殺すなら、死ぬまで殺せ、鬼殺隊 (茨月)
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壱殺

はじめまして。茨月と申します。
鬼滅の刃のアニメをイッキ見してから、勢いで書いてしまいました。
と、いうより投稿が初めてすぎて使い方がよく分からん。


血飛沫が舞う。

肉片が舞う。

骨片舞う。

暗く闇が深い夜の森の中で少しだけ木々の開いた場所で無数に何かが煌めく。

斬撃。それこそ夜の森が光っていると見間違えるほどに。

斬撃が迸る度に赤く染まった液体が拡散する。血霧と思わせるほどに霧散していく。

森の中には血に塗れた刀を持った男が1人。

その男に向かって森の奥から複数の異形が飛びかかる。

多勢に無勢。そんな言葉が浮かび出す。

森にいる獣とは違う、普通の生き物では出せない速度で襲いかかる。

しかしながら、そんな光景でも男は気にしない。

それらを視線だけで一瞬追い、次には腕を振るう。

それだけで舞う。

 

「お、お前は一体なんだァ!」

「塵が。死ね」

 

次に異形から向かってくるのは恐れ。

そしてそれに返ってくるのは、殺意の返答。

憎悪、怨念、憤怒が込められた昏い声。

その声が聞こえると同時に腕が振るわれる。そして腕を振るう度に異形は分断される。

腕を。脚を。胴体を。そして首を。

切断され地面に落ちた身体はそこから灰へとなり、散っていく。

 

「く、くそが!」

 

他の異形はそれを見て、逃走に図ろうとするが男は逃さない。瞬時に先程と同様に灰と化していく。

それを確認した男はその場から去ろうとする。

日が差し始める。

森は夜明けを迎え、光は男を照らし出す。

光に染るその姿は返り血をほとんど浴びておらず、刀を背に負っている。とある隊服に白いマントを羽織った出で立ちで顔には怨霊系の口面で覆っている。

差してきた日光に目を細めてていると肩に鴉が止まり、口を開いた。

 

「任務完了ー。任務完了ー。次ー、東北。次ー、東北」

 

そのまま静かに喋り出す。

その鴉は、鎹鴉。伝令係として重宝されている。

男は慣れているからか、喋る鴉に驚かずその司令を聞くと指定された土地へ行こうとその場から離れる。

朝日がさす残された場所には破壊痕が残されたばかりだった。

 

 

 

鬼。

それは昔からある御伽噺の存在ではなく、実際に存在する異形。

人を喰らい、尋常ではない身体能力を有し、時には妖術のごとき技を繰り出しをする太陽の下で生きれない何度下しても再生する不死の化け物。

夜な夜な人を喰らい人の人生を破壊していく。

無論、人々は大人しく食べられる訳にはいかない。

ただ、闇夜に怯えるだけではなく、明けの光を迎えるために抗う者達もいる。

それが鬼殺隊である。

数百名からなり、政府非公認ではあるがそのルーツは永きに渡る。

陽の光を浴び、蓄えるとされる鋼を使い武器とかした日輪刀を携えて鬼を滅殺する。それが、鬼の弱点となる日光以外で唯一の滅ぼし方として。

 

先程の男もその所属になる。また、鎹鴉も各鬼殺隊員あてがわれている。

そして時代は大正時代。短い間に起きる数々の起こりがある激動の時代である。

大正時代にこの鬼と鬼殺隊の関係は大きくうごくことになる。

 

 

 

場所は変わって、日本東北部のある村。

鎹鴉による連絡から、その村の近くの山に鬼が潜んでいるとの事。実際に現地へ向かった隊士の数名が消息を立ち、それ以上の情報が上がらず、犠牲も出せないとのとこで、彼が派遣された。

先日の異形、鬼は珍しく群れて統制のとれた行動する習性を持っていた。普通の鬼は力強いせいか、単独で行動するパターンが多い。また、人を喰うだけでなく、鬼同士も共喰いも起こす。

普段は、そういうことに慣れているであろう隊士達はそれに対応しきれず男が対処する順番になることになった。

今回も同じような条件で次は彼が遣わされることとなる。

 

 

 

山の頂上に登ると山を1つ越えたその中腹に村があった。

パッと見50人規模当たりの村だろう。

よく見ると昼間の仕事をしている人が複数見かけられた。

村に入ると、男に気付いた村人が近寄ってくる。

村人は男が気味が悪いのだろう、少し怪訝な顔をしながら聞いてきた。

 

「あんた、妙な服きてんな。ウチの村になんか用かい?」

「とある用で来ている。この村の中心の者はどこだ?」

「あん?中心の者?あぁ、村長の事か。あっちの通りの奥の家だよ。」

「そうか」

 

言葉数少なに確認をすると、そちらの方へ足を向ける。

 

「あ、おーい!さっき似たような服来た女性が来たんだがお仲間かい?」

 

村人が思い出したのだろう、村長の家へ向かう男の背に声をかける。

男は立ち止まることなくそのまま奥へ向かって行った。

 

「しっかしさっきの女性や今までと違いおっかねぇもんだなぁ…」

 

村長の家の前に行くと、先程村人が言ったように女性が老人と話していた。

近づくとこちらに気付いて顔を向けてくる。

 

「こんにちは。これから任務ですか?あれ?以前どこかで…?」

 

任務帰りだろうか、少しくたびれた様子でこちらに向かってくる。

近づいてこちらの顔を認識すると、どこかでお会いしたか、と聞いてくる。

こちらとしても会った記憶はない。

 

「あ、申し遅れました。私は胡蝶しのぶと申します。階級は...」

「どうでもいい。それよりお前が村長か?」

 

会話を断ち切り、その隣の人物に話しかける。

笑顔で挨拶をしていた胡蝶しのぶの顔が固まり、村長と思われる老人はこのやり取りに不安を覚えた。

 

「え、えぇ。私がこの村を先導しております。」

「そうか、ここ辺りで行方不明者が出たと情報を受け取っている。何か心当たりは?」

 

行方不明者と聞いて、胡蝶しのぶがピクリと反応する。

 

「い、いえ。そのようなことは…。もしかしてあなた様方はお役人様でしょうか?」

「そのようなものだ」

 

隣で話を聞いていた胡蝶しのぶが固まったままの笑顔でこちらに顔を向けてくる。

それを無視して話を続ける。

 

「それより空きはあるか?しばらくここで調査を行う」

「は、はぁ。分かりました。しかしながら、空きとなる建物が小屋しかなく、さらにそれほど良くなくてひとつしかないのです。そちらのお嬢さんもご一緒なられると言うのでしたらご一緒になりますが、大丈夫でしょうか?」

 

言外に年も行かぬ女子と少しの期間とはいえ同じ屋根の下で過ごすのはどうなんだ?と、聞いてくる。

すると、横から胡蝶しのぶが入ってくる。

 

「いえ、お気持ちは有難いですが行方不明者が出ているとなれば、そんなこと気にしている余裕はありません。」

 

笑顔でそう言われては村長も納得するしかないだろう。

分かりました、と言い空いている小屋まで案内してくれた。

 

 

 

小屋に着くと、村長は何かあったら先程の屋敷までお尋ね下さいと言い残し去っていった。

残されたのは2人。荷物を置くとすぐに手持ち無沙汰になった。

すると胡蝶しのぶは男に近づく。

 

「改めまして、胡蝶しのぶと申します。あなたのお名前をお聞かせくださいますか?」

「…神座無慙だ。」

 

名前だけ。それだけを告げると神座無慙は小屋から出ようとする。

慌てて胡蝶しのぶが声をかけてくる。

 

「ち、ちょっと待ってください。どこへ行かれるんですか?」

「鬼狩りだ」

 

 

 

森の中で鬼の痕跡をさがす。

獣とは全く違う存在であるから、獣以外の痕跡は知識があれば見分けはつく。

だが、日中でも木々に遮られて森の中は鬱蒼と暗く鬼が活動してるとも限らないので、緊張は抜けない。

胡蝶しのぶもまだ森の中で活動するのは慣れていないのか、前を行く神座無慙に着いていくので精一杯で呼吸が乱れている。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

神座無慙が鬼狩りと言って探索を始めてから数時間は経つ。その間、神座無慙は1回も休憩を挟むことはなかった。

 

「...おい」

 

そんな胡蝶しのぶを見兼ねたのか声をかける。

 

「もう邪魔だ。先に戻っていろ」

「なっ!?」

 

邪魔だと言われて胡蝶しのぶが声をあげる。実際に息が上がっており、鬼と遭遇した場合対処は出来ないであろう。

しかし、そう言われたことが悔しいのかはんろんする。

 

「私はまだやれます!これくらいで舐めないでください!」

「その程度で力尽きる貴様で何が出来る」

 

断言される。確かにその通りだ。

何も言えずに俯くしかない。

悔しさで嘆いていると、足元が異様に暗い気がする。いや、実際に暗いのだ。

顔を上げ辺りを見渡すと直ぐに理由がわかった。日が暮れ始めているのだ。既に太陽の半分ほどが隠れ始めている。

ここからは人間と代わり鬼の時間だ。

そういえば、先程の村では藤の花の香りがしなかった。

藤の花は鬼の弱点とはなり得ない。しかし、鬼は藤の花の香りを嫌い近づくことが出来ないとされている。なので鬼が嫌うものとして鬼避けとして扱われている。

藤の花の香りがしないということは、鬼が村に襲いにかかることが出来るということである。

その事実に気づいた胡蝶しのぶは神座無慙に声をかける。

 

「神座さん、もう日が暮れます。直ぐに村に戻らないと」

 

声をかけても、神座無慙は止まらない。

制止を促すようにしても無視するように森の奥へ進んでいく。

 

「なっ、待ってください!このままだと村の人達が鬼に襲われてしまいます!鬼避けの藤の花もなかったんですよ!」

 

それでも前へ進む。まるで誰もいない、誰にも話しかけられてもいないかのように。

 

「待ってください!村の人達がどうなっても構わないんです……」

「なぜ、村へ戻らなければならない?」

「なぜって村が鬼に襲われるかもしれないんですよ!守らないと!」

 

「なぜ俺が村を守らなければならない?」

 

「は……?」

 

絶句。脳が内容を拒絶する。

なんと言ったのだ、この男は。

なぜ村を守らなければならない?村を守る気はないのか。

私達は鬼殺隊であろう?鬼を倒し、鬼から人々を守る。それを守らない?

