ARIA〜時を越えた魔法使い〜 (双 月)
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第1話―火星(アクア)へ―

はじめまして!

初投稿な者で見苦しい所もあるかもしれませんが、頑張って完結まで書いていきたいと思ってます。


話はオリジナル色が強くなると思いますが、原作、アニメ、ゲームからの話も書いていくかもしれません。

それでは、主人公君と火星(アクア)の住人さん達とのお話にお付き合いください。



 水ー……水の音が聞こえる……。

 

 何故だろう……すごく懐かしい……。

 

 

「…ん?」

 

 青年が目を覚ました。

 そこは暗闇が広がり何時もの見慣れた自室の天井が広がっていた。

 

「……ああ、夢か」

 

 近くに在った時計を見ながら青年が呟く。

 時刻は深夜2時ー……。

 

「変な時間に起きちゃったな……」

 

  そう言いながらベッドから起きる。

 

「懐かしい夢を見たな……みんなどうしているだろう」

 

 とても懐かしく。

 とても愛しいー……。

 そんな夢を見た。

 

  青年は部屋の窓を開ける。夜風が頬を掠める。

 ―……ふとその時、外から視線を感じた。

 

 ―にゃーん……

 

「えっ猫?」

 

 青年の部屋は二階だ。

 外をよく見ると道路に一匹の黒猫が居た。

 猫と青年の距離は遠い。

 だが、青年にははっきりと見えていた……。

 その黒猫の黄色い瞳がー……。

 

―にゃーん……

 

 黒猫が鳴く……青年を見つめながら。

 

「………君は」

 

 青年も黒猫を見つめる。

 黄色い瞳……青年はその瞳に見覚えがあった。

 

 

にゃーん……にゃーん……

 

 

 黒猫はまた鳴き暗い路地の奥に走り去ってしまった。

 

「……また、呼ばれてるんだ……僕の事を呼んでいるんだ」

 

 青年は黒猫の言葉を理解したようだった。

 目を閉じそして呟く。

 

「近いうちに……また会えるんだ。猫妖精(ケット・シー)に、火星(アクア)のみんなに」

 

 青年は目を開き壁に掛けてあるカレンダーを見る。

 カレンダーは2013年5月の日付だった。

 

「もう、2年前になるんだ…」

 

 まるで昔を懐かしむように青年は目を細める。

 

「いや、『もう』じゃなくて『まだ』2年…かな?」

 

 少し苦笑いをしながら青年は自分のリュックに手を掛ける。

 

「目も冴えたし……少し準備でもしますか」

 

 青年はそう言うと楽しそうに笑う。

 

「……大丈夫、なんとかなるさ」

 

 青年はポツリと呟く。

 まるでそこには居ない誰かに言っているようだった。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「はひぃー、何処にもありませんねぇアリア社長」

 

「にゅっにゅっ」

 

 桃色の髪をし澄んだ緑の目をした少女が必死に捜し物をしていた。

 少女の顔の横から両サイドに纏めている伸びた髪が揺れる。

 ここは物置だろうか。

 色々な箱と段ボールが並べられていた。

 

「変だなぁ、大掃除の時にアリア社長の物も此処に入れたはずなのに……」

 

 少女は腕を組み考え込む。

 

「ぷぃにゅー……?」

 

 アリア社長と言われた白く丸いぬいぐるみ見たいな猫も首を傾げる。

 

「にゅ?」

 

 アリア社長は積み重なっている段ボールの隙間からある物を発見した。

 

「ぷぃぷぃっ」

 

―ズルズル

 

 アリア社長はそれを引っ張る……そして。

 

ドンッ!バサバサーッ!!

 

「ぷいにゅ〜!」

 

「ああ!アリア社長!?」

 

 段ボールが崩れ、辺りに物が散らばる。

 

「アリア社長!大丈夫ですか!?」

 

 

 少女は急いで段ボールの下敷きになったアリア社長を助けだす。

 

「…ぷぃー」

 

 アリア社長は半泣き状態だがケガはしていないようだ。

 

「良かった〜ケガはしてないようですね!あっ、在ったんですねニット帽?」

 

「ぷいにゅー!!」

 

 アリア社長は満足気に少女にニット帽を見せる。

 

「はひー、でもまた片付けをしなきゃいけないですね……あれ?」

 

 段ボールは中身が散らばった状態で散乱している。

 その中で一冊のスケッチブックが落ちていた。

 

 

「何でこんな所にスケッチブックが?」

 

 少女がスケッチブックを手に取る。

 

「ぷぃぷいにゅー!!」

 

 そのスケッチブックを見るなりアリア社長は嬉しそうに飛び跳ねる。

 

「ほへ?どうしたんです?アリア社長??」

 

「ぷぃぷぃ!」

 

「中を見て良いんですか?」

 

「ぷぃ!」

 

 アリア社長はこくんと、うなずく。

 

「じゃあ…」

 

パラッ…

 

 少女がスケッチブックの中を見る。

 

「……わぁ!!」

 

 少女は感激の声を上げた。

 

 

 

 

 

 外は夕暮れ時。

 ARIA COMPANYと看板がある建物に女性が入って行く。女性は階段を上がる、二階はリビングルームになっているようだ。

 

「ただいま、灯里ちゃん」

 

「はひっ!?お帰りなさいアリシアさん!」

 

 桃色の髪をした少女―灯里は女性の存在に気付いていなかったのだろう、ビックリしながら椅子から立ち上がった。

 

「あらあら、灯里ちゃん。アリア社長のニット帽は見つかった?」

 

 腰まで伸びた金髪をひとつミツアミをした女性―アリシアは優しく微笑みながら灯里に聞く。

 

「はひ、見つかりました!」

 

「ぷいにゅー!」

 

 アリア社長がアリシアにニット帽を見せる。

 

「あらあら、良かったですね。アリア社長……あら?灯里ちゃん、それ……」

 

 アリシアは灯里が見ていた物に目が止まった。

 

「あのっ!アリシアさん!これ、偶然アリア社長が倒した段ボールから出てきたんですけど……」

 

 灯里はアリシアにスケッチブックを見せる。

 

「……あらあら!懐かしいわ、何処にしまったか分からなくなっていたのよ」

 

 そう言い灯里からスケッチブックを受け取る。

 

「とっても素敵な絵、ですね……この絵って昔の、半人前(シングル)時代のアリシアさん達がいっぱい描いてありますね。グランマやアリア社長も」

 

 スケッチブックに描かれているのは、人物画だった。それも、モデルをしてもらっている絵ではなく、まるで日常の1コマを写真に撮ったみたいな出来の絵ばかりだった。

 

 

「ええ、本当に懐かしいわ……彼、元気かしら」

 

 アリシアは目を細め、とても優しい眼差しでスケッチブックを見る。

 

「彼?この素敵な絵を描いたの、男の人なんですか?」

 

「そうよ、色々事情があってARIAカンパニーで1年半ほど暮らしていたの。事務の仕事も手伝ってもらってたし、晃ちゃん達と一緒に舟(ゴンドラ)の練習にも参加してたわ」

 

 ニコニコ笑いながらアリシアは語る。

 

「ほへー、ゴンドラの練習ですか?男の人なのに?」

 

「ええ、それもゴンドラの操縦技術は、あの頃の私達以上だったかもしれないわね」

 

「ええー!アリシアさん達以上ですか!?スゴいですね!!」

 

 灯里が驚く。

 

「うふふ。そうね、彼が女の子だったらライバルだったって。よく晃ちゃんが言ってたわね」

 

 クスクス、とアリシアは思い出しながら語る。

 

「……もう何年も会って無いんですか?その人は地球(マンホーム)の人なんですか?」

 

 不思議そうに灯里が聞く。

 

「……マン……ホームね。確かにそうね……でも、会えないわね」

 

 アリシアは複雑そうな顔をしながら呟く。

 

「アリシアさん?」

 

「……うん、何でもないわ。……いつの日か会えると良いわね、灯里ちゃんの事も紹介したいわ」

 

 うふふとアリシアは笑う。

 

「はっはひ、その人って私の先輩になっちゃいますよね?」

 

「あらあら、確かにそうなるわね。私は彼の事は、兄みたいに感じてたのよ」

 

 スケッチブックを見ながらアリシアは微笑む。

 

「そっそうなんですか!?うわー……会ってみたいなぁ」

 

「……ええ、会いたいわね」

 

 アリシアは窓の外を見つめる……外はもう暗くなっていた。

 

「あらあら、夕飯の支度をしなくちゃいけないわね」

 

「えっはひ!手伝います」

 

「ぷいにゅー」

 

 

 灯里がキッチンに走っていく。

 

「……いつか会えるかしら」

 

 灯里を見つめながらアリシアは呟いた。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 ―……深夜。

 自分の家の庭先に青年が居た。

 静かだ……道路を見ても人も車も通らない。

 

「綺麗な満月だな」

 

 青年が夜空を見つめていた。

 

「あの日から3日か……」

 

あの日ー……黒猫が青年の前に現われてから3日が経っていた。

 

「満月の夜に、迎えに行くか。多分、今日来るんだろうな…」

 

 月をぼーっと見ながら青年は呟く。携帯電話の時計を確認する。

 

「……もうすぐ2時だな」

 

 ……そして携帯電話の時刻が深夜2時に変わった瞬間。

 

―…ザァ

 

 

 突然風が吹いた。

 周りの木々が騒めく。

 

 

にゃーん……

 

 

 いつの間にか青年の前にあの黒猫が居た。

 

 青年は驚きもせず、黒猫の瞳を見る。

 

「こんばんは。相変わらず、月と同じ綺麗な瞳だね」

 

 ニコッと笑いながら青年は黒猫に語り掛ける。

 

「何でまた、僕を呼ぶのか分からないけど……どうせまだ理由は教えてくれないんだろ?」

 

―……黒猫は何も答えない。

 

 

 青年がそういうと黒猫はまるで蜃気楼のように体が揺らいでいく。

 

 そしてー…。

 

 黒猫が消え、青年の前には牡牛程の大きい黒猫が立っていた。

黒猫は貴族服を着ていて、お腹には白いブチ模様がある。

 

「また会えるとは思ってなかったよ。猫の王様ケット・シー!こっちの準備は出来てるから……行こうか?水の惑星アクアに!」

 

 青年が嬉しそうに笑顔で言う。

 

 ケット・シーは頷き。

 青年の頬に手を触れる。

 青年は自分の頬に触れているケット・シーの手に自分の手を伸ばし軽く触れながら目を閉じる。

 

―……次第に青年の意識は遠退いていく。

 

 

(懐かしい感じ……水の音が聞こえてくる……)

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 一艘の黒いゴンドラに三人の少女と三匹の猫が居た。

 灯里はオールを握りゴンドラを漕いでいる。

 

「へー、そんな人がARIAカンパニーにいたんだ?晃さんからは聞いたことないわねー」

 

「藍華ちゃんは聞いたことないんだ?」

 

