束さんとオリ主ちゃんが一緒に暮らす話 (エンゼ)
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束さんとオリ主ちゃんが一緒に暮らす話

これは、枝分かれした一つの世界のお話。
ある一人の天災の心が、基本的に平凡なある人間へと向けられた場合のお話。

※キャラ崩壊注意


 窓のカーテンの隙間から入ってくる朝の日差しが心地よく、まだ眠っていたいと強く感じる今日この頃…でも、ここで起きないと次に起きるのはきっと昼過ぎになってしまうだろうとも感じ、起きようと決意する。

 そして私は手元にあるスイッチを押す。すると、今私が寝ているベッドの上半身部分がゆっくりと起き上がっていった。

 

「ふぁぁ…」

 

 眠気が収まらず欠伸が出てしまう。まずは顔を洗おうか、いやそれともご飯から食べようか。

 でもその前に…

 

 

「──おはよーつーちゃん! つーちゃんが起きたと思って飛んできたよー!」

 

 

 …早いなぁ。今日こそ一人で、って思ったんだけど…。

 

「おはよ束ちゃん、さっき起きたばっかなのに凄いタイミングで来たね」

「ふっふっふー…つーちゃんのことは何でもお見通しなのですよ!」

 

 腕を組んでちょっと得意気な表情をしてるのは私の同い年で古くからの友人の一人の『篠ノ之束』ちゃん。色々な深い訳あって私は束ちゃんの住んでいるところに住まわせてもらってる。

 本当は迷惑になりたくないから出ていきたいんだけど…せめて、自由に動くことが出来ればいいんだけど…。

 

「じゃあつーちゃん、今から抱えるね」

「…うん、じゃあお願い」

 

 ニコニコしている束ちゃんからの提案を蹴るのはなんかちょっと罪悪感が沸くから了承をする。束ちゃんは私が返事したあとにかなり優しく丁寧に私を抱えて────近くにある、車椅子に私を乗せた。

 

「さてつーちゃん、リビングに行こうか! ご飯、もう出来てるんだよ!」

「いつもありがとね。束ちゃん」

「どういたしまして! ……でも、つーちゃんをそんな風にしてしまったのは、私だから」

「……」

「だから、私が責任を負ってつーちゃんのお世話をするの。それが……私の、束さんの義務だからね」

「…束ちゃん」

 

 

 

 

 ───束ちゃんがこんな風になったのは結構昔のことだ。具体的には……小学4年生の頃。

 

 当時の束ちゃんは何か……人見知り、かな? そんな感じで知り合い以外は毛嫌いしていたんだ。その時束ちゃんの唯一の友達だったのは千冬ちゃんだけ。それ以外は嫌いというか近寄らないでオーラをプンプンと出してて孤立してたんだ。

 

 私はその時転校生でね。席も隣だったから最低でも話し掛けるレベルになれればいいかななんて思ってたけど多分ダメだろうなぁって思ってた。だけど、何故か会っていく内に束ちゃんの私に対する空気がそこまでキツキツじゃなくなったというか……むしろ友好的? みたいな感じになってね。その頃からあの二人に私を交えたメンバーで遊ぶことが増えたんだ。主に二人に引っ張られる感じだったけど。遊んでて感じたのはあの二人は私と同じ人間なのかなってこと。身体能力は異常そのものだったしね。

 でも、勉強に至っては二人ともアレだった。何でも出来ると思ってた束ちゃんは人の気持ちが分かんないとか言って国語の小説辺りの成績が悪くて、反対に千冬ちゃんは計算の応用問題とか少し苦手っぽかった。その部分だけはテストで勝ってて、心のどこかで、あぁ、この二人も人間なんだなぁってしみじみ感じたよ。

 

 あ、そう言えば千冬ちゃんが言ってたっけ……束ちゃんがあんなに私になつくのは私に興味を持ったからだって。うーん……私ってどこか人と違うことなんてあったかな?

 

 ……あったね。毎日私の周りで何かしらの不幸な目に合うこと...一日に一回何故か起こる、色んな不幸が。例えば、怖い犬に追い掛けられたり、何もないところで躓いたり、飛んできた野球のボールにぶつかったりするような優しいものから、工事現場の鉄骨が目の前に落ちてきたりする割と大きなものまで。これが原因でお父さんとお母さん離婚しちゃって、お母さんは変わっちゃったんだよね……

 ──疫病神、かぁ。

 

 

 おっと、内容がそれちゃった。

 仲良くなってから暫くしてね。束ちゃんが私をとある場所に連れていったの。そこは束ちゃんの研究所。見るもの触れる物が全部新しいものばかりで夢中になって研究所を見て回ったっけ……取り乱してたからか物凄くはしゃいじゃって、束ちゃんから微笑ましそうに見られたのは恥ずかしかったな…。

 

