冬美さんの彼氏はヒーローです (ハッタリピエロ)
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1話

またまた書いてしまいました。


あの日からずっと一緒だった。親父の訓練から辛くて逃げてきた時に強く、優しく抱きしめてくれた時も、姉さんと一緒に親父の呪縛から俺を助けてくれた時も、姉さんと家出して家に匿ってくれた時も、血はつながってないが今でもあの人は俺にとっての兄と同じだった。

 

そんなあの日の光景が目の前に広がっている。わかっている。これは幼き日の思い出だ。

 

『もう……やだよお……』

 

木の根元で泣いているのは幼き日の俺。まだなにも知らなかった弱かった俺だ。

 

そんな俺に近づいていたのは少年時代のあの人だった。

 

『大丈夫か?』

 

ぶっらきぼうな感じで言われた言葉だったがあの時の俺にとってはなによりも心の暖まるものだった。

 

幼き日の俺は

 

『お兄ちゃんは……?』

 

『そうだな……ヒーロー志望の男の子……かな?』

 

『なんで疑問形……?』

 

『あははははは!よく言われるんだよ!そうだな……自分には一つだけの可能性しかないわけじゃないと思ったからかな!?』

 

『でもヒーローになりたいの……?』

 

『う~ん……そうかもしれないな!ってことは君もそうなのか?』

 

『やだ……お母さんを虐めるようなのにはなりたくない……』

 

『……どういうことかな……?』

 

先程の雰囲気から一変したあの人に俺は目を丸くした。が、俺は全てを話した。父のことも母さんが苦しんでいることも。

 

それを聞いたあの人は

 

『辛かったんだな』

 

『え……?』

 

『小さいころからお母さんのために……辛い感情を見せないようにしてきたんだな……でも……今はいいんだ。泣いたって。ここには俺しかいないんだから……』

 

『う……!うわああああん!!!』

 

あの時の俺は泣いた。涙が枯れるまで泣いた。たまっていた感情をぶつけるようにあの人に縋りついた。

 

とその時に

 

『焦凍!?』

 

『お姉ちゃん……?』

 

『焦凍!大丈夫!?っていうか八神くん!?焦凍になにしたの!?』

 

姉さんが戸惑いと怒りを見せてあの人に近づいたが

 

『待ってお姉ちゃん!』

 

そして一連の出来事を聞いた姉さんは

 

『ごめんなさい……』

 

『いやいいよ。気にしないで。』

 

『でも焦凍を虐めていたなんて勘違いしてたのに……!』

 

『間違いは誰にでもあるからさ。それに焦凍くんを心配してくれたんでしょ?いいお姉さんだと思うよ』

 

『いいえ、私は姉失格よ……焦凍が辛い目にあってるのに……なにもできなかった!ごめんなさい……!』

 

『お姉ちゃん……』

 

姉さんはまるで懺悔するかのように俺に謝ってくれた。それだけでもよかった。俺は一人じゃないんだとわかったからだ。

 

『……それでどうする?このまま家に帰る?』

 

『やだ!帰りたくない!もう嫌だ!』

 

『焦凍……』

 

『……だったら俺ん家に来ない?』

 

『えっ……?』

 

『俺が匿ってやるよ。そんな奴のところに君をやるわけにはいかない!』

 

『でも……』

 

『気にするな!これでも俺鍛えてるからよ!君の父さんが来たって追い返してやる!』

 

『お兄ちゃん……』

 

『お兄ちゃんって……俺は八神翔だ。翔って呼んでくれ』

 

『翔兄ちゃん……』

 

『ダメだ……こりゃ』

 

『ふふっ!八神くん、焦凍に懐かれたみたいね?』

 

『やめてくれよ……轟さん……』

 

『冬美って呼んでくれる?八神くん。焦凍も下の名前で呼んでくれてるんだから』

 

『わかったよ。冬美さん』

 

こうして俺たちはあの人……翔兄の家に匿ってもらった。翔兄の父さんも母さんも俺を快く引き受けてくれた。

 

ここで俺の夢は終わった。

 

・・・・

 

夢を見た。それはまだ己の過ちに気づけなかった時の思い出だった。

 

今でもあいつには感謝している。あいつが叫んでくれなければ俺は自分の愚かさに今でも酔いしれていただろう。

 

そんなあいつだからこそ俺は……

 

『む?君は誰だ?』

 

インターフォンが鳴ったのに普段は気にもとめず誰かに行かせようと思っていたのだったが冬美もまだ帰ってきてないのと何度も鳴り響く音に苛立ちを覚えたのか仕方なく出ることにした。

 

扉を開けて出てみるとそこにいたのはまだ世界を知らないあの時の彼だった。

 

事情を聞いたあの時の俺はきっと表面上だけ取り繕うとしたのだろう。

 

『焦凍がすまなかったな。ありがとう。では迎えにいくとする『いえ、あんたなんかに焦凍くんはやれません』なに……?』

 

その時の俺は酷く醜く歪んだ顔をしていたのだ。目には濁った光を浮かべていた。

 

『焦凍くんから事情は聞かせてもらいました。それで言いたいことがあってきただけです』

 

『ほう……なんだ、言ってみろ』

 

『あんたは……何を見てるんだよ!あんたは焦凍くんを焦凍くんの母さんを……自分の家族をなんだと思っているんだよ!それでもアンタはヒーローか!?』

 

『黙れ……!貴様のような餓鬼に何がわかる!』

 

『わからねえよ!エンデヴァーがヒーローになるためにどこまでの努力を要したのかも!その辛さも!その苦しみだってわからねえ!ただ一つだけわかることがある!今のアンタはエンデヴァーじゃねえ!』

 

『なんだと……!』

 

