Fate/Grand Order 亜種特異点OOO:欲望解放領域 オーズ (banjo-da)
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オーズとグリード
特異点と出会いと新たなる戦い


『何処までも届く俺の腕』───俺の欲しい物。

 

どうすれば手に入るんだろう───────。

 

 

 

 

 

 

人理継続保障機関フィニス・カルデア。

魔術だけでは見えず、科学だけでは計れない世界を観測し、人類の決定的な絶滅を防ぐ為の各国共同で成立された特務機関───彼等は来る2016年に人類滅亡が証明されたことを受けて、本来は存在しないはずの過去の特異点事象を発見し、これに介入して破壊する事により未来を修正するための作戦を始動した。

特異点とは、本来存在しない大小様々な歴史の歪み。本来、仮に多少過去へ介入したとしても人類史に影響は無いが、そうならない───即ち、人類史を異なる方向へ変えてしまいかねないそれを特異点と呼ぶ。

 

カルデア所属の新人マスター・藤丸立香は、本来数合わせとして選出され魔術に関して完全に素人でありながら、2016年の人類滅亡の原因と成り得る7つの特異点の修正、そして全ての黒幕たる存在との決戦を乗り越えた。

 

この物語は、そんな彼が、次なる大きな戦い───異聞帯での冒険へと踏み出す少し前。亜種特異点と呼ばれる、7つの特異点とはまた異なる戦場へと赴いていた時期に起こった出来事である。

 

 

 

 

 

 

「新たな特異点?」

 

「そうさ。元々微弱なもので、放っておいても自然消滅するものだと踏んでいたんだが…どうもその気配が見えない。辛うじて残っていると言っても過言ではない不安定さだが、このまま放置して新たな問題が発生するより先に、我々の手で修復するべきと判断したのさ。」

 

ある日の昼下がり。今やカルデアの司令官も同然のレオナルド・ダ・ヴィンチ…通称ダヴィンチちゃんから呼び出された立香は、頼れる後輩のマシュ共々彼女からそんな話を聞かされた。

 

「了解!それで、何時何処に現れた特異点なんです?」

 

「話が早くて助かるよ!年代は2011年の8月末頃、場所は日本の東京付近だね。」

 

「おお…冬木、新宿、それに昔とはいえ下総国に続いてまた日本か…why Japanese people?」

 

「先輩、日本人の方にそれを聞いても分からないかと…。」

 

立香の傍らで控え目にツッコミを入れるマシュ。彼が初めてカルデアに来た日に出会った後輩にして、彼が初めて契約したサーヴァントでもある少女。

魔術王を名乗る黒幕との戦いの後、彼女のサーヴァントとしての力は行使出来なくなってしまったものの、立香にとって頼れる仲間にして大切な存在である事に変わりはない。

 

「まあ、冬木で嘗て幾度にも渡って聖杯戦争が行われていた事といい、案外あの国には魔術的なものを引き寄せる何かがあるのかもしれないね?…とまあ、それはさておき藤丸君。早速だが支度を整え、2時間後にはレイシフトを開始してもらいたい。大丈夫かい?」

 

「先輩、今回も私は同行出来ず申し訳ありません…。」

 

「俺は大丈夫です。マシュ、気にしないで?それよりも、その分カルデアからマシュがサポートしてくれると助かるよ。」

 

「……!は、はい!頑張ります!」

 

「うんうん、君達は相変わらず仲良さそうで何よりだ!───それじゃ、準備に取り掛かってくれたまえ!」

 

立香とマシュのやり取りを微笑ましげに眺めながら、ダヴィンチちゃんは二人に指示を飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

それからきっかり2時間後。

レイシフトの支度を整え、召集された立香。そこには既にダヴィンチちゃんと共に、今回同行するサーヴァント達が集まっていた。

 

「ランサーのクー、呪腕のハサン、それにイリヤと美遊…?」

 

「出撃可能なメンバーの中から、私の独断と偏見で編成させてもらったよ。2011年という比較的最近の日本、そこに順応出来そうなメンバーを集めてみた。───無論、キャメロットの時の様に滅茶苦茶になっている可能性も否定出来ないが…そうで無かった時、なるべくスムーズに物事を進めたいからね。」

 

「ダヴィンチ殿の仰有られた通り。微力ながら、尽力させて頂きます。今回も宜しく頼みますぞ、魔術師殿。」

 

ダヴィンチちゃんの説明に、立香も納得した様子で首を縦に振る。確かに、イリヤも美遊も特異な経緯でサーヴァントになったものの、本来は現代日本在住の女子小学生である。

ハサンは外見こそ、この時代の日本では通報ものだが、サーヴァント故の霊体化に加えアサシンとしての気配遮断も有している。加えて理知的で順応性も高く、どの様な特異点でも情報収集で大活躍してくれる。

 

「でも、クーは何で?」

 

「あー…俺自身は確かに日本と縁はねぇんだがな?ここの召喚システムのせいか、昔日本の聖杯で召喚された時の記憶がちらほら有ってよ。だから向こうの様子にも直ぐに馴染めると思うぜ。」

 

何処からともなく、いかにも軽薄そうなデザインのアロハシャツとパンツを取り出すランサー。どうやら、お気に入りを持参するつもりらしい。その衣装に身を包んだ彼の姿を想像し、立香は思わず苦笑する。

 

「本来ならエミヤくんが最適なんだが…彼は霊基の損傷が激しくてね。前回のレイシフトで負ったダメージが回復しきっていない。」

 

「んー…それならクロは?私と美遊だけより…。」

 

「ゴメン、あたしはパス。おにーちゃ…エミヤが出られない分、種火周回出っぱなしだったから。それは良いんだけど、流石に疲れちゃった。」

 

不思議そうに問い掛けるイリヤの言葉に彼等の背後から答える声。

振り返れば、イリヤや美遊と同じ位の年頃の少女が欠伸をしながらそこに居た。

 

「クロ!」

 

「そういうワケだから、あたしは今回留守番させてもらうわ。────あ、でももう一人、同伴希望者が居るわよ?」

 

んー、と大きな伸びをするクロの背後から、立香達の元へ歩み寄る影が一人。

イリヤ達の様な例外を除けば、本来歴史上の偉人や伝説の存在が殆どのサーヴァント達の中で珍しい、現代の衣服に身を包んだ少女。

 

「ご紹介どうも。彼女の言う通り、今回は私も同行させてもらいます。」

 

短めの銀髪を揺らしながら、新宿での記録を元に霊衣を現代の装いへと変化させた少女 ──────『復讐者(アヴェンジャー)』ジャンヌ・オルタ。勝ち気そうな笑みを浮かべ、フン、と小さく鼻を鳴らす。

 

「今回は偶々、気乗りしたから手伝ってあげるわ。異論は聞きません。良いわね、マスターちゃん?」

 

『ニタァ…』そんな擬音が聞こえてきそうな、とても良い─── 否、とても悪い笑顔を浮かべ。彼女は強引にメンバーの一員へと加わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが…?」

 

「見た所、普通の町っぽいけど…。私やイリヤの居た世界と、違いは感じられない。」

 

レイシフトした一行を待ち受けていたのは、意外にも平穏な街並みだった。

スーツに身を包んだサラリーマン。携帯電話片手にお喋りに興じる学生。ヘッドホンで耳を塞いだ若者もいれば、町行く人々を眺めるお年寄りも居る。

 

『……どうやら、新宿やアガルタの様に突拍子も無い世界と言うわけでも、ロンドンや冬木の様に大きな危機が迫っている…という雰囲気でも無さそうだね。美遊君の言う通り、記録として残っている2011年の日本の風景と違いは見られない。

とは言え油断は禁物だ。一見普通の光景でも、よくよく探っていけば何か起きているという可能性は高い。普通に見えても、そこは間違い無く特異点なのだから。』

 

カルデアのダヴィンチから通信が入る。どうやら現状、カルデアでも異常らしいものは見当たらない様だ。

 

「それじゃあ、先ずは情報収集と行くか。俺、ハサンがそれぞれ動いて、マスターは嬢ちゃん三人と行動…でどうだ。」

 

「はぁ!?異議有りです。何故私が子守りをしなくてはいけないのかしら?」

 

大きく伸びをしながら、本当に持参したアロハシャツを纏ったランサーが提案する。─── が、真っ先に噛み付くジャンヌオルタ。

そんな二人の間を取り持つ様に、ハサンが間に割り込みオルタを宥める。

 

「まあまあ、オルタ殿。この特異点、ある意味表立って異変が起きているものより厄介なのです。先ずは異変を探す所から始めねばなりませんのでな…故に、数手に別れて探索するのが妥当かと。」

 

身振り手振りを交え、人当たりの良さそうな声音で語り掛けるハサン。人は見た目によらないもので、この手の交渉や説得は彼の十八番である。

 

「私はこの容姿故、普通にしていても目立って仕方有りません。ですが…この身は腐ってもアサシン。逆に気配を遮断しておけば、諜報は得手と自負しております故。

ランサー殿も、この出で立ちであれば問題無くこの時代に溶け込めるでしょう。万一敵と遭遇しても、光の御子殿であれば大抵の敵は問題になりますまい。」

 

「……その位の事は分かります。ですが、何故私が彼等と同行しなければならないのですか?その理由なら、私もそこのランサー同様独自に動いた方が効率的と思いますが?」

 

「いえいえ!魔術師殿の護衛は是非オルタ殿にお願いしたいのです。オルタ殿はカルデアのサーヴァントの中でも屈指の実力者。貴殿が魔術師殿と共に居て下されば、我々も魔術師殿の身を案ずる事無く、安心して周囲の探索に専念出来ます。」

 

「……私が。………まあ、確かに貴方の言う通りですね。ええ、ええ。分かりました。マスターちゃんが幼女二人連れてうろついて、お縄に掛かる…なんて間抜けな事になっても困りますし。─── 良いでしょう!貴方の口車に乗せられてあげます。」

 

果たしてオルタがちょろいのか、ハサンの話術が巧みなのかと聞かれれば。恐らくその両方だろう。

ともあれ、これにて当面の方針は定まった。

一同はその場で三手に別れ、行動を開始した。

 

 

 

 

 

「とは言っても…ホントに平和だね。」

 

記憶の残る街並みとは異なるものの、よく似た風景を眺めながらイリヤが呟く。

 

「ほんっと、平和ボケした連中ばかりね。これ、何も出ずに特異点消滅するんじゃないの?」

 

「オルタちゃん、それフラグじゃ…。」

 

呆れた様子で辺りを見渡す彼女の言葉に、立香が控え目に突っ込みを入れたその時。

 

『チャリン…』

 

立香の聴覚が、まるで硬貨が落ちた様な音を捉えた。

 

「…?誰か小銭落とした?」

 

「は?そんな物、私達が持っている筈が無いでしょう。大方マスターちゃんの聞き間違いか、その辺の通行人が落としたんでしょ。下らない事言ってないで、とっとと先に─────」

 

面倒臭げに流そうとするジャンヌオルタの言葉を、カルデアからの通信が遮る。

 

『皆、気を付けたまえ!たった今、明らかにその時代には不自然な敵性反応を感知した!いや、正確には今そこに現れた(・・・・・・・)!場所は……』

 

君達の目の前だ、というダヴィンチの言葉を待たずして───── 彼等の前を歩いていた通行人。その身体から、まるでミイラ男の様な不気味な生物が出現した。

 

 

「「何これーーー!?」」

 

思わぬ急展開に、立香とイリヤの叫びが重なる。

二人だけではない。その現実離れした光景に、その場は一気にパニックに陥った。

我先にと逃げ惑う人々を尻目に、ジャンヌオルタと美遊はミイラもどきを睨み付ける。

 

「あんなの、見た事無い…。」

 

「ハン!見た事有ろうが無かろうが、どう見てもあれはこの特異点の異常でしょ。この時代のこの国が、魔術に関してフリーダムなら話は別ですが。」

 

「どう考えても…それは無い…。つまり、あれは倒すべき敵!」

 

「でしょうね!行くわよロリっ子ども!」

 

オルタと美遊の反応は早かった。

二人は即座にサーヴァントとしての力を解放、衣装を…つまり霊基を、戦闘時のそれへと変化させる。

美遊が魔力の弾丸を撃ち込み、怯んだミイラもどきへオルタは炎を纏った斬撃を叩き込む。

 

砲撃(フォイア)!」

 

堪らず吹っ飛ばされたそこへ、遅れて転身を完了させたイリヤが魔力の砲撃で追撃する。

即席ながらも息の合った連携。並大抵の敵ならば、間違い無く撃破出来るものであった。

 

───────が。

 

「ウゥ…。」

 

「……嘘…!」

 

ミイラというよりゾンビの様に、不気味な動きで起き上がる怪物。見れば、その体には傷一つ付いてはいない。

 

「何よコイツ…もしかして、不死性でも持ってるの?」

 

苛立ち舌打ちしながらも、冷静に状況を分析するオルタ。

確かに、先程の自分の一撃には手応えが有った。イリヤの追撃にしても、倒すまでには至らずともダメージを与えられるだけの火力は有していた筈だ。

けれど目の前の敵は、現に何事も無かったかの様に平気で戦闘へと復帰した。

ヘラクレスや、それこそクー・フーリンの様な化物じみたタフネスを持っている…とは考えにくい。たった数秒に渡る交戦だが、それにしてはこの敵は弱過ぎる(・・・・)。こうも簡単に攻撃を受け、容易く吹っ飛ばされた。あの手のタフネスを持つ様な相手なら、そもそも攻撃を受けても耐え切る可能性が高い。

ならば、何らかの特殊な耐性、或いは不死性を持つ…という可能性が一番しっくりくる。ジークフリート然り、アキレウス然り…現時点で弱点は不明だが、それを突かねば何時倒せるのか分かったものではない。

 

「マスターちゃん!撤退するわよ!今、コイツに馬鹿正直に付き合うのは得策じゃないわ!」

 

「ッ……!でも、このまま放っておいたら…!」

 

立香も、オルタと同じ結論に至ってはいた。伊達に数多くの死線を潜り抜けて来たワケではない。

だが、目の前の敵はそれ程強くは無いものの。それはサーヴァントという規格外の戦力と比較した場合の話だ。

このまま放置すれば、犠牲者が出る事は間違い無い…その事実が邪魔をして、立香は撤退の判断を下せずにいた。

 

「マスター、私も彼女と同意見。ここは退くべき。」

 

「だけど…!」

 

「~~~ッ!いい加減に──────」

 

なおも決断に踏み切れぬ立香に、オルタの堪忍袋の緒が限界を迎えたその時。

 

『スキャニングチャージ!』

 

「避けて!」

 

何処からともなく響き渡ったテンションの高い音声と、切羽詰まった様な男性の声音。

その声に、立香達は考えるより先に本能に従い、咄嗟に全員が後方へと退避。ミイラもどきから距離を取った。

 

「ハァ…セイヤー!!!」

 

それとほぼ同時に。ミイラもどきの上空に、赤・黄・緑色の三つの円が出現。そして気合いの入った叫び声と共に、凄まじい速度の何か(・・)がその輪を潜りながらミイラ目掛けて撃ち込まれる。それはミイラへと命中し、すっかり人の居なくなった町中で爆発を巻き起こした。

 

「ふえぇぇ!?今度は何、何なのー!?」

 

「まさか…アーラシュ…?」

 

上空から敵へと撃ち込まれたその一撃は、一瞬ペルシャの大英雄の宝具に似た印象を受けた。だが、立香は直ぐにその考えを否定する。

彼の宝具はあんな色とりどりの輪を生成はしない。何より、確かに途轍もない威力ではあったが…流星一条(ステラ)にしては威力が低過ぎる。

 

「じゃあ…一体誰が…?」

 

新たな疑問に表情を曇らせる立香だったが─────その答えは直ぐに明かされる事となった。

 

爆発の衝撃が収まり、撒き散らした粉塵や炎が少しずつ引いていく中。

 

「ふぅ…。君達、ケガは無い?」

 

爆発の中心、先程までミイラもどきの居たその場所に。

先程の輪と同じ、赤・黄・緑の三色を身に付けた異形が立っていた。




アンクの真似してアイスキャンディ外で食べたら寒すぎて腹壊した筆者です。良い子の皆は、ちゃんと時期考えて適切な場所でアイス食べようね!

執筆を優先するため中々返せませんが、御感想とか評価とか頂けると喜びます。


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異変とメダルと謎の青年

あまり進まない…ならもっと書くしか無い!
ハピバースーデーイ!!(支離滅裂な言動)


カルデアから2011年の日本へレイシフトした、藤丸立香とサーヴァント達。

そんな彼等の前に立ち塞がったのは、まるでミイラの様な姿の怪物。その力こそ微弱なものだったが、まるで攻撃の効かないこの敵に、立香達の脳裏に『撤退』の二文字が過る。

 

───────だが。そんな彼等の前に現れた、色とりどりの姿をした一人の戦士。彼は瞬く間にミイラもどきを撃破し─────今、物語が動き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、無事で良かった!にしても君達何者?何か揃って変わった力使ってたけど……あ!もしかして鴻上会長に呼ばれた助っ人とか?あの人、こんな小さい女の子まで巻き込むなんて…後でしっかり文句言わないとな!」

 

全くもう…とでも言いたげに、腕を組んで何度も頷く異形の戦士。

敵とは思えぬ言動ではあるが…当然、立香達が警戒を解ける筈も無い。

 

「ちょっと、何一人で納得してんのよ信号機男。アンタ何者?敵なの?」

 

カルデア陣営で真っ先に口を開いたのは、矢張りというか何と言うか…ジャンヌ・オルタだった。先程の怪物を一撃で葬った相手であっても、一切怯まず噛み付く彼女。

そんな彼女の言葉に、「え?」と呆けた様子の戦士。

……実際の所、表情は一切変化が無いので読めないのだが。何と無く立ち居振舞いから彼の困惑が伝わって来る。

 

「し、信号機男……流石にその呼ばれ方は初めてだな…。──────って!そっかそっか、こんな姿じゃそりゃ警戒もするよね。ゴメンゴメン!」

 

目の前の異形はポン、と手を叩きながら納得した様な姿を見せると。

腰に身に付けたベルト……そこに備わった奇妙な形状のバックルから、三枚のメダルを抜き取る。

 

すると、彼の身体は眩い光に包まれ─────。

 

「えーっと…これなら大丈夫、かな?」

 

光が収まると。そこにはエスニック風の衣装に身を包んだ、人の良さそうな青年が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……どうやら、これといった異変は無し。────かに見えて、着実に異変は起こっている様ですな。」

 

人っ子一人居ない薄暗い路地裏。立香らと別行動を取っていたハサンは、この時代で仕入れた情報を整理していた。

 

一見、特に異常は見られぬ穏やかな世界。

だが、間違い無く何かがおかしい。

 

「メダルの怪物…ミイラの様な化物……魔獣の跋扈する神秘に満ちた時代なら兎も角、魔術が秘匿されているこの地で自然発生するとは考えにくい。間違い無く、それを裏で操る黒幕が居る。」

 

それに、とハサンは懐から一枚のメダル(・・・)を取り出す。

諜報活動を行う中で、偶然手に入れた物だ。

銀色に輝くそれは、一見何の変哲も無いメダルでしかない。

 

だが、魔力(・・)を帯びたメダルなど明らかに普通じゃない。それに聞けば、怪物の現れた場所には必ずそれが落ちているという。

 

「間違い無く、これはこの地の異変に関わりの深い物でしょうな。……もう少し探ってみるとしますか。」

 

ハサンは溜め息を吐きながらメダルを再び懐へ仕舞い込むと、路地裏の闇へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ改めて。俺は火野映司。世界中を旅して回ってるんだ。」

 

「火野…映司さん。」

 

場所を移し、手近なファミレスへと足を運んだ一行。

互いの情報を共有する会議と、戦闘でお腹が空いただろうという映司の気遣いである。

 

「というか…俺達お金持って無いんですけど…。」

 

「そうなの?…よし、ならここは俺が持つよ。」

 

「ええっ!?い、いや…そういうワケには…!」

 

「良いって。お金持って無いって聞かずにファミレス選んだのは俺なんだし。君達とは、さっきからの長い付き合いだしね!」

 

「──────マスターちゃん、間違い無くコイツ馬鹿よ。でも使える馬鹿だわ。」

 

ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべる映司。

流石に申し訳無いと断ろうとする立香に、オルタはヒソヒソと意地悪な笑みを浮かべて耳打ちする。

 

「ちょっ…!オルタちゃん、それは失れ……」

 

流石に看過するワケにもいかず、立香はオルタへ視線を向け……既に開かれたメニュー、そのデザートのページを上機嫌な様子で眺める彼女に言葉を詰まらせた。

見れば、イリヤと美遊も目を輝かせて同じページを開いている。

 

「……すみません映司さん。それじゃ、お言葉に甘えて…。」

 

「うん、構わないよ。」

 

我ながら、何だかんだ甘いな…立香は苦笑しながら溜め息を漏らした。

 

 

 

 

 

「───────成程。特異点にレイシフト……何と無く分かったよ。君達は、この世界の異変を正す為に未来から来たんだね?」

 

「信じて貰えるんですか?」

 

「勿論。非現実的な事なら、もう何度も経験済みだからね。それに…立香君と一緒に居る君達がサーヴァントだって言うなら、さっきの戦闘も納得出来る(・・・・・)。」

 

突拍子も無い内容故にどこまで話すのか思案していた立香だったが…結局全てを打ち明け、信じて貰えた事に安堵する。

 

だが、そこに待ったを掛ける者達。

 

「……その言い方だと、サーヴァントが何かを知ってる…って事になる。貴方は何者?」

 

『私もそれは気になったな。それに、さっきの不思議な姿は何だい?映司君…君は魔術師なのかな?』

 

つい先程まで幸せそうにイチゴパフェを頬張っていた美遊が、手を止めその顔に明らかな警戒心を浮かべる。

そして彼女の言葉に続く様に、カルデアからもダヴィンチちゃんの通信が入った。

 

「え?何、声!?どこ!?」

 

『おっと、これは失礼。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ……まぁ、気軽にダヴィンチちゃんと呼んでくれたまえ。

今、私は藤丸君の話にあったカルデアから、直接通信で君達に語り掛けているのさ。』

 

「へぇー…未来の技術って凄いなぁ。」

 

感心した様に腕を組んで辺りを見渡す映司。

だが、当然それで和んで終わりにして良い内容では無い。

 

『そんな未来のビックリ技術はさておき、だ。……君は何故サーヴァントを知っている?君のあの姿、それにあのミイラみたいな怪物は何だい?

──────君は何を知っている?』

 

珍しく真剣な声音で問うダヴィンチちゃんに、立香も思わずゴクリと唾を飲み込む。

 

「そうですね…元々、俺もこっちの状況は伝えるつもりだったし。」

 

コホン、と一度咳払いすると。先程までのマイペースな空気を引っ込め、真剣な表情を浮かべながら映司は語り始めた。

 

「まずあのミイラみたいな奴…あれはヤミー。セルメダルから生まれた怪人だ。」

 

「セルメダル…?」

 

不思議そうに首を傾げるイリヤ。

そんな彼女に微笑み掛けながら、映司は銀色のメダルを一枚取り出して見せる。

 

「これがセルメダル。メダルにも種類があってね…。」

 

そう言うと、今度は赤いメダルを一枚取り出す映司。

 

「こっちがコアメダル。さっきのヤミーってのは、簡単に言えばセルメダルの塊。」

 

「……なら、そのコアメダルの塊の怪物も居るという事?」

 

「おっ、美遊ちゃん察しが良いね。……その通り。奴等の名はグリード。こいつらが、ヤミーを生み出してセルメダルを集めている。」

 

「集める?」

 

映司の言葉に引っ掛かりを覚える立香。セルメダルを用いて生まれるのなら、寧ろヤミーを生み出す度にメダルは減りそうなものだが…。

 

「このメダルはね。"人の欲望"…その具現化なんだ。」

 

「人の欲望…!?」

 

「そ。……サーヴァントの君達や、こっちを見てるカルデアの人なら分かると思うけど…このメダル、どう思う?」

 

突然切り替わった話に着いていけない立香。だがそれは仕方の無い事だ。

元々彼は、真っ当な魔術師(・・・・・・・)ではないからだ。

だが、他の者達にはその意味が理解出来た。このメダルは……。

 

『…驚いた。こーーーんな小さなメダルだが、それは凄まじい魔力を秘めてる。』

 

「そういう事。──────人の欲望ってさ、凄い力を持ってるんだ。

 

理想を叶えたい、或いは自分の利益が欲しい…そんな欲望は戦争すら起こす。

欲って言うとネガティブなイメージが付き物だけど…欲望ってのは、誰もが持ってて…どんな小さな一歩も、どんな大きな偉業も。その根源は人の持つ欲望だ。」

 

『…成程ね。欲望を物質化させる…なんて技術の突拍子の無さはさておきだ。それを具現化させたメダルなら、確かに大きな力を持っていても可笑しくはない。』

 

「じゃ、そのメダルを集めるってのは…。」

 

「グリードは、器になる人間にセルメダルを入れてヤミーを生み出す。ヤミーは宿主の欲望を汲み取って、それを満たそうとする。そうやって満たされた欲は、もっと…って新しい欲望を生み出す。その繰り返しでヤミーはメダルを増やしていくんだ。人の欲望って、基本際限無いからね。」

 

映司の話に、その場の全員が絶句する。

 

『それは…その、とても危険な存在では無いでしょうか。』

 

「ん?新しい声?」

 

『ハッ!失礼しました…私は、マシュ・キリエライトと言います。ダヴィンチちゃんと共に、カルデアから先輩をサポートしています。』

 

再び辺りを見渡す映司と、慌てて自己紹介するマシュ。お陰で幾分か雰囲気は和らいだものの。やはり想像以上に大きな話に、全員の表情は厳しい。

 

『それで…その、例えば危険な欲望を持つ人物が、そのヤミーの宿主に選ばれたら…。』

 

「そうだね。間違い無く危険だ。それに…そうでなくとも欲望を無理矢理叶えて、もっともっとって繰り返させるのはそもそも危ない。」

 

『極論、食欲や性欲や睡眠欲だって欲望と言えるからね。それを無理に叶えさせ続ければ…。』

 

「そ。何時かはパンクする。俺が昔戦ったヤミーの宿主も、満腹なのに食欲が抑えられなくなって…あと少し遅ければ手遅れになってたかもしれない。」

 

ここまでの話を聞けば、ダヴィンチちゃんや映司の言う状況は想像に難くない。

ヤミーという存在が、どれ程危険な物なのかは全員が理解出来た。

 

「そんな事をして…グリードって奴等は何がしたいのよ。そのセルメダル集めて、何の得が有るわけ?そいつらはコアメダルとか言う別のメダルの塊なんでしょ?」

 

小学生女子二人とマスターの手前、格好を付けてコーヒーゼリーを注文したオルタが、結局苦くて食べられなかったそれをスプーンでつつきながら言う。……無論、その場の全員がそこには突っ込まずにいてあげたが。

確かにオルタの言う事は最もだ。コアメダルの塊なら、同じ方法でコアメダルを増やせば良さそうなものだと立香も感じた。

 

「厳密に言うと、グリードはコアメダルだけの塊じゃない。『細胞(セル)』とか『(コア)』って言うように、グリードはコアメダルとセルメダルの塊なんだ。」

 

「コアと…セル…。」

 

「俺の知り合いの言葉を借りるなら、コアメダルはアイスキャンディーの棒。セルメダルは周りのアイス。

ヤミーは棒無しのアイスキャンディーで、グリードは棒付きのアイスキャンディー。」

 

「どんな例えよそれ……。」

 

呆れた顔のオルタと、あれ?と首を傾げる映司。

立香は割としっくりきたが、イリヤも美遊も頭上にクエスチョンマークを浮かべていたので黙っていた。

 

「ま、まあ、それはさておき。コアメダルは800年前の錬金術で作られた物でね。セルメダルと違ってグリード自身がそれを増やす事は出来ない。

そして一番重要なのが…グリードは常に満たされない、って事。」

 

800年前、とある国の錬金術師が生み出したコアメダル。

鳥、虫、猫系動物、水棲生物、重量系動物。この五つの属性を持つコアメダルは、元々各属性十枚ずつ存在していた。

 

だが、そこから一枚ずつ抜き取った事で事態は急変する。

一枚『足りなく』なったメダル達は、その不足を……『渇き』を覚えた。

その渇きを『満たす』為に、彼等はセルメダルを取り込んだ。

だが。セルメダルを幾ら取り込もうが、失われたコアメダルの代わりになる事は無かった。

 

「それがグリード…奴等は常に、失くした一枚の渇きを感じて満たされない。その渇きを少しでも満たす為に、より多くのセルメダルを集める。その繰り返しだよ。」

 

『ほうほう…つまり、本質的にはグリードもヤミーの宿主にされた人間と同じという事か。成程ねぇ…では、君の変身していたあの姿もグリードみたいなものかい?私の記憶が確かなら、ベルトのバックル部分にコアメダルが入っていたみたいだけど。』

 

通信越しに納得した様子のダヴィンチちゃん。彼女から投げ掛けられた疑問に、映司は先程のバックルを取り出して答える。

 

「あれはオーズ。グリードを生み出した錬金術師の居た国の王が、メダルと同じ様に作らせたものだよ。

このベルトに、三枚のコアメダルを入れて使えば…そのメダルの力を引き出せる。……色々あって、今は俺がその力を使ってるって事。」

 

『では、火野さんがそのグリード達から人々を守っている。そしてこの特異点の異常というのは、グリードやヤミーの事でしょうか。』

 

マシュの言葉に頷く立香。確かに、ここまでの話ならそう考えても可笑しくは無い。

─────だが。

 

「あれ?でもそれじゃ…。」

 

「そう……それだけなら、貴方がサーヴァントを知っている理由にはならない。」

 

「内容的に、さっきダヴィンチが言ってたみたいにアンタが魔術師…って事も考えられるけど。その辺どうなのよ。」

 

あまりの内容に、すっかり立香の頭から抜け落ちていたもう一つの疑問点。

確かに突拍子も無い話で、魔術的な要素も含まれてはいるが…映司の話にはサーヴァントと関連する部分は一切含まれてはいない。

 

「その理由…多分、特異点の異変ってやつもこれのせいじゃないかと俺は睨んでるんだけど。

今、この街で起こってるんだよ。」

 

「起こってる?」

 

何が、と続けようとした立香は、映司から返ってきた答えに思わず言葉を失った。

 

「うん。この街で起こってる出来事。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────聖杯戦争だよ。

 




前回の話でもっともらしい理由つけましたけど、ぶっちゃけサーヴァントの人選は私の趣味だ。

正直エミヤも大好きだけど、映司君と絡ませるのは危険な気がしてならないので留守番してもらいました。(UBWを観ながら)


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聖杯戦争とグリードと新たな謎

仮面ライダーオーズ!

「いけますって!ちょっとのお金と、明日のパンツとリンゴカードさえあれば。」

─────ガチャの魔力!

「止めろ…俺は爆死するつもりは無い!呼符で一人引けた…可愛いイラストを愛でられればそれで充分だ!」

「志という点では、オーズを見習って下さい…。」

「宝具5宝具5宝具5宝具5……!」

─────ダメだコイツら!

「映司…お前、またバカな無茶したらしいな。」

「ちょっとだけね。……所で、お金貸してくれない?」

──────早く何とかしないと!

次回『イベントガチャと爆死と直後の予期せぬマーリン復刻』!(続かない)


『そう言えば。』

 

先程から場所を移し、グリードや聖杯の手掛かりを求め町を行く一行。

そんな彼等へ不意に、思い出したかの様に通信が入る。

 

『映司君。実は君のバイタルデータをこちらで解析していたんだが…何だろうね、これは。人間とも、サーヴァントとも取れない奇妙な解析結果だった。オーズの力というのはあれかい?使い続けると、使用者の肉体まで変質させるものなのかな?』

 

興味深げに映司へ問い掛けるダヴィンチちゃん。

立香は驚くが、他のサーヴァント達は薄々感じていたらしく特に動揺した様子は無い。

問われた映司本人は、うーんと腕を組み首を傾げる。

 

「いや、変身中はともかく…普段はそんな事無い筈ですよ。そんな話聞いた事無いし、俺も使ってて違和感とか無かったし。」

 

そこまで言うと、映司は思い出したかの様に「ああ、でも…」と言葉を続ける。

 

「その心当たりなら一つ有ります。」

 

『ほう?何かな?』

 

「……ここへ来て隠し事も良くないだろうし、言っちゃうけど…俺の中にも、コアメダルが宿ってるんですよ。」

 

苦笑しながら言う映司に、唖然とする一同。先程の内容を考えれば当然の反応だろう。

況して、その後の「コアメダルの力はセルメダルよりずっと大きい」という映司の解説後というオマケ付きだ。

 

「てことは、映司さんもグリードって事…!?ヤミー作ってメダル増やしたりするの!?」

 

「マスターちゃん、やっぱコイツ危険よ。今()っちゃいましょう。」

 

「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!最後まで聞いて!」

 

あからさまに物騒な単語が出た事に慌てる映司。

さっと後退りながら、両手を挙げて降参のポーズを取る。

 

「確かに、俺の中にコアメダルはあるけど…大丈夫だから!それに、グリード達に対抗する為にはこれを手放す訳にはいかないんだ。」

 

『と、言うと?オーズの力だけでは不充分という事かい?』

 

「半分違うけど半分正解…かな?」

 

「何よ、まどろっこしいわね。マスターちゃん、やっぱコイツ焼いちゃいましょう。」

 

「ちょ、だから話を聞いて!立香君、オルタちゃんって何時もこんな感じなの!?」

 

「えーっと…割と。でも今はコーヒーゼリー苦くて食べられなかったから、何時もよりご機嫌斜めな可能性も…。」

 

「余計な事言ってんじゃないわよ!!!ていうかアンタもしれっとオルタちゃん言うな!二人纏めて燃やすわよ!?」

 

うっかり口を滑らせた立香と、キレるオルタ。本当に燃やされかねないと、映司と立香は二人してオルタから距離を取る。

 

『そ、それで…火野さん。先程の言葉の真意は一体…?』

 

「え?あ、えっとね…グリードを倒す事自体は、オーズの力が有れば充分。だけど、グリードを完全に倒し切る為には…俺の持つ『紫のメダル』が必要なんだ。」

 

映司曰く。

グリードを倒すだけなら撃破してコアメダルを奪えば良い。グリードはコアメダル九枚…つまり、グリードが生まれた時と同じ状態が完全体であり、そこからメダルが減る度に弱体化していく。

故に彼等は、自分のコアメダルを九枚集める事を最優先とし。また、足りない力を補うべくセルメダルを集めるのだ。

 

だが、通常オーズにやれる事はそこまでだ。メダルを奪う事は出来ても、コアメダルを破壊する事はオーズにもグリード自身にも不可能である。

そして、グリードは最悪意識の宿ったコア一枚あれば存在出来る。例え他の八枚を失っても、最後の一枚が残れば消滅する事は無い。

 

「それが、倒せるけど倒し切れない…って意味。実際、俺の知ってるグリードの中には、メダル一枚で生き延びた奴とか、メダル不足で腕だけの状態になってる奴も居た。」

 

「それ怖いんですけどー!?メダル一枚はともかく…腕だけが残ってるってホラーじゃない!?」

 

「アハハ、だよね!俺も最初ビックリしたなぁ…腕が飛んで、オマケに喋るんだもん。」

 

『いやはや、とんだ恐怖映像ですねぇ~。

────でも、イリヤさんのそそる表情が見れたのでルビーちゃん的にはOKです!』

 

『まあ、腕もですが…そもそもメダルが動いたり話したりするのは如何なものかと。』

 

「いやルビー達は人の事言えないからね!?」

 

突然出てきてはしゃぐ魔法少女の杖(カレイドステッキ)に、涙目になりながらも律儀に突っ込むイリヤ。

そんな彼女等を微笑ましげに見詰める映司の表情は、何処か懐かしそうなものだった。

─────と、話が逸れ掛けコホンと咳払いする彼。

 

「まあ、アン…腕グリードは置いといて。通常オーズやグリード同士の仲間割れじゃ完全には倒し切れない。だけど、俺の中のメダルならそれが出来るんだ。」

 

『ほーう。つまり、君の持つメダルはコアメダルを破壊出来る(・・・・・)と解釈して構わないかな?それは、さっき言ってた五つの属性のどれに当たるのかな?』

 

「どれでも無いです。紫のコアメダルはグリード達が生まれた後に作られたメダルで、宿ってるのは恐竜の力。」

 

『最初に作られた物より後に?ふーむ…グリードへの対抗策として作られた物だろうか…。興味をそそられるなぁ…。』

 

「すいません、俺はそこまでは…。」

 

『そっかー、残念…いやいや、何れ本腰を入れてその国を調べてみるのもアリかもしれない。ここまで興味を惹かれる事柄、私が知らないままで居て良いものか?────いや、良くない!』

 

「どっちだって良いわよ!!」

 

何やら一人やる気を出し始めたダヴィンチちゃんにオルタが突っ込む。

 

「要するに、アンタの持つメダルならグリードとか言う連中を倒せるから見逃せ…って事でしょ。それならそれで構いません─────無論、敵と判断したら容赦無く燃やすのでそのつもりで。」

 

「おお…オルタちゃんがすっかり味方ポジションの台詞を…。オルレアンの時からすっかり変わったなぁ…。」

 

『まあ、過去の自分を棚上げしてるとも言えますけどねー。』

 

「アンタ等ホントにいっぺん燃やすわよ!?」

 

感慨深そうに言う立香と面白可笑しく言うルビーを睨み付けるオルタ。

まあ、立香の場合は無自覚だが…ルビーは完全に愉快犯で間違い無い。

 

「ただ、それは良いとして…この町で起きてる聖杯戦争と、そのグリード共と何の関係が有るワケ?」

 

クールダウンする様に、頭を抱えながらも深呼吸するオルタ。どこか疲れた様にも見えるが…先程からキレ続けていれば、それも致し方無い。

 

「ああ、そうだったね。改めて説明すると…。」

 

彼の話では、異変が起こり始めたのはここ数日の話。

 

元々グリード達は皆、オーズや彼の仲間達の力で全て撃破されていた。

─────だが、突如として彼等が復活。聖杯戦争の勃発した時期と、グリード復活は同時期だという。

 

「もっとも、ここで起きてるのは真っ当な聖杯戦争何かじゃない。サーヴァントのクラスも滅茶苦茶、マスターも存在しない。」

 

「マスターが居ない…ってのはおかしいけど、クラスが滅茶苦茶って?」

 

『藤丸君は特異点の聖杯を回収する為、多くのサーヴァントと出会ってきたからねぇ…実感が薄いかもしれない。』

 

『通常、聖杯戦争と呼ばれる儀式は、七人のマスターと七騎のクラスに分かれたサーヴァント達が互いに争うものです。

そのクラスは…剣士(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎兵(ライダー)魔術師(キャスター)暗殺者(アサシン)狂戦士(バーサーカー)。この七騎となります。冬木の特異点に召喚された、とキャスターさんが語っていたのと同じクラスですね。』

 

『マシュの属するシールダーや、ジャンヌ・オルタのアヴェンジャーなんかは、通常呼ばれるラインナップ外というワケさ。

ついでに言うと、聖杯戦争で一つのクラスは原則一人。まあ、同じクラスのサーヴァントが複数呼ばれる聖杯戦争も幾つか確認はされているが…ま、これ等は全部イレギュラーさ。』

 

「成程……。」

 

頭に疑問符を浮かべる立香へ、通信でダヴィンチちゃんとマシュから補足説明が入る。映司の伝えたかった点もその通りらしく、彼を見ればうんうんと頷いている。

 

「そういう事。だけどこの町に現れたサーヴァント達は、その法則を無視していた。

────でもって、一番普通じゃなかった点。それは……。」

 

映司が説明を続けようとした矢先。

彼が何かに気付くのと、カルデアの計器が適性反応を捕捉するのはほぼ同時だった。

 

『何かが高速で接近してくる!全員、気を付けて!』

 

「この感じ……ヤミーじゃない!」

 

一気に警戒を引き上げる彼等の前に巻き起こる

─────突風。

 

「随分お喋りじゃないか、オーズ。───それで?普通じゃない点…ボクにも教えてくれないかな?」

 

 

風が収まると同時に。

彼等の背後から聞こえてきた声に、咄嗟に振り返る一同。

 

そこに居たのは、赤い髪の美少年。線の細いその体躯に、然し見る者全てを引き寄せる威厳とカリスマ性を纏っていた。

見覚えの有る少年の姿に、立香は困惑しながら問い掛ける。

 

「アレキサンダー…?」

 

然し、穏やかに微笑みながら首を横に振る少年。

だが、否定の意を示され不思議と納得する立香達。目の前の少年は姿こそ幼き日の征服王そのものだが…その微笑みも所作も、何かが違う。

 

こちらと向き合っている様で─────まるで眼中に無い(・・・・・・・・・・)様な。そんな冷たい印象を受ける。

 

「アレキサンダー…ああ、この体の事かな?生憎、これはボクが貰ったよ。」

 

「貰った…?」

 

「そ。ボクはカザリ…黄色、猫系メダルのグリードだよ。──────さあ、オーズ。何が普通じゃないのか教えてあげなよ?」

 

何の躊躇いも無く明かされたその正体に、映司以外の全員に緊張が走る。

アレキサンダーと似て非なるこの少年は、グリードと言った。ヤミーを生み出し、メダルを集める欲望の権化たる怪物…その危険性は、先程映司から散々聞かされていて理解している。

不可解なのは、そのアレキサンダーと瓜二つの姿。そして彼は、「体を貰った」と言った。

 

何故だろうか…自分はこれと似た状況を何処かで…。

 

立香を襲う強烈な違和感…いや、既視感と言った方が近いだろうか?

そしてその感覚の正体、原因は直ぐに明かされる事となる。

 

「お前に言われなくても、伝えるつもりだったさ。

────立香君。この聖杯戦争の最も異常な点…それは、グリード達だ。」

 

「え?」

 

「どんな手を使ったのかは知らないけど。グリード達は、サーヴァント達の霊基を奪い取った(・・・・・・・・)。」

 

「それって…つまり!」

 

「俺はそのアレキサンダーって人、会った事無いけどさ。君がそう言うのなら、この霊基はアレキサンダーって人のだ。」

 

「けど今は…ボクの物さ。つまりこの聖杯戦争は、サーヴァント同士の殺し合いであると同時に…ボク達グリードの戦争でもある。────ま、賭けてる物はどっちにしろ聖杯だから、態々区別する必要も本当は無いけどね。」

 

立香は、漸く自身を襲った感覚の正体を理解した。

彼は似たようなケースを知っている。

 

嘗て第七特異点にて戦った、天の鎖(エルキドゥ)の姿を借りた存在。

 

あの時と同じ…目の前の敵は、アレキサンダーという器に収まった別人、という事だ。

 

『なぁる程ねぇ。それじゃつまり、この地にもう真っ当なサーヴァントは一人も居ない…そういう事かい?』

 

「んー?何だこの声…ああ、魔術師とか言う連中かな?誰だか知らないけど、そういう事さ。

オーズに負けてコアを失ったボクらは、理由は分からないけど復活した。そして時を同じくして召喚されたサーヴァント達…ボク達は奴等に取り憑き、その霊基を奪ったんだ。」

 

『妙な話だね。君達の力が何れ程の物かは知らないが、そう易々とサーヴァントの霊基を奪えるとも思えない。』

 

何て事無い、といった様子でつまらなそうに語るカザリ。そんな彼へ、何処か不服そうな声音でダヴィンチちゃんは更に問い掛ける。

だが、カザリは呆れた様に鼻を鳴らした。

 

「そんなのボクが知るワケ無いだろう?ま、易々と…ってワケでも無かったけどさ。」

 

全員が警戒する敵達の前で、然し寛いだかの様な態度を全く崩さないカザリ。それはこのグリードの性質の問題か、或いは肉体であるアレキサンダーの影響か。

退屈そうに道の端へとしゃがむと、欠伸交じりに話始める。

 

「それはそうと、ボクに構ってるより先に倒すべき相手…居るんじゃないの?メズールとかさ。」

 

「メズール?」

 

「水棲生物、水の力を持ったグリードだよ。─────けどカザリ。お前に言われる必要も無ければ、こうしてここに居るお前を後回しにする理由にもならない。」

 

「はぁ…やれやれ、落ち着きなよオーズ。それなら、ボクの知る情報をあげるからさ?そこの魔術師君に、この場でボクを倒すべきか…他の奴等を優先すべきか決めて貰えば良い。」

 

まるで猫の様に伸びをするカザリと、先程までと打って変わって険しい表情の映司。

先程までの穏やかな映司しか知らない立香は、一気に雰囲気の変わった彼に思わず息を飲む。だが、それを向けられている当のカザリ本人は、まるで他人事の様に意に介していない。

 

「さて、魔術師君。メズールは…なんだったっけ。母、母って煩い女侍のサーヴァントを取り込んでたね。彼女の欲望と、メズールの欲望は相性が良かったらしい。」

 

「頼光さんだ…。」

 

立香の脳裏に浮かぶ一人の女性。

バーサーカー、『源頼光』。

『大江山の酒呑童子』『京の大蜘蛛』『浅草寺の牛鬼』等…多くの怪異を討ち果たしてきた平安時代最強の『神秘殺し』にして。嘗ての配下である坂田金時を始め、我が子も同然とみなした相手には無償の愛を注ぐ母性愛の権化の様な女性。

だが、根本的な部分でその価値観にはズレが有り。時にその愛は狂気すら感じさせる。

 

彼女も、立香は共に戦った事がある英霊だ。

 

「そうそう、そんな感じの名前。愛を欲して母親の真似事をするメズールと、子とみなした相手を狂った様に愛するあのバーサーカーは相性が良かった。

……いや─────良過ぎたんだよ。」

 

「良過ぎた?」

 

そうとも、と芝居掛かった仕草で肩を竦めるカザリ。

 

「ボクみたいに完全に支配下に置く事も出来ず。

バーサーカーが完全に主導権を握る事も出来ず。

一つになった彼女達は、どっち着かずの状態になった。」

 

『つまり。今そのメズールというグリードと、源頼光は人格が一つに統合された状態…という事かい?』

 

「正解!けどそれだけじゃない。

バーサーカーの狂気が一層メズールの欲望を加速させ。メズールの渇きが、バーサーカーを一層狂気へと駆り立てる…最早自分じゃどうしようもない程に欲望丸出し、そこに狂化のオマケ付きってワケさ。」

 

絶句する立香やサーヴァント達、只管警戒心を剥き出しにし続ける映司。

そんな彼等に、カザリは立香達のよく知る(アレキサンダーの)顔に、本人なら絶対に見せぬであろう凶悪な笑みを浮かべて問い掛ける。

 

「彼女はもう正気じゃない…このままだったら、手当たり次第にヤミーを作って人を襲うよ?だからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

組まないかい?ボクとね。」

 

それは、悪魔の誘いだった。




「……カザリ。お前と組んで、頼光ピックアップ狙いに行くって事か」

「前書きの悪巫山戯と本編交ぜるの止めてくれないかな?」


俺の中にコアメダル有るけど大丈夫だから!
(暴走しないとは言ってない。)


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欲望と腕と正義の味方

前回の御感想で頂いた、グリードサーヴァントのステータスやらスキルやらはタイミングを見て載せようかと思います。
頂いた感想は有り難く読ませてもらってます…ただ、返信はネタバレに繋がるのは伏せてってなると、結局何がネタバレになるか分かっちゃうので…。
でも嬉しいのよ!感想、嫌いじゃないわ!何時もありがとね!!嫌いじゃないわーーー!!!






 

 

「これはまた…奇妙なパーティーになってきたねぇ…。」

 

カルデア内、レイシフト中の立香達をモニタリングしながらダヴィンチちゃんは呟く。

 

「ダヴィンチちゃん…その、あのカザリという方は…信用出来るのでしょうか。」

 

彼女へ不安そうに問い掛けるマシュ。

結論から言えば、立香達はカザリと一時的な共同戦線を張る事を決めた。だが、映司の話を聞いていた以上…どうしても不安は拭えないのだろう。

 

「ふふっ。相変わらずマシュは真面目で素直だなぁ。

─────そりゃ勿論、信用なんてしてないよ(・・・・・・・・・・)。」

 

あっけらかんと言い放つダヴィンチちゃんに、驚いた表情を浮かべるマシュ。本当に素直なその反応に、ダヴィンチちゃんは思わず苦笑する。

 

「それは…彼がグリードだから、でしょうか?」

 

「んー…それも有るけど、実はそこは大して重要でもない。未知の勢力、我々とは異なる存在というだけなら、それこそ映司君もそうだろう?」

 

無論、映司の話からグリードが警戒すべき相手だという事は疑いようがない。

だが、真に重要な点はそこではないのだ。

 

「彼自身も言っていただろう?組まないかって。そして彼は聖杯戦争の参加者だ。要は、『バーサーカーが邪魔だから、利害の一致してる者同士で共闘しよう』って腹積もりだよ、あれは。状況だけ見れば冬木でキャスターと共闘した時に近いけど…カザリ君の場合、隙有らば裏切る気満々だぜ、あれ。」

 

少なくとも目的を達成するまでの期間、尚且つ彼がこちらを見限らない限りは共に戦ってはくれるのだろう。こちらへ提示した情報も嘘では無い筈だ。

だが、あの言動を見る限り、そう簡単に信じて良い相手で無い事も確かだ。あくまで彼とは表面上の共闘と割り切っておかねば、何時こちらを出し抜いて寝首を掻きにくるか分からない。

 

「そういう意味では…信用出来ないと言うより、信頼しちゃいけない…って表現の方が適切かな。」

 

「成程…。」

 

そこまで言うと彼女は態とらしく咳払いし、後ろを振り返る。

 

「それで?美少女二人の会話を盗み聞きなんて…中々な趣味をお持ちじゃないか。」

 

その発言につられてマシュも背後を振り返れば。

そこに居たのは小さく顔を顰めながら、観念した様に歩いてくる一人の紳士。

 

彼の名は『シャーロック・ホームズ』。世界最高にして唯一の顧問探偵。

探偵という概念の結晶、"明かす者"の代表。まさに探偵や推理家と呼ばれる存在の中の頂点と言える。

そんな彼は第六特異点にて立香やマシュと出会い、紆余曲折を経てカルデアへとやって来たのだった。

 

「……ふむ。仕事柄、尾行や密偵にも自信が有ったのだが。」

 

「うーん、流石だ全く反省していない!そして、カルデア内…しかもこの至近距離でキャスターの私に気付かれていないのであれば、君はもう探偵じゃなくて暗殺者(アサシン)を名乗った方が良い。

──────なんて話はさておき。君の事だ…どうせ既に、この事件の大枠ぐらい掴んでたりするんじゃないのかい?」

 

「ふむ…まあ、おおよその予想はね。」

 

「うっわ、マジか。この探偵、それを淡々と言うから腹立つなぁ…。」

 

勝ち誇るでも無く謙遜するでもなく、ただ普通に振られた話へ返すホームズ。そんな彼にダヴィンチちゃんは心底嫌そうに顔を歪める。

 

「も、もうですか!?流石ですホームズさん!…差し支え無ければ、その内容をお伺いする事は…?」

 

対して、驚愕と尊敬に目を輝かせるマシュ。

そんな彼女に微笑みながらも、然しホームズは首を横に振る。

 

「ミス・キリエライト…残念だが、それは不可能だ。今回の事件、大枠こそ読めたが…完全に解明するのは未だ不十分だ。」

 

「と、仰いますと…?」

 

「第一に、この事件の元凶…それが何故今回の事を引き起こしたのか。そこに至る過程や動機が分からない。」

 

「黒幕の、動機…。」

 

納得した様に頷くマシュ。けれど、そんな彼女へホームズは再び首を横に振る。

 

「その表現は不適切だね。私は"この事件の元凶"とは言ったが、黒幕とは一言も言っていない。」

 

「?つまりこの件を起こした人物と、裏で操って暗躍する黒幕が別に居るという事かな?」

 

「そういう事だ。そしてそれが第二の理由。

─────この事件、未だ役者は出揃って居ない…例えば、今彼等が討伐に向かっているメズールというグリード。それにカザリ君以外のグリード達。関連人物が全て出揃っていない現状、黒幕を見極めるのは不可能だよ。」

 

「……つまり裏を返せば。動機や経緯は不明だが、この特異点の元凶と成った人物は見極めた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)…って事だよね。」

 

意味深に問い掛けるダヴィンチちゃんの言葉は耳に入っていないのか、或いは気付いた上で聞こえぬふりをしているのか。

モニターを無言でじっと見詰めるホームズの真意は、マシュにもダヴィンチちゃんにも分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カザリを先頭に、メズールの棲家を目指す一行。

「目立つから」という理由で現代風の衣装を身に纏った彼は、やはりというか何と言うか…アレキサンダーの姿も相まって、老若男女問わず目を引く美少年ぶりを発揮している。

とは言え、当の本人は全く興味が無さそうなのだが。

 

「さて、状況を確認しておこうか。メズールが動き始めるのは基本的に夜だ。彼女は夜、欲望のままに大暴れする…マスターも居ないバーサーカーである今、過度の消耗や本能的な身の危険以外で引く事は無い。

で。ひとしきり暴れた後、大体深夜とか早朝辺りに棲家へ戻って行く…勿論、神秘の秘匿だの何だのへの気遣いでも無ければ、何かしらの思惑でも無いよ。単なる魔力切れだ。」

 

「それで昼間は巣に籠りながら、ヤミーでセルメダルを増やして魔力回復に務める…って事か。」

 

「そういう事。流石に夜やり合うのは部が悪いからね…真昼の内に攻め込もうって算段だよ。」

 

ひらひらと片手を振りながら、軽い調子で言うカザリ。

対する映司や、後を追うカルデアの面々の顔は厳しい。

 

「なら、朝一狙った方が良いんじゃないの?態々昼間、多少回復した所を襲うメリット有るワケ?」

 

「別に?ボクには全く無いけど。」

 

訝しむ様なオルタに対しても、カザリは何処吹く風と言った様子で平然と返す。

 

「けどオーズも君らも、今夜一晩メズールを見逃して明日の朝に攻める…って作戦、提案した所で呑まないだろう?犠牲者出るのに指咥えて待ってる、っての見過ごせない性格だろうし。────それにヤミーがメダルを集めてメズールの元へ戻るのは夕暮れ辺りからだ。朝行こうが、今行こうが大差は無いよ。」

 

「成程な。つまりお前の目的は、ある程度セルメダルが集まってから(・・・・・・・・・・・・・・・)メズールを倒す事…ってワケか。俺達と一緒にメズールを倒した後、メズールのヤミーが集めたセルメダルも横取りする気だろ?」

 

「さぁて、何の事やら?」

 

対照的な表情を浮かべながら腹の探り合いをする二人。

正直ちょっと怖い。イリヤも滅茶苦茶怖がってるし。

等と考えながら、その場を見守る立香。

 

結局、これ以上この場でそれを議論しても意味が無い…そう判断した映司が引き下がる事でその場は収まった。

 

安堵し、ほっと息を吐くイリヤ。そんな彼女へ 映司は申し訳無さそうに苦笑する。

 

「ごめんね、イリヤちゃん。カザリはグリードの中でも特に頭の良いヤツだから、つい俺も用心深くなっちゃって…。」

 

「あ、いえ…大丈夫!

