスケの家に辿り着いたユメカは、他人の家にしては慣れた様子で挨拶をする。

 彼女の家はこの家の真隣で、所謂幼馴染みという奴だ。

 

 ユメカの声に、家の奥からトタトタと足音がする。

 足の不自由な彼女の靴を脱がそうとしゃがむケイスケの視線に、足音の主である中学生くらいの女の子が入り込んだ。

 

 

「あ、ヒメカちゃん。……いらっしゃい?」

「私がやるから大丈夫です!」

 そう大きな声を張り上げるのは、どこかユメカに似た黒髪の女の子───ヒメカ。

 彼女はユメカの妹である。

 

 ヒメカはケイスケを退けると、姉の靴を脱がして下駄箱に入れた。

 

 

「あ、ありがとうヒメカちゃん……」

「別にあんたの為にやったんじゃないから。お姉ちゃん、おかえり!」

 ケイスケがお礼を言うと、ヒメカはそっぽを向いてまた家の中に戻っていく。

 彼女もまた慣れた足取りなのを尻目に、ケイスケは苦笑いを溢して頭を掻いた。

 

「こらヒメカー。もう、ごめんねケー君」

「あはは……もう慣れた」

 いつからか、彼女からの扱いはずっとこんな感じである。理由はわかっているし、なんとも言えないが。

 

 

「よし、部屋まで行くか。着替えはいつも通り風呂の後で良いよな?」

「うん。大丈夫」

 姿勢を低くして、ケイスケはユメカを背負うと自分の部屋まで歩いた。

 二階建てのそれなりに広い家だが、彼の部屋は一階の玄関のすぐそばにある。

 

 よく家に遊びに来るユメカの足の事を考えての部屋割りだ。

 

 

「おー、あれ? なんか配置変わったね。というかまた増えた?」

 部屋のベッドの上に下ろされて座るユメカは、部屋を見渡しながらそんな言葉を漏らす。

 

 部屋の周りには至る所にガンプラが飾られていた。

 それに関しては昔からなのだが、以前来た時よりもガンプラの種類が増えている事に気がつく。

 

 というのも「また」なので、いつもの事なのだが。

 

 

「……わ、悪いか」

「ううん。ケー君がプラモ好きなの知ってるし」

「ガンプラな」

 ガンダムのプラモデルだからガンプラ。別にケイスケはプラモデルが好きな訳ではなくて、ガンプラが好きなのだ。

 

「そかそかー、私もプラモは好きだよ。お、このプラモ塗り方凝ってるねー」

 と、ユメカは側にあったガンプラを持ち上げて色々な角度から覗き込む。

 

「ユメカはガンプラじゃなくて戦闘機のプラモだろ」

「戦闘機じゃなくて飛行機全般ですー」

 頬を膨らせるユメカ。彼女はガンプラは作らないが、飛行機が大好きで偶にプラモデルも作る程だ。

 

 昔からの幼馴染み四人(・・)共プラモデルが大好きで、とあるプラモ屋に入り浸っていた光景を思い出す。

 そうしてケイスケは、少しだけ俯いてから意を決したように口を開いた。

 

 

「……なぁ、ユメカ」

「ん?」

「ガンプラの事、恨んでないか?」

 唐突に真剣な声でそう問い掛けるケイスケに、ユメカはキョトンとした顔で固まる。

 その後少しして、自分の足を触りながら彼女は目を閉じてこう答えた。

 

「そんな訳ないよ。だって、ガンプラのおかげでケー君とタケシ君。……それにアオト君と出会えたんだもん」

 そう言ってからユメカは「ヒメカは嫌いみたいだけど」と苦笑いを漏らす。

 彼女のそんな言葉にケイスケは身を乗り出して、彼女の目を真っ直ぐに見ながらこう口を開いた。

 

 

「なら、俺と一緒に来て欲しい所があるんだ……っ!」

「え、えぇ……っ?」

 ケイスケの言葉に驚いて固まってしまうヒメカ。

 

「どこかに行くって言っても……」

 そうして彼女は少し俯いて、困った表情で返事をする。

 どこかに行こうと言われても彼女の足では遠出は難しいし、大変だ。

 

 

「大丈夫。……その、きっと喜んでくれるし。行くのはそんなに大変じゃないから。それと……その、えーと……黙って着いてこい!」

「……め、珍しいね。ケー君がそんなに必死なの」

 キョトンとするユメカだが、どこか安心したような表情で一度目を閉じる。

 そうして少し考えてから彼女は「わかった」と返事を漏らした。

 

 

「エスコート、お願いします」

「よし」

 ユメカの返事にガッツポーズで喜ぶケイスケを見て、彼女はクスリと笑う。

 一体何を考えているのか分からないが、彼が楽しそうで何よりだ。

 

 

「でも、何処に行くの?」

「GBN」

「じーびーえぬ?」

 ケイスケの即答に再びキョトンとするユメカ。

 何処に連れて行かれるやら。

 

 

「正確にはガンプラバトルネクサスオンラインっていうオンラインゲームだ」

「え、それって……」

 しかし、ケイスケの言葉を聞いてユメカは少しだけ表情を暗くする。

 彼女の脳裏に、自分達から離れていった一人の幼馴染みの顔が過った。

 

「……分かってる。だけど、目を背け続けるのもいけないかなって思ってさ。だから、一緒に来て欲しい」

「ケー君……」

 真剣な表情のケイスケを見て、ユメカも息を飲む。彼がこんなに真剣に話してくれているのだ、悪ふざけではないことくらい彼女にも分かった。

 

 

「……うん。分かった、行こっか」

「ありがとう、ユメカ。……あのさ、ユメカはまだ空を飛ぶのが夢なのか?」

「んえ? う、うん」

 唐突な質問にユメカは再びキョトンとした顔で返事をする。

 

 彼女は飛行機が大好きで、彼女の夢は旅客機のパイロットだった。

 勿論その夢を諦めた訳ではない。ただ、今の彼女には険しい道なのも確かである。

 

 

「ユメカの夢を少しだけ手伝わしてくれ」

 そう言いながら、ケイスケはユメカに小さなバイザーのような物を手渡した。

 それと一緒に一機の戦闘機のようなガンプラを彼女に渡す。

 

 

「戦闘機?」

「これはモビルアーマーってんだけどな。まぁ、戦闘機のような物だけど。名前はスカイグラスパー」

「スカイグラスパー。ふえー、格好良い戦闘機だね!」

 飛行機好きの彼女はスカイグラスパーのガンプラを笑顔で眺めて「そういえば」と声を漏らした。

 

「GBNってオンラインゲームだよね。えーと、ガンプラで戦う? 私、この戦闘機で戦うの? 絶対操縦とか出来ないよ? それに……私の足、さ」

「あ、いや。別に一緒にバトルをしようなんて話じゃないよ。ただ、来て欲しいだけなんだ。えーと、そのプラモはな……一応GBNはガンプラを登録しないとアバターが作れないから」

 あたふたと説明をするケイスケに対して、ヒメカは「そっか」と少し寂しげな表情で答える。

 

 別に憂鬱な訳ではない。

 ただ、せっかく幼馴染みが遊びに連れて行こうとしてくれているのに。自分の足が動かないせいで迷惑をかける事が情けないだけだ。

 

 

「よし、それじゃ。ログインしようか。電脳世界に入ったらまず自分のアバターを作らなきゃ行けないんだけど、そこは任せる」

「うん、分かった」

 そう言って二人はバイザーを掛ける。

 

 

 電源を入れて、ガンプラをセットした途端、二人の意識は電脳仮想空間───GBNへと送り込まれた。

 光に飲み込まれるような感覚に目を閉じていたユメカは、ふと不思議な感覚に瞼を開く。

 

 まるで無重力。

 浮いているような感覚で、宇宙にでも漂っているかのように綺麗な光景が視界に入った。

 

 そして、そこがその世界への入り口とでも言うように門のような物が開く。

 

 

 

 WELCOME TO GBN

 

 

 

「嘘……」

 ただ、彼女が感じた不思議な感覚は浮遊感ではなかった。もっと根本的な違和感。だけど、それは懐かしい感覚で───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 数日前。GBNランダムフリーバトル観戦室。

 

「ま、マギーさん!」

 ケイスケは立ち去ろうとするマギーを呼び止める。

 首を横に傾けるマギーに、彼は必死な表情で口を開いた。

 

 

「あの……質問があるんですけど。GBNって、ログインしてる人はリアルで歩けない人も歩けるようになったりするって本当ですか?」

「……あら。本当よ」

 少し意外な顔をしてから、マギーはそう短く返事をする。

 

 

 事実、彼の知り合いが隊長を務めるフォースにはリアルで歩く事も喋る事もままならない人物だっているのだ。

 しかし、ここは電脳仮想空間。そんな事は関係ない。

 

 

 嬉しそうに拳を握る少年は、自分達のせいで歩けなくなってしまった少女を絶対にここに連れてくると誓う。

 

 

 ここはGBN───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

「ケー君……だよね? 私……私───」

 水色の髪の女の子が、震える足で泣きながら()()()()()

 

 

「ユメカ、一人で歩けるか?」

「───うん。私、歩けるよ……っ」

 ───ガンプラバトルネクサスオンライン。

 

 

 

 そこは、ガンプラに魅せられた者達の夢の場所。

 誰かが守った、誰かが守ろうとした、そんな場所だ。



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GBNの空

 嘘みたいだ。

 身体は軽いし、自由に動く。

 

 動かない筈の足が動いて地面を踏んだ。

 ゆっくりともう片方の足を動かせば、私は───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 水色の長い髪。

 あまり現実的ではない容姿だが、ここGBNでは不思議と馴染む。

 

 

 少女はそんな水色の髪を揺らしながら、なんでもないそれこそただのロビーを楽しそうに駆け回っていた。

 

 

「うはは、あっはは、凄いよケー君! 私、走ってる!」

 側から見れば気が狂ってるんじゃないかという光景だが、彼女は本来下半身付随で走るどころか歩く事すら出来ない。

 そんな彼女でも、GBNの中なら歩けるし走る事も出来る。

 

 クルクルと回りながらはしゃぐその姿はまるで、ガンダムSEEDDESTINY第一話のとある登場人物のようでもあった。

 

 

「浮かれてるバカの演出……じゃ、ないけどな。俺もバカをやるか? バカをさ」

 頭を掻いて苦笑いを漏らしながら、ケイスケは「そろそろ落ち着いてくれ」と少女───ユメカの肩を叩く。

 

「あはは、ごめんごめん。でも、だって、凄いんだよ。私、立ってる。歩いてる。あははっ」

 周りから見れば何がそんなに面白いのか。

 

 

 ただ、ケイスケはそんな彼女を見て自分も嬉しそうに笑った。

 連れてこられて本当に良かった、と。少年は彼女の普段とは違う水色の頭をゆっくり撫でる。

 

 

「……ありがと、ケー君」

「いや、別に……。たまたま、そういう話を聞いたからさ」

 一年前。

 

 この世界───GBNが消滅するか否かという大事件が起きた。

 EL(エル)ダイバーと呼ばれた少女を巡る第二次有志連合戦。その頃GBNをプレイしていなかったケイスケでも耳に入るような大きな出来事だった事を覚えている。

 

 

 これまでGBNを遠ざけていたケイスケだったが、その出来事が少し気になって第二次有志連合戦での出来事を少し調べた。

 

 そうして彼は、一人のダイバーの言葉を耳にする。

 

 

 ──GBNの中でしか話すことも歩くこともできない。そういった境遇の人間が私の隊にもいる──

 それは、第二次有志連合戦に参加していたフォース第七機甲師団を率いるダイバー、ロンメルの言葉だった。

 

 ──彼らにとってこの世界はありたい自分でいられる大切な世界。全てなのだ──

 彼の言葉を聞いたケイスケは、もしやと思う。

 

 

 だけど、直ぐには動く事が出来なかった。

 

 

 この世界(GBN)をずっと遠ざけていたから。

 

 

 

 それから一年。

 沢山考えて、自分なりの答えを出した彼は今ここに居る。

 

 

 

「綺麗な世界だよな」

「え? わぁ……」

 ふと空を見上げながらそう言う彼に釣られて、ユメカは視線を持ち上げた。

 その先に広がる空は嘘みたいに青くて、どこまでも続いているかのように果てしない。

 

 まるで本物の空のようで、ユメカはただ声を漏らす。

 

 

「そういえば、なかなか派手な格好してるな……」

 視線を落としたケイスケの視界に入るのも、また空のような綺麗な青だった。

 

 普段見慣れない長い髪。何処もなくリアルの彼女の顔には似ているが、その格好はリアルとは似てつかない。

 空色の長い髪。服もノースリーブのワンピースと彼の知っている限りではあまり見慣れない姿にケイスケは彼女の姿を覗き込む。

 

「あ、あんまりジロジロ見ないでよ……。もしかして……変?」

「いや、変じゃない。変じゃない」

 長い髪を人差し指で巻きながら首を横に傾けて問い掛けるユメカに、ケイスケは両手を上げてそう答えた。

 

 

「可愛い格好だな……と」

「ええへ、でしょー。ほら、私リアルだとお洒落とかあまり出来ないし。髪も伸ばすと大変だから」

 続くケイスケの言葉に、ユメカはその場で両手を広げてクルクル回りながらそう言う。

 彼女がピタリと止まっても遠心力で揺れる空色の髪から、ふわりと甘い香りを感じた。

 

 これが電脳世界というのだから、未だに信じられない。

 

 

 その髪は空の色? 

 とは聞かずに、ケイスケはコンソールパネルを開いてユメカのプロフィールを確認する。

 

 

「ユメ、か。まんまだな」

 彼女のプロフィールにはプレイヤーネームが記載されていて、ユメカのプレイヤーネームは名前から一文字だけ取ったユメだった。

 

「そういうケイスケはケイじゃん。まんまじゃん。アバターもリアルと殆ど変わらないし」

「俺は二文字も消した。顔はリアルよりイケメン」

「変わんないよ」

 二人して「あはは」と笑い合う。

 

 こころなしかユメカ───ユメがいつもより元気に見えるのは、笑う度に足をパタパタと動かしているからか。

 しかしよく考えなくても、彼女は昔から元気な女の子だった。それがある意味、彼女の本当の仕草なのだろう。

 

 

「さて、立ち話もなんだし。どこか散歩でもするか? GBNは広いし、結構面白いぞ」

 と、ケイスケ───ケイは腰に手を当てて辺りを見渡しながら口を開いた。

 

 初めてGBNにログインしたのは一週間前。

 とりあえずと参加したランダムフリーバトルでオーガと戦い、敗れはしたがGBNの事を知るには充分だったのだろう。思わぬ副産物もあった。

 

 それから一週間毎日ログインし続けて、ある程度の下調べは済ませてある。

 尤もその程度でGBNの全てを知る事は出来ない。それ程深く広い世界なのだ。

 

 

「んー、ケー君がやりたい事をやれば良いよ?」

 しかし、ユメは顎に手を当てて少し考えてからそんな返事をする。

 ケイは「いや、それは……」と声を漏らすが、彼女はそんな彼にこう続けた。

 

「だって、GBNに誘ってくれたのはケー君じゃん。ケー君が私としたかった事をしようよ」

 ケイを覗き込んでそう言うユメ。少年は「困ったな」と頭を掻く。

 

 

 GBNで歩けたら喜んでくれるかな、と。

 ある意味それだけの事に一心になっていたせいで、その先の事は考えていなかったのだ。

 

 

「えーと、それじゃ。ケー君はいつもGBNで何をしてるの?」

「俺? 俺はえーと、ガンプラバトル?」

 戸惑っていたケイにそう聞くユメに対して、ケイは首を横に傾けながらそう答える。

 

「ここでもガンプラバトルが出来るの?」

「まぁ、ここは本来ガンプラバトルをする場所だからな」

 ケイの言葉に「おー」と感心な様子を見せるユメ。

 

 勿論彼女の為とは言っていたが、ケイ自身もこのGBNを一週間楽しんでいたのは事実だ。

 ここはGBN。ガンプラバトルネクサスオンライン。その名の通り、ガンプラバトルをする場所なのだから。

 

 

「それじゃ見せてよ、ガンプラバトル!」

 ニカッと笑いながらケイに詰め寄る。

 

 それで良いのかとケイは頭を掻きつつ「それじゃ、付いてきて」と彼女の前を歩いた。

 

 

 ユメはそんな様子になんだか違和感を覚える。

 それもその筈で、いつもはケイに車椅子を押して貰うから彼は普段自分の後ろにいるのだ。

 

 それが、今は彼が前を歩いている。

 自分はそんな彼を歩いて追いかけていた。視線に映るケイは、いつもより背が低く見える。

 

 

 そんな事が嬉しくて、彼女は歩きながらまた満面の笑みを溢していた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 爆炎が舞う。

 機体を二つに割いた剣を引いて、ケイの駆るストライクは地面を蹴って飛び退いた。

 

 

 広大なフィールドを炎が包み込んで、ビームが飛び交い砂埃が至るところで舞い上がる。

 

 

「ほぇぇ……」

 そんな様子を、ユメは目を丸にして観戦していた。口は空いているし、身体は凍り付いたように固まっている。

 

「な、何これ。ガンプラ? ガンプラってなんだっけ」

 彼女が混乱しているのは、視界に入るそんな光景と自分が想像していたガンプラバトルとの差異があり過ぎたからだ。

 

 

 彼女の知っているガンプラは、ケイスケの部屋にあったような手で持ち上げられるようなサイズのプラモデルである。

 しかし今ケイがやっているガンプラバトルで動いているのは、全高十七メートルの巨大なロボットだ。まるで、本物のアニメに出て来るロボットそのままである。

 

 

「あら、あなたGBNは初めて?」

 そうやって驚いていたユメの背後から声が聞こえて、彼女は首を横に傾けながら振り向いた。

 視界に映ったのは強烈なファッションの男性、マギー。彼を知らないユメは、丸い目のままさらに口を大きく開けて「はい?」と間抜けな声を出す。

 

「私はマギー。たまたま通り掛かった親切なお姉さんよ」

 そう言って手を出すマギーに対して、ユメは心の中で「あ、怪しい人だ」と震えた。

 

 

「ケイちゃんのお友達よね?」

 しかし、彼のそんな言葉にユメは警戒を説いて「は、はい。ユメです」とマギーの手を取る。

 

 

「GBNが初めてなら、驚くのも無理はないわ」

「あの……アレって、ガンプラバトル何ですか? どう見てもガンプラじゃないですけど」

 何かを知っていそうなマギーに、ユメはバトルというか戦闘を繰り広げるストライクを指差してそう聞いた。

 

 今にもその指の先では、ストライクが両手の剣でリゼルというMSと交戦している。

 ただ、そのストライクは確かにケイスケの部屋に飾ってあった物と同じ姿をしていた。

 

 

「GBNは知っての通り電脳世界、ありたい自分で居られる場所よ。だからガンプラも、ただのプラモデルではなくて実際のMSのように操縦出来るって訳」

「ほぇぇ……」

 ユメはマギーの説明に納得するように視線を落とす。これがGBN。

 

 

 

 ガンプラバトルネクサスオンライン。

 

 

 

「それじゃ、私も……ガンプラに乗れるって事ですか?」

「そういう事」

 ──ユメカの夢を少しだけ手伝わしてくれ──

 あの時のケイの言葉の意味が、少しだけ分かった気がした。

 

 

「今彼がやっているのは初心者用のチャレンジミッションね。NPCとのバトルだけど、それぞれに特殊なルールやボスがあって、クリアすれば報酬をゲットできる訳」

 複数のリゼルと戦うケイのストライクBondを指差しながらそう言うマギー。

 彼の言葉を真剣に聞くユメに、マギーは「勿論対人戦もあるけれど、こういうミッション形式のバトルがあるのもGBNの魅力よ」と付け足した。

 

 

「今ケー君がやってるのは、どういうミッションなんですか?」

「えーと、そうねぇ、どれどれぇ。……時間内に第一エリアを突破して、第二エリアに待ち構えているボスを倒せばクリアってルールね」

 ユメの問い掛けに、マギーはコンソールパネルから情報を引き出してそう答える。

 

「ボス?」

「見てれば分かるわ」

 二度の質問に対しては、マギーはケイの戦っている姿が映るモニターを指差して答えた。

 

 

 

「や、やっとここか。時間が……ない!」

 一つ目のエリアを超えたケイの先に現れる灰色の機体。頭部カメラを赤色に光らせて、背中の翼を揺らすその機体の名は───

 

 

「デルタプラスね」

「デルタプラス?」

 ───デルタプラス。ガンダムUCに登場するMSである。

 

 

「あの機体の名前よ。……しかし、時間が気になるわね」

 ところでケイが挑戦しているミッションには時間制限がある訳だが、ふとマギーが気にすると残りのタイムリミットが迫っていた。

 第一エリアを突破するのに時間が掛かったからだろう。ケイは舌を打ちながらレバーを引いて剣を構えた。

 

 

「残り時間……三十秒、被弾を気にしてる暇はない! 接近出来れば一撃で!」

 そうしてケイの駆るストライクBondはスラスターを吹かしながらデルタプラスに突撃していく。

 

 対するデルタプラスは手に持つビームライフルを発射し、ビームはストライクの右足を捉えた。

 

 

「あ……っ!」

 ケイの機体の右足が吹き飛んで、ユメは悲鳴のような声を漏らす。

 ストライクはバランスを崩して地面を転がった。

 

 

「ケー君!」

「大丈夫よ。まぁ、ミッションは失敗になっちゃったけど」

 顔を押さえて心配するユメの背中を叩きながら、マギーは優しくそう語り掛ける。

 

 

 

 GBNでガンプラに乗ってる時に機体が爆発しようがコックピットを破壊されようが、特に死ぬ訳でもない。これはゲームなのだから。

 

 

 

 ほどなくして、ストライクが立ち上がろうという所でタイムリミットが過ぎた。

 ミッション失敗のアラートが鳴り、ケイはげんなりした表情でユメ達の元に戻ってくる。

 

 

 

「……任務失敗」

 苦笑い気味に頭を掻きながらそう言うケイは、ユメとマギーが一緒に居るのを見て「マギーさん?」と驚いた声を漏らした。

 

「ハロー、ケイちゃん。素敵なガールフレンドが居たのね」

「が、が、が、ガール、わ、私なんてそんな───」

「幼馴染みなんですよ。ていうか、なんでマギーさんが?」

 あまりに華麗なスルーにユメは頬を膨らませる。たとえその気があろうがなかろうが、もう少し意識しても良いのではなかろうか。

 

 しかし大概の幼馴染みというのはそういう物らしい。

 

 

「たまたま通り掛かったからガールズトークに花を咲かせていたのよ。ユメちゃんは初めてだったから、色々教えながらね」

 ウインクをしながらそう言うマギーに、ケイは苦笑いで「ガールズトーク……」と声を漏らした。

 そんな彼の反応を気にする事なく、マギーはこう続ける。

 

 

「今ケイちゃんがやってたミッション、アレは一人でクリアするのは中々大変なのよね」

「あはは……。おっしゃる通り惨敗でしたけど」

「頼れる仲間が居れば、もしかしたらクリア出来るかもしれないけれど」

 ユメを片目で見ながらそんな言葉を漏らすマギー。

 

 当のユメは「え?」と目をパチクリさせて、自分を指差した。

 

 

「……私? いや、無理無理。無理ですよ!」

「マギーさん、確かにユメをGBNに誘ったのは俺ですけど。別に一緒にプレイしようなんて思ってなくて、ただ……空を───」

「でもケイちゃん。ここ一週間ずっと同じミッションを受けてるわよね。何か理由があるんじゃないの?」

 ケイの言葉を遮ってそう言うマギーに、ケイは「それは……」と口籠る。

 

「一週間ずっと……」

 そんな言葉を聞いて、ユメは一度目を閉じてから直ぐに真っ直ぐな瞳を開いた。

 

 

「ケー君。私で良かったら手伝うよ!」

「え、いや、それは……」

「私、ケー君にGBN(ここ)に連れて来て貰えて本当に嬉しかった。だから、お礼がしたいの。私に何が出来るか分からないけど……」

 マギーの視線の意味は分からない。だけど、なんとなく自分が歩けば前に進める気がして。

 

 

 今は一人で歩くことの出来る足で、彼女はケイに詰め寄る。

 

 

「私も、ガンプラバトルする!」

「ユメ……。……ふぅ、分かった。手伝ってくれ。多分、マギーさんの言う通りユメが手伝ってくれたらクリア出来る」

 苦笑い気味にそう答えてから、ケイはコンソールパネルを開いて少しだけプロフィールを弄った。

 マギーはそれを覗き込むも、何をしているのかは分からなくて首を横に傾ける。

 

 

「でも、私が手伝うだけで本当にクリア出来るんですか?」

「ふふ、さーて。それは、彼とあなたしだいね」

 ユメの質問にそう答えて、準備を終えたケイと彼女が再びミッションに参加する姿を見守るマギー。

 

 

「……さて、何を見せてくれるのかしら」

 あのオーガのバトルから、彼はケイの事が少し気になっていた。

 今度は何を見せてくれるのか。これだからGBNは、やめられない。

 

 

 

 

 Mission Start

 

 コックピット、というよりはゲームセンターのゲームのような雰囲気か。

 簡易的なレバーやボタンは操縦が分かりやすく設計されている。

 

 

「ヘルメットとか要らないのかな?」

 モニターに囲まれたそんな場所で、ユメは辺りを見渡しながらそう言った。

 

「ユメ、聞こえるか?」

 少しして、何処からかケイの声が聞こえる。無線通信だろうか、目の前のモニターに彼の顔が映った。

 

 

「はーい、聞こえてるよー」

「よし。操縦の仕方はさっき説明した通り、簡単だろ? 発進したら、出来るだけ高度を上げて真っ直ぐついて来て欲しい。特に攻撃とか、援護とかしなくて良いから」

 そんなケイの言葉に「え、そうなの?」と首を横に傾けるユメ。

 

「だから、俺が指示するまで空でも見ててくれて良いよ。なんなら、空の旅を楽しんでればいい」

「あはは、何それ。うーん、でも分かった!」

 そんな返事と共に視界が開く。

 

 

 射出機───カタパルトデッキが開いて視界に空が映った。GBNのガンプラはここから発進してフィールドを駆ける。

 彼女のガンプラもまた、そのように。

 

 

「───ユメ、スカイグラスパー。発進します!」

 それっぽい言葉を漏らすと、身体が揺れた。

 

 

 一瞬で加速した景色に目を閉じる。

 

 

 

 彼女のガンプラはスカイグラスパー。

 ガンダムSEEDに登場する戦闘機(厳密にはモビルアーマー)で、彼女の大好きな航空機だ。

 

 

 

 それが空を飛んで、目を開いた彼女の視界に青い空が映り込む。

 

 

「───ほわぁ」

 思わずため息が漏れた。

 

 あたりを見渡しても、青、青、青。

 透き通るような、どこまでも続いていそうな綺麗な空に手を伸ばす。

 

 

「これが……GBNの空」

 何かがこみ上げてきて、彼女は強くレバーを握った。

 

 

 

「私、飛んでる。飛行機を操縦して……飛んでる!」

 夢だった空。ゲームの中でも、それはまるで本物の空のようで。

 

 

 

 

 GBNの空を彼女は飛ぶ。

 

 ──ユメカの夢を少しだけ手伝わしてくれ──

「あはは、叶っちゃった」

 

 

 小さな夢が、少しだけ叶った気がした。




という訳で第三話でした。ユメ、ユメカのキャラデザを描いて来たので置いておきます!

【挿絵表示】

読了ありがとうございました!


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ストライカーパック

 ストライカーパックはクロスボーンを装備。

 カタパルト、システムオールグリーン。

 

 

 モニターに映る文字を眺めて、ケイは一度深呼吸をする。

 

「……よし」

 進路クリア。ストライク発進、どうぞ。

 

 

 ()()()()()()()()灰色の機体が、カタパルトに足を乗せて屈んだ。

 巨大なスラスターが火を吹いて、ケイは一度目を閉じてから開いて言葉を漏らす。

 

 

()()()()()()ストライクBond。ケイ、行きます!」

 そのガンダムは空を駆けた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 バトルフィールドの上空を飛ぶスカイグラスパーを見て、マギーは首を横に傾ける。

 

 

 スカイグラスパーはストライクの支援機という設定で、ストライクの装備を運用する事が出来るモビルアーマーだ。

 そんなスカイグラスパーだが、背負っているバックパックはどうも既存のストライカーパックではない。しかし、何処かで見た事はある。

 

「……って、アレ。ダブルオーのバックパックじゃない」

 少し観察すると、マギーにはその正体が分かった。

 

 円錐形の部品から漏れる緑色の粒子。

 ツインドライブ。OOガンダムのバックパックである。

 

 

「ケイちゃんのストライクに付いていた筈のバックパックがスカイグラスパーに付いている。……つまり、アレはストライカーパックという事ね」

 マギーは顎に手を当てて満足そうな表情を漏らした。

 

 ケイの機体の元になったストライクという機体は、ストライカーパックと呼ばれる装備を換装する事でその場の戦況に合わせて臨機応変に運用する事が出来るというのがコンセプトである。

 彼の機体もその特性を引き継いでいるのなら───

 

 

「───アレは……クロスボーン」

 そして、発進したストライクBondを見てマギーはそんな言葉を漏らした。

 

 

 マントを羽織ったストライクが空を駆ける。

 その背中に背負うのは、ツインドライブではなくX字の巨大なスラスターだった。

 

 そのスラスターは機動戦士クロスボーンガンダムに主に登場する、クロスボーンガンダム等が装備している推進器である。

 木星の重力下でも充分な推進力を誇る設計をしていて、また羽織っているマントもお飾りという訳ではない。

 

 Anti(アンチ) Beam(ビーム) Coating(コーティング) Mantle(マント)

 略してA.B.C.(エービーシー)マントは、平均で五発のビームに耐えうる強力な対ビーム兵器用装備だ。

 

 

 

「ケー君のガンプラ、マント着てる」

「お洒落で着てるわけじゃないからな。そろそろ敵が出てくるから、もう少し高度を上げて着いてきてくれ」

 通信でそう話して、ケイのストライクが先行する。X字の両端に設置されたスラスターの推進力が機体をしっかりと持ち上げていた。

 

 

「う、うん。……アレが敵かな?」

 言われた通り高度を上げたユメは、視界に映る青い機体に対してそんな言葉を漏らす。

 さっきケイが一人で戦っていた時にも見た機体、リゼルだ。

 

 

「ケー君、敵!」

「分かってる。真っ直ぐ進むぞ!」

 ユメの言葉にケイはそう答えて、迂回せずに真っ直ぐに機体を進める。

 

 そのままこちらの射程圏内に入る前に、リゼルがビームライフルを放った。

 ケイは機体を少し浮かせてそれを避ける。

 

 

「ケー君!」

「大丈夫!」

 続け様に複数のリゼルがビームを発射した。回避や迎撃をすれば、それだけタイムリミットが迫ってくる。

 

「───突破する!」

 ケイは装備したビームライフルを構えて複数機居るリゼルの内一機に狙いを定めた。

 引き金を引いて、放たれたビームがリゼルのコックピットを貫通する。

 

 

「ケー君凄───危ない!」

 しかし、喜びも束の間。他のリゼル達が一斉にストライクにライフルを向けた。

 放たれたビームが四方八方からストライクに直撃する。爆炎が広がって、ユメの視界からストライクが消えた。

 

 

「そんな……。ケー君……ん?」

 しかし、直ぐに爆炎の中からストライクが現れて機体は真っ直ぐに進む。

 明らかに直撃したようにも見えたが、ストライクは特にダメージを受けている様子がなかった。

 

 

 

「A.B.C.マントとクロスボーンのスラスターでリゼル隊を強行突破。ふふ、考えたわね。だけどその装備でボスを倒す事が出来るかしら」

 感心するマギー。このミッションの内容はボスの撃破であり、リゼルを全て倒す必要はない。

 

 しかし、厄介なのはやはりボスだろう。そこをどう攻略するのか。

 

 

 

「A.B.C.マント。ビームを弾く装備だ」

「本当にお洒落さんなだけじゃなかったんだね」

 驚くユメの下で、ケイの駆るストライクを再びリゼルの射撃が襲った。

 

 ケイはそれを出来るだけ避けて、直撃してもマントがビームを弾く。

 近付いて来そうなリゼルだけを攻撃して撃破。そうしてユメのスカイグラスパーは何もせずままに第一エリアを突破した。

 

 

「よし、残り時間がまだ五分もある」

「さっきはあんなに苦労してたのに」

「ユメのおかげだよ」

「私?」

 何もしてないよ、という前にモニターにWARNINGの文字が並ぶ。

 

 

 第二エリア。ボス戦だ。

 

 

 上空から降って来る灰色の機体。デルタプラスが、ケイに向けてビームライフルを構える。

 ケイのストライクは直ぐに地面を蹴って、距離を取った。放たれたライフルがマントの端を抉る。

 

「ケー君!」

「やっぱりマントは限界か……っ!」

 距離を取りながらケイもビームライフルを向け、デルタプラスへと放った。

 しかし、ボス用の装甲ステータスは甘くない。ビームは直撃するも、あまりダメージは与えられていないように見える。

 

 

「通常ライフルじゃやっぱり時間が掛かる。このままやっても五分じゃ倒せないって事だろうな……っ!」

 ケイは舌打ちをしながらフィールドに設置された建物の裏に入り込んだ。

 時間内に倒すなら、接近戦を仕掛けるしかないだろう。しかし()()()()では接近しても大きなダメージを入れる事は出来ない。

 

 

 

「……やるか。ユメ!」

「え。あ、はい!」

「降下して三番目のスロット!」

 ユメはケイに言われた通り、レバーを落として機体の高度を下げた。そのまま言われた通りの武装を展開───

 

 

「うわ、敵のプラモが私の事見てるよぉ!」

 しかし、デルタプラスは上空のユメにライフルの銃口を向ける。

 

「させるか!」

 X字のスラスターが火を拭いて、そんなデルタプラスの前にストライクが躍り出た。

 肩から掛かったマントを掴んだストライクは、そのマントを眼前に投げ付ける。

 

 刹那、デルタプラスのライフルから放たれたビームがマントに直撃した。

 A.B.C.マントはその役目を果たしてビームを弾き、消滅する。

 

 

「今だ!」

「うん!」

 同時に、スカイグラスパーとストライクはお互いのバックパックを切り離した。

 X字のスラスターが地面に落ちて、変わりにスカイグラスパーが切り離したツインドライブ付きのスラスターがストライクの頭上に落ちて来る。

 

 

「換装。フェイズシフトオン」

 地面を蹴ったストライクの背中に、そのバックパックが接続された。灰色だった機体はフェイズシフト装甲により、青色に塗りたくられていく。

 

 

()()()()()ストライクBond、行く!」

 着地して、地面を蹴ったストライクはデルタプラスに肉薄した。

 バックパックに接続された二本の剣を構え、踏み込むと同時に刃を振る。

 

 その刃はデルタプラスの左手をシールドごと切り落とした。

 

 

「ケー君の戦い方が変わった……?」

「武装を換装して、機体の特徴そのものを変えたのよ」

 首を横に傾けるユメのモニターにマギーが通信で映って説明を入れる。

 それは元となったストライクと同じ特徴でもあり、そして別の可能性でもあった。

 

 

「接近用ソードストライカーの代わりがダブルオー。汎用と機動力のエールストライカーの代わりがクロスボーン。……という事は、もう一形態はあるわね」

 マギーはそう分析して、口角を吊り上げる。

 

 

 ガンプラの出来もプレイヤースキルも上々。それはきっと彼が───

 

 

 

「時間はある、もう一度接近して……っ!」

 一撃で倒す事の出来なかったデルタプラスとの距離は離れてしまった。

 しかし、まだ時間には余裕がある。焦らずに戦えば勝てる筈だ。

 

 ビームライフルを左右に避ける。中々距離が縮まらずに、ケイは舌を鳴らした。

 

 

「ケー君、楽しそう」

 しかしユメの目には、ケイは楽しんでいるように映る。

 煩わしい相手の攻撃も、自分の攻撃を届かせようとする工夫も、それ全部ひっくるめてガンプラバトルが楽しい。

 

 

 

「私も、楽しいな」

 スカイグラスパーを旋回させながら、ユメはボソリと呟いた。

 そうして機体の高度を落とし、トリガーに指を掛ける。

 

 

「ケー君、私が隙を作るよ!」

「ん、ユメ……っ?」

 接近してくるスカイグラスパーに気が付いたケイは驚いたような声を漏らした。

 同時にスカイグラスパーから放たれるミサイル。デルタプラスは迎撃しようとライフルを構えるが、その頃にはユメのスカイグラスパーは一気に高度を上げて射程外に機体を持ち上げる。

 

 ミサイルがデルタプラスの右足に直撃して、機体が揺れた。ダメージは大きくないが、それよりも大きな隙が出来る。

 

 

「───そこだぁ!!」

 その隙に踏み込んで、切り裂いた。

 一対の実剣がデルタプラスをX字に割く。

 

 同時に広がる爆炎。

 砂埃の中で、ストライクのメインカメラから放たれる光だけが輝いていた。

 

 

 

 YOU WIN

 MISSION COMPLETE

 

 

「……勝った?」

「ケー君。私達、勝ったよ!」

 あまり実感の湧かないケイを他所に、ユメは我を忘れてはしゃぎ回る。

 

「あらあら、はしゃいじゃって。でも、これであの二人は大丈夫そうね」

 操縦を放棄したスカイグラスパーが揺れるのを見てから、マギーは笑みを漏らして二人に背中を向けた。

 

 

 

「ようこそGBNへ。これからも、この世界を楽しんでね」

 手を振りながらその場を去るマギーを他所に、バランスを崩して落下しそうになるスカイグラスパーを見て「お、おいユメちゃんと操縦しろぉ!」と声を上げるケイ。

 

「え? ぁ、うわぁぁ!」

「ユメぇぇぇ!!」

 二人の初ミッションは騒がしくも幕を閉じて、彼等のGBNでの物語が始まっていく。

 

 

 

「楽しいね、GBN」

「そうだな」

 GBNの空もまた日沈み始め、二人は墜落したスカイグラスパーにもたれながら笑い合った。

 

 

「それなに?」

「ミッションの報酬。リディのお守り」

 ミッションクリアの報酬を受け取ったケイを覗き込むユメ。報酬である、複翼機のミニチュアが着いたネックレスが風に吹かれて揺れる。

 

 

「凄い、中に複翼機のミニチュアが入ってる!」

「うん。だから、ユメカが喜ぶかなと思ってさ……」

 そんなケイの言葉に、ユメはミッション前にマギーが言ってきた言葉を思い出した。

 

 

 ──ここ一週間ずっと同じミッションを受けてるわよね。何か理由があるんじゃないの?──

 

 

「これ、プレゼント。気に入らなかったら……その、ごめん」

「ううん……凄い嬉しい! 二人の初めてのミッションクリア報酬だね!」

 ユメはプレゼントされたネックレスを首に掛けて、その場でクルクルと回って喜ぶ。

 夕焼け空のGBNで笑う少女の顔は、とても晴れやかなものだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 視界が揺れる。

 光が収束していくような感覚の後、ピクリと身体が痙攣した。

 

 

「……戻った」

 GBNからログアウトしたユメ───ユメカは、目をパチクリと開いて持ち上げた自分の手を見詰める。

 紛うことなき自分の手だ。自分の髪の毛を触って、どこか懐かしいような寂しいような感覚に溜息を漏らす。

 

「───って、あわ……っ!」

 そうして彼女は()()()()()()()()()、床に倒れた。

 

 

 当たり前だが彼女の足は動かない。それを実感すると、まるで夢でも見ていたんじゃないかという感覚が付いてくる。

 

 

「───っ、ユメカ! 大丈夫か?」

 同じく意識の覚醒したケイ───ケイスケは、視界に入った幼馴染みが倒れているものだから焦った声で彼女に詰め寄った。

 

 

「あはは、あっはは、あははははっ」

 しかし、ユメカは突然身体を捻って床で手を広げてから笑い始める。

 ケイスケは「壊れた……」の苦笑いを漏らすも、心配そうな声で「大丈夫か?」と続けた。

 

 

「足が、動かないや。当たり前だけど」

 笑い過ぎたからか、ユメカは笑顔のまま瞳から涙を漏らしながらそんな言葉を漏らす。

 

「そんな事も忘れるくらい、楽しかった。ケー君、ありがとう」

「どう致しまして」

 続くユメカの言葉に、ケイスケはホッと溜息を吐いて彼女に手を伸ばした。

 ユメカはその手を取って、彼の手を借りてベッドに座る。

 

 

 

「また、やりたいかも。GBNに……行きたい」

「良いよ。何度でも行こう。デバイスはあげるし、あっちでやれる事……色々教える」

「ありがと、ケー君」

 そう言ってユメカがケイスケにお礼を言った直後、部屋の扉が開いて彼女の妹のヒメカが「ご飯です」と声を漏らした。

 

「……おねーちゃん、何かしてたの?」

 そして、何やら嬉しそうな表情の姉を見てヒメカは首を横に傾ける。

 

 

「なんでもないよー。ご飯だね、ありがと。先に行っていいよ」

 ユメカがそう言うと、ヒメカは一瞬ケイスケを睨んでから「はーい」と言葉を漏らしてトタトタと台所に向かった。

 

「ご飯食べるか。車椅子車椅子」

 車椅子に触れるケイスケを見て、少しだけユメカは瞳を閉じる。

 

 

「……ガンプラ、か」

 そうして彼女は瞳を開いてこう続けた。

 

 

 

 

「ねぇ、ケー君。私もガンプラの事好きになりたい。ガンダムの事、教えて欲しい!」

 ようこそGBNへ。

 

 

 これからも、この世界を楽しんでね。




そんな訳で四話でした。ストライクBondの紹介が出来たらなと思っている……。読了ありがとうございました。


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少年達の過去

 ───俺が……お前を撃つ! 

 

 

 旧知の仲の友人同士。

 その二人の戦いや、戦争への想い。

 

 そんなテーマの物語を見て、ユメカはふと想うのだった。

 

 

「アオト君……」

 幼馴染みの少年の、大切な友達の事を。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 校門の前で、一人の少年が半目で表情をひくつかせる。

 

 

「……お前ら、眠そうだな」

 片目が隠れるほど前髪の長いその少年は、目の前の幼馴染み二人を見てそう言った。

 少年の視線の先では、車椅子に乗る同い年の女の子とその車椅子を押す同い年の男が開いてるのか開いてないのか分からない細目で「あ、うん」と声を漏らす。

 

「昨日徹夜で……ふぁぁ」

「ユメカ……。え、なに……夜更かし? お前らまさか……え?」

 少女───ユメカの言葉に、少年は顔を真っ赤にして口を開いて固まった。

 

 

 幼馴染み達が大人の階段を登ってしまったのかと、彼は心の中で泣く。

 

 

「ガンダムSEED見てた……」

 しかし、続くケイスケの言葉を聞いて少年はひっくり返った。むしろ泣いた。なんなんだお前ら。

 

 

「週末何してたんだお前ら……」

「学校に着いたら話すから。……ロック、お前にしか頼まない頼みがあるんだけど」

「いやだからタケシじゃなくてロ───あ、うん。なんだ?」

 少年───タケシはロックと呼ばれて気分が良くなったのか、笑顔でケイスケに詰め寄る。

 

 

「車椅子と───」

「おう、そのくらいこのロックリバー様に任せな」

「───俺の事おんぶで」

「出来る訳ねーだろ!!!」

 町の朝は今日も賑やかだった。

 

 

 

 

 放課後。

 タケシは欠伸をするケイスケを半目で見ながら、別の教室から車椅子でやってくるユメカを見ると手を上げる。

 

 彼が見ていた限り、ケイスケは授業中も殆ど船を漕いでいたし休憩中も昼ご飯を食べている時間以外は殆ど寝ていた。

 だらしない幼馴染みに頭を抱えながら、タケシはユメカに「こいつ寝過ぎなんだけど」と愚痴を溢す。

 

「あはは、私も休憩中殆ど寝てたよ」

「なんなのお前ら……」

 幼馴染みの言葉に再び頭を抱えるタケシ。これでいて夜更かしの理由が下らな過ぎるので、彼は心の中でも頭を抱えるのだ。

 

 

「んで、ガンダムSEED見てたって? どういう事だよ」

 気を取り直して、再び欠伸を漏らすケイスケの頬を突きながらタケシはそう問い掛ける。

 まさか夜更かしの理由がガンダムのアニメを見ていたからとか、そんな訳があるまい。

 

「そのままの意味だよ。休みの間ずっとガンダムSEED観てて、気が付いたら今日の朝三時だった」

「いやー、見るの止まらなくて」

「アホだこいつら」

 そんな訳があった。

 さらに「お母さんに凄く怒られちゃったね」というユメカの言葉に、タケシは溜息を吐いてから頭を振る。問題はそこじゃない。

 

 

「なんで突然ユメカがガンダムのアニメなんか見てるんだよ。お前ら二人して泊まってるのに、暇か」

 もっと他にこうやる事があるだろう、という言葉は喉の奥にしまっておいて。

 ユメカとガンダムに接点がない訳ではないし、むしろ彼女にとって良くも悪くもガンダムは人生に大きな影響を与えた作品群だ。

 

 ただそれでも───いや、だからこそ彼女がガンダムのアニメを見るという理由が分からない。

 

 

「GBNにね、行ってきたの」

「……は?」

 そしてユメカのそんな言葉に、タケシは目を見開いて固まる。

 彼女の言っている意味がわからない。意味は分かるが、理解が出来ない。

 

 

「GBNって、GBN? ガンプラバトルネクサスオンライン?」

「そうだよ」

「よく知ってるじゃん」

 ボソリと漏らすケイスケの言葉に、タケシは突然立ち上がって彼の胸倉を掴んだ。

 

「お前な……っ!」

「た、タケシ君!?」

 そんなタケシに驚いて、ユメカは二人に手を伸ばす。立ち上がれないから、その手は届かない。

 

 

「アオトがGBNに何を取られたのか分かってるだろ……」

「分かってるよ……」

 ケイスケを睨みながら口を開くタケシに、彼は目を逸らさずにそう答えた。

 

「だけどそれで、GBNの事を恨んで目を背け続けたら……またアオトと一緒にガンプラで遊べるのか?」

 続くケイスケの言葉に、タケシは「それは……」と口籠って手を離す。

 少しの間俯いて、彼は自分の髪を掻き毟ってから深い溜息を漏らした。

 

 

 ここには居ない幼馴染みの顔が頭に浮かぶ。

 あの事故が起きてなければもしかしたら、そんな事を思ってタケシは唇を噛んだ。

 

 

「まぁ、確かに俺の考え過ぎだな。……分かった」

 だけど、過ぎた事をもうどうにかする事は出来ない。

 頭を横に振ってから、彼はこう続ける。

 

 

「だけど、なんでユメカが突然GBNだのガンダムのアニメだのに手を出してるんだ? お前が好きなのはロボットじゃなくて戦闘機だろ」

「それがだな……その、GBNだとユメカも歩けるんだよ」

 そして、ケイスケが漏らした答えにタケシは再び目を丸くして固まった。

 視線を落としたその先には、当のユメカが車椅子の上で心配そうな表情を見せている。

 

 

 

 あの日。

 彼等が沢山の物を失くした日、ユメカは交通事故で下半身不随になって自分の足で立つ事も歩く事も出来なくなった。

 

 それが、どうして歩けるのか。

 

 

 

「どういう……」

「GBNだとね、んーと……電脳世界だからかな? 私も、自分の足で立って歩けるんだ。ちゃんと感覚もあって、地面を踏んだ感覚も伝わってくる。……それに、空も飛べたの!」

 そう答えるユメカが嘘を言っているようには見えない。とても嬉しそうに話す彼女の表情はとても明るく見える。

 

 

「なるほど、そういやあのゲームはそういうゲームだったか……。歩ける、ねぇ」

 視線を逸らすタケシは、ボソリと漏らして窓の外を見上げた。

 放課後だがまだ空は明るくて、ほんのり赤く染まる空に彼は目を細める。

 

 

「GBNはありたい自分で居られる場所なんだって、誰かが言ってた」

「ありたい自分……」

 そうしてケイスケの言葉に再び視線を戻すと、ユメカがなにやら言いたげな表情でタケシの目を真っ直ぐに見ていた。

 

 嫌な予感がする。

 

 

「ねぇ、タケシ君もやろうよ! GBN! 私、ガンプラの事よく知らなかったけど……とっても楽しかった。ガンダムの事もっと知りたいって思ったよ、だから週末はずっとアニメを見てたし」

 下半身は動かないのに、目一杯タケシに詰め寄ってそう言うユメカ。

 あまりの勢いにタケシは後ずさって表情を痙攣らせた。

 

 

「いや、俺は……」

 少しだけ口籠って、視線を逸らす。いつかの記憶が頭を過ぎった。

 

 

 

「……辞めとく」

 そうとだけ答えて、彼は自分の鞄を取って教室の出口へと歩いていく。その鞄を持つ手は、少しだけ強く握られていた。

 

「タケシ君……」

「別にお前らがガンプラやろうが、俺は構わないさ。けど俺は、またガンプラをやる気にはならない」

 そう言って教室の扉から出て、踵を返してから「あとタケシじゃない。俺様はロックだ!」と叫んで、タケシは教室を後にする。

 

 

 残された二人は少しだけ寂しそうな表情で顔を見合わせて、そんな彼を追い掛ける事はなく夕焼けに染まる空を見上げた。

 

「私達も帰ろっか」

 ごめんね、と。小さな声が漏れる。

 

 

 赤く染まる空で、烏が鳴いていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 二階建てのアパートの扉を開く。

 吐き捨てるように靴を脱いで、タケシは「ただいま」とだけ漏らして自分の部屋に入った。

 

 

 遅れて母親の「おかえり」という声が聞こえる。

 そんな言葉になにも返さずに、タケシは制服姿のまま自分のベッドに寝転がった。

 

「……ガンプラ、ねぇ」

 思い出したように、そこから手の届く場所に置いてあった箱に手を伸ばす。

 蓋を開けると、そこには黒色のガンプラが入っていた。

 

 

 かなり年季が入っていて、そのプラモデルには沢山の傷が付いている。

 箱に入っていたから埃塗れという事はないが、お世辞にも綺麗なプラモデルとは言えなかった。

 

 

「あの日から殆ど触ってないな……。お前の事も」

 傷付いたガンプラを眺めながら、タケシは何処か遠くを見るように目を細める。

 

 

 

 それは、五年前の事。

 

 彼には三人の幼馴染みがいた。

 ケイスケとユメカ、それにもう一人。

 

 

「アオト、今日もやるんだろ。ガンプラバトル」

「あぁ、勿論さ! 昨日タケシにやられた()()ストライクも父さんに直してもらったからな!」

 タケシの言葉に一人の少年が元気に返事をする。

 

 少年の名前はアオト。

 彼等の幼馴染みの一人で、実家がプラモ屋さんな事もありいつも幼馴染み達が集まるのは彼の家だった。

 

 

「さぁ、やろうぜ! タケシ、ケイスケ!」

 ストライクのガンプラを手に持ったアオトは、二人の少年にそう声を掛ける。

 ガンプラをセットするのはGBNのマシンではなく、大きな箱型のマシン。

 

 

 その頃、まだGBNは大きく普及していなかった。しかし、その前身ともいえる物がある。

 

 少年達のいうガンプラバトルは、GPデュエル(GPD)というガンプラを実際に動かして行うシュミレーションマシンだ。

 基本的なガンプラの操作はGBNと変わらないが、実際にガンプラを動かす為プレイ中のガンプラへの被弾はそのまま反映される。

 

 しかし、それでもガンプラを自分で動かして戦う事に子供も大人も夢中になった。

 壊れたガンプラを治す事も楽しみの中の一つになる程に、誰もがGPDに熱狂していた。

 

 

「父さん、またガンプラ直してくれよ!」

「また負けたのかアオト。よしよし、しょうがないな」

 少年アオトの父親はプラモ屋の店主を務め、その仕事の中で壊れたガンプラの修復も営んでいる。

 彼のビルダーとしての腕は確かで、GPDの大会でもそこそこ有名な人物だった。

 

 そんな父親に見守られながら、少年達はガンプラにのめり込んでいく。毎日が楽しかった。

 

 

「ケイスケが強過ぎるんだよ!」

「俺も強いぞ!」

「あはは……俺は、別に」

 ガンプラが楽しい。ガンプラバトルが楽しい。

 

 

 だけど、そんな日常は少しずつ変わっていく。

 

 

 

 GBN。

 ガンプラバトルネクサスオンラインの流行は加速度的に高まり、次第に流行はGPDに変わってGBNが取って代わっていった。

 GPDの利用者は日に日に数を減らして、ガンプラを愛する殆どの物がGBNに流れていく。

 

 その事を気にしていたのは少年達ではなく、アオトの父だった。

 

 

 彼はGPDが大好きで、壊れたガンプラを直すのも大好きで。

 自分のプラモ屋に沢山の人達が壊れたガンプラを「治してください」と持ってくるのも「カスタマイズを教えてください」と頼られる生活も。

 

 彼にとって掛け替えのないその生活が、崩れ始める。

 

 

 

 GBNではガンプラが破壊されようが、本物のガンプラは壊れない。壊れたガンプラを直して欲しいと持ってくる人は殆ど居なくなった。

 そしてGBNでは世界中の人々と交流が出来るようになり、態々町外れのプラモ屋に足を運ぶ人も居なくなる。

 

 彼は寂しかったのかもしれない。悔しかったのかもしれない。

 

 

「いらっしゃいませ、どうしたのかな」

 ある日、店に若い青年がガンプラを持ってやってきた。そのガンプラはパーツが折れていて、久しぶりの修繕の依頼かと彼は意気込んで接客をする。

 

「壊れてる、という事はGPDかな?」

「あ、いや違います。今時GPDなんて古いっすよ」

 しかし、青年からかえってきた言葉はそんな言葉だった。

 

「昨日GBNにログインして帰ってる途中に落としちゃって壊れちゃったんすよね。近くに丁度プラモ屋があったから、これのパーツか、同じガンプラ売ってないかなって思いましてね」

 その時、彼の中で何かが壊れてしまったのかもしれない。

 

 

「てかここ、GBNのログイン出来ないんすか?」

 彼が大切にしていた何かが音を立てて崩れて行く。

 

 

 

 同日、事件は起きた。

 

「まーたケイスケに負けた!」

 学校から帰ってきた幼馴染み四人は、今日も今日とてアオトの父のプラモ屋でGBNではなくGPDで遊ぶ。

 

 三人の少年がガンプラを持って集まり、そんな光景を一人の少女が航空機のプラモを眺めながら見守っていた。

 

 

「父さん、ガンプラ直し───」

 少年が父に壊れたガンプラを直してもらおうと声を掛ける。

 彼の中で、そんな事にはもう意味がなかった。

 

 

 ──今時GPDなんて古いっすよ──

 そんな言葉が木霊する。

 

 

 彼は息子のガンプラを店の外に投げた。

 

 

 

「───な、何すんだよ父さん!」

「こんな物もう直したってな! なんの意味もないんだ!」

 もう誰もGPDをやらない。

 

 そんな想いが、彼を苛立たせて自分の子供すら突き放す。

 

 

「プラモ、車に轢かれちゃう……っ」

 そんな光景を見ていた少女が、店の外に投げられたガンプラを取りに道路に飛び出した。

 公道に飛び出してしまった彼女を見て、少年が手を伸ばす。

 

 

 轟音と悲鳴。

 トラックが彼女を轢いて、少女から沢山の物を奪った。

 

 

 

「お、俺のせいじゃ、俺のせいじゃ……ない」

「……父さん」

 アオトは自分の父親を責めて、自分の事すら責めて、幼馴染みや父親から離れるように家を出る。

 今は親戚の家で暮らしているようで、中学から学校も違いこの五年間合う事も話す事もなかった。

 

 

 

 

 

「───アオト」

 タケシは思い出したように突然起き上がって、ガンプラを片手に玄関まで歩いていく。

 母親が「出掛けるの?」と尋ねると、彼は「少し」とだけ答えて家を出た。

 

 向かうのは家の近くのプラモ屋。幼馴染み達が集まっていた場所。

 

 

 

「……いらっしゃい」

 アオトの父が覇気のない言葉を漏らす。

 

 まだプラモ屋を経営しているのは、彼なりの謝罪の気持ちだった。

 だけど、そこに昔のような明るい気持ちはまるでない。

 

 

 店の片隅には、埃を被ったGPDのマシンが置いてある。

 

 

「───って、タケシ君かい。久し振りだね」

 そんなGPDのマシンを横目で見るタケシを確認して、アオトの父は驚いたような声を漏らした。

 そんな言葉にタケシは「どうも」と短く会釈しながら言葉を漏らす。

 

 

「……どうしたのかな?」

 怯えるようなそんな声。

 きっと彼は怖いのだ。少年達から色々な物を奪ってしまった自分は嫌われているのだろう。そう思ってしまって仕方がない。

 

 

「アオトは……元気ですかね?」

「……うん。元気、らしいよ」

 タケシの言葉に彼は弱気な声でそう答えた。

 

 彼自身息子の事は親戚伝えでしか知らない。この五年間顔も見た事がないのだから。

 

 

「そうですか。……なぁ、おじさん」

 少し俯いてから、タケシはこう続ける。

 

 

「まだガンプラの事、好きですか?」

 そしてそんな質問を投げ掛けるタケシに、アオトの父は無言で店の周りを見渡した。

 

 

「……ケイスケ君がね、偶に来るんだよ。ガンプラを買いに」

 質問の答えになっていない言葉に、タケシは首を横に傾ける。

 

 

「彼はまだガンプラが好きなんだ。俺は……ガンプラが好きだったのは確かなんだけど、アオトやユメカちゃんや君達から沢山の物を奪ってしまった。……だから、分からない。自分がガンプラを好きなのかどうか、分からない」

 ガンプラが悪くないなんて事は分かっていた。

 

 だけど、自分の中でその存在が大き過ぎる。

 自分がガンプラをまだ好きなのかどうかすら、分からなくなっていた。

 

 

「タケシ君はどうだい?」

「俺は……」

 だから彼は聞く。

 

 

「君は……ガンプラが好きかい?」

 彼の持ってきたガンプラを受け取って、震える声でそう聞いた。

 

 

 

「……俺も、分からない」

「……そうか」

 願わくば───




そんな訳で過去編でした。全然ガンプラバトルをしない


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ガンプラバトル

 少年はガンプラが大好きだった。

 ガンプラも、ガンプラを好きな自分の父親も。

 

 

 それなのに。

 

 

「……店を畳もうと思う。俺のせいで、取り返しのつかない事になってしまった」

「父さん……本気で言ってるのか?」

 父の言葉に少年は唇を噛んで、手を強く握る。

 

 

 違うだろ。そうじゃないだろ。

 少年は強く思って、父親に迫った。

 

 

「父さんはガンプラが好きだったんじゃないのかよ! 俺は、ガンプラが好きだ。ガンプラが好きな皆が好きだ!」

「……父さんは、もうガンプラが好きじゃなくなってしまったんだ」

 そうして父のそんな言葉に、まだ中学生にもなっていない少年の目から光が消える。

 

 

「アオト、すまな───」

「父さんなんて嫌いだ」

「───アオト」

 それだけなら良かったのかもしれない。

 

 自分が嫌われて、それで終わればどれだけ良かった事か。

 

 

「父さんもガンプラも、大嫌いだ!」

 少年は裏切られたと思ってしまった。

 

 自分が大好きだった物に裏切られて、自分が大好きだった物が怖くなってしまったのだろう。

 

 

「ま、待ってくれ……アオト!」

 その日から彼は息子の顔を見ていない。

 

 

 

 

「君は……ガンプラが好きかい?」

 それは、自問自答のようだった。

 

 自分のせいで息子やその友人達から沢山の物を奪ってしまった原因。

 ガンプラが悪くない事なんて分かっている。それでも、ガンプラを好きでいられるのかは分からない。

 

 

 罪滅ぼしのように続けている店で、彼は今日もまた自分に問い掛ける。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 雲が駆けているようだ。

 まるでそう感じる程に目紛しく景色が変わっていく。

 

 

「あっはは、凄いねー。GBNは」

 空を駆ける戦闘機───MAスカイグラスパーに乗るユメは、水色の髪を揺らしながら笑顔で辺りを見渡した。

 

「ちゃんと前を見て操縦してくれよ」

 そんなユメに、ケイは苦笑い気味に声を漏らす。

 

 

「ごめんごめん。だって楽しいんだもん」

 ユメは鼻歌混じりにそう返事をしてから、しっかりと操縦桿を握った。

 スカイグラスパーに同席するケイは「楽しんでるなぁ」と声を漏らす。

 

 ここ数日、平日も合わせて二人は毎日GBNにログインしていた。

 飽きないでいてくれている事は嬉しい。顔は違うくとも、彼女の笑顔が見れるだけで充分だと思う。

 

 

「あー、でも……ケー君は飽きちゃうか」

 ふと自分の唇に人差し指を押し当てながら、ユメはそう呟いた。

 

「いや、俺は別に良いけど」

「だって、この間から色々ミッションとかやってみたりしたけど……全然勝てないし。それで、ここ二日間ずっと空を飛んでるだけだよ?」

 彼女が首に掛けているネックレスを手に入れたミッション以降、他のミッションに挑戦しては失敗を繰り返す。

 そんな日々を思い出してケイは再び苦笑いを溢した。

 

 

 流石に行き詰まって、今はこうして空の散歩を楽しんでいるという訳である。

 

 

「そもそも二人だけでクリア出来るミッションは限られてくるしなぁ……。仕方ない」

「やっぱり一緒に遊ぶ友達が欲しいよね。……フォース、だっけ?」

「どこでそんな言葉覚えたんだ?」

 ユメから聞くとは思えなかった言葉に、ケイは目を丸くして問い掛けた。

 

 

 フォース。

 共通の目的を持つダイバー同士で結成される部隊システムで、簡単に言えばチームである。

 他のゲームで言うサークルやギルドといった物と同じで、チーム仲間を通してGBNをより楽しむ事が出来るシステムだ。

 

 

「昨日、マギーさんにメールを送ったらこうやって返事が来たから」

 ケイの問い掛けに、ユメはキョトンとした顔でそう返事をする。

 彼に向けられたコンソールパネルには、マギーからのメールが表示されていた。

 

 

 

 

 ハロー、ユメちゃん。メールありがとう♡

 

 内容は読ませて貰ったわ。なる程、行き詰っちゃっている訳ね

 GBNはミッションやバトルだけが全てじゃないけれど、その先に進みたいのなら私からも少しアドバイスを送らせて貰うわ♡

 

 ミッションをクリアしたいなら、ケイちゃんだけじゃなく他の友達を誘うのも手よ

 単純に人手が居ればミッションクリアに繋がるし、何よりその分コミュニケーションを取ることが出来る

 

 なんならリアルの友達じゃなくても、GBNで出会った人に「手伝って下さい」と頼むのも手よ♡

 大丈夫。GBNの人達は皆優しいし、一期一会の機会にも慣れているから。気軽に声を掛けるのよ

 

 それと、GBNに慣れてきたらフォースを作る事を強くオススメするわ

 概要は下のリンクを参照にしてね。きっとケイちゃんが詳しいと思うわよ

 誰か他の人のフォースに入るっていうのも良いけれど、あなた達は自分達のフォースを持った方がきっと楽しめるわ♡

 

 さて、その後のGBNは楽しめているかしら? 

 もしオススメのデートコースを教えて欲しかったら、またいつでもメールを頂戴♡

 byマギー

 

 

 

 

「だって」

「フォースか、確かDランクにならないと作れないんだったかな」

 メールの内容を見てそんな言葉を漏らすケイの前で、ユメはジト目で頬を膨らませる。

 ケイが「どうかした?」と聞くとユメは「なんでもないでーす」と視線を逸らした。

 

「デートコース……」

 小声で漏らしたそんな声を、ケイはフォースについて考えるのに夢中で聞いていない。

 さらに頬を膨らませるユメだったが、膨らませ過ぎてパンパンになった空気はふと笑い声と共に外に漏れる。

 

 

「あっはは」

「ど、どうした急に……」

「楽しそうだなって」

「そりゃ、ね」

「タケシ君やアオト君ともやりたいね」

 そんな彼女の言葉に、ケイは「そうだな」と漏らした。

 

 

 いつかみたいに皆で集まって、何も考えずにガンプラで遊ぶ。

 そんな日々を思い出して、少年は強く手を握った。

 

 

 

 ───いつか、必ず。

 

 

 

 

 

 翌日。学校の放課後。

 

「タケシ君!」

 車椅子に乗ったままタケシに詰め寄るユメカ。

 あまりにも急な事に、タケシは「な、なんだ?」と身体を引っ込ませた。

 

「……って、俺はタケシなんて名前は捨てたのさ。俺様の名前はロック。ロックリ───」

「GBNやろ!」

「はぁ?」

 目を輝かせてタケシに詰め寄るユメカ。

 そんな彼女の言葉に、タケシは口を開いたまま固まる。

 

 

「もう少しこう……捻った誘い方はなかったのか」

 そんな光景を側から見守るケイスケは、苦笑いを零しながらタケシの肩を叩いた。

 それで硬直が解けたタケシは「俺はこの前断ったよな?」とケイスケの顔を覗き込む。

 

「その記憶に間違いはない。……けど、やっぱりどうしてもお前とやりたいんだ。俺もユメカも」

「ケイスケ……」

 二人に見詰められて、タケシは視線を落とした。

 

 

 ──君は……ガンプラが好きかい? ──

 そんな言葉を思い出す。

 

 

「……悪い」

 しかし、彼はそう漏らして首を横に振った。

 教室から逃げるように鞄を持って走り去るタケシに手を伸ばすユメカだが、やはりその手は届かない。

 

 

「タケシ君……」

「まぁ……そうなるよな」

 ユメカの車椅子の後ろに立って、ケイスケはそんな言葉を漏らす。

 しかしふとユメカの表情を見ると、彼女はとても寂しそうな表情をしていてどうも胸が痛くなった。

 

 また、自分のせいでなんて思っているのかもしれない。

 

 

 少しだけ溜息を吐いたケイスケは「よし」と気合の言葉を漏らして前を見る。

 

 

 

「別の作戦を考えよう。ユメカ、今日は暇なんだよな?」

「え? あ、うん。今日もGBNやる気だったから……」

「それじゃ、またちょっと付き合ってくれ。行きたい場所があるんだ」

 彼の言葉をユメカは心良く受け入れたが、ケイスケの行きたい場所を聞くと少しだけ驚いた。

 ただ、嫌な訳がなくて。少しだけ後ろめたい気持ちもあるけれど、皆で前に進むにはまず自分が前に進まないといけない。

 

 

 そんな想いを胸に、ユメカはケイスケに背中を押して貰いながらとある場所へと足を運んだ。

 

 

 

 

 町外れの小さなプラモ屋。

 あの頃から何も変わっていない光景に安心しながら、ケイスケに連れられてユメカはその場所に立ち寄る。

 

 五年前の事故から、この家の店主の息子である幼馴染みは心を閉ざして町を出て行ってしまった。

 きっかけは他にあったのかもしれない。だけど、自分が道路に飛び出したせいで事故が起きたのだから。

 

 

 全部、私のせい。

 そう思っている彼女は、今日までどうしてもこの場所に足を踏み入れる事が出来なかったのである。

 

 

 

「懐かしいね。うん、あまり変わってない?」

 ケイスケに車椅子を押されて店に入ったユメカは、店内を見渡してそんな言葉を漏らした。

 五年前の記憶と棚の配置も変わっていない。それはそれで変だが、それよりも少し埃っぽいのが気になる。

 

 店の端側には、五年前のあの日以来一度も使われていないGPDのマシンが置いてあった。

 ユメカは遊んだ事がないが、あのマシンで三人が楽しそうに遊んでいたのをいつも見ていた事を思い出す。

 

 

 

「……ユメカ、ちゃん?」

 突然、何かが落ちた音と一緒にそんな声が聞こえた。

 振り向けば、このプラモ屋の店長が唖然とした顔で立っている。

 

 

「店長さん……」

 そんなプラモ屋の店長───アオトの父親を見て、ユメカは少しだけ小さく声を漏らした。

 

 なんて言葉を掛けたら良いんだろう。

 彼から大切なものを奪った罪悪感が彼女の胸を締め付けた。

 

 そしてアオトの父も、彼女に対しての罪悪感で視界が揺らぐ。

 彼女の夢も未来も奪ったのは自分だ、と。息子達から何もかもを奪った自分が許せなかった。

 

 

「おじさん、タケシ来てる?」

 そんな二人を他所に、ケイスケは店主にそう問い掛ける。

 ケイスケの言葉に驚いたのは店主ではなくユメカだった。

 

「え、タケシ君?」

 さっき学校で別れたばかりなのに、どうして? 

 ユメカは首を横に傾けて、一方で店主は「来てるよ」と言葉を漏らす。

 

 

「よーし、居たな」

「な、なんでお前らここに?」

 店主の視線の先では、店の椅子に座るタケシの姿があった。まるで初めから分かっていたかのようなケイスケとは裏腹に、タケシは目を丸くして二人を見比べる。

 

「俺はここの常連だぞ。タケシがおじさんにガンプラを治しにもらいに来たって話を聞いたから」

 タケシの質問にケイスケは軽くそう答えた。

 

 

 彼のいう通りケイスケはこのプラモ屋の常連である。

 店主は数日前にここを訪れたケイスケに「久し振りにタケシ君が来てくれた」という話をしていたのだ。

 

 

「だから、今日はお前がガンプラを取りにここに来るって分かってたんだよ」

「ケー君……名探偵?」

 覚ました顔でタケシがここにいる事が分かっていた理由を話すケイスケを見て、ユメカは感心したように声を漏らす。

 

「は、謀ったな……」

 一方で表情を痙攣らせるタケシは、店主を見てそう言った。

 しかし、店主は両手を上げて首を横に振る。

 

 

「そんな事は、ないよ。俺にそんな権利は……ないからね」

 困ったような表情でそう語る店主は、ゆっくりとユメカの顔を見てからケイスケに視線を移した。

 

 確かにタケシの事を教えたのは自分である。

 しかし、それでケイスケがユメカまでここに連れてきて何をしたいのか。彼には分からない。

 

 

 

「なぁ、タケシ。ガンプラバトルをやらないか?」

 少しだけ間を置いて、ケイスケの口からそんな言葉が漏れた。タケシは「はぁ?」と唖然とした顔を見せる。

 

 

「……だ、だから。GBNはやらないって言ってるだろ!」

「誰もGBNをやろうなんて言ってないぞ。……俺はガンプラバトルをやろうって言ったんだ」

 そう言いながら、ケイスケはカバンから自分のガンプラを取り出してタケシに突き付けた。

 ダブルオーガンダムのバックパックが着いたストライク。タケシはそのガンプラを見て息を飲む。

 

 

「まさか……」

 視線を横に逸らせば、埃を被ったGPDのマシンが視線に入った。タケシの言葉に、ケイスケは首を縦に振る。

 

 

「ケイスケ君……?」

「おじさん、マシン貸してください。良いですよね?」

 この店のGPDのマシンは昔から自由に使って良いことになっていた。

 店主には断る理由もなく、彼は慌てるように周りの埃を落としながら「どうぞ」と答える。

 

 

「お前……それGBNで使ってるガンプラだろ。分かってんのか? GBNと違ってGPDはガンプラが壊れるんだぞ」

「そんな事分かってるに決まってるだろ。それで、やるのか? やらないのか?」

 挑発的な態度を見せるケイスケに、タケシは一度舌打ちをしてから「やってやるよ。後で泣くんじゃねーぞ」と言葉を漏らした。

 

 

「ふ、二人とも……喧嘩は」

 二人を見て焦る店主はしかし、両手を上げるだけで何も出来ない。

 そんな彼の背中を摩ってユメカが「大丈夫です」と声を掛ける。

 

「ユメカ……ちゃん?」

「大丈夫。だってほら───」

 彼女は二人を指差して、笑いながらこう続けた。

 

 

 

「なんならコテンパンにしてやるぜ!」

「久し振りだな。……よし、こい!」

「───凄く楽しそうじゃないですか」

 ユメカはどこか懐かしさを覚えながら、闘争心に燃える二人を見詰める。

 いつかの光景がその姿と重なった。

 

 

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「勝負だ、タケシ!!」

「昔みたいに泣かせてやるよ!!」

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 BATTLE START



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GPD

 火花が散る。

 ぶつかり合うガンプラの端で、少年達はマシンを挟んでお互いの視線を強く感じていた。

 

 

「今日は勝つぞ」

「いや、勝つのは俺だ!」

 まだ幼い少年達だが、闘争心は充分に漏れている。

 そんな二人を見ながら、プラモ屋の店主は笑顔を漏らした。

 

 

「今日も楽しそうですね」

 少女がそう言うと、店主も「そうだね」と笑う。

 

 

「なぁ、父さん。ユメカ」

 そんな二人に話しかけたのは、店主の息子───アオトだった。

 

 

「どっちが勝つと思う?」

 彼の問い掛けに、店主は「タケシ君かな」と答えユメカは「ケー君!」と答える。

 アオトは二人の答えを満足気に聞いて、自分の答えを呟いた。

 

「二人とも凄いやる気だし、今日は引き分けになるかもな!」

 火花が散る。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 黒い機体が地面を踏んだ。

 

 

 機体の前面をシールドに覆われたその機体は、姿勢を落として巨大なライフルを構える。

 背中に一つ付いたGNドライブから放たれる緑色の粒子だけが静かに靡いた。

 

 

「あのガンプラ、昔タケシ君が使ってた奴ですよね?」

 その姿に見覚えがあったユメカは、店主にそう問い掛ける。

 

 五年前の記憶だからか確かではないが、ここでこうして三人のバトルを見ていた時にタケシが同じガンプラを使っていた気がしたのだ。

 

 

「そうだね。デュナメスガンダムを改造した機体だよ。名前はデュナメスHell」

 控えめ気味にそう解説する店主の言葉を聞いて、ユメカは首を横に傾ける。

 

 デュナメスというと一般的には天使の名前だ。

 天使なのにHell(地獄)とは、彼らしいかもと彼女は少し笑う。

 確かにその見た目は真っ黒で、天使と言うよりは死神(・・)に近いかもしれない。

 

 

「ロックリバー、目標を狙い撃つ!!」

 大型のライフルを構えたタケシのデュナメスHellは接近してくる機体に銃口を向けた。

 反対側のマシンから発進したストライクBondは二つのGNドライブから緑色の粒子を漏らしながら前進している。

 

 マシンの上で動くガンプラを見て、四人は同じ気持ちを抱いていた。

 五年前までここでこうして遊んでいた記憶が蘇る。其々ガンプラを持ち寄って、そのガンプラが目の前で動いてバトルをするんだ。

 

 

 懐かしい。誰かがそんな言葉を漏らす。

 

 

 

「当たれ!!」

 引き金が引かれ、銃口からビームライフルが発射された。まだ充分に離れた距離に居るのにも関わらず、ライフルはストライクの足元を通り抜ける。

 

「あんなに遠くから攻撃できるんですね」

 リアルのガンプラが戦っている為距離感は難しいが、タケシの攻撃はマシンの端からほぼ端まで届いていた。

 ガンプラのサイズが実際の1/144である事を考えると、1メートル先は実際には144メートル先という事になる。

 

 

「デュナメスガンダムはね、狙撃をメインに……開発された機体なんだよ」

「確かに、武器がスナイパーライフルみたいですね!」

 恐る恐る説明を入れる店主に対して、ユメカは納得したような顔でマシンに視線を向けた。

 店主が視線を落とすと、彼女が座る車椅子が目に入る。どうしても、胸が痛い。

 

 

「接近する!」

 対するケイスケはのストライクは、地面を蹴って少しずつデュナメスに接近していった。

 何度かの狙撃は全て外れている。狙いが悪い。

 

「やっぱり狙撃は下手くそだな!」

「んだと、この野郎!!」

 ほぼ回避行動を取らずに接近に成功したストライクはバックパックから一対の剣を構えた。

 対するデュナメスは機体前面のシールドをストライクに向けたまま、シールドの隙間からライフルを握る。

 

 

「───っ、熱くなるな俺。俺様はロックリバー。クールで格好い男……」

 瞳を閉じて自己暗示のように言葉を漏らすタケシ。いつからだったか、彼が自分の事をロックリバーと名乗り出したのは。

 

 

「……狙い撃つ!」

 首を横に振って、しかし再びの射撃は至近距離に詰められて外れてしまった。

 懐に潜り込んだストライクがデュナメスに剣を横から叩き付ける。火花が散った。

 

「流石にGNフルシールドは硬いな……っ!」

 デュナメスの肩から前方を覆うシールドは並大抵の武器では傷もつけられない。

 接近専用の武器でも大きなダメージは与えられなかったが、しかしシールドには傷が刻まれる。

 

 それを見てタケシは少し表情を痙攣らせた。

 GPDで受けた傷はそのままガンプラに反映される。そんな当たり前の事を思い出した。

 

 

「この……っ!」

 デュナメスは地面を蹴ってストライクから距離を取りながらライフルを放つ。この距離なら外す事もない。

 しかし、ストライクの周りを緑色の粒子が覆っていた。GNフィールドが、ストライクを攻撃から守る。

 

「確かに正面は硬いけど……背後なら!!」

 そのままスラスターを吹かせ、ストライクはデュナメスに接近した。

 牽制のライフルを交わして、そのままデュナメスの背後に回り込む。

 

「そこだ!」

「ちぃ……っ!」

 しかしタケシは、デュナメスの体を捻って正面をストライクに向けた。

 デュナメスの前面を守るGNフルシールドが実剣を受け止める。それでも流石に無理な体制で攻撃を受け止めたからか、機体が揺れた。

 

 それを見てケイスケはスラスターを吹かせ、ストライクの足を前に出す。

 そのまま、バランスを崩したデュナメスを蹴り飛ばした。

 

 

「なろぉ……っ!」

 デュナメスは背中で地面を滑る。

 追撃に頭部バルカンイーゲルシュテルンを放つストライクを見て、タケシは焦って機体を持ち上げた。

 

 GNフルシールドがバルカンを弾く。

 

 

 

「どうしてシールドを外さないんだ?」

 間合いをはかりながら、ケイスケはタケシにそう問い掛けた。

 

「戦い方を忘れた訳じゃないだろ?」

「……っ」

 ケイスケの言葉にタケシは舌打ちをして、手を強く握る。

 

 

 GNフルシールドは確かに強力な装甲だが、前面を覆ってしまう為に使用中は動きが大きく制限されてしまう武装だ。

 それに加えて彼のガンプラは───

 

 

「───うるせぇ! このままでも勝てるから良いんだよ!!」

 ライフルを構え、撃つ。ストライクは斜め前に進んでデュナメスに肉薄しながらそれを交わした。

 

「忘れたなら思い出させてやる!」

 そうして剣を振るストライク。GNフルシールドと刃が火花を散らす。

 

 

「お前はもっと強かった。もっと楽しそうにガンプラバトルをしてた!」

 連撃。

 一対の剣を連続でGNフルシールドに叩き付け、シールドごとデュナメスを切り飛ばした。

 

 

「思い出せ!! タケシ!!」

 倒れたデュナメスに刃を向ける。

 

 

 ───しかし、振り下ろされた刃は横にしたライフルに受け止められた。

 

 

 

「───忘れられる訳……ねーだろ!!」

 そのままライフルを横に薙ぎ払い、ストライクを弾き飛ばす。

 直ぐに機体を持ち上げて、バランスを崩したストライクに突進したデュナメスはその足でストライクを蹴り飛ばした。

 

 拉たライフルを地面に叩き付ける。

 

 

「でもな、怖いんだよ。また壊れるのが。楽しい時間が何処かで壊れちまうのが、怖いんだ。だったらいっそ、壊れる物なんて持っていたくない。ガンプラも、それで遊ぶ友達も!」

 だから、ロックリバーが産まれた。

 

 クールで居よう。

 そうすればきっと、また何かが壊れる心配なんてない。

 

 

「タケシ君……」

「店長さん。私、正直ここに来るのが怖かったんです」

 そんな二人を見て、自分の責任に胸を痛める店主にユメカがそう語り掛けた。そして彼女は戦う二人を見ながらこう続ける。

 

「私の軽率な行動のせいで、アオト君や店長さんから大切な物を奪っちゃって。……もうそれは、戻ってこない───治らない物だと思ってたから」

 自分の足を触りながら、そんな言葉を漏らすユメカを見て店主は苦虫を噛んだような顔を彼女から逸らした。

 そもそもの原因は自分なのに、まだ高校一年生の子供にこんな事を言わせる自分が憎い。

 

 

「でも、そんな事なかったんです」

 ただ、続く彼女の言葉に店主は顔を持ち上げる。どういう意味なんだと、目を見開いた。

 

 

 

 

「───壊れても直せば良いんだ」

 そんな言葉をケイスケが口にする。

 

 タケシも店主も、その言葉に聞き覚えがあった。既視感が、いつかの光景を蘇らせる。

 

 

「何度壊れたって、何度でも直せば良い。繋げば良い。だから───」

 それは、少年時代アオトがよく口にしていた言葉だった。

 

 ──何度壊れたって、何度でも直せば良い。繋げば良い。だから──

 

 

「───遊ぼうぜ、全力で!!」

 ストライクを赤い粒子が包み込んで、機体を紅蓮に染める。

 蓄積された高濃度GN粒子の全面開放。作中ではこう呼ばれているシステムだ。

 

 

「トランザム!!」

 TRANS-AM

 

 

 各部に蓄積されたGN粒子の解放により、機体の出力を約三倍に引き上げ、性能を一時的に向上させる。文字通りの切り札だ。

 

 

「ケイスケ……」

 目の前の友人と、過去に同じ事を言っていた別の友人が重なる。

 

 

 

 壊れたって直せば良い。

 そう言っていた友人との関係が壊れた事で、前に進むのが怖くなっていた。

 

 でもそれじゃ、前には進めない。

 壊れたって直せば良い。それを実行するのはいつも彼と彼の父親だったから、自分だってその役目を果たせる事を忘れていたのだろう。

 

 

 それをケイスケは思い出させてくれた。

 

 

「……そうか、そうだよな。俺達はいつも、そうやって遊んでた」

 目を閉じるといつかの光景が蘇る。

 

 

 ───そうだ、俺達はいつだって。

 

 

「───やってやるよ。……トランザム!!」

 TRANS-AM

 

 デュナメスを赤い光が包み込んだ。肉薄するストライクに向けて、シールドを正面に文字通り突進する。

 一対の剣とシールドがぶつかり合って火花を散らした。二人の機体はそのままお互いを押し合って、一歩も引かずに機体同士をぶつける。

 

 

 

「絶対に直せないなんて事ないんです。確かに、直らないものも……取り戻せない時間もあるかもしれない」

 そんな光景を見ながら、ユメカは店主にそう語り掛けた。店主はそんな彼女と目の前の二人を見て、目を見開いて固まる。

 

 

「ユメカちゃん……」

「だけど、直せるものはある。それは、店長さんが一番知ってますよね?」

 これまで彼は何度もガンプラを直してきた。子供も大人もこぞってGPDで壊れたガンプラを彼に託せば、殆どが元通りになったのである。

 

 

「でも……直せないものもあるんだ」

 店主はそう言ってユメカの足を見た。彼女の足が動く事はもうない。

 直らないものも、取り返しのつかないものもある。

 

 

「ガンプラと同じですよ」

 俯く店主を見上げて、ユメカはそう答えた。

 店主は意味が分からなくて「え?」と間抜けな声を漏らす。

 

 

「直せないガンプラだって、新しく別のプラモデルを買って改造したりして強くするんですよね? ガンプラバトルって。……私の足も、新しくGBNって場所に行けば動くんです! 直せなくても、別の何かでなんとか出来たりするものなんです!」

 拳を胸の前で強く握りしめて、彼女はそう言った。

 

 

「失った時間だって、これから補強すれば良い。私達は……前に進めるから」

 そんな彼女の言葉に、店主は言葉にならない声を漏らして膝から崩れ落ちる。

 

 どうしてそんな事に気が付かなかったんだ。

 何度も何度もガンプラを直して来たのに。それ以外に全く目が行かずに立ち止まっていた自分が情けない。

 

 

「やるなケイスケ!」

「そろそろ本気を出してこいよ、タケシ……っ!」

「バカ言え。このロックリバー様に掛かればお前なんて足だけで充分だぜ!!」

 赤い光を放つ二機のガンプラを挟んで、少年達はいつかのように笑顔で遊んでいる。

 その姿を見て店主は立ち上がり、何か決意めいた表情でGPDのマシンを見詰めた。

 

 

 やがて、トランザムの限界時間が終わると共に二人の機体はぶつかり合ってお互いに倒れて動かなくなる。

 二機共に損傷が激しく戦闘継続は不可能だった。勿論、ガンプラにも現実に傷が付いている。

 

 

 

 BATTLE END

 

 結果は引き分け。

 二人は息をするのを忘れていたのか、深呼吸をしながらその場に倒れ込んだ。

 

 

「ケー君! タケシ君! だ、大丈夫?」

 驚いたユメカは車椅子を押してケイスケの元に駆け寄る。

 しかし二人は満面の笑みで親指を立ててこう言った。

 

 

「「……楽しいな、ガンプラバトルは」」

 二人の言葉が重なって、驚いていたユメカも笑い声が漏れる。ケイスケもタケシもそれに混じって笑い声が店に広がった。

 

 まるで五年前のように。

 

 

「……お疲れ様、二人とも」

 店主はGPDの電源を落としながらそう言う。

 そうして少しだけ寂しそうな表情をしてから、彼はこう続けた。

 

 

「ありがとう、GPDのマシンを最後に使ってくれて」

 そんな彼の言葉にケイスケとタケシは驚いて「え?」と声を漏らす。

 最後とはどういう意味なのか。二人には彼の言葉の意味が分からなかった。

 

 

「……俺も、前に進もうと思えたよ。GPDにとらわれていた過去から、前に」

 そう言ってから彼はマシンの元電源にまで手を触れて、それを切ってからこう続ける。

 

「この店にもGBNのマシンを置く。……から、もし良かったら、うちからもログインして欲しいな」

 子供達が前に進んでいるのに、自分だけが止まっているなんて事は出来なかった。

 

 

 確かに息子達から沢山の物を奪った罪は消えないだろう。だからといって、自分が立ち止まっていたら息子が前に進める訳がない。

 

 

「おじさん……」

「店長さん……」

 彼の言葉を聞いて、ケイスケとユメカは目を合わせて笑顔を見せた。

 タケシは少し驚いた顔で固まっていたが、突然二人の幼馴染みに詰め寄られて表情を痙攣らせる。

 

 

「な、なんだよお前ら……っ!」

「タケシ君、GBNやろ!」

「お前ともっと、ガンプラバトルがしたい」

 二人の勢いに店の壁際まで追い詰められるタケシ。店主に助けを乞うように視線を向けるが、彼もまた久し振りの清々しい笑顔を見せているだけだった。

 

 

「……あぁぁぁ、もう分かったっての!! やれば良いんだろ!! やれば!! 畜生め!!」

 ついに折れたタケシを囲んで、ケイスケとユメカは姿勢を合わせてハイタッチをする。

 凄く負けた気分になったが、目の前の幼馴染み達があまりに幸せそうに笑うものだからなんとも言えない気持ちだ。

 

 ただ、ひとつだけ思い出した事がある。

 

 

 

 

 

 ───ガンプラバトルは楽しいという事を。




今年最後の更新になります!キリのいい所で終わらせれた!
リライズアニメも一旦区切りでとても楽しみです……っ!


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三人でミッション

 アオトへ。

 久し振りにメッセージを送ります。

 お父さんは元気です。アオトは元気かな。

 

 もうアオトも高校二年生だ。そんな息子に何も出来ない俺の事をアオトが嫌いなのは分かっているよ。

 それでも、聞いてほしい事がある。

 

 昨日、お店にタケシ君とケイスケ君とユメカちゃんが来たんだ。

 タケシ君とケイスケ君がお店でGPDをプレイしてくれた。とても嬉しかったけど、何か違うと思ったよ。

 

 俺はアオトや彼等が楽しんでガンプラで遊んでいるのを見たかっただけなんだ。それは、GBNもGPDも変わらない。

 沢山の事を勘違いしていたと思う。アオトの事も、ガンプラの事も。

 

 お店のGPDのマシンは撤去したよ。近いうちにGBNのマシンを四台買う気だ。

 

 

 タケシ君とケイスケ君とユメカちゃんとアオトで、いつか一緒にプレイ出来るようにね。

 

 

 返事を待っています。父より。

 

 

 

「……父さん、俺はもう───」

 メッセージを消去しますか? 

 

 

「───ガンプラなんて」

 はい

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GBN。メインフロア。

 

 

 休日の昼間。GBNにログインしたケイスケ(ケイ)ユメカ(ユメ)は、メインフロアで一人の友人を待っていた。

 

「タケシ君まだかな?」

「家にGBNのログインマシンがないし、こう……田舎だとログイン出来る場所も少ないからな」

「それじゃ、プラモ屋さんにGBNのマシンが出来たら結構楽になるって事だね。……あれ? そういえばケー君はどうしてマシンを二つ持ってたの?」

「あー、それは───」

 なんて会話をしているとケイの視界に見覚えのある顔が入って、彼は目を細める。

 

 視界に入るのは右目が隠れる程に長い金色の前髪。何処かで見たような気がするそんな髪の毛に、ケイは「ん?」と首を横に傾けた。

 

 

 確かに見覚えがある髪型だが、こんな派手な色をしていただろうか。

 

 

「あれ? もしかして、タケシ君?」

「……否、俺はタケシではない」

 ケイの視線を追いかけて、ユメは金髪のプレイヤーに話し掛ける。

 しかし、帰ってきた返事は否定の言葉だった。

 

 

「……俺の名はロック。ロックリバーだ。よろしくな」

 そして、金髪の彼はコンソールパネルを開いて自分のプロフィールを二人に見せる。

 プレイヤーネームにはしっかりとロックリバーという名前が表記されていた。正真正銘───

 

 

「タケシじゃん」

 ───彼である。

 

「タケシ言うなし!! ゲームネームなんだから本名使う訳にもいかないだろ!!」

「マツタケとかシイタケとかにしとけば良かったじゃん」

「なんでキノコなの!!」

「あっははマツタケシ君」

「笑うな!! てかお前ユメカか?」

 という一悶着があったが、作ってしまった物は仕方がない。タケシはロックリバーとしてGBNを楽しむようだ。

 

 

「しかしなんで金髪なんだ?」

「リアルでママに金髪は禁止されてるんだ」

「……なるほど」

 なりたい自分になれる場所。

 それはある意味、彼のなりたい自分なのだろう。

 

 

「……ふ、だが今の俺は正真正銘ロックリバー。クールで格好良い男! ロックと呼んでくれて構わないぜ」

「よし、それじゃさっそくチャレンジミッションやるか」

「そうだね。初めて三人でやるミッションだから、絶対にクリアしよう!」

「人の話を聞けよ!!」

 ロックを置いてミッションカウンターに向かうケイ達だが、ユメに「こっちだよ、ロック君」と手招きされて彼は瞳を輝かせた。

 

「俺はロックだぁ!!」

 どうにも嬉しそうな幼馴染みに、二人も笑顔を見せる。友人が嬉しそうで何よりだ。

 

 

 いつか、アオトも───

 

 

 

「ミッションって、なんか凄い数あるんだな。こういうのって最初ら辺だけ遊ばれるイメージだから種類は少ない物だと思ってたが」

「GBNはCPU戦もかなり凝って作られてるから人気も高いんだ。せっかくだからタケ───ロックが選ぶか?」

 ロックの言葉にそう補足を入れて、ケイは彼にミッション一覧が表示されたコンソールパネルを見せる。

 

「おう、このロックリバー様に任せろ。……って、本当に凄い数なんだが。この中から選ぶって」

 表示されたミッションの数に表情を痙攣らせながら、ロックは画面と睨めっこをしてミッションを選んだ。

 

 

 

 ミッション内容

 拠点防衛戦

 

 防衛目標

 戦艦メガファウナ

 

 敵戦力

 カットシー十五機

 

 成功条件

 一定時間の経過/敵戦力の全滅

 

 失敗条件

 メガファウナの撃破/味方戦力の全滅

 

 バトルフィールド

 海上/入江

 

 防衛時間

 二十分

 

 

 

「Gのレコンギスタからのミッションか」

「Gのレコンギスタ?」

 ロックが選んだミッションを見てケイが呟くと、ユメは首を横に傾けて頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。

 彼女が知っているガンダムは機動戦士ガンダムSEEDだけだ。見慣れない単語ばかりだからか、ユメは頭を抱えて目を細める。

 

 

「あー、ユメカ───ユメはそもそもこの前ガンダムSEED見ただけだったか」

「そもそもガンダムってSEED以外にあるの?」

「そこからかよ」

 ツッコミを入れるロックだが、ふとユメを見ると目を細めて上から下まで視線を何度も往復させた。

 そんなロックに、ユメは「な、なに?」と少し顔を赤くする。

 

 

「……俺も大概だが、ユメも普段と全く違うのか。なるほどな。……ケイはまんまだけど」

「まんまだよねー」

「悪いか」

 彼女が立っている事が不思議だが、ケイスケがGBNに彼女を連れて来た理由が分かった。

 不思議と漏れる笑顔が嬉しくて、ロックも笑う。

 

 

「……そもそもガンダムってのはかなり作品数があってな。その全部が同じ世界の話じゃないって訳だ。ウルトラマンとか仮面ライダーとかプリキュアとかと一緒な」

「なるほど。シリーズがあるんだね」

「……そういう事。ユメが見たのはガンダムSEEDって作品だ。他にも色々あるから、まぁ……気になるならケイに聞いて一緒に見れば良い」

「タケシ君……ロック君のおすすめは?」

「勿論、OO」

 ミッションを受けてから待機中にロックに説明を受けるユメ。

 なら今度はその作品を三人で見ようと約束をした所で、ミッションがスタートした。

 

 

 

 

 

 MISSION START

 

 岸壁から二機のモビルスーツと一機のモビルアーマーが発進する。

 近くの入江に待機している赤い戦艦が、今回の防衛対象であるメガファウナだ。

 

 

「SEEDのアークエンジェルみたいなものなんだね」

「そういう事だな。よし、作戦通り行くぞ」

 ユメのスカイグラスパーが上空を旋回している中、二機のモビルスーツがメガファウナの甲板へと降り立つ。

 

 一機は黒色に機体の前面をシールドで覆った、ロックのデュナメスHellだ。

 GNスナイパーライフルを構え、対空戦闘用にカメラを調整する。

 

 もう一機はケイのストライクBondなのだが、ストライカーパックはクロスボーンでもダブルオーでもないユメの知らない装備だった。

 機体は全体的に赤く染まっていて、両肩部に装備された砲身と、両手に持つ銃身の長いライフルが特徴的である。

 

 その姿は見たままに砲撃機といった風貌だ。

 

 

「ケー君のストライクがまた違う姿になってる?」

 クロスボーンストライカーを背負ったスカイグラスパーを駆るユメは、上空からそんなストライクBondを見て言葉を漏らす。

 勿論だが、その装備が何を元に作られているのかユメには分からない。

 

 

「エクリプスストライク。ゲームに登場してるエクストリームガンダムエクリプスフェイスの装備だ」

「……射撃は俺が居るのに」

 そんなストライクの姿を見て唇を尖らせるロック。そんな彼に苦笑いを零しながら、ケイはレーダーを見て表情を引き締めた。

 

 

「来るぞ。レーダーに映った」

 ケイの言葉で二人もモニターに視線を移す。距離は離れているが、それなりの速度で接近する機体が十機以上確認できた。

 

 

「うわ、凄い数だよ……」

「作戦通り、まずはユメが囮になって近付かれる前に俺達が出来るだけ数を減らすぞ!」

「……ふ、任せろ。ロックリバー、目標を狙い撃つ!」

 ケイの指示でユメのスカイグラスパーが先行し、二機の狙撃機がライフルを構える。

 

 

「よーし、頑張るぞ! えーと、こういう時なんて言うんだっけ? そうだ、ユメ……行きまーす!」

 スラスターを吹かせ、スカイグラスパーはカットシーの編隊との距離を縮めた。

 

 

「一個中隊くらい、かな。……全部で十五機。アレは……羽の生えたモビルスーツ?」

 ユメの視界に入ったのは機体背後にフライトユニットを搭載したモビルスーツ───カットシー。

 スカイグラスパーが射程圏内に入ると、前方三機のカットシーがライフルを構える。

 

「ロックオンされたよ!」

「……逃げ回りゃ、死にはしない」

 タケシからの通信に、ユメは表情を引き締めて操縦桿を握った。

 それを一気に引くと機体が持ち上がって、カットシーの攻撃は空を切る。

 

 

 

「よし、やるぞタケシ」

「ロックだ!! ロックリバー、目標を狙い撃つ!!」

 同時にデュナメスのGNスナイパーライフルが火を吹いた。遠距離まで届いたビームライフルだったが、射撃はカットシーには直撃せずに足の爪先をかするだけに終わる。

 

「ふ、当たったな」

「いや当たったけど」

「タケシ君の下手くそー!」

「うるせぇ!!」

 などと言い争っている場合ではない。

 

 

「とにかく撃ちまくれ!」

「任せな。ロックリバー、目標を乱れ撃つ!!」

 さらに狙撃を外し続けるロックのデュナメスの隣で、ストライクは一対のライフルを重ねて銃口を持ち上げた。

 

 

「───ヴァリアブル・サイコ・ライフル【クロスバスターモード】」

 そうして放たれた射撃は、見事にカットシーの胸部を貫いて機体を爆散させる。

 ビーム発射の余波が残るほどの威力に、ロックは口を開けて固まった。

 

「凄い武装だな」

「そんな連射は出来ないけどな」

 連結させたライフルを外して、二丁のライフルを空に向けるストライク。

 そうしてヴァリアブル・サイコ・ライフルを連射し、さらに二機のカットシーを撃破する。

 

 それでも残りのカットシーは十二機。それに対して相手はそろそろメガファウナを射程内収める距離に近付きつつあった。

 

 

「ちょっと大変じゃない……?」

 カットシーがメガファウナにライフルを向けるのを見て、ユメは冷や汗を漏らす。

 想像以上に敵が減っていないし、この数に攻撃されたら防衛目標がひとたまりもない。

 

 

「ユメ、作戦変更。ストライカーパックを!」

 ケイはヴァリアブル・サイコ・ライフルを連結、クロスバスターモードでカットシーを一機吹き飛ばしながら、両肩のブラスターカノンでもう一機カットシーを撃破した。

 そうしてからその装備を海面に落として、スラスターを吹かせて機体を浮かせる。

 

「分かった!」

 ケイの指示でユメはスカイグラスパーを旋回させてストライクの背後に着いた。

 そのままバックパックを外してストライクに送り届ける。

 

 

「───クロスボーンストライク」

 X字のスラスターを装備したストライクは、付属していたビームライフル───ザンバスターを手にスラスターを吹かせた。

 ABCマントまでスカイグラスパーに装備する事は出来ない為、防御面が不安だがこれで空中戦に対応出来る。ストライクの換装機構を生かした作戦だ。

 

 空中で換装してカットシーの編隊に向かうストライクを見て、ロックは「おぉ、すげぇ」と感心の声を漏らす。

 

 

「───じゃなくて、俺を置いていくなぁ!!」

「タケシはそこで待機!」

「ロックだ!! 畜生!!」

 やけくその用にGNスナイパーライフルを放つが、これはどうも当たる気がしない。

 

 そんなロックを他所に、ストライクが先行してその後をスカイグラスパーが追いかけた。

 カットシーの編隊が二機に標準を合わせる。

 

 

「ユメ、少しで良いから援護を頼む!」

「分かった!」

 大型のスラスターで、ある程度の空戦闘能力は確保出来ているが相手はフライトユニット装備の機体な上に数も多い。

 不利は承知だ。だからこそ、面白い。

 

「───当たれ!」

 先頭のカットシーに向けてライフルを放つ。ほぼ同時に背後からスカイグラスパーがミサイルを放って、ライフルで動きを止めたカットシーをミサイルが撃破した。

 これで残りは九機。しかし、敵もやられてくれるだけではない。上を取ってきたカットシーが、脚部からビームサーベルを展開してストライクに襲い掛かる。

 

 

「ケー君!」

「上を取られる……接近戦、なら!」

 ストライクは手に持っているライフル───ザンバスターを分離、それは小さなライフルともう一つの何かに分かれた。

 その何かから、シミター型のビームサーベルが形成される。ビームザンバー。クロスボーンガンダムの特徴的な接近兵器だ。

 

 

「なんとぉぉ!」

 上から来るカットシーに向けてビームザンバーを薙ぎ払う。その刃はカットシーのサーベルが届く前に目の前の機体を二つに分けて爆散させた。

 

 これで残り八機。

 しかし、爆破に巻き込まれたストライクは海に落下していく。

 

 

「ケー君───って、うわ。抜かれちゃった!」

 そんなストライクと、モビルスーツより旋回能力の悪いスカイグラスパーを他所にカットシーの編隊は味を占めたように二人の防衛線を突破。

 ロックが一人で防衛するメガファウナへと一直線に進路を取った。

 

 

「ど、どうしようケー君!」

 ロックの腕はともかくデュナメスは聴く話では遠距離戦を想定して作られた機体である。

 カットシー八機がメガファウナを襲おうと猛進する光景を見て、ユメは悲鳴を上げながら表情を痙攣らせた。

 

 

「───いや、タケシなら大丈夫だ。俺達は充分に仕事した」

 しかし、ケイはなんとかストライクの姿勢を戻しながらも不敵な笑みを見せながらそんな言葉を漏らす。

 どこからそんな自信が湧いてくるのか。だけど、彼がそういうならとユメは心を落ち着かせて操縦桿を握った。

 

 

「ここからが本領発揮だよな、タケシ!!」

 そんな言葉は届いているのか届いていないのか。

 

 

 

「───八機か」

 メガファウナの甲板の上で、立ち上がったデュナメスHellの眼前にはカットシーが八機。

 コックピットの中でロックは俯きながらもその口角を吊り上げる。

 

 

 

「───死ぬぜ、俺を姿を見た奴は」

 少年は笑っていた。




あけましておめでとうございます。
前回の更新でデュナメスをデュナミスと表記していたようです。別の天使と混合してました!ごめんなさい!

そんな訳で、次回ロックことタケシの本領発揮です!
八機のカットシー相手にどう立ち回るのか、お楽しみ下さい。

今回Gのレコンギスタを選んだのは映画を見たばかりだったからです()


読了ありがとうございました!


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ロック⇄リバース

 刃が空気を切った。

 切り裂かれたストライクの腕が地面に落ちる。

 

 

「俺にビームサイズを抜かせるとはなぁ、少しはやるようになったじゃねーか。アオト!」

「いやお前の狙撃なんて当たらないから! それよりも……勝負は近付いてからだ!」

 ストライクと対面するのは黒いデュナメスガンダムで、その手に構えられているのはライフルではなく───

 

 

「───死ぬぜ、俺の姿を見た奴は!!」

 ───ビームの刃を持つ鎌だった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 カットシー八機の編隊がメガファウナとデュナメスを囲む。

 防衛時間には程遠く、状況が良いとはお世辞にも言えなかった。

 

 

「───ったく、接近戦は好きじゃないんだがな」

 頭を掻きながらそんな言葉を漏らしつつも、ロックは口角を吊り上げて不適に笑う。

 この距離では機能し難いGNスナイパーライフルを手離したデュナメスは前面のシールド以外丸腰も当然の姿をしていた。

 

 

「け、ケー君! タケシ君が!」

「アイツなら大丈夫だ」

 カットシーを背後から追い掛けるユメが悲鳴を上げるが、その後ろから付いて行くケイはどうも冷静に返事を漏らす。

 ケイのあまりの冷静っぷりにユメは頭を捻るが、いつか昔GPDでタケシが遊んでいた姿が脳裏に浮かんだ。

 

「───アイツの真価は接近戦だからな」

 そんなケイの言葉にユメは「そういえば」と言葉を漏らす。

 

 

 彼が昔から得意としていたのは───

 

 

 

「……言ってくれるぜ」

 一機のカットシーが脚部からビームサーベルを展開してデュナメスに迫った。

 GNフルシールドがサーベルを受け止める。しかし防御だけしていても勝てる訳ではない。

 

「やってやるよ!」

 しかし唐突に、デュナメスはGNフルシールドを開閉してカットシーを突き飛ばした。

 フルシールドを外したデュナメスの姿を見て、ユメは口を開いて固まってしまう。

 

 

「……何あれ、剣がいっぱい?」

 それもその筈だ。

 

 GNフルシールドに隠れていたデュナメスの身体には、至る所に実剣からビームサーベルまでありとあらゆる接近武器が仕込まれていたのである。

 GNフルシールドの内側には長柄が仕込まれていて、ロックのデュナメスがそれを手に取ると柄の端から湾曲したビームの刃が展開した。

 

 ビームの鎌。まるで死神。

 黒いカラーリングとその風貌に、ユメは過去にGPDで遊んでいたタケシの姿を思い出す。

 

 

 ───彼が昔から得意としていたのは接近戦だ。

 

 

 

「───死ぬぜ、俺の姿を見た奴は!!」

 抜刀したビームの鎌───ビームサイズで突き飛ばしたカットシーを切り裂くデュナメスHell。

 さらにカットシーの爆発の中を突っ切ったデュナメスは、手近にいたカットシーをその刃で斬り伏せてから海面に蹴り飛ばす。

 

「まだまだぁ!!」

 猛攻は止まらず、腰に装備したビームダガーを投擲して近くにいたカットシーの頭部を破壊すると共に接近。

 そのカットシーの胸部を掴むと頭上から接近してきたカットシーに向けて機体を持ち上げてそれをぶつけ、二機をまるごとビームサイズで切り裂いた。

 

 

 カットシーの爆発の中で、デュナメスHellがGN粒子を漏らしながらその刃を光らせる。

 一瞬で四機のカットシーを撃破したデュナメスは、次の獲物を探すようにビームサイズを構えたまま爆煙の中に漂っていた。

 

 これがタケシ───ロックリバーの力である。

 

 

「二機で来ようがなぁ!!」

 そんなデュナメスHellを二機のカットシーが左右から襲う。

 ロックは大鎌を横に持ち、そのまま機体を回転させた。周りを薙ぎ払ったビームの鎌が接近してきたカットシー二機を切り刻む。

 

 爆散するカットシーを尻目にメガファウナの元まで戻ったデュナメスHellは、残り二機のカットシーに鎌を向けた。

 

 

「……クールに行くつもりだったのに」

 そうして少し冷静になったロックは、辺りの惨状を見て表情を曇らせる。

 ケイ達がどう思っているのかは知らないが、本人の中ではロックリバー(自分)はクールに射撃戦をこなす男なのだ。

 

 

 

 残り二機になったカットシーは、少し高度を上げてからライフルを構える。

 接近戦は不利と理解したのかとロックは「CPUのくせに」と感心の声を漏らした。

 

 しかし、背後から追ってきたケイのストライクBondとユメのスカイグラスパーが追い付いてくる。

 スカイグラスパーが発射したミサイルがカットシーのフライトユニットに直撃し、エンジンが誘爆して機体が爆散した。

 

「やった! 倒した!」

「待たせたなタケシ、そっちに追い込む!」

 次にストライクがビームザンバーで上からカットシーに迫る。

 カットシーのサーベルは脚部に付いている為、反撃は間に合わない。しかし機体の高度を落として回避されたが、それでもうロックの射程圏内(格闘が届く距離)だ。

 

 

「……別に待っちゃ───」

 上から降ってくるカットシーに向け、デュナメスHellが刃を背負って肉薄する。

 

 

「───いねーよ」

 通り過ぎ側、払われたビームサイズはカットシーを見事に二つに分けた。

 

 

 MISSION COMPLETE

 爆炎と共にモニターにクリア報酬が表示される。二度目のミッションクリアにケイとユメがはしゃいでいる中で、ロックは一人俯いていた。

 

 

「……タケシ君?」

 モニターに映るそんな彼の表情を見て心配げな声を漏らすユメ。

 三人で初めて挑戦したミッションだったが、彼は満足できなかったのだろうか。そんな事を思って、彼女はロックの顔が映るモニターに手を伸ばす。

 

 

「───最高だな、GBNは。たまらねぇ」

 しかし、ふとロックは口角を吊り上げて笑った。クールとは程遠い満面の笑みで笑う幼馴染みの顔がモニターに映る。

 そんな彼を見てユメとケイも視線を合わせて笑った。

 

 

 これからもきっと、楽しい日々が待っている。

 

 

 

 

 

 翌日。

 学校の昼休憩の時間。クラスが違うユメカだが、その日は態々ケイスケとタケシのクラスに顔を出して弁当を広げていた。

 放課後まで待てない程に話したい事が沢山あったのである。話題は勿論、GBNだ。

 

 

「タケシ君、今日もGBNログインするの?」

「いや、今日は無理」

 ユメカの言葉にタケシがそう答えると、彼女は「えー、なんでー」と頬を膨らませる。

 

「……俺はケイスケみたいにGBNのマシン持ってないんだよ。ダイバーギアだっけ? アレ高いんだぞ。あとロックな」

「そうなんだ」

 タケシの返事に驚くユメ。

 彼女は今ケイスケの家でログインしているので、何も気にしていなかったようだ。

 

「ログイン出来る店が遠くにしかないから、おじさんの店にマシンが置かれるまでは土日しかログイン出来ない」

「そっかぁ……。でも、店長さんのお店でGBNのマシンを買ってくれて良かったね。GPDのマシンが無くなるのはちょっと寂しいけど」

 あの場所に集まってガンプラバトルをする三人の姿を思い出しながら、ユメカは少しだけ表情を曇らせる。

 

「また、アオトと皆であの店に集まれるだろ」

 窓の外を見ながらふとケイスケがそんな言葉を漏らした。彼の言葉にタケシもユメカも頷く。

 過去じゃなく未来を向いて歩けば良い。そうしたらきっと───

 

 

「そういやよ、なんでケイスケはダイバーギアを二つも持ってるんだ?」

 話題は切り替わって、ケイスケが持っている二つのダイバーギアの話題になった。

 そういえば昨日ユメカも気になって聞いたのだが、途中でタケシが来て話が終わってしまっていた事を思い出す。

 

 

「アオトに貰ったんだよ」

「え?」

「アオトに?」

 ケイスケが質問に答えると、その答えに二人は目を丸くした。

 アオトが家を出て、俗にいう家出をしてからもう五年が経つ。タケシもユメカも事故の日から彼の顔を見てはいないのだ。

 

 ユメカは当時の事故で意識不明の重体の中、病室にアオトが来たという話だけは聞いていたがそれ以降彼の顔どころか声も聞いていない。

 

 

 完全に音信不通。

 分かるのは彼の父親曰く、遠くの親戚の家に住んでいるという事だけである。

 連絡を取ろうと思った事だって何度かあったが、メッセージに返事はこなかった。

 

 

「事故の次の日だったかな……。家に居たら、突然アオトが来てさ」

 ケイスケ曰く、家に来たアオトは何故だか沢山の荷物を持っていて。

 その一部をケイスケに渡して直ぐに出て行ってしまったらしい。

 

 その時に渡された荷物の中に、あの頃は今よりも高かったGBNの家庭用ログインマシンが二つも入っていたという。

 

 

「あと、これもな」

 続けてケイスケはカバンからガンプラを取り出した。それは、彼がいつも持っているストライクBondである。

 

「ストライク……」

「あの事故の時、ユメカが守ってくれたアオトのガンプラだ。ボロボロになっちゃってたけど……俺が出来るだけ直して今使ってる」

 事故当日、アオトの父が道路に投げたアオトのガンプラ。

 

 ユメカはそれを守る為に道路に飛び出して事故にあった。

 そんな彼女が守ったガンプラへのアオトの気持ちは分からない。

 

 だけど、それを託されたからには想いを繋げないといけない。

 そう思って、今のストライクBondがここにある。

 

 

「そのストライク、あの時のだったんだ……」

「殆どの部品は新しく作り替えたやつだけど、使える部品はそのまま使ってる」

 こことかこことか、と。ケイスケはストライクBondの部品を指差した。少しだけ年季が入った部品がある。

 

 

「成る程な、それでケイスケがストライクを使ってた訳か。あの頃はクロスボーンガンダムを使ってたよな……。ん? あー、それがあのストライカーパックか」

 なるほどな、と納得するタケシは購買部で買ってきたパンを口にしてから紙パックの牛乳に口を付けた。

 釣られて弁当のご飯に手を付けるユメカの隣で、ケイスケはさらにこう付け足す。

 

 

「ストライクを渡された理由は分からなかったけど、GBNのマシンは多分……おじさんと二人でプレイする為に小遣いを貯めて買ったんじゃないかなって思ったんだよな」

 あの頃小学生だった彼等には手の届かない品物であったが、アオトがずっと貯めていたお小遣いで買ったのならその理由には察しが付いた。

 

 そこまでしても、あの頃GBNのせいで不貞腐れていた父親に何か伝えたい事があったのだろう。

 

 

「……だけど、アオトはそれを諦めて捨てるのは勿体無いからケイスケに渡した?」

 首を横に傾けるタケシは、どうも納得のいかない表情でそう呟いた。

 

 事故の事で店を閉めると言った父親とアオトが喧嘩した、という事だけは聞いている。

 それで家を出て父親の為に買った物を態々ケイスケに渡した理由も分からない。

 

 

「アオトは俺に何かをして欲しかったのかな……。でも、その何かが分からない」

 ユメカをGBNに誘ったのはそれから五年経った今だ。あの頃から、何処かで自分もガンプラから目を背けていたのかもしれない。

 

 だから今更、アオトが何を考えていたのかを考えても分からないのだろう。

 

 

 

「……ダメだなぁ、俺は」

「そんな事ない」

 ケイスケの言葉に、ユメカは箸で弁当の唐揚げを持ち上げながらそんな言葉を漏らした。

 

 

「ケー君が私をGBNに誘ってくれたから、今私達はここに居るんだよ。あの日、ケー君がGBNに誘ってくれなかったら私は今自分のクラスでご飯を食べてるもん」

 そう言いながら、ユメカは箸で掴んだ唐揚げをケイスケの弁当箱の上には乗せる。

 

「いつかここに、アオト君だって戻って来る。四人で一緒に……遊べるよ」

 もう一つの唐揚げをタケシのパンの上に乗せて、彼女は自分の弁当の唐揚げをもう一つ持ち上げた。

 弁当箱には一つだけ唐揚げが残っている。

 

 

「くれるのか?」

「良いのか?」

 ケイスケとタケシの言葉にユメカは短く「うん」と答えて、自分の唐揚げを頬張った。

 続けて二人も唐揚げを口に運ぶ。

 

「ヒメカ特製唐揚げは美味しいなぁ。うんうん、最高の妹だ。絶対に嫁にはあげない」

 自分の妹の自慢をしながら、残された一つの唐揚げを持ち上げるユメカ。

 

 

 

「いつか───」

 いつかきっと、また四人で。




新しく物語が進んでいく気がします。

前回は沢山の感想ありがとうございました!
そんな訳でキャラデザ描いてきました、その二。ロックリバーことタケシです。タケシ。

【挿絵表示】


読了ありがとうございます。


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いつかの為に

 確かその日は雨が降っていたと思う。

 

 

「……アオト?」

「これ、受け取ってくれ」

 沢山の荷物を持った一人の少年が、友人に鞄を一つ突き出した。

 有無を言わせない少年の態度に友人は鞄を受け取って、少年の表情を窺う。

 

「……ユメカの事、頼んだ」

「お、おいアオト!」

 短い言葉。

 

 その意味も分からなくて、家を飛び出した少年に伸ばした手は届かない。

 

 

 受け取った鞄の中に入っていたのは───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 少女が泣いていた。

 

 

「……ユメカ」

「……ほれ、ハンカチ」

「うぅ……うぅ、うぇぇん」

 慰めるケイスケと、ハンカチを渡すタケシ。

 

「グラハムが死んじゃったよぉぉ……」

 そんな二人の前で、ユメカは顔を真っ赤にして瞳を濡らす。三人の前にはテレビが置いてあって、劇場版ガンダムOOのエンディングが流れていた。

 

 

「……ぐすん。でも良いお話だった。分かり合うって大切。……ぐすん。キャラも格好良いし」

「だろ。このロックリバー様のオススメだからな」

「まぁ、OOは安定してウケやすいしな」

 涙を拭くユメカの左右で二人は「うんうん」と頷く。

 傍に用意していたポテトチップスとジュースは空になっていた。ケイスケが「ジュースのおかわりを取って来る」と立ち上がる。

 

 三人はケイスケの家でアニメを見ていた。

 今のところ土日にしかタケシがGBNにログインが出来ないので、ならばとユメカが提案したのがガンダムのアニメの視聴である。

 

 

 ほぼ一週間の平日を丸々使い、金曜日に劇場版を試聴し終えて今この状態という訳だ。

 

 

「タケシ君の機体もあったよね、デュナメス。ロックオンストラトス、意識してたりする……?」

「……言うなよ恥ずかしい」

 ロックリバーが何処から出て来たのか大体想像が付く。一応、元々は彼の苗字のイシカワから来ているのだが。

 

 

「後はケー君のストライクの装備になってるダブルオーとか。色んな作品に、色々なガンダムが出てるんだね」

「そんな数え切れないモビルスーツをプラモデルにして、それで遊んでるってんだから面白いもんだ」

「ご飯です!」

 ユメカとタケシが話していると、唐突に部屋の扉が開いて女の子が大きな声でそう言った。

 明らかにケイスケの声ではないのでタケシが驚くと、扉の前に立っていたのは中学の制服を着た一人の女の子である。

 

「あ、ヒメカ。ありがとう」

「うん、お姉ちゃん!」

 彼女の名前はキサラギ・ヒメカ。中学二年生の、ユメカの妹だ。

 

 

「よ、ヒメカちゃん」

「誰ですか、この明らかに自分の事を格好良いと思い込んでそうな顔面の男は」

「え、ナチュラルに酷い事言われたんだけど。え?」

 突然の罵倒にタケシは頭が真っ白になる。理解が追い付かない。

 

 

「ほら、タケシ君だよ。プラモ屋でたまに遊んでくれてたでしょ?」

「お姉ちゃんの友達なんだね。ヒメカ覚えてない」

 満面の笑みでそう語るヒメカの温度差に、タケシは開いた口が塞がらなかった。

 

 五年前までプラモ屋によく集まっていた幼馴染み四人組だが、たまにユメカがヒメカを連れて来ていた事を思い出す。

 その時は五人でお菓子を食べたりして笑っていたヒメカだったのだが、あの頃彼女はまだ九歳。その後なんやかんやで会う事はなかったので、忘れられていてもおかしくはない。

 

 タケシは涙を隠して「ふ、しょうがないさ」と言葉を漏らした。五年というのは短いようで長いのである。

 

 

「べー」

 しかし、ユメカが車椅子に乗るのを手伝うヒメカは無事に姉を車椅子に乗せるとタケシに向かって目蓋を下げた。

 

「……えぇ」

 別に忘れられていた訳ではないようである。

 

 

 

 というか、嫌われていた。

 

 

 

 

 広いリビングにケイスケとその両親と、ユメカにヒメカとタケシが集まる。

 ケイスケの家───サイトウ家は両親とケイスケの三人家族だ。しかし机は六人どころか頑張れば八人は座れそうな程に大きい。

 

 何を思ってこんな机を買ったのか分からないが、家族ぐるみで隣のキサラギ家と付き合いがある為これはこれで便利なのである。

 

 

 両親の隣に座っていたケイスケは、ユメカ、ヒメカ、タケシの順番で座ったのを見届けてから「ごめん、ご飯の時間なの忘れてたわ」と呟いた。

 ヒメカの隣に座ったタケシはどうも居心地が悪そうに「……ば、晩ご飯ありがとうございます」とケイスケの両親に挨拶をする。

 

「良いのよ良いのよ、たんとお食べ」

「タケシ君だよな。大きくなったなぁ」

 両親の言葉にヘコヘコと頭を下げるタケシの態度が面白かったのか、ユメカは口を押さえて笑っていた。

 しかしその隣で、ヒメカは頬を膨らませる。どうも気に入らない、なんて表情だった。

 

 

「タケシ君の父親とは偶に会うよ。お仕事大変そうだね」

「あー、パパ───じゃない、父さんは消防士だから……叔父さんとも偶に顔を合わせるって話聞いてます」

 ケイスケの父親は救急隊員で、タケシの父親は消防士である。その仕事柄、火事の現場で顔を合わせる事があるらしい。

 勿論仕事柄、ゆっくり話す時間はないのだが。

 

 

「懐かしいなぁ、五年前くらいか。あの頃はずっと遊んでいただろう」

 どこか遠い所をみるような目でケイスケの父はそう言って少年達を見比べた。

 

 変わった事もあるし、幾分か大きくなってしまったとしみじみ思うが仕事から戻ってみれば幼馴染みが集まって部屋でアニメを見ているというのだから。

 どうも懐かしくなって一日くらいはと食事を用意した訳である。用意したのは母であるが。

 

 

「あはは……色々ありまして。……すみません」

「謝るような事はないさ。ユメカちゃんから学校では話してると聞いていたよ。これからも、うちの息子の事もよろしくな」

「ご馳走様です」

 快活にタケシと会話するケイスケの父親の話の区切りに、ヒメカはそう言って立ち上がった。

 彼女の方を見てみれば出された料理は食べ終わって、行儀良く後片付けも終わっている。

 

 

「ヒメカちゃん、もう良いの?」

「はい。ちょっと家に戻ってます、です。お姉ちゃんが帰ってくる時にまた迎えに来ます」

 ケイスケの母の言葉にヒメカはそう返事をして、お辞儀をしてから家を出て行った。

 顔を見合わせる両親の前で、ユメカが「ご、ごめんなさいヒメカったら。もぅ……」と表情を暗くする。

 

 普段から姉の前以外ではそんなに明るいタイプではないが、今日は一段と不機嫌に思えた。

 理由に察しがついていたユメカは、一人どうしたものかと考え込む。

 

 

 タケシは一人、俺は何をしたんだと気まずくなるのだった。

 

 

 

 

「俺、ヒメカちゃんに何故か嫌われてるんだけど」

 夕食を食べ終わって少しして。

 

 タケシは今日家に泊まって行く事になり、ユメカも寝るまではまだケイスケの部屋に居るつもりで話をしている。

 話題はユメカの妹、ヒメカの事だった。

 

「あー、それはだな……」

「ヒメカはガンプラが嫌いだから……」

 ケイスケの言葉にユメカは申し訳なさそうに継ぎ足す。

 

 

 ガンプラが嫌い。

 正しくは、大好きな姉から沢山の物を奪ったガンプラが嫌い。当の本人よりも、妹のヒメカの方があの事故を憎んでいたのだ。

 

 あの事故の原因になったガンプラも、その時に遊んでいた友達も、大好きな姉を傷付けた全てが憎いと思っているのだろう。

 

 

「……それ、ユメカがガンプラで遊んでるの色々とやばくない?」

「ヒメカはちょっとませてるから……。私にはちゃんと気を使ってくれてるし、ケー君パパやママにもそういう所は出さないんだよね」

 あくまで自分がガンプラを嫌いなだけ。

 

 それを誰かに押し付けたりはしないし、表には出さない。

 良く言えば出来た子供で、悪く言えば沢山の事を我慢しているのだ。

 

 だからこそ、ケイスケやタケシへの当たりは自然と強くなる。

 

 

「気まずいな……」

「私とは普通に話してくれるんだよ?」

「それはさっき見たから分かる。別人かと思ったわ」

 俺への態度凄かったからね? と、付け足すとタケシは「うーん」と眉間に皺を寄せた。

 

 別に気にしなくても良いかもしれないが、どうもいたたまれない。

 

 

「俺はもう慣れちゃってたけど、確かにこのままって訳にもいかないよな。……ユメカもせっかくGBNを楽しんでくれてるんだし」

「うーん、私もヒメカとちゃんと話してみるね。……えーと、なんかごめんね」

「いや、ユメカが謝る事じゃ……」

 そんな二人の会話を聞きながら、タケシはふと思って自然とこう口が開く。

 

「アオトも……ガンプラの事嫌いになってんのかな」

 タケシのそんな言葉に二人は少しの間固まってしまった。

 考えた事がなかった訳じゃない。ただ何処かで、目を逸らしていたのだろう。

 

 

「……だから、俺にストライクを渡した」

 自分のガンプラとアオトに渡されたGBNのマシンを見ながら、ケイスケはゆっくりと言葉を漏らした。

 五年前、アオトがガンプラを楽しそうに作ったりバトルしていたりする姿を思い出す。

 

 

「そんな訳ないよ!」

 しかし、唐突にユメカがそう言った。

 

「だってアオト君、凄く楽しそうに遊んでたもん。店長さんとも仲良くて、きっと……家族でずっとガンプラが好きだった。きっと、誰よりもガンプラが好きだったと思う」

 噛み締めるようにそう言う。

 

 

 あの頃、いつだってガンプラで遊ぼうと誘ってくれたのはアオトだった。

 いつだって彼が中心に皆で集まっていた事を思い出す。

 

 

「まぁ、確かにな。俺はともかく、ケイスケがガンプラやってたのは不純な動機だし。……一番ガンプラに真剣だったのは間違いなくアオトだ」

「おいタケシ……」

「不純って?」

「な、なんでもないなんでもない」

 タケシの言葉が気になって聞き返すユメカだが、何故かケイスケが顔を赤くして両手を上げた。

 首を横に傾けるユメカだが、それ以上の情報は出て来る気配がない。珍しい反応だな、なんて思う。

 

 

「ケッ。……とにかく、まぁ、でも、アオトがどう思ってるかは直接会って聞いてみないと分からないって話だ。連絡が取れないんだけども」

 ジト目でケイスケを見てからそう言うタケシ。

 

 実際の所その通りで、今彼らはアオトと連絡を取る手段がないのだ。

 自分達からのメッセージは勿論、父親からのメッセージにも返事がない。

 直接会いに行こうにも彼が今住んでいるのは遠方の街らしく、連絡の付かない相手を探して会うのは難しいだろう。

 

 

「案外、実は開き直ってて向こうでGBNやってたりしてな。確かアオトって東京だろ? ほら、えーとなんだっけ。ガンダムベースがある場所」

「いや、それはそれで寂しいだろ」

 タケシが漏らした言葉に半目でツッコミを入れるケイスケ。

 それはそれで寂しいかもしれないが、でもそれはそれで嬉しいかもしれない。

 

 

 

 もしかしたら、GBNの中で再会する事が出来るかもしれないからだ。

 

 

 

「とりあえず、おじさんに連絡が来るまで俺達は何も出来ないって訳だ。俺達はいつアイツが帰って来ても良いように、ガンプラを続けるだけだろ」

 そう言ってニッと笑うタケシに、ユメカもケイスケも賛同する。

 そうして、明日は一週間ぶりに三人でGBNにログインしようと決めた。

 

 

 夜も遅くなり、ユメカは一旦帰る事に。

 迎えに来たヒメカに睨まれたケイスケとタケシは苦笑いで部屋に戻る。

 ヒメカの事もなんとかしたいが、今はユメカに任せるしかない。

 

 

「……なぁ、ケイスケ。アオトは今何やってんだろうな」

 ベッドの上と床に寝転んで、タケシはそんな事を呟いた。

 

 あの雨の日から、アオトとは一切連絡もしていない。

 ただ何となく何処に住んで居るのかを知っているだけで、今彼がどんな暮らしをしているのかも分からないのである。

 

 

「……俺達忘れられてたりしてな」

「それだけはない」

 少し考え込んで返事をしていなかったケイスケだが、タケシの言葉にはそう返した。

 

 それだけはない。

 それだけは分かる。

 

 

「アイツにとってガンプラは、忘れたくても忘れられるような事じゃない。だから、もしガンプラを嫌いになっていたとしても……俺達やあの思い出も忘れるなんて事はないと、思う」

 だって、アオトにとってガンプラは───

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京。ガンダムベース。

 

 

「───GBNは、俺が壊す」

 ───とても大切な物だった筈だから。




ついに十話目です。完結まで何話かかるか分からなくなって来ました()

そんな訳で今回もキャラデザ置いていきます。ユメカの妹であるヒメカです。忘れられてるかも知れませんが二話が初登場です!

【挿絵表示】

姉に似てます。

あと、評価ありがとうございました。遂に色が着きました、しかも赤色!ありがとうございます。
これからも頑張ります!それでは、読了ありがとうございました!


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第二章──フォース結成【改造ガンプラキラー】
ヤナギランの花畑で


 雪が降っている。

 窓の外は雪景色で、部屋の中は暖房が付いているとはいえ少し肌寒い。

 

「フヘヘ、このディテールがたまらないんっすよねぇ。あぁ〜、モビルファイター特有の可動域! あん……そんな、こんなポージングの再現までぇ!!」

 しかし、部屋の中で一人の女性が完成したガンプラを鑑賞しながら一人熱く燃え滾っていた。

 

 

 家には他に誰もいないが、コタツの上に居た猫はそんな彼女をジト目で眺めている。

 

 

 

「フヘ、フヘヘ。さーて、今日はこの子でGBNにログインするっすよぉ。……今日はどんなめちゃくちゃガンプラを狩るっすかねぇ」

 そんな猫の視線には気付かずに、女性は不適に口角を吊り上げてダイバーギアにガンプラをセットした。

 

 

 彼女はGBN内で、こう呼ばれている。

 

 

 

「───ガンプラはそのまま作ってこそ、その真の輝きが見られるっす。許すまじ改造ガンプラ!」

 ───改造ガンプラキラー、と。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GBN。メインフロア。

 

 

「タケシ君はお昼からだっけ?」

「そうだな。今朝ユメ……が、来る前に出て行ったから。昼までには合流するって。あと一応ロックって呼んでやろう」

 ユメとケイは前日の約束通り、土曜日の朝からGBNにログインしていた。

 

 タケシ───ロックはログインする為に遠出中で、昼には合流するという予定である。

 

 

「あははー、そうだよね。一応個人情報だし」

 反省反省、と頭を掻くユメ。しかし呼び慣れた名前から別の名前で呼ぶというのは難しい。

 

 たまにケイとユメだって、GBNでお互いの本名を言ってしまいそうになるのだ。

 むしろロックのように本名から遠い名前の方が良かったのかもしれない。

 

 

「んー、しかしタケシ君が来るまで何してよっか?」

「散歩でもするか」

「散歩?」

 首を横に傾けるユメに、ケイは頭を掻きながら「あーと、えーと、だな」と口籠る。

 

 

「マギーさんが。そう、マギーさんが……綺麗な花が沢山咲いてる場所があるから。どうだって、話で」

 そうして続いたそんな言葉に、ユメは「おー」と感心の声を漏らした。

 

「お花畑……散歩。えへへ」

 はにかむユメを見てこっちが恥ずかしくなったのか、ケイは視線を逸らす。

 しかしその先に映る人物と目が合って、彼は「ゲ」と声を漏らした。

 

 

「あ〜ら〜、ケイちゃんとユメちゃんじゃなーい」

 腰を振りながら、一人の男性がねっとりとした声で近付いてくる。

 噂をすればというのか、件のマギーが二人の前でいつも通りの強烈なファッションで現れた。

 

「マギーさん! おはようございます!」

「あらユメちゃん、とても嬉しそうな顔をしてるわね。何かあったの?」

 挨拶をするユメに、マギーは彼女の表情を見てそう問いかける。

 少年少女特有の青春をしているという顔だ。

 

 

「ちょっと友達を待ってる間に何しようかなって思ってたんですけど、ケー君がマギーさんに教えてもらったお花畑に行こうって言ってくれたんです!」

「あ、いや、ちょ、待って」

「あらそうなの。……でも、おかしいわね」

 ユメの言葉に隣で一人で慌てるケイ。そんな二人を見ながら、マギーは首を横に傾ける。

 

 

「ケイちゃんとは久し振りに会ったし、連絡もしてない筈だけど」

「あれ?」

 マギーのそんな言葉に、今度はユメが首を横に傾けた。どういう意味なのか分からない。

 

 

「な、何言ってるんですかマギーさん! この前教えてくれたじゃないですか! あはははは!」

 して、ケイは何故か泣きながらマギーの目を必死に見て声を上げる。

 

 

 実の所、花畑の場所はユメの為に自分で調べたのだ。

 しかしそんな事を本人に知られるのは恥ずかしいというのが彼の本心である。

 

 

「……あー」

 そんなケイを見てマギーは何かを察したのか、後ろで首を横に向けているユメと必死の形相のケイを見比べてから手を叩いた。

 

 

「そうだったわね」

「マギーさぁぁあああん!!」

 嬉し泣きをするケイを見て、ユメはさらに頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。

 

「青春ねぇ」

 そんな二人を見てマギーはそう思うのであった。

 

 

 

「それじゃ、私はお邪魔虫かしら。お花畑というと、ヤナギランだったかしら?」

「ヤナギランのお花畑がGBNにあるんだ」

 ヤナギランは現実に存在する植物である。

 

「Vガンダムって作品に登場するんだよ。それ以外にもGBNの中には観光スポットとかが沢山ある」

「ふぇ〜、やっぱりGBNって凄いんだねぇ」

 感心するユメの隣で、マギーは「懐かしいわねぇ」と声を漏らした。

 

 

 しかし、その後マギーは「ん?」と顎に手を向けて視線を上げる。

 そんな彼の不思議な言動に二人は首を横に傾けた。

 

「マギーさん?」

「最近あのお花畑の近くで変な噂をよく耳にするのよ。なんでも、悪質なPKプレイヤーが出没するとか」

 マギーの言葉にケイは「悪質な?」と聞き返す。

 

 GBNは元々ガンプラバトルを楽しむゲームだ。PK───プレイヤーキルが珍しい訳ではない。

 それでも、特定の場所で悪質と呼ばれるまでのプレイヤーが噂になる程出没するという話はどうも気になる。

 

 

「なんでも、改造されたガンプラを見るや勝負を挑んできて。負けると凄い形相でガンプラを改造するなって何時間も説教をされるらしいのよ」

「悪質っていうか異質!」

 ガンプラを素組み───改良など手を加えずに組み立て書通りに組み立てる事こそが正しいというガンプラビルダーも少なくはない。

 その過激派というべきか。どうもそのプレイヤーは改造されたガンプラを使うダイバーに戦いを挑んでは、その信念を押し付けてくるのだとか。

 

 

 そのお花畑に行くなら気を付けてね。

 マギーのそんな言葉に見送られて、二人はヤナギランの花畑に向かう事に。

 

 クロスボーンストライカーを装備したクロスボーンストライクBondに二人で乗り込んで、機体はマントを揺らしながら空を駆けた。

 

 

 

「───アレはクロスボーンガンダムのスラスターを着けた改造ガンプラ。く、なんと邪道な……。許すまじ……っ!」

 そんなストライクを見上げる一人のダイバーは、エアカーのハンドルを握りながら眉間に皺を寄せる。

 

 ストライクを追い掛ける羽のついたエアカー。

 搭乗席でそのダイバーは不適に笑っていた。

 

 

 

 

 

 辺り一面を覆う薄紫。

 ヤナギランの花畑の真ん中で、一人の少女がクルクルと回る。

 

 花畑の端にはストライクが腰を落としていて、花弁を巻き込んだ風に揺れるマントが晴々しい。

 

 

「ケー君、見て見て! 凄く綺麗!」

「そうだな」

 花畑を歩くユメは、満面の笑みでケイに手を振った。

 そんな彼女を見てケイも笑顔を見せる。

 

 彼女が自分の足で歩いて笑顔でいてくれる事が、とても嬉しかった。

 

 

「スクリーンショット撮っとくか」

 両手で四角いフレームを作ってその枠にユメを納めながらそんな言葉を漏らす。

 コンソールパネルからスクリーンショットを起動すると、モニターには花弁に包まれて笑みを漏らすユメの姿が映った。

 

 

「シャッターチャンス」

 スクリーンショットを起動。

 

「……うん、我ながらベストショットだな」

 花畑の花達とは反対の色の髪の毛が花弁を巻き込んだ風に揺れて、そんな髪の毛を抑えるユメがカメラに収まる。

 

 

「一緒に写真を撮ろう、は……ないか」

 どうも完璧なタイミングで撮れたように思えたスクリーンショットを眺めながら、ケイはそんな声を漏らした。

 

 ユメが自分の足で歩いて、こんなに笑顔でいてくれる。

 それだけでも嬉しかった。それだけでも、ここに来て良かったと思える。

 

 

 

「ケー君、そろそろ時間じゃない?」

「ん、あ、あー、もうそんな時間か」

 しばらくして。

 

 花畑をボーッと眺めていたら、気が付けばかなり時間が過ぎていたらしい。

 ユメに話しかけられて確認してみれば、もうそろそろタケシとの約束の時間だった。

 

 

「そろそろ行くか」

「うん。えへへ、凄く楽しかった。連れてきてくれてありがと、ケー君」

「俺は何もしてないけど……。ユメが楽しかったなら、良かった」

 そう言って立ち上がり、ストライクの元に歩き出す。

 

 しかし、そんな二人の前に突然走ってきたエアカーが止まった。

 

 

「んえ……車?」

「これは……コア・ランダー?」

 首を横に傾ける二人の前で、乗り物から一人のダイバーが顔を出す。

 

 

「へい、そこのお二人さん。どうもこんにちわっす」

 エアカーを降りたダイバーは片手を上げながらそんな言葉を漏らした。

 

 その容姿は深めに被ったキャスケット帽に赤縁の眼鏡、オーバーオール、何故か腰に刀を差した情報量の多い衣装。

 帽子の下の若葉色の髪を揺らすそのダイバーは、膨らんだ胸元の下で腕を組んでこう続ける。

 

 

「お二人はデートっすか?」

「え、で、デートなんてそんな。えへへ、その───」

「違います」

「ケー君……っ!」

 ダイバーの言葉に赤面しながら口籠るユメの前に出て即答するケイ。

 ユメはそんな彼の言葉に、背後で頬を膨らませるのであった。

 

 

「それは失敬。……それで、アレはおたくらのガンプラっすか? だとしたら───」

「違います」

 そして続く言葉に、ケイは即答する。

 しかしダイバーが指差すガンプラ───ストライクBondは確かにケイのガンプラだ。ユメはケイが嘘を付いている事を疑問に思って、首を横に傾ける。

 

 

「あんた、噂の悪質なPKプレイヤーだな? 改造ガンプラを見てはケチを付けてくるっていう」

 しかし、続くケイの言葉にユメは目を丸くして彼とダイバーを見比べた。

 当のダイバーは口角を吊り上げてケイを見下ろすように視線を落とす。

 

 

「マギーさんが言ってた悪い人?」

「そういう事。付き合う事はない。無視だ無視。フリーバトルなんて同意しなきゃやらなくても良いんだから」

 そう言ってケイはユメの手を掴んで歩き出した。

 

 しかしダイバーの隣を無視して歩こうとした時、こんな言葉が聞こえて来る。

 

 

「おたくのガンプラ、ダサいっすね」

 振り向いて睨んだ。大きめの胸が視界に入る。どうやら件のダイバーは女性らしい。

 そんな()()は立ち止まったケイを横目にもう一度「ダサい」と口にした。

 

 

「なんだと……」

「ダサいって言ったんすよ。ストライクガンダムベースのクロスボーンガンダムって感じっすか? ストライクには元々、エールストライカーやランチャーストライカーっていうストライクの為に練りに練り上げられた至高のバックパックがあるのに。それを台無しにしてまでクロスボーンガンダムの装備を着ける理由が分からないって言ってるっす!」

 そんな彼女の言葉に、ケイの頭の中で何かが弾ける。ユメが見るに気のせいか、目からハイライトが消えている気がした。

 

 

「勝負しろこの野郎!!」

「ケー君!? 無視するんじゃなかったの!?」

 突然眉間に皺を寄せて声を上げるケイに、ユメは驚いて目を丸くする。

 さっきまでの冷静さはどこに行ったのか。

 

 

「そうっすよねぇ、真のビルダーなら自分のガンプラをバカにされて黙っていられる訳がないっす」

 うんうん、と一人頷く女性は「その勝負受けて立つっすよ」とケイを指差した。

 一方で煽られたケイは歯軋りをしながらストライクの元に向かっていく。手を握られたままのユメは引っ張られて「ケー君落ち着いてー!」と悲鳴を上げた。

 

 

「ストライクBondは俺とアオトの───」

「ケー君……」

 小声で漏らした言葉に、ユメは少しだけケイの気持ちを理解する。

 きっと男の子には譲れないものがあるんだ。

 

 

「あ、待ってください」

 しかし、やる気満々だったケイを引き止める声が聞こえてケイとユメはその場で足を滑らせる。

 さっきまでの挑戦的な態度はなんだったのか。女性は花畑を見ながら、感傷的な表情で「いかんいかん」と頭を横に振った。

 

 

 

「Vガンダムでシャクティが植えていたヤナギランの花畑……。こんな場所を戦場にはしたくないっすね。場所を変えましょう」

 そう言ってから女性は花畑を少し眺めて、自分が乗ってきた乗り物に搭乗する。

 

「この先に平原があるっす。そこで落ち合いましょう。……勿論、逃げても良いっすけど?」

「誰が……っ!」

 ケイを煽った女性は「それでは、お先に」とエアカーを走らせた。

 追い掛けるように、ケイもストライクBondに搭乗する。

 

 

「ケー君も怒るときはあるんだね」

 一緒にストライクに乗ったユメから心配の声が漏れた。

 

 どちらかといえば彼は熱い方ではあるが、ユメからすれば温厚で優しい性格の幼馴染みである。

 そんな彼が思っていた以上に熱くなっているので、少し心配だった。

 

 

「……だ、ダメか?」

 ユメの言葉に少しだけ顔色を変えて問い掛けるケイ。

 

「ううん。男の子だもん。そのくらい元気な方が良いよ」

 しかしユメはそう言って、彼の頭を撫でる。彼女の言葉を聞いて、ケイは不敵に笑った。

 

 

「……それじゃ、少し付き合ってくれ」

「うん。頑張れ、ケー君!」

 X字のスラスターが火を吐く。

 

 

 飛び上がったストライクBondは女ダイバーの言う平原まで一瞬で辿り着いた。

 そこには既にエアカーが止まっていて、女性は眼鏡を光らせてストライクを見上げる。

 

 

 

「来たぞ、勝負しろ。……って、あんたのガンプラは何処だ?」

「あんたじゃないっす。いや、自己紹介してなかったっすね。ジブン、ニャム・ギンガニャムと申します」

 ニャムと名乗った女性は帽子を押さえながら頭を下ろした。

 失礼な事を言う割には行儀が良い、なんて二人は思う。それと、凄い名前だとも。

 

 

「……ケイだ」

「それじゃ、始めようっすかね」

 ニャムは中指と親指を合わせてその手を持ち上げた。そうして───

 

 

「でろぉぉおおお!! ガンダァァアアアム!!!」

 ───その指を鳴らしながら叫ぶ。

 

 すると何もなかった平原に、一機のモビルスーツが現れた。

 

 

 彼女が乗っていたエアカーと合体したそのモビルスーツ───否、モビルファイターは背中に展開式の六枚の羽根を開く。

 ライフル等の武器は一切手に持たず、腰を落として構えるその姿はファイターの名に相応しかった。

 

 

「アレは───」

「それじゃ、始めようっすか───」

 機動武闘伝Gガンダムの主人公が搭乗する機体。その機体の名は───

 

 

「───ゴッドガンダム」

「───ガンダムファイトォォ!! レディィィイイイ、ゴー!!!」

 

 

 東方は赤く燃えている。




物語は新しいステージに!
そんな訳で新キャラです。一体どんなキャラなのか。
キャラデザは次回の更新で載せます。

今回はガンダムブレイカーモバイルにてクロスボーンストライクBondを作らせてもらったので載せます。

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読了ありがとうございました!


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改造ガンプラキラー

 GBNメインフロア。

 

 

「ふ、ヒーローは遅れてやってくる。……待たせたなケイ、ユメ。ロックリバー様が来たぜ!」

 フロアの中央で片目を閉じなら格好を付ける一人の少年。

 タケシことロックリバーは、その場で数秒間固まっていた。

 

 

「…………あれ?」

 しかし一向に何も起きないので、ロックは目を丸くしてコンソールパネルを開く。

 待ち合わせは、間違いなく表示されている時間と場所であっていた。それなのに先にログインしている筈の友人は居ない。

 

 それはそれで、ただ二人が遅刻しているだけだから良かったのだが。

 妙な挨拶と共に現れた金髪の男は良くも悪くも注目の的である。

 

 

「何あの人」

「たまにいるよな、あの手の痛い奴」

「自分の事格好良いと思ってるんだぜ、きっと」

「コーイチ、あの人どうかしたの?」

「見ちゃいけません」

「炭酸みたいな奴がいるな」

「いてててててて」

 

 

 この通り、周りの視線は釘付けで小言が漏れてくる始末だ。

 

「お、俺はスペシャルで……模擬戦で……二千回なんだよ……」

 ロックは顔を赤くして蹲る。もう恥ずかし過ぎて自分が何を言っているのか分からない。

 

 ふとコンソールパネルを開くと、メッセージが一通届いていた。彼はそれを恐る恐る開く。

 

 

 

 ユメです。タケシ君へ

 ケー君が突然フリーバトルを始めたので遅刻します

 

 追伸

 タケシ、悪い! 月曜日弁当分けてやるから許せ! byケイ

 

 

 

「なんじゃそりゃぁぁああああ!!! てか、ロックだって言ってんだろぉぉぉおおお!!!」

 突然絶叫するロックに、GBNのメインフロアは再び騒つくのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 機動武闘伝Gガンダム。

 ガンダム作品としては異色を放つ作品であり、物語は各国を代表する格闘家がガンダムを用いて覇権を争う格闘技大会───ガンダムファイトを舞台に進んでいく。

 他の作品にあるような戦争に利用される軍事兵器(モビルスーツ)ではなく、少年漫画のようなバトルキャラとしてのガンダムはモビルファイターと呼ばれていた。

 

 

「───ガンダムファイトォォ!! レディィィイイイ、ゴー!!!」

 掛け声と共に、ニャムの機体が地面を蹴る。

 

 

「素組みのゴッドガンダムか……っ!」

 それに対してケイはスラスターを吹かせて距離を取った。

 

 素組み。

 基本的に改造等のカスタマイズはせず、ストレートに組み立てられたプラモデルの事である。

 彼女のガンプラはまさにそれで、発売されているゴッドガンダムのプラモデルそのものだ。

 

 

 GBNのダイバーの多くが自分だけのガンプラをカスタマイズして作る中で、彼女のように素組みのガンプラで遊んでいるプレイヤーの比率はどちらかといえば少ない。

 しかし彼女のガンプラは合わせ目消しや塗装がしっかりとされていて、ガンプラをそのまま作ったよりも遥かに高い完成度で組み立てられている。

 

 ビルダーとしての腕はその辺のダイバーとは桁違いだ。

 

 

 

「その通り! 機動武闘伝Gガンダムより、ゴッドガンダム。ニャム・ギンガニャムがお相手するっすよ!!」

 歯切れ良く声を漏らしながら、ニャムは両手を合わせて腰を落とす。

 するとゴッドガンダムも同じ姿勢を取った。モビルファイター特有のモビルトレースシステムだ。

 

 

「格闘機相手に距離を取る、基本中の基本っすね。しかし───」

 機体と動きをシンクロさせたニャムは、上空へと飛んだストライクを見上げながら口角を吊り上げる。

 

 

「───初めから全力で行くっすよ。……流派東方不敗、最終奥義ぃ!!」

 合わせた手を上空へと向けるニャム。ゴッドガンダムの手が黄金に輝いた。

 

 

「石破ァ……天驚拳……ッ!!!」

 刹那、ゴッドガンダムの両手から手が放たれる。比喩表現ではなく、モビルスーツよりも大きな手の形をしたエネルギー弾が放たれたのだ。

 

「何それ必殺技ぁ!?」

「しまった……っ!」

 驚くユメの前で、ケイは苦い表情をしながら機体を翻す。

 ストライクのやや上側に放たれた技を避けるには機体を降下させるしかなかった。

 

 しかし、それこそが彼女の作戦だと───わかっていてもそうするしかない。

 

 

「作戦通り!」

 高度を下ろしたストライクBondに肉薄するゴッドガンダム。不安定な姿勢からでも反撃の為にライフルを放つが、ニャムはそれを軽々しいフットワークで避けてみせる。

 

「反撃してみせるとは中々っす。機体のバランスも上手く作られてる。……が、しかし!!」

 そうしてストライクの左側面に回り込んだゴッドガンダムは、右足を上げて回し蹴りを繰り出した。

 ストライクの左肩に回し蹴りが直撃して、機体を弾き飛ばす。

 

 

「……っ、この!!」

 吹き飛ばされながらも自慢のスラスターで機体の制御をしながらザンバスターを構えるケイ。

 しかし放たれたビームライフルはクロスされた腕で受け止められてしまった。完成度が高い証だ。

 

 GBNのガンプラの強さは、作ったガンプラの完成度に依存する。

 

 

 

「……お、オーバーダメージ。左腕が」

「ど、どうしたのケイ君?」

「左腕をやられた……」

 一度の攻防。一撃の攻撃だったが、ダメージを受けたストライクBondの左腕は操作不能に陥っていた。

 それだけの威力を放てる程に、彼女のガンプラは完成されている。

 

 

「その程度っすか。威勢の割には甘々っすねぇ」

「……まだ始まったばかりだろ」

 強がるケイだが、これだけの攻防で彼には分かっていた。彼女が口だけで他人の事を馬鹿にしている訳ではないという事が。

 

 

 全身のデティールへの拘りや、甘えを許さない繋ぎ目消しに塗装。

 ビルダーとしての腕に多少なりともの自信があるケイだが、目の前の彼女は格が違う。

 

 

「……いいや、一撃当てれば分かるっすよ」

 そんな彼女───ニャムは目を細めて低い声でそう言った。

 

 

「フェイズシフト装甲を有するストライクなのに格闘攻撃で一撃で動かなくなる左腕。悪くはないっすが、ビルダーとしての腕は半人前っす」

「そんな事分か───」

 続く言葉に言い返そうとするケイだが、ニャムはそんな彼の言葉を遮ってさらにこう続ける。

 

 

「───それ以前に、その無駄なカスタマイズをするガンプラへの愛が雑っす」

 低い声でそう告げるニャム。彼女の言葉に、ケイは「な……」と口を開いて固まった。

 

 

「クロスボーンガンダムのバックパック……。確かにX字の大型スラスターは木星重力下でも機動力を確保出来る素晴らしい発想による物っすが、それは本来クロスボーンガンダムが使用するために設計された推進器っす。そしてクロスボーンガンダムの重量は装備込みでも25t。対するストライクの重量はご存知っすか?」

「え? えーと、え?」

 唐突に問い掛けられたケイは戸惑って固まってしまう。一応、彼だってガンプラが好きでガンダムが好きだ。

 自分の愛機の事はそれなりに知ってはいたが、どうも困惑して言葉が出ない。

 

 

「約65tっす。クロスボーンガンダムの倍以上。全高だってストライクの方が大きい。……そんなストライクにクロスボーンガンダムのスラスターを装備しても、本来の性能の半分も引き出せるか怪しい所っすよ……っ!!」

 言いながら、彼女は地面を蹴る。同じく、ゴッドガンダムも地面を蹴って跳躍した。

 

 ストライクの上を取ったゴッドガンダムは、腰に装備されたビームサーベルを抜いて振り被る。

 ケイは推進器を全て左に向けて、目一杯スラスターに火を付けた。横移動でゴッドガンダムの攻撃を交わしながら、ビームライフルを放つ。

 

 

「単刀直入に! そのガンプラはストライクの万能性もクロスボーンガンダムの機動性も損なっている! 欠陥品って事っす!!」

 ライフルを屈んで交わし、そのまま地面を走ってストライクに肉薄するゴッドガンダム。

 懐に潜り込んだその手でザンバスターを掴むと、黄金に輝いた拳がライフルの銃身を握り潰した。

 

 

「……っ!」

 すぐさま頭部バルカンを放ちながら距離を取る。しかし直撃した筈のバルカンはゴッドガンダムに傷をつける事もなかった。

 

「なんて出来だよ……っ!」

 舌打ちをしながら潰されたザンバスターの銃身を切り捨て、ビームザンバーを展開する。

 三度肉薄してきたゴッドガンダムのサーベルとザンバーが鍔迫り合って火花を散らした。

 

 

「だから改造ガンプラは嫌いなんすよ! モビルスーツへの理解がまるでなっていない。兵器というのはその開発に沢山の人が関わって、計算され尽くした結果完成される物。そう、もう完成された物なんす。既に完璧、改良の余地なんてない。否、あんたらのやってるカスタマイズなんてのは改良ではなく改悪っす!! ガンプラはそのまま使ってこそ、その真の輝きが見れるんすよ!!」

 猛攻。鍔迫り合ってはいるが、圧倒的にゴッドガンダムがストライクを押している。

 

 

「だからジブンは、全ての改悪ガンプラ使いに引導を渡す!!」

 切り上げ。ゴッドガンダムのビームサーベルは、ついにビームザンバーの持ち手を切り裂いた。

 武器を失ったストライクは後ずさるも、逃げられる距離ではない。

 

 

「……っ!」

「そこです……っ!」

 ビームサーベルを放り投げ、片手を持ち上げるゴッドガンダム。その拳は黄金に光り、ストライクの頭部を鷲掴みにする。

 バルカンで引き離そうとするが、放たれた銃弾は全て蒸発した。ストライクの頭部を握り潰さんと、その拳が真っ赤に燃える。

 

 

「もし君がちゃんとエールストライクを使っていれば、さっきの石破天驚拳だって上昇で避けれたんすよ。エールストライカーにはそれだけの性能がある。……それを切って自分の自己満足でガンプラを改造した己のミスで君は負ける。モビルスーツの性能を生かさずに君は負ける!」

「なにを……」

「ケイ君……っ!」

 足掻こうとするが、ゴッドガンダムはストライクを頭ごと持ち上げて動けない。

 武器をなくして文字通り手も足も出なかった。

 

 

「これからは改造ガンプラなんて使わず、ちゃんと正規のガンプラでGBNを楽しむ事っすね。……終わりっす」

 低い声でそう言うと、ゴッドガンダムの拳が更に強く光り出す。ストライクの頭部は融解し始め、ケイのモニターは真っ赤な警告画面だらけになっていた。

 

 

「───ガンダムファイト国際条約第一条! 頭部を破壊された者は失格となる!」

「なんの話!?」

「アニメの話!」

 ユメの質問に答えながらも何かないのかと模索するケイ。

 

 

 

 確かに彼女の言う通り、俺は未熟なんだろう。

 それでも、守りたい信念があるんだ。負けたくない。負けられない。

 

 

 

「ジブンのこの手が真っ赤に燃える! 勝利を掴めと轟き叫ぶ!! ばぁぁぁくねぇつっ!!! ゴォォォッド───ファンガァァァアアアアッ!!!!」

 ゴッドガンダムの拳が炎を放つ。爆炎がストライクを包み込み───

 

 

「───勘違いするな……っ!!」

 ───ゴッドガンダムが弾き飛ばされた。

 

 

「……な、何が起きたっすか!?」

 爆煙の中から弾かれたゴッドガンダム。ニャムは自分の機体がなぜ吹き飛んだのか分からずに辺りを見渡す。

 しかし視界に入るのは煙に包まれたストライクだけだ。煙の中から漏れるメインカメラの光がゴッドガンダムを睨んでいるように見える。

 

 

「倒せていない……? き、君……一体何をしたんすか?」

 武器もなしに反撃なんて出来なかった筈だ。なのに、どうして? 

 そんな疑問は爆煙が晴れ始めて視界に映るストライクを見て晴れる。ストライクが何かを持っていた。

 

 その何かは機体の腕と同じ程度の大きさで、今度は何処にそんな武器を隠し持っていたのか疑問に思う。

 しかし視線を持ち上げると、その答えはすぐ側にあった。

 

 

「左……腕?」

 爆煙の晴れた平原に立つストライクは、左腕の肘から先が無くなっている。

 ストライクが手に持っていたのは自身の左腕だった。それでゴッドガンダムを殴ったのである。

 

 

「なんでストライクでシロー・アマダみたいな事してるんすか!!」

「……これはガンダムファイトじゃない」

 驚くニャムに、ケイは静かにそんな言葉を投げ掛けた。

 

 同時にストライクはスラスターを吹かせ、ゴッドガンダムに肉薄する。

 怯んだニャムは両手を交差してガードの体勢を取った。

 

 

「武力介入でも、戦争でもない!!」

 右腕を振り上げて、手に持った左手を叩き付ける。衝撃で地面がえぐれ、ゴッドガンダムが膝を着いた。

 

「だったらなんだって言うつもりすか!!」

 言い返しながらモニターに映る警告表示に冷や汗を流す。

 反撃の為に両手を開いた。

 

 

「これは───」

「この……っ! どこからそんなパワーが……っ!」

 ゴッドガンダムの拳がストライクへと向かう。しかしその前に、ストライクの()がゴッドガンダムの頭部を殴り飛ばした。

 

 

 

「───ガンプラバトルだぁ!!」

 殴り飛ばされたゴッドガンダムが地面を転がる。

 

 

 巻き起こった風に、マントが揺れていた。




改造ガンプラキラーの名は伊達じゃない。
そんな訳でバトルシーンが続きます。ガンダムのバトルシーンって書くの大変ですね……っ!
前回の更新でランキングに乗せてもらいました。本当にありがとうございました。

今回はニャム・ギンガニャムのキャラデザを公開します。

【挿絵表示】

ミス属性過多って感じですね。ネコ耳はネタバレ()


読了ありがとうございました!


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ガンプラは自由だ

 ガンプラは自由だ。

 いつか、誰かがそう言ったという。

 

 

「アオトのストライク、沢山改造されてるな」

「父さんに色々アドバイスを貰ってるからさ」

 ストライクのガンプラを眺めながら、二人の少年が談笑していた。

 

「あ、これはアーマーシュナイダーか」

「そうそう、ストライクといえばね。そんでこっちは───」

 ガンプラの改造の話で、少年達は時間も忘れて語り合う。

 

 

 それ程までに夢中になった。ガンプラを触るのが楽しかった。

 

 

 だから───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 マントが揺れる。

 

 

「───これはガンプラバトルだ!!」

 ケイの叫びに、目を見開いて固まるニャム。

 少年の言葉の意味は、分かるようで分からなかった。

 

 

「な、何を言ってるっすか。そりゃ……これはガンプラバトルっすけど」

 彼の言う通り、彼女達がしているのはガンプラバトルである。

 しかし、だから、どうしたというのだ。

 

 

「……大体。なんだって理由でも! ガンプラを改悪する事を認める訳にはいかないっすよ!!」

 ニャムは首を横に振って、姿勢を直して構え直す。

 

 突然動きが良くなった訳でもない。ただ不意を突かれただけだ。

 あんな改造ガンプラにジブンが負ける訳がない。

 

 

 

「俺は、俺のガンプラを否定させない……っ!」

「君が正しいって言うんなら、ジブンに勝って証明してみせろってんですよ!!」

 地面を蹴って、ゴッドガンダムがストライクに肉薄する。

 対するストライクは、左腕をゴッドガンダムに投げ付けながらスラスターを吐かせて上空に飛び上がった。

 

 

「こんな物!」

 飛んで来た腕を殴り飛ばして、ニャムは両手を合わせて構える。その構えについさっき見覚えがあるユメは嫌な予感がして冷や汗を流した。

 

 

「ケー君!」

「分かってる……っ!」

 流派東方不敗最終奥義。あの拳の形をしたエネルギーの塊が頭に浮かぶ。

 

 ニャムの言う通り、ケイのクロスボーンストライクBondは本来の姿であるエールストライクよりも上昇性能は低い。

 さっきと同じように上昇で避ける事の出来ない高度への攻撃をされてしまえば、待っているのは同じ結末のように思えた。

 

 

 

「流派東方不敗不敗が最終奥義! 石破ァ……天驚拳!!」

 合わせた拳を突き出して放たれる石破天驚拳。

 ストライクBondの上昇を読み、上空には逃げられないように退路を断つ。

 

 

「上に逃げられないなら……っ!!」

 ケイはX字のスラスターを()()()()()()()

 

 一度目は下降で攻撃を避けたが、今度は違う。

 スラスターは一気に火を拭いて機体は下に急降下した。一瞬で着地したストライクは、地面を蹴って前進する。

 

 

「早い!?」

 その速度は完全にニャムの想定外だった。

 

 確かに上昇性能は、元のエールストライクの方が高かったかもしれない。

 しかし本来木星圏の高重力下での運用を前提としたこのクロスボーンガンダムのスラスターは、左右上下にスラスターを可動させる事が出来る。

 これは推進力ではなく、推進ベクトル───機体の姿勢制御性に重きを置いた設計だ。大型のスラスターを持つエールストライカーとは用途の()()()()が異なる。

 

 

「───違う、早さじゃない。動きが細かいって事すか……っ!」

 上昇性能も機動力も、確かにストライクにはエールストライカーが最適だ。

 しかし、姿勢制御においてはクロスボーンガンダムの推進器がその上を往く。

 

 

 X字の先端にあるスラスターを左右上下に細かに微調整しながら、ストライクはゴッドガンダムに肉薄し───蹴りを入れた。

 ゴッドガンダムが宙に浮く。そのまま回し蹴りを入れて、機体を吹き飛ばした。

 

 

「モビルファイターでストライクに格闘戦で負ける!? ジブンが!? そんな事……。いやいや、いかにフェイズシフト装甲で強化されているとはいえ大ダメージは与えられない。大丈夫。落ち着けジブン……ッ!」

 しかし、ニャムは直ぐに姿勢を立て直して構える。対するストライクは左腰に手を向け、ホルダーに収納されていた武器を取り出した。

 

 

「アーマーシュナイダーすか……」

 アーマーシュナイダー。

 ストライクのサブウェポンとして装備されている、超硬度金属製のナイフである。

 それもただの実剣兵器ではなく、超振動モーターにより刀身を高周波振動させ通常装甲ならいとも簡単に切断する強力な兵器だ。

 

 アーマーシュナイダーはストライクの両腰のホルダーに一つずつ収納されている。

 それに加えてストライクの武器は頭部のバルカン───イーゲルシュテルンのみだ。

 

 

「───負ける要素はない」

 深く息を吸って、吐く。目の前の敵に集中。

 

 ビームザンバーを破壊した事により今のストライクに武器はあまり残されていない。

 残りの武器にさえ気を付ければ、そもそもストライクにゴッドガンダムを倒す術がないのだ。

 

 

 

「あんたは、自分に勝って証明してみせろと言ったな?」

「……言ったっすよ」

 強気な言葉にニャムは冷や汗を流す。

 

 どこからそんな自信が湧いてくるんだ。

 彼はこの状況で勝つ気でいる。まるで、ガンダムの主人公みたいに───

 

 

「───だったら、俺があんたを撃つ!!」

「世迷言を!!」

 ストライクが地面を蹴った。マントが揺れる。

 

 

「くらえ!」

 そして、最初の行動にニャムは再び目を見開いて驚いた。

 ケイはアーマーシュナイダーをゴッドガンダムに投げ付けたのである。

 しかしニャムがそんな単純な攻撃を弾けない訳もなく、アーマーシュナイダーはあっさりと弾かれて地面に落ちた。

 

 

「そんな単純な攻撃で!」

 なおも接近するストライクに対して構えるニャム。

 何かがおかしい。何がおかしい。何を狙っている。分からない。

 

 

「あんたの言う事は確かに分かる。ストライクもゴッドガンダムも、確かに改造なんてしなくても良い機体だ!!」

 ケイはストライクが羽織っているマントを掴んで、今度はそれを投げ付けた。

 目眩し。そこからアーマーシュナイダーで強襲を仕掛けようというつもりか。しかし、マントなんて直ぐに退かして迎撃すれば良い。

 

「だってんなら、ジブンの言う意味を分かれってんですよ!!」

 マントをゴッドガンダムの腕で払う。視界は簡単に開けた。気を付けるのはアーマーシュナイダーだけ───

 

 

「それでも───」

「───え」

 ───視界に熱が映る。

 

 ストライクはアーマーシュナイダーを持ってはいなかった。代わりにその手に握られていたのは、白い棒状の兵器。

 

 

「ビーム……サーベル?」

「───これはガンプラバトルだぁ!!」

 熱の光を放つ刃(ビームサーベル)がゴッドガンダムを斬り裂く。

 

「なん……で」

 肩から腰までを完全に捉えた光の刃。

 斜めに両断された機体は、火花を散らしながら光を失っていった。

 

 

「……そんなバカな」

 ニャムがそんな言葉を落とすと同時に、ゴッドガンダムは爆散する。

 

 

 

 BATTLE END

 

 勝者ケイ。ストライクBond。

 

 

 

 

 

 

「なんで……どうして。ジブンが、改造ガンプラなんかに負けるなんて……」

 バトルに負けたニャムはその場に座り込んで頭を抱えていた。

 そんな彼女の元に、ケイとユメはゆっくりと歩いていく。

 

 

「確かに、あなたの言うことは一理あると思う。あなたに言われて初めて気が付いた事もあったよ。……モビルスーツには、その物語で造られた想いや願いが込められている。設定も、設計も、変えなくたってその機体はもう素晴らしいって……そんな事は分かってる。だから俺達はガンダムが好きなんだ」

 ケイのそんな言葉にニャムは顔を上げて「なら……どうして!」と声を上げた。

 

「それでも……何度でも言う。これはガンプラバトルだ」

 続くケイの言葉にニャムは固まってしまう。

 彼の言っている意味が分からない。

 

 

「ガンプラを作るのは俺達だ。物語の登場人物達じゃない。ガンプラに想いを込めるのは俺達だろ?」

「それは……」

 いつか少年達も彼女と同じ事を思う事があった。

 

 ガンダムが好きだからこそ、ガンプラを壊したり改造したりする事に悩んだ事もあったと思う。

 だからこそ───

 

 

「───だから、俺が……俺達が。このモビルスーツを造った人達に負けないくらいの想いを込めてガンプラを作るんだ」

「これは戦争でもガンダムファイトでもない……っすか」

 少しだけ、少年の言っている意味が分かった気がした。

 

 

 

 GBNはガンプラの世界であってガンダムの世界ではない。

 

 戦争が起きている訳ではないし、この世界でモビルスーツが開発されている訳ではない。

 ガンプラを作るのは自分達ビルダーで。その想いを込めるのもまた自分達なのである。

 

 

 これはガンプラバトルだ。

 

 

 

「……って、偉そうに言っちゃったけど。勿論あなたの言う事も分かりますよ! ゴッドガンダムも凄い完成度だし……。でも、お……俺だって結構考えてガンプラを作───」

「ニャムっす。あなたじゃなくて」

 起き上がって、彼女はそんな言葉を漏らしながらストライクを見上げる。

 

「え、あ……はい?」

 片腕は簡単に壊れるし、繋ぎ目消しもまだ甘い。

 塗装も、組み立ても、褒められたものじゃない。だけど───

 

 

「───良いガンプラっすね」

 込められた想いだけは強く感じた。きっと、その想いに負けたのだろう。

 

 

「腰に装備されたアーマーシュナイダーのホルダー。片方だけビームサーベルを隠してたんすね。……用途によって装備を切り替える。ストライクらしい素敵な発想っす」

「……あ、ありがとう。でもこれは、俺の発想じゃないんなけど」

 頭を掻いてそう言うケイは、このストライクをアオトから受け取る前の事を少しだけ思い出した。

 

 

 

「アオトのストライク、どんどん改造されてるな」

「父さんに色々アドバイスを貰ってるからな」

「あ、これはアーマーシュナイダーか」

「そうそう、ストライクといえばね。そんでこっちは───ビームサーベルを入れておいたんだ。ビームと実剣で、要所要所に対応できるようにな!」

「そんな事も出来るのか。へー、ここを削ってビームサーベルが入るようにしてるのか」

「凄いだろ。ガンプラは、自由なんだ!」

「なるほど、左がアーマーシュナイダーで右がビームサーベルを入れてるんだ。なるほどなるほど」

「……って、ケイスケ! ズルいぞ!!」

 この想いは、アオトの物だろう。その想いが、自分を押してくれた。

 

 

 

「……なるほど。自分の想いを機体に込める。それがガンプラバトル。GBNのガンダムって事っすね。郷に入れば郷に従え、か。……間違っていたのは自分だったと」

「そんな事……ないと思います!」

 どこか遠いところを見ながら小さなため息を吐いて呟くニャムに、ユメがそう話し掛ける。

 ニャムは座り込んだまま、その首を横に傾けた。

 

「私、ゴッドガンダム……? の、アニメは見てないけど。……ニャムさんがこのガンダムの事、凄く好きなんだって伝わってきたから」

「ジブンは……」

 ガンダムが好き。

 ずっとその気持ちだけは変わらなくて、譲れなくて。

 

 

「いつか、友達が言ってたんです。……ガンプラは自由だって」

「ガンプラは……自由」

「ケー君のガンプラも、ニャムさんのガンプラも、私はとっても素敵だと思う。どっちも、自分の……ガンダムが好きって気持ちが沢山込められてて!」

 そう言いながら、ユメは座り込むニャムに手を伸ばす。

 ニャムはその手を取って、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

ここ(GBN)は好きな自分で居られる場所、なんだって。私も……GBNでの私が好きです。自分の足で歩けるこの身体が好き。ここは、自分の好きを表現する場所だから!」

「自分の好きを……表現する場所」

「だから、ニャムさんの考えも間違ってないと思います。勿論、ケー君のガンプラも」

 ニャムはそんなユメとケイを見比べて「完敗っすね」と目を瞑った。

 

 

「ケイ殿」

 ニャムはケイの目を真っ直ぐに見てから頭を下げる。

 

「ガンプラをバカにして、すみませんでした。ストライクというモビルスーツに込められた気持ちと同等か、それ以上の気持ちが込められた素晴らしいガンプラだったっす。……正直、ガンプラに込める想いは完敗致しました」

「そ、そんな謝らなくても。俺は……俺の信念を通しただけというか。……正直、勝てたのも奇跡って───ん?」

 平謝りをされて流石に驚くケイだが、頭を下げ続けるニャムの帽子が地面に落ちてその中身に驚いて開いた口が塞がらなかった。

 

「あ、可愛い」

「───ぇ、あ……うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 帽子が落ちている事に気がついて、ニャムは絶叫しながら慌てて帽子を拾う。

 その頭の若葉色の髪の上にはモフモフとした獣の耳───ネコミミが付いていた。

 

 

「……ネコミミ?」

「GBNのアクセサリーみたいな物なんだって、マギーさんが言ってた。私も付けてみようかなー、可愛いなぁ」

 首を横に傾けるケイの横で、ユメがそんな説明をしてくれる。

 いつのまにそんな知識が、なんて思ったがそれよりも今は目の前でワナワナと震えているニャムの方が気になった。

 

 

「あ、あの……ニャムさん?」

「……ぉ、お……おぉ、お……お───」

「お?」

「───覚えてろぉぉぉおおおお!!!」

「「えぇぇえええ!?」」

 突然泣きながら奇声をあげて走り去るニャム。突然の事に二人は彼女を追う事も出来ずに、二人で目を見合わせて笑った。

 

 彼女とはまた会える気がする。

 

 

 

「……好きな自分で居られる場所、か」

 きっと、直ぐに。

 

 

 

 

 

 

 GBN。メインフロア。

 

 

「ケイスケぇ……ユメカぁ……どこ行ったんだよぉ」

 そういえば彼の事を忘れていた、と。その後急いでメインフロアに向かった二人がタケシに凄く怒られたのは、また別の話だ。




ガンプラ作品を書くならこのテーマを絶対に書きたいと思っていたテーマのお話でした。自分の好きを貫く人が好きだし、譲れない好きを巡って信念をぶつけ合う人達も好き。ニャムにはそんな人になって貰いたいですね。

さてそんな訳でVS改造ガンプラキラーのお話でした。次回からはまた別のお話。読了ありがとうございました!


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大切な姉妹と

 GBNメインフロア。

 

 

「ったく、昨日は遅刻で今日は休みとは」

「それは本当にごめん。でも、ユメカも謝ってたから許してあげてくれよ」

 渋い顔を見せるロックに、ケイは手を合わせながら頭を下げる。

 

 ニャムと戦った次の日。

 GBNにログインしていたのはロックとケイだけだった。

 

 

 

 その訳は昨日まで遡る。

 

「ふぅ、お疲れ様」

「あはは、タケシ君に沢山怒られちゃったね」

「ごめんて……」

 ニャムとのバトルの後、遅刻してロックと合流した二人はその日一杯ロックに怒られながらミッションをこなしたのであった。

 ログアウトしたのは夕方の十九時で、急いで帰らないといけない時間である。

 

「……入ります」

 同時に、ドアノックがして部屋の扉が開いた。

 扉を開けたのはユメカの妹のヒメカで、並んで座っている二人を見て目を細くする。

 

 

「何してるんです」

「ゲーム、かなぁ。ごめんごめん。もう帰る時間だよ───っうわぁ!?」

 そんなヒメカを見て冷や汗を流すユメカは()()()()()()()()()盛大に床に転がり落ちた。

 現実では立てないという事を、偶に忘れてしまう

 

「お、お姉ちゃん! 大丈夫!?」

 そんなユメカにヒメカは直ぐに駆け寄って、彼女はケイスケを睨み付けた。

 どうやら彼が悪い事にされているらしい。ケイスケは両手を上げて首を横に振る。

 

「大丈夫だよ、転んじゃっただけ。ごめんねケー君、手伝ってくれない……?」

 大丈夫とはいうがこうなると自分で車椅子に乗るのは難しいので、ユメカはケイスケにそう頼み込んだ。

 断る理由なんてないのだが、二人の間にヒメカが入って「私がやるから大丈夫です」とケイスケを睨む。

 

 まだ中学生で体も小さいヒメカだが、一緒に暮らしているので慣れているのか手際よくユメカを車椅子に乗せる事が出来た。

 

「ふぅ……ふぅ……」

 勿論腕力がないため大変なのだが。

 

 

「だ、大丈夫か……?」

「大丈夫……です」

「ご、ごめんねヒメカ。私ダイエットした方が良いかな……」

「そういう問題じゃないだろ」

 苦笑いするケイスケだが、息を荒げてでも姉の世話をする妹を見て微笑ましいくなって少し笑う。

 そんな彼を見て「なんです」とケイスケを睨むヒメカだったが、彼女は唐突に俯いて黙り込んでしまった。

 

 

「ヒメカちゃん……?」

「明日も……お姉ちゃんはゲームするの?」

 どこか寂しげな声に、二人は目を見合わせてハッとする。

 

 そういえば最近、ユメカはGBNに夢中で妹と出掛けることも少なくなっていた。

 ガンダムが嫌いという事よりも、今の彼女はきっと寂しいのだろう。

 

 

「……ケー君。ごめん、明日───」

「良いよ。タケシには俺が謝っとくから」

 言い切る前に、ケイスケは二人を見ながらそう返事をした。ヒメカはそんな二人を見て首を横に傾ける。

 

 

「ヒメカ、明日……お姉ちゃんと隣町のデパートでデートしよっか」

 そんなユメカの言葉に、ヒメカは目を輝かせて目一杯の笑顔を見せるのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 日曜日。楽しそうな鼻歌が道路を歩く。

 

 

 車椅子を押すヒメカは白色のカーディガンを着て、周りの中学生よりもお洒落な格好で歩いていた。

 機嫌良く鼻歌を歌うヒメカを見上げながら、ユメカは「楽しそうだね」と笑う。

 

 ここ数週間GBNに夢中で、こうして妹と遊ぶ時間が少なくなってしまっていた。

 姉失格だな、と反省しつつも。妹に気を遣われないように自分も笑って楽しんだ方が良いのだと笑う。

 

 

「だって、お姉ちゃんとお出かけなんだもん!」

 それだけで嬉しいとでも言うように、ヒメカは満面の笑みで姉と視線を合わせた。

 歳相応の笑顔を見せる妹にユメカは少しだけホッとする。妹は少しませているので、表ではあまり笑顔を見せない。

 

 だけど、姉といる時だけはこうして笑ってくれるのだ。それは、それだけ姉の事が好きだという事で。姉としてはそれが少し心配でもあり嬉しくもある。

 

 

「そっかそっか。でもせっかくの日曜日に私と遊んでて良いの? お友達は?」

「いないよ?」

 真顔でそんな言葉が帰ってきたので、ユメカは口を開けたまま固まってしまった。

 確かにヒメカが友達と遊んでいる所は見た事がないが、それでもまさか「いない」と言われるとは思っていなかったのである。

 

「だって皆子供っぽいんだもん。漫画とかゲームの話しかしないし」

 ませてるなー、とユメカは心の中で苦笑いをした。

 

 

「だから、こうやってお姉ちゃんとお話しする方が楽しいよ!」

 そう言って笑うヒメカの笑顔はとても無邪気で、良い意味で子供っぽい。そんな妹がとても可愛く見える。

 

 昔からヒメカはこうやって姉にピッタリとくっついていた。

 あの事故が起きて、一番ユメカを気に掛けていたのはヒメカだっただろう。大好きな姉が下半身不随になって、姉の世話に必死になった。

 

 

 だから、忙しくて。

 今こうして友達がいないと言ってしまうのは、そのせいなんじゃないか。ユメカはそう思って、少しだけ俯く。

 

 

「お姉ちゃん?」

「……ううん。なんでもないよ。あ、ほら、デパートが見えてきたよ! ヒメカ」

 だけど、これ以上妹に気を遣わせる訳にはいかない。彼女は罪悪感を振り払って、妹に笑顔を見せた。

 

「ちょっと早いけどお昼ご飯休憩にしよっか」

「うん!」

 車椅子生活なので、バスや電車を使うのは少しだけ勇気がある。

 だから今日は歩いて隣町まで来たのだが、少しだけ時間が掛かってしまった。

 

 ヒメカも車椅子を押してくれていたし、疲れているだろう。

 そう思って、二人はデパートに到着するやいなやお昼ご飯を食べる事に。

 

 

 デパートは三階建てで、なんでも最近オープンしたばかりとかで賑わっていた。

 一階のフードコートに立ち寄ると、まだお昼には早い時間なのに人が溢れ返っている。

 

「うわ……これは少し厳しいかも」

 車椅子という事もあり、この人混みはユメカに少し厳しい物があった。

 しかし、ヒメカが「少し待ってて、お姉ちゃん」と前に出る。

 

 

「車椅子通るです! 道、開けて下さい……っ!」

 ヒメカは目一杯の大声でそう叫んだ。彼女の必死な声に、フードコートの人達は道を譲ってくれる。

 

「ありがとう、です。……お姉ちゃん!」

 空いているテーブルを見付けて椅子を退かし、手際よく車椅子を押すヒメカ。

 あまりの手際の良さに感心している間に、ヒメカはユメカから食べたい物を聞いて注文を取ってきてしまった。

 

 

 遊べなかったお詫びに甘やかせてあげようと思ったいたのに、妹に甘やかされてる気がして気が引ける。

 だけど、とても嬉しそうに笑顔で歩き回る妹を見てそんな気持ちは何処かへ行ってしまった。

 

 一緒にいるだけなのにそれだけで笑顔になってくれるのが嬉しくて、つい自分も笑ってしまう。

 

 

「このパフェ美味しいよ! お姉ちゃんも食べる?」

「え、じゃあ貰っちゃおうかな。私のも少し食べる?」

「うん!」

「はい、あーん」

「あーん! えへへ、美味しいね! お姉ちゃん!」

 パフェを頼んだ二人はお互いのパフェを食べ比べあって、ゆっくりと昼食を楽しんだ。

 せっかくだし何を話そうかなと考えて、ユメカは話題を切り出す。

 

 

「学校は楽しい?」

 選んだのは学校の話。自分のせいで学校を楽しめてないんじゃないかという不安が、自然とそんな質問を口にしてしまった。

 楽しい会話をしたかったのにこの話題はなかったかな、と内心反省する。

 

「楽しいよ!」

 しかし、帰って来たのは意外な反応だった。

 友達がいないと言っていた妹の意外な答えに、ユメカは「え?」と聞き返してしまう。

 

 

「お勉強沢山してね、良い学校に行くの!」

「そ、そうなんだ。ヒメカ、何か夢でも出来たの?」

「夢じゃない……けど」

 突然もじもじとする妹が可愛くて、ユメカは「何々、教えてよ」と口角を吊り上げた。妹の成長というのはやっぱり嬉しい。

 

 

「……お医者さんになって、お姉ちゃんの足を治すの」

 しかし、歳の割に決意めいた声でそう漏らすヒメカにユメカは唖然としてしまう。

 どうしてそこまでして、なんて思ってしまったけれど答えは簡単だった。ヒメカは姉の事がそれだけ大好きなんだ。

 

 だから、あの事故の事を一番気にしている。あの事故の原因になった幼馴染み達とガンプラが嫌いなんだ。

 

 

「ヒメカ……」

「お姉ちゃんはまだ、飛行機のパイロットになりたいんだよね?」

「え、ぁ……ぅ、うん」

 唐突なヒメカの質問にユメカはたじろぎながらもそう答える。

 

 ユメカの夢はずっとパイロットだった。

 その夢はあの事故で叶わなくなって、だけどヒメカはそんな自分の為に自分の生涯を賭けようとしてくれている。まだ中学二年生の女の子なのに。

 

 

 それが辛くて、ユメカは机に伏せた。

 

 

「……ごめんね」

 元気でいたいのに、耐えられない。

 

 

「お姉ちゃん……?」

 でも、私はお姉ちゃんだから。

 

「ううん。……なんでもない。あのね、お姉ちゃん頑張るからね。……だから、私はヒメカにも楽しんで欲しい。もっと自分の為に生きて欲しい」

「私はお姉ちゃんと遊べたらそれで良いもん。えへへ」

 嬉しそうに笑うヒメカに、ユメカは涙を拭いて前を向く。

 

 

 ヒメカがこの先どうするかなんて、まだ全然考える時間はあるんだ。

 自分がしっかりしないでどうする。そう思って、ユメカは自分の頬を叩いた。

 

 

「お姉ちゃん?」

「よし、今日は遊ぼっか!」

 そう言って、彼女は車椅子を動かす。まずは服を見ようとフードコートを後にした。

 

 

「ほらほらこの服、ヒメカに似合うと思うなぁ」

「わ、私のは良いよお姉ちゃん! お姉ちゃんの服みようよ……っ!」

「えへへー、良いから良いから。ほらこの服も可愛いい。絶対にヒメカに似合う。お姉ちゃんが保証する!」

「……どうかな?」

「天使か」

「えへへ、ありがとうお姉ちゃん」

 試着室で色々な服を着るヒメカは自然と笑顔になって、彼女の年相応な反応にユメカは少しだけ安心する。

 

 いつかヒメカにも夢を持って欲しい。

 自分の為に生きて、楽しんで、もしかしたら恋をしたりして。

 

 

 そんな大切な妹の人生を自分のせいで台無しになんてしたくない、な。

 

 

 

「これ! お姉ちゃんこれ! お揃いで買お!」

 雑貨屋に来たヒメカは、赤いリボンの髪飾りを手に取って目を輝かせた。

 女の子らしい反応にユメカは笑みを見せて「可愛いね。一緒に買おっか」と答える。

 

 お揃いの髪飾りを満面の笑みで付けたヒメカは、少し歩いて玩具屋の先にあるゲームセンターで足を止めた。

 ヒメカがゲームに興味を持っているのかと少し意外に思ったが、彼女の視線の先にある物を見てユメカは納得する。

 

 

「プリクラ、取りたい?」

「でもお姉ちゃん……」

 俯くヒメカの視線は車椅子に向けられていた。座ったままではプリクラは取れないのだと───彼女はそう思っているのだろう。

 

「ふっふっふ。ヒメカ、最近のプリクラは凄いんだよ」

 ユメカはそんなヒメカの手を取って、自分で車椅子を動かして妹の手を引っ張った。

 困惑するヒメカをプリクラの機械に招き入れると、彼女は驚いた顔で固まる。

 

 

「広い……」

「でしょ。カメラも動かせるんだよ」

 プリクラの機械はとても大きくて、座るスペースもあった。

 機種にもよるが、今は座ったままプリクラを取れる機械もある。これは、ユメカが高校の友達と発見した事だ。

 

「今日は二人で撮るけど、これだけ広いんだからいつか友達と集まって撮るのも良いかもね」

 ユメカはそう言いながら設定をする。姉とプリクラを撮るのが嬉しいのか、ヒメカは少し顔を赤くしてはにかんでいた。

 

 

「よーし、撮るよ」

「うん!」

 ヒメカはユメカに抱き付いて、今日一番の笑顔を見せる。カメラが起動して、その笑顔がモニターに映った。

 写真を見るヒメカもまた嬉しそうである。

 

 何枚か取れた写真に落書きをして、二人はそれを印刷した。

 宝物にすると大事そうにプリクラを眺めるヒメカに、ユメカは「大袈裟だなぁ、もう」と言葉を漏らす。

 

 

 

 私が今出来るのは、俯かない事だけだ。

 私が落ち込んでもどうしようもないし、そんな私の為に誰かが自分のしたい事が出来なくなるなんて嫌だから。

 

 夢を失うのは私だけで充分。ヒメカにはいつか自分の夢を持って欲しい。

 

 

 私は大丈夫だよ、ヒメカ。

 

 

「お姉ちゃん!」

「何? ヒメカ」

 だから、ヒメカは自分がしたい事を探して。

 

 

「私、お姉ちゃん大好き!」

「うん。私もヒメカが大好きだよ」

 私もね、頑張って私のしたい事を探すから。




突然のキサラギ姉妹デート回でした。仲睦まじく微笑ましいですね。

もう少しだけ続きます。


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ガンプラとトラックと

 路地裏を走るトラックの助手席で、男は眠たそうな表情で運転手の肩を叩いた。

 

 

「スピード出し過ぎよ」

「大丈夫っすよ! この辺人通りないんで!」

 運転手は男の言葉にそう返してハンドルを握る。

 

 男は「元気なのはいい事だけどねぇ」と窓の外を見ながら自分の耳に小指を突っ込んだ。

 

 

 とある運送業者の事務員である男は、そのトラックが向かう取引先に用事があったので助手席に乗っている。

 普段一人で仕事をさせているドライバーの社員は、裏道も知っていて運転も上手かった。狭い道で大型のトラックをしっかりと運転するその姿は頼もしい。

 

 確か彼は入社した時「自分は車の運転が好きです」と言っていた事を思い出す。

 新入社員だった頃のドライバーを思い出しながら、ふと道路に視線を戻したその時だった。

 

 

「……ガンプラ?」

 道路の右側にあるプラモ屋から、何か小さな物が転がって来るのが見える。

 ドライバーはそれに気が付いていないようで、男はドライバーの肩を叩きながら「止まれ!」と声を上げた。

 

「───え? うわぁ!!」

 同時にプラモ屋から一人の女の子が飛び出して来る。

 ドライバーはブレーキを踏みながらハンドルを切るが、トラックは少女を轢いて道路を血の海に変えた。

 

 

 

「ユメカ……ユメカ!!」

 プラモ屋から、轢いてしまった少女と同い年くらいの男の子が飛び出して来る。

 女の子は血だらけで横たわっていて、男の子は青ざめていた。

 

 

「……な、なんてこった。ひ、ひぃ……ど、どうしたら……どうしよう!」

「あらら……これはヤバいな」

 片目を瞑って頭を掻く男は、直ぐに携帯を取り出して救急車を呼ぶ。

 ドライバーは事の重大さにパニックになっていて、男はそんな男性の替わりにサイドブレーキを掛けてトラックから降りた。

 

 

「……ガンプラ」

 女の子の元に駆け寄ると、彼女は大事そうにガンプラを抱え込んでいる。

 そんな姿が見ていられなくて、男は女の子から目を逸らした。

 

 

「ユメカ! ユメカ!」

「待て君。おじさんが救急車を呼んだから、下手に触るな。お医者さんに任せるんだ」

 女の子に泣き付く男の子を引き剥がしながら、男はトラックの運転席に視線を向ける。

 

 

 運転手は顔を真っ青にして固まっていた。

 この事故で運転手はおろか会社にも暗い未来が待っているだろう。

 

 ガンプラを握る少女を見て、男はどこか明後日の方を見ながら小さくため息を吐いた。

 救急車が走る音が聞こえる。トラックを退かさないとな。

 

 

 

「……ガンプラ、ね」

 事故後、彼等の勤める運送会社は倒産した。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 鼻歌混じりにプリクラの機械から出て来るヒメカは、取った写真を大事そうに鞄に仕舞う。

 ふと時計を見ると時刻は夕方前で、歩いて帰る事を考えるとそろそろ帰路につかなければいけない時間帯だった。

 

 

「お姉ちゃん、そろそろ帰る?」

 もっと姉と遊びたい気持ちがあるが、車椅子生活の姉にこれ以上無理をさせたくない。

 そんな想いからヒメカは自分から帰宅を提案するが、当のユメカは隣の玩具屋さんに視線を向けている。

 

「……お姉ちゃん?」

「あ、ごめんごめん。帰ろっか」

 ついつい玩具屋のプラモデルコーナーに視線を取られてしまった事を謝りながら、ユメカも時計を確認してそう言った。

 

 

「プラモデル見たいの?」

 しかし、ヒメカのそんな言葉にユメカは焦った表情で首を横に振る。

 今日は妹の為にお出掛けをしたのだ。自分の興味と用事を優先する訳にはいかない。

 

 

「……お姉ちゃんは、ガンダムが嫌いじゃないの?」

 しかし、唐突な質問にユメカは驚いて固まってしまう。

 

 ヒメカは事故の原因になったガンダムもガンプラも嫌いだ。

 それは彼女の優しさが原因でもある。事故にあったのは道路に飛び出した本人が悪い、なんて彼女には思えないのだ。

 

 

「……私は、ガンダムもガンプラも大好きだよ」

 だからこそユメカはそう答える。

 

 自分の嫌いな物を大好きな姉が好きという事実は彼女を傷付けるかもしれない。

 だけどそれ以上に、ガンダムを嫌いでいる事でこの先も妹に辛い思いをさせたくはなかった。

 

 だからユメカは、真っ直ぐに妹の目を見て口を開く。

 

 

「お姉ちゃん……」

「ガンダムもガンプラもね、作った人の気持ちが沢山篭ってるの。私が事故にあったのは、そんなガンプラを守りたかったから」

 あの日、道路に投げられたのはアオトがずっと使い続けて自分なりの想いを込めて作ったガンプラだった。

 

 その頃は別にガンダムにもガンプラにも興味はなかったけれど、幼馴染み達がとても楽しそうに遊んでいるのが印象的だったから。

 今ガンプラに関わって、遊んでみて。その気持ちも少しずつ分かってきたからこそ、彼女はそう言ったのだろう。

 

 

「私は……」

「ねぇ、ヒメカ。ヒメカも一緒にガンプラ作ってみない? 偶に私の飛行機のプラモ作り手伝ってくれるよね? 私、実はまだ自分でガンプラ使った事ないんだよね」

 ユメカは昔から航空機が好きでよくプラモデルを作ったりもしていたのだが、ヒメカもプラモデル作りを手伝ったりした事はあった。

 それと同じ。それで良いから、ガンプラの魅力を妹にも伝えたい。そう思って、ユメカはそんか提案をする。

 

 

「お姉ちゃんと……プラモデル作り」

 ユメカの提案に、ヒメカは目を泳がせた。ガンプラは嫌いだけど、姉と一緒にプラモデル作りが出来るという葛藤に心が揺らぐ。

 

「嫌?」

「い、嫌じゃないよ!」

 姉の上目遣いにヒメカは反射的にそう答えた。

 嫌かどうかといえば分からないが、姉と一緒に何か作業が出来る。それだけでもヒメカは嬉しかった。

 

 

「よーし、それじゃガンプラ買おっか!」

 ユメカのその言葉に、ヒメカは車椅子を押して玩具屋のプラモデルコーナーに向かう。

 お店の奥に鎮座するプラモデルは棚に数えきれない程並んでいた。それを見て、ユメカは困った表情を見せる。ヒメカはそんな彼女を見て首を横に傾けた。

 

「お姉ちゃん?」

「あ、いや……どのガンプラを買おうかなって」

 ガンプラはスタンダードなHG(1/144スケール)の物だけでも、千種類以上の商品が発売されている。

 勿論全ての店に全てのガンプラが置いてある訳ではないが、デパートの中の小さな玩具屋ですらその品数は目を回す程だった。

 

 

「お姉ちゃんが好きなガンダムで良いよ!」

「全部ガンダムって訳じゃないんだけどね。うーん、どうしようか」

 ユメカが知っているガンダム作品はSEEDとOOのアニメと劇場版だけである。

 知っている機体もチラホラあるが、特段どれが好きという訳でもなかった。

 

 

「お客さん、どうかなさいましたか?」

 そうして悩んでいると、店の店員が話しかけてくる。

 ユメカは自分達があまりガンダムを知らない事と、妹と作りたいという事情を簡単に説明した。店員は「なるほどなるほど」とお店の棚を物色し始める。

 

「それなら、このベアッガイは如何ですか?」

 そうして店員が棚から出したのは、カラフルな熊の親子のようなプラモデルだった。

 少しロボットチックな姿はしているが、自分の知る限りガンダム作品には登場しなそうな機体にユメカは目を丸くする。

 

 

「ナニコレ?」

「わー、熊さんだ! 可愛い!」

 対してヒメカはそのプラモを見て年相応の反応をした。テディーベアではないが、まるで熊のぬいぐるみのような感覚である。

 

「これはベアッガイといって、ガンプラのマスコットみたいなキャラクターなんだよ。組み立てるのも簡単で、女の子にも人気なんだ」

「簡単……」

 ベアッガイの説明をしてくれる店員の言葉に、何故かヒメカは眉間に皺を寄せて反応した。

 

 

 簡単という事は、直ぐに終わってしまうという事。それは、姉との時間が直ぐに終わってしまうという事。

 頭の中でそんな方程式を組み立てたヒメカは、大きく首を横に振る。

 

 

「難しいの! パーツが沢山あるプラモデルを下さい、です!」

 間髪入れずに、彼女は真剣な表情でそう言った。

 

「ヒメカ?」

「難しいの、ですか」

 ヒメカの反応に困惑するユメカと店員。理由は分からないがお客さんの要望に応えるのが仕事だと、店員は再び棚を物色し始める。

 

 

「パーツが多くて難しいというと、この辺ですかね。NT-Dバンシィとか」

 次に店員が取り出したのは、黒いガンダムのプラモデルだった。

 見た感じ武装も細かそうで製作は難しそうである。ヒメカはそのガンプラを見て「これです!」と声を上げた。

 

「えーと、バンシィ。……ガンダムUCって作品のガンダムなんだね」

 知らない機体なので、今度ケイスケに話を聞こうと思いながらレジに向かうユメカ。

 しかし、ふとヒメカを見てみると棚に戻されたベアッガイに視線を取られている事に気が付く。

 

 

 どういう理由か分からないけれど、本当はベアッガイも作りたいんじゃないだろうか。

 そう思ったユメカは自分で車椅子を押して、棚に戻った。そうして戻されたベアッガイのガンプラに手を伸ばすが、車椅子に座ったままでは手が届かない。

 

「お姉ちゃん?」

 レジで会計をしている店員の前で、ヒメカはそんな姉に気が付いて首を横に傾ける。

 

 

「んぬぬ───っあ?」

 必死に手を伸ばすユメカにヒメカと店員が気が付いたその時だった。

 ユメカがバランスを崩して車椅子が傾く。ヒメカが手を伸ばして悲鳴を上げるが、その手が届く距離でもなかった。

 

 

 

 

「───おっと」

 目を瞑ってしまった姉妹の耳に、そんな声が響く。

 それは車椅子とユメカが倒れた音でも、店員の声でもなかった。

 

 

「危ないよ、お嬢ちゃん」

 続くそんな声にユメカが眼を開くと、倒れそうになった自分の身体を二十代後半の男性と思われる男が支えてくれている。

 

 男性は少し長めの髪を後ろで縛っていて、無精髭と眠そうな目が特徴的だった。

 

 

「よっと」

 男性は車椅子にユメカを座らせると「これかい?」とベアッガイのガンプラを彼女に手渡す。

 

 

「……あ、ありがとうございます。助けてくれて」

 驚いたユメカは少したじろぎつつも、男性にお礼を言った。遅れてヒメカが駆け寄ってきて「ありがとう、です」と頭を下げる。

 

「なーに、おじさんが偶々ここに居ただけよ。でも───」

 そう言いながら男性はユメカと視線を合わせた。姉との顔が近い事に眉間に皺を寄せるヒメカだが、男性は特に気にしていない。

 

 

「───事故は危ないから、気をつけな」

 続くそんな言葉に、ユメカは「ご、ごめんなさい。ありがとうございます」と頭を下げる。

 少し意味深げな言葉に首を傾げながら、二人はバンシィとベアッガイのガンプラを買ってデパートを後にするのだった。

 

 

 

 

 デパートの帰り道。

 二人は人通りの少ない路地裏をゆっくりと歩いていく。

 

 鞄と玩具屋で買ったガンプラを持つヒメカは鼻歌混じりで機嫌良くスキップをしていた。

 

 

「嬉しそうだねぇ」

 そう言うユメカ本人も、ヒメカが喜んでいる事を嬉しく思う。

 

 ガンプラが嫌いだったヒメカと初めてのガンプラ作り。

 ヒメカには今の自分とガンプラに向き合って欲しい。そんな願いが叶いそうで、帰るのが楽しみだった。

 

 

「ねぇ、お姉ちゃん。なんでこの……えーと、ベアッガイも買ったの?」

 一度棚に戻してから、転びそうになってまで手を伸ばしたベアッガイ。

 そうまでして購入に踏み切った訳を、ヒメカは姉に問いかける。

 

「私もね、ガンダムをちゃんと知ってる訳じゃないんだ。……でも、ヒメカが可愛いって思った物を私も可愛いって思ったから」

「お姉ちゃん……」

 そんな姉の言葉が嬉しくて、ヒメカはつい手に取っていたベアッガイのガンプラを落としてしまった。

 

「あー、もぅ。ダメでしょヒメカ」

「ご、ごめんね!」

 笑いながら注意をするユメカに焦って謝るヒメカ。

 

 

 ベアッガイのガンプラは少し転がって目の前の交差点に仰向けになる。

 そんなガンプラを取ろうとユメカが自分の車椅子を押して手を伸ばそうとした───その時だった。

 

 

「───ぇ」

 クラクションが鳴る。

 

 まるで待っていたかのように、ユメカが交差点に差し掛かった丁度その時に、大型のトラックが交差点に向かって走ってきていた。

車の運転手がハンドルを切りながらクラクションを鳴らしているのが見える。時間がゆっくり流れている気がした。

 

「お姉ちゃん!!」

 いつかの記憶が蘇る。

 ガンプラを取ろうと飛び出した道路。吹き飛ばされる自分の身体。激痛と恐怖。

 

 

 

 

 タイヤが滑る音が聞こえて二人は目を瞑った。




交通事故には気をつけようね。

次回もお楽しみに!


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その笑顔を作ったのはきっと

 爆炎が上がる。

 ビームサイズを肩に掛けながら、黒いデュナメスが爆散した機体を踏んだ。

 

 

「さーて、次はどいつだ」

 辺りを見渡しながら、得意げな声でそう言うロック。

 その背後にはケイのストライクBondが立っていて、二機の周りをリーオーという機体が囲んでいる。

 

 

「ケイ、とっとと片しちまおうぜ!」

 威勢よく声を上げるロックだったが、返事が来ない事に彼は目を細めて首を傾げた。

 

 当のケイはモニターに映るメッセージを見て唖然としている。

 通信モニター越しの彼の表情はこれまでに見たこともないような表情で、ロックは「……ケイスケ?」と恐る恐る問い掛けた。

 

 

「タケシ、今すぐログアウトしてくれ」

 その言葉と共に、ケイはGBNからログアウトする。

 

「お、おい! な……なんだってんだ」

 不満げな声を漏らすロックだったが、ケイの表情を思い出してコンソールパネルを引き出した。

 ただ事じゃない雰囲気に冷や汗が漏れる。

 

 

 ミッションを破棄してログアウトしたフィールドには、二人の機体だけがポツンと残されていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 トラックのエンジン音が消える。

 停止したトラックの扉が開いて、運転手の男性は「ふぅ……」と溜息を吐いた。その視線はどこか遠くを見ている。

 

 

 トラックはユメカのギリギリ手前で止まっていた。

 本人は驚いて固まってしまっているのか反応がない。男性はユメカの無事を確認すると、トラックが何かを下敷きにしているのを見て「あらまぁ」と声を漏らす。

 

 

「……っ、ぉ……お姉ちゃん!」

 驚いて閉じていた目を開くヒメカの瞳に映ったのは、車椅子に座ったままの姉とトラックだった。

 

 

「あらあら、こりゃ酷いな。悪い悪い」

 トラックの運転手の男性は座り込んでトラックの下に手を突っ込んでいる。取り出されたのはタイヤに轢かれて潰れたベアッガイのガンプラの箱だった。

 

 

「あ、あの……」

 そんな男性にヒメカは見覚えがあって、声を掛ける。

 

 

「───だから、危ないって言ったじゃないの」

 腰を上げる男性は少し長めの髪を後ろで縛っていて、眠たげな瞳はそれでもどこか優しげにヒメカを見下ろしていた。

 

 

「玩具屋にいた……おじさん?」

 そんな声が自然と漏れる。

 

 トラックを運転していたのは、玩具屋でベアッガイのガンプラを取ろうとして転びそうになったユメカを助けてくれた男だった。

 男性は「そうよ、さっきのおじさん」と手を挙げながら短く返事をする。

 

 

「……いや、ね。運転してたのがおじさんじゃなきゃ、危うくまた事故に遭う所だったよ」

「ご、ごめんなさい……」

 謝るヒメカに男性は「いやいや、こちらこそ」と頭を掻いた。

 

 

「せっかく買ったのに悪かったね。おじさんが弁償するよ」

 そう言いながら男性はヒメカに潰れたガンプラの箱を渡す。

 

 ベアッガイのガンプラはバラバラになっていて、もし姉がトラックに轢かれていたらと思うとヒメカは背筋が凍り付く想いだった。

 

 

 

「ひー、ふー、みー、と。……ベアッガイはそんなにしない、が。ほらお嬢ちゃん、ガンプラの弁償代だ。受け取ってくれ」

 そう言いながら男性はヒメカにお金を手渡す。ヒメカは少し困惑気味で、そのお金を受け取る事を拒めなかった。

 

「また大事故にならなくて良かったねぇ。……あらら、可哀想に。そんなに怖い思いをしたのかな」

 ヒメカにお金を渡した男性は、ユメカを見てそんな言葉を漏らす。デパートの時のようにユメカと視線を合わせる男性は「あらあら」と口を押さえた。

 

 

 ユメカの瞳孔は揺れていて、身体も小刻みに震えている。息も荒く過呼吸になっていて、車椅子と道路は濡れていた。

 

 

「───っ、お姉ちゃん!」

 そんなユメカに気が付いたヒメカは男性と姉の間に立って、手を広げながら男性を睨む。

 男性は「どうどう、落ち着いてくれや。別に取って食ったりしないって」と両手を上げた。

 

 

「ガンプラのせいで事故に遭うなんて耐えられないよなぁ。……だから、気をつけなと言ったのに」

 そう言いながら立ち上がる男性は「何かあったらここに連絡しな」と自分の名刺をヒメカに渡す。

 

「ガンプラが憎いなら、力になってあげるよ」

 そんな意味深な言葉を漏らして、男性は指で車の鍵を回しながらトラックの運転席に戻った。

 二人を横目で見る男性は、不適に笑ってからトラックのエンジンを掛ける。

 

 

「またね、キサラギ・ユメカちゃん。ヒメカちゃん」

 発進するトラック。

 

 

 

 ヒメカはそれを睨んでから、姉と視線を合わせて「お姉ちゃん! お姉ちゃん、大丈夫?」と声を掛けた。

 

「ぁ……ぁぁ……っ、ぁ……」

「お、お姉ちゃん? お姉ちゃん……っ!」

 返事はなくて、ただユメカは震えている。

 五年前の事故を思い出してしまったのか、まるで怯えるように自分の身体を抱く姉の姿が痛々しくてヒメカは「どうしよう……」と頭を抱えた。

 事故にあった訳でもないのに救急車を呼んで良いのか分からない。このまま家に帰ったら、きっと母がとても心配するだろう。

 

 まだ中学二年生のヒメカはこんな時にどうしたらいいのか分からなかった。

 

「……っ、はぁ……はぁ……ぁ」

「助けて……」

 思わず手に取った携帯電話で、一番頼りたくなかった人物に連絡をする。ここは家の近くだから、彼なら───

 

 

 その人をヒメカは嫌いだった。

 姉を事故に合わせた原因を作った人で、それなのに姉は彼にベッタリなのだから。

 その感情を表に出す事も難しくて、嫌な気持ちだけが募っていく。そんな人でも、今は彼くらいしか頼れる人がいなかった。

 

 

 

「ユメカ!!」

 少しだけして、予想よりも早く(ケイスケ)は二人の元に辿り着く。

 

「……ケー、君?」

 時間が経って、少しだけ落ち着いたユメカは彼が来てくれた事でようやく口が開いた。

 そんな事が悔しかったが、ヒメカは藁にもすがる気持ちでケイスケに泣き顔を見せる。

 

「お姉ちゃんが……っ、事故に遭いそうになって……それで!」

 歯切れの悪い言葉である程度の事を察したケイスケは、ヒメカの頭を撫でて「連絡してくれてありがとう」と優しく言った。

 

 

「俺の家に行こうか。今誰もいないから。……ヒメカちゃんは荷物を頼む」

 こんな姿を自分の親に見せるのは嫌だろうと、ケイスケはそう提案してユメカの車椅子を押す。

 家に辿り着いて直ぐにヒメカは部屋に荷物を取りに行って、その間にケイスケは自分のベッドにユメカを座らせた。

 

 

「……落ち着いたか?」

 少しの間ヒメカにユメカを任せてから、ケイスケは二人に温かい紅茶を入れてくる。

 

「う、うん。……ごめんね、迷惑かけちゃって」

 時間も経って落ち着きを取り戻したユメカは、顔を赤くしながらもケイスケに謝った。

 

 

「ユメカ……」

 心的外傷後ストレス障害という言葉を思い出す。彼女には事故の強いトラウマが残っているんだ。

 だけど優しいユメカはそれを表に出せないのだろう。妹やケイスケを困らせたくないから。

 

 

「あはは。も、もう大丈夫……だよ!」

 トラックに轢かれそうになったのは自分が悪い。

 なのに、妹と幼馴染みに迷惑をかけて心配までされているのが辛かった。

 

 

「私が……プラモ落としたから」

 ふと、ヒメカが見るも無残な姿になったベアッガイのガンプラの箱を見ながらそう言う。

 ユメカもそれを見て寂しそうな顔をするが、ケイスケは少しだけ考えてからこう口を開いた。

 

「俺も、ユメカが事故にあった時そうやって気にしてたし。今も気にしてる。……あの時俺が、ってさ」

 自嘲気味なそんな言葉を呟いてから、ケイスケは「でも」と言葉を続ける。

 

「でも、ユメカはそんな俺を逆に心配してくれた。自分が一番辛いのに、周りの皆の事をずっと考えてくれる。……ユメカが強くて優しいのは、妹のヒメカちゃんが一番良く知ってるんじゃないか? 俺達が気にすれば気にするだけ、ユメカが辛い思いをするかもしれない」

「お姉ちゃんが……」

 言われた言葉を頭の中で繰り返して、姉とケイスケを見比べるヒメカ。

 当のユメカは言われた事が恥ずかしいのか、顔を赤くして蹲っていた。

 

「ご、ごめんねお姉ちゃん……っ!」

「だ、大丈夫だよ。ありがとう……ヒメカ。ケー君」

 目の前で言われてあまりにも恥ずかしかったユメカだが、逆にその羞恥のおかげで事故に遭いそうになったという緊張感が何処かへ飛んでしまう。

 

 

 それで落ち着きを取り戻したユメカは、一度深呼吸してから自分の頬を叩いた。

 

 

「ビックリしたけど、お姉ちゃんは大丈夫!」

 ユメカは強いな、なんてケイスケは思う。

 

 ただ、そんな強くて優しい彼女がまた事故に遭いそうになったのがどうしようもなく悔しかった。本当はちゃんと弱音を吐いて欲しい。怖かっただろうし、辛かっただろうから。

 誰が悪いということも無いのだから、本当にどうしようもない。

 

 

 

「あー、でも……せっかく買ったベアッガイのガンプラは大丈夫じゃないね」

「これは……うん、大丈夫じゃないな」

「……一応トラックのおじさんがお金をくれた、です」

 そう言ってポケットからベアッガイが三つは買える分のお金を取り出すヒメカ。

 それなら、とケイスケは手を叩いてこう提案する。

 

「このベアッガイ、俺にくれないか?」

「え、でも……そのガンプラもうバラバラだよ?」

「使えるパーツは使うのがビルダーだ」

「ケー君が欲しいなら良いけど……。ヒメカは?」

「私は別に……」

 ケイスケの言っている意味が分からなくて首を傾げるヒメカだが、少なくともせっかく買って一緒に作る予定だったプラモデルがなくなってしまうのは悲しかった。

 プラモデルというよりはプラモデルを一緒に作る時間が、だが。

 

 

「こっちは無事だったんだね。……ふぅ、良かった」

「バンシィか……ん、なんで? ていうか、なんで二人共ガンプラ買ってるんだ?」

 ヒメカがガンプラを嫌いだったという事に気が付いて、そんな疑問を投げ掛けるケイスケ。

 ユメカが事情を説明すると、ケイスケは再び少し考えてこんな提案をする。

 

 

「それじゃ、三人でこのガンプラが出て来るアニメを見ながら作らないか?」

「うぇ……」

「あ、それ良いね! ね、ヒメカ。一緒に見よ!」

「うぇぇ」

 ケイスケの提案に微妙な反応を見せるヒメカだったが、どうもキラキラした眼のユメカに押されて首を横に振れなかった。

 それに、姉の笑顔はとても柔らかくてさっきまでの事が嘘のように思える。

 

 

「……う、うん。分かった」

「やった! それじゃ、今から見よ。お母さんには私が言いに行くから!」

 さっきまでの空気を忘れたかのように自分から動き出すユメカ。

 

 勿論一人で車椅子に座る事なんて出来ないので、ヒメカは慌てて「お姉ちゃんは無理しなくていいのに!」と言いながら車椅子の用意をした。

 

「だってー、早く見たいもん」

「お姉ちゃん、ガンダム好きなんだね」

「うん」

「そっか」

 そんな微笑ましい会話に、ケイスケも頬を緩める。

 

 

「───ユメカぁぁぁあああ!!」

 その時、突然玄関が開いて大声が響いた。三人で玄関を覗くと、そこには全身汗まみれのタケシが息を切らしながら立っている。

 

「ひぃ……はぁ……はぁ……、っ……事故に遭いそうになったって本当か! 無事か! 大丈夫か!!」

「うん。今からガンダムのアニメ見るところだよ」

「いやどういう事!!」

「お前も見てくか?」

「なんで!!」

 タケシの場違いな反応に三人は目を合わせて笑った。タケシは何が何やら分からず頭を抱える。

 

 

「……お兄さん」

 ふと、ヒメカが視線を逸らしながら言葉を漏らした。ケイスケはそんなヒメカに視線を合わせる。

 

 

「ガンプラは……好き、です?」

「うん。俺達はガンプラが好きだ」

「そうですか。あの、お姉ちゃんを笑顔にしてくれて……ありがとう、です」

 そんなヒメカの笑顔も、ケイスケは久しぶりに見たのであった。




これでキサラギ姉妹のデート回()は終わりですね!全然ガンプラ出てこなくてごめんなさい。次回からはまたGBNでのガンプラバトルが待ってます!

それと、まさかのお気に入り登録者100人ありがとうございました!
応援ありがとうございます!

読了ありがとうございました!


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新しい未来へ

 トラックのエンジン音が静かに止まる。

 鼻歌を漏らしながら抜いた鍵を指で回す男は、眠たげな瞳を駐車場の前で待っていた人物に向けた。

 

 

「社長さん自らお出迎えとは、おじさんも出世間際かな?」

 そんな軽口を漏らす男だが、社長さんと呼ばれた人物は返事もせずにどこか明後日の方を見ている。

 トラックを運転していた男よりも精気を感じない瞳に、短い髪。老けている訳ではないが、若く見えない。少なくともトラックの運転手よりは歳上だ。

 

「仕事ならこなして来たぜ?」

「……そうか」

 そんな男は、運転手の事を見もせずに言葉だけ返す。

 運転手は目を細めて溜息混じりにそんな彼の後ろ姿を見た。

 

 

「ガンプラへの復讐を始めるぞ。……見ててくれよ、レイア」

 夕焼けの赤い空が黒く染まっていく。男の手には一枚の写真が握られていた。

 

 男に似た人物と、赤髪の女の子が映った写真が。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ゆらゆらと首が揺れる。

 

 

「まーた眠そうだな」

 半目で幼馴染みを見るタケシの表情は、心配を通り越して呆れていた。

 

 水曜日の朝。ユメカとヒメカがデパートに出かけていった日曜日から三日後。

 寝不足気味のユメカが座る車椅子を押すケイスケも、同じく寝不足なのか歩きながら船を漕いでいる。

 

 

「結局月曜日と火曜日でUCを全部見たってのか?」

「そうだな……。日曜日タケシとエピソード3まで見ただろ?」

「ユメカはデルタプラスを気に入ってたな」

「だって凄いちゃんと航空機っぽく変形するんだよ! 格好良いよデルタプラス!」

 さっきまで眠たそうにしていたユメカだが、彼女はデルタプラスという機体の名前が出た途端急に元気になって声を上げた。

 

「私とケー君が初めてGBNで一緒にやったミッションのボスもデルタプラスだったよね」

 と、デルタプラスを熱く語るユメカの隣でタケシは「ん?」と声を漏らす。

 

 

「SEEDの可変機はともかく、OOの可変機も結構飛行機になるぜ? アレルヤのガンダムとか、イナクトとかフラッグとか」

「デルタプラスはこう……戦闘機って感じがして好きなの! 他の変形するガンダムはロボットって感じだもん」

 ユメカのそんなこだわりに、タケシとケイスケは首を横に傾けた。彼女には彼女の航空機に対するこだわりがあるらしい。

 勿論何作品かガンダム作品を見て、好きな機体は可変機に寄っている傾向はあるが。

 

 

「んで、月曜日はエピソード5まで見たんだけどな。……ユメカが泣いた」

「な、内緒にしてって言ったじゃんケー君! 酷い!」

「いや、エピソード5は泣くって。ジンネマンのさ、こう……俺を独りにするな! って台詞。グーンと来るよなぁ」

「いや違う。ユメカが泣いたのはデルタプラスがバンシィにバラバラにされたシーン」

「どんだけデルタプラス好きなんだよ」

「私のデルタプラスがぁ……ぅ、うぅ……ひっく」

「思い出し泣きするのかよ!!」

 タケシが思っていた以上に、ユメカはガンダムにハマっているようである。

 

「あと、私がGBNで付けてるアクセサリーはデルタプラスのパイロットの人が着けてた奴なんだって分かって嬉しかったよ」

「あー、そういえばなんか着けてたな。それで、昨日はエピソード7まで見終わって寝不足と。……ヒメカちゃんの反応は?」

 タケシが一緒にアニメを見たのは日曜日だけなので、彼は月火の事情はしらない。

 ふと日曜日の記憶を漁るが、確かヒメカはこんな事を言っていた。

 

 

 

「ガンダムってずっと戦争してるんだね」

 言われてみればそうだが、なんとも言えない感想である。

 

 

 

「んー、そうだなぁ」

 同じくケイスケも月火と一緒にアニメを見たヒメカの反応を思い出した。それは昨日の夜、アニメを最終話まで見終わった時の事。

 

 

 

「んー、面白かった! なんていうか、分かりやすいお話だったね! ヒメカはどうだった?」

 そういうユメカの隣で、ヒメカは目を瞑って自分の顎を指で突く。

 どうやら考え事をしているようで、ユメカもケイスケも彼女の考えが纏まるのを少し待っていた。

 

「……面白かった、かな。です?」

 なんとも言えない感想。特段笑っている訳ではなく、でもつまらなそうにしている訳ではない。

 どっち付かずの反応にケイスケとユメカは首を傾げる。

 

 

「私、戦いのアニメとかそういうの……よく分からないけど。えーと、男子達の言うガンダムが格好良いとかじゃなくて……その、お話のテーマとか。物語は面白かった、よ?」

 そうして語られるヒメカの感想に、ケイスケ達は目を合わせて喜んだ。

 

 

 ガンダムは、ガンダムが格好良いだけじゃない。

 作品の中に、物語の中に、登場人物達の想いの中に、沢山の気持ちが込められている。

 

 それがヒメカに伝わったのが、二人は嬉しかった。

 

 

「お姉ちゃんがガンダムが好きな気持ち、分かったかも」

 そう言って控えめに笑うヒメカの表情は印象的で、どこか許されたような気持ちになる。

 

 

 

「端的に言えば、別に好きになった訳じゃないけど嫌いじゃなくなったって所か」

 ケイスケの話を聞いて、タケシはヒメカの心境を考えてみた。

 

 彼女にとってガンダムは、ガンプラは大切な姉から沢山の物を奪った物だったのだろう。

 だけど、それだけじゃない事を理解して貰えた。それだけでも、進展があったと言える。

 

 

「うん、だから良かった」

 安心した表情でそう言うユメカは、ふと口を押さえた欠伸をした。釣られて欠伸が漏れるケイスケを見て、タケシは「お前らな……」と苦笑いを溢す。

 

「それは勿論良かったけどよ、分かってんだろうな? 今日がどんな日か」

「それは……勿論」

「そうだね、今日から忙しくなるし。いっぱい楽しもう!」

 三人は目を合わせて笑い合った。

 

 

 今日は約束の日。今日から、彼等の新しい生活が始まると言っても過言ではない。

 

 

 

 

 学校終わり。

 三人は車椅子を押しながら足早に学校を出て、幼馴染みの家のプラモ屋に向かう。

 

「いらっしゃい」

 そこで待っていたのは三人の幼馴染みであるアオトの父親だった。

 彼の店はこころなしか明るくなっている気がする。埃っぽさもどこかなくなっていて、店は全体的に綺麗になっていた。

 

 そしてその店の奥には───

 

 

「GBNのログインマシン、四台もある!」

 ───GPDのマシンが撤去されて空いたスペースに、GBNのログインマシンが四台並んでいる。

 

「凄いよ店長さん! この機械高いって聞くのに!」

 車椅子から落ちそうなくらい前のめりになってそう言うユメカに、店長は両手を上げて苦笑いを漏らした。

 元気過ぎる気がするが、彼女が元気で居てくれるのは彼も嬉しい。複雑な気分ではある。

 

「おじさん、四台も買ってくれたのか。凄いな」

 マシンの椅子を触りながらタケシが言うと、店長は「GPDのマシンを撤去したスペースが寂しかったからね」と答えた。

 

 

 三人が店に来たのは他でもない、今日このように店にGBNのマシンが設置されると聞かされていたからである。

 

 ケイスケはアオトから譲ってもらったログインマシンがあるが、タケシは隣町まで行かなければGBNにログインが出来なかった。

 だから休日にしかGBNを楽しめなかったが、この店にマシンが置かれた事で平日でもGBNにログインが出来る。

 

 

 今日からは毎日でもログインする意気込みで、タケシは息を荒げていた。

 

 

「おじさん、ありがとう」

「お礼を言うのは、俺だよ」

 ケイスケの言葉に店長はそう返す。

 

 GPDに捉われていた自分を引っ張り出してくれたのは、息子の幼馴染み達だ。

 過ちを犯した筈の自分を許してくれた彼等に少しでも報いたい。そして───

 

 

「アオトが帰ってきた時の為に四台用意したんだ……。いつか、また四人で遊んでくれたら嬉しい」

 そう言って店長は三人をマシンの前に案内する。ふと、ユメカが困ったような表情を見せた。

 

 マシンは常設された椅子があるので、車椅子から移らなければならない。

 いつもはケイスケやヒメカに手伝ってもらうのだが、いざとなるとそういう事を誰かに頼むのが苦手なのである。

 

 

「あ、えーと……」

 それを見て店長が手を伸ばすが、その手は上がりきらなかった。

 

 あの事故の原因を作った自分が彼女に触れて良いのだろうか。

 罪悪感が彼の手を下ろす。しかし、その手をユメカが掴んだ。

 

 

「……ユメカちゃん」

「ご、ごめんなさい店長さん。……その、手伝って下さい」

 申し訳なさそうにユメカがそう言う。

 

 まるで事故の事なんて気にしてないですとでも言うように。いや、本当に彼女は気にしていないのだ。

 そんな優しい女の子の未来を奪った自分が許せなくて、だけど彼女の想いに答えないといけないと手を強く握る。

 

 

「……うん、分かったよ」

 店長はユメカの身体を軽々しく抱いて椅子に座らせた。流石大人だなと、ユメカは少し驚く。

 そんな二人を見てケイスケとタケシは微笑んでいた。なんだか、あの頃に戻った気がする。

 

 いつか、この三人とアオトできっと───

 

 

 

「よし、始めるか。ロック・リバー様の伝説を!」

 PLEASE SET YOUR GUNPLA

 

「それじゃおじさん、行ってきます」

「うん。行ってらっしゃい」

 マシンの台に自分のガンプラを乗せた三人は、専用のゴーグルを着けて目を瞑った。そんな子供達を見ながら店長は頬を緩める。

 

 どこか寂しかったんだ。子供達が自分の元から離れていくようで。

 でも今は違う。こうやって子供達を見送る事が、なんだか嬉しかった。

 

「キサラギ・ユメカ! いっきまーす!」

 WELCOME TO GBN BATTLE START

 

 光が漏れる。

 

 

 

 

 

「───さてと」

 金髪の青年は数日振りの感覚に慣れるように手を振りながら、一緒にログインしてきた茶髪の青年と水色の髪の女の子に視線を向けた。

 一人は現実とさほど変わらないが、もう一人は現実とは程遠い姿をしている。

 

「何度見てもタケシの金髪は慣れないな」

「ロックだって言ってんだろ。俺は本当ならリアルだって金髪にしたいんだっての!」

 ケイの言葉にロックは声を上げて文句を言った。そんな二人を見てユメカは笑う。

 

「金髪にするとママに怒られるんだ……」

「それは……まぁ、ドンマイタケシ」

「金髪似合ってるよ、タケシ君」

「ロックな」

 些細な日常のようで、でもなんだかそれは懐かしくも思えた。

 

 

「……さてと、本題に入るぜ」

 話を切り上げるように手を叩いたロックは、真剣な表情でそう口にする。

 

 しかしケイとユメは目を丸くして同時に首を横に傾け「本題?」と頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。

 

 

「これから俺達がやる事についてだよ!」

「え? 遊ぶんじゃないの?」

 ロックの言葉にユメはそう返事をする。平日もGBNで遊べると浮かれてはいたが、特に目標がある訳ではなかった。

 

「そうだよ遊ぶんだよ。真剣に、心からな」

 半目でそう語るタケシは、自分のコンソールパネルを開いてユメに見せる。

 そこには大きくEの文字が書かれていた。

 

 

「E?」

「それが今の俺達のダイバーランクだ。当面の目標はこいつをDに上げる事だな」

 ロックの言葉にユメは再び頭の上にクエスチョンマークを浮かべて「なんで?」と問い掛ける。

 ケイはなんとなく察した表情をしていたので、ロックの目的が分かっているようだが。

 

「Dランクになればフォースを結成出来るし。とりあえずはそこまで突っ走って、フォースバトルもガンガン勝ちまくってフォースランキング上位を目指す。……それが俺達の今後の目標だ」

「なんやかんやでタケシ君が一番楽しんでるよね」

「違うわ。……これはアオトが戻って来た時の土台を作る為だっての」

 ユメの冷やかしに冷静にそう返すロック。いつになく真剣な彼の表情に、ユメは真面目に彼の話を聞く事にした。

 

 

「アオトが戻って来た時……俺達の場所って分かる物があった方が良いだろ。チーム組んで、基地とか用意して。アイツを待つんだよ」

「タケシ君……」

「タケシ……」

「ロックな」

 ロックの言葉にユメとケイは感心して目を輝かせる。これまでアオトの事もこれからの事も、何も想像できていなかった。

 だけど彼はそんな二人に道筋を見せてくれたのである。不明瞭だった未来が少しだけ見えた気がした。

 

 

 

「目標はただ一つ。GBNをやってないかもしれないアオトにまで届くような有名フォースになる。ふ……そして俺の、ロックリバーの輝かしい名前がGBNで有名になるのさ」

「そっちが本命か」

「やっぱりタケシ君が一番楽しんでるよね」

「なんか言ったか!」

「「なんにもー」」

 三人は笑い合って、今後の指針を確認し合う。

 

 

 

 幼馴染み達との新しい生活が始まろうとしていた。




そんな訳で新章?スタートですね!三人のGBNが本格的に始まります。


少し前にTwitterで、ガンダムブレイカーで作ったストライクbondを貰ったので公開させて頂きます!

【挿絵表示】


【挿絵表示】

色がたまらんですね。ダブルオーはこれが格好良い。


それでは読了ありがとうございました!


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Dランクを目指して

 ビームの鎌が機体を薙ぎ払う。

 二つに分かれたガフランというモビルスーツが爆散し、その爆煙を黒いガンダムが鎌を払いながら突っ切った。

 

 

「ヴェイガンは殲滅だ!! オラオラオラオラァ!! 皆殺しにしてやるぜぇ!!」

「タケシ君が怖い……」

「張り切り過ぎだろタケシ」

「タケシ言うな!! 俺の名はロック!!」

 幼馴染みの家のプラモ屋にGBNのマシンが設置された翌日。

 三人は学校帰りに今日もプラモ屋に寄ってGBNにログインしている。

 

 そしてどうもタケシ───ロックがやる気に満ち溢れているので、二人は若干引いていた。

 

 

「ヴェイガンは殲滅だぁ!!」

「やめてよ爺ちゃん……」

「?」

 原作のやり取りを苦笑い気味にするケイと、よく分からず首を傾げるユメ。

 今日もGBNは平和である。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

「さーて、次のミッションだ!」

 GBNのメインフロアで、ミッションから帰ってくるなりロックは次のミッションを探し始めた。

 目標はDランク到達。フォースの結成である。

 

 

「コレだな。次行くそ次!」

 そうしてロックが持ってきたのは、デスアーミー殲滅ミッションだった。

 内容は単純にデスアーミーという機体を沢山倒すというだけなのだが、昨日からロックが選ぶミッションはこのように沢山の敵と戦う物が多い。

 

「また殲滅ミッションだな。そんなに暴れたいのか」

「バカいえ。俺はロックリバー、クールで格好良い男……」

 さっきまで大声で殲滅だの皆殺しだの言っていた人間の台詞とはとても思えない。

 

 

「この手のミッションは撃破数が稼げるから、ランク上げに丁度良いんだよ」

「なるほど」

「ねーねー、二人共。このミッション内容の『WARNING』って何?」

 ミッション内容を見ながらユメがそう呟く。

 映画では警告や注意という意味だが、どうも大袈裟に書いてあるその文字が彼女は気になった。

 

「乱入があるかもしれないって表示だった気がする。目標以外の敵が出てきたり、近くのダイバーが加勢か妨害に入ってくる事も出来るミッションなんだよ」

「そんなミッションがあるんだね」

 説明を聞いて驚くユメに、ケイは「基本的には好戦的なダイバーが妨害ミッションを受けてくるらしいけど……」と付け加える。

 それを聞いてもロックは怖気づく事なく「早く行こうぜ」と二人を急かした。

 

 

 エリア移動中に三人は簡単な作戦会議を済ませる。ミッションにも慣れた物で、このゲームの楽しみ方も掴んできた。

 

 

 

「目標はデスアーミー百機か……骨が折れそうだ」

「CPUの耐久値は下げられてるらしいけど、百機は大変だよねー」

「ぶつくさ言ってないでやるぞ。……ロックリバー、目標を狙い撃つ!」

 言いながら、ロックはミッションエリアに到着するなりGNフルシールドの間からライフルを構えて放つ。

 放たれたビームは遠くに居たデスアーミーの頭部を掠った。

 

 

「……ふ、ヒット」

「タケシ君のヘタクソ」

「ロック!!」

「気付かれたな。来るぞ!」

 丸みを帯びた一つ目の機体が一斉に三人に武器を構える。

 金棒型のライフルを向けられた三人は、誰が何かを言う訳でもなく散開した。

 

 着地したロックのデュナメスHellと、ケイのストライクBondが己の得物を構えてライフルを放つ。

 今回のミッションでケイが選んだストライクの装備はエクリプスストライカーだ。三人で初めてのミッションに挑んだ時と同じ装備である。

 

 上空を旋回するユメのスカイグラスパーには、ダブルオーストライカーが装備されていた。

 敵の数が多いので、近付かれる前に出来るだけ数を減らしてから接近戦で確実に仕留めに行く作戦である。

 

 

「ユメは無理しない程度に上から数を減らしてくれ。困ったらトランザムシステムも使って良いから!」

「えーと、なんだっけ。これかな? トランス……アム?」

「トランザムな」

 モニターに表示された武装名を見て首を横に傾けるユメにツッコミを入れるロック。

 ダブルオーストライカーにはGNドライヴが装備されている為、装備しているスカイグラスパーも一応トランザムが使えるのだ。

 

 

「ただ使った後は全然動かなくなるからな。そこは注意しとけよ!」

 言いながらロックは「俺も使い所を間違わないようにしないとな……っ!」と声を漏らしながら射撃をする。デスアーミーの脚部を掠め、バランスを崩したデスアーミーをケイのライフルが撃ち抜いた。

 

「ふ、俺の作ったチャンスをしっかり物にしたか」

「言ってる場合か!」

 まずは近付かれる前に数を減らしたいが、ロックの射撃は正直あてにならない。しかし近付かれてからはロックに頼る事が増える。

 今は自分が頑張る番だと、ケイは集中して辺りを見渡した。

 

「ヴァリアブル・サイコ・ライフル、ブラスターカノン!」

 肩の砲身と両手のライフルを構え連射する。これだけの数が相手なら外す方が難しい。正面の敵を一斉にビームが薙ぎ払った。

 

 

「ケー君の装備凄いなぁ。よーし、私も!」

 言いながら、ユメは旋回で攻撃を避けながらミサイルを発射する。

 初めは空を飛ぶだけで喜んでいた彼女だったが、今ではパイロットが様になっていた。

 

 ミッションは順調に進み、ある程度敵が近付いてくるとロックが勝手に一人で暴れ始める。

 それでケイに近付かれる事はなくなるので、ストライクはまだ換装せずに射撃戦を続行出来そうだ。ロックも本領を発揮して撃破数が伸びていく。

 

 

 そうして丁度デスアーミーの撃破数が五十を超えたその時だった。

 

 

 

 WARNING WARNING WARNING

 

 三人のモニターに警告表示が鳴り響く。

 驚きながらもユメは辺りを見渡して、デスアーミー達の背後の地面が盛り上がっている事に気が付いた。

 

 

「二人共! 奥の方で何か出てくるよ!」

 そんな彼女の発言に二人は冷や汗を流す。このタイミングで、この雰囲気は嫌な予感しかしなかった。

 

「まさか……」

「おいおい嘘だろ」

 刹那、地面の至る所から何かが突き出てくる。それは長い胴体にガンダムの顔が付いているような気味の悪い姿をしていた。

 

 

「うぇぇ!? 何コレ!!」

「……デビルガンダム」

「マジかー。……マジかー」

 悲鳴を上げるユメの視界に、一際大きな地盤の揺らぎが起きる。

 

「ガンダムの顔の上に……ガンダムがいる!?」

 そこから現れたのは歪な形をした巨大なガンダムだった。

 

 

 デビルガンダム。

 機動武闘伝Gガンダムに登場するモビルファイターで、作品内でも強大な敵として登場している。

 GBNのボスキャラといえばモビルアーマー等が多いが、デビルガンダムはそれにも劣らない禍々しさがあった。

 

 

「ど、どうしたら良いの!?」

「落ち着けユメ。アレは倒さなくてもミッションはクリア出来る!」

「しかし乱入がデビルガンダムってハード過ぎるだろオイ。……って、おいアレ見ろケイ」

 あまりのスケールに若干呆れていたロックだが、ガンダムヘッドに混じって別の機体が動いている事に気が付いて指を差す。

 彼の指先で、赤い翼を持った黒いガンダムが地面を駆けていた。

 

「ま、マスターガンダム!?」

「ユメのところに向かったぞ!?」

「なんか追っ掛けてくるぅぅ!!」

 新たに現れたのは、同じく機動武闘伝Gガンダムの主人公であるドモンの師匠───東方不敗が駆る機体マスターガンダム。

 マスターガンダムは地面を蹴って跳び、ユメのスカイグラスパーを追いかけ始める。

 

 

「タケシ、ユメを頼む!!」

「ロックだ!! 任せ───うお!?」

 彼女を助けに行こうとしたロックだったが、ガンダムヘッドとデスアーミーに囲まれて身動きが取れなくなってしまった。

 ケイも同じく辺りを囲まれてしまい、これでは装備の換装も出来ない。

 

 

「やば……」

「俺様の道を阻むんじゃねーよぉ!!」

「助けてぇぇ!!」

 そうこうしている間にユメはマスターガンダムとガンダムヘッドに追い込まれてしまう。

 これはゲームだから撃破されても死ぬ訳ではないが、勿論撃破されれば貰える経験値も少ない。

 

 なにより気持ちの問題だ。

 そもそもマスターガンダムとガンダムヘッドに追われるのは、Gガンダムを知らないユメでも普通に怖いのである。

 

 

 しかし、万事休す───思われたその時だった。

 

 

「───アリス・ファンネル!」

 ユメを襲うガンダムヘッドをビームが貫く。

 

 しかし、ユメの目にはガンダムヘッドを倒した機体は見当たらなかった。

 ケイもロックも今は動ける状態ではない。なら、今の攻撃は? 声は? 

 

 考えている間に、爆散したガンダムヘッドの間からマスターガンダムが飛び出してくる。ユメは驚いて目を瞑った。

 

 

「───君を抱くこの腕(ディスティニーボーダー)跳躍するこの願い(インフィニットチェイス)!」

 しかし、マスターガンダムとスカイグラスパーの間に四本のビームが壁を貼る。

 そして動きを止めたマスターガンダムの周りに、四機の小さな飛行物体が纏わり付いた。

 

 それが一斉にマスターガンダムにビームを放つ。

 

 

「何今の……?」

「ファンネルか……?」

 驚くユメを見上げながらそう呟くケイ。

 

 ファンネル。

 ガンダム作品に登場する無線式のオールレンジ攻撃用兵器で、機体から分離し個別に敵を狙う武装だ。

 主に宇宙世紀の作品に多く見られる武装であるが、他の作品でもドラグーンやファング等と呼ばれる同様の武装が多く存在する。

 

 ガンダム作品ではお馴染みの武装だ。

 

 

「避けられてんぞ!」

 しかし、攻撃を受けたマスターガンダムはファンネルから放たれたビームを全て華麗に交わす。

 どうやらCPUのレベルはかなり高く設定されているようだ。乱入機体故の調整だろう。

 

 

 

「……流石東方不敗が駆るマスターガンダムっす。洗礼された動きもさることながら、デスアーミー殲滅戦での登場とは滾るっすねぇ」

 そして突然、三人の通信にそんな言葉が入ってきた。

 

 聞き覚えのない声にロックは「あ?」と首を横に傾けるが、ユメとケイは聞き覚えのある声に目を丸くする。

 

 

「この声……」

「……ニャムさん?」

「イエス。先日は話の途中ですみませんでした。……話したい事があったのでお二人を探していたんすけど、取り込み中だったという事で───」

 モニターにWARNINGの文字。

 同時にフィールドの端から赤い機体が現れた。

 

 

 赤と白を基準としたオーソドックスなガンダムタイプのモビルスーツ。

 特徴的なのはスラスターから伸びる一帯の翼で、そこにファンネルが回収されていく。

 

 

「───ガンダムEXAより、エクストリームガンダムtypeーレオス。ニャム・ギンガニャムが加勢するっす!!」

 その名はエクストリームガンダム。

 

 

 極限の進化をする───ガンダムだ。




エクガンアイオスファースの武装名が完全にポエム。

そんな訳で、満を辞して改造ガンプラキラーニャム再登場です。一体どんな戦いを見せてくれるのか。お楽しみに!


