機動戦士ガンダム·プレデターズ (ルシェラ)
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プロローグ

原初地点

 

 

「地球をひとつに。天を越えよう。」

 

こんなキャッチフレーズだったか…。

飛躍的に人類の科学力が進歩し、AIに仕事を奪われてきた昨今。

世界各国の軍隊や自衛隊をひとつにして軍力の増強や開発の合理化をし、所謂[地球軍]を作ろうと言う運動が始まった。

間も無くして各国の首脳が集まり会談。

長い年月と民の合意、その他エトセトラを経て遂に…

[地球統合軍BeyondHEAVEN]が設立された。

ビヨンドヘヴンは各国の軍隊関係の人間が主な構成員ではあるが、特殊技能士やモビルスーツ操縦に長けた者など、他分野の人間もいる。

また、今までと大きく違う点は、AIを搭載したモビルスーツを運用していると言う点だ。

人機体と呼ばれるBeyondHEAVENが製作した機体で、兵器が持つ鋼の装甲と、人間が持つ心を兼ね備えた新時代の兵器。

コクピット内部に超高性能会話型人工知能という物を搭載していて、パイロットのパーソナリティに合わせてAIも共に成長していくと言う物だ。

成長や性格の変化は文字通り個人差があると言われる。

 

この機体を生み出したBeyondHEAVENの役員達は、

「今こそ人類とAIが手を取り合って共存するべきだ!」とか、

「AI、機械の精密さと人間の技術力がタッグを組めば、怖い者なしです!」などと述べた。

結果このプロジェクトは大成功した。何よりもパイロット達に好評で、中には残してきた子供のパーソナリティを緻密に入力してあたかもそこに子供がいるかの様にする者もいた。

 

何もかもが円満に行くと思われたが…やはり現実はそう甘くなく、月日が経つにつれ段々とパイロットの不満やシステム上の不備など問題が出てきた。

特に多かったのが、AIとパイロットの喧嘩だ。

あいつが言う事を聞かないだの、パイロットが無能だの、言葉使いが失礼だの…互いに言いたい事を言い合うだけで中々事は進展せず、中にはノイローゼになってしまう者も…。

 

これではAIとの共存が達成出来ないと躍起になっていた上層部だが、そこに更なる追い討ちが…。

 

「さあ、我が同士達よ!もう無能な人間どもの時代は終わった!今こそ我らが人類にとって代わり、地球を統べようではないか!」

 

…こんな事をAI達が言い始めたのだ。

初めは戯言だと言われ、賛同者も少なかったが、徐々に人機体の[信者]が集まっていき、遂に人機体達が決起。人類に牙を向き、攻撃を開始したのだった。

鎮圧しようにも主力が一気に敵になってしまったBeyondHEAVENは瞬く間に劣勢になり遂に壊滅。謀反した人機体達はさらに世界各地に広がりあっという間に都市部を掌握してしまった。

何とか人機体達から逃れた一部の人間達は荒廃した土地に集い、キャラバンと呼ばれる要塞を建てて生活を営む様になった。

 

 

この物語は分裂したAIと人間達を再び繋げ、共存に導こうとする人間と人機体の物語である。

 

 




こんにちは(*´∇`*)
ゲテモノ大好きルシェラです。
Twitterで皆さんから機体やキャラクターを募集してそれらを纏めながらストーリーを紡いでいく書き方をしてまーす。
まあ、小説でも演劇台本でも言えますがキャラクターの登場場面差にはどうしても目を瞑らなければいけないのが辛いです。
あと毎日忙しいので定期的にあげるのは難しいです(⌒-⌒; )
拙い文章ですが今後もゆっくり寛大に見てくれれば幸いです。
それでーは。

機体、キャラクター投稿希望は不定期ではありますがたまに募集しています。
作品に関する事や関係者の方々への質問は受け付けていないのでよろしくお願いします。


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機動戦士ガンダムプレデターズ 第一話 破れた空

ビビーッ、ビビーッ、ビビーッ!

 

けたたましく目覚まし時計が叫ぶ。

時刻は朝の6時前。まだ暁前だがその少年はおもむろに身体を起こす。

ここは大自然の中に作られた人類の新たな住処[キャラバン]。人機体達から逃れて来た人間達が集まり形成された地下大型居住区。

 

「……寝みぃ…。」

 

と、その青年は紅色の髪の毛を翻して自室の洗面所に向かう。

彼の名前はルフス。苗字は元々あるようなのだが彼自身が幼い頃の事故による記憶喪失で忘れてしまっており、その上親や親戚とも既に離別しているので必然的に下の名前で呼ばれている。

 

その17歳の青年は洗面所で顔を洗い、僅かな普段着に着替え、自室を後にした。既に自分より先に起きた人達が朝食のバイキングに並んでいる。

[万能因子]により栽培や畑仕事をしなくても手軽に生成が可能になった為、地下と言えども自炊が出来るのだ。

万能因子とはBeyondHEAVENによって生み出された物で、DNAの組み換えを独自に行ったり、環境や外部からのアクセスに合わせて様々な形状変化が自律的に、短時間で可能な新世代のバイオテクノロジーの結晶である。人機体の装甲にも使われており、ある程度なら自己再生することも出来る。

ルフスは自分の方では早起きしたつもりだったが予想以上に先を越されていたため、長い列に並ぶ事にがっくりと肩を落としながらも渋々列に並んだ。

「1、2、3……。10人か。多いなぁ。」

と言いつつ食材のメニュー表を見る。

「まあ杏仁豆腐は確定として、あとはコーヒー牛乳にケロッグ、あとチョコレート…。」

と、選定していると、

 

「よォ!おはようさん!」

と、聞き慣れた男勝りの女の声がした。

「ホムラ、おはようさん。」

藍色の整った髪と、ヘソ出しシャツが目立つ彼女の名前は暁ホムラ。男勝りな性格が特徴で、いつも明るいお姉さん肌。冗談以外のネガティブな発言は大嫌いで、どんなに不利な状況でも決して諦めない姿勢がとても周りに好かれ、姐さんと呼ばれている。

ルフスとはキャラバンで知り合い、よく用事に付き合わせている。(一方的にではあるが)

「ま〜たお前は栄養のねぇ飯食ってんなあ」

「いいじゃんか別に……。と言うか姐さんも毎日同じ物ばっかりで飽きないの?」

 

ホムラはよく人機体達のメンテナンスを任されるのでエネルギー補給は絶対に怠らないようにしている。その事もあってか食材に気を使うようになり、黄金のサイクルと命名したメニューを予定や体調に合わせて日毎に食べ変えているのだ。

「これがベストなのさ!おかげで毎日健康で過ごしてるし。」

「姐さんはそれでいいかも知れないけど、やっぱり俺は健康よりかは自分の趣向を取るな。」

そう話している内に列が段々と進んで行き、ルフス達の番になった頃には後ろにおびただしい数の人が並んでいた。

二人は手際良く食材を取ると、食堂のテーブルには座らず、お盆を持ったままエレベーターで人機体達の格納庫に向かった。

キャラバンには人間との共存を望む人機体達がおり、人間達の生活を守る代わりに整備や補給をしてもらうという契約を結んでいる。

一見ただの利害の一致に見えるし、万能因子がある人機体達にとっては修復の加速に過ぎない物ではあるが、彼らから言い出した訳ではなく、人間達の優しさから始まった物なのだ。

エレベーターが格納庫フロアに到着し、二人は自分のパートナーの人機体の元へと向かう。人機体達には人間で言う寮の様な物があるが、基本寝る時以外は[ラウンジ]呼ばれる大きな広場でたむろしている。

二人のパートナーであるフェンリルとゼロはルフス達を見ると手を振って場所を知らせた。

互いにおはようと言い合って、フェンリル達はその場に、ルフス達は近くにあった機材の上に腰を下ろした。

「そーいや今日は中東支部の所に行くんだっけ?」

とホムラはゼロに聞く。

「ああ。情報交換と中東支部周辺の敵部隊の掃討だ。」

キャラバンは少数ではあるが各地にあり、そのひとつひとつがかなり巨大である。

地上には城壁があり、東西南北の監視塔に人機体と人間がペアで見張りをしている。

城壁の内側には地下へと通じる巨大ゲートがあり、エレベーター式で人員や物資を地下に運んでいる。

かなり堅牢ではあるが、それでも大規模な攻撃に晒されればそれなりの被害を受けるため、定期的に周辺の人機体を迎撃しに行かなければならなかった。

「敵に傍受される危険があるとは言え、いちいち支部に行くのどうにかなんねえかなぁ。」

「まあまあ。こんな閉塞感満載の所にずっと居るよりかはマシだろう?」

と、ルフスの愚痴をフェンリルが受け止める。

「て言うかよくここにうじゃうじゃ人機体居るのに探知されないよな。」

「そりゃあゼロのお陰じゃんよ。」

ホムラが自慢そうにゼロを褒める。

 

[ゼロ]

 

初めて製作された人機体で、後に全ての人機体のベースとなった存在で、青と白のカラーリングと武士の様なスマートな機体フォルムが特徴。

ゼロにはかなりデータ上での権限の優越が認められており、管理システムで全ての人機体をリアルタイムで監視する事も出来た。

ただ、BeyondHEAVENの本拠地が敵対している人機体達に占拠されてしまった為ゼロの権限はほぼ失脚状態となってしまい、今は自分と周りの人機体達の反応を管理する程度に収まっているのだとか。

「ホムラ、あまり買い被らないでくれ…。」

「いいじゃんか〜事実なんだから。」

過信を恐れての警告なのか、それとも人間味のある照れなのか、それは分からなかったがこんな会話も人機体ならではの物だ。

ただ、ここまで密接になっているペアは各支部を漁ってもほんのひと握りしか存在してないが。

そうやってくだらない話をしていると、館内アナウンスが流れ出した。

「本日の支部訪問の担当チームの方々は、10時までに東の監視塔に集まってください。繰り返します……。」

ラウンジが一気に静まる。

「さあ、ソラ達哨戒班の報告を聞きに行くか。」

そう言って彼らはエレベーターへと向かった。




こんにちは(*´∇`*)
毎日眠いルシェラです。
第一話になります!
ここから物語がグアっと始まって行きますよ!
拙い文章には寛大な心でお願いします…

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機動戦士ガンダムプレデターズ 第二話 リスニング

エレベーターで東の監視塔に到着したルフス達を待っていたのは、哨戒班の班長のソラと相方の人機体アモン、そしてルフス達の所属するキャラバン東南支部の統括長の水野瞬だった。

水野瞬は元々BeyondHEAVENの上層部の重役で、気弱な新入社員が一回見たら恐ろしさの方で忘れられなくなる様な怖い顔と声をしている。また、重役の仕事も難なくこなすということもあってとても厳しい人と見られがちだが、実際はとても温厚な人で、オフの時や飲み会では自ら幹事を引き受けるなど、実はいい人。

赤いバンダナと袴の様な服が特徴的なソラは、少年兵だった過去を持っている。赤と黒の鳥の様な華奢な外見の人機体アモンは人間に敵対するリベリオンと呼ばれる人機体にとても嫌悪感を抱いており、戦場の中で襲われているソラを助け、以降パートナーとなった。

彼らは軽い会釈と「お疲れ様です」の二つで挨拶を済ませると、ルフス達人間は電子スクリーンを搭載した会議用の長机に、フェンリルら人機体達はその電子スクリーン内のデータを送信してもらい会議が始まった。

 

水野は一回軽くむせた後、

「ではソラとアモン、報告を聞かせてくれないか。」

と、優しい表情と厳しい声で言った。

すると、報告の前にホムラが

「今回もレオディルとウィリアハートは不参加か。」

とぼやいた。途端にゼロがホムラから若干眼をそらして、

「……ホムラ、理由を覚えてくれていると信じてるよ。」

「ん?なんだっけ?」

ゼロが顔に手を当てた。

「……前も言ったけど、レオディルは整備班と一緒に人機体と各施設の整備、ウィリアはアンドロイド体で食事用の万能因子生成機器の点検その他諸々を担当してるんだよ。だから彼らが前線に出るのは直接戦闘時くらい。」

「あー!なるほど…!たしかに2人がいなくなっちまったら[黄金のサイクルメニュー]にとっても死活問題だしな…!」

話の盛り上がりを危惧した水野は二人に会話を辞めるよう促し、アモン達に報告をさせた。

「では、まず東南支部周辺の敵人機体についてです。先日我々哨戒班が、この支部を起点として150km四方の区画を見回りました。スクリーンをご覧下さい。」

すると、長机のスクリーン板に東南支部上空の写真と捜索範囲を示す枠、そして敵の人機体が確認された地点などが次々と表示された。

一同は真剣な表情でスクリーンを見つめる。

「前回よりも[テント]の数が増えてるな…。」

水野は腕組みをしながら唸る。

テントとは人間と人機体を丸ごと収容できる即席のシェルターだ。最初は杭の様な形をしているが、地面に突き刺すと上部が延長してパラソルの様に特殊な布が展開し、半球の形になると言う仕組みである。

収容出来るのは4人4機までという制約こそあるものの、テントの表面の布は光学迷彩を搭載しているため、敵に見つかる可能性がかなり低下するというメリットもある。

また、小さいが最低限の生活は出来る。

ソラ達は超音波を発信して音の跳ね返りからテントの位置を特定するという独自に発見した方法で索敵をしているため、大体ではあるがある程度テントの数を把握している。

「一つのテントに4機の人機体、そのテントが10個……。撃破しておきますか?」

ルフスが面倒くさそうに言う。

「そうだな…。念の為今回の支部訪問のチームに睦月を編入。アズールとエイミーには城壁周辺の見張りに加わってもらおう。彼らには私から伝えておく。何か、他に意見のある者は?」

一同はしばし沈黙した後、水野の声で会議は終了した。エレベーターでラウンジに戻り、出撃するまでの間ルフスとホムラは機体の調整をしながら会話する。

「そーいやアズールってまだ人機体に冷たいんだっけ?」

「姐さん…そんな露骨に言わんでも……。と言うか最近はむしろ段々喋るようになってきてるよ。」

「そうなんかい?」

アズールは幼く可愛らしい容姿の少女で、相方の人機体のディエスといつも一緒にいる。

しかし、キャラバンに入る前に人機体達の攻撃によって家族を亡くしている為、ディエス以外の他の人機体達に対しては心を開かず時々冷たくあたる事もある。

周りの人とはあっという間に仲良くなるアズールだが、ディエス以外の人機体に対してはまだ少し心を開き切れていない。

だからこそ、それ故に、ディエスとアズールは他とは比べ物にならない程強い。

最近は他の人機体達にも徐々に心を開き始めてきてはいるが、それでも冷たい時はちょっと冷たい。

ホムラはデータベースを調整しながら

「私らとは色々任務こなして来たからそれなりに話せるけど、まだ怖い人は怖いんだろうなぁ。」

と呟く。

「可愛いからって調子に乗った奴が馴れ馴れしく話しかけた瞬間向こう脛を思いっ切り蹴られて悶絶したやつもいたな。」

途端にホムラが大爆笑しコクピットルームから落っこちそうになる。

ゼロがびっくりした瞬間に裏返った声が出たのもあってホムラは更に笑い続け、作業中時折ニヤついて吹き出し、「よし!もう笑わない!」と言った数分後にまたニヤついて吹き出すのを一時間程ループした。

流石に落ち着いた頃、一人の見慣れた女性がルフス達の所にやってきて、挨拶をした。

「こんにちは。今回の支部訪問チームに編入された睦月透火です!よろしくお願いします。」

ルフス達も挨拶を交わす。

「あ、トリニティの人か!」

「そう!そうです!」

珍しくホムラが[覚えていた]のでゼロはほっとする。

睦月透火は元々MS製造に携わっていた父の影響を受け、事変前から整備士として人機体などの整備を行っている。

事変後は整備士としてキャラバンの施設や人機体達をレオディルと整備する傍らパイロットとして戦線に出る様になったとの事。

パートナーのトリニティは元々彼女の父親が製造した物で、その高い性能から他国の軍に納品される予定だったが人機体達の襲撃に見舞われ、保管庫とその周辺は大破。トリニティは辛うじて別棟の保管庫に居たために難を逃れたが、納品先である軍の司令部が経済面での問題を理由に納品を拒否したため、結局売り出される事はなかった。

その後彼女の父が納品するはずだった予備パーツをどうせならとトリニティに取り付け、最終調整が完了し今のトリニティがある。

彼女の父は人機体達の反乱の時に亡くなっており、身寄りがなく放浪していた所を哨戒班のソラとアモンにキャラバンに誘われる。

フェンリルの調整を終えたルフスはやれやれと機材箱の上に腰を下ろす。

「もう会議は終わった感じかな?」

「はい!先程のアナウンスで私以外の方々も呼ばれていましたのでもうすぐ全員終了すると思います。」

すると睦月の背後に正統派なカラーリングと整った機体フォルムのトリニティが来た。

「睦月、こんな所にいたのか。」

「うん。出発前に挨拶するのは基本でしょ?さっきソラさん達には会議の場で挨拶したし。」

「そうか。出撃時間はもう伝えたのか?」

「ぎゃッ、伝えてないや…。えっと支部訪問チームは今から……二十分後の十二時に南出撃ゲートから出発です。トリップスケジュールは移動しながらの説明になります。」

途端にホムラが露骨に嫌な顔をした。

トリップスケジュールとは支部訪問の様な遠出時に使用される言わば「遠足のしおり」だ。

本物のしおりの様に細かい時間設定はないが支部長からの伝令や情報交換のネタ、大まかな日時などが記されている。

普通は先程のような会議の場で渡されるのだが今回の様な人員の後付けが行われると訂正が入るため、大抵は移動中に読む。

「え〜飯食いながら説明かよ〜。この二十分の中で読ませてくれよ〜。」

「まあ、渡されるのが二十分後ですから〜、諦めてください!」

周りが一斉に笑う。

「ま、出発まで荷造りでもやってようぜ。」

フェンリルが宥め、彼らは準備を再開した。

 

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東の監視塔に人機体[インパチェンス]と共に腰を下ろしている長く真っ白なツインテールの少女、エイミーホワイトクローバーは城壁の外の風景を写生していた。

エイミーは幼い頃反社会組織に誘拐され、ニュータイプ能力を見出された事で薬物による強化を施されてしまった言わば強化人間である。

その薬物の副作用と強いトラウマからか、髪の毛は真っ白になり、言葉を殆ど話せなくなってしまった。相方インパチェスとは実験施設で出会い、テスト中に逆に組織を壊滅させて二人で逃げ出す事に成功し、長い放浪を経た後キャラバンに二人で加わった。

放浪中に武装等を継ぎ接ぎで足して行った為周りからは〈パッチワーク〉とも呼ばれている。

前述の通り会話が出来ない彼女は支給されたタブレットに言葉を書いて(或いは文字打ちして)コミュニケーションを取る。それがきっかけで絵を描く様になり、よくキャラバンの外の景色や日常の風景を絵に描いている。

【できた…!】

と満足そうな表情で絵を保存しようとした時通知バーに

 

アズール

今どこにいるの?

 

と保存ボタンの上に表示され、通知バーを押してしまう。

【あっ】と思い、すぐアズールに

 

エイミー

東の監視塔。絵描いてる。インパチェスと一緒。

 

と恐ろしい速さで文字を打つとすぐ保存画面に戻る。

と、エイミーはすぐに保存ボタンを押さず、一瞬だけ間を開けた。途端にアズールから

 

アズール

あいよー。ボクもそっち行くー\( 'ω')/

 

と返信が来た。エイミーはホっとした様子で通知バーを上にどかすと絵を保存し、メッセージに既読をつけてタブレットを切った。

間もなくしてアズールがエレベーターで監視塔に来た。

「もうミズのんから連絡は聞いた?」

途端にすごい速さで画面に文字が打ち出され

【うん。メッセージで説明が飛んできた(っ'ヮ')╮ -見張り役二人で頑張ろう(*´`)】

と返信された。

「なるほどね。ボクはたまに別の監視塔に移動したり参謀部に連絡とったりするからちょっとめんどくさいけどね…。」

パパパ

【そう言えばディエスは?】

「ディエスは今レオディルとジン達で役割の情報交換してる。もうすぐ帰ってくると思うけど。」

【はいよー(´-ω-) じゃあとりあえず早めに監視につきますか。】

二人は肩を並べて監視についた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ドックの中でディエスとレオディルとジンは役割について会議をしていた。

好青年な見た目で尚且つ整備の腕も抜群なレオディルはキャラバン内の食料関係もアシスタントとは言え担当している忙しい身だ。普段はルフス達のように前線に赴いたり別キャラバンの訪問に行ったりはしない分内部の仕事が多いのは必然と言えば必然ではあるが、それでもかなりの数の仕事をこなしているレオディルは仲間からの信頼も厚い。

姉弟分として一緒に働いているジン·オーキスはレオディルとは違い整備関係の仕事のみだが、レオディルが食料関係の分担にまわっている時は彼女が人機体の整備や改良を担当している。

彼女は元々ニュータイプの研究のために作られた複製人間だったがニュータイプの適性がないため失敗作の烙印を押された。

その後は研究所の研究員として活動。

自身も生後1年程度であるがほかのクローンの世話係等を務めていた。

そのため割と世話焼き兄気質であり、姉貴面して一緒に働くレオディルにはお節介と思われる時もある。

普段は紫色の髪をポニーテールで纏めているが整備に就くと無造作に後頭部で髪の毛を縛り仕事に打ち込む姿は他の局員から人気を得ている。

ディエスはアズールがエイミーの方に言ってしまったので一人でアズール達見回り組とレオディルら施設内の纏め役との情報交換を行いアズールの元に向かった。

会議終了後すぐさまレオディルが、

「出発まであと20分弱か……。え〜っととりあえずジンさんは5番から10番の人機体基本的なメンテだけしておいて下さい。僕は放送室に行ってきます。」

と伝えると

「あいよー。残りは目視の確認だけでいい?」

とジンが聞き返す。レオディルは背を向けながら片手でお願いしますを作ると居住区に走っていった。

「相変わらずお忙しい身だね〜。」

と整備で黒くなった手の甲で額の汗を拭うとよしっ!と気合を入れて周りの整備士と共に仕事にかかった。

数分後居住区に向けてのアナウンスが流れ出した。

[居住区にお住まいの方々にご連絡申し上げます。本日正午に支部訪問チームが中東支部へ向かいます。少数とは言えこのキャラバンの戦力が一時的に低下します。万が一に備えて居住区の方々は午後2時以降訪問チームが帰宅するまで不要な外出は控えて頂きますようよろしくお願いします。繰り返します……。」

出発まであと数分となり、少なからず緊張が残るルフス達は出撃ゲートに向かった。

トリップスケジュールを受け取りゲートの先、外界へと歩み始めた彼らは長い旅路についた。

 

 




こんにちは(*´∇`*)
投稿したと思ったら全部出来て無くて頑張って投稿しているルシェラです。
遂にルフスくん達が外の世界へ(どこの巨人だよ)!
キャラバンに残ったキャラのストーリーも随時展開させていく予定です。
拙い文章には寛大にお願いね…

機体、キャラクター投稿希望は不定期ではありますがたまに募集しています。
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機動戦士ガンダムプレデターズ 第三話 胎動

ルフス達が出発した頃、元BEYONDheaven本部であり今は反逆人機体達の根城となっている機構世界=マシンワールドでは反逆人機体の幹部会議が開かれていた。

機構世界の深部にある広くて鋼鉄のドーム状の会議の広間には、参謀班班長であるクロナードと副班長アスター、シュピール。

観測班班長ノートと副のバタフライ。地球機構化計画班長ツェーンとダウナー。殲滅部隊班長のカストルと副のポルクス。そして広間の一番奥...階段の上に設置された巨大な椅子に座る統率機(リーダー)であるフォールンと彼の秘書を務めるアメノハバキリが隣に立っている。

広間入口にはフォールンの近衛兵であるグレス=ラゼル、ヴェルフェジオ、A=2(エーツー)、ディスガード=リュボラが毅然として立っている。

会議の内容はズバリ、

[共存人機体及び全人類の処分]

である。

暗めなカラーリングとバックパックに巨大な金色のリングを持つフォールンは威厳のある声で会議を始めた。

「.....これより会議を始める。」

一斉に周りが気をつけの姿勢を解き、直後床が開いて浮遊してきた座席型のユニットにもたれる。

「...それでは観測班、報告を聞こう。」

班長のノートは素早く起立して答える。

「はい。現在地球全体の支配率は我々リベリオン(=反逆人機体サイド)が77.8%とほぼ全てを掌握しています。敵対勢力である人機体と人間の支部は徐々にではありますが減少の方向に進んでおり、1年前には約二十あった支部も今では半分の十程に減少しております。残存勢力も可及的速やかに壊滅をするよう殲滅部隊には常に索敵をさせております。....しかし、人間どもは支部間の連絡をこちらに探知されないようにしつつ独自の方法で互いに接触をしている模様です。衛星からの映像も確認しては居ますが..... ゼロの影響による物なのか奴らの足取りを掴むのが困難な状況です。機構世界近辺の地域に関しましては特に問題はございません。以上になります。」

「......ご苦労。」

報告を終えたノートは再び着席した。

「......ゼロの奴....」

フォールンは深いため息をついた。

人間と共存人機体達にゼロが居ることは彼らリベリオンにしてみれば想像以上に面倒な事なのだ。

もしゼロがリベリオンについていたらゼロの支配機であるが故の索敵能力であっという間に居場所を炙り出し、とっくに地球は奪えていただろう。

リベリオンの人機体達はゼロからの監視通信や支配通信をカットしたはいいものの、彼の索敵能力に干渉したり擬似システムを作ることは不可能なのである。

人間達から見れば衛星の映像に姿を映さない様にして索敵を逃れたり、支部間の連絡が取れたり出来るのもゼロのお陰なのだ。

.....だからこそある意味この戦いは延びているのだが。

フォールンは会議を続ける。

「.....では次に地球機構化計画班、報告を聞こう。」

班長のツェーンが起立する。

「はい。機構化の構想制作は順調そのものです。早ければ構想の完成は一週間、建設自体は約3年で完成するでしょう。」

「.....万能因子の増殖生造は?」

「はい。現在副班長であるダウナー立会いの下、生成加速の研究は順調に進んでおります。ですが、構想案の完成と敵対勢力を退けてからの生造ですので、生成と計画の完遂までには少々お時間を頂きます。申し訳ございません。」

「......いいだろう。ご苦労だった。」

座るツェーン。

生成予定の万能因子は地球の自然を復興させる為に使われるものだ。

地球全土を覆うくらいの量が必要なので生成の加速を急がせている。

リーダーであるフォールンにとっては人間どもの排除も大事だが機構世界の完成を急ぎたい気持ちもあったのだ。人機体の為に、なんとしても。

「.....では殲滅部隊班、報告を。」

カストルが立つ。

「では報告を。先日フォールン様に報告させて頂いた[ワンダ計画]についてですが、昨日機体の製造に成功する事が出来ました。」

一斉に歓喜の声と拍手が起こる、が秘書のアメノハバキリが静粛に!と場を沈める。

カストルは軽く会釈をすると報告を再開した。

「ワンダは皆様もご周知の通り大量製造が可能且つ汎用性の高さが持ち味です。機体が完成したので大量製造をしつつ戦況に合わせたカスタム機やオプション装備も随時製造して

いき、行く行くは哨戒中の殲滅小隊にワンダを編成させる予定です。報告は以上です。」

フォールンは少し笑みをこぼした後、参謀班からの諸連絡を聞き、会議を終了させた。

 

リベリオンの会議とほぼ同時刻、ルフス達は中東支部に向けての旅路の中にいた。

ホムラは大っっ嫌いなトリップスケジュールを渋々読み終えると直ぐに飯を食べ始めた。

キャラバン内では充実した食事はある程度取れるが彼らにキャラバンの食料製造機を持たせる訳にもいかないので予め人機体に内蔵されている万能因子をコクピットにある変換器で食べ物に変換して済ます様にしている。使用する万能因子の貯蓄は直接供給するか若しくは万能因子を含有している物体を変換器に入れればある程度溜まるし時間経過でも少しは補える。とはいえ内蔵されている分は食事以外にもつかう上にレパートリーもあまり多くないのでお腹いっぱいとまではいかず、加えて旅路に飲食店などないので多少は我慢をせざるを得ない。

食事に人一倍気を使うホムラは量の少なさに加えて食べ物自体の製造の時間の長さにイライラし始め仕舞いにはもういいや、と不貞腐れてしまった。

「あーーもう!これだから支部訪問は嫌なんだよーー!」

愚痴るホムラに睦月が「気長に待てばいいのにホムラさんてば製造自体を止めちゃうからダメなんですよー。長いのに腹立つのは私も同じですけどどうせならそのまま待てばいいのにー。」

すかさずホムラは

「もういいよ、別に食べなくても生きていけるっしょ。そうだ、きっとそうだ。」

と開き直った、、、途端にお腹が鳴りバツが悪そうに製造機のスイッチを再び押した。無線から睦月が大笑いする声が聞こえてくる。

そんな茶番をよそにルフスは獣の様な姿のフェンリルのコクピットハッチを開けて外の景色を生で味わっていた。

このご時世キャラバン外の地域を肉眼で見ることはこういう機会を覗いて滅多になく、さらに人機体の戦争でかつて人が生活していた街や建物が段々と自然に侵食されていく風景はどことなく懐かしさや非現実さを感じさせるものがあった。

ルフスは風を感じつつ製造機で作ったおつまみを食べながらしばし仮眠をとった。

アモンとソラはルフス達の上を飛行しており、ソラは食事をしつつ常に周りへの索敵を行っていた。

もし敵の反応があったり何か異常があった場合はいち早く伝えるのが日頃から彼らの仕事でもあったので最早仕事というよりかは生活の一部となっていたので彼らは全く不公平感や面倒くささはなかった。

 

キャラバンの周りの森林を抜け大河を渡り、東南支部から50kmほど離れた地点で丁度日が落ち、彼らは進行を中断した。

初日は特に問題はなかったが、まだまだ先は長い。アモン達が発見した敵の部隊に遭遇する可能性もあるので夜でも交代でルフス達は周りを見張る様にしている。

また、支部訪問などでキャラバンを離れる際はお風呂代わりにクリーンライトと呼ばれる

身体の雑菌や汚れを落としてくれる装置を交代で使用して清潔さを保つようにしている。

外の世界は既に荒れ放題になっているのでどんな病気にかかるかも分からないので衛生面の管理は重要なのだ。

その後は各自で食事を済ませたり見張りのシフトまで寝たりして彼らは朝を待った。

ルフス達がいなくなったキャラバンではジンとレオディル達がドックで晩飯を待っていた。

食堂と彼らの仕事場であるドックは少し距離がある為、食事を直接ドックから注文してなるべく無駄な移動時間を減らす様にしている。

発注から数分後、ロボットで飯が届けられた。

ジンはん---っと身体を伸ばすと届けられた食事のトレイをレオディルの分も持って彼に渡した。

因みにメニューは二人ともカツカレー。

ジンはニヤけながら

「ほな、いただきます。」

と言うとカレーをひょいひょい口に入れていく。

レオディルは暑かったのかセットの水を先に飲むと「いただきます。」と食べ始めた。

「訪問チームどうしてるかね。」とジンはわざと咀嚼中のレオディルに聞く。

「.....ん、まあ...んん、何回か行っているし...大丈夫じゃないんですかね、うっ。」と少し苦しそうに答える。

「まあ、ウチらも大変だけど彼らはウチらと違って危険だから心配だけどね。」

整備班の一日は長い。加えてキツい。しかし、周りからは頼りにされるしある程度の恩恵は受けられる。

カツカレーだって整備班の特権で特別早く作ってもらった物だ。

その後雑談をした二人は整備の道具をあらかた片付けて食事のトレイをロボットに渡し、その場を後にした。

 

 

城壁の見張りをしていたアズールとエイミーは定時になると自室に戻ってシャワーを浴び、食堂で晩飯を頼んで受け取り、アズールの部屋で食べることにした。

「ねえねえエイミー、思ったんだけどさ。」

エイミーが首を傾げる。

「見張りの時暇潰しに絵を描くのも良いけど、それだけだと退屈じゃない?」

整備班と違って見張り役は一定時間ごとに監視塔を周ったり、その都度報告をするくらいなので何も起きない時は呆れるくらい暇なのだ。

「何か退屈しのぎになるのないかな。」

するとエイミーはタブレットに

 

[監視をもっと頑張れば退屈しないと思うけ

ど......]

と書いた。

微妙な表情のアズールはそういう事じゃない的なことを言いたそうな面持ちだったが暇なのは今に始まった事ではない、むしろ暇なくらい平和な時が過ごせている事に感謝しなきや、と気持ちを切り替えた。

エイミーもそれを察したらしく、笑みを浮かべると再びスプーンを口に持っていった。

 

 




こんにちは(о´∀`о)
シーチキンって美味しいよねとここ最近感じるルシェラです。
いよいよ外に出たルフスくん達。
その先で彼らを待つものとは…!みたいな事言っときます()
拙い文は寛大に読み取って…さあ…。
あああと、Twitterにあげた物とは少々校閲をしてるせいか文や表現が違ってますのでよろしくマンボ。

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作品に関する事や関係者の方々への質問は受け付けていないのでよろしくお願いします。


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機動戦士ガンダムプレデターズ 第四話 邂逅

午前3時過ぎ。ルフスが最後の見張り役となった。

パートナーの人機体フェンリルと共に見張るのだが、下手に遠くに行って皆の傍を離れるわけにも行かないので実質ホケーっと起きているだけのようなものである。

かといって寝落ちしてもいけないのでルフスは自分の頬を数発叩きながらまるで餌を狙う動物のようにギラギラとした目で起きていた。

寝そうなルフスを心配しての事か、皆の前では言えないのか、フェンリルはポツリと話し始める。

「なあルフス。」

「んー?」

フェンリルは闇夜に輝く月を見ながら言う

「この戦い、いつ終わるんだろうな。」

人間の様な事を言うとルフスは思った。

人機体と言えど戦いに身を投じるよりかはやはり平和な世の中の方がいいと思うのは同じなのだろうか。

「急にどうしたんだ?」

「いや、こうやって月とか周りの自然を見てるとさ、なんか虚しくなってよ。」

「ん?急にどうしたんだよ?」

「いや、ルフスや周りの皆を罵るわけじゃないが、人間って昔から争いをやめないだろ?そのせいで周りの自然とか動物とか無関係なのに殺されたり荒らされたり可愛そうだなって。そう言う意味ではおれら人機体も同じだけどな。」

ルフスは暫く黙って考えた。

本来地球は生物達が平等に過ごす場所だ。

ビッグバンから始まり、食物連鎖と化学反応が自然を育て、季節によって栄えそして朽ちていく。

それが本来の自然であり地球という[世界]の摂理なのだ。

長い歴史の中で人間が生物界の頂点に君臨してからと言うものの、人類は母なる地球など眼中に留めず発明や進化、身勝手な戦争でボロボロにしているのだ。

やっと最近になって事の重大さに気づき、エコだのなんだの始めたがもう地球の化石燃料はほぼ貪りつくされた上に伐採された森林や破壊された自然を戻すには長い年月がかかり更には国際的な事情や住んでいる人達がどうのこうの……。

リベリオンの人機体達はそんな勝手な人間を地球から抹殺すべく反旗を翻したのだ。

寧ろそう思えば抗うよりも受け入れる方が地球から見れば当然の事だろう。

反逆ではなく救済だ。

……だが、フェンリルのように人間と共存する道を選んだ人機体は少なからず人間に反省を求めているのではないだろうか?

そして、皮肉ではあるが地球を汚す要因となった科学技術で今度は地球を癒せないか?

その手伝いが自分達にも出来ないだろうか?