───────そう言えば、映司さんには欲…って有るの?」

 

「え?…俺の…欲?」

 

唐突に振られた話題に、一瞬ポカンとした表情を浮かべる映司。

 

「うん。えっと、ホントに何と無くなんだけど…この特異点に来てから、欲望って言葉が沢山出てきて、それで気になったんだ。映司さん、何か欲とか無さそうに見えるから。」

 

「成程ね。そうだな…俺の欲。確かに、ちょっと前までは無欲だったかも。いや、そう思い込んでただけと言うか…ちょっとのお金と明日のパンツさえ有れば良い…ってね。」

 

「ぱ、パンツ…!?」

 

「そ。男は何時死ぬか分からないから、せめてパンツ位は一張羅を常に身に付けておけ!…って、俺のおじいちゃんの教えなんだ。」

 

「へ、へぇ…。」

 

『中々に独特な感性のお爺様ですねぇ。』

 

予想外の教えに、少し…というかかなり困惑した様子のイリヤと、しみじみと言うルビー。とは言え他人の家の教えで有る以上彼女らにとやかく言う筋合いも無ければ、実際オーズとして戦う彼を見ている以上納得も出来る。……何故パンツなのか、は多少引っ掛かりはしたが。

 

「……ちょっと前まで、という事は今は欲が有る。そういう事?」

 

しみじみと懐かしむ様な映司へ、イリヤの隣から美遊が問い掛ける。正直、基本的に他者へ興味を持つ事の無い彼女が自ら問い掛けた事にイリヤは驚くも。彼女の聞いた事はイリヤ自身も気になっていたので、興味深そうに映司へ視線を向けた。

 

「……そうだね。今、俺の欲しい物…いや、ずっと欲しかった物は…"何処までも届く俺の腕"、かな。」

 

彼の言った事がよく理解出来ず、揃って小首を傾げる二人。

イリヤの脳裏に某有名海賊漫画の主人公の姿が浮かぶが…多分そういう事では無いだろう。

 

「比喩的過ぎて伝わらないかな?……俺はね。誰かが助けを欲してる時、手が届くのにその手を伸ばさなかったら、絶対後悔すると思ってる。…だけど、俺の手が伸ばせる範囲なんて凄く短い。

─────だから俺は、欲しい。どんな人にも…何処までも届く俺の腕。……助けられるだけの、力が。」

 

「へぇ、立派な考えですね…欲望って言うと、どうしてもネガティブに捉えちゃうけど、映司さんみたいな人も居るんだなぁ…。」

 

「ハン!ホントに御立派な考えですこと。立派過ぎて甘ったるいったら無いわ…あの聖女サマといい、どいつもコイツも…。」

 

映司の言葉に感心した様な立香と、呆れた様に言い放つオルタ。それぞれ異なる反応を示す二人に苦笑しながらも、イリヤ自身は彼の想いを好意的に捉えていた。

まるでヒーロー…正義の味方(・・・・・)の様だ。

 

「凄いね、映司さん。ねっ、ミ…」

 

だからこそ、彼女は戸惑った。

───────直ぐ隣に居る美遊が、驚愕に目を見開いていた事に。

 

 

 

 

 

 

火野映司。

最初の印象は、変な人。

あの未知の怪物を簡単に倒す力を持つ戦士、オーズ。そんな彼の人間としての姿は、コロコロと表情の変わる愉快な人間。始めは緊張感の無い人に見えたけど、話していく内に彼には彼なりの使命感が有る事も。何処か食えない、底知れない一面が有る事も分かり、少し興味が湧いた。

だけど、自分でも他者への感心が薄い事は自覚してる。だから、それだけでこの人に興味を持った…というのは、何だか腑に落ちなかった。

 

───────彼の、欲望を知るまでは。

 

何処までも届く腕…どんな人も助けられるだけの力。

よくある作り話、子供のお伽噺ならそれでも良い。だけど…そんなもの、現実には有りはしない。一人で助けられる人間なんて限界も有るし、だからこそ、人は助け合う。

そんなものを本気で望むなんて、普通じゃない。

仮にそれが手に入ったとして、それを振るうのはもう人とは呼べない。

それは、おおよそ人らしい存在とは言えない…ただ、人を救う為に動くだけの装置─────宗教なんかでよくある、都合の良い神様(・・・・・・・)に他ならない。

 

「ああ…そっか。」

 

彼女は知っている。

小さな犠牲に目を瞑ってでも、大勢の幸福を救おうとした一族(エインズワース)を。

 

彼女は知っている。

そんな道を選んだ義父の後を追い、嘗て一つの命と世界全てを天秤に掛け迷った少年(おにいちゃん)を。

 

彼女は知っている。

本人から直接聞いたワケではないが…クロとの会話から、何と無く察してはいた。戦場では頼れる弓兵として、カルデアでは皆を世話する人の良いお母さんの様なポジションで親しまれる赤いアーチャー。

そんな彼は、嘗ての兄と違い誰一人の犠牲も良しとせず、万人を救おうと足掻き続けた成れの果て(エミヤシロウ)なのだと。

 

昔の兄やその義父、そして自分を欲したエインズワースとも違う…映司の理想は、エミヤと同じ様に誰もを救おうというものだ。もしかしたら、何処かの平行世界に同じ様な想いを抱く"衛宮士郎"が居るのかもしれない…だけど、彼等も、映司も。

その想いは、きっと彼自身を───────。

 

「……ゆ?ミユ…?」

 

「……!え、あ…イリヤ…?」

 

「ど、どうしたの…?何だか、凄く考え込んでたみたいだけど…もう着くみたいだよ。大丈夫?」

 

「あ……大丈夫。ごめん、大丈夫だから…。」

 

心配そうに覗き込むイリヤに、美遊は微笑み掛ける。

見れば、アジトにはおあつらえ向きな廃工場の目の前。今は目の前の敵に集中すべき、と美遊は思考を切り替えた。

 

 

 

 

 

 

「メズールはこの中だ。ま、どうせ向こうも気付いてるだろうし…素直に正面突破が良いと思うよ。」

 

「よし…行こう。」

 

先陣を切り中へと進むカザリと映司に続き、立香達も工場内へと足を踏み入れる。

 

廃材や機械の放置された工場内部。まず目に入ったのは、その中心に腰掛ける一人の女性だった。

 

『間違い無い、彼女の霊基自体は源頼光のものだ。だけど、頼光本人の物じゃない…カザリ君同様、通常とは異なる形に変質している。』

 

「頼光さん…!」

 

不意に、名を呼ばれた彼女がこちらを向く。

そうしてこちらを見た彼女は、心底愛しいものを見るかの様に目を輝かせた。

 

「─────あらあらまあまあ!これはこれは、ようこそお越し下さいました。ええ、ええ!初めて会う方ばかりですが……母には分かりますとも!

そこの坊やは魔術師ですね?それに、傍らに居る幼き少女達も。ここに居ればもう安心ですよ…可愛い坊や、それにお嬢さん。母が守ってあげますからね。」

 

「守…る?」

 

話に聞き想像していたより穏やかな、というより何時もと何ら変わらぬ頼光の姿に困惑しつつ、立香は問う。

 

─────瞬間。慈愛に満ちた彼女の顔が憤怒に染まり、まるで鬼の様な形相へと変貌した。

 

「ええ、ええ…そうですとも。忌々しい王の力(オーズ)を持つ坊や。百歩譲って彼は良いとしても…可愛い我が子に色目を使う魔女と、こそこそメダルを狙う目障りな獣。嗚呼…可愛い我が子の周りに、こんなにもおぞましい羽虫が!母が全て叩き潰してあげますからね…!」

 

怒り狂った様に言う彼女がその霊基を変化させれば、彼女の背からタコの様な八本の触手が出現。同時に、禍々しい程の魔力を一気に解き放った。

 

「はあ!?ちょっと、アンタの目節穴!?何処をどう見たら、私がそういう評価になるのよ!人の事、売女みたいに言うの止めてくれます!?」

 

「やれやれ…マトモに聞くだけ無駄だよ。彼女はもう何を見ても、可愛い我が子かその敵としか映ってない。」

 

「お前の場合は自業自得だろ!」

 

「どっちだって良いわよ!決めました

────コイツは必ず私が燃やす!」

 

メズールの力を解き放った頼光に気圧される事無く、応戦の体勢を整えるカルデア勢。

オルタの放った炎と、頼光(メズール)の放った水流が宙でぶつかり合い─────戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 





鬼ヶ島、英霊剣豪、水着…思えば変質する事に定評の有る頼光さん、新フォーム獲得。

そしてfgo版UBW開幕()


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愛と憤怒と共同戦線

前回迄のあらすじ
『魔法少女プリズマ☆ォエージ』開幕

???「そんな夢でしか生きられないのであれば、抱いたまま溺死しろ!」

どうなる第五話!




─────嗚呼、何と嘆かわしい事か。

 

愛しき我が子達…魔術師の少年と、サーヴァントと思われる二人の少女。ええ、魔術師だろうとサーヴァントだろうと構いません。重要なのは、我が愛すべき子供達か否か。彼等は間違いなく前者でしょう。

そんな彼等が目障りな連中に惑わされ、今この母に刃向かおうとしている。

 

ええ、ええ。赦せる筈も無い。

けれど、道を違えた我が子を導くのも親の務め。

反抗期の様なものと大きな器で受け止め、正しい在り方を教えてあげるべきなのでしょう。

 

そうすれば、彼等は自らの過ちに気付くでしょう。

その時、私はきっと。

 

─────坊や達から溢れんばかりの愛を受けられる。

 

─────彼等に無償の愛を注ぐ母親と成れる。

 

 

 

 

 

───────この渇き(・・)を、愛が満たしてくれる。

 

嗚呼、そうに違いない。

ならば一時彼等に恨まれようとも。

 

この身を、メダルの畜生へと堕とそうとも。

私は────────。

 

 

 

 

 

 

「変身!」

 

「さあて…ボクも行こうか。ハアァ……!」

 

源頼光───もとい、メズールの触手から繰り出される水の弾丸を避けながら、映司は腰に付けたオーズドライバーへメダルを装填。ドライバーに備え付けられたオースキャナーでその力を読み取り、引き出す。

同時にカザリもグリードの力を解放。全身がセルメダルに包まれたかと思うと、それらが光を発しながら異形へと姿を変えていく。

カザリを包む光が収まると。そこにはアレキサンダーの姿をした人物ではなく、獅子を思わせる厳つい風貌の怪物が立っていた。

 

「あれが…グリード。カザリの本当の姿…!」

 

驚愕する立香の目の前で、映司もまたその身を眩い光で包み込む。

 

『タカ!トラ!バッタ!』

 

宙に出現した赤・黄・緑の光の輪が一つになり、輝く映司の身と重なれば。

 

『タ・ト・バ!タトバ!タ・ト・バ!』

 

彼を包む光が弾け、オーズが姿を現した。

 

 

 

「何よその変な歌!」

 

「歌は気にしないで!」

 

自在に伸縮し、自身目掛けて振るわれる触手。それらを手にした剣で捌くオルタと、両手に備わったトラクローでいなすオーズ。軽口の様な短い言葉を交わしながらも、彼等は目の前の敵に集中し、絶え間無く繰り出される連撃を確実に凌いでいる。

八本の触手全てが彼等へ向けられている隙を逃さず、カザリは低く身を落とし───メズール目掛けて駆け出す。

あっという間に間合へと斬り込むカザリ。だが、メズールは動じる事無くその手に太刀を構え、カザリ目掛けて振り下ろす。猫特有のしなやかさで咄嗟に身を捩り回避するカザリだったが、メズールは手を止める事無く幾度も刃を振るい続けた。

 

「チッ…!」

 

堪らず後退し、距離を取るカザリ。けれどメズールはそれすら許さず、今度は彼女から距離を詰める。

咄嗟にアレキサンダーの愛剣を手に取り、打ち込まれる刃を防ぐカザリ。その隙を突き、メズールを左右から挟み込む様に陣取ったイリヤと美遊が、メズール目掛けて魔力弾を放つ。

─────然し。カザリと鍔迫り合いを繰り広げながら、メズールは魔力弾を一瞥する事すら無く、触手をそれぞれに一本だけ割き弾き飛ばした。

 

「「えっ!?」」

 

「あらあら…母へ攻撃を仕掛けるなんて、おいたが過ぎますよ?」

 

余裕さえ感じさせる淑やかな笑みを湛えながら、頼光は直ぐ様触手をオーズとオルタの元へと戻す。驚嘆すべきは、当然の様にその間もカザリ、オーズ、オルタへの攻撃は緩まず続いていた事だ。

 

「これは…想像以上だね。コア全部揃ったらどうなるか…考えたくも無い。」

 

「これで万全じゃない…って事…!?だとしても、強過ぎる…!これだけの手数、幾ら英霊でも同時に処理するには多過ぎる筈なのに…!」

 

「多分これ、頼光さんのスキルだ…!」

 

『無窮の武練』─────源頼光の持つスキルの一つ。

ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。武装を失うなど、たとえ如何なる状況であっても戦闘力が低下することはない。

同じスキルを持つ湖の騎士・ランスロットは、この能力を有する事で狂化してなお円卓最高峰の技量を発揮した。

彼女もまた、狂化と欲望に呑まれながらも頼光の武芸とメズールの力を十二分に発揮している。

 

「だったら…!俺達全員を相手取れる程相手の対処が正確なら、全員同時なんて出来ない程の力をぶつける!」

 

要するに、力と判断を分散させられないだけの火力で突っ込む───結局のところ、力ずくのゴリ押しでしかない。

だが、それでも戦況に変化をもたらすなら構わない。映司はドライバー中央で黄色く輝くトラメダルを抜き取ると、代わりに灰色のメダルを挿し込み即座にオースキャナーへと読み込ませた。

 

『タカ!ゴリラ!バッタ!』

 

オーズの両腕からトラクローが消え失せ。代わりにガントレット状の武器『ゴリバゴーン』で覆われたゴリラアームへと変化する。

迫り来る触手の一本を、先程までとは段違いのパワーで殴り飛ばすオーズ。そのまま、彼は勢い任せにメズール目掛けて走り出す。

腕の重さ故に先程よりやや敏捷性は低下したものの、バッタの脚力でそれを補い強引に特攻するオーズ。彼を脅威と見なしたのか、オルタへ向けられていた触手も全て彼へと向けられた。

 

「はあ!?ちょ、正気!?」

 

「映司さん!?」

 

オルタや立香が困惑するのも無理は無い。今の彼は先程までの様に軽快に腕を振るう事は出来ず、頑丈なゴリバゴーンを盾に突っ込む事しか出来ない。

それでも。ゴリラの腕力で迫り来る攻撃を跳ね返し、危険なものは腕でガードしつつ、避け切れ無かった攻撃を食らってなお構わず突撃を続けたオーズは、じわじわとメズールへ距離を詰めて行く。

 

「あらあらまあまあ…羽虫の割には潔い攻め方をするではありませんか。

────けれど、それで何時まで持つのかしらね?オーズの坊や。」

 

触手を器用に操りながら、哀れむ様に嘲笑うメズール。彼女は手にした太刀を構え。

───────その刀身に、水と雷(・・・)を纏わせる。

 

「なっ…!?まさか、ウヴァのメダルを…。」

 

「私があの様な虫けらの力を使うとでも?

受けなさい────これぞ、我が身に宿りし帝釈天の雷!」

 

メズールの持つ水の属性と、頼光の有する北野天神の雷。

彼女が太刀を振り抜けば、オーズ目掛けてその両方が放たれる。

 

「ぐっ……うぉぉぉぉぉ!!!!」

 

苦痛に凄まじい叫び声を上げながらも足を止めぬオーズ。だが、その体へ何本もの落雷が降り注ぎ、まるで洪水の様な激流が彼の肉体へ叩き付けられる。

軈て、凶悪なまでの水流と電撃が彼の身体を、それらの巻き起こす轟音が彼の叫び声すらも掻き消し、周囲は彼を完全に見失ってしまう。

 

「嘘……!え、映司さーんッ!!」

 

「終わりましたね。…馬鹿な坊や。けどこれで……」

 

溜め息を吐きながら言い掛けたメズール───その動きが止まる。

彼女の一撃が巻き上げた煙が晴れれば、水流が辺りの機材を粉砕し、落雷が地面を抉り尽くしたその中心で。

あまりのダメージに膝を地に着けながらも、その全てを耐え切ったオーズが未だ存在していたからだ。

 

「…勝手に殺すなよ。」

 

「……つくづく愚かな坊やですこと。いっそ、あのまま散ってしまった方が楽だったでしょうに。」

 

肩で息をしながらも、呆れた様に言うメズールを睨み付けるオーズ。

 

「おあいにくさま。楽して助かる命なんて無い…そんなの、とっくに知ってるからな。」

 

「そう─────では、苦痛の果てに助かったその命。改めて散らせて見せましょう。」

 

冷たく言い捨てると、再び太刀を構えるメズール。

今度こそこれで終わりだ…そう確信するメズールは、失念していた。

 

刃を振り下ろそうとしたその瞬間─────彼女の本能が最大限の警鐘を鳴らす。

咄嗟に背後へ振り向けば、そこには目と鼻の先まで迫った虎の爪。

 

「しまっ…!」

 

それ以上の反応すら許さず、カザリの爪は彼女の脇腹を深く切り裂き抉り取る。

多量の血と魔力…そしてセルメダルを撒き散らしながら絶叫するメズールに構わず、彼女の背後へ着地したカザリは満足そうに手にしたメダルを眺めた。

 

「ごめんね、メズール。君のメダル、貰ったよ。」

 

「貴様…穢らわしい獣の分際で!返せ…ッ!」

 

挑発するかの如く、敢えて手にしたメダルを彼女へと見せ付けるカザリ。そんな彼目掛け、憤怒の形相を浮かべたメズールが飛び掛かった。

 

狂気。欲望。それに加えて怒りにも支配されたメズール。或いは、先程までの彼女なら気付く事が出来たかもしれない。

だが、今の彼女には最早カザリ以外見えていなかった。

だからこそ。

 

「…これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮───」

 

メダルを奪い返そうと振るった一撃を、カザリの軽快な身のこなしで避けられ歯噛みし

─────漸く彼女は、自身の置かれた状況を理解する。

 

「ぐっ…!」

 

怒りに震えながらも退避しようとするメズール。

だが、遅過ぎた。

 

「"吼え立てよ(ラ・グロンドメント)()我が憤怒(デュ・ヘイン)"!!」

 

ジャンヌ・オルタの放つ、呪いを帯びた業火。オリジナルのジャンヌ・ダルクを焼き尽くした"魔女の火炙り"を思わせる、憎悪と憤怒と激情を包み込んだ焔は、苦し紛れにメズールの放った水流を容易く蒸発させる。

 

「が…あぁ…!こ、の…!」

 

例えその本体がメダルであったとしても。サーヴァントの霊基と一体化したメズールの肉体は、灼熱の炎とそこに刻まれた呪いに蝕まれる。

ジャンヌ・オルタのこの宝具は『復讐者の名の下に、自身と周囲の怨念を魔力変換して焚きつけ、相手の不正や汚濁、独善を骨の髄まで燃やし尽くす』というもの。

 

つまり。欲望(メズール)狂愛(バーサーカー)が混ざり合い、独善的な慈愛を撒き散らす彼女との相性は最悪だった。

 

「良いザマね!さあ、この私がここまでお膳立てしたのです─────当然、仕留められるんでしょうね?」

 

炎の中で藻掻きながら、オルタの言葉にメズールが視線を上げれば。

そこには何時の間にか距離を詰め、オースキャナーを構えるオーズの姿。

 

『スキャニングチャージ!』

 

オースキャナーから声高に発せられる、終幕への合図。

それを腰へ戻したオーズは、炎の外からメズール目掛けて両の拳を構え────彼が両腕を振り抜くと、勢い良くゴリバゴーンが射出された。

 

「うぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「ぐっ……!おの、れぇぇぇ!!!」

 

咄嗟に太刀を投げ捨て、自身目掛けて炎の中を突き進む拳を両手で受け止めるメズール。平安最強の神秘殺しと呼ばれた武士は、その膂力を狂化によって底上げし───それでも足りず、全ての触手を地に撃ち込み必死に踏み留まろうとするも。

ゴリラの力を宿した二つの拳を止め切る事は出来ず、彼女の身体は無惨に宙を舞う。

メズールを弾き飛ばしたゴリバゴーンは目標を失い、勢いをそのままに空高く舞う。

 

その行く先は決まっている

─────主の元へと戻るのだ(・・・・・・・・)

 

宙を舞うメズールが、薄れゆく意識の中目にしたものは。

バッタの跳躍力を全開にし天高く飛び上がったオーズと、収まるべき腕目掛けて飛翔する二つの拳。

 

「おのれ…おのれおのれおのれおのれおのれ!!!800年前同様忌まわしきオーズ!!私は、金時(我が子)を誑かしたあの鬼と同じ位、貴様が─────!」

 

「はあぁ……セイヤァーーー!!」

 

自身の元へと戻って来たゴリバゴーンを、オーズはバッタレッグの脚力をフル稼働させ、メズール目掛けて蹴り飛ばす(・・・・・・・・・・・・・)

先程以上の勢いで撃ち込まれるゴリラの拳を受け止める事など出来ず。正面からそれを食らったメズールの身体は、燃え盛る炎の中央へと叩き付けられた。

 

直後、巻き起こる爆発。オルタの宝具とは異なる炎と、衝撃で崩れ去ったコンクリート片を巻き上げたそれは、多量のセルメダルを撒き散らしながら凄まじい衝撃をその場に放った。

 

「くっ…!」

 

「マスターさん!ルビー、お願い!」

 

「サファイア、貴女も!」

 

『『お任せを!!』』

 

イリヤと美遊の指示で、立香を守る様に展開される物理保護の障壁。その防壁を襲う衝撃は暫く続き…漸く収まった時、立香の目に入ったのはクレーターの様に抉られた『工場の床だった』荒れ地。

 

「助かったよ…ありがとうイリヤ、美遊。」

 

魔法少女達に感謝を述べ、苦笑する立香。オルタ、オーズ、カザリも彼等の元へと集まって来た。

 

 

 

「やれやれ…容赦無いねぇ。」

 

「お前こそ、ちゃっかりメダル回収してただろ…。」

 

「さて、何の事やら?それじゃ、メズールのメダルを頂くとしようか。」

 

「やらせると思うのか?」

 

睨み合うオーズとカザリ。一つの戦いが終わった直後にも関わらず、彼等の纏う空気は既に一触即発ものだ。

 

「やらせて貰わなくても、やるよ。目的は達したし、ボクはここで─────」

 

気怠そうに共闘の解消を告げようとしたカザリの言葉は、最後まで続く事は無かった。

 

身体を何かで貫かれた─────その事をカザリが理解するまで、そう時間は掛からなかった。傷口から漏れる魔力と崩れ落ちたセルメダルを見て、カザリは表情を歪める。

カルデアからの通信が入るのは、それとほぼ同時だった。

 

『まだです!敵勢力、未だ消滅していません!いえ、それどころか…これは…!』

 

切羽詰まった様子のマシュ。だが、彼女からの通信を聞く迄も無い。

それ(・・)の気配、突如湧き上がった強大な魔力の奔流に、その場の全員の視線がクレーターの中心へと向けられる。

 

「……私がお膳立てしたのに、仕留め損ねたってワケね。後でアンタ燃やすから。」

 

「それは怖いけど、そうなる事を祈ってるよ…先ずはコイツを何とかしないと、その"後で"も来ないからね…!」

 

そこに居たのは、最早思考や理性すら失った欲望の塊。

言葉を交わしたり、剣を交えたりする必要すら無い───未だ頼光の形こそ保っていたものの、最早彼女は先程迄とは別物だと、その場の全員が理解していた。

 

「ワタシの…コドモ達……!ワタシの……メダルゥゥゥ!!返せェェェ!!!」

 

その手に太刀を。背にした触手には刀・弓・槍・斧を携え魔力を全開にした狂戦士が、彼等を睨み付けていた。

 




筆者「前書きのあらすじ?全部が全部嘘ってワケじゃない。
映司くん正義の味方っぽくてヒヤッとしたし、この先やべぇなとも思ったよ。」

次回のネタバレすると、メズールさん罠に嵌まって網で捕獲されるよ!ついでにウヴァさんは落とし穴に落ちるよ!
信じるか信じないかは貴方次第!


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リスクとリターンと灼熱のコンボ

???「てんっさい物理学者の桐生戦兎は」
???「一ミリも出て来ねぇよ。どうなる第六話!」




「ハァァァァァ!!!!!」

 

勢い良く振り抜かれる四本の刃。

そこから立香達目掛け放たれる雷の魔力を彼等が間一髪で躱すと、そのままコンクリートの地面を容易く抉る。

それだけでは終わらず、続け様に弓から放たれる魔力の矢。最早狙いも何も無く、凄まじい手際で番えては放たれるそれは、まるで機関銃の様に片っ端から工場内を粉砕していく。

 

暴走以外の何物でも無い。既に彼女に理性は無く、今のメズールは目に付く物全てを破壊し尽くす狂戦士以外の何者でも無かった。

 

「チッ…!もう誰が憎いだの誰を愛するだの関係無いね…ボク達の区別すら付いて無いんじゃないの、あれ。」

 

「お前に対しては最初から殺意MAXだったけどな…けど確かに、今の状況はマズイ。あんなのが外に出たら…!」

 

カザリの話が確かなら、狂化しても彼女は本能的に魔力の枯渇だけは避けていた筈だ。

だが目の前の怪物は、どう見てもそう長くは持たないペースで魔力を放出している。普通に考えて、只でさえ燃費の悪いバーサーカーがこのペースで戦闘を続ければ一時間…いや、三十分と持つ筈が無い。

 

「逆に放っておいた方が良いんじゃない?どう見ても自爆すら気にしてない暴走だし、勝手に暴れさせたらその内消えるわよアイツ。」

 

「それは駄目だ…そんな事したら、犠牲者がどれだけ出るか…!」

 

舌打ちしながら矢を弾くオルタが、冷静な判断を下す。けれどその方針を容認出来る立香では無かった。

今のメズールを解き放てば、間違い無く大きな被害が出る。それだけは避け無くてはならない。

 

「立香君の言う通りだ…それに、普通のバーサーカーならそれでも最終的に止まるかもしれない。けどアイツはあくまでメズールだ。外に出したら、今度は片っ端からヤミーを作って魔力を補給する!」

 

「魔力切れも期待出来ないってワケね…じゃ、どうしろって言うのよ!」

 

「魔力切れを狙うのは間違って無いよ。────その為には、ボク達がここで奴を好き放題暴れさせながら足止めしなきゃいけないけどさ。」

 

「それはどうも。簡単そうで何よりだわ!」

 

やれやれ、と呆れた様に言うカザリにオルタは皮肉を返す。それが簡単に出来れば苦労は無いだろう。

 

現状、先の戦いでメズールから執拗な攻撃を受けた上に、宝具まで使用したオルタは限界が近い。

幸いな事にイリヤと美遊はまだ余裕が有るものの…今のメズールを相手取るには、彼女達二人だけに任せるのはリスクが高過ぎる。

カザリもメダルこそ奪われてはいないが、不意討ちで受けた負傷のダメージが大きいのか、動きが目に見えて鈍くなっている。

となれば残るはオーズだが…彼もまた、無茶な突撃のせいでダメージが大き過ぎた。

 

「けど、そんな事言ってられない……アレ(・・)を使うしかないか…?」

 

一瞬の逡巡の後。

やむ無しと意を決した映司は、自らの内に眠る力を呼び起こそうと───────

 

「待ちなよ。早まるなって、オーズ。」

 

不意に背中を叩かれ、我に返るオーズ。

振り返れば、アレキサンダーの姿へ戻ったカザリが苦笑していた。

 

「今君にアレを使われて暴走でもされたら、ボクもちょっとばかり困る。」

 

「……まあ、一緒にお前を倒すかもしれないからな。」

 

「そういう事。君だって、彼等を巻き込んで暴走したくは無いだろう?だからさ…。」

 

そう言うと、その手に二枚のメダルを出現させるカザリ───否、自身の内から排出したと言うべきか。

 

「…どういうつもりだ?お前が自分のメダル(・・・・・・)を差し出すなんて。」

 

訝しげに問うオーズ。それも当然だろう。

彼が出したのは、まさにカザリ自身を構成する黄色のコアメダルだったのだから。

 

「差し出すんじゃない。本当は嫌だけど、リスクとリターンを天秤に掛けて貸すだけさ。終わったら返して貰うつもりだよ。」

 

カザリは肩を竦めながら、渋々といった様子でそれをオーズへ握らせる。

確かに、彼の力はメズールを相手取るには相性が良い。

 

「……返すつもりはないからな。」

 

「別に良いよ。君がどういうつもりでも、返してもらうからね。」

 

カザリと短く言葉を交わすと、オーズは手にしたメダルとドライバーのタカ・バッタのメダルを入れ替える。そして、残ったゴリラのメダルも先程戻したトラのメダルと差し替えると、その手にオースキャナーを構えた。

 

「立香君…彼女達を指揮して、援護を頼む。」

 

「映司さん…?」

 

メズールの猛攻を凌ぐ為、サーヴァント達へ指示を飛ばしていた立香は、不安そうに問い掛け───

"大丈夫"と頷いた彼を信じる事に決める。

 

「分かりました…無理はしないで下さいね。」

 

「えーっと…うん、なるべく頑張ってみるよ。」

 

少し不安の残る返答を残しながらも、オースキャナーでドライバーのメダルを読み込むオーズ。

再び彼の身体が光で包まれると共に。先程までのどれとも違う、黄色い輪が三つ宙に浮かび上がる。

 

『ライオン!トラ!チーター!』

 

それらの輪が重なり、一つの紋章が浮かび上がった。

黄色一色の輪で囲まれた、ライオン、トラ、チーターの描かれたその紋章は…立香が先程目にしたタトバと呼ばれた姿のそれより、心なしか強い力を感じさせた。

 

「あれは…!」

 

『ラタ・ラタ!ラトラァータァー!』

 

タトバの時とは異なるリズムで響き渡る歌声。

紋章が光に包まれたオーズの身体と重なると、その光を弾き飛ばす。

黄金に輝く鬣。その腕に備わった鋭い爪。鮮やかな黄色の引き締まった脚。

そして胸の紋章は、先程浮かび上がったのと同じ黄色一色。

カルデアの面々が知る筈も無いこの姿こそ、仮面ライダーオーズ・ラトラーターコンボ。最速の名を欲しいままにする、力と速さを併せ持った灼熱の王者。

 

『ほほぅ…!ゴリラのメダルを使った時には歌は流れなかったのに。これは組み合わせの関係かな?』

 

『ダヴィンチちゃん、注目すべきはそこではありません!映司さん…いえ、オーズの魔力が急激に上昇しています!』

 

「それについては後でね!……行くよ!」

 

宣言し、深く腰を落として構えるオーズ。─────彼が大地を蹴り出せば、残像すら残る程の速さであっという間にメズールとの距離が縮まる。

 

「ガァァ!!」

 

「うぉぉぉ!!」

 

互いに唸り声を上げながら、オーズの爪とメズールの太刀がぶつかり合う。刃と刃に火花を散らせながら、目にも止まらぬ速度で何度も打ち合われる攻防は、周囲が横槍を入れる隙など微塵も無い。

 

その間も周囲へ触手の攻撃は続いていたものの、どう見ても狙いも何も無く出鱈目に振り回しているに過ぎない。その事実は、如何に頼光の技量が優れていようが、周囲を気に出来る程の余裕が残っていない事を示していた。

 

「それなら、何であの触手でオーズを攻撃しないの…?」

 

美遊もそこに気付いたらしい。確かに彼女の言う事ももっともだ。

目の前のオーズが速過ぎて、的確に対処が出来ないのも有るだろう。だが現状無秩序に振り回す位は出来ている。あれらを全て使えば、オーズのスピードにも手数で対応するか、無理矢理距離を空け自分の間合いに持ち込む程度は出来そうなものだが…

 

「─────ッ!そっか…!しないんじゃない…間合いが近過ぎて出来ないんだ!」

 

今、二人は目と鼻の先で斬り合っている。下手に触手で外から攻撃しようとすれば、メズール自身へ誤爆する可能性も充分に有り得る。

或いは、彼女が手にしているのは短刀ではなくリーチの長い太刀。近距離から中距離まで幅広く対応出来るものの、その刀身の長さ故にあまりに接近されると、どうしても対応し辛く、そちらに集中せざるを得ないのではないか。

そこに気付いた立香の行動は迅速だった。

 

「美遊、イリヤ、オルタちゃん!あの触手を破壊するよ!」

 

彼等にオーズへの直接的な援護は不可能だ。メズールがオーズに触手の武器を向けられないのと同じ様に。あの激しい攻防目掛けて下手な攻撃を放てば、却ってオーズの足を引っ張りかねない。ならばせめて触手を破壊し、一枚でも多くセルメダルを彼女から切り離す事で、魔力切れや弱体化を誘発出来るのではないか。

となれば、どの触手を狙うかだ。一瞬の思考の後、立香の下した判断は───────。

 

「狙うのは、槍を持ってる触手!」

 

「分かった!」 「…了解。」 「上等じゃない!」

 

狙うは、最も大きな攻撃範囲を持つ一本。

弓は無視だ。射程距離こそ長いものの、どのみち今のメズールに正確な狙いを付ける余裕は無い…ただ、手当たり次第に乱射しているだけ。その割に弓という武器の仕組上、二本の腕と矢を生み出す為に魔力を割いてくれる。

動きを制限し、勝手に魔力を消耗してくれる弓を除外するならば、狙いは次に長い射程を持つ槍以外に無い。

 

 

「オルタちゃん、無理はしないで!イリヤは彼女を援護しながら砲撃を!美遊は攻撃に参加しつつも、矢と他の触手を対処して!」

 

言うやいなや、立香は自身の魔力を練り上げる。

彼自身の魔術師としての腕はからっきしだが、身に纏うその戦闘服は単なる衣類ではない。カルデアの技術を持ってして作り出された魔術礼装で、それ自体が高度な魔術理論を帯び、魔術師の魔力を動力源として起動して定められた神秘を実行する「限定機能」と呼ばれる機能を有している。

 

「行くよ皆!"全体強化"!」

 

立香の魔力を動力源に、礼装の機能を用いて彼が魔術を発動すれば。魔力経路(パス)を通じ、サーヴァント達は己の力が高まるのを感じた。

 

「ハン!良いアシストよマスターちゃん!」

 

「これなら…!」

 

「うん、やれる!行くよルビー!砲撃(フォイア)!!」

 

オルタが。美遊が。そしてイリヤが、立香の指示通り各々の目標へと攻撃を開始する。

立香の魔術で底上げされた彼等の攻撃に、如何に狂化したメズールといえど苦悶の表情を隠せない。

 

「グッ…オノレ…!」

 

「───────隙有り!」

 

サーヴァント達へ僅かに気を取られた一瞬。その隙を逃さず、オーズはメズールの太刀を両の爪で強引に弾く。

両腕を大きく開く体勢となった彼女の胴はがら空きとなり。オーズは即座に彼女の両肩へ飛び付くと、そのまま大地を掘り起こす様に彼女の胴の上で走り始める(・・・・・・・・・・・・)

 

「うぉぉぉぉぉ!!」

 

さながら、手摺りに掴まりランニングマシンを駆ける様に。フル稼働させたチーターの脚力でオーズがメズールの 腹上を蹴る度、勢いに耐え切れず彼女の身体から崩れたセルメダルが飛び散っていく。

 

『凄い…!メズールの魔力、急激に減少していきます!』

 

通信越しにマシュが息を飲む。

自分本意な愛で溜め込んだメズールのメダルは、凄まじい勢いで彼女から削り出され宙を舞い…ちゃっかりカザリがそれを掠め取った。

苦痛と怒りに表情を歪めるメズールを他所に、オーズの猛攻は続く。だが、流石にそのまま終わりという訳にはいかない。

メズールは大きく口を開くと、そこへ魔力が集約し水へと変わる。それに気付いたオーズは距離を取るべく、咄嗟に彼女の身体を蹴りつけ後方へ跳躍した。

 

「甘イ…!」

 

着地したオーズが視線を上げれば、蹴り飛ばされよろめきながらも、凶悪な笑みを浮かべるメズール。次の瞬間、オーズ目掛けて高圧の水砲が解き放たれ──────

 

 

 

気付けば、メズールは視覚を失っていた。正確には、眩い光と強烈な熱に視覚を奪われた(・・・・・・・・・・・・・・・・)というべきか。

 

「ガァァァ!?ナ、何ガ……」

 

両目を手で抑えながらメズールは後退る。無論、そのままでは敵の良い的だ…それを理解していた彼女は無理矢理目を抑える手を下ろし、何とか目を凝らす。

 

『スキャニングチャージ!』

 

「─────始まりの蹂躙制覇(ブケファラス)。」

 

ゆっくりと戻りつつある視界に浮かび上がるのは、尋常でない速度で蒸発する周囲の水溜と、三つの黄金のリング─────そして、荒々しく蹄を鳴らす漆黒の騎馬。

オーズは勢い良く騎馬の背へ跨がると、全身から凄まじい熱を発生させる。

 

彼女は驚愕に目を見開き、同時に肌を刺す熱から全てを理解した。

自身の放った水流を、オーズは干上がらせた…そしてこれから放とうとしている一撃は、それ以上の力を秘めているであろう事を。

彼女はそれを迎え撃つべく、残る全ての魔力を解放する。

 

「ウァァァァァァ!!!!!

─────牛王招来・天網恢々ィィィ!!!!」

 

名を明かし全力を解放した源頼光の宝具は本来、魔性・異形としての自己の源である牛頭天王、その神使である牛を一時的に召喚し、これと共に敵陣を一掃するというもの。その際彼女の従えた四天王の魂を象った武具を用い、強大な牛鬼を討ち果たしたエピソードを宝具に昇華させているのだが…今の彼女はそれを、タコの腕を用いる事で常時解放させている。

本来、宝具を解放させた一時にのみ振るう筈の巨大な力を自在に操る今のスタイルは間違い無く強力なものであり────然し、同時に弱点と化していた。

 

オーズの必殺技を受ける前に宝具で奴を仕留める。殆ど残らぬ僅かな理性でそう判断したメズールは、積み重なったダメージと、視界を奪われたショック、そして狂化の影響で自身の宝具が不完全な事にすら(・・・・・・・・・・・・・・)気付いていない(・・・・・・・)

 

「へぇ…マスター君達、やるじゃないか。予想以上だよ、これは。」

 

珍しく感心した様に言うカザリ。

立香達の尽力により、彼女は既に槍と二本の触手を失っていた。当然、単純に手数も、そこに在った筈のセルメダルも足りていない。そしてその事実が、源頼光の宝具を成り立たせるエピソードそのものを根幹から崩壊させ、更なる力の低下を招く。

 

「アアアアア!!!!」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

それに気付かぬまま彼女の放った一撃は、愛剣メダジャリバーを手に漆黒の馬(ブケファラス)を乗りこなし疾走するオーズに斬り伏せられる。

そのまま脚を止める事無くオーズとブケファラスはリングを潜り抜け───────。

 

「セイヤァァァァァァァ!!!!!」

 

灼熱を纏ったメダジャリバーが、彼女の霊核(コア)を打ち砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…えっ!?あ、ちょ…うわっとっと…だぁ!?」

 

自身の背の上で一息吐いたオーズを振り払う様に、ブケファラスは突然その場で激しく体を振り回す。如何にコンボ状態のオーズといえど、流石にその不意討ちには対処出来ず……。

 

「あ痛ったァ!?」

 

ズドン、と鈍い音を響かせ盛大に落馬した。

そんな彼を見下ろし、これ見よがしに大きく鼻息を鳴らすと、ブケファラスは自ら魔力の粒子と化し、あっという間に座へと還ったのだった。

 

「痛ててて……。」

 

「アハハハ!!傑作じゃないか、オーズ。最後の最後でこんな締まらないオチなんてね。」

 

「お前…笑うな…。ていうかあの馬…滅茶苦茶機嫌悪くなかったか…?」

 

アレキサンダーの姿のまま、意地悪く笑いながらオーズの傍へと歩み寄ったカザリ。

寝転んだまま、思い切り打った頭を擦りながらオーズは彼へ恨み言を漏らす。

 

「そりゃね。元々この英霊(征服王)にしか乗りこなせない程の暴れ馬だし。しかもその身体を無理矢理ボクが奪って、それを君に又貸ししたんだ…そりゃ機嫌も悪くなるだろう?」

 

「それなら先に言って欲しかった…ラトラーターじゃなきゃ振り落とされてたぞアレ…。」

 

「言う暇なんて無かっただろう?それに君がボクのメダルのコンボなら、アレを乗りこなせるって分かってたから貸したワケだし。」

 

「じゃあせめてお前が乗って、俺と同時攻撃でも良かったんじゃ……。」

 

「嫌だよ。あんなの乗るよりボク、自分で走った方が早いし……ねっ!」

 

悪びれる事も無くしれっと言い放った彼は。そのままオーズのベルトへ手を伸ばし、そこに収まっていた黄色のメダルを全て奪い取った。

 

「あっ!?カザリ、お前…!」

 

変身が解かれ、地べたへ転がったオーズの姿が映司のものへと戻る。

 

「貸すだけって言ったろ?ついでにこのトラメダルは、貸した二枚のレンタル料…って事で。」

 

「ふざけ……」

 

咄嗟に起き上がろうと藻掻いた映司だったが。彼の身体に急激な苦痛と倦怠感が襲い掛かり、上手く動けずその場を無様に転がってしまう。

 

「無理しない方が良いんじゃない?────ま、今回は借りも大きいし、これだけで勘弁しといてあげるよ。」

 

「じゃあね」と短く告げると、彼は映司の元へと駆け寄って来た立香達の合間を縫って颯爽と姿を消した。

 

「映司さん!大丈夫ですか!?」

 

「あんのクソ猫…次会ったら消し炭にしてやる!!」

 

「映司さん!ぼ、ボロボロになってる!どうしよう美遊ぅーー!?」

 

「お、落ち着いてイリヤ…!映司…さん、聞こえますか…?」

 

カザリにはしてやられたが、もう今更言っても遅い事だ。気持ちを切り替えた彼は、寝そべったまま騒々しいカルデアメンバーへと微笑み掛けると。

 

「大丈夫…だよ。ほら…。」

 

ポケットを漁り取り出したそれ(・・)が無事な事を確認し、安堵に息を漏らす。

 

 

 

 

 

「明日のパンツ…今度は燃えて無かった。」

 

微笑んだまま、映司は穏やかな声音で弱々しく呟いた。




バーサーカー【真名:源頼光、メズール】

ステータス
筋力A+
耐久A
敏捷C
魔力A+
幸運D
宝具A++
(オーズ達との戦闘時。その他の場合所持メダルに応じて変化)

所持スキル
・狂化(EX→EX):理性と引き換えに身体能力を強化するスキル。元々頼光が保持していたスキルよりステータスの上昇、及び道徳的な破綻の悪化や理性の低下を引き起こしてはいるものの、元々EX(規格外)ランクの狂化を有している為便宜上EXランクと表記

・変化(メダル)(EX):文字通り「変身」する能力。源頼光の霊基と混ざり合ったメズールの影響で、コアメダル及びセルメダルを取り込む程その姿、能力はグリードのそれへと近付いていく。それに伴いステータスも上昇するが、セルメダルは消耗品の為、魔力を消費する度にグリードから通常のサーヴァントへと近付くという逆戻り現象が起きる。

・騎乗(A+→D)
・神性(C→D)
グリードと混ざった事で、元々所持していた能力や神性が低下した。

宝具
・牛王招来・天網恢々
通常は『魔性・異形としての自己の源である牛頭天王、その神使である牛(あるいは牛鬼)を一時的に召喚し、これと共に敵陣を一掃する。
神鳴りによって現れる武具は彼女の配下である四天王たちの魂を象ったものであり、金時の「黄金喰い」、鬼火を纏う「鬼切」、長巻の「氷結丸」、風を纏う「豪弓」が現れる。』というものだが、メズールの持つ力と混ざり合った事で、牛頭天王及び神使の牛を召喚するのでは無く自らその力を纏う武装・スキル系の宝具へと変質した。完全に解放する事で、『強大な牛鬼を退治したという頼光にエピソードを昇華し取り込むことで、神使の破壊力は本来のものよりも上昇している。』という元々の効果を発揮する事も可能だが、何らかの理由により完全な状態で発動出来なければエピソードを昇華して取り込む事が出来ず、本来の力を発揮する事は出来ない。

所持メダル
シャチ×2
ウナギ×2
タコ×3
(計7枚)



現状でのバーサーカーの設定です。解釈違い等も有るとは思いますが、こんな感じで考えながら書いてます。
「ラトラーターでトライドベンダー乗りたい…でも都合良く自販機有るのは不自然だし…。
せや、暴れバイクも暴れ馬も同じ様なモンやろ!(同じじゃない)」という発想から生まれたカザリ君との合体技、強引なのは大目に見て貰えると嬉しいです。

次回、『明日のパンツとパンツとやっぱりパンツ(仮)』もお楽しみに!


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幕間の物語1【映司とジャンヌ・オルタ】

最初に言っておく。
甘酸っぱい空気にはならない!あと、侑斗をよろしく!




「───────ん…ここは?」

 

目を覚ました映司の視界に映ったのは、見知らぬ天井。

どうやら先の戦いの後、気を失ってしまったらしい。

全身に奔る激痛を堪え、ゆっくりと起き上がる。

 

「あら、目を覚ましたのね。流石グリードもどき、しぶといじゃない。」

 

「オルタちゃん…。」

 

「オルタちゃん言うな。」

 

狭い部屋の隅、パイプ椅子に腰掛けていたオルタが開口一番皮肉を飛ばす。

苦笑しながら映司が辺りを見渡すと、どうやら今居るのが何処かの事務所らしい事は理解出来た。彼が寝かされていたのもソファーの様だ。

 

「じゃあ…ジャンヌちゃん。ここは?」

 

「オルタちゃんで良いから二度とその呼び方するんじゃ無いわよ。次言ったら燃やします。─────ここは、さっきの廃工場に併設されてた事務所みたいね。誰も居ないから当面の拠点にするんですと。」

 

心底嫌そうに表情を歪めながら答えるオルタ。……そんなに嫌だったのだろうか。

 

「そ、そっか…うん、分かった。皆は?」

 

燃やされては堪らないと、映司は慌てて話題を逸らす。

その問いにオルタはフンッと鼻を鳴らしつつ、面倒臭そうに答えた。

 

「マスターちゃんと幼女共は出てるわよ。別行動してた他の連中と合流して、今後の方針を話し合うらしいわ。」

 

面倒臭そうにしながらも答えてくれる辺り、この子実は律儀だな…というか、会ってからの言動見る限り、多分根っこは良い子だよね?

 

思いながらも当然口にはしない映司。燃やされたくは無いから。

 

「てことは…ゴメン、俺が足引っ張っちゃったな。オルタちゃんに留守番してもらった…って事だよね。」

 

「ええ、全くもってその通り…良い迷惑だわ。───ま、今回はマスターちゃんが『ここを拠点にする為に、頼れるオルタちゃんに守ってて欲しい』って言ったから見逃してあげるけど。…ったく、面倒ったら無いわね。」

 

聞いて無い事まで全部話してくれた。嬉しさと不満の入り交じったその表情は…多分頼りにされた事への誇らしさと、立香君の護衛じゃなくて留守番にされた事への苛立ちだろう。推測でしかないけれど。

…やっぱりこの子本当は良い子だよね?