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エクストリームガンダム

 兄はガンダムが好きでした。

 毎日のようにガンダムの話ばかりしていたのを、今でも覚えている。

 

 

「お兄ちゃん、これはなんてガンダムなの?」

「これはキュベレイっていうんだ。ガンダムじゃないんだけどな」

 幼い頃に両親を亡くした私は、歳の離れた兄に面倒を見てもらって生活していました。

 忙しそうでしたが、幼い私を放って置く事もなく構ってくれる優しい兄です。

 

「お兄ちゃんは、お友達みたいにガンダム改造しないの?」

「改造なんてしなくても格好良いだろ、ガンダムは。みろよこのキュベレイのデティール! このファンネルの再現なんかも!」

 兄は本当にガンダムが好きだった。

 

 

 そんな兄に影響されて、私もガンダムオタクになった訳で。

 

 私が高校を卒業した後に兄は東京で会社を経営する事になって、私は今一人暮らしをしている。

 お仕事は順調なようで毎月ちゃんと仕送りをしてくれていたのだけど───

 

 

「───改造なんてしなくても格好良い。ジブンは、兄の言葉を履き違えていたのかもしれないっすね」

 五年前から、兄との連絡が途絶えた。

 

「改造しなくて()格好良いけれど、改造して()ガンダムは格好良いっす」

 理由は分からない。

 毎月仕送りは来ているのだけど、全く連絡が付かないのである。

 だから生きてはいるのだろうけど。一体何をしているのら。

 

 

「……兄さん、何してるんすかねぇ」

 炬燵の上の猫を突きながら、ジブン(・・・)は短く溜息を吐いた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 翼を広げた機体。

 

 

「エクストリームガンダム……」

「おいニャムって土曜日に言ってた奴か?」

 それは、土曜日二人に遅刻した理由を聞いた時に出て来た名前。曰く最近巷で改造ガンプラキラーと呼ばれていたダイバーの名前である。

 

「なんでニャムさんがここに?」

「さっきも言った通り、お話をしに来たんすけど……と、言っても説明は後っすよ。今はミッションに集中しましょう。……ここはガンダムヘッドの数を減らす所からっすかねぇ」

 そう言いながらもニャムは前に出て辺りを確かめた。

 

 

 ミッション内容はデスアーミーの殲滅。

 しかし辺りには無数のガンダムヘッドが出現している。

 

 

「ここは射撃か───進化発動。応えてみせろ、エクリプスフェース……っ!」

 彼女がそう言うと、エクストリームガンダムを光が包み込んだ。そしてスラスターの翼が、まるで崩れるようにポリゴン状に消滅していく。

 

 

 そうして武装を失ったかと思えば、今度はポリゴン状の光がエクストリームガンダムを包み込んだ。

 その光は次第に武装の姿に変わり、エクストリームガンダムの肩に砲身、両手には長身のライフルが装備される。

 

 

「これこそが進化の極限! ふへへ、いつ見てもエクストリームガンダムの進化する姿は人を魅了するっす」

「あれ……これ?」

 ユメはその姿にどこか見覚えがあった。

 

 ケイのストライクBondが今装備しているのも、肩の砲身と長身のライフルである。

 よく見れば色からなにまでそっくりだ。

 

 

「エクリプス……?」

「そうっすよ」

 ユメの口からそんな言葉が漏れる。

 それはケイがストライカーパックの一つとして装備している武装の名前と同じだった。

 

 

「ケイ殿のストライカーパックもエクリプスっすか。奇遇っすねぇ。しかし……ここは自分の好きを見せるっすよ!」

 ヴァリアブル・サイコ・ライフルを連射してから、ニャムは一度目を瞑る。

 

「───極限進化!!」

 その言葉と共にエクストリームガンダムを再び光が包み込んだ。機体に集まる光が、その姿を更に進化させる。

 

 

「ど、どうなってるの?」

「進化するガンダム。それがエクストリームガンダムだ」

 機動戦士ガンダムEXA。衰退した世界で人類進化の可能性を探る主人公が様々なガンダムの世界にダイブし、進化を学ぶ物語だ。

 その主人公レオス・アロイが駆るエクストリームガンダムtypeーレオスは、学んだ力を具現化し文字通り進化する。

 

 

「射撃進化……エクリプス!」

 エクストリームガンダムの背中に新たに装備が追加された。しかしそれは翼のようで翼ではなく、まるで四つの巨大な砲身を背中に背負ったかのようである。

 

 

「まずはガンダムヘッドを蹴散らすっすよ!」

 そうしてニャムは、右肩から砲身の二つを連結させてガンダムヘッドに向けた。

 

「規格外拠点攻撃兵装カルネージ・ストライカー!」

 方針からガンダムヘッドを丸々飲み込む程のビームが放たれる。ニャムは砲身をなぎ払い、近くにいたガンダムヘッドを三機消し飛ばした。

 

 

 

「なんて火力だ!?」

「ガンプラの出来が良いんだ……」

 ロックの言葉にケイがそう答える。言いながらケイは彼女と戦った時に見たゴッドガンダムを思い出した。

 

 GBNのガンプラの強さは実際に作ったガンプラに左右される。

 彼女のビルダーとしての能力は確かだ。

 

 

 そんな彼女だから、自分の装備(エクリプスストライカー)の上を行く。

 ケイのエクリプスは極限進化出来ないのだから。

 

 

 

「空間制圧兵装エクリプス・クラスター!」

 さらにニャムは左肩の砲身を分離し、発射した。二つの物体がガンダムヘッドに向かっていく。

 

 それは砲身ではなく大量のミサイルが仕込まれたミサイルコンテナだった。開いたコンテナから無数のミサイルが発射してガンダムヘッドを襲う。

 

 

「爽快───って、うわ!」

 そんなエクリプスの姿を見ていたユメがふとレーダーを見ると、警告音と共に敵機体が近付いて来るのが見えた。

 その機体はマスターガンダムで、ユメはその形相に再び悲鳴を上げる。

 

「ユメ!!」

「そっち相手は───格闘進化ぁ!!」

 あたり一帯のガンダムヘッドを撃破したニャムは、スカイグラスパーとマスターガンダムの間に立って両手を広げた。

 

 そしてエクストリームガンダムを再び光が包み込む。

 装備していた武装が全て消え、その代わりにその身に宿すのは両手足を強化する装甲。作品の主人公であるレオスがGガンダムの世界から学んだ格闘進化の極限。

 

 

「───天地を引き裂け!! ゼノンフェース!!」

 スカイグラスパーに迫ったマスターガンダムの拳をエクストリームガンダムが強化された装甲で受け止めた。続けて繰り出される殴打の数々も全て受け止めてみせる。

 

 

「流石は東方不敗のマスターガンダムって所っすね! しかし、こちらはドモン・カッシュから格闘進化を学んだGダイバーの機体。格闘技では負けずに劣らず!!」

 一瞬の隙を見つけたニャムは拳を突き出して攻守を逆転させた。両手足の装甲を叩き付けるように拳と脚を振り回す。

 次第にマスターガンダムもその攻撃を受け流し始めて、お互いが守りを捨てて拳同士で殴り合った。拳を拳で受け止めるその光景は東方不敗とドモンの姿を連想させる。

 

「───隙あり、そこです!!」

 そうして拳をぶつけ合っていたニャムは、突然姿勢を落としてマスターガンダムの攻撃を空振りさせた。

 姿勢を崩したマスターガンダムを蹴り飛ばし、エクストリームガンダムの拳が光を放つ。ニャムはそのまま地面を蹴って、マスターガンダムに肉薄した。

 

 

「極限全力!! シャイニング……バンカー!!」

 そのままマスターガンダムの頭を鷲掴みにするエクストリームガンダム。

 

 ユメはその姿にどこか見覚えがある。

 それもその筈で、以前ニャムがケイに戦いを挑んできた時に乗っていたゴッドガンダムこそ、エクストリームガンダムが格闘進化を学んだ世界のモビルスーツだった。

 

 

「……パイルピリオド!」

 そうしてエクストリームガンダムはマスターガンダムの頭を鷲掴みにしたまま持ち上げる。ニャムの掛け声と同時に、マスターガンダムは爆散した。

 

 

 

「お邪魔虫はあと一つっすね」

「すんげ……」

 あっという間に乱入機体を殆ど殲滅したニャムを見て苦笑いを溢すロック。

 ケイの話なら彼女に戦いを挑まれて勝ったらしいが、正直にわかに信じられない。

 

 

「最後は勿論、必殺技行くっすよ!! EXAフェース……っ!」

 そう言いながらニャムは機体をデビルガンダムに向ける。

 同時にエクストリームガンダムを光が包み込むが、今度は現在の装備が消える事はなかった。

 それどころか、初めに見せた翼やエクリプスの武装がエクストリームガンダムに装備されていく。

 

 光が拡散し、全ての進化を合わせたようなエクストリームガンダムの姿がそこにはあった。

 アリスファンネルを周囲に展開したエクストリームガンダムは、ヴァリアブル・サイコ・ライフルをデビルガンダムに向ける。

 

 

「極限の希望を……くれてやる!!」

 そうして、砲身という砲身からエクストリームガンダムはビームを放った。

 デビルガンダムをビームが焼き払う。

 

「いっけぇぇえええ───」

 しかし、もう少しで撃破という所で───

 

 

「あれ?」

 ───ビームの照射が止まった。

 

「───って……あ、やり過ぎたっす。エネルギー切れっすね」

 あはは、と間抜けな声が漏れる。ユメは転けた。

 

 

「ケイ殿、トドメお願いするっす!」

「え、あ……はい。……ヴァリアブル・サイコ・ライフル【クロスバスターモード】」

 ケイは苦笑いしながら自分のライフルとニャムのライフルを見比べて、その砲身をデビルガンダムに向ける。

 

「……アレが、本当のエクリプス」

 関心というか、どこか寂しげな声で呟いた。

 

 

 デビルガンダムを貫くライフル。

 ガンダムヘッドへの攻撃の余波で減った残りのデスアーミーは、ロックが楽しそうに全て倒す。

 その間ケイは自分の機体とニャムの機体を見比べて、ただ唖然としていた。

 

 

 MISSION CLEAR

 

 

 

「凄かったね、ニャムさん」

 ミッションをクリアしてGBNのメインルームに戻ってきたユメは、関心した声で感想を漏らす。

 ケイは半ば虚空を見ながら「あ、あぁ」と返事をした。

 

 

「ジブンは別に、ガンプラをそのまま使ってるだけっすよ」

 そんな彼等の前に現れる、キャスケット帽とメガネとオーバーオールとその腰の刀と尻尾。彼女の容姿を見て、あまりの情報量にロックは二度見して目を回す。

 

 

「ケイ殿の発想力はまだ伸びる所があるっすけど、自分は素組みなのでこれが上限っす。だから、そんなに自分を悲観しないで下さい。ジブンはケイ殿に目を覚まさせて貰ったんすから」

「伸びる所がある……」

 自分にも、彼女のエクストリームガンダムのように極限進化が使えるのだろうか。ニャムの言葉にケイは少し考え込んだ。

 

「彼女が、ケイが言ってたニャムさんか?」

「うん。所で……お話があるって?」

 ロックの問い掛けに返事をしてから、ユメはミッション中のニャムの言葉を思い出して質問する。話したい事があるから探していた、そんな事を言っていたような。

 

 

「そうっすね。立ち話もなんですので、カフェでお話しませんか? 奢るっすよ」

 短くそう答えて、ニャムは近くのカフェを指差した。

 

 

「え、カフェあるんだ」

 そのカフェに驚くユメ。

 

 

 四人はニャムの案内でカフェに入っていく。ユメは頭の中で、カフェってどうなっているんだろうと物凄く悩んでいた。




エクガンのガンプラ出ないかなぁ……。
という訳で、エクガンの戦闘シーンでした。続きましてはニャムのお話になります。

読了ありがとうございました!


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探し人

 機体が爆散する。

 彼女は、勝ち誇った表情で破壊した機体を踏み付けた。

 

 

「くそ、なんなんだよお前は!」

 破壊されたガンプラのパイロットが悲痛の叫びを上げる。

 そんなパイロットの表情も見ずに、彼女は機体から降りて淡々と機体を見渡した。

 

 

「あー、ダメダメ。全然ダメっすよ。アンタはこの機体の事を何にも分かっちゃいないっす」

 分かっていなかったのは自分だったのかもしれない。小さな殻に閉じこもって、周りを見ようとしていなかったんだと思います。

 

 

「な、なんなんだよアンタは!」

「ニャム・ギンガニャム。巷では改造ガンプラキラーと呼ばれてるっす」

「改造ガンプラ……キラー」

「───ところで君、この男を知ってるっすか?」

 そんなジブン(・・・)の目を覚まさせてくれた人がいて、彼の事が少し羨ましかった。

 

 

 ──これはガンプラバトルだぁ!!──

 その真っ直ぐな気持ちが、眩しかったんだと思う。

 

 

   ☆ ☆ ☆

 

 GBN。カフェレセップス。

 

「このジュース……ちゃんと味がする」

 店で出された飲み物を飲みながら、ユメは驚いた声を漏らした。

 ここはゲームの中なのに、味覚も触覚もリアルと大差がないように感じる。

 

「バイザーが脳に直接味覚を感じさせてるんすよ。ケーキも絶品ですし、なんたっていくら食べても太らないのでカロリーを気にする事もないっす。……ちなみに、ここの名物はなんと言ってもコーヒーっす」

「私ここに住む」

「落ち着け。あと食べ過ぎるなよ。お会計はミッションで手に入れたポイントからなんだから」

「あはは、今日は自分の奢りっすから。そこら辺は気にしなくても良いっすよ」

「やった!」

 女の子というのは甘いものが好きなのだ。

 

 

 

「───さて、本題なんすけど」

 四人分のケーキと飲み物が出て来て、それぞれが半分ほど食べ終わった所で彼女は話を切り替えるように手を叩く。

 何やら三人に聞きたい事があるというが、まだ知り合って何日も経ってないどころかロックに関しては初対面だ。一体何の用事なのか、少しだけケイは身構える。

 

 

「そ、そんなに警戒しないで下さいっす。改造ガンプラキラーはもう辞めたんで」

 そんなケイを見て、ニャムは両手を上げてそう言った。

 

 改造ガンプラキラー。

 彼女はつい先日まで、巷で改造ガンプラを使うダイバーを狩っていた人物でもある。

 マギー曰く「改造されたガンプラを見るや勝負を挑んできて。負けると凄い形相でガンプラを改造するなって何時間も説教をされるらしい」とかなんとか。

 

 

 ケイが彼女と戦ったあの日からGBNでその噂は途絶えていたのだが、彼女の行方はケイも気になっていた。

 

 

 辞めた、という言葉はどこか嬉しく感じる。

 しかし彼女との接点はあのバトルだけなので、余計に彼女の聞きたい事というのが分からなくなった。

 

 

「聞きたい事、というのは。……自分、人を探してるんすよ」

「人、ですか?」

 聞き返すケイにニャムは首を縦に振って、自分のコンソールパネルを開いて三人に見えるようにパネルをひっくり返す。

 

 そこには一枚の画像が表示されていた。

 ガンプラと映る一人の男性と赤髪の女の子。青年という歳ではなさそうだが、若い男性の姿が写っている。女の子はユメと同い年くらいか。

 

 

「あ」

 と、画像を見せた所でニャムは間抜けな声を出してから一旦コンソールパネルを閉じた。

 何かと三人が首を横に傾けている間に、彼女は視線を鋭く尖らせながら「この男を知っているか?」とやり取りをやり直す。

 

 Gガンダムのドモン・カッシュの台詞だと分かった二人は苦笑いを溢すが、ユメはさらに頭の上にクエスチョンマークを浮かべるのであった。

 

 

「えーと、この人は?」

「ジブンの兄っす。あ、だからドモンの真似をしたんすけどね」

 だからゴッドガンダムに乗っていたんだろうか、なんて考えるがその話は後にして。

 

「探してるって?」

 兄を探しているという言葉とこの現状に、ケイはどこか納得がいかなくて聞き返す。

 人を探しているというのに、ここはゲームの世界で自分達は彼女との関わりは薄いからだ。

 

 

「兄は五年前から行方不明なんすよ」

 しかし続くニャムの言葉に、ケイもユメ達も表情を暗くする。

 

「行方不明って……」

「ジブン、両親が幼い頃に他界しておりまして。そんなジブンを育ててくれたのが兄でした」

 彼女が言うには。

 高校卒業まで実家のある北海道で働いていた兄は、ニャムが高校を出た後、出稼ぎに上京したのだとか。

 そこで会社を作ったという話だけは聞いていたのだが、五年前から連絡が途絶えてしまった。

 

 仕送りは毎月来ているのに、まったくもって連絡が付かない。

 

 

 手掛かりは兄がガンダムを───ガンプラを好きだったという事。五年前最後に連絡をした時に貰った、ガンプラと写った写真。

 

 

「だから、ジブンもGBNにログインすれば兄を探せるんじゃないかと思いまして。しかし、まぁ……行方不明といっても仕送りは来てますし、元々風来坊みたいな所もあったんでそこまで心配はしてないんすけどね〜」

 あはは、と笑うニャムはしかしどこか寂しそうである。

 

「でも五年って……」

「大方この写真に写ってる女の子とお付き合いでもして、ジブンに構ってる暇がなくなったって所かと思ってるっすけど。元気でやってるなら元気でやってるで、一言くらい欲しくてこうして探してるって訳ですよ」

 画像はGBN内での写真だから、GBNで聴き込みをしたらいつか見付かるんじゃないかと。

 そう思ってログインしてみたは良いが、気が付いたらゲームにハマっていて改造ガンプラキラーなんて事もしていた。と、ニャムは笑いながら付け足す。

 

 

「なんで、この話は終わりっす。お三方も兄の事は知らないようなので」

 そう言ってニャムは立ち上がった。どこか寂しげな表情をしている彼女を見て、ケイとユメは顔を見合わさる。

 

「……この女の子」

 ふと、ロックが呟いた。

 

 何か知っているのか。

 期待して、ニャムは目を見開く。ケイとユメもロックに視線を向けた。ロックはそんな三人に目もくれずに画像を覗き込みながら口を開く。

 

 

「可愛いな」

 三人は転けた。

 

「お前な……」

「最低……」

「え、いや、ごめんて! ごめんなさい!!」

「あっはは、別に気にしてないっすよ。なんの当てもない人探しですし。気長にやりますとも」

 そう言ってニャムは一度三人に背を向けて、少し歩いてから振り返る。

 

「それと、先日は本当にすみませんでしたっす。自分の好きを誰かに押し付けるなんて事はもうしません。目を覚まさせてくれて、ありがとうございました」

 深々と頭を下げてから、彼女はゆっくりとその場を立ち去ろうとした。

 

 

 何も言えない。

 手だけが伸びるけど、ケイもユメもなんだかやらせない気持ちでいっぱいになる。

 

 彼女とは他人だ。

 勿論写真の人物には心当たりもないし、自分達に何か出来る事はないだろう。

 

 

 オンラインゲームの一期一会。それだけの話───

 

 

 

「ちょっと待ってくれ」

 ───そうなる筈だった。

 

 

「……はい?」

「これからもそうやって一人で闇雲に探す気か?」

 ニャムは振り返って首を横に傾ける。彼女を止めたのはケイでもユメでもなくロックだった。

 

「それは……そうっすね。これ以外に方法もないし、考えつかないので」

「なら、俺様達のフォースに入らないか?」

 そしてロックは突然ニャムをフォースに勧誘し始める。これには流石にケイとユメは目を丸くした。

 

 なんで? 

 

 

「……ど、どうしてっすか?」

「俺達も人を探してんだよ。探してるっていうか……戻ってきて欲しいっていうか、ちょっとそこは複雑なんだけどな」

 前置きをしてから、ロックはこう続ける。

 

 

「さっきの戦いでアンタの実力を見せて貰った。……俺達はどうしてもGBNの外にも届くくらい有名になって、ダチ公を呼び戻したい。そこで、だ! アンタも俺達とフォースを組んで天辺取って、兄貴に呼び掛けるってのはどうだ?」

 もし彼女の兄がGBNをまだやっているのなら、この世界で有名になればその声も届くかもしれない。

 それは実現するかどうかはともかく、ただ闇雲に探すよりも遥かに現実的ではあった。

 

 

「君は知らないかもしれませんが、ジブンは改造ガンプラキラーなんてやってた愚か者っす。……仲間を作るなんて、ましてや手伝ってもらうなんて───」

「いや格好良いじゃん。改造ガンプラキラー」

 ニャムの言葉を遮ったロックの言葉に他の三人は目を丸くする。

 

「格好良い……?」

「そらやってた事はどうとは言わないけどよ、そんな二つ名を持てるなんて俺は羨ましいぜ。それに、ケイに負けてもう辞めたんだろ? なら、いつまでもグズグズ気にしてるなんてくだらねぇ」

「タケシが良いことを言っている気がする……」

「タケシ君は実は優しいからね」

「ロックだって言ってんだろ!!」

「あっはは」

 三人の会話に、少し暗かったニャムの表情に笑顔が戻った。

 

 

「ジブンなんか、仲間にしてくれるんすか?」

「おうよ。あ、勿論リーダーは俺な。ケイもユメも良いだろ? 即戦力だぜ」

 二人に目を合わせるロックを見て、ケイとユメも目を合わせて頷く。

 

 上手く言葉が出なかった二人だけど、本当はニャムの手伝いがしたかった。

 だけど、余計なお節介だとかそういう事を考えてしまって言葉が出なかったのである。

 

 

 こういう時、いつも皆の手を引っ張ってくれるのはロック───タケシだった事をユメは思い出した。

 彼は本当に、優しいのである。

 

 

「決まりだな」

「……それでは、僭越ながらニャム・ギンガニャム。お三方のフォースにお邪魔するっす」

「よっしゃぁ! 即戦力ゲット!! これで俺様の名前もうなぎ上りで有名になって行くぜ!!」

 こうして三人は新しい仲間を手に入れた。

 

 

 探し人という新しい目的と、少しだけ現実味を帯びたアオトへの呼び掛け。これでまた前に進めたと、ケイとユメは笑い合う。

 

 

 

 新しい仲間と共に。




遂に二十話ですね。あまり進んでない気がする。
しかし、新しい仲間と目標を手に彼等はまた一歩前に進んで行きます。次回もお楽しみに。

読了ありがとうございました!


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フォースReBond

 隣の部屋から唸り声が聞こえた。

 心配になったヒメカは、姉であるユメカの部屋に向かって扉をノックをする。

 

 お風呂上がりに部屋に戻ってから「う〜ん、うーん」と唸っていたユメカだが、ヒメカのノックには「ヒメカ? 入っていいよ」と普通に返事が返ってきた。

 

 

「お、お姉ちゃん……大丈夫?」

「え? 何が?」

 心配そうに言葉を漏らすヒメカだが、当のユメカはあっけらかんとした表情で首を傾げている。

 そんなユメカを見てヒメカのも首を傾げた。さっきまでの声は幻聴か何かだったのだろうか。だとしたら心配されるのは自分である。

 

「えーと、お姉ちゃんの部屋から苦しそうな声が聞こえてきたから……」

「あー。あはは、実は悩み事があってね」

 苦笑いしながらそういうユメカに、ヒメカは「お、お姉ちゃんの為なら相談に乗るよ!」と前のめりになった。

 しかしそんなヒメカを見ても、ユメカの表情からは苦笑いが消えない。一体どうしたのかとヒメカは不安げな表情を見せる。

 

 

「いやぁ……実はね───」

 そして語られるユメカの悩みに、ヒメカはただただ大きな溜息を吐くのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 時は遡り───数日前。

 

 

「フォース名、ですか?」

「はい。フォースを結成するにあたって、チーム名みたいな物を決めて登録する必要があるんすけど。御三方はもうフォース名は決まってるんすかね?」

 ニャムの加入により着実とミッションをこなし、遂に全員がDランクに到達したその日の事。

 

 ニャムからの質問にユメは頭の上にクエスチョンマークを掲げて、ケイとロックは口を開けて固まってしまう。

 

 

「あ、これ何も考えてなかった奴っすね」

「そ、そ、そ、そんな事はないぜ。もう既に俺様が最高の名前を考えてる」

 明らかに挙動不審なロックだったが、彼が決めているならそのフォース名で登録するだけだ。そんな思いで、ユメとケイは彼が考えたというフォース名を聞くことにする。

 

GALAXYROCK(ギャラクシーロック)銀河で一番格好良い俺」

「「「却下で」」」

 同時に断る三人。ロックは泣いた。

 

 

「なんでだよ!」

「いやなんでそうなったんだよ」

「ちょっと恥ずかしい」

「ダサいっす」

「女子二人辛辣過ぎない?」

 自分の意見を全否定されたロックは「ならお前らはどんな名前が良いんだよ」と半目で問い掛ける。

 ここで決めたフォース名は、これから先アオトやニャムの兄に届かせる物だ。適当に名前を決める訳にもいかない。

 

 

「ジブンはお邪魔させてもらってる身なので、おこがましい意見は出せないっすよ」

「ダサいって直球で言うのはおこがましくないのか!?」

「うーん、でもチーム名って考えるの難しいね」

「そうパパッと決められる物でもないしな。時間も時間だし、今日はログアウトして明日までに皆で考えてくるってのはどうだ?」

 悩む三人の前でケイがそう提案をする。

 

 その場で誰かが良い案を出せる訳でもなく、とりあえず四人はケイの案に乗ってログアウトしたのだった。

 

 

「───それで、そのフォース名を考えてたんだよね」

「へー」

 ユメカが経緯を話すと、ヒメカは頷いてホッと溜め息を吐く。

 姉が何か苦しんでいるのではないかと心配していたので、大事ではなくて安心した。

 しかし大好きな姉の悩みとあらば、放っておくヒメカではない。彼女は部屋には戻らずに、姉の隣に座り込む。

 

 

「ヒメカは何か良い名前思い付かない?」

「うーん……。えーと、レジェンドお姉ちゃん!」

「タケシ君レベル!?」

 ところが結局、姉妹二人で一晩考えたのだがあまり良い名前は思い付かなかった。他の三人はどんな名前を考えてくるだろう。

 

 不安半分期待半分。そうして眠りについて、次の日がやってきた。

 

 

 

 土曜日。

 せっかくの休日なので午前中からプラモ屋に集まった三人は、見慣れないというか懐かしい光景に少し驚く。

 

「俺以外の客がいるなんて……」

「失礼だよケー君」

「俺が通うようになってから結構客来てるぜ。ふ、俺様目当てかもな」

 三人の他に、お客さんが五人ほどプラモデルを見ていたのだ。この店が賑わっている光景はどこか懐かしく感じる。

 

「あはは……GBNのマシンを買ってからお店の評判とプラモ講座の募集もあってね」

 そう説明する店長はなんだが忙しそうだが、表情は柔らかかった。

 

 

「平日はタケシ君しか来ないからマシンも足りてるけれど、今日みたいに三人で集まって来てくれる日は事前に予約してくれた方が安心するかもね」

 そういう店長の視線の先では、さっそく他の客がマシンに座っている。

 座っているのは赤いマフラーの青年だ。その特徴的なマフラーにタケシは見覚えがあった。

 

「……なるほど、これまで隣町でしかログイン出来なかった人がここに集まるって事か」

 タケシは隣町でGBNにログインしていた時、そのマフラーの青年を何度か見かけていたのである。

 納得したような表情で首を縦に振るタケシを見て、ケイスケとユメカは目を見合わせて頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。

 

 

「さて、俺達もログインしようぜ」

 そんな二人を他所にタケシがマシンに座る。続く二人を見送るように店長は「いってらっしゃい」と声をかけた。

 

「楽しんで」

 店の喧騒が遠くなる。次に聞こえてくるのは、GBNの世界の音だ。

 

 

 

 GBN。カフェレセップス。

 

「ん〜、今日もコーヒーが美味い」

 ガンダムSEEDに登場するとあるキャラクターを意識してそう言うニャム。それに気が付いたユメは「あ、レセップスってそういえば砂漠の虎の船の名前だ」と思い出したように呟く。

 

 

「そうっすよそう。いやー、SEEDって懐かしいっすよねぇ」

「ニャムさんて何歳なんすか?」

「女性に年齢を聞くとモテないっすよ、ロック氏」

「───ハッ!?」

 頭を抱えるロック。そんな彼を無視して、昨日一度区切った議題が再び交わされた。

 

 

「御三方は何か良い案は思い浮かびましたか?」

「私は何も……。ごめんなさい」

 素直に謝るユメの隣で、ロックは首を上げて「やはりギャラクシーロックか」と微笑む。

 

「それはない。……とは言っても、俺も何も考えてないんだよな」

 苦笑いするケイは「逆にギャラクシーロックもありか……」と目を細めた。

 

 

「あははー、やっぱり一晩一人で考えただけじゃ難しいっすよね。そうだと思って、ジブンは参考になる資料を見つけて来たっすよ」

 そう言いながらニャムはコンソールパネルを開いて三人に見せる。

 

 そこには、なにやらチーム名のような物が沢山並んでいた。

 

 

「これは?」

「ここにあるのは全部、今現在GBNで活動しているフォースの名前っす。前回のガンプラフォースバトルトーナメントの出場フォースから適当に持ってきただけっすけどね」

「なるほど、他の人のフォースの名前を参考にしようって事か」

 ニャムの考えが読めたケイは感心した声を漏らす。彼の言葉に「そういう事っす」と胸を張るニャムはパネルに並ぶフォース名を一つ指差した。

 

 

「例えばこれ、第七機甲師団。渋いフォース名っす。ロンメル隊とも呼ばれてる、GBNでは有名なフォースっすよ」

「確かに聞いた事あるな」

「格好良いね!」

 聞き覚えのある名前に頷くケイの隣で、ユメは好反応を見せる。タケシは「08小隊とか好きそうだな……」と呟いた。

 

 

「別方向で行くなら……これっすかね。アークエンジェルス。ユメちゃんはSEEDのアークエンジェルは覚えてるっすか? その船の名前をもじったフォース名っすね。可愛らしくていいと思うっすよ」

「あー、スカイグラスパーとかストライクの母艦だ! マリューさんの船! 確かにそうやってもじるのも面白そうだね。ニャムさんはSEED見たの?」

「そりゃ勿論っすよ。良いっすよねSEED! 初代無印ガンダムを感じさせるストーリー展開からの物語の作り方というか、MSのバリエーションやキャラクター同士の設定なんかも───」

「はいストーップ!! 今はフォース名を決める時だっての!! てかいつのまにかお前ら仲良いな!!」

 暴走しそうになったニャムをタケシが止める。ニャムは苦笑いしながら「す、すみません」と謝った。

 

 

「気を取り直して……百鬼、AVALON(アヴァロン)なんかはシンプルで格好良いと思うっすよ」

「んじゃ、LOCKとかシンプルで良くね?」

「どうしても自分の名前をいれたいのか」

「いや、俺が今言ったのは石のROCKじゃなくて、鍵のLOCK。エルオーシーケー、ロック。オーケー?」

「意味は?」

「このチームの鍵は俺様ロックというダブルネーミング」

「さーて次のフォース名は、と」

「ちょっと! 華麗にスルーしないで!!」

 ニャムの対応に泣きそうになるロックだったが、それを見てケイとユメは微笑んで笑い合う。

 

 新しい仲間とこうして話すのが今は面白かった。

 

 

 

「ビルドダイバーズ、虎武龍、アダムの林檎……どれもビシッと決めてんなぁ」

「アダムの林檎はマギーさんのフォースなんだっけ? あの人らしいね」

「俺達らしいフォース名……か」

 ユメの言葉にケイが唸る。

 

 自分達らしさとはなんだろうか。アオトやニャムの兄に届くような、そんな名前が良いと考えていた。

 そこに自分達らしさをどう足せば良いのか分からない。

 

 

「俺達の乗ってる機体にあんまし共通点とかないしなぁ……。ニャムさんなんか毎回違うガンプラ持ってくるし」

 ここ数日、Dランクを目指してニャムとミッションをこなしていたのだが、その全てで彼女は違うガンプラを使っていたのを思い出しながらロックは唸る。

 

「例えば全員ソレスタルビーイングの機体を使ってるとかだったら、ソレスタルなんとかって手もあったろ? ケイとユメは一応ストライクとスカイグラスパーだからアークエンジェル隊みたいに出来るけどな」

「ふーむ、ストライク……ストライク。そういえば、ケイ殿のストライクの名前、ストライクBondでしたよね。どうしてその名前にしたんすか?」

 ニャムはロックの言葉で思い出したようにケイにそう問い掛けた。

 

「え、えーと……。木工用ボンドからですね」

「どこからツッコンで良いのか分からない解答が出て来たっすね……」

 苦笑いしながら答えるケイに釣られて表情を痙攣らせるニャム。どこから木工用ボンドが出て来たのかまるで分からない。

 

 

「まだ私達が小学生だった頃、ケー君とタケシ君とアオト君でよく遊んでたんだけどね。遊んでて壊れたガンプラをよくアオト君がボンドで治してくれてたんだ」

「なるほど、子供の頃ならではっすね。ユメちゃんありがとうっす」

「えへへー」

「んー?」

 仲良く話す二人を見て、ロックは首を横に傾ける。女子同士とはいえ、いつのまにそんなに仲良くなったのか。

 

 

「二人共、夜に通話しながらGガンダムのアニメ見てたんだってさ」

 そんなロックの様子に気が付いて、ケイが小声で説明を入れた。

 

「なるほど……。てかなんでGガンダム」

「ニャムさんと初めて会った時ゴッド乗ってたから」

 彼がユメに聞いた話では、ここ最近の夜はニャムの解説を聞きながらガンダムのアニメを見ることにしているらしい。

 手始めにGガンダムを見始めていると聞いた時は驚いたが、仲間の二人が仲良くなるのは良い事である。

 

 

 

「ところで、Bond───ビーオーエヌディーには接着のボンド以外にも結ぶとか、絆って意味もあるっすよね」

「確かに」

 ユメに続いて男子二人も頷くが、それ以上は言葉が出てこなかった。三人はニャムの言葉を待って、彼女に視線を集める。

 

 

「そんなBondから取って、ReBond(リボンド)なんてフォース名はどうっすか? 意味は再び結ぶ……うーん、再び結ぶ絆って感じで」

「再び結ぶ……」

「絆……」

 ニャムの提案に、ケイとロックは口を開けて固まった。その視線はどこか遠くを見ていて、ニャムは若干の手応えを感じる。

 

「最近ユメちゃんと夜に結構通話してるんすけどね、その時にアオト君という少年の話を聞いたんすよ。ケイ殿や皆の思いをフォースの名前に込めるなら、こんな名前もありかなと思ったんすけど」

「格好良いじゃねーか」

 ロックは鼻息を鳴らしながらそう返事をした。彼の返事にユメは笑顔でニャムとハイタッチをする。

 

 

「ReBondか……」

「ケー君?」

 一人どこか遠くを見ながら言葉を漏らすケイを見て、ユメは首を傾げた。

 ただ、不満そうという訳ではなくて。今はここにいないもう一人の幼馴染みに話しかけているような、そんな表情である。

 

 

「再び……結ぶ、か。良いな」

 ‪──そうだよ。何度壊れたって、何度でも直せば良い‬──

 

 いつかのアオトの言葉を思い出して、ケイは笑った。

 

 

 

「そうだ、何度でも───」

「ふむふむ。それじゃ、フォースの名前は決まりっすね!」

「うん、そうだね。ReBondかぁ、良い名前だと思う!」

「さて、ここからやっと俺様の名がこのGBNに轟いていくんだな!」

 決意と目標を手に、少年達は新しい居場所と共に───

 

 

「───繋ぐんだ」

 ───前に。




ガンプラバトルを……しような!
という訳でフォース名も決まったし、次回からバンバンフォースバトルして行きますよ!もう二十話超えたけど!


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第三章──リーダーの資格【フォースメフィストフェレス】
フォースバトル


 鼻歌混じりに扉を潜る。

 どうも賑やかになってきた店内に、どこか懐かしさと寂しさの混じった感情がタケシの頭の中で渦を巻いた。

 

 

「繁盛してんなぁ」

「やぁ、タケシ君。今日もかな?」

 そんはタケシに、店長が静かに挨拶をする。彼の周りにはガンプラの作り方を教えて欲しいと小中学生が集まっていた。

 

「忙しそうっすね」

「あはは……そうだね。マシンなら空いてるから、使って良いよ」

「ういっす」

 店長に軽く手を振って挨拶をし、タケシは鞄から黒いガンプラを取り出してマシンにセットする。

 あの頃からずっと使い込んでいるデュナメスHellは、多少の改良もあり絶好調だ。

 

「ん? 今日もか」

 デュナメスから視線を少し逸らすと隣のマシンに座る別の客が視線に入る。最近この店の常連になった青年だ。

 チラッと視界に入るのは自分と同じ黒色のガンプラ。ただ、珍しい事でもないのでタケシは瞳を閉じる。

 

 

 その先はGBNの世界だ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

「フォースバトル?」

 首を傾げるユメに、ロックは「そうだ」と鼻息を漏らす。

 

 

「フォース同士で戦うチーム戦の事っすね。CPUではなく対人戦で、さらにチーム戦。GBNでも一番盛り上がってるバトルのルールっすよ」

「フォースバトルをガンガンやって、フォースランキングをガンガン上げる! それが今の俺達の目標だな」

「フォースランキング?」

 さらに首を傾げるユメ。その首が重力に引かれて倒れそうになる彼女を、ニャムは「おっと」と声を漏らして支えた。

 

「フォースごとにバトルの結果に応じてポイントが入るんすけど、そのポイントのランキングって事ですね。現在一位はAVALONってフォースっす」

「まぁ…… AVALONを抜くのはちょっと現実的じゃないけどな」

 苦笑いするケイに、ロックは「そんな事はない!」と詰め寄る。どこからそんな自信が湧くんだと、ケイは表情を痙攣させた。

 

「俺様がいればどんな奴が相手でも関係ないからな。目指せフォースランキング一位!」

「タケシ君張り切ってるなー」

「ロック!!」

「あははー、一位はともかく。このフォースランキングを上げる事が、GBNで有名になる一番の早道っすね」

 そう言ってからニャムは「まぁ……ジブンみたいに悪目立ちしようと思えばそれはそれで簡単なんすけど」と表情を曇らせながら言葉を漏らす。

 改造ガンプラキラー。今思えば確かに巷で噂になる程にはなっていたが、それは彼らが思う有名になるとは違う筈だ。

 

 

「という訳で、今日は初めてのフォース戦やってみましょうか! 申し込みは済ませておいたので」

「い、いつのまに……」

「い、今から!?」

 驚くケイとユメに、ニャムは「なんでも実践あるのみっすよ」と笑顔を漏らす。

 

 彼女の話によれば、掲示板にバトルのルール等を貼って対戦相手を募集する形で申し込みをしたらしい。

 もう少しで対戦相手との待ち合わせ時間で、場所は今ここだとか。少し急な事でユメは緊張で慌てふためいていた。

 

 

「───フォースReBondの方か?」

 そんな会話をしていると背後から一人の青年に話しかけられる。振り向いたその先にいたのは、短い黒髪と長めの赤いマフラーが特徴的な好青年だ。

 

「あ、はい」

「おう。俺がこのフォースのリーダー、ロック・リバーだ」

 そう言って青年に手を伸ばすロック。ニャムとユメは「いつのまにリーダーになったんだろう」「目立ちたがりなんすね」と内緒話を漏らす。

 

 

「そうか、今日はお手柔らかに頼む。……俺はノワール。フォース、メフィストフェレスのリーダーだ」

 そう言う青年の背後には、彼の仲間と思われるダイバーが三人立っていた。

 

「とりあえず紹介するな。この小さいのはスズ、眼鏡がトウドウ、それでこのこは───」

「アンジェリカですわ。気軽にアンジェとお呼びになって」

 ノワールの紹介から飛び抜けて、金髪縦ロールの少女が胸を張って挨拶をする。

 

「……スズ」

「トウドウだ。宜しく」

 続いて白髪の小さな女の子と、眼鏡の青年が自己紹介をした。

 

 

「ケイだ。宜しく」

「ゆ、ユメってい、ぃ、ぃいい、いいます!」

「ニャムっす。今日はお手柔らかに」

 続いてケイ達も挨拶をする。そんなニャムの顔を見て、眼鏡の青年───トウドウが目を細めた。

 

「改造ガンプラキラー」

「ギクッ」

 その名を聞いて表情を痙攣らせるニャム。しかしトウドウは爽やかな笑みで彼女の目を真っ直ぐに見る。

 

 

「最近話を聞かないと思っていたが、そう言うことか」

「トウドウ、いったいどういう事かしら? 私にも分かるように説明をしなさい!」

 アンジェリカの言葉に面倒臭そうな表情を見せるトウドウ。それを見てノワールは苦笑いを見せ、ニャムはホッと溜め息を吐いた。

 

 

「ルールは掲示板にあった通り、フィールドは先決め重力下ランダム。殲滅戦で良いか?」

「おうよ」

 ロックの返事を聞いて、ノワールはコンソールパネルを開く。バトルフィールドを決めるページに移り、ロックと確認しながらフィールドを決めた。

 

 

 

「市街地か」

 ランダムで選ばれたステージは市街地。フィールドの高低差は少ないが建物の多いステージである。

 各フォースの出撃位置は東西南北四種類。これはコイントスで勝利した側から好きな位置を決めるルールだ。

 

「よし、勝った」

 コイントスに勝利したロックは西側の出撃位置を選択する。これはニャムと話し合った結果だが、出撃位置の近くに高台がある事が決め手となった。

 

 

「悪いスズ、西側は取られた」

「……無問題」

「ルールは決まりましたわね! 作戦会議よ!」

「それでは、作戦会議時間は十分としてバトルを始めよう」

 フォースメフィストフェレスの四人は東側を選択して、各自作戦会議をする時間に入る。

 

 十分後には自動的にフィールドに転送されて、バトルスタートだ。

 

 

 

「き、緊張するな……」

「別に負けてもペナルティがある訳じゃないっすから。気楽にやりましょう」

「いや、俺は勝つぞ。初フォースバトル、必ず勝ち取ってみせるぜ」

「頼もしいな」

「そうっすね」

 やる気満々のロックを見てケイとニャムは少し感心する。そんな三人を他所に、ユメは一人だけ何か考え事をしていた。

 

 

「やっぱりユメも緊張してるか?」

 挨拶をする時にとても声が震えていたのを思い出して、ケイは笑いながらユメに声を掛ける。

 

「……あ、いや。違うの。さっき相手の人達が去り際に話してた事思い出して」

 しかし、ユメはそう言いながらコンソールパネルを開いてバトルフィールドのマップを確認した。

 

 

「どうかしたんすか?」

「さっき、リーダーの人が小さな子に、西側は取られたって謝ってたの」

「確かにそうっすね。ジブン達はロック殿がスナイパーっすから、西側を取って近くの高台に陣取るのが良いかと思───あぁ、なるほど」

 言っている途中で何かに気がついたのか、ニャムは目を見開いて手を叩く。

 

「あ? どうかしたのか?」

「タケシ君、気をつけて欲しい。多分ね、相手のチームにもスナイパーがいると思うんだ」

 ユメのその言葉にロックとケイは驚いた。確かによく考えれば、さっきの会話からもその可能性は高い。

 しかしその事に一番早く気が付いたのがユメだった事に二人は少し恥ずかしくなる。

 

 

「よく気が付いたな」

「えへへー、たまたまだよ」

「……なるほどな。となれば、俺達は有利を取ったって訳だ」

 敵スナイパーの動きを制限できた事、そしてなにより敵にスナイパーがいるという情報を得た事は大きい。

 

 

「狙撃で有利も取ったし、このロック・リバーに任せな」

 全力で良い声を出してそんな言葉を漏らすロック。三人は彼の狙撃技術を思い出して、やや不安気味にだが作戦を立てる事にした。

 

 

「とりあえず、相手のスナイパーの居場所を───」

 

 

 

 十分後。

 ストライクBond、デュナメスHell、スカイグラスパー、そしてグフカスタムに搭乗した四人が出撃地点から発進する。

 

「作戦通り、ロック氏は高台へ。ケイ殿はダブルオーストライカーを装備してロック氏の援護、ユメちゃんはエクリプスストライカーを装備して出撃して下さいっす!」

 市街地戦闘ではクロスボーンストライクの機動力は活かしにくい。近距離戦闘に重きを置いて、エクリプスストライカーはスカイグラスパーに装備させた。こちらも換装する事はないだろう。

 

「ニャムさんの機体は……えーと、ジン───じゃなくて、ザク?」

「この機体はグフっすね。正式にはグフカスタムっす」

 発進したのは淡い青色の機体だった。角の生えたザクにも見えるが、ザクとは違うのである。ザクとは。

 

 

 ガトリングが装備された盾と大型の実体剣───ヒートサーベルを手に地面を蹴るグフカスタム。今回のニャムの機体に、ケイとロックは満足げに頷いた。

 

 

「市街地戦でグフカスタムは心強いな」

「ニャムさんは俺の狙撃と挟撃の為に位置取り頼むぜぇ!」

 GNスナイパーライフルを構え、ロックは舌で唇を舐めながらそう言う。

 本人は狙撃の名手のつもりだ。銃口の先が日の光に反射して光った。

 

 

 

「───敵の狙撃手……見つけた」

 一方市街地内。黒いMSが一機、横に向けたモノアイを建物の影から西側に向けている。

 

「流石スズですわ。それでは、こちらも作戦通りに参りましょう! ノワール!」

「了解だ。スズ、他の敵の位置は?」

「……戦闘機が一機空を飛んでる。多分支援機」

「トウドウ、作戦は?」

「俺が強襲して敵を釣る。スズ、スナイパーの観測を頼む」

 フォースメフィストフェレスのメンバーは通信で作戦を立て、トウドウがそういうとスズはこくりと小さく頷いた。

 

 彼女の機体が少しだけ建物から出る。黒に混じるのはモノアイの色のみで、建物の影に紛れ遠くからその機体を識別するのは難しい。

 そのMSの両手には、大型のビームスナイパーライフルが構えられていた。

 

 

「行くぞ」

 そして、近くに隠れていたトウドウの機体が地面を蹴って市街地を飛び出す。そのまま空を飛ぶその姿は───

 

 

 

「───アラーム、敵。……戦闘機!?」

 ユメの視界にトウドウの機体が映った。その姿は、スカイグラスパーよりも一回り大きな戦闘機である。

 

「後ろを取られた……でも!!」

「スカイグラスパー、ストライカーパックを載せているな!!」

 トウドウの機体に装備されたライフルがユメのスカイグラスパーを捉える───その前に、スカイグラスパーに装備されたエクリプスストライカーが動いた。

 

 ストライクの肩に装備されるブラスターカノンが稼働して背後を向く。間髪入れずに放たれたビームはトウドウの機体を掠ってバランスを崩させた。

 

 

「───やる! ……っ、どこだ!?」

「後ろは取ったよ!」

 ユメはその一瞬の隙に、機体を宙返りさせてトウドウの後ろを取る。ブラスターカノンが反転し、後はトリガーを引けば倒せる距離まで追い詰めた。

 

 

「そこだぁ!」

「ユメちゃんストップ!! その機体から離れて!!」

 しかし、突然のニャムの通信でユメは操縦桿を勢いよく引き上げる。

 

 すると同時に。トウドウの機体が可変し始めた。彼の機体は戦闘機の姿からMSの姿へと変貌する。

 

 

「MSに変身───いや、変形した!? きゃぁっ」

「引いて躱すか……やるな」

 手に持ったライフルをユメのスカイグラスパーに向けるトウドウ。距離を取ったおかげでなんとか交わせたが、あのまま突撃していたら撃墜されていたかもしれない。

 

 

「AGEのクランシェカスタムっすね! 中々見事な変形機構のお手前で!!」

「新手、改造ガンプラキラーか……っ!!」

 追撃しようとライフルを構えるトウドウの背後から、ニャムのグフカスタムが建物を蹴って跳び上がってきた。

 

 ヒートサーベルと、トウドウの機体からは膝に装備されたビームサーベルが重なり合って火花が散る。

 

 

「クランシェアンドレア、トウドウだ」

「機動戦士ガンダム第08MS小隊より、グフカスタム。ニャム・ギンガニャムがお相手するっす!!」

 二人の機体はそのまま地面に着地して構えた。お互いに間合いを図りどちらも動かずに止まっているが、一触即発の雰囲気である。

 

 

「ユメちゃんは作戦通りに! このクランシェはジブンが相手をするっす!」

「一番釣りたい獲物が釣れた。ノワール、プランAで行く」

 お互いに通信を送り、二人は目の前の敵を睨んだ。そして誰かが合図したかのように、二人は同時に飛び出し、刃が交差する。

 

 

 

「ニャムさん……。うん、私は作戦通りにしなきゃ……っ!」

 そんな光景を横目に、ユメは一度深呼吸して作戦内容を思い返した。

 

 

 

「ユメちゃんはフィールドの北と南を行き来しながら東へ少しずつ進んで下さいっす。東にいる敵のスナイパーの場所を確認する事が大切っすけど、真っ直ぐ進んでたら的っすからね」

 作戦会議でのニャムの言葉を頭の中で繰り返す。敵のスナイパーを探して、ケイやロックを動きやすくする大切な仕事だ。

 

「こうしてジグザグに動いていれば攻撃されても当たらな───んっ」

 そう言っている最中に、彼女の頭の中にまるで電流が走ったかのような感覚が過ぎる。

 寒気のような、何かに足を掴まれたような、そんな感覚。ユメは咄嗟に、何か意味があるわけでもなく操縦桿を捻った。

 

 

「───うわぁ!?」

 同時に閃光が走り、機体の左翼が爆散する。ビームの直撃、高速で空を飛ぶスカイグラスパーを捉えられた。

 

 

「狙撃された!? 動いてたのに。……でも、今のは───」

 バランスと推力を失い落下するスカイグラスパー。モニターはエラー表示で真っ赤になっている。

 

 

「ユメ!」

「ごめんねケー君、撃たれちゃった……。やられちゃってはないけど、もう飛べないかも! ストライカーも半分壊れちゃったし……」

 機体の高度が落ちていくのを見ながらユメはケイにそう通信を返した。このままでは良くて不時着、悪ければ墜落して撃墜である。

 

 

「ユメちゃん、不時着して撃破されない事を目標にして欲しいっす。殲滅戦は生き残ってる事が大切っすから。それに、残ってるストライカーを使う事があるかもしれないので」

「わ、分かった……けど───ううん。頑張る!」

 揺れる機体の操縦桿を必死に握った。嫌な汗が垂れる。

 

 

「さっきのは……。いや、今は操縦!」

 空を飛ぶのが夢だった。でも今は、もっと皆と───

 

 

 どうしてか、操縦桿を握る手が緩くなる。そのまま何かに導かれるように、彼女は無事に不時着した。




戦況
フォースReBond
ケイ     ストライクBond  ○
ロック    デュナメスHell  ○
ニャム    グフカスタム     ○クランシェアンドレアと交戦中
ユメ     スカイグラスパー   △狙撃により大破。不時着。飛行不可能

フォースメフィストフェレス
ノワール   ???        ○
アンジェリカ ???        ○
スズ     ???        ○
トウドウ   クランシェアンドレア ○グフカスタムと交戦中


今回からフォース戦の時は後書きに戦況を書いておきます。わかりやすくする為。

やっとこさ初めてのフォース戦です。チーム戦、どう書いていけばいいか悩みながら書いてあります。読了ありがとうございました!


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ミラージュコロイド

 光が空気を切る。

 その光は空を駆ける獲物を貫く筈だった。

 

 

「……私が、外した」

 目を見開いてその光景を見る。

 

 直撃させたつもりだった。自信とかではなく、疑う余地もない。それが覆る。

 

 

「……あの戦闘機」

「スズが外すなんて珍しいな」

「でも、アレでは戦線復帰は無理ですわね。作戦通りですわ」

 高度を落として墜落していく戦闘機を見ながら、少女───スズは眉間にシワを寄せた。視界から戦闘機が消える。

 

 

「……もう外さない」

 少女の手は、自分の想像よりも強く握られていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 通信が入る。

 

 

「こちらユメ。市街地外周の森に不時着! 一応無事だよ!」

 もう砲身くらいしか動けないけど、と付け足すユメだがケイは安心して溜息を吐いた。

 

「戦況はニャムさんが可変機と戦闘中。敵の残りはユメを狙撃したスナイパーと……後の二人は不明か」

 強襲の為に先行したニャムの援護をしたいが、ケイにはロックの護衛という任務がある。

 

 そのロックの狙撃で援護するという手もあるが、どこかに隠れているスナイパーから目を離すわけにもいかなかった。

 

 

「ロック、スナイパーの位置は?」

「ユメから貰ったデータである程度の場所は分かるんだがな。……隠れてやがるか。どちらにせよ、俺も射程外だ」

「残りの二機も見つかってないし、迂闊には動けないな。……とりあえずはニャムさん次第か」

「一応そっちにも目を向けておくぜ。もしニャムさんの所に敵の援軍が来たら、その時は任せた」

 東側で戦闘中のニャムにも目を向ける。ニャムの強さはメンバーの中でも飛び抜けているが、相手も遅れをとってはいなかった。

 

 既にスカイグラスパーを失ったも当然のフォースReBondは数的不利も被っている。

 

 

「頼むぜニャムさんよぉ……」

 スコープ越しに戦闘を観察するロックは、冷や汗を流しながらその戦いを注視した。

 

 

 

 ガトリングが空を裂く。

 市街地の高速道路を走りながら、ニャムの駆るグフカスタムは変形して空を飛ぶクランシェアンドレアにガトリングを向けていた。

 

「中々避けるっすねぇ! 四枚羽に改造されて、付属のスラスターのおかげで通常のクランシェより機動力は二倍程っすか」

「ガトリングは厄介だな。……やはりコイツはスズの脅威になる」

 旋回してガトリングを避け続けるトウドウ。高速道路を走るグフカスタムを見ながら、彼はガトリングの間合いを見切って機体を変形させる。

 

 

「落とさせて貰う!」

 ライフルを構えるクランシェアンドレア。ニャムは冷や汗を流しながらMSの足で床を勢いよく踏んだ。

 

 同時に放たれたライフルを、踏み付けて崩落させ捲り上げた高速道路で防ぐ。

 高速道路の盾がビームを弾いて、そのままニャムは高速道路の盾を蹴り飛ばした。

 

 

「……くっ」

 トウドウは飛んでくる高速道路を避ける為に機体を急速変形させる。四枚羽のスラスターが吹いて、機体を一気に持ち上げた。

 その加速性能は凄まじく、道路の破片は掠ったが被害は少ない。しかし、それを見てニャムは笑う。

 

「逃げてばかりっすか!」

「その煽り……乗ってやろう!!」

 急上昇してから機体を反転させ、トウドウはそのままスラスターを吹かせて太陽を背に急降下した。

 太陽の光を連れて降下してくるクランシェに、ニャムは片目を閉じて「眩しっ」とグフの盾を向ける。

 

 

「その盾もらい受ける……っ!」

 急速変形、ビームサーベルを抜いたクランシェがグフの上を取った。

 

 

「えい」

「なに!?」

 ビームサーベルがグフの盾を切り裂こうとした次の瞬間、ニャムはその盾を横に投げ捨てる。

 盾に一瞬視線を奪われた。視線を戻したその先では、グフの剣が自分の機体を捉えようとしている。

 

 

「まずは一つ!」

「甘い!!」

 自由落下しながらも、トウドウは自分の機体を急速変形させてスラスターを吐かせた。四枚の羽に付いたスラスターが一気に機体を持ち上げんと火を吐く。

 

 

「そこです!」

 しかし、機体が上昇しようとする寸前。ニャムは剣を持つグフの右手に装備されたヒートロッドを伸ばした。

 上昇しようとするクランシェに伸ばされたワイヤーが絡まる。

 

 

「捕ま───のわ!?」

 同時に加速する機体は、真っ直ぐ上昇せずにヒートロッドに捕まったまま楕円を描くように飛んだ。

 まるでコンパスで円を描くように、上昇したクランシェは地上へと戻っていく。その先は地面だ。

 

 

「間に合わん。……改造ガンプラキラー、か」

 変形して離脱するにも、圧倒的な加速性能に機体が付いてこない。変形する頃には機体は地面でスクラップになっているだろう。

 

「ここまでだな。だが、充分に時間は───」

 トウドウは諦めて目を瞑った。しかし、その口元は───

 

 

「足の速さが命取りっすよ!」

 ニャムはそのままヒートロッドを引っ張りクランシェを地面に叩き付ける。衝撃に機体はバラバラになって爆散した。

 

 クランシェアンドレア撃破。

 

 

「ふむふむ、スラスターの追加により加速性能は引き上げられてましたがねー。変形機構を複雑にすればする程変形までの時間が長くなる。……そこが弱点になる」

 時間にして僅かな差だが、ヒートロッドを打ち込むのには充分な時間である。

 一人満足げに解説するニャムからの通信を聞いて、ケイとロックはひとまず安心と溜め息を吐いた。

 

 

「……しかし、スナイパーからの援護も増援もないとは。もう少し進めばユメちゃんが観測したスナイパーの位置の近くっすけど」

 放り投げた盾を拾いながら考え事をするニャム。

 

 随分と派手に戦ったのでこちらの場所はバレていそうだが、他の敵は一向に姿もみせない。

 

 

「……動いていたのはクランシェだけ? いや、そんな筈は……。しかしいくら市街地といっても高台を取ったロック氏に見付からずにいるというのはおかし過ぎる───まさか?」

 首を捻って眉間に皺を寄せる。嫌な予感がした。突如、モニターにロックの顔が映って同時に悲鳴と爆音が聞こえる。

 

 

 

「───うぉぉ!?」

「ロック氏!?」

「後ろからだぁ!?」

「やられた!?」

 どういう事だ、と頭を捻っても答えは見付からなかった。考えるよりも先に、ニャムは踵を返して西に向かう。

 

 

 

「んなぁろぉぉ、何処から湧いて出てきやがった!」

 一方西側の高台では、突然背後から現れた敵にロックが応戦していた。

 

 何処からともなく放たれるビームライフル。これがおかしな話で、ビルの影に隠れた機体が今度は別のビルの影からライフルを撃ってくる。

 まるで敵が複数いるような感覚に、ロックは苛立ってGNスナイパーライフルを連射した。

 

 

「残りの敵は三機。全部に後ろを取られた……?」

 高台の下からロックを見上げながら眉間に皺を寄せるケイ。いつのまに移動していたのか。

 そもそも、高台から見張っていたロックに気付かれずに背後を取るなんて事が可能なのか考える。

 

 

「───そうか、ロック! そっちは囮だ気を付けろ!!」

 何かに気が付いたケイはスラスターを吹かせてロックのいる高台までストライクを持ち上げた。同時に、彼の背後の景色が歪む。

 

 

「貰った!!」

 まるで空間を侵食するように、黒い機体がその場に現れた。

 正しくはその場に現れたのではなく、姿を表したともいえる。光学迷彩───ミラージュコロイドで隠れていたMSが。

 

 

「ブリッツだと!?」

「させるかぁ!!」

 ロックのデュナメスHellを襲うのは、ブリッツを元に改造され首元に巻いた赤いマフラーが特徴的な機体だった。

 

 そのブリッツが右手に持った武器から展開したブレードと、ケイのストライクBondの二本の剣がぶつかり合い火花を散らす。

 

 

「……っと、良い動きだ。奇襲に気付くか!」

 ブレードを薙ぎ払い、ストライクBondを突き飛ばすブリッツ。

 

 真紅のマフラーが風に靡いた。

 

 

「良い機体だな。名前は?」

「ストライクBondだ……。あなたの機体は?」

「迅雷ブリッツ。俺の愛機だ」

 自分の機体の名前を語るのは、フォースメフィストフェレスのリーダーノワール。

 漆黒と真紅の混じり合う機体───迅雷ブリッツと、ケイのストライクBondは地面に降りてお互いに間合いをはかる。

 

 

「ミラージュコロイドで隠れて近付いて来たって事かよ……。って事は、こっちにいるのも!?」

 そんな二人を見下ろしながらも、ロックは近付いてくる気配に気が付いてライフルを構えた。

 

 それと同時に、目の前に再び漆黒が現れる。

 

 

「その通りですわ!」

 逆光に照らされる黒いシルエット。見えたのは四枚の翼。その姿はまるで、堕天使のようだ。

 

 

「アストレイゴールドフレームオルニアス!」

 漆黒に黄金の混じる機体が天を舞う。翼のように見えるのは、元となった機体アストレイゴールドフレーム天のマガノイクタチと呼ばれる装備だ。

 本来背面に一対の翼のように装備される物だが、その機体にはそれが二つ。四枚の翼が開いていた。

 

 それが彼女───アンジェリカの機体。アストレイゴールドフレームオルニアス。

 

 

「舞え、オルニアス!!」

 そのマガノイクタチ(四枚の翼)から、一つずつ計四本のワイヤーが伸びてロックのデュナメスHellを襲う。

 GNフルシールドに一つアンカーが引っかかり、アンジェリカは機体を持ち上げてアンカーでデュナメスを左右に振った。

 

 

「んなろぉ!!」

 振り回されながらもライフルを構えて放つロックだが、そんな攻撃が動いている相手に当たる訳がない。

 そんなロックを見上げながら、ケイはブリッツと交戦する。実剣同士で火花を散らし、二人は間合いをはかっていた。

 

 

「お互いにフェイズシフト装甲だ。慎重になるよな」

「……何が狙いだ」

 ケイにはノワールが勝負を決めようとしていないように見える。まるで何かを待っているかのような───

 

 

「そうか、三機目。タケシ! 機体を西に向けろ! スナイパーが来る!」

「あぁ!? マジかよ、んなくそぉ!!」

 ロックは言われるがままに機体を無理矢理西に向ける。アンカーを引っ張る形で、アンジェリカのゴールドフレームが振り回された。

 

 

「な、なんて馬鹿力ですの!?」

「ロック・リバー様舐めんな!」

「むむむ……の、ノワール!」

「問題ない。プラン変更だ、やれ……スズ!」

 デュナメスHellが西を向いた刹那、一筋の閃光が走る。その光はデュナメスのGNスナイパーライフルを貫いた。

 

「な……っ」

 西側からのライフルの狙撃。もし東側を向いて、背中を向けていたらどうなっていたか───想像に難しくない。

 

 誘爆したGNスナイパーライフルを手放すロック。その衝撃でゴールドフレームのアンカーは外れたが、アンジェリカは不満そうな表情を見せずに笑う。

 

 

「目標は達した。グフが戻ってくる前に一旦離脱するぞ!」

 彼等の目的は初めからReBondの狙撃手だった。地の不利を潰す為の作戦。ニャムと戦っていたクランシェは囮だろう。

 

 彼等からしてみれば高台を取られている時点で、デュナメスというスナイパーは驚異だ。その脅威を排除出来た事は、撃破には至らなくても大きな戦果である。

 

 

「一気に離脱しますわ!」

「この野郎!!」

 スラスターを吹かせ、アンジェリカのゴールドフレームはデュナメスと一気に距離を取った。ライフルを破壊した今、背中を向けようが脅威はない。

 

 

「逃げるのか!」

「戦略的撤退だ!」

 高台の下ではストライクとブリッツが剣を交えていた、ノワールの迅雷ブリッツは大きくブレードを薙ぎ払う。

 ストライクBondが回避した隙に、ノワールの機体は大きく後ろに跳びながらミラージュコロイドを展開。光学迷彩に包み込まれた機体は、スラスターの音だけを残してその場から消えた。

 

 

「……やられたなぁ」

 頭を抱えて反省するケイ。モニターに映るロックは小刻みに震えていて、そんな彼が心配になって声を掛けようとする。

 

「───逃すかぁクソぉぉ!!」

「タケシ!?」

 高台を飛び出すロックの機体。ケイは唖然として固まってしまい、彼を止める事が出来なかった。

 

「おいおい……」

 気が付いた時には彼の機体は市街地に消えている。これはどうしたものか。

 

 

 

 

「作戦大成功。流石ですわ、スズ」

「……アンジェの機体のおかげ」

 一方市街地にて。

 戦線を離脱したアンジェリカのアストレイゴールドフレームオルニアスの横に、もう一機MSが地面を歩いていた。

 

「それほどでもありますわ! この私の作ったサイコザクレラージェは完璧ですもの!」

 そのモビルスーツはアンジェリカやノワール、トウドウと同じく全身が黒く塗られている。

 

 一つ目のモノアイに、角のようなアンテナ。

 バックパックのスラスターにはサブアームが複数確認でき、大型のバックパックには複数の武器がマウントされていた。

 

 サイコザク。

 機動戦士ガンダムサンダーボルトに登場するザクであり、そのサイコザクを改造した機体こそ狙撃手───スズの機体である。

 

 

「……うん。アンジェ、凄い。……アンジェの作ってくれたこのサイコザクレラージェは私の……私の───」

「見つけたぞスナイパー野郎ぉぉおおお!!!」

 市街地の建物にぶつかって倒壊させる勢いで、二人の元にロックのデュナメスHellが突撃してきた。

 これには二人も驚いて動きが固まる。その間にロックは更に二人に接近する為に地面を蹴る。

 

 

「……武器を壊したのに?」

「捨て身で突撃ですの!?」

「ブチ倒す!!」

 驚く二人の眼前で、デュナメスHellはGNフルシールドを展開。シールド内部に隠されていたビームサイズを手に、サイコザクレラージェに猛進した。

 

 

「……っ」

「貰ったぁ!!」

 ビームの鎌が空気を切る。しかし、その刃はサイコザクには届かなかった。

 

 

「あぁ……?」

 ただ、納得がいかない。ビームサイズを振り下ろした先には、確かにサイコザクが居る。

 それなのに───まるで何か見えない壁にでも遮られたかのように、ビームサイズは空中で止められていたのだ。

 

 

「───ミラージュコロイド」

 疑問の答えは次の瞬間明らかになる。見えない壁かと思っていたのは、ミラージュコロイドを展開していたノワールの迅雷ブリッツだった。

 

「ノワール!」

「……間一髪」

「チィッ」

 思わぬ妨害に一度距離を取るロック。

 

 迅雷ブリッツ、アストレイゴールドフレームオルニアス、サイコザクレラージェ。三機のMSを前に、しかしロックは怯む事なくビームサイズを向ける。

 

 

「ちょこまかと焦れったい事してねーで、正面からきやがれってんだ!!」

「お前はReBondのリーダーだろ?」

「あ? そうだけど……それがなんだよ」

 この状況でも自信満々といった雰囲気のロックに、ノワールは眉間に皺を寄せてオープン回線の通信で話しかけた。

 どう見ても考えても、ロックの行動は何かの作戦には見えない。これが作戦なら逆に凄いだろう。

 

「……チーム戦ってのを分かってないんだな。自分一人の行動で、仲間がどうなるか考えた事があるか? そんな奴に、リーダーを名乗る資格はない」

 軽蔑の目でそう言って、通信を一方的に切るノワール。ロックは頭に血が上り、歯軋りをしながら操縦桿を握った。

 

 

「んだとテメェ!!」

 ビームサイズの出力を最大にして振り上げる。GNドライブが粒子を放出して、機体を持ち上げた。

 

「切り刻んでやらぁ!!」

「アンジェ!」

「任せなさい、ですわ! マガノシラホコ!」

 ゴールドフレームの四枚の翼から、アンカーが四つ射出される。デュナメスに放たれたアンカーだが、ロックはそれをビームサイズで全て切り伏せてみせた。

 

「ハッ! んなもん見えてれば───何!?」

 視線を戻したロックの眼前からブリッツが消えている。ミラージュコロイドだと直ぐに気がつくが、気が付いた時には背後からの衝撃に機体が揺れていた。

 

 

「───んだと!? 早過ぎだろ!!」

 アンカーが目眩しだとしても、いくらなんでもブリッツの移動速度が早過ぎる。

 

 悪態を吐くロックだが、その間にもノワールの迅雷ブリッツはデュナメスに武器から展開したブレードを向けていた。

 

 

「───終わりだ」

 火花が散る。大きな鉄の塊が、市街地の中心で斬り飛ばされた。




戦況
フォースReBond
ケイ     ストライクBond        ◯
ロック    デュナメスHell        ○迅雷ブリッツ、アストレイゴールドフレームオルニアス、サイコザクレラージェと交戦中
ニャム    グフカスタム           ○クランシェアンドレアを撃破
ユメ     スカイグラスパー         △狙撃により大破。不時着。飛行不可能

フォースメフィストフェレス
ノワール   迅雷ブリッツ           ○
アンジェリカ ゴールドフレームオルニアス    ○
スズ     サイコザクレラージェ       ○
東堂     クランシェアンドレア       ×グフカスタムとの戦闘で撃破


読了ありがとうございました。
エクバのサイコザクを見慣れ過ぎて、作品のために原作のサイコザクを調べた時の感想。バックパックお化けか。デカ過ぎやろ。

本作に登場するサイコザクレラージェはランドセルが大型になっていて、そこに武器を詰め込んでいる形です。プロペラントタンクは積んでません(地上であんなもん背負えない)。


次回もお楽しみ下さい。


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託された想い

 前に立って歩くのは、いつも彼だった。

 周りの事にあまり興味がない二人を外に連れ出すのも、何か新しい事を始めるのも。

 

 

「ガンプラバトル?」

「おう、お前らガンプラ好きだろ。だからよ!」

 彼が前を歩いてくれたから、そんな彼に着いて前に進める。

 

 

 そうだ、今だって───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 火花と爆炎が舞った。

 迅雷ブリッツのブレードが、機体の右腕を斬り飛ばす。その機体は───

 

 

「……何?」

「タケシ、大丈夫か?」

 ───ケイのストライクBondだった。

 

「作戦……いや、違う」

 一度距離を取るノワール。そんな彼の前では、ロックのデュナメスHellを庇うように右腕を斬り飛ばされたストライクBondが立っている。

 

 

「ケイ……」

「ったく、いつもいつも勝手に突っ走りやがって」

 苦笑いしながらそう言うケイだが、特に困った様子でもなく慣れた様子だ。いつものように笑いながら、ロックのデュナメスHellを残っている左腕で立ち上がらせる。

 

 

「仲間に迷惑を掛けている事が分かったか?」

 それを見てノワールは冷たく言い放った。唇を噛むロックだが、彼がその口を開く前にケイが口を開く。

 

「迷惑なんて思ってない」

 ハッキリとそう言うケイの言葉に、ノワールは少し驚いて固まった。

 

 どう考えてもあのデュナメスの突撃は、リーダーにあるまじき身勝手な行動である。

 それなのに目の前の少年はなんの迷いもなく即答で答えたのだ。驚かない方が難しい。

 

 

「タケシは───ロックはリーダーだからな。いつも俺達を引っ張ってくれる……。アオトの事も、フォースの事も……だから俺はコイツを信じる!」

 ストライクBondは片手で剣を構える。警戒して構えるノワールだが、レーダーに反応があって直ぐに視線をズラした。

 

「───それに、あながちさっきの突進は悪い事ばかりじゃない。なぁ、ニャムさん!!」

「呼ばれて出て来てニャム・ギンガニャム! 華麗に参戦っすよ!!」

「トウドウを倒した奴が戻ってきたのか……っ!」

 フォースメフィストフェレスの三人の背後から、ニャムのグフカスタムが現れる。

 

 これで市街地内で三対三の状況が作れた。狙撃手を囲めた事は、深追いして突撃したロックの手柄でもある。

 

 

「こっちは白兵戦特化三機体、そっちはスナイパーが一機。この状態を作れたのはタケシのおかげだ!」

「ロックな!?」

 いつもの調子でツッコミを入れるロックは、ビームサイズを一度しまいビームサーベルを二本構えた。

 

「なるほど、元々あのデュナメスはスナイパーじゃなかったという事……。ふむふむ、中々面白いですわ!」

「……それでも、アンジェの作ってくれたサイコザクの方が強い」

 スズはサブアームを動かし、バックパックの武器にそれを伸ばす。

 

「待てスズ。……アンジェ、グフを突破してスズと後退だ。ストライクとデュナメスは俺が相手をする」

 しかし、ノワールは戦おうとするスズとアンジェを制してそう言った。

 

 

「……確かにしてやられたが、ここで戦いに乗るのは不利だ」

「それが分かっていて逃すと思ってるっすか!」

 言いながら、ニャムは相手の作戦が固まる前に先手を打つ。グフカスタムの盾に装備されたガトリングが、サイコザクレラージェに向けて火を吹いた。

 

「そうなると思いましたわ!」

 サイコザクの前に出ながら、盾を構えてアンジェリカのアストレイゴールドフレームオルニアスがガトリングを防ぐ。

 

 

「スズ!」

「……道を開けろ」

 弾丸を弾くアストレイの背後で、サイコザクが四つのサブアームを展開。スラスターに装備されていたザクバズーカとザクマシンガンを二つずつ構えて引き金を引いた。

 

「流石にそれは無理っす!」

 冷や汗を流しながらニャムは建物の影に飛び込む。そうして空いた道に、アンジェリカとスズは全速力で駆け出した。

 

 サイコザクの巨大なスラスターが火を吐く。余波で巻き上げられた岩盤が目眩しになり、ニャムは二人をすぐに追うことが出来なかった。

 

 

「す、すみません。逃げられたっす。直ぐに追撃に入ります! そのブリッツはお二人に任せても宜しいですか?」

「俺達は大丈夫だけど、ニャムさんは?」

「任せて下さいっす! この雪辱、このグフカスタムで汚名挽回するっすよ!」

「ジェリドかよ不安になるんだけど」

 ロックが若干小さくツッコミを入れるが、彼女も分かって言っている筈なので問題はないだろう。

 

 逃げた二機を追い掛けるグフカスタムを見送って、二人は残ったブリッツを正面に構えた。

 

 

「グフを追い掛けなくて良いのか? 言っとくがあのグフってかニャムさんは超強いぜ。……マジで」

「あの二人は負けない。……それよりも、今ここでお前達を止めるのが俺の任務だ」

 対するノワールのブリッツは、彼の言葉と同時にその姿を景色と同化させていく。

 

 

「大口叩いて逃げる気かぁ!?」

「タケシ違うぞ、気を付けろ……っ!」

 赤いマフラーが市街地で舞った。

 

 

 

 

 

「重力下であの巨大なスラスターの推力を考えると、推進力の限界値と歩行速度を考えるに───ビンゴ」

 一方でニャムは、戦線を離脱したサイコザクを目視で補足する。サイコザクは北側に迂回して、東に向けて歩いていた。

 

「ロック氏の離れた高台を取る気っすね。……そうはさせまいが、さーてどう攻めるか。あと一機の姿が見えないのは不安要素っすけど」

 ニャムは唇を舐めながらモニターの表示に目を移す。

 

 

「ミノフスキー粒子濃度は濃いっすね、レーダーでは見付かってないでしょう。風も……向かい風。奇襲するにはもってこい、と」

 口角を吊り上げて、ニャムは勢いよく操縦桿を倒した。スラスターを吹かせ、建物を何軒も飛び越えて一気に距離を縮める。

 

 

「貰ったっすよぉ!」

「……来た」

 狙いはスナイパー、サイコザクレラージェ。ヒートサーベルが火花を散らした───が、しかしサーベルは見えない壁に防がれていた。

 

 

「なんですとぉ!?」

「───ミラージュコロイドですわ!!」

 見えない壁───サイコザクとグフカスタムの間にミラージュコロイドを展開して隠れていたゴールドフレームが姿を表す。

 

 

「奇襲がバレていた!?」

「そっちが追ってくるのはお見通しですわ! トウドウに勝った人ですもの、そう簡単に逃げ切れるとも思っていません事よ!」

 シールドをなぎ払い、グフカスタムを振り払うアンジェリカ。

 ガトリングを構えるニャムだが、ゴールドフレームのシールドに装備されたライフルの銃口を向けられて直ぐに建物の影に隠れた。

 

 

「奇襲失敗……これは二機撃墜は難しいかもしれないっすね。ロック氏、合流出来そうにありません。ジブンは死に場所を見付けたっす。……なんちって」

 冷や汗を流しながらも建物の影から機体の頭だけを出して、モノアイをゴールドフレームに向けるニャム。

 

 アンジェリカのゴールドフレームオルニアスは、サイコザクレラージェを背中にシールドを建物の影に向けている。

 

 

 彼女のゴールドフレームに装備されているシールドは、攻盾システムトリケロス。

 アンチビームシールドの裏側にビームライフルやビームサーベル、貫徹弾───ランサーダートを装備した複合装備だ。

 

 それを左右対称に二つ装備。四枚の羽のようなマガノイクタチも相まって、重々しい雰囲気が漂っている。それはまるで、楽園を追い出された堕天使のよう。

 

 

「……チームメフィストフェレス。恐ろしいっすね」

「さて、奇襲も失敗したあなたに勝ち目はありませんわ! そんな所に隠れてないで、泣いて喚いて逃げるが良いのですの!」

 スピーカーでニャムに聞こえるように話すアンジェリカ。しかしニャムは口角を吊り上げて笑っていた。

 

 

「───ひー、ふー、みー、と。避けるべきは三つ。……確実に一機!」

 一度目を閉じて深呼吸してから、ニャムは建物の影を飛び出してガトリングを構える。

 これにはアンジェリカも驚いたが、直ぐにビームライフルとランサーダートを斉射。グフカスタムのガトリングの弾はビームと貫徹弾に全て掻き消された。

 

 そのビームはシールドで弾くが、貫徹弾がグフカスタムの頭の半分と脇腹の半分を吹き飛ばす。

 しかし尚も直進するグフカスタムに、流石にアンジェリカは怖気付いた。

 

 

「突貫してくる気ですの!?」

「フハハハハ! 怯えろぉ! 竦めぇ!!」

 直ぐにマガノイクタチからアンカーを射出するが、ニャムはアンカーが当たったガトリングをパージして突貫する。

 

「止まらないと……そういうのは、自棄と言うんですわよ!!」

 トリケロスからサーベルを展開し待ち構えるアンジェリカだが、その時点でニャムの算段は決まっていた。

 

 

「一つ!!」

 ヒートサーベルを構えるグフカスタム。

 

 

 原作。機動戦士ガンダム第08MS小隊にこのようなシーンがある。

 

 グフカスタムに乗るパイロット、ノリスは自軍撤退の障害となるガンタンクの撃破の為に自らの命を掛けてこれを成した。

 自機と交戦中の相手に撃たれる覚悟で任務を全うした彼の漢気を称賛する声が多い事は言うまでもない。

 

 

 

「この……っ!!」

 トリケロスのビームサーベルが振られた次の瞬間、ニャムはサーベルではなく腕部に装備されたマシンガンをゴールドフレームの背後にいるサイコザクに向ける。

 

「勝ったっす!」

 ───しかし。

 

 

「───させませんわ」

 アンジェリカは突然トリケロスのビームサーベルを収めて、背中のマガノイクタチを展開した。

 

「……なっ!?」

 グフカスタムはサーベルを受ける事なく、ゴールドフレームに捕まる形でその動きを止める。

 ニャムの予定ではそのまま機体を真っ二つにされてでも、後方のサイコザクを撃破する予定だった。

 

 

「し、しかし……この状態でマガノイクタチを使おうとも自分が生き残らなければ意味ないっすよ!」

 直ぐに思考を切り替える。自分が撃破されなかったのなら、このままゴールドフレームを落としてしまえば良い。

 

 マガノイクタチは、その武装で挟んだ機体を強制的に放電させエネルギーを奪う武装だ。

 ならばその前に落とす。そう考えて、ニャムはグフカスタムの腕部マシンガンをゴールドフレームのコックピットに向けた。

 

 

「そこです!」

 腕部マシンガンが火を吹く。ゴールドフレームの胸部は蜂の巣になった。

 次はサイコザクだ───そう思って半壊したグフのモノアイに、ライフルを構えたサイコザクが映る。

 

 

「さぁ、スズ……やっておしまいですわ!」

「───狙い撃つ」

 次の瞬間、一筋の光がゴールドフレームとグフカスタムを貫いた。

 

 

「……み、味方ごと」

「……初めから私達の目的は貴方ですのよ、改造ガンプラキラー」

「……ほぅ、なるほ───」

 誘爆。

 

 アストレイゴールドフレームオルニアス、グフカスタム撃破。

 

 

 

 二機の爆発に市街地で火が上がる。爆煙の中でただ一つ、赤いモノアイだけが光っていた。

 

 

 

 

「ニャムさんがやられたぁ!?」

「あのニャムさんが……」

 一方で迅雷ブリッツと交戦中のロックとケイは、ニャムからの通信が途絶した事に驚く。

 

 敵も一機倒したようだが、彼女から送られてきた最後の通信にはスナイパーを取り逃がしたという連絡があった。

 

 

「これで二対二だな」

「今は一対二だけどな!!」

 ブリッツに斬りかかるデュナメスだが、即座にミラージュコロイドを展開されて攻撃は空振りに終わる。

 直ぐにその背後に現れ、ライフルを放つブリッツ。なんとかギリギリの所で交わすが、ブリッツの機動力に翻弄されていた。

 

 

「なんでそんなに早いんだよ!! 本当は二機居るとかじゃないだろうな!?」

「ブリッツの土踏まずに車輪が付いてる。……アレとミラージュコロイドで消えた所から直ぐに別の場所に移動して攻撃してきてるんだ」

 そう言ってから、ケイは「それに」と言葉を付け足す。

 

 

「動力源は本来のブリッツみたいなバッテリーじゃなくて核エンジンだと思う。それと、ミラージュコロイド中もフェイズシフト装甲が発動してる」

「チートかよ」

 本来ブリッツのミラージュコロイドはエネルギーの使用量も大きく、長時間の発動は不可能だ。フェイズシフト装甲との併用も本来は出来ない。

 

 ここまで数分間戦闘を行ったが、ミラージュコロイド中にストライクのイーゲルシュテルンも弾かれている。

 

 

「でも、お前なら勝てるよな」

 そこまで言ってから、ケイは含みのある言い方でそう言った。

 

「ケイスケ……」

「俺はスナイパーを倒してくる。ここで二人で戦ってたら、狙い撃たれて終わりだからな」

 そう言ってケイのストライクBondは踵を返す。

 

 

「頼むぜ、タケシ」

「ロックだ」

 心の中でだけ拳を交わして、デュナメスを背にストライクはスラスターを吹かせた。

 

 

「ストライクを止めないのには驚いたぜ」

「ここで一対一になる分には俺もスズも問題ないからな」

「信用してんだな」

「リーダーだからな。それに、スズが中破したストライクに負ける訳がない」

「ケイはこういう時、何をしてでも勝ってくる奴だ」

「……信用しているんだな」

「だってよ、俺もリーダーだぜ? 確かにあのスナイパーはやばいが」

「そうか」

「「だがな───」」

 デュナメスとブリッツが構える。

 

 

 

「見つけたぞ、スナイパー!」

「……一人で来るなんて、あのデュナメスは見捨てられたか」

「俺はアイツを信じて、君を止めるだけだ。そうしたらタケシは勝ってくれる」

「……私が君を倒す。そして、デュナメスはノワールが倒す」

「「だって───」」

 ストライクとサイコザクが構える。

 

 

 

 

「「「「───アイツはもっと強い」」」」

 銃火が弾けた。




戦況
フォースReBond
ケイ     ストライクBond        △デュナメスHellを庇って中破右腕損壊、サイコザクレラージェと交戦中
ロック    デュナメスHell        ○迅雷ブリッツ、と交戦中
ニャム    グフカスタム           ×ゴールドフレームオルニアス、サイコザクレラージェとの戦闘で撃破
ユメ     スカイグラスパー         △狙撃により大破。不時着。飛行不可能

フォースメフィストフェレス
ノワール   迅雷ブリッツ           ○デュナメスHellと交戦中
アンジェリカ ゴールドフレームオルニアス    ×グフカスタムのの戦闘で撃破
スズ     サイコザクレラージェ       ○ストライクBondと交戦中
東堂     クランシェアンドレア       ×グフカスタムとの戦闘で撃破



フォース戦も盛り上がってきました。こうして仲間に託す想いって格好良いですよね。次回からのそれぞれの戦いにもご期待下さい。


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スナイパーを撃て

 火花が散る。

 ストライクBondの実剣と、サイコザクレラージェのヒートホークが何度も重なり合った。

 

 

「どうなってんだこの動きは……っ!」

 ただ、そのサイコザクのヒートホークを持つマニピュレーターはスラスター付属のサブアームである。

 

 サイコザクは背中を向いたまま、背後からの攻撃をサブアームの持つヒートホークだけで迎撃していた。

 巨大なスラスターもあり図体の大きなサイコザクだが、最低限の動きだけで攻撃をいなされる。

 

 

「……緩い」

「くそ!」

 それに、サブアーム一つで迎撃しながら他の三つのサブアームで違う武器を向けてくるのだ。

 一体手元でどういう操縦をしたらそんな動きが出来るのか。ケイは目を細めて一度離脱する。

 

 

「……どういう操縦技術だ。近付いても全部追い払われる」

 建物の影に隠れて一度息を整えながら、ケイはサイコザクの動きに困惑していた。

 

 

 

「……アンジェの作ってくれたサイコザクは、私の───」

 三つのサブアームでザクマシンガン、ザクバズーカ、ビームバズーカを構える。其々が的確に向けられて、市街地は火の海と化した。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 大きなモニターに戦局が映る。

 その部屋にはバトルで機体が撃破されて脱落したトウドウ、アンジェリカ、ニャムが居た。

 

 

「フォースバトル、落とされてもここで観戦してるだけでも面白いっすねぇ」

「このゲームの良い所ですわね」

 さっきまでお互いを襲っていた彼女達だが、自分の役割が終われば同じゲームをプレイする仲間である。

 簡単に打ち解けて、モニターのバトルに没頭していた。

 

「戦局をどう見る?」

「数的にはこっちが有利っすけど、スカイグラスパーとストライクの損傷的に厳しいような気もしてるっす」

 トウドウの問い掛けにニャムはそう答える。

 

「あら、まるでまだ勝ち目があると言いたげじゃない」

 そしてニャムの答えに、アンジェリカは含み笑いを乗せながら口出しをした。

 

 

「ケイ殿はアレでしぶといっすよ。……しかし、あのサイコザクは凄いっすね。いくらGBNのMS操作が簡略化されているとはいえ、腕とサブアーム四本を同時に操るのは並大抵の技術ではないっすよ」

「スズは特別ですのよ」

 小さな声でそう返事をするアンジェリカ。さっきまでの態度と違うので、ニャムは首を横に傾ける。

 

 

「改造ガンプラキラー」

「ニャムっす」

「……ニャム。リユース・(サイコ)・デバイスは知っているだろう?」

「サンダーボルトのサイコザク、あの機体の元になったMSが運用しているシステムっすよね」

 トウドウの問い掛けに得意げに答えるニャム。自慢ではないが、彼女はガンダム作品の知識だけは豊富だと自負していた。

 

 

「確かにモビルファイターのモビルトレースシステムや、阿頼耶識システム、サイコミュなんかはGBNではそれっぽく操作する事が出来る様になってるっすけども」

 ガンダムの世界にはMSをボタンやレバーなどで操作する以外にも、自分の動きに合わせたり思った通りに機体が動くという操作方法もある。

 

 リユース・P・デバイスは機動戦士ガンダムサンダーボルトに登場する同様のシステムで、パイロットの脳から発せられる信号を電気的に駆動系に伝達する事によりMSを自分の手足のように操縦する事が可能なシステムだ。

 ガンダムUCに登場するインテンション・オートマチック・システムよりは、鉄血のオルフェンズの阿頼耶識システムに近いだろう。

 

 

「それでも、手足はともかくサブアームをあそこまで正確に……的確に操縦するのは至難の技っすよ。なにせ自分の身体には無いですからね、サブアームなんて」

 しかもそれが四本だ。

 

「オルフェンズの三日月・オーガスだって、戦闘中ギリギリの所で攻撃を避けるシーンでマッキーに自分の身体には無い部分を突かれて被弾してますし。自分の身体と違う物を動かすって大変だと思うんすよね」

「自分の身体と違う物か……」

 ニャムの言葉を聞いて、トウドウは少し表情を暗くする。自分が何か変な事を言ってしまったのかと、ニャムは「あ、あのー?」と首を傾げた。

 

 

「そもそもスズに取っては、MSの手足すら自分の身体と違う物ですわ」

「それってどういう───まさか!?」

 言いかけて、ある可能性に気が付いたニャムは目を見開く。

 

 

「───スズは産まれつき手足が無いんですのよ」

「……なるほど、先天性四肢障害っすか」

 それはユメカのように後天的───産まれた後に事故や病気で足が動かなくなったのではなく、産まれる前から手足そのものがなかったという意味だ。

 

 個人の事情故にそれ以上何かを問い詰める気にはならなかったが、アンジェリカは優しい声でこう続ける。

 

 

 

「私が彼女に出会ったのは、日本のガンプラコンクール作品発表の時でした。あ、これでも私ガンプラ天元流の創始者の娘ですのよ」

「……知らない流派っすね」

「ふ、フランスでは有名ですのよ!? パリの美術館だって私のガンプラが飾ってあるんですから!」

 どうやら海外の人らしい。半目のニャムに顔を赤くするアンジェリカだが、一つ咳払いをして話を続けた。

 

「スズはお父様の知り合いの娘さんでした。彼女を始めて見た時の私自身の失礼な態度は今でも覚えていますわ……」

 表情を暗くしてそう語るアンジェリカ。想像してみるが、ニャムも自分がどんな反応をするかは分からない。

 

 

「……でも彼女は違った。私のガンプラを見て目を輝かせていた。彼女は私の不甲斐ない態度を気にせずに、私のガンプラを凄いと言ってくれた。……本当に強い子ですのよ」

「スズにとっては手足が四本になろうが六本になろうが十本になろうが関係ない。サイコザクの手足からサブアームまで、全てがアイツにとって自分の身体には無い物だからな」

 アンジェリカとトウドウの言葉に、ニャムはモニターに映るサイコザクに視線を移す。

 

 間違いなく、彼女は強敵と言って差し違えない。ただここに居る自分には、彼を応援する事しか出来なかった。

 

 

 

 

「───アンジェの作ってくれたサイコザクは、私の本当の身体より自由だ」

 サブアームを駆動させ、背後に回るストライクBondにザクマシンガンを向ける。

 ストライクのフェイズシフト装甲が攻撃を弾くが、いくらGNドライヴが動力源でも攻撃を受け続ける事は出来ない。

 

「近付けない……けど、離れたら狙撃か」

 一度壁に隠れて、ケイはサイコザクレラージェに視線を移した。

 

 その両腕には常にビームスナイパーライフルが握られている。隙あらば狙撃してやろうという意思が見て取れた。

 

 

「なら、中距離射撃戦だ」

 ケイはGNソードIIをライフルモードに変形し再びサイコザクの背後に回り込む。

 ザクマシンガンが反射的に放たれるのと同時に、ライフルの引き金を引いた。

 

「そこだ!」

「……甘い」

 サイコザクは動かない。しかし、バックパックに隠されていた五本目のサブアームが展開する。

 そのサブアームの先にはバックパックの横に装備されていた大型のシールドがマウントされていた。

 

 GNソードIIから放たれたビームライフルはそのシールドに直撃する事はなく、ビームは歪んで曲がる。

 

 

「五本目!? しかもあのシールド……フォビドゥンのか!!」

 ガンダムSEEDに登場するゲシュマイディッヒ・パンツァー。ビームを曲げる盾だ。

 

 さらに六本目のサブアームがもう一つの盾を構える。ケイは頭を抱えて苦笑いをした。

 

 

「どうするんだよアレ……」

 攻撃は弾かれるし、こっちはフェイズシフト装甲でもそう長くは持たない。

 ガードされるだけならともかく同時に攻撃という動作もあのサブアームを全てちゃんと使いこなしている証拠だろう。攻略難易度はとても高そうだ。

 

 

 

「……虎の子を使うしかないか。まずはあのシールドをどうにかする!」

 言いながら、再びケイは建物の影から飛び出る。幸いなのはサイコザクから襲って来る事はない事だ。

 それはきっと彼女が仲間を信じているからだろう。自分が負けなければ、仲間が敵を倒して助けに来てくれると信じているから余計な事はしない。

 

「……単調」

 ザクマシンガンとビームバズーカがケイのストライクBondに向けられた。ザクマシンガンだけならともかく、ビームバズーカの直撃は致命傷である。

 

 

「……落ちろ」

 静かに引き金が引かれた。マシンガンとビーム砲がストライクに向かっていく。

 

「GNフィールド!!」

 同時に、ストライクを粒子の壁が包み込んだ。高濃度GN粒子のシールドである。

 粒子の壁がマシンガンとビーム砲を防いだ。距離を殺して、GNソードIIを振り被る。

 

 

「うぉぉおおお!」

「……まだ」

 ヒートホークとGNソードが混じり合った。その間にも、サブアームがストライクにザクバズーカとザクマシンガンを向ける。

 

「───トランザム!!」

 TRANS-AM

 

 

 ストライクBondを赤い粒子が包み込んだ。高濃度GN粒子を一気に開放し、その機動力は三倍に跳ね上がる。

 

 

「くらえ!!」

 神速の斬撃がザクマシンガンを持ったサブアームを切り飛ばした。同時に弾切れになるまで放たれたイーゲルシュテルンがザクバズーカを吹き飛ばす。

 

 次はシールドだ。そうやって意識を切り替えた次の瞬間、機体が大きく揺れる。

 

 

「ぬわ!?」

「……お前!」

 スズはザクバズーカを持っていたサブアームでGNソードIIを受け止めて、先端を切り飛ばされたサブアームでケイのストライクBondを突き飛ばした。

 そのままビームバズーカをストライクの胸元に押し付ける。

 

「この距離で打つ気か!?」

 咄嗟に腰にマウントされたビームサーベルを取り、地面を切って目眩しをしながら距離を取った。ビームバズーカはブリッツに切り飛ばされた方の腕の辺りを通過する。

 

 あの時斬られずに腕がもう一本残っていたらもう少し攻めれたかもしれないが、ケイは「とりあえずよし」と口を開いた。

 

 

 市街地から離れるように移動しながらサイコザクに背中を向けて、GNフィールドを展開する。

 

 

「追って来るか、狙撃してくるか。今の粒子貯蔵量で作ったGNフィールドでライフルを防げるか……。そして───」

 ある意味でこれは賭けだった。そして、彼はその賭けに勝つ。

 

 

「……背中を見せる、なら」

 スズはシールドを保持したサブアームを機体後方の地面に突き立てた。

 そうして機体を固定して、残りのサブアーム二本と腕でビームスナイパーライフルをしっかりと構える。これが彼女の狙撃精度の秘訣だ。

 

 

「……フィールドは落とし切れない、から」

 引かれた引き金。一筋の閃光は一寸の狂いもなく目的を打ち抜く。

 

 

「マジかGNドライヴをこの距離で……っ!」

 ───ストライクBondのGNドライヴを。

 

 GNフィールドを貫通はしても機体を落としきるまではいかないと考えたスズはストライクBondのGNドライヴの片側を狙い撃った。

 これでストライクの動力源は半減。トランザムはおろかGNフィールドはもう使えないだろう。

 

 ゆっくりと高度を落としていくストライクBondを見ながら、スズは勝ちを確信してストライクの攻撃に微動だにとて動かなかったサイコザクの足を持ち上げた。

 

 

 あとは瀕死のストライクと何処かに墜落したスカイグラスパーを落とすだけである。

 

 

 

「……アンジェ、私は出来るよ」

 私は何も出来なかった。

 

 手も、足もない。

 何もかも、誰かにやってもらわなければ生きていく事すら出来ない。

 

 

 そんな私を変えてくれたのはガンプラ。

 この世界で私は自由になれる。アンジェが作ってくれた凄いガンプラで、私はなんでも出来るんだ。

 

 

 だから───

 

 

 

「……見付けた、ストライク」

 市街地の外を囲む森でゆっくりと歩いていたストライクを見つける。

 スズはビームバズーカとGNソードIIライフルモード、ザクマシンガンを構えながらスラスターを吐かせて距離を潰した。

 

「……もう、落ちろ!」

「……くっ!」

 損傷により機体から煙を漏らしながら、ストライクは一気にスラスターを吐かせる。

 今度は市街地に戻るようにストライクBondは再び空を飛んだ。しかし、もうGNフィールドもトランザムも使えない筈である。

 

 左右によく動きながら市街地を目指すストライクを見て、スズは小さく溜息を吐いた。

 

 

「……私が外す訳がない」

 サブアームとシールドで機体を固定する。どれだけ動こうが、射線上に入った敵なら外す訳がない。

 そう思いながらいつものように引き金を引いた。同時に、今日この日に生まれて初めて狙撃を外した事を思い出す。

 

 

「───撃て!! ユメぇぇえええ!!!」

「───ブラスターカノン!!!」

「───ぇ」

 一筋の閃光がストライクを貫くと同時に、森に不時着していたスカイグラスパー(・・・・・・・・・・・・・・・・・)のブラスターカノンがサイコザクの胴体を貫いた。

 

 

「やった!」

「……こんな、場所に」

 驚いて目を見開く。モニターには、背後で不時着して砲身だけを自分に向けたスカイグラスパーが映っていた。

 

 このスカイグラスパーは自分の狙撃を避けた所か、こんな所で私を落とすなんて。

 ふと思って、スズは笑う。……世界は広いな。

 

 

 

「……倒しちゃった?」

 ストライクBond、サイコザクレラージェ撃破。

 

 

 

「ケイ、やったのか」

「……スズが相打ちか」

 残る機体は迅雷ブリッツ、デュナメスHell、スカイグラスパー。




戦況
フォースReBond
ケイ     ストライクBond        ×サイコザクレラージェと交戦。撃破
ロック    デュナメスHell        ○迅雷ブリッツ、と交戦中
ニャム    グフカスタム           ×ゴールドフレームオルニアス、サイコザクレラージェとの戦闘で撃破
ユメ     スカイグラスパー         △狙撃により大破。不時着。飛行不可能。サイコザクレラージェを撃破

フォースメフィストフェレス
ノワール   迅雷ブリッツ           ○デュナメスHellと交戦中
アンジェリカ ゴールドフレームオルニアス    ×グフカスタムのの戦闘で撃破
スズ     サイコザクレラージェ       ×ストライクbondと交戦。スカイグラスパーの攻撃で撃破
東堂     クランシェアンドレア       ×グフカスタムとの戦闘で撃破



フォース戦も残り一話になります。最後のバトンは残ったリーダー対決です!!

流行病が深刻化していますが、体調にはお気を付けてお過ごし下さい。


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リーダーの資格

 嬉しかった。

 

「貴方、私達のフォースのリーダーをやりなさい!」

「本当に俺で良いのか?」

 俺を信用して、彼女がそう言ってくれている。

 

 

「貴方が良いのですわ」

 伸ばされる手を、俺は取った。

 

 

「俺なんて……勝つのに焦って仲間を危険に晒したのに」

「そうやってチームを想いやれる貴方には、リーダーの資格がある。そして、勝利に貪欲なその静かな熱さが……私には足りていませんでしたの」

 彼女はそう言って俺を引き寄せる。認められる事が嬉しかった、彼女達に必要とされているのが嬉しかった。

 

 

「私はお父様のガンプラ天元流を輝かせて魅せるバトルを見たい。その為に、貴方の力を貸して下さい……ノワール」

「……あぁ、約束する。俺がお前を、お前達を───」

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 建物が二つに裂かれて崩れ落ちる。

 今までそこに居た筈の迅雷ブリッツの姿が見当たらない。

 

 

「チッ、電池切れか」

 エネルギーが切れてビームが消えたビームサーベルを収納しながら、ロックは辺りを見渡した。

 

「何処から来やがる……」

 相手のミラージュコロイドと機動力、そして市街地という地の利に苦戦を強いられる。

 自分の集中力が切れるのが先か、武器が全部壊れるのが先か、どちらにせよ考える限り良い未来は待っていなかった。

 

 

「落ちろ……っ!」

「後ろか!」

 気配を頼りに、背後から攻撃を仕掛けてきたブリッツに体を向けGNフルシールドを向けるロック。

 ノワールの迅雷ブリッツは両腰にマウントされた武器を両手に、ビームと実弾を同時に放つ。

 

「のわぁ!?」

「浅いか」

 迅雷ブリッツのメイン武装は、本来のブリッツの武装であるトリケロスをベースに作られた一対の武器だ。

 対装甲ブレードや電磁砲(レールガン)を追加されたライフルと、本来のトリケロス通りビームライフルとランサーダートが装備されたライフル。

 

 二つで───双攻盾システムトリケロス・ツヴァイ。

 

 

「んなろぉ!!」

 ブリッツに向けてGNソードを投げ付けるが、ノワールはトリケロスからブレードを展開してそれを弾く。

 

 そんなブリッツに向けて肉薄しながら、ロックはデュナメスHellのGNフルシールドを開いてビームサイズを手に取った。

 

 

「貰ったぜ!!」

「まだだ!」

 完全に間合いに入ったデュナメスだが、ノワールは背後に左腕を向けて左腕に装備されたクローアームを射出。建物を掴んだクローを引き戻す事で機体を一気に後退させる。

 

「車輪だけじゃなくてそうやって移動してた訳か……だがな、アンカーはお前だけじゃねーぜ!!」

 後退したブリッツの背後には、ついさっきロックが投げ付けたGNソードが突き刺さっていた。

 その先端にはワイヤーが繋がっていて、デュナメスHellがそれを引くと建物が大きく崩れていく。

 

「なに!?」

 危うく押し潰される所にいたノワールは前に跳んで建物の崩壊を回避した。しかし、それは同時に自らデュナメスに近付くという事である。

 

 

「今度こそぉ!!」

「……っ!」

 ビームサイズとブレードが重なって火花が散った。ミラージュコロイドによる高速戦闘と奇襲が迅雷ブリッツの強みではあるが、接近戦ではロックのデュナメスHellが上を行く。

 

「───それでも、負ける訳にはいかない!」

 大きく弾いて、ミラージュコロイドを展開。その機動力を生かして、一気に離脱した。

 

 

「ちょこまかとよぉ! 何処に行きやがった! 正面から来やがれ!!」

「馬鹿正直に敵の間合いで戦う必要はない」

 中距離の建物の影からライフルを構えるノワール。ビームと電磁砲を放つが、ロックはそれを交わしながら再び迅雷ブリッツに突撃する。

 

「いい加減に!!」

「甘い!!」

 続けて、トリケロスからランサーダートが放たれた。GNフルシールドも貫通するだろう威力を待つ武装に、ロックは少し突撃を躊躇った。

 その一瞬の隙にトリケロスツヴァイを連結、二つの銃口に加えてランサーダート等迅雷ブリッツ全ての武装がデュナメスHellを捉える。

 

「ヤベ」

「落ちろ」

 斉射。

 ビームライフル、実弾、電磁砲、ランサーダート、全てがデュナメスを襲った。咄嗟に展開したGNフルシールドはバラバラになり、デュナメスHellは爆煙を上げながら地面を転がる。

 

 

「……やり過ごされたか」

「……くっそ、パワーダウンか。こっちも……あっちも、首の皮一枚繋がっただけかよ!!」

 辛うじて撃破されなかったデュナメスHellだが、機体は大ダメージを受けて動くのがやっとという状態だった。

 

 対して迅雷ブリッツは大きなダメージもない。

 

 

 

「だが、終わりだ」

 そのまま、ノワールはライフルの連結を解いてビームライフルを連射する。ロックは建物の影になんとか逃げ込んで、ビームの直撃を防いだ。

 

 

「ここに来ても堅実ですかこの野郎。最後は接近して格好良く決めるとかない訳?」

「私情に流されてチームの敗北に繋がるミスをする奴に、リーダーの資格はない」

「喧嘩売ってんのか!?」

「そのつもりだが?」

 電磁砲が建物を吹き飛ばす。建物の崩壊に巻き込まれそうになったロックはビームサーベルを構えてブリッツ前に立った。

 

 

「お前達の敗因は、お前をリーダーにした事だ。お前が一人で突っ込んで来た事でストライクは被弾し、グフカスタムは罠に掛かった。初めてのフォース戦なら仕方がない。……だが、次からはリーダーを変える事だな」

 トリケロスツヴァイをデュナメスHellに向けるノワール。ロックは俯いて、操縦桿を強く握る。

 

 その身体は震えていた。

 

 

「俺は……」

 自分のせいでバトルに負ける。GBNで有名になって、アオトやニャムの兄に名前を轟かせる約束が遠退くかもしれない。

 

「……俺は───」

「しっかりしろロック!」

「───ユメ?」

 聞こえて来たのは、バトルフィールドに唯一残っている仲間の声だった。

 

 

「リーダーでしょ」

「……でも、俺は」

「タケシ君なんだよ」

「……何が?」

「いつも私達を引っ張ってくれるのは、タケシ君だった。ケー君達をガンプラバトルに誘ってくれたのも、フォースで有名になろうって道を作ってくれたのも! そんなタケシ君が迷わないでよ!」

 ユメの言葉に、ロックは前を向く。ライフルが向いていた。咄嗟にレバーを引いて攻撃を避ける。

 

 

「落ちろ……っ!」

「くそ……っ!」

 攻撃を避けるので手一杯だ。奥の手はあるが、機体も限界で使える時間は限られているだろう。きっと一秒も保たない。

 

 自信がなかった。

 

 

「ロック・リバーは!」

「……っ」

 目を見開く。

 

 

 そうだ、俺は───

 

 

「クールで格好良い男なんでしょ!!」

 ───俺は。

 

 

「俺は───」

 ───あの時、何も出来なかった。

 

 

 ユメカがトラックに跳ねられた時、ケイスケやアオトが必死になって病院に電話したり彼女に声を掛けている間。

 俺は怖くて、何も出来なくて、そんな自分が嫌になる。

 

 何も出来ないなら、何もしなければ良い。何かを失うのが怖い。なら、何も失うものを持たなければ良い。

 

 

 アオト達から距離を取って、自分からすら距離を取って。

 

 

 でもそうしていたせいで、アオトまで失った。ユメカが夢を失って傷付いてる時、何もしてやらなかった。ケイスケが一人で悩んでいる時、助けてやれなかった。

 

 

 それでも一人で逃げ続けていた俺を、ケイスケもユメカも怒らない。それどころか、また一緒に遊ぼうと誘ってくれる。

 

 

 

 そんな二人に報いたかった。

 

 

 

「───俺は、勝つぜ。だって、ロック・リバーはクールで格好良くて……強い男だからな」

「───俺は負けない。仲間の為に」

 トリケロスからブレードを展開しデュナメスに接近する。戦闘を長引かせて、相手にチャンスを作らせない為に取った行動だ。

 

 しかしそこはデュナメスHellの間合いである。それも、ノワールは承知の上だった。

 

 

「俺はリーダーとして、アイツらを連れて行くんだ!」

「俺もリーダーなんだよ!!」

 ブレードとビームサイズが重なり合う。押し合いは迅雷ブリッツが制して、デュナメスは壁に激突させられた。

 

 

「お前にリーダーの資格はない!!」

 ブレードを振り上げる。何処か熱くなっている自分に気が付いた。

 目の前の男が昔の自分に似ていたからかもしれない。

 

 メフィストフェレスのリーダーになる前、自分も勝ちに焦って敵の中に突っ込んだ事がある。

 その結果、今の彼と同じような状態になった事もあった。

 

 

 だから、この男には負けてはいけない。

 

 

「───うるせぇ!!」

 GNソードを投げ付けるロック。しかし、ノワールはそれを軽く避ける。

 アンカーで戻って来る事も忘れていない。背後にも視線を送りながら、ノワールはブレードを振り下ろした。

 

「俺は……俺はアイツらを連れて行くんだ!」

「……なろぉ!!」

 ロックはアンカーを引いてGNソードを回収する。それをノワールは振り下ろしたブレードで切り落とした。

 

 

 いつかの約束の為に。今ここで、過去の自分を倒す。

 

 

「俺だってなぁ!!」

 ロックは腰にマウントされたビームサーベルを、マウントされたまま展開した。ビームが正面に向かって突き出し、迅雷ブリッツの左腕を焼き切る。

 

「……っ!?」

 ブレードの着いたトリケロスツヴァイの片割れが誘爆し、ノワールは急いで距離を取りながらライフルとランサーダートを構えて放った。

 ロックはビームライフルをビームサーベルで弾くが、ランサーダートがデュナメスHellの右腕を吹き飛ばす。

 

 

「この……っ!!」

「俺だって、リーダーなんだよ!!」

 右腕がバラバラに砕けた事も気にせずに、ロックはブリッツの懐に潜り込むように突進した。

 ノワールはトリケロスにマウントしておいたビームサーベルを展開してそれに応戦する。

 

「不甲斐ない奴かもしれねぇ、身勝手で、大人しくないくせに……大切な時に何もしなかった臆病者だったかもしれねぇ!!」

 連撃。

 ビームサーベル同士がぶつかり合った。

 

 動きは圧倒的にブリッツの方が良く、デュナメスはもうボロボロで動いているのが不思議なくらいである。

 それでも、鍔迫り合いで押しているのはロックのデュナメスHellだった。

 

 

「だけど、そんな俺をアイツらは連れ出してくれた!!」

「トランザムをしている訳でもないのに……何故だ」

 自分が押されている。

 そう気が付いた時には、隙を突かれてトリケロスをビームサーベルで切り飛ばされていた。

 

 

 だが、負ける訳にはいかない。

 トリケロスの誘爆に紛れ、ノワールはミラージュコロイドを展開する。

 

 武器は殆ど破壊されたがデュナメスも満身創痍だ。攻撃を当てる事が出来れば勝てる。

 

 

「負けない……俺は、お前に勝つ!! そして俺はアイツらを───」

 デュナメスの右腕を吹き飛ばしたランサーダートを拾い上げ、ミラージュコロイドと機動力による奇襲を仕掛けた。

 

 

「だから今度は俺が───」

 背後からの奇襲。満身創痍のデュナメス。

 

 

 

 TRANS-AM

 

 

 

 迅雷ブリッツが手に持ったランサーダートを振り下ろそうとした直後だった、デュナメスHellが全身から赤い粒子を放出する。

 奥の手のトランザム。しかし、大破したデュナメスにトランザムを維持する力は残っていなかった。

 

 一瞬。

 ほんの一瞬のトランザムによる出力で、デュナメスはランサーダートを避けて迅雷ブリッツの背後を取る。

 

 

「───今度は俺が、アイツらを連れて行くんだぁぁあああ!!」

「───俺はアイツらを高みに連れて行く!!」

 ノワールは迅雷ブリッツの掌でランサーダートをひっくり返して、背後のデュナメスに向けて突き立てた。

 同時にロックのデュナメスHellはビームサーベルで迅雷ブリッツを切り裂く。

 

 

 お互いの武器は相手に致命傷を与えるのに充分なダメージを与えた。

 

 

 ほんの少しの間を置いて、二人の機体が所々から火を上げる。次第に機体が誘爆し、二人の機体は同時に爆散した。

 

 

 

 迅雷ブリッツ、デュナメスHell撃破。

 

 

 

 

「タケシ君……」

 残存機体、スカイグラスパー。

 

 

 BATTLE END

 

 

 WINNER FORCE ReBond。

 

 

 

 フィールドが崩れて行く。勝者として残った少女はただ一人、満足げに空を見上げていた。

 

 

 

 

「いやー、負けましたわ。負けました」

 これ以上ない笑顔でそういうのは、フォースメフィストフェレスのアンジェリカである。

 その後ろで頬を膨らませているスズは、苦笑いしているケイをずっと睨んでいた。

 

 

「……次はない」

「……あ、あはは」

「いやー、ケイ殿の作戦には驚いたっすよ。まさに使える物は使う! そんな精神っすね!」

「参考になった。今後の作戦展開に組み込む事も考えよう。真面目そうだが、まさかあんな手を使うとは」

「トウドウさんちょっと嫌味入ってないですか!? ニャムさんは俺の味方なんですよね!?」

 フォースバトルが終わり、先に退場したメンバーはバトルモニターを見ながら談笑をしている。

 

 これは戦争ではない、ゲームだ。

 試合が終われば昨日の敵は今日の友である。

 

 

「……相打ちか」

「……負けた」

 そんな中に、ロックとノワールが帰ってきた。

 

 ノワールは静かにアンジェリカの元まで歩いて、頭を下げる。

 

 

「……すまない」

「良いバトルでしたわ、ノワール。謝らないで下さい」

「……あぁ、良いバトルだった」

「ふふ、熱くなってましたわね」

「あ、アレは……。……そうだな、熱くなっていた」

 少し笑って、ノワールは振り向いた。

 

 そして、ロックに手を伸ばす。

 

 

 

「お前の執念、見せてもらった。試合中は失言をしたな、お前は間違っていなかったよ。……完敗だ」

 昨日の敵は今日の友だ。

 

 周りの仲間も、お互いに見つめ合って笑い合う。

 

 

 しかし、ロックだけは違った。

 

 

「……俺は、確かに熱くなってチームを危険に晒した」

「……ん?」

 俯いて、震えるような声で言うロックにノワールは首を横に傾ける。

 

 

「リーダーとしてなってなかった、あんたの言った通りな。……俺の負けだ。勝てたのは、仲間の皆のおかげだ」

「……そうか───」

「だから、次は俺が勝つ!! 完全完璧に、このロック・リバー様がお前を叩きのめしてやる!! 次会ったときは覚えとけこの野郎!!」

 ロックはそう声を荒げて、部屋を飛び出していった。

 

 

「えぇ……。お、おい……どういう意味だアレは?」

「あ、あはは……すみません」

「分からないんですの?」

 謝るケイの後に、アンジェリカが不思議そうな表情でそう言う。

 

 

「ライバル宣言、ですわよ」

 そう言うアンジェリカの表情はとても嬉しそうだった。競い合うライバルの出現、自分のガンプラを魅せる為の道にそれは欠かせない物である。

 

 

「ライバル……」

「……あれ? タケシ君は?」

 最後に戻ってきたユメは状況を掴めずに、ただポカンとしていた。

 

「……次は外さない」

「え? え?」

 ずっとケイを睨んでいたスズが、睨む相手を入れ替えたのはまた別の話である。

 

 

 

 そしてGBNからログアウトしたタケシは───

 

 

「……次は勝つ。マジで勝つ。ぜってー勝つ」

「……よし」

 願掛けのように言葉を並べるタケシの隣で、GBNにログインしていた青年がログアウトしていた。

 青年の首には赤いマフラーが巻かれていて、その手が伸びる黒色のガンプラにタケシは見覚えがあって固まる。開いた口は塞がらなかった。

 

「……え」

「……ん?」

 隣で立ち上がった青年の手には、ブリッツという機体を改造したガンプラが握られている。

 

 赤いマフラーの巻かれたブリッツ。迅雷ブリッツが。

 

 

 そして青年も、タケシの手に握られているデュナメスHellを目にした。

 

 

「よぅ、次会ったな」

 青年はそれを見て、不敵な笑みで片手を上げる。

 

 

「お前かよぉぉぉおおおお!!!!」

 タケシの絶叫は近所のケイスケやユメカの家まで聞こえたらしい。

 




初めてのフォース戦、見事に勝利。頑張ったねロック。
一度は書きたかったワンセカンドトランザムに、スカイグラスパーとクランシェの空戦シーン、グフカスタムの原作再現、個人的にオリジナルガンプラで一番好きなサイコザクレラージェの戦闘シーン全般と書きたかった事を書きたいだけ書いて長くなってしまいましたがなんとな書き切りました!

そんな訳で久し振りにお絵描きをしてきました。

【挿絵表示】

フォースメフィストフェレスより、スズとアンジェリカです。野郎二人を描く暇が無かったので、また今度描き足しておきます……。ガンプラも隣とかに描けると良いんですけどねぇ……。


アニメガンダムビルドダイバーズリライズの放送延期、凄い楽しみなタイミングで切られて気が狂いそうです……。


そんな訳で初フォース戦でした。次回からまた新しい展開になっていくので楽しんで頂ければ幸いです。読了ありがとうございました!


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第四章──五人目の仲間【フォース砂漠の犬】
新しい目標


 爆炎が上がる。

 空を駆けるMAの下で、戦闘が繰り広げられていた。

 

 

「こちらニャム、こっちの敵は撃破したっす。残りはその一機っすよ!」

「よっしゃ、終わらせるぜケイ!」

「分かった。ユメ、ストライカーパックを!」

 ニャムからの通信が送られてきた二人は眼前の敵に詰め寄る。

 

「お届け物だよ!」

 上空で待機していたユメは、スカイグラスパーに装備されていたダブルオーストライカーを降下させた。

 

 

 ケイのストライクBondは装備していたエクリプスストライカーをパージして、ダブルオーストライカーに換装する。

 

 

「「トランザム!!」」

 そしてストライクBondとデュナメスHellは同時に圧縮粒子を解放し、機体を赤く燃え上がらせた。

 

 

 

 WINNER FORCE ReBond

 

 

 今日もGBNで、少年達は前に進む。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GBN。カフェレセップス。

 

 

「絶好調らしいですわね」

 カフェで休憩していたフォースReBondの四人の前に、一人の少女が現れて口を開いた。

 金髪の縦ロールが特徴的なお嬢様、フォースメフィストフェレスのアンジェリカである。

 

「アンジェさんじゃないっすか、お久しぶりっす」

 挨拶を返したニャムは「どうぞどうぞ」と椅子を一つ持って来てアンジェリカを座らせた。アンジェリカは「どうも」と頭を下げて椅子に座る。

 

 

「噂は聞きましたわ。フォースバトル四連勝中ですって? 流石ですわね」

 メフィストフェレスとのフォースバトルから数日、ケイ達は三度のフォース戦を経験し全てを勝利で納めていた。

 

 

「あ、ありがとうございます」

「ノワールは?」

 称賛の言葉にお礼を言うユメの隣で、ロックはメフィストフェレスのリーダーの名前を口にする。

 

 あの日の翌日、ロックからノワールがお店にいた青年だったと聞いた時は驚いた。

 それでさらに彼はヒートアップして、再戦を望んでいるのだろう。

 

 

「他のメンバーは今年のNFT(エヌエフティー)に向けて特訓中ですわ。ReBondの皆さんも勿論出場するんですわよね? NFTに」

「N?」

「F?」

「T?」

「とは?」

 アンジェリカの言葉に、四人は一斉に首を横に倒して頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。

 

「え、えぇ!? NFTの為にフォースバトルを連戦していたんじゃないんですの!?」

 そんな四人の反応にアンジェリカは口を押さえて驚く。そんなに驚く事なのかと幼馴染み三人組が思っている中、ニャムはコンソールパネルを開いてNFTの事を調べていた。

 

 

「あ、これですかね。NFT、NEXT(ネクスト) FORCE(フォース) BATTLE(バトル) TOURNAMENT(トーナメント)

 ニャムは三人に、検索してヒットしたページを見せる。

 どうやら大々的なGBNのイベントらしく、大きな広告付きのページが表示されていた。

 

 

「ネクストフォースバトルトーナメント、通称NFT。去年から開催され始めた、新規フォース向けのバトルトーナメントですのよ」

「去年から始まったイベントか。……えーと、どういうイベントなんですか?」

 ケイの質問に、アンジェリカは「えへん」と謎の咳払いをしてから何処からともなく眼鏡を取り出す。微妙に似合わないそれを掛けてから、彼女はコンソールパネルを開いてNFTのページを表示させた。

 

「第二回ネクストフォースバトルトーナメント。新規フォースのみが参加出来るバトルトーナメントで、結成が十八ヶ月以内のフォースのみに参加権があるイベントですのよ!」

「なんで十八ヶ月なのかな?」

「結成一ヶ月のフォースと十二ヶ月のフォースでは天と地程の差がありますし、そこへの配慮じゃないっすかね?」

 ユメの問い掛けにニャムが答え、アンジェリカは「多分そうですわね。事実、私達のフォースは去年も今年も参加する予定ですわ」と付け足す。

 

 

「なるほど。……去年が第一回、か。去年のイベントはどんな感じだったんですか?」

「合計五十二チームが出場してましたわ。だから、決勝まで六回戦のトーナメントですわね。去年の優勝フォースはあのビルドダイバーズですのよ」

「ビルドダイバーズ……」

 その名前はケイもロックも知っていた。二年前の第一次、第二次有志連合戦を知っている者ならその名前を聞いた事のないダイバーは居ないだろう。

 

 

「んで、お前らは?」

「わ、私達は……初戦敗退ですわよ」

「アンジェリカさん達が初戦敗退?」

 ロックの問い掛けに苦笑いしながら答えるアンジェリカ。彼女の答えに、ケイは驚いて目を丸くした。

 

 彼女達の実力は確かなものだったと思う。それでも、初戦敗退とは。

 

 

「あの頃はノワールも居ませんでしたし、初戦の相手が結成二ヶ月にして私達を倒し……第一回NFTベスト4のフォースになったチームでしたのよ。勿論、次は勝つと誓っていますけど!」

 アンジェリカはそう言って口を尖らせた。どうやら初戦の相手が悪かったらしいが、去年結成二ヶ月ということは第二回のNFTにも出場出来るチームである。

 彼女達を倒したのがどんなチームなのか、ケイ達は少し気になった。

 

 

「どんなチームだったんだ?」

「砂漠の(いぬ)とかいう変な名前のチームでしたわ。思い出すだけでも腹立たしい」

 ロックの問い掛けに、アンジェリカは腕を組んでそう答える。ケイとユメは「犬……? 虎じゃなくて?」と、ガンダムのとある作品を思い出しながら頭を横に傾けた。

 

 

「……それで、貴方達は参加しないんですの? ノワールやスズなんかNFTでReBondへの雪辱を晴らすと意気込んでましたのよ?」

「NFTか、どうする? タケシ」

「ロックな」

 ケイにツッコミながら、ロックは顎に手を当てて少し考える。

 

 これだけ大々的なイベントなら、優勝すればフォースの知名度も上がる筈だ。ノワールとの再戦も果たせる。

 特にこれといって参加しない理由もない。

 

 

「出るか、NFT」

「だな」

「次の目標だね!」

 ロックの言葉にケイとユメは目を合わせて頷いた。ニャムも「腕がなるっすねぇ」と首を縦に振る。

 

 

「あ、そういえば……NFTのルールは五人チームのフラッグ戦ですわよ。ReBondにはもう一人フォースメンバーは居るんですの?」

 しかしアンジェリカが思い出したように呟いた直後、ReBondの四人は固まってしまった。

 

 まるで壊れかけのロボットのように一斉にカタカタとアンジェリカの顔を見る四人を見て、彼女は冷や汗を流しながら苦笑いを浮かべる。

 

 

「……居ませんですのね」

「イベントの日は!」

「一週間後って書いてあるよ」

「それまでにあと一人集めて」

「連携も深めたいので早急にメンバーを補充しないといけないっすよ!」

 慌てふためく四人を見ながら、アンジェリカは唇に手を当てて少し考えた。

 このままReBondがトーナメントに出て来ないのは彼女達としても惜しい話である。

 

 

「なら、ご提案がありますわ」

「提案?」

「はい。私達のフォース、メフィストフェレスのメンバーは現在八人ですのよ。だから、もし有事であればメンバーを一人貸し出しても差し支えないですわ」

 そう言ってからアンジェリカは「勿論、こちらのメンバーでイベントに参加するチームを組んで余ったメンバーで良ければですけど」と付け足した。

 

 悪い話ではない。

 そもそもメンバーが足りなければ参加もままならないのだから、断る理由はないだろう。

 

 

「スズをくれ」

「スズちゃんが欲しい」

 しかし、ロックとユメは強欲だった。

 

「絶対にダメですわよ!?」

「ロック氏、スナイパーとしてのプライドはないんすか……」

 二人の反応に「あはは……」と苦笑いするケイ。提案はともかく、イベント日までは一週間あるのでもう少し考える必要もあるだろう。

 

 それこそ、もう一人仲間を増やすなら───

 

 

 

「……まぁ、もしもの有事の時の話ですわ。今後の活動もありますし、あと一人仲間を増やすのはオススメですわよ」

 そう言って、アンジェリカはカフェのメニュー表を開いた。どうやら長居する気らしい。

 

 

「何か頼むのか?」

「ここのドネルケバブが美味しいと聞きましたので。皆様もいかが?」

 アンジェリカの勧めに、四人は顔を見合わせて頷く。悩んでばかりいても仕方がないので、食べながら考える事にした。

 

 

「それじゃ、五人前のドネルケバブを頼みますわね。ご一緒させて頂いているので、今回は私の奢りですわ」

 そう言って五人前のドネルケバブを頼むアンジェリカ。直ぐに、店員がドネルケバブとソースを五人分持って来る。

 

「ドネルケバブ五人前、ですね。お待ちどう。ソースはヨーグルトソースとチリソースの二種類からお選び下さい」

 店員はアロハシャツにサングラスと、ウェイターなのか疑問に思う格好をしていた。

 

 

 そんな従業員を見て、ユメはどこかで見た事があるようなと首を傾げる。

 しかしこのカフェレセップスには何度も通っているが、こんな姿の店員は見た事がなかった。

 

 でも、何処かで見た姿である。

 

 

「あらありがとう。でも、ヨーグルトソースなんてドネルケバブには邪道ですわ。やっぱり、ドネルケバブにはチリソース一択ですのよ」

 アンジェリカはそう言って、店員が持っていたチリソースを自分のドネルケバブに掛けた。

 

 其々がケバブを手にする中で、アンジェリカは皆のケバブにチリソースを掛けようとする。

 

 

「お客さんお客さん、そりゃないぜ。ドネルケバブにチリソースなんて、偏食も良いところだよ。他人の偏食を否定する気はないが、彼等まで邪道に落とす事はなかろう?」

 しかし、そんなアンジェリカの手をあろうことか店員が止めた。アンジェリカは眉間に皺を寄せて「な、なんですの貴方は!」と声を上げる。

 

 

「僕はドネルケバブの真の理解者さ。君、ドネルケバブにはこのヨーグルトソースをかけたまえ」

 そう言って、サングラスの男はケイのケバブにヨーグルトソースを掛けようとした。

 

「何を言ってるんですの! ケイ、こんな得体の知れないグラサンの言う事なんて聞く必要はありません事よ。ドネルケバブにはチリソース! それ以外はあり得ませんわ!」

「何を言っている、はこっちの台詞だ。君はドネルケバブの事を何も分かっていない。ヨーグルトソースこそ、このドネルケバブを正しい道へと導くソースなんだよ! 初めてドネルケバブを食べる彼には、正しい食べ方をしてもらわねば!」

「料理に正しいもクソもありませんわよ!!」

「確かに食事の場でクソなんて言葉を吐く者には正しさを理解する事は出来ないだろうね!!」

「なんですって!?」

 言い争うアンジェリカとサングラスの男。そんな二人に挟まれて、ケイは両手を上げて苦笑いすることしか出来ない。

 

 

「私、この光景見た事ある気がする」

「奇遇っすね。ジブンもっす」

「つまり、オチは決まりだな」

「見てないで助けてくれよ!!」

 ケイの悲痛の叫びも束の間、アンジェリカとサングラスの男はチリソースとヨーグルトソースで押し合いを始める。

 次第にヒートアップする争いの中、同時に握り潰された二つのソースはケイとケイのドネルケバブにぶち撒けられるのであった。

 

 

「あ……すまない」

「ご、ごめんなさいですわ」

「……ミックスも、なかなか。あはは」

 もはや笑う事しか出来ない。

 

 

 

「で、なんですの貴方は。客の話に首を突っ込んで」

 気を取り直して、アンジェリカはチリソースの付いたケバブを頬張りながらサングラスの男に言葉を吐く。

 

 彼女の言う通り、この机に座る五人とサングラスの男との関係は客と従業員だ。

 他に接点がある訳でもなく、強いて言うならReBondの四人がここの常連という事くらいである。

 

 

「いやなに、君達がNFTの話をしていたからつい気になってね。……自己紹介するよ」

 そう言って彼はサングラスを外した。褐色肌の中年男性、髪の色は茶髪。そんな男の姿にアンジェリカは見覚えがあって開いた口を手で抑える。

 

 

「僕の名前はアンディ。ここ、カフェレセップスのオーナーにして、フォース砂漠の(けん)のリーダーだ」

「砂漠のケン?」

 何処かで聞いた事のあるような、とユメは首を傾げた。

 さっきのケバブのやり取りを見て彼女の中では、ガンダムSEEDに登場するキャラクターの砂漠の虎───アンドリュー・バルトフェルドが頭から離れない。

 

 しかし、それ以外にも何か───

 

 

「───貴方、去年私達を負かした砂漠の(いぬ)!」

 唐突にアンジェリカが口を大きく開けて叫ぶ。ユメが何処かで聞いた事があると思ったのは、アンジェリカの話だった。

 

 

「犬……いぬ、イヌ。音読みだとケンとも呼ぶっすよね」

「そう、砂漠の犬。それが前回NFTベスト4である、僕のフォースの名前だ」

 自信に満ちた表情でアンディはそう言う。アンジェリカは去年の事を思い出しているのか、歯軋りをしていた。

 

 

「その、砂漠の犬のリーダーさんがジブン達に何用で?」

「NFTに参加するなら挨拶をと思ってね。なんたって君達はこのカフェの常連さんだし、もしかしたらライバルになるかもしれないじゃないか。……勿論、優勝するのは僕達だけどね」

「なんですって!?」

「んだとゴラァ!!」

 アンディの言葉にアンジェリカとロックは眉間に皺を寄せて抗議する。

 しかしそんな二人の事を無視して、アンディはケイの目を真っ直ぐに見ていた。

 

 

「……特に君はね。ストライクのパイロット君」

「……な、なんで」

「君達のバトルは研究させて貰っている。なにせ、NFTに出てくるかもしれないニューフェイスだ」

 彼はそう言って、次はアンジェリカの顔を見る。

 

 

「前回のNFTで悔しい思いをしたのは君達のだけじゃないって事さ。ビルドファイターズにはしてやられたが、今年こそは……とね」

 つまり、敵情視察って事だよ。そう続けたアンディは机に座る五人を見渡した。

 

 

「あんたばかり喋ってズルいじゃねーか。他人の食卓を邪魔してまで敵情視察しに来たってのはよ、挨拶だけで済むと思ってないよな?」

 そわなアンディに、ロックが挑発的な態度で口を開く。アンディはそんな彼を見て口角を吊り上げた。

 

「勿論だとも」

 彼の返事にユメは首を横に傾ける。それどころか、ロックの言葉の意味も彼女には分からなかった。

 

 

「NFTの前に、イベントと同じルールで俺達と模擬戦やろうぜ。砂漠の猫だか犬だか知らねーけど、売られた喧嘩は買う。それがロックリバー様だ!」

「タケシ君!?」

「ダメだユメ、こうなったらタケシは止まらない」

 諦めて溜息を吐くケイ。戦う前からこちらの手の内を明かす事になるが、しかしそれは相手も同じである。

 

 

 受ける理由が───

 

 

「よし、その話乗った」

「えぇ!?」

 予想外の反応にケイはひっくり返った。

 

 

「言ったろう、敵情視察だと。なんなら君もどうだい、ミスアンジェリカ。砂漠の犬、ReBond、メフィストフェレス三つ巴でも僕は構わないよ?」

「……ふん、遠慮しておきますわ。砂漠の犬もReBondも。私達はNFTで雪辱を晴らす予定ですもの」

 踏ん反り返ってそう言うアンジェリカはしかし「ただ、そのバトルには興味があるので見学させてもらいますわ」と付け足す。

 

 勿論、敵情視察だ。

 

 

「段々とややこしい事になって来たっすね」

「大丈夫なのかな……」

「まぁ、ここはタケシの顔を立てよう」

 どのみちNFTに向けて何かしらの準備は必要である。イベントと同じルールで模擬戦を行えるのは、チームプレーの練習にもなるし都合が良かった。

 

 そこまで考えて、ケイは何か忘れているようなと疑問を浮かべる。

 

 

「よし、それじゃバトルは明後日の午後七時から。NFTと同じルール、五人チームのフラッグ戦で良いかな?」

「おうよ。敵情視察なんてしに来た事、後悔させてやるぜ!」

「楽しみにしてるよ」

 そう言って、アンディは店のカウンターに戻っていった。こころなしか楽しそうなその背中に、アンジェリカは目蓋を下に下げる。

 

 

「よし、次の目標は決まったな」

「ジブンはリーダーに従うっすよ」

「で、四人は新しいメンバーを明後日までに用意出来ますの? バトルのルール聞いてました?」

 満足げなロックの目の前で、アンジェリカがポツンと言葉を落とした。

 

 その言葉に四人は再び固まってしまう。

 

 

 

「「「「しまったぁぁぁ!!!」」」」

 砂漠の犬とのバトルまで残り二日。

 

 

 

 

「……楽しくなりそうだ。若者は良いねぇ」

 当のカフェレセップスのオーナーは、そんな若者達を見て笑っていた。




そんな訳で新しい目標。その前に仲間を集めようね!

なんと前回の更新から数日も経たずにTwitterの方でファンアートを頂きました。とても嬉しかったので共有したいのであります。


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なんと三枚も頂いてしまいました。素敵、可愛い……ありがとうございます!


一話も待たずにアンジェリカも再登場してますが、準レギュラーキャラみたいなところあります!
それでは、読了ありがとうございました!


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五人目の仲間

 玄関が開く音に敏感になったのはいつからだろうか。

 両親はずっと仕事が忙しくて、家にいる時間の方が少ない。お父さんの顔なんて一ヶ月に一度見られると良い方だ。

 

 だけど、理由はそれだけじゃない。

 

 

「お帰り、お姉ちゃん」

 大好きで、大切なお姉ちゃんが帰ってくる音だから。最近はガンダムのゲームで遊んでいて、帰ってくるのが遅いけれど。

 それでも、最近になって姉の笑顔が昔みたいに戻った事にヒメカは喜んでいる。だから、少しだけガンダムが嫌いじゃなくなった。

 

「ただいま、ヒメカ」

「うん!」

「……うぅ」

「えぇ!? お姉ちゃん!?」

 しかし、突然表情を曇らせる姉にヒメカは驚いて駆け寄る。心配しながらも、最近になって表情が豊かになってきたなと微笑んだ。

 

 

「どうしたの?」

「フォースのピンチなんだよ……。ヒメカ、ガンプラやらない?」

「やらない」

 だけど、ガンプラは別に好きじゃないです。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 キサラギ家。

 

 

「───と、いう訳なんだよね」

「大会に出る為と、明後日の試合の為に仲間が欲しい……。えーと、部活の助っ人みたいな?」

 ユメカ曰く明日中に新しい仲間を集めないといけないという無理難題に、ヒメカは口に手を当てて目を細めた。

 

 大切な姉の相談だから無下には出来ないが、自分には出来ないしガンプラを知ってる友達も知り合いもいない。

 そもそもこの性格なので彼女には友達といえる友達が居ないが。

 

 

「うん、そうなんだよ……。タケシ君はすぐ話を先に進めるから、もー」

「またあの男……」

 タケシの名前を聞いて眉間に皺を寄せるヒメカ。しかし、どうした物かと考える。

 ふと自分の部屋を見渡して、視界に映った物が部屋の灯りに照らされて光った。

 

 人形が多めの女の子らしい部屋にポツンと立つ違和感。姉とその幼馴染みと、アニメを見ながら作ったガンプラ───バンシィである。

 

 

 ──ガンプラが憎いなら、力になってあげるよ──

 思い出したのは、ガンプラを作る前に姉が事故に遭いそうになった時の事だった。

 

 別にガンプラが憎いわけではない。ただ、彼女の中にはガンプラ関係のボキャブラリーが少ないのである。

 

 

「ごめんねお姉ちゃん。私も、一応明日までに知り合いの人に連絡してみるね!」

「ありがとうヒメカ。頼れる妹だなぁ」

「えへへ」

 姉に頭を撫でられて喜ぶヒメカ。

 

 

「ガンプラ……」

 その後、部屋で一人になった彼女は勉強机の中にしまってあった名刺を手に取って眺めていた。

 

 

 

 

 翌日。

 

「ロック氏は知り合いにガンプラやってる人か興味のある人は居たっすか?」

「ダメだ。居ても別のフォースに入ってるとか、そんなんばっか。ニャムさんは?」

「ジブン……リアルの友人にガンダムが好きな人居なくて」

 カフェレセップスに集まった四人は、昨日ログアウトしてからの成果を話し合っている。

 

 ロックの知り合いは全滅。ニャムは顔を伏せて友達が居ない事を嘆いていた。

 

 

「ユメは? ヒメカちゃんはどうだったよ」

「断られちゃった」

「だよなー。さて、頼みの綱はケイだが?」

 ロックの言葉に三人は一斉にケイの顔を見る。そんな三人に、ケイは目を閉じて「フッ」と笑った。

 

「誰か誘えたのか!」

「ダメだった」

「期待させんなよ!! なんだよ、フッて!! 何がフッだよ!!」

「いやいやまーまー、落ち着いて下さいっすロック氏」

 どうやら全滅した四人は、頼んだ飲み物を一斉に飲んで落ち着く事にする。

 

 ここ、カフェレセップスのオーナーがリーダーであるフォース砂漠の(けん)とのバトルまであと一日。

 今ここでメンバーが揃わないとなるとアンジェリカの提案を飲む事になるが、それは彼らにとって好ましい結末ではなかった。

 

 

 これから先、共に歩んでいく仲間なのだから。

 

 

「店長さんはダメだったの?」

「普通に最近仕事忙しそうだしな」

「くそー、アオトー、戻ってきてくれー」

 机に突っ伏してしまうロック。ケイやユメも気持ちは同じだが、こればかりはどうしようもない。

 

「アオト君やジブンの兄を探すためにフォースを結成したのに、フォース戦をする為に探し人が必要になるとはこれいかにっすね……」

「よし、ニャムさん分身してくれ」

「ちょっと落ち着いて下さいっす」

 笑顔でそう返したニャムは、ふと店の周りを見渡す。何か視線を感じたというか、誰かに見られている気がしたのだ。

 

「ニャムさん?」

「今誰かに見られていた気が……?」

 仮想世界であるGBNでも視線を感じるのかという疑問はあるが、ニャムは確かに誰かの視線を感じて辺りを見渡す。

 

「ニャムさん目立つから」

「ユメちゃんも可愛くて目立つと思うっすよ?」

「いや、腰の刀とかの話だよ!?」

 隣から彼女の情報量の多い格好に指摘を入れるユメ。そんな二人の背後で、ふと黒い髪を後ろで乱雑に縛った男性の姿をしたダイバーが立ち止まった。

 

 

「あのー、もしかしてReBondの人達?」

 そして男性は両手を組んで紫色の羽織の裾に手を入れながら、無精髭に半目のだらしなさそうな顔で四人にそう話し掛ける。

 

 四人共そんな男性には見覚えがなく、彼の言葉に一瞬固まってしまった。

 

 

「あれ……違った? おじさんの勘違いか」

 固まった四人の反応に、困ったように頭を掻く男。

 ケイは慌てて「あ、そ、そうです! 俺達がReBondです!」と返事をする。

 

 

「……えーと、あんた誰?」

 続いてロックが怪訝な表情でそう問い掛けた。

 見たところ誰かの知り合いでは無さそうで、警戒してしまうのは無理もない。

 

 

「あー、突然声掛けちゃったからね。そーなるよね」

 男はロックから目を逸らしながらそう言って、ユメと視線を合わせる。視線を感じたユメは首を傾げて頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。

 

「……ユメちゃんだよね?」

「……えーと、はい。ユメです」

 改まってお辞儀をするユメ。そんな彼女に男が手を伸ばして、ニャムは反射的に腰の刀に手を伸ばす。

 ロックが「それ飾りじゃなかったのか」とツッコミを入れている間に、男は姿勢を落としてユメの前で跪いた。

 

 

「おじさんはキミに一目惚れしちまった。是非おじさんを仲間にしてくれないか?」

「ニャムさん、そいつを叩き切って下さい」

「承知したっす! 首切りごめん!」

 男の言葉にケイが即答して、ニャムは抜刀して斬りかかる。男は「ひぃ!? ちょ、タンマタンマよ!!」と素っ転んだ。

 

 

「完全に怪しいおっさんじゃん」

「でも、仲間になりたいって言ってるよ?」

 半目でそんな男を見下ろすロックの隣で、ユメは唇に手を当てて彼の言葉を思い出す。

 

 おじさんを仲間にしてくれないか? 

 

 それは、ついさっきまで四人が悩んでいた事を解決する事が出来る言葉だった。

 

 

「いやでも完全に知らない人だし……」

「やっぱり斬るっすか?」

「待って」

 ユメはニャムの前に出て、倒れている男に手を伸ばす。ケイはそんな彼女を見ながら唇を尖らせて、ロックは苦笑いをしていた。

 

 

「大丈夫ですか? えーと……」

「カルミアだ」

 男───カルミアは、そう言って彼女の手を取って立ち上がる。飄々な表情で振り向いたカルミアは、ケイとユメを見比べて笑った。

 

「別に取って食いやしねぇよ。ただおじさんはね、ユメちゃんの妹ちゃんに頼まれてここに来たって訳」

「ヒメカに……?」

 突然妹の話が出て来て混乱するユメ。確かにヒメカにもお願いをしたが、まさか彼女にガンプラの知り合いが居るとは思ってなかったのである。

 

 

「確か妹さんが居るって言ってたっすよね」

「あぁ……。でも、本当か?」

「本当かどうかは今この際どうでも良いんじゃないのん? ケー君やい。出るんだろう? NFTに。おじさんを仲間に入れてくれれば、晴れてメンバーが五人揃う。どうよ?」

 怪訝な態度のケイに対して、目を細めてそういうカルミア。確かに今はシノゴノ言っている場合じゃない。

 

 それにヒメカの知り合いなら、特段悪い人間ではない筈だ。

 

 

「真意は後で聞くとして、条件があるぜ。確かに仲間は欲しいけど、俺達は半端な奴は要らない。……あんたの力、見せてみろよ」

 悩んでいるケイの後ろから、ロックが言葉を漏らす。彼的には強ければ問題ないのだ。

 

 ケイは少しだけ迷ったが、彼に賛同することにする。

 

 

「良い提案ねぇ、それ。おじさん乗ったよ」

「決まりだな。そんじゃ、さっそくバトルするか?」

「一つだけ条件。フィールドは宇宙空間にしてくれないかな? 地上でも良いけど、おじさんの機体は宇宙の方が力を見せられるからね」

 そんなカルミアの言葉にロックは頷いた。そして淡々とバトル内容を一人で決めて、コンソールパネルに表示する。

 

 

「二対二、2on2の形でバトルだ。俺とニャムさん、ケイとおっさんで模擬戦をする。宇宙だとユメのスカイグラスパーは動かねーし、観戦で良いか?」

「あ、そっか。スカイグラスパーは重力下専用なんだ」

 アニメでも地上に居た時にしか出番がなかったのを思い出して、ユメは残念そうに笑った。

 

 ずっと乗り続けて愛着の湧いているスカイグラスパーだが、実際にはケイからの借り物で自分にとっても仮の機体である。なんだか少しだけ、心細く感じた。

 

 

「お、俺がこの人とか……」

「そんじゃ宜しく」

 ケイの肩を叩くカルミアは不適に笑う。そんな彼の顔を見て、ユメはふと何かを思い出しそうになった。

 

 

「何処かで会った事、いや……違うよね」

 彼の顔を何処かで見た事がある。そんな事を思ったが、ここは仮想世界で本当の彼とは姿が違うのだ。

 ヒメカの知り合いという事は可能性もなくはないが、ただどこかで同じ雰囲気を感じた事がある気がする。

 

 でも分からなくて、気のせいだと首を横に振った。

 

 

 

 

 バトルフィールド、ソロモン周辺。

 機動戦士ガンダムをはじめとした宇宙世紀の作品に登場する、コンペイ島の別名の通りお菓子の金平糖に似た形をした小惑星である。

 

 GBNのフィールドとしては、ソロモンを中心に何もない無重力の宇宙が広がっているフィールドだ。

 ソロモン内部もステージとして作り込まれている為、無重力ステージにしては足場の多いフィールドである。

 

 ユメは観客席でそんなステージを見上げながら「宇宙(そら)か……」と呟いた。

 

 

「ロック・リバー、目標を狙い撃つ!」

「ニャム・ギンガニャム、目標を駆逐するっす!」

 二人の機体が出撃する。ロックのデュナメスHellの横に並ぶのは同じく背中にGNドライヴを背負った青い機体だった。

 

 

「ケイ、ストライクBond行きます!」

「カルミアだ。レッドウルフ、発信するぜぃ」

 同時に二人の機体も出撃し、バトルフィールドに四機が並ぶ。

 

 

 ケイのストライクBondの横に並ぶのは、全身を赤く染めた一つ目の重装甲な機体だった。

 

 

 

「ニャムさん今日はエクシアか……っ!」

「機動戦士ガンダムOOより、エクシア! ニャム・ギンガニャムがお相手するっす!!」

 ニャムの機体はガンダムエクシア。デュナメスと同じくソレスタルビーイングのガンダムであり、セブンソードの名を冠する通り接近戦に特化した機体である。

 

 

「アレは……ドーベンウルフか?」

 エクシアの隣で、ロックは首を傾げた。

 

 特徴的なのは三番のアンテナと、機体全身に武器を積み込んだような重装甲である。

 ドーベンウルフは全身武器庫とも呼ばれる程に装備している武器が多いのも特徴で、カルミアのレッドウルフは元になったドーベンウルフからさらに武装を盛った機体だった。

 

 機体の印象としてはメフィストフェレスのサイコザクレラージェに近いだろう。

 

 

「なるほどなるほど、戦い甲斐がありそうっすね!」

「ま、とりあえず俺様に瞬殺されないように頑張ってくれよな!」

「ニャムさんやロックと戦うのも久しぶりだな……。えーと、カルミアさん? 頑張りましょう……」

「あんまり警戒しないでちょーよ、おじさん傷付いちゃうわ」

 苦笑い気味に頭を掻くカルミア。

 

 少しだけ視線を逸らした後、彼は目を細めて前を向いた。

 

 

「さて、おじさんの力を見せるとしましょうか……っ!」

 全身武器庫の倉庫が開く。

 

 

 ソロモンが再び戦火を燃やした。




そんな訳で五人目の仲間(?)カルミアの登場です。彼はReBondに入れるのか。そしてバトルの結末は?

読了ありがとうございました!


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赤い狼

 電話が鳴った。

 登録された電話番号ではない。仕事上、珍しい事ではないが電話を取る男は不敵に笑う。

 

 

「はいはい、こちら運送会社の───」

 そこまで言った所で、男は電話先の声に耳を傾けた。

 幼い、だけどしっかりした口調の女の子の声が聞こえて来る。

 

 

「───なるほどね。良いよ良いよ、おじさんに任せなさい」

 そう言って電話を切った男は、振り返って背後にいたもう一人の男に視線を合わせた。

 

 

「そんな訳で、都合良くおじさんはあの娘のフォースに接触する機会が出来た訳だけど?」

「そのままNFTで彼女達を俺の所まで連れて来い」

 椅子に座っているもう一人の男はそう答えて、部屋に飾られている写真を眺める。

 

 

「NFTで、俺の復讐を始める」

「……そんじゃ、おじさんは一旦ReBondに入って来ますかね」

 男が手に取ったガンプラは、まるで血のような赤色に染められていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GNソードとビームザンバーが重なり合う。

 

 

「クロスボーンガンダムのスラスターを着けたストライカーパック。ふへへ、初めて戦った時の事を思い出すっすねぇ!」

 バトル開始後、先に仕掛けて来たのはニャムのエクシアだった。

 

 彼女は細身故の機動力を生かして牽制射撃を潜り抜け、ケイのストライクBondに肉薄する。

 

 

「あの時も白兵戦でしたっけ……っ!」

 大振りにビームザンバーを振り抜いてエクシアを引き離したケイは、頭部バルカン───イーゲルシュテルンで牽制射撃をした。

 しかしニャムは怯む事なく、機体を横に逸らしながらビームサーベルを展開して再びストライクBondに接近する。

 

「横横横ぉ!!」

 謎の雄叫びを上げながらサーベルを振るニャム。ケイはクロスボーンのスラスターを巧みに駆使して姿勢制御だけでエクシアの攻撃を全て交わした。

 

「横って何!?」

「流石、クロスボーンのスラスター。機動力はエールに劣るも姿勢制御はピカイチっすねぇ!」

 しかし、とニャムはGNソードを前に突き出してストライクBondに突進する。

 

 

「離脱力がなければ、壁際に追い込むのは容易っすよ!!」

「───しまった、後ろはコンペイトウか!?」

 エクシアの猛攻の間に、気が付いた時にはソロモンの岩壁まで追い詰められていた。

 

 

 宇宙空間のバトルフィールドでは上下左右が滅茶苦茶になる。気を抜けば自分が今何処にいるのか分からなくなっていたなんてのは珍しい事でもない。

 

「……っ!」

 ソロモンを背後に逃げ場を失ったストライクBondに向けて、エクシアはその刃を振り下ろそうと肉薄した。その直後───

 

 

「ソロモンの方に逃げな、ケー君!」

 ───光がエクシアとストライクBondの間に割って入る。

 

 大型のビーム砲に攻撃を阻まれたニャムは機体を下げるが、ビームはゆっくりと薙ぎ払われてエクシアの足を掠めた。

 舌を巻いて「やってくれるっすねぇ」とビームが飛んで来た方角を睨むニャム。その方角から、大量のミサイルが飛んで来ているのが確認出来る。

 

 

「遅くなって悪いねぇ、なにせ年寄りは足が遅いもんだから」

 ミサイルを放った犯人と、愛機───レッドウルフは片手に大型のビームライフルを構えながらソロモンの近くまで辿り着いた。

 ケイのストライクBondはゆっくりとその機体に近付いて「助かりました、カルミアさん」と声を掛ける。

 

 

 ガンダムファンにとって赤い機体は無意識に高起動なMSだと認識してしまいがちだが、その機体の重厚感はそんな事を微塵も感じさせない。

 武器という武器を積んだ、全身武器庫。それが彼の機体の元となったドーベンウルフの特徴だ。

 

 

 以前戦ったメフィストフェレスのサイコザクレラージェに似た雰囲気は、ケイの中でどこか頼もしさがある。

 

 

「いいのよいいのよ。チーム戦だからねぇ。今のうちに体勢を持ち直しな。とりあえず、敵はまだ一機。相手をしてみようか!」

 言いながらカルミアはバックパックからさらにミサイルを発射した。

 

 十二発のミサイルが二手に分かれてエクシアを襲う。ニャムはGNソードをライフルモードに変え、ミサイルを迎撃しようと構えた。

 

 

「ミサイルだけだと思ったかぃ、嬢ちゃん!」

 レッドウルフのライフルが胸部のメガ粒子砲発射口と連結する。ジェネレーター接続により威力を増したビームライフル───メガランチャーがエクシアに向けて放たれた。

 

「それは流石に当たったらヤバいっす!!」

 ニャムはミサイルの迎撃を辞め、ミサイル群に突っ込む形でメガランチャーを避ける。

 ミサイルの直撃は免れないがビーム砲に当たるよりはマシだ。

 

 

「良い判断……ん?」

 そのままミサイルが全て直撃するかと思いきや、遠方から連射されたGNスナイパーライフルがミサイルの大半を吹き飛ばす。

 

「ふぅ……助かったっす、ロック氏!」

 ニャムは冷や汗を拭きながら援護をくれた後方にいるロックにお礼を言った。

 

 

「ふ、俺はクールで格好良い男……ロックリバー。どうだニャムさん! 今のでおっさんのドーベンは蜂の巣だろ!」

「いや今のカルミア氏を狙ってたんすか? 一発も当たってないっすけど!?」

「なんだとぉ!?」

 ミサイル迎撃が偶然だった事を知りニャムは目を細める。しかし、結果はオーライだ。

 

 

「なるほどねぇ……だけど、レッドウルフの武器はまだあるぜぃ!」

 そう言う彼のレッドウルフのバックパックから、二本の砲身が飛び出す。まるでファンネルのように機体から離れていく砲身だが、ファンネルとは決定的な違いがあった。

 

 それは、有線である事。レッドウルフから離れていく砲身は、レッドウルフ本体とワイヤーで繋がっている。

 

 

「いきな、インコム!」

 準サイコミュ兵器、インコム。それがこのオールレンジ攻撃に使われる兵器の総称だ。

 

 

「次から次へと!」

 さらにビームライフルの追撃で、ニャムのエクシアは防戦一方になる。そんな彼女の隣を抜けた黒い機体───ロックのデュナメスHellはレッドウルフに向かって猛進した。

 

 

「そういうのは近付けば怖くねぇんだよぉ!!」

「させるかいな。ビームハンド!」

 対するカルミアのレッドウルフは、ライフルを持っていない左腕にビームサーベルを持たせて───その腕の肘から先を飛ばす。

 

「しゃらくせぇ!」

 ビームサイズを展開してレッドウルフの腕を弾いたロックは、懐に潜り込んで得物を振り上げた。

 オールレンジ攻撃は肉薄してしまえば自機に砲身を向けられなくなる為に使えない。その手の武装を持つ相手には接近する事は非常に有効である。

 

 

「貰ったぁ!!」

「残念、まだあるんだなぁ!」

 レッドウルフは左腕の隠し腕を展開してビームサーベルを展開。ビームサイズを振り上げたデュナメスHellの左腕を切り飛ばした。

 

「あぁ!?」

「隠し腕はまだあるよぅ!」

 さらにレッドウルフは股間のスカートから隠し腕を展開しビームサーベルを合計で四本構える。

 同時に振られたサーベルをロックはなんとか弾いて交わすが、距離を取らざるをえなかった。

 

 

「ジ・Oかよ!?」

「どうやら元になったドーベンウルフよりも色々積んでるみたいっすねぇ」

 インコムが回収され、猛撃をなんとか凌いだニャムはロックと合流する。

 

 

 サーベルを持った左腕が浮き、インコムを二発漂わせ、右腕には高出力のビームライフル、左腕と股下の隠し腕、バックパックのミサイル。

 それでもまだどこかに武器を隠し持っているのではないかと思える機体の重装感。それはまるで難攻不落の要塞のようだ。

 

 

 

「すみません、遅れました」

「いやいや、今から丁度良い所よ。……さて、続きをしようか」

 カルミアは目を細めて口角を吊り上げる。まず動かしたのはビームハンドで、サーベルを手に射出された腕がロックのデュナメスHellに真っ直ぐ向かった。

 

「しゃらくせぇ!」

 ビームハンドを弾き飛ばすロックだが、その間にケイのストライクBondが接近する。援護をしようとしたニャムのエクシアは、インコムとビームライフルの牽制に阻まれた。

 

 

「ロックの片腕を持っていくなんてな……」

 フォース内でも接近戦なら最強格であるロックに、不意打ちとはいえ接近戦でダメージを与えたカルミアの実力は確かだろう。

 そんな事を思いながら、片腕だけのロックにビールザンバーで斬りかかるケイ。対するロックは機体を赤く染めて迎え撃った。

 

 

 TRANS-AM

 

 

「トランザムか……っ!」

「片腕だけで充分だぜ!!」

 ダブルオーストライカーを装備していたら、同じくトランザムで対抗する事が出来たかもしれないが生憎そうはいかはい。

 機動力の増したデュナメスHellに、ケイは攻めていた筈が防戦を強いられる。

 

 

「そういやあの日以来決着が付いてなかったなぁ!」

「ならここで決着を着けるか?」

「そうしようぜぇ!!」

「───って、俺がいうと思ったか?」

「───はぁ!?」

 突進してくるデュナメスHellに向けて、ケイは羽織っていたABCマントを投げ付けた。マントで視界を遮っている間に下に潜り込んで、イーゲルシュテルンで足を撃つ。

 

 

「お前はそういう奴だよなぁ!!」

 なんとかマントを取っ払ったロックは、真下に機体を向けてビームサイズを構えた。しかし、そこにストライクBondは居ない。

 

 

「……あれ?」

 宇宙空間において上下左右の感覚は簡単に狂ってしまう。

 クロスボーンストライカーの機体制御能力で既にデュナメスHellから距離を取っていたケイは、ロックの知らない間にニャムのエクシアと交戦していた。

 

 

 そうなれば手の空くMSが一機、この戦場にいる事になる。

 

 

「お別れよ、黒いデュナメス。バイビー」

 カルミアは胸部メガ粒子砲とビームライフルを連結させ、トリガーを引いた。

 

 

「何の光ぃぃいいい!?」

 メガランチャーがデュナメスHellに直撃し、ロックの機体は爆散する。

 

 

「ロック氏ぃ!」

「あと一機!」

「やらせはせん、やらせはせんっすよぉ!!」

 残る一機。ニャムのエクシアはストライクBondと斬り合いながらも、周りに浮かぶインコムを打ち壊し、トランザムを発動してケイを振り払った。

 

 

「カルミアさん、そっち行きます!」

「やらせはせんぞぉぉおおお!!」

 トランザムでレッドウルフに突進するニャム。カルミアはライフルを捨ててビームサーベルを手に取り、隠し腕と合わせて三本のサーベルでエクシアを迎え撃つ。

 

 

「……っとぉ、おぉ? やるなぁ」

 三本のサーベルでなんとか斬撃を捌こうとするが、トランザムの機動性には追い付かずに二本の隠し腕を斬り飛ばされてしまった。

 

 しかし、猛撃を仕掛けてくるニャムの機体を、横から飛んで来たビームハンドが捕まえる。

 つい先程飛ばしてロックに攻撃したが弾かれた腕が帰ってきたのだ。

 

 

「やらせはせーん!!」

 ビームハンドを切り飛ばすニャム。しかし、さらに射出された右腕のビームハンドがエクシアを掴む。

 そのビームハンドも切り裂いたエクシアだが、遂には隠し腕に両手を掴まれた。

 

 背中のビームキャノンがエクシアの足を吹き飛ばして、遂にニャムは抵抗出来なくなる。

 

 

「完敗っす。全身武器倉庫……隙がない」

「悲しいけどこれ、戦争なのよね」

 胸部メガ粒子砲がエクシアを吹き飛ばした。

 

 

 勝者、ケイ&カルミアチーム。

 

 

 

「お疲れ様! 宇宙戦ってすごいんだね。グルグル回って、上が下で下が上でもうよく分かんないの」

 バトルを終えて戻ってきた四人に、ユメは目を輝かせて話し掛ける。

 

「ユメちゃんも宇宙用のMAを使ったり、この際MSに乗り換えたりすれば宇宙戦も経験出来るっすよ」

「わ、私にあんなバトル出来るのかなぁ……。えーと、カルミアさん? も、凄かったです!」

「どもどもー」

 ユメの言葉にカルミアは頭を掻きながら手を上げた。

 

 

「よし、合格だな」

 確かに彼の実力は本物のようである。

 ヒメカとの関係はともかくとして、彼ならばメンバーとしても充分だとロックが考えた。

 

 

「ジブンも賛成っす。ケイ殿に引っ掻き回されたとはいえ、彼のレッドウルフの火力と弾幕が勝敗の決めてでしたっすからね。その二つとも、今の自分達にはない物ですし」

「ケイは?」

「俺も……まぁ、良いかな」

 出会った時の行動を少しだけ思い出して苦笑いしながら答えるケイ。当の本人は飄々な態度で立っていて、特に悪い人間でもなさそうである。

 

 

「ユメも良いよな?」

「うん。私は大丈夫だよ」

「んじゃ、決まりだな。おっさん、あんたはこれから俺達ReBondのメンバーだ!」

 格好を付けながらそう言って、ロックはコンソールパネルからフォースへの招待をカルミアに送った。

 

 彼は満足げな表情でその招待を受け取る。

 

 

「おじさん感激ぃ。そいじゃ、今後ともよろしく」

 こうして、ReBondのメンバーは五人になった。

 

 

 

 ネクストフォースバトルトーナメントまで、残り六日。




そんな訳で、新キャラ(?)カルミアの初陣と仲間入りでした。今後の活躍にも期待ですね!

読了共ありがとうございました!


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砂漠の犬

 五つのモニターが光る。

 

 

「うーん、今日も珈琲が美味い」

 湯気の立ちのぼるコーヒーカップを片手に、一人の男がモニターを眺めていた。

 

「全身武器倉庫、一回の戦闘で装備を使い切らない程に武器を積み込んだ赤いドーベンウルフ。リーダー機、狙撃機と思わせて接近戦の得意なデュナメス。支援機、文字通りのスカイグラスパー」

 男はモニターに映っている映像を見ながら、それぞれを見比べて言葉を漏らす。

 

 

 モニターにはフォースReBondのメンバー達のバトルが映し出されていた。

 

 

「改造ガンプラキラー、使う機体は試合によって様々なオールラウンダー。そして───」

 その視線は、真ん中に設置されたモニターに真っ直ぐに向けられる。

 

 

「───換装機、スカイグラスパーと併用で力を発揮するストライク」

 男はコーヒーカップを机に置いて、前のめりになってモニターを眺めた。

 

 

「……ストライクか」

「楽しそうね、アンディ」

 男の背後から近寄ってきた女性がそう言うと、男は「そう見えるかい?」と不敵に笑う。

 

 

「彼は少し僕に似ていると思うんだよね」

 コーヒーカップを再び手に取る男は、美味しそうにそれを飲み干して笑ってみせた。

 

 

「……僕は今年のNFTで必ず優勝する。その為ならなんだってするさ」

「えぇ。頑張って」

 二人は抱擁を交わして笑い合う。

 

 

 モニターにはゴッドガンダムと対峙するストライクBondの姿が映っていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GBN。カフェレセップス。

 

 

「よーし、揃ったな」

「どもどもー、間に合ったかね」

 ロック、ユメ、ケイ、ニャムの四人が集まる机に一人の男が遅れてやって来る。

 

 昨日の模擬戦を経てReBondの仲間入りを果たしたカルミアは、頭を掻きながら「遅れて悪いねぇ、おじさん社会人だから」と頭を下げた。

 

 

「いえいえ、ジブン達がちょっと早めに集まってただけっすから」

「若者は元気ねぇ。……それで、今日は他のフォースと模擬戦だっけ?」

 カルミアの問い掛けに、ロックが「おうよ。期待してるぜおっさん」と答える。

 その隣でケイとユメも「宜しくお願いします」と声を揃えた。幾分か警戒は解けているようで、カルミアは少し安心する。

 

 昨日GBNからログアウトした後にヒメカに事情を聞いた所、彼の事は「たまたま知り合ったおじさん」と言っていた。

 女子中学生が偶々知り合ったおじさんの連絡先を知っているのはどこか怖い話ではあるが、ヒメカはしっかりしているので大丈夫だろう。

 

 ユメカに対しては少しだけ後ろめたそうにしていたのが気になるが。

 

 

「そいで、そのお相手さんはどちらさんで?」

「あー、それなら───」

「やーやー、揃ってるね。ReBond諸君」

 カルミアの質問にロックが答えようとした矢先、彼等の机の前に一人の男が現れて口を挟んだ。

 

「改めまして。僕が今回君達の相手をする砂漠の(けん)のリーダー、アンディだ。こっちは副リーダーのリリアン」

 アロハシャツのその男はコーヒーカップを片手にもう片方の手を上げて挨拶をする。

 続けてアンディに紹介された長い髪の女性が「ハァイ」と返事をした。

 

 その後ろには彼の仲間と思われる三人の男が立っている。

 

 

「先日の約束通り、NFTの練習模擬戦としてイベントと同じルールで戦う……それで構わないね?」

「おうよ。前回ベスト4の力、存分に見せてもらおうか」

「元気な少年だ。……あぁ、胸を借りるつもりでかかってきたまえ」

 そう言ってアンディとロックはお互いに握手をした。二人はその後細かいルールの調整をして別れる。作戦会議の時間だ。

 

 

「フィールドは砂漠、ルールはフラッグ戦。NFTではフラッグ機体は試合開始ギリギリまで決める時間があって、毎回変えられるらしいぞ」

 アンディから聞いた話をそのまま伝えるロック。彼の言葉を聞いて、ユメは唇を押さえて目を細める。

 

「どうかしたか? ユメ」

「フィールドは砂漠って事は、もしかして相手の人達に有利かも? だってほら、フォース名が砂漠の……だし」

 初めて見たガンダム作品、ガンダムSEEDを思い出しながら彼女は顎に手を当てた。

 

「確かに、バクゥやラゴゥが出て来てもおかしくないっすね」

「こっちは砂漠戦の戦力としては心許ないか……。俺は……初めにエクリプスストライカーを着けて出るから、ユメはクロスボーンストライカーで頼む」

「今回はちゃんと途中で換装出来る様に落とされないようにしなきゃ……」

 ユメはメフィストフェレス戦を思い出してそう言う。今回は砂漠戦故に、ストライクの柔軟性は大切だ。

 

 

「フラッグ機は誰がやるんだ?」

「おじさんのはフラッグ機には向いてないかな。年寄りは足が遅いもんで」

「いざというときの回避性能、防御性能が求められるっすね。個人的にはケイ殿のストライクっすけど」

 ロックの問い掛けにカルミアは首を横に振って、ニャムはケイのストライクを指名する。

 

 大切な役目だが断る理由はない。これで、後は作戦を決めるだけだ。

 

 

「それじゃ、作戦っすけど───」

 

 

 

 十分後。

 

「あら、もう始まってるようですわよ」

 試合開始直後、まだ誰の機体も撃破されていないが観戦室に男女四人がやって来る。

 

 事前に招待や登録がされていれば他のフォースのバトルを観戦する事が出来るのだが、ReBondと砂漠の犬のバトルを観戦しに来たのはフォースメフィストフェレスの四人───アンジェリカ達だった。

 

 

「敵情視察を快く受け入れてくれるとはな。さて、新しいメンバーの機体はドーベンウルフか」

「……スカイグラスパーもストライクも前と武装が違う」

 アンジェリカの隣でトウドウとスズがReBondの機体を見ながら言葉を漏らす。

 

 

「お前がフラッグ機をやるなんて事は流石にないか、ロック」

 黙ってついて来たノワールは、モニターに映るデュナメスHellを見て不敵に笑った。

 

「そろそろぶつかり合いますわ」

 砂漠の犬の機体がモニターに映る。四人は真剣な表情でモニターを見始めた。

 

 

 

 

「こちら南側、ユメ。敵の機体確認出来ないです」

「こちら東側、ニャム。同じく敵影なしっす」

 砂漠上空をユメのスカイグラスパーと、もう一機の航空機が飛んでいる。今回のニャムの機体は可変機らしい。

 

 

「こちらロックリバー。おっさんとケイの所も異常なしだ」

 岩壁の上から砂漠を見下ろすロックが返事をした。フィールドには今彼の正面3キロ先にケイとストライクBondとカルミアのレッドウルフが立っている。

 そしてそれぞれ別方向でユメとニャムが空中から索敵中だ。フィールドは砂漠といっても岩場や基地の跡地等があって隠れる場所も豊富である。中々索敵もうまくいかないようだ。

 

 

「ユメ達は大丈夫かな……」

「そうもそわそわしなさんな、ケー君。君はフラッグ機なんだから、ジッとしてるのも作戦の内よ」

「そ、そうですね……。ていうかそのケー君ってやめてください」

「え、ユメちゃんにはいつも呼ばれてるじゃないの」

 カルミアに諭されて一度深呼吸をするケイ。

 

 

 そうして彼は、バトルが始まる前の作戦会議を思い出す。

 

 

 

「フラッグ戦において重要なのはアタッカーとディフェンダーっす。アタッカーは敵軍のフラッグ機の撃破、ディフェンダーは自軍のフラッグ機の防衛が任務っすね。フラッグ戦はフラッグ機が落とされればその時点で試合終了なので、こうやって攻守でチームを分けるのが一般的な作戦っす」

「その場その場でも変わってくるけどねん。臨機応変ってのも大切よ」

 ニャムの説明にカルミアが付け足して、聞いていた三人は頷いた。

 

「そこで、まず前半戦はジブンとユメちゃんがアタッカーを務めるっす」

「え、私……?」

 そしてニャム提案した作戦にユメは首を傾げる。彼女の機体は機動力こそあるが、敵を倒す事に対しては向いていないし自信もなかった。

 

 

「ふっふっふっ、前半戦の話っす。とりあえず戦闘が始まったら相手を見つける所からスタートしないといけないので……今回は空を飛べるジブンとユメちゃんにその適性を見出したんすよ」

「なるほど、索敵だね」

「そうそう。そして、敵を見つけ次第敵の情報を見てからアタッカーを入れ替える……という作戦っす」

 だから、それまでの防衛は残りの二人で。ニャムはそう付け足して、詳しい位置取りの話に入る。

 

 

 場合によってはケイ自身がアタッカーになる事もあり得る作戦だ。臨機応変、フラッグ戦に必要なのはその言葉に尽きるだろう。

 

 

 

「敵は砂漠の犬。……やっぱり、ラゴゥとかなんですかね」

「さーねぇ。案外全く違うかもよん?」

 周りを警戒しながらケイの口から漏れた言葉にカルミアが笑いながら返した。

 

 フォース砂漠の犬。あのメフィストフェレスを初戦敗退させたチームだという事もあり、緊張で手が震える。

 

 

 それでも今は勝つしかない。勝って前に進んで、アオトのいる所まで───

 

 

 

「敵発見!」

 通信でそう声を上げたのはニャムだった。

 

 レーダーに敵影を感知したニャムは舌を巻きながら「よーしよし」と不敵に笑う。作戦通り───そう思いながらレーダーに再び視線を向けたニャムは表示される項目に驚いて眼を見開いた。

 

 

「ロックオン……? ジブンが狙われてる? この高度っすよ!?」

 相手は地上にいると思い込んでいたニャムは、ジブンが攻撃のターゲットにされている事に気が付いて慌てて操縦桿を握る。

 

 地上からの長距離射撃が可能な機体か、それとも───

 

 

「……うわ」

 二つ目の嫌な予感が的中して、ニャムは唇を噛んだ。

 

 

 

「すみません皆さん。ジブン死にます」

「ニャムさん!?」

 彼女の言葉にユメが驚きの声を上げる。そんなニャムの視界には、五機の航空機が映っていた。

 

 

「相手は五機編成の……多分変形機っす! 今ジブンの居るポイントで遭遇。相手さんの作戦は五機纏まって動く事だった……ジブン、もしかしなくても戦犯なのでは!?」

「あの機体はデータにないな。改造ガンプラキラーだ! ここで落とすぞ!」

 フォース砂漠の犬のアンディは、見付けたニャムをみて口角を吊り上げる。

 

 

 彼等の機体は殆どが同じ姿をしていた。

 唯一大きな違いを挙げるとすれば、五機の内一機だけがオレンジ色に塗られているという点だろう。

 残りの四機は灰色の機体で、五機ともが航空機形態のMAに変形していた。ただ、ニャムにも元になった機体が分からない。

 

 

「灰色の機体の中にオレンジが居るっす。多分それが隊長機!!」

 ニャムは操縦桿を引いて全速力で離脱しようとする。

 

「ガンダムエアマスターについてくる……。これはやっぱり戦犯やらかしたのでは!?」

 彼女の機体は砂漠の犬の五機に追い付かれない速度で飛行するが、一向に引き離せる気配がなかった。

 

 そうなれば後ろを取られている以上無事に仲間の所に戻るのは不可能だろう。

 ニャムは覚悟を決めて機体を上空に持ち上げた。

 

 

「こなくそぉ!! やってやろうじゃないっすか!!」

 言いながら、彼女は自分の機体を変形させる。

 

 

 背中の翼はMA形態から引き継ぎ、飛行能力の高さをそのまま人型形態に変形。その機体は、ライフルを二本持ちガンダムタイプの顔を向かって来る五機の編隊に向けた。

 

 

 

「機動新世紀ガンダムXより、ガンダムエアマスター! ニャム・ギンガニャムがお相手するっす!!」

 ライフルを連射するのは、ガンダムXに登場するMSエアマスター。

 作中でも屈指の機動力を持っている可変機であるが、機体の軽量化の為に武装が少ないのも特徴である。

 

 

 連射したライフルは先頭にいたオレンジ色の機体の翼を穿つが、撃破とはいかなかった。

 そして、離脱するオレンジ色の機体以外の四機がニャムのエアマスターに襲い掛かる。

 

 

「ひぇぇ!?」

 機体の翼の前縁にサーベルが展開された四機の機体が、次々とニャムのエアマスターを切り刻んだ。

 

 

「……無念。しかし、もしかしてあの機体は───」

 四機の灰色の機体の攻撃で、ニャムのガンダムエアマスターは爆散する。

 

 

「よーし、上々だ。各機フォーメーションE、次の敵を仕留めるぞ!」

 オレンジ色の機体と合流した四機は、再び編隊を組んで砂漠の空を駆けた。

 

 

 

 

「───ニャムさん! ダメだ……やられたっぽいぞ」

 表情を痙攣らせるロックは、ニャムが最後に送ってきた通信を眺める。

 

 敵は可変機で、オレンジ色の機体一機と灰色の機体四機。内オレンジ色の機体の翼は被弾。

 

 

「オレンジが隊長機なら、それがフラッグ機か? だとしても、ニャムさんの死は無駄にしないぜ」

「死んではないけどな……。とにかく、ニャムさんが飛んでた東側に注意しよう。そこから敵が来る筈だ」

 ロックにツッコミながら、ケイはニャムが居た方角に機体の頭を向けた。

 

「対空監視は任せろ。ユメ、戻ってこれるかー?」

「今急いで戻ってるよ!」

 ロックの言葉にユメが返事をして、それを聞いたロックはGNスナイパーライフルのスコープを覗きながら舌を巻く。

 

 

 ライフルの先───東側にはケイとカルミアが居て、敵が来たら先にケイとカルミアが遭遇してしまう位置だ。

 しかし、高台に居れば遠くまで見渡せる。今ここを動くのは自分の役目じゃない、ロックはそう考えて自分の眉間を抑えた。

 

 

「俺はリーダーだからな……。しかし、敵さん遅くねーか?」

「ロック、敵が来たぞ!」

「は!?」

 突然の通信にロックは驚いて唖然とした声を出す。対空監視は怠っていない。見ている方角だって間違えていない筈だ。

 

 

「敵さん、地上から来やがった。が……一機だけみたいよ?」

 続くカルミアの言葉に釣られてロックはスコープを地上に向ける。

 

 

 そこには確かに一機のMSが砂の大地を走っていた。

 四足歩行の足に車輪を付けて、砂を巻き上げながら走るMSの姿が。

 

 

「ニャムさんは航空機型の可変機に襲われたんじゃなかったのか!?」

 その姿を見て唖然とするロック。ただ、一機だけというのも気になる。

 

 

 

「ったく、とりあえずこっちはこっちで敵さん迎撃するかねぇ。下がってなケー君!」

 カルミアは現れた一機のMSにビームライフルを向けた。

 

 砂漠を車輪で走る四足歩行のMS。

 一見ガンダムSEEDに登場するラゴゥやバクゥのようだが、ニャムが言っていた事がどうも気になる。

 

 

「吹き飛びなぁ!」

 ライフルを放ち、同時にバックパックからミサイルを連射するカルミア。ライフルは避けられたが、ミサイルが追撃して敵の機体を襲った。

 

「……ビンゴ───ん?」

 砂埃が晴れて、その中から機体が歩いて来る。

 

 

 

 

 オレンジ色のMS。

 背中に背負う翼の片側にダメージがあるようだが、それ以外にダメージは見られない。

 

 

 それよりも───

 

 

「ガンダム……」

「あれは───」

 ───その機体は四足歩行の姿ではなく、二本の足で立つオーソドックスなMSの姿をしていた。

 

 

「───ガイアガンダムか」

「───お見せしよう、僕らの機体。ガイアトリニティの力を」

 フォース砂漠の犬。激戦が走る。




居るんだよGBNには。アニメキャラになりきっちゃう人が。

ついに三十話!!
そんな訳で始まりましたフォース砂漠の虎ならぬ砂漠の犬ののバトル。早速ニャムさんのエアマスターが撃破される怒涛の展開です。エアマスターファンの人はごめんなさい……。


次回もお楽しみに!読了ありがとうございました!


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戦う理由

 アラートが鳴った。

 

「敵!? ケイ達の所に居るんじゃねーのかよ!!」

 聞こえたアラート音に舌打ちをしながら反応するロック。機体を背後に向けると、ニャムからの連絡通り四機の航空機型に変形したMSがこちらに向かってきている。

 

 

「回り込まれた……だと。ケイの方に現れたオレンジ色の奴は囮ってか!!」

 ライフルを構え放ったが、四機の灰色の機体は一斉に散開してそれを避けた。

 

「なろぉ!!」

 さらに連続でライフルを放つ。二機は上空に、残りの二機は低空に広がって攻撃に集中出来ない。

 

「ちょこまかとよぉ! だが、地面すれすれ飛んでる飛行機なら落としやすいぜ!!」

 ロックは低空飛行をする二機に狙いを定めた。

 

 

 MSならともかく、航空機の旋回性能で真っ直ぐに突っ込んでくる機体がビームライフルの狙撃を避けるのは難しい。

 ロックは内心で「貰った!」と叫びながら、引き金を引く───その直後。

 

 

「変形した!?」

 地面を低空飛行していた筈の航空機は、突然四足に履帯を持つMSへと変形する。

 そのまま砂の大地を高速で移動する四本足のMSは、ロックの狙撃を難無く交わしてみせた。

 

 

「空飛ぶバクゥってかぁ!? この……落ちろっての!!」

 さらにライフルを放つロック。しかしそれは全く当たらずに、敵の航空機型二機と四足歩行型二機に囲まれてしまう。

 

 

「なんなんだよちくしょぉぉおおお!!」

 背中についている砲身から次々にビームを放つ四機の攻撃に、ロックのデュナメスHellはなす術もなく撃破されてしまった。

 

 デュナメスHell撃破。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 モニターを見ながらニャムは唖然とする。

 ケイとカルミアの所に現れたガンダムタイプのMS。そしてロックを倒した航空機型と四足歩行型の機体は、全て同じMSだった。

 

 

「ガイアトリニティ。三つの形態を持つ可変MSですわ」

「地上と空中、其々に特化した形態に変形出来る機構を持つガイアって事っすね……」

 アンジェリカの言葉にニャムは唇を押さえながら眉間に皺を寄せる。

 

 一瞬にして二機が撃破され、ReBondに残る戦力は三機のみになってしまった。ニャムは「これは……」と目を細める。

 

 

「……やられた」

「やられたな」

 続いて撃破されて観戦室にやってきたロックにノワールが話しかけた。ロックは非常に気不味い表情で彼と視線を逸らす。

 

 

「……な、なんだよ」

「別になんでもないが? なんだ、慰めて欲しいのか?」

 気不味そうなロックに対して煽るように言葉を漏らすノワール。ロックは唇を噛んで俯くが、そんな彼にノワールはこう続けた。

 

 

「お前達の目標はなんだ?」

「は? それは……有名になってアオトやニャムさんのお兄さんを見つける事だけど」

「勝つ事だけが前に進む方法じゃない。敗北から得るものもある。全ての事に学び、前に進める。それが俺達子供の特権だ」

 笑いながらそう言うノワールの言葉に、ロックはガンダムUCに登場するとある人物の名言を思い出す。

 

「……結局人間ってのは大人も子供も間違えるってか」

「ジブンは結構好きっすよ、フル・フロンタルの名言」

「だけどよ、負けるのはやっぱり悔しいな」

「そうっすね」

 モニターに戦火が映った。

 

 

 

「ユメちゃーん、到着までどのくらーい?」

「五分は掛かると思います!」

 カルミアの問い掛けに返事をするユメ。

 

 ロックが撃破された数秒後、カルミアとケイは冷や汗を流しながら武装を目の前のMSに向けている。

 ガイアトリニティ。空陸特化形態を持つガンダムは、四足歩行型に変形し二人を翻弄していた。

 

 

「ロックが四機にやられたって事は、その四機がこっちに向かってくるって事か……っ!」

「そうなる前にユメちゃんが到着したとしても不利なのは変わんないけどねぇ。……流石に手負いのアレだけは落としとかないと!」

 言いながら、カルミアはレッドウルフのミサイル砲門を全て展開する。

 

 発射と同時にライフルを胸部メガ粒子砲と連結、スラスターを吐かせて機体を前に押し出した。

 

 

「ケー君はそこにいなよ! ……ま、この試合は別に負けても良いんだけどさ。格好だけつけとかないと信用されないもんねぇ

 小声を漏らしながら、メガランチャーの標準を合わせるカルミア。

 

「それにこのオレンジのが隊長機なら、これがフラッグ機かもね! これ落としたら勝ちかもよ!」

 広範囲にミサイルを展開した事で、避けようとすればある程度動きを見切る事が出来る。

 だから彼はわざと作った弾幕の穴にメガランチャーを向けた。

 

 

 ───しかし。

 

 

「避けない!?」

 ガイアトリニティはメガランチャーの射程には入らずに、ミサイルに直撃する。爆風が砂を巻き上げて、オレンジ色の機体は炎に包まれた。

 

 

「やったか……?」

「ケー君、そいつはフラグって奴よ」

 着地したレッドウルフは砂埃にライフルを向ける。同時に、砂埃の中から放たれたライフルがレッドウルフのライフルを貫いた。

 

 

「うぉ?」

 誘爆するライフルを手放しながら、カルミアは砂埃の中に視線を向ける。

 

 

「……オレンジじゃない?」

 しかし、砂嵐の中で人型のMSに変形しライフルを構えていたガイアトリニティの色はオレンジ色ではなくて灰色になっていた。

 

「そうか、フェイズシフト装甲だ……っ!」

「なるほど、隊長機じゃなかったって事ね。つまり、この相手さんは俺達を足止めしてロッ君を倒す為の捨て駒って訳だ」

 ケイの言葉に、カルミアは口笛を吹いてから口角を吊り上げる。ニャムの散り際の攻撃はしっかりと狙い通りオレンジ色の()()()()()()()()()を被弾させていたがそれこそが相手側の作戦だった訳だ。

 

 

 

 

「……アレが、地味に面倒」

「全部が同じ機体故に、狙いを定められない。そして機体の特徴を活かして作戦を立てるフォースのリーダー、アンディの指揮力があのフォースの強みだ」

 観戦室でスズとトウドウが、一年前の砂漠の犬とのバトルを思い出しながら言葉を漏らす。

 

 一見ふざけているように見えた敵将だが、その指揮能力と采配は去年のNFTで第七機甲師団のロンメルにも匹敵すると噂された程だ。

 

 

「さて、ReBondの新メンバーとストライクの子がどうするか…… 見者ですわね」

「ケイ殿……」

 戦況が動く。

 

 

 

「カルミアさん! 敵が!」

 アラートが鳴った。バッグモニターに航空機型の機体が四機映る。

 

「おっとコレは……。ユメちゃんは間に合いそうにな───あら」

 そしてカルミアが背後に気を取られた隙に、前方にいた筈のガイアトリニティが飛び出した。

 

「来るか……っ!」

 ビームサーベルを構えながらケイのストライクBondに突撃するガイアトリニティだが、ストライクに肉薄した次の瞬間、地面がビームを六連射して機体を爆散させる。

 

 ガイアトリニティ(一機目)撃破。

 

 

「じ、地面がビームを……」

「インコムを置いといたのよ。地上じゃ飛ばせないからね。……ま、この状況なら相手さんはどっちがフラッグ機か分かってらーな」

「なるほど……」

 感心するケイに、カルミアは「敵さん来るわよ」と機体を反転させた。

 

 航空機型が四機。ライフルを失ったレッドウルフだが、ライフル一つ失った程度で全身武器庫のこの機体が火力を失ったとはいえない。

 

 スラスター付属の肩部ビームキャノン、胸部メガ粒子砲、ビームハンド、頭部バルカンを斉射するレッドウルフ。

 ケイもヴァリアブル・サイコ・ライフルとブラスターカノンを連射し、ガイアトリニティを牽制する。

 

 

「散開して回避! 各機フォーメーションD、敵を撹乱する!」

「やっぱりさっきのはリーダーのあの人じゃない、でもリーダー機はどれだ……フラッグ機は!」

 アンディの掛け声に合わせて、四機のガイアトリニティは四足歩行形態に変形。無限軌道で砂漠の大地を縦横無尽に駆け回った。

 

 

「斉射!!」

 さらにアンディの掛け声でガイアトリニティ全機がストライクBondに砲身を向けてビーム砲を放つ。

 

「……っ」

 ケイはスラスターを吐かせて上昇し、それを避けた。しかし、そうするしかないとはいえ囲まれている状態で足場を失うのは悪手でしかない。

 

 

「隊長、コイツは貰いです!!」

「くそ!」

 近くにいたガイアトリニティが飛び上がり、背面の翼にビームサーベルを展開させる。

 ニャムを襲ったそのサーベルがストライクBondを切り裂こうとした次の瞬間、ストライクとガイアの間にカルミアのレッドウルフが割って入った。

 

 

 サーベルがレッドウルフを切り裂く。

 

 

「カルミアさん!」

「なんだコイツ、硬過ぎる……っ!」

「装甲を舐めるなよ───落ちろ!!」

 斬撃を耐え切ったレッドウルフはガイアトリニティを両腕で掴むと、胸部メガ粒子砲を放った。

 爆散するガイアトリニティだが、爆風からストライクを庇うように着地したレッドウルフに残り三機のガイアトリニティから砲撃の雨が降る。

 

 

「……っと、おじさんはここまでか」

 ストライクBondを突き飛ばしたレッドウルフはライフルに焼かれ爆散した。

 

 

 レッドウルフ、ガイアトリニティ(二機目)撃破。

 

 

「これで三対二、しかし後続のスカイグラスパーはまだ来ない。実質三対一だ! 仕留めに行くぞ!」

「オーケィ、アンディ」

「了解です! 隊長!」

 三機のガイアトリニティが再びケイのストライクBondを囲む。ヴァリアブル・サイコ・ライフルを連射するが、無限軌道による砂上での機動力を捉える事は出来なかった。

 

 

「くそ……」

「君はこれまで本気で勝とうと思った事があるかね?」

「はい?」

 突然、ケイのモニターにアンディが通信を入れてくる。しかし、彼の言葉の意味がケイには理解出来なかった。

 

 

「どういう意味ですか……」

「君のGBNでの戦闘を見させて貰った、敵情視察って奴だ。勿論君だけを見た訳じゃない。ただ僕は、君が気になった」

 敵の攻撃が少しの間止まった事に少し安堵しながらも、ケイはアンディの言葉に目を細める。

 

 自分の事が気になった。

 不可解な言い回しで、理解が追い付かない。

 

 

「本気で勝とうって……俺はいつでも真剣に───」

「本当にそうかな。君はどこか冷静ぶって、格好を付けてるんじゃないか? 真剣に、心からバトルに燃えたことはあるのか!?」

 再び、ガイアトリニティからの砲撃が始まる。三機の攻撃を辛うじて避ける事はするが、このままでは攻撃もままならない。

 

 

「心からバトルに……」

「そうだ、君はどこかで格好を着けている。心のどこかで自分の熱にセーブを掛けている。どうだ、違うかね……少年!」

 ガイアトリニティの一機がMS形態に変形しサーベルを構えて肉薄してきた。

 ケイはイーゲルシュテルンを放ちながらヴァリアブル・サイコ・ライフルを盾にサーベルをいなす。

 

 同時にガイアトリニティはフェイズシフト装甲を展開。灰色の機体はオレンジ色に塗られ、イーゲルシュテルンをいとも簡単に弾き返した。

 

 

 そうして振られたサーベルがストライクの左肩を切り裂いて、ブラスターカノンの砲身が斬り飛ばされる。

 

 

「この……隊長機か!」

 ライフルを一つ手放して、腰にマウントされたビームサーベルを抜いて振り払った。

 アンディのガイアトリニティはそれを軽々と交わして四足歩行形態に機体を変形させる。ライフルはただ砂漠の砂を焼き、アンディは「凄まじい火力だ」と不敵に笑った。

 

 

「俺は手を抜いてなんか……」

「そうさ、君は手を抜いていない。でもどこか一歩引いている。君のGBNでの初めてのバトル、諦めるのが早過ぎたのではないかな? メフィストフェレスでのバトルも、決して自分では決めようとしなかった。そして決定的なのがフォース内の二対二のバトルの時、あの時君はデュナメスに取り合わなかった! 他のバトルもそうだ! CPU戦でも、君はどこか引いて熱くなれていない!!」

「貴方に何が分かるって言うんですか……っ!」

 ライフルとブラスターカノンを連射する。しかし、ガイアトリニティの機動力に狙いが追い付かない。

 

 

「分からぬさ、人は己の知る事しか知らぬ。おっとこれはクルーゼの台詞だった。気を取り直してもう一度聞こう……君は何の為にガンプラバトルをやっている!」

「何の為にって───」

「ケー君!」

 撃ち合いの最中、遅れてきたスカイグラスパーが空中からミサイルを発射した。援護射撃の間に、ケイは少し距離を取って態勢を持ち直す。

 

 

「そうだ、君は───」

 ガイアトリニティの一機がスカイグラスパーに砲身を向けた。ケイを助けようと必死になっていたユメはロックオンされているのに気が付くのが遅れて悲鳴を上げる。

 

「隊長、スカイグラスパーを落とします!」

「うわぁ!?」

「ユメ!!」

 ストライクBondが飛び出した。しかし、その眼前にMS形態のガイアトリニティがサーベルを手に立ち塞がる。

 

 

「退けぇ!!」

「───君は彼女の為にガンプラバトルをしている!!」

 立ち塞がるガイアトリニティに、ケイはストライクの肩でタックルを仕掛けた。

 

「ほぅ……っ!」

 仰反るガイアトリニティを無視して、ケイはスカイグラスパーに砲身を向けるガイアの足にビームサーベルを投擲する。

 

 

「止めろ!!」

 さらに地面にライフルを放って砂をめくり上がらせて、スカイグラスパーを狙っていたガイアをひっくり返した。

 

 

「……そして君はGBNで一度だけ本気になった事がある。あの改造ガンプラキラーが駆るゴッドガンダムとのバトルだ。その時の戦いっぷり、まさに狂戦士と呼ぶに相応しい」

 ひっくり返って仰向けになったガイアトリニティをその足で踏み付けて、ヴァリアブル・サイコ・ライフルを突き付けるストライクBondを見ながらアンディは口角を吊り上げる。

 

「そうだ、その戦いっぷりだ……」

 引き金を引いた。ガイアトリニティの胴体に穴を開けて、砂と炎が巻き上がる。

 

 

 ガイアトリニティ(三機目)撃破。

 

 

 

「……そうだ、その君と闘いたかった!」

「……俺は、別に格好付けてなんか」

 少年の頭の中で、何かが割れかけていた。




ランチャーストライクの再現がしたかった。

最近暑いですね。流行病と熱中症にはお気をつけて!読了ありがとうございます!


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狂戦士

 どこか遠目で二人を見ていた。

 

 

「ガンプラバトル……?」

「おう、ケイスケもやらねーか? 俺とアオトはめっちゃハマってるぜ」

 楽しそうにガンプラで遊ぶ幼馴染みの二人。

 

 物心ついた時から二人とは仲が良くて、よく一緒にガンプラを作って遊ぶ中である。

 だけど、二人が新しく始めた遊びに少年は初め手を出さなかった。

 

 

 ガンプラが本当に動いて、戦って壊れる。

 昔からガンプラで遊んでいたから、壊れる事に慣れていないと言えば嘘になるが、だからといって自分からガンプラを壊そうなんて思えなかった。

 

 

「二人とも何してるの?」

「ガンプラバトル。ユメカもやるか?」

「私はやらないかなー。でも、なんかアオト君格好良いね!」

「な……」

 ただ───

 

 

 

「もう一度聞こう……君は何の為にガンプラバトルをやっている!」

 ただ───

 

 

「そうだよ。何度壊れたって、何度でも直せば良い。繋げば良い。だから───」

 ただ───

 

 

 

「ケイは───ケイスケは、ユメカの事が好きだから、気を引くためにガンプラバトルを始めたんだ……」

「え、でもそれってユメちゃんは───」

「知らねーよ、二人して鈍ちんだからな。……だけど、あの事故があった。アオトが居なくなって、アイツは本当の所ライバルを失ったっていうかさ……。自分の気持ちとかに負い目を感じてんだよな」

 ニャムの言葉を遮ってロックはそう言う。

 

 

 そんな幼馴染み達に何も出来なかった自分が嫌で、ロックリバーが生まれた。

 

 

 

ケイ(・・)……お前は、今どんな気持ちで戦ってんだ」

 ケイ(・・)はどこで生まれたのか。何が彼を戦わせているのだろう。

 

 ───ただ、少年は手を強く握った。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

「……そうだ、その君と闘いたかった」

「……俺は、別に格好付けてなんか」

 ストライクBondとガイアトリニティが向き合う。

 

 

 戦況としては残りのガイアトリニティが二機、ReBondはストライクBondとスカイグラスパーが一機ずつだ。

 

 

「ここで一つ身の上話をしよう」

 アンディは操縦桿から手を離してそう言う。ケイは意味が分からずに眉間に皺を寄せた。

 

「実は僕はそこのリリアンとリアルで婚約していてね、次のNFTで優勝した暁にはプロポーズして結婚しようと思ってるんだ」

「はい!?」

 突然の本当の身の上話に、ケイは驚いて目を丸くする。彼が何をしたいのか、まるで理解が出来なかった。

 

 

「何をゲームに真剣になってるんだって思うかい。ゲームに人生を賭けて、バカだと思うかい?」

「いや、それは……」

「かのアンドリュー・バルトフェルドはこう言ったな……戦争には明確な終わりのルールなどないと。だがこれはゲームだ。どちらかが滅びるまで戦う必要もない。……ならどうして戦う! 何の為に戦う! 真剣になるのが怖いのか? 真剣に戦って負けるのが恥ずかしいのか? なのに続ける理由はなんだ! 君は……誰の為に戦っている!!」

「俺は───」

「ケー君!!」

 二人の間に入るようにスカイグラスパーがライフルを地面に撃つ。アンディは不適に笑いながらそれを軽々しく交わしてライフルを構えた。

 

 

「……何度も言ったぞ、これは敵情視察だ。僕は君の本気が見たいんだよ」

「ユメ!!」

「ケー君、荷物だよ!」

 アンディのガイアトリニティのライフルがユメのスカイグラスパーを貫く。

 

 しかし、同時にユメはスカイグラスパーが背負っていたスラスターと武器を下ろした。

 ストライクBondのクロスボーンストライカーを。

 

 

 スカイグラスパー撃破。

 

 

 

「……本気、か」

 エクリプスストライカーを外しながら、ケイはユメからの贈り物を受け取って機体の武装を換装させる。

 スカイグラスパーにマントを羽織らせる訳にもいかないので、試合の途中で換装する時にはマントはないが今は機動力が欲しい。ありがたい贈り物だった。

 

 

「多分、俺がガンプラバトルを始めたのはアンディさんの察してる通りですよ。……だけど、格好付けて本気を出してないつもりなんてないです」

「だが君は現に、明らかに動きがちがう時がある。まるで狂戦士のように」

「それは……」

 言われてみると、どこか心覚えはある。

 

 

「怖いんだ……」

「怖いか……」

 ただ、格好付けている訳ではない。怖いんだ。本気で相手を倒すのが。

 

 

 

「ケー君はどーしたのよ」

「アイツは多分、事故の原因は自分だって思ってるんだよな……。自分がアオトのガンプラを壊したから、親父さんがアオトのガンプラを投げて……って、おっさんに事故とか言っても分からないか」

 ユメと一緒に観戦室にやってきたカルミアの質問に答えながら、余計な事を言ったと手を横に振るロック。

 そんな彼の言葉を聞いてカルミアは「ふーん……なるほど」と目を細める。

 

 

「……アイツは元々他人の事に敏感な優しい奴だからな」

「ケイ殿……」

「ケー君……」

「でもアイツは、それ以上に負けず嫌いだ。だから───」

 だから───

 

 

 

「NFTで優勝して結婚する、そう言った僕の夢を壊すのが怖いか。だから本気で戦わないと?」

「それは……」

「なら君達は負けても良いのかね。自分達が勝つ目的が、相手に劣っていると認める気か?」

「な……」

「君が本気で戦った改造ガンプラキラーとのバトルの時、君は相手の勝つ目的を認めながらも自分の意地を見せた! 今の君にはその意地はないのか! 少年!!」

 MS形態のガイアトリニティがサーベルを持ってストライクBondに襲い掛かった。

 

 

「……っ!」

 スラスターを反転させて後退するケイ。

 アンディは深追いせずにライフルを連射するが、ケイはクロスボーンの機動性を活かしてなんとか攻撃を交わす。

 

 

 ───な、何すんだよ父さん! ───

 

 ───こんな物もう直したってな! なんの意味ないんだ! ───

 

 ───プラモ、車に轢かれちゃう……っ───

 

 

 いつかの光景が頭を過った。

 

 

 

 何かを壊すのが怖い。

 誰かが守ろうとした何かを、誰かが守った何かを、元に戻らなくなってしまうのが怖い。本気で戦うのが怖い。

 

 

「目を背けるな!」

 アンディが叫ぶ。

 

「戦いは非情だ。何かを守る事は、何かを守らないという事に他ならない。君が守りたい物はなんだ! これは戦争ではないが戦いだぞ、少年!! 君の守りたい物はその程度の物か!!」

「そんな事……っ!!」

「ならば戦え!! 守りたい物の為に───どちらかが滅びるまでな!!」

 四足歩行形態に変形、ストライクBondに強襲するアンディ。無限軌道が砂を巻き上げながら、翼と頭部にサーベルを展開したガイアトリニティが大地を賭けた。

 

 

「俺は───」

 ───でも、なんかアオト君格好良いね! ───

 

 ───そうだよ。何度壊れたって、何度でも直せば良い。繋げば良い───

 

 

「───だから、ケイスケは負けない」

「───俺は、貴方に勝つ!!」

 ケイの頭の中で何かが弾ける。

 

 

「……俺にだって、守りたい物があるんだ!!」

 後退しながらザンバスターをアンディのガイアトリニティに向けるケイ。しかしやはり、放たれたライフルはガイアトリニティの機動力をとらえる事は出来なかった。

 

「そうだ戦え! そして君の本当の強さを見せてみろ!! 君の戦う理由で僕を超えて見せろ!! リリアン!!」

「後ろを取るわ!!」

 二機のガイアトリニティがストライクBondを挟み撃ちにする。サーベルを構えて正面から突撃するのはアンディだ。

 

「ニャムさん、カルミアさん……タケシ、ユメ───アオト」

 一瞬だけ目を瞑る。

 

 

 脳裏に映ったのは仲間達の姿と、大切な友達だった。息を飲んで瞳を開ける。

 

 

 彼のガンプラを壊したのは自分だ。幼馴染みの夢を壊したのも、友達との時間を壊したのも自分だ。

 負けず嫌いなのもある。本当に彼女の事が好きだったのもある。

 

 だけどそれが理由で全てを壊して、そんな自分が嫌になった。

 

 

「でも、だからこそ勝たなきゃいけない。何度でも直せば良い───そうだよな、アオト!!」

 ライフルを地面に向ける。アンディは「遅いぞ!」とストライクBondに肉薄した。

 同時に真下の砂に放たれたライフルが砂漠の砂を巻き上げる。砂埃に巻き込まれたアンディは目を見開いた。

 

 

「これが狙いか……っ!」

「……落ちろ!」

 砂埃に足を取られたアンディのガイアトリニティにザンバスターを向けるケイ。しかし、直後にアラートが鳴ってケイは舌を鳴らす。

 

「アンディ!」

 砂漠の犬副隊長、アンディの婚約者であるリリアンのガイアトリニティが背後から突進してきた。

 ケイはスラスターを起用に調整して、機体をその場でバク転させる。そうしてリリアンの上を取ったケイはザンバスターで彼女の機体の翼を撃ち抜いた。

 

 

「きゃぁ!?」

「リリアン!」

「胴体から逸れた……くそ!」

「凄まじい動きだ……。リリアン、援護を!」

 リリアンの前に出るアンディのガイアトリニティは人型に変形してビームサーベルを構える。

 

 明らかに今までとは違う動きにアンディは冷や汗を流した。

 

 

「ここまでとはねぇ……」

「はぁ……はぁ……」

「だがその集中力がいつまでもつかな!」

 ライフルを放ちながら突撃するアンディ。さらにリリアンの援護射撃を交わしながら、ケイはあちこちに表示されるモニターに目を向ける。

 

「相手は二機、機動力で負けてるから攻撃が追いつかない。───追い付かないなら!」

 攻撃を交わしながらケイはアンディのガイアトリニティにライフルを向けた。勿論、防戦一方のケイとは違い攻めているアンディには攻撃を避ける余裕がある。

 

 左に機体を逸らすアンディ。ケイはそれを見てから、標準よりも大袈裟にライフルを逸らして引き金を引いた。

 

 

 照準の先には何もいない。しかし、その刹那に攻撃を避けようと左に機体を逸らしていたアンディの機体が射線上に入る。

 追い付かないなら、追い越せば良い。ライフルは俗に言う偏差射撃で、アンディのガイアトリニティの右腕を貫いた。

 

 

「何!?」

「次は外さない!」

 目を細めてライフルを握る。しかしアンディも馬鹿ではない。狙撃制度が上がったのなら、接近戦を仕掛けるだけだ。

 

 

「高速戦闘を行うガイアトリニティの動きに着いて来られるかな!」

 変形。今度は四足歩行形態ではなく、航空機形態。

 

 アンディのガイアトリニティは高速で旋回してストライクBondの背後を取る。

 そしてライフルを向けられた直後、機体を再び四足歩行形態に変形させて急降下で攻撃を避けた。

 

 

「釣られた!?」

「貰った!!」

 肉薄。回転しながらビームサーベルを叩きつけ、ストライクBondのスラスターの一部と右腕をザンバスターごと切り飛ばす。

 だが同時にギリギリ発射が間に合ったライフルがガイアトリニティの左翼を吹き飛ばしていた。苦笑いするアンディだが、彼は不適に笑う。

 

 

「……勝ったな」

 二機の間にストライクの右腕が落ちた。

 

「君の機体に残された武装はアーマーシュナイダーとイーゲルシュテルンのみだ。腰のビームサーベルはアーマーシュナイダーと一本ずつの装備だったからね」

 アンディはケイの戦いを研究している。彼の機体に残された武装は全て実弾兵器で、ガイアトリニティのフェイズシフト装甲を抜く事は出来ない。

 

 

「パワーが……」

 それに加えてストライクBondは長丁場の戦いとスラスターへの被弾でエネルギーを使い果たしていた。

 ストライクBondのフェイズシフト装甲はダウンして、機体の色が落ちていく。残された武装では相手の機体のフェイズシフト装甲に太刀打ちできない。

 

 

「これはゲームだから投降しろとは言わない。それに本来ならそちらの台詞の筈だからね。……いや、本気の君と戦えて光栄だったよ。次はNFTで会おう! リリアン、援護しろ!」

「了解よ、アンディ!」

 リリアンの砲撃と同時にアンディのガイアトリニティは突進した。

 

 

「……負けない」

 負けたくない。

 

 

 勝負に勝ちたい。

 

 

 

 ───もう一度聞こう……君は何の為にガンプラバトルをやっている! ───

 

 ───でも、なんかアオト君格好良いね! ───

 

 

「俺は───」

 クロスボーンストライカーをパージする。ストライカーは背後からのライフルに対して盾になるように爆散し、その衝撃も利用してストライクBondは地面を蹴った。

 

 腰部のアーマーシュナイダーを左手に構え、ガイアトリニティに正面から突進する。

 

 

「───勝つんだ!!」

「───無駄だ!!」

 二人の機体がぶつかり合った。しかし、フェイズシフト装甲を持つガイアトリニティに今のストライクの攻撃は通らない。

 加えてガイアトリニティは右腕と左翼こそ失っているが武装は健在である。サーベルがストライクBondの動体を切り裂こうとするのを、ケイはなんとか足で押さえて止めていた。

 

 

「そのままパワーが上がってしまえば君の負けだぞ!」

「まだ……だ!!」

 ケイは自分の機体がバラバラになっていくのも気にせずにちからずくでガイアトリニティを押し返す。

 しかしそんな事をしたってなんにもならない筈だ。目的は? アンディは少し考えて、一つの答えに辿り着く。

 

 

「まさか───」

 ストライクBondはガイアトリニティを、丁度先刻向き合っていた中央まで押し出した。

 

 その場所には、切り落とされたストライクBondの右腕が───ザンバスターごと落ちている。

 

 

 

「いっけぇ!!」

 そしてケイは、アーマーシュナイダーを投げ付けてザンバスターの砲身を切り飛ばした。

 

 ザンバスターはバスターガンとビームザンバーの複合武器である。

 この武器の砲身を切り飛ばせば、そこにあるのは持ち手であるビームザンバーだ。

 

 

 ケイはガイアトリニティと自分の機体の真下にあるビームザンバーに足を伸ばす。接触回線で、ビームの刃を展開。

 アンディのガイアトリニティを、地面から生えてくる形でビームザンバーが貫いた。

 

 

「罠……だと。右腕はくれてやったと……そういう事か」

「新しい仲間が教えてくれたんだ、武器にはこういう使い方もあるって!」

 カルミアが使ったインコムの罠を思い返しながらそういう。

 

 

「確かに……俺は少し引いてバトルをしてたかもしれない。何かを壊すのが怖かったから。だけど……あなたの言う通りだ」

「ふ───」

「俺は仲間の為に戦う。その為なら……戦える!!」

 アンディのガイアトリニティが誘爆して、ケイのストライクBondは爆風で吹き飛ばされた。

 

 ガイアトリニティ(アンディ機)撃破。

 

 

 

「───良いバトルだった。だが、君の負けだ」

「───っ!?」

 しかしバトルは終わらない。

 

 

 これはフラッグ戦である。どちらかのフラッグ機が撃墜されない限り、勝負は終わらない。

 

 

「フラッグ機じゃない……しま───」

「終わりよ」

 リリアンのライフルがストライクBondを貫いた。

 

 

 

 

 ストライクBond撃破。

 

 

 

 WINNER FORCE 砂漠の犬




戦闘シーンを書くのは難しいですね!
これにてVS砂漠の犬決着?どうなってしまうのか。

読了ありがとうございました!


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敗北の果てに

 勝ちたいというよりは、負けたくないという気持ちの方が強かった。

 

 

 好きな女の子を取られたくない。

 そんな気持ちから始めたから、きっと知らない内にそう思うようになったのだろう。

 

 だけどその日、少年は勝ちたいという気持ちを真に理解した。その気持ちが少年の力を駆り立てる。

 

 

 俺はあの人に勝ちたい。

 

 

 ───そう想って突き立てられた刃は、あと一歩の所で届かなかった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 爆散するストライクBondを見て、ReBondとメフィストフェレスのメンバー達は力が抜けてその場に崩れ落ちる。

 

 

 まさしく激闘だった。

 これが現実なら、その手は汗で濡れていただろう。そうでなくても、GBNに居るのに自分の鼓動が聞こえてくるようだ。

 

「さ、さぁ! ガンダムの戦士を迎えようっす」

 バトルが終わったのを確認して、ニャムは手を広げながら戻ってくるケイの元に向かう。

 

 

「……負けた、のか」

 帰ってきたケイは脱力していて、その視線は上の空だった。

 

「お疲れ様ですわ、ケイ」

「奮戦だったな」

「やるじゃないのケー君」

「ま、俺様のチームのエースだからなケイは。流石だな」

 アンジェリカやノワール、カルミアとロックに囲まれるケイ。そして囲まれているケイに向かって、ユメが少し離れた所で「お疲れ様、ケー君」と呟く。

 

 

「……あはは、ダメだったけどな」

「いやー、良いバトルだった。想像以上に身になるバトルになって良かったよ」

 苦笑い気味に頭を掻くケイの背後から、砂漠の犬の大将───アンディがそんな言葉を漏らした。

 

 ニャムや砂漠の犬メンバー達は、彼が出てくると「お疲れ様です」と声を掛け合う。そんな中でケイはやはりどこか上の空だった。

 

 

「ケイ君、だったかな」

 そして、そんなケイにアンディは真っ直ぐに顔を見ながら話し掛ける。唐突な事にケイは「え、は……はい」と口籠った。

 

 

「良いバトルをさせてもらった。握手をさせてくれないかな?」

 伸ばされた手に、ケイは戸惑いながらも応える。満足げな表情のアンディは「そう固くなるな」とケイの肩を叩いた。

 

「君のバトルは凄まじい物だった。君の信念も、技量も、恐怖に値するよ。……もしかしたら君も、かのキラ・ヤマトと同じ狂戦士なのかもしれないね」

「い、いや俺なんてそんな……」

「謙遜することはない。現に君は僕に勝ったんだからね」

「……いや、俺はまだ貴方に勝ってないです」

 静かにそう返したケイだが、アンディは彼のその言葉に熱を感じて少し冷や汗をかく。どうやら自分が思っていた以上の火を付けてしまっていたらしい。

 

 

「俺は、あなたに勝ちたいって……そう思いました」

「NFTでまた会おうじゃないか。楽しみにしてるよ」

 そう返したアンディは、ケイの肩を叩きながら口を耳元に寄せてこう続けた。

 

「可愛い女の子だよね、彼女。君の気持ちは分かるけど、あまり待たせると誰かに取られても知らんぞ」

「ちょ、それは!」

 アンディの言葉に顔を赤くするケイだが、アンディは笑いながら「僕も人の事は言えんがね」と手を挙げてケイから離れていく。

 

 

「リリアン、お前達、そろそろ行こうか。ReBondの諸君、今日の対戦に感謝するよ。そしてメフィストフェレスの諸君も、また戦える事を楽しみにしている」

 彼がそう言うと、リリアンや砂漠の犬のメンバーは集まって観客室から出て行った。

 

 砂漠の犬の勝利に終わったフォースバトル。このバトルはその敗北よりも、沢山の物を残して幕を閉じる。

 

 

 

 そして───

 

 

 

「ふぅ……」

「お疲れ様、ケー君」

 GBNをログアウトしたケイスケとユメカは、ユメカの帰宅の準備をし始めていた。

 アンディの言葉で妙に意識してしまっているからか、ケイスケは口数が少ない。

 

 

「……なぁ、ユメカ」

「何?」

 唐突に話しかけて来たケイスケに、ユメカは首を横に傾ける。その手には大切そうにスカイグラスパーが握られていた。

 

「……GBNにログインする為に態々俺の家に来るのも大変だろ? だから、ログインマシン渡しておこうかなと思って。設置とかはやるからさ」

「えーと……私が来るの、迷惑かな?」

 ケイスケの言葉にユメカは、少しだけ言い淀んだ後そう口を開く。そんな言葉にケイスケは慌てて「ち、違う違う」と手を振った。

 

「あはは、ごめんね。ちょっと言い方が狡かったかな……。でも、迷惑じゃないなら……私はこのままが良い、かな」

 困ったような表情で笑うユメカ。悪い事をしたと反省するケイスケは「俺こそごめん。忘れてくれ」と謝る。

 

「どうかしたの?」

「いや、本当に……態々家に来てもらうの大変だよなって想ってさ。ユメカが良いから良いんだ」

 そう言ってケイスケはユメカを車椅子に乗せて、直ぐ隣の彼女の家に送り届けた。

 

「また明日」

「また明日」

 ヒメカにユメカを託して家に戻ろうと踵を返す。そうして少しだけ俯いて歩くケイスケの前に、二人の男が立っていた。

 

「───っと」

 完全に上の空だったケイスケは驚いて大袈裟に二人を避ける。よそ見をしていた事を謝ろうと頭を持ち上げると、目の前に立っていた二人の内一人は顔見知りだった。

 

 

「タケシ?」

「よ。ロックな」

 片手を上げるタケシ。プラモ屋にログインマシンが置かれてからは、いつもそこでログインしていた彼がGBNの終わった後に態々家に来るとは想っていなくて素っ頓狂な声が漏れる。家も逆側だし、本来ならもう家に帰っている筈だ。

 

「……と、誰? カルミアさん?」

 それに、もう一人は完全に知らない人物である。強いて言うなら首に巻いた赤いマフラーに見覚えがあるくらいだ。

 

 

「ノワールだよ。おっさんの素性は俺も知らねーし」

「コクヨ・サキヤだ。サキヤで良い」

 あのメフィストフェレスのリーダー、赤マフラーの男───サキヤはケイスケに手を伸ばす。

 ケイスケはそれに応えながらも、二人がここに居る理由が分からなくて首を横に傾けた。

 

 

「……それで、なんで二人がここに?」

「それは───」

「まぁ、立ち話もなんだ。入ろうぜ」

 サキヤの言葉を遮ったタケシは、ケイスケの家の玄関まで歩いて扉を開く。サキヤが「おい」とツッコミを入れて、ケイスケも「俺の家なんだけど」と目を細めた。

 

「いや、良いけどさ……」

 両親に断りを入れてから自分の部屋のタケシとサキヤに飲み物を持ってくるケイスケ。他人の部屋に興味があるのか辺りを見渡すサキヤの横で、タケシは欠伸をしている。

 

 

「で、なんで二人がここに?」

 話を戻して、ケイスケが問い掛けた。

 

 遊びに来るという時間ではない。それに、サキヤとはほぼ初対面だ。

 見た感じ大学生くらいに見えるが暇なのだろうか。

 

 

「いやよ、お前とユメカの事でコイツが気になる事があるってんで連れて来たんだよな」

「俺とユメカ……」

 タケシのそんな言葉を聞いて、ケイスケは少し表情を固くする。GBNでアンディに言われた事を思い出して、彼は二人から目を逸らした。

 

 

「どうして目を逸らしているんだ」

 サキヤのそんな言葉にケイスケは少し固まる。

 

 

「俺達からじゃない。自分の気持ちにだ」

「それは……」

 二人の会話の間で、タケシは「うーん……」と頭を掻いた。これはケイスケの問題だが、彼の気持ちはよく分かっているつもりである。

 

 

「ケイスケは───」

「待ってくれタケシ。……自分で話すよ」

 タケシの言葉を遮って、ケイスケはサキヤの顔を真っ直ぐに見た。

 

 

「……俺は、ユメカの事が好きだ。ずっと子供の頃から」

「それを伝えていないのは何故だ? 俺はお前達の事をよく知っている訳じゃないが、あまりにも……不便に見える」

「不便?」

「外から見てるから分かるが、お前達両思いだろ。それをギクシャクとした関係のままズルズルと引きずってるのは何故だ? 若さ故に……ってのはあるかもしれないが」

「お、俺とユメカが両思い!? それは勘違いだ。いや……ユメカの気持ちは分からないけど。でも、俺はそれを受け止めちゃいけない」

 俯くケイスケを見てサキヤは首を傾げる。

 

 

 思春期故に何かあるのかと思っていたが、自分が思っていた以上に何か抱えているようで頭を捻った。少しだけ沈黙が流れる。

 

 

「この前サキヤに事故の話をしたんだよ。まぁ、成り行きで……。覚えてるだろ?」

「お前達がGBNで戦う理由……だったか」

 ケイスケがバトルでアオトのガンプラを壊して、アオトの父親がそれを道路に投げて、ユメカはそれを拾おうと道路に飛び出した。

 

 不幸な事故だったのだろう。

 だけど、それぞれが思い悩むには充分な理由を抱えていた。

 

 

「だったら尚更、お前が彼女の支えになってやるべきじゃないのか? それとも……怖いのか?」

「怖い……。あぁ、多分……そうなのかもしれない」

 サキヤの言葉にケイスケは目を見開いて視線を下ろす。

 

「こんな俺の気持ちを伝えた所で、断られるのが怖いんだと思う。今の関係を崩したくない……」

「ケイスケ……」

 それはない、なんて言えなかった。

 

 お前が鈍いだけでユメカの気持ちも同じだ、なんて言った所で解決する問題ではないだろう。

 そもそも彼は、まだ自分自身を許せていないのだ。

 

 

 それはきっとアオトの父親やユメカも───アオトだってそうなのかもしれない。タケシにはその気持ちが良く分かる。

 

 

 

「……俺はアオトと話がしたい───いや、アオトとこの気持ちに決着を着けたいんだ。少なくともそれまでは、俺の気持ちをユメカに話すなんて出来ない。そんな権利、ない」

 アオトは最後にあった時「ユメカの事、頼んだ」と一方的に言った。

 

 彼の事は今でも本当の親友だと思っている。そして、同時に絶対に負けられないライバルでもあった。

 

 

 ──君は何の為にガンプラバトルをやっている! ──

 アンディの言葉を思い出す。

 

 

「だから俺はまだ、このままGBNを続けたい」

 ケイスケは決意めいた表情でサキヤを真っ直ぐに見ながらそう言った。

 

 そんな彼の表情を見て、サキヤは目を瞑って立ち上がる。

 

 

「……どうやら余計なお世話だったらしいな。いや、人生の先輩としてのアドバイスをするつもりだったんだが」

「ノワ───サキヤさん……」

「でも、あまり悠長にしてると誰かに取られるぞ。そうなってから焦っても良い結果は生まれない。……これは俺の体験談だが」

 アンディさんにも同じ事を言われたな、と苦笑するケイスケ。その通りだろうし、ずっとこのままという訳にもいかないのは事実だ。

 

 

「分かってます」

 強くそう言う。

 

 サキヤは満足したのか「なら、良いんだ。大切にしろ」と立ち上がった。

 

 

「邪魔したな」

 そう言ってからサキヤは礼儀正しくケイスケの両親にも挨拶をして家を出ていく。

 

 残ったタケシは何処か虚空を見ていた。

 

 

 

「タケシ? 帰らないのか?」

「お前の気持ち、分かっていたつもりだけどさ。……いざ耳に聞くと虚しいなって思ってな」

「……迷惑か?」

「いや、別に」

 短く返事をしてタケシも立ち上がる。

 

 

「とっととアオトを連れ戻そうぜ。そんで、その気持ちに決着を付けろ。……俺はただ、幼馴染みとしてお前達を引っ張るからよ」

「ありがとな、タケシ」

「まずはNFT優勝な」

 そうだ、前に進むんだ。

 

 

 ユメカの事も、アオトの事も、皆が前に進める為に。ただひたすら前に。




やっとリライズも放送再開!盛り上がって行きたいですね。


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フォースフェス

 扇風機が回る。

 

 

「いやー、そろそろエアコンの時期じゃないっすかねぇシャッチョサン」

 長めの髪を後ろで雑に結んだ男は、下敷きで顔を仰ぎながら半目でそう漏らした。

 

 返事は返ってこない。

 

 

「……おじさん溶けそうよ?」

「お前が居て負けるとはな。NFTは大丈夫なんだろうな」

「会話のキャッチボールって知ってます? そろそろエアコンの時代じゃない? 文明の利器よ」

「……まだ六月だぞ」

「地球温暖化ってね。冬は寒いんだけどな、なんでだろうなぁ」

 飄々とした態度でエアコンのリモコンに手を付ける。

 

 

「大丈夫なんだろうな」

「……勿論よ。ユメカちゃんをシャッチョサンの所に連れて行けば良いんだろ? 気が引けるけど」

「GBNへの復讐のための犠牲だ」

「……そーかい」

 男がリモコンのボタンを押すと、エアコンは少しだけ動いて止まった。

 

 

「……壊れてら」

 半目の男は、ため息混じりに部屋を出ていく。

 

 

 

 部屋の片隅には、赤毛の女の子と青年の写真が飾られていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GBNにログインしたカルミアは飄々とした態度で片手を上げる。

 

 

 フォースReBondの新しいメンバー。

 頼もしい火力と弾幕、そして親しみやすい話し方を心掛けて他の四人のメンバーとも直ぐに打ち解けた。自分ではそう評価している。

 

 

「おまたー。いやー、遅れて悪いね。そいで、今日は何処とやるわけよ」

 NFTまで残り数日。フォースReBondは連携を深める為にフォースバトルを続けていた。

 

 

 砂漠の犬に敗北した後、その次のバトルでは辛くも勝利を収めている。連携に関しては集まって一週間も経っていないメンバーにしては上出来だ。

 

 

「……いや、なんか今日はバトルじゃないんだよな」

 いつも楽しそうにプレイしているロックが、少し不貞腐れた表情でそんな言葉を漏らす。そんな彼の言葉にカルミアは首を横に傾けた。

 

 

「今日は……フェスだよ!!」

「……はい?」

 続くユメの言葉に、カルミアは素で困惑して固まる。

 

 

「フェス……? 祭り?」

「今日はバトルは中断して、GBNのお祭りを皆で楽しもうって提案になったんすよ! ムフフ、こうやってガンプラ仲間と遊べるなんてGBNの素晴らしい所っすよね。フヘヘ」

 ニャム曰く、今日はバトルはしないでGBNで遊ぼうというらしい。バトルが大好きなロックが不貞腐れている理由はなんとなく分かった。

 

 

「あー、そゆことね。それなら、おじさんは居なくても大丈夫か。若者だけで楽しんでらっしゃいな」

 なんとなく若者達の事情を察して、その場から立ち去ろうとするカルミア。しかしそんな彼の手をユメが引っ張る。

 

 

「カルミアさんも! フェスだよ!」

 彼の手を引っ張るユメの目はまるで星のように輝いていた。

 

「そんな綺麗な目で見ないでよ……。断り辛いじゃないの」

 ユメの目を見て表情を痙攣らせるカルミア。

 

 ロックはともかく、ニャムは行く気満々である。ケイに助けを請おうと思ったが、彼も何処か楽しみにしているようだった。

 

 

「……諦めようおっさん。こうなったらユメは止まらねぇ」

「……い、意外な一面があるのね」

 苦笑いするカルミア。ふとユメを見ると、ニャムやケイと楽しそうに会話する彼女の顔が映る。

 

 

「楽しみだね! ケー君」

「そ、そうだな。アトラクションとかもあるしな」

「ジブン、ラフレシアのアトラクションとか凄い気になるっす!!」

「宇宙世紀? のアトラクションが多そうだよね! 私はUC……しか見てないけど」

「大丈夫っすよ! ジブンが分かりやすく解説も入れます。もし気になったら、今度ケイ殿も交えてアニメ鑑賞もしましょう!」

「それも良いかもな。初代とかだとコアファイターの活躍も多いし、ユメも喜ぶと思う」

「コアファイターってガンダムのお腹に入ってる戦闘機だよね! ほら、パンフレットにも載ってるよ! タケシ君も見て見て!」

「あー、分かった分かった。分かったから」

 少女の笑顔はとても純粋で、カルミアにはそれが眩しく見えた。

 

 

「……ガンプラが憎くないのか」

 そんな言葉が漏れる。自分の無意識な言葉に気が付いて、カルミアは目を細めた。

 

 

「ほら! カルミアさんも! 行こ!」

「ぇ、あーはいはい。おっさんに無茶させないの」

 彼女は強いな。そんな事を思う。

 

 

 

 

 ファンシーな景色にカルミアとロックは唖然としていた。

 

 ここはGBNのアトラクションエリア。フォースフェスと呼ばれる、フォース加入者が遊べる特別なアトラクションゾーンだ。

 

 

「ベアッガイフェスへようこそ!」

 受付に立っていた何やらファンシーな姿の女性が五人を迎え入れる。

 その女性は何処かガンプラ味のあるマルっぽいコスプレをしていた。

 

「この人は?」

「ベアッガイコスのNPDっすね」

「ノンプレイヤーダイバー、だっけ。CPUって事ですわね?」

 ケイの質問に答えたニャム。NPDとはその名の通り、リアルの誰かがダイブしている訳ではないキャラクターの事である。

 GBNのCPUみたいな物で、基本的にミッションの受付やこのようなアトラクションの運営は殆どがこのNPDに任されていた。

 

 

「なんだこれは……」

「ベアッガイフェスだよ! ベアッガイフェス!」

 五人の周りを沢山の小さな熊───否、プチッガイが囲む。これらもNPDだ。

 

 

 ベアッガイフェス。その名の通り、ガンプラ───ベアッガイが主役のフォースフェスである。

 宇宙世紀をモチーフにしたアトラクションが並び、施設の中はベアッガイやベアッガイのコスプレをした人々でいっぱいになっていた。

 

 

「地獄絵図か……」

「ロッ君、おじさんは悪い夢でも見てるのかな」

「ほら二人とも、行こ!」

 唖然としたままのロックとカルミアの手をユメが引いて歩く。楽しそうな表情に、二人は顔を見合わせて無意識に笑った。

 

 

 

「……俺は今、安心したのか」

 そんな自分に驚きながらも、引っ張られるままにユメに付いて行く。

 

 

 

 ベアッガイフェスに入場した五人がまず足を止めたのは、キセッガイコーナーという場所だった。

 

 ここは、ベアッガイのコスプレを貸し出している場所である。

 フェス内なら無料で着続けられるので、辺りのダイバー達も殆どがこの半分キグルミのような格好で歩いていた。

 

 

 

「待て、これを俺様に着ろと?」

「‪郷に入っては郷に従え‬という諺もあるっすよ、ロック氏」

 目を輝かせながらそう言うニャム。ロックはケイに助けを請おうとするが、当のケイもユメに着せ替えさせられている。

 

「ケイッガイ!」

「ユメッガイ!」

 二人は青と白色のベアッガイ衣装に身を包んで出て来た。それに並んでニャムは「ニャムッガイ!」と叫びながら緑色のベアッガイ衣装に身を包み込む。

 

 

「なんだこの集団」

「カルミアッガイ」

「おっさん!? しかも地味にアッガイ語呂がいい!?」

 ロックの横で半目のカルミアが赤色のベアッガイ衣装を着ていた。もはや残されているのはロックだけである。

 

 

「ベアベア」

「ベアベア」

「ベアベア」

「ベアベア……」

 カルミアは若干表情が笑っていないが、四人の同調圧力がロックを襲った。

 

「あー、もう! 分かった分かった!!」

 そう言って、遂にロックも黒色のベアッガイ衣装に身を包み込む。

 

「ロックッガイ!!」

「語呂悪いね。タケシッガイの方が良いと思う」

「ロックな!?」

 こうして五人共衣装を着て、ベアッガイフェスが始まった。

 

 

「まずはアレに乗ろうよ!」

「そんなに走らなくてもアトラクションは逃げないぞー」

「時間は逃げていくのー!」

 アトラクションに向かって走っていくユメを追いかけるケイ。彼女が笑顔で居てくれる事に、ケイもご満悦なのか笑顔を漏らす。

 

 

 最初に乗るアトラクションは機動戦士ガンダム第08MS小隊に登場するMA、アプサラスをモチーフにしたジェットコースターだった。

 作中サブタイトルとしても印象的な「震える山」の山をモチーフにしたコースを、アプサラスのジェットコースターが走るアトラクションである。

 

 

「なんか可愛いね」

「これ頭がベアッガイになってるけど、本物はザクだからな。すげーおっかないMAだし」

「ジブンが乗ってたグフカスタムが登場するのがこの作品っすね。戦闘機も結構出るっすよ」

「そーなんだ。またガンダム見たくなっちゃった」

「ま、それはともかく今は楽しもうか」

 ロックとニャムの説明に目を輝かせるユメを連れて、ケイが先頭に立ってジェットコースターが発進した。

 

 普段からGBNで高速戦闘を行なっているダイバーでも、ほぼ生身の感覚でジェットコースターを体験する事はまた違う感覚である。

 四人はそれぞれ悲鳴を上げてジェットコースターを楽しんだ。四人が四人ともの笑顔にさらに笑みが零れる。その中でカルミアは───

 

 

 

「ハァ……ハァ……ど、ドムが……ドムが来る……。ヒィッ」

 ───物凄く怖がっていた。

 

 

「だ、大丈夫ですか? カルミアさん」

「……お、おぅ。大丈夫よ。おじさんよゆー。……いや、やっぱ無理。おじさん本当怖いの無理だから」

 完全にノイローゼ気味のカルミアをユメは心配そうな表情で見詰める。そんな彼女を見て、カルミアは申し訳なさそうに笑った。

 

 

「悪いねぇ、おじさんこういうの苦手で。なんなら、四人で楽しんできな?」

「それだったら、あんまり絶叫系じゃないアトラクションで遊びましょう!」

 カルミアの言葉に前のめりになってそう話すユメ。カルミアはそんな彼女の言葉に首を傾げる。

 

 

「……いや、なにもおじさんに気を使わなくても」

「私は皆と遊びたいんです」

「……皆?」

「フォースの皆……ううん。同じ趣味でこの世界に来てる大切な友達と。だから、カルミアさんが楽しめる場所で遊びたいなって……。良いよね、ケー君」

 ユメの言葉にカルミアは口を開いたまま固まってしまった。

 

 その間にケイはユメの言葉に「ユメが楽しめるならそれで良い」と答える。

 

 

「ユメちゃん……」

 カルミアは一度目を瞑って、頭を掻いてから立ち上がった。

 

 

「それじゃ、お言葉に甘えておじさんとコーヒーカップ乗らない?」

「「それはダメです」」

 何故かユメとケイの言葉が重なって、カルミアは苦笑いを溢す。

 

「敵わんねぇ……」

 そんな言葉が空に漏れた。

 

 

 

 一同はコーヒーカップやメリーゴーランドのある広場へ向かう。

 

 ユメとケイ、カルミアが同情するコーヒーカップの横で、ロックとニャムはどれだけカップを早く回せるか挑戦して二人とも吹き飛んで行った。

 それを見て三人は顔を見合わせて笑う。ゆっくりと回るコーヒーカップの上でユメとケイの笑顔を見るカルミアの表情は柔らかかった。

 

 続いてメリーゴーランド。回転木馬のいう名だけあり、馬の中に木馬こと戦艦ホワイトベースが並んでいるのが特徴的である。ちなみにホワイトベースは何色ものバリエーションが並んでいた。

 

 

「これはホワイトベースではなくブラックベースでは」

「なんで戦艦があるの?」

「アニメでこのホワイトベースは、ジオン軍人にその姿から木馬って呼ばれてたんすよ」

「確かに木馬っぽい!」

「なんかムサイもあるしおじさんはあっちに乗ろうかなっと。こうしてると艦隊戦っぽくて良いねぇ」

 其々が乗る船を選んで回るメリーゴーランド。BGMがガンダムUCのとある主題歌で、五人はそれでまた笑い合う。

 

 

「ユメちゃんはガンダムUCを見てるのねぇ」

「ケー君達にオススメされて見たんです。カルミアさんはガンダムのアニメ沢山見てるんですか? どのアニメが好きなんですか? 

「えーと、おじさんは最近のは見てないかな。SEEDまでは見てたんだけどもね。……好きなの、好きなのかぁ」

 ユメの質問の内一つに答えてから、カルミアはもう一つに答えようとして少し遠くに視線を向けた。

 

 

「───ZZかなぁ」

「ガンダムと、その次のZガンダムの続きですよね?」

「よく知ってるねぇ」

「えへへ、ニャムさんに教えてもらってますから。ZZもいつか絶対見ますね!」

「ZZにはカルミア氏が使ってる機体の元になったドーベンウルフも出てくるっすよ。あ、二人とも! あっちにパン屋さんがあるっぽいんすけどいかがっすか?」

 隣から話を付け足して、次の行動を提案するニャムにユメは「パン屋さん? 行く行く!」と目を輝かせて走っていく。

 

 それについて行くニャムを見ながら、カルミアは「……好き、か」と呟いた。

 

 

 

 

 ベアッガイフェスはまだまだ続く。




ダイバーズが楽しみ過ぎるリキさんです。ベアッガイフェスは原作ビルドダイバーズ好きとしては書きたかったお話でした!もう少しだけ続きます!


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そこで見付けたもの

 泣いていた。赤い髪の女の子が泣いていた。

 

 

 何も出来ずに、ただ二人を見守る。

 女の子の前で青年が泣いていた。そんな二人を引き離すように、周りの人達が二人の身体を掴む。

 

 見ている事しか出来なかった。

 

 

 泣いている女の子に手を伸ばす青年。女の子は震える口を開く。

 

 

「ごめんね、セイヤ」

「離せ、離せよ! 離せぇ!! レイアぁ!!」

 必死に手を伸ばす男の手は、どうしたって届かなかった。

 

 

 

「やめろぉぉおおお!!!!」

 ───目を背ける。

 

 

 

「───GBNの運営を……俺は絶対に許さない」

 青年の涙。その傷を癒す事も出来ずに、彼はただそこに居た。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 キラキラと目が光る。

 

 

「か、可愛いぃ!」

 ユメが持ち上げたパンは、ベアッガイの頭の形をしているパンだった。

 他にもファンシーな形のパンが沢山並び、ユメはこれも良いあれも良いと目移りしている。

 

「これガンダムのゲームだよな?」

「ジブンは、女性層を取り込むにはこういうのも良いと思うっすよ」

 ロックのツッコミにそう言ったニャムは「ジブンも一応女性っすから」と、ユメと並んでパンを選びに行った。

 

 

 

「こういうパンって食べにくいよな」

「あー、おじさん分かる」

 半目でパンを眺めるケイにカルミアが同調する。二人は苦笑いしながらも、ベアッガイの形をしたパンの耳を齧った。

 

「……ドラ○もん」

「カルミアさんそれはダメです」

「ねー、ケー君見て見て! ドラ○もん!」

「いやだからダメだって!!」

 さっきまで可愛いとか言っていたパンを無邪気に食べる姿に、ケイは「女子って恐ろしいな……」と身を震わせる。

 

 

 そんな五人に近付く黒い影があった。なにか背後から殺気を感じる。

 

「───っ」

 ユメはパンを食べるのを中断して、ゆっくりと視線を感じた背後に顔を向けた。

 

 

「あ」

 そして視界に入った人物に、ユメの表情はパッと明るくなる。

 

「スズちゃん、アンジェリカさん!」

 振り向いた先に居たのは、フォースメフィストフェレスのメンバー達だった。

 スズにアンジェリカ、その背後にはノワールがいる。さらに隣には、見知らぬ顔の少年が二人立っていた。トウドウの姿は見当たらない。

 

 

 

「ノワール?」

「……よう」

 苦笑いをしながら、ロックに返事をするノワール。そんな彼の頭の上には、やはりベアッガイの衣装が被されている。

 

「ダサ」

「お前もな……?」

 ロックの言葉に眉間に皺を寄せるノワール。メフィストフェレスの五人は、全員が全員ロックと同じ黒色のベアッガイ衣装に身を包まれていた。

 

 

 

「……ここで会ったが百年目」

「あ、あはは……」

 緑色の瞳を光らせるスズの視線はユメとケイに送られている。殺気の正体はこれだ。

 

 

「……ところで、どうしてメフィストフェレスのメンバーがここに?」

「どうしてもこうしても、NFT前の息抜きとして遊びに来ただけですわよ。あなた方もそうではなくて?」

 ケイの質問に答えるアンジェリカ。しかし、彼女の予想はまた大きく外れる。

 

「いや、ジブン達はただ遊びたかったから遊んでるだけっすね。そう言われれば確かに息抜きなのかもしれないっすけど」

「じ、自覚をもう少し持ちなさい! あなた達は私の認めたこのメフィストフェレスのライバルですのよ!?」

 頬を膨らませるアンジェリカを、後ろから見知らぬメンバー二人が「まぁまぁ」の宥めた。

 

 二人はそっくりな姿をしている銀髪の少年で、よく見ると二人で左右対象のアシンメトリーな格好をしている。

 

 

「この二人は?」

「あー、貴方達とは面識がありませんでしたわね。紹介しますわ、レフトとライトです」

「レフトです」

「ライトです」

 アンジェリカの左右に分かれてそう自己紹介をするレフトとライト。ベアッガイ衣装のせいか、とてもファンシーな光景だ。

 

 

「試合で戦う事になったらよろしく」

 そんな二人に挨拶を返すケイの横で、ユメはスズに「えいえい」とちょっかいを掛けている。

 頬を突っつくユメに対して、スズは普通に眉間に皺を寄せていた。

 

 

「……あ、あれ? 怒った?」

「……怒った」

「スズさんは凶暴だからなー」

「スズさんは鬼子だからなー」

「……何か言った?」

「「なにも!!」」

 レフトとライトに小銃を二本向けるスズ。逃げる二人をスズは追い掛けて発砲する。

 

 

「あれ当たったらどうなるんだ?」

「確か撃破扱いでリスポーンするっす」

 ニャムの質問に身体を抱くロック。肉体はただの器にしか過ぎない、を体現しているようで恐ろしい。

 

 

「スズ、ここには遊びに来たんですわよ」

 二人を追いかけるスズを止めたのはアンジェリカだった。

 

「……別に私は、遊びなんてしなくて良い。特訓あるのみ」

 そんなアンジェリカに、スズは頬を膨らませてそう言う。狙い澄まされた小銃が一発ずつレフトとライトの二人の髪の毛を一本吹き飛ばした。

 

 

「……次言ったら当たる」

「「ひぇぇえええ!」」

「怖っ」

 二人が震える側で、ロックは顔を真っ青にして固まる。この少女が敵だというのだから、NFTで次戦うのが怖くてたまらない。

 

 

「ところでトウドウさんは?」

「トウドウはリアルで作戦を練ってる最中ですわ。NFTにどのメンバーで出るか真剣に悩んでもらってますの。ま、そんなトウドウの邪魔をしない為にこうして今日は遊んでるって訳ですわね」

 ケイの質問に答えるアンジェリカ。そんなアンジェリカに捕まったままのスズは、頬を膨らませて「……別に私は来たくなかった」と目を細めた。

 

 

「スズちゃん、私達と遊ぼう?」

 そんなスズに、ユメは屈んで手を伸ばす。スズはさらに目を細めて「なんで?」と小声を漏らした。

 

 

「せっかくのフェスなんだもん。皆も良いよね? メフィストフェレスの人達とも遊びたいな」

「ユメがそうしたいなら」

「ジブンは賛成っす!」

「おじさんも構わんよ」

「別に良いぜ」

「俺は問題ない」

「レフトは?」

「ライトは?」

「「全然良いよ!」」

「だ、そうですわよ?」

 皆の返事を聞いてから、アンジェリカは満足気な表情でスズにそう言う。スズは顔を逸らして「でも……」と口を尖らせた。

 

 

「……私は、本当は遊べない。ここに連れて来てくれたアンジェの為に戦うだけ」

「私はスズと遊びたいんですわよ」

「アンジェ……」

 目を逸らすスズだが、やっと折れたのかゆっくりと姿勢を伸ばしてから「……分かった」と声を漏らす。

 

 

 しかし彼女はリアルでは手足がない。

 アトラクションだの、祭りだの、彼女にはよく分からないのだ。

 

 

「……どうしたら」

「スズちゃん、あっちに射的があるから一緒にやろ!」

 ユメはそんなスズの手を引っ張って、射的場に彼女を案内する。ロックとレフト、ライトが付いていった。

 

 

「ジムスナイパー」

「ザクスナイパー」

「「の、射的場だって」」

 看板にはスナイパーライフルを構えたジムとザクが写っている。見た目どおりの趣旨のアトラクションだ。

 

 

『弾は五発。それぞれの的に当ててポイントを競うゲームです』

 射的場の説明をするNPD。的は弓道の的のように、中心に行く程ポイントが高いらしい。

 

 

「よっしゃぁ、このロック・リバー様に任せな!! おっちゃん、弾!!」

『どうぞ』

 NPDからライフルと弾を受け取ると、ロックは的に向かって一気に弾を連射する。

 

 

「5点! 5点!」

「5点! 5点!」

「「5点!! 凄い!! 全部5点だ!!」」

「タケシ君……全部端に当たってるよ?」

「は、端を狙ったんだよ!!」

 自分をスナイパーだと思い込んでいるロックは顔を赤くしてその場に伏せた。後ろで見ていたケイ曰く、当たってるだけ彼からすればマシらしい。

 

 ついでに満点は100点である。アンジェリカは転けた。

 

 

「「僕らにお任せさ!」」

 続いて、レフトとライトがライフルを握る。二人は交互に2発ずつ弾を放ってから、最後に二人で手を合わせてライフルを放った。

 

 見事な動きにユメは感心して拍手をする。点数は79点。高得点だ。

 

 

「ほらほら、スズちゃんも!」

「……ん、こんな子供騙し」

 半ばユメに強引にライフルを持たされたスズは、嫌々ながらも膝を落としてライフルを構える。

 そうしてゆっくりと放たれた弾は全て、寸分の違いもなく的の中心を射抜いた。言うまでもなく100点である。

 

 

「流石だねスズさん!」

「優雅だねスズさん!」

「……動かない的なんて狙っても仕方がない」

 呆れ顔でユメにライフルを返すスズ。ロックはそんな彼女を見て顔を青ざめさせていた。

 

「凄いよスズちゃん! よーし、私も! えい!」

 そしてスズからライフルを受け取ったユメも、的にライフルを向けて放つ。結果は残念、窓の中央と端の半分程上にズレていた。

 

 

「あちゃぁ、難しい」

「……下手くそ」

「むむ。スズちゃんやり方教えてよ」

 馬鹿にされたユメだが、口を尖らせはするものの気を悪くした様子ではない。

 それどころかスズに講義を受けようとする彼女の姿勢は真剣そのものである。

 

 

「……な、なぜ私が」

「だってスズちゃん上手だし」

「上手って……」

 ユメの真っ直ぐな瞳に当てられたのか、スズは視線を逸らして顔を赤くした。

 そんな彼女を逃さないように回り込むユメ。スズは苦笑いをしてから、ため息を吐いて「……しょうがない」と呟く。

 

 

「……下手くそに負けたんじゃアンジェに顔向け出来ないから、教える。言っとくけど、これは私の為だから」

「えへへ、ありがとうスズちゃん!」

「お、ツンデレか」

「……あ?」

 ロックに発砲するスズ。情けない男の悲鳴が広がった。

 

 

 

「……足をちゃんと使う。身体を固定して、ブレを減らすのが大事」

「あ、足……うぬぬ。えーと、こう?」

「……下手くそ。こうだ。かかとは上げて───なんで分からない!? こうだって! 下手っぴ!!」

「ふぇぇ……。ごめんね。私普段足が動かないからよく分からなくて」

「───ぇ、その……ごめんなさい」

 講義の途中で怒鳴ったスズは気不味い表情で謝る。しかし、ユメは気にも止めずに言われた通りに足を動かした。

 

 

「こうかな───えい!」

 そして、放たれたライフルは的の中心をしっかりと抉る。

 

 

「やった! やったよスズちゃん!」

「……ぇ、あ、うん。……上出来」

「えへへー、スズちゃん! 勝負しよ! 勝負!」

「……勝てると思ってるのか。……まぁ、良いよ」

 満面の笑みのユメに釣られるように、スズの顔も少しだけ柔らかくなっている気がした。そんな二人を見ながら、アンジェリカは微笑む。

 

 

「あなた達には感謝しないといけないですわね」

「え? いや、こちらこそ」

 ユメの笑顔を見て嬉しいのはケイもだった。アンジェリカにとって、スズはケイにとってのユメなのかもしれない。そんな事を考える。

 

 

「楽しそうで良かった」

「───なんで、あんなに楽しそうな顔が出来るのかねぇ」

 そんな二人の後ろから、カルミアがふと言葉を漏らした。無意識な言葉だったのだが、二人が振り向いてカルミアは気不味そうに頭を掻く。

 

 

 

「……だってユメちゃんはガンプラのせいでトラックに轢かれたんだろう? それで下半身付随にまでなったってのに……おじさんには、あの子がなんであんな顔が出来るのか分からないのよ」

「そ、そうだったんですの?」

 カルミアの言葉にアンジェリカは目を見開いた。

 

 ガンプラのせいで、というニュアンスはよく分からない。しかし、彼女とスズの小さな共通点にアンジェリカは視線を落とす。

 

 

「あれ……なんでカルミアさんがそれを知ってるんですか? 事故の話なんてしましたっけ?」

「え、あ……いや。ヒメカちゃんに聞いたのよ! うん、そう!」

 両手を上げてそう言うカルミアに、ケイは少しだけ怪訝そうな表情を見せるが「まぁ、そっか」と一人納得したようだ。

 

 溜息を吐くカルミアの前で、ケイは「ユメは強い子だから」と短く答える。

 

 

「……強い子、ねぇ」

 カルミアは、トラックに轢かれそうになって震える事しか出来なくなった少女の姿を思い浮かべていた。

 

 

「……どうだか。な、ケー君や」

「はい?」

「ユメちゃんの事、ちゃんと守ってやるんだぜ」

「……も、勿論」

 少し顔を赤くするケイを他所に、カルミアは少し皆から離れて空を見上げる。GBNの空は本物と変わらない。ここが現実なんだと錯覚してしまう程だ。

 

 

 

「……何してんだろうねぇ、俺。な───」

 そんな言葉を漏らすカルミアは、歩いた先のアトラクションを案内するNPDを見て目を見開く。

 そこにいたNPDは、一見何の変哲もない普通のNPDだ。赤い髪の、普通の女の子のNPD。

 

 

『アトラクションをご利用ですか?』

「───レイア……か」

 NPDに近寄った事で案内が始まるが、そんな女の子のNPDを見たカルミアはそんな言葉を漏らして固まる。

 

 

「こんな所にいたのな……」

 少し驚いたような表情を見せるカルミアだったが、それは少しだけで。彼はNPDに優しい表情で語り掛けた。

 

 

「アイツ、お前の為に頑張ってるぜ……」

『アトラクションをご利用の際はお呼び下さい』

 カルミアの言葉にNPDはそう答える。彼女はノンプレイヤー。そこに感情はなく、記憶もない。

 

 

「分かってるよ」

 あるのは入力されたプログラム。

 だからカルミアは、少しだけ寂しそうに笑った。

 

 

「お前がレイアじゃないって事はさ。……だから俺はここに居る」

 視線を落とすカルミア。そんな彼の背後から、ユメ達が歩いてくる。

 

 

「ねぇスズちゃん。次は何する?」

「……私はもう別に───ん? アレ」

 歩いている途中でカルミアに気が付いたスズは、ユメに「あんたのフォースの」と言ってカルミアを指差した。

 

「あ、カルミアさんあんな所に。なんのアトラクションですか? コレ、行くんですか?」

 カルミアの側まで走りながらユメは彼にそう話し掛ける。カルミアは少しだけ慌てた仕草を見せながら「え、あ、そうよ。おじさんコレ好きなのよね」と言葉を漏らした。

 

 

「え、でもコレ……バンジージャンプですよ?」

「ふぉぉ……っ!? よ、余裕よ!? 余裕!!」

「おーいユメ───んぁ?」

 それに遅れてきたロックは、アトラクションを見ながら目を細める。何やら気になるのか、ゆっくりと歩いてカルミアの横に立った。その目はさらに細く、眉間に皺も寄る。

 

 

「ど、どったのよロッ君」

「ロック氏、どうかしたんすか?」

「いやこの子さ、この子。どっかで見た事あんだよな」

 そう言ってロックが指差したのは、カルミアのそばにいた赤い髪の女の子の姿をしたNPDだった。

 

『アトラクションをご利用ですか?』

「うーん、可愛い。いや……本当にどこかで───あぁ!?」

 NPDの顔を覗き込むや、ロックは大きな声を上げてニャムに詰め寄る。そして「写真だよ!! 写真!!」と大声を上げた。

 

 

「写真……すか?」

「ニャムさんが兄貴を探してるって言ってた時に見せてくれた写真!! もう一回見せてくれ!!」

「写真……?」

 ロックの言葉にカルミアは目を細める。いつか見た光景が脳裏に浮かんだ。

 

 

「写真……写真───まさか!?」

 そしてロックの言葉を聞いて、ニャムも何かに気が付いたかのように急いでコンソールパネルを開く。そこに表示されたのは、彼女の兄と一緒に立って笑っている赤い髪の女の子の写真だった。

 

 

「写真の女の子……」

 その写真を覗き込んだケイが、NPDの女の子と写真を見比べる。

 

 その姿は瓜二つだった。

 違う事といえば、写真の女の子は満面の笑みだったという事くらいである。

 

 

「このこ、NPDだろ? どうなってんだよ……」

「NPDってこんなに笑顔で笑うんすか……?」

「いや、でも……」

 頭を抱えて話し始めるReBondのメンバー四人。メフィストフェレスの五人は何がなんだかでお互いに顔を見合っていた。

 

 そんな中で、カルミアは目を見開いて固まっている。

 

 

「なんでその写真を持ってる……。兄貴? まさか、あの人の妹さんだってのか……ニャムちゃんが」

 彼は不敵に笑った。

 

 

 

「なんて運命だこと」

 そう小声を漏らして空を見る。

 

 

 

「……それでもアイツは復讐をやめないだろうな」

 GBNの空は、いつもと同じで───本物のような空だった。




やっとリライズが再開しましたぁぁ!!嬉しい。
それと同時にこのお話を投稿出来たのは丁度良かったかもしれせん。タイミングバッチリね。

読了ありがとうございました!