 

「俺は鬼を殺すだけだ」

 

気づけば前を向いて進んでいた彼がこちらを向いていた。

こちらを見るその瞳は憎悪と憤怒に染まり、私はただそこに居るだけと認識させられる。

気が付けば元来た道を走っていた。

幸い初日だからだろうか比較的人が通りやすい場所を中心に歩いていたので簡単に戻れそうだ。

直ぐに村には辿り着いた。

急いで村人の様子を見たが鬼に襲われているというわけでもなく、また、血の匂いもしなかった。しかし、まだ夜は始まったばかりだ。

あの男が村へ戻ってくるという選択肢はあの様子では無いだろう。

ならば、私だけで守らなければならない。

そう考えると不安で押し潰されそうになる。

 

「大丈夫……。私ならやれる……だって姉さんの妹なんだから……。」

 

私なら出来る。

そう覚悟を決めて一日目の夜を迎える。

だが、その夜は何も無かった。村の中を巡回しても村人は全員寝静まっているのか昼間とは違う雰囲気を醸し出している。

そうして明け方、もう大丈夫だろうと判断して小屋に戻り仮眠をとろうと横になった。

山を歩き回ったせいか直ぐに睡魔が襲いかかり、それに抗う間もなく意識は落ちていった。

 

 

 

意識が落ちてから少しだった頃だろうか、小屋の戸口が開かれる。

その音に反応したのか胡蝶しのぶは目を覚ます。

 

「(...鬼!)」

 

そう思ってそっと刀に手を添える。

薄暗い中目を少しだけ開けて確認すれば、先程からほとんど時間は経っていないようにも感じる。そして、音が出た原因を見れば神座がこちらに向かってくるのが分かった。

一挙一動に注意していると、そのまま壁際に座り背を壁に預けると動かなくなった。

 

「(もしかして寝た?)」

 

それ以外は考えられないだろう。

そう思うと鬼と疑っていた緊張がとけ、再び眠りへと誘われ始め、そこには寝息を立てている二人の姿があった。

 




〜大正コソコソ噂〜
しのぶ「神座無慙は「かむくらむざん」と読みますね。なんでも、彼のモチーフ先からとったとか。また、彼は甲の階級に当たりますよー」
無慙「次回、『この男、無慙無愧』」


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弐殺

ごめんなさい!
今回は前回の次回予行のようにはならないと感じます。
そこをご留意してお読み下さい。
また、追加事項として今リアルの方で忙しいので投稿もそんなに早くできるとは限りません。
それではどうぞ!


目を覚ますと、既に神座無慙はいなかった。

小屋から出て空を見上げると太陽からもう昼過ぎになるかと見て取れた。

村長の屋敷へ向かうと、村長にそのまま屋敷の中まで案内された。

 

「ほほほ。彼なら早朝に出かけるのを見ましたよ。凄い仕事に熱心な方ですねぇ」

「…え?」

 

彼なら早朝に眠りに入ったはずだ。

小屋に戻った時、まだ太陽は見えていなかったが空は白み初めていた。なのに早朝から出掛けたというのは、1時間も寝ていないのでは。

そう考えていると。

 

「私らは朝が早いですからねぇ。太陽が昇ると同時に起きるんですよ」

 

考え込む姿を見て勘違いしたのか、朗らかに言ってくる。訂正するのもあれだからと胡蝶しのぶはそれに対し曖昧に微笑み返した。

さて、次は仕事だ。置いていかれた以上単独で山で探索を行うのは危険行為だ。

ならば、私は村を守るためにこの村を中心に活動しようと決めた。

 

「何か手伝えることはありませんか?昨日、彼着いていって分かったのですが、まだ山に入るのに慣れていなくて…」

「なんと、こんな若いのに…。彼も酷いお人ですね」

「いえ、私が慣れてないのが悪いんです。これからもっと山に入る頻度も多くなるかもしれないので…」

 

昨日のやり取りを思い出して俯く。

昨日は確かに私が着いていくことに容認はしていた。けれど、途中でついて行くのが無理だと分かった途端これだ。

簡単に置いていかれた。

俯いている私を見かねたのか村長は先程よりも優しく提案を出てきた。

 

「なら、編み物などの手伝いをして貰いましょうかね。お嬢さんも手先が器用そうだし大丈夫そうだね」

 

 

 

編み物は思っていた以上に手先の集中が必要な作業だった。

教えてくれる村の女性たちはこれが村の収入源のひとつに入るのだそうだと教えてくれた。

村の収入源は生きていくことで必要不可欠である以上手を抜くことは許されない。

幸い周りは優しい人達ばかりで丁寧に分からないところは教えてくれる。

休憩時間はわざわざお茶まで入れてくれて、村の女性たちと話しながらその周りではしゃぐ子供たちを眺めていた。

 

「や〜!しのぶちゃん本当に手先が器用ね!」

「ほんと!ほんと!」

「いや〜若いのって羨ましいわぁ」

 

女三人寄れば姦しいとはこのことか。

失敗は許されないと集中しているのに周りでは女性たちがこれ幸いと胡蝶しのぶのことを褒めまくる。

 

「い、いえ…周りの皆さんと比べると私なんて」

「いやいや!そんなことないよ!私がしのぶちゃんの頃はねー.......」

 

少しでも謙遜すればこうだ。

作業を初めてからしばらくは皆集中していて作業の音と息遣いしか聞こえなかったが、休憩を挟んでからはだんだんお喋りになってきた。

こうしてなかなかこうした人付き合いに慣れていない胡蝶しのぶも四苦八苦しながら2日目の夜を迎えた。

 

 

 

夜、胡蝶しのぶは共に作業をしていた女性のうちの1人の家で夕飯をご相伴に預かっていた。

夕飯を済ませたあと、皆から心配されながらも小屋へ戻っていった。

ここからは鬼殺隊の夜だ。

昼間の意識から切り替えて鬼を殺すように息巻く。

ただ、しばらくはここで待機であろう。

今から村を巡回しても何をしているんだと怪しまれるだけだ。せっかく村人とは交流を深めることが出来たのでここで先に悪影響を与えるような真似はしたくない。

少し空いた時間で装備の確認を行う。

鬼と対峙した時、万が一のことがあってはいけない。

一瞬の隙で鬼はそこに喰らい付いてくる。

そうならないために丹念に準備をしていく。

しばらくして村からだんだん人気が少なくなってくるのを感じた。

そろそろ頃合だろう。

刀を腰に携えて小屋から出た。

なるべく人が入ることが少なそうな場所を中心に回っていく。

極々まれに人が歩いているのが見えるが注意して隠れれば何の問題もなかった。

そうしているうちにだんだん空が明るくなり始め、2日目の夜も何も起きずに終わった。

 

 

 

胡蝶しのぶは小屋に戻り、寝る体勢に着くとそのまま眠らずに目だけつぶる。

全然確証はないがもしも昨日と同じだとすれば、もうそろそろ神座無慙が戻ってくるはずだ。

多分彼は今回も山に入り探索を続けているのだろう。昨日の様子では鬼は見つからなかったようだし。

そう考えているうちに小屋の戸が開かれた。

考え事をしていたせいで戸が開けるまで気が付かなかった胡蝶しのぶはビクッと身をすくませる。

神座無慙はそのまま昨日と同じような体勢で眠りについたと思われる。

今日も同じか…と思ったが、そこで昨日とは違う点に気が付いた。

それは匂いだ。血の匂い。

考えられるのは一つだけ、鬼である。

だとすれば今回の任務はこれで終わりだろうか。しかし、昨日と全く変わらない神座無慙の様子にそれは違うと自身の感覚がそう告げている。

思考に陥っていると、神座無慙が動き出す。

そのまま小屋の外へ出るとそのままどこかへ行ったようだ。気配がだんだん遠のくのが分かった。

そのまま身を起こすと、やはり荷物がまだ無造作にそこに置かれていた。間違いなく彼のものだ。

ということはまだ終わっていないということだ。

昨日とは違いそんなに体力も消耗はしていない。このまま眠りにつくよりも仮眠をとる程度で十分だろう。

そして、また村からなるべく情報を集めるようにしないと。

そう思いながら胡蝶しのぶは壁際まで寄ると神座無慙のように壁に背を預けながら休息をとり始める。

次はなにか進展があればいいと願いながら、思考が暗く染まっていく。

だが、3日目、4日目と村の方では進展はなかった。

 

「どうしよう…。」

 

このままでは非常にまずいと胡蝶しのぶは焦り始める。

鬼を退治するのにこんなに時間がかかっては他の場所で被害が出ても有り得なくない。むしろ出ない方がおかしい。

唯一の手掛かりといえば神座無慙だ。

毎回怪我をおった様子もなく消耗している素振りも見えない。

ただ日に日に血の匂いが濃くなっている事だ。

しかし、血の匂いが濃くなっているということは鬼は複数体いるということか。これだけ時間がかかるということは散り散りに逃げた鬼を確実に退治する為だとすれば辻褄は合う。

だとすれば私も手伝った方がいいのではないか?