『少なくとも俺が知ってるエンデヴァーはアンタほど腐っちゃいなかった!悪に屈さずに人々を守る、そんなヒーローだった!今のアンタは自分の心の弱さに逃げたただの負け犬だ!』

 

『負け犬……』

 

『俺は絶対にアンタみたいにはならねえ!例えナンバーワンヒーローになれなくてもな!家族を泣かすようなやつはヒーローじゃねえ!』

 

そう言って彼は玄関の扉を閉めた。

 

その時の俺は呆然としていた。トボトボと家の廊下を歩いていた。

 

今でも覚えている。あの時の俺は若く挫折を知らなかった時の自分の言葉を思い出していた。

 

<俺は最高のヒーローになって!誰よりも強くなってやる!>

 

それがなんだ?この体たらくは?息子に自分の野望を押し付けて負けを認めた挙句ヴィランまがいのことをするまでに腐りはてた自分への重圧が俺を押し殺そうとしていた。

 

そしてそのままトレーニングルームまで戻った俺はひたすらにサンドバッグを殴りつけていた。そうでもしなくては自分を殺してしまいそうだったからだ。あの時の俺は、泣いて……泣いて……自分の心の弱さを壊すかの如くサンドバッグに拳を叩きつけていた。

 

手が壊れて血がでるまで……そんな俺に届いた声が

 

『何してるんですか!』

 

『!?……冷……』

 

『炎司さん!なにやってるんですか!血までだして……!やめてください!』

 

ようやく我に返った俺は手を止めると冷が手をとってくれた。その手は冷たかったがあの時の俺にとってなによりも暖かく感じた。

 

そして自分を見てくれる冷のことを蔑ろにしていた過去の自分がとても憎く感じ、ようやく自分の愚かさに気づいた。

 

そして応急処置をしてくれた冷に俺は全てを話した。

 

『炎司さん……』

 

『今更言うのもなんだが……俺は焦凍たちに……おまえに……償いきれないことを……してしまったんだ……』

 

俺がそう言って下を向いて落ち込んでいると

 

『大丈夫ですよ』

 

『冷……?』

 

冷が優しく俺の手をとってじっとこっちを見てくれていた。

 

『私はずーっと待っていましたよ。炎司さんが……私たちを見てくれるのを』

 

『どうしてだ……?俺は!おまえたちのことを考えていなかったのに……!』

 

『私も……貴方が怖かった。いつ自分が可笑しくなってしまうのかも不安でした。でも……それでも……あの時から貴方が……好きでした……』

 

『う……ううううううううぅっ!!!』

 

俺は泣いて……心から泣いて……冷に抱きついた……自分はこんなにも愛してくれていた人を見もしなかったことに後悔と自責の念を抱いた。

 

そしてあの後俺は……

 

だがその場面に入る前に俺の意識は現実へと戻った。

 

・・・・

 

「う……ふぁぁぁぁぁ……」

 

俺、八神翔は眠たい目をこすりながらも起きて身支度を整えていた。

 

とその時ノックが聞こえてきたので

 

「どうぞ」

 

と答えると俺の彼女が入ってきた。

 

「おはよう翔くん」

 

「おはよう冬美さん」

 

冬美さんとは小学時代はただの先輩と後輩同士だったがある出来事を機に距離が近くなって今では付き合っている。

 

正直俺はあの親バカの父親がなぜ認めてくれているのかが謎である。まああれでも昔よりマシになってくれたからいいだけどさ……

 

朝ご飯は冬美さん手作りの味噌汁に納豆だった。

 

「来週から冷え込むみたいだな」

 

「嬉しい。寒いのは好きだから」

 

「暑がりだもんね。冬美さん」

 

「ふふっ……」

 

たわいもない会話に俺は平和を感じていたが時間がなかったのでご飯をかきこむ。

 

「そうだ!翔くん、今度お母さんが実家に来てって言ってたよ!」

 

「え?いいの?」

 

「うん!久しぶりに会いたいってさ!」

 

「そうか……あの人も久しぶりか……それより冬美さん教職免許取るの頑張ってね」

 

「うん!」

 

そして朝食を片付けて俺が先に出ようとした時に

 

「翔くん今日も頑張ってね!」

 

「はい!ヒーローマイティジョーカー、今日も一日平和を守ってきます!」

 

こうして今日も俺のヒーロー物語は始まる。

 

 



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2話

俺がプロヒーローになったのは一年ちょい前といったところか。

 

あの頃は忙しかったなー

 

コスチュームの手続きにHNへのプロヒーローとしての登録。事務所への書類手続きにヒーローとしての心構えを卒業文集に書くなどととにかく大変だった。

 

そして雄英高校を卒業した後は冬美さんの手伝いあってかサイドキック先の事務所の名前の元、ヒーロー科だけのだが教員免許も取ることができた。

 

正直人生経験が二度ある俺は少々驚いたが、どうやらこの世界では高卒でもヒーローがヒーロー科に出張で教師をするのは珍しい事じゃないそうだ。それでもヒーロー経験が浅い俺が教職免許をとれたのはあの人の推薦と事務所にいることのネームバリュー、自分が高校から積み上げてきた実績のおかげだった。

 

んでそんな俺は今、サイドキックとして身を置いているヒーロー事務所でトレーニングを行っている。

 

「はっ!」

 

「ぐわっ!」

 

俺の正面にいる人は俺と同じサイドキックで先輩のプロヒーロー、フュージョナーだ。

 

俺に蹴り飛ばされたフュージョナーさんは埃を払って立ち上がる。

 

「やっぱり強いね。翔くんは!」

 

「フュージョナーさん。今の俺はマイティジョーカーですよ!」

 

「そうだったね、余計な一言だったか。じゃあ行くよ!」

 