 長い両サイドにしたみつあみ青みがかった黒髪の少女―藍華はんっ、と公定するように答えた。

 

「アリスちゃんは?」

 

「私も、アテナ先輩から聞いたことありませんね」

 

 灯里の問い掛けに翡翠色のロングの髪の少女ーアリスが答える。

 

「そう……」

 

「アンタねー、そんな残念がることないでしょ?」

 

 シュンっと残念そうな顔をする灯里を見て藍華は呆れながらため息をはいた。

 

「ええー!だって私の先輩なんだよ?アリシアさん以外からも話聞けないかなぁって思って」

 

「……灯里先輩。その人、男の人なんですよね?水先案内人(ウンディーネ)じゃないのに先輩なんでしょうか?」

 

 アリスの疑問にり灯里は。

 

「でもARIAカンパニーで働いてたんだから先輩だよー!」

 

「……はぁ、そうなりますか」

 

嬉しそうに答える灯里を見てアリスも少々呆れ気味だった。

「そーいや、その人、名前なんてーの?」

 

「ほへ?名前?」

 

 藍華の質問に灯里は気の抜けた顔をする。

 

「……アンタ。名前聞いてないの?」

 

「ああー!うん。アリシアさんも『彼』って言ってたし」

 

「……でっかい間抜けです」

 

 灯里を見ながらアリスは呆れる。

 

「まぁいいかっ!灯里、確かその人が描いたスケッチブックに昔のアリシアさんがいっぱい描いてあるのよね!?」

 

「うん。晃さんもアテナさんもいっぱい描いてあったよ!」

 

 藍華の目が輝く。

 

「よっし!早く練習終わらせてアリシアさんの絵を見ましょう!灯里!早くARIAカンパニーに行くわよ!!」

 気合い入りまくりの藍華に対してゴンドラを漕いでいる灯里は。

 

「ええー!待ってよ〜この岬、潮の流れが複雑すぎて進みにくいんだもん」

 

 灯里の漕いでいるゴンドラは進むのに悪戦苦闘している。

 

「はぁー、この岬かなり難しいんだっけ……後輩ちゃん漕いでみる?」

 

「……早くARIAカンパニーに行きたいからって、私に振らないで下さい藍華先輩」

 

 アリスが呆れた顔をして藍華に突っ込みを入れた。

 

 その時ー……。

 

 

「ぷいにゅー!!」

 

「ほへ?アリア社長?」

 

「まぁー!!」

 

「どうしたんです?まぁくん」

 

「……ヒメ社長?」

 

 今まで静かだったアリア社長とまぁくんと呼ばれた火星猫の子猫が水面を見ながら鳴きだした。

 ヒメ社長と言われた地球猫の黒猫も、水面をじっと見つめる。

 

 

 その直後。

 

 

カッ…!!

 

 

 

 水面がいきなり光に包まれた。

 

「ふぇー!?」

 

「ぎゃーすっなっ何!?」

 

「でっでっかい光です…!?」

 

 三人は光を見て叫ぶ。

 

 水面が揺れ、灯里は必死にオールを使いゴンドラのバランスを保つ。

 

―光と揺れが治まり水面に静寂が訪れる。

 

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 水の中ー……。

 青年は意識を取り戻す。

 

 

(なっ!?水!?)

 

 ゴブッっと、水の中で息を吐き出してしまった青年は慌てて、水の中をもがく。

 

(そういえば、前も水の中だったよな!?)

 

 青年は息を吸おうと、上に向かって泳ぐ。

 そしてー……。

 

「ぶはっあ!!」

 

 ザバッっと水面から青年の顔が出てくる。

 

「っはー……ビックリしたぁ」

 

 青年は息を吸うと安堵したように呟く。

 

「ぷいにゅー!!」

 

「ん……その声は」

 

 青年が前を見ると、そこには黒いゴンドラが水に浮かんでいた。

 

「なっ人!?」

 

「何処から出て来たんですか!?」

 

 いきなり水の中から人が出て来て三人は驚く。

 

「にゅっにゅっ!」

 

「アリア社長!危ないですよ〜」

 

 アリア社長はその青年の姿を見て嬉しそうにゴンドラの上で跳ねる。

 

「……アリア!それにそのゴンドラにその格好……」

 

 青年はゴンドラに乗っている三人の少女達を見て確信した。

「また…火星(アクア)に来れたんだ」

 

そう言って青年は嬉しそうに呟くのだった。

 




1話目終了です!
最初は少し読みにくかったかもしれませんね。


主人公君の時代の視点と、灯里の時代の視点を交互に書いてしまいました。

次の話から完全に主人公君の火星(アクア)での生活が始まります。

ちゃんと主人公君の名前も出ます。
…話が落ち着いたら主人公の設定も載せていく予定です。

…文章に変なところがありましたらご報告くれると有りがたいです。


それでは、此処まで読んでくれてありがとうございました!


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第2話―青年と少女達とゴンドラ―

2話目投稿です。


主人公君の名前がわかります。


水の中から現れた主人公と灯里達との出会いが始まります。


 

 水だ……青年は水の中に居た。

 

 

「………」

 

 先程の光に、突然水の中から現われた青年。

 舟(ゴンドラ)に乗っている少女達はビックリした顔で青年を見つめている。

 

「……あのー、すいません……よかったらゴンドラに乗せてくれませんか?」

 

 何時までも、水の中に居るわけにもいかないので、青年は少女達に声をかけた。

 

「……はっはひ!大丈夫ですか!?」

 

 青年の問い掛けに少女達は我に返る。

 

「ちょ!灯里!こんな怪しい奴乗っけるの!?」

 

「はい、でっかい怪しいです」

 

 ゴンドラを青年に近付けようとした灯里を藍華とアリスが止める。

 

「でも、このまま水の中に居たら大変だよ」

 

 季節は冬も深まっているそんな時季に水の中に人が居るのだ。

 

「それに、アリア社長の知り合いみたいだよ?あの人」

 

「へっ……?」

 

「ぷいにゅー!」

 

 

 アリア社長を見ると頻りに青年に声をかけているようだ。

 

「ぷぃぷいにゅー!!」

 

 アリア社長は灯里を急かすようにパタパタと手を振る。

 

「はひ!今助けますね!!」

 

 灯里はゴンドラを漕ぎ始める。

 

「はぁー、助かったよ。ありがとう」

 

 ゴンドラに引き上げられた青年は苦笑いをしながら少女達にお礼を言う。

 

「いえ。でも早く服を乾かさないと大変ですよ」

 

「……ああ、そうだね。まさか、こんなに寒い時季だとは……雪が積もってなくて良かったよ」

 

 灯里に心配されて青年は困ったように呟いた。

 

「……先輩方、この人でっかい変です」

 

 アリスは青年を見て言う。

 

 青年の外見は、銀色がかった水色の髪に青い瞳。

 背は高いが顔つきは中性的……いやどちらかと言うと女顔だろう……。

 青年の外見は問題はないが、アリスが一番に気にしているのは青年の顔立ちではなく、服装だった。

 この冬になり始め風も冷たい日に、長袖でのTシャツにジーンズだけでコートなどの上着を着ていない……。

 明らかに、青年は冬の服装ではないのだ。

 

「でもー……」

 

 灯里が何か言い掛けたその時。

 

「ぷいにゅー!」

 

「アリア!!久しぶり!」

 

 アリア社長はずぶ濡れにも関わらず青年に嬉しそうに抱きついた。

 

「あっ……あの、アリア社長とお知り合いなんですか?」

 

 灯里はおずおずと、青年に聞く。

 

「ああ!アリアは友達だよ。ねっ?」

 

「ぷいにゅー」

 

 青年の言葉にアリア社長は同意するように鳴く。

 

「キミ達、水先案内人(ウンディーネ)だよね?ARIAカンパニー、姫屋、オレンジぷらねっと……だね?」

 

「はっはい!私はARIAカンパニーの水無 灯里です!こっちが姫屋の藍華ちゃんとオレンジぷらねっとのアリスちゃんです!」

 

 青年の質問に灯里は自己紹介をしながら答える。

 

「こりゃ!灯里!!何勝手に答えてんのよ!」

 

 藍華が怒る。

 

「ええー!だって〜」

 

「今、でっかい怪しいって言ったばっかりですけど…」

 

 アリスは呆れた顔をしている。

 

「あはは!面白いねキミ達。僕は秋原 碧(あきはら あおい)宜しくね?」

 

 三人のやり取りが本当に可笑しかったのだろう、青年―……碧は笑いながら自己紹介をする。

 

 

「……で、アンタがアリア社長の友達ってのは分かったけど、何で水の中から出て来てるのよ?」

 

「あっ藍華ちゃん!」

 

 藍華のタメ口質問に灯里が慌てる。

 

「うーん……ちょっと説明しにくいかな……?」

 

 流石にこの状況は説明しても信じてもらえるか……碧は考える。

 

「……さっきのでっかい光と関係があるんですか?」

 

 アリスが碧に聞く。

 

「光……?ああ、まぁね」

 

「にゅっにゅつ」

 

「……アリシア?ああ、そうだね。」

 

碧はアリア社長の声にはっとした。

 

「この人……アリア社長とお話してます?」

 

「ほへー?アリア社長の言葉分かるのかなぁ」

 

「……まさかぁ」

 

 三人がヒソヒソと話をしていると。

 

「あの、キミ達さアリシア・フローレンス、晃・E・フェラーリ、アテナ・グローリィって子達知ってるかな?キミ達と同じ会社なんだけど」

 

「…………」

 

 碧の質問に灯里達はポカンとした顔をする。

 

「……どうしたの?」

 

 碧は三人の反応を見て不思議そうにしている。

 

「あっいえ、ちょっとビックリしちゃいました……アリシアさん達は私達の先輩ですよ」

 

 はっとしたように灯里は答える。

 

「アンタ。何、当たり前のこと聞いてくんのよ……姫屋の晃さんを知らないわけ無いでしょ!」

 

「アテナ先輩の事を会社で知らない人は居ませんよ」

 

「えっと……じゃあ先輩って事はアリシア達って……一人前(プリマ)なんだよね?」

 

「……………」

 

 碧の質問に灯里達は固まった。

 

「…??」

 

 碧はまた不思議そうな顔をする。

 

「アンタ、アリシアさん達……いや、水先案内人(ウンディーネ)のこと知らなすぎでしょ!?」

 

「あっ藍華ちゃん…!」

 

「藍華先輩落ち着いてください……この人、私達の制服を見て会社名は知ってるんです。それにアリシアさん達の事も聞いてるんです知らない訳ではないと思いますよ?」

 

 アリスに言われて、藍華はムッとした顔をして碧に話しかけた。

 

「……質問していい?」

 

 藍華が口を開く。

 

「うん?」

 

 碧が頷く。

 

「水先案内人(ウンディーネ)についてどの位知ってる?」

 