そうすれば多少は早くは事は終わるだろう。

なら手伝いない手はないことはないだろう。

そうと決まれば善は急げだ。

 

4日目。夜の見回りが終わった後、胡蝶しのぶは小屋に戻った後、寝ずに彼を待っていた。

そろそろ帰ってくるころだろう。

そう思いながらも、ただ情報を聞くためだけど緊張はしていた。

1日目の昼間、山で探索していた時に意見が食い違った時に見たあの目を思い出すと少し身が竦む。

彼の目は普通ではああはならない。

そこに至るまでに凄まじい過去があったのだろう。

そうして、そうこうしているうちに小屋の戸が開かれた。彼が帰ってきたのだ。

近づいてくる彼の姿に違和感を覚えた。まだ、太陽が昇っていない薄暗い小屋の中で目を凝らすと、何となくだが分かった。

返り血を浴びているのだ。

返り血と共にいつもの血の匂いを連れてくる。

そんな彼に意を決して声をかける。

 

「お疲れ様です。鬼はどうでしたか?何か進展はありましたか?」

 

答えてくれるとはあまり思っていない。

村で最初会った時からほとんど会話を交わしていないのだ。

ただ多少なりとも情報が欲しい。この焦りを少しでも減らせれば、身体の疲れも気持ち程度だか軽くはなるだろう。

既に4日過ぎた。昼間は村の手伝い。夜は村の巡回。これではあまり休息をとる機会がとれない。

自分でも分かるくらい身体が疲弊しているのが見て取れる。

せっかくの情報源を逃しはしないと神座無慙を睨む勢いで詰め寄る。

少しの間の沈黙。

先に口を開いたのは神座無慙のほうだ。

 

1()0()()()()()()原因も大方分かった。後は殺し尽くすだけだ」

 

驚いた。

彼が口をきいてくれるのではなく、鬼を既にそんな数を屠っていたこと。そんなにも鬼がいたことにだ。

血の匂いが濃くなるのも道理だ。

だが逆に、まだ鬼が複数体残っているということが言える。

やはり私も手伝った方がよいのでは。

そう訪ねると。

 

「要らん。邪魔なだけだ」

 

やはりか。しかし、鬼が実際にいると分かったのでは、はいそうですかと引くわけにはいかない。

 

「残念ですけどそうはいきません。最低でも村だけは守らせていただきます。鬼が出る以上、人がいる場所には来るので」

 

そう言ってニッコリと微笑む。

 

「なら、そこは徹底してやるがいい。今の貴様ではせいぜいそこらが精一杯だろう」

 

カッチーン。

笑顔に青筋が立つ。

元々胡蝶しのぶは感情を表に出しやすい性格だ。

このような言い方をされて黙っていられるわけはない。

 

「(落ち着いて。感情の制御ができないのは未熟者…未熟者です)」

 

深呼吸をひとつ。

姉からの助言を思いながら感情を抑える。

こんな所で言い争っても意味は無いのだ。

だが気付けば神座無慙は眠りについていた。

それがさらに胡蝶しのぶの怒りに油を注ぐことになった。

怒りの原因は既に寝ている以上喚き立てても意味が無い。さらに村の住人にも迷惑だ。

そのままその日は怒りで眠りにつけずに朝を迎えた。

 

 

 

その日も村の手伝いをし終わったあと、村人のとある一家で夕飯に誘われていた。

そこでは早朝の出来事を全部は言えないので掻い摘んでだか愚痴を零していた。

そこの一家の雰囲気が良かったのか普段よりも少し饒舌に話す胡蝶しのぶ。

 

「ありえないんですよ、彼。手伝える事はありませんか?と、聞いても要らん、邪魔だとしか言わないし…」

 

家の人もあらあら、と微笑ましく応えてくれる。

胡蝶しのぶは唯一の肉親である姉を1人残して両親を鬼に殺されている。

一家の団欒の雰囲気に呑まれたのか、疲れが表までに出てきたのか、だんだん眠気に襲われ始める。

 

「おや、随分眠そうだね。今夜はうちで寝なさい。大丈夫。部屋の空きならあるから。あの小屋で過ごすのも疲れるだろう?」

 

家主が優しく声をかけてくれるが、眠気に勝てずに徐々に意識を失っていく。

少しした懐疑心が生まれてくる。疲れているとはいえこんなにも眠気にさそわれるのだろうか?

そして、最後に意識を失う前に見たのは悪意に染った笑顔だった。

 

 

 

ふと、顔をあげるとそこは小屋の中だった。

こんな所で寝たかしらと思い立ち上がろうとしたが、動けない。

よく見ると小屋の柱に縛られている。

そう認識した瞬間、自分の刀を探し始めた。

ない。

腰に携えていた刀がない。

 

「おやおや。ようやくお目覚めかい?鬼狩りの嬢ちゃんよぉ」

 

声のした方へ顔を向ければ、そこに居たのは先程の家主だった。しかも私の刀を持っているではないか。

 

「それは!それは、私のものです。危ないので返してください」

 

そうは言ってみるもの家主はニヤニヤ嗤うだけ。

さらに今、なんと言った?鬼狩りの嬢ちゃん?

なぜこの人が知っている?この村に来てからは一言も鬼殺隊に所属していることは言っていない。なのになんで?

私が混乱しているのが分かったのか、機嫌が良さそうに言ってくる。

 

「これはな?あのお方が教えてくださったんだ。『今、この村には鬼狩りが入り込んできている。排除するのに協力すれば、上の立場を儲けよう』と仰ってくださってな!」

 

「あのお方?」

 

「そうだとも!お前らが鬼と呼んでいるものだ。お前は簡単に捕まえることが出来たからな。苦労はしたぜ?なんせ食事に薬を混ぜても効きやしない。ようやくこうして捕らえることが出来たんだ」

 

「…くっ!今すぐこの縄を解いてその刀を返しなさい!鬼は人を襲います!早くしないと村に被害が!」

 

体を揺するが縄は思いのほかしっかり結ばれているせいかビクともしない。

それを見て家主は嗤う。

 

「ははは!そんなことしても無駄だって!あのお方がお前を餌にあの男諸共殺してくれるさ!」

 

あの男…神座無慙共々?

彼の実力は分からないが私よりは確実に強いのは分かる。

しかも私を餌にする?それであの男が助けに来るとでも思っているのか?

山での出来事でもう分かっている。そんな彼が私を助けに来てくれるのか?いや有り得ない。

そう思いながら家主を見遣る。

そんな私を怪訝に思ったのか表情が曇るが直ぐにニヤニヤした顔に戻る。

 

「なんだ?もしかしてあの男が何とかしてくれるとでも?ははは!これは傑作だ!あのお方がっ…………ごふっ」

 

 

 

いきなり家主の胸から赤く染った刀の切っ先が生えてきた。

そのまま向こう側へ刀が戻っていく。

 

「...は?」

「え?」

 

両者ともに驚愕が走る。

家主は自身の胸の傷を見ながらその言葉を最後に身体が崩れ落ちる。

瞬間、その身体と頭が別れた。

落ち崩れる亡き別れた身体のその向こう側にいた。

血を前進に浴び、死の匂いを纏わり付かせた男が。

幽鬼のごとく神座無慙がそこに立っていた。




〜大正コソコソ噂話〜
しのぶ「神座無慙さんは、日中も夜中もずっと山の中で探索を続けています。凄い体力ですね」
無慙「次回『滅尽滅相』」


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参殺

お待たせ致しました!
またもやしばらくかかると思います。m(。>__<。)m
それではどうぞ!!


男が崩れ落ちたその向こうには神座無慙が佇んでいた。

その身体は血にまみれ、刀からは先程家主を刺した時についた鮮血が滴っている。

思わず声をあげる。

 

「な、なんで!どうしてその人を殺したんですか!」

 

どうしてあなたがそこに立っている?

その返り血はいったい何?

その刀の切っ先は今この瞬間に見たばかりだ。

目の前で起きた凶事に思考がついていけない。

私も危機に瀕していたから言うのは間違いかもしれないが、確かに彼は鬼に協力をしており人に害を仇なすものではあったが、ただの人であった。

鬼殺隊は鬼を殺すもの。決して人に害するためのものでは断じてない。

それなのに目の前の男はどうだ?

何を斬った?