フュージョナーさんはポケットから鉄のインゴットを出すと自らの個性で自分と融合させた。

 

これが彼の個性『フュージョン』だ。

 

<『フュージョン』!自らと生物以外のあらゆるものを融合させてその特性を得る!例えば鉄を融合させれば超硬度な体となり、ゴムと融合させれば伸縮自在な体となる!>

 

フュージョナーさんの体が銀色に輝いたのを見て俺も構えを取る。

 

「鉄塊拳法……!」

 

俺は全身の筋肉に命令を送って強張らせた筋肉を鉄以上の硬度に変える。

 

これは俺が前世で好きだったワンピースの技を戦いに使えないかと習得したものだ。

 

この世界でも身体能力を極めれば六式は使えた。流石に魚人空手は無理だったが。

 

それでも他作品の拳法も習得できたので戦闘向きじゃない俺の個性でもそれほど苦ではなかった。

 

そしてこの鉄塊拳法はジャブラが使っていた鉄塊の動けなくなるという弱点を完全に克服した形態である。

 

そして俺も三年生の時にようやく身に着けることができた技だ。

 

「はあっ!」

 

「おりゃあ!」

 

フュージョナーさんが飛び出したと同時に踏み込んだ地面を蹴った俺はそのまま飛び出して勢いをつけたまま再び地面を蹴る。

 

『踏み込む力が強ければ強いほどパンチは力を増す』

 

そんな彼の技はー

 

「冥躰震虎拳!」

 

フュージョナーさんが拳を振るより早く彼のボディにアッパーを放つ。

 

「ごふっ……!」

 

そしてそのまま倒れそうなフュージョナーさんを抱える。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ああ……ハハハ……戦闘向けの個性の俺が完全に負けるなんて……やっぱりすごいね」

 

「あはははは……まあ強くなりたいとひたすら鍛えたらだれでもできるようなものですけどね」

 

「それは無理があるんじゃないかな……?」

 

「そうっすか?」

 

そして俺がフュージョナーさんを医務室まで連れていき戻ると

 

「あ、社長。帰ってたんですか」

 

「ん、ああ、ついさっきな。……そうだ。今なら時間がある。ちょっと付き合え」

 

「えー……今っすか?」

 

これでもフュージョナーさんと戦って連続50戦目なんだけど……それに社長も俺ほどではないが六式を使えるので、正直疲労も溜まっているのもあって、あんまり乗り気じゃない俺を見た社長は

 

「俺に勝てたら冬美とのデート場に高級料亭を提供して「上等っスよ!あとで後悔しないでくださいね!」チョロいな……」

 

チョロくてもいいのだ!待ってろよ!冬美さん!

 

・・・・

 

「んで?お父さんと無茶した結果がこれ?」

 

その結果、俺は都内の病院に3日間は入院することとなった。

 

いやね。最初は押していたのよ。でも最後の最後でエンデヴァーさんの六王銃を食らって大ダメージを食らってしまったのです。だがなんとか耐えた俺は冥躰鳳翔拳で勝つことができたもののこのような結果になってしまい」「『あんまり無茶しないで』って言わなかったっけ?」はいスミマセンでした」

 

冬美さん怖いっす。腕を組んでこちらを見つめてくる冬美さんに俺は一種の恐怖を覚えている。あれ?これ将来俺が尻に敷かれる前兆?エンデヴァーさんもあれ以降冷さんに頭があがらないって聞いているし……

 

「全く……ヒーローだから無茶するってのは知ってるけどなにもわざわざお父さんと戦ってこんなのになるなんて……ホンっとバカじゃないの!?」

 

「返す言葉もないっス……」

 

確かに冬美さんに心配かけたのは事実だ。それは誠意をもって示さねばならまい。

 

俺は冬美さんの顎を持ち上げて引き寄せるとチュッとキスをした

 

「ふぇぇぇぇ!?翔くん!?」

 

「ごめんね。でもこれが今俺ができる償いだからさ。それとも嫌だった?」

 

「いや……そうじゃないけど……!もうっ!いきなりキスするなんて!」

 

「アハハハ……」

 

「でも……嬉しかったよ♪」

 

身体をモジモジさせて眼鏡越しにチラッとこちらを見た冬美さんに俺はドキッとすると同時に滾る性欲を抑える。

 

そしてお互いを見つめあうほどに近づく。俺はベッドから動けないので冬美さんが近づいてくるのがまたドキッとしてしまう。

 

「翔くん……」

 

「冬美さん……」

 

そして冬美さんが目を閉じると同時にお互いの唇が重なる

 

ああ……幸せ「翔くん。大丈……夫のようだな……!」「翔兄、見舞いに……来たぞ……」

 

うええええっ!?なぜに炎司さんに焦凍くんがここに……!それよりも炎司さんのせいで病室がすごい暑くなってるんですが!焦凍くんも絶望したような表情止めて!罪悪感が凄いから!

 

「君はまだまだ稽古が必要なようだな……!」

 

「ちょ!炎司さんタンマ!ここ病室「うるさい!冬美が欲しければ俺に勝ってからにするんだな!「上等だあ!また負かしてやる!「行くぞ!「来やがれ!「ねえ……?「「!!?」」

 

一触即発の状態だった俺たちだったがこの場に誰がいるのかを忘れていた。

 

「なにやってるのかな……?ここ……病室だよ……?それに……お父さんも……翔くんも……安静にしなきゃいけないのに……ねえ……?」

 

俺たちはお互いに顔を見合わせてマズい表情で『どうしよう?』といった感じでアイコンタクトをとっていた。既にお互いの敵対心は消えてこの場を打開する方に意識を向けていた。

 

「ねえ……?」

 

「「……ハイスミマセンでした」」

 