 そしてね、奥の方で束ちゃんの今制作している発明品を見せてもらったの。それはとってもキレイで、思わず見惚れてしまっていた。

 曰く、新型の宇宙服のようなものらしい。束ちゃんは性能面について説明してくれてたけど……頭にはあんまり入ってこないでいた。ただ、その発明品は宇宙に関係するものだって言ってたこと、まだ未完成だと言うことだけが耳に入ってきた。

 

『ねぇねぇ! これって、私でも乗れるのかな!!?』

 

 思わず、私は束ちゃんの話をぶった切ってこう問いかけた。実を言うと、私は昔から宇宙が大好きだった。自由研究にブラックホールについて調べたり、宇宙についての文献を読んでしまうレベルまであった。だって宇宙は未知がまだたっくさんあるし、ロマンがすごぉくあるからね!いつか宇宙に行ってみたいと思ってて、それが出来る宇宙飛行士が私の将来の夢だったんだ。

 

 そんな時にこの発明品だ。憧れだった宇宙を生で見れる。生きてる間にいけるかもしれない。宇宙飛行士にならなくてもいけるかもしれない。嬉しさ以外何者でもなかった。

 束ちゃんは一瞬びっくりしたような表情をした後にニッコニコになって言った。

 

『うん、勿論だよ! ちーちゃんも宇宙大好きだもんね!』

『知ってたの!? って束ちゃんも宇宙好きなの?!』

『勿論! あ、少し宇宙について面白い話があるんだけど……聞く?』

『聞く!!』

 

 そこから始まる宇宙談義。かなり盛り上がってたなぁ……懐かしい。

 さらに最後に、私はこんな提案をしたんだ。

 

『ねぇ、束ちゃんのお手伝いさせてよ! 私は束ちゃんみたいに機械とかには詳しくないから……雑用! そうだ、雑用やらせて! 私もそれを作るのに協力したいの!』

 

 束ちゃんは快く了承してくれた。それ以来、私は差し入れとかマッサージとか、束ちゃんのお手伝いをさせてもらってた。掃除とかは逆に怒りそうだから埃が出たらササッと取り除いて他は出来るだけ触れないで、他には束ちゃんの精神面辺りのサポートとかをやらせてもらった。そういや束ちゃん、意外と甘えん坊だったりするんだよね。千冬ちゃんはこれ知ってるのかな?

 こんな風に過ごしながらお手伝いをしていたある日に────事件は起こった。

 

 

 その日は束ちゃん本人がその発明品───インフィニット・ストラトス、略してIS───に乗ってその性能、動作をきちんと自身で確認する日らしかった。そして私はこの日チェック用紙を渡され、束ちゃんが不具合を指摘したらそこに関する項目にチェックを入れるということを任された。

 

『……うーん、なんか左手に違和感……チェックおねがーい。そして追加記入で重さって書いておいてー』

『はーい』

 

 丁寧に一つ一つ確認していくからかなり時間がかかる。だけど、ISがまた完成に近づいていく。それが私が作ってるわけじゃないけど嬉しくてたまらなくないからこうやって協力できた。

 

 二時間くらい経ち、大体のチェックが終了して、束ちゃんがISの展開を解除しようとしたとき───

 

 

 ───突然、ISが勝手に動き出した。そう、勝手にだ。証拠に束ちゃんはめちゃくちゃ驚いた表情をしていた。

 

『つ、つーちゃん! 逃げて!!』

 

 声が聞こえはしたが、身体が動かない。動かせない。金縛りにあったかのように……。

 

『止まれ!! 止まれ!!! 止まってよぉぉ!!!!』

 

 束ちゃんの怒号に反してISは動き続ける。その動きは激しくなっていき、その影響で研究所全体が振動を起こしす。そして近くにあった鋼材が倒れて、私のほうへ─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──気がついた時は、次の日の朝だった。清潔感があるベッドで寝ていたのだ。病院、かな?

 私は一応無事みたいだ。見た目だけど怪我はないっぽい。

 それよりも束ちゃんは大丈夫なのかという心配が私を襲い、それを確認しようとベッドから起きようとするが─────足が動かない。

 

『え』

 

 というか今気づいた。お尻から下の感覚がない。手とかはいつも通りだったので手を使い足を叩いたりしてみるが、全く痛くない。

 

『……え?』

 

 力を入れても動く気配は全然ない。手で無理やり足を動かそうとしても重くて動かない。まるで自分の足が岩になってしまったかのように感じた。

 

『……』

 

 未だ状況が把握出来てなかったのか、私はこの時完全に思考を停止していた。

 そんな時に、部屋の扉がノックされた。

 

『あ、どうぞ』

『……つーちゃん!』

 

 今にも泣きそうな表情で私の元に来た束ちゃん。どうやら怪我は負ってなかったようで、私は少し安心。それでも隠してるかもしれないし、念のため聞いてみた。

 

『大丈夫だった? 束ちゃん』

『つーちゃん……』

 

 私の声を聞いた束ちゃんはさらに泣きそうになり、急にその場にうずくまってしまった。

 

『えっ……束ちゃん?』

『つーちゃん……ごめんなさい…ごめんなさい…!!!』

 