縄から抜け出そうと身をよじるも抜け出せない。

神座無慙に問い詰めようとしたいが、これでは出来ない。

代わりにそのままの格好で怒りのままに睨む。

 

「なんでこんなことをしたんですか!…なんでっ。彼は鬼から護るべき対象なんですよっ?」

「鬼から護るべき対象?貴様にこんなことをして、あんな妄言を述べておいてか?」

 

─聞かれていた…!

先程のやり取りを聞かれていたか。

それでも言い募る。

 

「そ、それなら気絶させるなりなんなりしてやりようは他に幾らでもあったんじゃないですかっ?」

 

そうだ。

気絶でもさせて情報を聴き出せば、鬼の居場所が分かったかもしれないし、今後こんなことをさせることもなかったはずだ。

決して殺す必要はなかったのだ。

 

「くだらん」

 

そんな詭弁めいた私の言葉を切り捨てる。

 

「こんな輩は1度やり始めると同じことを繰り返す。ましてや鬼に協力?死して当然だ」

 

侮蔑をもって吐き捨てる。

身内を、大切な人を殺された仇とでも言うかのように死体をにじり踏む。

山でのやり取りが浮かび上がってくる。

ただ彼にとって鬼は殺すだけで村は最悪見捨てるとでも思っていた。

だから私は村を守ると決めた。人を殺すとまでは思わなかった。

なのになんで。どうして彼が人を殺す?

思考の渦に囚われ始める。

 

「まだ残っている」

 

そんな私たちのことはもう既に終わったことなのか、神座無慙はそこから立ち去る。

それに意識を戻された私は再びもがきだす。

しかしながらやはり抜け出せない。

ふと視線を向けると盗られた刀が男の手から離れ転がっていた。

幸い縛られているのは腕だけだ。

足を伸ばせば届く距離である。

そのまま足で刀を手繰り寄せると、悪戦苦闘しながら刀を足で挟んで鞘から抜く。

そうして刃を縄に当てて動かす。当然足で刀を動かしているのてすんなりと斬れはしないがそれでも少しずつ着実に切れ目は走っている。

直ぐに刀で斬らなくても自分の手で縄がちぎれるようになった。

拘束を解くのに思ったよりも全然時間がかからず5分も掛からなかったが、小屋から立ち去る神座無慙の言い方が気になる。決して逃してはいけない言葉のように。

─まだ残っている。

つまり、鬼がもう既に村の中に居るのか、もしくは他にも協力者がいるのか。

前者ならまだいい。いやそれは良くないが。しかし、後者なら尚更ダメだ。

あの男は殺すだろう。ただ鬼に協力したとして。

急いで小屋から抜けだす。

走る。

走る。

走る。

そうして走っているうちに頭の隅によぎっていた悪い予感が、想像を超える最悪な予感が実現していた。

─あぁ、なんてことだ。

人が地に伏して死んでいる。いや、殺されている。

しかも1人や2人ではない、もっと多くの人が死んでいる。

暗くてはっきりと認識は出来ないが、殺されてからそんなに時間は経っていないだろう。

私が村に着いた時わざわざ村長の元まで連れていってくれた優しい男性、編み物を丁寧に教えてくれて休憩時には沢山話しかけてきてくれた女性、無邪気にはしゃぎ遊んでいた子供。

その全てが首を斬られ骸と化していた。

首なしの身体、身体のない頭。バラバラに惨殺され、辺りに血の池が幾つも出来ている。

もうこれでは人がただ単に倒れ伏していて生死の判別が分からない、という少しの希望さえない。

まさしく文字通りの死屍累々。

この惨劇に胡蝶しのぶは息を呑む。

これは鬼の仕業でない。鬼ならば死体は喰い荒らされ、言い方はあれだがもっと汚く死体があちらこちらに飛散しているだろう。

綺麗に首が斬られていることから、実行したのはもう分かりきっている。あの男だ。

震える脚を無理やり動かして前へ進む。

せめてまだ残っているであろう人々をあの悪鬼羅刹から護るために。

実力は絶対的にあちらが上だ。それでも、と前へ進む。

 

「早く追いつかないとっ……!」

 

何処だ、何処にいる?

──......。

聞こえたっ!

神座無慙の発するものでも鬼の発するものでもない、村人の悲鳴だ。

どちらにせよ悲鳴が聞こえるということは1秒でも無駄に出来ない。

直ぐに駆けつけなければ、両者から殺される前に。

走る。

何処だ。

悲鳴はこちらからだ。

 

「い、いやだっ!何だ!助けてくれぇ!」

 

村人が尻もちをついて何かから逃げようとしている。

見えた。

その瞬間、身体に力を入れ今まで以上に加速する。

そして下からすくい上げるように刀を振るう。

手に走る衝撃。

何かが宙に弾かれる。

刀に弾かれたそれを見れば分かった。

手だ。手からは鋭い爪が伸び、手、腕全体に常人ではありえないほど浮かび上がった血管が見て取れる。

その腕の先に居た。

─鬼だ。

見た目どうこうではなく、感覚でもう分かる。

日向で生きる生き物ではない。闇夜でしか過ごせない憐れな生き物だ。

呼吸を整える。

呼吸を変える。

──全集中の呼吸。

それは鬼殺隊士が鬼を殺す為に必須な技術であり、鬼と渡り合うために瞬間に身体能力を大幅に強化する特殊な呼吸法である。

刀を構える。

 

──花の呼吸 肆ノ型 紅花―。

 

目の前の鬼に対して技を繰り出そうとする。

だかそれは途中で辞めざるを得なくなった。

原因は目の前で起こったことが物語っている。

鬼が目の前で爆散する。

 

──怨の呼吸 伍ノ型 噴怒。

 

血肉を粉砕し、ばら撒き、地面に大きな亀裂を入れながら神座無慙が上から舞い降りる

まるで破城槌を上からぶち込んだかのような破壊の衝撃が見て取れる。

その姿はつい先程去ってからさらに血を浴びていて一見どちらが鬼か分からなくなる。

姿が見えた途端に身構えるが、そうもしてられない。次の瞬間にはその姿は見失う。

─何処にっ!

そう思ったのもつかの間。

背後からの敵意、そしてくぐもった唸り声がする。

咄嗟に前に跳んで身をひねりその場から離れようとする。そして目に入ったのは先程爆散した鬼と同じような姿に変化している村人だった。

こちらに手を伸ばしていていたようだったがそれは叶わなくなる。

直ぐにバラバラになった。次には首が宙を舞っていた。

また神座無慙だ。

 

「…45」

 

もう困惑するしかない。

まさかの村人に裏切られ、さらに目の前で殺された。

次に、村人を鬼から助けたと思ったら、その村人が鬼になっていた。

怒涛の出来事に胡蝶しのぶはもう着いてけなかった。

何も出来ず呆然とそこで立ち竦む。

神座無慙がこちらを見ている。

そのまま腰を深く落とし刀を突きの構えにとる。

深く、深く、怨嗟の声が身体全体から滲み出すかの如く、敵対するモノの根絶を求める凶剣が鎌首をもたげる。

切っ先がこちらに向かう。

まるで巨大な獣の口を前にしているかのように、確実に殺すという意思が、威圧が高まってくる。

慌てて刀を構えるが切っ先はブレ、脚は震える。

 

「46。終わりだ」

 

──怨の呼吸 壱ノ型 牙怨。

 

胡蝶しのぶが瞠目するのも一瞬。

呼吸から生み出される凄まじい勢いとともに突貫してくる。刀を慌てて構え直すももう遅かった。

気付けば目の前に。

そして、その脇を通り過ぎる。

次に来たのは背後からの軽くはない衝撃だった。

小柄な体躯が吹き飛ぶ。

飛ばされながら目に入ったものは、先程と同様の肉塊だった。だが、その大きさは先程の比ではなかった。

衝撃と技によりグズグズと、肉が崩れ落ちている量は最初に見た鬼の5倍は軽く超えていた。

そしてなりより特徴的だったのは、コロコロと地面を転がり、私の目の前に転がってきた鬼の頭。

それは村長の顔をしていた。膨れ上がった肉に溺れかけていた顔のパーツだったがそれでも認識出来たということはそういうことだ。

自ずと分かってくることもある。この村の住人は鬼に化けたということだ。どういう原理でこのような多くの人数が鬼に成ったのかは分からないが、最初に対峙した鬼も、鬼に成りかけていた村人も、この村長もこの村特有の服を着ていた。

彼はただ鬼を殺していた。

多分そうだ。鬼を、鬼になる可能性を秘めた村人を殺しただけなんだ。

うつ伏せに伏しながらそう思う。

肉体的、精神的疲れ、また吹き飛ばされた衝撃で身体のいうことがきかない。さらに瞼がだんだん自分の意思とは逆らって下がってきている。

 