「……水先案内人(ウンディーネ)はネオ・ヴェネツィアの観光案内をする唯一、女性がなれるゴンドラ漕ぎの職業で、ネオ・ヴェネツィアは水路が多いからその水路を使い観光案内をするから、水先案内人って言うんだよね?」

 

「じゃあ、私達のランクについても知ってますか?」

 

 アリスが口を開く。

 

「うん。水先案内人(ウンディーネ)には三つのランクがあって見習いの両手袋(ペア)、半人前の方手袋(シングル)、一人前の手袋なし(プリマ)ってランクがあるよね。お客をゴンドラに乗せることが出来るのは手袋なし(プリマ)で指導員が居れば方手袋(シングル)でもお客を乗せることができて、両手袋(ペア)はお客をゴンドラに乗せることが出来ないんだよね?」

 

「じゃあ……水の3大妖精をご存じですか?」

 

 灯里が口を開く。

 

「……?知らないな」

 

 碧は首を傾げる。

 

「なぬっ!?こんなに水先案内人(ウンディーネ)の知識があって水の3大妖精を知らない!?」

 

 藍華が信じられないっと声を上げる。

 

「水の3大妖精は一人前(プリマ)水先案内人(ウンディーネ)の中でも特に技量がある三人の一人前(プリマ)の事なんです。卓越した能力と実績から水の3大妖精として讃えられているんですよ」

 

 灯里が説明をする。

 

「……その三人の一人前(プリマ)って」

 

「とぉーぜん!アリシアさん達の事よ!」

 

 藍華が得意げに言う。

 

「……………すっ」

 

「はひ?どうしました?」

 

「凄い!!アリシア達はそんなに凄い一人前(プリマ)になっていたんだ!!」

 

 碧はまるで自分のことかのように嬉しそうに笑っていた。

 

「……本当に知らなかったんですね」

 

 アリスが呆れた顔をしながら呟く。

 

「ねぇ!僕をARIAカンパニーに連れて行ってくれないかな?」

 

「ほへ?ARIAカンパニーにですか?」

 

「うん、僕の事を説明するならアリシアが居たほうが良いと思うし」

 

「あっでも……」

 

 灯里は困った顔をする。

 その意図が分かったのか碧は苦笑いをする。

 

「……残念ながら、僕はお客にはならないと思うよ?」

 

 少女達の手を見ると、灯里と藍華は方手袋、アリスは両手袋だった。

 つまり少女達は半人前(シングル)と見習い(ペア)、お客をゴンドラに乗せることは出来ないのだ。

 

「それ以前に、アンタ怪しいから。アリシアさんに会わせれるワケないでしょ」

 

 藍華がじろりと碧を睨む。

 

「ありゃ?うーん……僕はアリアと友達だし、アリシア達とも友達なんだよ」

 

「……友達なのにアテナ先輩達が一人前(プリマ)になってること知りませんでしたよね?」

 

 アリスがジトっと怪しそうに碧を見つめる。

 

「僕が住んでる所はそーゆー情報が分からない場所なんだ。勿論、アリシア達に連絡も出来ないしね」

 

 残念そうに碧が答える。

 

 碧は考え込んでいる灯里の目の前に立つ。

 

「じゃあ、こうしない?僕はアリシア達と友達だ。それに後輩のキミ達とも友達になりたいと思うよ!だから……よかったら僕と友達になってくれませんか?」

 

 ニッコリと碧は笑い灯里に手を差し出す。

 

「はひ?お友達……ですか?」

 

 灯里は目を丸くする。

 

「……まさか、灯里の友達論理を先にやる奴が居るなんて」

 

 藍華が驚きと呆れを含んだ視線を碧に向ける。

 

「……ダメかな?」

 

 碧は困ったように首を傾げる。

 

「いっいいえ!!じゃあ、お友達です!」

 

 そう言って灯里は笑顔で碧の手を握る。

 

―……その時。

 

(えっ……この子から猫妖精(ケット・シー)の力を感じる……まさか)

 

「……どうしました?」

 

 じっと灯里の顔を見つめる碧。

 灯里は不思議そうに首を傾げる。

 

「あっ……いや。灯里ってケット・シーに会ったことあるんだね?」

 

「ケット・シーって……あの猫の王様の?」

 

 藍華が怪訝そうな顔をする。

 

「はっはひ!?なっ何で知ってるんですか??ケット・シーさんをご存じで!?」

 

 碧の問い掛けに灯里は混乱しながら話す。

 

「うん、まぁね。灯里って色々な事を素直に……素敵に感じることが出来る子なんだね?良い事だよ」

 

 碧は灯里の瞳を見ながら話す。

 

「……こんな形で、ケット・シーに気に入られた子に逢えるなんて思わなかったよ。この出会いに、この奇跡に感謝だね!」

 

「はっはひ!」

 

 碧と灯里はニッコリ微笑む。

 

「何だかよく分かんないけど、恥ずかしいセリフ禁止ー!!」

 

「ええー!」

 

「ありゃ?」

 

 藍華のツッコミに二人は困った顔になる。

 

「……兎に角、話が進まないのででっかい怪しい人ですけど、ARIAカンパニーに連れていきますか?」

 

 今まで黙っていたアリスが灯里に聞く。

 

「うっうん、もうお友達だし、早く服を乾かさないと風邪引いちゃうもの」

 

 そう、碧はずぶ濡れのしかも薄着だ。こんな冬の日にこの状態では風邪を引いてしまうだろう。  

 灯里はゴンドラを漕ぎ始める。

 

 

「ぷいにゅー!!」

 

 

 暫くゴンドラを漕いでいると、アリア社長の悲痛の鳴き声がこだまする。

見ると、アリア社長のお腹に火星猫の子猫が噛り付いていた。

 

「アリア!?」

 

 碧はしがみ付いてきたアリア社長に噛り付いている子猫を離す。

 

「……この子は?」

 

 子猫を自分の顔まで持ってきて碧が尋ねる。

 

「オレンジぷらねっとのまぁ社長です、そっちに居るのは姫屋のヒメ社長ですよ」

 

 灯里が説明をする。

 

「水先案内人業界はアクアマリン……海難避けの象徴として青い瞳の猫を各会社の社長にしてるんですよ」

 

「うん……知ってるよ、あっ、確かにまぁの瞳も青いね。小さくて分からなかったよ」

 

 碧がじっとまぁ社長の顔を見ていると。

 

「まぁ!」

 

―がぶりんちょ!

 

「おわ?」

 

 まぁ社長が碧の頭に噛み付いた。

 

「まぁくん!?」

 

 アリスが慌てて離そうとする。

 

「「まぁ社長がアリア社長のお腹以外に噛み付いた!?」」

 

 灯里と藍華も驚く。

 

「あはは、いきなりあまがみしないでくれよ〜まぁ」

 

「「「えっ?」」」

 

 三人が不思議そうに碧を見る。

 

「僕は平気だよ、そんなに痛くないし。あまがみしてるだけみたいだよ?」

 

 まぁ社長を頭に付けたまま碧は笑う。

 

「……アリア社長のもちもちぽんぽん以外に気に入ったんですか?」

 

 アリスは信じられない顔をした。

 

 

 そしてまた、灯里がゴンドラを漕いでいると…。

 

 きゅー……きゅー……

 

「あれ?」

 

 灯里がゴンドラを漕ぐのを止める。

 

「どしたん?灯里?」

 

 藍華とアリスが灯里を見つめる。

 

「今、猫さんの鳴き声がしたような気がして」

 

 灯里はキョロキョロと周りを見る。

 

「んー?こんな岬の何処から鳴き声がするのよー?」

 

「……でっかい謎です」

 

 皆も辺りを見渡す。

 

「―……あっあれ!」

 

 碧が上を見ながら叫ぶ。

 

 見ると岬の崖っ淵に一匹の火星猫がしがみ付いていた。

 

きゅー……!

 

 火星猫は必死に助けを求めるように鳴いていた。

 火星猫は今にも崖から落ちそうだった。

 

「灯里!」

 

「うん!」

 

 藍華の声に灯里は火星猫に向かってゴンドラを漕ぎだす。

 

 だがー……。

 

「灯里先輩、遅いです!このままじゃ猫が水の中に落ちてしまいます!」

 

 揺れるゴンドラにしがみ付きながらアリスが叫ぶ。

 

「分かってるけど、潮の流れが複雑で進みにくいの!」

 

 灯里は懸命に漕いでいるが中々ゴンドラは進まない。

 

「……ねぇ、灯里!僕にゴンドラ漕がしてくれないかい?」

 

 碧が真剣な顔で灯里に頼む。

 

「アンタ何言ってんのよ!この岬は潮の流れが複雑で難しいのよ!?」

 

 藍華が叫ぶ。

 

「うん、分かってる。お願い灯里!」

 

 碧の真剣な眼差しに灯里は。

 

「……どうそ!」

 

 オールを碧に渡した。

 

「ありがとう!」

 

 そういうと碧は立ち上がりゴンドラを漕ぎだす。

 ゴンドラはぐんぐんスピードを上げていく。

 

「嘘……」

 

「わぁ……」

 

「でっかい凄いです!」

 

 ゴンドラはかなりのスピードを出しているが、全然揺れていなかった。

 

「き……ゅー」

 

 火星猫が力尽き崖からずり落ちる。

 

「セーフ!!」

 

 その瞬間、間一髪でゴンドラは火星猫の真上に着き、火星猫を碧がキャッチした。

 

「大丈夫?」

 

 碧が火星猫に聞くと。

 

「きゅー!」

 

 火星猫は元気良く鳴いた。

 

「良かったですね!」

 

「うん!」

 

アリスと灯里はホッとしたような顔をして碧の手の中に居る火星猫を見つめていた。

 

「……でも、コイツ何者なのかしら、こんなにゴンドラを漕げるなんて」

 

「あっ」

 

 藍華の疑問に灯里はアリシアの言葉を思い出した。

 

『ゴンドラの操縦技術だったら、あの頃の私達以上だったかもしれないわね』

 

(……彼、操縦技術、アリシアさん達のお友達……まさか碧さんが……)

 

「あのっ!碧さん!もしかして昔ARIAカンパニーで働いてましたか?」

 

 灯里の質問に碧は微笑み。

 

「うん、働いていたよ」

 

 と言った。

 




2話目終了です!


次の話からアリシアさんが登場しますよ!


文章に変なところがありましたらご報告くれると有りがたいです。


それでは読んでくれてありがとうございました。


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第3話―友人と再会―

3話目投稿です!


