転生できなかった男の末路 (通りすがりのジョジョラー)
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俺は死んだ。
だが意識がある。これはアレですね、転生物ですね。剣と魔法の世界でイケメンに生まれ変わって、とんでもない才能とか知識とかで無双して彼女いっぱい作って……いかんいかん。その先は18禁だ。
さて、ここは恐らく死後の世界。手足の感覚は無く、フワフワと空を漂っているかのようだ。この後神様になんやかんやと諸事情を説明されて、お詫びやらなんやらで特別な力を授かるに違いない。
だってほら、遠くの方でお爺ちゃんが手ェ降ってるもん。白い服着た、なんか神々しい人だもん。これは勝ち確っすわ。新しい冒険の始まりっすわ。
いやでも、ちょっと待てよ?
そうなってくると、ペットのサクラはどうなる?
飼い主の急死。年老いたゴールデンレトリーバー。親族は地方。なんか色々やばくないか!?
え、もしかして保健所とか行かされる?
殺処分とかされないよね!?
やべえ……、そこら辺全然勉強してなかった……!
まあ大丈夫とか死ぬわけねぇしとか思ってたぁ……。
普通に死んだ……。しかもよくよく思い出してみれば、信号無視してたの俺の方……!
まずいまずいまずいまずいまずいまずい!!
サクラの今後、運転手さんの名誉、家族への迷惑……!
死んでも死に切れん……。神様パワーでなかった事とかそういう問題じゃない。俺が、なんとかしなきゃ行けない事だ……。
一人暮らしをして早十数年。俺も立派な社会人の一員として、責任はしっかり取らなくてはいけない。
そう思った途端、フワフワとしていた体の感覚が急に鮮明になる。夢から覚めるように、手足の感覚も取り戻されていく。
遠くで、神々しいお爺ちゃんが微笑みながら手を振っていた。
俺、復活。
透けてる体、足はなく、今いる場所は空の中。
幽霊として、俺は復活を果たした。
ジジイーーーッ!!!
あの笑みは分かってる奴の笑みだろ!?
和やかに手ェ降ってんじゃねえぞ!
しかも何処だよ此処!
俺は空を駆け回った。それこそ四六時中。幽霊なお陰で疲れも眠気も無かった。そして、俺の家も無かった。
此処が何処かすらも不明だ。何せ、文字が一切読めない。黒いモヤがかかっているからだ。人の顔も同様で、体型から性別とかぐらいしか分からない。これでは何も分からない。人は俺のことを認知しないし、俺も他人を知ることが出来ない。一切情報が無い中、疲れこそ無いとはいえ人の足の速度でそれほど移動出来るはずもなく……。
八方塞がりという奴なのではないだろうか。
せめて、せめて文字さえ分かれば此処がどの辺かは把握できるのに……!
あのジジイ、もしかしてわざとやってんのか?
いや、もしかしたら幽霊ってのはこういうもんなのかも知れない。
俺以外の幽霊見たことないけど。かなり珍しいのかな?
