錬鉄の英雄 カルデアを行くwith騎士娘 (亀さん)
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序章 錬鉄の英霊 終わりで始まりの日

ゆっくりと書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします!!


高速で飛来する剣、槍、斧、鎌などのありとあらゆる武器

 

 

そのどれもが膨大な神秘を秘め、もとより解析が得意な男には一目で普通のそれとは比べ物にならない逸品であるとわかる。

 

一度でもまともに被弾すれば即死は免れない死の弾幕ゲームの中を必死に避け続ける男に対して、黄金の鎧を身に纏った王は、自らが所有する財宝が納められた蔵に繋がる空間からすでに何十という武器を射出し続けているのにもかかわらず、しぶとく生き延びている男にイラつきを募らせていた。

「どうした雑種っ。この我を楽しませることすらできずにただただ逃げ回るだけか?」

「くっ・・・・・・、流石の財力といったところか」

黄金の王の苛立ちに比例して先ほどよりも勢いを増した攻撃に晒されるが、今までの経験と鍛錬によって培われた判断力と剣術によって致命的なものを最低限捌きながら、小さな傷を無数に受けつつも、その雨の中を駆け抜ける。

「だがばら撒くだけで狙いが甘いな英雄王。この程度なら私程度でも避けるのは造作もない。そこらの未熟者でさえできることもできないようであればアーチャーの名が泣くぞ?」

「っ!!」

男の挑発に、黄金の王の低い沸点を越えたのか先ほどまでよりもその数を遥かに増し、武器の矛先がずらりと向けられる。

 

 

「この我を愚弄するだとっ!?その身、肉片の一つさえ残らぬと思えよ雑種っ!!」

男の体どころかあたり一帯を吹き飛ばしかねない暴威の群れが黄金の王の怒声と共に空気を裂いて襲い掛かる。

 

 

膨大な数の武器群によって空が埋まり、普通なら絶望する状況に追い込まれながら、男は口角を上げつつ片手をその武器群に向けて構える。

「魔力をまわせマスターっ!!決めに行くぞっ!!」

『わかりましたシロウっ!!』

パスを通した男の指示で、男のマスターである少女が一気に生成した膨大な量の魔力がパスを通してエーテルで構築された男の体に流れ込む。

「くっ・・・・・・・・・」

気を抜けばその身をパンクさせるほどの魔力。

それを迅速に、しかし綿密なほど丁寧に、幻想を現実に顕現させる。

 

 

「I am the bone of my sword.」

 

 

男が呟くと、トロイア戦争の際、大英雄の投擲すら防ぎ切った七枚の花弁を思わせる盾がその手に現れる。

黄金の王が放った必殺の嵐はその盾に遮られて、傷つけるところか男にさえ届かない。

飛んできた武器がコンクリートを打ち砕き、周りが瓦礫と化していくのも気にせず、男は自分の根源に通じる呪文を唱えていく。

 

「Steel is my body, and fire is my blood.」

並んだ撃鉄が次々と落ちていくイメージと共に、27本の魔術回路が起動しはじめる

 

「I have created over a thousand blades.」

魔術回路が開いた男の体は魔術を行使するための装置と化していく

 

「Unknown to death. Nor known to life.」

その身に流れ込む膨大な魔力が魔術回路を駆け巡り、あふれ出た魔力がほとばしる

 

「Have withstood pain to create many weapons.」

男のうちから広がろうとするものを抑え込もうとする世界の悲鳴にも似た軋むような音がする

 

「Yet, those hands will never hold anything.」

まるで爆発するように一気に放出された魔力によってその世界の抑圧を跳ね除ける

 

「So as I pray」

そして、炎が駆け巡り、世界は男の心象風景で塗りつぶされた

 

 

「”Unlimited Blade Works”」

 

 

錆色の空に巨大な歯車が浮かぶ、血に染まったような赤い荒野に無数の剣が墓標のように立ち並んでいる世界。

男がこの聖杯戦争中ひたすら逃げ回り、隠れ続けて温存し続けた奥の手中の奥の手。

世界を自身の心象風景で塗りつぶすという、魔術においてもっとも魔法に近いとされる禁忌の大魔術。

 

 

 

どれほど鍛え、磨き上げ、経験を積んでも及ばない凡人(エミヤシロウ)に許された、究極の一であった。

 

 

 

「雑種如きが、固有結界だと・・・・・・・?」

黄金の王が始めて男に対して初めて得体のしれない脅威を感じて男が動く前に攻撃しようと武器を射出しようとするが、荒野に立ち並んだ剣がまるで意思を持ったかのように宙を舞い、蔵から武器が射出される前にすべてを弾き飛ばす。

「なにっ!?」

「侮ったな英雄王」

黄金の王が新たに用意した武器もつぎからつぎへと射出される前に撃ち落とされ、逆に男の攻撃が勢いを増し、この聖杯戦争中、誰一人戦いと呼べる戦いに持ち込むことのできなかった最強の王を正面から追い詰めていく。

すでに武器の雨はやみ、何の障害もなくなった男が白と黒の双剣を手に王へと肉薄する。

「っ、おのれっ!!」

「はぁっ!!」

黄金の王がとっさに掴んだ剣を男に振るうが、その手に持った剣がどれほど強力な聖剣や魔剣であったとしても、万民を支配する王であって戦場を駆け抜ける戦士でない者の剣術など、男の前では稚児の戯れに過ぎない。

その手から簡単に剣を弾き飛ばされ体勢を大きく崩した黄金の王が立て直す間も与えず、男が手に持つ陰陽剣を叩きつける。

「っく!?」

しかし、陰陽剣は王の鎧を切り裂くどころか逆に砕かれ、形を保てなくなった幻想は魔力の残滓となって男の手から消え失せた。

 

「っ、どうやら貴様の贋作(その剣)程度では我の本物()を凌ぐなど、できるわけもなかったらしいな!!」

本物が贋作に打ち勝ったという事実に余裕を取り戻した王は一旦男から距離を取ると、すぐさま自身の持つ数多の宝具の中でも最強の攻撃力を持つ剣を呼び出す。

星の数ほどいる英霊の中でもごくわずかしか持つことができない「対界」宝具。

世界をも切り裂くその剣では男の固有結界も簡単に断ち切られてしまう。

勝利を確信した偉大な王はその剣を手に取り、高らかに宣言する。

「この我に一太刀浴びせたのは此度の聖杯戦争において唯一人であることを光栄に思いながら聖杯の窯へと落ちるがいいっ!!」

「貴様がな」

「っ!?」

王は目の前に立っている男が上段に構えるその剣を見て目を見開く。

「っ!?それはかの騎士王の聖剣っ。貴様、盗人猛々しいのもほどがあるぞっ!!」

「あいにくと、英霊の誇りなど持ち合わせてない身でね。私は一番勝ちの目が大きい選択をするまでだ」

もっとも彼女の剣と比べれば出来損ないにもほどがあるがね、と心の中で自嘲しながらこの戦いを終わらせるためにその剣を振り下ろす。

 

 

 

永久に遥か黄金の剣ッ(エクスカリバー・イマージュ)!!」

 

 

 

「おのれおのれおのれおのれおのれぇええええええええええええええええええええっ!!」

王は叫びながら手に持つ剣を振って迎撃する。

しかし、おそらく全英霊中でも最強の部類にあたる英霊の王の剣といえど、まだ力を溜め切れていない状態であっては、贋作といえどギリギリまで真に迫った騎士王の聖剣の一撃を受け止めきれるハズがなく、簡単に押し切られてその鎧ごと光の奔流に飲まれていった。

振った衝撃で腕の骨が幾度も砕け、聖剣の贋作は男の手を離れて地面に転がると同時に幻想へと帰っていく。

それと同時に光の奔流も消え失せ、男の目の前には光の斬撃に切り裂かれた跡のみが残っていた。

王の姿はどこにもなく、サーヴァントの霊基が聖杯戦争の終わりを告げていた。

 

 

「終わったか・・・・・・・」

「シロウっ!!」

聖杯戦争に選ばれた七騎中最後の一騎となった男は駆け寄ってくる少女を少し寂し気な笑みで迎える。

 

 

「アルトリア、これでお別れだ」

 

 

男は名残惜し気にその武骨な手で少女の滑らかな髪を撫でる。

あの運命の夜を共にした永遠に遥かに輝く星。

まるで彼女の生まれ変わりともいうべき少女を守り切れたことで、彼女に少しだけ近づけた気がして些細な達成感に包まれながら、男はそう告げた。

男の予想外の言葉に驚き呆然と固まっている少女を大事な宝物のように抱きしめると、折れている腕を何とか動かして、宙に浮いている黄金の盃を指す。

 

「偶然巻き込まれたとはいえ、今回の勝者は君だ。あの聖杯は自由に使ってくれて構わない。私としてはこのような面倒ごとに君が巻き込まれなくなるように使ってほしいがね」

 

男はエーテルの肉体がゆっくりと溶けてこの世への縛りが解けようとする感覚に身を任せながら、できることなら少女が少女自身の選択でその将来のために使うのを見届けたいと願う。