幸い個室だったのもあり騒ぎにはならなかったが俺たちは一晩中正座させられ、冬美さんはその晩は不機嫌感満載だった。そして焦凍くんはというと部屋の隅で絶望オーラを漂わせていた。

 

アハハハ……

 

そんな俺たちだったが冬美さんと焦凍くんが寝たすきにこっそりと抜け出してトレーニングを行う。

 

幸いにもリカバリーガールの治癒のおかげかもう動ける。

 

俺に立ち止まっている暇なんてない。だってナンバーワンヒーロー(・・・・・・・・・・)のサイドキックなんだから

 

 



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3話

5月

 

それは梅雨入り前であるとともにゴールデンウイークの長期休暇の月でもある。子供だけではなく大人も交じって休みを満喫するのだがヒーローに休みなどほぼない。新人ともなれば尚更だ。

 

そんな新人の俺だが特別に休暇を社長からもらっている。普通に聞こえればなんと社員思いの社長と思うだろう。俺だって最初は冬美さんとのんびりデートでもしようかな~って思ったよ。ここ最近忙しそうだったし。ただよう……今になって思えばあの社長、エンデヴァーさんがただ休みをくれるわけがないと思った。

 

俺は休暇と同時に特別任務を言い渡されたのだ。

 

それは……

 

『焦凍くんの尾行!?』

 

『そうだ。これはとても重要かつ信頼ある者にしか託せない。よってお前が選ばれたのだ』

 

『あの~……焦凍くん彼女でもできたんっすか?そりゃあ年頃の男の子だし』

 

『バカもん。誰がデートの尾行をしろといった』

 

『じゃあなんだ?まさか……社長、焦凍くんに限って道を踏み外すようなこと『違うに決まっているだろう!』ですよねー……じゃあナンスか?』

 

『この季節になったらわかるだろう。焦凍にとって重要なイベントだ』

 

『それは……?』

 

『それはつまり……!』

 

で現在北海道

 

「で……なんで中学生の修学旅行の尾行をしなくちゃいけないんだよー!」

 

エンデヴァーさんが押し付けた任務は焦凍くんの修学旅行の尾行だった。

 

当然俺も反論したが

 

『バカもん!旅先で焦凍になにかあったらどうするんだ!ヴィランや自然災害……事故……それらから焦凍を守るという重大な任務だ!』

 

『じゃあ俺より社長が適任でしょうが!北海道なんだし!』

 

と言ったのだが社長も忙しいらしく都合がかみ合わないために俺に押し付けたそうだ。

 

「おかしいと気付くべきだったよ……なんでこの歳になって修学旅行の尾行なんてしなくちゃいけないんだ……んまあ焦凍くんが心配なのはわかるけどさ……あの人親バカもすぎるだろう……」

 

今、俺は北海道は千歳にいる。

 

どうやって飛行機などに乗ったのかと聞かれるかもしれないが、焦凍くんを尾行するための資金などはエンデヴァーさんが限度額5000万以上のブラックカードを渡してくれた。

 

あの人もよくこんなもんポンっと渡すよな……信頼されているのは嬉しいが……

 

おっと連絡連絡

 

<こちら八神、目標発見シタリ、ドウゾ>

 

<こちら轟、そのまま尾行続ケシ>

 

さーてとまあ尾行開始しますか!なんでだろ、意外にノリノリだ。

 

レンタカーだと尾行しているのがバレる。というわけなので月歩で焦凍くんの乗っているバスを尾行しています。

 

札幌の街を観光している焦凍くんたちをビルの屋上から見下ろしている俺も北海道の街を少しばかり楽しむ。あとエンデヴァーさんに焦凍くんの写真を送るように言われたので忘れずにしている。

 

焦凍くんたちがラーメンを食べている中で俺はハンバーガーを食っている。

 

なんで北海道まで来てチェーン店のハンバーガーを食わにゃならんのだと思ったよ。でも炎司さんから

 

『睡眠時間以外は絶対に目を離すなよ!』と言われたんだから俺に拒否権などなかった。

 

焦凍くんはそのまま店を出て集合場所に移動していたがなにかを見つけたみたいだ。うん?

 

双眼鏡を覗くと

 

音声は聞こえなかったが同じ修学旅行生と思われしポニーテールの女子が現地の男子生徒数人に絡まれているのが見えた。

 

やれやれ……しょうがないな……

 

とりあえずなにかあった時のために近づきますか!

 

月歩で路地裏の隣のビルまで跳ぶ。

 

ここまで近づけば声が聞こえてくる

 

『ねえねお姉ちゃん?俺たちとカラオケ行こうよ?』

 

『すみません。今は修学旅行中ですので……それにはぐれてしまったので合流しないと……』

 

ポニーテールの女子は箱入りなのかこういう典型的な状況を知らないみたいだった。

 

『大丈夫だって~!俺たちが一緒に観光しようよ~!そんな奴等放っといてさ!』

 

『いや!離してください!』

 

ちっ!仕方ないか!と思った時

 

『おい』

 

『ああ!?』

 

『なにやってんだ……嫌がってるだろ。止めてやれよ』

 

焦凍くんが男たちのまえに出た。

 

おいおいおい……どうしよ……?

 

『なんだあ!?野郎は引っ込んでろよ!』

 

と焦凍くんに絡もうとした時、スマホの着信音が鳴り響いた。

 

焦凍くんがスマホのボタンを押して耳にあてる

 

『あ?はい、さっき電話した通りだ。ここに不良が嫌がっている女子を連れていこうと』

 

『くっ!てめえサツに連絡したのか!?』

 

『ええ?近いからすぐに来るって?』

 

『うぐぐぐぐぐ……覚えてろよ!』

 

不良たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。

 

上手いなあ……勿論焦凍くんは警察に連絡していない。さっき電話に出たのは友達だ。

 

『あ、あの……』

 

『うん?』

 

『た、助けていただきありがとうございます……な、なにかお礼をさせてもらえないでしょうか?』

 

『いいよ、別に』

 

『なにを!助けてもらったのになにもしないなんてそんな礼儀知らずなことはできません!』

 

女の子が焦凍くんの手を握ってじっとした眼差しで見ると焦凍くんが赤くなって動揺している。女の子に握られたのが恥ずかしいのか?

