深淵廻り (一般楽園幽閉魔術師)
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深淵廻り

DARK SOULS TRILOGYが神だったんで初投稿です。
7割ぐらい妄想です。


――

 

 

 

 

 

半歩先も見えぬ灰色の霧の中、私は目を覚ました。足の感覚は今いる場所を砂の上と告げている。足は裸足で、着ている服はみすぼらしく、所々に血がついていた。これは私の血か、それとも誰かの返り血か。

何故ここにいるか、何故今目が覚めたなど分かる筈もなく、何も覚えてない。辺りを見回そうとした時にふと風が吹いた。

 

熱い風だ。

 

子供と呼んで間違いない私の体にはその風ですら脅威だったようで、踏ん張ることも叶わず後ろに大きく仰け反る。風を受け流して目を凝らすと、小高い丘の上に何かがいた。生物として余りにも巨大な何かが。

 

古竜

 

それはこの灰色の霧の時代の主であり、陽の届かない地上の王だ。強靭な体に霧の向こうを見渡す瞳、空を自在に駆ける翼、岩のように頑強な鱗。そして何より『不死』であること。知能も高く、同種間で無闇な争いを起こさない。人や小人(人間)とは違い、完成された生物だ。まさにそう思った。

故に――

 

 

 

種族維持の為に、他の種族を淘汰する行為は、極めて合理的だ。

 

 

 

霧の向こうからこちらを見透かし、埃を払う程度の勢いで口腔から炎を放つ。私はほとんど反射的に岩の影に飛び込んだ。

岩は崩壊せず、熱も通さなかった。私に猶予が与えられる。

 

選ばなければならない。

 

一つ、全てを諦め、私をここに放った者への呪詛を放ちつつ、業火に焼かれる。

 

一つ、恥も外聞も誇りも捨てて逃げ、その巨躯に轢き殺される。

 

もしくは――

 

 

 

戦う事だ

 

 

 

無理、無茶、無謀。

承知の上だ。だが今目覚めた意味も、理由さえ知ること無く焼かれるのか?逃げるのか?

否だ。今から考えるのだ。

私は近くの女の死体に刺さっていた剣を引き抜く。豪華な服の割に何の変哲もない簡素な剣(ロングソード)だ。

 

自らの感情のまま自身の(ソウル)を込めると古びた剣をがうっすらと青い燐光を纏った。

雄叫びを上げる。場所が分かったのか、霧の向こうから再び熱を感じた。上等だ。

古竜の炎が鼻先を掠める瞬間に、自身の足の裏にソウルを溜め、跳躍と同時に爆発させる。体は前のめりになり弧を描きながら空中を翔ける。

見えた。

 

同時に向こうも私の姿を捉えたのだろう。僅かに視線を動かし、虫でも払うかのように業火を吐き出す口を上に上げてきた。私は不格好に弾丸のように飛んでいる。だが炎がこの体を焦がすよりも、私の剣の方が先に届くというのは分かった。

 

剣を左手で持ち、左から右に薙ぐ。空中ではあるがその遠心力に体重移動を加えて回転を早め、もう一周した瞬間、真正面に古竜の瞳を捉えた。

雄叫びを上げ、炎を吐く古竜の頭の右側を抜けながら、古びた剣を一閃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が古竜の尻尾に打ちのめされ、炎を全身に浴び、無様に砂地に転がっているのは当然の結果だ。運動エネルギーと位置エネルギーと遠心力を駆使し、子供とはいえソウルで強化した剣、だがそれだけだ。それで古竜の鱗を砕けるのなら誰も苦労しないだろう。何かの加護があったのかみすぼらしい服は燃えず、体は無事だったが右腕は折れ、炎を吸い込んで喉が焼けていた。

 