すでにこの世の者ではない死者が今を生きる生者がする選択の自由を奪ってはならない。

一度自分に絶望し、そして過去の自分を殺そうとした男だからこそ、それを誰よりも理解している。

だからこそ男は何もそれ以上言わず、微笑みながら少女から離れようとする。

しかし、男のボロボロの赤い外套を少女が掴んで離さず、動けない男が困惑して自身の胸に顔を埋めている少女に目をやる。

「アルトリア・・・・?」

「シロウの頑固者・・・・・・」

何か少女が喋っているが男には聞こえずどうしていいか判断できずに彷徨っている両手を使って降参の意を示すと、少女は顔を上げ大粒のエメラルドを思わせる碧眼で男を射抜きながら男の襟を両手でガッチリと掴むと自身の顔の高さまで男を引きずり下ろす。

なぜそのような仕打ちをされるのか全く分からない男が目を白黒させながらその少女と視線を合わすと、少女は満足そうに男へ告げる。

 

 

 

 

「わかりました、シロウ。わたしは・・・・・・・・・」

 

 

 

 

そのあとに続く言葉に、男は少女が血迷ったのかと頭を掻き、ため息を大きく一度すると、少女に向けて男は騎士の礼のように膝を付く。

 

 

 

「了解したマスター」

 

 




アルトリア・ナイツ・ペンドラゴン
イギリス出身の女学生であり、日本留学中に聖杯戦争に巻き込まれた一般人。
家系としては魔術師の家系であるが長子ではなかったために魔術は教わっていない。
親兄弟から溺愛されており、魔術とは無関係の生活を送らせてやりたかった模様で魔術に関連するものには一切隠し、政略結婚の道具にもしようとはしておらず本当に魔術のことなど知らなかった。
しかし、その身はかの騎士王の生まれ変わりであり、竜の心臓はないものの膨大な数の魔術回路を秘めており、息を吸うように魔力を精製する生きた魔力精製所。
しかし、知識が全く無い(そもそも知らない)ために気が付かれたら危険なため普段は婚約指輪に似せた礼装によって彼女に近づいてくる悪いもの(魔術師や悪霊や虫ect)を遠ざけている。

ちなみに部活で剣道部に所属しており、留学の理由も日本で剣道を修めるため。
その腕前は小柄な少女でありながら全国大会で鎬を削る猛者たちとも素で打ち合える実力。
聖杯戦争を勝ち抜いて以降、様々な流派を使いこなせる白髪ガングロガチムチお兄さんをコーチに毎日打ち合っているために気が付いたらとんでもない実力を修めることとなる。
魔術も家族に隠れてこっそりと勉強中で、徐徐にではあるが強化の魔術を中心に習得していっている。
正義感が強く、困った人からの頼まれごとを基本断らないボランティア精神に頭を痛めている人がいるとかいないとか。

悩み事はほかの家族全員と比べて背もスタイルも劣っていることと、その家族が近くにいるとほぼずっと付きまとわれること。





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錬鉄の英霊 新たな仕事はじめました

 

「うぉ、今日はいつもより強く吹雪いてないか?」

「あぁ、そうかい。俺にはいつも吹雪いているから全然違いわかんねぇよ」

青年がとても巨大な窓ガラス越しに外を眺めてそう言うが、横で缶コーヒーに口をつけていた青年は興味なさげに答える。

 

「ちっ・・・・・。もう飲んじまった・・・・」

最後の一口まで飲み切ってしまい青年はゴミ箱へ空き缶を投げ捨てる。

「ったく・・・・。せっかく訓練合間の休養日だってのに、ここじゃ遊ぶなんてできやしねぇからなぁ」

「かわいい子でもいればまた違うんだが」

 

青年たちがいるのは人理継続保証機関フィニス・カルデアの建物の中。

簡単に言ってしまえば過去・現在・未来を通して人類の歴史が将来的に存続していることを確認することで、人類がこの惑星で生存していくことが可能であるという保証をするという計画を遂行中の機関である。

基本的には研究施設であり、娯楽はあるものの数が限られているためほかの職員が使っていることが多い。

使うために待つのもめんどくさい彼らは自然と廊下にやってきて中身のない話を繰り返しているのだった。

 

「あ、そういえば・・・・・。今日補欠組がやって来たんだってよ」

「あれ、今日だったっけ。ブリーフィングルームの掲示板見てなかったから知らなかったわ」

「前から思っていたんだけどよ。補欠組が来る意味あるか?」

「まぁ俺たちの中から離脱者や殉職者が出た時の保険で集めているんだろうけどな」

このフィニス・カルデアには歴史を正常に継続させ、人類の絶滅を防ぐという大命が課せられているために、時計塔という魔術師たちの総本山の中でも強力な勢力を誇るアニムスフィア家の当主を中心に、魔術師、技術士の中でも選りすぐりの専門家を集めている。

当然計画の中心になる実働部隊であるマスターたちも実力と人類の歴史、人理の継続に力を貸してくれる古今東西の英霊をサーヴァントという使い魔として召喚し従えるためのマスター適正、そして突如として現れる人類史を大きく変えかねない歪み、所謂特異点に直接介入するための現在ただ一つの方法であるレイシフトへの適正が軒並み高い者が選ばれている。

すでにカルデアにやって来て訓練を受けている彼らはその選抜に最初から選ばれた者たちであり、補欠組は言葉の通り、万が一欠員が出た時の穴埋め要因である。

そのため、特に任務に参加する上で最低条件である、レイシフトと呼ばれる、魂を霊子データへ変換して特異点へ送り込み実質的なタイムトラベルを可能とする技術への適性が高い者を最重要視して集められたために、魔術師、民間人関係なく集められている。

そのほかの部分はおざなりで、戦力になればいいというくらいの意味で集められているために魔術師としてあまり実力が高くないか、ひどい場合ここに連れてこられるまで魔術のまの字すら知らないという者も混ざっているという。

 

「まぁ調査はAチーム主体だしな。出番が有るって言っても俺らBチームまでだろ」

「じゃあこれから来る奴ら出番があるかどうかもわからないのにこんなところに閉じ込められるのか?」

「まぁ魔術師じゃないやつも混ざっているって話だしな。むしろ出番があったらかわいそうだろ?」

「それもそうか。って、噂をすればあいつらじゃねぇか?」

話していた青年たちが騒がしいほうに目を向けると、青年たちと同じデザインの、真新しい白を基調とした制服をどこか着慣れない様子で身にまとっている男女30名ほどが職員に先導されて廊下を歩んでいた。

 

「なんだあいつら。まるで観光客のようじゃないか」

周りへキョロキョロと目を向けている彼らを見て、青年たちはすこし馬鹿にしたように笑う。

魔術師ではない人々と過ごすことにある程度慣れてきたとは言え、青年たちのように元々魔術師の家系出身である魔術師たちは魔術師であることに誇りを持っており、逆に魔術師として出来損ないである者や魔術が使えない者を見下す傾向がある。

だからこそ、青年たちの価値観でいえば目の前を通り過ぎようとする30人程度の男女は自身よりも下等な生物であり、実家の教育方針でそのように育てられた彼らからしたら同僚というよりも下僕や召使に近い存在であった。

 

目の前を通る男女を品定めするような目で見ていた青年たちは、集団の最後方をついていく二人組に目を付けた。

一人はかなり小柄でふとするとまだ10代前半にも見える金髪碧眼の美少女。

もう一人は赤銅色の髪が特徴の東洋人の少女である。

「お、あいつなんかいいんじゃないか?」

「どれどれ・・・・・・。体形は残念だけど、顔は抜群だな」

「その横にいる女も東洋人だけど胸はめっちゃでかいな。今日あいつら呼び出して俺らの身の回りの世話をやらせるか」

「そりゃいいな。じゃあ今から声かけておくか」

下卑た笑みを浮かべた彼らは持たれていた壁から離れ、その華奢な肩に手をかけようとするが、その手は後ろから延びてきた褐色のガッチリとした手に掴まれて届かない。

 

「・・・・・何をするんですか、ミスタ・ペンドラゴン」

妨げられたことに苛立ちを隠そうとせず振り返った青年は力任せにその手を振り払うと、後ろに立っていた長身の男をにらみつける。

その長身の男、今はシロウ・ナイツ・ペンドラゴンと名乗っているエミヤシロウは青年の態度に困ったように肩をすくめる。

 

「面識もない女性に後ろから突然触れるというのは紳士にあるまじき行為だと思ってね」

「別にいいでしょう?魔術もろくに使えないというのに僕らのような高貴な者から声を掛けられるなんて、むしろ光栄に思うべきことでしょう」

さも当然といったように答える青年に、エミヤは内心ため息をつく。

 

青年がこれまで過ごしていた時計塔とは違い、ここカルデアには魔術師以外の人員も多数在籍している。

かなり巨大な規模の研究機関であるカルデアを運営するためには彼らの働きが不可欠であり、青年が文化的な生活を送れているのも彼らの協力があってこそであることを理解していない様子にエミヤはどうしたものかと頭を悩ませる。

 

「それに、いくらペンドラゴン家に連なる者といえど、マスターに選ばれることすらなかった貴方が僕に指図するなんておこがましいんじゃないですか?」

 

多数の協力が必要であるとはいえ、実際に特異点が発生した時命を懸けるのは実働部隊のマスターたちである。

彼らの働きがなければ、ほかのメンバーがどれだけ必死に働こうとも、人理を継続することは不可能なのである。

 