 なんとか束ちゃんを落ち着かせ、私は話を聞いた。何があったのかを。

 

 どうやら、ISは暴走を起こしたのではあるが、何故そうなったのかは不明なよう。自動操縦なんてプログラムには仕込んでないらしいし、暴走なんて起こりうるはずなんてないはずだったらしい。

 

 そして私の足は、束ちゃんの後から来たお医者様曰く、衝撃によって神経が完全に途切れてしまってもう動く見込みはないのだとか。

 それを聞いて、私はふと思ってしまったのだ。

 

 ───あぁ、また私の不幸が働いたのか。

 

 ってね。数週間はあんまり大きな不幸はやって来てなかったから無くなりかけてるのかななんて思ってたのに…この始末。今まで蓄えられてた不幸エネルギーが一気に爆発したような感覚だ。

 

 つまり、これは誰も悪くない…いや、強いて言うなら私が悪いのか。私が束ちゃんのお手伝いがしたいなんて言ってしまったから。私が……私が悪いんだ。だからバチがあたったんだね……私が協力しなければ、何事もなく束ちゃんはISを完成させられたのに。

 

『…ごめんね、束ちゃん』

『な、なんで謝るの?! つーちゃんは何にも悪くないのに!!』

『だって、私がいたせいで束ちゃんのIS開発がストップしちゃったんだもん……私の不幸のせいで』

『っ!!』

 

 束ちゃんの呼吸が荒くなり嗚咽までし始めてしまった。

 咄嗟に私は束ちゃんを抱きしめ、その力を強める。

 

『ごめんなさい…! ごめんなさい…!』

 

 謝らないで束ちゃん…私の、私のせいなんだから。

 

 

 

 

 

 

 そして、何故か束ちゃんが私の世話をするって言い始めて今に至るって感じかな。これでもかなり断ったんだけど、押すに押されて断れなかった。

 そして、足の件をどうするのかの会議がはじまったんだ。

 

 最初、束ちゃんが義足を作るって言ってたんだけど私はこれを断った。理由は単純で、義足は定期的にメンテナンスしなきゃならないらしかったから。結局束ちゃんの負担になるからダメだなって思って断ったの。それに、神経が切れてるとはいっても足を切断するのはなんだかなぁって思ったからでもある。これは我が儘だけどね。

 

 次に提案されたのはISを用いること。私専用にすれば、普通に出歩くことが出来るようになるかもしれないというものだった。でも、これにも欠点があった。ISを動かすことに必要なものに、四肢が完全に動かせるというものがあったのだ。試作型だったからこその欠点なのかもしれなかったけど、それもあってこの案もダメになった。

 

 それじゃあと言うことで、束ちゃんは次に車椅子を作った。私にぴったり合う、私だけの車椅子を。

 これがまためちゃくちゃ高性能で、段差とかに来ても私があんまり揺れないように出来てる素晴らしいものだった。

 

 私としてはこの車椅子だけでも十分過ぎるくらい尽くして貰ってたから、もう大丈夫だよと何回も言った。束ちゃんには夢がある。それをストップしてまで私の面倒を見る必要なんてないし、束ちゃんには夢を叶えてもらいたかったから。

 でも、この度に束ちゃんは、

 

『ダメだよつーちゃん。これは義務なんだ。私がつーちゃんを傷つけちゃった罰なの。それに、私がしたくてやってることでもあるからさ』

 

 なんて言うの。しかも笑顔で。

 ……私にはその笑顔が苦しかった。束ちゃんはもっと我が儘になってもいいはずなんだ。夢を貪欲に追ってもいいんだ。それが出来る力を持ってるんだから。

 それを邪魔してるのは紛れもなく私。その事実が私を苦しめる。

 

 それに────私は不幸を呼ぶ疫病神。束ちゃんのところにいても負担になるだけだ。

 一回だけ、私は束ちゃんの前からいなくなろうとした。足りない脳みそフル回転させて。束ちゃんの負担にならないために。

 

 でも、逃げられなかった。すぐに見つかっちゃったんだ。その時の束ちゃんの表情……とても悲しそうだった。それで無事でよかったなんてことも言われちゃって……。

 

 だから今は変な感じなの。大切にされてることは自覚してる。でも束ちゃんには夢を追ってほしい。私に囚われないでほしい。でも言えない。行動に移せない。もうあんな表情は見たくないから。

 そんな悩みを抱えながら、今日も朝を迎える。

 

「……ねぇ、今日の朝ごはんは何?」

「ご飯と味噌汁…あ、あと目玉焼きもあるよ! 勿論つーちゃんの大好きな半熟!」

「本当に…ありがとね、束ちゃん」

「大丈夫だって! さ、行くよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 私、篠ノ之束がつーちゃん──『佐藤椿』ちゃんは会って最初の頃の印象は幸が薄そうなだけの凡人、だった。極々普通の並みの人間だって思ってた。何故か気になって彼女を観察するまでは。

 

 気になった過程は覚えてない。凡人認定していたはずだったのに何故か気になってたってのは分かる。この感情がなんかよく分かんなくて、多分それで観察を始めたんだと思う。

 