まあそりゃそうなのかも知れんけどさ。
悲しい事に、俺はこの世界にとって不要な存在らしい。何も出来ないという事は、何もしなくていいという事。
ああでも、幽霊になってしまったとしても、俺は俺の家に帰りたい。
サクラが待ってる。
時間が無いのに、時間のかかる方法しか取れない。
それが余りにももどかしい。
○●○
この世界には幽霊がいる。大きいのから小さいの。強いのから弱っちいのまで盛りだくさんだ。
周りの人は見えてないようだから私も黙ってるけど、実は幽霊と人間は隣り合って生きているのだ。その証拠に、今日も電車で肩に乗せてるサラリーマンを見かけた。その人の顔がめっちゃやつれてたから、少なくとも無害では無い。むしろ有害でしか無い。
百害あって一利なしとはよく言ったもので、幽霊なんてこの世のガンみたいな物だと私は思っている。だから、こっそりと撃退しているのだ。
そう、私は除霊ができる。そのサラリーマンに取り付いてるやつみたいな弱っちいのはデコピンするだけで消えていく。たまに見かける強いのも、殴ればイチコロだ。
十七年間生きてきて、私に退治できなかった幽霊はいない。
これは私の唯一と言っても過言では無い誇りだ。誰よりも直接的に、この世に役立ってる自負がある。
事実、この街は他のと比べて景気も良く、笑顔が溢れた素晴らしい街で、移住者数は全国一位、犯罪数も日本どころか世界でもトップクラスの少なさ。
えへん。
だが、そんなこの街に、不穏な影が這い寄りつつあるようだ。
その証拠に、今朝だけでもかなり強い幽霊が三体。弱いのも久しぶりに二桁を超えた。こんなの、一年にあるか無いかくらいの厄日だと言うのに、こんな調子が数日は続いている。
明らかにこれは異常だ。
私の推測では、とんでもなく強い幽霊がこの近くにいる。もしくは既にこの街の中に居座ってる。後者の可能性が高いだろうか。
此処で幽霊についての私の予想を振り返ってみようと思う。
幽霊とは、恐らく意識のない思念体。人が死ぬ直前に抱いた強い感情がこの世に残った事で生み出される物と思われる。つまり、その時の感情の強さや複雑さ、鮮明さによって幽霊の強さが変わるのだろう。
怒りや殺意なんかは強い幽霊を生み出す、みたいな感じ。
これが私の予想。真実がどうかは知らないが、少なくとも幽霊にハッキリとした意識、意思が無いのは事実。
そして、感情というものは伝染する。これは生きている人間も幽霊も変わらない。デモやお祭りなんかがいい例だろうか。集団では、人の感情は自然と強くなる。周りのより強い感情に呼応して。
幽霊もまた、強い感情に呼応して強くなる。実験というか、経験した事があるのだ。
アレは、強い幽霊と弱い幽霊が二体同時に出た時の事。弱い方から除霊しようとした私は、デコピンする直前に、そいつが段々と大きくなっている事に気付いた。あ、ちなみに幽霊は、強ければ強いほど大きくなるか、人型に近づいていく。これも経験論だ。
そしてその幽霊の体は、つい先程の倍以上に膨れ上がっていた。これはまずいと思った私は、咄嗟に右ストレートで除霊こそしたものの、あのまま放置していたら、強い方と同じくらいの大きさになっていた事だろう。
そして今。その現象が頻繁に起きている。
これはもう、確実と言っても良い。かなりヤバいのがいる。恐らく史上最強クラス。この街の外にすらその影響が出ているらしく、さらに、犯罪数は増えこそしないものの、数少ない友達の何人かの機嫌がかなり悪くなっていた。案の定、幽霊に取り憑かれている。こっそり除霊効果のある私特性お守りを忍ばせていたと言うのに。勿論即除霊した。
そして、ついに私は見つけたのだ。その幽霊のいる場所を。
そいつはやはりこの街の中にいた。
人のよく集まる中央公園の、噴水のある広場、その上空。
空を飛んでる奴は初めてだ。やはり規格外。だからこそ、コイツの居場所を特定する事が出来た。
私はつい先日、とある事に気付いたのだ。
ここ最近急増した幽霊全てに当てはまる共通点。それは、幽霊の大規模な移動。
まるで何かに恐れ慄き退散するかのようにとある場所から離れていく幽霊達。毎日を幽霊退治に費やし、その研究を怠らない私だからこそ掴んだ手掛かり。
私は思った。幽霊達が離れるその中心部に何かがあるに違いないと。そして、その場所こそが此処だった。
「これが……」
この事件の大元。恐らく、私の人生史上、最大最悪の幽霊……!