 

『と、とにかく……いいから。これから気をつけろよ』

 

『あっ!待って……じゃ、じゃあ名前を聞いてよろしいですか?』

 

『……轟焦凍だ』

 

そしてそのまま路地裏から出ていく焦凍くん

 

『轟……焦凍さん……』

 

あっこりゃ焦凍くん、あの子を落としたな

 

そのことを炎司さんに報告すると

 

<ナンだとおお!?だがさすがは俺の息子だああ!>

 

と電話越しに大喜びしていた声を俺は忘れない

 

 




まだまだ尾行編は続きます。


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4話

札幌の街を観光し終わった焦凍くんたちはホテルに泊まっていた。勿論俺が同じホテルに泊まれるわけないので近くのホテルに泊まって朝早く起きれるようにすぐに寝た。

 

そして二日目……

 

焦凍くんは蕎麦を作る体験を選んだと事前に情報を仕入れ、俺も蕎麦作りではないが予約していたので目立たないように焦凍君より先にバレないようにフード被りサングラスを店の中に入る。

 

北海道でも蕎麦粉の産地はいろいろあって、蕎麦は美味しいらしい

 

焦凍くん蕎麦好きだからな……

 

とガラガラガラっとドアが開いて中に入ってきた人物が俺の目の前に俺と同じフードを被りサングラスをかけていてマスクをしている女の人が俺の前まで来た。

 

しっかしこの人冬美さんに似て……いる……っ!?

 

「「あーっ!!?」」

 

お互いに気づいて声を上げる。

 

幸いにもまだほかに客はいなかったので迷惑にならなかった。

 

「ななななんで冬美さんがここに……!?」

 

「それはこっちのセリフよ!なんでここに翔くんがいるの!?」

 

「いや俺は……」

 

「なんで?」

 

「その……観光?」

 

「……正直に言いなさい」

 

「はい……」

 

そしてエンデヴァーさんからの極秘任務を白状させられると

 

「……へーソウナンダ。私とのデートを断ったのも……」

 

実は休暇が入った時にデートを入れていたのだがその直後に炎司さんが極秘任務を言い渡してきたので断らざるをえなかった。

 

「ホントスミマセン……」

 

「まあいいわ……お父さんは後で引っぱたくとして……」

 

「でも冬美さんこそ何でここに来たの?」

 

「焦凍も北海道行くって言ってたから私も行きたくなっちゃって……本当は翔くんと行こうと思ってたのだけれど……誰かさんのせいで都合が合わなくなっちゃってね……」

 

ハハハ……エンデヴァーさんすみません……

 

「まあこうして会えたからいいんだけど……焦凍がこの店に来るってさっきメールが来たから誰かさんのように尾行しているかもと思われるのはいやだし……慌てて変装したのよ」

 

ハハハ……でも偶然で出会えたわけか……なんか運命ってのを感じるなあ……

 

「まあせっかくだから北海道デート。しない?」

 

「もう……きゅ、急にそんなこと……言わないでよ……」

 

冬美さんが顔を赤くして俯く。やべえすげえ可愛い……

 

「でも焦凍くんにはバレないようにお願いしますね?」

 

「わかってるわよ」

 

と再び扉が開いて今度は焦凍くんたちが入ってきた。

 

こちらをちょっと見られたがバレることはなかった。

 

そして注文した蕎麦を食うことにした。

 

冬美さんと一緒に食った蕎麦はいつも以上に美味しかった。

 

そして焦凍くんが出てくる前に先に店を出ることにした。

 

次の目的地に行こうとした時、問題に気づいた。

 

「冬美さん。月歩できます?」

 

「無理に決まってるでしょ!」

 

デスヨネー仕方ない

 

「ひゃああっ!?翔くん!?」

 

冬美さんの腰と首に手を回して持ち上げる。いわゆるお姫様抱っこってやつだ。

 

「しっかり掴まっててくださいよ!」

 

そのまま月歩で北海道は尻別川に向かう

 

予約時間は焦凍くんの少し後にしたのだ。冬美さんも参加できないかと聞いたが了承してくれた。

 

その後はラフティングのためにスーツに着替えて準備体操をして待っていると

 

「お待たせ」

 

振り向くとそこにはスーツ姿で美しいボディラインが強調されている冬美さんがいた。

 

「ど、どうかな……?変……?」

 

いやいや全然似合ってます。眼福眼福。

 

そしてボートに乗って、その場にいた人たちでチームを組んでラフティングを楽しむ。

 

ラフティングの魅力とは天然のスリルを楽しむと言っても過言ではない。

 

緩やかな川の流れからの急流になった途端に起こる水の勢いに押されて猛スピードで下るのはジェットコースターを沸騰させるものだ。

 

そして自然と触れ合えるところも最高だろう。チームワークも高まることからこの世界でも人気があるらしい。

 

俺たちはボートに乗ると川を下っていく。最初は穏やかだったが穴場が近づくと流れが速くなりボートも揺れ、最初の段差が目の前に見えてきた。

 

そのままボートは進んで段差に差し掛かった時、一気に急降下した時のような感覚に襲われる。

 

そしてボートの上まで水しぶきが飛んで段差を抜けた。

 

冬美さんの方を見てみると顔に水が飛んでいたので隠しておいたハンカチで拭くと

 

「翔くんっ!?」

 

「ほら、じっとしてくださいよ」

 

(翔くんが近い……うぅ~……いきなりこんなの反則だよ……)

 

そのまま水を拭い終わると

 

「あっ、冬美さん写真撮ってくれるみたいですよ!」

 

「えっ、どこどこ?」

 

「あっち!ほら!」

 

そう言って冬美さんの肩を引き寄せて密着させる。

 

(うぅぅ……翔くんが近い……でも嬉しい……)

 

冬美さんが赤くなってチラチラっとこちらを見てくる。あああ!可愛いなあ!もう!