─思い出した。

自分の姉と一緒にお世話になっている屋敷は鬼が原因で怪我をおった人達を治療する病院みたいなことをしていた。

日々鍛錬をし、鬼を退治し、患者を治療していたある日、血に濡れていない場所がないのではないかというくらい全身血塗れの重傷者の男が運ばれてきた。

ただそれだけだと単なる重傷者で終わったが、彼は違った。目を覚まし自身の怪我の程度を確認すると直ぐに鍛錬し出したのだ。

無論傷口も塞がっていない状態で無理な運動をすれば傷口が広がるにも関わらず黙々と剣を振り続ける。

いくら怒っても全然聞き入れてもしてはくれなかった。動き続ける置物にでも話しかけているようだった。

彼が移動した跡には血痕が残り、鍛錬している場所付近では彼の血が飛び散った。

さらに怒りが募った。

姉は怪我をしていること自体には心配はしていたが、血についてはあらあらと微笑むだけ。

なんでよ。簡単に笑っているが綺麗にするのは私なのよ。

男が滞在している期間、胡蝶しのぶはずっと怒りを抱いていたと思う。

だが、怪我の治りは誰よりも早かった。気がつけば半月経つかどうかで粗方の傷は塞ぎ、もう出立できるようになった。

彼が去ってから気が付いた。そういえば彼の名前を聞いていない。

ずっと鍛錬を繰り返しそれについて咎め、血をあちらこちらに付着させそれについて咎め、何度療養しろと言っても言うことを聞かず、問題行動ばかりしていて名を聞く暇もなかった。後々鎹鴉に聞けばよかったが、他の怪我人の治療、さらに任務も入ってきたなどでその後さっぱり忘れていた。

神座無慙とは血を振り撒き鍛錬する彼の事だったのではないか。

また別のものではあるが口面を付けていたし、なりより当時は何に対してかは分からなかったがあの常に何かに憎悪に塗れ怨念を抱いていた冥い眼光。今更ながらあれよりもさらに酷くなったのだとしたら神座無慙に該当する。

そう胡蝶しのぶは思いながら、瞼を完全に伏せた。

意識が闇の底に落ちる前に、暖かく刺すような刺激が瞼の裏側を照らしたと感じたが、それを認識することは出来なかった。

 

 

 

神座無慙は朝日を浴びながら生き残りがいないか村の中を、あるいは家の中まで確認していた。

既に鎹鴉で伝達はしてあるから隠、─事後処理や支援専門とする鬼殺隊の非戦闘部隊、が直ぐに到達するであろう。

今回はだいぶ手間取らされた。それが今回の任務の浮き出た感想だった。

初日から鬼を見つけ即刻首を刎ね殺したが、そのまま首を再生させながら逃げ出したのだ。

直ぐに追いついて再び殺したがそれでも殺しきれなかった。仕舞いには見失う始末。苛立ちが溢れた。

その日はそれで費やしたが、2日目以降も同じ様だった。

3日目から鬼はこちらが己を殺すことは出来ないと高を括ったのか見下しながら嘲笑い始め、愚かにも、もしくは能力に絶対な信用を用いているの愚かにも自身の能力を声高々に自慢してくる。

 

「クハハハハ!お前ごときに俺が殺せるかよ!俺の血鬼術・無再根がある限りなァ!あの村の餌どもに俺の因子を埋め込んである。それがある限り俺は朽ちん!貴様に人間は殺せんだろうなァ?クハハ!」

 

とりあえず死ね。今すぐその煩わしい口を消しされ。

直ぐに目の前の塵を片したが、またもや逃げられた。

しかもただ鬼の肉体が残るだけではなく爆散する。

これがさらに神座無慙の怒りを募らせる。

とりあえず山での探索を終わらせ、鬼が言っていたように村人の観察を次に始めた。

鬼を殺しながら観察を始めてわかったのは鬼の言ったことは本当だということだ。

村人は血鬼術で気付かないのか知らないが、確実に人数は減っていた。

5日目には57人いた村人は11人減っていた。これは神座無慙があの鬼を殺した回数だ。

より詳しく調べるために手短に1人解剖して分かったが、どうやら心臓部位に肉芽のようなものを埋めてあった。これが鬼の不死の理由だろう。鬼が死ねば肉芽が発達し宿主を喰らい復活する。なんともまあ生地汚い輩だ。

さらに村人自体に脅し、甘言を垂れ、一部のものだけだが別からやってきた旅人や鬼殺隊を鬼に捧げていたことも分かった。

もうそこまで調べあげたらやることは1つだ。

決行は今夜だ。

 

そうして今、朝を迎えている。

何やら着いてきた小娘も鬼共の餌食になりそうだったが、おかしな勘違いでもしていたのだろうか妄言も述べていたが知らん。

朝日の向こうから鎹鴉が飛んできた。

隠が到着したのだろう。

さっさと引き継ぎをして次の任務に映りたい。鬼どもを早く鏖殺しにしなくては。この今、魍魎跋扈している鬼を殺さなくてはどうする?

だが、肩にとまってきた鎹鴉からの連絡は神座無慙の関心を向けさせる程のものであった。

こうなれば仕方がない。

鎹鴉に着いてきた隠の部隊に速やかに状況の説明引き継ぎを行わなければ。

そうして神座無慙は死体を確認していた足を鎹鴉の方へ向け隠の元へ向かって行った。

 




〜大正コソコソ噂話〜
しのぶ「今回でようやく神座さんの呼吸法が分かりましたね。彼の呼吸は岩の呼吸の派生とされていますが、裏の方では自分で1から編み出したものだ、と噂されています。もしそうだとしたら本当に凄いことですね!」
無慙「次回『柱』」



裏設定
時期としましては、胡蝶しのぶが最終選別を終えてから暫くして、という時期になっております。そこでまだ、蟲の呼吸を完成させておらず姉と同様の花の呼吸を使っている設定になっております。


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肆殺

大変お待たせいたしました。
書いてて思いましたね。短期間で投稿し続けるほかの皆様方が改めて凄いってことに。
本当に凄くない?
多分これからも投稿頻度に期間が空くと思いますがどうかご了承ください。中々進まないのよね。書きたい部分はスラスラ書けるのに。


目を覚ますと見慣れた天井が目に入った。

体を起こすとそこは私がお世話になっている屋敷の自室だった。開いた窓からは鳥の鳴き声が聞こえてくる。

寝疲れか体を起こす時少し呆けたが、直ぐにあの夜の惨劇を思い出す。

そういえばあの後どうなった?最後の記憶は村長が、村人が鬼になり神座無慙に殺されたところだ。

そもそも私は一体どれくらい寝ていた?

 

「あら?しのぶ、起きたのね」

 

声がした方に顔を向けると、そこには屈託ない笑みで微笑む唯一の姉、胡蝶カナエが入口に立っていた。

 

「姉さん!あ、あの、鬼は、村はどうなったの!」

 

姉を視界に入れたなり、直ぐに問い質す胡蝶しのぶ。ベットから慌てて降りようとすると胡蝶カナエからやんわりと留められた。

 

「落ち着いて、ね。丸二日寝ていたから心配したのよ。お医者様が言うには疲労のせいだってね」

「丸二日!でも姉さん、あの村は?…あの、あの男は?」

「え、あの男?…あぁ!神座くんのことね!」

 

……え?

今、姉はなんと言った?神座『くん』だと!?

あの傍若無人の目つきの悪い最悪な男にくん付けだと!

 

「まぁ、しのぶったら!なんでそんなこと早く言わないの?神座くんとお友達だなんて!」

「友達!?そんなわけないじゃない!何言ってるの姉さん!」

 

あまりの天然な言い分に思わず声を上げる。

まさか、あの男と友達?ありえない。とんだ勘違いである。

姉には失礼だがこの天然さはどうにかならないものか。前々からこの姉からの天然に振り回されてきた胡蝶しのぶは内心ため息をついた。

 

「そんなことよりあの男ことを知ってるの?」

「ええ知ってるわよ。彼とは同期になるし、それに何回かあってるもの」

「本当に!?」

「本当よ。あの最終選別は特に悲惨だったもの。それに任務でも一緒になったこともあるわよ」

 

 

 

あの当時の最終選別を思い出す。

藤の木で囲まれた藤襲山で7日間そこに放り込まれた鬼に喰われず生き残る。そうすれば鬼殺隊に入隊することができる。

その時の参加人数は今までの比にならないくらい多かったそうだが生き残りは私と彼を含めた数人だった。

最初、藤襲山に訪れた彼に参加者の殆どはその雰囲気に呑まれた。

怨念を体現したかのようなその姿は他者をあっという間に染め上げた。鬼という悪は根絶させなければならない、という意思が勝手に身体の自由を奪ってくる。

元々、鬼殺隊に入隊希望をするものは大抵身内などを鬼に殺され恨みを持つものだ。

だが最終選別では生存率は低い。その事実を前に最終選別を慄く者も少なくない。しかし、それらが神座無慙に呑み込まれた。あとは、みな刀を構えるのみ。

そうして最終選別は始まった。

神座無慙が開始と同時に飛び出す。

入口付近で待ち構えていた鬼達が飛び出してくるが瞬く間に斬り伏せられる。

それに呼応するかのように他の者も次々と続いていく。

殴られ、抉られ、喰われ、殴り、抉って、切り刻む。

選別が始まって早々に起こる殺し合い。

斬撃音。怒号。悲鳴。血肉が舞う音。

とてもじゃないが普通ではありえない。待ち伏せしていた鬼をどうにかして切り抜けたあとは7日間生き残るための方法を模索していく。

鬼から生き延びるために朝日をいち早く迎える東の方向へ。生きるために必要な食料のため水場へ。

そうした選択肢を無視して走る。鬼を殺す為に。

正面から鬼へ向かっていって倒せるなら苦労はしない。初日だけで参加者の過半数は還らぬ人となった。

神座無慙は元凶にして最後まで生き残った。途中、胡蝶カナエとも遭遇したが会話も交わさなかった。ただ、鬼と対峙していた時にどこからともなく現れて、その鬼を殺していった。