膝を抱え、眠るように沈黙しているそいつの顔には黒いモヤがかかっており、その表情を伺う事は出来ない。だが、余りにも人間に似通っているその体からは、常時圧のような物が発せられていた。
恐らく男だ。と、性別が分かるくらいには人型として完成していて、その異常さがよく分かる。
まさかこれ程とは……と、思わず固唾を飲んでしまう。
ダメだ、多分勝てない……
その日私は、初めて敗北を知った。
○●○
幽霊になって初めて、顔にモヤのかかっていない人間を見た。
その子はまだ若く、恐らく高校生ぐらいだろう。私服だったので分からないが、職場の同僚よりかは若々しい。同僚が聞いたら殺されそうだ。もう死んでるんだが。
それはそれとして、なんだか嬉しい。
彼女も俺の方を見ている。バッチリと。それはもうバッチリと。
ガン見である。なんだか照れるな。恐らく、幽霊を初めて見たのだろう。デュフフ、ごめんね、初めてが俺で。って変態オヤジか俺は……
手を振ろうとして、無視された。その子はスタスタと歩き去っていく。まるで何事も無かったかのように。
え、悲し……
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1の2
アレに関わってはいけない。
そう思った私は、周りの人に不審がられないように、極めて冷静に振る舞い、何事もなかったかのようにその場を立ち去った。と、思う。
何せ記憶が曖昧だ。途中から膝は震えるし、息は切れるしで大変だった。家にいる今でもなお、あの幽霊の威圧が忘れられない。
そもそもなんだ、空に浮いてるって!
よく聞く怪談での幽霊は、そりゃ空くらい飛べるんだろうけど、ここは現実で、幽霊にそんな能力は無いはず。十七年の経験則だけれど。
だが、アレ自身はそこまで人間に危害を加えてはいないみたい。あの公園にいた人はみんな健康そうだったし、周りに他の幽霊もいない。
やはり、アレから生まれた筈の幽霊でも、アレは怖いのだろうか。まあ、よく分かる。本能で敵わないと理解させられる程のオーラだった。アレに当てられて正気を保てる人なんているんだろうか。
そう考えると、あの時の私はよくやった。バッチリ見てしまったので、あちらも私の存在に気付いている筈なのに、攻撃してこなかったのもかなり運が良かった。なんでだろ、機嫌が良かったとかだろうか?
いや、それは無いかなあ。
例えどんなに効率が悪くても行動をやめずに消滅するのも構わず突き進むのが幽霊なのだから。
死ぬ前に抱いた強い気持ちにしがみ付いて現世に留まる彼ら彼女らには、それしか道はないのだろうし、きっとその事に疑問も抱いていない。
そう考えれば不憫な存在なのかも知れない。公園のアレもどうしようもなく強い気持ちでここに留まっているのだろう。
今までは適当に殴ったりしてれば成敗出来てたからよく考えてなかったけど、そろそろ霊媒師的な成仏の勉強をしなくてはならないのかも。
寺に弟子入りでもしよっかなぁ……。
あ、そういえばクラスメイトに一人、そう言うオカルト好きがいたっけ。もしかしたら、そう言うマニアックな知識を持っているかも知れない。結構噂になってて、社交性の一切無いこの私にすらその情報が届くぐらいには有名な人だ。
なんでも、ある教室の床に赤い絵具で奇妙な絵を描いてただとか、五寸釘と藁人形を常に持ち歩いてるだとか。
聞く限りではかなりヤバい人だ。でも、幽霊を知ってる身としては否定は出来無い。
今まで意識して避けてきたけど、ここは腹を括って打ち明けるしか無い。まあぶっちゃけ知られても困ることでは無いし、言いふらされても信じない人の方が圧倒的に多いのだから、損な事も無い筈!