 観察を続けていくうちに、あの娘が普通でないことばかり発覚していった。それはあの娘の言う『不幸』にあった。というか正確には『不幸』ではなく、『一日一回のあの娘自身への不幸とそれとおおよそ同等の幸運を他人へ与える』というものだった。

 

 例えば、あの娘が犬に追い掛けられたり、何もないところで躓いたり、飛んできた野球のボールにぶつかったりしたりしたとき、あの娘の近くのどこかで他の人がお金を拾ったり、無くしてたものを見つけてたり、ガチャガチャで欲しいものを当ててたりしてた。これはまだ序の口で、更に酷い不幸……一番酷かったのは、あの娘の目の前に鉄骨が落ちてきたことなんだけどそれが起こった日には、成功確率の低かった手術が近くの大きな病院で成功したらしい。こんなのが一日一回は必ず起きてるのだ。偶然と関連付けるのは少々難しかった。

 

 そんな観察をしていてわき出てくるのはあの娘への更なる興味。なんでそんな体質を持ってるのか、どういう仕組みなのか知りたいと思った。その時は未だ、あの娘に対する謎の感情の正体は分からなかったけど。

 

 ある日、私は私の当初の唯一の親友のちーちゃんに謎の感情について聞いてみた。もしかしたら、これは私が天才だからこそ見落としていた感覚なんじゃないかなって。事実私は凡人の持つ感情についてあんまりよく分かってなかった部分があったんだよね。家で映画とか見てたりしても、よくわかんないとこでお父さんやお母さんが泣いてたりしてるの。つまり、天才じゃなくて凡人だからこそ感じる感情もあるんじゃないかってこと。だから身体能力は天才ではあるけど感性は凡人側に寄ってるちーちゃんに聞いてみたんだ。

 

『ふむ、あいつはなんとなくだが……放っておけない何かを感じるな。一夏とはまた別の……保護欲、か?』

 

 あーなるほどね。確かになんか危なっかしいもんね。

 ……ん、保護欲? 保護欲か…ちーちゃんはいっくんとはまた違うって感じだって言ったよね。ってことは私が妹の箒ちゃんに感じてることとはまた別のことってことかな……うん、確かに違う。箒ちゃんは、姉として? みたいな感じで守りたい、みたいなのだ。合ってるかは分かんないけどね。そしてあの娘は……ずっと側に置いておきたい、支えてあげたい……あれ、ますます分かんない。不幸に対する同情から来てるの? いやいや束さんが同情なんてしないよ。なら……なんだろ?

 とりあえず私はなんかモヤモヤしながら、あの娘の観察を続けていくのだった。

 

 

 観察をする過程において、私はあの娘の側にいれば観察がしやすくなると思い、私にしては珍しく私からあの娘に話し掛けることにした。今思うとだけど、ここまで私が一つの人に執着しているのなんてなかったかもしれない。ちーちゃんは一応例外だけど。

 形からということで、ちーちゃんみたくあだ名をつけてみた。椿だからつーちゃん。まんまだね。

 

 んで、話してみて分かったことは、何故か他の人と違って話してて楽しさが出てきてたこと。そして、あのモヤモヤが更に強くなったことだ。

 なんとかしてそれが知りたくて、電話番号(私は携帯でつーちゃんは当時携帯を持ってなかったから家の番号)を交換して遊びに誘ってみたりしてみた。自分でもあり得ないことをしてると思う。けど、どうしてもはっきりさせたかったんだ。

 時にはちーちゃんを巻き込んだりした。その時に箒ちゃんやいっくんもいて、皆と仲良くなってたっけ。その時、何故か私の胸がチクッて痛んだんだ。その時は何でか分かんなかったけどね。

 

 

 つーちゃんは宇宙に興味を持ってる。この私が自分からつーちゃんとよく話す人に聞いたから間違いない。

 らしくないことしてるなぁっては自覚してた。でも、本人から聞くのはなんか恥ずかしいし、つーちゃんの好きなことは私も好きになりたいというか……なんだろ、またモヤモヤしてる。本当に分からない…けど、嫌じゃない。寧ろ……いや、よそう。それより宇宙だ。

 

 正直に言うと、私は宇宙が大好きだ。起源、何で出来てるのか、何故出来たのか、その全てが解明されてないロマンの塊。それは私の研究欲を刺激させた。ちなみに、地球のことは粗方理解しちゃったからね。束さん天才だし。

 

 でも宇宙についてはそう上手くいかない。だから私は宇宙を目指した。そこで、つーちゃんのことを知る前から私は密かに宇宙へ行くためのある発明品を開発し続けていた。

 その名は──インフィニット・ストラトス。センスあるでしょ? 束さん的にも人生で一番発明品の名前で気に入ってるものなんだよね。

 んで、これがつーちゃんとどう関係してるかって言うとね……。

 

 ───これ、つーちゃんに見せたらどんな反応してくれるんだろ。

 