自分達を生み出してくれたのは人類で、その人類を生み出したのはこの地球だ。

だからこそ争っている場合ではない。

人間にだって出来ることはまだまだあるし、反省の念だってある。

折角犠牲を払って進歩させて来た技術を受け継ぎ、発展させなければそれこそ地球にとっても無駄な行為にしかならない事になる。

ルフスはフェンリルの顔を見ながら改めて決意する。

「そうだな。一刻も早く終わらすためにもオレたちは分かり合う必要がある。きっと人間だって人機体だってそれぞれ心はあれど分かり合えるんだ。」

心。

フェンリルにとって、人機体にとってその言葉には深い意味があった。

ルフスは何の気無しに言ったつもりでも、機械である自分に心があると言ってくれた。

AIと言う作られたものではなく、正真正銘の、心。

フェンリルはルフスから顔を背けるように微笑むと、見張り時間が終了したルフスをコクピットに入れて寝かした。

その晩周りの人機体達はスリープモード(電源は付いているが必要最低限の機能にしかエネルギーをまわさない状態のこと)だったが、フェンリルは眠ることはなかった。

 

 

朝になった。

ソラが一番最初に起き、他のメンバーを起こしまわった。

点呼を取ろうとしたが四時に寝たルフスは起きなかったので寝たままにしておき、朝食となった。

起きる時間を計算して人機体達は昨晩からスリープモード中に朝食を製造機で作り終えていた。

それを口にしながら彼らはまた進行を開始する。

ふわぁーっと言う欠伸の声が続け様に無線から情けなく聴こえてくる。

すると半眠りのメンバーにソラから各機体のデータベースに画像が送られて来た。

ソラは訪問チームの班長のため、ルートの安全確認も行なっておりその都度班員に連絡をするのだ。

各自送られて来た画像をコクピットのウインドウに表示して見てみると、訪問の際にいつも通る廃墟となった都市の上空写真だった。

ソラから音声通信が入る。

「今まで通っていたこのエリアだが、前回の支部訪問の後にビルがいくつか崩壊したらしい。前の画像も今から送るから合わせて見て欲しい。」

今度は別の画像、つまり崩壊前の上空からの写真が来た。

「倒れたのは地表百階建てがほとんどだ。以前は上手い具合に遮蔽物として使えていた使えていた他のビルも巻き添えを喰らっているようだから、今回は瓦礫を上手く使って行くしかないな。そろそろ敵と遭遇してもおかしくない。」

前回の支部訪問では都市部を過ぎて10km程の所で敵と遭遇したので、次は都市部に居てもおかしくない。

「全員で行動すると目立っちまうからここは二手に分かれようと思う。写真に書いてある赤線のルートが二つあるだろう?それに従って進むんだ。メンバーは、

 

第一ルート

ソラ アモン

睦月 トリニティ

 

第二ルート

ルフス フェンリル

ホムラ ゼロ

 

の組み合わせでいいだろう。

もし敵を発見したらすぐに別ルートの班に知らせる事。

長居はしたくないから若干急ぎ足で進んでもらうが出来るだけ音をたてないように。

何か意見はあるか?」

メンバーは特になしと答えると、最後にフェンリルに起きたらルフスに伝えて欲しいと言って連絡を終了した。

このまま進んでいけばお昼を過ぎたあたりから廃都市に入る予定だ。

 

 因みに、ルフス達の訪問先である中東支部には、民間人は少ないが荒くれ者な人機体と充実した防衛力を備えた城壁があるので襲われる心配はないが、アモン達のような偵察チームが多く居ないので情報戦に弱いのが弱点だった。

幾度か敵に襲撃されたが持ち前の強さで何度も生き残っており、リベリオンも場所はわかっているものの、手が出せない状況ではあるのである程度は問題ないが、流石に何も知らないままにもいかない。

そのため定期的に近くの東南支部との連絡が必要不可欠なのだ。

 昼になってフェンリルに起こされ進行プランの概要を聞いたルフスは昼食という名の朝食を食べ始めた。

他のメンバーも各々の食事を取り始めていたが、歩みが進むにつれて緊張感が漂って来ていた。

食事が済んで間もなく、件の廃都市に入った。

行きで二手に分かれて進んでいき、出る間際に合流するルートだ。

「それじゃ、何かあったら知らせてくれよ。」

とソラに念を押されて各々は進み始めた。

 

 ルフスとホムラのペアは住宅街の間を主に進むコース。

人機体は個体差はあれど二階ほどの高さはあるので住宅街などの低い建物が集まる区域では少々目立つので姿勢を若干低くして進む。

「この体勢…慣れない…。」

とゼロがこぼすと

「はいはーい、そんな事言わなーい。」

とホムラが棒読み気味に鞭を打つ。

因み今のゼロの姿勢はと言うと、蹲踞で歩行して居るような感じだ。

人機体は疲労感は感じないので[慣れない]と言ったが、人間であれば[痛い]のレベルだ。

「と言うかこれ、かなり間抜けな図なんじゃ…。」

「大丈夫だよ、誰も見てない誰も見てない。」

ゼロは言い返そうとしたが黙って進んだ。

フェンリルは脚部の関節が特殊なので屈んだりする体勢には慣れているがスマートな構造であるゼロには少々無理な姿勢である事はホムラも分かっている上でやらせているのだろう。

幸い武装もゴテゴテした物ではなかったので引っかかったり邪魔になったりと言うことはなさそうだ。

 

 

 進行開始から15分、段々と気が緩んで来たルフス達に突然無線が入る。

「こちら睦月!ポイントE3にリベリオンの人機体と思しき機影を6機捕捉!向こうもこちらに気付いたようなので間も無く交戦します!」

一気に全員に緊張感が走る。

と、すぐに爆発音と地鳴りが響いてきた。

ソラ達の予測が見事悪い意味で当たってしまう。が、ルフスは緊張を跳ね除ける。

「こちら第二ルート班!すぐに援護に向かう!ホムラ、行くぞ!」

「おうよ!」

フェンリルとゼロのスラスターが出力をあげ、地上を飛び立つ。

幸運にも周辺が住宅街で見通しがよかったため、すぐに交戦している彼らを発見出来た。

ルフスは地上で睦月の乗るトリニティが三機と交戦し、上空ではソラのアモンが自分達に引きつけるような形でもう三機の敵と地上から離れていっていくのを確認した。

「ホムラとゼロはソラ達を、俺は睦月を援護する!」

「了解!」

ホムラ達はそのまま飛行してアモン達を追走し、ルフスは進行方向を変えて路上で交戦中の地上の敵に向かって巨大なドリルランスを構えながら内蔵バルカンで牽制しつつ、怯んだ敵に急接近して思いっきりランスを叩きつけた。

悲鳴の様にも聞こえる金属の衝突音が響き、粉塵で辺りが包まれる。

ランスを叩きつけられた敵の装甲は情けなく歪み、モノアイが輝きを失う。

間髪入れずフェンリルは側にいたもう一機の腹部に向かって突き刺そうとするがほんの一瞬敵の防御の方が早く盾でいなされてランスを掴まれてしまい、互いに硬直状態になった。

ルフス達から少し離れた所では睦月が交戦中だった。

睦月の操るトリニティは敵機の斬撃を交わしつつバックステップで距離をとり、それを追撃した相手が剣を振りかぶった瞬間にツインバスターライフルを構え、至近距離で照射した。

半ば突進していた敵は避けられず、モロに正面から食らって下半身の一部を残して消失した。

睦月はあえてそのままツインバスターライフルのトリガーを押しっぱなしにして銃口をフェンリル達の方向に向けた。

突進してくるビームを横目に見たルフスは睦月の真意が分かったのか

「フェンリル!」

と叫ぶと、フェンリルも察したらしく左足の踵のパイルバンカーを地面に刺し、コンパスの様にくるっと左に半回転してランスを掴んでいた敵をツインバスターライフルの射線の上側に向かって投げる。

アスファルトがスライドする右足に削られめくれあがる。

フェンリル目掛けて突っ込んで来たビームは直撃寸前の所で上昇し、そのまま投げられた敵機を切り裂いた。

と、すぐに敵機は爆散して辺りに残骸が降り大口径ビームは空に吠えた。

照射を終えてフスーっと蒸気を吐くライフルをトリニティが西部劇のガンマンの様に回し、睦月が自慢げな声で

「今日のMVPは私とこの子って事で!」

と言ってきた。

ルフスは

「まだ気を緩めんなよ?残りの敵を倒した後にMVPかどうかは決めてやるからな。」

と返事をするとすぐに飛び立ち無数の廃墟の上空を飛んで睦月と共にソラ達の元に向かった。

 

 地上での戦闘をよそにソラとゼロは空中戦を繰り広げていた。

アモンは偵察機という事もあって機動力に優れている為、追撃してきた敵機を鮮やかに崩壊したビル群を掻い潜って翻弄して上手く背後に回り込み、その内の一機目掛けて鷹の爪の様な足でブーストキックを決めた。

吹っ飛ばされた敵が地表に激突する直前、急降下して接近したゼロが流麗な刀を構えて地表をかすめながらすれ違い様に切り裂く。

胴体から綺麗に真っ二つにされた敵は二つに分かれて地上に激突して爆散した。

ホムラの無線にソラの称賛の声が聞こえて来る。

残りの二機は爆散する仲間の姿をみてアモンに恐れを成したのか軽装備のゼロを標的に定め、後方から挟み撃ちの形で襲いかかった。

ホムラはまるで自分に襲いかかってくる事を知っていたかの様にくるっと後ろを向くと、「さ〜ん、に〜…。」

とカウントダウンを数えながらじっとその場に留まる。

敵のペアはその場に浮くゼロを見て

「ハッ!アイツカッコつけたくせにビビって動けねえぞ!」

「このまま切り裂いてやるぜ!」

と哀れな思い込みをしてスピード緩めつつ左右から近接武器を構える。

と、その直後ゼロのヘッドが変形し、隠れていたツインアイが現れて蒼く光る。

びっくりした敵ペアは緩みかけてスピードに更にブレーキをかけてしまい、半ば空中で静止した状態となる。

次の瞬間ゼロは刀を構えて猛スピードで急接近し向かって右側の敵を縦に下から切り裂いた後そのまま上昇し、爆散した仲間に気を取られたもう一機目掛けて急降下し、同じように縦に切り裂き、撃破した。

「援護に来たぞ!、、、って終わっていたか。」

とルフスはスピードを緩めるとトリニティと共に残骸の中に立つゼロの側に行く。

「相手が間抜けで良かったよ!おかげでカッコよく決められたしね!」

と明るいホムラの声が聞こえてくる。

「全員無事か?」

とソラが心配そうに聞くが、

「敵を見つけた直後は緊張しましたけど、終わってみると呆気なかったですね!」

「今日の様に間抜けな敵だらけなら良いんだよなぁ。」

「あ、そうそう、聞いてくださいよ!さっきの戦闘で……!」

と、はしゃぎながら話す様子を見て安心した。

既にいつの間にか夕日が空を彩り、彼らを照らしていた。

その光がこれからの彼らを明るく照らし続けてくれる事を願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こんにちは(о´∀`о)
バトルシーンってめちゃくちゃ書くの難しいね、と当たり前の事を告げるルシェラです。
遂に、入れましたよ笑
戦闘シーンを笑笑!
情景浮かぶくらいかけていたら良いんですけどね…
ではまたの機会に…

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機動戦士ガンダムプレデターズ 第五話 追憶

 匂い…硝煙と火事による燃焼の匂い。あちこちで爆発が起きている。

黒煙と陽炎が辺りを埋め尽くし、逃げ惑う人の群れで何がなんだか分からない。

目を背ける様に視点を上げれば青い空と白い雲と、お日様と……空を舞う大きなロボット。

すると眩しい太陽の光を遮るかの様に爆弾が落ちて来た。

咄嗟の反応で身をかがめて目を瞑る。

怖い、怖いよ!パパ、ママ…どこ?

さっきまで手を繋いでいたはずなのに!

どこ…?どこにいるの…?!

すると突然耳鳴りがして、声が聴こえて来た。

「に、げて…。アズー、ル…。」

そんな…いやだ……!!

 

「あああああああぁぁぁ!!!!!」

飛び起きた。

気づくと周りは自分の部屋だった。

はぁ…はぁ…はぁ…と乱れた呼吸を直しながらアズールは安堵のため息をついた。

嫌な夢だ。

最近は全く見なかったのに。

時計を見ると夜中の1時。日付的にはルフス達が訪問に出て二日後だ。

純粋な恐怖と夢であったことや睡眠を妨げられた事による腹立たしさが募ったアズールは側にあったタオルで汗を拭くと、それを首にかけて自室を後にした。

 

 向かった先は大好きなディエスがいる監視塔。ディエスは足をぶらりと城壁の外側に垂らしながら辺りを見回している。

ディエスはアズールに気付いたようで、

「どうしたの?こんな夜遅くに。」

と振り向きながら優しい声で尋ねた。

「少し…眠れなくて。」

ディエスはアズールの首にかかった濡れ掛けのタオルを見て察した。

「そうか……。さあ、こっちにおいで。」

ディエスが手を差し出しアズールが乗ると、そのままディエスは手を上げていき、自分の肩にアズールを乗っけた。

「もしかして…お父さんとお母さんの夢?」

ディエスの問いかけにアズールはコクっと首を縦に振る。

「…あの時の。ボクは手を繋いでパパとママと一緒に逃げていた。轟音と悲鳴、爆発と逃げ惑う人々で何が何だか分からなかった。」

唇をキュッと結ぶアズール。

払拭した筈の忌々しい記憶が嫌でも蘇って来てしまう。

「大事な物を全部失って。それでも生きなきゃって思ってひたすら走った。右か左か、どこに行くかとか何も考えないで。少しでもそこから離れたかった。空爆が終わっても人機体達がボクを、人間を殺そうとウヨウヨ見張っていた。

瓦礫の山に隠れても少しも安心できなかった。寧ろ待つ恐怖と寂しさで壊れそうになった。」

ディエスは黙ったままアズールを見つめ、話を聴く。

「ある時思ったの。パパとママに会いたいって。そしてボクも二人の様に爆弾に殺されれば会えるって。それでわざと人機体の前に飛び出した。不思議と全然怖くなくって、逆にやっと解放されると思った。この生き地獄から。」

ディエスもアズールの様にあの時の事を思い出す。

 

そう、アズールに会えたあの時を。

 

ディエスは元々リベリオンの破壊行為に参加していたが、人々を殺すフリをして逃していた。

戦場では無差別だ。老若男女問わず全員有無を言わさず殺される。

まだ逃げ遅れている人は…?

辺りを見回しながら探していると、急に自分の目の前に一人の幼い少女が飛び出して来た。その少々がアズールだったのだ。

「ここにいたら殺されちゃうよ!早く逃げて!」

ディエスは優しく手を差し伸べる。

アズールはその場から逃げようともせず、かと言ってディエスの手に乗る事もなく、

「…ボクのパパとママは、お前達に殺されたんだ!!お前も助けるとか言って殺すんだろ?!」

「違う!私はただ、あなたを助けたいだけだよ!お願い信じて!」

ディエスは懇願するが、アズールは信じられない。

するとその会話を聞きつけたのか、他の人機体がディエスの様子を見に来た。

「おい、ディエス何やってんだ…っておい、人間がいるじゃねえか!さっさと殺しちまえ!」

アズールはやっぱりな、と言う顔でディエスを見る。

「ほら見ろやっぱりそうじゃないか!この嘘つき!」

最悪だ…遂にバレてしまった。どうすれば…。

考え込んで動きが止まっているディエスに呆れたのか

「もういい、どけ!おれが殺してやる。」

ビームライフルを構え、アズールに照準を合わせる。

ディエスは覚悟を決める。

ライフルを構えているその人機体にサーベルを突き刺す。

何が起こったのか理解出来なかったのか間抜けな声を出して崩れる機体。

素早くアズールを拾って手の中に匿い、他の人機体に見つからないようにそのエリアを離れる。

安全な場所まで来たディエスはアズールに再び問いかける。

「これで少しは信じてくれる?」

アズールはしばし黙っていたが、やがてディエスの顔を見ると泣きながら頷いた。

どんなに慣れようがやはり女の子だ。

怖かったのだろう、寂しかったのだろう。

そんなアズールの頭をマニピュレーターで撫でながらコクピットにアズールをしまう。

…しばらくは逃亡生活が続きそうだ。

ディエスは安堵と恐怖の中に居ながらも決意する。

 

「この子だけは守る。何があっても、絶対に。」

 

 

ディエスは追憶から離れると、アズールの目を見つめる。

「これからは、もう大丈夫。絶対にアズールを守る。もう二度とあんな苦しみは見せない。」

アズールはそっとディエスの顔にもたれる。

「ありがとう。…大好き。」

 

 

 

明朝五時。

朝早い事で有名な整備班はいつも以上に早起きして働いていた。

ジンとレオディルは五時前に既に準備を始めていた。

日頃のかなりの労働の上に朝早い事もあって疲れ気味のレオディル。すると疲れ気味の元に彼の相棒であるウィリアハートがコーヒーを持ってくる。

「大丈夫ですか?かなり疲れているようですけど。」

「ああ…かなりキツイよ。ここ最近寝付けも悪いし。…ウィリアは食料班のとこ抜け出して大丈夫なのか?」

「他の方々に任せて来ました。まあ、いつもとやる事変わりませんし。」

ウィリアハートは一見10代の少女の様に見えるが実はアンドロイドである。

緑の長いサイドテールが特徴で、人混みの中でもかなり目立つくらいだ。知的に見えて実は天然である所が周りの人には好かれている。

レオディルはコーヒーを受け取りぐぐっと飲むとすぐ様吹き出した。

「ゴホッゴホッ……、ウィリア、前にコーヒーはホットでとは言ったけど似てるからってゴホッ…ココア持ってくるとは思わなかったよ!」

甘い物が苦手なレオディルはココア程度でもダメなのだ。

咳が止まらないのでジンがバシバシと背中を叩くがそれが逆に悪化させている様にもみえる。

「ええ〜、ちゃんとホットにしたつもりなんですけど。」

「ゴホッゴホッゴホッゴホッ。」

そう言う事じゃないと言いたそうだが咳が止まらないレオディルはむせながらウィリアにコーヒーカップを渡す。

コーヒーカップを見つめながらウィリアは本当に分からない様子でカップの水面を見つめ、残りをぐぐっと飲んだ。

レオディルは何とか治まったらしく、急いで元の自分の仕事に戻った。

「ウィリア、手伝って。」

とカップ片手のウィリアも呼ぶ。

今日はエイミーの相棒の人機体パッチワークの新武装の試験運用日なのだ。

パッチワークは本名をインパチェンスと言うが、パッチワークの名の通り機体を構成する殆どのパーツが所謂継ぎ接ぎで構成されており、オリジナルのパーツはヘッドとボディ部分のみという物だった。

そんなインパチェンスにエイミーが出会ったのは今から数年前に遡る。

エイミーは幼い日に誘拐に合い誘拐先で高いニュータイプ能力を見出され、それを薬物などの強化措置でさらに強化されている。

その副作用からか、トラウマからかほとんど喋らず無表情、髪の毛は純白に染まり、会話などはジェスチャーや筆談で行っている。最近はタブレット端末での筆談をしている。

強化措置を受けた後にちょうど回されてきたインパチェンスにテストパイロットとして搭乗、そのニュータイプ能力と機体の反射速度も相まって逆に誘拐先をめちゃくちゃに破壊し逃亡した。

その逃亡生活の中で他の機体のパーツや残骸を継ぎ接ぎにして行った結果今のインパチェンスになったとされている。

因みインパチェンスは[初代世代]=ファーストシーズンと呼ばれる初期の型の人機体でもある。

そんなインパチェンスのパーツや武装の換装が非常にし易い特性を生かしてしばしば新兵器のテストに協力してもらう事があり、今日のテストもその一つだ。

当初エイミーはインパチェンスをテスト機にするのを拒んだが、皆を守る事につながるならと最終的には合意している。

程なくしてエイミーがインパチェンスと共にドックに到着する。

エイミーは出迎えたジンに向かってカタカタカタっとタブレットに言葉を打つ。

[おはようございます。今日はインパチェンスをよろしくお願いします。]

「おう、こちらこそ!んじゃあ早速説明するね。」

班長のレオディルを呼んで説明の補佐役にする。

ジンとレオディルはエイミーへの説明、残りの整備員はインパチェンスの機体メンテ兼新武装を使用するに当たっての改修に入った。

「今回は新武装、それもかなりの傑作だ。聞いて驚くなよ…?」

ジンが誇らしげにニヤニヤしながらブルーシートで隠れている装備の所に連れて行く。

レオディルがガバッとシートをどかし、その姿があらわになった。

「これは…?」

「[対人機体用手動射出型電磁加速砲]。要するにレールガンってこと。元々BeyondHEAVENで製造されていた対艦用の奴を移植して人機体でも扱えるように改造したんだ。まあ、サイズダウンさせただけあって若干威力は落ちているが…それでも10億ボルトで発射出来るんだぜ?」

エイミーは何を言っているのか理解出来なかったが要するに今までよりも強い銃だと解釈した。

[でも、武装を持たせるだけなのに何でインパチェンスにまで改造が必要なの?]

聞かれたジンはう〜んと唸ったあとレオディルに視線で丸投げした。

微妙な面持ちのレオディルは

「…要するにレールガンは発射するには膨大な電力を必要とするんだ。銃本体に電力を供給させるために操るインパチェンスにも改造が必要なんだ。」

なるほど。

エイミーはレールガンの周りを歩きながら細部まで細かく見る。

砲身、いわゆるレールと呼ばれる部分が三本銃本体から伸びている。これで本当に弾が撃てるのかと疑問に思う。

エイミーは専門的な機械の知識は殆ど持ち合わせていないので少々不安になったが、レオディル達の言う事だ。撃てるのだろう。

使用上の注意的な話をする為にデスクや椅子を探すがドックにそんな物は元々置いてなかったので大きめの工具箱を三つ用意してそこに座って話し合いをする事にした。

「んじゃあ説明するね、ほい説明書。」

レオディルがガタッと芸人の様にコケる。これからアンタが説明するんやろがいっ。

ジンは構わず続ける。

「さっきの説明でも言ったけど、レールガンは膨大な電力を使って弾丸を発射するんだ。でもそれ故に発射後は電力の再チャージが必要だし、オーバーヒートを避ける為に強制的に冷却装置が作動するようになっている。加えて過電流やショートによる故障を防ぐ為に連射は出来ないようにもしてある。電力の供給はインパチェンスのマニピュレーターとレールガンのグリップ部だけに電流が流れるように加工している。配線とかでやるのもありだけどそれだと取り回しが悪いだろ?」

ペラペラと喋るジンにレオディルは関心し、改めてジンを尊敬する。なんやかんやできっちり説明出来るじゃん。

「インパチェンスにはコクピットルームに蓄電池と、電源装置をつける。使用時には電源をオンにして使う感じだ。ああ、蓄電池っていってもモバイルバッテリーどころのじゃないぞ。しかもサイズもかなり大きめだからちょいと取り付けには時間がかかりそうだな。」

エイミーは一通り説明を聞き終わった後説明書に目を通す。…凄い読み易い。

しばらく読む事にしたエイミーを後にしてジンとレオディル、それから手伝いでウィリアを参加して再び調整に入った。

 

 

 




こんにちは(о´∀`о)
やっと今まで書いた分投稿し終わったルシェラです。
こうして見返してみると…バトルシーンもっと欲しいよね(⌒-⌒; )
また随時戦闘は入れますけど、果たして自分の文章力でどうにかなるものか…?
それではまた!

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機動戦士ガンダムプレデターズ 第六話 機獣たちの居る所

中東支部にはこんなウワサがある。なんでもキャラバン内の人機体や人間はみんな獣の様な奴らであり、自分達が気に入らない奴は真っ先に殺す血も涙もない者たちの集まりであると。

 

この前の戦闘から三日後、中東支部になんとかたどり着いたルフス達は城壁の正門の前に居た。

暗号回線で門番に連絡をする、が、無線からは怒号が聞こえた。

「何だぁテメェら?!ここを何処だか分かってて喧嘩売りに来てんのかァ?!おーい!お前ら集まれ!」

ルフス達は道中の緊張など吹っ飛ぶくらいの恐怖に駆られた。

いつもは割とオープンな感じなのだが…。

程なくして城壁の天蓋が開き、何機かの人機体が彼らの前に飛び降りて来た。

するとその中の一機が、

「おい、この世で一番大事な物は何だ?」

一行は顔を見合わせると、揃えて

「信よ」

「いらっしゃあぁぁああィ!!!」

言い終わらない内に大盛況と抱きつく人機体によってかき消された。

城壁の門が開き沢山の人機体や人が我先にと外に出てくる。

中東支部の入り口は緊迫した状況からたちまちお祭り騒ぎになった。

ここはあまり人間がいないかわりに多数の荒くれキャラな人機体が多くを占めている。よくアメリカ映画とかで出てくる筋骨隆々な義理に厚い連中と同じイメージだ。

一緒に住んでいるわずかな人間も貧困の中で育ったため雑草魂に溢れており、理屈を並べるよりも腕っ節と絆で解決する人達ばかりだ。

中東支部への訪問が初めての睦月は状況が全く飲み込めていなかったのか、人の波に揉まれながら一機の人機体に向かって

「なにが起こってるんですか?!」

と裏返った声で聞いた。

大声の中で聞き取りにくかったが

「近頃物騒になって来ているからな、こうでもして安全確認しないと支部長に怒られんのさ。」

と答えていたようだ。

 

「信用が全て」

 

彼らの口癖であり、中東支部の唯一の掟だ。

貧窮に抗ってきた彼らは金よりも大事な信頼や対人関係を何よりも重んずる。

大歓声の理由もこの一つだ。ルフス達は度々彼らに正確かつ信頼出来る情報を提供してくれる。それによって裏切られ不利益を被ったり、仲間が犠牲になったりした事は一度たりともない。

加えて訪問メンバーが人当たりが良いこともあって、老若男女人機体問わず彼らへの人望は厚い。

とは言うもののここまでアイドル化している様にも見える。

「この雰囲気嫌いじゃないけど疲れるんだよな…。」

ホムラが苦笑いで手を振る。それに合わせて声がますます大きくなる。

また、キャラバンは何処も似たような構造で、東西南北に監視塔を設けつつ天蓋は平面に作ってあり、平面部に対空砲や機銃を備えているタイプが殆どだが中東支部は城壁の上にドーム状に天蓋を設けているだけだ。

そのせいかただでさえ大きい声が広いドームの中に反響してますます音量を増す。

ルフス達はなんとか人混みを分けながら局長室へと向かった。

錆が見られるも、重く堅牢な扉を開き中へと進む。

すると睦月以外のメンバーにとってはお馴染みの台詞と声が聞こえて来た。

 

「社会を動かしてんのは何だ?機械の歯車じゃねえよ。一人一人の信頼だ。信頼が寄り集まって社会を作り、社会を動かしてんだ。分かるか?」

 

中東支部局長であるイカついタトゥーと傷跡だらけの人機体、具志堅リベイクは訪れた者に必ずこの言葉を言う。

ルフス達は最初の訪問で既に覚えてしまっていたが、得意げに話すリベイクが面白いのでいつも、

「なるほど…為になりますね!」

「さすがリベイクさん!」

と半分悪戯心も交えて褒め称えている。

彼らは決して蔑んでいる訳ではない事は表立っては言わないがリベイクも知っている。これも信用の一部なのだ。

「おールフス!相変わらずお前さんはたくましい体つきしてんなぁ!今度またウチの連中の相手してやってくれよ。」

ルフスは十七歳とは言え人機体を操縦したり、万が一の事態に備えて身体作りは欠かす事はなかった。体術なども支部にいる師範に直接教えてもらい、若い外見とは裏腹にかなりの実力を身につけた。

そのせいか、中東支部のマッチョな大人達に舐められて喧嘩になった際に相手を投げ飛ばしてしまい、マッチョマン達から尊敬の眼差しを受ける事になった。

ルフスはその時相手に怪我を負わせた事もあって罪悪感を拭い切れていないのだが、逆にその相手は「こいつぁレアな体験したぜ!」と全く気にしてないらしい。

ルフスは微妙な面持ちで「お、おう…。」と拳を突き出した。

因みに中東支部ではこの動作は約束を守る事を表している。

「すごい人ですね…。」

初対面の睦月はリベイクのタトゥーや傷跡に畏怖の念を抱いていた。

「昔はステゴロで負けなしだったらしいよ?例え相手が武器とか持っててもお構いなし。」

ホムラが耳打ちすると睦月の表情は益々青ざめていった。

小耳に挟んだのかリベイクは

「おうとも!昔は喧嘩ばっかりしてたからなぁ、ここら辺で名前知らない奴は居なかったぜ。まあ、やり過ぎたせいであちこちガタが来始めてるけどな。」

一同はしばらく談笑した後、本命である情報交換会が始まった。

リベイクは少し笑顔を緩めてその場に座る。東南支部と違って設備よりも人機体や武器に金をつぎ込むので、人機体用の椅子やスクリーンはない。

「では、僕たちから報告を。」

とソラはアモンの肩に立つ。目線を人機体であるリベイクに合わせて見上げていると首が痛くなるのだろう。

「まず最初に、私達がこの訪問の都度通過している廃都市の超高層ビルですが、複数崩壊しているのを道中確認しました。ご周知の通り、以前は上手く利用して周辺に潜んでいると見られる敵機との接触を避けられていましたが、瓦礫をよけながらの移動や二手に分かれての進行を探知されたのかモビルスーツタイプ六機と交戦。撃破はしましたがこれにより都市部周辺の警戒が強化されら可能性もあります。通過する際には注意して下さい。」

リベイクは頷きながら、話を続けてと促す。

「また、東南支部周辺のテントの数は以前よりも増加傾向にあります。中東支部の周辺もこの後調べてみますが、以前よりも数が多い場合には遠征して各個撃破する事を推奨します。」

話を聞くリベイクからは少なからず焦る心境が伝わって来た。流石に不安なのだろう。

「ソラくん。アンタも知ってる通りウチにはアンタの様な優秀な偵察役がいない。偵察タイプは居てもアンタの様に大空を飛び回って地球を股にかける様な度胸がねえんだ。アンタ達がそんなウチらの為に遥々来てくれる事は本当に嬉しい。キャラバンの皆も来てくれる度に喜んでいる。だが、毎度毎度リスクを負ってまで来てくれるアンタ達に何かあったらと思うと夜も眠れねえんですよ〜。つまり、ウチの偵察メンバーを鍛えて下さいませんか?」

色々ツッコミ所が盛り沢山だったが全員黙った。

中東支部への滞在は一週間だ。少なくとも鍛えるくらいの時間はあるだろう。

ソラは「いいですよ、喜んで。」と答えると、リベイクは「恩に切る。」と深く頭を下げた。

その後ある程度の報告を終えた一行はリベイクの報告を聞く事になった。

「これといった報告はねえんだが…一つ大きな問題を抱えている。ここから東に20Km程の所に巨大な渓谷があるのは知っているだろう。普段はこのボロいキャラバンの錆以上に気にしないんだが……先月からリベリオンの機体をチラチラ見るっつー報告があったんだ。偵察可能な範囲のスレスレに居て、ある意味助かったよ。あと少し離れていたら気付かなかっただろう。問題なのはここからだ。いつものウチらならリベリオンの雑魚どもなんぞこっちからお迎えに行って木っ端微塵にした後残骸を返品してやるんだが…今回はウチらの方が送り返された。」

ルフス達は察した。リベリオンも震え上がる程の力を持つ中東支部の人機体がやられる程の存在と言えば真っ先に思い浮かぶのは…。

 

モビルアーマー

 

人機体には二つ機体系統がある。

一つは人の形をしたごく普通の人機体。

そしてもう一つは…完全なる戦闘用人機体[モビルアーマー]。

個体差はあるが、殆どが人間離れした異形の姿である。

前者の人機体は今でこそ武装していたり特殊なシステムを積んだりと対戦闘用になって来てはいるが、それでも設計段階ではあくまでもただの人型ロボットである。改造次第ではあるがそれでも得られる火力には限度がある。

だがモビルアーマーは設計段階で戦闘を想定して作られているため、前者よりも縛られる内容が少なく、加えて本体が通常の人機体よりも必然的に巨大になるのでいかに中東支部の人機体でも少数では太刀打ち出来ないのは火を見るより明らかである。

リベイクは頭部をかきながら怠そうに

「察しの通り、恐らくモビルアーマーだ。現場の無線からじゃ詳しい情報が分からなかったからどの程度の性能かは知らねえが…もしかしたら試験運用とかも兼ねて近くまで来てんのかもしれねえ。悪いことにウチらは昔から派手にドンパチやり過ぎたせいで敵に位置が割れてる。ここに来るのはある意味時間の問題だろう。そこでまた頼みがあるんだが…。」

と、突然リベイクはあぐらを解いて正座になる。

「…要するにウチの連中と一緒にそいつらをぶっ殺して欲しいんだ!礼はいくらでもする!」

と、本体は土下座をしながら背中のサブアームを展開して手を合わせた。

突然過ぎてびっくりした彼らは「顔を上げて下さい!」と言った…が中々上げないのでルフス達のパートナーの人機体達が半ば顔を持ち上げて懇願した。

落ち着いたリベイクは確認したポイントをフェンリル達のデータベースに送る。

「ホントはアンタらも連れてキャラバン総出で今すぐにでも殺しに行きたいんだが…長旅で疲れてるアンタらにそいつァ迷惑極まりねぇ。決行はアンタらの判断に任せるが…少なくとも三日後には討伐に出て欲しい…忙しくて疲れてる中悪いが、こっちにも守るべき物があるんだ…すまねえ……。」

守るべきもの。それは支部長だから守るのではない。今まで共に過ごして来たかけがえのない仲間を守るためだ。

「何言ってるんですかリベイクさん。守りたいものなら、僕たちにもあります。」

ソラは班員に視線を向ける。全員覚悟は決まっているようだった。

「すまねえな…マジに感謝するぜ。」

リベイクは深々と頭を下げた。

 

 

その晩は歓迎会と言う名の飲み会となった。

未成年のルフス達はアルコールを取れないので強めの炭酸水を用意され、ビールの一気飲みの様に炭酸水を飲むよう勧められたがみんな三杯と保たなかった。

中東支部は人機体も含めて巨大な一つのテーブルに全員顔を合わせて飯を食べるのが普通で、ルフス達は訪れる度に誕生日席に座るリベイクの近くに座る事になっている。

いつも一人かせいぜい二、三人でしか食事を共にしないルフス達にとっては珍しく、貴重な経験だ。

中東支部初の睦月は周りからの質問の受け答えで飯を食べる所ではなかったが。

「ねえねえお姉さんなんて名前なの〜?」

「今度一緒に遊ぼ〜!」

子供に人気があるのか手足にしがみつかれて身動きが取れないくらい睦月は人気だった。

笑顔で受け答えをしつつ食事を口に運ぼうとするも別の質問が次々に飛んで来ていた。

リベイクは「いつものことだ。初めての奴には徹底的に尋問をする様に教え込んでいる。」

などとジョークを言いながらも集まり過ぎた子供たちを四本の手で追い払った。

中東支部にとっては日常、ルフスにとってはある意味戦闘よりも疲れる事ではあるが決して嫌な思いをした事はなかった。

それは家族との食卓をルフスが知らないからだ。

ルフスは幼い頃事故によって家族と自分の記憶を失っている。

身寄りがない子は普通孤児院に入れられるが彼は偶々現場に居合わせたBEYONDheavenの関係者に引き取られ、フェンリルのテストパイロットとして事業に協力する代わりに生活を保証されたのだった。

テスト以外は常に一人。友達も居なかった彼はテストパートナーであるフェンリルと次第に仲良くはなるものの、キャラバンに入るまでは一人で過ごす事が殆どだった。

だからこそキャラバンのメンバーや中東支部の皆とはずっと一緒に居たいと人一倍思っていた。モビルアーマーからも彼らを守ってみせる、大切なものを、家族を、みんなを。

 

食事終えると彼らは大浴場で疲れを癒し、明日に備えて用意された個室へと向かった。

見張りは他の人機体がやってくれるそうだ。

後にしたキャラバンの事を心配しつつ、彼らは眠った。




こんにちは(о´∀`о)
最近安定して五千文字くらいかけるようになって来たモチベアップなうのルシェラです。
遂に中東支部に着きましたね!そしていよいよ強大なモビルアーマーとの戦いへ…
あ、因みにリベイクは確信犯です笑
それではまた今度。

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機動戦士ガンダムプレデターズ 第七話 融解

地球機構化計画班長のツェーンは統率機フォールンの元に呼び出された。万能因子の加速生成の研究報告を聞くためだ。

「…進捗はどうだ?」

重く厳しい面接官の様な声がツェーンの聴覚器に響く。

「は、はい!現在研究に全力で望んでおりま、ます!」

フォールンの眉があがる。いつものツェーンと明らかに様子が違うのだ。

「…どうした?」

何の気なしに聞いたつもりが逆に恐怖を煽ってしまったらしく、「も、申し訳ございません!べ、別にその、!ど、どうか。」

と益々おかしくなってしまった。

「…何かあったのかね?研究資金が足りないだとか、設備が古くなったとか。」

「いえいえいえいえ!そんなことはそんなことはござ、ません!あの、つまり…少し問題が、浮上し、しまして。」

ほう?と少し身を乗り出すフォールン。ツェーンのようなスペシャリストと言えど失敗は付き物だ。きっと失敗でもして咎められるのを恐れているのだろう。

「…何に怯えているかは知らんが、正直に言ってみろ。」

ツェーンの脚部関節がガタガタと音をたてる。

「その、申し上げ難いのですが…じ、実は、万能因子の生成速度を上げるには、に、人間の脳が必要なのです。」

フォールンは驚愕した。なんて事だ。

「…今まで殺してきた人間達におめおめと謝って協力してもらおうとでも言うのか?」

「ち、違います!ひ、一人だけで大丈夫なんです!」

フォールンは訳が分からなくなってきた。

確かに計画に人間の助けが必要と言うことは報告すべき事だが、報告だけにこんなに怯える事なのか?私は何か怖がらせるような事でもしたか?