そのため、マスターたちにはいくつかの暗黙の特権が付与されている。

この機関内での階級や家柄はエミヤのほうが上であるために青年は最低限の敬語で話しているものの、その内容は完全にエミヤを下に見ている。

「・・・・・・少しばかり私も出すぎた真似をしたかもしれんな。あまり考えずとっさに行動してしまったことを許してほしい」

「ふん・・・・。医療担当班ごときがマスターの行動を妨げるなんてあってはならないことだと理解してください。次は容赦しませんから」

「承知した」

 

エミヤは先ほどの集団が講習室に入り自身の目的が達成にできたことを確認したこともあり、攻撃的になっている青年をある程度受け流しながら話を終えると、去っていく青年の後姿を見送ってから今の職場へと向かった。

 

 

 

 

 

 




シロウ・ナイツ・ペンドラゴン

錬鉄の英霊、エミヤシロウが、マスターであるアルトリア・ナイツ・ペンドラゴンの聖杯への願望により受肉し第二の人生を得た姿。
生身の肉体を得たことにより霊体になることは不可能になったものの、睡眠や食事は魔力の供給が安定していれば他のサーヴァントと同様に必要がない。
サーヴァントとなってから直情型のアルトリアに振り回され、引きずり回される苦労人。
しかし、マスターとしても、女の子としてもアルトリアを大事にしており、それに気が付いていないのはアルトリアだけ。

彼女の家族からはアルトリアにとって最高の護衛であると同時に、最悪の虫と扱われている。
聖杯戦争後アルトリアの帰省に付いて実家を訪れた時エミヤを排除するためにペンドラゴン宗家以下一門総出で襲い掛かってきたが、マスターを狙った攻撃であると勘違いしたエミヤによって返り討ちにあった。
そのため、苦渋の条件として彼女に近づくすべての脅威を排除するために存在することが許されている。

アルトリアがカルデアにスカウトされ、ホイホイとついて行ってしまったためにアルトリアが着任する直前に彼女の実家から無理矢理に職員としてねじ込まれた。

趣味は料理などの家事全般と珍しい刀剣の鑑賞。

その不器用ではあるが実直で優しい性格と長身のイケメンであることがカルデア内部でひそかに人気を集めており、男女問わず彼を慕う者も多い。
着任間もないがファンクラブも裏で創設されており、オペレーターの女性などが会員として加入しているらしい。
天然のドンファンであり、女性を勘違いさせることも度々。
第二夫人の座を狙った女性に言い寄られることも多く、大体が後でやきもちを焼いたアルトリアにお仕置きされる。



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錬鉄の英霊 医療班主任と万能の天才

 

「入るぞドクターロマン」

「わ、わっ。ちょっと待ってシロウ君っ!!ってあつぅ!?」

「まったく・・・・・・。また仕事をサボっていたのかね」

ため息をつきながら入室したエミヤはコーヒーがかかった部分を氷嚢で冷やしている部屋の主に視線を向ける。

 

「だ、だって。むしろシロウ君がいけないんだぞっ!!こんなにおいしいお茶菓子を用意されたら食べるしかないじゃないか!!」

「作り手としてはうれしいことを言ってくれるが、いつ怪我人がやってくるか分からないというのに医療班班長がそのように気を抜いていてはいざというときに初動が遅れるのではないかね?」

「そんな目で見ないでおくれよぉ。僕だってマスターたちが訓練を行っているときはサボったりしてないさ」

視線を全力でエミヤからそらすその男、ロマニ・アーキマン、通称ドクターロマンは全く見ずに机に置かれた皿に残っていた最後のパウンドケーキを指で摘まむと口に放り込んだ。

リスのように頬を膨らませて咀嚼しているロマニにエミヤは説教をする気も失せ、彼の机の横に並べられた自分用の仕事机に積まれた書類へ目を通し始める。

 

「ふむ・・・・・。今日やって来たマスターたちは長時間の移動だったのにも関わらず比較的に健康状態を保てている。明日にはこのまま順調に訓練へと入っていけそうだな」

「そうだねぇ。今回の子たちの中には一般人の子も何人か混ざっているようだし、できるなら余裕のあるうちにある程度身を守れる術を学んでおいて欲しいよね」

「どれだけ準備をしても絶対に足りることはないが。準備したことが役立つことは必ずあるからな。おっと、この一週間で職員全員の体重が増加傾向にあるな。業務などには大きな変化はないが、少しばかり調理班と話し合ってメニューを考え直さなければならないか?」

 

 

「(どう考えたってシロウ君が考えたメニューが美味しすぎていつもより食べ過ぎているんだよねぇ。僕だって普段しないおかわりをしちゃったし・・・・・・)」

 

 

ここ一週間の食事の栄養やカロリー等に頭を悩ませるエミヤにロマンはのほほんとエミヤが入れてくれたコーヒーを口にする。

今日はもとからカルデアに在籍していたAチームとBチームは休養日であり、新たに入ってきたマスターたちも講習会を受けているために救護室を訪れる怪我人はおらず、エミヤは時折逃げ出そうとするロマニを捕まえて机に縛り付けつつ自らの書類と格闘を続けていた。

そんなゆっくりと流れる時間をふいに乱すような気配にエミヤが顔を上げると同時に部屋の自動ドアが開き、絶世の美女が部屋へと入ってきた。

 

 

「やぁ、ミスタ・ペンドラゴン。ちょっといいかい?」

「む、何かあったかダウィンチ女史」

 

 

入ってきたのはレオナルド・ダ・ヴィンチ。

正真正銘の人類史最高の万能の大天才である。

このカルデアで召喚されたサーヴァントの一人であり、エミヤと同様に人間と偽ってカルデアの技術部顧問として研究室で研究(引きこもり)を続けている。

 

その彼女がわざわざ外に出てきたことにエミヤは嫌な予感がしたものの、とりあえず仕事もある程度片付いていたこともあり、ダ・ヴィンチのために、来客用に作り置きしていた茶菓子を差し出すと紅茶を淹れながら話を促す。

 

「これを見てくれたまえ」

 

それを待っていたとばかりに豊満な胸の合間からメモリースティックを抜き出すと許可なくエミヤの使っているノートパソコンへ差し込んであるデータを呼び出すとエミヤとロマニに見えるように差し出した。

 

「うわぁ、なんだこれ・・・・・・・」

「・・・・・まぁ、だからこそ私が聖杯無しで存在できるわけだが。改めてデータに直してみるとな・・・・・・・」

 

エミヤとロマニが見るのは今日適正検査を受けたマスターたちのデータである。

その中でも目を引くのはアルトリアのデータである。

実技の成績はエミヤに陰で習っていたために最下位でなかったものの、もともと魔術師であるマスターたちには足元にも及ばなかった。

 

 

しかし、身体能力はずば抜けており、また、魔術回路の数はむしろマスター全体の中でも最高の質と量を誇っていた。

 

 

「Aチームにもこんな素材はいないよ。ねぇねぇ、ミスタ・ペンドラゴン。ちょいとアルトリアちゃんを私に貸してくれないかい?」

「絶対にダメだ。貴方に許可を出したら彼女を二日三日は調べ続けるだろう?」

「ちぇ・・・・・。ミスタ・ペンドラゴンのけちぃ~~」

「ケチではない。ほら、食べ終えたら早くダ・ヴィンチ女史は帰りたまえ。さぁ、そろそろドクターロマンも仕事に戻らなければ今日の分が終わらないぞ」

「「えぇ~~っ!!」」

いい年の大人(片方は精神的にはすでに老齢)がそろって頬を膨らませて抗議するのをエミヤは黙殺し、二人は鉄仮面を崩すことが叶わず、すごすごと自らの仕事へと戻っていく。

ダ・ヴインチと、さりげなくサボっていたロマニを仕事へ戻らせて、エミヤが食器を片付けようと手を伸ばした時、どこからか駆けてくる足音に気が付いた。

その足音はどんどん近くなり、そして、部屋のドアの前で急停止したかと思うとドアが横に開いた瞬間、金髪碧眼の美少女が飛び込んできた。

 

「シロウ~~ッ!!私もっ、私にもおやつを所望しますっ!!」

「・・・・・残っていた仕事を片付けようと思っていたのだがね。まったく、君の食い意地には頭が下がるよ」

見なくてもわかる期待のまなざしを背に受けて、エミヤはデフォルメされたライオンのマグカップに紅茶を注ぎながらやれやれといった様子で呟く。

 

 

「そんなこと言っているけど、すでにテーブルのセッティングまで済ませている君もなかなかだよね。しかも、僕らに出したものよりどこか気合入ってるし」

 

 

そんな余計なことを口走ったロマニの分だけ翌日のおやつが無かったのは言うまでもない。

 

 



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錬鉄の英霊 朝のお仕事

「リツカッ!!朝ですよ、食堂に行きましょうっ!!」

「えぇ・・・・。アルトリア、まだ6時だよ?訓練の開始は9時からだし、もう少し寝かせて・・・・・・」

すでに制服に身を包んだアルトリアにリツカと呼ばれた少女、藤丸立香は枕元にある時計をちらりと見て、アルトリアから身を守るように再度布団に包まる。

「兵は神速を貴ぶのですっ!!先に陣取った者が地の利を得るのは今までの歴史が証明しています!!」

「いやぁ、まだ寝るぅ・・・・・・」

かなり朝に弱いリツカはベットから引きずりだそうとする元気いっぱいのアルトリアに精一杯の抵抗をするが身体能力の差でいともたやすくベッドから引き離されてしまい、アルトリアに七連敗を喫した立香は何とか制服へ袖を通して最低限の身支度を整えると、目をこすりながらしぶしぶカルデアの廊下を連行されていく。