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第五章──アンチレッド【ネクストフォースバトルトーナメント】
開幕NFT


 写真を手に取って覗き込んだ。

 

 

「触れるな」

 そんな声が聞こえて、写真を持った男はゆっくりと振り返る。

 

 

「この写真、妹さんに送ってたんだな。シャッチョサンよ、確か居たよね。妹さん」

「それが?」

 写真を手にした男の質問に「触れるな」と言った男は、目を細めて首を傾げた。

 その目は何処か虚を見ている。

 

 

「フォースReBondにその妹さんが入ってた。なんて奇怪な運命だこと。……なぁ、シャッチョサン。本当にやるのか?」

「関係ない」

 短い回答に、男は目を細めた。写真をゆっくりと元の場所に戻す。

 

 

「俺達のフォースの名前はアンチレッドだ。覚えておけ」

「……ほいほい。了解」

「……俺はGBNに復讐を果たす。それだけだ」

 その目はやはり、何処か虚ろを向いていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GBNの空に花火が上がっている。

 

 

 今日はNFT───ネクストフォースバトルトーナメントの開催日で、今日から二日間に渡り行わられるGBNの大きなイベントの日だった。

 

 ここ一年と半年以内に結成されたフォースのみが参加出来る大会で、注目されている新規フォースから無名の新規フォースまで様々なフォースが凌ぎを競い合う。

 

 

 そんなNFTの開会式会場に、フォースReBondの五人は立っていた。

 

 

 

「結局、あの赤毛の子が何だったのかは分からなかったなぁ」

「普通のNPDだったよね?」

 ロックとユメが、悩ましい顔でそんな会話をしている。

 

 前日。ベアッガイフェスで見付けたNPDは、ニャムが探している兄が写った写真に一緒に写っていた人物と同じ姿をしていた。

 しかしそのNPDは特にガンダムのアニメのキャラクターという訳でもなく、GBNがランダム生成したごく普通のNPDだという事しか分からない。

 

 メフィストフェレスのメンバーも彼女の事は知らず、カルミア以外の皆が首を傾げて悩んでいる。

 

 

「まー、分からない事を悩んでても仕方がないんじゃないかねぇ。今は目の前の事も重要でしょうよ、お兄さんを探すならさ」

 当日、ニャムの尋ね人の話を聞いたカルミアは手を広げてそう言った。彼のいう通り、今日はそのお兄さんやアオトを探す為にと目標を立てて進んできた彼等の晴れ舞台である。

 

「そ、それはそうですね」

「しかしこの写真の女の子がNPDだったなんて……変な話っすよね」

 口を尖らせるニャムに、カルミアは髪を掻きながら肩を叩いた。そうして彼女に視線を合わせ、こう口を開く。

 

 

「お兄さんが見付かれば、そんな悩みも晴れるってもんよ」

「それもそうかもしれないっすね」

 そうして話がついて、少しした所で会場が一斉に盛り上がった。壇上にMCが登場したのが見える。

 

 

 

「I would like if I may to take you……Oh、失礼! もしよろしければ、皆様方にこのネクストフォースバトルトーナメント───NFTをご説明させて頂きましょう!」

 赤いジャケットにピンクのシャツの目立つMCは、高々にマイクを上げながらそう語った。

 特徴的な左目のアイマスクと口髭。その姿は機動武闘伝Gガンダムに登場するストーカーそのものである。

 

 

「あ、ストーカーさんだ」

「今考えると凄い名前だよな」

「Gガンダム放送当時は、今お馴染みのストーカーという言葉は認知されてなかったらしいっすからね」

 ニャムの補足にユメとロックは感心して息を漏らした。そのストーカーの姿のMCはさらにこう続ける。

 

 

「そもそも二年前の事です。第二次有志連合戦後、GBNはさらなる盛り上がりを見せ新たなフォースが多数生まれました! ダイバー達は()()()()と呼ばれるプラモデルを駆り───戦って! 戦って! 戦い合わせ! 凌ぎを削っていたのです!!」

 MCの語りに周りはさらに盛り上がった。世紀末風味のダイバーが雄叫びを上げている。

 

 

「このNFTは、そんな活力に溢れる新フォースの戦いの場!! それでは!! 皆さんご一緒にぃ!!」

 MCはマイクとアイマスクを手に両手を広げ声を上げた。NFT開催の合図である。

 

 

「ガンプラファイトォォ!! レディィィゴォォォッ!!!」

 掛け声に合わせる参加者のダイバー達。その中にニャムとユメとケイも混ざる中、ロックは壇上に現れる一人のダイバーに視線を移した。

 

「あれは───」

「さてさて皆さん、バトル開始の前に! 今回は特別ゲストをお招きしました!! GBNのチャンピオンオブチャンピオン!! クジョウ・キョウヤ!!!」

 MCの紹介に手を振る一人の男。

 

 金髪で長身のイケメン。ガンダムのアニメに出ていてもおかしくない容姿のその男の名はクジョウ・キョウヤ。

 

 

 フォースランキング1位AVALONのリーダーにして、チャンピオンの称号を持つ現GBN最強のダイバーである。

 

 

「───第二回NFTに参加する皆、おはよう。今日はゲストというより、一傍観者としてこの場に立つ事にした。ここに居るだけでも感じる、君達の熱い魂をどうか! 今日明日のバトルにぶつけて欲しい!」

 クジョウの台詞に会場は一段と盛り上がって熱狂の渦を巻いた。

 

 

 

「あれが……チャンピオンか」

「あの人に勝てば簡単に有名になれるんじゃね?」

「あはは、それが出来たら苦労しないっすよ」

 言いながら、ReBondの五人はトーナメントバトルが行われる各会場に向かって歩く。

 

 NFTのルールはトーナメント形式。まずはAブロックとBブロックに別れ戦い、各ブロックの勝者同士で決勝戦を行うものだ。

 

 

 発表されたトーナメント表を見に歩いていると、ケイ達の前にフォースメフィストフェレスの面々が歩いてくる。

 

 

「ついにこの日が来ましたわね!」

 そういうアンジェリカは、腕を組みながらトーナメント表を見た。

 

 ReBondとメフィストフェレスは同じBブロック。それに、近いところに名前が書いてありロック他数名が口角を吊り上げる。

 

 

 参加チームは全63チーム。6回戦で優勝チームが決まるバトルだ。

 

 フォースReBondとメフィストフェレスは、順調に勝ち上がれば三回戦目のベスト8を巡る場で戦う事になる。

 

 

 

「俺達と戦うまで負けるなよ」

「ハッ、こっちの台詞だぜ」

 ノワールとロックが視線の間で火花を散らした。

 

「……次こそ落とす。だから、私の前に立って」

「うん。私もまたスズちゃんと戦いたい!」

 スズとユメもお互いを意識して、ついにこの時が来たんだと一同に心臓が高鳴る。

 

 

 そんな中でカルミアだけが、トーナメント表を見ながら目を細めていた。

 

 

「───残念ながら、それは難しいね」

 小声を漏らす彼の視線の先にあるのは、勝ち続ければメフィストフェレスと二回戦で当たるチームの名前───

 

 

「……本当にやるのか、シャチョサンよ」

 ───フォース、アンチレッド。

 

 

 

「いやぁ、これは幸運と呼ぶべきか残念がるべきかな」

 そんな二つのフォースのメンバーの間に、アロハシャツとグラサンの男が割って入ってくる。

 

 ケバブの男───砂漠の犬リーダー、アンディだ。

 

 

 

「アンディさん!」

「砂漠の(いぬ)!」

(けん)だ」

 ケイとアンジェリカの言葉に片手を上げるアンディは、表示されているトーナメント表を眺めながら自分の顎を触る。

 

 フォース砂漠の犬はReBondやメフィストフェレスとは違うAブロックに配置されていた。

 

 

「君達と同じブロックにならなかったのは残念だよ。もし当たるとすれば決勝……それもどちらかとだけになるからね」

「決勝に行くのは私達ですわよ」

 アンディの挑発めいた言葉に、アンジェリカは不敵に笑いながら答える。

 

「ジブン達も負けないっすよ!」

 やる気を出すニャムは拳を持ち上げて声を上げた。

 

 

 Aブロックの優勝候補は言うまでもなく砂漠の犬である。

 Bブロックの勝者が、このフォースと戦いになる筈だ。そのフォースはReBondか、メフィストフェレスか。それとも───

 

 

 

「それじゃ、どちらかとは決勝で会おう。楽しみにしているよ」

 そう言ってアンディはAブロックの会場へと歩いて行く。ReBondとメフィストフェレスのメンバーは、お互いに火花を垂らしながらBブロックの会場へと向かった。

 

 熱気が会場全体を包み込む。

 

 

 

「ReBond集合!」

 試合が始まる前に、ロックの掛け声で五人が集まった。大会に出る為の最低人数である五人。周りにはメフィストフェレスを含め様々なフォースのメンバーが集まっている。

 

 このダイバー達全てが、今から敵となるのだ。

 

 

「俺達の目標は有名になってアオトとニャムさんの兄さんを探す事だ。おっさんはなんやかんやで付き合ってくれてありがとな!」

「ま、おじさんは頼まれただけだから。それに……ここは心地良いしね」

 カルミアは視線を逸らして頭を掻く。その視線の先で、一人の男が笑っていた。

 

「ニャムさん、一番頼りにしてるぜ。今日もとびっきりのガンプラを宜しく!」

「任せて下さいっす。この日の為に丹精込めて作ってきた新作をお見せするっすよ!」

 ニャムはやる気十分といった表情で拳を上げる。これは期待できるとロックは笑った。

 

 

「ユメ、お前の好きなように飛べ。何も気負うことはねぇ! 俺様達が居る」

「うん、ありがとう。タケシ君」

「ロックな!!」

 ツッコンで、ロックはケイと視線を合わせる。

 

 

「ケイ、俺達は前に進むんだ。あの時から止まってる今を前にな。だから後の事は気にするな。全力で、全部壊す気でいけ! アイツが言ってたろ、壊れたって───」

「───直せばいい」

「おう!」

 二人の拳がぶつかった。

 

 

 

 

「作戦会議だ」

 少し離れたところで、メフィストフェレスのトウドウが声を上げる。

 

「少し早いんではなくて?」

「気合入れがしたいんだろう。円陣でもやるか?」

「……ち、違───わないが。とにかく話がある」

 ノワールの言葉に顔を赤くしたトウドウは、メンバーを見比べて一度咳き込んだ。

 

 

「スズ、いつも通りやれば良い」

「……分かってる」

 その眼光が光る。

 

 

「レフトとライト、お前達の活躍がスズをどう活かすかに関わってくる。ぬかるなよ」

「任せといてよ!」

「僕らにお任せ!」

 二人は左右の親指を立ててトウドウに挨拶をした。

 

 

「ノワール、俺は出れない。皆を頼んだぞ」

「当たり前だ。俺はこのフォースのリーダーだからな、参謀殿」

 ノワールはトウドウの目を真っ直ぐに見てそう答える。トウドウは最後にアンジェリカに視線を向けて、眼鏡のズレを直す仕草をした。

 

 

「我等が姫、存分に暴れてメフィストフェレスの───お前のガンプラが最高だと世界に証明してこい!」

「当たり前ですわ! 私のガンプラ天元流の力、世界に見せてくれましてよ!!」

 アンジェリカはそう言いながらトーナメント表を指差す。

 

 

「待ってなさいフォースReBond、砂漠の(いぬ)! 私達の雪辱を、今回こそ晴らさせてもらいますわよ!!」

 そうして高々と声を上げるアンジェリカ。その瞳は真っ直ぐで、とても眩しい。

 

 

 

「さて、遂にこの日だ。諸君、分かってると思うがこの大会は僕にとってとても大切なものである。奮闘してくれたまえ」

 別会場では、アンディがフォースメンバーに言葉を掛けていた。メンバー達は敬礼し、アンディとその隣に立つリリアンに視線を向ける。

 

 

「リリアン、この大会に優勝したら……結婚しよう」

「えぇ、アンディ。必ず優勝しましょう」

 二人の抱擁に、残る三人のメンバーは拳を強く握った。

 

 

 

 

 絶対に負けられない思いがある。

 

 

 

 

「……遂にこの日が来たぜ。GBNへの───復讐の時がな!!」

 ───それぞれの思いが交差する、NFTが幕を開けた。




リライズが面白過ぎて毎週が楽しみでならない。


作品はようやくNFT開幕に辿り着きました。実はここまでを二十話くらいで書き上げる予定だったんだけど、倍くらい掛かっているのはなぜ?
次回からもゆっくりと進んでいきます。読了ありがとうございました!


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有効射程(キリングレンジ)49.8km

 彩鮮やかな五機のMSが並んで砂埃を上げる。

 

 

「───我等フォース七色の七連星! 見せてやるぜ、レインボーストリームアタックを!!」

 その五機が、一斉に獲物を構えて直進した。七色というが五機しかいないので二色足りないのはルール上仕方がないだろう。

 

 

 NFT───ネクストフォースバトルトーナメントのルールは五人一チームのフラッグ戦だ。

 

 

 

「ケイ殿、三時の方向から敵が五機並んで来るっす!」

「こちらユメ、目視でも確認したよ! 画像送るね!」

「こいつぁ、なんかカラフルなドムだな」

 ユメのスカイグラスパーが空中から撮影した画像を見て、カルミアは苦笑いをする。色々なフォースが参戦しているのは良い事だ。

 

 

「───気の毒だが、負ける訳にはいかんのでね」

「ケイ、敵が来るぞ!」

「分かった。引き付ける!」

 ロックの言葉に、ケイは機体を前に出してスラスターを吹かせる。

 

「一人で出て来るとは愚かな事よ! お前ら、あの白いのにレインボーストリームアタックを仕掛けるぞ!!」

 姿を見せたストライクBondに、相手のフォースのリーダーは不敵に笑いながら声を荒げた。

 

 

「貰った! レインボーストリームアタック!!」

「五機しかいないのにレインボー!?」

 五機の重量MSが一斉にケイのストライクBondに向かって突進する。ケイは後ろに跳びながらライフルを放った。

 

 

「貰ったぁ!!」

「七機いたらヤバかったけど!!」

 後退するストライクはギリギリの所でドムの攻撃を躱していく。そして、ある程度後退した瞬間───ドム達を背後からビームが貫いた。

 

 

「───何!?」

「いけ、皆!!」

 ケイのストライクBondを囮にして、五機のドムを背後からReBondのメンバー達が攻撃する。

 背後からの攻撃に反応が遅れたフォース七色の七連星は、体制を立て直す間もなく全滅した。

 

 

 

 WINNER FORCE ReBond

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 歓声が上がる。

 ネクストフォースバトルトーナメント───NFTはケイ達の想像以上の盛り上がりを見せていた。

 

 

 無名フォースの筈のReBondの戦いだが、観客ステージの盛り上がりは予想以上である。

 

 

「こりゃ、優勝すれば有名になるなんて目標は一発だな」

「優勝しちゃうっすか? 優勝しちゃいましょうか?」

「お疲れだな、ReBond」

 そんな観客ステージの盛り上がりにはしゃぐロックとニャムの後ろから、ファースメフィストフェレスのメンバーであるトウドウが声を掛けてきた。

 

 

「トウドウさん」

「まずは一回戦突破おめでとう。良いバトルだった。次はうちのフォースのバトルだ、一緒に見てくれないか? 暇なんでな」

 手を上げて挨拶をするケイに、トウドウは中指で眼鏡を押さえながらそう提案する。

 

 

「勿論。一緒に見させてください」

 同時にスクリーンモニターが光り、フォースメフィストフェレスのバトルが映し出された。

 対戦相手のフォースはジム頭系統のモビルスーツを扱う、GMの逆襲という名のフォースである。

 

 

「始まったか」

「勝てよ、ノワール」

 スクリーンを注視するトウドウの横で、ロックは横目でスクリーンを見ながらそう呟いた。

 あの日の決着を着けるには、お互いに二回ずつ勝たなければならない。

 

 スクリーンの中で、ノワールの迅雷ブリッツが発進する。続くアンジェリカとスズのアストレイゴールドフレームオルニアス、サイコザクレラージェ。

 さらにそれに続くのは、二機のSDガンダムだった。

 

 

「あの頭の大きい可愛いのはなんだっけ? GBNでもたまにみるけど」

「SD、スーパーデフォルメ……ガンダムっすね。その名の通り二、三等身にデェフォルメされたMSで可愛くて女の子にも人気なんすよ」

 ユメの疑問にニャムはそう答える。勿論SDにもガンプラは存在していて、GBNで遊ぶ事も可能だ。

 

 

「あの二機はこの前会ったレフトとライトか」

「二つ共ウイングゼロのSDだな」

 ケイとロックは二つの機体を見比べながらそんな言葉を漏らす。二人の機体はどこか似通った黒いガンダムタイプのSDの機体だ。

 

 

 特徴的なのはそれぞれ左右に一つずつ生えた翼。新機動戦記ガンダムWの劇場版に登場するウイングガンダムをデフォルメした機体は、まるで片翼の堕天使のような姿をしている。

 本来白色の機体が黒く作られているのは、彼女達らしいカスタマイズだと納得した。

 

 

「ウイングゼロアビージL、R。あの二人こそ俺達のフォースの秘密兵器だ。いや───スズの、と言った方が正しいかもしれないがな」

「スズちゃんの……?」

 トウドウの言葉にユメは首を傾げる。一体どういう意味なのか。

 

 

 戦闘が始まった。

 ステージは市街地で、スズのサイコザクレラージェがいつかのロックのように高台を取る。

 その高台を守るように、レフトとライトのウイングゼロアビージLとRが左右に展開した。

 

 残るノワールとアンジェリカの迅雷ブリッツ、アストレイゴールドフレームオルニアスが索敵として市街地を直進する。

 

 

 

「作戦としては定石ねぇ」

「高台を初めに取ったあのスナイパーか……怖」

 うんうん、と頷くカルミアの横でロックは顔を青くしていた。

 

 メフィストフェレスの恐ろしさを彼等はよく知っている。画面では対戦相手のGMの逆襲が市街地に戦力を分散させていた。

 

 

「お相手の機体はジムカスタム、ジムキャノン、ジムスナイパーにブルーディスティニー1号機とペイルライダー。見事にジム頭揃いっすね」

「相手にもスナイパーか」

 GMの逆襲の機体を見て、ケイはメフィストフェレスとのバトルを思い出す。あの時は自分達が高台を取れた。

 

 ただ、それがもし逆だったら───

 

 

 

「見て、二機が固まってる近く!」

「ノワールか!」

 ユメが指差すモニターには、ジムキャノンとブルーディスティニー1号機が映っている。

 その二機に接近するのはノワールの迅雷ブリッツだった。

 

 

「───こちらノワール、敵二機を捕捉した。敵機を追い込む」

 敵の二機を見付けたノワールはミラージュコロイドを展開。スラスターを吹かせ、二機に急接近する。

 

 

 

「なんか音がしないか?」

「あぁ。だが、不用意に動くな。敵のスナイパーに狙い撃───」

 ジムキャノンのパイロットが言い掛けた瞬間、その機体をビームライフルが貫いた。

 そして同時に現れるノワールの迅雷ブリッツ。ブルーディスティニー1号機のパイロットは表情を歪める。

 

 

「なに!? どこから!?」

「───まずは一つ」

「こいつか!!」

 倒れるジムキャノンの横で、ブルーディスティニー1号機の頭部が赤く光った。機体はガタガタと音を上げながら、ジムキャノンの頭を鷲掴みにする。

 

 

「何をする気だ……」

「やられたならくれてやる!!」

 そのままジムキャノンを投げ付けるブルーディスティニー1号機。ジムキャノンは建物に叩きつけられ爆散した。

 爆風に飲み込まれるノワールの迅雷ブリッツだが、その機動力を発揮してなんとか体制を立て直す。

 

 

「やる……!!」

「奇襲なんてやってくれたな!!」

 ブリッツを追い掛けるブルーディスティニー1号機。ノワールは辺りに視線を移して、少しだけブルーディスティニーを引き付けてから上にジャンプした。

 

 

「逃すか!!」

 追い掛ける為にスラスターを吹かせるブルーディスティニー1号機。機体が周りの建物を飛び越えたその瞬間───

 

 

「───やれ、スズ」

「……沈め」

 一筋の閃光が煌めく。

 

「なん───うわぁぁ!?」

 ブルーディスティニー1号機を貫く光。機体は、パイロットが何が起きたか分からないまま爆散した。

 

 

 

「……ヤバ過ぎだろ」

「今建物の影から出た瞬間撃たれたっすよね? そもそも何キロ先の相手を狙撃してるんすか!?」

 モニターを見ていたロックは青ざめた顔で口を開けたまま固まる。ニャムの言う通り、ブルーディスティニー1号機は建物を飛び越えてから一秒もしない間に狙撃された。

 

 

「サイコザクレラージェの今の装備の有効射程(キリングレンジ)は49.8kmだ。あの程度の距離はまだアイツにとって近い」

「それ地平線まで余裕って事っすよね!?」

「旅客機が飛ぶ高度よりも上だ……」

 トウドウの言葉にReBondのメンバーは絶句する。そんな相手を敵に回して勝ったというのがにわかに信じがたい。

 

 

「それもサイコザクの装備での有効射程だ。スズに別の武装を持たせれば大気圏外射撃だってやってみせる。……そんな必要がないから、スズはアンジェリカの用意した最大の武器で最大の戦果を出す。それだけだ」

「リアルロックオン・ストラトスかよ……」

「……スズはお前達との戦いまでGBNで狙撃を外した事がなかった。だから、お前達との再戦に燃えてるんだろうな」

 ReBondとメフィストフェレスの戦いで、スズの狙撃をユメは紙一重で避けていた。ほぼ当たっていたし、墜落までしていたが彼女にとってはそれでも許せなかったのだろう。

 

 それ程の腕があるダイバーなのだ。

 

 

 

「スズ、追い込みましたわよ!!」

 アンジェリカが敵のジムカスタムを市街地より外に追い込む。彼女が言うが早いか、ジムカスタムのコックピットをビームが貫いた。

 

 

「……残り二機」

「スズさん、敵が近いよ!」

「スズさん、敵が来るよ!」

 サイコザクレラージェが鎮座する高台の下で待機していたレフトとライトは、スズにそう言いながら自らの機体の獲物を持ち上げる。

 

 片方ずつのバスターライフルを向けた先で、灰色の機体───ペイルライダーが建物の影から姿を現した。

 

 

「あのスナイパーめ、好き勝手やりやがって。俺が倒してやる!」

 ペイルライダーの頭部が赤く光る。ビームサーベルを構え、スラスターを吹かしながら脚部のミサイルを放った。

 

 

「レフト!」

「ライト!」

 二人は胸部マシンキャノンでミサイルを迎撃しながら飛び上がる。ペイルライダーの目的は狙撃手のサイコザクだ。

 

「スズさんはやらせないよ!」

「スズさんは僕達が守るよ!」

「SDがちょこまかと!!」

 ビームサーベルを二本構えて、二人のウイングゼロアビージに斬りかかるペイルライダー。

 

 

「「当たらないよ!」」

 しかし、二人の機体は急上昇してサーベルを避ける。その上昇性能に、ペイルライダーは追い付けなかった。

 

「スラスターの出力が!?」

「レフト!」

「ライト!」

 ペイルライダーの上を取った二人は、お互いのバスターライフルを合わせて二つの銃口を向ける。ツインバスターライフルが、ペイルライダーを貫いた。

 

 

 それを上から見ていたスズは目を細めて辺りを見渡す。この大会はフラッグ戦だ。

 敵機を四機倒したが、試合は終わっていない。残りの一機がフラッグ機という事だろう。

 

 

「残りの敵もスナイパー……」

 小声を漏らしながらライフルのスコープを覗いた。しかし、機影は見当たらない。

 

 

 

 

「もうこれはスズちゃん達の勝ちだね!」

「いえいえ……残るはジムスナイパーが一機ですが、多分相手さんは隠れて狙撃のチャンスを伺ってるっすね」

 喜ぶユメの横で、ニャムは首を横に振ってそう答える。

 

「フラッグ戦はフラッグ機さえ倒してしまえば試合が終わるルールっす。スナイパーはそれこそ何処からでも勝利をもぎ取れる機体っすから、まだ油断は出来ないっすよ」

「なるほど……」

 ニャムの力説にユメは唇に指を向けてモニターに視線を映した。圧倒的に有利な状態とはいえ、敵スナイパーの位置が分からないのでは予断を許さない状態に変わりはないのである。

 

 

「いや、もう終わりだ」

 しかし、トウドウはそんな二人の会話にこう続けた。ニャムとユメは彼の言葉に首を横に傾ける。

 

 

 

 

「……レフト、ライト」

「分かったよ!」

「やるんだね!」

 スズが通信で二人を呼んだ。レフトとライトのウイングゼロアビージLとRが高台まで飛び上がる。

 

 何をする気だ、と画面を見る全員が思った。

 次の瞬間───二人のSDガンプラがサイコザクレラージェのバックパックの左右で変形をする。

 

 

 片翼の翼を広げ、SD故の簡素なパーツが纏まっていき一つの大きな翼にバスターライフルが着いただけの姿になったウイングゼロアビージ。

 その機体をサイコザクレラージェのバックパックから伸びるサブアームが掴み、三機は合体(・・)した。

 

 

 

「合体した!?」

「え、滅茶苦茶格好良い!?」

 ケイとロックが大声を上げる。一対の翼と化したウイングゼロアビージをバックパックに繋げたサイコザクレラージェは、翼を生やした堕天使のように高台に鎮座していた。

 

「あの上昇性能は……なるほどね」

 カルミアはそれを見て不敵に笑う。この後の展開は少し読めた。

 

 

 

 

「アンジェのサイコザクレラージェに死角はない」

 サイコザクが上昇を始める。その光景を、市街地の建物の影に隠れていたジムスナイパーのパイロットも見ていた。

 

 

「敵のスナイパーが飛んだ!? 空から探して狙い撃ちする気か? だが、飛んでるお前の方が的だぜ!!」

 相手のチームの狙撃手も、伊達にライフルを背負っている訳ではない。

 

 サイコザクがこちらを見付けるまでに、こっちが狙撃すれば良い。先に見つけたのはこちら側である。むしろ、状態は有利だ。

 

 

 

「一撃で落としてここを離脱する。狙撃で位置はバレるだろうが、離れておいてここに来た奴を遠くから狙撃すれば……勝てる!」

 ジムスナイパーがビームスナイパーライフルのスコープを空に向ける。

 

 

「は?」

 しかし、スコープに映るサイコザクは想像よりも遥か高くの高度まで登っていた。

 目測でも10km。まだ上がる。旅客機が空を飛ぶ高さよりも高く、サイコザクレラージェはその上昇性能で飛翔した。

 

 

「あんな高くまでいって狙える筈が───しまった、アイツの目的は俺を見付けて仲間に伝える事か!? なら、ビームが届かなくなる前に撃ち落とさなければ!!」

 ジムスナイパーのパイロットは焦ってライフルを構えて引き金を引く。しかし、既にジムスナイパーとサイコザクレラージェの距離は15km以上離れていた。

 

 相手との距離が離れれば離れる程、ほんの僅かなズレが大きなズレになっていく。ジムスナイパーの射撃は、サイコザクに掠る事すらなく明後日の空を打ち抜いていた。

 

 

「くそ!! こうなれば来る奴を迎撃するしかない。むしろスナイパーに怯えなくて良いんだ!! やってやる、やってやるぞ!!」

 諦めたジムスナイパーのパイロットはライフルを捨ててビームサーベルを構える。震える手。アラートが鳴った。

 

 

 

「───ここは、私の距離だ」

 その遥か上空。成層圏で、サイコザクレラージェはビームスナイパーライフルの引き金を引く。

 

 

「アラート……なんだ? 何処だ? 上? まさ───」

 一筋の閃光が、ジムスナイパーの頭部から股を貫いた。縦に穴が空いた機体は、数秒の間の後爆散する。

 

 

 

 フラッグ機ジムスナイパー撃沈。

 

 WINNER FORCE メフィストフェレス

 

 

 

 

「───任務完了(ミッションコンプリート)

その狙撃手(スナイパー)は天高く、漆黒の翼を広げていた。




GMの逆襲はビルドファイターズからパクりました()ジム頭って実際結構格好良いと思うのです。

そんな訳でフォースメフィストフェレスの試合でした。有効射程ですが、参考までに言うと狙えるかはともかくガンダムのビームライフルでも20kmらしいです。ガンタンクの砲撃は120kmだとか(は?)


リライズもクライマックスが近付いてきましたね。毎週楽しみで仕方がないです。
読了ありがとうございました!


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アンチレッド

 モニターを見ながら、カルミアは目を細める。

 

 

 フォースGMの逆襲のメンバー達とメフィストフェレスのメンバー達が、お互いの健闘を称えて握手を交わしていた。

 GBNのダイバー達はこのゲームを本気で楽しんでいる。勝った事も負けた事も、全て明日の糧にして。

 

 

 それは、これがゲームだからだ。

 負けても死ぬ訳じゃない。勝っても相手を殺す訳じゃない。

 

 本物のガンダムの世界と違って、この世界は笑顔で溢れかえっている。

 

 

 

「凄い狙撃だった。次は負けないぜ! 俺達を倒したんだから、決勝までは行ってくれよな!」

「勿論そのつもりですわ!」

 ───だから、彼はこの世界が許せない。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ノワール達が帰って来た姿を確認して、ロックは軽く手を上げた。二人は目が合うと、お互いに口角を吊り上げる。

 

 

「まずは一勝ずつだな」

「次の次だ。態々確認する必要もない」

「お疲れ様! アンジェリカさん、スズちゃん!」

 視線の間で火花を散らす二人の脇で、ユメはアンジェリカとスズに笑顔で詰め寄った。

 

「凄かったよ! スズちゃん!」

「……あ、あのくらい出来る」

 苦笑い気味のスズはアンジェリカに助けを求めて視線を送るが、当のアンジェリカはトウドウと話していて構ってくれそうにない。

 

 

「格好良かった!」

「そ、そう。……あ、アンジェ───」

「トウドウ、次の試合の相手の情報が欲しいですわ」

 アンジェリカは助けを求めるスズの声が聞こえていなかった訳ではないが、あえてスルーを決め込む。

 次の試合の対戦相手の情報が欲しいというのもあるが、本音は面白そうだから放置しているだけだ。

 

 

「な……ぁ」

「ねぇねぇ、どのくらいの高さまで飛んでたの? 成層圏って殆ど宇宙みたいな場所でしょ? GBNの空ってそんな所まで続いてるの?」

 そんなアンジェリカの反応にスズは絶望して固まってしまう。もはや煩く付き纏ってくるユメに構うしかないのだ。

 

 

 

「次の対戦相手か、それなら丁度今から試合が始まるようだな。この試合で勝った方が次の対戦相手になる」

 一方でアンジェリカの問い掛けにトウドウはそう答える。モニターには丁度始まる試合が映し出されていた。

 

 

「フォースアンチレッドVSフォース西中水泳部、か。西中水泳部って……まぁ、そういう繋がりなんだろうな」

「そういう繋がりを名前にするのは、良いと思う」

 苦笑いするロックの隣でケイは微笑ましそうにモニターを見る。カルミアはそんな二人をどこか遠い目で見ていた。

 

「アンチレッドっすか……こっちは怖い名前っすね」

「赤色はガンダムでは特別な色ですわ。その色を着ける程の実力者なら、実物ですわね」

 モニターには二チームの機体がズラリと並んでいる。

 

 

 西中水泳部の機体は、やはりと言うべきか全て水陸両用MSだった。アッガイ、ズゴック、アビス、マーメイドガンダム、アトラスガンダムの面々が並んでいる。

 対するアンチレッドの機体はイージス、サザビー、ゴトラタン、ジンクス、キュベレイと赤い機体達だ。ジンクスとキュベレイは赤い機体もあるが、彼等が使っているのは元々灰色や白だった機体を赤く塗った機体のようである。

 

 

「あれはプルツー用キュベレイMarkIIではなくて、ハマーンが使っていたキュベレイを赤く塗ってあるっすね」

「ジンクスもそれっぽいな」

 ニャムとロックはそう言いながら横目でカルミアを少し見た。彼の機体も偶然か赤い。

 ロックの機体はメフィストフェレスの面々と同じく黒い。ただその小さな繋がりが面白かったりするのである。

 

「……お、おじさんも赤は好きよ」

 そんな事を知ってか知らずか、カルミアは苦笑いしながらモニターに視線を移した。

 

 

「セイヤ……」

 その視線の先で、赤いキュベレイが飛び立つ。

 

 

 

 ステージは奇しくも氷河地帯で、陸と海からなる戦場だった。丁度アトラスガンダムが原作で活躍する話と似たようなフィールドである。

 

 フォース西中水泳部はこぞって水面に移動し、各々の得意な海中に身を潜めた。

 対するアンチレッドの機体は、地上戦闘の為にサザビーとキュベレイがファンネルを使えない。ランダムステージとはいえ、西中水泳部が大きく有利な戦場となっている。

 

 

「この戦い貰ったな!」

「あぁ、ツキは僕達にある!」

「───そら良かったなぁ……大好きな水の中で負けられるんだ」

 海面上に、アンチレッドの機体二機が飛んでいた。ファンネルを使ったオールレンジ攻撃が得意なサザビーとキュベレイである。

 

 

「海面上、二機居るぞ!」

「水中に居れば怖くねぇ!」

 西中水泳部は海面上に映る二つの赤い機体を見ながら息を飲み込んだ。どちらにせよ戦わなければバトルには勝てない。

 相手は二機だけとはいえ、こちらもまだ始まったばかりである。リーダーであるアトラスガンダムを駆るダイバーは、少しだけ考えて行動に出た。

 

 

「アッガイ、ズゴック、アビスの魚雷ミサイルで先制攻撃を仕掛けるぞ! 集まって一気にお見舞いしてやれ!!」

 リーダーの命令で、三機は集まってミサイル発射管を海面に向ける。

 

「撃て!」

 そう言うが早いか───海面上からアッガイ達の頭上に何かが大量に降ってきて、五人は一瞬固まった。

 

 

「───これ、まさか」

 誰かがそう言った、刹那。

 

 

「海の藻屑に消えろ」

 海面に沈んだ数個の()()()()()が、アッガイとズゴックを文字通り蜂の巣にする。爆散する事はなかったが、二機は操作不能に陥って海面に沈んでいった。

 

 

「ファンネルだと!?」

 驚くのも無理はない。ファンネルは本来地上では使えない武器である。

 否───正しくは重力化では真空中のように制御するのが物理的に不可能なだけだ。

 

 ReBondと砂漠の犬との戦いでカルミアはインコムを接地型の罠として使用している。それと同じ事だ。

 ただ同じではない事といえば、水中は地上と違い浮力が生まれるという事である。

 

 それが何を意味するのかというと───

 

 

 

「まだ来るぞ、逃げろ!」

「うわぁ!?」

 ファンネルがマーメイドガンダムの頭部を掠った。

 

 ───地上で放出すればただ落下するだけのファンネルも、水中ならば緩やかに海底に沈む内に方向転換レベルの制御なら可能という事である。

 

 

 

「離れろ! 離れればあのファンネルは追ってこれない!」

「アッガイとズゴックが!」

 なんとかファンネルの射程から離れた三機だったが、操作不能の二機はただ沈んでいく事しか出来なかった。

 いくら水陸両用MSといえど、損傷した状態では海底の水圧には耐えられないだろう。

 

 

「た、助けてくれリーダー! 溺れる!」

「潰れる! 嫌だぁ!」

 そしてアッガイとズゴックは徐々に拉げ、潰れながら爆散した。

 

 

「惨めなやられ方だな」

「なんだと……ふざけた倒し方しやがって! トドメを刺してやれば、あんなやられ方しなくても済んだのによ!!」

 突然入ってきた通信に、アビスのパイロットが眉間に皺を寄せながら浮上する。

 

「待て、早まるな!」

 リーダーが言うよりも先にアビスが海面に出た。その直後、赤い影が海面からアビスを掴んで攫っていく。

 

 

「ぬわぁ!? なんだ!?」

 海面上で、赤い機体が四本の脚でアビスを上空に持ち上げていった。まるで四本脚のタコのようにも見えるその機体の名は、イージス。

 

 ガンダムSEEDに登場するストライクのライバル機ともいえる機体である。

 

 

「イージス!? しまった……畜生! 離せよ!」

 アビスのコックピットが赤く光った。変形したイージスは四本脚の付け根にはスキュラビーム砲が装備されている。

 捕獲されている状態でこの攻撃を交わす事は出来ない。

 

 ───赤い光が、アビスの頭部を吹き飛ばした。

 

 

 

「外した? いや、なん───うわ!?」

 頭部をスキュラで吹き飛ばされたアビスを、イージスはMS形態に変形して両手足のビームサーベルで切り刻む。

 頭を吹き飛ばされ、手足とスラスターをバラバラにされたアビスはそのまま海面に叩き付けられた。

 

 

 

「あのイージス……」

「ユメ? どうかしたのか?」

「あ、ううん。なんでもない」

 そんな戦いを見ている中、無意識にそんな言葉がユメの口から漏れる。ただ、彼女自身もなんでそんな事を言ったのか分からなかった。

 

 

 

 試合はそんな事も関係なく進む。

 

 

「また……」

 動体以外がまともに残っていないアビスは、アッガイ同様に海面に沈んでから爆散した。

 

 彼等はその名の通りとある中学校の水泳部に属している。

 そんな彼等が海で溺れて死ぬなんて、考えてもいなかった。

 

 

「僕達の海で……こんな」

「ここは本物の海じゃない」

 唐突に、赤いキュベレイが海中に潜ってくる。あまりに突然な事に残る二人は反応出来ずにマーメイドガンダムは背後を取られていた。

 

 

「ひぃ!?」

「この世界は作り物だ。お前達には本物の水があるだろう。……なんでこんな作り物の水を楽しむ」

 キュベレイのパイロットはそう語り掛ける。アトラスガンダムのパイロットであるリーダーは、少しだけ考えてこう口を開いた。

 

「そんなの、俺達はガンダムが好きで……同じくらい泳ぐのが好きだからだ! このゲームが楽しいからだ!」

「人殺しのゲームが楽しいか?」

「このゲームはお前達みたいな倒し方で遊ぶ人殺しのゲームじゃないだろ!」

「いや、このゲームは人殺しのゲームだ。……GBNは人殺しだ!!」

「な、何を言って───」

 キュベレイがビームサーベルを抜く。近くにいたマーメイドガンダムは一瞬でダルマにされて、他の機体と違わず深海に沈んでいった。

 

 

「……フラッグはお前か。丁度いい」

「……っ!」

 アトラスガンダムはスラスターを吐かせて、一気に海中から離脱する。このままではやられる───そう感じてしまったのだ。

 

 

 

「なんなんですの、あの戦い方!」

「相手の心を折って精神的有利を作ろうとしているのか……。アトラスを海上に炙り出す揺さ振りにしては大袈裟過ぎるが」

 不満そうなアンジェリカにトウドウはそんな言葉を漏らす。この試合で勝ったチームが、次のメフィストフェレスの対戦相手だ。

 

「……何が来ても撃ち抜くだけだ」

 スズは静かにそう言って、モニターに視線を映す。バトルは終わりを迎えようとしていた。

 

 

 

「この!!」

「どうした水泳部。お前の本当の居場所はどこだ?」

 アトラスガンダムはその性能上水陸だけではなく空戦闘能力も高い機体である。

 

 しかし、地上には今相手をしているキュベレイ以外にも四機のMSが待機していた。

 完全に嵌められたのだろう。

 

 

「どうしてそんな事を言うんだ!」

「GBNは人殺しだからだ! このふざけた世界を俺が壊す!!」

「何を言って!!」

 ビームサーベルが交差した。火花が散る中で、キュベレイのパイロットは不適に笑う。

 

 その背後から、再びファンネルが放たれた。しかしここは重力化である。ファンネルは重力に触れて海に落ちていった。

 その途中で───

 

 

「だから俺が、GBNを殺す」

 ───ファンネルは空中で一斉に発射される。

 

 制御出来ないファンネルは滅茶苦茶な角度ではなたれた。それは、アトラスガンダムをキュベレイごと撃ち抜く程に出鱈目な射撃である。

 二機共に全身を撃ち抜かれて、キュベレイはアトラスガンダムを道連れに海中に落ちていった。

 

 

 

「俺が……溺れる? い、嫌だ……嫌だ!」

 泳ぐ事が好きな彼等にとって、たとえ仮想世界の水中だとしても溺れる事は耐えられないだろう。

 彼等にとってこのバトルは()()()()になるに充分だった。

 

「そうだ。この海でお前は溺れる。現実ならそんな事ないだろう? こんなゲーム……辞めちまいな。……この世界の海に、いや───この世界に自由はないんだよ!!」

 アトラスガンダムとキュベレイは、GBNの静かな海面で水圧に潰されて爆散する。

 

 

 フラッグ機アトラスガンダム撃沈。

 

 WINNER FORCE アンチレッド

 

 

 

 彼の復讐が幕を開けた。




午前2時まで添削されずに更新されていました。深くお詫び申し上げます。


遂に出て来た物語の鍵となるフォースアンチレッドの試合でした。今後の展開もお楽しみ下さい!


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大人の役目

 少年達は泳ぐのが好きだった。

 海でも川でも、プールでも。とにかく水の中にいるのが大好きで、GBNの水中で見る景色も本当に好きだったのである。

 

 ただ、沈んでいく機体の中で───

 

 

「溺れる……」

 ───少年達はGBNの不自由な海に恐怖した。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 会場は少しだけ騒ついている。

 

 

 アンチレッドと西中水泳部のバトルは、アンチレッドの圧勝に終わった。

 しかしそのバトルは、燃える物とはいえない。酷く冷たい内容だったと言える。

 

「GBNが人殺しって……どういう事?」

 驚いたような表情のユメがそんな言葉を漏らした。ケイやロックにはその意味がまるで分からない。

 

 

「なんなんですの、あのチームは」

「とにかくデータは取った。俺は作戦を練る」

 アンジェリカの言葉に答える事なく、トウドウは少しこの場を離れる。残った十人は微妙な雰囲気のままモニターを眺めていた。

 

 

「人殺し、ねぇ」

「おっさん、なんか知ってんのか?」

「ぇ、あーいや? 別に」

「ん?」

 カルミアの言葉に少し引っかかるロックだったが、正直な所GBNがなんだという話には興味がない。

 ロックの中での今一番の目標はメフィストフェレス───ノワールとの再戦である。

 

 だから、()()()()()()()()()相手の事はどうでも良かった。

 

 

「あんなのに負けんなよ」

「当たり前だ」

 ロックの言葉にノワールは短く返事をする。ただ、ノワールは少しだけモニターを睨んだ。

 どちらにせよ次に戦う相手は弱い相手ではない。手に力が入る。

 

 

「人殺し……」

 ただユメだけは、その言葉がずっと気になっていた。

 

 

 GBNでは乗っている機体が爆発しても死にはしない。これはゲームだから、自由な世界だから。ならその言葉の意味は? 

 

 

「難しい顔してるな」

「ケー君?」

「大丈夫、このゲームで人は死なないし。その……ユメは俺が守るから」

 最後だけ目を逸らして言うケイに、ユメも顔を赤くしてそっぽを向く。そんな二人を見て目を細めるロックとノワール。

 

 

 

「うーむ、そろそろ自分達の第二試合っすね。気持ちを切り替えて行きましょう!」

 そんなニャムの言葉で五人はメフィストフェレスの面々と別れて作戦会議に移る事にした。

 

「お前」

「スズちゃん? えーと、私ユメだよ」

「……な、名前は良い。えーと……ユメ」

「何?」

「……負けるな」

「勿論!」

 スズに拳を向けたユメも、一度自分の頬を叩いて気持ちを切り替える。今は次に進む事が大切だ。

 

 

 

 試合が始まる。

 

 

 ステージは山岳地帯。フォースReBondはフラッグ機をニャムの機体に設定し、山の麓付近で集まっていた。

 

 ケイのストライクBondはクロスボーンストライカーを装備、ユメのスカイグラスパーはダブルオーストライカーを装備している。

 山の中では射撃戦が有効ではないのと、山岳で空を飛ぶMAがトランザムを使えればいざという時の機動力を確保出来るからだ。

 

 

「ニャムさん、今回も頼むぜ」

「了解。任せて下さいっす!」

 ロックの言葉にニャムは気持ち良く返事をする。彼女の機体はその赤銅色の機体の膝を落とした。

 

 

 今回の大会で彼女が選んだ機体は、アッガイである。

 しかしただのアッガイではない。機動戦士ガンダムサンダーボルトに登場する、ダリル・ローレンツ専用のアッガイだ。

 

 通常のアッガイとは違い頭部にセンサーバイザーを装備、左腕は展開式のセンサーアームに切り替わっている。

 このアッガイはその装備により敵の索敵に適した機体だ。それにより、第一試合では七色の七連星の機体の動向を確認してReBondを勝利に導いている。

 

 

 

「スコープをセンサーバイザーとリンク! レーダー通信を行うっす!」

 ニャムのモニターにステージの地形と丸い点が十個映った。この丸い点がMSの位置を意味している。

 

 ニャムを中心に四つの丸い点は、フォースReBondの仲間の機体だ。

 敵の機体は山岳の西と東で二機ずつが二手に分かれている。残りの一機はステージの端で一機だけ孤立していた。

 

 

「どう見るっす?」

「敵さん、二機ずつで索敵してるんじゃないかねぇ。……となると」

「奥で孤立してるのがフラッグ機か?」

 ニャムの問い掛けにカルミアとロックがそう答える。

 

 

「余程自衛に自信があるか、隠れていれば大丈夫と思っているのか。……どちらにせよレーダーを見る限りジブン達が気が付かれていないのは確かっす。状況は有利。問題はどうアクションを起こすか」

「五人で固まって二機ずつのチームを叩くか?」

「五対二ならほぼ間違いなく勝てると思うっすけど、時間を稼がれて残りの二機と合流されたらフラッグ機のジブンが戦場にいるのは不味いかもしれません」

 ロックの提案にニャムは反対気味に言葉を漏らした。前回のバトルでは相手が固まっていて一掃出来たから良いが、今回は合流されるという可能性もある以上出来るだけ無理はしたくない。

 

 

「カルミアさんにニャムさんの護衛を任せて、三人でフラッグ機を倒してくるっていうのはどうかな?」

 続いて提案を出したのは意外にもユメである。彼女の言葉にカルミアは「はい?」と顔を丸くした。

 

「なるほど、ぶっちゃけそっちの方が早いか」

「俺達三人でも相手が一機ならなんとかなるかもしれないけど、相手がニャムさん達を見付けたら時間勝負の賭けになるかもしれないぞ?」

 ロックの肯定にケイは顎に手を当てながら声を漏らす。相手よりも有利な状況が作れるが、その分失敗した時のリスクが大きい事にケイは懸念していた。

 

 

「カルミアさんがニャムさんを守ってくれている内に、私達が頑張って倒せば良いと思うんだよね。相手の位置が分かっている以上、先に仕掛けられるのは私達だから」

「それは確かに……」

「あ、ご……ごめんねケー君。戦力外みたいな私がこんな事勝手に───」

「いや、ユメの言う通りだ。それに行動するなら早いに越した事はない」

 謝るユメを静止しながら、ケイはカルミアに「お願い出来ますか?」と、問いかける。

 

 

「出来ますかって言われてもやるしかない訳だけどね。……皆さ、おっさんを信用し過ぎじゃない? おじさんは皆にとって本当に見ず知らずのおっさんなのよ?」

「そんな事ないです!」

 カルミアの言葉にユメは大声を出して抗議した。ロックとケイも、それに「そうだ」「そうですよ」と続く。

 

 

「カルミアさんは私達の大切な仲間ですから。物凄く強いし、信用も信頼もしてます! ね、二人共」

 続くユメの言葉に二人は勢い良く首を縦に振った。ここまでされると、カルミアは何も言えない。

 

 

 

「そんじゃ、作戦は決まりだ。行くぞお前ら、俺達幼馴染組で敵フラッグ機を叩く!! おっさん、ニャムさんの事任せたぜ!!」

「ぇ、ちょ、マジかい」

 カルミアの言葉を聞く前にロックは先走って先行する。苦笑い気味のケイも「カルミアさん、お願いします」と言いながらストライクBondのスラスターを吹かせた。それにユメも続いていく。

 

 

 

「若いなぁ……。将来が心配よ」

「若い子はあのくらい元気なのが丁度良いんすよ。カルミア殿は迷惑に感じてるっすか?」

「いや、別にそう言う訳じゃないんだけどもね」

「それとも自信がないとか?」

「そう言われると、おじさんも引き下がれないけどさ。……それでも、そんな簡単に他人を信用するのはどうよ。相手の本当の顔も見れないGBNでさ」

 カルミアのその言葉にニャムは少しだけ思考を巡らせた。彼の言う事はごもっともである。

 

 この世界は現実の世界ではない。彼の言う通り、ニャムのこの世界での姿と現実の姿は似ても似つかない程違うのだ。

 こうして面と向かって話しているように見えて、相手は顔も知らない他人なのである。

 

 

「ユメちゃん達は顔も名前も知らない、初めて会った時とんでもない無礼をしたジブンの兄を探す手伝いをしてくれてるっす。根本的に優しくて、純粋なんすよ。純粋に、このGBNを楽しんでる……そんな子供達を守るのはジブン達大人の役目では?」

「……ニャムちゃんさ、何歳?」

「……秘密っす」

 目を逸らすニャムにカルミアは「ま、知ってるけど……」と小さく溢した。

 

 

 

「タケシ、敵は確認できたか?」

「ロックな。あぁ、多分アレだ。ラファエルガンダム……か? ちょっとカスタマイズしてある」

 ニャムからのレーダーを頼りに敵に見付からないように進行したケイ達は、孤立した敵機体一機をデュナメスHellのスコープで確認する。

 

 敵機体はデュナメスと同じく機動戦士ガンダムOOに登場する機体、ラファエルだ。

 同作品の劇場版でガンダムマイスターのティエリア・アーデが搭乗する最後の機体であるラファエルガンダム、特徴的なのは───

 

 

「よしユメ、作戦は良いな?」

「うん。ちょっと緊張するけど……頑張るね!」

「それじゃ、暴れるとしますか!!」

 ラファエルに接近する間に作戦を練ったケイ達は一気に速度を上げる。三機に気が付いたラファエルは、高濃度GN粒子によるビーム砲撃で迎撃態勢に入った。

 

 

「散開!」

 ケイが言うが早いか、三機はバラバラになってビーム砲を避ける。そのままストライクとデュナメスが挟み込むように、ラファエルの左右に回り込んだ。

 

 三対一で挟み込めば壮大な威力を持つビーム砲も怖くはない。

 二機が肉薄し、ラファエルに接近戦を仕掛けようとする。しかしその時───

 

 

 ラファエルガンダムのバックパックが分離、変形してもう一機のガンダムがその場に現れた。

 

 

「やっぱり分離したか……!」

 ───ラファエルガンダム、特徴的なのはバックパックとして変形しているセラヴィーガンダムIIである。

 

 

 これは分離、変形後にファンネルのように無人操作が可能でありこのラファエルガンダムは一機で二機分の戦力を補う事が出来るMSなのだ。

 

 

「設定上セーフだけどこのバトルのルールは五対五だってのに!」

 声を荒げるロックの前にセラヴィーが立ち塞がる。ケイはラファエルの牽制射撃に一歩引いて応戦した。

 相手はビーム兵器。ABCマントで強行突破も可能かもしれないが、ラファエルにはセラヴィーに続く奥の手もある。カスタマイズ機でもあり油断は出来ない。

 

 

「なんとか接近する……っ!」

 それでもやるしかないのだ。これは時間との勝負なのだから。

 

 ケイはクロスボーンストライカーのスラスターを目一杯吹かせる。ラファエルの牽制射撃を左右上下に交わしながら、遠回りでも確実にラファエルに肉薄した。

 

 

 しかし、ラファエルの周囲をオレンジ色の光の粒子が囲む。GN粒子を圧縮した防御壁、GNフィールドだ。

 これによりビーム兵器は拡散されてしまい、ラファエルには届かない。ビーム以外でも、イーゲルシュテルン等の低威力の実弾ではGNフィールドにかき消されてしまう。

 

 

「やっぱり短機でGNフィールドを使えるくらいにはカスタマイズしてあるか……っ!」

 せっかく接近出来たケイだが、GNフィールドを展開したラファエルに取り繕う隙はなかった。

 自前の武器でGNフィールドを突破出来るのは、実体剣であるアーマーシュナイダーぐらいだろう。しかし、それではリーチと攻撃力が足りない。

 

 

 

「こっちは抑えてるぜ!」

「分かった、作戦通りだな!」

 しかし、ロックもケイも慌てては居なかった。それどころか不適に笑いながら、ロックはセラヴィーを、ケイはラファエルを相手にしている。

 

 

 ───つまりそれは、彼等の仲間がもう一人フリーだという事だ。

 

 

 

「ユメ!!」

「───よーし、トランザム!!」

 ケイが声を掛けた瞬間、上空で待機していたスカイグラスパーが赤い光を放ちながら降下していく。

 ダブルオーストライカーを装備したスカイグラスパーは、その装備によりトランザムが可能になっていた。

 

 高濃度GN粒子を解放したスカイグラスパーは、赤く燃え上がりながら信じられない速度でラファエルに突撃していく。

 それに気が付いて銃口を持ち上げるも、その銃口はストライクBondのABCマントに阻まれた。

 

 

 

「いっけぇぇ!!」

 ユメが叫んで、刹那。

 ダブルオーストライカーのGNソードIIを機体の下に突き出したスカイグラスパーが、ラファエルのGNフィールドを貫通して機体を斬り裂く。

 

 少しの間の後、ラファエルガンダムは三つに分かれながら爆散した。三人は同時にガッツポーズを決める。

 

 

 

 フラッグ機ラファエルガンダム撃沈。

 

 

 WINNER FORCE ReBond

 

 

 

 

「大人の役目……か」

「カルミア殿?」

「俺は一体……何をしてるんだろうな」

 フォースReBond、第二回戦突破。

 

 

 

「やったな、ロック。……さて、次は俺達の番だ」

「ReBondに続きますわよ。そして、あの試合の雪辱を果たしますわ!!」

「頑張りまーす!」

「頑張ろーう!」

「……私はただ、敵を撃つ」

「ステージが決まるぞ。作戦会議だ」

 続くフォースメフィストフェレスの試合、その相手は───

 

 

 

「俺の復讐はまだ始まったばかりだ」

 ───フォースアンチレッド。

 

 

「行くぞ、()()()

「はい」

 そこに、一人の少年が居た。




リライズが熱過ぎる(‪無限回目)

頑張って続きます。ガンダムビルドダイバーズRe:bond。続きましては、ついにアンチレッドVSメフィストフェレスです。そのアンチレッドに気になる影が……?


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狙撃手の約束

 私は何も出来なかった。

 

 

 生まれ付き手も足もない。歩く事も、自分でご飯を食べる事すら出来ない。

 両親にはとても迷惑を掛けたと思う。こんな私は死んでしまった方が良いなんて思った事もあった。でも、私は一人じゃ死ぬ事すら出来ない。

 

 

 そんな私に、一人の女の子が手を伸ばしてくれる。

 

 初めましては父に連れてこられたプラモデルの展示展だった。

 これは完全に父の趣味だけど、家に私を一人で置いて行く訳にはいかない。だから連れて行って貰って、せめて迷惑を掛けないように私も出来るだけ楽しむ事にしようとしたのを覚えている。

 

 正直な所、あまり興味はなかった。

 だけど父と話している間に、プラモデルを作るのはとても難しい事だと知って───

 

 

「これ……凄い」

「手が……ぁ、こ……こんにちわですわ! これは、私が作ったんですのよ!」

 その女の子は私の姿に少し驚いたようだけど、自分の作ったプラモデルをとても楽しそうに自慢してくる。

 本当に凄いと思った。私には何も出来ないから。

 

 そんな話をしたら、彼女は私を誘って突然アニメを見ようと言ってくる。

 

 

 そのアニメでは、手足を失った兵隊さんがそれでもなお大切な人達の為に戦っていた。

 

 

 リユース・P・デバイス。

 サイコザク───そのパイロット、ダリル・ローレンツ。

 

「手足なんかなくたって、やろうと思えばなんでも出来ますわ! あなただって、私のガンプラを凄いと見抜く素晴らしい眼力の持ち主ですのよ!」

 感動して、泣いたのを覚えている。

 

 

「だからあなたには、私が力を与えますわ。……だからあなたは───スズは、笑って」

「スズ……?」

「はい、それが新しいあなたの名前ですわ。私の作った最強のガンプラを使って最強のバトルをする。さぁ、スズ───立ってごらんになって!」

 彼女は力をくれた。

 

 

 私はただ、憧れのあの人のように───彼女の為に戦う。それだけだ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 歓声の中で、拳を持ち上げる少女が一人。

 

 

「勝てたぁぁ!!」

「落ち着け落ち着け」

「だってこれで次はまたスズちゃん達と戦えるんだよ!」

 いつも以上に興奮しているユメを宥めるケイ。フォースReBondは無事に二回戦を突破して、三回戦進出を成し遂げる。

 

「それはメフィストフェレスの皆が勝ち上がってから喜ぶ事だけどな」

「ま、ノワール達なら大丈夫だろ」

「彼等の実力はジブン達が一番知ってるっすからね」

 ロックとニャムの言葉に「それもそうか」と頭を掻くケイ。そんな彼等をカルミアは目を細めて、ただ黙って見ていた。

 

 

「勝ち上がってきたか」

 そんな五人の前にトウドウが姿を表す。他のメフィストフェレスのメンバーはもう試合前のミーティングだ。

 喝を入れてやりたかったロックだが、こればかりは仕方がないだろう。

 

 

「当たり前だぜ。お前らもとっとと上がってきな」

「勝利は約束された物ではない。俺達は全力を尽くすだけだ。……ただ───」

「ただ?」

 トウドウの控えめな言葉にロックは眉間に皺を寄せた。その横で、ケイはメフィストフェレスの対戦相手の事を思い返す。

 

 

 水中戦が得意な機体が集まったフォースを、水中戦で完封したフォースアンチレッド。

 あのバトルだけでは実力も計り知れない。戦い方はともかく、強敵である事は間違いなかった。

 

 

「───いや、俺達は勝つ。そこで見ていろ、フォースReBond」

 言い掛けたトウドウはしかし、その言葉を飲み込んで確かな自信を口にする。同時にモニターにはバトルの様子が映し出された。

 

 

「ステージは……」

宇宙(そら)か……」

 映し出される広大な宇宙。ケイ達はその光景を見てアンチレッドの機体二機を思い出す。

 

 

 ファンネルを使う、二機の機体を。

 

 

 

 

 宇宙で、静かな吐息だけが聞こえていた。

 自分の吐いた息を感じる。これがゲームだという事を忘れそうだ。

 

 

「……狙うはファンネル持ち」

 サイコザクレラージェに搭乗するスズは、この広大な宇宙をビームスナイパーライフルのスコープで覗き込む。

 

 ステージは宇宙空間。東西南北も上下左右もない無重力だ。

 撃破された戦艦や隕石等の漂流物こそあれど、この広大なフィールド全てを───ほぼ障害物なしで確認する事が出来る。

 

 それは狙撃手にとって最良の環境だった。

 

 

 

 49.8km。これはスズのサイコザクの有効射程である。

 

 本来、地球上で人間が立って目視出来るのは5km程だ。それは視力の問題ではなく、地平線の問題である。

 球体である地球上では、観測者からして鉛直線に垂直な平面より先を観測する事は出来ない。

 

 簡単に言えば地平線より先にある物は山の後ろに隠れているのと同じような物なのだ。

 

 

 地平線は観測者の高度によっても変わるが、サイコザクレラージェが地面に立ってそのモノアイから観測してもせいぜい16kmしかない。

 

 49.8km。これは地平線を無視すれば沖縄本島の中心から、両端までを全て狙撃可能という事である。

 

 

 

 それが何を意味するのか。

 

 

 

 この広大な宇宙に地平線という何よりもの障害は存在しない。つまり、この状況では例外なくサイコザクレラージェより49.8kmがスズの───サイコザクレラージェの有効射程(キリングレンジ)だ。

 

 

 

「スズ、試合が始まったら一番初めに落とすのはファンネル持ちのサザビーかキュベレイだ。出来る事ならキュベレイを落とせ」

 数分前の事を思い返す。作戦会議で、トウドウはスズにそんな指示を出していた。

 

「宇宙ならファンネルが使えるからね!」

「僕らではファンネルを対処は難しい!」

「確かにサイコザクレラージェではファンネル機体に対応するのは難しいですわ。トウドウの言う通りにしましょう」

 いかなレフトとライトの力でサイコザクの機動力を上げても、元の重武装も相まってオールレンジ攻撃を避けるのは難しい。

 

 その点も考慮して、今回フラッグ機はノワールの担当になる。スズは接近される前に、出来るだけ敵を倒すのが仕事だ。

 

 

「多分真っ先に狙われるのはスズだろう。俺は今回守ってやる事は出来ない」

「大丈夫。アンジェに奥の手も用意して貰った。……私は、出来るだけ多く相手を屠る」

「奥の手?」

「あ、あはは……。私は乗り気じゃなかったんですのよ? でもスズがどうしてもと言うから」

 困り顔のアンジェリカに、スズは内心で謝る。しかし、どうしても彼女は戦果を上げなければならなかったのだ。

 

 

 大切な人の為に。

 

 

 

「───ジンクスとサザビーを捕捉した。私がサザビーをやるから、逃げるだろうジンクスは任せる。アンジェ、ポイントEに」

「分かりましたわ!」

 スコープの内に敵の機体を捕捉したスズは、アンジェの返事を聞いて直ぐに引き金に指を掛ける。

 自分の吐息が邪魔だと思って息を止めた。引き金を引く。

 

 

 サイコザクレラージェからサザビーまでの距離は39kmあった。しかし、放たれた光は文字通り光の速さで進んでいく。

 引き金を引いた刹那、既にサザビーの胴体の中心には大穴が開いていた。メインジェネレーターが誘爆し、サザビーは何もする事も出来ずに爆散する。

 

 

「次……!」

 スズは直ぐに再びスコープを覗き込んだ。敵のジンクスはサザビーの撃破後素早く射線上から近くの隕石を影に姿を消す。

 

 

「……そこまで甘くないか。レフトとライトは周囲の警戒。位置はバレてる。多分、来る」

 宇宙空間の狙撃は障害物がないが、それは相手からも同じだ。弾が何処から飛んで来たのかが丸見えなので、こちらの位置は直ぐにバレてしまう。

 だからこそアンチレッドのジンクスは直ぐに射線上から離れる事が出来た。スズは唇を噛みながらスコープを覗く。

 

 

「一機でも多く……」

 その指先は少し震えていた。

 

 

 

 

「凄い! 凄いよスズちゃん!」

 スクリーンモニターで試合中継を見ていたユメは、スズの狙撃を見て感激する。これが次の試合の対戦相手になるかもしれないという事を忘れているらしい。

 

「アンチレッドは残りジンクスとキュベレイとゴトラタンにイージスの四機っすね。宇宙ステージでファンネル持ちのサザビーを先に落とす事が出来たのは大きいっす」

「後はキュベレイか……」

 ニャムの言葉にケイは複雑な面持ちでスクリーンモニターに視線を移した。アンチレッドの第一回戦でのキュベレイの活躍が頭に浮かぶ。

 

 

 

 

「見付けましたわよ!!」

 一方、スズが取り逃がしたジンクスをアンジェリカが捕捉していた。彼女のゴールドフレームオルニアスはマガノイクタチからアンカーを放つ。

 四つのアンカーがジンクスを絡め取った。ジンクスは迎撃しようとライフルを放つが、アンジェリカは相手を引っ張るように機体を揺らしながら攻撃を避ける。

 

 そうして彼女の機体はジンクスを隕石の影から引き摺り出そうとした。そうすれば、後はスズがこれを狙撃するだけである。

 抵抗しようとするも、アンジェリカのゴールドアストレイのスラスターの出力はジンクスの機動力を上回っていた。

 

 

「貰いましたわ! このまま引っ張り上げて、スズの狙撃───え!?」

 しかし、ジンクスは突然抵抗を止める。それどころか、ジンクスの方から突進してきた。その機体は赤いGN粒子に包まれて、機体を赤く染めている。

 

 

「トランザム!? でもその速度で突進して来たら───」

 ジンクスは速度を落とさず、そのままアンジェリカのゴールドフレームに激突した。ジンクスは自爆する形で撃墜されたが、ゴールドフレームも無傷という訳にはいかない。

 

 ジンクスの特攻によりゴールドフレームオルニアスも大きく損傷し、撃墜まではいかなかったがほぼ行動不能に追い込まれてしまう。

 

 

「な、なんですのよ! なんですよの! もう!!」

 操縦桿を無茶苦茶に回すアンジェリカだが、機体はいう事を聞いてくれなかった。しかし、これで実際の所戦力差は五対三である。

 

 

 

「……アンジェが行動不能。残り三機。相手は───」

「スズさん、敵の反応!」

「スズさん、敵が来た!」

 スコープを除くスズの耳に二人の声が同時に響いた。レーダーを確認すると、敵の反応が二つある。

 

「一度目の狙撃で死角を抜かれた……?」

 彼女は目を丸くしてレーダーをもう一度確認した。たった一度の狙撃で、こちらの位置から狙撃出来ない障害物の間から敵に接近を許したのである。そんな事、信じられなかった。

 

 

「迎撃準備。ここの二機を落とせば、後一機……隠れてる奴がフラッグだ。死んでも道連れにする……!」

「了解だよ!」

「OKだよ!」

 スズのサイコザクレラージェはビームスナイパーライフルを捨てながら、バックパックに背負っていたビームバズーカとザクマシンガンを両手に持つ。

 さらにバックパックのサブアームが稼働。ザクバズーカ、ザクマシンガン、ゲシュマイディッヒ・パンツァーをそれぞれ二基ずつ展開した。

 

 まるで要塞のような重装備である。ケイのストライクBondも、この圧倒的な物量に苦しめられた。

 

 

 

「レフト、しっかりね!」

「ライト、やってやる!」

「……こい。アンジェの夢を邪魔する奴は───全て叩き落としてる」

 背中合わせで集まる三機の黒いモビルスーツに、赤いMS二機が接近する。

 

 

 

 ───赤い閃光が走った。




お気に入り170人超え、評価17件ありがとうございます!アニメらクライマックスですが、拙作はこれからなので頑張ります!


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淡い光の奥で笑う

 全てが初めてだった。

 思い通りに動く手足に、自分とは違う存在になった筈の身体。

 

 

 それでも、GBN(ここ)現実(リアル)よりも自由な現実がある。

 

 

 

「うわ、だるま女」

 GBNにログインする前、ログインマシンの前でそんな事を言われた。

 ずっと言われてきた事だから、今更どうとも思わない。ただ、言葉を飲み込む。でも───

 

 

「なんですかその言い方は!!」

 ───でも、彼女は違った。

 

 

「本当の事じゃんか! そんな身体でガンプラバトルなんて出来るかよ!」

「そんな事ありませんわ! リンは───スズは、今からGBNを始めるんですのよ。やってみなければ分かりませんわ!!」

 そのまま喧嘩になって、ガンプラバトルをする事に。私は初め戸惑って「辞めよう」と提案したのを覚えている。

 

 

「……私は悔しいですわ。見た目だけで判断して、中身を見ない奴に言われっぱなしなのが悔しい。絶対に見返してやる! 女だからガンプラ作りが下手とか、リンちゃんみたいな身体だからガンプラバトルは出来ないとか───そんなの、私が覆してみせる!!」

 彼女は戦った。二対二のガンプラバトルで、初めてで右も左も分からない私を連れて、ボロボロになっても立ち上がる。

 

 

 そんな彼女の熱意に当てられて。そんな彼女の期待に応えたくて。

 

 

 

「───アンジェの作ってくれたこのガンプラは、私の本当の身体より自由だ」

「……スズ」

 私は、彼女の夢を邪魔する奴を───全部倒すと心に決めた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 宇宙を漂う。

 満身創痍のアストレイゴールドフレームオルニアスは、何もする事が出来ずにただ広大な世界を漂っていた。

 

 

「スズ……」

 その中で、アンジェリカは唯一無二の親友の名を呼ぶ。

 

「私は……ここにあなたを連れてきた事を、少しだけ後悔していますわ。……それでも、あなたは───」

 助けて欲しいという訳ではない。ただ、心配だった。

 

 

 

 赤い閃光がサイコザクレラージェとウイングゼロアビージ二機の間を貫く。

 強力なビーム砲。イージスのスキュラだ。

 

 変形したイージスに続いて、赤いキュベレイが頭上から接近してくる。相手は二機だけだ。

 

 

「……来た。散開、私がキュベレイをやる!」

 言いながらスズはサブアームと合わせて六つの武器を頭上に向ける。同時に放たれたビームと実弾は、広大な筈の空を覆い尽くすような数だった。

 

 

「ほぅ……」

 それを見て赤いキュベレイのパイロットは不適に笑う。そのまま接近すれば着弾は免れない。

 しかしキュベレイに実弾が当たる前に、直前に射出されていたファンネルのビームがザクマシンガンとザクバズーカのの弾丸を掻き消した。

 

 キュベレイはビームだけを避けながらサイコザクレラージェに接近する。

 

 

「そんな……っ」

 驚くスズだが、冷静にビームバズーカを捨てて左手でヒートホークを構えていた。放たれたファンネルのビームをゲシュマイディッヒ・パンツァーが捻じ曲げる。

 

 

「器用な事だな……だるまが!」

「……っ、何!?」

 接近を許したサイコザクレラージェのヒートホークと、キュベレイのビームサーベルが重なり合った。

 

 

 

「スズさん!」

 そんな光景にイージスを追おうとしていたレフトが反応する。続いてライトも視線をイージスからキュベレイに入れ替えた。

 

「その二機はお前がやれ───」

「……っ」

 キュベレイのビームサーベルが、サイコザクレラージェの左腕を切り飛ばす。スズは直ぐに右手のザクマシンガンを捨てながらヒートホークを拾って、続く攻撃に応戦した。

 

 同時に、サバアームのザクマシンがキュベレイに向けられる。腕とサブアームを同時に動かす繊細な動きにキュベレイのパイロットは眉間に皺を寄せた。

 しかしザクマシンガンが火を吐く直前、ファンネルのビームがザクマシンガンの銃口を焼き切る。弾丸が暴発し、二基のザクマシンガンは破裂して爆散した。

 

 

 

「スズさんをやらせるか!」

「スズさんはやらせない!」

 バスターライフルを向ける二人のウイングゼロアビージだが、その眼前にイージスが割って入る。

 邪魔だと言わんばかりに放たれたバスターライフルを、イージスは片腕とシールドを犠牲にして弾き返した。

 

「この野郎……ライト!」

「分かってる、レフト!」

 そんなイージスに向けて、二人はお互い左右にビームサーベルを構えて挟み込むように突撃する。

 挟まれたイージスはしかし、両脚に装備されたビームサーベルを展開。宙返りするようにして二人の攻撃を受け止めた。

 

「だけど!」

「これは!」

「「どうかな!!」」

 対するレフトとライトは、互いに左右に持っていたバスターライフルを中央で連結させる。対GMの逆襲で見せたツインバスターライフルの銃口が光った。

 

 この距離では避けられない。しかも、二人は射線上にキュベレイとサイコザクを並べるように銃口を向ける。

 これが決まればサイコザクもろともになるがキュベレイも落とす事が出来る筈だ。そうすれば、残る敵は一体。ここにフラッグ機が居ようが居まいが勝利に大きく近付く事になる。

 

 

 スズはそれを承知で、防戦一方な中壊れ掛けのサブアームを使ってキュベレイを一瞬拘束した。

 

 

「私ごとやれ、レフトライト……!」

「「いっけぇ! ツインバスターライフル!!」」

 ライフルが放たれる、その瞬間。

 

 イージスは宙返りしてサーベルを振り払いながら変形し、三本の足で二機の小さなガンプラに組み付く。

 その衝撃でバスターライフルの軌道はそれて、放たれた光はただ宇宙を駆けた。

 

 

「え!?」

「な!?」

 そして、二人の機体を掴んだイージスは突然淡い光を放ち出す。

 

 

 

 

 

「───アオト君、ダメ!!」

 戦いをモニターで見ていたユメは、無意識にそんな言葉を漏らしていた。

 そして言ってから「私……今、なんて?」と疑問を浮かべる。

 

 どうして、彼の名前が? 

 

 

 

 

 

 考える間も無く、イージスとウイングゼロアビージ二機を光が包み込んだ。炎の塊が広がる。

 イージスが自爆して、ウイングゼロ二機を道連れにしたのだ。

 

 これでメフィストフェレスの機体はゴールドフレームオルニアスを含めて三機、アンチレッドの機体はキュベレイとゴトラタンだけになる。

 

 

 

「レフト……ライト───」

「よそみしてる場合か?」

「───っ!?」

 驚きのあまり一瞬硬直したスズのサイコザクレラージェを、キュベレイのファンネルが襲った。

 

 なんとかゲシュマイディッヒ・パンツァーの反応が間に合い、直撃はしなかったが片足をビームが貫いてバランスを崩す。

 そうしてさらに動きの鈍くなったサイコザクレラージェの残った足を、キュベレイのビームサーベルが切り飛ばした。

 

 

「この……!」

 サブアームのザクバズーカを発射しながら距離を取ろうとスラスターを吹かせるスズ。

 しかし、赤いキュベレイはその図体の割に機敏な動きで距離を殺していく。スズはザクバズーカをキュベレイに投げつけながら、サブアームでもヒートホークを二本構えた。

 

「アンジェの邪魔はさせない!!」

「そういう台詞は出来る奴だけが言えるんだよ!」

 両手にサーベルを構えた赤いキュベレイは、回転しながら投げ付けられたザクバズーカを切り刻んで弾頭を誘爆させる。

 一瞬爆炎に視界を塞がれたスズの目に映ったのは、炎の中から発射されるファンネルのビームだった。

 

「こんなもので!」

 ゲシュマイディッヒ・パンツァーを前に突き出してビームを弾く。しかし、攻撃の本命はそれではなかった。

 

 

「キュベレイは!?」

 爆炎に飲み込まれたキュベレイの姿が見えない。ファンネルに気を取られた一瞬で姿を消したキュベレイが居たのは───

 

 

「背中がガラ空きだ……」

 ───背後。

 

 

「───しま……っぁあ!?」

 キュベレイの二本のビームサーベルがサブアームを全て切り飛ばす。両足も左手も失っているサイコザクレラージェに残されているのは右手とヒートホークだけだった。

 

 

「……っ、よくも……アンジェのサイコザクを!!」

「ゲームでもだるまにされる気分はどうだ……?」

「ぇ……」

 男の言葉に、スズの表情が歪む。

 

 ──うわ、だるま女──

 いつか誰かに言われたそんな言葉が頭の中で何回も響いた。

 

 

「お前の事は調べてある。名前はリン。産まれた時から両手足がなくて、一人じゃ何も出来ない可哀想な女の子だ」

「……ち、違う。私はスズだ。何も出来なくなんてない!」

 スラスターを吹かせてヒートホークを振る。しかし、そんな短調な攻撃は簡単に見切られてサイコザクレラージェに残された唯一の腕は宇宙を舞った。

 

 

「いや、お前は何も出来ない。この通り、お前はゲームでもだるまだ。一人じゃ何も出来ない。この偽物の世界で、本当の世界でやれない事が出来る訳ないだろうが!! 無駄なんだよ!! お前はどこにいっても、何も出来やしない!!」

「……っぁ」

 叩き付けられた言葉に、スズは瞳を揺らしながら自分の身体を抱く。震える腕の感覚が消えていくようだった。

 

 

「……やめ、て」

「お前には腕がない」

「やめて……」

「お前には足もない」

「やめてよ……」

「お前には何も出来ない」

「……やめ───」

「お前には───」

「俺の仲間を……侮辱すなぁぁぁああああ!!!!」

 二人の通信に、一人の青年の声が割って入る。気付けば、高速で接近する迅雷ブリッツの姿が肉眼で確認できる範囲にいた。

 

 

「ブリッツ、隠れていた奴がノコノコと……」

「……ノワール」

「スズから離れろ!! ゲスが!!」

 いつもは冷静なノワールが、声を荒げて全速力で突進してくる。そんな迅雷ブリッツの前に、近くに隠れていたゴトラタンが立ち塞がった。

 

 

「邪魔だ!!!」

 しかし、そんなゴトラタンをノワールの迅雷ブリッツはトリケロスツヴァイのブレードを展開して止まる事なく通り際に切り刻んで突破する。

 

 

「ほぅ」

 それを見たキュベレイのパイロットは文字通りだるまになったサイコザクレラージェを蹴り飛ばして、迅雷ブリッツのブレードを腕ごとサーベルで切り飛ばした。

 しかしノワールは残った腕でビームサーベルを振り、キュベレイの左腕を切り飛ばす。

 

 

「フラッグ機がノコノコと……」

「お前もそうだろう……!」

 ゴトラタンを倒し、残るアンチレッドの機体はキュベレイだけだ。このキュベレイさえ倒せばメフィストフェレスの勝利である。

 

 しかしメフィストフェレスも、ゴールドフレームオルニアスとサイコザクレラージェは撃墜こそされていないが戦力外だ。この戦いは実質的に迅雷ブリッツ対赤いキュベレイのフラッグ機体同士の戦いになる。

 

 

 

「どうしてスズにあんなことを言った!!」

「そう熱くなるなよ。言っただろう、俺はただ……GBNに復讐をするだけだ!」

 サーベルが重なり合って火花が散った。その火花に混じって、ファンネルが迅雷ブリッツを取り囲む。

 

 

「……くっ!」

 ノワールは即座にミラージュコロイドを展開した。ブリッツの姿は広大な宇宙に混じって消える。

 

 

「だから俺はGBNに固執する奴を片っ端から潰す。……これはその始まりに過ぎないんだよ!」

 不適に笑う男のファンネルが一斉に同じ方向を向いた。しかしそこに消えたブリッツがいる訳ではない。まさかと思ってファンネルの銃口の先を見る。

 

 ───そこにいたのは、抵抗する事も出来なくなったサイコザクレラージェだった。

 

 

「お前……何を」

「お前が隠れるなら、遊びの続きだ」

 ファンネルの銃口が光る。ビームがサイコザクを貫いた。しかし、撃破はされない。ギリギリ撃破されないように、ただ弄ぶようにサイコザクを攻撃する。

 

「嫌だ……なんだ……なんで…………私は……ぁぁっ」

 両手足もスラスターも、頭も破壊されて、スズは本当に何も出来なくなっていた。

 

 

「辞めろぉぉぉおおおお!!!!」

 激昂したノワールの迅雷ブリッツがキュベレイに迫る。しかし、待っていたと言わんばかりに放たれたファンネルがその迅雷ブリッツの両足を撃ち抜いた。

 そしてキュベレイのビームサーベルが迅雷ブリッツの手首と頭を切り飛ばす。ノワールは何が起きたのか分からずに、唖然として動けなくなっていた。

 

 

「……なん、だと」

 負ける。

 

 

 ──あんなのに負けんなよ──

 好敵手(ライバル)の言葉が脳裏に浮かんだ。

 

 

 ──私情に流されてチームの敗北に繋がるミスをする奴に、リーダーの資格はない──

 その好敵手に自分が言った言葉を思い出す。

 

 

 

 俺は何をしているんだ。

 

 

 

「お前はそこで見てろ、この一人で何も出来ないだるまがバラバラにされていくのをな。……まぁ、お前も何も出来ないんだけどな」

 キュベレイはゆっくりとサイコザクレラージェに近付いてビームサーベルを構える。その光の剣を、彼は少しずつコックピットに近付けた。

 

 

「泣き叫べ。もう二度とGBNにログインしようなんて思えない程の恐怖を思い知れ……」

「……ぁ、あ……ぁぁっ」

「スズ!!!」

 ノワールの声が彼女の頭の中で響く。

 

 

 ──だからあなたには、私が力を与えますわ──

 その声に誰かの声が混じった。次回の奥で、何かが光る。

 

 

 ──だからあなたは───スズは、笑って──

 大切な声だ。大切な人の声だ。

 

 

 ──はい、それが新しいあなたの名前ですわ。私の作った最強のガンプラを使って最強のバトルをする。さぁ、スズ───立ってごらんになって!──

 そうだ、私は───

 

 

「───私はリンじゃない!! ここに居る私は、アンジェの最高のガンプラで!! 最高のバトルをする!! フォースメフィストフェレスのスナイパー、スズだ!!!」

 レバーを回す。

 

 

 ──大丈夫。アンジェに奥の手も用意して貰った。……私は、出来るだけ多く相手を屠る──

 ──あ、あはは……。私は乗り気じゃなかったんですのよ? でもスズがどうしてもと言うから──

 彼女にはまだ奥の手が残されていた。

 

 それは両手足もサブアームも失って尚も使える、正真正銘の奥の手である。

 

 

 

「あ?」

「……アンジェの邪魔をする奴は───全員地獄に叩き落とす」

 サイコザクレラージェを淡い光が包み込んだ。

 

 それは、つい先程イージスを包み込んだ光と同じようで───

 

 

 

 自爆。

 それがサイコザクレラージェの最後の奥の手。

 

 

 

「落ちろ」

「そうかよ、それじゃ……仲良く死んでろ」

 ───そんなサイコザクを、キュベレイは即座に投げ飛ばす。

 

 

「───ぇ?」

「スズ……!!」

 宇宙を漂う自爆寸前のサイコザク。その近くには、ノワールの迅雷ブリッツが居た。

 

 

「……ぁ、嫌……違う。待って! ノワール、逃げて!! ごめん……ごめんなさい。違う、違うんだ……アンジェ…………嫌だ、嫌だ! 私が……私がアンジェの邪魔を……嫌だ…………ノワール!!!」

「……スズ、お前は悪くない。悪いのは───」

 手足も何もないサイコザクレラージェが止まる事は出来ない。そんなサイコザクレラージェを、ノワールは辛うじて手首から上が残っている迅雷ブリッツの腕で抱き抱える。

 

 彼女を突き飛ばす事も出来た。それで生き残る事も出来たかもしれない。まだ勝つ方法も残っていただろう。

 でも、それだけは出来なかった。

 

 

 

 爆炎が広がる。サイコザクレラージェと迅雷ブリッツは光に飲み込まれた。

 

 

 

 フラッグ機迅雷ブリッツ撃沈。

 

 

 

 ‪WINNER FORCE‬ アンチレッド

 

 

 

 

 

 ただ一人、戦場に残されたゴールドフレームオルニアスの中で。アンジェリカは強く手を握る。

 

 

 片腕を失った赤いキュベレイだけが、その戦場で笑っていた。




鬱展開は申し訳ないです。続くアンチレッドの復讐、次の対戦相手はフォースReBondだ。

展開が暗いのを払拭する為にイラストを描いてきました!

【挿絵表示】

ルナマリア・ホークのコスプレしたユメちゃんです。髪の色が絶妙に合わない。
本当は評価17件お気に入り170人の記念で描くつもりだったんですが、前回評価が入ってお気に入りも180人超えそう……。本当にありがとうございます。


そしてリライズ。マジで熱い。終わらないで欲しいけど、来週で終わりですね!!展開がたまらん。本当はリライズ終わる頃にはこの作品完結させるつもりだったのにまだまだ先になりそうです。リライズ終わってもReBondを宜しくお願いします……!!

それでは読了ありがとうございました。


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復讐

 どう声を掛けたらいいか分からなかった。

 

 

 双子の少年達も、悔しくてたまらない。

 だけど、目の前の小さな女の子はそれ以上の感情に飲み込まれようとしている。

 

「お、おかえりスズさん」

「が、頑張ったねスズさん」

 二人の言葉は届いたのか届いていないのか。スズは何も言わずにその場から消えた。

 

 

「あ、アンジェリカさん……」

「の、ノワールさん……」

 震える二人の声。アンジェリカは黙って俯いて、ノワールはゆっくりと崩れ落ちる。そして───

 

 

 

「うあぁぁぁぁぁああああああ!!!!」

 ───床を叩いて、青年は絶叫した。ただ、ただ……自分が情けなかった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 モニターから視線を動かさずに、ニャムは眉間に皺を寄せる。

 そんな彼女の隣で、ユメは何も言わずに振り向いた。ニャムは今にも走り出そうとしたそんな少女の肩を掴む。

 

 

「何処に行く気っすか? ユメちゃん」

「何処って……スズちゃんの所だよ!!」

「次の次がジブン達の試合っすよ」

「ニャムさんは今のバトルを見てなんにも思わなかったの!?」

 声を荒げるユメの肩を離すニャム。彼女は俯いて、しかしハッキリと口を開いた。

 

「ジブンはあの男と同じような事をしていた人間っす。……だから、ジブンが何を言っても説得力なんてないっすよ」

「ち、違……ニャムさんはあんな人とは───」

「同じっす。……だからこそ、許せない」

 彼女は震える程手を強く握っている。そんなニャムを見て、ユメは少しだけ落ち着いてその場に止まった。

 

 

「ジブンもそうだったように……ああいう奴は、ぶん殴って目を覚まさせるのが一番っすよ。ケイ殿がジブンにしてくれたみたいに」

「ニャムさん……」

「それに、これはメフィストフェレスの人達の問題っす。スズちゃんが今の戦いでどんな傷を負ったか、ジブン達なんかには計り知れない。……今は、彼等に任せた方が───」

 ニャムがそう言いかけた時、その場に居て黙っていたトウドウが視線を動かす。

 その先にはメフィストフェレスのアンジェリカにノワールとレフト、ライトの四人が立っていた。

 

 

「ノワール……」

 トウドウの呼び掛けに、彼は答えない。ゆっくりと俯いて歩くのが精一杯かのように、その瞳は光を失っている。

 

 

「あ、あはは。負けてしまいましたわ」

「アンジェリカさん……」

 唯一顔を上げて口を開いたのはアンジェリカだった。しかし誰が見ても分かるような無理矢理作った笑顔に、ケイは言葉を失ってしまう。

 

 

「あ、あの……スズちゃんは?」

 スズが居ない事に気が付いて、ユメはそんな言葉を漏らした。レフトとライトは気不味そうに視線を逸らす。

 

「ログアウトしましたわ。私が様子を見てきますので、ノワール達は後を頼みますわよ」

 アンジェリカの儚げな表情に、ユメは言葉を飲み込んだ。ニャムの言う通り、彼等の感情なんて計り知れない。自分にできる事なんてない。

 

 

「スズちゃん……」

 試合を思い出して、ユメは唇を噛み締める。彼女にとってスズは大切な友達の一人だった。ガンプラが、この世界が好きな───大切な仲間だと思っている。

 

 だから、何も出来ない自分が悔しかった。

 

 

「ユメさん」

 そんな彼女に、アンジェリカは優しく微笑みかける。

 

 

 

 

「スズの事を気に掛けてくれてありがとうですわ。でも、次の試合……最も気を付けなければいけないのはきっと貴方ですのよ」

「私……?」

 アンジェリカの言葉に首を横に傾けるユメ。それを聞いていたケイは、強く拳を握りしめた。

 

 

「あの赤いキュベレイの男、一回戦でも言っていたように何かGBNに恨みがあってこの大会に参加しているようですわ」

「GBNは人殺しだって……そう言ってたけど。でも、だからってスズちゃんにあんな───」

「彼の目的はきっと、GBNから人を離れさせる事。そんな事をしてどうするのから分かりませんが、スズの心情を知っていなければあそこまでの事は言えない。彼にはそれだけの目的がある」

 俯いてそういうアンジェリカ。その手が震えているのを見て、ユメは息を呑む。

 

 

「スズちゃんは……」

「大丈夫。スズは強い子ですから。私に任せて下さい」

 そう言ってから、アンジェリカはコンソールパネルを開いてログアウトボタンを押した。

 

 

「トウドウ、三人とReBondの方々を頼みましたわよ」

 彼女が残した言葉に、トウドウは無言で首を縦に振る。レフトとライトはともかく、ノワールは俯いて黙ったままだ。

 

 

 

「ごめん、トウドウ……。僕ら、何も出来なかった」

「僕ら、スズさんを守れなかったよ」

「……全員ベストを尽くした。誰も謝る必要はない」

 二人の言葉にそう返すトウドウ。しかし、彼の言葉にノワールは拳を強く握りしめて歯を食いしばる。

 

 

「俺は……!! ベストなんて尽くせてない……」

「ノワール……」

 突然声を上げるノワールに、トウドウはどう声を掛けて良いか分からなかった。

 彼はこのメフィストフェレスのリーダーである。試合に負けた事も、スズの事も背負わなければいけない人物だ。

 

 それでも、彼を責める事なんて出来ない。

 

 

「俺は……スズを守ってやれなかった。俺は、リーダーとしてチームを勝利させる事が出来なかった。……感情に任せて突っ込んで、皆が作ってくれたチャンスをドブに捨てた!!」

 蹲って地面を殴り付ける。

 

 ここはGBNで、電脳世界だ。殴り付けた拳に痛みは無いだろう。しかし、彼のその姿はとても痛々しい。

 

 

「俺は……リーダー失格だ」

「んな事あるかよ!」

 蹲っていたノワールの胸ぐらを掴んで声を上げたのは、ロックだった。

 彼はそのままノワールを立ち上がらせて、眼を真っ直ぐに睨む。

 

 

「……俺は、私情に流されてチームを敗北させた。お前に言った事を、俺は……俺は……!!」

 私情に流されてチームの敗北に繋がるミスをする奴に、リーダーの資格はない。フォースメフィストフェレスとの戦いの時、ノワールはロックにそう言った。

 

 

 だが今回の試合でノワールはどうしたか。

 

 

「スズを見ていられなくて……! 俺は、感情に流されて飛び出した! 俺が、俺が……チームを敗北させたんだ!!」

 もしあの試合で、ノワールが最後まで隠れていてキュベレイに奇襲を掛ければバトルには勝っていたかもしれない。

 そのチャンスを自分で捨てた事は、彼がロックに言った事を自分で再現した事に他ならないだろう。チームの勝利のみを考えればそれが正しい筈だった。

 

 

「じゃあお前は……あのままあの子がやられてるのを、黙ってみてるのが正しかったって言うのか!? 違うだろ!!」

 そんなノワールに、ロックは大声で怒鳴り付ける。

 

 

「……っ、それは」

「お前はリーダーだから、あの子を守る為に戦った!! そうじゃねぇのか!? お前のあの行動の……何が間違ってるってんだよ!!」

 ロックの手は震える程強く握られていた。今のバトルでのノワールの行動は、何一つ間違っていない。彼はそう思っている。

 

 

「そんなお前を、そんなお前の仲間を……侮辱したあのフォースのリーダーを俺は許さねぇ」

 そう言いながらロックはノワールを離した。放心状態だったノワールは、ロックの言葉を聞いてその場に崩れ落ちる。

 

「俺は……」

「お前は間違ってなんていない。お前は、俺が憧れたリーダーの鏡だ。そんなお前を侮辱した奴は───俺がぶちのめす」

 ノワールに背を向けて、ロックは「ReBond集合!」と声を上げた。

 そんな彼の背中が思っていたよりも大きく見えて、ノワールは眼を見開く。

 

 

「……お前は、やっぱり良いリーダーだな」

「立てるか? ノワール」

 手を伸ばすトウドウに、ノワールは「大丈夫だ」と立ち上がった。その瞳は真っ直ぐにライバルの背中を追い掛ける。

 

 

「スズの事はアンジェリカに任せよう。……今は、アイツの戦いが見たい」

「そうだな」

 次の試合が終われば、今日の最終戦だ。その戦いで、ReBondとアンチレッドが戦う事になる。

 

 

 今はその戦いを見届ける事だ。

 

 

 

「とりあえず作戦会議すん───って、あれ? おっさんは?」

 ロックがReBondを集めて作戦会議を開こうとした矢先、その場にカルミアが居ない事に気が付く。

 さっきまで居たのにと頭を掻くロックに、ユメが「カルミアさんならトイレに行くって言ってたよ」と言伝した。ロックは「トイレだぁ!?」と眼を丸くする。

 

 

「GBNで……トイレ?」

 そんな伝言に、ケイは首を横に傾げるのであった。

 

 

 

 

 

「よ、シチョサン」

 当のカルミアは、会場の端で片手を上げて一人の男に声を掛ける。彼が声を掛けたのは、会場の端で漠然と立っているフードの男のアバターだった。

 

「GBN内で話し掛けるなと言った筈だ」

「いやー、おじさん歳だからメッセージ機能がよく分からなくてさぁ。ねーねー、この際だから教えてくれても良いのよ?」

「何の用だ」

 カルミアの言葉に男は視線も合わせずに答える。まるでお前の話を聞く気はないとでも言うように。

 

 

「……お前のやりたかった復讐ってのは、こんなふざけた事か。関係ない奴を傷付けてなんになる。ユメちゃんにも同じ事をする気か! セイヤ!!」

 男に詰め寄ってカルミアは声を上げた。しかし、そんな彼に対して男は視線も合わせずに口を開く。

 

「GBNがレイアにした事はもっと残酷だった」

「……っ、セイヤ」

「情でも湧いたのか? GBNの外でも生きていける人間に。レイアにはGBNしかなかった。そのGBNが、レイアを殺したんだぞ」

 男の瞳は何処も見ていないようで、一つの事しか見えていないようだった。そんな彼が恐ろしくて、カルミアは後退る。

 

 

「分かったらとっとと戻れ。次の試合、分かっているな?」

「……俺は」

「お前だってガンダムに、ガンプラに全てを奪われた筈だ。俺達は……その復讐をする。忘れたのか? あのユメってガキがお前と同僚から何もかもを奪ったのを」

「セイヤ……!」

「お前がやらなくても俺がやってやる。お前の分も、仲間の分も復讐を果たす。……その気がないなら消えろ」

 そうとだけ言って、男───セイヤはカルミアに背中を向けた。そんなセイヤの背中を四人の仲間が付いていく。

 

 

「ユメカ……」

 その中に一人混じる少年は、一人の少女の名前を口にしていた。

 

 

 

 

 

 現実世界。

 GBNからログアウトした一人の少女は、その綺麗な金色の髪を乱してベッドに顔を埋めている。

 

 

「……ごめんなさい、ごめんなさい」

 少女はただ一人泣いていた。自分の作った黒いガンプラを握りしめて、瞳に大粒の涙を流す。

 

 

 

「スズ……ごめんなさい。許して……。私のせいで……ごめんなさい」

 ただ彼女には泣く事しか出来なかった。




ガンダムビルドダイバーズRe:RISE完結おめでとうございます!!!滅茶苦茶に面白かった。最高でした。感想はTwitterで述べたので、とりあえずお祝いを。

ハーメルンのガンダムビルドダイバーズ原作作品も盛り上がると嬉しいですね。
そんな訳ですが、拙作はこのタイミングでシリアスモードです。お話は少しずつ進んで行きます。

そして評価18件、お気に入り180人ありがとうございますの記念イラストです!

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安直にダイバーズのキャラのコスプレさせようと思ったけどダイバーズのキャラがダイバーズのキャラのコスプレしてどうすんねんって事で、ビルドファイターズからアイラ・ユルキアイネン。これからもガンプラを楽しんでいきましょう!


それでは読了ありがとうございました!


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自分達の戦いを

 ガンプラを握りしめる少年の隣に、一人の男が立っていた。

 

 

「ガンダムが憎いか?」

「……違う」

 男の質問に少年は首を横に振る。

 

「ガンプラが憎いか?」

「……違う」

 再び首を振る少年に、男は不敵な笑みを見せた。

 

 

「GBNが憎いか?」

「……っ」

 少年は答えずに、ただ自分が持っていたガンプラを投げ捨てる。

 

 

「なら、着いてこい。俺達がお前の復讐を手伝ってやる。だから、お前は俺達の復讐を手伝え」

「復讐……?」

 少年は目を見開いた。そして、地面に転がっているプラモに視線を移す。

 

 

「俺達から何もかもを奪ったガンダムを、ガンプラを、GBNを───全てぶっ壊す。……お前、名前は?」

「……俺は───」

 少年は投げ捨てたガンダムに手を伸ばしながら口を開いた。

 

 

 ──何度壊れたって、何度でも直せば良い。繋げば良い──

 

 

「───アオトだ」

 その瞳の奥は───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

「何してたんだよおっさん」

 NFT会場。

 試合を控えていたReBondのメンバー達だったが、トイレに行って来ると言ってその場を離れたカルミアが戻ってきたのは試合開始五分前である。

 

 

「いやー、悪い悪い。おじさん歳だから便秘気味でさぁ」

 頭を掻きながらそういうカルミアにロックは目を細めた。緊張感のないおっさんだ、と口を尖らせる。

 

 

「揃ったので、本格的に作戦について話すっすよ!」

 しかし、時間もあまりないのでニャムは話を切り替えてコンソールパネルを開いた。

 

 そこに映るのはランダムで決められた対戦ステージである荒野と、対戦相手のチーム名及び機体名である。

 そのチーム名"アンチレッド"の名を見てカルミアは目を細めた。

 

 

「ステージは高台の多い荒野で、重力下なので敵チームのファンネル機体が弱体化しているのはこちら側に有利っすね」

「なんでも良いし、俺はアイツらをぶっ倒すだけだけどな」

 アンチレッドとメフィストフェレスの戦いを見てロックは苛立ちを隠さずにいる。そんな彼の姿勢にケイは少し不安を覚えていた。

 

「熱くなり過ぎて足を救われるなよ……?」

「熱くなんてなってねぇ!! あんなの……ガンプラバトルじゃねぇだろ」

 ケイの言葉にロックは目を逸らしながら言葉を落とす。そんなロックを見てカルミアも視線をどこか遠くに逸らした。

 

 

「ケイ殿の言う通りっすけど、ロック氏の言う通りでもあるっす。……ジブンが言うのもなんすけど、あんな戦いを見せられて何も思わない方が無理ってもんっすよ」

「私も……スズちゃんにあんな事した人は少し許せない。けど、仕返しとか……そういうのはいけないと思う」

 怒りを露わにするニャムの言葉に、スズはそう言葉を漏らす。彼女の言葉にニャムは頭を掻いて「それは……確かに」と視線を逸らした。

 

 

 

「俺達は俺達の戦いをしよう。相手がどうとか、そういうのは関係ない。……俺達がガンプラバトルを楽しむ気持ちを、そのままぶつければ良いと思う」

 沈黙するチームの中で、ケイはそんな言葉を漏らす。ロックとニャムは彼の言葉に溜息を吐いてから「確かに」と言葉を揃えた。

 

「……俺様とした事が熱くなり過ぎたか。俺はロック・リバー。クールで格好良い男だからな。そうだな、俺はただ相手を倒すだけだ」

「ケイ殿はジブンと戦った時もそうでしたよね。なるほど、まだまだジブンも心構えが足りないみたいっす」

 複雑な心境を振り払えた二人の横で、カルミアだけは明後日の方に視線を逸らす。

 

 

 自分がなぜここに居るのか、少し分からなくなってきた。

 

 

 

「ただ一つだけ気になるんだけど」

「何? ケー君」

「さっきバトルを見てた時。ユメ、アオトの名前を呼ばなかったか?」

「え?」

「ほら、イージスが自爆した時」

 ケイはアンチレッドとメフィストフェレスのバトル中、イージスがウイングゼロアビージに掴みかかって自爆した時の事を思い出しながらユメに尋ねる。

 

 

 ──アオト君、ダメ!!──

 あの時、ユメはそう言った。彼女自身何故そんな事を言ったのかも分からない、ただ事の半分を理解しているカルミアは目を細めてユメを見る。

 

 

「何故……分かってるんだ?」

 そんな言葉が漏れた。

 

 

 

「えーと、私も分からなくて……」

「疲れてんのか? 無理すんなよ。いや……今からバトルなんだけどな」

 ユメの肩を叩いてそう言うロック。そんな二人を見ながらケイは「アオト……」と一人の友人の名前を呼ぶ。

 

 

 そんな訳がない。

 心のどこかでそう思いながら、ケイはユメの勘の良さが少し怖かった。

 

 エスパーか、ガンダムの作品で扱われている所のニュータイプか。そんなあり得ない可能性を考えてしまう。

 

 

 だって、アオトがあんな場所にいる訳がない。

 

 

 

「とにかく、作戦会議っす。今回フラッグ機はロック氏のデュナメスに設定で良いっすかね?」

「俺?」

「えーと、私は───」

「ユメちゃん、自分が狙われるって分かってるっすよね?」

 ユメが何かを言い掛けた瞬間、ニャムは目を細めて彼女の言葉を遮った。

 

 

「あのフォース、スズさんの先天性四肢障害を知っているようでした。そんな事を態々調べてるような連中っす、さっきの話の手前気にしたくはないっすけど……あの赤いキュベレイのダイバーがもし同じような事をしてくるなら───」

「ユメちゃんの足の事を言ってくる、か?」

 そして今度はニャムの言葉をカルミアが遮る。さっきまで沈黙していた彼の言葉に、四人は少し視線を落とした。

 

 

「怖くない……なんて事はないよ。私も、足の事色々言われたら嫌かもしれない。……だけど、もしそうなったら私は多分ギリギリまで落とされない。勝つ為には、私達のバトルをするには───」

「ユメちゃんそれは───」

「違うぜ、ユメカちゃん」

 ユメの言葉を遮るニャムの言葉を遮って、カルミアはユメの頭に手を置く。

 

 

 

「俺達私達のバトルってのは、相手の内面に揺さぶられないバトルだろ? そういうのは違うと思うのよね、おじさんは」

「カルミアさん……」

「これまでおじさん達はフィールドと、相手の機体と、自分達の機体の事考えて作戦を考えてきた。違う?」

 そう言ってカルミアはニャムに向き直って、顎に手を向けて片目を閉じながらコンソールパネルを眺めた。

 

 

「地上でファンネルが使えないし、相手の機体に強力な射撃武装を持つ機体は少ない。だから接近戦が一番上手なロッ君をフラッグ機にした。……で、良いよね?」

「そ、その通りっす。ステージ的にも近付かれる前までは、ロック氏のデュナメスとジブンのアッガイで索敵しつつケイ殿達に展開してもらうのが良いかと───カルミア殿?」

 ニャムに聞くだけ聞いて、カルミアは四人に背中を向ける。その視線はどこか遠くへ向けられていて、四人は目を合わせて首を横に傾けた。

 

 

 

「───何してんだ、俺」

 カルミアがそう言った瞬間、作戦会議時間が終わり五人はバトルフィールドに転送される。

 

 

 

「ノワール達にされた事は関係ねぇ。……俺は、このフォースを有名にしてアオトやニャムさんのお兄さんに俺達のバトルを見せるだけだ。───ロック・リバー、デュナメスHell。出るぜ!!」

 ReBondのデュナメスHell、ストライクBond、スカイグラスパー、アッガイ、レッドウルフが同時に出撃した。

 その光景をモニターで見ながら、ノワールは強く手を握る。小さく「気を付けろ……お前ら」と声が漏れた。

 

 

 

 ステージは見晴らしの良い荒野。

 ロックとニャムは岩壁の上に立って視界を確保し、お互いに索敵に集中する。

 

 見晴らしが良いと言っても今二人が居るような凸地も多い。

 フラッグ機であるロックが倒されれば負けのバトル。ロックは強く操縦桿を握りながら目を細めた。

 

 

 一方で崖の下ではカルミアのレッドウルフが待機している。近くには地下水脈に繋がる洞窟があり、カルミアはここを守るような立ち位置に配置していた。

 その理由は、もしカルミアを抜かれても自分達のフラッグ機が地下水脈に居ると思わせる為である。ガンダム世界特有の通常レーダーが機能しない設定において、この作戦は気休めではない。

 

 

 さらに奥。敵の機体を探すのは地上からケイのエクリプスストライクBond、空からはクロスボーンストライカーを装備したスカイグラスパーだ。

 二機はお互いに離れず動きながら、ニャムの指示を元に索敵をしている。

 

 

「ニャムさんのレーダーだと、この辺りに五機纏まってるって話だったよね」

「ユメ、俺から離れ過ぎるなよ」

「心配し過ぎだよケー君」

「そうかな……」

 索敵モニターから目を離さずに口を尖らせるケイ。GBNはガンダムの世界に同じくレーダーやセンサーはあまり役に立たない。

 索敵用に開発されたニャムの機体でも、敵が離れ過ぎているとその効果も半減してしまっていた。その為、今回はケイとユメで大まかな敵の位置を偵察中である。

 

 

「見付けたら奇襲を掛けて、絶対に逃げられる距離を保って撤退。とりあえずの目標は敵を先に見付ける事か……」

「その為の遠距離射撃ようのエクリプスで、逃げる時用に私がクロスボーンなんだね」

 この有視界戦闘において、モニターに映った敵の影を見落とすことは最大の命取りだ。ユメの事は心配しつつ、ケイはモニターを睨み続けた。

 

 

「ユメ、なんか慣れてきたな」

「そうかな、えへへ───あ、ケー君。五時の方向!」

「敵か?」

 そんな中で、敵を先に見つけたユメは機体を大きく旋回させる。スカイグラスパーのモニターには五機の赤い機体が写っていた。

 

 

「バレてないな?」

「うん。ケー君!」

「任せろ!」

 ケイはスラスターを吐かせ機体を持ち上げて、ユメが見付けた纏まっている五機を機体の射程内に入れる。

 サイコザクレラージェ程ではないが、このエクリプスストライクの有効射程は射撃特化装備を銘打っているだけあって伊達ではない。

 

 ヴァリアブル・サイコ・ライフル、ブラスターカノンを展開したケイは、五機に向けて一斉にその砲身から光を放った。

 

 

「一機でも多く、どうせ使い捨てるんだ! 砲身は焼き切れても良い!!」

 オーバーロードも気にせずに、ライフルを連射するエクリプスストライクBond。その砲火は纏まっていた五機を襲い、地面を焼き払う。

 

 爆炎が舞い、荒野を砂嵐が覆い尽くした。

 砲身が熱で捻じ曲がったライフルとブラスターカノンを地面に落としながら、ストライクBondはエクリプスストライカーに充填されていたエネルギーを使い果たしフェイズシフト装甲が解除されていく。

 

 

「……流石にこれでフラッグ機撃破はないか。何機倒せた? とりあえず換装して、逃げる準備───」

「ケー君!!」

 汗を拭うケイのストライクBondの右足を、閃光が掠めた。ビームライフル。直撃はしなかったが、ケイは青ざめながら回避運動を取る。

 

 

「あの五機がこんな遠くの敵に攻撃してくる!?」

 前述通りエクリプスストライクBondの射程は通常のMSより遥かに長い。しかし、その距離の有利を覆されていた。

 

 

「一体何が……」

 ユメからクロスボーンストライカーを譲り受けながら、ケイは機体を反転させる。当初の予定通り、奇襲を掛けて逃げるつもりだが想定外の迎撃に冷や汗が垂れた。

 

 

 スラスターを吹かせるストライクBondとスカイグラスパーの背後で、砂埃の中から赤い閃光が一つ飛び出す。

 

 

 それは鋭利な飛行形態に変形した可変MS───

 

 

 

 

「イージスか……!」

 ───イージス。

 

 

 ──アオト君、ダメ!!──

 その機体だった。




ついにアンチレッドとのバトルスタート。ケイとユメの前に立ち塞がるのは……?

読了ありがとうございました!


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イージス

 両手足を一つの鋭利な先端のように纏めて可変するMSイージス。

 元々が手足の為に可変した状態でも、イージスは機体前方の手足を広げて敵を拘束する事が出来る。

 

 さらに両手足の間には複列位相エネルギー砲『スキュラ』を搭載。可変中前面への射撃のみならず、拘束した敵をこの武装で撃ち抜く事も可能だ。

 

 

 そんな武装『スキュラ』を、イージスは前面の敵二機に向けて放つ。

 

 

「───ストライク、か」

「───イージス……!」

 イージスのパイロットはストライクの名前を、ストライクのパイロットはイージスの名前を口にしていた。

 

 

 因縁の機体。

 それは、機体同士だけでなく。そのパイロット達にとってもの話である。

 

 

 あの日───

 

「な、何すんだよ父さん!」

「こんな物もう直したってな! なんの意味もないんだ!」

「プラモ、車に轢かれちゃう……っ」

 アオトの父親が道路に投げ捨てたガンプラはストライク。そして、そのストライクとGPDで戦っていた機体こそ───

 

 

「ユメカ……ユメカ!!」

 ───ケイスケのイージスだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 光が空を突き抜ける。

 

 

「ユメ、避けろ!!」

「大丈夫! ケー君こそ、大丈夫!?」

「流石に追い付かれるか……。いや、このクロスボーンストライカーなら……!!」

 大型のスラスターを全力で吹かすストライクBond。その背後から、イージスが可変状態で追いかけてきていた。

 

 なんとか機体を左右に揺らしてスキュラを避けるが、その度にイージスとストライクの距離が縮まっていく。

 

 

「大丈夫、もう少しで合流地点だ……!」

 高速飛行での戦闘で背後を取られる事そのものが死に体だ。

 振り向いて迎撃しようとすれば、その隙に射撃を捻じ込まれるだろう。

 

 しかし、唯一の救いはもう少しでロック達が固まっている地点へ辿り着く事だった。そうなれば単騎で追いかけて来たイージスは一気に不利になる。

 

 

「ケー君!!」

「スキュラか……!」

 何発目かのスキュラ。ケイは回避運動の為に左にスラスターをずらして、機体を右に逸らした。

 しかし、ストライクが移動した場所に向かってスキュラが飛んで来る。相手の移動を読んで攻撃をその場に置いておく、所謂曲げ打ちだ。

 

 

「曲げ打ち!?」

 目を見開いて驚きながらも、ケイは腰のビームサーベルを引き出してサーベルを展開する。

 機体をひっくり返して、ビームサーベルとさらにビームザンバーの光の刃二つを交差させてスキュラをなんとか防ぎ切った。

 

 しかし、ビームザンバーは溶解して使い物にならなくなってしまう。こうなると頼みの綱はビームサーベルだけだ。

 

 

「ストライクBondじゃなかったら今のでやられてた……」

 ケイはいつかの日、アオトから譲り受けたストライクをそのまま改良して使い続けている。

 彼のストライクの特徴でもあった、両腰にアーマーシュナイダーとビームサーベルを分けて装備する改造は今もこのストライクに受け継がれていた。

 

 そのおかげで、今の窮地をなんとか脱出出来たのである。

 

 

「あのビームサーベル、やっぱり……そうか」

 イージスのパイロットはそんなストライクを見て目を細めた。そして速度を落としたストライクに対して、機体を変形させて両肘のビームサーベルを展開して突進する。

 

 

「ケー君!」

「追撃は読めてる!」

 もう少しで合流地点。それを頭の隅に置きながら、ケイは後退しつつもビームサーベルを構えた。

 ロックのデュナメスHellやカルミアのレッドウルフの射程距離までもう少し。あと一瞬耐えればなんとかなる。

 

 

「───ケイスケか!!」

「───は?」

 ビームサーベルがぶつかり合ったその時。イージスからの接触回線でありえない言葉が聞こえて来た。

 

 

「なんで……俺の名前を」

 ダイバーネームのケイ(・・)なら分かる。しかし、呼ばれたのは本名だ。

 それも何処かで聞いた事のあるような声で。

 

 

 ──アオト君、ダメ!!──

 そんなユメの言葉が脳裏を過る。

 

 

「アオト……なのか?」

 もしそうだとしても、再開の喜びよりも大きな疑問の方が強く突き刺さった。

 アンチレッドのバトルを思い出す。あんなバトルをする人達の中に、アオトが居る訳がない。

 

 そうして首を横に振るが、次の瞬間ケイを現実が突き刺した。

 

 

「……そうだよ、ケイスケ」

「……なん───っ!?」

 その答えに驚愕している間に、アラートが一斉に鳴り始める。イージスのビームサーベルと鍔迫り合っている間に、機体の高度が落ちて地面に叩き付けられる直前だった。

 

 

「───どうしてだ、アオト!!」

「ケー君!」

 スラスターを吹かしてイージスを押し返すように機体を持ち上げる。その背後から、旋回して来たスカイグラスパーが援護射撃を行った。

 これにはたまらずイージスのパイロット───アオトも舌を鳴らしてストライクBondから離れる。

 

 

「それは───こっちの台詞だ、ケイスケ!!」

 スカイグラスパーに牽制射撃をしてから、再びストライクBondに接近戦を仕掛けるイージス。

 ビームサーベルがぶつかり合って火花が散った。

 

 

「何……?」

「どうしてGBNなんてやってる……どうしてユメカを、こんな場所に連れてきた!!」

「どうしてって……!」

 アオトが分からない。目の前に居る大切だった親友が、何を言っているのか分からない。

 

 

「ここでなら、ユメカも歩けるから……! ガンプラだって、楽しんでくれてるから!」

「ユメカを歩けなくしたのは、そのガンプラなんだぞ!!」

 重なり合う刃。言葉同士がぶつかって、相手の気持ちが流れてくる。

 

「それでも俺は……ユメカに笑って欲しかったから!! お前が言ったんだろ、ユメカを頼むって!!」

「GBNなんかに頼れなんて言った覚えはない!!」

「なんかって……!」

 斬り合いが続いた。その内にケイはデュナメスHellの射程圏内に入り、背後から援護射撃が続く。

 

 

 しかしやはりというか、デュナメスHellのGNスナイパーライフルは擦りもしなかった。

 

 

「タケシのアホ……!」

「……アイツも変わらない。お前も、ユメカも、結局ガンプラに踊らされて」

「お前はさっきから何言ってんだよ……アオト!」

 攻防の刹那、デュナメスHellの援護射撃とは逆からビーム攻撃が放たれる。どうやらアンチレッドの残りのメンバーが追い付いて来たらしい。

 

 ケイは舌打ちしながら一旦ビームサーベルを薙ぎ払ってイージスを突き飛ばした。

 

 

「ユメ、戻るぞ!」

「え、でも……そのイージス───」

「今はバトルに集中する!」

 イージスのパイロットが本当にアオトなのか、とか。なんで自分達に何も言わずにガンプラバトルを始めていたのか、とか。

 聞きたい事は山ほど有る。しかし、今はもっと優先するべき事があった。

 

「お前にユメカを傷付けさせたりしない……絶対に」

「お前がユメカを傷付けるんだよ……ここに連れてきた事でな、ケイスケ」

 クロスボーンストライクBondのスラスターが火を吹く。流石の離脱性能に目を細めるアオトだったが、直ぐに背後からアンチレッドの三機が合流した。

 

 

 アンチレッドの機体はケイの奇襲でジンクスが撃破され、ゴトラタンは右腕を失ったがそれ以外は大きなダメージは見当たらない。

 アオトはストライクが向かった先を知らせると、一度ゆっくりと目を閉じる。

 

 

「行きましょう……復讐を果たしに」

 その瞳は赤く、揺れていた。

 

 

 

「カルミアさん!」

「……お、戻ってきたか」

 一方でなんとか離脱したケイとユメは、カルミアの待つ地下水脈への入り口に辿り着く。

 

「俺達はニャムさん達と合流します」

「でも、良いんですか? 本当に一人で……」

 次の作戦は敵を地下水脈に誘導し、相手を後ろから叩く戦法だった。

 それにはカルミアにこの地下水脈入口を守る振りをしてもらい、相手にそこを突破してもらわなければならない。

 

 つまるところ、カルミアは捨て駒になる。

 

 

「ぇ、あー、別におじさんは……ね? なんならおじさんが全部倒しちゃっても構わんのでしょう? ほらほら、二人は行きな」

 二人はカルミアの言葉に甘えて、近くで待機しているニャム達と合流した。

 後はアンチレッドがこの場に追い付いたら作戦開始である。

 

 

「カルミアさん、なんか変じゃなかった?」

「そうか? 俺は……よく分からなかったけど」

「お、来た来た。俺様の援護射撃はどうだったよ!」

「「一発も擦りもしてなかったよ」」

「なん……だと?」

 話しながら合流して、ロックの一言目に同時に返す二人。ニャムはレーダーに注視しながら「作戦は今の所予定通りっす」と口角を吊り上げた。

 

 

「……ていうかお前さ、俺が援護してた時誰と戦ってたんだよ。なんで、アオトの名前が出てきた?」

 通信状態が悪く会話の全てを聞いていた訳ではないが、ストライクとイージスの交戦中ケイが誰かと話している事だけはなんとなく察しが付く。

 その会話の中に彼の名前があるものだから、ロックは目を細めてケイに問い詰めた。

 

 

「……アオトが居たんだ」

「はぁ?」

「アオトって……三人が探してる幼馴染みの男の子っすよね? どうしてまた。いや、再開を喜ぶべきなんすか? でも……」

 ケイの返事にロックとニャムは頭に疑問符を浮かべて困惑する。

 

 本来なら運命的な再開を喜ぶべき所だ。しかし、そのアオトが居るフォースがあのアンチレッドだったというのがどうしても納得出来ない。

 

 

「何かの間違いだった、とか?」

「それはないよニャムさん。相手も俺達を知ってたし……戦い方の癖も同じだった」

「ケイ殿……」

 苦しそうな言葉にニャムはどうしたものかと考え込む。

 

 今は当初の目的通り勝つ事が大切だ。

 ケイはそう判断したからこそ、今ここに居る。

 

 

「んなもん、バトルが終わったら確かめに行けば良い。もしアオトが本当にあんな場所でイキッてるってんなら、俺様がぶん殴って連れ戻す」

「タケシ……。そうだな」

「流石タケシ君。リーダーだね!」

「ロックな?」

「三人共、そろそろカルミア氏と敵が接触するっすよ」

 アッガイのレーダーで、四機の機体とカルミアのレッドウルフが同じ座標に映った。

 

 

「頼むぜ、おっさん」

 この作戦の成否で、バトルの進め方は大きく変わって来る。ユメはスカイグラスパーを着陸させて、熱源探索対策をしてから四人で状況を見守る事にした。

 

 

 

 

「カンダ」

「カンダ先輩」

「……お前ら」

 一方、カルミアのレッドウルフの前に四機の赤いMSが立ち並ぶ。

 

「奴等はこの先か? カンダ」

 赤い手が伸びた。




アオトが駆るMSはイージスでした。因縁、ですね!

読了ありがとうございました!


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カルミア

 カンダ・カラオという男の人生は平凡という訳ではなかったが、不幸ではなかった。

 

 

 趣味の合う友人に恵まれた学生生活。

 ガンプラという趣味を大いに満喫出来る社会的なブームは、彼が大学を卒業した後も変わらない。

 

 ガンプラバトルに魅了された人々の熱気に押され、彼もまたGPDやGBNを楽しむガンプラビルダーだったのである。

 

 

 

 そして彼が運命の出会いをしたのは、GBNの中ではなく就職した職場での事。

 

 

「なに、あんたもGBNやってるのか? おーおー、ガンプラ好き?」

「え? あ、あぁ……好きだが」

「そうかそうか! まさか職場の同僚にもガンプラ好きがいるたぁ、俺さん感激だわ。あんた名前は?」

「……せ、セイヤだ」

 それが、彼との出会いだった。

 

 

 カンダの強引な性格もあり、彼はセイヤと直ぐに打ち解けてGBNで遊ぶ中になっていく。

 

 彼───カンダのダイバーネームはカルミア。

 今現在フォースReBondに所属するダイバーだ。

 

 

 

「楽しいよなぁ、セイヤ」

「そうだな。……なぁ、カルミア」

「お、なによ?」

「北海道から出稼ぎに来てさ、俺は周りにガンダムが好きな奴が居るのか分からなくて歯痒い思いをしていた。……そんな俺をGBNに誘ってくれてありがとうな」

 そしてこの男───セイヤこそ、現在フォースアンチレッドを束ねるリーダーである。

 

 

「なに言ってんのよ。もっと集めようぜ」

「え? もっと?」

「おうよ。例えばさ、ガンプラ好きだけで会社を企業すんのよ。毎日が楽しいだろ。シャッチョサンはセイヤな」

「な、なんで俺なんだ……」

「俺さんはそういうの面倒だから?」

「……ったく、しょうがないな」

 その笑顔は呆れてはいても、屈託のない青年の笑顔だった。

 

 

 二人は思っていたよりも順調にその後も歩んでいく。

 

 ガンプラ好きな社員だけで作った会社。それは、プラモデル専門の運送業だった。

 このガンプラブームに乗った起業は大成功し、会社もみるみる大きくなっていく。

 

 

 

 しかし、運命の歯車が崩れ始めた。

 それは五年前のとある事故からだったのだろう。

 

 

 

「スピード出し過ぎよ」

「大丈夫っすよ! この辺人通りないんで!」

「元気なのはいい事だけどねぇ」

 それは新しく作った会社で、新人の運転をカンダが見守っていた時の事。

 

 

「……ガンプラ?」

「止まれ!」

「───え? うわぁ!!」

 プラモ屋から飛び出して来た女の子を、彼の乗っていたトラックが轢いてしまった。

 

 

「ユメカ……ユメカ!!」

「……な、なんてこった。ひ、ひぃ……ど、どうしたら……どうしよう!」

「あらら……これはヤバいな」

 社員が事故を起こし、決して大きくはなかった彼等の会社は大きな負債を負うことになる。

 

 

 それだけなら、良かったのかもしれない。

 

 

 

「すみません社長……すみません」

「良いんだ、サトウ。それより、ガンプラを嫌いになるなよ? ほら、事が落ち着いたらまた皆でGBNに行こう。会社の事は俺に任せれば良い」

 セイヤは事故でを起こした社員であるサトウに優しく接して、彼を支え続けた。

 そして大きな負債を抱えつつも、ガンダムが───ガンプラが好きな仲間達と前に進もうとしていたのである。

 

 

 GBNで彼女と出会い、別れるまでは───

 

 

 

「ごめんね、セイヤ」

「離せ、離せよ! 離せぇ!! レイアぁ!!」

 赤い髪の、何の変哲もない女の子だった。

 

 

 

「辞めろぉぉおおお!!!!」

 しかしその女の子は───

 

 

「GBNの運営を……俺は絶対に許さない。ガンダムを、ガンプラを……俺達は許さない」

「そうだ、ガンプラなんてなければあの時の事故も……」

「セイヤ……サトウ……お前ら───」

 ───伸ばした手は、届かない。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 赤い手が伸びる。

 

 

「奴等はこの先か? カンダ」

「セイヤ……」

「キサラギ・ユメカはどこですか、カンダ先輩」

「サトウ……」

 赤いキュベレイの隣、サザビーを駆るダイバーこそ、あの時事故を起こしたトラックの運転手サトウだった。

 サトウはカルミアのレッドウルフに詰め寄ってもう一度口を開く。

 

 

「キサラギ・ユメカは……どこですか。この先に居るんですか? 先輩」

「それは……」

 何が正しいのか、分からなかった。

 

 

 彼女がガンプラを取りに道路に飛び出さなければ、事故も起きなかっただろう。

 ガンダムを、ガンプラを恨む気持ちは自分にもあった。あの時だって───

 

 

「───だけど、あの子は」

「カンダ先輩?」

「あの子は、純粋だ」

 操縦桿を握る手が震える。

 

「確かに俺も、キサラギ・ユメカが憎かったさ。ガンプラが憎い、ガンダムが憎い、俺達から全部奪ったGBNが憎い。今だってな!!」

「カンダ、チームメンバーの居場所を言え。フラッグ機はどれだ」

 静かにそう言うセイヤを、カルミアは歯を食いしばって睨んだ。セイヤはそれでも瞬き一つせずに冷徹な目をカルミアに向ける。

 

 

「言え、カンダ」

「こんなのは復讐じゃねぇ……ただの八つ当たりだ。なぁ、俺達の目的はGBNを潰す事だろ? レイアがこんな事望むかよ!! セイヤ!!」

「GBNがレイアを殺したんだ。レイアにはGBNしかなかった」

「……っ」

 セイヤの言葉にカルミアの瞳が揺れた。頭の中に一人の少女の姿が浮かび上がる。

 

 

 

 ──セイヤ! カルミア! こっちこっち!──

 赤い髪の女の子。そこに居た筈の女の子。

 

 

 

「俺達には現実(リアル)がある。手足が無かろうが、動かすことが出来なかろうが生きていける。それなのに……GBNの運営は、GBNでしか生きていけないレイアよりもこのゲームのプレイヤーを選んだんだ。キサラギ・ユメカみたいなな!!」

「それは……」

 セイヤの怒号に、カルミアは言葉を詰まらせながら崩れ落ちた。

 

 ──ごめんね、セイヤ──

 

 

「言え、カルミア」

「……この奥には、居ない。奥の高台の裏で待機してる」

 そこまで言って彼は目を見開く。今の一言でチームの作戦は破綻した。

 勿論、初めから(・・・・)そのつもりだったのである。ReBondに近付き、この時の為の布石を整える事がカルミアの───カンダの役割であった。

 

 

 

「……フラッグ機は、デュナメスだ」

 思考が回る。まるで海の中にでもいるかのような浮遊感を感じた。

 

 

「……アッガイが索敵型で、司令塔の役割をしてる。だから、奇襲を掛けるならまずアッガイを───」

 これで良い。自分の役割を果たしただけだと、そう思って───脳裏に言葉が過ぎる。

 

 ──ユメちゃん達は顔も名前も知らない、初めて会った時とんでもない無礼をしたジブンの兄を探す手伝いをしてくれてるっす。根本的に優しくて、純粋なんすよ。純粋に、このGBNを楽しんでる……そんな子供達を守るのはジブン達大人の役目では?──

 

 

「───大人の、役割」

「それで良い。カルミア、お前も来い。ここからが、GBNへの復讐だ」

 カルミアの言葉を聞き終えたセイヤは、彼の報告した場所へ機体を向けた。

 それにイージス、サザビー、ゴトラタンも続く。

 

 

「レイア……」

 声が響いた。

 

 

 ──ごめんね、セイヤ──

 大切な仲間。大切な人の、大切な人。

 

 二人を合わせたのは自分だろう。二人を引き離したのも自分だろう。

 

 

 

 ──フォースの皆……ううん。同じ趣味でこの世界に来てる大切な友達と。だから、カルミアさんが楽しめる場所で遊びたいなって──

 偽りの仲間。憎しみの対象、大切な人の仇。

 

 

 ──ケー君達にオススメされて見たんです。カルミアさんはガンダムのアニメ沢山見てるんですか? どのアニメが好きなんですか?──

 それなのに、純粋で眩しい───まるで若い頃の自分を見ているようだった。

 

 

 ──カルミアさんは私達の大切な仲間ですから。物凄く強いし、信用も信頼もしてます! ね、二人共──

 彼女は何も知らない。俺達の復讐には関係ない。

 

 

 

 ──このGBNを楽しんでる……そんな子供達を守るのはジブン達大人の役目では?──

 

 

「……その通りだな、ニャムちゃん。その通りだ。……何やってんだ俺は」

 カルミア(レッドウルフ)が顔を上げ、その瞳が赤く光る。

 

 

「───セイヤ!!」

 そして、その赤い腕をサザビーに向けて飛ばすカルミア。セイヤは驚きつつも、ビームサーベルでレッドウルフのビームハンドを切り飛ばした。

 

 

「……なんのつもりだ、カンダ」

「……カンダ先輩!?」

 襲われたサトウは驚いて向き直り、それを救ったセイヤは鋭い瞳をカルミアに向ける。

 レッドウルフはサブアームでビームサーベルを持ちながら、ライフルをサザビーに向けていた。

 

 

「知ってる? カルミアって花があるんだけどね。おじさんのダイバーネームと一緒なのよ」

「な、何のことですか? カンダ先輩」

「カルミアの花言葉はな───」

 レッドウルフがライフルを放つ。セイヤは近くにいたゴトラタンの頭を掴んでサザビーの前に投げ飛ばした。

 

 ライフルがゴトラタンを貫き、機体が爆散する。

 

 

「……か、カンダ先輩?」

「───裏切り。ガンダムじゃ良くあることよね。おじさんさ、そういうのが大好きなのよ」

 目を細めてそう言うカルミア。言いながらも、彼はスロットを回して次の武器を展開した。

 

 

「ここで裏切るのってよぉ、すげぇガンダムっぽいよなぁ!!」

 レッドウルフのバックパックが展開し、大量のミサイルが放たれる。

 キュベレイ、サザビー、イージスは距離を取りながらミサイルに向けてライフルを放つが、キュベレイの真下から突然ビームが垂直に放たれた。

 

 予め設置しておいた、インコムの罠である。

 

 

「カンダ……っ!!」

「カンダ先輩! 何をするんですか!!」

「……裏切り? 違いますねぇ。おっさんの目的は初めから───」

 そうだ、あの時からずっと。セイヤをGBNに誘った時からずっと───

 

 

「───このGBNを楽しむ事だ!!!」

 スラスターを吹かせ、サザビーに向けて突進した。その前にセイヤのキュベレイが立ち塞がる。

 

 

「レイアの事を忘れたのか……カンダぁ!!」

「忘れちゃいないさ。忘れる訳もねぇ。……だけどな、いやだからそこ! アイツが居たここを!! アイツが守ったここを!!」

 キュベレイがレッドウルフの両腕を切り飛ばした。しかしカルミアは、腰のサブアームを展開してキュベレイの腕を掴む。

 

 

「たとえそれが無に帰っても、ELダイバーが救われてアイツだけが救われなかったとしても!! その思い出の場所も、無くしたらいけないだろ!!」

「カンダぁぁ!!」

 胸部メガ粒子砲の銃口が光った。セイヤは眉間に皺を寄せて叫ぶ。

 

 

「俺達が誰かから奪っちゃいけねーだろ!! セイヤ!!」

 銃口から光が直進した。

 

 

 

 

 ───しかしそれは、キュベレイを貫く事はなく、レッドウルフの胸部だけを貫いて止まる。

 

 

 

 

「奪うんじゃない、救うんだ。奪われる前に」

「……な。アオト君か」

 その光はレッドウルフの放った光ではなく、背後からレッドウルフの胴体に突き刺されたイージスのビームサーベルだった。

 

 イージスがサーベルを収納すると、カルミアのレッドウルフは力が抜けたように地面に倒れる。

 コックピットはエラーのアラームで真っ赤になっていた。カルミアは目を細めるが、直ぐに切り替えてニャムと通信を繋ぐ。

 

 

 

「ニャムちゃーん、悪い。作戦失敗」

「……っと、突然どうしたんすか!? カルミア氏。敵と交戦中では?」

「いや、それがなんだかんだあってねー。敵にそっちの場所バレちゃったよ」

「なんですとぉ!?」

「……だからさ、後の事頼むわ。それと、サザビーだけはユメちゃんに近付けさせるな」

 そう言って、カルミアは通信を切った。ニャムからは「え、どういう───」と聞こえたが彼女なら大丈夫だろう。

 

 

 

「カンダ、裏切るのか。……新しい仲間と戯れるのがそんなに面白かったか? レイアとの思い出よりも、お前は今のGBNを取るのか?」

「……俺もお前も、過去にとらわれてるだけなのよ。おっさんはね、ただ昔みたいにさ───」

「黙れ。もう良い。……二度と俺の前に顔を出すな」

「───せ、セイヤ!!」

 キュベレイのビームサーベルがレッドウルフを切り裂いた。

 

 

 機体は爆散し、そこにはキュベレイとサザビーとイージスだけが残る。

 

 

「アオト、良くやった」

「……はい」

「カンダ先輩……なんで」

「アイツの事は忘れろ。……行くぞ、俺達の復讐を続けるだけだ」

 三機はカルミアの言った場所に向けて、スラスターを吹かせた。

 

 

 

 フォースReBond残り機体四機。

 フォースアンチレッド残り機体三機。




カルミアには野心、裏切りといった花言葉の他にも大きな希望っていう花言葉もあります。面白い花言葉の花なので覚えておくと創作に使えますよ!
そんな訳でカルミア裏切りの裏切り回でした。

あとお気に入り二百人突破ありがとうございます!読了ありがとうございました!


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ストライクとイージス

 赤い髪が揺れる。

 

 

「ねぇ、セイヤ」

「なんだ?」

「私、この世界が大好きだよ」

 笑顔で振り返った少女は自分の手を持ち上げて、GBNの空と一緒に並べて見比べた。

 

 

「セイヤが居て、カルミアが居て、サトーが居て、皆が居て。……変な言い方だけど、生まれてきて良かった!」

「俺もだ、俺も───」

 手を伸ばす。

 

 

 

 ───その手は届かない。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ノイズが走った。

 

 

「……だからさ、後の事頼むわ。それと、サザビーだけはユメちゃんに近付けさせるな」

「え、どういう事すか? カルミア氏? カルミア氏ったら!」

 ニャムが聞き直している間に通信は途絶していたらしく、ザーというノイズだけが彼女の耳に届く。

 そんな彼女にロックは目を細めて「おっさんどうしたって?」と、問い掛けた。

 

 

「……敵が、くるらしいっす。よく分からなかったっすけど、作戦がバレてるのかと」

 レーダーを見ながらそう答えるニャム。敵の機体の反応が一つ消えたと思ったら通信が入り、それが終わったら今度はカルミアの反応が消えている。

 

 しかし、どうして作戦がバレたのか。

 そんな事を考えている暇もない。敵の機影は残り三機とも、確実にこちらに近付いてきていた。

 

 

「おっさんが脅されてバラしたとかじゃねーよな?」

「カルミアさんはそんな事しないよタケシ君!」

「ロックな! いや……冗談だって」

 二人の会話を聞きながら、ケイは視界に映る敵の機影を見て目を細める。脳裏にはいつの日か別れた親友の顔が映っていた。

 

 

「とにもかくにも、敵さん来るっすよ! 戦闘準備。ジブンとロック氏で援護するっすから、ケイ殿とユメちゃんで前衛をお願いします。カルミア氏がサザビーをユメちゃんに近付けさせるなって言っていたので、よく分からないっすけどそれも留意してください!」

「「「了解!!」」」

 ニャムの言葉に三人は同時に返事をして、ストライクとスカイグラスパーがスラスターを吹かせて飛び出す。

 デュナメスはアッガイの索敵を頼りに援護射撃。まずは敵の出方を伺って切り口を探す事だ。

 

 

 

「アオト……」

 銃口を構えながら無意識に言葉を漏らす。

 

「なんでよりに寄ってイージスなんだか」

 ロックはスコープ越しに映るイージスを睨んで、目を細めながら舌打ちをした。引き金を引く。いつも通り、その光は当たらない。

 

 

 

「ストライクとスカイグラスパーが来たな……。アオト、ストライクを抑えろ。俺が後ろの二機をやってる間に、サトウ……お前がスカイグラスパーをやれ」

「了解です」

「やっとこの日が……復讐を果たす日が来た!」

 一方でアンチレッド、セイヤの命令にアオトとサトウはそう答えた。

 

 真っ直ぐストライクとスカイグラスパーに向かうイージスとサザビー。

 対するストライクBond、ケイはロックのデュナメスHellから借りたドッズランサーを携えてイージスを迎え撃つ。

 

 

「タケシが珍しく射撃付きの武器を持ってて助かった……。ユメ、サザビーからタケシ達の所まで逃げれるな?」

 戦闘空域に入る前に、ニャムからの言葉を思い出してケイはユメにそう伝えた。

 ユメも無理に立ち向かうつもりはないし、カルミアからの伝言を信じて首を縦に振る。

 

「大丈夫!」

「よし、イージスの事は任せろ!」

「ケー君……。……うん、任せたよ!」

 何か言い掛けたが、ユメは言葉を飲み込んで機体をひっくり返した。それを追い掛けるサザビーを横目に、ケイはイージスを睨む。

 さらに彼等を追い越すキュベレイ。アオトとの一騎討ちを望む気持ちは確かにあるが、今は味方を信用しているという気持ちの方が大きかった。

 

 

「アオト!」

 ドッズランサーを構え、イージスに肉薄する。

 その名の通り槍状の武器であるドッズランサーだが、穂先の根本にはドッズガンを装備していてロックがデュナメスHellに隠し持っている武装の中では珍しく射撃武器としても使える武器だ。

 

「そんなもので!」

 ドッズガンを連射しながら距離を詰めてくるストライクに、アオトはライフルを連射して応戦する。

 実剣兵器であるドッズランサーでは、イージスやストライクのフェイズシフト装甲を貫く事は出来ない。気をつけるべきは右腰のビームサーベルだけだ。

 

 それに、今はストライクを落としに行く必要はない。

 

 

 

「どうしてあんな人に手を貸してるんだ!」

 接近し、ビームサーベルを抜くストライク。イージスもそれに応えるように両腕のビームサーベルを展開し、ストライクと機体をぶつけ合う。

 

 

「何度も言わせるな、俺達はGBNを壊すだけだ!」

「何でそんな事を! 俺達、ガンダムが好きで……ガンプラが好きだっただろ!?」

「好きだった……からだよ!!」

 鍔迫り合い、サーベルを振り払ってそう言うアオト。ケイはドッズガンを連射しながら再びイージスに肉薄し、大振りにビームサーベルを構えた。

 対するアオトはその大振りに耐えられるようにサーベルをクロスさせる。

 

「だから……なんで!!」

 しかし大振りと見せ掛けて、ケイはクロスボーンストライカーのスラスターをずらしてイージスの真上に潜り込んだ。

 地上戦闘でこんな動きが出来ると思っていなかったアオトは一瞬反応が遅れる。

 

 

「───好きな物を壊そうとするんだよ!!」

「───っ」

 振り下ろされるドッズランサーに盾を向けるアオト。縦を貫いたドッズランサーだが、イージスのフェイズシフト装甲を破る事は出来ない。

 しかし、その衝撃の隙にケイはビームサーベルを振り払いイージスの左腕を切り飛ばした。アオトは舌打ちをしながらストライクBondと距離を取る。

 

 

「壊してきたじゃないか……俺達は!!」

「アオト……?」

「大好きなガンプラを、何度も壊して、何度も直して、それでも壊してきたじゃないか!!」

「……っ」

 残った右腕と両足のサーベルを展開し、ストライクBondに肉薄するイージス。

 ドッズガンによる牽制を意にも介さずに、ストライクの懐に潜り込んだイージスはドッズランサーごとストライクの左腕を切り飛ばした。

 

 

「───それって、GPDの事か」

「そうだ、俺達が……父さんが夢中になったガンプラバトルだ。こんな偽物の世界じゃない、本当の世界のな!!」

 お互いに再び鍔迫り合いながら、アオトはそう叫ぶ。

 

 

 あの日、あの事故の日。

 GBNに皆が熱中し始め、GPDは忘れ去られようとしていた。

 そんな事に苛立ちを覚えていたアオトの父親は、彼のガンプラを道路に投げて───

 

 

 その後アオトは父親と仲違いして家を出て行ったが、今の彼はあの頃の自分の父親と同じ想いを募らせているのかもしれない。

 

 

「GBNが憎いのか……」

「そうだよ……。俺の父さんからGPDを奪ったGBNが、ユメカの足を奪ったガンプラが、俺から何もかも奪っていったガンダムが憎いんだよ!!」

 変形し、ストライクに突撃するイージス。対するストライクはスラスターを吹かせ逃げる事はなく、自分からイージスに突進する。

 

「だから俺は、GBNをぶち壊す!! それで、また何かを失うとしても!!」

「アオト……!!」

 彼がこの五年間何を考えて過ごしていたのか、考えた事が無かった訳じゃない。

 ただ、その想像は尽く外れていた。俺達は親友に、とても寂しい想いをさせていたんだと気付く。

 

 

 なら、今ここで止めなければ。殴ってでも、アオトを連れ帰るんだ。

 

 

 変形したイージスの両手足がストライクをつかもうとしたその瞬間、ケイはクロスボーンストライカーを離脱させてストライクをしゃがませる。

 するとスラスターを全力で吹かせていたクロスボーンストライカーだけが、イージスに向けて突撃していった。

 

 これをイージスは避ける事が出来ずに、ストライカーにぶつかりバランスを崩して地面を転がる。

 

 

 

「違うんだアオト、お前のお父さんだってもうGBNの事は乗り越えた。ユメカだって新しい夢を見てる。お前がこんな事で悩むことなんてないんだよ!」

 ビームサーベルを構え、地面に倒れているイージスに向けて歩くケイ。

 しかし、死に体の筈のアオトは不敵に笑っていた。

 

 

「……俺の恨みがそれだけだと思ってるのかよ」

「……アオト?」

 その声に身体は震える。本物の憎悪を向けられたかのような、嫌な感覚が身体を走った。

 

 

「……俺から何もかもを奪ったのは、ガンプラと───お前なんだよケイスケ」

「は? 何言って……おい、アオ───」

 刹那。

 イージスは炎に包まれて、地面に転がっているクロスボーンストライカーと一緒に鉄屑になり変わる。

 

 

 

「……どういう事だよ、アオト。……おいアオト! 見てるんだろ!! アオト!! 説明しろよ!! アオトぉ!!!」

 自爆したイージスが居た場所には、爆風に巻き込まれて地面に横たわるストライクBondだけが残っていた。

 

 

「……なんで」

 唇を噛むケイだが、状況を見てハッとする。

 アオトの目的が時間稼ぎなら、自分はクロスボーンストライカーまで失って彼等の思う壺だ。ニャム伝えで聞いた「サザビーをユメちゃんに近付けるな」という言葉が頭に浮かぶ。

 

「くそ、ユメカ……! 大丈夫だよな……」

 戦いに真剣になり過ぎて周りが見えていなかった。ケイは踵を返してストライクBondのスラスターを吹かせる。ストライカーパックのないストライクの機動性は、実際よりも遅く感じた。

 

 

 

 

「ロック氏、敵さん射程圏内っすよ! そろそろ当てて下さいっす!」

「ニャムさんまで俺の射撃をバカにしたな!? 見たろよ畜生。ロック・リバー、目標を狙い撃つ!!」

 ユメが引き連れてきたサザビーに向けて、GNスナイパーライフルを向けるロック。放たれた光はスカイグラスパーの真下を通り抜けて、サザビーの頭の上を通り過ぎる。

 

「惜しいな」

「タケシ君今私に当たりそうだったよ!?」

「ロック氏に期待した自分がダメだったっす」

「酷い!!」

 言っている間にユメのスカイグラスパーは二人の上空を走っていた。

 サザビーの射程にデュナメスHellとアッガイが入る。しかし、サザビーのパイロットはスカイグラスパーしか見ていないようだった。

 

 

 放たれたライフルはスカイグラスパーの左翼を掠める。ユメは冷や汗を流しながら機体を旋回させた。

 

 

「こうなったらプランBっすよ! ロック氏、別で近付いてくるキュベレイの事は任したっすよ!」

「おうよ───って、え? ニャムさんアッガイでどうする気だ?」

「こうするっす!!」

 言いながら、ニャムはアッガイのスラスターを全力で吹かせる。

 本来水陸両用であり空中戦を想定していないアッガイだが、その完成度の高さからかスラスターはオーバーロードしたものもスカイグラスパーを追うサザビーの軌道へと上昇して見せたのだ。

 

 

「アッガイが飛んで来ただと!?」

「ニャムさん!?」

 それにはスカイグラスパーを追いかけていたサザビーのパイロット、サトウも目を丸くする。

 そしてニャムのアッガイは、そのままサザビーに組み付いた。無理な姿勢で機体のバランスが崩れたサザビーは、そのまま重力に引かれて落ちて行く。

 

 

「なんなんだこのアッガイ!」

「重力に魂ごと引き摺り込んでやるっすよ!!」

「ニャムさん!!」

「ジブンの事はお気になさらず!!」

 落下していくニャムに冷や汗を流すユメ。どう考えてもこの高度から落ちればMSといえどタダではすまない。

 サザビーを道連れに出来るならばそれで良いのかもしれないが、サザビーのパイロットも甘い訳ではなかった。

 

 

「そんな機体のパワーで捕まえ続けられるかよ!」

 サトウは機体を振って、簡単にアッガイを振り払って見せる。そうして姿勢制御をこなし、落下を阻止した。

 一方でアッガイは高台の崖に落ちていく。このままでは撃墜するのはアッガイだけだ。

 

 

「ニャムさん……!」

「大丈夫大丈夫、目的はユメちゃんを救う事っすから。勿論、やられるつもりはないっすよ! フリージーヤード展開!」

 しかしニャムもそのつもりはない。彼女のアッガイは頭頂部のミサイル発射口からカプセルを射出、そのカプセルから放たれたゲル状の物体がアッガイを覆い尽くす。

 

 

「何あれ!? スライム!? ガンダムなのに!?」

 ユメの言葉はごもっともだが、これも歴とした機動戦士ガンダムに登場する装備の一つだ。

 

 

 フリージーヤード。

 このゲル状の物体が機体を覆う事で、機雷や爆雷を絡めとり無効化する事が出来る装備である。

 

 

「着地ぃ!!」

 そうして、そのフリージーヤードで全身の摩擦を減らしたアッガイは丁度高台の崖を滑り落ちるようにして落下速度を落としていった。

 それは機動戦士ガンダムサンダーボルトでダリルがフリージーヤードを使ってやった事とほぼ逆の行動である。

 

 崖を下り終える頃には、アッガイは見事に落下速度を殺して着地したのであった。

 これでユメが逃げる時間も稼いで、アッガイも無傷。ニャムの作戦勝ちである。

 

 

「流石ニャムさん!」

「邪魔しやがって、くそ」

 感心するユメと悪態を吐くサトウ。しかし、着地したニャムは崖の下に広がっていた光景を見て「へ……?」と情けない声を漏らした。

 

 

「ニャムさん……?」

「そんなバカな……」

 アッガイのモノアイ。その先に映っていた光景は───

 

 

 

 

「俺が……こんな、バカな」

「よう、フラッグ機を置いて行くとは……余程大切なんだな。あのキサラギ・ユメカが」

 ビームサーベルをロックのデュナメスHellの頭部に突き刺すキュベレイ。

 

 

 ───ニャムのジャンプ中、その一瞬でロックを戦闘不能にしたセイヤの赤いキュベレイだった。




一瞬だけ原作SEEDの戦闘シーンのオマージュを混ぜました。こういうのはやりとく。

読了ありがとうございました!


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復讐者

 スラスターを吹かせるアッガイ。

 

「ニャムさん!?」

 飛び上がるアッガイを見届けたロックは、彼女に言われた事を思い出して目を細めた。

 

 

「……キュベレイ」

 敵の残り機体は三機。今頭上に居るサザビーと、ケイと戦っているイージス、そしてあの───

 

 

「デュナメス、フラッグ機か」

「……テメェだな、俺のダチ公やライバルをコケにしてくれやがった奴は」

 ───赤いキュベレイ。

 

 デュナメスHellのフルシールドが開く。ビームサイズを手に取ったロックは、間髪入れずにセイヤの赤いキュベレイにその刃を向けた。

 

 

「テメェだけは───」

 ビームサイズを振り下ろすデュナメスHell。しかし、キュベレイはそんなデュナメスHellの懐に潜り込む。

 大釜の刃は間合いが広い代わりに超至近距離には不向きの武器だ、勿論これはロックも分かっていた。

 

「───許さねぇ!」

 ロックのデュナメスHellは、キュベレイが懐に潜り込んでくるのが分かっていたかのように膝を上げてキュベレイを蹴る。

 カウンターへのカウンターが決まったと不適に笑うロックだっが、セイヤの赤いキュベレイはデュナメスHellの膝蹴りを受けてもビクともしていなかった。

 

 それどころか、デュナメスの膝にヒビが入る。

 

 

「は?」

「ガンプラの出来が違うんだよ、ガキが」

 そのままキュベレイはデュナメスを押し倒し、ビームサーベルでデュナメスの頭を突き刺した。

 

 モニターが死ぬ。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

「俺が……こんな、バカな」

「よう、フラッグ機を置いて行くとは……余程大切なんだな。あのキサラギ・ユメカが」

 ユメを救助するべくフラッグ機の側を少しだけ離れたニャムが見たのは、その一瞬で倒されたロックのデュナメスHellの姿だった。

 

 

 遠距離射撃はともかく、近距離戦ではニャムの知る限りでもトップクラスのダイバーだったロックが一瞬で。

 信じられないと一瞬固まるニャムだったが、首を横に振って操縦桿を握りしめる。

 

 

「フラッグ機? なんの事すかね」

 自分に落ち着けと念を押した。フラッグ機は相手には分からない筈である。

 鎌掛けか、そうでなければロックが自分で言ったか、あるいは───

 

 

 ──カルミアさんはそんな事しないよタケシ君!──

 

 

「いやいや、そうっすよ。……そんな訳がないっす」

「カルミアが漏らした。フラッグ機はデュナメス、お前達の作戦は地下水脈に俺達を誘き出し、背後から襲う事だってな」

「───へ?」

 ユメの言葉を思い出してカルミアへの疑いを振り払った直後、セイヤのそんな言葉にニャムの思考は今度こそ停止した。

 

 カルミアはアンチレッドの敵を一機撃墜しているし、理由は分からないがユメを案じてかサザビーを近付けるなという忠告もしてきている。

 それなのにカルミアが情報を漏らしたという意味が、ニャムには分からなかった。

 

 

「元々そういう予定だったんだよ。……まぁ、少し予定外の事も起きたが」

 デュナメスの両腕をサーベルで切り飛ばし、セイヤの赤いキュベレイはニャムのアッガイにビームサーベルを向ける。

 対するニャムはカルミアの事以外にも頭に引っ掛かる点が一つあった。

 

 

「……この声、どこかで」

 赤いキュベレイのパイロット。観戦中にも声は聞いていたが、こうして直接話してみるとどこかで聞いた事があるような気がしてならない。

 カルミアの事といい分からない事ばかりだが、今はそんな事よりもバトルに勝つ為にはどうすれば良いのか考えなければならないだろうと、彼女は再び頭を振って自分の頬を叩く。

 

 

「ニャムさん! こちらケイ。イージスを撃破したけど、合流には時間が掛かりそうです! そっちの状況を教えて下さい」

 丁度、そんな所でケイからの通信が入った。イージスの撃破、これは大きな戦果だが合流に時間が掛かるというのは状況的に宜しくない。

 

「こちらニャム。状況は最悪っすね。ユメちゃんがサザビーに追われていて、ロック氏は大破、ジブンは今キュベレイと交戦……って所っす」

 引き攣った声で「出来るだけ早めの合流求めます」と付け足したニャムは、ヒートホークを右手に装備して通信を切る。

 

 これはゲームであって現実ではない。

 負けても死ぬ訳ではないが───だからこそ負けたくないのだ。

 

 

「───ふぅ。機動戦士ガンダムサンダーボルトより、アッガイ。ニャム・ギンガニャムが相手するっす!!」

「ニャムさん、気を付けろ。コイツのガンプラヤバイぞ」

 セイヤの実力を身を持って知ったロックの忠告もあり、勢い良く言ったは良いが慎重に構えるニャム。

 対するセイヤのキュベレイは首を持ち上げて、アッガイを見る事なく空を見上げている。

 

 

「な、舐めてんすか!?」

「落ちたな」

「はい?」

「ニャムさんごめんなさい……!」

 突然入ってきた通信。空ではユメのスカイグラスパーがサザビーに襲われてスラスターを破損、高度を落としていた。

 

 

「───しまった!?」

「そんなに大事なら、最後まで守りきれ……」

 言い捨てたセイヤはキュベレイのスラスターを吹かせて、降下してくるスカイグラスパーの元へ跳び上がる。

 そうはさせないとバルカンを向けようとしたニャムだが、スカイグラスパーと一緒に降下してきたサザビーのライフルを感知してそれを避けるのでやっとだった。

 

 

「ユメちゃん!」

「ユメぇ! 逃げろ!!」

 ニャムとロックの悲痛の叫びは届かず、彼女のスカイグラスパーはキュベレイに捕まってしまう。

 モニターいっぱいに映る赤いキュベレイ。そのパイロットの試合を思い出して、ユメの身体は震えていた。

 

 

「……私、何を言われてもあなたの思い通りになんてならない」

 だけど、彼女は震える体を抱きながらそう言う。

 

 理由は分からない。GBNへの復讐とか、GBNを壊すだとか、まだGBNを始めたばかりのユメには到底関係のない問題だ。

 だけど、彼がやっている事、やろうとしている事が間違っている事は分かる。スズに彼が言った事は正しい事なのかもしれない、本当の事なのかもしれない。

 

 それでも、それが彼女からGBNを奪って良い理由にはならない。

 

 

「そうか」

「私は確かにGBNでしか歩けないし、飛行機の操縦も出来ない。事故で夢を諦めなきゃ行けなくなったし、周りの友達にも迷惑ばっかりかけてる。……私が悪いなんて分かってるよ!」

 スカイグラスパーの砲身をキュベレイに向けながらそう言うユメ。セイヤはその砲身を簡単にサーベルで切り飛ばして、崖の上に着地した。

 

 

「だけど、そうじゃない人だって居る。何もなくてもGBNが楽しいって思ってる人も居る、ガンダムが好きでGBNが好きって思ってる人も居る。……私は何を言われても、私が悪いって分かってる。だけど、他の人は違うよ! だからあなたは間違ってる!」

「ユメちゃん……」

「ユメ……」

 彼女の必死な言葉に、何も出来なかったロックとニャムは感心して息を飲む。

 

 自分がどれだけ嫌な思いをしても、他の人の事を考えられるのは彼女の良い所だ。

 幼馴染みのロックはそれをよく知っている。

 

 

 それが彼女の良い所でもあり、悪い所だという事も。

 

 

 

「いや、お前は何も分かっちゃいない。お前が悪い、だから自分だけ苦しんでるから他の人間は悪くない? 勘違いも甚だしい。自分だけが苦しんでると思うな」

「……え?」

 しかし、セイヤの言葉にユメは固まってしまった。

 

 自分だけが苦しんでいる。

 そんな事は思っていない。ケイスケやタケシや、アオトやその父親にだって沢山迷惑を掛けている事くらい分かっているつもりだ。

 

 

「サトウ、言ってやれ」

 言いながら、セイヤはスカイグラスパーを地面に投げ捨てる。その脇に着地したサザビーを見て、ニャムは再びカルミアの言葉を思い出した。

 

 

 ──それと、サザビーだけはユメちゃんに近付けさせるな──

 

「ユメちゃん、聞いちゃダメっす!!」

 そんなニャムの言葉はなんの意味もなさない。

 

 

「俺は、あの事故を起こしたトラックを運転してた」

「……トラック」

 サトウの言葉を聞いて、ユメの脳裏に事故の光景が蘇る。

 ガンプラを取ろうと飛び出した道路。近付いてくるトラック。吹き飛ばされる自分の身体。激痛と恐怖。

 

 身体が震える。

 だけど、そんなのはいつもの事だ。

 

 

 怖くない。負けるもんか。

 ユメは自分にそう言い聞かせて前を見る。

 

 

「その事故で俺がいくら払わされたと思ってる! 会社も俺も借金まみれで、あの事故だけで人生どん底だ。……お前のせいでな!!」

「ぇ……」

 しかし、続くサトウの言葉にユメの呼吸は一瞬止まった。

 

 

「自分だけが苦しんでると思ってるのか! 俺達が、道路に飛び出してきたお前のせいでどんな目にあったかも知らないで! そんなお前が、GBNを楽しんでるなんておかしいだろ。俺はな、ガンプラもお前も憎いんだよ!!」

「私……が」

 サザビーがビームライフルをスカイグラスパーに向ける。

 

 

 機体はスラスターも損傷、キュベレイに武器も壊され、地面に投げられた衝撃で本当に何も出来ない状態になっていた。

 スズに狙撃されて不時着した時よりも、本当に何も出来ない状態。

 

 

 自分のせいで知らない人達に考えられない程の迷惑をかけていたという事実が、彼女の頭の中で反響する。

 

 自分がどれだけ嫌な思いをしても、他の人の事を考えられるのは彼女の良い所だ。

 それが彼女の良い所でもあり、悪い所でもある。自分を責め過ぎる彼女の性格上、こんな事を言われて簡単に立ち直れる訳がなかった。

 

 

 カルミアの忠告もあったのに、それを止める事が出来なかったニャムは抑えきれずに「クソが!」と悪態を吐く。

 動けないロック、そして単体での戦闘に不向きなアッガイにこの状況を打開する手はなかった。

 

 

 

「私……そんなの、知らなくて。……ごめんなさい」

「今更謝っても意味なんかないんだよ!」

「……ごめんなさい」

「二度とGBNで楽しい思いなんてさせない。俺達が、このGBNを壊すからな!」

「ごめん……な、さ───」

 銃口が光る。

 

 

「大人が……ふざけた事を言うなぁ!!」

「何!?」

 ビームサーベルがサザビーの腕を切り飛ばした。

 そしてそのビームサーベルの主は、サーベルをサザビーの身体に投げ飛ばして、切り飛ばした腕が持っていたサザビーのライフルを掴む。

 

 デュナメスもアッガイも動けてはいない。

 そこに現れたのは───

 

 

 

「……ケー、君?」

「ストライクだと……」

「GBNは……好きな人が好きな事を楽しむ場所だ。それを壊すなんて、大人のやる事じゃないだろ!」

 ───ケイのストライクBondだった。




いつも主人公は良いところで登場する。


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敗北と勝利

 モニターに映るストライクを見ながら、少年は目を細めた。

 

 

 懐かしい。

 楽しかった思い出も、悔しかった思い出も───何もかもが憎たらしく思える。

 

 

「ケイスケ、お前はいつも───」

 そう、いつだって───

 

 

 

「───格好良いよな」

 少年アオトの目に映るのは、いつの日か自らが託したストライクだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 サザビーはスラスターを吐かせてストライクから距離を取る。

 そんなサザビーから奪ったライフルを連射したケイのストライクBondは、離れたサザビーを見て今度は背後のキュベレイにライフルを向けた。

 

 

「ほぅ」

「アオトめ、しくじったな……!」

「いや、俺達が時間をかけ過ぎたな」

 サトウの悪態にそう返しながら、セイヤはストライクにキュベレイの片手を向ける。

 

「満身創痍で何が出来る」

「そっちだって。こっちは四機居るんだ」

 言いながらキュベレイにライフルを放つケイ。それを軽々と避けるセイヤだが、ケイはライフルの照準を調整しながらスカイグラスパーの前に出た。

 

 

「ニャムさん!」

「ガッテン!!」

 ライフルを避けて一瞬の隙を見せたキュベレイに、崖の下からアッガイがミサイルを放つ。

 ミサイルは数発ライフルで掻き消されたが、キュベレイの足に二発直撃した。

 

 

「舐めるなよ……」

 脚部を損傷しながらも、セイヤは崖下のアッガイをビームライフルで狙撃する。

 その攻撃はアッガイの両足と頭を貫いて、直後にケイが放ったビームライフルをセイヤはビームサーベルで弾き返した。

 

 

「なんと!?」

「強い……!」

 それでも、とケイはスカイグラスパーを守るようにキュベレイの前に出る。

 ニャムのアッガイは崖下で倒れて、ロックのデュナメスHellと同じく戦闘不能だ。

 

 

 

「くっそ、スラスターもイカレてて機体が動かないっす。やらかした! 本当にやらかした!」

「落ち着いてくれニャムさん……。いや、俺も叫びたいくらいなんだけどな」

 ニャムとロックはケイを見守る事しか出来ず、ただ壁を叩く。

 大切な仲間のピンチに何も出来ない。これ以上悔しい事があるだろうか。

 

 

 

「……ユメ、飛べるか?」

「ごめん、無理みたい。ケー君、私の事は良いからバトルに───」

「それで勝てたとして、そんなのは勝ちじゃない」

「ケー君……?」

「感動的だな。……そういうのが、ガキ臭いって言うんだよ!!」

 ビームサーベルを展開し、ストライクBondに切り掛かるセイヤ。ケイはライフルを盾にしようとするが、それは簡単にサーベルで切り裂かれた。

 

 

「……っ」

 誘爆するライフルを投げ捨てて、ケイは右腕でキュベレイの手首を掴みサーベルを受け止める。

 しかし既に消耗しているストライクはキュベレイに押し負けていた。光の刃が機体にジリジリと迫る。

 

 

 

「ユメはずっと……辛い思いをして来たんだ」

「それを自分だけだと思ってるのが許せないんだよ……。なぁ、サトウ!」

 セイヤの声に、サトウのサザビーが背後からストライクを襲おうとサーベルを振り上げた。

 

「……まだ動ける!?」

「ケー君!!」

 ユメの悲痛の叫びに、ケイの頭の中で何かが弾ける。

 

 視界から色が消えた。

 感覚が研ぎ澄まされていく。

 

 

「……それでも!!」

 ケイはストライクBondのスラスターを吹かせて、その推力も使ってキュベレイの腕を蹴り上げた。

 同時に自由になった右腕で、展開したアーマーシュナイダーを逆手に持って背後から来たサザビーの胴体に突き刺す。

 

 

「な……に!?」

「一番苦しい思いをしたのはユメカだ。……それに、ユメカはいつだって、自分の事より迷惑をかけた周りの人の事を考えてた!!」

「そんな奴が居る訳───」

「ユメカはそういう奴なんだよ!!」

 事前のビームサーベルでの攻撃もあり、パワーダウンするサザビーを崖に蹴り飛ばすストライクBond。

 

 

「誰よりも優しくて、強がって、自分を責め続ける弱い女の子だ」

「こいつ……バカな! そんなバカな!!」

「そんな女の子に、大人が小さな愚痴を垂れ流すな!!」

 ケイはそう言いながら、崖の下に落ちていくサザビーに向けてアーマーシュナイダーを投げ付けた。

 その一撃で姿勢制御も出来なくなったサザビーは、そのまま崖の下に叩き付けられて爆散する。

 

 

 

「こいつ……」

「あんたもだ……!」

 怒りの瞳をキュベレイに向けるケイ。ストライクBondのメインカメラが光り、同時にイーゲルシュテルンがキュベレイの片腕の関節を撃ち抜いた。

 

 

「そんな機体で!」

「あんたさえ倒せば……!」

 キュベレイに肉薄するストライクBond。もはやイーゲルシュテルンしか武装がない上に左腕もないそんな機体に、セイヤは何故か恐怖を覚える。

 

 

狂戦士(バーサーカー)とでも言うつもりか……! クソが!!」

 背後にスラスターを吹かせるキュベレイ。その先は崖だ。

 

 

「逃げる!? させるか!!」

 追い掛けるケイだが、キュベレイのライフルの銃口を見て一瞬思考が停止する。

 その銃口はストライクには向けられておらず、ユメのスカイグラスパーに向けられていた。

 

 これは勝ち負けを決めるゲームである。

 だから、今彼女を守る理由はない筈だった。だけど、彼にそれが出来る訳がなく、ケイは一瞬動きを止めてしまう。

 

 

 それが試合の勝ち負けの分かれ道だった。

 

 

 

 

「まさか……! ロック氏、逃げて下さいっす!!」

「え? いや、もう機体が」

 崖の下で戦闘不能になっていたニャムが事に気が付いて叫ぶ。この試合はフラッグ戦だ。

 

 アンチレッドのフラッグ機はキュベレイで確定している。そしてReBondのフラッグ機はデュナメスだ。

 カルミアが情報を流したという事を信じる訳ではないが、きっと相手の狙いは───

 

 

「ここに来て勝ちに来たっすか!?」

「嘘だろオイ!?」

 気が付いた時には既に遅い。

 そもそも今のデュナメスHellは、戦う事はおろか逃げる事すら出来ないのである。

 

 

勝ち(・・)は譲ってやるよ」

「や、やめろっす!」

 デュナメスHellの元に降り立ったキュベレイはビームサーベルを展開し、腕を振り上げた。

 なんとか腕だけで地面を這いずって来たニャムのアッガイが、キュベレイの足を掴む。

 

 

「邪魔をするな、ナオコ」

「───ぇ」

 アッガイを振り払い、デュナメスHellをビームサーベルで切り裂くセイヤ。

 

 

 

 BATTLE END

 

 デュナメスが爆散し、戦いの終わりが告げられた。

 

 

「待って、なんでジブンのわ私の名前を───」

 バトル終了に伴い消滅していくデータの世界。

 

「───兄さん……?」

 伸ばした手は、綻びになって消える。

 

 

 フラッグ機デュナメスHell撃破。

 

 WINNER FORCE‬ アンチレッド

 

 

 

 

 

 

 光が散らばった。

 

 

「見事、と言うべきかな。……私の事を覚えているか? セイヤ」

「……それは皮肉か? チャンピオン」

 バトルが終わって控え室に立つセイヤの前に、一人の男が現れる。

 

 現GBNのダイバーランキング一位にして、フォースランキング一位であるフォースAVALONのリーダー。クジョウ・キョウヤだ。

 

 

「そんな呼び方はよせ。一緒に仲良く塩を探した仲じゃないか」

「初心者の頃に数回ご一緒しただけの俺の事を覚えているのは感心するけどな……何の用だ?」

「私は見込みのあるダイバーを───いや、一緒にこの世界を楽しんだ仲間を忘れたりはしない」

 整った口調でそう言うキョウヤだが、その瞳は鋭くセイヤの瞳を穿つように向けられている。

 

 

「なんでこんな事をしている……とでも言いたいんだろうな。俺を排除しに来たって訳か? チャンピオン」

「何度も言わせないで欲しいな。私は一緒にこの世界を楽しんだ仲間を忘れたりはしない。……君とは塩探しやバトルミッションを何度か一緒した。今のバトルで君と戦っていたカルミアやチームだったサトー、あの赤髪の女の子とも。……君はあの頃純粋にGBNを楽しんでいた筈だ! 君に何が───」

「綺麗事ばかり覚えてる奴がぬかすんじゃねぇ!!」

 訴えかけるキョウヤの首元を掴み、セイヤは彼を睨んで激昂した。鬼のような形相に、キョウヤも冷や汗を流す。

 

 

「あの子は───レイアは……GBNに殺された!!」

「な、何を言っている」

「ELダイバーを見逃したGBNの運営が、お前達が大好きなこのGBNでしか生きていけなかった女の子を! あのELダイバーだけが救われて、レイアは救われなかったんだよ!!」

「まさか……彼女以前にも───」

 言いかけたキョウヤを突き飛ばして、セイヤはGBNからログアウトした。

 

 

 

 

 

 

 

「だから俺は、復讐を果たす」

 そんな言葉だけを残して。




そろそろNFT編も終わりです。少しずつ明らかになるセイヤの過去。リライズのイヴとは少し違う立ち位置ですが、何かあった事だけ察していただければ幸いです。

読了共に感想ありがとうございました!


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これから勝つ者達へ

 手を伸ばした。

 

 

 これで良かったのか分からない。

 ただ、その答えすら知る権利は自分にはもうないのだろう。

 

 こんな自分を仲間だと言ってくれる子供達を裏切った。大切な仲間を裏切った。

 何もかもに嘘を付いて、この先自分が何処に行くのか。

 

 

 何処でもない何処かへ、いっそ───

 

 

 

「……関わるのも辞めちまえば、楽にもなるか」

 コンソールパネルを開いてログアウトボタンに指を向ける。少しだけ手を止めてから、彼はGBNの世界から姿を消した。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GBN。NFT会場。

 

 

 

「───兄さん……?」

 バトルが終わり、ReBondの面々も元居た観客席に戻される。

 

 戻ってきた四人(・・)にノワールは「勝ったな」と声を掛けた。

 

 

「勝ったって……?」

「バトルには負けたかもしれない。だけど、お前達は戦いには勝った」

 ケイの問い掛けにそう答えるノワール。自分には出来なかった()()()()()事を成し遂げたケイを、素直に賞賛しているのだろう。

 

 しかし、彼等はバトルには負けた。

 

 

「俺は……勝てなかった。バトルにも、戦いにも……」

 歯を食いしばるロック。フラッグ機としてキュベレイとの戦いにも、バトルにも負けた自分が許せない。

 なによりも好敵手()の仇を撃ちそびれた事に納得がいっていないのだろう。

 

 

「……強かったな」

 そんなロックに、ノワールは神妙な面持ちで声を掛けた。あの赤いキュベレイの強さは彼も知っている。

 

「……そうだな」

 座り込んだロックは大きく溜め息を吐いた。自分の無力さに呆れつつも、ケイがユメを守ってくれた事には安堵している。

 

 

 次は負けない。

 そう誓って、彼は目を閉じるのであった。

 

 

 

「あれ? カルミアさんは?」

 そんな中、この場にカルミアが居ない事に気が付いたユメは辺りを見渡しながらそう言う。

 釣られて首を振るケイだが、彼の姿はどこにも見当たらない。

 

「ニャムさん?」

 それに加え、何故か上の空で固まっているニャムにユメは声を掛けた。ニャムは「ふぇ!? あ、いや、カルミア氏っすよね!?」と慌てた様子でコンソールパネルを開く。

 

 

「どうかしたんですか?」

「な、何でもないっすよ。えーと……カルミア氏、ログアウトしてるみたいっすね」

 両手を広げながらそう言って、ニャムは自分のコンソールパネルでフレンド一覧を開いて夢に見せた。

 コンソールパネルには彼女の言う通り、カルミアはログインしていないと表示されている。

 

 

「カルミアさん……」

「あー、畜生。おっさんに聞きたい事何個かあったのによぉ」

 その事実に驚くケイと、頭を掻いて眉間に皺を寄せるロック。その気持ちはニャムも同じで「むむむ……」と唇を噛んだ。

 

 

 

「お待たせいたしました!! 本日予定のバトルは全て終了!! それでは、明日のバトルに生き残ったネクストなフォースを紹介していきます!!」

 会場の中心で司会が高々に叫ぶ。

 

 大きなモニターにはトーナメント表が表示されていて、今日のトーナメントを勝ち抜いたフォースの名前が並んでいた。

 

 

 

 その中にはアンチレッドの他に、砂漠の犬の名前も入っている。

 

 

 

「約束、果たせなかったな……」

「ケー君……」

 メフィストフェレスとの再戦、そして砂漠の犬との再戦。

 

「ケイは悪くねぇよ……。悪いのは俺だ」

「そ、そんな事ないよ! 元はと言えば私が───」

「いや、ケイもユメも勝った。負けたのは()()だ」

 ロックはそう言ってから「それにしても」と目を逸らした。

 

 

「おっさん、なんで何も言わずにログアウトしてるんだ? 聞きたい事とかあるのによ」

「そうっすね……。ジブンも気になる事があるっす」

「アンチレッドの大将、おっさんが裏切ったとか言ってたもんな」

 怪訝そうな表情でそう言う二人。ユメはそんな二人の会話に少し不満そうに頬を膨らませる。

 

 

「そんなの、嘘に決まってるよ……!」

 珍しく反発的な態度のユメにニャムもロックも焦って両手を上げた。

 

「ゆ、ユメちゃん。別にジブン達も疑ってる訳じゃないんすよ!? ただ……その、確認したい事がありますというか」

「俺達はバトルを見ていたが、その事なら───」

「待て」

 両手を振って言葉を繋げるニャムに口を挟もうとしたトウドウだが、彼はノワールに止められる。

 トウドウを押さえながら、ノワールは四人に自分のコンソールパネルを開いて見せた。

 

 

「今回のイベントページだ。時期に今日の試合の殆どが掲載される。……この問題はお前達のフォースの問題だ。自分達の目で確認するんだな」

 ノワールはそう言いながら、ログアウトの確認画面までコンソールパネルを操作する。

 

 会場は一日目が終わりお祭りモードだった。

 しかし、彼らはそんな気分でもない。

 

 

「俺達はアンジェ達が心配だから先にログアウトする。明日は……俺は決勝を見届けるつもりだが」

「俺もそれは気になるし、後で連絡するわ」

 ロックが返事をすると、ノワールは「分かった」と返してログアウトする。続いてトウドウ達がログアウトした後、ケイはロックに「いつのまに連絡先交換してたんだ?」と問い掛けた。

 

 

「いつも店で会うしな。ログインするとき大体顔見るし。……アイツもしかして暇人か?」

「連絡先、といえば誰かカルミア氏の連絡先知らないんすかね? NFTは終わってしまったっすけど、ジブン達は仲間な訳ですし。……バトル内容を見ればカルミア氏の言動を知る事は出来るっすけど、どのみち会わなければ言葉は交わせないっすから」

 目を細めるロックの横で話を戻すニャム。

 

 聞きたい事があるのは勿論だが、これからの事だってある。なにより、これまでのお礼をまだ言っていない。そしてこれからも───

 

 

 確かに彼はNFT参加の為の助っ人だったのかもしれないが、四人にとってはもう大切な仲間だった。

 

 

「連絡先か……。ていうか、カルミアさんって確か───」

「あ、そうだ。ヒメカ……!」

 ケイが言いかけた所で、ユメは思い出したように妹の名前を口にする。

 

 

 元々カルミアはヒメカからの紹介でReBondの仲間になった。ならば、ヒメカなら彼の連絡先を知っている筈である。

 

 

「そういえばそうでしたね。どうします? とりあえず一旦ジブン達も解散にして、ログアウトしてから諸々の連絡を取る形で良いっすか?」

「そうしましょうか……。えーと、その……ニャムさん」

「はい?」

 ニャムの提案に返事をしたケイは、申し訳なさそうな表情で改まって彼女の目を真っ直ぐに見た。

 気が付けばロックもユメも同じようにニャムを見ている。

 

 

「……約束、果たせなくてすみません。NFTで優勝して、お兄さんを探すって約束」

「い、いえいえそんな。ジブン、これでもそういう事関係なく楽しんでましたし」

 ケイの言葉に屈託のない笑顔でそう返すニャムは「それに」と付け足して、口角を釣り上げた。

 

 

 

「収穫がなかった訳じゃなかったっす。望む形ではなかったにしろ、アオト君とも再開出来た訳ですし。こっちもこっちで手掛かりのような物は掴めたっすから」

「手掛かり?」

 首を横に傾けるユメに、ニャムは「その為にもカルミア氏に連絡取れるようお願いしますね、ユメちゃん」と笑顔を見せる。

 

 ログアウトするニャムを見届けてから、三人はお互い目を合わせて同時にログアウトした。

 

 

 

「兄さん……」

 光が離れていく。

 

 

 

 

「アオト……」

「お疲れ様、ケー君」

 ログアウトしたケイスケとユメカは、少しの間静かな時間を過ごした。ふと漏れた声に、ユメカは彼の頭に手を伸ばして声を掛ける。

 

「お、おう……」

「アオト君、元気そうだった?」

「どうだろう……」

 ずっと望んでいた友との再会。それがこんな形になって、ケイスケはどう言ったら良いのか分からなかった。

 

 

「ごめんね」

「そうやって謝る癖、直せよな」

「ご、ごめん……」

「ほら」

「う……」

 俯くユメカに、今度はケイスケが手を伸ばす。守らなければならないと、そう思った。

 

 

 ──俺から何もかもを奪ったのは、ガンプラと───お前なんだよケイスケ──

 ふと、彼の言葉を思い出す。

 

 

「……俺がアオトから何もかも奪ったって、そう言われたんだ」

「ケー君が? なんでそんな事」

「分からない。だから、確かめなくちゃ……」

「うん、そうだね」

 ケイスケに両手を伸ばすユメカ。特にこれに深い意味はなく、これはいつも一人で立てないユメカがケイスケの手を借りる時の動作だ。

 

 だから、ケイスケはいつも通り彼女の身体を抱き寄せる。そこに気持ちはあっても、権利はないから、ゆっくりとただ無心に───

 

 

「ありがとう、ケー君」

「うん、そうだな」

 だから謝らないで。そうやって、ユメカが笑顔で居られるように。

 

 

 

 

 

 翌日の朝、三人はプラモ屋に集まっていた。

 NFT観戦の為にもGBNにログインするつもりだが、ロックに「ノワールが会いたいって」と言われて今日はプラモ屋からログインする事にしたのである。

 

 

「足が悪いのに態々来てくれてありがとな」

 店の前で待っていたノワール───サキヤは、ケイスケとユメカが視界に入ると頭を下げてそう言った。

 そんな彼にユメカは両手を振って「顔を上げて」と訴える。

 

 

「悪いな。……もし時間があったら、俺と一緒にスズ達に会いに来て欲しいんだ」

「スズちゃん達って……リアルのって事ですか?」

 ユメカの質問にサキヤは「そうだ」と答えて、溜め息を吐いた。彼曰く日没までには戻って来れる筈らしい。

 

 ユメカの足の事を知りながらも真剣に頼み込んでくるサキヤの願いを断れる程、三人は意地が悪い訳がない。

 頼みを心良く引き受けてくれた三人にサキヤは安堵して胸を撫で下ろした。

 

 

 

「い、いらっしゃっい。マシンなら空いてるから、好きに使ってね」

 店に入ると、見違える程賑わっている店内で店長がそう挨拶をしてくる。

 ここ最近GBNのマシンの導入や店長のやる気も起きた事で、お店はかなりの賑わいをみせていた。

 

 そんな忙しい店長の邪魔をしないように、ケイスケ達はログインの為の準備をし始める。

 三人でユメカを座らせてから、それぞれがマシンに自分のガンプラを置いて瞳を閉じた。

 

 

 

 

「お、来たっすね」

「待っていたよ!」

「待っていたぜ!」

 ニャムとメフィストフェレスのレフトとライトは、ログインしてきた四人を見て手を振る。

 そこにはトウドウも居て、これで今日集まるメンバーは全員だ。

 

「アンジェリカはスズを見ているようだ」

「あぁ、聞いてる。とりあえずはアンジェに任せよう」

 トウドウの連絡にそう返事をしたノワールは、会場中心の大きなモニターに目を向ける。

 今日のトーナメント表がそこには表示されていて、彼はアンチレッドの名前に視線を向けた。

 

 

「……何が目的なんだ」

 無意識にその手が強く握られる。

 

 

 

「カルミア氏との連絡はどうだったっすか?」

「ヒメカに聞いたんだけど、電話は出てくれないみたいなんだよね。一応メッセージは送ってくれたらしいけど、家を出るまで連絡はなかったです」

 俯いてそう答えるユメに、ニャムは「むむっ」と唇を尖らせた。

 せっかく手に入れた手掛かりなのだが、また振り出しに戻る事になる。それに、彼と話したいというのはそれだけの問題じゃなかった。

 

 

「お疲れ様会とか、やりたいんすけどね」

「それ賛成!」

「僕ら参加!」

 ニャムの言葉に反応するレフトとライト。二人と目を合わせるノワールに、ニャムは「勿論メフィストフェレスの皆さんもお呼びできたらと思ってるっすよ」と答える。

 

 

「オフ会っすオフ会。今から楽しみっすよ!」

「オフ会……?」

 知らない単語に首を横に傾けるユメ。オフ会がリアルで会う事だと説明を受けたユメは「是非やりましょう!」と目を輝かせていた。

 

 

 

「やーやー君達」

 そうして大会が始まるのを待っていると、とある人物が彼等に話し掛けてくる。

 その人物を見てケイやノワールは申し訳なさそうに俯いた。

 

「アンディさん!」

「元気そうで何よりだ、ガールフレンドちゃん」

「が、ガール……フレ───」

 今大会優勝候補である砂漠の犬の大将。アンディは、揶揄うような表情でユメに笑い掛ける。

 

 

 気さくな彼だが、真に熱くReBondやメフィストフェレスとの再戦を願っていた。そんな約束を果たせなかったケイ達は黙り込んでしまう。

 

 

 

「……良いバトルだった」

 しかし、アンディはケイとノワールの前に立ってそう言った。

 

「バトルに負けようとも大切な人を守ろうとする、それが男の役割ってもんさ。これは戦争じゃない、ゲームだ。そこを履き違えなかった。……君達は勝ったよ」

「確かにケイは勝ったかもしれない。だが、俺は───」

「あの元気なお嬢様とクールなチビちゃんは居ないみたいだねぇ」

 アンディはノワールの言葉を遮って、辺りを見渡しながらそう言う。自分の敗北が許せなくて、ノワールは両手を強く握った。

 

 

「───負けたまま終われば確かにそれは負けだ」

「……え?」

「だが君達はまだ勝てる。違うかな?」

 アンディはそう言うと、ケイ達に背中を向けて片手を上げながら歩き出す。

 

 

 

 

「決勝戦、楽しみにしていたまえ。……僕は勝つからね」

 彼の大人の背中は、ケイ達にはとても大きく見えた。




最近はプレイステーション4のバトルオペレーション2にハマっているリキさんです。泥臭い感じがガンダム感マシマシで良き。
NFT編もいよいよ大詰めですよ!

読了ありがとうございました!


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宇宙を駆ける猟犬

 地表を駆ける四足歩行のMS。

 完璧な連携と三つの形態で敵を翻弄し、フォース砂漠の(けん)は順調に決勝戦までコマを進める。

 

 

 そしてNFT決勝戦。その相手は───

 

 

「……この復讐の仕上げだ」

 ───フォースアンチレッド。ReBondやメフィストフェレスを下したフォースだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 NFT会場は熱気に包まれている。

 イメージこそ悪くも、圧倒的な強さを見せつけるフォースアンチレッド。

 そして、統率力と連携で確実な勝利を勝ち取って来たフォース砂漠の犬。

 

 

 準決勝が終わり、NFT決勝はこの二つのフォースがぶつかり合う事が決まった。

 

 

「凄いなアレ……」

「俺達も去年、ただ完封されて彼等が決勝に行くのを見ている事しか出来なかった。それがここまでにさらに磨きの掛かった動きを見せてくれる」

 唖然とするロックに、去年のNFTでの記憶を漏らすノワール。雪辱を果たせなかったのは悔しいが、自分達が目指した道の大きさがどこか誇らしい。

 

 

「去年あのフォースを倒したのが、ビルドダイバーズ……」

 そんな中で、ケイは話に聞いただけの事を思い浮かべる。砂漠の犬の強さは本物だ。しかし、上には上が居る。

 

 

 

「これより、NFT決勝戦を開始します!!」

 司会のアナウンスに続き、会場の巨大なモニターがフィールドを映し出した。

 

 

 BATTLE FIELD SPACE

 

 デブリベルト。

 大気圏外の宇宙空間で、人間の捨てたゴミや戦闘により発生した残骸、隕石などが集まっている地域である。

 地球の引力に引かれながらも漂う残骸は、高速で突撃すればMSとてタダではすまない。反対に隠れる場所は多いので、遮蔽物を使った中距離近距離戦闘能力が試されるステージだ。

 

 

「これは砂漠の犬に完全に不利なステージっすよ。ガイアトリニティの変形は二つともこのステージと相性が悪いっす」

「それに、このフィールドではファンネルによるオールレンジ攻撃はかなり有効だ」

 モニターに映ったステージを見て、ニャムとトウドウはそんな言葉を漏らす。

 彼女達の言う通り、二つの変形機構を持ち高速戦闘を得意とするガイアトリニティにとってこのステージは最悪な組み合わせかのように思われた。

 

 

「犬モードは使っても足場がないし、飛行機になっても下手すればデブリに衝突だもんな」

「あそこで操縦するだけでも大変そう……」

 怪訝そうな表情を見せるロックと、心配そうに両手を組むユメ。二人の脳裏には、アンチレッドのリーダーセイヤがこれまでの戦いで対戦相手にして来た事が嫌でも浮かんでくる。

 

 

「……あの人は大丈夫だ」

 そんな中で、ケイだけは真っ直ぐにモニターを見てそう言った。彼と直接対決をしたケイだからこそ、その言葉が自然と盛れたのだろう。

 

 

 

「各機索敵陣形。さーて、始まるぞ。───狩りの時間だ!」

 試合が始まった。

 

 アンディ達フォース砂漠の犬のMSは、ガイアトリニティというMSに統一されている。

 全機体が同じ性能であり汎用力に欠けるが、それを補う程の指揮能力と機体スペックが彼等の持ち味だ。

 

 

 航空機形態に変形したガイアトリニティは五機で陣形を保ちつつデブリベルトに突入する。

 流石に本来の最高速度を維持する事は出来ないが、メンバー全員が同じ速度でデブリ帯を高速移動する様は圧巻だ。

 

 

 

「あの速度でデブリ帯を突っ切るのか……」

 それには同じく変形機を使うトウドウも驚いている。ユメも珍しく真剣な表情で「むむ……」とモニターに釘付けになっていた。

 

「流石っすねぇ」

「だが戦闘になればそうはいかない。……どうする気だ」

 目を細めるノワールだが、心配ではなく興味の感情が大きく勝る。彼等が何を見せてくれるのか、自分達が届かなかった頂きに何があるのか、それが早く見たくて仕方がなかった。

 

 

 

「隊長! 攻撃来ます!」

 巡航飛行するガイアトリニティ。砂漠の犬の隊員の一人が唐突に声を上げる。

 情報量は少なくとも地上戦闘の二倍。そんな中で敵の攻撃にいち早く気が付く事は、熟年のダイバーであっても難しい。それこそニュータイプの所業だ。

 

 だからこそ砂漠の犬の索敵陣形は、五畿で並列に並ぶのではなく、まるで中心から五角形を作るように宇宙空間を並んで進む。

 これにより一人当たりが注意しなければならない空間は通常の五分の一になる訳だ。

 

 

 いち早く攻撃を察知した砂漠の犬のガイアトリニティは一斉に散開して攻撃を交わす。

 その先に現れたのはゴトラタンとサザビーの二機だった。

 

 

「ファンネルが来るぞ! 各機回避運動、まずはゴトラタンを落とす!」

 アンディがそう言い終わる前に、サザビーのファンネルが彼の機体を襲う。

 ガイアトリニティは航空機形態を維持しつつ、スラスターを吹かせてファンネルを振り切るように速度を上げた。

 

 

「あんな速度で……!」

 それに驚くユメ。航空機ならではの速度でファンネルを振り切るガイアトリニティだが、その速度でデブリに突撃すればいくらフェイズシスト装甲とはいえただでは済まないだろう。

 

 そして案の定、アンディのガイアトリニティの進行方向に巨大な隕石が接近していた。

 

 

「なんの……!」

 しかし、アンディはガイアトリニティを四足歩行形態に変形させる。その四つの脚でしっかりと隕石に()()したアンディは、隕石を蹴ってさらに立体的な軌道に移った。

 

 

「隕石を蹴った!?」

 驚くロックだが、そんな驚きを置いていくようにアンディはさらに機体を人型MS形態に変形。

 撹乱され操作の覚束無いファンネルをビームライフルで撃ち抜く。

 

 会場からは歓声が沸き上がった。

 MSの操縦技術だけではない。そのガンプラの制作技術、そして自らが作ったガンプラの性能を最大限に活かすプレイヤースキル。その全てが詰まった一瞬の攻防に会場は大いに盛り上がっていく。

 

 

 

「フォーメーションD、敵を撹乱する!」

 アンディ達はそのままデブリ帯で四足歩行形態に変形し、隕石や残骸を蹴りながら立体的な攻めでゴトラタンを追い詰めていった。

 

 そしてサザビーの援護も届かぬままに、ゴトラタンは五畿のガイアトリニティに囲まれて撃破される。

 

 

 間髪入れる事なく、アンディはサザビーのファンネルを撃破しながら味方の突破口を開いた。

 ガイアトリニティの高速戦闘にサザビーはなす術もなく、アンチレッドは一瞬で二機のMSを失う。

 

 

 

「僕はね、本気なのさ。本気でこのGBNを遊んでいる。……なんなら宣言しよう。僕はこの戦いに勝った後、ここに居るリリアンと婚約をする予定だ!」

 怒涛の展開の末にそんな誓いを漏らすアンディ。会場は様々な意味でも熱気の渦に包まれた。

 

 

「それ死亡フラグっすよ!?」

「あ、あはは……」

 苦笑いしながらも、ケイは彼の言葉を思い出す。

 

 ──これはゲームだ。どちらかが滅びるまで戦う必要もない。……ならどうして戦う! 何の為に戦う! 真剣になるのが怖いのか? 真剣に戦って負けるのが恥ずかしいのか? なのに続ける理由はなんだ! 君は……誰の為に戦っている!!──

 

 

 

 これは戦争ではなくてゲームだ。

 アンディの口癖のようなその言葉は、軽い気持ちでプレイしろと言っているのではない。遊びだから、ゲームだからこそ真剣になれる。

 

 それが彼の、砂漠の犬───アンディの強さなのだ。

 

 

 

「次だ、各機フォーメーションE。敵を追い詰めるぞ!」

 航空機形態に変形したガイアトリニティが、近くにいたジンクスを追い詰めてその連携を見せ付ける砂漠の犬。

 完璧な陣形、指示。数的有利も最大限に活かし、使える物全てを使い相手を翻弄する。

 

 イージスがその援護に来る頃には、ジンクスは既に撃破されていた。それに気が付いて後退しようとするイージスだが、既に遅い。

 

 

「逃すな、フォーメーションBだ!」

 変形して逃げるイージスを追い詰めるガイアトリニティ。同じく変形機構を持つイージスだが、スピードはガイアトリニティの方が上に見える。

 そんな中で後方からの援護にも当たらず、デブリ帯の隕石や残骸を軽々しく避けて距離を詰めるのはアンディのガイアトリニティだった。

 

 

「背中を取ったぞ!!」

 イージスの真上を取りながら、MSを変形させてライフルを構えるアンディ。変形中のイージスに反撃の手はない。

 

 放たれるビームライフル。

 イージスは変形しつつ姿勢制御でシールドを向け、なんとかライフルを受け止める。

 しかし、減速して変形した訳ではないイージスは慣性に逆らう事が出来ず、進行方向にあった戦艦の残骸に両足をぶつけてしまった。

 

 激しい衝撃に両足の破損で機体が揺れる。なんとかライフルを構えようとするも、その時には既にガイアトリニティの接近を許していた。

 

 

 

「アオト……」

 久しぶりに戦った友人の事を思い浮かべるケイ。

 彼が何を考えているのかはよく分からない。だけど、自分もそうだがアオトも成長している。五年ぶりの再会に思う所はあれど、やはり彼はケイのライバルのアオトだった。

 

 それをこうも簡単に───

 

 

「……強い」

 再戦を願った砂漠の犬の強さを再確認するケイは、無意識に拳を強く握る。

 あの人に勝ちたい。いつかよりも強く、深くそう思った。

 

 

 

「イージスまでも撃破! フォースアンチレッド、残るはフラッグ機のみとなりました!!」

 司会とモニターに映る戦況に、会場はさらに燃え上がる。第二回NFT決勝戦もクライマックスが近付いていた。

 

 

 

「───やはりフラッグ機はあの赤いキュベレイか。僕としては呆気ない幕引きも望む所だったんだけどねぇ」

 再び索敵陣形でデブリ帯を進むガイアトリニティ五畿。その進行方向に、丁度小さな漏斗状の物体が光る。

 

 

「ファンネルよ……!」

 リリアンが気付いて口を開くが先か、五機は一斉に散開して放たれたビームを避けた。

 ファンネルの奥から現れる赤いMS。キュベレイを赤く塗ったその機体は、ただゆっくりとアンディ達に近付いて来る。

 

 

「手荒い歓迎だねぇ。……投降してくれても僕は構わないけれど?」

「負けを認めれば殺さないでくれるってか?」

「言い方は妙だが、一応NFTでもバトルリタイア機能は制限されていない筈だ。君がそうするとは思えないがね」

「それじゃ、投降する」

「……ん?」

 両手を上げる赤いキュベレイにアンディは顔を顰めた。会場はブーイングの嵐である。

 しかし、そんなキュベレイの両脇から突然現れたファンネルがアンディのガイアトリニティを攻撃した。

 

 アンディはそれを軽々しく避けるが、会場はさらに別の意味でブーイングが吹き荒れる。

 

 

 

「め、滅茶苦茶卑怯だな……」

「このブーイングも納得っすね……」

 表情を痙攣らせるロックとニャムだが、それに反してユメは首を横に振った。

 

「どんな人でも、どんな戦い方でも、GBNを遊んでる人を貶したら……あの人の事何も言えないよ」

 静かに、しかし強くそう言うユメの言葉に二人は顔を見合わせてから目を逸らす。彼女の言う通りだ。

 

 

 他人を否定するという事は、そういう事なのだから。

 

 

 

「……もしかして、それがあの人の目論みなのか」

 静かにそう言ったケイに、ノワールは「どういう事だ?」と問い掛ける。

 

 セイヤのこれまでのバトルや口調からして、彼がGBNになんらかの恨みを持っているのは確かだ。

 それにGBNを壊す、潰す等の言葉。それが言葉の意味そのままなら───

 

 

「───あの人はGBNを内側から壊そうとしてる、のか?」

 そんな、不安めいた声がケイの口から漏れる。

 

 

 

 

 モニターの奥でセイヤは笑っていた。

 

 

 

「なんてな。……俺はGBNを壊す。何もせずに投降する理由はない」

「それが君の()()()()か。僕は言った通り、彼女との婚約を決める為にここに居る。……君は何故そこまでするのかな」

「お前にとってGBNはなんだ?」

「質問に質問で返すのは感心しないな」

 怪訝そうに言いながらも、アンディはセイヤの質問に「うむ……」と少しの間答えを探す。ケイは何処かで彼の答えを分かっていた。

 

 

「ゲーム、かな。僕が真剣に命を掛けて本気になれる。人生を捧げるゲームだ。本物の戦争じゃない、だからこそ本気になれるゲームだ」

 はっきりとそう言うアンディの言葉に会場は同意の意で埋め尽くされる。感心する者も居れば「そうだそうだ」と賛同する者も居た。

 

 

 

「……そうか」

 静かに、セイヤはゆっくりと目を瞑る。

 

 

 

「ならこれがゲームじゃなければお前はどうする! この世界で死ねば、そこで命が絶たれる本当の世界だったら!! お前は今、どうする!!」

「……ふ、安い挑発だな」

 言いながらも、アンディはリリアンを含む仲間四人を下がらせた。

 

「───もしこれが本当の戦争なら、僕は大切な人を守る為に戦うよ。……その挑発、乗ってやろう」

「───それで良い。……さぁ、殺し合いを始めるか」

 二機のMSのメインカメラが光る。

 

 

 

 デブリベルトに光が走った。




ガイアトリニティ大奮闘。次回勝負の行方は?


そんな訳で、ついにこの作品も五十話目になりました。なぜ五十話も書いて終わっていない。テレビ版なら最終回だぞ。
なんて愚痴ばかり言っていても終わらないので記念にイラストを描いてきました。

【挿絵表示】

ルー・ルカコスのニャムさんです。昔のアニメなのに衣装が凄いルー。個人的にはエル派。


それでは読了ありがとうございました!百話までには終わらせたいね!


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終わりの炎

 一年前。

 

 

「───トランザムインフィニティ!!」

「───うぉぉぉおおお!!」

 ダブルオーガンダムを改修したガンプラのトランザム。対するガイアガンダムを改修したガンプラは、変形機構による高速戦闘で応戦した。

 

 

「やるな……!!」

「そっちこそ……!!」

 お互いが本気だったのだろう。本気で勝ちたくて、本気でこのGBNを楽しんでいた。

 

 

 勝敗の理由はなんだったのだろうか。

 

 

「リク……!」

「アンディ……!」

 それはきっと、機体の問題でもなくて───

 

 

 

 WINNER FORCE BUILDDIVERS

 

 

 

 

「君が私の元を去って、半月かな」

「……それに関しては悪いと思っているよ、大佐」

 同日、飲み屋のような場所に二人。アンディともう一人───軍服を着たフェレットのようなダイバーが並んでいる。

 

 彼はアンディが砂漠の犬を結成する前に所属していたフォースのリーダーで、ようするに元上司と部下という関係だ。

 

 

「気にしていない……といえば嘘になるが、責め立てるつもりはないさ。優秀な隊員が巣立った寂しさはあれど、新たなライバルに胸躍らせる自分の方が大きい」

「そいつは買い被りだ、なんて言うのは失礼だねぇ。なんせこちらはあの知将の戦術を盗んで来た身だ」

 二人は言い合うと、少しの沈黙の後笑い合う。

 

 

「───それで、本当に婚約はしないのか?」

「この悔しさのまま、中途半端な事はしたくない。リリアンだって同じ気持ちの筈だ」

「つまり、来年も出ると」

「……ビルドダイバーズとの再戦を望む気持ちもあるが、僕はそれよりも残る結果を示したいからね。来年のチャンス、必ずや掴んで見せるよ」

「頼もしい元部下だ」

「いつか、あんたの首にも噛み付くよ。僕は狂犬だからね」

 二人はグラスをぶつけ合った。

 

 

 

 

「───やっと一年か。リリアン、このNFTに優勝したら……僕と結婚してくれ」

「えぇ、勿論よ」

 必ず優勝する。

 

 そう心に決めて、このGBN(ゲーム)を本気で───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 縦横無尽。

 彼のガイアトリニティを一言で表すなら、その言葉が適切だ。

 

 

 隕石や残骸の犇くデブリベルト。

 そのフィールドすら巧みに使い、障害物等無いとでも言うように可変機特有の機動性を余す事なく発揮している。

 

 

「その程度か!」

「ほざくな……!」

 ガイアトリニティをファンネルが追うが、アンディは巧みに三つの形態を使い分けてそれを回避、迎撃した。

 

「逃げるので精一杯の分際で!!」

「それはどうかな!」

 ファンネルの猛攻を掻い潜り、キュベレイに接近するガイアトリニティ。その翼に展開したビームサーベルが、キュベレイの肩を斬り裂く。

 

 

「……っ」

「最適な位置調整を考えつつ攻撃を避ける、戦術の基本だ。戦略家だと思って甘くみたかね?」

 挑発的な態度のまま、アンディは機体を急速変形させライフルをキュベレイに向けた。

 放たれたライフルを辛うじて裂けながらも、キュベレイはさらにファンネルを出して応戦する。

 

 

「必死になりやがって……」

「必死にもなるさ。このバトルには僕の生涯が掛かってるんだからな!」

「その割には挑発に乗ってきたな」

「僕はフラッグ機じゃないからね、負け筋を潰すなら正しい選択をしたと思っているよ!」

 ファンネルを交わしながら接近し、ビームサーベルを振り下ろすガイアトリニティ。それを受け止めるキュベレイのビームサーベルがぶつかり合い、火花が散った。

 

 

「この勝負は僕にとって現実の物だ。しかし───いやだからこそ、君の言い分は気になるな。この世界で死ねば本当に命が絶たれる……そんな事はありえないからこそ、僕達は本気で楽しめるんじゃないのか!?」

「……それでも、アイツは違った」

 ファンネルが二機の周りを囲む。このまま攻撃すればキュベレイは自爆になりかねない。攻撃する訳がない。

 

 しかし、妙な気配がしてアンディは距離を取った。同時にファンネルから放たれたビームはガイアトリニティのいた空間を貫く。

 勿論それはキュベレイも例外ではない。左足をビームが貫く。誘爆し、爆炎がキュベレイを包み込んだ。

 

 

「……何?」

「アイツは本当に死んじまったんだよ……!!」

 爆炎の中から現れた左足を失ったキュベレイは、両手やファンネルからビームを放ちながらアンディのガイアトリニティに接近する。

 変形してそれを交わしながらも、アンディは彼の言葉に耳を傾けていた。

 

 

「本当に……死んだ?」

「GBNに殺された奴がいる。だから俺は、その復讐を果たす!!」

「それが君の戦う理由か!」

 変形。サーベルを手に取り、ガイアトリニティとキュベレイは激突する。

 頭部バルカン───イーゲルシュテルンで接近してくるファンネルを打ち落としながら、アンディは強くスラスターを吐かせてキュベレイを戦艦の残骸に押し込んだ。

 

 

「そうだ。これが俺の復讐だ……!」

「それで本当の世界、か」

 納得したような表情で目を瞑るアンディ。会場の熱気は止まない。その殆どがアンディを応援するものである。

 当たり前といえば当たり前だ。セイヤのやって来た事を好ましく思う人は少ないだろう。

 

 

 

「───だから、俺はお前を殺す!!」

 突然キュベレイが両手を開き、アンディのガイアトリニティは見えない何か弾き飛ばされた。

 

「プレッシャーだと!?」

「この復讐の為に、俺はこの世界を現実にする。……今GBNにウイルスを撒いた。今から俺の機体に撃破されたダイバーは、現実の世界でも炎に包まれて死ぬ事になる」

 細く目を開いてそう言い放つセイヤの言葉に、バトルフィールドのダイバーは勿論、会場の───さらにはバトルを動画サイトで見ていた者達も怪訝な表情を見せる。

 

 

 

「何を言っている……ウイルス?」

「そうだ。俺に撃破されたダイバーが使っているダイバーギアが爆発するウイルス、それをGBNにばら撒いた」

「……ふ、脅しにしては少々大袈裟じゃないかね?」

「じゃあ試してみるか?」

 言いながら左手を明後日の方角に向けるセイヤ。一瞬硬直したアンディだったが、その先にある物を確認して冷や汗を流しながらも身体は勝手に動いていた。

 

 

 放たれるビーム。そのビームにわざと直撃するように、アンディのガイアトリニティはシールドを向ける。

 無理な体制でのビームの直撃は、いくらシールドを構えていたとはいえ無傷では済まなかった。左腕が爆散し、宙に漂うシールドを見ながらセイヤは不適に笑う。

 

 

「安い挑発に乗る男だな」

「このくらいハンデのつもりだがね」

「アンディ……!」

「心配するな、このくらいどうという事はない」

 セイヤがビームで狙った先。アンディの背後には待機していたリリアンの機体が立っていた。

 それが初めから狙いだったかのような、そう考えてアンディは舌を巻く。

 

 

「……やられたねぇ」

「最適な位置調整を考えつつ攻撃を避ける、戦術の基本……だったか?」

 攻防の内に、セイヤはリリアンを狙う事が出来る位置取りを作っていた。安い挑発だが、このゲームに人生を賭けるアンディだからこそ無視は出来なかったのだろう。

 

 

 勿論、ウイルスだの爆発だのを信じている訳ではない。

 しかし彼にもプライドがある。大切な人を傷付ける事など、あってはならない。

 

 

 

「───面白い」

「……何?」

 だからこそ、アンディは笑った。

 

 

「リリアン、そこで見ていてくれ。僕の本気を。このGBNに掛けた想いを!!」

 キュベレイに向けてライフルを放つガイアトリニティ。セイヤは舌打ちをしながら、ファンネルをリリアンの機体に向けて飛ばす。

 

「無駄だ。各機、フォーメーションC。ファンネルを迎撃せよ!」

「「「了解!」」」

 しかし、砂漠の犬隊員達は素早い挙動でリリアンの機体を守るように隊列を組んでファンネルを迎撃した。

 アンディが認めた砂漠の犬の隊員である。彼に従ってきただけでここまで登って来た訳じゃない。

 

 

「さぁ、本当の一騎討ちを始めようか!」

 変形しキュベレイに肉薄するガイアトリニティ。セイヤは表情を歪ませながらも、ビームサーベルを展開して構えた。

 

 

「遊びでやってる癖に……ヒーロー気取りか!!」

「遊びさ!! 遊びだから、本気になれる!!」

 四足歩行形態に変形し、戦艦の残骸を蹴って立体的な動きを見せるアンディ。セイヤのキュベレイの反応の上を行くその動きで、アンディは翼のサーベルを叩き付けていく。

 

 ファンネルはもはや品切れだ。

 片腕を失いながらも、アンディのガイアトリニティの機動力はセイヤのキュベレイを圧倒している。

 

 

「君の言い分は聞こう。……だが、負ける訳にはいかないんでね!」

 そして、遂にはセイヤを追い詰めるアンディ。会場は今日一番の盛り上がりを見せた。

 

 

 

 これが砂漠の犬、アンディの力。

 

 

 

 愛の力だと誰かが言う。

 

 

 

 

「……楽しいバトルだった。もし良ければ、このバトルの終わりに君の悩みを聞かせてくれ。力になるよ」

「……それは───」

 ビームサーベルをキュベレイのコックピットに向けながらそう言うアンディ。

 セイヤは俯いたまま───

 

 

「無理だな。お前はここで死ぬ」

 ───不適に笑った。

 

「───何?」

 キュベレイの腕がガイアトリニティの身体を掴む。そんな事でガイアトリニティが止まる訳がなく、サーベルを振り下ろそうとしたその時だった。

 

 

 

 ───キュベレイが炎に包まれて、アンディのガイアトリニティがそれに飲み込まれたのは。

 

 

 

「自爆───」

「あばよ」

 爆炎。

 

 

 

 ガイアトリニティ撃破。

 

 フラッグ機キュベレイ撃破。

 

 

 BATTLE END

 

 WINNER FORCE 砂漠の犬

 

 

 

 

 悪足掻きの自爆に会場は一瞬静まり返ったが、司会の「第二回NFT勝者! 砂漠の犬!!」という声で会場は一気に盛り上がりを取り返す。

 バトルが終わり、壇場にリリアン達が立った。

 

 お祭り騒ぎの喧騒の中で、ニャムはふとこう呟く。

 

 

 

「……今の、キュベレイがガイアトリニティを撃破したって事になるんすかね?」

 誰もウイルスの事なんて信じていない。それは勿論ニャムも同じだ。

 

 だけど、壇場にはリリアンを含む砂漠の犬の隊員が揃っているのに───

 

 

 

「アンディさんは……?」

 ───アンディだけが居ないのである。

 

 

 

「アンディ?」

 壇場に立ったリリアンは最愛の彼を探して辺りを見渡した。しかし、やはり彼は何処にもいない。

 コンソールパネルを開くと、フレンド一覧の表示ではアンディはログアウトしている事になっていた。

 

 

 

「どういう事だ?」

「……冗談だろ?」

 ノワールとロックはその事実に顔を見合わせる。

 

 

 しかし、運営としては多少のトラブルで大会の盛り上がりを捨てる訳にはいかない。

 司会はリリアンを呼び付けて、大会の授賞式に出るように申し出た。

 

 

 

「隊長はどうしたんでしょうか?」

「もしかしたら、興奮してログアウトしちゃったのかもしれないわ。私、授賞式が終わったら家まで様子を見てくるわね」

 そうしてNFT決勝戦と授賞式は、一部の人々にとって不穏な空気を残したまま執り行われる。

 

 ケイ達にとってそれは関係ある事のようで、しかし手の届かない事だった。

 

 

 

 これは現実ではなくゲームなのだから。

 

 

 

 ───その筈なのだから。

 

 

 

 

 現実。

 

 夜道を一人の女性が歩いている。

 歩いているとは言っても、そんなに長い距離ではない。家を出て五分で着くような距離だ。

 

 電話にも出ないし連絡もつかないものだから「仕方ないわね、あの人は」とゆっくり歩く。

 

 

 

 きっととても嬉しかったのだ。

 一年間この為だけに過ごして来たと言っても良い。

 だから優勝したのが嬉しくて、興奮して倒れているのかもしれない。

 

 

 ──そうだ。俺に撃破されたダイバーが使っているダイバーギアが爆発するウイルス、それをGBNにばら撒いた──

 

 嫌な予感を振り払う。

 

 

 

 そんな訳がない。

 そんな事が起こる訳がない。

 

 

「嘘───」

 だから、これは夢だ。

 

 

 

「ハルト君……!! 嫌……嫌ぁっ!! なんで……嫌ぁ!!!」

 燃え上がる恋人の家を見て、彼女は膝から崩れ落ちる。

 

 

 

 けたたましいサイレンが鳴り響いていた。




NFT決着。この戦いが終わったら結婚するとか言ったらダメですよ……。

評価入れて頂いていました!ありがとうございます!


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第六章──決意と別れ【本当の仲間】
祭りの終わりに


 いつもなら、どこか他人事のように過ぎ去るニュースの筈だった。

 

 

「先程のニュースの続きです。今日未明───」

 寝る前の歯磨きをしながら、テレビに映る炎に目が移る。

 

 

「───にて、家屋が全焼する家事が発生しました。午後六時半頃、木造二階建ての住宅から火が出ました。現場は住宅街の一角ですが、消防の懸命な消火活動により火は約二時間後に消し止められました」

 人の多い都会ではよくある火事のニュースだ。ふと頭の中に燃え上がる何かが映るが、それがなんだったのかは直ぐに記憶から消えてしまう。

 

 

「住宅は一人暮らしの男性が住んでおり、消防隊が意識不明の男性を救助。男性はこの住宅の住人と見て身元の確認を急いでいます。他の怪我人は今の所発表されていません」

 画面には燃え上がる家の映像と、必死に何かを叫んでいる女性を抑える消防隊員の姿が映っていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 電話を片手に、ニュースを見ながら着信を取る。

 

 

「ニュース見たか?」

「今見てる。火事がなんだって? タケシの親父さんの勤務地って訳じゃないだろ」

 電話の相手、タケシの父親は消防士だ。しかし、ニュースでやっている火事の現場は彼らが住んでいる所から少し離れた都会である。

 

「それが、親父に聞いた話と……これはネットで噂になってるんだけどな」

「ネットで……?」

 続くタケシの言葉に、ケイスケは再び脳裏に映る光景を思い返した。今度はどこかぼんやりだが、ハッキリとそれがなんなのか分かる。

 

 

 ──今GBNにウイルスを撒いた。今から俺の機体に撃破されたダイバーは、現実の世界でも炎に包まれて死ぬ事になる──

 

 

 嫌な予感がした。

 

 

 

「どうも今やってるニュースの家事、火元がGBNの家庭用ログインマシンらしいんだよな。ほら、お前とユメカが使ってる奴。ダイバーギア」

「それって……」

「ほら、丁度ニュースで」

 タケシの言葉にケイスケは再びテレビに視線を移す。火事のニュースは続いていて、キャスターが続報を読み上げている所だった。

 

 

「ここで今回の火事の続報です。怪我人の身元が判明しました。怪我人の意識は回復しましたが、顔に火傷等を負っているとの事です。怪我人の男性は人気の仮想現実ゲーム、GBNをプレイしていて火事に気が付かなかったと思われ、警察消防は出火の原因を調査しています。男性の怪我の具合から、男性がゲームをしていた部屋が火元と思われ───」

 GBNをプレイしていた男性。試合終了後に何も言わずにログアウトしてしまったアンディさん。

 

 そしてセイヤの言葉が頭の中で繋がっていく。

 

 

 

「ニャムさんにも連絡したんだけどよ、やっぱりアンディさんなんじゃないかって。ノワールも同じような事言ってたろ」

 NFTの大会終了後、ログアウトしたケイスケ達はプラモ屋の出口でこんな会話をしていた。

 

「せっかく外に出てもらったのに悪いんだが、スズの事は後日にしても良いか? 俺は気になる事がある」

「私は全然大丈夫だけど。……気になる事、ですか?」

 大会が終わったらスズに会ってほしい。そう言っていたノワール───サキヤだが、携帯を片手に深刻そうな面持ちを見せてその画面を三人に見せる。

 

 

「今さっき、丁度あのバトルが終わった時間に爆発音がして火事が起きている場所があるらしい」

「火事って……。お前、あんな言葉信じてるのか?」

「砂漠の犬の大将はなぜあんなに突然ログアウトした?」

 火事と聞いて目を細めるタケシに、サキヤは顎に手を当ててそう言った。

 

 

 何かが繋がっている。そう感じていたのかもしれない。

 

 

 

 翌日。

 ケイスケ達はGBNにはログインせずに、SNSのやり取りでニャムやメフィストフェレスの数名とやり取りをしている。

 

 何故か皆ログインしようと言い出さなかったのは、昨日の件が頭に残っていたからだった。

 

 

 

「皆さん学校お疲れ様っす。ジブン、午前中暇だったので色々調べて回っていましたのでご報告させて頂きますね」

「ニャムさん何歳なの? ニートなの?」

 彼女の行動力にツッコミを入れるロックだが、対面している訳ではないのでなんとも言えない雰囲気になってしまう。

 

「私も色々調べていましたわ。とりあえずニャムさんのお話から伺おうかしら」

「アンジェリカさんも何歳なの? 何者なの?」

 SNSのトークルームに集まったのはカルミア以外のReBondのメンバーとスズ以外のメフィストフェレスのメンバーだった。

 

 

「大学なんてそんなもんだぞ」

「ノワールさん達は大学生なんですね!」

「恐るべし……大学生活」

「だ、大学……あ、あはは……。え、えーと、話して良いっすかね?」

 苦笑い気味のニャムは話を打ち切ると、一度咳払いをしてからこう続ける。

 

 

「今朝方、砂漠の犬のメンバーの一人にコンタクトが取れまして。その人によれば、昨日ロック氏が教えてくれた火事の件……やはりアンディさんの家だったらしいっす」

「アンディさんは!?」

「命に別状はないらしいですが、大怪我らしいっす。ただ、意識もあるしリリアンさんも着いているから安心して欲しいとの事で」

 心配そうに声を上げるケイスケにそう答えるニャム。それを聞いてケイスケだけでなく他のメンバー達も安心して溜息を吐いた。

 

 

 砂漠の犬は両フォース共に宿敵、そして以上に───だからこそアンディには色々な事を教えてもらったのである。

 彼が居なければケイスケは戦う意味を自分で見付けられていなかったかもしれない。

 

 

「ただ、その怪我の事で気になる事を言ってましてね。頭の傷は火傷というより、何かが頭の上で破裂したような傷だったとかなんとか」

「……ログイン用のヘッドギアか」

 ニャムの言葉にトウドウが静かに答えた。

 

 

 彼のいう通り、消防と警察の調べによればアンディの使用していたヘッドギアは粉々に砕けていたらしい。

 それが火事と関係あるのかは分からないが、そもそもの話である。

 

 

「GBNのログイン用のヘッドギアが爆発したとでも言うのかよ。そんな話あるか?」

「変な話だよ」

「変な話だね」

 ロックの疑問に同感だと声を漏らすレフトとライト。事実はどうあれ、GBNのログイン用ヘッドギアが爆発したなんて事件は聞いた事がない。

 

「そもそも爆発するようなものではないですわよ、アレ。もしそうならメーカーから全品回収案件ですわ」

「……もしかして、それが狙い」

 アンジェリカの言葉を聞いて、ユメはふとそんな事を呟いた。

 

 

「ユメちゃん?」

「あの人、アンチレッドのリーダーの狙いはGBNを壊す事だって言ってたよね?」

 アンチレッドのリーダー、セイヤの言葉を思い出しながらそう言うユメ。彼女の言葉を聞いて、他のメンバー達もセイヤの言葉を思い出す。

 

 

 ──今GBNにウイルスを撒いた。今から俺の機体に撃破されたダイバーは、現実の世界でも炎に包まれて死ぬ事になる──

 

 

「……ウイルス」

「あ、ありえませんわ!?」

「しかし、あの男が本気なら理にかなってるっすよ。手段はともかく、それを疑うしかない状況を作り上げれば……どうなるか」

 ニャムの言葉にトウドウは「GBNにログインするのが怖くなるだろうな」と付け加えた。

 

 

 

 もしアンディを襲った事故がウイルスのせいだとしてもそうじゃないにしても、彼のあの言葉を聞いていた───もしくは聞かされた人々はGBNから離れる事を選ぶかもしれない。

 少なくとも火事の原因が分かってない今、そう疑って疑いが晴れるまでGBNにログインをするのを控える人も多いだろう。

 

 現に今ここでGBNにログインせずに話している自分達が居るのだから。

 

 

 

「これがあの人の計画……」

 そんな話を聞きながらケイは目を細めて、自分の使っているヘッドギアを見詰めた。

 

 その可能性があるなら、自分はともかくユメカにこのヘッドギアを使わせる訳にはいかない。

 自分でもそう思ってしまったのだから、きっと誰だって同じ考えになる筈である。

 

 

 

「もしかしたらGBNの運営もこの件で動くかもしれません。無関係と言い切れる訳もないでしょうから、何かしら動きがあると思うっす」

「……それまで、GBNにログインするのは控えた方が良いかもしれないですわね」

 控えめにそう言うアンジェリカの言葉に、誰も何か言う事は出来なかった。

 

 

 それが正しい。

 そんな事は分かっている。

 

 

 

「で、でも───」

 ユメカはそこまで言って、やはり言葉が出なかった。

 

 

 

 

 

 その日の夜、GBN運営は二日間のシステムメンテナンスを実施。

 公式にはそんなウイルスは存在しないと発表されたが、GBNへの世界的なログインは減少傾向に陥る。

 

 

 

 

 

「───全て計画通り、か」

「カンダか。……もう顔を見せるなと言った筈だ」

 セイヤの前に現れたカンダ・カラオ───カルミアは、目を細めてセイヤの脇に置いてあるガンプラを睨んだ。

 

 

「GBNのアクティブユーザーは二割減少したらしい。まぁ、血気盛んなガンダム勢にはあの程度の脅しでバトルを止めるのは無理だって事ね。……で、お前は次は何をする気よ」

「それをお前に言ってなんになる。……俺を止める気か?」

「おじさんにはそんな権利ないのよね」

 目を逸らしてそう言うカンダは、少しだけ間を開けてからこう口を開く。

 

 

「……俺は裏切り者だ。ここに俺の居場所はもうない。……だけど、一つだけ言わせてくれ」

 静かにそう言って、カンダはセイヤの肩を叩こうとして辞めた。その目は何処も見ていないように見える。

 

 

「……人殺しにだけはなるな、セイヤ。……それは、お前が憎んでるGBNの奴らと同じになるって事だ。お前がアンディを───アンドウ・ハルトを殺さなかったの間違いじゃない。それだけは、覚えていてくれ」

「話はそれだけか?」

 虚な目。カンダは後ずさって「……あぁ」と頷いた。

 

 

 

「……殺さなかったんじゃない。運良く死ななかっただけだ」

「セイヤ……!」

 何も出来ない。

 

 

 

「消えろ。永遠に」

「……っ」

「消えろ!!」

 言われて、立ち去る。

 

 

 残った者も立ち去った物も虚空を見ていた。

 

 

 

 

「……おじさんはどこで間違えたのかねぇ。楽しかったあの日々は何処へやら───楽しかった、か」

 思い浮かぶのは勿論セイヤやサトー、レイアとの日々。その筈なのに、何処かにReBondと過ごしたたった少しの時間が混じる。

 

 今思えばなんであんな事をしたのか分からない。

 

 

 残る物も居場所もなくなるなんて事は分かっていた筈だ。

 

 

 

「てか俺……もしかして仕事クビ? あれ……ヤバくない? おじさんやばくない?」

 一人ポツンとふざけてみても誰からも返事はなくて、頭を思いっきり掻く。

 

 

 

「……仕事探そ」

 何もない虚空に、ただ進む事しか出来なかった。進んでいるのかも分からなかった。




これにてNFT編は完結です。少しだけ余韻も引き摺りながら、次回より新編です!お楽しみに!

読了ありがとうございました!


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許せない

 モニターに映る映像は、自分はその場に居ながらも知り得ない光景だった。

 

 

「確かに俺も、キサラギ・ユメカが憎かったさ。ガンプラが憎い、ガンダムが憎い、俺達から全部奪ったGBNが憎い。今だってな!!」

 NFTのフォースReBond第三試合。ならびにNFT全ての試合データは、予定より少し遅れて公式ホームページにアップロードされる。

 遅れた理由はNFT決勝戦が関係していると噂された火事で、GBNの運営も慎重にならざるを得なかったからだ。

 

 

「カルミアさん……」

 動画を見たユメカは、彼の言葉に胸を締め付けられる気持ちになる。

 

 自分が辛い思いをする事はもう慣れた。

 だけど誰かに憎まれるとか、誰かに辛い思いをさせる事は違う。

 

 

「俺達には現実がある。手足が無かろうが、動かすことが出来なかろうが生きていける。それなのに……GBNの運営は、GBNでしか生きていけないレイアよりもこのゲームのプレイヤーを選んだんだ。キサラギ・ユメカみたいなな!!」

「……フラッグ機は、デュナメスだ」

 彼が裏切ったのは本当だった。

 

 

 彼の中で葛藤があったのは確かだろう。

 だからこそ、彼はこの後セイヤ達をも裏切ったのだから。

 

 

「俺達が誰かから奪っちゃいけねーだろ!! セイヤ!!」

「……だからさ、後の事頼むわ。それと、サザビーだけはユメちゃんに近付けさせるな」

 彼の言葉を聞いて、ユメカは手を強く握った。こんな感情は初めてかもしれない。

 

 

 

「───許せない」

 小さく呟いて、小さな滴が頬を伝う。

 

 

 胸の痛みを忘れるくらい、強く手を握っていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 NFT決勝から約二週間が経つ。

 世間的に火事は放火か事故という見解で落ち着いて、ダイバーギアの安全性は疑われなくなり一時期減少していたアクティブユーザーも回復へと傾いていた。

 

 

「今日、どうするよ」

「ご、ごめんねタケシ君。私はまだちょっと……」

 ここ数日、毎日タケシはユメカやケイスケをGBNに誘っている。しかし、ケイスケはともかくユメカはどうも乗り気ではないようだ。

 

 それに釣られてケイスケもGBNから離れているし、タケシも二人が来ないならとGBNにログインはしていない。

 話によればノワール達やニャムはログインしているらしいが、手持ち無沙汰で皆が来るのを待っているようである。

 

 

「ま、気が乗らないならしかたねーわな。ニャムさんには俺から言っとく」

「……えと、ニャムさんは何か言ってた?」

「ん? いや、ユメちゃんと遊びたいっすよぉ……とか?」

「そ、そうじゃなくて。……カルミアさんの事」

 俯きながらそう言うユメカに、タケシは「あー」と頭を掻いた。

 

 

 動画はユメカだけじゃなくてケイスケやタケシも見ている。勿論ニャムもだ。

 ただ、彼の裏切りは事実であり、彼が敵を裏切ってユメカを心配してくれていたのも事実である。

 

 それをどう受け止めたら良いかは、個人の中でもまだ揺れていた。

 

 

 

「このまま……もう皆で集まれないのかな」

「いや、それはお前がGBNに行くならケイスケだって───」

 そう言い掛けたタケシの言葉を、ケイスケは彼の肩を叩いて止める。

 

「俺は待ってるよ」

「ケー君……」

 ユメカは小さくありがとうと言って、車椅子の背後をケイスケに向けた。

 いつものように帰り道を歩く三人。だけど、どこか穴が開いているような感覚に三人は黙って足を進める。

 

 

 その穴はずっと昔から空いていた物とは、違う穴なのかもしれない。

 

 

 

「おねーちゃん、明日……何か用事ある?」

 家に帰ったユメカを待っていたのは、なにやらモジモジとしている妹のヒメカだった。

 

 明日は土曜日。丁度二週間前こそNFTの一日目が始まった日である。

 

 

「明日……明日、うん。何もないよ? どうしたの?」

 いつもならGBNに一日中ログインして、ミッションをこなしたりバトルをしていたかもしれない。

 ケイスケの家でガンプラを作る手伝いでも良かった。だけど、彼女は無意識にそう答えてしまう。

 

 

「やったぁ! えーとね、えーとね! 久し振りにね、デートしたいの!」

「デートかぁ。……良いね、しよっか」

 久し振りの妹とのお出掛けだ。気分転換には丁度良いだろう。

 

 しかし、ふと前のデートを思い出して彼女は固まってしまった。

 

 

 脳裏に映るトラック。トラックから降りて来た男性。

 

 

 ──また大事故にならなくて良かったねぇ。……あらら、可哀想に。そんなに怖い思いをしたのかな──

 知らない男性の筈である。しかし、どこか頭に引っ掛かる所があった。

 

 

 

「───お、お姉ちゃん!? 大丈夫? 凄い顔青いよ……」

「え? あ……あはは、大丈夫だよ。大丈夫」

「もしかして……事故の事思い出しちゃった? ご、ごめんね……ごめんなさい」

 自分のせいで姉が辛い思いをしてると思ってしまった妹に、ユメカは頭を撫でながら「大丈夫だよ」と優しく言葉を掛ける。

 

 

「行こっか、デート」

「うん!」

 やっぱり、誰かに嫌な思いをさせるのだけは嫌だった。

 

 

 

 

 翌日。

 本当に中学生なのか疑いたくなるような気合いの入ったお洒落をしたヒメカが、これまた普段着ない服を着たユメカを車椅子に乗せて押している。

 

 

「ね、ねぇ……ヒメカ。やっぱり現実(リアル)でこの格好は恥ずかしいよ」

「お姉ちゃん滅茶苦茶似合ってるよ! 結婚して!」

「結婚は無理かな!?」

 目を輝かせて楽しんでいるヒメカに釣られて、ユメカも少しだけ辛い事は忘れて笑って過ごしていた。

 

 以前も来たデパートで、服屋に寄った二人はヒメカの服を見る物だと思っていたけれど、ヒメカはユメカの服を選び始めて───結果普段着ないような服を無理やりプレゼントされてデパートをその服で歩くという状態になっているのである。

 勿論歩けないので車椅子だが、GBNならともかく普段は学校でも着ないみじかめのスカートのひらひらがどうも気になるのだ。

 

 

「ヒメカは普段からそんなに可愛い格好して出掛けてるの? お姉ちゃん、変な男の人に妹が取られないか心配だよ」

「大丈夫だよ? 私お姉ちゃんと出掛ける時しかこんな格好しないから」

「それはそれでお姉ちゃん心配だよ」

 育ち盛り真っ只中でこれから身長も伸びたり大きくなる所は大きくなって服のサイズも変わってくる筈なのに、姉と出掛ける時のためだけに服を選ぶのは年頃の女の子として勿体無い気がする。

 

 

「……ヒメカ、好きな男の人とか居ないの?」

「居ない」

 本当に勿体無い。

 

 

「ヒメカ可愛いのに……」

「お姉ちゃんにそう言われると嬉しいなぁ、えへへ」

 誰かこの妹を幸せにして欲しい、だけど簡単にはあげたくない。ダメな姉だなと自分でも思った。

 

 

「お姉ちゃんは?」

「え?」

 ふと帰ってきた質問に、ユメカは目を丸くする。

 分かり切っている答え。ヒメカだって薄々は感じている筈だ。

 

 脳裏に浮かぶ男の子は、私の好意に気付いていない。

 

 

「……お姉ちゃんさ、最近やってないよね。ゲーム」

 少しの沈黙の後、ヒメカは静かにそう言って立ち止まる。そこは以前も来た玩具屋の入り口だった。

 

 

「……ヒメカ?」

「私、お兄さんの事は嫌いです。こんなに可愛いお姉ちゃんを放っておいてゲームとかプラモばっかりやってるもん」

 怒り心頭といった感じのヒメカ。彼女は「だけど」と言葉を繋げる。

 

「だけど、私はお兄さんを好きなお姉ちゃんが大好き。お姉ちゃんに幸せになって欲しいから、私はお兄さんを……その、嫌いだけど嫌いじゃないです」

 言っている事は途中から無茶苦茶だった。だけど、言いたい事は分かる気がする。

 

 

「……だから、ゲームしてないお姉ちゃんを見ると心配になるの。もしかしてお兄さんと喧嘩とかしたの? ゲーム、嫌いになっちゃったの?」

 そのゲームに微塵も興味がない筈のヒメカが、こうして姉を心配している事にユメカは自分が許せなかった。

 

 自分以外が傷付く事はやっぱり苦手である。

 

 

「……心配かけちゃったんだね」

「し、心配するのは当たり前だよ! お姉ちゃんだもん。私はお姉ちゃんに幸せになって欲しい。その為なら何でもするよ!」

 なんて良い妹を持ったのだろうか。そう思いながら、ユメカは玩具屋に視線を向けた。

 

 どうしてか、理由は分からないけど玩具屋で倒れそうになった自分を助けてくれた男の人の顔が脳裏に映る。

 

 

 

「……ごめんねヒメカ。せっかくのデートだけど、お昼ご飯食べたら終わりにしても良いかな?」

「うん。元々その予定だったし」

 なんて出来た妹なのか。服までプレゼントしてもらったし、お昼ご飯くらいは奢らなければ。

 

 

「ありがとうヒメカ。この服、大事にするね」

「うん!」

「それと、一つだけお願いがあるんだけど───」

 そう言って彼女のお願いを聞いたヒメカは、ユメカに自分の携帯電話を渡した。その中に入っている電話番号にユメカは何度も電話を掛ける。

 

 それこそ、お昼ご飯を食べ終わってから家に帰るまで───何度も何度も。

 

 

 

 

 

 電話が鳴った。

 着信を見て、男は目を細めて携帯を仕舞う。

 

 また電話が鳴った。同じ番号である。

 

 

「……え、しつこい」

 キサラギ・ヒメカ。ReBondに近付く為にトラックで事故になりそうになるのを装って近付いた、キサラギ・ユメカの妹だ。

 

 カンダ・カラオ───カルミアには、NFTが終わった後彼女から何度か電話やメッセージが来ている。

 内容は殆ど「ReBondのメンバーが会いたがっている」だ。

 

 

 そのメッセージに答える事は出来ない。

 自分は彼女達を裏切ったのだから。もうあの場所には自分の居場所はない。

 

 さらにセイヤ達の事を裏切った自分には、既に居場所と呼べる物はどこにもないのである。

 

 

 ネットカフェの一室で自堕落に過ごしていた彼は、電話が鳴り止むのを黙って待っていた。

 

 

 

「……しつこ」

 しかし、電話は鳴り止まない。それどころか何度も掛け直してくる。所謂鬼電だ。普通に怖い。

 

 

 

「ど、どうしたっていうのよ……」

 かれこれ二時間鳴り続ける電話に恐怖心すら抱き始めた頃、やっと電話が鳴り止んだと思ったらメッセージが一件と留守番電話が一見入っていた。

 

 無視するつもりだが、恐怖心に負けたのか、留守番電話の再生ボタンに指が伸びている。

 

 

 

『カルミアさんですか? 私です。ユメです。GBNでお話がしたいので、ログインして下さい』

 単純なメッセージだった。ただ、いつもの彼女とは違う雰囲気でやはりどこか怖いのである。

 

 

『私、待ってます。……ずっと待ってます。カルミアさんが来るまでログアウトしません。ご飯も食べないし寝ません。……それじゃ、待ってます』

「いや怖!?」

 最早脅迫だった。お前が来なかったら死んでやると言っているのと同じである。怖い。普通に怖い。

 

 

 

「あの子にそんな所があったとわ……。てかこれ、滅茶苦茶怒ってるよな……」

 当たり前か、と内心納得していた。

 

 自分は彼女達を裏切ったのだから。恨んでも恨み切れないだろう。

 

 

 

「……これもケジメかねぇ」

 鞄から自分のガンプラを取り出して、ネットカフェに設置してあるGBNのログイン用ダイバーギアを借りて設定を弄った。

 

 そうしながら、彼は「コレが爆発ねぇ……」と目を細める。

 

 

「セイヤ……」

 ふと漏れた言葉と共に、意識はこの世界からGBNの世界へと流れていった。




実は本日で丁度一周年になります。書き始めた頃は一年で終わらせるつもりでした。去年の自分を殴りたい。

そんな訳でめでたいな一周年。今回は野郎を描いてきました。

【挿絵表示】

カルミアさん。背後にガンプラトレスしたドーベンを添えて。バトオペ2に参戦したので赤くなって遊んでます。

あと、バトローグ最高でした。


それでは読了ありがとうございました!


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仲間にしてくれないか?

 突然来た一通のメッセージ。

 それはNFTが終わってから一週間後の事だった。

 

 

 アンチレッドのリーダー、セイヤはお前が探している兄のキムラ・セイヤだ

 キムラ・ナオコちゃんへ

 カルミアより

 

 

「───カルミア氏」

 なぜ自分(ジブン)の本名を知っているのか、なぜ兄の行方を知っているのか。

 それは紛れもなく、自分の兄があのアンチレッドのリーダーであるという事の証である。

 

 

「なんで……どうしてなの、兄さん」

 頭を抱えて蹲った。

 

 あの優しい兄が、ガンダムが───ガンプラが大好きだった兄が、どうしてあんな事をする。

 メッセージを返しても返事は来ない。ユメ達もGBNにログインしてこない。

 

 

 

 楽しかった日々はあっという間で、また孤独に戻るのだろうか。

 

 兄が居なくてなってから続いた孤独に。

 

 

 

 

『今からGBNにログインします』

「───ユメちゃん?」

 その一週間後。NFT開催日から二週間後の土曜日の昼過ぎ、そんなメッセージがユメから届いた。

 

 

「……なんか、怒ってない?」

 ただ、普段のユメからのメッセージとは少し違うような気がする。いつもなら絵文字とか顔文字とかが入っているのが普通だし、もっと文も長い。

 

 それが今回は物凄く短い短文で、文章から空気がピリピリしているのが伝わって来た。

 

 

 

「ヤザンさん、ちょっと私またゲーム行くから。餌、おやつと多めに置いとくね」

 そう言いながらコタツの上の猫の頭を撫でて、ダイバーギアを手に取る。

 コタツの上の猫は懐いているのか分からない鋭い瞳で彼女を見ていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GBN。メインフロア。

 

 

 若葉色の特徴的な髪の毛にケモ耳と尻尾、眼鏡に何故か腰に挿した刀。

 自分で作って着飾ったアバターとはいえ現実からは掛け離れたこの容姿は毎日ログインしていようが慣れない物である。

 

 だからこそ、鏡を見てスイッチを入れるのだ。この世界でなりたい()()()になる為に。

 

 

「お久しぶりっす! ケイ殿、ユメちゃん、ロック氏!」

 元気に手を振って、待ち合わせていた三人の元に走った。しかし、近付いてみるとどうも空気が重い。

 

 

「ゆ、ユメ……ニャムさん来たぞ」

「お、おーっすニャムさん」

 ケイとロックはなんだか生まれたての小鹿のように震えている。そんな二人に挟まれているユメもまた、こちらは逆毛が立った猫のように震えていた。

 

 

「ヒィ!?」

 これには流石のニャムも驚いて腰を抜かす。ユメがこんなに怒っている姿を見るのは初めてである。

 

 それはケイやロックも同じらしいが。

 

 

 

「……ゆ、ユメちゃん?」

「……あ、ニャムさん。お久しぶりです」

 笑顔の筈だが、それがまた怖過ぎた。

 

 

 

「ど、どうしたんすか!?」

「どうやらカルミアさん呼び出したらしくて……。なんか絶対来るから一緒にGBNで待とうって」

「あんなユメカ初めて見たんだけど……。おいケイスケ、お前何したんだよ」

「何もしてないわ……!」

「いやでもアレはジブンから見ても滅茶苦茶怒ってるっすよ! 確かにカルミア氏はちょっと裏切ったみたいな感じっすけど……」

「ま、まぁ……ユメは俺達と違っておっさんの事ずっと信じてたしな」

 ユメには聞こえないようにコソコソと話す三人。当のユメはそんな事気にしていないのか、プルプルと震えながらコンソールパネルを開いている。

 

 

 表示されているのはフレンド一覧。カルミアとスズの名前だけが、最終ログイン一週間以上前と書かれていた。

 

 

「……あ、あの……ユメちゃん。本当にカルミア氏来るんすかね?」

「来なくても待ちます。私、二時間電話して留守電とメッセージも入れたから」

 静かな低い声にニャムは青ざめる。やっぱり今日のユメはおかしい。

 

 

 

「ヤバイっすよ。滅茶苦茶ヤバイっすよアレ……! ケイ殿本当に何したんすか!?」

「いや、だから俺は何にもしてませんよ!?」

「ケイ、もう二度とアイツを怒らせるなよ」

「俺じゃないけどそれだけは心に誓うよ……」

 三人がそう話していると、黙ってコンソールパネルを見詰めていたユメの身体がピクリと動いた。

 もしやと思い三人もコンソールパネルに目を映す。フレンド一覧、カルミアの名前の横には『ログイン中』の文字が表示されていた。

 

 

「カルミア氏……」

 本当にログインしている。この二週間、ずっとログインして来なかった彼が。

 ユメの鬼電が怖かったのか、メッセージが怖かったのか。もはやユメが怖い以外の理由が思い付かないが、理由はともかくカルミアがログインしているのは確かだった。

 

 

「……どうも」

 目の前に現れる紫色の羽織と眠そうな半目の男。

 

 ばつの悪そうな表情で頭を掻きながら歩いてくるカルミアは、ユメと目があった瞬間「───ヒィ!?」と尻餅をつく。

 ユメの背後にいた三人は彼女がどんな顔をしていたのか分からないので、カルミアの反応を見て三人で抱き合って震える事しか出来なかった。

 

 

 

「……ゆ、ユメちゃ───ユメさん?」

 カルミアも敬語である。

 

 

「……カルミアさん、来てくれたんですね」

 優しい声だ。しかし顔は笑っていない。本人は笑っているつもりかもしれないがそれは笑顔ではない。

 

 

「は、はい! 来させて頂きました!!」

 最早漏らしそうなカルミアの表情が流石に可哀想で、ケイはなんとか勇気を振り絞って間に入った。

 

 

「ゆ、ユメ! 流石に怒り過ぎだ。カルミアさん怖がってるか───ユメ?」

 ただ、間に入ってユメの顔を見てみると彼女の表情は思っていたのと違うのである。

 

 

「……泣いてるのか」

「……泣いてない」

 ユメは涙を流していた。仮想世界のGBNだが、その感情表現は偽物ではない。

 

 

「ユメ……」

「私、怒ってるんだから……」

 手を強く握る彼女を見て、ケイもカルミアも彼女を直視出来ないで俯く。

 

 

 当たり前だと、カルミアは頭を押さえてからゆっくりと背筋を伸ばして頭を下げた。

 

 

 

「……申し訳ありませんでした」

 おふざけは無し。ただ真剣に誠意を見せる。

 

 許されない事くらい分かっていて、ただそれでも真剣に謝る事が大人としての在り方だと自分に言い聞かせた。

 何を言われても仕方がない。自分は彼女達にそれだけの事をしたのだから。

 

 

 

「なんで裏切ったんですか」

「……それは、おじさんは元からセイヤ達の───」

「なんで、あの人達を裏切ったんですか……!」

「───はい?」

 予想外の言葉にカルミアは口を開けて固まってしまう。それはケイ達も同じで、四人は「何を言ってるんだ」という気持ちでユメを見ていた。

 

 

 ただ、ユメは膝から崩れ落ちて、大泣きしながらこう続ける。

 

 

「大切な仲間だったんですよね……! 私やガンプラが憎くて、こんな事まで計画して何かしようとしていた……仲間なんですよね?」

「大切な……仲間」

「あなた達がしようとしていた事が正しいとは思わない……。けれど、カルミアさんがあの人達の事を大切に思っていた事は分かります。……そんな人達を、なんで裏切ったんですか! そうやって一人になっちゃう事くらい……分かってた筈なのに。自分が一番不幸になるの……分かってて、なんで……! なんで大切な人達を裏切ったんですか!!」

「ユメちゃん……」

 彼女が怒っていたのは彼が自分達を裏切った事ではなくて、彼が仲間を裏切った事だった。

 

 確かにカルミアにとってセイヤ達は大切な仲間だったのである。

 青春を共にし、辛い思いも憎しみも共にして、目的を果たそうと人を騙すなんて事までやろうとした大切な仲間だった。

 

 

 その仲間すら裏切って、彼は今独りで居る。

 

 

 

「はぁ……」

 頭を抱えて、カルミアは大きな溜息を吐いた。

 

 

「わ、私……怒ってるんですから!」

「分かってるよ、ありがとね」

 カルミアを一生懸命睨むユメに、彼は膝を落として視線を同じにする。そして彼女の頭を優しく撫でながら、もう一度「ごめんな」と謝った。

 

 

 

「許してくれない?」

「許さないです……。カルミアさんだけが辛い思いをする結果にした事、絶対に許さないです」

「でもさ、ユメちゃん。……一つ勘違いしてるぜ」

 いつも通りの眠そうな半目で───しかし、どこか優しい顔で彼女の顔を覗くカルミアはこう続ける。

 

 

「ユメちゃん言ってくれたよな? おじさんもReBondの大切な仲間だって」

「それは……」

「おじさんね、ユメちゃん達が好きになっちゃったのよ。セイヤやサトウ達と同じくらい、ユメちゃん達の事が大切になっちまったの。……だから、俺はどっちも取れなかった。中途半端で情けない結果だけ残しちまった。大切な仲間を全員裏切って、全員傷付けた」

 頭の中にセイヤの顔が思い浮かんだ。

 

 

 復讐に捉われた彼を救えるのは自分だけだったのに、そんな彼を自分は裏切ったのだろう。

 自分の事を仲間だと言ってくれて、あまつさえ裏切った自分の為に泣いてくれる女の子までも裏切った。

 

 本当に最低な大人である。

 

 

 

「俺だけが辛い思いをしてるんじゃない、裏切った全員に辛い思いをさせてると思う。ユメちゃんも泣かせて、仲間達を見捨てた……俺は最低だよ。ごめん」

 静かにそう謝った。

 

 

「……本当に申し訳ない」

 膝を落として頭を地面に付ける。これくらいしか出来なかった。これが汚い大人の謝り方なのだから。

 

 

 

「カルミアさん……」

「ユメちゃん、許してあげたらどうすか?」

「そうだぜユメ。おっさんにここまでさせるのは流石にひでーよ。てか怖い」

「ニャムさん、タケシ君……」

「ロックな?」

 二人の言葉を聞いてもカルミアは頭を上げない。そんな彼を見て、ケイは目を細めてからカルミアに聞こえないようにユメに小さな声で話しかけた。

 

 

「───どうだ?」

「……うん。そうだよね」

 ケイの提案に、ユメは重かった空気を振り払うように一度大きく深呼吸する。カルミアは少しだけ頭を上げて首を横に傾けた。

 

 

 

「カルミアさんは私達の事、仲間だって思ってくれたんですか?」

「ユメちゃんがそう言ってくれたから、おじさんもその気になっちゃったのよ。……って、これは言い訳か。少なくともアイツらと天秤に掛けられるくらいには……ここは居心地が良かった。それは嘘じゃない」

「でも、裏切った」

「そうだ」

「……あの人達の事も裏切った。カルミアさんには、もう仲間は居ない」

「……そうだ」

 事実を突き付けられて、カルミアは地面を見つめる事しか出来ない。

 

 

 そんな彼の視線に、一人の少女の手が伸びてくる。

 

 

 

「だから、今はカルミアさんはフリーですよね?」

「……は?」

「仲間の居ないカルミアさん。……また、私達の仲間になってくれませんか?」

 立ち上がってそう言うユメは、真っ直ぐにカルミアの目を見て手を伸ばす。

 そんな彼女の言葉に、カルミアは自分の目と耳を疑った。

 

 

「おじさんはユメちゃん達を裏切ったんだぜ?」

「うん。知ってる」

「俺なんか仲間にして、また裏切られたらどうする気だよ。……また、傷付くのが怖くないのか?」

「カルミアさんはまた裏切るの?」

「いや、それは……」

「裏切っても、良いです」

「は?」

 ついに呆れた声の漏れるカルミアだが、ユメは真剣に彼の目を真っ直ぐに見ている。

 その瞳には曇りがなくて、彼自身が言った通り純粋だった。

 

 

 

「大切な人に裏切られるのは、とても辛い事だけど……。大切な人を裏切るのは、もっと辛い事だと思うから。……私はもう、カルミアさんにそんな辛い想いをさせたくない───させない」

「……どうしてそう言いきる訳よ」

「天秤なんかに掛けられないくらい、私達がカルミアさんの大切な仲間になる。そして、カルミアさんの大切な仲間だった人もGBNが───ガンプラが好きな仲間にしてみせる。私、ガンダムの作品を全部見た訳じゃないけど……どこか共通したテーマがあると思うんです」

 これまで見た作品を思い返しながら、これまで経験したGBNでの経験を思い返しながら、彼女はこう続ける。

 

 

「分かり合う事。ガンプラを通して、他人の好きを分かる事───他人の気持ちを分かる事。……GBNはそれが出来る場所だから、私は皆と仲間になりたい。分かり合いたい!」

 アンチレッドのメンバーも含めて、ガンプラが好きな人々全てが仲間であれますように。

 

 ユメのそんな願いを、カルミアは心の何処かで感じていた。彼女の言葉は大袈裟かもしれない。だけど、根本は一つである。

 

 

 

 

 ガンプラが好きな人は、皆大切な仲間だ。

 

 

 

 

「だから、カルミアさんは私達の仲間になってください」

「……俺は───」

 ガンプラが好き。ずっと昔から、今の今までこの気持ちは変わっていない。

 忘れていた事はあっただろう。だけど、彼女達が思い出させてくれた。

 

 

「───俺は、俺も……ガンプラが好きなんだ。……アイツらだって、昔はガンプラが好きだった!」

「知ってるよ」

 そうじゃなきゃ、ガンプラをそんなに恨んだりしない。

 

 

 色々な気持ちがあるのだろう。

 自分が原因でそうなったという人もいた。

 

 だけどそれ以前に、皆本当はガンプラが大好きな筈。

 

 

 だってガンプラはこんなにも、人の気持ちを吐き出させる物だから。

 

 

 

「俺はアイツらの事もユメちゃん達の事も好きだ……。アイツらを止めたい。おじさんは独りじゃ何も出来ないのよ。だから……俺を仲間にして欲しい!」

 その手を取る。

 

 

 

 答えは決まっていた。

 

 

 

「ケー君」

「ん? あ、あぁ。……俺達がReBondです」

「え? あ、あぁ……」

 それは、いつかの再演。

 

「なんつったかな……。えーと、あんた誰?」

「えーと……。あー、突然声掛けちゃったからね。そーなるよね。……ユメちゃんだよね?」

「はい、ユメです」

 彼とGBNで初めて会った日の事を思い出しながら、五人は笑いながらその茶番を続ける。

 

 

「おじさんはキミに一目惚れしちまった。是非おじさんを仲間にしてくれないか?」

「ニャムさん、そいつを叩き切って下さい」

「承知したっす! 首切りごめん!」

「ひぃ!? ちょ、タンマタンマよ!!」

「完全に怪しいおっさんじゃん」

「でも、仲間になりたいって言ってるよ?」

 

 おじさんを仲間にしてくれないか? 