 

そして写真を撮ってもらってまた急流に備えることにした。

 

・・・・

 

焦凍side

 

どうも。轟焦凍だ。

 

気のせいかもしれないが初日から誰かにつけられているような視線があったが今はない。

 

思い過ごしだと思うことにしてラフティングの説明を聞いていた。

 

「轟の班は他校の生徒とチームになるからな!迷惑をかけないようにな」

 

他校の生徒とか……どうやって接しよう?

 

自分でもわかっているのだが俺はコミュニケーションが得意な方ではない。

 

翔兄曰く俺は天然が激しいとのことだ。

 

こんなとき翔兄はどうやって相手に話しかけるのだろう?

 

電話しようかと思ったが翔兄も休暇中だったので俺は手に取ったスマホをロッカーにしまった。

 

そして同じ班のメンバーが

 

「おい轟……俺たちどうやら運がいいようだぞ……」

 

「……なんでだ?」

 

「くぅ~!わかってないようだぜ!なんと俺らの相手は堀須磨大付属中学校!お嬢様学校だよ!」

 

「……だから?」

 

「だ・か・ら!お付き合いになれる可能性があるってことだよ!」

 

「そうか……頑張れ」

 

「この天然イケメンが!自分が顔がいいからって余裕ぶりやがって!」

 

「……別にモテたくてモテてるんじゃねえよ」

 

「まあ聞きましたか!?この子はよっぽどシスコンをこじらせてるようですわ!それともマザコン!?」

 

「……おい」

 

「轟が怒ったー!」

 

「凍らされるぞー!」

 

全く……いつもどおりだなこいつらは……

 

でも堀須磨大か……昨日会ったあの子は確か……なんでだろ?相手の組み合わせがすごく気になる。

 

とバスが着くと騒ぎ出したメンバー

 

そのなかから出てくる女子たちにメンバーは興奮していた。

 

だが俺はその中でもより一層輝いて見えたあの子が目に付いた。

 

「「あっ……」」

 

お互いの声がシンクロしてその場に響くと

 

「あっ、貴方は昨日の……!」

 

「……ああ、昨日ぶりだな」

 

俺たちはどうやら同じチームのようだ。

 

と俺たちの様子をみた同じ班の連中は

 

「おいおいおい轟!どういうことだコラァ!説明しろやい!」

 

「どうやってそのお嬢様とお知り合いになったのか白状しろぉ!」

 

と俺が対応に困っていたのだがあちらも

 

「ねえねえ百!あの殿方はどこで知り合ったの!?」

 

「百にとってのイケメン王子!?」

 

「百にも春が来たのね!」

 

あちらもあちらで困っているようだった。

 

名前は……百っていうのか……

 

メンバーを振りほどいて近づくと

 

「……今日はよろしく」

 

「え?ああ、よろしくお願いしますわ。そういえば自己紹介がまだでしたね。私は八百万百といいます」

 

そう言って微笑む彼女、苗字は八百万、八百万百さんか……

 

・・・・

 

八百万百side

 

「もしかして八百万さんって……あの八百万カンパニーの!?」

 

「すげえお嬢様じゃん!」

 

ああ……やっぱり話さないほうがよかったのでしょうか……

 

私はあまり実家に対していい感情を持ててなかった。

 

育ててくれたり教養を身につけさせてくれている恩がないわけじゃないが大半の人は私の家を見て私自身を見てくれない。

 

この人たちも私を見てくれないのか……轟さん……貴方は……

 

「八百万さんか……俺も八百万さん以外、自己紹介がまだだったな。俺は轟焦凍、八百万さんとは昨日札幌で知り合った」

 

連れの方々が轟さんの自己紹介に声をあげました。

 

そして質問の嵐を浴びせました

 

「轟くんってエンデヴァーの息子なの!?」

 

「ナンバーワンヒーローの!?」

 

「すごーい!」

 

「将来はヒーロー志望!?」

 

轟さん……そうでしたわ!轟さんの父親はあのフレイムヒーローエンデヴァーでした!

 

「まあ確かにそうだが……言っておくが俺は俺だ。あの人のことは尊敬しているが俺はあの人とは違うヒーローになってみせるつもりだ。誰の子だろうと関係ない。最高のヒーローにな」

 

轟さん……もしかして貴方なら……

 

そしてドキドキを押さえながら着替えて轟さんの元に向かいました

 

そのままボートに乗って川を下っていきます。

 

こ、こういう経験は初めてですので緊張します!そ、それに轟さんの隣なんて!

 

近づく段差を見て私はドキドキと共に未知への恐怖が私を不安にさせました。

 

呼吸が荒くなって心臓を押さえていると

 

「……大丈夫か?」

 

「あ、あの……轟さん……?」

 

轟さんが手を握ってくれました。男性に手を握られるなど初めてですが不思議と嫌悪感はありませんでした。そして不安が自然と収まってきます。

 

「……怖いのか?」

 

「はっ!い、いえっ!」

 

「……そうか」

 

轟さんが握った手を引っ込めようとしたので

 

「で、ですが……し、しばらく握ってくれませんか……?」

 

「あ、ああ……」

 

轟さんといると胸の鼓動が早くなります。そして熱が顔にまで籠ってきます。

 

この感情はなんなんでしょう?