斯くして古びた直剣の刃は砕けて折れた直剣となり、子供が1人砂地に無様にに転がっている。体は動く。だが駄目だ。生物としての格が違う。勝てる未来が見えなかった。

古竜はもう私を見てなかった。感情的な私はそれを許せないと考えた。理性的な私はそれは当然の結果だから逃げろと訴えた。そのせめぎ合いに感情が勝ち、私は震える足で折れた直剣を掴み、立ち上がる。雄叫びを上げようとして、喉が潰れて声が出ない事に気付いた。無理のはわかる。

だが最期にせめて――

 

 

 

ガィン、と重々しい音を立てて、後方から飛んできた槍のような矢(・・・・・)が古竜の翼に突き刺さる。

 

 

 

死なぬ、とは言えどそれが痛いことに変わりはないのか、古竜が苦悶の声を上げる。飛来してきた方を見ると同時に、霧の向こうから放たれた第2射が私が先程傷をつけた古竜の左頬に直撃した。たまらず霧の向こうの射手へ全力の炎ブレスを放つ。

 

「……!」

 

潰れた喉から驚きの声ではなく、息遣いが漏れた。。古竜が放った炎が縦に割れた(斬れた)。割れた炎の奥から一人の男が現れる。弓は持っていない。射手ではないようだ。剣を右手に、左手には雷を輝かせ、

 

 

凄まじいソウルを放出した。

 

 

文字通り雷のように男が古竜に突っ込む。迎撃と繰り出してきた古竜の噛みつきを地面に右手の剣を突き刺す事で無理矢理ブレーキをかけて避け、(腹の下)に潜り込む。懐に入った男を踏み潰そうと古竜が右脚を振り上げる。その瞬間を狙ったのか射手が3度目の矢を放つ。察した古竜は残った脚を捻って避けようとしたが、男から見るとそれは隙でしかなかった。

 

 

 

「オオオオオオオオオ!」

 

 

 

渾身。裂帛。全力。

そんな雄叫びを上げながらその手に迸る雷を古竜の腹に叩き付ける。雷が弾ける爆砕音と古竜の鱗にヒビが入る音、苦痛にもがく古竜の呻き声がほぼ同時に響いた。堪らず上空に逃げようと浮いた古竜を逃がさまいと、数本の巨大な矢が霧の向こうから飛んでくる。古竜は流石に不味いと思ったのか全力で高度を上げて霧の彼方へと消えた。

 

古竜が羽ばたいた勢いで霧が僅かに晴れ、剣士と奥の射手の姿が見えた。

射手は巨人族だった。私の身の丈の倍程の大きさの弓を手に、古竜の去った方向を見ている。竜は賢い生物だ。がむしゃらな報復では無く、的確な反撃をして来ることは充分考えられる。そしてもう1人は、

 

「無事か?童」

 

ゴツゴツとした筋肉に覆われた手を差し伸べてきたのは壮年の男だった。無骨で簡素な鎧を着込み、右手には仄かに熱を放つ剣を携えている。その瞳には確かな()を滾らせ、溢れ出る熱いソウルを感じ取れた。

 

戦士だろうか。

 

騎士かもしれない。

 

どう見ても王だろう。

 

知識でしか知らない言葉が頭の中を多くよぎった。同時に否定した。そんなものではない(・・・・・・・・・)と。差し出された手を掴み、その暖かさに触れて確信した。

この男はまるで――。

 

 

 

 

 

「太…陽…」

 

 

 

 

 

「儂を太陽と捉えるか、そうか、そうか」

男は何か思案しながら2度頷いた。それから太陽に例えた私を覗き込み、静かに息を吐いた。

 

 

 

「儂が与えれる温もりなんぞ太陽の足下にも及ばん」

 

 

 

自虐的な笑みを浮かべ、灰に覆われた空を見上げる。続けて私も、言葉を発さない弓を持った巨人も空を見上げた。男は私を諭すような口調でゆっくりと言葉を吐き出した。

 

 

 

「太陽は偉大だ。素晴らしい父のようだ。」

 

 

 

「儂もいつか、あんな風にでっかく熱くなりたいんだよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「筆頭、オーンスタイン」

 