 

「……何よ、その不愉快なニヤケ面。死にたいの?」

 

どうやら全部顔に出てたらしい。映司は慌てて顔を逸らすと、態とらしく咳払いした。

 

 

 

そこから暫く無言の時間が続く。

映司としては…正直気不味い。

そんな状況を打破しようにも、中々良い話題も見付からず途方に暮れる映司。世界中を旅して、多くの人々と触れ合ってきた映司がこうなるのは重症と言えるだろう。

 

不意に、必死に話題を探していた映司の脳裏に一つの疑問が浮かんだ───浮かんだが、果たしてそれを口にして自分は生きていられるのだろうか。

とは言え、今の状況は映司にとっても中々にキツイ。一人旅をしてきたので一人の時間は嫌いでは無かったが…今のこれは状況が違う。

結局沈黙に耐えかねた映司は、それを聞く事に決めた。

 

「オルタちゃん。」

 

「何よ。」

 

「えっと…あ、先に言っとくけど、もし気に障ったらゴメン!決して不快な想いをさせたいワケじゃないから、どうか燃やすのは勘弁して欲しいんだけど…。」

 

「まどろっこしいわね!言いたい事有るなら言いなさいよ!燃やすわよ!?」

 

決めたが、映司と言えど言い辛い事は言い辛い。

手が届くなら手を伸ばす事を躊躇ったりはしないが、言い辛い事を聞く時には躊躇だってしてしまうのだ。

 

「それじゃ…えっと、さっき"ジャンヌちゃん"って言ったら凄く嫌そうにしてたろ?何でかな…って。」

 

瞬間、聞かなきゃ良かったと後悔した。

オルタは不快感を隠しもせず、映司を睨み付ける。

 

「あ、えっとゴメン!怒ったよね…ごめん忘れて!」

 

「別に、怒ってません。ヘラヘラした奴だと思っていましたが…本当にデリカシー無いと知って感心しただけです。」

 

「それ怒ってるんじゃ…。」

 

「あ"?」

 

どうやら地雷を踏み抜いたらしい。流石の彼も震え上がり、咄嗟に目を逸らす。

永遠にも思える耐え難い沈黙。どうするべきかと映司が思考をフル稼働させていると、やがてオルタは呆れた様に盛大な溜め息を吐いた。

 

「……何て事は無いわよ。その呼び方は、私とあのお綺麗な聖女サマを同一視したみたいで心底ムカつく…それだけです。」

 

「…お綺麗な…聖女サマ?」

 

「救国の聖女、ジャンヌ・ダルクよ。」

 

きょとん、と問う映司に、腹立たしげに答えるオルタ。

その名は映司にも覚えが有った…というより、程度の差はあれど知らない人間の方が少ないだろう。

 

「そう言えば、オルタちゃんの名前って…ジャンヌ・オルタだよね?確か…サーヴァントは同じ英霊を元にしても、別の側面が別のサーヴァントとして呼ばれる事があるんだよね。そういう感じ?」

 

通常、英霊とは人が使い魔(サーヴァント)として扱うには過ぎた存在。故に彼等そのものをまるごと召喚する事など、人の手では不可能だ。

故に、彼等は通常『クラス』と呼ばれる器に、一つの側面を切り取り収る事で漸く召喚が可能となる。そこには厳しい選定基準が有る為、通常一人のサーヴァントが該当するクラスは一つなのだが、中には複数のクラスに該当する者も居るらしい。てっきり彼女もそういう類なのかと映司は解釈していたが…。

 

 

「あら、意外と博識ね。けど違うわ…私は元々、ジャンヌ・ダルクの紛い物(オルタナティブ)。」

 

「紛い物…?」

 

「贋作よ、が・ん・さ・く。アンタ、ジャンヌ・ダルクの最期は知ってる?」

 

オルタに問われ、映司は言葉を詰まらせる。

無論知っている…フランスを救った救国の聖女は、最期は彼女を恐れ者達によって"魔女"の烙印を押され火炙りにされた。

 

「……その顔を見るに、やっぱ知ってるわね。私は、その最期に怒りと憎悪を抱きながら散った復讐の魔女。ジャンヌ・ダルクの真の姿。

─────って設定で生み出されたサーヴァントよ。」

 

「設定…?」

 

「そ。厳密には設定って言うか、生みの親の思い描いたジャンヌ・ダルク像だけど。本物の聖女サマはこれっぽっちも恨んで無いんですって。……良い子ちゃん通り越して異常よ、異常。」

 

呆れた様に吐き捨てるオルタ。その言葉に、映司も漸く合点がいった。

 

「……ゴメンね。だから君は…ジャンヌ・ダルクと同一視されるのを嫌がったって事か。」

 

「別に、もうどうでも良いわよ。─────けどま、精々後ろに気を付ける事ね?私は、言ってみれば憎悪の塊。本物は持ってすら居なかった、この世の全てに対する復讐の感情が常に有るのですから。」

 

けらけらと意地の悪い笑みを浮かべるオルタ。

けれど。

 

「うん、分かった。まあ、心配はしてないけど…オルタちゃんがそう言うなら。忠告ありがとね。」

 

と、ニコニコ微笑みながら告げる映司に彼女の表情は一転。正気を疑う様な、なんとも形容し難いオルタの表情に、逆に映司が不思議そうな顔を浮かべた。

 

「ん?あれ、俺変な事言った?」

 

「言ったしその顔も謎よ。何で今の聞いてニコニコしてるわけ?アンタ、人の不幸話聞いて喜ぶタイプのサイコパスなの?」

 

彼女自身、割と人の不幸を喜ぶ一面も有るがそこは棚上げし。呆れながら問い掛けてみれば、映司は腕を組んで「うーん」と考えこむ。

 

「別に俺にそういう変な趣味は無いけど…仮に俺がそうだとしても、多分今のは喜ばないよ。」

 

「……その根拠は?」

 

内心「変な趣味で悪かったわね」と毒づきながら、オルタは問い掛ける。

 

「─────だって、オルタちゃん別に自分の事を"不幸"だなんて思って無いだろ?」

 

───────瞬間、オルタの中で何かが弾けた。

 

気付けば彼女は映司の傍へ詰め寄り、その手に剣を出現させていた。

 

「……分かった様な口を利くと、私はアンタに自殺願望が有るって取るわよ。今日会ったばかりの、何も知らないクセに…!」

 

ありったけの憎しみを込めて映司を睨み付けるオルタ。

けれど彼は、怯む様子など全く見せず。ただ、小さく頭を下げた。

 

「気に障ったならゴメン。確かに俺は君達の事をまだ何も知らない。…でも、今日一日の長い付き合いだからね。何となくは分かるよ。」

 

「またそれ?今日一日が長いって、アンタ時間の感覚どうなってるのよ。カバか何か?」

 

オルタの悪態にも気を悪くした様子も無く、愉快そうに笑う映司。その姿が、一層オルタの苛立ちを煽る。

 

「…何が可笑しいワケ?」

 

「いやぁ…カバは流石に初めて言われたからさ。つい面白くて。

────それはさておき…俺、世界中を旅して回ってたからさ。やっぱり治安の悪い所も、戦争してる所も有った。」

 

何処か懐かしそうに、けれど少し切なげに映司は語る。

 

「そういう所だと、さっきまで楽しく話してた人だって…数分後には死んでしまってるかもしれない。だけどそんな状況でも、直ぐに打ち解け合える人達だって居る。

"そんなに短くて浅い付き合いなのに、どうしてそこまでその人を大事に出来るのか"って聞かれた事も有るけど…俺はそうは思わない。人と人との繋がりって、時間の長さだけじゃない…って思ってるから。」

 

だから、と続けながら映司はオルタに向け微笑んだ。

 

「俺にとって、"今会ったばかり"の次は、もう"長い付き合い"だ!」

 

嬉しそうに語る映司を見詰めるオルタ。渋い顔をしているが、映司にはその表情から彼女の感情までは読み取れなかった。

暫く沈黙した後。面倒臭そうに嘆息したオルタは、その手に剣を握ったまま映司へ問う。

 

「……アンタと私は価値観違う…ってのは分かったわ。───で?その"長い付き合い"で、アンタに私の何が分かったのかしら。」

 

問われた映司は、穏やかながらも至極真面目な表情で、彼女の目を真っ直ぐに見詰め返す。

 

「勿論、昔のオルタちゃんがどうだったのかは分からないけど…少なくとも今の君は、自分の存在を受け入れてる。他人(ジャンヌ・ダルク)を模した偽物としてしゃなく、一人の"個"として認めて前に進もうとしてる。…俺はそう感じたよ。」

 

迷い無く言い切った映司。

オルタは彼を数秒じっと見詰めた後───手にした剣の切っ先を向ける。

 

「……ええ。そうよ。私はジルに作られた偽りの存在。───けど、そこで終わるつもりは毛頭無いわ。

例えこの身を焦がす憎悪の炎が、有りもしない架空のものだったとしても。

 

─────それが何よ。そんな都合知ったこっちゃ無いわ。

私は私…私の霊基に刻まれた復讐の炎だけは、誰にも偽物だなんて言わせない。聖女サマがどうだろうが、私が憎いと感じたものは憎いのだから。」

 

吐き出す様に言い切った彼女は、剣先を映司に向けたままニヤリと悪い笑みを浮かべる。

 

「───で?そこまで分かった気分はどう?作り物の憎悪に縛られた哀れな小娘に、同情や嫌悪感でも抱いたのかしら?」

 

ニタニタと意地悪く笑いながら、嘲る様にオルタは問う。

けれど映司は、再びキョトンとした顔をしながら首を傾げ、その反応に今度はオルタが困惑する。

 

「……何よ、その顔。」

 

「いや…だって別に同情とか嫌悪感とか…抱く所無くて不思議だったから。

いや、"大変だろうな"とか"凄いなぁ"とは思うけどさ?」

 

映司の答えにますます困惑するオルタ。

ワケが分からない…何故、今の話を聞いて"凄い"なんて感想が出て来るのだろうか。

 

「…話聞いてた?察しの悪い貴方にも分かる様に説明してあげると、私は復讐者(アヴェンジャー)。何をどう取り繕おうが、結局私は私の抱く憎悪…復讐心から逃れられない。だけどそもそも、その復讐心は本来存在し得ないモノ。───有りもしないものに踊らされて、そこから逃れられず世界を憎み続ける魔女よ?」

 

ここまで言えば分かるだろう、そんなオルタの思惑とは裏腹に映司は首を横に振る。

 

「……分かってるよ。けど、それはそれで仕方無い事じゃない?寧ろ俺は、それを分かっていながらも受け入れて進んでる君が…凄いと思った。それは誰にでも出来る事じゃない。」

 

そこまで言うと映司はオルタを見詰め。

オルタは無言で続きを促す。

 

"仕方無い"───そんな風に言う人間は今まで居なかった。

藤丸立香(マスター)は全て理解した上で彼女を受け入れているが…彼はそもそも、オルレアンの特異点からずっと彼女の事を見てきた者だ。

それを差し引いても、映司はオルタという存在を一人の個として認め。認めた上で立香やあの聖女とは違う受け入れ方をしている…正直、オルタ自身困惑していた。

 

「憎しみ、復讐心が君の根底に在って、そこから逃れられない。オルタちゃんがそういう存在なのは分かったよ。……けど、ならそういうモノなんだ。俺からしたら、そこで変な同情とか、そこに嫌悪感抱いたりする方が不思議なんだよな…。

だって、それを言ったら人間もそうだろ?望む、望まないに関わらず…結局皆大なり小なりそういう部分は有る。凄く落ち込んで食欲湧かないと思っててもお腹は空くし…失恋してこの世の終わりみたいに思っても、また恋をする人も居る。」

 

「……食欲やら色恋沙汰と一緒にされるのは、非常に不愉快なのですが。」

 

「あはは…ごめんごめん、物の例えだよ。けど、そういうものじゃない?」

 

不愉快そうに顔を歪める彼女に。映司は「たはは」と笑い、言葉を続ける。

 

「だから、それ自体は仕方無いよ。冷たい言い方かもしれないけど…俺からしたらそこまでだ。

─────大事なのは、その先。何をしたか…俺はそう思うんだ。オルタちゃんは、その復讐心を自分の一部と受け入れてるけど…そこと正面から向き合った上で、それに溺れる事無くちゃんと付き合ってる。

だから俺は凄いと思ったよ。」

 

「大事なのは、何をしたか…。」

 

ぽつり、映司の言葉を小さく繰り返すオルタ。

気付けば、彼に向けていた筈の剣は手元から消えていた。どうやら、彼女自身無意識の内に剣を仕舞っていたようだ。

 

「……もし、私がアンタの言うような人物じゃなかったらどうするつもりよ。この憎悪に流され、世界を滅ぼそうとする女だったら。」

 

「そうはならないと思うけど…その時はきっと、立香君が止めてくれるよ。オルタちゃんが道を間違えそうになったら、その手を握ってくれる…彼はそういう人だと思うな。」

 

「勿論、手が届く限り俺も止めるけどね。」───そう言うと映司は大きく伸びをした後、オルタに片手を差し出した。

 

「…あっそ。ま、期待せずに居ます。けどそう言ったからには、何時"その時"が来ても止められるよう…精々背後に気を付ける事ね?」

 

オルタはぷい、と顔を背け、差し出された手にも無反応を貫く。そんな彼女にも映司は特に気を悪くした様子も無く、ニコニコとまた人の良い笑みを浮かべている。

 

───────やっぱり、コイツは馬鹿だ。

 

その判断は変わらない。

……でも、ただの馬鹿ではない事は分かった。

 

オルタの中で火野映司という人間の評価が、ほんの少しだけ変わった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うーん…そういえば、お腹空いたな…。オルタちゃんは?」

 

「別に。サーヴァントですから。」

 

「あっ、そっか!いやぁ…コーヒーゼリー食べられなくてお腹空いてたんじゃないかと思ったんだけど…。

あ、次は素直に甘い物頼んだら?揚げ饅頭とか!」

 

「アンタ喧嘩売ってんの!?」

 

────やっぱりただの馬鹿なのかもしれない。




「そういえば、アンタの言ってた聖女サマの別側面…それはそれで別に居るわよ。」
「え?どんなの!?」
「『私がお姉ちゃんですよ』って連呼しながらイルカを駆る頭沸いた水着アーチャー。」
「ごめんちょっと何言ってるか分からない。」


だが星5だ (重要)
そして可愛い(超重要)
勿論オルタも可愛い(世界の真理)

そして映司くん、割とドライな所有るんすよね…それも良いけど!


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火野映司
確認とコンボと命の価値


イシュタルって全体的にえっちいよね。
脚とか腋とかとにかくえっち。生足でけしからん事されたいです。

……俺は…自分の罪を数えたぜ。
────さぁ、お前の罪を…数えろ。


 

 

 

仮面ライダーオーズ。前回の───いや、失敬。

この物語に関しては、彼だけの話ではない。なら私はこう言うべきだろう…。

 

─────ここまでの三つの出来事。

 

一つ。新たな特異点へレイシフトした藤丸立香とサーヴァント達は、欲望の化身『グリード』の存在を知り、仮面ライダーオーズこと『火野映司』と共闘関係を結ぶ。

 

二つ。オーズとカルデアの一行は、グリードの一人カザリと共闘し、辛くもメズールを撃破した。

 

そして三つ。戦いの後、映司とジャンヌ・オルタは言葉を交わし、互いを少し理解し合ったのだった。

 

────さて。まず私が語るべきはここまでだろう。

この先は諸君がその目で見るべきもの…私はただ、見守るだけ。私の立場はあくまで、中立の傍観者なのだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ……私の居ぬ間にその様な事が。魔術師殿、お役に立てず申し訳無い。」

 

「いやいや、ハサンはやるべき事をやってくれてたワケだし…成り行きとはいえ、ハサンとクーを召集せずに戦闘に挑んだのは俺の判断だから。気にしないで!」

 

映司が意識を取り戻してから一時間程経っただろうか。

廃工場の事務所で待機していた映司とオルタの元へ、立香達はハサンを連れて戻って来た。

初めこそ映司がハサンの異形の姿に驚いたものの。彼と少し話しただけで打ち解けられたのは、やはり彼が先入観無く人と付き合える性格だからなのだろう。ハサンの高潔で生真面目な人柄を直ぐに見抜き、しかも話せば意外と親しみ易いハサンと映司は直ぐに意気投合した。

そして今、ランサーを除くカルデアの面々は、現状の確認と今後の方針を話し合っていた。

 

「そう言って貰えると気が楽になります…。とはいえ、慰められるだけでは面目は潰れたままですな。ここはキッチリ、仕事で汚名返上せねば。

─────映司殿、此度の敵は『ヤミー』と、それを生み出す『グリード』…でしたな?」

 

「はい。そしてグリードは、聖杯戦争を行うサーヴァント達と結び付いている可能性が高い。」

 

「ええ、私もそこまでは調べがついています。私が得た情報では…この地に現れたグリードは四体。内一体は既に消滅している様ですが…。」

 

「四体?」

 

ええ、と頷いたハサンは数枚の写真を取り出しテーブルへと並べる。

どうやって入手したのだろうか…その場の全員がそう思いながら写真を覗き込む。

 

「先ずは先程皆様が撃破したという『水』のグリード。この地に召喚された源頼光公と結び付いた彼女は、夜な夜な嵐の様な勢いで暴れ回っていたそうです。」

 

そう言いながらハサンが指差したのは、夜に撮られたであろう写真。そこにはシャチの様な頭部の怪物が映っていた。

 

「ふぅん…これが?さっきのは見た目モロ頼光だったけど。」

 

「それは恐らく、セルメダルと呼ばれる物の影響でしょうな。彼女は夜にはこの姿で現れるのですが…段々と頼光公の姿へ近付いていくとの事です。恐らく魔力を使う度、セルメダルに蓄えられていたそれを消耗していたと思われます。」

 

「おお…流石ハサン先生!」

 

「いえいえ、このくらい造作も無い事です。

…っと、話が逸れましたな。次に…。」

 

興奮した様子の立香に、ハサンは満更でも無さそうに謙遜する。

一度コホンと咳払いした彼が次に指差したのは…。

 

「………黒髭?」

 

映司以外の全員にはお馴染みの髭面の男。彼もまたカルデアに召喚されたサーヴァントの一人と同じ存在だった。

 

「コイツは初めて見……あの、立香君。彼女達、どうしたの?」

 

興味深そうに写真を覗き込もうとしていた立香は、映司に呼び掛けられ顔を上げる。そして映司の指差す方向へ顔を向ければ…。

───────不快感を隠しもせず、これでもかとばかりに顔を顰めた少女達。

 

「あ…えっと…俺達の知ってる人と同じ英霊なんだけどね。ちょっと変わった人で…。」

 

「マスターちゃん。オブラートに包む必要は無いわ。そんな事したらあのゴ○ブリ図に乗るわよ。」

 

「…会わなくて良かった。……この先も二度と会わなければ良いのに。」

 

「う、うーん…えーっと………うん。」

 

三者三様の反応ながら、嫌悪と拒否は共通している彼女達。一体何をしたらそうなるのか映司は疑問を感じたが…そこには敢えて触れず、映司は話を進める。

 

「えっと…ハサンさん。それで、この人に憑いていたグリードの情報は分かりますか?」

 

「ええ。実は彼が先程伝えた消滅したグリードなのですが…偶然にも彼が消える瞬間を目撃していた一般人が居たようでしてな。町で噂になっていたのです。

曰く…この男、黒髭殿の姿に、蛇の尾や亀の甲羅…極めつけは、頭部がワニの様な怪物に変貌したと。」

 

『蛇…亀…そしてワニ…?先程映司さんが仰有っていたどのメダルとも合わない様な…。』

 

不思議そうなマシュの声。自身もまた同じ疑問を感じた立香が、自然と映司へ視線を向ければ。

彼もまた同じ様に、驚愕に目を見開いていた。

 

「ブラカワニ…!?まさか…ガラ…!」

 

動揺を隠せぬ様子で小さく呟いた映司。

一方のカルデアメンバーも、初めて耳にした単語に首を傾げる。

 

『おや、映司君…その様子だと心当たりが?差し支えなければ───いや、多少差し支え有っても説明して貰えると助かるなぁ。』

 

「ええ、勿論です。……隠したり、情報を出し惜しみしてたワケじゃないんだけど…実はコアメダルには、五種類のメダルと俺が持つ紫以外に…もう一種類存在するんだ。」

 

映司曰く。

嘗てコアメダルを生み出した錬金術師『ガラ』が作り出したコアメダルには、グリードと成った物以外に、爬虫類の力を宿した六種類目が存在した。

コブラ。カメ。ワニ。この三種のメダルは『失われたメダル』と呼ばれ、元々グリード達が現代に蘇った際にも一緒には無かったという。

 

『グリードに成る事も無く、800年前の王が使う事も無かったまま歴史から消えたメダル…だから『失われたメダル』…か。成程ね。ちなみに映司君がそれを知ってた理由や、その話が出た時に錬金術師の名前を呼んだワケは何だい?』

 

「失われたメダル自体はグリードには成らなかったけど…前に色々あって、その錬金術師が現代に蘇ったんです。その時アイツはこのメダルを使って、自分をグリードにした…だから俺はこのメダルのグリードそのものの名前は知らないけど、ガラがまた蘇ったんじゃないかと。」

 

「ったく…そんな大事な事、先に言いなさいよ。」

 

「ゴメンね…俺自身、この黒髭さんは見た事無かったから、まさかあのメダルまで復活してるとは思わなくて。」

 

心底申し訳無さそうに頭を下げる映司。その姿は嘘を吐いているようには見えない。

単純にその特殊な経緯から、復活したグリードの頭数に入れていなかっただけなのだろう。

 

「ふむ…その錬金術師が蘇ったかどうかは後に調べる必要が有りますな。とはいえ、少なくともこのメダルのグリードが現れる事はもう無いでしょう。」

 

「…?根拠は?消滅した…とは言ってたけど、コアメダルが残っていれば復活の可能性も有る。」

 

難しい顔───実際には表情は全く読めないが、ハサンの声音や仕草から何と無く想像は付いた───で断じるハサンに、美遊は疑問を呈す。

対して、問われたハサンは困ったように指先で頬を掻いた。

 

「それがですな…この黒髭殿と思しきサーヴァントが消滅した後、確かにその場にメダルは残ったらしいのです。

─────ですが、その野次馬の一般人が興味本位でメダルに触れた途端…メダルが砕け散り、そのまま粒子の様な光となって消えてしまったそうで…。」

 

「コアメダルが…消えた…!?」

 

そんな馬鹿なと映司はポケットを漁り、先の戦いで手に入れた青い(メズールの)メダルを取り出す。

「何時でも奪える」という余裕なのか、或いは単純に興味が無かったのかは分からないが…カザリが奪わなかったそのメダルは、ラトラーターコンボの必殺技とアレキサンダーの宝具を同時に受け、混ざり合ったサーヴァントが撃破されてなお傷一つ付いてはいない。

そもそも、映司の知る限りコアメダルを壊せるのは紫のメダルだけの筈だ。

 

「なのに…失われたメダルは消滅した?一体どうなっているんだ…。」

 

流石にワケの分からない事が多過ぎる。困った様に溜め息を漏らしながら、映司は頭を抱えた。

 

『ふーむ…段々と謎が深まる一方だが、それは一先ず置いておこう。ここでウンウン唸ってどうにかなるものでも無いしね。』

 

頭を抱える映司を筆頭に、張り詰めた空気の流れる空間へと響く、ダヴィンチちゃんの声。その意見に同意した彼等は一度思考を打ち切り、現状の確認と戻る。

 

「では…次に目撃されているのは彼ですな。皆様の話から察するに、恐らく共闘されたカザリというグリードで間違い無いかと。」

 

そう言ってハサンの差し出した写真に映っていたのは紅顔の美少年。彼が言う通り、アレキサンダーの霊基を奪ったカザリで間違い無い。

 

「あのクソ猫…次会ったら絶対ぶっ飛ばしてやるわ。コイツのアジトとか分からないの?」

 

忌々しげに問うオルタに、ハサンは静かに首を横に振った。

 

「残念ながら…彼奴はグリードの中でも特に神出鬼没。しかも根城を転々としているらしく、一応噂に上がっていた場所も当たりましたが…。」

 

「手掛かりゼロって事ね。ったく…猫は猫らしくコタツで丸まってたら良いものを。」

 

「─────とはいえ、最後の一人に関しては居所の目星が付いています。」

 

言いながらハサンの取り出した写真は、メズール同様完全に人の姿からかけ離れた怪物が収められている。

ゾウを思わせる頭部には、サイの様な一本角。コアメダルが足りないのか、胴体は些か貧弱だが…下半身は重厚な鎧に包まれ、足そのものもカザリやメズールと比較してかなり太い。

 

「なんか…強そう…。映司さん、このグリードは?」

 

写真を手に取り映司へ尋ねるイリヤ。

先のメズール戦を考えると、自分の攻撃はこのグリードに通用するのか…そんな不安故に、表情は強張っている。

けれど映司はそんな不安を感じ取ったのか、「大丈夫」とばかりに彼女の頭をポンポンと軽く撫で微笑む。

─────直後、イリヤの顔は自分でも分かる程に真っ赤になった。

 

「コイツはガメル。俺が使ったゴリラのメダルを含む、超重量級な生き物達のコアメダルから生まれたグリードだ。メダルの種類はサイ、ゴリラ、ゾウ…力も耐久力もメズールやカザリ以上だけど、その分スピードや知能は彼等に劣る。そこを突けば勝てる筈だ。……所で美遊ちゃん、俺何かした?」

 

そんな乙女の純情に全く気付く様子も無く、敵の的確な情報を伝える映司は、美遊に向けられた白い目の意図にもサッパリ気付いていない。

味方としては頼りになるが、そこは流石に自分でも悩む程の恋愛オンチ。美遊以外の彼を見る目は何と無く優しかった。

 

「えっと…何か皆の視線が暖かいんだけど…。」

 

『いえいえ、お気になさらず~。ね、イリヤさん?』

 

「う、うん…。」

 

『成程。これが天然ジゴロというものですね。』

 

「サファイア!?何処でそんな言葉覚えたの!?」

 

全く自覚の無い映司は首を傾げながらも、空気を戻す様に一度小さく咳払いする。

 

「コホン。…取り敢えず…よく分かんないけど、話を戻すとだ。実は皆が来る前に、俺は一度ガメルと戦ってる。さっき使ったゴリラのメダルも、その戦いで手に入れたんだ。」

 

映司は懐から現状所有する全てのコアメダルを取り出し、テーブルの上へと並べる。

タカ、バッタ、ゴリラ。それとメズールから奪った水棲系のメダルが七枚。当然、カザリに奪われた猫系のメダルは一枚も無い。

 

「…そう言えば、この青いメダルはさっきのメズールってグリードのだよね。これ、そのままにしといて大丈夫なんですか…?」

 

未だほんのりと頬を赤らめながら、不安そうにイリヤが問う。

 

「勿論、いずれ破壊しないと…メズールが復活する可能性はゼロじゃない。─────けど、少なくとも今の所は大丈夫。さっきの戦闘でメズールの意識は消えた…今は俺の中のメダルの力でも、このコアからグリードの気配は感じない。昔、同じ様な事が有ったから間違い無いよ。……まあ、大量のセルを集めて復活させる方法自体は有るから、油断は禁物だけどね。」

 

『おっと!すっかり忘れていたが、ゴリラのメダルで思い出した!映司君、さっきの猫系メダル三枚の姿は何だい?タトバって姿や、その後のゴリラを使った姿と比較して明らかに強くなっていたけれど。それに、歌も流れていたしね!』

 

『ダヴィンチちゃん…あくまでそこが重要なのですね…。』

 

通信越しでも身を乗り出す様な勢いが隠し切れないダヴィンチちゃんと、困った様な表情が目に浮かぶマシュ。

そんな二人はさておき、すっかりその辺りの説明を忘れていた映司は苦笑する。

 

「あ、そう言えば"後でね"って言ったきりだった。あれはコンボ…同じ系統のコアを三種揃えると、種類の異なるメダル三枚と比較して大きな力が得られるんだ。」

 

「コンボ…つまり、他のコアにもあれだけ強力な姿が存在するのね。」

 

『魔術の力ってすげー!まあ、ルビーちゃん達も人の事言えないですけど。』

 

『ふんふん。つまりあの素敵な歌は、コンボかどうかの識別音みたいなものか。───あれ?けどそれ、タカ、トラ、バッタの組合せで流れたのと矛盾しないか?』

 

芸術家として琴線に触れる物があったのか、あくまで歌に主軸を置いて考察するダヴィンチちゃん。そんな彼女の疑問は、他のメンバーにとって呆れ半分、同意半分な内容だ。

 

「あー…それは俺自身もよく分かって無いんだけど。前に聞いた話だと、800年前の王が最初に変身した特別な姿だ…とか何とか。それが理由なのかな?」

 

『ふむふむ…ではつまりタトバに関しては、コンボ扱いだが実際コンボ程の力は無い…と認識しておこう。

─────まあ、コンボばかり使うワケにもいかないだろうからね。戦闘を見させて貰った限り、あの組合せは中々にバランスの取れた良い姿だったと思う。少なくとも…ゴリラの腕よりは余程場面を選ばず活躍してくれそうだぜ、あれ。そう考えると、カザリ君にトラメダル奪われたのは痛いなー…。』

 

「あれ…もしかして、バレてました?」

 

何気無く言い放ったダヴィンチちゃんの言葉に、"不味い事を知られた"とばかりに強張る映司の表情。彼はサッと辺りを見渡すが、どうやら全員薄々勘付いていたらしく、特に驚いた様子も無い。

 

「…バレてるね、こりゃ。皆も気付いてる通り、コンボは確かに強いけど反動も大きい…言ってみたら、俺の宝具みたいなもんかな。」

 

たはは…と誤魔化す様に苦笑しながら、映司は先程の写真から一枚を手に取り、全員へと向ける。

 

「─────だけど。使えるコンボが増えれば、その分戦略の幅も広がる。コンボじゃない組合せも含めたら、相手の弱点を突ける可能性が上がる…ってワケだ。

だから俺は、次に倒す目標はコイツにするべきだと思う。」

 

手にしたのは四枚目の写真。イリヤは苦手意識を抱いた様だが…恐らく彼のメダルは全然足りていない。少なくともゴリラは一枚こちらに有るし、この写真を見る限り足りないのはその一枚だけというワケでも無さそうだ。

ならばトラメダルを奪い取った上に、彼の他のメダルも隠し持っている可能性が有るカザリより…まだこの敵の方が相手取り易い筈だ。

 

「そういうワケで─────ガメル。

巨大な獣達の王を狙うべきだと思うんだけど。……どうかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーズの力。それにコンボ。

自身への負担と引き換えに、大きな力を得る。

これまでのやり取りや、先の話し合いで確信した。

────彼は必要と有らば、何の躊躇いも無くコンボを使う。いや…もしかしたら命を投げ出す事すら厭わないだろう。

 

彼女のマスターも、これまで何度も命懸けの試練を潜り抜けて来た。立香は何処にでも居る様な普通の少年だが…必要なら命を懸ける覚悟も持っている、勇敢なマスターだ。

けど───────映司のそれは違う。

 

立香が命を懸けるのは、"生きる為"だ。生きて明日を掴み取る為、命懸けの状況でも諦めずに前へと進む。

だけど映司のそれは根本的に…"己の命に執着が無い為"に思えてならない。彼女の考え過ぎかもしれないが、あの欲望を聞いた後では…どうしても、そう考えてしまうのだ。

もし彼女の考えが正しければ、それはおおよそ真っ当と言える人間じゃ無い。どちらかと言えば、カルデアに在籍する一騎当千のサーヴァント達。英雄、英傑と呼ばれる者達の側だ。

大きな欲望の引き換えなのか、彼は自分への執着が酷く"渇いている"。

 

─────一体何が、彼をそこまで壊してしまったのだろうか。

 

そんな風に思いを馳せながら。

自分の悪い予感が当たらぬ様に祈りつつ、美遊は小さく拳を握った。

 

 




「だけど。使えるコンボが増えれば、その分戦略の幅も広がる。コンボじゃない組合せも含めたら、相手の弱点を突ける可能性が上がる…ってワケだ。

─────技、道具に特性…それにバトルの場。全てを活かして、君だけのコンボを考えてみよう!」

唐突なバトルお兄さん。


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子供と巨獣と守るもの

タイトルちょっと変えました。


「─────そう言えば。」

 

ガメルの根城へと向かう道中、思い出したかの様にオルタが言う。

 

「あのランサー、何で居ないのよ。」

 

映司と共に留守番していた彼女は、立香達がどの様に合流したのか知らない。

その事実が面白く無いのか、彼女は拗ねた子供の様に唇を尖らせていた。

 

「ああ!えっとね、クーなら"まだやる事が有るから後で合流する"…って。」

 

「はぁ!?ったく…良い御身分だこと。」

 

────まったく…気に入らないわね。

けどまぁ良いわ。人員が少ないという事は、その分私がマスターちゃんに頼られる場面も増えるという事。

なんなら寧ろもっと減らないかしら。上手くいけば…ふ、ふ、二人きりになったりなんかして…。

 

『─────そしたら、私の魅力でマスターちゃんもイチコロに…キャー!』

 

「気色の悪い心の声を捏造すんな。アンタもしかして杖のクセに自殺志願者なのかしら?」

 

『ひ、ひぃ!?オルタさん物騒過ぎますよ~!自分がされて嫌な事は、人にしちゃいけないって御存知ですか!?』

 

「だからアンタ人じゃなくて杖でしょうが。」

 

「何やってるのルビー……。」

 

何処からどう見てもコントでしかない。

これから戦場へ赴くというのに緊張感皆無な一行。然し映司はそれをニコニコしながら眺めていた。

 

「仲良いなぁ。うん、緊張し過ぎて変に強張ってるよりその方が良い。」

 

「……これ、そういう問題?」

 

一人で満足そうに頷いている映司へ、美遊は控え目にツッコミを入れる。

屈託の無い映司の笑顔は、それだけを見れば唯の好青年だ。

─────けれど。

 

「…映司…さん。」

 

「ん?」

 

美遊は聞かずにはいられなかった。

 

「……イリヤが聞いた欲望。あれはどういう意味?」

 

「?どういう意味って…言葉通りの……。」

 

「なら聞き方を変える。

どうして────その欲望を持つようになったの(・・・・・・・・・・・・・・)?」

 

問われ───表情を強張らせ、言葉に詰まる映司。

暫し無言になった後、取り繕った様な苦笑浮かべて彼は答える。

 

「……昔、色々あってね。思い知ったんだ…人が人を助けて良いのは、その人の手が届く範囲だけなんだ…って。」

 

あからさまに言葉を濁す。けれどきっと、ここで引けば二度とその先を彼が語る事は無い────美遊は直感的にそう感じ取った。

 

「……だから、手の届く範囲そのものを広げる…それが貴方の望みなの?」

 

物怖じする事が殆ど無い自分の性格に感謝しながら、美遊はもう一歩先へと踏み込む。

 

「…そうだよ。何処までも届く俺の腕、力…もう二度と、"この手が届けば"って思いはしたくないんだ。」

 

「───────その為に、映司さん自身が犠牲になる事が有っても?」

 

瞬間、映司の動きがピタリと止まる。

それは語り過ぎたという後悔か、或いは見透かされた事への動揺か。

 

「……やだなぁ。俺だって、死にたくはないよ?そこまでじゃ…。」

 

「嘘。」

 

あまりにも不自然な笑顔を浮かべ、煙に巻こうとする彼を、美遊は一蹴する。

 

「貴方の言動は、所々だけど…自分への執着が薄過ぎる。」

 

まるで、昔の自分の様だ───その言葉は口に出さず、唯、事実のみを突き付ける美遊。

嘗て、絶望の果てこの世全てへの諦観へ至った自分の様に。彼は何処かで、自分自身を救うという事を諦めている。けれど、以前の美遊との違いが有るすれば…彼はそうなって尚、"誰かを救う"という事を諦めていない。

人によっては、それは自分を省みない尊い自己犠牲だと言うかもしれない。

だが、美遊に言わせればそれは自己犠牲なんてものではない───そもそも、自分の事を勘定に入れていないのだから。

 

自分を救おうとせず、自分以外の為に動くだけの存在。今の映司を例えるなら────必死に人間の振りをしているロボットの様だ。

 

「…美遊ちゃん、本当に小学生?いや…子供だからこそ感受性が強い…のかな。」

 

"敵わないな"と苦笑しながらも、彼はまたしても明言を避け話題を逸らそうとする。

飄々とした彼の態度は、気付けば誰もが心を許し、のらりくらりと信頼の輪に入り込む力を持っているが…同時に、映司自身の深い所へ入り込む事を拒む。

その時、美遊の抱いた感情は───────。

 

『きゃぁぁぁぁ!!!!』

 

突如響き渡る悲鳴に、美遊の思考は遮断される。

 

「な、何!?」

 

「近いな…行こう!」

 

「あ、映司さん!……俺達も行こう!」

 

躊躇無く駆け出した映司に続く様に、立香達も悲鳴の出所目掛けて走り出す。

 

「……自分じゃない誰かの為なら、そんなに必死になるのに…。」

 

『美遊様…気持ちは分かりますが、今は…。』

 

「分かってる。……サファイア、有難う。防音の結界、張ってくれてたんだよね。」

 

美遊の様子にただならぬ物を感じたサファイアは、密かに結界を生成し、映司との会話を漏らさぬ様にしてくれていた。それに気付いていた美遊は、自身の相棒へ感謝の念を告げる。

恐らくルビーやカルデアで観測していたダヴィンチちゃんにはバレているだろうが…そこはどうとでもなる。

 

『気付かれていましたか…いえ、それよりも今は目の前の事を対処すべきかと。』

 

「うん…大丈夫。行こう、サファイア。」

 

映司の遠回しな拒絶。その事に美遊は瞳に悔しさを滲ませながらも、立香達を追い走り出した。

 

 

 

 

 

 

「これは…!」

 

足を止めた映司達が目にしたのは、一人の女性が怪物に襲われている状況。

見れば、彼女の足元には他にも数人女性が倒れている。

頭部と肩部にそれぞれ牡牛を思わせる二本角を有するその怪物は、がっしりとした体躯で逃げようとする女性の行く手を阻んでいる。

 

「嫌…止めて!」

 

「メズール…どこぉ…?メズールぅ…。」

 

目に涙を浮かべながら必死で抵抗する女性。

然し彼女の言葉は全く届いていないのか、怪物はひたすら"メズール"と譫言の様に繰り返しながら女性へと迫る。

 

「ガメルのヤミーか!このままじゃ危ない!」

 

オーズドライバーを装着しながら、怪物目掛けて再び駆け出す映司。走りながらメダルをドライバーへと差し込み、そのままオースキャナーをバックル表面へと滑らせる。

 

「変身!」

 

『タカ!ウナギ!バッタ!』

 

変身完了と同時に、ウナギコアの力で手にした鞭『ウナギウィップ』を振るうオーズ。勢い良く伸びたそれは、女性目掛けて伸ばされたヤミーの腕へと絡み付き、間一髪の所でヤミーの動きを止めさせる。

 

「むー…?」

 

「う……おりゃぁぁぁ!!!」

 

「ん?え、あ、うわぁ~!?」

 

ヤミーが訝しげに振り返った瞬間。バッタレッグの脚力を発揮させたオーズは背後へと飛び───ウナギウィップが絡まったままのヤミーもそれに引き摺られ、バランスを崩して盛大に尻餅を着いた。

 

「いてて…。むー…お前、オーズだな~!」

 

「流石に重いか…確かコイツはバイソンのヤミーだったな。引っ張るだけで精一杯だ…!」

 

これが単なる鞭なら、それだけでは足りない───だが。デンキウナギの力を宿すウナギウィップの前では、それで充分だ。

 

「うおぉぉ!!!」

 

オーズがウナギコアの力を解放すれば、手にしたウナギウィップへ電流が奔る。迸る雷撃は鞭を伝い、バイソンヤミーの巨大な体躯へと流れ込んだ。

 

「ぐ、がぁぁぁ!?」

 

堪らず身を捩り、絡み付いた鞭を解こうとするヤミー。

流石に重量級なだけあり、その膂力は凄まじい。拘束は簡単には解けないものの、下手をすれば逆に自分の体が持って行かれる───そう判断したオーズは即座にウィップを手放し、すかさずドライバーのメダルを二枚入れ換える。

 

『タカ!ゴリラ!タコ!』

 

姿を変えたオーズは、拘束から解かれたバイソンヤミーの元へと駆け寄り、ゴリラの剛腕で抑え込む。

 

「む、むー!?は、離せ~!」

 

「立香君!彼女達を安全な所へ!」

 

ヤミーを抑えながら叫ぶオーズ。彼の言葉に頷くと、立香は倒れている女性を抱き起こし、肩を貸す。

 

「皆、映司さんの言う通りだ!まずはこの人達を!」

 

立香の号令にイリヤや美遊は勿論、オルタですら渋々といった様子で動き出す。そんな彼等の動きに安心感を抱きながら、オーズは抑え込んでいたヤミーを突き飛ばし、よろめいた隙を突いて思い切り拳を叩き込んだ。

 

「がぁあ…!むー…お前、怒ったぞ!」

 

殴り飛ばされ後方へと弾かれたヤミーは、気の抜けた口調とは裏腹に敵意剥き出しでオーズを睨み付ける。

体勢を立て直すと、オーズ目掛けて走り出そうとするヤミー。───そんな彼の視界が闇に覆われた。

 

「これだけの巨体、その鈍重な動き…触れる事は容易い。─────苦悶を零せ、"妄想心音(ザバーニーヤ)"」

 

否。それは闇では無く、暗殺者(アサシン)の黒装束。

ヤミーとオーズの間に割り込む形で接近したハサンは、精霊シャイターンの腕を解放し、その異形の右腕でヤミーへと触れる。すると、シャイターンの手の中に疑似心臓が出現。それを握り潰せば、呪いによってヤミーの本物の心臓も破壊される。

─────筈だった。

 

「……ッ!やはり…サーヴァントと一体化したグリードは兎も角、ヤミーには効かぬか…!」

 

元々彼の宝具は心臓の無い者や、心臓を潰されて平気な者には通じない。また、人やその要素を含まぬ者にも効果が薄い為、駄目元での宝具発動だったのだが…。

結果は悪い意味で予想通り。その精霊の手が再現したのは敵の心臓ではなく、一枚のセルメダル。

恐らくメダルの塊たるヤミーは、これが心臓代わりなのだろう。反撃を警戒し距離を取りながら、試しに潰そうとしてみるが全く壊れる気配は無い。

けれど、彼は一流の暗殺者。そこで悔やみ、投げやりになる様な真似はしない。

 

「であれば、私は映司殿の援護に回る他有るまい。」

 

ハサンは即座に方針を切り替え、愛用の短剣をヤミー目掛けて投擲。

大したダメージにならないのは明白だが、お陰でヤミーの注意を自分へ向けさせる事が出来た。

 

「真っ黒…なんだ、お前?」

 

「生憎名乗る程の者でも無ければ、敵に名乗る暗殺者等二流以下よ。

────映司殿、今です!」

 

「ハサンさん、ナイス!」

 

『スキャニングチャージ!』

 

ハサンの作った隙を逃さず、オーズは両腕をヤミーへ向け構える。タコレッグの吸着力を十二分に引き出して大地を踏み締めた彼は、反動を一切気にせずフルパワーでゴリバゴーンを射出した。

 

「行けえぇぇ!!!」

 

ロケット砲を思わせる程の勢いで放たれるゴリバゴーン。その両拳は狙い違わず、バイソンヤミーの巨体を撃ち抜く。

 

「め…メズー…ルぅ…!うわぁぁぁ!!!」

 

断末魔を上げながら、爆散するヤミー。

燃え上がる炎の中から、一枚のセルメダルがオーズの足元へと転がった。

 

「お見事です、映司殿。…然し…あの巨体の割に、メダルは一枚とは。些か拍子抜けというか、何と言うか…。」

 

「ガメルのヤミーは基本そうなんです。アイツは他のグリードと違って、自分の欲望を糧にヤミーを作る。その欲望も、何て言うか…アイツの精神に反映されて、小さい欲望で。しかも能力発揮にセルを消費するから、見掛け程メダルは溜まらないらしいんですよ。」

 

さて、と変身を解こうとドライバーのメダルへ手を伸ばしかけ─────不意に感じ取った殺気に、オーズは咄嗟にその場から飛び退く。

直後、間一髪で彼の立っていた場所へと矢が突き刺さる。

 

「何奴!」

 

矢の放たれた方向目掛け、ハサンが短剣を放つ。だが、そこに割り込んだ影が、投擲されたそれを全て叩き落とした。

 

「オーズぅ…!メズールを返せ…ッ!」

 

「────ッ!ガメル…!」

 

短剣を防いだ影の正体は。先のバイソンヤミーの親にして、重量級生物の王・ガメル。

ガメルは威嚇する様に両腕を振り上げ、怒りに身を震わせていた。

 

「映司殿…彼奴が標的の?」

 

「ええ…グリードの一人、ガメルです。けど奴に矢を放つ能力なんて…。」

 

「─────それは私だ。」

 

響き渡る、凛とした声。

気付けば、ガメルの影から一人の女性が現れていた。

腰まで届く長髪も魅力的ではあるものの。目を引くのはその腰から伸びた尻尾と、頭部にピンと立つ獣耳。

深緑の衣装に身を包んだ、凛々しくも何処か野性の雰囲気を醸し出す女性。

手にした弓が示す通り、クラスは弓兵───彼女の真名は…。

 

「アタランテ殿…!」

 

油断無く短剣を構えながら、呻く様に言うハサン。

対する彼女は表情一つ変えず、小さく鼻を鳴らしながらハサンを見据える。

 

「成程。名も知らぬアサシン、どうやらそちらにも私が居る様だな。だが、知っての通り私は私。汝や、人類最後のマスターが知る"私"とは別物だ。」

 

「……心得ております。だが、一つ聞きたい。

───貴女は何故、そのグリードと共に?」

 

問われ、暫し目を閉じて沈黙した後。

─────カッと目を見開けば、彼女は目にも止まらぬ速度で矢を番え、ハサンとオーズ目掛けて矢の雨を降らせる。

咄嗟に退避するハサンと、ゴリラアームで身を守るオーズ。けれど、退避したハサンは兎も角、オーズの咄嗟の行動はアタランテにとって的でしかない。

外れた矢がアスファルトの地面を砕き、辺り一面に土煙が舞わせながらも、オーズへ集中的に撃ち込まれる矢。

暫し無言で連射を続けていたアタランテだったが、軈て一分を過ぎようという頃。漸く彼女は手を止め、弓を下ろす。

だが、無論彼女もこれだけで仕留められる等とは微塵も考えてはいない。土煙が晴れれば彼女の想定通り、オーズがその中心で、真っ直ぐ彼女を見詰めていた。

 

「……元より倒し切れるとは思っていなかったが…どうやら、これは想定していたより余程手強い敵らしい。

───ガメル、私は汝に力を貸そう。だからお前も、私に力を貸してくれるか?」

 

呆れた様に嘆息するも、すぐに切り替え表情を引き締めた彼女は、傍のガメルへ問い掛ける。

一方問われたガメルもまた、彼女を見詰めながら力強く首を縦に振った。

 

「うん!アタランテ…俺、頑張る!オーズ、倒す!」

 

「アタランテ殿…何故!矢張り貴女も、そのグリードに霊基を乗っ取られているのですか!?」

 

純真無垢なガメルに微笑み掛けるアタランテとは対照的に 、困惑を隠せぬハサン。

アタランテは微笑みを一瞬で引っ込めれば、ハサンへ厳しい視線を向けつつ言葉を紡ぐ。

 

「……勘違いをしているようだが、私はガメルに何もされてはいない。彼と結び付いたサーヴァントは他に居る(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。」

 

「……それってつまり、貴女は自分の意思でガメルに協力してる…って事ですね。」

 

「察しが良いな、オーズ。その通りだ。……私は本来、英霊としてこの地に呼ばれた以上、人類最後のマスターに力を貸すべきなのだろう。」

 

"だが"と一度言葉を区切り、再び弓を構えるアタランテ。

今度は不意討ちではない。けれど、強い意思の籠った表情浮かべながら、彼女は躊躇無くオーズへと狙いを付ける。

 

「例え本来在るべき姿から外れようとも。私は…全ての子供達の幸福を望む。例え人ならざる、メダルの化身だとしても───だ。一心不乱に(メズール)を求めるこの子の力になる事は、私にとって何より大切な事なのだから。…笑いたければ笑うが良いさ。」

 

「─────笑ったりしませんよ。それが、アタランテさんの欲望なんですよね。だったら、それをどうするかは貴女次第だ。」

 

言いながら、オーズもメダジャリバーを構える。

 

「けど、俺はそれを全力で止めます。ガメルを…グリードを倒して、世界中の皆を守れる力を手に入れる。それが俺の欲望だから!

……笑っても、良いですよ?」

 

向かい合う両者。アタランテは構えを解く事無く、矢を番えながら僅かに表情を緩める。

 

「笑ったりはしないさ。全く…惜しいな。状況が違えば、汝との徒競走なら受けてやっても良い…そう思える程、面白い男だ。」

 

「徒競走?」

 

首を傾げたオーズに一瞬だけ苦笑見せるも、直ぐに表情を引き締める彼女。

彼女の放つ殺気に、オーズもまた警戒を引き上げる。

 

「なに、敵として申し分無い…という話だ。オーズ、汝に恨みは無いが…ガメルの為に、その命取らせて貰う!」

 

その言葉と共に、神速の如き矢を放つアタランテ。

 

今、戦いの火蓋は切って落とされた─────。

 

 

 




???「あのアーチャー、リンゴが弱点なんだって?っしゃあ!ここからは俺のステージだ!」
???「フン…はしゃぐな。リンゴと言えばここは俺の出番だろう。貴様は引っ込んでいろ!」

次回!『競争!足元に金のリンゴ!』
お楽しみに!

???「みんな…疲れているのか?」


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激闘と暗躍と紫色

明けましておめでとうございます。
今年は戦闘描写上手くなろうと頑張ります。




「はあぁぁぁ!!」

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

神速の如き勢いで放たれる矢。

それを巧みにメダジャリバーで捌きつつ、オーズはアタランテ目掛けてダッシュする。

 

「オーズぅぅぅ!!!」

 

だが、ガメルがその行く手を阻む。

策も何も無くオーズへ突っ込む彼に、然しオーズは一度足を止めざるを得ない。

 

「くっ…!」

 

咄嗟に身を翻し彼の突進を躱したものの、既にアタランテは離れた場所へと退避していた。

位置を変え、再び狙撃を再開する彼女。

チームワークというより、脳筋のガメルに上手くアタランテが合わせているのだろう。先程からこの繰り返しで、オーズは攻めあぐねていた。

 

「クソッ…強い!」

 

ガメルのタフさはオーズも十分に理解している。例えメダルの揃った完全体で無くとも、アタランテの狙撃を処理しながら易々と下せる相手ではない。

かといって先にアタランテを倒そうにも、今の状況を延々繰り返すのは目に見えている。

戦況を変える為には、何か変化が欲しい。

 

「オーズ!メズールを…返せぇぇぇ!!」

 

続け様にオーズへと殴り掛かるガメルを避け、思考をフル稼働させるオーズ。

─────せめてライオンかチーターのメダルが有れば…今更ながらにカザリへの恨みが湧いてきた。

 

「ぼうっとしている場合か?」

 

「─────しまっ…!」

 

敵の声で我に返るも、時既に遅く。目に入ったのは先程までより強烈な魔力を込めながら、自身へ照準を合わせるアタランテの姿。

あれを食らえば間違い無く大ダメージは避けられない。

然しそれを理解してからでは、僅かばかり遅かった。

 

「──────それは此方の台詞よ。余所見をしている場合か?」

 

だが、そこに待ったを掛ける者が居る。

即座にその場から飛び退くアタランテ。コンマ数秒遅れてハサンの短剣が空を斬る。

 

「……成程。途中から静かにしていたかと思えば…驚いたぞ。私の獣の感覚を持ってしても、あの距離まで接近を許してしまうとはな。」

 

「称賛には素直に礼を述べよう。───だが、間一髪で逃げられるとは…アサシンとしては屈辱以外の何物でも無い。」

 

深追いはせず、一度距離を取るハサン。オーズもガメルを振り切り、一度ハサンの傍へ寄る。

 

「映司殿…どうされますかな。この二人、強いですぞ。」

 

「分かってます…けど、早く倒さないと。」

 

手早く倒せる様な敵では無い。けれど、先のアタランテの言葉が本当なら…ガメルはまだ、サーヴァントとしての能力を発揮していないという事だ。現状ですらアタランテの加勢で厄介な相手だというのに、奥の手を出されれば均衡が崩れるのは目に見えている。

加えて、未だ戻らない立香達も気になる。彼等のお陰で周囲に一般人は居ないが…彼女達を避難させるだけにしては、時間が経ち過ぎている。

 

「ハサンさん。…立香君達の様子は?」

 

オーズの問い掛けに対し、ハサンは心苦しそうに首を横に振った。

 

「……それが、魔術師殿との意志疎通が図れませぬ。恐らく、何らかの結界で念話が遮断されているのでしょう。幸い魔力の経路(パス)は繋がっております故、無事なのは確かですが…。」

 

言われてみれば、先程からカルデアからの通信も無い。考えられる事態としては、この特異点に元々存在するオーズより、常に観測し存在を証明する必要の有る立香達のサポートに全力を割く必要性が有るという可能性。つまり立香らの身に何かが起き、オーズ達は彼等と分断されてしまった可能性が高い。

無論、分断されたのはオーズ達の方という可能性も無くはないが…何れにせよその事実が、増々オーズの不安を煽る。

 

「……だからって、今ここで考えても仕方無いか。俺達のやるべき事は…。」

 

「ええ。一刻も早く彼等を倒し、魔術師殿達と合流する事。」

 

やるべき事は変わらない。二人は互いに小さく言葉を交わすと、目の前に立ち塞がるガメルとアタランテへ視線を向けた。

 

「話は終わりか?敵の目の前でお喋りとは…随分と余裕だな。舐められたものだ。」

 

不服そうに鼻を鳴らすアタランテと、その傍らで戦意を漲らせ構えるガメル。

 

「生憎、ちっとも余裕が無いから作戦会議してたんですよね。ハサンさんが加勢してくれてるのに、貴女もガメルもこんなにも手強い。

─────ほんっっっっと、楽して助かる命が無いのは何処も一緒だな。」

 

溜め息を吐きながらも、二枚のメダルを手にするオーズ。

直後、それを目にしたガメルが憤怒に満ちた雄叫びをあげる。

 

「オーズゥゥゥ!!!!!!それは、メズールのだ!返せ!!」

 

「お前には悪いけど、これは渡せない。俺は、皆を守って戦わなくちゃいけないんだ─────!」

 

激昂するガメルに対して静かに答えれば。オーズはバックルのタカメダル、そしてゴリラメダルを抜き取り。

代わりに二枚の青いメダル(・・・・・)を差し込み、オースキャナーでその力を解き放つ─────!

 

「……変身!」

 

『シャチ!ウナギ!タコ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうなってんのよコレ…!」

 

迷宮(・・)の壁を叩き付けながら、オルタが毒づく。

最初は、映司の指示通り巻き込まれていた女性達を避難させただけの筈だった。

だが。彼女達を安全な所まで移動させ、オーズの元へと戻ろうとした矢先。

突如出現した迷宮に囚われ、立香達は足止めを食らっていた。

 

「これ…あのバーサーカーの宝具…?」

 

困惑しながらも、壁に手を当て状況を整理する美遊。

迷路の様に入り組んだ迷宮。それは物理的な壁のみならず、カルデアとの通信も遮断された空間。

魔物や罠の類いこそ無いが、これは彼等の良く知るサーヴァントの宝具とよく似ている。

 

「確かに、アステリオスの宝具みたいだけど……ここにアステリオスも居るって事?」

 

 

 

「─────いいえ。確かにこれはアステリオス君の宝具ですが、彼はここには居ませんよ。」

 

突如、迷宮の中に覚えの無い声が響き渡る。

反射的に全員が声の方向へと振り向けば、そこに居たのは─────。

 

「…一般人…?」

 

「……な、ワケ無いわよね?このクソ鬱陶しい迷宮の事知ってるんだから。」

 

理知的な雰囲気を漂わせる、眼鏡を掛けた一人の男性。

肩に奇妙な人形を載せている他は、この現代日本なら何処にでも居そうな風貌をしている。

彼は無言で立香達の元へと歩み寄ると、感情の読めない無表情のまま彼等へ会釈する。

 

「お初に御目に掛かります。私は真木、と言う者です。」

 

物静かそうな外見に違わぬ、淡々とした話し方。

警戒心を隠さぬオルタが腰の剣を抜いても、顔色ひとつ変える事無く佇む真木。どう考えても一般人では無いだろう。

 

「真木…さん。貴方は、この迷路の事を知っている。貴方は魔術師なんですか?」

 

何時でも応戦出来る様に構えながら、立香は問う。

対して真木は、表情を崩す事無く首を横に振った。

 

「いいえ。私は魔術師ではありません。」

 

その返答に、僅かばかり立香の気が緩む。

───だが。

 

「魔術師ではありませんが…私はグリード(・・・・)です。」

 

衝撃的な告白にその場の全員が息を飲むのと、彼の肉体に変化が起こったのは同時だった。

 

「─────!」

 

真木の身体が禍々しい紫のオーラに包まれると共に、多量のセルメダルがその表層を覆う。

軈てセルメダルが消え失せ、メダルに覆われていた彼の姿が顕になれば。

現れたのは紫色の外格に覆われた、マントを羽織ったかの様な姿の怪人。所々に恐竜の姿を模した箇所が見られるそれは、他のグリード同様彼の持つメダルの属性を示しているのだろう…という事は想像に難く無い。

 

「グリード…!けど、この姿って…?」

 

「恐竜…みたい。」

 

「うん。それに、さっきのオーラは紫色…それってつまり、映司さんと同じメダルを持ってるって事…?」

 

戦闘体勢に入り、最大限の警戒を払いながら立香らは言葉を交わす。それを聞いたグリードは、興味深そうに顎に手を当てつつ首を傾げた。

 

「ほう…。火野君が自分のメダルの事を話していたのは意外でした。てっきり、秘密にしているものとばかり…ふむ。」

 

だが、それもほんの数秒。「まあ良いでしょう」と独りごちた彼は、立香達の方へと向き直る。

 

「君達を今殺す事は無いので御安心を。

───ただ、今は君達を火野君の元へと行かせるワケにはいきません。」

 

相変わらず淡々と、けれど威圧感のある声音で語り掛けるグリードに、オルタは舌打ちする。

 

「ハッ!信じられると思う?何を根拠にそれ言ってるのよ。大体、アンタの方が勝つ前提なのが気に食わないんですけど。」

 

「根拠ですか。そうですね…火野君には、更なる高みへ進んで貰わねば困ります。今、君達に加勢されてはそれが叶わない。」

 

分からず屋の子供を相手にでもするかの様に、小さく溜め息を吐くグリード。

その仕草は、オルタをキレさせるのに充分過ぎた。

 

「それに私が勝つ前提なのも事実です。君達では私に勝てない…無駄な抵抗は無意味ですよ。」

 

「上等よ!そっちに()る気が無いってなら、そのままここで死になさい!!」

 

立香の制止も、怒りに燃える彼女の耳には届かない。

オルタの振るった刃と、グリードの突き出した拳がぶつかり合い、火花を散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『シャ・シャ・シャウタ!シャ・シャ・シャウタ!!』

 

姿を現したのは、青き戦士。

シャチを模した頭部に、二本の鞭を備えた腕。足には吸盤を備えた、恐らくこれまでオーズが披露した姿の中でも格別特徴的な姿。

仮面ライダーオーズ・シャウタコンボ。

水を司る海の王者の姿である。

 

「姿を変えたか。それで能力が変わる事は理解している。だが…それでどうなる?」

 

「勿論、ここから逆転して見せますよ。俺達は、ここで立ち止まるワケにはいかないから。」

 

不敵に笑うアタランテに対し、自信に満ちた声で応えるオーズ。

 

「面白い…やってみろ!」

 

側面へと回り込みながら矢を放つアタランテ。オーズはそれをウナギウィップで払いながら、アタランテ目掛け駆け出す。

 

「オーズゥゥゥゥゥ!!!」

 

だが、その行く手を阻むガメル。怒りに任せて繰り出される拳は単調ながらも一撃一撃が重く、一発でも受ければ大ダメージは避けられない。

─────なら、避けなければ良い(・・・・・・・・)

 

「…!?あれ…?」

 

「何…ッ!?」

 

ガメルの拳が、オーズの胴を貫く。けれど、肉体を貫通した筈の拳には全く手応えが無く(・・・・・・・・)、ガメルやその様子を見ていたアタランテは困惑する。

直後、オーズの肉体が崩れ───否、意思を持った水塊へと変化し、拳から腕を伝ってガメルの頭部へと絡み付いた。

 

「ガッ…!?苦し…離せぇ…!」

 

「ガメル!」

 

呼吸を奪う水塊を払い退けようと藻掻くガメルだが、液状化した今のオーズには物理攻撃は意味を成さない。グリードである以上、窒息死する事は無いだろうが…元々感情で動くタイプのガメルは、それに気付くだけの余裕が無い。

そしてそれを理解しているアタランテもまた、矢を射る事が出来ず唯状況を見守るしか無かった。今オーズを狙撃した所で、結局ガメルに当たるだけの無駄撃ちになるからだ。

 

「卑怯とは言うまいな、アタランテ殿。」

 

「─────チッ!アサシンか…!」

 

その隙を突いて、彼女目掛け死角から短剣を振るうハサン。

咄嗟にそれを躱し反撃の蹴りを放つも、ハサンもまた器用に身体を捻って回避する。

 

「邪魔だ!貴様は消え失せろ!」

 

「これは手厳しい…だが、心配せずとも良い。

─────私の仕事はこれで完了(・・・・・)だ。」

 

距離を取ったハサンヘ怒号混じりに矢を乱射するアタランテだが、彼の言葉にピタリと動きを止める。

 

────仕事は完了?