アリシアさん登場です。


少々ゲームの遠い記憶のミラージュの話もあります。

それでは、どうぞ碧との話にお付き合いください。


 助けた火星猫を岸辺に下ろし、碧はゴンドラを漕ぐ。

 久々のゴンドラを漕ぐ感じに碧は楽しそうな顔をする。

 

「……まさか、アンタが灯里が言ってた先輩だったとは……」

 

「でも、水先案内人(ウンディーネ)の知識はそれなりにあるようですし……この、操縦技術。納得するしか……」

 

 取りあえず、なぜ水の中から碧が出て来たのかはARIAカンパニーに着くまで保留にしてもらい。

 碧はARIAカンパニーに向けてゴンドラを漕いでいた。

 最初は灯里が漕ぐのを代わろうとしたが、アリスの『碧さんが漕いだ方が早いのでは?』っと一言でそのまま碧が漕ぐ事になった。

 

 実際、碧は早くずぶ濡れの体を何とかしなければならない状態だった。

 冬の風は冷たい……悠長にしてると本当に風邪を引くだろう。

 だが、碧はゴンドラを漕ぐのに夢中で濡れていることを忘れているようだった。

 

「灯里、なにボーッとしてるのよ?」

 

「そうですよ、会いたかった先輩に会えたんですよ?」

 

 灯里は碧を見つめながら固まってしまっている。

 

「あっ……だって、だって……会いたかった人に出会えたんだよ……すごい、この広い火星(アクア)の中でこんな不思議な形で出会えたんだよ……奇跡が起きたみたい……」

 

「恥ずかしいセリフ禁止!!」

 

「ええー!」

 

 灯里の言葉に藍華がビシッっとツッコミを入れる。

 

「あははっ!」

 

 突然、碧が笑いだす。

 

「なっ何よ?」

 

「ほへ?」

 

「いや、藍華って晃に似てるなって思って」

 

「はぁ!?私が晃さんに似てる!?私は晃さんみたく鬼じゃないわよ!!」

 

「……藍華先輩、本人が居ないからって恐ろしい事言わないでください」

 

「あー……でも分かるかも。禁止ーって、晃さんもよくアリシアさんに言ってるもん」

 

 灯里が笑いながら語る。

 

「そんな事ないでしょー!!」

 

 藍華の叫びに、碧達は笑った。

 

「―っくしゅ!」

 

 碧がくしゃみをする。

 

「……大丈夫ですか?」

 

 アリスが碧に少し心配そうに訊ねる。

 

「ははは、うん。やっぱりこの状態ではキツいね、雪が降ってないだけましだけどさ……今って何月なの?」

 

「今は23月よ」

 

 藍華が答える。

 

「アクアが何月なのか調べてこなかったんですか?だから、そんな薄着なんですか?」

 

 灯里の疑問に碧は。

 

「……うん、まぁね。それにしても23月か……冬になりたてだね。」

 

 このアクアの1年は地球(マンホーム)の二倍だ。つまりは1年は24ヶ月あることになる。

 

「……寒いし、ちょっとゴンドラのスピードあげるね?」

 

 碧はそういうと、オールを握りなおし、ゴンドラを漕ぐ。

 

「ほへー……アリシアさんから聞いてたけど、本当にスゴい…」

 

 ゴンドラはかなりのスピードを出しているがゴンドラはまったく揺れていない。

 

「そう?凄いかな?僕、暫くゴンドラ漕いでないし……」

 

「操作技術はかなりのものだと思いますよ?こんなにスピード出したら普通はでっかい揺れます」

 

「んー、そうねぇ」

「はひ!碧さんスゴいですよ!」

 

「……さん」

 

 碧がポツリと呟く。

 

「碧さん?」

 

 考え込んだ顔をした碧に灯里は不思議そうな顔をする。

 

「……あの、さ。よかったらその、『さん』付け止めてくれないかな?」

 

「はっはひ!?なっ何でですか!?」

 

「……何故ですか?」

 

 灯里とアリスは困惑しながら碧を見る。

 

「あっ……いや、別にただ、さん付けが慣れてないだけだよ。藍華みたいに喋ってくれると有り難いと思うんだけどな」

 

「でっでも、碧さんは先輩になるわけですしっ!」

 

「でも、友達でしょ?」

 

 灯里の言葉に碧はニッコリと笑う。

 

「あによ?碧って敬語とか慣れてないの?」

 

「はわわ、藍華ちゃん呼び捨て……」

 

「碧だって、私達の事を呼び捨てでしょ?」

 

「うん、僕は構わないよ。歳が近い人に敬語……いや、さん付けされるのは慣れないかな?」

 

 碧は苦笑する。

 

「……私はでっかい無理です。年上の人には敬語を使うのは常識です。だからさん付けは慣れてください」

 

 アリスはキッパリと言う。

 

「あはは、そっか。別に無理にとは言わないよ、灯里もー……」

 

「…………碧、くん」

 

「えっ……?」

 

 碧は思わずゴンドラを止める。

 皆が灯里を見る。

 

「あの、呼び捨てじゃないけど……碧くんで良いか……な?」

 

 少し恥ずかしそうに灯里は聞いてくる。

 

「……うん!アリガト灯里!」

 

 碧は嬉しそうに笑った。

 藍華は呆れながら。

 

「はいはい、恥ずかしい空気禁止!」

 

「ええー!」

 

「あははっ!」

 

 碧はまた可笑しそうに笑った。

 

 

 

 

「わー……ARIAカンパニーだ……懐かしいな」

 

 碧が漕ぐゴンドラは一軒の海の上に浮かぶ建物に向かっていた。

 

 その家には大きな看板が掲げられており看板には、ARIA COMPANYっと書かれていた。

 

「じゃあ、アリシアさんに碧くんの事を伝えてくるね!」

 

 ARIAカンパニーのゴンドラ置き場にゴンドラを止めると灯里は我先にと階段を上がって行った。

 

「こりゃ!灯里!!」

 

「灯里先輩……はしゃいでるみたいですね」

 

「元気な娘だねー灯里って」

 

 碧はゴンドラの係留ロープを括り付けながら灯里の背中を見て呟く。

 

「……アンタはマイペースね。濡れてるんだからアンタも早く行きなさい!」

「体……冷えきってますよ。風邪を引いてしまいます」

 

 二人に怒られながら碧も階段を上がる。

 

「アリシアさん!!」

 

「灯里ちゃん。お帰りなさい」

 

 勢いよくドアを開けて入ってきた灯里にアリシアは微笑みながら迎える。

 

「はっはひ!ただいまですっ。あの……私、会っちゃったんです!」

 

「あらあら、誰に?」

 

 興奮しながら話す灯里に対してアリシアはニコニコ微笑みながら聞く。

 

「彼にです!あっあの、服が濡れてるから早く乾かさなきゃいけなくて……」

 

「彼?彼って……?」

 慌てながら話す灯里を見てアリシアは微笑んでいるが少し困った顔をする。

 

「ぷいにゅー!」

 

「……灯里、慌てながら話をしたって伝わらないよ。落ち着きなよ?」

 

「えっ……?」

 

 アリア社長を抱き上げながら、家の中に入ってきた人物を見てアリシアは目を丸くする。

 

「……アリシア、だよね?久しぶり!大きくなったねー」

 

「えっ……えっ?あ……碧、ちゃん!?」

 

 碧はアリシアを見て嬉しそうに微笑む。

 対してアリシアは碧を見て驚いた顔をした。

 

「アリシアさんが慌ててる!?」

 

「でっかい珍しいです!」

 

 遅れて入ってきた藍華とアリスがアリシアを見て驚く何時も、何があっても『あらあら、うふふ』と笑顔を絶やさない彼女が慌てているのだ。

 驚いているアリシアの前に碧は立つ。

 

 そして……。

 

 

「久しぶり。アリシア!」

 

 そう言ってアリシアの頭にぽんっと自分の片手を置く。

 灯里達は碧の行動に驚いたが、アリシアはだんだん落ち着いた顔になり。

 

「……お久しぶり、ね。碧ちゃん!」

 

 アリシアは笑顔で自分の頭に置かれた碧の手を取った。

 

「あらあら、本当にずぶ濡れね。またあの岬から来たの?」

 

「そうなんだよー。まさか、こっちが冬だとは思わなかったし。また水の中から来ると考えてなかったしね、一応リュックには水除けの術はかけてたんだけど……自分自身にかけるの忘れててさ」

 

 自分の背負っていたリュックをアリシアに見せながら碧は苦笑する。

 

「あらあら、取りあえずお話よりも先にお風呂ね。このままじゃ風邪を引いちゃうわ」

 

「助かるよ、あっ、でも着替えはどうしようか?一応あの時の服は持ってきたんだけど…夏服だし。サイズも少し小さいんだよね…背が伸びちゃったせいで」

 

 自分のずぶ濡れの服とリュックを見ながら碧が聞くと。

 

「服なら、あるわよ」

 

 うふふ、と笑いながらアリシアは答える。

 

「僕の……制服もあの時のままなら小さいよ?まぁ着れるとは思うけど」

 

「大丈夫よ、心配しないでお風呂入ってきてね」

 

「うん、じゃあ……お言葉に甘えるよ」

 

 微笑むアリシアを見て碧は納得し風呂場に向かう。

 碧の背中を見送るとアリシアは灯里に。

 

「……灯里ちゃん、悪いけどアリア社長と一緒に灯里ちゃんの隣の部屋から服を取ってきてくれないかしら?」

 

「ほへ?隣の部屋ですか?そういえば入ったことないですね。服って碧くんが着る服ですか?」

 

 灯里の言葉にアリシアはあらあら、と言いながら。

 

「もう、碧ちゃんと仲良くなったのね?」

 

「えっ、はい!お友達になりました!だから……『碧くん』です。さん付けは苦手だって言ってましたし」

 

 灯里の言葉にアリシアは微笑み。

 

「うふふ、相変わらずね碧ちゃんは。ええ、服の場所はアリア社長が知ってるわ。アリア社長、お願いしますね」

 

「ぷいにゅ!」

 

 アリア社長は任せろと言わんばかりに胸にぽんっと手を当て二階に向かう。

 

「あのー……アリシアさん。碧って何者なんですか?」

 

 藍華の質問にアリシアはあらあら、と言いながら。

 

「それは、碧ちゃんがお風呂から出て来たらお話しましょう?今、ココアを作るわね」

 

「生クリームのせココアですか?」

 

 アリスの目がキランと光った。

 

「ええ、皆も暖まってね」

 

 そう言うとアリシアはキッチンに向かう。

 

「はいっ♪アリシアさん!!」

 

 藍華は上機嫌になり、アリシアはまたあらあらと笑った。

 

 

 

 

「……あのさ、アリシア」

 

 風呂から上がった碧は不思議そうにアリシアを見る。

 

「なぁに?」

 

 アリシアはニコニコ笑っている。

 灯里はすごく素敵な物を見るような顔をし。

 藍華は苦笑をしながら碧を見つめ。

 アリスは呆然としながら碧を見ていた。

 

「……何でサイズがピッタリな制服があるんだ?」

 

 そう、碧が着ているのはARIAカンパニーの水先案内人の男性用制服(冬服)だった。

 

「うふふ、驚いた?実は前の制服以外にもう一着仕立て直していたのよ」

 

「はぁ……何でまた?」

 