 こんな興味が湧いた。驚くかな? 褒めてくれるかな? 束さんのこと凄いって思ってくれるかな? みたいな感情が溢れて止まらなくなった。

 そんな思考をしながらも自分はおかしくなったなという感覚が強まったのも覚えてる。本当にここまで一人のことに執着したことはなかったしね。

 

 そんな訳で、私はちーちゃんでも入れたことがない研究所につーちゃんを案内した。

 そしたらつーちゃんね、物凄くはしゃいでてたんだ。楽しそうにニコニコ笑って私の作った発明品を眺めてるの。すっごく可愛かったなぁ……。

 

 んで、インフィニット・ストラトス──通称ISがある部屋に来て、実際につーちゃんに見て貰った。つーちゃんには前情報はなし。だからこそ反応を見たかった。

 

 そして見せた瞬間──つーちゃんの動きが止まった。そのまま目線をISから動かさずじっと見つめてるだけ。それを見た時、物凄く不安になっちゃってさ。失敗したかなって。だから咄嗟にISの機能について説明し始めた。それでつーちゃんの気が引きたかったから。認めてもらいたかったから。そしたらね──

 

 

 

『ねぇねぇ! これって、私でも乗れるのかな!!?』

 

 

 

 その日一番の笑顔でそう言ったんだ。

 思わず拍子抜けしちゃったよ。それと同時に安心もした。

 

 よかった。認めてもらえた。喜んで貰った。笑顔可愛い。色んな感情が私を支配する。

 

 すぐに私は正気に戻ってつーちゃんの質問に答えた。そこからは宇宙について色々話をしたっけ。かなり専門的な部分まで突っ込んでいたんだけど、つーちゃんは普通についてこれてた。寧ろ、私の思い付かなかった観点からの宇宙の話があったりしてすごぉく面白かったんだ!

 

 ますます私の中のつーちゃんが大きくなっていくのを感じる。それが嬉しくあったし、同時に苦しくもあった……あれ、なんで嬉しくなったり苦しくなったりしてるんだろ?

 

 そんなことを考えていると、つーちゃんからこんな提案をされた。

 

『ねぇ、束ちゃんのお手伝いさせてよ! 私は束ちゃんみたいに機械とかには詳しくないから……雑用! そうだ、雑用やらせて! 私もそれを作るのに協力したいの!』

 

 私はすぐ了承した。正直、人手不足ってわけじゃあなかったし、1人でもやっていけたんだけど、この時の私はすぐに受け入れた。つーちゃんの側にいたかったから。自分の感情に答えを出したかったから。

 

 

 そこからつーちゃんはご飯の差し入れとか、ちょっとした掃除とかをやってくれた。ご飯に関しては割と助かってた。研究所に籠る時は栄養補給の意味合いで特製ドリンクだけしか飲んでてなかったからかな? かなり美味しく感じたの。それともつーちゃんの手作りだったからかな? あ、きっとこれだろうね。

 

 他には……つーちゃんに甘えてみたりしたことかなぁ。束さんは天才だけど人間。だから不調な時もある。そんなある日、作業が全然進まなくてイライラしてたんだ。その時、つーちゃんがそっと私を抱き締めてくれた。しかもちょっと頬を赤らめて。

 一瞬で頭真っ白になっちゃって、束さんらしくなくなんで抱き締めたか聞いたの。そしたら、

 

『えっとね、イライラしてるときはハグするのがいいんだって。私じゃダメかもしれないけど……ゴメン私今物凄く恥ずかしいや……』

 

 イライラなんて刹那で吹き飛んだ。

 え、何この可愛い生き物。つーちゃん可愛すぎない? これ填まりそう……イライラにはハグがいいんだよね? なら逆に言えば束さんがハグしないと束さんのイライラは収まんないってことだよね? もうイライラなんてしてないけどイライラしてるってことにしよう。

 

 ってことでギュー…………あーヤバいつーちゃんの身体気持ちいい。ハグなんてちーちゃんか箒ちゃんくらいしかやってなかったけど、つーちゃんはちーちゃん達とは別のベクトル。ふんわりとした柔らかさ、妙な儚さがある。そして赤面つーちゃん可愛い。この感覚……なんなんだろ? そう思ったのも束の間、私はつーちゃんにこんな質問をしていた。

 

 ──ねぇつーちゃん。私ね、最近気付いたらある人のこと考えてるんだよね。しかもモヤモヤするの。これって何なのかなぁ。

 

 つーちゃんはんー……と首をかしげながら考え始めた。その動作でさえ可愛い。

 そして、つーちゃんは答えた。

 

 

『束ちゃん、それって恋じゃない?』

 

 

 ──恋?