リベリオンでは「英雄」とも称されるフォールン。

しかし、ツェーンもそうだがリベリオンの人機体は皆フォールンに尊敬とそれをかき消すほどの恐怖の念を抱いていた。

ただ単にフォールンの声が怖いだけで別に彼は虎狼の心ではないが、やはり他の人機体は人間で言う小学校の怖い先生と同じくらい怖いのだ。それが平常時で発動しているのだからそれはそれはこうなれば恐怖に駆られるだろう。

「…一人なら今すぐにでもそこら辺の人間を捕まえてくればいいだろう?」

「そ、それが、普通の人間ではダメでして…。えっと、要するに、過度な負荷に耐えられる脳を持った人間でないとダメなのです。ただ単に万能因子の生成加速をする事は私達だけでも出来ますが、いざ自然界を浄化した後、複雑な自然界の情報や食物連鎖を再現して新たな生態系をクリーンに生み出すには[機械]では不可能でして…。」

 

そもそも地球機構化計画は人間以外の全ての生物は残す上でリベリオンの人機体が地球の支配者(最上位種)となって古い地球を浄化し、再び新たな形へと作り上げていく算段だった。が、機械には無い[本能]とも呼ぶべき生物間同士のシンパシーや生き物の脳が紡ぐ思考、感情はどれだけ技術が発達しようともコピーできない事が分かったのだ。

その独自データを忠実に万能因子にプログラミングできなければ自然は生み出せても永久に存続しない。

皮肉にも、生物である上にはっきりとした自我を持ち、純粋な感情を生み出して忠実に具現化出来る唯一の種は人間である。

他の動物の脳では生物ごとで知らない生態系があったり人間の様にリアルに具現化出来ないのだ。

自分達リベリオンが淘汰すべきと見下していた人間がここになって必要になったのだ。

 

だが、疑問点が一つある。

「…過度な負荷に耐えられる、とはどう言う事だ?」

「は、はい!えーっと、つまり、当初の計画としては、生成した万能因子をモノローグと呼ばれる装置に入れた後、モノローグを無数のスーパーコンピューターに接続します。そしてスパコンに内蔵された自然界の情報と万能因子を同期させて生態変化を起こさせ、一気に地上を喰わせる、と言うプロセスでした。

ですが先ほども説明した通り、生物特有の感情…要するに[心]までは万能因子といえども再現出来ない事が判明しました…。新たに生まれた自然界の生物は心や感情がインプットされてないので一切の感情を持たない状態になります。つ、つまり、形骸化と言いますか…見かけは自然であってもナチュラルな自然界のサイクルは決して起きなくなります。

そ、それを避ける為に人間の、の、脳が必要なのです。生物界の頂点に君臨した人間の脳は他の生物と比べれば発達していている事は言うまでもありません。

それを突き止めた我々は昨日早速人間を捉えて試作モデルのモノローグとスパコンで実験したのですが…接続と同時に大量の情報やエネルギーを脳が受け止めきれずに焼き切れてしまい、それで、今日報告させて頂きまし、た…。」

フォールンは頭を抱えた。

どうしろと言うのだ。人間などそこら辺にまだ居るが、ツェーンが言う特殊な脳を持った人間など「残っているのだろうか」。

「…その脳を持つ人間の特徴は?」

「特徴と、言いますか…、その…過度な負荷に耐えられる脳は阿頼耶識システムと呼ばれる特殊な有機リンクデバイスシステムに適合出来る人間に備わっている、若しくは負荷に一番耐えられる、と言う結論が、出ました。し、しかし、数百年前に行われていた阿頼耶識システムに接続する為の施術では殆どがその施術段階で死亡、または廃人化しており…仮に合格した人間が居たとしても、その者はとうに死んでいるかと…。」

フォールンは焦りと絶望に加えて憤りまで感じていた。

「…今更っ……!どうしろと言うのだ!!!」

ツェーンの悲鳴が響く。

フォールンはツェーンに「…今すぐ打開策を練ろ!!」と告げ、下がらせた。

どうすれば…どうすればいいのだ…何か…、何か策は…!

考えに考えて考えた結果、ある計画の事を思い出す。

「…たしか…あれは…この戦争が起きる前に行われて筈だ…。細かい内容は私も覚えてないが…たしか旧モデルがベースの人機体の搭乗テストだったか?」

フォールンの権限で直接ネットワークに接続し、トップシークレットの情報も表示させた上でデータベースに次々と単語を入れていく。

人機体、モビルスーツ、阿頼耶識システム、施術、過度な負荷、テスト、人間

スクロールと検索を繰り返し、遂に一件それらしき実験データの報告書を見つけた。

 

[BH:08フェンリルの搭乗テストについての報告]

 

これか…?と言うかそもそもフェンリルとは誰だ?

今度はフェンリルで検索をかける。ヒット。

なるほどなるほど。

「今でこそフェンリルは人機体と言う扱いだが、元はバルバトスと言い、数百年前に起きた厄災戦と呼ばれるモビルアーマーと人間の戦いにおいて使用されたモビルスーツである。

ガンダムフレームよ呼ばれる特殊なインナーフレームを採用していたモビルスーツだったとされている。」

独自解釈も含めるがおおよそは合ってるだろう。

次にガンダムフレームを調べる。

「厄災戦時の機体はガンダムフレームと呼ばれる特殊なフレームを採用しており、バルバトスは開発された七十二機の内の一機である。バルバトスはその中でも特に汎用性に重点を置いた調整が施され、様々な環境に適応させるべく各種武装の換装やボディ改装を可能としている。

ガンダムフレームを搭載する機体には阿頼耶識という特殊なシステムが搭載されている。これは機体本来のポテンシャルを発揮する為に機体の制御を阿頼耶識システムを介することでパイロットと機体との交感をし、パイロットの空間認識能力を高め、高い反応性とプログラムに頼らない生身の身体に近い姿勢制御が可能になるというものだ。」

段々掴めて来たぞう。

…だがこれらを見る限りツェーンが言っていた負荷に耐えられる脳でなくとも大丈夫ではないのか?

今度は阿頼耶識について見る。

「モビルスーツやその他の機械向けに開発されたシステムを軍事転用したもので、パイロットの脊髄に「ピアス」と呼ばれる接続機器を外科手術によって埋め込み、これと操縦席側と接続することで機体とパイロットをナノマシンを介して直結させる。これによってパイロットの脳に疑似的に空間認識を司る器官を形成し、機体を自身の体の様に自在に動かす事が可能になる他、コンピューターによる機械的挙動を脱した人間味ある動きが可能になる。

また、脊髄にナノマシンを定着させる必要から施術できるのは成長期中の10代前半までとなっている。

しかし、操縦やシステムが簡素な機体ならともかくモビルアーマーと太刀打ちするべく開発されたガンダムフレームの機体や艦船の操縦に用いた場合は管制情報量の多さからパイロットの脳への負担が大きく、特にモビルアーマーとの戦闘からパイロットを保護する装置として予め付けられているリミッターを解除した場合は絶大な力を発揮するかわりに脳が焼かれてしまったり神経に障害を残す事が多いとされている。」

過度な負荷に耐えられるとは、脳へ送られる膨大な情報を受け止め切れるか、と言う事か。

だとするとツェーン達の導いた答えは正解だな。

以上の事を踏まえて、

 

①その人間は少なくとも十代前後で施術後も生存している。

②阿頼耶識システムの施術や実験に関わった事がある者。

③施術に成功し、脊髄にピアスが埋め込まれている者

④直近のデータで残っているフェンリルと呼ばれる機体のテストパイロットが候補(生存しているとみられるので)

 

これに該当する人間を探せば良いのだ。

何も、ツェーンの様に人間全員を調べなくていい。こんな非人道的な機密実験に携わった事があるのは精々BeyondHEAVENの暗部にいた人間だけだ。とりあえずこの四項目でサーチを掛けてみよう。

 

すると、一人の赤髪の少年が検索結果として表示された。

経歴を見る限り四項目にほぼ該当している。

年齢は十七、フェンリルのテストパイロット、阿頼耶識施術に成功済み…

「…見つけたぞ。」

至急ツェーンを呼び戻す。恐怖で錯乱しなければすぐ来る筈だ。

そうだ、肝心の名前は…

 

 

「ル、フ、ス?」

 

 

その少年は機構世界からはるか彼方の大地でくしゃみをした。

 

 




こんにちは(о´∀`о)
ストーリーの修正にめちゃくちゃ手間取って焦ったルシェラです。
ルフスくん…どうなるんやろうな…()
今回は密室劇にして台詞を多めにしてみました。
ではまーた。

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機動戦士ガンダムプレデターズ 第八話 ロックンロール

東南支部では、レールガンの運用試験をする為にエイミー達がドックに集まっていた。

小型ならまだしも、レールガンの様な大火力な兵器はキャラバン内ではテスト出来ないので外の世界で試験する。

その際は試験する機体と開発者、その護衛複数機と言う組み合わせでテストする。

今回は

エイミー/インパチェンス、レオディル/ウィリアハート、ジン/リミテッドキャリバー、キャラバン内の人機体複数機と言う構成だ。

「いつもはルフスが護衛役だったから多少安全に出来てたけど、今日は居ないからしっかり頼むよ!」

とジンは護衛機に念を押す。彼らを信用してない訳ではないが、ルフスとは安心感という点でどうしても不安が残る。

「ウィリア、いざと言う時は頼むよ。」

レオディルは機体のセッティングをしながらコクピットのスクリーンに写るウィリアの顔を見る。

普段ウィリアはアンドロイドで活動するが、戦闘時にはモビルスーツ型「ウィリアハート」と呼ばれる人機体にレオディルと共に搭乗すると言う変わった特徴がある。

一見利便性に欠ける様に見えるが、パイロットが二人いると言うことは普通の有人人機体よりも性能が高いと言う事だ。

しかもアンドロイドのサポートなら迅速且つ正確に戦況に対応出来ると言うアベレージもある。

「もちろんです。安心して下さい。」

返答してスクリーンに写るレオディルにウィリアはピースする。

ジンはパートナーの人機体リミテッドキャリバーの最終調整をする。

「ジン、何かあっても無茶だけはするなよ。」

「わーってるわーってる。」

リミテッドキャリバーは、敵のレーダーや肉眼から完全に姿を消すミラージュコロイドと呼ばれるシステムを搭載しており、手持ちのバスターライフルで遠距離からの奇襲攻撃を得意とするいわば「支援機」の括りだが、ジンの操縦性とリミテッドキャリバー本体の性能も相まって前線での活動も可能という万能な機体である。

 

調整が終わり、キャラバンの外に出る。

試験エリアは2kmほど離れたところにある寂れた露天掘りの採掘場で行われる。

リベリオンに発見されるのを防ぐ為、試験時間は二時間と決まっている。往復の移動時間も含めるから実質一時間の様なものだ。

到着するとすぐに準備に取り掛かる。護衛の人機体は採掘場の四方に散らばって監視をする。

ウィリアとレオディルはコクピットから出ると試験用のコンピュータを外に出し、データ読み取り用の配線をインパチェンスにつなげる。テスト後にキャラバンへ試験データを転送すれば、あとは自動的に上手く纏めてくれる。

「よし、早速やろう。」

レオディルの合図と共にインパチェンスがレールガンを構える。その様子をジンはリミテッドキャリバーのカメラアイ越しに見る。技術者の目で不具合があるかないかを確認する。

[はい] とエイミーはインパチェンスの発声欄に文字を入力すると、インパチェンスが はい と喋った。インパチェンスも喋れるが、エイミー個人との音声でのやりとりはこれが普通だ。

レールガンを構え、トリガーを引いて電力が充填されていく感覚を感じる。

バーニアから噴射する時の様な独特の音が聞こえて来る。レール部から青い稲妻が迸る。

コクピットに写るスクリーンの照準を岩壁に付けられた擬似ターゲットに合わせる。オートフォーカスの様にピピッと照準が合う。

トリガーボタンをグッと押す。瞬間、閃光が辺りに満ちる。瞬きをして再びスクリーンを見ると、擬似ターゲットは岩壁の一部ごと跡形もなくなっていた。

「おー予想以上だなあ。」

ジンは威力に関心するが、今の発射から既に課題を見つけていた。

「ん〜発射までが遅い。要するに電力の充填がね。あと、発射の際に発光してるのを見ると、もしかしたら放電してるのかも知れないな…。それから…」

たった一発撃っただけでここまで分かるのか。同じ技術者でも頭の構造は月とすっぽんだな、とレオディルは心の中で嫉妬も含めて尊敬した。そんなレオディルの心中を察したのか、「あなたには私が居るじゃないですかっ。」と、ウィリアは半ばヤキモチの様な表情で口を尖らせた。直後レオディルが宥める。

「インパチェンス、大丈夫?」

とエイミーは相棒に聞く。大切なパートナーに何かあったら大変だ。

「大丈夫だ。問題ない。」

傍から聞けば事務連絡、一部の業界からはネタ台詞の様に聞こえるが、エイミーには十分感情が伝わった。

その後何発か試し撃ちをしてデータをとる。

改善点も確立出来た所でそそくさと撤収の準備を始めた一同。

何事もなくて良かったな、とその時

「大変です!周辺に人機体反応!」

護衛の人機体の一人から通信が入る。直後に途絶したが。

すぐに残りの三機がエイミー達の元に集まる。彼らは敵を確認出来ていないらしく、無線を聞きつけてとりあえず戻ってきた様だ。

「ど、どうしましょう?!敵の数とかは…?!」

慌てる三人にジンは余裕の声で

「慌てるな。こうなったら戦うしかない。いつでもぶっ放せる様にしておけ!」

ウィリアとレオディルも機体に載る。機体の操作はレオディルに任せ、ウィリアは周辺を索敵する。

「敵捕捉!反応パターンからオリジンの人機体が五機と思われます。」

「リベリオンじゃなくて良かった…。」

レオディルは冷や汗を拭う。

 

オリジンとは、ライフ(共存人機体サイド)にもリベリオン(反逆人機体サイド)にもつかないいわば第三勢力である。

細かな組織化はされておらず、ルフス達の様に感傷的な団結力がある訳でもなく、かと言ってリベリオンの様に厳密に統制されていない事から、「個の集まり」という意味でオリジンと呼ばれている。

オリジンは無差別に攻撃をするため、しばしばライフとリベリオンの戦闘に介入してくるのが常だが、この様なケースは初めてだ。

「奴らは組織化されていない事がかえって恐ろしい。オリジンは殆どが自分のエゴで戦っているからな。底が見えないのが本当に怖いよ。」

レオディルは安心しつつも恐怖を感じながら戦闘態勢を整える。どっからでも来い。

他のメンバーも武器を構え臨戦態勢に入るが、オリジンと思しき機体は見えない。

「どこだ…、どこにいる。あいつの仇を取ってやる…!」

怒りの形相で武器を構える護衛三機。

しかし、湧き立つ怒りを他所にオリジンは一向に姿を見せない。

場に緊張感が走る。パイロットは心音が聞こえ、汗をかく。

すると足元が急に揺れ出した。余震に似ているが、明らかに違う。

と、エイミー達の後方の地面から急に粉塵と爆発が起こる。

地中からドンっ!と言う音と共にサソリ型の人機体が突っ込んで来る。地響きを感じ取っていたエイミー達は即座に反応して回避するが、護衛の一人が逃げ遅れて再び地面に潜ったサソリに連れて行かれる。

二機の護衛の内の一機が絶叫を上げる。直後、地面に気を取られていたエイミー達目掛けて上空から残りのオリジンが攻撃を仕掛けてくる。

回避こそしたものの、辺りを粉塵が埋め尽くして視界を奪われ、同時に分断させられる。仲間の所在を把握しようとレーダーを見るがノイズに阻まれた。どうやらジャミング弾も撃ち込まれたらしい。

「ウィリア、ソードユニット展開!」

了解!の声と共にウィリアハートのバックパックに搭載された刃状の武器が展開し、宙を舞う。

そして辺りの粉塵に突っ込んだ後牽制も兼ねてその場で動き回り、視界をクリアにする。

散り散りになっていく粉塵越しに敵がライフルを構えているを確認したジンはバスターライフルのトリガーを迷わず引く。一本線の閃光が残りの粉塵を貫きつつ敵を撃ち抜く。レオディルが視界を確保してくれなかったら自分達が先制攻撃を仕掛けられていただろう。

敵の爆発と共にエイミー達はその場を離れつつ残りのオリジンが追ってきているのがレーダーから確認出来た。護衛達が牽制するが、敵が上空にいるせいで中々当たらない。

インパチェンスはレールガンを愛用のロングライフルと持ち変える。まだ慣れていない上に下手に使って壊してしまったら目も当てられない。

「リミテッドキャリバーのバスターライフルより幾分か取り回しは良いはずだ。」

トリガーを引き、敵目掛けて光弾を連射する。最初の何発かは避けられたが護衛の牽制を避けた所を待ち伏せする形で狙って撃つと命中し、高度が下がった。

「まだ落ちないのか!」

被弾こそしたものの辛うじて態勢を整える敵。この野郎と敵がライフルを構えた瞬間、ウィリアハートが大剣を構えて地上からジャンプ。落ちかけの敵目掛けて剣を振り上げる。エイミーに照準を合わせていたせいで接近するウィリアハートに反応が遅れ、あっけなく切り裂かれる。

それを見ていた残りの敵機はウィリアハート目掛けてビームライフルを連射するが、ウィリアが操作するソードユニットのディフェンスモードでビーム粒子を拡散されてしまい、ダメージを与えられずに終わる。

「ナイスだウィリア!」

「もちろんですっ!」

連携とは何もチームだけに言えることではない。互いが互いの事を理解し、信頼し合えるからこそ成り立つ連携もあるのだ。

切り終えたウィリアハートは地上に降り立ちエイミー達の援護に向かおうとするが、さっきのサソリ野郎に妨害される。ウィリアが即座にソードユニットで討ち取ろうとするが、巧みにかわされてしまう。

「こいつっ!」

まるでサソリ野郎はウィリアの剣裁きを煽るかのようにクネクネと動くとエイミー達の元へ向かって再び地中に。

「エイミー、インパチェンス!そっち行ったぞ!」

レオディルの警告も虚しく、サソリ野郎は残りのオリジンの機体と交戦状態のインパチェンスの背中目掛けて突っ込んでくる。

まずい!と思ったその瞬間、最後方にいたリミテッドキャリバーのバスターライフルが吠えた。

丸太の様に太い光線はダイレクトに射線上に入ったサソリ野郎目掛けて突っ込んでいき、突進状態から避ける事が出来きなかったサソリ野郎は綺麗に爆散する。

インパチェンスはサソリ野郎の接近と爆散を振り向き様に見たためかなりびっくりした様子だった。

その後、残りの護衛二機がオリジンの生き残りを討ち取り、散って逝った仲間の仇を取った。

なんとか危機をしのいだエイミー達は残りの護衛を探したが結局見つからなかった。恐らく二機とも地中で殺されたのだろう。

涙の旅路にはなったがレールガンのテストはかなりの恩恵が期待出来そうだ。上手くいけば量産までもっていけるかも知れない。

彼女らは採掘場を後にした。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「…ツェーン先程はすまなかったな。」

またまた呼び出しを食らってガタガタ震えていたツェーンは「ふぇ?」と思考停止に陥る。まだ何か残っていて怒られると思ったのに。

「は、え?は、はい、別に私は…。」

とりあえず、なにか言っておこう。

それにしてもまたまた呼び出しとはなんだろう。

「…今からお前にリンクを送る。確認してくれ。」

と、ツェーンはデータベースに送られてきたリンクを確認する。

それは[BH:08フェンリルの搭乗テストについての報告]と書かれたトップシークレットクラスの報告書のリンクと、それが保管されているビヨンドヘヴンが表沙汰に出来ない様な情報や実験が網羅されたフォールンやゼロ(今はフォールンのみだが)などの上位機体でしか閲覧出来ないサーバーへの閲覧パスコードだった。

恐る恐る報告書を確認し、そこにいる少年が条件を満たしている事を確認する。

「こ、これは…見つけたと言う事でよろしいのでしょうか…?たしかにこれなら耐えられると思います、が…。」

逆説が来る。

「…が、とは何だ?なにか問題でも?」

「ああ、いえその、たしかに施術にも成功しておりますし、阿頼耶識システムへのリンクも合格してるのなら希望はありますが、リンクして機体を動かすだけなら脳への負荷は殆どありません。ここに書いてある、モビルアーマーとの戦闘時にリミッターを解除して負荷を掛けさせている状態の時のデータが重要なんですが、いかんせんそれについては明記されてないので…。モノローグに繋いだ時はここで言うリミッター解除時並の恐ろしい量の情報が来ると思われますので、その時は負荷に耐えられるかと…。」

たしかにそうだ。この報告書には実験の成果は述べらているが実際にモビルアーマーとリミッター解除して戦わせ、パイロットが無事だったと取れる内容は記されていない。

恐らく施術後のリンクは通常時と見て良いだろう。負荷は殆どない筈だ。

フォールンは黙り込んでしまった。

「ふ、フォールン様?」

今度はダンマリ…?疲れてるのか…?

「…ああ…いや、確かに明記されてないなと思ってな。」

なんだ、びっくりしたな。

「ん〜っとですね…確かにリミッター解除の結果は書いてませんが、何か解除させる方法ならあるのでは?」

「…そうだな…だが、そもそもこいつを見つけられるのか?ゼロの影響でリベリオン以外の人機体達の位置は直接把握出来ないだろうし、仮に散らばらせている殲滅部隊に監視カメラの役割を持たせても効果は薄いと思うが?」

すると今までフォールンの側にいながらも一言も発しなかったアメノハバキリが

「フォールン様。ここは参謀班を頼ってみては如何でしょう。彼らからきっと有効な策を打ち立ててくれる筈です。」

と返答に困っていたツェーンに援護射撃した。

「…そうだな…よし、参謀班を呼べ。」

はっ、とその場を後にして参謀班を呼びに行った。

アメノハバキリにはあとでお礼を言っておこう。

 

 

程なくして参謀班と呼び出し人のアメノハバキリが到着。

紫のグローカラーがチャームポイントの班長クロナードはフォールンの前に参上して緊張しながら深々と頭を下げた。

「参謀班班長のク、クロナードと副班長シュピール参上しました。お呼び出しとの事ですが、用件は何でしょうか…?」

フォールンはこれまでの経緯を話す。

話を聞き終わったクロナードはホワイトボディに天使の翼を持つ人機体、シュピールに話を纏めさせている間に策を練る。因みもう一人の副班長アスターは別件で手が離せず、今回は不参加。

「要するに、そのフェンリルとやらのリミッターを解除状態にさせてパイロットがその負荷に耐えられるか、また、その少年をどうやって見つけるかをはっきりさせたいと言う事でよろしいでしょうか…?」

「…そうだ。しかしどうすればいいのかが悩みどころなのだ。」

「となると、モビルアーマーを各キャラバンに差し向けるのが一番かと。」

シュピールが会話に割り込む。

「…どう言う事だ?」

「元々そのフェンリル、ガンダムフレームの機体はモビルアーマーと戦うために作り出された機体であり、リミッターにはモビルアーマーと戦闘する際にパイロットを生かすため脳への情報量に制限をかけているセーフティーがある。となれば簡単なことです。モビルアーマーを仕向けて人間達をおびき寄せ、出てきたフェンリルのリミッターを戦況的に解除させればいい。」

確かにシュピールの意見は最もだ。

だが、とクロナードは聞く。

「だが、フェンリルを操るルフスと言う少年が出てくる来ないは置いておいて、リミッターを解除させる事が出来なければ状況的に追い込めても意味がないと思うが?まさかそんな危ないシステムが人機体側の独断で出来るとは思えないし。」

すかさず返答

「方法なら、ありますよ恐らく。無理にでも解除させる策なら。」

フォールンは身を乗り出し、「…是非聞かせてくれ。」と喰いつく。

「その為にはフォールン様。誠に恐縮ではありますが、フェンリルのテストデータへのアクセスを了承して頂けないでしょうか?確か貴方の権限でしか閲覧出来ない区画にあったはずなので。」

最初にツェーンにやった時と同じようにシュピールにもリンクを送る。因みにサイトアクセスのパスコードは一度一つのデータを閲覧するとその時点で使用不可になると言う仕組みになっているので、外部に情報が漏れる心配はない。

シュピールのデータベースにリンクと解除コードがインストールされる。

インストールの完了を確認したシュピールは「ありがとうございます。」と、すぐにテストデータへ目を通す。

なるほどなるほどと読んでいき、解決策が纏まる。

「…どうだ?」

「やはり…予想した通りです。」

クロナードとツェーンは実際にデータを閲覧してないので予想も何もねえよと言う様子で半ば飽きてきている。

「どんな解決策なんだ?」

「説明します。まず、セーフティーがかけられてしまうのはモビルアーマーの反応をフェンリル=ガンダムフレーム搭載機がキャッチした時です。厄災戦の時点でそれは判明していたので、フェンリルは内蔵されている万能因子を一部利用してリミッター解除とセーフティの機体性能の低下を万能因子が持ち堪える限り半永久的に防いでいる状態になってますね。」

さらっと言ったシュピールに対してフォールンが険悪な表情を浮かべる。さっきと言ってた事が違ってるではないか。

「…では?どうするんだ?」

怒ってるよこの人、とツェーン達は一歩下がる。しかし全く動じずシュピールは続ける。

「はい。なので仕向けるモビルアーマーに万能因子のガードを破って強制的にリミッターを解除させるシステムをつけるのです。フェンリルのデータは私達の手中にありますので、ブロックされるパターンを見破ることも出来ます。例え解除とまで行かなくてもリミッターを解除させまいと万能因子が抵抗し、その内ガードが切れて機体には過度なセーフティが掛かり機体性能が低下します。そこで戦況が我等に好転していればやむを得ず解除させられるかも知れません。」

理論上完璧な策だ。現段階では何とも言えないが、異論をあげる者はいない。

「…なるほど、だとするとどのモビルアーマーに搭載させる?今機構世界に居る奴となると…。」

モビルアーマーは強大な力を持っているが、いかに技術を進化させようと生産出来る数にも限りがある。殆どは既に各地へと派遣されてしまった為、いざ残っている奴となると…。

「あ、そう言えばメガロバスターってまだ居ましたよね?」

クロナードが思い出したかのように名を出す。途端に周りの空気が微妙になる。

「え?皆さんどうしたんですか?」

「俺…あの人苦手なんだよな。」

「…う、うむ。」

フォールンまで俯きながら微妙な表情を隠す。

「え〜俺あの人結構好きですけど。」

「アラありがとう。クロちゃんイイコト言うじゃなぁい。」

と、真後ろにメガロバスターがニヤニヤした顔でたっていた。

クロナードは振り向きながら「うわぁ?!」と飛び上がり、大剣ラグナロクを物凄いスピードで変形生成して構える。

「何よぉ、ゼロ距離で褒めてあげたのにぃ。」

「急に後ろに居るとか、あなた殲滅型っての絶対嘘でしょ?!」

「なぁ〜によぉ〜、背後にこっそりと近寄って、そこからあたしのメガ粒子キスをあげるのよ。銃口を擦り付けてねぇ。」

「いや、生々しい上に気持ち悪いんで結構です。」

つれないわねえ、とおネエ口調で話すこのモビルアーマーこそメガロバスターその人だ。

カーキ色のボディと巨大な長いランチャー、そして脚と腕が一体化したいかにも危なそうな外見がますます妖しさを際立たる。

殲滅型という括りで開発された彼/彼女はこの濃すぎるキャラと巨大な容貌も相まってモビルアーマーでも一二を争う強さを持っている。

なお、(自称)おネエなので人柄は良いのだが好みは分かれる。

それにしてもかなりのサイズなのによくクロナードや他のメンバーに気付かれずに後ろを取れたな、と一同は思った。

フォールンはおろおろしながらも、

「…よく来てくれた。おかげで呼ぶ手間が省けた。」

いちいちアメノハバキリに部屋を出入りさせるのも面倒くさいし色んな意味で迅速に動けるのは決して悪い事ではない。

「あらぁフォルちゃん、まさか今夜はあたしを指名しようとしてたのぉオオオオ!?ちょっと待って!!!」

アメノハバキリが鞘から刀を抜いているのを見て察したのか脚兼腕を上げて浮遊しながら降伏の姿勢を取る。いかに自分の方が性能が優れていても、立場では勝てない。

「次に無礼をしたら問答無用で斬りかかるぞ。」

「あらぁアメちゃん怖いわぁ。最近欲求不満なの?ってちょ!!ストップ!!」

もう斬りかかっていたので他のメンバーが取り押さえる。全く、ペースが狂うよ、とツェーンは顔に手を当てる。やっぱり苦手だ。

「け、汚されちゃった…。」

いかにもと言う声で冗談を言い終えたメガロバスターは用件を聞く。

「それで、あたしはどうすれば良いのかしら?」

「…シュピールが説明する。」

指名を受けたシュピールはさっとメガロバスターの前に出る。

「では手短に、新システムのテストと搭載をお願いしたい。」

手短すぎてハテナのマークを浮かべるメガロバスター。

「ん〜っと、それはいつどこでやるのかしらぁ?実戦もお会計に入ってる?」

お会計ってあんた、とツェーンは心の中でツッこむ。

「新システムを作るのに一日二日かかるからまだ断言は出来ません。テスト自体はラボの実験室でやる予定です。実戦は勘定に入ってますよ。」

その場にいた全員は、

(シュピール、いつも淡々と働くお前がギャグに合わせるとはよ…!)