 

 

「おはようございますっ!!」

「ふわぁ・・・。おはようございまーす・・・・・」

「おや、二人ともおはよう」

二人が挨拶をしながら食堂に入っていくと、まだ時間が早いのか食事をとっている職員が広い食堂内に点々と座っているだけで、昼食と夕食の時間帯の混雑具合と比べればかなり閑散としている。

そのため24時間体制で運営されているカルデアの食堂とはいえ、この時間帯に本格的な稼働はしていないのか厨房に立っている調理スタッフの数は少ない。

 

その中にまるで風景の一部のように溶け込んで鍋を振いながら二人に挨拶を返してきたエミヤはすでに準備を済ませていたのか、アルトリアにはお盆に乗った朝食セットを、そして、小さな鍋で温められて湯気を立てている白い液体をマグカップに注いで立香の前に差し出した。

「ほら立香君。ホットミルクだよ。少し熱いからゆっくりと飲みたまえ」

「あ、いつもありがとうございます・・・・」

少しハチミツが溶け込ませてあるために少し甘く、飲みやすく体を温める絶妙な温度で出されたホットミルクをゆっくりと飲み、ようやく目が覚めてきた立香はここ一週間で疑問に思っていたことを口にする。

 

「いつも思うんですけど、シロウさんっていつ寝ているんですか?日中は医療班の仕事をしているし、夜間や早朝は人出が足りない部署の手伝いをしている気が・・・・・・」

「まぁ休めるときに休んでいるさ。私は軍隊にいたこともあったから短時間で休息をとる訓練も積んでいるし、このくらいの労働は大丈夫だよ」

「へぇ・・・・・」

その言葉通り全く疲労の色を見せず、むしろ嬉々として鍋を振い続けているエミヤへマグカップに口づけながら立香が尊敬のまなざしを向けていると、その隣で最後の一口を口に放り込んだアルトリアが満面の笑みを浮かべてお盆をエミヤに手渡す。

「シロウ、おかわりをくださいっ!!ご飯は山盛りでっ!!」

「ああ、了解した。少し待っていたまえ」

そのお盆を手に取って厨房の奥へ入っていったエミヤをワクワクしながら待っているアルトリアというここ一週間ずっと変わらない朝の光景にもう慣れてしまった立香は自分用に用意された朝食に手を付けはじめる。

少しして運ばれてきた先ほどよりも多めに盛り付けられたセットをまるで今から食べ始めるかのような勢いで食事を再開したアルトリアを横目に、立香も自分のペースで食事を進める。

「相変わらずよく食べるよねぇ」

「えぇ。シロウのご飯は最高ですから!!それに私の胃袋を満足させるにはこの三倍は持ってこないと!!」

「なんでそんなにご飯とかおやつとかいっぱい食べているのに太らないんだろ」

「なんで私のおなか周りを見ているんですか?」

堂々と胸を張って言い張る当人のそのスレンダーな体形を嫉妬の感情をこめて見つめる立香をアルトリアはきょとんとした顔で首をひねるが、気にすることでもないと判断したのか立香が半分を食べ終える前にすべて食べきると、二度目のおかわりを注文した。

 

 

「「ごちそうさまでした」」

「お粗末様。食器類は返却コーナーに置いておいてくれ」

「わかりました」

「結局宣言通り三度おかわりしてたね・・・・・・」

「ええ。いつも通り大変満足できる朝食でした。おかげで今日もいい一日を送れそうです」

立香が食べ終わるころにちょうどアルトリアも三回目のおかわりも食べ終えて、二人はともに食器を返却すると訓練開始までに軽く身支度を整えるため、個人用のマイルームが用意されるまでの仮住居として割り振られた自室へ向かう。

 

「そういえば、今日訓練は午前までで、午後からは個人用のマイルームへの引っ越しらしいね」

「そうでしたね。ふむ・・・・・・。私としては、食堂と訓練場のどちらもが近い部屋がいいですね」

「アルトリアらしいなぁ」

立香はアルトリアの希望を聞いて小さく笑いながら共用で使っている部屋へと入室した二人は互いに身支度を整え、空いた時間で今日の講習の予習を始める。

アルトリアは最初の知識はほとんど立香と同程度であったが、もともと言語のハンデがなく、まじめな性格のためにしっかりと講習を聞いて内容を理解しようとしてきたために、さすがに元から魔術師のマスターたちには劣るが、民間人出身のマスターの中では一番の成績であった。

しかし一方で特に、立香は英語がそこまで得意とは言えず、また、講習中もよく居眠りしているために、ほかの人たちよりも遅れ気味だった。

成績も断トツで最下位であった立香はさすがにまずいと思ったのか、今日はいつもより真剣に資料へ目を通している。

しかし、一か月ほど前までただの高校生であった立香にとって、授業で触れるくらいのものであった英文との戦いは体力をガリガリと音を立てて削っていき、今日の資料の一部を読むだけで白旗を上げることとなった。

 

しかし、一週間前とは比べ物にならないくらいの上達にアルトリアは目を細めて喜ぶ。

「ふむ。だいぶできるようになりましたね。それに会話のほうは私が普通に話していても問題ないくらいです」

「ほんと?よかったぁ」

「ええ。今では講師の話もある程度は理解できているのではないですか?」

「うん。これも、アルトリアとマシュって子のおかげだよ~~」

「ああ、あの座学試験で主席だった人ですね。リツカはいつ知り合ったんですか?」

「一番初めの講習で居眠りして所長にミーティングルームから追い出されたでしょ?時差ボケが酷かったから追い出された後も廊下の真ん中で寝てしまってて・・・・・・」

さすがに乙女として恥ずかしかったのかバツが悪そうに頭を掻いている立香にアルトリアは納得したようにうなずいた。

 

「なるほど。マシュ・キリエライトに教えてもらいながら勉強していたから講習後の自由時間に見当たらなかったんですね」

「そう。マシュってすごいいい子なんだよ!!教えるのとっても上手だし、記憶力もすっごい良くて。いろいろな英雄の話を教えてもらったんだよ」

「へぇ・・・・・・・・。じゃあ私が知りたい英雄のことも知っているかもしれませんね。どうも日本の図書館ではその英雄のことが載っている文献は見当たらなかったので」

「今度紹介するよ。って、アルトリアッ!!もうこんな時間だっ!!」

立香が時計を指さすと8時50分になっており、かなり広いカルデアの中を移動するのにはそこそこ時間がかかる。

 

「急ぎましょうリツカ。今日の講師はオルガマリー・アニムスフィアでした」

「えっ、今日所長なの!?絶対5分前にいないと怒られるやつじゃん!!というか、私は確実に怒られるっ」

「初日に遅刻と居眠りしていますからね」

「また全員の前で説教されて追い出されるのだけは嫌っ!!」

「じゃあ私についてきてくださいっ!!リツカが付いてこられるギリギリのペースで間に合うように走りますから」

二人は慌てて荷物を持つと、廊下へ飛び出して走り始める。

 

 

 

 

 

明日も続くと思っていた平穏な日々が崩れ去り、最後に残された二人のマスターが人理を取り戻すための聖杯探索(グランド・オーダー)に出かける数時間前のことであった。

 

 

 



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錬鉄の英霊 炎の中で

衝撃とともに爆炎が立ち上り、瞬く間にAチーム、Bチーム、そして万が一のために準備していたマスターたちが入ったレイシフト用のコフィンを飲み込んでいく。

 

中のマスターたちはレイシフトに備え冷凍睡眠に入っているために炎が迫っていても逃げ出せない。

マスターたちの冷凍睡眠を解除するためには所長であるオルガマリー・アニムスフィアの判断の下、管制室から解除コードを送らなければならないが、爆発は管制室で、もっと正確に言えばオルガマリーの足元から広がったため、そこにいたスタッフは全滅、良くても大怪我ですぐには動けないだろう。

 

しかし、カルデアのシステムはマニュアル通りに発生した火災を抑え込むため大勢のマスターと管制室のメンバーを内部に取り残したまま、無情にも隔壁を閉鎖するまでのカウントダウンを始めていた。

そこに遅刻した立香と立香を探しに行ったアルトリアが異変を感知し慌ててやってきて、目の前の惨状に絶句する。

「助けなきゃっ!!」

「誰かいませんか!」

2人は生存者を探し回るがあたりは爆発で崩れた瓦礫ばかりで、生存者の姿は見えない。

「そうだ、コフィンの中にはマスターたちがっ。シロウ、このコフィンたちをっ!!」

 

 

 

「マスターッ!!」

 

 

 

「っ・・・・」

普段はアルトリアと彼女を呼ぶエミヤがその呼び方をした時。

それは、彼がサーヴァントとして彼女を守るために動く時。

そしてその時の決め事として、この時は必ずエミヤに従う。

 

 

それが、アルトリアの願いで、聖杯戦争後に座へと帰ろうとしたエミヤが受肉してまで現世に残ることを受け入れさせるための条件だった。

 

 