 それは、ついさっきまで四人が悩んでいた事を解決する事が出来る言葉だった。

 

 

「いやでも完全に知らない人だし……」

「やっぱり斬るっすか?」

「待って」

「大丈夫ですか? えーと───」

 きっとこれが、本当の始まりなのだろう。

 

 

 

「───カルミアだ。おじさんを仲間にしてくれないか?」

 本当のフォースReBond、五人の物語の始まりなのだろう。




おっさんの話でした。次回から少し物語からそれてメフィストフェレスの話を少しだけします。

読了お疲れ様でした!


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ノワール

 オフ会をしよう。そう言い出したのはユメだった。

 

 

「カルミアさん、現実で会ったら一回殴りますね!」

「待って、そんな笑顔で言わないで? てか、許してくれたんじゃなかったの?」

「カルミアさんがアンチレッドの人達を裏切ったのは許したけど、私が裏切られたのは許してないですよ? というか思い出したら物凄くムカついてきました」

「ケー君!! この子を止めて!!」

「諦めて殴られといて下さい。大丈夫です、そんなに痛くないと思うから」

「いや気持ちが痛いから! おじさん女の子に殴られたりしたら病むよ!?」

 賑やかな雰囲気の戻ってきたReBondのメンバー達だが、オフ会の件でニャムだけは難しそうな顔をしている。

 

 

「ニャムさんどうしたんだ? アレか、流石にオフ会は嫌か」

「い、いえいえ。そもそもユメちゃんにオフ会の事を教えたのはジブンっすから。……ただ、メフィストフェレスのスズさんの事が気になってしまいまして」

 あの大会でセイヤが傷付け、GBNにログイン出来なくなった人は少なくない。その一人がメフィストフェレスのスズだ。

 

 どうせオフ会をやるなら彼女達も誘おうと思っていたのだが、彼女が今どんな状態なのかは気になるところである。

 

 

 

「……おじさんの仲間が本当に迷惑をかけてるな、とは思う訳だけど」

「その話に関してもオフ会で話して貰う事にするっすよ。心の整理や現状把握も必要ですし。ジブンも聞きたい事、あるっすから」

「そうしてくれるとおじさんも助かるね」

「そうなると問題は……」

 ケイは一人の男を思い出しながらロックの顔を見た。

 

 

 メフィストフェレスのノワールはロックと仲が良い。ロックならメフィストフェレスの現状を何か知っているかもしれないと思ったのである。

 

 

「ノワールの話だと、ずっと塞ぎ込んでるらしい。これは俺達がどうこうって話じゃないよなぁ」

 珍しく難しそうな顔をするロックだが、こればかりは彼のいう通りメフィストフェレスの問題だ。

 部外者であるロック達に出来る事は少ないだろうし、それに手を出すのは余計なお世話かもしれない。

 

「スズちゃん……」

「おじさんが何を言うんだって思われるかもしれないけど、あのフォースなら大丈夫よ」

 心配そうに俯くユメにそう言うカルミア。そうは言われても、彼女の性格上心配しない方が無理がある。

 

 

「ユメちゃんはさぁ、その生き方……いつか自分を壊すから辞めた方が良い」

 ケイスケにもずっと同じ事を言われていた。だけど、それがキサラギ・ユメカという人間なのである。そう簡単には変わらない。

 

「とりあえず、ジブン達はオフ会の日程とか予定を決めましょう。オフ会をやるって事だけはノワール殿に伝えといて貰って良いっすかね?」

「おう、分かったぜ」

 ロックにそう告げると、ニャムはユメに「場所の話なんすけど、多分ユメちゃんでもこの場所とか来やすいと思うんすよ!」と話し掛ける。

 

 それが良い気分転換になったのか、ユメの顔には少しずつ笑顔が戻っていった。

 

 

「……本当、良い子ねぇ」

「カルミアさん」

「何? ケー君」

「次ユメの事泣かせたら……俺も流石に───」

「分かってるよ。……だから、お前は俺を信じるな。いつでも背後から撃つ準備をしときな」

「いや、俺も信じます。……だから、次裏切ったら許しません」

「……若いの怖いなぁ。分かったよ、約束する」

 伸ばされたカルミアの手をしっかりと握るケイ。真っ直ぐな少年少女の瞳を見ながら、彼は昔同じ眼をしていた仲間の事を思い出す。

 

 

「……お前達を必ず救ってみせる。俺はもう、誰一人大切な仲間を裏切らない」

 虚空に向かって手を伸ばした。届かなかった手を、今度こそ掴んでみせる。そう自分に言い聞かせて。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 夕焼けの光で目を覚ました。

 朝焼けではなく夕焼けである。その証拠に、手元の時計では時刻は十八時を過ぎようとしていた。

 

 

「……寝ちまった」

 頭を抱えながらメッセージの来ている携帯を持ち上げて立ち上がる。

 今日は───いや今日も、何もする事がなくて一日家にいた。ここ数日の記憶はどれも腐っている。何もしていない。

 

『オフ会やろうってウチのユメが言ってるんだが、ノワール達は来るか? NFTの打ち上げって事で。勿論無理にとは言わない。まぁ、今回ダメでもまた遊ぼうぜ。俺はお前達との決着をまだ諦めてないからな』

 そんなメッセージ内容を確認して、ノワール───コクヨ・サキヤは頭を掻いた。

 

 

 二週間前、NFT第二試合の事を思い出す。

 

 

「スズ……」

 あの日からスズと顔を合わせていない。アンジェリカによれば、部屋から一歩も出ていないようだ。

 そもそも彼女は自分一人で歩く事すら出来ない。しかし、それを抜きにしての話である。

 

 

「何をやってるんだ……俺は」

 あの時スズを守れず、バトルにも勝てずに。大会が終わった後、アンディの件が怖くてGBNから離れていた。

 スズの事はアンジェリカに任せて、自分はこうしてただ時間を潰している。

 

 ふと、机の上に置いてある自分のガンプラが視界に入った。

 

 

 迅雷ブリッツ。

 フォースメフィストフェレスの機体の中では、少し浮いている。

 

 それは、メフィストフェレスの機体の中で唯一この機体だけはアンジェリカが作った物ではないからだ。

 

 

 

 思い出す。

 

 

「最近この辺りで野良狩りをしてるって噂のブリッツ使い、貴方ですわね?」

「……それがどうした。まさかどこかで倒した奴の敵討ちか何かか?」

 アンジェリカ達との出会い。

 

 それはノワールがまだソロプレイヤーとしてGBNをプレイしていた時の事だ。

 

 

 GBNを始めた当初は大学サークルの仲間とプレイしていたのを覚えている。

 しかし、何が違ったのか。自分とサークルメンバーで実力差が出来始めて、もっと上を目指したいと思ったノワールは彼等と一緒に居るのを辞めてしまった。

 

 このゲームが楽しい。もっと強くなりたい。自分が作ったこの迅雷ブリッツが、世界で一番強いガンプラなのだと証明する。

 その向上心で、切ってはいけない物まで切ってしまった彼は───気が付けば独りになっていた。

 

 

 

「とんでもないですわ。そもそも私達、チームバトル専門なんですのよ」

「なら何の用だ。チームで掛かってくる気か? それでも良いぞ」

「いえいえ、私はあなたの腕を買いたくて来たんですのよ。私のガンプラを使って世界を取ろうとは思いませんか?」

「世界?」

 その言葉には憧れがある。

 

 しかし、聞き捨てならない言葉が一つだけあった。

 

 

「私のガンプラだと? 俺には迅雷ブリッツがある」

 自分が作ったガンプラが、世界で一番強いと証明する。そんな夢を持つ彼に、アンジェリカは同じ夢をぶつけて来たのだ。

 

 

 

「あなたのガンプラより素晴らしい物を提供しますわよ。私が作ったガンプラは世界で一番ですの。そこに貴方の腕が加われば……私達は世界を取れる」

「ふざけるな。俺はこの迅雷ブリッツに誇りを持っている。他人の作ったガンプラなんかで世界を取ってなんになる! お前のガンプラなんかが、俺のガンプラより強い訳がない」

「……アンジェのガンプラを見もしないでバカにするな」

 ノワールの言葉に、彼を睨む白髪の少女。そんな彼女を眼鏡の男が「落ち着け、スズ」と下がらせる。

 

 

「なら、試してみます?」

「望む所だ。三対一でも俺は構わないぞ」

「よく言いましたわ。なら望み通り、その自信叩き割ってあげますわよ! トウドウ、スズ、準備しますわ!」

 そうして、三対一のバトルが始まった。

 

 

 

「───運が悪かったな、狙撃者!」

「───近付かれたくらいで、アンジェのサイコザクは負けない」

 バトルフィールドは無人都市。人が居なくなって廃墟が目立つ市街地で、隠れる場所も多い。

 

 そんなステージとブリッツのミラージュコロイドを利用して狙撃者であるスズのサイコザクレラージェに近付いたノワールは、彼女に接近戦を仕掛ける。

 

 

「サブアームが!?」

「ただのサイコザクじゃない……!」

 本来のサイコザクからさらに追加されたサブアーム。それを巧みに操るスズの操縦技術。

 

 悔しくもそれを認めざるを得ず、ノワールは一旦距離を取った。

 

 

 

「……この地形で引くならここしかないだろう」

「読まれた!?」

 しかし、まるで待っていたかのようにトウドウのクランシェアンドレアがその場に立ち塞がる。

 放たれる射撃を脚部に装備された車輪による機動力で避けながら、迎撃でライフルを向けた。

 

 しかし、そのライフルはサイコザクレラージェに撃ち抜かれる。舌打ちしながら、ノワールはアンカーを使った変速軌道でサイコザクの射線を切った。

 

 

「逃げても無駄ですわよ!」

「確かに良く出来たガンプラ達だ……!」

 どうしてだろう。

 

 こんなにもピンチなのに、楽しいと感じてしまった。

 それはきっとあの時切ってしまった物なのだろう。誰かと楽しむという気持ち、自分に着いて来てくれる実力。

 

 そして本気を出せるバトル。

 

 

 

「これが……俺が望んでいた物か!」

「やりますわね!」

 ぶつかり合う迅雷ブリッツとアストレイゴールドフレームオルニアス。

 確かな手応えを感じるアンジェリカに対して、ノワールはそれ以上を求めていた。

 

 

「しかし、三対一ではやはり無謀ですわよ!!」

「それでも俺の迅雷ブリッツは、どんな逆境も跳ね除ける!!」

「な!?」

「アンジェ!」

 ゴールドフレームを弾き飛ばし、アンカーで絡めとってからサイコザクレラージェに向けて機体を投げ付けるノワール。

 

「無茶苦茶ですわ!?」

 そうして出来た隙に、ノワールはトウドウのクランシェを撃破。残りの二機を纏めてライフルで撃ち抜く。

 

 

 既に迅雷ブリッツはボロボロだった。

 しかし、最後まで諦めず、勝ちに貪欲であり続けた彼にアンジェリカは目を輝かせる。

 

 

 

「いつか貴方、自分で自分を壊しますわよ。……そんな戦いぶりですわ」

「自分の力不足は認める。……だが、俺のガンプラだけは馬鹿にさせない」

「そんな事もうしませんわ。貴方のガンプラも凄まじいですもの」

「なら……なら俺を───」

 仲間にしてくれ。

 

 

 

 楽しかった。

 本気のバトルが出来る事が。実力を余す事なく発揮出来る事が。

 

 

 勝ち続ける。

 

 

 

「はぁぁ……!」

 勝ち続ける。

 

 

 

「アンジェ、スズ!」

 勝ち続ける。

 

 

 

「砂漠の犬、か」

「ぜ、絶対に許しませんわ! 来年こそリベンジですわよ!」

「……次は負けない」

「俺が焦らなければ……」

 誰よりも貪欲に、誰よりもチームの勝利に貪欲に。

 

 

 

「今回ダメでも、まだ私は諦めませんわよ! しかし、やっぱり私がリーダーではダメなようですわね」

「……アンジェ?」

「貴方、私達のフォースのリーダーをやりなさい!」

「本当に俺で良いのか?」

 一年前のNFTが終わった後、アンジェリカはノワールにそう言った。

 

 

「貴方が良いのですわ」

「俺なんて……勝つのに焦って仲間を危険に晒したのに」

「そうやってチームを想いやれる貴方には、リーダーの資格がある。そして、勝利に貪欲なその静かな熱さが……私には足りていませんでしたの」

 彼女はそう言ってノワールを引き寄せる。認められる事が嬉しかった、彼女達に必要とされているのが嬉しかった。

 

 

「私はお父様のガンプラ天元流を輝かせて魅せるバトルを見たい。その為に、貴方の力を貸して下さい……ノワール」

「……あぁ、約束する。俺がお前を、お前達を───」

 それが、フォースメフィストフェレスのリーダー。ノワールの物語である。

 

 

 

 

「……約束、したのにな」

 ふと、メッセージを読み返した。

 

『まぁ、今回ダメでもまた遊ぼうぜ。俺はお前達との決着をまだ諦めてないからな』

 ──今回ダメでも、まだ私は諦めませんわよ! ──

 

 

 

「───まだ、終わってない」

 そうだ、まだ何も終わってはいない。

 

 

 

 

 終わらせてたまるか。

 

 どこまでも勝利に貪欲に。俺は、諦めが悪いんだ。




そんな訳でメフィストフェレスの話を少々。少しだけお付き合い下さいませ!


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 お前は何も出来ない。

 それは、ずっと言われてきた言葉だった。

 

 

 自分でも分かっている。だけど、GBNの中でなら違う。

 大切な人の夢の為に、自分にも出来る事があると信じていた。

 

 

 お前はどこにいっても、何も出来やしない。

 突き付けられた現実に吐き気がする。何かが自分の中で壊れた気がした。

 

 

 私は何のために生きているのか。何のために産まれてきたのか。

 伸ばす手すらない、前に歩く足すらない。

 

 どうして私には何もない。

 

 

 

「お、おはようですわ」

「ねぇ、アンジェ……。私は……何が出来る?」

 私には何もない。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 都会の中心にある大きな───いや、巨大な豪邸。

 

 

「いつ来ても凄過ぎるな……」

 見上げるような門扉に目を半開きにしながら、サキヤは辺りの塀のせいで実際より小さく見える撞き鐘を鳴らす。

 撞き鐘の脇には大きく『クローデル家』という文字が刻まれていた。ここに来る度に毎度思う事だが、この家の主は何者なのだろうか。

 

 

 五分待つと、門の内側から車が来る。初めてここに来た時は、何故敷地内から車が来たのか意味が分からなかった。

 

 

「トウドウ」

「来る時間を言ってくれれば、事前に車を置いておくのだが」

「そもそも敷地内を車で移動するというのがおかしいんだ」

 車を降りて門を開く眼鏡の男に、サキヤは目を細めて片手を上げる。

 

 眼鏡の男は黒い執事服を着ていて、助手席を上げるとサキヤに乗るように手招きした。

 彼はトウドウ。名前もそのまま、メフィストフェレスの参謀、クランシェアンドレアを駆るサキヤの仲間である。

 

 

「皆は?」

「レフトとライトは急な話だったから来ていない。アンジェリカ()もリンも屋敷に居る」

「こんな夜中に突然押し掛けて悪いな」

「まったくだ」

「それにしても……広い庭だ」

「……まったくだ」

 目を細めるトウドウ。彼はこの屋敷の使用人だ。

 

 アンジェリカ・クローデル。

 フォースメフィストフェレスのアンジェリカ───GBNのダイバーネームと同じ名前の彼女こそ、この屋敷の主人なのである。

 

 

 

「スズ……リンは?」

「アンジェリカ様から聞いてるだろう。部屋に引き篭もっている。食事はアンジェリカ様と取っているが、それだけだ」

「GBNには……」

「あんな事をされて行く気になる訳がないだろう」

 トウドウはハンドルを強くながらそう答えた。

 

 NFT二回戦でのアンチレッドとのバトル。ノワールはスズを守れなかったのだろう。仲間として、リーダーとして許されない事をしたと自分でも思っていた。

 

 

「すまない……」

「いや、お前を責める事はない。あの試合、俺の作戦がもっと良ければ───」

「待てトウドウ、お前の作戦は完璧だった。お前は試合にも出ていない! スズを守れなかったのは───」

「そうやって自分を責めれば彼女が帰ってくる。……皆、そう思ってスズに手を伸ばすのを怖がっているんだ」

 自分の眼鏡を押さえて、トウドウは「やっと着いたぞ」と車の速度を落とす。

 

 

 見上げる程の屋敷の前に着いた車を降りて、彼はサキヤが座っている側の扉を開けながらこう続けた。

 

 

「だけど、お前は違う。スズに手を伸ばしに来たんだろう?」

「……あぁ、そうだ。俺は───リーダーだからな」

 誰かの顔を思い浮かべながら、彼は力強い目で屋敷を見上げる。それでもやっぱり、何度見てもこの家の大きさには度肝を抜かれるのであった。

 

 

 

「アンジェリカ様、ご友人をお連れしました」

「来てくれたんですわね、ノワール」

「ここではサキヤだ、アンジェ。……というか、トウドウのソレはなんとかならないのか?」

 二人が屋敷の中に入ると、玄関口で待っていた金髪の少女がサキヤに微笑みかける。

 GBNとは違い金色の髪を下ろした長髪の少女は「私は何度も辞めろと言っているんですわよ」と困り顔で答えた。

 

「GBNの中でならいざ知らず、現実のアンジェリカ様を呼び捨てにしては俺の首が飛ぶ」

「それにしては私への扱いがゾンザイではなくて?」

「教育ですよ、アンジェリカ様。ニンジンを残しては立派な大人にはなれません」

「コウ・ウラキもニンジンは要らないって言ってるじゃありませんの!」

「だから奴はガキなんだ。言っておくが夕飯に残したニンジンはまだ取ってある。……明日の朝が楽しみだな」

「ムキー!」

 地団駄を踏むアンジェリカ。見た目は大人しいが、中身はGBNと変わらないのが彼女の良い所なのか悪い所なのか。

 

 

 とりあえず、とサキヤは言い合う二人の間に割って入って本題に入る事にする。

 今日は別にアンジェリカにニンジンを食べさせに来た訳ではない。

 

 

「スズと話がしたい」

「それは良いが、話してなんとかなるのか?」

「ありがたい話ですけど、正直こればかりは時間が解決してくれるのを待つしかないと思いますわ。私だって、早くリンに元気を出して欲しくてなんとかしようとしていましたもの。でも、リンは心に深い傷を負っていますの。……あまりにも、可哀想で」

 この二週間アンジェリカはリンを放っておいた訳ではなかった。食事はいつも一緒に取るし、出来るだけの時間を一緒に過ごしている。

 

 しかし、彼女の心に近付こうとしても、それはどこか届かない所まで行ってしまったかのように近付けないのだ。

 まるでそこに彼女は居ないかのように、部屋は無音になっていく。

 

 

 

「それでも……このまま止まっているのはダメだ。お前達の所にもオフ会の話、来ただろ?」

「来たな」

「それは、まぁ……。でも、オフ会ですわよ? リンをそこに連れていくのは───」

「だからこそ、今ここでアイツの悩みを吹き飛ばすんだよ。手足がない? そんな事関係ない。そんなのは俺達が一番知ってる。俺達を一番支えてくれたのは誰だ? アイツは何も分かってない」

 少しだけ昔の事を思い出した。

 

 

 ノワールが仲間になって間もない頃、本格的にフォースバトルに挑戦し始めた彼等は初めこそ敵無しで駆け出しフォースとしては周りに一目置かれる存在だったのである。

 

 しかしそれはフォースランクが低い頃の話だ。

 名前を上げれば上がる程、挑戦相手も強くなっていく。そうして彼等は初めて負けを知った。

 

 

 何度も負けた。

 

 

 

「なんでだ……なんで勝てない」

「私のガンプラは……ダメなんですの?」

「───そんな事はない。……まだ、戦える」

 挫けそうになった二人に手を伸ばすスズ。

 

 

「……私達は何も変わってない。これから変われば良い。何を変えるのか、探せば良い。……何度負けても、立ち上がれば良い」

「スズ……」

「……大丈夫、アンジェのガンプラは最高だ。……ノワールの負けず嫌いも、裏を返せば使えると思う」

 そうして彼女達は少しずつ変わっていく。

 

 

 ノワールをリーダーに、アンジェリカはさらに自分のガンプラに磨きをかけた。新しい仲間も加わって、第一回NFTは一回戦で敗退しても諦めずに進んで来たのである。

 

 

 

「───お前もだ、スズ。お前もまだ変わってない。俺達もお前も、まだ変われる。変わり続けられるんだ」

 アンジェリカに連れられて、家の角の大きな部屋に辿り着いたサキヤはドアノブを回して力強く扉を開いた。

 

 広い割には無機質な部屋。

 大きなベッドに横たわる黒髪の少女は首の下が布団に隠れている。その布団は小さく盛り上がっていて、しかしやはりそこにある筈の何かがないのであった。

 

 

 

「リン」

 彼女の名前はミソラ・リン。

 フォースメフィストフェレスの狙撃手、ダイバーネームはスズ。彼女は先天性四肢障害を患った少女である。

 

 

「……ノワール?」

 急に部屋に飛び込んで来た男に驚いたリンは、首だけを部屋の外に向けて目を見開いた。そして、彼の姿を見て直ぐに顔を晒す。

 

「ここではサキヤだ。リアルで会うのは久し振りだな」

「出て行って。私を見るな……」

 片手を上げて挨拶をするサキヤだが、リンはそっぽを向いたまま「帰って」と続けた。

 

 

 彼女にあったのは初めてではない。しかし、アンジェリカにあった回数はもう数えられなくてもリンに会った回数は片手で数えられる。

 それは彼女が現実で人と顔を合わせるのを嫌がっているからだ。

 

 身の回りの世話をしてくれているトウドウや、ずっと一緒にいたアンジェリカならともかく、他の人間への不信感はどうしたって消えない。

 この拒絶は彼女がアンジェリカと知り合うまで他人から受けた傷が爆発した物である。だからこそ、アンジェリカはオフ会に対してスズを連れて行くのだけは賛成出来なかった。

 

 

「帰らない」

「……なんで」

「お前を助けに来た」

 力強くそう言う。一歩ずつ近付くサキヤは、ゆっくりとこう続けた。

 

 

「あの時、お前を守れなくてすまなかった。俺の力不足だ」

「……違う、私が何も出来なかった」

 嫌でも思い出す。あの赤いキュベレイとの戦いを。

 

 

 ──いや、お前は何も出来ない。この通り、お前はゲームでもだるまだ。一人じゃ何も出来ない。この偽物の世界で、本当の世界でやれない事が出来る訳ないだろうが!! 無駄なんだよ!! お前はどこにいっても、何も出来やしない!!──

 突き付けられた現実。耳を塞ぎたいのに、そうするための手すら彼女にはなかった。

 

 

「……私が皆を負けさせた。私の自爆でノワールまでやられて、私が何も出来なかったから……私がアイツを倒せなかったから、私が───」

「皆そう思ってるんだ」

 今さっき誰かに言われた言葉を彼女に返す。

 

 

「全員自分が悪いと思って、塞ぎ込んでいた。一番辛い思いをした筈のお前に手を伸ばす事もしないで……。許してくれとは言わない、俺も悔しかった。これまでで一番、悔しかったんだ。……仲間を守れなかったのが、本当に悔しかったんだ」

「……ノワール?」

 リンの寝ているベッドまで辿り着いて、サキヤは崩れ落ちながら言葉を漏らした。涙を流す彼の言葉に、リンは身体の向きを変えて彼の顔を覗き込む。

 

 

 

「お前はどうだった? リン」

 辛い思いをした、というのは嘘ではなかった。誰だって自分のコンプレックスを悪く言われれば傷付く。そのコンプレックスが大きければ大きい程、傷は深くなっていくんだ。

 

 だけどそれよりも、彼女は自分が許せなかったのだろう。

 

 

 

「辛かったか?」

「……私は、アンジェの期待に応えられなかったのが悔しかった。自分には何も出来ない……こんな私は、何も出来ないって思い知らされた」

 両手を持ち上げて、彼女はそう言った。両手といっても、肩から少し伸びただけの何も持てない腕である。

 

 リンはそんな腕を、ノワールの頭に乗せてゆっくりと彼の頭を撫でた。

 

 

「……そんな事、分かっていたのに」

「リン?」

 彼女の言葉にアンジェリカは心配そうに声を掛ける。しかし、リンの顔はしっかりと前を向いていた。

 

 

 

「辛くなんてない。……ただ、自分が無力だって思い知って逃げたくなっただけ。でも……ノワールも、多分皆も同じ気持ちだったのかな?」

 首を横に傾けるリンに、アンジェリカとトウドウは無言で頷く。きっとレフトとライトも同じ返事をする筈だ。

 

 

 彼等はまた大きく負けたのである。

 

 

 でもそれは終わりじゃない。

 

 

 

「……男の子が泣いてるのに、私が不貞腐れてたらダメだな」

「な、泣いてるわけじゃない」

「心配かけてごめん。……もう、大丈夫」

 短い腕でサキヤの頭を撫でるリン。何も出来ないと思っていた自分の身体だが、思っているより何か出来る事が分かって少しだけ嬉しかった。

 

「こういうの、日本語でナキオトシって言うんでしたっけ?」

「だから泣いてないから!」

「泣いてた」

 意地悪に微笑むリンに、サキヤは顔を赤くして立ち上がると彼女に背中を向けてこう口を開いた。

 

 

「お前、昔こう言ったな。……私達は何も変わってない。これから変われば良い。何を変えるのか、探せば良い。……何度負けても、立ち上がれば良いって」

「……うん」

「何度目か分からないが、また立ち上がる時が来ただけだ。また変われば良い。……あんな奴の言葉なんて気にするな。お前は俺を慰めてくれた。あの時も、今も。お前に出来ない事なんてない」

 そうしてサキヤはもう一度振り向いて、彼女の小さな腕に手を伸ばす。

 

 

「行こう、この先に。アンジェと、トウドウと、レフト達と一緒に」

「……うん」

 その手を掴んだ。

 

 

 何も出来ないなんて事はない。そんな何度でも言われた言葉、何度でも跳ね返してみせる。

 

 

「リン……」

「アンジェ、心配掛けた。……もう大丈夫」

「リンゥゥ!! うぅ、良かったですわ!! リンゥゥ!!」

「や、ヤメローーー!」

 ベッドに飛び込んでくるアンジェリカに悲鳴を上げるリン。その横で、トウドウはサキヤの肩を叩きながら「助かった」と声をかけた。

 

 

「……お前のヒントのおかげだがな。正直、俺は必要だったか?」

「お前じゃなければこうはならなかった」

「それがお前の作戦、だと」

「リーダーだからな、お前は」

 見透かしたように語るトウドウに半目を向けるサキヤだが、ふと大きな鐘が鳴り辺りを見渡す。

 確かこれは客が来た時の鈴の音だったか。トウドウの顔を覗き込むと、彼は「来たか」と言葉を漏らした。

 

 

「二人か? 来ないんじゃなかったのか?」

「来ていないとしか言っていない。偶々パーティの用意は出来ているが、な。……俺は二人を迎えに行く。サキヤはオフ会の件をリンに説明しておけ」

 面倒な役を押し付けられて表情を歪ませるサキヤだが、この家で客人を迎えに行くのは骨が折れる。

 リンは嫌がりそうだが、それもリーダーの役割だと割り切って腹を括った。

 

 

 

「二人共、話があるんだが───」

 だって彼は、フォースメフィストフェレスのリーダーなのだから。




メフィストフェレスも完全復活。これでNFTで出来た穴はなくなりましたね!

次回はちょっとした小話を挟みます。読了ありがとうございました!


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無職のおじさん

 内心焦ってはいなかった。

 人生色々あったりなかったりしたが、これまでなんとかなって来たからである。

 

 

「それじゃ、オフ会の予定は来週の土日という事で良いっすかね? 細かい予定は明日の内にジブンが用意しておくっす!」

「お願いします、ニャムさん」

「スズちゃん達も来れるんだよね!」

「おう、さっきノワールから連絡があったからな。なんなら明日からGBNにもログインしてくるらしいし」

 皆で会うという事で、ReBondの面々はしんみりとした空気から解放されて笑っていた。

 そんな四人を見ながら、カルミアはむしろ安心する。

 

 

「で、やっぱり会ったらおじさん殴られる訳?」

「はい。殴ります」

「笑顔で言わないで」

 大人しい女の子だと思っていたユメからのストレートな言葉に若干恐怖を覚えつつも、自分の正体についていつ話そうかと目を細めた。

 自分が彼女の()を奪ったトラックに乗っていた男だと知ったら、彼女はどう思うだろう。

 

 仲間だと言ってくれた彼女をまた裏切る事になるのではないか、それがまだ少しだけ怖かった。

 

 

 

「それじゃ、おじさんは今日はこの辺で」

「えー、久しぶりにクエストとかやろうと思ってたのに」

「野暮用があるのよ、悪いねぇ。明日で良い?」

 頬を膨らませるユメの頭を優しく叩いてそう言って、カルミアはGBNをログアウトする。

 

 

 現実に引き戻された意識で、彼は大きく溜め息を吐いた。それは別にReBondとの関係を悩んでいる訳ではなく───

 

 

 

「───金がねぇ」

 職を失った大人の切実な悩みである。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 人が生きていくにはお金が必要だ。

 それは子供達にはまだ少し理解が遠いかもしれないが、人は親元を離れるとそれを強く実感するようになる。

 

 

「……ついにネカフェ代もなくなったか」

 ネットカフェの出口で財布をひっくり返して手の上に中身を落とすも、小銭が四つ落ちてくるだけだった。

 貯金をしなかったのは、会社の経営にポケットマネーを使っていたからだが───その会社は既にクビになっている。

 

 文句を言う権利はないのだろうが、自分の扱いに泣きそうになった。

 

 

「仕事を探さねば……。それ以前に今日の寝床よ」

 財布から取り出した最後の小銭を取り出して、カンダ・カラオは決意したように目の前のコンビニに視線を向ける。

 

 

「───唐揚げ棒一本下さいな」

 彼は一文無しになった。

 

 

 

 

 

 月曜日。

 夕暮れも綺麗な下校時間。

 

 学生達は「帰ったらどうする」だの「帰ったら何をする」だのと忙しい。

 そんな中、独りで道を歩く中学生の女の子は友達と話したりしていたら目にも止めないだろう光景を目にする。

 

 

「……ホームレス」

 町を流れる一本の川を渡る為の橋。その下に、男が一人倒れているのを見付けてしまった。

 正直見なければ良かったと、少女───キサラギ・ヒメカは溜め息を吐く。

 

 周りで友達と喋りながら、アレを発見せずに気楽に歩いているクラスメイトが今だけは羨ましいと思った。

 

 

 一人立ち止まって、河川敷に降りて行く。

 そんな彼女を不思議に思う人はいれど、着いてくる者は居なかった。彼女は学校で所謂ボッチなのである。

 

 

 

「……死んでないよね?」

 河川敷の橋の下。コンクリートで固めてある場所に、ダンボールを敷いて男が寝ていた。

 この橋はよく通る道だが、普段こんな場所に人は居ない。居ても近所の子供達がバーベキューをしているような場所である。

 

 もし死体だったらどうしようなんて考えながらも、彼女は来る道で拾った木の枝で大人の頭を突いた。

 

 

「───痛ぁ!? もう朝か!?」

「生きてた」

 悲鳴を上げる男に少しだけ驚いて後ずさるヒメカだったが、体を持ち上げる男の顔にどこか見覚えがあってその顔を覗き込む。

 

 

「……ヒメカちゃん?」

 ただ、先に口を開いたのは男だった。

 

 

「おじさん、トラックとガンプラの」

 同時にヒメカは男の正体を思い出す。姉とのデート中に姉を助けてくれたかと思えば、帰りの道でトラックに乗って姉を轢き掛けた男だ。

 そして彼こそ、姉が遊んでいるゲームで人が足りないからと呼び出したは良いが───裏切りとかなんとかで姉を困らせた張本人である。

 

 

「えい」

「ぎゃぁぁあああ!!」

 とりあえず眼を潰しておいた。

 

 

 

「───話を聞きますよ。……どうしたんです?」

「まず話を聞く前におじさんの眼を刺したのはなんなの? 危ないからその木の枝捨てなさい」

「これは護身用です」

「見ず知らずの男を一ミリも信用してないのは良しとしよう。そのまま慎重に生きるんだよ───じゃなくてね? おじさん何故か手足を縛られてるので、もはや見た目襲われてるのおじさんだからね?」

 何故か手足を縄で縛られたカルミア───カンダ・カラオは、泣きそうな顔でヒメカに許しを請う。対するヒメカはそれを無視して「どうしたんです?」と聞き返した。

 

 

「……お姉ちゃんと仲直り、出来た?」

「……おかげさまで」

 彼女に連絡先を教えてなければ、ReBondのメンバーにまた迎え入れられるなんて事は無かっただろう。

 そもそも、彼女達に近付く為にヒメカに連絡先を教えたのだが───まさか最終的にこうなるとは思ってはいなかった。

 

 

「……それじゃ、なんでこんな時間にこんな場所で寝てるんですか?」

「こんな時間って……あ、もうそんな時間なのね」

 縛られているので時間も確認出来ないが、学生が下校しているという事はそれなりの時間だという事は分かる。

 

 

「おじさん、君のお姉ちゃんと約束があるんだけど……どっかにタダでGBNやれる場所はないかな?」

「こんな場所で寝てる理由は教えてくれないんですね……。あとそれは、私に聞かれても困ります」

 眼を半開きにしてカラオを見下ろしながら、ヒメカは「でもお姉ちゃんが約束破られて悲しい思いをするのはもっと困る」と顎に指を当てた。

 少しだけ考えて、彼女は「あー」と口をぽかりと開ける。

 

 

「知ってます、ゲームやれる場所」

 そう言って彼女はカラオの足の拘束だけを解いて彼を立たせた。両手は後ろで縛られたまま、ヒメカはそんなカラオを縄で括って引っ張る。

 

 

「ちょっと!? ヒメカちゃん!? この扱いはおじさん納得出来ないよ!? 周りの目が凄いんだけど!? ねぇ!?」

「もう少しキビキビ歩いて下さい。……あ、そこの角を右です」

「聞いてないし───ってか、この道」

 ヒメカに言われるがままこの格好で歩いていた訳だが、途中で彼女がどこに向かおうとしているのか見当が付いてカラオは眼を細めた。

 

 

 視界に入ったのはとあるプラモ屋である。

 自分の記憶と違ってかなり繁盛しているようだが、その場所を間違える訳がない。ここは彼が乗っていたトラックがユメカを轢いた場所なのだから。

 

 

 

「このプラモ屋さん、ゲームのろぐいんましん? みたいなのあるってお兄さんが言ってたんです。ここで良いですか?」

「えーと……そうね、ありが───」

 お礼を言って、取り敢えず縄を解いて貰おうとしたカルミアだったが───まともな食事も睡眠も取っていなかった彼は遂に体力が切れて意識を失ってしまった。

 その場に倒れるカラオを見て、流石のヒメカも顔を真っ青にする。

 

「お、おじさん……!?」

「どうかし───えーと、ヒメカちゃん?」

 カラオが倒れた音を聞いて店の中から飛び出して来たプラモ屋の店主は、ヒメカと倒れているカラオを見て眼を丸くした。

 普段見掛けない人物に加え、男の姿に店主はその場で固まってしまう。

 

 

 あの日、事故の日。

 ユメカを轢いたトラックから出てきた男だ。

 

 

「君は……」

「店長さん、おじさんやばい。……店長さん?」

「あ、あぁ。どうしたの? その人」

「なんか橋の下で寝てた」

 ヒメカの説明になってない説明に頭を抱える店主。ただ、彼の顔を見ればなんとなく状態は飲み込めた。

 とりあえず人をこんな場所で泣かせてはおけないと、店主はカラオを抱き抱えようとする。

 

 

「ちーっす、店長───って、なんだなんだ?」

「どうしたんですか店長さん?」

「店長さん? それにヒメカも……え?」

 そんな所に、丁度良く現れたのはタケシとケイスケ、それにユメカだった。

 

 

「その人……」

 そしてその男に見覚えがあったユメカは、固まってヒメカとカラオを見比べる。

 

 妹とのデートの時にプラモ屋で自分を助けてくれた男性。

 そんな彼を思い出したユメカだが、他の場所で───もっと別の所で彼を知っている気がした。

 

 

「ケイスケ君、タケシ君、ちょっとこの人を運ぶのを手伝ってくれないかな?」

「え、あ……はい」

「良いけどそのおっさん誰だ? なんか見覚えあるけど」

 店主と二人は、カラオを店の奥の休憩室に運んで行く。そんな彼等を見ながらユメカは記憶のどこかで会った人物に瞳を揺らしていた。

 

 ヒメカは首を横に傾けて、いつかの姉とのデートの帰り道の事を思い出す。

 

 

 

 あのトラックの運転手。

 事故にはならなかったが、姉に嫌な思いをさせた男の事を正直な所ヒメカは恨んでいた。

 

 ただ、彼が残した「ガンプラが憎いなら、力になってあげるよ」という言葉。

 別にそんな気はさらさら無かったが、姉にガンプラをやってる友達は居ないかと聞かれて───友達の居ない彼女には頼りの綱は彼しか居なかったのである。

 

 

 彼女にはそれが妙な運命の歯車だったとは、知る筈もなかった。

 

 

 

 

「……ぬ、うぅ」

「起きた」

 しばらくして目を覚ましたカラオを見て、ヒメカは店で手伝いをしていた三人を呼びに行く。

 

 プラモ屋は今日も繁盛していたが、トラブルもあってさらに混み合っていたので三人が手伝っていたという訳だ。

 ちなみにユメカとけいふけがプラモの紹介をしながら、タケシはレジ打ちの手伝いをしている。

 

 

 

「三人共、あの人起きたらしいからもう戻って大丈夫だよ。手伝ってもらって悪かったね」

「わ、私は何も出来てませんから」

「店長、バイト代でるよな?」

「おいタケシ」

「あはは、勿論。後で好きなプラモ貰って行きなよ」

 店長のそんな言葉を聞いて喜ぶタケシを叩きながら、ケイスケは二人を連れて休憩室まで歩いた。

 

 ヒメカが言うには、彼こそ彼女が姉に紹介した知り合い───カルミアだと言うのである。

 意外な所での出会いに驚く三人だったが、カラオ本人は申し訳なさそうに俯いていた。

 

 

 

「カルミアさん……なんですよね?」

 言われてみればどこか面影があるというか、GBNでの彼の姿に少し似ている。

 

「そーね、おじさんよ」

 カラオはそう言って、三人の顔を見比べた。ユメカ以外はGBNと大差ない姿をしているし、彼女の顔を忘れる筈もない。

 

 

「ケー君、ロッ君、ユメちゃんだな。……改めて、すまなかった」

 誠意を込めて頭を下げるカルミアに、ケイスケは「もうそれは良いんですって!」と両手を上げる。今はそれよりも気になる事があった。

 

 

「なんで、倒れてたんですか?」

「おっさんまさか無職か?」

「タケシ君……」

「いや、その……ロッ君の言う通りなのよね。おじさん、仕事クビになっちゃって」

 半目でそう告白するカラオは、申し訳なさそうにこう続ける。

 

 

「これまたユメちゃんに怒られそうな話だし、本当はオフ会の時に話す予定だったんだけどね。……そもそもアンチレッドのメンバーは殆どとある会社の社員な訳よ」

「とある会社?」

「……ユメちゃんを轢いたトラックの、運送業をしてる。プラモ専用の運送屋」

 ケイスケの問い掛けにそう答えたカラオの言葉を聞いて、三人はおろかヒメカも目を細めた。

 

 因縁か。

 そんな事を思う。

 

 

 

「勿論あの事故が全てって訳じゃない。ただ、セイヤや俺達を取り巻く環境が悪かった……それだけだと思うのよ」

 続きはオフ会で、そう言ったカラオは普段通り笑いながらこう続けた。

 

 

「んで、セイヤ達を裏切ったおじさんは無事無職になったって訳───ゴフッ」

 言い掛けたカラオのみぞおちを、車椅子を捻って放たれたユメカの拳が貫く。カラオはその場に倒れて、ケイスケは「カルミアさーん!!」と悲鳴を上げた。

 

 

 

「カルミアさん、本当に優しいんですね……」

「優しい人殴らないでくれる!? 姉妹揃って怖いよ!?」

「だって約束ですから」

「あー」

 会ったら殴りますね、なんて言われた事を思い出す。そのあとユメカは頭を下げて「ごめんなさい」と謝った。

 

 本当に優しい女の子だ、と思う。

 

 

 

「いやでも無職は大変ですよね」

「……ここで働いたら良いんじゃないの?」

 ふと、傍観していたヒメカはそんな言葉を漏らした。

 

 

「……え?」

「ここ、なんか忙しそうだし。ゲームも、ここで出来るし。……おじさん、家もないならとりあえずここに泊めて貰ったら?」

 ヒメカの言う通り、プラモ屋の休憩室はある程度広くて生活が出来るようになっている。なんならアオトが居なくなって手持ち無沙汰になっている部屋もあった。

 

 

 しかし───

 

 

「でも、この店は……」

「家は構わないよ」

 そんな休憩室に、店長が入って来てそんな言葉を漏らす。振り返ったカラオは目を細めて彼を見た。

 

 

 

「君達やアオトが俺の事を恨んでいるのかも、とは思ってる……。だからこの店で働くのが嫌なら無理強いはしない」

「……俺はあんたの人生を無茶苦茶にしたんだぜ?」

 店長の言葉にカルミアはそう答える。あのトラックを運転していたのは彼ではなかったが、それでも彼が関わっていたのは確かだった。

 

 

「それは、お互い様なんじゃないかな?」

「お互い様……」

「俺があの時アオトにあんな事をしなければ……俺はまだ、あの時のことを後悔してる」

「だ、だったら私も……飛び出したのは、私だから」

「お姉ちゃん……」

 きっと、誰もが同じ事を思っていたのだろう。

 

 

「───誰かが、もう少しだけ気を付けていたら……何か変わっていたかもしれない」

 ケイスケはあの時の事を思い出しながら、無意識にそんな言葉を漏らした。

 全員自分が悪いと思っているけれど、それはもう過ぎてしまった事だから変えられない。

 

 

 ───だけど今は変えられる。

 

 

 

「だから、今からでも変えようって……前に進もうって思うんです」

「ケイスケ君……」

 店長とカラオは目を見合わせて、子供達の真っ直ぐな瞳を見比べた。

 

 

 

「……そうかもね」

「そうだね。……丁度、お店にバイトが欲しかった所なんだよ」

「忙しそうだもんな」

 タケシが横目でお店の中を見てみると、店長が居なくなったせいでまたレジに行列が出来上がっている。

 そんな行列を見て慌てる店長だが、いったん振り向いて彼はこう言葉を落とした。

 

 

 

「事情はなんとなく察したし、皆の事も任せたい。アオトの事も、君は色々知ってるだろうし」

 フォースアンチレッドに所属していたアオトの事もある。全く手掛かりもなかったアオトに、これでやっと近付けるのかもしれない。

 

 

 

「それじゃ、早速働いてもらおうかな」

「いや、今からなの? おじさん腹ペコ何だけど!?」

 無事仕事を手に入れたカルミアを見ながらヒメカも含めて四人で笑った。なんとも賑やかな場所だと、いつかの楽しかった日々を思い出す。

 

 

 

 きっとまた、皆で。




おじさんがバイトを始めた。

書き溜めで年内分の更新まで溜まってしまった皇我リキです。この余裕を他の原作作品に向けたい。
読了ありがとうございました!


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第七章──オフ会編【2onバトルロイヤル】
いざオフ会へ


 ひそひそと、タケシはケイスケに話し掛ける。

 

 

「なぁ、今日のユメカの服凄い可愛いな」

「おま───」

 普段そんな事は言わないタケシだが、彼がそう言う程に彼女の服装は気合が入っていた。

 それもその筈で、その服はヒメカがデートの時に選んだ物である。ケイスケは顔を真っ赤にして彼女から視線を背けた。

 

 

「……ユメカが取られる」

「……いや俺は取らねーけど、キープしてないお前が悪い」

 ごもっともであるが、どうしようもない気持ちでいっぱいである。

 

 

「よし、このロックリバー様が車椅子上げるの手伝ってやろう」

「あ、良いです。私がやります。ていうか誰ですか」

「いつも通り酷いなヒメカちゃん」

 固まっているケイスケは置いておいて、車に車椅子を乗せるのを手伝おうとしたタケシはヒメカにあしらわれて固まってしまった。

 

 大きなワゴン車の後ろからユメカを乗せたままの車椅子を動かそうとするヒメカ。

 しかし、乗せやすい形状になっているとは言っても中学生のヒメカには文字通り荷が重い。

 

 

「よっと」

 そんな彼女の背後から、カラオとプラモ屋の店長が車椅子を押し込む。ヒメカは大人の力に驚きながらも「どうも」と小さくお礼を言った。

 

 

 

「よし皆、忘れ物はない?」

「はい! 店長さん、車のレンタル本当にありがとうございます」

「良いんだよ。楽しんでおいで、オフ会」

 ───そう、今日はオフ会の日である。

 

 

 カラオがプラモ屋で働き始めてから一週間。丁度、NFTから四週間が経った今日。

 ケイスケ達は店長がレンタルしてくれた車で、カラオの運転でオフ会に行く事になっていた。

 

 カラオはエンジンを掛けて、店長に片手を上げて挨拶をする。

 

 

「四人を任せたよ、カラオ君」

「了解よー、店長。ほんじゃ、安全運転で行きますかねぇ」

 いざ、オフ会へ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 それにしても、とタケシは思った。

 

 

「ヒメカちゃん、本当に付いてくるんだな」

「悪いですか? 大丈夫です、邪魔はしません。二日間、お姉ちゃんのお世話以外で何もする気ないですから。そこら辺に転がってるジャガイモだとでも思ってて下さい」

 タケシの言葉にそう答えるヒメカは、鞄から本を取り出して読み始める。

 

 このオフ会は一泊二日の予定で、姉の事が心配になったヒメカはこうして付いて来ると言って聞かなかったのだ。

 

 

「可愛いらしいジャガイモねぇ」

 カラオがそう漏らすと、バックミラーに鋭い眼光が映る。カラオは運転に集中する事にした。

 

 

 

「私の事なんて気にしないで良いのに。せっかくの休日なんだから、ヒメカはヒメカのしたい事をしてれば良いんだよ?」

「それじゃ、私お姉ちゃんと一緒にいたいな!」

 そう言われると心が痛い。

 

「大丈夫、どうせ家にいてもやってる事同じだし」

 そう言いながら彼女が読んでいるのは、なんと漫画でも小説でもなく医学書である。

 医者志望なので意外という訳ではないが、彼女は中学生だ。ユメカはどうしたものかと頭を抱えていた。

 

 

「ニャムさんは『任せて下さい! ジブンがユメちゃんの妹ちゃんも絶対に楽しませてみせるっすよ!』とか言ってたけどな……」

「あ、あはは……」

 タケシの妙に似てる物真似に苦笑いしか出来なかったケイスケだか、とりあえずの目的地が見えて来てそっちに視線を移す事にする。

 

 

 ニャムさんを信じよう、と若干投げやりでもあった。

 

 

 

「もうニャムさん付いてるのかな?」

 辿り着いたのは、都心部の空港である。そこでニャムを拾ってから目的地に行く予定だ。

 

 

「でもよ、俺達ニャムさんの素顔知らないんだよな。流石にGBNのあの格好ではないだろ?」

「確かに……」

「いやあの格好の人来たらおじさん逃げるけど」

 タケシの言う通り、彼等はニャムの本当の顔を見た事がない。普段仲良くしているユメカですら彼女の素顔を知らないので、探そうにも手がないのである。

 

 

「どんな人なんだろう?」

「実はネカマで男とか」

 ケイスケの疑問にタケシがそう答えると、ユメカは「ニャムさんがそんな嘘付く訳ないよ!」と頬を膨らませた。

 それを聞いて彼女達を騙していた張本人のカラオは後ろめたさに苦笑いを漏らすが、彼らの言う通りニャムの素顔は想像出来ない。

 

 

「おじさん的には、あのタイプの女性として典型的なのはグルグル眼鏡にチェック柄シャツインリュックサックスニーカーって感じだけど」

「おっさんそれ昔のオタクイメージそのままじゃん……」

「美人さんのイメージはないなぁ」

 頭に人差し指を当てながらそう言うカラオ。彼的には普段の話し方や態度を見るに、慎ましい女性というイメージは皆無である。

 

 

「綺麗な人かもしれないよ?」

「まぁ、会ってみれば分かるって事で」

 ユメカの「むむむ……」という唸り声にケイスケは落ち着くように手で諭して、待ち合わせ場所の辺りを見渡した。

 しかしというかやはり、顔を知らない相手を見付けるのは難しい。

 

 

「……連絡、取れば良いのでは?」

 そんな四人を見ていたヒメカは、自分の携帯を持ち上げてそう言う。

 四人が目を丸くして一斉に自分の携帯を取り出すと、同時に一見のメッセージがSNSのグループチャットに届いた。

 

 

 

『待ち合わせ場所の噴水前に居るっすか? 出来たら確認の為に皆で手を上げて欲しいっす』

 そんなメッセージを見て、五人は片手を上げる。気になって辺りを見渡すと、一人の女性がゆっくりと歩いて来た。

 

 

「あの、初めまして……なんて言うのは変ですね。ケイスケさんに、タケシさん、カラオさんに、ユメカちゃんとヒメカちゃんですよね? 私、キムラ・ナオコです」

 大きなアタッシュケースを引いて来たその女性は、長くて綺麗な黒い髪を抑えながら五人に話しかけて頭を下げる。

 薄着で身体の凹凸がハッキリとしていて、モデルさんなのかと思えるような───俗に言う美人なお姉さんがそこには居た。

 

 

「───あんた誰?」

 目を半開きにしてタケシはそう問い掛ける。頭のどこかでは分かっていたが、正直な所認めたくなかった。

 

 

「あはは、酷い事言わないでくださいよロック氏。私ですよ。……それとも、話し方が行けないでしょうか? えーと───ゴホン、ジブンっすよ! ニャムっす」

 清楚なイメージの話し方から一転、聴き慣れた声に聴き慣れた話し方を聞いてタケシはその場でひっくり返る。

 

 何を隠そう、彼女こそがニャム───キムラ・ナオコ本人なのだ。

 

 

 

 男三人はすっ転んで、ユメカはあまりの身体付きの違いに目を眩ませる。何が違うって、とても大きいのだ。凄く大きい。何がとは言わないが。

 

 しかも薄着なのでそれがよく分かる。

 

 

 

「おじさん、昔からニャムちゃんは絶対可愛いって思ってたのよね」

「おいさっきと言ってる事が違うぞおっさん」

 車を運転しながら妙に良い声を出すカラオにツッコミを入れるタケシ。

 

 六人は車に戻って、次の目的地に向かって出発していた。

 ちなみに席順は運転席にカラオ、助手席にタケシ。その後ろにケイスケとナオコ、ユメカとヒメカである。

 

 

 ケイスケは隣に綺麗なお姉さんが座っているので、どうも目のやり場に困り───それを見たユメカは顔を赤くするケイスケを見て頭を真っ白にしていた。

 

 

「お、お姉ちゃん……顔色悪いけど大丈夫!?」

「え、あ……うん。大丈夫。ケー君……やっぱり大きい方が───」

「お兄さん……」

「待て、俺は何も言ってない」

「どうかしました?」

 状況を分かっていないナオコはキョトンと首を横に傾け、大きなアタッシュケースをコンコンと叩く。

 すると、小さく「にぁ〜お」とネコの鳴き声のような声が車の中に響いた。

 

 

「は?」

 そんな声にタケシが振り向くと、ナオコは「もう少しで着くので辛抱して下さいね、ヤザンさん」とアタッシュケースに話し掛ける。

 

「そういえば」

 と、ユメカは思い出したように手を叩いた。

 

 

「ネコ、連れて来たんですよね?」

「はい。私、友達が居なくて面倒を見てもらえないので……」

 笑顔でなんて事を言うんだ、と思うケイスケ。車はそのネコを一旦預ける為に今日泊まるホテルに辿り着く。

 

 

 

 

「───なんて目付きの悪いネコなんだ」

「えー? 可愛いよ?」

 ナオコがチェックインの支度をしてある間、彼女の飼い猫であるヤザンの世話をしていたタケシはネコの顔を見てそう言った。

 彼の言う通り、ネコのヤザンは目付きが鋭く名前負けしていない。

 

「可愛いか?」

「可愛いよ。ね、ヒメカ」

「うん、可愛い」

 そんなヤザンの頭を撫でるヒメカ。普段よりもどこか表情が柔らかく見える彼女を見るに、どうやら本心で可愛いと思っているようである。

 

 

「……ヌコ」

「お待たせしました。さて、ヤザンさんはここでお留守番お願いしますね」

 戻ってきたナオコがヤザンを持ち上げると、ヒメカは「ヌコ……」と寂しそうに手を挙げた。

 それを見たナオコは彼女の頭を撫でて「今日のお泊まり会をお楽しみに」と笑顔を向ける。

 

 

 チェックインを済ませた六人は再び車に乗り、今日本来の目的地に向かい始めた。

 

 

 

「なんていうか、意外だな」

 席順同じに、タケシはバックミラーに映るナオコを見ながらそんな言葉を漏らす。

 

「どうかしました?」

「いや、俺はニャムさんがそんな美人さんなんて思ってなかったから。もっとこう……オタク丸出しかと」

「あ、あはは……褒めてもらってるのか貶されてるのか分からないです」

 苦笑いのナオコは内心傷付いていそうだが、さほど気にする事もなくこう続けた。

 

 

「私は兄以外で周りに同じ趣味の人が居なかったんです。だから、本来の自分(シブン)を隠して生きてきた……。GBNの中でなら変われたのだけど、それと同時にどちらが本当の自分(シブン)なのか分からなくなってしまったんですよね」

「ニャムさん……」

「勿論、どっちも私である事は分かってます。リアルだとこの話し方ばかりでちょっと口が慣れないのですが、出来るだけGBNのジブンとして接するようにするので……許して下さいっす」

「……あ、いや、なんか……ごめんなさい」

 流石のタケシも彼女のプライベートに触れてしまい反省したのか、その場で頭を下げる。

 ただやはり、彼女は気にしていないように「大丈夫っすよ、ロック氏」とはにかんでみせた。

 

 

「綺麗だ……結婚してくれないかな」

「おっさんは運転に集中しろ」

 そんなカラオが運転する車は、少しずつ目的地に近付いていく。

 

 

 車の中でナオコは自分の事を五人に話していた。

 自分が大学生で、自由な時間が多くて自堕落に暮らしている事。兄───セイヤからの仕送りで楽に暮らせているという事。

 

 普段はネコのヤザンと二人暮らしで、ヤザンは兄が誕生日に連れてきてくれたネコらしい。

 

 

 そんな会話をしていると、視界にとある物が映ってヒメカ以外の五人は目を輝かせた。

 

 

 

「「「「「ゆ、ユニコーーーン!!!」」」」」

 視界に映る大きな建物よりも大きな建築物。人型のロボット───実物大ユニコーンガンダム立像である。

 

 

「ユニコーン、あ……ユニコーン。え、ユニコーン? 大きい……凄い」

 ヒメカも、姉やケイスケと見たガンダムのアニメを思い出して口を大きく開けて固まった。

 

 アニメのロボットだと思っていた物が、目の前で実物大の大きさで存在している。

 そんな事に感動して、ヒメカも感動したのか目を光らせていた。

 

 

 

「よーし、到着よ」

 車を降りたカラオは背伸びをしながらユニコーンの立像を眺める。

 

 

 ここはダイバーシティ。

 今回ナオコがオフ会の場所に選んだ理由の一つが、このユニコーンの立像だった。

 

 

「やっぱ本物見ると凄いな……」

「ケー君、見て見てユニコーンだよ! デルタプラスとかもないのかな?」

 ケイスケより騒いでいるユメカは辺りを見渡しながらケイスケの腰を叩く。

 当のケイスケは圧巻されながらも「デルタプラスはないかな……。確かどこかにストライクはあるらしいけど」と漏らした。

 

「ストライクもあるの!?」

 騒ぎ立てるユメカの後ろで、ヒメカは「凄い……」と文字通り見上げる高さの立像を見上げる。

 そんなヒメカにナオコは「どうですか? 凄いでしょう」と笑顔で話しかけた。

 

 

 彼女がここを選んだのは、ヒメカがユニコーンガンダムを視聴したという事を知っていたからである。

 そこまで興味がないものでも、この立像は知らない人ですら感動する物なのだ。

 

 

 

「それじゃ、オフ会を楽しんじゃいましょう!」

 ナオコはそう言って片手を上げて歩いていく。立像のユニコーンガンダムは、そんな六人を迎え入れるように太陽の光を反射していた。




オフ会編開幕です!


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ダイバーシティ

 実の所彼女を連れて来るのはとても苦労した。

 

 

「イヤダーーー!」

「まだ言ってるんですの? もうここまで来たら引き返せませんわよ」

 車椅子の上で暴れるリン。そんな彼女に呆れながらも、どこか満足気か表情をするアンジェリカを見てサキヤは苦笑いを溢す。

 

 オフ会への誘い。

 彼のライバルであり良き友人であるタケシからの誘いで、フォースメフィストフェレスのメンバーはダイバーシティに向かっていた。

 

 

 トウドウの運転する高級車に六人。

 駄々をこねていたリンだったが、ユニコーンの立像が視界に入るや否や「おぉ……」と大人しくなる。

 それで肝が座ったのか、彼女もどこか楽しみそうな表情を見せていた。

 

 

「楽しみますわよー!」

「「「おー!」」」

 天気は晴れ。六人の視線は一点に伸びる。新しい場所へ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 片手を上げてブンブンと振るうユメカを見付け、サキヤは「あそこだな」と片手を上げた。

 

 

 ユニコーンの立像の近くで待ち合わせていたReBondのメンバーとヒメカ、そしてメフィストフェレスのメンバーが合流する。

 

 

 

「初めまして、私───じゃなかった……ジブン、ニャムっす。よろしくおねがいします」

「本当にこの人が?」

「俺も最初は疑ったけどな」

 ナオコの挨拶に目を丸くするサキヤ。タケシは一応フォローを入れるが、サキヤは二人を見比べて目を擦った。

 

 

「トウドウだ」

 そんなナオコに動じずに片手を伸ばすトウドウ。メフィストフェレスとの戦いを思い出し、ナオコは不敵に笑いながらその手を取る。

 

 

「俺の名前はロック・リバー。クールで格好良───」

「こっちがレフトだよ!」

「こっちがライトだー!」

「おい無視するな!」

「どっちか分からない……!」

「えーとライト君がレフト君を読んでレフト君がレフトで? アレ?」

「おい無視するな!?」

 そして全く同じ顔のレフトとライトに、ケイスケとユメカは目を回していた。当の二人はそれが面白いのかケタケタと笑っている。

 

 

「えーと、おじさんは初めましてだったかな? 一緒にベアッガイフェスでは遊んだっけか」

「えぇ、初めまして。私、フォースメフィストフェレスのアンジェリカと申しますわ」

「ノワールだ」

 メフィストフェレスの面々とそこまで面識のないカラオは頭を掻きながら控えめに挨拶をする。そんなカラオの後ろに隠れていたヒメカに気が付いたアンジェリカは、姿勢を低くして「こんにちは」と笑顔を向けた。

 

 

「あなたがヒメカちゃんですわね?」

「……え、あ、はい」

「お姉ちゃんと仲良しなんですってね。今日明日は私とも仲良くして欲しいですわ」

 包み込むような優しい笑顔に、ヒメカは安心したのか彼女が伸ばした手を自然に掴む。

 そんな光景を横目で見ていたユメカは安心したようにため息を吐いて、一人の女の子に視線を向けた。

 

 

 車椅子が二台。

 ユメカの他に、もう一人だけ車椅子に座ってるトウドウの後ろに隠れている人物がいる。

 

 ユメカは車椅子を自分で動かして彼女の横に付けた。

 

 

「……スズちゃん、だよね?」

「……ん」

 顔を合わせるとそっぽを向いてしまうリン。しかしユメカは気を悪くする事もなく、はにかんで「ユメだよ。よろしくね」と笑顔を向ける。

 

 手は伸ばさない。彼女にはその手を掴む手がない事を知っているから。

 それでも、気持ちは伝わるとユメカは思っていた。しかし───

 

 

「うわ!?」

 ───ユメカの前に突然、手が伸びてきた。

 

 手というよりはアーム。スズの車椅子から伸びてきた、機械の腕である。

 

 

「……ん」

 目を細めてユメカの目を見るリン。ユメカはハッとしてその手を握った。

 

 

「……よろしく」

「す、凄いねこの車椅子!」

 まるでサイコザクのサブアームのような機械の腕に興奮するユメカ。リンはやっぱり困惑して「GBNと変わらない……」と苦笑いする。

 

 ただ、こんな自分の姿を見ても変わらずに接してくれる事が彼女にとっては嬉しい事だった。

 

 

「さて、立ち話もなんですから。少し早めの昼食と行きましょう。私が予約しておいたお店があるので、そこで」

 またキャラを忘れているナオコに若干戸惑いつつも、合計十二人の少年少女と女性とおっさんが歩き出す。

 

 カラオは「あれ? おじさん凄く場違いじゃない?」と目を白くしながらもついて行くしかなかった。

 

 

 ヒメカがユメカの、アンジェリカがリンの車椅子を押しながら世間話をしている。夢はお医者さんだとか、姉が大好きだという事を上手く相手から話させるアンジェリカのコミュニティー能力は流石だ。

 どちらかといえば元気なお嬢様といった感じのアンジェリカとは対照的に、キャラ崩壊して清楚系お嬢様になったナオコを先頭に目的の場所に辿り着く。

 

 

「ガンダムカフェ……?」

 お店の看板を見て、ユメカとヒメカは首を横に傾けた。

 

 ダイバーシティの端っこ。

 人で賑わうお店には、入り口に下の身長くらいあるガンダムの模型等。グッズが沢山並ぶお店の奥ではお客さんが食事を取っている。

 

 

 

「ここがダイバーシティのガンダムカフェですわね!」

「普通にキャラカフェの一種として見て貰えば良いですよ。アニメに出て来た食事とか、グッズが置いてあって、ガンダム好きにはたまらないカフェなんです」

 目を輝かせるアンジェリカの横で、ナオコはユメカ達にそう説明をした。

 

 そのまま店員に「予約していたキムラです」と彼女が伝えると、総勢十二人を店員が奥に連れて行く。

 メニューは飲み物こそ豊富だが、昼食にするなら一択といった感じなので十二人全員がそれを頼む光景にはヒメカもユメカも困惑していた。

 

 

「お待たせいたしました、オードリーのホットドッグになります」

 飲み物が先に来て、次に全員が頼んだお祭り価格で割高のホットドッグがやってくる。そして、少し小太りしたコック姿の男が料理を持って来るなり、ナオコはそれを一口食べると───

 

「味が薄い!」

 ───何故かキレた。

 

「「ぇ」」

 困惑するユメカとヒメカ。しかし、続いてアンジェリカやタケシ達まで「薄いな」等言い始める。

 

 

「すみません……実は、塩が足らんのです」

 謝る店員。皆の反応の意図が分からず慌てるユメカ達だったが、その店員の謝罪の言葉で空気が一転。

 さっきまで怒っていたナオコやアンジェリカ達は笑顔で店員に拍手をし始めた。若干訳が分からない。

 

 

「ガンダムだと鉄板のネタなんですわよ。他にも「ニンジン要らないよ」とか、ご飯ネタは沢山ありますわ」

「ネタで済ませてちゃんとニンジンを食べて頂けると助かるんですがね」

「うぐ……」

 アンジェリカの説明に、ユメカ達は「なるほど……」と目下のホットドッグに視線を落とした。

 

 確かに、二人とケイスケの三人で見たガンダムUCにはオードリーという登場人物がホットドッグを食べるシーンがある。

 

 

「……美味しい」

 そんなシーンを思い出しながら食べる食事もまた、ガンダムカフェの魅力なのだ。

 

 

 

 一行は食事を終えてカフェ内のお土産を見て回ると、今度は建物の中に歩いて行く。

 

 一般のお店も混じる巨大なデパートといった感じの建物の中は、ガンダム一色で右を見ても左を見てもガンダムが視界に入った。

 

 

「すっごいねぇ」

「皆ガンダム……好きなの?」

「ここに居る人達はまぁ、好きなんだと思いますわよ」

 驚くユメカのと首を傾げるヒメカに、アンジェリカはそう言って辺りを見渡すように手を向ける。

 

 至る所にガンダムの看板やポスター、キャラクターの等身大パネル。記念撮影をする旅行客が視界に入らない事がない。

 

 

「……嫌いな人は、ここには来ない」

 一人ボソリとリンがそう言った。ご飯の時ですらあまり話さなかった彼女だが、やっと開いた口にユメカは目を輝かせる。

 

「スズちゃんもやっぱり好きなの? ガンダム」

「ん……」

 コクリと頷くリン。口を開いたは良いが、やっぱり人と話すのは苦手だ。

 

 

 時折向けられる視線が怖い。

 

 

 彼女の眩しい瞳が怖い。

 

 

 だけど、変わると決めたから───

 

 

「……ユメ、は?」

 友達の名前を呼ぶように、視線を逸らしながらも口を開く。そんな彼女を見てアンジェリカは少し驚いていたが、心底嬉しそうに笑っていた。

 

 

「私も、ガンダム好きだよ。まだ知らない事沢山あるけど、ガンダムが好きな人達の事も、ガンダムが好きな自分も、全部好き」

「……そっか」

 満足いく回答に笑顔を見せるリン。それを見てユメカも笑って、嬉しそうにするユメカを見てヒメカも喜ぶ。

 

 

 オフ会を提案して良かった。

 そんな光景を見ながら満足するナオコだったが、まだオフ会は始まったばかりである。十二人は特に買い物をする訳ではなく、建物の最上階まで歩いた。

 

 

 

「ようこそ、ガンダムベースへ!」

 右を見ても左を見てもガンプラ。

 

 そこはガンプラ好きの夢の聖地、数多のガンプラが揃いに揃い、著名なガンプラ作品が展示され、ガンプラ好きがガンプラを全力で楽しめる場所。

 

 

「お、おぉ……」

 これにはユメカ達だけでなく、ケイスケ達も圧巻の一言で口を開けて固まっている。

 初めて発売されたガンプラから、最新のガンプラ、ガンダムベース限定の物まで、目移りしてしまう規模にユメカとヒメカは目を回していた。

 

 

「やべぇ! すげぇ! これ、あのシャフリヤールの作品!? マジ!?」

 語彙力を無くしたタケシの後ろで、カラオも「おぉ、これがねぇ」と感心した表情を見せる。

 

 何も言っていないのにそれぞれ関心のあるスペースに向かう様を見て、ナオコは満足気だった。

 

 

「わ、私のガンプラの方が凄いですわよ」

「……うん。アンジェの方が凄い」

「アンジェリカさんのガンプラも飾ってあるんですか?」

「え!? あ、私のは……私のはパリの美術館に飾ってありますわ!! こんな凄い場所───じゃなかった、こんな小さな場所に飾れる作品じゃないのですわよ」

「……負け惜しみ?」

「ふぐぅぅぅ!!!」

 アンジェリカとスズ、ユメカとヒメカが話している中で、ナオコは「ここに展示してあるガンプラは有名とか優秀とかそういうのではなく、単にガンプラを楽しんでもらう為のものなんですよ」とフォローを入れる。

 

 彼女の言葉を聞いて、ヒメカは「楽しむ為……?」と首を傾げた。

 

 

 他の男性陣がはしゃいでいる姿を見ても、彼女には何が楽しいのか分からないのである。

 

 

「……ごほん。まぁ、つまり、ですわ。……ここに来たのは作ってあるガンプラを見る為じゃないって事ですわよね?」

「その通りです。そろそろアナウンスがあると思うので、ちょっと待ってて下さいね」

 ナオコがそう言ってから数分、興奮止まない男性陣を他所に本を読んでいたヒメカの耳に知らない男の声が響いた。

 

 

「……あー、テステス。マイクは大丈夫そうだね」

「ありがとう、コーイチさん。それじゃ、後はナナミさんに任せて俺達も楽しもう!」

 お店のエプロンを着た眼鏡の男性と、自分達より少しだけ歳下に見える男の子がレジの辺りで話している。

 眼鏡の男性はマイクを持っていて、それを同じくエプロン姿の女性店員に渡した所だった。

 

 

「あれって……」

 その姿を見てケイスケは視線を真っ直ぐに向ける。

 

 

「ケー君?」

 そんなケイスケの視線に釣られ、彼女の視界に入ったのはガンプラと同じくらいのサイズの女の子だった。

 模型なのか人形なのか、そんな姿をしているのにその女の子は自分で動いて、話をしているようにも見える。

 

 

 

「サラ、もう始まるよ」

 その女の子に、一人の少年が声を掛けた。

 

 

 

「えー、こほん! お集まりの皆さん! 本日はガンプラを作って遊ぼうのイベントにして頂きありがとうございまーす!」

 短い茶髪の女性が活気のある声でそう言うと、ケイスケ達以外もレジの辺りに視線を向け始める。

 

 今日はこのガンダムベースでとあるイベントが開催されるのだ。ナオコはそれが丁度良いと、オフ会の場所をここに選んだのである。

 

 

「イベントの内容は簡単! がんぷらを自分で作って、GBNで遊ぶだけ! そしてー、今回はスペシャルゲストとしてー!」

 彼女の傍には五人と一人。さっきの小さな人形のような女の子合わせて六人がいて、女性はそんな六人に手を向けてこう続けた。

 

 

「───ビルドダイバーズのメンバーが皆のガンプラ作りをサポートしちゃいまーす!」

「ビルド……ダイバーズ」

 紹介される六人を見て、ケイスケだけでなく沢山の客達が驚いたり喜んだりしている。

 

 

 

 

 フォースビルドダイバーズ。

 

 第二次有志連合戦、ELダイバーを巡る戦いの中心にいたダイバー達だった。




一時間半程添削せずに作品が公開されていました。謝罪いたします。
今年のこの作品の更新はここまで!次回はいつも通り一週間後、来年の一月二日更新になります。

それでは皆様、良いお年を!


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ガンダムベース

 憧れとは少し違ったかもしれない。

 

 

 GBNに興味を持ったキッカケ。

 彼等の事は聞きたくなくても耳に届いてくる。次第にケイスケも彼等の事が気になっていた。

 

 だからこれは憧れじゃなくて───

 

 

「───ビルドダイバーズのメンバーが皆のガンプラ作りをサポートしちゃいまーす!」

「ビルド……ダイバーズ」

 ───闘争心。彼等と戦いたい。

 

 

 一人のガンプラビルダーとして。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 イベントの内容は至って簡単である。

 ただガンプラを作って、自分が作ったガンプラでGBNを遊ぶだけ。

 

 

 ただ今回はそのGBNで遊ぶ時のルールが特別なようだが、何が特別なのかは参加者にはまだ知らされていないようだ。

 もう一つはゲストとしてフォースビルドダイバーズの面々がガンプラ作りをサポートしてくれるらしい。

 イベントにはヒメカのようにガンプラ作りの初心者も多いようで、そんな初心者にとっては嬉しいサポートだろう。

 

 

「作るガンプラは決まりましたか?」

「私はデルタプラス! ずっと作ってみたいと思ってたんだよね」

 ヒメカと一緒にイベントで作るガンプラを選んでいるユメカに話しかけるナオコ。ユメカの手にはガンダムUCに登場する可変機、デルタプラスのガンプラが置かれていた。

 

「……私は、ピーマン」

「クシャトリヤとはお目が高い」

 ヒメカが持っている機体に目を丸くするナオコ。人気な機体ではあるが、女の子が手に取る物としては珍しい気がする。

 

 

「ヒメカちゃん、ユニコーンは観たんですもんね。良いですよねクシャトリヤ」

「……ピーマン」

 若干オタクモードの入っているナオコに引きながらも、ヒメカはかろうじて返事をした。返事になっていないが、コミュニケーションが苦手な彼女にしては言葉が出て来ただけでもマシである。

 

 

「ヒメカちゃんが怖がってますわよ」

「……作るガンプラ、決まった?」

 そんな三人の元にアンジェリカとリンがガンプラを手に現れた。

 リンは車椅子にシナンジュのガンプラを乗せている訳だが、そこでふとユメカは疑問に思う。

 

 

「スズちゃん……ガンプラ作るの?」

 彼女には腕も足もない。しかしイベントには参加するらしく、アンジェリカはアンジェリカで別のガンプラを持っていた。

 

 

「……舐めるな」

 しかし、心配は無用だったようである。彼女は車椅子から伸びるアームでニッパーとヤスリを持って彼女に見せ付けた。

 

「やっぱりその車椅子凄い……」

 どうやら抜け目はないようである。

 

 

 各々が作るガンプラを決めると、広い作業場でガンプラ作りがスタートした。

 

 

 ユメカ達が並んでガンプラ作りをしているのを眺めながら、タケシは隣に座っているケイスケに横目でこう語り掛ける。

 

「ユメカのところ行かなくて良かったのか?」

「せっかく仲良くなって一緒に話してるんだから、邪魔しちゃ悪いしな」

 彼がそう言ったところで、噂のユメカは二人の視線に気が付いたのか手を振っていた。

 その手に自分も手を振って返すと、ケイスケは「ヒメカちゃんもなんか楽しそうだし」と笑う。

 

 

 そんなケイスケは話しながらも、自分の手にしたガンプラを黙々と作り始めていた。

 黙々とだが真剣に、ガンプラに向き合ってパーツを一つずつ組んでいく。

 

 そんな彼の視線に、ふと不思議な光景が映った。

 

 

「───このガンプラ、すっごく優しい気持ちを感じる」

 頭から作って足まで完成し、後は武器とバックパックといった所でガンプラを立たせて置いたケイスケの視界に入る小さな女の子。

 

 小さな女の子と言ってもヒメカのような小さなという事ではない。物理的に、それはもうガンプラと同じサイズくらいの女の子である。

 

 

「え? 何それ。ケイスケ、そんな趣味あった?」

 それを横で見たタケシは、少女が首を横に傾けるのを見て目を丸くして固まった。

 

「ぷ、プラモが動いた……」

「いや、違うぞタケシ。この子───」

「サラ」

 説明しようとしたケイスケの言葉を遮る声。

 

 二人の後ろに少年が一人。そんな少年の姿を見て、ガンプラサイズの少女───サラは、ニッコリと笑い少年に手を伸ばす。

 

 

「リク、このガンプラも楽しそう」

「本当だ、綺麗に作ってある。すみません、少し見せてもらっても良いですか?」

 少女にリクと呼ばれた少年は、ケイスケが「ど、どうぞ」と答えると嬉しそうに身体だけ完成したケイスケのガンプラを持ち上げた。

 

 左右上下様々な所から自分のガンプラを観察されるのは、どこか恥ずかしい。

 

 

「丁寧にやすりがけしてある……。何か、コツとかあるんですか?」

「え? あー、面倒くさがらない事……かな」

 リクの質問にそう返したケイスケは、彼の手からガンプラを返してもらうと自分でも眺めながらこう続ける。

 

「俺は作る工程も好きだから、丁寧っていうか……ただ粘着質になってるだけなのかもしれないけど」

 自虐的に笑ってガンプラを立たせると、サラとリクはお互いに顔を見合わせて何故か笑った。

 その意図が分からなくて、ケイスケは首を傾げる。そもそも彼等は───

 

 

「あんたら、もしかしてビルドダイバーズか?」

 思考の横から、タケシのそんな声が聞こえてきた。彼の質問にリクは「そうですよ」と答える。

 

 

「俺はリク。こっちはサラで……俺の大切な仲間です」

 リクが紹介すると、サラは文字通り小さな手を振って笑顔を見せた。

 

 

 彼女こそ、世を騒がせたELダイバーなのである。

 

 

「ケイスケだ。こっちは───」

「ロックリバー、クールで格好良───」

「タケシです」

「ロック!!」

 いつものやり取りをしながら自己紹介をすると、サラは楽しそうに笑みを溢していた。

 そんなサラを見て嬉しそうにするリクは彼女に「俺は向こうを見てくるから」と言ってケイスケの目を真っ直ぐに見る。

 

 

「戦えるの、楽しみにしてます」

 純粋で真っ直ぐな眼だと思った。返事を忘れていて、ケイスケは「俺もだ……」と小さく呟く。

 

 

「二人はガンプラの事……好き?」

 少し驚きはしたが、彼女と話しながらガンプラを作るのも面白いかもしれない。ケイスケとタケシは目を見合わせて二人で答えた。勿論、と。

 

 

 

 

「それ、SDですよね?」

 端っこの方で楽しそうにしている皆を眺めながらゆっくりガンプラ作りを楽しんでいたカラオの前に、サイドテールの少女が話しかけて来る。

 

 ふと視線を上げたカラオの目に映ったのは、目を光らせて彼の手元に寄ってくる少女の姿だった。

 

 

「ひぇ!? お、おぅ……そうよ。SDは作るの楽かもしれんけど、その分愛情込めて作れるし。こういうイベントならコレかなって思ったのよね」

「ザクIII……素敵です」

「お、分かる? おじさんコレ好きなのよね」

 どうやらSD好きの少女と話が合いそうなカラオは、会場の端でSDトークで盛り上がっている。

 

 

 その他にも色々な人が、知らない人と自らのガンダム愛を語り合っているようだ。その為のイベントでもあるし、主催者側もここに皆を連れてきたナオコも満足気である。

 

 

 ふと、そんな会場に遅れて二人の客がやって来た。

 客は男女の二人組で、男性は頭に怪我をしているのか包帯を巻いている。

 

 

「いやぁ、遅刻しちゃったよ。大丈夫? まだ参加できるかな?」

 男性の方が受付をしている女性に話しかけると、女性は「大丈夫ですよー」と笑顔で答えた。

 

 二人はガンプラを持って来ると、丁度ケイスケ達が談笑している隣に座る。

 

 

 

「ラゴゥ……と、ブルーディスティニーか」

 覗き込んだタケシがそういうと、サラと話していたケイスケも隣に座った二人に視線を向けた。

 

 頭に包帯を巻いている男性はサングラス姿にアロハシャツと、何処かで見た事のある姿をしている。

 そしてその手元で作られていくガンプラと、頭の中で何かが重なった。

 

 

「……アンディさん?」

 無意識にそんな言葉が漏れる。

 

 

 NFT決勝戦で撃破された瞬間、GBNからログアウトしてダイバーギアが爆発するという事件に巻き込まれた男の名前だ。

 

 

「……君? もしかして───」

 男はケイスケの声を聞き、サングラスをズラして彼の顔を覗き込む。

 

 

「───ケイスケ君か! こんな所で出会うなんてな!」

 そして男はやや興奮気味にケイスケの肩を抱いてそう口にした。彼こそケイスケが口にしたアンディ本人なのだろう。

 

 

「え? マジ?」

「なんですってぇぇえええ!!」

 驚くタケシよりも大きな声で飛び込んでくるアンジェリカ。サラは何が起きたのか分からず首を傾げていた。

 

 

「あ、あなた! 砂漠の(いぬ)の!!」

(けん)だ。……アンドウ・ハルトという。よろしく」

 誰に向けるでもなくそう自己紹介をするハルト。その後ろで、女性は「アイジョウ・シヤよ」と短く挨拶をする。

 

 

「怪我は……。あ、ケイスケです! サイトウ・ケイスケ」

「アンジェリカですわ。あなた、大怪我したって聞きましたわよ?」

「あー、そうだねぇ。本当、参っちゃったよ。この通り、やっと退院出来たって感じだからねぇ。……リハビリも兼ねて、遊びに来たって訳さ」

 頭の包帯を指差しながらそう語るハルト。

 

 

 彼は「今日はこの後バトルだろう? まさか君達がいるなんて思ってなかった。ビルドダイバーズもろとも、戦うのを楽しみにしてるよ」と目を光らせた。

 

 

「ギッタンギタンにしてやりますわ!」

「……アンディさんと、また戦えるのか。よし」

「さーて、面白くなって来たねぇ」

 火花を散らす三人をみて、サラはタケシと視線を合わせてこう口を開く。

 

 

「三人は、ライバル?」

「……まぁ、確かにそうなのかもな」

 これはまた面白い事になりそうだ、タケシもまたそう思うのであった。その気持ちはきっと、サラや他のメンバーにも届いている。

 

 

 

「……可愛いな」

「……うん、可愛い」

「カプル……だったっけ? こんなに可愛く作れるんだね」

 一方でアンジェリカが抜けて三人になったリンとヒメカとユメカのところには、一人の少女が現れてガンプラの見せ合いっこが始まっていた。

 

「うん! とはいっても、これはコーイチさんにほとんど手伝ってもらったんだけどね。……あ、私モモカ! そしてこっちはモモカプル!」

「……リン」

「ユメカです。この子は私の妹のヒメカ」

 モモカと名乗った少女にユメカが自己紹介をすると、リンは「モモカプル……。ユメカプル……。ヒメカプル……」と小さく呟く。

 

 それがツボに入ったのか、ヒメカは少しだけ目を輝かせてモモカのモモカプルを見つめていた。

 

 

「それじゃ、リンちゃんはリンカプルだね!」

 意図を汲み取れていないのか、そう語るモモカにリンは「えぇ……」と目を丸くする。

 

 ただ、そんな何気ない女子同士の会話も───彼女にとっては新鮮で楽しかった。

 

 

 

 

 そして、全員のガンプラが完成したのを確認すると───イベント主催の女性は全員をGBNのログインマシンがある部屋に案内する。

 

 

 

「ルールは至って簡単! コンピューターでランダムに選ばれた二人チームによる生き残りを掛けたチームバトルロイヤル戦!! 優勝したチームには、景品としてガンプラを一つプレゼント!!」

 女性の言葉に盛り上がる会場。誰が仲間になるのか分からないのも面白いが、普段自分が使っているガンプラではないという事も面白い。

 

 

 参加者全員がGBNにログインしていく中で、ケイスケとユメカの視線が合った。

 

 

「……ユメカ」

「ケー君?」

「もし敵になっても、手加減しないからな」

 欲を言うなら、いつものように彼女に隣にいて欲しい。彼女にいつものように背中を任せたい。

 

 だけど、彼女と戦ってみたい気持ちも確かに合ったのだろう。ずっとこの時を待っていたのかもしれない。

 

 

「……私も!」

 お互いに拳を向けて、背中を向けた。

 

 

 

「───それでは、ガンダムファイトぉぉ! レディィィ、ゴォォ!!」

 ガンダムベース特別マッチ2onバトルロイヤル、開幕。




あけましておめでとうございます!
本編は遂にビルドダイバーズが本格登場。バトル編もお楽しみに!

それでは読了ありがとうございました!


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2onバトルロイヤル

 ガンダムベース特別マッチ2onバトルロイヤル。

 ルールは簡単。ランダムで選ばれた二人チームによるバトルロイヤルだ。

 

 参加者からランダムにチーム分けをして、GBNの広大なフィールドで最後のチームになるまで戦う。

 一人でも残っていればチームの勝利。今日初めて組むチームであろうと、戦略とチームワークが試される戦いだ。

 

 

「えーと、あなたは……」

「俺はリク。ユメさん……で、良いですか? 頑張りましょう!」

「敬語なんてなしで良いよ! うん、頑張ろう!」

「分かった。行こう、ユメさん!」

 参加メンバーは30人。15チームのバトルロイヤル。

 

 

「君となんて、ビックリだな」

「嫌、だった?」

「まさか。君と一緒に戦えるなんて嬉しいよ、サラ」

「うん、私も。ケイのガンプラも、そう思ってる」

 様々な即席チームがバトルの前の緊張感を楽しんでいる。

 

 

 そしてカウントダウンが始まり、全員が操縦桿を握って前を見た。

 

 

 

 BATTLE START

 

 

 今さっき自分が作ったガンプラが動き出す。それこそ、ガンプラバトルの醍醐味だ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 山岳地帯から森林地帯、港湾基地を含む巨大なフィールド。今回は特別仕様であり、地上ながらファンネル系統の武装を使う事が可能になっている。

 そこにランダムに配置された15チームは、各々の作戦を確認しながら進んでいた。

 

 

 ルールはバトルロイヤル。

 最後まで生き残った者が勝者のため、接敵を控えるチームが多い。

 

 そんな中で大袈裟に動き、目を引くチームが一つ。

 

 

「隠れるなんてノーセンス! 炙り出される結果は状況不利! 先手必勝とはこの事っすよ!!」

「チームの巡り合わせ的にも恵まれてるし、いける……!」

 陸を走る巨大な戦車。モビルタンク───ヒルドルブを駆るのは、GBNにログインしてすっかりいつもの調子になったフォースReBondのニャム。

 彼女のヒルドルブの上空から追従するのは、これまた巨大なMA───メッサーラだ。操縦するのはフォースビルドダイバーズのユッキーというダイバーである。

 

 

「ハッハッハーーー! まずは焼夷榴弾でビビらせる! パンツァーフォー!!」

 ヒルドルブは地上から、メッサーラは空中から砲撃とミサイルを密林地帯でばら撒き始めた。

 無作為の攻撃だが、隠れている機体からすればひとたまりもない。偶然のうちに二チームが全滅。一チームはメンバーの一人を失う。

 

 

 

「ありゃどっかで止めておきたいねぇ……」

「ユッキーは侮れない。……戦車は?」

「あの子は素組使いだから、本領発揮って感じよ」

 一方でその光景を木々の間に隠れて眺めていたのは二機のSDガンプラを使う二人だった。

 

 バンシィノルンを駆るのはフォースビルドダイバーズのアヤメ、ザクIII改を駆るのはフォースReBondのカルミアである。

 

 

 SDガンダム特有のデフォルメされた三頭身は機体も小さく隠れるのには適しているが、このままでは炙り出されるのも時間の問題だ。

 先手必勝とは本来この事だと、二人は陸と空から攻撃をし続けている二機に接近する。

 

 

 

「───レーダーに索敵! ユッキー氏、背面五時の方向っす!」

「この反応……SD!?」

 接近してくる二機に気が付き、敵の位置を確認する二人。カルミアはスラスターを一気に吹かせ、空中のメッサーラの背後を取った。

 

 

「デカブツが! 貰ったぁ!!」

「このメッサーラはそこまで甘くないよ!」

 飛行中に機体をひっくり返しながら変形させるユッキー。可変試作MAのメッサーラの力を余す事なく発揮した彼は、一瞬で状況不利を覆して見せる。

 

「おっとぉ!?」

「いっけぇ!」

 背部のメガ粒子砲をカルミアの機体に向けるユッキーのメッサーラ。放たれるメガ粒子砲はしかし、ザクIII改が急接近してきた事により斜角から外れてしまった。

 

「接近してきた!?」

「懐に潜り込めばこっちのもんよ!」

 ビームサーベルを抜くカルミア。しかしユッキーもやられる気はないようで、再び変形してキャラを取ろうとスラスターを吹かせる。

 SDの小さな機体は、木星の重力下で運用されていたメッサーラの強力なスラスター噴射に逆らう事が出来ずに浮かされた。

 

 

「ふへへ、カルミア氏。迂闊でしたっすねぇ……」

 そんなカルミアを地上から見上げるニャム。彼女のヒルドルブは、その砲身を持ち上げて体勢を崩したザクIII改に標準を向ける。

 

「APFSDS装填、一撃で仕留めてやるっす───」

「───そうはさせない……!」

 そんなニャムのヒルドルブの前に、アヤメのバンシィノルンが立ち塞がった。

 ビームマグナムを砲身に向けるアヤメだが、ニャムは不敵に笑って「待ってたっすよ……!」とキャタピラを左右逆に回転させる。

 

 

 そうしながら、戦車だった機体は上半身を稼働させてモビルタンクの全貌を明らかにした。

 片手に105mmザクマシンガンを装備し、下半身は戦車のまま上半身はモビルスーツという異様な姿を見せるヒルドルブ。

 

 機体を反転させ、ニャムは砲身を振り回してアヤメのバンシィノルンに叩き付ける。

 小さな機体は砲身に吹き飛ばされて木々を薙ぎ倒しながら地面を転がる───ように見えた。

 

 

 

「ん……ま、丸太ぁ!?」

 地面に転がっていたのは、巨大な丸太。確かにバンシィノルンを砲身で殴り付けたと思っていただけに、彼女は次の反応が遅れてしまう。

 

 

「アヤメ流忍法、変位抜刀───」

 ヒルドルブの正面で、アヤメのバンシィノルンが分散して現れた。つまり、先程ニャムが攻撃したのは身代わり。

 

 

「なんですとぉ!?」

「───アヤメ斬り!」

 バンシィノルンのビームサーベルがヒルドルブの量腕を刻む。そうして最後にコックピットにサーベルを突き刺そうとしたアヤメだが、ニャムも黙ってやられるだけではない。

 

「なんのこれしき!!」

 展開した肩部ショベルアームでバンシィノルンを捕まえて地面に叩き付けるヒルドルブ。思わぬ奥の手にアヤメも驚いて反撃が間に合わなかった。

 

 

「一発あれば充分っすよ!」

 満身創痍ながらも砲身を地面に向け、ニャムは不敵に笑う。思わぬ反撃を貰ったが、これで勝ちだ。

 

 

 

「その小ささは長所であると同時に短所でもあるよ!」

「んな事分かってるのよね!!」

 一方で上空のメッサーラとザクIII改は互角の戦いを続けている。しかし、どちらかといえばユッキーのメッサーラが出力の差で押しているようにも見えた。

 

 ビームサーベル同士の鍔迫り合い。SDサイズの出力に加え、MAであるメッサーラの出力にカルミアは「……やべ」と冷や汗を流す。

 

 

 そんな光景を見ながら、アヤメは「御免!!」と叫びバンシィノルンのNTーDを発動させた。

 

 

 

 NTーD。

 ニュータイプデストロイヤー。ユニコーンタイプに搭載された、ニュータイプを見付け殲滅するシステムである。

 しかし、時にシステムは人の思う以上の力を見せる事があった。本人の意思でその力を使えるのなら、パイロットは感応波を敵意に変換するだけの処理装置ではなくなる。

 

 

「な、出力が!?」

「おじさん!」

「ん? 何よアヤメちゃ───うぇぇえええ!!!」

 NTーDの発動により出力の上がったバンシィノルンは、自身を押さえ込んでいたショベルアームを持ち上げて砲身を掴んだ。

 

「SDのくせにぃ!!」

 ニャムが引き金を引いた瞬間。

 アヤメは掴んだ砲身をSD特有の瞬発力で蹴り飛ばし、砲身を空中で戦ってる二人に向ける。

 

 

 発射された砲弾は、ユッキーのメッサーラごとカルミアのザクIII改を吹き飛ばした。爆炎と共に鉄屑が空から降ってくる。

 

 

「う、うわぁぁぁ!?」

「おじさんの出番短くなーーーい!?」

 ユッキー、カルミア、撃沈。

 

 

 

「……あははぁ、ここは一つ休戦という訳にはいきませんっすかね?」

「私は、おじさんの犠牲を無駄にしない……!」

「いや一緒に葬ったの貴女ですよ──ー!」

 ニャム、撃沈。

 

 

 

「……これも戦い」

 一人黄昏れるアヤメ。孤高の忍者の周りには、もはや立っている者は居なかった。

 

 

 

「ん?」

 しかし、突然アラートが鳴り、アヤメのバンシィノルンは爆散する。

 

「え?」

 アヤメ、撃沈。

 

 

 この場には何も居ない。

 アヤメの機体を貫いたのは、長射程から放たれたビームだった。

 

 

 

 

 

 

 山岳地帯で、次々に狙撃を決めるMSが一機。

 

 

 

「誰ですの! スズにスナイパーライフルなんて持たせたの! スズの機体はシナンジュだった筈ですわよ!」

「……あの子、凄く上手なんですね」

「上手というか……匠ですわ。いいですの、絶対に顔を出したらいけませんわよ! ヒメカちゃん」

 山岳の壁に隠れ、山の天辺から狙撃をするMSに愚痴を漏らすアンジェリカ。

 彼女のチームになったヒメカは何が何だか分からずに首を傾げている。

 

 

 

 

「ハッハッハーーー! 近付く奴は全員灰にしてやるぜぇ!!」

 その山岳地帯に、スナイパーをなんとかしようと接近してくる敵を次々と排除しているのは───ロックのケルディムガンダムだった。

 

 本来スナイパーである筈のケルディムだが、彼の機体が持っているのはシナンジュの装備である筈のビームサーベルとビームアックスである。

 

 

「……私の狙撃からは逃げられない」

 山頂には逆に、ケルディムの武器であるGNスナイパーライフルを構えたシナンジュが陣取っていた。

 

 

 既にこのチームだけに3チームが壊滅させられている。

 上手く陣取っているので残すと厄介だからか、多くのチームが彼等を排除しようとしていたが───結果は見ての通りであった。

 

 

 

「あのチームをなんとかしないと、最後に辛くなると思うんだけど」

「スズちゃんもタケシ君も強敵だけど、そうだよね……。今やらなくちゃ!」

 そんな山岳地帯に接近するチームが一つ。

 

 ユメのデルタプラス、そしてリクの機体は───

 

 

「リク君の打撃力と私の機動力。二つを合わせればいけると思う!」

「そうだね、俺のユニコーンガンダムなら……!」

 ───ユニコーンガンダム。

 

 

 

 

「サラ、アレを攻略したいんだけど……いけるか?」

「うん。私も、この()()()()()も大丈夫」

 一方、ユメ達とは反対側からケイとサラも山岳地帯を目指していた。

 

 サラの機体はエクセリア。ガンダムEXAに登場するヒロイン、セシアの駆る機体である。

 

 

「このエクストリームガンダムなら、あの二人を攻略出来るかもしれない」

 そしてケイの機体はエクストリームガンダムtypeーレオスII VS(ヴァリアントサーフェイス)だ。

 この機体もガンダムEXAに登場する主人公、レオスの駆る機体である。

 

 

 

 既に7チームが脱落したバトルロイヤル。残り8チームとなり、戦況は加速していった。




そんな訳で始まりました。かなりペース早いですが。
乗せる機体は割と小ネタで決めたりしてます。ニャムさんは私の中の脳内声優が中上○実さんなので「パンツァーフォー」って言わせたかっただけ()

読了ありがとうございました!


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狙撃手と狙撃手

 二つの拳が襲い掛かる。

 

 

「いくら姉さんといえど!」

「狙撃出来なければ怖くないよ!」

 可変MSディキトゥス。左右非対称でモノクロの、異様な姿をしたこの機体はクロスボーンガンダム鋼鉄の7人に登場する機体だ。

 

 まるで左腕と右腕のように左右反転のディキトゥスを駆るのはフォースメフィストフェレスの双子、レフトとライトである。

 

 

「……生意気な」

 対するは同じくフォースメフィストフェレスの狙撃者スズのシナンジュ。そしてその相方は───

 

 

「んなろぉ! ちょこまかと動きやがって! 狙い撃てないだろ!!」

 ロックの操るケルディムガンダムだ。

 

 

「下手くそ……」

「誰が下手くそだぁ!」

「アレの狙撃は怖くない! 一気に叩き負けるよ、レフト!」

「姉さんの接近戦も甘い! ここで潰しておくよ、ライト!」

 足跡チームでチームワークもないスズとロック、それに比べてランダムチームなのに組むことになった双子はチームワークも抜群である。

 

 

 一気にシナンジュを追い詰める二人。

 スズは眉間に皺を寄せ、一向に攻撃の当たらないケルディムに向かって体当たりした。

 

 

「仲間割れかぁ!?」

「違う……そいつを貸せ。お前はコレでも使ってろ……」

 言いながら、スズはロックのケルディムからGNスナイパーライフルを奪い取る。

 そして自分のビームサーベルとビールアックスを放り投げると、ライフルを構えて引き金を引いた。

 

 

 ビームは正確にディキトゥスを貫く───事はなく、掌側に発生されたIフィールドに阻まれる。

 

 

 

「げ、姉さんがライフル使いだした」

「でも、僕らの機体には効かないよ」

 ディキトゥスの強力なIフィールドは機体正面にしか発生しないのが弱点だが、機動力は並大抵のMSを凌駕しており、赤い彗星の再来の機体といえど背後を取るのは難しい。

 

 さらに強力な接近戦用の武器により、近付く事も悪手だ。

 そんな事は分かりきっているロックだが、接近武器を渡されて彼は不敵に笑う。

 

 

「───しょうがねーな、やってやるよ。ただし、テメェも俺からスナイパーライフル取ったんだから当てろよな!!」

「こっちの台詞」

 二人は背中合わせでお互いの機体を蹴るように二手に分かれると、レフトとライトも示し合わせたかのように別れる。

 

 

 スズに背中は向けられない。

 だが、正面を向いていれば彼女には勝ち目はない筈だ。

 

 だから、一人が抑えれば負ける訳がない。

 

 

 

「ケルディムでこのディキトゥスに格闘戦をするつもりかな!」

「機体なんざ関係あるかよ!!」

 拳のようなMA形態から、二つの頭を持つMS形態に変形したレフトのディキトゥスがビームクローを展開しケルディムを襲う。

 シナンジュから譲り受けたビームアックスでそれを受け止めるケルディムだが、ディキトゥスの出力が圧倒的で押し込まれる一方だ。

 

 レフトの言う通り、ケルディムはそもそも格闘戦をする為に設計されていない。

 いくらシナンジュの強力なビームアックスといえど、機体のスペックが追い付いていないのである。

 

 

 押し込むビームクロー。

 しかしロックは不敵に笑った。

 

 

「ピンチはチャンスってぁ!!」

 ついに姿勢を崩したケルディムだが、ディキトゥスを足元から蹴り上げて浮かせる。

 

 追撃でビームアックスを薙ぎ払うが、ビームクローに阻まれた。しかし彼は止まらない。

 ビームアックスを片手に左手でビームサーベルを持ち展開。振り回し、ディキトゥスのビームクローを根本から切り飛ばす。

 

 

「ケルディムで二刀流!?」

「接近戦ってのはこうやるんだよ!!」

 一瞬の隙を見せたレフトのディキトゥスは、ケルディムのビームアックスとビームサーベルに切り刻まれ爆散した。

 

 レフト、撃沈。

 

 

 

「逃げても無駄だよ!!」

 高速で後退するシナンジュを追い掛けるライトのディキトゥス。逃げるシナンジュだが、その距離は一方的に縮まっていく。

 

 しかし、そこでスズは機体をひっくり返し逆噴射。慣性を一気に殺して、急停止を掛けた。

 すると高速移動していたディキトゥスはシナンジュを追い抜いて一気に駆け抜けていく。今更ブレーキを掛けても遅い。

 

 

「……デカい的だ」

 シナンジュのGNスナイパーライフルが、ディキトゥスを背後から貫いた。

 

 ライト、撃沈。

 

 

 

「やるじゃねーか」

「……そっちも」

 そんなバトルを覗いていたアンジェリカはこう思う。

 

 

「……絶対組んだらいけない二人が組んでしまいましたわ」

 ただただ、苦笑いが止まらなかった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 視界に映る戦闘機。

 

 

 ユニコーンガンダムを乗せたその機体は、ユメの駆るデルタプラスである。

 スズのライフルのスコープに映るデルタプラスが、GNスナイパーライフルの射程に入るのを彼女は不敵に笑いながら待っていた。

 

「次は外さない」

 彼女の射撃の命中精度は並大抵ではない。

 

 

 しかしユメは一度、彼女の狙撃を間一髪の所で避けている。これは絶好な機会だ。彼女はずっとそう思っていた。

 

 

「あの時の雪辱を晴らす」

「───と、思っている筈。だから、絶対にスズちゃんはリク君じゃなくて私を狙ってる」

 ユメはそう言って、ユニコーンのパイロット───リクに合図を送る。

 

 

「確かにあの時、私はスズちゃんの攻撃を避けれた……」

 だけど、あの時はなぜそれが出来たのか今でも分かっていない。

 

 分かるのは一つだけ。

 

 

「……どうしてだろう。スズちゃんの息遣いが聴こえてくる感じがする」

 自分にも分からない感覚が彼女にはあった。まるで何かと繋がっているような、不思議な感覚。

 

 引き金に手を引く感覚に、ユメは「今だよ!」と声を上げる。

 

 

「───落ちろ」

「させない!」

 スズが引き金を引いた次の瞬間、デルタプラスに乗っていたユニコーンがシールドを突き出して前に飛び出た。

 ビームはユニコーンガンダムのシールドに内蔵されたIフィールドに弾かれる。

 

 ユニコーンはデルタプラスから降りて地上に落下するが、おかげで狙撃から守られたデルタプラスはその機動力を生かして一気にスズのシナンジュに肉薄した。

 

 

 

「抜かれた!?」

「勝負だよ!! スズちゃん!!」

「……私の狙いがユニコーンだったら、シールドなんて逸らして撃ち落としていた事くらい分かってた筈」

「賭けたんだ……。スズちゃんは私を狙ってくれるって!!」

「……面白い」

 変形しサーベルを抜くデルタプラス。シナンジュも一本だけ残しておいたビームサーベルを構え、応戦する。

 

「一人で私を倒す気……? 直ぐにキミの仲間の狙撃者がこっちにくる」

「それは大丈夫。私はスズちゃんを抑えればそれで良いから!」

 ユメはデルタプラスの機動力で急接近してきたが、ユニコーンガンダムは彼女を守る為に落下していて合流には時間が掛かる筈だ。

 

 その前にロックが合流すれば、ユメは袋叩きになる。

 

 

「……なんだ」

「───こちらロックリバー。悪い、強敵に見つかっちまったんで援護遅れるぜ」

 しかし、ロックからの突然の通信にスズは眉間に皺を寄せた。

 

 

「ケイか……」

「ようタケシ」

 ケルディムガンダムの前に立つ、ケイのエクストリームガンダムtypeーレオスIIVS。

 

 

「───ここに来る前にケー君がスタンバイしてるのが見えたんだよね。きっとケー君なら、スズちゃんを抑えたらタケシ君を倒しに行くと思ってた」

「───ユメが飛んでるのが見えたからな、何処かでシナンジュを止めに行くんじゃないかと思ったんだ。そうしたらお前を倒せると思ってな」

 対するスズとロックは不敵に笑う。

 

 確かにピンチといえばピンチなのかもしれない。しかし、二人にとっては待ち侘びていたチャンスとも言えるのだ。

 

 

「───お前と久し振りに戦えるなら本望だっての!」

「───あの時の雪辱を晴らすよ」

 ビームサーベルを振り払い、デルタプラスから一度距離を取るシナンジュ。スズは「……舐めるな」と、踏み込んでデルタプラスを押し返す。

 

「抑えられるなら……抑えてみろ」

「私だって! いつまでも皆の後ろにいるだけじゃない!」

 ビームサーベルをなんとか振り払い、変形して一旦距離を取るユメ。しかし、距離を取れば狙撃される事は分かっていた。

 あまり距離は離さずに、彼女は岩陰に隠れてMS形態に機体を変形させる。ライフルを構え、頭を少しだけ出した所で岩がGNスナイパーライフルで吹き飛ばされた。

 

 

「……と、意気込んだは良いけれど。……どうしよう」

 冷や汗を流しながら操縦桿を握るユメ。初めてのMS戦闘に戸惑いながらも、デルタプラスは可変機という事もあり彼女に答えてくれる。

 

 あとは頑張るだけだ。

 

 

 

 

 ビームアックスとビールサーベルが鍔迫り合う。

 

 

「やるじゃねーか!」

「タケシと接近戦で真面目に付き合ってられるか……アリスファンネル!!」

 エクストリームガンダムのファンネル───全感応ファンネル『アイオス』がケルディムを囲むが、それを一つずつ切り飛ばしながらもケイのビームサーベルを弾くロック。

 

 狙撃専用のケルディムガンダムだが、彼の剣捌きにケイは圧巻されていた。

 

 

 

「嘘だろ……!」

「そんなんで俺を倒そうってか!」

「まさか!」

 ヴァリアントライフルで牽制射撃をしながら距離を取ろうとするケイだが、ロックはビームサーベルでライフルを弾きながらビームアックスを片手に接近してくる。

 再び放たれるファンネルも切り飛ばし、遂にエクストリームガンダムの懐に潜り込むケルディム。

 

 ケイはビームライフルを投げ捨てて、ビームサーベルをもう一本構え応戦するが、ロックの剣裁きについていけずに応戦一方になった。

 

 

 

「流石だな……」

「まぁ、本職は狙撃なんだけどな!」

「なんでここに来てまだそう言い切れるんだ!?」

 苦笑いしながら、ファンネルに反撃して一瞬の隙が出来たケルディムを蹴り飛ばすケイ。

 一瞬姿勢を崩したロックのケルディムに、ビームサーベル二本をクロスして振り下ろす。

 

「それでも、ケルディムで接近戦は無理がある!!」

 いかなロックの操縦技術が高かろうが、機体が反応速度についていけない筈だ。

 しかし───

 

 

「なめんな……!! トランザム!!」

 ケルディムを赤い光が包み込む。

 

 TRANS-AM

 

 

 高濃度圧縮GN粒子全面開放により、機動力を手に入れたケルディムはエクストリームガンダムのビームサーベルを抜けて一度距離を取った。

 あまりの速度に地面を滑る機体。ビームアックスで地面を抉り、やっと完成を殺したケルディムは両手に武器を構えその眼光をエクストリームガンダムに向ける。

 

 

「ここからが本番だろ! シールドビット!!」

「……っ、エクリプス!」

 背部に装備された砲身───高純化兵装『エクリプス』をケルディムに向けて放つケイ。

 高出力のビームがケルディムを包み込もうとするが、シールドビットがギリギリの所でそれを受けとめた。

 

 ケルディムの接近を許したエクストリームガンダムをビームアックスが襲う。その刃が機体を切り裂こうとしたその時───

 

 

 

「───シールドビット!」

 透き通るような少女の声。

 

 ケルディムのビームアックスは、半透明の何かに弾かれた。ロックは「あ?」と眉間に皺を寄せる。

 

 

 

「サラ、準備出来たか!」

「うん。ケイ、大丈夫?」

「待ってた!」

 ケイのエクストリームガンダムの背後から現れるもう一機の機体。

 サラの操るエクストリームガンダムtypeーセシアエクセリアだ。

 

 

「そういや二人チームのデスマッチだったな……」

「お前の敗因は一人で戦った事だな、タケシ」

「ロックだっての! まだ負けてね───あれ?」

 ケルディムのトランザムが終了する。予想よりも早いタイムリミットに、ロックは口を開けたまま固まった。

 

 

「そのガンプラ、もう限界だから」

 サラはそう言って機体を浮かせ、両手をケルディムに向ける。

 

「そうか、素組だから……」

 GBNの機体は、自分が作ったガンプラの出来により性能が変わるのだ。短い時間で作り上げた機体は、想像以上に性能が低下していたのである。

 

 

「───リンクリフェイザー!」

「チッ、次は本気でバトルしてぇな……」

 エクセリアから放たれたビームがケルディムを消し飛ばした。

 

 

 ロック、撃沈。

 

 

 

 

「よくトランザムが切れるタイミングが分かったな……」

 サラという少女のどこか不思議な雰囲気に驚きつつも、ケイは山頂の光を見上げて目を細める。

 

 ユメ達が仕掛けたのを見かけたからロックに仕掛けたが、漁夫の利を狙う理由もない。

 

 

「サラ、一旦引こうか」

「戦わないの?」

「きっとユメなら勝ってくれる。リクも、そうだろ?」

「……うん!」

 お互いに意思を確認し終わって、山を降りる二機のエクストリームガンダム。

 

 

 

 山頂では、GNスナイパーライフルの光が空を貫いていた。




この二人が本気で組んでちゃんと2on2で戦ったら勝てるチームは自キャラに存在しません。そのくらい特化して強いキャラ。
次回はユメ対スズ。軍配は如何に!


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激闘

 閃光が機体を貫く。

 超射程からの精密射撃を横目に、ユメとリクはお互いの作戦を確認していた。

 

 

「スズちゃんを私が止める?」

「うん。さっきの狙撃もだけど、ユメさんはあのシナンジュの攻撃タイミングを完璧に見切ってたよね?」

 リクの言葉に、ユメは首を傾げながらも「うん」と答える。

 

 ここ数回の狙撃、スズは山頂から三機のMSを一度も外さずに撃破していた。

 その攻撃タイミングを、ユメは全て言い当てていたのである。

 

 

「だから、ユメさんのタイミングで俺が攻撃を止める。その間にユメさんにはシナンジュに接近して貰いたいんだ」

「え?」

「そしてユメさんにはシナンジュを止めておいてもらって、俺が合流したところで一気に倒す───って作戦はどうかな?」

 リクの作戦に、ユメは少しだけ強く拳を握った。

 

 

「大丈夫?」

「うん、大丈夫。やろう! 私頑張る!」

「よし、行こう!」

 変形したデルタプラスの上に乗るユニコーン。狙撃を防ぐまでは一発勝負。失敗すればその時点で負けだろう。

 

 操縦桿を握る手、モニターを見る瞳、音を聞く耳、全ての感覚に意識を集中させると───頭に電気が走るような感覚を感じた。

 

 

「今だよ!」

「させない!」

 ユニコーンガンダムのシールドがライフルを弾く。落下していくユニコーンを尻目に、荷物を下ろして軽くなったデルタプラスは一気に加速してシナンジュに接近した。

 

 

「ユメさん、すぐに行くから……待ってて!」

 ユニコーンも着地して直ぐにスラスターを吹かせる。山の奥では別の閃光が光り輝いていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 岩盤が削れる。

 GNスナイパーライフルからの狙撃を避ける為に岩陰に隠れたは良いが、次々に放たれる攻撃に遂に隠れていた岩が機体よりも小さくなってしまった。

 

 

「隠れてばかりか。……時間稼ぎがしたいとしても、それじゃ足りない」

 再びライフルを構えるスズ。これにはたまらずユメも機体を変形させて離脱を試みる。

 

「……無駄だ」

「これが、MSの戦闘……」

 初めてのMS戦。不慣れな戦いに、格上の相手。しかし彼女にも考えはあった。

 

 

「……戦闘機相手に二度も外すと思うな」

 ライフルを構えるスズ。デルタプラスの機動力がどれだけ良かろうが、真っ直ぐに距離を取ろうとする戦闘機なんて彼女にとっては的でしかない。

 

「───このデルタプラスは、ただの戦闘機じゃない!」

 しかしユメは空中で機体をひっくり返しながら変形させ、一気に機体の高度を下げる。そしてさらに再び機体を変形させて、今度はシナンジュに正面を向けて一気に急接近を仕掛けた。

 

 引き金を引く手が固まる。

 

 

「何!?」

 戦闘機相手では絶対にありえない起動に反応が遅れたスズ。奇しくもそれは、フォースReBondとメフィストフェレスの戦いでユメ相手にトウドウが見せた技だった。

 

「いっけぇ!」

 一気にシナンジュに接近したデルタプラスは、再び変形しビームサーベルを片手に切り抜ける。シナンジュの左腕が切り飛ばされて、地面に転がった。

 

 

「……よし! もう一度!」

 再び変形。一気に距離を取るユメ。

 

 そんな彼女を尻目に、スズはライフル片手に不敵に笑う。

 

 

「……面白い!」

 二度も三度も、自分の攻撃から逃れられたのは彼女以外に居なかった。

 

 

 だからこそ、倒し甲斐がある。

 

 

「……勝負だ、ユメ」

「……行くよ、スズちゃん!」

 再び急接近を試みるユメ。ライフルは間に合わないもう一度同じ攻撃を───

 

 

「いっけぇ!」

「二度目はない!!」

 突然スラスターを吹かせたかと思えば、シナンジュは地面を蹴って横に転がった。思わぬ回避にデルタプラスのビームサーベルは空を切る。

 

 攻撃を交わされて、焦って変形した時にはユメの脳裏に嫌な感覚が走った。

 シナンジュは体勢を崩しながらも、ライフルを構えている。銃口が光った。

 

 

 ユメは知っている。スズがその程度の条件で狙撃を外す事はないと。

 

 

「しまった───」

「今回は私の勝ち───」

「間に合え……!!」

 スラスターが火を吹いた。

 

 引き金が引かれ、ライフルが放たれた瞬間。デルタプラスとGNスナイパーライフルの間にユニコーンガンダムが割って入る。

 

「……時間を掛けすぎた」

 構えられたシールドにライフルが弾かれて、スズは舌を鳴らした。

 悔しいが、自分の負けである。

 

 

「いけ、ビームマグナム!」

 リクの放ったビームマグナムがシナンジュを貫いた。

 

 スズ、撃沈。

 

 

 

「リク君!」

「間に合って良かった。ありがとう、ユメさん!」

 二人は頭の中でハイタッチをしながら辺りを警戒する。気が付けば山の奥で行われていた戦闘も終わっているようだ。

 

 山岳地帯はそこで、静かさを取り戻す。

 

 

 

 一方、港湾基地付近。

 

「見付けたよー! ほらほらノワールさん、あっちあっち!」

 ガンダムの世界に似合わない、とてもファンシーな姿のMSを駆る少女───ビルドダイバーズのモモは、見付けた敵を指差して声を上げていた。

 彼女の機体はアッガイの派生機、ベアッガイ(さん)。まるで熊のような外見をした黄色いMSである。

 

 

「こっちの方が先に見つかってる可能性はあるがな……」

 そんな()()()ベアッガイの隣に立つのは、メフィストフェレスのノワールが駆る百式だ。金色の機体はベアッガイ程とは言わないが目立つ姿をしている。

 

 二人が見付けたのは、基地の建物に隠れていたマラサイとガブスレイのペアだった。

 それぞれパイロットはビルドダイバーズのコーイチ、メフィストフェレスのトウドウである。

 

 

 マラサイに乗るコーイチは「厄介なのに見つかっちゃったなぁ」と、目を細めながら冷や汗を流した。

 トウドウは「しかし、先に動かなければ不利になる」と眼鏡を曇らせる。

 

 コーイチも、ズレた眼鏡を直しながら「そうだね」と視線を敵に向けた。

 

 

「行くよ!」

「任せろ」

 同時に飛び出したマラサイとガブスレイ。変形したガブスレイは、スラスターを全力で吹かせて一気にベアッガイIIIと百式に接近する。

 

 

「来たぞ!」

「任せて! いっくよぉ、お口ビーム!!」

「は?」

 突然前に出たモモのベアッガイIIIは、熊の顔の口の部分を開いてそこからビームを放った。

 全く想像出来ない攻撃に、トウドウは反応する事が出来ずにそのまま撃沈する。

 

 トウドウ、撃沈。

 

 

「うわぁ……」

 苦笑いするコーイチ。しかしノワールも、その突拍子もない攻撃に口を開いて固まっていた。

 

 

「……これがビルドダイバーズか」

「あ、コーイチさん見付けた! お手てビーム!!」

 コーイチ、撃沈。

 

 

 

 

 一方、森林地帯。

 

 

「ここまで来れば、スズの狙撃も届かない筈ですわ」

「逃げてばかり……?」

「……うぐ」

 ヒメカを連れて山岳地帯から逃げてきたアンジェリカだが、彼女の言葉に表情を引き攣らせる。

 

 今回ヒメカは初めてGBNにログインして遊んでいるのだ。アカウントもないため、アバターはハロの姿である。

 

 

 そんな彼女だから、いきなり接敵して直ぐに倒されてしまっては楽しめないだろうとアンジェリカも内心気を遣っていた。

 しかし、結局バトルが出来ないのでは意味がない。彼女にGBNの醍醐味を抑えるには戦うしかないだろう。

 

 

「むむむ、そんな事はありませんわ! スズ以外なら敵が誰であろうとケチョンケチョンに───」

「ほぅ、それはそれは楽しみだねぇ!」

 通信に割って入る声。森林地帯の砂を巻き上げながら接近するMSが一機。

 

「な!?」

「ワンコ……?」

 木々を薙ぎ倒して進むのは、四足を持つMSラゴゥ。そのパイロットは奇しくもアンジェリカの雪辱の相手、砂漠の犬───アンディだった。

 

 

「ここで会ったが百年目ですわ!!」

 スラスターを吹かせるアンジェリカの機体。

 

 彼女の機体はExーS(イクスェス)ガンダム。重装備にインコム等の装備に加え、ALICEというシステムを搭載している特殊な機体でもある。

 

 

「え?」

 ヒメカを置いてラゴゥに飛び掛かるExーSガンダムだが、その傍から青い機体がExーSガンダムを殴り飛ばした。

 地面を転がるアンジェリカの機体を他所に、アンディのラゴゥはヒメカのクシャトリヤに向かっていく。

 

 

「ふふ、アンディの邪魔はさせないわよ」

 アンディのチームになっていたのは、彼の最愛の女性リリアンだった。

 彼女の機体はブルーディスティニー1号機。こちらはEXAMというシステムを搭載している。

 

 

 EXAMシステム、スタンバイ

 

 

 ブルーディスティニーのメインカメラが赤く光った。禍々しい雰囲気に、アンジェリカは苦笑いを見せる。

 

 

「ヒメカちゃんをやらせはしませんわ!! ALICE!!」

 ALICE

 

 

 ExーSガンダムのメインカメラも赤い光を放ち、ブルーディスティニーを蹴り飛ばして立ち上がった。

 巨大ながらも最適化された動きにより、その機動力は飛躍的に高まっている。二本のビームサーベルがリリアンのブルーディスティニーを襲った。

 

 

「……っ」

「機体性能が違うんですわよ!!」

 ブルーディスティニーの両腕を切り飛ばすアンジェリカ。逃げようとするリリアンだが、ブルーディスティニーの片足をインコムが撃ち抜く。

 

 

「やるわね……」

「終わりですわ!!」

「ごめんなさい、しくじったわアンディ」

 リフレクターインコムを展開。ビームスマートガンはこのリフレクターインコムにより不規則な動きながら予想もできない軌道でブルーディスティニー1号機のコックピットを貫いた、

 

 リリアン、撃沈。

 

 

 

「まずはキミを狩ろうか!」

 ヒメカのクシャトリヤに迫るアンディのラゴゥ。ヒメカは「え、えーと……えぇ?」と困惑しながらも、なんとか反撃しなければとレバーを捻る。

 

 発射されたファンネルがラゴゥを囲むが、アンディはビームサーベルとビームキャノンを巧みに使い、それをことごとく撃ち落とした。

 

 

「どうしたら……」

 このままではやられてしまう。別に、彼女は元々このゲームをやる気ではなかった。ここで負けたからといって何か嫌な思いをするという事はないだろう。

 

 しかし、楽しそうにプレイしていた姉やアンジェリカを見て───その気持ちが理解できない訳ではなかった。

 

 

「───ふぁんねる!」

 もう一度ファンネルを展開。ラゴゥに向けて一斉に放つ。

 

 

「素人のファンネルは単調だ、交わすのも容易い!」

 ファンネル等のオールレンジ攻撃は使用そのものが難しい物だ。しかしこのGBNはゲームであり、ある程度システムに任せて武器を使う事も出来る。

 その代わり、システム任せの攻撃は単調で避けやすい。アンディは回避運動を取りつつ、クシャトリヤに接近しようとした───その時。

 

 

「何!?」

 ラゴゥの眼前を四つの閃光がまるで網のように阻んだ。

 もし気が付くのが少し遅れてそのまま直進していれば、今頃ラゴゥはバラバラになっていただろう。

 

 

「マニュアルだと?」

「もう少し!」

 再びファンネルを放つヒメカ。アンディは「これは驚いた」と不敵に笑った。

 

 

「だが!!」

 ファンネルの猛攻を交わし、遂にクシャトリヤに肉薄したラゴゥはビームサーベルでクシャトリヤを二つに分ける。

 遅れて辿り着いたExーSガンダムもライフルで撃ち落とし、激闘の末相方を失うもこのバトルに勝利したのはアンディだった。砂漠の犬は森林地帯に鎮座する。

 

 

「ご、ごめんなさいですわ……ヒメカちゃん」

「……ううん。……えーと、まぁ」

「?」

「楽しかったです」

 ヒメカ、アンジェリカ、撃沈。

 

 

 

 

 

 残りチーム、四。

 

 生き残ったのは、リク・ユメチーム、ケイ、サラチーム、モモ・ノワールチーム、アンディチーム。計七人。

 

 

 

 激闘は終局に向かっていた。



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爆熱機構

 手が震えていた。

 

 

 応戦する金色の機体、百式。

 その背後では、バラバラになって目にバッテンを浮かべるベアッガイIIIの姿が映る。

 

 サーベルを抜き、ビームマグナムを放つユニコーンガンダム。

 

 

「……っ!」

「そこだ!!」

 交わしきれず、左腕を吹き飛ばされてバランスを崩した隙をリクは見逃さなかった。

 

 

「リク君のいじわる〜!」

「やるな……」

 モモ、ノワール、撃沈。残り三チーム。

 

 

 震えが止まらない。これは武者振るいだと思う。

 リクはほぼ無傷で二人を倒した。自分なんて要らなかったんじゃないかとも思えてしまう。

 

 

「行こう、ユメさん」

「これが……ビルドダイバーズの、リク」

 彼は勝てるのだろうか。

 

 

 そんな事を思った。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 モニターに『残り三チーム』と表示される。

 

 

「三チーム、か」

 それを見たケイは顎に手を向けて目を細めた。

 

 強敵であるところのスズやロックは下したから、残っているのは誰なのかと予想を立てる。

 

 

「ニャムさんやカルミアさんだってそんな簡単に負けたりはしないだろうけど、ノワールやアンジェリカさん……それにアンディさんもいるもんな」

「ユッキーも、アヤメもコーイチも」

 考え込むケイに釣られて、サラも珍しくバトルの事を考えていた。

 

 彼女もビルドダイバーズの一員だが、普段から積極的にバトルをする事はない。

 しかし、この世界で生まれた彼女はこの世界が大好きで、ガンプラも、ガンプラバトルも、ガンプラバトルをする人達の事も大好きなのである。

 

 

「さて、隠れるなら密林地帯……だよな」

「隠れるの?」

 首を傾げるサラに、ケイは「まさか」と得意げな顔を見せた。

 

 

「隠れてるなら、炙り出す。先手必勝ってね」

 アイオスを展開しながらそう言うケイ。ファンネルをランダムで直進させて探りを入れる。

 

 

「───戦闘の後が数カ所にある。ここに居る可能性は高いけど」

「……ケイ!」

 ふと、視線の先で何かが動いた。ケイが気付くが早いか、サラはビーム砲───クロイツ・デス・ズューデンスの砲身を向ける。

 

 

「ラゴゥ……あの人か!!」

 視界に入ったのは四肢を持つMSラゴゥ。ケイはエクリプスを展開、サラのクロイツ・デス・ズューデンスと共にラゴゥに向けて引き金を引いた。

 

 

「このラゴゥに当てられるかな!」

 しかし、アンディのラゴゥは無限軌道による機動力でそのことごとくをかわして見せる。牽制射撃がケイのエクストリームガンダムを掠めて、冷や汗を流した。

 

 

「早い……」

「あのガンプラ……強い」

 サラもそれを見て目を丸くする。短時間の作業、しかも遅刻してさらに短くなっている筈の制作時間。

 それなのに彼のガンプラは、彼女の仲間であるコーイチやユッキーが作ったガンプラと相違ない程の完成度を秘めていた。

 

 

「アイオス!!」

 砲撃は掠りもしないと諦めて、ケイはファンネルによるオールレンジ攻撃に切り替える。

 ラゴゥは彼のガイアトリニティと違って空を飛ぶ事が出来ない。行動範囲が狭い以上、オールレンジ攻撃を避けるのは難しい筈だ。

 

「スフィアビット!」

 サラもそれに続く。片手を持ち上げ、光のエネルギー弾を放つ様は機体の見た目も相まって魔法使いのようだ。

 

 

「良い判断だ───しかし!」

 アンディは機体を反転させると、一気にサラに向けて突進する。

 

「これでオールレンジ攻撃は使えまい!」

 エクセリアにビームサーベルで襲い掛かるラゴゥ。なんとか対艦刀ハルプモントで攻撃は防ぐが、これでは周囲から攻撃するオールレンジ攻撃をラゴゥだけに当てるのは難しい。

 

 

「サラ!」

 ヴァリアント・ライフルを構えるも、それこそ鍔迫り合いをしているラゴゥだけを撃ち抜くのは至難の技だった。

 これが息のあった仲間だったのなら味方の動きをある程度まで予測して当てないようにするくらいはケイには出来る。しかし、今回は初めて組むチームだ。

 

 

「……っ。リンクリフェイザー!」

 しかしサラもやられてばかりではない。一瞬の隙を見つけ、機体の周囲に突風を起こす技を使う。

 ラゴゥを突き放す事には成功するが、追撃の隙もなくアンディは機体のバランスを正して高速移動に移行した。

 

 

「おっとこれは近付かないねぇ。……なら、こっちだ!」

「ケイ……!」

 一瞬のうちにケイのエクストリームガンダムの背後に回り込んだアンディ。ファンネルの展開はタックルで止められ、なんとか抜いたビームサーベルも弾かれて地面に落ちる。

 

「その機体、接近戦は得意ではないのかな!」

「くそ……!」

 スラスターを一気に吹かし、距離を取りながらエクリプスを展開しビームを放つケイ。

 しかしラゴゥの高速移動はそれを簡単に交わして見せ、再接近を最も簡単にこなしてみせた。

 

 

「二対一の基本はどちらかを接近戦で翻弄する事だ。覚えておくと良い、少年!」

 サラもケイと同じく、この状態で仲間に攻撃を当てずに援護をする術がない。

 

 逃げるエクストリームガンダム、追うラゴゥ。

 こと平坦な地上戦においてラゴゥの機動力は通常MSとは比べ物にならない。追いつかれ、ビームサーベルの斬撃をサーベル一本で止めるのが精一杯で押されていく。

 

 

「そんなものか!!」

「くそ!」

 制御が追い付かない。

 

 

 当たり前だ。これは自分のガンプラではないし、丹精込めて作ったとは言っても短い時間内での話である。

 それなのにアンディのガンプラはケイのガンプラを圧倒していた。何が違う、どうして違う。頭の中でどれだけ考えても理解出来ない。

 

 

 ──ケイ殿の発想力はまだ伸びる所があるっすけど、自分は素組みなのでこれが上限っす。だから、そんなに自分を悲観しないで下さい。ジブンはケイ殿に目を覚まさせて貰ったんすから──

 

 ふと、ニャムのそんな言葉が脳裏を過った。

 彼女は素組のエクストリームガンダムを使い、その力を最大限に活かして戦っていた事を思い出す。

 

 

 それに比べて自分はどうだろうか? 

 

 ストライクBondのエクリプスストライカーだって、極限進化を再現出来なかった。

 この素組のエクストリームガンダムtypeーレオスIIVSだって、本来の力を発揮出来ていない。

 

 

 自分には何が足りない。操縦桿を握る手が強くなる。

 

 

「どうして!!!」

「ケイ……!」

 少女の声が頭に響いた。

 

「サラ……?」

「自分を信じて!」

 ビームサーベルでラゴゥのサーベルを弾く。しかし何度迎撃しようが、アンディは執拗にケイに接近戦を仕掛けた。

 

 

「自分を……?」

「ケイのガンプラは、ちゃんと想いが込められてる。そのガンプラも、ケイの気持ちに応えてくれようとしてる!」

 何を言っているのか分からない。だけど、不思議と説得力のある。そんな言葉だった。

 

 

 

「だから───自分を信じて! 自分の作ったガンプラを信じて!」

「ガンプラを……信じる」

 ふと手元が熱くなったような感覚を感じる。

 

 

「想いを込めたガンプラは、必ず力を貸してくれる」

 誰かがそう言った気がした。

 

 

 

「エクストリーム、俺に力を貸してくれるのか?」

 暖かい。身体の芯から温まるような、そんな感覚。

 

 

「なんだ? 彼のガンプラが光って───」

 感じる。心の底から、自分の力を───自分の使ったガンプラの力を。

 

 

 

「───爆熱機構、ゼノン!!!」

 機体から放たれる衝撃波と共に、ケイのエクストリームガンダムは眩い光を放ち始めた。それは燃え上がる炎のような、青く光る星の様な、そんな暖かい光。

 

 

「ようやく本気という事かね!!」

 エクストリームから放たれた衝撃波で吹き飛ばされたアンディだが、直ぐに体制を立ち直して接近戦を仕掛ける。

 いくら機体が光ろうが、何が変わる訳でもない。ラゴゥに向けられた二本のエクリプスとて、交わすのは容易だ。

 

 

「光よ!!」

 放たれるエクリプス。アンディの想像以上の出力を放ち、着弾した地面を吹き飛ばす火力を持ち合わせた砲撃。

 しかし、アンディはそれを軽々と交わして見せる。そう連続で放てる攻撃ではない。あとは再び接近して叩くだけだ。

 

 

格闘進化(ゼノン)!!」

「自分から近付いてくる!?」

 アンディが砲撃を交わした一瞬の隙に、ケイはスラスターを吹かせてラゴゥに肉薄する。

 そのままビームサーベルを捨てて、光り輝く機体の掌でラゴゥの頭を掴み上げた。

 

「ぬぅぅ!?」

「シャイニング……ブレイカー!!」

 そのままラゴゥを掴んで地面に引きずり、機体を持ち上げてラゴゥを空に放り投げる。

 

 

ファンネル進化(アイオス)!!」

 空中に投げ付けたラゴゥを、今度は強靭な刃となったファンネルが切り刻んだ。

 

 

「ブレイドビット!!」

 ファンネルによる攻撃でラゴゥを拘束しながら、ケイは距離を取ってエクリプスの砲身を向ける。

 

 

 

「これが……君の本気か!」

「エクストリームガンダムが、俺に力を貸してくれたんだ……」

 きっと、サラの言葉がなかった気が付かなかった。自分に足りなかった物、それは───

 

 

 

「これが俺の……俺のガンプラの本気だぁ!!」

 ───自分のガンプラを信じる心。

 

 

 

射撃進化(エクリプス)!!」

 放たれる砲撃がラゴゥを包み込む。ブレイドビットで浮かしたラゴゥに下から放たれた砲撃は、空を貫くように天まで上り詰めた。

 

 

 アンディ、撃沈。

 

 

 

「ケイ!」

「サラ……。ありがとう、君のおかげだ」

「ううん。ケイとその子おかげ」

 笑顔でそう返すサラは、エクセリアの手でエクストリームガンダムの頭を撫でる。

 

 

 モニターに表示される『残り2チーム』の文字。

 

 今の攻撃でこちらの場所はバレただろうか。

 出力限界が来て、淡い光を失ったエクストリームガンダムに今は無理をさせる事は出来ない。

 

 

「少しだけ機体を休ませてから残りのチームを探そう。残っているのが誰か気になるけど……そこはもう考えても仕方がない」

「うん。ここまで来たら、頑張ろ」

 彼女の無邪気な笑顔に微笑みながらも、最後の相手を考えるケイ。アンディはチームメンバーを一人失っていたらしいが、次もそうとは限らない。

 

 サラとのチームワークも完璧ではないし、相手のチーム次第ではアンディとの戦いよりも厳しい戦いになる筈だ。

 

 

 だけど、彼女のいう通り。ここまで来たら勝ちたい。

 

 

 

 それは彼が男だからだとか、負けず嫌いだからだとかではなく───

 

 

 

「やっぱり楽しいな、ガンプラバトルは」

 ガンプラバトルが好きだから。



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決着バトルロイヤル

 珈琲を片手に、アンディは不敵な表情でモニターを見ていた。

 

 

「このチームが最後に残ったか、なるほどねぇ。僕としては悔しい限りだけど」

 バトルロイヤルも大詰め。残りニチームとなり、生き残っているのはリクとユメのチーム、そしてケイとサラのチームである。

 

 

「むむむ、これは勝者が読めませんわね……」

「あのビルドダイバーズのリクか……」

 機体はユニコーン、デルタプラス、エクストリームガンダム、エクセリア。

 両者が邂逅したのは森林地帯と港湾基地の間。

 

 

 

「サラ……」

「リク……」

「ユメ……」

「ケー君……」

 今、決着の時。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 意外にも、先に動いたのはユメのデルタプラスだった。ライフルの光がサラのエクセリアの頭の横を掠める。

 

 

「やる気だな……! アイオス!!」

 それを見て、ケイもファンネルを展開。ユメのデルタプラスに向けてオールレンジ攻撃を仕掛けた。

 

「サラ!」

「うん! スフィアビット!」

 同時に、サラもエネルギー弾をデルタプラスに向ける。

 

 

「来る……! そこ!」

 ユメの脳裏に電撃が走った。感覚に従ってライフルを放つと、それはエクストリームガンダムのファンネルを撃ち落とす。

 

「うわぁ!?」

 しかし、数が多い。全て撃ち落とす事は勿論避けるのも難しい───そう判断したユメは機体を変形させ、ファンネルを振り切るように旋回した。

 

 

「逃すか!」

 対してファンネルに加え牽制射撃をデルタプラスに向けるケイ。ファンネルがデルタプラスを囲み、無数の射撃がユメを襲おうとしたその瞬間───

 

 

「ユニコーン!!」

 NTーD

 

 ───ファンネルが動きを止める。

 

 

「アイオスが……?」

「ケイ!」

 何故かファンネルがいう事を聞かない。それどころか、ファンネルは自分の意思とは関係なく動き、エクストリームガンダムを包囲し始めた。

 

 

「俺の事が分からないのか……? まさか!!」

「NTーD」

 サラの口から漏れた言葉。

 

 

 ユニコーンガンダムに組み込まれた、NTーD(ニュータイプデストロイヤー)システム。

 その力によるサイコミュのジャック。それが、この現象の答えである。

 

 

「くそ!」

 自分を攻撃してくるファンネル。それを自分で撃ち落とし、飛び上がりながら周囲を見渡した。

 

 

「居たな、ユニコーンガンダム!」

 港湾基地の建物の裏に隠れていたユニコーンを見つけたケイはエクリプスを展開、その銃口をユニコーンに向ける。

 

 

「エクリプス!!」

 放たれるビーム砲。しかし、リクのユニコーンガンダムはシールドに内蔵されたIフィールドでそれを防ぎ切った。

 

 

「凄い完成度……。ガンプラを作ってるのを見た時から思ってたんだ、あなたと戦いたいって!」

 NTーDを発動し、角が割れ装甲の隙間から赤い光を漏らすユニコーンガンダム。それを駆るリクは、ビームサーベルを抜きながらスラスターを吹かせて一気にケイのエクストリームガンダムに接近する。

 

 

「君か……! ビルドダイバーズのリク!」

「貴方の名前は?」

「フォースReBond、ケイだ」

 ビームサーベルが重なり合い、火花が散った。出力は互角、ならばとリクは膝に装備されたビームトンファーを展開する。

 

「格闘戦ならNTーDを発動したユニコーンに分がある!」

「それはどうかな……ゼノン!!」

 エクストリームガンダムを中心に衝撃波が走った。機体は鮮やかな光を漏らし、拳が光る。

 

 

「素組で極限進化!?」

「シャイニングブレイカー!!」

 ユニコーンガンダムの腕ごと、その拳で捕まえようとするケイ。しかし、彼の機体の真上から、ビームライフルがエクストリームガンダムを襲った。

 

「させないよ!」

「ユメか……!」

「邪魔はさせない……!」

 そんなユメに、サラのエクセリアはライフルを向ける。追撃は阻止したが、ユメが作った隙をリクは見逃さなかった。

 

「そこだ!」

「……っ!」

 ユメの射撃で体制を崩したエクストリームガンダムに向けられるビームサーベル。しかし、その攻撃はエクセリアのシールドビットに防がれる。

 

 

「ケイ!」

「助かる!」

「しまった……!」

 攻撃を弾かれて体制を崩すリク。エクストリームガンダムの拳がユニコーンガンダムの頭を掴み上げた。

 

 

「リク君!」

「仕留めきる!!」

「こんな所で終わらせない!!」

 ユニコーンが淡く虹色に光を放ち始める。刹那、エクストリームガンダムの背後から何かが攻撃してきた。

 

 

「なんだ!? ブレイドビット!?」

 サイコミュジャックの対策として起動もしていなかった筈の自分の武装を操られる。予想外の攻撃に、ケイは不敵に笑いながらブレイドビットをサーベルで切り飛ばした。

 

「面白いな!」

「これでも倒せないなんて!」

 リクも、ケイの判断の早さに口角を上げる。

 

 

 楽しいバトルだ。

 まだ終わらないで欲しい、なんなら───お互いの本当のガンプラ()で。

 

 そう思う程に、どこか手応えのようなものを感じる。

 

 

 

「リク君!」

 拮抗するバトル。そこに槍を投じたのはユメだった。

 

 彼女は変形による高速飛行で一度ユニコーンガンダムを捕まえ、離脱。旋回してケイのエクストリームに急接近を仕掛ける。

 

 

「ユメさんの機動力で一気に懐に入って仕留める。ユメさんはサラを───エクセリアを押さえて!」

「うん!」

「サラ、迎撃するぞ。近付けさせるな!」

 二人の作戦はお見通しだ。近付けなければいくらユニコーンガンダムとはいえ二機のエクストリームガンダム相手に射撃戦を制する事は出来ない。

 

 

「来るよ、ケイ!」

「よし。エクリプス!!」

「リンクリフェイザー!」

 ケイはエクリプスを二本展開。その発射前にサラのリンクリフェイザーが起動、三つの巨大な球状の結晶体を射出する。

 

「うわぁ!?」

 それを見たユメは急制動。機体を捻って避けようとしたが、それが悪かった。

 

 

「いけ!!」

 放たれたエクリプスがデルタプラスの翼を吹き飛ばす。なんとか撃破には至らなかったが、ユニコーンを乗せて飛ぶのも限界だ。

 

 

「大丈夫!? ユメさん」

「……っ、平気! リク君。もう一度旋回して接近する。今度は失敗しない、私を信じて!」

 強くそういうユメに、リクは力強く頷いて返事をする。

 

 

 旋回して、スラスターのオーバーロードも気にせずに出力を上げるユメ。一か八か、どのみちこれが最後のチャンスだ。

 

 

「もう一度来る気か?」

 直進してくるユメのデルタプラスにヴァリアント・ライフルを向けるケイ。サラも同じくクロイツ・デス・ズューデンスをデルタプラスプラスに向ける。

 

 発射。

 ビームがユメのデルタプラスを襲った。しかし、彼女は避けない。機体を逸らして直撃だけを避け、直進した。

 

 

「ユメ……! この!」

 驚いて、それ以上に嬉しく思う。こんな近くに強敵が居たなんて思ってもいなかった。

 

 更に二発のヴァリアント・ライフルとクロイツ・デス・ズューデンスを最小限の被弾で抑えて、遂に接近を果たしたユメのデルタプラスは空中で変形。

 リクのユニコーンの手を引いて、機体を投げ付けるようにユニコーンに推力を渡す。

 

 

「いっけぇ! リク君!」

「させない! リンクリフェイザー!」

 接近を許すまいと、サラはリンクリフェイザーを展開。巨大なビームサーベルを突き出して、迫り来るユニコーンに突撃しようとした。

 

「させないは! させない!!」

「え!?」

 しかし、再び変形したユメのデルタプラスが衝突もお構いなしにサラのエクセリアに突撃していく。

 機体は最大速度のままぶつかり合い、二機は空中で砕け爆散した。

 

 ユメ、サラ、撃沈。

 

 

「……やってくれたな、ユメ!」

「ユメさんが作ってくれたチャンス、絶対に無駄にしない! 勝負だ、ケイさん!!」

「こい、リク!!」

 抜刀。

 

 デルタプラスが運んできた慣性のまま直進するユニコーンガンダムに拳を向けるエクストリームガンダム。

 

 

「俺に力を貸せ!! ユニコーン!!」

「エクストリーム、お前の力を見せてくれ!!」

 お互いの機体が今日一番の輝きを見せる。

 

 

「「うぉぉぉおおおおお!!!!」」

 勝負は一瞬で決まった。

 

 

 

 

 

 

 ケイ、撃沈。

 

 

 勝利チーム。リク、ユメペア。

 

 

 歓声が上がる。

 

 

 

「私……勝ったの?」

「ユメさん! ありがとう、俺達勝てたよ!」

「……ふぅ。ごめん、サラ」

「ううん、ケイのガンプラ……凄かった」

 こうしてガンダムベース特別マッチ2onバトルロイヤルは幕を開けた。

 

 

 

「それでは、優勝チームの二人には今回作ったガンプラを贈呈しちゃいまーす! あ、他のチームの人はガンプラベースに飾るからちゃんとガンプラは置いてってねー」

 店員さんのそんな言葉に、参加者一同はそれぞれ感想を言い合う。

 

 あの人が強かったとか、あの人のガンプラが凄かったとか。

 沢山の人が集まってガンプラを楽しんでいたから、その会話は途切れる事がなかった。

 

 

 

「ゆ、優勝してしまった」

「ユメちゃん凄く格好良かったですよ。私、ちょっと感動してしまいました」

「お姉ちゃん……格好良かった」

 ナオコとヒメカの賞賛に、ユメカは顔を赤くして頭を掻く。その手には景品として与えられた今日作ったデルタプラスが握られていた。

 

「ユメさんの実力ですわ」

「……次こそ負けない」

 物凄く悔しそうなスズは置いておいて、ユメカの前にケイスケが歩いてくる。

 正直ユメカの中には不安があった。なんとも言えない不安。しかし、そんな不安は一瞬で晴れる。

 

 

「楽しかったな、ユメカ。驚いたよ。完敗だ」

「ケー君……。うん!」

 伸ばされた手を取って、ユメカは満面の笑みを見せた。そんな彼女に、ケイスケは「次は負けないからな!」と唇を尖らせる。

 

 悔しそうなケイスケの顔に一同は大いに笑って、そんな賑やかな空間にとある六人が歩いてきた。

 

 

「リク君?」

「ユメさん、さっきはありがとう。きっと、ユメさんとじゃなかったら優勝出来なかった」

「そ、そんな! リク君が強かったからだよ!」

 慌てて両手を振るユメカ。

 

 だけど、この場の誰もが理解している。彼女の思い切った戦いぶりが、最後の勝利をもたらした事を。

 

 

「ビルドダイバーズの、リク」

「ケイさん、ですね?」

「あぁ。ReBond、サイトウ・ケイスケだ」

「ミカミ・リクです」

 二人はお互いに手を取って、固い握手を交わした。今でもついさっきのバトルが頭に過ぎる。楽しかった。もう一度だって戦いたいくらいに。

 

 

「次は本気のガンプラでバトルをしましょう!」

「望むところだ」

 お互いの視線が合う。他のメンバーも、所々で思う事があるのか。闘志の視線を飛ばしあっていた。

 

 

 いつか彼等とフォースバトルをする事もあるかも知らない。

 

 

 

「それじゃ、俺達はこれで」

「またね、ケイ」

「ユメカちゃん、ヒメカちゃん、リンちゃん、まったねー! 後で教えてもらったアドレスに連絡するからー!」

 いつのまにかアドレス交換をしていたモモカの事はさておき、ビルドダイバーズと別れてとオフ会はまだ終わっていない。

 

 

「それでは、夕食にしましょうか。そうだ、アンディさん達もご一緒にどうです?」

「良いねぇ、君達とも話したい事があったんだよ」

 一行はアンディ達を加えて夕食の場へ。

 

 

 

 楽しんだ後は、少しだけ重要な話をしよう。そう決めていた彼等は食事を楽しみつつ、ある話をする事にしていた。




激動だったバトルロイヤル編も完結です。
今回はエクバ民に楽しんでもらえるような形で書き上げました。リンクリフェイザー全種ちゃんと書けてよかった……。

オフ会編はまだまだ続きます。次回もお楽しみに。


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レイア

 フォークを置いて、アンディは少しだけ辺りを見渡した。

 

 

「皆、少し聞いてくれるかな」

 彼のそんな言葉に、誰もが視線を向ける。

 

 頭の上の包帯。

 それを指で二回突いた彼は「そんなに怖い話じゃない、食べながら聞いてくれたまえ」と続けた。

 

 

「知っての通り僕はNFTに優勝した」

「自慢しにきたんですの!? この人自慢しにきたんですの!?」

「……アンジェ、落ち着いて」

 立ち上がるアンジェリカを車椅子に付いたアームで座らせるリン。そんな彼女を見て不敵に笑うアンディに、周りの空気も軽くなってアンジェリカ以外は笑っている。

 

 アンジェリカは歯軋りをしていた。

 

 

「その後、僕の家は火事になって……僕はこの通り病院送り。巷では色んな噂が立ったし……まぁ、僕も参った参った」

 両手を上げて首を横に振ったアンディは、そこで少しだけ真剣な表情を見せてこう続ける。

 

「───それでGBNへのログインが一時期減少したりもしたが、今は元通り。……君の、君達の目的はなんだったんだい? カルミア君」

「……そうねぇ」

 鋭い視線がカラオに刺さった。それを見たユメカは、態々自分で車椅子を動かして少し遠くにいたカラオの前に出て手を広げる。

 

 

「ユメカちゃん?」

「カルミアさんは私達の仲間です」

「……知ってるよ。だけど、彼は彼等の仲間でもあった筈だ。何か知ってるんじゃないかな?」

 アンディの言葉にユメカは俯くしか出来なかった。

 

 セイヤ率いるアンチレッドは、確かにカンダ・カラオ───カルミアの大切な仲間だったのだから。

 

 

「良いんだよ、ユメカちゃん。おじさんは今日この話をする為にここに来たんだ。丁度良い」

 ありがとう。そう言って立った彼はユメカの車椅子を優しく押した。

 

 

「俺の知ってる限りの事を話す。ただ、初めに言っておくが俺はセイヤがどうやってあんたの家に火を付けたのか知らない。……俺は結局、本当にセイヤ達の仲間じゃなかったのかもしれない。それでも良いか?」

「勿論だとも」

「私も気になりますわ」

 確認を取ったところで、カルミアは目を細めて一度咳払いをする。

 

「あれは、GBNのサービスが始まって間もない頃だった。丁度、ユメカちゃんの事故の少し後───」

 いつかの事を思い出しながら、彼は静かに語り始めた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 未だに彼女の顔を覚えている。

 

 

「よ、サトウ。少しは気が晴れたか?」

「あはは、どうでしょう。……まぁ、少しは」

 それは彼等がプラモ屋から飛び出してきたユメカを轢いてしまった事故の数ヶ月後の事。

 

 トラックの運転手だったサトウは、会社に多大な迷惑を掛けた事を気にして精神的に追い込まれていた。

 勿論ユメカや彼女の両親、事故の関係者や警察との関わりもある。

 

 それでもその事故は業務中の事故であり、責任を取るのは会社の役割だ。

 

 

「お前は運が悪かっただけだ、サトウ」

「社長……」

 ガンプラ関連の運送会社───その社長であるセイヤは、それでもサトウに優しく接する。

 

「ここではセイヤで良い、そうだろ? せっかくサトウも久し振りにログインしたんだ。パーっとなにかクエストでもこなそうじゃない」

 二人の間に入ってそう言うカルミア。

 

 気が引けるサトウの手を引っ張って、彼等は近場のNPCに話しかけてクエストを探そうという話になった。

 

 

 

 ───その日出会った少女こそが、彼の復讐のきっかけになる。

 

 

 

「助けて下さい!」

 長くて綺麗な赤い髪。コンソールパネルにNPDと表示されている少女が、NPDらしからぬ表情で三人に声を掛けてきた。

 

「なんだなんだ?」

「どうしたんだ?」

 首を傾げるカルミアの隣で、セイヤは少女に向き直ってそう問い掛ける。

 カルミアは初めから気が付いていたが、セイヤは口を開いた後でようやく彼女がNPDである事に気が付いた。

 

 

 NPD(ノンプレイヤーダイバー)

 RPGでよくいうNPCと同じような物で、要するに誰かが操作している訳ではなくコンピュータが操作しているキャラクターという事である。

 

 GBNにおけるNPDは、ミッションの受付だったり案内人やシャップの店員等の為に様々な容姿で用意されていた。

 彼女もそんなNPDの一人なのだろう。こうやってゲリラ的にミッションを持ち掛けてくるイベントもある。

 

 

 その内ミッション内容がコンソールパネルに映るものだと、カルミアは彼女から視線を離した。

 

 

「私の村が大きなロボットに襲われてるんです!」

 ただ、彼女の言い分はどこか妙である。

 

 

「ロボット?」

「MSの事でしょ」

 同じく首を傾げるサトウに、カルミアは目を細めて顎に手を当てた。それにしたって、なんだか様子が変に見える。

 

「とにかく言ってみるか。困ってるようだしな」

「困ってるってセイヤ、そのこは───」

「分かってる。だけど、ほっとけないだろ?」

 カルミアの言葉をそう遮ったセイヤは、少女に「案内してくれ。俺達がなんとかする」と答えた。

 

「あ、ありがとう! こっち!」

 セイヤの言葉を聞いた少女は、焦った様子で彼の手を引く。

 

 

 

 主にミッションの受付やお店が並ぶエリアから少し離れて、少女に着いていった先にあったのは小さな村を模した観光エリアだった。

 

 GBNにはこういったエリアも多い。

 仮想世界を旅する目的でGBNをプレイする人々もいる事から、戦闘禁止の観光エリアは珍しくないのである。

 

 

 ただ、そこは何処かおかしかった。

 

 

「観光エリアのオブジェクトが壊れてる?」

 前提として観光エリアは戦闘禁止エリアである。

 

 しかし、少女に案内されたその場所は観光エリアであるにも関わらず───戦闘の痕跡と共に半壊していたのだ。

 

 

「あ、あのロボット!」

 突然少女が声と一緒に指先を上げる。

 

 

「───お、なんだ。まだNPDの生き残りが居たのか」

「───こいつも踏み潰してやろうぜ。ハッハッハッ!」

 二機のMS。ジムIIIとジム・クゥエルのカスタム機体が、そのエリアで手持ちの武器の銃口から煙を吹かせていた。

 

「戦闘禁止エリアでMSだぁ!? なんのバグよそれ」

「この村をこんな風にしたのはお前達か!」

 驚くカルミアの隣で、セイヤはジム二機を睨み付けながら声を上げる。

 赤い髪の少女は少し怯えた表情でお互いを見比べていた。

 

 

「なんだダイバーかよ。そうさ、その通り。俺達がこのエリアを無茶苦茶にした犯人だ」

「どうやって……いや、どうしてこんな事を」

「単純な事だ。この世界がつまらないから、壊してやろうと思ったんだよ! お前達も餌食にしてやるぜ!!」

 そう言ったジムIIIのパイロットはセイヤ達四人にジムライフルの銃口を向ける。咄嗟にコンソールパネルを開いたカルミアは、自分のガンプラ───レッドウルフを呼び出して搭乗した。

 

 

「なんだあんたら、俺達とやろうっての?」

 全身武器庫。ドーベンウルフのカスタム機であるカルミアの機体がミサイルの砲門を開いてライフルの銃口をジムIIIに向ける。

 

「カルミア、ミサイルはダメだ!」

「え、な……なんでよ?」

 しかし、カルミアの攻撃はセイヤの声に阻まれた。セイヤは周りを見渡しながら「ここはこの子の村なんだぞ」と、少女の肩を抱いて自分もコンソールパネルを開く。

 

 

「大丈夫だ、俺達が何とかしてやる。乗れ!」

 そうしてセイヤは自らの機体を呼び出して、少女を連れて機体に乗り込んだ。

 

 

 ZZガンダム。

 そのカスタム機である彼の機体のメインカメラが赤く光る。

 

「GBNには観光を楽しむ人達も居るんだ。ここにはNPDだって居た筈なのに、お前達はなんて事をした!!」

「あなた……」

 少女の隣で怒りを露わにするセイヤ。ジム二機のパイロットは、そんなセイヤを嘲笑いながらライフルを彼の機体に向けた。

 

 

「観光なんてつまらねぇ、これはガンダムのゲームだ。戦争のゲームだぜ!」

「NPDなんて知った事かよ! コンピュータなんて別に死んでもまた復活するだろ!」

 放たれるジムライフル。ビームの熱は、村の家を簡単に吹き飛ばす。

 

 それを見た少女は目を見開いて悲鳴を上げた。本当に彼女はNPDなのだろうか。だけど、そんな事は関係ない。

 

 

「───お前達が悪い人間だって事だけは分かった」

 ハイパービームサーベルを抜き、ジム・クゥエルに接近するセイヤ。対するジム・クゥエルも、ビームサーベルを抜いて応戦しようとする。

 

「ロボットが爆発したら、村が……」

「分かってる。だからコックピットだけをやる!!」

 ZZガンダムのハイパービームサーベルはジム・クゥエルのサーベルとは出力が桁違いだ。接近戦で負ける理由もない。

 

 

 ───しかし、ジム・クゥエルのビームサーベルは突然出力を上げてZZガンダムのハイパービームサーベルを弾き返す。

 

 

「何!?」

 驚いたセイヤの視線の先では、ジム・クゥエルが禍々しい黒いオーラを放ちながらビームサーベルを振り上げていた。

 EXAMでもHADESでもない。そのオーラは、ジム・クゥエルとジムIIIどころかエリア一帯を覆い尽くしていく。

 

 

「ははーん、なるほど。不正ツールだな、これ」

 状況を見てカルミアは察した。

 

 戦闘禁止エリアでの戦闘、そして本来であればありえないガンプラの強化。

 なんらかの不正ツールでシステムに干渉しなければこんな真似は出来ない。

 

 

「それがどうした!!」

 カルミアのレッドウルフに襲い掛かるジムIII。両腕でサーベルを構えるも、レッドウルフの両腕は斬り飛ばされてしまう。

 

 出力が違い過ぎるのだ。

 しかし、カルミアは不敵に笑う。

 

 

「やれ! サトウ!!」

「隠し腕だと!?」

 切り飛ばされた腕の中と、股関節から隠し腕を展開したレッドウルフはジムIIIを四本の腕で捕まえた。

 そして、遅れて機体を呼び出したサトウのヤクトドーガがビームサーベルでジムIIIのコックピットを貫く。

 

 

「この野───何!?」

 それを見て怒りを露わにするジム・クゥエルのパイロットだが、突然背後から何かに掴まれて機体が動かなくなった。

 

「切り飛ばされた腕が丁度そっちにいったもんでな」

 ジム・クゥエルを捕まえたのは、レッドウルフのビームハンドである。

 動きの止まったジム・クゥエルに、セイヤのハイパービームサーベルが向けられた。

 

 

「この……!?」

「GBNは色んな人が楽しむ場所だ。それを否定する奴は、ここに居る権利はない! 消えろ!!」

「クソがぁぁあああ!!」

 コックピットを貫くハイパービームサーベル。

 

 二機のジムが撃墜されて消失するが、半壊した村が元に戻ったりミッションクリアとアナウンスがなる事もない。

 やはり、これはミッションでもなんでもなかったようである。しかし、現に戦闘禁止エリアでの戦闘があり、彼等に助けを求めた少女が消える訳でもなかった。

 

 

「ど、どうなってるんですかね……これ」

「分からん。とりあえず運営に報告って感じで良いんじゃないの?」

 首を傾げるサトウとカルミア。

 

 そんな二人の視線の先では、少女が一人泣き崩れている。

 

 

「私の村が……」

「大丈夫か?」

 セイヤはそんな少女に寄り添って、肩を揺すった。

 

 この世界を不思議に思う。

 NPDだと分かっているのに、少女からは温もりを感じたのだ。

 

 

「私、もう帰る場所が……」

「どーするよ、シャッチョサン」

 そんな二人をみかねて、カルミアは頭を掻きながらセイヤに声を掛ける。彼は少し考えて、こう口を開いた。

 

「ひとまず、俺達のフォースネストに来るか?」

「ふぉーすねすと……?」

 セイヤの言葉に首を傾げる少女。カルミアは「それ大丈夫なのか……?」と表情を引き攣らせる。

 

 

 フォースネストとは、各フォースが所有出来る基地のような物だ。

 土地や規模もそれぞれで、マイハウスのような意味合いも強い。

 

 そんな彼等のホームに、このバグの塊のような物を関わらせて良いのだろうか。カルミアとサトウは首を傾げる。

 

 

「困ってるんだ、助けてやらなきゃな。NPDだとしても、俺達の大好きなGBNの仲間だ」

「……ま、それもそうね」

 元々セイヤは面倒見が良い人間だった。事故を起こしたサトウを元気付けていたのもそうだし、会社の仲間にも普段から優しい。

 

 彼は少女に手を伸ばして、こう口を開く。

 

 

「俺はセイヤ。フォース『ザ・レッド』のリーダーだ。君の名前は?」

「……レイア、です」

 それが彼女───レイアとの出会いだった。



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消えた命

 ELダイバー。

 

 

 フォース『ビルドダイバーズ』のサラをはじめとして、GBNでは稀に個を持つ電子生命体が誕生するという噂があった。

 彼等は第二次有志連合戦以降、運営やビルドダイバーズの功績で培った技術により保護され守られてきている。

 

 勿論、サラ以前にもELダイバーが誕生していた筈だ。

 しかし、公式としてはその事実があったとしても───認めたくない物だろう。

 

 

 彼等は救われなかったのだから。

 

 

 

「そのレイアって子は、ELダイバーだったって事か?」

「多分違う。話に聞くELダイバーや、今日居たサラちゃんってこを見る限り、レイアとは少し違った。……いや、本質は同じような物だったのかもしれないけどな」

 タケシの質問にカルミアはそう答えた。

 

 

「レイアはゲーム内のデータではただのNPDだった。あの頃のログを俺達は何度か確認してるけど、どう考えてもそうは思えないが……俺達はNPDと会話をしていたとしか記録されてない」

 その頃は何かのバグか何かだと、彼等は思っていたとカルミアは言う。

 

 

「……そのレイアっていうNPDが、この写真に写っていた女の子なんですね」

 唐突にそう口を開いたのは、神妙そうな面持ちのナオコだった。

 

 彼女の手には、一枚の写真が握られている。

 その写真には赤い髪の女の子と、青年が一人写っていた。

 

 

「その写真……」

 ケイスケ達はその写真に見覚えがある。

 

 ニャムが彼等と仲間になった時、この写真に写っている男を探していると言っていたのを思い出した。

 

 

 

「……そゆことよ。ニャムちゃんの探してるお兄さん、それこそが俺達のリーダー。あのフォースアンチレッドのセイヤだ」

 その事実にケイスケ達は頭を抱える。大切な仲間が探していた家族が、あのフォースアンチレッドのリーダーだったのだから。

 

「ちょっと待て。……その写真の赤い髪の女の子はさ、この前フォースフェスで見かけた時はただのNPDだった。何があったって言うんだよ」

 目を細めてそう問い掛けるタケシ。カルミアは、彼の質問にこう話を続けた。

 

 

「レイアと出会ってから半年。……セイヤがGBNに復讐を誓った時の事を話そうか」

 重々しい雰囲気で、彼は話し始める。それは五年前、彼らが彼女と出会い二ヶ月が経とうとしていた時の事───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 セイヤ達がレイアと出会い、二ヶ月が経とうとしていた。

 

 

 彼女の存在は何かのバグで、いつか唐突に消える物だと───そんな単純な気持ちで片付けられる程の時間を一緒に過ごした訳ではない。

 

「皆ー! こっちこっち!」

「おい待てってレイア!」

 初めはフォースネストに置いておける、珍しい置物感覚だったのは事実である。

 

 

 だけど、彼女からは普通のNPDからは感じられない暖かさがあった。

 

 

「セイヤのがんぷらは凄いね。こんな所まで追いかけて来れるんだもん」

「対人レーダーが付いてるからな……って話じゃなくて、勝手に何処かに行こうとするなよ。皆が心配するだろ」

「あっはは、ごめんごめん」

 吹き出すような笑顔を見るたびに、彼女がNPDである事を忘れそうになる。

 

「あのなぁ、本気で言ってるんだぞ」

 いや、彼等にとってそんな事はどうでも良かったのかもしれない。

 

 

「大丈夫だよ、セイヤ。私は何処にも行ったりしない。私にはもう、セイヤ達の家にしか居場所はないから」

「レイア……。大丈夫だ。俺が、俺達がお前を守ってやるから」

 NPDとしての彼女の居場所───すなわち、観光エリアは不正ツールを使ったプレイヤーに破壊されてしまった。

 

 その観光エリアそのものは運営によって元通りに修復されたが、その時点でセイヤ達はおかしい事に気が付く。

 エリアそのものは完全に元通りになっていた。そこにいたNPD達も一新され───レイアと同じ姿のNPDがそこに立っていたのである。

 

 

 彼女はそれが怖くて、あのエリアに戻る事を拒んだ。

 

 NPDが自分の意思でセイヤ達といる事を望んだのである。

 

 

「そもそもアレ、何だったのかねぇ」

「アレって、不正ツールを使っていたダイバーの事ですか?」

 カルミアがそう呟いて、サトウは首を傾げながら頭の中にあの時の光景を思い浮かべた。

 

 戦闘禁止エリアでの戦闘すら可能にする不正ツール。そのバグに巻き込まれたNPDのレイア。

 

 

 初めの内はそうやって気になってはいたが、レイアが自分達の中で大切な存在になっていくにつれて彼等の中で彼女の事を詮索する者は居なくなる。

 

 彼女が消えるのが、怖かったから。

 

 

 

「なんだなんだ? 何の騒ぎだ」

 ある日の事。

 

 フォースネストの外で、MS二機が起動する光景にカルミアは口を開いたまま首を傾げていた。

 近くにいたレイアの肩を叩いて、彼は状況の説明を求める。

 

 

「えーと、ウエダ君がね。私とでーと? をしたいって言ったの。よく分からないけど、そうしたらセイヤが怒って」

「うわ、なにそれ青春?」

 レイアから受けた説明にカルミアは表情を引き攣らせた。

 

 フォース、ザ・レッドのメンバーの一人であるウエダというダイバーがどうやらレイアに詰め寄ったらしい。

 セイヤの気持ちをカルミアは知らないが、現状を見る限り答えは一つである。

 

 

「青春だねぇ……。まぁ、良いんじゃない?」

「良いの?」

「良いの良いの」

 何も知らなそうなレイアを見て溜め息を吐くが、彼は二人のガンプラが構えた所で視線をその先に戻した。

 

 

 セイヤのZZと対峙するのは、ウエダのゲドラフである。

 彼等ザ・レッドの機体は全てが赤く塗装されているか元々赤い機体だ。

 

 赤く塗装されて、かつ改修も入れられているウエダのゲドラフが先に動く。

 

 

「リーダーばっかりレイアちゃんとイチャイチャしてずるいっすよ!」

「い、イチャイチャなんてしてねぇ!!」

「思ったよりも小っ恥ずかしいことしてるなぁ……」

 二人の言い合いを聞きながら顔を赤くするカルミア。しかし、戦いが進むにつれて辺りでおかしな事が起き始めた。

 

 

「……なんだ?」

 まるで空間がひび割れているかのような、視界が歪んでそこに別の空間が見える。

 目の前に宇宙が現れたかと思えば、すぐにその光景は消えて別の場所で空間が割れた。

 

 

「バグ……?」

 思い出したのはやはり、不正ツールを使って戦闘禁止エリアでバトルをしていたダイバー達の事。

 しかし当たり前だがセイヤもウエダもそんな物は使っていない。

 

 この場でバグの要因になるような物なんて、一つだけである。

 

 

「……レイア」

「……な、なんだろうこれ。私、どうしちゃったの?」

 不安そうな表情。

 

 彼女の身体は所々ノイズが走り、今にも消えそうで───

 

 

「───レイア!!」

 それに気が付いたセイヤは、バトルを途中でやめて彼女に飛び掛かる勢いで抱き着いた。

 

 それを見て文句を言うウエダでもない。

 誰もが二人を見守ろうと視線を向けている。

 

 

「大丈夫か!!」

「え……あ、うん。あれ? 元通りになってる……」

 しかしセイヤがバトルを辞めた途端、異変は消えていた。安堵するセイヤだが、カルミアは怪訝な表情を見せる。

 

 安心していい問題ではない。

 

 

 そもそも初めから分かっていたのだ。

 

 

 彼女の存在そのものがおかしい物だと。

 

 

 

 異変は続く。

 決まってそれは、彼女の近くでバトルをする時に起こった。

 

 時にはフォースバトルで相手のフォースを巻き込み、エリア一帯でバグが発生する事態にまで起こってしまう。

 

 

 

 こうなれば、運営の対応は早かった。

 

 

 

「待ってくれ! レイアは普通のNPDなんかじゃない。ちゃんと感情があって……俺達の仲間なんだ!」

「そうです。普通のNPDではない。だから、危険なのですよ」

 運営の一人が彼等に接触し、レイアを明け渡すように通告してくる。

 

 彼女はバグを大きく抱え込んだNPDだ。

 バグごと彼女を削除しなければ、GBNそのものに大きなバグを発生させかねない。

 

 

 それは、一年前の第二次有志連合戦の発端ともなったサラと同じ理屈である。

 

 

 

 それは正しい事だ。

 

 

 

 レイアとサラに、大きな違いはなかったのだろう。

 

 

 

 GBNで動くガンプラは、ビルダーが作り上げたガンプラをほぼ完璧にスキャンし、データとして転送した姿として構築されるものだ。

 ほぼ───とは、その際百万分の一程の余剰データが生まれる事が確認されている為である。

 

 

 そして、その余剰データが蓄積され生まれたのがサラ達───ELダイバーと呼ばれる電子生命体だ。

 レイアという存在はその亜種ともいえる存在だったのかもしれない。

 

 否、GBNのNPDへ宿った余剰データの集まりであるバグとして彼女達を見るのなら───レイアのような存在がELダイバーの先祖だという考えも出来る。

 

 

 

 彼女達に大きな違いはなかった筈だ。

 

 

 

 第二次有志連合戦。

 サラが救われた理由は、きっと思いの力。それは殆ど奇跡だと言っていい。

 

 その影に隠れ、救われなかったELダイバーの命やレイアのような存在がいたとしてもなにもおかしくない話だろう。

 

 

「このNPDのデータを削除しろ」

「ごめんね、セイヤ」

「離せ、離せよ! 離せぇ!! レイアぁ!!」

 彼等は救えなかった。

 

 

「辞めろぉぉおおお!!!!」

 俺達は救えなかったと、カルミアはそう言って話を終える。

 

 

 

 消えたデータは戻ることは無い。

 同じ姿のNPDを見付けたとしても、そこにレイアがいる訳ではないのだ。

 

 彼女は死んだも同じ。

 セイヤはGBNにレイアを殺されたと、この世界を恨むようになり───復讐に囚われる。

 

 

 そうして同じくガンプラを、ガンダムを、GBNを恨む者達を集めてGBNへの復讐を始めたのだ。

 

 

 

 これが、キムラ・セイヤという男が辿った道である。




この作品のプロットを立てている時はまだビルドダイバーズre:RISEでイヴの事が不明瞭だったので、まさかあんなことになっていようとは思ってなかったんですよ(言い訳)。それでも上手く組み込んでいきます。

読了ありがとうございました。次回もお楽しみに。


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再会

 アンジェリカは号泣していた。

 

 

「うぇぇぇええええん!!! あんまりですわ!!! GBNの運営、許すまじですわよ!!! うぇぇええええ!!!」

「……アンジェ、落ち着いて」

 カルミアからセイヤの復讐の意図を聞いて号泣するアンジェリカを宥めるリン。

 

 彼女程ではないにしろ、その話を聞いた者は同様に同情の表情を隠さないでいる。───たった一人を除いて。

 

 

「───私、正直な所殆ど意味が分からなくて理解出来てないからかもしれませんが」

 そう言いながら立ち上がるヒメカ。

 

 彼女にとってはGBNもELダイバーもレイアやセイヤの事もよく分からない事だ。

 でもだからこそ、言える事がある。

 

 

「確かにそのセイヤという人は、同情するに値する人だと思います。……だけど、だからといってお姉ちゃんや関係ない人を傷付けて良い訳じゃない。その人がやってるのは意味のない八つ当たりです」

「ちょ、ヒメカ───」

「いんや、ヒメカちゃんの言う通りだよ」

 遠慮のない言葉選びに彼女を止めようとするユメカだったが、それをカルミアは制してヒメカの言葉を肯定した。

 

 

 彼女の言っている通り、セイヤのやっている事は殆ど八つ当たりのようなものだということはカルミアだって分かっている。自分自身がそうだったのだから。

 

 

「セイヤ───いや、俺達の目的はGBNから人を遠ざけてGBNのサービスそのものを出来なくする事だった。それがレイアを奪われた俺達の復讐だ。……初めは曖昧だったそんな目的が、今じゃ人が集まり過ぎてもっと大きくなっちまった」

「どういう事ですか?」

「レイアの事だけじゃない。他にもガンプラやGBNに恨みを持つ奴が集まって、しまいにはガンダムっていう作品コンテンツへの復讐に切り替わっちまったって事よ」

 ナオコの質問にそう答えるカルミア。

 

 

 その中で集まった仲間の一人が、アオトだという事だった。

 

 

「次第にあの組織は俺の知らない所まで広がってた。……こんなの後出しの言い訳に過ぎないが、おじさんは君らと関わってそれが間違ってると気付けた訳よ」

 そこからの事は分からない、と彼は続ける。

 

 アンドウのダイバーギアや火事の件も、カルミアは知らなかった。

 ただ間違いなく言える事は、今のセイヤはそういう事もするという事だけである。

 

 

「……兄さん」

 その話を聞いて一番ショックを受けたのは当然ナオコだった。

 

 関係ない人を苦しめたあのフォースアンチレッドのリーダーが自分の兄だった事。

 そしてその過去と、今の彼にどう向き合えば良いのか分からなくなる。

 

 

 

「俺達がする事は変わらない」

 沈黙を破ったのはケイスケのそんな言葉だった。

 

 

「カルミアさんのおかげで雲を掴むような話だった雲が形になってきたと思う。元々俺達の目的は、アオトとニャムさんのお兄さんを探す事だっただろ?」

「そりゃ、そうだな」

 ケイスケの言葉に賛同するタケシ。

 

 彼のいう通り。

 初めから彼等の目的は二人を探し出す事である。

 

 アンチレッドの目的なんて関係ない。

 探していた大切な人が、すぐそこにいるのだ。

 

 

「確かにヒメカちゃんのいう通り、ニャムさんのお兄さんは褒められたような人じゃない。だけど、セイヤさんだって俺達と同じで大切な人がいただけなんだ。……だったら、俺達の目的は変わらない。二人を探して、話をする。それで良いだろ?」

「そう、だね。そうだよ、ケー君」

 アオトを連れ戻す。ニャムの兄を見付ける。

 

 彼らに取ってはただそれだけの事なのだ。これまでと何も変わらない。

 

 

 

「ま、そうですわね。私も彼にはガツンと言いたいだけですわ」

「僕も、慰謝料請求したいだけだしね。あとは、本気のバトルがしたいかな」

 アンジェリカとアンドウも口を揃える。

 

 

 

 大きな陰謀に立ち向かうとか、悪を打ち倒すとか、そういう話ではないのだ。

 

 

「俺達はただ、大切な何かをかけて喧嘩する。それだけだ」

 言いたい事を言ってやれば良い。

 

 

「……皆、セイヤを助けてくれ」

「私からも、お願いします」

 カルミアとナオコはセイヤを、ケイスケとタケシとユメカはアオトを取り戻す。ただそれだけの話だ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 食事を終え、各自お土産を買ってからアンドウ達と別れて少し。

 

 ナオコが取ったホテルに戻る為に駐車場に集まる面々だが、ケイスケがトイレに向かったので彼を待ってるのだが───トイレにしては少し長い。

 

 

「ケー君大丈夫かな? 私見てくる」

「いやお前が行くなよ俺が行く」

 男子トイレに向かおうとするユメカを止めて、タケシは気怠そうな表情で建物の中に向かう。トイレしかない場所だからか、人気はない。

 

 確か入って直ぐ右のトイレに───と、タケシが視線を上げたその時だった。

 

 

「───どうしてだよアオト!!」

 そんなケイスケの声が聞こえる。

 

 

「アオトだぁ!?」

 ありえない声に驚きつつも、タケシは早足に声のする場所へ向かった。そこでは───

 

 

「……俺はセイヤさんに着いていくって決めたんだ。お前達の所には戻らない」

 ───肩を掴むケイスケの手を払う、幼馴染みのアオトの姿が視界に映る。

 

 

 五年間。

 短くない時間だ。それなりに姿も雰囲気も違う。

 

 だけどそれは、間違いなくアオトだった。

 

 

「アオト……なのか」

「……タケシか」

 いつもなら「ロックだ」と、そんな言葉が漏れている。

 

 だけど、タケシはただ震える手を伸ばす事しか出来なかった。

 

 

「お前……ケイスケやユメカがどんな気持ちで───」

「うるさいな」

「はぁ!?」

 タケシの言葉を一蹴するアオトに、彼は眉間に皺を寄せて「テメェ」と怒りを漏らす。

 そのままタケシはケイスケを跳ね除ける勢いでアオトに掴みかかった。

 

「ふざけてんのも大概にしろよ!! 誰のせいでユメカがあんな事になっちまったと思って───」

「おいやめろタケシ!!」

 言ってからタケシも、余計な事を言ったとアオトから視線を晒す。

 

 

「……そうだよ、俺のせいだ」

「いや、その……違う。そういう意味じゃねぇよ」

 タケシだって、誰も悪くないなんて事は分かったいた。それはケイスケも同じだろう。

 

 だけど、ユメカかが一番辛かった時に居なくなったアオトと、そんな中で何も出来なかった自分が───タケシは許せなかったのだ。

 

 

「なんで居なくなっちまったんだよ。……俺は、俺はユメカに何も出来なかった。お前が居たら、なんてのは言い訳だけどさ。あの時一番辛かったのはお前じゃなくてユメカだったろ!! 俺達が逃げてどうすんだよ!! 俺はな、もう逃げないって決めたんだ。だからお前も───」

「何も分かってない奴がゴタゴタとうるさいって言ってるんだよ!!」

 アオトはそう言ってタケシを突き飛ばす。

 

「あ、アオト……?」

 タケシもケイスケも彼のそんな行動に黙り込むしかなかった。

 

 

 あの優しかったアオトが、どうして。

 

 

「俺は、お前達の事も親父の事もガンプラの事も……ユメカの事だって嫌いなんだよ!!」

「アオト……」

 彼の言葉にケイスケは絶句する。

 

 信じられなかった。信じたくなかった。

 

 

「だから俺はGBNを壊す。……もう俺に関わるな」

「ま、待て! アオト!」

 そうとだけ言ってアオトはその場を立ち去る。二人はそんな彼を追いかける事が出来ない。

 

 拒絶された事に、何も言い返せなかった。

 

 

 アオトに会って、話しさえすれば、元の生活が戻ってくる。

 そう信じていた二人にとって、アオトの言葉は強く心に突き刺さったのだ。

 

 

「……ケイスケ、なんでアオトがここに?」

「トイレに行こうとしたら、そこにいて。それで話し掛けたんだ。戻って来いって。お父さんも心配してるし、もう皆立ち直ったから。後はお前だけだって」

 しかし、アオトの返事は───

 

 

「……分かった。ユメカ達が心配してる。帰ろうぜ」

 立ち上がってそう言うタケシに、ケイスケは無言で頷く。

 

 

「この事はユメカには……」

「言える訳ねーだろ。……何が、ユメカの事だって嫌いだよ。ふざけんなよあの野郎」

 強く拳を握るタケシ。ケイスケも思う事はあったが、未だにアオトの言葉が信じられなかった。

 

 だってそうだろう。

 アオトは優しくて、ガンプラが好きで、皆の事も好きで、ユメカの事が大好きだった筈なのだから。

 

 

「……俺、どうしたら良いんだろうな」

「……さぁ、な」

 駐車場に戻る二人の足取りは錘を付けたように重かった。

 

 

 

 

 

「───アオト、なのか? やっと……やっと会えたな」

「ケイスケ……」

「戻って来いアオト。お前のお父さんから話は開いてるだろ? ユメカもガンプラバトルを始めたんだ。なんならアイツ、今日俺に勝ったんだぞ」

「俺は戻らない」

「は? なんで……」

「言っただろ、ケイスケ。……俺が恨んでるのは、お前だってな。GBNが父さんやユメカから何もかも奪った、お前が俺から、何もかも奪った。俺はお前とはいかない」

 ───どうしてだよ、アオト。

 

 

 

 

 俺達はただ、あの頃に戻りたいだけなのに。




話数が増え過ぎた為章管理である程度まとめてみました。章タイトルは適当です。


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ガンダム名言カルタ

 あまりにも悪い目付きに睨まれる。

 

 

「「か、可愛いぃぃ」」

「なんて愛くるしいんですの!?」

「……こっちおいで」

 しかし、女子陣はそろってその目付きの悪い()に熱い眼差しを送っていた。

 

 

「あれ、可愛い? おじさんにはヤクザの顔に見えるんだけど」

「女は分からん」

 首を傾げるカルミアに、メガネを曇らせるトウドウ。

 

 

 アンドウ達と別れホテルに辿り着いたReBondとメフィストフェレスの一行は、預けていたナオコのペットを迎えてチェックインの真っ最中である。

 

 

「ヤザンさんの面倒見てもらってすみません。チェックインが済んだので、女子部屋と男子部屋がもう使えますよ」

「名前がヤザンだよ」

「名前からヤクザだよ」

 半目のレフトとライトを尻目に猫を愛でる女子達。

 

 そんな盛り上がりの側で、ケイスケとタケシだけが静かなのがサキヤは気になっていた。

 

 

「お前ら、トイレで何かあったのか?」

 男子部屋に集まって、荷物を下ろしてからサキヤは二人に話し掛ける。

 

 そんな彼の言葉に、カラオや他の男性陣も二人に視線を向けた。

 

 

「これは、ユメカには言わないで欲しいんだけど───」

 ケイスケはアオトに会った事をサキヤ達に話す。話を聞いたサキヤは、頭を抱えて「そうか」と漏らした。

 

 

「……アオト君の事は俺も知ってる。ただ、店長さんにも話した通りセイヤが個人的に話し掛けて引き入れたって事以外俺は何も知らないのよ。悪いね」

「どうしてその人はケイスケ君の事を恨んでるのかな?」

「どうしてその人はケイスケ君の言葉に耳を傾けてくれないのかな?」

 俺はお前を恨んでいる。彼はそう言っていた。

 

 

 ユメカがこんな事になった原因に自分も入ってる事は分かっている。だけど、それはアオトも同じ筈だ。

 誰も悪くないし、誰もが悪い。だけど、アオトはケイスケが許せないらしい。

 

 

「……分からない」

「分からないから聞き出せば良い。答えないなら、殴り合うまでだ」

 そんな言葉を漏らしたのは、意外にもトウドウである。冷静沈着という言葉が似合う彼からは想像も出来ない言葉に、彼の仲間である三人も驚きを隠せない。

 

「な、殴り合うって」

「勿論、ガンプラでな」

 トウドウは傾いた眼鏡を直しながらそう続けた。

 

 

「彼がまがいなりにもGBNにログインするダイバーなら、同じくダイバーとしてGBNという土俵で戦う事が出来るだろう」

「同じダイバーとして」

 彼の言う通り。アオトの目的はともかく、彼はGBNをプレイしている。

 ならば殴り合って、語り合う事だって可能だ。

 

 

「……俺はリンが、スズが痛めつけられている時に何も出来なかった。勿論、俺が奴と同じ土俵に立っていたら何かが出来たとは言えない。……だがな、見ているだけで何も出来なかったなんて事ほど悔しいものはないぞ」

「トウドウ……」

 手を握りしめるサキヤ。レフトやライトも、あの時手の届く位置に彼女が居たのに救う事は出来なかったのが悔しかったのだろう。

 

 だけど彼は、何かをする事すら出来なかったのだから。

 

 

「アオトと殴り合う、か。……ありがとう、トウドウさん」

「俺は言いたい事を言っただけだ」

 そっぽを向く彼を見て、笑顔を見せるサキヤ。仲間の意外な一面を見れて、なんだか嬉しかった。

 

 

「悔しい、か。……あのセイヤって奴も、同じ気持ちだったのかもな」

 ふと、カラオから聞いた話を思い出してタケシがそう呟く。

 

 大切だった仲間の命を奪われるなんて、自分には想像も出来ない。アオトはまだ取り返せる所にいるが、彼の場合は───

 

 

「それも、殴り合うしかないんだろうな」

 サキヤはトウドウを横目で見ながらそう呟いた。トウドウは彼を睨んで溜息を吐く。

 

 

 

「辛気臭い話はこのくらいにして、おじさんちょっと提案があるんだけど」

 そんな話の流れを断ち切るように、カラオは自分のカバンを漁りながらそう言った。

 不敵に笑う彼は「せっかくのオフ会。このままむさ苦しい野郎共で辛気臭い話だけして終わるのはもったいないでしょ。せっかく女の子もいるのよ?」と部屋の扉に手を掛ける。

 

 

「まさか恒例イベント、覗きか! おっさん、その歳で高校生みたいな発想を───」

「ガンダム名言カルタ買ってきたから女子共も誘ってやろうじゃないの!!」

「小学生のノリかよ!!」

 タケシのツッコミにカラオは「皆で集まるなら絶対やりたいと思ってたのよね!」と目を輝かせた。タケシの言う通り完全に小学生のノリである。

 

「なんか、おじさんは色々話したらスッキリした訳よ。今は遊びたい気分───グハッ」

「ガンダム名言カルタを買ってきたので皆さんでやりますわよぉぉ!!」

 言いかけたカラオを扉を開いて突然吹っ飛ばしたのは、カルミアの手の中にある物と同じ物を持ったアンジェリカだった。

 

 

 完全に同じノリである。

 

 

「……あら、失礼あそばせ」

「……痛い」

「あはは、全く同じ考えの人が居たようですね」

 カルミアを吹っ飛ばした事に気が付いて口を押さえるアンジェリカと、苦笑いしながら飼い猫のヤザンを抱えて部屋に入ってくるナオコ。

 その他女子陣も寝巻きに着替えて次々に男子部屋に集まってきた。

 

 

「まだまだオフ会は終わってませんわよ!」

「けど、ユメカやヒメカはガンダム名言カルタなんて難しいんじゃないか?」

 ケイスケの言う通りで、ユメカはともかくヒメカが知っているガンダム作品といえばUCくらいのものである。

 それも一同見ただけで、ハンデはとても大きい。

 

 

「私、百人一首は得意です」

「いやそういう事じゃなくね?」

「それでも楽しめるように、今回はチーム戦にした上で罰ゲームもありという事にしました」

 タケシのツッコミを他所に、ナオコはそう言って大きな机の上にカルタを並べ始めた。

 

 

 ルールとチームは───

 

 

「ガンダム名言カルタ。初代から鉄血まで、ありとあらゆるガンダム作品の名言が綴られたとても素晴らしいカルタっすよ! あ、読み上げはジブンがやるっす! むしろやらして下さい!」

 少々興奮気味にGBNでの顔が出ているナオコのルール説明でゲームはスタートする。

 

「待って待って、チームでやるんだよね? 人が足りなくない?」

「待って待って、チームでやるならメンバーが偶数じゃないと」

 しかし、レフトとライトの言う通り。

 

 

 今ここに居るメンバーはReBondの五人とヒメカ、そしてメフィストフェレスの六人の合わせて十二人だ。

 そこでナオコが抜けてしまうと、どう分けてもチーム人数に差が出来てしまう。

 

 そこでヒメカ達のハンデにするつもりなのかとも思われたが、ナオコの回答はこうだった。

 

 

「え? ヤザンさんが居るじゃないっすか」

「なんで猫もカウントされてんの?」

 そんな訳でチーム分け。

 

 

「今回は仲間だな」

「頑張ろうね、ケー君!」

 ケイスケ、ユメカチーム。

 

「行きますわよ!」

「俺様に任せな」

 アンジェリカ、タケシチーム。

 

「えーと、君は右か左かどっち」

「左だよ!」

 カラオ、レフトチーム。

 

「……負けない」

「頑張ろー!」

 リン、ライトチーム。

 

「足を引っ張るなよ」

「こちらの台詞だな」

 サキヤ、トウドウチーム。

 

「うん」

「……ニャンゴ」

 ヒメカ、ヤザンチーム。

 

 

「いやそりゃねーだろ!?」

 すかさずツッコミを入れるタケシを他所に、ナオコはカルタを読む準備をし始める。

 

 

「そうですわ! 私もヤザンさんとチームが良かったですわよ」

「いやそっち!?」

 違う、そうじゃない。

 

 机の上に並べられたカルタは、台詞の頭文字と共に名シーンのイラストが描かれている物だ。

 ガンダムが好きな彼らにとって、そうでない少女一人と猫一匹なんて敵にもならないだろう。これではヒメカが楽しめない。

 

 

「だから、私は百人一首得意なので。……お兄さん達こそ、私に勝つつもりでいるんですか?」

「煽るの!? ここに来てどこからその自信が湧いてくるんだお前。良いぜ、そこまで言うならコテンパンにしてやるよ!!」

 大人気ないタケシの発言に続くように、ナオコは「それじゃ始めるっすよ!」と高いテンションで声を上げた。

 

 シャッフルした読み上げカードを手に、彼女は一度咳払いしてから手に取った台詞を読んでいく。

 

 

「あれは呪いじゃなくて、祈りだ───」

「はい」

 感情を込めて台詞を読むナオコの目の前で、机を叩く音が弾けた。風を切るような音と共にその手を挙げたのは、ヒメカである。

 

 

「「「えぇぇえええ!?」」」

「ジブンもうちょっと喋りたかったっすよ!?」

「……だから言ったじゃないですか。私、百人一首は得意だって」

 得意げな表情でカルタを自分の手元に置くヒメカ。これは負けていられないと、大人気ない年上達は真剣に机の上のカルタに視線を移した。

 

 ナオコも、感心した様子で台詞を選ぶ。

 

 

「次! お前もその仲間に入れてや───」

「ニャーン!」

「は?」

 次にカルタを弾いたのは、猫のヤザンだった。

 

 

「なんで!?」

「ヤザンの台詞だからか!?」

 しかも、ちゃんと猫のヤザンが弾いたカルタはナオコが読み上げた台詞のカルタであっている。

 これでヒメカとヤザンチームが二ポイント先取。続く台詞も、カミーユ・ビダンの台詞だったがヤザンが勝ち取り三ポイント。

 

 

「ヤザンさんはジブンのネコっすからね。このくらい当然っすよ」

「ヤザンさん凄いね」

「ゴロニャ」

 笑顔でヤザンの顔を撫でるヒメカ。タケシ達は口を揃えて「そんなバカな……」と固まってしまった。

 

 

「あ、言い忘れてましたけど一位以外のチームは罰ゲーム用意してあるので頑張って下さいっすね」

「それを初めに言おうよ!?」

「……おじさん本気出しちゃおっと」

 もうこの時点で手加減や大人気ないなんて言葉は誰の頭の中からも消え去る。

 このゲーム勝つのみ。闘志に燃える瞳が机の上に集中した。

 

 

 そこからは白熱。

 ガンダムを殆ど知らない女の子とネコに負ける訳にはいかないと、他のチームも本気でカルタに取り組み始める。

 

 熱が入り、名シーン名場面を思い出して泣いたり語ったり。そんな楽しい時間が流れたのであった。

 

 

 

「勝者、ヒメカちゃんとヤザンさんチームっす!」

 序盤のリードもあってか、優勝はこの二人に決まる。

 しかし、誰が勝ってもおかしくない接戦で、ヒメカもいつのまにか汗をかくほど熱中していた。

 

「勝ったー! やったよヤザンさん! やったー!」

 珍しく年相応にはしゃぐ彼女を見て、ユメカやケイスケ達は罰ゲームの事も忘れて微笑む。

 

 着いてくると言った時はどうしようかとも思ったが、ヒメカも楽しんでくれた事がなによりも嬉しかった。

 

 

「……っ、べ、別に嬉しくなんかないです」

 微笑む年上達に気が付いてそっぽを向くヒメカ。そんな彼女に、ヤザンは横目を向けながら「ゴロニャァ」と欠伸をする。

 

 

「ヒメカ、今日は楽しかった?」

「お姉ちゃん……」

 姉のそんな質問に、ヒメカは恥ずかしくなって顔を赤く染めた。

 初めから楽しむ気なんてなくて、ただ姉が心配だっただけなのに。

 

 ガンプラも、ガンダムも全然知らないのに、誰かと何かをするという事だけでも彼女にとっては楽しい体験だったのだろう。

 

 

「お、顔面トランザム───ぐへぁっ!?」

「楽しかったよ。ありがとう、お姉ちゃん達」

 口を滑らせたタケシに金的を喰らわせながら、ヒメカはアンジェリカ達に向き直ってお辞儀をした。

 

「こちらこそ、楽しんで頂けてよかったです」

「ヒメカちゃん凄いんですのよ。バトルロイヤルではあの砂漠の犬の大将に一矢報いかけたんですから」

 皆がヒメカを囲んで今日の感想を話し始める。今日は楽しかった、それは何があっても全員同じ意見だった。

 

 

「あ、ドベのカルミア氏とライト君は罰ゲームでこのコスプレ来て近くのコンビニにお菓子とジュース買ってきて下さいっす!」

「ルナマリアとメイリン!? 普通にキツくない!?」

「待って! おじさんと組んで負けたのレフトだから! 僕じゃないから!!」

 盛り上がるオフ会の夜。どこからそんな用意をしてきたのか、結局罰ゲームと言いながら勝ったはずのヒメカもコスプレ大会に参加する事になる。

 

 

 

 そうして騒がしいまま、その日の夜が過ぎるのであった。




悲しいけどこれ戦争なのよね。

読了感謝です。


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これから

 朝日が登るのを見詰める少年の頬に、冷たい缶コーヒーが当てられた。

 

 

「寝てないんですか?」

 綺麗な黒い髪を風に靡かせながら、寝衣姿のナオコがケイスケの顔を覗き込む。

 

「いや、寝れなくて」

「お手洗いの時に何があったんです?」

「どうしてそれを……?」

「やっぱり何かあったんですね」

 してやったり。そんな事を言いそうな声で視線を逸らすナオコに、ケイスケは「かまかけか……」と頭を抱えた。

 

 

「……アオトに会ったんですよ」

「なんと」

 正直に答えたケイスケの言葉に、ナオコは驚いた表情で口を開けたり閉じたりする。

 彼女が聞きたかった事が分かったので、ケイスケは「お兄さんは居ませんでした」と短く続けた。

 

「……失礼。何かお話をしたんですか?」

「戻って来いって。……断られちゃいましたけど」

「これは自分語りで申し訳ないのですけど」

 ケイスケの返事を聞いたナオコは風に靡く黒髪を耳の後ろに流しながら、何処か遠くを見るように登ってくる太陽に視線を向ける。

 

「私も兄にはずっと無視されてます。連絡先を変えたのかどうか知りませんが、結局行方も分からないまま気が付いたらこんな事になってました。……セイラ・マスの気持ちってこんな感じだったんですかね?」

 ふふ、と笑うナオコに「笑う所ですか?」と表情を引き攣らせるケイスケ。

 

 

「場を和ませようかと」

「ニャムさんはその喋り方でもニャムさんですね」

 釣られて笑うケイスケは、すっかりした表情でこう続けた。

 

 

「結局俺達はガンプラビルダーで、ダイバーだから。GBNで決着を付けるしかない。……アオト達が何を考えてるのか、何を企んでるのか分からないけど。俺達にはガンプラを作る事とガンプラでバトルする事しか出来ないんだって、昨日男達で話してたんですよね」

「なるほど、確かにそうですね」

 ナオコはベランダに肘をついて、綺麗な顔に似合わない頬杖で不貞腐れるように溜息を吐く。

 

 

「……それで、アオト君に会ったのはユメちゃんに話したんですか?」

「……それは」

「ユメちゃんはキミが思っているより、強い女の子ですよ」

 そんなナオコの言葉に、ケイスケは昨日のバトルの事を思い出した。

 

 サラと自分と戦った彼女は本当に強かったし、聞く話によればあのスズとも一人で互角に渡り合ったという。

 彼女のいう通り、ユメカは自分が守ってあげなければいけない存在───なんて事はないのかもしれない。

 

 

「なんでもそうだけど、相手の強さなんて自分が思ってるのとは違うものよ」

 二人の会話を聞いていたのか、まだ眠そうなカラオが欠伸をしながらそう言って二人の間に入ってくる。

 

「二人だけで話すなんて狡いじゃない。おじさんも入れてよ。何々恋バナ?」

「どうしたら今のが恋バナになるんですか。聞いてたんですよね?」

 小さな声でツッコミを入れるケイスケの頭を叩きながら「ごめんごめん。冗談よ」と笑うカラオ。

 

 そんな彼は、ふとたまにする真剣な表情を見せて口を開いた。

 

 

「俺はセイヤの弱さに気が付かなかった。仲間失格だ。……そもそも、おじさんは自分の弱さにすら気が付かなかったんだけどね」

「……。……これから、どうしますか?」

 カラオの言葉から少し間を開けて、ナオコは俯きながらそう呟く。

 

 

 自分の兄が悪い事をしていた。今だって、GBNへの復讐を果たそうとしている。

 

 自分がするべき事はなんだろうか。これから自分達は何をするべきなのか。

 

 

「遊びましょう」

 そう言ったのは、部屋の中でベッドから起き上がろうと自分の身体を起こすユメカだった。

 

「ユメカ!? 起こしちゃったか?」

 ケイスケは直ぐに彼女の元に駆け寄って、その身体を起こすのを手伝う。

 自分だけで無理して座ろうとした彼女は少し辛そうだったが、上半身を起こすと近くに置いてあったプラモデルを持ち上げて大切そうに胸に抱いた。

 

 

「大丈夫、昨日楽しくてぐっすり寝れたから」

 笑顔でそう言ったユメカは、ケイスケの手を借りて車椅子に座る。

 そうしてからは自分で車椅子を動かしてベランダまで進んだ。しかし、車椅子ではベランダに出る事は出来ない。

 

 

「……今の私は、ここまでしか来れない。だけど、昨日また沢山の人と関わって、色んな人と色んな気持ちがぶつかって、分かったんだ。私はね、ガンプラが好き。ガンダムが好き。まだ全然ガンダムの事知らないけど、ガンダムと関わってる皆が好き。セイヤさんの事やアオト君の事だって」

 車輪を強く握る。どうやっても、その車輪はベランダには入らない。

 

「私、前に進みたい。もっとガンダムを知って、ガンプラを知って、GBNを知って、次セイヤさんやアオト君に会った時に何か出来るように!」

 今は届かなくても。

 

 

 だから彼女はこう言った。

 

 

 GBNを楽しもう。

 

 

「───そうだな」

 ケイスケはそう言って、彼女を背負った。

 

「俺達がユメカを連れて行く。……だから、一緒に行こう」

 そうして四人でベランダに集まって朝焼けを眺める。ゆっくりと頷くユメカを横目に、ケイスケは一度眼を閉じた。

 

 

「……アオトに会ったんだ」

「……そっか」

 小さく頷く。

 

 話すつもりはなかった。だけど、彼女は強い女の子だと知っている。

 

 

「戻って来いって言ったらさ、断られた。GBNも、俺の事も憎いって」

「……そっか」

 背負われたまま、ユメカは頷き続けた。

 

 

 今はそれしか出来ない。

 

 

 だけど、前に進むと決めたのだから、今は聞き続ける。

 

 

「俺はアイツと戦わなきゃな。……その時はユメカ、俺に力を貸して───いや、俺と一緒に戦ってくれ」

「うん」

 強く頷いた。

 

 

「アイツら、このまま何もしないなんて事はない筈だ。だけど、おじさんにも今後の事は分からない」

「私達はこれからの為に、前に進むしかないという訳ですね」

 カラオとナオコはそう言ってユメカの手を握る。

 

 一緒に頑張ろうと、円陣を組んでいるようだった。

 

 

「俺様を除け者にして何してんだお前らぁぁあああ!!!」

 そんなタケシの声で皆が起きてしまって、騒がしい日々が戻ってくるような気がする。

 

 

 これからの日々を進む為の日差しが登った気がした。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 滝のような涙を流して、アンジェリカは崩れ落ちる。

 

 

「嫌ですわぁぁあああ!! ヤザンさん、もっと私と一緒に!! そ、そうですわ!! ナオコさん、私の屋敷に住むなんてどうです!? ねぇ!! ヤザンさんと別れたくないんですのぉぉおおお!!」

 果てしない我儘をいう主を引き攣った表情で引きずるトウドウ。そんな彼の横で、ヒメカとユメカも名残惜しそうな表情をしていた。

 

「あはは、また来ますから。……飛行機の時間なので私が一番に解散とは辛いですけど、GBNでまた会えますし」

「ヤザンさぁぁぁああああん!!!」

「やかましい」

 昼過ぎ。

 

 早めの昼食だけを全員で済ませて、ナオコは飛行機で帰ることに。GBNで会えるとはいえ、丸一日一緒にいた友人と別れるというのは寂しいものである。

 

「ゴロニャ」

 猫の事は置いておいて。

 

 

「……っ、ニャムさん!」

 唐突に身体を持ち上げたユメカは、真剣な表情でナオコの目を真っ直ぐに見た。

 

「どうしました? ユメちゃん」

 そんな視線に、彼女は姿勢を落として同じ目線で答える。

 

 

「あの……えっと、その。ナオコさんって。今度からリアルではそう呼びます!」

「それでは、私はユメカちゃんと呼びせてもらいますね」

「それと!」

 グイグイくるユメカに驚いて目を見開くナオコ。本当に、彼女からどこか決意めいた感情を感じ始めていた。

 

 

「来週の週末、私とバトルしてください!」

「なんと」

 唐突な提案に驚くナオコ。

 

 これからもGBNを皆でプレイする。そんな漠然とした目標に、何かを付け足した彼女の言葉は不明瞭だった道を明るく照らす光のようだった。

 

 

「ユメカかも俺も、試したい事が沢山あって」

「なるほど。勿論、受けてたちますよ。この先も私は───ジブンはReBondの仲間っすから」

 そう言って手を振りながらその場を後にするナオコ。

 

 

 楽しかったオフ会も終わりだが、得た物も時間も何一つ無駄な物はなかっただろう。アオトに出会った事だって、きっと何か意味がある筈だ。

 

 

「さて、俺達も行くか」

「そうですわね。私達はまたいつでも会えますけど、とりあえずはお別れですわ」

「次会う時は敵か味方か。……また決着を付ける時があるかもしれない」

 サキヤ達も、ReBondの面々と向き合ってそう口にする。

 

 GBNの新しい仲間。新しい好敵手。こうして繋がって行く関係が、ユメカは好きだった。

 

 

「また遊ぼ!」

「またね!」

「……次は負けない」

 鋭い視線を向けてくるリンに、ユメカは拳を向けて「次こそ勝つよ」と答える。

 

 

「それでは一旦、ごきげんあそばせですわ!」

 そうして彼等のオフ会は幕を閉じた。

 

 

 沢山の大切な時間と、成長と未来を手に。

 

 

 

 

「……ケイスケ。タケシ、ユメカ。俺は───」

 再び、物語が動き出す。



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第八章──新しい機体【フォースネストとELダイバー】
新しい力


 ベッドに倒れ込む。

 

 

「───ま、間に合ったぁ」

 深い溜息を吐きながら、少年───ケイスケは回収したガンプラを持ち上げた。

 

「ケー君、大丈夫?」

「大丈夫。正直ギリギリだし、色々他にもしたかったけどとりあえず完成だ。……ユメカ」

 ケイスケは立ち上がって、車椅子に乗った少女に手に持っていたガンプラともう一つ───机の上にあった紙袋を手渡す。

 少女───ユメカは首を傾げて「これは?」とケイスケの顔を覗き込んだ。

 

 

「開けてみてくれ」

 彼のいう通りに紙袋を開けて、中に入っていたケースを取り出すユメ。

 そのケースの中には、見覚えのあるネックレスが入っている。

 

「……これ」

「えーと、プレゼント。オフ会の時にさ、お土産売り場に売ってたんだ。GBNでも気に入ってたようだから、どうかなって」

 それはユメカがGBNで付けている複翼機のアクセサリーと同じ物で、ガンダムUCのリディがお守りにしていた物だ。

 

 ユメカがGBNで初めてチャレンジしたミッション。その報酬でプレゼントされたアクセサリー。

 

 

 現実でも同じ物をプレゼントされて、ユメカは大事そうにガンプラとネックレスを抱き抱える。

 

 

 

「その機体と一緒に、ユメカの力になったら良いなって」

「うん。うんうん。……ありがとう、ケー君」

 日の光よりも眩しい笑顔に満足気なケイスケは、一度大きく息を吸いながら目を閉じた。

 

 

「行こう、GBNに」

「うん!」

 二人は並んでダイバーギアを起動する。無意識に手が伸びるユメカの胸元には、複翼機のアクセサリー。

 

 二人はGBNの世界へと飛び立った。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 不貞腐れた表情で、カルミアは頬杖着いて溜息を吐く。

 

 

 観戦エリア。

 今から始まるバトルを見るのは、彼一人だ。

 

「おじさんだけ仲間外れにしなくても良いじゃないの」

 そう口を漏らしながら、カルミアはついさっきの事を思い出す。

 

 

「まさか一週間ログインしてこないなんて思いませんでしたっすよ」

「すみません、やりたい事が多くて。でも、もう完成したんで」

「完成というと……。もしかして新しいガンプラっすか?」

 オフ会から一週間後の週末。この一週間ケイとユメはGBNにログインしてこなかった。

 その間は、ロックと他二人でミッションをこなすなりなんなりとしていたらしい。

 

「はい。だから、さっそくバトルしてみたくて」

 身を乗り出してそう言うユメ。早く機体に乗りたいのか、ウズウズしてバタバタと足踏みをしている。

 

 

「と、なるとチーム分けはユメちゃんとケイ殿が一緒の方が良いっすよね」

「相手どうする? 流石に三対二はなしだろ」

「ジャンケンしよ、ジャンケン」

 ロックの言葉に意気揚々と腕を鳴らしながらジャンケンを提案するカルミア。

 

 

 結果はこの通り。

 

 

「あっち向いてホイにしておけば良かったわ」

 大人気ない言葉を吐きながらも、カルミアはこれから観るバトルを楽しみにモニターに視線を映した。

 

「これは───」

 バトルが始まる。

 

 

 

「今回はキュリオスか、ニャムさん」

「前回ロック氏と組んだ時はエクシアだったので、今回はこの機体で参戦させてもらうっす!」

 ロックのデュナメスHellの隣に立つのは、デュナメスと同じくソレスタルビーイングの機体として活躍したキュリオスだ。

 オレンジ色が特徴的な可変機で、火力には乏しいが機動力と遊撃力に秀でた機体である。

 

 ステージは軍事基地周辺。

 建物も多いが視界は開けている戦いやすいステージだ。ガンダムUCのエピソード4を思い出させる。

 

 

「ロック氏はユメちゃんやケイ殿のガンプラの進捗は知ってるんすか?」

「いんや、俺にも内緒でって隠されてた。なんか思い出したら腹立ってきたしぶちのめす」

「あ、あはは、お手柔らかに……。とはいえ、手を抜くのも失礼っすからね。本気で行くっすよ」

 言いながら、ニャムはキュリオスを航空機形態に変形させてスラスターを吹かせた。

 

 先手必勝。そして、彼女の領域である空に戦場を移す。

 

 

「───さて、どうくるか」

「ニャムさん来たぞ!」

 レーダーに映る敵影。数は一つで、速度的にMSだと二人は踏んだ。

 先行してくるならケイスケだろう。初撃を先行してくるMSに集中するなら───と、ロックは予めニャムと話していた作戦通りに足を止めた。

 

 腐ってもデュナメスは狙撃機体である。ロックとて狙撃が絶対に敵に擦りもしない訳でもない。

 その狙撃が当たろうが外れようが、相手はなんらかのアクションを起こさなければならない。その隙を突くだけの機動力をキュリオスは持ち合わせている。

 

 

「───ロック・リバー、目標を狙い撃つぜぇ!!」

 スコープを覗くロック。

 

 見慣れない機体。しかし、やはりMSだ。

 ストライクではない。だが、背中にはツインドライヴを装備したダブルオーストライカー。

 

 一見ストライクBondの改修機だと互角する。

 しかし、引き金を引く直前。ありえない事が起きて彼は固まってしまった。

 

 

「変形した!?」

 スコープに映るMSが変形する。ダブルオーストライカーを装備したまま。

 

 まるでその姿は───

 

 

「───スカイグラスパー!?」

 引き金を引く頃には機体はスコープにも映っていなかった。

 

 

「下手くそだと思ってはいたっすけどそこまでとは!!」

「いやそうじゃないんだって!!」

「え? 嘘ぉ!?」

 急接近。

 

 MSだと思っていた敵影が、ありえない速度でキュリオスに近付いてくる。

 

 

 白と空色のシンプルなカラーリング。

 スラスターや肩にストライカーパックを装備出来るよう改造された、可変機。

 

 

 

「───これが私の、デルタグラスパーだぁ!!」

 バレルロール。

 

 前方にシールドミサイルでキュリオスを牽制しながら、すれ違いざまに改修されたダブルオーストライカーのGNソードIIIを展開。キュリオスの翼を切り裂いた。

 

 

「なんとぉぉ!?」

「まだ!!」

 キュリオスを通り過ぎて、直ぐにユメは機体をMS形態に変形させる。翼を切り裂かれバランスを崩すキュリオスに向けて逆噴射で一気に迫った。

 

 GNドライヴによる機動力。緑色の粒子が置いていかれる程の接近速度。

 ニャムも機体を変形させて盾を構えるのがやっとである。

 

 

「……っ、この!!」

 なんとかユメを弾き飛ばすニャム。

 そうしてやっと、彼女の機体の全貌を知る事が出来た。

 

 

「───デルタプラス」

 その機体の正体。

 

「うん。あの大会で貰ったデルタプラスを、この一週間でケー君にここまで仕上げて貰ったんだ」

 真っ直ぐに前を向くユメ。

 

 

 白と空色のシンプルなカラーリング。

 ダブルオーストライカーを装備したデルタプラス。

 

 これが、彼女の新しい力である。

 

 

「ストライカーパックを装備出来るようにしたデルタプラス……。考えたっすねぇ!」

 それはユメカがケイスケに頼んだ事だった。

 

 

 

「───このデルタプラスを改造してくれ?」

「うん。あのね、私も皆と前で戦いたいんだ。勿論、私はケー君の手伝いをした方が良いって分かってる。だけど、もう空を楽しんでるだけじゃなくて……ガンプラを、GBNを楽しみたくなっちゃったから」

 そんな彼女の言葉はケイスケは強く頷く。

 

 どうしてもという彼女の頼みで、ストライカーパックを装備してケイのストライクBondに換装の選択肢を増やすというコンセプトだけは残し。

 このデルタグラスパーだけでもしっかりと戦えるように、装備したストライカーパックを自分で最大限使う事も考慮して作られた機体だ。

 

 ストライカーパックを装備する為のギミックには、ユメカがヒメカと出掛けた時に買ってカルミアのトラックに轢かれてしまったベアッガイの残骸も使っている。

 

 

 デルタグラスパー。これが今のケイスケと、ユメカの想いが全て込められた機体だ。

 

 

 

「───最高っすよ。……こんなに、熱くなれるんすからね!!」

 ビームサーベルを抜きながらデルタグラスパーにライフルを向けるニャム。同時にミサイルコンテナを展開し、ミサイルの雨を降らせる。

 

「うわ!?」

 しかし、そのミサイルの雨は遠距離射撃によってほとんど消し炭にされた。

 

 

「ケイスケか」

 スコープを覗くロック。その先で、エクリプスストライカーを装備したケイのストライクBondが砲身から煙を漏らしている。

 

「お前は何も変わってないじゃんかよ。ふ、良いぜ! 俺はお前を───」

「答えてくれ、エクリプス」

 突貫しようとするロック。その正面で、ケイのストライクBondが淡く光を放ち始めた。

 

 

「ダメっす! ロック氏!!」

「な!? まさか!?」

「───極限進化!!」

 光に包まれるストライクBond。その光の中から、巨大な砲身がデュナメスHellに向けられる。

 

 

「カルネージ・ストライカー!!」

 放たれる光。規格外拠点攻撃兵装───読んで文字の如く、それがこの武装の威力を物語っていた。

 

 直線上にあった建物は全て消し炭になる。

 

 

「……おもしれぇ」

 なんとか左手だけの損傷で撃破を回避したロックは不敵に笑っていた。

 

 新しい機体。新しい装備。

 仲間の成長に、好敵手の出現に、武者振るいが止まらない。

 

 

「勝負はこれからだぜお前らぁぁあああ!!」

「でもとりあえず撤退っすよ!!」

「なんでぇぇえええ!?」

 突如変形したキュリオスに連れ去られるデュナメスHell。ケイは「ニャムさんめ」と苦笑するが、そう簡単に終わっても面白くないだろう。

 

 第一ウェーブとして見るならキュリオスとデュナメス共に中破。こちらは無損害で、一歩リードだ。

 

 

「ケー君」

「追い掛けなくていい。逃げられたなら逃げられたでこっちも立て直す時間がある」

 展開したカルネージ・ストライカーを納めるエクリプスストライクBond。

 空から変形して着地したらデルタグラスパーと、まるで兄弟機のように並ぶ二機を眺めながらカルミアは不敵に笑う。

 

 

 これまで偵察や後ろで援護ばかりしていたユメが、あのニャムに噛み付いたのだ。見ているだけで面白かったが、だからこそ戦場に立たないのがもどかしい。

 

 

「───さて、どうなるか」

 体制を立て直す両者。先に仕掛けるのはどちらか。

 

 見守る瞳の先で、MSが変形する。

 

 

 戦闘の火蓋は再び切って落とされた。




久し振りにオリジナルガンプラの登場。ビルド系はこうじゃなきゃね。ユメの新機体の活躍にご期待下さい。


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ユメの刃

 建物の影に隠れる機体が二機。

 

 

「どうして止めたんだよ」

 唇を尖らせてそっぽを向くロックに、ニャムは小さく溜息を吐きながら頭を掻いた。

 

「もうケイ殿のストライクBondはロック氏の知ってるストライクBondではないんすよ?」

「そんなもん分かってるっての。ありゃ凄い砲撃だったが、あんなもんそう何発も連続で撃てるもんじゃないだろ? だから直ぐにでも叩こうと───」

「そうっすね。だから、エクリプスには別の武装も用意されてるっす。……覚えてないっすか?」

 ニャムの言葉に、ロックはふと彼女が仲間に加わった直前の事を思い出す。

 

 

 ミッションの最中、突如加勢に来た彼女が乗っていたのはエクストリームガンダム。

 その進化の能力で極限進化した射撃形態───エクリプスは、カルネージ・ストライカーの他にもミサイルの雨を降らせる大型ミサイルコンテナ『空間制圧兵装エクリプス・クラスター』を使って敵を一網打尽にしていた。

 

 

「……あの時アレを使われてたら」

「近付く前に良くて蜂の巣、悪くてミンチっすね」

 表情を引き攣らせるロック。理解してもらえたのならそれで満足のニャムは「頼むっすよ、リーダー」と話を切り上げる。

 

 第一ウェーブはこちらの完全敗北。

 こちらが見えたのは相手の手の内だけだが、そもそも相手からすればこちらの機体は半分割れているのでハンデあり。

 それを言い訳にする訳ではないが、初見殺しされなかった時点で敗北に見えて得たものは大きい。

 

 

「さて、相手の手の内が分かったので今度はどう仕掛けるか。……質問ですがロック氏、ユメちゃんに接近戦で負けるなんて事あります?」

「は? 俺はそもそも狙撃手だけど」

「寝言は寝て言えタケシ」

「ニャムさん!?」

「で、どうなんすか?」

 彼女の言葉に少しだけ間を置くロック。正直ユメの戦闘能力は未知数だ。

 バトルロイヤルではあのメフィストフェレスの狙撃手を追い詰め、ケイ達を倒して優勝してしまっているのだから。

 

 しかし───

 

 

「どう考えても俺が接近戦でユメに負ける事はねぇよ」

 ───負ける気はしない。

 

 

「それじゃ、作戦を説明するっすよ」

 悪巧みに口角を吊り上げるニャムの姿がモニターに映る。味方にするとやはり心強いが、今はこの人が敵じゃなくて本当に良かったと安堵するロックだった。

 

 

 

 ミサイルの雨が降り注ぐ。

 空間制圧兵装エクリプス・クラスター。その名の通り辺り一帯を吹き飛ばす程の無数のミサイルを積んだコンテナを射出する武装だ。

 対するニャムも、ミサイルコンテナからありったけのGNミサイルを射出。更に変形してからトランザムで出力を上げ、GNビームサブマシンガンを乱射してミサイルの雨を一掃する。

 

 

「次こそ!」

 しかし、変形して足を止めたニャムに接近するユメのデルタグラスパー。翼を損傷したキュリオスでは、トランザムしていようと彼女の機体に対して機動力の面で不利だ。

 

 そしてダブルオーストライカーを装備したユメには奥の手(トランザム)もある。

 

 

「やらせるかよ!」

「うわ!?」

 しかし、ニャムに接近するユメの機体をGNスナイパーライフルが掠めた。

 当たりはしなかったが、注意を引くのには充分。その間にニャムは再び変形し一気にケイのストライクBondに接近する。

 

「ケー君!」

「お前の相手は俺だぜユメ!! 選手交代ってなぁ!!」

 抜かれたニャムに気を取られている間に接近してきたロックのデュナメスHell。

 

 ビームサイズを展開したロックは片腕でそれを振り下ろし、反射的に変形して構えられた盾ごとユメの機体を地面に叩き落とした。

 

 

「さーて、やろうぜユメ」

「タケシ君……」

 GNソードIIIを展開。

 

 デュナメスHellとデルタグラスパーが得物を構えて向き合う。

 これまで頼もしいと思っていた幼馴染みの姿が、こんなにも大きく映ったのは初めてだ。

 

 手の震えが止まらない。だけど、それは武者振るいだとユメは深呼吸する。

 

 

「私は、タケシ君に勝つ!」

「やってみやがれ!!」

 二人は同時にスラスターを履かせて、刃が重なり合った。

 

 

 

「接近すればエクリプスに脅威はないっすよ!!」

「それはどうかな!」

 接近に成功したニャムのキュリオスがビームサーベルを振り下ろす。ケイはストライクBondの腰からビームサーベルを抜いてその光の刃を弾いた。

 

「そういや、初めて戦った時もそのギミックにしてやられたっすよね!!」

 思えば彼女と戦うのもこれで何度目だろうか。

 

 殆ど同じガンプラは使わず、ニャムは状況に応じて選んでくる素組のガンプラの性能を余す事なく発揮する。

 そんな彼女のエクストリームガンダムを見て、ケイは自分に無いものがなんなのかずっと考えていた。

 

 

「俺は、俺のガンプラを信じる!!」

 カルネージ・ストライカーを展開するケイ。しかし、いかに強力な砲撃といえど至近距離では当てる事すら難しい。

 

「この距離でそれは悪手っすよ!!」

 サーベルを構え肉薄するキュリオス。懐に入り込んだニャムは、ビームサーベルをストライクBondのコックピットに突き刺す。

 

 

「今回はジブンの勝───」

「勝った!!」

「───な!?」

 サーベルに突き刺された瞬間、同時に発射されたカルネージ・ストライカーと()()()()()()()()()()。そして、空いている左手でケイはニャムの機体を抱き抱えるように捕まえた。

 

 発射されたエクリプスクラスターは、真上に向かってからミサイルを雨のように降り下ろす。

 

 

「自爆覚悟!? ユメちゃんを残して!?」

 逃げる事は出来なかった。ケイに捕まったまま、ミサイルの雨に巻き込まれるニャム。

 

 

 ケイ、ニャム、撃破。

 

 

 

 戦いはユメとロックに託される。

 

 

 

「───熱源反応!?」

 ケイが放ったカルネージ・ストライカーは、刃を交える二人を捉えていた。

 

 ユメにとっては作戦内の事だったので、彼女は変形して射線から直ぐに逃れる。

 しかしロックは一瞬だけ反応が遅れ、回避するのには奥の手を使わざるを得なかった。

 

 

「んなろ、トランザム!!」

 TRANS-AM

 

 GN粒子圧縮開放。爆発的な機動力を手に入れたロックのデュナメスHellはカルネージ・ストライカーを避けてユメを追い掛ける。

 モニターを確認したロックはケイとニャムが撃破されている事を確認した。そうなれば、あとは自分がユメを倒せば勝利である。

 

 

 このトランザムで決めればいい。

 

 

「───使った、トランザム。三分七秒……!」

 ロックがトランザムを使ったのを確認したユメは、手元のモニターに映るタイマーを凝視しながらロックから離れるように機体のスラスターを吹かした。

 それを追い掛けるロックのデュナメスHell。いくら可変機といえど、トランザムを使ったデュナメスはその機動力を大きく上回る。

 

 

「三秒、四秒、まだ───」

 ユメのデルタグラスパーに追い付くデュナメスHell。ビームサイズを振り上げる姿に冷や汗を流しながら、ユメはギリギリまで歯を食いしばった。

 

 

「───五秒、今!!」

 そうして彼女の機体が赤い光に包み込まれる。

 

 

「何!?」

「トランザム!!」

 TRANSーAM

 

 振り下ろされるビームサイズ。しかし、トランザムにより急加速したユメの機体はその斬撃を避けて機体を変形させた。

 

 そしてGNソードIIIを展開。急制動を掛けてロックのデュナメスHellに襲い掛かる。

 

 

「逃げるんじゃなかったのかぁ?」

「私は戦うよ!」

 火花を散らす刃。お互いにトランザムを使用し、赤い粒子を散らせながらぶつかり合う姿は白熱した物だった。

 

 

「三十秒、三十一秒───」

 上昇。無茶苦茶に振り回しているように見えて的確に急所を捉えようと振り回されるビームサイズをなんとか防ぎ切る事しか出来ないユメ。

 しまいにはGNソードIIIだけではなく、左手でビームサーベルを持ってしてもロックの近距離戦闘技術は片腕だけでユメを圧倒するのに充分な実力を誇っている。

 

「どうしたユメ、そんなもんか!」

「……っ、まだ!!」

 弾かれるGNソードIII。ユメは機体を変形させ急降下、そうして出来た高度を使って真下からビームサーベルを投擲した。

 

「甘いんだよ!」

 それを蹴り飛ばしてユメを追い掛けるロック。再び刃が重なり合うが、GNソードIIIはついにロックのビームサイズに切り飛ばされて爆散する。

 GNソードIIIを手放したユメは、爆煙に紛れて再び急上昇。変形を駆使した三次元的戦闘はロックを巻く事こそ出来ないが一方的になぶられる事だけは防いでいた。

 

 

「ちょこまかと、いつまでも耐えられると思うなよ!」

 しかし、それでも彼はユメを追い詰めていく。GNソードIIを二本切り飛ばし、ユメに残された接近武装はビームサーベル一本だけになってしまった。

 

 

「───二分四十八秒!」

 それでもユメは諦めない。この戦闘が始まる前の、ケイとの会話を思い出す。

 

 

 

「三分七秒?」

「そう。それが、タケシのデュナメスHellがトランザムを使っていられる時間だ」

 一度ロックとニャムが撤退した直後、ケイとユメは次の作戦を模索していた。

 あのニャムの事である。今度はケイのストライクBondを変形を駆使して倒しに来る筈だ。そして、ロックはユメを狙うだろう。

 

「それに対して俺のダブルオーストライカーのトランザム限界時間は三分八秒。そんなに差はないけど、一秒だけこっちの方が長い。……だからユメ、お前がトランザムでタケシを倒してくれ」

「私が、タケシ君を……」

 ユメはこれまでの彼の戦いを思い出した。

 

 狙撃は本当に下手だが、いざ接近戦になれば彼が負ける所を殆ど見たことがない。

 そんな彼を、接近戦闘特化のダブルオーストライカーを装備して倒す。本当に自分にそんな事が出来るのだろうか。

 

 

「ぶっちゃけ、真面目に接近戦をしたら俺だって勝てない。だけど、これはチーム戦で、別にこっちは真面目にやる必要はないんだ」

「どういう事?」

「ロックに先にトランザムを使わせる。その後、ユメは出来るだけ時間を稼いでからトランザムを使え。そうすれば───」

「───稼いだ時間とプラス一秒、私の方が長くトランザムの状態でいられる」

「そういう事だ」

 どんなに上手いプレイヤーでも、トランザムを終えて著しく性能の低下した機体でトランザム中の機体を捌く事は難しい。それならば、ユメにだってロックを倒すチャンスはある。

 

 

 

「───三分三秒、三分四秒、三分五秒!」

「おらぁ!! 貰ったぜぇ!!」

 弾き飛ばされるユメのデルタグラスパー。ビームサイズを構えて振り下ろすロックのデュナメスHell。

 

「三分六秒───」

 その時、デュナメスを包み込んでいた赤い光が飛び散るように薄れていった。

 

 

 ユメはロックがトランザムをしてから五秒後にトランザムを使っている。元々の性能でプラス一秒。

 今から六秒間、彼女の機体はロックの機体よりも強い。

 

 

「うぁぁあああ!!」

 GN粒子圧縮開放。崩れた姿勢を無理矢理にでも立て直し、上空からビームサイズを振り下ろすデュナメスHellよりも早くビームサーベルを振る。

 

 

 

 光の刃が前方を切り裂いた。

 

 

 

「───え?」

 しかし、視界から一瞬でデュナメスHellが消える。

 確かに捉えたと思っていた。どんな手を使っても、トランザムでも使っていない限り、今のは避けれない筈である。

 

 そう、トランザムを使()()()()()()()()

 

 

「まさ───」

「おせぇ」

 気が付いた時には、赤く光る粒子を纏いながらロックのデュナメスHellがビームサイズを振り上げていた。

 

 真っ二つに切り裂かれるユメのデルタグラスパー。同時に、デュナメスHellを包み込む赤い粒子が散っていく。

 

 

 ユメ、撃破。

 

 

 

 敗因は一秒だった。

 

「ワンセカンドトランザムか、えげつな」

「でも、ロック氏は本気でユメちゃんと戦ったっす。凄いっすよ、彼女は」

 ロックは自分の機体のトランザム限界時間、三分七秒よりも一秒早く───三分六秒で一度トランザムを終了させていたのである。

 そしてユメの反撃の瞬間。一秒だけ残されたトランザムを使い、ユメの背後を取った。

 

 勝利を確信したユメへのカウンターとしては、一秒だけで充分である。

 

 

 

「惜しかったなユメ。だがな、考えて戦ってるのはお前達だけじゃないんだよ! ハッハッハッハッ!」

……負けた

「ん?」

「うぅぅぅ!! 負けたぁぁぁ、うわぁぁぁん」

 ユメは泣いた。

 

「えぇぇえええ!?」

「ロッ君が泣かしたぁ」

「ロック氏……正直ドン引きっす」

「俺が悪い!? 俺が悪いの!?」

 慌てるロックを見て、泣きながら笑うユメ。そんな彼女にケイは手を差し出して「惜しかったな」と笑い掛ける。

 

 

「悔しいね、戦って負けるのって」

「そうだろ?」

「うん。凄い、悔しい」

 ただ、その表情は暗いものではなくて。

 

 

「タケシ君!」

「あ? な、なんだ?」

「次こそ勝つ!」

「……ハッ、かかってこいよ」

 前を見ながら涙を流す、清々しい表情だった。

 



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フォースネスト

 空を駆ける。

 

 

 ユメのデルタグラスパーは敵MSの真横を突っ切り、変形しながら機体をひっくり返した。

 追ってくる機体に向けるのは、カルネージ・ストライカー。

 

 エクリプスストライカーを装備したエクリプスデルタグラスパー。その銃口が、敵の機体を捉える。

 

 

「逃がすか。くらえ必殺! ジャスティスソ───どわぁぁあああ!?」

「いっけぇ!!」

 機動力で圧倒し、強力な砲撃で敵のジャスティスの改修機を破壊するユメ。

 

 それが敵フォース最後の一機で、デルタグラスパーの初フォースバトルは勝利に幕を閉じるのであった。

 

 

「カザミ、お前が突っ込むからだぞ!」

「お前なんかクビだクビ!」

「な、お、俺が悪いのかよ!?」

 雰囲気の悪い相手フォースを苦笑いしながら眺めるニャムの隣で、ユメは確かな手応えを感じる。

 

 ケイが作ってくれたデルタグラスパーは、確かにユメの手に馴染め始めていた。

 

 

「やるじゃねーかユメ」

「ありがとう、タケシ君」

「ロックな。それにしても、相手のジャスティス。あれは中々酷かったな」

 戦闘を思い出しながら、ロックは横目で相手フォースのメンバーを眺めながらそう言う。

 

 

 バトル開始直後、一人で突撃してきたジャスティスは孤立して足止めされ───その間に仲間は撃破。

 最後にユメとの一騎打ちで、こちらの損害はほぼほぼなく試合は幕を閉じた。

 

 フォースReBondが成長しているというのもあるが、明らかに相手側に敗因がいたのも確かである。

 

 

「まー、あーいうのはどこかで一皮剥けたら本当に強くなるタイプだろうね。気の合う仲間に巡り会えれば、良いと思うよ。……おじさんみたいに」

「連携という点では、ジブン達もかなり成長してきたっすね。ユメちゃんの戦力大幅アップで、これからもなんだか楽しそうっすよ」

「わ、私なんて全然。……でも、ちゃんと前に出て戦うって楽しいなって」

 満面の笑みを見せるユメ。

 

 それは、ケイ達が見たかった彼女の笑顔だった。

 

 

 でもここには、アオトが居ない。

 まだ彼らは、進まなければならないのである。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

「フォースネスト、ですか?」

 首を横に傾ける幼馴染み三人。

 

 

 ある日のGBN。

 カルミアの提案でやって来たのは、バトルやミッションの受付ではなくとある店の前だった。

 

「そそ、フォースのお家。最近ミッションやらバトルやらも調子良くて沢山お金も溜まって来たじゃない? だから、そろそろ買っても良いんじゃないかなってね」

 フォースネスト。

 

 各フォースが所有できる基地のような物で、フォースの仲間なら自由に出入りが出来る家のようなものでもある。

 

 

 部屋に集まって作戦会議を開いたり、お茶会を開いたり。MSを並べてメンテナンスしたりと、様々な用途でも使えるGBNを楽しむ要素の一つだ。

 

 

「良いっすねぇ! どうせなら大きくて素敵な家にして、なんならメフィストフェレスなんかとアライアンスを組んでみるのも面白いっすよ」

「あらいあんす?」

「フォース同士の同盟みたいなもんっすよ。お互いのフォースネストに入れるようになったり、ミッション共有とか、色々な事が出来る様になるっす」

「面白そう!」

 カルミアやニャムの説明で、三人もフォースネストに興味を持ち始める。そんな訳で今日は自分達のフォースネストを探す事に───

 

 

 

「───思ったより高いな」

 しかし、現実はそう甘くはなかった。

 

 フォースネストを売り出す不動産屋さんのようなお店で試しに様々な物件を眺めるReBondのメンバーたち。

 気になる物件はいくつもあるのだが、どれも手持ちのビルドコインでは手が届かずにもどかしい気持ちが五人を包み込む。

 

 

「あれ、これだけちょっと安い」

「何か見つけたのか? ユメ」

「お前これ、幽霊物件とか書いてあるぞ」

 そんな中でユメが見つけたのは、自分達の手持ちのビルドコインで買えそうな一件のフォースネストだった。

 

 そのフォースネストは、山奥の小屋のような見た目だが内装はしっかりと基地になっている隠れ家のような場所である。

 少年少女特有の感覚はその場所を気にいるだろうが、注釈として()()()()なんて書いてあるものだからロックは怪訝な表情を見せた。

 

 

「ガンダムで幽霊ってなんだよ。ニュータイプかよ」

「死者の怨念とか魂とか、ガンダムはSFっすけどそういう所も触れてはいるっすからね。後はクロスボーンガンダムゴーストとか? しかしGBNで幽霊物件と言われてもピンとこないものですが」

 ロックとニャムがそうやって話し合っている間に、カルミアもその物件を確認しようとユメの見ている資料を覗き見る。

 

 その資料に載っているフォースネストの写真を見て、カルミアは目を見開いて固まった。

 

 

「カルミアさん?」

「……これ、セイヤと俺達が昔使ってたフォースネストだ」

 彼のその一言で、あまりにも気が早くフォースネストの購入が決まる。

 カルミア曰く「どんな物件か確認してからでも良くない?」だったが、他の四人は経済的な問題と興味も相まって即決だった。

 

 

 

 購入したフォースネストに移動したカルミアは、勝手知ったる家のようにフォースネストの中を四人に案内する。

 一階中央には応接室と大きなリビング。二階には何個か部屋があって、会議室と───その奥には建物の裏の山の中に繋がる通路があった。その奥が、MSの格納庫になっている。

 

 

「───と、まぁ……こんな感じか。しかし、幽霊ねぇ」

 部屋を紹介して回ったカルミアは、会議室の椅子に座って頬杖を付いた。

 それに習ってケイ達も机に並んでいく。

 

 ついさっきまでフォースネストを探検しながら、自分の部屋はここだのメフィストフェレスの面々に紹介したいだの騒いでいた訳だが───それらしい(幽霊)の影は特になかった。

 

 

「何もないなら何もないで良いんじゃないっすかね? 普通より安くこんな素敵なフォースネストを手に入れる事も出来たんですから」

「ならなんで何もないのに普通より安くこのフォースネストが売ってたのかねぇ」

「それは……なんとも言えないっすけど」

 カルミアが引っ掛かるのは、そもそもこのフォースネストは自分が使っていたフォースネストだったというのもあるだろう。

 勝手知ったるフォースネストは以前と何も変わらない。だというのに幽霊物件扱いだ。何かない方がおかしいだろう。

 

 

「幽霊といえばトイレとか?」

「GBNにトイレはない」

「裏山!」

「ここが裏山みたいなもんだけどな」

 ユメの発言にツッコミを入れるケイだが、ふと「そういえば」と思い出したようにカルミアに向き直った。

 

 

「まだMSの格納庫は見てないですよね」

「それもそうねぇ。案内するぜ」

 ケイの言葉に立ち上がるカルミア。会議室から更に奥、山の中に続く通路を通ると山を切り抜いて作られた形の基地のような施設が視界に入り込む。

 

 MSが十機は並びそうな格納庫に、四人は漠然と高い天井を見上げる事しか出来なかった。

 

 

「どうよ、せっかくだしMSも並べてみる?」

「良いっすね!」

「出ろー!! ガンダ──ーム!!」

 カルミアの提案に同意するニャムの横で、指を鳴らしながらそう言うロック。

 格納庫の一角に彼のデュナメスHellが待機状態で現れ、GNスナイパーライフル等の武器が近くに並んでいく様は見応えがある。

 

 

 続けてカルミアのレッドウルフ、ユメのデルタグラスパー、ケイのストライクBondが並んで格納庫に現れた。ユメのデルタもケイのストライクも、ストライカーパックは非装備の待機状態である。

 さらにニャムが今日持って来た機体───Zガンダムも並んで格納庫は一気に賑やかになった。幽霊騒動なんて話はやっぱり信じられない。

 

 

「ニャムさんの機体は、なんだか不思議だけど親近感が湧くなぁ」

「Zガンダム。デルタプラスはこのZや同時期に設計された百式等、Z計画として開発が進められたMSの一員なんすよ」

「兄弟機ってこと?」

「そんな感じっすね。Zはかなり歳の離れた従兄弟のお兄さんって感じっすけど」

 ニャムからMSの開発歴を聞くユメ。ケイ達男性人よりも興味抱いて聞いているのは、彼女が元々戦闘機等の開発歴が好きだったからだろう。

 

 

「───と、まぁ、そんな感じで。デルタプラスはδ計画本来の可変機として再設計され、量産を前提にした試作機として……ん?」

「どうかしたんですか? ニャムさん」

 話の途中、ニャムは格納庫の裏で何かが動く影を見付けて首を傾げた。

 

「何か今、人影が……」

「そ、それって……」

 青ざめるユメ。ケイもロックもカルミアも、ニャムの背後にいるため彼女の視界の中で動くのは自分だけしかいない筈である。

 

 

 今になってやっと怖くなって来たユメは、ニャムに抱き着いて後ろを見ないように震え始めた。

 

 

「ま、まさかぁ……ジブンの見間違いっすよ。あはははは……ヤバイ、絶対余計な事言ったっすよジブン。気が付かなければ良い事もあるもんですよね」

「どうかしたのか? ん? 今なんか動いたぞ」

 二人の気も知らないで、何かが動いた影を指差すロック。その直後「アハッ」と人の笑う声のような音が格納庫に木霊する。

 

「「きゃぁぁぁあああ!!!」」

 悲鳴を上げる女子二人。抱き合う二人を尻目に、ロックは動いた影を視線で追った。

 

 

「なんか、MSデッキに登っていったぞ?」

「ゆ、ゆ、ゆゆゆ、幽霊が!?」

「本当に居たんですか!? なんですか!? バグですか!? 私もう嫌ですよ!?」

「落ち着いて下さいニャムさん。素が出てます」

 そう言うケイだが、特に幽霊が苦手じゃない訳でもない。ただ、やはりGBNで幽霊なんてのはおかしな話である。

 

 しかしこのフォースネストは設定上使用中のフォースかアライアンスを組んだフォースのメンバーしか入れない筈だ。

 そうでないならニャムの言う通り、何かのバグだろう。

 

 ばぐというと、最近聞いた話を思い出すが───

 

 

 

「───レイア」

 そんな言葉を漏らしたのは、ロックの指差す先に視線を移したカルミアだった。

 

 視界に一瞬映る赤い髪。

 ありえない話である。ただ、その髪の色を見て彼の口からは自然とそんな言葉が漏れてしまったのだ。

 

 

「赤い髪の幽霊!?」

「私無理です! このフォースネストはクーリングオフしましょう!!」

「なぁ、なんかアレ……ニャムさんの機体に乗ろうとしてね?」

「え?」

 悲鳴をあげていたニャムも、ロックの言葉で我に返って視線を上げる。

 その先では、今まさにショートカットの赤い髪の少女がZガンダムに乗り込もうとしていた。

 

 

「ちょっとぉ!?」

「良い機体だね! ボクに頂戴! 良いよね?」

 なんて言って、幽霊(?)はニャムのZガンダムに乗り込む。これにはニャムも恐怖を通り越して唖然とするしかなかった。

 

 

「ふふん、愛情込められて作られたんだ。でもせっかくなんだから、その性能生かしてみようよ!」

 少女はそう言いながらZガンダムを起動させ、周りの武器を何個か手に持って出入り口にライフルを向ける。

 

「危ないよー」

「いや危ないじゃなくて!? それ私の機体です!!」

 ニャムの主張虚しく、発射されたライフルは壁を吹き飛ばして出入り口を作り上げた。

 そうして彼女のZガンダムは、変形して一気に基地を離れていく。

 

 何者かによって奪取された機体。ガンダムならよくある事だ。

 しかし、これはGBNである。

 

 

 

「なんでこんな事にぃぃいいい!?」

「良いから追い掛けるぞニャムさん!」

「いやでも私の機体取られちゃってますよ!?」

「俺のに乗れ! あと素が出てる!」

 ニャムの手を引っ張るロック。その後ろから二人を追い掛けるように自分の機体に乗ろうとするケイとユメだが、ケイは唖然として固まってしまっているカルミアを見て彼に「カルミアさん?」と声を掛けた。

 

「レイア……いや、そんな訳がないか。お、おう! おじさんも追い掛けるけど。……おじさんの機体は足が遅くていけねぇ」

「私とケイ君で運ぼう。なんだかよく分からないけど、カルミアさんの力は必要だと思う」

「そうだな。ユメ、俺はクロスボーンストライカーを使う。お前はダブルオーストライカーだ」

「分かった!」

 短く会話を済ませて機体に乗り込む三人。

 

 

 ケイのストライクBondはX字のスラスターに加えてABCマント───ではなく、追加装甲フルクロスを装備。武装もピーコックスマッシャーとムラマサ・ブラスターと新たに新調したクロスボーンストライクBondの新たな姿である。

 ユメのデルタグラスパーにはダブルオーストライカーを装備。GNドライヴに加えGNソードIIとIIIを装備した接近専用の換装だ。

 

 クロスボーンのスラスターとユメの変形機構による水力で、カルミアのレッドウルフをなんとか持ち上げてZガンダムを追いかける。

 

 

 

 

 そんな五人の真下で、長い黒髪の少女が目を細めて上空を通り過ぎる機体を眺めていた。

 

「……遅かったか。しかし、これはまずい」

 そう言った少女は、自らの傍に鎮座している巨大な機体に乗り込む。円盤形の巨大な頭部と脚部に不釣り合いな腕の付いた不思議な形の機体だ。

 

 巨大な脚部を活かし、その機体はジャンプしてから五機を追いかけるように走行する。

 

 

 奇妙な幽霊との追いかけっこが始まるのであった。




ガンダムビルドリアルが始まりましたね。青春って感じがして好きです。


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ELダイバー

 とある酒場に、一人のダイバーが腰掛けた。

 

 

「───それで、私に頼みたい事とは?」

 綺麗な黒髪に白のジャケットとコートを着た少女は、腰掛けた先で立つ()()()に視線を向ける。

 

「いらっしゃい、メイちゃん。そうねぇ、あなたにこの子を探して欲しいのよ」

 マギーはメイと呼ばれた少女に一枚の写真を見せながらそう口を開いた。

 

 

「……彼女は?」

 写真には赤い髪の少女が、ボヤけた状態で写っている。メイはこの少女に見覚えはないようだ。

 

 

「あなたの妹に当たる子よ。まだ保護出来ていないEL───メイちゃん?」

 話の途中で立ち上がるメイに驚くマギー。しかし、メイは写真だけ手に取ると店から出て首だけをマギーに向ける。

 

「次の私のミッションだな、承知した。情報を集めて来る」

「もぅ、せっかちなんだから」

 店の扉が閉まって、マギーは我が子でも見るようにその奥に視線を向けた。

 

 

 長くて黒い髪が、風に靡いて窓から映る。

 

 

「頼んだわよ、メイ」

 コンソールパネルに映る一人の少女の写真。その写真に写っていたのは───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

「待てやごらぁぁぁあああ!!」

 怒号を上げるニャム。しかし、彼女の機体は謎の少女に盗まれていてニャムは何も出来ない状態だ。

 そんな彼女を乗せてデュナメスHellを駆るロックは、半目で「ニャムさんうるせぇ」とボヤく。

 

 

「流石ニャムさんの作った機体だね、全然追いつけないや」

「呑気に言ってる場合じゃないけどな」

「おじさんが重いばかりにすまんねぇ」

 その背後から着いていくユメとケイとカルミアだが、レッドウルフを引いているというのもあって距離が縮まる様子がなかった。

 

 このまま追い掛けるのがやっとだが、それはそうとZを盗んだ犯人の意図が見えない。

 そもそも何故フォースネストに入り込んでいたのか、幽霊物件の話も含めて分からない事だらけである。

 

 

「追いかけてくる。ふーん、結構しつこいね。……なら」

 悩んでいたのも束の間、突然Zを変形させてひっくり返りライフルをロック達に向ける謎の幽霊。

 

「やっちゃうよ!」

「こいつ、やろうってか!?」

 反射的にライフルを構えるロック。同時に放たれたZとデュナメスのライフルは、すれ違い───デュナメスの頭だけを貫いた。

 

 ロックの放ったライフルは何もない空を突き進む。

 

 

「ロック氏の下手くそぉ!!」

「面と向かって言わないで!? 俺も傷付くから!!」

 頭部を吹き飛ばされ落下するデュナメスHell。続いて構えられたZのライフルに、ユメとケイはカルミアを地面に放り投げて散開した。

 

 というのも、カルミアがそう指示した為である。

 勿論、狙われるのは落下するレッドウルフだ。Zを駆る謎の幽霊は、舌を巻きながらレッドウルフに銃口を向ける。

 

 

「おいお前! レイアなのか!!」

「……レイア?」

 しかし、突然通信が入ってきて謎の幽霊は動きを止めた。モニターに映るカルミアの顔。同じくカルミアのモニターにも、赤い髪の少女が映る。

 

「……違うのか」

 モニターに映るのは確かに赤い髪の少女だ。翡翠色の瞳はどこか思い出の中の少女に似ているが、思い出の中の少女よりも髪は短くて顔は幼い。

 

 

「誰だか知らないけど、こうしちゃうよ!」

 放たれるライフル。カルミアは反射的にビームハンドを飛ばし、それを盾にしてビームライフルを防ぐ。

 

 

「流石ニャムちゃんの作った機体だこと───何!?」

「ボクと遊んでくれるのかな!」

 爆煙の中から、ビームサーベルを構えて突進して来るZガンダム。

 カルミアもビームサーベルで応戦するが、自由落下中のレッドウルフでは受け止めるのがやっとだ。

 

 

「カルミアさん!」

「自由落下というのは言うほど自由ではないんだよな……っ!」

 そのまま地面に叩き付けられるギリギリの所で、カルミアは腰のサブアームを展開───Zを掴んで体制をひっくり返す。

 

「悪いがクッションになってもらおうかねぇ」

「やるじゃん! でも!」

 腕部からグレネードを発射し、レッドウルフからの拘束を逃れるZガンダム。そのまま変形したZに逃げられたカルミアは、地面に叩き付けられてしまった。

 

 

「タケシ君とカルミアさんがこんな簡単に……」

「ユメ、来るぞ!」

 変形したZに背後を取られる。ユメは機体をMS形態に変形しながら、ケイと一緒に機体をひっくり返した。

 

「あなたは何者なの……?」

「ボク? さぁ、ボクはボクだよ。ただ、遊びたいだけ! このガンプラも、君達のガンプラもそう言ってるよ!」

 不思議な事を言う少女は、機体をMS形態に変形させてライフルを放つ。

 フルクロスでビームを受け止めたケイは、ムラマサ・ブラスターを展開。機動力を活かして一気にZに肉薄した。

 

「貰った!」

「早いねぇ!」

「なんだ!?」

 しかし、突然Zを淡い光が包み込み始める。抜き放ったビームサーベルは、機体よりも大きくなる程に出力を上げていた。

 

 

「え!? 何!? チート!?」

「バイオセンサーっす。ジブンでも手が付けられない能力なのに!」

「くそ!」

 振り下ろされるビームサーベルをムラマサ・ブラスターで受け止めようとするケイ。しかし、あまりにもパワーが違い過ぎる。

 ユメもGNソードIIIを展開してケイを守ろうと加勢に入った。

 

 

「ふふん、どんなもんだ! 凄いだろ!」

「遊びたいって言ってたよね、あなた。どういう事? ガンプラがそう言ってるって」

 ユメは少女が言っていた言葉を思い出す。

 

 ただ、遊びたいだけ。このガンプラも、君達のガンプラもそう言ってるよ。

 まるでガンプラの声でも聞こえているような台詞だ。そう思って、ユメとケイはとある一人の少女の事を思い出す。

 

 

「「EL───」」

「貰ったぜぇぇええ!!」

 突如、トランザムしたデュナメスHellが跳んできてZガンダムの背後を取った。構えられたビームサイズ。少女は驚いて振り向こうとするが、既に遅い。

 

「なんだか知らんがとりあえず落とす!」

「ジブンのガンプラぁぁ!」

「オラ───」

 振り下ろされようとするビームサーベル。しかし、その刃が届こうとした瞬間、どこからか放たれたビームにデュナメスHellは消しとばされる。

 

 

「「えぇぇえええ!?」」

 悲鳴と共に消え去るデュナメスとロック達。

 

 その隙に、Zガンダムは変形して逃げようとスラスターを全力で吹かした。

 

 

「逃すか……って、なに!?」

 逃げようとするZガンダムに地上からライフルを向けるカルミア。しかし、そんなカルミアの機体を何かが蹴り飛ばす。

 地面を転がるレッドウルフ。何が起きたと地上に視線を送るユメとケイ。

 

 二人の視線の先では、カルミアの機体を蹴り飛ばしたと思える巨大な脚を持つ機体が鎮座していた。

 

 

「何あれ?」

 その機体は円盤状の胴体に身体の何倍もある足と、小さな腕の着いた奇妙な機体である。

 

「少し小さいけど、ウォドムか」

 その機体を見て、ケイはそんな言葉を漏らした。

 

 

 ウォドム。

 ∀ガンダムに登場する重MSである。

 

 その改修型か。本来のウォドムよりも小さな姿をしているが、それでもカルミアのレッドウルフより巨大な身体は三人を威圧するのに充分だった。

 その隙に、少女はZガンダムに乗ったまま空に消えてしまう。

 

 追い掛けるのを諦めた三人は、とにかく乱入したウォドムをどうしたものかと頭を悩ませていた。

 ロックとカルミアへの攻撃以降、ウォドムが動く気配はない。これは困ると、カルミアはウォドムのパイロットに通信で呼び掛ける。

 

 

「おじさん達は盗まれたMSを追っていただけなんだけどねぇ。どうして攻撃されなきゃいけないのよ。……あんた、あの女の子の仲間か?」

「どうしてGBNでMSを奪うなんて事するんですか!」

 続くユメの言葉に、通信を返してきたウォドムのパイロットはこう答えた。

 

「攻撃しておいて信じて貰おうというのもおかしな話かもしれないが、私は彼女の仲間ではない」

 モニターに映る綺麗な黒髪の少女。白いジャケットに、スーツを着たその少女は、機体から降りて両手を上げる。

 

 そんな彼女を見て、三人も機体を降りて少女の前に立った。

 同時にアバターがリスポーン(復活)したニャムとロックも、黒い髪の少女に詰め寄る。

 

 

「よくも俺のデュナメスHellを吹き飛ばしてくれたな!」

「まぁまぁ、タケシ君。とりあえず落ち着いて話を聞こう?」

「ロックな!?」

 いつものやり取りの後、少しだけ間を置いて黒髪の少女はこう口を開いた。

 

 

「自己紹介が遅れたな。……私はメイ。さっきあなた達が追っていたこの少女と同じ───」

 言いながら、メイは赤い髪の少女が映った写真をコンソールパネルから開く。

 その写真に写っていた少女は、間違いなくニャムのZガンダムを盗んでいった少女だった。

 

 

 そして、その正体は───

 

 

「───ELダイバーだ」

 ───ELダイバー。



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この世界の命

「───ELダイバーだ」

 少女。メイの言葉に、五人は一斉に視線を彼女に向ける。

 

 

 ELダイバー。

 GBNがガンプラをスキャンする際の余剰データが生み出した電子生命体。人々の想いの力が形になった命だ。

 

 

「だから、ジブンのガンプラと話しているような感じだったんすね」

「そうかもしれない。……私達ELダイバーの事はどれくらい知っている?」

 メイの質問に、五人は首を横に振りながら揃って「あまり」と口にする。

 

 サラと出会った事はあるが、それだけで彼女達の事を理解出来る程簡単な存在でもない。

 

 

「そうか。なら、一つだけ知っておいて欲しい事がある」

 真剣な表情で、メイはこう続けた。

 

 

「私達ELダイバーは、このGBNの中で生まれた。この世界が私達の世界であって、人々が現実(リアル)と呼んでいる世界は私達にとって現実ではない」

 ELダイバー達にとってこのGBNこそが生まれた世界であり、現実である。

 

 この世界で生きている者。

 その点において、ELダイバーとダイバー達とで決定的に違う事が一つだけあった。

 

 

「今は保護され、人々が現実と呼ぶ世界で過ごす事が出来る者もいる。……しかし、そうでない者にとってこの世界は未だに現実だ。この世界でダメージを貰い、HPが0になる事は───我々とダイバーでは違う意味を持つ」

「それって……」

「保護されていないELダイバーが、この世界で死んだら───」

「───そういう事だ」

 ロックの言おうとした事を、メイは肯定する。

 

 

 この世界で生まれた命。

 この世界がゲームであっても、彼等にとっては現実で、彼等にとってこの世界で死ぬという事は、本当の意味で命を絶やすという事にもなるのだ。

 

 

「レイア……」

「私達にとって命の終わりが終わりという訳ではない。ただそれでも、この話を聞いた人々はそれぞれ思う事があると聞く。……私には分からないが」

 そう付け足して、メイは五人に背中を向ける。

 

 彼女が止めていなければ、ロックの攻撃であのELダイバーの少女の命を奪っていたかもしれない。

 そう考えると震えが止まらなかった。

 

 

「後の事は任せてくれて構わない。……これは、私のミッションだ」

「わ、私達にも手伝わせて下さい!」

 ユメの言葉に、メイは「必要ない」とだけ告げてウォドムに乗り込む。

 

 あまりに静かな拒絶に、五人は走り出すウォドムを見届ける事しか出来なかった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

「───とは、言われたものの」

 メイを見送ったニャムは目を半開きにして空を見上げる。彼女のアバターの特徴的な尻尾はゆらゆらと不規則に振られていた。

 

 

「ニャムさんのガンプラは取られたままだしな」

「このままだとジブンはせっかく持ってきたZに乗らずにログアウトする事になってしまうっすよ」

「それに、今ニャムさんがやる事がないからってGBNをログアウトしたら何が起こるか分からないしね」

 ユメの言葉に、ニャムは「と、言いますと?」と首を横に傾げる。

 

 彼女の問い掛けに、ユメはある日のGBNの出来事を思い出しながら口を開いた。

 

 

「GBNを初めてすぐの頃にね、ケー君と私のスカイグラスパーに乗ってデ───テスト、テスト飛行をしてた時の事なんだけど」

「ふむふむ」

「夜にログアウトしようって話になった時に、私が先にログアウトしたんだけどね。その時私達はスカイグラスパーでGBNの空を飛んでて」

「なんだか話の展開が読めたっすよ……」

「私がGBNを先にログアウトしたから、スカイグラスパーが消えて───」

「俺は落下して死にました」

 笑い話だが、これはGBNではよくある事である。

 

 

 勿論、これは笑い話だ。

 しかし、今それは笑い話ではすまないかもしれないというのがユメの「何が起こるか分からない」である。

 

 

 

「今自分がログアウトすると、ジブンのガンプラであるZもGBNからログアウトする事になる。その時にさっきの女の子がZで飛行中だった場合───」

「あの子が空から落ちて、死んじゃうかもしれない」

 彼女───ELダイバーはメイの話ではまだ保護されていない。純粋なこの世界の命だ。

 

 そんな彼女がこの世界で死んだ時、メイの言う通りならその命は───

 

 

「冗談じゃないっすよ!?」

「さっきのメイちゃんって子が協力は要らないと言ってるにせよ、おじさん達はおじさん達であの子を探すしかないって訳よ。……ま、おじさんも気になる事あるしね」

「けどよ、戦力になるのはケイとユメだけだぜ。おっさんのガンプラは足が遅過ぎるし。俺のガンプラはリスポーンまで動けない。ニャムさんは言わずもがなってな」

 カルミアの言葉にロックは現状の問題を冷静に言い当てる。

 

 

 GBNではミッションや戦闘外で撃破されたMSはリスポーン時間まで修理という名目で再出撃までに時間がかかる設定だ。

 そして彼のいう通りニャムの機体は奪われ、カルミアの機体は実質戦力外である。

 

 

「ジブン達は聞き込みをして、二人に戦力になってもらうしかなさそうっすね」

「悔しいが、おじさんの機体はロッ君の言う通りなのよな。ニャムちゃんに賛成よ」

 そんなニャムの提案で、五人は二手に分かれてメイとは別にELダイバーの少女の行方を追う事になったのだった。

 

 

 

 時を同じくして、ケイ達が一度戦闘になったエリアの近くの岩場。

 

 そこで、一人の少年がSDのガンプラを崖の下に置いて頭部を眺めている。

 少年はニャムのようなケモミミにフワフワの尻尾が着いた特徴的な姿で、ガンプラも不思議な姿をしており岩しかないこの場所では目立っていた。

 

 

 そこに、一機のMSが降り立つ。

 

 

「……Zガンダム?」

 目の前に突然降ってきた機体に、少年は驚いて素っ頓狂な声を漏らした。

 

 

「やーやー、どーも!」

 機体から飛び降り、少年に声を掛ける赤い髪の少女。ケイ達やメイが追っているELダイバーの少女は、興味深そうな顔で少年の顔を覗き込む。

 

「キミは飛ばないの?」

「と、突然なんですか? 君は……?」

「ボク? ボクは、ボクだよ。キミは?」

「え? えーと、パルヴィーズ……です」

 ぐいぐい来る少女に、少年───パルヴィーズは苦笑い気味にそう答えた。

 少年は元々人付き合いが得意な方ではない。こんな場所で一人でいたのだって、GBNを一緒に遊ぶ仲間が居ないからである。

 

 

「へー、パルだね! 良い名前だ。ボクも名前欲しいなぁ。あ、このガンプラは? このガンプラはなんていうの? 良いガンプラだね」

「な、名前? え、えぇ……」

 そんな少年の内心も知らずに、少女は顔を押し当てる勢いでパルヴィーズの顔を覗き込んだ。

 

 

「名前は?」

「も、モルジアーナ」

「へー、良い名前だね」

 少女は勢いに押されてそう答えたパルヴィーズと、モルジアーナと呼ばれたガンプラを満足気に見比べる。

 パルヴィーズはそんな少女に困惑するばかりだが、遠くから何やら巨大なMSの足音が聞こえて再び素っ頓狂な声を漏らした。

 

 

「こ、今度は何!?」

「あちゃー、もう追い付いて来たか。キミ!」

 Zガンダムに乗り込みながら、少女はパルヴィーズに向かって大声でこう続ける。

 

 

「モルジアーナは、キミを乗せて飛びたいと思ってるよ」

「……え、なんで───うわ!?」

 スラスターを吹かしたZガンダム。一気にその場を離脱する機体を見守る事しか出来なかったパルヴィーズは、自分のガンプラに視線を戻した。

 

 

「モルジアーナ……」

 ──モルジアーナは、キミを乗せて飛びたいと思ってるよ──

 少女の言葉が頭の中で木霊する。しかし、少年は胸の前で手を握って俯くばかりだった。

 

 

 数分後。

 今日もダメだ、と。

 GBNからログアウトしようとしたパルヴィーズに向けて、第二の訪問者が訪れる。

 

「───そこの君!」

「───わぁ!?」

 パルヴィーズの背後に、今度はワッパという空飛ぶ乗り物に乗った三人のダイバーが現れた。

 

 

「さっきここにZガンダムが来なかったか?」

「赤い髪の女の子が操縦してたんだけどもね」

「そのガンプラ、ジブンのガンプラで盗難されたガンプラなんすよ!」

 ワッパに乗っていたのはロック、カルミア、ニャムの三人である。操縦しているのはニャムで、話し掛けてからロックはニャムとパルヴィーズを見比べて「情報量の多いアバターが増えた」と目を細めた。

 

 

「え、えーと、Zガンダムならさっき───って、盗難!?」

「はい。それがカクカクジカジカでして」

 ニャムはパルヴィーズに、これまでの経緯を簡単に語る。しかし、パルヴィーズにはその話が俄かに信じられる話ではなかった。

 

 

 だって彼女はモルジアーナの声を───

 

 

「いやしかし、良いガンプラっすね」

 少年のガンプラを横目に、ニャムは固まるパルヴィーズにそう語り掛ける。少女も同じような事を言っていた。

 

 何か、訳があるのかもしれない。

 

 

「Zガンダムなら、西側に飛んで行きました。何かに追われていたような気もしましたけど……」

「彼女っすかねぇ。しかし、我ながらジブンのZガンダムの機動力に感服っすよ。……あ、情報感謝っす」

 パルヴィーズに敬礼したニャムは、ワッパに乗り込んで彼の言った通り西側に向けて進路を取る。

 

 

「こちらカルミア。ケー君、ユメちゃん、目標は西に向かったって情報をゲットよ」

 無線で二人に連絡を入れるカルミア。三人が乗るワッパも、パルヴィーズが刺した方角に向けて出発した。

 

 

 

「……なんだったんだろう」

 一人取り残されたパルヴィーズは、首を傾げて固まる。

 

 モルジアーナと呼ばれたガンプラの瞳は、そんなパルヴィーズを優しく見守っているようだった。




メイに続いてパルも出ました。後は一人ですね?