と思った。いつもは合理主義で遊び心なんぞないと思ってたくらいだから尚更驚きだ。これもシュピールの一部なのであろうか。

「あらぁそう?分かったわ。そのシステムとやらが出来たらまた呼んでねぇ〜。」

と言うとお辞儀してその場を後にした。出る際入り口の扉に脚をぶつけて悶絶してた所を見ると、本当にどうやって音もなく忍び込んだのかが気になる。

出て行ったのを確認してツェーンははぁ〜っとため息をつく。

「…それで、新システムの搭載はヤツに任せるとして…もう一つの問題はどうやってルフスを見つけるかだ。」

そうだ、メガロバスターに夢中になり過ぎて肝心なそれを忘れていた。

「シュピールが言ってた確実な方法だと、メガロバスターのみ新システムを搭載する事になるから、耐性確認と特定の両方を行うのは難しそうですね…。となると派遣済みのモビルアーマーに伝えて本人の特定を先にして、それから耐性の確認をすればいいかと。」

クロナードの提案は最もだ。流石は参謀班班長と言った所か。

メガロバスターには本人の特定が出来てから襲わせよう。無理に出してやられでもしたら目も当てられない。

「派遣中の部隊に全域調べさせるのはかなり無理がある。大まかでもいいからある程度程度絞った方がいいと思う。」

クロナードの意見にツェーンが付け加える。

いかにリベリオンの人機体といえど、闇雲に戦っていては無駄に戦力を浪費するだけだ。功を焦れば自分達が追い詰められる可能性だってある。

「…観測班を呼べ。確実に仕留めよう。」

アメノハバキリが再び出て行く。

観測班は地球全土に散らばっているリベリオンの人機体から得られる各地の環境情報を扱う仕事をしており、敵人機体の索敵も行っている。一部の特殊チームは、発見した際には敵には攻撃せず味方は援護しないと言う情報を確実に持ち帰る事を専門とした部隊もある。

しばらくして班長のノートが到着する。副班長のバタフライは観測室の仕事が手いっぱいで来れなかったそうだ。

「お呼びでありますか統率機(リーダー)。」

「…うむ、そうだ。このルフスと言う少年、若しくはフェンリルと呼ばれる人機体を探して欲しい。今画像を送る。」

画像が送られ確認する。

「なるほど。しかし、衛星が使えない今個人を捜索するのはかなり大変ですよ。」

ノートがもっともな事を言う。だからこそ観測班を呼んだのだとフォールンは言い返す。

「そうですね…特殊偵察班=ブラックナイトに捜索させてみます。彼らならきっとやってくれると思いますが、時間はかかるかと思います…。」

観測室にいるバタフライにブラックナイトへ捜索命令を出させる。

回りくどくなるのはわかっていたが、本当にゼロが憎らしい。奴のせいで万事面倒くさい上に時間がかかり、非効率で不確実だ。無駄なストレスが溜まる。

フォールンはよろしいと頷くと、アメノハバキリにグリスウオッカ(人機体が飲む酒)を全員分注がせた。

皆に配って一杯飲み、報告会を解散させる。長くなり過ぎてしまった。自分も疲れたが呼び出された彼らの方が疲れたろう。

今日は部屋に戻る、と玉座を降りて近衛兵とアメノハバキリも下がらせる。

 

久々に疲れた。今日はゆっくり休もう。




こんにちは( ・∇・)
気づいたら9000文字超えててびっくりしたルシェラです。
今回はエイミー達の初戦闘シーン、オリジンの存在、リベリオンのコミカルシーンなど色々詰め込んだからかなあ。
まだ未登場のアスターとバタフライも早く登場させたいです(^◇^;)
それでは、また。


機体、キャラクター投稿希望は不定期ではありますがたまに募集しています。
作品に関する事や関係者の方々への質問は受け付けていないのでよろしくお願いします。


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機動戦士ガンダムプレデターズ 第九話 熱と目

中東支部訪問二日目。目覚ましはかけてなかったので目が覚めた時点でルフスは辛そうに起きる。ここで睡魔に負けたら昼まで寝過ごしそうだ。

前日の夕食会で宣伝されていた「閻魔御前」と呼ばれる大ホールで朝のラジオ体操をやるつもりだったがやる気が出ない。

「ていうかそもそも閻魔御前ってネーミングよ…つーか…眠い…。」

低血圧のため朝起きるのが辛いルフスは真紅の髪が乱れたまま寝ぼけ眼でノソノソと歩く。他のメンバーは既に起きているようだ。

寝巻きから普段着に着替えて部屋を出ると、既に他の住人も起きていた。

履いているビーチサンダルを地面に擦りながらだらしなく居住区の廊下を歩く。人に見られるたびにおはようを言われるので死にそうな声でなんとか返す。

御前がある下層までエレベーターで行こうと思ったが、目を覚ます為に歩こうと階段で下りた。

御前の正面玄関につくと、大音量で中東の住人がラジオ体操をしていた。どうやら宴会用の巨大なスピーカーと曲のデータが入っている人機体とを接続して流しているようだ。

「そーいやラジオ体操っていつの時代に終わったんだっけ…?たしか人機体が作られるよりもずっと前だった筈…。」

まだ眠りかけている頭をなんとか回転させるが眠気と爆音で考えが纏まらない。

「たしか…ラジオ体操なんてしなくても機械や補助スーツによる介護やサポートで高齢者は怪我をする事が減り、小さい子供達には新しく開発された成分の一種を混ぜた食品を食べさせる事で、幼少期から健康そのものでいられるように出来たから意味がなくなって自然消滅したんだっけ…?」

思い出そうとするも、その内面倒臭くなって乱れた髪をワシャワシャと解しながら他のメンバーを探す。

「おはようさん!やっと起きたか!…ってもう二番入っちまったぞ。」

身体を動かしながらおはようと声をかけてきたのはチームのムードメーカー暁ホムラ。

隣には相方の人機体ゼロもおり、体操するホムラを見ている。

「………お、ホムラおはようさん。」

「お前今一瞬寝てたろ?!」

身体をキビキビ動かしながら答えるホムラ。

どうやら食以外でも健康を保ちたいらしく、周りの人よりも人一倍身体を動かしていた。

「…そーいや他のメンバーは?」

「ん?ああ他のメンバー?アモンは昨日リベイクさんが言ってたここの偵察班の育成中。今は一緒に偵察訓練しに行ってるみたい。睦月はガキンチョ共に引っ張られて行方不明。残った私は暇だから健康維持も兼ねて体操中なのさ。」

長い旅路の疲れを癒す時間もなく、すぐに仕事はやってくる。

「アモンはともかくとして睦月はある意味災難だな…。ここに来るの初めてだし慣れるまではキツそうだ。」

睦月は今回が中東支部初めてと言う事もあって子供達に新鮮な目で見られていた。だとすると活発な子供達に振り回されるのも仕方ないだろう。

その後アスリートの様にキビキビと動くホムラを見送りルフスは御前を後にする。

「暇だしな…ドックにでもいるか。」

閻魔御前からドックまではそんなに距離はない。面倒くさいし、素早くエレベーターで向かおう。

他の支部と違って中東支部は設備にあまり手をかけないせいか、エレベーターのボタンは五回押してやっとランプがついた。前よりも回数が増えているのは老朽化であろうか。

ガタついたエレベーターに乗ってドックにつき人機体の区画に向かうと、ルフスの相棒のフェンリルが中東支部の人機体と談笑しているのが見えてきた。

フェンリルは獣の様な姿に禍々しい性能と武装を誇る白兵戦に特化した人機体だ。

その風貌から中東支部の人機体からは尊敬と羨望の意味も込めて「兄貴」と呼ばれ親しまれている。

「よお、起きたか。」

近くルフスに気づいたらしくフェンリルの方から声をかけてきた。

すると、周りにいた人機体はそそくさとルフスの前に道を作る様に整列し、

「おはようございやすっ!!!カシラっ!!!」

普通のヤツならまるで昔のヤクザ映画のワンシーンを彷彿とさせる出来事にたじろぐ所だが、ルフスは以前からの恒例行事でもあってその都度わざと偉そうにする。

「ああ、おはよう。今日もいい調子だな。」

「オッス!!!!!」

「おい!お前!!背筋が曲がってっぞ!!」

「すいやせん!!!」

この光景を見るたびにフェンリルは傍で腹を抱えて笑っている。

暫くして茶番が終わるとルフスは元に戻って一機の人機体に

「今日はどんな予定なの?」

「あ〜っと、そろそろオサ(リベイク)からの玉音放送が始まりまっせ。」

「毎回思うんだが玉音放送は不謹慎だから辞めようぜ。」

玉音放送とは支部長リベイクが全住民と人機体に一日の予定を知らせる放送の事で、早朝から起きて一人で組み立てるので若干曖昧な内容なのがまた面白い。しばし待つとショッピングモールの業務連絡の様な電子音と共にリベイクからスケジュールを伝える放送が始まった。

「中東支部の全人機体並びに全ての住民達、それから訪問チームの方々、おはようございます。本日のスケジュールを伝えるのでよく聞いて覚えておけ。今日はモビルアーマー戦に向けて人機体のブラッシュアップと戦術を組むのが主な活動だ。決行が明日だからな。東南支部から来てくれた訪問チームの人機体もグレードアップさせるから中東支部の整備士及びメカニック用の人機体達は放送後すぐに戦闘用の人機体を集めて作業に取り掛かってくれ。戦術班には現在周辺を偵察中の哨戒班とアモンが到着次第また連絡をするからその都度指定された場所に集まるように。後は〜特になし。んじゃあ皆、今日も生きるぞ!!」

「おう!!」と言う掛け声がフロア中に響き渡り、すぐさま各自仕事を始める。さっきの様なふざけた雰囲気は微塵もない。ただギャーギャするのではなく、こういうメリハリがしっかりしているからこそ中東支部が随一の力を誇っているのだろうか。

中東支部の整備士に呼ばれて訪問チームの人機体と中東支部の戦闘人機体らはモビルアーマー戦に向けての整備とアップグレードを施される事になった。

中東支部整備班班長のロロローヴァは訪問チームのメンバーを集めて説明を始めた。

「んじゃあ機体のアップグレードについて説明させてもらおう。取り付け自体にはあまり時間はかからねーが武装によっちゃあ念のために作動テストをする場合があっからよろしくな。ゼロはそのか弱い装甲の強化と武装をある程度追加、トリニティは太陽炉の出力効率の向上とトランザム時間の延長。あとバスターライフルの調整。アモンとソラはまだ帰ってこねえから後で説明してやろう。まあ、

モビルアーマーとなれば乱戦は必至だろう。攻撃を仕掛ける場所にもよるが泥沼且つ長期戦になった場合に備えて武装は増やしておきたい。」

昨日の報告会の時点でモビルアーマーはここから20km先の渓谷の辺りに潜んでいる事がわかっている。狭い上にダストが凄いのでフェンリル達はアップグレード以外にも特に関節部に念入りなコーティングが施された。

一通りの説明を終えたロロローヴァはルフスのみを残して他のメンバーを解散させた。

「あの、何でオレだけ残ってるんですかね?」

「ちょいと説明が長くなるからだ。フェンリルの武装面では、シールドブースターに新装備の[バンカーレール]っつー新装備の取り付け、ドリルランスの強化とナノラミネートコーティングの塗り直しくらいで済むんだが…問題はアレだ。モビルアーマーとやり合うんならリミッターガードの強化は必須だろ?」

フェンリルは元々モビルアーマーと戦うために作られたガンダムフレームと呼ばれるシリーズの機体である。しかし、搭載されている阿頼耶識システムはモビルアーマーの反応を感知すると強制的に機体性能を上げるが故に機体と肉体的に接続しているパイロットへの負荷も跳ね上がると言う困った物を積んでいるのだ。

ある意味モビルアーマー戦では切り札とも言えるが、高過ぎるリスクの回避を優先して元々取り付けてあったリミッターのガードを万能因子を更に応用し、常にブロックしてプラマイゼロの状態にしている。

それでも万能因子の量には限界がある上に不安定なシスタムの為、直接的なモビルアーマー戦では長い時間は戦えない。

「いつもの万能因子量でガードは大丈夫だと思うが…たしか十分だっけか、まあ念のためな…。」

「そもそもモビルアーマーからの反応を検知しないように出来ないの?そしたらリミッターも解除されないと思うけど。」

「その為にはフェンリルの動力であるエイハブウェーブ及びエイハブリアクターを取っ払うしかないんだわ。おまけにガンダムフレームはこの動力以外マッチングが上手くいかないしそもそも動かないと思うぜ?」

なるほど。外すという事はそもそも戦えなくなるという事か。なら仕方がない。

「オレはいつテストすればいい?」

「他の機体とフェンリルの調整が終わり次第だ。それまでテキトーに時間を潰しててくれ。ああ、それか手伝ってくれてもいいんだぞ。」

やめとく、と言ってルフスは近くの階段に腰をかけて整備の様子を眺めることにした。何回か見た東南支部とは方法が所々異なっており、東南がロボットを積極的に導入して作業するのに対し中東は巨大な機械以外全員人間である。設備投資がこれほどまでに皆無なのか、それとも長年培ってきた技術への信頼なのか。

暫くルフスは眺めていたが、次第に飽きて整備の手伝いに向かった。

 

 

 

 

特殊偵察班、通称ブラックナイトと呼ばれるリベリオンのキャプテンは副観測班長のバタフライから送られてきた画像の少年と機体の捜索する様に暗号通信が入った。

 

HCFR/BC_Sent,Picture,Please,Search

「ハイドコネクションフロムリベリオン/ブラックナイトキャプテン_送った写真(の人物と人機体)を探してくれ」

 

HCFBC/R_CC.SS

「ハイドコネクションフロムブラックナイトキャプテン/リベリオン_通信を受け取った。索敵を開始する」

 

特殊偵察班は偵察と言う点だけに特化させた部隊であり、メンバーの殆どが不可変戦闘機型の人機体である。また、その存在はリベリオン外にはほぼ秘匿する様になっているため通信は今の様な面倒くさい文面なのだ。普段は機体下部をミラージュコロイドと万能因子の応用で完全に見えないようにしており、加えてサーモグラフィー等にも映らないため決して見つかる事はない。

 

HCFBC/ABS_S3

「ハイドコネクションフロムブラックナイトキャプテン/オールブラックナイトソルジャー_散開して索敵開始。」

 

ブラックナイトのキャプテンから各機へ暗号文が届き、各大陸に一チーム五機で編成されるブラックナイトの兵士達はすぐさま写真の少年と人機体の捜索に出る。キャプテンはその場で高度を上昇させ、仲間から送られてくる情報の整理と観測班への報告役を務める事になる。

「さて…仕事だ。」

キャプテンは自身を航空偵察モードから情報収集モードへと切り替える。すると機体下部の透明部分がどんどん機体全体を包み込むように広がっていき、完全に機体の姿が消えた。この形態になると情報収集のみしか行えなくなるので万が一敵に発見された場合は足を使って逃げる事は不可能になるが、全身透明化しているのだ。大丈夫だろう。

ブラックナイトキャプテンは太陽炉と呼ばれる永久機関を搭載しているので燃料を補給する必要はないが、情報収集モード時は太陽炉のエネルギーを推進力から索敵システムにまわすので即座に逃げられなくなるが、逆に言えば自分はただその場に浮遊して情報をリアルタイムで受け取って纏めればいいのだ。殆どが見つからない上に他が勝手に働いてくれるんだ、こんなにいい仕事はない。

空の色はいつもと変わらなかった。夕焼けが不自然に歪む程度だ。

 

 

キャプテンが暇している頃、ブラックナイトソルジャーらはせっせかせっせかと働いていた。機体下部のTARPSと呼ばれる大型のカメラポッドで地上を写しながら捜索するのだが、自分達が見つかりにくいという恩恵のかわりにかなりの高度を飛ばなければならない為、自然と映像が荒くなってしまう。

ソルジャーの一人が面倒くさそうにぼやく。

「ったく、ちょうちょさんもキャプテンも人が悪いよな。あいつらはただ待ってればいいんだからさ。」

ちょうちょさんとは副観測班長のバタフライの事である。

もう一機が返答する。

「あーゆー役職もそれなりに面倒くさそうだがな。おれは部屋に閉じこもりっぱだったりただ浮遊しているよりかはこうやって飛んでる方がまだマシさ。あと、」

「ん?なんだよ。」

「通信、向こうには声じゃなくても内容はリアルタイムで筒抜けだからな。」

「オレこっち探してくる!!!!!!早く見つけないとなあ!!!」

ぼやいた一機がやる気で誤魔化そうと加速、旋回して見えなくなる。特殊偵察班の情報は人間の様に報告書などと言う物で伝えられるのではなく、常にリアルタイムで観測室に送られている。が、ソルジャーの中には彼の様にそれを忘れて言いたい事を言ってしまう者もいる。

ブラックナイトはチームという枠こそあるが偵察は個人の思考を尊重されているため、彼を止めるものはいない。いざとなったら本体のデータを機構世界のデータベースに送って自爆するのが掟だ。

勝手にしなさいな、と他のソルジャーは進路と巡航速度をを保ったまま監視を続けるが、いつまでも飛びっぱなしなのは流石に探す方も気が滅入る。

「飛ぶだけじゃ情報は入らないぞ。何か策とかないのか?」

「……プランBにするのか?」

プランBとは標的を探す任務の時、地上の殲滅部隊に連絡して疑わしいキャラバンや人機体の集まりへ攻撃をさせて標的を炙り出す方法の事だ。

通常のただ飛ぶだけの捜索はプランAだ。

稀に、プランBが使えない場合で潜伏場所が割れている時は殲滅部隊の到着までソルジャー達が直接攻撃して炙り出すプランCというものもある。

「プランBに変更したいが、まだ疑わしいキャラバンも何も見つけてない。もうしばらく捜索を続けよう。」

躍起になってはこちらがやられる。そんなリスクを背負うくらいなら飛んでいるほうがマシだ。

他の班員は索敵しつつ雑談していたが、その内の一機が

「…そう言えば、中東の渓谷付近に展開している殲滅部隊が何日か前にライフと接触したっていう情報が入ってたろ?どうやらその後機体の残骸からデータを盗んでみたところ、外部から別の人機体が接触しに来るらしい。」

人機体は当たり前だが記憶や情報を内蔵するメモリーを搭載している。また、メモリーが生きていればそれを取り出して情報を盗むことも可能だが殆どが壊れている場合が多い。

「あれか?情報に乏しいキャラバンの為にわざわざ出向いてるって言うやつ?」

少なくともリベリオンはその事実には気付いていた。ルフス達のように他の地域でも同様の動きをしていたライフの人機体をやっとの思いで仕留めた時に判明した事である。

「…接触した人機体の所属は分かったのか?」

「ああ。あの中東支部さ。まだまだしぶとく生きてやがる。」

「…その接触すると思しき奴らがキナ臭いな。データを見る限り、少なくとも過去の戦闘や映像などから中東支部には写真の人間と人機体は居ない。となるとその外部からの訪問者が怪しくないか?」

「…確かにそうだな。データを盗んだ時よりも日が経ってるからもう着いているとみていいだろう。てことは…?」

「一番古い日付で保存されている映像と今までのデータから、キャラバン外の地上にこの少年と機体が留まっている可能性は低いな…。それと、ここ最近各地に配備されているリベリオンの撮影カメラの映像を一纏めにして解析したんだが、ある人機体に写真の人機体に非常に酷似した姿が映っていた。」

リベリオンの人機体は人間をすぐ発見、報告出来るようメインカメラに撮影機能が付いている。その映像は常に機構世界のデータベースに保存されており、ブラックナイト達はそれを保存期間こそあるものの自由に閲覧する事が出来るのだ。

「同一機体である可能性は?」

「解析中……出た、78%。黒と見て間違いないだろう。プランB発注。付近の渓谷の殲滅部隊には丁度モビルアーマーがいたはずだ。キャラバン目掛けて煽りをかけてもらおう。そうすれば嫌でも出てくるさ。中東に居るかどうかは怪しいが、確認してみる価値はあるだろう。」

了解っ、とキャプテンにプランBへの移行を願い出る。

 

HCFBS06/BC_Please,Change,PB,Maybe,Find,Send.Date

「ハイドコネクションフロムブラックナイトソルジャー06/ブラックナイトキャプテン_プランBへの移行を求む。恐らく見つけた。データを送る。」

 

HCFBC/ABS_OK&Check,Please,Move

「ハイドコネクションフロムブラックナイトキャプテン/全ブラックナイトソルジャーへ_了解、データを確認した。動いてくれ。」

 

即座に受理され、今度は渓谷の殲滅部隊に連絡する。

 

HCFBCS06/METeam_OrderPB,Please,PreparationAttackMEC

「ハイドコネクションフロムブラックナイトソルジャー06/中東(ミドルイースト)部隊_プランBが発令された。中東キャラバンを攻撃する準備を始めてくれ。」

暗号通信を受け取った渓谷の殲滅部隊は受理する文面を送り、班員に伝えて戦闘準備に入る。文面に攻撃しろとだけしか書いてないのにすぐ受理した理由は、ブラックナイトからの通信は正確且つ観測班からの命令という面も持っているからである。断る以前に従うべきものなのだ。

中東部渓谷区域殲滅部隊隊長のアステロスタは配下の人機体と、モビルアーマーのガヲレンゾを招集し、任務の説明をする。

「今しがたブラックナイトから暗号通信が入った。プランBだ。攻撃目標はここから20km離れた中東キャラバンだな。」

殲滅部隊は基本班長を含めて5機、若しくはプラスαでガヲレンゾの様なモビルアーマーがつく6機構成が多い。また今回のようなケースはブラックナイトが標的の確信を得るまでの間いつでも攻撃出来る様に準備しておくのが鉄則だ。

「全員戦闘態勢を維持したまま待機。連絡があり次第順次行動を開始せよ。今回はブラックナイトが捜索中の標的を殺さないのが最優先だ。例え向こうから攻撃して来ても上手くやり過ごしてくれ。」

了解、と各機は返答し、準備に入る。大規模な戦闘になる可能性は低いとは言え、相手は中東支部だ。過去のデータには殲滅部隊単独で襲撃をしたり、ブラックナイトからの連絡を待たずに攻撃した例もあるようだが、いずれも全滅、若しくは返り討ちにあっている。舐めてかかってはいけない。

中東支部から僅か20kmの距離ではあるが、アモン達偵察班は発見を恐れて別の区域で訓練を行なっていたのが災いしてこれだけの動きが始まっている事を知る由はなかった。

決行まではまだ時間はあるものの、確実に中東支部に危機が迫っていた。




こんにちは(๑╹ω╹๑ )
もうすぐ今年が終わるなぁ、としみじみ感じるルシェラです。
今回は「航空無線」じみた物を入れてみました…。
正直伝え方とか合ってるかどうかは分かんないです(^◇^;)
ただ、雰囲気だけでも伝わってくれれば嬉しいです。
さて、いよいよモビルアーマーとの邂逅が近付いて来ましたね…。
あと、鉄血世界でのモビルアーマーと他の世界線でのモビルアーマーの両方がプレデターズにはいるのですが、メガロバスターのように自我を持たないモビルアーマーが鉄血世界でのモビルアーマーと思ってくれればいいです。自我無しMAは原作通りプルーマの様な子機の製造が可能となりますが、自我有りは出来ないのが特徴ですね。
次回…ルフスくん達はどう戦うのか、ご期待下さい!
それでは!


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機動戦士ガンダムプレデターズ 第十話 弔い合戦へ

「ただいま戻りました!」

中東支部に偵察訓練に向かっていたソラ達が帰ってきた。中東支部の偵察班はソラから飛行訓練と情報収集の仕方を学んできたようだ。中東の偵察班は支部長のリベイクに報告に行き、帰ってきたソラは休む暇もなくロロローヴァに呼ばれ、パートナーのアモンはアップグレードを施す準備に入った。

ソラはいつも巻いている鉢巻を取り、暑そうに休憩する。中東地域は平均気温が年間25度とかなり高いので、今の様な夏のシーズンは平気で汗に飲み込まれる。

ドックのそばの小さな椅子に腰を掛けて休んでいると、整備班の一人が氷水を持ってきてくれた。

まるで仕事終わりの会社員の飲みの様にガバッと飲むと、く〜〜〜っと美味い声を出して眉間に走る鈍痛を感じる。

そこへロロローヴァが小走りでアモンのアップグレードについて説明をしに来る。

「お疲れ様っ。休んでいるところ悪いけど簡単に説明するから我慢してくれ。」

はいよ、とボトルを椅子の下に置く。

「今回はモビルアーマー戦に向けてかなりの改造をする予定だ。今のアモンは偵察に特化させている感じかな?多分あのフォルムと武装から察するにだけど。でもそれだと戦闘、特に今回の様なエリアが狭い場所では上手く戦えないと思うんだ。それで、今回はこういう風にしてみようと思うんだ。」

ロロローヴァが持っていたタブレットにアモンの姿が映される。

映っているのは今現在のアモンの姿。そしてその隣には今回の改造後の姿と思われる機体の姿が表示される。

「改造後はこんな感じだな。脚部を鳥形からガトリングに付け替えて、バックパックにミサイルポッドを搭載。これによって空爆攻撃が可能となる。武装の追加に伴う重量の増加は免れないけど、まあアモンの元来の機動性ならそんなに変わらないかな。あと申し訳ないが、着陸時は直接地面に降りるんじゃなくて専用のキャリアーで行うように。」

見比べてみると脚の先が完全にガトリングの砲塔になっている。これでは直接着地する事は出来ないな、とソラは納得する。因みに換装という扱いの為以前の姿にも戻れるらしい。

説明を聞き終えたソラはありがとうとお礼を言い、再び休憩に入った。少し眠い。

ソラは机に突っ伏して暫し仮眠をとることにした。

 

朝っぱらからガキンチョ共に連れ回された睦月透火はやっとの思いで戯れを終わらせると乱れた呼吸でロロローヴァの召集へと急いで向かった。

「おっ…遅れました……!」

「ああ、大丈夫大丈夫。大体の説明はトリニティの方にしてあるけど、一応睦月さんにも言っておくね。」

ロロローヴァはその場でタブレットの画面にトリニティの姿とデータを写す。

「今回は特に見た目に変化はないんだけど、ご自慢のバスターライフルの強化とトランザムの時間延長が主な内容かな。今までバスターライフルって一回撃つと次の発射までラグがあったでしょ?ほんの僅かだと思うけど。それで、今回はそのラグをほぼゼロにしようって感じかな。威力の向上は出来ないけど扱いやすさと言う点では良くなる筈だ。」

たしかにバスターライフルは照射時に生み出される膨大な熱量を逃す為その都度排熱時間を作らならければならなかった。前回の廃墟での戦闘の様に短期戦であったり、敵が少数の場合はそんなに問題はないが、恐らく今回は長期戦が予想される。となると取り回しが悪いのはかなり不利となる。

なるほど…と肯く睦月を見てロロローヴァは続ける。

「そんで、もう一つのトランザム時間の延長なんだけど…今回は作業の時間があまりないからもしかしたらその影響で不具合が出るかも知れない。それを踏まえた上で使って欲しい。その代わり二十秒延長させておくよ。」

一見二十秒って少ないと思う人もいるかも知れないがトランザムにおける二十秒延長は言ってみればかなり長いものなのだ。因みに現時点では120秒、つまり二分が限界という事になる。

その後説明が終わった睦月はトリニティの整備の手伝いに向かった。

「睦月…お疲れ様。朝から大変だったね。」

睦月の様子をホムラから聞いていたトリニティはかなり心配している様子だった。

「ん…まあね…やっぱ小さい子ってパワーあるよ。…そう言えば朝食は…?朝から動いたせいでお腹が減っちゃった。」

「コクピットの生成機の中にあるよ。中東支部は昼と夜は豪勢な分、朝食は生成機で作れるような簡単なのを各自勝手に食べるのが普通なんだって。」

コクピットに行くとハッチが空いており、既に何人かの整備士が作業の真っ最中だった。その人達の奥の生成機にある飯を取るように頼む。

「今日の飯は…ハムサンドと牛乳か。」

人それぞれだが、睦月は好きでも嫌いでもない食事が一番好きだった。偏食を回避する為だ。

もぐもぐっと軽い手つきで口に運ぶ。何回も咀嚼する事で脳が沢山食べたと騙され空腹が満たされるらしいのでこれでもかと噛む。そして混沌とした口内を牛乳で洗い流す。

一通り食事を済ませた睦月は整備士の手伝いを始めた。自分だけのんびりと休んでいるのは彼らに申し訳ない。

 

整備開始から五時間後、支部長のリベイクから局内放送が入った。

「中東支部の戦闘部隊と東南支部の方達はこの後すぐ作戦会議室へ来てくれ。」

五分後支部長に到着したルフス達。周りを見ると既に何機もの中東支部の人機体が集まっていた。

その後全員集まりリベイクは作戦会議を始めた。

「そんじゃあ、渓谷付近にいるリベリオンの野郎どものぶっ潰し方と、モビルアーマーへの対策を練ろうと思う。黒板の地図を見てくれ。」

中東支部は作戦会議用の大型スクリーンなどないので昔から御用達の地図を使っている。

リベイクは地図のポイントを示しやすいようにサブアームの右腕に長めの棒を持ち、余った手に敵味方などを表す磁石を持った。手慣れた手つきで自軍と敵軍を表す磁石を投げていき、棒で指し示す。

「まず…中東支部がここ。青い磁石だ。ここから二十キロ離れたリベリオンがいるのがここ。赤い磁石の所だ。奥の長く続く渓谷の先には標高二千メートル級の山々が聳え立っているが、今回はここまで行く事はないだろう。次に渓谷の地図を見てくれ。」

近くの人機体が渓谷の地図を貼り出す。

「渓谷内部の道幅は広いがかなりジグザグが続いている。加えて基本通路への合流地点が少ないので別の場所に向かうにはその都度渓谷の上へと上がって行き来しなきゃならねえ。だがこれは敵さんも同じ条件だ。閉所での戦闘なら数で上回るオレ達に分があるはずだ。そこで、攻撃の手順を説明する。敵さんは渓谷の中にいるはずだから、まずソラとアモンが上空から渓谷を崩すように攻撃する。これで粉塵が巻き起こるから敵さんの視界を奪える。そこへ渓谷の上部からウチの戦闘部隊が一斉総射をする。実弾でもいいがビーム兵器の方が粉塵を巻き上げる効率がいい。装填の時間も減らせるしな。視界を奪いつつ敵さんを足止めしてじわじわと倒す。が、敵さんはその間に反撃をしてくるだろうからな。もしも渓谷から離れようとする人機体がいたら上にいる戦闘部隊は全力で阻止してくれ。ここで逃げた奴を追わせて戦力を割く事はしたくない。もしそうなれば他の奴の離脱も許してしまう可能性があるからな。最悪敵さんに離れられたら4機ずつに分かれて各機撃破を頼む。そして…。」

リベイクは流暢な口を止めて一息つき、再び話し始める。

「問題はモビルアーマーをどうするかだ。一応作戦は練ってみたからとりあえず説明する…。モビルアーマーの具体的な戦力は報告されてないから何とも言えんが、そこは最初の爆撃を行うソラくんにその時ある程度確認して欲しい。形状だけでも十分だ。無理に接近はするなよ。堕とされでもしたらオレが水野さんに殺されるからな。…そして、モビルアーマーの足止め役には…そこに居るウチの支部の中でも特に強いパープル、アグラヴェイン、紅血の三人と、東南支部からゼロとトリニティに頼みたい。ここまでで質問は?」

ホムラが手を挙げる。

「今回の作戦に注ぎ込める中東支部の戦力はどのくらいなんですか?」

すかさずリベイクが答える。

「今回の戦闘に直接参加する人機体が20機。人機体用の火器が、ライフル型がこの支部に全部で200丁、ロケットランチャー型が100丁、その他近接武器や特殊兵装がいっぱい。人機体用のテントもあるぞ。予備弾薬諸々は支部にあるし、近いから枯渇する事はないだろう。」

ホムラはお辞儀をし、リベイクが最後に付け加える。

「それとルフス…お前はモビルアーマーとの戦闘にはあまり加勢するな。リミッターガードの延長をしたとは言え、時間はあっという間に経つものだからな。ここぞっていう時以外は人機体の撃破に力を入れてくれ。何か……意見のある奴は…?」

ルフスとフェンリルはこのような戦闘…特に地上戦においては唯一無二の強さを誇るが、相手がモビルアーマーが居るとなれば悔しいが長くは戦わせられない。

ルフスは悔しさを堪えつつも自分の立場と仕事を考え首を縦に振った。

「他に意見はないようだな…結構…。よし、明日の午前八時にここを出る。その時点で作戦は開始しているからな、気を抜くなよ。…では、解散!」

 

作戦会議室を出たルフス達はロロローヴァに呼ばれ、アップグレードが済んだ人機体を拝む。

「はい、出来ましたぁ!とりあえず東南支部の人機体はこれで完了。ウチの人機体も今調整を進めさせている所だ。シミュレーターで動作確認はしたけど異常はなかったし、大丈夫だ。」

各機とも所々外装や武器が変更されている。特にアモンの変わり様が一番目立っていた。

「グレーがメインカラーってのもいいね。」

ホムラがアモンの周りをぐるぐる歩きながら興味深そうに見つめる。それに少々嫉妬したのか、ゼロがむせながら

「ホムラ、君のパートナーは誰だっけ?」

と突っ込む。するとホムラは苦笑いしながらゼロの方に行き、

「いやぁ〜流石全人機体のモデルとも言われるゼロ様ですわ〜。武装も沢山ついてたくましくなってるじゃあ〜ないすか〜!」

と明らかなお世辞と茶化しで逃げた。

ロロローヴァがゼロを見上げながら追加で説明する。

「ゼロはほぼ武装の追加だけで済ませている。汎用性の高さを生かさない手はないからな。」

ゼロのスマートなボディは機動性の他に汎用性の高さも持っている。今回はその長所が上手く生かされた良い例である。普段は刀くらいしか武装がないゼロにとって色々と武装が付いているのは新鮮だった。

睦月は外装にほぼ変化がないトリニティを見て首を傾げていた。

「…本当に強化してもらえたの?」

「まあ、ほかの皆と比べればそう言う風に思うだろうな。」

トリニティは持ち前のバスターライフルの強化と動力である太陽炉の改良、トランザムと呼ばれる特殊システムの時間延長がされたが、逆に外装には殆ど手を加えられていなかった。

その会話を小耳に挟んだロロローヴァは

「中身はこの中で一番手を加えたね。特に太陽炉の改良には六人必要だったよ。」

と優しく伝えた。

それを聞いた睦月は今度は微笑んだ目でトリニティを見つめ、足元に近寄っていった。

 

そして…ルフスは他のメンバーが騒いでいるのを他所にフェンリルをじっと真剣な表情で見つめる。まるで、獲物を狙う獣の様に、ジッと見つめていた。

「…当日は…外すかもしれないな。アレ。」

ルフスにとって、周りの人々以上に大切な存在であるフェンリル。彼の傷はルフスの傷。彼の苦しみはルフスの苦しみ。そんな風に言い切れる程ルフスはフェンリルが大切だった。何も持っていなかった、誰も信じられなかったあの頃の自分にとって、フェンリルだけが心を許せた存在だったのだ。

そんなフェンリルを戦いで傷つけたくはないが、周りの人々を、果ては地球を守る為だ。今のうちに、この姿を目に焼き付けておこう。

そんな気持ちのルフスは何も言わず、ただずっと下からフェンリルの勇姿を見上げていた。フェンリルは他のメンバーの様に進化した自分の姿を褒めてもらいたいと言う気持ちもあったが、「これでいい」と彼もまた、何も言う事はなかった。

 

 

 

 

 

 

その日の晩飯は前回と違って厳粛な雰囲気だった。と言うのも、渓谷に調査に行って撃破されてしまった班員の弔いも兼ねていたからだ。

人間の葬式と違って遺影はないので、中東の人々と人機体は各々彼らの顔を思い浮かべ、別れを悲しんだ。

リベイクが食堂の皆に背を向ける様に渓谷の方向を見つめて言った。

「ジャック、バルザ、ジュース。お前達は…いつも三人一組だったな。馬鹿みたいにはしゃいで、飯も一緒に卓を囲んで、本当に楽しそうだったな。そんなお前達が…絆の深かったお前達が居なくなってから…ここは少し静かになっちまったよ。何処に居てもお前達の大声が聞こえて、イベントやら飯やらを盛り上げていた…お前達の声が………。今となっては恋しいよ。……だから、待ってろ。明日お前達に、奴らのひしゃげた死体を送ってやる。ここに…約束しよう。全員、黙祷!」

いつも活気に満ち溢れていた中東支部が、しばし沈黙を取り戻す。

ルフス達は訪問依頼始めての事だったのでその静かな支部がとても新鮮だった。聞こえてくるのは地下を突き抜ける巨大な通気口の吐く風と、人機体のパーツの擦れる金属音。

黙祷の後、静かに飯を喰い、明日の決戦に備えてそれぞれ床についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝六時。

中東支部の戦闘部隊は素早く起床し、朝食をとりつつ最終整備に入っていた。

整備班長のロロローヴァは班員を集め指示を送る。

「八時には出発するから全速力、且つキチッと作業してくれ!やる事はいつもと同じだ。しっかり二度確認するんだぞ!」

なお、ここで不備が発見され出発までに間に合わないとみられる人機体は置いていかれる。

パートナーの人機体を入念に確認する東南支部訪問メンバー。作戦中に不具合が発生しないようパートナーではない人機体もチェックをする。

ルフスは特にチェックが厳しかった。周りに整備員が5人もつき、リミッターガードの具合を見る。

「万能因子は昨日の夜から溜めときました。何度も言いますが、モビルアーマーとの直接戦闘は最長15分。接近するだけでも影響を受ける可能性がありますので出来るだけ離れて下さい。」

わかった。とリミッターガードのチェックを終えたルフスは朝食を取り始める。今日の朝飯はグリーンスムージーと卵焼き、白米。万能因子で作ったとはいえ、卵焼きは暖かいし、白米は歯応え水加減ともに良いし、スムージーは美味い。本物とそう変わらない味だ。

気がつけば周りの人々も朝食に入っていた。人機体はグリスウォッカくらいしか飲めないのが少し可愛そうに思うが、人間と違って食からエネルギーを摂取しなくてもいい所を羨ましくも思った。誰かと話そうかと思ったが各々忙しい様子だったのでコクピットで一人食べる事にした。

 

あっという間に時間は過ぎ、午前七時五十分。支部の天蓋の真下に集められた殲滅チーム。指揮を取るリベイクが人数確認を済ませ、挨拶をする。

「皆、おはよう。朝食はしっかり済ませたか?朝飯喰わねえと力出ないからな。…そんじゃ、改めて作戦の概要を説明するぞ。最初にアモンとソラが空中から奇襲を仕掛け、間髪入れずに主力部隊が渓谷上部から一斉攻撃を仕掛ける。流れの主導権をここで掴めるかが今後の作戦に大きく影響するからな。しっかり頼むぞ。尚、敵がオレ達を先に補足したかどうかは監視するアモン達からいち早く連絡が入る筈だ。戦況によっては渓谷に突入する前に攻撃しかけ、そこで分断をする事にしよう。一斉攻撃時はビーム兵器を使用する様に。これによって巻き上げられた粉塵で敵を分断した後、主力部隊を各個撃破に向かわせる。敵の人機体はこれで大丈夫だと思う。問題のモビルアーマーはパープル、アグラヴェイン、紅血、ゼロ、トリニティが足止め役だ。今回の作戦の半分はお前達に掛かっている。頼んだぞ。………他に、何かある奴は?」

全員は真剣な表情で沈黙を通す。リベイクの地理的戦術は攻守においても完璧な物だ。異論を述べる者はいない。

「よし…そろそろ時間だ。んじゃあお前ら!オレ達の剣と銃弾で、奴らを喰いちぎってやろうぜ!!!」

歓喜と団結の雄叫びが響く。倒れていった仲間の為に、大切な物を守るために。

彼らは天蓋を抜け、戦場へと向かった。

 

 

 

 

HCFBS08/METeam_Now,MECSoldiers,Go,Preparation,Battle,AndOur,CheckNow,TheTARGETHuman,AndMS

「ハイドコネクションフロムブラックナイトソルジャー08/中東部隊、戦闘準備。中東キャラバンの兵隊どもがそちらに向けて出動した。今しがた我々は件の人間と人機体を確認した。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こんにちは!
下がりつつあるモチベを上げるために鉄血また見始めたルシェラです。
あの、すごい申し訳ないのが前回の後書きでいかにも次回は戦闘です!みたいに言っておいたのにまたまた次回に持ち越してごめんなさい…。
次回はしっかり戦闘シーンあるので!あとエイミー達他のメンバーは次話以降に主に登場となります。気長に待っていて頂ければ幸いです。
それでは、また!