善は急げだ。明日早速、話しかけてみよう。
○●○
幽霊になってからというもの、睡眠も食事もせず、自宅探しも諦め、これと言って何もしていない。変化と言えば、昨日のあの子だけ。
これぞニート。まあ幽霊だし、仕方ないね。
サクラの事は気掛かりだが、この間までのように、無闇矢鱈に動き回って探していては、それこそ時間の無駄と判断した。ので、唯一の道標となりそうなあの子の事を探そうと思う。
昨日は逃げられてしまったが、俺も俺みたいなのが見えたら即逃げる。あの行動は当然で正確な判断だったという訳だ。
そして、あの子の事だが、私服だったとは言え恐らく学生。大学生と言ったところか。高校生にしては多少大人びていたし、多分待ち合わせか何かだったのだろう。そう考えれば、申し訳ない事をした。
幽霊なんて普通見えないもんなぁ。
まあ落ち着いてたし、大丈夫だろう。トラウマとかになっては無さそうだ。こちらが何もしない事を分かってくれれば仲良くなれそう。
と、言うわけで。善は急げだ。早速、近辺の大学から調査して行こうと思う。
○●○
見つけた。恐らくあの子だろう。
オカルト好きの生徒って知ってる?と聞けば第一に名前が挙がる、今田愛梨さん。長い髪で顔は隠れているが、肌は白く、そう言う趣味さえなければ隠れファンも多そうな美人さんだ。
まあ、彼女本人が幽霊とか言う、嫉妬した誰かの陰口のせいで、準イジメみたいな事になっているのだが。主に女子から。
「ねえ」
「……」
話しかけても返事は無し。そりゃそうだ。彼女は基本、先生に当てられた時ぐらいしか声を発さない。休み時間ももっぱら読書してるだけ。
噂では、不気味な絵の描かれた胡散臭い本らしい。ぶっちゃけ彼女には悪いが、嘘か確かな情報かが判断しにくい。それくらい、この今田さんは暗いのだ。
だが、そんな彼女でも、唯一声を発するなり興味を抱くなりする話題がある。ご存知オカルトだ。
「幽霊に興味あるってホント?」
「!」
「何か知ってることがあるならさ、放課後ちょっと残ってくんない?」
「……わ……わかっ、た……」
やはり食いついた!
ふふふ、ちょろいもんよ。
その後、それを見ていた女子生徒にからかわれるなんて言うどうでもいい事が起きたが、それ以外はなんと言う事もなく、平凡な一日が過ぎて行った。
そして、放課後。終礼を終え、部活に行く者、残って駄弁る者、バイトに急ぐ者など、様々な様子を見せる教室で、二人。アイコンタクトをとった後、教室を出て丁度いい空き教室に向かう。
「……」
「……」
ここでいいかな。そろそろ沈黙にも耐えられなくなって来た頃だ。
丁度よく、校舎の端っこの方に人一人居ない教室を発見したので、早速入っていく。
都合の良い事に、机や椅子は他の教室に比べて少ないもののちゃんと綺麗にしてあった。いそいそと机を向かい合うように並べ、椅子を動かし、座る。対面に彼女も座ったのを確認し、私は漸く口を開いた。
「それで……」
「ろ、録音っとか、し、してない……よね?」
「してないしてない!」
なんとも用心深い。まあ、全くの杞憂なのだが。
それから私は、俯いて目を合わせようとしない彼女、今田さんに向けて、今までの経験談、幽霊の事、そして公園のアレについてを全て打ち明けた。
最初こそ警戒して話半分に聞いていたらしい今田さんだったが、気付けばいつの間にか、前髪でわかりにくいとは言え確かに目が合っていた。そして最後には、プルプルと震えながら目を輝かせて聞いていた。
「ほ、ほほほ本当に!? 本当の本当の本当に!?」
「信じてくれないの?」
「し、信じるっ! 信じるぅ!」
テンション高っ!