 

『うん、恋。図書館で見たマンガとかの知識だけどね? それってさ、その人のこと好きってことじゃないのかなぁ』

 

 ──恋、かぁ。

 

 私は脳内でも同じ言葉を反復させる。その結果、私は一つの結論にたどり着いた。

 

 ───束さんは、私はつーちゃんのこと大好きなんだ。

 

 今までつっかえてたものが一気に消化された気分。モヤモヤしてたものが鮮明になった感覚だ。

 つーちゃんが好き。そう自覚した瞬間から、つーちゃんの全てが愛らしくなった。

 顔、身体、性格、声、果てには不幸現象さえも、全てが……あれ、そういや最近つーちゃん不幸現象に合ってないような……? 良いことだよね……? まぁいいや。

 

 

 

 

 ……この時の私は浮かれてて、そのことがどれだけ重大なことであるかをはっきり自覚していなかった。それと同時に『幸運も働いてなかった』ことも理解しておくべきことだったんだ……今となっては、全部遅いけど。

 

 

 

 

 始まりはある日のこと。この日はつーちゃんに依頼してレポートに色々と纏めて貰うことにしていた。っていっても内容は私がISを直接纏って、不具合を見付けて、それを言ったことをメモして貰うだけなんだけどね。

 

 つーちゃんは雑用ばっかりしてたけど本当はISに関わりたいだろうから一晩考えてこの方法を捻り出した。つーちゃんにまだ未完成なISを纏わせるわけにもいかないしね。隕石対策の絶対防御も理論では完成してるけどまだ不完全だし、つーちゃんには怪我をしてほしくないからね。

 

 粗方動作の確認も終了して、ちょっと精神的にも疲れたからまたつーちゃんに甘えようかなー、なんて考えてたときに───

 

 

 ───悲劇は起こった。

 

 不幸にも(・・・・)ISが急に動き出したのだ。理論上じゃあり得なかった暴走。それが今起こり始めた。

 私はつーちゃんに避難するよう呼び掛けた。でも、つーちゃんは混乱してるのか動かない。

 つーちゃんに怪我をさせないように操縦をしながら暴走を食い止めようとするがなかなか止まらない。

 

 不味い、不味い、不味い!!!!

 

 研究所にも被害がいってるけども研究所が傷付くことよりもつーちゃんが傷付くことが怖い。早く止まって……早く、早く!!

 ようやく暴走が収まって来た頃...私は見てしまった。

 

 ───つーちゃんが鋼材の下敷きになる瞬間を。

 

 必死に制御可能になったISを用いてすぐに鋼材をどかしてつーちゃんを救出した。呼吸はなんとかしていたけど、足が医学方面にはまだ力を入れてなかった私でもひどい状態になってるのがすぐに確認出来た。

 

 その日の内に大きめの病院に連れていって、診てもらえるようお願いした。この時の私は泣いてたと思う。

 病院の方も緊急事態と思ったのか、なにも聞かずにすぐにつーちゃんは医者達に連れていかれた。

 

『……神様、どうかつーちゃんを……!!』

 

 ずっと私はつーちゃんの治療が行われてる部屋の前で泣きながら生まれて初めて神様にお願いをした。

 ……私のせいだ。私がつーちゃんのことを巻き込んだからこうなったんだ。私が巻き込みさえしなければ……!!

 

 

 

 

『──よくも』

『ッ!? うわぁぁぁぁぁあ!!?』

 

 

 

 

 その途中で、つーちゃんの幻覚を見たりした。私を責めるつーちゃんの幻覚。

 見たときは思わずその場にうずくまってしまった。

 

『──よくも私を怪我させたな……!!』

『──お前のせいだ……!』

『──絶対に許さない……!』

『ヒグッ……ご、ごめんなさい……! ごめ、ごめんなさい……!!』 

 

 複数のつーちゃんが寄ってかかって私を責め続ける。それに対して私はうずくまったまま謝り続けるだけ。それしか出来なかったから。

 

 これはつーちゃんの治療が終わる時まで続いた。

 

 治療室からつーちゃんと病院の人たちが出てきた。私はハッと顔を上げて病院の人を見た。

 

『──幸運にも(・・・・)命に別状はないよ...最善は尽くした。でも一晩安静にさせておいたほうがいいと判断した。会うならまた明日来てほしい。そしてだが、この子の名前とこの子の家の電話番号を教えてくれないか?』

 

 私は言われた通りに告げ、その日はフラフラしながらもなんとか自宅へ帰り、部屋のベッドで布団にくるまってずっと震えていた。

 

 次の日、結局一睡もしてない私は内心ビクビクしながらもつーちゃんのいる病院へと向かった。

 許してもらえるなんて思ってない。だけど、謝らないといけない。起きてないかもしれないけど、それなら起きるまで通い続けよう。その思いを胸に私は勇気を持ってつーちゃんの病室へノックをした。

 

『あ、どうぞ』

『っ!』

 

 よかった。生きてた。という安心感が身を包み、いてもたってもいられなくなって勢いそのままに病室へと入っていく。

 

『つーちゃん!』

 

 なんか呆けた顔をしたつーちゃんがそこにはいた。そこからは怒りや憎しみのような感情は感じられない。でもここから沸いてこないとは限らない。

 実際につーちゃんを目の前にして、生きてくれてたという嬉しさと、責められるだろうという恐怖が同時にやってきて少し私は震え、つーちゃんから告げられる次の言葉を待った。