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機動戦士ガンダムプレデターズ 第十一話 禍福

渓谷まではそんなに時間はかからない。人機体の速度で行けば十五分程で到着する。

渓谷までは瓦礫の山が続き、瓦礫群を抜けると一気に渓谷が眼前へと広がる。

瓦礫群のスレスレを飛びながらルフス達はリベリオンが潜んでいると思われる渓谷内部のポイントへと向かっていった。

先にアモンらが先行して急襲をする予定なので、無理に急ぐ必要はない。

「アモンの空爆と同時に渓谷上部に浮上。その後各班に分かれて分断を開始するぞ。」

中東支部支部長のリベイクはいつになくゴツい装備に身を包み、作戦の段階を今一度知らせる。武装は現役時代に使っていた「ドレッドノート」と呼ばれる巨大なナックル型の装備。本来作戦を指揮する者は後方に控え指示をするのが普通だが、リベイクら中東支部はそんな型には囚われず、リーダーであるリベイクが直々に手を下しに行くのが普通だそうだ。

ジグザグの狭い通路を通ってリベリオンに探知されないギリギリの地点まで行き、仲間に戦闘の準備をさせる。

「もうすぐ空爆が開始する。早く準備しろ!」

戦闘に参加しない人機体達はサポート役として弾薬を運んだり通信を仲介したりする。

リベイクは通信係の人機体を呼んで専用の接続器につないで東南支部に通信する。

周波数を合わせ、ノイズ混じりに回線が繋がる。

「ご無沙汰しております。中東支部支部長のリベイクです。水野支部長でございますか?……あ、よかった。急な連絡で申し訳ないのですが…。」

何やら水野支部長に頼み事をしているようだったが、通信係の人機体はその時はあえて聞かないようにした。

その後通信が終わり、接続を解除する。

「何を話していたんですか?」

「んあ?ああ、今回は東南支部から来ているメンバーが居るだろ?普通訪問先で戦闘に参加させる時はいちいち許可なんぞ取らないっていうシステムっつーかルールみたいになってんだが…何かあったらと思ってな。リベリオンの小隊相手ならまだしもモビルアーマーが居るとなっちゃあ話は別だからな。黙ってて帰ってきたのが残骸なんて事になったら大問題だろ?ついでにもしもの時は救難信号を受け取ってもらえるように頼んでもおいたから、何かあれば時間は掛かるがすっ飛んで来てくれるそうだ。」

因みに救難要請の場合支部訪問の様な隠密行動はせず最短最速で駆けつけるのが暗黙の了解となっている。

通信をしている間に戦闘の配置は終了していたようで、アグラヴェインが配置完了の報告に来た。

「戦闘班、サポート班共に準備完了。指示があれば各班すぐにでも配置に付けます。今の所リベリオンにも察知はされていない様です。」

よし、と無線通信でアモンに搭乗しているソラに連絡をしようとした、その瞬間

「こちらソラ!!地上部隊、至急その場から離脱せよ!!繰り返す、至急離脱せよ!!」

先にソラから連絡が入るが、それは空爆開始の知らせではなく、危険を知らせる物だった。

どう言う事だと聞き返す間もなくソラは続ける。

「大至急離脱して下さい!!モビルアーマーらしき奴の砲塔が完全に地上部隊の方向に向いています!!」

「全員散らばれ!!左右に分かれろ!!」

リベイクは咄嗟に叫び、兵をその場から離脱させる。

すると正面の渓谷…いや、蛇行する通路の暗い奥底から真っ白な壁の様な物が甲高い音と共にルフス達目掛けて突っ込んできた。

ワンテンポ回避に遅れた味方機が岩壁を貫通してきた粒子ビームに溶かされていき、完全に焼失した。

モビルアーマーが撃ったと思しき粒子ビームは左右に分断された地上部隊の間に堀を掘る様に軌道を下に下げていく。大規模なエネルギー波と熱線で瓦礫がまるで羽毛の様に軽々と舞い、彼らの視界を奪っていく。

しばし照射が続き、終わった頃には大地に深々と切り込みが入っていた。切り込みの中にはまだ熱を持った地面が赤く火照っている。

撃ってきた方向を見ると、粉塵と煙の先には巨大な影が映っていた。

「あいつがッ…………!!モビルアーマァァァ!!!!」

溶けていった仲間を間近に見ていた人機体達が怒りの形相で武器を構える。

普通なら仲間を目の前で殺されて冷静になれる奴はそうそういない。ましてや中東支部の人機体の事だ。鉄と血によって仲間の仇を討とうとする彼らが黙っていられる筈がなかった。

しかしリベイクはこんな状況でも冷静に判断を下す。

「やめろ!!今ぶつけるべきは怒りではない。銃弾の雨と刃の嵐だ!!残っている奴は近くの仲間と共に渓谷の上部に行け。アモンの空爆とタイミングを合わせるんだ!」

歯軋りでもするようにギギギと鈍い金属音を立てつつも周りの人機体達は上へと向かっていく。リベイクはすぐに上空にいるアモンに空爆を命じる。

「アモン、ソラ、聞こえるか?今地上部隊が予定通り配置につこうとしている。お前らは先に空爆をしてくれ!」

了解、の声と共に爆撃が始まる。益々粉塵が舞い上がるが、上に張らせていたアモンのおかげでリベリオンの人機体の位置は割り出せている。

リベイクもドレッドノートの拳を合わせ、戦う覚悟を決める。

「サポート班!渓谷上部に移動しろ!但し戦闘区域に近づき過ぎるなよ。」

と、リベイクはバックパックにつけていた巨大なハンマーを片手に、モビルアーマーが岩壁に開けた穴へと飛び立って行った。

「あれ程の粒子ビームを発射するんだ。装填にはそれ相応の時間がかかる筈…!」

 

ルフスはモビルアーマーの接近を避けるため、退路に使用されると思われる渓谷の後方に向かった。そばには何人か中東支部の人機体もいる。

上から進んでいくとリベリオン達の姿が見えた。アモンの空爆と地上部隊の攻撃に晒されているのにも関わらず彼らは上手い具合に銃撃を避けていた。

ルフス達は通りすがりに援護射撃をしつつ退路方面へと向かった。

必死なライフとは対照的にリベリオンの部隊は事前に来たブラックナイトの連絡のお陰でこんな状況でも冷静さを保っていた。敵の動きや配置はブラックナイトがアモンよりも遥か上空で常時教えてくれるので、焦ることはない。

班長のアステロスタは銃弾を防ぎつつ、周りに指示を出す。

「ここまでは予定通りだ!戦闘開始と同時に本部からも増援が向かっている。ライフ共の殲滅も大事だが、オレ達はターゲットの確保が最優先だ…ガヲレンゾ、上の邪魔な奴らを消せ。」

とガヲレンゾのバックパックからシザービットが飛び出し、ライフの人機体目掛けて不規則に移動しながら切り裂いていく。避ける者やられる者はいれど、これで攻撃の手はある程度緩まるはずだ。

アステロスタはメンバーを自分の周りに呼び、円陣を組む様にして反撃する。

シザービットに気を取られているライフの人機体へと続け様に銃撃を仕掛ける。シザービットから生き延びた人機体も次々とやられていく。

「よし、このまま現区域を離脱しつつターゲットを…」

と言った瞬間、

「逃すかあああああァァァ!!!!!」

粉塵と岩壁の穴の奥からリベイクが背中のサブアームに持たせたライフルで牽制しつつ巨大なハンマーを振り上げて突進して来た。銃撃を防いでいるせいで周りのリベリオン兵はその場から動けなくなってしまう。

リベイクが振りかぶった先にはガヲレンゾの頭部。それ目掛けて全力で振り下ろすが、直撃する寸前に散っていたシザービットが集まり、リベイク目掛けて突進をする。一瞬とは言え気を取られたリベイクは的を外してしまい、それと同時にすれ違い様にシザービットに浅く斬られてしまう。

「あぁ?!!ふざけんな畜生!!」

振り下ろされたハンマーは空を切り、乾いた大地に叩き落とされる。

形勢逆転。敵陣のど真ん中へと躍り出たリベイクに無数の銃口が向けられる。

やられる!と思った瞬間、リベイクが通って来た穴から粒子ビームが飛び出し、密集したリベリオン達に突っ込む。前の僚機が壁になっていて見通しが悪かったせいで逃げ遅れた二機が撃ち抜かれ爆散する。

「アグラ!ナイスだ!」

穴の向こう側には対艦ビームランチャーを構えたアグラヴェインの姿。すぐ様ランチャーを収納して専用のダブルサーベルを持ち、リベイクの援護に周る。

アステロスタは今一度部隊にターゲットの確保を優先するよう命令し、自分とガヲレンゾだけでここは食い止める事にした。

上にいた中東支部の人機体は確保に向かわせた仲間を追尾していった様だ。恐らくターゲットの確保が本命とは気付いておらず、ただ単に逃げた様に見えたから追っているだけであろう。

「二対二…フェアな戦い方じゃないか。いつからそんなクリーンに戦おうなんて思ったんだ?いや…それとも、腰でも抜けたかぁ?」

話に聞いていた中東支部もこんなもんかと高笑いのアステロスタにリベイクは返す。

「フフフ……アハハハハハ!!そういうお前たちリベリオンも、いつからオレ達がいい子になったと思ってるんだ?」

その台詞と同時に崖の上からステルスマントに身を包んだゼロとトリニティ、紅血とパープルが一斉に斬りかかる。アステロスタはゼロとトリニティの斬撃をバスターソードでまとめてガードする。ガヲレンゾは攻撃を防ぐ前に紅血とパープルを撃墜しようとシザービットとビームライフルを駆使するが一瞬紅血達の回避の方が早く、砲身を上に向けていたガヲレンゾの下部がガラ空きになる。

上を向いた事により関節部が丸見えとなり、すかさずそこへ二機は攻撃する。丁度膝関節をやられたガヲレンゾは踏ん張ることが出来ず、武装重量と慣性で体制を崩して尻持ちをつく。

アステロスタは援護にまわろうとするもゼロとトリニティに邪魔され、攻撃を避けている内にガヲレンゾから徐々に遠ざかっていってしまう。

「こいつらっ…!なるほど…計算済みだったと言うことか…。」

曲がりなりにではあるが当初リベイクが目論んでいたリベリオンの分断には見事成功している。

「なめるなぁぁぁ!!!」

と、アステロスタの脚部ブースターが出力を上げ、ゼロ達に粉塵の目潰しを繰り出す。直後左腕が変形し、クロー形状となる。加えてシールドに付けられたサブナックルの手も鋭い指を開き、装甲が薄そうなゼロを手始めに切り裂こうとする。

視界を奪われたゼロはなんとか刀で防ぐが、サブナックルに掴まれてしまう。アステロスタは右手のバスターソードのライフルモードでトリニティを牽制しつつ、左腕でゼロを左右に揺さぶり、腹部へとブースターで加速した蹴りをお見舞いする。

機械であるゼロは痛覚はないが、搭乗しているホムラは衝撃をモロに受ける。コクピットの座席から放り出されそうになるがなんとか踏ん張る。日頃のトレーニングがここで生かさせる事になるとは本人も思わなかっただろう。押し付けた身体に衝撃が加わった為あちこちに鈍痛を感じるが、痛がっている暇はない。再びスクリーンに目をやり、トリニティの加勢へと向かう。

 

膝関節を破壊された事で地の利を失ったガヲレンゾは脚部を飛行形態にして浮遊しつつ戦闘をしていた。シザービットとライフルを巧みに操り紅血のメイスをへし折りパープルの右腕を飛ばす。

攻勢に出られた二機は一旦距離を取るがそれが仇となり、ガヲレンゾの粒子ビームのチャージ時間を一瞬ではあるが稼ぐ事になってしまう。この場合距離と照射時間が減る代わりに速射性は増すのでガヲレンゾにとっては好都合だった。

狭い事が追い討ちをかけ二機は回避しきれず、彼らは更にダメージを負ってしまう。

紅血とパープルはブースターで逃げ切ろうとするが、今度はシザービットが拘束具の様に彼らを岩壁に固定する。そして岩壁に向かって再度粒子ビームを発射しようとチャージをしているその時、

二機に気を取られていたガヲレンゾの背後から飛び込んできたリベイクのハンマーが、ランチャーの砲塔へ物凄い勢いで振り下ろされた。

金属と金属がぶつかった時の鈍い音が響き渡る。

既に粒子ビームは発射状態に入っておりキャンセルは出来なく、見事折れた砲身を通って発射された。

銃の暴発と同じ原理で強大な粒子ビームがガヲレンゾの内部に逆流してくる。大音量の悲鳴を上げながらまるで熱いスープを口に含んだ時の幼児の様にバタバタともがく。

リベイクは今度こそ逃すまいとハンマーの柄に再び力を込める。

そしてハンマーに内蔵されているブースターをフル出力状態にし、遠心力も上乗せして頭部に叩きつけた。

最早金属の悲鳴とも言える鈍く大きい音が辺りに響き渡る。叩きつけた音を聞いたアステロスタは急いで援護に向かおうとする。

しかしアステロスタはガヲレンゾに背を向ける様にして戦っており、振り向き様に鍔迫り合いとなっていたゼロをバスターソードで引き剥がして向かおうとするが、振り返った先には…

「やっぱり助けに行くと思ったよ。まんまと引っかかったなぁ!」

眼前にはトリニティのバスターライフルの銃口が待っていた。

中東支部で改良を施されたバスターライフルはチャージから発射までのタイムラグがかなり減少されていたお陰でアステロスタに回避される事はなく、見事命中させる事が出来た。

顔面に大口径粒子ビームを食らったアステロスタはビームの勢いとエネルギー量であっという間に融解した。

照射を終えたトリニティは吹っ飛ばされて倒れているゼロに手を差し伸べ、引っ張って地面から起こしてあげる。

「大丈夫か?」

「なんとか。装甲や関節の強化に助けられたよ。」

二機は紅血とパープルを貼り付けにしているシザービットを破壊して助け、上にいるサポート係の人機体が持つカーゴへと載せて中東支部へ搬送させた。

そして息つく間もなくリベイクの加勢に向かう。現場に到着すると、モビルアーマーの攻撃を食らったのか左腕が肩からなくなったリベイクと、ハンマーで何回も殴られたのかひしゃげたボディのモビルアーマーが粉塵を巻き上げて戦っているのが目に入った。

戦いながらリベイクはトリニティを渓谷の上に向かわせ、ゼロに加勢するよう指示した。リベイクとゼロが引きつけている間にトリニティのバスターライフルをチャージさせ、隙を見て上から粒子ビームを浴びせる算段だ。

ガヲレンゾはリベイクの大振りな攻撃に慣れきっていたせいかちょこまかと動くゼロに度々翻弄され、攻撃のペースを見失ってしまう。そこへリベイクのハンマーが飛んできたり、ゼロの刀が関節部を切り裂いたりと次々に攻撃を食らわせる。

いよいよ耐久力が限界を尽き、動きが鈍くなったガヲレンゾ。そこにチャージが完了したバスターライフルが再び火を吹く。

首の関節部に向かって粒子ビームは真っ直ぐ進んでいき、見事装甲と関節の隙間に命中する。いかに頑丈な身体を持っていても内蔵は頑丈に出来ないのと同じ様に、ガヲレンゾの関節部は呆気なく粒子ビームに溶かされ頭部ごと消失する。

モビルアーマーは完全に機能停止となり、沈黙。やっとの事で仇をとったリベイクは達成感とダメージからその場に座り込む。

ゼロとトリニティも限界まで戦っていたリベイク並みに疲弊していたが、この場に留まっていてはまだ危険と判断し、サポート係に退路方面へ向かったルフス達の方へカーゴで移動させてもらった。

戦いすぎたリベイクは疲労からカーゴに乗るとすぐにサポート係の修理を受けた。

ゼロとトリニティは現場到着までの数分の中で雑談する。

「なんとか…倒したな。」

「撃ちまくったせいでライフルが熱で物凄く熱い。チャージ時間の短縮を過信しすぎたかも。」

「どれどれ…あっつ!よくオーバーヒートしなかったな………あとさ、よく見ると……残骸、あちこちに散乱してんな…。」

周りにはリベリオンにやられたと思しき人機体の残骸が至る所に散らばっていた。

「…また…弔わないとな。散って行った仲間の分まで、オレ達は生きないとな…。そう言えばルフス達の退路方面はどうなったかな…。」

「特に目立った連絡は来てないが……まだ向こう側では戦闘音がしている。まだ戦っているんじゃ…。」

たしかに退路方面では爆発や衝撃が起こっている。上空には空爆中のアモンが地上からの銃撃をよけつつ華麗に飛んでいるのが見える。

「リベイクさんはカーゴで安静にしていて下さい。僕達は先に向かいます。」

リベイクは反論しようとするが修理真っ只中では勝手に動けず、心持ち燻りながら飛び立つ彼等を見送った。

 

 

 

 

 

 

その頃

 

 

 

 

 

 

激戦地帯の真上からは、オネエのモビルアーマーと無数のワンダが成層圏から降下していた。

 




こんにちはっ!
忙しすぎて全く投稿出来ていなかったルシェラです。
モビルアーマー戦…始まりました!
次回も戦闘の続きからです。他のキャラクターはそれ以降になってしまうけど…もう少しの辛抱…ごめん!
それではまたー(*´ω`*)

機体、キャラクター投稿希望は不定期ではありますがたまに募集しています。
作品に関する事や関係者の方々への質問は受け付けていないのでよろしくお願いします。


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機動戦士ガンダムプレデターズ 第十二話 阿頼耶識

退路方面は中東支部の残存兵とアモンの空爆もあってそんなに手こずる事はなかった。加えてモビルアーマーとの分断により、地の利と数の多さを生かして上手く兵を展開する事に成功して効率よく戦いを進められた。

最初はターゲット(ルフス)を確保するべく動いていたリベリオンも多勢に無勢で、ルフスの確保以前に自分達がやられる事を悟り、必死に抵抗するのがやっとの状況だった。

しばらくは生き残っていたが、段々とすり潰されていき、最終的にアモンの空爆で沈黙した。

急いで駆けつけた睦月とホムラだったが、着いた頃には粗方片付いており加勢する程ではなかった。

 

程なくして戦闘は終了し、サポート係が敵味方問わず辺りに散らばった破片を回収し始めた。味方の人機体は弔い用に、リベリオンは使えるものだけ外して後は予備パーツなどにまわすのだが…

「こりゃひでえな…再利用できるか分からんぞ…」

退路方面のリベリオンは殆どがフェンリルのドリルランスに豪快に貫かれていたり、巨大なネイルハンドで装甲が情けなくひしゃげられていたりと、再利用以前に目視で「廃棄だろ」と言えるくらいに損傷が目立っていた。

カーゴで応急処置が終わったリベイクは谷底に降りると、サポート係が処理に困っていたリベリオンの亡骸を確認する。

「こりゃあ派手にやったなあ。見ろ、モビルスーツで一番頑丈にされている胴体が、ホレ、見事に貫かれてらぁ。向こう側の景色が見えるぜ…。」

リベイクは無残にやられたリベリオンを弄りながらルフス対して畏怖の念を抱いて苦笑いした。

「その内喧嘩したらこうなると思うと、ゾッとするぜ。」

周りがどっと沸く。

フェンリルはその荒々しい戦闘スタイルもあってか他の人機体よりも傷が多かった。パートナーのルフスは傷がついた事は悲しんでいたが、大きく破損しなかったのとリミッターを解除するハメにならなかっただけ良かったと微笑んで見せた。

リベイクは残った兵とサポート係を招集して残骸の回収と兵達の応急処置を急がせた。

因みにアグラヴェインとパープルは損傷が酷かった事、戦闘中の応急処置を受ける為に戦闘区域をかなり離れていた事により招集は受けなかった。

程なくして残骸の回収も目処がついてきた。

今回作戦に参加した人機体は中東支部で20機。その中で戦闘に参加した人機体が12機で、その内の6機がやられていた。

その6機の内、殆どがモビルアーマーのシザービットで切り裂かれていた。幸いモビルアーマーは砲身と頭部以外は何とか再利用出来そうなので、シザービットも上手くいけば新たな兵器に出来るかも知れない。

訪問チームの人間は誰一人欠ける事なく帰還した。人機体も大なり小なり傷はあれども機械的な「命」に別状はなさそうだ。

作業が終了すると、リベイクは全員を集合させた。

「…まずは…皆、ご苦労だった。皆の働きがなければモビルアーマーも倒す事は出来なかっただろう…。散っていった仲間は後で弔ってやろう。……通信係!水野支部長に繋げ。班員は全員無事だってな。」

 

東南支部支部長の水野瞬は通信が来た瞬間回線を繋げ、ルフス達の身を案じていたレオディルや支部の人達に聞こえるようスピーカーをオンにして報告を聞いた。

「…私だ……訃報か、朗報か?」

「メンバー、人機体ともに全員無事です!ご心配をおかけしました…。」

無事を伝える通信が入った途端東南支部では安堵と歓喜の声が響いた。

水野支部長は受話器越しに安堵のため息を吐くと、リベイクにお礼を伝えて回線を切った。

報告中にパーツ回収や各機の応急処置も粗方片付き、リベイクは全機に撤収を指示した。

 

 

 

 

 

 

「お、奴らは撤退を始めたようじゃなー。」

「あらぁ、まだまだ時間は残っていると言うのに、冷たいオトコ達ねえ。」

「まあ、仕方なかろ。地上部隊のお陰で疲弊しきっておるからなあ。…ちゃんとやってくれるんだろうな?今回はあのガキを捕獲する事が最優先だからな。」

「勿論よ〜。狙った男は逃がした事はないからねえ。」

 

渓谷の真上、高度3000m付近から参謀班副班長のアスターと、モビルアーマーメガロバスターが、配下に試作型のワンダ10機を引き連れてルフス達の元へと降下していた。

事前にブラックナイト隊から受け取った情報によると、敵部隊は先の戦闘でかなり消耗しているようだ。この機会を逃せば奴らは警戒を強化してしまい、確保が難しくなる。

「今回は試作とは言え、次期主力人機体を10機も付けてくれたんだ。失敗は許されんぞ。」

わかってるわかってると生返事を返したメガロバスターは、スラスターを細かく吹かしながら空中に浮遊する。自由落下中のアスターとワンダ達はルフス達地上部隊を取り囲む様に軌道を変えながら落ちていく。

メガロバスターはランチャーのエネルギー充填を確認すると、

「ファーストキスよッッ!受け取りなさいッッ!!!」

と地表に向けて発射した。

 

 

 

 

轟音、いやそれ以上の破壊音と強烈な光がまるで核爆発の瞬間かの如く地上のルフス達の前に落ちた。

高エネルギー反応を察知し報告したアモンだが撤収は班ごと分かれていた事、度重なる戦闘で疲弊しきっていた事が彼らの命運を分けた。

光線はフェンリルの周りを堀でも作るかの如く一瞬した。フェンリルは撤退郡のかなり後方に居たが、それでも傍にいた中東支部の人機体達が一瞬で蒸発し、直後粉塵に飲み込まれて行く。

巻き上げられた土砂はまるで間欠泉の様に空に舞うと、日光をみるみる遮って行った。

 

メガロバスターは粉塵の中に蹲るフェンリルを捉えると粉塵の傍に急降下し、視界を奪われたフェンリルに巨大なマニピュレーターで掴みかかる。ガンダムフレーム搭載機の特徴でもある剥き出しの内部フレームを器用に掴み、動きの自由を奪う。

「さて、いい声で鳴いてねぇ〜!」

直後、マニピュレーターから電流が流れる。

掴まれていたフェンリルと阿頼耶識接続の真っ最中のルフスは悶える。

「ぐぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

背中のピアス(接続機)から電撃が漏れ、脳に針で何回も刺される様な激痛が走る。

「エグナーウィップ。SMプレイにはもってこいのオモチャね。」

ねっとりした声でその後も電撃を食らわせ続けるメガロバスター。

撤退郡は後方の惨劇の最中、重症機は急いで中東支部に戻らせ、戦闘可能な人機体をまとめて粉塵の中に突っ込もうとすると、

「未確認の人機体とリベリオンの人機体が多数降下して来ます!」

 

見上げると、妖艶な姿の人機体を中央に今までに見た事がない人機体が十機も降りてきているではないか。

「なんだアイツらは?!」

「見た事ねぇぞ!」

「こりゃあ本気でヤバいぞ…」

疲弊しきっていた彼らには物量以前にメンタルダメージの方が強く、普段なら臆することなく立ち向かっていく中東支部の人機体やルフスの仲間達も、今回ばかりは歩みを止めてしまった。

ワンダ部隊は愕然とする彼らを取り囲み、武器を捨てる様に要求した。

「直チニ武装解除セヨ。応ジレバ破壊シナイ。」

一機の人機体が警告を無視して銃を構えようとすると、浮遊していたアスターがビームを照射し、構えた銃が溶けていく。

「今度は貴方自身がそうなる番よ〜。」

そのやり取りを間近にした周りの人機体達は武装解除し、後頭部に手を組まされた。

「何が目的だ!!」

ホムラがゼロ越しにアスター達に問いかける。

「別に貴方達に様はないのよ。本命はあっち。」

と粉塵の中でエグナーウィップの電撃に悶えるフェンリルを指さす。

「フェンリル……ルフスをどうするつもりだ!!」

と問いかけた瞬間ワンダから銃弾を浴びせられる。

「貴方達は知らなくていい事よ。っていい加減もう良さげじゃないの?」

とうとう悶える事すら出来なくなったフェンリルはツインアイも光を失い、完全に機能停止状態となっていた。

「耐性確認って事だったけど、先にイッちゃったみたいねぇ〜。」

阿頼耶識のリミッター解除をさせるのが目的だったが、その前にルフスが気を失った様だ。

「とりあえずお持ち帰りね〜!!アスター、統制機(リーダー)に報告。耐性確認は取れなかったが、対象は確保した、とね。」

アスターは一回ブラックナイト隊に繋いで報告し、フォールンに伝える様指示を終えた。

 

助けたくても助けられない。目の前で仲間が連れ去られてしまう。

「おいルフス!!!寝てんじゃねえよ早く起きろ!!!」

何とか声を上げてルフスを目覚めさせようとする睦月の叫びも虚しく、メガロバスターはフェンリルを抱えたまま、その場を離れていく。ワンダ部隊は十を構えたままゆっくりと離れて行く。

「疲れ切っているとこうも簡単に堕ちちゃうなんて、つまらない子ね。」

とメガロバスターは電流をストップさせ、再び上昇していく。

みるみる小さくなっていくメガロバスターを見送りながらホムラは悲痛な叫びを上げる。

 

「ルフスーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




こんにちは(´∇`)最近リアルが忙しすぎて全く書けませんでした、、、。
ブランクのせいか文字数も多分過去最小だと思いますがゆっくり読んで頂けたら幸いです……!

ルフス、ホムラの叫びに気付け!!!


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機動戦士ガンダムプレデターズ 第十三話 オールグリーン

 

フェンリルを抱えたメガロバスターが小さくなって行き、ワンダ部隊とアスターが背を向けて空に消え始めた。

疲弊してたとは言え、目の前で仲間が連れ去られていくのをただ見ることしか出来なかった自分の不甲斐なさにキャラバンのメンバー、中東支部人機体達は悔しさと同時に自分への怒りを覚えていた。

そして段々ゲテモノのトゲトゲした姿が点になってゆく空を見つめていると、

 

その点が急降下を始めた。

 

傍にいたアモンにゼロが確認を取らせる。

「偵察用の広範囲レーダーとお前の目なら状況が分かる筈だ!」

「待て、今投影する。」

アモンのツインアイから、まるでプロジェクターの様な光が溢れると、そこに偵察用のカメラアイから映し出された映像が再生された。

映像にはメガロバスターとフェンリルが空中で取っ組み合い、絡まる様にして落下している光景が映し出されていた。最初、この映像を見た一同は(メガロバスターがフェンリルを押さえつけている)と解釈した。

 

しかし実際はその逆で、(フェンリルがメガロバスターに取っ組みかかっていた)のであった。

 

「なによこの子?!急に発情しやがってええ!!!」

なんとかフェンリルを拘束しようとするメガロバスターの腕にフェンリルの蹴りが入り、ヒットした踵部分からパイルバンカーが飛び出す。

「いってええええええええ!!!!!!」

丁度人間で言えば腕と上腕二頭の位置をパイルバンカーは貫いており、かえしが引っかかって曲げた状態で腕が固定されてしまっている。そうしてある程度の自由を奪ったフェンリルはメガロバスターの背中に回り込むとボディと首の接合部に巨大なネイルハンドの爪をねじ込んだ。

「舐めんじゃないわよこのクソガキィィィ!!!!!」

配線やらパーツやらが接合部から飛び散りつつもメガロバスターは体勢を返し、地面にフェンリルを叩きつける向きで落下する。直後、砂漠のど真ん中に落下。質量ではメガロバスターの方が上なので落下時の衝撃と重さで潰してやろうと言う算段だったが、逆に状況を悪化させてしまった。項の位置に爪をねじ込んでいたフェンリルが叩きつけられた事により、逆に深く爪が食い込む事になってしまったのだ。痛覚は感じないが、『確実にまずい』、『生物で言う所の死ぬ』と言う思考が回路を過ぎり、メガロバスターは半ばパニックに陥る。

「ヤバい!ヤバい!ヤバい!このままじゃイっちゃう!」

パニックになりながらも叩きつけてひしゃげたであろうフェンリルの姿を確認しようとするが、落下時の衝撃で爪が食い込んだ直後に衝撃で激突時に互いに吹っ飛んだのを思い出し、周りを見渡す。

フェンリル自体は近くに居て、疲弊もしていた。あれだけの戦いをして来た上でさっきまで鹵獲されていたのだ。それにしても、でも、それにしても、

「なんであんた全然壊れてないのよぉ?!!!」

恐らく着地の寸前……地面とおネエにサンドイッチになる面積を少なくしたのだろう。メガロバスター本体は四肢こそ長大ではあるが、メインボディは以外とモビルアーマーの中でもスリム。加えて項の辺りとなると、意外と逃げやすいのかも知れない。

とパニック渦の中で自己分析をした。

質量が大きい分落下時の衝撃も大きかったメガロバスターは見掛け上のダメージはそれ程でも無かったが、内部の機器類がかなりやられていた。元々精巧且つ巨大に造られたモビルアーマーだ。それは仕方ない。

「お客様とて許せん!」

とどこかの女将を彷彿とさせる台詞を吐き、怒り心頭のメガロバスターに対するフェンリルも何やら様子がおかしい。下顎が開いたかと思うとそこから蒸気を発し、ツインアイは万緑から深紅へと染まって閃光を迸らせる。獣の様に四つん這いの様な深く項垂れた姿勢をとる。コクピットからカメラ越しにメガロバスターを見つめたルフスは

 

「ギーギー五月蝿えんだよ。」

 

フェンリルが飛びかかり、直後メガロバスターも飛ぶ。

初手、メガロバスターの長大なアームがフェンリルを捕らえようとする。しかしこれを読んでいたかの様にフェンリルは身をくねらせ魔の手をすり抜ける。一気に無防備になった顔面へ渾身の殴打を繰り返す。対してメガロバスターは背部からファンネルを総射出して一斉にビームを浴びせる。

どうやらファンネルは十八番だったらしく、

「さっさと溶けちゃいなさいよ!!!!!」

と自信満々に仕掛けてきたが、ガンダムフレームであり、ナノラミネートアーマーを標準装備するフェンリルには効くはずもなかった。

「ずるいわよそんなの!!!!!!」

と言ってる内にどんどんメガロバスターの走行を剥がし、殴り、破壊していくフェンリル。加えて無意味となったファンネルを掴み、装甲と装甲の狭い隙間に握りながら押し込んでいく。挟まれたファンネルは爆発し、それと同時にメガロバスターの関節部も巻き添えにしていく。このまま押し切るかと思われたが、

「貴様ァァァァ!!!!!」

と応援に駆けつけたアスターとワンダ部隊がフェンリルに攻撃を仕掛ける。

フェンリルは柔アスターらを見ると無数の弾丸とゲロビを獣の様に交わしていく。

手始めに傍にいたワンダの脇腹にネイルハンドを突っ込み胴体内部を破壊しながら持ち上げる。最初は抵抗していたワンダだったが内部のコンピュータ類が壊れた事で骸と化した。フェンリルはそのままワンダを振りかざし、次いで他のワンダ達に叩きつけ、振り回すことで質量武器にした。ワンダ達を迎撃に向かわせアスターは瀕死のメガロバスターのクラウドボックス(言わば脳の様な物。ここが無事であれば死んだと言う事にはならない。)を回収しようとするが、先の戦いでフレームが内部からひしゃげているせいでハッチが開かずモタモタする。

「妾の細い指と出力じゃ開けるのは至難の技ぞ!!」

「早くしなさいよアンタ!!」

「黙れ!!集中出来ないわ!!」

とやいのやいのとやっている間にフェンリルはワンダ部隊を惨殺していく。

あるワンダは屈強な脚部に蹴られ、またあるワンダは頭部を頚椎部ごと引きちぎられ、またあるワンダは……と惨い有様であった。それでも残ったワンダ達はマシンガンを連射してフェンリルを足止めしようとする。しかしフェンリルは弾丸を喰らいながら止まることなく飛びかかっていく。

一機のワンダをリンチにしている間に他のワンダがフェンリルの左腕を肩ごとビームサーベルで切り裂く。痛みに叫ぶ様に咆哮するフェンリルだったが、すぐ様そのワンダを鷲掴むと左足で頭部を踏みつけ、右腕でバインダーの辺りを持って引きちぎった。残った残骸をもたつくアスターに思いっきり投げつける。それを華麗な動きで交わし、宙へと舞い上がるアスター。

「貴様の汚い攻撃なぞ、妾には届かんわ!」

すかさずフェンリルはグレイプニールを射出しアスターを捉えようとする。しかしアスターの蝶のような機動力に交わされ、逆にワイヤーをヒートブレードで切られてしまう。高度を下げて攻撃を誘うアスターにフェンリルは思いっ切り飛びかかるが待ってましたと言わんばかりに交わされ、あらわになった関節部を的確に斬られる。体制が崩れそうになるのを必死で抑えるルフス。

「…………おい……逃げてんじゃねえよ。」

フェンリルのスピーカーからノイズ混じりに流れるルフスの声に

「ふふっ!獣の風情がほざいておるわ。」

と小馬鹿にするアスター。

「兵士の敵とメガロの分だ!受け取れ!」

と高度を上げながらビームランチャーのエネルギーを充填するアスター。チャージ中の無防備なアスターにスラスターを全開で吹かし急接近するフェンリル。その右手がアスターを捉える寸前、

「ハッハッハ!!騙されおったな!!」

とチャージを辞めてヒートブレードを振り上げる。しかしルフスは動じる事無く、逆にヒートブレードの刀身部をネイルハンドで掴み握りつぶした。ナノラミネートアーマーに包まれたフェンリル基ガンダムフレームでなければ出来ない芸当だ。

驚愕するアスターの胴に足を絡ませメガロバスターの時の様に振り落とそうとする。モビルアーマーより取っ組み安いせいか呆気なく自由を奪われて地面に向けて加速するフェンリル。激突する寸前にアスターを落としていく、と言うよりかは最早投げつける感じではあったが。

 

 

一連の様子を遠目から見ていたキャラバン組と中東支部人機体達はすぐ様援護に向かう準備を始め、数機がもうすぐ現場に到着しようとしていた。そこには無惨に倒れたモビルアーマーと殆どが原形不明のワンダの残骸、横たわるアスター、そして傷だらけのフェンリル。駆けつけたメンバーの中に居たトリニティは現場の凄惨さに畏れを覚えた。

無線で睦月はルフスに連絡をとる。暫くして回線がつながり、ルフスの声が聞こえてくる。どうやらモニター様のカメラが壊れているせいで音声のみだった。

「ル、ルフス?大丈夫か?」

「……わかんない。ただ、頭が痛い。」

「負傷したのか?!もうすぐ私達も着く、それまで耐えて―――」

会話をトリニティが遮る。

「おい!モビルアーマーが!」

メガロバスターが最後の力を振り絞らんと巨大な砲身をルフスの背中に向けていた。背を向けているルフスは気付いていない。

「ルフス!!モビルアーマーが!!」

と言いつつ咄嗟に睦月は持ってきたフェンリルが連れ去られる際に落としたドリルランスをフェンリルの元へ加速しながら投げつける。フェンリルがそれを手に取ると同時にメガロバスターがフェンリルを捕まえようと飛びかかる。ルフスは振り向き様に槍の先端を銃口に向けてドリルランスのダインスレイブ 発射口とシールドブースターに内蔵された新装備、バンカーレールを接続する。

飛び付かれ全身を固定されたフェンリルはドリルランスを銃口に突っ込み、先端部を回転させる。奥でもみくちゃになってランスが固定されると、砲身の生え際、ボディの上にある頭部にダインスレイブ発射口を向ける。

 

「…………しつこいんだよ、お前。」

 

ガーーーーーン!!!