 

怒りに震える彼女だが、一瞬の思考の後。その意味を理解し、慌ててガメルの方を振り返った。

 

「ゲホ…あ、アタランテ…逃げろ(・・・)!」

 

だが。既にそこにオーズの姿は無く、居たのは彼女の方へと走りながら叫ぶガメルのみ。

咄嗟に彼女が宙を見上げれば、人の形を取り戻したオーズが天高く飛び上がっている。

 

『スキャニングチャージ!』

 

オースキャナーから響き渡る、必殺を告げる宣告。

オーズの下半身が八本のタコ脚へと変化する。それらが一つに絡み合うと、まるでドリルの様に高速回転を始める。

 

「くっ…!───二大神に奉る…」

 

あれを止めるには自分の矢ではもう遅い。

そう判断したアタランテは、せめてガメルの為に少しでもダメージを残さんと宝具発動の構えに入るが…それもまた遅過ぎた。

 

「セイヤァァァ!!!!」

 

流星の如く勢いで飛来する王の一撃。それが眼前まで迫りつつも、彼女は魔力の収束を止めない。

 

訴状の(ポイポス)─────ッ!?」

 

────が、直後何者かに突き飛ばされ、不意を突かれた彼女は受け身も取れずに地を転がった。

 

「ぐっ…!─────ガメル…!?」

 

この場でそんな行動を起こすのは、彼女の考え得る限り一人しか居ない。

慌てて顔を上げたアタランテが目にしたのは、鋭い槍と化したタコレッグに貫かれるガメルの姿。

 

「う…ぐ、うぉぉぉ…!」

 

だが、ガメルも負けじと堪えている。その手と腹を抉られつつも、液体では無く完全に固体と化したタコレッグを正面から受け止め、その場に踏み留まるガメル。

 

「そんな!?くっ…おおおお!!!」

 

「オー…ズゥゥゥゥゥ!!!!」

 

飛び交う両者の咆哮。水の王と、重量級生物の王との力比べ────最後に軍配が上がったのは後者だった。

 

「メダル…返せぇぇぇぇ!!!」

 

雄叫びと共にガメルが、タコレッグを受け止めていた両腕を振り上げれば。その勢いに弾き飛ばされ、成す術無く宙を舞うオーズ。彼の肉体はそのまま無防備に地面へ叩き付けられる。

 

「うっ…!ッ…嘘、だろ…!?仕方無い、もう一発────ぐっ…!?」

 

「映司殿!」

 

全身を襲う苦痛とコンボの反動に呻くオーズ。

反撃に備えるべく起き上がろうとするも、思うように身体が動かない。

 

「隙有り、だ。卑怯とは言うまいな?

────太陽神(アポロン)月女神(アルテミス)に奉る…

"訴状の矢文(ポイポス・カタストロフェ)"!!」

 

その隙を逃す程甘い敵では無く、復帰したアタランテは天へと二本の矢を放つ。

ギリシャ神話で語られる狩人達の中でも屈指の実力を持つ彼女だが、その宝具は彼女自身の弓矢では無い。彼女が祈りを込めて放ったその矢が天に座す神々へ届けば─────。

 

「……ッ!ヤバイ…ハサンさんだけでも逃げて下さい!」

 

「もう遅い!二人纏めて神々への供物と成れ!」

 

空より降り注ぐ無数の矢は、最早矢の雨という表現すら生温い。

神々が放つ矢の嵐を前に、オーズはウナギウィップを振るうも殆ど意味を成さず、唯全身にそれを受ける事しか出来なかった。

 

無数の矢を前に抉られたアスファルトから舞い上がる土煙。

それが晴れれば、ガメルに羽交い締めにされるハサンと、変身が解かれ地に伏す映司の姿が露になる。

 

「……咄嗟に気配を遮断し、私が矢を降らせないであろう(・・・・・・・・・・・)ガメルの傍へと逃げたアサシン。その鞭だけでは捌き切れぬと判断し、肉体を液状化させたオーズ。汝らの対処は的確だった…そこは素直に認めよう。

だが、それだけでどうにかなると思ったのなら…私達を甘く見過ぎだと言わざるを得ない。」

 

「コソコソ動く真っ黒な奴…捕まえたぞぉ…!」

 

「くっ…!」

 

万策は尽きた。ハサンは頼れる味方では有るが、そもそも戦闘で正面から敵を打ち倒すタイプではない。況してやあのままガメルの腕力で締め上げられ続ければ、何時限界を迎えても可笑しくはない。

映司自身も液状化でダメージを逃がしたものの、全てを凌げた訳では無く。間に合わず食らってしまったもの、蓄積したダメージ、そしてコンボで全力を出し切った反動で最早限界は近い。

 

「それでも…!」

 

まだ─────

ここで立ち止まるワケにはいかない。

 

「う……おおおおお!!!」

 

映司の中の何か(・・)が弾ける。

溢れ出す破壊衝動。それを受け入れては大変な事になる…理解していながらも、それを抑え込めるだけの力は既に残っておらず。

 

「───ッ!用心しろ、ガメル!何か……来る!」

 

映司の全身から溢れ出す魔力の奔流。

最早動く事すら困難な肉体に鞭打って、彼は再び立ち上がる。

 

「……何処までも届く…俺の腕。」

 

空気が凍った。

比喩表現でも冗談でもなく。未だ八月末(・・・・・)だというのに、彼の足元には霜が降り、彼の周囲だけ気温が急激に低下し始める。

 

「………何処に居ても、誰かを助けられるだけの……力!」

 

彼の纏う暴力的なまでの魔力か。或いは、発する言葉に滲み出た凄まじい執念か。

何が原因かは分からないが…ガメルとアタランテは勿論、味方の筈のハサンまでもが本能的な危険を感じ取っていた。

 

「俺は……それが欲しいッ!!!」

 

力強い叫びと共に、映司の肉体から出現する三枚のメダル。

その全てがひとりでに宙を舞い、既にバックルに収まっていたシャウタのメダルを押し退けそこに収まる。

 

「──────変身。」

 

オースキャナーを構え、先程までと異なり感情の一切籠らぬ声で映司は呟く。

もう、今の映司は彼自身にも止められない。

 

その瞳が、紫に妖しく輝いた。




楊貴妃ちゃんがえっち過ぎる件。
令ジェネ最高でした…また我が魔王の小説書きたいなぁ。


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蹂躙と虚無と太古の王

???「てぇっんさい物理学者の桐生戦」
???「そのくだり前にもやったじゃねぇか。出ねぇよ。」



 

「駄目です!藤丸君と通信繋がりません!」

 

「サーヴァントの皆とは!?」

 

「そちらも全く…応答、反応共に無しです!」

 

慌ただしく職員の行き交う管制室。

突如観測が困難となった立香とコンタクトを図る為、カルデア内の職員の殆どが奔走していた。

 

「ふむ…最後に彼を捉えた映像を見る限り、何かしらの結界に囚われたとみるべきだね。」

 

「エミヤ君、アステリオス君、オジマンディアス王やネロ帝…。候補は割と多いけど、特異点に召喚されたであろう我々の未だ見ぬサーヴァントが何かしらの宝具を使ったか。或いは、そういう能力を持つグリードが居たのか…どっちにしても、厄介な状況になったね。立香君の存在証明は大丈夫?」

 

カルデアの通信は、単純に立香のオペレーターとして現地での活動をサポートする…というだけではない。特異点という「現実でありイフの世界」で立香の実在を常に証明し続けるために必要なもの。万一これを僅かでも怠り、カルデアスが「少し違った可能性の主人公」を現代に観測してしまうと、彼等は二度とレイシフトから戻って来れなくなる。それを防ぐ為、嘗てドクターロマンは…そして今はその役目を引き継いだダヴィンチちゃんやカルデア職員が不眠不休で立香を観測し続けている。

 

「はい、なんとか…。」

 

「よーし。それだけは何としても死守するように!私も最大限サポートするから!」

 

余談を許さない状況ながらも、首の皮一枚繋がった事に安堵するダヴィンチ。

だが、直ぐにその表情は険しいものへと変わる。

 

けたたましく鳴り響く警報。

何事かとスタッフ全員がそちらへ視線を向ける。

 

「今度は何!?」

 

「えっと…こ、これは…!?お、オートで観測を続けていた火野映司君の方に、これまでと比べ物にならない程巨大な魔力反応!」

 

「何だって!?新しいサーヴァントか、グリードが出現したのかい!?」

 

「い、いえ…それが、発生源は…!」

 

─────火野君です。

 

その一言に、スタッフ達やマシュは勿論、ダヴィンチちゃんすら表情を強張らせる中。

唯一人、ホームズだけが冷静に何かを思案している事に気付く者は居なかった。

 

 

 

 

 

 

駄目だ…暴走しちゃ、皆を傷付ける!

 

─────誰を傷付けるんだ?今ここに、俺の敵以外誰も居ないだろ?

 

ハサンさんが居る…それに、ガメル達を倒せても…暴走したままじゃ、戻って来た立香君達も危ない…。

 

─────そのハサンさんが今、ガメルに殺されかけてるんだぞ?それこそアイツらを倒さなきゃ、戻って来た立香君達も危ない。

 

それは…そうだけど…。

 

─────認めるしかないんだ。彼等は強い。

このままじゃ、また俺は誰も救えない。

 

─────手が届くのにその手を伸ばさなかったら死ぬ程後悔するぞ?

 

─────俺はもう受け入れた筈だ。

 

 

 

 

 

─────俺の欲望は何だ?

 

 

 

「俺の…欲望…!何処までも届く腕…力…!」

 

冷えきったその場で、譫言の様に呟く映司。

紫の光を灯した虚ろな目には、もう色とりどりな世界は映っていない。

 

灰色に染まった視界。映る物は全て敵。

 

「………変身。」

 

─────敵なら、倒さなきゃ。

 

『プテラ!トリケラ!ティラノ!』

 

文字通り、映司はその身を異形へ変える。

太古の時代、地球を我が物としていた王者達。その姿を模した紋章が浮かび上がり、光に包まれた映司の身と重なる。

彼を覆う光が弾け飛べば、姿を現したのは破壊の化身。

耳に位置する場所には、翼竜の翼。

肩にはトリケラトプスの角。

強靭な下半身には、ティラノサウルスの尾。

 

『プ・ト・ティラーノ・ザウルーゥス!』

 

混沌を思わせる紫色の王、

仮面ライダーオーズ・プトティラコンボ。

総てを破壊し無に帰す太古の力。それを纏う彼に、もう先程までの映司の面影は微塵も無い。

 

「……!これは…不味いな。最早先程とは別人───いや、別次元の化物だろう。」

 

「アタランテ…あいつ、嫌な感じがする…!俺、あいつ嫌いだ…!」

 

戦士としても、狩人としても、そして野生の獣としても。アタランテの持つ全ての勘が、彼女に最大級の警鐘を鳴らしている。

あの姿の事は、彼女も全く知らない訳ではない。

コアメダルを唯一破壊出来る、無の欲望を有した破滅の力。手を下したのはオーズではないものの、アレと同じ力が嘗てガメルを滅ぼした事も知っていた。

────いや、知っていたつもりだった…というのが正しいか。

目の前の存在は、明らかに他の姿と一線を画してる。無論、先のシャウタと呼ばれたコンボも強敵には変わり無い筈だ。

だが、少なくとも先程までは"強敵"という認識が有った。生前アルゴー船に乗り合わせた勇者達。或いは、記録として残っている"嘗て何処かで行われた聖杯戦争"で覇を競った英雄達。彼等を思わせるその強さに、戦いへの高揚すら感じたものだ。

 

それがどうだ。目の前の存在は、アタランテにとって"未知の敵"以外の何者にも感じない。ただ、ひたすらに危険な存在…それ以外に抱く思いが見付からなかった。

 

「ガメル、気を付けろ!ここは一度距離を取って…」

 

「ウ…ウオオォォォォォォ!!!!!!」

 

警戒しながらガメルへアタランテは指示を飛ば───そうとするも、それを遮り響き渡る咆哮。

ただ吠えただけ。にも関わらず、その叫びは生物の根元的な恐怖を呼び覚ます。グリードのガメルや、サーヴァントであるアタランテですら、その雄叫びに怯み、全身が硬直する。

それを知ってか知らずか、怒濤の勢いで走り出すオーズ。アタランテは 気力を振り絞り硬直から逃れ、咄嗟にガメルを突き飛ばす。

突き飛ばしたガメルに構っている時間は無い。直ぐ様振り向き、オーズ目掛け矢を放つアタランテ。

その技量、俊敏さは流石神話に名を残すだけの事はある。───けれど、それで止まる様な敵でない事は他ならぬ彼女自身が一番理解していた。

 

「─────!ウォォォォ!!」

 

「効かぬ…いや、元よりダメージ程度で止まるという選択肢すら無いのか!」

 

あれはまるでバーサーカー。それもかなりの狂化ランクを有するそれと何ら変わらない。

あっという間に目前へと迫ったオーズに舌打ちしつつ、側面へと回り込みながら矢を番えるアタランテ。

狙うは、がら空きの脇腹。オーズが身を翻すより先に、彼女の放った一撃が彼に届く。

吹き飛ばされ、受身も取れずにオーズの体が地を転がった。

 

「出し惜しみする余裕等、有る筈も無い───!

"訴状の矢文(ポイポス・カタストロフェ)"!」

 

魔力の涸渇は問題だが、消滅しては元も子も無い。そう判断し、彼女はオーズが起き上がるよりも早く再び宝具を起動する。

天へと打ち上げられる祈りの矢。それが再び二大神に届けば、オーズの元へ裁きの矢が放たれる。

嵐を思わせる勢いで降り注ぐ天からの狙撃。それを前にして、身を起こしたオーズは一際大きく咆哮した。

 

「ウォォォ!!!」

 

『スキャニングチャージ!』

 

バックルにオースキャナーを滑らせるオーズ。次の瞬間には、彼の姿は矢の雨に包まれ見えなくなる。

 

「ガメル…済まない、許せ。」

 

「大丈夫…アタランテ、オーズ倒した…?」

 

「さあな…。だが如何に奴と言えど、これを受けて無傷とは…。」

 

復帰し、近寄ってきたガメルと言葉を交わすアタランテ。先の状況で見失ったハサンに注意を払いながら、彼女等が視線を向けるは無論オーズだ。

警戒を怠る事無く、注意深く土煙の中を注視し───。

 

「…氷?」

 

違和感に気付くと同時に、アタランテの獣の勘が最大限の危険信号を飛ばす。

直後、何かが炸裂する。衝撃は土煙を吹き飛ばし、平気な様子で立つオーズ(・・・・・・・・・・・)の姿が現れた。

 

「馬鹿な…!」

 

無傷ではない。寧ろ、彼の紫のボディは所々に傷を負い、先の宝具が確実にオーズへ痛手を負わせた事を示している。

───だが、彼は耐え抜いた。

そもそも、今の姿へ変身するより前から彼は限界だった筈だ。

だというのに、衰える事の無い闘志と殺気を撒き散らして佇む彼は、最早神話の大英雄達と比較しても遜色無い。

 

「ガメル、一旦退くぞ!この場でどうこう出来る相手では…」

 

「オオォォォ!!!」

 

即座に的確な判断を下したアタランテの身が竦む。

彼女の視線の先には、雄叫びを上げながら大地へ片腕を突っ込む(・・・・・・・・・・)オーズの姿。

彼がその腕を引き抜けば、手に握られているのは恐竜の頭部を象った戦斧。

目にしただけで本能的な畏れを呼び覚ますそれは、プトティラコンボの専用武器・メダガブリュー。

逃げる事は許さないとばかりに、メダガブリューを携えたオーズが再び彼女等目掛けて走り出す。

 

「オーズゥゥ…!アタランテを虐めるなぁー!!」

 

「ガメル!?馬鹿…止せ!」

 

アタランテを庇う様に飛び出したガメルは、アタランテの制止も無視してオーズに殴り掛かる。

然しそれを片腕で受け止め、オーズは躊躇無く彼の胴へとメダガブリューを振るった。

 

「ガッ…!う、ぐぅぅ…!」

 

切り裂かれたボディから溢れ落ちるセルメダル。

グリードですら耐え難い激痛に、呻きながら鑪を踏むガメルへ、オーズは何度も何度もその手の斧を振り下ろす。

 

「止めろ───!」

 

彼を止めるべく、アタランテがオーズへ矢を放つ。

手数では止まらない事を見越し、一撃に魔力を限界まで溜めての狙撃は、オーズの脇腹をライフル弾の如く削り取った。

一撃の重さに流石の彼もよろめき、ガメルへの攻撃を中断する。攻撃の手が止まった事に、アタランテも僅かに安堵した。

─────のも束の間。

 

「ウオオ!!」

 

「────ッ!やはり…そう来るか…!」

 

オーズは満身創痍のガメルを蹴り飛ばし、攻撃の矛先をアタランテへと切り換えた。

最早限界の近いアタランテに更なる反撃の隙を与えず、一気に縮まる二人の距離。

メダガブリューを振り上げながら眼前に迫る彼を躱し、アタランテは再度彼の側面へと潜り込む。───だが、オーズはそれを見切っていた。

一度縦に振り下ろしたメダガブリューを、力ずくで横凪ぎに振り抜く。

 

「ぐあぁッ…!」

 

今の彼に、相手が女性であろうが区別するだけの理性等有る筈も無い。胴体を切り裂かれ、血と魔力を撒き散らしながらアタランテは成す術無く弾き飛ばされた。

 

「化…物め…!これ程とは……!」

 

息は荒く、掠れた声で呻くアタランテ。ガメルも既に限界、このままでは二人共滅ぼされるのは時間の問題だろう。

せめてガメルだけでも──彼女の強い意志とは裏腹に、指一本動かす事すらままならぬ自身に苛立ちを抑え切れない。

 

そんな彼女の内心など知る由もない───そもそも、そんな事を汲み取る思考など、今の彼が持ち合わせている筈も無く。手にしたメダガブリューを戦斧から銃へと変形させたオーズは、そのセルメダルを恐竜の顎を象ったクランチガルバイダーへと投入する。

 

『ガブッ!ゴックン…!』

 

クランチガルバイダーがセルメダルを噛み砕く。流れる音声のコミカルさと裏腹に。砲身には凄まじいエネルギーが収束し、これから放たれる一撃は到底アタランテに防ぎようの無いものだと示していた。

 

「……ここまでか…!」

 

無念と後悔に打ちのめされながら,アタランテはそっと目を閉じる。

 

 

 

──────だが、待てども何の衝撃も襲っては来ず。その事に疑問を抱きつつ、彼女は訝しげに目を開いてみる。

 

「グ……オオッ…!」

 

「映司さん…止まって!」

 

アタランテの目に映ったのは、見知らぬ少女の姿。彼女の放つ魔力、明らかに一般人とは異なる装束から、サーヴァントである事は疑いようがない。

少女はアタランテを庇う様に、オーズの目の前に立ち塞がって居る。

先程までの彼なら躊躇無く攻撃していた筈だが…何故だか、少女を前にしたオーズは引き金を引けずにいた。

 

「どう…いう事だ…?」

 

困惑するアタランテの前で、苦しそうに唸り続けたオーズは。軈て手にしたメダガブリューを落とし、力無くその場に崩れ落ちる。

それと同時に変身が解除され、破壊の化身は火野映司の姿を取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

巨大な旗を横凪ぎに振るうオルタ。それをバックステップで躱し、恐竜グリードは魔力で編まれた紫の光弾を放つ。

 

「チッ…!」

 

舌打ち交じりにオルタは咄嗟に旗を投げ捨て、炎を纏った剣で光弾を斬り伏せた。

だが、そこで生じる僅かな隙に、グリードはより巨大な魔力弾を生成。オルタ目掛けてそれを放とうと───。

 

「させない…!」

 

「私達も居るんだから──!」

 

グリードを挟み左右から放たれる魔力の斬撃(シュナイデン)。タイミングは完璧ながら、然しそれを前にしてもグリードは動じない。

片方の斬撃に魔力弾をぶつけて相殺。もう片方に至っては空いた手を伸ばし、文字通り片手で受け止めてみせる。

 

「そんな!?嘘でしょー!?」

 

「───驚く事では有りません。言った筈です…君達では私には勝てない、と。」

 

悲痛な叫びをあげるイリヤに目もくれず、淡々とした口調で告げる恐竜グリード。

"殺す気は無い"という言葉に嘘は無いのか、先程から彼は圧倒的な力量の差を見せ付けながらも、積極的に立香達を排除する様な動きは見せていない。だがそれでも、目の前の敵はこの場のメンバーを全滅させられるだけの力を有している…というのは明白。せめて映司か、或いはクー・フーリンの加勢無しでは撃退すら難しいだろう。

 

「さて。未だ続けますか?これ以上は私としても面倒なので、もう少し痛い目を見せて無理矢理大人しくさせる…という手段を取らざるを得ませんが。」

 

「クソ…なら、一かバチか…!」

 

敵は未だ全力を出していない。その油断に付け込み、令呪を用いた最大火力をぶつける───それしか勝機は無い。

そう判断した立香は、令呪を用いようとして─────

周囲の景色に違和感を抱く。

 

「迷宮が…乱れてる?」

 

先程までこの激しい戦闘を前に傷一つ付かなかった迷宮が、まるで壊れたテレビの画面さながらに。乱れ、時に霞み、時折外界の景色すら見え隠れしている。

グリードもまた、その異変に気付いたのだろう。

周囲を見渡し小首を傾げていた。

 

「ふむ…どうやら、宝具が解除されつつある。それはつまり、使用者であるアステリオス君が限界という事。」

 

「てことは…映司さんやハサンがやってくれた…!」

 

その事実に、僅かながらも気持ちを持ち直す立香。

 

「……殿。………師殿。───魔術師殿!」

 

迷宮の縛りが弱まった影響だろう───ハサンからの念話が届いたのも、それと同時だった。

 

「ハサン!良かった、無事で!」

 

遮断されていた意志疎通が回復し、思わず立香の声が弾む。

だが───返ってきた内容はそう易々と喜べるものでも無く。

 

「─────え?映司さんが…オーズが、暴走…!?」

 

彼の漏らした一言に、反射的に美遊が振り向く。

一瞬にして不安を滲ませたマスターの表情に、彼女は嫌な予感を覚え戦線から離脱する。

 

「ちょ…!?アンタ何してんのよ!?」

 

「美遊!?」

 

オルタとイリヤからの呼び掛けも耳に入らない。今の美遊を突き動かしているのは、理屈では無い単なる直感。けれど、その直感を無視すれば取り返しの付かない事態にまで発展するかもしれない…そんな確信が彼女には有った。

 

「───マスター!私を、映司さんの所に!」

 

「え?だ、だけど…。」

 

「お願い…!早くッ!」

 

藤丸立香は一流の魔術師では無い。

けれど、仲間を信じられるマスターであった。

そんな彼が、今の美遊を目にすればどうなるか。

 

「───分かった!ハサン、こっちで手伝って!代わりに映司さんは美遊に任せる!」

 

無論、彼女を信じる。

それは魔術師としては未熟な彼が、人理を修復する程のマスターに登り詰めるまで、ずっと変わらず貫いてきた信念なのだから。

 

「美遊、頼んだ!」

 

迷宮が綻び、外界との境界が曖昧になった今だからこそ。

立香は礼装に刻まれた転移魔術(オーダーチェンジ)を起動。魔力経路(パス)の繋がりから捉えたハサンの居場所と、目の前の美遊とを入れ替えた─────。

 

 

 

 

 

「!────寒い…?それより映司さんは…。」

 

オーダーチェンジで移転させられた美遊が目にしたのは、苛烈な戦闘の痕跡の数々だった。

 

「アタ…ランテぇ……!」

 

すぐ近くから聞こえた弱々しい呻き声。警戒しつつ視線をそちらへ向ければ、地に這いつくばる異形の怪物───写真で見たグリード・ガメルの姿がそこに在った。

ガメルが力無き声をあげながら視線を向ける方向へ、彼女もまた目を向ければ。

 

「グオオオ!!!!」

 

緑衣に身を包んだアーチャーと思しきサーヴァント…恐らくアタランテだろう。彼女の姿と、それを一方的に蹂躙する紫の異形。美遊の知らぬ姿ではあったが、紫色の怪物がオーズだと理解する事は難しく無かった。

 

「あれが……映司さん…!?」

 

危うい所が有る事は薄々感じていた。けれど、ここまでとは思ってもみなかった。

今の彼は無慈悲に敵を叩きのめしている。だが、その動きからは敵に対する憎しみや怒り、況して見下す様な感情はまるで感じられない。それどころか、そもそも感情らしいものが見当たらない───唯、目の前の敵を淡々と破壊する装置と化している。

 

不意に、メズール戦の前に自身が抱いた思いが蘇る。

 

"何処までも届く腕、誰もを助けられるだけの力と。それを一人で背負い、振るうだけの都合の良い神様(・・・・・・・)みたいな存在"。

 

多分、今のオーズは映司の理想が行き着く先の姿だ。そして彼はきっと、それを理解した上で受け入れている。

その事が、何故だか美遊には無性に悔しく、哀しさと腹立たしさを覚えた。

 

『ガブ!ゴックン…!』

 

「────!いけない…!」

 

手にした戦斧を銃器へ変形させたオーズが、アタランテへとその照準を向ける。

───恐らく状況から見て、彼女は敵だ。今オーズが彼女を仕留めれば、恐らくこの特異点における戦況は良くなるだろう。

 

……それでも。

今、オーズが彼女に手を掛けてしまえば、きっと映司は後戻り出来なくなる。

それだけは、止めなければいけない─────。

 

「映司さん…!」

 

気付けば美遊は駆け出していた。勝算も、理屈も何も無い。

───昔、大切な友達(イリヤ)が、お兄ちゃん(エミヤシロウ)が。

 

 

 

自身を救う為に駆け付けてくれた時の様に。

 

 

 

彼女は自分を突き動かす衝動に身を任せ、オーズとアタランテの間に割り込む。

 

「映司さん…止まって!」

 

ハッキリ言って部の悪い賭けだ。この惨状を見るに、今の彼が止まる可能性は限り無く低い。

───それでも。彼女は真っ正面から彼を見詰め、呼び掛けた。

 

 

─────そして。

 

 

「うっ……。ここ、は…?」

 

崩れ落ちるオーズ。地に膝を着きながら、彼は"火野映司"の姿を取り戻す。

辺りを見渡した彼は美遊を見付け、申し訳無さそうに苦笑しつつ頭を下げた。

 

「……ゴメン!迷惑掛けちゃったみたいだな…。美遊ちゃんが止めてくれたのか───ありがとね。」

 

「……どうして…。」

 

「え?」

 

彼女の小さな呟きが聞き取れず、首を傾げる映司。

 

「…ううん。何でも無い…です。」

 

けれど彼女は、俯き気味に首を横に振った。

 

 

 

 

 

どうして。

彼はきっと、あの力の危険性を理解していた筈だ。

それを知ってなお、どうして戦えるのか。

 

─────どうして、そこまで力に執着するのか。

 

恐らく彼女だけが気付いているであろう、火野映司という善良な人間の異常性。

 

『美遊様……。』

 

気遣う様なサファイアの声に、今の美遊は笑顔で応える事は出来なかった。

 

 

 




礼装連発ドブガチャって醜くないか?


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親愛と契約と麗しの狩人

お客様の中に、恐竜繋がりでケボーンダンス踊る真木博士はいらっしゃいますか!?
今も昔も破滅願望(わくわく)が止まらないグリードはいらっしゃいませんか!?




 

「さて…と。これからどうしよっか。」

 

瀕死のガメルとアタランテに視線を向けながら、映司は神妙な面持ちで呟く。

 

「これから…?」

 

「うん。美遊ちゃんが止めてくれたお陰で俺は我に返った。美遊ちゃんもハサンさんと交代で来たって事は、ハサンさんは無事だった。…そこまでは良いんだけど…。」

 

美遊の話を聞く限り、アタランテの言っていた

"ガメルと結び付いたサーヴァント"が立香達を分断した可能性が高い。

そもそもガメルはグリード、本来倒すべき敵。……なのは分かっているのだが。

先のアタランテとガメル、二人の姿を見てしまった後で仕切り直し…というのは、流石に映司としてもやり辛い。

無論、そんな事を言っている場合では無いのは重々理解してはいるが…そうは言っても彼は根が善良だった。

 

「……いっそ、あのカザリみたいに一時的に休戦するのは?」

 

「俺もそれはアリかなと思ったけど…多分ガメルは受け入れないと思う。少なくとも、俺がメズールのメダルを持ってる限りはね。」

 

「───ならば、妥協案はどうだ。」

 

困り顔で思案する映司に問い掛ける声がひとつ。

振り返れば、そこには切り裂かれた脇腹を抑えながら、ゆっくりと歩み寄るアタランテの姿が。

 

「ガメルはどのみち暫くは満足に動けまい。奴に手を出さないと約束するなら、少なくともその間は私が汝らに手を貸す。……無論、ずっとでは無い。そちらもガメルを倒す必要が有るだろうし、私は何が有ろうと奴の味方だからな。」

 

激痛に表情を歪めつつも、虚勢を張って苦笑して見せるアタランテ。そんな痛ましい様子の彼女が提示した案に、映司は困惑する。

 

「……けど、そもそも俺がアタランテさんとガメルをそこまで…。」

 

「それについては気にしていないさ。」

 

申し訳無さそうな映司の言葉を遮り、苦笑して見せるアタランテ。

 

「元より命を懸けた戦いだ。汝が暴走状態であった事を差し引いても、そもそも我等が汝より弱かった…それだけの話。寧ろその少女に命を救われ、その上で"はいサヨナラ"…なんて真似、出来る筈も無い。それとも…私に"自分を殺せる筈の敵に見逃され逃げた敗北者"という屈辱と、"助けられながらその恩を蔑ろにした恩知らず"…という汚名を同時に背負わせる気か?」

 

彼女は冗談めかした口調で告げつつ、微笑み片目を瞑って見せる。どうやら友好的なアタランテの姿に、映司もほっと胸を撫で下ろした。

 

「じゃあ…お言葉に甘えて。といっても、立香君達にも話をしてから…」

 

「──────その必要は有りません。」

 

決して大きな声では無い。にも関わらず、辺り一帯に響き渡る冷たい声。

映司と美遊、そしてアタランテが振り向いた先には。

 

「あ……ア、タラン…テ……。」

 

「─────!?ガメルッ!!」

 

ガメルの巨体を片手で持ち上げ、対の手でその心臓部を貫く異形の姿。

先程まで戦っていた美遊はもちろん、映司もよく知るその人物こそ。

 

「……真木博士…!」

 

「久し振りですね、火野君。その様子では、どうやら完全な暴走を迎える前に元に戻ったようですね…残念です。」

 

言葉とは裏腹に、一切感情の籠らぬその声音。然程残念がる様子も見せず、真木…恐竜グリードは手刀をガメルから抜き取り。そのまま瀕死のガメルを無造作に放り捨てた。

 

「う、あ……。」

 

「ガメル!おい、しっかりしろ!!」

 

限界の体に構わず、ガメルの元へ駆け寄るアタランテ。

悲痛な面持ちで彼へと呼び掛けるアタランテを一瞥した恐竜グリードは、困ったものでも見るかの様に首を振った。

 

「全く…。貴重な令呪(・・)を用いたにも関わらず、火野君を更なる高みへ押し上げる事は叶わなかった…やはりガメル君ではこの程度が限界、という事ですか。」

 

小さく溜め息漏らすと、恐竜グリードはその手に魔力弾を作り出す。

 

「止めろ!」

 

彼が何をするつもりなのか理解した映司の悲痛な叫び。然し彼はそれに構わず、ガメルに向けて躊躇無くそれを放つ。

 

「───!アタランテ!!」

 

「な…!?」

 

迫り来る魔力弾を前に、ガメルは咄嗟にアタランテを突飛ばし────そして。

 

「ぐあぁぁぁぁ!!!」

 

辺りに響き渡るガメルの絶叫。

致命傷の一撃を受けた箇所から白煙をあげつつ、弱々しくガメルは呻く。

 

「…あ……ぅ…。アタランテ…ごめん…な。」

 

既に限界のその身にトドメの一撃をモロに食らい、ガメルの体が光の粒子に還り始めた。

 

「アタランテ…()の名前、呼んでくれて…ありが、とう…。」

 

「───ガメル!!おい、ガメル!しっかりしろ…死ぬな!」

 

「メズー、ル…エウ、リュアレ……僕、大事な人…出来た…。今度は…みん、な…で……。」

 

悲しみに絶叫するアタランテとは裏腹に、彼の最期の言葉は酷く穏やかな声音で。

 

「メズール、エウリュアレ…お菓子も、メダルも…あげる…。アタランテにも…あ、げ………。」

 

 

 

その一言を最後に彼の身体は崩れ落ち。

僅かなメダルを残して、グリード・ガメルは完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ……こうも倒せねぇと、流石に戦士としての沽券に関わるぜ。ったく、雑魚の癖に面倒な連中だなオイ!」

 

血の如き深紅の魔槍を振るいながら、ランサーは呆れた様に吐き捨てる。

彼の目の前には屑ヤミーの群れ。一人一人は他の特異点で対峙した魔獣と大差無い力しか持っていないのだが…自身の攻撃では倒し切れない相手を前に、流石の彼もうんざりしていた。

 

「そうカッカしなさんなって。マトモにやりあったなら、普通にコイツらよりアンタの方が強いのは事実なんだからよ。───というか、コイツらどころか俺よりも断然強いじゃねぇか。かぁー……おじさんショック!」

 

「抜かせ!それが分かってるからこそ……イラつくんだろうが!!」

 

軽い調子で語り掛けてくるのは、この特異点で出会った奇妙な鎧(・・・・)を纏った男。サーヴァントや魔獣の類いでは無く、正真正銘この時代の人間で在りながら、怪物(ヤミー)とやり合える戦士。

 

立香達と別れた後、ランサーは彼と出会った。そして紆余曲折を経て、現在こうして行動を共にしている。

 

「まあ、俺もアンタと会うまでそんなルール有るって知らなかったけどな…確かに普通の武器じゃ倒せなかったが、単に威力不足と思ってたし。」

 

「どういう理屈か知らねぇが、面倒なこった。……つーワケだ、もう一枚頼むぜ!」

 

「ほいほい…っと。ったく、燃費悪いったらありゃしねぇ!」

 

ランサーの要求に肩を竦めつつも、彼はセルメダルを一枚放り投げる。

それを空中で掴み取れば、ランサーは一体の屑ヤミー目掛け投げつけ───。

 

「とっとと…くたばれやぁ!!」

 

正確無比な槍捌きで、その穂先をセルメダルへと重ね───そのまま屑ヤミーを串刺しにする。

 

「ウ…ウゥ…!」

 

メダルの力を用いなければ倒せないというのなら、メダルを使って倒せば良い。強引な理屈ながらも結果は正解、断末魔を上げる暇も無く屑ヤミーは消滅した。

 

「カラクリが分かりゃ、てめぇらなんぞ屁でもねぇ。トドメの一撃に、メダルを乗せてやりゃ良いだけだからな。」

 

「いやぁ、それ分かってても普通出来ないからね?…あれ、"燃費悪い"つったけど…一刺一殺でメダルの消耗一枚なら、寧ろ俺より燃費良くない?おじさん、またまたショック!!」

 

無論、理屈としては正しくとも。小さなメダル一枚に切っ先を合わせ、動いている敵ごと攻撃する…なんて離れ業、マトモにやれる者はそう居ない。

分かっていてなお、それをやれる相手に格の違いを見せ付けられ、少し凹んだ様に鎧の戦士の声がトーンダウンするのは仕方無い事だろう。

 

「───だからって、手を止めてるワケにもいかないけど!さぁて…お仕事お仕事、こっから名誉挽回と行くか!」

 

手近な屑ヤミーを殴り飛ばし、気持ちを切り換える様に手を叩くと、彼は腰に付けた奇妙なベルト(バースドライバー)へセルメダルを投入。備え付けられたハンドルを操作すれば、小気味良い音と共にカプセルを模したカバーが開く。

 

『クレーンアーム!』

 

「やれやれ…火野の奴、こんな時に何処ほっつき歩いてんだ。皆に心配掛けやがって…。」

 

彼の右腕に展開される、クレーン型の武装。高速回転するそれを構えると、襲い来る屑ヤミーを迎え撃つべく鎧の戦士(仮面ライダーバース)は駆け出した──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

重苦しい空気の中、静まり返る事務所内。彼等は、先のメズール戦から引き続き使用している廃工場の事務所に戻っていた。

 

真木の姿は無い。

ガメルを撃破した後、彼は興味を失くしたかの様に姿を消した。

 

『未だ、私の目的を達するには程遠い───今回は見逃してあげましょう。』

 

そう不遜な態度で言い残し、ガメルのコアを奪って消えた真木。その光景を思い出す度、映司達は強い無力感に苛まれる。

 

 

 

「……私達があの男…真木と出会ったのは、召喚されて間も無い頃だ。」

 

合流した立香達と共に、彼等の拠点へ同行したアタランテが口を開く。元々敵対していた事からオルタやハサンら反対したが…行く宛の無い彼女を、立香や映司はどうしても放ってはおけず招いたのだった。

 

「奴は我々に、力を与えると言った…その時、真っ先に犠牲になったのがアステリオス。ガメルと一つになったサーヴァントだった…。」

 

 

 

『君には、私の手足として動いてもらいましょう。』

 

 

 

「奴は一方的にそう宣言すると、アステリオスを叩きのめした…そして、無理矢理マスターとして契約を交わし、その身体にガメルのコアを組み込んだ。反発した他のサーヴァント達も同様だ。源頼光、エドワード・ティーチ、アレキサンダー…彼等もまた真木に反発し、返り討ちにあった。不幸中の幸いか、マスター権を握られる前に奴等は逃げ延びたがな。」

 

『それが、グリードサーヴァント誕生の真相か…立香君達が捕らわれた宝具も、ガメル君の中のアステリオス君に命じて使わせたもの…というワケだね。』

 

「そうだ。ヤミーを使ってオーズとカルデアの面々を分断し、宝具の力で邪魔が入らないようにする。その上で我等がオーズを倒す……という手筈だったが。先程の奴の言葉を聞くに、初めから私達は切り捨てオーズの肥やしにするつもりだったのだろうな。」

 

滑稽な話だ、そう自嘲するアタランテの声音には隠し切れない悔しさが滲んでいた。

そんな彼女に少し同情的な視線を向けつつも、それはそれと割り切り美遊は問う。

 

「貴女がグリードにされなかったのは何故?」

 

「ああ…奴が言うには、私と相性の良いグリードが居なかったらしい。私も初めは不審に思ったが…後に黒髭が自害した話を聞いて納得したよ。」

 

「は?あのゴミ虫、自害したの!?」

 

「ゴミ……こほん。まあ良い…そうか、汝らは知らなかったのだな。」

 

唐突に湧いて出た過激なワードに一瞬ぎょっとするも。大体察した彼女は、真木が現れてからの事を語り始めた。

 

 

 

そもそも、グリードにいきなり乗っ取られるワケではない。アステリオスの様子を見るに…始めは二つの意識が肉体の中でぶつかり合う。軈てその英霊とグリードの相性、力関係によって…どちらが主体の人格と成るかが決まる。尤も、既に真木に限界までいたぶられた者達だ…最初からグリード有利である、というアンフェアな条件ではあるがな。

ガメルとアステリオス以外のサーヴァントは、どういう経緯を経て今に至ったのかは分からない。メダルを投入され、彼等は苦しみながら散り散りに撤退したのだから。───ただ、黒髭に関しては真木から聞いた。奴は投入されたメダル、ひいてはそこに宿る意識との相性が悪く…最後の最後に自ら死を選んだ。そうなる事は真木も薄々予感していたらしい。だからこそ私は、無理矢理グリードにするより手足として使う駒にされたのだ。

 

「ハッ!つまり、アンタは命惜しさに真木とやらの軍門に下ったってワケ?大層な信念ですこと。」

 

「勘違いするな。私とて、あの様な男の元に下るくらいなら死を選ぶ…それだけの誇りは有る。……だが、どうしてもアステリオスを、ガメルを放ってはおけなかった。」

 

嫌味たらしく皮肉を飛ばすオルタ。それを睨み返しつつ、アタランテもまた吐き捨てる。

 

「私は奴に取引を持ち掛けた…私が奴の手駒として動く代わりに、目的を達成した後にはガメルを自由にしてやって欲しい…とな。今思えば、奴がそんな約束を守る筈も無いというのにな…。」

 

再び暗く沈むアタランテの表情。そんな彼女に立香は遠慮気味に問い掛けた。

 

「そもそも、アタランテはどうしてそこまでガメルって奴の事を…?」

 

「……オーズには既に告げたが…人類最後のマスター。汝の元に別の"私"が居るのなら分かるだろう。私は…子供の味方だ。英霊としての誇りより、サーヴァントとしての使命より、私にとって何にも代え難い矜持がそれなんだ。」

 

生みの親からも愛されず、迷宮の怪物として一生を終えた悲しき(アステリオス)

そしてその霊基を奪い取った、本来相容れぬ存在とはいえ。人の手で生み出されながら私利私欲を満たす道具として扱われ、例え偽りでも親愛を向けてくれた同胞を求める欲望の塊(ガメル)

 

彼等が誰からも愛されず、あの男の道具として使い捨てられる未来は、どうしても看過出来なかった。

 

「結果論に過ぎない…もしオーズがガメルを討っていたのなら、違う想いを抱いたかもしれない。それでも……少なくとも今の私は、奴を許せない。オーズは自らの命を賭け、戦士として戦いに挑んだ。けれど奴は…都合の良いようにガメルを利用し、棄てた。」

 

だから、と言葉を続ける彼女は、藁にも縋る様な想いが表情に表れていた。

 

「虫の良い話だとは分かっている…それでも、私は奴を倒したい。真木を倒す…その為に、汝らと共に戦わせてくれないか。」

 

美しい緑の髪が乱れるのも構わず、深く頭を下げるアタランテ。

本当に虫の良い話だ、と切って捨てようとしたオルタを制し、立香は彼女に手を差し伸べる。

 

「分かった───一緒に戦おう、アタランテ。」

 

「……はぁ…正気?本当に甘いんですから、マスターちゃんは。甘過ぎて反吐が出るわ。」

 

「ハッハッハ…そうは言いつつも反対せぬ辺り、オルタ殿も中々…」

 

「あ"?」

 

「……おっと、口は災いの元…とはこの事ですな。エミヤ殿やカルナ殿の気持ちが少し分かった気がします。」

 

オルタにガンを飛ばされ口を閉ざすハサン。

兎も角、イリヤや美遊も異論は無いらしい…というより。彼女の境遇抜きにしても、敵の強大な力を目の当たりにした今、戦力が増えるのは喜ばしい事に違いない。

 

『流石は先輩です!……とはいえ、アタランテさんの霊基は既に限界。先の戦いで魔力の消耗も激しく、はぐれサーヴァントとして聖杯から供給される魔力だけでは些か不足しているかと。』

 

「でも、マスターさんはもうこれ以上サーヴァントと契約出来る枠残って無いよね…どうするの?」

 

「なに、元々私の力不足が招いた事…。責任は自分で───。」

 

『ああ、それなら問題無いよ。映司君が彼女のマスターになれば良い。』

 

覚悟を決めたアタランテの言葉を遮り、さも当たり前といった調子でダヴィンチちゃんが言う。

瞬間、その場の全員が固まった。

 

「……ダヴィンチちゃん、今なんて…?」

 

『あれ、言って無かったっけ?彼のバイタルデータをチェックした時に、映司君にもマスター適性が有る事が分かってね。』

 

顔を引き攣らせる立香達と対照的に、『ゴメーン、うっかりしてたよ。テヘペロ☆』と軽い調子のダヴィンチちゃん。

 

『映司君なら、アタランテのマスターとして契約を結べる。オーズとして戦う以上、魔力の消耗も有るからそれ以上契約を増やすのは難しいけどね。』

 

「俺が…マスター…。けど、アタランテさんは…。」

 

難しい顔をしながらアタランテへ視線を向ける映司。けれど彼女は穏やかに微笑み、小さく首を縦に振った。

 

「何度も言わせるな…私の敗北は私の責任。寧ろ、汝の事自体は気に入っている。汝がまた暴走しそうな時は、今度は敵ではなく…汝のサーヴァントとして、全霊で止めてみせる。───だから。」

 

─────宜しく頼むぞ、マスター。

 

彼女の差し出した手を、映司は戸惑いつつも握り返す。

 

 

 

敵は強い。

それでも、立ち止まる訳にはいかない。

想いを新たに、一つの契約が成立した。

 

 

 





「アタランテはオルタの方がえっちだ!結局、皆が求めているのはえっちだろう!」
「違う!確かにアタランテオルタはえっちだ!けどな…えっちなだけじゃない、清楚な魅力が通常アタランテには有るんだ!お前を倒し証明してみせる…!」
「それで良い…貴様こそ俺の運命を決めるに相応しい!」





────って感じで執筆中脳内の神と強者が喧嘩してた。本当に済まないと思っている。


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幕間の物語2【世界の破壊者が語る過去】

プリヤの重大なネタバレが含まれています、ご注意を。(今更)



 

「……ここ、は…?」

 

「奇妙な空間だな…。」

 

美遊とアタランテは、気付けば不可思議な空間に居た。

確か、映司とアタランテが契約を交わした後───簡単なミーティングの後、全員消耗が激しかった為休息を取る事となった筈だ。

本来サーヴァントに食事も睡眠も必要無い。

だが、魔力を大きく消費し、霊基にもかなりの損傷を負った彼等は、回復に努めるべく交代で休んでいた。

 

にも関わらず、彼女達が立っているのは明らかにアジトの事務所でも、その隣の廃工場でもない。───というより、この世の何処へ行っても見られそうも無い。

まるでオーロラ(・・・・)の如く、波打つ様に屈折した光で包まれた空間。彼女達の足元はただ真っ白で、地に足を着けている感覚こそ有るが…何の上に立って居るのかは全く分からない。

少なくとも現代日本とはかけ離れた、魔術的な神秘に満ちた空間が広がっていた。

 

「ここは…私達の夢の中…?」

 

「それが最も可能性は高い。が…そもそも違う時代を生きたサーヴァントである我々が、同じ夢を見るなど……。」

 

「─────来たか。漸くお目覚めか?"夢の世界"で"お目覚め"ってのも妙な話だがな。」

 

聞き覚えの無い男性の声に、二人は揃って振り返る。

黒くスッキリとしたシルエットのパンツ。鮮やかなショッキングピンクのシャツの上には、パンツ同様真っ黒なジャケットを羽織った長身の青年。

年頃は映司と同じか、少し上だろうか。首からトイカメラを提げている以外、かなりの美形だが普通の一般男性にしか見えない。

 

けれど、彼女らはこんな男に見覚えが無い。

自分達の記憶の中の人物で無いのなら、この男は何らかの力で二人をこの空間に引き込んだ張本人…という可能性大だ。

 

「貴方は誰?ここは何処?夢の世界…って言ってたけど、マーリンみたいに私達の夢に入り込んだの?」

 

「汝の目的は何だ。返答次第では、ここでやり合うのも吝かでは無いぞ。」

 

警戒心剥き出しの彼女達に、然し青年は臆する事無く嘆息する。

 

「……ったく、随分血の気の多い連中だ。悪魔呼ばわりされてた頃に戻ったかと思ったぞ。」

 

マイペースにトイカメラを操作しつつ青年はぼやく。

───パシャリ。小気味良い音が辺りに響いた。

 

「勝手に撮るな!?というか、質問に答えぬか!」

 

「────騒ぐな。心配せずとも、お前達の聞きたい事は大体分かってる。」

 

「……それは、もう聞いた後なんだから普通なんじゃ。」

 

どうにもペースを掻き乱される。目の前の男に不信感が高まる一方、ここまでのやり取りから敵では無いという印象も受けた───無論、油断は禁物だが。

 

「そこのお前、俺がマーリンみたいな存在かと言ったな?だが…生憎俺は魔術師の類じゃあない。」

 

そう言うと、ピンク───ではなくマゼンタの塗装が施された奇妙な機械を取り出す青年。ベルトのバックルの様なそれは、形状こそ違うが…。

 

「マスターの…オーズのベルトに近い印象を受ける。汝も、オーズやグリードに近しい存在なのか?」

 

「半分正解で半分不正解だ。力の根底は、オーズと俺とでは別物。……だが、俺達の力には共通項が有る─────俺達は"仮面ライダー"だ。」

 

仮面ライダー。

聞き覚えの無い言葉に、美遊もアタランテも首を傾げる。

 

「その、"仮面ライダー"ってのは何?」

 

「人類の自由と平和の為に戦う連中だ。」

 

青年が片手を翳し、軽く振ると、辺りの景色が一変する。

 

 

 

『だから見てて下さい!俺の!変身!!』

 

 

 

最初に現れたのは燃え盛る教会。一人の青年が、異形の怪物と殴り合いながら姿を変え────。

 

 

 

「仮面ライダークウガ。もっと前から仮面ライダー自体は存在したが…ま、オーズと近しい存在って意味じゃ、分かり易い一号はコイツだな。」

 

言葉と共に青年は片手を挙げる。すると教会も怪物もクウガも消え、まるでコマ送りの映像の様に様々な景色と仮面ライダーが入れ替わり立ち替わり浮かび上がる。

 

神から授けられた力で天使と戦う金色の戦士。

鏡の中の世界で行われたデスゲームを止めるべく奔走する龍の戦士。

太古から存在する魔物を鎮める鬼の戦士。

人々の心の音楽を守る為に自らの運命と向き合った蝙蝠の戦士。

街を泣かせる悪と戦う二人で一人の戦士。

他にも大勢の戦士達が、人に仇成す存在と戦って居た───彼等こそ、青年の言う仮面ライダーなのだろう。

 

「大体分かったか?俺達仮面ライダーは、その力そのものはまるで別物だ。───だが、敵と同じ力から生まれながらも、人々を守る為にそれを使う存在だ。」

 

何時の間にか仮面ライダー達の姿は消え、幾つもの地球が彼等を取り巻く様に浮かんでいる。

それらを見渡しながら、青年は言葉を続けた。

 

「分かりやすく言えば…一般人には単なる"魔術"としか思えなくても、一つ一つはやれ時計塔だ、やれアトラス院だと違うだろう。そういうモンだ。」

 

「それは何か違う気がするけど…。」

 

控え目な美遊の突っ込みも何処吹く風。青年は気にせず、浮かんだ地球の一つに歩み寄る。

 

「俺達はそもそも異なる世界に存在し、互いに干渉し合う事は無い。─────世界を渡り歩く、この俺を除いてな。」

 

「それって……。」

 

「お前とイリヤスフィールみたいなモンだ。衛宮美遊…いや、朔月美遊(・・・・)と言った方が良いか?」

 

「──────ッ!」

 

軽い調子で言う青年。だが、彼は本来知り得ない筈の美遊の秘密を知っている。

彼女が警戒を跳ね上げ、構えを取るのも当然だった。

 

「落ち着け。そうカッカしてても良い事は無いぞ?それより、だ。俺が態々ここまで足を運んだ理由は、これから伝える事だ───聞かずにやり合うつもりなら、俺は別にそれでも構わないが…な?」

 

先程取り出したバックルを再びちらつかせる青年。

飄々とした雰囲気だが、その姿からは歴戦の戦士の風格が漂っている。彼もまた仮面ライダーだというのなら、恐らく映司と同格以上の力を有しているだろう。

それに、未だ彼が語っていないという情報…十中八九、映司に関する事だろう。

であれば、聞かないワケにはいかない。

 

映司を救う手立てが見付かるかもしれない───そう思えば、自身の内に湧き上がった敵意も何とか抑えられた。

 

「……続けて。」

 

「それで良い。話を戻すぞ…俺達仮面ライダーは、異なる並行世界の存在だ。お前達も知っての通り、並行世界ってのは可能性の数だけ存在する…だが、大きな歴史の流れ自体は変わりはしない。」

 

人理定礎───今の人類史のを決定付けたターニングポイントとなる出来事。

立香達が戦った魔術王は、この七つの人理定礎を特異点と化した。人類のターニングポイントであり、"この戦争が終わらなかったら""この航海が成功しなかったら""この発明が間違っていたら""この国が独立できなかったら”そういった現在の人類を決定づけた究極の選択点。それが特異点とされ崩されるということは、人類史の土台が崩れることに等しい。