胡蝶カナエは数少ない神座無慙の雰囲気に呑み込まれなかった人だ。

呑み込まれなかった人達はこの異常な雰囲気に警戒を走らせた。

この出来事があったからこそ、恐怖を飲み込み、いつも以上に集中することができた。

無論、警戒をした者の中にも還らぬ人となったものがいたが、生き残った人数の割合としては、いや、神座無慙以外はこの者たちだった。

こうして、藤襲山の鬼が殆ど殲滅し尽くされる事態となった異例な年として噂されることになった。

 

 

 

そんなことを思い出しながら胡蝶カナエは目の前の妹を見る。こんな話などしない方がいい。

そんなに神座くんが私の顔見知りだったり、同期だったりを聞いて信じられないようで胡蝶しのぶ混乱しているようだった。嘘だ、有り得ない、と呟いている。

 

「しのぶ。しのぶ。村のことなんだけどね…。」

 

胡蝶しのぶの頭に手を乗せて目線を合わせる。

これから酷な話をする。そのためにもしっかりとした心構えをして欲しいのだ。

胡蝶しのぶも村のこととなれば、醜態を晒している場合ではない。覚悟を決めて姉の話を待つ。

胡蝶カナエもそれが分かったからこそ話し始める。

 

「あの村の事なんだけどね、まず生存者は0人よ」

 

それだけで暗い顔になる。だが話は聞かなければならない。続きを促す。

 

「討伐対象の鬼は神座くんによって討伐済み。だけど、厄介だったのがその鬼による血鬼術。その効果は己の肉片を人間に埋め込む。それによって自身が殺されても、その肉片が宿主の人間を喰い殺して復活する。隠からのお話によると神座くんから聞いた情報よ」

「そ、そんな。何とかならなかったの?その肉片を手術で取り出すとか…」

「無理よ。肉片が埋められてた場所は全て心臓にあったのよ。流石にこればかりはどうしようもないのよ。報告によると全てのご遺体には左胸への刺突痕と頭部の切断。つまりその肉片の確殺と万が一鬼となった時の対処ね」

 

改めて認識すると鬼に対する殺意が確実にものをいっている。

人は心臓を刺されるだけでも死ぬのに、そこから丁寧に首まで落としている。

 

「さらに、村の中には鬼に協力していた人もいたらしいの。そうよね、しのぶ?」

 

あの村を調べたところ、村とは関係のない人や鬼殺隊隊士の遺品が見つかったそうだ。

 

「…うん。でもあの人はそれを許さなかった。1度やり始めると同じことを繰り返すからって」

 

あの時を思い出したのか身体が小さく震える。鬼が人を食うところは何度も見た。始まりは私たちの両親が鬼に襲われたその時からだ。それからこの鬼殺隊に入ってからも今となっては当たり前のように、何度も。

だが、人が人を殺すところは見ていない。伝聞で犯罪が起きたなりした事が流れてくるがそれだけだ。

それも鬼以上に、冷たく寒く絡み付くような殺意と共に行なわれたから震えるのを止めるのは無理という話だ。

するとふわりと姉に抱かれる。

 

「大丈夫。貴方は何にも悪くないもの。本当は殺す必要なんてないけど、あの人はズレている。はずれてるの。」

「そ、そんな!じゃあっ…」

「最初、初めて見た時から感じていたの。彼は鬼に、鬼に関するモノへの対する怨念が違うの。それしか持ってないかのように」

 

彼ははずれてる。言葉にしてみるとその通りだと胡蝶カナエは思った。

まあ、こんなことを今言ってもしょうがない。

 

「それは置いといて。しのぶ。姉さん聞いたわよ〜。任務帰りに勝手に神座さんの任務に着いて行ったこと。彼は甲なんだから任務が難しいのは当たり前よ。今回はたまたま運が良かっただけなんだから。あまり危ないことはしないでちょうだい」

 

今まであった雰囲気を水で流すかのように注意する。

実際問題、任務は隊士の実力に見合ったものわを宛てがう。今回はただ運が良かっだけだ。常時であれば殉死していたことだろう。

その事を噛み締めていかなければこの先はまずない。

 

「うん。しのぶも反省していることだし、あとはゆっくり休むだけね!」

「分かった。あとね、やりたいことが見つかったの」

 

最後に頭を撫で部屋から出ていこうとする姉の裾を掴む。

前々から試していたことがあったが今回を機により集中していきたいことがある。

他の人より小柄で非力な私は鬼の首を切るのにも苦労した。

周りからもお前では鬼は切れないと散々言われてきた。

最愛の姉に着いてここまで来たがそろそろ限界だということも自分でも分かりきっている。そこで私は代案と言うべきではないが藤の花に目を付けた。

鬼は藤の花の香りを嫌う。そこから何か得られるのではないかと仮説を立てた。

以前から少しづつその研究を行ってきた。しかし、今までのように任務を行っていればさらなる研究の時間が取れないし、死ぬ可能性もある。無理を承知で上に掛け合ってみようとも思っていたが中々一歩踏み出す勇気がなかった。

だか、今回のような事例だったときに特効薬なるものを作れたらどうだ?

そうすれば人を殺す必要もなくなる。つまり、彼の犠牲にならなくて済むのだ。

その事を姉に話せば、考え込むような仕草をしながらも笑顔で承諾してくれた。

 

「大丈夫よ。しのぶは今まで頑張ってきたの姉さんは見てるもの。きっとやり遂げることが出来ると思うわ!」

「うん!私きっとやり遂げてみせる!」

 

姉にそう言われて嬉しそうに胡蝶しのぶは笑った。

 

「伝令!伝令!胡蝶カナエ!本部ヘ招集!本部ヘ招集!」

 

突然鳴り響いた大音声でその場から飛び上がる。

そちらの方を向けば開け放たれた窓枠に1匹の鎹鴉がとまっていた。

 

「あら、一体どうしたのかしら?」

 

胡蝶カナエは窓際に寄って鎹鴉を撫でながら疑問を問う。

鎹鴉はその掌に頭を気持ち良さそうに擦りつけながらも招集以外は答えなかった。

この様子では答えは本部へ行くことでしか分からないだろう。

 

 

 

胡蝶カナエが本部への招集に応じるとそのまま部屋の一室へと通された。

部屋に入ると既に先客がいた。

不機嫌そうに眉をひそめながらも待機していたのは神座無慙だった。目にした時は大抵血に塗れていたがやはりこのような場では綺麗にしたのだろう。血の匂いはあまりしなかった。

ただ何故この場に呼ばれたのかは未だ分かっていない。

同じく呼ばれている神座無慙との共通点といえば同期というくらいだけ。任務で一緒だったときに何かあったのかと言えるかもしれないが特に招集をされるようなことはしていないし、他の人と任務が一緒だったこともあるから限りなくその可能性は低い。

とりあえず立ったまま悩んでいてもしょうがないので、彼に声をかけながら隣に座る。

 

「こんにちは、神座くん。怪我とかは大丈夫?」

 

見かける度に割と怪我をしている印象が強かったためそのように聞くが、パッと見怪我をしている素振りも見当たらない。

当の彼は不機嫌な顔のままこちらに視線を向けるだけで返事はない。

そのまま会話は続ける。彼はあまり無駄口を好まないようで中々応えがないことを分かっているからだ。

 

「そういえばこの前の任務、私の妹がご迷惑をかけたみたいね。ごめんなさいね、妹が無理言っちゃって。ただね、あまりしのぶを怖がらせないでね。」

 

次に神座無慙に会った時に絶対に言っておきたいことだった。確かに妹が勝手に任務に同行して迷惑をかけたのは悪いが、妹を怖がらせるのは妹を溺愛する姉として許せない。

笑顔に圧を込めて顔を向ける。

決して怒っている訳ではないのだ。ただ、妹を怖がらせた神座無慙を見つめる。

いい加減鬱陶しかったのか神座無慙が口を開く。

 

「俺が何をしようが勝手を言われる筋合いはない。鬼を殺すのに恐れが必要か?」

「違うわよ。鬼じゃなく神座くんが怖いのよ」

「尚更知らんな」

 

そう言い切り捨てる。

そう会話を交わしていると部屋の外から話でも聞いていたのか、タイミング良く声が襖の向こうからかかってくる。

 

「お館様のお成りです」

 

頭を下げる。

チラリと隣を盗み見すると神座無慙も同様に頭を下げていた。

…顔は不機嫌な顔のままだったが。

流石にこれは不敬ではないかと考えたが、部屋にお館様と呼ばれた方が入ってきたので直ぐにそちらへ意識を戻す。

 

「顔を上げていいよ」

 

人の心に安らぎを与えるような優しい声がかけられる。

その声に従うままに顔を上げると優しげにこちらを見つめる顔があった。

 

「はじめまして、だね。私は鬼殺隊九十七代目当主、産屋敷耀哉という。皆からはお館様と呼ばれている。是非そう呼んで欲しいな」

「かしこまりました。お館様」

 

彼の安らぎの声は自然とそう言われるままに従わせる。

気づけば既に信用たり得る人物として信頼を置いていた。

なるほど、噂には聞いていたが素晴らしいお方のようである。

 