「だって、前に背がまだ伸びるんじゃないかって話してたでしょ?だから少し大きい制服も作ってたのよ。着る機会があって良かったわ」

 

 ニコニコしながらアリシアは嬉しそうだった。

 

「あー……そうだったんだ。あっココア……、アリガト」

 

 碧は納得しながらアリシアからココアを受け取る。

 

「あのー、そろそろこの状況を説明してもらえますか?」

 

「でっかい謎なんですけど……」

 

 藍華とアリスが不思議そうに碧とアリシアを見る。

 灯里はボーッとしながら一言。

 

「碧くん、制服似合う……」

 

「確かに、碧さんも違和感ありませんね」

 

「確かにまたこんな格好する奴を見ることになるとは思わなかったけどって……灯里、後輩ちゃん、黙って。」

 

 藍華はため息をつく。

 

「また?」

 

 ため息を吐いた藍華に碧が不思議そうに聞いた。

 

「……前にARIAカンパニーに泊まってた奴がアンタと同じ格好させられてたのよ……まあ、アイツは夏服だったけどね」

 

「……へぇそれは……お仲間が居たとは思わなかったよ」

 

「うふふ、碧ちゃん皆もこっちに来て座りながら話ましょう?」

 

「あっ……うん」

 

 なんとも言えない顔をしている碧に暖炉の前で人数分のクッションを用意しているアリシアは笑顔で皆に声をかけた。

 碧とアリシア、向かい合わせに灯里達が座る。

 

「どっから説明すれば良いかな?」

 

 碧は考え込むがアリシアが。

 

「まず、何処から来たのか……そこから話すべきじゃない?大丈夫よ灯里ちゃん達なら信じてくれるわ」

 

「……信じる?」

 

 灯里は首を傾げる

 

「さっき水の中から光を見たって言ってたよね。僕がこのアクアに来たのはその光が原因なんだ、僕はマンホームから来たんだ……ただ」

 

「ただ……?」

 

「僕はマンホーム暦で2013年……大体300年前から来たんだ」

 

「…………ほへ?」

 

「…………は?」

 

「…………え?」

 

 灯里、藍華、アリスはポカーンっとした顔をした。

 

「あはは、皆固まってるねぇーでも本当の事だからね?」

 

 ニコニコ笑いながら話す碧。

 

「……本当に?」

 

 藍華が真剣な顔で聞いてくる。

 

「うん。本当だよ……灯里は分かるかな……僕は猫妖精(ケット・シー)の力でこの時代に来たんだ」

 

「ケット・シー……でも、何で……?」

 

 灯里の質問に碧は少し考え込み。

 

「さぁ……?前にアクアに来た時も、今回も……最初は理由は教えてくれなかったんだ。多分、『その時』が来るまで教えてくれないと思うよ」

 

 碧はココアを一口飲む。

 

「……その時、ですか?」

 

 アリスが首を傾げる。

 

「うん……多分このアクアに何か起こるんじゃないかと……思う」

 

「……また、前みたいなことが起きるのかしら?」

 

 アリシアが深刻そうな顔をする。

 

「あー……どうだろう?でも……何とかなるんじゃない?前だって何とかなったんだし」

 

 ニッコリと碧は笑う。

 

「……あのー、アリシアさんそれってどういう事でしょうか?」

 

 藍華がよく分からないという顔をする。

 

「ああ……それはね、前に僕がアクアに喚ばれた理由が……アクアに大きな時空の歪みが出来て、このアクアのバランスが崩れそうになったんだ……結果的にはケット・シーが僕を喚び出した理由は時空のバランスを正すためだったんだ」

 

「……そんな事があったなんて……でっかい知りませんでした」

 

 アリスは目を丸くする。

 

「あー……まぁ、知ってる人はアリシア達数人くらいで後はいないと思うよ?」

 

「ほへー……それって津波よりも凄いことなのかな?」

 

「津波?アクアで津波なんか起きたのかい!?」

 

「ええ、碧ちゃん落ち着いてね?確かに大きな津波だったけど思ったより大きな被害はなかったのよ」

 

「はひ!迅速に避難が出来たんで、ケガ人も建物も流されたりとかは殆どなかったですから」

 

「そうなんだ……良かったよー」

 

 アリシアと灯里の説明に碧はホッとしたように息を吐いた。

 

「でも、その時空が歪むって事で何で碧が喚ばれるのよ」

 

 色々ずれてしまった碧の話を藍華がまた聞き返した。

 

「ん?それは僕の魔力が強いからだと思うよ、あの時結果的には自然に集まってしまった魔力的な力がアクアの時空を歪めそうになってたからさ」

 

 さらっと碧が言う。

 

「「「魔力?」」」

 

 灯里達の声が重なる。

 

 

「うん、僕は魔法使いだから」

 

 

 目を丸くしている灯里達に向かって碧はニッコリと笑った。

 




3話目終了!


大雑把ですが碧の過去の理由が判明しました。(急すぎたでしょうか?)

中途半端ですが次に続きます!
タイトルで察してくれてると思いますが碧君は魔法使いです。
次の話はその事について触れていきますよー。


文章に変なところがありましたらご報告くれると有り難いです。


それでは読んでくれてありがとうございました!


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第4話―魔法使い―

色々トラブルもありましたが……。

4話目投稿です。

碧の魔法に少し触れたりなんかします。

それでは、3人娘と白き妖精さんと魔法使い君とのお話にお付き合いください。



 パチパチ…。

 暖炉の薪が燃えている音が部屋に響く。

 

「あのー……魔法使い?」

 

 最初に口を開いたのは藍華だった。

 

「そうだよ?僕は魔力を持ってる。だから魔法使いだよ」

 

 平然と碧は話す。

 

「……確か、地球(マンホーム)の歴史で習ったことがあります。昔は魔力を持った人間が希にだけど居たんですよね?今はもう、そんな力を持った人は居ないみたいですけど」

 

 アリスは思い出しながら話す。

 

「そのとーりだよ、その事最初に聞いた時は驚いたもんだけどね。それにしてもアリスは学んでるね!」

 碧はアリスを見てニッコリ微笑む。

 

「……私はまだ学生ですからでっかい当然です」

 

 アリスは照れたようにそっぽを向く。

 

「わぁー魔法使い……!素敵ですね!!どんな事出来るの?」

 

 灯里はキラキラ輝いた目で碧に聞いてくる。

 

「そーだねぇ……こんな事とか?」

 

「ぷいにゅ?」

 

 碧は一言何かを呟くとアリア社長の体がふわりと宙に浮き始めた。

 

「ぷぃぷにゅー♪」

 

 アリア社長は楽しそうに手足をパタパタさせる。

 アリシアはあらあらと笑いながらアリア社長を見つめ。

 灯里達はポカーンっとしながらその光景を見ていた。

 

「凄い……っ碧くん凄すぎです!!」

 

 我に返った灯里が碧の手を取りはしゃぐ。

 

「あはは、簡単な魔法だけどね、他には……」

 

 アリア社長を下に降ろすと碧は右手を前に出す。

 

 その瞬間ー……

 

ボッ!

 

「手の平から炎が出た!?」

 

 藍華が驚きながら叫んだ。

 

「あっ……熱くないの?」

 

 灯里が碧に訊ねる。

 

「うん、僕は全然平気。簡単な火の魔法だよ」

 

「……でっかい手品を見てるみたいです」

 

 アリスが呟くと。

 

「残念ながら、タネも仕掛けもないんだなぁーこれが」

 碧は笑い、手から炎が消える。

 

「他にも色々出来るけど……兎に角、僕から話せることは大体こんなもんかな?」

 

 ココアを飲み終え、碧は最後に。

 

「信じるかは灯里達しだいだけどね」

 

 と一言呟く。

 

「はひ!私は碧くんの事を信じます!!」

 

 灯里は即答した。

 

「……火星(アクア)に何か起こるってーのは、ピンとこないけど……アリシアさんも言ってるんだから……信じるしかないわよね」

 

 藍華はアリシアの顔を見て納得するように頷く。

 

「でっかい不思議ですけど……信じますよ」

 

 アリスが頷く。

 

「ねっ?大丈夫だったでしょ?」

 

 ニッコリとアリシアが碧に微笑む。

 

「うん、皆……話を聞いてくれてありがとう」

 

 碧は安心したように今までで一番の笑顔を見せた。

 

「「「…………」」」

 

 碧の心からの笑顔を見て灯里達は言葉を失う。

 

「……どうかした?」

 

 碧は不思議そうに首を傾げる。

 

「あっいえ……素敵な笑顔だなぁって思って……」

 

 灯里は顔を赤らめながら呟く。

 

「灯里!変な事言うの禁止ー!」

 

「ええー!」

 我に返った藍華がツッコミを入れる。

 

「……アリス、顔がかなり赤いよ……大丈夫?」

 

「えっ!?はっ……はい!私はでっかい大丈夫です!」

 

 アリスは碧の言葉に我に返る。

 

「あらあら、碧ちゃん……相変わらず素敵な笑顔ね」

 

「は……?素敵…?」

 

 ニコニコしながら答えるアリシアに碧は訳が分からない顔をする。

 

 本人は気付いていないが、碧は綺麗な顔立ちをしている。

 彼は中性的な顔立ちのせいか笑顔は可愛らしくも見えるし綺麗にも見えた。

 

「まぁ……取りあえず、今すぐどうこうなるわけじゃないし……なんとかなるよ。きっと」

 

 結論から言って今は何も出来ない状態だった。

 

「いい加減ねぇアンタ……」

 

 藍華はため息を吐く。

 

「アリシア……そう言えば秋乃さんは居ないの?」

 

 碧はふと、思い出したようにアリシアに訊ねる。

 

「秋乃さん?」

 

 灯里は首を傾げる。

 

「グランマの本名ですよ灯里先輩」

 

 アリスは呆れたように灯里に話す。

 

「……グランマ、秋乃さんは私が一人前(プリマ)になって直ぐに引退しるわ」

 

「えっ……そうなの?ねぇ……グランマって秋乃さんの事?」

 

 アリシアの説明に碧は驚き、そして質問する。

 

「秋乃さんは引退後にその功績から全ての水先案内人(ウンディーネ)の母、グランドマザーと言われるようになったのよ。私達はグランマって呼んでるのよ」

 

「へー、やっぱり凄いね秋乃さんは」

 

 アリシアの説明に碧は感激して笑う。

 

「もう、こんな時間ね。そろそろ夕御飯の支度をしましょうか。藍華ちゃんとアリスちゃんも食べていかない?」

 

 アリシアは立ち上がりながら藍華とアリスを見る。

 

「良いんですか!?是非!」

 

 藍華は感激して笑う。

 

「……はい、私もでっかいお願いします」

 

 アリスも頷く。

 

「ホントだ……もう暗いね」

 

 外を見ると辺りは暗くなっていた。

 

「アリシア、僕も手伝うよ」

 