人が払われた王城の広間に声が響く。その声はいつか竜の腹に雷の槍を叩き付けていた頃より幾らか嗄れたが、その威厳を隠すには至ってない。

 

「ここに」

 

竜の鱗の如き甲冑を鳴らしながら王の元へ歩み寄り、跪く。我らは人を改めて神族と名乗った。我らは戦友との対等な立場を互いに好むが、こと王に限っては親愛と敬意と忠誠の均衡を取らなければならない事を自覚している。

 

「我が城の守護の任を与える。屈強な騎士達を率いる群れの長たる『獅子』となれ。だが竜の兆しを感じた時はその限りではない」

 

フン、と王は溜息のような息を吐いた。

 

大馬鹿者(名を奪われた長子)が手放した竜狩りの任、継ぐのは貴公を置いて他におらん」

 

「…お任せを」

 

跪いたオーンスタインの甲冑に王の手が触れ、餞別とばかりに僅かなソウルが注がれる。それを受け取って彼女は1歩下がった。王のソウルの大部分は公爵と小ロンドの王に譲渡された。

 

 

 

 

「ゴーよ」

 

王の呼びかけに応えて後方から大きな足音が響く。恐らく柱に寄りかかっていたのだろう。

 

「おう」

 

気兼ねなく友人に話しかけるようなその返事に、王も表情を少し綻ばせた。

 

「騎士らしくできんのか、貴公」

 

「この日ぐらい、な」

 

彼は我ら4騎士の中で最も王との付き合いが長い。その大きな声の裏に、背丈に見合った想いがあるのだろう。

 

「各地を渡り、その『鷹』の如き目を以て竜の兆しを感じ取れ。貴公の従える大弓隊の勇姿を遺憾無く発揮せよ。」

 

「あぁ」

 

多くを語る必要は無い。ここにいる者は皆、何故王がこのような事を言うのか理解してるからだ。あらゆる手段を尽くしても、この世界のためにはそうするしかないと皆理解してるからだ。何が足りなかったのだ。時間か、ソウルか、光か、それとも―。

 

 

 

「キアラン」

 

全く気配の無かった柱の影から何かが飛び上がり、音を立てずに王の前に着地。そのまま跪いた。相変わらず彼女の気配遮断は凄まじい。

 

「こちらに」

 

跪く彼女はやはり神族でありながら体躯は私やオーンスタインより少し小さい。本人はよくこの事を気にしていたが、彼女の授かる任の事を考えると、小さく、そして細いに越したことは無いだろう。一切の表情を隠す白磁の仮面も、彼女の任に一役買っていた。

 

「闇の兆しを感じ取り、事を起こす前に背後から『蜂』の如く刺し穿つがよい。平時は影に潜み、事が起きたならば彼奴に知らせよ。」

 

「はい」

 

彼奴、という言葉の時に王がちらりとこちらを見てきた。確かにお互い得意な事の方がやりやすい。尤も、言われずともわかっていたつもりだが。

 

 

 

少し西に傾いた太陽の光が広間を照らす。かつてこの場所で銀の騎士達と共に神々の国の建国を祝った。あれからどれほどの時が過ぎたのかはわからない。

 

だが確かに、中天に輝いていた太陽が西に傾き始めているのだ。

 

様々な影響が各地で出ていた。始まりの火が弱っている。王はそう言った。始まりの火を灯していた大いなるソウルはかつて4つに分かたれた。その内3つを使い、我々とその同盟者たち(死者と魔女)は灰色の時代を終わらせたのだ。

残りの1つは名も知れぬ小人が持ち出した。今まで始まりの火を灯していたのは大いなるソウルの残り香だ。今の始まりの火は残り火(・・・)と言っても過言ではない。

借りたモノ(ソウル)を返す、それは当然の事だと王は言った。ただ王だけがソウルを返したところで火がその熱を取り戻す訳ではい。同盟者たち(死者と魔女)が持つ大いなるソウル、それと名も知れぬ小人が持ち出したソウルが揃わねばならない。4つ目のソウルを持つ小人の子孫、それが全てのソウルを集めねば始まりの火は継げないのだ。