口を開いたと思ったらこれだ。咄嗟に返したが、どうやら彼女は信じてくれているようだ。
「幽霊は本当に居るなんて! 自殺しないでよかった!」
「え!?」
「あっいや、何でもない……です……。で、でも! すごいよ! こんなの始めて! 必死に粗探ししたのに凄いリアルで、嘘ついてるそぶりもなくて! ありがとう神様!」
うん……警戒心が高いのは良い事だ。
まあ、これなら今田さんも協力してくれるだろう。なんだかんだ言って、私も実は嬉しいのだ。
生まれてこの方、親にすら話さなかった自分だけの秘密。墓に持っていく覚悟すらあったのに、こんなにあっさり打ち明けちゃった。
だってこうでもしないと、多分と言うか絶対に公園のアレには勝てない。
頼もしい?仲間を得て、私は…………とても嬉しい。その点でだけは、あの幽霊に感謝しなくもない。
「じゃ、じゃあその、中央公園の幽霊を倒す方法を探せば……いいんだね! あ、あの、えっと……」
「あ、ゴメン。私、花木詩乃。……よろしくね、今田さん」
「う、うん!」
風が吹く。開いた窓から入り込んだ、少しひんやりとした風と共にカーテンが揺れ、私たちの間を通り過ぎていく。ふと、窓を見てみると、そこにはこぼれ落ちんばかりの光で私たちを照らす、大きな夕日があった。
○●○
いない。ここらの大学らしき施設はほぼ全て見て来たと言うのに。このままでは、ただただ時間が過ぎていくばかり。少しというか、かなり焦る。
こんなストーカー紛いのことまでして得られた情報が、カツラをつけた教授がいた事のみ。突風が吹いてカツラが舞い上がっているところを俺は見逃さなかったぞ……!
夕陽に照らされたハゲが、光り輝きながら必死にカツラを追っているその様は、正直クソ面白かった。
良いリラックスの機会だった。ありがとう、名も知らぬカツラ教授よ。
っていうか、もうどうしようもない。ここは一旦、あの公園へ戻るしか無い。もしかしたら、その近くにあの子の家があるのかもしれないし。
振り出しに戻りこそすれ、それは単なるやり直しではない。いわば強くてニューゲーム。新たな決意と情報を胸に、俺は公園へと続く道の上を、フヨフヨと漂いながら進む。
その先で、地にこぼれ落ちた夕日の光が俺の行く道を照らしていた。
主人公がどっちかわからない件
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俺が幽霊となって恐らくもう一週間だ。
あれからと言うもの、あの女の子を探し出す事だけを目標に活動してきたと言うのに、恥ずかしいことに、何も成果は無い。
そもそも大学生ですら無いのでは?
という事は探し始めた直ぐ後に心の何処かで分かってはいた。だからって、社会人の場合、見つけるのはほぼ不可能。高校生だとしても社会人程ではないが数が多すぎる。
どうすれば良かったのだろう。
と、俺はあの時あの娘と出会った公園で考えてみた。
そもそも最初についていけば良かったのでは?
そんな勇気は無かった。今は心底後悔しているとも。
幽霊になっても後悔ばかり。
というか、何故俺はあのジジイに幽霊にされたのだろう。ただのミスでは無いと思う。幽霊になったばかりの頃は、そう言った創作物よろしく、あるあるの神様側のミスか何かだと思っていたが、それはそれでおかしい。
何故ならば、もしも神様側のミスなら再び干渉しきてもおかしくはないからだ。しかし、それは一切無かった。あんないい笑顔で送り出されたのだ。あの笑みには何かがある筈。
それこそ、あの娘に深く関わっているのでは?
だからあの娘だけ顔が見える……とか?
うーむ、うーーーむ。分からん。
だが、やはりあの娘だけが唯一の手掛かりであることに変わりはない。謎ばかりの今、唯一分かることといえば、顔にモヤのかかっている人といない人がいるという事だけ。そして、かかっていないのはあの娘のみなのだから。
あの娘と俺に関係がある?