エミヤの猛禽類を思わせる鋭く険しい眼が、すぐにこの場を脱出しろと物語ってる。

しかし、彼女の直感が生存者がまだいると囁いている以上、彼女は引けない。

引けるわけがない。

彼女はあの少年(衛宮士郎)と同じで、苦しむ人を放ってはおけない。

 

 

だからこそ、彼女は滅びの道と知りながら、平穏に生きる道があることを知りながら、選定の剣を手にとって王となったのだから。

 

 

「マシュっ!!」

瓦礫の向こう側で、立香の悲鳴にも似た叫びが聞こえる。

アルトリアはエミヤの静止を振り切って、立香の元へと向かう。

そこには瓦礫の下敷きになって動けなくなっているマシュと呼ばれた少女と、その瓦礫を何とか退けようと足掻いている立香の姿があった。

「アルトリア、エミヤさん瓦礫退かすの手伝ってっ!!」

「わかりましたっ!!」

しかし、悪い事態は連鎖するものである。

アルトリアが瓦礫に駆け寄ったとき、再度爆発が起こり、衝撃と熱風が襲い来る。

 

「ロー・アイアスッ!!」

向かってくる爆風に立ち塞がったエミヤが片手を前に突き出すと7枚の花弁を模した盾を作り出し、即死の風を受け止める。

「早くしろ2人ともっ!!隔壁が閉まるぞっ!!」

一瞬で3人を消し炭に変える熱風を防ぐために動けないエミヤがタイムリミットが迫る焦りから2人を急かすが、瓦礫はビクとも動かず、下半身を瓦礫に圧し潰されているマシュが這い出ることも叶わない。

 

「先輩、アルトリアさん。エミヤさんの言う通りです。隔壁が閉まる前に、私を置いていってください」

それはまるで哀願だった。

英霊をその身に降臨させるためのデザインベビーとして生を受け、カルデアで一生を過ごしてきたマシュにとって、外から来て自分の知らない外の世界を体感して来た2人は憧れの存在であり、絶対に失えない宝物であった。

だからこそ彼女は2人に逃げて欲しかった。

 

 

「「絶対に嫌(です)っ」」

 

 

しかし、当の2人は全く動こうとしない。

それどころか、手から血を流すほど力を入れてマシュを助けようとしている。

 

『隔壁を封鎖完了。館内の生存者はマニュアル通りに避難してください』

 

そんな努力は無駄だと言うように、隔壁は重く閉ざされ、誰も逃げることができなくなってしまった。

「あははは・・・。逃げられなくなっちゃった・・・」

「まったく、リツカが考え無しに動くからです」

「そんなこと言ってるアルトリアだって館内放送聞いた時すぐに駆け出してたじゃん」

 

「なんで・・・。なんで逃げてくれなかったんですか・・・」

 

周りを炎に囲まれながら、子供のように口喧嘩している2人にマシュがポタポタと涙を流しながら問いかける。

 

 

「だってマシュがいたでしょ?」

 

 

あっけらかんとそう言い張った立香に、マシュは信じられないというように目を丸くする。

「たった、そんな理由で?」

「たった、なんかじゃないよ。私はマシュみたいないい子が死ぬのを見過ごせなかっただけ」

「でも現に閉じ込められて、先輩が助からなきゃ意味がないじゃないですかっ!!」

「仕方ないのですマシュ。リツカはお馬鹿さんなんですから」

「あまり変わらないくせにバカって言うなー」

アルトリアにバカと言われたのが悔しかったのか地団駄を踏む立香に、もう逃げられない絶体絶命のはずなのに何故かマシュは笑いが止まらない。

 

 

 

「本当に先輩は大馬鹿ですね」「マシュまで言ったーっ!?」

 

 

 

流石にマシュにも言われて凹んだ立香は膝を抱えていじけ始める。そんな立香に、マシュは下半身を瓦礫に潰されながらも、できる限界までなんとか手を伸ばす。「?」「こんな状況ですし、もう逃げられません。だからせめて私のお願いを聞いてもらえますか?」「いいよっ。なんでも言って!!」

 

 

「私が死ぬまで手を握っていてもらえますか?」

「じゃあ、あと80年以上繋ぎっぱなしだね」

「約束ですよ?」

「オッケー!!」

 

 

立香がそう答えた直後、一瞬で燃え広がった灼熱の炎が2人を飲み込んだ。



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錬鉄の英霊 青いドルイド

 

 

アルトリアは気が付くと、炎と瓦礫の町に立っていた。

 

家屋の殆どが瓦礫と化しているが、ところどころギリギリ形を保っているものの作りから日本の町であることは理解できる。

しかし、町並みは見る影もなく、ごうごうと燃え盛る炎と立ち上る黒煙で覆われた空が光を遮断している様はまるで現世とは思えない。

周辺に居住の痕跡は無く、アルトリアが呼び掛けてもそれに応える人の気配はない。

 

「日本でこのように町全体が燃えているのなら何かニュースになっていても可笑しくはないのですが・・・・・・・」

 

アルトリアが日本にいる間に町一つが燃えたとは聞いたことがない。

となると、アルトリアが日本を離れて一か月経たないうちに町の一つがこのようになったのだろうか。

しかしこのような災害が起きれば、情報規制のあるカルデア内でさえ耳に入ることはあっただろう。

そのことに疑問を胸に抱いたまま、アルトリアはまだ取り残されているかもしれない生存者を探す。

 

しかし生存者は一向に見つからずただただ一時間ほどたったころ、なぜかこの瓦礫の町に既視感を覚えたアルトリアは、普段は頼りにしている自身の勘がささやく答えを何かの間違いだと自分に言い聞かせるようにつぶやきながらも捜索を続ける。

しかし、ほぼ未来予知といえるほどの精度を誇るアルトリアの直感はその悪い予想を的中させることになる。

 

「あ・・・・・・・」

 

その巨大な建造物に目を見開いたまま動きを止めたアルトリアは乾燥による強烈な痛みで初めて自分が呆然としていたことに気付き、見間違いであることを願ってゆっくりと瞬きするが、現実は変わらず、火の海に周りを囲まれ、その建造物は依然としてそこに存在していた。

 

 

 

「やはりあれは冬木大橋・・・・・。じゃあ、でも、なぜ・・・・・・・・?」

 

 

 

その巨大な建造物、冬木大橋は、町の真ん中を流れる川に隔たれた昔ながらの住宅街の深山町と駅や高層ビルを中心に栄えた新都を繋ぐ役目を果たす唯一つの橋であるが、今回ばかりは、皮肉にもその頑丈さがアルトリアの希望を断ち切るものとなってしまった。

 

一か月前まで楽しく通学していた学校、海外からの留学生であるアルトリアを分け隔てなく受け入れてくれた友人たちの家、帰り道で買い食いをした商店街。

それらすべてが、気が付かぬうちに瓦礫へと変貌していたことに衝撃を受けたアルトリアがふらりと崩れ落ちそうになった時、赤い外套を纏ったエミヤがその体を抱え、心配した様子でアルトリアの顔を覗き込む。

 

「シロウ・・・・・・?」

「その顔では君も気が付いたようだな。私も周囲を確認してきたが、やはりここは冬木市のようだ。生きている人の姿は全く見当たらなかったがね」

 

周りの状況を報告するエミヤの声色はひどく落ち着いていて、まるでこの光景にも動じていないようにも見える。

しかし、長い間パスで繋がっているアルトリアには彼の心の焦燥を感じることができるようになっていた。

エミヤも動揺を表に出すことによってアルトリアへの精神的ダメージを増やすのは合理的判断ではないと考えての行動でもあるだろうが、彼の不器用な優しさにある程度落ち着きを取り戻せた彼女は自らの足でしっかりと地面に立つとエミヤを連れて冬木大橋に向かう。

 

 

「おうおう。ようやく騎士王様が薄暗い洞窟に我慢できなくなって外へ出てきてくれたか」

 

 

もう少しで橋にたどりつくというところで背後から男に声を掛けられ、その聞き覚えのある声に、アルトリアの背筋に冷や汗が浮かぶ。

「まさか君がここにいるとはね、ランサー」

「あ?それはドルイドの真似事をしている俺への当てつけか?喧嘩を売ってるなら売値以上で買うぞ」

アルトリアが振り返ると、身にまとう衣装と手に持った得物()こそ違えど、獣のような瞳孔が特徴の赤い瞳を持つ青い男が好戦的な笑みを浮かべながらアルトリアとエミヤを睨みつけていた。

一見棒立ちにも思えるが、隙を見せれば一瞬で喉元に喰いつこうとしているのが肌を突き刺す殺気から伝わってくる。

「クー・フーリン・・・・・」

蘇るのはあの始まりの運命の夜に味わった激痛と真っ暗な世界へと落ちていく記憶。

アルトリアは男の槍で穿たれた風穴があった場所に触れながら、男の真名を口にする。

「直接顔を合わせたのは今回が初めてだが・・・・・・・。まぁやっぱ、さすがに真名はバレていたか。何度もほかのサーヴァントとは戦ってるし、大方そこの陰険な腰巾着が覗き見して報告でもしてたんだろ?」

一瞬男は眉尻を動かしたが、アルトリアの横に立つエミヤに目を向けて納得した表情を浮かべる。

 