 

 

 

「アルトリウス」

 

 

 

呼ばれて寄りかかっていた柱から身を起こし、王のもとに向かう。先の騎士達もこちらを見ていた。オーンスタインは頷き、ゴーは苦笑い、キアランこちらを見つめている。表情は読めないが、悪いものではなさそうだ。

 

我が王から任を授かるのはこれが最後だろう。

王はこの後、10人の銀騎士を伴って最初の火の炉(始まりの場所)に向かわれる。自らの魂を以てこの時代を存続させるために。

 

だが言われずともその中身は解る。我が友、我が盟友、我らが神の都の騎士達と民、そして王と王が繋ぐこの時代(火の時代)のために、我が剣に誓って─。

 

 

 

「闇を斬り、深淵と対峙せよ。」

 

 

 

 

 

 

 

「御意」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私は、多くの地を廻った

 

 

 

 

 

 

 

 

―ウーラシールに深淵の兆し有り―

ゴーの鷹がそう告げた。

ウーラシール国王の要請により、深淵に侵され、怪物と化した小人を撃退した。封印される寸前に小人は正気を取り戻し、蛮行を止めた私に礼を告げ、世界蛇(カアス)を倒すと誓う代わりに深淵を歩けるようになるという契約をした。私に指輪を託し、彼は地の底へ封印された。

 

 

 

 

 

 

 

 

―小ロンド公国に深淵の兆し有り―

キアランの鳩がそう告げた。

4人の公王たちが闇に侵された軍勢を足止めし、私はその間に初めて深淵に足を踏み入れた。彼から貰った指輪が無ければ私は瞬時に深淵に呑まれていただろう。闇の魂(ダークソウル)無き者が来たことに世界蛇(カアス)は驚いていたが、最終的には取り逃してしまった。去り際に4人の王たちに黒い影が囁いた事など、私が知る由も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―輪の国に深淵の兆し有り―

王女フィリアノールからの急使がそう告げた。

オーンスタインから輪の国へ向かうようにと文が届いた次の日には、闇喰らいの竜が使役され、深淵の軍勢は消滅したという報が届いた。またオーンスタインによると、この頃初めて使命を信じた不死が1つ目の鐘を鳴らしたらしい。世界蛇(フラムト)の喧しい笑い声が空耳した。

しかし深淵の兆しが迫った処で直ぐに闇喰らいを使役するとは、王女を預かる小人の王とはどの様な者なのだろうか。あれは神族が唯一手懐けた古の竜。おいそれと解き放って深淵に呑まれたら(・・・・・・・・)どうするのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

―バルデルに深淵の兆し有り―

騎士王レンドルからの救援要請を受けた。

深淵に侵された軍勢を彼の王と精強なバルデル騎士達と共に迎え撃った。今までは闇に侵された人間達に統一性が無かったが、今回は闇の仮面に広刃の直剣、そして吸精を行う魔術を使うという統一性が見られた。今後ダークレイス(闇の眷属)と呼称する事に決められた。

 

 

 

 

 

途中ダークレイスと交戦している白狼を見付けた。どうやら仲間の仇を討とうとしてるようだ。狼は群れるのを嫌うが、それは孤独と同義ではなく、種として多く生き残るための知恵だ。が、4人が相手では分が悪いだろう。手近なダークレイスの剣を拾い、白狼に投げた。驚きだろうか、目を開きながらも口で器用に剣を咥えた。

ダークレイスと睨み合う白狼に、通じる筈は無いと思いながらも、問うた。

 

 

 

「やれるか?」

 

 

 

ガウ、と小さな返事が帰ってきた。私と彼は、同時に敵へ駆けた。

 

 

 

 

 

 

戦の後、騎士王から礼にという事で聖剣を譲渡された。自国の騎士に渡せと遠慮したが、刺突剣(レイピア)を主として扱うバルデルでは使う者がいないと。錆びさせるには勿体ない業物で、有難く頂戴した。