 

 

『大丈夫だった? 束ちゃん』

 

 

 しかし、やってきたのは私を心配するつーちゃんの声だった。

 この娘は、私のせいで自分が傷ついても私の心配をしてくれるのか。

 ……こんなにも優しい娘を、私は傷つけてしまったんだ。私の事情のせいで。

 

『つーちゃん……』

 

 罪の意識が止まらなくなり、私はその場でうずくまってしまった。

 

『えっ……束ちゃん?』

『つーちゃん……ごめんなさい…ごめんなさい…!!!』

『た、束ちゃん落ち着いてぇ!!』

 

 つーちゃんに言われ一先ず自分を落ち着かせ、何があったのかを話した。

 

 その後につーちゃんに身体の調子を尋ねてみると、脚の感覚が感じられないと言っていた。

 嫌な予感がして、ナースコールで看護師を呼び、そこから医者を呼んでもらった。

 医者は来てから『本当はご家族が来てから話すつもりだった』と言って、つーちゃんの今の状態について説明した。

 

 曰く、神経が死んでしまっており、脚はもう完全に動く見込みはないとのこと。

 一体何があってこうなったのかを私に尋ねてきたが、私が言いづらくて沈黙を貫いていると、この子のご家族にはキチンと説明するんだよと言われ、その話題を終わらせてくれた。

 

『そっか……』

 

 全部の話が終わったとき、ふとつーちゃんは呟いた。

 そして私の方を申し訳なさそうに振り向き、こう言ったのだ。

 

『…ごめんね、つーちゃん』

『な、なんで謝るの!? つーちゃん何にも悪くないのに!!』

 

 訳が分からなかった。責められることを予想してたのに謝られるだなんて……。

 

『だって、私のせいで束ちゃんのIS開発がストップしちゃったんだもん……私の不幸のせいで』

『っ!!』

 

 ああ、そうか。そうだ。この娘の不幸現象が最近起こってないことに気づいていたはずなのに。

 もっと事を重く見るべきだった。警戒は出来たはずなんだ。

 私がもっと……しっかりしてれば!!!

 急に、つーちゃんから抱きしめられてる感覚を覚えた。けども味わってる余裕なんてなくて、ずっとつーちゃんに対して謝り続けた。

 

『ごめんなさい…! ごめんなさい…!』

 

 

 

 つーちゃんから抱き締められてなんとか落ち着きを取り戻してきた頃、急に医者から呼び出され泣き顔を拭きそこへ向かった。何かあったのか? そう思っていると、

 

『実はね。教えてもらった電話番号を使って佐藤椿さんの家に電話をしたんだよ。でも誰も出る気配が無くてね。本当に正しいのかもう一度聞きたくて』

 

 あんな状況だ。私が嘘を伝えるわけがない。

 証拠として携帯に登録されてるつーちゃんの家の番号を確認しても、やっぱり正しかった。

 

『ふむそうか。すまないね、疑ってしまって』

 

 ……そういえばつーちゃんの家のことは知らないなと私は思った。

 どんな生活をしてるのか等私は全然知らなかったのだ。今思えば、つーちゃんが自然にその話題を避けさせてたってのもあるかもしれない。

 

 今までは調べるのに罪悪感みたいなものが沸いていたけど今は事情が事情ではあるし、無理矢理にでもつーちゃんの親に会って話して謝らないといけない。

 

 そう感じた私はつーちゃんの家に来た。住所は知ってはいたけど実際に来たのは初めて。そして件の家はボロボロの一軒家。まるで誰も住んでないかのような不気味さがあった。

 本当にこれがつーちゃんの家なのかと疑いつつも私はチャイムをならす。誰も出てくる気配がない。

 なんか違和感を感じたため軽くドアノブを捻ってみると、ガチャと開いた。鍵は閉まってないようだった。

 申し訳無いなと思いつつも私は侵入し、驚いた。

 

 まず思ったのは、広すぎること。

 家具等必要最低限しかおかれてなく、広いスペースが割とあちこちにあった。空き家と言われたら納得しちゃうレベルまで。

 これならまだ、私の実家……いや、研究所のほうがまだ快適に過ごせるはず。そんな空間だった。

 部屋も色々見てみるが、ほぼ空き部屋。綺麗に取り除かれたみたいに何も残って無かったのだ。二部屋を除いて。

 

 その内の一部屋はつーちゃんの部屋らしいものだった。ここも置いてるのはボロボロの机と椅子と布団。あとは二着程度の私服だった。そういえばつーちゃん、服のバリエーション少なかったような……。

 

 そしてもう一部屋が…恐らく、つーちゃんの親の部屋。お母さんだと思う。ここも生活感なんてなくて埃まみれだった。他と違うのは、日記のようなものがおいてあったことか。

 

 嫌な予感をビシビシと感じながらも、私は日記を読み始めた。

 

 

 

 最初に書かれてあったのは新婚について、子供を授かったことについてだ。文を見るに、幸せだったんだろうと思う。

 