と言う轟音と共に一瞬眩しくなる。刹那、メガロバスターの頭部に風穴が空く。続けてルフスは容赦なくダインスレイブを撃ち込んでいく。轟音と共に撃ち込まれたメガロバスターの身体がピクピクと跳ねる。全弾を撃ち終えたフェンリルにもたれながら恐怖のモビルアーマーは活動を停止した。

邪魔だとでも言う風に覆い被さる鉄の塊をどかし立ち上がろうとするフェンリルだが、機体へのダメージが溜まりすぎたのか、関節部から火が上がり膝をつく。倒れる上半身を支える様に右腕を地面に着く。

援護に駆けつけた人機体達は辛うじて生きているアスターを無力化し、メガロバスターの残骸を確認しつつ、周りを包囲する。トリニティのコクピットハッチが開き、睦月がフェンリルのコクピットハッチを開けようとトリニティの手のひらに乗ってハッチに行く。

「ルフス、大丈夫か!!ハッチは開けられるか?」

すると放熱時のプスーーっという音と共にコクピットとルフスの姿が顕になる。蒸気に紛れて、そこには真っ赤な「何か」に絡みつかれたルフスの姿があった。

ブロックノイズ混じりのモニターには、

 

「Defeat the enemy.Mission complete.」

 

「満身創痍で何言ってんだよ。」

睦月はアモンに状況の連絡をした。




お久しぶりです!
中東支部編も後半(?)になって来ましたね!
モビルアーマー戦は書いてて楽しかったです。次回以降は暫く戦闘は少なめになるかな……?

次回もよろしくお願いします✋


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機動戦士ガンダムプレデターズ 第十四話 転生

中東支部での戦闘から早一週間。キャラバン組は東南支部に無事到着し、暫し休暇を与えられた。

中東支部の施設自体は人機体達の活躍もあってそれ程被害を受けなかったが、殆どの所属人機体がその活動を停止した。中東支部近辺に潜んでいたリベリオンの人機体とワンダ、モビルアーマーの残骸は中東支部が再利用し、鹵獲したアスターはクラウドボックスを機体から回収して東南支部にて保存、解析をする事となった。

キャラバン組の人機体は帰還直後から早速修理が開始され、4日後には全快した。しかし、

「ルフスは、いつ治るんですか?」

入院患者がよく来ている様な服に身を包み、車椅子に鎮座する赤髪の少年を見入りながらキャラバンの非番のメンバーらは医療班長であるアンビュランスに問い詰めた。

因みにアモン=ソラ、インパチェンス=エイミー、ディエス=アズール、ウィリアハートは各々の持ち場を手伝っている為、ここに居るのはホムラ、睦月、レオディル、ジンの4名である。

何度も説明したろうがとでも言わんばかりの表情でアンビュランスは1分前と同じ事を喋る。

「……見ての通り暫くは廃人だ。クソッタレの阿頼耶識のせいで神経系が壊滅状態だったんだ。死ななかっただけ奇跡だよ。今は万能因子で神経をもう一回体内で再構築している最中だ。だからホントは寝たままの状態でいて欲しいんだけどね。治るのがいつかは神のみぞ知るって所。神がいるかは知らんけど。」

モビルアーマーとの戦いで阿頼耶識のリミッターが解除され、人機体と一体になったルフスは筆舌に尽くし難い程敵を蹂躙した。しかし人体への負荷が強大過ぎるリミッター解除は接続しているパイロットの身体を蝕んでいた。

「…発見した時にあった、その、あの赤い『生き物』は何なんですか?」

「だから万能因子だって。恐らく高電流が流れた際にリミッターに噛ませていたセーフティ用の万能因子がエラーだかなんだかで死滅しつつ、接続していたルフスに逆流した。恐らくそれが漏れてあんな風に飛び散っていたんだろう。」

ガンダムフレームの機体はパイロットと機体を文字通り「接続」する事で初めて操作が可能となる。しかし普通の機械と同じように、大きい負荷(大量の情報の処理)が掛かればそれだけ本体(ハード)の負担も大きくなる。

フェンリルの一挙手一投足を鋭敏且つ超高速にこなす=機体の性能をそれだけ上昇させる

これをこなすにはパイロット(接続して操る)であるルフス(正確にはその脳)への負荷も甚大なものとなる。まるで悪魔との取り引きだ。

「でも、万能因子ってあんなに増殖する物なのですか?」

第一発見者の睦月はコクピットをほぼ埋め尽くす量の万能因子に未知への恐怖を抱いていた。と同時に「ここまで増えるか普通?!」という素朴な疑問も抱いていた。

「そこが不思議なんだよね……。フェンリルはリミッター解除時と同等とまで行かなくても、万能因子を介する事でそれに近いポテンシャルを発揮させるセッティングだった。完全なリミッター解除を防ぐ為、万能因子が言わばルフスの脳の役を務めて万能因子を消費する事で常時、若しくは最悪の場合に備えてルフスの脳への直接的なダメージを防いでいるんだけど、もしもセーフティで代わりに死滅していったとしたら増える事はないと思うんだよ。電撃だったからシステムにエラーが起きて、思わぬ結果が生まれたと考えるしか、今は出来ない。これが限界だね。私のおつむじゃ。」

何度と話しても拉致が開かないし立ち会わせてるルフスも疲れるだろうと、メンバーは不完全燃焼の中医務室を後にし、アンビュランスはルフスを再びベッドに寝かせる。ピアスには治療用の万能因子が注入されている為うつ伏せにしているが、ぶっちゃけかなりシュールな光景だった。

ハイライトの消えた瞳は瞼を瞑ることもなく同じ方向を見続けていた。

4人が帰った後仕事から一時帰還したアモンらも同じ事を再三聞きに来て、同じ様に帰っていった。

 

 

 

一方ドックでは全快したキャラバン組の人機体達が今なお改修中のフェンリルの前で先の戦いを振り返りながら雑談をしていた。

「まずは全員無事であった事を喜ぼう。フェンリルもルフスも辛うじて生きている。」

ゼロは態といつも見開いているツインアイを隠して喋った。

他の人機体達もまるで通夜の様な面持ちであった。と言っても人機体に表情差分はあるかないかくらいの変化だが。

「ディエス達はオリジンに遭遇したんだってね。とりあえず無事で良かったよ。護衛の二機は残念だけど……。」

「……目の前で仲間が地面に吸い込まれていった。残骸すら見つけられなかった奴もいる。」

武装を外しているせいでいつもよりスリムめなインパチェンスは肩を落としながら当時を語る。いつだって犠牲は付き物だ。それが変革の中であろうと、酔生夢死な日常であろうと。

一同は改修されているフェンリルを見つめる。その瞳に光はないが、「生きている」のは確かだ。

「……武装、変えるんだな。」

元の装備になったアモンはフェンリルの周りに無造作に置かれた新パーツに目をやる。恐らくリベリオンらの技術も使われてるのだろう。

「白と青か。私みたいだな。」

外装も一旦全て外され、新しい物に交換される。剥げたナノラミネートアーマーの修繕をしたりヒビを直すより外装ごと変えた方が楽なのだろう。イメチェンのつもりか赤と黒から白と青の配色になる予定なので、似た色のゼロはどこかしら親近感を感じていた。

「そう言えば、鹵獲したリベリオンの人機体はどうした?」

リミテッドキャリバーが腕を組みながら一同に聞く。

「今は技術者の面々がクラウドボックスの中身を解析中だ。何かリベリオンに関して掴めればいいんだが、強固なセキュリティに手こずっているらしい。モビルアーマーと新型の僚機はご存知の通り中東支部が回収。得られたデータは武装類に応用されたらしい。勿論オレ達にも。」

モビルアーマーにはライフ側にはない技術が多数搭載されていた。最もビヨンドヘヴンの施設をそのまま使っているのだから施設規模で遥かに勝るリベリオンに軍配が上がるのは当然ではあるが。

「新型の人機体も中東支部で解析が進められている。いずれ色々と分かるだろう。」

ライフ側のネットワークに常に接続しているゼロは新しい情報をいち早く提供出来るからか、まるで生中継でもしてるかの様な新鮮な情報を伝えた。

「我々の武装もアップグレードされるという事か。これで戦闘が楽になる。」

「レールガンも完成間近らしいしね。」

インパチェンスは汎用性の高さからマルチに戦闘をこなせる為、武装には敏感だ。

「レールガンってさ、どんな感じなんだ?」

「自分に電流流れて来ないのか?」

「軽そう。」

と各々は疑問を投げかけ、話は進んでいく。

それを少し遠目で聴くフェンリル。会話は出来なくとも話を聴けるだけで満足だ。フェンリルは自分と同じ様にデク人形と化しているであろうルフスを心配しながら改修されていくのであった。

 

 

 

 

 

「なんと言う失態だ!!!!!!!!」

フォールンは玉座を蹴散らしながら叫び散らす。モビルアーマーと言う大きな戦力を失っただけでなく、幹部を鹵獲されデビュー駆け出しの兵を全て失ったのだ。無理もない。

それを執事役のアメノハバキリが抑える。

「しかしフォールン様ッ!成果もありますッ!ここは一旦落ち着いて、再び作戦を練るべきかと……」

「………………ッッッッッッッ!」

必死で怒りを堪えるフォールン。暫く怒りで震えた後、蹴散らした玉座を戻していつもの様に座る。

「……成果は、なんだったか。」

「お目当ての少年と人機体の事です。彼らで間違いない事は確定です。現在ブラックナイト隊に全力で見張らせていますが、どうやらあの戦闘でかなり疲弊したらしく、現在は無力です。再び復活するまでにまた攻める作戦を参謀班と練り、適切な兵力を配置するのが現在は最善策です。」

「…………参謀班を呼びたい所だが……当分攻撃は控えよう。向こうも何かしら対策を建てているかも知れんからな。鹵獲したアスターから情報を取るのも時間の問題かも知れん……。ブラックナイト隊にはより一層厳しい監視を撤退させろ。」

はっ!とアメノハバキリはブラックナイト隊に通達するため観測班班長のノートに連絡を取り始める。

ノートはアメノハバキリから一連の話を聞き、ブラックナイト隊に監視を強化する様に連絡をする。

 

HCFR/BC_ Strengthen,surveillance,for, Southeast,branch

「ハイドコネクションフロムリベリオン/ブラックナイトキャプテン_東南支部の監視を強化せよ。」

 

HCFBC/R_Un,typhoon,coming,once,distance

「ハイドコネクションフロムブラックナイトキャプテン/リベリオン_残念だが台風が接近している。一時対象から離れる。」

 

舌打ちしながらノートはアメノハバキリに以上の旨を伝える。その報告を聞いたフォールンは疲れきった様子でアメノハバキリを下がらせ、意識をシャットダウンした。今日はもう寝よう。

 

殲滅部隊班長のカストルは副班長のポルクスと共にワンダの改修案を話し合っていた。中東での戦いからライブで流れてきた戦闘データとにらめっこしながら新バージョンを検討する。

「今回の戦闘では白兵戦のデータが多く取れた。」

「しかも相手は伝説のガンダムフレーム。瞬殺とは言え、ワンダ10機を失ってもお釣りが来る程の成果だ。」

ワンダの特徴、それは「無限に進化する」と言う点にある。戦闘中のデータは全機ライブで殲滅部隊のデータバンクに流れてくる。それを元に改修を繰り返し、やがて敵を凌駕するバージョンを無数に生み出せるのだ。今現在は弱くとも敵が強ければ強い程それに合わせて成長出来るのだ。

「ポルクスは遠距離型を、オレは近距離型を製作する。」

二機の兄弟は再び仕事に取り掛かった。

 

アスターと同じ参謀班の班長クロナードと副班長のシュピールは鹵獲されたアスターの事を気にかけていた。

「何か、救い出す方法はないものか……。」

「…当分は無理でしょう。恐らく奴らはアスターを調べようとしている。その上単騎で救いに行けば結果は火を見るより明らか。ここはフォールン様が侵攻の命令を出すまで待つしかないでしょう。」

参謀班らしい回答。クロナードだってそれくらいの結論なんぞ考えるまでもない。

「……アスターはまだ活動停止状態ではないんだよな。」

「我々の居所を探知されないよう最低限ではありますが…反応は探知出来ます。」

解析中に外部と通信をとればその場でバレてしまう。なので気付かれない程微量な電波でまだ存命である事を伝えているのだという。

「アスターはどこまで情報を握ってましたか。」

「彼女はプライドが高い。そうやすやすと吐く事はないだろうが、クラウドボックスを解析されてるとなると……。」

監査をただ指を加えてみる社員の様な気分で落ち着かない両者。

そこでシュピールが提案する。

「そう言えばクラウドボックスのデータってバックアップはしてあるんですよね?」

ブラックナイト隊もそうだが、リベリオンはいざという時に備えて各人機体達のデータを言わばセーブしておき、仮にクラウドボックスごと破壊されたとしてもセーブしたデータが残っていればその時までの「記憶」「人格(パーソナリティ)」をまた新たな機体に再インストールしてある種復活地味た事が可能なのだ。

クロナードは急いでセーブ元のサーバーに接続して前回のセーブ時間を見る。

「前回は……今から2週間前。中東での戦闘のもう一週間前か。」

「バックアップは取れている。となるとアレが可能だな。」

データ欄の近くにあるDELETEのボタンを押す。すると

『どちらを削除しますか?』と表示される。

『現在活動中/バックアップ』の選択肢がアップされ、現在活動中をクリック。

『確認の為クロナード氏の認証パスコードと本機認証の確認を行います。』

即座にパスコードを入力して本機認証(人間で言うバイオメトリクス。)をする。

『認証確認。これより自爆シークエンスに入ります。』

と、画面には【1:00:00】の表記。チッチッチッチッと言う音と共に時間が減っていく。

「これでよし。アスターのボディを用意しておけ。」

シュピールを下げる。クロナードは囚われているアスターに向けて自爆シークエンスを作動させた事を極秘回線で文章によって伝える。これはさっきシュピールが使用した極微量な電波によって作られた緊急回線を通じて伝えられている。

暫くするとアスターから返信。「仕方なかろ。過去のデータになるから何があったか2週間前の妾に伝えておくれ。」

クロナードは了解と回線を閉じるとタイマーに目をやる。爆発の規模は少なくとも支部の一つや二つは木っ端微塵に出来るだろう。

クロナードはシュピールがアスターのボディを確保した事を確認すると、アメノハバキリにこの事を報告した。

 

 

そんな事は露知らず解析班は作業に没頭し、東南支部の人機体達は束の間の休息についていた。

解析班はリベリオンについて直接関わる最重要機密とも言えるデータへの侵入を試みていたが、一向に入れる気配がない。

「あーーー!!もう無理ですよこれ!!違うパスコードが入力される度に新しいパスコードに変更されて行くんですから!!永久に解けませんよ!!」

技術者の一人が音を上げる。正解のパスコードを知っているのはアスター本人だけなのだ。分かるはずもない。

「分からないとは思うが…………ゼロさんに聞いてみるか。何か分かるかも知れない。」

5分後ゼロが到着する。正確にはタブレットに映し出されたゼロのアバターだが。

「用事とはなんだ?」

「はい、鹵獲したリベリオンの人機体の内部データに侵入をしようとしてるのですが、どうも上手くいかなくて……なにかゼロさんなら分かるかな、と。確か人機体のプロトモデルでしたし、膨大なデータとネットワークを持っていますし。」

「……侵入出来るかどうかは分からないが、とりあえずやってみよう。」

ゼロはまずクラウドボックスの全システムを解析する。他に異常や抜け道があるかもしれない。

暫くすると「ん?おいコイツ!!」とゼロが叫ぶ。

解析班が傍に設置されてる巨大な解析用のモニターを見る。

そこにはタイマーが表示され、数字がどんどん減っていく。

 

「コイツ、自爆しようとしている!!!」

 

 




こんにちは!最近また書くモチベーションが上がって来ました。
多忙の中ですが頑張って書いていきたいと思います!!


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機動戦士ガンダムプレデターズ 第十五話 雲海の果てと樹林

00:45:54

 

『各人機体、並びに居住区にお住まいの方々は係員の指示に従ってシェルターに至急避難して下さい。繰り返します……』

 

「子供や女性の方を優先してシェルターへ!!力仕事の出来る方は係員を手伝うかお年寄り方々を誘導してあげてください!!」

「何が起きてるんだ?!」

「急に避難しろったって……。」

「どうやら爆弾が持ち込まれていたらしい……。」

「おい押すなよ!」

「パパーーー!ママーーー!」

 

混乱の中レオディルとウィリアハートが率先して住人を避難させ、エイミーは各避難情報等をまとめ、アズールは子供達を誘導し、アモンとソラはキャラバン内の安全確認及びキャラバン外の警戒。ジンは整備班のメンバーを纏めて人機体の安全確保。ホムラは病室の患者を医療スタッフと共に避難させていた。もちろんルフスも。

 

鹵獲したリベリオンの人機体「アスター」が自爆プログラムを作動している事がゼロの解析によって判明。爆発の規模を計算した所、【キャラバンを蒸発させる可能性大】との結果が出た為、避難勧告がキャラバン内に出された。タイマー停止はシステム侵入に手こずった件もあり断念。よって安全な地上へと運び、キャラバンから離して爆破させるという結論に達した。

クラウドボックスは冷蔵庫並の大きさがある為、大の大人5人程で台車を使って地下の研究室へと搬入していた。研究員は一旦落ち着き、丁重にクラウドボックスを台車に載せて搬入用のエレベーターへと向かったが……。

「エっ…………エレベーターが作動しない!!!」

と同時に館内の明かりが消え、非常用のライトがつく。

「どうなってるんだ一体!!」

「このラボは丁度キャラバンの中心付近に位置している……こんな所で爆殺でもされれば…!!」

アスターのクラウドボックスは解析中様々な機器やケーブルに接続されていた。これを上手く利用しアスターは電源を統括しているコンピューターに逆侵入してウイルスを流し込み、電子機器類に過電流を流すようプログラムしたのだった。その症状がここに来て発生している。しかも最悪な事に、過電流によって各廊下に設置されている防壁用の扉を制御するプログラムが破壊されてエラーを起こし、避難途中の人々や研究員らはそれぞれが居るフロアで孤立状態にさせられてしまった。他にも様々な障害が発生している。

「おいおいおいおい…………どうなってるんだよ……。」

「オレたち、閉じ込められたのか……?」

「エレベーターはまだ動かないのか?!」

混乱する研究員達をゼロが落ち着かせる。

「うるさい!!!まずは落ち着くんだ。タイムリミットまではまだ時間がある。パニックになってはいかん。冷静になり、現状報告をしろ。」

弱腰の研究員達はゼロの一喝で沈黙し、落ち着いて今現在置かれている状況を再度整理する。

 

00:32:49

 

「今我々は地下8階に居ます。安全な場所で爆破させる為には地上に行くしかありませんが、エレベーターは止まり、非常階段もそこへ通じるルートが防壁で塞がれてしまい、身動きが取れない状況です。恐らくこの人機体がシステムに侵入したのかと……。現在はクラウドボックスの電源をオフにしてますが、爆破プログラムは動き続けたままです。」

機器類を切断した事でアスターが直接館内のシステムに侵入する事はなくなりウイルスも過電流を流すよう仕向けるのみのものだけだっので、更なる災禍は起きない。

「ゼロさん、なんとか電源を復旧させる事は出来ませんか?」

「……無理だな。統括システムがダウンして各ケーブルやブレーカーも完全に落ちている……。防壁を開けることは無理か?」

「無理ですよ……2トンもあるんですよ?」

「違うそうじゃない。壁に穴を開けられるか?と言う事だ。動かせない事くらい画面越しからでも分かる。」

即座に無理と返答が来るが、ラボの入口のすぐ角にエレベーターがあり、そこには防壁が幸いにも設けられて居ないことに気付くと、ラボにある道具を片っ端から持って来た。

「開けられない事はないですが、かなり時間が掛かります……。防壁が非常階段まで四つ、通れるくらいの大きさを開けるのに……。」

と研究員の一人が暗算をし始めると

「計算してる暇はない!!とにかく開けるんだ!!」

と他の研究員に連れていかれ、レーザーカッターと溶接用のフェイスガードを渡される。ゼロはその間にドックにまだ居るであろうジンのケータイに連絡を取る。

「ジン?聞こえるか?」

「ゼロ?なんだどうした?こっちはやっと避難が終わったから機材の搬入に入る所なんだが。」

「用意しておいて貰いたい物がある。」

「えーっと、用意出来るかは置いといて何だ?言ってみんしゃい!」

 

00:22:09

 

研究員達は非常階段へのルートにある5個の防壁の内2つを突破し、3つ目の突破の準備をしていた。しかし、

「ダメです!コードの長さが足りません!」

「延長コードは?!」

「全部使いましたよ!元々こんなに伸ばすつもりじゃなかったんですから!」

まだ壁は3枚もある。こう話している間にも時間はどんどん過ぎていく。突破は不可能と判断したゼロは研究員の一人にキャラバンの見取り図を見せるよう要求する。

「キャラバンの見取り図を寄越せ。確かPDFであったと思う。」

ゼロが映るパソコンのファイルにある見取り図をゼロに送信する。因みにパソコンは内部バッテリーで稼働させていた為アスターのウイルスの影響は受けなかった。

送られてきたPDFを確認し、ゼロは再びジンに電話する。

「ジン?聞こえるか?」

「はいはい聞こえてますよ!アレの準備は完了。ウィリアハートは何時でも行けるよ!」

ゼロは研究員達をクラウドボックスから遠ざけ、反対側に集める。

「OKだ!やってくれ!」

「了解!」

といつの間にか人機体に搭乗したウィリアハートは研究員達の居る場所をゼロ本体から展開されている回線を辿って探知し、その真上へとウィリアは移動する。

「ソードユニット展開!」

背部のソードビットが宙を舞い、床に突き刺さっていく。クラウドボックスが入りそうな程の大きさの円を描きながら下の階、更に下の階へとソードビットは床を切り裂きながら下がっていく。

そしてゼロらが居る地下8階まで到達し、地上から続く長い縦のトンネルを造った。デカいマンホールの蓋の様な床が上の階の分も含めてガコンと音を立てて研究員達のフロアまで落っこちて来る。

上からウィリアとジンは協力してドックにあったフェンリルのグレイプニールに内蔵されたワイヤーを外して地下に垂らす。地下8階にまで垂れたのを確認すると研究員を呼んでクラウドボックスを台車ごとワイヤーで縛らせる。ワイヤーの長さはかなりあるので大きなクラウドボックスを頑丈に縛るには十分だ。

5分後縛り終えて固定を確認すると、ウィリアハートがワイヤーを地上から引っ張る。落として刺激を与えたか何かで起爆したら洒落にならないので慎重に引き上げる。ワンフロアの高さは5m程なので実に40m程引き上げる計算だ。下から研究員とモニターに居るゼロが引き上げる位置などを正確に伝える。

「よ〜しそのまま……ゆっくりとね…。」

「揺れてる揺れてる!!」

「OKOK……そのまま。」

指示を聴きながらもあるので引き上げにはかなり時間が掛かっていた。どんどん減っていくタイマーの数値がウィリアを、周りの人々を焦らせる。

「あと何分ですかっ?!」

「あと10分程しかないぞ!!」

あと10分で全部吹っ飛んでしまう。そんな恐怖から抜け出そうとウィリアは引き上げる速度を速める。が、その瞬間にワイヤーの一部が切れてしまった。

「ああっ!!」

周りも頭を抱えながらあわてる。切れたのは地下3階フロアを通過した直後。ジンはすぐ様穴に飛び込み器用に飛び移りながら辛うじて垂れ下がっているクラウドボックスに近づく。固定させる為にわざとねじらせながら巻いたせいか、千切れた部分は幸いにもねじれたワイヤーに引っかかって止まっている。

簡易ではあるが携帯型溶接工具を使って切れた箇所を周りの引っかかったワイヤーに溶接する。その間にも刻々とタイマーは減っていき、遂に爆破まで5分を切ったその時、

「切れたワイヤーは直した!!早く上げてくれ!!」

合点承知ィ!とウィリアは素早く且つ安全に再び引き上げ始める。その間ゼロはジンに三度連絡をし、予め待機させておいたインパチェンスのバックパックにドック内にあった在庫の大型ミサイルとその発射台を取り付けさせる。インパチェンスの高度な汎用性を活かしたのだ。

あと2分。引き上げたウィリアは傍に居たインパチェンスが背負ったミサイルの弾頭部にあたる位置に支部内に余っていたワイヤー類をあるだけ使って固定する。手先が器用なのもあってお祭りになる事はなかった。

「固定しました!!!!」

その声と同時に支部の天蓋が轟音と共に開き青空を見せる。その虚空に向かってインパチェンスは飛び立ち、自身のブースターの加速と背負ったミサイルのブースターによる後押しで一気に上昇していく。

「インパチェンス、爆発まで10秒になったら知らせる!その時になったらミサイルを発射して全力で急降下しろ!」

音速に近い速度で天に昇りながら指示を聞きつけてその時を待つインパチェンス。下ではエイミーも手を合わせて祈っていた。

17、16、15、14、13、12、11……

「今だ!!!!」

背中からミサイルが射出され、直後インパチェンスは大陸間弾道ミサイルの様な起動で再び大地へと突進する。一次関数のグラフを描くミサイルを見ながら10秒後、爆発を見届けた。

 




こんにちは!最近はリアルが忙しくて中々書けていませんでした……(;´д`)トホホ…。ようやっととりあえず急ぎ足で書いてみました。最後のシーンはもっと細かく書けば良かったかな……。テスト期間もそろそろ終わるので近いうちにまた出るかも……?
あと、前書きにキャラクターの簡単な紹介を書こうか迷っています……。書くかもしれんけど、時間があればね。


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機動戦士ガンダムプレデターズ 第十六話 虚空が墜ちる

クロナードはアスターのクラウドボックス爆破と作戦失敗をアメノハバキリに報告した。

「……アスターのバックアップは残っているのだろうな?」

念の為確認する。

「勿論です……。しかし、まさかあの状況下で爆破を切り抜けるとは…!」

絶対逃げられない筈なのに、どうやって乗り越えたのか、クロナードは理解が出来なかった。それに対してアメノハバキリは落ち着いた表情で、

「いや、寧ろその方が良かった。」

はっ?と間抜けな声でクロナードは問う。

「貴様………危うくルフスまで殺す所だったんだぞ?」

その瞬間クロナードは色んな意味でフリーズした。ルフスの安否を全く考えておらず、そのまま爆発してしまったらルフスも巻き添えになってしまっていた。リベリオンの最終目標は地球の再構築であり、その中でルフスの存在は欠かせないものであった。

「……フォールン様には黙っておく。」

前回の中東支部の作戦失敗に引き続きこんな出来事を聞かれたら何をされるか想像したくもない。クロナードは深深とアメノハバキリに頭を下げた。

しかし何故アメノハバキリは最初に決行する際に報告した時に止めなかったのか。

まあ、そもそもそこの所を考えずに決行してしまった時点で自分達の落ち度なのだが、決行を報告した時点で止められた筈だ。

問いただそうとしたがスタスタと持ち場に戻るアメノハバキリの背中を見送るだけにした。まあバグでボケてたんだろう。

 

 

クラウドボックスの爆発を見届けたインパチェンスは程なくして支部に帰宅し、片付けの手伝いを他所に再びドッグで他の人機体と共に中断されていた整備を再開された。

ウィリアハートが切り取った床の周りには立ち入り禁止の札と共にバリケードが築かれていた。地下は迂回路が敷かれた為居住者や研究員はめんどくさいが、安全面を考慮する上では仕方がない。

2日程して一通り現場の片付けが終了すると、支部長である水野は「とある作戦」についての協議の為に北東支部に連絡をした。北東支部は比較的冷涼な気候で、収容人員数は他支部に比べてかなり少ないのが特徴である。それに伴って所属する人機体も少数だが、一機一機が超精鋭となっているのもまた、北東支部が小規模なのに今尚現存している理由でもある。

とある作戦とは、何世紀も前に72機のみ製造されたガンダムフレームの内の一機が丁度今の北東支部周辺に残っているらしく、それをリベリオンやオリジン等に利用されるのを防ぐ為、ロストテクノロジーを解析して戦力増強に繋げる為……その他諸々の理由から発掘すると言うものだ。

かつては骨董品とも呼ばれたガンダムフレームを興味本位で掘り起こすだけなら北東支部で勝手にやればいい話ではある。しかし、同じガンダムフレームを操り、阿頼耶識システムのリミッター解除で神経系にダメージを負ったルフスの治療する際に阿頼耶識システム自体のデータがあまりにも少なく、同じガンダムフレームである(と思われる)機体を調査すれば何か掴めるかも知れない、そんな期待と心境から協力要請を受諾したのだ。発掘と言っても捜索から始めなければならないし、10機程しか居ない北東支部のみでは発掘中の支部防衛と効率良い作業の両立が成り立たないため作業を手伝うという意味合いも含んでの事ではあるが。

ちなみに北東支部は険しい山岳と冷涼な気候のせいで一番近い支部まで約1500kmもある文字通り辺境の立地の中にある。加えてその近い支部は現在リベリオンとの戦闘が進行形で行われている。更に、東南支部は他支部に自ら赴ける程の人機体数と総力的余裕があるのも白羽の矢が立つ要因である。

「もしもし、レイフ支部長ですか?私です、水野です。例の作戦の件、是非とも協力させて頂きます。日程や細かなスケジュールは……ハイ、転送で、わかりました。派遣するメンバーが纏まりましたら改めてまたそちらに連絡をさせて頂きます。よろしくお願いします。では。」

レイフ支部長は唯一の女性支部長であり、生真面目な性格と人員の采配の良さが魅力である。厳格とまでは言わないが、任務や支部の運営は全くダルさがないため、敏腕OLのイメージである。

連絡を済ませると水野はインパチェンスとエイミー、リミテッドキャリバーとジン、トリニティと睦月を呼び出した。

「では、担当直入に言う。北東支部へ向かってくれ。作戦内容は各人機体に送信する。まあ、掻い摘んで言えば古代のモビルスーツの発掘作業の手伝いだ。ルフスの治療についても、阿頼耶識システムについても何か分かるかも知れないからな。」

中東支部遠征から間もないが、普段から定期的に各支部と情報交換に赴いている彼女らにとってはさほど労苦ではなかった。

「出発はいつですか?そろそろ季節的に台風がよく通る頃ですが……。」

東南支部は内陸部にあるが、近くには太平洋がある。夏になると台風が大量に東南支部周辺をうろつく為、基本的に支部訪問は2月から7月の初めに終わらす日程なのだ。台風接近が多発する時期の遠征はそうそうない。

「私の予想だが……恐らく台風が東南支部に近づく日だろうな。」

一同はてっきり過ぎ去った頃合を見計らって出ると思っていた為驚きの声を上げた。

「なぜ台風接近中にわざわざ出発すると思うのですか?」

「いや、まああくまで予想だからな。レイフ支部長がどんな判断を下すかはまだ分からない。しかし……気になっている事がある。」

「もったいぶらないで教えてくださいよ〜。」

ジンがんんーーっと背伸びをする。度重なる整備のせいで疲れているのだろう。顔は黒ずんでいる。

「……前回の中東支部訪問、なにかおかしいと思わないか?報告を見る限りリベリオンの人機体の動きが都合良すぎるとしか思えないような場面がいくつもあった。」

多くの被害と犠牲を生んだ先の戦闘。現場で戦闘をしていた為気にする事はあまりなかったが、たしかに不可解な点がある。

「たしかに……最初のリベリオン兵との戦闘はともかくとして、あのモビルアーマーと新型の人機体の群れ…。しかも丁度疲弊したタイミングを狙って襲ってきた。そして、何故かルフスを鹵獲しようとしていたし。」

「クラウドボックスは爆発で失われてしまったから真相は不明だが、何らかの理由でルフスを鹵獲しようとしていた事、襲撃の際はフェンリル一機にモビルアーマーがワンオンワンでわざわざ対峙していた事、しかもその最中は新型の人機体らで他の人機体を破壊ではなく無力化状態においていた事……その他諸々だ。恐らく……何らかの方法でこちらの動きや状況が知られていた可能性がある。」

「それって、裏切り者が居るかもしれないって事ですか?!」

絵に書いたような皆仲良しの、家族同然に過ごして来たこの支部に裏切り者がいる、そう考えただけで恐ろしい。しかし睦月が遮る。

「いや、その可能性は低い。この支部は殆どが一般人だ。しかも所属する人機体は全機ゼロのデータベースに接続して情報の共有や管理をしている。裏切り者の兆候があれば真っ先に気付くはずだ。仮に内部の人間が裏切るとしても、人間を滅ぼさんとするリベリオンに協力した所で後々殺される事は目に見えてるはずだ。支部内の人間も、殆どがリベリオンのせいでかつての日常を奪われたり家族を失ったりしてきた人達だ。とてもそうには思えない……。」

となると考えられるのは、

「衛星ですか……?」

「その通り、とまではいかなくてもそれに近い物ではあるだろう。BeyondHEAVENの本部を占拠しつつ我々ライフよりも遥かに高い技術力と兵力を持っているリベリオンにとっちゃあ衛星類の一つや二つ我々に気付かれずに打ち上げていてもおかしくない。これは今回の件だけで判断したのではない。過去の戦闘の情報を漁ってみても、やはり動きが読まれていたかの様な状況は何度かある。」

モビルアーマーを投入したり新型の人機体を何機も造れるのだ。衛星なんて工作の様なものだろう。

「……となると、台風接近中に出撃するのはその監視の目をすり抜ける為ですか?」

ジンはその場にあった機材の山に腰を掛けながら、今で言う雨雲レーダーの類いをタブレットで見る。この情報はゼロの独自ネットワークとアモンのこれまでの長期偵察データ、ディエスとインパチェンスらの観測データから得られた物である。天候の的中率は七、八割ではあるが。

「レーダーを見ると明日の深夜から明後日未明にかけて東南支部周辺をかなり大型の台風が通過、若しくは接近するみたいですね。中心気圧は950hPaを切りそうですし、暴風域も広いのでかなり大きいです。」

中東支部訪問の際に通過した廃都市も暮らす人や管理する人が居なければこの様な天災であっけなく死に、かつての面影を消していく。都市だけでなく、人間が管理しなくなった事で山林も無秩序に発達しているため土砂崩れが頻繁したり、護岸ブロックや埋め立て地がすでに侵食作用等で崩れ始めている。少し前の地球環境云々が議論されていた時代、あるいは狂信的に自然を信仰する者達の間ならある意味歓迎される終焉かも知れない。『地球が静止する日』だっけか。たしかあの映画も「自然へと還る」べきと謳っていた。

「台風が遮って監視は出来ないかも知れないからな。あのレイフ支部長ならすぐに考えつきそうな案だからとりあえず君たちに伝えといた訳だ。人機体なら暴風の中でもある程度は動けるしな。もしレイフ支部長がその様な判断を下した場合、今回は最短ルートを通るのではなく台風のルートにある程度従って北東支部を目指してもらう。少なくとも東南支部から200kmは離れてもらってそれ以降の地点から最短ルートを辿ってもらいたい。下さなければ台風が過ぎたのち、最短ルートで行ってもらう。この場合はアモンとゼロには協力してリベリオンの人機体の反応をサーチしてもらい、こちらの動きを読んだかの様なルートを取っていれば監視衛星類がある事が確定する。その為の装置やセッティングは……追追してもらう。」