 

・・・・

 

ほうほうほーう……焦凍くん上手くやっているみたいだな~!

 

冬美さんも興味津々な目で見ていた。

 

俺たちは双眼鏡で近くの山から見ている。

 

あのポニーテールの女の子はあからさまに焦凍くんに密着しているし、焦凍くんも顔が赤くなっていた。

 

これは先の展開が楽しみですなー!

 

撮った写真をエンデヴァーさんに送ると

 

<焦凍ぉぉぉぉぉ!漢を見せろぉぉぉぉ!!>

 

との返信が返ってきた。

 

とニヤニヤしてこの状況を静観していると

 

「翔くん……」

 

「え……冬美さん……?」

 

冬美さんいきなりキスをしてきた。

 

ええええええ!!!?

 

「焦凍たちのを見てたら……我慢できなくなって……それとも嫌?」

 

「いや……むしろ大歓迎っす……」

 

「嬉しいっ♡」

 

そのまま抱き着いてきた冬美さん

 

こっちもイチャイチャしてるんだから頑張れよー焦凍くん

 

そしてそのまま焦凍くんを尾行して

 

ー夜の函館山

 

俺たちは頂上から眼前に広がる夜景に感動していた。

 

そして何の因果かあのポニーテールの子と焦凍くんたちは再び遭遇した。

 

さあ!楽しくなりそうだぞ!

 

・・・・

 

焦凍side

 

昼間は八百万さんと一緒でなぜかわからないが心臓がバクバクした。

 

この症状はなんなんだろう?今度翔兄に聞いてみよう。

 

そして函館山の夜景に浮かれる班のメンバーとは対照的に俺はちょっと疲れたのでベンチで座った。

 

そして横のほうを見てみると

 

「「あっ……」」

 

八百万さんがこっちを見た直後、俺の隣に来た。

 

そして俺の心臓が再び鼓動を鳴らした。

 

・・・・

 

八百万side

 

結局、轟さんに心の内をさらけ出せないまま別れてしまいました……

 

そして疲れたのもあってベンチに座りました。

 

ふと横を見た私は無意識にその人の隣に移動していました。

 

轟さんの隣に移動したはいいですけどお互いの間にはしばらくは沈黙が流れていました。

 

とその時

 

「……今日はありがとな」

 

「え……?」

 

「楽しかった。おまえのおかげで」

 

「そ、それは……!いえ、こちらこそ楽しかったですので……」

 

と再び静かになったので次こそはと思い勇気を振り絞って口を開きました。

 

「あ、あの……轟さん!」

 

「……なんだ?」

 

「わ、私は……一人の八百万百として誰かに……見てもらえるのでしょうか……」

 

私は持てる力を出して言葉に出しました。でも……

 

「……別にいいんじゃねえか?」

 

「え……?」

 

「家がなんだろうと……そいつはそいつだ。関係ないと思う……」

 

「轟さん……」

 

「それに俺の尊敬している人がこうも言ってた『人を噂や肩書きだけで判断するのは上っ面しか見れなくて中身の価値に気づけない』って。だから家がなんであろうが八百万には八百万百としての価値があると俺は思うな……」

 

「そうですか……いい人ですね……」

 

「ああ、俺の最も尊敬する人だ」

 

「でも貴方のお陰で勇気が持てました。ありがとうございます……」

 

そう言って私の手はベンチに置いてあった彼の手の上に自然に伸びていた。

 

ああ、そうか……私は……

 

・・・・

 

焦凍side

 

俺の手の上に伸びた彼女の柔らか手の感触に心臓のバクバクが早くなる。

 

そして顔に血が昇るのが押えられない。

 

そして八百万が優しく微笑んでいるのを見ると……

 

ああ、そうか……そうだったんだな。翔兄が言ってた……

 

『本当に好きな人とはいるだけで不思議な安心感が得られるってもんだ』って

 

俺は……

 

とその時建物の方から轟音が鳴り響いた。

 

俺たちはすぐに向かってそこで見たのはひとりの大男が暴れて多くの人が巻き込まれている光景だった。

 

まだ死人はでていないようだがこのままじゃ……!

 

とヒーローを殺そうとしたヴィランが横から飛んできた影に吹き飛ばされた。

 

その正体は俺の憧れていたヒーローだった。

 

・・・・

 

おいおいおい……なんでマスキュラーがここにいるんだよ!

 

こいつは連続殺人犯のマスキュラー。筋肉増強の個性を持つ非常に凶悪なヴィランだ

 

「ああ!?なんだあテメェ!ヒーローかあ!?ん?テメェはマイティジョーカーじゃねえか!ハッハッハッ!丁度いい!血ぃ見せろぉ!」

 

マスキュラーが拳を振りかぶってきたので俺はその拳を

 

「流水岩砕拳……」

 

流水岩砕拳で攻撃を逸らさせると顔面に鉄塊をかけた超重のパンチを叩き込むと

 

「痛ってぇ!テメェ……!」

 

すかさず次の拳を振りかぶってくるが大振りのため避けやすいので紙絵で攻撃を避けると同時にカウンターのラッシュを顔面に叩き込んで怯んでできた隙を見た俺は

 

「これで終わりだ!鉄塊拳法!月光十指銃!」

 

そのまま鉄塊をかけた十指銃をマスキュラーのモロに叩き込むとマスキュラーは倒れた。

 

そして

 

「大丈夫ですか?ウォーターホース」

 

「ああ……君はマイティジョーカーって……あの……!?」

 

「そんな人がどうしてここにいるんですか……?」

 

「あのー……それはですね……」

 

「翔くん!」

 

「冬美さ、グワホッ!?」

 

「心配したんだから……!」

 

そう言ってギュッと強く抱きしめてくる冬美さん

 

「ご、ごめん……」

 

「もう……いつも心配をかけて……」

 

俺も抱きしめ返して幸せを感じていると

 

「翔兄、冬美姉……これはどういうことかな……?」

 

はっ!