だが逆に言えば、そのターニングポイントが有る限り大きな歴史の流れは変わらない。

例えば戦争の起きた過去に行く事が出来たとして、一人二人は救えたとしても…その全てを救う事は出来ないのだ。

 

「それが人理定礎と特異点、お前達が知っての通りだ。そしてそれ以外の特異点とは、人理定礎程大きな影響力ではないが…下手打てば、人類史を変える可能性の有る物だ。大抵は歴史の修復力で勝手に消えるがな。」

 

「知ってる…この特異点もそう。それがどうしたの。」

 

「この特異点には、火野映司が大きく関わっている。」

 

当然の様に言い放つ青年。だが、その言葉は美遊とアタランテを絶句させるのには充分過ぎた。

 

「馬鹿な!つまりそれは、マスターがこの特異点を生み出したという事か!?グリードを蘇らせたのも、あの真木を操っているのもマスターだと!?」

 

「そこまでは言ってない。未だこの特異点には分からない事が多過ぎる……だが、奴の事を知っておいて損は無い。

そこで───だ。お前達を選んだのは、アイツの異常性に最も近付いた奴等だからな。」

 

言うと、青年は先程近付いた地球に触れ。その地球が眩い輝きを放ち始める。

 

「プライバシーはこの際無視だ。その上で──お前達に、火野映司の真実を覗く覚悟は有るか?」

 

僅かに低くなる青年の声。

きっと、知れば後には退けなくなるのだろう。───それでも。

 

「…無論だ。」

 

「私も…知りたい。」

 

覚悟の籠った二人の答えに、青年は満足そうに口角吊り上げると。

光輝く地球は、より強い光を放ち。その光が彼等を包み込み、新たな世界へと誘った─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に彼女達が意識を取り戻したのは、砂漠の中にひっそり佇む集落だった。

恐らく何処か中東の国と思われるこの地で、二人は互いに顔を見合わせる。

 

「ここは…?」

 

「分からん…マスターは日本人の筈だが、この風景と一体何の関係が…。」

 

「ここは火野映司の"過去の世界"。オーズのビギンズナイト…とでも言うべき場所だ。」

 

突然現れた青年に二人揃って驚くも、直ぐに気を取り直して辺りを見渡す。

 

「ビギンズ…何だって?」

 

「要するに、アイツが今の火野映司に成る切っ掛けとなった記憶だ。ほれ、見てみろ。」

 

そう言って彼が指差す先には、笑顔で集落の人々と語り合う映司の姿。小さな少女の頭を撫でる彼は、端から見ても分かる様な心からの笑顔を浮かべている。

幸せそうな空間。だが、その中にチラホラ武装した人間が居た事に、美遊もアタランテも気付いていた。

 

「───アイツは元々世界を良くするため、様々な国に多額の寄付を行っていた…アイツは政治家の息子、ボンボンってワケだ。そして寄付だけに止まらず、奴自身もまた世界を旅し、支援活動に励んでいた。」

 

「映司さんが…。」

 

他人の為に身を粉にする性格は、この頃から既に根付いていたという事。その点は納得出来たものの…どうにも腑に落ちない。

 

「マスター…立派な人間だったという事か。その点は、彼と契約したサーヴァントとして誇らしく思う。……だが。これで終わりでは無いのだろう?」

 

「……何でそう思う。」

 

「決まっている。この光景、過去のマスターは満ち足りている(・・・・・・・)。寄付で助かった国が有る…ボランティアで救われた人々が居る。事実がどうあれ、少なくともそんな優しい世界しか知らない人間が…あそこまで力に飢えるものか。」

 

────そうだ。

"自分の行いが人を救った"、そう信じている人間なら…何処までも届く腕なんて求めたりはしない。

人間に見えるのは、自分の周りの世界だけ。そこが満ち足りているのなら、その先に目を向ける機会なんてそうはないのだから。

 

「…映司さんは、"もう後悔したくない"って言ってた…それってつまり、ここで何か有った。…そうでしょ?」

 

「……中々鋭いじゃないか。その通りだ。」

 

青年が手を振れば、辺りの景色が一変した。

降り注ぐ爆撃。響き渡る銃声。

幸せだった集落は焼け落ち、あちこちで炎と白煙が上がっている。

 

「アイツが世界を良くする為に寄付していた金は、内戦の軍事資金として使われていた。良かれと思ってやった事が、結果として戦争の過激化を招いた。そして───。」

 

青年の指差す先、燃え盛る戦場の真っ只中。

涙ながらに助けを求める少女と、必死に手を伸ばす映司の姿。

祈りを、助けたいという想いを胸に伸ばした彼の手は。

 

───けれど、少女には届かなかった。

 

 

「……そん、な…!」

 

「…何時の世も、人の争いの醜さというのは変わらないものか。だが…これは余りに惨い…!」

 

つい先程まで少女の立っていた場所。そこから空高く上がる炎を茫然と見詰め、悲痛に満ちた声を漏らす二人。

だが、悲劇はそこで終わらない。

 

テロリストらしき者達のアジトに囚われる映司。

彼以外にも集落で目にした人物がチラホラ居た他、多くの人間が捕らえられている。

 

飛行機の中、虚ろな目をしている映司。

彼を気遣う様なスーツ姿の人間は数人居たものの、アジトに囚われていた人々は一人として居なかった。

 

記者会見だろうか。満面の笑みを浮かべ自慢気に何かを語り、しきりに映司の肩を叩く男性。顔付きから映司の家族である事は容易に想像出来るが、欲にまみれた意地汚い笑みは、隣で死んだ様に虚ろな表情を浮かべる映司とは対照的だった───────。

 

 

 

 

 

「これが…アイツの原点だ。アイツの信じた正義は独り善がりに過ぎず、肝心な所で他人を救う力を持たなかった。…結果皮肉にも自分一人が助かり、政治家の親に美談の種として利用されるオマケ付きだ。」

 

気付けば、彼等は元居た不思議な空間に戻って居た。

だが、美遊もアタランテもその表情は暗く、重苦しい。当然だろう。地獄と言っても過言ではない、映司がずっと一人で抱えてきた闇を目にしたのだから。

 

「……マスターが…暴走してまで力を求めた理由が分かった。マスターは…もう自分の命については、どうとも思っていないのだな。」

 

「映司さんは、誰かを救えない事を恐れてる…けど、それを恐れるあまり、自分を救う事が抜け落ちてる。それはまるで…」

 

「真っ当な人とは言えない───だろ?よく分かってるじゃないか。奴は言うなれば、サバイバーズギルト…みたいなモンだ。罪悪感と無力感が一周回って、"助かってしまった自分は他人を救わなければならない"とでも感じてる…そんな事、死んでいった連中が本当に望んでるかどうかなんて分かる筈も無いのにな。」

 

敢えて突き放す様な、何処か他人事の様な青年の物言いに、二人は彼を睨み付ける。

けれど青年は、二人の刺す様な視線を受けても平気な様子で、手元のトイカメラを弄くり回していた。

 

「俺に当たってどうする。俺はお前達に見せるべき物は見せた…どうするかはお前達次第だ。」

 

「もし…マスターが本当に黒幕だとしたら…。」

 

「さあな。さっきも言ったが、そこまでは分からん。真相はお前達で突き止めろ…俺は俺で、他にもやるべき事が有るんで…な。」

 

苦しそうに目を伏せるアタランテ。

対して青年は呆れた様に言うと、二人に背を向け歩き始めて───ピタリ、一度その足を止めると、振り返る事無く問い掛ける。

 

「仮に、アイツが全ての元凶かもしれない。全く無関係かもしれない。どちらに転ぶ可能性だって有る。なら───お前達はどうする?」

 

問い掛けられ、言葉に詰まる二人。

暫しの沈黙の後…「それでも」と呟いた声に、青年は振り向く。

 

「私は…映司さんを助けたい。映司さんがこの特異点の元凶かどうかは分からない…でも、どちらにしても。このままじゃ、あの人は救われない…!」

 

「ああ…同感だ。私はマスターを、あの男の善性を信じる。信じた上で、彼奴もまた幸せになれる道を共に行きたい…サーヴァントとして彼に出来る、せめてもの恩返しだからな。」

 

真っ直ぐに青年を見詰める二人の少女。その視線を受け感心した様に吐息漏らすと、青年は小さく笑う。

 

「……そうか。なら、それで良い…お前達が、奴の手を掴んでやれ。」

 

そう言い残し、今度こそ二人に背を向け歩みを進める青年。

彼が遠ざかるのに比例して、空間が段々と歪み、崩れ始める。恐らく、ここが完全に消滅した時二人は目を覚ますのだろう──そんな予感が有った。

ならばせめて、最後に聞いておかねばならない。彼は何故、ここに来たのか…何故こうも様々な事を知っているのか。

 

そもそも、彼は何者なのか。

 

「待て!…汝は…一体何なんだ…!?」

 

遠ざかる背にアタランテは呼び掛ける。

だが、今度はもう立ち止まる事も振り返る事も無く。

 

 

 

「─────通りすがりの仮面ライダーだ。」

 

それだけ言い残した彼の姿が見えなくなったと思えば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ…おはよう二人とも。何かうなされてたみたいだけど…大丈夫?」

 

どうやら元の世界へと戻されたらしい。彼女らを心配そうに覗き込む映司を前に、美遊とアタランテは距離感を測り損ね…困った様に互いに顔を見合わせるのだった───。

 

 




キラキラのアーチャー、真名はキラメイジャーだと予想します。


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違和感と影とマニュアル男

夢っていうのは、呪いと同じなんだ。
呪いを解くには、夢を叶えるしかない。
けど…途中で夢を挫折した者は、一生呪われたまま…らしい。(石を使い果たしても引けなかったエレちゃんを眺めつつ)




 

廃工場事務所内。休息を終えたカルデアのメンバーと映司、そして新たに加わったアタランテは、次の方針について意見を交わしていた。

 

「次こそあのクソ猫よクソ猫!それでこの特異点のグリードは全滅でしょ?アイツ倒してメダルも頂いて、最後にあの真木とかいうムカつく奴を袋叩きよ!!」

 

メズール戦で出し抜かれたのが余程苛ついていたのか、勢い良く提案するオルタ。

 

「けど、アイツに関しては頭も切れる…メズールもガメルも倒した以上、俺達がそう動くのは多分予測している筈だ。」

 

難しい表情で考え込むのは映司。とはいえ、他に手掛かりが無い以上は彼女の言う方針が一番なのかもしれない。

だがそもそも、そのカザリすら現状居場所の手掛かりが無いのだ。手詰まり気味な状況に、思わず頭を抱えてしまう。

 

『先ず前提として、この地に復活したグリードは何体なのでしょうか…火野さんのお話では、確認されている個体以外にあと二体グリードが存在するとの事ですが。』

 

『確かに、そこは要確認事項だ。アタランテの話の通りなら最低でもあと一体、彼女の霊基に組み込む予定だったグリードが居ても可笑しく無い。────アタランテ、その辺はどうなんだい?何か知らないかな?』

 

通信越しに問い掛けるダヴィンチちゃん、然し問われたアタランテは首を横に振る。

 

「残念ながら、私もそこまでは知らない。……だが。」

 

「だが?」

 

「………妙な噂を耳にした。怪物に襲われた所を、別の怪物に救われた(・・・・・・・・・)…と。最初はオーズの事かと思ったが、今にして思えば…他のグリードの事かもしれん。」

 

自信無さげに俯きつつも、新たな情報を提示したアタランテ。

注目すべきはやはりその内容だ。驚き、その場の全員が目を丸くする。

 

「グリードが…人を助けた!?え、映司さん、そんな事有るの!?」

 

「うーん…絶対に無い、とは言い切れない。」

 

アタランテと行動を共にして居たガメルと、情報が少なく思案しても仕方の無いガラを除外したとして。

 

カザリは、必要ならば人間に手を貸す事も有る───それこそ以前、真木と手を組んでいた時の様に。

要するに彼にとっての利が有れば、敵対する者とでも共闘出来るだけの知性は持っているが…問題は、彼が人間と手を組むだけのメリットが有るかどうか。

メズールは基本的に人を守る事は無いだろうが…この特異点の彼女を見る限り、相手が子供なら有り得るかもしれない。

また、もし彼等以外のグリードが復活していたのなら。

ウヴァも粗暴に見えて、案外知性派な一面を有していた。人間を見下しているようで、実の所必要に駆られれば、幼い少年へ笑顔で優しく語り掛ける事すらやってのける…安易に"彼は無い"と決め付けるのも早計だろう。

 

 

 

そして最後の一人─────アイツなら……。

 

 

 

「…………さん。映司さん…?」

 

「─────え?あ…ゴメン、考え込んでた。そうだな、単純な善意や正義感で…ってのは考え辛いけど、可能性としては充分有り得ると思う。特に今は聖杯戦争中、アイツらも互いに争ってるワケだしね。」

 

何時の間にか物思いに耽っていた映司は、こちらの顔を覗き込むイリヤを前に我に返る。

気を取り直し咳払いすると、映司は全員を見渡し。

 

「とにかく、手掛かりが無い以上は地道に探すしかない。手分けして、グリードやサーヴァントの痕跡を探そう。」

 

やれる事から進めるしかない。手詰まりの状況を打破すべく、彼は力強く宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────で、この組み合わせってワケか。いや、異論は無かったんだけど…美遊ちゃん、本当に俺と一緒で良かったの?」

 

隣を歩く美遊へ、不思議そうに映司は問う。

今回のメンバーは、立香とオルタとイリヤ。映司とアタランテと美遊。そしてハサンは再度単独行動…という割振りとなった。

正直なところ、自らもオーズとして戦える映司より。魔術師としてはグリードとやり合うには心許ない立香に同行するものだとばかり思っていたので、少々驚いている映司。

そんな彼を、じっと見詰め────かと思えば。ふい、と視線を逸らす美遊。

 

「……どのみち、マスター達との連絡役は必要。貴方も、貴方と契約したアタランテも、マスターと通信する術は無いでしょ?…それに。」

 

「それに?」

 

「……映司さんは、ほっとくと無茶しそうだから。」

 

ぽつり、小さく呟く美遊。

対する映司はばつが悪そうに苦笑する。

 

「いや…うん、気を付けるよ。」

 

そんな二人を何とも言えぬ様子で見詰めるアタランテ。

無論、彼女の脳裏には先の出来事───夢の世界で見た映司の過去が浮かんでいた。

暫しの沈黙の後。軈て小さく首を振り、思考を打ち切るアタランテ。

過去がどうあれ、彼女は己がマスターを信じると決めた…ならば、その心に従うまでだ。

その表情に迷いは無い。

 

「…それで、どうする二人とも。手掛かりが無い以上地道に探すしかない、というのは同意だが…それにしたって闇雲に動き回るだけでは途方も無い。」

 

映司(マスター)の事は、何れ知っていくべき事だが。先ずは現状彼等の直面している問題を提起する。

問われた映司は少し自信無さげな顔浮かべつつも、人差し指を掲げて見せた。

 

「一つ…心当たりっていうより、何か知ってるかもしれない人が居そうな場所が有る。俺に着いて来てくれる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

映司に案内された場所は、ビルの立ち並ぶオフィス街。

そこまでは良い。

だが問題は───目的地が殆ど崩落した廃墟同然(・・・・・・・・・・)だったということ。

何か大きな火災でも起きたのだろうか。見れば、周りのビルも幾つか同様の惨状だったり、或いは修復工事最中の物が多い。

 

「マスター…」

 

"ここは?"

 

そう問おうとしたアタランテが口をつぐむ。

だが、それも当然だろう。

崩壊したビルに連れて来られたアタランテや美遊は兎も角、連れて来た映司自身が一番驚いていた(・・・・・・・・・・・・)のだから。

 

「鴻上ファウンデーションが…無い…?」

 

余程困惑しているのか、明らかに彼の様子がおかしい。

あまりの狼狽ぶりに、どう声を掛けるべきか彼女が思案していると。

 

「────やはり来たか。待ちくたびれたぞ?」

 

聞き覚えの無い声に、彼等は一斉に声の方へと振り返る。

 

「癪だが…アイツの言う通りだな。"メズール、そしてガメル。分かり易い二人を退けた後、行き詰まった貴様らがあの男を訪ねる"…とな。」

 

声の主は、美遊もアタランテも見た事の無い怪物。

緑色の体色。頭部にはクワガタムシの大顎の如き角と、昆虫を思わせる触覚、そして凶悪そうな複眼が備わっている。

初対面の二人の目にも、彼がグリードである事は明らかだった。

 

「ウヴァ…!やっぱりお前も復活してたのか…!」

 

「久しいな、オーズ。大方、残りのグリードの居場所を探してここに来たのだろうが…アテが外れたな?」

 

「そうでも無いさ。お前にここで会えた…それだけでも、来た甲斐が有った!」

 

言いながらドライバーを構える映司に、然しウヴァは首を横に振る。

 

「フン…まあ待て。今日はお前と戦うつもりは無い。」

 

ウヴァ呆れた様に肩を竦めると、懐から何かを取り出し映司目掛けて放り投げる。

咄嗟にキャッチした映司は、手にしたそれ(・・)とウヴァを交互に見比べ訝しげに問う。

 

「これは…何のつもりだ?」

 

彼の掌に収まったそれは黄色いメダル(・・・・・・)。先の戦いでカザリに奪われたトラメダルに他ならない。

何故ウヴァがそれを持っているのか。何故映司に渡したのか。そもそも彼は何がしたいのか。

答えが出ないまま、謎ばかりが深まっていく。

だがウヴァは、そんな映司の考えはお見通しとばかりに鼻を鳴らすと

───そのまま彼に背を向け歩き出した。

 

「────ッ!待て…!」

 

その背を追い駆け出そうとする映司に。ウヴァは足を止める事無く、背中越しに言葉を掛ける。

 

「オーズ。俺はお前の敵ではない───今の所はな。

だが用心しろ…お前は、そう遠くない内に大きな選択を迫られる。」

 

一度だけ映司の方を振り返り、彼を見据えるウヴァ。

─────そして。

 

「……今、カザリの奴は町外れの廃墟に居る。俺達グリードが最初にアジトにしていた場所だ。───精々、お前なりに足掻いて見せろ。」

 

二人の間に落雷が迸る。

咄嗟に回避した映司が顔を上げれば、既にウヴァの姿は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、町中を散策する立香達。無論、グリードやサーヴァントの手掛かりを求めての情報収集だ。

 

「いやー…そうは言っても簡単には見付からないよね、手掛かり。」

 

辺りを見渡すも、この特異点へ最初にやって来た時同様平和そのもの。そもそもそう簡単に見付かるなら、初めから映司が全員の居場所を知っている筈なのだから仕方無い。

 

「でも、見付けたら見付けたでも大変だけどね。」

 

『サーヴァントはともかく、ヤミーが出たら映司さん抜きだと対処出来ませんからねぇ。』

 

困った様に苦笑するイリヤと、同調するルビー。然しそんな彼女らに、オルタはフンと鼻を鳴らす。

 

「なに下らない事言ってんのよ。最初こそ遅れは取りましたが…今度こそボコボコにして燃やし尽くしてやるわ。─────ま、この分だと早々出て来ないでしょうけど。」

 

オルタは呆れた様に嘲笑して見せる。

確かに現状、町中に異常は見受けられ無いが…。

 

「オルタちゃん、だからそれフラグじゃ……」

 

『─────!先輩、すぐ近くに敵性反応が!この反応は…ヤミーのものです!』

 

幸か不幸か、立てたフラグをしっかり回収する事となった。

マシュのアナウンスに従い、反応地点へ駆け出す一同。

 

『さっすがオルタさん!期待を裏切りませんね!』

 

「うっさいわ!いい加減燃やすわよ!?」

 

隣で漫才めいたやり取りを交わすルビーとオルタ。そんな彼女らを尻目に、立香は走りながらカルデアへ向け通信を飛ばす。

 

「…ヤミーなら、俺達だけじゃ倒せない。ダヴィンチちゃん、映司さん達に…。」

 

『安心したまえ、既に伝達済みさ。君達は彼等と合流するまでヤミーを足留めして欲しい。』

 

「了解…!」

 

手短に通信を切り上げ、目的地まで脇目も振らずに駆け抜ける立香達。

そうして見えてきたのは、一言で言えば

"肥満体型の人形の猫"。

飲食店のテラス席らしき場所で、逃げ惑う人々には目もくれず、只管残された料理を貪るヤミーらしき怪物。

 

「あれは…!」

 

「刑部姫の持ってた漫画で、あんな体型のタヌキロボットが居たわね…そっちの方が何百倍も可愛いげがあったけど。」

 

「オルタちゃん、それ多分猫ね。ていうか色んな所から怒られるから止めよう。」

 

珍しく真顔で突っ込む立香。

とはいえ、ふざけている場合では無い。人を襲っていないのが唯一の救いだが、ヤミーが危険な存在という事に変わりは無いのだから。

一斉に戦闘体勢に入る立香達は、相手の出方を窺いながら言葉を交わす。

 

「…映司さんじゃないとヤミーは倒せない。だから、俺達の役目はあくまで足留めだ。」

 

「うん…それだけなら何とかなりそう。……でも、何であのヤミーはずっと食事してるの?」

 

イリヤの疑問も尤もだろう。逃げ惑う人々を無視しているだけならまだしも、明らかに彼を取り囲む三人にすら興味一つ示さず、ヤミーは黙々と目の前の料理を平らげていく。明確に人々を襲っていたこれまでのヤミーとの違いは、立香達の目から見ても異質な存在だった。

 

「私達の事を舐めてるんじゃない?ムカつくわね…さっさと燃やしてしまいましょう。」

 

不快感を隠す事無く手にした旗を構えるオルタ。

だが────。

 

「そうじゃない。あれは本当に食事してるだけだ(・・・・・・・・)。」

 

自然に会話に交ざる、聞き覚えの無い男の声。

思わず三人が振り向くと。そこにはヤミーから逃げる人々の流れに逆らい、彼等の方へ向かって来る一人の男性の姿が。

 

「えっと…どちらさま…?」

 

「君達が"カルデア"とかいう組織のメンバーだな?俺の名前は後藤慎太郎。あのヤミーは俺に任せて貰おう。」

 

手短に告げると男性は何処からか奇妙なベルト(・・・・・)を取り出し、自らの腰へと巻き付けた。

 

「それって…!」

 

ベルト。立香の抱いた予感は、彼が次に手にした物により確信へと変わる。

──────セルメダル。この特異点で幾度も目にした、人間の欲望の結晶に他ならない。

まるでカプセルトイを販売するガチャガチャの機械───そんな形状のバックル部分へ、男は手にしたセルメダルを投入。

 

「変身。」

 

掛け声と共に彼がハンドルを回すと、小気味良い音が鳴り響く。

男性の全身をカプセルの様な球体が包み込むと共に、幾つもの小型カプセルが彼を取り囲む。

宙に浮く小型カプセルは、引き寄せられるかの如く彼の肉体と重なり合い、その全身に白銀の武装を展開していった。

 

「貴方は…それ、映司さんと同じ…!?」

 

驚く立香達を他所に、男の…後藤の全身を覆っていた球体がその範囲を狭め───最後に彼の体と完全に一体化すれば。随所にカプセルの様な意匠が盛り込まれた、メカニカルな鎧を身に纏った戦士がそこにいた。

 

「……やっぱり、火野の事を知っていたか。」

 

「え?」

 

「何でもない。これは仮面ライダーバース…今言えるのは、俺は君達の味方だという事だ!」

 

短く会話を切り上げ、ヤミー目掛けて駆け出すバース。

そこで漸く敵の存在に気付いたのか、ネコヤミーは食事を切り上げバースを迎え撃つ。

先手を取ったのはネコヤミーだ。向かって来るバースに向け、ヤミーは鋭い爪で切り掛かる。だがそれを難なく回避するバース。そうして生じたヤミーの隙を突き、荒々しい蹴りを繰り出す。

然し、弾力の有る部厚い脂肪の壁に阻まれ、その一撃はまるでダメージを与えられない───それどころか、その脂肪の弾力に跳ね返され却って体勢を崩してしまう。

鑪を踏み後退るバースに、お返しとばかりにタックルを仕掛けるヤミー。蓄えた脂肪の質量を存分に活かした攻撃に、不安定な状態のまま耐えられる筈が無くバースは吹っ飛ばされる。

 

「……あの脂肪が邪魔か。それに、カザリのヤミーならば…。」

 

小さく呟けば、二枚のセルメダルを取り出したバース。それをドライバーに装填し、彼は再びハンドルを回す。

 

『ドリルアーム!』

 

『キャタピラレッグ!』

 

直後。バースの右腕には、高速回転するドリル状の武装が。両足には戦車を思わせるキャタピラが展開。

新たな武器を手に、彼は再びネコヤミーへと向かって行く。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

ヤミーの腹部目掛けて繰り出されるドリルアーム。その一撃は鈍重なヤミーに回避する間も与えず、ブヨブヨの腹へと命中する。

激しく回転するドリルがヤミーの腹の表面を抉り、削り取られた肉片はセルメダルへと姿を変える。

自らを形作るメダルを奪われ、ヤミーは堪らずバースへ爪を振り下ろす。───けれど、そんな苦し紛れの反撃を受けてやる程バースは甘く無い。身を捩り爪撃を躱すと、ドリルアームでヤミーの顔面を思い切り殴りつけた。

 

「ギッ……!」

 

「がら空きだ!」

 

顔への打撃に盛大に仰け反るヤミー。無防備に晒されたそのどてっ腹を、キャタピラレッグで蹴り付けた。

最初の蹴り同様、如何に無防備な姿勢とはいえ敵の脂肪の壁は分厚く、ダメージは易々と通りはしない。

─────だが、それで構わない。そもそもバースの目的は、蹴りの衝撃を敵の内側に通す事では無いのだから。

 

「ギャァァァァ!?」

 

苦痛の叫びを上げるヤミー。彼は咄嗟に踏み留まり、転倒こそ避けたものの。

その腹上にて高速で稼働するキャタピラが、ヤミーの身体を構成するメダルを吸着───次から次へと強引に引き剥がしている。

メダルを剥がしながら、キャタピラレッグはヤミーの中へ中へと沈んでいく。軈てバースはヤミーの体内に、大量のセルメダルに埋もれた一人の男性を発見した。

 

「宿主だな…もう大丈夫だ。」

 

レッグで宿主周りのメダルを掻き分け、その手で男性の手を力強く掴んだバースは、一気に彼をヤミーの中から引っ張り出す。

 

助け出された宿主は意識こそ失っているが……どうやら外傷は無い。

 

「や、ヤミーの中から人がーー!?」

 

『絵面がちょっとしたホラーですね…けど、この万能マジカルステッキ・ルビーちゃんが見た感じ、命に別状は無さそうです。』

 

「その人はヤミーの宿主だ!詳しくは後で

─────杖が浮いて、オマケに喋った…!?」

 

流石のバースも思わず二度見した。

 

 

 

「ご、後藤さん後ろ!」

 

立香の声でバースは我に返る。慌てて振り向けば、最後の悪足掻きとばかりに切り掛かって来るネコヤミーの姿。

だがそれはバースへ届く前に、横から割り込んだ旗によって防がれる。

 

「え!?」

 

「────ったく…気ィ抜き過ぎ。あの火野映司って奴といい、どいつもコイツも抜けてないと気が済まないのかしら?」

 

旗を振るうのは勿論ジャンヌ・オルタ。ヤミーの攻撃を受け止め、そのまま力ずくで強引に押し返す。

体勢を崩したヤミーに対し、オルタは腰に下げた剣を抜刀。立て直す暇すら与えずに、炎を纏わせた刃で何度も斬りつけた。

 

「ギニャァ…ッ!」

 

「ほら、ぼさっとしてんじゃ無いわよ!どうせコイツも私達の攻撃じゃ倒せないのでしょう?さっさと倒しなさいな!」

 

ダメージが通らないとはいえ、何度も斬撃を食らい堪らず背を向け逃げ出すヤミー。

そんな敵を前にオルタはバースへ声を張り上げた。

 

「あ、ああ!」

 

『ブレストキャノン!』

 

バースはヤミーから奪ったセルメダルをドライバーへ投入、そのエネルギーを元に胸部へキャノン砲を装備する。

 

「ブレストキャノン、シュート!!」

 

メダルに満ちた欲望の力を、凄まじき熱量に変換して放たれるバースの必殺技。

その銃口から撃ち出された砲撃に、遂にヤミーは限界を迎え爆散した。

 

「やったか…。」

 

ヤミーの消滅を確認し、バースへの変身を解除する後藤。

元の姿に戻った彼の元へ、立香とイリヤが駆け寄る。

 

「後藤さん…でしたよね。その、有難う御座いました!」

 

「気にしなくて良い。寧ろ俺の方こそ、君の仲間に助けられた。」

 

素っ気無い口調ではあったものの、微笑み、穏やかな声音で語る彼に自然と立香は笑みを溢す。

 

「改めて礼を言う。助かった。」

 

「……別に。アンタを手伝った方が、私達の為になると判断したに過ぎません。」

 

「そ、そうか…。」

 

律儀に頭を下げる後藤に対し、オルタはそっぽを向く。

その反応へどう返せば良いのかと、首を傾げる後藤に立香とイリヤは思わず苦笑した。

 

 

 

 

 

『お見事です~!いやぁ…途中ヒヤッとしましたが、最後はドカーンと!見ていて気持ちの良い一発でしたね!』

 

「ああ、有難う。だが…何度も言う通り、彼女の助力が有ってこそだ。俺一人では負けていたかもしれない…まだまだ己の未熟さを自覚し、一層の鍛練を重ねていかな杖が喋った!!!!????」

 

「「「そこで!?」」」

 

ワンテンポ遅れどころか割と語った後での反応に、思わずその場の全員が突っ込みを入れた。

 

 

 




ゲイツマジェスティの伊達さん草加さん照井さんめっちゃすこ。
FGOはバレンタイン皆可愛い過ぎてめっちゃすこ。
嫁ネロは良いぞ!!!!!!アタランテオルタも良いぞ!!!!!!メルトリリスもサンタリリィちゃんもインフェルノさんも皆良いぞ!!!!!何処が良いかって!!!???俺に質問するな!!!!!!!!!!


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悪と理想と頼れる仲間


いや、ホントめちゃくちゃ間空いてしまいましたね…。お待たせして申し訳ありません。もう需要あるかは分かりませんが、また少しずつゆっくり、ゆっくり(ここ重要)進めて行きますのでお付き合い頂ければ幸いです。


 

 

 

「セイヤーー!!!」

 

三色の輪を潜り抜け、オーズのキックがシャムネコヤミーを貫く。

セルメダルを撒き散らして爆発するヤミー。幸いにもウヴァからトラメダルを受け取っていたお陰で、宿主は既に救出済みだ。アタランテと美遊のサポートも有り、比較的厄介なこのヤミーも対処自体は容易だった。

ただ、トラクローで地道にメダルを剥がしていかなければならなかった為、酷く時間が掛かってしまったのは痛手だ。

変身を解除した映司は、彼等を観測しているであろうカルデアに向け慌てて話し掛ける。

 

「ごめんなさい!遅くなっちゃった!!立香君達の所に急いで向かいます!」

 

美遊がヤミーの宿主に治癒魔術を施したのを確認すると、彼等は急ぎ合流地点へと駆け出す。

だが、カルデアから返ってきたのは思わぬ返答。

 

『その事だけど…何とかなったみたいだ。だから、うん。今の所は大丈夫!』

 

「───え?」

 

『と言っても、私も確認したい事だらけなのさ。焦らなくて良いので、安全第一で藤丸君達と合流してくれたまえ。』

 

予想外の内容に困惑し、顔を見合わせる三人。ともかく、何が起きてるかは実際に目にするまで分からないだろう。

戸惑いつつも、彼等は合流地点を目指す。

 

「何とかなったって…ヤミーを倒したって事かな…?」

 

「分からん…。だが、あれはマスターやグリードの様なメダルの力を扱う者にしか倒せぬのだろう?以前私もガメルのヤミーと手合わせしたが…実力は兎も角、コアメダルを得てない私では倒せなかった。実力は兎も角。」

 

「いや、そこ主張しなくてもアタランテさんが強いのは知ってるからね…?」

 

フンと鼻息鳴らし、若干不服そうに告げるアタランテ。そんな彼女に苦笑しつつ、映司はフォローを入れる。

そうこうしている内に合流地点へ辿り着くが、辺りを見渡しても誰も居ない。

 

「……あれ?まだ来てないのかな…?」

 

「場所は合ってる筈。ダヴィンチ、これはどういう事?」

 

『あ、大丈夫大丈夫!もう直ぐそこに────』

 

「火野!」

 

ダヴィンチちゃんからの通信を遮り、横から響く男性の声。

美遊もアタランテも聞き覚えの無い声だったが、映司だけは異なる反応を見せた。

顔を強張らせ声の方へと振り向く映司に倣い、二人も其方へ視線を向ければ。

 

「火野ォォォ!!!!」

 

「ご、後藤さん!?」

 

此方へ向かって来る立香達と、そんな彼等を置き去りにして全力ダッシュして来る男性の姿。

癖毛と生真面目そうな顔付きが特徴的な、映司と歳の近そうなその男性は。

 

「火野ォォ!お前って奴はッ!!!」

 

「後藤さん、無事だったんで───へぶっ!?」

 

────ドン引きする美遊とアタランテを他所に、その勢いのまま映司目掛けてドロップキックを喰らわせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛たたた……。」

 

「……しっかりしろマスター。ほら、終わったぞ。メディアやアスクレピオスと違って、私は治癒に関してはからっきしだからな…後に響く様な怪我が無くて幸いだ。」

 

「ありがと…アタランテさんは手当てしなくて平気?」

 

再び拠点へ戻った一同。現在そこに集まって居るのは映司、立香、アタランテ、美遊の四人。

事務所のパイプ椅子に腰掛け、上半身裸の姿で映司は溜め息を漏らす。

その体の所々には包帯や絆創膏、湿布が貼られている。アタランテが手当てを施した痕跡だ。

 

「私達サーヴァントの負傷は、魔力供給で自然と治癒するから気にするな。マスターが私と縁を結んでくれた時点で、私を手当てしてくれたようなものだ。

───そもそも、如何にマスターと言えど私が肌を簡単に晒すとでも?」

 

「あっ…ご、ゴメン!そうだよな、俺みたいな素人より、ちゃんと知識有る人にやってもらわないと。」

 

「……そういう意味では…いや、こういう男なんだったなマスターは。」

 

本心なのか敢えてはぐらかしたのか、何れにせよトンチンカンな答えを返す映司に、アタランテは呆れた様に肩を竦める。元々野生の狩人…獣としての側面を持ち、人の美醜感覚に然したる興味を持たない彼女ではあったが。男女の空気が微塵も流れなかった事には、流石に少し複雑な気分にもなる。

そんな乙女の感情を軽く頭を振って払うと、不思議そうに小首傾げる映司へ問い掛けた。

 

「それで…改めて説明して欲しい。マスター、あの後藤とか言う男は…。」

 

「あ、うん。あの人は後藤さん、俺の仲間です。さっき行った鴻上ファウンデーション……まあ、何故か廃墟になってたんだけど。あそこには本当は大きな会社が在って、後藤さんはそこに所属する仮面ライダーなんですよ。」

 

「仮面…ライダー。」

 

夢の世界であの青年が口にした単語。

その言葉から自然と夢で見た光景を思い返してしまい、無意識の内に彼女の表情が強張る。

だがそんな事など微塵も知らぬ映司は、アタランテの変化を異なる意味で捉えた。

 

「ああ、ごめん!仮面ライダーってのは、俺達変身してグリードと戦う戦士の事だよ。もっとも、世の中には他にも色んな仮面ライダーが居るらしいけどね?」

 

「へぇ…そんなに沢山、グリードと戦う人達が?」

 

横で話を聞いていた立香が、興味津々といった様子で問い掛ける。

 

「いや、俺達の敵はグリードだけど…他のライダーの敵もグリードとは限らない。…例えば前に出会ったのは、ドーパント?って怪人と戦う探偵さんだったな。」

 

「つまり、正確には…怪人と同じ力をルーツとしながらも、人々の為に怪人と戦う戦士の事…それが仮面ライダーだな?」

 

映司の話を簡潔に纏めるアタランテ。彼女自身は何気無く呟いたつもりだったが、その言葉に映司は驚きに満ちた表情を浮かべた。

 

「え?な、何でそこまで分かるの!?確かに探偵さん…ダブルも、そのドーパントって怪人も同じ力を使うらしいけど…。」

 

「……勘だ。汝も、バース?というライダーも、メダルを使うのだろう。そして敵はメダルの怪物、何と無くそう思ったに過ぎないさ。」

 

思わぬ所で口を滑らせてしまったらしい。まさか夢の中で他のライダーに教わったとも、多分その『仮面ライダーダブル』も知ってると思うとも言える筈が無く、彼女な曖昧な言葉で誤魔化す。

幸い映司も納得したらしく、特に突っ込んで来なかった事に安堵した。

 

「…それで映司さん。話が逸たけれど、何で後藤さんの事は教えてくれなかったの?他にライダーが居たなら、もっと早く協力し合えたのに。」

 

事情を知る美遊も、内心では若干焦りつつ。何とかこれを隠し、話題の方向修正を図る。対する映司はというと、困った様に首を傾げていた。

 

「いや…隠してたとかじゃないんだ。ていうか、俺自身よく分かってないんだよね。後藤さんも伊達さんも───もう一人バースに変身出来る人の事ね?二人とも連絡取れなくて…ていうか二人に限らず俺の仲間達全員行方不明?みたいな状態で…」

 

「─────何を馬鹿な事言ってる。行方不明だったのはお前の方だぞ、火野。」

 

「そうそう。ったく…皆どんだけ心配したか分かってんのか?」

 

美遊と映司の会話に割り込む二人の男性の声。

そこには、オルタやイリヤ、ハサンと共に戻って来た後藤。そして映司にとっては初めて見るアロハシャツ姿の男クー・フーリンと、逆に映司以外は初めて会う男性の姿が。

 

「伊達さん!!良かった…伊達さんも無事だったんですね!」

 

「だからぁ…そりゃ、こっちの台詞だっつってんだろ。お前、マジでどうしちゃったワケ?」

 

安堵の表情で彼等を迎え入れる映司。対する伊達はと言えば、そんな映司に戸惑いを隠せない様子。

 

「まあ落ち着けよオッサン。その辺の事情確認する為の合流だろ?」

 

「大体、こっちもあんたらの事知らないし。そこの信号機男がまーーーた隠してたのか知らないけど、もういい加減慣れたわ。とっとと話終わらせて、あのクソ猫燃やしに行くわよ。」

 

伊達と共に帰還したランサーとオルタが、二人の会話に制止をかける。

ランサーはケラケラと笑いながら。オルタは相変わらずの仏頂面で手近な椅子に腰掛け、二人して立香と映司へ視線を向けた。二人に倣い、他のメンバーも次々に手近な場所へと腰を下ろし。

彼等の視線を受け、先ず映司が言葉を切り出した。

 

「えっと…俺がこの異変に気付いたのは、立香くん達にも話した通り数日前。そろそろ一週間…って所かな?と言っても、俺が覚えてる範囲では…なんだけど。」

 

「覚えてる範囲?」

 

「最後に伊達さん、後藤さん…それに此処には居ない仲間達と会ったのは多分もっと前だと思うんだ。"世界の終末"───真木博士の計画のせいで暴走し、グリードですらなくなったメダルの怪物が、この世の全てを呑み込もうとした。俺達はそれを止める為、全員で力を合わせて立ち向かった。」

 

「槍の兄さん以外、お前らも真木博士には会った事有るんだろ?あのドクター、根は悪い奴じゃあ無いと思うんだけど…ちょいとばかし、とんでもないド変態でさぁ。"世界は生きている限り、段々と醜くなっていく。だから美しい内に滅びるべき"…って持論で、終末こそ一番美しい世界の形だと思ってるんだと。ったく…全部が全部間違ってるとは俺は思わないけど、にしても結論が極端過ぎるってぇの。」

 

首を傾げるイリヤに、補足説明を入れる映司と伊達。何だかなぁ、と頭を抱えて渋い顔の伊達とは対称的に、話を聞いたカルデアの面子は驚嘆に満ちた表情を浮かべている。

 

「それ、普通に悪い人では…?」

 

「いやいや!槍の兄さんに聞いたぜ?君達だって、世界を救う為に色んな所旅して来たんだろ?

───悪人は一人も居なかったか?不条理を感じた事は無かったか?お前らは本気で、この世は全て綺麗な物(・・・・・・・・・・)だと思ったか?俺は色んな戦場旅して来たから、そうは思わなかった。」

 

「それ、は…。」

 

ぽつり、呟いた立香に待ったを掛ける伊達。確かに彼の言う通りなのかもしれない。

大本は魔術王の企みとはいえ、様々な特異点で悪意に満ちた者達とも戦ってきた。セプテムやキャメロットの敵達の様に、一言で悪と断じる事も出来ない存在も多く居た。けれど…アガルタで戦ったあのライダーや、下総国で相対したあのリンボの様に、悪意に満ちた敵も居たのは確かだ。

 

─────それでも。

 

「それでも…良い人達も、美しい物も沢山有った。優しい人達だって大勢居た。どんな特異点でも、皆必死に生きていた。それを無視して、勝手な理想で世界を滅ぼそうとするなんて…間違ってる!」

 

悩みながらも精一杯足掻き続けた彼は、伊達を真っ直ぐに見据えて言う。

対する伊達はといえば。

 

「だよな!よーするに、そこが君達とドクターの差だ。」

 

その答えに満足げな笑みを浮かべて見せ。思わぬ反応に戸惑う立香へ、落ち着き払った声音で語る。

 

「あの人は根っからの悪人じゃあ無い。あの人なりに良かれと思ってやってる。……何が有ったのか、とうとう聞く機会は無かったんだけどさ。多分、ドクターだって君達みたいになれたかもしれない。

───けどアイツは折れちまった。藤丸ちゃん…お前みたいに、苦しくても希望を信じて進むって事を放棄しちまったんだ。……だから忘れんなよ?今のその気持ちは大事なモンだ。結構グッと来たぜ~!」

 

伊達はその強面に見えなくもない顔に、とびきりの笑顔を浮かべてサムズアップして締め括ると。

 

「で?火野、その後お前は何してたんだ。」

 

表情を引き締め直し、映司へ続きを促す。

それを見守る後藤や美遊、アタランテの顔付きも険しい。無論立香達も神妙な面持ちではあるが、映司の本性を知る者達はその顔に幾ばくかの心配が滲み出ていた。

 

「……気付けば、俺は最後に戦った場所に転がってました。アンクと…アイツと一緒に、真木博士と戦った場所に。町に戻ってから確認した日付では、あの戦いの二日後…つまり、二日近く気を失ってたみたいです。ただ…。」

 

「ただ?」

 

「ダメージが大きかったせいなのか、あの日のから暫くの記憶が曖昧で。皆に会おうとクスクシエにも行ってみたけど、誰も居なかったし。ホント、皆を置いて俺一人町に残ったみたいな状態になってて。」

 

「───待て火野。それはおかし…」

 

「後藤ちゃん、ストップ。俺も気になる所は有るけど、先ず全部話を聞いてからだ。途中で議論してちゃ先に進まなくなっちまうからな?」

 

その場に立ち上がり、映司へ待ったを掛けようとする後藤。そんな彼を伊達が片手を挙げて制する。

そんな彼の意見に後藤も納得し、ゆっくりと着席し直す。

 

「…すまん。火野、続けてくれ。」

 

「あ、はい。えっと…それで、どうしたもんかと困ってたんですけど、俺自身のやる事は変わらない。だから俺は、あの日の戦いの結末とか、その後メダルがどうなったのかとかを調べてたんです。そんな中で…」

 

『復活したグリードや、聖杯戦争の事を知ったワケか。うん、一応話の筋は通ってる。所々記憶が曖昧って箇所に、情報の補填が欲しい所だけどねー。』

 

通信越しにダヴィンチちゃんが映司の話を締め括ると、彼もまたその言葉に首を縦に振る。

話を全て聞き終わり、顰めっ面で考え込む伊達と後藤。

そんな彼等に、立香は恐る恐る問い掛けた。

 

「あの…伊達さんも後藤さんも、どうしてそんなに納得してない感じなんですか?行方不明だったのは、映司さんが意識失ってた期間があったからで…そのクスクシエ?って所に行った時は、たまたますれ違ったとかでは…。」

 

「コイツ、パンツとメダル以外最低限の物しか持ってないしね。携帯も無いんじゃないの?」

 

「うん、持ってないよ。一応公衆電話使ったり、カンドロイド───お助けメカみたいなやつね。これ使ったりはしたんだけど。」

 

「いや本当に持ってないのかよ!?お前さん、この時代の人間にしちゃ変わってんなぁ…。」

 

揶揄い半分のオルタの言葉。然し映司が大真面目な様子で頷くものだから、思わずランサーは突っ込みを入れる。

だが、そんなやり取りに後藤は"そうじゃない"と首を横に振った。

 

「違うんだ。確かに奇跡的に運が悪ければ、藤丸くんが言ったみたいな状況も起こるかもしれない。けどそうじゃない。」

 

「連絡にしたって…俺はともかく、後藤ちゃんや比奈ちゃんがそう何度も出ないハズが無い。真面目の塊みたいな子達だぜ?それが繋がらないって事は、何らかの不調が有ったって事だ。」

 

困り顔の後藤と、大きく溜息を漏らす伊達。二人は暫し思案した後、互いに顔を見合せて。軈て後藤がゆっくりと口を開く。

 

「……結論から言う。俺達は誰も、お前からの連絡を受けてない。もっと言えば……。

 

 

 

 

居たんだよ。お前が戻ったという日に、俺達全員クスクシエに。────────けど誰も、お前に会ってないんだ。」

 

 

 

 

 






次回、仮面ライダーオーズ!

「メズールさん、貴女にはエロスを極める素質が御座いますわ。────申し遅れました。私、殺生院キアラと申します。」
「ガメルの教育に悪いから帰ってくれない!?」

───そのコンボは危険だ!

「ハッハッハ三匹目フィーーッシュ!!」
「さあ、お姉ちゃんが行きますよ!!」
「水着と言えばメイド。覚悟しろ御主人様!!」

「ここが…カルデア…!」
「いやそうだけどそうじゃない!!!」

───訪問のタイミングを間違えた映司!!

『というかもう九月ですよ。』
「ちゃんと宿題はやったか?最終日に絵日記残すとワンダー地獄だぞ!」
「この銀ピカの人誰!?」

────そして現るワンダーな戦士!!

次回、『水着とイベントと落ちない礼装』!