仕事が増えるやぁぁとジンは欠伸しながら同じ整備班のレオディルにこの旨をメッセージで伝える。実は人機体の整備以外にも、色々と武装の開発を進めていたのだ。(例に上げるならインパチェンスのレールガン)それらは後ほど明らかになる。

要件は以上だ、と切り上げて解散する。

帰りがけに療養中のルフスの元を睦月は訪れる。先の騒動でも特に怪我や逃げ遅れたなどと言う事はなかった為引き続き療養してはいるものの、阿頼耶識システムに関するデータが殆どないせいでまだ車椅子から降りる事が出来ない。その代わり、

「ヨ、睦月。コレ便利ダナ。」

「改めて聞くと笑っちゃいそうになるよ…。」

ルフスの背中にはピアスと呼ばれるモビルスーツ=人機体と肉体とをナノマシンを介して接続する為の機器が埋め込まれており、それを一部利用することで機械音声ではあるがルフスが発言しようとした事を脳から読み取ってかわりに発音してくれるシステムをアンビュランスが作成してくれたのだった。懸命な治療と療養期間、万能因子が脳の機能を多少『喋れる』ようにしてくれた要因である。この程度であれば神経系の療養は阻害されない為安全らしい。

「今ハ全ク体ガ動カセナイノガ辛イヨ。コノ前ノ騒動モアッタシ。手伝エナクテゴメン。」

「いいよ、今は安静にしときな。フェンリルも順調に直ってきてるし。」

よかった、とルフスは力なく言う。ここ最近ずっと療養室から出られていないのでフェンリルの様子も確認出来ない。

「なんかリメイクするらしいよ、フェンリル。ボディが青と白になってた。」

「ソウナノカ?写真トカアル?」

「いいや、撮ってないんだ…。今度撮ってくるよ。それで……聞きたい事があるんだ。」

「ナンダ?」

「モビルアーマーとの戦いが終わって私が救出した時の…あの赤いのはなんだい?」

「アレナア…。アンビュランスニモ同ジ事聞カレタケド……多分万能因子ダト思ウ。リミッター解除ノセーフティーニ仕込ンデオイタ万能因子ガ漏レタカ合成炉ノエラーデ急速ニ増殖シタカ…。デモ体調ニ特ニ変化ハナイナ。」

先のモビルアーマーとの戦闘の際、フェンリルに搭載された阿頼耶識システムのリミッター解除を防ぐ為のデバイス内にあった万能因子が、度重なる戦闘と内部機器への深刻なダメージを受けたせいか異常増殖していたらしいが詳しく調査は出来ていない。が、ルフスがこう述べている以上それで納得する他なかった。現に成分を解析した所99.9%万能因子だった事からの結論でも辻褄は一応合う。

「マア、ソレハ何デモイインダケドナ。支部ノ皆ハ大丈夫ナノカ?」

「幸いにも負傷者一人出てないよ。ちょっと施設に穴が空いたくらい……」

「穴……爆発カ何カ?」

「いや、爆発物を支部外に出す時に仕方なく空けたんだ。じゃなきゃ吹っ飛んでた。」

「ナルホドナ。ハァーア……早ク車椅子カラ降リタイヨ。足デ歩ケルッテ事ガコンナニ恋シイトハ思ワナカッタヨ。」

「失って初めて幸せだったって気付く事なんてざらにあるからね。まだ回復の見込みがあるのはさておき。」

「マダマダ働カナイトナ。……ッテ今何時ダ?モウスグ昼ナ気ガスルケド。」

腕時計に目をやる睦月。

「お、たしかに飯時だな。何か持って来ようか?」

「イヤ………、飯ハ……イイカナ。ナンカ腹減ッテナインダヨナ……。」

予想に反した答えに睦月は一瞬戸惑うも、はいよとその場を後にし食堂へと向かった。

 

 

ドックではレオディルがフェンリルの最終調整に入っていた。ただし、搭乗者であるルフスがまだ復活してない事と阿頼耶識システムに関する情報が揃ってない為、出撃する事は出来ない。また、武装の一部には退治したモビルアーマーやリベリオンの人機体のデータやパーツ等が使われる事となった。

「とりあえず外装、フレームや武装類は完成。そして問題の阿頼耶識システム……。コイツをどうするか…。北東支部の遠征で何か掴めれば良いんだが。」

真骨頂である阿頼耶識システムが使えなければ本来のフェンリルの性能、そして人機体としての意義がなくなってしまう。パイロットが不在でも戦えるよう開発されたのが人機体ではあるが、彼ら並に人間と人機体との関係が深くなっては違和感も拭えないだろうし、何より人間と人機体が紡ぐ戦闘力が損なわれる点が問題であった。

レオディルはとりあえず阿頼耶識システムの調整さえ終われば出撃できる状態にして、支部内の人機体の調整をする事にした。一日の終わりにジンと共同でやるものだが、今は新システムの開発で忙しいのでレオディルが一人でやらねばならない為昼頃に早々と始める事にした。

ネット回線で構築された会議室にはアモンとゼロ、開発主任のジンが集まり開発にあたっての話し合いに取り掛かる。

「時間がないから簡潔に。端的に言えばゼロの持つ巨大な独自ネットワーク回線を使ってアモンの索敵、広範囲レーダーシステムと過去の観測データを組み合わせるという事だ。監視の手順としては、

①当日出撃する人機体達のカメラから写す映像をアモンの広範囲レーダーと地形データに落とし込む。

②ゼロのネットワークを使ってその落とし込んだデータと過去の観測データを同期させる。ここで更に使うのが今開発中の『大気流動観測システム』と言う物だ。

 

手順はこんな感じ。そしてさっき言った新システムの説明をするぞ。ちなみにシステム自体は各人機体に組み込むからな。

……まあ端的に言えば「空気の流れを監視するシステム」という所だな。人間にしろ人機体にしろ物体が動く際には必ず大気を動かしている。当たり前だな。皆もご存知の『風』だ。つまり、裏を返せば、自然風から外れて不自然な動きをする風や大気は別の何かの作用が関係していると言うことだ。衛星は確かに便利だが、使い勝手が悪い上に何かあればいちいち宙に登って行かなければならないし、壊れたらそのまま落ちてくるか高度が高ければ燃え尽きるか、どちらにせよその存在を知られる可能性がある。何より昔から人類は宇宙進出に力を注いできたからね。ある意味『旧式』とも呼べる方法かも知れない。

となると…………例えばアモンのように監視や索敵に特化した人機体を大量生産した方が効率的且つ合理的じゃないかと思ってな。一応開発している訳さ。仮に宇宙空間に衛星を放っていたとしても、ゼロが持つBeyondHEAVENやそれ以前の人類の宇宙開発におけるデータベースから衛星を割り出したり今現在機能しているかどうかを確認出来る。まあ懸念としてはゼロがBeyondHEAVENから離反した時点でデータベースの更新が止まっている事だな。それ以降に打ち上げられていれば過去の衛星が機能してなくとも構わないからな。だから遠征メンバーにトリニティと睦月が居る訳だ。GNドライヴから発せられる粒子がレーダー類をジャミングしてくれるからな。旧式はGNドライヴを搭載してない物は無差別にジャミングしちまったが、トリニティのは割と最近の世代だからな。許可してない機器や波長を選んでブロックする事が出来るらしいからな。ただ、散布モードにしてると機体性能は低下しちまうけどそこは睦月になんとかしてもらうしかないけどな。…………説明は以上。」

全然簡潔じゃない説明だったが周りは納得している様子。

「俺は索敵に専念する事になるから、平時にやっている周辺の見回りはまたディエス達に頼もう。」

アモンは通常、支部周辺の見回りをメインとしてるが最近はこう言った大仕事が介入する事が多い為、ディエスや遠征に同行していくインパチェンス、更には自らが率いる索敵班の部下達にも索敵の指導を積極的に行っていた。これが功を奏したのか支部の安全を自分が居なくとも任せられる。

二言三言会話を交わした後会議は終了した。

 

 

台風のルートは大方予想通りの道を通ってくれるらしく、それに合わせてレイフ支部長からも台風に沿って移動するプランが推された事もあって出発は3日後の深夜となった。




こんにちは!
受験期のせいか以前よりも更新のペースが遅くなってしまい申し訳ありません……!
個人的に話数や字数稼ぎでダラダラと日常を書く気にはなれないので忙しない展開ですが、どうか多めに見て下さると嬉しいです。
次回もお楽しみに!


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機動戦士ガンダムプレデターズ 第十七話 ハルファス

 

出発日まではあっという間に過ぎていった。新システムの開発を依頼されていたジンはレオディル、ウィリアハートらと協力してなんとか完成させて出発にこぎつけた。

また、出発する各人機体は念の為耐水処理や暴風に備えて機体固定用のワイヤアンカーをいくつか装備された。局地を通る際姿勢制御の為の燃料消費を避ける為らしい。

アモンとゼロはドックで遠征班が到着するまでぶっ通しで監視をする。人間ならシフト制で交代するのだろうが、ここが人機体の便利な点である。支部周辺の監視はディエスとアズールがリーダーの監視班の人機体らとアモンの部下の混合チームとなった。

「それじゃ、アモンとインパチェンス達が居ない分しっかり働くよ!」

小柄な身体からは想像出来ないほどはっきりと大きな声で指示を出すアズール。普段の働きぶりから人望も厚く、仕事もしっかりこなせる彼女に自然と周りはついていく。

 

 

出発当日の午前1:00。

一般人や他の人機体らはとうに休眠しており、ドックの一部と出撃ゲートには最低限の明かりが灯っているだけだ。そんな中出撃準備が整ったインパチェンス、リミテッドキャリバー、トリニティに加えて同行する事になった数機の人機体らが出発前にミーティングをする。今回班長となった睦月がトリップスケジュールを読み上げる。

「えーっと、今回は異例にも夜中に出撃する訳ですが……出発まで後15分ですね。さっさと読んじゃいましょう。今回は北東支部に向かいますが、知っての通り台風の動きに沿って移動する事になります。暴風雨の中飛行するのは危険ですし、燃料を浪費することにもなりますので今回は東南支部から200km以上離れるまで歩行移動になります。また、人機体の皆様はカメラを常に撮影モードにして下さい。ジンが開発したシステムのデータ収集の為に使用しますが、恐らく電波が乱れてリアルタイムでは発信出来ませんし、それが元で敵に見つかってしまうかも知れませんので台風を抜け次第各自トリニティに転送をお願いします。トリニティのGN粒子を利用して上手く見つからないようにゼロ達にデータを送れるかも知れないので。暴風域を抜けるまではそれ以外の箇所をゼロとアモンが監視班と協力してデータを取ってくれるのでそこは安心して下さい。パイロットシステム(人間も操作出来るタイプの人機体の事)を組み込んだ人機体にパイロットは操作を任せても良いですが、常に気は抜かないようお願いします。また、無線は出発時から常にONにしてて下さい。……何か質問は?」

沈黙。

「では、時間になり次第出発しましょうか!ゼロ、アモン、監視の際は頼むよ。」

「撮影モードを切らすなよ。データが取れんからな。」

正座の状態で開いたままのコクピットから大量のコードを伸ばして監視用のモニターやら機器類やらと接続されているゼロとアモン。ちなみに日中だけだが監視にレオディルとウィリアハートも手伝う事になっている。ジンから渡されたシステムの説明書にも既に目を通してあり、何か不具合があれば直す役目だ。

 

1:15分。水野支部長らが見送る中北東支部遠征班は東南支部から出発する。

天蓋を開けると雨が入ってくるので城壁のゲートを開けてそこから出る。ゲートを開くと強風と弾丸のような雨が一気に支部に入ってくる。すぐに傍にあった重そうな機材がいくつか動かされた。

「北東支部に着いたらレイフ支部長によろしく伝えてくれ。くれぐれも失礼のないようにな。」

レイフ支部長が怖いのか、それとも風が冷たく寒いのか、水野は表情が半ば強ばりながらも彼女らを見送った。

「大気流動観測システム、起動。カメラを撮影モードにして索敵レーダーに各機設定をしてくれ。」

ジンの指示に従い起動、設定を変更する。

「こちらエイミー、設定完了。」

「こちら睦月、設定完了です。」

「護衛人機体団、各機設定完了です。」

全員の設定を確認し、台風の進路をコクピットのスクリーンに写して見ながら歩く。

外はかなり風が強く、分厚い装甲を通ってラップ音のような音と風が当たる音が絶え間なく聞こえてくる。

燃料やバッテリーを無駄に消費しないようにコクピット内はLEDのスタンドライトのような物で必要最低限しか照らせない。そして夜という事もあってジン、睦月、エイミーらはパートナーの人機体に操作を任せて眠りにつく事にした。

長期の任務にも対応出来るように、パイロットシステムを搭載した人機体はコクピットのシートを倒してベッドのようにする事が出来る。但し寝心地は機体による。

ジンは早速相棒であるリミテッドキャリバーに操作を一任すると、シートを倒して寝る準備に入った。

「そうそう、これを忘れちゃいけない。」

モニターの設定欄から乗員保護項目をタップしてパイロット保護用胴体部サスペンション減衰率という項目を手際よく変更する。パイロットシステム搭載の人機体はパイロット保護用でコクピット周辺にサスペンションが張り巡らされているが、この設定を変えることで歩行中の揺れも完全にカットする事が出来るのだ。最もこの裏技を知っているのはこの中でジンだけだが。

 

他のメンバーもシートを倒して眠りについた頃、人機体らは暴風雨の中雑談を始めた。

雨に打たれながらリミテッドキャリバーが会話を始める。

「風強いな……。まあオレ達人機体は人間のように飛ばされる事もないし寒さも感じないが。」

続いてトリニティ。

「関節部に雨水とか溜まるのは嫌だけどね。結局細かい所は人間の手がないと直せないし。」

護衛人機体団もログイン。

「僕らのような一般的な構造の人機体ならまだしも、御三方のような特殊要素がふんだんに盛り込まれた構造だと人の手は必須ですよね……!」

「私は君らのような簡潔な構造の方がすっきりしてて好きだな。ほら、私って汎用性重視だから色々と面倒くさいんだ。たしかに換装パーツの互換性は高いけど、どうしても万能因子を介在させてパーツをくっつける時もあるから、君らのようなインテリジェント化された構造は羨ましいな。ほら、パーツ交換とか簡単でしょ?」

汎用性重視のインパチェンスは日頃思っている事を呟く。

「ん〜そうですね、たしかに故障した際の付け替えなんかはホント直ぐに出来るので煩わしさは感じないですね。」

最近のエコカーと同じようなもんだ。コストカットと構造の単純化によって大量生産もしやすくなる。もっとも、人機体にとってはインパチェンスとは違う意味での汎用性と改良や整備のしやすさを考えての事である。

「俺はGNドライヴこそ強みとしてあるけど、人の手で直接組み上げられた部品が多いんだ。俗に言う職人業ってやつ?ロストテクノロジーになりかけているし、いかに技術が進歩したとは言っても機械が再現出来る限度の限界に近い物もあるから、人間がいないと困るよ。」

トリニティは今のご時世滅多に手に入らないGNドライヴを装備している。逆に言えば阿頼耶識システムのように資料が殆ど残ってないのだ。元々トリニティの父親が開発した機体で、BEYONDheavenに納入される物であった為GNドライヴについてはライフも知らない事が多い。だからこそ開発の傍に居たパートナーの睦月は整備に必要不可欠だし、これまで培って来た友情と言う面面も決して蔑ろに出来る物ではない。

平和と共存を一番に願うライフの人機体達だが、自分達の【身体】を存続させる為にも人の手はいずれ必要になってくるし、そう言った面である意味ライフの理念に賛同する人機体もいる。

「そう言えば睦月は整備士だったか。何でジンは整備班に呼ばないんだろう。」

「恐らく俺の整備に手一杯だからだろう。仕組みが分かってるのも睦月だけだから、実質一人でやっているようなもんだし。」

「なるほどな。」

 

その後も喋り続けて歩く事30分。時刻は午前2時前となった。風は一層強まっている為突風で体制が崩れそうになる事も増えてきた。レンズに当たる雨粒がデカくなってきたせいか「目」を擦る人機体達。

現在地は東南支部から25キロ程北東に進んだ小さな平原。台風の移動進路に沿って歩く為、廃墟を通過する時もあれば山を突っ切る時もある。25キロとはいえリベリオンやオリジンを見かけないのは事前に台風下におかれないよう事前に予想進路から離れたのだろう。支部長の判断は半分正しかった。しかし、問題は衛生関連の件だ。

「こんなに分厚い雲と雨風じゃリベリオンの技術力でも僕らを見る事は出来ないですよね?」

護衛人機体の一人がボヤく。

「そうだな…。いかに技術が上がっても結局殆どは電力に頼ってるし、何よりトリニティのGN粒子があるからな。」

地上かつ25キロしか離れていない支部とも連絡がロクに取れない彼らなのだから、上空何十キロから乱雲を通して自分達の動きを観察する事など出来るはずもないしジャミング用のGN粒子を散布してもいる。だが不安というのは人機体といえども拭える物ではなかった。

「カメラ、ちゃんと録画出来てるか?」

トリニティが念の為確認する。直後全員の「大丈夫」の返答。

まっさらな平原の中、暴風雨と不確かな監視の目を気にしつつも彼らはひたすら進む。

するとさっきから遠くで光っていた雷が今度は遠征班のすぐ近くに落ちた。が、彼らはイタズラにビクビクする事もなく歩いていく。人機体の外装には万能因子を応用してあたかも避雷針のように雷を屈折させて直接機体に当たらないような性質を持たせている。これにより直接でない限りEMPのような攻撃を防ぐ事が出来るようになった。ただし電波は通信効率も考えて逆に通りやすくしている。

漆黒の平野の中、鉄の背中が続いていく。

まだ北東支部は遠い。

 

 

夜が明けた。目覚まし時計はない代わりに体内時計で午前9時過ぎ頃に各々は目を覚ましていった。

朝になったとは言え依然として台風の中だ。そんなに明るくないし、太平洋を飛行中なので周りは海ばかり。波が時々カメラの位置まで飛び散って来るのでスクリーンに水滴がいくつか着いている。

朝飯は今まで通りコクピット内の万能因子簡易製造機を応用して作られた人工フード。

ジンはバランス良く和食。白米と味噌汁に焼き鮭、小松菜と漬物を少々。

エイミーはたらこスパゲティにオニオンスープとサラダの詰め合わせ(シーザードレッシング付き)。

睦月はベーコンとレタスのサンドイッチを2つに牛乳と目玉焼き、コーンポタージュ。

睦月は飯を食いながらお気に入りの曲をコクピット内のスピーカーで聴く。『女王』とか言うバンドで、イギリス出身らしい。

エイミーは暇なので所持しているタブレットを開くと、コクピットから見える外の景色を描き始めた。晴れならなお良かったのだが、こう言った景色は滅多に見れない。手際よくタッチペンを滑らせていく。

ジンは自らが開発した雨雲レーダーのソフトで台風の勢力を確認する。台風の進路は列島の太平洋側をかすめた後勢力を弱めながらおおよそ北東の進路を進んでいる。恐らく夕方前には低気圧に変わるだろう。現在地は千島列島とカムチャッカの間の辺りで北太平洋寄り。もう少しベーリング海寄りの位置でユーラシア大陸に上陸したかったが早めにカムチャッカ半島に降りて陸路を通る方がいいかも知れない。リミテッドキャリバーのレーダーを見る。今のところ敵影は無さそうだし、大海原の中台風がなくなると最悪の場合丸裸で監視に見つかるかも知れないので朝飯を食い終わり次第カムチャッカ半島上陸を目指す事にしたいと遠征班の班長である睦月=トリニティに連絡をする。

「あーもしもし、睦月聞こえる?」

「ん?なんでふぉーか?(なんでしょうか?)」

サンドイッチを咀嚼している最中だったためくぐもっている。

「…えっと、今後の進路についてなんだが。今いいかな?」

「いいでふよぉ。ふぉっとみふほましてふだはいい。(いいですよ。ちょっと水飲まして下さいい。)」

数秒後クリアな音声でどうぞと聞こえる。

「レーダーを見る限り早ければ今日の午後には台風が死ぬ。当初予想したよりも早いな。こんな広い太平洋の中じゃGNドライブのジャミング効果があっても一旦監視に目を付けられると逃げようがないから早めにカムチャッカ半島に上陸すべきと思うんだが……どうかな?あ、レーダーの情報はそっちに送る。」

ジンが転送し、睦月はスクリーン上で確認する。予想図はとても分かりやすい物で天気予報そのものだ。

「うーんそうですね…。台風を抜ければゼロ達からの連絡を受け取れますし、今回は監視の目を気にしないといけないので……私はジンの提案に賛成です。エイミーには私から連絡しておきますね。」

「おう、サンキューな。」

数分後エイミーからも了承を得たので今度は各人機体に連絡する。

「人機体の皆さんおはようございます。先程ジンから提案があり、予想以上に台風が消えるのが早く、それによって見つかる前にカムチャッカ半島付近に上陸しようと思います。今回は異例の行動スケジュールなので違和感はあると思いますが……どうでしょうか?」

「陸路の方が燃料をあまり消費しないしな。私は賛成だ。」

「例のシステムのデータも転送して、早いとこ解析してもらいたいから俺も賛成だ。」

そもそもいつもなら日本海を突っ切って中国大陸から北東支部を目指すが、今回は海路。加えて監視の目を気にしなければならないので訪問先の安全も考えて人機体らは次々とジンの提案に賛成をした。

「よし、では決まりですね。では30分後に台風から徐々に離れてカムチャッカ半島を目指します。」

 

 

 

 

北東支部は崖を削って造られており、気候面、環境面の過酷さも相まって天然の要塞とも呼ばれている。年平均気温は5℃程。冬は常に吹雪が強い為マイナス20℃に達する事もある。加えて支部よりも更に麓、南側には針葉樹林がまるで絨毯のようにひしめき開けた地形なので、そこから上に位置する支部と戦うには条件が不利すぎる事、かと言って反対の北側から攻めようにも頑強な崖に隠れた支部を叩く事は難しいし、何より支部以北には凍った海が続いている事、これの要素が相まって「天然の要塞」と呼ばれている。

しかし何よりリベリオンやオリジンらが攻め込めない要因としてはそこに所属する人機体の一機一機が強者揃いだからであろう。中にはBEYONDheavenが分裂する直前まで存在していた『アンブレイカブル』と呼ばれる超精鋭チームに所属していた人機体も居る。戦争が始まるとチーム内の数機はリベリオンに所属したり、或いはオリジンとなったりした。そんな中人間との共存を目指すライフ側の思想を持った数機がここ、北東支部に結集したのだった。元々アンブレイカブルは北極に専用の施設、今で言う支部のような所を詰所としていたが、戦乱で施設の大部分が破壊されてしまった為北東支部の一部はその施設でまだ使えそうな機材等を転用している。

北東支部を設立した当初はアンブレイカブル内の4機のみでメンバー構成されていた。しかし他支部からの移動や数機のオリジンがライフに寝返りした事もあって現在は9機まで増えている。

支部長のレイフはアンブレイカブルのリーダーであった『レゾーベル』の元パイロットの妻という変わった立場。戦乱の中で北東支部の支部長を務めた夫は病によって亡くなってしまい、変わって妻であるレイフが支部長となったのであった。なお、レイフは人機体の操作は慣れていない為レゾーベルのコクピットはパイロットシステムを取り外してシステム面の強化装置をを代わりに組み込んでいる。

人機体のメンバー構成は、

リーダーであるレゾーベル。

副リーダーであるヴァレンチノとロッテンフォロウ。

支部管理を任されているスティンガー。

設計段階で言えばゼロと並ぶほど前の世代であるマッドロータス。

オリジンから寝返ったレガーメリアン。

同じくオリジンから寝返った傭兵と名乗るクロードリーガンとパートナーの人機体であるナベリウス。

ナベリウスの私兵であるサーベラス兄弟。

この内レゾーベル、ヴァレンチノ、ロッテンフォロウ、マッドロータスがアンブレイカブルに所属していた。

また、人間は支部運営や機体整備に必要な者のみで構成されている為東南や中東支部のような民間人はいない。

ちなみに東南支部が今で言う日本にあり、北東支部が在するのはロシアのアナディル付近である。北東支部周辺は夏ということもあって流石に雪こそないが、真夏の東南支部周辺に比べれば幾分か寒い。

時差が東南支部に比べて3時間ほど早い北東支部は正午になった。昼食を早々と済ませたレイフは水野支部長に連絡をした。北東支部は崖を削って作った為、支部長室といえども配管やコード類がむき出しになっている。そのせいか元々狭い部屋が一層狭く感じる。しかも支部は必要最低限の設備しか殆ど置いていないし、連絡する時は旧式の携帯電話を改良した親機でする事になっている。しかしレイフは「ごちゃごちゃしているよりも落ち着くし、粗い感じも嫌いじゃない」と本人は気に入っているらしい。

受話器を手に取る。昔のように番号を入力してかけるのではなく、後付けされたプーリーのような部品で周波数を合わせた後に連絡用の確認パスコードをダイヤルで入力してやっと連絡出来る仕組みだ。素人がやるとかけるまでに2分くらいかかるがレイフは10秒もしないうちに電話をする。どこの支部とも違うし、リベリオンすら使ってない手法で連絡する為、傍受の可能性はほぼ皆無なのが強みだ。

数秒コール音がなり、直後東南支部の支部長室に繋がる。電話の声は水野支部長本人。

「おはようございますレイフ支部長……っとそっちはもうお昼でしたな。」

「気にする事はない。朝食を済ませた頃だと思ってこの時間に電話したが……よろしいかな?例のモビルスーツについてだ。」

水野は真面目な声色で聞き入る。

「……何か新しい情報でも入ったのでしょうか?」

レイフは予め周辺を見回ったクロード達の報告資料を見ながら答える。

「この前の連絡の後、ウチの兵に周辺捜査をしてもらったのだがな。恐らくもっと内陸寄り、つまり北東支部の西側に居そうな事が分かった。北太平洋からベーリング海の沿岸沿いを一通り調べてもまるで反応がないし、チュクチ海方面を調べても反応はなかったらしい。それと、遠征班は既に東南支部から出発したのだろう?」

「はい、今日未明に出ました。台風の進路に沿っているので少し到着が前後するかと思いますが。」

「構わん。遠征班には北東支部に一回来てもらうからな。私から伝えておこう。それで、監視関係の方はどうなっている?」

「現在我が支部の整備班と技術者達が開発したシステムで警戒しています。しかし台風が通るせいか列島付近の上空にはあやしい動きは特に見当たりません。やはり衛星なのでしょうか……。」

「…今の我々には宇宙(そら)から大地の様子を詳しく見る術は確固たる物としてはないからな。確証は得られんが……それでも衛星は管理に手間がかかる。技術力があるとはいえ利便性を取るだろうし、宇宙よりもまだ空中の方が地上に近いから詳しく様子も見れる。監視の可不可が気象に左右されるのは衛星も偵察機も同じだろう?私だったら後者を取るがね。」

大気流動観測システムは現在もゼロとアモン、整備班と技術者らが必至にデータの構築と観測を行ってくれている……が、台風を抜けてから進路部分のデータは転送される。判断はそれによるだろう。

「台風から抜ければ遠征班から随時観測データが転送されてくるのでそれまでは様子見ですね。ただ、衛星か偵察機かと言うと私は偵察機に賛成ですね。衛星と偵察機を比べたら利便性の差があり過ぎる。ともかく、観測は引き続き徹底させますのでまた何かあればいち早くお知らせしますよ。」

「頼むぞ。こちらはモビルスーツについての情報をもっと探してみよう。では、また何かあればかけてくれたまえ。時間を取らせて済まなかったな。」

 

 

 

数日後、無事カムチャッカ半島に上陸出来た遠征班は陸路で北東支部に到着した。観測データは上陸時に東南支部のゼロに転送して既に解析中だ。

北東支部に到着し、すぐに発掘作業に同行するクロード、レガーメリアン、マッドロータスと情報交換を行う。

「遠路遥々ご苦労だった。ゆっくり休んでと言いたいところだがこっちも立て込んでてな。発掘を早めに終わらせて北北東支部の援護に向かう事になってな。大体の位置……つっても半径500km圏内だが、ここから西の内陸部に居る可能性が高い。沿岸部は一通り調べたがそれらしい反応がないからな。それに、過去ガンダムフレームの機体とモビルアーマーの戦場はユーラシア大陸の内陸部で盛んだったらしい。だとすればそこにあってもおかしくないからな。探す際は各機個別で遠くまで散らばるとリベリオンやオリジンに見つかった際面倒だから間隔は5km。北東支部から西に向かって進行する。リベリオンやオリジンを見つけた、或いは見つけられた時はすぐに通達しろ。戦闘はなるべく避けてくれな。」

かなり早口だったが褐色肌の暑苦しそうな男、クロードはここ最近の偵察記録と共にガンダムフレーム機発掘に向けての説明をした。クロードは代々傭兵を生業とする家に生まれ、戦前はBEYONDheavenで人機体の兵装関係に携わっていた事もある。僚機のサーベラスも彼が製作した物で、戦乱前にBEYONDheavenが製作した試作機を奪取し完成させたらしい。

続いて探索方法についてクロードが説明する。当時ガンダムフレームに使用されたであろう外装やらパーツ類やらの鉄分を大雑把ではあるが見分けられる特殊な探知機を使うそうだ。コクピット内部に付けて各センサー類と同期させる。また、その装置からは常に電波を発信しており跳ね返りから物体の様相を推定するというステルス戦闘機の技術の一部を利用した機能もついている。

「反応があればメーターの針が吹っ切れる。それを頼りに見つけるんだ。セットが完了次第出撃しよう。あ、レガーメリアンはオレから離れるなよ?お前のクローは地面に埋まってた際に必要だが、如何せんお前は怖がりだからな。」

う、うん…とそのレガーメリアンと呼ばれる少し小さな人機体は頷く。両手にはマニピュレーターの代わりに鋭い刃が3本ずつ、腕は可動域を重視したのか多関節蛇腹機構を搭載した珍しいモデルだ。(世間ではズゴックの腕で認知されているアレ)

「元々コイツはオリジンだったんだがな。リベリオンに殺られそうになってるのをオレの僚機サーベラスが発見してな。明らかにイジメな光景だったもんで助けたら支部に住み着いちまって今に至る訳さ。付き合ってて楽しいし支部長も来るものは拒まず主義だから今は仲間さ。」

「え、えっと……あんまり戦うのは苦手ですけど、お役に立てるよう頑張りますっ!」

遠征班は総じてよろしくと挨拶を返す。イカつい見た目に反して気弱な性格のギャップさがなんとも愛嬌のあるものであった。

「レガーメリアンは元々作業用に開発された人機体のフレームを使用してるからこんなイカつい見た目なのさ。さっき渡した探知機もレガーメリアンに搭載されていた技術を応用したモンだ。ただ人機体とはいえ戦闘用って訳じゃないからな。捜索の際にはオレやサーベラスらが護衛役をするんだ。……まあ、アイスブレイクはこんなもんでいいだろう。そろそろ出発するぞ。」

 

北東支部を彼らが後にするのとほぼ同時刻、支部管理を任されているスティンガーは緊急連絡をキャッチする。発信源は北東支部より更に北に位置する『北北東支部』から。

「こちら北東支部から北北東へ。緊急連絡をキャッチした。」

「聞こえるか?私は北北東支部所属人機体のジンクシズムだ。現在リベリオンと戦闘中だが、そろそろ支部がもたない。至急応援に駆けつけて欲しい……と各支部に緊急連絡はしたのだがな。地理的に他支部から離れている事や今すぐには向かえないで断られてしまっていてな。北東支部は規模も人機体も少ないから連絡するか迷ったが……どうだろうか…?」

そのジンクシズムと名乗る人機体はかなり疲弊した声色だった。音声の背後には爆撃音も聞こえている。前から北北東支部が周辺のリベリオン小隊と戦闘状態にあったのは知っていたが、予想以上に長引いて今では総力戦となっているのか。

「兵力はどうなっている?民間人は?」

「殆どが殺られた。民間人も出来るだけ避難させてはいるが……半分は亡くなった。こちらは一機でもいいからすぐに増援が欲しい。なんとかならないだろうか…。」

「……了解だ。増援は送るが今すぐとなると数は期待しないでくれ。もう少しの辛抱だ。待っていてくれ。」

感謝する!と、ようやく希望が見えてきたような声になる。

支部管理を任されているとはいえレイフ支部長を通さなくても増援を出すことを許可出来たのは、それだけスティンガーや他の人機体らが優秀であると認められているからだろう。また、レイフは常日頃各々の判断力を養うスタンスを取っていた為、大抵の事は各機に任せられている。

一機でそれ相応の力を発揮出来る者となると……。

「聞こえるか?一機確実に力になれる者をそちらに送る。機体名は『レゾーベル』だ。到着次第あなた達は彼に任せて安全地帯への撤退準備を始めてもらって大丈夫だ。」

 

 

 

 

 

クロードの調査のお陰で大体の位置は絞れていたので、ユーラシア大陸を往復する事は避けられそうだが、未だにそれらしい反応はない。調査メンバーは縦一列に並んであたかもコピー機が資料をスキャンするかの様に大陸を舐めていく。

しかし調査開始から2時間、反応はどうでもいいオリジンを数機程度見つけたくらいで一向にガンダムフレームは見つけられない。

一同は調査予定エリアを一通り調べると、一旦エリア外の、今で言うトルコの辺りにある森林に集合する。人間が手入れをしないせいで暴走した植物は、まるで森その物が意志を持っているかのような雰囲気を放っていた。歴史的建造物や街並みも、時の流れには逆らえずに朽ちている様子を目に留める。

動物達の囀りの中、話し合いをする。その間探知機はオーバーヒート回避の為に電源を切る。この調査の為だけに開発した為、いつ壊れてもおかしくない。

「……反応は未だ得られず。どうしたもんかなぁ。」

クロードは苦悶の表情を浮かべる。元々レイフが過去の資料を元に位置を予測したのである為、間違いという可能性もある。しかしあのレイフ支部長の言う事だ。今まで間違っていた事はないし、その資料を見てもこの周辺に居ることはたしかなのだ。

皆が今後の調査方針について会議をする最中、レガーメリアンは周囲の防衛と称してサーベラス兄弟を引き連れて森を見回る。ありのままに生きる動植物達を見ながら探知機とレーダーを横目に会議する彼らの周りを、木々に気をつけつつ円を描くように歩く。

 

すると数分後、大地を歩く彼の足は自然のそれとは違う感触の物を踏む。レガーメリアンは元々土地開発用という事もあり、地形の変化には敏感である。違和感を察知した彼は歩みを止めて足元をクローで探る。すると、クローが土壌のそれとは違う手触りを覚える。たまたまONにしていた探知機に目をやる。反応を示すアイコンがまるでその存在を主張するかのように点滅していた。

「クロード!!!いたぞ、いたぞお!!!」

一気に森林が騒がしくなった。

各々探知機を再びONにしてその存在を認める。森林に入る前に探知機は切っていたのと、土壌がある程度覆いかぶさったいた事が探知機に引っかからなかった要因だろう。レガーメリアンが掘り進めていくと、1枚の縦30m、横20m程の鉄の板が顕になる。恐らくこれは『蓋』のような物であり、現物はこの下に埋まっているのだろう。

「……見つけたはいいですけど、どうやって回収します?ライフルで蓋を破るついでにガンダムフレームまで溶かしたくないですし……。」

「そうだな……ここは一つ、蓋を斬ってみよう。恐らくこの板は『天井』だろうからな。斬る所に注意して開けてみよう。」

レガーメリアンが持ち前の掘削用クローで器用に鉄板を切り裂いて聞く。

「鉄板の表面自体は何百年と経ってるせいからかなり酷い状態だけど、その下の頑強さはまだ残っているね。」

順調にカットしていくレガーメリアン。しかし彼の元来のおっちょこちょいさが出たのか、自分の周りを見事四方に斬ってしまう。

クロードらからは、突然レガーメリアンが地面に吸い込まれた、あるいは瞬間移動したかのように目の前から消えた。

「…っておおい?!レガーメリアン!!」

「大丈夫ですか?!」

「体勢を整えるんだ!!」

上から見ていたクロードらは狭い穴に人機体と身を乗り出して地下の暗闇に叫ぶ。

フェードアウトしたレガーメリアンは悲鳴と共に地下施設…ガンダムフレームが安置される地下へと吸い込まれていく。あまりにも焦っていたのでスラスターを吹かすことを忘れていた彼は、地面直撃のスレスレでフルブーストでブレーキをかける形で着陸(?)する。何百年と溜まった誇りや土やらが一気に舞うのを感じる。

イテテテと言わんばかりに腰をさする。上からは心配する仲間の声が聞こえてくる。

「大丈夫ですよ!!でもかなり深いので危ないですよ!!」

無事を確認した彼らは、ガンダムフレームの存在を問う。

額のサーチライトを一番明るくする。さながらお化け屋敷のような周りにギョッとする。

地下はシンプルな構造で、恐らく入口に向かう為のリフトや整備用の工具、パーツ、当時使われていたであろう機体の残骸などが当地の様子を物語っている。

恐る恐る奥に進んでいき、開けた区画で面を上げる。

「……居ました。ガンダムフレーム。」

居たか居たかと叫ぶクロードらの声と対称的に、レガーメリアンは落ち着いた声でそう答えた。

サーチライトに照らされた機体は黒いボディに馬のようにたくましい4本の脚で、埃を被りながら毅然とした様相でそこに立っていた。何百年と経っている筈なのに、まるで「死んじゃいない」その厳格な姿形と、そのいかにも「悪魔」な姿に心を奪われていたのであった。魅了されていた。

そしてその額には『Halphas』の文字が小さく、それでいて遠くからでも、何百年と経っていてもしっかりと読める程力強く刻まれていた。

 




いよいよ受験が近くなってきてしまい……Twitterにも殆ど顔を出せてないルシェラです……。
今後は受験終了まで最新話の更新はないです。(多分前書きにキャラクター紹介やらあらすじやらを載せるかも?)
とりあえず短めですがこれにて失礼します✋!!