 

そしてエンデヴァーさんの尾行作戦を白状させられた俺でした。

 

あの後マスキュラーは警察まで連行した。

 

応戦したウォーターホースだったがすぐに俺が来たことが幸いだったのか軽傷で済んだ。

 

マイティジョーカーが北海道にいた理由は世間にバレなかったがエンデヴァーさんが焦凍くんに怒られたらしい。

 

ま、任務は失敗でしたか!

 

・・・・

 

時間は少し戻ってマスキュラーを倒した直後

 

焦凍たちは事件もあったことから近くのホテルで怪我人の手当てを受けていた。幸いにも死人はでなかった。

 

焦凍はホテルの外で自分のドキドキを押さえていると

 

「轟さん!」

 

「八百万……」

 

そして見つめあう二人

 

「轟さん……わっ、私は!「俺は八百万さんが好きだ」ふええっ!?」

 

「あの時から……初めて会った時から惹かれて……ようやく自分の気持ちに気づきました……俺でよければ……付き合ってくれませんか?」

 

「……ッハイ!」

 

「八百万さん……」

 

「百とお呼びください♡」

 

こうして轟焦凍と八百万百は誰も居ない夜の中で唇を重ね合わせて恋人となった。

 

 



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5話

遅くなって申し訳ございません……構想を練るのにまだまだ時間が必要ですが……


あの修学旅行の後、炎司さんは冬美さんと冷さんの二人からダブルお説教を食らいかなりげんなりしていた。勿論俺もやらされていたとはいえ、冷さんにお説教を食らいました。がすぐに冷さんに八百万さんを紹介する話に切り替り、冷さんは大喜びして二人の門出を祝った。俺たち二人は正座させられたままでしたが……

 

でも冬美さんがこっそりとご飯を持ってきてくれたので俺と炎司さんは隣り合わせでご飯を正座しながら食う

 

「……すまなかったな」

 

「初めから気づいてくださいよ……」

 

お互いに喋ることなく黙々とご飯を食べていたが炎司さんが謝ってきてくれたのでそれに俺も返した。

 

前から思ってたが俺と炎司さんって似た者同士なのかもな……

 

炎司さんもそう思ったのかお互いに顔を見合わせたのだがすぐに視線を逸らしてご飯をかきこむ。

 

「なあ……」

 

「……なんですか?」

 

「おまえは……なんのためにヒーローになった?」

 

「……急になんですか?」

 

「俺は……誰よりも強くありたかった……だからただ前をひたすらに進んでいき誰よりも輝くヒーローに……俺は憧れた……だが一度挫折してしまった……そして……ヒーローの道から外れてしまった……そんな俺を再び戻してくれたのは他でもないお前だった……」

 

「…………」

 

「俺のように強い個性を持っているわけではないのに……何度も挫折しているはずなのに……そんなお前が俺のように……道を踏み外すことなく強くなれた……理由が知りたいんだ」

 

「……そうですね……確かに炎司さんの言った通り俺は何度も挫折しました。時には笑われることもありました。ですが……そんなあなたが思ってるような大きな夢なんて高尚なものはなかった。俺も貴方みたいに強くなりたかっただけです。そんな俺が強くなれたのは……努力を止めて自分を見失いたくないと思っただけです」

 

「そうか……」

 

そしてそばを啜る炎司さん

 

「大丈夫ですよ」

 

「ん……?」

 

「今の炎司さんはあの時とは違います。目の前の人をちゃんとみることができて……自分を見失っていない貴方は……誰よりも輝いているヒーローですよ」

 

「…………翔くん」

 

「そうですよ」

 

「冷!?」

 

声がする方を振り向くと冷さんが来ていた。

 

「あれ?焦凍くんの方はいいんですか?」

 

「折角なら二人っきりにさせてあげたくて」

 

「冷……今の俺は……あいつらが誇れる父親だろうか……」

 

冷さんは炎司さんの隣に座ってその手を静かにとって

 

「大丈夫です。今でも炎司さんは誰よりも立派なヒーローで……私の生涯最高のパートナーです」

 

「冷ッ!!」

 

「きゃっ……ふふ……」

 

俺はそっとその場から退散すると

 

「どうだった?翔くん、二人の様子は」

 

「俺がここに来たということはそういうことだろ?」

 

「ふふっ……それもそうね♪」

 

俺たちは縁側に座ると

 

「あっ月ですよ!冬美さん」

 

「どこ……?ホントね……」

 

俺が指さした月は欠けることなく輝いている。

 

「ねえ翔くん……」

 

「なに……?」

 

「……ありがとうね。私たち家族を救ってくれて。貴方は私だけじゃない、私たち家族のヒーローだよ」

 

「……余計なお節介ってのがヒーローだろ?」

 

「ふふっ……翔くんは昔っからそう……そんな貴方とずっと一緒にいたい……」

 

そう言って冬美さんが身体を寄せてくる

 

「……それは遠回しなプロポーズかな?」

 

「……うん♪ちゃんと言うから返事を聞かせてくれないかな?翔くん、貴方とずっと添い遂げたいです……」

 

「……彼女に言わせてしまうとはな……」

 

「それでどう?」

 

「……はい。俺でよければ……ずっと一緒にいてください……」

 

「嬉しぃっ!♪」

 

冬美さんが笑顔で正面から抱きついてくる。

 

ああ……幸せだ……

 

ー幸せな時間は時の流れを早くし、繋がった愛の体感は光をも超える



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