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歪み
鍋と食欲と明かす者


お久し振りです。久々投稿過ぎて前の話とか覚えてない方、本当にすみません…!
しっかり進めてもう今頃ラストの話とかやってるつもりだったのに…リュウソウジャーの話とかもやりたいとか思ってたのに、リュウソウジャーどころかキラメイジャー終わっちまったよ。時間の流れって早いですね。


 

 

 

これまでの三つの出来事。

 

一つ。ガメルはアーチャーのサーヴァントであるアタランテと共に映司達と対立するが、復活した真木の手によって滅ぼされた。

 

二つ。美遊・エーデルフェルトは仲間になったアタランテと共に、謎の仮面ライダーに導かれ映司の過去を知る。

 

そして三つ。映司達と合流した伊達、そして後藤の口から告げられた事実により、映司に関する謎が深まった。

 

 

 

映司とカルデア。真木。そして残るグリード達。各々の思惑が絡み合い、物語は加速し始める。

……無論、私は表舞台に上がる事は無いがね。あくまで中立の傍観者として、彼等の行く末を見届ける。それが私の務めなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐつぐつと煮込まれる多種多様な素材達。

ほぼ茶色一色に染まった鍋からは鰹出汁の良い香りが漂い、周囲の者達の食欲を刺激する。

 

「さあ、食え食え!伊達さんお手製おでんだ!大根こんにゃく玉子がんも、しらたき厚揚げはんぺん巾着!お嬢ちゃん達にはウィンナーやロールキャベツも有るぜ!」

 

─────おでん。

夏のこの特異点では季節外れも良いところ。おまけに彼等が拠点として使っている廃工場事務所内、当然空調も使えない密室に大人数集まった状態なので暑い事この上無い。

 

「いやもっと他に何かあるだろ。何でこの状況でチョイスがおでんなんだよ。」

 

「俺の好物で十八番だからな!そう言いながら槍の兄さんも大根めっちゃ食ってるじゃないの!」

 

呆れた様子で突っ込むランサーに、良い笑顔で応える伊達。他のメンバーも困惑気味な中、苦笑しつつ後藤が口を開く。

 

「正直、この暑い中でのおでん…チョイスには少し俺も思う所は有る。だが、伊達さんのおでんの味は確かだ。それに君達、こっちに来てから殆ど何も食べてないのだろう?」

 

一応、立香の手元にはカルデアから持参した補給食は残っている。とはいえ、まともな食事と言えば最初に映司とファミレスで食べた物以来だ。それを思い出すと立香は急に空腹を覚え、遠慮がちに鍋へと手を伸ばした。

 

「……!美味しい…!」

 

味のよく染み込んだ具材は、咀嚼すると容易く崩れて口内を旨味と程良い塩気で満たしていく。一口目以降、立香の箸は止まらなくなった。

そんなマスターの姿につられ、イリヤと美遊も箸を手に取り鍋を囲み始める。

 

「……!…これは…。」

 

「!お、美味しい!これすっごく美味しい!お兄ちゃんやエミヤさんに負けないくらい美味しいかも!」

 

「ははっ、気に入って貰えたなら良かったぜ!腹が減っては戦は出来ぬ、だからな!生身の藤丸ちゃんはちゃんと飯食わねぇと元気出ないし。サーヴァント?の皆は飯要らねぇらしいが食えないワケじゃ無いんだろ?」

 

『オルタさんは食べないんですか~?お箸使えないならスプーンも有りますよ?』

 

『姉さん、スプーンだと少々取り辛い物も有ります。ここは、フォークの方が良いかと。』

 

「黙りなさいポンコツ共。折って粉々にして鍋にブチ込むわよ。」

 

一部煽りや過激な発言も出てるものの、概ね穏やかな一時。課題や突き止めるべき謎も多いが、皆がひとまず体と心をリフレッシュさせる中で。

 

アタランテは一人部屋の端で考え込んでいた映司に気付く。

 

「マスター。汝も輪に加わったらどうだ。問題は山積みだが…どのみち今考えても仕方無い。これからその解決の為に動くのだから、今は腹を満たしておかねば体も、気力も持たないぞ?」

 

アタランテの呼び掛けに顔を上げる映司。だが彼の浮かべていた表情は苦笑気味だ。

 

「ありがとう、でも大丈夫。俺、今少し食欲無くて…。」

 

「……それは、心労のせいか?悩んでいても仕方無い、と簡単に割り切れ無い事も有るだろうが…無理にでも何か腹に入れておかねば。」

 

「それも有るけど、元々近頃あんまり食欲湧かないんだよね。心配しなくても、後で何か……」

 

「─────それはお前の中の紫のメダルのせいか?火野。」

 

掛けられた声に二人が顔を向ければ、険しい顔の後藤と美遊が。

 

「……どういうこと?」

 

怪訝そうに聞く美遊に、後藤は少し迷った後ゆっくりと口を開く。

 

「…君達も知っての通り、火野の中には紫のコアメダルが宿ってる。そのせいで、肉体のグリード化が進んでるという事だ。」

 

「ちょ、後藤さん!俺は別に…!」

 

「気付かないとでも思ったか。心配を掛けまいというお前の考えは尊重したいが、お前は絶対に自分からは言わないだろう?彼等はもう仲間だ…お前のその秘密主義がどれだけ比柰ちゃんを心配させたのか、もう忘れたのか?」

 

慌てて否定しようとする映司に、ぴしゃりと厳しい口調の後藤。彼等のやり取りに、不安げにアタランテが口を挟む。

 

「ガメルは…食事を楽しんでいた様に見えたが。どういう事だ。」

 

「グリードは欲望だけは巨大だが、それを感じ取る感覚が酷く脆弱だ。味なんて殆ど分かっていないと思う。…それでも、だからこそ刺激を求めている。殆ど分からないながらも僅かに感じ取れる味、食感、温度。元からグリードならそれでも僅かに満たされるかもしれない。

───だが、火野は人間だ。急激な変化でそんな状態に陥れば、それまでとのギャップで食欲が落ちても何ら不思議じゃ無い。」

 

ずっと美味しく食べてきたものが、急に味の無い何かに変わってしまう様な感覚。この場で映司以外にそれを体験出来る者は皆無だが、想像を巡らせば確かに食欲が落ちるのは容易に理解出来る。

まして彼が抱く欲望は"力への執着"、その一点に集約されている。ならば、グリードへ変わりつつあっても食欲が落ちる…という現象に矛盾は生じない。

 

「いや、違いますって!俺は大丈夫!ただの不調だからそんなに心配しないで平気ですよ!」

 

それでも尚、笑って誤魔化そうとする映司。だがプトティラコンボの暴走を目にした今、美遊もアタランテもその言葉を素直に受け入れるのは無理があった。

 

「……分かった。納得はしていない。だが、マスターが単なる不調だと主張するなら、尚更栄養補給は必要だろう?カルデアのマスターに後で補給食を貰っておくから、必ずそれは食べておけ。良いな、マスター。」

 

困った様に嘆息しつつ、妥協案を提示するアタランテ。本当に僅かな付き合いだが、こうなっては彼は素直に認めたりしないだろう。

ならいっそ、という感覚だ。味覚が落ちて食欲が湧かないなら、味より栄養価の高い物を優先した方が良いという判断でもある。

 

「これ以上の譲歩は出来ないぞ。アスクレピオスなら今すぐ点滴でも打つべくマスターを取り抑えてる所だ。……汝が栄養失調で倒れて、サーヴァントである私にも共倒れしろと言うなら話は別だが。」

 

「いや、そんなつもりは…!……分かった、ありがとうアタランテさん。」

 

漸く首を縦に振った映司を、三人は酷く不安そうな表情で見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

「今度こそ、美しいままに世界を終わらせる。我が宿願、私の願う最も美しい世界の形…。」

 

古びた洋館の中で、男は独り呟く。

何の因果か、一度は阻まれた計画を完遂する機に恵まれた。その為の力も、道筋も既に手にしている。未来から来た邪魔者達は倒す迄も無い。自らの邪魔をする者には容赦はしない────だが、彼等もまた世界をより良く、美しくするべく戦い続ける者達。自分の信念、進む道とは決して相容れぬ相手ではあるが、その一点は認めている。

ならば彼等もまた、その美しく魂を失う前に"終らせて"やるべきだろう。自身の前に立ち塞がれば滅ぼすのもやむを得ないが、別段躍起になって排除したい訳では無い。叶うなら、美しくままの世界と共に消えていって欲しいものだ。驕りでも嘲りでも無く、世界を導く者として純粋にそう思う。

 

「─────いや、清々しいまでの有難迷惑だよ。大きなお世話とは言うけれど、流石に世界規模となると脱帽だね。僕には関係無いが。」

 

咄嗟に声の方へと振り向きつつ、同時にグリード態へと変身を遂げる真木。恐竜グリードへの変異を完了させた彼は、館内の暗闇に紛れた人影目掛けて躊躇無く紫の光球を放つ。

無の欲望、何もかも呑み込む力を宿した破壊のエネルギー。常人では回避はおろか反応すら間に合わぬ勢いで放たれたそれを、しかしその男は華麗に身を翻して避けてみせた。

標的を外れ、光球はそのままの勢いで壁を破壊する。壁の一部は勢い良く吹き飛び、ぽっかり空いた穴から陽の光が館の中へと射し込んだ。

 

「……何者です、君は。カルデアの仲間…という訳でも無さそうですが。」

 

表情の変わらぬグリード態の姿でありながら、明らかに邪険にしている事がハッキリと分かる声音で問う真木。問われた男と言えば、外からの光で明るみになった顔に余裕の滲んだ不遜な笑みを浮かべていた。

 

「僕かい?そうだな…通りすがりの仮面ライダー、彼を追う者かな。カルデアとかいう連中とは関係無いから安心したまえ。」

 

上から目線で言いながら、男が取り出したのは銃の形をした何か。彼はそこへ、真木に見せ付けるかの如く一枚のカードを差し込むと。シアンに染まったその銃身を、天井目掛けて掲げてみせた。

 

「手荒い歓迎ありがとう、グリードくん。僕はカルデアも、特異点も、何なら人理焼却だの世界の終わりだのも興味は無い───が。君の持つお宝には興味が有るんだ。」

 

「……宝、ですか?」

 

「そう。800年前の遺産たるコアメダル。そして世界の形すら作り変える力を持った聖杯。どっちも欲しくなっちゃってね。

─────大人しく僕に譲りたまえ。変身!」

 

『カメン・ライド!ディエンド!』

 

男は、構えた銃『ネオディエンドライバー』の引き金を引く。辺りに響いたのは銃声ではなく電子音声、そして弾丸の代わりに打ち出されたのはホログラムめいた戦士の像。オーズやバースとも異なる戦士のホログラムが三体、男を中心に重なり合えば。

虚像の存在(ホログラム)ではない実体の存在として、飄々とした男に代わり仮面ライダーが姿を現した。

 

「……要するに、消して何ら問題の無い存在という事ですね。それだけ分かれば充分です。」

 

「それは勘弁かな。僕はお宝が欲しいだけなんだけど。」

 

『カメン・ライド!アクセル!』『オーガ!』

 

流暢に語りながら、今度は二枚のカードを銃身へ装填。

シアンの仮面ライダーは、恐竜グリードへ銃口を向けて引き金を引く。

咄嗟に防御の姿勢を取る恐竜グリードだったが、敵が行ったのは攻撃ではない。放たれたと思った攻撃の代わりに、打ち出されたのはまたしてもホログラム。それらはすぐに実体化し、燃える様な赤い仮面ライダーと、王の風格を纏った黒い仮面ライダーが出現する。

 

「ドラゴンスレイヤーならぬ、恐竜スレイヤーだ。精々足掻けとか三下な台詞は言わないから、早くお宝を寄越したまえ。」

 

「小賢しい事を…!」

 

シアンの仮面ライダーが召喚した二人のライダーは、剣を構え───恐竜グリード目掛けて駆け出す。振り下ろされる二本の剣と、それを迎え撃つグリードの爪撃がぶつかり合い、薄暗い館内に火花を散らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあて…腹拵えも済んだ所でだ。グリードの事、それに俺達と火野が音信不通になった原因。考える事は山積みだな。」

 

『あの…そもそもの疑問なのですが、お二人は火野さんと連絡は取れなかったんですよね?火野さんですら、聖杯戦争の事は知っていても、私達カルデアの事は御存知無かったのに…お二人はどうやってその情報を得たのですか?』

 

食後、ミーティングを再開した中でマシュがおずおずと問い掛ける。

対して後藤と伊達はといえば、ひどく難しい表情で口を開いた。

 

「……それが。おかしな話だが教えてもらったんだ、ウヴァに。」

 

「あの昆虫野郎、生きてたと思ったらワケのわかんねぇ事言い出してな…。」

 

「ウヴァ…って確か、昆虫のグリードですよね。何で敵の筈の二人に…?」

 

立香の疑問も尤もだ。だが二人ともその理由までは把握していないらしく、揃って首を横に振った。

 

「分からない。あの戦い…世界の終末と呼ばれる、ウヴァにコアメダルを大量に投入されて生まれた意思の無い破壊兵器。それと、それが生み出す大量のヤミー。そして首謀者である真木博士との決戦。

火野とアンク…こちら側として戦っていた鳥のグリードだ。彼等は真木博士を倒して終末を止める為に。俺達は無差別に送り込まれるヤミーを倒す為、別行動を取った。」

 

アンク。その名が後藤の口から出た時、映司の顔が一瞬強張る。それに気付いたのは伊達と後藤、そして美遊とアタランテのみ。

しかし彼等は敢えてそこには触れずに話を続ける。

 

「その後、火野やアンクと連絡が取れなくなった。数日音信不通が続き…俺達は、最後に彼等が居たと思われる工事現場へ向かったんだ。そこで奴に出会った。」

 

 

 

─────バースか。虫ケラ程度の戦力でも、居ないよりはマシだな。

 

 

 

「……ってな。戦う気も無さそうに、偉そうな感じでさ。ったく、虫ケラ野郎はお前だっての!」

 

思い出して腹が立ったのか、大きく鼻息を鳴らしながら言う伊達。とはいえ、本気で苛立っているという訳でも無く、気を取り直して後藤の言葉を引き継ぐ。

 

「俺達は当然アイツと戦おうとした。けどアイツはそんな俺達に色々話始めやがった。特異点、サーヴァント…君達カルデアの事もだ。正直最初はあの野郎、暴走の後遺症で、頭イカれちまったのかと思ったね。」

 

「じゃあ、この特異点の謎については…!」

 

期待の籠った視線を伊達へ向ける立香。けれど伊達は申し訳無さそうに首を横に振った。

 

「いんや、正直俺らが知ってる事は…ここに居る全員の知ってる内容と大差ねぇ。だが一つ、気掛かりな事は有るけどな?」

 

「気掛かり…?」

 

「ああ。話すだけ話してウヴァにはすぐ逃げられちまった。それはまあ良いとして…問題なのはその後だ。俺達も引き上げよう、って話になって町へ戻った。町の景色こそ何の変わりも無かったが…そっから今度は俺達が比柰ちゃんや会長───俺達の仲間な?彼らと連絡も取れなきゃ、探しても会えなくなった。」

 

「俺達が君らと出会ったのはその後だ。幸い俺と伊達さんは連絡が取れるから二手に別れて…伊達さんがヤミーと戦うクー・フーリンさんと合流。俺はその後も一人で探索を続けて、猫ヤミーとの戦場で藤丸くん達に出会った。」

 

「それって…!」

 

『つまり、この特異点に関して二つの仮説が挙げられるというワケだ。

一つ目。この特異点は幾つかのエリア分けがなされていて、互いに不干渉地帯と化している。或いは二つ目…彼等は特異点の外からやって来た。恐らく、連絡が取れないのはそのせいだろう…特異点の外と通信が遮断されるケースなら、我々もこれまでの旅路で嫌と言う程経験している。……ただ、特異点外から内部へ迷い込むなんて事象についてはなー…藤丸くんが出会ったという例外─────幾つもの世界を転々とする宮本武蔵、彼女を除いて例の無い現象だ。』

 

むむむ、と小さく唸るダヴィンチちゃん。

新たな事実に一同が驚きを浮かべる中、彼女は言葉を続ける。

 

『さて、我々はこの特異点の核心に近付きつつある。その一方、情報が交錯して混乱しているのも確かだ。それを整理する意味でも────そろそろ仮説の一つや二つ、話したって罰は当たらないと思うぜ?ホームズ。』

 

『……別に私は自分の趣味嗜好で話をしていない訳では無いのだが…。まあ、ここまで来たらやむを得ないか。』

 

彼女の言葉を引き継ぐ、映司達は初めて耳にする声。しかし、彼女が口にした名前から声の主はホームズと呼ばれた男である事に違いない。その名を前に、三人は揃って目を見開いた。

 

「ほ、ホームズってあの、シャーロック・ホームズ!?世界的に有名な探偵の!?」

 

「ほ、本物!?マジで!?あの八つ墓村とか、犬神家の!?」

 

「伊達さんそれ金田一耕助です。だが…シャーロック・ホームズは架空の人物だと思っていたが…?」

 

『ハッハッハ、これ程までに驚いて貰えるとは…光栄だ。初めまして。ミスター映司、ミスター伊達、そしてミスター後藤。自己紹介は必要無さそうだが…一応、私は君達の言うそのホームズさ。世界最高の顧問探偵、あらゆる謎を解き明かす探偵達の祖。以後、お見知り置きを。』

 

三人の反応が気に入ったのか、通信越しに笑うホームズ。

対して、普段の彼を知るカルデアメンバーといえば。

純粋に驚きと尊敬で目を輝かせる彼等を、何とも言えない表情で見詰めていた。

 

「気を付けなさいアンタら。そいつ、全部分かった上でイライラする程焦らしてくる変態よ。」

 

『ふむ、これは手厳しい評価だ…ミス・ジャンヌオルタ、初対面の人間に悪評を吹き込むのは勘弁して欲しい。』

 

笑い声が一転、"勘弁してくれ"と言わんばかりの声音に変わったが、オルタは表情を変えない。

通信の向こうから溜め息が漏れる。

 

『はぁ…まあ良いか。さて、ミスター後藤…私が架空の人物ではないか?という話については、今回はご想像にお任せしよう。───とはいえ、英霊とはそういうものだ。人々の記憶に刻まれ、語り継がれた英雄……実在したか否かに関わらず、"そういう話が確かに存在した"、その事実が我等の源になる。そうした事実が情報として英雄の座に刻まれ、登録されたその情報を元に例え架空の人物であっても召喚される事は有るさ。

それはその架空の人物そのものであったり、モデルとなった人物だったり。はたまた、その逸話に最も近しい条件を満たした"誰か"が、その架空の人物を殻に被って召喚される事も有る。』

 

気を取り直し、努めて真面目な声音で語るホームズ。

 

サーヴァント。ひいてはそのオリジナルである英霊とは、英雄の座に刻まれた情報が根底に存在する。

時間の概念を持たない座に、人々の間で語られた伝説、逸話が存在さえすれば、極論実在したかすら関係無い(・・・・・・・・・・・)。要は多くの人間に認知され、英霊という概念になり得るか否かが重要であり。逆に言えば…そうして条件を満たすだけの逸話であれば、例え生前の本物と異なる人物像であろうと、架空の存在であろうと何ら問題は無い。神話、伝説として語られた英雄達は元より、比較的現代に近い者達も含めてそのルールが適用される。

 

それ故に、ジャック・ザ・リッパーは召喚されたクラスによって姿を変える。ついぞスコットランドヤードも正体を掴む事が出来なかったその殺人鬼には、様々な正体の憶測が付いて回ったから。

 

それ故に、ヴラド三世は人の英雄としても怪物としても召喚され得る。史実では紛れもない護国の英雄であるにも関わらず、『吸血鬼ドラキュラの正体』である彼の像が人々の間で確立してしまったから。

 

それ故に佐々木小次郎は、本人では無く名を借りた無銘の剣士が召喚された。生前一人で剣を振るい続け、燕を斬らんと身に付けた絶技も一度たりと果たし合いで披露する事の無かった侍は、その技量を『佐々木小次郎』の名を冠するに相応しいと認められたから。

 

『……そういうワケで、私が架空の人物なのか。はたまたモデルとなった別人なのか、どちらの可能性も有るのさ。無論、私はその答えを知っているが…生憎今披露すべき話では無い。

─────話を戻そう。この特異点、ミスター伊達とミスター後藤の体験は、その謎を解く大きな鍵と言える。私の見立てでは…恐らく、この特異点はまだ未完成だ。』

 

「未完成…?でもそれは、微小特異点で…放っておいても自然に消える可能性が有るって話だったし…当然じゃない?」

 

ホームズの言葉に美遊が首を傾げる。美遊のみならず、その場の全員が同じ反応を見せた。

 

『失礼、私の言葉選びが適切では無かったかな。ではこう考えると良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────この特異点、我々カルデアが観測したのは核となる部分に過ぎない。グリード達(コアメダル)がセルメダルを集めて力を増大させる様に…この特異点は未だ成長途中なのだ、とね。』

 




伊"達"さ"ん"の"!お"でん"!
ソ"ウ"ル"を"ひ"と"つ"に"!!お"い"し"いぞッ!!!

本当はガメル/アステリオスのステータスを書きたかったけど、途中で消えて心折れたのでまたの機会に…


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仮説と世界と仮面ライダー

ピグマリオン王「彫刻の娘を溺愛してたら本当に命が宿りました!好き!」
カンザキシロ王「溺愛してた妹が亡くなったけど、鏡の中の妹が命をくれました!好き!でも二十歳で消えちゃうのでお前ら戦え!」

秋葉原楽しい。ガラテアちゃん可愛い。




 

「成長途中?」

 

『そうとも。この特異点、これまで藤丸くんが旅して来た物との大きな違いは二つ有る。無論、未だ確証の無い私の推測に過ぎない…という点は頭の片隅に置いておいて欲しいがね。』

 

ホームズの言葉に、これまでの旅路を知らない映司ら三名とアタランテは勿論、カルデアからこの地を訪れたメンバーも首を傾げる。

そしてそれは現地の面々だけでは無く、通信の向こうに居るマシュも同じ疑問を抱いたらしい。彼女はおずおずと、控え目に問い掛けた。

 

『あの、ホームズさん…これまでの特異点との違い、というのは?恐れながら、これまで私達が攻略して来た特異点も、レイシフト時点では完成に至ってはいなかった筈では。』

 

『まあ、完成してたら我々の特異点攻略はより難易度が上がっていただろうからね…というか、下手をしたらレイシフト時点で既に詰み、だったんじゃないかな?』

 

マシュの意見にダヴィンチちゃんも同調。

そんな彼女らに、しかしホームズは諭す様に語り掛ける。

 

『いや、違う。そもそもマシュ、ダヴィンチ。君達の言う特異点の完成と、私の言う完成とでは前提条件が異なるのだよ。』

 

「まどろっこしいな。俺らにも分かる様に言っちゃくれんかね?」

 

ジト目で虚空を見上げながら、欠伸交じりに苦言を呈するランサー。

ホームズはといえば、そう言われるのも想定内とばかりに落ち着き払った声音を崩さない。

 

『今から説明するさ。そもそも、何をもって特異点の完成とするか。マシュの言う"完成"とは、特異点を成立させた聖杯の持ち主…その人物の宿願が達成され、本来とは異なる歴史が定着してしまう事を指す。そうなれば人類史に矛盾が生じ、人理は崩壊する───ゲーティアが取ろうとした手法は正しくそれだ。ここまでは良いかな?』

 

一度確認を挟み、立香ら全員が頷いた後。"よろしい"とホームズが話を再開する。

 

『対して、私の言う"特異点の完成"とは。そもそも、特異点そのものが成立した、という事実を指している。ミスター・映司、伊達、後藤…それにミス・アタランテの四名には申し訳無いが、後程解説するので話を続けさせて貰うよ。

────さて、今述べた四名以外…つまりこの地で出会った彼等以外は、これまでの戦いを思い出して欲しい。冬木、オルレアン、ローマ、オケアノス、ロンドン、アメリカ、エルサレム、バビロニア。それに新宿、アガルタ、その他諸々の微小特異点。規模の大小に差は有れど、その全てが"どの時代"の"どの場所"という形で既に成立していた筈だ。さながらグラフの様に、時代を示す縦の座標と場所を示す横の座標、その両方が固定され、特異点としてある程度の強度を有していた。』

 

「…言われてみりゃそうだな。だからこそ毎回其処へ飛んで、その範囲外に出る事なんぞそもそも必要無かったワケだ。」

 

『その通り。この特異点…そうだな。冬木の特異点Fに準えて、便宜上"特異点O"とでも呼ぼうか。これまでの微小特異点とこの特異点Oとの違いとして、そもそも成立した上で強度が小さかったのがこれまでの微小特異点だ。歴史の修復力に流され勝手に改善されるレベル…或いは手を加えて修正する必要こそ有れど、その強度は七つの特異点と比較して微弱なもの。特異点として完成しながら、それでも尚不安定だったからこそ、カルデアで観測した際にも揺らぎが見えた。……ボロボロの傷んだ小屋をイメージすると分かりやすいかもしれない。一応完成はしている。"特異点"という名の建造物として成り立ってはいるが…そもそもが脆い。だから人類史という名の嵐が、修復力という風を吹かせれば……』

 

「あっという間に吹き飛ばされて、崩れる。特異点観測で見られる揺らぎは、その風に吹かれて揺れている様…という事。」

 

『正解だ、レディ。美遊君の言う通り、それこそが通常の微小特異点。…だがこの特異点Oの場合、そもそも完全に成立すらしていない。先程述べたグラフの例で言えば、場所を示す横軸の座標は文字通りX…未確定なのさ。カルデアで我々が観測し、諸君らを送り出した座標はあくまでその一部に過ぎない。前提として、この特異点の反応が揺らいでいた理由が他とは異なるんだ。』

 

ホームズの解説に納得した表情の者半分、いまいち把握し切れていない者半分といった反応の一同。ランサーは納得した側だが、向かいの立香は未だ首を傾げている。

 

「えっと、ごめんなさい…つまり、どういう事?」

 

同じく理解が追い付いていないイリヤも、困った様に解説を求める。その瞳は潤み、一目でキャパオーバーなのが伝わってきた。

 

「私達は、"この特異点が辛うじて残っていると言っても過言ではない不安定さ"を持っている…そうダヴィンチから聞かされて来た。それは覚えてる?」

 

そんな彼女の頭をナチュラルに撫でながら、優しく美遊が諭す。本人同士は至って真面目だが、仮に黒髭でも居たら拝み始めそうな絵面だ。

実際アタランテに関しては、大真面目な表情を保ちながらも、よく見ると尻尾の先端がピクピクしてる。

隣の席は映司。彼は気付いてしまったが

─────敢えて見なかった事にした。

 

「うん…なんとか。」

 

「良かった。その不安定さは、他の微小特異点だと弱過ぎて安定してない…さっきのボロ小屋の話みたいな状況なのが原因。だけど今回に関しては、そもそも"特異点"って建物が組上がって無いの。どんどん規模を広げる為に、柱を次々立てていってる状態…建物の規模が随時更新されてる。だから、安定してない様に見えた。勿論それだけだと歴史の流れで消えてしまうから…本当に大事な大黒柱だけはしっかりと設置した。後はまあ、その柱の範疇だけは床も作ってるかもだけど…どっちにしろ、壁はまだ完成してない。そんな状態。」

 

「あ、そっか!じゃあ、カルデアで観測したのは…!」

 

『美遊君の言葉を借りれば、"特異点"という建物そのものでは無く、柱に囲まれた建設予定地に過ぎない…という事になるね。とっても小さくて弱い建物だと思ってたら、そもそも外側がまだ未完成だったというワケか。すっかり騙されたよ…!』

 

『その通り。それがこの特異点がこれまでと異なる一つ目の点。そしてもう一つ…この特異点が未だ成立しきっていない、揺らぎに満ちているからこその厄介な点。それは、この特異点Oの中に"正しい歴史"と"特異点として歪められた異なる歴史"が混在しているという点だ。より正確に言うのであれば、同じ座標に二つの町が存在している。』

 

美遊とダヴィンチちゃん、二人が纏めた言葉を肯定しつつ、次なる仮説を披露するホームズ。

 

『折角なので、先程の建築物の例えを続けるとしよう。本来の歴史が、何も建物の無い風景だとする。空、大地、何一つ遮るものの無い景色が正しい人類史だとして……特異点を生み出す事は、その土地に本来存在しない建築物を建ててしまう行為だと仮定して。建物の中は"歪められた歴史"という、本来と異なる空間が成立してしまう。

────結果、人類史という風景は本来と異なるものになる。』

 

「それじゃ不味いから、特異点って建物を撤去する作業が俺達のレイシフトっつーワケだな?」

 

「成程…言われてみれば、その通りかも。」

 

頷くカルデアの一同。

 

「…なあ後藤ちゃん。なんか、あの姉さんの尻尾ピクピクしてなかった?」

 

「……俺達には今の話、全部は分かりませんでしたからね。きっと何か思う所が有ったんでしょう。」

 

その端でヒソヒソ話をする伊達と後藤。アタランテに無言で睨まれ、二人はサッと視線を逸らした。

 

『通常の特異点がそれなら、この特異点の場合はどうか。柱だけが立っている状態、という先程の例えに合わせるなら…特異点という建物の中に有るべき空間と、正常な外の景色という空間が混在しているという事だ。壁が完成していないからね。』

 

 

「はい先生!するとどうなるんでしょうか!」

 

どう見てもアタランテからの視線をやり過ごす為にしか見えない、芝居がかった仕草で。けれど至極真っ当な疑問をぶつける伊達。

 

『するとどうなるか、それは諸君らが既に経験した様な現象が引き起こされるのさ。完成はしていないものの、特異点と化した町が君達の今居る場所。その外側には正常な町。その両者の違いは、当然特異点化した理由の事象が起きたか起きていないか…例えそれが小さな差で有っても……』

 

「だから!!勿体ぶらずに早く言いなさいよ!」

 

『……要は、その二つは異なる歴史を持つ、並行世界の様な状態になる。だから特異点外と中との連絡が途絶えた。普通の電話や通信機で異世界の壁を越えられる筈もない。

それに、同じ場所に居たのに会えなかった…という現象も、恐らくそのせいだ。その場所が完全な特異点だったのなら、或いは未だ特異点化の影響を受けていない場所なら話は違っただろうが。

────同じ場所へ向かったとしても、実際には違う町に居たみたいな話だよ。此処は特異点の様であり、その実並行世界が混在してるみたいな状態なんだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外からの陽射しが僅かに差し込むだけの、薄暗い屋敷の中で。熱波を纏った深紅の閃光が、太古の王者の力を持つ怪人へと襲い掛かる。

 

「振り切るぜッ!!」

 

手にしたエンジンブレードを、恐竜グリード目掛けて振り下ろす赤い仮面ライダー『アクセル』。斬撃というより重く叩き付けるかの如き苛烈な攻めを、しかし恐竜グリードは一歩後退するだけで躱す。

 

「─────!」

 

後退した先に待ち構えていたのは黒い仮面ライダー『オーガ』。

居合の様に構えた彼は片足を踏み込み、その手に握ったオーガストランザーの刃を眩い光が包み込む。王者の裁きを予感させる神々しいそれは、進化した生命体たるオルフェノクすら灰塵に帰す流体光子エネルギー『フォトンブラッド』の輝き。そしてその輝きは、単に剣へ纏われるに留まらず。本来のオーガストランザーの間合い、その先へ高濃度のフォトンブラッドで構成された刃を形作った。

 

「絶望がお前の……ゴールだぁぁぁ!」

 

「終わらせる…!」

 

一気に得物を振り抜かんとするオーガ。そしてアクセルもまた、最悪オーガの攻撃を食らう覚悟で強引にグリードへ追い討ちを掛ける。

あくまで彼等はシアンの仮面ライダーが召喚したコピー。それ故に可能となる一手、本来ならこれで詰みだ。

 

────けれど。

 

「………惜しい。全くもって惜しい話です。」

 

「なっ…!?」

 

オーガが居合いの構えから抜刀するまでの、一秒にも満たぬ僅かな間。恐竜グリードは即座に彼へと距離を詰め、剣を振り抜く直前の腕を抑え込み、強引に動きを止めさせた。

そして、間髪入れずに全身からメダルのエネルギーを放出。通常であれば、如何に贋作と言えどこの程度で止まる仮面ライダー達ではない。だが、振り下ろしたエンジンブレードを構え直す間も無く、強引に特攻を仕掛けたアクセルにとっては事情が異なる。

 

「チッ…」

 

「先ずは一人。」

 

動きを封じたオーガを蹴り飛ばし、威力を込めた魔力弾をアクセルへ放つ恐竜グリード。防御も回避も間に合わず、破壊のエネルギーを正面から受けたアクセルは消滅した。

 

「貴様…!」

 

「本当に惜しい。君達の能力だけで見れば、オリジナルの本人なら私にその刃を届かせられたかもしれません。」

 

蹴りを受け吹っ飛びながらも、寸での所で踏み留まったオーガ。すぐに体勢を整え攻めへと転じようとするも、彼もまた一手遅かった。

 

「フンッ!」

 

戦闘の中で破壊され、そこに転がっていただけの机の残骸。それをオーガ目掛けて放り、彼が再度の攻めへ移行する事を阻む。オーガもまた咄嗟にそれを払い除けたが、そのタイムラグは致命的。

 

「しかし所詮ホログラム。言葉こそ発していましたが、本物の"命"と比べて"欲望"が足りない─────君達の力は私には届きません。」

 

次の瞬間、オーガが目にしたのは。

無慈悲に爪を振り上げ、目と鼻の先へと迫った悪魔の姿だった。

 

 

 

 

 

 

「うーん、流石に厄介か。トライセラトプスやエラスモテリウムと戦った二人を選んだが、失敗とはね。」

 

生い茂る木々の中、大して落胆した様子も無く青年───海東大樹は手にした『ディエンドライバー』をくるくると回す。

勝敗が決した時点で即座に退散し、既に屋敷から充分な距離は取った。次はどうするか、懲りずにそんな事を考えていた矢先。

 

「……エラスモテリウムは恐竜じゃないだろ。ありゃ確か…」

 

「言われる迄もないよ、士。偉そうに蘊蓄を披露しようとするのは止めたまえ。僕はいつぞやのコショウの恨み、忘れてはいないからね。」

 

木々を掻き分け、海東の傍へ歩み寄る一人の青年。海東もまた彼の接近には気付いていたらしく、憮然とした表情で応える。

 

「そんなもん知るか。それを言うなら、俺はお前が余計な事して色々引っ掻き回した後始末させられた回数を忘れて無いからな。」

 

「それこそ僕の知った事じゃ無いさ。

───それで?君の方から僕を訪ねて来るなんて珍しいじゃないか。嬉しいよ、士。」

 

呆れ顔の青年『門矢士』に対し。膨れっ面から一転、不遜な笑みを浮かべる海東に、士の表情がより苦々しげなものへ変わる。

 

「お前に会いに来たワケじゃない。俺は俺なりに色々調べてたら、出先でまた余計な事してる知人を見付けて頭抱えてただけだ。」

 

心底嫌そうに言う士だが、海東には何処吹く風。寧ろ一層顔に喜色を滲ませた様にすら見える。

 

「僕はお宝が欲しいだけさ。それ以上でもそれ以下でも無い。君達みたいに、抑止力のお使い(・・・・・・・)なんて面倒な役割はゴメンだね。世界が滅ぶなら、お宝だけ全部僕に寄越して勝手に滅びたまえ。」

 

「別にそこに縛られてるワケじゃない。にしても…俺よりよっぽど"世界の破壊者"っぽい事言ってやがるな。お前、実は愛玩の獣(・・・・)のグルか何かか?」

 

「一緒にしないでくれたまえ。僕は人類悪も、人理焼却も空想の根にも全く興味は無い。だからと言って、抑止力側に立つつもりも無いってだけだ。」

 

『抑止力』─────またの名をカウンターガーディアン。

互いに優先順位の異なる『アラヤ』と『ガイア』の二種類が存在するが、双方共に"星の滅亡の回避"を目的とする、言わば地球に備わった安全機構(セーフティ)

人類の存続を脅かす物を排斥する機能である反面、例えそれがどれ程"万人を幸福にし満ち足りた世界を生み出す存在"で有ろうと、その先に待つ人類史が"完成された幸福"という停滞ならば容赦無く排除する。

実態を持たぬ彼等は、時にその時代に生きる人間を後押しし、時にサーヴァントの様な代行者を立て、時には自然現象として猛威を振るう。

 

即ち。太古から蘇った戦闘民族の虐殺遊戯も。目覚めた神が遣わす天使の断罪も。進化した一握りの人類が今を生きる人々を滅ぼすか"完成された生命体へ変える"という二択も。動物達の祖が争った末に目覚める世界の終わりも。過去幾多の種族を滅ぼした一族による人間の支配も。既に屍と化した者がもたらす"永遠(エターナル)"も。

 

─────世界を滅ぼす程の力すら備えた秘密結社。彼等の世界征服、そしてそれに伴う破壊行動も。

数多の並行世界で起きた、世界の破滅の予兆。それを回避するべく抑止力がもたらした現代の英雄…それこそが『仮面ライダー』。

 

「……別段、後押しされてる感覚も、無理強いされてるつもりも無いけどな。」

 

「どっちにしろ、誰かに強制されるのは嫌いさ。抑止力が何だろうと、僕はあくまで僕の自由の為に動いてる。

……で?そんな話をしたくて来たワケじゃないんだろ?士、君の確かめたい事は分かったのかな?」

 

小さく鼻を鳴らし、オーロラの様な不思議な壁を出現させる海東。どうやらもうここには用は無いらしい。

 

「まあな。」

 

「そうか。それじゃ、精々僕の邪魔だけはしないでくれよ?また会おう、士。」

 

自分から聞いておいて、特段その内容には触れず。言うだけ言ってオーロラの中へと消えて行った海東を見送り、士は溜め息を漏らす。

 

「いつも余計な事するのはお前の方だろうが……ったく。」

 

そんな彼の独り言に、応える者は誰も居なかった。

 

 




一応資料色々調べながら書いてるけど、独自解釈マシマシてんこ盛りフォームなので間違ってそうで怖い。型月ワールドは難しいぜ!
まあ最悪間違ってたら鳴滝さん呼んで全部ディケイドのせいにしてもらうの手が有る。(すっとぼけ)

追記:門矢士誤字ってました。本当に申し訳ない…!(修正済み)


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呪いと決着とトリックスター


アイドルイベント良いですね。みんな可愛い。
ミス・クレーンは想像以上にブッ飛んでた。
北都の気持ち悪いガチ恋勢ドルオタで耐性付いてなかったら即死してたのだわ。


 

「───しっかし、随分な大所帯になったな。」

 

「ま、俺らずっと二人だったからな。っと、後藤ちゃん妬くなよ?」

 

「妬きませんよ。俺を何だと思ってるんですか……。」

 

町を行く一行。メンバーは立香、映司、伊達、後藤、ジャンヌオルタとランサー。

 

「アタランテさん、そっちはどう?」

 

『問題ない。イリヤと美遊の周辺に特段敵らしき存在は見られないぞ。』

 

イリヤと美遊は別動隊として彼等を追う形を取り、町中では目立つアタランテは霊体化して彼女等と同行。

 

『魔術師殿。そろそろ映司殿の仰有って居た地点に到着します。今のところ敵影は見られませんな。』

 

「了解。ありがとハサン、注意して建物の周囲から索敵をお願い。」

 

『心得た。』

 

同じく目立つハサンだが、彼はアサシンの能力を活かし先行して一同の"目"としての役割を果たしている。

一行が向かうのは町外れの廃墟。ウヴァからの情報が正しい、というのが前提にはなるが…そこに居るかもしれないカザリを討伐する為だ。

 

「罠かもしれないけどね。グリードって連中、どいつもこいつも敵なんでしょ。」

 

「罠だとしても行く価値は有るよ。俺達を罠に嵌めてまで、ウヴァの奴が何を企んでるのか知れたら御の字だ。」

 

「時には危険を犯してでも、攻めに転じる必要が有る…という事だな。それに、その為の総力戦だ。」

 

映司と後藤の反論に、オルタは鼻を鳴らしつつも異は唱えない。そもそも彼女自身も別段この作戦に反対はしていない。他に状況を打破する選択肢が無い事は彼女も重々承知しているが故、一応可能性を挙げたに過ぎないのだから。

 

「そろそろだけど…。」

 

「─────皆様、お待ちしておりました。現状、周囲に特段異常は有りません。」

 

映司の案内に従い、それらしき建物が見えてきた辺りでハサンが合流する。元々廃墟という事も有り、そもそも人通りは皆無ではあるが。それを差し引いても周囲は静寂に包まれている。

 

「本当に居るの?冗談抜きで騙されただけなんじゃない?」

 

「……いや。グリードの気配は有る…!」

 

映司の瞳が紫に染まる。それこそ、彼の身に宿った力の一端を解き放ち、同胞(グリード)の存在を感知した証。その姿を渋い表情で見ていた伊達と後藤だったが、敢えて想いを口にする事は無かった。

 

「よし…行こう…!」

 

立香の号令に、一同が頷き。今まさに、廃墟へ乗り込もうとしたその時。

 

『─────!待つんだ!その建物から強大な魔力反応が……』

 

切羽詰まった声音のダヴィンチちゃん。しかしその警告が言い終わるより先に、凄まじい炸裂音と共に廃墟の壁が土煙を巻き上げながら吹き飛ぶ。

 

「「「変身!」」」

 

『タカ!トラ!バッタ!』

『タ・ト・バ!タトバ!タ・ト・バ!』

 

即座に異常を察し、変身を遂げたオーズとバース、そしてプロトバースが最前線へ並び立ち。彼等の隣にランサーが、そしてすかさず立香を守る様にオルタとハサンが展開。

彼等が臨戦体勢を整えるのと、土煙が晴れそこに立つ人物の姿が露になるのは、ほぼ同時のタイミングだった。

 

「……ほぅ。君達がカザリくんの居場所を掴んでいたとは…些か想定外でした。」

 

姿を現したのは太古の王者。

紫のメダルに宿る力を解放した恐竜グリードが、その無機質な瞳を一行に向けた。

 

「ドクター…おひさ。アンタ、まだこんな事やってんのか。」

 

そんな彼を真っ直ぐに見据え、少しだけ寂しそうな声音で語り掛けるプロトバース。対する恐竜グリードはといえば、プロトバースを一瞥し、相変わらず抑揚の無い口調で応える。

 

「伊達くんに後藤くん…君達も来ていた事は知っていました。君達の事は正直嫌いでは無かった…ですが生憎、私の興味は君達には有りません。」

 

ただ純粋に事実のみを冷たく告げると、彼はその手に一枚のメダルを掲げて見せた。

 

「それ…カザリの!」

 

「少々計画に狂いが生じまして。カザリくんには退場して貰う事にしました…残念です。」

 

恐竜グリードが手にしたメダル、その色は黄色。それは正しく、カザリというグリードを構成する一部。

 

「じゃあカザリはもう……。」

 

「おや、彼を討伐しに来た君達がそれを言いますか?…まあ良いでしょう。残念ながら、取り逃がしてしまいまして。とはいえ、これを含め彼のメダルは粗方回収済み…最早彼は手負いの獅子ですら無い、弱った仔猫も同然。君達が倒してくれるのなら、お譲りしても構いませんよ───無論、メダルは頂戴しますが。」

 

「舐めんな!!」

 

挑発する意図等毛頭無い、淡々と告げられる恐竜グリードの意思。だがそんな彼の言葉こそ、先に苦汁を飲まされたオルタには効果抜群だ。一気に沸点を通り越した彼女は周囲に炎を纏った剣を展開、恐竜グリード目掛けてそれらを放つ。

しかし恐竜グリードの方はそれらを全て叩き落とした。

 

「バカ!ったく、一人で突っ走って勝てる相手でもねぇだろ!」

 

「まあこうなった以上は仕方ねぇ!倒すにしろ逃げるにしろ、大人しく帰りますってワケにもいかないだろうしな!」

 

舌打ち混じりにオルタの援護へ回るランサーと、苦笑気味のプロトバース。

ランサーは恐竜グリードの側面へ回り込み、プロトバースは正面からバースバスターで狙撃。攻撃を防がれたオルタも止まる事無く、旗を片手に正面から突撃する。

 

「面倒な…。」

 

呆れた様に肩を竦めると、先ず正面のオルタとプロトバース目掛けて魔力弾を放つ恐竜グリード。それは問題無く両者に回避されるが、そのせいでオルタの進行もプロトバースの銃撃も僅かに止まる。そうして生まれたタイムラグの間に、側面から斬り込んでくるランサーの槍を突き出した拳で弾いて躱す。

だが相手はケルトが誇る最上級クラスの英雄、一度逸らされた程度でその槍が止まる事は無い。深紅の閃光と化す勢いで槍を引き戻すと、そのまま流れる様に次の一撃へと移行する。一発、二発、三発…神速が如き槍の連撃に、流石の恐竜グリードも守勢に回らざるを得ない。

 

「成程なァ!確かにテメェは強いが、そりゃ圧倒的なスペックに物言わせた制圧戦に限った話だ!技量や場数は足りてねぇ!!」

 

「ッ…!黙りなさい…!」

 

苛立った声音でランサーの指摘を切り捨てると、彼は全身からメダルのエネルギーを放出。その程度の悪足掻きで押し切られるランサーでは無いが、流石に手を止め後退を余儀無くされる。

その隙を突いてグリードは片手を地に翳し、周囲へ強烈な冷気を発生させた。

 

「何だと…!?」

 

たった一撃で、辺り一面が氷に包まれる程の冷気。オルタは咄嗟に炎を起こし、立香をそこから庇ったものの…。

 

「クソッ…!こんな、氷程度に…!」

 

「チッ!動きが…!」

 

「オルタちゃん!クー!」

 

マスターを優先し、自らの防御が疎かになっていたオルタは全身の殆どが氷漬けに。危険を察知し回避した筈のランサーすら、接近し過ぎていた為全ては避け切れず、下半身が氷に覆われている。

 

「先ず二人…!」

 

「───させない!」

 

『スキャニングチャージ!』

 

間髪入れずに一番近いランサーへ突撃する恐竜グリード、だが彼は自身目掛けて迫り来るオーズのキックを防ぐ為の停止を余儀無くされる。

 

「セイヤァーーー!!」

 

「無駄な事を!」

 

眼前に迫った必殺のライダーキックへ、紫の魔力を纏った拳を叩き込み相殺。オーズは吹き飛ばされたが、流石の勢いに恐竜グリードも鑪を踏んで後退る。

 

「俺らの事、忘れて貰っちゃ困るぜ!」

 

「準備は整った!」

 

『『ブレストキャノン!!』』

 

恐竜グリードが体勢を整え直すより早く響き渡る機械音声。

立香を庇う様に並び立つ二人のバースが、胸部に展開したブレストキャノンへエネルギーを集約させ恐竜グリードへと狙いを定める。

 

「「────ブレストキャノン、シュート!」」

 

『『セルバースト!!』』

 

凍り付いた地面を溶かさんとばかりの勢いで放たれる、セルメダルから抽出した凄まじい熱量。それでもグリードは、解放した無の欲望を以て二発同時に受け止める。

 

「ぐ……!」

 

だが。この立て続けに撃ち込まれる必殺技を前には、流石の彼も苦悶の声を漏らした。

万全の状態で在ればグリードすら容易く葬る彼に、本来バースの必殺技では届かないのが道理。だがこの場に居るのはバースのみならず、そして今の彼は万全では無い。それでも耐え凌ぐ勢いの彼は確かに強い。

けれど───────

 

『スキャニングチャージ!!』

 

「なッ…!?」

 

「俺達はまだ終わってない!セイヤァァァ!!!!」

 

弾き飛ばされたダメージに声音を荒くしつつも、セルメダルを装填したメダジャリバーを振り下ろすオーズ。

空間すら切り裂く必殺の一閃。完全に虚を突かれ、セルバーストの直撃を凌いでいる恐竜グリードにそれを防ぎ切る事は敵わず、遂にその身が吹き飛ばされる。

 

「がっ…!?馬鹿、な…!」

 

『効いてます!敵勢力、大幅に魔力の減少を確認!』

 

肩で息をしながらも、未だ起き上がり戦闘続行の意思を示す恐竜グリード。だが、マシュからの通信を聞く迄も無く、その身は既に限界を感じさせる程ボロボロで。この特異点で出会って初めて見せた、最強のグリードが追い込まれる状況。それでも一人として、気を緩める者はこの場に居ない。

 

「揃いも揃って小癪な真似を…!私が、この程度で…!」

 

苛立ちを籠めて吐き捨てながら、周囲の敵を一掃すべく全身からメダルの力を噴き出させる恐竜グリード。

 

"────ああ、そうだろうとも。汝がこの程度で止まらぬ事は、他ならぬ私がよく知っている。"

 

だが、その胴を貫く一筋の光。数秒遅れて彼は、その正体が自らを穿った神速の矢であったと気付く。

 

「これ…は…!」

 

貫かれた腹部を抑えつつ、恐竜グリードは攻撃された方向へ視線を向ける。だがそちらには聳え立つビル郡が見えるだけ…敵影は一切彼の視線に入らない。

 

「アタランテ殿の狙撃だ。貴様が踏み躙った誇りを取り戻すべく、此処まで機を狙っていた…かの麗人の強い覚悟には感服する他有るまい。」

 

「─────!」

 

「そして機を狙って居たのは私も同じ!如何に堅牢な肉体であろうと、魂は等しく飴細工同然

────眠れ。"妄想心音(ザバーニーヤ)"。」

 

あの真っ黒な目立つ装束を、一体何時から見失っていたのか───そんな疑問を抱くより早く、反射的に振り向いた恐竜グリードの胸に触れる異形の掌。

その手を敵が捉えるより早く引き戻したハサン。先のヤミーとの戦いでは不発に終わった彼の宝具だったが…今、彼の手には正しく心臓が握られていた。

 

「矢張り───貴様は真っ当な人間の肉体に、グリードの力を宿した者。グリード同様コアの一枚が残れば存在出来る…というワケでは無い。ならば!」

 

「それを潰して倒せるとでも?思い上がりも甚だしい…!」

 

ハサンが心臓を握り潰すより早く、恐竜グリードはメダルの力を全開に。

どれだけ優れた鎧も意味を成さない彼の宝具、その正体は呪殺。疑似心臓を作り出された以上、本来待つべき未来は"死"以外無い。

───だが恐竜グリードはメダルの力を限界まで解き放つ事で、呪いに抗う対魔力を高めつつ、より純粋なグリードへ近付き"人を罰するもの"であるこの宝具の効果を薄めて凌ぐ───屁理屈染みた強引過ぎる荒業で、必死に踏み留まっていた。

 

「こ、の…!」

 

「潰させは…しない…!消えなさい!」

 

形振り構わぬ抵抗を受け、手にした疑似心臓を潰せず苦戦するハサンへ、恐竜グリードは片手を向ける。一瞬の内に掌へ集まる魔力量は、ハサンを消し飛ばして余りある程のエネルギー。

 

 

 

「───令呪を以て命ずる!ジャンヌ・オルタ!この氷を溶かし尽くせ!」

 

「ハッ、上等よ!!」

 

凍土と化した戦場に火柱が上がる。それは全身に張り付いた氷を一瞬で打ち消し、そのままの勢いで周囲を呑み込む魔女の炎。

そうして味方すら巻き込む程の灼熱は、ランサーの半身を覆っていた氷塊も容易く消し去って。

 

「クーー!」

 

「─────任せな!」

 

強過ぎる熱に僅かに身を焦がしつつも、神速で恐竜グリードへ迫る光の御子。手にした呪槍が獲物を前に紅く輝き、太古の王の片腕を斬り落とした。

 

「ぬぅぅぅ!!」

 

「テメェの心臓が硬そうって事なんぞ、こっちはとっくに想定済みなんだよ!

────合わせな、嬢ちゃん!」

 

腕を落とされてなお緩む事の無い覇王の力。その力を纏った無事な方の腕で、ランサー目掛けて爪撃を放つ恐竜グリードだったが、その一撃が届くより早く。

 

「────クラスカード槍兵(ランサー)、"限定展開(インクルード)!"刺し穿つ(ゲイ)……」

 

恐竜グリードの死角から飛び出す小さな影。その正体はクー・フーリンの力の一端を纏った美遊。彼女の手にした(サファイア)は、大英雄の力を借り受け呪いの槍と化していた。

 

「その心臓、貰い受けるッ!!"刺し穿つ(ゲイ)…」

 

「「─────"死棘の槍(ボルク)"!!!」」

 

二人の槍兵(クー・フーリン)が放つ、因果逆転の槍。心臓を貫いたという結果を先に生み出し、確実にその刃を届かせる二本の呪槍は、悪性精霊(シャイタン)の呪いだけでは砕けなかった王の心臓を遂に打ち砕く。

 

「こんな…有り得、な…があああああああ!!??」

 

「────さよなら、ドクター。次会う時は、楽しく酒でも飲もうぜ…。」

 

「……お世話になりました。」

 

心臓を完全に破壊され、暴走したエネルギーで全身から火花を散らし。それでもなおメダルの力で堪えようとする彼に、二人のバースが静かに別れを告げる。

 

『セルバースト!!』

 

再度放たれた二発同時のブレストキャノン。その力は、軈て紫のメダルが持つ力───欲望を無に帰す性質を上回り、恐竜グリードの全身を覆い隠す程の大爆発を巻き起こした。

 

 

 

 

 

 

「終わったか…。」

 

激しい戦闘の後、その場に残ったのは先の戦いの残骸。

破壊されて見るも無惨な姿と化した戦場跡、その端───恐竜グリードが爆発した地点には、眩い光を放つ杯が一つ転がっていた。

 

「あれは…?」

 

『あれこそ、散々話に出てきた聖杯さ!みんな、本当にお疲れ様!後は藤丸君があれを回収すれば任務完了だね!』

 

「へー!これ、徳利型とか鍋型とかも有る?日本酒と、おでん入れられそうな形!」

 

「いや、流石にそれは無いでしょう……。」

 

各々が武装を解き、漸く一同に穏やかな空気が流れる。

興味津々に問う伊達に、呆れ顔で突っ込む伊達。

そんな彼等を見て笑いながら、映司は念話でアタランテへと呼び掛けた。

 

「アタランテさん、お疲れ様。あの時の矢、本当に助かっ…」

 

『────気を抜くなマスター!私もイリヤも奇襲を受けた!止め切れなかった仮面ライダー(・・・・・・)が、そちらに向かった!』

 

「え…?」

 

───直後。理解が追い付く間も無く、周囲に撃ち込まれる数発の銃撃。

直接彼等を狙ったものでは無かったが、正体不明の攻撃を受け全員が一気に周囲を警戒。

そうしてふと、今の一瞬で聖杯が消失していた事に気付く。

 

「あれ!?せ、聖杯!!どこ!?」

 

『落ち着いて!反応自体は消失してない…藤丸君のすぐ後ろだ!』

 

ダヴィンチちゃんからの通信に、全員が一斉に視線を向けた先。其処には─────

 

 

 

 

 

「やあ。お疲れ様…いや、本当に素晴らしい戦いだったよ。随分と無理しただろう…そんな君達に、お宝を持って帰る所までやらせるのは酷だと思ってね。」

 

片手に聖杯を持ち。対の手で奇妙な形状の銃をくるくると回して弄ぶ、一見爽やかな美青年。

 

「感謝したまえ。これは僕が、責任を持って預からせて貰うよ。」

 

青年───海東大樹は、朗らかな笑みを浮かべながら、至極当たり前といった様子で宣言した。

 

 

 

 

 





もやし「ええ…?」

※まだ普通に続きます。えっちゃんは可愛い。


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泥棒と復活と終わらぬ地獄

鴻上会長、スーパーヒーロー戦記でレジェンド出演は反則でしょ。





 

 

「────初めまして、かな?カルデアの諸君は言うに及ばず、火野映司…今の君とも未だ初対面だよね。」

 

手にしたネオディエンドライバーを躊躇無く立香に突き付け、手にした聖杯を興味深そうに眺めつつ海東は告げる。

 

「今の…俺?」

 

「こっちの話さ。君にとっては未来の話かな?ま、今の君があの未来に直接繋がるかは知らないけど。そんな事より……へぇ、コイツはスゴい!聖杯の中に紫のメダルまで入ってる!あのグリード君からドロップしたお陰で、一気に両方手に入った!」

 

困惑する映司、そして臨戦体勢に入った一同を無視し。海東は聖杯の内を覗き込み、やや興奮気味にそれを軽く振る。チャリン!と金属同士が小気味良く触れ合う音からして、彼の言う通りあの中には恐竜グリードのコアメダルが入っているのだろう。

 

「……それを渡して下さい。そのメダルは危険だし、聖杯も立香君達の物だ。」

 

「嫌だね。それを決めるのは君達じゃない、お宝は僕が貰う。これは決定事項だよ。」

 

ドライバーを腰に装着し、有無を言わさぬ圧を込めて映司は告げる。だが相手は涼しげな顔でそれを拒否、器用に聖杯を手にしたままディエンドライバーへ一枚のカードを差し込んだ。

 

「手負いとはいえ、君達とやり合うのは得策じゃない…というか、僕はそこまで暇じゃないんだ。ここらでお暇させて貰うよ。」

 

差し込んだカードは『インビジブル』。後は引き金を引き、さっさとトンズラして終わり─────そう踏んでいた海東だったが。

 

 

 

「そんな事させ──────泥棒さん後ろ!!」

 

『弱いがサーヴァントの反応!この霊基パターンはカザリだ!』

 

 

───映司の瞳が紫に輝いたのとほぼ同時。ホームズから切羽詰まった通信が届くのと、海東が背後に危険を察知したのは殆ど同じタイミングだった。

 

「ガッ……!?な、んだって…!?」

 

弾き飛ばされ、咄嗟に受身を取りつつ呻く海東。その手から転がり落ちた聖杯は、コロコロと地面を転がって行く。

それを拾い上げたのは紅顔の美少年───全身から血を垂れ流し、傷だらけになったアレキサンダー(カザリ)

 

「カザリ…!お前……ッ!」

 

「御苦労様、オーズ。アイツが突然襲って来た時には流石にヤバいと思ったけど…こうなった以上、ボクの勝ちだ!これでボクは完全に成れる…もうこんな、常に満たされないメダルの塊じゃ無くなるんだ!」

 

アレキサンダーの顔のまま凶悪な笑みを浮かべ、聖杯を掲げるカザリ。

勝敗は決したかに思われた─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

恐竜グリードとの決戦。その最中、オーズとバース、そしてプロトバースの連続攻撃を受けて生じた隙を見計らい、アタランテが恐竜グリード目掛けて渾身の一射を叩き込んだ直後。

 

「……よし。真木は出て来たものの、それは想定の範囲内。計画通り、ハサンが宝具を使用した…戦況を見守りつつ、必要に応じて再度援護射撃を行う。イリヤ、汝の張った結界のお陰で此方の位置も割れては居ない筈だ。」

 

『大丈夫ですかイリヤさん?イリヤさんはこういうサポートより、自分でブッ放つ方が好きなボンバー系魔法少女ですけど…フラストレーション貯まってません?』

 

「無いから!?ルビー、アタランテさんに変な事吹き込まないでくれない!?」

 

『落ち着いて下さいよイリヤさ~ん。あんまり大きい声出すと、アイツにここバレますよ?』

 

「流石にこの距離ならバレないと思…って、そもそもルビーのせいでしょ!?」

 

今まさに最終決戦と呼んでも過言では無い状況、その中にあっても平時と変わらぬルビーのボケ倒しにイリヤは翻弄される。

そんな彼女らを見てアタランテは肩を竦めた。

 

「汝ら…あまり気を抜くな。いざとなれば我々も前線に────何だ!?」

 

イリヤとルビーの背後に表れた、空間の歪みとしか言い様の無い現象。オーロラ(・・・・)の如く歪む空間を目にしてアタランテは一気に臨戦状態に入り、僅かに遅れて気付いたイリヤも構えを取る。

何も無い空間に生まれた歪みは軈て人影を映し出し、段々とその影が濃くなっていけば。

 

「よっ、と…間に合ったみたいだね。」

 

歪みの中から姿を現す、シアンに染まった奇妙な銃を手にした一人の青年。彼はイリヤとアタランテには目もくれず、飄々とした雰囲気で周囲を見渡している。

 

「ひ、人が…オーロラの中から!?」

 

『オーロラって言うか、水面の波紋にも見える変な現象でしたねぇ。最新式の転移魔術?このルビーちゃんをもってして、全く解析出来ません…ホント何なんですかアレ。』

 

地上の戦況にも注意を配りつつ、警戒しながら言葉を交わすイリヤとルビー。

そのやり取りが聞こえたのか、初めて青年はイリヤ達に視線を向けた。

 

「喋る杖?それに君の恥ずかしい格好は…。」

 

「この人いきなり失礼過ぎない!?恥ずかしい格好とか言われるの結構キツいんですけど!?」

 

「おっと、つい口が滑った。……成程、あの翁が作った魔法少女の杖(カレイドステッキ)。こんな所にも思わぬお宝が有ったとはね。」

 

『悪びれる素振りすら無いですこのイケメン。顔面偏差値が高ければ何しても許されると思ってるんでしょうか。自分の発言で人を傷付けたら謝る、常識ですよ?』

 

「お宝とはいえ杖ごときに説教されるとは心外だね。僕はただ、正直に……」

 

「止めて!!!それ以上言うのは止めて!!ルビーも特大ブーメランだし!もう何処から突っ込めば良いの!?」

 

青年が口を開く度、何気無い一言で余計なダメージを負うイリヤ。オマケにルビーはルビーで正論しか言ってないが、日頃の言動のせいで全て自分に返って来てる。結果、イリヤ一人では突っ込みが追い付かない。

 

「汝ら、ふざけている場合では無いぞ!男───貴様、何者だ?そのオーロラの様な力…通りすがりの仮面ライダーの仲間なのか?」

 