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探し物はまだ

 一人の少年が、GBNの空を眺めていた。

 

 

 どこまでも続いていそうな空。

 ポンチョを羽織った少年の視線は、その空の何処を見る訳でもなく揺れている。

 

「───Zガンダム?」

 しかし、雲一つない快晴の空に突然映る機体に、少年は目を細めた。

 

 

 GBNの空をMSが飛んでいる光景なんて珍しい物でもない。

 しかし、その視界に映る機体───Zガンダムはスラスターから煙を吐きながら少しずつ高度を落としていたのである。

 

 そのまま行けば、近くの森に墜落するコースだ。

 

 

 ここはGBNである。

 その機体が墜落しようが、パイロットが死ぬ訳でもない。

 

 

「……なんで」

 ただ、理由は分からない。

 

 少年はどうしてか胸騒ぎがして、高度を落とすZガンダムに手を伸ばした。

 

 

 

 しかし、その足を前に出す事も───どうしてか出来なかったのである。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 戦闘の光が視界に映った。

 

 

 パルヴィーズから聞いた話を頼りに進む、フォースReBondのメンバー達。

 彼等の視界にビームライフルらしき光が見えて、五人はモニター越しに目を見合わせる。

 

「ドンパチやってる訳?」

「まずくね?」

「い、急ぐっすよ!」

 ワッパを操縦するニャムは冷や汗を流しながらそう言うが、ワッパの速度は既に限界だ。

 上空を飛ぶユメのデルタグラスパーとケイのストライクBondが先行する。

 

 もしあの戦闘の光が、ニャムのZガンダムなら一大事だ。間に合ってくれ、とケイ達は必死に何かに願う。

 

 

 

「どうして攻撃するんだよぉ!? ボクはキミ達のガンプラが悲しんでるって言っただけじゃないかぁ!」

「ごちゃごちゃうるせぇ! 散々他人のガンプラにケチ付けやがって!!」

「何が無茶な改造に雑な組み立てだ!! ぶっ殺すぞガキィ!!」

「野蛮! この人達野蛮!」

 Zガンダムに対して攻撃を仕掛ける二機のMS。

 

 AGE1タイタスとAGE1スパローの改造機体と思われるその二機だが、頭や胴体は人間の少女の様な姿をしていた。

 このような改造もGBNでは流行っている。所謂MS少女という奴だが、ニャムからZガンダムを奪った少女曰く───

 

 

「───だからさっきも言った通りだって! フィギュアの腕を千切って接着剤で付けてるんじゃガンプラもフィギュアもキミ達を恨んじゃうだけだよ!?」

 二機のガンプラは本来のプラモからは外れた形で作られていたらしい。

 

 同じMS少女でも、大切に作られた物とそうでない物があるのは確かだ。

 彼女達───ELダイバーにはそれが分かってしまう。

 

 

「うるせぇ! 分かったような口聞くんじゃねぇよ!」

「余計なお世話だボケが!! くらえ、ビームラリアット!!」

 タイタスを改造した機体が少女の乗るZガンダムを襲った。二機に挟まれて逃げ場のなかったZは片腕を吹っ飛ばされて地面を転がる。

 

「……ったたぁ。ヤバ!?」

 スパローの追撃に気が付いてスラスターを吹かすZガンダム。しかし、間に合わない───そう思ったその瞬間。

 

 

「───この子の無礼は詫びる。しかし、これ以上は手を引いて貰いたい」

 Zガンダムを襲おうとしたスパローを踏み付け、蹴り飛ばして二機の前に立ち塞がるMS。

 

 メイのウォドムだ。

 

 

「んだ、テメェ!」

「ソイツの仲間か? いちゃもんばかり付けやがって!」

 Zガンダムを庇うようにして現れたメイに対しても、自分の機体に文句を言われた怒りをぶつける二人のダイバー。

 二人が怒る理由は充分あるが、それでも気性が荒いという部類に入るだろう。

 

「……キミ、あの基地に居なかったのにボクを散々追ってきてた奴だな。何者だ!」

「私は……お前の姉に当たる者だ」

「ふーん」

「なにコソコソ二人で話してやがる!」

「まとめてぶっ飛ばしてやるぜ!!」

 二機のAGE1が二人のELダイバーの少女に襲い掛かろうと、その機体の脚を持ち上げた。

 

 メイは「話を───」と二人を止めようとするが、その気はないようである。

 

 

「───んじゃ、その二人の事宜しく!」

 メイが渋々少女を守る為に戦闘態勢に入ったその背後で、守ろうとした少女本人は機体を変形させて、スラスターから煙を漏らしながらも一気にその場を離脱し始めた。

 

 コレには流石に唖然とするメイ。

 そんな事は関係なく、AGE1を使う二人はメイのウォドムを襲う。

 

 

「……っ」

「どうしたデカブツ!」

「俺達のガンプラを馬鹿にした割にはその程度か!」

「……困らせてくれる」

 目を細めて溜息を吐くメイ。

 

 そんな彼女の背後に、今度はまた違う二機のMSが降り立った。

 

 

「メイさん!」

「どういう状態だ? これ」

 ユメとケイの機体が地面に着地する。これを見て、さらにAGE1のパイロット達は「またさっきのZの仲間か!」と怒りをあらわにした。

 

「……追ってきたのか」

「なんだかよく分かりませんけど、手伝いますよ!」

「必要ない。それよりも、二人で彼女を追って欲しい」

 ユメの加勢を断るメイ。

 

 加勢はともかく、いま彼女にとってはZガンダムの行方の方が大事なのである。

 

 

「で、でも……」

「分かりました」

「ケー君?」

「メイさんを信じよう。今はあの子を!」

 そう言って、ケイはスラスターを吹かせてユメもそれに続いた。

 

 そんな二人を攻撃しようとするスパローだが、メイのウォドムがその巨体で立ち塞がる。

 

 

「今邪魔をされるのは不都合だ」

「この野郎。本当に一体なんなんだ!」

「構うもんか。ぶっ潰してやろうぜ!」

「……上手くやってくれれば良いが」

 AGE1使い達の言葉を聴き流しながら、メイはZガンダムを追いかけて行った二人に視線を向けるのであった。

 

 

 

 少し時間が進む。

 

「───見失ったな」

「方角は合ってると思うんだけどね」

 Zガンダムを追いかけていた二人だが、森の広がるエリアでZガンダムを見失ってしまっていた。

 

 天気は良くこの快晴で空を飛んでいるMSを発見出来ない訳がないが、ユメ曰く損傷具合からして墜落していてもおかしくないという話である。

 とはいったものの、この広い森林エリアで墜落したMSを探すのは難しい。森の中を走るワッパの三人とも協力して闇雲にZを探すしかなかった。

 

 

「……MSの反応?」

 ふと、ケイがレーダーを見ると心当たりのないMSの反応が映っている事に気が付く。

 もしそれがZではなくても、この辺りに居たダイバーならZを見ているかもしれない。

 

 二人は無言で相槌だけうって、レーダーに映ったMSの元に進路を変更した。

 

 

「……なんだ?」

 どこか頭身が他のMSと比べて低いガンダムタイプの機体の横で、一人の少年が立っている。

 ケイ達が見付けたのは、ポンチョを着たそんな少年のアバターだった。

 

 

「あの、すみません。ここら辺を飛んでいたZガンダムを見掛けませんでしたか?」

「Z……さっきの」

 ケイの質問に心当たりがありそうな表情を見せる少年。二人は嬉しそうに顔を見合わせるが、反対に少年は訝しげな表情で二人を見比べる。

 

「あのZを狙っているのか」

「ち、違いますよ! 私達は───」

「……怪しいな」

 焦るユメに、少年は目を細めた。

 

 

「確かにZは見たけど、あの機体は煙を吹いていた。……もしあのZを追ってPKを狙っているようなら、場所を教える訳にはいかない」

「PKなんてそんな事しないよ!」

「俺達はあの子を救いたいんだ」

 真剣な表情でそう言うケイの言葉に、少年は少しだけ表情を緩める。

 しかし警戒は解いていないようで、自分の機体に触れていつでも搭乗できる準備をしていた。

 

 

「救いたい、か」

「あの子を探していた人がいて、その人曰く……あの子の命に関わる事なんだ」

「信じてもらえないかもしれないけど、私達はあの子を助けたいの!」

「命……?」

 二人の言葉に、少年は少し目を見開く。

 

 

「イヴ……」

 少年の脳裏に一人の少女の姿が映った。

 

 

 

「……分かった。ここから南西、あの川岸に向かって墜落していったと思う。力になれなかったらすまない」

「ありがとうございます」

「ごめんなさい、邪魔して」

「いや、特に何かしてた訳じゃ……」

 自分の頭を掻く少年は、慌てて機体に乗り込む二人を見て苦笑いを溢す。

 

 

「……探してる、か」

 自らが示した方角へ向かう二機のMSを見上げながら、少年はそう口を開いた。

 

 

 

「見付かれば良いが」

 この少年───ヒロトが、後に二人やReBondのメンバーを救う事になるのはまた別のお話。




スペシャルサンクス、リライズのキャラ。また出番あるよ!その時まで!

読了ありがとうございました!


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奇妙な出会い

 木々が燃える。

 GBNでは二酸化炭素中毒───なんて事はないが、突然起きた森林火災にたまたまその場にいたダイバーは慌てふためくのであった。

 

 

「せ、セイヤさん! 火事です火事!」

「落ち着け、サトウ」

 たまたまその場にいたダイバー。

 

 セイヤは、目を細めて「突然なんだ」と燃える木々に目を向ける。

 

 

「……この辺りに反応がある。居る筈だ、ELダイバーがな。探せ」

「火事起きてますけど」

「死なねーよ。……俺達はな」

 セイヤがそう言うと、その場にいたサトウ他数名の彼の仲間が森の中を探索し始めた。

 そんな彼等の前に、一人の少女が現れる。

 

 

「アツイアツイ! シヌ! ボクシヌ!! うげぇ!!」

 突然火の中から転がってくる赤髪の少女。セイヤの前まで転がって来たその少女の姿に、セイヤは目を見開いて固まった。

 

 

「───レ……イア?」

「……あ、こんにちは? なんでも良いけど助けて欲しい。ボクのZが火の海なんだ」

「あ? ち、違う。レイアじゃない」

 少女の言葉に目を細めるセイヤ。一方で少女は、勝手に周りの人間を集めて消火を手伝わせ始める。

 セイヤが固まってしまっているので、一方的な態度の少女に従うしかなく火事はMSの手によって直ぐに消火された。

 

 

「いやいやー、どうもどうも。助かったよ。どうもどうも!」

「なんなんだ、コイツ。セイヤさん、コレどうします?」

「お前は……誰だ」

 その瞳に、記憶の中の少女が混ざる。

 

 

 目の前の少女はただ、首を傾げて無邪気な表情で立っていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 火事の後を見付けて、機体を下す。

 途中で会った少年にケイ達が聞いた話の通り、そこにはMSが墜落した跡のような痕跡が残っていた。

 

 

「ケー君、あれ見て!」

「Zガンダムだ」

 そして、二人はついに墜落して地面に横たわっているZガンダムを見付ける。

 大きな損傷はないが、操縦していたのは普通のダイバーではなくELダイバーだ。何が起きているか分からない。

 

「直ぐに降りよう」

 辺りでMSが着陸出来る場所を探して、ニャム達に連絡を取ってから二人は森の中に降りる。

 

 

「はーなーせー!! ボクが何をしたって言うんだー!!」

 その先で見付けたのは、複数のダイバーに囲われている少女の姿だった。

 

 

「……今度は何したんだあの子」

「あ、あはは。……ケー君、あの人」

 数人に捕らえられてひっくり返されている少女を見て苦笑いを溢すケイの横で、ユメはとある人物を見付けて指を指す。

 

「セイヤ、さん?」

「多分そうだよね?」

 ユメが見付けたのは、少女を側から見ながら固まっている一人の男の姿だった。

 

 NFTの時に見た彼の姿を思い出す二人。

 こんな所で何をしているのだろうか。NFT以降動きのなかった彼等との突然の遭遇に驚きつつも、ELダイバーの少女の扱いも気になる。

 

 

 乱暴されようものなら止めなければいけないが、木陰から黙って見ているとセイヤは「それくらいにしておけ」と仲間達を止めた。

 

 

「お前はなんだ」

「ボクはボクだ!」

 セイヤの質問にそう答える少女。目を細めるセイヤに、周りのダイバー達も少女を睨み始める。

 これは不味いと思ったケイが飛び出そうとしたその時、別の木陰から「セイヤ!」と一人の男が叫びながら飛び出した。

 

 

「こんな所で何してるのよ、えぇ。サトウまで」

「……カンダ」

 ダイバー達の間に入って少女の手を握るカルミア。遅れてケイ達の所にニャムとロックが追い付いてくる。

 

「兄さん……」

「アイツ、アンチレッドのリーダーじゃねーか。なんでこんな所にいやがる?」

 二人は言いながら、ケイ達と共に木陰から出た。

 

 

 機体が降ってきて火事が起きたかと思えば、五人も客が来たことにダイバー達は不穏な表情を見せる。

 そんな中でセイヤはカルミアの前に立ち「何しにきた」と短く呟いた。

 

 

「それはこっちのセリフよ。こんな所でなにしてんの、お前ら」

「このチビはお前のツレか? 趣味が悪い」

「……レイアとは関係ない」

 少女を庇う様な仕草を見せるカルミア。少女は首を傾げるが、ケイ達からすれば彼等が少女に何をするか分からない。

 

 それだけ印象が悪いという事もあるが、タイミング悪くこんな状況で再開した事もあるだろう。お互いにお互いを疑い深く睨む時間が続いた。

 

 

「兄さん!」

「……撤収だ」

 沈黙を破ったのはニャムだったが、彼女の言葉に続いてセイヤは片手を上げて仲間に指示を出す。

 するとダイバー達は次々とログアウトし始めた。

 

 

「まさかGBNで探検ごっこしてた訳でもあるまいよなぁ、セイヤ。何してた訳よ」

「お前には関係ない」

「関係ないなんて事あるか。俺はお前を───」

「そのチビ、ELダイバーか?」

 セイヤの言葉に、カルミアは「なんで」と短い言葉を溢して固まる。

 

 

 彼の言葉にどんな意味があるのか分からない。

 何故彼女がELダイバーだと分かったのか、ELダイバーだからといってなんなのか。

 

 カルミアの反応を見て不敵に笑いながら、セイヤはGBNからログアウトした。ReBondのメンバーとELダイバーの少女を残して。

 

 

 

 

「もう逃がさんぞ」

「結局ボクは捕まる運命か……ガクゥ」

 ロックに捕まえられた少女は苦虫を噛んだ様な表情でお手上げだと両手を上げている。

 そんな二人の傍で放心していたニャムだが、カルミアが彼女の肩を叩いて「セイヤの事は後回し」と彼女の意識を戻させた。

 

「キミ、どうして逃げたの?」

「ボクはZガンダムと遊びたかっただけだよ!」

「そのZガンダムはあっちでボロボロになってたけど。あのガンプラはニャムさんのなんだよ」

 頬を膨らませて少女を叱るユメ。怒っている様に見えるが、彼女が本気で怒るとどうなるか知っているカルミアは表情を引き攣らせている。

 

 

「……それはごめんなさい」

「あ、いえいえ。でも無事で良かったっすよ」

「Zガンダムが守ってくれたからね!」

 やはり不思議な事を言う女の子だな、というのが全員の認識だった。

 

 ガンプラの声を聞くことが出来る。

 それがELダイバーに多く見られる特徴だ。

 

 

「とりあえず連行だな。さっきの……えーと、メイさんだっけか? あの人の所に連れて行けば良いんだよな」

「……」

「おいケイ。お前に言ってんだぞ」

「え? あ、あぁ。ごめん」

 放心していたのはニャムだけではなかったらしい。何を考えていたのか、固まっていたケイの肩を揺らすロック。

 

「ケー君」

 ユメには彼が何を考えていたのか少しだけ分かる。

 

 

「アオト君は多分、さっき居なかったと思うよ」

「……そうだな」

 セイヤが居たという事は、彼の仲間になったアオトもあの場に居たかもしれなかった。

 だけど、ユメがそう言うならそうなのだろう。ケイは頭を横に振って今目の前にある問題をどうするか考え始めた。

 

 

 ───そんな所でタイミング良く、メイのウォドムが視界に入ってくる。

 

「見付けてくれていたか」

 ロックがウォドムに向けて手を振ると、機体が消えてメイが空から降って来た。

 メイは少女を見下ろすと、コンソールパネルを開いて誰かと連絡を取り始める。その画面に映る人物に、ケイ達は見覚えがあった。

 

 

「でかしたわぁ、無事妹ちゃんを保護出来たみたいね! あら? そこにいるのは───」

「───マギーさん?」

「ユメちゃんじゃなぁーい!」

 そこで、今回のメイの行動がマギーからの依頼だった事。そしてケイとユメがマギーの知り合いだった事を話し、一行は一度マギーの店に集まる事に。

 

 ボロボロになっていたZガンダムは一度リスポーンさせるために退場させて、ReBondの五人とELダイバーの二人はマギーが待つ店に向かう。

 

 

 その場を離れるReBondのメンバーだが、何故この場所にセイヤが居たのか。彼等は今何をしようとしているのか。

 

 それだけが、ただ気掛かりだった。



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未知の世界へ

 GBN森林地帯。

 

 

「結局、GBNへのログインは減ってないですねセイヤさん」

 森林地帯を歩きながら、サトウは目を半開きにしてそう言った。

 

 隣を歩くセイヤは返事をせずに、ただ黙々と前に歩いている。

 

 

「カンダさんも居なくなっちゃうし、俺達どうなるんですかね……。セイヤさん、そろそろGBNにログインした理由を教えてくれても良いんじゃないですか?」

「……次の計画だ」

「次の計画?」

 静かに答えたセイヤに聞き返したサトウは、彼がどこでもない虚空に視線を向けているのを見て怪訝な表情を見せた。

 

 彼等の目的はGBN、ガンプラへの復讐である。

 NFTではその為に活動したが、効果は一瞬のものだった。

 

 

 それからというもの、カンダがいなくなったこともあり彼等の活動頻度は著しく低下している。

 GBNへの復讐。その目的を持ちつつも、その手段を思いつくのも容易ではなかった。

 

 そんな中で、彼等の仲間に再び招集がかけられる。

 セイヤはある程度進んでから、彼等に向けてこう告げた。

 

 

「ELダイバーを探せ」

「ELダイバー?」

 セイヤの言葉に、仲間達は首を傾げて立ち止まる。

 

 ELダイバー。

 GBNに生まれた電子生命体。彼等が憎む世界の命だ。

 

 

 そんなものを探してどうするつもりなのか。

 

 

「お前達は第二次有志連合戦を知っているか?」

「確か、ELダイバーの存在がGBNでバグを引き起こすから……ELダイバーを殺すとか殺さないとかそんな話でしたっけ?」

 リク達ビルドダイバーズとサラを巡る物語。

 言葉の通りサラ───彼女達ELダイバーの存在はGBNにとって無害という訳ではなかったのである。

 

 

「そうだ、ELダイバーという存在はGBNのサーバーに莫大な負荷をかける。今はELダイバーを外の世界に保護してその負荷を回避しているらしいがな」

「つまり、ELダイバーを保護させなければ?」

「察しがいいな。……俺達はGBNからプレイヤーを恐怖で離れさせようとしたが失敗した。ならもう、GBNを中から壊してやるしかない」

 ELダイバーを探し、保護させずにGBNサーバーへの負荷を増大させれば───

 

 

「第二次有志連合戦で運営がELダイバーを消そうとしたのは、そうしなければGBNのサーバーがイカれるからだ。……なら、俺達はそれを意図的にもう一度起こす」

 ELダイバーの存在によるGBNサーバーへの攻撃。それが彼の目的だった。

 

 

 そして彼等はこの後、被弾して不時着したZガンダムに乗っていた一人の少女と出会う事になる。

 その出会いは───この物語が動くひとつのキッカケになるのだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 マギーの店。

 

 

「いらっしゃ〜い! 待っていたわよ、ReBondの皆。それにメイ」

 両手を上げ身体をくねらせながら、店に辿り着いたReBondのメンバーを出迎えるマギー。

 そんなマギーを見てカルミアは表情を引き攣らせて、ニャムは口を開いて飛び上がる。

 

「ほ、本物のマギーさんですと」

「あーらぁ、あなたが噂の改造ガンプラキラーの! 初めまして、マギーよ」

「そ、その言い方は辞めて欲しいっす……あはは」

 手を伸ばしてくるマギーに、表情を引き攣らせながら握手を返すニャム。

 マギーはニャムやカルミアも知っている通り有名人だ。そんなマギーがケイやユメと知り合いだったと聞いて、驚かない訳もない。

 

 

「こんな大物といつ知り合ったのよ、えぇ」

「俺がGBNを始めた時に、たまたま声を掛けられて……」

 今思えば、GBNを始めてからかなり時間も経ったな───なんて思う。

 

 

 初めはただ、ユメカを笑顔にしたかっただけだった。

 それからタケシも加わって、アオトを取り戻すという目標が出来て。

 今はニャムやカルミア、他にもGBNを一緒に楽しむ仲間が沢山いる。もう彼等の生活はGBNなしでは考えられなかった。

 

「奇妙な縁もあるもんだ」

「あはは、確かに」

「───で、ボクをどうするつもりなんだ!」

 店の入り口で話していると、メイが縛って捕まえている状態の()()()()()()()()()が声を上げる。

 

 ここに来たのは他でもない、捕まえたELダイバーの彼女をどうするか話す為だ。

 

 

「んふふ、悪いようにはしないわよ」

 笑顔で少女の顔を覗き込むマギーは「立ち話もなんだから、入って入って」と全員を店の中に招待する。

 そして、彼は縛られたまま椅子に座らされた少女を見てキョトンとした表情でこう言った。

 

「貴方、名前は?」

 マギーの言葉に、その場にいた全員が首を傾げる。

 誰も彼女の名前を知らないのだ。

 

 

 ELダイバーである彼女を保護する為に彼女を探していたメイも、彼女の名前は知らない。

 当たり前だが、突然フォースネストに現れた彼女の名前をReBondのメンバーが知っている訳もないのである。

 

 

「ボクはボクだ! 名前はない! なんか、ボクの事レイとか、レイアとか、イアとか読んでた人いたけど!」

「レイア?」

 彼女の言葉にユメは何処かで聞いた事のある名前だと人差し指を唇に当てた。

 直ぐに頭をよぎったのは、カルミアに聞いた───セイヤがGBNを憎むようになった理由の一端の話に出てきた一人の少女の名前である。

 

 NPDだった筈の少女。

 なんらかのバグで自我の芽生えたその少女は、GBNのサーバーに負荷をかけバグを発生させてしまう為に───消去された。

 

 

 思えば、いつか見た写真に乗っていた少女も赤い髪と目をしていた事を思い出す。顔はあまり似てないが、フォースネストの場所といいカルミアが因縁を覚えない筈もなかった。

 

 

「名前がないのは不便よね。メイ、あなたこの子の名前を決めてあげなさい」

「私が……?」

 唖然とするメイに、マギーは「これもお姉ちゃんの仕事よ」と片目を瞑る。

 少しだけ考えるような仕草をしたメイは、困ったような表情でこう続けた。

 

「イア……で、どうだ?」

 あまりにも思いつかなかったから最後に聞いた名詞をそのまま口にしただろう、と周りのメンバーは目を細める。

 しかし、任したからにはそれを否定する事も出来ない。それに、悪い名前ではないとマギーも首を縦に振った。

 

 

「それじゃ、貴方の名前はこれから()()ね。問題ないかしら?」

「よく分かんないけど良いよ───じゃなくて! ボクをどうするつもりだ!」

 その場の流れで返事をした少女───イアだが、思い出したかのように歯軋りをしながら暴れ回る。しかし、縛られているので彼女は特に何も出来なかった。

 

 

「私達はあなたを助けたいのよ」

 優しい表情でそう言うマギー。彼は、自分が何者かも分かっていないようなイアにGBNという世界の事と彼女達ELダイバーという存在の事を丁寧に説明する。

 イアは始め目を細めて「意味がわからない!」と騒いでいたが、マギーの真剣な説明になんとか自分の立場を納得するのだった。

 

 

「───つまり、ボクはこの世界に突然生まれた命で。このままこの世界だけにいたら大変な事になると」

「そういうことね。だから、あなたを助けたいの」

「ボクを外の世界で生きていけるようにする……。うむ、難しい」

 生まれたばかりのイアにとって、意味が分かっても理解が出来るのとはまたちがう話なのかもしれない。

 

 ELダイバーをこの世界と切り離し、GBNサーバーへの負荷をなくした上で彼等の命も救う。

 それはかのビルドダイバーズがELダイバーであるサラを救う為に数パーセントの確率に賭けて辿り着いた答えだった。

 

 

 今ではその方法も確立していて、ELダイバーの命を救う事は難しい話ではなくなっている。

 だがそれは勿論、ELダイバー本人の意思が必要だ。だからこそ、こうしてメイがイアを探し出したように各地でELダイバーの保護が進んでいるのである。

 

 

 

「───だから、今回はユメちゃん達が協力してくれて本当に助かったわ。ありがとね」

 片目を詰まってユメ達に礼を言うマギー。

 

「彼女の命を救う事が出来たのは、貴方達のおかげよ。メイも、よく彼女を見付けてくれたわ」

「なんかよく分からないけどありがとう、で良いのかな?」

「良かったね、イアちゃん」

 状況理解が半分半分なイアに、それでも彼女が助かった事を心から喜んでいるユメは笑顔で彼女に話しかけた。

 

 

 これから彼女はビルドダイバーズや色々な人達によって確立された技術で、この世界から旅立ち現実の世界にその魂を移す事になる。

 

 

「とりあえずイアちゃんの事は私が面倒を見る予定だけど、もしReBondの皆が良かったらたまに遊びに来て頂戴。きっとこの子も、なんでもない私達より貴方達と居る方が安心すると思うわ」

 そう言って、マギーはイアの魂を現実に移す為の作業に取り掛かった。ReBondのメンバーも、せっかくだからその現場を見学する事にする。

 

 ELダイバーの魂を、この世界と現実に繋ぐ技術。

 それは彼等にとってやはり未知の世界で、これから何が起こるのだろうと不思議とGBNなのに鼓動が速くなるのを感じた。

 

 きっとそれは、やはりこのGBNも現実と同じ一つの世界だからなのだろう。

 

 

 

「さぁ、行くわよイアちゃん」

「よく分からないけど分かった!! 本当に良く分からないけど!!」

 マギーの案内でコンソールパネルを開くイア。そうして彼女もまた、この世界を旅立ち───

 

 

 

 

「───あら?」

「ん?」

 ───外の世界に、現実の世界に向かう筈だった。



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今を楽しんで

 ボールを蹴る。

 サッカーというには人数も足りないが、玉蹴りというには白熱していた。

 

 

「悪いタケシ! 抜かれた!」

「ロックな!! んなろぉ、俺様を抜いてみろ!」

「行くよ、イアちゃん!」

「任せてくれたまえ!」

 空色の髪を靡かせながらボールを蹴ってケイを避けるユメ。

 その後を追い掛けるのは、赤い髪の少女───ELダイバーのイアである。

 

 

「俺の名はロックリバー、クールで格好良い男。俺を抜ける奴なんていねぇ!」

「イアちゃんパス!」

 ユメの前に立ち塞がるロック。

 しかしユメは、ロックに捕まる前にボールを横に蹴り飛ばした。そのボールのいく先にはイアがいて、彼女は見事にボールを受け取る。

 

 

「俺を踏み台にしたぁ!?」

「踏み台にはしてないよ!」

「これをゴールに入れれば良いんだね? 簡単じゃん!」

 ボールを蹴り進めながら舌を巻いてそう言うイア。

 

 ゴールの前にはカルミアが立っていて、そうはさせまいと両手を広げた。

 

 

「おじさんに任せな!」

「いっけー! イアちゃん!」

「超! エキサイティング!!」

 ボールを一度蹴り上げ、自分の身体を捻ってシュートを放つイア。ボールはカルミアを吹き飛ばし、ネットを引き千切る勢いでゴールに叩き付けられる。

 

 カルミアは死んだ。

 

 

「おっさーーーん!!!」

「カルミアさんが死んだ……」

 唖然である。勿論これはGBNなので、カルミアは後でリスポーンするが───

 

 

「あ、あはは……これは冗談で済むから良いっすけどね。……しかし、まさかこんな事になろうとは」

 ユメとイアのゴールを守っていたニャムは、苦笑いしながらそんな言葉を落とした。

 

 

「ふむ! コレがサッカーか! 面白いな!」

 ReBondのメンバーとイアは現在、何故かフォースネストの庭でサッカーをしている。

 マギーの元に彼女───イアを連れて行ってから、三日が経っていた。

 

 

「カルミアさんが死んじゃってる事は置いといて、私も初めてサッカー出来て楽しかったな。こうやってスポーツするの、現実(リアル)じゃ難しいから」

 カルミアの死体から目を逸らしてそう言ったユメに、イアは「現実かぁ」と首を傾げる。

 

 

 彼女はELダイバーだ。

 GBNで生まれた電子生命体。

 

 本来ならば、保護されたELダイバーは現実の世界にその魂を移して、ケイ達普通のダイバーの様に現実からGBNにログインする事になる。そして、彼女───イアもそうなる筈だった。

 

 

 

「どうしてイアちゃんだけが他のELダイバーみたいに現実に行けないのか……。それに、ジブンのZは未だにログアウト出来ませんし。謎が多いっすねぇ」

 メイと共にイアを保護したReBondのメンバーは、マギーの所で彼女を現実に送ろうとしたが───エラーによりそれは叶わなかったのである。

 

 マギーによれば原因は不明。

 さらに、何故かニャムのZガンダムがログアウト状態にならず───ニャムが一度GBNをログアウトしてもZだけはログアウトしなかった。

 ニャムが再びZガンダムでログインしようとしても【この機体は既にログインしています】と表示され、二重ログインになり彼女はせっかく作ったZガンダムが使えない状態である。

 

 

 今は楽しそうにはしゃぐイア達を見ながら、ニャムは「どうなる事やら」と目を細めるのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 事の発端はReBondのメンバーがマギーの店を訪れた時に遡る。

 

 

「───どうしてかしら」

 イアを現実世界に迎え入れる為の作業を進めていたマギーは、腕を組んで首を傾げていた。

 

「トラブルか?」

「既にイアちゃんはGBNにログインしている事になってるのよ。そういうエラーが出るの」

 メイの問い掛けにそう答えるマギー。

 

 

 ELダイバーはその魂を現実に移しても、現実からダイバーとしてGBNにログインする事が出来る。

 

 しかしマギー曰く、イアのステータスはガンプラを使いログインしているということになっているらしいのだ。

 

 勿論、マギーの知る所ではイアを誰かが保護して現実世界に迎え入れたとの報告はない。

 そんな彼女のステータスはデタラメで、ダイバーとしてログインしているのにログアウト出来ない───ログアウト先がないELダイバーとしての特徴も見受けられるのである。

 

 

 

「こんな事、これまでなかったのよ? これは、流石に相談するしかないわね」

「結局何だったのさ」

 訳も分からず連れてこられ、何も起きなかったと───イアは訝しげな表情でマギーを睨んでいた。

 

「おかしな事になって来たっすね」

「どうなるんだろう、イアちゃん」

 少しだけ不安そうな表情を見せるユメ。第二次有志連合戦の事を知っているという事もあるが、彼女にとってはそれよりも───カルミアに聞いたレイアの話が頭に過ぎる。

 

 場合によってはイアも彼女のように、と嫌な予感が頭を過った。

 

 

「大丈夫よ」

 そんなユメの頭を撫でるマギー。彼も、彼女達がイアの身を案じている事が分かっているのだろう。

 

 

「彼女達ELダイバーを救う為に、色んな人達が手を尽くしているのよ。だからあなた達はなーんにも心配しなくて大丈夫。……だけど、一つだけあなた達にお願いをしたいの」

「お願い……?」

 マギーの言葉に胸を撫で下ろすユメ。そして続く彼の言葉に、ユメも含めてReBondのメンバーは首を横に傾けた。

 

 

「この子の───イアちゃんの面倒を少しの間だけ見てて欲しいの」

 そうして、フォースReBondはELダイバーイアの保護を引き受けたのである。

 ニャムのZガンダムがログアウト状態にならない件はこの後に発覚しマギーに報告しているが、こちらも原因は不明のままだ。

 

 

 

「成り行きとはいえ、デカい問題抱えちまったねぇ」

「あ、生き返ってる。……そうっすね。気にし過ぎる事はないのかも知れないっすけど、命が掛かってる問題ですし」

「命、ねぇ」

 ニャムの言葉にカルミアは目を細める。脳裏に映るのは、彼女と同じ髪の色の女の子だ。

 

「……セイヤの───お兄さんの事気にしてる?」

「……どうしてです?」

「ちょっと元気ないなって、思って」

「気にしてないと言ったら嘘になってしまいますね。NFT以来音沙汰もなかった兄さんが突然出て来たんですから。……気にしたってまた兄さんに会える訳じゃないという事は、分かってるんですけど」

 視線を落とすニャムを横目で見るカルミアは、少しの間の後に頭を掻いてから彼女の頭の上に手を置く。

 そしてその手を揺らしながら、彼はこう口を開いた。

 

 

「あの子ら見てみなさいよ」

 カルミアの指差す先では、今度はドッチボールをしている四人の姿が映る。

 投げられたボールをキャッチし、そのままボールを豪速球でロックに投げ付けるイア。

 

「タケシぃぃいいい!!」

「タケシくーーーん!!」

 するとロックの首が飛んで、彼は死んだ。

 

「ロックだぁぁあああ!!」

「あっははははは、ボク最強!」

 笑い合っている四人は、大切な友達が今居ない事をまるで気にしていないようでもある。

 

 

「うわー、こわ」

「わ、笑い事ではない気が……」

「あの子の怪力はともかく、楽しそうでしょケー君達」

「確かに……。そうですね」

「でもあの子らだって、アオト君の事を忘れてる訳じゃない。……アオト君が戻ってきた時の為に、今こうしてGBNを楽しんでるのよ」

「戻ってきた時の為に……」

 カルミアの言葉を聞いてから、ニャムは再び遊んでいる四人───三人に視線を向けた。

 

 

 彼等はこの世界を全力で楽しんでいる。

 それは大切な友人を忘れたからではない、大切な友人を迎え入れる準備をする為だ。

 

 

「セイヤだって、ガンダムが……ガンプラが大好きだったんだ。おじさん達がその気持ちを忘れちゃったら、アイツの帰ってくる場所がなくなっちまうだろ?」

「それも……そうです、そうっすね」

「お、元気出てきたわね」

「それじゃ、ジブンもまた遊ぶっすよ!!」

「そのいきよ」

「みなさーん! 今度は相撲やりませんか!? ジブン自信あるっすよ!!」

 声を上げながらカルミアの手を引っ張り、四人に混ざりに行くニャム。

 

 

 また人が死にそうな遊びを提案するな、なんて呆れながらも───カルミアは賑やかになったフォースネストを眺めて笑う。

 

 

「また煩くなりそうね」

 過去の光景とどこか重ねながらも、彼は今を楽しもうと首を横に振るのであった。



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第九章──この世界の事【チャンピオン、クジョウ・キョウヤ】
新しい道へ


 GBNのチャンピオン、クジョウ・キョウヤは焦っていた。

 

 

「僕とした事が……」

 手が震える。まさか、GBNのチャンピオンともあろう自分がこんなミスを犯す時が来るとは思っていなかった。

 

「───せっかくトライエイジを遊びに来たのに家にカードを忘れてしまった」

 アーケードゲームの前で崩れ落ちる大人が一人。

 

 

 こんな情けない姿の男が大人気ゲームであるGBNのチャンピオンだとは、周りを歩く子供達は知る余地もない。

 

 

「なんだか悪い予感がする───ん? 電話?」

 ふと、彼の携帯電話の元に連絡が入る。着信と共に落ち着きを取り戻した彼は電話に出て、相手の話に相槌を打った。

 

 

「───分かりました。今すぐGBNにログインします」

 そう言って電話を切ったキョウヤの表情は、先程までと打って変わって険しい。

 

 

「……ELダイバーが行方不明になるケースが多発、か」

 目を細めてそう呟く彼の脳裏に、自分でも何故か分からないが一人の男の姿が過ぎる。

 まさか、と首を振り───彼は自分のガンプラを握りしめてGBNへのログインを急ぐのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 光が機体を貫く。

 

 

「───チクショォォ!!」

 ロック撃破。

 

 

「ユメちゃん、今行くしかないっすよ!!」

「うん! タケシ君の死は無駄にしない!!」

 爆煙の中で変形し、スラスターを全力で吹かせて一気に速度を上げる二機のMS。

 

 ニャムが駆るのはウイングガンダムという可変機で、高い機動力とツインバスターライフルによる遠距離火力が特徴的なMSだ。

 その隣を駆けるのは、同じく可変機───デルタプラスを改造して作り上げられたユメのデルタグラスパーである。

 

 

「二手に分かれて、生き延びた方がサイコザクを討つしかないっす!」

「───ニャムさん!!」

 二人は別れて相手を狙う算段を立てたが、突然のアラートが鳴る前にユメはそう口を開いた。

 

 しかし、その時には既に遅い。

 遠方より放たれた光が、ニャムのウイングガンダムを貫く。

 

 ニャム撃破。

 

 

 長距離射撃。

 その犯人は、フォースメフィストフェレスの狙撃手スズだった。

 

 

「射撃のクールタイムが前より凄く早い……!」

「……成長してるのはそっちだけじゃない」

 フォースReBondとフォースメフィストフェレスは、五対五のフォースバトル戦の真っ最中である。

 

 試合は大詰め。

 ReBondの残りメンバーがロック、ニャム、ユメの三人に対してメフィストフェレスの残りメンバーはスズとアンジェリカの二人だった。

 しかし、スズの狙撃でReBondのメンバーは残りユメだけとなり逆転状態である。

 

 この状況を打破するには、今スズの居場所が割れているこの時に彼女を叩くしかなかった。

 

 

「───今回は勝つ」

「───負けない!」

 再び放たれるビームスナイパーライフル。その光はユメの機体を掠め、翼を半壊させる。

 

 

「……また交わされた」

「……当てられた」

 スズは外す気などなかった。ユメは当たる気がなかった。

 避けられる事込みでの狙撃。完全に交わした気だった回避。

 

 二人は口角を吊り上げて、操縦桿を握り直す。

 

 

「近付いた!!」

「舐めるな!!」

 スズのサイコザクレラージェに肉薄し、MS形態に変化しながらビームサーベルを抜くユメのデルタグラスパー。

 サブアームを展開し、構えられたヒートホークとビームサーベルが火花を散らした。

 

 

「接近したからって勝てると思うな」

「そんな事思ってないよ!」

 サイコザクレラージェは六つのサブアームを持ち、四肢も合わせてその全てを完璧に操作するスズのプレイヤースキル故にフォースメフィストフェレスのエース機でもある。

 遠距離はその狙撃技術でいわずもがな───近距離であろうと彼女はロックにも引けを取らない。

 

 

 二つ目のサブアームがザクマシンガン、三つ目のサブアームがビームバズーカを手にユメのデルタグラスパーにその銃口を向けた。

 

「それでも、離れるよりはマシ!」

 言いながらシールドを構えるユメ。しかしデルタグラスパーのシールドのサイズはお世辞にも大きいとは言えない。

 そのままでは蜂の巣になる───そう思われた矢先、ユメはシールドに装備されたグレネードランチャーを地面に向けて放つ。

 

 

「小癪な……!」

 ガンダムSEEDに登場する、ビームを曲げるシールド───ゲシュマイディッヒパンツァーを装備し防御面も厚いサイコザクレラージェだが弱点が二つだけあった。

 

 一つは重装備による機動力のなさである。

 そしてもう一つは、強力な防御武装であるゲシュマイディッヒパンツァーだが実弾には弱い事だ。

 

 

「足をやった! 今なら!」

 変形し、ユメは急速離脱する。

 サイコザクレラージェの脚部を破損させた今なら、姿勢制御が追いつかない死角を取る事が出来ると思ったからだ。

 

「そうはさせませんわよ!!」

 しかし、新手がその場に現れる。

 

「レーダーに映らないのはズルいよ! アンジェリカさん!!」

「そういう機体なんですのよ!! ミラージュコロイド解除、戦闘モードですわ!!」

 フォースメフィストフェレスのアンジェリカ。その機体、アストレイゴールドフレームオルニアスがユメの背後を取った。

 

 しかしユメは機体を翻して応戦する。幸いサイコザクレラージェは動けない状態で、今は狙撃の死角で交戦中だ。

 このアンジェリカさえ倒す事が出来れば、まだユメ達にも勝機はある。

 

 

「私はもう後ろで見てるだけじゃない……。皆の隣に立ちたいから!」

「本当に強くなってらしてビックリしましたわ。しかし、何度も同じ事も言わせるのはナンセンスですわよ!」

「な───」

「───落ちろ、ユメ」

 放たれる光。

 

 サイコザクレラージェの放ったビームスナイパーライフルが、ユメのデルタグラスパーを貫いた。

 

 

 ユメ撃破。

 勝者フォースメフィストフェレス。

 

 

 

「なんで動けたのぉぉ!」

「……サブアームで無理矢理機体を動かした。アンジェがレラージェを強化してくれたおかげ」

 試合が終わった後、ユメはスズに抱き着きながら文句を漏らす。スズの返答を聞いているのか聞いていないのか、彼女は楽しそうにはしゃいでいた。

 

「それにしても驚きましたわ。彼女の機体、オフ会の時に勝ち取ったデルタですわね?」

「そうっすね。フォースReBond機体のニュー戦力って所っすよ。……負けちゃいましたけど」

「今回は俺達の勝ちだな」

「うるせぇ! 俺が油断しただけだ!」

 フォースメフィストフェレスのリーダー、ノワールを睨むロック。

 

 しかし誰もに険悪なムードはなく、どちらのチームもバトルを全力で楽しんだ結果がそこにはある。

 

 

 

「それにしても、それ以上に驚いたのがその子ですわよ。……ELダイバー、イアさんでよろしいんですか?」

 そんな話の中で、アンジェリカは横目で一人の少女を見ながらそう言った。

 

「うん、ボクはイア。よろしく! 次はボクとやろーよ、ガンプラバトル」

 そう元気に返事をする少女───赤い髪のELダイバー。

 

 彼女の名前はイア。

 ひょうな事からReBondが買い取ったフォースネストで出会い、そのまま保護という形で共に行動する事になったELダイバーの女の子である。

 

 

 

 彼女と出会って一週間。

 本来ならGBNの運営に保護される筈のELダイバーだが、彼女は何故かそれが出来ない為にこうしてReBondのメンバーが行動を共にしているという訳だ。

 

 

「イアはまだガンプラバトルはダメだぞ。機体もないしな」

「なんだよケイ。ケチ。ケイじゃなくてケチ。ボクにはZがあるもん」

 ケイの言葉に口を尖らせるイア。しかし、そんな彼女にカルミアが後ろからチョップを入れる。

 

「お前は撃破されたら取り返しがつかないの。それにZはニャムちゃんのよ」

 呆れ顔でそう言うカルミアは、溜め息混じりに「やれやれ」と言葉を漏らした。

 

 

 彼女を保護して一週間。

 マギーからめぼしい話もなく、状況は手詰まりである。

 こうなるかもしれないと分かってはいたが、だからといってReBondのメンバーに解決策が浮かぶわけもない。

 

 

 GBNでの死が実際の命の終わりを意味する彼女とバトルを楽しむ事が出来ないのが一番の痛手で、今回だってメフィストフェレス側からの招待がなければ当分バトル関係はする予定がなかった。

 理由は簡単、今イアがそうなっている通り───彼女がバトルに興味を持つ事を避ける為である。

 

 

 

「なるほどふむふむ。確かにGBNの本来の目的はガンプラバトルですが、そうでなくてもこの世界を楽しむ方法は沢山ありますわ。こちらからバトルに誘っておいてなんですが、この後は旅行でもいかがです?」

「旅行……?」

 アンジェリカの言葉に首を傾げるイア。

 

 彼女の提案に他のメンバー達は顔を見合わせた。

 メフィストフェレスのメンバーは普段バトルをメインに活動しているし、ReBondのメンバーも半分はGBNを初めて一年も経っていない。

 

 

 この世界がバトルだけではない。

 それは分かっていても、旅行と言われてピンとくるものではないのである。

 

 

「旅行っすか、ジブンも行ってみたい所とか結構あるんすよね! 賛成っす」

「時間潰しには良いかもね。おじさんも賛成よ」

「決まりですわね!」

 多数決すら取っていないし、スズやロックのようなバトル好きのメンバーは不満そうな顔をしているが───彼女の勢いに勝てる者はいなかった。

 

 

「それでは、フォースメフィストフェレスとフォースReBond。合同旅行! 行きますわよ!!」

 突然なんの準備もなく始まる旅行。これもGBNならではである。

 

 

 計十二人。オフ会の時とはまた違ったメンバーによる催しが始まるのであった。



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ホワイトベース

 GBN、GMルーム。

 

 

「───すまない遅くなった。カツラギさん」

 GBNにログインしたキョウヤは、GBNのゲームマスターであるカツラギの元を訪れていた。

 

 チャンピオンのキョウヤとゲームマスターのカツラギ。

 二人はGBN開設よりも前の旧知の友人でもある。

 

 

「いや、問題はない。話は聞いているか?」

 SDガンダムの姿をしたアバターのカツラギは、キョウヤに背中を向けたまま話し始めた。

 彼の視線は、正面にあるモニターに向けられている。

 

 

「数名のELダイバーが行方不明になっている、なんて大まかな話を少し」

「そうだ。本部でのこの事は重く見ている」

「詳しい話を聞きたい」

 キョウヤがそう言うと、カツラギはモニターを操作して画面を切り替えた。

 そこにはここ一週間で行方不明になったとされるELダイバーの顔写真が映し出される。

 

 その数、五人。

 

 

「……こんなにもか」

「彼女達は既に保護されているELダイバーだ。しかし、ログアウトの形跡もなければGBNサーバー内で探しても見つからないのだ」

「それで行方不明、か」

 キョウヤは目を細めた。

 

 第二次有志連合戦から一年と半年。

 GBN運営はELダイバーの保護を積極的に行ってきたが、彼等の事を全て理解している訳ではない。

 

 

 ELダイバーが何故生まれたのか、何をきっかけに生まれたのか、何処で生まれたのか。

 それらすら今のGBN運営はハッキリとした答えも得られていないのである。

 

 

「この件がGBNのサーバーを再び危機に落としいれる物なら、直ぐにでも対策を練る必要がある」

「カツラギさん……」

「……君はこの件をどう思う?」

 未だ未知のELダイバーの問題に対して運は慎重にならざるをえない。だからこそ、カツラギはキョウヤを呼んだのであった。

 

 

「僕は───」

 ふと、彼の脳裏に一人の少女の姿が映る。

 

 GBNチャンピオン、クジョウ・キョウヤの答えは決まっていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 頬っぺたを引っ張る。

 

 

「な〜に〜を〜す〜る〜」

「ELダイバーといっても、他のダイバーと特に変わりはありませんのね」

 イアの頬っぺたを餅のように伸ばしながら、アンジェリカは「でもよく伸びますわ」と微笑んだ。

 

 

「その辺にしておけ。それに、この世界にいる以上誰もが同じなのはお前も分かっている筈だ」

「トウドウ。……確かにそれもそうですわね。失言でしたわ。ごめんなさい」

「何を言ってるか分からないけどボクの頬っぺたを引っ張った事を謝ってないのは分かったぞ!」

 頬を真っ赤にしながら両手を振るイア。

 そんな微笑ましい光景に、周りの仲間達は賑やかに笑うのだった。

 

 

 フォースReBondのメンバーと、フォースメフィストフェレスのメンバーはイアを加え───アンジェリカの提案でGBNでの旅行へと向かっている。

 

 現実での旅行と違いGBNでは準備等がほとんど要らない。

 即日決行のこの旅行は、メフィストフェレスが用意してくれたシャトルに乗るところから始まった。

 

 

「───さて、まずは大気圏離脱を体験しますわよ!」

 シャトルに乗り込み、シートベルトをするメンバー達。数秒後、カウントダウンと共にシャトルは轟音を上げながら高度を上げていく。

 

 

「さ、殺人的な加速ですわーーー!」

「なんじゃこりゃーーー!」

 大気圏離脱時に感じる(重力)は自分の体重を本来の数倍に感じる程の物だ。これがもし現実なら全員泡を吹きながら気絶している所である。

 しかしGBNはある程度痛覚や感覚を抑えてあり、このように大気圏離脱等も楽しんで体験する事が出来るのだ。

 

 

「───だからといって態々シャトルで宇宙に行かなくても、GBNはワープなりなんなり出来るのにな」

 それでも感じるGは相当なものなので、大気圏離脱に成功したシャトルの中でロックは苦笑い気味に言葉を漏らす。

 

 

「ここが、宇宙」

 無重力。

 正確にはまだ地球の重力圏内ではあるが、このシャトルの外は空気も何もない暗黒の世界が再現されていた。

 

 見渡す限りの星の空。

 ユメは目を輝かせてシャトルの窓に釘付けになる。

 

 

「ねー、ほら見てケー君! 地球が本当に青い!」

「そうだな」

 思えばユメはGBNの宇宙にこうしてちゃんと出た事はなかった事を思い出した。

 もっと早く連れてきてあげれば良かったな、なんて思った矢先───ケイの頭に何かがぶつかる。

 

 

「───あばばばばばばばば」

「イア!?」

「イアちゃん!?」

 それは泡を吹いてシャトルの中で浮いているイアだった。

 

「だ、大丈夫っすか!?」

「───ばばばびばびぼぼびは、ひっ。……オーケー! ボク元気! 多分生きてる!」

 突然目を覚ましたイアは「これが宇宙かー!」とユメと同じようにシャトルの窓の外を見渡す。

 安心したニャム達だったが、帰りは普通に移動するという事に決まるのだった。

 

 

 

「今回の旅行の目的は、ガンダム世界のあちこちを実際に見て回る事ですわ! それと、新しくお友達になりたいイアさんとの親睦会もかねて! さて皆さん、ガンダムといえば!」

 シャトルの中で全員の前に立ってそう言葉を響かせるアンジェリカ。

 

「目と角」

「戦争をテーマにした人間ドラマ」

「格好良いMS!」

「格好良いMA!」

 彼女の問い掛けに、メンバーは思い思いの言葉を口にしていく。

 

 

「全員ハズレですわ」

「分かる訳ないよ!」

「分かる訳ないって!」

「でも、レフトとライトは若干近かったですわよ」

 二人を見比べて得意げな表情を見せるアンジェリカ。彼女は不敵に笑いながら、シャトルが到着した事を知らせるアナウンスと共にこつ口を開いた。

 

 

「ガンダムといえば……巨大戦艦ですわ!!」

 白い巨大な宇宙戦艦が窓の外に映る。

 

「これは!」

「ホワイトベース!」

 それは、ガンダムの原点。機動戦士ガンダムに登場する宇宙戦艦の名前だった。

 

 

 ホワイトベース。

 馬の両脚を前後に伸ばしたようなその形状から、作中では木馬とも呼ばれている。

 

 そのサイズは全高97m。全長262m。

 MSガンダムが全高17mなのに対してMSを運用する宇宙戦艦は、必然的にこのように途方も無い大きさになるのだ。

 

 

 日本の基準で分かりやすく例えるなら、ホワイトベースの全長は戦艦大和と同じで、高さは三十階建てのマンションと同じである。

 そんな巨大戦艦をシャトルから間近に見たメンバーは、ガンダムやこのGBNに疎いユメじゃなくても圧巻されるのであった。

 

 

「ほ、ほへー」

「す、すげぇ……」

「これが実寸大のホワイトベースか……」

「アークエンジェルに似てるね」

「アークエンジェル、というよりガンダムSEEDはこの初代ガンダムのオマージュが多く見られる作品っすからね」

 シャトルはホワイトベースのデッキに降り立ち、メンバーはホワイトベースの中に招待される。

 

 

 このホワイトベースはGBNが用意した観光用のフィールドであり、細部まで再現されたホワイトベースの中を自由に見学する事が出来る人気の観光スポットだ。

 その証拠に、アンジェリカ達以外にも観光客が戦艦の中を歩いている。

 

 

「───味が薄いですわ!!」

「すみません、塩が足らんのです」

「……このやり取りオフ会でやったっすねぇ」

 そのホワイトベースの食堂エリア。

 

 ホワイトベースの料理長、タムラが出す料理を再現した食事が取れる広場だ。当たり前だが本当に味が薄い訳ではない。

 

 

「さてと、お膳立てもここまでにして。少しお話をしたいですわね。私達、イアさんの事をあまり知らないので」

「……自己紹介、するか」

「良いですわね。スズがそんな事言うなんて珍しいですけど」

 そうして、スズの提案で一同は食堂エリアでイアに自己紹介をする事になる。

 

 ここまでアンジェリカが強引に話を進めて来た訳だが、イアは嫌がらずに楽しんでいたようだった。

 それもあってか、自己紹介の中で彼女とメフィストフェレスのメンバーの間に溝はなくなっていく。

 

 

「僕がライトで!」

「僕がレフトだよ!」

「こっちがレフトで、こっちがライトだな!」

「「違うよ!!」」

「ノワールだ。一応このフォースのリーダーをやっている」

「タケシと同じだな!」

「ロックな」

 ついにイアまでロックの事をタケシと呼び始めたのはともかく───

 

 

 ホワイトベースの中を歩きながら会話を弾ませるイアと二つのフォースのメンバー達。

 

 

 楽しい旅行は始まったばかりだ。




劇場版ガンダムSEED……?


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ヘリオポリス

 チャンピオン、クジョウ・キョウヤの答えは決まっていた。

 

「───僕は、この問題はサーバーへの負荷の問題ではないと思っている」

 キョウヤがそう言うと、カツラギは頭を少しだけ動かして視線だけを彼に向ける。

 彼の瞳はいつも真っ直ぐだ。

 

 

「ELダイバーがどんな存在なのか、確かに僕にも分からない。だけどこれだけは言える。保護されたELダイバーは現実世界から僕達と同じようにこのGBNを楽しむダイバーであり、仲間だ」

「……仲間、か」

 キョウヤの言葉にカツラギはふと一人の少女の顔を思い出す。

 

 

 彼はその少女に対して厳しい物言いをした事があった。その時こそ彼女には苦い表情をさせてしまったが、彼女を仲間として認めて以降───彼女は彼に微笑みかけてくれたのである。

 

 

 

「これは僕達にとって、仲間が行方不明になったという話だと思うんだ。でもそういう意味では、これは確かにGBN全体の問題かもしれない」

「……私もそう思うよ」

 可能ならば彼女達を救いたい。その気持ちは本物だった。

 

 しかし、彼にはGBNのゲームマスターとしての責任もある。この件を楽観視する管理は彼にはないのだ。

 だからこそ、カツラギはキョウヤを呼んだのである。

 

 

「───それを踏まえて、君に聞いて欲しい話がある。この話と関係があるかは分からない話ではあるが」

 そう言うと、カツラギはモニターに一人の少女の姿を映し出すのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 大地を見上げる。

 

 

 それは比喩表現ではなく、ケイ達の視界の先にあるのは言葉通り───宇宙に浮く大地だった。

 

「これがスペースコロニーか。ホワイトベースですから途方もなかったのに、これはもう言葉に出来ないな……」

「ケー君、私頭クラクラしてきたよ」

 途方もない大きさにケイとユメは頭を抱えるが、このスペースコロニーの中に入ればまた別の途方もない感情が湧いてくるのである。

 

 

 スペースコロニー。

 人類が増え過ぎた人口を宇宙に移民させる為に開発した、巨大な空の大地だ。

 その多くはシリンダー型と言われている円柱状の内部をくり抜いて、側面の内側に人々の住む区画を設けた形状のコロニーである。

 

 他にも砂時計型等のスペースコロニーも登場するが、ガンダム作品に登場するスペースコロニーはこのシリンダー型が殆どだ。

 

 

 

「このコロニーは、ヘリオポリスっすね。あ、ほら! イージスが寝転がってるっすよ!」

「ヘリオポリスってガンダムSEEDの……あ、本当だ!」

 ニャムの言葉にユメは身を乗り出して反応する。

 

 

 コズミック・イラ。

 ガンダムSEEDという作品群の舞台である世界にも、このスペースコロニーが存在していた。

 ヘリオポリスは主人公キラ・ヤマトが物語初めに暮らしていたコロニーであり、中立のコロニーで地球連邦軍が秘密裏にMSを開発していた場所でもある。

 

 なので、GBNの旅行地としてのヘリオポリスには作中で奪取されるMS───デュエル、バスター、ブリッツ、イージス等の他にもストライクやメビウス・ゼロ、アークエンジェル、ジン、ジグー等の等身大ジオラマが設置してあった。

 

 

「す、凄いな。おぉ……ストライク」

 これにはケイも目を輝かせていて、そんな彼を見てユメは「ふふ」と短く笑う。

 

 彼は自分の為に、親友との仲違いの原因の一つになったこのGBNをプレイして教えてくれた。

 自分を楽しませる事ばかり考えてくれていたんじゃないかと、ユメはケイの事を心配していたのである。

 

 

 だけど、それは杞憂だったようだ。

 

 

「ケー君!」

「ん? なんだ、ユメ」

「楽しいね!」

「……そうだな」

 楽しい。

 

 本当に、こんな時間はつい数ヶ月前までの自分達からすれば夢のような時間だと思う。

 

 

 

「ほう、これはケイのガンプラに似てるな。こっちはノワールのガンプラに似てる」

 ヘリオポリスの観光地。

 ストライクやイージスの立像が立つエリアで、イアは目を細めて素直な感想を溢していた。

 

 

「そりゃ、ケイやノワールの機体はこのガンダムSEEDの機体を元に改造したガンプラだからな」

「ガンダムSEEDとな。それは一体なんなんだ?」

 隣でロックの漏らした言葉に、イアは首を横に傾ける。そんな彼女の反応に、ロックもまた口を開けたまま首を横に傾けた。

 

 

「ガンダムSEEDを知らない……?」

「彼女はELダイバーだ。俺達の世界の事を知らないのも無理はないだろう」

 頭の上にクエスチョンマークを浮かべて固まっているロックに、ノワールはそう言いながらイアの目を見る。

 

 ELダイバー。

 確かにそういう存在が居るのは知っていたし、会った事がないわけではなかった。

 

 

 だが、こうも不思議な存在なのかと、ノワールは感心する。

 

 

「ボクの顔に何か付いてるのか?」

「いや。……ガンダムSEEDっていうのは、俺達の世界で人気のある物語の一つなんだ。物語で通じるか?」

「物語か、分かるよ。ストーリーって奴だ」

 若干怪しいが、多分伝わっているだろうとノワールは話を続けた。

 

 

「俺達はその物語の一つ一つが好きで、その物語に登場するロボットをプラモデル……プラモデル、分かるか?」

「うん。ガンプラだろ」

「そう。ガンプラを作って、飾ったり……こうやってガンプラで遊べる世界を作って楽しんでいる。……ここ、GBNはそうやって現実の世界の人間が作り出した世界なんだ」

「この世界が……作られた世界」

「……ショックだったか?」

 ノワールの言葉に、考え込むように俯くイア。失言だったかとノワールが心配そうな声を漏らすが、イアは「いや? 全然!」と顔を上げる。

 

 

「この世界は現実の人達に愛されてるんだな! ガンプラを見てたら分かるよ。その現実って世界の人達が、ボク達のこの世界を本当に好きだって事がさ」

「……そうか」

 彼女の言葉を聞いて、ノワールは安心したような溜息を漏らした。

 

 

 確かにガンダムの世界が好きな人間は多い。彼女のいう通りだろう。

 しかし、ふとそうではないのかもしれない人々の事が頭に浮かんだ。

 

 無意識に、ノワールは拳を握り締める。

 

 

「ノワール」

「……なんだ?」

「安心してくれ。ボク達もガンプラと、君達が好きだよ」

 その言葉の意味は少し理解が難しかったが、彼女のそんな言葉に何故か安心するノワールなのであった。

 

 

 

 

「ヘリオポリスといえば!!」

「ガンダムSEED!」

「ストライク!」

「生意気なんだよ! ナチュラルがモビルスーツなど!」

「ケイさん、ユメちゃん、タケシ君ハズレですわ!!」

「ロックな!!!」

 アンジェリカの問題に全滅する三人。スズはそんな彼女を見て「……当てられる人居るのか」の目を細める。

 

「正解はコロニーの崩壊ですわ!」

 等と言いながら突然飾ってあったランチャーストライクにとうじょうするアンジェリカ。この時点でケイは嫌な予感がしていた。

 

 

「アグニは入れ込み二発! 今回は一発あれば充分ですけども!!」

 そして、彼女はコロニーの中心向けて高出力のビーム砲───アグニを放つ。

 

 ヘリオポリスというスペースコロニーは中心に構造上の支えとなる芯が存在し、作中でもこうして砲撃により内部が損傷───ヘリオポリスは崩壊するのであった。

 

 

「何してんだお前ーーー!」

「このヘリオポリス、コロニーの崩壊を目の当たりに出来る超巨大アトラクションでもあるんですわよ!」

「「コロニーが!!」」

 アンジェリカの言う通り崩壊していくヘリオポリス。

 

 当たり前だがGBNはデータの世界である。少し弄ればこのヘリオポリスも元通りなのだが、それでもその光景は恐ろしいものだった。

 

 

「地面が……」

 普段飄々としているイアも、この光景には唖然として固まっている。どこか震えているように見えるのは、彼女にとってこの世界は現実だからだ。

 

 

「大丈夫か?」

 そんな彼女に、ノワールが話し掛ける。

 

 

「え、あ、うん」

「恐ろしい光景だな」

 イアの肩を叩いてそう言うノワールは、彼女の視線の先を同じく見詰めた。

 

 割れていく大地。空は欠けて、宇宙と混じり合っていく。

 潰れる場所、破裂する場所、穴が開く場所。様々な崩壊の模様が、視界いっぱいの大地に広がるのだ。

 

 

 地獄絵図といってもなんら相違ないだろう。

 

 

「うーん、そうだね。これは流石のボクも恐怖するよ」

「俺達が見る物語は、こんなにも恐ろしい事が何度も起きたりする。でも俺達はこの光景が面白くて見てる訳じゃないんだ」

「と、言うと?」

「物語はこういう怖い事や恐ろしい事も沢山起きる。だから、そうならないようにする為に動く人達は俺達にとってヒーローに見えるし、格好良いのさ。勿論その逆もまた、好きな人だって居るんだがな。物語っていうのは、そういう良し悪しを楽しむ物でもある」

「良し悪しを楽しむ、か。ボクも見て見たくなったな、そのモノガタリってやつを」

 崩壊していくヘリオポリスを眺めながら、イアは自分世界が舞台となった物語に思いを馳せた。

 

 

 

「……でもやっぱり、ボクにとってこの光景は恐ろしいよ」

「それは多分、皆同じだろう。こうしてみると、本当に恐ろしい光景───」

「凄過ぎですわーーー!」

「───光景……だな。アイツは後で怒っておくか」

「あはは、でもボクも楽しくなってきたよ。これは本当に凄いや」

 笑顔を取り戻すイアを見て、安心するノワール。

 

 

 ReBondが連れて来た彼女の事を最初はよく分からない奴だと思っていたが、どうやら違ったらしい。

 

 

 

 彼女は───イアは、ただの女の子なのだろう。怖いものは怖いし、楽しいものは楽しいと感じる、自分達と何も変わらない存在なんだ。

 

 

「……しかし、ヘリオポリスの崩壊でこれか。コロニー落としなんて恐ろしくて見てられないな」

「コロニー落とし? これを落とすのか?」

「いや、これはそうだな……。お前が無事に俺達の世界に来れたら、アイツらと一緒にそういう話を見るのも悪くないかもな」

 だから、ノワールは少しだけ彼女の現実で会うのが楽しみになる。

 

 

 

 色々な事を教えてやりたい。願わくば、彼女を取り巻く問題が解決した後もReBondのメンバーや自分達と一緒に───そう思うノワールなのであった。



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月と火星

 モニターに一人の少女の姿が映し出される。

 

 

「……カツラギさん、この子は?」

 短くて赤い髪の小柄な女の子。

 

 キョウヤはその少女に見覚えがない。しかし、その顔はどこか彼の記憶に引っ掛かるものだった。

 

 

「一週間前に保護された、一番新しく発見されたELダイバーだ」

「彼女が何か?」

「彼女は一週間前、マギーによって保護された。そこまではなんの問題もないただのELダイバーだったのだが……」

 カツラギはモニターを見ながら目を細める。

 

 

 彼はマギーに聞いた話を思い出していた。

 

 

 

「───このイアちゃん、ログアウトを受け付けないのよ。それだけじゃない、彼女は何故か現実からログインした訳じゃないのにデータの上では現実からガンプラを持ってログインしてる事になってるの」

 ───これが、先日マギーから聞いた報告である。

 

 後で報告された詳しい情報では、ELダイバーイアは放棄されたフォースネストで発見されたらしい。

 

 発見された彼女はそのフォースネストを新たに買い取ったフォースのダイバーの機体を乗っ取り、逃走。

 直ぐに保護には成功するが───彼女が乗っ取ったガンプラが、データ上では彼女が現実からログインする時にスキャンしたガンプラ扱いになっているのだとか。

 

 

 ELダイバーは未だに解明されていない事が多い。

 勿論この事が他のELダイバー行方不明事件と関係があるとは限らないが、カツラギは「頭の中に入れておいてくれ」とキョウヤに語るのだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 視界が埋まる。

 

 

「いやどんどん盛大になっていくな」

「今度は月か。もはやこれ以上はないだろ」

 眼前の超大な岩に、ケイとロックは目を白くして固まっていた。

 

 月旅行というと、仮想現実をゲームとしてプレイしていてもまだまだ夢の話である。

 しかしその仮想現実であるGBNでは、月旅行が現実となってしまうのだ。

 

 

「この巨大な丸がお月様なのか!」

「そうだよイアちゃん。それでね、ガンダムの世界だとお月様の表面に街が出来たり基地が出来たりしてるんだ」

「他にも他にも、ガンダムXでは月に太陽光発電施設が用意されていてですね! そこから放たれたスーパーマイクロウェーブを拾って、ガンダムXやガンダムDXはサテライトキャノンを撃つ訳です! ガンダムの月といえば、様々な戦闘の舞台や基地がある設定が盛り沢山っすからねぇ。こうして月旅行が出来るなんて、ガノタのジブンからすると夢のような体験っすよ。フヘヘヘヘ」

「ニャムは凄く月が好きなのか?」

「ニャムさんは凄くガンダムが好きなんだよ」

 暴走するニャムを横目にそう語る夢は、少しだけ間を置いて視線を月に落とす。

 

 

 広大な大地。

 地球の衛星、月。限りなく近く限りなく遠い存在。

 

 

 

「私の夢はね、飛行機に乗ってそらを飛ぶ事なんだ」

「夢? ユメの夢か。いや、ユメは飛んでたじゃないか。ガンプラに乗って」

「あはは、そうなんだけどね。私、この世界でしか飛べないんだ」

「……どうして?」

 俯いて話すユメに、イアは目を細めて彼女の顔を覗き込んだ。

 

 

「私は現実だと足が動かないの。この世界と現実の世界は違うから、私はこの世界なら飛行機に乗って飛べるけど……現実の私はきっと飛行機を操縦出来ない。……そのコックピットに座る事を許されない」

「現実というのは、なんだか窮屈なんだな」

「でもね、現実は夢で溢れてるんだよ」

「夢で溢れる?」

 俯いていた筈のユメは、真っ直ぐに前を向いてこう語り始める。

 

「GBNだとこんなにも簡単に叶う夢も、現実だと凄く難しい事で……確かにイアちゃんの言う通り窮屈に思えるかもしれない。だけどね、だから頑張りたくなるんだ。この世界は───GBNは私に夢を見る事を教えてくれた、だから私は現実でも頑張りたい。いつか本当に、自分の身体で飛行機を操縦するんだって思えるようになったんだよ」

「ユメは現実が好きなんだな」

「GBNが嫌いなんて訳じゃないんだよ!? GBNより現実が好きって訳でもない。GBNは私の夢と現実を繋いでくれた場所だから。こうやって月を見るのだって、本当に素敵な事だと思ってる。こればかりは物凄く頑張らないと現実じゃ叶わない夢だし、それに次に行くって言っていた場所は私が一生頑張っても無理だと思うんだよね」

「……ユメの話を聞くに、このGBNは夢と現実の境目って所か。自分の生まれた世界だけど、我ながら不思議な世界だと思うよ」

 夢と現実の境目。

 確かに彼女の言う通りかもしれない。

 

 

「よーし、イアちゃん! 人類の夢! 月面着陸だよ!」

「うおー! なんだこれは! 身体がフワフワするぞ!」

 この世界は確かに現実ではない、だけど夢でもないのだ。この世界は確かに存在している。

 

 そして今日も誰かに影響を与えて、この世界はやはり輝いていた。

 

 

 

 

「……おじさんここまで来ると目が回るぜ」

「まだ次があるっすからね。このくらいで驚いていてはいけませんよ」

「ここは何処だ!!」

 次に一行が辿り着いたのは、砂の色をした巨大な星。

 

 

「どっちの火星だ。どっちも地獄だけど」

「AGEなら疫病、鉄血ならそのまま地獄か。火星はガンダムの世界じゃ確かに良いところではないな」

 その星を細目で見るロックとノワール。

 

 彼等の言う通り、一行の目の前にあるのは太陽系第四惑星───火星である。

 

 

「ガンダム以外にも、SF作品に登場する火星はやっぱり過酷なイメージが多いっすよね」

「ニャムちゃんがガンダム以外の作品の話をしてる……」

「カルミア氏はジブンの事をなんだと思ってるんすか?」

 火星。

 太陽を中心に公転する太陽系に存在する惑星の中で、最も太陽から近い距離を公転する惑星から数えて四番目に遠い距離を公転する惑星だ。

 

 

「ガノタ?」

「そうっすけど! そうっすけど!」

「でもニャムは色々な事に詳しいな。さっきもスペースコロニーを見学してる時ペラペラと話していた気がするぞ。聞いてなかったけど」

 二人の会話にそう口を挟んだイアは「知識が多いのは羨ましい。ボクはこの世界で産まれたのに、君達よりもこの世界を知らないようだし」と口を尖らせる。

 

「それを知る為の旅行でもあるっすかるね。なんなら、火星やジブン達がこれから向かう木星についても少し教えるっすよ」

「おー、お勉強だな!」

 火星とニャムを見比べて、イアは目を輝かせた。

 

 

 こう見えても彼女は産まれたばかりなのだろう。好奇心が旺盛なのは、彼女が見た目よりも子供な証だ。

 

 

 

「まずガンダムAGEの火星っすね。こちらは火星の地面に住む訳ではなく、火星圏にコロニーを建築する形で火星が登場してるっす。これは後でもお話する事ですけど、実の所火星は木星やアステロイドベルト───えーと、火星と木星の間に存在する小惑星帯と呼ばれる場所よりも資源効率が悪くてそこにコロニーまで建築して住む価値はあまりないと言われてるんですよね」

「へー、それはなんでよ。火星の方が住みやすそうじゃない?」

「ボクの記憶だと、木星は地面がないとかガスでいっぱいだとかそういう話だった気がするぞ」

「そう、木星にはガスがいっぱいあるんすよね。ガンダムの世界ではヘリウム3という資源を木星から運ぶ事が出来るから、木製圏へ生活圏を映すのは過酷な生活圏を選ぶ上でも経済的なアドバンテージが大きいんすよ。同じく小惑星帯では、資源となる小惑星がガッポガッポ取り放題という事です。……しかし、火星には何もない。以上の点を踏まえて火星はガンダムの世界では多く開拓地として価値を見出されていない星だったりします。ガンダムAGEだとこれに加えて、マーズレイと呼ばれる磁気嵐とそれが原因の風土病が蔓延。お世辞にも良い環境とは言えなければ、そこに住むアドバンテージもなかったっす」

「それじゃ、その人達はどうしたんだ?」

 そんなイアの質問に、ニャムは「よくぞ聞いてくれました」とメガネを曇らせる。カルミアは「やはりガノタね」と目を細めた。

 

 

「火星移住計画で火星圏に作られたコロニーで生活する人々は、マーズレイを怖れた偉い人達に───全員死んだと言われて火星圏に置いてきぼりにされたっす」

「それは酷いな!」

「詳しい資料を知らないのでなんとも言えないっすけど、コロニーは十六機程作られていたようなので相当な数の人々が火星圏への移住計画に参加していたと思われています。そんな数の人々を地球圏に連れ帰るのが、偉い人達は嫌だったんでしょうねぇ。……そして、生き延びた火星圏の人々が百年以上も掛けて地球へ戦争を仕掛けた! ガンダムAGEはそこから始まる物語っす!!」

「結末が気になるな」

「それは、イアちゃんが現実に来た時の楽しみにして頂ければ幸いっすね」

 ニャムの言葉に口を尖らせるイア。そんな彼女を横目にニヤニヤと笑いながら、ニャムはこう話を続ける。

 

 

「続いて鉄血のオルフェンズの火星ですが、こちらはなんと火星のテラフォーミングに成功して火星の大地で人々が宇宙服等なしに行動出来る世界が広がってるっす! これはこれでSFのロマンって奴っすよねぇ!」

「火星に人が住むのか。でも、火星と地球は違うだろう?」

「その通りっすけど、実は火星と地球の自転の時間。……つまり一日の長さは大きな差がないんすよね。その点ではもし火星のテラフォーミングに成功したならば、火星は我々人類にとってとても住み心地の良い星になると思われているっす」

「へー、一日の長さが同じなのね。それはおじさんも知らなかったわ」

「重力はどうなるんだ? さっきユメと月に降りた時、フワフワしたぞ。アレは月は小さくて地球より重力が低いからだってユメが言っていた」

「あはは、確かにそうなんすよね。火星も地球より小さいので重力は小さい筈……なんですけど! そういうのを気にしないのがSFの醍醐味って奴なんすよ!! そもそも宇宙は真空なので音が鳴らないっす。でもかの有名な某映画監督は言いました!! 俺の宇宙では音が鳴るんだと!!」

 ハッキリというニャムの言葉に、イアは「おー」と何故か感心したような声を漏らした。

 

 

 意味はよく分からないが、情熱だけは伝わったらしい。

 

 

 

「それでは、次は木星旅行っすよー!」

「おー!」

 一行の次の行先は太陽系第五惑星、木星である。

 

 

 それはまるで、夢のような体験だった。




ハサウェイ見てきました。凄まじい映像美だった……。


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木星

 それにしても、とキョウヤはモニターに視線を戻す。

 

 

「───確かに不思議な話だ。ログアウト出来ないELダイバーか」

「行方不明と関係があるかは分からないが、彼女が発見された時期とELダイバー達が行方不明になり始めた時期は一致する。完全に無関係とも言い切れない」

 あまり表情は変えずに、モニターに映る赤い髪の少女を見るカツラギ。

 

 

 彼の話によれば、ELダイバーが行方不明になる件が報告され始めたのは彼女が発見された数日後からだそうだ。

 

 キョウヤは顎に手を向けて少しの間考え込む。

 

 

「───今彼女は?」

 ふと、彼はカツラギにそう問い掛けるのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 木星。

 太陽系第五惑星。火星の外の小惑星帯(アステロイドベルト)の更に外に存在する、ガンダム作品では地球から最も遠い人類の生活圏としても描かれる過酷な場所である。

 

 

「───と、いう訳で。この木星は火星と違って資源となるヘリウム3というガスが多く、宇宙世紀とかだと火星よりも重要視されていた生活感なんですよね」

「ほへー。この大きな星がねー」

「とはいえ、木星はガス惑星……すなわち核以外の質量の殆どが固体ではないので鉄血のように木星の大地に住む……なんて事はないんすけども。大概はその衛生軌道上に生活圏を作る形になってるっす」

「ここまでデカくなるともうおじさんも唖然を通り過ぎて何も感じないわ。もはや実感が湧かない」

 木星に関心を示すイアにガンダム世界での木星について語るニャム。

 

 そんな彼女の隣で、カルミアは太陽系で一番大きな惑星をぼんやりと眺めていた。

 

 

「そうだな、カルミアの言う通りだ。もはや規模が分からん!」

「そうっすねぇ。木星の大きさは地球の約十二倍、しかし自転の速さは地球とほぼ同じだった火星とは違いなんと約十時間。地球よりも大きい惑星なのに、地球より二倍以上早く自転してる訳で、赤道上の時速はそれはもう恐ろしい速度になってるんすよ。その大きさ故に重力も地球の二.五倍。クロスボーンガンダムのスラスターや木星帰りのMAメッサーラのスラスターが強力なのは重力の強い木星圏での運用を想定して製造されたからなんす!! 宇宙世紀の他にも、ガンダムSEEDの世界ではファーストコーディネーター、ジョージ・グレンがエヴィデンス01───所謂はねクジラの化石を発見した場所であったり。ガンダム00ではGNドライヴの製造が行われていたり、劇場版では木星に発生したワームホームからELSが現れたりしてたりと、意外にも登場する作品は多いんすよ!!」

 鼻息荒く解説するニャムに、イアは「ニャムはなんでも知ってる物知り博士だな!」と目を輝かせる。

 

 そんなニャムを見てゲンナリしているカルミアは、ふと旅客機であるシャトルの窓に映る巨大な建造物に視線を移した。

 

 

「コロニーレーザーか」

 巨大とは言っても、木星の大きさと比べればそれは点でしかない。

 

 この建造物は宇宙世紀が舞台の物語、クロスボーンガンダムシリーズで木星帝国が地球へ攻撃する為に建造した兵器である。

 

 

「ここから地球を撃とうとか、よく思い付くものよ。……しかし随分と遠くに来ちゃったわねぇ。おじさん地球が恋しいわよ」

「そんなに地球から離れたのか? カルミア」

「ん? あー、そーね。普通にワープでここまで来たから感覚薄いかもしれないけど。地球から木星まで……えーと、ニャムちゃん。どれくらい離れてるんだっけ?」

「地球からは一番近い時で約六億キロメートル、遠い時は九億五千万キロメートルっすね。簡単に言うと新幹線と同じ時速三百キロメートル程で動く乗り物に乗って真っ直ぐ向かっても早くて二百年以上掛かる距離っす。光の速さでも三十分掛かりますし、木星に行くくらいなら地球からは太陽に向かった方が早い……つまり地球から木星の距離は地球から太陽の距離よりも長いんすよね」

「……らしいよ」

「凄く遠いって事だな?」

 分かったのか分かっていないのか、イアは首を傾げながら唇を尖らせた。

 

 

「でも、ま。ロマンチックになっちゃうわねぇ。おじさんが子供の頃、木星なんて夢にも見なかった。それこそ、この広い宇宙のどこかに居る宇宙人と同じくらい遠い存在だったのにね。今は仮想現実とはいえ、こんな手を伸ばしたら届きそうな場所に木星がある訳で」

 木星に手を伸ばしながらそう言うカルミア。勿論手を伸ばしたら届きそうというのは比喩表現だが、GBNをプレイしていなければ木星をこんなに身近に感じる事はなかっただろう。

 

 

「こうするとさ、居るんじゃないのかって思うのよね」

「何がっすか?」

「宇宙人」

「あはは、流石にそれはどうか分からないっすけどね。確かに、そんな気はしてくるっす」

「宇宙人?」

 カルミアとニャムの会話に、イアはそう言って再び首を傾げた。

 

「なんていうのかね。この世界の外、現実の……そのさらに外の人達の事かな」

「現実にも外の世界があるのか!」

「そうそう。だけど、おじさん達は自分達の世界の外に居る人達にまだ会ったことがない。……それが本当に居るのかも分からない」

「分からないのか」

「そ、分からない。……居るかもしれないけど、出会えてないから居ないかもしれない。おじさんは一生掛けても会えないかもしれないし、居ないのと同じかねぇ」

 寂しそうにそう言うカルミアの手を、イアに強く握って首を持ち上げる。

 

 

「居るさ」

「……い、言い切るねぇ」

「だって、ボクだって自分の世界の外に人が居るなんて思ってなかったからね! きっとカルミアの世界の外にも人は居る! だって! そうじゃなきゃ寂しいだろ!」

「───レイア」

 ふと、少女の笑顔と記憶の中の少女が重なった。

 

 

「……そうだよな。そもそも、おじさん達にとってGBNは内や中の世界なんて事はない。GBNも現実も、どっちも外じゃなくて繋がってる世界だ」

 レイアは確かに生きていた、カルミアは目を閉じてそう信じ込む。

 

 確かに彼女はこの世界に居たんだ。生きていたんだ。

 

 

「……イアちゃん」

「……どした? カルミア」

「お前に会えて良かったよ。ありがとな」

「あわわ、や、やめろー」

 イアの髪の毛を滅茶苦茶にするカルミア。そうしていると、アンジェリカが全員に集合を掛け始める。

 

 

 この惑星ともお別れだ。

 

 

「さて、宇宙旅行は終わりですわ! 次は地球に戻りますわよー!」

「この次はGBNで宇宙人探しでもやるか」

「いやいや、流石にGBNでも宇宙人を探すのは無理だと思うっすよ」

「そうかねぇ、イアはどう思うよ」

「居るさ。だって、この世界はボクもカルミア達も知らない事が沢山あるんだからね!」

 発進する船は木星を離れていく。

 

 

 ガンダムの世界では木星まで二百年以上掛かる事はないが、それでも旅の時間は果てしない。

 しかしこのGBNでは、それも一瞬で出来てしまうのだ。

 

 

 

 作り物の世界だからと言う人も居る。

 

 

 しかし、カルミアはこう思った。

 

 

 

「……これが、GBNっていう世界か」

 四方八方、どこを見ても星の海。この世界の空はどこまで続いているのだろうか。

 

 もしかしたら、()()()にも手が届くかもしれない。その世界には───

 

 

 

 

 

 

 ───けて───助けて───い! ───助け───助けて下さい! 助けて! 助けて下さい!───

 

 

 

 ───その世界には、きっと誰かが生きている。




最後のシーンはフレディです。


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世界の境目

 キョウヤはその名前を聞いて、心の奥底で何かが引っ掛かる感覚を覚えていた。

 

 

「───フォースReBond、ですか」

「知っているのか?」

 キョウヤの質問。

 イアという少女が今何処で何をしているのか、という問いに対してカツラギは「ReBondというフォースのメンバーに面倒を見てもらっているそうだ」と答える。

 

 カツラギがゲームマスター権限で、今の彼女の行動をモニターに移すとキョウヤは苦笑いしながら「なるほど……」と目を細めた。

 

 

「NFTに参加していたのを覚えている。彼等には苦い記憶になってしまったと思っていたが……良かった、GBNを楽しんでいるようだ」

 そう言うと、キョウヤはカツラギに背中を向ける。そんな彼にカツラギは「何処へ行く」と問い掛けた。

 

 

「彼等の元へ。確かにこのELダイバーの行方不明事件は謎だらけだ。どこかに手掛かりがあるのなら、僕はそれを掴みたい」

「分かった。任せる。……ただし、こちらも手掛かりを掴む為の用意がある。その際は、協力してもらうぞ」

「……カツラギさん。貴方は、また自分だけが責任を問われるように話を作ろうとしているんじゃ」

「それがゲームマスターの務めなのだと、私は最近思い知ったのさ」

 カツラギの返事を聞くと、キョウヤは「僕はカツラギさんを信じますよ」とだけ漏らして歩いていく。

 

 

 カツラギの視線は動く事なく、モニターの一点に向けられていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 地球は青かった、なんて言葉は何処かしらで聞いた言葉である。

 

 

「……地球は青かった」

 しかし、実際にその光景を見た物は、その言葉が自然と漏れてくるのだ。

 イアはその赤い瞳に青い星を映して、水の大地を堪能している。

 

 月、火星そして木星への旅行から帰って来た一行は地球の衛星軌道上を周回しながら次の予定を決めている真っ最中だった。

 

 

「決めましたわ!」

 ふと、アンジェリカは満面の笑みで顔を持ち上げて地球に視線を落とす。

 どうも嫌な予感がしたスズは、ゆっくりと彼女から離れようとしたが───アンジェリカはそれを許さずにスズの肩を掴んだ。

 

 

 

「この星を堪能する為に、まずはショッピングですわ!! そんな訳でやってきました、ダイバーシティ!!」

 両手を上げるアンジェリカの背後には、ユニコーンガンダムの立像が立っている。

 

 ここはダイバーシティ───とは言っても、現実のダイバーシティではなくGBNの中に作られたダイバーシティだ。

 

 

 

「な、なんでGBNの中にダイバーシティが」

「ある意味ここもガンダムの聖地っすからね。日本に住んでないと飛行機を使って日本に行かなければ来れない所ですし、海外に住んでいる方々からすればありがたいのかもしれないっす。……とはいえ、GBNのアバター姿のままダイバーシティまんまの場所に来るのはなんだか不思議な感覚っすね」

 ケイの質問にそう答えたニャムは「つい数週間前の事なのに、なんだか懐かしいっす」と笑みを溢す。

 

 それは他のメンバーも同じようだが、ニャムよりも不思議な感覚を覚えている人物が二人だけいた。

 

 

 

「なんか、変な感覚だねスズちゃん」

「……確かに」

 現実では自分で歩く事が出来ない二人が、現実の世界を歩いているような感覚を覚える。

 ユメとスズは、そんなこそばゆい気持ちになんだか落ち着かない様子だった。

 

「ここはなんていうガンダムの世界の場所なんだ?」

 ふと、イアのそんな言葉に二人は目を見合わせて笑う。スズが笑顔を見せるのは珍しいが、ここ最近は多くなったのかもしれない。

 

 

「ここはね、現実の世界の場所なんだよ」

「現実の? ガンダムの世界じゃなくて、ユメ達の世界って事か!」

「……君は現実にいけないELダイバー、だったか。……変な話だけど、ようこそ。私達の現実に」

「君じゃなくて、ボクにはイアって名前があるぞ!」

「……イア。ようこそ、私達の世界に」

 どうも自分とはペースが違うイアに戸惑いつつも、スズは珍しくアンジェリカ以外の人物に笑顔を見せる。

 

 そして、彼女の言葉に、イアも「おー!」と目を輝かせた。

 

 

 

「ここがこの世界の中にある現実()の世界なんだな!」

「そうですわ! それでは、お買い物に行きますわよぉ!」

 アンジェリカを先頭に、建物の中に入っていくメンバー達。

 

 建物の構造は殆ど現実と一緒である。

 しかし、その中身はGBN用にカスタマイズされたアバターの衣装を買う施設や機体のパーツや武器を買う施設等───このGBNでの現実を楽しめる施設になっていた。

 

 

「トウドウ、そっちは任せてもよろしいですか?」

「分かった。時間は?」

「こちらから連絡しますわ。それまで適当に時間を潰しておいてください。女子の買い物は長いんですわよ!」

 何やら二人で会話を進めるアンジェリカとトウドウ。その話が終わると、トウドウが男性グループを集めて「一旦男女に分かれるぞ」と眼鏡を曇らせながらそう言う。

 

 アンジェリカも同様に女性グループを集めると「ここからは一旦女子会ですわ!」とトウドウと別の方面に向けて歩き出した。

 

 

 

「アンジェめ、何か企んでるな。どういうつもりか知ってるんだろうトウドウ」

「聞かれても答えられはしないがな。今は大人しく着いてきてくれれば良い。……後悔はしないぞ、男ならな」

 深みのある言葉に、しかし男性陣は首を横に傾ける。

 

 言いながら歩き続けるトウドウに着いていくしかない訳だが、その先にあった物に男性陣は直ぐは彼の言葉を忘れるのであった。

 

 

「これは……」

「まさか……」

「おーう、ガンダムのゲームセンターって所か」

 辿り着いた先にあったのは、大量のモニターやアーケードゲームの筐体が置いてある施設である。

 勿論現実のダイバーシティにそのような場所はない。

 

「ここはガンダムの様々なゲームが集められた施設だ。……とりあえず、ここで時間を潰す」

 ───トウドウがそういう前に、ケイとノワール以外の四人は既に駆け出し始めていた。

 

 

「すげー! 大昔のゲームがあるー!」

「おじさんにとっては大昔じゃないからその言い方やめて!?」

「ねーねー! 皆でバーサスシリーズやろうよー!」

「ねーねー! 皆でバーサスシリーズやりたいー!」

「「良いねぇ、やるか!!」」

 レフトとライトの提案でアーケードゲームのある場所に走るロックとカルミア。

 そんな子供の()()()四人を半目で眺めるノワールは、トウドウに「時間を潰すって、どういう事だ」と問い掛ける。

 

 

「俺達男と、女達は違うという事だ。俺達にそこまでの時間は必要ない」

「買い物でもしてるって事か?」

 トウドウの言葉にケイがそう言うと、ノワールは「なるほど」と頷いた。

 

 そうなると、かなり長い時間待たされるだろうとノワールは考える。ならば、遊んでおかないと損だ。

 

 

「トウドウ、ケイ、俺達も遊ぶか」

「……そうだな」

「ガンダムって俺達の知らないゲームも沢山あるし、せっかくだからそうしよう」

 そう言って、三人も各々興味を持ったゲームに手を出していく。

 

 

「よっしゃロッ君! ドーベンの腕付けたぜ!」

「任せろおっさん横横横ぉ!!」

「「デュナメスが横ブンしてくるー!!」」

 騒がしい男達。

 

 

 

「───さて、お買い物ですわよ!!」

 一方で女性陣はケイの予想通り、買い物の真っ最中だった。

 

「買い物と言っても、GBNなので何をどれだけ買おうが荷物が増えないのは良い事っすねぇ」

「買い物だって、スズちゃんイアちゃん」

「……私に振るな」

「買い物とは確か金銭を払って物を交換する事だったか。何を買うんだ?」

 イアの質問に、アンジェリカは「色々ですわ」と片目を閉じる。

 

 そんな彼女について行くと、GBNで着る事の出来るアバター衣装が用意された施設に五人は辿り着いた。

 

 

「コスプレも、普通のお洋服も、なんでもあるんですわよ! 勿論着るだけならタダですから、着せ替えを楽しみますわよ!!」

「……私は遠慮───」

「スズは絶対逃しませんわ!!」

「うぉぉ……」

 逃げようとするスズを捕まえて更衣室に連れて行くアンジェリカ。そんな彼女を笑いながら眺めるニャムは「それでは、ジブン達も楽しみますか」と衣装を眺め始める。

 

 

「服を着たり脱がせたりして何が楽しいんだ?」

 アンジェリカにおもちゃにされているスズを見ながらそう言うイアに、ニャムは衣装を二着手に持ちながらこう口を開いた。

 

「女の子は服を着るのが好きな物なんです。それと、コスプレと言ってガンダム作品に登場するキャラクターが着ている服を着てその世界観を味わうという楽しみ方もあるんすよ!」

「ほへー、なるほど。現実の人は面白い事を考えるな。ここはGBNの中にある現実の世界で、現実の世界の人達はガンダムの世界の人達の格好を真似する。目が回りそうだ。……ところで、その手にあるのは?」

「フヘヘヘヘ、これはっすねぇ───」

 ニャムは不敵な笑みを見せながら隣に立っていたユメを捕まえてアンジェリカよろしくイアとユメを更衣室に投げ込む。

 

 彼女に「これを二人に着て欲しいっす!」と言われ、断る理由もなく二人は手渡された衣装に着替えて更衣室を出た。

 

 

「ウッヒョー! イアちゃんは髪が赤いだけあってルナマリアの衣装も似合うっすねぇ! ユメちゃんも、メイリン衣装でツインテールが凄く新鮮で可愛いっすよ! フヘヘヘヘ、これはケイ殿に高く売れそうっす」

 二人を四方八方から眺めてスクリーンショットを撮りまくるニャム。これはこれで面白いと思っていたイアだが、自分が遊ばれてばかりというのには納得がいかない。

 

 

「ニャム! 君はこれを着るんだ!」

「おー、これはルー・ルカの私服っすね。良いっすよ! それじゃ、二人は衣装チェンジって事で!」

「あ、結局私達もまた着替えるんだね」

「フヘヘヘヘ、コスプレは着ても着せても面白いっすからね!」

 そうして五人は少しの間、現実では難しいようなコスプレから私服の着せ合いを楽しむ。

 

 

 一番張り切っていたのはアンジェリカで、普段服を選ぶという事をしないスズの為に走り回って彼女の着替えを楽しんでいた。

 スズも途中からは満更でもなかったようで、ちょくちょくユメ達に見せに行ったりと楽しい時間が過ぎて行く。

 

 

 

「───さて、遊びはこれくらいにしてそろそろちゃんと買い物をしないといけませんわね」

「と、言うと?」

「服を見るのが目的ではなかったという事っすか?」

 ユメ達の質問に、アンジェリカはスズの着替えをしながら不敵な笑みを見せた。

 

 

 彼女のこの表情は、大体()()()を考えている顔である。ここ最近の付き合いで、彼女の事もなんとなく分かってきた。

 

 

「この後の目的地、まだ教えてませんでしたわね!」

「そうだな。どこに行くか決まってるのか?」

「ふふ、地球といえば───」

 高らかに人差し指を持ち上げるアンジェリカ。その指先が指すのは───

 

 

 

「───海ですわ!! と、いう訳で!! 水着を選びますわよー!!」

 地球、その地表の七割を占める広大な水。地球を青い星たらしめる根源でもあり、生命の母である。

 

 

 一行の次の目的は、海だ。



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 青い空、青い海。

 

 

 この星の七割を占める、巨大な塩水のプール。

 

 

「海だぁぁあああ!!」

 海。

 勿論、GBNにも海は存在する。

 ガンダムに関係があるかないかで言えば、海は戦闘シーンを書く上でも戦闘の味を出す為に数多のガンダム作品で戦闘が行われてきた戦いの場でもあった。

 

 

 その他にも、宇宙で育った子供達がその広大さに驚いたりと───地球を魅せる物として海はガンダムの世界でも大切に描かれている。

 機動戦士ガンダムでは、浜辺へ立ち寄ったホワイトベースの乗組員達が水着姿で海を楽しんだり───機動戦士ガンダムSEEDでも、海に出たアークエンジェルの乗組員達はその広大さに年相応の反応を見せた。

 

 ガンダム00では海ではないが、ソレスタルビーイングの女性メンバーがプールで水着を披露するというご褒美回も存在する。このように、ガンダムでも水着回という物は存在するのだ。

 

 

 つまり、どういう事かと言うと───

 

 

「くらえ! 水ライフル!」

「うわ!? あっはは、やったなイアちゃん!」

「……イア、照準が甘い。こうだ」

「なんで私を撃つんですのー!?」

「いやー、これが目の保養って奴っすねぇ」

 ───水着回である。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 カルミアは泣いていた。

 

 

「───生きてて良かったぜ。女の子ってエロいね」

「おっさん、普通にアウトな」

 ダイバーシティでの買い物が終わり、一行はGBNの浜辺エリアにやって来る。

 

 現実にも勝る綺麗な海。

 透き通る海水に浸かって水鉄砲で遊ぶ少女達は、それだけでもう眼福だ。

 

 

「お前とアンジェが何か企んでると思ったら、こういうことか」

「言っただろう。男なら後悔はしないとな」

「……そうだな」

 頷いたノワールは、その視線をアンジェリカに向ける。大胆な黒いビキニを来たアンジェリカは、二人に手を振っていた。

 

 

「スズ姉さんはこんな所でもおっかない」

「スズ姉さんがこんな所でも狙撃してる」

「……GBNは全てが戦場だ。二人共弛んでる。私が扱き直す」

「「サー・イエッサー!」」

 一方でスズはレフトとライトを連れて水鉄砲を使った模擬戦を開始している。

 

 砂で作った城を遮蔽物に、一対ニでサバゲーまがいな訓練に没頭する彼女は黒色のスクール水着を着用していた。

 

「射線管理!」

「「ぎゃぁぁ!!」」

 見た目は完全に小学生であるが、レフトとライトを無傷で撃破していく姿は流石の一言である。

 

 

「いやぁ、眼福っすねぇ。ふへへ」

「……ニャムちゃんは何してる訳よ」

 スズ達が利用している砂の城だが、人の身長よりも高く精密に作り上げていたのはニャムだった。

 彼女は今も砂の城を作りながら、周りの光景をこうして楽しんでいる。

 

 

「あ、カルミア氏。いやー、ジブン、こういうのに凝ると止まらないタイプの人間でして」

 カルミアに話しかけられて、頭を掻きながら立ち上がるニャム。パレオ付きの白い水着は、リアルでもそうだがスタイルの良い彼女にはとても似合っていた。

 

「砂の城作るの上手い人間初めて見たわ……」

「フヘヘ、ありがとうございます。やっぱりこう、何か作るのは楽しいっすね」

「ニャムちゃんってなんでも出来るのね。ていうか、多趣味過ぎない? おじさんガンダムくらいしか人に張り合える趣味ないのよ?」

「いえいえ、ジブンもやっぱり一番はガンダムっすよ」

 そう言って、ニャムは作りかけの砂の城を指差す。それに釣られて砂の城を見ると、カルミアは口を開けて固まった。

 

 

「……サンクキングダムの城」

 ニャムの作っている城はガンダムWに登場する建造物だったのである。よく周りを見てみれば、作り上げた砂の城全てがガンダムに関係のある物だった。

 

「あ、呆れないで下さいよ!?」

「いや、ニャムちゃんらしくて安心してるのよ」

 しかし、苦笑いは隠さないのである。

 

 

「け、ケー君。……に、似合うかな?」

「お、おう。おう……その、か、えーと───」

「何ラブコメみたいな事してんだ。とっとと遊ぼうぜ」

 一方で。

 ケイに水着を見せるユメは、顔を真っ赤にして立っていた。対するケイも顔を真っ赤にして固まっている。

 

 フリルの着いた水色の水着は、ニャムが選んだ物だ。

 ユメとしてはパーカーを着たりして諸々誤魔化そうと思っていたのだが、そんな事は許されない。

 案の定ケイの反応はすこぶる良かった訳だが、二人して固まってしまっていたのでロックが痺れを切らした訳である。

 

 

「せっかくなんだから、楽しまなきゃ損だろ」

「……あはは、確かにね」

「……そうだな」

 幼馴染みの言葉に、二人は笑って「ありがとう、タケシ(君)」と声を揃えた。勿論「ロックな!?」とツッコミが入る。

 

 

「せっかくだし、スズ達に混ざろうよ!」

 そんな三人をジッと見ていたイアは、両手を広げて三人に抱き着くようにしてそう言った。しかし、小柄なのでその手に収まるのはせいぜいユメだけである。

 ホットパンツにパーカーとボーイッシュな水着姿のイアは、それはそれで愛らしい格好だ。

 

 ちなみに水着のセンスだが、ReBondのメンバーは全員ニャムのセレクトである。アンジェリカは自分で選んで、スズの分も選ぼうとしたが───スズは全力で逃げて無難にスク水を選んだ。それはそれで、美味しいと思う人間もいるのだが。

 

 

「スズちゃーん、私達も混ぜて」

「……遊びじゃないぞ」

「「そうだー! 遊びじゃないよ! むしろ逃げて!!」」

 へたへたになって倒れているレフトとライトを傍に、その眼光を光らせるスズ。

 

「へー、面白そうじゃん」

「しょうぶだよ、スズちゃん!」

「このロック・リバーの力を見せ付ける時が来たようだな」

「……全員纏めて相手してやる」

「あ、これ俺もやる流れだな」

 挑戦を受け、スズは四人を案内する。彼女に着いて行くと、砂の城が大量に建っている謎の場所に辿り着いた。

 

 

「「「「ナニコレ」」」」

「あ、ジブンが作りました」

「おじさんは見てただけよー」

「なんで砂で作ったア・バオア・クーが自立してんの?」

 ニャムの傑作に目を丸くする四人。この場所なら、砂で作られた遮蔽物を使って模擬戦が行える。

 

 五人は一度各々が選んだ武器を持って、戦場に散らばった。

 ルールは簡単。スズを倒すか、スズが四人を倒したら終了。あまりにもハンデのあるルールだが、観戦しているメンバーにも勝敗は予想できない。

 

 

 ───何故ならスズは、フォースメフィストフェレスの絶対的なエースである。

 

 

 

「ふ、俺はロック・リバー。クールで格好良い男。勿論選ぶのは水スナイパーライフル。どうせスズもスナイパーだろうが、ここで本当のスナイパーがどっちか教えてやる必要があるようだな」

「なんて言ってるが、アイツはどこからあの自信が湧いてくるんだ?」

「ロック氏はそろそろ自分の身の程を弁える事を覚えた方が良いかもしれないっすね」

 観客のノワールのニャムの辛辣な言葉に、ロックは「そこ聞こえてるからね!?」と声を上げた。

 

「んなろぉ、見てろよ。ロック・リバー、目標を狙───」

 そうして、遮蔽物から顔を出して水スナイパーライフルのスコープを除くロック。しかし次の瞬間、彼の頭は水に貫かれる。

 

 

「───な、なにぃ!?」

「───頭出し過ぎ」

 スズの正確な狙撃がロックを葬った。これで、残り三人。

 

 

「ケー、君。ここは二人でスズちゃんを挟んで倒そう!」

「ユメもなんか戦い方ってのが分かってきたな。そういう所はもうタケシより頼りになるかもしれない」

「だから聞こえてるからね!!」

 二人で合流したユメとケイは、スズを挟んで倒す作戦を立てる。今の狙撃でスズの大体の居場所は予測出来た。

 

 小回りの効かないスナイパーライフルを持っているなら、接近戦に持ち込めば有利な筈である。

 対して二人の武器は水サブマシンガンと水ショットガン。どちらも接近戦で有利に戦える武器だ。

 

 

「足跡! 見付けたよ、スズちゃん!」

「俺は左から行く。ユメは右から頼む!」

「分かった!」

 砂で作られた巨大なサンクキングダムの背後にスズを見付けたユメ達は、城を挟むように分かれてスズを襲う。

 しかし、いざ城の裏を覗いた二人の視界に映ったのはスナイパーライフルを構えたスズではなく───

 

 

「普通の水鉄炮!?」

「……今回は私の勝ちだな」

 水ピストル。つまり、普通の片手で持つ水鉄炮は小回りも連射性も抜群だ。

 ユメとケイの攻撃を避けながら、スズは順番に二人の頭を撃ち抜く。

 

 これで残り一人。

 

 

「流石ウチのエースだな」

「いや、あの水鉄炮でロッ君の事撃ち抜いたのね。本当に何者なのよ」

 首を縦に振るトウドウと、唖然とするカルミア。

 

「さー、残り一人! スズ、やっておしまい、ですわー!」

 残るはイア一人。既に三タテされ、勝負は決まったように───見えていた。

 

 

「勝負! スズ!」

「……イアか」

 サンクキングダムの屋上を飛び越えてスズに奇襲を仕掛けるイア。その手に持っているのは───

 

 

「くらえ! 水バズーカ!」

 ───水の大砲である。

 

 発射された水は地面ごとサンクキングダムを吹き飛ばした。その威力は、当たれば壮絶だが水タンクの貯蔵量もあっていくらGBNとはいえ装填弾数は一発のみである。

 

 

「……当たらなければどうという事はない」

 水バズーカを避けたスズは、砂煙の立つ場所に向けて水鉄炮を放った。これも闇雲に撃った訳ではなく、砂煙の中の影を的確に狙った狙撃である。

 

 

 しかし───

 

 

 

「ケイガード!」

「なんで!?」

 イアは倒れたケイを盾にスズの狙撃を回避していた。さらに、倒れたユメから水サブマシンガンを拝借してスズに放つ。

 

「何!?」

 なんとかそれを避けたスズだが、さらに片手にケイの持っていた水ショットガンを装備したイアはア・バオア・クーの影に隠れたスズを追った。

 

 

「これでボクの勝ちだ!!」

「負けるか……!」

 スズはア・バオア・クーを水鉄炮で撃ちながら蹴りを入れる。逆円錐のような形をした砂のア・バオア・クーは簡単にイアの元に倒れて行く。

 

 

「ジブンの傑作がどんどんと壊されるのを見るのも中々通ですね」

「……ニャムちゃんはそれで良いのね」

 ニャムのコメントは他所に、イアを襲う崩れるア・バオア・クー。

 

 

「潰れろ」

「負けるかー!」

 滑り込みながらなんとかア・バオア・クーを回避しようとするイア。しかし、それこそがスズの狙いだった。

 

「うお!?」

「……深追いし過ぎ」

 回避した先で、スズの水鉄炮が炸裂する。起き撃ちだ。

 

 

 

「スズの勝利ですわー!」

「本当に四人とも負けちゃったよ」

「まぁ、ロック氏は戦力外だったっすけどね」

「酷くない?」

 こうして水合戦は幕を下ろす。

 

 

 

 しかし、海の楽しみはまだ終わらない。




水着回です。イラストは間に合いませんでした……ごめんなさい。

最近ワールドトリガーという漫画とApexにハマりました。戦闘シーンが書きたかっただけなんだ。
もう少し水着回が続きます!


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グラサンの男

 海岸。

 水鉄砲で遊ぶ少年少女達を、グラサンを掛けた海パン姿で金髪の男が覗き込んでいた。

 

 

「……彼等か」

 海パンの男はグラサンをずらしながら、温かい目を子供達に向ける。

 その姿はまさに───不審者であった。

 

 

「通報した方が良いか? アレ」

 近くを通った炭酸飲料みたいな名前をしていそうなダイバーに、海パンでグラサンの男は指を差される。

 

 

「僕も混ざるとするか」

「通報しよ」

 そして、男は密かに通報されていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 海といえば水泳である。

 

 

「「無理!!」」

 少女二人は、何故か浮き輪を手に震えていた。

 

「GBNで無理はないって。大丈夫、溺れても死なないから」

「そうですわよ。正確には、溺れて死んでも直ぐリスポーン出来る……ですけど」

「……アンジェリカさん、それは言わない方が良いです」

 二人を説得するように話し掛けるケイとアンジェリカ。海で泳ごうという話になったのだが、それを頑なに断り浮き輪を離さないのは───意外にもユメとスズである。

 

 しかし、意外ではないといえば意外ではない。

 彼女達は現実の世界では泳ぐ事は勿論、歩く事も出来ないのだ。いくら手足も自由なGBNでも、泳ぐというのは彼女達にとってあまりにも未知の行為なのである。

 

 

「……まぁ、無理を言っても仕方がないですわね。私は一旦トウドウ達と水泳レースをして来ますわ。スズ達はビーチボールなんてどうですの? 海は確かに泳ぐだけじゃありませんから」

 そう言って、アンジェリカは見事な泳ぎっぷりで沖まで行ってしまった。

 

 

「……むぅ」

「……うぅ、ケー君が泳ぎ方教えてくれるなら」

「んー、多分。教えられると思うけど。えーと、スズはどうする?」

「……私は良い。その辺で立ってる」

「スズちゃ───」

「ふ、この俺様の出番のようだな」

 そんな三人の元に現れたのは、いつも通り格好付けたロックである。

 

「まさか、この俺様のライバルの一人でもあるメフィストフェレスのスナイパーが……水が怖いなんてなぁ! ハッハッハッ!」

「カチン」

「泳ぎの練習も出来ないとは。まったく、俺様もお前を買い被っていたようだぜ」

「……は? ちょっと練習したら泳げるようになる」

「ほー、なら試してみようか。しょうがないから俺様が教えてやるよ」

「……上等だ。お前なんて一瞬で抜かしてやるぞ、タケシ」

「……いや、ロックな」

 そんな二人の会話を聞いて、ケイとユメは顔を見合わせて笑った。そう、()()()はそういう奴である。

 

 

 そうして泳ぎの特訓が始まる訳だが、スズの吸収力は凄いものだった。有言実行、ものの十数分でロックよりも上手く泳げるようになっているのである。

 

 

「……連邦のMSは化け物か」

「……ふん」

「……お前、練習したらなんでも出来るのに。なんで向こうのリーダーには嫌だっていったんだよ」

 ロックがそう聞くと、スズは横目で泳ぎのレースを開催しているアンジェリカに視線を向けた。

 そうしてから、彼女は一度目を閉じて口を開く。

 

「……アンジェに、仲間に情けない姿を見せたくない。私は、あのチームのエースだ」

「……なるほどね。お前、可愛い所あんのな」

「……ナ、カ、カワ? は?」

「あれ? 何沈んでんの? おいちょっと!? 溺れたら死にますよ!? スズ!? スズさ──ーん!?」

 スズはその後数分後リスポーンした。

 

 

「……む、難しいね」

「ユメ、なんか泳ぎ方変だぞ」

 泳ぎ方の練習方法として、ポピュラーなのはやはり連れ添い人に手を引いて貰いながら足を動かす方法である。

 

「……犬かきみたいになってる」

 ───のだが、ユメは泳ぐのがまだ怖いのか、身体が縮こまって格好が犬かきのソレになっているのであった。

 

 

「だってー」

「なんでそうなる」

「お困りのようだね」

 そう会話をしていた二人の間に、一人の男が割って入る。金髪にグラサンの海パン姿の男は、両手を腰に置いて「泳ぎの練習かい?」と二人に問い掛けた。

 

 

「え、誰ですか」

「僕はキョウヤ。通りすがりのただのダイバーだ」

「はぁ」

 突然話しかけて来た見知らぬグラサンの男に、警戒しない訳にもいかずにケイは目を細める。

 

「キョウヤ……。あ、チャンピオンの人の名前?」

「あー、クジョウ・キョウヤ」

 ふと、ユメが思い出したように口にした名前。しかし、通りすがりのただのダイバーのキョウヤは「あはは、それは人違いかな」と両手を挙げた。

 

 ───しかし、それは人違い等ではなく彼こそがGBNのチャンピオンにしてフォースAVALONのリーダー。クジョウ・キョウヤその人である。

 彼はカツラギに、フォースReBondのメンバーが居る場所を聞いてここにやって来ていたのであった。

 

 

「チャンピオンに憧れていてね、こんな名前にしたんだ」

 しかし、GBNのチャンピオン───クジョウ・キョウヤは知名度も大きくユメですら知っている。

 今回キョウヤがReBondのメンバー達に接触した理由を考えれば、()()()()として接触する方が都合が良かった。

 

「まぁ、チャンピオンに憧れるのは……分かりますけど」

「凄いよね、チャンピオン。私この前学校の休憩時間にチャンピオンのバトルの動画見てたんだけど、変形の使い方とか飛行形態の操縦の仕方とか……私でも凄いって分かっちゃったし」

「……そりゃ、チャンピオンだし。それで、そのチャンピオンに憧れてる人がなんで俺達に話しかけて来たんですか?」

 チャンピオンの事をベタ褒めするユメの横で、ケイは少々不機嫌になりながらキョウヤにそう問い掛ける。

 キョウヤは苦笑いしながらも、少し考えてこう答えた。

 

「努力する人を見ると応援したくなるんだ。現実では出来ない事でも、このGBNなら出来る。僕はそんなGBNが好きだからね」

 そう言ってから、キョウヤは二人に「もう一度同じように練習してくれないか?」と付け足す。どうやら何やらアドバイスをくれるようだ。

 二人はグラサンの不思議な男を疑問に思いつつも、再び泳ぎの練習を再開する。

 

「ユメ君、今の君はバクゥになっている。頭の中にグーンを思い浮かべるんだ。グーンが水中を進むときは、身体を真っ直ぐにするだろう?」

「グーン……グーン。あ、SEEDで海の話に出て来た……!」

 ユメは言われた通り、ガンダムSEEDに登場したMSを思い浮かべた。すると、自然の身体が真っ直ぐになっていく。

 

 

「そうだ、力を抜いて」

「おぉ、ユメ。行けるぞ!」

「そのまま足で水を蹴るんだ!」

 キョウヤの合図と共に、ユメはバタ足を開始した。すると、ケイが引っ張っているのもあって、彼女の泳ぎはそこそこ様になっていく。

 

「出来そう! 出来た! ありがとう、ケー君。キョウヤさん!」

「いや、今のはキョウヤさんのおかげだ。……あの、変な人だと思ってすみません」

「あはは、変な人か。確かに、思い返すと自分でも変な人だと思うよ」

「自覚はあったんですね……」

「実は、本当の所───」

「うわぁぁぁああああ!!!」

 二人の会話に挟まる、イアの悲鳴。何があったと三人が視線を声の方角に向けると、そこには水流に流されるイアの姿があった。

 

 

「なんだ?」

「彼女が……」

 そんなイアを見て、キョウヤはカツラギと会って話していた目的を思い出す。

 ELダイバーイアとの接触。それがキョウヤがここに来た目的だった。

 

 

「お、あれはズゴックじゃないっすか。渋いチョイスっすねぇ」

「イアちゃんがスクリューに飲み込まれていきますわ!」

「あれは死んだな……」

 何が起こったかというと、沖合で突然現れたMS───ズゴックのスクリューがイアを攫って行くところらしい。

 

 ここはGBNなので、禁止されていなければMSに乗る事は何も間違っておらず、沖合まで行くとダイバーがMSでの遊泳をしているも普通の事である。

 ただ、イア達は泳ぎに夢中でかなり深い沖合まで行ってしまったらしい。こういう事はGBNの海ではよくある事で、もしMSに踏まれたりスクリューに巻き込まれたりしても後でリスポーンするので問題もないのだ。───普通は。

 

 

「……ちょっと待てよ? アレ、ヤバくない?」

 飲み込まれそうになるイアを見ながら、顔を真っ青にするカルミア。

 もしスクリューに吸い込まれているのが彼女以外なら、笑い話になる筈だったのである。

 

 しかし彼女はELダイバー。

 まだ現実の世界に保護されていない彼女にとって、この世界での死は本当の死であった。

 

 

「───ハッ!? ヤバいって問題じゃないですよ!?」

「ちょちょちょちょちょ、本当ですわ!? ちょっと待って!? ちょっと待ってですわぁぁ!!」

 事の重大さに気が付き、泳いでいたメンバー達は慌てふためく。しかし、どうしたって今更間に合いはしない。

 

「ねぇ!? これヤバくない!? これボクヤバくない!?」

 スクリューに吸い込まれて、そのまま巻き込まれそうになるイア。GBNではスプラッタ映画のようにはならないが、衝撃などでヒットポイントがなくなればデス扱いにはなってしまう設定だ。

 

 

 カルミアが彼女に手を伸ばそうとするが、届かない。そして全員が諦めかけたその時───

 

 

 

「───AGE2マグナム!!」

 もう一機のMSが突然現れ、飛行形態に変形したかと思えば目に纏まらない速さでズゴックの脇を通り過ぎる。

 

 そしてその機体は上昇し、変形してから姿を消した。

 ガンダムAGE2の改造機体。一瞬だけ見せたその姿に、ユメはつい最近見た物を思い出す。

 

「イア君、だったね。大丈夫かい?」

「び、びっくりした……。ありがとうグラサンのお兄さん! けど、お兄さん誰?」

 機体から降り立つキョウヤの腕の中で、イアは首を傾げていた。そして、そのグラサンのお兄さんはサングラスを取ってイアに笑みを見せる。

 

 

 イアを事故から救った機体───

 

 

 

「……チャンピオン」

 ───それは、GBNチャンピオン。クジョウ・キョウヤの機体だった。



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Zの鼓動

 頭を下げる。

 

 

「楽しんでいる所を邪魔してしまい、申し訳ない」

「い、いや、俺のズゴックが人を殺さなくて良かったよ。まぁ、死んでもリスポーンするけどさ」

 イアが吸い込まれそうになっていたズゴックのパイロットは、あまり意味も理解出来ず───何故かGBNのチャンピオンに頭を下げられて困惑していた。

 

 

 ズゴックのパイロットと別れたキョウヤは、イア達の元に戻る。

 ニャムやアンジェリカ達は、イアを救ってくれたキョウヤを()()()を見るような目で感謝の言葉を伝えていた。

 

「いや、本当に助かりましたわ……」

「ジブン……未だに血の気が引いてる気分っすよ。本当、良かったっす」

「命の恩人って奴だな」

「はは、大袈裟……という訳でもないのかな。でも、僕は当たり前の事をしただけだよ」

 両手を上げるキョウヤ。そんな彼を見て、カルミアは目を細める。

 

 

「……しかし、なんでこんな突然GBNのチャンピオン様がおじさん達を助けてくれたのかねぇ。ユメちゃん達を騙して、近付いてたらしいじゃないの」

「か、カルミアさん! キョウヤさんは俺達の代わりにイアを助けてくれたんですよ?」

「そうですよカルミアさん。私なんて、泳ぎ方を教えてもらってたのに」

 カルミアの言葉に、ケイとユメは両手を上げて抗議した。しかし、そんな二人に手を向けてキョウヤは首を横に振る。

 

 

「カルミアさん、貴方の言う事は正しい。僕は身分を偽って君達に近付いたのだからね」

「……で、その理由は?」

「君が警戒してる事ではない、筈だ。僕は彼女───イア君に会ってみたくてここに来ただけなんだよ」

「ボクに?」

 カルミアに質問にそう答えたキョウヤ。

 

 イアは確かに、珍しくELダイバーなのかもしれない。

 現実世界に行く事が出来ない彼女は不思議かもしれないが、それでも態々チャンピオンがその足で会いに来る程のものなのなろうか。ケイ達は首を横に傾けた。

 

 

「何も下心がないと言えば嘘になる。けど、安心して欲しい。僕はGBNを楽しむ仲間全ての味方のつもりだ」

「……どうかね。第二次有志連合戦、あの時のアンタも同じ口が聞けるのか?」

 第二次有志連合戦。ELダイバーサラを巡る戦いで、彼───クジョウ・キョウヤはサラの命を賭けてビルドダイバーズに戦いを挑んでいる。

 

 それしか彼女を救う道がなかったとしても、だ。

 

 

「……何も言えないな。あなたの言う通りだ」

「……なら帰りな。これ以上俺の仲間を運営に殺させはしない。レイアが居なくならなければ、セイヤだってな!」

 キョウヤの胸ぐらを掴みながら、カルミアは彼の目を睨んで大声を上げる。そんなカルミアに驚きつつも、ケイとユメは彼を止めようと二人の間に入った。

 

 

「カルミアさん!」

「……悪い、大人の対応じゃないわな」

「僕も、何も出来なかった自分が憎い。……だからこそ、今こうして彼女に会いに来たんだ。聞いて欲しい」

 キョウヤはカルミアにされた事に怒る事もなく、その場にいた全員の目を見てからイアに視線を移す。

 

 

「今、ELダイバーが行方不明になる事件が多発しているんだ。運営も、勿論ただのプレイヤーである僕も、この事を放ってはおけないと思っている」

「ELダイバーが行方不明になる事件ですの?」

「初耳っすね」

 キョウヤが話した事は、まだ広く公にはなっていなかった。しかし、その数は無視が出来ない。

 

「ここ数日、多発的に起きている事だからね。……それが丁度、彼女───イア君を君達が保護してくれた後からの事なんだ」

 運営が動き出すのは時間の問題だろう。

 

 

「ウチのイアがその事件に関わってるって言いたい訳?」

「そうじゃない。だけど、僕には何も手掛かりがないんだ。一度この世界に生まれた命を奪おうとしたからこそ、僕はもう二度と同じ過ちを繰り返したくないと思ってる。綺麗事かもしれない。既に失われたものは帰ってこない。……だけど、だからこそ最善を尽くしたい」

 そう言って、キョウヤはカルミアに頭を下げた。流石にカルミアも、強い言葉が出なくなる。

 

 

「……悪いね、おじさん神経質なのよ。こと彼女らの話になると。……ウチのイアを助けてくれてありがとな」

「当たり前の事をしただけだよ」

 手を伸ばすカルミアの手を、チャンピオン───クジョウ・キョウヤは強く握り返した。

 

 

「話を聞きたい。協力してくれ」

 そして、キョウヤは再び全員に頭を下げる。これを拒む者は、誰もいなかった。

 

 

 

 AVALONフォースネスト。

 

 

「城じゃん」

「こ、これが噂のAVALONのフォースネストっすか。城っすね」

 御伽噺に出て来そうな城。

 

 ここは第二次有志連合戦の舞台ともなった、フォースAVALONのフォースネストである。

 

 

「人数にしては狭い客室ですまない。普段は作戦会議室なんだ」

「狭いのこれ?」

 全員が座れる椅子がある部屋で頭を掻くキョウヤに呆れながら、ロックは周りを見渡した。

 部屋の端にある機材や資料。なるほど、確かに作戦会議室である。

 

 

「ゆっくり出来る場所を、と思ったのだけど。お店を探した方が良かったかな」

「ボクはここ好きだよ。なんだか、優しい気持ちになる」

 部屋端を歩きながらそう言うイア。キョウヤは「ありがとう」と言って目を瞑った。

 

 

「本題に入ろう。イア君の事に着いて分かっている事を教えて欲しい」

 そうして、キョウヤはReBondやメフィストフェレスの面々に話を聞き始める。彼の目はいつも───いつだって、真剣だった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 数十分後。

 

 

「───なるほど、奪われたZガンダムでログインしている状態か。これは、彼女の秘密を解き明かす鍵になるかもしれないね」

 イアについて話を聞いたキョウヤは、顎に手を当てて情報を整理する。

 

 

 実の所彼女は保護されるかなり前からこのGBNに存在していた事が分かった。

 それは何故かというと、今ReBondがフォースネストとして使っている場所が幽霊物件と言われていた事がヒントになる。

 

 本人曰く、彼女は自分でも分からない時間あのフォースネストで暮らしていたらしい。

 勿論フォースネストを買ったフォースからすれば、知らない人が自分達のフォースネストに居ると言う事で幽霊扱いになってもおかしくはない話だ。

 

 

 そうなると、彼女の存在がここ数日のELダイバー失踪事件に関わっているとは言い難くなる。これは、キョウヤにとって一番大きな情報だった。

 

 

「一旦ELダイバーの行方不明事件に着いては話を置こう」

「良いんですか?」

「僕は彼女について知りたくて君達に会いに来たんだ。確かにこちらも重要な話かもしれないけれど、今は彼女の事に着いて考えるべきだと思う」

 そんなキョウヤの言葉に、イアは「ほほう、ボクに興味があるんだな。お目が高いぜチャンピオン」と無い胸を張る。

 それに対してキョウヤは「お褒めに預かり光栄だ」と笑顔で返した。これがチャンピオンの器である。

 

 

「Zガンダムはニャムさんの権限でログアウトする事も出来ずに、スキャンしてもログイン中となる。……やはり、この辺りが問題か」

「ELダイバーは確か、その魂を現実でモビルドールと呼ばれるプラモデルに保護するんすよね。そして、そのモビルドールをGBNにスキャンする事で、再びGBNにログインする事が出来る」

 ニャムの言葉を聞いて、ケイ達はオフ会での事を思い出した。

 

 ダイバーシティで出会ったELダイバー、サラ。

 彼女は確かに、現実では小さなガンプラのような姿でいた記憶が脳裏に過ぎる。

 

 

「つまり、Zガンダムがその役割を奪ってしまっているから……ログアウトする事が出来ない。しかし、何故だ」

 考えても答えは見付からなかった。Zガンダムがモビルドールとしての役割を担っているとは考えにくいが、しかし実際にはそれと似たような現象が起きている。

 

 

「……Zにはそういう力がある」

 唐突にそう口を開くスズ。

 

 その言葉を聞いて、ケイはイアがZガンダムに乗っていた時の事を思い出した。

 

 

「バイオセンサーか」

 人の意思を駆動システムに反応させる、宇宙世紀の技術。勿論実際にはプラスチックでしかないガンプラにそんな機能はない。

 しかし、このGBNの中では違う話である。

 

 現にイアはケイ達と一度戦った時、Zのその力を発揮していた。

 

 

「Zのバイオセンサーがシステム的になにか悪さをしているという可能性は、確かにありますわね」

「実際に乗っていてZガンダムが何か反応を示した事はあるのか?」

 トウドウがそう聞くと、ニャムは「実は、さっきも話しましたがイアちゃんの撃墜イコールなので。あの日以降イアちゃんは機体に乗ってないんすよね。一応、その時の戦闘中に反応していた事はおぼえていますが」と答える。

 

 

「なるほど、バイオセンサーか。調べてみる価値はありそうだ」

「お、なんだ。ボクもやっとまたガンプラに乗れるのか?」

「でもチャンピオン、イアちゃんは───」

「分かっているさ。僕に提案があるんだ」

 そう言って、キョウヤは不敵な笑みを見せた。

 

 

「Zの鼓動を感じに行くとしようか」

 イアのガンプラバトルが始まる。



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3on1

 閃光が走る。

 空に舞う光は、弓のように真っ直ぐに三本。それが、一直線に一つの光に向かっていた。

 

 

「挟み込め!」

 トウドウの指示で、残り二つの矢は二手に分かれて一つの光を挟むように動く。

 

 ユメのデルタグラスパーと、もう一機はイアの搭乗するZガンダムだった。

 

 

 

「初めての連携とは思えない、良い動きだ。……それでも!」

 ユメとイアが挟み込む相手。

 

 ガンダムAGE2を改修し、攻撃性能を極限まで高めたチャンピオン───クジョウ・キョウヤの機体である。

 

 

「踏み込みが甘い!」

 AGE2マグナム。

 変形し、ライフルを構えるチャンピオンの機体。その動きは一切の無駄なく、ライフルの光がユメのデルタグラスパーを貫いた。

 

「ユメ! くっそ! 強いなチャンピオン!」

「お褒めに預かり光栄だ!」

 接近するイア。変形し、ビームサーベルを構えようとするが───構えようとした腕は既に宙に浮いている。

 

 

「あれ?」

「二つ」

 コックピットに向けられ、放たれるライフル。

 

 Zガンダムはイアを乗せたまま、光に包まれて爆散した。

 

 

 

 ───しかし。

 

 

「次だ次ぃ!」

 地上に、ついさっき撃破されたユメのデルタグラスパーと共にイアの乗ったZガンダムが現れる。

 そして二人がリスポーンした地点の頭上にある大きな看板には『残機10』と表示されていた。

 

 

「変則残機戦とは考えたものですわね」

「その手があったかって感じっす」

 チャンピオン、クジョウ・キョウヤとメフィストフェレスのトウドウ、そしてユメとイアが今行っているのは特別ルールのガンプラバトルである。

 

 

 ルールは簡単。

 機体が撃破されると、残機が減るがリスポーンされて再び戦場に参加。

 残機がなくなった時点で敗北となるルールだ。

 

 これは、撃破されてもGBNのシステムにおいて()()にならず、イアは機体ごと爆散してもリスポーン地点にテレポートする事になる。

 よって彼女は死ぬ事なくバトルを楽しめるという訳だ。

 

 

 これはキョウヤの提案で、今回はお試しとしてトウドウとユメ、そしてイアとキョウヤの四人でバトルをしている。

 

 変則戦となるのは、人数を半分に割った2on2という訳ではなくかといって個人戦でもない

 キョウヤが他の三人を同時に相手をする、3on1であるという事だ。

 

 

 

「それにしても……」

 しかも、キョウヤの残機は1。

 それに対してイア達三人の残機は40。

 

「チャンピオン強過ぎだろ……」

 戦力差は40対1。

 しかし、キョウヤは既に一度も被弾をせずに30機の機体を撃破している。

 

 

 

 これが、チャンピオン───クジョウ・キョウヤの実力だった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 トウドウの機体が爆散する。

 

 

 空中戦。

 このバトルに参加しているMSは全て可変機だ。空中戦こそ、このバトルの鍵となる。

 

 その点においてイアはともかくトウドウやユメはチームの中でも空中戦が得意なメンバーだ。

 しかしそれでも、チャンピオンの力には遠く及ばない。

 

 

 9。

 それが彼等に残されている残機である。

 

 

 

「もう31回もやられたのかボク達は!」

「……そ、そうだね。流石に凄すぎる。手加減してくれない」

 ユメは唖然とする事しか出来なかった。あのスズの狙撃を回避する彼女でも、チャンピオンはそれ以上の反応速度で彼女を撃破してくる。

 

 三人は未だにチャンピオンの機体に傷らしい傷すら付けられていなかった。

 

 

「───でも、諦めたくない」

「それでこそユメだな! トウドウ! そろそろ何か案をくれ」

「……気持ちだけでは勝てないぞ。しかし、この31機は無駄ではない」

 トウドウの言う通り。

 彼等も伊達に負け続けた訳ではない。この31回の撃墜で、キョウヤの攻撃パターンや反応速度を身体に叩き込み───辛うじて瞬殺されないようにする事は出来る様になったのである。

 

「ここからが本番だよね! 後一人三回ずつしか倒されちゃいけないけど」

「数にとらわれるな。定石を打って倒せる相手ではない。そもそも一人三回落ちたら負けだ」

「あ、そっか。あと九回撃破されても良い訳じゃなくて、あと九回撃破されたら負けだもんね。でも、数にとらわれるなって?」

 ユメにそう言ったトウドウは、彼の言葉の意味を理解出来ていない二人に対してこう続けた。

 

 

「俺が一度も落ちなければ、二人は合計で八回撃破されても良いという事になる。何も全員に均等に残機を配る必要はないという事だ」

「なるほど、トウドウは頭が良いな!」

「さ、流石メフィストフェレスの頭脳だね」

「……お前達が───いや、なんでもない」

 眼鏡を曇らせるトウドウだが、一度ズレた眼鏡を直しながら彼は作戦を二人に伝える。

 

 

「───いけるか?」

「勿論!」

「任せて!」

 散開する三機。さっきまで一緒に行動していた三人の行動の変化に、チャンピオンは彼女達を既に三十回以上撃破しているのにも関わらず口角を釣り上げるのだった。

 

 

「何か思い付いたか、それともこれまでの三十機も作戦か。だがしかし───」

 接近してくる一機のMS。ユメのデルタグラスパーの急な方向転換に反応し、サーベルを抜くチャンピオン。

 

「───僕はガンプラバトルで手を抜く事はない!!」

 重なり合う刃。

 

 ユメのデルタグラスパーはダブルオーストライカーを装備していて、接近戦に特化している。

 一瞬ならこうしてチャンピオンと刃を交わすことも出来るが、チャンピオンは甘くない。

 

 これまで何度も、一瞬で切り払われてきた。そして、今回も───

 

 

「はぁぁ!」

「───トランザム!」

 TRANSーAM

 

 振り払われる刃。

 しかし、トランザムで機体の機動力を上げたユメはチャンピオンの攻撃を紙一重で避ける。

 それでも片腕を切り飛ばされるが、この戦いで初めてチャンピオンの攻撃を交わした瞬間だった。

 

 

「───ほう」

「やぁぁ!!」

 トランザムにより機動力を増したユメのデルタグラスパーがキョウヤのAGE2マグナムにその刃を負ける。

 圧倒的なスピード、しかし───キョウヤはそれら全てを受け止めきった。

 

 

「こんなに攻撃してるのに……。それでも!!」

 トランザムの限界時間は三分と少し。

 しかしその間は、キョウヤの機体スペックよりも機動力が上回っている。

 それでも互角以下なのは、チャンピオンの実力があまりにも高過ぎる為だ。

 

 

「───それでも、私達は勝つよ!」

「その通り!!」

「背後か!」

 ユメとキョウヤの交戦に割り込みを入れるイアのZガンダム。二本目のサーベルを抜いたキョウヤは、Zのサーベルを受け止めて不敵に笑う。

 

 変形。

 離脱してから再び変形しらライフルを構えるキョウヤ。狙いはZガンダムだ。

 

 

「踏み込みが甘ければ、交わされた後に落とされる!」

 突撃してきたZガンダムに、次の攻撃を交わす術はない。放たれたライフルは、しかし───イアの前にたったユメの機体だけを貫いて爆散する。

 

 

「……彼女を庇った? だがこれで残り八機───おっと」

 キョウヤに向け放たれるビームライフル。トウドウとイアからの牽制のような射撃だ。

 

 

「……弾にやる気がない。僕の攻撃を避けられる場所取りか。何を企んでいるのか───」

「───トランザム!!」

 TRANSーAM

 赤い粒子が光る。

 

 

「下か!!」

「やぁぁぁ!!」

 再びキョウヤと刃を交えるユメ。それと同時に、イアとトウドウも距離を縮めて()()()()()()()()()()

 

 

「撃破された事で、トランザムを()()()()したのか……!」

 先程まで使わなかったトランザムの大盤振る舞い。

 

 いくらキョウヤといえど、トランザム中の機体を簡単に落とす事は出来ない。

 それも、三十二機分───キョウヤの動きを覚える為に残機を使った彼女達ならなおさらだ。

 

 

「ここで彼女と戦い続けても消耗するだけか。……ならば、残機を減らせば良い!」

 変形。

 ユメに背を向けて、キョウヤはトウドウに接近する。

 

 

「もらった!」

「させない!!」

「───僕のAGE2マグナムよりも早いか!」

 ───しかし、トウドウとキョウヤの間にユメが立ち塞がった。

 

 勿論、トランザム中とはいえトウドウを庇う為に真っ直ぐ突進したユメに反撃する余力は残っていない。

 チャンスは逃さず、キョウヤはユメを撃破する。しかしその間にトウドウはキョウヤから距離を取っていた。

 

 

「……なるほど───」

 不敵に笑うチャンピオン。

 

 その背後から、赤く光る機体が急接近してくる。

 

 

「───そういう事か!!」

「───トランザム!!」

 交わる刃。チャンピオンは目を見開いて、自分でも気が付かない内に前のめりになっていた。

 

 

「残機をトランザムが使える機体に回す事で、総合的な戦闘力を上乗せした! トランザムのタイムリミットを、味方のカバーに使う事で実質的になくす! 面白い作戦だ!!」

「せっかくチャンピオンと戦えるのに、なんの作戦も考えずにやるのは勿体無いから! 全部トウドウさんが考えてくれた作戦だけど!」

「彼女にGBNの撃破も含めて楽しんで貰おうと思って始めた事だったが、思いの外からダイアモンドの原石を掘り出してしまったようだね!」

 弾き合う刃。

 もはやユメごと撃つ事も戸惑わないイアとトウドウの射撃を交わしながらも、キョウヤはトランザム中のユメを確実に削っていく。

 

 

「だが、まだ僕には届かない!」

「……届かせる!」

 ユメは戦いながら、このバトルが始まる前の事を思い出していた。

 

 

 

「───変則残機戦、ですか?」

 キョウヤの提案。

 それは、まだGBNの外に保護されていないイアがGBNでバトルを楽しむ為の───この世界のルールの穴である。

 

「残機戦では、機体の撃破は撃破扱いにならずに即リスポーンする。このシステム上、GBNではパイロットのデス扱いにはならないんだ」

「と、いう事は?」

「ボクもバトルが出来るって事か!」

「そういう事さ」

 そうして、キョウヤはイアと何人かで変則残機戦を行う事になった。

 

 

 ───誰が戦うか。あのGBNチャンピオン、クジョウ・キョウヤと戦えるまたとない機会にメンバーのほとんどが手を挙げたのは言うまでもない。

 そんな中で、そのチャンスを自分の力で手にしたのは意外にもトウドウである。

 

「俺が出る。……チャンピオンとの戦いで得られる物は大きい」

「珍しいなトウドウ。だけど、そう考えてるのは全員同じだ」

 こういう事に消極的なトウドウの意外な言葉に口を挟むノワール。しかし、トウドウは眼鏡を曇らせながらこう続けた。

 

 

「俺にはチャンピオンとの戦いで得る物の中に、勝利へのビジョンがある。もしお前達に俺以上の作戦と戦略があるなら話は譲ろう。しかし、ただチャンピオンと戦ってみたいだけなら俺に譲ってもらおうか」

 その言葉に即反抗出来る人物は、この場にはいない。

 

 雰囲気を制したトウドウは、イアを片手で呼んでからメンバーを見渡す。

 

 

「ユメ」

「え? 私?」

「この中にユメという名前のダイバーは君しかいない。チャンピオンと戦えるのは前提イアを含めた三人だ。その前提をこうりょしてこの中で俺の作戦を実行出来るのは君しかいない」

 そうしてトウドウは、二人を集めて作戦会議を開いた。

 

 

「ルールは残機戦、四十対一だ。文字どうり桁が違う」

「改めて聴くと凄い話だね。多分、イアちゃんの戦闘と撃破経験の為に多くしてくれたと思うんだけど」

「でもチャンピオンは一回落ちたら負けなんだろ? ボクら、四十回も戦えるんだから流石に勝てちゃわない?」

「……チャンピオンを甘く見るな。普通にやれば、俺達の残機が百機あっても勝てん」

 トウドウの言葉に、イアとユメは口を開いて固まる。

 

 そんな相手に勝つ方法があると言うのだから、それはそれで凄い。

 

 

「良いか? 使うのは残機三十機だ。一人十機。これで、出来るだけチャンピオンの動きを覚えろ。それまでは攻撃に気力を一切割くな。俺の指示通りに動いて、相手の攻撃を見ることだけに集中しろ。避けなくても良い。その後の事はこれが終わってから話す。……良いか、チャンピオンの攻撃を頭に叩き込め。それと───」

 それが、トウドウの作戦だった。

 

 

 

「───戦える。トランザム中なら、キョウヤさんから二人を守る事だけはギリギリなんとか出来る!」

「───残り七機。ここに来て作戦を展開してきたということは、前半の三十機は集中して僕の動きを見極めていたといった所か」

 激化する戦闘。

 

 

 残り残機七。

 しかし、ユメ達にも勝機がある。

 

 

 戦いは終局へと向かっていた。



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クジョウ・キョウヤ

 奥の手というのは最後に取っておく物だ。

 

 

 しかし、せっかくの奥の手も出し惜しみしていては意味がない。

 奥の手は持ってりゃ嬉しいただのコレクションではないのである。

 

 その点、トウドウというダイバーはものの使い所に置いて他の上位ダイバーにも劣らない感覚の持ち主だった。

 それはフォースメフィストフェレスをここまで導いた参謀としての力であり、そして融通という言葉を知らないアンジェリカを導いてきた彼女の側近としての力でもある。

 

 

「このままいけば勝てるっすよ!」

「んや、チャンピオンもそんなに甘くないでしょうよ。こっちにはもう隠し弾がない訳だし」

「いいえ、ありますわよ」

 カルミアの言葉に、アンジェリカは両手を腰に置いて自慢げに口を開いた。

 

 トウドウの機体───クランシェアンドレアはアンジェリカが作った機体である。

 ReBondの面々が知らない()()()が、彼の機体には隠されているのだろうか。

 

 

「……ユメ、頑張れ」

 戦いはお互いの奥の手に委ねられていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ユメの機体が爆散する。

 トランザムの限界時間を過ぎてしまうと、機体のスペックが大幅に減少する弱点は今の彼女達に取って言葉よりも重い。

 

 

 デルタグラスパーのトランザムでイアとトウドウを守れば、トランザムが実質無限に使えるというのが三人の作戦だった。

 しかし、もしトランザムが使えなくなればユメを無視して二人を撃破すれば良いだけの話である。

 

 

「危なかった、トランザムの時間はちゃんと見ないと……」

「ほぼ自爆目的の特攻、崩れないように意識も出来ているという事か」

 そこで、ユメを無視しようとしたキョウヤにユメは残り時間ギリギリで変形状態による特攻を強行した。

 

 トランザム中の可変機の速度は言わずもがな。これには流石のキョウヤも無視を決め込む事は出来ない。

 

 

 しかし、コレで三人の残機は残り六機。三人に残されたリスポーン回数は残り五回だけである。

 

 

「攻撃を緩めるな!」

「うん! トランザム!!」

 四回目のトランザム。流石のチャンピオンも、これには額の汗を拭った。

 

 とはいえ、GBNで汗はかかないが。

 

 

「……熱いな。思っていた以上に!」

 再び刃が交差する。

 

「やはりGBNはやめられない!!」

 前のめりになって、今度はキョウヤがユメに仕掛けた。イアとトウドウの射撃を交わしながら、キョウヤはユメの機体に刃を叩き込む。

 

「トランザム中なのに、押し負ける……!」

「はぁぁぁああああ!!」

 連撃。

 トランザム中のデルタグラスパーですら反応出来ない速度の攻撃。三十四機のMSを落とした後ですら、チャンピオンにはまだ余力が残っていた。

 

 

「まずいな。イア、接近戦に切り替える。しかし、落ちるな。奥の手もまだ使わない」

「凄く難しい事言ってる気がするけど! 分かった!」

 二人は射撃を一度止め、ユメの援護の為にサーベルを抜く。

 

 三体一の接近戦。二人は消極的といえど、こうなるとチャンピオンといえど上手く踏み込む事は出来ない。

 

 

「状況に応じる能力が高い。良い指揮官だ」

「お褒めに預かるのは光栄ですが、こちらが勝ってから褒めて欲しい物だ」

「なるほど。それは失礼をしたね!!」

 トウドウの機体を蹴り飛ばすキョウヤ。左右からの攻撃を片手ずつで止めてから、キョウヤは変形してトウドウを追った。

 

「させない!」

 そんなキョウヤを追い掛けるユメ。しかし、それを読んでいたキョウヤは変形しながらの射撃でユメを撃破───そのままトウドウをも撃破してしまう。

 

 

 

「───逃げて正解だこれ!」

「───判断が早いね」

 その間に逃げていたイアまでは打ち取れなかったが、これで残機は四機だけになってしまった。

 

 

 

「───流石に本気を出したなチャンピオン。つまり、時は来た。二人共、奥の手を使うぞ」

 リスポーンしたトウドウは二人にそう指示を出す。動きを再び変える三人に、キョウヤは不敵に笑っていた。

 

 

 

「まだ、持っているか」

「トランザム!!」

 先行したユメがトランザムでキョウヤを揺さぶりにくる。しかし、これは囮だ。

 三人がまだ何かを隠している。キョウヤにはそれが分かっていた。

 

 exam system stand by

 

 

「クランシェか、いやあの頭は───」

「エグザム!!」

 頭部を真っ赤に染めたトウドウのクランシェが、武器も捨てて素手でキョウヤのAGE2マグナムを掴みに来る。

 咄嗟の起点でユメを撃破したキョウヤだが、思いの外クランシェのパワーが高く逃げる事が出来ない。

 

 EXAMシステム。

 オールドタイプがニュータイプに対抗する為のシステムとも言われていて、人間の脳波を電磁波として捉えてその中の()()を元に索敵と攻撃の回避をするといったニュータイプに近い戦闘能力を発揮するシステムだ。

 しかしこのシステムは不安定で、機体のスペックを超えた動きやシステムの破壊衝動等。簡単に言えば機体が暴走状態になりうるシステムである。

 

 冷静沈着なトウドウには似合わないシステムだと、彼を知る人物は思うかもしれない。

 

 

 

「EXAMっすか!?」

「えぇ、トウドウのクランシェを作る時。頭はブルーディスティニー一号機から作り上げていきましたのよ。トウドウは前線には出ないので使わないシステムですけども、彼だってガンプラバトルをする者───ファイターなんですのよ」

 アンジェリカの言う通り、彼もまたファイター。熱い魂の持ち主なのだ。

 

 

 

「捕まえたぞチャンピオン! 悪いがコイツは言う事をあまり聞いてくれなくてな、手加減は出来ない!」

「なるほど、これが隠し玉だということか……!」

「それだけではない!」

 チャンピオンの機体をも上回る出力で、AGE2マグナムを抑え込むクランシェアンドレア。そしてその背後から接近する、もう一機のMS。

 

 

「ボクにもあるんだな、とっておきが! さぁ、Zガンダム! 皆に君の力を見せてやってくれ!」

 機体から光を放ちながら、Zガンダムは通常では考えられない出力のビームサーベルを振り上げる。

 

 

「いけ!!」

「面白かったよチャンピオン! でも、これで終わりだぁ!」

 振り下ろされるビームサーベル。ついに、チャンピオンの機体を撃破したと───誰もがそう思った瞬間。

 

 

 

「───いいや、これで終わらせるのは勿体ないさ」

 キョウヤの機体が突然光りだし、彼はトウドウの機体を跳ね飛ばして目に見えない速度で撃破した。

 そして、Zガンダムのビームサーベルが振り抜かれた瞬間。彼の機体は残像を残して消え、イアのZだけが爆散する。

 

 何が起きたのか、彼等は一瞬では理解出来なかった。

 

 

 

「必殺はこちらにもある。……EXプロージョン!」

 淡い光を漏らすキョウヤのAGE2マグナム。

 これはガンダムAGEに登場するFXバーストと呼ばれるシステムを元にキョウヤがAGE2マグナムに組み込んだ強化システムである。

 

 機体の周りに浮くのは、キョウヤがこの試合では使っていなかったFファンネルという武装だ。

 

 

 彼はこの試合で、まだ何も出して居なかったのである。

 

 

 

「これが、チャンピオン……」

「でもボク達には!」

「まだ一機残機がある!」

 これでユメ達に残された残機は一機のみ。三人の内、あと一人でも撃墜されてしまえば、ユメ達の負けだ。

 出し惜しみをする理由もない。トランザム、EXAMシステム、バイオセンサー、全力でチャンピオンへと挑む。

 

 

「これまで本気を出さなかった非礼を今、ここで詫びよう。僕はGBNのチャンピオンとして、本気で君達を倒す!!」

 持ち上げられる刃に集まるFファンネル。

 チャンピオンの機体から天に登るように広がっていくエネルギー。

 

 必殺技。

 この言葉に相応しい、洗礼されたチャンピオンの機体の技だ。

 

 

 

「はぁぁぁぁああああああ!!!」

 天まで届く光の刃は、三人の機体を一度に葬りさるのに充分な威力を誇っている。

 

「これが……」

「GBNチャンピオン……」

「クジョウ・キョウヤか……」

 残機ゼロ。

 

 

 

 

 勝者───クジョウ・キョウヤ




チャンピオン強すぎ問題


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この世界は好きかい?

 頭を掻きながらも、キョウヤは満足げな表情を見せていた。

 

 

 それに比べ、トウドウ達キョウヤと戦った三人はげんなりしている。

 三対一でさらに四十機の残機がありながら敗北したのだ。それに加えてトウドウは他のメンバーに自分には勝ちのビジョンがある、とまで言ってしまっているのである。

 

「ま、残念でしたわね」

「惜しかったなユメ」

 しかし、試合を見ていたメンバー達から不満の声が来る事はなかった。

 

 チャンピオン、クジョウ・キョウヤが満足したバトルである。他に誰が満足しなかっただろうか。

 

 

「正直、イア君の為とはいえ大人気ない戦いを申し出たかとは思っていたが。その考えから訂正するべきだったようだね。……ありがとう、良いバトルだった」

「……こちらこそ」

「わ、私も! 良い経験になりました!」

「見所があるな、チャンピオン! またボクと遊んでくれ」

 三人と笑顔で握手をしたキョウヤは、ふと「そういえば皆はGBNで旅行中だったか」と思い出したように言葉を漏らした。

 キョウヤの言葉に、カルミアも「そういえばね……。いや、でも話したっけ? なんで知ってる訳よ」と当初の目的を思い出す。

 

 

「邪魔をしたお詫びに、僕からもGBNのオススメ旅行スポットを教えたいから一緒に旅行なんてどうだろうか?」

「え」

「チャンピオンが」

「俺達と」

「旅行」

「っすか!?」

 そうして、ReBondとメフィストフェレスのメンバー達はキョウヤと共にGBNのオススメ旅行スポットを回る事になったのだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 地平線まで広がる更地。

 キョウヤがメンバー達を連れて来たのは、そんな場所である。

 

 

「何もないな」

「何もないね」

「すご! 何にもない! 逆に凄い!」

 唖然とするケイとユメの背後で、イアは逆にはしゃいでいた。

 一面見渡す限りの更地に、惑星を見た時とは違う広大さを感じる。人間とは小さなものだ。

 

「チャンピオン! ここはなんだ!」

「ここはとあるミッション用のフィールドなんだ。ちなみに、僕の独断でそのミッションはもう受けた!」

「何その行動力」

 半目でキョウヤを見るロックの前で、キョウヤは「ミッション内容は、塩を探す事だ!」と高らかに宣言する。

 

「塩?」

「おー! 塩っすね!」

 首を傾げるユメの横で興奮して目を輝かせるニャム。ユメの頭の中では、何故か塩という単語に因縁があるような、ないようなと───謎の葛藤が生まれていた。

 

 

「ほらユメちゃん、ガンダムのオタクの皆さんが良くカフェで味が薄いとか言ってるでしょ。あれよあれ」

「あー!」

 分かっていなさそうなユメにカルミアが説明すると、ユメの葛藤は解決する。

 

 

 機動戦士ガンダムでは、ホワイトベースで塩不足が問題になったというシーンがあった。

 このシーンは何故かガンダムファンの間では印象に強く残っているのである。

 

 

「よし、皆で塩を探そう!」

「……GBNのチャンピオンが塩を探してますわ」

 アンジェリカは「私達ならともかく」と唖然としていたが、キョウヤは本気で塩を探して本気でこのミッションを楽しんでいた。

 

 その内イアが「一番最初に塩を見付けた人が優勝な!」なんて事を言い出す物だから、キョウヤはバトルをしている時並みに燃え始めたのである。

 

 

「……僕が負けた」

「やったぜ、今回はボクの勝ちだね! チャンピオン!」

 ちなみに優勝したのはイアだ。キョウヤは本気で悔しがっている。

 

 

「次だ!」

 そして次にキョウヤがメンバーを連れて来たのは、何やらガンダムの世界観にそぐわないファンシーな森だった。

 

「見てアレ。ベアッガイじゃない?」

「なんだあのガンプラ!?」

 ユメが森の中でダイバーと同じサイズのベアッガイを見付けると、それを見て驚くイア。

 彼女にとってガンプラは乗り込んで操縦する巨大なロボットである。しかし、その常識がここにきて崩れ落ちたのだ。

 

 

「ここはベアッガイの森だ。ガンダムはリアルロボットだけが売りじゃないからね。所でどうやらあのベアッガイは子供とはぐれてしまったらしい。探してあげないとね」

「と、いうミッションっすね」

「いやだからその行動力何」

「なんとなく分かった! あのガンプラの子供を探せば良いんだな! 一番初めに見付けたら優勝!」

「そういう事だ!」

 ノリノリのチャンピオンと火花を散らすイア。森の中にはベアッガイの他にも、SDガンダム等のファンタジックなガンプラ達が暮らしている。

 

 これもまた、ガンダムの楽しみ方なのだと───ベアッガイの子供を一番初めに見付けたチャンピオンは自分が一番楽しみながらそう言っていた。

 

 

 

「ここは?」

「ガンプラ工場さ。ここではガンプラ工場の見学が出来るんだ。早速工場見学の予約はしておいたからね」

「だから何その行動力」

「ダイバーシティと同じで、ここも現実とGBNの境目みたいな場所なんすねぇ」

 キョウヤはメンバー達を、ガンプラを作る工場を見学出来る施設に連れてくる。

 

 この場所はGBNのダイバーシティとは違い、現実と殆ど変わらない施設が並んでいて、実際の工場見学と同じようにガンプラの製造を見学する事が出来るのだ。

 

 

「うぉぉ! プラスチックの再利用、生成、こんな風に間近で見られるなんて! 感激っす!」

「こうやってガンプラが出来てるのか! でも、なんかこのガンプラ小さくないか?」

「僕達の世界ではね、ガンプラはこのサイズなんだよイア君」

 興奮して騒いでいるニャムの横で、イアの疑問に答えるキョウヤ。

 

 人と同じサイズのベアッガイを見て驚いていたイアである。現実のガンプラのサイズを知って、彼女は唖然としていた。

 

 

「1/144、これが主流であるガンプラのサイズだ。僕達はこうしてパッケージに包まれたガンプラを買って組み立て、飾ったり改造したり、眺めたり───こうしてGBNにログインして遊んだりしているんだよ」

「ガンプラって凄いんだな!」

 目を輝かせるイア。

 

 

 旅はまだまだ終わらない。

 

 

「本物のサンクキングダムじゃない」

「ニャムが砂で使ってた奴か!」

 

「コロニーの落ちた地、か」

「なんかデカい穴があるぞ!?」

 

「軌道エレベーターってやっぱり実際に見てみるとまた途方もないな」

「なんだこれ! 柱が空まで続いてるぞ!」

 

「ヤナギランの花畑、懐かしいねケー君。ニャムさん」

「そうだな」

「あ、あはは……その件はどうもというか、あはは」

「すっごい綺麗な花畑だな!」

 メンバー達は地球の様々な場所を巡る。

 このままずっとGBNで遊んでいたい気持ちもあるが、しかしそういう訳にはいかない。ここはどれだけリアルでも、現実の世界ではないのだから。

 

 

 

「───おっと、もうこんな時間か」

 コンソールパネルを開いたキョウヤのそんな言葉に、全員が時間を確認した。予定よりも長居してしまった事に驚きつつも、名残惜しさにメンバー達は少し言葉を失ってしまう。

 

 

「───あの、キョウヤさん!」

 その沈黙を破ったのは、ケイだった。

 

 

「どうしたんだい? ケイ君」

「俺も、キョウヤさんとバトルがしたいです」

 彼の目を真っ直ぐに見てそう言ったケイ。ユメ達とのバトルを見て、ケイはずっと考えていたのである。

 GBNのチャンピオン───クジョウ・キョウヤと自分もバトルがしたい。あんな熱いバトルを見せられて、燃えないビルダーはいないと。

 

 

「……良い目をしている」

「それじゃ───」

「でも、今日はもう遅い。僕もその気持ちには答えたいし、ユメ君に聞いたけど彼女のガンプラを作ったのは君なんだってね。……君と戦うのが楽しみだ」

 そう言って、キョウヤは少し考えた後こう話を続けた。

 

 

「きっと、その機会は直ぐに訪れると思う。僕はGBNのチャンピオンとして、その勝負を受け入れるし───楽しみにしているよ」

「その機会?」

「直ぐに分かるさ」

 そうして、ケイ達はキョウヤと別れを告げる。

 

 

 別れ際───

 

「チャンピオン!」

「どうしたんだい? イア君」

「この世界は面白いな! 本当に、色んな事が出来る!」

「あぁ。僕もそう思うよ。イア君は、この世界が好きかい?」

「おう!」

「それは良かった。僕も、この世界が好きだ」

 ───そう語ったチャンピオン、クジョウ・キョウヤの顔は本当に心からこの世界を楽しんでいる少年のような笑顔だった。




第十章───完!

次回から新章突入となります。お楽しみに!


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第十章──ライバル達【超大規模変則スコア戦】
大規模イベント


 コンコンと扉を叩く音がする。

 

 

 その音に、ユメカは頭だけを持ち上げながら「ヒメカ?」と扉に向かって声を掛けた。

 ドアノックの主はその言葉に「うん」と短く返事をする。

 

「お姉ちゃん、入っても良い?」

「良いよ」

 部屋に入って来る妹。

 その姉であるユメカはベッドに横たわったまま、片手を上げて妹のヒメカを手招きした。

 

 

「どうかしたの? ヒメカ」

「あのね、お姉ちゃん。えーと、私明後日の日曜日……図書館が空いてなくて勉強出来ないから暇で。久し振りにお姉ちゃんと───」

「ごめんヒメカ……! その日、GBNで大切なイベントがあって」

「あっ」

 言いかけた言葉を飲み込んで、ヒメカは視線を落とす。どうしたものかと慌てるユメカは、両手で体を持ち上げて───ベッドから崩れ落ちた。

 

 

「痛ぁ」

「お、お姉ちゃん!? 大丈夫!?」

 両足の麻痺で彼女は自分でベッドから降りる事も出来ない。そんな彼女が自分でベッドから落ちるものだからヒメカは目を丸にして、焦って姉の元に駆け寄る。

 

 

「……ごめんね、ヒメカ」

 そんな妹を他所に、ユメカは必死な表情で体を持ち上げた後、頭を床に着けて謝罪の言葉を漏らした。

 

「この埋め合わせは絶対するから……!」

「や、やめてよお姉ちゃん! とりあえず、ベッドに戻ろ? ね?」

 平謝りする姉をゆっくり持ち上げてなんとかベッドに戻すヒメカ。体格差もあってか、ヒメカはそれだけで息を切らしながら「……き、筋トレもしないと」なんて本気の表情で拳を握る。

 

「わ、私の為にそんな事しなくて良いからね……」

「私はお姉ちゃんの為ならなんでもするよ」

 そんな事を言ってもらえる妹とのお出掛けを断る事になったユメカは頭を抱えた。しかし、今度の日曜日のイベントはどうしても欠席したくない理由が彼女には───彼女達にはあるのである。

 

 

「えーと、イアちゃんだっけ。GBNで、お姉ちゃんが新しく出来た友達?」

「うん。ちょっとヤンチャだけど、それがまた可愛いんだ」

「可愛い……。私は、お姉ちゃんが楽しいなら、それで良いから」

「お出掛けは今度! 今度絶対行こ! 本当にごめんね、ヒメカ」

「大丈夫だよ。でもお姉ちゃん、GBNばっかりで身体を動かさないのはダメだからね。自分の身体の支えられないようなら、私と一緒に筋トレだから」

「き、筋トレは嫌だな……。うん、ちゃんと現実の身体も大切にするから」

「うん。約束だよ」

「当たり前だよ。日付決めよ」

 そう言ってユメカはヒメカと予定が合う日を決めて、ヒメカは部屋を出て行った。

 

 ヒメカとのお出かけも楽しみだが、まずは日曜日に開かれるGBNのイベントである。

 

 

 

「……お姉ちゃんと久し振りにデートだ、えへへ。お姉ちゃん、GBNをやっててもちゃんと遊んでくれるから……本当に大好き。よし、日曜日は筋トレしよう!」

 なんて、何故か筋トレに励む事になる女子中学生。

 

 

 そんな彼女を他所に───GBNでは大型イベントが開催されようとしていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 時は一週間前に遡る。

 

 

「超大規模変則スコア戦イベントっすか?」

「また珍しいイベントね。おじさんがGBN始めてから初めてよ、こんなの」

 フォースネストで寛いでいたフォースReBondのフォース共通メッセージに、突然イベントが告知された。

 

 その内容は、近々開幕するGBNの大型イベントへの招待状である。

 

 

「えーと、何々。総勢三百のフォースが競い合う大規模フォース戦闘、各フォースは撃破ポイントを巡って乱戦の中で輝く事になるだろう……。三百だぁ!?」

 イベントのトップページの広告を読み上げると、ロックはその壮絶さに口を開けたまま固まった。

 

 GBNにはそれこそ大から小まで数え切れない数のフォースが存在する。しかし、それでも三百という数字は同時に戦闘を行うという話からすれば大規模に超が付くのも納得だ。

 

 

「その三百のフォース、運営が上位勢のフォースを少し優先的に配置してるっすけど。他は抽選で選ばれたフォースが参加出来るみたいっすね。参加するフォースで有名なのは……チャンピオンのAVALONは勿論、第七機甲師団に虎武龍、SIMURUG、アダムの林檎、百鬼…… BUILDDIVERS(ビルドダイバーズ)」

「ビルドダイバーズ、AVALON」

 ニャムの言葉に、ケイの頭の中で二人の男の顔が浮かぶ。また戦いたい相手、戦ってみたい相手。

 

「これ、参加しない手はないな」

「ボクはこれ、参加出来るのか?」

 フォースネストの端でお菓子を食べながら聞き耳を立てていたイアは、ロックの背中に飛び乗りながらニャムが見ているコンソールパネルを覗き込んだ。

 

 

「えーと、詳しいルールは……何々───お、このルールなら前にチャンピオンと戦ったみたいに、撃破されても撃破扱いではなくリスポーンするルールなのでイアちゃんも参加出来るっすよ!」

「おー! ガンプラバトルだ!」

 自分も参加出来る事に喜んで両手を上げるイア。そんな彼女を見ながら、カルミアはつい先日のチャンピオン───クジョウ・キョウヤの言葉を思い出す。

 

「……その機会は直ぐに訪れると思う、とかなんとか言ってたなぁ。あのチャンピオン」

「どうかしたのか? おっさん」

「んや、気になっただけよ。三百組のフォースといえど、GBNに数多あるフォースの中から選ばれるなんて()が良い事」

「確かに」

 カルミアの言葉を聞いて、ロックは既に参加を受諾したフォースの名簿一覧を眺め始めた。

 参加を拒否する事も出来るが、殆どのフォースはこの機会を逃そうとは思わないだろう。現にメッセージが送られてきて数分足らずで殆どのフォースが参加を受諾していた。

 

 

「……砂漠の犬、メフィストフェレスまで参加してるじゃねーか」

「本当に?」

 その中に、ロックは見知ったフォースの名前を見付けて口角を釣り上げる。

 

 強敵、ライバルとの戦い。

 GBNのダイバーでその二点に燃えない者は少ない。

 

 

「本当だねタケシ君。これは、凄く面白そう……!」

「ロックな」

「他には───」

 ロックに釣られてコンソールパネルの参加フォース一覧を眺めるユメ。

 数多のライバル達の名前に視線を泳がせていると、彼女の目に一つのフォースの名前が止まった。

 

 

「───へ……」

「どうした? ユメ」

「ケー君、これ……」

 ゆっくりと振り向いて、彼女の目に止まったフォースを指差すユメ。それを見て、ケイは目を見開いて固まってしまう。

 

 

「……アンチレッド」

 参加フォース一覧の中にあった名前を無意識に口にするケイ。彼の言葉に、ニャムとカルミアとロックは驚きの表情を隠せなかった。

 

 

「兄さん……」

「セイヤ……」

「お、おいおい。なんでアイツらがこんなイベントに参加しようとしてんだよ。またなんか企んでんのか?」

 NFTの事を思い出す。

 

 結局砂漠の犬のアンディが怪我を負った事件は事故として処理されたが、それでもアンチレッドのメンバーがした事や起きた事を無視する事は出来ない筈だ。

 運営は何も考えてないのか、本当にただランダムで選ばれた中に偶々アンチレッドが入ってしまっただけなのか。

 

 

「なーんかきな臭くなってきたわねぇ」

 目を細めるカルミアに、ニャムは珍しく俯いている。そんな彼女を見て、カルミアは「これはチャンスだ」と短く声を掛けた。

 

 

「セイヤが何を思って参加表明に丸を付けたのかは分からないが、俺達はまたアイツと戦える。……話し合える。そのチャンスだ」

「カルミア氏……。そうっすね!」

「それに、せっかくの大型イベントよ。楽しまなきゃ損でしょ」

 カルミアの言葉にメンバー達も首を縦に振る。

 

 何はともあれ、目標の多いイベントになるのは確かだ。ガンプラや作戦、情報分析等、今からやって早い物なんて何もない。

 

 

「お前ら、やるからには目指すは優勝だ! 分かってんな!!」

 ロックの機会に、六人は円陣を組んで声を上げる。

 

 

 

 フォースReBondの新しい挑戦が始まろうとしていた。



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ライバル達

 モニターに映る様々な種類のMS。

 

 

 ザクからガンダムバルバトスルプスレクスまで、様々な作品のMSのガンプラが同じ土俵で戦っていた。

 ガンダム対エクシア、サザビー対ユニコーンガンダム、ストライクフリーダム対ウイングガンダム。ガンダムが好きな者なら夢の対決と呼ばれるシーンが幾つも流れていく。

 

「うっへぇ、いつも思うっすけどGBNのトレーラームービーはガンダムオタクの心をしっかりと掴んでるっすよねぇ! フヘヘヘヘ」

「ニャムさん、笑い方が純粋にヤバい」

 モニターに映る大型イベントの予告を眺めて表情を歪ませるニャムと、そんな彼女を見て表情を引き攣らせるロック。

 

 

 超大規模変則スコア戦イベント。

 イベント名は大規模フォースバトルロワイヤル。総勢三百のフォースが撃破ポイントを競い合う、GBNでも稀な超大型イベントだ。

 

 そんなイベントに参加する為に、ケイ達フォースReBondのメンバーはそのイベントが行われる開会式の会場に立ち寄っている。

 

 

 

「やぁやぁ、フォースReBondの諸君。久し振りじゃないかな?」

 そんなケイ達を見付けて声を掛けてきたのはフォース砂漠の犬のリーダー、アンディだった。

 

「アンディさん!」

「相変わらず楽しんでるようだね、少年」

「誰だこのイケてるおっさんは! こんなイケてるおっさんは初めて見たぞ!」

 アンディを見てそんな言葉を漏らすイア。彼女の言葉にカルミアは「アレ? おじさん遠回しにイケてないって言われた?」と涙目になる。

 

「ん? 彼女は?」

「えーと……新メンバーです?」

「なんだ、訳ありかね。だが、容赦はしないぞ。今日は楽しもう」

 そう言って、アンディは片手を上げてその場を去っていった。砂漠の犬だけではない、このイベントには様々な強敵が参加している。

 

 

「なぁ、アレ───」

「あ、モモちゃん!! サラちゃん!!」

 そんな中で、参加者達を眺めていたロックが何かに気が付いたと同時に───ユメが目を輝かせて走り出した。

 

 その先には、桃色の髪をポニーテールにした女の子と銀髪の不思議な雰囲気の女の子が立っている。

 

 

「もしかして……」

 そんな二人の奥にある女の子達の仲間であろう人達を見て、ケイも目を輝かせるのであった。

 

 

「───もしかしてユメちゃん! うわぁ! GBNだとこんな姿だったんだ! GBNのユメちゃんも可愛い!」

「ユメ、久し振り」

 ユメと目が合うと、こちらも目を輝かせて口を開く女の子二人。彼女達はモモとサラ───フォースBUILDDIVERS(ビルドダイバーズ)のメンバーである。

 

 

「……リク」

「もしかしてケイさん? ダイバーシティの、ガンダムベースの時イベントで───」

「そうだよ、フォースReBond。まさか覚えていて貰えるなんて……ちょっと嬉しいな」

「そんな! あの時は本当に俺も楽しかったから。ケイさんとまたバトル出来るなんて……しかも自分のガンプラで」

「ケイで良いよ。今日は絶対に戦いに行く」

 BUILDDIVERSのリクに拳を向けるケイ。そんなケイに、リクは「……分かった。楽しみにしてるよ、ケイ」と拳を返した。

 

 

「見付けましたわ! フォースReBond!! ここであったが百年目ですわよ!!」

 ケイがリクと話していると、その傍では彼等を見付けたフォースメフィストフェレスのアンジェリカが言葉とは裏腹に満面の笑みで手を振りながら近付いてくる。

 ロックはノワールを見付けるやいなや無言で拳をぶつけた。

 

 

 強敵にライバル、ここにはまだ見ぬダイバー達も多数集まっている。

 

 

 

「カルミア氏、見掛けましたか?」

「……いや。そもそもセイヤ達が本当に参加してるのか分からないしなぁ」

 そんな中で、ニャムとカルミアはセイヤ達───フォースアンチレッドを探していた。

 偶々抽選で選ばれたのだとしても、彼らがこんなイベントに参加するとは思えない。

 

 もし参加するとしても、NFTの時のように何かしようとしているのかと思うと黙って傍観する訳にもいかないだろう。

 

 

 

「……怪しいわよなぁ、運営さんとか。チャンピオンとか」

「ま、まぁ。何事もなく楽しめれば自分達もそれで良いと思うんすけどね。カルミア氏も、そろそろ疑うのは辞めて楽しんだ方が良いと思うっすよ」

「それもそうねぇ」

 二人がそう会話をしていると、会場の真ん中に突然スポットライトが当たり───ゲームマスター、カツラギが姿を表した。

 ゲームマスターが顔を見せるのは珍しく、それだけで会場は大いに盛り上がる。

 

 

「───本日集まってくれた多くのフォース、そしてダイバー諸君。私はこのイベントの主催を務めさせていただくゲームマスターのカツラギだ。本日はイベントを大いに盛り上げ、楽しんで頂きたい」

 片手を上げる、SDガンダムのようなアバターのダイバー。そんな彼を見て、イアは「あの人はガンプラじゃないのにガンプラみたいな格好をしているぞ? 一体なんなんだ!」と頭を抱えていた。

 

 

「イベント戦の詳細なルールは告知した通り、より多くの敵を撃破し自軍の撃破数が少なければ勝利となる。イベント戦上位フォースには様々な報酬も用意されている為、諸君らの健闘を期待したい」

 この超が付く大型イベントは、その名に恥じないイベント報酬が用意されている。

 それこそ参加するだけで通常のミッション十回よりも相場の高い報酬が会得出来る為、イベント戦上位フォースへの報酬は気が遠くなる程だ。

 

 ReBondの面々は勿論、どのフォースも上位を取る事を目標にしてその目を燃やしている。

 

 

 

「堅苦しい挨拶は以上だ。イベント戦開始は一時間後、たった今バトルフィールドの詳細がメッセージで送られている。……各自、この一時間で最終調整を行なってくれたまえ」

 そう言って、カツラギは会場から姿を消した。

 

 

 参加者全員のコンソールパネルに、メッセージとイベント戦開始時間が表示される。

 

 

「楽しもう、皆」

「うん!」

「おうよ」

「やってやりましょう!」

「おじさんも張り切っちゃおうかな」

「よっしゃ! やるぞ!」

 各フォースは一丸となってメッセージに表示された細かなルールやフィールドの状況を頭に叩き込むのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ゲームマスタールーム。

 

 

「カツラギさん」

 モニターに視線を向けているカツラギに、一人の男が話し掛ける。

 

「……AVALONのリーダーがこんな場所にいて良いのか」

「それは問題ない。僕のフォースには優秀なダイバーが沢山いるし、今日は好きにやらせてもらう事にしてるからね。……そもそも、僕を呼んだのはカツラギさんじゃないか」

 両手を上げて困ったような表情で言葉を漏らす男───GBNのチャンピオンにしてフォースAVALONのリーダー、クジョウ・キョウヤはこう続けた。

 

 

「僕に頼みたい事とは?」

「今回のイベント戦は以前話したELダイバー失踪事件を追う為に開催したイベントだ。ELダイバーと共に行動するフォースの殆どを招待し、そのフォースと関わりの深いフォースも全て参加している」

「その意図は僕も分かっていたつもりだ。もしELダイバーの失踪事件に原因があるなら、ELダイバーを一斉に集めて監視してその原因を探りたい……カツラギさんが考えている事はそんな所だろうと思う」

 キョウヤの言葉にカツラギは無言で目を閉じる。

 

 返事がないのは否定しないという事だ。キョウヤはさらにこう続ける。

 

 

「ELダイバーと共に行動するフォースと関わりが深いフォースも参加させた。……つまり、ELダイバーの安全を保障したいのがカツラギさんが次に考えている事なら───カツラギさんが僕に頼みたい事は分かってくる」

「話が早くて助かる」

「BUILDDIVERSのサラ君、ReBondのイア君を僕に守って欲しい。そういう事ですね?」

 キョウヤの言葉に、カツラギは再び無言の返答を出した。

 

 彼の事だ、他の誰かにもELダイバーの安全の保証を頼んでいるのだろう。

 

 

 

 もう二年近く前になる第二次有志連合戦。

 あの時の悲痛な想いを、これ以上誰かの好きを絶やさない為に。

 

 

 

「……勿論協力するつもりだ。けれど、僕は彼女達にも全力でこのイベントを楽しんで欲しいし、僕も楽しみたい。やり方は任せて貰えますね?」

「……あぁ」

 短く返事をしたカツラギに背を向けて、キョウヤは最後にこう口にした。

 

 

「───勿論、このイベント戦を一位で勝ち上がるのはAVALONだ」

 そんな言葉を残し、キョウヤはゲームマスタールームを立ち去る。

 

 

 残されたカツラギは、バトルフィールドが映し出されたモニターをひたすら無言で眺めていた。



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開戦の光

 イベント戦待機ルーム。

 

 

「───それでは、もう一度ルールを再確認するっすよ」

 イベント戦が始まる前に、ニャムは細かいルールと作戦を整理しようと思ってそう口を開いた。

 

 

「まずステージは地球圏A。大規模イベント用の宇宙空間っすね」

「確かスペースデブリとか小惑星の破片とか、それなりの大きさの障害物はあるけど……小惑星とか宇宙要塞とか、戦術を変えなきゃいけない程の障害物はないステージよね」

「カルミア氏の言う通り、場所によって考える事を変えなくても良いので今回のイベントに適したステージとも言えるっすね。今回はこの広大なステージの各ポイントにフォースごとの自軍エリア───つまりリスポーンポイントが用意されているらしいっす。自軍エリアから半径五百メートルはダメージ無効エリアになっていて、リスキル対策もバッチリっすね。ただし自軍エリア内からの攻撃は威力が大幅に落ちるのと、自軍エリアに近ければ近い程にも攻撃の威力の低下があるので注意が必要っす。各フォースの自軍エリアは最低二キロの距離があるらしいので、一番近くのフォースとの戦闘範囲は大体一キロって事を頭の中に入れておくと良いかもしれないっすよ」

 ステージの範囲は五百キロメートルを超える。

 これがどれだけ広大かというと、実に東京から四国地方までの直線距離が大体五百キロメートルという事を考えると分かる筈だ。

 

 距離といえばフォースメフィストフェレスのエースで狙撃手───スズの有効射程距離が訳五十キロメートルなので、その十倍の距離があると言う点も驚きである。

 

 

 

「ルールは変則スコア戦。簡単に言うとMSを撃破するとポイントが貰えるので、ガンガンMSを撃破してポイントを頂こうってルールですね。撃破されたMSは即リスポーンするっすけど、一分間自軍エリアから出る事が出来ないっす。……あとは変則スコアの変則の部分ですが、これはフォースの戦力によって会得ポイントが違うって事っすね」

「ボクも出られるルールって事だ! 会得ポイントの違いって?」

「今回参加するフォース、メンバーの数の制限はないんすよ。ようするに、自分達のような少人数フォースから三十から五十人もメンバーがいるフォースや、百人以上メンバーのいる大型フォースまで、フォースメンバー全員が参戦するバトルなんっす。これは大きなハンデになるので……メンバーの少ないフォースの会得ポイントは高く、逆にメンバーの少ないフォースの機体を撃破した時のポイントは少なく設定されています。そしてメンバーの多いフォースの会得ポイントは低く、逆にメンバーの多いフォースの機体を撃破した時のポイントは大きく設定されているっす」

 メンバーの少ないフォースも多いフォースも不利有利はなく、逆にメンバーの少ないフォースを狙うか多いフォースを狙うかという戦略が試される事になるルールになっていた。

 

 

「ようするに、狙うはAVALONって事だな」

「ロック氏の言う通り、AVALONはメンバーも多いですからね。チャンピオンとも戦えるという事なのでジブンもそう言いたい所なのですが───それは他のフォースも考えている事は一緒なのではないでしょうか?」

「皆チャンピオンと戦いたいし、メンバーの多いフォースの機体を撃破してポイントを稼ぎたいって事か」

 ケイがそう言うと、ニャムは「その通りっすね」と残念そうな顔を見せる。

 

 しかし彼女は直ぐに切り替えて、大きなコンソールパネルにマップを表示してこう口を開いた。

 

 

「イベント戦、やるからには本気で勝ちに行くというのは絶対ですけど───こんな機会は少ないので出来るだけ楽しめる作戦を立てたっす。このマップを見て下さい」

 ニャムの表示したマップ、そこには全てのフォースよ自軍エリアが三次元的に表示されている。

 

 

「ジブンから近い位置に、ビルドダイバーズの自軍エリアがあるっす。他にも近いところだとメフィストフェレス、虎武龍、第七機甲師団。初めのうちはこの辺りとの戦闘を意識して戦うのが良い───というか、メフィストフェレスは絶対に仕掛けてくるっすよ」

「メフィストフェレスの自軍エリアと私達の自軍エリア、三十キロしか離れてないもんね」

「三十キロも離れてるじゃねーか───いや、待てよ? アレの有効射程距離って……」

 ユメの言葉に、ロックは顔を真っ青にした。

 

 

有効射程(キリングレンジ)49.8km。自分達自軍エリアで既に、スズさんの射程圏内って事なんすよね」

「アイツなんなん。化け物なの?」

 ライバルフォースの実力を再び思い知ったロックは頭を抱えて蹲る。

 

 そんな中で、ケイは表示されたマップを真剣な表情で眺めていた。

 

 

「ケー君、何見てるの?」

「AVALONと百鬼の位置かな。あと……」

「百鬼?」

「ケイ殿、百鬼と何か因縁でもあるんすか?」

「いや、実はGBNを始めたばかりの頃に、百鬼のオーガさんって人と戦った事があって……。また戦えるのかも、なんてさ」

「ケイ殿もなんだかんだで熱い人っすよねぇ」

 膝を当ててくるニャムに、ケイは顔を赤くして目を逸らす。

 

 そして逸らした視線の先で、ケイはもう一つの探し物を見付けたのだった。

 

 

 

「……アンチレッド」

「本当だ」

 ケイが指差す先───自軍エリアからはあまり近くないが、遠くもない位置にそのフォースの名前が表示されている。

 

 本当に参加するのかすら分からなかったが、その名前はその場所に確かに存在していた。

 

 

「……ニャムさん」

「イベント戦、制限時間は三時間っす。その間に、ジブンは出来るだけ楽しんで、力を出し切りたい。……もしその時が来たら、ジブンも兄と話す覚悟はしてるっすから。そこは、ケイ殿やロック氏の判断に任せるっす」

 試合開始の作戦は決めたが、その後は周りのフォースの動きにもよるだろう。

 

 その時の事はその時に決めれば良い。今はただ、楽しもうとニャム達はそう心に決めたのだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 広大な宇宙空間が広がっている。

 

 

 目の前に表示されるカウントダウン。その数字がゼロになってから数秒後、暗黒だけが広がっていた空間で炎や光が走り出した。

 

 三百のフォース。

 その全てが競い合うバトルロワイヤルが始まったのである。

 

 

「よっしゃ行くぜお前ら!!」

「くれぐれもメフィストフェレスの居る方角には要注意っすよ!」

「だとしても最初に戦うのはアイツらだ!」

 自軍エリアからメフィストフェレスのエリアに向かう、フォースReBondのメンバー達。

 無敵エリアである自軍エリアを離れた瞬間、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

「待ってろノワール、今回は勝たせてもら───」

 光がロックの機体を貫き、爆散させる。

 

「だから要注意って言ったんすけどぉ!?」

「待って、イアちゃんとカルミアさんも撃破されてる!?」

「は?」

 ユメの言葉に辺りを見渡すケイ。彼女の言う通り、イアもカルミアもロックと()()に撃破されていた。

 

 

「ちょ、なんですとぉ!? 退避退避! 一旦退避!!」

 急いで自軍エリアに戻るケイ達三人。

 

 撃破された三人はリスポーンして、唖然とした顔で固まっている。

 

 

「……な、何が起きたのよ」

「なんか突然やられたぞ!?」

「三人同時って、どういう事だよ」

「もしかして……スズちゃん、今回ライフルを三本持ってきてるんじゃ」

 冷や汗を流しながらそう言ったユメの言葉に、ニャムとケイは顔を真っ青にした。

 

 ありえない話ではない。

 今回のルール、狙撃で敵を倒すのはポイント稼ぎとして効率が一番良いのである。

 

 そしてメフィストフェレスのスズというダイバーはそういう事が出来るダイバーだ。

 

 

 

 

「───ロック、カルミア、イア……撃破」

 ───そして実際、スズはビームスナイパーライフルを三丁所持している。

 

「流石ですわ、スズ!」

「よし、これで一分はReBondも出てこれない。狙撃が通り易い初動はとにかくポイントを稼ぐぞ」

「……了解。護衛よろしく」

 トウドウの言葉にそう返事をしたスズは、メインアームとサブアーム、合計三丁のビームスナイパーライフルを別々の敵に向けて引き金を引いた。

 

 その全てが敵を撃墜していく。

 

 

 

「───なんだ今の狙撃!? どこからだよ!!」

「───今別のフォースに仲間がやられたぞ!? 索敵どうなってる!?」

「───獲物を撮られた!! 畜生、何処に居るハイエナめ!!」

 彼女から半径49.8km以内の敵を次々に貫く光。

 

 まず何をされているか分からないこの現状で、スズは殆どノーマークだ。しかし、狙撃手が居るとバレれば少し話は変わってくる。

 最初にReBondを潰したのは、彼女達の戦法を一番分かっている相手だからだった。これはトウドウの作戦勝ちだろう。

 

 

 

「今頃スズちゃんの狙撃でポイントいっぱい稼いでるんだろうね……。どうしよう、ケイ君」

「イベント戦上位は勿論、ライバルフォース達に負けないのも目標だしな。当初の作戦通り、メフィストフェレスはなんとか攻略しておきたい。ニャムさん、さっき考えた対メフィストフェレス戦法、プランCならいけるんじゃないかと思うんだけど」

 ロック達が撃破されて一分。

 

 

「そうすっね。相手が三本持ちでも、なんとかして見せるっすよ。───さて、反撃開始っす!」

 黄金色に光るニャムの今回の機体が先行して自軍エリアを離れた。

 

 

 

 超大規模変則スコア戦───開幕である。



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狙撃ポイント

 宇宙を光が走る。

 

 

 同時に走る三本の光は、MSを同時に四機貫いて爆散させた。

 

「どこから撃たれてるんだよ!!」

「敵はどこにいるんだ!?」

 そう言って背中合わせで盾を構えるも、無慈悲な光が再び戦場に降り注ぐ。

 

 

 

「大量大量ですわー!」

「……次」

 フォースメフィストフェレス。

 

 その狙撃手、スズの有効射程距離は約五十キロメートル。

 この広大な宇宙空間でMSを撃破すれば撃破するほどポイントの稼げるスコア戦では、その狙撃能力の価値は計り知れなかった。

 

 

 

「アンジェ、そろそろアイツらが動くぞ」

「もう一度撃ち落として差し上げますわよ、フォースReBondの皆さん! このイベント戦、こちらの狙撃がバレてない序盤がポイント稼ぎの勝負所。邪魔されたらたまりませんわ!」

「撃つのはアンジェリカさんじゃなくてスズ姉さんだけどねー」

「撃つのはスズ姉さんであってアンジェリカさんじゃないけどねー」

 レフトとライトのツッコミにもその自信満々な表情を変える事なく、アンジェリカはReBondの自軍エリアに向けてどこからか取り出した扇子を向けてこう口を開く。

 

「さぁ、スズ! やっておしまいですわ!!」

「……了解」

 再び、戦場に閃光が走った。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 宇宙を光が走る。

 

 

 ビームライフルと呼ばれる兵器は、実弾とは違い距離が遠ければ遠い程威力が低下する武装だ。

 しかし実弾と違い弾は真っ直ぐ高速で放たれる。

 

 狙い定められたビームライフルを避ける事は難しい。

 

 

 

「───このアカツキに! ビーム兵器は無力って事を教えてあげるっすよ!!」

 ───ならばと、ニャムが今回用意した機体は暁の名を冠するMSだった。

 

 黄金に輝くその装甲に狙撃が命中するも、ビームはまるで反射されるように弾かれてしまう。

 

 

 ガンダムSEEDDESTINYに登場するこのアカツキはヤタノカガミと呼ばれるビームを無効化する装甲を持つMSだ。

 シラヌイと呼ばれるドラグーンシステムを搭載したストライカーパックを装備し、そのドラグーンシステムはνガンダムに代表されるビームバリアを展開出来る。

 

 そのビームバリアでユメ以外の四機を守り、ユメはフルクロスというビームを防ぐ装備でスズの狙撃から身を守った。

 

 

 

「───全部防がれた……?」

「なんですと!?」

 三本のビームスナイパーライフルに対しての答えを見せつけたReBondのメンバー達は、間髪入れずにメフィストフェレスのメンバーが展開する領域に足を踏み入れる。

 

 

「こちらの射程距離に入ったっすよ!」

「さっきは良くもやってくれたな!! オラ、ここからは俺達の反撃の時間だぜ!! トランザム!!」

 敵を目視出来る距離まで近付いたロックが先行し、ReBondのメンバーはそれに追従した。

 

 

「……舐めるな」

 そのロックに狙いを定め、スズのビームスナイパーライフルが光を放つ。ビームはロックのデュナメスHellに直撃し爆煙が宇宙に広がった。

 

 

「───舐めるなはこっちの台詞だぜ!!」

「───な!?」

 ───しかし、その爆煙の中から赤い光を放つデュナメスHellが飛び出してくる。彼の機体はGNフルシールドこそ破損していたがほぼ無傷だった。

 

 

「……フルシールドにまで防がれた」

「近寄らせませんわよ!!」

「やるな、ロック」

 唇を噛むスズ。

 そんな彼女にビームサイズを構えながら直進してくるロックの前に、アンジェリカとノワールが立ち塞がる。

 二人はミラージュコロイドを展開してスズの近くに待機していた為に、ロックはその存在に気がついていなかった。

 

 

「三人まとめて相手してやるぜ!! ここは俺の距離だ!!」

 しかし、この距離まで接近したロックのトランザムまで使ったデュナメスHellを止められるダイバーはそういない。

 二人掛かりでロックを止めようとするアンジェリカとノワールだが、ロックを止めるだけでも押し切られている状態である。

 

 

「お得意のミラージュコロイドでチマチマ逃げる作戦はどうした!」

「そんな事したらスズを倒しに行くのが分かっているんですのよ……!」

 アンジェリカのゴールドフレームオルニアス、ノワールの迅雷ブリッツはミラージュコロイドを使用したヒットアンドアウェイを得意とする機体だ。

 こうして味方を守りながら戦う立ち回りは、本来の機体特性に合っていないのである。

 

 そもそも本来ならスズの近くでミラージュコロイドを使って待ち伏せしていた二人に対して、一人で攻め切るなんて該当が出来るロックの接近戦闘センスがこの状況を作り上げていた。

 

 

 

「二人を助けよう!」

「同じ事思ってた!」

「そうはさせないっすよ!」

「二人の相手は俺達だ!」

 そんな二人を助けようとするレフトとライトを囲むケイとニャム。

 

「EXAMシステムを止めるだと……」

「残念ながらこのレッドウルフにパワーで勝つのは難しいのよね。おじさん達の前で奥の手を見せちゃったのが敗因よ」

 EXAMシステムを使用したトウドウのクランシェアンドレアをサブアームを展開したカルミアのレッドウルフが止める。

 

 

 フォースReBondとメフィストフェレスのメンバー数は同じく六人。

 ロックが二人を止めている為、一人ずつ個人戦に持ち込めば───何処かで二対一を作る事が可能だ。

 

 

 

「さて、今回はこっちが二対一だよ! スズちゃん!」

「今回もボクが勝つよ! スズ!」

「……なるほど」

 ───敵のエースであるスズに対して、ユメとイアが勝負を仕掛ける。

 

 

 ユメのデルタグラスパーが今回装備しているのはフルクロスを含めたクロスボーンストライカー。

 ABCマントよりも強力なビーム耐性を誇るフルクロスと、ムラマサ・ブラスターにピーコック・スマッシャーと遠近どちらにも対応出来る万能装備だ。

 

 

 イアのZガンダムと共に、挟み込むようにしてスズのサイコザクレラージュを襲う二人。

 しかしスズは、サブアームを巧みに駆使してビームバズーカとザクマシンガンを二人の機体に向ける。

 

 

「……挟み込みが単調」

「それはどうかな!」

 ザクマシンガンの射程から、機体を変形させて高速移動形態を取るユメのデルタグラスパー。

 フルクロスを装備したまま変形機構を保てているのは、ケイのビルダーとしての能力の賜物だ。

 

「……早い」

 その速度に、サイコザクのサブアームは付いていけない。

 変形状態のデルタグラスパーの速度に、クロスボーンストライカーのスラスターを加えた彼女の機体はサイコザクレラージェの反応速度を超えている。

 

 

「前回は負けたけど、今回は私が勝つよ!!」

「……っ!」

 サイコザクの真下から急接近し、変形してムラマサ・ブラスターを展開するユメ。

 サイコザクレラージェは六本のサブアームにより四方八方への攻撃が可能なガンプラだ。

 

 しかし、その構造上足元だけは死角もあり攻撃が覚束無くなる。地上では問題ないが、この宇宙空間において完璧とも思われるサイコザクレラージェの弱点が機体の真下だった。

 

 

「……ユメ!」

 ビームスナイパーライフルを捨て、メインアームでヒートホークを構えながら機体を翻すスズ。

 同時にムラマサ・ブラスターとヒートホークが重なり合い、光が弾ける。

 

 

「スズちゃん!!」

「このサイコザクレラージェに……死角はない!」

 反応速度が追い付かずに間合いに入られたスズだが、彼女は攻撃を受け止めて直ぐに体制を立て直した。

 フルクロスでビームの通りが悪いデルタグラスパーに、彼女はサブアームのザクマシンガンを突き付ける。

 

 

「そうはさせないもんね!!」

 しかし、その背後からビームサーベルを構えて突撃してくるZガンダム。スズは機体を翻しながら、ゲシュマイディッヒパンツァーで押し出すようにZガンダムを振り払った。

 

 

「お、やるなぁ!」

「……私は負けない」

「ユメ!」

 Zガンダムの相手をしている内に、一度ユメが離脱する。そんな彼女に構う事なく、スズはイアのZガンダムに狙いを定めた。

 

 

「ボクも一旦逃げよ!」

「……逃すか」

 スラスターを吹かせて後退するZガンダム。隕石の背後に隠れたZを追い掛けて、スズは隕石にビームバズーカを向ける。

 

 放たれる光。

 名前の通り、ビームバズーカの威力は絶大だ。その一撃で隕石は粉砕したが、イアのZガンダムは見当たらない。

 

 どこか死角から他の遮蔽物に隠れたのだろうと、スズは周囲の警戒に神経を尖らせる。

 

 

 

「───可変機、ユメか……!」

 再び真下から。

 高速で接近してくる機体を見付け、スズは姿勢を整えながらザクマシンガンを構えた。

 今度は反応が早く、間合いに入られる前に引き金を引ける。

 

 

「残念ボクだよ! 変形出来るのはユメだけじゃない!」

「な……!」

 ───しかし、真下から接近してきたのは今さっき見失ったばかりのZガンダムだった。

 

 

 放たれるザクマシンガン。

 Zは変形してシールドでそれを防ぐが、スズの焦りはそこじゃない。

 

 

 さらに別方向から高速で接近してくる機体を見付ける。

 咄嗟にビームバズーカを構えるが、それが意味のない事だという事をスズは気が付いていた。

 

 

「ビーム兵器は耐えられるよ……!」

 クロスボーンストライカーのフルクロスはビーム兵器を弾く性質を持っている。フルクロスを装備したデルタグラスパーにビームは効きにくい。

 

 だからこそ、スズはユメの機体に対してザクマシンガンを向けるようにしていたのだ。

 しかし初めに高速で接近してきたMSはイアのZガンダムであり、スズはZにザクマシンガンを向けてしまっている。

 

 ビームスナイパーライフルを三本持つ為に他の装備を減らしたサイコザクレラージェには、Zの反対から責めてきたユメのデルタグラスパーに向けられる()()()()がなかった。

 

 

「……強いな」

「貰った!!」

 ビームバズーカをフルクロスが弾き、ムラマサ・ブラスターがサイコザクレラージェを切り裂く。

 

「……今回は負けた、か」

 爆散するサイコザクレラージェ。

 バランスの崩れたメフィストフェレスのメンバーは、レフトとライトも撃破され、続いてトウドウも落とされた。

 

 

「ここだぜ! さっきからスナイプしてきた奴がいたの!」

「もうスナイパーはやられたみたいだな! だがまたスナイプされても面白くねぇ! ここを拠点に戦おうぜ!」

 そしてその戦闘の光に釣られてか、他のフォースの機体も集まってくる。

 このバトルで戦うフォースは一つだけではない。

 

 

 ReBondの目的はメフィストフェレスと一度戦い、戦闘地域をそこに作る事である。

 そうすればリスポーンする度にスズに狙い撃たれる心配が減るからだ。

 

 

「ぐぬぬぬぬぬぬ、ReBondにしてやられましたわ。こんなにも早く狙撃ポイントを失うなんて!」

「今回は負けだな。……これ以上キルポイントを渡す必要もない。撤退して、別の狙撃ポイントを探そう」

 ミラージュコロイドで隠れた二人は、自軍エリアに離脱。

 

 戦火は拡大し、その場は数多のフォースが集まる戦闘地域となる。

 

 

「さて、自分達も撤収しましょう。それなりにキルポも盛れたっすからね」

「タケシ君はまたやられちゃったけど、これでスズちゃんも迂闊には手を出してこれないもんね」

 ReBondは混戦の中数機体を撃破するが、トランザムの切れたロックが撃破されたタイミングで一度撤退する事にした。

 

 

 イベント戦は始まったばかりである。戦いはここからが本番だ。



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知将

 第七機甲師団。

 智将ロンメルが隊長を務める、フォースランキング二位の古参フォース。通称ロンメル隊である。

 

 

 超大規模変則スコア戦に参加した第七機甲師団は、智将の名に恥じない作戦を展開しイベント戦を有利に進めていた。

 

 その作戦は───

 

 

「ハッハー! 第七機甲師団って言っても大した事ないようだな。このまま本陣も潰してやろうぜ!」

「こっちの戦力はまだ残ってるからな!」

「尻尾巻いて逃げちゃってよー、情けない奴等だぜ!」

 第七機甲師団が展開する戦闘宙域。

 一つのフォースが第七機甲師団の一個小隊を攻撃、これを撃退まで追い込み現在追撃戦の真っ最中である。

 

 

 スコア戦はより多くの機体を撃破する程、勝利に近付くバトルだ。

 逆にいえば撃破されなければ相手にポイントを渡す事にはならない。よって戦闘から引くのは当然の作戦であり、それを追うのも当然の話である。

 

 

「オラオラ逃すかぁ!!」

「───鼠が来たか」

 ───そして知将ロンメルはそのルールを逆手に取った。

 

 

「全機! 一斉射撃!」

 ()()声で指揮を取る、軍服を着たフェレットのアバター。

 彼こそロンメル隊───第七機甲師団の隊長、ロンメルである。

 

 彼の言葉と同時に光る銃口の数々。

 それは暗礁宙域に浮かぶ戦艦や小隕石に隠れていた第七機甲師団所属の機体数十機からの援護射撃であった。

 

 

「───な、こいつらどこから!?」

「───待ち伏せだと!?」

「───嵌められた!?」

 次々と敵を撃破していく弾幕。

 

 そのフォースとの戦いで第七機甲師団が撃破された機体は二機。中破した機体こそあれど、()()()()をする分には何の問題もない被弾である。

 対する全滅した相手フォースは十三機のMSを有するフォースだった。

 

 被撃破二、撃破十三の大金星である。

 

 

「───肉を切らせて骨を断つ。少数の小隊を餌に大物を釣り上げる作戦はやはり、序盤には有効だ。大隊を狙う相手は欲をかきやすい」

 勿論。

 囮とはいえ第七機甲師団のメンバーは個々でも優秀なダイバーだ。舐めて掛かれば、それは囮にすらならず敵を返り討ちにしていまいかねない。

 

 

 

「……こりゃ、難儀ねぇ。どうするよ隊長。んや、ニャムちゃんに聞いた方が良いか」

「おい俺を少しは頼れよ!」

 その第七機甲師団に挑もうとするフォースがまた一つ。

 

「確かに難儀っすけど、やらなきゃ始まんないっすからね! やれるだけやってみましょう!」

「おーう!」

 そしてもう一つ───

 

 

 

「───さて、どう攻略したものかと悩んではいたが。これは面白いマッチアップになってきたねぇ」

 ───第七機甲師団攻略への糸口を探す者が、戦闘宙域へ差し掛かっていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 銃弾が装甲を削る。

 

 

「こうも弾幕が濃いと近付かないっすよぉ!」

「だからっておじさんの機体の後ろに隠れるのはどうなのよ!?」

 カルミアのレッドウルフの後ろに隠れる、ニャムのアカツキ。

 

 ReBondのメンバーは第七機甲師団の小隊を攻撃、一機を撃破するが撤退する機体を追い掛けて待ち伏せにあっていた。

 

 

 第七機甲師団の作戦は戦闘宙域に小隊をいくつもばら撒いて、中央に位置するロンメル率いる大隊がそれを待ち伏せるという物である。

 それが分かっていたニャム達は深追いする前になんとか身を引く事が出来たが、敵と戦おうにもこれ以上進むのは自殺行為だ。

 

「ユメのフルクロスやニャムさんのヤタノカガミで強行突破、なんてのは出来なそうだな……」

「そうっすねぇ、アカツキはビームには強くても実弾は厳しいっすから。第七機甲師団……量産機を軸に構成されているので実弾兵装が多いんすよね」

 第七機甲師団の統率の取れた動きに加え、現在のReBondの面々には相性の悪い部隊構成。

 

 勿論手こずらないと思っていた訳ではないし、むしろ一筋縄ではいかないことは理解している。

 しかし、どうしたものか。

 

 突破口を見付けたい。諦めたくない。

 

 

 

「こちらの手で有効なのはケイ殿のフェイズシフト装甲くらいっすよね。どうしたものか……。せめて隊長機を落として統率力を奪いたいんすけども」

「なんとか戦闘宙域に穴を開けて貰えれば、俺とユメのストライカーパックを交換して隊長機に辿り着けるかもしれないけど……」

「あ、私が初めてケー君とクリアしたミッションの時みたいだね」

 ユメはGBNでも現実でもケイスケに貰った複翼機のアクセサリーを触りながら、自分が初めてGBNでクリアしたミッションの事を思い出した。

 

 

 クロスボーンストライカーの機動力で戦線を一気に離脱、撃破目標の機体をダブルオーストライカーに換装して接近戦闘で落とす。

 この作戦は確かに敵隊長機を撃破するには有効な作戦だ。しかし───

 

 

「それが通る程、相手さんも甘くないでしょうよ」

 カルミアの言う通り。

 

 今、彼らが相手をしているのはフォースランキング第二位のフォースである。

 ケイ達がクリアしたミッションとは相手の実力も、戦力比も桁違いだ。

 

 

「……だよなぁ」

「───確かにその作戦は甘い。けれど、良い点は付いているよ」

 そんな会話をしていたReBondの通信に割り込んでくる一人の人物。

 

 

「なにあつ!?」

「やーやー、こんにちわ。ReBondの諸君」

「あ、あんたは! フォース砂漠の(いぬ)の!」

「砂漠の(けん)だ。……お困りのようだねぇ。どうだい? ここは一度共闘といかないかい?」

 ReBondのメンバー達に現れる、フォース砂漠の犬のアンディ。

 

 

 彼の率いるガイアトリニティ部隊───その数三十六機がReBondの前に姿を表す。

 

 

「ひぇぇぇ、こんな所で砂漠の犬まで来たらおしまいっすよ───って、あれ? 共闘?」

 泣きながら両手を上げるニャムだが、彼女は直前のアンディの言葉を思い出して目を丸くして両手を叩いた。

 

 

「確かにストライクとデルタだけであのロンメルに突っ込んで勝てるとは限らない。しかし、この僕達のガイアトリニティも一緒なら話は別だ」

 彼等のガイアも、フェイズシフト装甲を有する機体である。そのガイア三十六機からなる大隊の力があれば、あるいは第七機甲師団の猛攻を突破出来る可能性が見えてきた。

 

 

「僕らの大隊とストライク、デルタで敵の大将の撃つ。残りのReBondのメンバーには後方からの援護射撃を頼みたい。特にそっちのドーベンの火力は僕達も知る所だから期待したいところなんだがねぇ」

「言ってくれるじゃないの。おじさんにケツ掘られても怒るなよ?」

「その時は作戦が失敗するだけさ。まさかそんな愚行は犯さまい」

 アンディの言葉に口笛を鳴らすカルミア。

 

 彼はモニターに映るアンディの視線から目を逸らして、ロックやケイに「どうする? 大将」と軽口を吐く。カルミアやニャムに異論はなさそうだ。

 

 

「俺が大活躍出来ない作戦ってのは気に食わないが、それでフォースランキング二位のフォースに一泡吹かせられるなら上等だぜ」

「ボクは戦えればなんでもいいよ! 援護射撃すれば良いんでしょ?」

 ロックは「ま、そもそも狙い撃つのが俺の仕事だからな」と言って他メンバーに呆れられ、イアはいつも通り楽しそうに返事をする。

 

 全員の返事を確認してから、ケイとユメはお互いの目を見て首を縦に振った。

 フォース砂漠の犬との共闘交渉は成立である。

 

 

「それじゃ、作戦会議といこうか。あちらさんに勘付かれる前に事を起こしたいからねぇ、手短に話すぞ」

 そうして作戦を決めたフォースReBondと砂漠の犬は共同戦線を開始した。

 

 

 

 

 一方で、第七機甲師団の攻略は他のどのフォースも諦めかけている。

 

 何度でもリスポーン出来るルールと、大規模フォースの機体を撃破した時のキルポイントはかの知将ロンメルを相手にするとしてもメリットだ。

 しかし、ロンメルは挑んでくる全ての相手を蹴散らし───再戦の度に各対戦フォース毎に新たな作戦を指示して敵を殲滅している。

 

 

 知将ロンメル。

 第七機甲師団に隙はない。

 

 

 

 ───そんな強豪を攻略せんと、二つのフォースが動き出した。

 

 

 

「───着いて来れるかな、少年!」

「───舐めないで下さい!」

 ───砂漠の犬、アンディが率いるガイアトリニティ大隊。

 ───ReBond、ユメからクロスボーンストライカーを換装して貰ったケイのストライクBondと、代わりにダブルオーストライカーを装備したユメのデルタグラスパー。

 

 

 

「その意気だ。……第三中隊はデルタを守りきれ! 彼女だけはフェイズシフトがないからな。しかし、この作戦の鍵は彼女の機体だ。第一第二中隊で戦線に穴を開けるぞ! 遅れるなよ!!」

 アンディの指示で三十六機のガイアトリニティが動き出す。

 

 

 ReBondと初めて戦った時や、NFTでは小隊規模の部隊数だったがこのイベント戦では機体の数に制限はない。

 

 これが砂漠の犬の真骨頂。

 ()()アンディの戦術士としての力が最も発揮出来る戦いの場だ。

 

 

 

「───さぁ、やり合おうか。大佐殿!!」

 ───ReBondと砂漠の犬、そして第七機甲師団のバトルが始まる。



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戦術と戦略

 GBNのとある酒場で二人の男が話をしている。

 

 

「───第七機甲師団を抜けたい、か」

「大佐には悪いと思っているよ、心からね。でも、僕は勝ちたくなってしまったんだよ大佐に───第七機甲師団隊長、知将ロンメルにね」

 第七機甲師団。

 知将ロンメル率いるフォースランキング二位のフォース。

 

 

「君には副隊長を目指してもらおうと思っていたのだがな……。ふふ、残念だよアンディ」

 砂漠の犬のリーダー、アンディは自らフォースを結成する以前───第七機甲師団に所属していた。

 

 その第七機甲師団を抜け、新たなるフォースを作りたい───脱退前にアンディがロンメルに話した言葉である。それが後の砂漠の犬だ。

 

 

「残念、なんて言う割には嬉しそうじゃないか。傷付くなぁ」

「新たなるライバルの出現に憂いを感じるダイバーはいまい。私は君の門出を寂しく思うと同時に、君との戦いを楽しみにしているのだよ」

 そう言ったロンメルはアンディに小さな手を向ける。

 

「……ありがとう、大佐」

 彼はその手を取って頭を下げた。

 

 

「───強くなれ、アンディ。そして私の元に、今度は挑戦者として戻ってきてくれたまえ」

「───勿論だ」

 その瞳には今も───

 

 

「───来たか、アンディ」

「───勝負だ、大佐」

 ───今も昔も、闘志を燃やす炎が映っている。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 戦闘宙域は激しく光を瞬かせていた。

 

 

「───第三中隊は編成を維持しろ。第一第二中隊、援護射撃のミサイル着弾と同時に第一派攻撃を仕掛けるぞ! 反撃が来るのに二秒もないと思え!」

「───カルミアさん!」

「わーってるよ!」

 ガイアトリニティ大隊、そしてケイとユメの行く、第七機甲師団への攻略戦が幕を開ける。

 

 その後方。

 援護射撃の為に待機していたReBondのメンバーの一人───カルミアのレッドウルフ。

 その巨体は伊達ではなく、背部に装備されたミサイルの量は戦艦の弾幕と比べても劣る事はない。

 

 その大量のミサイルが第七機甲師団の作戦展開領域を襲った。

 

 

「大佐、ミサイ───」

「撃ち落とせ」

 部下の報告前に指示を出すロンメル。展開中の小隊、迎撃ポディションの中隊がミサイルの迎撃体制を取る。

 

「よーし、敵の場所が分かるぞ。第一中隊、第三第四小隊は前へ! フォーメーションD、敵を撹乱しろ! 残りでここの敵を殲滅する。……落とされるなよ!!」

 レッドウルフの放ったミサイルを迎撃する為に銃口を光らせるロンメル隊のMS。

 これにより相手の位置を特定したアンディは撹乱と攻撃部隊に部隊を分けて周囲の敵の殲滅戦を開始した。

 

 

「第六小隊、右翼側の敵を片付けろ。第八小隊、ポイントCの小惑星だ。宇宙空間に上下はないぞ。真下にも気を配れ」

「はい! 隊長!」

 アンディの指示でロンメル隊のMSを次々と撃破していくガイアトリニティ大隊。

 殆ど損害を出さずに小隊一つ、中隊一つの計十機以上を撃破した手際をケイとユメは恐ろしくも頼もしく感じる。

 

 

「掃討完了か。八番機、損傷状態は」

「すみません隊長、ライフルと右腕をやられました。フェイズシフトはまだ使えます!」

「よーし八十点だ。第三中隊と合流してデルタの護衛に回れ。二十五番機は八番機の穴を埋めろ。棒立ちしていても敵から攻めてくるだけだぞ」

 損害の把握、迅速かつ的確な指示。

 

 これが本物の戦闘だ。

 そう言わんばかりに、直ぐに第七機甲師団の迎撃部隊が集まってくる。

 

 

 ───しかしアンディの指揮により、それら全てを損害なしに撃退。

 相手の戦線を押し留める事に成功したのであった。

 

 

「す、凄かったねケー君」

「この数の味方を動かしながら、相手の手の内も探っていくなんてな……。これがアンディさんの本当の力なのか」

 以前の試合では、砂漠の犬はこちらの数に合わせて部隊を編成して戦っている。それでもそのバトルの行く末は敗北だった。

 

 NFT優勝。

 その輝かしい実績は確かな物である。

 

 

「……どう思う、リリアン」

「されてるわね。消耗戦」

「だよねぇ」

 しかし、アンディの婚約者であるリリアンとの会話を聞いた二人は首を横に傾けた。

 作戦は順調に進んでいる筈である。

 

 何が引っかかったのか。

 

 

「確かに、僕らが仕掛けた方面の壁は薄い。ステージの端側は必然的に必要戦力が落ちるからねぇ、そこを狙った訳だが」

 第七機甲師団の作戦展開領域で一番守りが薄いのはステージ全体の端の方面だった。

 その位置から来る敵は少ない為であるが、勿論それを考えて考えないロンメルではない筈である。

 

「こうも簡単に突破出来るとは思ってなかったんだよねぇ。いくらこちらが有利とはいえ、敵に元気がなかった」

「元気、ですか?」

「相手さん、全員被弾してたんだよ。多分大佐の───ロンメル隊長の鼠取り作戦で囮役として損傷した機体で作った寄せ集め部隊だったって事さ」

 アンディはそういうと「フェレットが鼠取り作戦とはよく言ったものだよねぇ」と苦笑してからこう続けた。

 

 

「大佐め、僕が来るのを見越していたか。ここから先は嫌な戦いになりそうだ」

「アンディさんはロンメルさんの事を知ってるんですか?」

「アンディはね、ロンメルの弟子だったのよ」

 ケイの質問にそう答えるリリアン。

 

 

 知将とも呼ばれるロンメルの弟子。

 アンディの指揮能力の高さに、ケイはどこか納得する。

 

 

「とはいえ、こちらは前に進むより他に手はない訳だ。よーし、息を整えたら戦線を押し上げるぞ。あえて鼠取りに引っ掛かりにいくつもりでいけ」

「カルミアさん達もこのポイントまで前進で良いんですよね?」

「んー、そうだな。……こうしようか」

 アンディが作戦をケイに伝えると、ケイは後方で待機しているメンバーにそれを伝えた。

 

 

 

 戦線を押し上げる二つのフォース。

 索敵用MSであるアイザックがその様子をロンメルに伝える。

 

 

「───後方部隊も一機を覗いて前進、か。被弾して戦闘続行不可能……と、思わせてのコマの一つか。私がそれを見逃すかと思っているのかな、アンディ君」

「大佐、どうしますか?」

「第十三中隊を下がらせて第十八、十九中隊で防衛ラインCを形成せよ。十三十四十五中隊を合わせた大隊で最終防衛ラインとし、消耗した所をプランAで仕留める」

「は!」

 ロンメルの指示が隊全体に伝えると、ガイアトリニティ大隊を遥かに帰る舞台が一寸のズレもなく同時に動き出した。

 

 統率力。

 この戦いにおいて一番重要なのはまさにそれである。

 

 戦いを左右するのは個々の力ではない。

 作戦。統率力。指揮能力。それが戦闘だ。

 

 

「───来るぞ! 第一中隊、第二中隊、左右に展開しろ! 第三中隊は後方寄りに変形して援護射撃! ReBondの援護射撃に当たるなよ!」

 ガイアトリニティ大隊は第三中隊とユメがMS形態に変形し援護射撃。その後方からはReBondのメンバー達からの援護射撃も飛んでくる。

 そして左右に別れた中隊がロンメル隊の刺客を挟んで中央に寄せ、援護射撃の射線を通す作戦だ。

 

 

「う、撃ち落とせ!」

「させるか……!」

 アンディに「今回は好きに動いてくれ。援護はする」と言われたケイは、出る杭を撃つように下手に動いた相手と一対一を繰り広げていく。

 

 ロンメル隊の隊員は一人一人も凄腕のダイバーだ。

 しかし、実弾兵装の多さは圧倒的にケイに有利である。ストライクBondの完成度とケイの操縦技術はその点も踏まえてロンメル隊の隊員と互角以上に渡り合える力を持っていた。

 

 

「……さて、順調過ぎるな」

 ロンメル隊の刺客を次々と撃破するアンディ達。

 敵を包囲する作戦は功を奏して、追い込み漁のように事は上手く進んでいく。

 

「───追い込み漁、か。なる程……やられたな!!」

 ───しかし、気が付いた時には遅かった。

 

 

「……な、敵が!?」

「……囲まれてる!?」

 敵を包囲して追い込むように戦ったケイ達は、敵が逃げた中心に向かって少なからず密集してしまっている。

 

 そうして密集してしまった彼等を逆に()()するのは、ロンメルの指揮があれば容易であった。

 

 

 

「───アンディ、君の戦術は確かに素晴らしい。ロンメル隊の精鋭をここまでほぼ無傷で撃破出来るのは君と彼くらいな物だ」

 包囲網の中心に現れる一機のMS。

 

 グリモアレッドベレー。

 第七機甲師団隊長、知将ロンメルの機体である。

 

 

「……大佐自ら登場とはねぇ」

「……あれが、ロンメルさん」

 目標である敵将。

 その姿を見て操縦桿を強く握るケイ。それに対してアンディは普段通りの態度でかるくちを叩いた。

 

 

「確かに素晴らしい、という事は……大佐の戦術は僕の戦術を上回ると言いたいって事かな」

「否」

 フェレットの顔から()()()がモニター越しに放たれる。緊張の一瞬だが、ユメはそんなフェレットのアバターを見て「可愛い」等と思っていた。

 

 

 

「───君の素晴らしさは戦術に過ぎない。私はその上をいく。……分散させた戦力の穴を突いてくる事を予測し、最小限の損失で君達を消耗させ、手札を切らせる。私が行っているのは戦術の上、戦略だ!」

 グリモアレッドベレー他、数十機のMSの銃口がアンディ達に向けられる。

 

 アンディは冷や汗を垂らしながらも、不敵な表情で小さく笑っていた。

 

 

 

「戦術が戦略を超える事はない。さぁ、ロンメル隊の力……思い知るが良い!」

 銃口が火を吹く。

 

 知将ロンメルの戦略がアンディの戦術を貫こうとしていた。



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知将ロンメル

 ReBondのメンバーを囲むロンメル隊のMS。

 

 

「おいおいおい、凄い数だなこりゃ」

 ケイやユメ、アンディ達ガイアトリニティ大隊の後方から援護射撃に徹していたReBondのメンバー達だが、彼等はロンメルの策略にハマり包囲されていた。

 

 

「……これがロンメル隊の指揮能力って事っすかねぇ。コレだけの戦力を作戦展開領域に温存しておける手腕は恐ろしいっすよ」

「感心してる場合か!?」

「でも、ボクらにも頼もしい()()()がいるじゃないか」

 脳天気な声で、しかし確かな自信混ざりにそんな言葉を漏らすイア。

 その場でガイアトリニティ大隊を掩護していたのはこの三人だけで、カルミアだけはさらに後方に待機している。

 

 しかし、それもロンメルにはお見通しだ。

 MS一機が外側を取れたとしても、この数の包囲網を抜ける事は出来ない。

 

 

 ───普通なら。

 

 

「……さて、こっちはこっちの役目を果たすっすよ!!」

「ま、やるしかないわな」

「おー!」

 ニャムの機体、アカツキのヤタノカガミが光を反射させる。反撃の狼煙は直ぐに炊かれることになった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ロンメルの指示と同時に、ケイ達を取り囲む大隊が一斉に射撃を開始する。

 

 

「───回避行動!!」

 アンディに言われ、なんとか機体を動かすが弾幕の量はこれまでとは桁違いだ。

 それにロンメル隊の三百六十度全てを包囲する完璧な配置で、何処にいても何処かしらからの射線が通ってしまう。

 

 この作戦展開領域に逃げ場など存在しない。

 

 

 

「……っ、えーい! 迎撃開始! こっちにはフェイズシフトがある。ある程度無理してでも数を減らすぞ!」

 逃げ場がないことを理解したアンディは舌を鳴らしながらライフルを構える。

 

 ユメ以外の機体は全てフェイズシフト装甲により実弾のダメージは大幅に軽減されるが、完全にダメージがない訳ではない。

 そして、当たり前だがフェイズシフト装甲は無敵の装甲ではなかった。

 

 

「対実弾装甲において、ガンダムの世界では確かにフェイズシフト装甲は最高の性能を誇る。しかし、弱点がない訳ではない───」

 ロンメル隊の猛攻。

 その中で遂に、ガイアトリニティ大隊の八番機が撃退されてしまう。

 

 

「た、大隊ぉ───」

「八番機か……! くそ!」

 八番機は初めの戦闘で被弾した機体だ。元々の損害もあるが、それよりも───

 

 

「───フェイズシフト装甲の発動には膨大なエネルギーが必要だ。通常弾頭でも七十六発でその効力は失われる。いつまで持つかな、アンディ」

「四番機、八番の穴を埋めろ! デルタをやらせるな!」

 ガイアトリニティ第三中隊はユメのデルタグラスパーの護衛が任務である。

 作戦の要であるデルタの撃破は直接敗北に繋がる損害だ。前線の維持を捨ててでも、デルタグラスパーの護衛は第一優先事項である。

 

 

 

「ガイアトリニティ他二機はストライクとデルタプラスか。……デルタプラスにはツインドライヴ。フェイズシフトのないデルタを守っている所から見るに、アンディの切り札はデルタと見た」

 戦闘宙域の一番端で、ロンメルは冷静に状況分析をしていた。

 

 トランザムには、確かに今この状況を打破出来る程の力がある。

 しかし、逆に言えばそれさえ警戒すれば怖いものはなにもないのだ。

 

 

 

 一流の戦略家は勝機を見出すのではなく、敗北の芽を一つずつ摘む。

 

 

 

「攻撃部隊、太陽炉付きのデルタプラスを集中攻撃せよ。……ビーム撹乱幕の仕様を許可する!」

 勝利へのビジョンは戦う前に決めるものであり、その準備は戦いの中でこそ生きるものだ。

 

 

「トランザムの警戒、後方の援護部隊との遮断、私の戦略は完璧だ。……さぁ、どうするアンディ」

 不敵に笑うロンメル。

 

 アンディとケイ達は、着々と知将ロンメルの策略に押し潰されていく。

 

 

 これがフォースランキング二位。第七機甲師団の本領だ。

 

 

「倒せない相手ではない、だけどコレは……! 持つのか!?」

 戦闘の中、ケイは自分の機体のエネルギーが尽きかけている事に気が付いて冷や汗を流す。

 

 イベント戦が始まって小一時間以上。

 ケイ達が第七機甲師団に攻撃を仕掛けた時点で、第七機甲師団の戦力は他のフォースに大幅に削られた後だった。

 他フォースからの攻撃で被弾した機体が多く、普通に戦っていれば負ける事はないだろう。

 

 しかし、その殆どが損傷しているとはいえ撃破されていない()()の捨て駒だ。

 人海戦術程恐ろしい戦術はなく、その戦術を組み込んだ戦略は完璧に等しい物である。

 

 

 

「───この鼠取り作戦は私にとって最初のプランに他ならない。そして、君がこのタイミングで仕掛けてくる事は予想出来た。……故に、被弾済みの機体で多少のポイントはくれてやっても砂漠の犬という大きな()を最後に取る事でこの鼠取り作戦は真の成功となるのだ。ここで使った被弾済みの機体は完全修理で戦場に戻り、私は次の作戦を立てる。君はその礎になれ……アンディ!! ビーム撹乱幕、発射!!」

 ロンメルの指示で、大型のミサイルが戦場に発射された。

 

 アンディは咄嗟にそれをライフルで撃ち落とすが、ミサイルの爆発に混じって小さな粒子が戦場に広がる。

 

 

 

「アンディ!」

「これは……ビーム撹乱幕か! 大佐め、厄介な物を残していたな」

 周囲のロンメル隊の機体をビームライフルで撃破していたアンディだが、突然発射した筈のライフルが威力を落とした。

 エネルギーが切れた訳ではなく、周囲に放たれた細かな粒子がビームのエネルギーを吸い取って威力を低下させているのである。

 

 

「た、隊長! ビームが効きません!」

「無駄弾を撃つな!」

「しまった、エネルギーが───うわぁぁ!?」

 更に撃破されるガイアトリニティ。戦況は誰が見てもロンメル隊の優勢だ。

 

 攻撃すればする程、エネルギーは失われて頼みのフェイズシフト装甲も使えなくなる。

 しかし攻撃しなければ敵の攻撃でこちらの戦力を奪われるだけだ。

 

 

 劣勢。

 逆転の手立てはない───

 

「───そう、思っているんだろうね」

 この状況でアンディは笑う。

 

 

 

「大佐!!」

「なんだ? 騒騒しい」

 ロンメルの元に届く一通の通信。その声の主は、震えるような声でこう続けた。

 

「後方の援護部隊の包囲が……突破されました!!」

「なんですって!?」

 思わずキャラがブレる程慌てるロンメル。

 

 そんなバカな、と彼は思考を巡らせる。

 

 

 後方の援護舞台はガイアトリニティではなく、デュナメスやZ等の混合部隊だ。

 おそらくストライクやデルタと同じチームで、アンディは彼等と手を組んで戦いを挑んで来たのだろう。

 

 一機だけさらに後方に下がったドーベンウルフの火力は脅威だが、残りの後方部隊を囲んでしまえはコレ一つが脅威になる事はありえない。

 デュナメス、Z、そしてアカツキも単体では強力な機体だがアンディ達を包囲したのと同等の戦力で三機だけを包囲したのだ。それが突破される事等、ある訳がない。

 

 

「ドーベンウルフのメガランチャー以上の脅威が隠されているのか。デュナメスにZ、まさか……なるほどアカツキか!!」

「隊長!! 突破された包囲網から、四機がこちらに向かってきます!!」

 更に怯えた声で入ってくる通信。その声の主は、数秒後に断末魔と共に撃破されてしまう。

 

 

 

「───オラオラオラァ!! 待たせたなぁ、ロック・リバー様のお通りだぁ!! 道を開けろぉ!! トランザム!!」

 トランザムにより赤い粒子を撒き散らしながら、道中の敵を薙ぎ倒していくロック。

 その背後から、ReBondのメンバー三人がロックの取りこぼしを撃破しながら主戦場に接近していた。

 

 

「タケシ君!」

「ロックな!!」

「待ってたぞタケシ!!」

「だからロックな!!」

 いつものやり取りを交わしながら、ロックは殆どが被弾しているとはいえロンメル隊の機体を次々と薙ぎ倒していく。

 

 その姿と後方の機体を見て、ロンメルは不敵に笑うのだった。

 

 

 

「なるほど、私はアンディだけを見て彼と手を組んだフォースを見くびっていたようだ。……だが───」

 銃口を背後に───迫ってくるロック達に向けるロンメル。

 

 彼の指示の元、部隊が再編成される。

 

 

「敵の包囲網に穴を開ける、だよね! ニャム! 任せてよ!」

「もういっちょやってやろうじゃないの」

「さぁ、こっからが本番っすよ!!」

「───ロンメル隊が甘くない事を、その身に叩き込んでみせよう」

 敵の包囲網をこじ上げる、その為にアンディが仕組んだ戦略。

 

 

 今まさに、砂漠の犬の牙が知将ロンメルの首を噛もうとしていた。



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反撃の牙

 ロンメル隊の包囲網に隙はない筈だった。

 

 

 アンディ達ガイアトリニティ大隊を囲む隊をロンメルは直接指揮、ロック達三機を包囲する部隊の指揮は部下に任せていたが、問題はないだろう。

 たった三機相手に、ガイアトリニティ大隊を包囲した部隊と同数の部隊を回したのだ。

 

 懸念材料があるとすれば、範囲の外にいたドーベンウルフくらいである。

 それも、大部隊を相手にして包囲網を突破する程の脅威ではない。

 

 

 彼等二つの部隊を包囲した時点で、ロンメルは勝ちを確信していた。

 

 

 しかし───

 

 

 

 

「分隊長! 高熱源反応、来ます!」

「何? 後ろ───うぉ!?」

 ───背後からロンメル隊を貫く光。

 

 レッドウルフのメガランチャーが、ロンメル隊の包囲網に小さな穴を開ける。

 だがそれだけでは包囲網を完全に突破する事は叶わない。その程度の攻撃はロンメルも予測済みで、レッドウルフの火力を持ってしても一撃で葬れるのは精々中隊一つ程度だ。

 

 それで運良く分隊長を撃破できたとしても、ロンメル隊の精鋭達の指揮が崩れる事はない。

 予定通りの包囲網の修正、そんな事に一瞬だけ意識を割いたその時である。

 

 

「なんだ!? 中央───うぉぉおおお!?」

 謎の光が包囲網の別の箇所に穴を開けた。

 

 その光は外から放たれた訳ではない。中央から───包囲している筈の三機が居る場所からの攻撃である。

 

 

「バカな、別方向から? いや、包囲網の中からだと!? あの三機にこんな火力が出せる機体なんて───」

「背後からの第二射、来ます!」

「えぇい!! なんなんだ!!」

 再び包囲網に穴を開けるレッドウルフのメガランチャー。そして直ぐに、中央から()()出力のビーム砲がまた包囲に穴を開ける。

 

 

 

「───何が……起きているのだ」

 部隊は混乱していた。

 

 包囲した三機は高出力のビーム砲なんて物を積んでいるようには見えない。

 なのに、何故───

 

 

 

「───いやぁ、やっぱりジブンは……不可能を可能にする男なんすよねぇ!!」

「ニャムは女だろ?」

「言いたいだけなんだよその人は。ほっといてやれ」

 ───その答えは至極簡単である。

 

 

 

「ほーら、もういっちょ行きますよ」

「どんとこいっす!! アカツキのヤタノカガミで跳ね返して、連続連鎖攻撃!!」

 部隊から離れたカルミアのレッドウルフの砲撃、それをニャムのアカツキがヤタノカガミで跳ね返す連鎖攻撃。

 包囲網の外と中から超威力のビーム砲を同時に放つ形になり、相手の混乱も相まって四人は包囲網を突破する事が出来たのだった。

 

 数が減り、三人の援護で接近戦に持ち込めばロックはロンメル隊の隊員をも凌ぐ実力を発揮出来る。

 崩れた包囲網を突破する事は、そう難しい事ではなかった。

 

 

 ロンメルはイベント戦の後に彼等ReBondに付いて少しだけ触れ、こう称えたという。

 

「窮鼠猫を噛むとは、まさに彼らと私の事だろう。……私は猫ではないがね」

 追い込み、追い詰められた鼠に、ロンメルは噛まれたのだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ───しかし比較的に、ロンメルは冷静である。

 

 

 包囲網が崩されたと知って数秒もたたずに部隊を再編成、ReBondのメンバー四人の迎撃体制を取った。

 

「接近戦に特化したガンダムデュナメスか。……ならば、接近させないまで! 迎撃体制を取れ! 各部隊援護射撃」

 ロンメルの指示で、部隊は纏まって動きながらロックから距離を離す。

 確かにロックの近接戦闘センスは、上位プレイヤーにも通用する実力だ。しかし、それは接近戦だけの話。

 

 