 キッチンに向かうアリシアに碧は呼び止める。

 

「あらあら、良いのよ?休んでいて」

 

「いや。一緒に作ったほうが楽しいかなと思ってさ……灯里達もどう?」

 

 碧の言葉に灯里達は。

 

「はひ!そうですね」

 

「お手伝いします」

 

「勿論、お手伝いさせて下さいアリシアさん!」

 

 三人も立ち上がりキッチンに向かう。

 キッチンに向かう灯里達を見つめながら碧は。

 

「それで何を作るんだ?」

 

 笑いながらアリシアに聞いた。

 

 

 

 夕食時ー……。

 

「……美味しい!」

 

 灯里は和風パスタを一口食べ嬉しそうに声を上げる。

 

「確かに、美味しいわ」

 

 藍華も驚いた顔をする。

 

「料理をしてる時にも思ったんですが、手際も良かったですし……碧さんはお料理得意なんですね?」

 

 アリスの質問にアリシアが。

 

「うふふ、驚いた?碧ちゃんは相変わらず料理上手ね」

 

 ニコニコしながらアリシアはパスタを口に運ぶ。

 

「そうかな?でも、喜んでくれて良かったよ!」

 

 皆の反応を見て碧は嬉しそうだった。

 今日の夕食は碧がメインのパスタを作った。

 アリシアが『パスタにしようと思うんだけど碧ちゃんなら何パスタが良い?』と聞かれ、碧が和風パスタが良いと提案し、折角だから自分が作って良いかとアリシア達にお願いしたのだ。

 アリシアは快く承諾し、パスタは碧に任せ。

 灯里達と一緒にサラダやスープを作ることにしたのだった。

 

「あっそう言えば!アリシアさんが言っていた彼って碧くんの事ですよね?」

 

 突然、思い出したかのように灯里がアリシアに聞く。

 

「そうよ。そう言えば灯里ちゃんは碧ちゃんの絵を見て感動してたわね」

 

「あーそうだ!それ見せてもらおうと思ってたんだった!」

 

 アリシアの言葉に藍華は叫び。

 

「絵?絵って僕が描いたスケッチの事?」

 

 碧は首を傾げる。

 

「ええ、灯里ちゃんがスケッチブックを物置から見つけたのよ」

 

「はひっ本当に素敵な絵でした!」

 

 灯里の目が嬉しそうに輝く。

 

「あはは、ありがとう……でも、何でスケッチブックが物置に?」

 

 不思議そうに碧はアリシアを見る。

 

「……大掃除をした時にしまっちゃったのよ」

 

 アリシアは苦笑いをする。

 

「あの、後でスケッチブックを見ても良いですか?」

 

 アリスは碧に聞く。

 

「僕は構わないよ」

 

 碧は了承するが。

 

「あらあら、でもアリスちゃん寮の門限は大丈夫なの?遅くなっても平気なの?」

 

 時計を見ると時刻は7時を過ぎていた。まだ食事中で後片付けもしたら8時を過ぎてしまうだろう。

 

「……何とかなると思いますが」

 

 時計とにらめっこしながらアリスが答えるが。

 

「アリスちゃん。無理しないで絵を見るの明日にしようか?」

 

 灯里がアリスに聞く。

 

「んー、しょうがないか。今日は諦めましょうか、後輩ちゃん」 藍華はため息を吐く。

 

「………はい。でっかい残念ですけどしょうがないですね」

 

 アリスは本当に残念そうな顔をして呟いた。

 

 

 その後。

 碧の身の上話や今までのアリシア達の話を大まかに聞き、そして質問が繰り広げられ。晩ご飯の片付けが終わる頃には9時近くになっていたのだった。

 

 

「そんじゃーね、灯里」

 

「お休みなさい、灯里先輩」

 

「うん、藍華ちゃん、アリスちゃんまた明日ね」

 

 ARIAカンパニーの玄関前に藍華とアリスが立っていた。

 流石にもう、遅いので二人は今から帰るところだった。

 そんな二人に灯里はニコニコしながら見送りに出ていた。

 

「あー……アリシアさんと途中まで一緒に帰れると思ったのにぃ〜!」

 

 藍華は残念そうに叫ぶ。

 アリシアは碧の部屋の整理をしているのでその場には居なかった。

 部屋は綺麗なのだが、流石に暫く使っていないせいで埃が目立つので、拭き掃除を碧と二人でしていた。

 

「碧……ARIAカンパニーで暮らすのよねー……?」

 

 藍華は天井……正確には碧の部屋が在る位置を見つめながら呟く。

 

「うん!これからが楽しみだよ〜」

 

 灯里が上機嫌で笑う。

 

「灯里先輩……これだけは言っておきます。男の人は狼……らしいので気を付けて下さい」

 

「「だからアリスちゃん(後輩ちゃん)何処でそんな事覚えてくるの(よ)!?」」

 

 灯里と藍華のツッコミが見事にハモる。

 

「……雑誌で覚えました」

 

 さらりとアリスは言う。

 

「どんな雑誌よ……」

 

 藍華が呆れながら呟く。

 

「大丈夫だよアリスちゃん!碧くんは信用できる人だよ」

 

 灯里がニッコリと笑いながらアリスを見る。

 

「私もそれはでっかい分かってます。念の為です」

 

「ハイハイ、そんじゃあ帰るわよー後輩ちゃん!」

 

 藍華は苦笑しながらARIAカンパニーから出ていく。

 

「あっ、あのね二人とも、アリシアさんがね晃さんとアテナさんに碧くんが来た事言っておいてほしいって言ってたよ」

 

 灯里は今思い出したように二人の背中に向かって頼む。

 

「わかったわよー晃さんに言っておくわ」

 

「はい、帰ったらアテナ先輩に伝えておきます」

 

 灯里の言葉に藍華は振り向かず右手を上げヒラヒラと振る。

 アリスはちゃんと振り向き灯里に言った。

 

 灯里がドアを閉めリビングに向かうとちょうどアリシアが三階から降りてくるところだった。

 

「アリシアさん、お掃除は終わったんですか?」

 

「ええ、拭き掃除だけだったからもう終わったわ」

 

 アリシアはニコニコ笑いながら灯里に答える。

 

-……っとその時。

 

「ああーアリアー!!」

 

バシャッーゴンッ!

 

 碧の声と水の音を聞き灯里とアリシアは顔を見合せ急いで三階に上がる。

 

「どうしたの碧ちゃん?」

 

 碧の部屋に入ると碧は水浸しになった床を雑巾で拭いているところだった。

 

「あはは……アリアが自分も手伝うって言ってバケツを運ぼうとしたんだけど……見事に溢しちゃってね」

 

 見るとアリア社長は申し訳なさそうにベッドの上で丸くなっていた。

 

「ぷいにゅ……」

 

「アリアは手伝おうとしてくれてやったんだろう?その気持ちだけで僕は嬉しかったんだよ。だから気にしないでよ」

 

 碧はアリア社長に目線を合わせて微笑む。

 

「ぷいにゅ……ぷにゅ?」

 

「うん!だから元気出してよ、そうだ……せっかくだし久々に今夜は男同士で語るか?」

 

 碧はニッコリ笑い。

 

「ぷいにゅー!!」

 

 半泣き状態だったアリア社長は碧の励ましで元気になったようだ。

 

「……碧くんってアリア社長の言葉を解っているみたいですね?」

 

 灯里は始めて会った時から思っていた疑問をアリシアに聞いた。

 

「ええ、碧ちゃんは動物の言葉を理解できるのよ」

 

 床を雑巾で拭きながらアリシアはあっさりと答える。

 

「ええ!?そうなんですか!?」

 

 灯里は床を拭く手を止めてアリシアを見る。

 

「そうだよ。僕の魔力は特殊みたいだからね、因みに今夜はアリアは僕の部屋で寝ることになったから」

 

「はひっ!?」

 

 いつの間にか灯里の隣で床を拭きながら碧が答える。

 

「あらあら、でも夜更かしは気を付けてね?」

 

 アリシアはニッコリと微笑む。

 

「すごいなー。でも、特殊って?」

 

 灯里は首を傾げる。

 

「それはね、僕以外の魔法使いで今のところ動物の言葉を理解できる人居ないみたいなんだよね」

 

 大方、猫妖精(ケット·シー)に喚ばれた理由もそこにあるのかなっと床を拭きながら碧は思った。

 

 

 

 掃除を終え、碧達はリビングに降りてきた。

 

「そろそろ、帰らなきゃいけないわね」

 

 時計を見ながらアリシアが呟く。

 

「そっか、アリシアは一人前(プリマ)だもんね。此処には住んでないんだ?」

 

 アリシアの呟きに碧は思い出したように答えた。

 

「ええ、そうよ。家はARIAカンパニーの近くにあるのよ」

 

「ほー……、結構遅いし送ろうか?」

 

「あらあら、良いのよ。家は近いから大丈夫よ」

 

 そう言ってアリシアは微笑む。

 

「うーん……家は近いんだろ?散歩がてらにちょうど良いかと思ったんだけどなぁ……久々に夜の街を歩いてみようと思ったんだよ」

 

「そうなの?」

 

 そこでアリシアは考えるような仕草をする……そして。

 

「灯里ちゃん、私はもう帰るわね……それと、碧ちゃんに送ってもらうから」

 

 自分のハンドバッグを持ちアリシアは灯里にまた明日ね、と言った。

 

「はひっ、アリシアさんお休みなさい!碧くん、いってらっしゃい」

 

「ぷぃぷぃにゅー」

 

「うん、行ってきます!」

 

 アリア社長はパタパタと碧とアリシアに手を振り、灯里は微笑みながら二人を見送った。

 




4話目終了!

これまた、大雑把にですが碧の魔法と特殊能力について触れました!
この世界のオリジナル設定として《魔法使い》が過去に存在していた世界ってことになっています。
何だかオリジナリティ強くなりそうですが……お付き合いください。

さてさて、次は3大妖精さん達が勢揃いします。


本文に変なところがありましたらご報告くれると有り難いです。

それでは此処まで読んでくれてありがとうございました!