「何を言っているのですか・・・・・・?私とあなたは聖杯戦争で・・・・・・」

「マスター。あれは私と同じサーヴァントだ。原則サーヴァントは英霊の影法師のようなものであり、サーヴァントとして現界した際の記憶はすべて記録として残るものの英霊そのものにとっては遠い人物が書き残した日記帳のようなものだ。つまり、同じ英霊であってもあのクー・フーリンは君や私と競い合った聖杯戦争のことなど殆ど知らないはずだ」

しかし、その男、クー・フーリンがエミヤたちを知っているような言動に潜む一つの可能性にエミヤは思い当たる。

 

 

 

「クー・フーリン。君は、他の私や騎士王を含む聖杯戦争に参加しているサーヴァントの一人で間違いはないな?」

 

 

 

「!?シ、シロウッ。それはどういうことですか?」

「はぁ?何を寝ぼけたことを・・・・・・・。あぁ、そういうことか。通りでそっちの嬢ちゃんからあの膨大な魔力を感じなかったわけだ」

理解が追い付かないアルトリアを他所に、エミヤの言葉に納得した様子のクー・フーリンは張りつめていた殺気を解くと、無遠慮に歩み寄ってくる。

 

「ま、敵じゃねぇなら殺しあう理由はねえしな。ひとまず仲良くしようぜ二人とも」

「・・・・・・仕方ないな。状況が未だに把握できていない以上、悪戯に戦力を消耗するのは私も避けたい」

まるで長い付き合いの戦友のように肩を組みながら言うクー・フーリンに心底嫌そうな顔をするエミヤだったが、現状マスター(アルトリア)の安全を確保することが最優先であり、クー・フーリンという大英雄と真正面から戦うことを避けることができるというのは大きなメリットであったため止むを得ず首を縦に振る。

 

「だが、一つだけ約束してもらうぞクー・フーリン」

「ん、約束だ?ゲッシュでも結ぼうってのか?そういうのとは無縁なやつだと思っていたが」

「あいにくとゲッシュなどの高貴な英雄様がやるようなことにはあまり興味がないのでね。単直に言わせてもらうが」

 

 

「あまりアルトリアに近づくな。私の大事なマスターに野生の獣が何をするかわからんからな」

 

 

エミヤが極真面目にそんなことを言うのだから、クー・フーリンは一瞬驚きで目を見開くが、次の瞬間大きな声を上げて笑う。

「くっくっく・・・・。お前らそんな関係だったのかよ。そりゃあの弓兵も即行でセイバーの下僕に収まるはずだわ」

「何がおかしい」

「いや、なに。嬢ちゃんこんな面倒くさそうなやつにベタ惚れされて苦労しそうだと思ってよ」

 

「・・・・・・?」

「っ・・・・・・!?」

 

なぜクー・フーリンがそこまで腹を抱えて笑っているのか理解できないといった様子のエミヤと、その横で金魚のように真っ赤になりながらパクパクと口を開閉させているアルトリアにさらにクーフーリンは声を大きくして笑うこととなった。

 

 

 



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錬鉄の英霊 特異点F 聖杯戦争の始まり

笑い続けるクー・フーリンにエミヤは早く今の状況を説明しろと眉間にしわを寄せて催促すると、クー・フーリンはさっきまでとうって変わって真面目な顔つきで今回の聖杯戦争について話し始めた。

 

「まぁ・・・・・。見ての通り、俺にはマスターがいねぇ。というよりも、他のサーヴァントにもマスターはいない」

 

 

「マスターがいないだと?」

 

 

サーヴァントは過去未来問わず何らかの偉業を成し遂げた英雄たちであるが、基本的には霊体であり、この世に存在し続けるためにはその時代に生きる人間(マスター)という楔が必要なのである。

それは一部の例外を除き、サーヴァントである限り変わらないはずだ。

しかし、この聖杯戦争ではすべてのサーヴァントにマスターがいないという事態にエミヤは目を見開く。

 

「あぁ。一夜にして俺のマスターも、この町の人間もすべていなくなっちまった。俺たちサーヴァントは人間の代わりに町をうろつくようになった怪物を暇つぶしもかねて駆除しながら休戦状態のようになってたんだが、どうもあのセイバーは聖杯を欲する相当な理由があったみたいでな。突然戦いを再開して俺以外のサーヴァントを軒並倒しちまった」

「じゃあ残っているサーヴァントは君とセイバーだけなのか?」

「それがだな・・・・・。この聖杯戦争は倒されたはずのサーヴァントが霊基を変質させた状態で復活すんだ。俺もやつらを何体か倒したが気が付きゃまた復活してやがった。俺もこの町一帯に漂っている神代レベルに濃いマナのおかげで少し休めばマスターなしでも十分に戦い続けることができるんだが、互いに終わりがない戦いってのは正直めんどくさくてよ。いい加減に決着を付けてぇんだ」

サーヴァントの中でも屈指の武闘派であり、聖杯戦争に参加する理由も強い相手と戦いたいという戦闘狂のクー・フーリンでさえ飽き飽きした様子で話すことから、今回の聖杯戦争の異常性が垣間見える。

 

「つまり、君一人では現状千日手というわけか」

「あぁ。オレとしちゃセイバーと1対1で戦える環境を整えてくれりゃ文句はねぇ。だがそのためには・・・・・・・」

「徘徊しているサーヴァントが邪魔ということか。しかし、永遠に復活する相手などどうしようもないのでは?」

「いや。どいつも倒した後数日間姿を見ないからな。おそらく復活までには数日の猶予があるはずだ」

「とすると、その猶予期間の間にすべてのサーヴァントを倒してセイバーまでたどり着くわけか。電撃戦をするのはいいが私と君の二人では戦力が足りないのではないか?君は見たところキャスターのクラスであるようだし、私もアーチャーだ。前衛の真似事はできなくもないが、正直もう一人前衛ができるサーヴァントが欲しいところだ」

「まぁそうだわなぁ。ランサーで呼ばれてりゃこんな状況でもちったぁマシだったんだが・・・・」

いくら二人がスケルトンなどの低級の怪物程度なら一瞬で倒してしまえる超人的な能力を持つサーヴァントとはいえ、聖杯戦争である以上、相手もまたサーヴァントである。

なるべくなら戦力を確保してから実行に移したいところであるが、他のサーヴァントはすでにセイバーに倒されていて同盟を組めそうな相手はいない。

どうしたものかと二人が悩んでいた時、エミヤの視界にそれが映りこんだ。

 

 

「っ!!マスターっ、生存者だっ!!」

「どこですっ!?」

「対岸の公園だっ!!サーヴァントに襲われているっ」

 

 

エミヤの鷹の目を思わせる双眸は対岸で黒い衣で全身を覆った髑髏面に少女たちが襲われているのを察知し、アルトリアにパスを通して感覚の共有を行う。

エミヤから流れ込む常軌を逸した大量の視覚情報にアルトリアに頭痛が襲いかかるが、それを耐えつつその情報を整理したアルトリアはその襲われている少女たちに見覚えがあった。

「あれは・・・・・・っ」

素早く左手をアルトリアが捲ると、カルデアから支給された簡易令呪が現れそれを上にかざして構える。

 

「シロウっ、行ってくださいっ!!令呪でアシストしますっ」

「っ・・・・・・。クー・フーリン、マスターを任せるぞっ!!」

「しゃあねぇ。こっちは任せなっ」

エミヤは一瞬アルトリアに目をやるが、一緒に連れていく時間もなく、アルトリアが意思を曲げないことを理解しているため、不本意ながらもクー・フーリンにアルトリアを任せると膝を大きく曲げて跳躍の姿勢を取る。

 

 

 

「令呪をもってアルトリア・ナイツ・ペンドラゴンが命ず。跳べ、シロウッ!!」

 

 

 

アルトリアの叫びにも似た命令と共にその手に刻まれた令呪が赤い光を放ち、エミヤの体に膨大な魔力が満ちる。

普通ではいくらサーヴァントとは言え大きな川を一瞬で越えることは不可能である。

しかし、マスターが持つ令呪は使い方次第でその不可能を可能にする。

 

地面を砕き割るほど強化された脚力で跳躍し赤い弾丸と化したエミヤは大きな川を一瞬で飛び越えると、漆黒のダガーを手に少女へと襲い掛かっていた髑髏面の腕を斬り飛ばした。

 

 

「っ!?」

「はぁっ!!」

 

 

間一髪で少女を凶刃から守ったエミヤは鋼鉄製のブーツをレンガで綺麗に舗装された路面に強引に突き刺して着地すると、突如腕を無くしてほんの僅かであるが思考を止めた髑髏面に得物の陰陽剣を叩き込んだ。

白黒の両刀が深々と髑髏の面を断ち割る一撃は致命傷には十分であり、消滅が確定した髑髏面が流す血は吹き出ると同時に砂のようになって宙に消えていく。

しかし、エミヤはそれでも油断せず崩れ落ちていくその痩身や斬り飛ばした腕に複数投影した武骨な剣を投擲して標本のように地面へ縫い付けると、完全にこと切れたように思えた髑髏面が最後の足掻きのように暴れ始めるが、剣がしっかりと地面に突き刺さっておりどんなに暴れても抜け出せない。

しばらく狂った獣のように絶叫を上げながら髑髏面はもがき続けていたが、やがて完全に姿がボロボロと崩れて消えていった。

 