「な、なんだコイツら!? いきなり動きが……」

 ロックから距離を取った相手に、近接戦特化のデュナメスHellは無力である。近付こうとしても、援護射撃の弾幕が厚く突破する事が出来ない。

 

「んなろぉ! ちょこまかと───のわ!?」

 それどころか、ロックは正確な指示の元に形成された包囲網に囲まれ───気が付いた時には逃げ場を失ってしまっていた。

 焦ってGNフルシールドを展開するが既に遅い。四方八方からの攻撃がロックの機体を一瞬で蜂の巣に変えてしまう。

 

 

「あー! こんな所で!?」

 ロック撃破。

 

 

「───次だ」

 ロンメルの猛攻は終わらない。

 

 イアにニャム、カルミアに対しても戦力を送り込み確実に一つずつ仕留め───ReBondの機体はケイとユメを残して全滅してしまった。

 

 

「あの四人があんなに簡単に……」

「数の利もあると思うけど、統率力が凄い。こんなに綺麗に作戦が決まるのは隊員が隊長を信用してる証だろうな───」

 ReBondの隊長はロックだが、彼は彼で勿論仲間として信頼している。

 しかし、ロンメルのカリスマ性は別格だ。

 

 そう思うと同時に、ケイは自分達にとってロンメル隊よりも近しい関係にあるフォースのリーダーであるアンディのカリスマ性を恐ろしく感じる。

 

 

「───だけど、それはこっちも負けてない。何せ、あの人はフォースメンバーじゃない俺達すら手駒にしてるんだからな」

「───第二中隊、包囲網の穴を広げるぞ!! フォーメーションEだ!!」

「───やはり動くか、アンディ」

 ロンメルがReBondの四人に気を取られた一瞬。

 

 ガイアトリニティ大隊を囲む包囲網に生まれた隙を、アンディは逃さなかった。

 

 

 航空機形態に変形したガイアトリニティ一個中隊は、翼のビームサーベルを展開して包囲網に生まれた隙へ突撃する。

 勿論ロンメル隊の先鋭がそれを見ているだけで済む訳がない。激しい弾幕が第二中隊を襲うが、その弾幕が全て第二中隊に届く事はなかった。

 

 

「援護射撃! バルカンの弾は撃ち尽くして構わん!!」

 第一第三中隊のガイアトリニティ、そしてケイのストライクBondがバルカンを撃ち尽くす勢いで第一中隊を援護する。

 ロンメル隊の放ったミサイルは殆ど撃ち落とされ、マシンガンの一発二発等フェイズシフト装甲を発動しているガイアトリニティには無力だ。

 

 第二中隊はビームサーベルと変形機構による機動力で、ロンメルの包囲網に空いた()を押し広げていく。

 

 

 

「やるな、アンディ。……だが、猪口才はそれまでだ! 部隊再編成は済んだな。第二大隊で包囲網を形成しつつ、第六中隊は生き残りの第四第五中隊を纏めて遊撃に当たれ。第一から第三中隊、迎撃体制を整えよ!」

 ガイアトリニティの第二中隊に攻撃されている迎撃部隊の体勢を整える為、ロンメルは中隊で遊撃を行い時間を稼ぐ作戦を立てた。

 

「敵がスイッチするぞ。怯んだ相手を逃すな! 第一中隊は俺に続け、遊撃部隊を攻撃する! 第三中隊と少年ほデルタの護衛を抜かるなよ! フォーメーションE、敵を殲滅する!」

 そしてロンメルの動きを見て、アンディは自分も加わりながら戦術を展開していく。

 

 

 

「───第六小隊を下がらせろ、包囲網から人員を割くのだ」

「───第二小隊、左翼側から来る敵を二十秒足止めしろ! 残りは二十五秒以内に正面の敵を叩くぞ!」

 戦略と戦術、その二つがぶつかり合って戦局は瞬く間に一変していった。

 

 

「六番機! 被弾状況は!」

「ダメです隊長、耐えられそうにありません! 特攻します!」

「了解した。六番機を援護する、一発噛んでこい!」

「被弾した敵が突っ込んでくるぞ。フォーカスを合わせよ、特攻などさせん!」

 数の利は確かにロンメル隊にあるだろう。しかし、ロンメル隊は数々のフォースに狙われて充分な戦力があるとは言いにくい。

 

 それに加えて機体性能と相性は遥かにアンディ達が優っているが───しかし、戦局は互角だ。

 

 

 

「十二番機、真下の敵を抑えろ! 第二小隊は上から来るぞ!」

「敵を上下で挟み込め! 左右には遊撃隊を展開し、敵の逃げ場を奪うのだ。機動力を殺せば、フェイズシフトも意味はない」

 自らのフォースの部下を駒にして、自らも王将として戦場で戦う。

 

「大佐……!!」

「アンディ……!!」

 二人はまるで戦場という盤上で将棋やチェスをしているようだった。

 

 

 

「敵大将の首を齧るぞ! 第一第二中隊、道をこじ開けろ!! 第三中隊、作戦開始だ!!」

 アンディの指示で、ユメのデルタグラスパーと共にそれを援護するガイアトリニティ第三中隊が一斉に変形する。

 第三中隊はそのまま、第一第二中隊が開けた───敵将ロンメルへと向かう包囲網の穴へと猛進した。

 

 ユメを囲むように編隊飛行を行う第三中隊に着いて、ケイのストライクBondはクロスボーンストライカーの機動力を活かして第三中隊を攻撃する敵を迎撃する。

 

 

「───なるほど、ストライクは護衛部隊の護衛という事か。ならば、やはりアンディの作はあのデルタで私を落とす事……。甘い! 甘いぞアンディ!!」

 突進してくるガイアトリニティ中隊に銃口を向けるロンメルのグリモアレッドベレー。

 

 その銃口が光るより先に、ロンメル本人を護衛する仲間がガイアトリニティ中隊を迎撃する為に弾幕を張った。

 デルタグラスパーを守る為、第三中隊はそれを避けずに固まって撃破されていく。しかしそのおかげで、ユメのデルタグラスパーは無傷でロンメルを射程に捉えた。

 

 

「───ここだ!!」

「君達の戦術は見抜いている!!」

 ミサイルを放つデルタグラスパー、しかしその程度の攻撃はロンメルの護衛が撃ち落とす。

 

「終わりだな」

 ミサイルを交わされたからか、起動を変えたデルタグラスパーにロンメルが狙いを定めたその時だった。

 

 

 

「───トランザム!!!」

 赤い粒子が眼前を覆い尽くし、グリモアレッドベレーのライフルを切り裂く。

 

 

「───何!?」

 これが、彼等の戦術最後の牙だ。



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戦いの果てで

 ロンメルが警戒していたのは太陽炉を積んでいたデルタプラスだ。

 

 

 トランザム。

 その莫大な力は確かに脅威である。しかし、使用限度がある以上その一点さえ潰してしまえば恐るものは何もない。

 

 だからロンメルはデルタグラスパーを攻撃しようとした。そのデルタには既に太陽炉が装備されていないとも知らずに。

 

 

 武器を構えた時、妙な気はしたのである。

 通常太陽炉から放たれる緑色の粒子が、狙いを定めたデルタから放たれていない事に。

 

 

「───トランザム!!!」

「───何!?」

 そうして気が付いた時には、()()()()がモニターに入り込んでいた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 咄嗟に身を引いて、ロンメルは()()()()()ストライクBondの攻撃をなんとか交わして見せる。

 

 

「くそ……交わされた!」

 ライフルこそ失ったが、反応が遅れた不意打ちにしてはあまりにも軽症だ。

 しかし、トランザムの猛攻は続く。

 

「ここで一気に落とす!!」

「まさか換装して間合いに入ってくるとは……!! なるほど、ストライカーパックという事か。それは盲点だった」

 ロンメルは即座にプラズマナイフを構え、トランザム中のストライクBondの攻撃を受け止めた。

 さしものグリモアレッドベレーだが、トランザム中の機体には速度もパワーも劣っている。

 

 これなら行ける、とケイは踏み込んだ。

 

 

「素晴らしい作り込みだ、ロンメル隊に誘いたいくらいだよ。……しかし!」

 踏み込んでくるケイのストライクを、ロンメルのグリモアレッドベレーは両足の脛部追加装甲であるシザークローを展開───まるで猛禽類の脚のようにストライクBondを掴んで押さえ付ける。

 

「な!?」

「切り札は王将を囮にしてでも落とす」

 いくらトランザム中の機体でも、作り込まれたグリモアレッドベレーの拘束から逃れるには多少の時間が掛かるものだ。

 

 その多少な時間でも、ロンメルの指揮は無駄にしない。

 既に周囲でロンメルの護衛に当たっていた部隊が、ケイのストライクBondに銃口を向ける。

 

 

「くそ……!」

「やらせるな! ガイアトリニティ隊、全機フルブラスト!! 全戦力を流し込め!!」

 しかし、ロンメル隊のMSとの間にアンディ達が立ち塞がった。

 

 部隊は既に半壊、しかし周囲のロンメル隊から時間を稼ぐ事は出来る。

 当のアンディも左腕等が損傷していてまともに動ける訳ではない。

 

 今ロンメルを倒せるのはケイだけだ。

 アンディ達が時間を稼いでくれている間に、敵将を討つ。

 

 

「このぉ……!!」

「なに……!!」

 シザークローから逃れたケイは、GNソードIIIを構えてグリモアレッドベレーの片足を切り飛ばした。

 

 そのまま猛進。

 トランザムの圧倒的な機動力でロンメル相手に互角以上に斬り合いを制していく。

 

 

「トランザムの時間にも余裕はある……。このまま行けば……行ける!!」

「凄まじい勝利への執着……! まさかこれ程とは……!」

 斬り合うストライクBondとグリモアレッドベレー。

 トランザム中のストライクBondと互角に鍔迫り合いをするロンメルは流石の一言だが、それでも少しずつケイがロンメルを押していた。

 

 

「行け! 少年!! 勝利への道を───ぬぉ!?」

 被弾するアンディのガイアトリニティ。

 

 周囲のガイアトリニティ隊はほぼ全滅するが、ケイはロンメルの機体を弾き飛ばして体勢を崩させる事に成功する。

 

 

 もう一撃。

 

 

「これで……終わりだぁ!!」

 GNソードIIIがグリモアレッドベレーを貫こうとしたその時だった。

 

 

「───あと一歩、足りなかったな」

「何!?」

 ストライクの頭上から、銃弾の雨が降り注ぐ。

 フェイズシフト装甲でなんとか機体の損傷は抑えられたが、想像だにしない弾幕にケイは身を引く事しか出来なかった。

 

 

「なんで───な?」

 もう少しで───そんな思いで自らの攻撃を阻んだ銃弾の雨に視線を向ける。

 そこにあったのは、まるで宇宙という空を覆い尽くす雲のような大量のMSだった。

 

 

「我が先鋭よ、敵を撃滅せよ……!」

 突然現れた大軍は、ロンメルの指示で再び銃弾の雨を降らせる。

 

「くそ、なんで……どこから」

「リスポーンした部隊を纏めて連れて来たって事だよ、少年。僕達は一歩遅かったのさ」

「リスポーン、そうか」

 これらの部隊は初めから控えていた訳ではなかった。

 

 砂漠の犬とReBondが攻撃を仕掛けた後、あるいは前。

 ロンメル隊のMSは確かに少しずつ撃破されていたが、それも全て撃破後一分でリスポーンが完了する。

 

 

 両フォースがフォースランキング二位の部隊に対して有利に事を進められていたのは、ロンメル隊のMSが殆ど損傷していた点が大きい。

 しかし、撃破されたMSがリスポーンして戻ってきた事によりロンメル隊は完全な戦力を持って戦闘を行う事が出来るようになる───というのが、知将ロンメルの鼠取り作戦の最後のプロセスだった。

 

 

「───確かに君達には想像以上のポイントを奪われてしまった。だが、私の戦略はここに完遂される。これで完全な舞台のまま次の作戦に移れるのだからな。……その前に、残りの鼠を駆除して少しでもポイントを稼がせて貰おう」

「なるほど、初めから僕があなたを狙う事を計算の上で舞台の立て直し目的の戦略を立てたという事か……。いやぁ、参ったよ大佐。降参だ」

 勝敗は決している。

 

 今の攻撃でアンディの部隊は壊滅して、アンディしか残っていない。

 この状況からロンメル隊に勝つ術はアンディにはなかった。

 

 

 ───しかし。

 

「───と、言うとでも思ったか! 大佐!」

「来い、アンディ」

 ボロボロの機体で、背に大軍を控えたロンメルに猛進するアンディ。

 

「あ、アンディさん! 無茶ですよ!」

「無茶は承知! しかし、男にはな、戦わなければいけない時があるのだよ少年! 君は今その時ではない。……後は、分かるな?」

 アンディがそう言うと同時に、ユメのデルタグラスパーが高速で飛んできてケイのストライクBondを拐う。

 ストライクを逃さまいと部隊に指示を出そうとしたロンメルだが、アンディの突撃でそれどころではなくなってしまった。

 

 

「ユメ!?」

「これ以上ロンメルさんのフォースにポイントを上げたくないって事、なんだよ! 多分。私達二人だけでも逃げよう」

 アンディはまだ勝つ気でいるのだろう。

 

 このイベント戦はより多くポイントを取ったフォースが勝利するのだ。

 今ここで負けたとしても、イベント戦で負ける訳ではない。

 

 

「なるほど、分かった。……俺達の負けだな」

「あはは、そうだね」

 戦闘宙域を一気に離脱するケイとユメ。その二人を追う機体はなく、二人は無事に離脱する。

 

 

「大佐……!!」

「アンディ……!!」

 そしてアンディは、ロンメルの一撃に敗れ───この戦いに敗北するのだった。

 

 

 

 

「───勝てなかったなぁ」

 ケイは敗戦からの帰路、ため息を吐きながらそんな言葉を漏らす。

 しかしそのため息も気持ちが悪いものではなく、むしろケイは清々しい気分で前を見ていた。

 

「凄かったね、フォースランキング二位の第七機甲師団」

「アンディさんも凄かったけど、ロンメルさんはもっと凄かった……。俺達も今以上に頑張らないとな」

 アンディの戦略は見事だったと言って良いだろう。けれどカルミア達が作ってくれた隙も、アンディ達が作ってくれた時間も、あと少し───後一歩届かなかった。

 

 

「もう少しだったもんね」

「でも、悪くなかったと思う。反省点は沢山あるし、確かに俺はもっとやれた事がある筈だけど。……これはゲームなんだから次に活かさないとな」

 悔しい気持ちは確かにある。

 

 けれど、そうやって下を向いていたって何も変わらないのは分かっていた。だから、ケイは前だけを見る。

 

 

 

「待ってケー君。何か来るよ」

「追っ手か? このまま自軍エリアに帰りたかった所だけど……」

 下は向かないが、イベント戦に勝ちたい気持ちは変わらない。

 

 他のフォースにポイントを渡すのは不本意だからこそ、こうして二人は逃げて来たのだから。

 

 

 ただ、ロンメル隊の追っ手にしてはレーダーの反応がおかしい。全く別方向から二機のMSが接近しているのが分かった。

 

 

 

「……GN粒子」

 視覚に入るそのMS。

 

 ダブルオーガンダムをベースに作られた機体と、まるで人形のような機体が一機ずつ。

 その姿にケイは見覚えがあった。

 

 

「まさか……」

「───こんな所で会えるなんて思ってなかったよ、ケイ」

 ダブルオースカイ。

 それが偶然にも現れた、新しいライバルの機体である。

 

 

 第二次有志連合戦。

 ケイがGBNに興味を持つキッカケになった戦いの中心にいた人物。そのキッカケがなければ、今こうしてユメやロック───沢山の仲間達とGBNを楽しんでいる自分は居ない。

 

 彼はケイにとって、自分の運命を変えた人物でもあった。

 

 

「───俺もだよ、リク」

 ビルドダイバーズのリク。

 

 二人はモニターに映るお互いの目を真っ直ぐに見る。

 

 

 オフ会でダイバーシティに出向いた日。

 再び戦おう───今度はお互いの本当の力で。そんな約束がまだ今、果たされようとしていた。




この作品も遂に100話めまで来てしまいました。週一投稿をざっと二年。あっという間ですね。しかし、まだまだ続きそうです。150話か、200話か……。とにかく終わらせたい気持ちもありますが、ひとまずはゆるりと続けていこうと思います。

読了ありがとうございました。


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キッカケはあの日

 対面するストライクとダブルオー。

 しかし、お互いに武器は構えずにダイバーの二人は嬉しそうに笑っていた。

 

 

「二人だけなの?」

「他はやられちゃってさ、敗走中って感じかな。そういうリクは?」

「俺も、ウルフさんの所で相打ちみたいになっちゃって」

 ウルフ───と、いえば虎武龍(とらぶりゅう)のタイガーウルフの事だろう。リクやビルドダイバーズの面々の実力は確かに高いが虎武龍のタイガーウルフの事もケイは気になった。

 

 ───しかし、今は違う。

 

 

「なぁ、リク。ここはタイマンにしないか?」

「俺もそうしたいと思ってたところだよ」

 二人は笑いながらも、その瞳に闘志を燃やしていた。勝手に進んでいく会話に、ユメは「え? なんで? えー?」と首を傾げる。

 

 

「二人共、お互いと本気でぶつかり合いたいんだと思う」

 そんなユメの横に機体を並べて、サラはそう口にした。

 

 オフ会の時はこの四人で二対二を繰り広げた仲だが、あの時とは違う。

 自分が本気で作ったガンプラで、本気の相手とぶつかり合いたい。

 

 

 そんな()()()の邪魔をするのは、無粋というものだ。

 

 

「……なるほど」

「私達は見てよ、ユメ」

 そう言って離れる二人を見ながら、ケイはリクにこう提案する。

 

 

「どっちかが撃破されても、ユメもサラも攻撃しないって事で良いよな?」

「そうだね、その方が後腐れもないし。……約束するよ」

 少しずつ距離を取って、気軽な会話の割には闘志を燃やす二人の視線がモニターに映るカウントダウンに向けられた。

 

 

「リク! 頑張って!」

 3

 

「頑張れ、ケー君」

 2

 

「「勝負だ」」

 1

 

「ケイ!!」

「リク!!」

 0

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 刃が交差する。

 

 

 GNソードIIIを薙ぎ払い、距離を取ったケイはライフルモードで射撃をするがリクは直ぐに体勢を立て直してそれを交わした。

 

 

「なんて反応速度だ……。ダブルオースカイ」

「なんてパワーだ……。ストライクBond」

 互いのガンプラと戦うのは初めてである。だからこそ、あの時とは違う手応えに二人は震えていた。

 

 牽制射撃をしつつ、間合いに入る両機体。

 ダブルオーダイバースカイは格闘寄りの万能機に設定された機体である。対するストライクBondも、ダブルオーストライカーにより得意距離は近距離だ。

 

 必然的に接近戦が多くなれば、戦いは激しくなる。二人は戦い始めて二分も立たない内に息を切らしていた。

 

 

 鍔迫り合い。

 ビームサーベルを左手で抜くケイだが、リクはダブルオースカイの脚部装甲からビームを展開してサーベルを蹴り飛ばす。

 

 少し距離が離れた所で、次にケイはアーマーシュナイダーを投擲するがそれもリクはビームシールドで弾き返した。

 しかしその一瞬の隙にケイはバルカンを撃ちながら機体を赤く燃やす。

 

「トランザム!!」

 アーマーシュナイダーを弾く為に産まれた僅かな隙。普通の機体ならそこで詰める事は困難だが、トランザムが使える機体なら話は別だ。

 

 

 しかし、それは同じ()()()()()であるダブルオースカイも同じである。

 

 

「───トランザムインフィニティ!!」

 ダブルオースカイを赤い粒子が包み込んだ。ケイのGNソードIIIをいなす様に交わしたリクは、逆にバスターソードを振り払う。

 

 姿勢制御でそれを交わしたケイは、GNソードIIIを薙ぎ払いリクのダブルオースカイと距離を取った。

 

 

 一瞬の攻防。少しでも気を抜けば、その時点で勝敗は決していただろう。

 

 

 

 赤い粒子を漂わせながら、二機のMSはなんの合図もなしに再び刃を交えた。

 GNソードIIIとバスターソードが火花を散らせ、ストライクとダブルオーの頭部がぶつかり合う。

 

 一度離れると、今度はお互いにビームサーベルを抜刀しソードと二刀流で切りかかった。

 光が斬り合い、離れて、斬り合い───

 

 二人の機体は軌道の残光を残してぶつかり合う。

 ユメとサラはそんな二人を違う表情で見守っていた。

 

 

「ユメは、ケイと一緒に戦いたいんだね」

「サラちゃんは違うの?」

 ふと聞こえた声に、ユメは首を傾げる。

 

 ケイと一緒に戦いたい。

 自分自身も、ガンプラバトルが好きだから。

 

 しかしサラは違うのだろうか。ユメのそんな疑問にサラはこう答えた。

 

 

「私は、リクに楽しんで欲しい。私に沢山の物をくれたリクに、GBNを沢山楽しんで欲しいって思ってるの」

「リク君の事、大切なんだね。あはは、私は我が儘かな?」

「ううん。ユメの気持ち、とっても大事だよ」

 サラの言葉に、ユメは胸の前で手を握る。

 

 

 そうだ、この気持ちはとても大切なものだから。

 だからこそ、今は二人を邪魔してはいけない。

 

 

 

「俺は君に、リクにずっとお礼が言いたかったんだ……!!」

「お礼? なんで?」

 交わる二つの光。

 ケイは刃を向ける相手に、真剣な言葉を投げ掛けた。

 

 

「もう二年くらい前、君が本気で戦っていたあの戦い───第二次有志連合戦がキッカケで、俺はGBNに興味を持ったんだよ。……リクには嫌な話かもしれないけど」

「嫌じゃないよ。あの戦いも、俺には大切な思い出だから!」

 お互いに会話を挟みつつも、戦いからは気を抜かない。

 どちらかが気を抜けば、その時点でどちらかが撃破されて会話も終わる。そんな戦いだった。

 

 ケイが口を開いたのは、この楽しいバトルが終わらないで欲しい───そんな事を思ったからなのかもしれない。

 

 

「そうか……。俺は、GBNを始めるまでずっと孤独だった。大切な友達は居たけど、その友達をずっと一人にして、悩ませて、俺は何も出来なかった……!!」

 ガンプラで友達は一人一生治らない大怪我をして、一人は抱えられないような重荷を背負わされて、もう一人は友達の輪から消えてしまう。

 正直ガンプラを憎む日もあった。ガンプラバトルをしていた自分が許せなかった時もあった。

 

 だけど、あの日───

 

 

「───だから俺達は、俺達の好きを!! 諦めない!!」

 ───リクがサラを救った日。彼のそんな言葉が無ければ、ケイは自分の好きをそのまま諦めていたかもしれない。

 

 

「───リク、君が思い出させてくれたんだ! 俺はどうあがいてもガンプラが好きなんだって。どんな理由で戦っていたとしても、ガンプラが好きなんだって!!」

「───いや、ケイはきっと誰に何を言われなくてもその気持ちだけは失わなかったと思うよ。……だってこんなに楽しいバトルをするんだから!!」

 重なり合う二人の刃。

 機体の性能も、両者の実力も殆ど互角だろう。

 

 

 そうなれば、勝敗を決めるのはお互いの気持ちだ。

 

 

 

「あぁ、俺も楽しいよ。だからこそ、俺は君に勝ちたい! リク!」

「うん。でも、俺も負けないよ! ケイ!」

 リクのダブルオースカイのバスターソードを、粒子の光が包み込んでいく。

 その現象にケイは見覚えがあった。

 

 

「必殺技……!」

 イアの初バトル。

 チャンピオンクジョウ・キョウヤが三人のダイバーを一撃で葬り去った、文字通り必殺技。

 このGBNというゲームはダイバーの気持ちに応えたガンプラがシステムを超える力を発現する事がある。

 

 しかしケイには、その力はまだなかった。

 

 

「それでも……!! トランザムライザー!!」

 GN粒子加速ビームサーベル。ガンダムOOでダブルオーガンダムが劇中使用した、超巨大ビームサーベルである。

 

 GBNの必殺技とは少し違うが、これも強力な武装だ。

 

 

 光を纏ったリクの必殺技と、トランザムライザーがぶつかり合う。

 

 

「負けられない……俺は君に、勝ちたい!!」

「俺も負けない……!!」

「「うぉぉぉおおおおお!!!」」

 重なり合う光と光。

 反発し、周囲は光で包み込まれた。

 

 爆発の様に広がったエネルギーの後、ユメ達の目にケイとリクのボロボロになりながらもまだ赤い光を放っている機体が映る。

 

 

「ケイ!」

「リク!」

「「まだだ……!!」」

 二人の声に反応するように、ケイとリクは機体の力を振り絞ってビームサーベル片手にスラスターを吹かせた。

 

 しかし、お互いにボロボロだった機体がぶつかり合う寸前───

 

 

「───な」

 ケイのストライクBondのトランザムが終了し、粒子の放出が止まる。

 

 勝負を決めたのは思いの力だった。

 あと何かがほんの少しズレていたら、結果は違ったかもしれない。

 

 

「……また負けた、か」

「楽しかったよ、ケイ」

「あぁ……次は勝つ」

 右手をリクに真っ直ぐ向けるケイ。リクはそんな彼とストライクBondを真っ直ぐに見ながらビームサーベルを薙ぎ払う。

 

 

 爆散するケイの機体を見ながら、ユメは少しだけ手に力を入れてからその拳を解いた。

 

 

 

「強いね、リク君」

「うん。でも、ケイも強い。ストライクBondも」

 相変わらず不思議な女の子だと思いながら、ユメはサラの機体の手を引いて彼女をリクの所に連れて行く。

 

 

「ユメさん……」

「だ、大丈夫だよ!? 私もここで攻撃するような事しないから。……んー、でも、少し羨ましかったかも」

「羨ましかった?」

 ユメの言葉に、リクとサラは首を傾げた。そんな二人に、ユメはこう続ける。

 

「男の子って良いなって、少し思っちゃった。多分ね、私もガンプラが好きなんだと思う。ケイ君に勧められて始めたGBNだし、最初はこの世界に立ってるだけで楽しかったのに……」

 現実で足が動かないユメは、この世界に来た時とても幸せな気持ちになった。

 

 自分の足で立って、歩ける。

 そんな当たり前の事が幸せで、また皆で遊べるのが幸せで。

 

 

 だけど、GBNを楽しんでいる内にそれだけじゃ満足出来なくなってしまったのだ。

 

 

「私もケー君みたいに熱くなりたいなって。そんな事思っちゃった。……えへへ、二人とも凄かったよ。アニメのバトルみたいだった」

「そっか。ユメさん、今度は俺もユメさんと戦いたいよ」

「うん、ありがとう。でもね……リク君を倒すのはケー君だから!」

 ケイと同じように、ユメは右手の拳をリクに向ける。

 

 そんな彼女を見てリクはまた楽しそうに笑った。

 

 

「分かった。また戦おうって、ケイに言っておいて」

「うん。それじゃ、またね!」

 変形して自軍エリアに向かうユメ。

 

 

「ストライクBond、か。……きっともっと強くなるよね。俺も、もっと頑張りたいな」

 そんな彼女を見送るリクは、ボロボロになったダブルオースカイと共に拳を握る。

 

 

 もっと強くなりたい。

 ダブルオーだけじゃない、色々な場所から聞こえるそんな()にサラは笑みを見せるのであった。



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虎武龍

 イベント戦は始まったばかりだ。

 

 

 交差する光。

 激しい戦闘の中、GBNチャンピオン───クジョウ・キョウヤはとあるダイバーの前に立っていた。

 

 

「やぁ、NFTぶりかな。……セイヤ」

「AVALONのリーダー様が、こんな弱小フォースに何用だ」

 フォースアンチレッドのリーダー、セイヤ。

 彼のフォースもまた、このイベント戦に参加しているフォースである。

 

 そんな彼の前に訪れたキョウヤは、表情を崩さずにこんな言葉を口にした。

 

 

「勿論、ガンプラバトルをしに来たんだ。前回のNFT準優勝者である、君達と」

 真剣な瞳でセイヤの機体───赤く塗装されたνガンダムに視線を向ける。

 セイヤの後ろには他にもアンチレッドのメンバーがいるが、キョウヤの後ろには誰もいない。

 

 それでもキョウヤは表情一つ変えず、セイヤに己の得物を向けた。

 

 

「さぁ、バトルをしよう」

「……分からないな。なんなんだ、お前は」

 光が交差する。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ReBond自軍エリア。

 

 

「惜しかったな。まぁ、俺なら勝ってたけど?」

「本当かー?」

「俺は最強だからな」

 リクに敗れ、戻ってきたケイと話すロック。彼の言葉に疑いの言葉を掛けるイアに、ロックは微塵の迷いもなくそう言い返した。

 

「さて、第七機甲師団とビルドダイバーズには大敗だった訳っすけど。まだまだイベント戦は長いっすからね、次の作戦を決めて行こうっす」

「お、次の戦いか! 次は勝つぞー!」

「ただいまー。ん、イアちゃん。次の戦いの話?」

 次の戦いに向けて気合を入れるイアの隣に、リク達と別れて帰ってきたユメがそう問い掛ける。

 イアは帰ってきたユメの機体と手を繋ぐと「ユメは大活躍だったな!」と親指を立てた。

 

「ありがと、イアちゃん。それで、次はどうするんですか?」

「それを丁度今から決める所だったんすよね」

「ここから近いところでまだ戦ってないのは……虎武龍かねぇ。今度は全員でビルドダイバーズにカチコミって手もあるけど」

 ニャムの言葉に続いてフィールドマップを眺めながらそう口にするカルミア。彼の言葉を聞いて、ケイはリクとの会話を少し思いだす。

 

 

 ──俺も、ウルフさんの所で相打ちみたいになっちゃって──

 

「今なら多分、虎武龍の戦力は半減してると思う。戦うなら虎武龍じゃないか?」

「そうか……確かケイ、お前リクとなんか話してたもんな」

 ビルドダイバーズのリクは虎武龍と戦って撤退している時にケイと出会った。

 つまり、虎武龍は今ビルドダイバーズと戦った傷が癒えていない筈である。

 

 

「ケー君ってもしかして、凄く勝ちに貪欲だったりする?」

「ユメ、知らなかったのか? コイツは死ぬ程負けず嫌いだぞ」

 弱っている相手を叩くという、勝利の為に正し過ぎる選択に若干引くユメ。そんな彼女にロックは昔の事を思い出しながら半目でそう口にした。

 

 思えばケイがガンプラバトルを始めたのだって───

 

 

「───さて、虎武龍が相手となると……今度は俺の出番だな!」

 思い出に浸りながらも、ロックは自信あり気に胸を張る。

 

「なるほど、虎武龍は格闘戦特化のフォースっすからね。ロック氏の力が生きるって事っすか!」

「そうそう。……俺の狙撃センスがな!」

「なんでそうなるんすかね?」

「え? なんか俺間違ってる?」

 メンバー全員に本気で言っているのか、なんて目で見られるロック。

 戦術はともかく、今は虎武龍が体制を整える前に攻撃を仕掛けたい。ReBondのメンバー達は急いで虎武龍の自軍エリア付近に向かうのだった。

 

 

 

 

「───リクの奴、やってくれたぜ。全く」

 アルトロンガンダムをベースに、右肩に金の虎を左肩には銀狼の意匠が施されたガンプラ。ガンダムジーエンアルトロン。

 

 フォース虎武龍のリーダー、タイガーウルフは目を細めて半壊した戦力をどう立て直すか考えている。

 フォースビルドダイバーズとの戦いはどちらが勝ってもおかしくないような接戦だった。故に、勝利したタイガーウルフ本人や仲間の機体達もボロボロである。

 

 こんな所を()()()に狙われでもしたら───なんて嫌な想像をしていたら、アラートと仲間の悲鳴が控えた。

 

 

「今度はなんだ! くそ、これだからこういうイベント戦は!!」

 彼は狼顔の獣人という姿をしているが、その狼の顔の表情を歪ませてアラートの方角を向き叫ぶ。

 蹴散らしてやる───そう身構えた瞬間、視界を光が包み込もうとしていた。

 

「おぉぉ!? くそ!!!」

 慌てて回避行動を取るタイガーウルフ。しかし、その光に仲間が何人も吸い込まれて行く姿が目に映る。

 

 

「この光、アイツじゃないが……。なんてパワーだ」

 思い浮かべた最悪の結果ではないが、攻撃してきた相手の技量を冷静に分析したタイガーウルフは苦笑いを零した。

 漁夫といえば聞こえは悪いが、これもイベント戦ならではの正しい作戦なのだろう。

 

 だからこそ、タイガーウルフはこのイベント戦に参加するのは不本意だった。

 

 

 しかし───

 

 

 

「どうしても貴方の力が必要なのよ、()()()()ちゃん。また力を貸してちょうだい」

「マギーさんにそう頼まれちゃ、仕方がないか」

 本来格闘戦を得意とするタイガーウルフは、このような乱戦の起こりうるバトルは好みではない。

 しかし、マギーに頼まれた事といい、ここ数週間問題になっているというELダイバーの行方不明事件に対してタイガーウルフも思う事があったのである。

 

 

 

「───とはいえ、リク達は普段通りだったが。どうなってんだか。……さて、敵の戦力は」

 ───件の話とは関係なく、フォースランキング五位虎武龍のタイガーウルフもガンプラバトルをこよなく愛するダイバーだ。

 

 参加すると決まった以上、半端な結果は許されない。

 

 

 来る敵は叩き、来ないなら叩きないく。

 それがタイガーウルフがこのイベント戦で決めていた()()だった。

 

 

 

「敵戦力、六機です! 内三機、高速で接近してきます!」

「数が少ねぇな。少数精鋭か……。応戦するぞ!!」

 仲間の言葉に対して自分が一番前に出て拳を突き上げるタイガーウルフ。

 

 ロンメルとは違い自らが先陣を切る戦い方は、ロンメルとは別のベクトルでのカリスマ性を有している。

 仲間の指揮は上がり、熱い熱気が戦闘宙域を包み込んだ。

 

 

 

「アレがタイガーウルフのジーエンアルトロンか……。ユメ、イア、分かってるな?」

「うん。私達は出来るだけ敵の数を減らす役割だよね!」

「まずは弱ってる敵を叩く! リスポーンしてきた奴は抑える! そんでタイガーウルフはタケシに任せる!」

 先行する三機、ケイのクロスボーンストライクBondとユメのダブルオーデルタグラスパーにイアのZガンダム。

 この三機はその高い機動力でタイガーウルフの追従も許さず、その仲間達に攻撃を仕掛ける。

 

 その後方。

 遅れてやってきたニャムとカルミア、そしてロックは機体性能を活かして援護射撃が仕事だ。

 この陣形で道を開いて、タイガーウルフをロックが叩く。それがニャムの考えた作戦だった。

 

 

 

「───気に食わないな。なんで俺が態々接近戦をしに行かないといけないんだ」

「それ、そろそろネタで言ってるのか本気で言ってるのか分からないっすよ」

「まぁまぁ、ニャムちゃん。とりあえずはおじさん達の仕事をしようじゃないの」

 アカツキのドラグーン、レッドウルフのミサイルとメガランチャーがケイ達の取りこぼしを次々と落としていく。

 

 しかし、ロックのGNスナイパーライフルはやはり当たりはしても敵を落とす事は全く出来ていなかった。

 

 

「……ケー君、やっぱりタケシ君下手くそだよ」

「あ、あはは。でもタケシはこの後仕事があるから」

「ロックな!! 聞こえてるからな!!」

 幼馴染みを詰る二人。

 

 言いながらもケイ達は疲弊しきった虎武龍の面々を次々と撃破していく。

 そんな相手に、タイガーウルフは表情を引き攣らせていた。

 

 

「───これ以上好きにさせるか……!!」

「イアちゃん!!」

 イアのZガンダムに猛進するタイガーウルフ。そんなイアを庇おうと変形して前に出たユメだが、ジーエンアルトロンの拳に機体を貫かれて彼女は爆散する。

 

 

「おぉぉぉ!? ユメが!!」

「この!!」

 ユメを撃破したタイガーウルフに向けられるケイのピーコック・スマッシャー。しかし放たれたビームは、ジーエンアルトロンの拳で受け止められてしまった。

 

 

「……ま、マジかよ」

「くっそう! よくもユメをやってくれたな!」

 変形し、ビームサーベルを抜くイア。

 Zガンダムが淡い光を放ち、ビームサーベルが巨大化していく。

 

「コイツで真っ二つだ!!」

「遅い!!」

 振り下ろされるビームサーベル。しかし、タイガーウルフは一瞬でZの懐に潜り込んで拳を放った。

 

 

「なんと!?」

「この距離でそんな大振りが通ると思うなよ……!!」

 Zを貫く餓狼の拳。

 

 イアの犠牲を無駄にしない為にその背後からムラマサ・ブサスターを構え突進するケイだが、タイガーウルフは振り向きもせずにケイの攻撃を受け止める。

 

 

「……マジか」

 もはやそんな言葉しか出なかった。

 圧倒的な力の差。この男に接近戦で勝てるダイバーがいるのだろうかと、ケイは表情を引き攣らせる。

 

「……筋は良いが、まだまだ甘い」

 爆散するケイの機体。

 

 後方で射撃戦をしていた三人は、仲間達がやられているのを唖然と見守る事しか出来なかった。

 

 

「ニャムちゃん、逃げようぜ」

「ジブンもそう言おうと思っていた所なんすけどね……」

「次はお前達だ……!!」

「流してくれそうにないっすよ!?」

 三機に向けて猛進してくるタイガーウルフ。

 

 ニャムとカルミアは焦ってけんせい射撃をするが、タイガーウルフはその全てを交わしながら速度を落とさずに向かってくる。

 それはもう山中で狩りをする狼のようだった。

 

 

「───ったく、しょうがねぇな」

 そんな狼に怯まず構える男が一人。

 

 

「ちょこまかと射撃戦をしても、俺は倒せん!!」

「だったら俺様が相手してやるよ!!」

 向かってくるタイガーウルフの前に立つロック。

 

 狙撃機体なんて恐れる事はない。そう思いながら突進するタイガーウルフの前で、ロックのデュナメスHellはフルシールドを展開する。

 

 

「何!?」

「死ぬぜ、俺の姿を見た奴はな……!!」

 フルシールド内に内蔵された数多の格闘兵器。

 

 ビームサイズを展開したデュナメスHellを見て、タイガーウルフは不敵に笑った。

 

 

「───手応えのありしうな奴が居るじゃねーか。俺はタイガーウルフだ。名前を聞かせろ」

「───ロック・リバー。フォースReBondのリーダーにしてクールで格好良い男だ!!」

 拳と刃が重なり合う。

 

 

 接近戦を得意とする二人の激闘が始まった。



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タイガーウルフ

 チャンピオン、クジョウ・キョウヤは文字通り()()である。

 

 

 故に解せない。

 手加減されているのだ。

 

「───Fファンネル!」

「何が目的だ……コイツ」

 セイヤ達アンチレッドの前に現れたキョウヤは、一人でアンチレッドのメンバーを一人ずつ倒していく。

 

 しかし、一番キョウヤに絡みに行っているセイヤの事を未だに落とそうとしない。

 まるで邪魔者を排除していくように、チャンピオンはセイヤ()()を撃破していった。

 

 

「目的、目的か。君と話がしたくないかと言えば嘘になる。ただ、それ以前に僕はこのイベント戦での勝利を目指しているからね。だからこうして戦力を削っている訳だ」

「ふざけた真似をするんじゃねぇ!! ファンネル!!」

 セイヤの赤いνガンダムがフィンファンネルを放ち、キョウヤを襲う。

 しかしキョウヤはその一機を瞬時に撃破して、ついでにとでも言うようにさらにアンチレッドのメンバーを一人撃破した。

 

 

「……思っていたより数が多いな」

 NFTはそのルール上参加出来るメンバーは五人だけである。

 当たり前だがアンチレッドもNFTに参加していたのは五人だけだ。

 

 しかし、キョウヤの目の前には約三十機以上のモビルスーツが立ち塞がっている。

 今まで撃破した機体を合わせると五十機───五十人以上の()()()()()()のメンバーが居ると言うことだ。

 

 

 GBNに復讐をすると宣言した男のフォースにそれだけのメンバーが集まっている事に、キョウヤは少し胸を痛める。

 

 

「僕が……GBNは楽しいという事を教えてあげよう!!」

「気取るなよ……チャンピオン!!」

 ファンネルを撃破した一瞬の隙。

 

 νガンダムの周囲にファンネルがバリアを展開し、キョウヤの懐に入り込むセイヤ。

 引き抜かれたお互いのビームサーベルがぶつかり合って光を放った。

 

 

「お前に俺達は止められない。……俺達は、止まらない!!」

「やはり何かするつもりか……。そうはさせない!!」

 光が交差する。

 

 その光の影で、チャンピオンを狙う気配が一つその時を待っていた。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 振り下ろされるビームサイズの刃。

 それをタイガーウルフは機体の腕の横に装備されたツインジーエンハングで受け止める。

 

 

 直ぐにビームサイズを手放したロックは、ビームサーベルを二本抜き放った。しかし、今度はそれを両手で受け止めるタイガーウルフ。

 

「良い反応速度だ」

「コイツ、腕が四本あるみたいなもんなのか。まともにやったら勝てないな」

 身体を捻って一度距離を取るロック。

 

 すると、タイガーウルフはせっかく受け止めたビームサイズをロックに返すようにゆっくりと投げる。

 それを素直に受け取ったロックは、不敵に笑いながら「なるほど」と首を横に振った。

 

 

「ニャムさん、おっさん、援護はいらねぇ」

「お前ら、邪魔するなよ。ここからは男の勝負だ」

 フォースのリーダー同士、接近戦が得意な物同士、なにか通じる物があったのだろうか。

 

 二人は背後に控える仲間達にそう言って、再びぶつかり合う。

 

 

「こうなりゃ小細工抜きだ!!」

「来い!!」

 正面からタイガーウルフに突進するロック。受け止める為に構えるジーエンアルトロンだが、デュナメスHellは突然軌道を変えてその背後を取った。

 

「───なーんてな!!」

「───それで背後を取ったつもりか!!」

 展開するツインジーエンハング。しかしロックは機体をひっくり返して、ツインジーエンハングを()()()()()

 

 

「何!?」

「腕の数で負けてるなら足も使わないとなぁ!!」

 フリーになったジーエンアルトロンの背中に迫るビームサイズ。タイガーウルフは振り向き際になんとか片腕を盾にして左腕だけの損傷で攻撃を凌ぐ。

 

「足癖の悪い奴だ……!」

「卑怯な真似はしてない筈だぜ! ここは宇宙だから宙返りも簡単だ!!」

「全くその通りだな!!」

 仕返しと言わんばかりにデュナメスHellを蹴り飛ばすジーエンアルトロン。ガードに使ったビームサイズは真っ二つに砕けて使い物にならなくなっていた。

 

 

「……なんてパワーだよ」

 使い物にならなくなったビームサイズを投げ捨て、ロックはGNソードとビームサーベルを構える。

 

 それを見てタイガーウルフは「なるほど、そういうタイプか」と目を細めた。

 

 

「……なら、遠慮は要らないな!!」

「来やがれ!!」

 今度はタイガーウルフから仕掛ける。

 

 迎え撃つロックはGNソードを投げ付け、それを交わしたジーエンアルトロンに向けてビームサーベルを振り下ろした。

 

 

「届かん……!」

「それはどうかな!!」

 ツインジーエンハングに手首ごと受け止められるビームサーベル。しかし、ロックはそこで投げたGNソードに繋がっていたアンカーを引き戻す。

 

「アンカー付き……!!」

「貰ったぁ!!」

 ジーエンアルトロンの背後から迫るGNソード。しかしタイガーウルフはGNソードが帰ってくる前に、なんとか機体をひっくり返してそれを避けた。

 

 

「チッ、右足だけか」

 完璧に交わす事は出来ず、ジーエンアルトロンの右足だけを切り飛ばしたGNソードを受け止めるロック。

 不満の直ぐ後に、警告が響いてロックは目を丸くする。

 

「今の一瞬で俺の足を……」

 タイガーウルフが離脱する瞬間、ツインジーエンハングがデュナメスHellの右足を食いちぎる様に破壊していたのだ。

 

 

「タダでくれてやる程甘くはないぞ」

「流石に強いな……」

 相手がロンメル隊の精鋭だろうが、メフィストフェレスのメンバー二人を相手にしようが、ロックは彼の間合い(至近距離)で誰かに遅れを取った事は殆どない。

 

 それこそNFTでアンチレッドのリーダーと戦って負けてから、ロックは人知れず接近戦をさらに磨き上げていたのだから。

 

 

 それでも。

 まだまだ勝てない相手がここに居た。

 

 このゲームはまだまだ面白い。

 ロックは不敵に笑いながら、GNソードを再び投擲し、ビームサーベルを二本構える。

 

 

「───そろそろ本気で行かせてもらうぜ!! タイガーウルフ!!」

「───こい、ロック・リバー!!」

 ロックの機体が赤い粒子を放ち始めた。その光に、タイガーウルフは不敵に笑う。

 

 

「トランザム!!」

 TRANSーAM

 

 急速に加速性能を上げるロックのデュナメスHell。

 先に飛ばしたGNソードを弾いたジーエンアルトロンの間合いに入り込んだデュナメスHellは、ビームサーベルを振り払ってツインジーエンハングの片側を切り飛ばした。

 

 

「やるな……だが、俺は負けん!! うぉぉぉおおおおお!!!!」

 叫ぶタイガーウルフ。

 彼の機体は黄金色に輝き、気迫だけでロックの機体が吹き飛ばされる。

 

 

「なんだそりゃ……!! アルトロンはGガンじゃねーだろ!! んや、まぁ、おもしれぇ!!」

 再びぶつかり合う赤と黄金の光。

 拳とサーベルが重なり合い、二人はお互いの手の内を晒していった。

 

 

「無限にリスポーン出来るルールにしては、こんな所で無名のフォースに本気じゃねーか!! それで良いのかよ、フォースランキング五位のタイガーウルフがよ!!」

「笑止!! 俺はいつだって本気だ。特に俺の認める強い相手にはな!! 己を知り、そして敵を知れば百戦危うからず。強い的に、己の全てを叩き付けてこそ!! 真に強者になれる!!」

「なるほど気に入ったぜ!! 俺は……あんたを倒したい!!」

「俺もお前を気に入ったぞロック!! どうだ、俺のフォースに入らないか?」

「残念だがそれは出来ないな。俺はReBondのリーダーだ。けれど、あんたのフォースに道場破りはさせてもらうぜ!! 俺の成長のためにな!!」

「全く気に入った!! よし来い、本気でこい!!」

 ぶつかり合う二つの熱い闘志。

 

 

 ───しかし、そんな二人の間に一筋の光が割って入る。

 

 

 

「なんだ!?」

「くそ、こんな時に来やがって……!!」

 なんとかその光を避けた二人は、光の放たれた方角に視線を向けた。

 

 

「───全く、君はこんな時にも脳筋で戦っているのか。だから脳味噌が筋肉で出来ている、なんて言われるんだよ」

「あ、アレは!! フォースランキング三位!! SIMURUG!! そのリーダー、シャフリヤールさんじゃないっすかぁ!!」

「……ご丁寧に説明口調なのどうもね、ニャムちゃん」

 現れたガンプラはセラヴィーガンダムシェヘラザード。

 

 ニャムの言う通り、フォースランキング三位SIMURUGのリーダーシャフリヤールの駆るMSである。

 

 

「戦術も何も考えずに戦えるところで全て戦うから、君のフォースは五位なんだよ」

「……シャフリ。おい、邪魔だ」

「え?」

 普段より三つは低いトーンで放たれた声に、シャフリヤールは素っ頓狂な声を漏らした。

 

 

 普段から二人は喧嘩してばかりの犬猿の中という奴である。

 しかし、ここまで怒ったタイガーウルフの声をシャフリヤールが聞いたのはそれこそあの時───第二次有志連合戦の時以来だった。

 

 

「今は俺とこのロックが戦ってるんだ。邪魔をするなぁ!! 奥義……龍虎狼道(りゅうころうど)!!!」

 タイガーウルフのジーエンアルトロンが拳を放つと、黄金と青色に輝く光が竜の形に収束しシャフリヤールの機体をフォースの仲間ごと吹き飛ばす。

 

「ちょ、早い───」

 全身全霊の必殺技によりSIMURUGを殲滅させたタイガーウルフは、何事もなかったかのようにロックの機体に向き直った。

 

 

「……さぁ、続きをやろうか」

 しかし、その機体はもう限界である。

 損傷した機体は必殺技の反動に耐えられなかったのか、全身で回路をショートさせていた。

 

 

「……タイガーウルフ───」

「なんだ、来ないのか。ならばこちらから行くぞ!」

「───タイガーウルフ、俺を!! 俺を弟子にしてくれぇ!!」

「はぁん!?」

「なんだ今の必殺技!! 滅茶苦茶格好良いじゃねーか!! Gガンじゃないのにハイパーモード入ってるし!! 本当なんなんだよ、すげぇ!! 格好良い!!」

「格好……良い。……分かってるじゃねーか!!」

 先程まで死闘を繰り広げていた二人は、MS同士で硬い握手を交わす。

 

 このイベントが終わったら俺の所に仲間を連れて来い。

 そんな約束までして、二人はこのバトルを()()()にしたのだった。

 

 

 

「……なんか、思わぬ所で凄い所とパイプ繋げちゃったわねぇロッ君」

「……もしかしてロック氏、実は凄い人なんじゃないですか?」

 メフィストフェレスもそうだが、ロックが本気で戦った相手は必ずお互いを認めて良き仲間(ライバル)になる傾向があるようである。

 

 もしかしたらケイやユメも───彼等の幼馴染みであるアオトも、ロックのおかげで集まってきた仲間なのかもしれない。

 そう思うニャムとカルミアなのであった。



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ブレイクビット

 いつかのプラモ屋で。

 

 

「アオト! ガンプラバトルしようぜ!」

「お、タケシ丁度良い所に! 今やっと新しいガンプラを作ったんだよ」

 プラモ屋に遊びにきたタケシに、少年アオトは自慢げな顔で今さっき出来たガンプラを見せ付ける。

 

 そのガンプラはストライクのバックパックにνガンダムのバックパックを装備して、ファンネルが使えるようにしただけのものだった。

 それでも、小さな子供の改造としては良く出来た物である。

 

「お、ファンネルか。良いね、やろうぜ。てかロックな」

「νストライクの初バトルだ!」

「まんまじゃん」

「アオト君の新しいプラモ? 凄いね、見よ見よ!」

 ケイスケとユメはそんな二人のバトルを観戦するが、勝負は簡単に終わってしまった。

 

 結果はアオトの完敗。

 アオトはガンプラを作るのは誰よりも上手だったが、バトルはそこまで得意ではなかったのである。

 

「お前、ファンネル使うの下手だろ」

「れ、練習してからもう一度だ! タケシ!」

「ロックな」

 それでも、あの頃アオトはガンプラバトルを楽しんでいた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 AGE2マグナムと赤いνガンダムがビームサーベルを交じえる。

 

 

「調子に乗るな! チャンピオン!!」

 その周囲で、νガンダムのファンネルがAGE2マグナムに銃口を向けた。

 しかし、ファンネルは全てFファンネルに貫かれ爆散する。

 

 そのFファンネルが切先をνガンダムに向けると、セイヤは舌打ちをしながらキョウヤと距離を取った。

 

 

「君は今何をしようとしている、セイヤ」

「何か企んでる奴がそう聞かれて真面目に答える訳ないだろあまちゃんが……。やれ、アオト!!」

「何……?」

 突然。

 キョウヤのFファンネルが一つ爆散する。

 

 しかし、視界には何も映っていない。何がFファンネルを襲ったのか、素人目には分からなかった。

 

 

「───クリアパーツか」

 ───しかし、キョウヤは素人ではない。

 

 数多の激戦をこなして来たGBNのチャンピオンは、何が起きたのかを一瞬で理解して解答を導き出す。

 AGE2マグナムの周囲を囲むように回転するFファンネルが、その()()()()何かを切り裂いた。

 

 

「クリアパーツのファンネルか、よく出来ている……。下か!」

 そんなキョウヤに向けて高速で接近してくる機体が一機。速度だけで判断するならMAか可変機だろう。

 

「イージスか」

 そしてキョウヤの視界に入ったのは、カスタマイズされたイージスの姿だった。

 イージスは変形を解除すると、両腕のビームサーベルを展開してキョウヤの懐に潜り込む。

 

 

「俺達の邪魔をするな……」

「君も、セイヤと同じでGBNを憎んでいるんだな」

 鍔迫り合い。

 禍々しさすら感じる気迫が、そのイージスから流れ込んできた。

 

 

 イージスのパイロット───アオトは、一度キョウヤから離れてシールドをAGE2マグナムに向ける。

 

 

「……イージスの盾ではない、アレは───レギルスの盾か!」

「……ブレイクビット!」

 アオトのイージスの盾は本来の物ではなく、レギルスというMSが使う盾を装備していた。

 その盾から、大量の胞子状ビームが展開される。

 

 そのビームの一つ一つが独立して動くビットであり、一度イージスを取り囲むようにして展開されたビットは真っ直ぐにキョウヤのAGE2マグナムに突撃した。

 

 

「……ブレイクドラグーン!」

 それだけではない。

 

 イージスのスカートから分離したオールレンジ武装───ドラグーンがビットを追従する。

 

 

「オールレンジ攻撃に特化させたイージスとは、面白いカスタマイズだ……。それ程の物を作れるのになぜ、GBNを憎む……!」

 回避行動を取りながら、キョウヤはアオトに語り掛けた。

 

 

 NFTにアンチレッドのメンバーとして参加していた機体の中にもイージスが居たのを思い出す。

 直接関わった訳ではない為同じダイバーなのかはキョウヤには分からない。

 

 しかしそれが誰であれ、キョウヤには関係なかった。

 彼は等しく、全てのダイバーにこのGBNを楽しんで欲しいのである。

 

 

「あんたには関係のない事だ……!!」

「そうか……。ならば、目を覚ますと良い」

 キョウヤは剣先にFファンネルを集中させ、()()()で周囲を薙ぎ払った。

 イージスのドラグーンやビットは全て消し炭にされ、イージス本体も左足を吹き飛ばされる。

 

「GBNを、ガンプラを本気で楽しんでいる者達は、君達の企みには屈しない。……だから、僕達と一緒にまたGBNを楽しまないか?」

「……そんなのはあんたの勝手な妄想だ。人は簡単に傷付くし、失う。なんでも完璧なあんたには! 俺達の気持ちなんて分からないんだよ!」

 損傷しながら、使える手足のサーベルを全て展開してキョウヤに突撃するアオト。

 キョウヤは一度目を瞑って、ゆっくりと目を開き───アオトのイージスを返り討ちにした。

 

 

「なぁ、チャンピオン。そういう事だ。お前が何を言っても、俺たちには響かない。……俺達は、必ずこのGBNを破壊する!」

「確かに失った物は取り戻せない。取り返しのつかない物もあるだろう。……しかし、新しくGBNで得られる物もあるんだ! 失ったからといって、誰かから奪う権利を与えられる訳ではない!!」

「そんなものは何も失ってない奴だから言える綺麗事だ!!」

 再びぶつかり合うAGE2マグナムとνガンダム。

 

 アオトのイージスが居なくなった事で、その場にいたセイヤの仲間は全滅している。

 

 

 ここでセイヤを倒そうが、イベント戦のルールでリスポーンするだけだ。

 今そうなれば、彼と話す事は今後出来ないかもしれない。キョウヤにセイヤを倒すという選択肢はないが、セイヤはキョウヤの話を聞く気はないだろう。

 

 

「……それは一理ある言葉だ。そして、僕もまた人から大切な物を奪おうとした張本人でもある」

 第二次有志連合戦。

 ビルドダイバーズのサラを、キョウヤはリク達から奪おうとした。

 結果リクはサラの命を救い出したが、それは文字通り結果に過ぎない。

 

 

「───だからこそ、僕はこれ以上何かが奪われるのを阻止したい。君は僕以上に、失う気持ちが分かっている筈だ!!」

「分かるさ。……だから、お前らにこの気持ちを分からせてやろうってんだよ!! 綺麗事だけ並べて、お前達は本当に何も分かってないって事を教えてやる!!」

「君は自分の苦しみを他の人にも味わえというのか!」

「そうだ!! そうしないと分からないだろ!! だから、人は他人からなんでも奪える!! そういう物なんだよ、世の中ってのはな!!」

「何故だ……。君だって、このGBNを楽しんでいた筈だ……!」

 νガンダムの大振りのビームサーベルを交わし、キョウヤはサーベルをνガンダムのコックピットに突き刺す。

 

 話し合いは出来ない。

 キョウヤは強く拳を握りながら、首を横に振った。

 

 

 セイヤが何を言おうと、何をしようと、それを止めるのが自分のやるべき事だと自分に言い聞かせる。

 そして、セイヤは爆散寸前のνガンダムの中でこう口にした。

 

 

「流石、GBNチャンピオンだな。勝利報酬で良い事を教えてやるよ」

「良い事、だと?」

「……俺達はこのイベント戦では何もする気はない」

「何?」

 セイヤの言葉に、キョウヤは目を丸くする。

 

「君達は、ここ最近Lダイバーが行方不明になるという事件を知っているか?」

「……知ってたらなんだ? お前に話す事はない」

 そう言って、セイヤはキョウヤの機体を蹴り飛ばした。

 

 

 数瞬の後、セイヤの赤いνガンダムは爆散する。

 

 そんな姿を見届けたキョウヤは脳裏に焼き付いた彼の言葉を口にして繰り返していた。

 

 

「このイベント戦()()何もする気はない、か。……事件の事は知っているなら───カツラギさん、僕達は間違えたかもしれない」

 キョウヤはそう言って頭を抱え込む。

 

「彼等がこのイベント戦に参加した理由は───」

 キョウヤの中で、辻褄が繋がった。しかし、今気がついても遅かったのである。

 

 

 

 イベント戦は既に時間の半分が経過していた。



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ブレイクファンネル

 超大規模変則スコア戦も後半に差し掛かっていた。

 

 

「こ、これがマギーさんのラヴファントム……!」

「思ってた以上に強い……! というかマギーさん本当に凄い人だったんだね……!」

「凄い失礼だぞユメ!?」

「うふふ、まだまだ可愛いわよ二人共。でも、もっとGBNを楽しみなさい!」

 ReBondメンバーはマギー率いるアダムの林檎に挑戦するもまたしても惨敗。

 

 他にも。

 

 

「お前、あの時のストライクか!! 少し美味そうになってるな……俺に食わせろ!!」

「ケイがなんか凄い怖い奴に襲われてるぞ!!」

「───まだ、勝てないか」

「───おい、お前名前を教えろ。また食いに来てやる」

 百鬼───オーガとの再戦。

 

 

「さっきの味方は今の敵ってね!」

「あの戦い見て砂漠の犬と戦おうとは思わないっすよ!! 逃げましょう!!」

「オーッホッホッホ!! ここであったが一万年目ですわ!!」

「んな事言っても後ろからお嬢様達来てるのよねぇ。こりゃおじさん達全滅だわ」

 共に戦った相手も、既に戦った相手も、このイベント戦では常に敵である。

 

 

 そして、イベント戦の残り時間は三十分を切ろうとしていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 大量のビーム砲がケイのストライクを襲う。

 

 

「助けに来たぜケイ!」

「助かる、イア!」

 変形したZガンダムに捕まり、なんとか砲撃の雨から離脱するケイのストライクBond。

 装備しているのはダブルオーストライカーで、ユメのデルタにはクロスボーンストライカーが装備されている状態だ。

 

 そして対するは───

 

 

「おいおい逃げるな! もっと俺に食わせろ!!」

「もう充分じゃないですか!?」

 百鬼のリーダー、オーガである。

 

 イベント戦の中盤で戦ったオーガはケイの事が気に入ったらしく、こうしてずっとちょっかいを掛けてくるようになったのだ。

 

 

「……まぁ、でも負けっぱなしは嫌だしな!」

 このイベント戦でReBondは上位を狙える程ポイントを稼ぐ事は出来ていない。

 

 しかし、そうなればもうこのイベント戦を楽しむ事を優先出来る。

 歴戦の猛者が相手からやって来てくれているのだから、断る理由もない。

 

 

「ユメ!」

「分かった!」

 ケイとイアの前に、ユメのデルタグラスパーがビームシールドを展開しながら飛び出した。

 

「なんだ? フルクロス付きの可変機……。美味そうじゃねーか!!」

 百鬼のオーガ。

 彼の機体、ガンダムGP─羅刹はガンダム試作二号機をカスタマイズした機体だ。

 特徴的なのは遠近共に協力な武装を持ちつつ、太陽炉───GNドライヴを積み込んでいる事でトランザムシステムまで使える点だろう。

 

 ケイはGBNにログインして初めてのバトルでこのオーガのGPー羅刹と戦っている為、その強さは嫌でも知っていた。

 

 

「食らわせてやる!!」

 放たれるビーム砲。

 ユメはビームシールドの出力を最大にして、さらに装備しているフルクロスでなんとかオーガの攻撃を耐える。

 その背後から、ケイとイアが接近して砲撃終わりに二手に分かれオーガを挟み込んだ。

 

 

「連携か」

「貰った!」

「甘い……!」

 イアのZを蹴り飛ばし、ケイに武器を構えるオーガ。しかし、ケイは機体がぶつかり合う寸前でトランザムを使い一気に加速してオーガの上を取る。

 

「俺様のターン!! トランザム!!」

「ハッ! 本命はこっちか!!」

 そんなオーガの背後を取っていたロックのデュナメスHellがGPー羅刹を捉えようとした刹那。

 

「鬼トランザム!!」

 オーガのガンダムGPー羅刹もトランザムを始動。

 

 ストライクBond、デュナメスHell、ガンダムGPー羅刹の三機がぶつかり合った。

 

 

「あーなるとそうそう手出し出来ないっすねぇ」

「援護射撃しても味方に当たるかもだしねぇ。それよりも、おじさんはあっちが気になる訳よ」

「あっちとは───おっと……」

 戦いを見守るニャムとカルミア。

 カルミアが気になる方角を見ると、六機のMSが向かってきているのが確認出来る。

 

 

「───トランザムインフィニティ!!」

「───来たか、リク!!」

「オーガ!!」

「リク!?」

「おっと乱戦か! 面白いじゃねーの!」

 乱入してきたのは、ビルドダイバーズの六人だった。

 

 リクはトランザムを使ってオーガとの戦いに参戦。

 ユッキー達は目があってしまったなら仕方がないと、ReBondの面々に攻撃を仕掛ける。

 

 

「サテライト来るなぁ、コレ! ニャムちゃん!」

「任せて下さいっす!!」

「コーイチさん! あの二人が硬過ぎてユメちゃん達に近付かないよ! 何とかして!」

「そんな事言われても!?」

 三つ巴に加速する戦場。

 

 

 イベントの残り時間も僅か───そんな時だった。

 

 

「ハイパーお腹ビ───え? きゃぁ!?」

「何処から……!?」

 突然ビルドダイバーズのモモの機体、モモカプルが爆散する。モモはモモカプルに内蔵されているミニカプルで脱出するがその背後でコーイチの機体もビームに襲われていた。

 

「え? 何? 何々? ユッキー!」

「これは……見えないファンネル? うわぁ!?」

 ユッキーのジェガンブラストマスターを襲うファンネル。次第にその量は増え、ビットやドラグーンも混じり始める。

 

 

「なんすかね? ビルドダイバーズの人達が後ろから襲われてるっすよ」

「漁夫って奴ねぇ。後ろ取られちゃったんでしょ。……でもこれ、悲しいけど戦争なのよね」

「言いたかっただけっすね?」

「ニャムちゃんに言われたくないわよ」

 半目でニャムに言い返したカルミアは「けど、獲物奪われるのは面白くないな」とメガランチャーを戦闘の光に向けた。

 

 しかし、モニターを覗き込んだカルミアは目を丸くして固まる。

 

 

「カルミア氏?」

「アレは……」

 カルミアの目に映ったのは───

 

 

 

「───アヤメさん!」

「分かった」

 アヤメの機体、RX─零丸は元になったユニコーンガンダムのシステム───NTDに変わる忍闘─道(NINTO─DO)を発動した。

 元祖ニュータイプデストロイヤーと同じく、零丸に組み込まれたこのシステムは相手のサイコミュ兵器をジャックする事が出来る。

 

 ゲームのシステム上、ビットやドラグーンもジャック出来るそのシステムでアヤメはビルドダイバーズの仲間の危機を救った───かのように思えた。

 

 

「別のファンネル!? 待って、数が───」

 ジャックしたファンネルの他に、更にファンネルとビットが飛来しビルドダイバーズの面々を襲う。

 撃破されるアヤメの零丸。

 

 侵攻してくる部隊は、全て赤い塗装がされていた。

 

「アヤメさん!」

「モモちゃん一旦逃げ───うわ!?」

「コーイチが!」

「んもー! 後ろからなんてズルい!」

「アヤメさんとコーイチさんが? サラ……!」

 オーガやケイ達との戦いを切り上げ、サラ達の元に向かうリク。

 

 そんなリクを見て、取り残された三人は「なんだ?」とリクの背中に視線を移す。

 

 

 

「ビルドダイバーズと、ReBondか……。アオト、これで目的は達成した。適当に遊んでやっても良い」

「……分かりました、セイヤさん」

 ───ビルドダイバーズを襲い、ReBondやオーガ達の前に現れたのはセイヤとアオトを含むアンチレッドの一個中隊だった。

 

 

「イージス……アオトなのか?」

「アオト君……」

「アオト……」

「兄さん……」

「セイヤ……」

「……ケイスケ、ユメカ、タケシ」

「……ビルドダイバーズのサラ、ReBondのイアか」

 因縁がぶつかり合う。

 

 

 イベント戦終了まで残り十分。



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ブレイクドラグーン

 ビルドダイバーズ、ReBond、そしてオーガ達の前に現れた赤いMSの軍勢。

 

 

 その中にいるイージスを見て、ケイはNFTでアオトと戦った時の事を思い出した。

 

 

「……アオトなのか?」

「……ケイスケ、ユメカ、タケシ」

 操縦桿を強く握る。

 

「俺は、全てを壊しにきた」

 首を横に振った少年は、一度目を閉じてから前を向いた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ダブルオースカイがサラの機体の前に出る。

 

 

「二人共、下がって! ユッキー!」

「うん! フルバースト!!」

 サラとミニカプルに乗ったモモを庇うリク。彼はユッキーに相槌を打って、ユッキーは突然現れた赤い軍勢に射撃武装を集中させた。

 

「邪魔だ。……ファンネル」

「うわ!?」

 アンチレッドの機体を数機葬るユッキーだが、セイヤのファンネルを避ける事が出来ずに大破してしまう。

 

 

「なんてファンネルの制度───えぇ!?」

「消えろ」

 ファンネルの攻撃をしながらユッキーの機体に近付いていたセイヤは、ビームサーベルで彼の機体を真っ二つに切り裂いた。

 一瞬の事に唖然とするリクだが、直ぐに切り替えて赤いνガンダムに刃を向ける。

 

 

「この人は……強い!」

「おい!! 何一人で美味そうな獲物を取ろうとしてやがる!!」

「オーガ!?」

 リクが構えた直後、背後からGP─羅刹が突然νガンダムに切りかかった。リクは冷や汗を流しながら苦笑いする。

 

 オーガは相手が強ければ何でもいいのだろうが、リクはνガンダムのパイロットから何か嫌な気配を感じていた。

 

 

「サラをお願い!」

「え、ちょっと!?」

 モモにサラを頼んだリクは、オーガに加勢するようにνガンダムに戦いを挑む。

 サラはそんなリクを見ながら不安そうな表情をしていた。

 

 

「なんだ! 邪魔するならお前から倒すぞ!」

「悪いけど、多分そんな事言ってられないよ!」

「……百鬼のオーガとビルドダイバーズのリク、か。因縁だな」

 セイヤは目を細めてそう言うと、ファンネルを放ちながらビームライフルを乱射してビームサーベルを抜く。

 

「遊んでやる……! お前らも好きにやれ! ()()()()()()

「目標……?」

 首を傾げるリクだが、セイヤの猛攻にそれどころではなくなってしまった。

 

 オーガもリクも、トランザムを使い終わったばかりで機体の能力が大幅にダウンしている。一方でνガンダムは新品同様だ。

 それだけでも二人は不利だが、オーガは少し切り合って不敵に笑う。

 

 

「……今日は美味そうな奴が見つかる日だ!」

「オーガ!?」

 一人突貫するオーガ。そして鬼トランザムの反動で低下した能力に加え、オーガの認める実力を待つセイヤ。

 

 勝負は一瞬で決まってしまった。

 

 

「───チッ、負けは負けだ」

 本調子ならともかく、猪突猛進だったオーガは撃破されてしまう。リクは苦笑いしながら、イベント戦の残り時間を確認した。

 

 

「残り三分……」

 嫌な気配のする男が、()()()()()()と言っていた言葉が頭から離れない。

 今何をするべきなのか、リクは横目で背後にいるサラ達を見ながら考える。

 

 サラに男を近付けてはいけない。リクは直感的にそう感じた。

 

 

 

「アオトなのか!!」

「……ならどうした」

 一方でダブルオーストライクBondと交戦するイージス。

 

 ロックは誰に言われる訳でもなく、そんな二人の邪魔をしようとする周りの赤い機体を薙ぎ倒していく。

 

 

「あのイージスがまたアオトなら、話をしたい所だが……!」

「イベント戦、あと三分もないっすよ!」

「セイヤめ、何しに来たってんだ。……ニャムちゃん! ロッ君! 射線を開けてくれ。メガランチャーで吹き飛ばす!」

 メガランチャーを構えるカルミア。彼の言葉で射線から離脱する二人をギリギリ掠めながら、メガランチャーはアンチレッドの機体を半分以上吹き飛ばした。

 

 

「おっさん!? ちょっと滅茶苦茶やってねーか!?」

「悪いなロッ君。正直、ここまで来たら今回はセイヤの事はほっとくつもりだったが、こんな時間に相手からこっちに来たのなら話は別よ……」

 言いながらスラスターを吹かせるカルミアは、ニャムのアカツキを連れ去って赤いνガンダムの元に向かう。

 

「ロック氏はあのイージスを! 多分あのイージスは!」

「分かってるっての! くそ、なんだってこんな時間に」

 目を細めて、ケイと戦うイージスに視線を向けるロック。その先で、ケイは放たれたビットの追従を振り切ろうとしていた。

 

 

「───トランザムでパワーが……!」

 アラートとアラームが鳴り響く。

 

 トランザム終了後の大幅な機体性能の低下でビットからまともに距離を取る事も出来ない。

 本当はアオトと話がしたいケイだったが、今撃破されれば一分のリスポーン時間でここに戻ってくるのは絶望的だった。

 

 だから今は、負ける訳にはいかない。

 

 

「───だ、けど……! くそ!」

 ビットがストライクBondの足に直撃する。なんとか足だけで済んだが、まだビットはストライクBondを執拗に追ってきていた。

 

 

「やられる───」

「ケー君!!」

 そんなケイのストライクBondを攫うように、ユメがビットからケイを突き放した。

 ユメのデルタグラスパーを見て、アオトは表情を歪ませる。

 

 

「ユメカ───」

「ようアオト!! 久し振りだな……ちょっと遊ぼうぜ!!」

 そんなアオトの背後から、ロックがビームサイズを展開して切りかかった。

 アオトは瞬時に反応して展開したビームサーベルでビームサイズを受け止め、シールドからビットを放つ。

 

 

「タケシか……」

「ロックだって言ったんだろうが!!」

「いつまでも子供みたいな事言って、本当に下らないな……。ブレイクビット!」

「そんな小手先が通用するかよ!!」

 ビットをビームサイズで切り飛ばしていくロック。そんな彼に、ユメは「タケシ君! 違う!」と声を上げた。

 

 

「何……!?」

「ブレイクファンネル」

 突然、ビットを全て切り飛ばして安全だった筈のデュナメスHellが何発物ビームに貫かれる。

 爆散するデュナメスの中で、ロックは「何が起きた……」と意味が分からないと言いたげな表情をしていた。

 

 

「クリアパーツのファンネルか……?」

「多分そう……!」

 肯定するユメに、ケイは「そんな厄介な物作ったのかよ」と目を見開く。

 

「アオト、やっぱりお前面白いよ。……なのに、なんで!」

「黙れ。俺は、全部壊すんだ。……ブレイクドラグーン!!」

 今度はイージスのスカートから分離したドラグーンがケイとユメを襲った。

 

「アオト君……!」

「アオト、お前の……お前達の目的は……なんだ!」

 このままでは話どころか撃破されておしまいである。それに、時間は刻一刻と迫っていた。

 

 

 

「───リク、あの赤いガンプラ……悲しそうにしてる」

「サラちゃん? 何か分かるの? あの人達の事」

 そう話す二人を背に、リクは赤いνガンダムを駆るセイヤと戦っている。

 サラに言われなくても、リクにはセイヤからの負の感情がひしひしと伝わってきていた。

 

「……どうして、そんなに悲しそうにGBNをプレイするんですか!」

「……()()のお前にこそ、俺の気持ちなんて分からないだろうな。消えろ!」

 ダブルオースカイの周囲を囲むファンネル。しかし、そのファンネルを黄金のドラグーンが撃墜する。

 

 

「兄さん!」

「セイヤ、何しに来た!」

 ニャムが操るアカツキのドラグーンだ。カルミアと共にリクとセイヤの間に入ったニャムは、ビームライフルを赤いνガンダムに向ける。

 

「……ナオコ、カンダ」

「今度は何を企んでるんだ。何をしたって、GBNの人口が減る事はないって分かっただろ。GBNへの復讐なんて、もうやめろ」

「カンダ、お前は運営がレイアにした事を忘れたのか?」

「それは……そんな事は───」

「なら俺の答えは分かる筈だ。俺はただ、GBNを潰す」

 放たれるビームライフル。しかし、カルミアのレッドウルフの前に立ったアカツキのヤタノカガミによりライフルは明後日の方角に弾かれた。

 

「兄さんに何が起きたかは、聞きました。でも、なんで私に何も言ってくれなかったんですか……! 私は───ジブンは、兄さんの事をずっと心配してたんすよ!」

「誰にも俺の気持ちは分からない。……俺は、何も聞く気なんてない。……だが、今日は遊んでやる」

 言葉と共に、ファンネルがニャムの機体の周りを囲み出す。

 

 

「無駄っすよ。このアカツキにビーム兵器は効かないっす! 兄さん、話を───」

「違うぞニャムちゃん、ソイツは!」

「───え?」

 ビームを放ってくるかと思われたファンネル。しかし、ファンネルはそのまま直進しアカツキに物理的にぶつかって来た。

 

「うわぁ!?」

「またな、ナオコ」

 ファンネルの激突でバランスを崩したアカツキをビームサーベルで切り刻むセイヤ。そんなセイヤに、背後からカルミアのレッドウルフが切り掛かる。

 

「セイヤ!! 人の話を聞け!! お前は救われたいんだよ。じゃなきゃ、こんな所に来ないだろ!!」

「……違うな、ここに来た目的はもう達成してる」

 レッドウルフの両腕を肩からサブアームごと切り飛ばしながらそう言うセイヤ。

 彼はそのままコックピットをビームサーベルで貫こうとするが、その攻撃は間に入って来たリクのサーベルに阻まれた。

 

 

「……なぜ邪魔をする」

「そのままじゃいけないって、そう思ったから……!」

「ビルドダイバーズの……。リク君か」

「ケイの仲間の……。援護します!」

「援護しますったってね、少年よ───」

「イベントの残り時間も少しです。あの人に伝えたい事があるなら、きっと今しかない!」

「……若者ってのは、本当に気が効くねぇ。おっしゃ! ひとまず共闘と行こうか!」

 腰のサブアームを展開して、カルミアはケイと共にセイヤに挑む。

 

 

 一方でアオトと戦うケイの間に入り込む()()()()が一人。

 

 

「楽しそうな事、ボクを置いてやられちゃ困るなぁ!」

 イアのZガンダムがビームサーベルをイージスに向けて振り下ろした。

 

 

「……お前、あの時の。……なるほどな」

「なるほど? なんだ? なんでお前とお前のガンプラは、そんなに辛そうに戦ってるんだ?」

「黙れ……!」

 イアを振り払うアオト。

 

「イアちゃん!」

「イア、アイツは俺達の幼馴染みで───」

「幼馴染み? そうか、だからあのガンプラ───」

 そしてイアがそう言い掛けたその時。

 

 

 

【time's up】

 モニターにそんな文字が映し出される。

 

 

 超大規模変則スコア戦はその瞬間幕を下ろした。



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赤色の目的

 時間切れ。

 誰かがそう言った。

 

 

【time's up】

 モニターにそんな文字が映し出される。

 

 

「くそ、時間か……セイヤ!!」

「……じゃあな、カンダ」

「アオト! 話を聞いてくれ!!」

「……お前の話なんて、聞かない」

 超大規模変則スコア戦はその瞬間幕を下ろした。

 

 機体は転送され、戦場はリセットされていく。

 データの波に消える共に手を伸ばしても、その手は届かなかった。

 

 

 

「───カツラギさん、アンチレッドのメンバーのログを確認してくれ」

「キョウヤ? 分かった。……む、これは」

 カツラギの前に現れたキョウヤは、カツラギにそんな事を言って目を閉じる。

 

 そしてモニターに映った、今イベント戦でのアンチレッドのメンバーのログを見てカツラギは目を細めた。

 

 

「……少数部隊で全てのフォースの接敵し、戦っている。まるで何かを探しているようだ」

「そう、きっと今回彼等がこのイベント戦への招待を受けたのは───」

 モニターに映るダイバー達のログ。

 

 その中で数点ほど、赤くチェックが付けられている物がある。

 それは今回のイベントに参加しているELダイバー達だった。

 

 

「───ELダイバーの皆が所属するフォースを確かめる為なのかもしれない。勿論、これはELダイバーの失踪事件に彼等が関わっているのなら……という話だけどね。カツラギさん、僕達は利用されてしまった」

「……むぅ」

 カツラギは頭を抱えてから、もう一度モニターを眺める。

 

 

「……アンチレッド、か」

 SDガンダムの姿であるにも関わらずその表情が歪んでいるのをキョウヤは感じた。

 

 複雑な感情が渦巻く中で、キョウヤはカツラギに背を向ける。

 

 

「……彼等の動きを注視して下さい。僕も、出来る限りの事はやろうと思う」

 そう言ってキョウヤはカツラギの元を去った。

 

 

 同時に、イベント戦のポイント集計が終わったとするアナウンスが流れる。

 

「……我々の過ちか」

 カツラギは再びモニターに視線を移してから、深く目を瞑った。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ───アナウンスが流れる。

 

 

「───超大規模変則スコア戦、優勝フォースは!! フォース、AVALONです!!」

 イベント戦の優勝フォースが発表されると、会場は大いに盛り上がりを見せた。

 

 しかし、その中で必死に人々を掻き分けながら周りを見渡す影が数人。

 

 

「ニャムちゃん、諦めなって。アイツの事だ、もう此処には居ない」

「それは───そうっすね。楽しむと決めていたのに、結局取り乱してしまったっす」

 イベント戦の後半でReBondの前に姿を見せたアンチレッドのメンバー達。

 その目的は何だったのだろうか。今となっては聞くことも出来ない。

 

「アオトの野郎、耳を傾ける気もなかったって感じだったな」

「そうだね……」

「アオト……」

 ケイ達三人も、幼馴染みの事を想い固まっている。

 

 

 今回のイベント戦。

 確かにアンチレッドも参加していたが、彼等の目的は楽しむ事の筈だった。

 

 勿論本気でバトルを楽しんでいたし、結果は出せなかったが自分達なりに手応えのあるバトルも出来たし繋がりも増えている。

 

 

 それでも───

 

 

「アオトを止める力が俺達には足りなかった」

 ケイもユメも新しい機体を使いこなしているが、アオトに言葉を届けるまでには至っていなかったと反省していた。

 ロックは「アオトが聞く気がなかっただけ」だと言うが、そんな彼の言葉にイアは首を傾げながらこう口を開く。

 

「あの赤いガンプラは、ケイ達と話したがってたけどなー」

「赤いガンプラ?」

「イージスの事か?」

 イアの言葉にケイ達は目を丸くした。

 

 

 ガンプラの声が聞こえるというELダイバーの力。

 あまりにも真実味のない話ではあるが、ケイ達はイア以外にもサラという前例が居る事も知っている。

 

「アオトの作ったイージスが、か」

「なんか分かんないけどさ、喧嘩したならちゃんと謝った方が良いぞ。ガンプラが可哀想だ」

「喧嘩した訳じゃねーけどな。……いや? どうなんだ? 喧嘩してるのか?」

 イアの言葉にさらに首を傾げるロック。そんな彼を他所に、イアは「はー! 楽しかった!」と両手を広げた。

 

 

「……そうだな。楽しかった」

 結果だけ見れば残念だったが、このイベント戦は彼等にとって掛け替えの無い経験になったに違いないだろう。

 

 ただ、アンチレッドの動向だけはどうしても気になってしまった。

 セイヤはReBondやビルドダイバーズの面々を確認するや、目的は達成したと言っていたのを思い出す。

 

 彼ははいったい何をしようとしているのだろうか。

 

 

「お、見付けたぞ! ロック・リバー!」

 そんな事を考えていた彼らの元に、狼の獣人の姿をした大男が声を掛けて来た。

 

「え、タイガーウルフ?」

「イベント戦で戦った凄い人だよね?」

「虎武龍の大将じゃないっすか!!」

 何故かロックに話し掛けてきたタイガーウルフの姿に、ケイ達やニャムは目を丸くする。

 

 

「お、タイガーウルフじゃねーか! さっそくバトルの誘いかぁ?」

「まてまて、今日は流石にもう遅い。だから、連絡先を交換しようと思って来たんだ」

「オッケー。これ、俺様のIDな」

「おう、助かるぜ!」

 タイガーウルフと自然に会話するロックを見て、ケイ達は悩み事が何処かへ吹っ飛んでしまった。

 

 

 このイベント戦は楽しもう。

 そんな事を思い出して、ケイ達は笑い合った。

 

 

 初めから目的は楽しむ事で、そういう意味では彼らも目的を達成している。

 アンチレッドがなんだとかは関係ない。

 

 

 楽しんで、強くなって、それからアオト達に語りかけるのがReBondが結成した時の目標だった。

 

 だから彼らは何も間違っていない。しっかり、前に進んでいる。

 

 

 

「───これにて、超大規模変則スコア戦を終了致します! なお、今大会の内容は後日配信される予定です。お楽しみに!!」

 アナウンスと共にダイバー達は次々とログアウトしていった。

 

 やはりその中にアオト達の姿はない。

 

 

「ま、過ぎた事は気にしてもしょうがねーよ」

 そう言って、ロックはReBondのメンバーを手で集める。今回のログを見て反省会をしているうちに、イアも含めた五人は杞憂など忘れて本来の目的通りこのイベントを楽しく終わらせる事が出来たのであった。

 

 

 

 

 

 現実。

 

「───ELダイバーの蓄積データによるバグ、ですか」

「そうだ。アオト、お前は一年半前のGBNを知らないんだったっけか」

 アンチレッドの団員の一人に問いかけたアオトに、団員はそう聞き返す。

 

「いや、聞いた事はありますよ」

 一年と半年前。

 第二次有志連合戦は、GBNの内外でも有名な話だ。

 

 

 バーチャル世界に誕生した新たな生命ELダイバー。

 ガンダムにもガンプラにも、GBNにも興味がなくてもこの話題に興味を示す物は多かっただろう。

 

 

「なら話が早い。運営がELダイバーを消そうとしたのは、アイツら電子生命体はGBNのサーバーで命としてのデータを蓄積していく訳だが。命っていうか、凄い膨大なデータって言った方が良いか。そんで、GBNのサーバーはその膨大なデータに圧迫された」

「それでバグが起き始めた」

「そういう事だ。あの事件以来、ELダイバーのデータを外に移す技術が確立され、今ELダイバーは保護されている。……ここまで言えば、団長が何をしようとしてるのか分かるだろ」

 そう言って団員の男は、両手を上げながらアオトの元から離れていった。

 

 

 ELダイバーのデータ。

 

 ELダイバーの保護。

 

 ELダイバーの失踪事件。

 

 

「ELダイバーの命でGBNのサーバーそのものを破壊する、か」

 アオトはそんな言葉を漏らしてから目を瞑る。

 

 

「───関係ない。俺は、GBNさえ壊すことが出来ればそれで良いんだ」

 少年の瞳は異様な程に真っ直ぐ、前を向いていた。



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第十一章──長い一日【イアとGBN】
長い一日の始まり


 トコトコと浮き足で、ヒメカはデパートの入り口へ向かう。

 

 

「おねーちゃん、大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。自動ドア開けてくれてありがとね」

 ゆっくりと車椅子で進むユメカの為に、ヒメカは周りの人に頭を下げて道を開けてもらっていた。

 そんな妹の優しさに嬉し恥ずかしながら、ユメカはデパートに入っていく。

 

 道が開ければヒメカが車椅子を押してくれるので問題ないが、人の多いデパートに車椅子で来るのは大変だ。

 それでもユメカがここに来たのは、先週のイベント戦の為に妹の誘いを断ってしまった詫びでもある。だから、今日GBNはお休みだ。

 

「よいしょ……ふぅ」

「私が押してくから大丈夫だよ! おねーちゃん。今日はどのお店見よっかなぁ」

「うん、ありがと。どうしようねー」

「おねーちゃんとデート! おねーちゃんとデート!」

「あはは、はしゃぎ過ぎだよ」

 家から近いとは言えないデパートまでやって来て疲れてしまったが、この妹の笑顔の為なら頑張れる。

 

「今日は一日使って色んなお店回ろうね!」

「う、うへー。が、頑張ろうかなぁ……」

 それに、最近GBNばかりで体力が落ちて来ているかもしれない。少しは体を動かさないといけないと思う、ユメカなのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GBN。ReBondのフォースネスト。

 

 

「おっす、ケイ。ユメは?」

「今日はデパートだって」

「あー、ヒメカちゃんか。そういや昨日学校でそんな事言ってた気がすんな」

 超大規模変則スコア戦から一週間後。

 

 今日も今日とてGBNにログインしているケイとロック。そんな彼等を見て、イアはポツンとした表情でこう口を開く。

 

「二人共暇なのか?」

「え」

「は」

 素っ頓狂な反応をした二人に、イアはさらにこう続けた。

 

 

「所謂、現実(リアル)って世界では皆ご飯を食べたり寝たり、勉強したり仕事したりガンプラ作ったりって事をしてるんだろ? でも、二人は毎日ここに来てくれてるよな。ボクはそれはそれで退屈しないから嬉しいんだけどさ」

「い、いやいや。ほら、ニャムさんも毎日来てるだろ?」

「今日はニャム居ないぞ」

 焦った声で言うロックにそう返すイア。言われてみれば、フォースネストにはイアを含めた三人しか居ない。

 

「な、なんで!? おっさんも居ないし!!」

「ニャムさんは大学の課題を進めたいってのと、カルミアさんはプラモ屋のバイト。今日は在庫整理とか色々で忙しいらしくて来れないんだって」

「そういやログインする前にそんな事言ってた気がするな……。さっさとこっち来たくて殆ど内容書いてなかったわ」

 ロックはカルミアが今働いているプラモ屋、つまりアオトの父の家からGBNにログインしているのでカルミアの事は頭の片隅にあったがましかニャムがログインして来ないとは思っていなかったのである。

 

 ここ半年、ほぼ毎日GBNにログインしていた二人だがReBondを結成してからこんなにメンバーがログインしてないのは初めての事だった。

 

 

「ReBond解散の危機か!? 俺のリーダー力が足りなかったってか!? お、終わりだぁ!! フォース解散だぁ!!」

「お、落ち着けタケシ。たまにはそんな事もあるって。ほ、ほら、とりあえず深呼吸しろ。な?」

「いや、お前が一番落ち着けよ。GBNで深呼吸もくそもねーよ」

 大袈裟な反応を見せるロックの隣で、ケイはガクガクと震えている。なんやかんや、ケイが一番GBNを楽しんでいるというのは最近のロックの見解だった。

 

 

 

「───ともあれ、今日は何すっかなぁ」

 ケイを落ち着けて、イアと三人でフォースネストの中で話すロック。

 イベント戦も終わった直後で、直近に特に目標はない。

 

 普段の平日は適当にデイリーミッション等を進めてから二、三戦バトルをしたら終わってしまうが今日は休日である。

 ニャム達のように現実で特にやる事のない二人には時間が有り余り過ぎていた。

 

 

「とりあえず、デイリーミッションとかやるか?」

「まぁ、黙ってても仕方ないしな。イア、観戦モード付けるからバックアップしてくれ」

「オッケー、任せてくれ!」

 そんな訳で、二人はイアに手伝ってもらいながらミッションをこなす事に。

 

 

 選ばれたミッションは敵ボスMSの撃破が目標のミッションである。

 

 ステージ奥に待ち構えるボスに辿り着くには、ステージに点在するMS達の猛攻を潜り抜けるか全てを撃破していかなければならない。

 丁度ケイがユメと初めてGBNでクリアしたミッションと同じような内容である。

 

 

「えーと、ボスキャラはさざびー? 取り巻きはぎらどーが、ボスの前でやくとどーがってのが出現するってさ」

「サザビーか。んで、ボスの護衛がクェスとギュネイって事だな」

「逆襲のシャアって感じだな。α・アジールとかが邪魔で入って来たりしたらとんでもない難易度になってたかもしれないけど」

 サザビーさえ撃破すればミッションはクリアだが、今回は別にミッションをクリアするのが目的ではなかった。

 

 ミッションではポイントを稼げば稼ぐ程多くの報酬が貰える。

 GBNはその報酬でアイテムを買ったり食事を楽しんだり、機体の改造改修も出来るのでポイント稼ぎは重要だ。

 

 GBNを始めたてのあの頃ならともかく、今ミッションをやるなら()()()()()を狙ってクリアが基本なのである。

 

 

「ケイ、ストライカーは?」

「エクリプスでギラドーガを倒してポイント稼ぎだな。ボスサザビーはちょっとタケシに頑張ってもらうけど」

「任せろって。けど、ロックな」

 言いながらミッションの準備をした二人は、コンソールパネルから【MissionStart】のボタンを選んだ。

 転送される二人を見送ってから、イアは自分のコンソールパネルを開いてナビゲートモードに移行する。イアのコンソールパネルに、二人分のメインモニターとレーダー等が映し出された。

 

 ミッションではAIナビゲーターを利用する事が出来るが、AIナビゲーターよりも生身の感性を持った仲間のダイバーにナビゲートしてもらった方が確実である。

 

 

「ふっふっふ、ボクはAIとは違うのだよ! AIとは!」

「そんな言葉どこで覚えたんだ……。ニャムさんか」

「ニャムさんだろうな」

「───ぶぇっくしゅん!! あれ? なんでしょう。私、誰かに噂されてたりします?」

 現実でナオコ(ニャム)がくしゃみをしている事は誰も知らず、ケイとロックのミッションが始まった。

 

 

 

 MissionStart

 

「カルネージストライカー……!」

 ミッションが始まると同時に、スラスターを吹かしながら極限進化形態のカルネージストライカーを展開するエクリプスストライクBond。

 次の瞬間放たれたビーム砲は、ケイから見て右側にいた大隊をほぼ壊滅させる。

 

 さらに同時に放たれたエクリプスクラスターのミサイルにより、左側の部隊も半壊。

 火力だけに関して言えばケイのエクリプスストライカーはカルミアのレッドウルフをも上回る性能だ。

 

 問題は手数と弾幕の持続能力で、カルネージストライカーはそう何発も使える武装ではない。エクリプスクラスターに関しては使い切りの武装である。

 そうなるとそうなるとフルバースト後の武装はブラスターカノンとヴァリアブル・サイコ・ライフルのみだ。

 

 ケイの中でコレはネックな所だが、中々良い改修案が浮かばずにいる。

 ついでにユメ曰くエクリプスは重くて足が遅くなるからあまり装備したくないとの事。

 

 ユメも前に出るようになってからバトルを楽しむタイプになってきたなと、ケイは苦笑いしながらも内心は喜んでいた。

 

 

「タケシ、行け!」

「ロックな! イア、俺のレーダーに映った残存戦略をケイに連絡してくれ」

「もうやってるぜ! ケイ、タケシから十時の方向に漏らした敵が集まってる!」

「ミサイルが届かなかった位置か。タケシ、援護するから当たるなよ!!」

「お前ら良い加減ロックって呼べよ!!」

 言いながらイアの言った方角に気を向けて回避運動を取りながら進むロック。

 数秒遅れてミサイルや弾丸がロックのデュナメスHellを掠めるも、その殆どはケイのライフルで撃ち落とされる。

 

「よっしゃ、サザビー行くぜ!」

「失敗するなよ。俺は残りを叩いてる!」

 言いながら、ケイはイアのナビゲートを元に残存戦力に火力を集中させた。

 

 

「最速クリアタイム頂きだぁ!! トランザム!!」

 ある程度近付いてからトランザムを使用したロックは、サザビーに向けてビームサイズを振り下ろそうとする。

 しかし、赤いヤクトドーガが盾を構えてサザビーの前に立ちはだかった。

 

「何故邪魔をする! クェス!」

「それ使い所違う!」

 ケイのツッコミを無視して、ロックは放たれたファンネルをビームサーベルで切り飛ばす。

 もう一機、深緑色のヤクトドーガが現れると流石にロックも苦い表情でサザビーから距離を取った。

 

 

「マジで邪魔なんだが!」

「そういうもんだろ! タケシ、サザビーも見ろ!」

「あ? うわ!?」

 イアの忠告を聴いてサザビーに視線を向けると同時に、メガ粒子砲が放たれデュナメスHellの右足が吹き飛ばされる。

 

「だから言ったのに!」

「ご忠告痛み入るぜ!! んなろう、どうしてやろうか」

「ケイがもう少しで射程内まで行けるから、援護射撃で二機を退かしてもらおう! そこでガツンと行こうぜ! あと十秒使って二機をボスから離して!」

「無茶振りだろ! やるけどな!!」

 言いながらヤクトドーガにサーベルを大振りに見せて距離を取らせるロック。

 

 

「やっちゃえケイ!」

「タケシ、サザビーを!」

「だからロックだってのぉぉおおお!!!」

 連射されるヴァリアブル・サイコ・ライフル。二機のヤクトドーガは撃破こそ出来ないもののサザビーからかなり距離を取らされた。

 

 そうなれば後はロックの仕事である。

 

 

「シャア! 覚悟!!」

 振り下ろされるビームサイズをビームサーベルで受け止めようとするサザビー。

 その刃が触れ合う直前、ビームサイズを手放して姿勢を落としながら、ロックはGNソードIIショートとビームサーベルでサザビーを切り裂いた。

 

 

【MissionComplete】

 

「「「よっし!」」」

 同時に拳を突き上げる三人。

 フォースネストに戻ってきたケイとロックはミッションのスコアを見て「スコア更新出来ねー」「ヤクトドーガ落とせなかったしな」と反省会を開く。

 

 

 そんな二人を見ながら、イアはふと悪気もなくこんな言葉を呟くのだった。

 

 

「んで、今日は二人だけでなんかするのか?」

「あ、忘れてた……」

「これ終わったらやる事ないって現実逃避してたのに、お前って奴は……」

 長い一日は始まったばかりである。



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接近戦なら

 カンダ・カラオの朝は早い。

 

 

「よーし、間に合ったな。てんちょー、帰ったわよー」

 新しいプラモの発売日。

 カラオは日が上るよりも遥か前にトラックを運転し、新商品を運んでくる。

 

 ケイ達が良く集まるプラモ屋。

 アオトの父が経営するこの店に勤める事になったカラオは、ケイ達がGBNをプレイしている時以外はこうして店の手伝いをしていた。

 

 

「流石に新作の発売日は忙しいわねぇ。お、サバーニャ決戦仕様だって。これはロッ君とか喜ぶんじゃない?」

「休日なのに働いてもらって悪いね、カンダ君。本当はケイ君達と一緒にGBNを楽しんで欲しかったんだけど」

「何言ってるのよ店長。そもそも、ケー君達がログインしてる時間こそ本来は忙しい筈なのにおじさんは遊んでるんだぜ? 偶に忙しい時くらいこき使ってちょうだいな」

 カラオの言う通り。

 

 学生であるケイ達がGBNをプレイするのは平日の夕方や休日である。

 当たり前だがその時間こそ店が忙しくなる時間だ。

 

 

「あはは、助かるよ」

「任せて頂戴よ。店長には衣食住なんとかしてもらってる恩もあるんだから」

 カラオはそう言うと、トラックから運んで来た商品を店に並べていく。

 そうしていると、彼の背後から一人の少年が店に入ってきた。

 

 ちなみに、まだ開店時間ではない。

 

 

「こーれ。まだ開店時間じゃ───って、ロッ君かい? 早い、早いよ」

「よ、おっさん。今日は新商品出るって聞いてたからな。早めに店が開くと思ってたんだ」

 少年───タケシは、言いながらカラオをすり抜け並べたてほやほやの新商品を眺め始める。

 

「お、サバーニャじゃん。かっけぇな……。店長、コレ買うわ」

「タケシ君おはよう。GBNの電源付けるから、ちょっと待ってね。サバーニャは割引するよ」

「お、やったぜ」

「おいおいてんちょさん、お得意様だからって流石に甘過ぎやしない?」

「タケシ君達はアオトの大切な友達だからね」

 屈託のない笑顔でそう言いながら、店主はGBNの電源を入れて新商品のガンプラを格安でタケシに渡した。

 

「さーて、今日もGBNで暴れてくるかぁ。おっさんはいつ来るんだ?」

「今日はちょっと店の手伝いで行けないかなぁ。ケー君達によろしく」

「何ぃ? せっかく新技を試してみようと思ったのに」

「そりゃ楽しみにしてるわね。……てかロッ君、今日はやけに早いログインね」

「ケイスケが早く来いって急かすんだよ。なんか、今日ユメカが来れないからって」

 言いながらGBNにログインする準備をするタケシ。

 

「さて、今日は頑張りますかねぇ」

 カラオはそんな彼に手を振りながら、開店の準備を進めるのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GBN。ReBondフォースネスト。

 

 

「しりとりしようぜ……!」

「どうしようもなく暇なんだな」

 デイリーミッションを終えた二人は、特に予定もなくフォースネストで過ごしている。

 あまりじっとして居られるタイプの人間ではないロックは、もうなんでも良いから何かがしたいという状態だった。

 

 ついさっき新しいガンプラを買ってきたという話をしたロックに「なら今日は帰ってガンプラを作る日にするか」と聞いたケイに、ロックは「いや面倒くさいから嫌だ」と突っぱねる。

 ロックはガンプラを作るのが嫌いという訳ではないし、技術も持っているが基本的にはファイトがしたいタイプだ。黙々とガンプラを作るのは性に合わないらしい。

 

 

「そんじゃバトルしようよバトル! ボクも久し振りにバトルしたい!」

「いや、イアは難しいぞ」

「なんでだよぉ!」

「お前は撃破されたらヤバいって話をしたろ。リスポーンありのルールはイベント戦とか人が集まるモードじゃないと設定出来ないんだよ」

 イアの初バトル。

 チャンピオン、クジョウ・キョウヤとのバトルは三人で一人と戦うという特殊なルール故に()()()()設定がされたバトルだったのである。

 三人だけでプレイするとなると、中々どうして都合が付かないのだ。

 

「ドケチ!」

「イアはまた今度な」

 ケイがそう言うと、イアは唇を尖らせながら「だったらケイとタケシのバトルが見たいな!」と目を輝かせる。

 

「ロックな」

 二人は「やってみるか」と声を揃えた。

 

 お互い手の内を知る最高の仲間であり好敵手である。

 稀にこうして手合わせをするのも面白い物だと、ケイはここ最近そう思う事が増えた。

 

 

 思えば彼をGBNに誘って、GPDで戦ったあの日以来。

 何度かロックと戦った事はあるが、完全に一対一で戦ったのはあの時が最後だったかもしれない。

 

 

 

「ガンダムファイトぉぉおおお!!! レディィィゴォォォッ!!!」

 どこで覚えたのやら(分かりきっているが)お決まりの文句を合図に二人のバトルが始まった。

 

 挨拶とでもいうばかりに、ピーコック・スマッシャーを連射するケイ。

 ロックは「クロスボーンストライカーか」と目を細めて回避行動を取る。

 

 

 ABCマントを組み合わせて作られたフルクロスという装甲はビームに強い耐性を持っていた。

 デュナメス本来の強みである長距離射撃戦はこのフルクロスで強引に突っ込めば出来なくなる。しかし、ロックと彼のデュナメスHell相手ではそれはむしろ悪手かもしれない。

 

「俺様の射撃戦を封じに来るとはな!」

「それ本気で言ってんの?」

 戦いを見ながらそんなツッコミを入れるイア。ロックの射撃戦能力はイアでもへっぽこだと分かるレベルなのであった。

 

 

「───いや、せっかくだから接近戦の修行でもしようと思ってな!!」

 射撃で牽制しながらロックのデュナメスHellに接近するケイのストライクBond。

 ある程度近付かれると、ロックは「接近戦か、仕方ねぇな」とGNフルシールドを解く。

 

「そうこなくちゃな……!」

「刻んでやるぜ!!」

 展開されるムラマサ・ブラスターとビームサイズが重なり火花を散らせた。

 

 ロックはビームサイズのリーチを活かしてストライクを振り払い、バランスを崩した所で蹴りを入れる。

 一方でケイはクロスボーンストライカーのX字スラスターによるバランスコントロールで直ぐに体勢を立て直すと、ピーコック・スマッシャーを地面に撃ってロックを牽制した。

 

 

「おいおい! 接近戦をするんじゃなかったのかぁ?」

 巻き上がる砂埃に視線を向けながらそう言うロック。しかし、その刹那の後に砂埃の中からビームサーベルを構えたストライクBondが突進してくる。

 

「───ま、そうだとは思ったぜ!!」

 その程度は読んでいるとでも言うように、奇襲に対しても軽く応戦するロック。

 

 ムラマサ・ブラスターならともかく、ビームサーベルではビームサイズのリーチには敵わない。

 ケイの猛攻を受け止め切るロックだったが、ふと頭の中に疑問が浮かんだ。

 

 

「ムラマサ・ブラスターは───」

 なぜケイはビームサーベルで攻撃してくるのか。そんな事を思った次の瞬間、ケイはビームサーベルを投擲してくる。

 そして反射的にそれを弾いたロックの視界からストライクが消えた。

 

 上からの攻撃が迫るアラートが鳴り響く。

 

 

「───上か!?」

 空中でムラマサ・ブラスターを展開したストライクBondが、機体重量を乗せたまま降ってきた。

 

 砂埃に紛れてムラマサ・ブラスターを上空に投げ捨て、ビームサーベルによる奇襲と連撃で気を逸らしてからの本命。ケイらしい機転の効いた攻撃である。

 

 機体重量の乗った攻撃は受け止めるのが難しい。

 これは決まった───ケイやイアはそう思っていた。

 

 

 しかし───

 

 

「わりぃな───」

 ビームサイズを持ち上げ、攻撃を受け止めようという姿勢を取るロック。

 

 そんな事が出来る訳がない。

 そう思ってそのまま攻撃を続行したケイのムラマサ・ブラスターは、攻撃が掠める瞬間に身を逸らしたロックにいなされてしまう。

 

 

「何!?」

「───重い奴にはそれようの戦い方ってのがあるんだよ」

 ───地面にムラマサ・ブラスターを叩きつけたストライクBondにビームサイズを突き刺すロック。

 

 真っ二つにされたストライクBondは爆散し、このバトルの勝者はロックに決まったのだった。

 

 

 

「───なんだ今の!?」

「なんだって、ほら。柔道みたいなもんだ。相手の勢いを利用する訳よ。ま、接近戦なら基本だよな」

 ロックが最後にケイの攻撃に対して行ったのは相手の重量と勢いを使って反撃する技術である。

 主に現実で柔道や相撲、護身術等で有名だがロックが何かそういう習い事をしているなんて話は聞いた事がなかった。

 

「たまに凄いよなタケシ! さっきのなんだ! どこで教わった!」

「ロックな。いや、適当にやったら出来るぞ」

「なんだそれ……」

「本当にたまに凄いな! タケシ!」

「だからロックな!? お前はそもそも俺のリアルを知らないくせに!!」

「あばばばばばば」

 イアの頭をグリグリとするロックを見ながら、ケイはほぼ無傷で立っているデュナメスHellを見上げる。

 

 

「……トランザムすら使わせれなかったかぁ」

 中距離戦を挑んでいたらどうなっていたかは分からないが、やはり接近戦でのロックの強さは彼が知っている中でもトップクラスだ。

 それでも、接近戦だけならかなりの実力差がある事を思い知ってケイは「よし」と拳を握る。

 

 

「タケシ! もう一度だ!」

「だからロックな!? まー、良いけど。コテンパンにしてやるぜ」

「お、またやるのか! 掛け声やってやるぞ!」

 今日一日はまだ長い。



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個人技で

 朝、おでこに柔らかい何かを押し当てられて彼女は目を覚ました。

 

 

「───ん、んぅ……ヤザンさん?」

 起き上がりながら、寝る前にまとめておいた長い髪を解く。

 姿見に映るシャツ一枚に下着だけの格好も気にせず、彼女は───ナオコはほぼ無意識に立ち上がり日課であるペットへの餌やりを済ませた。

 

 

 ナオコは一人暮らしにしては少し広いアパートで暮らしている。

 寒い寒いと言いながら暖房を付けて、昨日買っておいた朝食用のパンにジャムを着けて食べるだけの朝ごはん。ここで、やっと彼女の頭は覚醒した。

 

 

「休日だぁ……」

 学校もなければ仕事もなく。

 

 大学生故、自由な時間というのは多いがやはり何の予定もなく遊び呆けられる休日というのは嬉しいものだった。

 

 

 さて、今日は何をしようか。

 そんな事を考えながら顔を洗っていると、携帯端末に一通の連絡が入る。

 

 

「あら、先生から?」

 メッセージの送信主は彼女が通う大学の教授からだった。メッセージを開く寸前、何やら嫌な予感がしてナオコは表情を引き攣らせる。

 

「───課題、明後日、だと」

 メッセージの内容は週明けまでが提出期限の課題を催促する内容だった。

 先生との関係によっては課題の催促等なしにそのまま減点されるだけの事もあるが、ナオコは学校では優等生を演じているし教授との仲間も良いのである。

 

 

 しかし、忘れていた自分が悪いとはいえ突然休日の予定が潰れて、ナオコはその場に崩れ落ちながら「先生のアホー!」と理不尽な言葉を漏らした。

 

 

「もっと早く言ってくださいよ!! 私には休日を謳歌すると言う大切な予定があったのに!! 昨日はそのつもりで夜更かししてポケットの中の戦争を一話から見てたのに!!」

 完全に自業自得である。

 

「課題ぃ!? 嘘だと言ってよ先生ぃぃいいい!!!」

 床を転がるそんなナオコの元に、さらに新しく一件のメッセージが入った。

 おそるおそる携帯端末に視線を向ける彼女の目に入ったのは、フォースReBondが連絡用に使っている連絡アプリからの通知である。

 

 

『暇だから俺は朝からログインしてる。昨日言ってた通りユメは用事だって』

 ケイからのそんなメッセージを見て、ナオコは泣き喚きながら返事を書いた。

 

「すみませんケイさん……私はここまでです───ガクッ」

『週明け提出の課題があるので今日はいけないかもしれないっす! 申し訳ない!』

 返事だけして仰向けに倒れたナオコは目元に腕を置いてだらしない声を漏らす。そんな飼い主を他所にペットの猫は朝ご飯を平らげてご機嫌だった。

 

 

「……ニャム・ギンガニャム、暁に死す」

 言いながら、彼女はノソノソと立ち上がり物凄い嫌そうな顔で課題に手をつけ始める。

 

「……ヤザンさん? なんすかその顔」

 そんな飼い主の前(レポート用紙の上)に立って、猫のヤザンは憐れむような顔で彼女の肩に手を乗せるのだった。

 

「ニャーゴ」

「猫に励まされてる……。いやでも、とりあえず退いてください」

 そうして、ユメもニャムもカルミアも本日はGBNお休みという訳である。

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ビームライフルに貫かれ、デュナメスHellが爆散した。

 

 

「勝者ケイ! いやー、流石だな! 四連敗からの五連勝だ!」

「お前途中からぜんぶエクリプスだったろ!! 接近戦がどうだの言ってなかったか!?」

「イッテナイ。オレハソンナコトイッテナイ」

 ロックとケイのタイマン勝負。

 最終的には五回先取で決着を付ける事になったのだが、五回戦以降ケイはエクリプスストライカーで五連勝。逆転勝ちを果たしたのである。

 

 

「そもそも射撃機体のデュナメスに射撃戦を挑んだんだからズルじゃない」

「俺様の射撃戦技術を上回るとはな……。ん? アレ? なんかおかしくね?」

「オカシクナイ」

「あっはは! ケイは本当に負けず嫌いだな! プライドを捨てても勝ちに行くし!」

「ナニイッテルカワカラナイ」

 完全に二人から目を逸らすケイ。そんなケイに、ロックは「得意な射撃戦で負けっぱなしは許せねぇ! もう一度だケイ!」と勝負を挑んだ。

 

 それに関して断る理由もないが、バトルが再開されると同時に二人の視界に何か妙な物が映る。

 

 

「なんだ……?」

 二人のガンプラの間、何もない筈の空間にひび割れのような線が広がり始めた。

 それは一気に大きくなって、絵に描いた風景が剥がれ落ちていく様に割れていく。

 

 

「イア! 乗れ!」

 観戦用の安全な建物にいたイアにそう言うケイ。

 イアは訳もわからず、言われるがままにストライクBondのコックピットに乗り移った。

 

「なんだなんだ!? 空が割れたぞ!」

「おいケイ、なんだよアレ」

「分からない。バグか? ただ、ここにイアが居るのは不味い気がした」

「バグなんて凄い珍しいって訳でもないが、それは確かにあるな……。離れた方が良さそうだが……どうする?」

 ロックの問い掛けにケイは「んー」と首を捻る。

 

 元々暇だから二人でバトルをしていたので、特にやりたい事も予定もない。

 ふと目に映ったのはコンソールパネルに映るログインしているフレンド一覧だった。

 

「なんか、砂漠の犬とメフィストフェレスが戦ってるみたいだぞ?」

 フレンド一覧には、プレイヤーの公開設定によってはそのプレイヤーが今何をしているのか表示される。

 丁度縁のある二つのフォースがバトルしている事を知り、今現在暇で仕方がなかった二人の行動は早かった。

 

 

 

「───三対三?」

「あぁ。今日は向こうから誘われて、そういうルールでやろうと言われてたんだ」

 メフィストフェレスのリーダー、ノワール曰く。

 

 砂漠の犬のリーダー、アンディからメフィストフェレスのアンジェリカとスズそしてトウドウの三人と戦わせて欲しいという提案があったらしい。

 今まさにその戦いが始まっているところだ。

 

 

「どうして三対三なんだろうな」

 砂漠の犬というフォースはメンバーが全て同じガンプラを使用し、大規模な連携を主に置いて戦うフォースである。

 ガンプラの完成度や性能、乗り手の力も高いが、彼等の本領はその連携だ。そのため、ケイは砂漠の犬が三人という小規模部隊でのバトルを提案するのが不思議でならない。

 

「自分が得意な事ばかりしてても仕方がないじゃん?」

「相手の得意な事から逃げてても仕方がないじゃん?」

 そう答えるレフトとライトの言葉に、ケイは心臓を杭で打たれたかのような反応を見せる。

 イアはそんなケイを見て笑いながら「なるほど、少数部隊での連携の練習って事だな!」と両手を叩いた。

 

 

「そういう事だろうな。お、またそろそろ動くぞ」

 ノワールがそういうと、モニターに映るMSが動きを見せる。

 

 戦況はメフィストフェレスが微有利といった所か。高所を取ったスズのサイコザクレラージェを守るようにアンジェリカとトウドウが配置していて、アンディ達は攻めあぐねている感じだった。

 

 

 動き出したのはアンディ達ガイアトリニティ三機である。

 二機が遮蔽から地上と空中へMA形態になって飛び出した。スズからすれば格好の的だが、同時に二機を撃墜出来る状態ではない。

 

 

「───まずは一つ」

 しかし確実に、スズは地上を走るMAを狙撃して撃破する。

 

 スズに近付くのは航空機形態のガイアトリニティ。

 地上を走るよりも空を飛んだ方が早いのは明確だ。ならば、地上の機体から落としたのは悪手にも思える。

 

 しかし、彼女の上空には頼もしい仲間が構えていた。

 

 

「ここから先はとおせないな」

 トウドウのクランシェアンドレアがガイアトリニティを迎え撃つ。

 後一歩のところでスズに噛み付かなかったガイアトリニティが、スズに撃ち抜かれたのは言うまでもなかった。

 

「……後一つ」

「───あ、相変わらず鬼みたいだな」

 それを見てロックは真っ青な顔でそんな言葉を漏らす。

 

 彼自身事実はどうあれ狙撃は得意なつもりだ。

 しかし、本物のスナイパーを見てしまうと流石のロックも自信を失ってしまうのである。

 

 

「ふふふ、後一人ですわね!」

「気を抜かない」

「分かっていますわ! ほら来た!」

 最初に撃破したガイアトリニティの爆炎の中から、最後のガイアトリニティが飛び出してきた。

 しかし、アンジェリカはそれを読んで先回りしていたのである。あとは、最後のガイアを止めてスズに撃たせるなり囲んで倒せば良い。

 

「爆炎に紛れて出てくる事くらいお見通しですわ!!」

「なるほど、流石と言わざる負えないが───しかし」

 最後のガイアトリニティ───アンディは、MA形態で地面を駆けながらアンジェリカのゴールドフレームオルニアスに接近しながら両翼のビームサーベルを展開する。

 

「ワンコに負けてあげる程優しくはなくてよ!!」

 ジャンプしながらマガノシラホコ四機を展開してガイアトリニティを囲むアンジェリカ。

 

「終わりですわ!!」

 四方からアンカーで囲んで、勝ったと思い込んだ彼女にトウドウは「違う! それは釣りだ!」と叫んだ。

 

 

「はい?」

「貰った……!」

 アンディは四本のアンカーに攻撃される前にMS形態に変形し、ジャンプしてアンディの間合いに入り込む。

 MAはジャンプしてこないだろうと思っていたアンジェリカは突然の変形に反応出来なかった。

 

 ビームサーベルで真っ二つにされ、爆散するゴールドフレームオルニアス。

 その爆炎でスズの狙いも定まらない内に、アンディはガイアトリニティを航空機形態に変形させて一気にサイコザクレラージェに肉薄する。

 

 トウドウは先程飛んできたガイアトリニティ迎撃の為にスズから少し離れていた。

 そしてアンジェリカを落として、この一瞬の隙にスズを落とすのがアンディが立てた作戦なのだろう。

 

 

 しかし───

 

 

「個人技なら───負けない」

 ライフルやミサイルでスズを牽制しながら接近したアンディは、MS形態に移行してビームサーベル二本でスズに襲い掛かった。

 それに対してスズはゲシュマイディッヒパンツァーでビームサーベルを受け止めながら、サブアーム二本でハートホークを握りガイアトリニティの片腕を切り飛ばす。

 

「なんて操作技術だ……」

「終わりだ」

 ───反撃されると思ってはいなかった。そして、そんなアンディの背後からトウドウが加勢に入る。

 

 

 そこからは一瞬だった。

 トウドウの相手をしている内に、スズが切り替えて狙撃で試合が終わる。

 

 エースを守ってエースが点を取るというメフィストフェレスの勝ちパターンだった。

 

 

 

「いやぁ、参ったな。個人技では君達に敵いそうにない」

 アンディは頭を掻きながらケイ達の元に歩いてくる。

 

 彼もアンジェリカを落としているし、パイロットとして力不足という事はない。

 しかし個人技だけで見れば、メフィストフェレスのメンバー達の平均値が格段に上だった。

 

 

「これは、チーム全体のレベルを上げるのが今後の課題だね」

「オーッホッホ!! やりましたわぁ!! 遂に砂漠の犬っころに勝ちましたわよ!!」

「こっちの土俵で戦ってもらって、だがな。そんな事より、客が来るぞ」

 因縁の対決を制して高らかに笑うアンジェリカに、ノワールはケイ達が来ている事を伝える。

 そしてアンディも揃って二人の元にやって来たメンバー達に、ケイは自分達の事情───ただ暇だったからここに来た事を伝えるのだった。

 

 

「なるほど。それじゃ、もう少し僕達の修行に付き合ってくれないかな?」

「お、なんだバトルか!」

「君は……イアちゃんだったか。話は聞いている。そうだね、君も参加出来る楽しい修行にしようか」

 そう言ってアンディはフリーバトルの設定をし始める。

 

 ひょんな事でバトルの誘いが来てしまったが、暇だったので丁度良い。

 

 

「───それじゃ、始めようか。個人技の修行を」

 バトルの設定が終わり、フィールドに転送されるダイバー達。

 

 

 ふと、最後に転送されたケイの視界にノイズが走った事が彼は少しだけ気になったのだった。



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不穏な光

 ビームサイズを受け止めるヒートホーク。

 至近距離でのザクマシンガンを華麗に交わしながら斬撃を放つデュナメスHellは、サブアームを巧みに操るスズのサイコザクレラージェを圧倒していた。

 

 

「オラオラどうした!! スナイパー勝負は俺の勝ちになっちまうぜ!!」

「……スナイパーの意味を勉強してこい、この脳筋スナイパー」

 押されつつも、ロックの猛攻を耐えている時点でスズの実力には驚かされる。

 

 しかし、それでもやはり至近距離戦ではロックには敵わなかった。切り裂かれ、爆散するサイコザクレラージェ。

 しかし、サイコザクを倒したロックのデュナメスは背後から放たれたビームに貫かれて爆散した。

 

 

「いぇーい! タケシ撃破!」

「ロックな!! あの野郎!! 漁夫なんて狡い真似しやがって、今そっちにいってやるからな!!」

「僕のZに追いつける物なら追いついてみ───ふげぇ!?」

 そんな事を言ったそばから撃破されるイアのZガンダム。彼女の機体を撃破したのは、変形したガイアトリニティを狩るアンディである。

 して、そのアンディを追い掛けるアンジェリカのゴールドフレームオルニアス。さらにそのアンジェリカを追おうとするトウドウと、そのトウドウを狙うスズ。

 

 ロックとイアもリスポーンして直ぐに戦場に向かい、フィールド上では常に戦闘の光が耐えなかった。

 

 

 ルールは簡単。

 全員が何度でもリスポーン出来るバトルロワイヤルである。

 敵を倒せば一点、倒されるとマイナス一点。制限時間一時間の間に一番多くのポイントを会得した者の勝利だ。

 

「───さて、どうしたものか」

 そんなルールの中、ケイはあまり自分から動こうとはせずに建物の影に隠れている。

 広いフィールドという訳でもなく、狙撃手も居て撃破されるだけだとポイントがマイナスになるという点から下手に動かないのは正解ではあった。

 

 しかし、見かけによらずバトルが好きなケイが動かない理由は別にある。

 

 

「……バグった」

 ケイの機体───ストライクBondはストライカーシステムを装備していなかった。

 

 これが故意にやったならともかく、ケイはちゃんとバトルの前にダブルオーストライカーを装備してプレイするように設定していたのである。

 そして、コンソールパネルから開いて自分の機体のプロフィールを開くとダブルオーストライカーは装備されている───にも関わらず、バトルフィールドに立っているストライクBondは何も装備していなかった。

 

 

「……なんなんだコレ」

 GBNもゲームである以上、バグが少なからず発生するがケイはこんなバグに遭遇したのは初めてである。

 撃破されたら治るだろうか───そんな事を思った刹那。

 

「あ───」

 何やら遠方からの狙撃に貫かれ、ケイの素ストライクBondは撃破された。

 

 

「───治った……。よし!」

 リスポーンすると、ちゃんとダブルオーストライカーが装備されている。

 ケイはただのバグだろうと切り替えて、戦場の光の中に飛び込んで行くのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 戦場で動くという事は、的になると同義である。

 して、逆に戦場で動かないのはただの動かない的だ。

 

 

 撃って、隠れて、移動する。

 狙撃手の基本的な動きを、スズは淡々と繰り返していた。

 

「あの野郎どこ行きやがった! さっきここから撃ってただろ!!」

「お、タケシ発見! バトろうバトろう!」

「ロックな! イアには今用はないってか、どうせここでとろとろしてたら───あ」

「ぎゃぁぁ!? なんでぇぇええ!!」

 言っている間に、ロックの目の前で消し炭になるイア。

 

 

 狙撃ポイントに向かえば狙撃手が居ると思えば、狙撃手を狙ってきた別の相手と戦う羽目になる。

 そうなると移動した狙撃手からも狙われるようになる訳で、ロックはデュナメスに乗りながら「スナイパーずるくね!?」と特大ブーメランを投げていた。

 

 最も、彼の狙撃技術ではそのブーメランは返って来ないのだが。

 

 

 ともすれば、スナイパーから射線を切りながら動く事が強いられる。

 戦っている時もその事を頭に入れないといけない為、必然的に考える事が増えるとならば、修行には持ってこいだった。

 

 

「ガンプラもだが、腕を上げたか。やるな、ケイ」

「流石、タケシのライバルだ……!」

 ノワールの迅雷ブリッツと斬り合うケイ。

 彼の前はレフトと、その前はトウドウ、その前はアンジェリカと戦ってきたが、今の所ケイは連勝中である。

 

「動きが良いな……」

 狙撃手を警戒しながら戦っていれば、自然と動きが悪くなる筈だ。しかし、ケイからはそれが感じられない。

 

 どうしてだ、と思うノワールだがその原因は自分にあるのだと気が付いて苦笑いを溢す。

 

 

「……なるほど、俺達メフィストフェレスのメンバーが一番スズを警戒してるからな。そこを叩けばスズの射線は俺達に気を使わせて自分はフリーに動けるという事か」

「バレたか」

「……まったく、貪欲なエースだな」

 エースと言われ、ケイは目を細めた。

 

 

 ReBondのリーダーはロックだが、エースが誰だとかは特に気にした事はない。

 

 ロックはリーダーに相応しいくらい強いし、ユメもどんどん力を付けてきている。

 ニャムもカルミアも、まともに戦って自分が有利だとは思っていない。

 

 

「俺が、エース……」

「エースは力だけが全てじゃない。勿論、ウチのスズみたく本当に自力の高い奴もいる。……だが、エースの仕事は点を取る事だ」

「点を取る?」

「届かない敵にも策を練り、択を通す。相手を倒してチームを有利にするのがエースの力。……俺は、お前にそれが出来ていると思う」

 初めてReBondと戦った時、ノワールはケイにスズが負ける事なんて一ミリも考えて居なかった。

 

 条件にもよるかもしれないが、対等に戦えば確かにケイはスズから一本取るのは難しいだろう。

 しかし、それでもケイはスズを落として見せた。ユメの助力があったとはいえ、敵のエースを倒してチームを勝利へと導いた。

 

 

 続く砂漠の犬との戦いでも、その後も───

 

 

「お前は間違いなくReBondのエースだ。それを自覚して、責任を持て」

 言いながら、ストライクBondの腕を切り飛ばすノワール。

 そう言う彼でさえ、ケイは自力だけでは五分あるかどうかである。

 

 

 それでも───

 

 

「───そうだな、そうかもな。……だから、俺は貴方にも勝つ!!」

 飛び退いて、地面にイーゲルシュテルンを放ち砂埃を起こさせるケイ。

 ノワールは目眩しなどさせまいと、跳び上がったケイを追うようにスラスターを吹かせた。

 

 砂埃でスズからの射線は切れる。ここで仕留める───そう思ったその時、突然視界が開いた。

 

 

「……何?」

 目の前には全力でスタスターを吹かせるストライクBond。

 スラスターからの風圧で砂埃は吹き飛ばされると同時に、ケイはそのまま建物の影に隠れる。

 

 

「しまった───なるほどな」

 するとどうなるか、ノワールは考えずとも分かっていた。

 

 砂埃も建物もない空中で、一瞬の隙でも()()は撃ち抜いてくる事をノワールは嫌でも知っている。

 

 

 

「……流石、エースだな」

 ビームスナイパーライフルに貫かれるノワールの迅雷ブリッツ。

 

 その光を頼りに狙撃手の位置を特定し、ケイはトランザムで加速してスズを倒しにいった。

 

 

 

 

 試合終了間際。

 戦いは建物が殆ど崩壊する程に激化している。

 

 こうなるとスズも慎重に動くしかないが、それでもやはりこのルール上ポイントを稼ぎやすいのは彼女だ。

 堂々たる一位をキープしているが、気を抜いている場合でもない。

 

 そんな彼女の元に寄ってくる影が三つある。

 

 

「───ちょ、こっち来ないでよぉ!」

「待て待てー!」

 ライトのウイングゼロアビージRを追うイアのZガンダム。その背後から、アンディのガイアトリニティが隙を窺っていた。

 

「あ、姉さんだ! 姉さん助けてー!」

 サイコザクレラージェを見付けるや否や、彼女の元に飛んでいくライト。スズは眉間に皺を寄せながら「厄介な奴らを連れてくるな」と悪態を吐く。

 

「落ちろ」

「姉さん酷い!!! ぎゃぁぁ!!」

 そのまま向けられたスナイパーライフルは、ライトのウイングゼロアビージRを撃墜した。

 

 イアは冷や汗を流しながら「げ! スナイパーが居る!」と踵を返そうとする。

 

 

「……逃すか」

 既に好機とみたのか、アンディは回り込むようにスズに接近してきていた。

 流石のスズもこの二人を同時に相手して勝てるとは思わなかったのか、イアを落としてアンディの接近は甘んじて受ける選択をする。

 

 引かれる引き金。

 イアの機体を光が貫こうとしたその時だった。

 

 

「……あれ?」

「……なんだ?」

 Zに直撃する筈だった光は、突然空中に現れた謎の光に飲み込まれる。

 

 まるで地上に突然宇宙が現れたかのような、光を吸い込むかのように光る暗い光。

 それは、出現するなり周りの物を粉々にしながら吸収し始めた。

 

 

「うわぁ!?」

「これは、まずいやもしれ───ぬお!?」

 バグ───にしては、異常な光景である。

 

 まるでブラックホールのような光に、イアのZが取り込まれようとしていた。

 イアも本能的に不味いと思っているのか、一生懸命離脱しようとしているがどうも機体のコントロールが上手く開かないようである。

 

 

「なんだよアレ!?」

「イア……!! タケシ、トランザムで!!」

「分かってるよ!! ロックな!!」

 それを見た二人は、トランザムを使ってイアを助けに向かった。二機の出力で何とか光からZを引き剥がす事が出来たが、未だに光は周りの物を吸収している。

 

 

 

「アンディさん……!」

「あぁ、悪いがバトルを強制終了させてもらうぞ……!」

 バトルのオーナーであるアンディがバトルを強制修了させると、フィールドがリセットされて光も何処かへ消えてしまった。

 その場に集まったケイ達は、ついさっき自分達が戦っていた時もバグが発生した事を皆に伝える。

 

 

「───彼女はELダイバーだったね。事情も聞いているから、大方の想像は着いた」

 そういうアンディの言葉に、ケイはハッとした。

 

「さっきのバグの原因は、君だね」

「ボクが……?」

「あ、アンディさん───」

「落ち着きたまえ。別にとって食おうなんて思ってない。……ELダイバーが保護されるべき尊い存在だということは皆が理解している」

 そう言うと、アンディは周りを見渡して少し考えるそぶりを見せてからこう続ける。

 

 

「……だが、対策は取らないといけない。勿論GBNではなくイアちゃんを守る為の対策だ。サーバーに負荷が掛かってバグが起きているなら、彼女を一旦サーバー負荷の少ない場所に移す方がいい。彼女の安全を確保したら、運営に相談しよう」

「でもよ、運営はサラを消そうとしたんだろ? おっさんの言ってたレイアって奴も……」

 アンディの提案に訝しげな表情でそう返事をするロック。彼の脳裏には、昔の事を話すカルミアの辛そうな表情が浮かんでいた。

 

 

「イアは俺達の大切な仲間だ。誰にも手は出させねぇ」

「タケシ……」

「ロックな───イア……?」

 いつも通りのツッコミを入れた所で、イアが珍しく不安そうな表情をしていてロックは唖然とする。

 

 

「……ボクが、この世界を壊してるって事?」

「いや、それは───」

「そうだな」

「お、おいケイ!」

 誤魔化そうとするロックの言葉を遮って、彼女の言葉を肯定するケイ。

 しかしケイは、不安そうなイアの頭を撫でながらこう続けた。

 

 

「それでも、俺達は絶対にイアを守る。他の誰が敵になっても、俺達は絶対にイアの仲間だから」

「ケイ……」

「水臭いですわよ。私達もお友達じゃないですか」

「……ユメが言ってた。……GBNの皆は、この世界の全てが大好きな仲間だって」

「僕達はもう間違えない。二年前の悲しいぶつかり合いはもう沢山だからね」

 アンジェリカ達はそう言って、ケイ達に手を伸ばす。

 

 

 イアは皆の仲間だ。だから、絶対に守る。

 ここにいる者も、今ここに居ない仲間も、GBNを楽しむ皆がきっと同じ事を言ってくれる筈だ。

 

 

 

「だから、とりあえずは安全な場所にイアちゃんを移動させよう。君達はイアちゃんの近くにいてあげた方が良いし、行動は僕達がするさ」

「でも、イアちゃんを何処に移動させるんですの?」

 アンディの言葉に首を傾げるアンジェリカ。彼女のその疑問にはトウドウがこう答える。

 

「話を聞くに、サーバーへの負荷はやはりガンプラバトル中が高いのだろう。現実で作り出したガンプラを動かす技術だから、負荷の大きさは分かる。……ともすれば、ガンプラバトルが発生せずガンプラが動く事もない場所に行くのが正解だ」

「と、いうと?」

「……心当たりがある」

 問い掛けるケイに、珍しく積極的に片手を上げてそう答えたのは───スズだった。



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聖地ペリシア

 ペリシア・エリア。

 

 

 聖地ペリシア。ここは、GBNの中でもバトルを楽しむガンプラではなく───制作を楽しむビルダーにとっての聖地である。

 

 許可なくガンプラの持ち込みが不可であり、システム的にもバトルが出来ないエリアだ。

 ここではビルダー達が己のガンプラを見せ合ったり、街に飾ったりしてGBNを楽しんでいる。それもまた、この世界の一つの楽しみ方だった。

 

 

「おー! ここは凄いなスズ! 気持ちの良さそうなガンプラがいっぱいだ!」

「……なぜ私が」

 いつものように何かとはしゃぐイアに揺さぶられながら───スズは目を細めて、そんな彼女達を見ながらケイとロックは笑っている。

 

 

 

 イアを連れて、ケイ達はここ───ペリシア・エリアを訪れていた。

 

 彼女をバグから縁遠い安全な場所に運ぼう。

 そういった理由で場所を探していたケイ達にスズが提案したのはこの場所だった。

 

 

 そうしてペリシア・エリアに向かう事になった三人に、言い出しっぺの法則で案内をさせられる事になったスズは目を半開きにして項垂れているのである。

 

 

 

 アンジェリカは「スズも最近は私達以外にもお友達が出来てるのですから、これも知見を広める為と思って三人を案内すると良いですわ! 私達は何かあった時の為に近くに居ますので。バグの件はアンディさん達に任せても?」と、勝手に話を進め。

 頼まれたアンディも二つ返事で了解してしまい、スズに断る余地など残っていない。

 

 諦めて連れて来たは良いが、さてどうしたものかと口を尖らせるスズなのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 見上げる程高いMSの数々。

 まるで高層ビルが立ち並ぶが如く、ガンプラの連なる景色は圧巻の一言である。

 

 

「……これ、アンジェのガンプラ」

 スズが三人を案内した場所にあったのは、アンジェリカが作ってペリシア・エリアに飾ってあるガンプラだった。

 

 製造『アンジェリカ・クローデル』提供パリ美術館、と書いてあるボードを見てロックは唖然とする。

 

 

「アイツ本当に凄いビルダーだったんだな」

「……失礼な」

 失言に目を細めるスズだが、彼女は自分の事のように自慢げにこう続けた。

 

 

「……アンジェのガンプラはフランスのなんとか流とかいう凄い流派のガンプラなんだ。アンジェは凄い」

「なんとか流……」

「覚えてないのかよ……」

「……アンジェは凄い、らしい」

 目を細めるスズ。実の所彼女自身も何が凄いのかは分かっていない。

 

 

 ただ、スズは初めてアンジェリカのガンプラを見た時その眼を奪われてしまったのを思い出す。

 アンジェリカのガンプラには理屈では分からない何かがあるのだと、スズは信じて疑わなかった。

 

 

「これは……確か、おーゔぇろん? とかなんとかいう凄い機体を元にアンジェが作った機体らしい。メッサーラと合体するとかなんとか。……良くわからん」

 アンジェリカの作るガンプラ特有の黒いボディカラー。禍々しい雰囲気を持つその機体を見て、ロックは珍しく感動して黙ってガンプラを眺めている。

 

「凄いな」

「……ふん。だろう」

 自慢げなスズに、ロックは唖然としてアンジェリカのガンプラを見上げていた。

 そんなロックの姿が珍しくて、ケイはロックとガンプラを何度も見比べる。

 

 

 そういえば、彼も好きな色が黒でデュナメスHellも黒い塗装が施されていたっけか。

 きっと本質的に趣味が合うのだろうと、ケイは微笑ましいと少し笑った。

 

 

 

「アンジェリカ、凄い奴だったんだな!」

「……アンジェは凄い」

 スズもだが、イアもバトル中に起きたバグでの不安を忘れているように笑っている。

 自分のせいで他人に迷惑を掛けたと思ってしまったのか、バグ発生直後の彼女の表情を思い出してケイは「元気が出て良かった」と言葉を漏らした。

 

「他にも沢山ビルダーのガンプラが見られるし、退屈はしなそうだな」

「シャフリヤールのガンプラもあるんだろ? それ見に行こうぜ」

「シャフリヤール?」

 ロックの言葉に首を傾げるイア。

 シャフリヤールはフォースランキング三位でもあるフォースSIMURUGのリーダーでもあり、ガンプラビルダーとして世界的な実力者である。

 この世界で生まれたイアはそれを知らないが、ガンプラビルドにそこまで執着していないロックですら名前を知っているダイバーだ。知名度はチャンピオンとも同レベルだろう。

 

 

「……凄いビルダー」

「へー、お前がチーム以外の奴を褒めるなんてな」

「……凄い人は凄い。私はお前達も認めている、ロック」

「今なんて?」

「……いや、だから……お前達も認めているって───」

「その後!!」

「……は?」

 食いついて来るロックに困惑の表情を見せるスズ。ケイとイアが首を横に傾けている横で、スズは目を細めながらこう口を開いた。

 

「……ロック?」

「うぉぉぉおおおお!! スズ!! いやスズ師匠!! スズさん!! そうだ!! 俺はロック!! ロック・リバーなんだ!!」

 泣きながら崩れ落ちるロックを見て、スズは表情を引き攣らせながら後退る。

 

 

「……なんだ、コイツ」

「ロックって呼ばれるの珍しいから……。あはは、なんかごめん」

 もはやネタにしていたが、ロックと呼ばれるのが泣くほど嬉しいとは。

 イアも含めてチームでも彼をロックと呼んでくれるのはニャムとカルミアしか居ないので、感動してしまったのかもしれない。

 

「ロックって誰だ? タケシ」

「俺だよ!!」

 そんな事もお構いないイアの言葉にツッコミを入れるロック。そんな光景を見てスズは「……不憫だな」と素直な感想を漏らすのだった。

 

 

 一向はその後、ペリシア・エリアのガンプラを眺めて歩く。

 

 アンディからの連絡によれば、今マギーを呼んで話をしている所のようだ。

 早急に解決策が見つかれば良いが、話はどうなっているのだろうか。

 

 

「おー! このガンプラ凄い!! 凄く、暖かい気持ちでいっぱいになってる!! ここにあるガンプラ、全部あったかいな!!」

 そんな中で、イアはペリシア・エリアを堪能している。

 ガンプラの声が聞こえる彼女にとって、丹精込めて作られたガンプラの聖地は居心地が良い場所だった。

 

 

 

「お、これがシャフリヤールの作品か。まぁまぁだな」

「……なぜ上から目線」

「俺の師匠、タイガーウルフのガンプラと比べちまうとなぁ」

「いつのまに弟子になったんだよ」

 前回のイベント戦で、タイガーウルフと連絡先を交換したロックはその後ケイ達の知らない所で交流していたらしい。

 あのロックがGBNでトップクラスの格闘センスを持つタイガーウルフの元で修行しているというのだから、彼のこれからの成長が楽しみである。

 

 

「───って訳で、タイガーウルフ師匠が今度ケイ達の面倒も見てくれるって言ってたからよ。今度格闘戦の修行でもしに行こうぜ」

「……お前は狙撃の練習をしろ」

 半目のスズに「俺の狙撃は完璧だが?」と真顔で首を傾げるロック。

 どこからそんな自信が湧いて来るんだと呆れる三人。

 

 そんな彼らに、背後から一人の男が話しかけてきた。

 

 

「タイガーウルフに稽古をつけてもらうなんて、脳味噌が筋肉に代わってしまうだけだよ。彼なんかより、私の元に来ると良い」

「なんかだとぉ!? てか誰だテメェ!!」

 タイガーウルフを小馬鹿にするような言葉に、ロックは振り向きながら息を荒げる。

 

 振り向いた彼等の目の前にいたのは、長髪美形な青年の頭の上に獣の耳を生やした男性アバターだった。

 

 

「あなたは……確か」

「ケイ、知り合いか?」

「いや。……えーと、多分シャフリヤールさんですよね?」

 イアの問いに、ゆっくりとそう口を開くケイ。

 

「え、本物?」

 彼の口にした言葉に、ロックは目を丸くする。

 

 

「本物だとも。昔はアバターを隠していたが、今は公表しているよ」

 ガンプラビルド界隈では有名どころも有名なシャフリヤールだが、彼は一昔前まではGBNで素性を隠して活動していた。

 彼を名乗る偽物が現れて問題になった事が原因で素性を公表したのだが、その問題がこのペリシア・エリアでの出来事だった事を思い出し一人懐かしむように目を閉じるシャフリヤール。

 

 

「そんな事より、せっかく君達も素晴らしい愛を持ってガンプラを作る事ができるビルダーなんだ。タイガーウルフではなく、この私の元で───」

 して、このシャフリヤール。タイガーウルフとは犬猿の仲な事で有名である。

 

 喧嘩する程仲が良いというが、それはさておき。

 シャフリヤールがタイガーウルフより自分の元で修行してみないかとケイ達を誘おうとしたその時───まるで地震が起きたかのように世界が揺れ始めた。

 

 

「───なんだ?」

 言葉を止め、シャフリヤールは怪訝な表情で辺りを見渡す。

 

 GBNはガンプラバトルの世界だ。

 特別イベントでもない限り地震は起きないが、MS同士の戦いで地面が揺れる事くらいは珍しくない。

 

 

 しかしここはペリシア・エリア。

 許可無くガンプラを持ち込む事も出来ず、バトルも禁止のエリアである。だから、本来このような揺れが発生する筈などないのだ。

 

 

 

「おわ、地震か!?」

「……何かの演出?」

 立っているのがやっとの揺れに、ロックとスズも辺りを見渡して状況を整理しようと試みる。

 

「あのガンプラ……なんで───」

「イア? な、なんだ!?」

 イアの言葉に振り向くケイ。その視線の先では───

 

 

 

「───なんで、あのガンプラ……怒ってる」

 ───ガンプラの一つが動き出し、イアに向けられる銃口。

 

 

「イア!!!」

 その銃口は迷いなく、引き金を引かれた瞬間光を放った。




あけましておめでとうございます。


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予期せぬ戦闘

 爆発音。

 ペリシア・エリア上空でトウドウのクランシェアンドレアに搭乗して待機していたアンジェリカ達の視界にありえない光が映った。

 

 

「今のはなんだ?」

「ペリシア・エリアで戦闘の光だと?」

 目を細めるノワールに、トウドウはコンソールパネルを開いて状況確認をしようとする。

 

 ペリシア・エリアは非戦闘区域で戦いが起きる筈がない場所だ。

 しかし、エリア外からでも分かる程に激しい戦闘が現に行われている。

 

 

「バトルエリアになってるなら僕達も向かおう!」

「バトルエリアになってないよ!」

 追従するウィングゼロアビージに搭乗するレフトとライトがペリシア・エリアに突入しようとするが、システムエラーが起きてMSの動きが止まってしまった。

 

 ペリシア・エリアは許可無くMSの出入りが出来ない。

 なら、どうして戦闘が起きている。

 

 

「スズ!! 応答して下さい。そちらの状況を教えて下さい!!」

 焦った様子で、アンジェリカはスズに通信を送った。

 

 GBNはゲームだから、何か事件に巻き込まれても大抵の事はなんとかなる。

 しかし、スズ達が連れているイアだけは話が別だ。

 

 

「MSではどうにもならん。降りてワッパを使うぞ!」

 トウドウの起点で直ぐに五人はMSを降りる。そんな中で、ペリシア・エリアの戦闘は激化していっていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 放たれる光。

 彼女を守ろうと無意識に伸ばした手は届く筈もなく。

 

 

 しかし、その光がイアを貫く事はなかった。

 

 

「───セラヴィーガンダムシェヘラザード……!!」

 四人の前に現れる一機のMS。

 

 ダブルオーに登場するセラヴィーをカスタマイズしたガンプラが、GNフィールドを展開しイアを攻撃から守る。

 

 

「シャフリヤールさん……!」

「なんでガンプラ出せてんだ!?」

「ペリシア・エリアでのガンプラの持ち込み許可を出す権限は私も持っている。君達にも許可を出した、早くMSに乗りたまえ」

 シャフリヤールの言葉にコンソールパネルを開くと、確かにケイ達もMSに搭乗する許可が降りていた。

 

「イアはスズの機体に乗れ。スズはイアを頼む。タケシはスズのサイコザクに近付く奴を!!」

「……分かった」

「ロックな!!」

 MSに乗る四人。

 

「……なんで、ボクの事……そんな目で見るの。……ボク、君に何か……した? さっきまで、あんなに……あんなに……楽しそうだったのに」

 突然の事に固まっていたイアは、スズのサイコザクレラージェのコックピット内で震えながら口を開く。

 

 

「……イア。モニターを見るな」

「……でも、ボク……あの子達を怒らせて───」

「達?」

 モニターに視線を移すと、信じられない光景がスズの視界に入った。

 

「……全部、動いてるのか?」

 ペリシア・エリアに飾られていた全てのガンプラが起動してスズ達の元に向かって来ている。

 その銃口は全て、スズのサイコザクレラージェに向けられていた。

 

 

「……なんだ、この」

 咄嗟にゲシュマイディッヒパンツァーを構えるスズ。

 このシールドはビーム兵器に強いが、攻撃が全てビームという訳ではない。

 実弾兵装の着弾により揺れる機体の中で、スズはイアに「大丈夫だ」と短く口を開く。

 

「……私を簡単に落とせると思うなよ」

「頼もしいな。タケシ、頼むぞ」

「くそ、突っ込んでる場合じゃねぇ。任せろ、近付いてくる奴は俺が地獄に送ってやるぜ!」

 イアを二人に任せて、ケイはクロスボーンストライクBondのスラスターを吹かせた。

 

 状況を確認する為に高くジャンプすると、思っていたよりも恐ろしい光景が目に入る。

 

 

「……全部こっちに来てるのか? くそ!」

 ペリシア・エリア全てのガンプラが同じ一点に向かおうとしてきていた。

 言いながら、ケイはピーコック・スマッシャーを乱射する。

 

 スズ達に近付けない。まずはそれが優先だ。

 

 

「───けど、どうする。どうにか退路を作らないとこれじゃジリ貧だ」

 ペリシア・エリア全域のMSがスズ───イアの元に向かって来ている。

 

 もしここがペリシア・エリアの端なら後退するだけだが、四人がいたのは最高位のガンプラビルダーシャフリヤールのガンプラが展示してある位置だ。

 その位置はペリシア・エリアのほぼ中央である。よって、ケイ達はペリシア・エリア全域から囲まれる形になってしまっていた。

 

 

「良い判断能力だ。……確か、ケイ君だったか」

「シャフリヤールさん……?」

 ケイの背後に背中合わせで着くシャフリヤールのセラヴィーガンダムシェヘラザード。

 シャフリヤールは辺りを見渡しながら、冷静な口調でこう口を開く。

 

「なるほど、彼女が例のELダイバーという事か」

「……な───違うんです! イアは!」

「私は敵ではない。ケイ君、私は君をタイガーウルフや知り合いに紹介されて知っている。事情は大方察しているし、詳しい事は後で聞こう。まずはここを切り抜けるのが先決だ」

 イアのせいでまたこのバグが起きているなら、シャフリヤールはイアを処分しようとするかもしれない。

 そう思ったケイだがシャフリヤールの言葉に胸を撫で下ろして、後で不快な考えをした事を謝ろうと首を横に振った。

 

「そ、そうですね」

「時間を稼いでくれ。私が突破口を開く。君は彼女を守れ」

「分かりました!」

 言われた通り、ケイはスラスターを吹かせてイア達に近付こうとしているMSに肉薄する。

 

 ムラマサ・ブラスターを展開して砲撃を放とうとしていたガナーザクウォーリアを真っ二つにすると、反転しながらガラッゾをピーコック・スマッシャーで撃ち抜いた。

 

 

「次!!」

 振り向くと、バルバトスルプスとレッドフレーム改が得物を振り下ろしてくる。

 なんとかムラマサ・ブラスターで受け止めるが、二対一とはいえ出力が足りずに押し切られそうになった。

 

「そりゃそうだよな……ここのガンプラは、ビルダーが本気で作ったガンプラだ。オートで動いてるとはいっても……強い、けど!!」

 足払いをしてバルバトスを転がすと、ケイはレッドフレーム改のタクティカルアームズを受け流すようにして転んだバルバトスに叩き付ける。

 そのままバランスを崩したレッドフレームをムラマサ・ブラスターで切り飛ばすと、ケイは再びジャンプして辺りにピーコック・スマッシャーを連射した。

 

 周囲を囲まれている以上、一方だけを押しているだけでは意味がない。

 

 サイコザクレラージェは要塞にすれば隙が少ないし、ロックのデュナメスHellも居るが一度に戦える相手は限られている。

 今はケイがどれだけ近付いて来る敵を減らせるか、そこが問題だった。

 

 

「今はシャフリヤールさんを信じるしかない……出し惜しみはするな!」

 スラスターの出力もビームの出力も最大にして応戦するが、それでもケイの攻撃を抜けてスズの元に向かうMS。

 接近するダハック、試作三号機をロックが切り裂く。続くベルガギロスをスズのビームスナイパーライフルが貫き、ビームサーベルを構えて突貫してきたGセルフをロックが止めてスズがビームバズーカで撃ち抜いた。

 

 

「くそ、何体居るんだよ!」

「……口より手を動かせ!」

「動かしてるっての!!」

 ダブルオークアンタフルセイバーをビームサイズで切り飛ばしながら、ティエレンタオツーを蹴り飛ばすロック。

 蹴り飛ばしたティエレンをザクマシンガンで蜂の巣にしながら、スズは側面から来た敵の攻撃をヒートホークで受け止める。

 

「……コイツは」

「おいおいソレ、お嬢様のガンプラじゃねぇ!?」

 スズのサイコザクレラージェに切り込んできたのはアンジェリカの作ったオーヴェロンだった。

 

 構えられた盾から放たれたビームを、スズはゲシュマイディッヒパンツァーで逸らす。

 

「アイツ盾からビーム出したぞ!?」

「……知ってる機体で助かった。けど、アレは強い。アンジェの作ったガンプラだから」

「そんな事言ってる場合かよ……。いや、ソレの相手は俺がやるから、スズは自衛頑張ってくれ!」

 言いながらオーヴェロンに肉薄するロック。

 機体性能が反応速度に直結しているのか、彼女の言う通りオーヴェロンの動きは周りのガンプラとも一回り違うように感じた。

 

 

「コイツは……やべぇな! トランザム!!」

 トランザムで切り掛かるロック。

 

 しかし、オーヴェロンはその全てを受け止めてロックの機体を蹴り飛ばす。

 

 

「なんて反応速度だ!? でも───行かせるかよ!!」

 ロックを蹴り飛ばしてスズの元に向かおうとするオーヴェロン。

 

 やはり狙いはイアなのだろうか。

 

 

「ソイツが何したってんだよ! イアはな、お前らの事だって大好きなんだぞ!!」

 サイコザクに辿り着く前にオーヴェロンを止めるロック。

 

 そんな彼を見ながら、スズは周りの敵を近付かないようにサブアームを全て展開して迎撃姿勢を取った。

 

 

「ボクは……」

「……大丈夫、ケイもロックも負けない。私も、負けない」

 言いながら、力強く操縦桿を握るスズ。

 

 強気な事を言ったが、少しずつ押されているのは目に見えている。

 ケイもロックも充分以上に戦っているが、それでも敵が多過ぎるのだ。

 

 

「───くそ!!」

 ロックのトランザムが限界時間を迎える。

 

「───エネルギーが!?」

 ケイのピーコック・スマッシャーとムラマサ・ブラスターの出力が限界を迎える。

 

 

 トランザムが終わろうと、隙のない構えで機動力の低下を抑えるロック。

 使えなくなったピーコック・スマッシャーを投げつけて、ビームの出ないただの実剣になったムラマサ・ブラスターとビームサーベルを構えるケイ。

 

 限界を超えても二人は戦い、そして───

 

 

 

「───良く耐えた、後はこの私が道を開く!!」

 シャフリヤールはそう高らかに声を上げ、その銃口をペリシア・エリアの一番近い出口に向けた。

 

 

「吹けよシムーン! アルフ・ライラ・ワ・ライラ!!」

 光が、道を作る。



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ここに居て良いのかな

 広大なペリシア・エリアの中心で、一機のMSが光を放つ。

 

 

「───良く耐えた、後はこの私が道を開く!!」

 シャフリヤールはそう高らかに声を上げ、その銃口をペリシア・エリアの一番近い出口に向けた。

 

 

「吹けよシムーン! アルフ・ライラ・ワ・ライラ!!」

 シャフリヤールのガンプラ、セラヴィーガンダムシェヘラザードはその銃口から溢れんばかりの光を放ちペリシア・エリアの中心から端までを消し飛ばす。

 

 まるで洞窟でも掘ったかのように、その光の跡には削り取られた地表だけが残っていた。

 

 

「……な」

「す、すげぇ……」

「退路は作った。撤退だ」

 スズを先行させて、シャフリヤールとケイが後方から追って来る敵を足止めする。

 

 そうして、イアは無事ペリシア・エリアを脱出する事が出来たのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 頭を下げるケイ。

 そんな彼の態度に、シャフリヤールは目を半開きにして「頭を上げてくれ」と頭を掻く。

 

 

「仲間を守ろうとするのは当たり前の事だ。それは、君が仲間を愛してる証拠だよ」

「シャフリヤールさん……」

 ケイはシャフリヤールがイアをどうにかしてしまうのではないかと()()()()()()()事を謝っていた。

 

 シャフリヤール本人は気にしていないようだが、他にも謝らないと行けない事は沢山ある。

 

 

「ペリシア・エリアの人達は……」

 イアを責める者はいなくても、きっとペリシア・エリアのガンプラが動き出したのはイアの周りで起き始めたバグが原因だ。

 助けてくれたシャフリヤールはともかく、ペリシア・エリアでGBNを楽しんでいた者達からすれば迷惑を被ったと思われても仕方がない。

 

「その辺は安心したまえ。今しがた、うまく誤魔化せるように調整している所だ」

 シャフリヤールはそう言うと、スズの隣で蹲っているイアの元へと向かってその手を伸ばす。

 手が頭に触れた瞬間、怯えるように身体を震わせるイア。そんな彼女に、シャフリヤールは視線を合わせてこう口を開いた。

 

「君は悪くない。君は、私達がガンプラへ向けた愛の結晶なんだ。……君が怖がる事なんて、何もない」

「シャフリヤールさん……」

「……君達はこの子の事を。私はペリシア・エリアの混乱を鎮めてくる」

 尚も沈黙しているイアの頭をもう一度撫でて、シャフリヤールは自分の機体に再び搭乗しペリシア・エリアへと戻っていく。

 

 

 彼曰く、エリア外のこの場所ならサーバーへの負荷も少ないとの事だ。

 ある程度事情を話すと「彼等なら上手くやってくれるだろう。一応、私のフレンドコードを送っておく。何か困った事があったら連絡してくれて構わない」とケイとフレンド登録をしてくれている。

 

 シャフリヤールの事は全面的に信用して良さそうだ。

 

 

 後はイアの状態だけが心配だと、ケイは彼女の元にゆっくりと向かう。

 

 

「イア、大丈夫か?」

 彼の問いに、イアは答えられなかった。

 

 スズの隣で蹲る姿は、いつもの元気な彼女とは程遠い。見ているだけで、胸が痛くなる。

 

 

「……皆、楽しそうにしてたんだ」

 ゆっくりと、イアはそう口を開いた。

 

 

「……沢山のガンプラが、良い気分で居た。皆、楽しそうだった。……だけど、ボクの事を見て……凄く、嫌な気持ちにさせた……!」

「そんな事───」

 ───ない、とは言えない。

 

 イアはガンプラの声が聞こえる。これは事実だ。

 彼女がそう言うなら、確かにそうなのだろう。

 

 

 ペリシア・エリアのガンプラ達が、イアを殺そうとした。

 

 

「……どうして」

「……ボクがいると、この世界が壊れちゃうんだ。だから、この世界が大好きなら、ボクを消そうと……するのは、当たり前で、皆にとって……ボクは、敵なんだ!」

「そんな事!! あるものか!!」

 もしイアのせいでこの世界が消えるかもしれないとしても、自分達だけでもイアを守る。

 二年前()()がそうしたように。それだけ、イアもケイ達にとって既に大切な存在なんだ。

 

 

「当たり前なんて、言うな。俺達にとっての当たり前は、お前も居て、ユメも居て、ニャムさんもカルミアさんもタケシも、居て……!」

「ロックな……。イア、この世界に敵なんて居ねーよ。この世界はガンダムが、ガンプラが好きな奴が自分達の好きを盛り上げようとして戦ってる場所なんだ。敵なんて、そんな物ねーよ」

「二人共……」

 けれど、とイアが言おうとするが、そんな彼女の言葉を遮るように今度はスズが口を開く。

 

「……世界の理なんて簡単に壊せる。私も、この世界に来るまで世界の全部が敵だと思っていた。……でもこの世界は、こんな私でも自由に生きていられるんだ。この世界は───ガンプラは、自由だ」

 彼女はそう言いながら、コンソールパネルを開いてチャット画面を三人に見せた。

 

 

 コンソールパネルには、アンディ達とのグループチャットが映されている。

 つい数秒前、アンディから『マギーに話は通した。十分な安全を確保してイア君達を連れてアダムの林檎のフォースネストに来て欲しい。所在は分かるかね?』とメッセージが送られて来ていた。

 

 曰く、マギーが現状の解決策を検討してくれたらしい。

 

 

 

「この世界はお前の味方だよ、イア」

 ケイはそう言ってイアに手を伸ばす。

 

 その手を取るイアの身体の温もりはデータなのかもしれない。だけど、それはデータであっても偽物だという訳じゃない。

 彼女は今ここに居る大切な仲間だ。

 

 

「行こう、イア」

「……う、うん」

 まだ辿々しい彼女の手を引いて、立ち上がるイア。

 不安は消えない。

 

「スズ! イアちゃんは大丈夫ですの!!」

 丁度、合流したアンジェリカが焦った表情で片手を上げながら走ってくる。

 

 

 それを見て、ケイは「ほら、皆イアの事が大切なんだよ」と片手を上げた。

 ケイに釣られて顔を上げるイアに、アンジェリカが抱き付く。

 

「無事だったんですわね!! 良かったですわ!!」

「く、くるしぃ……! あはは、苦しいぞアンジェ」

 そうして少しだけ明るくなったイアを連れて、ケイはアンディとマギーの元に向かうのだった。

 

 

 

「───これで、ヨシ。とりあえず、ひとまずは安心よ」

 マギー曰く。

 バグの原因はイアという存在の情報量の膨大化による、サーバーへの負担だった。

 GBNで時を過ごせば過ごす程、イアは成長し、記憶を蓄積し、サーバー上のデータ量が増えていく。

 

 本来はそのデータを外の世界に出す事で、GBNへの負荷を無くしているのだが───イアは何故かこれが出来ない。

 よって、GBN本部のサーバーを強化する事で一時的にバグの発生を抑えるというのがマギーが一時的に打ち出した対策だった。

 

 

「とりあえず、か」

「そうね。イアちゃんを現実世界に呼び込む事が出来ない以上、とりあえずの対策を取るしかないわ。本部でも解析を進めているようだけど、何分ELダイバーは分からない事だらけだから」

 本当ならイアを現実世界に連れて行き、GBNと切り離す事で何もかもが解決する。

 

 しかし、それが出来ない以上とりあえずの対策を取るしかないのが現状だった。

 

 

「サーバーの状態は本部で逐一確認してくれるそうよ。万が一にも、もうバグは起きない筈だけど……ケイちゃん達は今まで通りイアちゃんを見守っていて欲しいわ」

「それは、勿論」

「もうコイツは俺達の仲間だからな」

 そう言いながらイアの肩を抱くロックだが、イアはまだ少しだけ元気がないようである。

 多少表情が動くようにはなったが、未だにいつもの元気は戻ってきていない。

 

 

 それからしばらくして、時間が経つとアンディ達やアンジェリカ達はGBNをログアウトする時間になってしまった。

 そのままマギーのフォースネストに世話になり続けるのも迷惑かと思って、ケイ達は自分達のフォースネストに帰っていく。

 

 

 マギーは「私は勿論、タイガちゃん達にも頼って良いのよ。イアちゃんの事を任せておいてなんだけど、私達は全面的にGBNの皆の仲間なんだから」と言ってくれた。

 確かにイアは最初、突然嵐のようにやってきた謎の幽霊少女だったのかもしれない。世話をしているのだって、始めはマギーに頼まれたからである。

 

 

 それでも、イアはケイ達にとってもう掛け替えの無い仲間だった。

 

 

 

「二人は帰らないのか?」

「いや、まぁ……俺様暇だしな」

「俺も、帰っても仕方ないしさ」

 夜遅くなっても、二人はGBNをログアウトしない。

 

 時間は刻々と進む。

 

 

「……ボクは、ここに居て良いのかな?」

 そうして、イアはゆっくりとこう口を開いた。



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ここに居る事

 デパート。

 

 

 現実の世界で、ユメカとヒメカはデパートで買い物をしていた。

 久し振りのお出掛けに楽しそうなヒメカを眺めながら、ユメカはふと視界に入ったプラモ屋さんに目を向ける。

 

 以前この場所に来て買ったガンプラは、カルミアのトラックに轢かれて壊れてしまった。

 勿論あの時の事でカルミアを恨んでいたりはしないし、あの時のベアッガイのパーツが今はユメカのデルタグラスパーに流用されている。

 

 バンシィもヒメカとガンプラを一緒に作る思い出が作れて、ここでガンプラを買ったのはユメカにとって大切な思い出だった。

 

 

「お姉ちゃん? ガンプラ?」

「え? あ、ううん。違うよ。ちょっと見てただけ」

「あはは、お姉ちゃん本当にガンプラが好きなんだね」

「あ、あはは……そうかな?」

 せっかく妹と遊んでいるのに、ガンプラの事を考えてしまうのは申し訳ないと頭を掻くユメカ。

 しかし、ヒメカは不満そうにする訳でもなくガンプラが好きなユメカの事も好きなのだと笑顔で「そうだよー」と答える。

 

 

「本当は今日、ガンプラしたかったの?」

「うーん、どうなんだろ。確かにGBNにも行きたいけど、私はヒメカとも遊びたいから」

「……ありがと、お姉ちゃん」

 ユメカの言葉が嬉しかったのか、顔を赤くして俯くヒメカ。

 

「帰ろっか、お姉ちゃん」

「え? もう良いの?」

 時刻は夕方。

 確かに帰るのに早い時間ではないが、もう少し遊んでいても良い時間ではあった。

 

 

「私は充分お姉ちゃんと遊んだから。お姉ちゃんも、ガンプラしたいかなって」

「ヒメカ……。うん、ありがと。それじゃ、アオト君のプラモ屋さんでGBNをやって来ても良い?」

「うん。終わったら、電話してね。迎えにいくから」

「玄関からで良いよ。多分タケシ君も居るし、一人で帰れるから」

 言いながら、ユメカはヒメカとデパートではないプラモ屋に向かう。

 

 到着すると、丁度カルミアがログインしようとしていた所だった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GBN。

 

 

「……ボクは、ここに居て良いのかな?」

 ゆっくりと口を開くイア。

 

 それを聞いたケイとロックが「当たり前だ」と答えようとしたその瞬間───

 

 

「───当たり前だよ!!」

「そうっすよ!!」

「なーにしょぼくれた顔してんのよ、ほーらおじさん達が来たぜー。遊ぼうじゃないの」

 今日はGBNにログインしないと言っていた三人が、ReBondのフォースネストにやってきて口を揃える。

 

 

「ユメ!?」

「ニャムさんにおっさんまで、どうしたんだ? 今日は来ないんじゃなかったのか?」

「三人共……」

 振り向いたイアも、驚いた表情で三人を見て固まった。

 

 ユメは妹とお出掛け、ニャムは学校の課題、カルミアは仕事。

 今日は珍しく二人しかGBNにログイン出来ない日だった筈である。

 

 

「いやー、なんというかね。テンチョーさんが落ち着いて来たから今日はもう良いよって」

「ジブンは恥ずかしながら、GBNにログインしたいが為に課題を早急に終わらせてしまいまして」

「私も、帰りにちょっとやろうかなと思って。……そしたら、スズちゃんからイアちゃんの事聞いてカルミアさんと急いでログインしてきたんだ」

 言いながら、ユメはイアの元に走って来て彼女の身体を抱きしめた。

 

「ゆ、ユメ……?」

「イアちゃんはここに居て良いんだよ。イアちゃんは、私達の大切な仲間なんだよ。……イアちゃんに、私はここに居て欲しいんだよ」

 泣きながらそう言うユメに、イアは目を見開いて表情を歪ませる。

 

 

「逆に、ジブン達が此処に入れなかった事が申し訳ないと思ってるくらいっすよ。不安でしたよね、本当に……」

「おじさんはさ、イアみたいな子を一人知ってる。……その子は、もう消えてしまったんだけどな」

 イアに視線を合わせて、カルミアはこう言葉を続けた。

 

「……俺はもうあの子に会えない。本当に辛いんだ。もう二度と、あんな思いしたくない、させたくない。……イア、おじさん達が嫌じゃないなら、ずっと一緒に居てくれ」

「ニャム……カルミア……。ボク……」

 ニャムもカルミアも、ユメにならってイアに抱き付く。

 

 安心したのか、余程怖かったのだろうか、イアは二人の胸の中で泣き崩れてしまうのであった。

 

 

 

 その後。

 

「───そもそもなんでボクが怒られないといけないんだ!」

 泣き止んだイアは不満を垂れ流し、頬を膨らませる。

 

 話の内容は彼女が聞いたガンプラの声だった。

 

 

「それじゃ、あのペリシア・エリアのガンプラはイアに対して出て行け……みたいな事を言ってたのか?」

「んー、ニュアンス的にはそんな感じ」

 ロックの問い掛けにそう返事をするイア。

 泣き止んで話していくと、普段の彼女のような元気は戻ってきたようである。

 

「ちょっと気になる話っすよね。バグの発生理由はともかく、ガンプラがそんな事を言うなんて」

「とはいえおじさん達はガンプラが何を考えてるかなんて分からない訳じゃない。案外気まぐれなガンプラだったのかもよ? ほら、部屋に蚊がいる時気にならない時と気になる時があるでしょ。なんかふとした拍子に群がってるダイバーが鬱陶しく思っちゃったんじゃないの?」

「そんな理由でボクは攻撃されたの!?」

 目を丸くしてそう言うイアだが、ユメは「でも、一理あるのかも」と呟いた。

 

 そんなユメの言葉に、イアは「ユメまで!?」と泣き顔を見せる。

 そんな理由で殺されそうになったのなら、イアとしてはたまったものではない。

 

 

「データ量でサーバーに負荷が掛かって、その場所がガンプラにとって居心地のいい場所じゃなくなっちゃったのかもしれない。んーと、自分達のエリアに突然地雷原が出来たらなんとかしてそれを取り除かないと居ても立っても居られないよね?」

「どんな例えだよ」

「まぁ、でもそういう事か。多分、ガンプラ達はイアじゃなくてサーバーの負荷に怒ってたって事なんじゃないかな」

「ボクじゃなくて……?」

 ケイの言葉に、イアはそう言って首を横に傾けた。

 

 

「イアはやっぱり、悪くないって事だよ」

「……なるほど、ボクそのものに怒っていた訳じゃないと」

 未だに頭の上にクエスチョンマークを付けているイアだが、ケイ達の中で「そう考える物」だというのはハッキリする。

 

 イアは悪くない。

 誰がなんと言おうと、絶対に。

 

 

 

「ところで、君達ログアウトしなくて良いの? 親御さん達心配するんじゃない?」

 少しして唐突に、カルミアがそんな事を言った。

 

 考えてみたら既に夜も遅い。

 普通ならログアウトしたいところだが、カルミアの言葉を聞いてイアが少しだけ表情を曇らせたのをみてケイ達はお互いの顔を見合わせる。

 

 

「おじさんが居るから大丈夫よ」

「なんだ、おっさんここで寝るのか?」

「ぼ、ボクは一人でも大丈夫だぞ!」

「ちょっと夜更かししたくなっただけよ。ほらほら、子供は帰った帰った」

 カルミアはそう言って、ケイ達を強引に帰らせた。

 

 二人きりになったカルミアとイア。

 イアは少し気まずそうにカルミアから距離を取って、彼が動くのを待っている。

 

 

「昔さ」

 そう言って、カルミアはどこを見る訳でもなくフォースネストを見渡しながら口を開いた。

 

 

「ここに、レイアって女の子が居たんだ」

「レ……イア。確か、ボクの名前を決める時に……」

「そう。ここに居た、イアと同じELダイバーみたいな子だった」

「みたいな子?」

 カルミアの言葉に引っ掛かりを覚えたイアは、カルミアに近寄りながらそう問い掛ける。

 

「その子はELダイバーじゃなくて、NPCだったんだ。けれど、その子には自我があって、まるでイア達ELダイバーのようにこの世界で確かに生きているように思えた。……いや、きっと生きていた」

「生きていた……」

「……レイアは、GBNにバグを引き起こす要因だと認識されて運営にデータを消され───俺達に殺されたんだよ」

 そんな彼の言葉に、イアは目を丸くして固まってしまった。

 

 

 もしかしたら、自分もそうなるかもしれない。

 そんな事を考えると、身体が震えてくる。

 

 

「二年前、おじさんがGBNから離れてる間にレイアのような───いや、イアのような存在がGBNに現れた。第二次有志連合戦……サラと呼ばれるGBNで生まれた女の子の命を巡る戦いに勝ったビルドダイバーズは、見事にサラの命を守った。……おじさんはそれを見てな、悔しくてならなかった。レイアを助けられなかった事にじゃない……GBNがレイアを殺したのにサラを救った事がだ……」

「カルミア……」

「だけど、ケー君達と会ってReBondに入って……イアと出会って、その気持ちも変わった。……ケー君達は凄いよ。ちゃんとイアを守ろうとしてる。おじさんにはそれが出来なかった。……やっと、自分が何も出来てなかった事に気が付けたんだ」

 そう言って、カルミアはイアの頭を撫でた。

 

 レイアと同じ赤い髪の毛。

 けれど、彼女はレイアじゃない。

 

 

「……俺は、もう絶対に手放さねぇ。だから、安心してよ。イアにはおじさん達が付いてるから」

「……うん。カルミアの手、あったかいよ。……安心した」

 そう言って、イアは彼からゆっくりと離れてくるくると回ってから振り向く。

 

 

「ボクの事、よろしくね!」

「……イア」

 そんな彼女の表情が、カルミアの脳裏で一人の少女と重なったのだった。



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第十二章──手練れの元で【切り裂く閃光】
タイガーウルフの下で


 宇宙。

 

 

「何をどうすりゃクリアなんだよぉぉおおお!!」

 大量のMSの攻撃を避けながら、ジャスティスガンダムをカスタマイズした機体のパイロットが叫んでいた。

 

「勝利条件不明? どういうことだ? ゼルトザームに加えて……この敵の数」

「勝利条件は敵の殲滅? 砲台の破壊? ゼルトザーム!?」

 ジャスティスガンダムの見方であろう二機のガンプラ。

 

 GBNのミッション。

 きっと彼等はそう思っていたのだろう。

 

 

「……これなら」

 三人の仲間である一人の少女───ケイ達がイアと出会った時にイアを探していたメイというELダイバーがビームで虚空を薙ぎ払った。

 射線状の敵を吹き飛ばし、道を作るメイ。

 

 その道の先には月───否、起動砲台が構えている。

 

 

「メイのやつ、あんな武器持ってたのかよ」

「あれを止めるぞ!」

 彼女に続く三人。

 

 彼等のミッションは、佳境を迎えようとしていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 虎武龍フォースネスト。

 

 

「よ、タイガー師匠! 来たぜ!」

「タイガー師匠……」

「あのタイガーウルフをこうも気安く呼ぶとは、恐るべしっすねロック氏」

 とある平凡な日のGBN。

 ケイ達ReBondのメンバーは、タイガーウルフがリーダーを務めるフォース虎武龍のフォースネストに足を運んでいる。

 

 目的は、タイガーウルフ直々に訓練を受ける事だった。

 

 

 

 それは数日前の事。

 

「強くなりたいな……」

 ペリシア・エリアでのバグによりエリア内のガンプラに襲われてから、ケイは力不足を感じていたのである。

 あの時は確かに時間稼ぎという役割をなんとかこなす事が出来た。

 

 しかし、それは偶々居合わせたシャフリヤールのおかげで成り立った役割である。

 

 彼が居なかったらどうなっていただろうか。

 エクリプスストライカーを装備したとして、彼と同じ真似が出来ただろうか。ダブルオーストライカーを装備してロックのように立ち回る事が出来ただろうか。

 

 ノワールはケイの事をエースだといった。

 その真意は分かっているし、自分の役割も分かっている。

 

 

 しかし、やはり自力が高くなければ出来ないこともあるのだという事をケイは思い知らされていた。

 

 

「それじゃ、今度タイガー師匠の所行くからお前も来るか?」

「は?」

 そうして、ロックの突然の提案でケイ達は虎武龍の門を叩いた訳である。

 

 

 

「おう、来たかロック。今日は手厳しく行くぞ」

「頼むぜ師匠。特にケイがさ───」

「ワンコだーーー!」

「モフモフだーーー!」

 タイガーウルフが顔を出した瞬間、ロックを吹き飛ばしてタイガーウルフに突進するユメとイア。

 オオカミの顔を、尻尾を、二人は夢中になってモフり始めた。

 

「のわ!? な、なんだ!? ちょっと待て! ちょっと待て!!」

 身体中を触られて転がり回るタイガーウルフ。そんな彼を見ながら、ケイは「そうか、犬派だったんだな。いや、モフれればなんでも良いのか?」と冷静な言葉を漏らす。

 

「ジブンも一応ケモ耳ケモ尻尾属性なんすけどね。なんだか負けた気分っす」

「ニャムさんにはケモ成分が足りないんだよ!」

 目を輝かせてタイガーウルフをモフりながら、ニャムをチラ見してそう言うユメ。

 彼女の言葉にニャムは「そんな……」と項垂れ、そんなニャムを見下ろしながらカルミアは「その人、一応GBNで凄い人だからね」と冷や汗を漏らした。

 

 

「まぁ、楽しそうだし良いんじゃないかな」

「良くない!! 誰か助けろ!!」

「師匠、女の子ダメなんだよ」

「あぁ……それは気の毒に」

「助けろって言ってるだろぉぉおおお!!」

 閑話休題。

 

 

 

「───改めて、俺がタイガーウルフだ。今日はみっちり扱いてやるから覚悟しておけ」

 咳払いをして、厳しそうな表情でそう口にするタイガーウルフ。

 

 ロックとケイは気を引き締めて「はい!」と返事をするが、タイガーウルフは未だに二人にモフられている。

 威厳も何もない。

 

 

「ユメもイアも、とりあえず戻ってこい」

「ケー君のケチ」

「ケイは何も分かってない」

「酷い言われようだ」

 渋々タイガーウルフから離れる二人を見て安心しながら、タイガーウルフはこう口を開いた。

 

「ロック、お前はいつも通り場所を貸してやるから修行を続けるで良いな? 他の奴は俺に着いてこい」

「タケシは別なのか?」

「俺はもう師匠からGBNでの心意気を受け継いでるからな。ま、お前らも頑張れ。あとロックな」

 そう言いながら、ロックは勝手知ったる我が家のように虎武龍の門下生(メンバー)達に片手で挨拶をしながら何処かへ言ってしまう。

 

 イアは「タケシの奴何してんだろ?」とロックを視線で追うが、タイガーウルフに着いていくニャムに「置いて行かれるっすよー」と声を掛けられ視線を前に向けた。

 そんな彼等が向かった先にあったのは───

 

 

 

「───なんで滝」

 ───滝である。

 

「お前達には今から滝に打たれて貰う」

「なんでそうなるんすか!?」

「おじさん達GBNの修行しにきたのよね?」

「ごたごたぬかすな! 修行だ! 早く行け!」

 タイガーウルフの叱咤にケイとニャムとカルミアは悲鳴を上げながら滝ひ向かっていった。

 ユメも、イアに「私達も行く?」と声を掛けるがそんな二人をタイガーウルフは「嬢ちゃん達は良い」と静止する。

 

 

「なんでだ?」

「えーと、私も強くなりたくて」

「女子だからっすか!! ジブンも女子なんすけど!!」

 遠くで滝に打たれる準備をしながら悲鳴を上げるニャム。そんなニャムを無視して、タイガーウルフはこう口を開いた。

 

「お前達はこの修行をする理由がない。だから、この修行の意味を探す事がお前達の修行になるー

「ボク達に理由がない?」

「この修行の……意味?」

 タイガーウルフの言葉の意味が分からず、首を横に傾ける二人。

 

 

「な、なんで俺達は滝に打たれてるんだろう……。GBNでこんな事しても意味ないと思うけど」

「ジブンも女子なんすけど! ねぇ! ジブンも女子なんすけど!!」

「はいはい、分かったよニャムちゃん。でもアレね、確かに水に濡れるとニャムちゃんのアバターでもちょっと色気あるわね」

「は、はぁ!? はっ倒しますよ!!」

「なんで!?」

 カルミアの首元に刀が飛んでくる。

 冷や汗を流すカルミアの髪は、滝に打たれて後ろで纏めていた髪が解けて長い髪に水が滴っていた。そんなカルミアの顔を見てニャムは「……色気で負けている気がする」と目を白くする。

 

 

 そうして理由も分からないまま滝に打たれ続け、何故かGBNで生身で行う修行はこう続いた。

 

「次は正拳突きだ! それが終わったら腹筋、腕立て。次は転がってくる岩から逃げろ!!」

「なんで!!」

 MS───ジーエンアルトロンに乗り岩盤を持ち上げケイ達に投げ付けるタイガーウルフ。

 

 ケイ達は必死に岩から逃げるが、しまいにはぺちゃんこにされてしまう。

 

 

「け、ケイ達が死んだ!」

「私達がやらなくて良い理由って、イアちゃんだと危ないから?」

「違う」

 ユメの言葉を一蹴して、タイガーウルフはリスポーンしたケイ達に再び岩を投げ付け始めた。

 

 彼の真意は、まだ二人にも分からない。

 

 

 

「なんでおじさん達こんな拷問みたいな事してるの!?」

「ひー! 死ぬ! 死ぬっすよそれは! また死ぬ!」

「ニャムちゃんその腰の刀でなんとかしてよ! 飾りじゃないでしょ!?」

「こんなの飾りっすよ!! 偉い人には分からんのです!!」

「さっき投げてきたでしょうに!!」

 悲鳴を上げながら、結局飛んできた岩に再び潰されるカルミア。

 カルミアの死体(が埋まっている岩)を見て息を呑むニャムだが、彼女もまた直ぐに飛んできた岩に潰されてしまう。

 

 

「な、何してるんだ……俺は」

 岩をなんとか避けながらも、自分のしている事の意味が分からないケイ。

 

 そんなケイを見下ろすタイガーウルフは、目を細めてケイを狙う回数を増やすのであった。



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拳に宿る光

 一人。

 ロックは座り込んで目を瞑り、瞑想をしていた。

 

 

 瞑想とは名ばかりで、彼はジッとしている事が苦手である。

 なので目を瞑っていても彼は瞑想というより頭の中で妄想をして楽しんでしまっていた。

 

 

 脳裏に描かれる自らの機体───デュナメスHell。

 GNスナイパーライフルが敵を何体も貫き、狙撃者として完璧な立ち回りをする妄想をすると自然と肩の力が入ってニヤけてしまう。

 

 

「……そこ、集中しろ」

「は!? すみません師匠───じゃなくて、なんでスズがここに居るんだ?」

 怒られたと思って目を開くと、何故かそこにはメフィストフェレスのスズの姿があった。

 

 

「……タイガーウルフに頼まれた。ロックを見てやってくれって」

「師匠が、俺を? スズに? なんで?」

「───必殺技、欲しいんだろ」

 静かにそう言うスズの言葉に、ロックは息を呑む。

 

 

「……私がお前に足りない物を埋める。それが、ロックの成長に繋がるんだと。……来い、(しご)いてやる」

「……ヘッ、上等だぜ」

 そう言ってロックは構えた。

 何故かスズも柔道着で構えている。

 

 誰が言うでもなく、二人はお互いのタイミングでぶつかり合った。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 眼前に立つMS。

 

 

「次はコイツらの相手をしろ」

「なんで!!」

 一方。

 タイガーウルフの修行を受けていたケイ達は、何故かMSの前に立たされている。

 

 ガンダムWに登場するビルゴが三機。

 ライフルなどの武器は装備される事なく丸腰だが、そもそもケイ達は丸腰どころか生身───ダイバーだ。

 

 MSに人が勝てる訳がない、とケイとカルミアは青ざめる。

 

 

「なるほど! これはつまり、MSイグルー重力戦線のように人がどうMSと戦うかって事っすね! バズーカとか無いんすか!?」

「ニャムちゃんが壊れた……」

「変な修行し過ぎておかしくなっちゃったな……」

 苦笑いを溢す二人だが、逆に冷静になって考える事が出来た。

 

 

 あのタイガーウルフが、何の意味もない事をやらせる訳がない。

 

 なら、この修行には何かしらの意味がある。

 それを考えるのが、この修行の意味なのではないだろうか。

 

 

「……GBNで腹筋とか滝行なんてしたって、身体が鍛えられる訳じゃない。そもそもこの身体はデータなんだ。俺とかカルミアさんはあまり現実と変わらないけど、ロックは金髪だしニャムさんは全身もうなんか凄い違う。……ユメは───」

 そう口にして、ケイは一つ気付く事があった。

 

「ユメは現実では歩けない、けど……このGBNなら現実では出来ない事も出来る。この身体は、俺であって俺じゃない」

「ケイ殿?」

「───気付いたようだな」

 そんなケイを見て、タイガーウルフは口角を吊り上げる。

 

「……だったら、俺にも出来る筈だ。ユメみたいに、イアみたいに───」

 言いながら、ケイは腕に力を込めた。握った拳に集中する。

 

「ケー君!?」

「な、なにごとっすか!?」

 驚く二人の前で放たれる拳。

 その拳圧は地面を抉り、鋼鉄の巨人へと向かい───

 

 

「ケイがなんか凄いパンチだしたぞ!」

「そっか……ここはGBNだから、この身体は現実じゃない。私やイアちゃんがケー君達と同じ修行をしなくて良いのって……」

「そうだ。嬢ちゃんはこの世界で現実の己を超える術を知っている。ELダイバーであるそっちの赤いのもな」

「イアな!」

「……まずはこの世界の己を知る事。それがこの修行の意味だ。掴んだようだな」

 現実とこの世界の自分との違い。それを知り、この世界の自分を知る事。

 

 そうする事で、この世界で自分が出来る事が広がるのだとタイガーウルフは二人に語った。

 

 

 そして───

 

 

 

「うぉぉおおお!」

 ───ケイから放たれた拳は、リーオーの鉄の身体に弾かれる。

 

「ダメだったぁああ!!」

「ま、無理な物は無理だかな」

「「えぇ!?」」

 キッパリ言うタイガーウルフの言葉にひっくり返るユメとイア。

 

 そして、ケイ達は当たり前のようにリーオーに踏み潰された。しかしこれでタイガーウルフの試練は突破したという事になる。

 

 

 

「回りくどいと思ったかもしれないが、鍛錬に効率はあっても近道はない。己で気付かなければ、口で言っても分からんだろう」

「なるほど、ユメちゃんにはもう出来てるからって事ね」

 カルミアの言う通り。

 

 ユメは初めから───GBNにログインしたその時から、この世界の自分と現実の自分は違うということが分かっていた。

 現実の世界では出来ない事も、この世界なら出来る。

 

 それは、ユメだけじゃない。ケイ達も同じなのだ。

 

 

「───まずはこの世界で己を知れ。その上で、敵を知れば百戦危うからず。言うなれば……無敵だ!」

「おー! 無敵か!」

「大袈裟っすけど、確かに言ってる事は合理的っすね」

 この世界での己を知る事。

 限界なんてない、絶対なんてない。それがこのGBNなのだと、タイガーウルフは語る。

 

 

「ケイ、さっきのパンチは中々見応えがあったぞ。なんなら、俺の所で本気で見てやる。そうすればお前も、ロックの奴が欲しがってる()()()を手に入れられるかもしれんぞ」

「必殺技……」

 言われて、ケイの脳裏にいつかのバトルの光景が過ぎった。

 

 超大規模変則スコア戦。

 あの時ビルドダイバーズのリクと戦って、決定的な力の差を見せ付けられた事を思い出す。

 

 

 チャンピオンがイアやユメ達との戦いで見せた技、タイガーウルフがイベント戦でシャフリヤールに放った技、シャフリヤールがペリシア・エリアで助けてくれた時に見せてくれた技も必殺技だ。

 

 このGBNでは、ダイバーとガンプラがシステム以上の力を放つ事がある。

 

 解放条件は公表されていない。

 

 

 イベント戦の時にタイガーウルフの必殺技を見たロックは、彼に憧れてこの虎武龍の門を叩いたらしい。

 彼がここに居ないのは、既にタイガーウルフの試練を乗り越えて必殺技の習得に力を注いでいるからだ。

 

 

「……俺も、必殺技が使いたい」

「良いっすねぇ。ジブンも使いたいっす!」

「ボクも!」

「私にも、出来るのかな?」

「あぁ、俺が教えてや───」

「少し待ちたまえ」

 親指を立てて口を開くタイガーウルフの言葉を遮る大人の声が一つ。

 

「誰だ!!」

「私だ!!」

 振り向くタイガーウルフの視線に入ったのは、ケモミミの生えた褐色肌の美青年だった。

 

「……シャフリヤール!」

 彼の名はシャフリヤール。

 タイガーウルフとは犬猿の中であり、ペリシア・エリアでケイとイア達を救った人物である。

 

 

「あ、シャフリヤールさん……」

「ご無沙汰しているね、ケイ君。件の事は一旦落ち着いたようで何よりだ」

「あの時は本当にありがとうございました」

 歩いてくるシャフリヤールに頭を下げるケイ。

 

「そんな事はどうでも良いんだ。……ケイ、そんな筋肉バカより私の元で修行をしたまえ?」

「え、シャフリヤールさんの所で?」

「あぁ、私なら君のビルダー技術も含めた指導が出来る。君はガンプラに愛を乗せる技術の高いビルダーだ。是非、私の元に来たまえ」

 そう話すケイとシャフリヤールを口を開けたまま交互に見比べるタイガーウルフは、遂に血管を浮き出させながら「おい!! ケイは俺の弟子になるんだ。手を出すんじゃねぇ!!」と声を上げた。

 

 

「あらあらー、ケー君はモテモテねー。おじさん妬いちゃう」

「あ、あのシャフリヤール殿から声を掛けられるなんて……流石っすよケイ殿!!」

「ケイはなんか、人を惹きつける力があるよな。ボクも、ケイの近くに居たいって思うし」

「え、それってどういう意味!? イアちゃん!? ねぇ、イアちゃん!!」

「え? 何? どうしたんだユメ。わー!? ユメ!? 落ち着いて!?」

「どういう意味なのぉ……!!」

 唖然とするメンバー。

 イアを揺さぶるユメの事はさておき、騒しい現場にさらに乱入者が現れる。

 

「ふふ、やっぱり仲が良いわね二人共」

「「良くない!!」」

 仲良く返事をする二人の視線の先には、マギーの姿があった。

 

 

「マギーさん!?」

「やっほー、ユメちゃん。ご無沙汰してるわ」

「た、タイガーウルフにシャフリヤール、マギー……なんか凄い事になって来たっすね」

 虎武龍のフォースネストに集まる有名ダイバー達。

 

 ケイ達ReBondは初心者フォースにしては優秀な成績を収めているが、まだまだ中堅にも程遠いフォースである。

 そんな彼等の前にいるのはGBNでもトップクラスのダイバー達だ。ニャムは眩暈がして倒れそうになる。

 

 

「どうして此処に?」

「私はお話があってね。それより、二人共喧嘩はダメよ。誰の下で修行するなんてのは本人の決める事なんだから。ね、ケイちゃん」

「……え、えーと、はい」

 ケイを引っ張り合うタイガーウルフとシャフリヤールの間に入るマギー。

 彼はゆっくりとケイに視線を合わせてから「それで、ケイちゃんは誰の下で修行したいのかしら?」と問い掛けた。

 

 

「俺は……」

「勿論俺だよな。俺の元に来い!」

「何を言っている。私だ、私の元に来るんだ!」

「ふふ、なんだか懐かしい光景ね」

 マギーは、ビルドダイバーズのリクを二人が取り合っていた時の事を思い出す。

 どうしてだろうか、リクやケイには人を惹きつける何かを感じてやまない。思えばケイのガンプラを初めて見た時、あの時から───

 

 

「───俺は、二人共に教えて欲しいです。いや、なんならマギーさんにも!」

 ───彼はあの時から、意志が強くて、強くなる事に貪欲で、その前に進もうとする力に、誰もが惹きつけられるのだ。




読了ありがとうございました。

今回なんとロック・リバー(イシカワ・タケシ)作、デュナメスHellを実際に作ってみたので写真を置いておきます。

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デュナメスHell。タケシが小学生の頃に作ったガンプラなので態と粗を多くしてみました。面倒だったからマスキングサボったわけじゃないよ!
と、いう訳で。実際にガンプラ制作始めました。目指せReBondメンバーの機体コンプリートです。

それでは次回もお楽しみに。


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拳に込める想い

 ロックは打ちのめされていた。

 

 

「……その程度か、ロック」

「やってくれるじゃねぇか」

 柔道着を着たスズの眼前に倒れ込むロック。

 何故か取っ組み合いをしている二人だが、戦いの行方はロックの完全敗北といった所である。

 

「まだまだぁ!!」

「下が甘い」

 掴みかかろうとするロックを転ばせるスズ。

 MS戦での格闘戦なら、ロックに勝るダイバーはそうは居ない。

 

 しかし、GBNのダイバーでの格闘戦は話が別だった。

 

 

「くそ、速すぎるだろ……」

「動きが硬い。……まだその身体を、自分の物に出来てない。……だからお前は外すんだ」

 そう言って、スズは再び構える。

 

 彼女はユメ以上にこの世界で自分の身体をものにしている人物だ。

 障害で現実の世界では手も足もない彼女だからこそ、この世界での自分の身体を深く理解出来ている。だからこそ、MSで腕が増えようが彼女は巧みに操作する事が出来るのだ。

 

 

「センスは良い。……だから後は、この世界での自分を知る事。ロック、お前をライバルだと思ってるのはノワールだけじゃない。……私もなんだ」

「スズ……」

「……こい。私に勝つまで」

 言われなくても、とロックは立ち上がって再びスズに掴み掛かる。

 

 

 その身体が何度も弾き飛ばされようが、ロックは立ち上がる事を辞めなかった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 タイガーウルフに連れられて、ケイは虎武龍フォースネストの中にある道場にやって来る。

 

 

 隣から聞こえてくるロックの悲鳴を聞いて「ロックの声ですか?」と問い掛けたケイに対して、タイガーウルフは「今は自分の修行に集中しろ」と注意された。

 

「───俺が修行したからには、アイツよりも俺の元で学びたいと思うだろう。……ケイ、まずはさっきのパンチを俺に向けてみろ」

「え? 良いんですか?」

「俺は鍛えてるからな」

 そういう問題なのだろうか、とケイは首を傾げる。

 

 しかし、やれと言われたらやるのがルールだ。

 

 

「タイガーウルフさん大丈夫かな? さっきのケー君のパンチ凄かったけど」

「アレはボクでも吹っ飛ぶぞ。ワンコはデカいから大丈夫だと思うけど」

「誰がワンコだ!」

 着いてきたユメとイアはそんな感想を漏らしながら床に座り込む。

 

 ケイはタイガーウルフにシャフリヤール、そしてマギーに自分を見て欲しいと頼み込んだ。

 本来なら断られてもおかしくないような内容だが、彼の熱さがそうさせたのだろうか。三人共心良く返事をしてくれたのである。

 

 それで、まずケイはタイガーウルフの指導を受ける事になった。

 ユメとイアは同行。

 

 

 そしてニャムは先にシャフリヤールの元で。カルミアは先にマギーの元で指導を受ける事になっている。

 

 

「よし、行きます。……うぉぉおおお!!!」

 放たれる拳。その拳はタイガーウルフの胸を打ち、彼の大柄な身体を三メートル程滑らせた。

 

 

「これはもう漫画とかゲームの世界だね……。いや、ゲームなんだっけ」

 ユメの言う通り、GBNはゲームである。

 だからこんな事が出来るのだが、しかしダイバーがそんな事をしてもガンプラを破壊出来る訳ではない。

 

 

「見事だ、ケイ。その感覚を忘れないように、今から五十回! その拳を放ち続けろ!」

「は、はい!」

 タイガーウルフに言われた通り、ケイは拳を打ち続けた。

 

「ケイって大人しそうに見えて意外と燃えてるとこあるよなー」

「んー、私はあんまり意外に思わないんだよね」

 そんなケイを見ながら、イアの言葉にそう返事をするユメ。

 

「ケー君は昔から、負けず嫌いだったから」

 子供の頃から、彼は幼馴染みの中で一番勝ちに貪欲だったのである。

 

 誰よりもゲームを練習していたし、タケシに格闘戦で勝てなければ遠距離戦を挑み、アオトが新しくガンプラを作ってきた時は慎重に負けないように立ち回って戦っていた。

 幼馴染み三人の中で一番強かったのは紛れもなくケイスケである。

 

 あの日だって、彼はアオトと戦って勝った。

 もしあの日ケイスケがアオトに勝っていなかったら、ユメは此処には居ないかもしれない。

 

 アオトもどこにも行かなかったかもしれない。

 

 

 それからGBNで砂漠の犬と戦うまで、確かにケイは勝ちに消極的だった事を思い出す。

 小学生の頃よりも落ち着いたのは確かだが、それでも彼は心の内に熱い心を持ち続けていた。

 

 

「確かに、この前ロックと戦ってた時もそうだったかもな。スズ達やアンディ達と戦った時も」

「ケー君はあー見えて戦うのが好きなんだよね。……いや、戦って勝つのが好きなのかな。負けるの凄く悔しそうにするから」

 ユメの知る限り、ケイスケはあまりアオトに負けた事がない。

 

 記憶にある一度だけの話。

 アオトに負けたケイスケがあまりにも落ち込んでいた姿が頭を過ぎる。

 

 

「でも、どうしてそんなに負けず嫌いなのかは私にも分からないなぁ。本当に、昔からそうだったから」

「ほえー、長い付き合いなのに?」

「うん。長い付き合いだよ」

 笑顔でそう答えて、ユメは再びケイに視線を向けた。

 

 真剣な表情で拳を打ち出す彼の姿は、どこか眩しくて「やっぱり格好良いな」なんて言葉が漏れる。

 

 

「───終りました!」

「よし。身体に叩き込んだな、MSに乗れ。俺が相手してやる」

 タイガーウルフがそう言うと、道場の天井が割れて開けた。

 

 ユメ達は門下生に連れられて安全な観戦室に移動する。

 闘技場のようなバトルフィールドには、何も装備していない素手の状態のストライクBondとジーエンアルトロンが立っていた。

 

 

「今から拳だけで戦うぞ。足蹴りも禁止だ。お前の武器はその拳一つ。……分かったか!」

「はい!」

「行くぞ! うぉぉおおお!!」

 ケイのストライクBondに飛び掛かるタイガーウルフのジーエンアルトロン。

 地面を蹴って跳躍したジーエンアルトロンは空中で身を翻して回し蹴りを放つ。

 

「足蹴りも禁止って!?」

「俺は良いんだよ!!」

「なるほど!!」

 苦笑いしながら足蹴りを腕で受け止めるケイ。

 

 その一撃は地面が歪む程の威力だったが、ストライクBondは健在だ。

 

 

「……なるほど、良い造り込みしてやがる。シャフリの奴が気にいる訳だぜ。……だが!!」

 追撃。

 ジーエンアルトロンの拳がストライクBondを打ち続ける。

 

「どうした! そんな物か!」

「……っ。そんな事!!」

 半歩引き、切り返しの拳を放つケイ。

 

「出が遅い! さっきの修行を思い出せ!」

 しかし、その拳は掴まれて背負い投げまで持っていかれてしまった。

 直ぐにバランスを整え、今度はケイから仕掛ける。

 

「うぉぉおおお!!!」

 放たれる拳。

 今度はその拳圧が地面を抉り、ジーエンアルトロンを捉えた。

 

「その程度か!!」

 吹き飛ばされるジーエンアルトロンだが、特に損傷はない。

 

「まだだ!!」

 必殺技───には程遠い。

 

 

 感覚は掴んでいる。しかし、何かが足りない。

 

 

「拳に気持ちを乗せろ。お前の意地と根性と感情を乗せろ!! お前がその技に乗せる物はなんだ!! ケイ!!」

「俺が、その技に乗せる物……」

 ふと視線が揺れた。

 

 その先にあるのは、観客席。

 通信が入る。

 

 

「ケー君! 頑張って!」

 大切な幼馴染みの───好きな女の子の声。

 

「───俺の、その技に乗せるのは……」

 構えるストライクBond。

 

 昔から負けるのが嫌いだった。

 特にアオトには負けたくなくて、その理由は今も昔も変わらない。

 

 

 幼稚な、だけど大切な理由。

 

 

「ユメを守りたい。……いや、好きな子に格好良い所見せたい」

 ストライクBondの拳が光る。

 

 

「掴んだか……!」

「うぉぉぉおおおお!!!」

 放たれる拳。

 タイガーウルフは負けじと拳を抜き、お互いの機体の拳がぶつかり合って周囲を吹き飛ばす程の衝撃波を生んだ。

 

 砂嵐が舞う。

 

 

「ケー君!」

「どっちが勝った!?」

 晴れる砂埃。

 

 立っていたのは、ジーエンアルトロンだった。

 

 

「……っ。ダメか」

 ストライクBondの拳は割れ、肘から砕けて地面に落ちる。

 技の力にガンプラの強度が耐えられなかったのだ。

 

 

「いや、上出来だ。コツを掴んだのなら、後は己と己のガンプラを極める。さすれば、お前も境地に辿り着けるだろうよ」

「タイガーウルフさん……」

 コツを掴んだのなら、後は物にするだけ。

 

 何が悪いかも分かっている。

 丁度、この後はガンプラ作りの名手───シャフリヤールから指導を受ける予定だった。

 

 

「よし、免許皆伝……とは言わんが。俺の修行をここまでこなしたお前に俺の奥義を見せてやる。もし、今日の修行を終えても俺の修行をまた受けたいのなら虎武龍の門を叩け」

「はい! ありがとうございま───今なんて?」

「くらえ!! 奥義!!」

「え!? なんで!! なんで奥義!!」

 慌てふためくケイ。

 

 しかし、タイガーウルフが止まる事はない。

 

 

龍虎狼道(りゅうころうど)!!!」

「うわぁぁあああ!?」

 爆散するケイ。手加減も手心もない、本気の技である。

 

 

「な、なんて大人気ないんだワンコ!」

 こうして、ケイ達はタイガーウルフからの指導を受け終わったのであった。



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シャフリヤールの下で

 ペリシア・エリア。

 

 

 ニャムは発狂していた。

 

「うっひょーーー!! 最高だぜぇぇえええ!! これがMAXワタナベのガンプラぁ!! しかもこっちはヨシユキ(仮名)(かっこかめい)氏の!! あっちはもしかしてアラカワ先生のジオラマでは!? うっへへへへ、ふひひひひ、ここが天国か!!」

「随分と楽しそうにガンプラを眺めるね。私の所に来たという事は、やはり君もガンプラを愛するビルダーという事だ───改造ガンプラキラー」

 シャフリヤールのそんな言葉に、興奮していたニャムは一瞬で顔を青くしてまるでロボットのようにゆっくりと振り向く。

 

 人を責めるような表情はしていないが、含みのある言い方にニャムは恐る恐るこう口を開いた。

 

 

「その呼び名は返上したいところっすけど、やっていた事がやっていた事なだけに事実ですし批判はあえて受け取るっすよ」

「いや、私は批判するつもりはない。確かにガンプラは自由で、自由を否定するのは愚かしい事だ。……しかし、愛のない無用な改造に怒りを覚える気持ちは分かる」

 そう言って、シャフリヤールはペリシア・エリアのガンプラを眺める。

 

 上位ビルダー達が戦う為ではなく、こうして眺める為に作り上げたガンプラ。

 勿論、その完成度は戦う為に作られたガンプラと比べようと劣らない。

 

 

「───ここのガンプラは良い」

「そうっすね、ジブンもここのガンプラは本当に凄いって思うっす。少し前なら、きっと少しでも手の加えられたガンプラを見るだけで怒っていたかもしれないっすけど。あはは……」

「その自覚こそ、成長の証だ。君はよくガンプラを見ている。その力、私の元でさらに高めあげないか?」

 ニャムに手を伸ばすシャフリヤール。

 

「ガンプラに見惚れて忘れていましたが、その為にケイ殿より先にここに来た訳っすからね。ありがたく、シャフリヤール殿の御教授を承るっす!!」

「よし、私に着いてきたまえ」

 言われるがまま、ニャムはシャフリヤールに着いて行った。

 

 その先で待ち構えていたのは───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ペリシア・エリアに到着したケイ達は、待ち合わせの場所でシャフリヤールが来るのを待っている。

 以前シャフリヤールの必殺技で吹き飛ばされた街の一片は、既に修復されていた。

 

 

「うぅ……今日は突然襲ってきたりしないだろうな。ボクはもうこりごりだぞ」

「マギーさんは大丈夫だって言ってたし、大丈夫だろ」

「いざとなったら私が守るからね! この前は一緒に居られなくて、とても悔しかったんだから!」

 ユメの言葉に、イアは「頼もしいな!」と笑顔を見せる。

 

 確かにユメのデルタグラスパーなら、この区域を突破するくらい造作もないかもしれない。

 

 彼女の機体の機動力は勿論の事だが───彼女は良く弾を避けるのだ。

 ReBondのメンバーの中で、メフィストフェレスのスズが引き金を引いてから狙撃を交わせるダイバーは彼女しかいない。

 それどころかスズの狙撃技術ならGBN全体で見てもかわせる人間は一握りだろう。

 

 

 ニュータイプとでも言うのだろうか。

 タイガーウルフの言う、この世界の己を完全にコントロール出来ているからなのか。

 

 彼女にはそういう、ガンダム作品で言うところのニュータイプ的な素質を感じざるを得ない。

 

 

「待たせてしまったね。ようやくあの筋肉から解放されたようだが、何か得るものはあったかな」

 そうして話している三人に、シャフリヤールが問い掛けた。

 

 ケイが素直に「はい」と答えると、シャフリヤールは不敵に笑う。

 

 

「ならば良し、次は私の番だ。君達には───ガンプラを作ってもらう!!」

 彼はそう言いながら、ペリシア・エリアの一角にある模型店のような施設の扉を開けた。

 

 その中は見かけ通りの模型店であり、アオトの家のプラモ屋のように様々なガンプラが置いてある。

 違う点といえばGBNへのログインマシン等が見当たらないくらいだ。それもその筈で、ここはそもそもGBNである。

 

 

「GBNに……プラモ屋さん?」

「なんだここ! 小さいガンプラが沢山置いてあるぞ!」

 首を傾げるユメに不思議な光景に目を輝かせるイア。

 

 不思議とはいうが、ユメとイアでは感覚が違った。

 ユメにとってはGBNは現実で作り上げたガンプラをスキャンして遊ぶ世界である。しかし、イアにとって───この世界にとってガンプラはスキャンされた物だ。

 

 この世界には存在しない物。

 

 

 現実で言う()()()()がそこにはある。

 

 

「キョウヤが言ってたな、現実の世界でのガンプラはこんな感じなんだって。ユメ達はあーやってガンプラを作ってるのか?」

 イアはそう言いながら、店の一角にある作業スペースを指差した。

 

 その場所では、ダイバー達が思い思いにガンプラを作っている。

 

 

「うん、そうだよ。だけどやっぱり、なんでGBNでガンプラを───あれ?」

 ふと、イアの指差す先に視線を向けるユメ。

 

 その先に映った人物に彼女は「あ」と口を開けて指を向けた。

 

 

「ニャムさんだ」

「お、本当だ」

 作業スペースではニャムがガンプラを作っている。

 彼女は「うぉぉおおお!」と叫びながら周りのダイバーとは違う雰囲気で作業に没頭していた。それで、ユメ達に気が付かないのだろう。

 

「なんで、GBNでガンプラを?」

「愛、だよ」

 ケイの質問にシャフリヤールはそう答えると、店の中にあるガンプラを三つ持って三人を作業スペースに座らせた。

 

 それぞれの前に置かれるガンプラはストライク、デルタプラス、Z。

 三人がバトルで使っているガンプラである。

 

 

「……あ、愛?」

「そう、愛だ。君達にはガンプラへの自らの愛を確かめて欲しい。さて、始めたまえ」

 そう言ってシャフリヤールは店の端まで歩いて行った。

 声を掛けて止められる雰囲気でもなく、言われた通りにガンプラを作るしかなさそうだ。

 

 

「とりあえず、やるか」

 言いながらガンプラの箱を開けるケイ。

 普段のように、箱を開けて取扱説明書を確認し、ランナーを分かりやすいように分ける。

 

 そこでふと、ケイはタイガーウルフとの修行を思い出した。

 

 

「GBNで細かい作業をするのって難しいと思ってたけど、なんか思ったより身体が自由に動くな。……さっきの修行の成果なのか?」

 GBNは仮想空間である。

 その世界の身体は自分のものではない為、多くのダイバー達は体を動かす時多少の違和感を覚えるもので───ケイもこれまでそれは例外ではなかった。

 

 しかし、今ふと細かい作業をしようとした時に身体がいつもより素直に動くと感じる。

 

 

 そんな彼を見ながら、シャフリヤールは「流石だな」とこの場に居ない誰かの顔を思い浮かべながら呟いた。

 

 

 

「コレ、ボクが乗ってるZか! ガンプラってこうなってるんだな! てか、これが動いてるのか? 中身スカスカだけど!」

「スカスカ……。あはは、確かに。でも、私達の世界ではこれがガンプラなんだよ。ガンダムの、プラモデル」

「へー。ユメやケイのは……なんか、違うな。似てるけど、ユメ達が乗ってるガンプラとは少し違う」

「あー、俺達が使ってるガンプラはミキシングとか改良したりしてるから」

 首を傾げるイアに、ケイは手を動かしながらそう口を開く。

 

「例えば、このストライクの肩のパーツ。ユメのデルタに似てるだろ? このガンプラのパーツを、別のガンプラに使う。これがミキシング」

「おー! そうやってくっ付けたガンプラをすきゃん? して、GBNで闘ってるのか! 凄いな! ボクのZもみきしんぐ? してくれ!」

「あははー、それはちょっと無理なんすよねー」

 三人の隣に座りながら、ニャムがそう口を挟んだ。

 

 先程までの気迫は薄れている───かと思いきや、手は高速でガンプラを作っている。

 ケイとユメは「これがニャムさんのガンプラ作り……」と口を開いて固まった。

 

「な、なんでだニャム!」

「Zはログアウト出来なくなってて、新しくログイン出来ないからアップデートが出来なくなっちゃってるんすよ。イアちゃんが現実世界に行けないのと何か関係があるとは思ってるんすけど、ジブンにはなんともって感じっすね」

 そう答えるニャムに、イアは「ぐぬぬぬぬ、ボクもみきしんぐガンプラで戦いたい……」と頬を膨らませる。

 

「ま、でもZは自分の自信作でもあるので機体性能は折り紙付きっすよ。あと、今回はガンプラを作るのを体験して欲しいのでミキシングの話は置いておきましょう」

 そう語るニャムの言葉を聞いて、ケイはふと思う事があった。

 

 

 実の所、ケイは素のストライクをガンプラでしっかり最初から最後まで作った事がないのである。

 

 彼が使っているストライクは元々はアオトの物だ。

 アオトが残したストライクの補修の為にパーツを作ったり、ユメのデルタグラスパーを作る為にパーツを触ったりとした事はある。

 しかし、ストライクそのものを使ったことが彼は一度も無かった。

 

「おー! Zはこうやって作るのか!」

「そうっすよ。次はこっちのパーツを───そのパーツは向きに気を付けて下さいね」

「ユメ凄いぞ! このちっさいZがちゃんと変形するらしい!」

「凄いよねー。私のデルタプラスも変形するんだよ、ほら」

「うわ! 凄いなユメ!」

 イアもそうだが、ケイは自分が乗っている機体なのに知らない事がある。

 パーツを切り取りながら、ケイは「こんな風になってたんだな……」と楽しそうに呟くのであった。



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光よ届け

 ガンプラを作るニャムにシャフリヤールはこう問い掛けた。

 

 

「───なぜ、こんな事をしているのか分かったかな?」

 シャフリヤールの問いかけに、ニャムは手を止めずに少し考え込む。

 

 考えていても、手は勝手に動いた。

 GBNは現実とは違う。確かに現実で作るよりも身体がいう事を聞いてくれないと思う事はあった。

 

 それでも、彼女にはこれまで培ってきたガンプラの知識と技術がある。

 若干普段と違う作業だろうと、無意識のうちに普段と同じ事が出来る程彼女はガンプラを作る事に人生を掛けてきたのだ。

 

 

「ジブンがガンプラを作り出したのは、まだ小学校にも入ってない時でした。……兄が作っていたのを真似して。あの時はそれはもう酷い出来だったっすよ」

 言いながら、彼女は手を止める。

 別に手を動かしながら作業する事もできるが、少しゆっくりガンプラを作りたくなったのだ。

 

「……でも、凄く楽しんでたっす。兄が見ていたガンダムのアニメに出てくるロボットの形が目の前に出来ていく。いつも隠れていた背中はこうなってるのかとか、足の裏はこんな風なんだとか、ディテールに目を輝かせて、デザインされたガンプラを設定に忠実に作る。……その事に取り憑かれて、改造ガンプラキラーなんてやってたんすよね」

「でも、得る物もあったんじゃないかな」

 シャフリヤールの言葉に、ニャムは少し考えて「確かに」と短く答える。

 

「……ケイ殿達に会えたのは、ジブンが改造ガンプラキラーなんて愚かな事をしていたからですしね。それに、素組を如何に高性能に作るかにおいてはそれなりに自信があるっす」

「そうだ。君のガンプラへの愛は凄まじい。……そして、君は次のステージへの階段が目の前に見えているビルダーでもある」

「次のステージへの階段?」

 首を傾げるニャム。

 

 自分が成長する為の何かが、自分の目の前に見えているとシャフリヤールは言った。

 しかし、ニャムにはそれがなんなのか分からない。

 

 

「───おっと、彼等から連絡だ。どうやらあの筋肉との修行を終えたようだね。私は一度彼等を迎えに行くよ。……君は、次のステージへの階段への手摺りを掴むと良い」

「それは……どういう意味っすか?」

「君の技術はきっと彼等らを次のステージに進ませる事が出来る。ならば君は、彼等の力を借りて次のステージに進むといい」

「まさか───」

 言い掛けたニャムの言葉を、シャフリヤールは手を上げて止める。

 

 

「君の愛がカタチになった物が見られる時を、私は楽しみにしているよ」

 そう言って、シャフリヤールはケイ達を迎えに行った。

 

「……私の、愛」

 作業場で手を止めるニャム。

 

 

「ジブンは……ガンダムが好きで、それで───」

 考えを纏める為に、彼女は再びガンプラを作り出す。

 

 これまで自分が作ってきたガンプラ。

 その数は百を超えてた。それを全て作り終える勢いで、彼女は猛烈な熱と共にガンプラを完成させていく。

 

 

「───ジブンの好きを、ガンプラに込める」

 最後に作り上げたガンプラ。ターンXを眺めながら、彼女はそんな言葉を漏らすのだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 完済したガンプラを見てイアは歓喜の声を上げる。

 

 

「やっぱりガンプラを作るのって楽しいな」

 彼女だけでなく、ケイもそう言いながら自分で作ったストライクを左右上下から観察していた。

 

 

「初めて作ったストライクはどうだい?」

「そうですね。シャフリヤールさ───え? なんで俺がストライクを作った事がないって……」

「見れば分かるさ。確かに君のガンプラは愛に満ち溢れていた。しかし、ストライクのガンプラそのものへの理解が低い気がしたのだよ」

 ケイの問いかけにそう答えるシャフリヤール。

 

 二、三度ガンプラを見ただけでそこまでの事が言える。

 これが世界レベルのガンプラビルダーの力なのだろうと、ケイは思わず感心した。

 

 

「確かに、俺はストライクの事をあまり知らなかったみたいです。……あんなに一緒に戦っていたのに」

「しかし、今この瞬間から君のストライクへの理解は高められた筈だ。……ガンプラは愛。その力が、GBNでの糧になる」

 言いながら、シャフリヤールは店の外へ向けて歩き四人に着いてくるよう目で諭す。

 

 彼に着いていくと、小さなプトレマイオスに乗せられて彼等はペリシア・エリアを離れていった。

 

 

 

「さて、君の理解を───ガンプラへの愛を見せてもらおう」

 セラヴィーガンダムシェヘラザードに搭乗したシャフリヤールは、ケイ以外を安全な場所に移動させてそう言う。

 

「確か、君のストライクはダブルオーのストライカーパックを装備していたね。それで来たまえ」

「ダブルオーで? わ、分かりました」

 言われるがままにダブルオーストライクBondに搭乗するケイ。

 

 ケイが機体を出すと、シャフリヤールはセラヴィーガンダムシェヘラザードの装備を換装し───接近形態イフリートモードで構えた。

 

 

「近接戦闘……?」

「ガンプラを真に理解した君なら、今の自分のガンプラをさらに美しく動かせる筈だ。その動きは、この距離での戦いにおいて大きく影響を与える物になる。……さぁ、構えたまえ」

 息を呑むケイ。

 

「さっきはタイガーウルフさんと戦ったんだよ」

「そんなに連続で有名ダイバーとバトル出来るとは、ケイ殿はやはり何か持ってるっすねぇ。……して、この戦いどうなるか」

「頑張れケイ!」

 観客席でそう話す三人。

 タイガーウルフとの戦いと違い、今回は武器を使っても良い。

 しかもこちらはダブルオーストライカーを装備していて、トランザムが使える。

 

 ───しかし、それは相手も同じだ。

 

 

「───手の内を見せよう。トランザム!!」

「初めから!?」

 トランザムを起動させるセラヴィーガンダムシェヘラザード。

 ケイはGNソードIIIを展開し、シャフリヤールの攻撃をなんとか受け止める。

 

 

「なるほど、トランザムを温存して有利を取ろうという事か。素晴らしい発想だが───どこまで持つか」

 連撃。

 

 セラヴィーガンダムシェヘラザードの拳がケイのストライクBondを打ち付けた。

 

 

「───大丈夫、ここのパーツは丈夫に出来てるからまだ耐えられる。損傷を丈夫な位置に抑えて……」

「まだだ!!」

 さらに加速する連撃。

 

 GNソードIIIが砕け、ケイはGNソードIIを二本構える。

 

「───ここだ。トランザム!!」

 アラートが鳴り響くコックピット内で、一瞬の間を置いてからケイはトランザムを起動した。

 

 

 紅に染まる。

 

 

「来たか!」

「ここからは責める!!」

 十二秒。

 ケイがトランザムを温存して、シャフリヤールに使わせた時間だ。

 

 通常ならトランザムの限界時間は約三分である。

 シャフリヤールのセラヴィーガンダムシェヘラザードがトランザムを早く起動した分、トランザム切れによる機動力の低下が先に起きるの可能性が高い。

 

 

 そこが、ケイの勝ち筋だ。

 

 

「うぉぉおおお!!」

 連撃。

 GNソードII二刀流で攻めるケイ。

 刀のリーチで攻めに回る事は出来たが、シャフリヤールも甘くはない。その全てを受け止めながら、GNソードIIに少しずつダメージを与えていく。

 

「素晴らしいガンプラだ……。しかし!」

 遂に砕けるGNソードII。

 その拳が振り抜かれ、コックピットを襲おうとしたその時。

 

 

「貰った!!」

「何!?」

 拳を受け流し、セラヴィーガンダムシェヘラザードを投げ飛ばすストライクBond。

 

 ロックが見せたカウンターの応用だ。

 相手の勢いを利用して敵を投げる動きは柔道に近い。

 

 

「そこだ!!」

 腰のビームサーベルとアーマーシュナイダーを展開して投げ飛ばし、セラヴィーガンダムシェヘラザードに突進するケイ。

 しかしシャフリヤールもそう簡単にやられる程のダイバーではない。すぐに体勢を整え、ビームサーベルを避けて反撃を繰り出す。

 

「動きが早い……! トランザムは……まだ終わらないか!?」

 二分四十秒。

 ケイがトランザムを使用してからの時間だ。

 

 

 ストライクBondのトランザム起動限界時間は三分八秒。

 十二秒早くトランザムを使ったセラヴィーガンダムシェヘラザードはもう少しでトランザムが終わる筈である。

 

 しかし、その動きは止まらない。

 

 そしてあろう事か、十二秒早くトランザムを使ったセラヴィーガンダムシェヘラザードとストライクBondのトランザムが同時に終了した。

 

 

「発想は良い。ビルダーとしての技術も、ダイバーとしての技術も磨かれている。……しかし、君はまだ発展途中だ」

 弾き飛ばされ、地面に叩き付けられるケイのストライクBond。

 トランザム終了時の極端な機動性の低下も感じさせられない。

 

 これが世界で活躍するビルダーなのだと、ケイは息を呑む。

 

 

 

「力の差を見せよう」

 ジンモードに移行するセラヴィーガンダムシェヘラザード。

 

 その構えにケイは見覚えがあった。

 

 

「必殺技……!」

「吹けよシムーン!」

 エネルギーが収束していく。

 

「くそ! 動け、動けストライク!!」

 地面に横たわっていたストライクBondは、なんとか立ち上がるも回避は絶望的だ。

 

「……それでも。俺は、勝ちたい」

 操縦桿を強く握る。

 

 

 何かが、答えてくれた気がした。

 

 

 ビームサーベルも、アーマーシュナイダーも何もない。

 

 

 それでも。

 

 

 

「GNフィールド!」

 ストライクBondをGN粒子のシールドが包み込む。

 

「まだ動けるのか。……しかし、遅い!」

「まだだ。まだ動け、ストライクBond!!」

 スラスターを吹かせ、上空で砲撃体制に入っているセラヴィーガンダムシェヘラザードに突進するストライクBond。

 

 その拳に光が集まった。

 

 

「アレはなんすか!?」

「お! またケイの凄いパンチか!」

「うん。アレはきっと───」

 その拳の光は、遠くで観戦している三人にも見える。

 

 ───きっとそれは、彼の思いの力だ。

 

 

 

「うぉぉぉぉおおおおおお!!!」

「来たまえ───アルフ・ライラ・ワ・ライラ!!」

 光が放たれる。

 

 GNフィールドと拳でシャフリヤールの必殺技を受け止めながら突き進むケイ。

 その拳は砲身まで届いたが、しかし───

 

 

「あと一歩、ではあったな」

 ───砲身を砕いた瞬間、ストライクBondは爆散した。

 

 

 

「……また負けた」

 拳を握りしめるケイ。

 しかしそれは、いつもの悔しさではなく───何かを掴むような強さで。

 

「ケイ! 凄かったぞあのパンチ!」

「もしかして必殺技なんすか!? 必殺技なんすかケイ殿!!」

 きっと、今の自分とストライクではまだ届かない。

 

 

 けれどもう少し先に進めたなら、物に出来る。

 

 

「ケー君、やったね」

「……あぁ、そうだな」

「君のガンプラへの愛、見せてもらったよ。ケイ」

 そんな気がした。



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謝罪

 カルミアは困惑している。

 

 

「ここどこよ……。おっさんなんか拉致ってもしょうがないでしょ」

 ニャムは先にシャフリヤールの元へ行ったということで、彼は先にマギーの元を訪れていた。

 

 しかし、マギーは特に彼と修行をしようとする訳でもなく───カルミアをとある場所に連れて来たのである。

 

 

 何もない。

 逆に不思議な空間にポッカリと穴が開いて、マギーはカルミアに着いてきなさいと目で諭した。

 

 

「あら、需要はあると思うわよ」

「勘弁して下さい」

 苦笑いを漏らしながら進んだ先。

 

 そこにいたのは、SDガンダムの姿をした一人のダイバー。

 

 

「……誰よ、あんた」

「始めまして、かな。私はGBNゲームマスター、カツラギ。……君の大切な友人の命を奪ったゲームの責任者だ」

 ───ゲームマスターカツラギ。

 

 このGBNの責任者である。

 

 

「テメェが……」

 カルミアはその手を強く握りしめた。

 

 レイアはGBNの運営に殺されたと考えるなら、その運営の責任者であるゲームマスターは彼女の仇でもある。

 

 

「私を殴りたければ殴りたまえ」

 それはカツラギも承知の事だ。カルミアの気持ちは分かる。

 

 

「……今ここでアンタを殴ろうがぶちのめそうがぶっ殺そうがあんたはどうともならないしレイアは帰ってこない。でもな、ここでレイアは殺されたんだよ! あんたらにな!」

「その通りだ」

 カツラギは静かにそう返した。

 

 カルミアは一度目を閉じてから、大きな溜息を吐いて目を開く。

 目の前のSDガンダムのアバターは真っ直ぐにカルミアの目を見ていた。

 

 

「……おじさんはタダのゲームのプレイヤーだ。ゲームのシステムとか、バグとか、データとか、良く分からんのよ。だからレイアが殺された事に意味があるってのは理解出来ても納得出来ない。それにあんたらがレイアを殺して、俺達に寄越した連絡はバグの消去の詳細だった。セイヤがこの世界をぶっ壊そうとする気持ちを俺はまだ完全に否定しきれない。あんたを本当に殺せるなら殺してやりたいと思ってるくらいだ。それはセイヤも同じだろうよ。……いや、アイツは違うのかもしれないけどさ」

「違うとは?」

 カツラギの問いに、カルミアは目を細めてこう続ける。

 

「セイヤはレイアの事が好きだったんだ。好きな奴を殺されたから、復讐をしてる。あんたを殺したってしょうがないんだよ。……あんたらの、レイアを殺したGBNの運営の一番大切な物を奪うのがセイヤの目的なんだ」

 レイアの仇なら、カツラギや運営の人間を標的にすれば良い。

 

 

 しかし、これは復讐なのだ。

 

 

 大切な者を奪われた男の復讐なのだ。

 

 

「やはり……」

「大方セイヤの動向を教えて欲しいからマギーさんはおじさんをここに連れて来た訳でしょうけど?」

「……ごめんなさいね。でも、私達も───」

「分かってますとも。ただ、おじさんもセイヤが今、何をしようとしてるのか分かってる訳じゃない。おじさんがセイヤといた時に建てた計画に、チャンピオン殿の言ってたELダイバーが行方不明になってるって話と関係ありそうな計画はなかった」

 そこまで言って、カルミアはふと眉間に皺を寄せる。

 

 

「……なるほど、あの大規模スコア戦。あんたら分かってて仕組んだな?」

「その通りだ」

「本当にプレイヤーの俺達やELダイバーのイア達の事は何も考えてないのね……」

「そんな事ないわ。ELダイバーの所属してるフォースの近くには実力のあるフォースを置いて、事情も話してあったもの」

「……へぇ」

 マギーの言葉に、カルミアは目を細めてカツラギに視線を向けた。

 

 表情の動かないSDガンダムのアバターの男は何を考えているのか分からない。

 

 

「……ま、おじさんの知ってる事なんて限られてる。なんかあのイベント戦の時、アンチレッドのメンバーがおじさんの知る頃からさらに増えたのもおじさんは知らなかった訳だし。一応、喋れる事は喋るけど───」

「いや、今日はその為に君をここに読んだ訳ではない」

「───は?」

 カツラギは驚いているカルミアの目の前まで歩く。そして、その身体は突然光りだした。

 

 

「……あんたは?」

「初めまして、はおかしいな」

 光の中から現れる人間の姿のアバター。

 

「私はカツラギ。このGBNのゲームマスターだ」

 カツラギの別の姿。

 

 その姿は、()()の人間であるカツラギと同じ姿をしている。

 

 

「今日は君に謝りたかったんだ」

 そしてカツラギは、その姿でカルミアに深く頭を下げた。

 カルミアの表情が歪む。

 

 

「……それを、もっと早く俺じゃなくてセイヤにやってればな!!」

 胸倉を掴んだ。カツラギの視線は、SDガンダムの時のように動かない。

 

 その瞳は真っ直ぐにカルミアの目を見続けている。

 

 

「レイアを殺して、謝って済むなんて俺は思ってない。けれど、あんたらはただセイヤの傷を抉るだけだった! サラを救ったように、もっとやれる事があっただろうがよ。俺達大人は、若い子や生まれてくる命を守るのが仕事だろうがよ!! それを……どうしてあんたらは───」

「すまなかった」

 謝る事しか出来なかった。

 

 

 二年前。

 サラを救ったのは自分達ではない。

 

 六年前。

 イリヤを殺したのは自分達である。

 

 

 他にも沢山の命を知らず知らずの内に奪っていたかもしれない。

 

 

 

 だからこそ。

 

 

「───我々はこれ以上、間違えられない」

「当たり前だ。……次間違えたら、俺はお前を本当に殺してやる」

 カツラギを突き放して、カルミアはコンソールパネルを開いた。

 そこで、とあるデータをカツラギに送り付ける。

 

 

「おじさんが抜ける前のアンチレッドの情報、覚えてるだけ。後コイツは普通に個人情報だけどセイヤの住んでた場所、経営してる会社の場所。じけんを起こしてる訳じゃないから家宅捜索とか出来ないだろうけど、探偵ごっことかは出来るでしょ」

 そう言って、カルミアはカツラギに背中を向けた。

 

 

 セイヤを止める。

 その目的は一緒だ。

 

 

「……悔しいけど、レイアは確かにバグったCPUだった。けれど、イアやサラ達のようやELダイバーはもう命として認められてる。セイヤがそれを殺すのはだけは、止めなきゃいけない」

「我々は全力で彼の野望を阻止する。だから、君達にも協力して欲しい」

「……分かってるよ。分かってるから、分かってるけど───でもおじさんはね、ただこの世界を楽しむダイバーの一人でもあるんだ。そこを、履き違えないで欲しい。おじさんは今、ReBondのカルミアなんだから」

 そう言って、カルミアらカツラギの元を去った。

 慌てて着いていくマギーを見送り、カツラギはカルミアから渡されたデータに目を倒す。

 

 

 その内の一つに一枚のスクリーンショットが残されていた。

 

 レイアとセイヤ。

 カルミアが撮ったのだろうツーショットの写真。

 

 二人は笑っている。

 

 

「……ただこの世界を楽しむダイバーの一人でもある。そうだ、だからこそ我々はもう間違えられない」

 カツラギは強く拳を握った。

 

 

「───それに、問題はアンチレッドだけでもなさそうだからな」

 振り向いたカツラギの視線にモニターが映る。

 

 そこに映し出されたのは───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 シャフリヤールの元を離れ、ケイ達はマギーのフォースネストを訪れていた。

 

 

「あの色々凄い人はまだか?」

 しかし、フォースネストにマギーの姿は見当たらない。

 

 曰く、カルミアと用事があるからという事で少し遅れるとの事。

 待っている間、ケイ達はアダムの林檎メンバー達に熱いおもてなしを受ける。

 

 普通にジュースが美味しかった。

 

 

「ただいまー」

「お、カルミア! 遅かったじゃないか!」

「待たせたわねー。おじさん到着よー。何々ー、おじさんが居なくて寂しかったのかー?」

 口角を吊り上げてイアの頭を撫で繰り回すカルミア。そんな彼の姿を見て、マギーは安心した表情を見せる。

 

 

「……あなた達にイアちゃんを任せて良かったわ」

「どうした? カルミア。なんの話してたんだ?」

「別にー。大人の話」

「えっちな話か!」

「ニャムちゃんか。子供に変な事教えたの」

「なんでジブンが真っ先に疑われるんすか!?」

 目を丸くするニャム。カルミアを中心に笑いが溢れた。

 

 そこに、GBNへ復讐をしようとしていた男はもう居ない。彼はもう、ReBondのカルミアなのである。

 

 

 

「───さーて、今日最後の修行よ。あの二人の修行を乗り越えたケイちゃん達に、私達からとっておきの主義! 心してかかりなさい!」

「最後の主義……」

「何をするんだろう?」

「何でも来い! ケイが何とかする!」

「ケイ殿任せなんすね」

「おじさん殆ど何も修行してない……」

「修行内容は───」

「「「修行内容は?」」」

「───私達とのガチンコバトルよ!!」

 マギーの背後に現れるタイガーウルフとシャフリヤール。

 

 かつて無い強敵とのバトルが始まろうとしていた。



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ガチンコバトル

 ステージ『廃墟都市』

 

 

「───私達とのガチンコバトルよ!!」

 そう言ったマギーはケイ達に三対六のバトルを申し込んだ。

 

 マギー、シャフリヤール、タイガーウルフの三人は其々本気のガンプラを持ち込んで手加減なしで戦う気らしい。

 

 

「なんでテメェと組まないと行けないんだよ!」

「それはこちらの台詞だ。君のような脳筋と私が組んで噛み合う訳がない」

「ふふ、やっぱり仲が良いわね」

「「良くない!!」」

 言いながらモビルスーツ同士で取っ組み合いをする二人。呆れたマギーが溜息を漏らした次の瞬間、一筋の光がタイガーウルフの機体───ジーエンアルトロンの右腕を吹き飛ばす。

 

 

「何!?」

「ほほう、あの距離から狙撃してくるか」

「くそ……。こんな事してる場合じゃねーか」

「だから言ったでしょ。ガチンコバトルだって。……さて、本気でやるわよ二人共」

 マギーの言葉に二人は無言で頷いた。

 

 二人共言い争っていた時とは違い、真面目な表情で向かってくる()に視線を合わせる。

 

 

「来なさい、フォースReBond」

 不敵な笑みを浮かべるマギー。

 

 上位フォースのリーダー三人、三機のガンプラが並ぶ姿は圧巻だった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ガチンコバトルよ。

 そう言ったマギーの提案と、彼の背後に現れたタイガーウルフとシャフリヤールの二人にケイ達は尻込みしてしまう。

 

 

 上位フォースのリーダー三人。

 そんなメンバーに自分達は何ができるのだろうか。

 

 そう思っていたケイ達の背後から、頼もしい助っ人の姿が現れた。

 

 

「……私も加勢する。で、良いんだな?」

「スズちゃん!? タケシ君も」

「ロックな?」

 合流したロックに着いてきたのは、ロックと修行していたスズである。

 スズは修行していたというよりはロックをボコボコにしていただけだが。

 

「えぇ。勿論よ」

「おー! スズちゃんが居るなら百人力だね!」

「……買い被り過ぎるのも良くない。相手を見て物を言え、ユメ」

 腕を組んでそう言って、スズは真剣な表情でマギー達に視線を向けた。

 

 

 確かにスズの実力はケイ達の知る中でもずば抜けている。しかし、相手はそれ以上の経験と実力の持ち主だ。

 

 

「ルールは簡単。私達三人を撃破すれば勝ち、あなた達六人が撃破されたら負け。イアちゃんはお留守番よ」

「ぐぬぬ、ルール的にボクは出れないのか! 狡いぞ!」

「六人はイアちゃんを守るつもりでかかって来なさい。さて、細かいルール説明をしたら始まるわよ!」

 そうして始まったReBondにスズを加えたチームとの対決。

 

 

 バトルはお互いに十キロ離れた、街の両端からスタートする。

 

 そして、最初に動いたのはスズだった。

 

 

 

「───私が外した。いや、反射だけで避けたのか?」

「スズちゃんに何が見えてたのか私達には分からないからスズちゃんが何に驚いてたのか分からないよ……」

 タイガーウルフに狙撃を交わされ驚くスズ。

 

「タイガーウルフ氏とシャフリヤール氏が取っ組み合いしてたんすけど、スズちゃんが撃った瞬間タイガーウルフ氏が反応して交わしてましたね。ギリギリ片腕は持って行けてますけど」

 ニャムがそう言いながら機体を持ち上げる。

 

 今日の彼女の機体はターンX。

 ニャム・ギンガニャムという名前に負けない機体だ。

 

 

「ニャムさんやっとターンX出してきたな。本気か?」

「あー、いや、そういう訳じゃないっすけどね。でも確かに、好きな機体とキャラクターではあるっすよ」

 毎日別のガンプラを持ってくるニャムだが、ターンXを持ち出してきたのは初めての事である。

 

「次のステージへの階段……」

 ただ、今回ニャムがターンXを持ってきたのには少しだけ理由があるようだ。

 

 

「さてと、初撃は外れたけどダメージは与えられたわね。上出来上出来。作戦はどうするよ、我等がリーダー」

「……外して悪かったな」

「お、怒らないで……」

 モニター越しにカルミアを睨むスズ。

 お留守番のイアは苦笑いするカルミアを見て「はいそこ集中!」と叱咤をあげる。今回彼女は監督役をやるようだ。

 

 

「よし、俺様が仕切るからな。ニャムさん、なんか作戦」

「……ReBondはいつもこうなのか」

「適材適所って奴だよ。これでも、良いリーダーなんだよタケシ君は」

「そこ聞こえてるからな。あとロック」

 ReBondのいつもの光景に唖然とするスズ。

 

 しかし、適材適所というのは正しい事である。現にメフィストフェレスでも、リーダーはノワールだが作戦立てはトウドウやアンジェリカがする事が多い。

 

 

「そうっすね。とりあえず、スズちゃんを起点にする為に敵を動かす部隊とスズちゃんの護衛に回る部隊で半分に分けると良いと思うっす。街中での戦闘でスズちゃんの射線を気にさせながら戦えれば、数も多いこっちがさらに有利になるっすからね」

「部隊分けは?」

 スズがそう聞くと、ニャムからではなく意外な所で口が開いた。

 

 

「よし、俺とおっさんでスズの護衛。ケイとユメとニャムで遊撃」

 先程ニャムに作戦を全投げしたロックがそんな指示を出す事にスズは驚く。

 なにより、彼は戦いたがって自分を遊撃部隊に入れると思ったからだ。

 

 

 そして彼の判断はスズの中で一番正しい物でもある。

 

 機動力の高いケイとユメ、それに火力と柔軟性に優れたニャムは遊撃に敵していた。

 逆にカルミアの機体は弾幕と耐久が高いが足が遅い。護衛に付けるなら彼の機体と、あと一機は近付かれた相手と()()()が出来る機体だろう。

 

 

 そういう判断をロックがしっかり出来ると言うことに、スズは驚かされた。

 なるほど、ノワールも彼を認める訳だと感心する。

 

 

 

 ニャムの立てた作戦通り、スズは街の端で一番高い建造物の上を陣取った。

 その近くに隠れるようにロックとカルミアが配置に付き、ケイ達遊撃部隊が進撃する。

 

 

「二人共、もし接敵してもまともにやり合おうとしたらダメっすよ。今回はスズちゃんを活かして戦う事を意識するっす」

「タケシ君がスズちゃんみたいに狙撃出来たらこんな作戦も出来るのにね」

「ロック氏には難しいっすよー、あはは」

「聞こえてるからね!!」

「……いつもこうなのか、お前達は」

 呆れながら、スコープを覗き込むスズ。

 

 彼女はロックと修行する前の事を思い出していた。

 

 

 

 

「───ロックを、私が見る?」

「おう。アイツに足りない物が俺には分かったが、俺に教えられる物じゃない。俺の性には合わないが、アイツの才能を殺すには惜しいと思ってな」

 フォースメフィストフェレスのフォースネストに顔を出したタイガーウルフは、スズを名指して協力して欲しいと頭を下げる。

 

 始めアンジェリカ達は驚いていたが、あのタイガーウルフがここまでする男───ノワールが認めたライバルがまだ上を目指そうとしているという事を知って協力しない手はないと彼の申し出を受け入れた。

 

 

「……なぜ私が一人で」

「私達はデイリーとかをこなさないとですし。それに、スズもそろそろ外の世界を見るべきだと思いますわ」

 引きこもり気味なスズに外の世界を見て欲しい。

 そんなアンジェリカ達の思惑もあり、スズは一人でロックの修行を見ることになる。

 

 

 

「……ロックに足りない物。……頭か?」

「あんた結構ズバズバ言うな」

「……いや、分かってる。正直アイツの格闘センスは磨く所がない。とすれば、アイツの足りない物は───」

 ロックとの戦いで思い浮かぶのは、やはり彼の格闘センスだ。

 スズもサイコザクレラージェという重装備の機体で格闘戦をも熟す実力者である。

 しかしやはり、ロックという男には勝てなかったのが現状だった。

 

 

 そんな彼に足りない物、そんな事は分かりきっている。

 

 

 

「───その程度か、ロック」

「やってくれるじゃねーか」

 そしてそれは、自分が持っている物だ。

 

 

 

「───だからお前は外すんだ」

 狙撃技術。

 

 実の所、ロックは丸っ切り当てられない訳ではない。

 掠ったり、撃破ともいかないも当てる事は出来ているのである。

 

 

 何故、何が足りないのか、それは分からないが───

 

 

 

「───ロック、お前も当てられるようになればReBondはもっと前に進める。……お前も狙撃をやれ」

「あ? なんだ? 俺は元々狙撃手だが?」

 近くでGNスナイパーライフルを構えているロックを見て苦笑いを溢すスズ。

 

 

 何はともあれ、ロックが何故当てられないのかを知るには絶好のチャンスだ。

 

 ReBondとの共同戦線。

 スズは少しだけ口角を吊り上げて、再びスコープの中に視線を移す。

 

 

「……やるぞ、ロック」

「任せな。ロック・リバー、目標を狙い打つ!!」

 有名ダイバー三人とのバトルの幕が開いた。



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三対一

 刃が重なる。

 

 

「やるじゃない、ケイちゃん」

「今だ、ユメ!!」

 マギーのガンプラ、ラブファントムのビームカマをビームサーベルで受け止めるケイのクロスボーンストライクBond。

 

 その上空から、ユメのダブルオーデルタグラスパーが変形を解除し真っ直ぐに向かったのはマギーのラブファントムではなく───後方で構えるシャフリヤールのセラヴィーガンダムシェヘラザードだった。

 

 

「隙あり!!」

「なるほど、本命は私か! GNフィールド!!」

 すかさずGNフィールドを展開するシャフリヤール。対するユメは実体剣であるGNソードIIIを振り下ろす。

 

「実体剣なら!」

「なるほど、しっかりと設定を理解している」

 GNフィールドは機体を全方位から守る強力なシールドだ。

 しかし、その特性上実体剣ならばシールドを破る事が出来る。

 

「だがしかし!」

「嘘!?」

「ユメちゃん! 深追いはなしっすよ!」

 GNソードIIIを掴み上げるシャフリヤール。思わぬ反撃を貰いそうになったユメの機体を、ニャムのターンXが飛ばした腕で掬い上げた。

 

「リスク管理もバッチリか」

「いつまで余裕ぶっこいてられるっすかねぇ! シャフリヤール氏!」

 そのまま、分離したターンXの両手足がセラヴィーガンダムシェヘラザードを囲む。

 そして放たれるビームを避けようとスラスターを吹かせた彼の機体を、一筋のビームが襲い掛かった。スズの狙撃である。

 

 

「……確かに、厄介だ」

 GNフィールドで直撃は防いだが、スズの狙撃はシャフリヤールにとっても脅威だった。

 

 なにより、彼の機体の強みはその圧倒的な火力である。

 しかしフィールドの建物がなんとか狙撃の遮蔽になっている関係上、安易に火力を前に出して建物を消しとばして仕舞えば格好の的だ。

 

 

「このまま押し切るっすよ!」

「さて、そうも長く上手く行くものかな」

 しかし、不適な笑みを見せるシャフリヤール。

 

 ニャムにとって気掛かりなのは、この場に居ないタイガーウルフだろう。

 

 

 そしてその憶測通り。

 

 彼はスズの狙撃を攻略する為に動き始めていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ロックとスズのモニターにカルミアとイアの顔が映る。

 

 

「はーい、お二人さん。悪い知らせが二つありまーす」

「おっさん……そういうのは良い知らせと一緒に持ってくる物だろ」

「んな事言われても悪い知らせしかないから仕方ないのよ。イアー、二人にも教えてあげてー」

 そう言うカルミアに続いて、お留守番で観戦兼監督役のイアはこう話を続けた。

 

「ニャムからの通信だと、わんこ───えーと……タイガーウルフの姿がないらしい。そんで、今めっちゃ早い速度でこっちに向かって来てる反応がある」

「そういうのもう少し焦って言おうぜ!?」

「どっちだ」

「三時!!」

「よーし、迎撃体制。一人で突っ込んでくる犬っころをなんとかするわよー。……ま、犬じゃなくてウルフなんだけども」

 一斉に同じ方角を向く三機のMS。

 静かな廃墟都市の傍で、先に動いたのはカルミアのレッドウルフである。

 

 

「炙り出してやるかね……」

 対艦ミサイルと同様に連装ミサイルを発射するカルミア。正面の建物が砕け、爆炎が舞った。

 

 その中から一機のMSが突貫してくる。

 

 

「三対一か、上等だ……!」

「タイガーウルフ師匠!!」

「舐められた物よねぇ」

「……一人で来るとは」

 同時に銃口を向けるカルミアとスズ。

 多彩な武装を搭載するレッドウルフとサブアームにより四つの武装を同時に操るサイコザクレラージェの弾幕はタイガーウルフですらそう簡単には寄せ付けない。

 

 ザクマシンガンにバズーカ、ビームバズーカにビームマシンガン、ミサイルにメガランチャー、地面に罠として設置されていたインコム。

 その殆どを最小限のダメージにで掻い潜り、タイガーウルフは両肩から伸びる腕でマシンガンを受け止めながら一気にスズに肉薄した。

 

 

「うぉぉぉおおおお!!!」

「……コイツ」

 ゲシュマイディッヒパンツァーで拳を受け止め、その陰で逆手持ちにしたヒートホークを二本構えるスズ。

 盾を持ち上げて弾き返したタイガーウルフのジーエンアルトロンに向けヒートホークを切り上げるが、タイガーウルフはそれを足で蹴り飛ばして一度距離を取る。

 

「今の攻撃を防ぎ切り、あまつさえ反撃してくるとはな」

「……今のカウンターで仕留めれないのか」

 狙撃と遊撃特化のサイコザクレラージェが構えるヒートホーク。隠し玉のつもりで、文字通りゲシュマイディッヒパンツァーの陰から攻撃したつもりが反応だけで交わされた。

 

 

 これが虎武龍のタイガーウルフ。

 しかし、スズは不敵に笑って見せる。

 

「───本命は私達じゃない」

「───何?」

「トランザム!!」

 束の間の攻防。

 参戦していなかったロックがトランザムでタイガーウルフの背後を取った。

 

 

「貰ったぜ!!」

「舐めるな!!」

 ビームサイズを根本から受け止めるタイガーウルフ。そしてロックごと撃ち抜くつもりで放たれたカルミアとスズの攻撃を、タイガーウルフはデュナメスHellのGNフルシールドを盾にするように姿勢を変えて受け止める。

 

「なろぉ!!」

 蹴り飛ばし、GNソードⅣを投げるロック。タイガーウルフはそれを弾き飛ばすと、今度は地面を叩き割って岩盤を捲り上げた。

 それを盾にして銃弾を防ぐと、その岩盤をカルミアに投げ付けながらロックに肉薄する。

 

「ちょっとなんなの!?」

 降って来る岩盤をなんとかライフルで粉々に砕くカルミア。その眼前で、タイガーウルフはロックの機体をスズの側に投げ飛ばし───カルミアに猛進した。

 

 

「狙いは俺!?」

「おい邪魔だロック……!」

「んな事言われても……!」

 投げ飛ばされたデュナメスHellと衝突して動けないサイコザクレラージェを尻目に、ジーエンアルトロンの拳がレッドウルフを襲う。

 カルミアは腰の隠し腕を展開し、ビームサーベルを構えてそれを受け止めた。サーベルをものともしないその拳そのものがジーエンアルトロンの()なのだろう。

 

 

「受け止めたか。やるじゃねーか」

「おじさんも伊達じゃないのよね」

 拳と刃を交えるタイガーウルフとカルミア。しかし、レッドウルフの重装甲ではジーエンアルトロンのスピードには追い付かない。

 

 カルミアは次第に押されていった。

 

 

「よく時間を稼いでくれたぜおっさん!!」

「しまった───」

 そんな二人に向けて、体制を立て直したロックがビームサイズを構え突撃する。

 

 二人の鍔迫り合いから、完全に背後を取った。

 避けることは出来ない。ロックが勝ちを確信して振り下ろされたビームサイズは、確かにジーエンアルトロンの左肩と左足を切り飛ばす。

 

 勝った。

 三人がそう思ったその時だった。

 

 

「───しまった、なんてな……!!」

 不敵に笑いながら、タイガーウルフは片足だけで地面を蹴ってその場を飛び去る。彼の狙いは───

 

 

「───何!?」

「───違う、ロッ君! 奴さんの元々の狙いはスズちゃんだ!!」

 ───彼の狙いは初めから一つだ。

 

 

「───吼えろ!! ジーエンアルトロン!!」

 最早右半身しか動かない機体でスズのサイコザクレラージェに突進するタイガーウルフ。

 

 しかし黄金に輝くその機体は、片腕と肩のサブアームだけでだけでスズの防御を崩し、蹴り飛ばしてバランスを崩す。

 踏み込み、その剛腕がスズの機体を貫くまで刹那。

 

 ロックの援護も間に合わない速度でタイガーウルフはスズのサイコザクレラージェを撃破した。

 

 

「くそ、やられたぜ……。流石師匠だが、流石に三対一は俺達の勝ちだな」

「……それはどうかな。いや、俺の勝ちだ」

 ボロボロになり、もはや動かないジーエンアルトロン。

 

 ロックは「流石にここからは勝てないだろ」と目を細める。

 しかし、その刹那───

 

 

「待てよ……ロッ君、回避!」

「は?」

「何ぼさっとしてる! 私がやられたら来るぞ……!」

 観戦室からスズの怒鳴り声。

 

「高熱源反応!! 二人共逃げろぉぉ!!」

 続いてイアの叫び声が木霊した。

 

 

「まさか……」

「この攻防は()()の勝ちだ」

「吹けよシムーン……アルフ・ライラ・ワ・ライラ!!」

 閃光が地表を包み込む。

 

 その場にいた何もかもが、そこには残らなかった。



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ゴッドフィンガー

 獣が駆ける。

 

 

「───吼えろ!! ジーエンアルトロン!!」

 スズのサイコザクレラージェを貫くジーエンアルトロン。

 

 三対一の戦いで既に満身創痍の機体の中で、しかしタイガーウルフは不敵に笑っていた。

 

 

 

「───ケイ殿! スズちゃんが!」

「でもタイガーウルフさんを倒せたなら充分じゃないかな?」

「いや、ユメ! シャフリヤールさんをフリーにするのはまずい!!」

「え?」

 マギー、そしてシャフリヤールと戦っていた三人はタイガーウルフとの戦闘結果をイアから伝えられる。

 

 タイガーウルフを戦闘不能まで追い込んだのは良い。

 しかし、スズが倒されたという事は狙撃による牽制がなくなったと言う事だ。

 

 

「流石タイガちゃんね」

「……当然。そして、私は私の仕事をする」

 建物から飛び上がるシャフリヤール。スズの狙撃がない以上、遮蔽を気にする必要はない。

 

 

「ヤバいぞコレ!」

「イア、タケシ達に回避するように伝えてくれ!」

「高熱源反応!! 二人共逃げろぉぉ!!」

「間に合わないはしない」

 不敵に笑うシャフリヤール。

 

 

「させないっすよ!!」

「ふふ、勿論……させないわよ!」

 シャフリヤールを止めようと三人が動くが、マギーがその三人を同時に相手にする。一瞬の攻防、三人はマギーを突破する事が出来なかった。

 

 

「───吹けよシムーン……アルフ・ライラ・ワ・ライラ!!」

 放たれる必殺技。

 

 ロックとカルミアを光が包み込む。

 これで三対ニ。決着はこの譜面で決まる事になった。

 

 ☆ ☆ ☆

 

 観戦室。

 

 

「避けろよロックぅぅ!!」

「いや無理だろ!! アレは避けれないだろ!!」

「あの距離の砲撃はねぇ。おじさんも足が遅いしどうしようもないわ。スズちゃんをフリーにしたおじさん達の負けよね」

 撃破されて観戦室に戻り、イアにポコポコと殴られるロック。

 

「良いバトルだった。正直、あそこまで苦戦するとは思わなかったぜ」

 そんな彼等に、タイガーウルフが声を掛ける。

 

「……実質、三対一で負けたような物だがな」

「そんな事はない。シャフリの野郎が動かなきゃ、俺の特攻は一人倒して終わりだった。……ま、そこは腕の見せ所って奴だがな。経験の差、バトルの組み方───つまり戦略の差とも言う」

 シャフリヤールの必殺技さえなければ、今の攻防は損害一でタイガーウルフ撃破というロック達にとってかなり有利な展開が作れたのは事実だ。

 

 しかし、実際の所はタイガーウルフの突撃でスズを抑えてシャフリヤールが動けるようになった事により逆転。

 ケイ達三人を一瞬でもマギーが一人で止めた事といい、そもそも三対一という発想が間違っていたといえる。

 

 

 ケイ達は三対一と三対ニという構図でバトルを組み立てた。

 

 三対一のロック達が出来るだけ損害を抑えて、スズを抑えるために来たタイガーウルフを倒すか。

 ここに賭け、ケイ達がマギー達と戦っている戦場では足止めに徹底していたのが彼等の取った戦略である。

 

 

 しかしタイガーウルフ達三人は、初めから三対六という譜面で戦略を取っていた。チーム戦というのはこういう物なのだと、見せ付けられたようである。

 

 

 

「ま、俺もシャフリの野郎と連携するなんざ嫌だったがこういう戦いもあるってこった。覚えておけ。それに、三体一とはいえ俺を倒したお前達の実力はやはり見惚れる物がある。これから磨いていけば───」

「タイガーウルフ師匠、確かに褒めて貰えるのは嬉しいけどよ」

「あ? なんだ?」

「まだバトルは終わっちゃ居ないぜ。俺達には、エースが居るからな」

 そう言って不敵に笑うロック。

 

 タイガーウルフはそんな彼の言葉を聞いて「なるほど」と口角を吊り上げた。

 

 

 視線の先のモニターに、映る───エースの機体を見ながら。

 

 

 

「二人共やられちゃったっすよ!」

「一度離脱する?」

「いや、離れたらシャフリヤールさんの攻撃を避けれなくなる。今は必殺技の反動で動けない内に少しでも状況を有利に!!」

「ふふ、中々賢明な判断ねケイちゃん!」

 ケイ達三人を一人で止めていたマギーは左腕を斬り飛ばされている。

 

 しかし、左腕一本でロックとカルミアを取ったのは代償として軽い。

 三対六がこれで二対三になったのだから、タイガーウルフの仕事は充分過ぎる程だ。

 

 

 それに───

 

 

「さて、ここからはこっちの番よ!」

「動きが……!!」

 スズの狙撃を警戒しなくて良い、そしてシャフリヤールの護衛もしなくていいとなれば、マギーも()()で動く事が出来る。

 

 さっきよりも動きのキレが上がったマギーのラブファントム一機に押し返されるケイ達三人。直ぐにシャフリヤールも動けるようになり、形勢は一瞬で逆転した。

 

 

「脇がガラ空きよ、ユメちゃん!」

「……っきゃ」

 ビームカマにGNソードIIIごと右腕を持っていかれるユメのデルタグラスパー。追撃は変形して離脱、回避するが───距離を離すのは悪手である。

 

 

「ユメ!!」

「しまったシャフリヤールさん!!」

「ここは私の距離だ!」

 ユメに銃口を向けるシャフリヤール。狙撃ならともかく、砲撃は分かっていようが避けられない。

 

「くそ! 撃たせるか───」

「いかせないわよ、ケイちゃん!」

「ここはジブンが!!」

 マギーの方位を抜け、シャフリヤールに突撃するニャムのターンX。

 

「その機体で止められるかな。GNフィールド!!」

 そんなニャムを尻目に、シャフリヤールはGNフィールドを展開してユメへの攻撃に集中した。

 ターンXは実剣を持っていない。

 

 

「これでもう一つ」

「シャフリヤール氏、こっちを見るっすよ! コレが自分の───」

「何!?」

 接近。

 そして、ターンXの左手が黄金に光り出す。

 

 

「───ガンプラへの愛っす!! 必殺!! ゴッド……フィンガー!!!」

 GNフィールドを貫くターンXの左手。

 

 ───否、それはターンXではなくゴッドガンダムの左手だった。

 

 

「ニャムさんが」

「ミキシング!?」

 ユメとケイも驚く。

 

 彼女はこれまでミキシングしたガンプラを持ってきた事はなかったのである。

 

 改造ガンプラキラー。

 ゴッドガンダムに乗った彼女と初めて会い、戦った時の事を思い出した。

 

 そして当時、GBN内やビルダー達から悪い意味で目立っていた彼女をシャフリヤールは知っている。

 だからこそ、彼は油断した。ターンXにGNフィールドを突破する能力はないと。

 

 

「ゴッドフィンガー、なるほど……!!」

「ヒートエンド!!」

 背後からシャフリヤールの左腕を掴み、吹き飛ばすターンXのゴッドフィンガー。

 

 シャフリヤールは不敵な笑みで振り向き、セラヴィーガンダムシェヘラザードをイフリートモードに変形させる。

 

 

「なるほど、面白い!!」

「接近戦なら、ジブンもそれなりに得意っすよ!!」

 ぶつかり合う拳。しかし、力と力がぶつかり合えば───より強い物が勝つのが条理だ。

 

 一度の拳のぶつけ合いで、ターンXの左腕は吹き飛ぶ。

 

 

「な───」

「ミキシングに慣れていない証拠だ。これからも精進するといい───終わらせる!! トランザム!!」

 畳み掛けるシャフリヤール。

 

「ユメ!! ニャムさんを援護しろ!! マギーさんは俺が止める!!」

「うん!!」

 ユメが加勢し、それでもシャフリヤールは二人を相手に互角以上に接近戦をこなしていた。

 

 

 それに加え、ケイはマギーとタイマンである。

 今はユメとニャムを信じて、マギーを止めるしかない。自分に出来る事───エースに出来る事、エースがするべき事。

 

 

 ──エースの仕事は点を取る事だ──

 

 ケイはあの時、ノワールに言われた事を思い出す。

 

 ──届かない敵にも策を練り、択を通す。相手を倒してチームを有利にするのがエースの力──

 

 

 今ここで誰かが一人でも倒れれば、戦況は一気に動き出す筈だ。

 

 届かない敵。

 分かっている。自分とマギーに超えられない壁がある事も。

 

 

「止まるんじゃない……俺が、道を切り開くんだ。……ニャムさん!!」

「ケイ殿!?」

 マギーの攻撃を一瞬跳ね返し、ニャム達の元に向かうケイ。

 

 クロスボーンストライクBondは機動力だけならマギーのラブファントムにも負けていない。

 

 

 この一瞬を使って、勝利への道を作る。

 

 

「うぉぉおおお!!!」

 ビームライフルを連射しながら、アーマーシュナイダーを構えてシャフリヤールの背後から接近するケイ。

 

 マギーが追ってくるが、ストライクBondの方が早い。

 

 

「アーマーシュナイダー、GNフィールド対策か。しかし、私とて伊達にタイガーウルフを越えようとしている訳ではない!!」

 ユメとニャムを相手にしながら、回し蹴りでケイを簡単に迎撃するシャフリヤール。

 

 その刹那、ケイは腰の収納を展開してその中に入っていた武装をニャムに投げ飛ばした。

 

 

「もう一本のアーマーシュナイダーか。なるほど、決定打のない二人に武器を渡す為にあえて犠牲となったか……しかし、アーマーシュナイダーのリーチでは───」

「ケイ殿の意志───貰ったっす!!!」

 受け取った武装を掴み、セラヴィーガンダムシェヘラザードに振り下ろすニャム。

 

 その程度の武装をそんな大降りでは届かない。

 シャフリヤールが見切り、拳をニャムの機体に捩じ込もうとしたその時───

 

 

「いけぇぇえええ!!」

「これがストライクBondの隠し玉───」

 ───ニャムが掴んだ武器が光る。

 

 

「───ビームサーベルっす!!」

「な───ビーム……サーベル」

 ケイが投げたのはアーマーシュナイダーではなく、ビームサーベルだった。

 

 ケイが初めてニャムと戦った時、その不意打ちでニャムを倒した時のように───

 

 

「勝った!!」

「この!!」

 ───セラヴィーガンダムシェヘラザードを貫くビームサーベル。

 

 同時にセラヴィーガンダムシェヘラザードの拳がターンXを貫く。

 

 

 爆散。

 

 シャフリヤールとニャムが撃破。

 

 

 同時にケイは追い付いてきたマギーに蹴られ、地面に叩きつけられた。

 

 撃破はされなかったが、もう動けないだろう。

 

 

 

「ケイ君……!」

「私にやられてでも、一機落としにいくなんて流石ね。……でも───」

 残ったのはボロボロになって動かないクロスボーンストライクBondと右腕を失ったダブルオーデルタグラスパーのみ。

 

 マギーも片腕を失っているが、戦況は拮抗しているとは言えない状態だった。

 

 

「───まだ足りないわよ」

 最後の戦いが幕を開ける。




最近真面目にお絵描きの練習をしております。ReBondメンバーも描く機会があったので一応あp。ケイとイアの顔は初公開ですね。ケイ、主人公なのに……。

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届かせる拳

 空を見上げていた。

 

 

 モニターにはエラー表示がいくつもいくつも表示されている。

 

「動け……動いてくれ。動いてくれストライクBond……!」

 シャフリヤールの不意をついて倒すため、マギーに背を向けてニャムにビームサーベルを渡して。

 それまでは良かったかもしれない。しかし、あまつさえ背後から攻撃したにも関わらずシャフリヤールに手痛い反撃を貰って、その後追ってきたマギーの攻撃に反応する事が出来なかった。

 

「受け身は取れてた。でもダメか? ガンプラの作りが甘い、操作技術も甘い、何も足りないのか。俺は何も成長出来てないのか?」

 地面に叩きつけられ、受け身は取れたが完全じゃない。

 

 

 どこかで、もう少し上手くやれた───もう少しが届かなかったと、悔しくてモニターを殴る。

 そのモニターにはユメがマギーと戦っている姿が映っていた。

 

 

「動け……頼む、動いてくれ……!!」

 ケイの声が、機体の軋む音が、コックピットで響く。

 

 光を失っていたツインアイが、一瞬だけ灯火を燃やした。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 刃が交差する。

 

 

「頑張るわねユメちゃん!」

「マギーさん……こんなに強い人だったなんて!」

 ユメはマギーと初めて会った時の事を思い出していた。

 

 ──私はマギー。たまたま通り掛かった親切なお姉さんよ──

 初めて会った時、初めてGBNにログインした時。

 

 現実で歩く事の出来なかった自分が、自分の足で立って歩ける。そんな不思議な場所で、彼は親切に色々な事を教えてくれた。

 最初は怪しい人だとも思ったけど、今はイアの事でもそうだが、ケイとの事でもよく相談に乗ってくれる本当に親切な()()()()だと思っている。

 

 

「あら? 意外だったかしら」

「ううん。でも……ちょっと嬉しい!」

 マギーのラブファントムを蹴り飛ばし、一度変形して距離を取ってからGNソードⅡをライフルモードで連射するユメ。

 マギーはそれを優雅に交わしながら接近。再び刃と刃の鍔迫り合いになった。

 

「私にGBNを教えてくれた人と、こうして戦える。まだ力が足りない事は分かってるけど、なんだか少しだけ前に歩けたきがして! 今、私達は凄い楽しい!」

 弾く。懐に入ろうとして、蹴り飛ばされた。

 

 お互いに腕を一本失った状態。

 しかし、誰がどう見てもユメが押されている。どうしても押せない、防戦一方だ。

 

 

「ふふ、良いわよ。楽しみなさい! それが愛よ! ガンプラへの、GBNへの、愛する者への、愛よ!!」

 マギーの攻撃に激しさが増す。

 どこにそんな力が隠されていたのか。否、マギーは本気など出していなかったのだ。それはユメも薄々感じでいたのだろう。

 

 被弾が増えていった。

 ビームカマはビームサイズのような物である。ロックと何度か戦った事があるユメは慣れていると言えば慣れていた。

 しかし、そもそもロックに勝てる訳でもましてやだからといってマギーの攻撃に反応できる訳でもない。

 

 慣れているおかげで、なんとか耐えている。それだけだった。

 

 

「そのままで良いのかしら? ユメちゃん。このまま、終わっても良いのかしら?」

「……っ。私は……私はケー君を───」

 ふと、彼女の脳裏にケイスケの顔が思い浮かぶ。

 

 

「───うん。信じてる。私はケー君を信じてるから……!! こんな所で、負けられない……!!」

 レバーを引いた。ラブファントムの攻撃を受け流す。

 

 

「お願い、力を……!! TRANSーAM!!」

 そして、赤い光がユメのデルタグラスパーを包み込んだ。

 

「それでこそよ!!」

 再び斬撃。しかしトランザムで機動力を増したデルタグラスパーでも、マギーのラブファントムにダメージを与える事は出来ない。

 

 圧倒的な力の差。

 

 

 それでもユメは諦めず、防戦一方になっても剣を振る。

 

 

 全ては───

 

 

「───時間切れね。なんだかトランザムが短かったけど、機体が限界を超えてるって事かしら」

「───トランザムが……!!」

 直ぐにトランザムの限界時間が来た。

 

 機体の出力が落ちる。

 右足を斬り飛ばされた。残った片腕も斬り飛ばされた。

 

 

「……終わりよ!!」

「それでも!!」

 変形する。

 

「何!?」

「……まだ!! まだ終わってないよ!!」

 不恰好な航空機。

 そしそのまま、ユメはマギーのラブファントムに文字通り突撃した。それはもう殆ど特攻である。

 

 シールドも足も腕も翼も何もかも欠けていた。

 おおよそ、ユメの好きな航空機の形ではないだろう。だけど、ユメはいつしかそんなボロボロになるガンプラも好きになっていた。

 

 

「だから!! 行こう……勝とう───ケー君!!」

「───あぁ!!」

 ───全ては、この時の為に。

 

「ストライクBond!? 真下に!?」

 変形して突撃してきたデルタグラスパーに押し出されるラブファントム。その真下には、今さっき地面に叩きつけたストライクBondが()()()()()

 

 

「動けるというの……? いや、でも───」

 しかし、ストライクBondは見た目通りに満身創痍だ。動く事はおろか、立っている事がマギーには不思議でない。

 

 だからこそ、ストライクBondが動ける訳がないだろう。事実、ストライクBondは動けていない。

 本当に、立ち上がっただけでも奇跡を見ているようだった。

 

 

「何をしようというのかしら……良いわ、見せなさい! 貴方達の───愛を!! 