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第5話―友人達と再会―

5話目投稿です。


やっと水の3大妖精さんが揃いました。


それでは、水先案内人(ウンディーネ)さん達と魔法使い君達の話にお付き合いください。


 ARIAカンパニーを出た碧とアリシアは昔の話をしながらアリシアの家に向かっていた。

 

「……そんなこともあったね〜懐かしいや」

 

「うふふ。そうね、晃ちゃんたら負けず嫌いだからその後大変だったわね」

 

「あー……舟(ゴンドラ)レースなぁ。あの後何度も勝負を申し込まれたっけな」

 

 話題は昔の晃の事だった。

 

「体力的な勝負事はよく晃に申し込まれてたしねー楽しかったけどね」

 

 苦笑をしながら碧は冬の夜空を見上げながら歩く。

 

「そうね。あの頃も楽しかったわね……」

 

 アリシアも碧につられて夜空を見上げる。

 

「……ホント、僕は今火星に居るんだよなぁ」

 

「えっ?」

 

 ぽつりと碧は呟く。

 

「月が地球と全然違うから……ね。やっぱり月が歪な形をしてて二つあるのは変な感じだなーっと思ってさ、確か月(ルナツー)と外側の月(ルナスリー)だっけねあの月の名前は」

 

 そう言い碧はアリシアに目線を移し笑った。

 

「ええ……ふふっ碧ちゃん。昔も月の事を言って自分が火星にアクアに居ることを実感してたわよね?」

 

 アリシアは本当に可笑しそうに笑った。

 

「確かにそうだけど笑うことないだろう?」

 

 少し拗ねたように碧は夜空に目線を移す。

 

「ごめんなさい、ただ……碧ちゃんって本当に変わってないなって思って」

 

 アリシアはまだ笑っている。

 

「まぁねーでも、アリシアも相変わらずだと思うよ?そっちは五年も経っているし背も伸びて大人っぽくなったと思うけどさ」

 

「あらあら、それなら碧ちゃんも身長伸びたわよね?でも、相変わらずね」

 

 そう言って二人は笑いあった。

 

「それじゃあ、ありがとう碧ちゃん」

 

 アリシアの家にたどり着き、アリシアは玄関の前で碧にお礼を言う。

 

「ううん、僕もゆっくり話せて良かったよ。付き合わせてゴメンね?」

 

「……碧ちゃん」

 

「うん?」

 

 アリシアは呟く。

 

「また、会えて本当に良かったと思うわ……晃ちゃんとアテナちゃんも喜ぶわ」

 

 アリシアは嬉しそうに微笑む。

 それがアリシアの本音なんだと理解した碧は。

 

「…アリガト、アリシア」

 

 そう言って優しく微笑んだ。

 

 

 アリシアの家の帰り道ー……ふと、視線を感じ屋根の上を見上げると、そこには猫が居た。

 猫と言っても普通の猫ではなく猫の王様、猫妖精(ケット・シー)が居たのだ。

 

「……やぁ。無事に来る事が出来たよ」

 

 碧は呟くように話す。暫く碧を見つめていたがケット・シーは優雅にペコリとお辞儀をし、そしてまた碧を見つめる。

 

「……こちらこそ、また宜しくね?僕に何をさせたいかまだ解らないけど……きっとその内解るんだろうね……うん、何か気になることがあったら猫の集会に顔を出させてもらうかもね?」

 

 碧が答えるとケット・シーはこくりと頷き、そして姿がぐらりと揺れる。

 そしてケット・シーは姿を消した。

 碧は苦笑をしながら、視線を道に戻しARIAカンパニーへと帰っていった。

 

 

「ただいまー!」

 

 ARIAカンパニーのドアを開けると。

「お帰りなさい碧くん!」

 

「ぷいにゅー!」

 

 灯里とアリア社長に出迎えられて碧は笑った。

 

「……そう言えば、さっきケット・シーに会ったよ」

 

 碧は自室に行く前に灯里から用意されていた寝間着代わりの長袖のTシャツとジャージに着替えながら、ベッドの中に潜り込んでいるアリア社長に話しかける。

 

「ぷいにゅ?ぷいー?」

 

 アリア社長が不思議そうに碧聞いてきた。

 

「何か話したかって?うん、宜しくねってお互いに挨拶をね…後、その内猫の集会に顔を出させてもらうかもって言っただけだよ」

 

「ぷいーにゅっぷいにゅ〜」

 

 アリア社長は嬉しそうに碧に話しかける。

 

「歓迎するって?まぁ、その内ね」

 

 碧はアリア社長に笑いかける。

 その日、アリア社長と男同士の話は夜遅くまで続いた。

 

 

 次の日ー……。

 碧はいつもと違う天井に一瞬考え込む。

 

「……あれ?えーっと……ああ、此処は火星(アクア)だった……」

 

 隣で爆睡中のアリア社長と自分の部屋を見渡し碧は呟く。

 時計を見ると時刻は6時半を回ったところだった。

 

「……うーん。少し起きるのは早い……か?まぁ目が覚めたしいいか……」

 

 確かあの頃と同じならARIAカンパニーは8時位に朝食のはずだ。

 そう思いながら碧は男性用の水先案内人制服に袖を通す……ふと、着替える手を止めてこの格好で良いのか?っと改めて思ったが洗濯した自分の服はまだ貰ってないししょうがないか……と、思い碧は着替えた。

 アリア社長を起こさないように部屋を出た碧はリビングルームに降りてきた。

 軽く背伸びをし、周りを見渡す。

 

「……なんか……不思議だなぁ」

 

 ボーッとしながら碧は呟く。

 その時……。

 一階ドアが開く音がし、階段を上がる足音が聞こえてきた。

 

「おはよう、碧ちゃん」

 

 足音の人物であるアリシアはリビングの真ん中でつっ立って居る碧に挨拶をした。

「……おはよう、アリシア」

 

 アリシアに視線を向けて碧は可笑しそうに笑う。

 

「あらあら、どうしたの?」

 

 アリシアが不思議そうに首を傾げると碧は目を細めて。

 

「いや、僕が知っている光景なら……階段から上がって挨拶をするのは秋乃さんだよなって思ってね、このARIAカンパニーは全然変わってないのに、人は変わるんだなぁって思ったんだ」

 

「……そうね、時間が経てば会社は変わっていくものね」

 

 碧の言葉にアリシアも目を細める。

 

「あっ……でも、変わっても変わってないか」

 

「えっ?」

 

 碧はニッコリと笑い三階を見ると。

 

「あっ、おはようございますーアリシアさん、碧くん!」

 

 灯里が元気良く二人に挨拶をする。

 

「おはよう、灯里ちゃん」

 

「おはよ、灯里!あとー……」

 

「ぷいにゅー!」

 

 灯里の後にアリア社長が後に続いて下りてきた。

 

「アリアもおはよう」

 

「ぷいっ!」

 

 アリア社長も元気良く挨拶をする。

 

「……この、感じは変わってないよ」

 

 碧はアリシアと灯里を見て笑う。

 

「ほへ?」

 

 話内容が分からないのか灯里は不思議そうに首を傾げる。

 

「……碧ちゃん、そうかもね」

 

アリシアも灯里を見て微笑んだ。

 

 

 

 

「たのもー!!」

 

 朝食を食べ終わりカフェオレを飲みながら一息ついていると外から大きな声が聞こえてきた。

 

「はひっ。この声は……」

 

「あれ?もしかして……」

 

 碧と灯里は顔を見合わせ二階である窓から外を見る。

 見ると藍華とアリス、そして二人の姫屋とオレンジぷらねっとの制服を着た女性がARIAカンパニーの前に立っていた。

 しかも姫屋の女性は仁王立ち状態で立っていた。

 

「アリシアさん!藍華ちゃん達が来ましたー」

 

 灯里はアリシアが居るキッチンに向かって走っていく。

 アリシアはニコニコしながら。

 

「あらあら、早いわね。お茶の準備をしましょうか?」

 

 そう言ってティーセットの準備を始める。

 その光景を見て、碧は二階の窓を開けて。

 

「おはよー!久しぶりー!アリシアがお茶の準備してるから入ってきたらー?」

 

 右手に飲みかけのカフェオレのカップを持ち、左手をヒラヒラ振り訪問者達に話し掛けた。

 碧の姿を見て仁王立ちをしていた女性はすぐにARIAカンパニーの中に入ってきた。

 ドタドタドタっと凄い勢いで階段を掛け上る音が聞こえ、そしてー……。

 

「すわっ!……碧!!何でお前が居るんだ!?いや、久しぶりに会って掛ける言葉がそれかぁ!!!」

 

 姫屋の制服を着た艶やかな長い黒髪の気が強そうな女性が凄い剣幕で碧に詰め寄ってきた。

 

「いや、質問しながら怒られても困るんだけど…」

 

 碧は困ったように苦笑する。

 すると階段から。

 

「晃ちゃん〜待って〜!」

 

 少々間の抜けた声が聞こえドタドタと走る足音が聞こえてきた。

 

「あっ階段で走ったら……」

 

 碧が言い終わる前にドダンっと階段から凄い音がした。

 

「アテナー!?」

 

 音を聞いた瞬間碧は階段に向かって走りだした。

 見ると階段を半分くらい登ったところでオレンジぷらねっとの制服を着た女性が倒れていた。

 

「アテナ先輩っだから走らないでって言ったじゃないですか……」

 

 階段を見上げながらアリスは呆れたように呟く。

 

「もー、晃さん!慌てすぎですよ!」

 

 アリスの隣に居た藍華も呆れているようだった。

 

「アテナっ大丈夫か?」

 

 碧は急いで倒れていた女性を起こした。

 

「たくっ……何コケけてんだよアテナ」

 

 長い黒髪女性ー……晃は呆れながら無造作に自分の黒髪を払う。

「だって〜晃ちゃんが走って行っちゃうんだもん……」

 

 起き上がった褐色の肌の銀髪のショートヘアーの女性ー……アテナはなんとも間の抜けた声で晃に話掛ける。

 

「あっ……碧ちゃん?お久しぶりね〜会えて嬉しいわ」

 

 起き上げてくれた碧を見つめながらアテナは嬉しそうに微笑んだ。

 

「うんっ僕も二人に会えて嬉しいよ!」

 

 碧もアテナにつられて嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

「しっかし……晃とアテナも大人っぽくなったねぇ……」

 

 リビングルームの食卓テーブルに集まった皆が座りアリシアが用意した紅茶を飲みながら碧はしみじみと言う。

「晃は髪を伸ばしたんだ……アテナは髪を短くしたんだね?二人とも似合うよ」

 

「ありがとう、碧ちゃん」

 

 アテナは照れて。

 

「すわっ!!うんな事はどうでもいい!」

 

 少し顔を赤らめながら晃は叫ぶ。

 

「あらあら、晃ちゃん?落ち着いて」

 

 アリシアは晃をなだめながらも楽しそうに笑う。

 

「だいたいアリシア!お前も碧が来た事をすぐに私達に伝えないんだ!!」

 

 晃の怒りの矛先がアリシアに向くがアリシアはあらあらっと言いながら。

 

「藍華ちゃん達に伝言頼んだでしょう?それに、二人とも仕事が入ってる時に言うのも落ち着かないじゃない?」

 

「……確かにそうだが、帰ってきた藍華に、碧が来たって聞いた時は今すぐARIAカンパニーに行こうかと思ったんだぞ!?」

 

「私も〜思わず碧ちゃんに会いに行こうと思っちゃったもの……アリスちゃんに止められたけど」

 

「そうなの?」

 

 二人の言葉に灯里が藍華とアリスに目線を向けると。

 

「うん、あの時の晃さんを止めるのは苦労したわよ……夜遅いのに」

 

「はい、私もアテナ先輩を止めるのはでっかい苦労しました……」

 