「この度は招集に応じてくれてありがとう。カナエ。無慙。読んだ理由については簡単だ。君たちを柱に任命したい」

「っ本当ですか?」

「うん。是非2人には柱に就任して欲しいんだ。今も世に鬼が蔓延っている。そのためにも2人の力を借りたい。お願いできるかな?」

「承知しました。謹んでお受けいたします」

 

鬼殺隊として最高位に値するのが柱。

その柱として認めてもらえ嬉しく思うと同時に再び頭を下げる。

産屋敷耀哉も色よい返事が貰えたことで嬉しくなったのか、雰囲気も明るくなる。

 

「無慙もどうだい?受けてくれるかな?」

 

そういえば今の会話に一言も神座無慙が入っていなかった。

再び彼を見るとまだ眉にしわを寄せていたがまだ先程のような不機嫌さは消えていた。

 

「いいだろう。やることは変わらん。今も昔も、そしてこれからも鬼を殺すだけだ」

 

ちょっ…。

あまりにもな言い方に注意しようとするが産屋敷耀哉に止められる。

 

「大丈夫だよ、カナエ。無慙、君が言うことも分かる。だけどね、鬼を殺すだけではない。我々鬼殺隊は人を護るために鬼を、鬼舞辻無惨を倒すんだ。君は少し過激なところがある。そこは気をつけなさい」

 

すごい。

正面から彼を注意したのは初めて見た。

誰も彼も私が見た中では彼に注意をする所など見たことがない。それも彼の様子が末恐ろしいからだ。

鬼を探し出して殺す、殺すまでの過程は全て無視、ただただ殺す。そのような隊士を見て誰も近寄ろうとしない。任務外の時だって直ぐにその場を去り次の任務へ向かう。

そのような場面を見ているからこその感想だった。

ただお館様の言うことに気になる点があった。

 

「恐れながらお聞きしてもよろしいでしょうか、お館様。その鬼舞辻無惨とは一体…?」

「そうだね。あの男はこの鬼殺隊がある原因の根幹だよ。鬼舞辻無惨、この男は人を人喰い鬼に変え、もう長年生き永らえている鬼の首魁だ。この男を倒さない限り終わりは来ないんだ」

 

全ての元凶、そのように聞き、隣から怒気が伝わってくる。

やはり鬼のこととなると不機嫌になるようだ。先程よりもより顔が恐ろしいことになっている。

お館様もお館様だ。多分こうなることも見越して今も悠々と微笑んでいる。

ちょっとながら、いや結構隣にいて辛いのですがそれは。

これはお館様の前でも態度が殆ど変わらない神座くんが凄いのか、神座くんのこの態度を目の前にしてもにこやかにしているお館様か凄いのかどっちだろう?

 

「では、これから就任の義にあたろうか。もう既に先達の柱が待っているだろう。あまり待たせてはいけないね」

「え、もうですか?」

 

さらに、このまま話を進める。多分凄いのはお館様だろう。

ふと疑問に思った。確か柱になる条件としては、鬼を五十体倒すか、鬼の中でもトップクラスの危険な存在、十二鬼月を討伐するのどちらかだ。十二鬼月を倒したのであれば何かしら全体に通達は来るだろう。しかし、ほぼ休みなく任務を遂行している彼は既に五十体はとうに超えて倒しているだろう。ならば、このタイミングはおかしい。私としても多少は他よりも強いという自負があるが、彼の強さはそれ以上だ。そんな彼と私が同時期に柱に襲名?どうしてだろう。

そんな私を傍目に産屋敷耀哉は退出を促す。

 

「柱とて時間はより限られてくる。今日は半年に1回の柱合会議だ。大丈夫。皆優しいから直ぐに受け入れてくれるよ。では行こうか」

 

 

 

そのまま私たちは、また別の部屋に通された待機を命じられた。呼ばれたら出てくるように言われたけど大丈夫かしら。

 

「やあ、私の可愛い剣士(こども)たち。また、皆の顔を揃って見れることを嬉しく思う」

「お館様におかれましても、御壮健で何よりでございます。お館様の益々の御多幸を切にお祈り申し上げることと致します」

 

部屋の外、縁側にあたる場所とそこから見える美しく整えられた庭。そこでは他の柱達が集まっていた。

 

「さて、早速だけれど今回新たに加わる柱たちを紹介したい。仲良くしてくれるかな?」

「なんと!新たに柱が加わるのであれば心強いこと他なりません!」

「そうかい?なら安心だね。それでは早速紹介しようか。まず1人目、花柱、胡蝶カナエ。こちらへ」

 

言われるがままに部屋から登場する。

ほう、など感嘆する声と共に値踏みされる目線を向けられるがあまり気にしなかった。

胡蝶カナエは世間一般に見て大層美しい女性である。本人はあまり気にしてはいないがやはりそういった目で見られることも多かった。そこは妹の胡蝶しのぶが威嚇をして守っていたが当の本人はまだ姉離れ出来ない可愛い妹だな、と思っていた。そういった経緯からあまり視線を気にするということはなかったのだ。流石に一般常識はあるが。

だが無論、ここは数多の鬼を滅してきた鬼殺隊最高位の剣士、柱。ただそのような俗な考えだけを持つものはいない。

 

「胡蝶カナエ。君を花柱として任命したい。どうかその力を持って人々を鬼から護ってほしい」

「御意。まだ若輩者の身でありますが精一杯務めさせてもらいます」

 

産屋敷耀哉の前で跪き、拝命承る。

それを見て産屋敷耀哉も先程の会話よりもさらに微笑みを強く浮かべる。

まず1人目、となれば今回柱になるのは複数人いることになる。

鬼殺隊は死亡率が高く顔を入れ替わりも激しい。そんな中戦力になる人物が複数人にいるとなれば、次はどのような人物だろうかと期待は高まる。

 

「さて、それでは2人目に来てもらおうか。怨柱、神座無慙」

 

瞬間、その場に緊張が走る。

そっと柱たちが並んでいる横に居座った胡蝶カナエもその有り様に疑問を浮かべる。

そうしてそのような中、その場に神座無慙が現れる。

 

「さて、神座無慙。君を怨柱として任命したい。君のその力をどうか我々に貸して欲しい」

 

流石に神座無慙といえどもその場の状況が分かっているのか、先程の胡蝶カナエと同様に跪く。

そうして神座無慙が口面で見えない口を開こうとする瞬間、声が合間にはいってくる。

 

「突然の無礼を失礼ながら申し上げる!私はその男を柱として認めることは決して出来ません!」

 

 

─待って。

さっき皆が認めてくれるって言ったこと、いきなり全否定されてるじゃない。

 

 




〜大正コソコソ噂話〜
カナエ「柱に任命されるとなるとより気合いを入れなくちゃね!それにしても神座くん流石にあの場ではわきまえるのね。それでは今回の大正コソコソ噂話!実は今回産屋敷家には、鎹鴉から連絡が来た1日後に着いたのだけれど神座くん、実は私よりも早く連絡を受けていたのにも関わらず途中で鬼を倒していたから着いたのが私と殆ど同じくらいだったらしいの。凄い仕事熱心なのね!」
無慙「次回『緊迫した柱合会議』」




あと色々考えているのですが、誰をどう生かしてどう処理しようかなと。どう関わりを持つかなど。そこもまあまあ時間がかかりますね。


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伍殺

大変長らくお待たせいたしました。
言い訳は致しませぬ。全ては某の所業にて。

それではどうぞ。


突如として柱として認めないと言われた神座無慙は特に変わった様子もない。そのまま沈黙を保っている。

 

「槇寿郎。何故かな?」

 

槇寿郎。炎柱、煉獄槇寿郎。炎の呼吸の使い手として柱となった男は神座無慙を否定する。

他の柱としても同じらしい。神座無慙を見る目は険しい。

 

「その男の所業お忘れではないでしょうか!今までの数々の命令無視!隊律違反!認識しながらも被害を拡大!更には無垢なる民に手をかける始末!この事実は流石に無視できません!逆に柱合裁判にかけるべきではありませんか!」

 

理由を聞いたら出るわ出るわ。一体何を思えばそんなにする必要があるのか逆に問いたいくらい煉獄槇寿郎の口から出てくる数々の所業に呆れと侮蔑、危機を持っていた。

 

「それはとても悲しいことだ…」

「ど派手にやべぇな、こいつ」

「……」

 

他の岩柱や音柱もその内容を聞き感想を漏らす。

これこそが神座無慙が胡蝶カナエよりも早く柱に就任しなかった理由だ。

ようやく分かった胡蝶カナエもこれには引くしかなかった。

このような悪逆非道な事例を容認してしてまえば、鬼殺隊は鬼から人を護るのではない、鬼を殺すために何をしても良くなっていいことになってしまう。神座無慙の所業はそれに近しい。

それを無視して柱になってしまえば第2、第3の神座無慙が現れる可能性もなくはない。

そのような可能性も踏まえて神座無慙は危険だと煉獄槇寿郎は忠言を行う。

流石にそんな未来は嫌だなぁ。

唐突の怒涛の流れをなんとか話を聞いてる胡蝶カナエはそう思った。

 

「槇寿郎、君の言いたいこともよく分かる。無慙のやっていること確かに過激だ。褒められることではない。しかし、決して間違っているという訳でもない。」

「お館様それはっ!」

「彼が手にかけたものの中には鬼、もしくはあまり言いたくはないが救いのない人々だ。鬼と分かりながらも自ら協力を申し立て人の平和を脅かそうとする者。鬼によってこれから鬼になるか、死ぬかという者。これらも占めている」