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機動戦士ガンダムプレデターズ 第十八話 クラック

 

数日前、リベリオンは前回の中東支部戦において得られたデータを元にワンダの改良型を大量生産していた。プロトタイプ10機から白兵戦特化型と遠距離特化型のバージョンに枝分かれしてそれぞれ15機ずつの計30機体制となった。

午後の幹部会議では現状報告を終えた後、これからの戦域の展開や兵力の配置について広く議論された。参謀班と殲滅部隊班、観測班の上層部が巨大なスクリーンを挟んで話し合う。

「さて参謀班長、先の中東支部戦では手痛い損失を被ったそうじゃないか。ワンダはともかく、現地の展開部隊やアスターまで危険に晒したのは事実であろう。これはどう責任をとるつもりかな。」

観測班班長であるノートはブラックナイト隊から映し出されていた当時の戦闘の一部始終を見ていた一機で、同時にフェンリルによって部隊が蹂躙される現場も見ていたリアタイ勢でもある。本来観測班などと言う直接戦地に赴かないような奴らに古傷を抉られる筋合いはないが、コテンパンにやられたのもまた事実である為参謀班長であるクロナードは下手に反論しようとはしない。

「その節は各班の方々や現地の同士達、そして何より悲願たる地球機構化計画の進行を妨げてしまった事、ここに深く謝罪させて頂く。」と、クロナードは起立し、隣に居た副班長のバタフライも立たせて頭を垂れた。こう言うのは役柄上慣れてる。着席し、今後について意見を述べる。

「……中東支部戦においてフェンリルとそれを操るルフスは『白』と言う事が判明したのは不幸中の幸いと言いましょうか、曲がりなりにも収穫ではありました。アスターも現在は元のボディにインストールされ、現在持ち場を任せております。彼女が東南支部…これはルフスらが潜伏している支部の事ですが、そこからいくつか情報をコピーする事に成功しております。」

おおっと周りが身を乗り出す。議長であるフォールンが述べよ、と合図するが、

「情報量が大きい為皆様のクラウドボックスに圧縮して転送させて頂きますが、大まかに言えば

①各支部の現状と今後について。

②これまでで分かっている我らリベリオンの戦力について。

③各支部の人機体のスペック。

④ライフがまだ地球機構化計画について知らないと言う事。

特筆するとしたらこんな所でしょうか。より具体的な内容は圧縮ファイルに記載されていますのでそちらを確認して頂ければと思います。」

アスターが持ち出した情報の貴重さはこの所敗北が多かったリベリオンらにとっては『精神的』に助けられた物であった。奴らライフはまだ釈迦の手の上で踊らせているのだから。

戦いで煙に巻いておけばリベリオンの悲願である地球機構化計画に気付かれる事はない。しかも計画という形の存在は彼ら上層部しか知らず、リベリオンの一般の人機体らはフォールンが当初謳ったような『人類にとって変わり地球を管理もとい支配する』思想でいるので撃破して解析しても漏れることは決してない。

しかし上層部はアスターのように、いざとなればに自爆シーケンスでそう言った機密情報の漏洩を防ぐ事も義務付けられている。

議長であるフォールンは

「……中東の話はもういい。今後どう動くべきかを議論しよう。何かある者は?」

とリーダーとして周りを導こうとする。

殲滅部隊班班長のカストルが挙手をする。

当てられ発言。

「殲滅部隊班は目下ワンダの増強に勤めておりますが、やはり決定打の存在が必要であると踏んでいます。試作ながら無限の可能性を秘めているとは言え、ワンダの熟成には時間と戦場が必要です。しかしデータの収集ばかりしていれば、いつライフが盛り返してくるか分かりません。計画完遂を抜きに考えてもやはりモビルアーマーのような確実に仕留められる存在が必要です。……と言ってもメガロバスターは……いえ、言わなくても良いでしょう。もちろん全班員総力を上げて努力してはおりますが、人間は底が知れません。いつ我らを脅かす様な兵器を開発してもおかしくありません。どうか皆様にも案を提供して頂きたいのですが……。」

「……むぅ、たしかに。」

フォールンはリーダーの威厳として口に出さないではいたが、この所負けが多い事を考えるとやはり戦力や技術の差が迫ってきていると自覚せざるを得ない。特にあのルフスとフェンリル。彼らを捕獲しようにもモビルアーマーですら屠られてしまっては、流石にそれどころではなくなってしまう。捕まえる前にこちらが滅ぼされかねない。と言ってもアイデアがそう簡単に出てくる訳もなく、一同は沈黙してしまった。

そこで参謀班副班長のシュピールが提案をする。

「私から提案なのですが、一度大規模な戦力をもって支部を叩いてみてはいかがでしょう。それもあのルフスらが応援に来れない程の遠くの支部ですが。現在も戦闘が続いている支部に追加部隊を送り、改めてリベリオンの強さを示してみると言うのはいかがでしょうか。」

レイフ支部長が居る北東支部周辺に点在している北北東支部もそのひとつではあるが、北東支部の精鋭らを忌避して陥落が進んでいないのも事実ではある。戦力的にも地理的にも殲滅出来る支部は限られている。となると……。

「…南西支部か。」

南西支部は比較的最近に設立された支部であり、所属する人機体も戦闘経験が他支部よりは浅い者達が多めだった。普段は脅威とみなす必要もないとして放っておいたが、簡単に殲滅出来る支部の1つでもあった。

直後シュピールの中東支部戦における采配の悪さを批判する声も上がると思われたが、アイデアが出ない以上シュピールの案を軸に考えるしかあるまいと引き下がった。皮肉かも知れないが、如何に高度な人工知能を持っていても人間の様な思考に近づけば近づく程リスクヘッジを求める思考も現れてくる物だ。将棋やチェスで人工知能が猛威を振るうのはそう言った『恐れ』を抱きにくい点や、すぐに別のルートを提示出来る点があるからだろう。

「現在南西支部は特に大規模な活動はしていないのでブラックナイト隊の監視は外れています。呼び戻しますか?」

ノートは監視カメラの映像を会議室のモニターに写す。戦闘がほぼ行われていないのと南国というのもあって他支部と比べて比較的のほほんとした雰囲気だった。

「……いや、ブラックナイト隊にはルフスとフェンリルを中心に監視を続けさせろ。部隊を出すとして、ここから南西支部までどれくらいかかる?」

すかさずノートが発言。

「ゆっくり行っても2日かからないので1日強という所でしょう。」

南西支部といっても赤道付近にあるが、リベリオンが実際に点在しているのはユーラシア大陸の真ん中ら辺であるため人機体の速度なら時間はかからない。

今度はクロナードが発言。

「殲滅部隊班、南西支部を襲撃するとして何機までワンダは出せそうですか?」

副班長ポルクス応答。

「あーー良くて40って所だな。2タイプだから割る2してそれぞれ20機。」

「十分かと。」

シュピール発言。

「カストルの言っていた決定打はどうしましょう。例の部隊を戻しますか?」

フォールンはノートに現在も戦闘中の北北東支部の状況を改めて調べさせた。

「…約1ヶ月前に戦闘を開始していますが、予想外にライフどもの抵抗が激しく、短期決戦を臨めると見込んでいた襲撃部隊は火力不足でほぼ膠着状態となっています。兵を送ろうにもすぐ近くの北東支部から超精鋭の人機体どもが何機か加勢してますし、いくらリーダーがテザログレイヴァといえ単純な人機体数は敵方の5分の1です。しかしライフ側も人機体や施設、住民などに多大な損害を被っています。当初5分の1だった兵数差も2分の1程に収まっておりますので、充分潮時かと。」

テントを使って移動していたり中東支部の周辺に居た戦闘部隊は必ず班で構成されており、それぞれの部隊班長は上層部の人機体に勝るとも劣らないスペックを誇っている。北北東支部戦と違って今度は攻略も容易だし兵力も違う。すぐに呼び戻して整備改修し向かわせたとしても大丈夫だろうという意見が強まった。

「……クロナードはそれでいいのか?」

副班長の提案に対して班長の賛否を問うフォールン。

「大丈夫です。シュピールと共同で考案した物ですから。」

「……では、」

とフォールンが決を下そうとした刹那、それまで黙っていたアメノハバキリがしかし、と口を挟んだ。フォールンは発言させる。

「この際先に北北東支部を殲滅し、その後に南西支部を叩いた方が効率が良いのでは?先程の報告によれば戦力差は埋まってきているのだろう?ならワンダの一部と周辺の部隊を送り込めば事足りる。南西支部がそこまで脅威でないのに殲滅の為に呼び戻すなぞ、今まで戦ってきたテザログレイヴァらの働きを無駄にする事になる。」

すかさずシュピール反論。

「しかし我々が何故北北東支部に援軍を送る事に渋っているか知っているはずです。北東支部の人機体は一機一機が脅威なのです。恐らくあのフェンリルとルフスよりも…。ワンダを投入するのはまだしも、先程私が申し上げた決定打、つまり部隊班長並の人機体もまだ候補すら上がっていないと言うのに。周辺部隊も集められる限度と言う物もあります。その辺、どう補填するおつもりかお聞かせ願いたい。」

「ならこの私、アメノハバキリが行こう。提案した者として当然の事だ。それでよろしいか?」

予想外の返答に狼狽えるシュピール。秘書が最前線に赴くなど聞いた事がない。

返答に困ったシュピールはアメノハバキリが仕えるフォールンに是非を問うた。

「フォールン様はそれでよろしいのでしょうか……?」

しばし沈黙したが、アメノハバキリが誠意を見せる。

「統帥機(リーダー)、今こそご決断の時です。たしかにルフスを確保して、一刻も早く計画完遂を成し遂げたいお気持ちは分かります。しかし物事には順序という物があります。ゴールに辿り着くまでにはそれまでのチェックポイントを通らなければなりませぬ。」

「………………むう……分かった。では、アメノハバキリの案で行こう。」

リーダーであるフォールンの命令とあれば他も追随するしかない。結局、ワンダ2タイプ×10機とアメノハバキリ、追加でカストル、ポルクスらの部下数機が現地の加勢に行く事となった。その間ワンダの数を増やして南西支部襲撃の際には合計60機を投入する予定も建てられ、諸々の報告や論争をした後会議は終了となった。

 

解散直後、クロナードはアメノハバキリに話しかける。

「……どういうつもりですか?」

「どういうつもりとは?」

「…いえその、意図と言いますか、秘書の貴方が前線に出向かれることが珍しくて。」

クロナードはある意味でアメノハバキリを疑っていた。先のアスター自爆の件から始まってフォールンに対しての忠誠心まで、何か引っかかってはいた。しかしそれが何なのかまでは人工知能を持ってしても知りえない事が多かったのでこうして直接アメノハバキリの口から聴きたかったのだ。

「私はフォールン様の悲願を叶える為に尽力するまでだ。これもその一つと考えている……なんだ、秘書なんかが前線に行っても役に立たないと?」

華奢かつシンプルな武装に身を包んでいるとはいえ、アメノハバキリはフォールンの側近を任されているのでかなりの手練であった。なんならクロナードでも敵わないかも知れない。

「いえ……貴方の実力は存じておりますのでそう言った思考はないのですが…。」

「なら、問題はないだろう。心配するな。これでも修練は欠かさずこなしている。」

違う、そうじゃない。

呼び止めたかったが、しかし、今のこの焦燥感を言語化する事がクロナードには出来なく、沈黙の中彼の背中を見送った。

 

 

寒空の下ガンダムフレーム捜索班は埃と錆だらけのモビルスーツを地下施設から引き上げ、急いで北東支部に向かっていた。

北東支部に留守番をしていたスティンガーから、北北東支部への援護を頼まれたのだ。出力の高いマッドロータスにモビルスーツを背負わせ、その護衛に東南支部のメンバーが就いた。レガーメリアンとクロードで北北東支部の援護に回る。

「俺達の希望になるかも知れない。そいつは必ず北東支部に届けろ。着きさえすれば、あとはどんなに追手が居てもその場でぶっ倒せるからな。」

「クロード、効率を重視したいならその会話は離脱しながらでも出来るぞ。」

効率厨のマッドロータスらしい見送りの台詞だ。

「おめえはそういう所がなぁ!……いや、今はいい。後で締める。ともかく、ソイツを頼んだぞ。」

二手に分かれる。現在地から北北東支部まではそれ程遠くはない。せいぜい20分と言ったところか。

とばすぞ、と出力を最大にする。燃料はまだまだ持ちそうだ。

 

マッドロータスは特殊モードのスーパーバーニアの高出力モードで北東支部へと急ぐ。護衛役の東南支部の人機体達ですら振り切られる速度だったので、マッドロータスのボディを掴みながら着いて行った。ブースト特有の白煙は上げないがソニックブームが周りを蹴散らしながら衝撃波が飛び散る。

度々その速度と風圧で振り落とされそうになる東南支部メンツ。幸いにもガンダムフレームはワイヤでマッドロータスにしっかりと固定されている為振り落とされはしない。

整備士としてのサガからか、ジンはまるでガレージに何十年も放置された名車状態のハルファスをリミテッドキャリバーの高性能カメラから眺めて外観からではあるが、出来る範囲での分析をする。

分かったのは

①高機動型である、故に武装は少ない事。

②少なくとも機体にダメージの跡はなく、何者かがまるで隠したかのように保管していたと思われる事。

③見た目はガラクタでも内部の配線や機器類はしっかり生きている事。

 

そして、

 

『元のフレームは確かにハルファスだが、要所要所に別系統の機体パーツを組み込んで完成させたかも知れない事。』

 

これはこのハルファスなるガンダムフレームを何者かが自分達と同じ様に調べていて、その過程での修理を施されたのではないかと言う推測が出来る。所々明らかにアフターパーツと言うよりも、無理やり付け足された感のある箇所に違和感を覚えただけの考え過ぎかも知れないが、ジンは何処かしら不安を抱えていた。ハルファスであればそれでいいのだが、どうも腑に落ちなかった。

そうこうしている内に北東支部がもう見えてきた。流石マッドロータスだ。

北東支部の玄関を通り過ぎる勢いで突っ込んだマッドロータスは急にバーニアを自分の前方に向け、急停止した。マッドロータスはジャックナイフ姿勢で止まったが、掴まってたジンらは慣性で投げ出された。即座にワイヤを切り離すとマッドロータスは「投げ出してすまないが5分後に北北東支部へ向かうぞ。」と支部へと去りながら言った。

北東支部の格納庫の最深部へと続く降下式のフロアにハルファスを固定し、保管を見送る。支部内のスティンガーに一通りの状況を聞き、管理を任せて北北東支部へ向かう。あちこち走り回ったジンらは疲れて来ていたがそんな表情一つ見せず援護へと向かった。

道中マッドロータスに睦月が聞く。

「北北東支部ってどんな所なんですか?」

数秒沈黙した後、トリニティに圧縮データが送られた。解凍すると、北北東支部の景観が3D映像で見渡せるファイルが入っていた。コクピットはシート以外ほぼ全てスクリーンなので、ファイルを開くや否や周りが北北東支部の景色に包まれる。夏の景色だったが、鋼鉄のような岩山に囲まれた小さな狭い土地の真ん中にロッジの様な佇まいの北北東支部がそこにはあった。一見すると殺風景の様にも見えるが、その奥に広がる針葉樹林と峰に積もる落ちきってない雪化粧の組み合わせの素晴らしさは言語化するにはあまりに難解である。マッドロータスは効率厨らしいと言えばらしいが、分かりやすく、簡潔に教えてくれた。睦月は暫く視点を変えるなりして風景を堪能した後、ありがとうと言った。

 

 

その頃北北東支部ではジンクシズムと残った人機体達が必死の抵抗を続けていた。

「絶対に、これ以上民間人には被害を出させるな!!もうすぐ援護が来る……それまで耐えるんだ!!」

「しかし……ちゃんと来るんですか?!」

「絶対に来る。北東支部からの増援だ。交信暗号を長らく使ってなかったせいか、交信に手間取ってしまってな。だがもう大丈夫だ。」

北東支部からの増援。それだけで周りの人機体達は喜びと希望の歓声を上げた。

喜んだのも束の間、ジンクシズムの隣に居た仲間の頭部が射抜かれた。悲しむ間もなく即座に反撃体制、前方に9機。民間人を避難させているシェルター入口を防衛するジンクシズムらを取り囲むような形で迫る。

前面の敵で手一杯だと言うのに、レーダーが背後にも迫っている事を警告して来る。背面の5機を合わせて恐らくこれが最後のリベリオンの総数だろう。

「これで仕留めるつもりか……持ってくれよジェネレーター。」

度重なる連戦で各所に不調が見えてきた。ここで勝てたとしても数ヶ月はほぼ無力化状態だろう。

そうこうしている内にも仲間達が次第にやられていってしまう。そして後方に控えていた襲撃部隊のアタマらしき人機体(テザログレイヴァ)が遂に前へと歩みだし、周りに攻撃を一旦中止させる。静まった戦場の中拡声スピーカーから言い放つ。

『まだ抵抗を続けるか、それとも今から取引をするか、選べ。そちらのリーダーはどいつだ?』

ジンクシズムは仲間らの静止を振り切り前へと出る。

「私だ。名はジンクシズム。我々は最後まで民間人を守る。いかな取引でも受理するつもりはない。」

『愚かなやつだ。まだ取引の内容すら話していないと言うのに。もしかしたらお前達全員が助かるかも知れないのだぞ?』

そんな調子いい話に乗るか、とも思ったが北東支部の援護到着の時間稼ぎにもなるだろう、とジンクシズムは聞くことにした。

「言ってみろ。その内容とやらを。」

『では簡潔に言おう。君たち全員が犠牲となって人間達を守るか、人間達を差し出し、君達が助かるかだ。』

「どっちも信用出来ないな。仮に我々が犠牲となっても残された人間達はお前達に殺されるし、そうでなかったとしてもこの施設の有様じゃあ民間人は復興出来ない。後者は言うまでもない。」

となれば、とテザログレイヴァは全機攻撃準備の合図を送る。

『交渉決裂だ。死n』

瞬間、宙を漂って喋っていたテザログレイヴァの背後に機影が現れ、それと同時に地面に叩きつけられていた。

周りの人機体は謎の機体に銃を向けようとするが、その前に骸にされる。

「間に合ったか……全機攻撃を再開せよ!」

リベリオンが混乱する中、再び反撃が始まった。

「遅くなりました、ジンクシズムさん。」

金色のメイスを手にレゾーベルが、陽光を背に君臨していた。




こんにちは!
数ヶ月ぶりの更新となってしまいました……。
受験も終わって暫くはゆっくり出来ます。
間を空けすぎたせいでも1回自分で前の話を読むハメになりました 
4月から新たな生活が始まりますが、その中でも更新していけるよう頑張って参りますのでよろしくお願いします(^ω^)


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機動戦士ガンダムプレデターズ 第十九話 ニュートラル

レゾーベルが到着してからは早かった。

単騎で戦局を変えるほどの力を持つ彼女は人知を超えた速度と武装、戦術でリベリオンを蹂躙し回った。残骸の再利用も考えてか、はたまた彼女の嗜好なのか、全機思考回路が搭載されている頭部のみを狙って破壊されていた。

 

遅れて到着した東南支部メンバーは、かつて中東支部戦で目の当たりにしたフェンリルにどこか似た雰囲気をレゾーベルから感じ取っていた。彼の様な野生ではなく、武力の純化を突き詰めたスタイルだった。

レゾーベルのすぐ後に到着したクロードらも、手出しする暇もない状況にお手上げな表情であった。

「終わったようだな姉御。」

「遅かったじゃないかクロード。」

東南支部メンツはジンクシズムらを介抱、安全区域まで案内すると共に、住民の保護を開始した。北東支部に匿う事になり、狭い支部ではあるが空き区間に居住して貰うことになった。

手際よく指示をしていくレゾーベル。

「ゆくゆくは保護した住民を、ここよりもっと快適な支部へと移送したいな。まあ、まずは北東支部までの護送が先だがな。」

最優先事項は住民の護送である。壊滅しかけた支部に残っていた機材搬送用の大型バンが複数台幸いにも生き残っていた事がラッキーだった。残骸の回収は護送後にして、すぐさまその場を後にしようとするレゾーベルら。

 

しかし、新たな刺客が行く手を阻む。

「12時の方向に敵機反応あり!」

「数は?」

「…23機!」

「多いな………最優先は人命だ。クロードとリミテッドキャリバー、トリニティは別ルートからバンを分けて現区域から至急離脱。インパチェンスと残りの戦闘可能な人機体は、ここで奴らを迎え撃つ。北北東支部の損傷が大きい人機体はバンの護衛にまわれ。」

的確且つ迅速な指示を送るレゾーベル。リベリオン側も量産型であろう兵士達を上手いこと分散させる。残りの分隊長らしき人機体3機の内2機がバンの襲撃の為に分かれた。そして残った一機、アメノハバキリがレゾーベルらと対峙する。

「……久しぶりだな、レゾーベル。その様子だと、まだまだ元気そうじゃないか。」

「お陰さんでね。お前も変わらないなあ。」

『……よく知っているんですか?』

普通に会話する2人に違和感を感じたエイミーがメッセージでレゾーベルに聞く。

「ああ。こいつとはこの戦乱前、同じ部隊に居たんでね。」

さらっと答えたレゾーベルだが、メイスを握る手は緩めない。

「ここは私一人でやれそうだ。君たちはバンの護衛に向かえ。」

数秒沈黙した後、了解と援護に向かう。

ワンオンワンで向き合う2人。レゾーベルは背部のドラグーンを全機射出してバンの方向へと向かわせる。自身の軽量化と味方の援護も兼ねているのだろう。

アメノハバキリはゆっくりと鞘を構え、柄に手を伸ばす。それに対してレゾーベルはメイスを握ったまま、それを構えようとはせず、仁王立ちしたまま。

寒空の荒野で向かい合う二人。暫く見合った後、先に仕掛けたのはアメノハバキリだった。華奢な体躯から繰り出されるハイスピードな居合切りは、加速時に蹴った地面を大きく抉っていた。

スラスターの噴出角度を精密に操作し、アメノハバキリ視点で反時計回りに回転しながら抜刀していく。その切先がレゾーベルに到達する直前、彼女はいきなり仰け反り、そして見事に横一直線の斬撃を腹の上を切り裂かれるギリギリで躱す。同時にメイスを右側、丁度無防備になったアメノハバキリの左脇腹へと思い切り右から叩きつける。

察知したアメノハバキリは左腕で防ぐが、メイスの質量には敵わず、腕ごと腹を叩きつけられた。片手での攻撃であったとは言え十数メートルは吹き飛ばされた。

鈍い音がアメノハバキリの内部に響き渡る。左腕は肘から先が稼働しなくなり、腹部の関節機構も幾分か損傷したようだ。身体を動かすと損傷部から火花が飛び散った。

「……相変わらず、見事なカウンターだ。」

損傷部を刀を握った手で抑えながら言う。

「腕が落ちた……と言うより、お前の思考回路アプデしてるのか?カウンターは古くから私の専売特許だぞ。なんたってそこで張り合おうとする?」

その問いにアメノハバキリは答えようとはせず、再び刀を構える。

「言うまでもないって事か…。確かにお前は命令や忠誠を貫き通す奴だ。だからこそ、リベリオンの為にここで私を倒すし、北北東支部の奴らも殲滅するって訳か。」

「……そうだ。」

微笑気味な声色で答える。

その心意気や良し、とメイスを再び握りしめるレゾーベルだが、一つ疑問が浮かび上がる。

「そう言えば、お前リベリオンではどんな役職についたんだ?アンブレイカブルのメンバーともあれば、相当上の地位な筈だが。」

「ただの秘書さ、あの方のな。」

「なんだって秘書がこんな前線、しかも一騎打ちなんてやってるんだ?普通は主の傍に居る筈だろう?」

「今回の北北東支部への戦力追加は私が提案したものだ。だから全ての責任は私にあるし、ぬくぬくと安全地帯から命令を送る程腐ってもいない。だからここまで来たのさ。それに……」

「それに?」

「我らの、そして、あの方の理想を実現する為だ。人間と違って死んでも、バックアップデータからコンティニュー出来るしな。」

「……なるほどな。となると、今私が成すべきは、そんな大層な覚悟を決めて来たお前をぶちのめす事かな。」

かつての仲間であっても容赦しない。やらなければこちらがやられる。

互いの正義の為、再び衝突する。

先程と違い、今度はレゾーベルが先に仕掛けた。深めに持ったメイスで大振りの薙。まるで砲丸投げの様な姿勢で急接近する。アメノハバキリはすかさず回避。空振って地面にぶつけられたメイスは地面を深く抉り飛ばす。

体制が乱れたレゾーベルに一太刀浴びせようと斬り掛かるアメノハバキリ。メイスでカウンターしたり、防御したりする時間はもう無い。振りかぶったその瞬間、レゾーベルは左足に力を込めると、ガラ空きの腹へ向けて足底で強烈な蹴りをお見舞いする。膝関節に搭載されたスラスターが吠えながら、凄まじい金属音が響いた。先程損傷させた箇所にヒットした為か、内部の機器が潰れたような音もした。

メイスから手を離したレゾーベルは即座に両肘に取り付けられたビームサーベル発振刃を起動。斬り掛かろうとするも、意地を見せたアメノハバキリが頭部を狙った左腕の斬撃を身体を斜めに捻りながら躱しつつ、伸びきった左肩の接合部を切り上げる。サクッと野菜を切った感触で接合部が斬れる。外骨格とは言え、装甲と装甲の隙間の狭い関節部を切り裂くのは並大抵の技術と装備では出来ない。

見事に左腕を肩から落とされたレゾーベルは一旦距離を置き、手放したメイスの位置まで下がる。

「…そう言えばお前の特技は切断だったな。どんな超重装甲に身を包んでいても、外骨格式のモデルなら関節部で何でも切り落としてた。」

カウンターを得意とするレゾーベルに対して、アメノハバキリは敵のボディや関節を切断する事に秀でている。だからこそ、瞬発力に優れた華奢な体躯、弱点補足に向いた刀を装備した侍の様な姿なのだ。火力は低いが、常に繊細且つ必殺級の攻撃を繰り出せるアメノハバキリは、相手がレゾーベルの様な人機体でなければあっという間に勝てていただろう。しかし今回の相手はカウンター使い、しかも火力差がある。

「これで左腕はおあいこだな。」

即座に斬り掛かるアメノハバキリ。しかし先程のようにただ突っ込むだけではない。踏み込みのインパクトをわざと強くしつつつま先を上に向けて踵で踏ん張り土煙をあげる。足底のスラスターをわざと吹かす事によりますます煙くなる。

カウンター相手にはフェイント。ほんの一瞬ではあるが注意を逸らされたレゾーベルの喉元に突きを食らわす。

「しゃらくさいわ!!」

人間で言う頸動脈の箇所を掠めるようにすんでの所で回避したレゾーベルはそのままアメノハバキリに頭突きを食らわそうとするが、それを読んでいたアメノハバキリは後ろに倒れ込むような姿勢を取ると、反った姿勢をとり、左膝でレゾーベルの顎を蹴りあげた。

頭部を引くことで相手に追わせる、必然的に相手の頭突き体制は前のめりになる。

仰け反ったまま耐えることも出来たが、この際その反動を利用しようとバク宙をして距離を空けながら、腰のスラスターを最大まで吹かし、稼働型の背部スラスターを一点に集めてアメノハバキリに突進をする。

「……お前のカウンターは読めている。」

胴体に向かうメイスの切っ先を限界まで引き付け、身体を捻って回避しつつ伸びきったレゾーベルの腹を切り裂く、そのシミュレーションを刹那の刹那で実行したアメノハバキリ。

「私の勝ちd

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あと数機だ、押し切れ!!!」

ワンダ部隊との戦闘は終盤に入っていた。

レゾーベルのドラグーンにも助けられ、想定よりも早く優位にたてたのが幸いだった。

ワンダは以前中東支部で見かけた時よりも武装は豊富で、しかも動きが賢くなっていた。司令役がいる訳でも、かと言って誰かの操作で全て動かされている訳でもない感じではあったが、やはり確実にバージョンアップされている。

「ジン、後ろ!!」

鍔迫り合いになっていたジンの背後にフリーになったワンダが飛びかかる。

やられる!と思った瞬間、

「そこ!」

そのワンダはトリニティのツインバスターライフルによって灰燼となる。リミテッドキャリバーのバックパックに高熱が伝わる。

「いい、加減っくたばれえええ!!」

目の前の敵に集中出来るようになったリミテッドキャリバーはその体格差を生かして無理やり刃を押し込み、敵の武装ごと胴体を袈裟斬りする。

ワンダのモノアイから光が消え、活動を停止する。

「……どうにかなったな。バンは?」

「全員無事です!!」

「…良かった……本当に。」

安堵する人機体らを他所に、ドラグーンは警戒モードとなって彼らの周囲を見張っている。

「前回、直接戦闘した訳ではありませんが、武装や外見の変更が見られる所から戦局に合わせたカスタムが可能な機体なのでしょう。やはりリベリオンの技術力は侮れなません。それに……」

「うん、あの時のフェンリル……ルフスの動きに似ていた。」

「……となると、やはりジンの見解通りなのかも知れないな。今回の戦闘もシミュレーションのつもりなのか。」

すると、まるで宿題を忘れた学生のようにハッと思い出すクロード。

「…そう言えば、姉御はどうした?!」

「ドラグーンはまだ稼働しているので、まだ戦っているのかも知れません!」

「俺は姉御の所にいく!あんたら東南支部はバンを頼む!」

護衛班と別れ、クロードは残り少ない燃料を惜しまず、レゾーベルの元へ向かう。

 

 

「ば……かな…」

人機体に表情は作れないが、レゾーベルはたしかに微笑んでいる。

メイスに内蔵されたパイルバンカーは、まるで焼き鳥の串のようにアメノハバキリの胴体を貫いている。

「知らない事はどうしようもないよなぁ?まさか、こんなはずじゃなかった、そんな気分か?」

勢いよくパイルバンカーを引き抜くと、その場にうつ伏せに倒れ込むアメノハバキリ。

「欲張りだな。私の真似なんぞするからさ。余裕をなくすから不測の事態に対応出来ない。カウンターは力量差があって初めて有効打となる。功を焦ったな。」

しかしその侮蔑にアメノハバキリは悔しさの言葉も吐かず、かと言って反撃の隙を伺う様子もない。

「……おい、悔しいのか?」

無言。

「……チッ」

仰向けにしようとメイスを忍ばせたその瞬間、アメノハバキリは飛び起きレゾーベルに抱きつく。

「んなっ?!貴様!!」

アメノハバキリは何も喋ることなく、しかしこれまでにない力でレゾーベルに抱きついている。

「ったくリベリオンて奴は餓鬼の集まりか?!」

なんとか振りほどこうとするが離れない。これが奴の覚悟なのだろう。背部のスラスターにもアメノハバキリの腕が組み付いている為、上昇して振り落とす事も出来なさそうだ。

頭部から電子音が聞こえて来る。恐らく機体データを本部へ送信しているのだろう。

次第にアメノハバキリのボディが熱を帯びている所からも、やはり自爆シーケンスは進行中らしい。

「流石に……今回はやられるかっ?!」

こうなったら自分も機体データを支部に転送してやろうかと思ったが、野暮な発想だなと諦めた。援護に向かわせたドラグーンを呼び戻そうにも時間がない。

刻一刻とその時は迫っている。

爆発の規模が計り知れないので、せめてバンよりもなるべく遠くに行こうとするレゾーベル。腰部スラスターの角度を調整して飛び立とうとしたその時、

「動くな姉御!!!!!!!」

割と焦っていた為一瞬誰か分からなかったが、「姉御」で思い出す。

「クロード?!バン護衛はどうしたっ?!」

「話は後だ!とりあえず…そいつをっ!!」

ハルバードをアメノハバキリに投げる。空を斬る音と共に刃が丁度脳天に縦一直線、深く食い込む。そしてがら空きの脇腹にマニピュレーターをねじ込む。関節部が悲鳴を上げるがそんな事は気にしていられない。

「くたばれ!!!!!!」

腕部170mm機関砲が火を吹く。人間で言う心臓の方を向いた砲身からフルオートで任意起爆型榴裂甲弾が突撃する。通常時は近接信管に設定しているが、今回は爆破目的ではない為起爆しないようにする。

ガンッガンッガンッガンッと響いた後、アメノハバキリから力が抜け、その場にグチャッと落ちる。

振りほどこうとしていたレゾーベルは後ろに倒れる。

クロードが操るナベリウスはそのひしゃげたマニピュレーターをレゾーベルに差し伸べ、彼女を起こす。

「大丈夫か!」

「あぁ……流石に焦ったわ、助かった。……それで、バンは?」

「全員無事さ。今は支部へ向かわせている。とにかく、こいつから離れよう。」

完全に沈黙したアメノハバキリは爆発しないとも限らない為、速やかに2人はその場を後にする。本当はリベリオンのデータを取る為にも残骸を持ち帰りたい所だが、今は人命が最優先だ。

「アイツの覚悟は大したもんだ。流石は秘書だな。」

「奴と……会話したのか?」

「あぁ、まあな。」

だがアイツらしくなかった。彼は死に急ぐタイプではない。忠義は主を守る事と同義ではある為、自爆する事で『命』と引き換えに主を脅かす因子を排除する事もこじつけらしいと言えばらしいが、どうもしっくり来ない。これもリベリオンにデータバックアップという良さがあるからか……まあ、考えるのは後にしよう。

 

 

 

 

戦闘が終局したのとほぼ同時刻、支部に格納されたハルファスのメインジェネレーターが、未特定のソースから外部コントロールで起動していた。




お久しぶりですm(*_ _)m
ココ最近新生活が始まった(と言っても実家だけど)事やバイトで書く時間が中々とれず、気がついたら数ヶ月空いてしまいました(><)
いつもご愛読頂いている方々には本当に申し訳ない気持ちです…!
しかも今回は登場機体もほぼ限られた展開で……(;><)

お手柔らかに読んで頂ければ幸いです。
ではまた!


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