 二人はうんざりしたような顔をしため息を吐いた。

 

「……そうなんだ」

 

 灯里は碧達を見つめる。

 

「でもそれだけ碧くんは大切なお友達なんだね……今すぐにでも会いたいと思える友達が居るのって素敵だよね」

 

 灯里が笑顔で言うと。

 

「………恥ずかしいセリフ禁止!」

 

 藍華がビシッと灯里にツッコミを入れる。

 

「ええー!」

 

 灯里が叫ぶ。

 

「でも、灯里ちゃんの言うとおりよ。碧ちゃんは大切なお友達ですもの」

 

 灯里達の会話を聞いていたアテナはニッコリと笑い答えた。

 

「そうよね。晃ちゃんもそう思うでしょ?」

 

「……ぐっ、そりゃそう……だが……な」

 

 アリシアの問い掛けに晃は照れ臭そうな顔をし紅茶を一口飲む。

 

「皆……ありがとね。いつまで居るか分からないけど……宜しくね」

 

 碧も嬉しそうに微笑んだ。

 

「……また何か起こるのか?」

 

 不意に碧に真剣な顔を晃は向ける。

 

「さあ?前の事で解ってると思うけど……その時にならなきゃ分かんないよ」

 

 あっさりと即答する碧を見て晃はため息を吐き。

 

「おーまーえーなぁ!来るの二回目なのにもう少し考えろよー!!」

 

「あらあら〜怒んなよー晃〜」

 

「うふふ。晃ちゃん深く考えてもしょうがないわよ」

 

「すわっ!!お前等っあらあら、うふふ禁止ー!!」

 

 晃は碧の肩をガクガクと揺さ振りながら叫ぶ。

 

「晃ちゃんっ落ち着いて〜碧ちゃんが目を回しちゃうわよ」

 

 アテナの心配もよそに碧はアリシアの口癖のあらあらを笑いながら連呼していた。

 

「……でっかい凄い光景ですね」

 

 そんな四人の光景を見てアリスが呟く。

 

「水の3大妖精の中心にいるんだもんなぁ……」

 

 藍華も呆気にとられている。

 

「皆、楽しそうだね」

 

 灯里はニコニコしていた。

 

 

「あっ……そうだ!」

 

 騒ぎも一段落した時に碧が思い出したかのように叫ぶ。

 皆は不思議そうに碧を見る。

 碧は椅子から立ち上がり。

 

「ちょっと待ってて!」

 

 そう言って自分の部屋に走っていく。

 

「なっ……なんだ?」

 

 晃の呟きに皆も首を傾げる。

 

「ゴメンねー!待ったか?」

 

 部屋から慌ただしく戻ってきた碧は手に三つの可愛らしリボンが付いた小さな袋を持っていた。

 そしてアリシア達、3大妖精の前に立ち一言。

 

「アリシア、晃、アテナ。今更だけど、一人前(プリマ)昇格おめでとう!」

 

 碧は笑顔でアリシア達にプレゼントを渡す。

 こんなサプライズがあるとは思ってなかった三人は驚いた顔をした。

 

「ありがとう……碧ちゃん」

 

「……あっ……りがとな」

 

「嬉しい……ありがとう」

 

 アリシア、晃、アテナは照れながらも笑って受け取った。

 

「開けていいか?」

 

「勿論、どーぞ」

 

 晃の言葉に碧は頷いた。

 

「何だろうね〜?」

 

 灯里達も気になったのかアリシア達の傍に寄り袋を眺めていた。

 袋を開けると中にはシルバーのブレスレットが入っていた。

 一見シンプルな作りだがブレスレット真ん中に三人の会社のイメージカラーの石が付いていて、各会社のユニフォームのデザインを象った模様がブレスレットに彫られていた。

 

「……とっても素敵ね」

 

「ああ……」

 

「うん……」

 

 アリシアの言葉に皆が頷いた。

 

「……凄い」

 

 灯里、藍華、アリスもブレスレットに釘付けになっていた。

 

「……気に入ってくれて良かったよ!シンプルなデザインで作ったからどうかなって思ってたんだけどさ」

 

 碧は安堵したような顔をする。

 

「……これ、碧さんが作ったんですか!?」

 

 アリスは驚いた顔をする。

 

「うん、一応ね青、赤、オレンジ……アリシア達の会社のイメージカラーの原石を加工して付けてみたんだけど……本当は昔、僕が居るうちに渡したかったんだけどさ。デザインを考えてる段階で僕、帰っちゃったから……」

 

 苦笑混じりで碧は話す。

 

「そういや、こんな小物を作るのも得意だったもんな……でも、何で私達に作ろうと思ったんだ?」

 

 赤色の石が付いたブレスレットを眺めながら晃は聞く。

 

「今、言っただろう?昇格祝いだよ。実は秋乃さんからアリシアがミドルスクールを卒業したら昇格試験を受けさせるって聞いてたからさ……ああ、皆そんな時期になったんだなぁって思ってね。僕なりに色々考えた結果がこれだよ」

 

 碧はブレスレットを指差す。

 

「でも、いつ作ったの?」

 

 アリシアは青色の石が付いたブレスレットを不思議そうに眺め。

 自分の顔の位置まで持ってくる。

 

「自分の時代に戻った後なんだけどね……やっぱり、デザインを考えてたら当然作りたくなってね……渡せる日が来て本当に良かったよ」

 

 照れ臭そうな顔をしながら碧は笑う。

 

「……私達の為に……作ってくれたのね」

 

 アテナはオレンジ色の石が付いたブレスレットをとても愛おしそうに眺めていた。

 

「……なんか碧って凄いわね」

 

「でっかい凄いですね」

 

 藍華の言葉にアリスは頷いた。

 

「凄いって?」

 

 不思議そうに碧は首を傾げる。

 

「……なんてゆーの?兎に角、凄いのよ」

 

「はぁ?」

 

 藍華の言葉の意味を理解できない碧はキョトンとしていた。

 水の3大妖精である、アリシア達にここまで感謝される人も余りいないだろう。

 

「おい、碧!お前、これからどうするんだ?」

 

「どうって……どうするかなぁ?今すぐに何かできるって訳じゃないし……」

 

 晃の質問に碧は苦笑する。

 

「あらあら、それじゃあまた、ARIAカンパニーで働くのはどうかしら?」

 

「あっそれ、素敵ねぇ」

 

「えっ?いいの?」

 

 アリシアの案にアテナは嬉しそうに笑い、碧は目を丸くする。

 

「いいも何もお前のその格好……どー見てもARIAカンパニーの社員にしか見えんぞ」

 

「そうよねぇ、懐かしいわよね〜」

 

 晃は呆れた顔をし、アテナはニコニコ笑う。

 

「また、前みたいに書類整理や力仕事を手伝ってくれると助かるわよ」

 

「ホント?それじゃあ……悪いけどお世話になるよ」

 

 アリシアの申し出に碧は笑顔で了承する。

 

「碧くん!ARIAカンパニーで働くんですか!?」

 

「そーだよ。宜しくね灯里」

 

「はひっ!アリア社長〜社員が増えましたよ〜」

 

「ぷいにゅー!」

 

 灯里は大喜びでアリア社長に抱きつく。

 

「お気楽ねぇ……灯里は」

 

「でっかい、同感です」

 

 藍華とアリスはため息を吐く。

 

「あはは〜まぁ、何とかなるよー」

 

 ため息を吐いている二人に碧は明るく笑い掛ける。

 

「……アンタの方がお気楽だわ」

 

「ありゃ?そうかなぁ?」

 

「でっかいお気楽すぎますよ」

 

 藍華とアリスが灯里を見る以上に呆れた視線で碧を見てくる。

 

「……藍華、アリスちゃん諦めろ。コイツはこんな奴だからな、行き当たりばったりなんていつもの事だ深刻に考えるのもバカみたいになるぞ」

 

 藍華とアリス以上に呆れた視線を碧に投げ掛ける晃。

 

「そーみたいですね、晃さん」

 

 ため息を吐く藍華。

 

「晃と藍華の視線がブリザードの如く冷たく感じるんだけど……何で?」

 

「あらあら、何でかしらねぇ?」

 

「えぇ〜晃ちゃんそんな顔しちゃダメよぉ〜」

 

「すわっ!!うっさいアテナっ!!」

 

「こらこら、アテナに八つ当たりすんなよー晃」

 

「お前のせいだろうがぁぁぁぁー!!!」

 

「「「…………」」」

 

 水の3大妖精と魔法使いのやり取りを見て、灯里達は絶句してしまっていた。

 

「あ……晃さんの気苦労が2倍以上になっているわ……」

 

「でっかい……大変そうですね」

 

「なんだか凄いねー……ふふっ」

 

 灯里はじーっと、見つめていたがいきなり楽しそうに笑顔になる。

 

「どーしたのよ灯里?」

 

「だって、アリシアさん達……すっごく楽しそうなんだもん」

 

「そうですか?」

 

 

「そもそもお前は昔と全然変わってなさすぎだろうがっ!!」

 

 晃が碧の両頬をグイッとつねりあげる。

 

「ひふれーだにゃあーこれへもぼふだってへいひょうしてるんだりょー」

 

「何言ってるんだかさっぱり解らんぞー!!」

 

 怒り気味の晃に頬をつねられても平然としている碧。

 

「あらあら、晃ちゃんが頬をつねってるせいで解らないのよ?」

 

「ねぇー碧ちゃん、ブレスレット着けてみたんだけど似合う〜?」

 

「おーにはうよ〜」

 

「はう?」

 

 首を傾げるアテナ。

 

「うふふ、晃ちゃんアテナちゃんが碧ちゃんの言葉を聞き取れないからつねるの止めてあげたら?」

 

「……ったく、わかったよっ!」

 

 晃が碧の頬をつねるのを止める。

 

「あー痛かった、アテナ似合うよ〜」

 

「えへへ〜ありがとう碧ちゃん」

 

「……全然懲りてないよなお前は」

 

 呆れて苦笑している晃。

 楽しそうに微笑んでいるアリシア。

 それに嬉しそうに碧に笑いかけているアテナ。

 

「……確かにでっかい楽しんでますね皆さん」

 

「んー、そうかもしれないわねぇ……」

 

「何だかとっても素敵だねー」

 

 そんな水の3大妖精である先輩達と時を越えてやって来た魔法使いを見つめて、後輩達は可笑しそうに微笑むのだった。

 




5話目終了!

晃さんの気苦労度合いが何だか原作よりもアップしてます。
いや、晃さんも好きなんですよ?
て言うか、水の3大妖精も後輩3人娘達もみんな素敵すぎてヤバイですよ。

何だかんだで騒がしいけど碧は水の3大妖精さん達と仲良しです。

次の話では碧達の過去話を少し語りたいと思ってます。

本文に変なところがありましたらご報告くれると有り難いです。

それでは此処まで読んでくれてありがとうございました。


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