 

ちなみに産屋敷耀哉の言ったことに間違いはないが、残念ながら無垢なる民も占めている。

流石にこればかりは神座無慙の情報が多すぎて選別しきれなかった部分もある。

しかしながらその情報は周りへは共有されることは間に合わず、今こうして反対意見が出ている。

 

「しかしそれだけでは納得できません!」

「無論皆の気持ちもよく分かる。だけど、そろそろ他からの声も無視できなくなってきたんだよ」

「…どういう意味でしょうか?」

 

言っていることが分からない。他からの声?一体なんだと言うのか。畏れ多くもお館様へ具申をしたというのか。不敬に値するぞ。

 

「一部の剣士(こども)たちから声が上がっているんだ。神座無慙はまだ柱にならないのか?彼ほどの実力者が何故?とね」

「…だからなんだと言うのです?一部の者だけだと言うならそう言わせておけばいいのです。そもそも他人に期待するなど以ての外。自らの使命を他人に任せるなど!」

 

声を荒らげる。全く持って嘆かわしい。いつから鬼殺隊はこんなに脆弱になった。決して柱は望んで辿り着けるような地位ではないのだ。人的消耗の酷いこの鬼殺隊では柱になれる者など限られた人間だ。別に柱になれと強要している訳では無い。だが、自ら強くなろうとせず他人に任せようとするその魂胆が気に障る。

 

「確かにそうだ。しかし、それはこの前のこと。最近になってその声が剣士(こども)たちの約2割を占めるようになってきた。それも階級の高いもの達を中心に」

「なっ!」

 

これには驚きを隠せない。高々数人なら2割と言っても取るに足らない数だが、母数が増えるほどその数はだんだん無視できなくなる。

さらに階級が高いもの達となると人数は下の階級の人数よりも減る。その階級のもの達が中心となると柱のすぐ下の階級の殆どは神座無慙が柱になることを望んでいると同義だ。

ここで言い訳するなら必ずしも他の隊士達は神座無慙の行動自体を認めている訳では無い。だが、その鬼を殺すという心意気は認め、憧れ、期待をしていた。それが今回の件に繋がる。

彼は死なない。

誰よりも苛烈に、過酷に、鮮烈に。どれだけ絶望的な状況であっても彼は死なず鬼を殺す。

時には、任務以外の別の人の任務にまで乱入してまで鬼を殺している。

確実に鬼を殺す、そのような姿は柱とまではいかないが、鬼殺という行為では確かな信頼を寄せられるようになっていた。

 

「それに無慙はもう軽く鬼を100体超える数を討伐している。さらには下弦の鬼を討伐もしている。今まで無慙のしてきたことによって柱の任命を見送っていたが、流石にこれらの功績を無視するわけにもいかなくなってしまった。さらに言うなら、今の鬼殺隊に無慙を柱にしないなんて余裕もないんだ」

「それは、仰る通りですが……」

 

産屋敷耀哉の言うことに煉獄槇寿郎は言い淀む。確かに今言われた功績を考慮すると神座無慙が犯した所業を相殺いや、それを完全に上回る。

また今の、いや、ずっとながら鬼殺隊には余裕がない。鬼と比べて人間は非力である。呼吸を用いた戦いをしているがそれも技術の一つである。圧倒的な力の前には通じないこともある。

そんな鬼殺隊に無慙のような戦力はどうしても放っておくことは出来なかった。

産屋敷耀哉は神座無慙の報告を初めて聞いた時、心の中に湧き出た感情に名前をつけることが出来なかった。このままではいけないという自身を諌める心と神座無慙という鬼を殺すことに関しては鬼殺隊の中でも上位に入るかもしれない素質を持った素晴らしい剣士(こども)が来てくれたことを盛大に歓迎するじぶんがいた。

その後も報告を聞き続けても、その感情に名前をつけられることはなかった。

だが、鬼殺隊のこの先を確実に大きく動かす一端になるだろうと確信していた。

 

「納得はいかないかもしれない。だが理解はして欲しいんだ。今、剣士(こども)たちの中にも見所がある子も沢山いる。酷な事を言うけれど鬼舞辻無惨を倒すためにも必要なんだ」

 

普段は穏やかで安らぎを与えてくれる産屋敷耀哉の顔が今は納得させようも気迫のある表情を浮かべている。そんなに期待をされている神座無慙には一体何があるのか、という疑問と同時にお館様にこんな顔をさせるなんてずるいという気持ちを抱く。

ここまで言われたら渋々だが認めるしかないだろう。

 

「…承知致しました、お館様。神座無慙の柱の就任、歓迎いたしましょう。だが、最後に神座無慙、お前に1つ聞ききたい」

 

神座無慙の柱就任をその場で1番反対していた煉獄槇寿郎が認めたことで他の柱もそれならばと渋々といった様子ではあるが取り敢えず認めたようだ。

そして最後にあまり関係がないようだがその名を聞いた時から尋ねたいことがあった。

先程から動いていなかった神座無慙に問う。

 

「神座無慙…。その名と鬼舞辻無惨とどのような関係がある?そのような名は全く聞いたことがない。その呼び名はお前と鬼舞辻無惨しかいない」

 

無慙。無惨。むざん。字は異なるが同一の読み。確かにこのような名はてんで聞かない。ならばこそこの2人には関係があるのか疑うのも無理はない。

周りの皆も神座無慙に視線を集める。

こればかりは気にはなっても無理はない。

 

「…知らんな。少なくとも俺にとってこの名は全く関係などない。むしろ反吐が出る」

 

一瞬の間。

そして神座無慙から溢れ出る怒気がその返答を後押しする。

ここにいる柱は幾度の修羅場を潜り抜けてきたから涼しげにそれを受け流すが一般人が対峙すれば気絶待ったなしである。

 

「うむ、それなら分かった。私からは以上です。お時間を取らせてしまい申し訳ございませんでした」

 

忌々しそうに眉間に皺を寄せる様を見て、先程とは違い、直ぐに理解の意を示した。

この様子なら名は関係ないのだろうと改めて姿勢を正す。

神座無慙も溢れ出た感情に蓋をするように収める。

 

「皆大丈夫そうだね。それではこれから柱合会議を始めようか」

 

皆が落ち着いたのを見て産屋敷耀哉は声を上げる。

半年に1度の柱合会議をこれから始める、という時に神座無慙に動きがあった。

 

「…もういいか?なら俺は行く」

 

今まで沈黙を保っていた神座無慙が立ち上がる。突然立ち上がった神座無慙に注目が集まる。

 

「どういう意味かな?無慙」

「鬼を殺しに行くと言うのだ。大方これからその会議を始めたとして時間の無駄だ」

「神座!貴様っ!」

 

神座無慙の厚顔無恥な言い様に落ち着いた空気が再びざわめき立つ。

 

「今までこうして来たんだろう?だから鬼が滅んでいない。判りきっていることに無為な時間は割く必要があるのか?」

 

そう言うやいなや神座無慙は皆から背を向ける。他が引き留めようとしても止まる様子もない。その姿が見えなくなる手前で産屋敷耀哉がその背に声をかける。

 

「無慙、会議に参加してくれないかな?」

 

神座無慙の歩みが止まる。

その背を続けて声を向ける。

 

「これは決して無駄ではないよ。鬼を倒す為の会議でもあるが皆が生き残るための会議でもある。これ以上勝手をするなら制限を課す事になる」

 

制限。言外に罰を与えると言っている。もう言葉では通じないなら行動を縛ってしまえ、ということだろう。

 

「例えば任務の数を減らすとしよう。ああそうだね、その日輪刀も取り上げようか。君なら素手で鬼を倒すことも出来そうだけど時間がかかりそうだね。だが無駄を嫌う君がそんなことしたくないだろう?」

 

産屋敷耀哉の浮かんでいる笑みが深まる。そのまま数瞬、息が止まったかのように感じた時間が動き出す。

 

「……良いだろう。貴様の言い分は分かった。今回はそれに乗せられてやるとしよう」

 

産屋敷耀哉の提案(脅し)によって渋々振り向いた顔には不機嫌の文字一色で染まっていた。

 

 

 

そうして会議に参加した神座無慙だが、想定していたものとは違って殆ど会議の話に入ってこなかった。

柱の中でも上位に入る実力者達にすぐに追いつくのではないか、という頻度で鬼を殺し続けている神座無慙にも幾度か話を振ったが既に判りきったような内容が大凡で、大半は他の柱と同様な内容ばかりであった。

稀に違った話も出てくるが皮肉にも今回の柱合会議では大した意見は出なかった。

これには神座無慙も次からは柱合会議を飛ぶ気満々で、何か重要なことであれば参加すると言ってその場を後にした。

流石に先程言った手前、神座無慙を否定することが出来なかった。

柱達もそれぞれ会話を存分に交わしたあと、そうしてその日の柱合会議は終わった。

 




〜大正コソコソ噂話〜
耀哉「さて、色々あったけどこれで無慙の柱就任が決まったね。これから期待しているよ無慙。ではここで大正コソコソ噂話。あの場にいた柱は岩柱、音柱、水柱、炎柱だよ」


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