「大丈夫か立香君?」

「え、シロウさん・・・・・・?さっきの怪人は?それにその姿は・・・・?」

「まぁ・・・・・。私も色々あってだな・・・・。それより、やつ相手によく生き残ったな」

 

襲い来るダガーからもう一人を庇うように体を丸めて地面を転がっていた少女、立香は髑髏面への恐怖と、そこにいた、普段とは全く違う格好をしているエミヤへの困惑がないまぜとなった顔をする。

声を震わせながらエミヤを見上げている立香を元気づけようとエミヤはなるべく優しい声音でその頭を撫でる。

立香はその手に安心感を覚えたのか、強張った顔が幾分か解れてくる。

立香の変化を感じ取ったのか、庇われていたもう一人がその肩越しに怯えながらも顔を出すと、エミヤと目が合ったとたんに目を吊り上げてエミヤを睨みつける。

 

「っ!?なんで!?あなたも人間じゃなかったのっ!?」

「やぁオルガマリー・アニムスフィア所長。貴方もご無事で何よりだ」

「ふざけないでっ!!あのペンドラゴン家がごり押して来たと思えば・・・・・・・、カルデアにサーヴァントを送り込んでいたなんてっ。あのような混乱もあなたの仕業でしょっ。潜入してアニムスフィアの技術を奪うつもりだったのねっ!?」

「落ち着きたまえ。私には全くそんなつもりはないし、ペンドラゴン家も私を送り込んだのは別の理由だ。私は勝手にカルデアに行くことを決めてしまった我がマスターの護衛のためにやって来たんだ」

「そ、そんな理由で最高級の使い魔であるサーヴァントを敵の工房同然の場所に・・・・・・?」

信じられないといった様子だが、本当にそんな理由なのだから仕方ない。

まぁ普通であればサーヴァントは存在するだけでとんでもない魔力を消費し続けるため供給元であるマスターには多大な負荷がかかる上に魔力供給をバックアップする設備の多大な運用資金が必要である。

魔力面でも資金面でも普通の魔術師ならサーヴァントなんて存在を維持するだけでもかなり大変で、オルガマリーもカルデアを運営していくうえで必要経費となるそのランニングコストに頭を痛めていたのだ。

まして、自分の魔術研究と関係ない分野であるのなら、それこそ魔術師からすればサーヴァントの維持など魔力と資金を膨大に食い続ける無駄以外何物でもない。

ペンドラゴン家の魔術は降霊術系統ではなく、オルガマリーから見てエミヤは魔術師が該当するキャスターのクラスではなく、その研究には全く役に立たないだろう。

つまり、普通の研究用に召喚したものではないと推測することができる。

しかもマスターであるアルトリアは他の魔術師から狙われないようにとはいえデータを改竄して魔術を継げず裏の世界とは無関係の一般人としてカルデアにやってきているのだ。

そのように考えてしまうのも無理はない状況証拠が揃っている上でこのような事態に追い込まれたのだから彼女がひどく警戒した様子でエミヤを見ているのは当然といえば当然である。

エミヤもオルガマリーをこれ以上刺激するというのは得策でないと判断したため、オルガマリーがある程度の信頼を置いている様子の立香に話を聞くことにした。

 

「ほかに生存者は?川の向こう側には私のマスター以外は見当たらなかったが」

「あっ・・・・・・。マシュがまだ戦っているんですっ!!ランサーのサーヴァントから私たちを引き離すためにっ」

「やはりか・・・・・・。彼女はどこに?」

「あっちですっ!!」

「案内してくれ」

「ちょ、何するのよっ!?きゃっ!?」

エミヤは立香が指差す方向に一度頷くと、オルガマリーと立香を片腕ずつで抱き上げて周囲を警戒しながらそちらへと駆け始めた。

突然抱きかかえられたことに一瞬抗議をしようとオルガマリーが口を開こうとするが、他の案を提案することができないのか口を閉じた。

彼女としても、マシュを失うのは避けたいためかエミヤの邪魔にならないように小さくなっている。

 

「すまないが、立香君、オルガマリー所長。放置しているとまた別のサーヴァントに襲われかねないのでね。少し強引ではあるが、このように運ばせてもらう」

「・・・・・全力で向かいなさい。このままチンタラ走ってたら間に合わないかもしれないし、他のサーヴァント、アーチャーからすればただの的になるわ」

吹き付ける風圧が人体に影響を及ぼさないように配慮した速度でエミヤが駆けつづけていると、風圧の影響を受けないように結界を張ったオルガマリーが顔を背けながらそう言った。

 

 

「了解した」

 

 

オルガマリーの不器用な優しさに立香が小さく笑うが直後に魔術で強化された小石に眉間を撃ち抜かれて痛みに悶絶した。

二人の微笑ましいやり取りに少しだけ口元を綻ばせながら、遠慮の必要がなくなったエミヤがギアを二、三段上げると、瞬のうちに風景が背後へと流れていき、あっという間に燃える町中を走り抜けていく。

 

 

マシュのもとへとたどり着くまであと10秒の出来事であった。

 

 



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外伝 騎士娘の出会い

 

少女は肺が酸素を求めて痛みという抗議の声を上げるのを必死に耐えながらそれでも走り続ける。

それに追いつかれたら明確な死が待っているからだ。

必死に走る少女は見えた出口(希望)に向けてラストスパートをかけようとするが、そこに立ちふさがる死神に足が止まる。

 

その死神はつまらなそうにあくびをすると、手に持った槍を肩に担いでその獣を思わせる鋭い眼光で少女をとらえる。

「戦士でもねぇやつを殺すってのはあまり俺の趣味じゃねえんだが、うちのマスターが殺せってうるせぇもんでよ」

 

 

 

「悪いけど死んでくれや嬢ちゃん」

 

 

 

絶対的な強者。

少女では絶対に勝つことなど不可能だろう。

それはあの戦いを盗み見ただけでもわかっていた。

青いボディスーツのような服で全身を覆うその男が少しでも本気を出せば、少女の命の灯を吹き消すことなど一瞬で終わることだろう。

今の今まで生きていられたのは彼が言った通り、自分の趣味ではないからだろう。

だが、もう出会ってしまったからには彼から逃げることは絶対に不可能であった。

 

 

「嫌です」

 

 

追い込まれた少女は覚悟を決め、恐怖で足が震えるのを必死に押し殺しながら背中に背負った竹刀袋から毎日欠かさず振い続けている得物を取り出して正眼に構える。

 

「ほぅ・・・・・。ただの女子供と思いきや、なかなかにいい目をしてるじゃねぇか。時代が時代なら一端の武人になっていたかもしれねぇな。死ぬ前に名を聞こうか嬢ちゃん」

 

男は少しだけ嬉しそうに口角を上げると、少女に応えるようにその血よりも赤い朱槍を構える。

 

 

「アルトリア・ナイツ・ペンドラゴン。推して参るっ!!」

 

 

少女はまっすぐ男を見据えながら名乗りを上げると、気合と共に踏み込むと男へ鋭い一撃を叩き込む。

普通の人間であれば大半の者が一撃のもとに地に伏せる一撃。

しかし、それほどの威力と速度が相乗した一撃は男の槍に簡単に受け止められ、受け止めた槍がまるで蛇のように竹刀を絡みとって空高く弾き飛ばした。

しかし、それを気にする間もなく警鐘を鳴らし続ける直観に身を任せて体をひねると、鋭く突き出された槍の穂先が少女の腕をかすめていく。

「っ!?」

「よく避けたっ」

男が少女を褒めたたえるが、少女は次々と繰り出される攻撃を避けるのに必死でそれどころではない。

しかし少女のことはお構いなしに男の興が乗ってきたのか徐々に攻撃の速度が上がっていく。

まるで少女の限界を図ろうかという死と隣り合わせの遊びに少女が耐え切れなくなった時、ふいに攻撃が止まり、男は手を止めたまま虚空を見上げてその眉間にしわを寄せる。

 

 

 

「ちっ。面白くなってきたとこだってのに・・・・・・・。悪いな、マスターから早く仕留めろって命令が煩くってな」

 

 

 

「あっ・・・・・・・・」

少女の制服の白いシャツが真っ赤に染まる。

気が付けば男の槍が少女の胸を捉えており、体を突き抜けた槍は胸の中心、心臓に大きな穴を穿っていた。

男が槍を引き抜くと少女は前のめりに倒れ、胸からあふれた大量の血があたりに広がっていく。

「あんたが俺のマスターだったら、あんな根暗なマスターよりよっぽど楽しかっただろうにな」

男がそう言い残して去っていくのを血の海に溺れながら少女は見送るしかなかった。

「あ・・・・・・・」

視界は半分赤に染まり、体は流れ出た血と共にどんどん熱を失い、指先の感覚も無くなっていく。

 

「助けて・・・・・・」

 

まるで闇に引きずりこまれていくような感覚に恐怖する少女は、ポツリとかすれるような声でそれを求めた。

逃げようのない運命だとわかっている。

誰も助けてくれないし、助からないのも一番少女が理解していた。

それでも、絶望の中で閉じていこうとする目を見開いて、少女は必死に手を伸ばす。

「死にたくない・・・・・・」

 

 

 

 

「■■■■ッ!!」

その手を、誰よりもそのような手を掴みたくて世界と契約するような男が黙っているはずがなかった。

 

 

 