「ケー君!!」

 叫びながら、ユメは自らのデルタグラスパーに装備されていたダブルオーストライカーをパージする。

 

「動けストライクBond!! 届け!!」

「届いて……!!」

 立ち上がるストライクBond。

 

 マギーはユメの機体を振り解いたが、その隙にパージされたダブルオーストライカーに───ストライクBondは換装した。

 

 

「空中換装!? でも、トランザムはもう使ってる。そのツインドライブはもう───いや……まさか」

「行けぇええ! ケー君!!」

 墜落し、ユメの機体は爆散する。

 

 

 これで一対一。

 

 

「答えてくれ……ストライクBond!! 今日ここで───」

 ストライクBondの拳が光った。赤い光が、機体を包み込む」

 

 

「───タイガーウルフさんに、シャフリヤールさんに、マギーさんに、ユメに、皆に……貰ったものを!! 出し切るんだ!!」

「来る……!!」

「トランザム!!!」

 TRANSーAM

 

 出力を上げるストライクBond。

 二回目のトランザム。しかし、マギーは不思議には思っていなかった。

 

 

「ユメちゃんはあの土壇場で、不安定なGNドライヴの片方だけを使ったトランザムを使っていたのね……だからあんなにも時間が短かった。だから、今ここでトランザムが使える……!!」

「うぉぉおおお!!! 届けぇぇえええ!!!」

 その拳が放たれる。

 

 マギーはビームカマで拳を受け止めるが、その柄はひび割れ───ケイの拳がマギーのラブファントムに届いた。

 

 

 

「まさか……」

「アレが彼の必殺技か……!」

「ケイスケ……」

「ケイ殿……」

「やれるのか?」

「……いける」

「……いけ。……いけ! いっけぇぇ!! ケー君!!」

 光が収縮する。

 

 

「これが……ケイちゃんの───愛!!」

「これが俺の……ガンプラだぁぁあああ!!!」

「「「いっけぇぇぇええええ!!!!」」」

 声が重なった。

 

 太陽炉が、ツインアイが、ストライクBondそのものが、燃えるような光を放つ。

 

 

 

 そしてその拳は───

 

 

「……素晴らしい物を見せて貰ったわ」

 ───遂に強敵を貫き、勝利を掴み取った。

 

 

 

 爆散。

 

 

 必殺技に耐えきれなかったストライクBondも朽ちていく。

 

 

 

 しかし、勝利そのものは、確かにケイの手の中にあった。

 

 

 

 

 マギー、タイガーウルフ、シャフリヤールVSReBond+α

 

 勝者ReBond+α

 

 

 確かに掴みたいものを、彼は掴んだのである。



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反省会

 観戦室。

 

 

 手を合わせるケイとロック達。

 六対三という多大なハンデもありつつだが、ケイ達はマギー達と互角に戦い大切な一歩の勝利を掴み取った。

 

 マギーはそんなケイ達に拍手を送りながら、こう口を開く。

 

 

「ツインドライヴによるTRANSーAMの安定性とパワーを犠牲にして、トランザムを二回使う。私にも思い付かなかった素晴らしい戦法だったわ」

「アレは、ユメが上手くやってくれたから」

「でも! 提案してくれたのはケー君だよ?」

 あの時。

 

 

 マギーと戦ってる最中、ケイはユメにこう語りかけたのだ。

 

「───ユメ! トランザムを使え。少しだけでも耐えてくれ。俺は……俺はまだ戦える!」

「でも、トランザムは……」

「太陽炉の接続を片側だけ切って使うんだ。そうしたら、換装後に俺も使えるかもしれない……!」

 ケイが立ち直す時間を稼ぐ為、マギーとの戦いで少しでも全力を出す為にユメに使わせたトランザム。

 

 そのおかげでマギーはストライクBondはもうトランザムを使えないと思い込み、そこに生まれた隙を突く事が出来たのである。

 

 

「二人の愛の力よ。……名付けるならそうね、フォース名ReBondから取って───Re:TRANSーAMかしら」

「Re:TRANSーAM……」

 ReBondは再び繋ぐという意味でニャムが考えたフォース名だ。

 

 安直なネーミングだが、分かりやすくて良い。ケイはそう思う。

 

 

「ありがとうございます……! マギーさん。それにタイガーウルフさんも、シャフリヤールさんも!」

 この戦いはケイ達に取って貴重で充実した経験になった事は間違いない。

 

「おう! またいつでも修行しに来い。コイツの所じゃなくて、俺の所にな!」

「何を言っている。私の所に来ると良い。君のガンプラへの愛をさらに磨き上げてあげよう」

 二人の言い争いに苦笑いしか出来ないが、ケイにとっては嬉しい誘いなのは間違いなかった。

 そんな二人の間に入ってきたマギーは「ほーら、今日は撤収するわよ」と首根っこを掴んで二人を引き摺ったいく。

 

「また、バトルしましょ」

 振り向いてそうとだけ呟いて、マギーは二人を連れていった。不敵に笑い「楽しみになってきたわね」と呟きながら。

 

 

 

 その後。

 

「……お前は狙撃の練習をしろ」

「俺の狙撃は完璧だが?」

「一撃も当ててなかったしプレッシャーも与えれてなかっただろ……!! 良いから練習しろ!!」

「ひぃ!?」

 スズはロックをこっ酷く念入りに叱ってからログアウトした。

 

 彼女の言う通り、結局ロックは狙撃では役に立っていない。ログアウトした後「今度修行」とメッセージが来る程、スズからするとロックの腕に文句があるらしい。

 

 

「ドンマイ、タケシ! でも今日は皆凄かった! 見てて楽しかったし、ガンプラ達からも強くなりたいって気持ちが伝わってきたぞ!」

「ロックな!?」

「強くなりたい、か」

 話しながら帰路に着く。

 

 今日はこの後フォースネストで反省会をするつもりだが、楽しい時間になりそうだとケイは足速にReBondのフォースネストに向かうのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ReBondフォースネスト。

 

 

「───と、いう訳で反省会を始めるっすよー」

 テーブルにお菓子とジュースを並べ、ケイ達はニャムが前に立つホワイトボードに視線を向ける。

 

 フォースバトルをした後にこうして反省会を偶にする事があったのだが、イアが来てからは初めての事で彼女は「なんだなんだ?」と目を輝かせていた。

 

 

「今回のバトルを振り返って、何処が良かった。何処はもう少し何か出来た、なんて事を話すんすよ! あ、お菓子とジュースはジブンの奢りなのでお好きにどうぞ。どうせGBNでいくら食べても太らないので」

 言いながら、ニャムはホワイトボードに青の磁石を六つと赤の磁石を三つ貼り付ける。

 

 ホワイトボードの左側に青の磁石が三つ、右側には赤と青を三つずつで丁度今日のバトルでの初動配置が分かりやすく図説されていた。

 

 

 

「まずは初動。タイガーウルフ氏が動いた所っすね」

「ここまでは作戦通りだったんだけどな」

「ロック氏の言う通り。数の利とスズちゃんという強力なカードで相手を最低でも分断する。作戦はジブン達がマギー氏、シャフリヤール氏を止めて、タイガーウルフ氏を三体一で倒す事でした」

 強力なスナイパーというカードがこちらにある以上、相手は狙撃者を撃破或いは止めなければならない。

 

 護衛に二人も使い、前線で強敵二人を止めるのを三人だけで熟そうとしたのはここでしか戦力差を埋めるチャンスがなかったからである。

 

 

 二対一はある程度戦いなれているダイバーなら、敵を二対共視界に置くようにして戦えば楽にこなす事が可能だ。

 しかし、三対一なら敵を囲む事が出来る。

 

 強敵を倒すなら最低三人。

 

 

 シャフリヤールの撃破もそうだったが、格上に勝つ術というのは気合や根性ではなく戦術戦略論だ。

 前回のイベント戦でそれは嫌と言うほど分からされた事である。

 

 

「ま、タイガーウルフはなんとかなったんだけどねぇ」

「スズをやられたのが俺達の失敗だったな。いや、師匠が上手かったのか?」

「元々タイガーウルフ氏の狙いがスズちゃんだったのは間違いないっすから、確かにそこは気を付けるべき反省点っすけどね。しかし、スズちゃんが倒されただけならまだ作戦は成功の範囲内でした」

「私達がシャフリヤールさんを止められなかったもんね……。私がもう少し強ければ……」

 スズが落ちただけなら五対二の盤面が完成していた。

 

 しかし、実際はタイガーウルフがスズを倒した事で動けるようになったシャフリヤールがロックとカルミアを長距離砲撃で落として三対二。

 ケイ達にとっては結果タイガーウルフに三人落とされるという結末が起きてしまったのである。

 

 

「止められなかったのは実力っすから。反省というのは、あの時どうしたら良かったを考えるのが反省会っすよユメちゃん」

「あの時どうしたら……」

「常識的に考えて、あーいう強い人達ってのはジブン達が三人でかかって時間を掛けてようやく倒せる相手です。二人でかかれば時間をかけて倒されて、一人でかかれば時間を稼げるかギリギリって感じですね」

 ユメとニャムがシャフリヤールの相手をしていたり、ケイがマギーの相手をしていたり。

 瞬殺はされないが、一人や二人では絶対に勝てない。時間を稼ぐのがやっと。ニャムの評価はこんな所だ。

 

 

「さて、それでは最初の話に戻って。ジブン達の当初の目的は二人を止めて一人を数で叩く。その目的を達成するのに必要だった作戦はなんでしょう! ロック氏!」

「分からん!」

「ポンコツ!」

「酷くない?」

「カルミア氏!」

「ニャムちゃんがゲルマン流忍法で増えて戦う」

「ジブンなんだと思われてるんすか?」

 苦笑いを零しながらカルミアにチョップを落とすニャム。そんな彼女の隣で「んー」と考えていたイアが片手を上げる。

 

「お、イアちゃん何かありました?」

「四対一を作れば良かったんじゃないか?」

 そうして開かれた彼女の口から出て来た言葉にケイ達は目を丸くした。

 

 四対一。

 言葉にするのは簡単だが、つまりそれは残りの二人で残りの二人を止めなければならないという事である。

 

「ケイもユメも、マギー相手に瞬殺はされなかった。受け身なら時間を稼いだりスズの援護を期待したりも出来たんじゃないかなって。ボクはそう思ったんだけど」

「それは……」

「確かに……」

 続く彼女の言葉を聞いて、二人はマギーとの戦いを思い出した。

 

 防戦一方で、最後の切り札を使うまでやられっぱなしだったのは間違いない。

 しかしイアの言う通り、二人共瞬殺された訳ではないのである。

 

 

 それだけの経験を積んで、実力を発揮した。

 

 なら、少しでも前に進める。

 

 

「確かに……イアちゃんの言う通り、四対一でタイガーウルフ氏と戦っていれば或いはっすね」

「チーム戦が見えてなかったのも問題かもしれんが、おじさん達はもう少し無茶な作戦を出来るチームになれていたって事じゃない?」

 そもそもの作戦が破綻した理由は、タイガーウルフがスズを落とせばシャフリヤールが仕事を出来るというチーム戦術を看破し阻止出来なかった事だ。

 

 

 戦いは実力と作戦と運で決まる。

 実力がなければ作戦を遂行出来ないし、運悪く失敗する事は否定出来ない。

 

 それ以外の相性や根性という要素はそれらが拮抗して初めて意味を成すものだ。

 

 

 フォースReBondは確実に成長している。

 

 

 

「……でもやっぱり、ユメが言う通りなのかもな」

「え? 私何か言ったっけ?」

「もう少し強かったらって、さ。ニャムさんの作戦に組み込めるくらい、俺は───俺達は強くなりたい」

「ケー君……」

 結局。

 マギーを倒せたのは運だった。

 

 もうほんの少しでもダメージを負っていたら、あの必殺技の衝撃に耐えられず先に撃破されていたのはケイのストライクBondだっただろう。

 もっと強く、この先へ───

 

 

 

「───次のステージ」

 ケイの表情を見て、ニャムはシャフリヤールに言われた事を思い出した。

 

 ──君の技術はきっと彼等らを次のステージに進ませる事が出来る。ならば君は、彼等の力を借りて次のステージに進むといい──

 

 

「ジブン、実は今回初めてミキシングガンプラを使ったんです。ありあわせというか、ターンXの腕をゴッドガンダムと変えただけなんすけどね」

「そういや、ニャムさんがミキシングしてるガンプラ使うの初めて見たな」

「Gガンダムのゴッドガンダムですよね! ちょっと私見てて楽しかったなぁ、ニャムさんが初めてミキシングしてたの」

 ロックは知らないが、彼女はシャフリヤールとの修行でターンXをミキシングしていたのである。

 GBNで作ったガンプラもガンプラバトルで使えるので、そこで作ったガンプラで今日はバトルをしたという訳だ。

 

 

「正直、慣れないことで恥ずかしいというか。改造ガンプラキラーなんてやってたジブンがこんな事していいのかなんて思ったんすけどね」

 ミキシングに憎しみさえ覚えていた自分がミキシングに手を出す。

 

 もしガンプラの神様がいるなら神様は自分を許さないだろうと、ニャムは俯いてこう口を開いた。

 

 

「……だから、ゴッドフィンガーも上手く出来なかった。シャフリヤール氏のガンプラに簡単に手首を破壊されてしまった。もしかしたら、ジブンはミキシングなんて向いてないのかも───」

「でもあのターンX、凄い喜んでたぞ」

 ふと、イアがニャムの目を真っ直ぐに見てそう言う。

 

 

 ELダイバー。

 イアには、ガンプラの声が聞こえるのだ。

 

「え……」

「なんかなー、安心するって感じ? ソワソワしてた気持ちが和らいだ……みたいな。とにかく! ニャムのガンプラは喜んでた! 安心してた!」

「そんな……。ジブンはこれまで、改造ガンプラキラーなんて事をしてて……」

「ガンプラは分かってるんだろうねぇ、ニャムちゃんがガンプラの事大好きなのをさ。おじさん達はガンプラの気持ちなんて分からないけど……きっとガンプラはおじさん達の気持ちを分かってくれてるんだよ」

 泣きそうになるニャムの肩を抱いて、カルミアはそう声をかける。

 

 イアに、ユメ、ロックやケイも。

 

 

「……ジブン……ジブン、私は…………本当に、ガンプラが好きで……だから!」

「分かってる。ニャムのガンプラも、ちゃんと分かってた」

「……っ、ぁ……ぁぁあ」

 イアに頭を撫でられて、ニャムは崩れ落ちながら床が水浸しになるまで泣いた。

 

 

 ここはGBNだからどれだけ泣いても脱水症状は起きない。

 

 

 

 

 だけど、きっとその涙は本当なのだろう。



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強襲

 ニャムのミキシング。

 

 その話が落ち着いた後、話題はケイのストライクBondを強化するという話に移っていた。

 

 

「───擬似太陽炉のツインドライヴを使う?」

「はい。ストライクBondのツインドライヴはダブルオーの純正の太陽炉を使ってるっすよね? 故に安定した爆発力のある出力がダブルオーストライカーの強みっす。しかし……だからこそ二人がやったTRANSーAMの分散に出力がオーバーヒートしてしまったのでは、と」

 マギー曰く───Re:TRANSーAM。

 

 ツインドライヴであえて太陽炉を一つだけ使いTRANSーAMを二回使う小技の様な物だが、現状パワーバランスが悪いのか総じて普通にTRANSーAMを使った方が使用時間は長いのが現状である。

 

 

 これだけならロックが良くやるワンセカンドトランザムの方が実用性も高い訳だが、問題点を解決すればケイにとって大きな武器になるのは確かだった。

 

 

 

「そこで使うのが擬似太陽炉のツインドライヴっす。コイツは元々リボンズが刹那を真似て作った物で純正ではない分、逆に出力を安定させやすい筈。Re:TRANSーAMにはこちらを使ってみるとむしろ安定するのではないかと」

「流石ニャムさん!」

「リボーンズストライカーって事か、なるほど」

「強度や出力の兼ね合いからパーフェストストライクやIWSPみたいな複合ストライカーを作っていくのも良いかもしれないっすね。難しい作業や設定はお任せください! 自分も協力するので! そのかわり、皆さんのミキシングへの力の入れ方とかをジブンは研究させてもらいます!」

 シャフリヤールに言われた言葉を思い出す。

 

 ──君の技術はきっと彼等らを次のステージに進ませる事が出来る。ならば君は、彼等の力を借りて次のステージに進むといい──

 ガンプラを素組でより鮮明に作り上げる技術を磨き上げてきたニャムには、様々なガンプラと原作への知識があった。

 その力をケイ達の成長に繋げ、自分はケイ達に成長させてもらう。

 

 これがシャフリヤールから学んだ、ニャムが前に進む為の道だった。

 

 

「それじゃ、私のデルタグラスパーは他に出来る事があった方がいいのかな?」

「あ、それは確かに。ユメにはずっと俺のストライカーを運んでもらってたしな……」

「それなら! ユメちゃんにはジブンからお薦めしたい武装があって───」

 話は進んでいく。

 

 

「皆楽しそうだな! カルミア」

「そうねぇ。おじさんもそろそろアレを出す時が来たのかもな」

「なんだ? カルミアも何か必殺技があるのか!」

「まーねー。ま、楽しみにしてなって」

 こんな楽しい日々が、成長し続けられる日が───

 

 

「うん! よく分からんけど! これからも楽しくなりそうだな!」

 ───ずっと続くと思っていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 あーだこーだ、と。

 

 

 ニャムのターンXをミキシングする時に使う機体だとか、ケイのストライクBondの新しいストライカーだとか。

 ロックも新機体が欲しいとか、ロックはまずスズに言われた通りに狙撃の練習をしろだとか。

 

 楽しい話し合いを六人全員で進めて数時間───

 

 

「それじゃ僕のZガンダムもなんかユメみたいに───あれ?」

「どうした? イア」

「───誰か来た」

 話の途中で窓の外を見るイアにロックがどうかしたのかと聞くと、彼女はそう言って窓に向けて歩き出す。

 

 

 フォースネストはメンバーとフレンド登録をしていたりアライアンスを結んだフォースメンバーなら出入りが自由だが六人がいる部屋は建物の二階にある部屋だ。

 出入りは自由だが窓から入ってくる変態は彼等の知り合いにはいない。

 

 そうなるとMSが飛んできたのだろうか。

 

 

 気になって立ち上がる五人。

 それと同時に───窓と壁が吹き飛ぶ。

 

 

「───は?」

「イア!!!」

 爆風が起き、キョトンと固まるロックの隣でカルミアが叫んだ。

 

 部屋の半分が吹き飛んでいる。

 

 

 イアの姿がない。

 

 

 

「……な、なんすか!?」

 フォースネスト付近はバトル禁止区域であり、オブジェクト破壊不能区域だ。

 

 フォースネストは当たり前だが、そこら辺に生えている木ですら破壊する事は出来ない筈である。

 

 

「おい! イア! 大丈夫か! イア!!」

 吹き飛ばされて部屋の隅に転がっていたイアの身体を抱き上げるカルミア。見た目に異常はないが、彼女は表情を歪めて細く目を開くだけが限界に見えた。

 

 

「……っ、ぅう……な、何? なんか……ちから、入らない」

「イアちゃん!?」

「ヒットポイントが減ってるんだ……! 安全な所に!」

 ケイがそう言うと、カルミアとユメはお互いに目を合わせて頷く。

 

 二人がフォースネストの奥に向かうのを見届けてから、ケイは吹き飛んだ部屋の壁に視線を向けた。

 砂埃の奥に赤い鉄の塊が立っているのが見える。

 

 その鉄の塊は二つの赤い光を強く光らせて、両手に持つ巨大な剣を振り抜き砂埃を払った。

 

 

 

「───ELダイバーを渡せ」

 赤い機体。

 

 ガンダムOOに登場するアルケーの改修機───ヤークトアルケーのコックピットからそんな言葉が発せられる。

 

 ニャムは勿論ケイ達もその声には聞き覚えがあった。

 

 

「兄さん……?」

「アンチレッド……!?」

 アンチレッド。

 

 ニャムの兄、カルミアのかつての仲間、アオトが入ったフォースのリーダー。

 

 セイヤという男。

 そしてその背後には、彼の仲間であるアンチレッドの赤い機体がズラリと並んでいる。

 その中には見覚えのあるイージスの姿もあった。

 

 

 

「アオトもいんのか……?」

「ELダイバーを渡せと言っているんだ。お前らのフォースネストを吹き飛ばしても良いんだぞ」

「そんな事したらイアは死ぬって知ってて言ってるのか!!」

 ヤークトアルケーを睨みながらそう言葉を上げるケイ。

 

 どうしてアンチレッドがこんな所に来たのか。どうして彼等がイアを渡せと言うのか、分からない。

 

 

 いや───クジョウ・キョウヤが言っていた事をケイ達は思い出す。

 

 ELダイバーの失踪事件。

 そこに彼等が関係あるのなら、彼等がELダイバーを誘拐しているというのなら、話の都合は簡単に着いた。

 

 

「お前らがELダイバー達を誘拐してるって事か?」

 ロックの言葉に返事は帰ってこない。

 

 ただ、背後に控えていた赤い機体達が銃口をフォースネストに向ける。

 

 

「ELダイバーを渡せ。それ以外お前達に言う事はない」

 そしてセイヤはそう言って、ヤークトアルケーのバスターソードを振り上げた。

 

 

 もしここでケイ達のアバターが破壊されても、数分後にはリスポーン出来る。

 

 しかし、全滅すればイアを守る者が居なくなり───彼女はセイヤに連れ去られてしまうかもしれない。

 そうでなくてもフォースネストを攻撃され、建物が壊されたらイアが潰されて最悪の場合彼女の命が奪われてしまってもおかしくなかった。

 

 

 ただ、今機体に乗ろうとしてもケイ達は建物の中である。MSを出す事も叶わない。

 少しでも時間を稼いで、イアをフォースネストの奥に連れて行ったユメ達が動ける時間を作る───そんな事すら今の三人には出来る余裕がなかった。

 

 

「くそ───」

 振り上げられた剣が振り下ろされる───その時。

 

 

「───セイヤぁぁぁああああ!!!」

 ───怒号を上げカルミアのレッドウルフがセイヤのヤークトアルケーを弾く。

 

「……カンダ」

「お前がやりたかった復讐は、俺達が受けた憎しみや悲しみを他の奴にぶつける……そんな事か!! 違うだろ!!」

 腰のサブアームを展開し、両腕と共に四本のビームサーベルを振り回すカルミア。

 無言で応戦するセイヤの視界に、フォースネストから脱出してMSを出すケイ達の姿が映った。

 

 そして、それを止めようとしたアンチレッドの仲間達を空からクロスボーンデルタグラスパーが牽制する。

 

 

 ダブルオーストライクBond、デュナメスHell、ターンX。

 五つの機体が現れ、アンチレッド───総勢二十機の前に立ち塞がった。

 

 

「───俺はGBNを破壊する。今も昔も、それ以外考えてない」

「セイヤ……」

 構えるヤークトアルケー。

 

 セイヤは表情一つ変えず、ただ目標の為に前に進む事だけを考える。

 

 

 

 GBNを破壊するという───復讐の為に。



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垣間見える目的

 交戦するセイヤとカルミアにニャムのターンXが合流する。

 

「兄さん!」

「ナオコか……」

「何が目的なんです! こんな事したって悲しいだけで、何も起きないでしょ!」

 GBNへの復讐。

 

 カルミアの語るセイヤの過去は、確かに何も知らないニャムでも辛い事だということだけは分かった。

 それでも、何をしたって失ったものは取り返せない。

 

 こんな事をしたって、虚しいだけの筈。

 

 

「自分がされて嫌な事を他人にしてるんですよ兄さんは! そんな事したって───」

「意味がない? 違うな。これは復讐だ。俺がされて嫌だったから……してるんだよ」

「そんな子供みたいな言い方! そんなの兄さんじゃない!」

「お前に何が分かる!!!」

 モニターが響く。

 

 空間がひび割れる様な声に、ニャムは言葉を失った。

 

 

「俺はレイアが好きだったんだよ!! お前の俺の気持ちが分かるのか!! 分からないだろ!! 俺は、好きな人を殺されたんだよ!!」

「……っ。兄さん」

「だらかって殴る相手が違うだろうがよ!」

 ニャムのターンXに切り掛かるヤークトアルケーのバスターソードを受け止めるカルミア。

 

「俺らからイアを奪ってどうする気だよ。俺らにお前と同じ気持ちを味わえってか? もうそんなのはレイアだけで充分だっての!」

「……違うな。俺の目的は初めからGBNへの復讐だ。そんな小さな感情で動いている訳じゃない!!」

「何をする気だ……お前」

「答える必要はない。分からないだろお前はもう、仲間じゃないからな。……この裏切り者が!!」

 振り抜かれるバスターソード。

 

 レッドウルフのサブアームが二本斬り飛ばされる。セイヤの表情は、何を言われても変わらなかった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 光が交差する。

 

 

「───邪魔すんじゃねーよ! アオト!!」

 ロックのデュナメスHellの前に立ち塞がるアオトのイージス。

 

 ビームサイズを両手のビームサーベルで受け止めるアオトからの返事はない。

 

 

「なんとか言えよオラァ!」

 連撃。

 

 ヤイバを振り抜いて突き飛ばしたイージスに、ビームサーベルを二本構えて突進するロック。

 なんとか捌くので精一杯のイージス。その右腕を、ロックは上空に投げ飛ばしておいたビームサイズを掴み取って斬り飛ばした。

 

 

「……っ。お前こそ、邪魔するなよタケシ!! ブレイクビット!!」

「あぁ!?」

 展開されたシールドから放たれるビット。

 

 ここは地上だからオールレンジ攻撃は使えない筈である。しかし、ビットはロックのデュナメスHellを囲むように追い詰めていた。

 

 

「なんのバグだよ! そもそもここは戦闘禁止区域だぞ!?」

 ビットをビームサーベルで捌きながら文句を漏らすロック。

 

 ふと思い出すのは、イアと一緒に居た時のバグである。

 戦闘禁止区域である筈のペリシアエリアで起きた戦闘。このバグの正体が似通った物だとすれば───

 

 

「お前らの狙い……イア? まさか───」

「お前はバカのくせに勘が良くて嫌いだよ……」

「アオト君!」

 ロックの横に立ちながら、ユメはアオトにライフルを向けた。

 

 ケイは今アンチレッドの数を減らしている。セイヤはカルミアとニャムが二人で応戦していた。

 今自分に出来る事はなんだろうかと、ユメは考える。

 

 思い出したのはつい数時間前のマギー達との戦いだった。

 

 一人を抑える役を減らせば、それだけ動ける人数が増える。今アオトと戦う役はロックよりも自分が適任だ。

 

 

「タケシ君! アオト君は私が抑える!」

「は? ユメ、大丈夫なのか?」

「タケシ君の方が敵を早く減らせる。今は、私がアオト君を止めればきっと皆が助かるから……。この人達のしたい事、私は分からないけど、イアちゃんが居なくなるのは嫌だ!」

「ユメカ……」

 彼女の言葉に、アオトは歯軋りをする。

 

 だけど、止める訳には───止まる訳にはいかない。

 

 

「分かった。頼むぜユメ! 俺はそこら辺の奴を全員薙ぎ倒しておっさん達の援護すれば良いんだな!」

「うん。ありがとう、タケシ君」

「ロックな!」

 言いながら、ロックは踵を返してケイの援護に回った。

 

 そういう命令なのか、ケイ達はセイヤと戦っている二人に近付けない。

 周りのアンチレッドをなんとか撃退して、セイヤを止める。今イアを守る為にユメ達がしなければいけない事はそれだけだ。

 

 

「アオト君、私ね……ガンプラバトルが好きになったよ。見てて楽しいだけじゃなくて、私もやりたいと思えるようになった!」

「……そうか。俺は、ガンプラバトルが嫌いだよ」

 ユメにシールドを向けるアオト。そこから放たれるビットと共に、ユメの脳裏に嫌な感覚が走る。

 

「ビットは囮……!」

 振り向いてビームサーベルを振り抜くユメ。

 

 その残光の後に、透明なパーツで作られたファンネルが爆散した。

 

 

「クリアファンネルが見えてるのか!? お前まで……才能で俺を惨めにするのかよ!! ユメカ!!」

「アオト君!? っう……」

 両足のビームサーベルを展開したアオトがユメに蹴り掛かる。重い斬撃を受け止めるユメは、同時に周りを確認した。

 

 アンチレッドのメンバー達にケイ達が負けている様子はない。数では負けていても時間をかければ負ける事はないだろう。

 問題は数人居る強敵がケイ達と戦う事だ。せめてアオトだけでも止めないといけないと、ユメは操縦桿を強く握る。

 

 

 

「私、この世界で夢を叶えられた。現実ではもう歩けない私だけど、この世界なら自分の足で立って歩ける。こうして空も飛べる。……この世界はとっても素敵な場所だよ! なんでアオト君は、そんな世界を壊そうとするの?」

「……そんな物はまやかしだ。ユメカ、お前はもう歩けないんだよ! 現実を見ろ。お前はもう飛行機のパイロットになるなんて夢は見れない。……誰のせいだ? 俺達だ! ガンプラなんかで遊んでいた! 俺達とガンプラのせいだろ!! 憎めよ、俺達を憎めよ!!」

「憎めないよ……」

「なんでだ!!」

「……だって、きっと私の足が事故で動かなくなったから私は今ここにいるから。私、GBNで沢山友達も出来て、新しい夢も出来た。スズちゃん達、カルミアさんにニャムさん……それにイアちゃん。皆大切な友達で、GBNは私にとって───」

「黙れ……。黙れ黙れ!! 間違ってる。そんなのは違う。俺は……俺は、そんな事で、許せるものじゃないだろ!! 俺は!!! ブレイクドラグーン!!!」

 イージスのスカートから分離したドラグーンがユメを包囲した。

 

 分かっていても交わせるものではない。そこにクリアファンネルが混ぜられているのなら尚更だろう。

 

 

 

「ユメ……!!」

「バカ、自分に集中しろケイ! 多分アイツらの狙いはイアを巻き込んだバグでGBNのデータをぶっ壊す事だ!」

 ピンチのユメに加勢しようとするケイに声を上げるロック。

 

 彼はこれまでの情報とアオト達の行動を元に、ある一つの仮説を打ち出していた。

 

 

「データを……?」

「イアのデータが膨大になっていくせいでこの前バグが起きたろ。ELダイバーは言っちまえばデータだ。記憶とか記録とか、そういうもんは俺達人間が頭に詰め込む代わりにイア達はGBNのサーバーに溜め込んでる。そのデータ量に耐えられなきゃサーバーはバグを起こす!」

「それじゃ、ELダイバーが行方不明になってるのって……」

「アイツらが誘拐したELダイバーをログアウト出来ないような場所に軟禁でもすれば、GBNのサーバーはELダイバー達のデータでパンパンになるだろ! なんで俺はこんな事にも気が付かなかったんだ!?」

 そうして行方不明───ログアウト出来なくなったELダイバー達のデータで埋め尽くされたサーバーは次第にバグを誘発させGBNのデータそのものが破壊されていく。

 

 壊れたデータは取り返しが付かない。それはセイヤがGBNから受けた仕打ちでもあった。

 

 

 沢山の人から大切な物が、場所が、人が奪われる事になるだろう。

 彼の復讐とするなら、これ程まで都合の良い展開はない。

 

 

「タケシって実は頭良いよな」

「うるせーよ!! ロックな!!」

「……絶対にやらせちゃいけない」

「そういう事! だからアオトはユメに任せて、今はこの辺の雑魚を片してからおっさん達の加勢が先決な!!」

 言いながらロックはビームサイズで敵を薙ぎ倒していった。

 

 戦闘禁止区域でバトルが出来るのも、セイヤが望んだバグの結果だろう。

 このまま彼らの計画が進めばGBNのデータはこの世界から失われるかもしれない。

 

 

「……そんなことさせない! ユメ、頼んだぞ……!」

 ケイもビームサーベルを抜いて目の前の敵を切り裂いた。

 

 

 

 この世界には大切な記憶があって、場所があって、夢があって、人がいる。

 

 

 

 絶対に失わせてはいけない。



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震える世界

 GBN(?)

 

 

 巨大な要塞。その砲塔が一つの星へと向けられていた。

 

「撃たせない!」

 メイはウォドムポットからモビルドールをパージして砲塔の破壊を試みるが、火力が足りない。

 

「退いてください!!」

「パル!?」

「ぼくがやります!!」

 続いてパル───パルヴィーズのSDガンダムが砲撃を放つ。

 

「発射」

 しかし刹那、砲塔がパルの砲撃を飲み込める程の砲撃を星に向けて放った。

 

 

 放たられる光。

 

 星の一点に注ぎ込まれた光はそこにあった街を消しとばす。

 

 

 

「───なんだよ、なんなんだよ……ミッション失敗なんだろ。だったら終われよ、終わったらいいだろ!」

「これ、本当にゲームなんでしょうか。だって、セグリも村もこんなになって、ぼくたち負けたのに……」

「これがゲームじゃなきゃ───まさか……リアルだってのかよ」

 放たれた光はやがて───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 何が正しいかなんて、もう分からない。

 

 

「セイヤ……。お前……」

「兄さん……」

「邪魔だ」

 二人の機体をバラバラにして、背を向けるセイヤ。

 撃破されればリスポーン出来るが、こうして四肢をバラバラにして動けなくすれば二人にはもう何も出来ない。

 

 逆にケイやロックは撃破しないようにしてもアンチレッドの仲間が仲間を撃破して数を減らさない事が出来る。

 

 

 セイヤが二人を倒すのに大した時間は掛からなかった。

 GBNを、ガンプラを憎み、ガンプラバトルなんて興味もないダイバー達の時間稼ぎでも充分である。

 

 

「ニャムさん! カルミアさん!」

「くそ、こいつら次から次へと! 邪魔臭い!!」

 二人が倒れて形勢が一気に傾いた。

 

 

「アオト君───え!?」

「手こずり過ぎだ、アオト」

 二人を倒してユメの前に立つセイヤ。ヤークトアルケーのバスターソードがユメのデルタグラスパーを一瞬で切り刻む。

 

「……ぇ、早……。なんで……なんで、こんなに強いのに!」

「……あ?」

 倒れるユメ。

 

 彼女の脳裏には、これまで闘ってきた、見てきた強敵の姿が映った。

 

 

 自分がまだまだ弱い事は分かっている。

 それでも、ロックと戦って褒められた、ニャムとガンダムの話題で盛り上がって、カルミアには気遣って貰って、大好きな男の子と同じ舞台で、イアと共に楽しんで。

 スズ達と熱いバトルを繰り広げ、アンディ達ライバルと仲間達のバトルに一喜一憂して、マギーやタイガーウルフ達、チャンピオンとのバトルで思い知った。

 

 GBNが、ガンプラが、ガンプラバトルが大好きな人達は、本当に強い事を。

 自分はまだガンプラを始めたばかりで、まだまだかもしれない。でも、だからこそ、本当に強い人達が本当にガンプラを好きなんだって事がわかる。

 

 

 それなのに───

 

 

「───なんでこんなに強いのに! ガンプラが嫌いになっちゃったんですか……!」

「……強さだけじゃ、守れないんだよ」

 言い捨てて、彼はユメの機体を蹴り飛ばした。

 

 そんな事をする必要はない。既にユメの機体は限界である。

 ただ、イラついた。言われたくない事を言われたから。

 

「アオト、少しで良いからデュナメスを抑えろ。それくらいやれ」

「……は、はい!」

 眉間に皺を寄せて、セイヤはストライクBondを睨む。

 

 

「……ユメを蹴ったな」

「だからなんだ。俺達はここで蹴られようが殴られようが殺されようが、何も感じない。この世界は偽りだからな」

 何が正しいかなんて、もう分からない。

 

 強い事が正しい事だというなら、何故レイアは殺されたのか。

 GBNを楽しむ事が正しいというなら、何故レイアは殺されたのか。

 レイアが殺された事が正しいというなら、何故他のELダイバーはこの世界に生まれて、この世界でしか歩けない人間がこの世界を楽しんでいるのか。

 

 

「分かるのかよ!! お前達に答えが!!」

「この……!!」

 接近。

 バスターソードの一閃がストライクBondの左腕を切り飛ばした。

 

「避けられない事くらい分かってる!!」

 実力差は分かっている。

 

 この男はタイガーウルフ達と同レベルの力を持っていた。普通に戦ったら勝てない。

 

 

 なら───

 

 

「左腕くらいくれてやる!!」

 避けずに叩く。

 

 今セイヤ達はリスポーンを警戒して自分達を撃破出来ない。

 コックピットやエンジン付近を狙われないのなら、それ相応の動きをすれば良い。

 

 シン・アスカがキラ・ヤマトのフリーダムを倒した時のように。

 

 

「小癪だぞ、ガキ」

「言ってろ!!」

 右手に持って展開したビームサーベルがヤークトアルケーのコックピットに向けられた。

 

 こんな手は一度しか決まらない。ここで決めなければ、負ける。

 

 

「そこだぁ!!」

「トランザム」

「……ぇ」

 ケイの目の前から、セイヤの機体が一瞬で消えた。

 

 

「アルケーが……トランザム?」

「何も不思議な事はないだろ。……ストライクがトランザムしてるんだからな」

 アニメガンダムOOでアルケーはトランザムを使用していない。

 

 どから、ただ素組で作られたように見えていたセイヤのヤークトアルケーがトランザムを使うとは思わなかったのである。

 

 

「勘違いすんなよ、俺はGBNが憎いだけだ。ガンプラそのものが嫌いな訳じゃない。……アオト達と違ってな」

「くそ───」

「他の奴がどうあれな。俺は、GBNへ復讐する。それがアンチレッドの目的。消えろ、邪魔だ」

 バラバラにされるストライクBond。

 

 残るはロックだけ。

 

 

「くそ!! アオト、テメェ良い加減に!!」

「強いよな、お前達は。俺とは違う。……だから嫌いなんだ」

「アオト、ELダイバーのガキを攫って来い。コイツは俺が潰す」

「はい。セイヤさん」

「おい待てアオト!! テメェ!!」

 ケイを倒してロックとアオトの間に割って入るセイヤ。

 

 直ぐに離脱したアオトを追おうとするロックだが、トランザム中のヤークトアルケーが彼の前に立ち塞がった。

 

 

「テメェにも借りがあるけどな、ゆっくり痛ぶってやる余裕もねーよ!! トランザム!!」

 赤い光を放ち、ビームサイズを振り上げるロック。

 

 大ぶりにバスターソードを突き出すセイヤだが、振り上げたビームサイズをそのまま投げ捨て、ロックはビームサーベルでバスターソードを切り飛ばす。

 

 

「俺様のチームにテメェの私情で手を出すんじゃねぇ!!」

 そのまま一閃。

 

 バスターソードを斬り飛ばされてバランスを崩したヤークトアルケーの右腕を切り飛ばしたロックは続けて投げ捨てたビームサイズを拾い上げながら切り上げた。

 そのビームサイズを足から発生させたビームサーベルで受け止めるセイヤ。同時にデュナメスHellの頭を左手で押さえつけると、スカートからGNファングを射出する。

 

 

「また地上でファングだのなんだの!!」

「ゲームだからな。……くだらないだろ。結局、ゲームなんてそんなもんだ」

「くそが!!」

 首を捻じ切ってでもヤークトアルケーから離れ、ファングをビームサーベルで迎撃するロック。

 

 負ける訳にはいかない。

 

 

 もう逃げないと、強くなると決めたんだ。ここで倒れるわけにはいかない。

 反射神経を研ぎ澄ませ、思考をフル回転させてファングを叩き落とす。

 

 あの日、あの時、何も出来ずに幼馴染達はバラバラになって、自分はずっとその責任から逃げてきた。

 

 

 もうあんな思いはしたくない。

 

 もう誰にも下を向いて欲しくない。

 

 

「リーダーがここで負けてたまるかよぉぉおおお!!!」

「その想いに……価値はない」

 ファングを迎撃するので精一杯のロックは背後を取られている事にも気付けず、右腕以外の手足を全てバラバラにされて地面に叩き付けられる。

 

 

「……終わりだ。アオト」

「連れてきました」

 戻ってきたアオトのコックピットの中には、気絶したままのイアの姿があった。

 

 

「イア!!」

「イアちゃん!!」

 叫びは届かない。

 

「イア……。お、おい……やめろセイヤ!! お前、お前は……何をしようとしてんのか分かってんのか!! レイアが……そんな事望んでると思ってんのかよ!! おい!!!」

「兄さん……お願いです。辞めてください……!」

「……お前達も、俺と同じ気持ちを味わえば良い」

 機体を浮かせるセイヤ。

 

 イージスとヤークトアルケーがReBondのフォースネストから離れていく。

 

 

 

「逃げんなよ……。逃げんな!! 俺と戦え!! 俺はまだ!! 戦えるんだぞ!! おい!!!」

 片腕だけで。

 

 GNスナイパーライフルを構えるロック。

 

「無視してんじゃねーよ!! おい!!!」

 銃口が揺れた。

 

 分かっている。自分は狙撃が下手くそだ。

 機体が万全の状態ですら外して、仲間に貢献出来ていない。そんな事は分かっている。

 

 今この状態では外せない。

 

 

 イージスのコックピットに当ててしまえばイアは死ぬし、外してしまったら意味がない。

 セイヤを討ち取ってイージスを止める狙撃技術。

 

 彼女なら出来たかもしれない。

 己の力不足が、今、本当に悔しい。

 

 

「タケシ……」

「くそ……くそ!! くそ!! くそくそくそ!!! くそぉぉおおお!!!」

 引き金は引けなかった。

 

 

 

「───間に合ったようだな」

 ───しかし、GBNの空に光が差す。

 

 青い光。

 AGE2を回収した、現在GBNで一番強い男の機体。

 

 

「ユメ君に呼ばれて助けに来た。私だけではない」

 GBNチャンピオン───クジョウ・キョウヤ。

 

「加勢しにきたよ! ケイ!」

「リク!?」

 ビルドダイバーズ、リク。

 

「バグを戦術に組み込むのは感心しないな。しかし、それも分かっていれば対処のしようはある」

 第七機甲師団、ロンメル。

 

「おいおい、この前の美味いバトルは何だったんだ。ボロボロじゃねーかよ」

 百鬼、オーガ。

 

 

 ReBondと戦った事のある名だたるダイバー達がセイヤの前に立ち塞がった。

 

 セイヤに負けた後、ユメはキョウヤに連絡を取っていたのである。

 そしてキョウヤは近くに居た信頼にたるメンバーを集め駆け付けてくれた。

 

 

 同じGBNを楽しむ仲間を守る為に。

 

 

 

「盛大なお出迎えだな。けれど、少し遅かった」

「何?」

「キョウヤさん!!」

 世界が暗転する。

 

 何もなかった空間に雷が落ちた。空間が裂けて、サーバーが異常なデータ数値を叩き出す。

 

 

「何が起きている!? 強制ログアウトだと!!」

 次に。

 ロンメルの機体がGBNから強制的にログアウトした。

 

 他の機体も、次々とエラーを吐き出す。

 

 

「なんだ!?」

「おいおいおいおい、セイヤ! 何をしたんだおま───」

 オーガ、カルミア。

 

「GBNのサーバーが……落ちる?」

「これは何。兄さん……?」

 キョウヤ、ニャム。

 

 

「アオト、先に戻れ」

「はい」

 アオト。

 

 

「ざけんな!! おい!! ふざけんなよくそが!! 逃げるな!!! 逃げるなぁぁぉあああ!!!!」

 ロック。

 

 

「リク!! 止めてくれ!!」

「分かってる、けど───」

 リク。

 

 

「そんな……ケイ君」

「なんで……こんな事……」

 皆の機体が強制的にログアウトしていった。

 

 世界が割れていく。

 

 

 この世界の終わりを告げるかのように。

 

 

 

「……思った以上だな。()()()。思った以上に、都合が良い」

 セイヤも消えて。

 

 

「ケー君! 私、戻ったら直ぐ皆に連絡するから! まだ! 諦めちゃダメだから! 絶対! 絶対に───」

「……分かってる。分かってるけど。……イア、待ってろよ。絶対にお前を助け───」

 サーバーエラー。

 

 

 

 GBNはサービスを停止。

 

 

 その日、地球全土でネットワークエラーが発生。

 

 GBNサーバーエラーの復旧には数日を要したのだった。



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第十三章──閉された世界へ【届かない光】
閉された世界


 テレビのニュースが流れていた。

 

 

『───おそらくは、宇宙規模の超重力。超高圧下で発生した未知の反粒子による超空間放電、サージ現象の一種ではないかと』

 ニュースでは、世界各地で起こっている大規模な通信障害が報じられている。

 

 

 突如起きたGBNのサーバーエラー。

 それはGBNという小さな世界だけではなく、地球規模で広がる現象だった。

 

 

『その放電を受けて、通信機器や、コンピューターが使えなくなった、ということなんですね』

『おそらくは、はい。ですが、これほど大規模で強力な現象は、今までの記録にはありません』

 アンチレッドの強襲。

 

 イアが連れ去られようとした丁度その時、キョウヤ達が駆け付けるも───偶然か、GBNはサーバーエラーでケイ達は強制的にログアウトさせられる。

 

 

『つまり、人類がまだ経験したことがない災害ってことですか?』

『えぇ。解析と復旧には、早くとも数日。遅ければ数ヶ月に及ぶかと。はい』

 それから数日。

 

 

 インフラの復旧は進められているが、GBNはまだログイン出来ない日々が続いていた。

 あの後イアがどうなったのかは分からない。

 

 GBNの運営からデータの大きな破損はないというアナウンスはされているが、復旧してログインするまでイアと連絡をする事すら出来ない状態である。

 彼女が無事なのか気掛かりで仕方がない。

 

 

『この現象、遠い、この惑星が発生源とされていますが……』

『惑星1G1202C。光の速さで、三十年かかる距離にある星です。はい』

『じゃあ、これって、三十年以上前に発生して───』

 テレビの電源を切った。

 

 

 立ち止まっていても、何も進まない。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 学校帰り。

 

 

 ケイが車椅子を押しながら、ユメは車椅子の上で携帯端末の画面を必死に眺めている。

 普段なら会話を優先する彼女だが、今は状況が状況だった。

 

 

「どうだ? ユメカ」

「ニャムさんもやっぱりまだログイン出来ないって。ガンダムちゃんねるのスレッドも覗いてみたけどログイン出来てる人は居ないみたい」

 GBNのサーバーエラーは続いていて、全世界のネットワークエラーが解消されつつある今もまだログインが出来ない状態が続いている。

 

 近くに住んでいるカルミア達はともかく、しばらくの間ニャムとは連絡も取れなかったので彼女と再び言葉を交わせるようになった事だけは安心要素だった。

 

 

 しかしイアの安否は分からず、GBNにはいつログイン出来るようになるかも分からない。

 そして───

 

「タケシも親にすら黙って居なくなるし、どうしたら良いんだ」

 ───サーバーエラーが起きた後。

 

 

 何故かタケシが行方不明になってしまい、彼とも連絡が取れていない。

 

 何か事件に巻き込まれているのではないかと心配になるが、彼の両親に会いに行くと「大丈夫だろうから心配しないで」と言われるだけである。

 

 

 

「……寂しいね」

「……そうだな」

 なんだかGBNを始める前に戻ったみたい。ユメカはそう思いながらも、必死に携帯端末の画面と睨めっこを続けた。

 

 

「───ごめんね、ケー君。私今日病院に行かなきゃ」

「あ、そうか。着いて行こうか?」

「大丈夫。ヒメカが居てくれるし。ケー君は、今ケー君に出来る事をしなきゃ」

「そうだな」

 家の前まで来て、二人はそう言って別れる。

 

 

 GBNにログイン出来ない以上、イアの為に出来る事は限られていた。しかし、何も出来ない訳じゃない。

 心の中では二人共タケシの事を信じている。きっと、彼だって───

 

 

 

「───よっ、ニャムちゃん。元気してたー?」

「やっとお話しできましたね、カルミアさん」

 一方カルミア───カラオと、ニャム───ナオコはチャットアプリで久し振りに話をしていた。

 GBNで会えなくなってからネット環境がやっと繋がり、こうして声を聞くのも久し振りである。

 

 

「元気、というと私はカルミアさんの方が心配だったんです。……大丈夫ですか?」

「……んー、とりあえずは落ち着いたって感じかねぇ。そりゃ、当日は凄い取り乱したけど」

 GBNサーバーエラーによる強制ログアウト。

 

 現実の世界に戻ったカルミアは直ぐにログインし直そうとするが、その時には既にGBNのサーバーは停止していた。

 ログインどころかネットワークにも繋がらない。イアの安否に気が気でなくなったカルミアは仕事も放ってセイヤを探して車を走らせ続けたのである。

 

 

 しかし、思い当たる節のあるどこを探してもセイヤに合う事は出来なかった。

 

 GBNのエラーについて、初めはセイヤが何かをしたのかと思っていたが原因は遠い星からの電波だとテレビで聞かされて唖然としたのを覚えている。

 

 

「───偶然、だったんでしょうか?」

「全世界のネットワークエラー、遠い星からのサージ現象、セイヤがイアを連れ去ったタイミング。……正直、おじさんには皆目見当もつかないのよね」

 セイヤはあの時何かを言っていた気がするが、それがこの現象に関わっているとは考えにくい。

 そもそもGBNだけならともかく、全世界同時にネットワークエラーを起こすなんて事がセイヤ達だけの仕業だとは思えなかった。

 

 

「いくらELダイバーの力を悪用したって、そこまでの事が出来るとは思えないのよね」

「そうですよね……」

「まぁ、エラーの事は置いといてよ。これは取り乱したおじさんなりに考えて動いた結果なんだけど、GBNの運営曰くデータの大きな破損はあり得ないとかなんとか。結局の所ゲームのセーブデータじゃないけど、ネットワークエラーの原因そのものはGBN外部の要素だからデータは消えていないとかなんとか」

「それじゃ、GBNの中でイアちゃんはまだ生きてるんすかね?」

「……多分、ね。他にも連れ去られたELダイバーとか、多分データ上は存在してる筈だけどサーバーが止まってる事がELダイバーに与える影響は分からない。おじさん達が今心配しても何も変えられないのよね」

 カラオは髪を掻きながらそう言って、小さくため息を吐く。

 

 落ち着いている、と言えばそれは嘘だ。

 イアの事がカラオは気が気でならない。当日の彼の荒れ具合を見たアオトの父親曰く、まるで別人だったとか。

 

 

「大切なんですね、彼女の事」

「んぁ? いや、そういうんじゃないからね」

「そうなんですか?」

「元々レイアと重ねてるってのは否定しないけど、そもそもレイアを好きだったのはセイヤだしな。……おじさんにとってイアはユメちゃん達と同じで、大人の俺が守るべき対象なのよ」

「なるほど……」

「今なんか安心した? あ、もしかして妬いちゃってたー? おじさんみたいなナイスガイを取られちゃうかもって」

「そ、そ、そ、そ、そんな訳ないですけど!!?」

「なんでそんな慌てるのよ!?」

 モニター越しに顔を真っ赤にする二人。少しだけ間を置いて、沈黙に耐えられなくなったカルミアはこう口を開く。

 

 

「……ま、その? なによ。……おじさんは大人だから。子供達の今を守るのが、今おじさんがやらなきゃいけない事だし。ニャムちゃんもおじさんにとってはまだ子供だからね」

「そうなんですか……。でも、私はカルミアさんには大人として見られたいですよ」

「……ん?」

「あはは。というか、チャットとはいえ素で話すのはなんか変ですね。ここはやっぱりニャムとして話すべきなんでしょうか?」

「……いやぁ、まぁ。……そうね、その方が今はおじさんも楽かも」

「なるほど。……それじゃ、そうさせて貰う()()()

 モニターに映る満面の笑みのナオコを見て、かは不敵に笑った。

 

 

 そうだ、今は笑おう。

 

 

 

 

「───悪化してるって……事ですか?」

「いや、以前とは少し違う反応があるだけで悪化したと言うのは軽率かな。悪い方向に進んでいると決まった訳じゃないよ」

 病院。

 

 インフラの整備が終わり、何かと忙しい施設もやっと通常通りの営業に戻ってきた。

 ユメカはヒメカの付き添いで、学校終わりに足のリハビリと健診を受けている所である。

 

 

 問診が終わって、ユメカはリハビリ中。

 

 その間に何故か呼び出されたヒメカは医者の先生にユメカの診断の話をされていた。

 

 

 

「ここ数年、リハビリを続けてもユメカちゃんの足が良くなる傾向はなかったんだけどね……。今日は反応がいつもと違ったんだ。ヒメカちゃん、少しだけ気を付けて様子を見てあげてくれないかな?」

「お姉ちゃん大丈夫ですよね……?」

「ごめんね、分からない。でもヒメカちゃんはしっかりしてるから、僕がここにユメカちゃんを呼ばなかった理由……分かるよね?」

「……お姉ちゃんを不安にさせたくない、から」

「うん。勿論ご両親にも後で連絡するけど、ヒメカちゃんが一番ユメカちゃんの事を考えてくれてるのを僕は知ってるから。ヒメカちゃんに、ユメカちゃんの事を頼みたい」

「……それは、勿論。……なんですけど」

 不安そうに下を向くヒメカ。

 

 医者の先生も姉が大好きな中学生の女の子に酷な事を言っている自覚はある。

 しかし人の身体は未だに未知数だ。特に脳と神経はまだ分かっていない事が多い。

 

 

 これまで歩けなかった人物が突然歩けるようになる事もあれば、その逆もある。

 数年前の事故の影響が突然大きくなる事も小さくなる事も、何も否定する材料がない。

 

 

「……お兄さん達にも、言って良いですか?」

「ケイスケ君達だっけ? うん。良いよ。助けてもらおう」

 医者は意外な顔をしてから、優しい顔になってヒメカの頭を撫でた。

 

 ユメカの事故の原因になった少年達を、ヒメカは嫌っていたと記憶している。

 どんな心境の変化があったのか。もしかしたら、ユメカの容体は良い方に傾いているのかもしれない。

 

 

 医者がそう思ったその時だった。

 

 

 

「───先生!! ユメカちゃんが!!」

「え?」

「お姉ちゃん……? お姉ちゃん……!!」

 看護師の言葉にヒメカと医者が走る。

 

 その先に居たのは、リハビリ中に転んで倒れてしまったユメカだった。



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雨の中で

 病院。

 

 

 ユメカは定期的にリハビリを受けているのだが、この数年間何かが変わる事は特になかった。

 筋力の衰えを防ぐ為のリハビリを続けていても歩けるようになる訳じゃない。

 

 ここ最近はGBNに夢中でリハビリをサボったりもしていたが、少しサボったくらいで何かが変わる訳もなく。

 

 全世界のインターネットサーバー異常を機に、書類の整理をしていた担当の医師からGBNが出来ないなら偶にはリハビリに来なさいと呼ばれて。

 

 

 

 そして───

 

 

 

「ユメカちゃん!?」

「───い、たた……ぁ」

 リハビリ中。

 

 ユメカは転んでしまった。

 原因は自分でも分かっている。最近良くある事だった。

 

 

「───GBNだと歩ける、から?」

「あはは……。はい。それで、自分では歩ける物だって偶に勘違いして家でもよく転ぶんです」

 自分の足で立とうとして───

 

 

 現実では下半身付随であるユメカは、その身体を支える事も出来なくて、転倒してしまう。

 

 頭から転んだ物だから一時病院は騒然となったが、幸い大した事は無く医師はホッとしながらもユメカに「気を付けないといけないよ」と注意をした。

 ユメカ自身も落ち込みながら頷く。

 

 

「下半身付随で歩けなかった子供が電脳空間のゲームで遊んでいる内に奇跡的に回復して歩けるようになった、という話を聞いた事はあるんだ。けれど、それが絶対に良いことなのかどうかはまだ医学的にも分かっていない。……ユメカちゃんにGBNを辞めろ、なんて事は言わないけどね。医者として、気を付ける事は気を付けて欲しいとだけは言わないといけない」

「……は、はい」

 俯いて弱い返事をするユメカ。

 

 

 自分の不注意で先生達に迷惑をかけた事は分かっている。けれど、どうしたってGBNを辞めるのだけは嫌だった。

 

 歩けるだけじゃない。

 あの場所には、ユメカにとって沢山の大切な物があるのだから。

 

 

「───とにかく、気を付けてね。病院でもGBNについてちょっと調べてみるけど、良いかな? 勿論ユメカちゃんが続けたいのなら止めたりしない。ただ、身体にどんな影響があるのか分からない事とユメカちゃんの身体が勘違いを起こしやすくなっているのだけは覚えておいて欲しい」

「……わ、分かりました。ありがとうございます!」

 先生の優しい言葉に顔を上げるユメカ。

 

 

「お姉ちゃん……」

 そんな彼女の隣で、ヒメカは目を細めて俯く。

 

 姉にとってGBNは───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 タケシと連絡が取れたのはユメカが病院に行った次の日の事だった。

 

 

「───スズちゃん達の所、ですか?」

「うん、昨日スズちゃんから連絡があってね。……ロックならウチで預かってる、心配するな。って」

 絶妙に似ていないスズの真似をしながら、彼女からの伝言を伝えるユメカ。

 

「修行でもしてんのかね? 水臭いわねぇ、ロッ君」

「タケシの事だから、あの時イアを連れ去られちゃった事に責任感じてるんだろうな……」

 あの日。

 

 ロックはセイヤを狙い打つ事も出来たのである。

 

 

 しかし、イアを傷付けてしまえば取り返しがつかない。

 彼は内心では分かっていたのだ。自分の狙撃精度が悪い事に。

 

 

 

「だからスズちゃん達の所に……」

「どのみちGBNがやれないんじゃ、おじさん達に出来る事は少ないからね。こうしてチャットで駄弁ってる暇があったらガンプラ強くしろって事なのかも」

 ここ数日、学校や仕事が終わった後四人はこうして毎日チャットをしていた。

 

 いつもならGBNに居る時間。

 けれど、今はそれが出来ないから。

 

 

「いやいや、私はちゃんと通話しながらガンプラを作ってるんですよ。ふふ、早くこの新しいガンプラを皆さんに見せたいです」

「ニャムちゃんまさかの作業通話な訳ね?」

「俺も」

「私も今ケー君と二人でガンプラ触ってるよ」

「この裏切り者がぁ!!」

 泣き真似をするカルミア。自分だけ何もしてないみたいじゃない、なんて言う彼にユメカからこんなフォローが入る。

 

 

「けど、カルミアさんも通話しながらGBNの事とか事件の事とか沢山調べてくれてるんですよね? アオト君のお父さんが言ってたよ」

「店長さん余計な事を……」

 ここ数日。

 カルミアは仕事以外の時間も、仕事の空き時間も一連の事件やGBN運営の対応を調べていた。

 

 三十光年先の惑星で何が起きたのか。GBNのサーバーと各地のELダイバーの話。

 しかし、調べても調べても有益な情報は出てこない。

 

 

「……でも収穫はないのよね。依然としてGBNのサーバーは回復しないし、情報は入ってこない。ELダイバーの事だけど、当日ログインしてたELダイバーでも行方不明になっていない子らは普通に強制ログアウトでログアウトしたらしいって事くらいか」

「そういえばサラちゃんも、モモちゃんが大丈夫だよって教えてくれたよ。マギーさんも忙しそうだったのにメイちゃんは無事だって」

「セイヤが連れ去ってログアウト出来ないようなバグの中にいるELダイバーだけがGBNのサーバーに取り残された、か」

「今GBNの世界はどうなってるんだろうな」

 サーバーエラーでこの世界から閉ざされた世界。

 

 今GBNでは時間が進んでいるのかどうかも分からない。

 

 

 またGBNにログインしたとして。

 データが全て残っているのか、イアが何処にいるのか、そもそも存在出来ているのか。

 

 それすら分からない。

 

 

「……悩んでても仕方ないか」

「そうですね。今は、自分達に出来る事をしましょう」

「結局はそうなのよねぇ。ロッ君が一番正しいのかも」

 そんな事を話していると、当然チャット音声に家のチャイムが混じる。

 マイクを通して全員の耳にチャイム音が鳴る物だから、一瞬誰の家でチャイムが鳴ったのか分からなかった。

 

 

「ケイスケー、今お母さん出れないから出てー」

 どうやらチャイム音はケイスケの家だったらしい。

 

 ケイスケは「ごめんなさいちょっと行ってきます」と、ユメカを置いて立ち上がる。

 

 

「ぇ───」

 そして玄関まで歩いて、扉を開けた瞬間ケイスケは固まってしまった。

 

 

 

 雨が降っている。

 

 あの日のように。

 

 

「───アオト?」

 ───そこに居たのは、アオトだった。

 

 

「よう、ケイスケ」

「なんで……」

「アオトく───きゃっ」

 ケイスケの言葉に、玄関近くの部屋にいたユメカが反応して転んでしまった。

 医者に言われた事を思い出すが、しかしケイスケの言葉は無視出来ない。

 

 玄関にアオトが居る。

 

 

「……なんで、今……こんな時に。ずっとお前を───」

「ガンプラバトルをしよう、ケイスケ」

「は?」

「ガンプラバトルをしよう」

 言いながら、腰からイージスのガンプラを取り出すアオト。

 

 それはまるで、幼い頃いつものように誘いに来た幼馴染みのようで。

 

 

 話したい事が沢山あった。

 

 

 

「……分かった」

 そう言って、ケイスケは部屋に戻る。

 倒れていたユメカを見てギョッとしたが、ケイスケはそんな彼女を机に座らせてからマイクに向けて「アオトと話して来ます」とだけ口を開いた。

 

 

「ケー君……!」

「ユメカはここに居てくれ。アオトと話してくる」

 言いながら、ストライクBondにダブルオーストライカーを装備してユメカに背中を向けるケイスケ。

 

 彼は「待っててくれ」と部屋出て、アオトの元に向かってしまう。

 

 

「ケー君! 私も───っ」

 また転びそうになって、ユメカは医者に言われた事を思い出して止まった。

 

 何も出来ない。

 今こんな時なのに、歩く事も出来ない彼女はケイスケに着いていく事すら出来ないのが悔しくて涙が漏れる。

 

 

 嫌だ。

 

 

 こんなのは嫌だ。

 

 

「カルミアさん、助けて───」

「……分かった。ごめん、ニャムちゃんちょっとの間頼む。今行くからな、ユメカちゃん」

 そう言ってカルミアはチャットから退出する。

 

 

 車を走らせて。

 

 

 雨の中。

 

 

 ケイスケとアオトが消えた場所で、ユメカはその手を強く握りしめていた。



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アオトの本音

 雨の中。

 

 

 ケイスケは黙って前を歩くアオトに着いて歩いて行く。

 

 会話はない。

 きっと、今ここで何を聞いても答えてくれない気がした。

 

 

 ガンプラバトルをしよう。

 そう言ったアオトの言葉を頭の中で何度も繰り返した。

 

 

 町外れ。

 強い雨ではない。けれど、風が強くて傘を持ってきたがあまり意味はなかったらしい。

 

 濡れた身体を訝しげながら、ケイスケはアオトに着いて小さな工場に足を踏み入れる。

 

 

「ここは。……な───」

 ふと、電気が付いた。

 

 暗かった視界に現れる、一つの大きなマシン。

 

 

「───GPD」

 GBNが流行り、廃れていったケイスケ達の思い出。

 

 ガンプラを実際に動かしてバトルするガンプラバトル。そのマシンがそこには置いてある。

 

 

「ガンプラバトルをしよう、ケイスケ」

「……分かった」

 GPDは実際にガンプラが動いて、壊れたり、壊したりするゲームだ。

 

 ケイスケはアオトのガンプラを壊して、それから───

 

 

 

「アオト……!」

「……なんだよ」

「……壊れても、また治せば良い。そうだよな?」

 ケイスケの言葉にアオトは答えない。

 

 マシンの前に立ち、ガンプラを置いて、早く始めろと目で諭す。

 

 

 ダブルオーストライクBondを置いて。

 

 

 

 GPD Battle start

 

 そのゴングが鳴った。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 設定されたステージは孤島。

 

 

 戦闘に充分な余裕がある孤島を囲む水上エリアが特徴的で、奇しくもガンダムSEED内でストライクとイージスが最終決戦を繰り広げた場所に似たステージでもある。

 

 そしてその地に立つガンプラもまた、ストライクとイージスだ。

 

 

 

「……アオト、教えてくれ。GBNで何が起きてるんだ」

「俺は知らない」

「知らないなんて事ないだろ!」

 お互いに構えるストライクとイージス。

 

 やっと交わした会話も、アオトの感情は伝わってこない。

 

 

「友達が、GBNの中で一人で待ってるんだ」

「それはユメカやタケシよりも大切なのか?」

「……お前は俺の気持ちを知ってるのに、そういう質問は狡くないか?」

「……でもお前は、ユメカをガンプラと関わらせている。ガンプラはユメカの全てを奪ったんだぞ!!」

 ここに来てから初めてその感情が見える。

 

 

 GBNへの復讐を掲げるアンチレッド。

 そのメンバーにアオトが居る事に初めは驚いたが、実の所不思議に思うことはなかった。

 

 あの日。

 ユメカをトラックが弾いた事故の日、アオトがどれだけガンプラの事を呪ったのか分からない。

 タケシもあの日以来ガンプラに触れなくなって、ケイスケもガンプラに触れる機会は減っている。

 

 それぞれが多少の差はあれどガンプラへの気持ちが変わったのは確かだった。

 

 

 父親にガンプラを否定され、大切な幼馴染を傷付けたアオトの気持ちが分からない訳ではない。

 

 

 

「壊れても直せば良い……だと? ふざけるな!! もうユメカの足は治らないんだぞ!!」

「それでも……ユメカはちゃんと歩き出してる。その邪魔をする事はないだろ!!」

 ライフルを構える。

 

「そんなものはまやかしだって、何で分からないんだよ!!」

 先に動いたのはアオトだった。

 

 放たれたライフルを交わすケイスケ。ジャンプして上から放つライフルを、アオトも難なく交わしてみせる。

 

 

「GBNは現実じゃない。どれだけガンプラが傷付いても、ログアウトすれば直す必要すらない。取り返しのつくまやかしの世界だ! そんな物に囚われて! ユメカの未来に何が残るんだよ!!」

「ユメカは今を楽しんでるんだ!! ソレで良いだろ!! お前はただガンプラへの気持ちを整理出来ないから、周りにそうやって当たってるだけなんだよ!!」

 イージスは両腕のビームサーベルを展開し、ストライクはGNソードIIIと腰のビームサーベルを構えて二人は鍔迫り合った。

 

 想いをぶつけるようにサーベルを叩き付けるアオトの攻撃を、ケイスケは着実にいなしていく。

 

 

「違う!! 俺は!! 俺は……ガンプラを憎んでいる!! ユメカから全て奪ったガンプラを!! 父さんを苦しめたガンプラを!! お前が良い顔してるだけのガンプラを!!」

「じゃあどうしてまだガンプラを作ってるんだよ。どうして俺と今こうしてガンプラバトルをしてるんだよ!! ソレはお前が、ガンプラをまだ好きだからじゃないのか!? お前はただ、感情を吐き出したいだけなんじゃないのか!?」

 サーベルを弾き、ケイスケはイージスの左腕を斬り飛ばした。

 

 そのままイージスを蹴り飛ばすと、ケイはGNソードIIIをライフルモードにしてその銃口を向ける。

 

 

「戻ってこいアオト。また皆でガンプラをやろう! タケシもユメカも、俺も! お前の事を待ってる!」

「嘘をつくな……。いや、そうだよな」

「アオト……?」

「お前にとって俺は、その程度の人間なんだ。俺が戻ってきた所で、お前はなんとも思わない」

「……何を言ってるんだよ」

「そうだろ!! お前は強いもんな!! 俺が戻った所で、ユメカはお前の物でしかない。俺の気持ちは空のままだ!! 狡いんだよお前は!! そうやってお前とガンプラは俺から全部奪うんだ!! ムカつくんだよ!!」

「アオト……」

 その気持ちを二人は知っていた。

 

 

 幼馴染みの女の子。

 

 彼女の事が好きになって、お互いその気持ちは分かっていて。

 

 

 だから、タケシが始めたガンプラバトルに初めは無関心だったケイスケもアオトに負けないように始めたのである。

 ガンプラの事は知らなくても、バトルを楽しそうに見るユメカな事が好きだったから。

 

 ───だからそれは全部、好きな女の子に振り向いてもらう為だ。

 

 

 

「そうだよ、全部言い訳に過ぎない。俺はあの日! ユメカが怪我をしたのはお前のせいだと思ってるんだよ!! お前が俺のガンプラを壊さなければ、ユメカは怪我をしなかった!!」

「……っ、それは!!」

「お前が弱いから? そう言いたいんだろ。だから俺はお前が嫌いなんだ。ユメカに怪我をさせたくせに、それでもユメカの気持ちはお前に向いたままだ!! そんなお前が許せないんだよ。そうだ……これは俺の復讐なんだ。ガンプラへのじゃない、お前への復讐なんだよ!! ケイスケ!!」

 変形。

 

 スキュラを放ちながらストライクに突進するイージス。

 ケイスケはそれを避けながら、イージスにライフルを直撃させる。

 

 

 

「そうやってお前は!! 弱い奴を見下して、好きな女の子に靡いてもらって!! 気持ち良いだろうな!! ガンプラが楽しいだろうな!!」

「アオト……そんな、俺は───ユメカだって!!」

 変形。

 

 サーベルを振るが、その右腕はケイスケに切り飛ばされた。

 

 

 アオトの言う通り。

 

 ケイスケはアオトより強い。

 

 

「ガンプラバトルの勝ち負けだけが、ユメカの気持ちだと思うなよ!! 俺だってユメカの事が好きだ!! だけど、その為だけにガンプラバトルをしてる訳じゃない!!」

 ユメカに見て欲しいから、その気持ちも本当だろう。

 けれど、ライバルに負けたくない。その気持ちだって、ケイスケの中では本物だった。

 

 

 ガンプラを通して、GBNを通して出来た沢山の仲間。

 

 動機は不純だったかもしれない。

 

 

 けれどガンプラが好きで、ガンプラバトルが好きで、そんな気持ちは───この気持ちは嘘じゃないと言い切れる。

 

 

「お前とバトルするのも楽しかったんだよ、アオト!!」

「強い奴が……勝てる奴だけが!! そういう事を言えるんだよ!! ソレを今から証明してやる!!」

 両腕を失ったイージスから赤いオーラが漏れ始めた。

 

 光は斬り飛ばされたイージスの両腕まで伸び、その光が斬り飛ばされた筈の両腕を持ち上げて元あった場所へと繋いでいく。

 

 

「な───」

「ブレイクシステム……」

 GPDはガンプラが実際に動き、実際にダメージを負うシステムだ。

 

 しかしそれなのに、アオトのイージスは両腕がしっかりと繋がれて元に戻っている。

 バトル中ならGBNでもそんな事は起きない。ターンタイプのナノシステムを遥かに凌駕した現象だ。

 

 

「……何をしたんだ?」

「ブレイクデカールを知っているか?」

「GBNで流行ったチートだろ。……お前、まさか!?」

「あぁ、これはその応用。セイヤさんが俺の復讐の為に与えてくれた力。GPDでも、GBNでもこの力が有ればお前に勝てる!! ケイスケ!!!」

 完全に機体が修復されたイージスが、ケイスケのストライクBondに突撃する。

 

 

 

 ───その怒りの刃がついにケイスケのストライクBondへと届いた。



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ブレイクシステム

 ブレイクデカール。

 

 

 二年前、GBNでとある人物がGBN崩壊を目論み、その時の計画で使用された不正ツールである。

 

 ガンプラに使用し、システムに介入してガンプラの性能をシステム以上の物にするチート行為。

 そしてブレイクデカールによるデータ破損でGBNを崩壊させるというのが当初の計画だった。

 

 

「───シバさん、あんたには失望した」

「……そうか。もう続けても無駄だって分かれよ、お前もな」

 当然その人物の目論みに加担していたセイヤがブレイクデカールのシステムを保有していたのは、いうまでもないだろう。

 

 

「……俺は、必ず復讐を果たす」

 既にブレイクデカールは修正パッチが開発されていて使用しても意味がない。

 しかし、そのブレイクデカールを参考に別のシステムを作る事は可能だった。

 

 ブレイクシステム。

 それが、セイヤが作り出した新しいブレイクデカールである。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 何度捌いても、攻めを崩さなかった。

 

 

 ブレイクシステムを発動したアオトのイージスは、何度腕を切り落とされても足を砕いても再生する。

 本来傷付けば治らない筈のGPDで、彼の機体はシステムを無視しているかのような挙動を繰り広げていた。

 

 

「なんだ……この力!? 本当にこれが……GPDなのか!?」

 ケイスケもGPDのプレイは久しぶりである。

 

 しかし、機体の操縦そのものはGBNとは変わらない。

 現に普通に戦っていれば、既にアオトは三回は負けている筈だ。それでも、彼の機体はピンピンとしている。

 

 

「狡いんだよ!! 狡いんだよ!! お前はそうやって、力があるからって!!」

「この……!!」

「もっと俺に力を……。お前に勝てるような、力を!!」

「アオト!! 俺は!!」

「お前の話なんて、聞くものか!!! ブレイクビット!!!」

 突き出されたイージスのシールドから放たれたビットがストライクBondを囲んだ。

 

「ここは地上フィールドだぞ!?」

 重力下でのオールレンジ攻撃。彼のイージスがおかしくなっている事だけは分かる。

 

「……っ、GNシールド!」

 ストライクBondを包み込むGN粒子の盾。

 

 しかし、そのシールドを貫通して、ストライクBondの左腕が削り取られた。

 

 

「ブレイクファング!!」

「くそ……!!」

 体勢が崩れた。アオトは畳み掛けるように、ブレイクドラグーンとブレイクファンネルを展開する。

 

「クリアパーツのファンネルと機動力重視のドラグーン。……ここまで凝った改造して、それでもガンプラが嫌いだって。……違うか、お前が嫌いなのは───」

「……そうだよ、ケイスケ。俺は───お前が嫌いなんだ」

 放たれる光。

 

 ストライクBondは少しずつ削り取られていった。ケイスケの戦意と共に。

 

 

「俺は……皆と楽しく……ガンプラがしたかっただけで───」

「お前の自己満足で、俺はお前に全てを奪われた」

「俺は……ユメカにも、アオト達にも楽しんで欲しくて───」

「お前がユメカに良いところを見せたいだけで、何も考えずにいたからユメカは全てを奪われた」

「俺は……ガンプラが好きで───」

「お前はガンプラが好きなんじゃない。ガンプラが強いから、ユメカに見てもらえる自分が好きなだけなんだ」

「俺は───」

「ケー君は!! 皆の事が大好きなんだよ!!」

 突如、そんな声が二人の間に割って入る。

 

 同時に、イージスをストライクBondとは逆方向からのビームが襲った。

 

 

「……何?」

「……ユメ……カ?」

「ケー君立って!! アオト君に話さなきゃ行けないこと、もっと沢山ある筈だから!!」

 ユメカのデルタグラスパーがGPD内で飛び回る。

 

 ストライクBondの背後まで回った彼女の機体は、装備していたクロスボーンストライカーをパージした。

 

 換装する。

 

 

「……ユメカ。……うん、分かった!」

 走った。

 

 想いを繋ぐ為に。

 

 

「近付かせるかよ。ブレイクビット、ファング、ファンネル、ドラグーン!!!」

 アオトのイージスから一斉に放たれるオールレンジ攻撃。

 しかし、ケイスケはクロスボーンストライクBondの機動力を活かしてその攻撃を全て交わしながらイージスに接近していった。

 

 

「早い!?」

「まだお前に言ってなかった事があったな、アオト」

「くそ!! ブレイクシステム、フルバースト!!」

 イージスを赤黒いが包み込む。

 凄まじいプレッシャーを放つ機体の前身から、夥しい量のビームが放たれた。それはもう、ガンプラバトルの公開ではない。

 

 

「……っ!」

「ケー君!!」

 そんなケイスケの前に、ダブルオーストライカーを装備したユメカのデルタグラスパーがGNフィールドを使って立ち塞がる。

 トランザムまで使い、なんとか攻撃を防ぎ切ったが彼女のデルタグラスパーはもうボロボロだった。

 

 けれど、そのおかげで彼のイージスに肉薄する程接近出来る。

 ユメカは最後の力を振り絞って、再びストライカーパックを換装した。

 

 

 ダブルオーストライクBond。

 

 その機体のGNドライヴが、再び近い光を放ち出す。

 

 

「───Re:TRANSーAM」

「くっ!」

「アオト、俺はな───」

 その拳が、イージスを捉えようと光った。

 

 

「───お前に負けた時、毎回凄い悔しくて泣いてたんだよ」

 しかしその拳は届かない。

 

 

 再び放たれたビーム。

 システム等関係ない攻撃が、ケイスケのストライクBondを貫く。

 

 

 

「……そうかよ」

 機体が動かなくなり、GPDはシステムを終了した。

 

 

 アオトは振り向いて、背後で待機していたトラックに乗り込もうと歩く。

 

 

 

「ユメカ!! カルミアさんも!?」

 GPDのマシンの近くには、知らない間にユメカが倒れていた。

 

「私の事は良いから! アオト君が! カルミアさんにもそう言ったから!」

 ユメカは現実では立てない。立ってプレイをするこのゲームをどうプレイしていたのかと思ったが、カラオに抱っこされていたらしい。

 

 ユメカの視線の先には、アオトが乗ろうとしているトラックがある。そのトラックに乗っているのは、ケイスケ達は顔を知らないセイヤだった。

 けれどカラオはその顔を知っている。だから、ユメカは「私の事は良いから」とカラオにトラックを追うように言ったのだ。

 

 

 雨の日の工場の床は冷たくて、でもユメカはきっとカラオに必死な顔でそう言ったのだろう。

 そうでなければ、こんな冷たい床にカラオがユメカを置いていく訳もない。彼女の気持ちが伝わってきた。

 

 

「ごめん、ユメカ……!」

 せめてもと、ハンカチを放り投げるようにユメカに渡してからケイスケは走る。

 

 走った先で、既にアオトはトラックに乗り込んでいた。

 

 

「───おい、セイヤ!! 何が目的なんだよ。お前は何がしたいんだ!! 子供達から何もかも奪って、それでレイヤが救われるのかよ!!」

「アオト!!」

 二人の声に、誰も振り向かない。

 

 

「GBNのサーバーエラーはお前がやったのか!? イアはどうなったんだよ!! おい、セイヤ!! 聞こえてんのか!! おい!!」

「アオト……俺は!! 俺は諦めないからな!! 俺は、また皆と!! 壊れても……直せば良いって!! お前の言葉なんだぞ……アオト!!」

 トラックは動き出す。

 

 その中で、アオトは視線を工場の中に向けた。

 

 

 バラバラになったストライクBondとデルタグラスパー。

 倒れているユメカ。

 

 歯を食いしばる。

 

 

「一度叩きのめしただけじゃ、生ぬるいよな」

「……それでもお前はケイスケを見てるんだな、ユメカ」

「……()()()()()()叩き潰せ。そうして、あの男から全てを奪えば良い。それがお前の復讐だ、アオト」

「……はい、セイヤさん」

 走り去るトラックの中で、アオトはイージスのガンプラを力強く握りながらそう返事をした。

 

 

 

 古いGPDのマシンの上で、寄り添うように壊れたガンプラが倒れている。

 

 ユメカは一人。

 上半身だけでなんとか体を持ち上げようとして、そのガンプラに手を伸ばそうとした。

 

 

「……私が、私が歩けないから……ごめんね。ごめんね、皆」

 アオトの言葉を思い出す。

 

 あの日。

 事故が起きたのは、彼女が道路に飛び出したからだ。

 

 

 それはトラックの運転手でも、助手席に乗っていたカラオでも、ガンプラを投げたアオトの父でも、ガンプラの持ち主であるアオトでも、ガンプラを壊したケイスケでもない。

 あの日の事故は自分が悪い。彼女は今でもそう思っている。

 

 

 伸ばそうとした手は届かない。そんな事が悔しくて、ユメカは倒れ込みながら涙を流した。

 

 

「……ごめん、ユメカ。引き止められなかった」

「ユメカちゃんごめん!! 大丈夫か? いや、本当、ごめんよ……」

「ケー君……。カルミアさん」

 けど、手を伸ばす。

 

 その手を取ってくれた二人の手は暖かい。

 

 

「どうして此処に?」

「ケー君一人で行っちゃうって、ユメカちゃんが通話で泣きそうな声してるから。おじさんが一走りしてきたのよ。……間に合わなかったけどね」

「な、泣いてないです! 泣いてないです……!!」

「あはは……」

 だから今はこの、届く手を───

 

 

「ガンプラ、壊れちゃったね」

「……大丈夫。また、直せば良いから」

 ───もう少し伸ばせるように。



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今は前に

 カラオとケイスケはヒメカの前で土下座していた。

 

 

「……お姉ちゃんを? 雨の中連れ出して? 冷たい工場の床に? 寝かせた?」

「「ヒッ」」

 アオトとのバトルの後。

 

 ユメカを連れて、彼女の家に帰ると雨で濡れていたり汚れている彼女の姿を見て妹のヒメカは顔に青筋を浮かせながら腕を組んで土下座している二人を見下ろす。

 

 

「何の為に?」

「それは……その」

「えーと……あの」

「い、良いから! 良いからヒメカ! 私が頼んだ事だから!!」

「お姉ちゃんはお風呂。……自分で全部やって。出てくるまでこの二人は正座させておくから」

「これもしかして私も怒られてる?」

「今日は何も手伝わないから。お姉ちゃん、全部一人でやって」

「はい!!」

 ヒメカの逆鱗に触れた三人は、その日合わせて三時間程説教を受けるのだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GBNのサーバーが復活する。

 

 

 アオトとの戦いの数日後、ついにGBNにログインする事が出来るようになった。

 満を期してロックを除いた四人はGBNにログインをする。

 

 しかし、ログインした彼等が見たのはアンチレッドのメンバー達に襲われてボロボロになったフォースネストそのままの光景だった。

 

 

 

「───完全にあの後直ぐ、って感じですね」

「やっぱり、イアちゃん居ないね」

 フォースネストそのものは運営やマギーに相談して、直ぐに元通りに出来るようである。

 

 他にもGBNには色々なバグの名残が残っているようだが、全体的に見てプレイなどに支障をきたすサーバーエラーは存在しないと公式が発表していた。

 

 

 居なくなったELダイバー達を除けば。

 

 

 

「───なるほど、そんな事が」

「そうなんよぉ。もう本当、ヒメカちゃん怖くてさー」

 フォースネストは一日で元通りに修正される。しかし、そこにイアの姿はない。

 

「あはは。あんまりガンプラばかりで身体を大切にしないなら、また怒るからねって言われちゃいました」

「姉想いの本当に良い妹さんっすよね、ヒメカちゃん。また会いたくなってきましたよ」

 日付が進むも、運営やマギーの話ではイアの居所は分からないという事だった。

 

 データの海の中。

 彼女は今も存在しているのかどうかすら分からない。GBNにログイン出来たとはいえ、やれる事がない完全な詰み状態である。

 

 

「そうですね……。また……」

「ユメちゃん……」

 アレからロックとも会っていなければ、イアの手掛かりはまるでない。

 

 いつも通りガンプラを───GBNを楽しみたい。

 そんな気持ちだけが先走って、どこに手を伸ばせば良いのかも分からなかった。

 

 

「私、GBNのサーバーが治ったら全部元通りになるって思ってた……。イアちゃんはここに居て、遅いぞーって頬を膨らませて、タケシ君も帰ってきて、また皆でGBNで遊べるって……」

「……ジブンも、同じです」

 タイガーウルフやマギーと戦い、もっと強くなりたいという気持ちでGBNがまた楽しくなって。

 

 それなのに、イアが連れ去られたと思えばGBNはサーバーエラー。

 タケシは顔を見せなくなって、アオトが顔を見せたかと思えば彼は話を聞いてくれなくて。

 

 

 何もかも嫌な方向に進んでいく。

 彼女達はただ、GBNを楽しみたいだけなのに。

 

 

「───またガンプラバトルしたり、皆と話したりしたいな」

「ケー君?」

 ふと、ケイが漏らした言葉にユメ達は首を傾げた。

 

「……今、俺達に出来る事ってなんだろうって思ってさ。イアはきっと無事だ。今はサーバーが復活したばかりで、きっと迷子になってるだけだから。……いつか絶対に見付かる。だから、俺達は俺達に出来る事をしたい。GBNのサーバーが元に戻っても、それは変わらないと思うから」

 真っ直ぐに前を向いて。

 

 いつも通りの彼の顔に、ユメ達はお互いの顔を見合わせて笑い合う。

 

 

 そうこなくちゃ。

 誰かがそう言った気がした。

 

 

 

「───って、訳で。呼んでみたよ!」

「ケイ、久し振り!」

「リク!?」

 少し経って。

 

 ReBondのフォースネストに、ビルドダイバーズのリクとサラ、ユッキーとモモがやって来る。

 どうやらユメがモモに連絡を取ってくれたらしい。

 

 ユメがガンプラバトルだけでなく、イアの事も話したいと言うとリク達は心良く足を運んでくれたようだ。

 そうなればと、カルミアはアンディを呼び、ニャムはアンジェリカを呼んでフォースネストが賑やかになる。

 

 やはりGBNはこうでなければ、と誰もが思った。

 

 

「───なるほど、行方不明のELダイバー。心配だね」

 リクにイアの事を話すと、彼はサラを少し横目で見てからそう答える。

 

 彼にとってサラは特別な存在だ。それは、ELダイバーだからというだけではない。

 もしサラが連れ去られ、行方不明になれば自分も気が気でなくなるだろう。彼はそう思って目を細めた。

 

 

「他にも、行方不明になってる子が多いって」

「え!? そうなの!? サラちゃんが無事で良かったけど……他の子も心配だね」

 サラの言葉を聞いて、モモはネットの書き込みを調べ始める。行方不明になったELダイバーの数は十人。多くはないが、少ない数字でもない。

 

「手掛かりは?」

「アンチレッドってフォースの人達に連れ去られた後、この前のサーバーエラーが起きて……。サーバーが治っても、イアちゃんどこにも居なくて……」

 ユッキーの問い掛けにユメがそう答えると、カルミアが「GBNの運営も行方不明のELダイバーを見付けられてはないみたいよ」と付け加えた。

 

 

「それについて、関係あるのか分からないんですけど……。サーバーエラーが戻った後、気になる記事を見付けましたわ。今日はこれについて話したくて」

「気になる記事?」

 アンジェリカは大きなコンソールパネルを開くと、そこに一つの記事を表示させる。

 

 

 その記事にはビルドダイバーズというフォースが、GBNの公式からは公開されていないストーリーミッションというミッションに挑み、最終ステージに手こずっているから意見をくれという記載がされていた。

 

 

「ビルドダイバーズ?」

「僕達じゃないけど……?」

「ストーリーミッションってなんだろうね」

 その記事の内容にリク達は首を傾げる。確かにアンジェリカが気になっている点はそこでもあるが、一番の疑問点は他にあった。

 

「あなた達ビルドダイバーズは結構有名なフォースなので、態々名前をパクってるのは……まぁ、何か理由があるとして。……このストーリーミッションの録画時間、丁度サーバーエラーが起きる直前だったらしいんですのよ」

「あの直前か……」

「何も関係がない、とは言い切れないと思って一応。……あとこの、別のビルドダイバーズという方々が今度ストーリーミッション攻略の為のイベントバトル擬きの参加を募集してましたわ」

 ストーリーミッションの内容を見る限り、特にサーバーエラーやELダイバーの行方不明とは関係がなさそうではある。

 

 しかし、可能性がまったくゼロという訳ではないなら頭の中に入れておいた方が良い。

 

 

 それに、記事に書いてあるビルドダイバーズのメンバーの一人はケイ達も知っている───イアを初めて見つけた時に共に彼女を追ったELダイバーメイだった。何か運命的な物を感じる。

 

 

 

「サーバーエラーをやったのはセイヤ達じゃないって事なのかねぇ。そもそもアイツ、おじさんが居た時もそうだけどハッキングとかそういうのは下手だったけどねぇ。……でも、ケー君曰くブレイクデカール擬きみたいな真似までしてたんでしょ?」

「ブレイクデカール……」

 ブレイクデカールに着いてはリク達も何か思う所があるらしい。彼等が考える素振りを見せる傍ら、アンディが思い出したようにこう口を開いた。

 

「君達は僕の頭が吹っ飛んで火事になったの、覚えてるかい?」

「言い方」

「NFTの時ですわよね?」

 アンジェリカの言葉に「そう、それの話」と頷くアンディ。

 

 

 曰く、あの時のGBNログインマシンの爆発の理由が警察の調べでやっと分かったらしい。

 

「───あの爆発、システムハックだとかウイルスだとかそういう難しい物じゃない。ただの遠隔操作だったらしいんだよね」

「どういう事ですの?」

「僕の機体が爆発した瞬間に事故が起きて、一時GBNは()()()()()()()()が蔓延してるって噂が立ったけど……そんな物は無かったって話さ。簡単に言えば、僕のログインマシンはリモコンで爆発するように出来ていたって訳」

 アンディの言葉にここにいる者達は目を丸くする。

 

 

 GBNで機体が爆発するとログインマシンが爆発するという話の正体がリモコンという原始的な物だった方に驚きを隠せなかった。

 

 

「待てよ……おじさん達がやってた仕事って───」

「そう、勘がいいねぇ。カルミア君が前やってた仕事、ガンプラ系の運送会社でしょ? ログインマシンの運搬とかもしてたんじゃないの?」

「ウチの会社でリモコン爆弾付けて、それを全国に配ってたって訳? おじさんそんなの聞いてないわよ」

 頭を抱えるカルミア。

 

 セイヤはそんな事をしてまで───というよりも、そんな事ですらカルミアには教えてくれなかった程に周りを信用していなかったのだろう。

 それが少し、カルミアは辛かった。

 

 

「───だから、彼等にGBNのサーバーどころか全世界のサーバーに影響を与えるような事は出来ないと僕は見ているよ。……だからこそ、さっき話にあったブレイクデカール擬きはビックリしたけどね。……彼等の上に何かがいる、そんな可能性も考えられるけど」

 ただ、それ以上の事は分からないし憶測でしかない。

 

 

 アンチレッドの事に対してそれなりに分かってきたが、まだ分からない事の方が多いのが現状だった。

 

 

 

「ともあれ、手待ちかねぇ」

「せっかく来てくれて情報も貰ったのに、申し訳ないっす」

「いえいえ。それに俺は、ケイとバトルする為に来たんで」

 カルミアとニャムに謝られるリクは、首を横に振ってから強い眼差しをケイに向ける。

 

「ユメちゃんから、新しいガンプラを作ったって聞いたよ。俺も今ダブルオーダイバーを強化したくて、何か刺激が欲しいって思ってたから」

「リク……。よし、分かった。やろう」

 二人はそう言って腕を組んで、バトルのルールを決め始めた。

 

 

 立ち止まっていても何も進まない。今はとにかく、前に───



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再び繋ぐガンダム

 機体を見上げる。

 

 

「───これが、ケイ殿の新しいストライクBond」

 リクとのバトルを前に、ケイは新しく作ったガンプラをニャム達に見せていた。

 

 

「おー、全部盛りって感じねー。おじさんこういうの好きよ」

「思い切りましたね。私もこういう盛り盛りは好きですわよ!」

「良いねぇ、パーフェストストライクって感じだ。僕も気に入ったよ。本当なら、僕が相手をしたかった所だ」

 アンジェリカやアンディも絶賛するケイの機体。

 

 

 新しいストライクBondは、バックパックにクロスボーンガンダムのスラスター、防御装甲としてフルクロス、両肩には二つの擬似太陽炉。

 

 スラスターに接続する形でエクストリームガンダム最終形態type-レオスIIVs.(ヴァリアントサーフェイス)の高純化兵装エクリプスを装備。

 従来の両腰にあるアーマーシュナイダーとビームサーベルに加えて、両脚のホルダーにバタフライバスター、左手には多目的攻撃兵装クジャク、右手にはGNソードIII。両端には両肩とは別にGNドライヴの接続ユニットが用意されている。

 

 

 エクリプスストライク、ダブルオーストライク、クロスボーンストライクの兵装を綺麗に纏めたケイの力作だ。

 

 

「名前! 名前はなんて言うんすか?」

「うーん、考えてないな……」

「クロスボーンエクリプスダブルオーストライクフルクロスライザーVs.(ヴァリアントサーフェイス)?」

「いやそれは長過ぎっすよカルミア氏……」

 唸る三人の後ろで、ストライクBondを見上げていたユメの脳裏にはこれまでの色々な経験が映る。

 

 

 GBNという新しい世界。

 

 自分の足で立って、機体に乗って空を飛び。

 友達と楽しんで、新しい仲間と出会って、ライバル達と出会って。

 

 喧嘩もしたし、仲直りもした。新しい出会いは続いて、強くなりといと思った。

 

 

 また、皆で遊びたいと。

 

 

 壊れても、直せば良い。

 いつかアオトがケイスケに言っていた言葉を思い出す。

 

 

 

「───ストライクReBond」

 ふと、そんな言葉が漏れた。

 

 

「ストライクReBond……」

「良いっすねぇ!! それ最高っすよユメちゃん!!」

「お、良いんじゃない。再び繋ぐガンダム……か。ケー君っぽくておじさん好きよ」

 ケイは自分の機体に触れて、もう一度その機体の名前を呼ぶ。

 

 

 アオトとGPDをする以前から、機体の改修をユメと続けていた。

 名前を考えていなかったのは、本当なら皆で名前を決めたかったからである。

 

 ロックと、イアと───ReBondのメンバー皆んなで。

 

 

 けれど───

 

 

「……再び繋ぐ、ガンダムか」

 今は離れ離れでも。

 

 ロックも、イアも───アオトも。

 いつかきっと、この機体が繋いでくれる気がして。

 

 

「───よろしくな、ストライクReBond」

 ケイスケは仮登録していたストライクBondという名前を、ストライクReBondに変換した。

 

 

「そういや、ユメちゃんの機体はどうなったのよ? ケー君が換装必要ないんじゃ、デルタグラスパーの換装機構無駄になっちゃうんじゃない?」

「そこは俺も思ったから、ユメにはユメの戦いをして欲しくて今家で頑張ってます。もう少しで完成するから、楽しみにしてて下さい」

「お、面白そうじゃない。……ユメちゃんの戦い、かぁ」

 ケイのストライクBondもそうだが、ユメのデルタグラスパーはアオトとのGPDで現実に破損してしまっている。

 

 ケイのストライクBondは元々改修目的でパーツを買い足していたが、デルタグラスパーはもう一から作り直した方が早い状態だった。

 

 しかし、ユメはそのままデルタグラスパーを治したいとケイスケに言ったのである。

 壊れても直せば良い。そんな言葉を思い出して、ケイはどうせなら強化しようという提案をしたのだ。

 

 

「青春ですわねぇ」

「……君、まだ若いよね」

「そういや、なんすけど。アンジェリカちゃん、ロック氏はどんな様子なんすか? そっちでスズちゃんが預かってる? なんて聞いたんすけど」

 少し離れたところで()()()()()()()()()アンジェリカにそう聞くニャム。

 アンジェリカは少しだけ口角を吊り上げて、こう答える。

 

「お楽しみに、ですわ。彼は私の所でみっちりシゴいてますので!」

「修行……って事すかね? あのバトルだけしてれば良いバトルジャンキーのロック氏が」

「ニャムちゃん言い方……」

「誰だって自分の力が及ばなかった時、どうしようもなく力が欲しくなる時がある」

 アンジェリカの隣で、アンディは自分の事のように話を始めた。

 

 勿論それは自分の事でもあり、他人の事でもある。

 きっと本気で何かにぶつかり、力が及ばなかった者なら一度は思う事だ。

 

 

「もっと出来た筈だ、あの時こうしていたら、自分に力があったなら。……後悔して力を発する事は悪い事じゃない。その方法さえ間違わなければね」

 ケイの脳裏に、カルミアの脳裏に、アオトとセイヤの顔が過ぎる。

 

 

 

 自分にもっと力があれば。

 

 ケイスケに負けなければ、ガンプラを壊されなければ、父親を支えられていれば、ユメカを守れたかもしれない。

 レイアを庇って運営と戦う力があれば、彼女は消されずに済んだかもしれない。

 

 

 きっと、彼等も後悔しているのだ。

 

 

「───それでも、まだ直せる筈だから」

 ケイはそう言って、ストライクBondに乗り込む。

 

 

「初陣だ! 勝つぞ! ストライクReBond!!」

 そのツインアイが一瞬光り、起動音が鳴り響いた。

 

 擬似太陽炉のツインドライヴが赤い粒子を撒き散らす。

 X字のスラスターがその機構を確認するように左右に揺れ、武装を一つ一つ確認するように展開しては元に戻した。

 

 

 調子は良好。

 

 

「リクとのバトル、全敗だもんな……」

 オフ会の時、ユニコーンガンダムとエクストリームガンダムtype-レオスIIVs.(ヴァリアントサーフェイス)での戦いではサラと組み、ユメと組んだリクに敗北。

 イベント戦での一対一の戦いもあと一歩の所で敗北。

 

 相手はビルドダイバーズ。

 多勢に無勢の第二次有志連合戦で、サラを守る為にチャンピオンをも退いて大切な物を貫いたチームの大将───強敵である。

 

 

「───楽しもう」

 だけど、負ける気はない。

 

 

 

 彼にだって守りたい物があるのだから。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 アンジェリカの家。

 

 

『───ってな訳で、ケイさんの新機体ですわよ。貴方は何か言わなくて良かったんですの?』

「俺は今修行で忙しいの!!」

「……余所見をするなタケシ」

「ロックな!! お前までタケシとか呼ぶな!!」

 タケシはアンジェリカの家にいた。

 

 ここに来たのはGBNのサーバーエラーがあった次の日の事である。

 

 

 あの日───タケシは自分の狙撃技術が低い事が本当に悔しかった。

 

 自分は強い。

 だから、何でもできる。

 

 

 そう思っていたのに、大切な時、本当にやらなければいけない時に何も出来なかったのが、彼は本当に許さなくて。

 

 

 

「───頼む!! 俺を強くしてくれ!!」

 彼はノワール(サキヤ)に頼み込んでアンジェリカの家に連れてきて貰った。

 

 そしてリン(スズ)に土下座してまでそう頼み込んだのである。

 

 

「……アンジェ、こっちはこっちで忙しい。今はそっちと、()()()()()()()に集中して」

『あら……スズがそこまで真剣なんて。……ま、勿論分かってますわよ。今日はその()()()()()()()の為、彼等の新しい力に合わせる為に見学に来たのですから』

「……頼むぜ」

 タケシはリンの修行を受けながら、アンジェリカに小さくそう言葉を送った。

 

 

『本当に応援の声とかあげなくて良いんですの?』

「大丈夫だろ」

 自信満々な声で、タケシはリンに「集中」と車椅子から伸びふアームでチャップされながらこう続ける。

 

 

「アイツは本当に強いから、勝つっての」

 本気の信頼の声で。

 

 

 彼はただ、今自分がしなければいけない事をこなしていた。



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トランザムインフィニティ

 カタパルトに足を乗せる。

 

 灰色だった機体に色が付き、GNドライヴが赤い光を漏らした。

 輝くツインアイの見詰める先。

 

 空は暗く、星の光に照らされて───

 

 一つずつ着いたランプがその時を知らせる。

 

 

「───ケイ、ストライクReBond! 行きます!!」

 ───ストライクReBondの初陣だ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 フィールドは宇宙。

 リクが最初に感じ取った違和感は、星の光に混じった赤い光である。

 

 

「───赤いGN粒子。トランザムじゃない……擬似太陽炉!?」

 以前戦った時。

 

 ダブルオーストライクBondに装備されたツインドライヴは、ダブルオーガンダムが扱う純製の太陽炉だった筈だ。

 しかし、接近してくる新しいストライクが放つ光は、赤。

 

 擬似太陽炉。

 

 

「砲撃……!!」

 そんな事の理由を考えている暇もなく、リクのダブルオーダイバースカイへ放たれる砲撃。

 

 一本の青い光が、リクの機体を掠める。

 

 

「そう簡単に当たってはくれないよな!!」

 エクリプスを外したケイは不敵に笑いながら、X字のスラスターから火を出した。

 

 火力も機動力も、作った自分の想定以上である。

 それ以上に、自分の想定をさらに上回る強敵との戦い。ストライクReBondの初陣で、これ以上楽しい物があるだろうか。

 

 

「───擬似太陽炉とフルクロスに、多機能装備満載のフル装備か! 良い機体だね……!」

「これが俺の新しいストライク。……ストライクReBondだ!!」

「それでも、俺は負けない!!」

「俺は、今度こそ勝つ!!」

 お互いに両手に刃を構え、激突。

 

 GNソードIIIとクジャクは大型の武器だが、それを振り回せる程安定した出力と強度。

 それを成す為の操作技術とビルダー技術。

 

 

 純粋に。

 リクは目の前の男が怖くなった。

 

 こんなに面白いガンプラバトルをする人が、まだ知らない所にいる。

 GBNである程度名を上げた彼ですら、知らない強敵がいる事に、リクは笑みを隠せない。

 

 

「最高だ……!!」

 一旦距離を離し、射撃戦を展開するリク。

 

 交わせない攻撃をGNフィールドでやり過ごして、ケイはGNソードIIIとクジャクを射撃モードに換装。

 その両方で牽制しながら()()を狙った。

 

 

 

「───エクリプス!!」

「───アレを二本同時に撃てるのか……!!」

 放たれた二本のエクリプスを、ビームの間に入り込んで避けるリク。

 

 小型化していても、エクリプスの出力は改造前よりも遥かに高い。

 外に交わすのは困難だと察したリクは、二本の斜線にある僅かな隙間に機体を滑り込ませてビームの直撃を交わす。

 

 

「変態かよ……!!」

「こっちからも行くよ!!」

 初撃は一本だけを使い、相手を油断させてからの本命。ケイはこれで最低でも足一本は持っていくつもりだった。

 

 しかし、リクはほぼ無傷。

 大きく避けなければ交わせない筈の攻撃を最短距離で交わし、その起動には余力がある。

 

 

「詰められる……!!」

「その機体相手に離れるのは得策じゃない!!」

 エクリプスは勿論、クジャクも広範囲の射撃武装だ。GNソードIIIはともかく、ストライクReBondにはまだバタフライバスターもある。

 

 接近戦が弱い訳ではないが、遠距離戦では手数で叶わない。この数秒でそれを理解したリクは接近戦を主に置く事を選んだ。

 

 

 しかしそれこそ、ケイの望む戦場でもある。

 

 

 GNソードIIIとクジャクを剣モードに。

 圧倒的な射撃の手数を、武装換装をせずに接近戦用に切り替える事が出来る武器。

 

 クロスボーンストライカーの機動力とGNドライヴによる燃費、遠くの敵は圧倒し、近くの敵には全力で。これが、ケイのストライクReBondの戦場だ。

 

 

「対応が早い……!」

「まずは武器を壊す……!」

 しかし、接近戦はリクにとっても得意な距離である。どちらかといえば、至近距離での攻防はリクに分があるだろう。

 

 ぶつかり合うバスターソードとGNソードIII。

 相手の剣は一本。ならばとクジャクを振り下ろすケイだが、その刃をリクは足で受け止めた。

 

「足癖が悪いな!」

「どういたしまして!」

「褒めてない……!!」

 こっちは二本。しかし、リクの機体に刃が届かない。

 

 連撃は全て足や腕に阻まれ、着実に詰められていく。

 

 

 そしてケイが思わず振りかぶったクジャクの大振りをリクは見逃さなかった。

 体を捻って足でGNソードIIIを叩き割り、バランスを崩したストライクReBondの振るったクジャクを根本から切り飛ばす。

 

 これで接近武器は取ったと、リクはそう思った。

 しかし、ストライクReBondにはまだ二本のバタフライバスターがある。

 

 

「まだ武器がある!」

「流石に強いな……!」

「でも、一気に詰める!!」

 第一ラウンドはリクの勝ちだ。ダブルオーダイバースカイはほぼ無傷、ストライクReBondは武器を二つ失っている。

 

 それでも、絶対に勝てないとは思えない。思わない。

 

 

 遠距離戦ならこちらが有利だ。接近戦も十割負けている訳ではない。接近戦だけならロックやタイガーウルフの方が強敵だろう。

 

 

 リクの強さ。

 それは心の芯の太さだ。

 

 絶対に諦めない鋼の精神。ガンプラが好きだという気持ち。

 それはきっとチャンピオン───クジョウ・キョウヤにも劣らない物だろう。だからこそ、彼はサラを守り抜いた。

 

 

 なら、己に足りない物は何か。

 

 彼との戦い。その先に答えはある。

 

 

「使い慣れてるな……!」

「元々はクロスボーンガンダム乗りだからな!!」

 バタフライバスター二本に持ち替えたケイを、リクは中々捉えられないでいた。

 

 剣になる銃。

 その点ではGNソードIIIやクジャクも同じだが、このバタフライバスターはビームサーベルである。

 出力の調整による刀身の長さや熱量。その細かな変化を戦闘中にやってのけ、リクの攻撃は思った位置に届かない。

 

 GPDでは元々クロスボーンガンダムガンダムを使い、ザンバスターとビームザンバーを主力で使っていたケイにとっては、その意志を継ぐバタフライバスターこそが本気の武器ともいえる物だ。

 GNソードIIIやクジャクのように簡単には砕かせない。リクと互角の斬り合いを繰り広げ、ケイは一瞬の隙にリクのダブルオーダイバースカイを蹴り飛ばす。

 

 

「……っ、砲撃が来る!」

 揺れる視界。

 感覚だけでリクは回避行動を取った。

 

 このゲームは攻撃されればその攻撃がくる方角からアラートが鳴る。鳴り響くアラートに、リクは冷や汗を流しながら必死に機体の制御をした。

 

 

 だから、気が付かなかったのだろう。

 

 その鳴り響くアラートは、ただの投げられたアーマーシュナイダーだったという事に。

 

 

「……アーマー、シュナイダー」

 砲撃を交わす為、大袈裟に避けたその空間。

 

 一本の小さな刃がそこを通った。

 

 

「しま───」

「エクリプス……!!」

 気が付いた時にはもう遅い。

 

 中距離。

 放たれた光を交わすには短く、引き金を引けばその瞬間敵を葬れる距離である。

 

 

 ストライクReBondの両腰から伸びる砲身から放たれた光が、ダブルオーダイバースカイを包み込んだ───

 

 

 

「───流石に、落とせないか。……いや、ここからが本番だな」

 ───かのように見えた。

 

 

「───トランザムインフィニティ……!!」

 砲撃の光よりも早く、赤い光を纏うダブルオーダイバースカイが宇宙を駆け抜ける。

 

 TRANSーAM。

 

 

 平均三分。

 それが、このシステムに課せられた限界時間だ。

 

 

 シャフリヤール達トップビルダーの手に掛かれば、その時間は多少伸びる。

 しかし、それでもそれが五分や十分になったりはしない。

 

 限界時間。

 それはつまり、そのトランザム中に試合を終わらせるという意志そのもの。

 

 

「使ったな……!!」

「本気のバトルをしよう、ケイ!!」

 楽しい時間はあっという間だと、ケイは不敵に笑った。

 

 ここからが、本番である。



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ReTRANSーAM

 自分より強い相手に勝つ為には、自分が相手より有利な状態を作る事が前提である。

 

 

 サイトウ・ケイスケという少年はその事を子供の頃から分かっていた。

 

 

 

 小学生の頃。

 GPD以外にもガンダムの対戦ゲームは沢山ある。

 

 その中の一つで、対戦中に覚醒というシステムを使えるゲームがあった。

 覚醒中はゲームで使う機体の機動力や火力が強化される。そのシステムを使っている時だけは、相手より遥かに有利な状態を作る事が出来るシステムだ。

 

 

 ケイスケは出来るだけその覚醒というシステムを相手より多く使い、相手より長く使う、そして相手には無駄にさせる。

 そうして自分が有利な状態を作る事が得意だった。

 

 

 

 今思えば───

 

 ユメのデルタグラスパーお披露目の時、ロックに先にTRANSーAMを使わせるという作戦は彼の手癖だったのかもしれない。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 トランザムインフィニティ。

 

 

「一気に行くよ!!」

 リクの想いを体現した、ダブルオーダイバースカイ専用のトランザムである。

 

 

「ここで真正面から付き合う程、俺は猪じゃないからな……!」

 スラスターを全力で吹かせ、距離を取るケイ。

 

 しかし、トランザムの機動力を超えることは出来ない。すぐに追い付かれ、高速の斬撃がケイのストライクReBondを襲った。

 

 

「───TRANSーAM!!」

 刹那。

 ストライクReBondを赤い光が包み込み、機体は最高の機動力と出力を得る。

 

 二人の刃が高速でぶつかり合った。

 

 

「ケイとのバトルは面白いよ!!」

「それは光栄だな……!!」

 前回も、前々回も、ケイはリクに敗北している。

 

 最たる理由はともかく、その敗因の一つに接近戦の熟練度があった。

 

 

 リクはバスターソードだけではなく、ビームサーベルや脚まで使った多彩な攻めを見せてくる。

 ケイもそういう事が出来ない訳ではないし、小細工は彼の十八番だ。

 

 しかし違う。

 

 

 リクのそれは、小細工抜き。正真正銘真剣勝負の柔軟な戦闘技術。

 

 

 ケイの小細工がダメという訳ではない。

 

 

 しかし単純に───

 

 

 

「───強い」

 ───リクのソレが、ケイのソレを上回っていた。

 

 

 彼に小細工は通用しない。

 

 少し離れてエクリプスを撃つ振りをし、バタフライバスターをライフルモードで乱射するも射撃前に看破され回避される。

 

 隠し球のビームサーベルも、バタフライバスターを一つ犠牲にして煙幕の中からの斬撃も。

 読みではなく、動体視力で対応されていた。全て見てからの反応。不意打ちや小細工が通用しない。

 

 

「スポーツとかやってる?」

「サッカーを少し!」

「なるほど」

 足蹴り。

 

 ソレそのものの威力にプラスして、ダブルオーダイバースカイの足には蹴りを強化する装甲が付属している。

 納得の威力にケイは舌を巻いた。

 

 

 楽しいな。

 

 

 けれど、小細工はまだある。

 

 

 

「トランザムの時間もない……一気に決めるよ!!」

「それはこっちもだ!!」

 リクのダブルオーダイバースカイのトランザムはストライクReBondのソレよりも遥かに出力が高い。

 

 それもその筈だ。

 ケイのストライクReBondの太陽炉はそもそもが擬似太陽炉。純正のそれには持久力も出力も劣る。

 

 

 そしてツインドライヴ。

 

 ケイの太陽炉は今、一つしか稼働していない。

 

 

 この()()()は一発勝負。

 

 

 使用していない太陽炉による、もう一度のトランザム。勝負を決めるのは、そこだ。

 

 

 

「今!!」

「……耐えろ!!」

 右足を斬り飛ばされて。

 

「ここで!!」

「……耐えろ!!」

 左肩を潰されて。

 

 

「一気に!!」

「耐えろ!!!」

 リクのバスターソードがストライクReBondの頭を貫き、機体がよろめく。

 

 トランザム終了間際。

 

 

「───決める!!」

 リクのバスターソードを、粒子の光が包み込んだ。

 

 

 必殺の一撃。

 

 

 GBNというゲームが、ダイバーとガンプラの気持ちを一つに集約した文字通りの必殺技。

 

 

 

「「俺の勝ちだ……!!」」

 二人の声が響く。

 

 振り下ろされる光の剣(ハイパースカイザンバー)

 

 

 刃はケイのストライクReBondを捉えるも、GNフィールドに阻まれた。

 

 しかし、その大出力の刃を受け流す事は出来ない。何よりリクのダブルオーダイバーがそうであるように、ケイのストライクReBondもトランザム時間が限界である。

 

 

 トランザム中のGNフィールドでなんとか持ち堪えているこの現象。

 

 

 ケイは最大出力のGNフィールドを展開するのがやっとで、これ以上余力がない筈だ。

 

 

 だから、先に限界が来るのはケイで、この必殺技は通る。

 

 

 ───リクの中では、そう信じられていた。

 

 

 

「耐えられるかな!!」

「耐えられる。このストライクReBondなら!!」

 押し込む。

 

 オーバーロードは目に見えて明らかだった。

 

 

 ここから動ける道理がない。ここから立て直す事は出来ない。

 

 

 だから(それでも)───

 

 

 

「───ここだ。……答えろ、俺の声に答えろ!! ストライクReBond!!」

「まだ……耐える!? 違う……これは───」

 とっくの昔のトランザムは終了している。

 

 リクのダブルオーダイバースカイも、今は必殺技の余力をぶつけているだけの状態だ。

 しかし、殆どの力を使いきった相手を倒すにはその余力でも充分である。

 

 

 ───相手が疲弊しきっているのなら。

 

 

「───ReTRANSーAM」

 再び。

 ストライクReBondを赤い光が包み込んだ。

 

 

 

「二度目の……トランザム!?」

 ケイの最後の小細工。ツインドライヴに見せ掛けた、単一接続のトランザムによる、もう一つの太陽炉を温存するトランザム。

 

 出力は高い訳ではない。しかし、通常約三分のトランザム限界時間を倍に───自分が有利な状況を倍に。

 

 

「───耐えた!!」

 リクの必殺技を全て受け止め、ケイのストライクReBondは半壊した頭部のツインアイを光らせる。

 

 同時に。

 右肘部の接続ユニットに太陽炉を接続。

 

 

 トランザムの機動力で、ストライクが宇宙を駆けた。

 

 

 

「凄い……凄いよケイ! だけど、それでも、機体はボロボロの筈だ!」

 リクは構える。

 

 確かにダブルオーダイバースカイのトランザムは終了しているが、そもそもストライクReBondが負ったダメージは無視できるものではない。

 

 トランザム中でも限界性能を出しているとは言えず、大したダメージを負っていないダブルオーダイバースカイとほぼ大破しているトランザム中のストライクReBond。

 まだまともにやり合える性能差だ。リクは焦らない。まだ負けるつもりはない。

 

 残り三分。

 ここを耐えれば、彼の勝ちなのだから。

 

 

 しかし、ケイにはまだ隠し球がある。それも最大の、今日ここで決める為に、この瞬間の為に残しておいた必殺の一撃が。

 

 

 

「肘に太陽炉……何をするのか、見せてもらうよ! ケイ!!」

「行くぞ!! リク!!」

 振りかぶった。

 

 右肘に太陽炉が青く光る。その光が拳を包み込み───

 

 

「パンチ……!?」

 リクは咄嗟にバスターソードを盾に構えた。

 

 その刃に、ケイが拳を叩き付ける。

 

 

「───ReBondナックル……!!」

 打ち付ける拳。

 

 その拳は想いを貫き、再び繋ぐ為の力。

 

 

 これが、ケイの───ストライクReBondの、必殺技だ。

 

 

 

「……凄い」

「うぉぉおおおお!!!」

 その拳は───

 

 

「……俺の、負けだ」

 ───リクのダブルオーダイバースカイを貫き、勝利をその手に掴む。

 

 

 

 

 三度目の正直。

 

 Win ケイ ストライクReBond

 

 二度の敗北を経て、ケイが掴み取ったのは新しい力と、勝利だった。

 

 

 

 

「───負けちゃったね」

「でも、二人共───二人のガンプラも凄く……楽しそうだった!」

 ガンプラの声が聞こえる少女はそう語る。

 

 

 彼女には聞こえていた。

 ストライクReBondが、新しい力を喜んでいるのが。

 ダブルオーダイバースカイが、新しい力を欲しがっているのが。

 

 

「良い刺激になったんじゃない?」

「彼のストライク、凄かったね! リッ君!」

「うん。……俺も、もっと強くなれるかな」

 フォースReBondのメンバー達に褒め称えられるケイを遠目に見ながら、リクは明日に視線を向けた。

 

 次戦う時は、もっと───

 

 

 

 

 ストライクReBondの初陣は華々しい勝利を飾る。

 

 きっとこの機体なら、次こそはアオトに届かせて見せる───ケイは拳を明日に向けて、そう誓った。



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裏世界

 真っ暗で何もない場所だった。

 

 

「───あれ?」

 ふと目を覚ますと、イアの前には暗雲が広がっている。

 

 ここは何処だ。

 何故自分がここに居るのかすら分からずに、彼女は辺りを見渡そうとする。

 

 

 ───しかし、そうする事は出来なかった。

 

 身体が動かない。否、身体というものを感じない。

 自分というものが曖昧になる。そこには意識だけがあって、それ以外には何もなかった。

 

 

 何も見えていない、何も感じない。

 

 

 

 データの海。

 

 サーバーエラーで止まったGBNの世界で、彼女は何もない筈の世界に一点の光を見付ける。

 

 

「君は……?」

「───を、───あげて」

 見た事があるような、聞いたことがあるような、感じた事があるような。

 

 何かは、彼女にこう言葉を残した。

 

 

「───セイヤを、止めてあげて」

「───君は!」

 消える。

 

 そこには、何も残っていなかった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 何もない空間。

 

 

 その場所をあえて何処かだと表現するのなら、GBNのデータの外の世界というべきか。

 あるいはゲームのマップ外というと想像出来る場所かもしれない。

 

 通常進入する事の出来ない場所。

 ゲームのデータとして用意されたマップの外。

 

 

 その場所は、そういう場所である。

 

 

 

「───ここは何処だ!」

 イアはそこに居た。

 

「そして君は誰だ!」

「俺はアオト。お前は?」

 そして、彼女の前に現れたアオトはそう言ってイアに名前を聞く。

 

「え? えーと、イアと申します。よろしくお願いします?」

 突然名前を聞かれ、反射的にそう答えるイア。

 

 

 何が何だか分からない。

 

 ReBondがスズと共にマギー達強敵と戦った後、反省会をしていたところまでは記憶があった。

 しかし、気が付いたら彼女はこの場所にいて何が何だか分からないでいる。

 

 

 そしてやっと現れた話す事の出来る相手は、表情を変えないでこう口を開いた。

 

「本当に人間じゃないのか?」

「何言ってるか分からんけど、ボクはELダイバーって言われてるらしいよ?」

 目を細めてそう答えるイア。

 その姿は何処からどうみても人間のそれである。

 GBNはアバターとしてログインする為に、人外の姿のアバターでもいられる場所だ。

 そういう意味で、データとして形のないソレが人の姿をしているだけの物。アオトという少年はELダイバーをそういうものだと思っていたのだろう。

 

 

 だから───

 

 

「……怖いとか、あるのか?」

 ───彼は、彼女のあまりにも自然な仕草に内心驚いていた。

 

 ただ、それは表に出さずに。

 

 

 アオトはイアの表情豊かな顔を見ながらそう問い掛ける。

 もっとNPCのような機械的な、受動的な存在だと思っていたからだろうか。興味が湧いてしまったという言い方が正しい。

 

 

「そもそもボクは今自分の状態が良くわかってない」

「……それは、そうか。お前は俺達に連れ去られて、今ここで拘束されてるんだ」

「なんでそんな事を!? ボク何か悪い事した!?」

「悪い事……」

 大袈裟に目を丸くするイアを見て、アオトは固まってしまった。

 

 

 悪い事。

 彼女は何もしていない。彼女を含め、ELダイバー達は何も悪くない。

 

 アンチレッドに所属する者の中には、もしかすればELダイバーに恨みを持つ者も居るかもしれないだろう。

 セイヤはNFT以降、理由は違えどGBNへと復讐するという同じ目的を持つ者達を少しずつ仲間にしてその規模を増やしていっていた。

 

 全ては復讐を果たす為。

 

 

 しかし、少なくともアオトはELダイバーに恨みはない。

 

 彼はただ、自分から全てを奪った一人の幼馴染が許せないだけで───

 

 

 

「お前は、何も悪くないよ」

「お前じゃない。ボクはイアだって言ったろ、アオト」

「……馴れ馴れしいな」

「君は話に聞いてたより無愛想だ」

「聞いていた……?」

 ふとイアの口から漏れた言葉に、アオトは目を見開く。

 

 何故彼女が自分の事を知っているのか、理解出来ない。

 

 

「ケイやユメとか、タケシから沢山思い出聞かされたぞ? 良く笑う奴だとか、皆を驚かせるのが得意で、ガンプラも! 一番面白い作り方をするってな!」

「ケイスケ……達が」

 拳に力が入った。

 

「───イア、か」

「何?」

「……なんでもない。イア、俺達はGBNのサーバーを暴走させて破壊する。その為にELダイバーをこのエリア外───GBNの裏世界に連れてきたんだ」

「なんでボク達を?」

 イアには見えないが、この場所には他のELダイバー達も軟禁されているらしい。

 

 

「……ELダイバーという膨大なデータでGBNのサーバーを圧迫して、この世界を壊す。その為にELダイバーをログアウトさせないでこの世界に留めておく必要があるんだ。セイヤさんがそう言ってた」

 全てはアンチレッド───セイヤの目的の為に。

 

「セイヤ……あの人の事か」

 アオトはその具体的な方法までは知らないが、彼女達の持つ膨大なデータは一つのゲームサーバーに留めておくにはあまりにも重い物だという。

 

 事実───ELダイバーサラを巡る第二次有志連合戦が勃発した通り、その存在はこの世界の存亡に関わるものだった。

 

 

 逆に、その膨大なデータ量を逆手に取り───セイヤはこのゲームのエリア外への進入や、アオトのブレイクシステムの開発を成し遂げたのである。

 

 

 

「───つまり、簡単に言うとボクが爆発してGBNが吹っ飛ぶって事だな!?」

「なんでそうなる。……いや、そうなるのか」

「アオトはなんでこの話をボクにしたんだ?」

 ただ、気になった。

 

 ELダイバーという存在が。

 電子の海で生まれた生命。セイヤはNPCと変わらないと言っていたが、実際に話してみるとどこか違うように感じる。

 

 

「……怖いか?」

 その神秘の存在に、手を伸ばした。

 

 

「そりゃ、ボクが居なくなるのは怖い。でも、分からないな。ボクには、死ぬとか生きるとか。……ボクはもっと、怖いものがある」

「怖いもの?」

「ケイ達と会えなくなる事。……皆と居るのは、楽しいから」

「楽しい……」

 忘れていた感情を思い出す。

 

「……違う」

「アオト?」

「俺は、復讐をするんだ。ケイスケに、ガンプラにな……」

 何かの間違いだ。

 

 

「お、おい! アオト! アオトってば! もっと話そうよ! ここ暇なんだけど!?」

 イアに背中を向けて、アオトはその場を去る。

 

 それはタダのデータだ。

 自分を唯一導いてくれたセイヤさんがそう言うのだから間違いはない。

 

 

 

「───おいアオト、何をしていた」

「……セイヤさん。いや、ちょっと……ELダイバーってなんなんだろうと思って」

 セイヤに呼び止められる。

 

 裏世界に作られたフォースネスト。

 そこが、今のアンチレッドの拠点になっていた。

 

 

「話してきたのか」

「は、はい」

「アレはデータだ。レイアもそうだったように。だから、GBNに消された」

 セイヤはアオトの目を見ないでそう言うと「そうだっただろう?」と小さな声を漏らす。

 

 

 そうであってほしかった。

 

 アオトにはそう聞こえる。

 

 

「……はい」

 そんな事はない。

 

 彼女は生きていた。他のELダイバーも同じ筈である。

 

 きっと、彼が語るレイアだってそうだった筈だ。それなのに、GBNがその命を奪った事が許せない。

 なればこそ彼は───セイヤはGBNにされた事への復讐として、同じ事を繰り返そうとしている。まるで仕返しをする子供のように。

 

 

 

 ───それで良い筈だ。

 

 復讐とはそういう事なのだから。

 

 

 かつて自らから何もかも奪ったケイスケの、何もかもを奪う。

 

 

 

「……そう、それが俺の復讐だから」

 何もかもに背を向けて、彼はそう言葉を落とした。

 

 

 ガンプラも、GBNも、関係ない。ただ、彼は一人の幼馴染が憎いだけで。

 

 

 

 そう、関係ない、筈───



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第十四章──始まる復讐【セイヤの想い】
繋がる世界


 宇宙を覆い尽くす無数の機体。

 

 

 

「カザミ、抜けられるか?」

「おっしゃ任せろ!! 弾は俺が受け止めるから進めぇ!!」

「───うぉぉおおお!! また抜けられたっす!! どんどん成長して来てるっすね、もうジブン達は蚊帳の外って感じですか!?」

「───ぬぬぬぬ、許せませんわ。次はこう、もう少し広がって足止めをしますわよ!!」

「……それでさっき各個撃破されたのを忘れたのか」

 ニャムのターンX、アンジェリカのゴールドフレームオルニアスオルニアス、ノワールの迅雷ブリッツを抜けて去る四機の機体。

 

 

 ロータス・チャレンジver.エルドラ。

 リク達とは違う()()()()()()()()という名のフォースが、大敵への挑戦の演習として様々なフォースや個人の協力のもとで行われているイベント戦だ。

 

 そのビルドダイバーズそのものは特に有名なフォースでもなかったらしいが、マギーの呼びかけにより集まったメンバーの中にはチャンピオンやリク達ビルドダイバーズの姿もあるという。

 

 

 そしてニャム達はそんなチャレンジミッションに個人として参加していた。

 

 

 

「───しかし、こんな大それたチャレンジミッションを()()にしてしまうとは……。件のメイさん達ビルドダイバーズがクリアしようとしているミッションって、そんなに凄い物なんですかね」

「なんでもまだ誰もプレイ出来ない、GBNの公式が発表してもいないミッションらしいですわよ。動画は件のビルドダイバーズが配信してたりしてるんですけど、エネミーも見たことない機体ばかりでしたわ」

 チャレンジ内容はチャンピオン含む参加者達を退け、フォースロータスが誇る超巨大フォースネストラビアン・クラブを撃破するという物である。

 

 既に三十回以上失敗しているこのミッションだが、立て続けに再チャレンジするビルドダイバーズの面々からは本番を確実にクリアしたいという意志が伝わってくるようだった。

 

 

「ま、ジブン達の修行にもなりますしね! 何より内容が内容で面白いので、今は楽しみましょう!」

「そうですわね!!」

 ビルドダイバーズはその後ミッションをクリア。()()へと脚を進めることになる。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ストライクReBondの初陣───リクとのバトルから数日。

 

 

「───イアの居場所が分かった!?」

 ロータスチャレンジ当日。

 ミッションが終わった後、参加していたマギーにニャムが聞いた話をケイスケは家でガンプラを触りながら聞いていた。

 

 

『はい。まだGBN公式はまだこの事を発表する気がないって話なので、マギー氏から()()()()()()()って事で聞いたんですけども』

 ニャムは小声でこう続ける。

 

 

『───曰く、GBNの裏世界っていうんですかね。ゲームエリア外マップにバグを使って侵入、そこに潜伏しているかもしれないとの見解が上がったようです』

「それ本当ですか!?」

『あれ? ユメちゃんもそこに居たんすね』

 ケイスケとチャットしていた筈がユメカの声が聞こえてきた、ニャムは一瞬目を丸くした。

 

 二人の時間を邪魔していいのか、と一瞬邪推な気持ちが混ざったが今はそうこう言っていられる場合ではない。

 

 

『マギー氏情報っすからね。確かだと思います。……ただ、あの方も言ってらっしゃいましたが、その名の通り裏世界なのでバグを使わないと立ち寄れない場所です。つまり、ジブン達にはどうする事も出来ない訳で』

「そんな……」

「でも、イアはまだちゃんと生きてるって事なんですよね」

 ふと、ケイスケが漏らしたそんな言葉にユメカは口を開いたまま固まってしまう。

 

 

「マギーさんは、それを俺達に伝えてくれたって事か」

『そうか……そうっすね! 失念してました。不安に思うあまり、そもそも大切な事を忘れてたっす!! そうか!! そうだったんすね!! イアちゃん、まだちゃんとこの世界に居てくれた!!』

 そもそも。

 もう彼女はGBNに存在しないかもしれない。

 

 セイヤが奪われたレイアのように、もう二度と会えないかもしれない。

 心のどこかでそう思っていたケイスケ達にとって、その情報は確かに嬉しいものだった。

 

 

「どうにか出来ないのかな?」

「俺達にどうにか出来る問題じゃないのかもしれない……。バグで裏世界、かぁ。ゲームの裏世界っていうと色々入り方があるんだろうけど」

 エリア外とはそもそも壁で仕切られたデータのない場所という事である。

 

 

 ゲームの世界は何もない0の場所に1を積み立てて構成されている物だ。

 その1で出来た壁の向こうには無限の0が広がっていて、その場所はきっと宇宙よりも広くどこまでも繋がっているのだろう。

 

 もし裏世界に行く方法があったとしても、イアの元に辿り着ける保証がない。それよりも、バグを誘発させてセイヤの思惑通りにGBNのサーバーが破壊される可能性の方が高い筈だ。

 

 

「それじゃ……やっぱり私達には何も出来ないの?」

「今はこうやって、ガンプラを作ったりするしかないと思う。いや、そうしないといけない」

「ケー君?」

『二人はガンプラ作ってたんすね。ユメちゃんの?』

「はい。……多分さ、このままイア達を軟禁するだけじゃGBNのサーバーを破壊するとか出来ないと思うんだ」

 ガンプラを触りながらケイスケはこう続ける。

 

 

「……あの人達はいつかGBNの世界で何かをする。その時、俺達に出来る事を増やしておいた方が良いと思うんだ」

「うん。私もそう思う!」

『なるほどっす。ジブンも、今は自分のガンプラをどうするか考えてます。こうしてロータスチャレンジに参加したのもジブンにとって良い経験になりましたしね』

『ロックさんも、スズが毎日扱いていて良い感じですわよ。彼の新しいガンプラももう少しで出来上がりますし! なんと新しいガンプラは───』

『おい、その事は黙ってろって言われなかったか?』

 ふと、ニャムの隣にいたアンジェリカが話した言葉にノワールがそう蓋をした。

 

「タケシ君も頑張ってるんだね」

「新しいガンプラか」

『な、な、な、な、な、なんの話か分かりませんわ!? あ、私忙しいのでこれで失礼しますね!! それでわ──ー!!』

 あまりにも苦し紛れの態度でその場を去るアンジェリカ。

 

 ノワールも去り際に「ロックの事は任せろ」とだけ漏らして、ログアウトする。

 

 

 

 今は出来る事を。

 ストライクReBondが完成して、ケイは手応えを感じていた。

 

「タケシ君の新しい機体、楽しみだね」

「そうだな。何使うんだろう」

『あはは、多分驚かしたいと思ってるでしょうし。ちゃんと驚いてあげないとダメですよ?』

 後はニャムの初めてのミキシング機体を完成させて、ユメの新しい機体を作り上げて、タケシは今スズ達の元で特訓中である。

 いつ、その時が来ても良いように───

 

 

 

 

「───遥か彼方の惑星とGBNが繋がって? GBNにヒトツメとかいう異世界人が攻めてくる? 漫画の読み過ぎだろ。おっさんの事バカにしてんの? ()()()()()()

 ───そしてカルミアは、GBNのゲームマスターカツラギと話をしていた。

 

「───裏世界、という話は聞いていると思う」

「エリア外マップにセイヤ達がELダイバーを軟禁してるって話でしょ? さっきチャンピオン様から聞いたけども」

 ロータスチャレンジの後。

 

 カルミアの元を訪れていたキョウヤは、彼にカツラギからの極秘情報があるという話を聞いて個々に来ている。

 

 

 その話が宇宙人が来る、なんて話だとはカルミアはとてもじゃないが思っていなかった。

 しかし、バカにされている雰囲気ではない。

 

 

「いや……ゲームのエリア外、つまり宇宙の遥か彼方って事か?」

「そうだ。……セイヤと、そのヒトツメという組織が何らかの接触を果たしている可能性があるとすると───セイヤの目的は縛られる」

「そのヒトツメとかいう連中にGBNを襲わせるって事か」

「分からない。しかし、縛られた件に関しては対策をとれる。君も、何か分かる事があれば我々に協力して欲しい」

 カツラギはそう言ってカルミアに手を伸ばす。その手を無言で取ってから、彼はこう返事をした。

 

 

「───アイツが他人任せに復讐を果たそうとするとは思えない。他に、何かやってくる筈だ」

 GBNへの復讐。

 

 形はどうあれ、セイヤは自分の手でその復讐を果たす筈である。これは彼にとって、そうでなければならない物だという事だけはカルミアも知っていた。




新章突入です。


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アオトとイア

 裏世界。

 

 

「何をしてる、アオト」

「───あ、いや。なんでもないです」

 ELダイバーを拘束している牢屋の前に立っていたアオトにセイヤが声を掛ける。

 アオトは声のトーンを変えないで、セイヤにお辞儀だけをしてその場から去った。

 

 

「……アオト、お前も分かってくれるんだろうな。そうだ、ELダイバーは人間じゃない。……けど、生きてるんだよ」

 それを奪われる悲しみを。

 

 どれだけ強く拳を握っても、この世界で自分が傷付く事はない。その心だけが、ひび割れるだけである。

 

 

 この世界は偽物だ。

 

 セイヤはそう自分に言い聞かせるように、一度目を閉じる。

 

 

 あの時の苦しみを思い出せ───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 アオトはこの数日、イアと話す事を日課にしていた。

 

 

「───だから、イージスはストライクと違ってその先登場しない」

「なるほどなるほど。んー、ボクもやっぱりそのガンダムSEEDってお話が見たいな」

 他愛もない興味である。

 

 ELダイバーという存在が何なのか。話してみればみるほど、セイヤの言っていたNPCのような存在とはかけ離れて感じた。

 まるで本物の命がそこにあるかのように、彼女は自分の話に興味を持って問い掛けてくれる。

 

 

「アオトはイージスが好きなのか?」

「……あ、いや」

「ん、別にって感じか!」

「……まぁ」

 ここ数日の会話。

 その中で、ケイスケ達の話題が出るとアオトの機嫌が悪くなる事をイアは学んだ。

 

 別に彼を上手く丸め込んで脱出しようとは思っていない。

 ただ、彼に悲しい顔をしてほしくないというのが彼女の純粋な本音である。

 

 

 何故なら彼女はガンプラへの想いの結晶であるELダイバーなのだから。

 

 

「アオトは本当はガンプラが好きなんだな」

「そんな事は……」

「別にボクに正直にならなくていい。でも、アオトのガンプラはアオトの気持ちをちゃんと分かってる。可哀想だから、自分のガンプラの事は大切にしてやるんだぞ」

「大切に、か……。そうかもな」

 他愛もない話だった。

 

 

 ガンダムのアニメの話や、宇宙の話、地球の話。

 アオトはイアが何に興味を持って、どんな反応をするのかが気になったのである。ELダイバーという存在が何なのか。

 

 そして、今それは彼の中で確信に変わった。

 彼女達は本物の命である。0と1だけのデータではない。彼女はそこにしっかりと存在する命だ。

 

 

「───アオト、お喋りは終わりだ」

 ───だから、彼はセイヤの前に立ち塞がる。

 

「何をしてるんですか、セイヤさん。GBNで銃なんて向けても、何も起きませんよ」

 イアと話すアオトの背後で、セイヤは白兵戦用の小型銃をアオトに向けていた。

 

 

 アオトがイアと話をしている事をセイヤは知っている。アオトは上手く隠れていたつもりだったが、この裏世界を実質的にコントロールしているセイヤには全てがお見通しだった。

 

 お見通しの上で、彼はアオトの行動を止めなかったのである。彼がELダイバーに肩入れするその時を待つ為に。

 

 

「そうだな。この世界は偽物のデータだ。───だが、ソイツは違う」

 セイヤはイアに銃口を向けた。

 

「セイヤさん!」

 何かをする暇もなく───放たれた弾丸がイアの足を貫く。

 

 

「───っ、ゔぁ……っい、いだ……ぃぃ」

「イア!!」

 蹲るイアに駆け寄る事も出来ない。彼女は牢屋の中だ。

 

「何をするんですか! ELダイバーを使ってこのGBNを壊すんでしょ? イアは俺達にとって必要な筈です!」

「そうだ。だが、別にソイツだけがELダイバーという訳でもない。ELダイバーは他にも沢山いる。別にソレが無くなったところで、俺の計画に支障はない」

「そんな……」

「───だが」

 セイヤはアオトの頭に手を乗せる。

 

 まるで優しい兄貴分のように、その手でゆっくりとアオトの頭を撫でた。

 

 

「辛いだろ。痛そうにしている。……そうだ、ELダイバーは生きているんだ。アオト、分かってくれるか? 俺はな、そんなデータの筈の、一人の女の子が好きになった。けれど、GBNは、その女の子を殺した!!」

「セイヤさん……」

「だから復讐する。アオト、お前なら分かってくれるだろ?」

「……はい」

「アオ……ト、違う。そんなのは違う!」

「黙れ!!」

 否定の言葉を漏らすイアに、セイヤは銃を乱射する。HPが0にならない程度に、何度も、何度も。

 

 声にもならない絶叫が何もない空間に響いた。

 

 

 それでも、イアはセイヤを真っ直ぐに見て口を開く。

 

 

「誰かに、言われた……。セイヤを……止めてって。きっと、その子なんだ……ボクは……キミを止めないといけない。きっと、その子はこんな事望んで───」

「黙れと言っているだろ!!」

 銃声が鳴り響いた。

 

「イア!! 辞めてくれセイヤさん、イアが死んでしまう!!」

 ログアウト出来ない、ゲームのシステムに組み込まれたままのELダイバーにとってこの世界での死は本当の死である。

 だから痛みもあって、苦しんで───だからセイヤの大切だった人は死んだ。

 

 

「ボクは……キミを」

「イア! 黙るんだ。良いから、黙っててくれ……!」

 セイヤの前に立って両手を広げる。

 

 こんな事をしても意味はない。アオトは撃たれても死なないし、自分がリスポーンしている間にイアが殺されるかもしれない。

 

 

 殺されるならなんだ。

 

 別にそれがどうした。

 

 

 一瞬の自問自答。

 しかし、その答えは直ぐに出て来る。

 

 

 

「セイヤさんの気持ち、分かります。俺も彼女に死んで欲しくない。……だから、その銃を下ろしてください」

「……アオト?」

 彼女とはここ数日話しただけだ。

 

 ガンダムの事、ガンプラの事、自分が好きな物の事。

 ケイスケ達と別れてからアオトにとって自分が好きな事を話す相手なんて居なくて、イアはやっと出来た───友達なのである。

 

 

「……分かった。いや、良いんだ。悪かった。お前の友達を撃って悪かったな、アオト」

 言いながら、セイヤは銃を降ろした。

 

「大丈夫だ、ゲームの世界だからな。傷は直ぐに回復する。でも、痛かったし怖かった筈だ。……アオト、お前はイアと話をしてやってくれ」

「セイヤさん……」

「……そして忘れるな。大切な物を失う恐怖を。失った、GBNに奪われた俺の気持ちを───アオト、お前は分かってくれるよな?」

 そう言って、セイヤはその場を去る。

 

 

 アオトは座り込んで少しだけ考えた。

 

 

 

 ケイスケへの復讐。

 それが出来れば良い。それ以外に自分に必要な物はない。

 

 それじゃ、その復讐を叶えた後はどうする。

 

 

 自分には何も残らない。友達も、好きな女の子も居ない。

 

 

 

 ───いや、一人だけ居た。

 

 自分の話を親身になって、楽しそうに聞いてくれる、やっと出来たたった一人の友達。

 自分にとって一番大切な存在。そういう存在をセイヤはGBNに奪われたのだろう。

 

 

「……俺、分かったよセイヤさん。俺は、ケイスケに復讐出来ればそれで良いと思っていた。けど違う。セイヤさんはこんなに苦しい想いをしていたんだ」

「あ、アオト?」

「イア。お前の事は俺が守る。……そして、俺は俺とセイヤさんの復讐を必ず成し遂げるよ」

 イアはその言葉を否定出来なかった。

 

 

 アオトの辛い気持ちを知っているから。

 

 けど、そう───アオトの辛い気持ちを知っている。

 だから、何も言えない。アオトが苦しんでいる事を知っているから、何も言えない。

 

 

 ケイスケ達の気持ちも、アオトの気持ちも、ガンプラを通してイアには分かってしまうから。何も言えない。言えなかった。

 

 

 

「……ボクは、何も出来ない」

 ガンプラの気持ちが分かる。

 

 それは凄い事だとユメは言ってくれた。

 

 

 でもそれだけで、何かができる訳ではない。

 ケイスケ達とアオトの蟠りに何か助言出来るわけでも、セイヤの事を止める事も、自分一人の力では何も出来ないと思い知る。

 

 

「大丈夫だ、イア。お前は俺の……やっと出来た大切な友達なんだ。そして、セイヤさんにとっての俺のイアを殺したGBNを俺は許さない。……イア、お前は俺が守るから」

「アオト……。違うんだ、ボクは……」

「大丈夫だ。……大丈夫だぞ、イア」

 自分には、ただ目の前の少年の傷を治す事なく上辺で取り繕ってあげる事が精一杯だ。

 

 

 誰も救えない。

 

 ケイみたいに一生懸命になりたかった。ユメのように優しくなりたかった。ロックのように楽しくなりたかった。ニャムのように周りが良く見えている人になりたかった。カルミアのように他人に気を使える人になりたかった。

 

 

 ReBondの皆と暮らして、生まれたばかりのイアは暖かい場所を与えられて、いつか皆と同じ世界で、同じように笑えたらと思ったのである。

 

 

 でも、現実は難しい。

 

 

 アオトはどうしてもケイスケの事が許せなくて、でもケイスケ達はどうしてもアオトに戻ってきて欲しくて。

 セイヤはGBNの事が許せない。アオトやカルミアもそう思ったように、セイヤの気持ちを理解出来ない訳じゃない。

 

 だけど、この世界がなくなるのは嫌だ。

 自分が消えたくないとかじゃなくて、皆と出会えたこの世界がなくなるのは嫌なんだ。

 

 

「ボクはどうしたら良い……」

 分からない。

 

 

 

「───さて、始まるのかアルス。別に俺はお前が勝とうが負けようがどうでも良い。だが、利用出来るなら利用するまでだ」

 ───どうしたら良いのか、分からない。



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デストロイ計画

 裏世界。

 

 

 GBNの空はどこまでも広がっている。

 

 バトルステージとなりえる範囲でいえば、火星を超えて小惑星帯(アステロイドベルト)から木製圏まで。

 行こうと思えば水星圏まで向かい太陽をより間近に感じる事も出来るのがこの世界だ。

 

 しかし、その世界はゲームの世界である。1の先には無限の0が連なっている───筈だった。

 

 

「───ゲームの裏側、三十光年先の世界。現実と同じように作られたそこに、データにはない未知の生命。面白いか? そうだな、俺がGBNを憎んでなければ面白いのかもしれないな」

 そこには月のような衛星を改造してある衛星砲がある。

 

 三十光年先の世界。

 ゲームと現実の狭間のような場所。

 

 

 その場所でセイヤが出会ったのは、GBNのデータにはない未知の生命だった。

 

 

 

「アルス、か。お前の目的はこの世界を守り通す事だ。お前の主人が帰ってくるまで、あの異世界から来た生き物に侵略されたこの世界を取り返す事だ。……力を貸してやる。()()()()と戦うにはな、()()()()の力が必要なんだよ」

 そこで出会った生命と、彼は契約を果たす。

 

 

 そして、GBNと三十光年先の世界が繋がるのだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 GBN。

 

 

 ヒロト達ビルドダイバーズがロータスチャレンジをクリアし、()()に臨んだ直後の事。

 

 彼等のミッションは()()()()と呼ばれる敵が扱う衛星砲の破壊である。

 

 

 ミッションは無事に果たされるがしかし───ヒトツメの親玉はGBN全土に刺客を送りつけ、GBNへの攻撃を開始しようとしたいた。

 

 

 

 ───それが、GBNがダイバー全員に緊急通達した()()()()()()()()()()()の内容である。

 

 

 

 

「───コレ、どう思うよ」

 ミッションの最中、カルミアは目を細めてニャムにそう問い掛けた。

 

「どうって? そういうイベントなんじゃないですか?」

 緊急イベントミッション。

 

 GBNではかつてない規模のイベントで、全ダイバーが全フィールドで参加出来る特別なミッションである。

 前述通りGBNでここまでの大規模なイベントが開催された事はない。それも、突然の事だ。

 

 

「きな臭いでしょ。……セイヤ達がどうとかは流石に思わないけどもさ」

「それは確かにそうっすけどねぇ。運営から情報が提示されてないなら、なんとも言えませんよ」

 ニャムは完成し掛かっている新機体を駆りながら、周りの敵を殲滅していく。

 

 GBNからダイバー達に送られたメッセージには特別な事は書いてなかった。

 ただ、緊急の割にヤケに豪華な報酬。特別捻られていない簡単な内容。

 

 カルミアがきな臭いと言う理由も分からなくはない。

 

 

「───ただ、マギー氏が言っていた裏世界とやらがコイツらヒトツメと関係があるとすれば兄さんが何かしら関わってそうではありますけどね」

「この混乱に乗じて何かする気だとしたら、おじさん達はまんまと嵌められてるって事だけども」

「でも多分ですけど、ここは真剣にならないといけない所ですよ」

 空を見上げる。

 

 空間を割いたかのような場所から現れた敵の戦艦。

 明らかにGBNの通常イベントからは考えられない演出だ。それ以前に、あの空間が割れるようなエフェクトはこれまで遭遇したバグで何度も確認している。

 

 

「それもそうかねぇ」

 メガランチャーを構えるカルミアのレッドウルフ。放たれた砲撃はヒトツメを数機撃破するが、その圧倒的な数が減っているように見えない。

 

 

「しかし、どうなる事やら……」

 それどころか敵の数が増えている気すらして、カルミアは目を細めるのであった。

 

 

 

 

 ───その後。

 

 イベント戦はGBN有志連合の勝利で幕を閉じる。

 GBN運営から特別な説明はなかったが、ダイバー達の活躍によりヒトツメは撃退。彼等の侵攻を妨げたヒロト達()()()のビルドダイバーズはロータスチャレンジからの流れで一躍有名フォースの仲間入りを果たした。

 

 

 カルミアが懸念していたセイヤ達の動きもなく、GBNには全世界のサーバーエラー以前の平和が取り戻されつつある。

 

 

 数名のELダイバーが未だ行方不明な点だけを除いて。

 

 

 

 

「───負けたか、アルス。まぁ、GBNの全てを敵に回せばそうなるだろうな」

 裏世界。

 

 事の顛末を見届けたセイヤは目を細めて興味なさげにそんな言葉を落とした。

 

 

 

 第一次有志連合戦。

 

 ブレイクデカールを巡る戦いは、リクとサラの活躍もあったが優秀な有志連合の物量差での敗退をセイヤも経験している。

 

 

 第二次有志連合戦。

 

 数で圧倒的に勝る有志連合に立ち向かったビルドダイバーズと数名は、あのチャンピオンすら下してサラという一人の少女を守った。

 

 

 

「いつだって勝つのは数の暴力でもない、気持ちが強い物でもない。……実力と運、そして気持ちが戦いを左右する。俺はその全てを備えて勝つ」

 言いながら、セイヤは捕らえたELダイバー達の前に立つ。

 

 そこにはイアとアオトの姿もあった。

 

 

「俺は強い。この時まで準備を怠らなかった。……そして運も良い。アルスが開けたこの世界の時空の歪みは、運営も意図していない物だ。この時空の歪みを広げることが出来れば、GBNのサーバーは一瞬で逝かれる」

 そう語るセイヤの背後には───レグナント、ディビニダド、エクストリームガンダムディストピアフェイズが三機ずつ並んでいる。

 

 そして、囚われたELダイバーはイアを含めて十人だった。

 

 

 

 

「そして俺は思いも強い。……この戦いに負ける要素はない」

 言いながら、セイヤはコンソールパネルを開いて九機の機体を動かした。

 

「何故私たちがこんな事を!」

「そうだ。君の野望に付き合う理由はない!」

 檻に閉じ込められたまま機体に取り込まれるELダイバー達。

 セイヤは彼女達の言葉に耳を貸す事なく、話を続ける。

 

 

「サーバーに負荷をかけるELダイバーをコアに機体を動かし、ヒトツメ侵攻で生じたサーバーエラーを広げ、一点に集約させる。そしてそのコアになるのがお前だ、イア」

「ボクに何をさせる気なの」

「お前の機体には戦闘データを全て記録する装置を付けた。あの九機をGBN各地に放ち、行われた戦闘データが一箇所に集まるようにな」

 その膨大なデータをイアが目にすることにより、GBNのサーバーに存在しているイアそのもののデータが膨れ上がる事になれば───

 

 

「そうしてデータが破裂し、GBNは終わりを迎える」

 セイヤの背後に現れるもう一つの機体。

 

 デストロイガンダムに、セイヤはイアを連れて歩いた。

 

 

 

「ボクが爆発してGBNを壊すくらいなら、ボクは今ここで自殺してそんな作戦止めてやる」

「そんな事が出来るとでも?」

「出来る!」

 イアはセイヤが口を動かした一瞬の隙に、彼が以前イアを撃った銃を奪い取る。

 

 そしてそれを自分の頭に向け、彼女は引き金を引こうと───

 

 

 

「やめろイア!!」

 ───引き金を引こうとした彼女の手を、アオトが止めた。

 

 

 

「……あ、アオト。離して! ボクはこの世界が好きなんだ。ボクがこの世界を壊しちゃうなら、ボクだけが壊れた方がマシだ!」

「そんな事はない。GBNなんかの為に、お前が消える事はないだろ。セイヤさんの大切な人もそうだけど、GBNは本来ここにいるELダイバー達だって消そうとしてたんだ。第二次有志連合戦、アレはGBNへの反乱の一歩だったんだよ。イア、セイヤさんは君達ELダイバーを守りたいんだ!!」

 イアから銃を取り上げ、アオトは必死な声でそう語る。

 

 

 確かにGBNはサラを殺そうとしていた。

 

 けれど、今はELダイバーの保護が進んでいる。

 

 

 それでも、失った命は戻らない。

 

 

「───力を貸してくれ、()()()

 セイヤはそう言って、イアをデストロイガンダムのコックピットに放り込んだ。

 

 機体はオートパイロットで、イア達ELダイバーの意志に背いて動くようになっている。

 

 

「ちょ! 勝手に! セイヤ!! この!! アオト、その人を止めて!! ボクはGBNを壊したくない。ボクにとってはこの世界が、本当の世界なんだら、大切な世界なんだよ! ねぇ、アオト!!」

「……俺は、ケイスケが許せないんだよ。そして、こうして復讐の手助けをしてくれるセイヤさんの助けになりたいんだ。……イア、俺は少し分かったんだよ。セイヤさんの気持ちがさ。……イアがGBNに消されるって思うと、心が苦しいんだ。そんな事をしたGBNを、俺も許せないんだよ」

 言いながら、アオトはイアの機体に背中を向けた。

 

 

 その瞳は真っ直ぐに、彼等の目的だけを見ている。

 

 

 

「アオト、お前はデストロイの護衛部隊を指揮しろ。……復讐を果たすぞ」

「はい、セイヤさん」

 少し歩くと、セイヤの前には数百人のダイバーが立ち並んでいた。

 

 この裏世界に集まったフォースアンチレッドのメンバー達。

 

 

 

「堅苦しい挨拶をするつもりはない。ただお前達は復讐を果たす為に動けば良い。……デストロイ計画を、今この瞬間から発動させる。全員!! 持ち場に付け!!」

 ガンダムに、ガンプラに、GBNに、個人に、恨みを持つ物達の復讐劇。

 

 

 

 セイヤの物語が幕を上げる。



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終焉の引き金

 この時を待っていた。

 

 

「レイア、今……俺は復讐を果たす。この世界を滅ぼしてな」

 六年間以上。

 

 セイヤの大切な物が奪われて、それだけの月日が経つ。

 当時サービスが開始されたばかりのGBNも、今はガンプラ───ガンダムのコンテンツとして大きく世に知れ渡る事になった。

 

 

 その中で、セイヤは失敗を重ねる。

 

 ブレイクデカールというシステムを作った男に詰め寄り、その思惑に乗った。

 NFTでダイバー達にトラウマを埋め込み、GBNから人を遠ざけようとした。

 

 彼に力はなかったのだろう。

 GBNという巨大なコンテンツへの復讐をする為には、彼は非力だった。

 

 

 しかし、皮肉にもGBNそのものが彼に力を与える事になる。

 

 

「───ELダイバー、か」

 GBNでガンプラをスキャンした時の余剰データの集合体。電子生命ELダイバー。

 

 彼等の持つデータ量は一つのゲームのサーバーには負荷が大き過ぎる代物だった。

 サーバーに負荷が掛かり、データにバグが生じる。

 

 

 運が良く、セイヤが辿り着いたその先で。

 

 彼はGBNの外から来た存在に力を借りる事が出来た。

 ヒトツメ───アルスと呼ばれたその者は、ガンプラの民───GBNのダイバーを殲滅する事が目的である。

 

 

 目的の一致。

 

 それにより手に入れたのは、ゲームのデータを裏から破壊する技術。

 

 

 

「───デストロイ計画。始動」

 GBN全土に雷鳴が轟いた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 土曜日の朝。

 

 

「ヒメカー。ねぇ、ヒメカー。……あれ?」

 朝起きて、妹の名前を呼ぶユメカ。

 

 いつもならすっ飛んでくる妹が、返事もない事にユメカは首を傾げる。

 頼りにし過ぎてついに呆れられてしまったのかもしれない。ヒメカに限ってそれはないと分かりつつも、ユメカは若干の不安を覚えながらベッドの上を転がった。

 

 

「……やっぱり、一人で座るのは大変だなぁ」

 GBNと違って現実では自分で座る事も難しい。

 

 起き上がった彼女は携帯端末を取って、何か連絡が来てないか確かめる。

 

 

「……ヒメカ?」

 一件。

 寝ている間に入っていたメッセージを見て、ユメカは目を丸くした。

 

 

『お姉ちゃん、私はGBNを楽しんでるお姉ちゃんが好き。だけど、GBNはお姉ちゃんの足をもっと悪くしちゃうんだって聞いたから。もうGBNをするのはやめて欲しい』

 

 

「……なんで?」

 ヒメカの言っている事が分からない訳ではない。現にユメカはGBNをプレイしている時の感覚が残っていて現実で転んでしまう事が良くある。

 ただ、ヒメカはこんな事を突然メッセージだけで言う妹ではない。そんな事はユメカが一番分かっていた。

 

 

「ヒメカ……」

 電話をする。

 半分はその電話に出てくれない気がしていたが、その電話が繋がってユメカは一旦安堵した。

 

 

「ヒメカ、メッセージの事───」

『お姉ちゃん。私が、お姉ちゃんを守るから。このお医者さんが、お姉ちゃんをGBNから守るって言ってたの。だから、私がGBNを壊してくるね』

「───ぇ、何言って……るの? ヒメカ」

 いつも通りのヒメカの声。

 

 しかし、電話の向こうで、聞き覚えのある声が漏れてくる。

 

 

『それじゃ、ヒメカちゃん。俺達と共にGBNを破壊しよう』

 何処かで聞いた声。

 

 直ぐにその声の主が頭の中に浮かんだ。

 

 

「セイヤさん!? セイヤさんなの? ヒメカと一緒にいるの? なんで? ねぇ、ヒメカ、待って───」

 電話が切れる。

 

 直ぐに掛け直しても、その電話にヒメカが出る事はなかった。

 

 

 

「───さぁ、お姉ちゃんを守る為だ」

「お姉ちゃん、さっき先生の名前呼んでた。やっぱり、()()()()()はお姉ちゃんの知り合いなんだね」

「……あぁ、俺はユメカちゃんの足を良く出来る先生なんだ。その為には、まずGBNを破壊しないといけないんだよ」

 そう語る男───セイヤは、ヒメカにGBNのログインマシンを渡す。

 

 病院でユメカの容態が悪くなっているかもしれないと聞かされたヒメカに、悪いのはGBNなんだと言い聞かせるのは簡単だった。

 

 しっかりしているようで彼女はまだ中学生なのである。

 そんな幼気な少女の背後で不敵に笑う男の顔を、ヒメカは見る事もなくGBNにログインした。

 

 

 

「───ヒメカが、えの、あの、えっと! セイヤさんに、なんか! どうかして! えっと!!」

『落ち着けユメカ。とりあえず落ち着け』

『セイヤにヒメカちゃんが連れ去られたって事か? 携帯のGPSとかで場所は探せるかもしれないけど……。いや、セイヤの事だから電話した後適当なところに携帯捨ててるかもな』

『なんで兄さんがそんな事をしたんですか? そもそも、ユメカちゃんに電話する理由も分からないっすよ』

 ヒメカに電話が繋がらなくなった後、ユメカはReBondのグループチャットに慌てて三人を集める。

 

 ユメカもナオコが言う通り、セイヤがヒメカを攫った理由がさっぱり分からなかった。

 

 

『少しでも戦力が欲しかったって変な話じゃないだろうな。……セイヤはGBNを楽しんでる奴全員に復讐したいってなら、ユメカちゃんも例外じゃない』

『つまり?』

『ユメカちゃんの大切なヒメカちゃんが、セイヤの計画に加担したって事実が欲しいんだろうよ。話を聞くに、電話に出たのはユメカちゃんの口からアイツの名前を出す事でヒメカちゃんを信用させるって手口な訳』

「そんな……。ひ、ヒメカは大丈夫なの?」

 ユメカの震えた声に、カラオは少し考える。

 

 気休めを言う事も出来るが、今はそれが得策という訳ではない。

 

 

『……セイヤが小さな子供に手を出すような人間じゃない事だけは願いたいが。そもそもアイツの目的はGBNへの復讐だ。ヒメカちゃんが怪我をしたり酷い目にあったりなんて事はない筈』

 そう言い切って、カラオは「ただ」と付け加えながらこう話を続けた。

 

『───ただ、ヒメカちゃんは何も知らない。ユメカちゃんの為にセイヤがGBNへの復讐を果たす手伝いをする事になる。もしこの世界からGBNを本当に無くしてしまったとして、ヒメカちゃんはユメカちゃんから大切な物を奪ったって現実を叩き付けられる事になる。きっと、優しいあの子は傷付くだろうな』

「そんな事させない!!」

 強い意志で声を上げるユメカ。

 

 

 しかし、現に事は動き出している。

 

 

『ヒメカちゃんまで使おうとしてるって事は、セイヤが動き出したって事だ。……もうGBNで何かしてるかもしれ───』

『本当に何かしてるっすよ!! 皆さん、これ見てください!!』

 カラオの言葉を遮って、グループチャットにスクリーンショットを貼り付けるナオコ。

 

 そこには、GBNの至る所で暴れ回るMAの姿が映し出されていた。

 

 

 

 ディビニダト、エクストリームガンダム、レグナント。

 三種のMAがGBN上の至る所で暴れている。

 

 スレッドには先日のヒトツメ襲来イベントの続きか、等様々な憶測が語られていた。

 その中には、フォースネストのデータが消し飛んだという報告もある。

 

 

『先日のヒトツメの時は、結局兄さんが動いてるような感じはありませんでしたけど』

『GBNの至る所でバグが起きてるって。……これは一体なんだ? 何が起きてるんだ?』

『何かしてる、ってのが正しいか。良く分からんけど、このMAがバグの発生源なのは間違い無いだろうな』

「待って、メッセージが来てる」

 話している間に、ユメカ達の携帯端末にGBN運営からのメッセージが入ってきた。四人は一斉にそのメッセージを開く。

 

 その内容は───緊急イベントミッションGBNに現れたMAを撃破せよ───という内容はだった。

 

 

 

『どう思うよ』

『どう考えても臭いっすよ』

「あれ? またメッセージ。……マギーさんから?」

 運営からのメッセージの直ぐ後に、フォースのグループチャットにメッセージが届く。

 

 その送り主はマギーだった。

 

 

 

 挨拶は抜きで単刀直入に話すわ

 

 アンチレッドが動き出した。彼等は九つのMAにELダイバーを組み込んで、戦闘データを収集してる

 ELダイバーを介してその戦闘データをGBNのサーバーに送り付け、サーバーをパンクさせるのが彼等の目的を簡単に説明したものよ

 

 

 あなた達にも協力して欲しい。きっと、イアちゃんも何処かにいる筈

 

 

 

「ケー君!」

『分かってる。ユメカのガンプラも用意出来たしな』

『むしろ、この時を! この瞬間を待っていたんだって感じっすよね! ジブンも抜かりないっすよ!!』

『……やっと出てきたと思ったら尻尾どころか中身までぶちまけてるじゃないの。……今度こそ止めてやらないとね』

 四人は言いながらGBNへのログインの準備をする。

 

 

 事情を知っている者も、知らない者も。

 

 運営や名だたるダイバー達の呼び掛けに数多のダイバー達がGBNにログインし始めた。

 

 

 

「───そうだ、集まれ。そしてお前達がトリガーを引くんだ。このGBNの終焉のな」

 そう言いながら、セイヤは操縦桿を握る。

 

 この世界を終わらせる為に。



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震え立つ巨神

 カツラギに呼び出されたキョウヤは唖然としていた。

 

 

「───これが、一人の力で作られたシステムだというのか?」

「GBN全土に配置された九つのMA。連れ去られたELダイバーをコアにして動くそれは、戦闘データを収集してサーバーに負荷をかけ続ける代物らしい」

 動き出したアンチレッド───セイヤがGBNに放った九つのMA。

 それら全てにコアとして配置されているのは拉致されたELダイバー達であり、バグによりログアウトを封じられたELダイバーはGBNのサーバーにそのデータを蓄積していく。

 

「どうしてもログアウト出来ない」

「先日のヒトツメの件、もしかすればELダイバーの正体は……という話を覚えているか? キョウヤ」

「ELダイバーの種になった可能性のある、外惑星の電子生命体。ヒトツメのボス、アルスの主の話か」

「もし本当に───いや、これは事実として三十光年先の星とGBNが繋がった。そのデータの壁を隔てる事になれば、ログインもログアウトもない……ただそこにある世界が広がっているという事になる」

 GBNと繋がった現実の世界。

 

 

 そこにあるものは現実にもGBNにも存在する事になり、ログアウト以前にそもそもこの世界に存在している事になる。だから、ログアウト出来ない。

 

 

「イア君はまさか……」

「その話は後だ。まずは、彼等の計画を止める算段を立てなければならない」

「純粋にMAを撃破すると、コアになっているELダイバーはどうなる?」

「解析の結果、どうやらMAがELダイバーと裏世界……そしてGBNのサーバーを繋いでいる形になっているようだ。MAさえ破壊すれば、ELダイバーは解放される」

「イア君は?」

「彼女は九つのMAの中には居ないようだ」

 カツラギの言葉に、キョウヤは訝しんだ。

 

 彼女がログアウト出来なかったのは、現実と繋がったGBNで二つの世界と同化していたからだろう。

 どちらの世界にも既に存在している彼女が、ログアウト出来るという合理はない。

 

 

 そんな不確かな存在である彼女は、GBNのサーバーに大きな負荷をかけている状態だ。

 以前起きたバグのように、彼女はGBNのサーバーにとって大きな負荷になっている。

 

 そんな彼女を、GBNの崩壊を目論むアンチレッドが使わない訳がない。現に彼女は攫われているのだ。

 

 

「何か、まだ手を残しているのかもしれない。……カツラギさん、とりあえず私はMAの撃破に向かう。全体の指揮を頼みたい」

「勿論だ。……しかし気を付けろキョウヤ」

「何を?」

 不思議な事を言われ、キョウヤは珍しく目を丸くする。

 

 GBNチャンピオン。最強の男クジョウ・キョウヤが気を付けろと言われたのだ。

 何を言われるのかと、キョウヤは目を細くする。

 

 

「MA一機にタイガーウルフが敗れた。……アレは只者ではない」

「そんなバカな……」

 その忠告は、キョウヤにとっても信じられないものだった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ネコミミの付いたターンXが出撃する。

 

 

「ニャム・ギンガニャム!! ニャーンX!! 行くっすよ!!」

 ネコミミがかなり特徴的だが、細部まで作り込まれたニャムのオリジナルガンプラがReBondのフォースネストから出撃する。

 

 並んでカルミアのレッドウルフ、ケイのストライクReBond、そして───

 

 

 

「ユメ、デルタストライカー! 行きます!!」

 ───デルタカイをミキシングしたユメの新しいガンプラが追従した。

 

 特徴的なロングレンジファンファネル一対を筆頭に、ビームマグナム等火力重視の装備を持つ彼女の新しい機体にはストライカーパックの接続システムはない。

 

 

 ユメが自分の力を最大限に発揮出来るように。

 そんな想いで作られたこのガンプラには、しかしそれでもケイと()()()()()()()()システムが組み込まれているらしい。

 

 

「さて、現状はどうなってるのよ」

 そんなデルタストライカーはカルミアのレッドウルフを乗せても飛行出来る程の出力がある。

 三人はログインして早々に、GBNでの戦況を調べ始めた。

 

「大気圏中にはディビニダドが二機、レグナントとエクストリームガンダムが一機ずつですね。残りは全て宇宙なので、システム的にはマスドライバーを使わないといけないかもしれないっす」

「テレポート出来ないの? GBNなのに」

「運営からのメッセージだと特殊移動禁止のスペシャルミッションって事になってるっすね。しかも出撃位置はフォースネスト限定。多分大人の事情というか、兄さん達が意図的に起こしたバグでエリア間の接続が切れているからだと思いますけど」

「と、なると近くのマスドライバーを目指すのが先決かね。マギーさんらの話だとイアだけはまだ見つかってないんだろ? おじさん達に出来るのはMAの攻略だが、多分地上より宇宙の方がおじさん達は自由にやれるし」

 ユメの新武装ロングレンジふぃんふぁんねるもそうだが、カルミアの機体も宇宙戦の方が力を発揮しやすい。

 

 それともう一つ。

 カルミアが目指そうとするマスドライバー基地の近くには、件のディビニダドが構えていて他のダイバーの宇宙進出を防いでいるような形になっていた。

 

 

「───ここのMAを叩いて宇宙に上がる。そういう段取りで行くっすよ」

「そうしましょうや。二人もそれで良いか?」

「はい。……ユメ? どうかしたのか?」

 カルミアの言葉に返事をしたケイは、黙って着いてくるだけのユメが気になってそう問い掛ける。

 

「やっぱりヒメカちゃんの事が心配か?」

「───ぇ、あ、うん。それは勿論、そうだけど。多分ヒメカは、自分が危ないと思ったらちゃんと出来る子だから実はあんまり心配してないんだよね。きっと、セイヤさんは本気でGBNが私に悪いと思ってて、ヒメカもそう思っちゃってるから協力してるだけで、セイヤさんがヒメカに酷い事をするとは思えないから」

「ユメ……」

 セイヤは悪い事をしようとしている、という事はユメも承知の上だ。

 

 けれど、イアを連れ去られた時の彼の言葉を思い出す。

 

 

 ──強さだけじゃ、守れないんだよ──

 

 彼は誰かを守ろうとする事が出来る人だ。

 だから、本気なのだろう。

 

 

「……私はセイヤさんの事、信じてる。だって、カルミアさんの友達で、ニャムさんのお兄さんなんだよ? 本当に悪い人じゃない。だから、ヒメカは大丈夫。もしヒメカが今GBNに居るなら、私が説得する」

「流石ユメちゃんですね。でも、何か悩んでいたようですが?」

「タケシ君、結局合流出来なかったなって」

 ユメの言葉に三人は少し黙り込んだ。

 

 あの日から、結局彼は一言もReBondのメンバーに声を掛けていない。

 アンジェリカ達が心配するなとは言っていたが、それでも───

 

 

「───いや、タケシは来るよ。アイツは遅刻はしても、約束は絶対に守る奴だから」

「……だよね。そうだよね!」

「だから俺達は、タケシが到着した時にアイツにばっか良い想いさせないように頑張ろう」

「うん!」

 今は信じて進む。自分達が為すべきと思った事を為すために。

 

 

 

「見えてくるっすよ!」

「アレは……ディビニダド。いや、大きい」

「1/144じゃないでしょアレ!! 1/100よ!! セイヤの野郎そんな所でズルしやがって!!」

 ReBondのフォースから一番近いマスドライバーへと接近すると、一機のMAが視界に入る。

 

 漫画機動戦士クロスボーンガンダムに登場する木星帝国が誇るMAディビニダド。

 その異様な姿と、スケール違いにより本来よりも巨大な機体も相まってディビニダドが周囲を攻撃する光景は恐ろしいものだった。

 

 

「───ほんじゃ、やりますか」

「皆さんにジブンの新しい力を見せるっすよ!」

「私も! 頑張るね!」

「……よし、やろう! 皆!」

 セイヤを止める為の戦いが始まる。



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もう一つのビルドダイバーズ

 地表が焼ける。

 

 

 エクストリームガンダムディストピアフェイズから放たれたエネルギーの砲弾が、タイガーウルフのジーエンアルトロンを襲った。

 

 その数も、質量も、圧倒的な力にタイガーウルフは前に進めなくなる。

 

 

「───くそ!! 近付けねぇ!!」

「哀れ、と言いたいですが。私も同じ様では強く言えませんね」

 その背後に立つシャフリヤールのセラヴィーガンダムシェヘラザード。

 

 二人のトップファイターがお互いに満身創痍だが、驚くのはそれだけではない。

 

 

「これで二回目のリスポーンですが、何か策は見付かりましたか?」

「分からん。こんなの、ロータスチャレンジも霞む高難易度ミッションに設定されててもおかしくないレベルだぞ。リスポーン無限だけが救いだ」

 タイガーウルフとシャフリヤールが二度も撃墜されているのだ。

 

 しかしコレは実際のミッションではない。

 機体が撃破されればリスポーン出来るが、サーバーへの負荷で転移が不可能になっており全てのダイバーがどこで破壊されてもリスポーンするのは自らのフォースネスト──フォース未所属の場合はセンターターミナル──となっている。

 

 

 上位ダイバー達は今回の件についてイベントではなく、排除しなければならない外的なバグによる物だという事を知っているが他のダイバーは違った。

 それにより、勝てる見込みがなくても敵MAに突進するダイバーも少なくない。イベント感覚というなら当然だろう。撃破されてもなんのペナルティもないのだから。

 

 

「しかし、コレは不味いんじゃないか?」

「運営の説明によれば、おおかたの目標は戦闘記録データを膨大化させてサーバーへの負荷を高める事。無駄死にの連鎖は戦闘データの膨大化を助力してしまっている可能性もある」

「速攻で破壊するのが手っ取り早いが、さて」

 とはいえ、二人も闇雲に突っ込んで勝てる相手ではない。

 

 エクストリームガンダムディストピアフェイズ本体の機動力と防御力、そして火力は絶大である。

 さらに、エクストリームガンダムの周囲にはフォースアンチレッドのメンバーが多数護衛に付いていた。その中にはヒトツメ───NPDといった戦力も混ざっているようである。

 

 

「───まったく、待たせたわね。応援に来たわよ!」

「マギー!?」

「私も居る。……全く、GBNはどうしてこう、不届き者が多いな」

 そんな二人の所に、マギーとロンメルが合流した。

 

「おいおい、こんな集まっちまって良いのか? 地上には他に三機もMAが出てるんだぞ」

「問題ないわよ。GBNには、優秀なダイバー達が沢山居るんだから。……だからほら、私達もやるわよ」

「私が指揮を取る。全機構え」

 マギーとロンメルの声に、その場に居たダイバー達もより活気を見せる。

 

 

 そう、マギーの言う通り。

 

 このGBNには優秀なダイバー達が揃っているのだ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 数多の羽が大地を抉る。

 

 

「───フェザーファンネル来るぞ!」

「分かってらぁ!!」

 ディビニダドのフェザーファンネルを巨大な盾で防ぐ、イージスガンダムの改造機。

 

 巨大な羽型のファンネルをなんとか耐えたその機体の背後から、三機のMSが反撃の砲撃を放った。

 

 

「やったか!!」

「それはフラグですよカザミさん!!」

 爆煙の中を見詰めて期待の篭った声を漏らす男───カザミに、竜の姿に変形するSDガンダム使いのパルヴィーズがそうツッコミを入れる。

 

 ウォドムを操るELダイバーのメイ、そしてこの三人───()()()()()()()()のリーダー、様々な兵装に換装するコアガンダムを操るヒロトは、油断せずにディビニダドを見詰めた。

 

 

「カザミ!!」

「こなくそ!!」

 メイが叫ぶと、カザミの機体───イージスナイトが盾を構える。

 

 その盾を抉るフェザーファンネル。

 メイは砲撃を放ち、そのフェザーファンネルをなんとか打ち消した。

 

 

「撤退する! この距離じゃ囲まれる!」

 ヒロトがそう言うと、三人は無言で頷いて機体を下げる。

 

 ディビニダドの周囲にも、取り巻きのMSが多数構えていた。

 これらの厄介な所は、撃破しても三分で主であるMA付近でリスポーンする所だろう。

 

 撃破しても撃破しても、まずディビニダドに近付かない。

 そうして近付いても、先程のようにフェザーファンネルが脅威になりヒロト達ビルドダイバーズは防戦一方だった。

 

 

 ニャム達が参加したロータスチャレンジをクリアしたヒロト達だが、ロータスチャレンジやミッションであったヒトツメとの戦いでは撃破目標そのものが攻撃してくる事はない。

 その点を踏まえれば、このMA撃破(ミッション)はロータスチャレンジ以上の難易度と言えるだろう。

 

 

 

「───ねぇ、あの機体! メイちゃんじゃない? ほら、メイちゃん!」

「ん? この声……。あの時の」

 そんなビルドダイバーズのメイを見付けたユメは、通信を送ってモニターの前で手を振った。

 

 メイはそんなユメの顔を見て、幽霊ELダイバー(イア)の捜索ミッションの時に顔見知りになった少女だと認識する。

 彼女にとってはその程度の認識だが、ユメにとってはGBNで出会った仲間は皆大切な友達なのだ。

 

「戦況は?」

 そんな彼女を他所に、ケイは今は居ないリーダーの代理としてこの戦場で戦っていたフォースのリーダーに声をかける。

 

「好ましくない。……もしかして、事情を知っている?」

「俺達の仲間にもELダイバーが居たんだ。それで、大抵のことは聞いてる」

 メイはELダイバーだ。

 マギー伝えで、このビルドダイバーズにも事情は伝えられているのだろう。

 

 

「なら話が早い。あの機体のコアにされているELダイバーは私の姉とも呼べる。……今すぐにでも助けたい」

「勿論っすよ。ジブン達はその為に来たんすからね!」

「とはいえおじさん達に出来る範疇にあんの? アレ。ヤバくない? ちゃんと倒せるシステムなの?」

 遠くで戦う他のフォースを見ながら、カルミアは目を細めた。

 

 なんとかディビニダドに接近出来ても、火力が足りずに撃破する事も出来ずフェザーファンネルの対応が出来ずに撃破されてしまっている。

 

 

 フェザーファンネルはオールレンジ攻撃の中でも非常に強力な武装で、迎撃するのも難しい。

 さらに1/100スケールのディビニダドはその装甲の硬さも普通のガンプラとは桁違いだ。

 

 

「……手は、ある。ある程度近付いたあと時間と隙さえあれば、俺達の必殺技で」

「あのロータスチャレンジの時の奴っすね! 確かにアレなら、あのディビニダドでも落とせそうっす!」

 ロータスチャレンジで彼等がラビアンクラブを撃破した時の技を思い出すニャム。

 

 その砲撃は、GBN中でも最大級の火力と言っても間違いはないとニャムは語る。

 

 

 ならば、信用する価値は高い。

 

 

「分かった。ディビニダドに到着するまでと、必殺技を打つ時の援護。それでなんとかなりそうか?」

「あぁ。任せてくれ」

 モニター越しにケイとヒロトは拳をぶつけた。

 

 そうと決まれば作戦を決行するだけだが、ディビニダドに近付くには無数の取り巻きをなんとかしなければならない。

 ケイ達だけで、ヒロト達が必殺技を放つ隙を作るのは難しいように見える。

 

 

「……ここでTRANSーAMを一度使うか」

 ディビニダドを倒せば、マスドライバーで宇宙に行く事が出来る筈だ。

 

 MAの数は宇宙の方が多い。

 リスポーンするとフォースネストに戻される関係上ここから先、残せる物は残しておきたい所だが───

 

 

「私、皆に声を掛けてくる! 私達だけじゃなくて、皆で協力すれば簡単な筈だよ!」

「ユメ? そ、そうか……」

 聞き返す前に、ユメは機体を動かして周りで闘いっているダイバーに通信で呼び掛ける。

 

「皆! あのMAの攻略法が分かったから協力して欲しいの! お願い!」

 無謀な挑戦に、半分諦めていたダイバー達は彼女の言葉に仲間達で顔を見合わせた。

 

 

 彼女の呼び掛けに───勝てる、と頷いて。

 

 

 

「……凄いな、彼女」

「うん。本当に。……よし、それじゃ作戦開始だ。頼んだ、えーと───」

「ヒロトだ。あなたは?」

「ケイ」

「分かった。ケイ、援護を頼む」

「任せろ」

 ヒロト達の前に、無数のダイバー達が集結する。

 

 

 MAディビニダド。

 その攻略が始まった。



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リライジングガンダム

 GBN地球上に設置されているマスドライバー基地は少なくない。

 

 

 その中でセイヤは、強力なフォースのフォースネストが近くにあるマスドライバー基地に絞ってMAを配置した。

 それにより何が起こるか。

 

 

 

「───なんだこのミッション!! 無理ゲーだろ!!」

「まぁ、でも別に無限リスポーン出来るし。いつかはクリア出来るんじゃねーか?」

 宇宙にフォースネストを持つ者は少ない。

 

 それは、そもそもGBNは本来何処に行こうとしてもある程度のポイントには転送で移動する事が出来るからである。

 だから、態々物資も乏しく空間が広過ぎて周りに何もないような場所が多い所にチームの家となるフォースネストを置きたがる者はすくなかった。

 

 するとどうなるか。

 

 

「俺達みたいなパンピーがやってもクリア出来ないだろこれ!」

「そもそも地上じゃあのタイガーウルフが苦戦してるって話じゃねーか!」

「上手い奴早く来いよ!!」

 数少ない宇宙移民組のフォースの戦力では、地上よりも更に一機多いMAに少ない戦力を分散され戦況は最悪といっていい状況になっている。

 

 地上から空いているマスドライバーで宇宙に出るダイバー達も、どこか纏まりがない。

 

 すると、戦闘回数が増え───セイヤの目的はさらに加速する事になるのだ。

 

 

 地上の戦力は囮とも言えるだろう。

 

 

「───ロータス卿、そこまでする必要がありますか?」

「……否、嫌な予感がするのだ。これは、ナンセンスだよ」

 そんな戦況を見据えながら、フォースロータス───あのロータスチャレンジの主催であるロータスは目を細めた。

 

 

 彼は二つのビルドダイバーズしか破壊する事が出来なかった自らのフォースネスト───ラビアンクラブをMAに突撃させるという作戦を打ち立てる。

 しかし、膨大なコストを払い作り上げたこのフォースネストは彼等が主催するロータスチャレンジ、およびフォースの誇りだ。

 

 それを態々MA一機にぶつけるのは、ロータス本人も気乗りはしないだろう。

 

 

 しかし、ロータスの予感は正しかった。

 

 

「さぁ、戦え。お前達の大好きなGBNで戦え。その戦闘データこそが、GBNを破滅に追いやる」

 この戦況の長引きこそ、セイヤが狙った事だったのである。

 

 MAとダイバー達の戦闘データは淡々とELダイバー達に記録されていくのであった。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 マスドライバー基地、ディビニダド攻略戦上。夜。

 現実は昼前だが、彼等の戦うステージは夜になっている。それは、この戦いが世界各地で行われている証拠だった。

 

 月が出ている。

 

 

「───エクリプス!!」

「───メガランチャー!!」

 ケイのストライクReBondとカルミアのレッドウルフが放った砲撃が直線上の敵を薙ぎ払った。

 

「取りこぼし、任せた!」

「了解っす!」

「行くよ!」

 二人の砲撃で取りこぼした相手は、ニャムのニャーンX、夢のデルタストライカーが相手をする。

 それに、周りに集まったフォースの仲間達も加わっていた。

 

 

「助かる」

「これなら行けるんじゃ!」

「おっと! 油断すんなよパル! 敵の数尋常じゃねーぞ!?」

 ヒロト達───フォースビルドダイバーズをディビニダドに接近させて、彼等の必殺技で叩くのがこのマスドライバー基地を占拠するディビニダド攻略の糸口だろう。

 

 しかし、取り巻きの数が尋常ではなかった。

 

 ケイ達の援護を掻い潜って、ヒロト達に攻撃が抜けている。

 カザミの機体───イージスナイトは守りに強い機体でこれが上手く機能しているが、彼らにあまり負担をかけたくはなかった。

 

 

「フェザーファンネル、くるよ!」

 先行していたユメからそんな通信が送られてくる。

 

 ディビニダド本体からの射程には入る事が出来たが、こちらはまだディビニダドに攻撃を当てられる距離ですらない。

 本来のスケールではないためにディビニダドの射程距離も長いからだが、それ故に攻撃の破壊力も桁違いだ。

 

 

「で、デカ過ぎんだろ!!」

「ガンプラを絶対破壊するマシンかよぉ!?」

 フェザーファンネルに襲われ、周りの仲間達が粉々に砕け散っていく。

 

 ケイとカルミアは急いで砲撃を放つが、それだけではフェザーファンネルの圧倒的な質量を弾き返す事は出来ない。

 

 

「……っ」

「メイ。ダメだ。俺達はこの一撃に全部賭けよう」

「だが、来るぞ?」

「多分、大丈夫」

 反撃しようとしたメイを止めたヒロトは、目を瞑って思い出した。

 

 ロータスチャレンジで戦った、頼もしい強敵(仲間)達の事を。

 

 

 

「───月は出ているかぁぁ!!」

 叫んだのはニャムである。

 

「え? 月? えーと、あ、うん。月出てる。え? どうしたの? ニャムさん?」

「なるほど」

「お、パナすかニャムちゃん!」

 ユメ以外の殆どのダイバーが、彼女の言葉の意味を理解する。

 

 

「え? 光……」

 突如月から放たれた光が、左手の砲身を構える肩のアーマーに注がれた。

 

 サテライトキャノン。

 機動新世紀ガンダムXに登場する兵器で、月から受信したマイクロウェーブをエネルギーにガンダムという作品の中でも最高レベルの砲撃を放つ武装である。

 月からのマイクロウェーブが必要という弱点があるが、その威力は絶大だ。

 

 

「マイクロウェーブ受信!! 見せてやるっすよ、我が新生ガンプラ! アナザーガンダムをも黒歴史に取り込む、ニャーンXの真骨頂!!」

 さらに───

 

「ニャムさん以外も!?」

 彼女の機体以外にも、この戦いに参加していたダイバーの中にサテライトキャノンを装備したダイバーが数人居たらしい。

 

 

「「「いっけぇ!! サテライトキャノン!!!」」」

 それら全ての光が───同時に放たれる。

 

 夜の闇を照らすような光と轟音。

 周囲のフェザーファンネルを殆ど焼き払って、そのままディビニダドを焼き尽くす勢いで直進した砲撃はしかし───ディビニダド周囲に濃縮されたフェザーファンネルの壁で塞がれた。

 

 

「むしろ今ので倒せないの!?」

「いや、これなら!!」

「行けるぜ!!」

 驚くユメを尻目に、ヒロト達は出力を上げて接近速度を上げる。

 

 ディビニダドのフェザーファンネルはバグの影響か無限に生成されているのかと思う程の量が戦場を飛び交っていた。

 しかし、今はそれが半減されている。

 

 

 チャンスは今しかない。

 

 

「今だ」

 短く呟いて、ヒロトが先陣を切った。

 

「───俺は、何度だって戦う。決めたんだ、もう何も奪わせないって」

 ヒロトのコアガンダムを中心に、ビルドダイバーズの機体が分離、変形し───一つの機体へとその姿を昇華させる。

 

 

「「「「コアチェンジ! リライジング・ゴー!!」」」」

 リライジングガンダム。

 それが、彼等ビルドダイバーズの結束の力だった。

 

 

「四機で合体した!?」

「す、すごい!」

 ニャムとカルミアはロータスチャレンジでその姿を見ていたが、ケイとユメは初めてみたそのガンプラに目を輝かせる。

 

 こんなに沢山の素敵な気持ちが交わるGBNを壊させてはいけない。二人は改めてそう思った。

 

 

 

「───グランドクロスキャノン……!」

 四人の機体が黄金に光り、サテライトキャノンをも凌駕する砲撃が放たれる。

 これが四機分のリソースと気持ちを合わせたヒロト達ビルドダイバーズの必殺技だ。

 

 ディビニダドは残っていたフェザーファンネルで砲撃を防ごうとするが、フェザーファンネルは一瞬で消し飛んで光がディビニダドを包み込む。

 次いで、コアにされていたELダイバーからメイに通信が入った。

 

 

「───ありがとう、助かりました」

「良かった」

 撃破され、爆発するディビニダド。

 

 燃え残った機体がバラバラになっていく中、解放されたELダイバーが近くにいたフォースの仲間に迎え入れられる。

 

 

 

「良かった!」

「帰ってきた!」

「おかえり!」

「皆、ありがとう。ありがとうございます、皆さん」

 そのELダイバーの仲間達。

 

 彼等は、助ける事が出来たELダイバーと共にヒロト達や手伝ってくれた仲間達にお礼を言った。

 

「……良かった」

 それを見て、ヒロトは優しく笑う。

 

 

 

 彼もまた、以前メイとは別のELダイバーの仲間がいた。

 

 初めは───そもそも第二次有志連合が起こるその少し前まで、ヒロトはその少女がELダイバーだと言う事を知らなかったのである。

 その少女はサラと同じく、GBNのバグの原因の一つになっていた。

 

 そして───GBNのバグを押さえ込み、少女自らが消える選択をする。

 

 

 色々な葛藤があった。

 ある意味で、彼はセイヤに近かったのかもしれない。けれど、彼は立ち上がる。

 

 今ここにある、仲間達と共に。

 

 

「───とりあえず、ここのMAは倒せた。次に行こう」

 ───もう何も奪わせない為に。

 

 

 

「ケー君」

「分かってる。俺達も、イアを救おう」

 マスドライバーが起動した。

 

 戦場は宇宙へ───



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地上戦

 マスドライバー基地。

 

 

「ここで一度に運べる機体は十機までか。稼働時間も、合わせると宇宙で撃破された時にリスポーンして戻るまでかなりのロスになるな」

 ディビニダドを撃破したケイ達はマスドライバーで宇宙に上がる算段を立てている。

 

 撃破されればリスポーン出来るとはいえ、リスポーン地点は地上のフォースネストからだ。

 ここから先は撃破は許されない。そのくらいの気持ちでいないといけないだろう。

 

 

「他のマスドライバーは?」

 同乗したヒロトがケイにそう問い掛けた。ケイは中継をライブモニターに繋ぐ。

 

 

 レグナント。

 ガンダムOOに登場する大型MAで、GNフィールドまで搭載されておりディビニダドよりも防御力が高い。

 

 幸いにもこのMAが守るマスドライバー基地周辺には多くのフォースネストがあり、戦力は足りているようだ。

 まもなく撃破出来そうな雰囲気はあるが、戦闘が一番長引いているのもその戦場である。

 

 

「大丈夫なのか? 他の場所は」

「GBNを愛するダイバーの皆さんを信じましょう。ジブン達はこれからの心配をしなくては」

 カザミにそう答えるニャム。カザミは「確かに……」と目を細めた。

 

 

「今のうちに戦力情報の交換がしたい。一緒に空に上がるなら、次も協力する事になるだろうし」

「分かった。宇宙に出るまでお互いの戦力を教えようか」

 ロックが居ない今、リーダーの代わりをしているケイとヒロトが握手をする。

 

 こんな時でも、あまり関わりのなかったGBNの仲間との語らい合いは楽しい。

 だからこそ、アンチレッドを止めたい。ケイ達はそう思った。

 

 

 

 

 エクストリームガンダムディストピアフェイズが守るマスドライバー基地。

 

 

「───吹けよシムーン!! アルフ・ライラ・ワ・ライラ!!」

「───戦局は整った。二番隊三番隊で包囲。各個砲撃防御陣形! 後は任せる!」

 シャフリヤールの必殺技が主体の敵を薙ぎ払う。

 

 極限まで力を溜めた砲撃で、取り巻きのMSはほぼ全滅した。

 そこに周囲網を引くようにロンメルの指示で部隊が構成される。

 

 

 さらにエクストリームガンダムディストピアフェイズに接近するのは、タイガーウルフのジーエンアルトロンとマギーのラヴファントムだった。

 

 

「接近出来ればこっちのもんだ!!」

「生き残りは任せなさい!!」

「援護射撃!!」

 奇跡的に生き残った取り巻きをマギーが払いつつ、エクストリームガンダムの攻撃を包囲網からの援護射撃で制圧する。

 

 そうして間合いに入れば、タイガーウルフが負ける訳もない。

 

 

「───吼えろ!! 龍虎狼道!!!」

 放たれた必殺技がエクストリームガンダムディストピアフェイズを粉砕する。

 

 それから少しして、別の基地で有志がレグナントを撃破。

 残る地上のMAはもう一機のディビニダドのみとなった。

 

 

「さて、地上はもう大丈夫ね」

「おい待て。もう一機残ってるって話じゃねーか」

 早速マスドライバーを使おうとするマギーを止めるタイガーウルフ。しかし、マギーは人差し指を横に振ってこう口にする。

 

 

「そっちに誰が言ったと思ってるのよ、タイガちゃん」

「ここに居ない奴……。あぁ、なるほど」

 納得したタイガーウルフは、黙ってマスドライバーに機体を移した。

 

 彼なら問題ないだろう。それはGBNのダイバー達にとって、絶対的な信頼と言えるかもしれない。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 地上の戦いは佳境を迎えていた。

 

 

「ユッキー!」

「任せて!!」

 リク達ビルドダイバーズが挑むディビニダドは、ケイ達と戦った機体と同じく1/100サイズの強化MAだ。

 

 ビルドダイバーズ以外にもこの戦場に参加する者は多かったが、火力不足により包囲網の突破も難しい状態が続いている。

 

 

「月が出てこないとサテライトキャノンを使えないけど……行くよ、フルバースト!!」

 ユッキーのガンプラ、ジェガンブラストマスターが火を吹いた。

 

 しかし、敵の数が多く、一度に倒し切らなければディビニダドに近づく事も出来ない。

 

 

「うわ! お、オーバーロードしそう……!」

「……っ、ダメだ。近付けない」

 ビルドダイバーズのフォースは絶海の孤島にあり、近くのマスドライバーに集まったフォースが少ないのが彼等が苦戦している一番の要因だろう。

 

「SDガンダムの火力だってー!」

「数が多過ぎるよー!」

「お腹ビーム! お腹ビーム! お腹ビーム! お、お腹ビーム!! もぉぉ!! なんで全然敵が減らないの!?」

 そもそものMSの戦力差は40対1以上。相手が復活する事も考えれば倍以上に跳ね上がる数だ。

 

 

「リク……」

「分かってる。このままじゃダメだ。けれど、どうしたら……」

 砲撃を放ちながら、リクは下唇を噛む。

 

 ELダイバーであるサラが仲間のビルドダイバーズも、今回の件の事情は知らされていた。

 あのMAの中にはサラと同じELダイバーが閉じ込められている。どうしても助け出したい気持ちはあるし、そんなELダイバー達を利用してGBNを壊そうとする者をリク達が放っておける訳もない。

 

 

「───リク君、敵戦力を教えて欲しい」

「え? キョウヤさん!?」

 そんな彼等の元に、一機のMSが舞い降りた。

 

 GBNチャンピオン、クジョウ・キョウヤのAGE2マグナム。

 この世界で一番強い男のガンプラである。

 

 

「なんでここに───」

「時間がない。説明は上に上がる時にしよう。宇宙で君達の力も必要なんだ」

「……わ、分かりました。相手はディビニダドで、大きさ以外は特に変わった所は無いと思います。それよりも、取り巻きのMSが多くて」

 その取り巻きは殆どがNPDだが、中にはアンチレッドのダイバーもいてある程度厄介な敵も存在していた。

 そもそもGBNを憎むアンチレッドのメンバーに実力者と呼ばれる程の者は少ないが、それでもプレイした事がある者しかGBNを壊そうなんて作戦に加担しないだろう。

 

 彼等は理由はどうあれ、GBNへの恨みという同じ目的を持つ者達なのだ。

 

 

「───なるほど、分かった。皆、聞いて欲しい。皆の火力を一点に集中し、ディビニダドへの道を作ってもらいたい。……その後は、僕がなんとかする」

「なんとかするって……」

「任せて欲しい。僕はこれでも、GBNのチャンピオンだ」

 そう言って笑うキョウヤの言葉を疑う理由はない。

 

 何故なら彼はGBNのチャンピオンだから。

 彼の強さを知らない者は、このGBNに存在しないと言っても過言ではないだろう。

 

 

「始めよう」

 キョウヤの掛け声で、ダイバー達は一斉射撃を放った。

 

 広範囲に及ぶディビニダドの守備網。その一点に空いた僅かな穴。

 針の穴に糸を通すように、その僅かな隙を変形したキョウヤのAGE2マグナムが突破する。

 

 

「私は───」

 目を閉じて、開いた。

 

 加速する。

 キョウヤの瞳に映る、圧倒的な質量。

 

「───GBNチャンピオン、クジョウ・キョウヤだ。相手になろう!!」

 一瞬で間合いを詰めたキョウヤは、ディビニダドにドッズライフルを直撃させた。

 あまりにも早い彼の機体に追い付かなかったフェザーファンネルがキョウヤを襲おうとするが、彼はそれをヒラリと交わしながらもう一撃。

 

 交わすついでにビームサーベルを胸に叩きつけ、それを追い払おうと寄ってくるフェザーファンネルをギリギリまで引きつけて交わす。

 するとフェザーファンネルはディビニダド本体に直撃し、その巨体が大きく揺れた。

 

 さらに今度は大きく機体を浮かせると、キョウヤを追うようにフェザーファンネルが空中を舞う。

 キョウヤはそれを全て交わしてみせるが、ディビニダドに取り付いたキョウヤを攻撃しようと寄ってきた取り巻きがそれに巻き込まれて撃破されていった。

 

 

 さらに一発。二発。

 放たれたドッズライフルは的確にディビニダドを削っていく。

 

 

 

「す、すごい……」

 リク達に手出しは無用だった。

 

 まるで、君達は力を温存していて欲しい───そう言うかのように彼は危なげなく戦闘をこなしていく。

 

 

「セイヤ、これを見ているなら、こんな事はやめてくれ。僕は───僕達は、共にGBNを楽しむ仲間の筈だ。……こんなバトルは、GBNではない!!」

 フェザーファンネルが効かないと分かったのか、その剛腕を振り回すディビニダド。

 キョウヤはビームサーベルでその手首を切り落とし、そのまま出来た隙にディビニダドの頭部に飛び蹴りを入れた。

 

 

「君の目的は、私達が止める!!」

 頭部にビームサーベルを突き刺し、至近距離から胴体にライフルを放つ。

 

 遂にディビニダドは沈黙し、爆風の中から無傷のAGE2マグナムだけが姿を現した。

 

 

 

 

「───クジョウ・キョウヤ。俺はな、お前のその、強くて正しい所が嫌いなんだよ。そのくせ、お前はビルドダイバーズに負けた。……本当に、許せない奴だよ、お前は」

 そう言って、セイヤは操縦桿を握る。

 

 

「……こい、この宇宙に。お前はGBNの犬共全員、地獄に叩き落としてやる」

 赤く光る瞳。

 

 セイヤの機体が、動き出そうとしていた。



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サバーニャHell

 宇宙の戦闘は想像よりも過酷な戦況を強いられていた。

 

 

「───なんなんすかこの数は!!」

 上下左右。何処を見ても敵。敵。敵。

 

 宇宙空間に出た瞬間、撃墜されるシャトル。

 

 

 地上からの増援の半分はそうして撃破され、敵の数は増えるばかり。

 

 

 

「なんでこんなに敵が出てくる訳よ。本当にアンチレッドだけか? 絶対NPDもいるでしょ!!」

「バグで色んなミッションが同時進行されてる事になってる。……アンチレッドの人達と一緒に、確かにNPDも混ざってるみたいっすよ」

「それに、地上にいたアンチレッドの戦力が宇宙に出てきてるんだ。……初めから地上は時間稼ぎだったって事なんだと思う」

 ニャムとケイの言葉を聞いて、カルミアは目を細める。

 

 

 確かに、セイヤはそういう事をする男だ。

 そんな事を思い出して苦笑いするが、笑っていられる状態ではない。

 

 

「撃破されたら宇宙にまた戻ってこられるかも怪しいよね……?」

「そうだな。一旦引こう。ヒロト達にもそう伝え───」

『ReBond! 聞こえるか。そっちに大部隊が向かった。引いてくれ!』

 言おうとした瞬間。

 

 非常に焦ったようなヒロトの声が通信で聴こえて来る。

 

 

 大部隊が向かった。

 そんな言葉に、四人はどうもピンとこない。

 

 

「何言ってんのよ。もう既に大群だって。現状でもう戦力差はざっと40対1って感じでしょうが」

「ヒロト達と分散される前もこんな感じだった筈だけど……」

「今より沢山来るって事?」

「あはは、そんなー、まさかー。今でも相当ヤバいっすよ?」

 苦笑いを零しながら、ニャムはレーダーに映る敵影が急激に増えている事に気が付く。

 

 

「……ヤバいっすよ?」

「なんじゃこりゃぁ!?」

「ケー君!!」

「に、逃げろ!! 逃げろ逃げろ逃げろ!!」

 慌ててスラスターを吹かす四人。

 

 ケイ達の元にはレーダーを覆い尽くす程の敵が迫ってきていた。

 

 ア・バオア・クー攻略戦やヤキン・ドゥーエ攻防戦を連想出来る程の敵の数。

 いくら相手がNPDやゲームに恨みを持って真剣にプレイしていないアンチレッドのメンバー達でも、数が違い過ぎて戦いにならない。

 

 

「くそ、このままじゃ……」

「囲まれちゃう!」

「ニャムちゃんサテキャ!!」

「月が地球の反対っす!! というか、サテライトキャノンでなんとかなる数じゃないっすよコレ!!」

 まるで四人を囲むように、数百の相手が迫って来る。

 

 もし今撃破されれば、この大量の敵がマスドライバーから登って来る援軍を次々と撃破してしまう筈だ。

 もう宇宙には戻ってこれない。

 

 

 既にGBNの空間にはヒビ割れが発生し始め、あちこちでバグが発生している。

 

 セイヤの思惑。

 膨大な戦闘データによるGBNの崩壊は今まさに成し遂げられようとしていた。

 

 

「ケー君、どうしよう……。どうしよう……」

「俺達に出来る事は……ないのか」

 操縦桿を強く握る。

 

 アオトが居なくなって、イアが居なくなって、タケシも居なくなって。

 いつかまた皆で笑い合える時がくると信じて、壊れてもまたいつか直せば良いと信じてここまで来た。

 

 

 けれど、これじゃ───

 

 

「───待たせたな、野郎共!!! 俺様が来たぜ!!!!」

 ───ぜったいぜうめいの中、唐突にそんな声が聞こえてくる。

 

 通信モニター。

 そこに映るのは、懐かしい幼馴染みの姿。

 

 

 

「ロッ君!?」

「ロック氏!?」

「タケシ君!!」

「タケシ!!!」

「ロックだって言ってんだろうがぁぁあああ!!!」

 ReBondリーダー、ロック・リバー。

 

 ───壊れていた何かが、動き出した。

 

 

「ロック・リバー、目標を───乱れ撃つぜぇ!!」

 唐突にケイ達の背後から放たれる連続射撃。()()()()()()()()()()()

 

「……な、なんだ今の!?」

「……タケシ君がやったの?」

 数にして数百機。

 

 途方もない数の敵が、一瞬にして半分以下に減らされたのだ。

 

 

 

「よ! 待たせたな」

 ケイ達の元に現れるロック。

 

 彼が駆る機体はいつもの漆黒に染まるデュナメス───ではなく。

 

 

「───サバーニャ?」

「そう、ガンダムサバーニャHell。ロック・リバー様ただいま参上、ってな」

 彼が持ってきた機体は、漆黒に染まるデュナメスを継ぐ機体───ガンダムサバーニャ。

 

 二本のGNスナイパーライフルと腰回りを覆うシールドビットにライフルビットが特徴的な機体だ。

 どうやら相当カスタムされているようで、見た目だけでもサバーニャとは少しかけ離れて刺々しい。

 

 

「てか、あのロック氏が狙撃で敵を倒したって事すか!?」

「修行してきたって事ね。いや、流石我らがリーダーよ。良いところに現れるじゃない」

「タケシ君、状況は掴めてる?」

「おう。任せろ、とりあえずMAぶっ壊せば良いんだろ。んで、まだイアは出て来てないから多分アンチレッドは隠し球がある」

 言いながら、ロックは更にGNスナイパーライフルを乱射。敵の数を一気に減らしていく。

 

 その背後からも、援護射撃が増えて来た。どうやら援軍が来たようだ。

 

 

 

「───フォースメフィストフェレス、ただいま見参ですわー!」

「ロックから事情は聞いた。遊びじゃなかろうが、俺達はいつでも真剣に取り組むがな」

 フォースメフィストフェレスのメンバー勢揃いでの援軍。

 

 彼等の元で修行と、有名なビルダーでもあるアンジェリカの元で作り上げた新しいガンプラ。

 イアが連れ去られたからこれまで、力不足を痛感したロックが着けてきた力は伊達ではない。

 

 

「タケシは私が育てた」

「ロックだって言ってんだろうが!!」

「あ、あはは。……てかスズちゃん、その装備……」

 遅れてやってきたスズのサイコザクレラージェを見て、ユメは目を丸くする。

 

 両手に二本、さらにサブアーム四本全てにビームスナイパーライフルで合計六丁のスナイパーライフルを持ったスズ。

 これが相手になると思うとユメはもう相手が気の毒だなとすら思えた。誰が避けられるんだ、と。

 

 

「こういう戦いは援護は任せて私は本気で攻撃だけする。……ユメは、新機体か」

「うん! デルタストライカー!」

「……これ終わったら、お手合わせ願う」

「勿論! 負けないよ!」

 機体の拳を合わせる二人のライバル。

 

 言っている間にも、ロックが前に出ながら敵の数を減らしていいっていた。

 

 

 

「なんだあのサバーニャ!」

「このままじゃまずいな。アレを叩くぞ! 狙撃機体なら、近付けば怖くねぇ!!」

 アンチレッドのメンバー達は次々と機体を撃破していくサバーニャに作戦を邪魔されるのを恐れ、それを撃破する魂胆を立てる。

 

 セイヤからアンチレッドへの指示は一つだ。

 全力で敵の邪魔をしろ。戦いが長引けば長引く程、戦闘データは溜まりサーバーに負荷を掛けられる───と。

 

 

「やっちまぇ!!」

「ロック氏!!」

 囲まれるロックのサバーニャHell。

 

 

 しかし、ロックは不敵に笑う。

 

 

「死ぬぜ、俺に近付く奴は。……ソードビット!!」

 展開されるシールドビット。

 

 その中に内装された───本来のサバーニャではライフルビットである筈の武装が宇宙を舞った。

 

 

 その()が近付く敵を切り刻んでいく。

 

 

「サバーニャにソードビットだと!?」

「そんなんで変わるかよ! 結局オールレンジ攻撃なら、近付かれたら終わりだ!」

 ソードビットを避け、サバーニャHellの懐に入り込む三機の機体。

 

 振り下ろされる刃はしかし───GNスナイパーライフルから展開された鎌状の刃が受け止め、一瞬にして三機はその()()()()()()()()にバラバラにされた。

 

 

「俺に接近戦で勝てるわけないだろ、モブ共が」

「な、なんだこいつ!?」

「離れても近付いても勝てる気がしねぇ!!」

「あの人本当にロック氏なんすか!?」

「ニャムちゃん……」

 本来の近接戦闘技術に加え、狙撃をこなせるようになったロックに唖然とするニャム。

 

 

 しかし、彼女も初めから分かっている。

 

 

 ロック・リバーはとても頼りになるReBondのリーダーで、皆を先導してくれる凄い人だって。

 

 

 

「やっと、戻ってきたな」

「おう。寂しい想いさせたな。……さて、俺様が来たからにはもう安心だ。反撃行くぜぇ!!」

 合流したメフィストフェレスのメンバーと共に、ケイ達は前進した。

 

 この世界を、イアを救うために。



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黒く赤い獅子

 数日前。

 

 

「───知らない人について行かない。当たり前の事です。……人呼びます、よ」

 ヒメカは学校の下校中、一人の男に話しかけられていた。

 

「しっかりした子だ。……なら、君の姉が今どんな状態なのかも分かっているな?」

「お姉ちゃん……が?」

 男───セイヤは不敵に笑いながらこう続ける。

 

 

「私は君の姉、キサラギ・ユメカちゃんの下半身不随と電脳空間の関係について研究している医者だ」

「お医者さん……」

 警戒しながらも、ヒメカはセイヤの話に耳を傾けた。

 

 姉が最近良く転ぶのは何か理由がある。

 もしかしたら、姉の身体が大変な事になっているかもしれない。

 

 そんな不安に、姉が大好きなヒメカは耐えられなかった。

 

 

「───全て、GBNが良くないんだ。全世界でGBNのために苦しめられている君のお姉さんのような子供を救う為に、君に少し協力して欲しい」

「……GBNは、お姉ちゃんの───敵」

 怪しいだとか、危ないとか、いけない事とか、そんな事は関係ない。

 

 大切で、大好きなお姉ちゃんの為ならなんでもする。

 

 

 それが彼女───キサラギ・ヒメカなのだから。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 戦況は拮抗していた。

 

 

「───乱れ撃つぜぇ!!」

 ロックのサバーニャHellが敵を減らしながら先行する。

 

 しかし、それでもMAに近付こうとすれば近付こうとする程に敵の数が増えていった。

 このまま近付けたとしても、いずれ囲まれてしまうだろう。

 

 それに、敵がNPDだけではなくアンチレッドのメンバー達が増えてきた。

 地上にいたアンチレッドの部隊が集結しつつある。このままではジリ貧ではなく、削り取られていく気すらした。

 

 

「MA一機に辿り着くのにこんなへばってたら持たねぇぞ!?」

「ロッ君の火力でなんとか押し切れてるけど、このまま行ったら戻ってこれそうにないでしょこれ」

 MAから球形に展開される部隊。

 

 それを掻い潜りながら進めば、MAには辿り着けるかもしれない。

 しかし、もしそれでMAを倒せたとしても、無事にこの空域を離脱するのは困難だろう。

 

 

「ぶっちゃけ、MA一機でも破壊出来るならやられても良くね? 撃破ペナルティがある訳でもないだろ。アンチレッドの相手してるのが俺達だけって訳でもねーし」

 ロックの知る限りではタイガーウルフやクジョウ・キョウヤのような手練れもこの戦闘に参加している筈だ。

 

 彼等のような実力者達なら、きっともっと上手くやるだろう。

 なら自分達は上手くやらなくても良い。泥臭くても、少しでも現状を打破出来れば、それで良い───

 

 

「───けど、イアがまだどこに居るか分からないんだ」

 ───なんて事は、ない。

 

 

 彼等の目的はイアを救う事だ。

 

 それを成すまで、リタイアは出来ない。今地上に戻されたら、また宇宙に上がれる保証はないのだから。

 

 

 

「なら、私達が撤退ラインを支えますわ!」

 アンジェリカはビームライフルを乱射しながらそう提案する。

 

「俺達が道を開け続ける。MAを倒したら、お前達が帰ってくるこの道を」

 戦力ここに残す事で、撤退する道を作っておくというのがアンジェリカの提案だ。

 

 しかしそれは、戦地のど真ん中で耐え続けなければいけないという事になる。

 

 

「んな事出来んのか!?」

「誰があなたのガンプラを作ったと思っていますの? というか、甘く見られた物ですわね。そもそも、私はあなた達だけでMAが倒せるかどうかの方が心配ですわ!」

「言ってくれるじゃねーか! やったろうじゃん!?」

 機体の拳を合わせるロックとアンジェリカ。

 

「ただ、メンバーチェンジだ。おっさんとニャムさんはここの防衛に加わってくれ。その代わり、トウドウさんとレフトライトをくれ。一旦突破の機動力が欲しい」

「了解ですわ。トウドウ、レフト、ライト、よろしくて?」

 ロックの提案を聞いたアンジェリカの言葉に、三人は短く返事をした。

 短い間だがアンジェリカ達の元で過ごしたロックだからこそ出来る采配に違いない。

 

「おっさん、ニャムさん! 良いか? 俺達の帰ってくる場所を作っといて欲しい!」

「任せてちょーだい」

「了解っす!」

「……流石、だな」

 そんな会話を聞きながら、ケイは安心したような溜息を漏らす。

 

 

「ケー君?」

「いや、タケシって本当こういう時のまとめ役凄いよなって。アイツがリーダーで、本当に良かったよ」

「うん。そうだね! よーし、私達も頑張ろう!」

 二つの舞台に別れ、行動を開始するケイ達。

 

 

「……ユメ、行ってこい」

「うん。スズちゃん、援護お願いね!」

「MAまでなら、射程圏内だ」

 スズとロックの一斉射撃で開いた道を、ReBondとメフィストフェレス混合部隊が直進した。

 

 

 

「おっしゃ行くぜお前ら!! 乱れ撃つぜぇ!!」

「エクリプス!!」

「「ツインバスターライフル!!」」

 前方の敵を薙ぎ払いながら直進する六機のMS。

 

 しかし、残ったアンジェリカ達と離れれば離れる程、敵の数はやはり増えてくる。目標であるMAはまだ目視で確認出来ない。

 

 

「くそ、やっぱ近付いたら増えるわな」

「───ここから先は通せんぼうだぜ!!」

「───お前らにこのゲームはクリアさせねぇ!!」

 更に増える敵の戦力。

 

 赤く塗られたガブスレイとグフイグナイテッドがロックに襲いかかった。

 

 

「謎の手練れだしよぉ!!」

 アンチレッドにも、強いダイバーは居る。

 

 その力が及ばなく、挫折した者。その力を認められなかった者。

 GBNを恨む彼等の理由とまた、様々だった。

 

 

「タケシ!」

「ロックな!! ここは俺がなんとかする。ケイはMAを頼む!」

「そんな、タケシ君……!」

「───馬鹿かお前は。ここは俺達に任せろ」

 急速変形。

 

 トウドウはタケシと鍔迫り合う二機のMSにタックルを決めて、サバーニャHellを自由にさせる。

 

 

「トウドウ……!」

「トウドウさん……!」

「レフト、ライト、手伝え。この辺りの手練れをなんとかする」

 グフイグナイテッドを蹴り飛ばし、ライフルを連射するトウドウ。

 

 シールドでそれを防ぐグクの傍らで、ガブスレイが変形しながらトウドウにライフルを放った。

 それを、トウドウの前に出たレフトとライトがウイングゼロアビージの翼で防ぐ。

 

 そしてカウンターで放たれたバスターライフルはしかし、ガブスレイに交わされてしまった。相手もただのGBNアンチプレイヤーではない。

 

 

「僕達に任せてよ!」

「僕達に任せといてよ!」

「ここは俺達が防ぐ。MAまで後少しだ、行け!」

「トウドウ……。分かったぜ、ここは任せた! 行くぞ、ケイ、ユメ!」

「頼みます」

「三人共、無事で……!」

 ロックを先頭に、二人は続く。

 

 

 

 

「───何? この感じ」

 そして、そんな三人の前に次に現れたのは、一機の赤いMSだった。

 

 

 上下等存在しないこの宇宙から、まるで振ってくるように両手を広げて現れるMS。

 

 その機体は頭部に生えた一本角を開き、ジムなどに見られるバイザーカメラからツインアイを持つ二本の角が着いた───ガンダムへと変身する。

 

 

「───赤い」

「───ユニコーン」

 ケイとタケシの言葉を聞いて、ユメの頭に電流が走った。

 

 

 記憶が流れる。

 

 それは、ケイとユメ───そしてヒメカと見たガンダムUCという作品。

 そしてその作品を見ながら三人で作ったガンプラ。

 

 楽しい記憶。

 妹はガンダムに興味がないけど、その日だけは一緒に楽しめた、嬉しい記憶。

 

 

「───バンシィ」

 ユニコーンガンダム二号機。黒き獅子バンシィ。それは、その全身を赤く染めて。

 

 そのパイロット───ダイバーは───

 

 

 

「……ゲームの時間は終わりだよ、お姉ちゃん」

「ヒメカ、なの?」

 ───ユメカの妹、ヒメカだった。



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赤いギャプラン

 不安定なビーム射撃が空間を稲妻のように走った。

 

 

「ビームマグナムがバグってんのか!?」

「GBNのサーバーエラーが大きくなってるんだ」

「ヒメカ……」

 ケイ達三人の前に立ち塞がるヒメカ。

 

 彼女の使う赤く塗られたバンシィは、以前ケイ達と一緒に作ったガンプラだろう。

 

 

 いつかヒメカともGBNを遊びたい。

 オフ会の時にそう思ったユメの気持ちは、こうして望まない結果で叶うのだった。

 

 

「……お姉ちゃんは、私が守るんだ!!」

「二人共、ヒメカの事は任せて行って!」

「マジ?」

 唐突なユメの提案にロックは困惑する。

 

 確かに、こんな所で足踏みをしている場合ではない。

 けれどあの仲良しなヒメカとユメカを戦わせるのは違うし、そもそもロックは何故ヒメカが突然アンチレッド側に居るのかが理解出来ていないのだ。

 

 

「良いのかよ、ユメ」

「……私、ヒメカとちゃんと喧嘩した事ないんだ」

「だったら尚更───」

「だから、喧嘩してくる」

 強い意志でそんな言葉を漏らす。ロックも、それ以上何か聞く事はなかった。

 

 

「分かった。行くぞタケシ!」

「ロックな! ユメ! 目一杯喧嘩してこい!」

「うん!」

 二人は彼女に背中を向け、ケイは「頑張れ」とだけ言葉を落とす。

 ユメは首を縦に振って、何も言わずにヒメカのバンシィに顔を向けた。

 

 

「ケー君、タケシ君。……後はお願い」

 見つめ合う姉妹。

 

 

「私が、お姉ちゃんを助けるんだ」

「ヒメカ。喧嘩、しよっか」

 二人の想いが交差する。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 光が宇宙を包み込むように広がっていた。

 

 

「後退は禁止ですわよ!!」

「分かってるけどもねぇ……!!」

 ケイ達が帰ってくる道を開けておく為、戦場のど真ん中で終わらない戦いを繰り広げるカルミアやアンジェリカ達。

 

 スズの狙撃にカルミアとニャムの火力。

 近距離はアンジェリカとノワールが担当し、防衛戦をなんとか維持している。

 

 

 しかし、敵は所謂無限湧きだ。

 どれだけ減らそうが敵はやってくる。かといって無視すれば、敵は増え続ける一方だ。

 

 少しでも均衡が崩れれば、この防衛戦は一気に傾く。

 

 

 気を抜けない。

 そんな状態で、これ以上厄介な相手が増える事を懸念していない訳ではなかった。

 

 

「───この肉付き、さっきまでとは違う!」

 ノワールが気付く。

 

 明らかにこれまでとは違う動きをする相手が、彼らの前に現れた。

 

 

 

「赤いギャプランですわね? 少しゴツい気がしますけど」

「なんだって!?」

 アンジェリカの言葉に、カルミアは目を見開いて彼女の言葉通りの機体を探す。

 

 しかし、そんなカルミアの前にナイチンゲールという機体が立ちはだかった。

 

 

「カンダさん、邪魔をしないで下さい!!」

「サトウか!! くそ!!」

 大型MSナイチンゲール。

 

 劇場版ではなく、小説版の逆襲のシャアでシャア・アズナブルがサザビーの代わりに駆る強力な機体である。

 その機体に乗っていたのはカルミアのかつての中間。セイヤがレイアと出会う前から仲間だった、サトウだった。

 

 

「邪魔をするなってのはこっちの台詞だサトウ。なんでこんな事をする! 分かってるだろ、今のセイヤはおかしい!!」

「そんな事は分かってますよ!! けど、もう止められないでしょ!! 誰も、セイヤさんを止める権利はないでしょ!!」

「サトウ!!」

 ファンネルを飛ばしながら、カルミアのレッドウルフとぶつかり合うナイチンゲール。

 

 互いに展開した隠し腕でビームサーベルを振りながら、至近距離でお互いに放ったビームライフルが二人の機体の肩を掠める。

 

 

「ニャムちゃん!! お嬢が言ってるギャプランはセイヤの機体だ!! 三人をフォローしてやってくれ!!」

 自分は今すぐには動けない。

 

 だから、ニャムにそう頼むカルミアだが───

 

 

「そ、そうは言っても……この人達、まさか!?」

 そんなニャムも、アンチレッドの手練れ数名に囲まれて動けない状態になっていた。

 

「セイヤの奴、戦力を削ってくるつもりか!? なんで、こんな所に」

 ケイ達が倒しに行ったMAの他にも、この宇宙にはMAが四機も放たれている。セイヤがこんな場所に出てくるとは、カルミアは思ってもいなかったのだ。

 

 

 

「───聞きました? ノワール、スズ」

「あぁ」

「聞いた」

 そして、メフィストフェレスの三人の前に、一機のMSが現れる。

 

 赤いギャプランのような機体。

 

 

「……あの時の雪辱を果たす時が来た」

「……まだGBNにしがみついついていたか。また、地獄に叩き落としてやる。お前は何も出来ないんだってな」

 ギャプランのパイロット───セイヤは、不敵な笑みを浮かべながらムーバブル・シールドの銃口をスズのサイコザクレラージェに向けた。

 

 間髪入れずに放たれたのは、スズの狙撃である。

 しかし、六発放たれたビームスナイパーライフルは全てギャプランに届かずに拡散してしまった。

 

 

「Iフィールドですの!?」

「厄介な」

 放たれるメガ粒子砲。スズはそれをゲシュマイディッヒパンツァで弾くが、相手にもビームは効かないらしい。

 

「ならば実弾をくれてやるだけだ!」

 言いながら、ノワールはランサーダートを発射する。実弾武装までは防ぎようがないのか、セイヤはそれをシールドで弾き返す。

 

 

「接近する」

 その隙にミラージュコロイドを展開したノワールとアンジェリカの機体がセイヤの機体を挟み込んだ。

 しかしセイヤはそんな二人に見向きもせず、スズに接近しようとスラスターを吹かせる。

 

 そんな事を許すノワールとアンジェリカではない。

 その姿を表して、左右から挟んでビームサーベルをセイヤは向ける二人。だが、突然バックパック背後に装備されていた砲身が二人にむけられ砲撃を放った。

 本来のギャプランにはないバックパックの砲身は四本。まるで針千本(ヘッジホック)である。

 

 

「この機体……まさか!?」

「ギャプランじゃないのか!?」

 アンチレッドの機体はただ赤く塗られた機体が殆どだ。それは、これまでセイヤが見せてきた機体も同じである。

 

 しかし、この機体は何かが違うような気がした。

 すくなくとも、アンジェリカには心当たりがある。

 

 

「ソイツはセイヤの本気の機体だ! ギャプランなんかじゃない! 逃げろ、やられちまう!!」

「余所見をしないでください、カンダさん!!」

 セイヤを止めたいが、サトウに邪魔をされてカルミアは動けない。

 

 ニャムも同様。

 このままでは、NFTの時のように再び彼はスズを傷付けるかもしれなかった。

 

 

「スズ!!」

「……また壊してやるよ、偽物が」

 ギャプランが()()()()ビームサーベルを構える。

 

「私のサイコザクレラージェは……偽物じゃない」

 そんな彼の前で、スズはバックパックをパージして手に持っていたビームスナイパーライフルを投げ捨てた。

 そして、腰にマウントしてあったヒートホークを二本構える。

 

 

「この世界でせっかく手に入れたタコみたいな数の手足を捨てて、本物の俺に勝てると思ってるのか?」

「やってみろ」

 振り下ろされるハイパービームサーベル。

 

 スズはそれを左手のハートホークで受け止め、右手のヒートホークを横払いにギャプランの脇腹に掠らせた。

 回避行動を取らされたセイヤは眉間に皺を寄せながらも、冷静にもう一本のハイパービームサーベルを抜く。

 

 

「生意気なんだよガキが! またバラバラにしてやる!!」

 振り下ろされる二本のビームサーベル。

 

 スズはそれを受け止めきれず、サイコザクレラージェの右腕が斬り飛ばされた。

 

 

「そうだ、それがお前にはお似合いだ。……認めろ、この世界は偽物だと。お前は何者にもなれないんだと!!」

「……そうだ、私には確かに手足がない。けれど───」

「何!?」

 機体を捻り、ギャプランを蹴り飛ばすスズ。

 

 腕一本を持っていかれてバランスを崩そうが、そんな事はスズには関係ない。

 

 

 バックパックすら外し、軽くなったサイコザクレラージェはさらに彼女の思い通りに動く。

 ロックから学んだ格闘戦もお手のものだ。

 

 

「なんだ……今の動きは!?」

「───けれど、私には仲間がいる。ライバルがいる……友達がいる。それは、私のこの手足と違って!! 偽物じゃない!! アンジェ!! ノワール!!」

「くの……クソガキ!!」

 蹴り飛ばされてバランスを崩したセイヤのぎゃの背後から、アンジェリカとノワールの機体がビームサーベルを構えて現れる。

 

 バックパックの砲身も間に合わない。

 

 

「これが!!」

「俺達の!!」

「力ですわ!!!」

 二本のビームサーベルが、セイヤのギャプランを貫いた。



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ファーヴニルリサージェンス

 二本のビームサーベルがセイヤのギャプランを貫いた。

 

 

「友情、仲間。あぁ、良いよな。凄いよ、お前らは───」

「セイヤ……?」

 悔しそうな声。

 

 聞き覚えのあるその声質に、カルミアは顔を落とす。

 GBNにレイアが連れ去られた時から、彼はずっと笑わなかった。

 

 こうして悔しそうな声すら漏らさなくなって、それからだろう。セイヤが壊れ始めたのは。

 

 

 彼は独りだ。

 レイアが居なくなってから、誰にも気を許さず、ずっと孤独に戦っている。

 

 だから、眩しい。

 

 

「───お前らは何も失ってない。だからそんな生ぬるい事が言える!! 今に分かるさ。このGBNが無くなれば、手足のないお荷物のお前も!! ガンプラを作る事しか能のないお前も!! こんなゲームにうつつを抜かしているお前も!!」

 どうしたって自分には届かない物だから。

 

「失えば分かる。自分には何もないんだと!! そうだ、俺にも何もない!! だから奪われた!! だからお前達も奪われる!! そういう物なんだよ!! 力のない奴は!!! 何も!!! 守れない!!!」

「なんですの!?」

「光が!?」

「二人共逃げ───」

 セイヤのギャプランは装甲をパージした。

 

 凄まじいプレッシャーが放たれる。まるで周囲の空間を破るような、歪な光。

 

 

「───ファーヴニルリサージェンス」

 ギャプランの頭が割れた。

 

 角が生えて、隠れていた()()()()()()()()が露わになる。

 

 

 その姿はZZそのもの。

 セイヤがレイアと会う前から使っていた機体。その改修型。

 