血の繋がり……無いな
実は知り合い……という訳でもない
同級生の娘とか……あいつら元気にやってるかな
いやいや、今はそんな事はどうでも良いんだ。
あの娘と俺の関連性、その発見をだな……
「それでね、初めてここでその幽霊を目視したの」
「ここが……」
え?
この声は……まさか……!
「何かわかる事とかあるかな?」
「え、え〜っと……」
あの娘だ!
なんか一人増えてるが、あの時の女の子に違いない!
制服……という事は、そうか、大学生でなく、高校生だったのか。つくづく自分には観察眼とやらが無いらしい。
いや、今は自虐の時じゃ無い。あの娘は以前、俺を見て逃げた。という事は、今見られてもまた逃げられる可能性が高いという事……。
見られるわけにはいかない。その上で、なんとかして情報を集めなければ……!
あの隣の子も気になる。話してる内容は全て聞き取れなかったが、どうやら俺関連の事らしかった。助っ人か何かだろうか。
「ご、ごめんなさい……分かんない……です」
「そっかー……」
「あ、で、でも!」
「分かってる。さっきまでめちゃくちゃ居た幽霊達が姿を消した」
「と、という事は……やはり……」
「うん、近くにいるかも……!」
え?
な、なに?なんて?
今さらっと重要な事言ってなかった?
幽霊がめちゃくちゃ居た?
え?
ドユコト……?
○●○
今田さんと話し合った結果、まずは今田さん自身が幽霊を認知しなくては、出来ることも出来ないのでその特訓と言うことになった。
やる事は簡単。私の幽霊退治に付き合って、生で幽霊の感覚を知ってもらう。
多少力をつけた幽霊には、物理的な破壊力を持つタイプがほんの少しだが現れる。所謂念動力と言った、物を触れずに動かす奴もいれば、単純に殴って蹴ってぶち壊す奴もいる。
なにが言いたいのかというと、その現場を彼女に直で見てもらい、ほんのちょっとでもいいので互いに干渉する作戦を実行する、という訳だ。
早速、私達はザコ幽霊退治に出かけた。
日に日に増えていく幽霊を見つけるのは、もはや見ないフリする方が難しく、ほんの数秒後に結構デカめの幽霊を発見した。
あちらは何故か興奮状態で、かなり暴れ散らかしていたので、かなりスムーズに彼女の特訓は終わった。
元々素養はあったのだろう。雑談してたときにふと気になって聞いてみた事だが、彼女が生粋のオカルト好きになった理由は小さい頃に本物の幽霊を見た事があるかららしく、しかもそれは人型で、何故かボロボロだったという記憶が残っていると彼女は語っていた。
人型という点で、今私がなんとかしようとしている件に関係あるのかもしれないし、無視はできないと私は心のメモにそのことを書き込んだ。
それから彼女の成長はめざましく、今となっては私の優秀な助手である。しかも、彼女の持つ洞察力や記憶力、情報量などは特に優れており、むしろ私の方が助手なのでは?と時折思ってしまう。ほら、考える担当の探偵と、体張る担当の助手……みたいな?
いやいや、そんな筈は……
「そ、それで、ですねっ!? やはりここは……」
「え、ご、ごめん聞いてなかった」
「えっ!?」
「いやほんとごめん、も、もう一回言って?」
しまったー!
考えるのにのめり込みすぎた!
今田さんに悪いことをしてしまった。あぁ、ごめん……!
だからそんなにしょんぼりしないでー!
「あ、あの……」
「ふむふむ……」
彼女が言うには、目標となる公園の幽霊の情報が少なすぎるとの事。今まで結構な数の幽霊にあたっては見たが、そのどれもが雑魚すぎた。
今田さん的には、そんなにその幽霊は強いの……?