そんなイリヤの気苦労には内心理解を示しつつも、気を緩めて良い場面では無い。目の前の相手を何時でも射抜けるよう弓を構えながら、アタランテは低い声音で問い掛ける。

先程見た空間の歪み。あれは夢の世界で出会った青年が見せた力と同質のものに感じた。そしてその青年は、自らを"仮面ライダー"と名乗った…であれば。アタランテの推測が正しければ…目の前の彼もまた、あの青年や映司達と同じ──────。

 

「あれ、士に会ったの?なら話は早い。僕は…彼の仲間では無いよ。アイツは作戦の為に、とある海賊達の友情を踏みにじった…僕はそんなものに興味は無いが、一応僕もその被害者ではあるからね。」

 

「だが、関係者ではあるのだな?ならば汝は…」

 

「僕は彼を追う者。そして同時にトレジャーハンターさ。彼というお宝を追いながら、数多の世界のお宝を求めて旅をしている。」

 

「何の話してるのか全然分からないけど…」

 

『この人、その仮面ライダーさんに対してメンヘラ彼女みたいになってません?愛憎入り交じった的な。』

 

「───そこ、黙ろうか。悪いけど僕はお宝の為にここまで来たんだ。そろそろ行かないと…ね!」

 

イリヤとルビーの控え目な指摘に顔を顰めつつ、青年は突如彼女ら目掛け手にした銃を発泡する。

問答の最中、目にも止まらぬ早撃ちで完全に不意を突かれたイリヤとアタランテ。避ける間も無く食らった銃撃のダメージ自体はそこまで大きくは無かったものの、その痛みが彼女らの反応を僅かに遅れさせた。

 

「僕の名は海東大樹…仮面ライダーディエンドさ。覚えておきたまえ!」

 

そうして生じた隙に、青年は流れる様な動作でカードを銃身へ滑り込ませ、そのままの勢いで先端部分をスライドさせる。

 

「変身!」

 

『カメン・ライド!ディエンド!』

 

引き金を引いたシアンカラーの銃(ネオディエンドライバー)の銃口から射出されるクレストが宙を舞い、同時に海東を囲む様に現れる三体の異形の姿。その異形の幻影が海東と重なり合うと、クレストはプレートへ姿を変えて彼の頭部に突き刺さった。

現れた異形の戦士・仮面ライダーディエンド。シアンを基調にした、オーズやバースとは異なる仮面ライダー。

ならばオーズと同等以上の力を備えている筈、その推測の基にアタランテは迷い無く矢を放つ。

 

「おっと!」

 

咄嗟の反撃を寸での所で躱し、ディエンドは新たなカードをドライバーに差し込む。銃身を勢い良く振り再び先端をスライドさせ、即座に銃口を二人へ向けた。

 

『カメン・ライド!ライオトルーパーズ!』

 

銃口から射出されたのは実体を持たぬホログラム。

虚像に過ぎぬそれらは、一瞬の後に実体を持った新たな戦士へと変貌した。

 

「何だ…!?こいつらも、仮面ライダー…?」

 

「じゃあこの人、他の仮面ライダーを呼べるって事!?」

 

まさしく全身を覆う鎧、としか形容出来ぬ姿をした三人の戦士達がアタランテとイリヤへ襲い掛かる。

鎧の戦士達───ライオトルーパーは、各々が手にした剣を振るい、イリヤとアタランテを分断する戦法を選んだ。

 

「もう!皆が戦ってるのをサポートしなきゃいけないのに!邪魔しないで!───"斬撃(シュナイデン)"!!」

 

迫り来る刃を躱して、カウンターの要領でイリヤが放った魔力の刃。見た目に違わぬ堅牢な鎧なのか、この一撃で装甲が破損した様子は見られない…然し鎧は無事でも纏う者が耐えられるかは話が違う。がら空きの胴に撃ち込まれた攻撃に、ライオトルーパーの一人は容易く吹き飛ばされた。

 

「…?もしや、こいつら…。」

 

ライオトルーパーが纏う装甲は、オーズや目の前のディエンドと比較しかなりシンプルな構造だ。どちらかと言えばバースのそれに近い近代的な武装。彼等との違いと言えば、バース以上に特筆すべき装備らしい物を身に付けていない…本当に"鎧"としての機能以上のものを排除している───外見からの判断でしか無いが、アタランテはそう判断を下す。

だがそれ以上にアタランテが気になったのは、相手の戦闘能力の低さだ。こうして思考を巡らせながらも、彼等の反撃を捌くのは容易い。先の斬撃でイリヤにあっけなく吹っ飛ばされた個体もそうだった…あれがオーズ達なら、あそこまで簡単にはいかなかっただろう。

 

考えられる可能性は二つ。同じ装備を身に付けたライダーが三人同時に呼ばれたという事は、一人一人の性能より数で制圧するタイプの量産型という事。

或いは、(ディエンド)の呼び出すライダーはそれ程強くない可能性───どちらにせよ、オーズやグリード達を相手取るよりは断然弱い。

 

「ならば!」

 

弓兵としての技量ではなく、獣の身体能力をフルに稼動しアタランテは一番近くのトルーパーへ掴み掛かり───そのまま、残る一人へと背負い投げで叩き付ける。金属同士がぶつかる盛大な音を鳴らしながら、二体がバランスを崩したその隙に。

 

「イリヤ!」

 

「うん!クラスカード、限定…」

 

目の前の敵を一網打尽にすべく、イリヤが切札を切ろうとした刹那───直感的な何かを察知し、即座に攻撃を中断。ライオトルーパー達を飛び越え、アタランテを守る様に彼女の前に立つ。

 

「イリヤ!?何を……」

 

「─────ごめん、向こうは終わったみたいだ。君達は大人しくしていたまえ。」

 

目の前の戦闘に然したる興味も持たず、悠然とカードをネオディエンドライバーへと挿入したディエンドは、そのまま躊躇無くイリヤ、アタランテ、そしてライオトルーパー達に銃口を向けると。

 

『アタック・ライド!』

 

「───ルビー!物理保護、早く!」

 

 

 

「じゃあね。」

 

『─────ブラスト!』

 

 

ネオディエンドライバーから射出されるプレート型のエネルギー弾。本来銃弾が取るべき直線的な軌道を無視して撃ち込まれる砲撃の嵐は、咄嗟にイリヤが展開した物理保護の障壁を容赦無く攻め立てる。

それは地に伏したライオトルーパー達をも平然と巻き込み、漸く砲弾が止んだ時にはディエンドもライオトルーパーもその場に残っては居なかった。

 

『まんまと…逃げられましたねぇ。』

 

「クソッ……奴の言葉を信じれば、あのライダーは恐らくマスター達を狙う!─────マスター!聞こえるか!」

 

忌々しげに顔を歪めながら、即座に映司へ念話を送るアタランテ。正直、間に合うかどうかは賭けだろう。

 

「でも、あの人は何しに来たんだろう。お宝とか言ってたけど……」

 

「────この状況で宝と言えば、十中八九聖杯かメダルだろ。全く…あいつ、余計な事しかしないのか?」

 

ぽつり、とイリヤが溢した疑問に答える、またも聞き覚えの無い声。

否、聞き覚えが無いのはイリヤとルビーだけ。反射的に声の方へと振り向いたアタランテは、その男の声と姿に覚えが有った。

そこに居たのは、ふてぶてしい態度を隠しもしない美青年。その姿こそ、夢の世界でアタランテと美遊が出会った彼に他ならない。

 

「汝は…!通りすがりの…」

 

「よう、また会ったな。だが今お喋りしてる時間は無いぞ?とっとと着いて来い。」

 

「だ、誰…!?ど、どういう事…?」

 

アタランテと違い、眼前の人物(通りすがりの仮面ライダー)を知らぬイリヤは状況が飲み込めない。困惑する彼女に呆れた様子で溜息して見せると、青年はマゼンタに染まったバックルを取り出し掲げて見せた。

 

「これ見せれば、俺の正体は大体分かったか?その話は後だ。

────真木は未だ死んじゃいない。この特異点も、まだ終わっちゃいないんだよ。急ぐぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでボクは完全に成れる…もうこんな、常に満たされないメダルの塊じゃ無くなるんだ!」

 

カザリが掲げた聖杯を起動する。片手に収まる程度の大きさにも関わらず、その杯が放つ神秘は絶大なもの。藤丸立香が歩んで来た旅路で幾度も目の当たりにしたものと、殆ど(・・)同じ。

 

「─────カザリさん!早くそれを捨てて!」

 

それは、カルデアの面々だけが気付く事が出来た僅かな差異。聖なる杯が纏う神々しい輝きに紛れ込んだ、一欠片の紫色(・・)

 

「ハァ?何を言って……」

 

それが彼の最後の言葉となった。カザリの魔力を注ぎ込まれて起動した聖杯は、その魔力を、存在をあっという間に限界まで吸い上げる。恐怖と苦悶に満ちた表情を浮かべながら、現界を保てなくなったアレキサンダーは魔力の塵となって消滅。悲鳴すらあげる間も無く、その場には輝き続ける聖杯と黄色のメダルだけが残された。

 

「オイオイ…冗談キツいぜ…!」

 

「そんな…まさか…!」

 

聖杯が内包した圧倒的な魔力の輝きは、軈てその光を黄金から禍々しい紫へと変貌させる。

ソレ(・・)が一際大きな紫の光を放った後。

 

「………さて。多少の想定外は有りましたが。これでカザリ君のメダルも残るは一枚。火野君、君の持つ一枚です。そろそろ…君達にもご退場願いましょうか。」

 

カザリのメダルをも取り込み、再び顕現した太古の王。その無機質な瞳が、妖しげな光を灯した。

 

 

 







ヨホホイ、ヨホホイ、ヨホホイホイ♪ところで士~♪ナマコは食べられるようになったのかな?ヨホホイ!
ド派手な奴等は10周年おめでとうございます。去年お友達型AIと心を通わせた某社長が、同じ声の海賊に犬型ペットロボ全部盗まれて絶望するシーンは見所ですね(ド畜生)


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乱入と敗走と混沌の極み

 

人はその生を全うするまで何者でも無い。

終わって初めて、人として完成する。

 

けれど、悲しいかな。

人は変わってしまうものだ。

 

生まれたばかりの無垢な命は、何色にも染まっていない。白を通り越して無色透明───無限の可能性という『価値』に満ちているが故に、そのままでは『意味』を持たない。

人は、生まれ持った『価値』を存在する『意味』と引き換えにしていく中で、必ず『最も美しい瞬間』が存在する。残念な事に、その瞬間は人生の最後に訪れる訳では無い。物作りのように、最後には完成して終わりでは無いのだ。必ずその先に、醜く変貌する───蛇足とも呼べる地点が存在する。

そうして人として完成した時には、その人物の最も美しい瞬間など通り過ぎてしまっている。

人類の歩みはその繰り返しだ。

 

 

 

美しく優しかった姉が変わってしまったように。

 

 

 

ならば、私の目指す地点は決まっている。

人が人として美しいまま、その『意味』を完成させる。───即ち、世界の終末。

 

私は今度こそ(・・・・)、この世界を終わらせる。

それこそが人類の、最も幸福な未来なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

恐竜グリードの全身から噴き出す紫色のオーラ。

聖杯を内に取り込み、その絶大な力を更に高めたにも関わらず、彼は違和感を覚えて首を傾げる。

だが、すぐに原因を理解したらしい。片手を軽く掲げれば、その掌の内側からカザリのライオンメダルが排出された。

 

「……如何に聖杯の力と言えど、流石に共存させるのは難しいですか。まあ良いでしょう…多少であれば、自在に取り込む事も取り出す事も出来る。紫のメダルの力を宿した器に、強引に他のコアを捩じ込める…それだけでも充分な価値が有りました。」

 

一人納得した様子で、恐竜グリードは眼前の面々を見据える。

 

『不味いよこれは…。一度は確かに消滅した筈なのに、今の彼の霊基(・・)ステータスは大英雄や神霊にも引けを取らない!消耗した今の君達が挑むのは無謀過ぎる!』

 

「オイ聞き間違えか!?神霊クラスの力で蘇ったってのもブッ飛んでるが、今"霊基"つったのか!?」

 

見据えられた先───カルデアと仮面ライダーの連合へ向け、焦燥に満ちた声音で響くダヴィンチちゃんからの通信。

しかしその絶望的な内容以上に、含まれていた不可解な単語にランサーは反応した。

 

『そうとも。先程君達が撃破したのは、確かに人をベースとしたグリードだった。しかしどういう訳か……いや、流石に出し惜しみしている場面では無いな。

推測だが、彼は聖杯に予め何らかの術式を仕掛けていた────そして恐らくそれは、自身が消滅した際にサーヴァントとして自分を召喚する(・・・・・・・・・・・・・・・・)というもの。』

 

「けど、英霊の座に登録されている筈が無いのに…そんな事…!」

 

「…いえ。青ロリ、100%出来ないって事は無いと思うわ。現に私という、存在し得ない英霊をジルは生み出したワケだし。」

 

ホームズの仮説に異を唱えた美遊を、恐竜グリードを睨み付けつつ静かに制するオルタ。既に限界を迎えながらも、彼女は油断無く旗の穂先を恐竜グリードへ向け身構えている。

 

『厳密には君のケースとは状況は異なる。恐らく、紫のコアメダルに宿ったグリードの力。それを核とすれば、神霊クラスの力自体は有り得なく無い。尤も……ここまでグリード達の力を目の当たりにした上で、まだまだコアメダルには謎が多い。その未知の可能性を考慮した上で"有り得なくはない"、というだけだ。驚嘆すべき事象には変わり無いがね。

それは兎も角。疑似サーヴァント達が現代人の肉体を依代に、本来召喚出来ない存在を顕現させているのと同じ…あのコアメダルが今の彼の器。そこへ、"恐竜グリード"…或いは"ドクター真木"の情報を埋め込み、一種の疑似サーヴァントとしたんだ。』

 

「そんな事出来るの!?」

 

『普通は無理だ。如何に彼が優れていようと、所詮は歴史に名を残した訳でも無い一般人。仮定の話、この特異点が出来る前から暴れていたヤミーやグリード達…そんな彼等が一種の都市伝説の様に、一般人の間で認知されていたとしても。それを考慮したって、結局の所は幻霊レベルの霊基数値を得られるかどうかが関の山だろうさ。

だが──────』

 

「長々とお喋りとは余裕ですね…それとも、潔く終わりを受け入れたという事でしょうか?それならそれで、私としては歓迎なのですが。」

 

ホームズからの通信を遮り、その場の全員を襲う強烈な冷気。躊躇無く放たれた絶対零度を迎え撃つべくオルタが前に出る。

 

「んなワケ…無いでしょッ!」

 

「おいドクター!俺らの事甘く見すぎじゃない!?」

 

『『ブレストキャノン!』』

 

既に満身創痍の身にありながら、オルタは壁となるべく炎を幕状に展開。

僅か数秒で押し込まれるそれは、しかし二人のバースが変身と武装の展開を完了させるだけの時間を稼ぎ出した。

 

 

「後藤ちゃん、踏ん張り所だぜ!」

 

「分かってます!ブレストキャノン・シュート!!」

 

『『セルバースト!』』

 

バース、そしてプロトバースが胸に携えた砲身から射出される絶大な熱量。それらが恐竜グリードの放つ冷気の力とぶつかり合い、容赦なく押し戻されていく。

 

「無駄な事を。大人しく受け入れた方が、余程容易く…」

 

「─────駄目!映司さん!!」

 

圧倒的な力の差を見せ付けながら、特に感慨もなく言い掛けた恐竜グリードの言葉は、最後まで告げられる事は無かった。

 

『プテラ!トリケラ!ティラノ!』

 

美遊の制止を振り切り、前線へと疾走する映司。

既に振り下ろしたオースキャナーが、読み取った三種の力の名を告げる。

 

「───ウォォォォォォォ!!!」

 

『プ・ト・ティラーノ・ザウルーゥス!』

 

オルタが張った炎の幕は恐竜グリードの放つ冷気に殆どを制圧されながらも、後ろに立つ者達への被害を軽減させるべく辛うじて維持されている。

その炎を真っ向から突き抜け、押し込まれつつあるセルバーストと並走し、軈てそれを追い越したオーズは恐竜グリードへとメダガブリューを振り下ろした。

対する恐竜グリードは攻撃を中断。遮る物が無くなった事で自身目掛けて飛来するセルバーストを片手で受け止めつつ、対の手でオーズの手元を叩いて迫り来る刃の軌道を逸らす。

 

「………!まだ、今の君では未だ足りない…!更なる高みへ…より大きな終末へ…!」

 

「止める…俺は、貴方を止める…!」

 

二人の王の目が妖しい紫の光を灯す。

恐竜グリードは受け止めていたセルバーストを容易く弾き飛ばし、即座にオーズへ手刀を繰り出した。

対するオーズはそれをメダガブリューで受け止め、鍔迫り合いの体勢へと持ち込む。

二人の太古の王者。彼等の力と力のぶつかり合いは、極寒の冷気と衝撃波という形で周囲へ降り注いだ。

 

「あのバカ…火野!一人で突っ込むな!」

 

「映司さん!止まって…お願い…!」

 

悲痛を滲ませた声音を張り上げながら、オーズを止めるべくバースと美遊が同時に駆け出す。

だが、その熾烈な衝突に割り込める者は一人として居ない。

当然、彼等の声もオーズ…映司には届かない。

 

「止める…倒す…!俺の力で…倒すッ!!」

 

限界などとうに越えたオーズを支えているのは、目の前の敵を倒す───その目的意識だけ。最早何時暴走した所で不思議ではない、臨界点ギリギリの状態。

 

「ウ……オオオオオオオオ!!!」

 

均衡を保っていた戦況に変化が生じる。

オーズは咆哮と共にメダガブリューを押し込み、恐竜グリードの体勢を崩す。僅かによろけながら鑪を踏んで後退した恐竜グリードへ、オーズはメダガブリューを振り上げて─────。

 

『アタック・ライド!クロックアップ!』

 

直後、気付けばオーズは後方へと弾き飛ばされていた。

限界を越えた先、いよいよその形状を維持出来なくなったオーズは変身解除──火野映司の姿を取り戻した彼は、そのまま意識を失って地に伏す。

 

誰も、何が起きたのか理解出来ない。

分かっているのは、気付いたらそこにいた仮面ライダー(・・・・・・・・・・・・・・・・)が何かを仕掛けたという事だけ。

 

全身を覆う深紅のアーマーは、極限まで無駄を削ぎ落としたその全身に陽の光を受け眩い輝きを放つ。

頭部に備わった一本角は、まるで自らが世界の中心だとでも主張するかの如く天を指し示していた。

 

「────生憎、火野映司をグリードにされる訳にはいかない。俺は世界の破壊者だが…全世界引っくるめた終末なんてものは勘弁だ。」

 

「……余計な真似を…!」

 

恐竜グリードが忌々しげに吐き捨てながら、突然の乱入者を睨め付ける。

この場で気付いていたのはランサーのみであったが、恐竜グリードが押し込まれたのはブラフ…オーズに追撃させ、そこへカウンターを仕掛けるのが狙いだった。

それを阻まれた恐竜グリードは不快感を込め、深紅の戦士へ問い掛ける。

 

「部外者が何の用です…そもそも、君は何者ですか。」

 

「────通りすがりの仮面ライダーだ。」

 

『カメン・ライド!』

 

状況を呑み込めず、ただ警戒は怠る事無く見守る周囲を他所に。深紅の戦士は腰に着けたマゼンタのバックルを開きカードを一枚挿入する。

 

『─────クウガ!』

 

戦士が再びバックルを操作すれば、その姿が一瞬の内に変化する。

先の姿同様赤を基調としながらも。深紅の複眼の上にはカブトムシの如き一本角では無く、クワガタムシを思わせる黄金の角が備わっていた。

 

「古の王には古の戦士…ってな!」

 

『ファイナルアタック・ライド!

ク・ク・ク・クウガ!』

 

赤き戦士は間髪入れずに次のカードを使用。

腰のバックルから脚先へと電流が迸り、その足裏に力が宿る。一度腰を落とした赤き戦士は、力を溜めて一気に跳躍───空中で前転し、そのまま恐竜グリードへと飛び蹴りを放った。

迎え撃つ恐竜グリードもまた、その拳に魔力を込めて全力で突き出す。激突する王と戦士の必殺技───これがもし、恐竜グリードの手元に聖杯からのバックアップが無ければ互角…或いは、僅差で赤い戦士の勝利だったかもしれない。

 

「……ですが、君もまた私には勝てない。力の差も理解出来ないのであれば、このまま一思いに滅びなさい…!」

 

「ちっ…こいつは、想像以上の……ぐっ!?」

 

結果は、恐竜グリードに軍配が上がる。彼は一気に拳を振り抜き、赤き戦士は押し返されて凄まじい勢いで宙を舞った。

完全なる力負け。必殺の一撃(マイティキック)を打ち破られ、赤き戦士は体勢を整える事すら出来ないまま落下していく──────ただし。

 

「────カルデアのマスター!ガンドを使え!」

 

勢い良く地面へ向かいながらも、咄嗟に立香へ指示を飛ばす戦士。

力と力のぶつかり合いでは負けた…だが。その先まで見越していたという意味では、彼は恐竜グリードより一枚上手だった。

 

「……!?は、はい!」

 

一つの大きな戦いを終え、落ち着く間も無く二転三転する戦況に着いて行くのが必死だった。けど、それでも彼は必死に食らい付いた。状況を見守り、常に思考を回転させ、必要な場面で必ず自分の役割を果たせる様に待った。

正直、何が何だか分からない事だらけだ。

 

 

 

「それでも──────!」

 

名も知らぬ戦士から、それも咄嗟に投げ掛けられた指示。普通なら理解するまでに時間を要し、理解して尚その指示を信じて良いものか迷い、動きは止まる。

けれど、彼は躊躇わなかった。

人指し指で恐竜グリードを真っ直ぐに指し示し、礼装に刻まれた"北欧の呪術(ガンド)"を起動。

弾丸の如く射出されたそれは、例え大英雄だろうと神霊であろうと、特殊な耐性を持たぬ限り必ず一瞬動きを止める代物。

戦場における一瞬は大きな力を持つ。故に本来、この魔術はその僅かな時間を掴み取る為のもの。

 

だが───赤い戦士を信じるという賭けに出た立香の判断は、それ以上の効果をもたらす。

 

「愚かな…その程────な、に?」

 

復活してから一切崩す事の無かった、紫の王の絶対的な優位。それが初めて僅かに揺らぎ、声音に動揺が滲む。

 

『これは…?いや、まだ今戦い続けるのは無謀に変わり無いんだけど、それでも敵の霊基ステータスが減少し始めてる!何で!?私、礼装のガンドにここまで強烈な効果持たせた覚えは無いんだけど!?』

 

「何、を…した…!?力が…!」

 

興奮と困惑が入り交じったダヴィンチちゃんからの通信。片膝を地に落とし、憎々しげに問う恐竜グリード。

 

「……免疫力下がってると、風邪も引きやすくなるだろ?つまりそういう事だ。」

 

その両方に答えたのは、いつの間にか回収したらしい映司を肩に担ぎ上げ、悠然と歩いて来る赤き戦士だ。

 

「クウガの力は元々封印のエネルギー。"戦士"って概念の無かった連中が、敵対する殺人部族に対処する為に生み出した力だ。ガンドとの相乗効果で、暫くお前は力を満足に発動出来ない。」

 

「……誰だか知らないけど、やるじゃない。このまま一気にブッ潰すわよ!」

 

「───!バカ、人の話は最後まで聞け!」

 

闘志を漲らせ、満身創痍の身体で駆け出そうとするオルタ。

だが、彼女が剣を抜くより早く恐竜グリードが片手を掲げて魔力弾を放つ。

ガンドと封印エネルギーを受けて尚、その火力は並みのサーヴァントならば容易く戦闘不能まで追い込み得るもの。

然しそれは別方向から放たれた雷撃によって相殺された。

 

「今度は何だ!?」

 

ランサーの問いに応える様に、オルタの前に立ち塞がるかの如く現れる影。

その全身はさながら禍々しい昆虫の怪物。彼の正体を知る後藤と伊達、そして美遊以外にも一目で彼がグリードだと分かる。

 

「ウヴァ君…やはり君は今回も、虫けららしくコソコソと潜んでいましたか。」

 

「……フン。」

 

侮蔑を込めた恐竜グリードの言葉にも動じず、一度だけそちらへ視線を向けるに留め。

彼は今にも自分を押し退けて駆け出さんとするオルタへ、呆れた様な声音を隠さず事実を告げる。

 

「今勇んだ所でアレには勝てんぞ。アレを倒すにはオーズの力が必要だ…違うか?」

 

「はぁ?何よアンタ、グリードでしょ?アンタもアイツも纏めてここでブッ叩く!それで全部解決よ!」

 

「ちっ…話の分からん女だ。これだからバーサーカーは…!」

 

「はい殺しまーす!誰がバーサーカーよ!?私は復讐者(アヴェンジャー)だっつーの!喧嘩売ってるなら今すぐ消し炭にしてやるわよこの昆虫野郎!!」

 

「─────遊んでる場合か!とにかく対策も無しにアイツに挑んだ所で無駄、それで充分だ!」

 

ぼそっ、と心底面倒臭そうに溢したウヴァと、額に青筋立てながらそれに噛み付くオルタ。状況を無視して今にも戦い始めそうな彼等へ、赤き戦士が怒号を飛ばした。

 

『確かに、仮に今勝てたとしても…メダルを破壊しない限り、聖杯を取り込んだ彼はまた復活するかもしれない。そこの赤い仮面ライダーが誰かは兎も角、その意見には賛成だ!藤丸君、皆を連れて撤退を!』

 

「それじゃ遅い!コイツで一旦引くぞ!」

 

ダヴィンチちゃんからの通信に頷き、一斉に撤退の体勢を整えようとした一同───それを制し、赤き戦士は片手を宙に翳す。

そうして彼等と恐竜グリードとを隔てる様に現れたのは、オーロラの如く揺らめく空間の歪み。

 

「な────」

 

戦士が片手を振り下ろすと、その歪みは彼等の方へと迫り始め。

 

「じゃあな。気乗りしないが、また後で会おう。」

 

 

 

空間の歪み(オーロラカーテン)にカルデア陣営の全員が呑み込まれると、その場には忌々しげに変身を解いた真木だけが残った。

 

 

 






『封印の力は一時的なもの。
本来グロンギと呼ばれる存在への対抗策に過ぎぬそれがグリードへ効力を発揮した理由は二つ。
一つ。サーヴァントの如き霊基を得た事で、神秘を帯びた概念に対して影響を受けやすくなっていた事。『恐竜グリード』としてだけなら未だ耐えられたかもしれないが、彼は復活の手筈を整える際『グリード』という概念そのものを霊基に取り入れた…霊基数値を高め、より強大な存在として再生するために。───結果、800年前に封印された逸話を弱点として抱えてしまった。皮肉にも、自らアキレス腱を増やしてしまったのだ。

そして二つ。こちらは単純にして、"そういうものだ"と飲み込んで欲しい。
───『世界の破壊者』、その世界のルールを壊す者が相手だったから。本来グロンギ用に生み出された力を、"太古の王には太古の戦士だ"なんて理屈で通してしまう…自由気儘な旅人を相手にした事が、真木清人の誤算だった。
───だが、既に賽は投げられた。重ねて言うが、封印の力は一時的なもの。世界の滅びまで、残された猶予はそう長くは無い……。』
※『■魔■■暦』と記された書物、そこから"不要なもの"として破り捨てられた1ページから抜粋



オーロラカーテン……オーロラ…ブリテン。
……うっ、頭が…。
光のコヤンスカヤも、闇のコヤンスカヤも、表も裏も全部受け止める!───オベロン!コヤンスカヤ!アーラシュトリニティだ!互いを想い合う絆の力で、どんな敵もブットバステラ!

海東?あいつは逃げたよ。


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歪みと真実と掴めなかった手

明けましておめでとうございます!仮面ライダーセイバー完結おめでとうございます!リバイスも面白いですね、エビルとライブの表裏一体ライダーが好き過ぎる…。
そして何より、オーズ新作に歓喜しました!キャストの皆さんがオリキャスでまた出演して下さるの嬉し過ぎ……いや老けてないにも程があるでしょ。ジオウの矢車さんといい、時間の流れおかしくない???
(更新して無かった間の話全部ぶち込むスタイル)



 

空間が歪む。

オーロラの様に揺らめくそれは突然現れた。

そして段々とその中に影が浮かび上がり。

 

最後には、その歪みの中から大勢の人間と一体のグリードが飛び出した。

 

「────うわっ!?ここ、は……。」

 

「拠点に戻って来たらしいな。マスター、身体に不調はねぇか?」

 

一瞬の内に廃工場事務所へ帰還した一同は、その出鱈目な現象を把握し切れず周囲を見渡している。

 

「大丈夫…俺は何とも無い。皆は?」

 

「少なくとも、今の妙なオーロラで霊基に異常受けたりはしてないわよ。どうせあんたらもでしょ?」

 

先の撤退が不満だったのか、少々機嫌悪そうに鼻を鳴らすオルタ。とはいえあの行動が最善だった、それは彼女自身理解している。故に大人しく手近な椅子へと腰掛け、他のサーヴァント達へも声を掛けた。

オルタの言葉に頷くランサー、ハサン、美遊。ただ美遊は不安げに赤い仮面ライダーが担いだ映司へと視線を向けており、何処か上の空だった。

 

「随分な物言いだな。やれやれ…助けてやったのに失礼な奴等だ。」

 

美遊の視線の先───緑色のグリード・ウヴァと並んで立ち、肩に気絶した映司を担いだ赤い仮面ライダー。彼は呆れた様に肩を竦めると、映司をソファへ寝かせ。

そうして腰に備え付けた、マゼンタのバックルからカードを引き抜く。

彼の全身を覆う異形の装甲が消え失せ、マゼンタのトイカメラを首に提げた美青年が姿を現した。

 

「あ、えっと、ごめんなさい!失礼な事言って!」

 

慌てて頭を下げる立香と、尊大に溜息を漏らす青年。

そんな彼等の間に、ハサンと苦笑浮かべた伊達が割り込んだ。

 

「貴殿の助力には感謝する。気分を害されたのであれば申し訳無い…しかしながら、我等は貴殿の正体も、どの様な力を用いるのかも知りませぬ。故に、警戒を怠れぬ事は何卒御容赦頂きたい。」

 

「そうそう。俺ら、アンタが何者なのか分かってねぇんだ。まして、ウヴァと一緒に居るんだし警戒もするだろ?」

 

ちら、と一瞬ウヴァへ視線を向ける伊達。対するウヴァは特段反応を見せず、伊達もまた直ぐに青年へ視線を戻し。

 

「だからさ、あんま藤丸ちゃんイジメるのは止めてくれねぇかい?」

 

伊達の諭す様な言葉に、青年は顔を顰めて見せた。

 

「人聞きの悪い事言うな。俺は意地の悪い事をしたつもりは毛頭無い。───大体、そんな話をしている暇も無いだろ?策は上手くいったが、持って数時間だ……そろそろ、この特異点を片付けにかからなきゃ間に合わないぞ。」

 

肩を竦めながら青年は寝かせた映司に近付き。

 

「とっとと起きろ。手伝ってやってる俺を差し置いて、いつまでもグースカと寝てんじゃない。」

 

頬に往復ビンタを食らわせ始める。

気付けのつもりだろうが、いきなりの事に周囲は呆気に取られて制止すら掛けられない。唯一人彼と行動を共にしていたウヴァのみ、止めるつもりは無いものの、流石に思う所はあったのか小さく目線を逸らした。

 

「や、やっと着いたぁ…。」

 

「貴様、私達を置き去りにして帰るとは聞いていなかったぞ…一体何を────いや、本当に何をしてる!?」

 

ぎぃ、と弱々しく扉を開きながら入って来るイリヤと、彼女を追い越し今にも青年へ掴み掛かる勢いのアタランテ。

そんな二人が目にしたのは真顔で映司の頬をペシン!ペシン!と勢い良く叩く青年と、うなされながら頬を腫れ上がらせた映司。特殊なプレイにすら見えるそんな光景にドン引きしつつ、アタランテは慌てて青年を引き剥がしに掛かるのだった。

 

 

 

 

 

「………ごめんね皆。俺がまた暴走したせいで迷惑掛けたみたいで…所で、何か頬に違和感有って喋りにくいんだけど、俺の顔変な事になってる?」

 

「気にするな…と言いたい所だが、マスター。いい加減自分の身を省みない戦い方は控えてくれ。あと頬は気にするな。」

 

気不味い顔を浮かべて頑なに視線を合わせないアタランテ。そんな自分のサーヴァントに首を傾げつつも、気を取り直して映司は青年へと向き直る。

 

「それと…助けてくれてありがとうございました。え、と…。」

 

「門矢士だ。礼は良い。あのままお前がやられてたら余計面倒な事になっていたから助けた、それだけの話だ。」

 

ソファへと腰掛け尊大にふんぞり返りながら、青年───門矢士はなんて事ないとばかりに素っ気なく返す。

 

『ふむ、その口振り。君はこの特異点について我々より情報を握っていると考えて構わないかな?我々にもその内容を開示して貰えると有り難いのだが…どうだろう。』

 

ホームズから通信が入る。その内容はこの場に居る全員の意思を代弁した内容であり。

 

『おっと、申し遅れた。私はシャーロック…』

 

「挨拶は良い、知ってるからな。そこに居るレオナルド・ダ・ヴィンチと…マシュ・キリエライトについても同様だ。俺はずっとお前達の旅路を見てきた。」

 

通信を遮り、なんて事ないとばかりに言い放たれてしまえば、沈黙が訪れるのも当然である。

 

『……何だって?』

 

「別に驚く事でも無いだろ、探偵。お前だってロマニ・アーキマンを警戒して表舞台には中々出てこなかった───だがカルデアや人類史の置かれた状況は理解していたからこそ、裏でコソコソやってきたんだろ?俺も似た様なモンだ。」

 

呆れた表情を浮かべて尊大に告げると、士はマゼンタに染まったバックル───ネオディケイドライバーを取り出して掲げて見せる。

 

「俺達仮面ライダーの力と歴史は、そもそも本来お前達の挑んだ聖杯探索とは無関係な事柄だ。魔術王を自称したビーストに利用された訳でも無い…下手に介入したら話が拗れて逆に面倒になる。だからこそ、俺や一部のライダー達は敢えて手を出さなかった。」

 

次に士が掲げて見せたのは、異形の戦士が描かれた数枚のカード。その中には先程彼自身が身に纏い、『クウガ』と呼んでいた姿もある。つまり…カードに描かれた異形こそ、仮面ライダーと呼ばれる存在なのだろう。

 

「───もっとも、殆どの連中はそもそも手出し云々の前に巻き込まれて消えたけどな?ライダーの力は強力だが、歴史ごと焼却させられちまったら対抗出来る奴は限られる…流石に幾ら強くても、舞台に上がれなきゃどうしようもないだろ。」

 

当然とばかりに彼が語った内容は、確かにその場の全員が納得出来る筋の通ったものだ。この特異点で目にしたオーズやバースの力を見れば、特異点で出会えていたのなら頼れる仲間になっただろう…だが、実際に出会う事は無かったし、これまで出会ってきた数多の英雄達を思い返せば、個の力が如何に優れていようがそれだけで解決出来る事件で無かったのも事実。

 

ただ裏を返せば、彼の物言いはそれすら引っくり返し得る者達も居るということ。仮面ライダーとは一体どれ程の存在なのか、思わず聞き入っていた一同は目を見開く。

 

「───だが今は、そんな話はどうでも良い。重要なのは俺達が出張らなきゃならなくなった状況だ。この特異点、その真相についての話をするべき。……違うか?ホームズ。」

 

虚空を、或いはその先のホームズを見据えているのか。険しい顔で問う士に、通信の向こうから息を飲む音が聞こえる。

暫し無言の後、やむを得ずといった声音でホームズが口を開いた。

 

『……了解した、ミスター士。君の言う事はもっともだ。私も、私の考え得る限り全ての推理をここで明かす。

────だが、私の推理が正しければ。あと一人、最後のピースにして最重要人物が足りていない。そして恐らく君は彼を連れて来ているね?』

 

「話が早いじゃないか。……そういうワケだ、そろそろお前にも出て来てもらうぞ。」

 

理解の追い付かない一同をスルーして、士の傍に再び例のオーロラ(オーロラカーテン)が出現する。

その波紋の奥から、ゆっくりと近付いて来る人影は人間らしい形。だがその輪郭がハッキリと見て取れる所まで近付いて来た時、伊達と後藤は────そして映司は。

 

 

 

「─────相変わらずボロボロだな、映司。お前…未だ懲りずにバカやってるみたいだな。」

 

オーロラの奥から姿を現したのは、猛禽を思わせる鋭い目付きと、鳥類の鶏冠の如き髪型が特徴的なガラの悪い男。

 

「アン……ク…?」

 

 

対峙する映司の表情からは、その内面を読み取れない。

ただその顔は心底驚いているようでも、歓喜しているようでもあって。

そして同時に。

 

「映司…さん…?」

 

「………やっぱりそうか。映司、お前。」

 

 

─────そんなに、俺と会うのが怖かったか?

 

 

喜びと、驚愕と、そして恐れ(・・)の入り交じった顔を浮かべている映司に対して。

酷く苛立ったように、アンクと呼ばれた男は告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンン!まさに破滅へと一直線!単なる破滅願望を持つ人間ならば、何時の世も一定数存在しますが。流石に破滅こそが美しいと語り、憎しみでも怒りでもない───純粋な願いとして、世界を滅ぼそうとする怪物はそう多くはおりますまい。」

 

 

暗い、暗い闇の中。美しき肉食獣は醜悪に嗤う。

 

憐憫の獣は"この星に生きる命には終わりがある、故に今のままでは無価値だ"と憐憫を抱いた。

カルデアは、"終わりがあるからこそ、今を懸命に生きる事が出来る"と諭した。

対して、あの男は"終わりこそが最も美しい。だから美しいままに終わらせる"と断じた。

なんという巡り合わせ。これが笑わずにいられるだろうか。

 

「────それが、貴様があの男に手を貸した理由か。だがリンボ…そこまでだ。我等の神を降臨する、その目的を差し置いてまで優先される事柄では無い。趣味の時間はそのくらいにしておきたまえ。」

 

「……おや?」

 

覚えのある声に振り返れば、そこには一人の神父の姿。無論よく知る相手、所謂同僚と呼べる男だ。

 

「これはこれは。拙僧に何か御用ですかな?」

 

「言葉通りの意味だとも。我等にはやるべき事が有る…下総国は異星の神の意向もあって放置していたが、流石にこれは遊びが過ぎるのではないかね?」

 

言葉こそ問い掛けの体を繕ってはいるが、実際のところは呆れ果てた様子で吐き捨てる神父。

けれど相対する肉食獣は、然して気にした様子も無く。まるで鼻歌でも奏でる様に、微笑みながら軽やかな口調でそれへ応える。

 

「…これは手厳しい。まあ御安心めされよ。拙僧はあの男へ少しばかり…ええ、ほーーーんの少しばかり!魔術と聖杯の知識、そして拙僧なりの知恵を授けたまで。既に彼の地は我が手中には無く、放棄せよと仰るのであれば受け入れますとも。」

 

「その割には随分と執心していたようだが?私とコヤンスカヤ君に仕事を押し付け、自身は地獄絵図が出来上がる様を鑑賞しているとは。」

 

「拙僧自身の手でどうこうしようという意思は無くとも、眺めて愉しむ分には申し分無い状況でしたので。───とはいえ、流石にそこまで言われてしまえば拙僧も居心地が悪いというもの。ンンン…やむを得ませぬ。汚名返上、拙僧も本来の勤めへ戻るとしましょうか。」

 

よよよ、と白々しくも嘆く振りをして見せ、肉食獣───アルターエゴ・リンボはその場を立ち去ろうとする。

 

「─────へぇ。そういう事か、この特異点……と言うか、特異点もどきの根底は君の暇潰しだったと言うワケだ。」

 

「おや?」

 

だがそこへ待ったをかける青年の声。異星の神の使徒二騎の前へ立ち塞がる仮面ライダーディエンドの姿。

招かれざる客の登場に、リンボは神父へ視線を向けた。

 

「言っておくが、私の手引きでは無い。私がどうこうするつもりも無い。リンボ、君自身の失態だ…煮るなり焼くなり、君が対応したまえ。」

 

それだけ告げると、神父は二人に目もくれず悠然と歩き去って行く。

ディエンドの方も彼には興味が無いのか、ただリンボだけを見詰めて動く気配は無い。

 

「やれやれ…好き放題言って退散されるとは。───それで?貴殿は拙僧に何か御用でも?聖杯、メダル…貴殿の為に用意したつもりは有りませんが、欲しければ好きに持って行かれると宜しいかと。」

 

「まあ、そのつもりだったけどね。結局失敗したし、腹いせに君にも屈辱を与えておこうかと。」

 

仮面の下で表情は見えないが、声音から憮然とした表情を浮かべているのは明らか。そんな眼前の異形に、リンボは呪符を携えながら高笑いした。

 

「フ、フハハハハ!!ンンッ、清々しいまでの八つ当たり!!!この芦屋道満、他人の恨みを買う事は数有れど…これ程までの理不尽な待遇は初めてですぞ!」

 

「なら良かったじゃないか。直接的な非は無いのに貶められ、裁かれる───君がよく他人にやる事だろう?」

 

ディエンドもまたその手にカードを持ち、対の手に握ったネオディエンドライバーの銃口をリンボへ向けて。

 

一瞬の後、辺りに銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺が…お前に会うのを怖がってた?何言ってるんだよアンク…お前、冗談言うタイプじゃないだろ?」

 

困った様に困惑した笑みを浮かべている映司。

けれど、対するアンクは鋭い目付きを崩さない。それどころか、あからさまに苛立ちを隠さず舌打ちする。

 

「チッ…バカもここまで来ると病気だな!いや、そもそも自分でも気付いて無いって事か。」

 

呆れた様子で吐き捨てられてしまえば、流石の映司も少し苛立った様に、アンクへ詰め寄る。

 

「黙って聞いてたら…アンク、お前何の根拠が有って!俺にも分かるように説明してくれよ!」

 

「なら聞くが映司─────お前、何で聖杯戦争を知ってる(・・・・・・・・・・・)!?」

 

だが詰め寄った映司は、逆にアンクに胸ぐらを掴まれ問い掛けられる。

そして突き付けられた問いに、彼は言葉を詰まらせた。

 

「……ッ!それ、は…復活したグリード達と…!」

 

「お前は戦っただけだろうが?そこの連中がやって来るまで、お前はガメルと戦い…そして町の連中の噂からメズールの事を知った!それだけだ!鴻上も、あの里中とか言う女も居ない。それどころか鴻上ファウンデーションも壊滅してた!伊達も後藤も居なかった!カザリも真木も、カルデアの連中と合流して初めて再会した!"復活したグリードの様子が普通じゃない"程度なら気付けたとしても……だ。

─────オーズドライバーを持つまで単なる一般人だったお前が、聖杯戦争なんて儀式やらサーヴァントの事やら知ってるのが、そもそも異常だって未だ気付かないのかこのバカがッ!!」

 

 

捲し立てる様なアンクの言葉に、傍らで聞いていたオルタは以前のやり取りを思い出す。

 

『それに…立香君と一緒に居る君達がサーヴァントだって言うなら、さっきの戦闘も納得出来る(・・・・・)。』

 

『もっとも、ここで起きてるのは真っ当な聖杯戦争何かじゃない。サーヴァントのクラスも滅茶苦茶、マスターも存在しない。』

 

『そう言えば、オルタちゃんの名前って…ジャンヌ・オルタだよね?確か…サーヴァントは同じ英霊を元にしても、別の側面が別のサーヴァントとして呼ばれる事があるんだよね。そういう感じ?』

 

そうだ。いずれの場面でも、彼女は映司がサーヴァントという存在を理解していると思い込んでいた。そしてそれは彼女に限った話では無い。後に合流したランサー達は勿論のこと、立香ら最初に彼と出会ったメンバーも同様だ。

"映司は何かしらの出来事を経て、聖杯戦争にまつわる知識を獲得した"────これまで特異点で遭遇したはぐれサーヴァント達がそうだったのと同じ…そう思い込んでいた。

だが冷静に考えてみれば、そんな事は有り得る筈が無いのだ。彼は魔術師でも、聖杯から知識を与えられるサーヴァントでも無いのだから。サーヴァントの霊基と融合したグリード達とは話が違う。

 

『………では、火野映司さん。彼が聖杯戦争の知識を獲得したのは一体何処で…。』

 

恐る恐る問い掛けるマシュ。するとそれまで黙っていた士は鼻を鳴らし、その手を頭上高くへと掲げる。

 

「そんなもの決まってる。聖杯から獲得した知識(・・・・・・・・・・)─────これが真相だ。」

 

彼がその手を振り下ろすと、事務所内全てがオーロラカーテンに包み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一面を氷と吹雪が覆い尽くす極寒の地。永久凍土を思わせる氷の大地を、獣の雄叫びを背に神父は歩く。

リンボとディエンドが対峙する空間を後にした神父が進むのは、未だカルデアが知り得てすらいない『失われた人類史』。獣国と化したロシアで、神父は一人不敵に嗤う。

 

「……これまでの三つの出来事。

一つ。死力を尽くした戦いの末、カルデアのマスターとサーヴァント達…そして仮面ライダー達は、紫のメダルを持つ真木を倒した。

二つ。そんな彼らの奮闘も虚しく真木は復活、門矢士という乱入者の助けを以て命からがら戦線離脱。

そして三つ。門矢士、ウヴァ…そして最後のグリード・アンクの登場により、彼等は───正しくは火野映司、彼は本人も気付かぬまま拒み続けてきた真実と…遂に向き合う事となった。」

 

誰に向けたものでも無い、単なる独り言。だが神父はそんな事に構わず、歩みを止めて瞼を閉じる。

 

「リンボにあれこれと苦言を呈したものの、私自身正直彼等の行く末に興味が無い訳では無い。己が空虚と向き合い、歪な在り方を受け入れ、それでも歩みを止める事は出来ない…そんな存在を前に、目を奪われたのも事実だ。」

 

それは、神父自身も知らぬ彼の性か。或いは彼の依代と成った(コトミネキレイ)に依るものか。一瞬抱いたその疑問を、彼はどうでも良いと即座に切り捨てた。

 

「……私の案内は此処までだ。この先の結末は、諸君ら自らが見届ける他無い。名残惜しいが、皇帝(ツァーリ)から呼び出しを受けてしまったものでね。」

 

そうして目を開き、神父は再び歩き出す。

もう彼が立ち止まる事は無かった。

 

 

 




ユーリさん、キエフ出身で聖剣でアヴァロンに居たとか型月適正高い。ニキチッチちゃんには膝枕して欲しい。


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掴んだ物と掴めなかった明日
分岐と結合と世界の終わり



サブタイがなんか黒棺の詠唱みたいになった。
推理パート入ります。



 

 

其処は、何処までも続く真っ白な空間。何を光源としているのかは分からないが、影も無くただ其処に立つ者達の姿だけが在る世界。

気付けばそんな世界へ飛ばされていた立香。彼が辺りを見渡すと、同じ様にオーロラカーテンに巻き込まれた者達が立っており安堵の息を漏らす。

 

「ふむ…此処は一体…?」

 

「───先輩!?えっと、私は一体…!?」

 

「マシュ!?ダヴィンチちゃん!それにホームズも!」

 

同時に視界へ映ったのは、遠く離れたカルデアに居る筈の三人の姿。

驚愕しながら立香は彼等の側へ駆け寄ると、恐る恐るマシュの頬を指でつついてみる。

 

「ひゃっ!?せ、先輩!?」

 

「あ、ごめんマシュ!驚いて、本物かと確かめようと…!」

 

その指先が触れたのは、紛れも無い後輩の柔らかな頬。驚きながら己の指先とマシュとを見比べていると、耳元へ届いた咳払いにより思考を遮られた。

 

「ん、んっ…感動の再会に水を差してすまない。だが、今は一刻を争う事態だからね。」

 

咳払いの主はホームズ。その隣ではダヴィンチちゃんが微笑ましいものを見る様に笑っていた。

 

『ほらほら、イリヤさんもこの機会にグイグイ行かれてはどうです~?ただでさえ今回イリヤさん、影薄いんですから…正統派ヒロインのマシュさんまで参戦して来たら、いよいよ出番無くなりますよ~?』

 

「……カレイドステッキ・ルビー嬢…とでも呼べば良いかね?今は真面目な話をする場面だ、茶々を入れるのは後にしてくれたまえ。レディ・イリヤスフィールもその辺にしておいて欲しい。」

 

「私まだ何も言ってないんですけど!?」

 

悲痛なイリヤの叫びをスルーし、ホームズは空間の中心に立つ男へ視線を向ける。

無論その男こそ、門矢士に他ならない。

 

「……さて。ではミスター士は約束を果たし、アンク君をこの場へ呼んでくれた。とくれば、次は私が自らの推理を披露する番と言うワケだ。それで構わないかな?」

 

「最初からそのつもりだ。俺はもうこの事件の大筋は大体分かってる。だが……お前の推理が合っていようが外れていようが、それを聞く事は無駄にはならないからな。」

 

「ほう。その心は?」

 

「元警官、元弁護士、そして元チーフコックとしての経験則だ。多角的な見方が時に物事の解決に役立つ。」

 

『この人良い顔で何言ってるんですかね?』

 

『姉さん、あまり茶々を入れないよう叱られたばかりですよ。』

 

ステッキ姉妹のひそひそ話を無視して、士はホームズを軽く顎で指す。それは"始めろ"というサインに他ならず、ホームズは苦笑混じりに口を開いた。

 

「では…。この事件は幾つもの事象が絡み合った結果、必要以上に複雑化してしまった。なので一つ一つ順番に解き明かしていくとしよう。先のミスター士の発言…火野映司君の事についても気になるだろうが、それは後回しだ。

────ミスター伊達。先ずは今回の黒幕、真木博士の目的からだ。彼の望みは"世界の終末"……人の生を美しいままに終わらせる、これで間違い無いかな?」

 

問われた伊達は険しい表情で頷き、傍らの映司と後藤もホームズを真っ直ぐに見据えた。

 

「結構。そしてその為に彼が以前用いたとされる手段は、グリード一体に全てのコアメダルを集めて暴走させる…と言うもの。確かにあれだけの絶大な力が一つに集まれば、世界を滅ぼし得る力と言うのも信憑性は充分だ。

─────だが。この計画、そして真木博士の人物像を聞いた時、私は一つの違和感を抱いた。これでは足りない(・・・・・・・・)、とね。」

 

「足りない…?ええと、それだけの壮大な計画をもってして、ですか…?」

 

ホームズの所感に、マシュは驚きよりも先に疑問を浮かべた。他の者達も同様の考えを抱いたものの、ホームズは落ち着き払って続きを述べる。

 

「そうとも。無論今回の事件が単純に過去の事象のやり直しというのならば、私もその様には考えない。…だが、今回は二つの前提条件がある。一つは彼の計画が一度仮面ライダーとアンク君の手により失敗に終わり、その事を真木博士が把握しているという事。

そしてもう一つ、彼が特異点や並行世界と言った魔術的知識…とりわけ、時空と歴史に関する事象を理解しているという事だ。彼の持つ知識がどの程度なのかは分からないが、そうでなければ今回の様な奇妙な特異点を作る筈が無い。実現可能かは別として、普通に微少特異点を成立させた方が手っ取り早いからね。」

 

「……すまない。俺は正直、魔術だの並行世界だの、そういった事柄に詳しいワケでは無い。だから端的に聞きたい…仮にその仮説が正しいとして、真木博士はこの特異点で何がしたいんだ?」

 

「安心したまえ後藤君、今のはホームズが悪い。あの説明で全部理解出来たであろう人物は、カルデア全体を見てもそう多くない筈だ。端的に言ってしまえば───ドクター・真木。彼の目的は、この特異点と本来の歴史…二つの並行世界を強引にドッキングしてしまう事さ。そうだろう、ホームズ?」

 

批判的な視線をホームズへ向けながら、ダヴィンチちゃんが彼の言葉を引き継ぐ。ホームズはと言えば、向けられた視線にサッと目を逸らしつつ、しかし彼女の言葉には首肯した。

 

「その通り。それが今回、ドクター真木が態々並行世界を作らなければならなかった理由。本来の特異点は過去の時代に干渉し、起こり得なかった歴史を生み出す行いだ。以前挙げた建物の例にしてみれば、正しい歴史という土地全てを建物で覆ってしまう様なもの。

無論、それでも並行世界自体は存在する。だがそれは言わば…川を挟んだ隣町の様な存在だ。特異点が歴史を変え、結果的に他の特異点へ影響を及ぼす事があったとしても…それこそゲーティアが特異点に変えた人理定礎でも無い限り、一つの特異点が他の並行世界を直接的に壊す事などそう起こらない筈だ。」

 

「確かに…確証は無いけど、そう言われたら何となく…。」

 

ホームズの仮説は、立香にも思い当たる節がある。

先の亜種特異点で共闘した宮本武蔵。とある特異点で出会った"死を視る"女性・両儀式。それに現状彼のサーヴァントである魔法少女達(イリヤ、ミユ、クロ)

式に関しては確証は無いが…少なくとも魔法少女の三人は、自分の居る世界と異なる世界からやって来た事が確定している。宮本武蔵に関しても、様々な並行世界を渡り歩いて来たと明言していた。下総国で敵対した妖術師…"天草四郎だったモノ"もまた、武蔵同様に世界を巡って来たと言っていた。

仮に特異点の存在が他の並行世界も破壊するのなら、彼女達がその影響を受けずに居たのは妙な話である。

 

「まあ、この仮説を実証する手段は無い。だから悪いが、この先の推理はこれが正しいという前提で話を進めさせてもらうよ。───この説に則れば、例え一つの世界を特異点化した所で他の並行世界に影響は無い…或いは有っても大した影響では無い。

ただゲーティアの人理焼却については…対象が人理定礎だったからこそ、一並行世界の歴史に留まらず、この星全ての歴史に牙を剥いた。人理定礎とは、例えどの様な並行世界となったとしても"この星の人類史"として基準になる地点だからだ。例え多少干渉した所で絶対に覆らないと決まった結末、だからこそ逆にそれを変える事が出来れば人類史は根底から崩壊する。……失礼、話が横道に逸れた。」

 

既に何名か知恵熱を出しそうな顔で唸っているのを見て、ホームズは一度言葉を打ち切る。

呆れた視線をダヴィンチちゃん、そして士から向けられた彼は困った様に苦笑した。

 

「すまない。兎に角一つの世界の中での出来事が、他の並行世界へ影響を与える事はそうそう無い…とだけ認識していてくれれば良いさ。

───しかし今回の特異点は別だ。何せ一つの世界の時間の流れの中に、半端な特異点もどきを作った…川を渡った隣町ではなく、一つの町の中に別の町を無理矢理作ってしまった。」

 

「町全体を特異点という建物に作り替えるならまだ良い。いや、良くは無いんだけど…まあ、特異点としては本来こうなるべきだ。けれど真木博士は意図的にこんな不出来な特異点を作って、強引に並行世界を成立させたのさ。」

 

『成程。伊達さんや後藤さんが後からこっちに入れたのは、そんな不完全な並行世界だからですね。その歪さ、不安定さ故に、この世界本来の住人である彼等は二つの世界の壁を越える事が出来た…と。』

 

『普通なら並行世界を越えるなんて所業、あのジジ…いえ、魔法レベルの大魔術に足を踏み入れる領域ですから。でも無理矢理拵えた世界の壁なら、僅かな綻びから侵入する事は難しくても不可能では無い!って事ですね~。』

 

どうやらその辺りの事情に詳しいカレイドステッキ達は理解出来たらしい。美遊も神妙な顔付きで頷いている。

 

「全部分かったとは言えないんだけどさ…何となくは把握したぜ。で、さっき言ってたドッキングって何?」

 

残るメンバーの理解は伊達が今口にしたのとほぼ同じ。

そしてそれはホームズにとっても想定内だったようで、待ってましたとばかりに口を開きかけ。

 

「それは「───物と物とがぶつかれば衝撃が生まれる。そしてその衝撃がデカイ程に余波も大きく回りに広がる。一度無理矢理分けた並行世界は、例え元々同じ歴史だったとしても最早別物だ。そいつを今度は無理にくっ付けようって話って事だ…お前は前置きが長いんだよ、探偵。」

 

士に遮られたホームズはやや不服そうに彼を見る。とは言え伝えようとした内容に違いは無かった。

例え元々一本道だったとしても、一度分岐した道路を再び合流させる様なもの。そこを走る"現在の時間"という車は、二車線から同時に合流してぶつかり合う…そうする事で、どちらの世界も大破するという事だ。

 

「この方法なら、本来の歴史と真木博士が作り上げた歴史の両方が壊れる───だけじゃない。衝突の余波で周りの時間軸にも大きく影響を及ぼす可能性は否定しきれない。」

 

「それじゃ、ホームズさんの仰っていた"足りない"というのは…!」

 

「そう。彼の性格上、悪意をもって今の世界を滅ぼせば満足…では無いと私は感じた。人類全てに美しい終わりを迎えさせる為には、無数に存在する他の並行世界をも巻き込むやり方が必要だったと言う事だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───以上が僕の推測だけど、どうだい?君が奴に吹き込んだのは大方そんな所だろう。」

 

『アタック・ライド!ブラスト!』

 

ネオディエンドライバー、その銃口から射出されるプレート型の弾幕。しかしリンボは顔色一つ変えず、その全てを結界で防ぎ切る。

 

「ンンン!見事、実にお見事!いやはや…ここでシラを切るのは簡単ですが、貴殿の名推理に敬意を評して正直に申し上げましょう!───その通り!」

 

銃撃の嵐を凌いだリンボは攻めへと転じる。手にした呪符をディエンド目掛け投げつけ、起爆。それを後方へ飛んで躱すディエンドへ、畳み掛けるべく次なる呪符を飛ばした。

 

「君が"正直"なんて言葉を使うと背筋がゾワゾワする。柄でも無い事を───チッ!?」

 

ディエンドの言葉を遮ったのは、呪符が変化した巨大な鎧武者の斬撃。更に追い討ちを掛けるように、リンボは高らかに嗤いながら二体の鎧武者をディエンドへ差し向ける。

 

「フハハハハ!柄でも、何ですって?」

 

「式神か!」

 

悪辣な笑みを浮かべたリンボの問いを無視し、斬撃の合間を縫うようにスライディングするディエンド。そうして式神の密集地帯を脱しつつ、最も手近な式神へ銃撃を撃ち込んだ。

銃弾に武者が怯んだ刹那、即座にディエンドライバーへカードを装填。間髪入れずに助っ人を召喚する。

 

『カメン・ライド!カブキ!キバ!スカル!』

 

赤と緑の二色で縁取られた鬼が、さながら歌舞伎役者な見栄を切るかの如き所作で鎧武者と対峙する。

その隣では深紅の鎧を纏った吸血鬼の様な戦士が、ディエンド目掛け突進する鎧武者と正面から組み合った。

突進の勢いに押されて後退る深紅の戦士。だが直後、その上半身を覆う鎧が深紅から紫へと変貌すれば、後退は止まり逆に武者を押し返し始める。

 

「これは何とも面妖な…いやはや、楽しませて下さる!それで!?一体どの様にして拙僧の授けた策を看破されたのか!」

 

リンボの指先が宙に五芒星を描く。そこから放たれる、呪いを圧縮させた漆黒の光線。

 

「大した事はしてないさ。ヒントは充分に有ったし、実を言うと僕は似た様なケースの事件を知ってるものでね!」

 

凄まじい勢いで迫り来る呪いを間一髪で躱し、ディエンドもまた反撃の弾丸をリンボへ放った。その横では骸骨を思わせる仮面の戦士が、目深に被ったハットを片手で押さえながら武者の斬撃を避け続けている。

 

「似た様なケース?」

 

「ここから先の未来、とある科学者が起こした事件さ。失敗したけどね?