 

今度帰ったら鍛冶屋(いつでもばんぜん)に見てもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―アノール・ロンドに竜の兆し有り―

ゴーからの矢文は緊急事態の取り決めだった。

オーンスタイン率いる銀騎士達とゴー率いる大弓隊が飛竜の大軍と正面から激突した。古の時代と変わらぬ炎を吐き、巨体を振り回す竜達に負けず、銀騎士達の雷の槍は竜の腹を捉え、大弓の斉射で顔を穿った。凄まじい力を見せ付け、討伐しきれなかった災厄の単眼の竜はカラミッドと名付けられ、最大の警戒が成された。

竜との戦いには間に合わなかったが、混乱に乗じてアノール・ロンドに侵入しようとしたダークレイス達をスモウと2人で迎撃した。処刑人よ、腕を上げたな。だがそれは同時に悲しい事でもある。

 

後に第1次迎撃戦と言われたこの戦いで、2割の民と4割の騎士を失い、一部の神々はこの都を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は考え事をしていた。

いつになったら(ソウル)を集めきれる強靭な人間(小人)が現れるのだろうか。そんな者は本当に居るのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―カタリナに深淵の兆し有り―

キアランからの鳩がそう告げた。

ダークレイスの大軍が国への侵攻を目的に攻め入ったのは初めてだった。だが相手が悪い。救援に向かった頃にはダークレイスの半分が既に息絶えていた。独特な見た目の鎧に統一されたカタリナの騎士達の剣技と魔術の冴えは凄まじい。戦が終わり帰ろうとするのを呼び止められ、宴に招きお互いを讃え合う。これが酒と謳歌の国と言われる所以だろう。火の陰りが見えてきたこの時代において、久しぶりに心の休まる時間だった。

 

多くの決闘や試合のお願いは丁重にお断りしたが。

 

バルデルで共に戦った白狼にはシフの名前を付け、共に戦っている。私自身あまり他人と会話が成立するタイプではないが、不思議とこの狼とは会話が弾んだ(ような気がした)。狼の住んでいた森の喋る銀猫にも、世話になっている。

 

 

 

 

 

 

どれだけの地を、どれだけの時をかけて廻ったのか。

久しぶりにロードランへ帰ってくると、その変化を受け入れざるを得なかった。太陽の傾きは増し、空は陰り、時間は緩やかに狂い、死ぬ事が出来なかくなった人間や恐ろしい魔物が増えてきた。未だ弱り続ける最初の火に、魂を捧げた我が王は何を思っているのか。数十年か数百年か、ようやくアノール・ロンドへ帰り着いた。王女や他の神々に挨拶には行かない。ここに彼女らは居ないことになっているからだ。ダークレイス達は鼻が利く。

迎えの銀騎士の隊列の中央を歩きながら、懐かしい聖堂に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

「久しいな、アルトリウス」

 

「久しぶり、アルトリウス」

 

本城の広間で待っていたのはオーンスタインとキアランだった。ああ、と一声だけ返す。オーンスタインは頷き、キアランは…仮面で見えないがはにかんでいるのだろうか。ここに来るまでに整列していた銀騎士の数も随分と減っていた。変わらぬ彼女らの姿勢が、私にとっての癒しだ。

 

「ゴーは?、まだ戻ってないのか?」

 

「あ奴なら鍛冶屋と話してる。その狼は?」

 

「シフだ。共に戦っている。」

 

「へぇ…」

 

ガルル、と威嚇するシフにキアランがジリジリと迫っていく。その毛並みに触れたい気持ちはわからんでもない。足の速いシフだが、私よりも疾いキアランから逃げれるだろうか。

 

意を決して逃げ出したシフをキアランが追いかける。さぞいい特訓になるだろう。2人を視界の端で捉えつつ、オーンスタインに向き直り、尋ねた。

 

どうだ(・・・)?」

 

「6人だ。このアノール・ロンドを超えたのは。」

 