 

突如少女を中心に出現した魔法陣から現れた青年は少女が虚空に伸ばす手を掴みとる。

「オレが絶対に助けるからな■■■■ッ!!」

青年はもう片方の手を少女の傷口にかざし、ボソボソと何かを呟く。

その青年に今まで会った事がないと言い切れるし、彼が何をやっているかはわからない。

けれども、なぜか誰よりも信頼がおける青年に手を握り返された少女は大きな安心感と共に目を閉じる。

 

 

「明日の朝食のメインはだし巻き卵でお願いします」

「っ・・・・!!ああ、了解した」

すでに恐怖は消え失せた少女は冗談交じりにそう言うと、その意識を手放した。

 

 

まさか本当にだし巻き卵をメインにした絶品の朝食が翌朝用意されていたことに驚くのはまた別の話である。

 



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月の復讐者の誕生

これは、とても遠くて近い、未来の話


それを目にした瞬間、少女はこの世界が地獄であることを理解した。

 

 

 

「あ、あ、あ、あ、あァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!」

 

 

 

砂漠に近いせいか吹き荒れる乾燥した強い風に揺られ、高台から下に延びる太いロープを軋ませる『それ(・・)』へ向け一人の少女が獣の如き絶叫と共に疾走する。

 

高台の周りを守っていた兵士たちが少女に向けて手に持った自動小銃の引き金を引くが、肉体へ強化の魔術を使用している少女にとってそれを避けることは造作もなく、ついでとばかりにスルリと抜き放ったナイフで兵士たちが身に纏う装備のわずかな隙間を突き、大量の血しぶきが周囲にばらまかれていく。

 

周囲の人々の歓声が悲鳴に変わり蜘蛛の子を散らすように逃げていくのに目もくれず、少女は階段を駆け上って高台に吊るされた『それ』を引き上げると、少女は自分よりも二回りは大きい『それ』を優しく抱きしめた。

 

 

「会いたかったよ、きょーかん」

 

 

長い間牢屋に閉じ込められていたからか、意識のある間は誰よりも清潔を意識していたその体は悪臭を放っており、普通の人なら顔をしかめるほどだった。

しかし、少女は愛おしそうにすでに冷たくなった『それ』の唇に軽く触れるような口づけを落とすと、体内の魔術回路のスイッチを入れ、その身を魔術を行使するための装置へと変換する。

魔力の生成による拒絶反応で常人では耐えられないほどの痛みに苛まれているはずの少女はむしろその苦痛すら幸せだとでもいうように笑みを浮かべながら丁寧に呪文を唱え、『それ』に自分の魔力を流し込んでいく。

 

 

「そこまでだっ!!両手を上げてその死体から離れろっ!!」

「もう来たんだ・・・・・・・」

 

 

あと少しで神聖な儀式が終わるというところで、先ほど屠った兵士が死に際に応援を呼んだのか、広場に続々と集まってくる兵士たちを少女はいらだちを隠そうともせずに高台の上から睨み付ける。

「もう一度言う。その死体から離れろっ!!五秒のうちに離れない場合は、我々に敵対する存在とみなして射殺するっ!!」

その警告は嘘ではないということは誰の目から見ても明らかであった。

兵士たちの持つ自動小銃の銃口が彼らの殺意と共に少女に向けられており、むしろ命令に先走って誰かが引き金を引きかねない様子であった。

「ホントに野暮だよね。私ときょーかんの邪魔をするなんて」

 

 

「消えて」

「撃てっ!!」

 

 

少女の殺気に満ち溢れた呟きをかき消そうとするかのように、指揮官から下された合図で少女に向けられた銃口が一斉に火を噴いた。

人一人に対して過剰すぎる攻撃に、少女の死を確信していた兵士たちは硝煙が晴れた向こうに見えた光景に目を疑った。

 

高台に立っている人影は二つ。

一つは銃撃の的となったはずの少女。

そしてその横でまるで少女の騎士のように佇む、銀髪と浅黒い肌が特徴の男の姿。

 

 

「っ!?なんであいつが生きてるんだっ!!」

「くそっ!!あの女、悪魔を地獄から連れ戻しやがったっ!!」

 

 

「撃て撃てっ!!相手はあの男だっ!!勿体ぶらずに残弾全部使い切ってしまえっ!!」

指揮官の号令に兵士たちが発狂気味に引き金を引き、先ほどよりも数倍密度を増して襲い掛かる、普通なら人間の肉体をひき肉に変えるに十分なはずの弾丸の雨。

しかし、男の手から生み出された七枚の花弁を思わせる盾を貫通することは能わず、勢いを失った弾丸はバラバラと音を立てて男の足元に転がっていく。

 

通常の戦闘ではありえない程贅沢に弾薬をばらまいても先ほどから一歩も動かすことが出来ずにいる怪物を眺めながら、指揮官の男は口の端を吊り上げ手に取った無線の相手に向けて指示を出した。

 

その指揮官が考えたことはごくごく普通のことである。

小火器の火力で防御を破れないのなら、より強力な火力でその防御を破ればいい。

 

 

 

直後、戦車の砲撃によって台が吹き飛び、兵士たちが喝采を上げる。

 

 

 

弾幕による足止めに、人間では到底持ち運べない重火器での砲撃殲滅。

自分の狙い通りに事が運んだことにほくそ笑み、部下に対して死体の捜索を命じようとしたところで称賛の声を上げていたはずの兵士たちから断末魔の叫びが聞こえてきて、慌ててそちらに目を向ける。

 

指揮官の目に映ったのは、次々と血しぶきを上げて倒れる兵士たちで真っ赤に染まった道と、いつの間に着替えたのか鮮血を思わせる赤い外套をはためかせるあの男。

少女一人を抱えつつ男は空いている片手に持った白い短刀で、立ちふさがる兵士たちを装備の上からまるでバターを斬るかのように真っ二つに切断していく。

 

行く先にいる兵士たちをなで斬りにしながらまっすぐ突き進んでくる男から背中を向けて逃げようとした指揮官との距離を大跳躍で一気に詰めた男の短刀の一閃で指揮官の首がボトリと地面に落ち、首をなくした肉体が数歩走った後に前のめりに倒れた。

 

 

男の進路から外れ、生き残っていた兵士たちも、その信じられない光景に、骨の髄から叩き込まれた軍規すら忘れてその場から逃げだし始める。

 

 

しかし、二人だけの空間に土足で踏み入ってきた兵士が何の罰も受けずに立ち去るなど、少女が許せるはずもなかった。

 

 

「きょーかん。あいつら、全員殺して」

まるで幼子がおねだりするような声色で少女が男に対して命令すると、男が片手を上にかざす。

その頭上に次々と何の装飾もない無骨な刀剣が現れ、宙に浮いたまま兵士たちにその切っ先を向ける。

そして、その手を振り下ろすと、まるで解き放たれた猟犬のごとく刀剣は一直線に宙を駆け、一本も外れることなく深々と兵士たちに突き刺っていく。

許しを請う兵士すらまるでハリネズミのように何本もの剣が突き刺さり、出来上がった兵士の標本展示会。

その常人では吐き気を催すような凄惨な空間の真ん中を、地面に降りたった少女は男と手をつなぎ、靴が血で汚れるのも構わずに上機嫌で歩いていく。

 

「きょうーかん。次はだれを殺しに行ったらいいかな?」

 

まるで次のデート場所を決めるかのように少女は言いながら、ふと目に映った通りの向こうに見える立派な建物に年相応の笑みを浮かべる。

「そうだ。あそこに行こうよ。あそこなら人がいっぱいいるんじゃない?」

建物を指差して少女は満面の笑みを浮かべて男の手を引っ張ると、男は少女に合わせるように歩を進め、少女に続く。

 

 

 

 

 

その近い未来、赤い外套を着た男を従える少女は数多くの人々の命を奪い続けて伝説となり、英霊の座に登録されることになる。

 

 

 




クラス:復讐者(アヴェンジャ―)
真名:岸波白野
身長:160cm
体重:45kg
属性:混沌・悪
イメージカラー:薄茶
好きなもの:教官
嫌いなもの:人間
天敵:不明
ステータス
筋力:E-
耐久E
敏捷E-
魔力C
幸運D
宝具EX
ある男の処刑をきっかけとして中東地域の国々で大量虐殺を繰り広げた結果、英霊の座に登録された反英雄。
元魔術師の名残で魔術は使えるもののキャスタークラスに呼ばれるには程遠く、また個人の白兵能力はアサシンにすら劣る下の下。
しかし、後述する宝具によりある英霊を召喚し、使役することが出来るため、彼女自身よりはむしろその英霊を用いて戦う。
本来の適正クラスは召喚者(サモナー)で、このクラスで呼ばれれば、最高四体の英霊を召喚、使役することが出来る。

宝具
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に(コントラクト・オブ・フェイツ)
ランクEX
対人、対軍、対城、対界宝具
アヴェンジャーと縁のあった英霊をサーヴァントとして召喚、使役することのできる宝具。
どのような状況であってもアヴェンジャーの魔力が持つ限り最高四体まで召喚し、また、使役することが出来るが、アヴェンジャーとして呼ばれている場合、赤い外套の男以外を召喚することはできない。
召喚されたサーヴァントは最高の状態で召喚され、そのスキル、宝具もつかうことが出来る。



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