と言うことらしい。つまりこの目で見てみないとヤバさが実感できない、と……。
や め と け
としか言えない。ここはもう少しだけ経験を積んだ方がいい。その方が、多少とは言え耐性も付く。
十数年間幽霊と付き合ってきた私だからこそ言えるが、高々数日だけ幽霊と関わった程度では、アレの威圧やらなんやらには耐え切れないだろう。
「そ、そこを……なんとか……!」
「えぇ……、何でそこまで?」
「わた、私があの日見た……幽霊、かも、しれないから……」
「!」
確かに!
言われてみればそうかも知れない。実際私もあそこまで完成している人型幽霊なんて今まで見たこと無かったし、十年や二十年生きてる幽霊なら、あそこまでの威圧を放つのも納得できる。
感情をより長く燻らせた幽霊の力がその時間の分だけ強くなるのは私なりの研究で分かっていることだ。
他の街は知らないが、私は幽霊が出たその日になるべく狩るようにしている。一日置いた幽霊は、注意しなくてはならないほどに力を増すからだ。十年、それはあまりにも長い。二十年なら尚更だ。
それなら勝てる気がしないのも頷けるか……
いやいや、頷いちゃダメなんだってば!
とにかく、今田さんの言う昔出会った人型幽霊が、あの公園の幽霊と合致するなら、それはかなり最悪でかなり良い情報だ。
力の差がより分かりやすくなるというもの。
少し不安ではあるが、確かに価値はありそう……
「……分かった」
「ほ、ほんと、ですかっ!?」
「うん、やるだけやってみよう!」
「は、はい!」
○●○
「姿を隠している……? あれほど強力な幽霊が……?」
「え、こ、この近くにいるんですかっ!?」
「うーん、そうかもね。何らかの理由で見えないようにしているとか」
俺を探しているのか?
何でだろう……?
あの時は逃げたが、今になって興味が湧いたのだろうか。隣にいる子もうっすらとだが顔が見える。モヤが消えかけているのか。
霊感が強い人はモヤが消えるとかだろうか。
もしかしたら、隣の子に話したら興味を持たれたとかで仕方なく来ているのかもしれない。
……いや、それは考えすぎか。
とにかく、俺の姿を御所望なら、別に減るもんでもなし、見せるしかないだろう。
彼女らはかなり離れたところにいる。目測だが、200メートルと言ったところか。
そう、実はこの間のことだが、俺の足はかなり速いと言う事が判明したのだ。その速さは、一瞬で数百メートルもの距離を移動できるほど。まさに人外である。
肉体無くなって身軽にでもなったんですかね。
どれ、彼女達にもこの足の速さを披露するとしますか!
ふんぬぅ!
「どうする? 探してみる?」
「え、えーと……」
やべ、通り過ぎちゃった。速すぎるのも考えものか……。今度は調整の為の練習でもしよう。とりあえず彼女らに見える位置に移動して……と。
「き、今日はご縁が、な、無かった……のかな」
「そうだねー。よし、帰ろっか!」
歩いて近づくにつれ、はっきりと聞こえてくる会話。振り向く二人。
目?が合った。
「へ?」
「……え?」
『………………こんにちは』
「ひいっ!?」
「あ、あう……うあぁあ!」
二人のうち、顔がはっきり見える方が急に叫び声を上げ、モヤが消えかけの方が膝を震わせ、後ずさる。
これ俺どうすればいいの?
あ、帰る?
邪魔しちゃったというか、驚かせちゃった?
それは申し訳ないことを……それにしてもめっちゃビビるやん自分ら。俺は悲しい……。
幸いにも近くに人影は見えない。二人が急にビビりだした変人と勘違いするような人はいないらしい。良かった良かった。俺のせいで二人に変な噂を流させたくない。
「に、逃げるよ!」
「はーっ……はーっ」
「早くッ!」
そして二人は、路地裏で現れた露出狂を見た人の如く、逃げ去っていったのでした。
自分、一人泣きいいすか?
え、だめ?
この時主人公は、唯一自分の存在を認知してくれている二人を見てかなり舞い上がっています。
つまり色々やらかす。
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