 

「セイヤの本気の機体、ファーヴニル……」

「ヘッジホッグ3って事すか!? ヴァルプルギスの!?」

 ガンダムヴァルプルギスに登場するZZガンダムのバリエーション機体。

 

 ヘッジホッグ3───ファーヴニル。そのカスタム機こそ、セイヤが本気で作った唯一のガンプラだった。

 

 

 

「スズ!!」

「くそ!!」

「アンジェ!! ノワール!!」

 アンジェリカとノワールの機体は何故かシステムエラーで動けなくなる。ビームサーベルに貫かれた筈のセイヤの機体は、貫かれた装甲部分をパージして無傷で現在だ。

 

 

「二人の動きが鈍く……。まさか、話に効いたチート!? ブレイクなんとかって奴っすか!?」

「違う。アレはグリプスの呪縛。あの機体そのものの能力でチートじゃない。……セイヤはそんな小細工を使わなくても、それくらいやってのける」

 アンジェリカが以前作成して美術館に飾ったことのあるオーヴェロンという機体にも同じシステムが搭載している。

 

 それは簡単に言えば呪いだ。

 近付いた相手の機体関節をロックし、動きを封じるという物。

 

 チートといえばチートかもしれない。

 しかし、この手の力をGBNで発現させるにはそれ相応の技術と───愛が必要である。

 

 

「この……!!」

「次はテメェだ偽物野郎。またバラバラに刻んで!! 無力感を感じさせてやる!!」

「兄さん!!!」

 サイコザクレラージェとファーヴニルリサージェンスの間に入るニャム。やっとアンチレッドのメンバーを振り切ったが、少し遅かった。

 

 いや、どうだろう。

 もし二人が倒される前に間に合ったとして、自分に何が出来ただろうか。

 

 

 

 兄が居なくなった時、何も出来なかった。

 

 独りぼっちが寂しくて、自分の意にそぐわないGBNのガンプラに苛立ちをぶつけていた。

 

 イアを連れ去られた時も、ケイが一人でアオトの元に向かってユメが泣いてる時も、自分は何も出来なかった。

 

 

 そんな自分に何が出来るだろう。

 

 

「ナオコ、邪魔だ」

「兄さん───」

 いや───

 

 

「───私、一人じゃなくなったよ」

「───ナオコ」

 ───自分一人じゃない。

 

 

 兄が残してくれた猫の家族とガンプラがある。

 

 不貞腐れていた自分を拾ってくれた仲間達がいる。

 

 その仲間達と積み上げてきた、GBNへの───ガンプラへの愛がある。

 

 

「だから!! 兄さんも一人にしない!! そんな凄いガンプラを作れる兄さんが、こんな事したらいけないんです!! 私が、兄さんを助ける!! 皆、力を貸して。私に───ニャムに、ジブンに!! 皆がくれたこの世界の!! このガンプラに!!」

 両手を広げるニャムのニャーンX。

 

 猫耳が特徴的な彼女の機体が、光の翼を広げながら黄金に輝いた。

 

 

「───ガンプラバトルネクサスオンライン!! ニャーンX!! ニャム・ギンガニャムが行くっすよ!!」

 ゴッドガンダムのハイパーモード、そして右腕のゴッドフィンガー。左腕にはサテライトキャノン。両足にはフレスベルグ。

 

 未だ改良中の、様々なガンダム作品の力を、仲間の力を集めたニャムの機体。

 それが彼女のニャーンX。

 

 

「邪魔をするな!! ナオコ!!」

「兄さん!!」

「ダメだ、近付いたら……!!」

 接近するニャム。

 

 ファーヴニルリサージェンスから放たれた光が彼女の機体を取り巻こうとした時、光の翼───月光蝶がその光を弾き返す。

 

 

「何……!?」

「その光とて、人類の技術の結晶! グリプスの呪縛なら、月光蝶による文明のリセット効果で無効に出来る!!」

「お前……!!」

 ゴッドフィンガーとハイパービームサーベルがぶつかり合った。

 

 この間合いに入れるなら、後は格闘戦で叩けば勝てる。

 

 

「兄さん。確かにコレはゲームっすよ!! だから、現実程理不尽じゃない。でも、確かに理不尽はある。兄さんがその理不尽に晒されて、傷付いたのは分かるっす」

「お前に何が分かる!!」

「分かるっすよ!! ジブンも一人にされた。大切な兄さんが居なくなって、寂しかった!!」

「くっ……!!」

「そうして不貞腐れて、ジブンもこのGBNで他人に迷惑を掛けた。けれど!! そんなの間違ってるって教えてくれた人が居た!! だからジブンは今ここに居る。兄さんにも分かって欲しいから!! だから、今ここで、私は兄さんを倒す!! 答えて下さいニャーンX。ここにはケイ殿達と、皆と戦ってきた時間と!! (ジブン)が居る!!!」

「舐めるなぁ!!」

 ニャーンXを弾き、蹴り飛ばすセイヤ。

 

「私達は、ここにいる。確かにここに居るんだ。……ここで得た物は、偽物なんかじゃない!!」

 振り上げられるハイパービームサーベルを受け止めるスズ。

 

 ファーヴニルから放たれた空間の裂け目を、ニャムは機体の体制を直しながら月光蝶で弾いた。

 

 

 

「……二人でやるか」

「頼りになるっす!」

「たがが二人で、俺に勝てると思うなよ」

 禍々しいオーラを放ちながら、二本のハイパービームサーベルを構えるセイヤ。

 

 

 

 そんな光景を尻目に、カルミアは沈黙している。

 

 

「カンダさん、なんで本気で戦わないんですか」

 彼と戦っていたサトウはカルミアにそう問い掛けた。

 

 サトウ本人は本気でカルミアを倒そうとしている。しかし、サトウは彼の実力を知っていた。

 自分がどれだけ頑張っても、カルミアには勝てない。

 

 

 それどころか、瞬殺されてもおかしくないと思っている。

 

 それにカルミアは、サトウが見る限りレイアが居なくなってから()()()()()()本気で戦っていない気がした。

 

 

 

 NFTで彼が裏切った時も、大型イベントの時も、数多さえイアが連れ去られた時も。

 

 

「もしかして、俺達を裏切った事すら……嘘だった? 本当は、俺達の仲間だった! そういう事なんですか? カンダさん!」

「……そう、思うか?」

「はい。カンダさんもGBNを恨んでる。それだけは! 俺も知ってる。ガンプラのせいで女の子を轢いて、レイアも居なくなって、カンダさんがGBNを、ガンプラを恨んでない訳がない!! カンダさんも、俺と同じな筈なんだ!!」

 サトウは機体の両手を広げてカルミアのレッドウルフに近付く。

 

 

「そうでしょう! カンダさん!!」

 サトウはカルミアの弟子のような男だった。

 

 トラックの運転も、ガンプラも、バトルも。

 カルミアはサトウの事を弟のように可愛がりながら育てていたのを思い出す。

 

 

「俺は、皆が好きだった」

 セイヤが立ち上げた会社の仲間も、ゲームで集まったGBNの仲間も。

 

 レイアも。

 

 

「……そうだよ、俺達は仲間だ。大切な仲間だ。ダチだ。セイヤも、お前も!! 会社の仲間も、アンチレッドの奴らも、レイアも!!」

「カンダさん……!! だったら一緒に!! GBNを───」

「イアも!!!」

「───カンダ……さん?」

「仲間なんだよ、皆!! イアも、ケー君もロッ君もユメちゃんもニャムちゃんも!! 妹ちゃんや、他のフォースの子も。皆!!! ガンプラが、ガンダムが大好きな仲間なんだよ!!! 俺は、大人なんだ。おっさんなんだ。良い年したおっさんなんだよ!! そんな仲間を見て微笑ましいって思って……何にも取り柄とかなくても、なんとか守ってやりたいと思う!! 仲間なんだよ!!!」

「だったらどうして!! 本気で戦わないんですか!!!」

 ぶつかり合った。

 

 サーベルがレッドウルフの装甲を燃やす。

 

 

「守りたいなら戦えば良いじゃないですか!! なんでこんな所で、俺なんかと話してる。あんたはいつもそうだ!! 中途半端で、フラフラとどっかに行って、適当なんだよ!!」

「……そうだよ、適当だ。俺は、何にも芯がない。本当に悪いと思ってるよ、サトウ」

「この……裏切り者が!!! なんで!!! なんで!!! なんで戦わないんだよ!!!! カンダさん!!!!」

 振り下ろされるビームサーベル。

 

 それを、機体の装甲で受け止めるレッドウルフ。

 

 

 いかな装甲の厚いレッドウルフでも、高出力のビームサーベルを受けきる事は出来ない。

 装甲が割れた。機体が貫かれようとする。

 

 

「そんなもん決まってるだろ……。お前も、俺が守りたい仲間だからだよ!!!」

「は───」

 ジェネレーターが誘爆した。

 

 二人の機体を、炎が包み込む。

 

 

 

 赤い装甲が、宇宙に弾けた。



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ガンダムmarkReⅤ

 爆炎に包み込まれる。

 

 

 カルミアのレッドウルフから離れたサトウのナイチンゲール。

 

 そのモノアイに映る姿。

 

 

「───やっと、本気を出してくれるんですね。カンダさん」

 機体の装甲が剥がれ、レッドウルフの中に()()()()()機体が姿を表した。

 

 サトウは知っている。

 

 

 セイヤの本気の機体。

 それがギャプランではなく、ファーヴニルだという事も。

 

 カルミアの本気の機体。

 それが下半身がジ・Oのドーベンウルフではなく───

 

 

 

「───ガンダムmarkReV(リファイブ)

「───サトウ、お前も……俺にとっては大切な仲間なんだよ!」

 レッドウルフの中から現れたのは、ガンダムセンチネルに登場するガンダムmarkVのカスタム機。

 カルミアがレッドウルフの中に隠していた奥の手だ。

 

 しかし、これはカルミアが隠していたというと語弊があるだろう。

 彼はその機体を封印したのだ。

 

 

 セイヤやサトウを裏切って、GBNへの復讐から自らを断ち切る為に。

 

 

 ただ、今はそんな私情を挟んでいる場合ではない。

 

 

 自分の全身全霊を持って、セイヤを止める。

 

 

 

「いけ、インコム!!!」

 レッドウルフから引き継がれた武装はライフルとこのインコムくらいだ。

 

 重装備を捨て、身軽になった彼のガンダムmarkReVは機動力を活かしながらインコムで相手の周囲を囲む。

 

 

「大切だって!? 裏切り者が、よくもそんな事を!!」

 ライフルを乱射するサトウ。

 

 しかし、markReVが速過ぎて当たらない。直前まで戦っていた機体とはまるで性能が違い、サトウの感覚も逸れた。

 

 

「くそ!! くそ!!」

「サトウ!!」

 ライフルを放つカルミア。

 

 しかし、そのライフルは明後日の方に飛んで行く。

 

 

「外した───いや、違う。カルミアさんのインコムは!!」

「弾け───リフレクターインコム!!!」

 サトウの機体から明後日の方角に飛ばされたライフルは、何かに反射してナイチンゲールの足を撃ち抜いた。

 

 

 リフレクターインコム。

 ビームを弾く武装をインコムにより射出し、変幻自在の射撃を可能にする武装である。

 

 乱射。

 弾かれて曲がったライフルがナイチンゲールを襲った。

 なんとか反撃しようと放ったナイチンゲールのビームも、リフレクターインコムが弾いてしまう。

 

 

「くそ!! だが、ソイツの弱点は知ってる!!」

 言いながら、サトウはmarkReVに肉薄した。

 

 近付けばリフレクターは使えない。

 

 

 こちらのファンネルも使えないが、ナイチンゲールには隠し腕がある。

 

 

「───俺の隠し腕がなくなったと思ったか?」

「───な!?」

 四本のサーベル。

 

 markReVの肩に隠されていた、ジ・Oの下半身の時とは別の隠し腕がナイチンゲールのサーベルを受け止めた。

 

 

「トーリスリッターの隠し腕!?」

「お前の知ってるあの時のままじゃない。俺だって前に進んでるのよ。……だから、俺は───お前やセイヤも救ってみせる!!」

 ナイチンゲールの両腕と隠し腕を切り飛ばすカルミア。

 

 そのまま蹴り飛ばされ、ファンネルでカルミアに反撃しようとしたサトウだが、ファンネルのビームは全てリフレクターインコムで弾かれてしまう。

 

 

「……やっぱ、あんた強いよ。なのに! なのになんで、俺達を裏切った!! あんたがいればセイヤさんだってもっと!!」

「そうかもな。寂しい想いさせたのは、多分そうだ。けれど、多分アンチレッドのままじゃセイヤを止められなかった。……いや、止めようともしなかった」

「それで良いじゃないですか。ガンプラに復讐する!! 何が間違ってるっていうんですか!! 俺達は、ガンプラに全部奪われたんですよ!!」

 トラックで女の子を引いた。

 

 サトウにとって、その原因が自分の運転の不注意だなんて事は初めから分かっている。

 

 

 けれど、それでも、何かを憎まないと、自分が壊れてしまいそうで。

 

 

 そういう自分を認めてくれた仲間が、本当にありがたくて、縋るしか無かった。そうじゃなければ、自分を恨む事しか出来ない。

 

 

 

「俺達がトラックで轢いた女の子はな!! ガンプラも、友達も、俺達のトラックすら恨んでなかった!!!」

「……っ。そんな……! 事!!」

「ユメカちゃんはな、こんな俺にも優しかったよ。トラックの運転手さんは悪くないって。ガンプラも友達も悪くないって。自分が全部悪いって。高校生になったばかりの女の子がだぞ!! 夢だった飛行機のパイロットを諦めなくちゃいけなくなったのに、生きてるだけで不自由な身体にさせられたのに!! あの子は、俺の心配をしてくれた。セイヤの心配だってしてくれた!! あの子は言ったんだ。お前らがヒメカちゃんを攫ったのに、あの人達はきっと妹にひどい事だけはしないって。……こんな事してる俺や!! お前や、セイヤの事を信じてくれるような女の子だ!!!」

 ナイチンゲールのコックピットを揺らしながら、カルミアはサトウに語りかける。

 

 

 出会ったのは偶然だったかもしれない。

 

 けれど彼女は、不貞腐れて復讐の事ばかり考えていた大人達よりも真っ直ぐに前を見て歩いていた。

 

 

 こんなに情けない事があるか。

 

 

「そんな……バカな」

「頼むサトウ。……お前にしか頼めない事があるんだ」

「い、今更何を!! 俺はあなたの敵なんですよ!! 早く撃てば良いじゃないですか!!」

「サトウ!! 頼む!!!」

「カンダ……さん?」

「ユメカちゃんを助けてくれ……。俺達が全部奪ったあの子から、また何かを奪うなんて事、お前だってしたくないだろ!! お前が助けるんだ。俺達はなんの仕事をしてた!? ガンプラの運搬だろ。子供達の!! 夢を届ける仕事だろ!!! サトウ!!!!」

「……っ」

 思い出す。

 

 

 仕事が楽しかった日の事を。

 

 ガンプラの運搬業者。

 世界的なブームの中、誰もが愛するソレを世界に届ける仕事だ。

 

 

 子供達に夢を届ける仕事。

 

 ガンプラが届いて、買って、笑顔になる子供を見るのが好きだった事を。

 

 

「俺、は……」

「……頼む、サトウ。お前の運転、あの子に見せてやってくれよ。な?」

 そう言って、カルミアはサトウの機体を離れる。

 

 

 

「俺は……俺、は……」

 どのみちサトウの機体はもう動かない。なら、今はセイヤを止めるのが先決だ。

 

 

 

「───小賢しいんだよ!!」

 セイヤのファーヴニルリサージェンス。赤く血塗られたようなファーヴニルはただ赤く塗られただけではない。

 

 白のグリモア───オーヴェロンの脚部、膝の隠し腕も内蔵された彼のオリジナルのカスタマイズ機体である。

 

 

「───あの距離で戦ってグリプスの呪縛を喰らってない。……そうか、ニャムちゃんの月光蝶で抑え込んでるのか! やるじゃないの!!」

「……カルミアか。小賢しいのが増えたな」

 セイヤとの戦闘に合流するカルミア。

 

 既にアンジェリカとノワールは撃破され、スズの機体は軽くなっていた。

 ニャムも無傷とは言えず、カルミアもこれ以上の奥の手は持っていない。

 

 現状ここにある戦力だけで、セイヤのファーヴニルリサージェンスを止める必要がある。

 

 

 さもなくば、先に行かせたケイ達が帰ってくる場所がなくなるからだ。

 

 

 

「カルミア氏!? なんすかその機体!!」

「え、あー、色々あって?」

「うっひょー! ガンダムmarkVじゃないっすか! そんなもの隠してたなんて!! 狡い、狡いっすよ!!」

「……あはは、いつものニャムちゃんでおじさん安心よ」

「……遊んでる場合じゃない」

 スズの言う通り。

 

 

 二人が話している間に、セイヤは頭部のハイメガキャノンのメガ粒子をチャージし終えていた。

 

 いつでも放てるハイメガキャノンが、三人をロックしている。

 

 

 

「カンダ、三人になれば有利だと……本気で思っているのか? 三人なら俺に勝てると、本当に思ってるのか?」

「バカ言え。俺とお前の戦績はほぼ五分だったろうが。三人なら楽勝だ。……お前を止める、セイヤ」

「……舐めるな」

 言いながら、ハイメガキャノンを放つセイヤのファーヴニルリサージェンス。

 

 散開してそれを交わす三人だが、セイヤはファーヴニルの頭部と機体制御でハイメガキャノンをニャムのニャーンXに曲げ始めた。

 

 

「ちょ、ハイメガを曲げれる機体出力って!? うわ!?」

「ニャムちゃん!!」

 直撃こそしなかったが、ニャムの機体は大きく損傷し───月光蝶が消える。

 

 そうなれば、ソレが受け止めいた物が空間を支配するのも容易い。

 

 

「機体が……!!」

「くそ、グリプスの呪縛……!! なんだこの効果範囲は!?」

 三人の機体の関節がロックされた。数十メートル離れていても、その力から逃れられない。

 

 

 光が、宇宙を包み込んでいく。

 

 

「……これは俺の呪いだ。GBNへの呪いが、俺の力になる。レイアを奪われた憎しみを、この世界に流し込め!! ファーヴニル!!!」

 ファーヴニルリサージェンスのツインアイが禍々しい光を放った。

 

 

 宇宙に光が溶けていく。

 

 まるで、この世界が泣いているように。



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姉妹

 レグナント。

 

 

 ガンダム作品に登場する大型MAとしては比較的小さな機体だ。

 

 しかし、それ故の機動力がこの宇宙では厄介である。

 せっかく近付いても機動力と火力、そしてGNフィールドによる防御力で圧倒され、地上でのレグナント戦もかなり苦戦を強いられたらしい。

 

 

 しかし、もし近付けてしまったのなら───彼にとっては機動力も火力もGNフィールドすら関係ない。

 

 

 そこは、彼の距離だ。

 

 

 

「───その程度か!! MAが!!」

 巨大な爪をツインビームサイズで受け流し、GNソードIIショートのアンカーを伸ばしレグナントの爪を一つに縛る。

 

 もう片方の腕がロックのサバーニャHellに迫るが、シールドビットがそれを弾き、弾いた腕をソードビットが斬り飛ばした。

 

 

「ケイ!!」

「任せろ!! エクリプス!!」

 後方でレヴナントに近付く敵の機体を散らしていたケイがエクリプスの砲身をレグナントに向ける。

 しかし、それこそがロックの狙いだ。

 

 放たれたエクリプスを防ぐ為にGNシールドを展開するレグナント。

 ビーム砲は見事に弾く事に成功するが、その分懐への対応が遅れる。

 

 

「本命は俺だぜ!!」

 レグナントを切り裂くツインビームサイズ。

 

 GNフィールドを使われようが、懐に潜り込めば関係がない。

 防御を余儀なくされるケイのエクリプスに相手が気を引かれた一瞬で、ロックがレグナントを破壊するのは容易だった。

 

 解放されるELダイバーを見送って、ロックはモニター越しにケイに親指を立てる。

 圧倒の一言。これがロック・リバーの新しい力だった。

 

 

「さ、流石だな……」

 狙撃まで習得してしまったロックは、間違いなくGBNの中でもトップの実力を持つダイバーになりえるだろう。

 そんな彼だからこそ、ReBondのリーダーとして頼り甲斐があるという物だ。

 

 だから、自分はエースとしての役割を果たす。

 いつかノワールに言われた事を思い出しながら、ケイは再びその決意を胸に刻み込んだ。

 

 

 

 ───その直後。

 

「───なんだ!?」

「───機体が!?」

 暴走したグリプスの呪縛が空間を飲み込み、二人の機体が動かなくなる。

 

 

 それどころではない。

 

「なんだこれは!?」

「遂にGBNがバグり始めた!!」

「俺達の勝ちなんだ!! ザマァ!! GBN!!」

 レグナントを守っていた筈のアンチレッド側の機体すらも、呪縛に飲み込まれて機体が制御不能になっていた。

 

 

「なんだよ……これ!! くそ!!」

「データ上はグリプスの呪縛……なのか? 何が起こってる……。皆は!?」

 ユメやトウドウ達、カルミア達の事が気掛かりでならない。

 

 しかし、グリプスの呪縛は二人の機体を完全に止めてしまっている。

 

 

「くそ……何が起こってんだ。それに、今の反応……」

「ユメカ……」

 時間だけが、過ぎ去ろうとしていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 グリプスの呪縛暴走数分前。

 

 

 空間を雷のように走るビームマグナムを、一機の航空機形態MSが交わしながら宇宙を駆ける。

 

「お姉ちゃん、なんで逃げるの」

「なんでって言われても……!!」

 ヒメカが乗る赤いバンシィの予想外の出力にユメは冷や汗を拭った。

 

 しかし、良く考えれば彼女の機体が弱いわけがない。

 それはケイと三人でアニメを見ながら作ったガンプラである。彼が作ったガンプラの性能は、彼女自身の方が良く知っていた。

 

 

「それでも!!」

 急旋回。

 

 変形してスラスターを吹かせ、ヒメカの死角───真下を取る。

 

 

「ヒメカにGBNで負ける訳にはいかないよね! 行くよ、これが私の新しい翼!!」

 デルタストライカーの両翼に接続された大型の兵器二つが展開。

 

 それが、宇宙を舞うように機体を離脱してヒメカの機体を挟み込んだ。

 

 

「───フィンファンネル!!」

「武器が浮く……。あのアニメの奴。けど! 大きい!?」

 ファンネル。

 

 ニュータイプの感脳波で操る、サイコミュ兵器。これがユメの新しい力。

 

 

 ガンダムUCを見たヒメカは、クシャトリヤのファンネルを知っている。

 

 だからそれがどういう武器なのか直ぐに分かって、回避行動を取った。

 

 

「……なんで」

 しかし、ライフルは放たれない。

 

 鬱陶しくなってビームマグナムをファンネルに向けて放つが、ファンネルは攻撃してくる事なくそれを避ける。

 

 

「なんなの!! なんで攻撃してこないの!! 私の事おちょくってるの!? お姉ちゃん!!」

「違うよ!!」

「近───」

 ヒメカがファンネルに気を取られている間に、ユメは彼女のバンシィに急接近。

 

 ビームサーベルを抜き、斬り払うがヒメカはなんとか反応してサーベルでそれを受け止めた。

 

 

「こうして接近出来たら、マグナムは使えない。ちゃんと話が出来るね!」

「お姉ちゃん……!!」

 歯軋りをしながら、ユメのサーベルを振り払うヒメカ。

 

 距離を取ろうとするが、ユメのデルタストライカーからは逃げられない。

 

 

 同じケイが作ったガンプラでも、こちらは出来が違う。

 

 

「どうしてこんな事するの、ヒメカ」

「お姉ちゃんを助ける為だよ!! GBNがお姉ちゃんの身体を悪くするから!!」

「そうやってセイヤさんに言われたから?」

「違う。……だって、お姉ちゃん病院で転んじゃったじゃん!! 家でも、最近お姉ちゃんの身体が変だって事くらい! 私でも分かるもん!!」

 ぶつかり合うサーベル。

 

 変形機故の機動力を除けば、出力は互角だ。

 

 

「それは……。うん、それは、私が悪い。そう、私が悪いんだよ。GBNは何も悪くない」

「お姉ちゃんはいつもそうだ。私が悪い、私がダメだって。車に轢かれたのに自分が悪いって言う!! お姉ちゃんは何も分かってない。お姉ちゃんはずっと奪われてる。お姉ちゃんは悪くないのに!! なんでお姉ちゃんばっかり辛い思いしないといけないの!!!」

「ヒメカ……」

 鍔迫り合いながら、ヒメカは溜め込んできた思いを姉にぶつける。

 

 

 彼女が大好きな姉は、そうやっていつも自分を殺してきた。

 

 友達の為に、妹の為に、見知らぬトラックの運転手の為に。

 自分が悪い。自分のせいで他人から奪ってしまう。

 

 

 そう言い続けてきた姉の姿を、妹はずっと見てきた。

 

 

「お姉ちゃんが悪い訳ないじゃん!! なんでそんな事言うの? お姉ちゃんは優しくて、自分が辛くても誰にも当たらないのに、お姉ちゃんの為にっていう私に自分を大切にしてって……そんなお姉ちゃんが!! なんで奪われないといけないの!! 私はこれ以上お姉ちゃんが傷付くのなんて見たくない!! 私がお姉ちゃんを助けるんだ!! だから私はGBNを壊すって言ったセイヤっていう人の言う通りにする。あの人がお姉ちゃんの身体がどうこうなんて言ってるの、どうでも良い。お姉ちゃんの事は私の方が知ってるもん!! お姉ちゃんは、私が守るんだ!!! バンシィ!!!!!」

「サイコフレームが……。これが、ヒメカの心」

 緑色の綺麗な光を放つ。

 

 ヒメカの心が、バンシィの力を最大限に引き出そうとしていた。

 

 

「───それでも、私は」

 自覚はある。

 

 自分に自信がなくて、いつも自分が悪いんだって、言い訳のように言ってきた。

 

 

 それは、怖いから。

 あの事故の日、痛いのも苦しいのも辛いのも、全部他人のせいだって思わなかった訳じゃない。

 けれど、そんな事をして、大切な人を傷付けたくない。友達を売って、自分だけ幸せになって何になるのか。知らない他人に当たって、そんな自分が周りにどう思われるのか。

 

 そんな事を思ったら怖くなって、全部自分のせいにしてしまおうと心の内に仕舞い込む。

 

 

 それが、六年前のキサラギ・ユメカの心情だった。

 

 

「───私は、嫌われたくなかっただけなんだ」

「……お姉ちゃん?」

「私を尊敬して、大切にしてくれる妹に。……大切な友達に。……大好きな男の子に」

 ファンネルがユメのビームマグナムと合体する。

 

 巨大な砲身を得たビームマグナム。

 それに対抗するように、ヒメカも無意識に銃口を向けた。

 

 

「誰かのせいにして、何かを突き放して、失うくらいなら……自分の中で仕舞い込んで、夢とかそういうの、一つくらい諦めても良い。……そのくらい、私は皆の事が好き!! 友達のアオト君やタケシ君も。妹のヒメカも。大好きな男の子のケー君も。皆好きなの!!」

「お姉ちゃん……」

「GBNの皆の事も好き。私の事をライバルだって言ってくれる子も、私の事凄いねって言ってくれる人も、私のことなんて見てなくて本当に強くて───それでも本心ではきっとガンプラが好きで、好きだから呪っちゃってる人も。私は皆好き。だから、戦うんだよ。これは自分の為。私が悪いのは変わらない。でも、私が悪いの、分かってるから。皆の為に戦うの!! イアちゃんを守る為に、ケー君達が大好きなこの世界を守る為に……。ヒメカを!! 安心させる為に!!」

 放たれるビームマグナム。

 

 フィンファンネル付属のエネルギーを加えたその攻撃は、ヒメカの機体には当たらずに宇宙の果てを切り裂く。

 

 

「お姉ちゃん。なんで……そんな……」

 そうして、ユメは機体の両手を広げてヒメカの前にその無防備な姿を曝け出した。

 

 ヒメカが引き金を引けば、今彼女にそれを防ぐ方法はない。

 

 

 

「ヒメカ、私を撃って。お姉ちゃんが迎えに行くから。今何処にいるのか、教えて」

「なんで……。お姉ちゃんは、GBNが守りたいんじゃないの?」

「私はヒメカのお姉ちゃんだよ? 確かにGBNは守りたいけど、ヒメカを守る事の方が大事だよ」

 ヒメカの手が震える。

 

 今ここで姉を討てば、彼女の目的は果たされるかもしれない。

 このままGBNで戦って、データが蓄積されていけばセイヤの目的は果たされるからだ。

 

 

 それでも───

 

 

「……出来ないよ。……だって、私! お姉ちゃんが大好きなんだもん!!」

「うん……。知ってるよ。ヒメカは私の事、本当に大切にしてくれてるもん。私がこのゲームのやり過ぎで、現実で転んでばっかりで、心配させちゃったよね」

「だから!! だから私は!!」

「ヒメカ、一緒にGBNをやってみない?」

「ぇ……」

 唐突な誘いに、ヒメカは目を丸くする。

 

 

 これまで何度もGBNに誘われた事はあった。

 けれど、そのどれも断ってきたから、最近はそんな事も言われなくなって。

 

 でも、なんで、こんな時に。

 

 

「ヒメカがガンダムもガンプラも、そんなに興味ないのは知ってる。……だけど、私はヒメカにきっと寂しい思いをさせてたんじゃないかなって。GBNのイベントで、ヒメカとのお出掛けを後回しにした事もあったもんね」

「それは……そんなの! お姉ちゃんがGBN好きだから! 私は……それで!!」

「やっぱり、ヒメカは私の妹だね」

「へ……」

「自分の事後回しにして、自分はそれで良いって思えちゃう。私、そんなヒメカの優しい所が大好き。……だから、もっと一緒に居たい」

「私は……」

「GBNでもね、ショッピングしたりお洋服を買えたりするんだよ。お花見も出来る。……私みたいに、歩けない子も歩けるようになる。ヒメカ、私これまであんまりわがまま言わなかった。だから、ヒメカを心配させた。都合のいい時だけ自分の事後回しにして、なんてもう止める。私は! わがままになる! ヒメカ、私とGBNで遊んで欲しい!! お姉ちゃんのお願いだから!!」

「お姉ちゃん……。そんなの、狡いよ。……私、だって……私だって!! お姉ちゃんと何でもいいから遊びたい!! お出掛けしたい!! お兄ちゃん達ばっかりと遊んでて嫌だ!! 私も!!! お姉ちゃんとゲームしたい!!!」

 本音をぶつけて。

 

 

 妹は姉に銃口を向ける。

 

 しかし、まだ手が震えて引き金を引けない。

 

 

「でも、私……お姉ちゃん……」

「大丈夫。お姉ちゃんを信じて!!」

「……うん、お姉ちゃん」

 姉を信じて。

 

 

「私がヒメカを助けるから!」

「お姉ちゃん……私、を……助けて!」

 妹はその引き金を引いた。

 

 

 ビームマグナムがユメのデルタストライカーを貫く。

 

 

「……お姉、ちゃん」

 包み込むように、爆散したきたいの両手がヒメカの機体の脇を逸れていった。



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私のわがまま

 GBNからログアウトする。

 

 

「ごめん、ケー君、皆。私、行かなきゃ」

 現実の世界に戻ってきたユメカは、携帯端末を手に取って今さっき入ったばかりのメールを開いた。

 

 妹のヒメカからの連絡。

 そこには、位置情報だけが記されてある。

 

 

「ここは……前、ケー君とアオト君が戦った廃工場」

 直ぐに地図を開いて、位置情報の場所を確認した。その場所は、以前GBNのサーバーエラーが続いていた時にアオトがケイスケとバトルをした場所である。

 

「あそこなら、歩いても行ける。車椅子でも、きっと行ける」

 しかし、今ユメカは一人だった。

 

 下半身を動かせない以上、彼女は一人で車椅子に乗るのも難しい。

 

 

「待ってて、ヒメカ……!!」

 それでも、彼女は何の躊躇いもなくベッドの上から転げ落ちる。

 這ってでも前に、少しずつ進んで、数分掛かって、彼女はようやく自分の部屋の扉を開いた。

 

 

「絶対に助けに行くから……」

 この世界は自由じゃない。

 

 MSに乗って自由に飛ぶ事も、女の子らしくおしゃれする事も、歩く事すら出来ない。

 それでも、ユメカにとって今はGBNよりも守らないといけない物がある。

 

 

 ヒメカがセイヤに連れ去られて、GBNで待っているかもしれない。

 

 その事が分かった時から、こうする事は決めていた。

 妹と喧嘩して、ちゃんとした姉として、ヒメカを迎えに行く。

 

 

 だから、こんな所で立ち止まってる場合じゃない。

 

 

「動け……動け私の身体。足が動かないがなんだ! 立てないのがなんだ! 夢が追えなくなったのがなんだ!」

 転がるように玄関に辿り着いた。車椅子に這いあがろうとして、その車椅子を横倒しにしてしまう。

 

「私には皆が居る。ケー君が居る。タケシ君やアオト君も居る。イアちゃんも、ニャムさんもカルミアさんも、スズちゃんやアンジェリカさん、アンディさん達。沢山友達がいる!! 下半身付随がなんだ!! 走れなくても、一人でお風呂すら大変でも、それでも、私はお姉ちゃんだ。だから! 立て!! 立って妹を助けに行く!! お願い、ユメ!! 私に力を貸して!!」

 GBNでの自分自身が、支えてくれる気がした。

 

 身体をゆっくりと持ち上げる。感覚がない。けれど、GBNでの事を思い出して。

 

 

「行こう……ユメ」

 ユメカは立ち上がり、玄関の扉を上げた。

 

 ほんの一瞬。

 彼女はその足で、自分の足で歩く。

 

 

 けれど、現実はGBNのようにはいかない。

 彼女は直ぐに転んで、玄関の前で転がった。

 

 

「……っ、ヒメ……カ」

 分かってる。

 

 そんな奇跡なんて起きない。

 

 

 だから、何度転んでも、這いつくばってでも、ヒメカの所に行こうと思っていた。

 

「──ユメカ、ちゃん……だよね?」

「ぇ?」

 そんな彼女に、一人の男が話し掛ける。

 

 

 彼女の家の前で、トラックを降りて立っていた一人の男。

 

 ユメカはそんな彼の事を何処かで見た事があった気がした。

 

 

「あなたは……確か、トラックの」

「サトウだ。……そう、君を轢いたトラックの運転手」

 サトウは何故こんな所で彼女が転がっているのかと思いながらも、その手を伸ばしてユメカを抱き上げる。

 

 そしてそのまま彼女をトラックの助手席に座らせると「これじゃまるで人攫いじゃないか……」と目を細めながら頭を掻いた。

 

 

「……も、もしかして私今から攫われるんですか!?」

「違う!! 違う違う!! そんな事するか!! あー、くそ!! もう!!」

 ユメカから目を逸らして「シートベルト!!」と言い放ったサトウはトラックの運転席に座る。

 

 そのまま数秒、沈黙が続いた。

 

 

「……あの、えっと……私、いかないと行けない場所があるんです」

「分かってる。……妹ちゃんの所だろ」

「ぇ……なんで?」

 想像していなかった返事に目を丸くするユメカ。

 

 サトウは「なんでだろうなぁ」と自分の頭を抱える。

 

 

「……あんたさ、俺の事……恨んでるだろ?」

「恨んでないです」

 即答。

 

 サトウは拳を強く握り、ユメカを睨み付けた。

 

 

「なんでだよ!! お前の、その足を奪ったのは俺なんだぞ!! ガンプラと、俺だ。俺の運転してたトラックが! お前を轢いたんだ!! それなのに……なんで!!」

 六年前。

 

 重体で入院していた彼女の見舞いに行ったサトウが見たのは、夢も友達も失った可哀想な女の子だったのである。

 彼女の両親がサトウに「あの子の夢は飛行機の操縦士だったんだぞ」と怒鳴りつけてきた時の事を忘れた事はない。

 

 

 本当に、痛いし苦しい思いをして、前を見れなかった彼女は───それでもその日、サトウにこう言った。

 

 

「───私のせいで、ごめんなさい」

 その子が何を言ってるのか分からなくて。

 

 サトウは逃げるように病院を後にする。

 それ以来、彼女の顔を直接見たのは今日が初めてだった。

 

 

 

「……私が悪いからっていう、私のわがままだから」

「わがまま……?」

「私は、事故でこうなっちゃって……夢も友達も失いました」

「……っ」

「けれど、これ以上何も失いたくなかった。ヤケになって、大切な友達が離れていっちゃうんじゃないかって怖くなった。貴方を責めて、嫌な奴だと思われなくなかった。……これが、私のわがまま。私は貴方が思ってる程、良い子供じゃないです」

 サトウの目を真っ直ぐに見て、彼女はそう言う。

 

 本当に、真っ直ぐな目だった。カルミアの言葉が、サトウの中で木霊する。

 

 

「……だから、私、わがままなんです。GBNがないと、私嫌だ。大切な友達と遊べなくなるのも嫌。大好きな男の子が一緒に遊んでくれなくなるのも嫌。妹が辛い思いしてるのも、嫌。……だから、私は妹の所にいかないといけない。邪魔、しないでください」

「そうか。……お前は本当に、良い子なんだな」

 溜め息を吐きながら、サトウは車のエンジンを掛けた。

 

「ちょ、聞いてました!? 私、妹の所に───」

「場所、分かってるんだろ。早く教えろ」

「ぇ……サトウ、さん?」

「妹を迎えに行くんだろ? まさか、お前そのまま這って行く気だったのか!?」

「それは……えーと、ぇ?」

「だから!! 連れてってやるって言ってんだよ!! このバカ!! これだからガキは……」

「サトウさん……!!」

 目を輝かせながら、ユメカは自分の端末をサトウに見せる。

 

 目的地は廃工場。

 奇しくもそこは、サトウがユメカを轢いた時に働いていたセイヤ達の会社の跡地だった。

 

 

「全速力で! 急いで行きましょう!」

「悪いが断る」

「なんで!?」

「安全運転第一に決まってるだろ、バカが。ほら、とっととシートベルトして後方確認を手伝う。それが助手席に座る奴の仕事!」

 そんなサトウの言葉にポカンとするユメカ。

 

 

「もう人を轢くなんてごめんだね。次免停なんてくらったら、それこそ俺が全部失うっての……。分かったか? ガキ」

「……ぁ、はい! 安全運転でお願いします! あと!!」

「あと?」

「ユメカです!!」

「……ぷっ、ハハッ。分かってるよ。行くぞ、ユメカ」

 トラックはエンジン音を鳴らして走り出す。

 

 安全運転で、気持ち早めに。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 廃工場。

 

 

 サトウはあらかじめトラックに積んでおいた車椅子を下ろすと、ユメカを座らせて「行くか」と車椅子を押した。

 

「ありがとう、サトウさん」

「これはケジメだ。えーと、確か……ここか」

 工場に入ると、サトウは個室の扉を開ける。

 

 そこには、GBNからログアウトしたヒメカが座っていた。

 

 

「ヒメカ!!」

「お姉ちゃん……本当に、来て───わ!?」

「当たり前だよ!! お姉ちゃんだもん」

 車椅子から飛び降りて、ヒメカを押し倒すように抱き付くユメカ。

 

 そんな二人を見ながら、サトウは「こんな所でイチャつくな」と目を細める。

 

 

「言っとくが、トラックは二人乗りだ。帰りは歩きだぞ」

「うん。本当にありがとう、サトウさん」

「げ……この人お姉ちゃんを轢いた人じゃん!!」

「良く覚えてるな……」

 罰が悪そうに目を逸らすサトウだが、ユメカは妹に「そんな事言ったらだめ。ここまで私を連れてきてくれたのは、サトウさんなんだから」と説明をした。

 

 

「なんで? あなたも、私と同じで、あのセイヤって人と……GBNを壊すって」

「……カンダさんに、説教されてな。やっと目が覚めた……いや、違うな。ずっと目を逸らしてたんだ。俺達大人が、子供の未来を奪う……俺が君達にした事を、また繰り返す。……そんな事、二度とあっちゃいけないのに」

「サトウさん……」

「だけど、俺に出来る事はもうない。セイヤさんは誰も止められない。……GBNは、もう崩壊する」

「そんな!」

 目を逸らすサトウに、ユメカは願うようにヒメカが使っていたログインマシンに目を向ける。

 

 今GBNでは何が起きているのか。ここ(現実)に居たら、分からない。

 

 

「サトウさん!! お願い、私をまたGBNに連れてって!!」

「おま───ユメカ、妹を置いて家に帰る気なのか!?」

「そんな事しない! ヒメカ、ログアウトしたならそのログインマシン……借りても良いよね? サトウさん。私のIDでログイン出来るようにして下さい。出来ますか?」

「ぇ……ぁ、うん。良いけど」

「出来なくはないが……」

「私は、もう一度GBNに行く。皆を助けなきゃ」

「お姉ちゃん……」

「ユメカ……」

 二人は彼女の真剣な表情に圧倒された。

 

 

 車に轢かれても、夢を失っても、誰にも何も願わなかった彼女が───今、誰かの助けを必要としている。

 

 断る理由があるだろうか。

 

 

「ダメ」

「ダメだな」

「ぇ……そんな」

 しかし、断られた。

 

 ユメカは視線を落とす。

 

 

「お姉ちゃん、言ってくれたよね。私とGBNで遊んでくれるって」

「ヒメカ……?」

「もう乗り掛かった裏切りの船だ。俺もこのまま帰る気はない。この工場にはまだログインマシンが沢山あるからな。準備して、三人で乗り込むぞ。GBNを救いにな!」

「サトウさん……!!」

 サトウは言うと同時に、準備に取り掛かった。

 

 その間、ヒメカは自分がログアウトする前に起きた事をユメカに話す。

 

 

 

「機体が動かなくなった……?」

「うん。お姉ちゃんの機体を撃って直ぐ、ゲームの世界を嫌な光が包み込むようになって……。光が、そこに居た皆のプラモを壊したの」

「光が……」

「ハイメガキャノン、か」

 二人の会話に、準備を終えたサトウが憶測を口に出した。

 

 

 セイヤのファーヴニルリサージェンス。その必殺技。

 

 それは膨大なチャージ時間が必要だが、放たれればその宙域の機体を薙ぎ払う事くらい訳がない技である。

 サトウはそれを知っていて、もしそうなったのなら───

 

 

「……もう、手遅れなんて事になってなければ良いが」

「そんな……」

「お姉ちゃん……」

「とにかく急ぐぞ!! 社長を止める。……未来の子供達の為にな」

 ───そこに居た物は全滅していてもおかしくなかった。



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侵食される世界

 空の色は光の色。

 

 

 その光を包み込むのは、闇の色と表せば良いのだろうか。

 

 闇が、世界を覆い尽くしていく。

 

 

「セイヤ……これは、なんだ!?」

「俺の呪いだ、と言いたい所だが。違うな。GBNの崩壊が始まってるんだろ。グリプスの呪縛がバグって範囲がイカれてきてる……なるほど、でもそうだな。やっぱり、これは俺の呪いなんだ!! 俺が果たした、GBNへの復讐!! その始まりのなぁ!!」

 この空間で唯一動けるのは、セイヤのファーヴニルリサージェンスただ一機のみだった。

 

 バグにより膨張したグリプスの呪縛が、この宇宙を塗り替えていく。

 

 

 呪いだけが、侵食した宇宙。

 

 

 収縮される光は、ファーヴニルリサージェンスにのみ集まっていった。

 

 

 

「全て、闇に葬ってやる」

「おいセイヤ!! 待て!! くそ、待てよ!! 動け、動けよmarkReV!!」

「何故動かんジ・Oとか言ってる場合じゃないっすけど、これは……。兄さん!!」

「……ここまでか。ユメ、タケシ達はどうなった?」

 チャージが完了する。

 

「さようならだ、この世界の秩序諸共、消えて地上から空を見上げる事だな!! この世界が崩壊していく様を!!」

「セイ───」

「ハイメガキャノン!!!」

 ファーヴニルリサージェンスの額から放たれるメガ粒子砲。

 

 それは、その場にいた何もかもを巻き込んで蒸発させる勢いで放たれた。

 

 

「なんだ? 光───」

「何々!?」

「何が!?」

 トウドウ達も。

 

 

「……お姉ちゃん」

 ヒメカも。

 

 

「タケシ!!」

「くそ……こいつは、そもそも避けれないだろ」

 ケイもロックも。

 

 

 

 消える。

 

 

 全て。

 

 

「……っ、ふふ。はは……あっははははは!! はーっはっはっは!! 終わりだよ……。そうだろ、レイア。もう直ぐ、会いに行ける」

 現実世界のログインマシン。

 

「今、そっちに行くから。この世界と共に……」

 そこで彼がGBNにログインする中。

 

「レイア……」

 彼が座る机の上には、大粒の涙が流れて水溜りを作っていた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ReBondフォースネスト。

 

 

「ケー君!!」

「ユメカ……!! それに、え? もしかしてヒメカなのか……? そのハロ。そして後一人、誰?」

「私はヒメカじゃない!!」

 GBNにログインしたユメの前に、撃破されてフォースネストに戻ってしまったケイ達が現れる。

 

 サトウの言っていた通り、間に合わなかったらしい。

 

 

「あん? じゃあ誰だよ」

「お兄さんには関係ないです」

 ユメが連れてきたハロは、ログインの初期設定を終わらせ───アバターの構築が完了してその姿を変貌させていった。

 

 黄色のハロだった人物は、短い金髪の女の子に変身する。

 

 

「私はヒメ。と、通りすがりのダイバーです!! お姉ちゃ───ユメちゃんの友達で!! えーと!! なんか!! 役に立てたらと思って!!!」

「と、言う事で」

「ヒメカちゃん……いや、ヒメちゃん!! 歓迎するっす!! 歓迎するっすよぉ!! お久しぶりっすねぇ〜!!」

 泣きながら()()に抱き付くニャム。

 

 ヒメは苦笑いしながら「どうも……。というか! それどころじゃないですよね!」とニャムを突き放した。

 

 

「GBNを救うんでしょ!」

 腕を組んでそう言うヒメ。

 

 しかし、彼女の言葉に誰もが下を向く事しか出来ない。

 

 

「でも、俺達は───」

 もう空には上がらない。

 

 制空権は既にアンチレッドに奪われている。

 それに、戻ったとして近付けば機体が動かなくなる───しかもあの範囲で、だ。

 

 自分達に出来る事なんて、もうない。

 

 

「俺達は? 何? お兄ちゃん言ったよねガンプラが好きだって。好きなもの、諦めるの? 好きなもの諦めるような人なんて知らない。そんな人、いつかお姉ちゃんの事だって諦める。そんな人に!! お姉ちゃんはあげない!!」

 そう言ってヒメは大声でケイの言葉を遮る。

 

「ひ、ヒメカ……っ!!」

「ヒメカ……。いや、そうだよな。ヒメカ、いや……ヒメのいう通りだ。こんな所で諦められない」

「ケー君……」

 顔を真っ赤にするユメを他所に、ケイはコンソールパネルを開いで現状を確認し始めた。

 

 

 やれる事なんてない。

 

 違う、やれる事を探す。

 

 

 GBNのサーバーエラーで何も出来なくなった時だって、彼等はそうして来たのだから。

 

 

 

「───で、その不審者は誰?」

 ずっと気になっていた事を、ロックがついに口にした。

 

 成り行きでついて来たサトウだが、確かにこれは居心地が悪い。

 

 

「いや、えーと……俺は」

「ありがとうな、サトウ。ユメカちゃんを助けてくれたんだろ?」

「それは……その。これは、大人の責任、だから」

「あぁ。だから、ありがとう」

「なんだ? おっさんの知り合い?」

「お姉ちゃんを轢いた人」

「マジかよ」

 ヒメにそう言われて、ロックは目を細める。

 

 アンチレッドの人間がユメカを助けたというのだから、どう反応したら良いのか分からない。

 

 

「サトウ、お前は何も知らないんだよな?」

「……何も、なんて事はない。けれど、俺が知ってるのはもうセイヤさんがやり終わった事だけだ。運営の想像通り、俺達アンチレッドの根本の目的はELダイバーをコアにした強力なMAとの戦闘データでGBNのサーバーを壊す事。レグナント、ディビニダド、エクストリームガンダムディストピアフェイズ、そしてデストロイでな」

「デストロイ!?」

 サトウの言葉に、カルミアは目を丸くした。

 

 

「おい、ケー君」

「デストロイなんて、GBNに現れてない。GBNに現れたのは、その三機が三機ずつの九機だけだ」

「何? でも、セイヤさんは十機で……デストロイ計画だって」

「ほんまる……って事すか!?」

「セイヤはまだ何か隠してる。そもそもあんな状態で俺達にちょっかいをかけてくる事がおかしいんだ。それこそ、俺達を放っておけばチャンピオンとかがMAを破壊してくれる」

 カルミアの言う通り。

 

 ケイが調べたデータでは、宇宙のMAも既に全滅が確認されている。

 

 しかし、バグは治らない。

 

 

 セイヤが隠している、最後の鍵。そのデストロイこそが、計画の柱。

 

 

「イアは……そこにいる」

 MAが全て破壊されたというのに、イアは戻ってこない。

 

 最後の一機。

 そのコアにされているというなら、全てが納得のいく事だ。

 

 

「けどよ、どこに居るんだよそのデストロイは? 地上にも宇宙にも居なかったんだろ?」

「ロック氏にしてはまともな意見を言いますね……。その通りっすよ。どこに隠してあるって言うんすか?」

「今めっちゃ失礼な事言ったよね!? いやでも、隠してある……か!! それだぜニャムさん!!」

「はい?」

 突然叫ぶロックに目を丸くするニャム。

 

 ロックは続けて、こう口を開く。

 

 

「裏世界! だろ、デストロイの───イアの居場所。あんたらアンチレッドが隠れ家にしてたな! あんたなら分かるんじゃないか? 裏世界の出入り口」

「そうか……セイヤさんはデストロイをあえて出撃させなかった。……あぁ、俺は分かる。俺達が裏世界に作ったフォースネストの入り口が」

「それはどこだ!?」

「ここの下、だよ」

 静かに答えるサトウ。

 

 一瞬静まり返った一同は、あまりにも衝撃的な発言に目を丸くして固まってから「「「えぇぇぇぇえええええ!!!???」」」と一斉に悲鳴のような絶叫を上げるのだった。

 

 

 

 裏世界。

 

「……イア、これが終わったら、俺と友達になってくれ。今は苦しいかもしれない。けど、セイヤさんがきっと君を救う。……そして、俺達は裏切り者に制裁を与えるんだ。俺達から全てを奪ったガンプラに、ケイスケに!!!」

「……アオ、ト。……辞めよ……う? そんな事……!!」

「そんな事? 変な事言うなよ、イア。……これはお前の為なんだ」

「アオト……?」

「アイツは他人から全部奪うんだ。……ユメカから足と、夢を。……俺からガンプラを、父さんを、ユメカを!! 絶対に!! 許さない!!」

「キミは……そんなに、ケイの事を憎んで……」

 空間が歪んでいく。

 

 

 その時は、刻一刻と過ぎ去ろうとしていた。



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グリプスの呪縛

 宇宙。

 

 

「MAは全て破壊した、GBNの観測でもフィールドに異常発生した機体はない。……なのになぜ、バグが消えない」

 クジョウ・キョウヤは破壊したMAの眼前で固まっていた。

 

 仲間達の活躍で、地上と宇宙───合わせて九機のMAは破壊された筈である。

 

 

 しかし、GBNのサーバーエラーは直らない。

 

 それどころか、今まさに悪化して来ているともいえるようだ。

 

 

 世界が、割れていく。

 

 

「───消えないさ、憎しみはな」

「君は……」

 そんなキョウヤの前に、セイヤのファーヴニルリサージェンスが現れた。

 

 彼の機体は禍々しい程の光を放ち、その憎しみの呪いをGBNに放出し続けている。

 

 

「セイヤ……」

「よう、チャンピオン。遊びに来たぜ」

「君を倒せば、このバグが治る……なんて事はないんだろうな」

 その禍々しい光はバグではない。

 

 セイヤがガンプラに込めた憎しみと呪い。

 その想いが、彼のファーヴニルリサージェンスを突き動かしているのだ。

 

 だからそれはブレイクデカールのようなチートによる力ではない。

 GBNのサーバーへの負荷により、多少の影響はある。しかしそれは、セイヤ本人の本当の力そのものだ。

 

 

「……素晴らしいガンプラだと、思うよ」

「チャンピオンに褒められるなんてな。光栄だ。……消えてくれ、チャンピオン。俺の計画の為に」

 言いながら、銃口を向けるセイヤ。

 

 すかさず反応して、機体を翻そうとするキョウヤだが───しかし、セイヤの放ったライフルはチャンピオンのAGE2マグナムの脚部を擦る。

 

 

「───っ、駆動系が……麻痺している。機体が重い!!」

「グリプスの呪縛だ。流石はチャンピオンの機体、その辺のボンクラが作った機体とは違って直ぐに動けなくなる事はないな……だが、これで俺でもお前と対等に戦える!!」

 接近。

 

 両手に持ったハイパービームサーベルが、キョウヤのサーベルに受け止められた。

 

 

「見くびってもらっては困るな……」

「なんだと……」

「私は、既に全てのダイバーと対等だ!! そして、その上で、このチャンピオンの称号を得ていると自負している!!」

 セイヤの機体を弾き飛ばすキョウヤ。

 

 そして放たれたライフルはIフィールドに弾かれるが、防御の隙にキョウヤのAGE2マグナムはスラスターを吹かせてファーヴニルリサージェンスの懐に入り込む。

 

 

「宇宙世紀の大型MSの弱点はその大きさそのものだ!!」

「懐に入れば勝てると思ったか、チャンピオン!!」

 展開される両膝の隠し腕。

 

 しかし、機体の形状を見て隠し腕に気が付いていないチャンピオンではない。

 

 

「オーヴェロンの隠し腕。勿論分かっているさ! そして、それを超えてこその勝利を見据えている!!」

「目に見える物だけで語るから、お前達は何も見えていないと言われるんだよ!!」

「何!?」

 突如四方八方からロックオンされた警告音が鳴り、キョウヤは変形して一気に距離を取った。

 

 そのキョウヤの機体を()()()()()が追う。

 

 

「ファンネルだと!?」

「流石だ、チャンピオン。素晴らしいよ、お前は。きっとお前程強ければ、俺も守れたんだろうな……レイアを」

 キョウヤを取り逃し、ファーヴニルリサージェンスの背部やシールドバインダーに収容されるファンネル。

 

 隠し腕やムーバブル・シールド・バインダーだけではない。ファンネルまで用意されている機体の完成度にキョウヤは唖然とした。

 

 

「……なるほど、ファーヴニルにオーヴェロン、ディマーテル。三種のグリモアの力を打ち消す事なく繋ぎ合わせた最高の機体だ」

「この世界で一番強い男に褒められた所で、それは皮肉にしか聞こえないんだよ」

「皮肉さ。……それほどの力を持ちながら、君は!!」

「それでも、守れなかった。だから! 壊すんだよ!! 憎しみを流し込め、ファーヴニルリサージェンス!!!」

 セイヤの機体から放たれる波動。

 

 それが、キョウヤのAGE2マグナムを抑え込む。

 

 

「なんというプレッシャーだ……」

「堕ちろ!! チャンピオン!!」

 放たれるライフル。

 

 機体が思うように動かない。

 しかし、突如AGE2マグナムの前に二機のMSが現れ、放たれたライフルがセイヤのライフルを相殺した。

 

 

「……なんだ」

「───これ以上、壊させない」

「───これ以上、奪わせない」

「───リク君……ヒロト!?」

 キョウヤの前に現れた二つのMS。

 

 それは、二つのビルドダイバーズ。この世界を救った、少年二人の機体。

 

 

「ビルド……ダイバーズ」

 セイヤは憎しみの限りの強さで操縦桿を握る。

 

 二年前。

 GBNを救ったのは、一人の少年とELダイバーの少女だった。

 

 

 あの日、セイヤがどれだけGBNへの憎しみを増加させたか分からない。

 

 レイヤは救わなかったのに、サラというELダイバーだけが救われた。

 しかしそれは、ヒロトも思う所があった事である。

 

 

 ヒロトもまた、この世界で出会った人の少女を失っていた。

 

 その少女は世界がサラを救う前に、この世界を救う為に自ら消えることを選ぶ優しい女の子で。

 少年は深く傷付いて、立ち直るのにとても時間が掛かってしまったが───今、彼はここに居る。

 

 

 彼女が守った世界を、守り切る為に。

 

 

「キョウヤさん!!」

「あぁ、頼もしい限りだ。……セイヤ、私達の布陣は完成した!」

 二人だけじゃない。

 

 リクの、ヒロトの、GBNの仲間達で宇宙に登った者達がセイヤを包囲していた。

 

 その中で、セイヤは独り。

 

 

 孤独の内で、彼は笑う。

 

 

「そうだよ……そうだ。そうこなくちゃなぁ! 悪者を倒す為、お前達はここに集まった。素晴らしい!! それこそが力だ。仲間、友情、守りたい大切な物を守る為に、お前達はそうして力があるから、戦える!! 俺にはそれがなかった!!」

 守れなかった。

 

 どれだけの事をしても、あの時、守らなければいけない物を。

 

 

「だから俺は壊すんだ!! 俺は弱い。見せ付けるな!! お前達の強さを!! お前達の力を!! 弱い俺を、寄ってたかって、絶望を見せる。俺に無かった、俺が失った物を見せる!! クガ・ヒロト!! お前は分かる筈だ!! 失った者の気持ちを!! ミカミ・リク!! お前も分かる筈だ!! 失うかもしれないという恐怖を!! クジョウ・キョウヤ!! お前も分かる筈だ!! ガンプラは楽しい……それなのに!! それなのに、俺は!! そのガンプラに裏切られた!! 分かるか? 俺の、この絶望。この呪いが、お前達に、分かるか? 分からせてやる。なぁ……これが!! 俺の奪われた世界への、復讐だ!! この世界の終わりを見届けろ!! ブレイクバーストぉおお!!!」

 ファーヴニルリサージェンスを包み込む禍々しい光が、一瞬でこの宇宙を包み込む。

 

 

「なんだ!?」

「ブレイクデカール……」

 ブレイクシステムを使わずして、チャンピオンの機体すら足を止めて見せたセイヤの機体の力。

 

 それが、ブレイクシステムによりさらに悍ましい程の力を持ってこの世界を包み込まんと放たれた。

 

 

 空間が割れ、世界が歪んでいく。

 

 

「こんな……力が」

「ダメだ、これ以上されたらGBNが!!」

「……っ。止める!」

 ヒロトがコアガンダムの換装形態───アースリィガンダムのライフルを放った。

 

 ライフルはファーヴニルリサージェンスの足を直撃するが、爆散した筈の足は直ぐに修復される。

 

 

「何……!?」

「避けるまでもない」

 放たれるライフル。

 

 その一発がハイメガキャノンのような威力の攻撃を、ヒロトは避けきれずに機体の左腕をそのまま全部持っていかれてしまった。

 

 

「……全員で掛かってこい。チートでもなんでもいい。俺は、何もかもを捨ててでも、この世界を終わらせる」

「セイヤ……」

 数百機。

 

 GBNの有志全てを相手に、臆さないセイヤとダイバー達が睨み合う。

 

 

「……さぁ、始めようか。GBNのダイバー。この世界の終わりを」

 しかし、それこそがセイヤの目的とは知らずに。



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サトウの決断

 ヒメ以外の五人がサトウに掴みかかる勢いで問い掛ける。

 

 

「ここの下ってどういう事だよ!!」

「どういう意味なんすか? 下って」

「そのままの今だって。ここのフォースネストの下の空間、バグで開いた穴に裏世界の入り口があるんだよ」

 五人から逃げるように後退りしながら、サトウは両手を上げてそう言った。

 

「なんでそんなことに?」

「イア……が、原因って事か?」

 目を丸くして、ケイは何かに気が付いたように口を開く。

 

 

 以前、ロックとケイが二人だけでGBNにログインしていた時。

 

 イアが暇だから、二人でバトルをしてみたらという提案をしてきた事があった。

 そのバトルで、イアの情報量によりサーバーがエラーを起こしてバグが発生したという事を思い出す。

 

 

「そう。ELダイバーイア。原因は分からないけど、GBNからログアウト出来ないELダイバーなんだろ? ここや他の場所であの子が起こしたバグが、世界に割れ目を作って裏世界の入り口になってるって訳だ」

「それで、このフォースの下って事か」

「因縁だよな。俺達、セイヤさんが作ったフォースが使っていたフォースネスト。……この場所の下で、アンチレッドが暗躍していたんだから」

「確かにな……」

 目を細めて頷くカルミアに、サトウは突然頭を下げた。

 

 そうして、彼はこう続ける。

 

 

「今更、何言ってんだと思うかもしれないです。けれど、カンダさん。……俺は、どうしたら良いか分からない」

「サトウ……」

「確かにカンダさんの言う事は正しい。俺達が間違ってるなんて、そんな事は分かってるんだ。俺も、きっとセイヤさんも!! けれど、止められないだろ!! 分かっていても、GBNが憎いんだから!! なんで……なんでカンダさんは、許せたんだよ!!」

 縋るようにカルミアの前で泣き崩れるサトウ。

 

 

 ガンプラに全てを奪われた。

 

 道路に転がったガンプラを拾おうとした女の子を轢いてしまって、尊敬する社長のセイヤはGBNに大切な人を奪われる。

 GBNで誇りを失う人が居て、大好きな女の子が怪我をして、夢を奪われて、友達と友達で居られなくなった。

 

 アンチレッドの仲間はそんな風にガンプラを───GBNをどうしようもなく憎んでしまった人達の集まりである。

 

 それでも、カルミアはアンチレッドを裏切った。

 

 

 彼も、レイアという大切な仲間を失った筈なのに。

 

 

「俺は……セイヤさんみたいにレイアの事を異性として好きだった訳じゃない。けど、女の子の友達として……大好きだった!! あんたもそうだろ!! カンダさん、あんたも!! レイアの事を大切にしていた筈だ。それなのに!! なんで!!!」

「サトウ、俺にはな……レイアと同じくらい、大切な仲間が出来ちゃったんだよ」

「カンダ……さん」

 カルミアの言葉に、サトウは固まってしまう。

 

 

 そうして彼は、カルミアの周りに立つ少年少女達を見渡した。

 

 

「勘違いするなよ、サトウ。俺はGBNを許してなんてない。きっとこの恨みは一生消えないだろうな。当たり前だ。失ったのはもう二度と戻ってこないものなんだから。時間も、夢も、人も、戻って来る事はない。……だけど、まだ失ってないものがある。俺は、新しく出来た大切な物をまた失いたくない。この形の大切な青春の時間も、夢も、関係も、もう何も失いたくない。だから、俺は戦うんだ」

 サトウの肩を叩いて、そう言ったカルミアを見てケイ達はお互いに顔を見合わせる。

 

 

「俺達も、カルミアさんが大切です」

「ケー君……」

「カルミア氏はジブン達の大切な仲間っす。そうやって、ジブン達の事を大切にしてくれる模範的な大人。ジブンは、カルミア氏の事が好きっすよ」

「ニャムちゃん……」

「カンダさん……愛されてるんですね」

 納得したようにそう言って、サトウは立ち上がった。

 

 

「ついて来てくれ。俺はやっぱり、GBNを許せない。……けれど、それ以上に俺は俺を許せない」

「サトウさん……」

 ユメを見ながらそう言うサトウは、一度目を閉じてからこう続ける。

 

「子供の夢を奪っておいて、その子供達の夢をまた奪うなんて……間違ってる。思い出したんだ。俺達の仕事は、子供に夢を届ける仕事だって」

 ガンプラの運送業。

 

 

 届けたガンプラを見て、笑顔になる子供達が好きだった。

 

 

 サトウはフォースネストを出ると、近くにあった巨大な木まで歩く。

 

 そしてそのまま、木にぶつかるように真っ直ぐ進むと、彼はその木に吸い込まれるようにして消えた。

 

 

「なんだ!?」

「このオブジェクトがバグって、当たり判定がなくなってるって訳だ。そしてその裏に、裏世界への入り口がある」

 木の中から聞こえてくるサトウの声。

 

 こんな単純な場所に隠してあったとは、誰も思っていなかっただろう。

 

 

 ケイ達はヒメも含め、全員で頷いて木の中に向けて歩いた。

 

 

「待て」

 しかし、何故かサトウがそれを止める。

 

 

「罠かもしれないって……思わないのか。俺を信じるのか? 俺は、君達の色んな物を壊した張本人なんだぞ?」

 木の中から聞こえてくるそんな声。

 

 確かにサトウはアンチレッドのメンバーだ。

 痛い話だが、ケイ達はカルミアに一度裏切られている。

 

 

「信じるよ」

「うん。私も信じる」

 ケイとユメの真っ直ぐな言葉に、サトウは困惑した。

 

「どうして……」

「サトウさんがガンプラを好きなのは、伝わってくるから……かな。それに、カルミアさんの仲間ならサトウさんも俺達の仲間だ。ガンプラが好きな、GBNの仲間」

「サトウさんは私の事を助けてくれた。私の事が憎い筈なのに。……それに、そもそもあの事故でサトウさんがもう少しでもハンドルを切るの遅れてたら、私は死んでたってお医者さんが言ってたんです。私は私が悪いと思ってるけど、誰も悪くないとしたら……私の命を繋いでくれたのはサトウさんとカルミアさんだから」

 子供達の真っ直ぐな言葉。

 

 サトウはやっと理解する。この真っ直ぐな気持ちを守る為に、カルミアは自分達から離れていったのだと。

 

 

「それに、俺達にはもうあんたしか頼れる人は居ないしな」

「何言ってるのか分からないけど、お姉ちゃんが許すなら私は許す。……うん、お姉ちゃんを助けてくれた人だもんね」

「ジブンもそれなりに大人として、皆さんには学ばせて貰ってます。間違えたって良いじゃないっすか。過ちを気にやむことはない、ただ認めて次の糧にすればいい。それが大人の特権だ。……フル・フロンタルの名言っすよ!」

「って訳よ、サトウ」

 言いながら、カルミアは木の中に足を踏み入れて、座り込んでいたサトウの肩を叩いた。

 

 

「力を貸してくれ。俺達に」

「……カンダさん。はい! 案内します。こっちです」

 サトウを先頭に、ケイ達は地下基地のような場所を進んでいく。

 

 ジブン達のフォースネストの下にこんな場所があるとは思っても見なかったが、運営すら見付けられなかったバグの裏世界だ。無理もないだろう。

 

 

「ジャブローみたいだな」

「じゃぶろー?」

「宇宙世紀……って言っても分からんか。えーと、なんて言えばいいんだ?」

「宇宙世紀、なら分かります。ユニコーンのアニメの奴だって、お姉ちゃんが言ってたから」

「おー、それなら。宇宙世紀の世界のアマゾン川ら辺に作られた巨大な地下基地だ。こんな感じで地下にビルとか立ってんだよな───ってか、ヒメ様設定はもう良いのか? お姉ちゃんお姉ちゃん言ってるけど」

「……ッハ。私はヒメです。ヒメカじゃないです」

「へいへい、ヒメ様」

 ロックに言われてハッとするヒメだが、ユメ達はそれを見て微笑ましく笑った。

 

 この微笑ましい光景を、まだ失いたくない。

 

 

「ここから先は、MSが出せる。分からないけど、格納庫まで行けばデストロイがそこに居るかもしれない」

「サトウにもそこまでは教えてなかったって事か。セイヤの奴、もう誰も信じてないんじゃないのか……」

 カルミアやサトウはセイヤとは一番付き合いのある仲間である。

 

「俺も、デストロイは出撃してると思ってたんで……」

 そのサトウにも、セイヤはデストロイガンダムの所在を教えていなかった。

 

 

「まぁ、そうなるとビンゴだろうねぇ。本命を隠す、セイヤの考えそうな事だ」

 目を細めてコンソールパネルを開く。

 

 

 この先に、イアがいるなら───

 

 

「行こう、皆。大切な仲間を迎えに」

 ───迷わずに進め。

 

 

 大切な仲間を守る為に。



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宿命

 機体に乗り込んで初めて感じたのは違和感だった。

 

 

「シールドビットが使える?」

 自分の機体の武装欄を確認すると、地上では使えない筈の武装が使用可能になっている。

 

「おじさんもインコムが使えるぞ」

「私も、ロングレンジフィンファンネルが……」

 ReBondフォースネストの地下に存在していた裏世界。

 

 アンチレッドの巨大地下基地となっていた底では、重力フィールドにも関わらず無重力フィールド限定武装の仕様が可能になっていた。

 これも裏世界特有のバグなのだろう。

 

 そうなると、イアが乗っているというデストロイが動いたときに相手もソレを使ってくるという事だ。

 バグを良いとは言えないが、こちらに都合が良いことばかりではないという事だろう。

 

 

 それに、オールレンジ攻撃の事を考えるとどうしてもアオトの顔が頭に浮かんだ。

 

 

「いる、かもな」

 ケイはふとそんな言葉を漏らす。主語がないそんな言葉だったが、ロック達はその意味がなんとなく分かった。

 

 

「こっちだ。この先に格納庫が───」

 先行するサトウの搭乗機体はビギナギナII。丸鋸の着いた尾っぽのような特徴的な左腕を持つ赤い機体である。

 

「───なんだ!?」

 そんなビギナギナIIが角を曲がった次の瞬間───機体の左脚をビームが貫いた。

 

 

 ジャンプしてその場から離れるサトウ。彼が離れた次の瞬間、機体の居た場所を何もない空間からビームが貫く。

 

 

「違う、クリアファンネル……か」

 何もない───は、語弊があるかもしれない。

 

 そこには透明な素材で作られたファンネルが停滞していて罠として張り巡らされていた。

 

 

「……アオト」

「裏切り者がいるな」

 曲がり角の奥。

 

 一機のMSがケイ達を出迎えるように立っている。

 

 

 イージスの改良機。

 

 その名もイージスブレイク。盾と破壊の名を冠するガンダムだ。

 

 

「なるほど、本当にセイヤさんは俺の事も信用してなかったんだな。アオト君がここに居るなんて、俺は知らなかった」

「当たり前だ。きっと、セイヤそんは俺の事も信じてない。……けれど、別にそれで良いじゃないか。GBNを壊せるなら!!」

 クリアファンネルがケイ達を囲むように放たれる。

 

「アオト!! 話があるんだ!!」

「聞く気はない!! 消えろ、忌々しいガンプラと一緒に!!」

 放たれるクリアファンネル。ケイ達は散開して、地下基地の建物を遮蔽にしながらファンネルを避けた。

 

 

「アオト君だけか? サトウ、セイヤがここに起きそうな奴なんて分からないよな」

「俺には皆目見当もつきませんよ。もう、セイヤさんが何を考えてるのか……俺にはさっぱりで」

 それでも、ガンプラが憎い。その気持ちで集まったのがアンチレッドである。

 

 

 そもそも初めから、彼等に仲間意識なんてなかったのだ。それでも、カルミアやサトウはセイヤの事を大切な仲間だと思っている。

 

 

「何処で歯車が狂ったんだか。……ケー君!! ここは任せても?」

「カルミアさん……。はい!!」

 二人はそれ以上言葉を交わす事なく、ケイとユメとロックが他のメンバーを守るように立ち回り始めた。

 

 今はアオトよりイアの方が大事である。

 しかし、彼を止めなければこの先には進めない。

 ブレイクシステムを使われたら、撃破しても復活してしまう以上、彼を止める役目が必要だ。

 

 

 それをこの三人に託す。

 

 

「お姉ちゃん?」

「ヒメ、お願い。私達はアオト君と話したいから、カルミアさん達を助けて欲しい。きっと、ヒメは皆を助けてくれるって信じてるから」

「……うん。分かった。お姉ちゃんがそう言うなら、私はそうする!」

「こっちよヒメ様。風穴を開ける。突っ込むぞ!!」

 レッドウルフがメガランチャーを放ち、サトウを先頭にニャムとカルミアとヒメが突き進んだ。

 

 そうはさせまいとブレイクビットを飛ばすアオトだが、ビットはユメにライフルで落とされる。

 

 

「よう、アオト。久し振りに遊ぼうぜ」

「アオト君、今度こそ私達の話を聞いて欲しい」

「お前を止めて、連れ戻す。また前みたいに、皆で遊ぶんだ。壊れても、直せば良い。……俺は、お前の言葉を信じるぞ!! アオト!!」

「全部壊してやる。直せないくらいに、全部だ!!」

 思いの丈を前に。

 

 四人は昔のように向き合って、昔とは違う場所を見ながら歩き出した。

 そして、その道が再び交差する。この先でまた一緒に歩く為に。少年達は顔を上げた。

 

 

 

「良かったんすかね、三人に任せて」

「男の子ってのはね、殴り合って友情を深めるものなのよ。ユメちゃんもロッ君も居るし。心配はしなくて良いでしょ。……それよりも、コレよ」

 アオトのファンネルによる包囲網を抜けて、カルミア達は地下基地の最新部に辿り着く。

 

 

 建物の立ち並ぶ巨大な地下基地。

 

 その場所の中心に、デストロイガンダムが仁王立ちしていた。

 

 

 

「イアちゃん、なんでしょうか」

「多分な」

「俺の知る限りはデストロイガンダムは一機です。……俺の知る限り、ですけど」

 バトルフィールド一つ分。巨大なエリアの中央に位置するデストロイガンダム。

 

 まるでこうなる事を予知していたかのように、その周囲には見張りのNPD機体が何機も配置されている。

 

 

「あれ、なんです?」

 ヒメが目を凝らして見ると、デストロイガンダムはその足元から大量のケーブルに繋がれていた。

 

 そのケーブルからは電流や炎が溢れ出ている。電流ならともかく、燃えているのはおかしい。

 

 

「あれも、ガンダムのアニメにある奴なんです?」

「いや、そんな事はないっすね。ジブンにも分からないです」

 首を傾げるヒメにそう答えるニャム。

 

 ガンダムで彼女が知らない事を他の誰かが知る筈もない。ただつまり、それはセイヤの目的に関係があるという証拠でもあった。

 

 

「あのケーブルでELダイバーとしての負荷をGBNに与えてるって事、なのかねぇ」

 カルミアが目を細めてそう言うと同時に、彼等の周囲の空間が砕ける。

 

 こうしている間にもGBNの負荷は高まっているのかもしれない。立ち止まってはいられなかった。

 

 

「チャンピオンにメールは送ったが、返信はなし。運営からのメッセージだと、曰く今チャンピオン達は宇宙でセイヤとやりあってるらしいが……」

 確かにセイヤは強いガンプラファイターである。

 

 レイアの事がなければ、GBNでその名前を上げていた筈だとカルミアは確信していた。

 だから、きっとあのチャンピオンとも互角に戦える力があるというのは納得できる。ただ───

 

 

「……GBNが上手い奴等は殆ど宇宙に上がった筈だ。セイヤがソレ全部を一人で止めてるってのは、なんのバグよ」

 宇宙のMAを止めるためにタイガーウルフ達のような手練れのダイバーもチャンピオンと共に行動している筈だ。

 

 それら全てがぶつかって、セイヤは未だに負けていないのだという。

 

 

「バグ、なんでしょうね。二年前の有志連合戦では、ブレイクデカールを使っていたプレイヤーの機体は撃破されても復活するとかあったらしいですし」

「ともあれ、動けるのが今は俺達しか居ない以上。おじさん達でやるしかないのよね……トホホ」

「でも、ならなんで兄さんはジブン達を落として地上に戻し───」

「……来ますよ」

 ニャムの言葉を遮るように、ヒメが攻撃の反応を三人に伝えた。

 

 放たれるビームやミサイル。

 どうやら見張りにバレたらしい。

 

 

「───ったく、待ってろよイア。今助けてやるからな!!」

 言いながら、カルミアはミサイルとメガランチャーを放って飛んでくるミサイルを迎撃する。

 

 

「中身がイアならデストロイを撃破したらイアも死ぬ事になる。ちょっと痛い思いは我慢してもらうが、コックピットを叩かずに機体を止めるの優先で動くって事でいいかね? ニャムちゃん」

「そうしましょう。イアちゃんに何かあった嫌ですからね!」

 その間に四人は散開。

 デストロイガンダムの周囲を囲むように、NPDの機体を撃破していった。

 

 

「迎えに来たぞ、イア。レイアの呪縛をお前が受ける必要はない。……皆の所に帰ろう。おじさん達は、その為にここに来たんだから」

 レッドウルフがメガランチャーを放つ。

 

 デストロイガンダムが動き出し、そのビームはまるで見えない壁に吸い込まれるようにして消え去った。

 

 

「カルミア……。皆!!」

 イアが動く。

 

 その機体もまた、大地を揺るがして立ち上がるのだった。



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激闘ダイバー達

 宇宙は禍々しい光に包み込まれていた。

 

 

「早いな……!」

 タイガーウルフのジーエンアルトロンの背後を取り、その左腕をビームサーベルで切り飛ばすセイヤ。

 

 ファーヴニルリサージェンス。

 彼の赤い機体が、まるで閃光のように宇宙を駆ける。

 

 

「消えろ、犬が」

「ウルフだ。間違えんじゃねぇ!!」

 しかし、タイガーウルフはタダでやられる程のダイバーではない。

 

 自身の機体の左腕が斬り飛ばされた瞬間、彼は残った右腕でファーヴニルリサージェンスの腕を掴んだ。

 

 

「これで逃げられないだろ!!」

「それで捕まえたつもりか」

 両膝の隠し腕を展開し、タイガーウルフの機体をビームサーベルでバラバラにするセイヤ。

 

「───いいや、一瞬でも足を止めた事に意味がある! 果てろ!!」

 しかし、そんな彼の直上からシャフリヤールが砲撃を放つ。

 

 直撃───否、セイヤは砲撃をムーバブル・シールドで防いだ。

 しかし、いくらシールドで防ごうがその威力は殺しきれない。シールドは粉々に砕かれ、両腕も粉砕する。

 

 

「良く削った! 行け、先鋭隊。フォーメーション!!」

 さらに、背後からロンメルが部下を引き連れてセイヤを襲った。放たれる大量の弾丸。

 

 だがその弾丸は全てバックパックの四つのビームキャノンが迎撃する。

 そのまま手足を捥がれて行く仲間達を尻目に接近するロンメル。

 

 

「貰った!!」

「真面目にやってんじゃねぇよ、ボンクラ!!」

「何!? 腕が!?」

 弾き飛ばされるロンメル。彼を迎撃したのは、シャフリヤールが吹き飛ばした筈の両腕だった。

 

 

「俺はチートを使ってるんだ。真面目にやって強い奴が、真面目にやって勝てる奴が偉い。そうお前達は偉い。……だがな、俺達のような弱い奴は、こうでもしないと自分の言葉すら聞いてもらえないんだよ!!」

 ロンメルをバラバラにするセイヤ。

 

 そして、動きを止めた彼の機体を狙う他のメンバーは突然背後からのビームに撃ち抜かれる。

 

 

「ファンネルね……!!」

 赤のグリモア。ディマーテルの武装がマギーを襲った。

 

 辛うじて直撃は避けるが、マギーの周りにいたダイバー達も大きく被弾してしまう。

 

 

 セイヤの周囲を囲むダイバーを襲い始めるファンネル。

 尋常でない量のファンネルを恐ろしい精度で発射するその挙動は、ブレイクシステムによるオートエイムだ。

 

 

「避けられない……!!」

「任せて……!!」

 ビルドダイバーズのコーイチを庇うように前に立ったアヤメ。

 

 彼女の機体、RXー零丸はRXー0ユニコーンガンダムを原型とした機体である。

 原型機と同じくシステムに組み込まれたNTーD──零丸のそれは忍闘─道(NINTOーDO)──と呼ばれているシステムを、彼女は発動した。

 

 

 ニュータイプデストロイヤー。ファンネルジャックと呼ばれる、簡単に言ってしまえばサイコミュ兵器のコントロールを奪う事も出来るシステム。

 

 そのシステムにより、セイヤのファンネルはアヤメに操られる。

 

 

「───邪魔だな、テメェか小細工してるのは」

 そんなアヤメに気が付いたセイヤは一気に彼女の機体に接近してハイパービームサーベルを叩き付けた。

 

「……っ」

 ビーム斬馬刀でそれを受け止めるアヤメ。

 

 コーイチが加勢に入ろうとするが、ムーバブル・シールドからのビームサーベルで阻まれる。

 しかし、その隙にアヤメは体勢を立て直してビーム斬馬刀を薙ぎ払った。両膝の隠し腕がそれを塞ぐ。

 

 

「邪魔なんだよ、消えろ……!!」

 連撃。

 

 隠し腕だけのそれを防ぐのに精一杯だったアヤメに襲い掛かる両腕とムーバブル・シールド。

 一瞬の攻防はアヤメとコーイチの連携で有利に進んだかと思えば、刹那の内に状況はひっくり返った。

 

「ぐぅっ」

 隙を見せたアヤメの機体をバラバラにすると、少しだけ遅れて背後を取ったリクのビームサーベルをバックパックのビームキャノンから放出したハイパービームサーベルで受け止める。

 

 

 まるでハリネズミ。彼はヘッジホック3とも呼ばれている原型機の特徴を余す事なく使いこなしていた。

 それに白のグリモアオーヴェロンの隠し腕、赤のグリモアディマーテルのファンネル。

 

 

「……強い」

 その力は、チートと自らが叫ぶブレイクシステムだけではなし得ないだろう。

 

 だからこそ、リクは悔しかった。

 そんな力があったのにも、大切な人を守れなかった人がいる。自分がそうなっていたかもしれない。

 

 

「俺には分からない……。だから、分からないから、こうして戦うしかないんだ!!」

「分からないなら失せろ。お前みたいな奴が一番ムカつくんだよ!! 守り切れたお前が、力のあるお前が、俺を止める!! 正しい事だろ!? 何が分からない!!」

 ぶつかり合うセイヤとリク。

 

 リクには分かる筈だ。彼のしている事が間違っているという事が。

 

 だけど、頭では分かっていてもそれを口にする事が出来ない。

 

 

 それは、彼がリクにとって鏡の裏の存在だったからだろう。

 

 

 もし二年前、サラを助けられなかったら───

 

 リクはそう考えて、歯を食いしばった。

 

 

「だけど、こんなのは悲しいよ!!」

「なら俺の邪魔をするな!!」

 ダブルオーダイバーを蹴り飛ばすファーヴニルリサージェンス。

 

 迷いが、リクの動きを惑わす。

 

 

「消えろ、忌まわしき正しい男。そうだ、お前は正しい。だから、俺を止める。それすら分からないで、この世界を守った気になるな!! ガキが!!」

 収縮されるメガ粒子。

 

 放たれたハイメガキャノンはしかし、リクに直撃する事はなかった。

 

 

「あなたは間違っている……!」

「ヒロト……」

 ヒロトがリクの機体を助ける。

 

 その間に、キョウヤがセイヤの背後に回り込んだ。

 

 

「邪魔だ、チャンピオン……!!」

「邪魔をしに来ている!!」

 重なるビームサーベル。シールドに受け流されるドッグライフル。

 

 二人のぶつかり合いは、あのロンメルですら手出しが出来ないと判断するレベルの速度で加速していく。

 

 

「俺は間違っている。そうだろう!? なら力を示せ!! 俺を殺せ!!」

「GBNはゲームだ。ゲームに間違った遊びなんて存在しない!! なればこそ、君が間違っていると語るなら君の手を取らない事こそが間違いだ!! 君がその事に気付くまで、私は君の話を聞く!!」

「その正しさが人を傷付ける……。その正しさで守れなかった物がある……。それを忘れたのか!! チャンピオン!!」

 六本のビームサーベルでキョウヤを弾くセイヤ。

 

「───消えろ。ハイメガキャノン!!」

 ブレイクシステムの力で爆速的に集約されたメガ粒子が放たれた。

 

 

「……っ」

「ぬぉぉおおお!!!」

 そんなチャンピオンの前に立ち、カザミのイージスナイトが盾を構える。

 

 彼の機体はほぼ半壊したが、それでチャンピオンの機体を守り切る事が出来た。

 

 

「いけ、ヒロト!! 俺達の思いをぶつけてくれぇ!! 

「ヒロト……」

 キョウヤとカザミを抜き去るように、ヒロトのコアガンダムが武装を換装しながらセイヤに迫る。

 

 

 マーズフォーガンダム。

 接近戦特化のコアガンダムのアーマーだ。

 

 

 

「そうだ、俺達は守れなかった!!」

「クガ・ヒロト……!!」

 ぶつかり合うマーズフォーガンダムとファーヴニルリサージェンス。

 

 援護するヒロトの仲間達や他のダイバーをファンネルやライフルで牽制しながらも、セイヤはヒロトを寄せ付けない強さを見せる。

 

 

「お前は何故戦っている!! 守れなかったお前が、何故俺を理解しない!!」

「守れなかった……イヴも、セドゥリの人達も。でも、だからこそ思うんだ。もうこれ以上失わせてはいけないと!!」

「それでもお前は憎んだ筈だ!! そうだろう!?」

「……それでも、俺は撃てなかった!! 撃たなかった!!」

 二年前。

 

 LEダイバーサラを巡る第二次有志連合戦。

 有志連合として参加していたヒロトには、リクを倒すチャンスがあった。

 もしあの時ヒロトが引き金を引いていたら、未来は変わっていたかもしれない。しかし、彼は撃たなかったのである。

 

 

 当時様々な感情が彼を襲った筈だ。

 

 自分の大切な人だけが救われなくて、他人の大切な人が救われようとしている。

 憎しみもあったかもしれない。けれど、撃たなかった。何故か───

 

 

「───何故か、今なら理由が分かる。イヴが守ったこの世界を、彼女がいたこの世界を大切に思ったから。……GBNも、ELダイバーも、エルドラの皆も、ダイバーの皆も、大切に思ったから!!」

 セイヤを蹴り飛ばすヒロト。

 

 彼の機体は攻防の内に半壊していたが、彼の言葉がセイヤに一瞬の隙を生み出す。

 

 

「此処には皆が居る。……そして、イヴも───彼女が残した物も、ここにある。だから、俺達は……戦う!!」

 託された想いを。

 

 

「リク君、私を使え!!」

「キョウヤさん!!」

 託された願いを。

 

 

 

「こいつら……!!」

「君にも分かる筈だ。このGBNが我々に見せてくれる奇跡や力が。確かに失ってしまったかもしれない。……それでも、否、だからこそ、私達はこの世界を見捨ててはいけない!!」

「俺も、失うかもしれなかったあの時の感覚は忘れられない。でも、あの時から俺達の気持ちは変わらないよ。俺達は───俺達の好きを、諦めない!!」

 変形したキョウヤの機体を(つるぎ)に、ソレを振り上げるリクのダブルオーダイバー。

 

 蹴り飛ばされてバランスを崩し、周りからの攻撃でさらに機体の制御が出来なくなった。

 

 

「馬鹿な……チートを使って、負けるだと。そうか……そうかよ、そうだな。やはり、正しいのはお前達。俺は悪者!! そういう事なんだろうなぁ!!」

「違う!!」

 サラが叫ぶ。

 

「貴方は、私達の事を想える優しい人だ」

 メイがそう続けた。

 

 

 

 レイア。

 彼女はELダイバーですらなかったかもしれない。

 

 けれど、そんなNPDとELダイバーの狭間にいたような彼女の事をセイヤは本気で大切に思っていたから。

 だからこんな事をしている。こんな事になってしまった。

 

 

「───だから、そんなに悲しい顔をしないで。あなたもガンプラも、きっと……苦しんでる」

「……俺が、苦しんでる。だと」

 放たれる光。

 

 

 眩しい程のソレが、セイヤと機体を包み込む。

 

 

「……レイア。ふざけるなよ、俺は───」

 闇を、光が払った。



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今度こそ必ず

 巨大。

 

 

 ビグ・ザムを筆頭にガンダム作品には、標準的なMSの大きさを遥かに上回る軌道兵器が登場する。

 

 イアをコアに、この戦いで集められたデータを集約し、サーバーへの負荷を高めているこのデストロイガンダムもその内の一つだった。

 

 

「ビームが効かない……。なんで?」

「デストロイガンダムは陽電子リフレクターっていう鉄壁の防御がありますから、接近しないと有効打は与えられないっす」

 ビームマグナムを直撃させても全く反応のないデストロイガンダムに首を傾げるヒメ。そんな彼女に説明しながら、ニャムが接近を試みるが四方八方からの攻撃が彼女を阻む。

 

 

「……とはいえ、これでは近付けないっすね」

 デストロイガンダムの攻撃は勿論、周りに配置されたNPDの攻撃も厄介だ。

 

 これまで同様に撃破しても直ぐにリスポーンする取り巻きに、イアを救うにはデストロイガンダムを撃破せずに戦闘不能にしなければならないというのも難しい。

 

 

「でも時間がないわねー、コレは……」

 カルミアが目を細める。

 

 弾け飛ぶ空間。

 GBNの崩壊は既に始まっていた。

 

 

 蓄積された戦闘データ。それを、一つの場所に集約させる。

 

 今此処での戦闘や、宇宙でセイヤとキョウヤ達が戦っているそのデータがGBNのサーバーを侵食していた。

 その膨大なデータがいつ破裂してGBNのサーバーを破壊するか、タイムリミットも分からない。

 

 

 そしてそうなれば、この世界のデータ勿論イアという存在も消えてしまうだろう。

 

 

「宇宙に強いダイバーを集めて、このデストロイガンダムがGBNを破壊する時間を稼ぐ。それがセイヤの狙いだった訳だ」

 全てはセイヤの思う壺。

 

 今、チャンピオン達が彼と戦っているそのデータすらデストロイガンダムは収集し───このGBNのサーバーへの負荷として蓄積していた。

 今更そんな事に気が付いた所で、宇宙に居るダイバーにはもう何も出来ないだろう。

 

 

 これこそがセイヤの計画。

 

 もし此処に居るのが、キョウヤ達のような凄腕のダイバーだったのなら話は変わったかもしれない。

 しかし、それでも、今は彼等しか此処には居ないのだ。

 

 

「それでも───レイア、力を貸してくれ。アイツを止めさせてくれ、俺達に」

 それでも───

 

 

「ジブンも、こんな所で終わりたくない。やっと、仲間と───友達とガンプラを楽しむことが出来るようになったこの世界を! 捨てたくない!」

「お姉ちゃんが好きな自分で居られる場所。お姉ちゃんが大切だと思う場所。……なら、私は守るだけ」

 ニャーンXとバンシィがカルミアの背後に着く。

 

 

 今、デストロイ計画を止められるのは此処に居る者達だけだ。

 

 

「待ってろイア、今助ける!!」

 カルミアはレッドウルフの装甲をパージする。

 

 レッドウルフに隠されたもう一つの顔。ガンダムmarkReVがその姿を表した。

 

 

「なんとかして突破口を見付けるか……」

 スラスターを吹かせると同時にリフレクターインコムを展開するカルミア。

 

 取り巻きが放つビームをリフレクターインコムで跳ね返しながら、装甲を脱ぎ捨てた分の機動力でカルミアはデストロイガンダムに肉薄する。

 

 

「助けに来たぜ」

「カルミア……!」

 そこにイアは居た。

 

 機体のコックピットの中。身動きは出来るが機体の制御は出来ない状態なのだろう。

 接触回線でやっとカルミア達はイアの顔を久し振りに見る事が出来た。思っていたよりも元気そうだが、その表情は明るいとはいえない。

 

 

「ボクは───ボクが、GBNを壊しちゃうってセイヤが言ってた。……ボクを倒して! カルミア!」

「んな事出来るか。お前も、セイヤも、GBNもおじさんが救ってやる。その為に此処に来た!!」

 ビームサーベルを振る。

 

 真横から奇襲してきたのは、レイダー、フォビドュン、カラミティーというガンダムSEEDに登場するMSだった。

 

 

「邪魔をするな……!!」

 両肩の隠し腕を展開しながら、ライフルを連射するカルミア。

 

 ゲシュマイディッヒパンツァにライフルが曲げられたかと思えば、曲がったビームの先に置いたあったリフレクターインコムによって再びビームがフォビドュンを襲う。

 巨大な鉄槌を振り回すレイダーの両腕を切り飛ばして、カルミアは何事もなかったかのようにデストロイガンダムに視線を向けた。

 

 

「もう何も失わせない。失いたくないんだよ!! お前は、俺が助ける。待ってろ……イア!!!」

「カルミア……!!」

 デストロイガンダムの武装に銃口を向ける。

 

 コックピットを攻撃すればイアは死んでしまうかもしれない。何をしようにはまずはこの機体の動きを止めるしかなかった。

 

 しかし、そんなカルミアを背後から数機のMSが襲ってくる。

 

 

「ディスティニー、レジェンド、インパルスかよ……! セイヤの奴、なんだかんだ言ってガンダムの事好きだよな!!」

 SEEDDestinyに登場する機体がカルミアを囲んだ。三機はデストロイに構う事なくビームを放ち、それはしっかりとデストロイにも直撃する。

 

 

「わぁ!?」

「イア!! くそコイツら、分かってんのか分かってないのか!! この距離だとデストロイのリフレクターも反応しない。あー、くそ!! 離れるしかないってか!!」

「カルミアさん! 一旦戻って下さいっす!」

 下手に今カルミアを援護すれば、デストロイに要らぬ直撃をしかねない。

 

 余程腕に自信がなければ、デストロイ周辺での射撃戦は困難だ。

 

 

 

 そう、余程腕に自信がなければ───

 

 

 

「───援護しますわ!! ReBond!!」

「───道は切り開く。お前達がわいけ!」

 放たれるビームスナイパーライフル。

 

 

 それは全て一撃でカルミアを襲っていた機体を貫き、デストロイには掠りもしない。

 

 

「メフィストフェレス!?」

「フォースメフィストフェレス、ただいま復活ですわ!! 宇宙ではコテンパンにされましたけど、せっかく戻ってきたのだから役割は果たしますわよ!!」

 セイヤに撃破されて地上に()()()()()()のはReBondのメンバーだけではない。

 

 確かに宇宙ではキョウヤ達がセイヤに足止めを食らっている。

 

 強いダイバーの足止め。確かにセイヤの目的はそれなのだろうが、きっと彼は勘違いしているのかもしれない。

 

 

 GBNで無名ダイバーには何も出来ない、と。

 

 だけど、そんな事はない。彼等は現に、今ここにいるのだ。

 

 

「メフィストフェレスだけじゃないぞ!」

 アンジェリカ達に続いて、地上に戻っていたダイバー達が加勢に入る。

 

 その中にはNFTや野良戦等で以前戦ったフォースメンバーも混ざっていた。

 

 

 GBNの絆が、ここに集まり掛けている。

 

 

「皆来てくれたんすね!?」

「これが……GBNの、お姉ちゃんの仲間。……友達」

 ヒメは姉が以前言っていた事を思い出した。

 

 

 GBNは楽しい。沢山の人が、同じものが好きで、同じ場所に集まれる。

 

 私はそんなGBNが大好きなんだ。

 

 

 

「……皆、このゲームが好きなんですね」

「ヒメちゃんは嫌いっすか?」

 多くの加勢で、デストロイガンダムの周辺勢力は抑えられている。今ならデストロイの動きを止める事も難しくはないかもしれない。

 

 いや、後は止めるだけだ。

 

 

「……私も、好きかもしれないです。だって……ほら」

 ヒメは周りのダイバーを見渡す。

 

 真剣に、それでもやっぱり楽しそうに、彼等はゲームをプレイしていた。

 もしかしたら現状を理解していないプレイヤーもいるだろう。けれど、そうだとしても彼等全てが同じ気持ちで動いている事だけは分かるのだ。

 

 

 ガンダムが好き。ガンプラが好き。

 

 そんな気持ちが、周囲一帯に溢れている。ヒメはそう感じた。

 

 

 

「───皆、お姉ちゃんみたいに楽しそうだから。……だから、だったら、私は……お姉ちゃん達の笑顔を守りたい。うん、私は最初から、お姉ちゃんの笑顔を守りたかっただけだから。だから! 私は、お姉ちゃんが好きなGBNも……好き!」

「ヒメちゃん……。ありがとうっす。それじゃ、イアちゃんも救って! GBNも守って! ヒメちゃんも一緒にまた遊びましょう!!」

 ヒメのバンシィを連れて、ニャムもカルミアの元に駆け付ける。

 

 既にカルミアの援護をしていたサトウと合流し、彼女達はイアの意志に反して攻撃してくるデストロイガンダムの眼前に立った。

 

 

「……今助けるぞ、イア」

 視界に浮かぶ、助けられなかった少女の顔を振り解く。

 

 

 今度こそ、必ず───そんな覚悟と共にカルミアは引き金を引いた。



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喧嘩して

 光が放たれる。

 

 

「───だから、そんなに悲しい顔をしないで。あなたもガンプラも、きっと……苦しんでる」

「……俺が、苦しんでる。だと」

 初めから分かっていたんだ。

 

 

「……レイア。ふざけるなよ、俺は───」

 だから、彼は抗わない。

 

 

「───俺は、間違ってる。……そうだよ、そんな事は!! 初めから!! 分かってるんだよ!!!」

 両手足も頭も、機体の殆どが半壊したセイヤのファーヴニルリサージェンス。彼はコアファイターを分離し、機体から離れる。

 

 

「コアファイター!?」

「逃げるつもりか……!!」

 それを追おうとするリクとキョウヤ。しかし二人の機体は切り離されたファーヴニルリサージェンスから伸びる影に掴まれて動けなくなった。

 

「グリプスの呪縛……いや、違う。これは……そんな生優しい物ではないか!?」

「これは俺の呪いだ。弱くて、気持ちもなくて、何も出来なかった俺の気持ちを……この機体が力に変える」

 同時に、残されたファーヴニルリサージェンスのパーツから放たれた黒い腕がその場にいた全ての機体を掴み上げる。

 

 

 そして何処からともなく現れたコンテナから放射された予備のファーヴニルリサージェンスAパーツとBパーツが、セイヤのコアファイターと合体した。

 

 

「……お前達はそこで黙って見てろ!! 俺の過ちを!! この世界の終焉をなぁ!!!」

 初めからセイヤの狙いは猛者であるGBNチャンピオン達の戦闘データと、その足止めである。

 

 用意しておいた予備の機体を使う事になるとは思わなかったが、セイヤの目論見はほぼ完璧に達成されていた。

 

 

「終わりだな、チャンピオン」

「……このままでは」

 地球に向かうセイヤに手を伸ばす。

 

 しかし、その手は届かない。機体は動かない。

 

 

「宇宙に戦力を集め過ぎた……。私の、負けだというのか」

「大丈夫ですよ、キョウヤさん」

「リク君……?」

「GBNには、沢山強い人が居る。……俺達はそれを知ってる!」

 どこか安心したような表情で、リクはそう言った。

 

 そんな彼の表情を見て、キョウヤも少し落ち着く。

 

 

「それに、さっきあの人も言ってたしね。……自分は間違ってるって。分かっているなら、分かってくれたなら、きっと……伝わる筈なんだ」

「……そう信じよう。彼もまた、ガンプラを愛するダイバーの一人だったのだから」

 キョウヤはモニターに映ったセイヤの顔を思い出した。

 

 

 憎しみと憎悪に塗れた表情。

 

 しかし、彼は泣いていたのである。それは、キョウヤ達の言葉が彼の心を少しでも動かした証拠の筈だ。

 

 

「……頼んだよ、ケイ」

 目を閉じて、リクは三度も戦った一人の男の顔を思い出す。

 

 

 きっと、彼なら───

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 少しだけ、昔を思い出した。

 

 

「シールドビット!!」

 ロックのサバーニャHellを襲うブレイクビット。しかし、それを全てシールドビットで弾きながら接近した彼のビームサイズがアオトのイージスブレイクを襲う。

 

「お前に近付く程、お前の事を知らない訳じゃない……!!」

 対するアオトはスラスターを吹かせ、牽制射撃とブレイクファンネルを放出して距離を取った。

 

 

 幼い頃からタケシという友人の接近戦に勝った事はない。しかし、距離を取ってしまえば怖くないという事もまた知っている。

 

 

「───なめんな、いつまでも昔の俺様のままだと思うなよ」

 GNスナイパーライフルを片手に構えるロック。アイツが当てられる訳がない。そんな油断が、アオトにはあった。

 

 

「狙い撃つ!!」

「何!?」

 ライフルはイージスブレイクの左足を貫く。

 

 直ぐに飛び退くが、さらに右足を撃ち抜かれ、彼の機体はバランスを崩して落下した。

 

 

「タケシのくせに……!!」

「お前の知らない間に皆成長してんだよ。なぁ!! ユメ!!」

「私も、戦えるようになったんだよ。……アオト君!!」

 体制を崩したアオトに接近するユメ。

 

 ビームサーベルを構えて接近する彼女に、アオトは左足のビームサーベルを向ける。

 

 

「お前に負ける程!! 俺は弱くない!! お前は……守られていれば良いんだよ!!」

 光が重なった。鍔迫り合うサーベル。

 

 そうして固まったユメのデルタストライカーを放たれたブレイクドラグーンが囲む。

 

 

「落ちていろ!!」

「落ちない。……フィンファンネル!!」

 しかし、先に放たれていた二つのロングレンジフィンファンネルが飛び出したブレイクドラグーンを叩き落とした。

 

 そしてそのまま、ロングレンジフィンファンネルは光の刃を携えてアオトのイージスブレイクを襲う。

 

 

「……っ、ユメぇぇえええ!!」

 弾き飛ばし、離脱するアオト。

 

 その先に居るのは───

 

 

「───アオト、目を覚まさせてやる……!!」

 ───右肘に太陽炉を装着して構えていたケイのストライクReBondだった。

 

 

「ReBond───ナックル!!!」

 放たれる必殺技。

 

 殴り飛ばされたアオトの機体はバラバラになりながら地面に叩き付けられる。

 

 

 しかし、その機体を禍々しいオーラが包み込み───次の瞬間イージスブレイクは無傷の状態で立ち上がった。

 

 

「……お前が強い事は知ってるんだよ、ケイスケ。けどな!! 俺はどんな手を使っても、お前に復讐を果たす!!」

「来い。……何度だって倒す。そして、お前を連れて帰る!!」

「無駄なんだよ!! 俺は……お前が嫌いなんだからな!!」

 両手足のサーベルを展開し、ブレイクファングからビットまで───全てのオールレンジ攻撃がケイを襲う。

 

 ブレイクシステムにより高められたその力は、どんなガンプラでも耐えられるような物ではない。

 

 

「ケー君!」

 ビームマグナムとロングレンジフィンファンネルでアオトの武装を叩き落とすユメ。

 

 その隣で、ロックの連続射撃がアオトの機体を襲った。

 

 

「お前はこうやって、友達に好かれて!! ユメに好かれて!! 良い身分だよなぁ!!」

「アオト……良い加減に、しろ!!」

 ぶつかり合うイージスとストライク。

 

 GNソードIIIとクジャクがイージスの四肢を切り飛ばす。しかし、アオトのイージスは直ぐに再生して再びケイのストライクに襲い掛かった。

 

 

「お前だって同じ筈だ、ユメが俺の事を好きになっていたら!! お前だって俺のようになっていただろう!!」

「……っ、それは」

 否定出来るだろうか。

 

 タケシとアオトがガンプラバトルを始めて、それを見るユメの目は輝いていて。

 好きな女の子に見てもらう為。そんな不純な動機で始めたのがガンプラバトルである。

 

 

「……本人居るのによくもまぁ。俺様を外野にしやがって」

「アオト君、私の事……好きだったんだね」

「気付いてなかったのか? いや……まぁ、お前その調子じゃケイス───ユメ!?」

 モニターに映る幼馴染みの頬に雫が垂れていた。

 

 

 ユメからすれば、嬉しいのやら恥ずかしいのやら───いや、彼女はそれよりも前に思ってしまうのだろう。

 

 

「……お前のせいで、あの二人が喧嘩してるって思ってんだろ。どうせ」

「だって……。私は、ケー君が……」

「んな事分かってんだよ。いつからか知らねーけど、お前らの妙な関係には正直嫌気が差してたんだ」

 幼馴染み四人組。

 

 

 タケシにとってそれは、かけがえのない友達だった。

 

 小さい頃からずっと一緒だったから、そのままずっと一緒に馬鹿やって、四人で笑い合えるものだと思っていたのを思い出す。

 

 

 いたからだろうか、誰かさんが誰かさんを好きになって。その気持ちは広がって、あっという間にケイスケとアオトの間には見えない壁が出来上がっていた気がした。

 

 普段はいつも通り楽しんでるのに、ユメカが見ている前でのバトルだとその壁がしっかりと見えるようになる。

 

 

 ケイスケがどう思っていたかは分からない。彼は強くて、殆どアオトには負けなかった。彼の思い通り、ユメカに格好良い所を見せられていたんじゃないだろうか。

 

 

 けれど、アオトは違う。

 

 ケイスケに負けて、負けて、負けて負けて。

 

 好きな女の子の前で恥をかいた。好きな女の子を取られたと思っているのだろう。

 

 

 ユメカがケイスケを好きになったのがガンプラバトルの勝敗だということはないかもしれない。けれど、アオトにとっては屈辱以外の何物でもなかったのではないだろうか。

 

 

 

「けど、俺は一つだけ言える事がある。……あの時はさ、なんだかんだ壁があったとしてもさ。……本気でぶつかり合って、楽しかったんだよな」

「あの時……」

 アオトと離れ離れになった事故の前。

 

 ユメカの気持ちが分かっていても、鈍感なケイスケが一人で突っ走っていても、負ける度にアオトが悔しい思いをしていても、一緒に遊んでる時はやっぱり楽しかった。

 

 

 離れた時は、やっぱり寂しくて。

 

 

 

 きっとそれは、ケイスケも同じだろう。

 

 

 

「お前も味わえば良いんだ。俺から全て奪ったお前も!! 大切な物を失う気持ちを、味わえば良い!!」

「そんなに俺が憎いか……アオト!!」

「そうだよ憎い!! お前の全てを奪いたい程に、お前が憎い!!」

「……そうか。そうだな。俺も多分、お前にユメカを取られたって思ったら、同じ事してたよ。……いや、お前よりもっと酷い事をしてた。言っとくけど、俺はお前より強いから」

 ケイの頭の中で何かが弾けた。

 

 視界から色が消え失せて、赤い光だけが進むべき道に突き進む。

 

 

 彼の言葉は本物だ。

 

 振り下ろされる腕、振り回される足、全てを完璧なタイミングで切り飛ばして、その強さを見せ付ける。

 

 

 昔からそうだ。

 

 ケイスケという少年に、アオトは本当に勝てなくて、だからこうまでしたのに、それなのに───

 

 

 

「お前は……どれだけ俺を惨めにすれば!! 気が済むんだよぉ!!!」

「どれだけでも出来るさ。……あぁ、そうだよ。俺はお前の思ってる通りの最低な奴だ。好きな女の子に振り向いて欲しくて、大切な友達をここまで追い詰めた!!」

 再生する手足も、ケイスケのストライクReBondがバラバラにしていく。

 

 

 追い付かない。何も。

 

 

「ケー君、今、す……好きな……女の子って」

「お前マジ?」

 呆れるロックはそんなユメの隣で頭を掻いた。

 

 

 本当にこの幼馴染み達は、バカしかいない。

 

 

 

「俺はこういう奴だよ。本当に、最低だ。……でも、お前は違うだろ!!!」

「何が……だよ!! 何が違うっていうんだよ!! ケイスケぇぇえええ!!!」

 反撃しようとしても出来ない。ブレイクバーストによる全方位射撃も、TRANSーAMで強化されたGNフィールドに防ぎ切られてしまう。

 

 

「お前は、俺と違ってちゃんと友達を思える奴だろ!!! ユメカの事も、俺達の事も傷付けないようにしてくれる奴だろ!!!」

「違う、俺はお前と一緒なんだよ。同じ女の子が好きになって、負けたから!! お前を恨んでる!! お前もそうなら、分かるだろ!?」

「いいや違う。お前は俺なんかより全然優しいんだ」

「何が違うんだよ!! 俺とお前の!! 何が違うっていうんだよ!!」

 叩きつけられ、身動きを封じられた。

 

 

 チートを使っているのに、勝てない。

 

 

 こんな惨めな事になって、なんでこの男は真っ直ぐに自分を見るのだろう。

 

 

 

 分からない。

 

 

 

 力が抜けた。

 

 

 

「じゃあ、なんで!! あの時お前は、このストライクを俺に渡したんだよ!! ユメカの事を頼むって、お前が嫌いな筈の俺に、そんな事を言えたんだよ!!!」

「それ……は」

 分かるだろう。

 

 

 ケイスケには、アオトがそういう人間だというのが。

 

 

 

 だから、この言葉を掛けるために、ここまで来たのだ。

 

 

「答えろよ、アオト。なんでお前は、俺にこのストライクを……渡したんだよ。なぁ」

 その拳が、アオトの頬を殴り飛ばす。

 

 気持ちが膨れ上がった気がした。



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壊れても直せばいい

 雨が降っていた。

 

 

 あの時の事はまだ鮮明に覚えている。

 

 

 

「ごめん……!! ごめんよアオト。僕が間違っていたんだ……許してくれ!! アオト!!」

「……父さん、もう良いんだ。……うるさいよ」

「アオト……」

 父親の事が大好きだった。

 

 ガンプラバトルが強い父。ガンプラを作るのが強い父。ガンプラが、ガンダムが大好きな父。

 

 

 狂ってしまった世界の中で、その事に目を背けながら、子供だった自分なりに考える。

 

 

「何が悪かったんだろう……」

 幼馴染みの女の子が好きになった。幼馴染みの男の子もその子が好きみたいだけど、その男の子の事も大切で。

 

 だから、真剣勝負。恨みっこなし。

 

 

 そう思っていたのに。

 

 

 ──ケー……君──

 

 

 女の子は父が投げ捨てた僕のガンプラを拾いに行ってくれたせいで、車に轢かれてしまう。

 でも、それは僕の為に動いてくれた事。そんな風に思って僕は嬉しいと思ってしまった。

 

 けれど、車に轢かれた大好きな女の子に駆け寄った僕の耳に入って来たのはアイツの名前。

 

 

 自分が最低だってことに、気が付いてしまう。

 

 

 

「そうだよ、悪いのは僕なんだ。父さんの苦しみも分かる、ユメカの気持ちも分かる、ケイスケが凄い奴だってのも分かる。僕はそれなのに、何もできないじゃないか!!」

「アオト……!!」

 家を出た。

 

 分かっている。僕は未熟で、ユメカに好かれる男ではなくて、ケイスケの方が優れている事なんて。

 

 

 ならどうしたら良いんだよ。僕にどうしろって言うんだよ。

 

 

 

 父の夢を壊したGBNを恨んだ。僕を選んでくれなかったユメカを恨んだ。僕より優れていて僕からユメカを奪ったケイスケを恨んだ。

 

 恨む事しか出来ない。僕は弱い。僕には何もない。

 

 

 でも、ひとつだけあるとするなら───

 

 

 

「───ケイスケ」

「───アオト?」

 雨の日、大嫌いになった親友の家に行く。

 

 

「これ、受け取ってくれ」

 僕はお前が嫌いだ。

 

 ───けれど、ケイスケ達と遊ぶのが楽しかった事だけは嘘じゃない。ユメカの事が好きだったのも、父を尊敬していたのも。

 

 

「……ユメカの事、頼んだ」

「お、おいアオト!」

 大切にしていたガンプラを、思い出をケイスケに渡す。

 

 

 僕はお前が嫌いだ。けれど、ユメカの事もお前達との思い出も、父の大好きだったGPDも、僕にとって大切な物だから。

 

 だから、それをお前に渡したんだよ。

 

 

 僕は───俺は、お前が大嫌いで、お前の事が本当に羨ましくて。

 

 

「ケイスケなら……きっと、ユメカを笑顔にしてくれる」

 尊敬していたのだろう。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 崩れ落ちた。

 

 

「……お前なら、良いと思ったんだよ」

「アオト?」

 イージスブレイクは再生しない。アオトの戦意が削がれたからか、その気持ちをガンプラが受け取ったからか。

 

 

「俺は……お前が嫌いだ! 周りがちゃんと見えて、ユメカ以外の事も考えられて、強くて羨ましい。俺はお前が嫌いになるくらい、お前の事を知ってるんだよ!! だから……だからお前に託したんだ、俺の気持ちを、俺の大切な思い出を!! お前なら守ってくれるって信じられる程、俺はお前の事を知ってる。親友だったんだ!! だから、お前を知ってるから、嫌いになれた!! 嫌いになったんだよ!!」

「アオト……」

 手を伸ばして、気持ちをぶち撒ける。

 

 

 子供の頃からそうだった。

 

 本人が気付いているかは分からない。けど、ユメカばかり見ていた自分と違って彼は本当に周りが見えていたとアオトは思っている。

 

 タケシの事も、勿論アオトの事も。

 ケイスケ自身はユメカに好かれたいから、それだけしか考えてないと思っていたのかもしれない。けれど、ケイスケを本気で嫌いになる程知っているアオトには分かるのだ。

 

 

 彼の魅力が、自分にない物を持っているケイスケという少年の事が。

 

 

 冷めているようで負けず嫌いなのも、夢中になればとことん突き詰められるのも、それはユメカへの気持ちだけじゃない。

 

 

 

 ちゃんとガンプラが好きじゃなきゃ、そうでなきゃ、ケイスケとアオトに差はない筈だったのである。

 

 

 

「よくお前達言ったよな。俺はガンプラを作るのが上手で、面白い改造をしてくるって。……全部、俺はユメカに褒めてもらいたくてやったんだよ。バトルだってユメカに認められたくてやってただけだ!!」

 最初は勿論ガンプラが好きだった。

 

 けれど、いたからだろうか。ユメカの事しか考えなくて、ガンプラよりユメカの事を考えて。

 

 

 

「でもお前は違う。気持ちは同じでも、本気でガンプラに取り組んでいた。俺に勝った時、ユメカの事を見ずに自分のガンプラをしっかり見ていた。俺に負けた時、ユメカの様子を見ずに自分のガンプラを見て凹んでいた。……俺にはそれがなかった!! 本気でガンプラに向き合う気持ちが。お前は……違うんだ。ユメカへの気持ちだけじゃない。本気でガンプラバトルを楽しんでいた。裏切ったのは俺だ!! ガンプラも、友達も、好きな女の子も、裏切ったのは全部俺なんだよ!!」

 けれどケイスケは違う。

 

 

 ケイスケはちゃんとガンプラに向き合える男だった。

 

 

 大きな夢があって、必死にその夢を追いかけているユメカにとって、どちらが魅力的だったのかなんて言うまでもないだろう。

 

 

 

 

「アオト君……」

 ユメカもきっと、その気持ちは無意識だった筈だ。

 

 特にアオトとケイスケを比べるような事はしていなかったし、今もしていない。

 

 

 自然と、静かにでも何かに真剣になれる。そんな格好良い男の子を好きになっただけなのだから。

 

 

 

「……そっか」

「そうだ。失望したか? 俺の……僕の、こんな惨めな姿を見て失望したろ!! お前の知るアオトなんて奴は、偽物なんだよ。お前の友達だったアオトなんてもう居ないんだよ!!」

 もう彼には何も残っていない。

 

 

 だから、彼を認めてくれたイアという少女の存在が心地よかったのだろう。

 

 

「……いや、安心したよ」

「なに?」

 そんなアオトに、ケイスケはゆっくりと落ち着いた声を掛けた。

 

 

「俺も、お前の事ちゃんと嫌いになれそうだ」

「ケイスケ……」

 ずっと思っていた事がある。

 

 

 

 壊れても、直せば良い。

 

 それは壊れてなければ直しようがないという事。

 

 

 アオトが自分の事を嫌いでも、自分がアオトの事を嫌いになれないから、壊れ切れてないから、直せないんじゃないだろうか。

 

 でもどうやってもアオトの事が嫌いになれなかった。

 

 

 ユメカの気持ちは分からない。

 けれど、アオトが居なくなってくれたおかげでライバルが居なくなったという最低な気持ちだけが残って。

 

 自分だけが許せなかったのだろう。

 

 

「───ふざけんなよ、お前。勝手に負けたつもりになって!! 負け逃げっていうんだよ、それは!! 俺は、お前にちゃんと勝って……ユメカの事が欲しかったんだよ!!」

「───なんだよ、お前。これ以上俺を惨めにしたいのかよ!!」

 立ち上がり、闘志の炎のようなオーラを纏うイージスブレイク。

 

 その眼前にストライクReBondが立ち塞がった。

 

 

「あぁ、そうだよ。俺は負けず嫌いだから、お前を完膚無きまで叩きのめさないと安心出来なかったんだ!! お前は俺と違うだって? 当たり前だろ!! 俺は自分が満足しないと気が済まないんだ。友達も、ユメカも、全部大切にしてやるんだよ。その為だったらお前を何度でも惨めにする。泣かせてやる。……そして、そんなお前の手を取る!!」

「お前の手なんか取るものか。……俺にはイアが居るんだよ!!」

「なんだ……イアの事知ってたのか。だったら丁度いい。アイツは俺達の仲間だから、またお前から奪ってやる!!」

「お前、この……お前は!! いつもいつも!! ケイスケぇぇえええ!!!」

 ブレイクバーストが発動する。全身から放たれるビームが、TRANSーAMが終了しているストライクReBondを襲った。

 

 

 

「取り戻したかったら俺を倒せよ!! それで、喧嘩して!! 壊して!!! また直せば良い……そうだろ!? アオト!!!」

 何度壊しても。

 

 

「嫌いだ!! 嫌いだ!! お前なんて嫌いだ!!」

「俺もお前なんて嫌いだ!!」

 また直せば良い。

 

 

 そう言った少年は、電子の世界で涙を流しながら拳を振る。

 

 

 受け止める少年の機体は、Re(再び)TRANSーAM(光を放った)

 

 

 

「二度目のトランザム!?」

「一人で居なくなって、一人で負けた気になって!!」

「……っ」

 その拳がイージスブレイクの頬を穿つ。

 

 

「俺はまだ勝ててない。逃げるな……俺から!! ユメカが好きなんじゃないのかよ!!」

「そうだよ……好きだったよ!!!」

 イージスブレイクの拳がストライクReBondの頬を捉えた。

 

 

「けど、分かってたんだよ俺は!! お前には勝てないって!!」

「何が分かったっていうんだよ。お前は、俺に絶対勝てなかったわけじゃないだろ!!」

「お前のそういう鈍いところが嫌いなんだよ!! 察しろよ!! だからお前はいつまでたってもそんなんなんだよ!! バカが!!」

「バカだとぉ!? 俺がどんな気持ちでお前の事待ってたと思って!!」

 武器も捨てて、気が付いたら機体を包み込む光も消えている。

 

 

 

「……何やってんだあのバカ二人」

「私……無理。もう無理」

「ユメが一番可哀想だな」

 それはもう子供の喧嘩だった。

 

 

 あの時の続き、壊れていた物が、治っていく。

 

 

 

「バーカバーカ!! なんにも進展してないバーカ!! どうせ俺を理由にして自分から何もしなかったんだろ!! 本当に最低だなお前は。ユメカかが可哀想で仕方がない。こんな奴にユメカを任せた俺もバカだ!!」

「バカバカ言うなよ!! 俺だって真剣に考えてたんだよ!! ユメカだってこんな俺───」

「そういう所なんだよ!! 本当にそういう所!! 確かに俺も悪かったよ。俺が居なくなって変な空気にしちゃってたんだろ? けどさ、それとこれは違うだろ。何年あったんだよ。五年だぞ五年。俺の事なんかよりユメカをもっと大切にしろよ!!」

「大切だからお前の事でモヤモヤしてだんだろ!! 良い加減にしろよこのバカ!!」

「ほーらお前もバカって言った!!」

「この野郎!!」

「やんのか!? 今ならお前からユメカを奪える気がするぞ!!」

「やってみろ!! ユメカはぜったいに渡さないけどな!!」

「もう辞めて!!! ふたりとも本当に辞めて!!!」

 ユメのデルタストライカーが二人の間に入ってロングレンジフィンファンネルを叩き付けた。

 

 顔を真っ赤にしたユメを見て、アオトとケイの顔が真っ青になる。

 

 

「あ……ユメ……カ、さん。その……これは」

「ケー君、私……ここに居る」

 もう泣きそうな顔でケイを見るユメ。ケイはユメがここに居るのも忘れてアオトと話していた。

 

 彼の気持ちはユメに筒抜けである。

 

 

「アオト君」

「はい……」

「バーカ」

「うわ……」

 好きだった女の子に罵られて、彼は腰を抜かした。戦意喪失。もう、何も出来ない。

 

 

「ケー君」

「いやもう本当にごめんなさい」

「私、ケー君の事好きだから!!」

「いやもう本当に───マジで?」

 突然の告白に頭が真っ白になるケイ。

 

 そんな彼を他所に、ロックのサバーニャHellがアオトのイージスブレイクの手を掴んで機体を持ち上げる。

 

 

「アイツらぶん殴って良い?」

「いや、やめろ」

「……な、アオト。喧嘩は終わったか?」

「……タケシ」

「ロックな」

 何がしたかったんだろうか。

 

 

 

「ゆ、ユメカが……俺の事を?」

「うん……。ずっと、好きだったんだよ?」

 ケイスケの事が嫌いだった。憎んでいた。

 

 

「俺も……ユメカの事」

「うん。聞いた。私に言うんじゃなくて、アオト君に言ってた。……凄い恥ずかしかった」

「いや、本当にごめん」

 けれど、ちゃんと喧嘩したら、何もかもどうでも良くなった。

 

 

 

「……お似合いだと思うか?」

「……俺に聞くな。お前も分かってんだろ」

 呆れたようにそう言うと、ロックは地下基地の奥に視線を向ける。

 

 イアの元へ向かったカルミア達の戦闘が激しさを増していた。途中メフィストフェレスや他のフォースの気配も感じたが、一向に戦闘が鎮まる気配はない。

 

 

 

「ユメカ、ちゃんと言うから」

「う、うん……」

「俺、ユメカの事───」

「おいコラ馬鹿共。今そんな事してる場合か。こんな状況でイチャつくな。今の録画してヒメ様にチクるぞ」

 ロックのそんな言葉で正気に戻る二人。

 

 まだ何も終わっていない。

 

 

「……そ、そうだった」

「私もなんか浮かれてた」

「俺はアオトが可哀想になってきたよ」

 そんな三人を見ながら、アオトは笑う。

 

「本当だよ、全く……あはは」

 懐かしい光景。あの時の情景がまた目の前に広がっているような気がした。

 

 

「アオト……」

「……もう良いよ、俺の負け。完敗だ、ケイスケ」

 そう言って、アオトは地下基地の奥を見る。その先にはデストロイ計画の魂胆を担う機体が鎮座している筈である。

 

 

「……俺はお前への復讐っていう目標を失った。この後どうしようとか、お前達に許して貰おうとか、そういう事すら何もまだ考えてない」

 そこまで言ってから、彼は少し黙ってこう続けた。

 

 

「……けど、俺にはもう一つ目的がある。……俺と同じ、いや……父さんと同じかな。GBNに大切な物を奪われたセイヤさんの復讐の手伝い。あの人にはイアみたいなELダイバーのような人で、大切に思う人が居た。……けど、GBNにその人を殺された。俺はイアと話してわかったんだ。セイヤさんが失った物の大きさが」

「レイアっていう子の事だよね」

 カルミアの話を思い出す。

 

 

 セイヤの復讐。それこそが事の発端だ。

 

 

「俺はもうお前達を止めれないけど、応援は出来ない。GBNそのものへの恨みが消えた訳じゃないからな」

「……それで、イアが死んでもか?」

「は?」

 思っても見なかったロックの言葉に、アオトは目を丸くして固まる。

 

 

 言っている意味が分からない。

 

 

「イアは他のELダイバーと違ってログアウト出来ない。なんのバグかは知らねーけど、GBNを壊す為には都合が良いんだろうな。あのセイヤとかいう野郎は、GBNからログアウト出来ないイアに膨大なデータを貯蓄させて、GBNのサーバーをぶっ壊すつもりなんだよ」

「そ……んな。セイヤさんは、そんな事……言ってない!!」

 イアは他と同じ。ただのELダイバーだ。

 

 だから、この作戦が終われば彼女はこの世界から解放される。セイヤはそう言っていた。

 

 

 けれど、もしロックが言う事が真実なら、イアはGBNの消滅と共に居場所を失くしてこの世界から消える事になる。

 

 

 まるで、ついさっきまでの自分のように。

 

 

 

「お前がどうしたいかは知らん。全部終わった後考えれば良いんじゃねーの。俺達は別に、最初からお前を突き放すつもりはねーよ。……けど、イアは俺達の仲間で俺はこのフォースのリーダーだからな。振られて傷心中のお前に構ってるほど暇じゃねーの。だから、行くわ。二人も行くぞ」

 そう言って、ロックは未だに轟音が轟く地下基地の内部へと向かっていった。

 

 

「……アオト。俺、待ってるから」

「アオト君……。いや、ううん。なんでもない。後でね」

 二人も、ロックに続いていく。

 

 

 一人残されたアオトの機体はその場に座り込んで、何もない虚空を見上げた。

 バグが侵食しているのだろう。天井がある筈の底には、何もない空間が広がっていた。

 

 

「……そういうの、狡いだろマジで。そういうところだぞ、お前ら」

 虚空に手を伸ばす。

 

 そんな事をしていても何も掴めない。それだけは、分かっていた。



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最後の時

 世界が壊れていく。

 

 宇宙も地上もない。そこには何もない。

 

 

 ボクだけが居た。私だけがいる。

 

 

「キミは……レイア?」

 目の前にいた。いや、それは前でも後ろでもない。なにもない。自分の中。

 

 

「セイヤの事を止めて欲しい。それは、ボクも止めたいと思ってるよ。でも、私は嬉しくも思っている。それは、キミがこの世界もセイヤの事も好きだからでしょ?」

 自分と話しているような、自分の中のパーツが別の何かであるかのような。そんな気持ちだった。

 

 

「私はどうしたら良いか分からない。そんなの、ボクだってそうだよ。君なら止められると思ったの。それは違う。何が違うの。ボクが止めても、あの人は止まらないよ。でも、私はもうこの世界にはいないの。キミはここに居るよ」

 世界が壊れていく。

 

 自分が原因だという事は、なんとなく分かった。

 

 

「どうして私はここにいるの。この世界が壊れ始めて、この世界に溶けていたキミの一部が浮き上がってきたからだと思う。私の一部……君の中にあった、から。カルミアがボクの事をキミと間違えたんだ。全然似てないのに。ボクもそう思うけど、多分ボクを構成する何かにキミがあったんだと思う」

 この世界に生まれたELダイバーは、何故か初めから何か物を持っていたり記憶を有していたりするという。

 

 ガンプラをスキャンした時の余剰データと、その何かが合わさって生まれたのがELダイバーなのだと、いつかキョウヤが言っていた。

 

 

「キミは……確かにもうこの世界にはいないのかもしれない。けど、今ボクの中にいるキミは、ちゃんとここにいる。その時が来たら、ボクはキミにこの身体をあげても良い」

「……返さないかもしれないよ。私もね、セイヤが好きだから」

「それでも良いよ」

「え……」

「ボクも、あの人やこの世界の事が好きだから。それで、皆が大好きなこの世界を守れるなら、それで良いよ」

 霧が晴れる。

 

 

 轟音が轟いた。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 地下基地が消し炭になっていく。

 

 

「くっそ、イアの奴やり過ぎでしょうよ!!」

「通信が返って来ないっす。そもそもイアちゃんが動かしてる訳じゃないんすよ」

「んな事は分かってるのよ!!」

 歯軋りしながら攻撃を避けるカルミア。

 

 

 イアをコアにしたデストロイガンダムは敵味方お構いなしに全範囲への攻撃を開始した。

 

 そもそもNPDは直ぐリスポーンするが、カルミア達はそうはいかない。それに、周囲のステージが破壊され、周りのものが無に変わっていく。

 

 

 ここが本当に地中なのかどうか、もう分からない。撃墜されたとして、リスポーンしてからここに戻って来られるという保証もなかった。

 

 

 

「倒されちゃった人達、帰って来ないですね」

 ビームマグナムで敵を撃ち落としながら、ニャムの背後に降り立ちそう言うヒメ。

 

 せっかく入った増援も、半分程に減ってしまっている。このままではジリ貧だというのは明らかだった。

 

 

「そっちの大将や坊主は。まさかやられちまったって訳じゃないよねぇ?」

「アンディさん……!」

 そんな彼等の前に降り立つガイアトリニティ。

 

 減りつつある戦力をまとめ、なんとか落ち着く時間を作ったのは彼───砂漠の犬のアンディの手腕である。

 

 

 しかし、それは状況打破とまではいかない。もしロンメルなら、この状態をなんとかするのだろうかと彼は唇を噛んだ。

 

 

「ケー君達は今幼馴染と喧嘩中」

「どういう状態? それ。……いや、君達がそれについて焦ってないなら別に良いか。所で僕に作戦があるんだが、乗るかい?」

 不敵な笑みを見せるアンディだが、戦略的にも成功率は半々という所である。

 

 しかし、このままではジリ貧だという話よりもアンディには不安要素があった。

 

 

「もし、君達が乗らなくても僕はやる。君達は目の前のことに夢中で見てないかもしれないけど、さっき運営から連絡があった」

「運営から?」

「宇宙での戦闘結果さ。彼、セイヤ君だっけ。宇宙で大佐やチャンピオンをチートで足止めして、今こっちに向かってる」

 宇宙のMA攻略の為、多くのダイバー達が宇宙に渡っている。

 

 

 セイヤはそれら全てを足止めし、さらに地上に降りようとしているというのだ。

 

 

「チートってのは本当にチートなんだろうなぁ。確かにアイツは上手いが、あの戦力を相手にして勝てる訳ないだろうし」

「そのチーターが戻ってくる前に、こちらを叩かなければGBNは終わりを迎えるだろう。なにせ、彼等が勝てなかった相手に僕達が勝てる訳ないからね」

 他のダイバーはともかく、ロンメルの強さはアンディが一番分かっている。

 

 どんな戦術を用意しても勝てなかったあの大佐を加えたチャンピオン達の動きを止めたというのだ。

 今そんな相手に襲われれば、こちらに勝ち目はない。

 

 

「さて、話してる暇なないぞ」

「どうやら本当にそんな暇なかったみたいだけど、ね」

「───そうだな。沈め」

 深い霧がかかった様な声に、その場にいたダイバー達は顔を上げる。

 

 

 そこに居たのは、禍々しいオーラを纏うファーヴニルリサージェンス。セイヤの機体だった。

 

 

 

「馬鹿な……早すぎる」

「チートだって自分で言ってたでしょうに!!」

 間髪入れずに回避運動を取るカルミア達。

 

 同時にファーヴニルのバックパックから放たれたビームが拡散し、地上を焼く様に降り注ぐ。

 

 

「各機散開!! フラブラスト!!」

「皆避けるんですわーーー!!」

 雨の様に降り注ぐビームに焼かれる世界。残っていた戦力を抉るように、あまりにも無慈悲な攻撃が彼等を襲った。

 

 

「───そう何度もやらせるか!!」

「ガキが!!」

 そんなファーヴニルリサージェンスにミラージュコロイドで背後から近付いたノワールの迅雷ブリッツが襲い掛かる。

 

 しかし、その刃が届く前に迅雷ブリッツの腕は斬り飛ばされた。両膝の隠し腕、そして放たれていたファンネルがノワールを襲う。

 

 

「ノワール!!」

「……っ、これはチートじゃない。本人の強さだ」

 システムは至って正常だ。

 

 彼は確かに強い。しかし、その強さがあるからこそチートを使ってチャンピオンを足止め出来たのだろう。

 

 

「ハッハッハッハッ!! 雑魚共が!! 下手くそが!! そんなもんで守りたい物が守れると思うな。俺は守れなかったんだ。俺を倒せない奴に守りたい物が守れる訳ねーだろ!!」

 再び雨の様に降り注ぐビーム。カルミア達は避けるので精一杯だった。

 

 

「アレを止めて、デストロイを止める。犬さんや、デストロイを止めるのにどんだけ戦力が居る!?」

「メフィストフェレスの火力と、そこのNTーDは欲しい。後は僕の隊でなんとかしてみせるよ」

「……分かった。ニャムちゃん、おじさんと一緒にあのバカを止める。出来る?」

「……勿論!」

「無茶ですわよ! この人滅茶苦茶強いんですのよ!?」

「ケー君達も来る。それまでなんとかするだけよ。……ヒメちゃん、頼っても良いか?」

「よく分からないけど、なんとなくお姉ちゃんの言ってた意味は分かりましたから」

「何をゴタゴタ話してやがる!!」

 ヒメの元に向かってくるセイヤ。

 

 しかし、そんな彼の前にサトウのビギナギナⅡが立ち塞がる。

 

 

「お前も裏切ったんだな、サトウ」

「俺は、あんたを助けるためにここにいるんですよ。セイヤさん!!」

「ナイスカバーっすよ!!」

「サトウ、お前はヒメちゃんを頼む!!」

 セイヤを挟み込むカルミアとニャム。

 

 大切な親友と、兄。

 やっとここまで来た。ある意味、この日を待ち望んでいたのかもしれない。

 

 

 

「兄さん、やっとここまで来ました。……私の───ジブンのガンプラを、貴方にぶつけます!!」

「ここでお前を止める。もうどこにも逃げ場はないからな!! セイヤ!!」

「逃げるのはお前らだ。這いつくばって、道を開ければ良いんだよ!! グリモアの呪縛に跪け!!!」

 周囲を包み込む禍々しいオーラ。

 

 それに対抗する様に月光蝶が世界を包み込む。

 

 

 破壊されていくGBN。

 

 

 

 あまり時間は残されていない。



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全てを尽くして

 翼が舞う。

 

 

「レフト、ライト。回避運動任せる」

「滅茶苦茶攻撃くるけど!?」

「滅茶苦茶動くけど!?」

 サイコザクレラージェに合体したウィングゼロアビージを駆る二人は、そのまま回避運動に手一杯だ。

 

 機体が上下左右に揺れる中、スズは狙撃で確実に相手を減らしていく。

 

 

「なんで当てれるんだ、あの嬢ちゃん」

「お姉ちゃんが凄いって言ってたの、あの人だ」

 サブアームも合わせて五丁。さらにウィングゼロアビージの機体制御まで奪いバスターライフルを二丁。

 

 その全てを正確に敵に当て、道を切り開く彼女をアンジェリカとノワール、トウドウが援護する彼等の必勝戦法だ。

 

 

 彼女らの火力を全面に押し出し、切り開いた道をアンディの指揮の元、砂漠の犬と残存兵力が突き進む。

 

 そうすると、ついにデストロイガンダムが動き出した。ここからだ。

 

 

「言われた通り、やれば良いんですね」

「あぁ、任せたよ」

「はい」

 ヒメが目を閉じる。姉に頼まれた、姉の大切な、大好きなこの世界の為に。

 

 

「───もう一度、私に力を貸して。バンシィ!」

 NTーD。

 

 ヒメのバンシィが、緑色の光を放った。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 ハイパービームサーベルがニャムの機体を切り裂く。

 

 

「ぬぅ……どうせサテライトキャノンは使えないっすよ!!」

 受け身を取りながら、右手に持ったビームサーベルを振り回すニャム。

 

 それを両足の隠し腕で持つサーベルで受け止め、セイヤは両手とシールドバインダーのビームサーベルをニャムに向けた。

 

 

「手数が違うんだよ」

「そんなもん見りゃ分かるんすよ!!」

 ビームサーベルを手放し、その右手を黄金に輝かせるニャーンX。

 

 拳から放たれた光が、サーベルの熱を奪う。

 

 

「シャイニングフィンガー? 違う……これは───」

「ゴッド……フィンガー!!!」

 放たれる熱に距離を取るセイヤ。それを見たニャムは、拳を引っ込めて力を溜めた。

 

 

「離れても無駄っすよ!!」

「良く出来たガンプラだ……」

 全身を黄金に輝かせ、月光蝶まで纏う姿は神々しい。

 

「奥義!! 石破……天驚拳!!!」

 そして、その拳が放たれる。MSをも凌駕する巨大な拳状のエネルギー。

 

 しかし、その攻撃はファーヴニルリサージェンスのハイメガキャノンに掻き消された。

 

 

 ビームの余波でニャーンXの左足が吹き飛ぶ。バランスを崩した彼女の機体に、セイヤが肉薄した。

 

 

「終わりだ。そこで見てろ!!」

「兄さんは……何も分かっちゃいないんですよ!!」

「ブラディ・シージか……」

 セイヤの頭上に現れる、吹き飛んだ筈のニャーンXの左足。

 

 放たれた赤いビームを軽く交わすセイヤだが、そのビームは百八十度曲がって再びファーヴニルリサージェンスを襲う。

 

 

「フレスベルグだろ。そんなもんが当たるかよ」

 放たれた時点でネタは割れていたのか。セイヤは機体を逸らして簡単に曲射を避けてみせるが───

 

「何!?」

「リフレクターインコムもあるんだよ!!」

 避けた筈のフレスベルグがリフレクターインコムにより反射され、三度セイヤを襲った。

 

 

 ムーバブルシールドでそれを防ぐセイヤの懐にビームサーベルを構えたカルミアのガンダムmarkReVが入り込む。

 

 

「貰う!!」

「舐めるな!!」

 肩のサブアームを展開するカルミア。しかし、セイヤの機体は実質六本の腕がある状態だ。カルミアは簡単に抑え込まれる。

 

 

「俺一人じゃ無いんだよ!!」

「兄さん!!」

 下から潜り込むニャムのニャーンX。それのは別に、分離した右腕が背後からセイヤに襲い掛かった。

 

 

「───どれだけ来ようが同じ事だ!!」

 ヘッジホッグが火を吹く。

 

 背部バインダーの砲台、ファンネル、まるでブレイクバースト中のイージスブレイクが全身からビームを放つ時のように。

 チートなしでもこの機体は全身が武器であり、ヘッジホック───針千本の名は伊達ではない。

 

 

 ファーヴニルリサージェンスを中心に全方位に向けて放たれたビームが二人の機体を貫いた。

 

 力量も、ガンプラの性能も違い過ぎる。

 

 

「機体制御……くそ!!」

「カルミアさん!!」

「よそ見するなニャム!!」

 カルミアの怒号で振り向くと、六本のビームサーベルがニャムに降り掛かる寸前だった。

 

 やられる。

 そう思った刹那、リフレクターインコムと通常インコムがセイヤとニャムの間に割って入った。

 

 

「邪魔だ」

「お前は自分の妹の言葉すら聞かなくなったのかよ!! セイヤ!!」

 手足もボロボロの機体が前にでる。セイヤはそんなカルミアを足蹴りで一蹴した。

 

「邪魔だと言っただろう」

「兄さん!!」

「ナオコ、お前には分からないさ。大切な人を失った気持ちが。……ここでお前達がやられようが、お前達は死ぬ訳じゃない。……けどな、レイアは違ったんだよ!!」

「そんな事……分かってます。でも、私達も───ジブンも、イアちゃんが大事なんです。だから、それを奪うのはやめて欲しい」

「分からせてやるって言ってんだよ。俺の気持ちを!!」

「分かってると言ったでしょう!!」

 両手足を分離させ、セイヤの周囲を囲む。

 

 

「私も失ってるんですよ!! 兄さんを!! 優しくて、格好良かった兄さんは、私の側に居てくれない。今こうして……私の事をいじめてくる!!」

「ナオコ……」

「辛いの分かってないのは、兄さんです!! 私はずっと探してたのに……私はずっと!!」

 引き金を引いた。

 

 しかし、全てのパーツをセイヤはビームサーベルで切り捨てる。

 

 

 そこに、もうあの優しい兄は居なかった。

 

 

「ニャムちゃん……」

「帰ってきてよ!! そんなに辛いなら、家族の所に帰ってきてくれれば良かったじゃない!! 私は……ずっと待ってたのに!!」

「……っ、だ……黙れ。黙れぇ!! お前に何が分かる。ガンプラを楽しんで、仲間が出来て、俺の事なんて忘れてこのGBNを楽しんでたお前に!!」

 振り下ろされるビームサーベル。もうニャムに反撃の手はない。

 

 

「セイヤ!! お前自分が何してるのか分かってんのか。レイアはもう居ないんだよ!! それじゃ、お前が今一番守らなきゃいけなかったのは誰だよ!! その子だろ、お前の大切な妹だろ!! 俺に沢山妹の話をしてくれただろ。なぁ!!」

「うるさいんだよ、お前も。お前に分かるのかよ、好きな人が居なくなった人の気持ちが。心に開いた穴が、お前みたいに!! ヘラヘラした奴に分かるのかよ!!」

「……っ、そんなもん」

「分からねぇからそうしてられるんだろ!! お前らはそうだ!! ナオコ、カンダ!!!」

 機体を持ち上げ、ハイメガキャノンを構えるセイヤ。

 

 

「っ、逃げろニャム。まだお前はセイヤと話さなきゃ───」

「そんなの、カルミアさんも同じですよ!」

「消えろ」

 放たれるハイメガキャノン。

 

 二人を包み込もうとする光。

 

 

「シールドビット!!」

「エクリプス!!」

 その光を、シールドビットが一瞬足止めし、砲撃が相殺する。

 

 

「……遅いぜ、ロッ君隊長」

「……ケイ殿!!」

「ヒーローは遅れてやってくるってなぁ!!」

「ごめんなさい、遅れました」

 ロックとケイ、そしてユメの三人が合流して二人の前に立った。

 

 

「俺様が来たぜ。……もう、あの時みたいな負け方はしねぇ」

 銃口を向けるロック。

 

 そんな三人を見下ろして、セイヤは静かにこう告げる。

 

 

「雑魚が増えた所で、何も守れないんだよ。気持ちだけ強くても……何もな」

「兄さん……」

 まるで歯が立たなかった。

 

 それは、確かに事実である。三人の事を信じていない訳じゃない。けれど、それでも、セイヤの力は圧倒的だ。

 

 

「……デストロイは」

 カルミアは横目でデストロイの様子を確認する。

 

 アンディ達の作戦は順調なようだが、あと一歩の火力が足りずに押し戻されそうになっていた。

 せめてもう少しだけ戦力があれば、という苦しい状態だろう。

 

 しかし、時間さえ掛ければ彼等は果たしてくれる筈だ。それじゃ、どうやって時間を稼ぐか。

 

 

 

 問題はカルミアとニャムだけでは全く時間を稼げなかった事だろう。それに二人はもう戦えるような状態ではない。

 

 

 

「……足止め、私とケー君でしよう」

 ふと、ユメがそんな言葉を漏らした。

 

 

「ユメちゃん……?」

「お、おい。俺にこいつをぶん殴らせ───」

「多分タケシ君がこの中で一番火力を出せると思う。イアちゃんを助けて!」

 あと一歩。

 

 ロックの機体なら、その一歩を押し出せる。

 

 

 ユメはそう信じて、セイヤの機体にビームマグナムを向けた。

 

 

「……やろう、ケー君」

「……分かった」

「ったくしょうがねぇな!!」

 踵を返して、デストロイに向かうロック。しかし、セイヤは「行かせる訳がないだろ」と冷たい言葉を漏らす。

 

 

「まだアレには戦闘データを集めて貰わなきゃいけないんだよ。邪魔を……するなぁ!!」

 放たれるハイメガキャノン。ロックは回避しようとするが、セイヤはその類稀なる操作技術で機体をひねってビームを曲げた。

 

 

「嘘だろぉ!?」

「ロック氏!!」

「させない!!」

 クジャクとGNソードIIIを構えてセイヤに突進するケイ。ビームサーベルを構えて続くユメだが両足の隠し腕とハイパービームサーベルが二人を阻む。

 

 

「邪魔だ、消えろと言ってるだろ」

「嘘……」

「くそ……」

 そしてそれでも、セイヤの機体にはまだムーバブルシールドがあった。展開されるビームサーベルが、二人を襲う。

 

 一瞬でやられる───そう思った、その時だった。

 

 

 

「───ブレイクビット!!!」

 大量のビットがセイヤのファーヴニルリサージェンスを止める。

 

 

「……アオト?」

「イアは、お前達の他にやっと出来た俺の友達だ。俺はまだ……GBNへの気持ちの整理が出来たない。けど、セイヤさん! 俺は、あなたと一緒だ! あの子が……イアが大切だ! だから、あなたの邪魔をしても……友達を守りたい!」

 アオトのイージスブレイクがケイのストライクReBondの隣に立った。

 

 ケイは何も言わず、首を縦に振る。

 

 

「「あなたを止める!!」」

 二人の声が、重なった。

 

 

 

「……っ、はは。ははは……そうかよ。やれるもんなら、やってみろ!!!」

 大量のビームを放つファーヴニルリサージェンス。

 

 カルミアやニャムを瞬殺し、宇宙ではチートを使ってでもチャンピオンを止めた男を足止めしてイアを助ける。

 

 

「俺は壊す……この日を待ち侘びていたんだ!! この世界を!! この気持ちを!! 全て!! 破壊しつくせ!!! GBNが産んだ命と共に!!!!」

 不可能としか思えない。けれど、この三人と、いやロック達四人と───いや、GBNの仲間達となら、出来る気がした。



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想いよ届け

 デストロイガンダムには超大型のドラグーンシステムが搭載されている。

 

 元々の図体から繰り出される強力なエネルギー砲に加え、その防御力もさることながら数多のビーム砲を装備した両腕をドラグーンとして射出する事で火力と手数───そして死角のない射程を手に入れているのだ。

 

 

 そんなデストロイガンダムのドラグーンシステムを、GBNのNTーDは無効に出来る。

 

 ヒメのバンシィの活躍により、デストロイの攻撃力は半減したといっても良かった。しかし───

 

 

「───デストロイの正面に入るな! そこは間合いだ!!」

「ぇ、ちょ!! うわぁ!?」

 デストロイのスーパースキュラに飲み込まれ、爆散するサンドロック。

 

 近くにいて砲撃の余波でバランスを崩したキマリスヴィダールがツォーンmarkⅡに吹き飛ばされる。

 

 

「くそ、貴重な戦力が。その場限りのチームで統率が取れなければ、攻略に時間は掛かる……だが!!」

 放たれたビーム砲を変形しながら交わし、ビームライフルを叩き付けるアンディ。

 

 デストロイガンダムがその衝撃で揺らいだ。確実にダメージは与えている。このままいけば倒す事は出来るかもしれない。

 

 

 しかし、それは邪魔が入らなければの話だ。ケイやユメ達が来なければ、カルミア達の足止めでは足りずにセイヤが彼等を止めたかもしれない。

 

 

「……っ、時間が。私の援護は良いから皆もアレを!」

「そんな事言ってもこの数ですわよ!? 今スズの狙撃がなくなったら、それこそ前線が崩壊しますわ!!」

 メフィストフェレスも動けない。

 

 ケイ達がやられれば、次やられるのは───

 

 

「───ヒーローは、遅れてやってくる!!」

「ロック……!!」

 マックナイフに背後から襲われそうになったノワールの迅雷ブリッツの背後を取り、マックナイフを斬り飛ばす一機の黒いMS。

 

「乱れ打つぜぇ!!」

 彼等メフィストフェレスの衣装にも似たその機体は、ライフルを構えて周囲の敵を殲滅する。

 

 

「タケシ……」

「ロックな!! 俺とスズで道を開く、お前らはデストロイを頼むぜ!!」

「スズ……さんだ」

「だがお前、ケイ達は……」

「俺はアイツらを信じる。そんで、お前達の事も信じる。……そんだけだ!!」

 再びリスポーンする敵機体を狙撃するロック。

 

 彼が居ればスズの護衛も問題ない。何故なら彼はこうして狙撃をしているが、近付かれた方が強いからだ。

 

 

「俺は約束を果たして戻ってきた、だから……アイツらもそれを果たす」

 そして、セイヤを止めるのは───

 

 

「……頼んだぜ、ケイ!!」

「……タケシ達を信じて、俺達はこの人を止める!!」

 ケイ達幼馴染み。

 

 

 

「───力のない奴には何も守れないんだよ!!」

 ハイメガキャノンが放たれる。

 

 その出力はストライクReBondのエクリプスすら遥かに凌いでいた。

 それでいてその高威力ビームを放出しながら機体の姿勢制御をこなすセイヤ。それで何が起きるかといえば、ハイメガキャノンが曲がってくるという事である。

 

 

「避けられない……!!」

 TRANSーAMはもう二度使ってしまった、余力はない。

 

「ケイスケ!!」

 そんなストライクReBondを、変形したイージスブレイクが掻っ攫うようにしてハイメガキャノンの射程から逃れた。

 

 再びMS形態に変形したイージスブレイクは、ブレイクファンネルと共にビームライフルをファーヴニルリサージェンスに向けて放つ。

 

 

「ボケッとしてるな! あの人を止めるんだろ。何か手はないのか? お前の力はそんなもんか!!」

「言ってくれるな……アオト。泣いても知らないぞ!! ユメ!!」

「うん!!」

 ケイに呼ばれて、機体を変形させたユメが近寄ってきた。

 

 集まったなら纏めて吹き飛ばせば良い。そう思い、セイヤは再びハイメガキャノンを構える。

 

 

「来るぞ!!」

「あの出力のビーム砲を連射出来るのか……!!」

「ケー君、行くよ!!」

 その背後で、ユメのデルタストライカーが再び変形し始めた。

 

 しかし、それは航空機形態からMS形態への変形ではない。

 

 

 武装を収納し、スラスターを集約。OOのオーライザーのように機体が腰から半分に折れて()()()()()()()()()の接続部分が現れる。

 

 

 ストライクReBondはクロスボーンのX字スラスター付きのストライカーパックを外した。

 

 そしてそのまま、ストライカーパックとなったユメのデルタストライカーを()()する。

 

 

 

「デルタストライクReBond!!」

 ツインロングレンジフィンファンネル、ビームマグナムやシールドミサイル。

 

 デルタストライカーの武装を受け継いだストライクReBondの新たなる姿。その機体が、アオトのイージスブレイクの前に出た。

 

 

 

「合体か。くだらねぇ、一緒に消し炭になれ!!」

「「GNフィールド!!」」

 放たれるハイメガキャノン。

 

 しかし、その砲撃は強固なシールドによって塞がれる。

 

 

「今の砲撃を耐えた……。そうか、二機分の出力を有しているのか。……俺の前でイチャつきやがって」

「だから泣いても知らないって言っただろ!!」

「い、イチャ……イチャついてないよ!?」

「あの二人はなんで漫才してるんすかね……」

「分からん……。てか、来るぞ!」

 ニャムのカルミアはほぼ満身創痍で戦えるような状態じゃない。

 

 

 ケイ達が三人だけでセイヤを止めなければいけない以上、状況は苦しい筈だ。

 

 

 

「……消えろ」

 再び放たれるハイメガキャノン。そうなんども止められるような物でもない。

 

 ケイとアオトは散開してそれを交わす。

 

 

「挟み込む!!」

「分かった!!」

「ブレイクファング!!」

「エクリプス!!」

「フィンファンネル!!」

 ブレイクファングとビームライフル、エクリプス、そしてロングレンジフィンファンネルがセイヤを囲んだ。

 

 

「ほざくな」

 放たれるハイメガキャノンに吹き飛ばされるファング。同時に放たれたケイ達のビーム砲は、機体から球状に拡散されてしまう。

 

 

「GNフィールド?」

「いや、違う」

「Iフィールドか。……なら!! 接近する!!」

 セイヤに肉薄するアオト。

 

 ブレイクドラグーンを展開しながら両手足のビームサーベルを巧みに駆使した連撃を、セイヤは両手とムーバブルシールドのサーベルでいなしながら隠し腕でドラグーンを斬り飛ばした。

 

 

「手数が違う……!」

「アオト!!」

 それに続くケイとユメ。大型サーベルを展開して浮遊するロングレンジフィンファンネルとストライクReBondのサーベルがセイヤを背後から襲う。

 

 

「無駄だ」

 アオトを弾き飛ばしながら、後方にも砲撃を放つセイヤ。フレスベルグのように追従するビーム砲を、ケイは引き付けてギリギリのところで交わした。

 

 

「早いな……」

「デルタストライカーがなかったら避けれなかった……。なんて精度なんだ」

 ユメのデルタストライカーは軽装備の代わりに機動力に特化した機体である。

 

 その機動力を得たストライクReBondがやっとの事でしか攻撃を交わせない。

 

 

 交わされたことに少し驚いていたが、セイヤにはまだ余力がありあまっていた。このままなら、いつ落とされてもおかしくない。

 

 

「兄さん……」

「くそ、セイヤ!!」

 満身創痍のカルミアが援護射撃をするが、セイヤは彼に見向きもせずにアオトを詰める。

 

 

 

「……っ」

「アオト、俺に逆らうな。お前は俺と同じ筈だろう。GBNを、他人を、憎んで憎んで憎んで……お前に戻る場所なんてない!! そうだろ!?」

「……俺は、確かにそうでしたよ。ケイスケが憎かった、GBNが憎かった……今だって気持ちの整理が付いてない!! けど!! 俺にはまだ守りたい物がある!! それはセイヤさん、あなたも同じ筈だ!!」

「黙れ……。俺にはもう、何もないんだよ!!」

 アオトのイージスブレイクを地面に叩きつけるセイヤ。

 

 構えられるハイメガキャノン。横からビームサーベルだけを持って突進してきたカルミアの機体を、セイヤは頭を動かさずにバラバラにした。

 

 

「お前の目的は……そうやって子供を痛ぶる事か!? 違うだろ!! 守りたかった物があったからだろ!! やってた事は確かに良くない事だった……けどよ、俺達みたいにGBNで何かを失った人達を守りたくて動いてたんだろうがよ!! サトウはな……それでも、自分で気が付いたんだ。ガンプラをトラックで運んでいった先で笑ってた子供達の事を!! お前は忘れちまったのか!? 俺達が笑顔にさせてた子供達の事、お前が救おうとした仲間の事、お前が大好きだったレイアだって!! この世界で生まれた子供みたいな……命なんだぞ!!」

「お前に何が分かる、カンダ!! 子供だと? 大人だの子供だの、何が違う!! 俺は奪われたんだよ!! 俺が!! 俺が奪われたんだ!! 大人だから我慢しろとでもいうのか!? 子供だから守らなければならないというのか!? なら何故だ!! 何故その子供であるレイアや、アオトのようなガキが傷付く!! 大人も子供傷付いてるんだ。……俺も!! 何もかも、失ったんだよ!!」

 弩号と共に放たれるハイメガキャノン。

 

 カルミアの機体をその光が包み込もうとした時、セイヤの機体を羽のような光が包み込む。

 

 

「月光蝶……ナオコか」

「兄さん、私達は大きな子供なんです……。良い歳になってプラモで遊んで……でも、それでも良いって思っています。楽しい事は楽しいし、悲しい事は悲しくて、仲間と共有すれば良い。……けれど、それでも、やっぱり私達は何処かで大人として振る舞わないといけないんですよ。私達は沢山遊んで、本当の子供達より楽しい事も悲しい事も知ってるから……子供達に、もっと楽しんで欲しい。悲しい思いをして欲しくない。……だから兄さんはガンプラ関係の仕事をし始めたんでしょ!? だから、アンチレッドを作ったんでしょ!?」

「黙れと……言ってるだろうが。カンダも、ナオコも……なんで!! なんで知ったような事を!!」

 放たれるハイメガキャノン。しかし、ビームは月光蝶に拡散された。

 

 

「知ってるからだよ!!」

 ユメが叫ぶ。

 

 

「皆、セイヤさんの事知ってるからだよ。私はあなたの事は知らないけど……それでも、本当はあなたは優しい人だって分かる。アオト君やヒメカはあなたを信じてたもん。カルミアさんはあなたの本当に大切な仲間だった!! ニャムさんはあなたの本当に大切な家族だった!! 他のみんなも、GBNの皆も!! 私達も、イアちゃんも、レイアさんも!! 皆、あなたが大切だから!!」

「なら何故止める!! 俺が憎いからだろ!! 俺が邪魔だからだろ!! 俺が間違ってるから!!! そうだろ!!!!」

 構えられるハイメガキャノン。

 

 ロングレンジフィンファンネルが突撃して、両膝の隠し腕と共に爆散した。続けて月光蝶がセイヤの機体を絡めとるようにその光をファーヴニルリサージェンスに伸ばす。

 

 

「なんだ……機体が」

 カルミアのメガランチャーがムーバブルシールドを吹き飛ばした。

 

 

 

 

 分からない。

 

 

 何故止める。そのくせ、語り掛けてくる。

 

 

 宇宙でもチャンピオン達は、セイヤを否定しなかった。何故。自分が悪なんて事は分かっている。

 

 何をしてもレイアは戻ってこない。この復讐に何の意味もない。これは子供の仕返しだ。

 

 

 そんな事は分かっている。

 

 

 だから、なんで、誰も自分を責めないのが分からない。

 

 

 

「俺を肯定するなぁぁぁあああ!!!」

 自分は悪だ。

 

 

 そうでなければ、レイアに合わせる顔がないじゃないか。

 

 お前を取り戻す為にこれまでしてきた事を肯定されてしまったら、もう誰にこの気持ちをぶつけたら良いか分からないじゃないか。

 

 

 

 辞めろ。辞めろ。辞めてくれ。

 

 

 

 俺を肯定するな。

 

 

 

「───仲間だから!!」

 ハイメガキャノンを構えるセイヤの正面で、拳に力を込めたケイが立つ。

 

 

「仲間……だと」

「カルミアさん達だけじゃない。……俺も、ユメも……タケシやアオト達……他のGBNのダイバー達も!! GBNでガンプラを楽しむ大切な仲間だ!! セイヤさんだって、そうだったんでしょ? 俺達と同じで……ガンプラが楽しくて、だけど……辛い事もあって」

 大切な幼馴染みはガンプラと関わって夢を失った。

 

 そうしてガンプラと関わるのが嫌になって、友達が一人遠くに行ってしまって。怖くなって距離を置く事も増えて。

 

 取り戻せない時間が沢山ある。あの時こうしていたらという後悔が沢山ある。

 

 

「それでも……俺は、やっぱりガンプラが好きだ!! ガンプラが好きな皆が好きだ!! 壊れてしまった物もある、壊れたら直せば良いって思っていたけど……取り戻せない時間や場所もある!! そうやって気付いたから、だから……もう大切な仲間が傷付いてるのは嫌なんだ!!」

 手を伸ばした。

 

 

 もう戻らない物がある。

 

 

 それだけはどうしようもなくて、だけど、だったら、これからどうすれば良いのか悩んでいた。

 

 

 

 夢を失って、それでも健気に前を向く少女がいて。

 

 大切な仲間を思って、ずっと我慢していた少年もいる。

 

 ずっと大切な気持ちを抱えたまま独りぼっちだった人や、葛藤の末に大切な仲間と別れた人。

 

 

 GBNに救われた人も、GBNを本気で楽しんでる人も、この世界には沢山の人がいて。

 

 

 

 

 セイヤという男も、ただ、その中の一人なんだと気付いたから。

 

 

 

「───だから、仲間だから……友達だから!! 殴ってでも!! あなたを止める。あなたを……何処かへは行かせない!! 皆の元に、帰らせるんだ!!!」

 振りかぶった。拳が光る。

 

 

 放たれようとするハイメガキャノン。その背後から、アオトが変形したイージスブレイクで機体にしがみ付いた。

 

 

「今だ!! いけ、ユメ!! ケイスケぇ!!!」

「ケー君!!」

「馬鹿なこの俺が……くそ、何が……何が仲間だ! 何が友達だ!! 俺のこの気持ちは……この想いは───」

「───届け!!!」

 放たれる拳。最後に残った片側のムーバブルシールドを吹き飛ばしながら、その拳が光を放つ。

 

 

「ReBond……ナックル!!!!」

 光が世界を包み込んだ。




ハーメルンでの今年最後の更新となりました。平常運転ですが、来年からも完結まで突っ走ります。

読了ありがとうございました。良いお年を。


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伝わる気持ち

 大好きだったんだ。

 

 

「セイヤ!」

「どうしたんだ? レイア、そんな楽しそうな顔して」

 あの子の事も。

 

「さっきね、サトウとカルミアがバトルしてたんだけどね! サトウがせっかくカルミアに勝てそうだったのに、途中で転んじゃったの」

「さっきの地鳴りはそれか。なんだ、そんな面白い試合なら見たかったな」

 仲間の事も、本当に大好きで。

 

 

「まだリベンジするって言ってるから、一緒に見に行こう?」

「あぁ、一緒に見よう。なんなら混ざっても良いな」

 この世界の事が、大好きだったんだ。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 拳が、シールドを突き抜ける。

 

 

 光に包まれる視界。

 

 楽しかった気持ち、大切な気持ち。それを全部、否定されたようだった。

 

 

 けれど、彼等は違う。

 この気持ちを大切にしてくれて、包み込むように言葉を交わした。けれど───

 

 

「───届け!!!」

「───この想いは、この気持ちだけは……偽物じゃない!!!!」

 ケイの拳を受け止め、投げ飛ばす。

 

 

「……っ」

「邪魔は……させない。お前らが俺を否定しなくても、この世界は!! 俺を否定する!! 否定したんだ!! あの時、レイアが居なくなってしまったその時から!! 俺は、ダメなんだよ。この世界を許すことなんて!!! 出来ない!!!!」

 アオトのイージスブレイクも振り払って、放たれようとするハイメガキャノン。

 

 ムーバブルシールドも背部のファンネルも、両足の隠し腕も失って。

 それでも、彼の機体は怨念のような光を纏っていた。

 

 

 抗えない心が、機体を闇に染めて行く。

 

 

「兄さん!!」

「セイヤ!!」

「消えろぉぉぉおおおおお!!!!」

 光が放たれた。

 

 振り払って、全て消し去る。

 

 

 差し伸べられた手も、仲間も、家族も。

 

 

「俺は……俺は!!!」

 大破したケイ達の機体を見下ろして、セイヤは彼等に背中を向けた。

 

 

 カルミア達の言葉も、届かない。

 

 

 

「ケイ!? やられたのか!? スズ!!」

「スズ、さんだ!! 来るぞタケシ!!」

「ロック!!」

 後方で狙撃をしていたロック達に迫るセイヤ。

 

 彼はスズの狙撃すら交わし、ロックを機体から放つプレッシャーで止め、二人の機体を斬り飛ばす。

 

 

「これがチートかよ!?」

「……っ、アンジェ!! ノワール!!」

 スズが前線でデストロイガンダムと戦っている仲間に通信する暇もなく───

 

 

「なんですの!?」

「……っ、もう少しと言うところで!!」

 アンジェリカ達メフィストフェレスも、アンディが指揮する残存部隊も、セイヤは一人で殲滅していった。

 

 

「……危ねぇな、まったく」

 デストロイガンダムはほぼ大破状態。

 

 もはや武装は殆ど残っていないような状態で、沈黙まで本当にあと少しの所だったのだろう。

 

 

「お姉ちゃん……どうしよう」

「セイヤさん……」

 唯一なんとか動ける状態のヒメとサトウが、デストロイガンダムの前に立つセイヤの赤い機体を見上げた。

 

 

「……邪魔だ」

 静かな声で、バラバラにしたアンディの機体から奪ったライフルをヒメ達に向ける。

 

「……あ?」

「……諦めない!!」

 ヒメの前に、満身創痍のケイとユメが立った。

 

 

「お姉ちゃん……!」

「セイヤ、目を覚ませ!!」

 カルミアやニャム達が続く。アオトやスズ、アンジェリカ達も立ち上がって、セイヤを睨んだ。

 

 

「……無駄なんだよ。もう何も戻らない」

 頭部を光らせるファーヴニルリサージェンス。半壊した機体でも、ここにいるケイ達を吹き飛ばすくらいは造作もないだろう。

 

 

「……全て、消えろ。消えろ……消えろぉぉおおお!!!!」

 圧縮したメガ粒子。それが放たれようとした刹那。

 

 

「な───」

 彼の機体を巨大な腕が包み込んだ。

 

 

「デストロイガンダムが……」

「イアなのか?」

 アオトとケイが見上げる先。

 

 セイヤの機体をその手に掴んだのは、彼の背後で沈黙していたデストロイガンダムだったのである。

 

 

「なんだ……と? なんだ? どういう事だ。何故動ける。ELダイバーはコアでしかない、操縦は出来ない筈だ!!」

 機体を抑えつけられて、ひっくり返された。

 

 何が起きているのか分からない。しかし、このままではハイメガキャノンがデストロイガンダムに命中してしまう。

 アンディ達からの攻撃で、もうデストロイガンダムには半壊したファーヴニルリサージェンスのハイメガキャノンすら耐えうる耐久は残っていない。

 

 直ぐにでもメガ粒子の収縮を止めようとするセイヤ。しかし、機体の制御が出来なかった。

 

 

 

「なん……だ。なんなんだ!! なんなんだお前は!! 分かっているのか!? お前、このまま行けば死ぬんだぞ!! お前に帰る場所はない、お前だって生きたいと思っている筈だ!! レイアのように!! 俺はそれを利用して……なのに、なぜだ!?」

「───そうだよ、ボク()は生きたいよ」

 セイヤのモニターに映るイアの顔。

 

 そして、その姿にある少女の姿が重なる。

 

 

「レイ……ア?」

「セイヤ、もう辞めて」

 聞き間違える筈がなかった。

 

 

 その声は、声色は、その表情は、彼が恋焦がれ、何もかもを犠牲にしてでも、その存在を許さなかったGBNを憎むキッカケになった少女のものなのだから。

 

 

 けれど、彼女はもうこの世界のどこにも居ない。その筈なのに、なぜ───

 

 

「───どうして……どうしてお前が、ここにいるんだ!? でも……その身体はお前じゃ、ない。お前は……GBNの運営に消された筈だ!! 俺を……俺を嘲笑うのか!! 俺を騙そうとしてるのか!!」

「どうして、かな。私にも分からないよ。けど、私はずっと見てたよ、セイヤの事」

「は……」

 手が震える。

 

 

 騙そうとしてる、と言ったのに。そんな訳がない事を自分が一番理解していた。だって、間違える訳ないじゃないか。

 

 

 コレほどまで、ここまでの事をする程、彼は彼女が好きだったのだから。

 

 

 

「私は確かに消えて、この世界のデータの海でバラバラだった。でも、バラバラだったから、セイヤの事ずっと見てた。……本当に辛そうで、ずっと手を伸ばして上げたかった。でも、私には出来なかったの。……ごめんね、セイヤ」

「そんな事、ない。……そんな事ない。またお前に会えた……。そこにお前が居てくれれば、俺はそれで良い……。何を言われても、俺はそれで良い。お前が生きていてさえくれれば、それで良かったんだ!! レイア、待て……俺を離せ……!!! このままじゃ、俺が!! お前を殺す事になる!!!! 辞めろ!!!!!」

 圧縮されるメガ粒子。

 

 それは、もはや暴発寸前である。引き金を引いてしまえば、全てが終わってしまう筈だ。

 

 

 そうでなくても、暴発したエネルギーがいつデストロイガンダムを───その中にいるレイアを貫くか分からない。

 

 

 

「それで、良いんだよ」

「レイア!!!」

「私は本当は存在出来ない。今は、この世界のデータがぐちゃぐちゃになってて……バラバラだった私がイアちゃんの中に存在出来ているだけ。どちらにせよ、私はこのままこの世界に居続ける事は出来ないから」

「そ、そんな……。そんな!! 待ってくれ、なら……道を探そう。お前を助ける道を……。このままバグを起こし続ければ良いのか!? もっとGBNをぐちゃぐちゃにすれば良いのか!? 俺はお前の為ならなんでもする!! そうだ、そのELダイバーをお前が乗っ取れば───」

「もう、ダメだよセイヤ。すっごい、私の事大好きなんだね。……ありがとう」

「レイア……」

 何かが頬を伝う。

 

 

 データである筈の身体なのに、震えが止まらない。

 

 

 

「私には、セイヤの手を取る事は出来ない。……だから、ごめんね。ありがとう。……だけどね、セイヤの手を取ってくれる人は沢山いるよ!! 私の最後のお願い、聞いて欲しい。皆と仲良く、この世界を楽しんでほしい。私、見てるから……ずっと、セイヤの事見てるから」

「い、嫌だ……嫌だ嫌だ!! レイア、俺と居ろ!! 俺とずっと……ずっと一緒に居てくれぇ!!! 俺を独りにしないでくれ!!! お願いだ、辞めろ……辞めろ!!!! 辞めてくれぇぇえええ!!!!」

 泣き喚いて、懇願した。

 

 

 この一時が一生続いても良い。なんでも良い、レイアと一緒に、それだけが望みだったのだから。

 

 

「イア!!」

「イアちゃん!!」

「あはは、皆そういう事だからさ。ごめんね?」

 同じ顔、同じ声で、()()はケイ達に向けて笑顔で声を漏らす。

 

 

「なんかね、レイアさんって人が消えちゃった時にバラバラになった欠片の一部が、ボクを形造る一つになったみたいで。僕がログアウト出来ないのは、そうやって強くこの世界に結びついていたから……なのかなって。ちょっと今更だけどね」

「でも、原因が分かったならイアちゃんは救えるかもしれないじゃないっすか! 兄さんを止めるためにイアちゃんが犠牲になるのは間違ってるっすよ!!」

「そうだよイアちゃん!」

 ニャムの言葉にそうやって続けるユメ。

 

 イアは彼女達にとって大切な仲間だ。それは、セイヤがレイアを大切だと思う事と、何も変わらない。

 

 

「俺様のチームから誰かが居なくなるなんて事……許さねーぞ!!」

「イア、俺達と戻ろう。セイヤさんを止めて、話し合いが出来れば、あとはなんとかするから!!」

「そうだイア。おじさんの馬鹿な友人の……いや、俺達の下らない喧嘩や仕返しなんかの為にお前が消える事はない。お前まで、レイアになる事はないだろ!!」

 カルミアが手を伸ばす。けれど、イアは首を横に振った。

 

 

「……ボクは今、凄くGBNっていう世界に近い所にいる。色んな物がぐちゃぐちゃになってるから、かな。この世界が壊れかけてる、だからこそレイアもここに居る訳だし。……もう、時間がない。セイヤさんがこの機体に掛けた呪いは、この機体とコアになってるボク達をこの世界から消さないと……ちゃんと消えない」

「イア……」

「ボクね、楽しかったよ」

 笑顔でそう言う。

 

 

「気が付いた時から一人だった……誰か来たと思っても、皆直ぐにどこかに行っちゃったから」

 産まれたばかりのイアは何が何なのか分からなかった。

 

 

 多分彼女がそこに産まれた事が、レイアという少女の残響だったのかもしれない。

 

 けれどその場所にはもう誰もいなくて、寂しさだけが残る建物の中で、彼女はずっと一人だったのだろう。

 

 

 彼等が、彼女を追い掛けるまで。

 

 

「タケシ!! ボクを見付けてくれて、ありがとう。タケシはずっと一緒にいると楽しくて、大好きだった!!」

「お、おい……嘘だろ」

 メガ粒子は今にも放たれようとしていた。

 

 

「ニャム、ガンプラ奪ってごめんね。ニャムは色んな事知ってて、沢山の事教えてくれた。大好きだよ!!」

「イアちゃん……ちょっと、待って! そんな!」

 光が溢れていく。

 

 

「カルミア、ずっとボクの事気にかけてかれてありがとう。ボクね、優しいカルミアの事大好きだよ。でも、自分に厳しいのはもう辞めてね?」

「……やめろ、イア。お前が俺達の代わりに帰る事はないだろ!! 辞めろよ、なぁ!! セイヤ!!」

「俺だって……やめたい、けど───」

 暴発は止まらない。

 

 

 

「ケイ、ユメ……二人と───皆と一緒にいる時間は最高だったよ。沢山の楽しいがあった。本当に、僕は皆もこの世界も大好きになった───」

「イア……!!」

「イアちゃん……!!」

 光が───

 

 

「───アオトとも仲直り出来たなら、もう僕に思い残す事はない。アオト、皆とガンダムを……ガンプラを楽しんでね」

「───待ってくれ……イア、俺はまだ!! お前の事も、この世界の事も、何も……何も知らない!! 俺を独りにしないでくれ!!」

「アオトはもう、独りじゃないよ」

 ───放たれた。

 

 

 

「や、辞めろ!! レイア!!! 辞めろぉぉぉおおおお!!!!」

 光に包み込まれるデストロイガンダム。

 

 

 

 何もかも燃やし尽くして、その手を───



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届いた想い、届かせる気持ち

 光が見えた。

 

 

 生まれた時、初めに見えた光。

 

 データの海を泳いでいた。何もなくて、上も下もなくて、それは宇宙よりも広い1と0の世界。

 

 

 この世界を埋めていくように、その光は広がった。

 

 

 

「───楽しかった。だから、どんなに悲しくても、辛くても、嫌でも。この世界がなくなって、皆が一緒に居ないのは嫌だ。……僕は、皆が笑ってるのが大好きだったから」

 どれだけ壊れたって、直せば良い。

 

 

 

 この世界がなくなったら、もう治せないから。

 

 

 だから───

 

 

「───だから、俺は諦めない……!!」

「───ケイ!? ユメ!?」

 放たれたハイメガキャノン。

 

 その光とデストロイガンダムの間に、ケイのストライクReBondとストライカーパックとしてのユメのデルタストライカーが立つ。

 

 

 

 盾も何もない。ボロボロの機体で。

 

 辛うじて前面に展開したGNフィールドでデストロイガンダムを守ろうとしていた。

 

 

 

「……ケイ! ダメだよ、無理だ! それに、これ以上戦闘データが蓄積されたら、GBNがもたない!!」

「そんなの知るか!!!」

「ケイ!?」

 機体が歪む。嫌な音を立てながら、二人の機体がバラバラになっていった。

 

 

「壊れても、治せば良い……ずっとそう思ってた。でも、アオトと話してやっと分かったんだ。……治らない物も、戻らない物もあるって。GBNは大切だ……でも、だけど、俺達はそれよりも、GBNで楽しかった時間が大切なんだ。……イアを……大切な仲間を諦める事なんて!! 出来ない!!」

「でも!! 僕がいたらこのGBNは……!! なくなっちゃうんだよ!? どうせ、僕も消える……だったら!! セイヤさんが動けないウチに、僕を消さないと!! ダメだよ!!」

 今イアを守っても、このままGBNが崩壊すれば彼女も一緒にこの世界のデータと共に消えてしまう。

 

 

 ケイのしている事は、なんの合理性もない事だった。

 

 

 

 イアだけが消えれば、GBNは救われる。

 それはユメのようにGBNを拠り所にしている人達を救う事にもなる筈だ。

 

 今ここでイアを守っても、GBNはそのうち崩壊するだろう。

 そうなれば、守った筈のイアの命も何も残らない。

 

 

 

 選択肢なんてない筈だ。

 

 けれど、どうしたって諦められない。

 

 

 

「全部、手放したくない。俺は強欲だから、楽しかった時間も、場所も、友達も、全部大切だから。……全部諦められない。無駄だって分かってても、嫌なものは嫌だ!!」

「そうだよ!! 私達は、子供で……わがままだから!!」

 GNシールドにヒビがはいる。

 

 

「あぁ、そうだな。俺達はガキだ!! 大人の事情とか知るか。GBNとか知るか。俺は!! 仲間を助ける!! それだけだ!! シールドビット!!」

「俺達子供はすぐに間違えるんだ。……だから、許して欲しい。父さん、セイヤさん……。ブレイクバリアビット!!」

 ケイ達の機体をロックのシールドビットとアオトのブレイクビットが包み込んだ。

 

 

 光が弱くなる。

 

 

 

「俺のファーヴニルリサージェンスのハイメガキャノンを、それも暴走寸前で暴発したこの威力の攻撃を……受け切るのか」

「これが子供達の力って事よ、セイヤ」

「ジブン達にはない力、ですね」

 ビームは拡散し、弾かれて、次第にその威力を失っていった。

 

 

「綺麗……」

 まるで花火のよう。

 

 ヒメの目に映るゲームの世界の光景は、本当の世界の花火にも負けない輝きを持っていた。

 

 

 

「ケイ……ユメ……」

「助けたぞ、イア!!」

「イアちゃん、そこから出よう!!」

「で、でも……GBNが!!」

 ハイメガキャノンを耐え切ったボロボロの機体。

 

 しかし、GBNはその膨大なデータ量に圧迫される形で崩壊を始めている。

 そのデータの集合体であるイアとデストロイガンダムがこの世界から消えない限り、その崩壊は止まらない。

 

 

 

「これが望みか、セイヤ……」

「兄さん……」

 どのみち、イアに助かる道はなかった。

 

 

 このままGBNと共に、子供達の夢と共に、彼女もまた───レイアのように消えるしかない。

 

 

 

「───セイヤ」

「───レイア……。そう、か。俺は……まだ、ガキだったんだな。ガキのままで……いれたんだな」

 デストロイガンダムに近付くセイヤ。

 

 そんな彼の前に立ちはだかるように、ケイが必死な表情でボロボロになったストライクReBondを立たせる。

 

 

「何をする……気ですか?」

「GBNの崩壊を止める」

「セイヤさん……?」

 このままいけば、セイヤの望み通りこの世界は崩壊する筈だ。

 

 

 しかし、あのままセイヤがレイアやイアに導かれるままにハイメガキャノンを放っていれば、この世界は救われただろう。

 

 けれど、セイヤはそのどちらも望まなかった。そのどちらも望んだ。

 

 

 それでもイアを助ける為にケイが取った行動は、GBNの崩壊を防ぐという目的から見れば相反する事だっただろう。

 

 

 ───否、それは違った。

 

 

「……お前が守りたかったのは、この世界でもELダイバーの命でもなんでもない。……お前の信念、お前の世界だ」

「……っ」

「どのみちこのまま行けば、GBNは崩壊してそのELダイバーも消える。そんな事は分かってる筈なのに、お前はそれを否定した。ガキだから、何も分かっていないからだ」

「それは……」

 ケイは間違っている。そんな事は分かっていた。

 

 

「けど───」

「───けど、それで良いんだ。ガキは……子供は、自分の世界を守らないといけない。俺もそうだった。俺は、GBNなんて初めからどうでも良かったんだ。レイアの事だけを……自分の事だけを考えてた」

「セイヤさん……」

「アイツが……レイアが望むなら、俺はそれで良い。またレイアに会えた……また、話せた。GBNなんてどうでも良い。お前がそこにいるなら、俺はそれを守るだけだ。また話せなくなったとしても、俺はずっとお前を……愛してる」

 セイヤのファーヴニルリサージェンスが、デストロイガンダムのコックピットに触れる。

 

 

 

「今からデストロイのデータ連携を解除する。そうすればサーバー負荷は激減して、GBNの崩壊は防げる筈だ」

「ありがとう、セイヤ」

「そうしたら、またお前と話す事も出来なくなるな」

「でも、私はずっと見てるよ。セイヤの事」

「俺も……出来る限り直ぐにここに来るよ。レイア」

 パスコードを入力して、決定ボタンに手を掛けた。

 

 

 これで、GBNの崩壊は止まる。

 

 

「俺の復讐は……何の意味もなかった。お前がここにいる。俺はコイツらと同じガキだから……たったそれだけの事で、良かったんだよ」

「セイヤ」

「レイア……」

「私も、あなたを愛してる」

 ボタンを押した。

 

 

「さようなら」

 そんな声が、木霊する。

 

 

 

 セイヤがデストロイガンダムに施した、戦闘データの蓄積機能が解除された。

 

 不必要なデータは消去されて、GBNのサーバーも安定する筈である。

 

 

 

「セイヤさん……」

「勘違いするな。俺は、自分の守りたい物を守る為にずっと行動してきた。それだけだ……。……だから、罰は受ける。俺がやって来た事を許せない奴も居るだろ」

 セイヤは沢山の人を傷付けて来た。

 

 

 GBNへの恨みから、復讐の為に何でもしてきたのである。

 

 

 

「そうだねぇ、とりあえず……僕も怪我させられたし? その辺でケリをつける為にも、一度飲みに行くとか? どうよ」

 アンディがセイヤにそんな事を言った。

 

「……何考えてんだ、あんた」

「僕達は仲間だ。良くも悪くも、ガンプラが大好きで仕方がなかったね」

「そうですわ。私も、あなたにはガツンと言いたい事がありますし! 負けっぱなしは癪に触りますの。バトルしましょ、色々落ち着いたら」

 サーバーエラーの数が減っていく。

 

 

 圧迫され、振動までしていた世界が落ち着きを取り戻そうとしていた。

 

 

 

「……ま、そういう話は後だろ。セイヤ、レイアに一旦お別れを言おうぜ」

「カンダ……」

「そうっすね。ジブン達は、いくらでも兄さんを待ってますから。ほら、彼女が待ってますよ」

「ナオコ……」

 振り向く。

 

 錆び付いて、崩れていくデストロイガンダム。

 

 

 そのコックピットに手を伸ばした。

 

 

「レイア、最後に───」

「セイヤ!! ダメ!!」

「───あ?」

 光が、ファーヴニルリサージェンスを包み込む。

 

 

 放たれる光、それは、デストロイガンダムが放った砲撃だった。

 

 

 

 同時に、加速的にGBNの世界が崩れて行く。

 

 

 地面も空も空間も何もない。歪んで、崩れて、何もかもがなくなっていった。

 

 

 

「な、なんだ……? 俺はデストロイを止めた筈だ……」

 Iフィールドでなんとか機体の損害を抑えたセイヤの前に、信じられない光景が映る。

 

 

 まるで時間を早送りで巻き戻しているかのように、機体が再生するデストロイガンダム。

 

 それと同時に、世界は急速に崩れ始めていた。

 

 

 

「収集した膨大なデータが暴走してるんです……。このままだと、私達のデータがこの世界を飲み込む事になる……」

 レイアのその言葉を頷けるように、周囲にデストロイガンダムが増殖していくのが彼等には見える。

 

 膨大なデータと共にGBNを飲み込む勢いで、その数は無限に増え続けようとしていた。

 

 

 

「まずいぞ……これは」

「ど、どうしたら止められるんですの!?」

「ボクを消すしかない……!! 皆、早くボクを!!」

「そんな事出来るかバカ!! 何か考えろ……何か!! くそ!!」

「レイア……」

「イア……」

 渦のように。

 

 

 世界が収縮されていく。

 

 

 

 その世界の端で。

 

 もはや上も下も何もない世界の端で、何かが光った。

 

 

 

「───よく、彼を止めてくれた!!」

 AGE2マグナム。

 

 GBNチャンピオン、クジョウ・キョウヤがその機体と共に現れる。

 

 

「チャンピオン!?」

「……ここから先は、総力戦だ!! GBNの未来と、夢と、命の為に!!!」

 そして、彼に続く───名だたるダイバー達。

 

 

 否。

 この世界を愛する沢山のダイバー達が、この空間に集い始めていた。

 

 

 

「この世界を……救うぞ!!」

 暴走するデストロイガンダム。

 

 

 

 

 

 対するは───GBNの仲間達。



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ラストミッション

 空間が裂ける。

 

 

 伸ばさなかった手、掴めなかった手。

 

 その手で掻き分けるようにして進んだ道の先で───

 

 

 

「クジョウ……キョウヤ」

「セイヤ、君も大切な物に気が付けた。そうだろう?」

「けれど……もう、遅い」

 GBNの崩壊は始まっていた。

 

 暴走したデストロイガンダムは無限大に増殖し、この世界を覆い尽くそうとしている。

 

 

「いや、まだだ」

「なに……」

「ここには仲間がいる。沢山の仲間が。……GBNに集まった、我々の前に覆せない逆境等ない!!」

 言い切ったキョウヤは、コンソールパネルを開き、GBNの同志達と通信回線を同期させた。

 

 

「カツラギさん」

「───状況は把握した。彼が施したデータを膨張させる為の複製機能が暴走しているという事か。……今増殖しているデストロイガンダム、その全てに集められた戦闘データのコピーが集約されている」

 デストロイガンダムそのものが圧縮データの集合体となり、それをコピーして増殖する事で爆発的にデータを膨張させ、GBNのサーバーを破壊する。

 

 

 当初のセイヤの目的が、思っていた以上の成果を出し始めたという事だ。

 

 

「……GBNの運営」

 レイアを殺した相手。

 

 

 それでも、今は───

 

 

「俺は……どうしたら良い。どうしたら、この世界を救える。レイアが居た───いや、レイアが居る……彼女が大切に思うこの世界を……俺は、どうしたら救えるんだ」

「君には……謝らないといけないな。いや、今はこの世界を共に救ってもらいたい」

 そう言って、モニター越しのカツラギは一度目を閉じる。

 

 

 

「───ダイバーの諸君、聞いて欲しい。現在、GBNでは膨大なデータを持つデストロイガンダムが増殖し始めている。このまま放置すれば、この世界はサーバーがデータの重みに耐えられずに崩壊するだろう。……増殖するデータ、デストロイガンダムを破壊すればデータは消える。しかし、それだけでは足りない!」

 そう言って、カツラギは脳裏にこの世界で生まれた命の事を浮かべた。

 

 

 今も次々と産まれてくる新しい命、ELダイバー。

 

 始まりは確かにビルドダイバーズのサラだったのかもしれない、けれどその前にもきっと彼女達のような存在がいた筈だろう。

 

 まるで生き物の進化のように、NPDだったレイアに命が吹き込まれたように。

 

 現実にある遠い星の命が影響を受けるような、そんな神秘に塗れた命がここにあった。

 

 

 

 レイアも、イアも、その一人だから───

 

 

 

「───我々は、もう誰一人としてこの世界に生まれてくれた命を粗末にする事は許されない。ELダイバー、イアを救う。作戦はある!! 各自、奮闘してほしい!!」

 カツラギがそう言うと同時に、ダイバー達には作戦概要が添付されたデータがメッセージで送られてくる。

 

 

 内容は簡単だ。

 

 

『増殖したデストロイガンダムを全て撃破し、ELダイバーイアの駆るデストロイガンダムをそのコアを残して半壊させる』

 

 

 これが───

 

 

 

「───俺達の、ラストミッション!! ってな!!!」

 機体を持ち上げたロックがGNスナイパーライフルを連射する。

 

 周囲のデストロイガンダムは文字通り無限大で、今も増え続けていた。自分達が眺めているだけにはいかない。

 

 

「……機体の損傷が?」

 何故ロックが動けるのか。不思議に思ったケイだが、自分の機体の損傷が全て回復している事に気がつく。

 

 GBNのミッションスタートの鐘と共に、機体ステータスが全てリセット状態になったのだ。

 だから、これは文字通りGBNからのミッション。この世界を救う為の戦いが始まったのである。

 

 

 

「ケー君!!」

「分かってる。……やろう!! 皆!!」

「無茶苦茶だけど、やるしかないわなぁ」

「こういうのやってみたかったんすよね!! いやもう、全力でやりますとも!!」

 ReBondのメンバーが立ち上がった。

 

 

「ReBondに負けてはられませんわ!! イアちゃんを救うのは私達、メフィストフェレスですわよ!!」

「……何があろうと関係ない。私は、アンジェの敵を狙い撃つ」

「僕は姉さんの援護!」

「僕も姉さんの援護!」

「状況を分析する、まずは手当たり次第やるぞ」

「よし。……フォースメフィストフェレス、行くぞ!!」

 続くメフィストフェレス。

 

 

「アンディ」

「分かってるよ。さーて、僕達も格好良い所見せないとねぇ。ガイアトリニティ各機、フォーメーションE。突っ込むぞ!」

 砂漠の犬。

 

 

「リク!」

「うん。俺達も行こう、サラ!」

「行くよー! フォースビルドダイバーズ!」

「カザミ、援護しろ」

「おいおいまたこんなんかよ!! 良いけどな!!」

「俺達も行こう」

「お姉ちゃんの助けになるなら、私も……やる!」

「セイヤさん……カンダさん……。いや、俺も!!」

 様々なフォースの、個人のダイバーが、戦場を駆け抜ける。

 

 

 

 

「それにしても、敵が多いだろうがよ!!」

「ちっちゃなデストロイとか居るっすもんね! どうしたものか───うわぁ!?」

「ニャムさん!!」

 増殖するデストロイガンダムはバグにより大きさも様々だ。

 

 MSサイズになったデストロイガンダムも多いが、それはそれで機動力を得た分厄介である。

 

 

 そんなデストロイガンダムが放ったビームが、ニャムの機体に掠った。バランスを崩したニャムを様々な大きさのデストロイガンダムが囲む。

 

 

「やば───」

「何してるナオコ……機体をバラせ!!」

 飛び込んでくるそんな声。

 

 訳も分からずに、ニャムは言われた通りにターンX特有の機体分離で攻撃を避けた。

 

 

 その脇で───

 

 

「───兄さん!?」

「───これが、俺の罰なのか。消えろ!!」

 セイヤのファーヴニルリサージェンスが放ったハイメガキャノンが小さなデストロイガンダムを三機焼き払い、近くにいた大型のデストロイガンダムにハイパービームサーベルを叩き付ける。

 

 そのまま変形し、背部の砲身のビーム砲でデストロイガンダムを薙ぎ払うセイヤ。

 

 その圧倒的な強さにケイ達は冷や汗を垂らした。

 

 

「これが……セイヤさんの実力」

 それ程までの力があって、守れないもの。

 

 ケイは拳を強く握る。

 

 

「セイヤさんの気持ち、やっぱり分からなくはないんだよな」

「ケー君……」

「俺も、もし……もし大切な人が居なくなったら。あの時……もしそうなってたら、ガンプラを許さなかったかもしれない」

 あの日。

 

 ユメは死んでいてもおかしくなかった。

 

 

 もしそうなっていたら、ケイもアオトやセイヤと同じようにしていただろう。

 

 

 彼は間違っているのは確かだ。

 

 

 けれど、彼が間違っていなかったのも、確かであって欲しい。

 

 

 

「セイヤ!!」

「カンダ、手伝ってくれ……。俺は、レイアを守りたい……。もう、失いたくないんだ」

「分かってるのか? このバグが収束すれば、レイアはまた消える……。俺が言うのもなんだけど、お前の目的は───」

「思い出したんだよ……いや、思い出させられた」

 ずっと頭にあったのは、連れ去られる時のレイアの辛そうな表情で。

 

 

 けれど、久しぶりに聞いたその声は、見たその顔は、この世界を一緒に楽しんでいた彼女のままだったから。

 

 

「レイアとの時間は……最高に幸せだった。楽しかった。それを……やっと思い出せた。もう、忘れたくないんだ」

「セイヤ……」

「だから、俺は!! 俺が間違ってた事なんて、初めから知ってる。だから……こんな、ガキみたいな……頼む……!! カンダ!! 誰も俺を許さなくて良い。レイアと……最後に……別れの挨拶がしたいだけなんだ……!! 俺の事はどうしてくれても良い。アイツが守って欲しいといった世界を!! 俺は壊したくない!!」

 この世界を壊そうとしたのは自分である。

 

 

 ここに来て、どんな理由であれ、自分のその責任から逃れる事なんて出来ない。

 

 

 けれど、初めから間違っていた。

 

 

 レイアはこの世界を恨んでいなくて、自分達に楽しんで欲しいと願っていた、それなのに、彼女の気持ちを裏切った自分が許せない。

 

 

「頼む……!! カンダ、皆……。この俺の……惨めな願いを───」

「何馬鹿なこと言ってんだ。ねぇ、大将! ケー君! 俺達のやる事なんて決まってるよなぁ!?」

「俺達は初めから!!」

「そのつもりだ!!」

 放たれるGNスナイパーライフルとエクリプス。

 

 取り残しを、ユメのロングレンジフィンファンネルとニャムのフレスベルグが焼いていく。

 

 

「お姉ちゃん!!」

「セイヤさん!! カンダさん!!」

「ヒメ! よーし、一緒に行こう!!」

「うん!!」

「サトウ……。手伝ってくれるのか?」

「当たり前じゃないすか。俺達……仲間ですよ?」

 集まってくる仲間達。

 

 しかし、戦局は良いという訳ではない。

 

 

 無限に増殖するデストロイガンダム。

 

 そして───

 

 

 

「───何が、頼む!! だ!!」

「───GBNを壊そうって言ったのはアンタだろ!! 自分だけ好きな女の子の為に格好つけようだと!? 反吐が出るぜ!!」

 ───アンチレッドの残党。

 

 この世界を壊そうとしていた、セイヤの仲間達が彼等を阻もうとしていた。

 

 

 デストロイガンダムだけでも厄介だが、彼等はデストロイと違って肉入りのダイバーである。

 自動操縦のデストロイとは厄介のベクトルが違った。

 

 

「……そうだよな、お前らの復讐は終わっていない。勿論、それは俺もそうだ。けどな───」

 目を開き、銃口を向けるセイヤ。

 

 ファーヴニルリサージェンスのツインアイが赤く光る。

 

 

「───俺は始めから何も変わっちゃいない。俺の邪魔をする奴は、誰だろうが潰す」

 アンチレッドの赤いトールギスIIIとキマリスヴィダールが、セイヤの機体を挟んだ。

 

 同時に迫る二機。

 しかし、その二機はファーヴニルリサージェンスに近付くにつれて動きが鈍くなる。

 

 

「グリプスの呪縛……!! な、舐めるな!! 俺たちだって、元はGBNで上を目指していたんだ!!」

「それにこっちにはアンタが配ったチートもあるんだよ!! ブレイクシステム、起動!!!」

 GBNへの恨みを持つもの全てがセイヤと同じ気持ちではない。

 

 

 自分の力を認められなかった者、仲間との絆を失った者、色々な感情がぶつかって、合わさって、彼等は大きくなった。

 

 

「……そうだな、俺もだよ」

 ブレイクシステムで強化された二機を両手一つずつで止めると、両膝の隠し腕で掴んだビームサーベルでソレを切り刻むセイヤ。

 

 一瞬。

 同時に攻めてきた他のアンチレッドの機体も、背後のバインダーやムーバブルシールドのライフルで撃ち抜く。

 

 

 

「邪魔をしたいならそうしろよ。俺はずっとそうして来た。……GBNは……自由だからな。そうだろ、レイア……」

 正しさも、間違いも、全部受け止めた。

 

 

 初めから自分の事は許していない。だから、今更何をしても誰かに許されようとは思わない。

 

 

 

 けれど、彼女の気持ちに応えたいから───初めから、セイヤにとってはそれが全てだったから。

 

 

 

 

「───こい、俺の復讐の亡霊共。全部俺が消してやる」

 圧倒する。

 

 

「つ、強過ぎるだろ……。本当にチート使ってないのかよ」

「それでも、守れない者があった……」

 もしものことを考えて、手を強く握った。

 

 

 

「俺達も頑張ろう。……イアを、この世界を守る為に!!」

「おうよ!!」

「うん!!」

 幼馴染みのアオトとも分かり合えて、カルミアやニャムの大切な人とも話せて。

 

 あと一歩。

 

 

 最後の一歩を、踏み間違える訳にはいかない。

 

 

 

「ケイ……ユメ、たけし……アオト───セイヤ、皆……」

 デストロイガンダムの中で、イアとレイアはこの世界が崩れていくのを眺めている事しか出来ない。

 

 

 

 最後の時間が刻一刻と迫る。

 

 

 世界の終わりが始まろうとしていた。



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皆で

 イージスブレイクのブレイクファングがデストロイガンダムを貫いた。

 

 

 爆散するデストロイ。しかしその脇で、小さなデストロイガンダムが分裂しているのがアオトの目に映る。

 

 

「キリがない……」

「アオト!! 後だ!!」

 言いながら、イージスブレイクに背後から近付く小さなデストロイをエクリプスで撃ち抜くケイ。

 

 スラスターを吹かせて、バタフライバスターで近くの巨大なデストロイガンダムを叩き切ると、彼はアオトと背中合わせに機体をくっ付けた。

 

 

「……手伝ってくれる、ってのは違うか」

「……勘違いするなよケイ」

「知ってる」

「いや、だから勘違いするな」

「え?」

「俺は……もう、別にお前の事……憎んでない」

 言いながら、アオトはブレイクファングとビットを展開して周囲のデストロイガンダムにぶつける。

 

 

「アオト……」

「嫌いだけどな!! 嫌いだけど!! でも……お前達からもうどう思われなるのか分からないけど、やっぱ……嫌いになれるほどお前達が好きだったんだ。……特にケイは、ずっと俺の……その、ライバルだよ」

「……そうだな。よし、じゃあ競争するか? どっちが沢山デストロイを倒せるか」

「……望む所だ。今日こそお前に勝つ!! ケイスケ!!」

「やってみろ!!」

 壊れていた。

 

 

「スズちゃん!」

「スズ! 俺様が援護しに来てやったぜ!」

「スズさんだ。……ぁ、ヒメカちゃん?」

「……ひ、ヒメです。その……一緒に───」

「良いですわよ!! 良いですわね!! 一緒にやりましょう!! 丁度猫の手も借りたいと思っていたとのろですのよ!! それで、またこれが終わったらオフ会で遊ぶのも良いですわね!!」

「ぁ……うん! そうしたいです、私も」

「決まりだな。行くぞ、ロック」

「おうよ!!」

 バラバラだった。

 

 

「イヴも……何処かで見てるのか」

「ヒロト?」

「いや、なんでもない」

「絶対に諦めない……諦めるもんか!!」

「リク……!!」

 それが繋がって。

 

 

 

「アンディ」

「大佐? うーん、どう思います? この戦況」

「お世辞にも良いとは言えない。が、しかし……我々が協力すれば打破する事は容易い。そうだろう?」

「流石は知将ロンメル大佐だ……。その話、乗っちゃおうかな?」

 巡るように。

 

 

 

「アンチレッドはこれで全部精算したか。次はレイアだ……俺が、今度こそ必ず助ける!! 例え誰に見捨てられようとも……俺は……」

「誰もお前を見捨ててなんてないだろ、セイヤ」

「カンダ……」

「そうですよ、兄さん」

「俺もいます」

「ナオコ、サトウ……お前ら……」

「確かにお前は人に嫌われたり恨まれる事をしただろうぜ。それを全部俺達が許すとは言わない。……けど、間違ったダチを殴って止めるのが仲間ってもんでしょ。そんで、殴って止めたら、一緒に反省してやる。……一緒にいてやる。な、セイヤ? だから……まずはあの子を助けよう」

 壊れていた歯車が───再び動き出す。

 

 

 

 

「───全軍、私はフォース第七機甲師団のロンメル大佐だ。現状を分析した結果、このままでは我々に勝ち目はないと悟った」

 オープンチャンネルでダイバー達に語り掛けるロンメル。

 

「デストロイは無限に自らをコピーする事でこのGBNを破壊しようとしている。そのコピーを止めるには、大元である本体を叩かなければならない」

 無限に増殖するデストロイガンダムは、撃破してもキリがない。

 

 

「しかし、本体へと続く道はデストロイの大群に遮られている。我々が個々で戦ったところで、たどり着く事は困難だろう。しかし、我々が力を合わせれば立ち向かえぬ困難などない!」

 これまでGBNのダイバー達は何度も困難に立ち向かってきた。

 

 

 ここにいる仲間達は、その事を分かっている。

 

 

「皆、力を貸して欲しい!!」

 ロンメルの言葉で、ダイバー達は一時撤退しながら集まっていく。

 

 この場に集まったダイバーの数は計り知れない。一点に集まるガンプラの数は壮大で、ケイ達は唖然とした。

 

 

「GBNには……こんなに沢山人がいるんだな」

「戦った事ない人、沢山いるね」

「俺達なんて……ちっぽけなフォースなんだな。いや……これからもっと強くなって、有名になるけどな」

「これだけの人達が……GBNを楽しんでるのか。いや、もっとだ……これよりも、もっと沢山いるんだよな……」

「これが……俺が壊そうとした世界か」

「違いますよ、兄さん」

「俺達が今から守る、世界だって」

 沢山の仲間。

 

 

 これだけの仲間がいれば、出来ない事はない。ケイ達はそう思う。

 

 

 

「作戦を伝える。今からこの周囲に我々第七機甲師団の指揮の下、防衛ラインを弾き、砲撃機と狙撃機を守る陣形を構築。……ここを拠点に一旦突破の道を開く! そして、彼───私の弟子であるアンディの砂漠の犬には開かれた突破口からデストロイの本体を狙う部隊を指揮してもらう」

「どうも、お初にお目にかかります。砂漠の犬のアンディだ。突破組には火力と機動力を期待したい。道中の護衛、そしてデストロイの沈黙。それが僕達のミッションって事だからね」

 作戦を聞いて、ダイバー達は各々の個性や特徴に合わせた部隊に自ら加わっていった。

 

 

 

「タケシ、こういう時は本当に冷静だよな」

 ReBondのメンバーは、ロックを除いて突破組である。

 

 ロックも前に来ると思っていたが、彼はスズ達と共に砲撃部隊として残るらしい。

 

 

 彼の今の腕と、機体性能なら確かに妥当な判断だ。

 

 

「俺はもう、自分がしないといけない事を間違えない。……リーダーだからな。ケイ、ユメ、アオト……頼むぜ! 援護は任せろ!」

「任せるぞ、リーダー」

「頼りにしてるよ、リーダー」

「……おれも」

 拳を突き合わせ、四人は再び別れる。

 

 それでも、また同じ場所に集まると信じて。

 

 

「私も、アンジェリカさん達とここにいる」

「ヒメ……? てっきり、私の事心配って言って付いてくるかと」

「……お姉ちゃんは、強いから。だから、私、ちゃんと待ってる。お姉ちゃんの事、信じてる」

「ヒメカ……。うん!」

「ヒメちゃんの事は私達にお任せですわ!!」

「……タケシも纏めて面倒を見ておく。……行ってこい、ユメ」

「ロックな」

 作戦開始。

 

 

 

 フォース虎武龍のタイガーウルフとフォースSIMURUGのシャフリヤールが背中合わせに構えた。

 

 

「───しくじるなよ?」

「───誰に物を言っている」

 狙うは一直線。デストロイガンダム本体への道。

 

 

「───奥義……龍虎狼道!!」

「───吹けよシムーン! アルフ・ライラ・ワ・ライラ!!」

 二人の必殺技が、デストロイガンダムの包囲網に穴を開ける。

 

 

「「行け!!」」

 叫ぶと同時に。

 

 

「私が先導する!!」

「頼もしいねぇ。それで行こうか、我がガイアトリニティ部隊に続いてもらう!! 総員、遅れるなよ!!」

 チャンピオン、クジョウ・キョウヤを先頭にアンディの指揮する部隊がタイガーウルフ達が開けた穴に突撃した。

 

 

 その中でロックを除くReBondのメンバー達や、二つのビルドダイバーズ、セイヤやサトウ、様々なダイバー達が同じ目的の為に一点を見据える。

 

 

「───ハッ、お行儀良く行くつもりはねぇ!!」

 飛び出したフォース百鬼のオーガが、編隊に向かってくるデストロイガンダムを砲撃で粉々にして道を開いた。

 

 タイガーウルフとシャフリヤールが道を開けたと言っても、その穴を塞ぐ為にさらに増殖したデストロイガンダムが彼等を襲う。

 

 

「火力組を守る陣形を緩めるな。機動力のある機体は周囲の敵を遊撃!!」

「ケー君、私!!」

「分かった、頼む!!」

 ReBondのガンプラでは最高の機動力を持つユメのデルタストライカー。

 

 

「夢を貰ったんだ……私も、ここで頑張るから──フィンファンネル!!」

 編隊から逸れて、ロングレンジフィンファンネルを展開しながら変形しビームマグナムを構えるユメ。

 

 その左右には、キョウヤとセイヤの姿があった。

 

 

「ユメ君か、頼もしくなったね」

「キョウヤさん……!」

「僕達で火力組を守ろう。セイヤも、手伝ってくれるだろう?」

「……お前達も俺を責めないのか。チャンピオン、ユメカ」

 ライフルとファンネルで周りのデストロイを迎撃しながら、セイヤは目を細める。

 

 

 このGBNの崩壊の元凶を作った上で今更手を離して、そしてユメカの夢を奪っただけではなく傷付けようともした。

 

 そんな男に、キョウヤは真剣な表情で声を漏らす。

 

 

「キミは、あの時のリク君なんだ……」

「なんだと……?」

「彼はサラ君を助けようとして、GBNを危険に晒そうとした。それが間違っているのかそうでないかなんて、今なら私にも分かる。……けれど、あの時は私には分からなかった」

 GBNという大切な世界を取るか、一つの命を取るか。

 

 あの時、揺れてしまった自らの判断を未だに悔やむ事があった。

 

 

 確かにこの世界のことがキョウヤは好きで、大切である。

 

 

 だけど、それ以上に───

 

 

「───リク君は正しかった。君も、正しい筈だ。やり方が少し、難しかっただけ……そう思わないか?」

「……それでも俺は、沢山の人を傷付けた」

「君とて、その傷付いた一人だ。勿論、ユメ君やスズ君に君が吐いた言葉は許されるものではないかもしれない。……しかしその償いは、君だけが背負うものではない筈だ。それに───」

「私は……セイヤさんの事恨んでなんてないです。勿論、カルミアさんやサトウさんの事も!!」

「お前……」

 ユメはモニター越しのセイヤの顔を真っ直ぐに見て、こう続けた。

 

 

「私が今こうして、この世界にいるのは皆のおかげだから。嫌な事も、楽しい事も、全部……大切な思い出だから!! だから!!」

 ビームマグナムがデストロイを貫く。

 

 

「また、皆でバトルしたい!! この世界で楽しみたい!! キョウヤさんとも、セイヤさんとも!!」

「そうだとも!! 僕達は───ダイバーなのだから!!」

「……そうだな、全ての罪を清算したら……また、バトルをしたいな」

 だから、今は───

 

 

 言いながら、先陣を切りデストロイガンダムにハイパービームサーベルを叩き付けるセイヤ。

 

 その背後から変形して、セイヤの取りこぼしを着実に落としながら着いていく二人。

 まるでレイドバトルをしているかのような感覚に、キョウヤとユメは不敵に笑った。

 

 

 

「俺が壊そうとしたこの世界を……治す。誰の言葉だったか。壊れても、直せば良い……か」

「アオト君なんですよ、それ」

「……そうか。なるほどな」

 そしてセイヤも、不器用に口角を吊り上げる。

 

 

 笑い方なんて、忘れたと思っていた。

 

 

 

「待ってろ……レイア」

「私達が……」

「我々が……」

 ───絶対に救ってみせる。



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ありがとう

 地上とも宇宙とも違う空間に、光が差す。

 

 

「味方に当てないでくれたまえよ。各自、一斉射撃!! 突撃部隊の道を開ける!!」

 ロンメルの指揮する砲撃部隊による攻撃で、針の穴のような抜け道を作る。

 

 進行すれば進行するほどその穴も細くなるが、そこからは突撃部隊に任せるしかない。

 

 

 それに、戦力を二つに分けた事で防衛そのものも困難だ。無限に増え続けるデストロイガンダムが、砲撃部隊を少しずつ削っていく。

 

 

「スズさん……!!」

 ヒメの目に映る、MSサイズのデストロイガンダム。

 

 スズのサイコザクレラージェに突撃するソレがビーム砲を構えた刹那───

 

 

「───オラァ!!」

 ロックのサバーニャHellがソレを叩き切った。

 

 

「危ねぇな!! 避けようとしろよ!!」

「……私は狙撃に集中する。仲間の事……お前の事も、信じてるから」

「ま、まぁ? 俺様が居ればなんとでもするが? いやそうじゃなくない!?」

「お兄さん……結構頼もしいですね」

「まぁなぁ!!! いやそうじゃなくない!?」

 そんな三人を見ながら、アンジェリカはこんな状態なのに微笑ましく思う。

 

「……任せた、タケシ、ヒメちゃん」

「ロックな!!」

「お姉ちゃんのライバルに頼まれた……! 頑張る!」

 少し前なら、スズがフォースメンバー以外と話す事すら珍しいと思っていたに違いない。

 

 

「あのスナイパー凄いな!」

「俺知ってるぜ。NFTとか最近のデカいイベントでめっちゃくちゃ活躍してたサイコザクだよ!!」

「かっけぇなぁ……教えてもらいてぇ!!」

「……そこ、話してないでさっさと射て!!」

「「「は、はい!!」」」

 それが、今はこうして沢山の人と話をしているのだ。

 

 

「私、やはりGBNが好きですわ」

「そうだな……。だから、俺達は乗り越える」

 サーベルでデストロイを切り裂き、頭を蹴り飛ばしながらノワールはアンジェリカと背中を合わせる。

 

 

「今は耐える。仲間を信じてな」

「ですわね!!」

 この世界の命運を、信頼たる仲間に託して。

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 針の穴は少しずつ小さくなっていた。

 

 

「道を開けろ!! ハイメガキャノン……!!」

 セイヤのハイメガキャノンがその穴を少しだけ広げる。

 

 まるで細くなっていく洞窟を潜り抜けるように、戦局を見渡しながらアンディはデストロイガンダム本体への道を探った。

 

 

「大佐の舞台から離れれば離れる程、援護も届かなくなる……。さーて、ここからは消耗戦だぞ……!!」

 既に部隊の三割は撃破されてしまっている。

 

 デストロイガンダム本体に近付くにつれて、分裂体の数も増えていっていた。

 

 

「このままでは届かないか……」

 それら全てがレイドボスのような耐久を持っている。キョウヤすらも、表情を濁らせていた。

 

 

 

 

「───いや、届かせる!!」

「ヒロト!?」

 ヒロトのコアガンダムmarkⅡが突然部隊を離れる。

 

 それに追従する、彼の仲間。

 

 

「───コアチェンジ!!」

「「「───リライジングゴー!!」」」

 メイ、カザミ、パルヴィーズの機体と合体したヒロトのコアガンダムはリライジングガンダムとしてガンプラ四つ分のエネルギーを集約した。

 

 機体を黄金に輝かせ、放たれたグランドクラスキャノンが針の穴のようだった包囲網に大きな道を作る。

 

 

「行ってくれ……!!」

 部隊を離れてしまったヒロト達を囲むデストロイガンダム。彼等はもうここまでだが、四人の力で大きく道が開いた。

 

 

「突撃するぞ!! どんな犠牲を払っても、我々は届かせなければならない。全力を尽くせ!!」

 アンディの指示で部隊が動く。

 

 

「ユッキー、俺達も!」

「うん!」

「私達もいっくよー! お腹ビーム!!」

「少しでも多くの仲間を、前に!!」

「私達が……道を開く!!」

 フォースビルドダイバーズ。

 

 

「続きなさい!! イアちゃんや彼女の事は、ケイちゃん達に……」

 マギー。

 

 

 

「ケイ君、もう少しだ。我々が道を開く! 各機、フォーメーションデルタ!!」

「ケー君、アオト君!! お願い!! イアちゃんを!!」

 砂漠の犬、ユメ。

 

 

 

「くそ、ここまでか。……いや、あのガキとチャンピオンだけでも向かわせれば、レイアは救われる。ここは……俺が───」

「いや、行くのは君だ」

 ハイメガキャノンで全てのエネルギーを使い果たしてでも、道を開けようとするセイヤを止めたのはキョウヤだった。

 

 

「クジョウ……キョウヤ」

「君が、彼女を助けるんだ。ここは我々に任せて欲しい」

 言いながら、キョウヤはセイヤの周りにいたデストロイガンダムを撃破していく。

 

 

「さぁ、彼女の元へ!!」

「そうです!! ここはジブン達が!!」

「いけ、セイヤ。俺達の分も……イアに───レイアに伝えてくれ」

「あなたが行ってください!! セイヤさん!!」

 キョウヤ、ニャム、カルミア、サトウ。

 

 

 想いが繋がり、道が開いた。

 

 

 

「───イアは!?」

「ケイ、こっち!! あのガンプラが……呼んでる!」

「サラ……!!」

 サラの機体が指差す先。

 

 

 膨張し、本来のそれを遥かに超える巨大さを手に入れたデストロイガンダムがケイ達の前に立ち塞がる。

 

 大量の戦闘データを増幅させ、今にも破裂しそうなその機体は、この世界の今そのものにも見えた。

 

 

 

「今行くぞ……。俺が、道を開ける!! トランザム!!」

 ケイのストライクReBondが赤い光を放つ。

 

 エクリプスを乱射し、バタフライバスターとGNソードⅢを振り回しながら開く道。

 

 その針の穴のような道をセイヤのファーヴニルリサージェンスとアオトのイージスブレイクが突き進んだ。

 

 

 

「ケイ!!」

 イアの声が届く。

 

 それと同時に、彼女をコアにしたデストロイが放った砲撃がケイの機体を光で飲み込んだ。

 

 

「───まだ……だぁ!!」

 GNシールドすら貫き、ストライクReBondは半壊してトランザムも終了する。

 

 さらに繰り出される追撃。

 

 

「───ReTRANSーAM!!」

 二回目の光がストライクReBondを包み込んだ。

 

 交わしてエクリプスを放つ。デストロイの両腕を光が貫いた。

 

 

「いけ!! アオト!!」

「分かってる!! 俺が、イアを連れ戻す!!」

「セイヤさん!! お願いします……!!」

 傍を見て言う。

 

 

 セイヤは分からなかった。

 

 彼等が自分を許した理由が。自分を恨まなかった理由が。

 

 

 だけど、やっと分かったかもしれない。

 

 

「お前は初めから───」

「え?」

「……いや、なんでもない。任せろ」

「はい!!」

 ───初めから、彼等は自分のことを恨んですらなかったのだろう。

 

 

 ただ、同じゲームを楽しむ仲間が苦しんでいて、それを助けたい。そういう気持ちだったんだ。

 

 ようやく、理解出来た。

 

 

 

「ブレイクビット!!」

「ハイメガキャノン!!」

 ハイメガキャノンがデストロイガンダムの両足を焼き切って、ブレイクビットが全身を貫く。

 

 しかし、ゼロ距離まで近付いた二人の目の前に───デストロイの機体からまるでスライムのように湧き出てくる小さなデストロイガンダムが何機も達は下がった。

 

 

「邪魔だ!! どけ!! ブレイクファング!! ブレイクドラグーン!!」

 放たれるイージスブレイクの武装がそれらを焼く。

 

 

「セイヤさん!!」

「レイア……」

 コックピットの前に立つセイヤ。その周囲を大小様々なデストロイガンダムの腕が囲んだ。

 

 セイヤは両手両膝両シールドのサーベルでそれを叩き切り、その手を伸ばす。

 

 

 あの時、伸ばせなかったこの手を。

 

 

 

「レイア!!」

「セイヤ!!」

 二人の手が、繋がった。

 

 

 

 瞬間。

 それを察知したカツラギは、セイヤのファーヴニルリサージェンスからデストロイガンダムにデータを流し込む。

 

 内蔵データを整理し削除するアンチウイルス。

 

 

 これでデータの暴走増殖は終了し、大量の戦闘データも抹消される筈だ。

 

 

 

 レイアの存在と共に。そして、イアだけがそこに残るだろう。

 

 

 

 

「レイア……ずっと、伝えたい事があったんだ」

「なに? セイヤ……」

「すまなかった……。お前を……助けられなかった」

 それだけが伝えられたら。

 

 

 この地獄のような数年も、意味があったのかもしれない。

 

 

 

 彼女が居なくなって、何もかもを失った気持ちになった。そしてそのまま、本当になにもかも失うところまで来てしまった。

 

 そんな自分に、また、彼女が教えてくれる。

 

 

 教えられてばかりだ。貰ったばかりだ。

 

 

 それなのに、助けられなかった。

 

 

 

「───違うでしょ、セイヤ」

「……何が、違うんだ。俺は!!」

「私も、沢山もらったよ。何も分からなかった気持ちが……自分が、命だと教えて貰った。……大好きを、教えて貰ったんだよ!」

「レイア……」

 生まれた時。

 

 

 何も覚えていない。何もない。

 

 彼女は始め、ただそこにあるだけの存在だったのだろう。

 

 

 NPDとして、埋め込まれたデータのまま動く中で、ポッカリと開いた()()という穴。

 

 

 その穴を埋めてくれたのはセイヤだった。教えてくれたのはセイヤ達だった。

 

 

 

「今度は、私が教えてあげたい。この世界は……楽しいんだって! 私はこの世界が好きだから! あなたと会えた、この世界が好きだから!」

「……俺も、好きだよ。大好きだ」

「うん」

 涙が頬を伝う。

 

 

 

 その時───

 

 

「「セイヤさん!!」」

 少年二人の声が、彼を現実に突き戻す。

 

 

 セイヤのファーヴニルリサージェンスを飲み込もうとする光。

 

 デストロイがその機体そのものからデータをエネルギーとして放出し、全てを飲み込もうとしていた。

 

 

 機体が吹き飛ぶ。まだデータ消去は済んでいない。そうでなければ、セイヤはここにはいない。

 

 

 

「ダメだ、やっぱりボクごと撃って!! セイヤさん、レイアとのお話はできた! 僕も彼女も、覚悟は出来てる!!」

「「イア!!」」

「ごめん、ケイ……アオト。皆に宜しく!」

 目を映る。

 

 この距離でセイヤが攻撃すれば、いかなデストロイガンダムといえど一撃だ。

 

 

 

 彼のファーヴニルリサージェンスはそれ程の力がある。

 

 

 

 

「───ダメだ!!!」

 しかし、セイヤがそう叫んだ。

 

 

 

「セイヤ……」

「このガキ達は俺なんだ!! 昔の、GBNを楽しんでいた、俺なんだ!!! ゲームで大切な仲間を失うなんて事、あっちゃいけない。そんな事は!! 俺が一番分かってる!!」

 データエネルギーでファーヴニルリサージェンスのムーバブルシールドが吹き飛ぶ。

 

 装甲が割れ、見窄らしい姿になって───それでもセイヤのファーヴニルリサージェンスはその手だけは離さなかった。

 

 

 

「聞こえているだろ運営!! コイツを助けろ!!! 俺がやった事だ。全ての罰は俺が受ける。だから!!! コイツだけは助けろ!!! それが……俺の復讐だ!!!」

 掴めなかった手をようやく掴んだのだから。

 

 

 離さない。離してなるものか。

 

 

 

「残り50%だ!! 耐えてくれ!!」

 カツラギのそんな声が響く。

 

 

「───当たり前だろ」

「セイヤ!!」

「俺とファーヴニルリサージェンスだぞ。お前達と作り上げた、俺の機体が……こんな事で!! 負ける訳ないだろ!!」

 吹き飛ばされそうになっていた機体がスラスターを吹かして持ち直した。

 

 機体が揺れる、ガタガタと、操縦席にエラー警告が鳴り響く。

 

 

「知るか……負けるかよ!! 負けてたまるかよ!!」

 セイヤとレイアの脳裏に、光が響いた。

 

 

 

 

 ───いつかの記憶が過ぎる。

 

 

「出来た!! これが、俺の新しい機体だ!!」

「シールドが着いたZZだね!」

「そうだ! けど、それだけじゃないぞ。これまで沢山得た経験から、沢山の機体のパーツを使って作り上げた俺だけの機体だ!」

 元々使っていたZZをベースにファーヴニルとしてリメイクしたセイヤの機体。

 

 そこにオーヴェロンやディマーテル等の機体の力を集約した、彼の傑作だった。

 

 

「オーヴェロン! セイヤの事ボコボコにした機体だったよね!」

「ボコボコにしたとか言うなよ!」

「セイヤが負けるなんて、私ビックリしちゃった」

「……そうだな。この世界には、強い奴が沢山いるんだ。俺はまだまだ……強くなれる」

「うん。そうだね……。あ、機体の名前はなんでいうの?」

「ん? あぁ……そうだな───」

「───うん、格好良いね」

 ファーヴニルリサージェンス。

 

 復活。蘇生。

 そんな意味を込めたのはなんでだったか。

 

 何度負けても立ち上がる。弱い自分を知ったから。立ち上がれるように。

 

 

 ───再び、立ち上がれるように。

 

 

 

「また立つのに、遅くなっちまった。だけど!! また立てた!! お前のおかげだ、レイア、ファーヴニルリサージェンス!! 俺を導いてくれ!!! また、あの景色を───」

 デストロイを掴んでいた手が吹き飛んだ。

 

 直ぐにもう片方の手でデストロイを掴む。

 

 

 けれど、エネルギー波は次第に強くなっていった。

 

 

 

「───ファーヴニルリサージェンス!!!!」

 機体の目が赤く光る。

 

 まだ、立てるから。まだ───

 

 

 もう片方の腕も飛んで、セイヤは機体で体当たりした。片足が吹き飛んで、チリになる。

 

 

 

「75%!!」

「セイヤ!!」

「うぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!」

 機体が砕けていく───その時。

 

「「セイヤさん!!」」

 満身創痍のストライクReBondとイージスブレイクが同時にセイヤの機体を押した。

 

 二人の想いが、ファーヴニルリサージェンスを伝ってデストロイガンダムに繋がる。

 

 

「85%!!」

「セイヤ!!」

「兄さん!!」

「ケー君、アオト君!!」

 カルミア達が───

 

 

「我々も行くぞ!!」

「各機援護しろ!!」

「リク、行って!!」

「ヒロト!!」

「「分かった!!」」

 クジョウ・キョウヤ、アンディ、リク、ヒロト───

 

 

 

「95%!!」

「ケイ達の邪魔はさせねぇ!! 狙い……撃つゼぇ!!!」

「……どれだけ遠くても、届かせる」

「お姉ちゃん……!!」

 援護しているロック達───

 

 

 

 

「98%……!! 行けるぞ!!」

「レイア……最後に、言わせてくれ」

 その手を伸ばして、セイヤは口を開いた。

 

 

 

「───ありがとう」

「───うん、セイヤ。ありがとう」

 光が世界を包み込む。

 

 

 

 

 100%

 

 

 

 MISSION COMPLETE




来週の土曜日と日曜日の更新で最終回となります。約三年のお付き合いありがとうございました。

もう少しだけ、彼等彼女等の物語をお楽しみ下さい。


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手に入れた未来

 刑務所の面会室。

 

 

 アクリル板越しに、カンダ・カラオは、椅子に座って男に語り掛ける。

 

 

「お前、本当に色々やってたのな。セイヤ」

「……まぁ、な」

 髪を短く切って、囚人服姿でしかし───吹っ切れた表情のキムラ・セイヤが顔を上げた。

 

 

「器物破損に不法侵入、データの云々かんぬんに……これ、ヒメカちゃんの誘拐の事ユメカちゃん達が黙っててくれてなかったら本当にどうなってたか」

 小さな声でカラオがそう言うと、セイヤは「俺はその罪も償いたかった」と少し俯く。

 

 

「あの子達の気持ちを無下にする気か?」

「いや、そういう訳じゃ……。悪いな、カラオ」

「あ?」

「あいつらの事、お前に頼んで」

「おじさん、一応社長だからね。いやー、良いよ? 社長って響きさ」

「似合わないな」

「んだとこの野郎」

 セイヤは様々な罪で書類送検され、今はこの刑務所で過ごしていた。

 

 その罪を償い、表に出た時。

 

 

 あの世界にもう一度行って、彼女の墓に花を添える。それが、今のセイヤの目標だ。

 

 

 

 半年前。

 

 

 GBNで起きたデータの暴走事件。

 

 主犯であるセイヤは様々な罪と、()()()()()()()からの減刑の署名と共に、法律による処罰を受ける事を受け入れる。

 

 

 GBNはあの後、直ぐに復旧する事が出来た。

 

 世界が崩壊しそうになったという事も忘れられたように、世界中の様々なダイバーが今日もあの世界で笑顔を見せている。

 

 

 

「……なぁ、カラオ」

「ん?」

「俺は何を間違えたんだろうな」

「……なんにも、間違えちゃいない。俺達はレイアに伝えたかった、それだけだろ?」

「……あぁ」

 その手は届いた。

 

 

 あの時伸ばせなかった、掴めなかった手を、セイヤは掴んだのだ。

 

 

「んじゃ、また来るぜ」

「あぁ。今度は……GBNの……仲間の話も、もっと話してくれよ。……あの子にもよろしくな」

「おぅ」

 片手を上げて、カルミアはその場を去る。

 

 

 彼は今、トラックの運送会社を設立しその社長をやっていた。勿論運送するのは、ガンプラである。

 

 アオトの家であるプラモ屋のバイトは辞めてしまったが、あの店はお得意さんとして今も付き合いが深いようだ。

 

 

 

 

「───ガンプラをお届けに来ました!!」

「どもー」

「やぁ、カラオ君。サトウさんも。お疲れ様。運転疲れたでしょ? 休憩していくかい?」

「それじゃ! お言葉に甘えて!」

「おいサトウ。お前なぁ」

「いやいやカンダさん! 安全運転には休憩は大切ですよ!!」

「まー、言うようになったなぁ、この坊主」

「あっはっは!」

 サトウは昔のようにトラックの運転をしている。

 

 今や新入社員の教育係にもなっていて、少し生意気になったとカラオは溜息を吐くのだった。

 

 

 

「───あ、父さん。新しいガンプラ来たんだね。……あ、サトウさんにカラオさん。おはようございます」

「よー、アオトッチ。今から学校?」

「はい。……そうだ、今日はどうしますか?」

「おじさんちょっと仕事が忙しいもんで遅れるからデイリークエストだけ先やっといてくんない?」

「俺も今日は店が忙しそうだし、ケイスケ達に頑張ってもらおうかな」

 不敵に笑いながらそう言うアオトに、彼の父は「GBNやってきて良いんだよ?」と声をかける。

 

 しかし、アオトは首を横に振った。

 

 

「GBNも大切だけど、父さんの手伝いもしないと。大丈夫だって、別に今更ケイスケもそんな事で怒らないよ」

 アオトはあの事件の後、ケイスケ達と和解してフォースReBondに所属している。

 

 

 実家にも戻って、こうして家の仕事の手伝いをしている彼の表情は穏やかだった。

 

 

「そっか。ありがとうね、アオト」

「うん。それじゃ、行ってきます」

 失った時間を取り戻すように、彼も今はこうしてガンプラと向き合えている。

 

 

 

「───なんだと!? 今日は滅茶苦茶強いレイドボスに挑戦するって言っただろ!?」

「───良いだろ別に!! 家の手伝いなんだから!!」

 ───そして学校が終わった後。帰り道。

 

 アオトとケイスケは喧嘩をしていた。

 

 

「そ、それはそうだけど……!! いや、それを先に言えよ!! お前は言い方が悪いんだよ言い方が!!」

「普通に今日遅れるって言っただけだろ!!」

「なんで遅れるかを言ってないだろ!! それと言うのが遅いんだよ!! 学校でいうタイミングあっただろ!!」

「なんでお前に俺の用事を態々全部言わないといけないんだよ!! お前は俺の親か!?」

「違うわ!! なんでお前なんかの!!」

 朝からギャーギャーと騒ぐ男二人を他所に、そんな様子をニコニコ見ていたユメカの車椅子を後ろからタケシが押す。

 

 

「あ、タケシ君。おはよう」

「ロックな。……何やってんだこのバカ二人」

「うん。仲良しで良いねぇ」

「バカ三人だったな。お前にはアレが仲良しに見えるのか」

 半目でケイスケとアオトを眺めるタケシ。

 

 

 アオトが帰ってきてからというもの、ずっとこの調子だ。

 

 けれど───そう、ずっとこの調子なのだ。

 

 

 確かに、ユメカの言う通り仲が良いのかもしれない。

 

 

「お前が───」

「お前は───」

「タケシ君はさ……」

「あ?」

 そんな二人から目を逸らして、ユメカは車椅子からタケシを見上げる。

 

 

「今、楽しい?」

「……そうだな。賑やかで……昔みたいで、楽しい」

「えへへ、私も」

「もうなんでも良いわ。とりあえずこのバカ二人の喧嘩止めてくれ」

「リーダーの仕事だよ」

「こういう時だけ!!」

「いやいや、いつも頼りにしてます」

 苦笑いしながら、タケシは二人の間に入って喧嘩を止めた。

 

 そんな光景が、ユメカには眩しく見える。

 

 

 

「お前ら良い加減に───」

「なぁ、ユメカ!! アオトが悪いよな!?」

「おま……ユメカに聞くのはズルだろ!!」

「んー、どっちもどっち!」

「「そんな……!!」」

 笑い合った。

 

 

 ずっと目指していた景色が、ここにあるから。

 

 

 

「───お姉ちゃん、病院寄って行くんでしょ?」

「うん。それじゃケー君、タケシ君、また後でね」

 帰り道の途中。

 

「俺も店を閉めたら行くから!」

「うん。アオト君も、また後で!」

 ヒメカと合流したユメカは、GBNにログインする前に病院に向かう。

 

 

 いつもの定期検診。

 

「───よし、特に異常はないね。このまま見守っていこう」

 異常がないのは良い事だ。

 

 

 何も変わらない日常。

 

 変わってしまった時、夢が見れなくなった時、ずっと変わって欲しいと願った日々もある。

 ずっと一人で泣いていた。外に出すのも怖くて、一人で抱え込んで。

 

 

 でも、今はなんとも思わない。

 

 

 また別の夢を見れたから。それに───

 

 

 

「お姉ちゃん、私ゲームのお勉強してるんだよ」

「え? ゲーム? お医者さんじゃなくて?」

「うん。んー、えーと、お医者さんのゲームっていうのかな。仮想空間での脳から身体への伝達を現実のソレに応用して身体が不自由な人の身体を───」

「あーよく分からない! よく分からないけど凄いって事は分かったよ!? すごいね、ヒメカ」

「うん! だから、今日も帰ったらお姉ちゃんとGBNでお勉強するの。勿論、お姉ちゃんと遊ぶのも大事だけど!」

 車椅子を押しながら、ヒメカは笑顔を漏らす。

 

 

 ヒメカも、アオトと同じく正式にフォースReBondの仲間としてGBNを楽しんでいた。

 

「今日はね! 新しいガンプラ作ったんだよ!! GBNのお友達に手伝ってもらったの!!」

「本当? すごい楽しみ」

 今や姉妹揃ってガンプラに夢中である。

 

 

 

 そして───

 

 

 

「迷います。カラオさんに誘われてしまいましたが……北海道を離れるのは大変ですよ」

 ニャム・ギンガニャム───こと、キムラ・ナオコは悩んでいた。

 

 セイヤの事もあり「大学を卒業したら北海道を出てこっちで暮らさないか? おじさんがセイヤの代わりに面倒見るから」なんて事を言われているのである。

 

 

「ヤザンさんはどう思います?」

 ペットの猫にそう聞くが、ヤザンはいつも通り目つきの悪い目を真っ直ぐに向けてくるだけだ。

 

 

「……そもそも、面倒見るって。それってつまり……一緒に暮らしてくれるって事なんでしょうか。……え、それってつまり……? い、いやいや。あの人に限ってまさか……あは、あはは、あはははは……。いやいや」

 首を大きく横に振って。

 

 

「……ふ、深く考えるのは辞めましょう。そうだ! そろそろGBNの約束の時間でした!! 今日は色々張り切っていきますよ!! そうですとも!! ニャム・ギンガニャム!! 行っきまーすっす!!」

 GBNへと潜り込む。

 

 

 

 

 

 

 ───その世界は変わっていなかった。

 

 

 

 どこまでも広がっている空。宇宙。

 

 0と1だけじゃない、色々な想いが込められた世界そこにある。

 

 

 

 GBN。

 

 

「やっと来たなニャム! 待ちくたびれたぞ!!」

「少し考え事をしてまして。す、すみませんイアちゃん」

「しょうがないな、ニャムは。まぁ……ボクも今さっき()()()()してきた所なんだけどさ」

 そこで彼女は生まれた。

 

 

「アオト氏は?」

「家の手伝い。アオトの奴、一緒にログインしたいから待っててとか! 店の看板娘なんだから一緒に仕事しよって離してくれなくてさ!」

「それはそれは……大変なんですねぇ、微笑ましい」

「ドユコト?」

 今───イアはGBNの外で暮らしている。

 

 

 あの事件の後、GBNとの結び付きも揺らいだ彼女はそのデータを現実の世界へと移す事に成功した。

 

 

 そして今は他のELダイバーのように、現実の世界でガンプラの身体を手に入れて生きている。

 

 ちなみに、彼女の事を好きになったアオトと一緒に暮らしているのだが───特に進展はないようだ。

 微笑ましい、とニャムは笑う。

 

 

「ほら、レイドバトル行くぞ! ケイ! ユメ! ヒメ! タケシ! ニャム!」

 四人を引っ張るように、彼女は笑顔でフォースネストの奥に向かった。

 

 この場所で起きた幽霊騒ぎ。

 

 

 その出会いから、沢山の経験が彼女を形作っていく。

 

 

 

「待て!! 俺を置いてくな!!」

「おじさんも間に合ったー! やっぱレイドバトルの参加報酬は勿体ないわよねぇ。おじさん参戦!」

「もー、遅いっすよ二人共」

「なーんだよ、別に来なくて良いのに」

「まーまー、ケー君。皆で楽しむのが一番でしょ?」

「タケシさん、メンバー登録し直した方が良いですよ」

「ロックね!? ヒメ様までタケシ呼びすんのやめない!?」

 彼等は今日も───

 

 

 

「そんじゃ、行くか!! ロック・リバー!! ガンダムサバーニャHell!! 行くぜ!!」

「ニャム・ギンガニャム!! ガンプラバトルネクサスオンライン!! ニャーンXで行くっすよ!!」

「アオト。イージスブレイクリファイン……行く」

「カルミアだ。レッドウルフ……行くぜ!」

「ヒメ……ヒメカプル! 行きます!」

「ユメ! デルタストライカー! 行きます!」

「ケイ、ストライクReBond。行きます!!」

「イア! モビルドールtypeイア!! 行っくぞー!!」

 ───GBNを楽しんでいる。

 

 

 

 

「……どうかしたのか? イア」

「アオト……。いや、またこうして皆と入れるのが嬉しかってさ」

「今更……。いや、俺もだけど」

 止まってた時間が───やっと動き出したんだ。




次回最終回は翌日0時の更新になります。


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ガンダムビルドダイバーズReBond

 空の果てまで光が瞬く。

 

 

「戦況どうなってんだ!? 何も分から───うわぁぁ!?」

 ハンブラビを貫く一筋の光。

 

 その光が何処から放たれているのか、全くもって対戦相手には分からなかった。

 

 

 

「───好き放題してくれてるぜ、スズの奴」

「やっぱ戦わないと、後で不利だよね」

 ロックとユメはそう目合わせをして、その光の向かうは向かう。

 

 

 

「こい……ユメ、タケシ。……返り討ちにしてやる」

 大きなイベントバトル。

 

 そこでReBondのメンバーはライバル達とのバトルを繰り広げていた。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆

 

 通信が鳴る。

 

 

「「負けたーーー!!!」」

 ユメとタケシの悲鳴。

 

 観戦室からそんな泣き言を放つ二人を見て、ケイは頭を抱えた。

 

 

「……メフィストフェレスと戦うのはリスキーだってニャムさんも言ってたのに」

「このイベント戦、復活なしっすからね」

 イベントバトルの内容は復活なしのバトルロイヤル。フォースでチームを作り、最後まで生き残ったダイバーが優勝である。

 

 

 スタートの時にステージにランダムで放り出されるシステムの為、まずは合流が優先だが───

 

 

 

「け、ケイ!! 助けてくれ!!」

「ヤバイヤバイヤバイ! カルミアとヒメが死んだ!」

「言い方よ」

 逃げるようにケイの元に向かってくるイアとアオト。

 

 イアの機体は変形機構付きのモビルドールで、アオトのイージスブレイクと共に猛スピードで何かを連れてきているようだ。

 

 

「ケイ殿、ジブン嫌な予感がするっすよ」

「俺も……」

「───周り込め、獲物が増えたぞ!! フォーメーションデルタ!!」

「「やっぱり……」」

 どうやら逃げる途中でフォース砂漠の犬を連れてきてしまったらしい。

 

 これはもう、詰みである。

 

 

 

 ───その後、ケイ達は奮闘虚しく一瞬で全滅させられるのだった。

 

 

 

 

「───私達の……勝ちですわーーー!!!」

 イベント終了後。

 

 見事に優勝したのは、フォースメフィストフェレスである。

 

 

 大喜びするアンジェリカを讃えるように、アンディやニャムが拍手を送った。

 

 

 

「まさか僕の戦術を見破るとはね。恐れ入ったよ」

「ジブン達は何も出来ずにボコボコにされたので、本当に完敗って感じですね」

「今回は運もあったからな。しかし、それを見越しての作戦も立てた。それに、今回のようなバトルはうちのエースが生きる」

 自慢げにそう言うトウドウの横で、レフトとライトが「僕も頑張った!」「僕も活躍した!」と胸を張る。

 

 追い詰められたメフィストフェレス陣営からスズを脱出させ、狙撃で一網打尽にした最終局面はこの二人が居なければ成り立たなかったのだ。

 

 

 

「うぅ……私があの時、もう少しノワールさん達に早く気が付いていたら」

「そもそもあの局面で最初からミラコロ使って隠れてるのヤバいだろ」

 真っ先にスズと戦い返り討ちにされたユメとロック。

 

 初動で孤立したのか、トウドウとスズしか見えなかったスズを先に仕留めようとした二人だが───ミラージュコロイドで隠れていたノワールとアンジェリカのせいで返り討ちになった事を思い出し二人は項垂れる。

 

 

「確かに判断は良かったかもしれないな。スズはお前達にとって落としておかないといけない相手だ。……ただ、今回は俺達の読み勝ちだ」

「つ、次はよく見て倒す……」

「そうだよ!! 負けないよ!!」

「……やってみろ。別に今からやっても良いぞ。二人まとめて来い」

「「勝負だーーー!!」」

 元気な三人を見て目を細めるノワール。ただ、ノワールも黙って見ている程冷めては居ない。

 

「俺も混ぜろ」

 そうして突然始まる2on2。お疲れ様会のつまみには少し贅沢なバトルが開始された。

 

 

 

「そういやさ、ケイ」

「なんだ? アオト」

「お前ら付き合ってないの?」

「───ブフッ」

 突然の質問に飲み物を吐くケイ。GBNの中なので悲惨な事にはなってないが、ケイの表情は真っ青である。

 

 

「……な、何の話だ」

「ユメカとだよ。なんか、全然前と変わってなくないか? なんならユメ……お前やタケシくらいバトルジャンキーになっててそれっぽさないぞ」

「……その、なんだ……。……実は───」

「お兄さん。裏で滅茶苦茶イチャイチャしてますよ」

「ヒメ!?」

 その背後から、ヒメが目を半開きにして話しかけてきた。

 

 現実とは違う金髪の髪。彼女のガンプラ───ヒメカプルは、ヒヨコを連想させる彼女と同じく可愛らしい機体である。

 

 

 しかし冷たいその眼差しは現実のヒメカそのものだ。

 

 

「マジか」

「恥ずかしがり屋なんです、二人共。初々しいというか……なんというか」

「やめて……やめて……」

 高校生にして幼馴染とのはじめての恋愛。

 

 ケイスケもユメカも、二人きりになると物凄く緊張して黙るのでヒメカ的には見ていられないという関係である。

 

 

「お前なぁ……」

「イアとなんも進んでないお前に言われたくない」

「なぁ!? いや、俺は! 俺はただイアの事が……大切なだけで。別に……そういうんじゃ───」

「ボクがどうかしたのー?」

「うわぁ!? な、な、な、な、な、なんでもないぜ!?」

「……本当に人の事言えないじゃないか」

「何々ー、何の話ー? おじさんにも聞かせてよー。ケー君とユメちゃんのラブラブ話ー?」

「うわ面倒なおじさん来た……」

「面倒なおじさんとか言わないで!?」

「そ、そうだ! アンディさん!! アンディさん結婚式はどうするんですか!?」

 面倒になってきたので話を切り替えるケイ。

 

 そんなケイに、アンディは「今回のイベントで優勝したら前の続きをするつもりだったんだけどねぇ。全く困ったもんだ」と苦笑いを溢した。

 しかし相棒のリリアンは楽しそうに「いつまでも待ってるわ」と微笑む。

 

 GBNはいつまでも楽しめる、そんな場所だ。

 

 

「ケー君! 勝ったよ!」

「うん、見てた」

「……く、くそ。タケシめ」

「ロックな!! ハッハッハッ!! 俺の勝ち!!」

「流石だな、ロック」

「何してるんですのノワール。こうなったら私が仇を討ちますわ!!」

「その勝負、ジブンが乗るっすよ!!」

「良いねぇ。なんなら憂さ晴らしに僕も参加しようかな」

「アオト、なんかやるみたいだぞ! ボク達もやろうよ!!」

「ちょ、待てイア! 待てって!」

「いやー、もうそろそろおじさんは帰って寝たいんだけどなぁ」

 スズ達とのバトルも終わり、打ち上げもそろそろという時間になる。

 

 

 

 そんな時、ケイに二通の連絡が届いた。

 

 

「……リクとヒロトからだ」

 二つのビルドダイバーズから。その内容は───

 

 

 

「どんなメッセージなの?」

「───バトルしよう、だって」

 ───フォースバトルの誘いである。

 

 

「おー。どうする? ケー君」

「そんなの、決まってるだろ」

「そうだね」

「皆、行くぞ!!」

 少年達は駆けた。

 

 

 この広い世界を。この楽しい世界を。この大切な世界を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「───レイア、やっと……ここに来れたよ。特にいう事もないがな。そうだな、一言だけ」

 また、いつか、どこかで。

 

 

 

「ありがとう」

 ───ガンダムビルドダイバーズRe:Bond『完』




三年と三か月ほどのお付き合いありがとうございました。


ケイ、ユメ、タケシ、アオト、ニャム、カルミア、イア、レイア、セイヤ達の物語に長らくのお付き合いありがとうございました。これにてこの物語は完結になります。

しかし、彼らの戦いはこれからだ!!()
フォースメフィストフェレスのアンジェリカやスズ達、フォース砂漠の犬のアンディ達、原作のビルドダイバーズの面々と共にこれからもGBNを満喫する事でしょう。

そんな彼らの一幕を『ガンダムビルドダイバーズRe:Bondバトローグ』みたいな番外編なんかでまた描けたらな?なんて思っております。こちらは気が向いたらの投稿になりますが……。



多くは語りません。この作品で書きたい事は全部描き切ったつもりです。
ガンプラが好きな男の子と、ガンプラが嫌いになってしまった男の子、それらを再び繋ぐ物語。お楽しみいただけたのなら幸いでございます。



読了ありがとうございました。
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