6人。それがこの神の国を超えた人数だった。私やキアラン、ゴーは違うが、オーンスタインとスモウはフラムトの命によって試験官(・・・)に任命されている。彼らはフラムトの編み出した特殊なサインによってこの聖堂の最奥に限りなく実体に近い霊体として召喚され、この場所に辿り着いた人間を試すのだ。

 

「直にゴーとスモウも戻ると聞いている。嘆かわしい事に、各々話し合わねばならん議題を抱えてることだろう。」

 

オーンスタインは小さく息を吐いてから、私を見直してもう一度口を開いた。

 

「貴公も少しばかり休むといい。」

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりに戻ってきた部屋には埃一つ無く、あるのは静寂と…気配だ。

 

 

「いるな?」

 

「ばれちゃったか」

 

そう言いながらベランダから入ってきたキアランの息は少し乱れていた。そうでもないと私では彼女の気配は感じ取れない。

 

 

「何かあったのか?」

 

「キミの相棒君を弄ってたら…彼怒っちゃったみたいで」

 

「シフか」

 

「速いね、彼」

 

私の方が速いけど。という顔をしているのは仮面越しでも分かった。彼女が言うに素顔は私しか見た事無いそうだが、仮面越しでも表情が分かりやすいので十分だ。

 

「聞かせて欲しいんだけど、キミの冒険のこと」

 

「すまんが、水浴みが先だ」

 

ムッとなっているとこまで仮面越しに見えてるぞ、キアラン。

 

「…なら、私も行っていいかな」

 

「目に毒だ。それに」

 

小さな着地音が聞こえ、ベランダから2()目の来客がやって来た。不機嫌そうな顔で鳴き声を発しながら、ターゲットを見つけた。

 

「君に客だ、キアラン」

 

今度は、げ、という顔をしたな。

唸り声と共にシフが飛びかかり、第2ラウンドが始まった。わたしはそれを横目で見ながら湯浴み場へ向かう。

 

 

 

 

 

 

体を清め部屋に戻り、シフの体にブラシを掛けてやりながら、キアランと旅の思い出を話し合う。それは正しく久しぶりの休暇だった。

 

だがそれはこの困難極まる時代の中では、限りなく貴重な時間だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

其れは唐突だった。

 

ドォン!と遠くで何かが爆発した音が聞こえた。続いて地面が揺れ始めその強さを増していく。

 

「わっ、ちょ」

 

余りの揺れのひどさにキアランがしがみついてくるがそれどころでは無い。これはなんだ?敵襲か?

 

数刻して揺れは収まったそれと同時に―

 

 

「「!」」

 

ヒュン、という風切り音と同時に我々はそれぞれの反応をした。シフは不満げに起き上がり、キアランは両手に双剣を持ち、私はひとまず剣のみをソウルから変換し左手に構えた。

 

矢だ。

 

ベランダにゴーの矢が突き刺さっている。そして彼の矢が示すことは―

 

「行こう」

 

「ええ」

 

わふ、とシフも気合いの入った返事をした。3人で聖堂に駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来たか」

 

聖堂には既に我々以外が揃っていた。オーンスタイン、ゴー、スモウ、そしてグヴィネヴィアの使い魔と公爵の使い魔にフラムトの使い魔だ。それだけしか居ないという事は機密性と重要度が高いということだろう。

 

「諸君らが先ほど味わったあの揺れについてだが…」

 

普段バサバサと歯切れのいい彼女らしくない物言いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同盟者(魔女と娘達)が最初の火を人工的(・・・)に作り出す儀式を行ったという報告があった。」

 

 

全員が言葉を失った。

そして次の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「儀式は失敗し、イザリスの都は炎に飲まれた。」

 

「儀式によって作り出されてしまった混沌の火(・・・・)によって、デーモンという強大な魔物が生まれ、各地に現れた。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、廻らなければならんな。

イザリスに向かうか。この世界の滅びまでを、1秒でも長くする必要がある。




エルデンリングとACの新作が出たら続きます


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