 次に書かれているのは子供の名前を『椿』としたこと。そしてかわいくてたまらないということも書いてあった。十中八九つーちゃんだろうね。そこには同意するよ、うん。

 

 暫く幸せだ。みたいな文章が続いてた。珠に、つーちゃんが不幸体質なのかもしれないという記述があったが、後にそこも含めて愛したいという記述もあった。まぁ、ここまでだけならいい親ってやつなんだろう。

 

 急に字体が変わった。どうやら夫が不倫をしたらしい。更にあろうことか原因を妻のほうにやり、離婚したようだ。否定しても皆は夫を信じて誰も妻のことを信じないとある。

 親権はメンツのためになんとか取ったらしいが、その時からこの妻はつーちゃんを疫病神と呼び始めやがった。

 曰く、私とあの人を別れさせた疫病神、だとか。

 

 

 ここで私は強い殺意を覚えたが堪えて読み続けた。

 

 

 正直育てたくないという記載もあった。もう引っ越しの準備をつーちゃんに内緒で進めてるとか。

 でも死なれたら面倒だからある程度お金を置いては行くともあった。

 

 

 それを見た瞬間堪えきれなくなり私は日記を本能のままにビリビリと本気で破いた。

 

『ふっっっざけるなっ!!!』

 

 怒りのままにそう叫んでしまう。ここまで胸糞が悪くなったのは生まれて初めてだろう。この親に対しての殺意が限界を超えようとしていた。

 それと同時に、つーちゃんにはもう帰る居場所がないということに気付く。こんな糞親に育てられて……いや、途中から育てられてすらないのか。

 どうすればいい……どうすればつーちゃんを……。

 

 そこで、私に一つ案が浮かんだ。つーちゃんがこうなってしまったのは私の責任なんだ。

 ……なら私がつーちゃんのお世話をすればいい、と。

 名案だと我ながら思った。でも実家だとなんかアレだし、研究所のほうがいい。それに、ずっとつーちゃんの側にいられるから。

 早速私はつーちゃん専用の部屋を作った。色々設備を配置してから、私はもう退院はしていることになってるつーちゃんの迎えに行った。

 最初はかなり遠慮していたつーちゃんだけど、必死に頼み込んだら折れてくれた。押しには弱いのかもしれない。

 

 早速連れて帰って部屋に案内し、私とつーちゃんは一種の会議のようなものを始めた。

 題は、つーちゃんの脚について。

 

 最初は義足の案が出たんだけどこれにつーちゃんが反対した。理由は教えてくれなかったんだけどね...断固反対だっていうだけで。可愛かったから許しちゃった。それにつーちゃんが嫌がることは強制したくなかったしね。

 

 次にISを用いればいいという案を出した。早速試したんだけど、まだ未完成だったのか四肢が動かせないと動かせなかった。これについては現在改良中。

 

 最後に出たのは車椅子の案。病院でも車椅子を動かしてたんだけどサイズとかあってなかったみたいで動かしにくそうだった。

 特に反対もされなかったし、私は私の持てる全ての力を使ってつーちゃん専用の車椅子を作り上げた。ある意味ISと同じくらいな存在……それ以上かも。

 

 つーちゃんは喜んでくれた。本当にいいの? って聞いてくるレベルまで。でも、これくらいしか私には出来ないからね……。

 

 その日辺りから、つーちゃんは私にIS開発を再開するよう促した。一応はしていると言っても、それに専念してほしいと返してくる。それはつまり、つーちゃんのお世話をしないでもいいって言ってるってことだ。

 

 でも、これは私の義務でもだし、やりたいことでもあるのだ。だから大丈夫だと言ってもつーちゃんは苦々しい表情を止めない。つーちゃんには笑っていて欲しいんだけどな……。

 

 

 

 ある日のことだ。つーちゃんが研究所からこっそり居なくなろうとしていたのだ。結局すぐにつーちゃんは見つけ出せたけど、最初はかなり焦ってしまって怖くなった。見つけたとき、安心感から私は半泣きになっていた。

 

『……束ちゃん』

『グスッ……無事で、よかった……ホントに……!』

 

 もう二度とつーちゃんを失いなくない。その思いが異常なまでに強くなっていった。

 

 ──もう、誰にも渡さない。

 

 不幸現象については既に対策案も立てて実行している。予備案も山ほどあって準備も終わってる。死角はない。

 

 

 ──世界で一番つーちゃんを知っているのは私なんだ。

 

 

 ──つーちゃんは、私がお世話をするんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つーちゃん、美味しい?」

「うん、美味しいよ束ちゃん。あ、これ、もしかして味付け変えたりした?」

「お、良く分かったねつーちゃん! 少しアレンジしたんだ!」

「束ちゃんって本当に何でも出来るよね。流石束ちゃん」

「えへへ、束さんはてぇんさぁいだからね!」

 

 ──こんな風につーちゃんと一緒に過ごせる日々がずっと続けばいいなぁ。



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