並行世界の自分と融合し、不老不死の力を得た上で二つの世界をぶつけて壊す…。

───もっとも彼等は融合させる事に重点を置いていて、世界がぶつかった時に起こる衝撃の余波までは考慮に入れていなかったみたいだけど。大方、どうせ野望が達成されたら自分達は不死身の存在になっているから…って考えだったんだろうけどさ。」

 

「成程───つまりカンニングの様なものですか!拙僧の称賛は見当違いでしたな!」

 

「全くだ、実に滑稽だね!」

 

互いに苛烈な攻めの手を止める事無く、一進一退の戦闘を繰り広げる。

リンボとディエンドの実力は互角。だが互いに余力を残し、相手の隙を窺っている。

 

『スカル!マキシマムドライブ!』

 

拮抗した戦況が動いたのはその直後。

必殺を狙い全力で振り降ろされた刃をサイドステップで躱し、骸骨の戦士・仮面ライダースカルがカウンターの要領で武者へと必殺の蹴りを叩き込んだ。

魔力の塵となり霧散していく鎧武者。そこから形成が変わるのはすぐだった。

 

『ウェイクアップ!』

 

紫の鎧を身に纏った戦士・仮面ライダーキバが、手にした鎚で武者を鎧ごと粉砕する。

それと同時に赤と緑の鬼・仮面ライダー歌舞鬼が武者を刀で一刀両断。瞬く間に全ての式神が撃破された。

 

「さあ、化物対決はこちらの勝利だ。それで…次はどうする?」

 

一気に4対1の戦況へと変わった中、圧倒的不利にも関わらずリンボは寧ろ愉快そうに微笑む。

 

「ンンン…せめて陰陽師と魑魅魍魎の対決と言って欲しい所ですな。さて…拙僧、貴殿を見くびり過ぎていたようです。此処で始末してしまう算段でしたが、流石にこれは分が悪い。退かせて貰いましょう。」

 

「まだ全然手の内を残してるクセによく言うよ。それに、大人しく逃げられる筈が無いだろう?」

 

「さて、どうでしょう…なッ!!!」

 

刹那、リンボの魔力が急激に上昇する。

危険を察知し咄嗟に後退したディエンド。彼が先程まで立っていた場所に、巨大な骸骨の悪霊…メソポタミアの神話におけるガルラ霊、それを模した存在が顕現した。

 

「…くそっ!」

 

やむを得ない。ディエンドは切り札のカードをネオディエンドライバーへ装填。

 

『ファイナル・アタック・ライド!』

 

構えたネオディエンドライバーの銃口と、ガルラ霊の間に浮かび上がる無数のプレート。召喚されていたライダー達もそこへ取り込まれ、それらが照準を定めるが如く一直線の道を形作る。

 

『ディ・ディ・ディ・ディエンド!!』

 

「───ハッ!!!」

 

ディエンドが引き金を引く。ネオディエンドライバーの銃口から撃ち出されるのは、先程までの攻撃とは一線を画する圧倒的な力の奔流。ディエンドが誇る最大火力のエネルギー砲は、ガルラ霊を跡形も無く消し飛ばした。

 

 

 

 

 

「………ま、逃げられるよね。勝負に勝って試合に負けた…って所かな。」

 

既にリンボの姿は見当たらない。不満げに言葉を溢すと、ディエンドは踵を返して歩き始める。

もう此処には用は無い。恐らく、もう少ししたら士も決戦の準備を始めるだろう。彼を手伝う気は無いが、便乗して真木にひと泡吹かせるくらいの事はしても良いかもしれない。

 

「もし本当に世界が終わるなら、そこで士と共闘するのも悪く無い。二回目(・・・)だから価値は落ちるけど、世界の滅びを一緒に楽しめるなら…それは中々悪くないお宝だし。」

 

気は進まないが仕方無い───仮面の下でほくそ笑みながら、ディエンドはオーロラカーテンの奥へと消えて行った。

 

 

 





オーズ新作前に一先ず一話上げられた…。
士と海東がどういう流れでどの時間軸から来たかは設定考えてます。考えてますけど…話の流れ的に出せれば出す、テンポ損ないそうなら出さないって感じです。平成ライダーはライブ感が大事ってそれ一番言われてるから。瞬々必生!P.A.R.T.Y!


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崩壊と渇望と壊れた道しるべ

復活のコアメダル公開中投稿。
未鑑賞の方もいらっしゃると思うので、ここでは我慢して何も語りません。この小説の感想は募集中です。今更ですけどバレンタインイベは出雲阿国ちゃんが可愛い過ぎた。

プリヤのネタバレありますのでご注意下さい。
(二回目)




「さて、ここまでが真木博士の目的だ。では次に、この特異点の…」

 

前提条件となり得る真木の目的。それを明かし、次なる推理へ進もうとしたホームズ。

 

「────おい、いい加減にしろ!!時間も無いのにまどろっこしい!」

 

だが、そこへ割って入ったのは他でもないアンクだった。

虚を突かれたホームズや、いきなりの怒声に目を丸くしたカルデアの面々達を無視し、アンクはずかずかと映司の眼前へ歩み寄る。

 

「ちょ、アンク!落ち着けって…」

 

「黙れ!!映司…お前もなんとなくは理解してるんだろうが!」

 

そのまま映司の胸ぐらを掴み、苛立った様に吐き捨てるアンク。

 

「おいアンク!止せ!」

 

「映司さん!あなた、何してるの!?」

 

すかさず伊達と美遊が割り込もうと駆け寄るが、それすらアンクは意に介さない。

 

「ごちゃごちゃうるさいんだよお前ら!分かってないのか、分かった上で見て見ぬフリしてるのか知らないがな…そもそもの原因はコイツなんだよ!違うか映司!」

 

「─────え?俺…が……?」

 

空気が凍り付く。

映司はその言葉の意味を受け止めきれず、驚愕…なんて言葉では言い表せない表情を浮かべた。

伊達も美遊も、彼等に続いて駆け出していた後藤やアタランテも脚を止める。

当然だろう。それだけアンクの告げた答えは無慈悲で、衝撃的なものだった。

 

「……アンクとやら…汝、それは本当か…?」

 

「…いやいやいや!流石に冗談にしちゃ笑えねぇよ!おいアンコ、一体どうしちまったんだお前!」

 

絶句する面々を冷めた目で見渡し、アンクは隠す事無く舌打ちする。

 

「チッ…揃いも揃って間抜けか。」

 

「その辺にしておけ、アンク。お前も予想してただろ。オーズには、その自覚すら無いとな。」

 

意外にも制止を掛けたのはウヴァだった。アンクと異なり怪人態の姿のまま、感情の読み取れぬ無機質な目で辺りを見渡す。

 

「おいディケイド。それと、ホームズとやら。お前らはもうとっくに気付いているんだろうが。俺はオーズを断罪するつもりも庇うつもりも無い…さっさと話を纏めろ。」

 

「ふむ…ウヴァ君、冷静な判断に感謝する。諸君も一度落ち着きたまえ。アンク君の言葉は、私の推理とも合致する。だが…ミスター映司が悪人で黒幕、という話でも無いんだ。」

 

「探偵、言って聞かせるだけじゃ全員納得はしないだろ。……仕方無い、俺が真相を見せてやる。お前は適度に解説しろ。」

 

呆れた様に溜め息を漏らす士。彼が片手を翳せば、全員を取り囲むオーロラカーテンが出現する。

そのまま士は有無を言わさず、オーロラによる転移を起動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『手段は美しいとは言えませんが…もたらす終末はきっと美しい…!』

 

『これ以上は止せ…!俺は暴走する気は無い…!』

 

『こんなのどうやって戦うの!?』

 

『方法は一つ…とにかく倒す!』

 

それは、地獄絵図と呼んで差し支えない戦場だった。

 

「ここはオーズ達と真木の最後の戦い…その記憶だ。何が起きようとダメージは無い、ビビって見逃したりするなよ。」

 

嘗て起きた、映司達と真木の最終決戦。

爬虫類系メダル。既に破壊されたカザリ、ガメル、メズールの意思が宿ったコアメダル。そして映司とアンクの持つメダル。

これらを除く全てのメダルが、真木の手によりウヴァへと集約され…そしてウヴァは苦悶の叫びをあげながら、最早元の姿の原型等微塵も無い力の塊へと変貌する。

 

「あれが…世界の終末?コアメダルの暴走とは聞いていましたが…。」

 

「もう生き物の形すらしてねぇよな、アレ。どう見ても無機物の類じゃねぇかよ。」

 

『五十歩百歩程度の差ですけど、まだ魔神柱の方が生き物感ありましたね。古代の錬金術師がメダルを作ったって聞いてましたけど、一体どういう魔術家系からあんな物が生まれるのやら…ひょっとしてメイド・イン・アトラス院ですか?』

 

「そこまで知るか。」

 

これまで映司達の言葉でしか知らなかった、真木の目指した先の正体。

想像を越えるその絶大な力は、立香達が過去撃破してきた魔神柱にも劣らない…寧ろ、それ以上にすら感じられる。

 

「俺は嫌だ……ぷぷっ、何よあの命乞い…!」

 

「黙れ突撃女!あれは……チッ。…本当に大事なのはこの先だ、黙って見てろ!」

 

 

 

恐竜グリードと化した真木。プトティラコンボを使うオーズ。そしてカルデアの面々やアタランテは見覚えの無い、鳥の意匠を持つ赤いグリード───アンクだ。

彼等が縦横無尽に大翔を舞い、空中戦を繰り広げた先。

舞台は地上へと移り、オーズが捨て身の策で恐竜グリードを捕らえた。

 

『今俺の中には…貴方を絶対に倒せるだけの力がある!』

 

『映司…まさかお前、この為にメダルを…!』

 

火野映司という器に宿った、本来なら絶対に人の身に収まりきる筈の無い程のセルメダル。

その全てをメダガブリューに喰わせ、文字通り命懸けの斬撃を放つオーズ。

 

 

 

「……ここだ。ここからが、本来の歴史と異なる展開になる。」

 

 

 

『馬、鹿……な…!こん、な…がっ……!?』

 

全てを乗せた一撃を食らい、恐竜グリードは地に伏せる。制御を失ったエネルギーが全身にスパークを起こし、夥しい血とセルメダルを撒き散らした。

 

『やっ、た……か?

──────ガッ!?うわぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

けれど、命を懸けた一撃の反動は大き過ぎた。オーズの変身は強制解除され、絶叫しながら映司は人の姿へと戻る。

 

『─────映司!!クソッ、この馬鹿が!無茶し過ぎなんだよ!』

 

人間態に戻ったアンクが映司の傍へ走り出した、その刹那。

 

『─────この時を…待っていました。』

 

最早死に体と言っても過言では無いその身で、しかし怪人としての姿を保ったままの真木は。

紫のコアが持つ力を凝縮させた、絶大な魔力の光弾を映司へと放つ。

 

『──────ッ!』

 

アンクがどうしてそうしたのかは、実際の所本人にも分からない。人間の肉体を借りている状態では、走ってもグリード化しても間に合わない。そんな合理的な判断からかもしれない。

……或いは。映司と、そして比奈と約束したからなのかもしれない。

 

ただ、一つの事実として。

 

アンクは肉体を…泉信吾の身体を捨て、腕だけとなったその身で映司を光弾から庇った。

受け止められたのはほんの一瞬。すぐに光弾へ込められたコアメダルの力により、腕の形を成していたセルメダルが消し飛ばされていく。

そして──────。

 

『………じゃあな、映司。』

 

『──────アンク!!!』

 

最後に残った赤いコアメダルは、欠片一つ残さず粉々に消し飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………よくも。』

 

そうだ─────思い出した。

 

『…絶対に許さない……!』

 

俺はまた、手が届かなかった。

助けられなかったどころじゃない。

 

『俺は……貴方を…そして俺自身を…!』

 

俺のせいで死んだ。

あの女の子も、アンクも。

俺に力が足りなかったから…死なせたんだ。

 

『───────絶対に許さないッ!!!!!』

 

怒りと、哀しみと、憎しみと、絶望と、虚無と。

そして。

今度こそ…世界中、何処だって届く力への欲望。

あの瞬間、その全てが自分の中で爆発した。

 

『うおおおおおおおおおおお!!!!!!』

 

オーズドライバーすら用いる事無く、"俺"は自分に宿ったコアメダルの力を解き放つ。湧き上がる衝動に身を任せて、目の前に立つ"火野映司"は恐竜グリードへと変貌した。

 

『……凄まじい力ですね。だが良いのでしょうか?…アンク君が我が身を犠牲に救ったのは、君一人では無かったと思いますが。』

 

理性の全てを衝動に委ねる、その寸前。

辛うじて耳に届いた真木博士の言葉に、俺は倒れたままの信吾さんの事を思い出した。

 

『それに…私を倒した所で、アレは止まりません。世界に良き終末をもたらすまで、欲望のままに全てを喰らい尽くします。』

 

『…………あぁ…アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!』

 

獣の様な慟哭をあげながら、過去の"俺"は信吾さんを離れた物陰へ移す。

真木博士の妨害は無かった。

信吾さんを避難させ終えた"俺"は…"恐竜グリード(火野映司)"は咆哮しながら宙に浮かぶ"世界の終末"へと向かって行く。

そこから先は…こうして見返してもよく覚えていない。けどそれも当然だと思う。

無限に吐き出される屑ヤミー達を鏖殺し、巨大な"世界の終末"を少しずつ、少しずつ破壊していく"俺"。

幾つもの建物を巻き込み、沢山の物を壊しながら……最後の一欠片を打ち砕いた俺が見た物は。

 

 

 

『お願い……映司君…!』

 

 

 

泣きそうな顔で祈る、比奈ちゃんの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火野映司さん。

自分の命をどうとも思っていない。

他人を救うために力を求めて、その手が届かない事を心から恐れている人。

辛い過去を引き摺りじめじめと腐っていく人は大勢居る。それは多分、良い事では無いのだと思う。

でも、映司さんの場合は…そっちの方がまだ何倍も良いと思ってしまった。

彼の心はじめじめ腐っていくのと真逆。渇いて、渇いて、砂の様に渇ききって…そして、砕けて壊れてしまったのだ。私やアタランテが抱いた危機感は間違っていなかった。

 

ひょうきんで、少し抜けてて、明るくて、優しい。

 

そんな彼が─────。

 

『オオオオオオオオオオオオ!!!!』

 

人であることすら躊躇い無く捨て去って。

 

『倒す…倒す……倒す!!』

 

確かに何処までも届くかもしれない。

けど届いた所で、最早何一つ抱き締める事の出来ない腕を振りかざして。

 

『今度こそ…皆を守る…!俺の腕…力ッ!もっと、もっと、もっと!!!!』

 

きっとその手じゃ掴んだ物を全て壊してしまう。そんな事にも気付かずに、映司さんは戦い続けた。

 

 

 

『皆を…助けなきゃ…。真木博士を倒して……信吾さんを助けて…伊達さんや、後藤さんを助けて…比奈ちゃんを……!』

 

『素晴らしい。見込んだ以上です。』

 

「───────映司さん!!」

 

ここが過去の記憶の再現、呼び掛けに意味が無いと理解していても…叫ばずにはいられなかった。

世界の終末を打ち砕き、人の姿へと戻った映司さん。ボロボロになって尚…他人を助けようと進む彼は、背後を取られた事に気付かなかった。

 

『がっ……………!』

 

恐竜グリード…真木博士の鋭い爪が、映司さんの腹を背後から貫く。

映司さんの身体を貫通したグリードの手。グリードがその手に持っていた物は…聖杯。

 

『殺しはしません。……私は初めからこうするべきでした。』

 

『何……を…!?』

 

グリードが貫いた腕を引き抜く。だがそこに、握っていた筈の聖杯が無い。

まさか───私は過去の映司さんの正面へ回り込むと、貫かれた筈の腹部から金色の光が漏れ出している様子を目の当たりにした。

 

『グリード以上に欲深い。初めからグリード達なんてアテにせず、君を器にしてしまえば良かったのです。』

 

『真、木…はか……俺に…なに、を……。』

 

『私が君に埋め込んだ物は、聖杯と呼ばれる万能の願望機。鴻上会長ではありませんが…敢えて問いましょう。君の欲望は何ですか?』

 

「ダメ…映司さん!止めて!!!」

 

脳裏に過去の光景が蘇る。まだ私が幼い頃…殆ど覚えてはいないけれど、お兄ちゃんと出会った切っ掛けの出来事。神稚児の力を暴走させ、私の世界(・・・・)の冬木に大きな爪痕を残した惨劇。

 

同じだ。今の映司さんに聖杯を与えれば、きっと彼の願いは彼自身に牙を剥く。伝わらないと分かっていても、私は叫ばずにはいられなかった。

 

『憎い私を滅ぼす事が望みですか?

─────違う筈です。君の欲望はもっと大きな物でしょう。さあ…その欲望、解放しなさい!』

 

『俺は……アンクに、もう一度会いたい…!そして……今度こそ、欲しい…!』

 

「ダメ!!映司さん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──────何処までも届く俺の腕!』

 

 

『──────世界中の人達を守れる力!!』

 

 

『俺は────────それが欲しい!!!』

 

私の声は届かない。

映司さんは全霊を込めて声を張り上げる。

 

 

 

彼の身に宿った聖杯が、その願いを受諾する。

辺り一面が眩い光で包み込まれた。

 

 

 




「我が命を懸けて世界を守る」がヒロミさん。
ヒロミさんが「我が…」って言ってる間に命を懸けるどころか投げ捨てて全力ダッシュするのが映司くん。

それを見ながら「命は大事にしなきゃダメだろ。映司さん、そんな馬鹿な真似は止せ……なんだよセイバー。遠坂も。」ってヒロイン達に白い目向けられるのが衛宮士郎くん。


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メダル復活と抱いた願いと魔法少女の選択


前の話が日間ランキング載ったり、お気に入り一気に100人くらい増えたりしてビビりました。やはりオーズの力は偉大…劇場公開中に映司とアンク回を持って来れたのが大きかった…。
本当に皆様ありがとうございます!




 

映司の欲望に応えた聖杯が、万能の願望機としての力を発揮する。

映司の内から生み出される…否、蘇ると言うべきか。

これまでの戦いで破壊されたコアメダル達が、完全な状態で全て揃った。

コアメダルだけではない。映司の欲望を聖杯がセルメダルの形へと変化させ、まるで壊れたスロットマシンの様に多量のセルメダルまでもが溢れ出していた。

 

「あああ……ぐっ、うおおおおおおお!!!!」

 

「…素晴らしい。やはり私の目に狂いはありませんでした。これで───おや?」

 

復元されたコアメダルへ歩み寄る、人間の姿へ戻った真木。

だがそこで一つの誤算が発生する。

 

「………ここは。俺は…何故だ…?」

 

蘇ったメダルの内、鳥類の力を宿した赤いメダル。それらが自然と一つに集まり、周囲のセルメダルをも取り込んで一体のグリードを形作った。

 

「ああ…そう言えば、火野君はアンク君に会いたいとも願っていましたね。どうやら他のコアメダルと異なり、アンク君という個を求めていたからこそ…他のグリード達より自我の復元も早かったようです。」

 

復活したばかりのアンクに今の状況等分かる筈も無い。だが、目の前で無数のメダルを生成している映司。それを無機質な瞳で見据える真木。そしてアンクの中に流れ込んだ、知らない筈の知識の数々。

 

「これは…聖杯…?いや待て、聖杯って何だ…何で俺はこんな事を知っている。───真木!お前、映司に何をした!?」

 

「何をしたかと問われれば、私は彼の欲望を解放し…それを叶える手段を与えたまで。君の復活はその結果に過ぎません。」

 

「何だと…!?おい映司!聞こえ無いのか!?」

 

「…俺の腕……力…もっと、もっと…!」

 

再会の余韻に浸る間も無く、アンクは映司の肩を掴んで揺する。だがその振動も、アンクの声も彼には届いていない。うわ言の様に同じ言葉を繰り返すのみだ。

 

「クソが…完全に呑まれてやがる!おい映司!正気を取り戻せ!!」

 

「無駄です。今の彼は進んでその力に呑まれた…いわば、擬似的な器の暴走です。」

 

「何だと…!」

 

「────とは言え。ここで君に余計な事をされても困る。復活して早々に申し訳ありませんが、君はここで消えてもらいます…。」

 

再びメダルの力を解放し、グリード態へと変身する真木。対するアンクは万全の力を取り戻しこそしたが、流石にこの状況では分が悪い。

だが…アンクの復活という誤算が生み出した僅かな時間は、真木にとって更なる計算外を呼び起こした。

 

『うっ…何だ…。俺は、どうなって…?

────うおぉ!?ど、ドクター!?アンクにオーズまで!?何がどうなっている!?』

 

復元されたコアの内、一枚の緑のコアメダルに意思が宿る。

アンクを除いて最後に倒されたが故に、他のグリードよりも早く復元されたのか。或いは撃破された際、自身の全てのメダルを含む多くの力を持っていたが為なのか。はたまた単なる生への執着の強さか。

理由は定かでは無いものの、その瞬間ウヴァの魂が蘇った。

 

「─────上出来だウヴァ!これでも食らえ!」

 

「しまっ……」

 

それが原因で生じた恐竜グリードの隙を突き、アンクはグリード態へと変身。腕から火球を放って敵対者の動きを止める。

 

「話は後だウヴァ!ここは一旦退くぞ!」

 

『ま、待て!アンク!俺にもちゃんと話を…、

─────うわぁぁぁ!?』

 

グリードの形を取り戻す間も無く、残るコア共々アンクに掴まれるウヴァ。彼の悲痛な叫びを完全にスルーして、アンクは取り込めるだけのセルメダルをかっさらい空へと飛び立った。

 

「……逃げられましたか。まあ良いでしょう。こちらも、一度体勢を整えなければならないようですし。」

 

猛スピードで離れていくアンクへ追い討ちはかけず、人間の姿に戻った真木が見据えているのは映司である。

彼が宿した聖杯が一際大きな輝きを放つと、更に多量のセルメダルが生成されたが…直後、急激にその輝きは消え失せ、新たなメダルの供給も停止した。

そして、映司はそのまま地面へと倒れ込む。完全に意識を失っていた。

 

「いきなり全開に引き出すのは、やはり火野君と言えど無理が有りましたか…これでは、私の望みを果たすには足りない。」

 

倒れた映司の傍へ歩み寄り、真木は協力者(・・・)から授けられた一枚の呪符を取り出す。

それは暗示の込められた呪い。今の映司へと用いれば、解放された彼の欲望はより強くなり…逆にその欲望に取り憑かれている間の記憶は曖昧になる。言わば、メダルが暴走している時の状態を強化するものだ。

呪符は映司の肉体へと入り込み、彼の記憶と精神を犯す。根が善良な彼の事だ。恐らく目を覚ました時には、暴走していた上、仲間に対して後ろめたいこの記憶は殆ど残らないだろう。

 

「聖杯は君に預けておきます。君がこれに馴染み…完全に扱えるようになった時こそ。君自身が、"世界の終末"をもたらすのです…。」

 

布石は打った。後は自分のシナリオ通りに導くだけ。

火野映司の力を高め、欲望を全開まで解き放ち、そして聖杯の力とコアメダルの力を一つにする為には戦いが必要だ。

その為にはグリードに相手をさせるのが手っ取り早い。だがいきなり完全体と戦わせて、聖杯に馴染みきっていないオーズが敗北するのは避けたい。

かと言って弱過ぎては話にならない。半端な所で暴走したオーズにコアを破壊されるなんて展開は論外だ。折角全てのコアが復活したのだ、計画を狂わせる要素は排除しておくべきだろう。

 

「……サーヴァントと言いましたか。人類史に刻まれた、一騎当千の英雄達。やはり、それを使うのが良いかもしれませんね。」

 

グリードとサーヴァントを混ぜ合わせる。そうすれば能力自体は単なるグリードより格段に強くなるだろう。だが能力値自体が増大したからといって、本来のサーヴァントやグリードより強くなるとは限らない…良い具合に苦戦させて、その上でオーズに敗れる隙も持ち合わせていれば最良だ。

 

方針は決まった。こうして事に及んだ以上、自分の把握していない所で抑止力のカウンターとやらがサーヴァントを召喚するのは時間の問題だ…そうなる前に自らの手でサーヴァントを召喚し、手駒としておく必要がある。

 

この時点で本来の歴史…協力者を名乗る胡散臭い陰陽師から聞いた、自分が死亡する歴史とは別の歴史に分岐している筈だ。元々持っていて先程映司に与えた聖杯を使い下地は完成しているが…安定するまで聖杯の力でカバーする必要も有る。

となれば、必然的にもう一つ聖杯が必要だ。特異点化の維持、英霊召喚、そして万が一に備えた保険も兼ねて…求める第二の聖杯、その在処の目処は付いている。

 

「鴻上ファウンデーション。財団の地下保管庫…その中でも会長以外に開けられない最重要機密の何処かに必ず有る。今なら確信が持てます。」

 

そもそもオーメダル自体が過去錬金術によって生み出された存在。

それをああも平気な顔をして所有し、グリード復活の際にも魔術師は一人として首を突っ込んでは来なかった。

あの陰陽師から聞いた情報は今の所全て真実。となれば、神秘の秘匿を是とする魔術協会が何の動きも見せなかった事は不自然…つまり、鴻上光生は既に魔術協会と通じていると考えて間違い無い。

そして彼が魔術に関しても知識を有しているのなら…聖杯という、人の欲望を叶える最大の力を求めない筈が無い。

管理の名目で魔術協会や聖堂協会から一つくらい掠めていても可笑しくない…と言うより、間違い無くあの会長は成し得るだろう。

 

「……そう言えば私は伊達君と違い、正式な退職願いは出していませんでしたね。辞表を出して…退職金代わりに聖杯を頂戴しましょうか。」

 

向かう先は一つ。ビル自体は火野映司の暴走で崩壊していたが、間違い無く会長はあそこに居る。

急ぐ素振りも見せず、しかし軽やかさは微塵も無い淡々とした足取りで、真木は嘗ての職場への道のりを歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この特異点、そして火野映司という男が抱えていたもの。その真実を目の当たりにした一同は、各々決戦を前に休息を取っていた。

 

『見せるものは見せた。俺はまだ準備が残ってて忙しい…後はホームズにでも聞け。決戦は二時間後だ。』

 

そう告げた士はオーロラをくぐり、勝手に何処かへ消えてしまった。まあ口振りからして手伝ってはくれそうだが…その気紛れさには流石に呆気に取られたものだ。

マシュ、ホームズ、ダヴィンチちゃんの三名はカルデアへ帰還。残る面子は拠点の廃工場へと送り返された。

 

 

 

「─────そっかぁ。ミユとアタランテさんは、とっくに気付いてたんだね。ごめんね…私、全然気付いて無かった…。」

 

事務所の中にある幾つかの小部屋。今は全員が一室の大部屋に集まっている訳では無く、何人かは小部屋に分かれて過ごしている。

映司とアンクも…そして今、こうして向き合っているイリヤと美遊もそうだ。

 

「ううん…イリヤが謝る事は何も無い。相談しなかったのも、解決出来なかったのも私…だから謝らないで。」

 

美遊はイリヤに全てを打ち明けた。映司と出会ってから感じていた数々の違和感。夢の世界でアタランテや士と共に目にした、火野映司という男のバックボーン。その全てを親友(イリヤ)に語った。

 

「映司さん…きっと辛かっただろうね。ううん…こんな言葉じゃ言い表せない。私はクロやお兄ちゃん…大切な家族に恵まれて、ミユや大事な友達と一緒で。そして今はマスターさんやマシュさん…それに沢山のサーヴァントの人達、頼れる仲間が居る。きっと私には映司さんの辛さは本当の意味では理解出来ないし、分かった気になっちゃいけない。」

 

イリヤスフィールは魔法少女とはいえ、本来何処にでも居る様な小学生。それもとびきり心優しい少女だ。

他人の痛みに涙を流せる、そんな親友にとって先程目の当たりにした真相…そして美遊が語った内容は、やはり辛いものだった。目元に涙を滲ませながら、それでも気丈に振る舞おうとする彼女を見て、美遊の心は罪悪感に苛まれる。

 

「……ごめんなさい、優しいイリヤ。やっぱりイリヤに伝えるのは酷だった…私がどうにかするべき問題だったよね。」

 

「そんな!?ミユ、それは違うよ!ちゃんと話してくれてありがとう…だからそんな風に言わないで。」

 

驚き、目元を拭いながら美遊の言葉を否定するイリヤ。しかし彼女に対して、美遊は小さく首を横に振った。

 

「ううん…違わない。気付いてしまった以上、これは私が何とかしなくちゃいけなかった話…でも、どうしたら良いのか分からない…。私は…!」

 

俯き、声を絞り出す美遊。

何処か兄に似ていて、その危うさに触れて…美遊が彼を助けたいと願った想いは本物だ。

だけどこの特異点を解決するには、オーズの力は必要不可欠で。それに映司が聖杯を持っている以上、彼の持つそれを回収しなければならない。

今なら分かる…きっと彼は聖杯を手放す選択を取るより、自分一人で全てを解決しようとするに違い無い。世界を取るか、映司を取るか…そんな選択を美遊に選べる筈が無い。

考えが纏まらない。心と理性が不安定になって、どうして良いのか分からない。

 

「──────ミユ!!」

 

そんな思考から彼女を引き戻したのは、大切な親友だった。

イリヤは美遊の肩を掴み、目を潤ませながらも…。

 

「イリヤ……?」

 

「どうしてそんな風に考えるの!?何でミユ一人で背負おうとするの!」

 

─────目を潤ませながら、彼女は怒っていた。

 

「い、イリヤ…?落ち着いて…」

 

「落ち着けるワケないでしょ!バカ!バカミユ!!確かに私は頼りないかもしれないけど…それでも!私はミユの仲間で、友達なんだよ!何で私にも背負わせてくれないの!?」

 

イリヤは止まらない。気圧される美遊の目を真っ直ぐに見据え、心の底から大切な友達へ訴えかける。

 

「私だけじゃない!アタランテさんだって、映司さんの事は知ってるんでしょ!映司さんの過去を知らなくたって、マスターさんもオルタさんも!ランサーさんも!ハサンさんも居る!伊達さんや後藤さんだって居るじゃない!!何でミユ一人で全部どうにかしようとするの!?

────それじゃまるで、ミユが救いたい映司さんと一緒だよ!!」

 

イリヤの言葉が美遊の胸に刺さる。彼女は漸く自分の状況に気が付いた。

そうだ…これでは何も変わらない。彼と同じ事をしている自分の想いが、映司に届く筈が無い…そんな事にも気付かない程、自分は思い詰めていたのだと気付いたのだ。

気付いた途端に美遊の目から一筋の涙が零れ落ちる。そんな彼女をイリヤは強く抱き締めた。

 

「……ごめんなさい。イリヤ…でも、私にはどうすれば良いのか分からない。」

 

「…大丈夫。……ねぇ、ミユ。どうしたら良いのか…じゃなくてね。ミユはどうしたいの?」

 

そっと身体を離し、美遊を見据えるイリヤ。

その顔はもう怒りの表情では無い。何度も助け合ってきた、大切な友を想う…優しい表情を浮かべていた。

そんな暖かな友を前に、美遊もまた素直な本心を打ち明ける。

 

「私は…映司さんを助けたい。でも、この特異点も修復しなくちゃいけない。オーズの…映司さんの力は必要だし、あの人から無理矢理メダルや聖杯を奪ったりしたら…きっと映司さんはもっと壊れてしまう気がする…。世界か映司さんか、どっちかを選ばなくちゃ…でも…!」

 

「─────違うよミユ。どうして、そんな悲しい選択をしなくちゃいけないの?」

 

「………え…?」

 

言葉の意味が分からず、美遊は一瞬呆気に取られる。

そんな、ぽかんとした様子の親友にイリヤは満面の笑みを浮かべて両腕を広げて見せた。

 

「世界か、映司さんか…なんて、決めなきゃいけないって誰が言ったの?そりゃ難しいかもしれないけど…!

───でも、私達は魔法少女なんだよ!どんな無茶だって乗り越えられる、空想を現実にする!そんな存在なんだから!どっちかじゃなくて、世界も!映司さんも!…って、ちゃんと欲張らないと!!」

 

「ちゃんと…欲張る……。」

 

小さく、イリヤの言葉を繰り返す。そんな美遊にイリヤは微笑み掛けた。

 

「そう!空を飛ぶ練習をした時の事、覚えてる?あの時、ミユは中々上手くいかなかったでしょ?普段は私なんかより、断然魔法少女の力を使えてたのに!」

 

「う、うん…。それは、人間は空を飛べないって固定観念に囚われてて…。」

 

「それと一緒!"難しくても出来る!"って考えないと…最初から出来ないって決めてちゃ何も始まらない!ほら、それこそ映司さんも言ってたじゃない!"欲望ってのは大きな力を持ってる"って!

ミユがちゃんと欲張らないと!」

 

他人が聞けば、現実が見えていない子供の絵空事と思うかもしれない。

けれど美遊は知っている。本当は優しくて、争いを好まず、年相応の弱さも持っている彼女が…こうして幾つもの困難を乗り越えて来た事を。

そうだった。そうやって困難に向き合い、諦めずに乗り越えて…そうやって助けに来てくれた兄と、隣に並び立ってくれたイリヤに救われたのだ。その事を美遊は思い出した。

 

「………ありがとう。…ねぇ、イリヤ。」

 

「ん?ミユ…何?」

 

「私、決めたよ。ちゃんと欲張る…だけど多分、難しい道だと思う。だから、もしもの時は…」

 

涙を拭い。遠慮がちに問い掛けながら美遊が伸ばした手を───────。

 

「大丈夫!必ず、私がその手を掴むから!」

 

 

 

穏やかに笑うイリヤが、その手を強く握った。

 

 

 





聖杯厳重管理してるカルデアですら、クリスマスイベントで何故か食料保管庫に聖杯転がってるくらいだし…冬木の大聖杯ぶん取りでもしなきゃ大事にはならんやろ!いけるいける!『藤丸立香はわからない』でも聖杯割と普通に貰えるつってたし!公式が出してる漫画で言うならへーきやろ!マルタさんは水着が好き!(二個目の聖杯投入)



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現実と軍議とそれぞれの思惑





「……君らのご主人、良い友達同士じゃねぇか。

こりゃ、俺の出る幕ねぇな。」

 

『そりゃあもう!イリヤさんと美遊さんは最☆強!無敵のコンビですから!クロさんも加わったら誰も太刀打ち出来ませんよ~!』

 

「そっかぁ……ところでクロちゃんって誰?猫?」

 

『伊達様。御本人が聞いたら憤慨しそうなので、今の発言は撤回された方が宜しいかと。』

 

イリヤと美遊が語り合う小部屋の外。扉一枚隔てた先で、彼女らのカレイドステッキと伊達が言葉を交わす。思い詰めた様子の美遊がイリヤと共に部屋へ入って行く様子を目撃した伊達が、心配に思って後を追ったのだが…どうやら杞憂に終わったようだ。

 

「少女の内緒話を盗み聞きか?快活な男だと思っていたが…存外、陰気な趣味の持ち主らしいな。」

 

そんな彼等へ歩み寄る三人。アタランテ、ハサン、そして後藤だ。

 

「ちょっ!アタランテさん誤解だって!ほら、俺ってこの中じゃ年長ポジじゃん?だからちょっとお悩み相談でもと……」

 

「伊達さん。気を付けないと…今の御時世、下手したら通報ものですよ。防犯ブサーとか、子供110番って知ってます?」

 

「…マジで?怖い世の中───って後藤ちゃんは俺の話聞いてくれよ!ホントのホント、何もやましい事は無いんだって!!」

 

アタランテと後藤のジト目を受け、慌てふためく伊達。そんなやり取りを見ながら、ハサンは楽しそうに小さく笑う。

 

「お二人とも、そのくらいに。決戦前という事を差し引いても、伊達殿も困っていらっしゃる。」

 

「ハサンさん!ステキ…惚れちゃう!」

 

「……伊達殿、その…申し訳無い。私にはその想いに応える事は…。」

 

「─────いや真面目かよ!?昔の後藤ちゃんじゃ無いんだから!」

 

「俺そこまでじゃなかったと思うんですけど!?伊達さん!?」

 

困った様に顔を逸らすハサンに伊達は盛大な突っ込みを入れ、そこに後藤が抗議する。アタランテはそんな彼等を呆れた様子で眺めていた。

 

「……ま、冗談はこの辺にしといてだ。魔法少女のお嬢ちゃん達が夢に向かって全力投球なら、俺らは大人として現実をしっかり見とかないとな?

────後藤ちゃん。率直に言って…火野の事、どう思うよ?」

 

気を取り直すべく咳払いして、真面目な表情浮かべた伊達が議題を投げ掛ける。

問われた後藤もかなり険しい顔を浮かべていた。

 

「正直、かなり不味いと思います。火野の危うさは前からでしたけど…あいつ、自分でも気付かない内に力への執着が大きくなってる。」

 

後藤にも伊達にも、聖杯というものがどういう存在かは何と無く理解出来た。その全てを把握は出来ずとも…持ち主の願いを受け、現実の事象を書き換える願望機。それが理解出来ていれば、先程見せられた真相と合わせて推測は難しくない。

 

「ざっくりとした認識ですけど…聖杯ってのは要するに所有者の望み、心に抱いた欲望を具現化するんですよね。火野と合流した時に聞いた、消滅した爬虫類系統のメダルの話は…多分、あいつが無意識に抱いていた優先順位みたいなものの結果だと思うんです。」

 

「……どういう事だ?」

 

後藤の言葉に、同じ結論に至っていたであろう伊達も深く頷く。対してアタランテとハサンはその意図が分からず困惑した。

 

「鳥類、猫科、昆虫、水棲生物、重量級動物。この五種のメダルは火野にとって、アンクと出会ってから戦ってきた日々の象徴…オーズの力の代名詞的な存在であり、アンク達グリードともイコールで結び付いている。だからこそ…そこからはみ出した爬虫類系統のメダルは、暴走して無意識に聖杯を起動した火野では完全に再現出来なかったんだと思うんです。

あいつが聖杯の使い方を理解して、ハッキリ意識が有る状態で使えば…多分、爬虫類の三種も問題無く復元出来るかと。」

 

「逆に言えば、そんな状態で無意識にでも爬虫類メダルを復元しかけた火野の状態は不味い。一番優先はアンコ、その次に他の四種…って優先してたにも関わらず、爬虫類のメダルやセルメダルまで生み出しちまってたんだ。お二人さんは知らねぇかもだけどさ、火野が爬虫類のメダルと接点有った機会なんてスゲー短い時間なんだぜ?

助けを求める時に、家族や友人と合わせて一度会っただけの他人まで呼び付けるみたいなモンだ。

力に見境無くなってんだよ、火野のヤツ。」

 

「なんと…それでは…。」

 

「マスターは真木の望む、暴走する器に確実に近付いている。このままではメダルの力に呑み込まれて、真木の思い通りに事が運んでしまう可能性が高い…という事だな。」

 

「そー言うこと。最悪ドクターを倒せたとしても…暴走したあいつが自分の聖杯と、ドクターの持ってる聖杯の両方取り込んじまったら、何が起こるか分かったモンじゃねぇ。

火野は俺らの最大戦力で、それ差し引いてもあいつを見捨てる選択肢は最初から俺達には無い。けど今のあいつが、ドクターと並んで危なっかしいってのも事実なワケよ。」

 

伊達はそう締め括ると、腕を組みながら深く溜め息を漏らす。

一方アタランテは、一縷の望みに縋る様に険しい顔で問い掛けた。

 

「……自分でも呆れる程楽観的な質問だとは分かってる。それでも、聞きたい…マスターをどうにか説得する事は出来ないだろうか。私だけなら難しいだろうが、汝らやあのアンクというグリードも手助けしてくれれば…。」

 

「残念ですが難しいでしょうな。」

 

その問いに答えたのは伊達でも後藤でもなく、ハサンだった。仮面の下の表情は窺えないが、その声音から彼自身にとっても不本意な…けれど断固たる自信が有る事は伝わってくる。

 

「アサシン…貴様…。」

 

険しい表情でハサンを睨み付けるアタランテ。しかしハサンは首を横に振りつつ、諭す様に言葉を続ける。

 

「誤解しないで頂きたい。私としても、かの御仁を救いたい気持ちは同じです。映司殿は気持ちの良い男だ…あれ程他者を思いやれる人間はそう多くない。」

 

暗殺者(アサシン)のクラスを冠してこそいるが、別にハサンは快楽殺人鬼ではない。寧ろ慎重に他人を見極め、守るべきものの為に手を下す…少なくとも、今のマスターの下ではそう動いている。彼個人は映司の人柄を好意的に感じているし、彼には力を貸して貰った恩も有る。それを蔑ろにする不義理はハサンにとって有り得ない。

だが、それはそれ。なにも映司を手にかけるかどうかの話では無く、現実的に彼の欲望を言葉一つで変えられるかと聞けば…曖昧に楽観的な事を言うべきではない、それをハサンは理解していた。

 

「映司殿は善き人だ。少なくとも私なんぞよりずっと…けれど、その善性と深く結び付いたあの欲望は簡単に解消する事など出来ない。それはアタランテ殿も気付いておいででしょう?

アタランテ殿が人理を守る英霊の役割を放棄してでもガメルに味方したように…彼の願い、そしてその願いに対する姿勢は、最早常人の在り方を越えている。死して尚、聖杯による奇跡を望む我等英霊と近い…そう評しても差し支え無いでしょうな。」

 

「……ま、俺もハサンさんに同感だ。言って聞くようなヤツなら、こんな状況になる前に後藤ちゃんや比柰ちゃんがとっくにどうにかしてるしな。」

 

「今の状況も良くない。仮に火野が力を捨てればどうにかなるという状況なら、まだ説得の余地もあるかもしれませんけど…現実は逆だ。何としてでも火野の聖杯もメダルも守り抜く必要が有る。」

 

ハサンの言葉に同意する伊達と後藤。アタランテよりも深い付き合いの彼等にまで否定的な意見を示されてしまえば、流石に彼女も引き下がるしかない。

 

「……すまない。私にだって分かっていたんだ。それでも……全く。これではいつぞやの召喚と何も変わっていないな…。」

 

棄てられた子供達に救いあれ。

そう願い、彼女等を消滅させた聖女に怒り狂った嘗ての"自分ではないアタランテ"。

本当はあの時も、子供達(ジャック)を真に救う為には聖女の言葉が正しいと理解していた。それでも、感情がそれを赦さなかった…結果、力に呑まれた。

 

どうやら、自分も映司の事を強くは言えない立場だったらしい。自嘲気味に苦笑するアタランテ。

 

「────はいはいはーい!しんみりタイムはそこまで!俺達は現実に向き合わなきゃいけない…それは事実だけどさ!」

 

そんな彼女の背中をバシッ、と叩く伊達。

突然の衝撃に驚き、何事かと抗議しようとした彼女が見たものは。

 

「……だがそれは、悲観的になって全てを諦めるという事じゃ無い。話してダメなら無理矢理にでも引っ張り出す…俺達皆で、火野の手を掴む。その為の話をする事だ───ですよね、伊達さん?」

 

「さっすが後藤ちゃん!俺の言いたい事、ちゃんと分かってるじゃないの!」

 

これ程困難な状況でも、強い決意を灯した瞳の伊達…そして後藤。

思えば、彼等は自分やカルデアの面々が合流するよりも前から火野映司という男に向き合ってきたのだ。そんな彼等が諦めていない…だというのに、あの男のサーヴァントである自分が見切りをつけるのは早過ぎる。

 

「……フフッ…そうだな。すまない、余計な手間を取らせた。

─────改めて、汝らの力を貸して欲しい。世界を…そして私のマスターを救う為に。」

 

「言われるまでもないっての!俺達、ダテにあいつのお節介焼いてきたワケじゃないからな!…伊達だけに。」

 

「───助けは欲しいが空気は読め。」

 

アタランテは冷めた目で伊達の軽口を一蹴する。

 

「………すみませんでした。」

 

ばつが悪そうな伊達の姿に、思わず三人は吹き出し。幾分か前向きな気持ちを取り戻した彼等は、決戦に向けて各々に出来る事を議論し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事務所から離れ、破壊の跡が残る工場内。

藤丸立香と彼のサーヴァント達が、この特異点に来てから初めてグリードと戦闘を行った痕跡だ。

嘗てのメズール戦を思い出しながら、オルタは眼前の異形にふてぶてしく問い掛ける。

 

「────で?アンタ、一体どういうつもり?」

 

「どう、とはどういう意味だ。簡潔に言え。」

 

彼女が睨み付ける先に立つのは一体のグリード…緑のメダルを九枚持ち、完全体と化したウヴァだ。

こうして対峙して分かるのは、コアメダルが全て揃ったグリードの強さ。先のメズールやカザリはサーヴァントとしての能力も兼ね備えた強敵だったが…今なら分かる。間違い無く、彼等より今の状態のウヴァの方が強い。

仮にあのグリードサーヴァント達も完全にメダルを揃えきっていたとしたら…考えるまでも無く勝ち目は無かっただろう。

そんな相手の力量を慎重に測りつつも、あくまでオルタは不遜な態度を崩さない。

 

「お前さんはグリード。映司のあんちゃんは、そんなお前らグリードのコアメダルを破壊する力を持ってる。あのアンクってグリードに関しちゃ、これまでの話を軽く聞いてるからな…味方になっても別に何とも思わねぇよ。

けど、テメェはさっき見た過去でもオーズと敵対してたろ。何が目的で俺らの味方に付く?」

 

ウヴァを挟んでオルタの正面───二騎のサーヴァントで挟み撃ちに出来る位置へ立つのはランサーだ。

 

「ふん…下らん。そもそも俺が何時味方だと言った?手は貸す…だがそれは俺にもメリットがあるからだ。俺にとっては、お前らもオーズも利用するに過ぎん。」

 

「……完全復活を舐めるな!からの、誰かぁ…助けてくれぇ…だったくせに。」

 

「黙れ突撃女!!!あんなものは無効だ!!」

 

得体の知れぬ大物感を纏っていたが、オルタに煽られ即座に怒鳴って大物感を失うウヴァ。

苛立たしげに舌打ちすると、仕方無いとばかりに彼は自らの本心を語り始める。

 

「……いや、認めよう。忌々しいが、俺はドクターが恐ろしい。完全復活を果たした俺でもヤツには勝てない。あの男の手元に他のコアメダルが有る以上、抵抗しても同じ結末を辿るのは目に見えてる。

かといって逃げた所で、結局オーズがメダルの器として暴走すれば何処へ逃げても同じ事だ。」

 

「……成程。映司のあんちゃんが暴走しないように見張りつつ、手を組んで最大の障害である真木をぶっ倒そうっつー話か。確かに筋は通ってる。

─────けどその後はどうすんだ?特異点が解消されりゃ、恐らくアンタの復活も無かった事になる。あんな悲惨な最期を迎えたからには、今度は安らかに消えたい…ってなら文句は言わねぇがよ。」

 

無理矢理復活させられた以上、今度はせめて穏やかな終わりを迎えたい…という話なら理解は出来る。

だがそんなランサーの推測を、ウヴァは鼻で笑って切り捨てる。

 

「バカな事を抜かすな。俺はグリードだ…この世界の全てを欲し、食らい尽くす存在だ。だから消えたくない…その為にドクターを倒そうとしているのに、何故消える前提で動かなければならん。」

 

「ああそう、そういう事。アンタ始めから、オーズをぶっ倒す心算ってワケね。で、その聖杯奪って特異点を維持し続ける…と。」

 

要するにウヴァが行動を共にしているのは、メズール戦時のカザリと同じ。

共通の敵を前に利害が一致した。だからその敵を倒す為に力を貸す。それが終われば端から裏切るつもり。

否…元よりこのグリードは味方を名乗ってすらいない、単にアンクやディケイドとつるんでいただけ。裏切りですらない、元々一時的な共闘関係というつもりなのだろう。

 

「手は貸してやる。癪だが必要なら俺のコアも少しは貸して良い。俺一人が完全体でもヤツには勝てないからな…背に腹は変えられない、というやつだ。」

 

「で、あの終末眼鏡男をぶっ倒したら今度はこっちの番って話。…どうする?ここで消しとく?」

 

オルタは全身から魔力を放ちつつ、剣を抜刀し刃先をウヴァへと向ける。軽い調子で言葉を発し、しかし確かな殺意を漲らせる彼女に対してランサーは首を横に振った。

 

「止めとけ。こいつは強い…というか、強い弱い度外視しても、俺らじゃこいつは倒せねぇだろ。

昨日の敵は今日の友、ってこの国じゃ言うらしいけどな。そいつが更に明日の敵になるなんざ、戦場じゃよくある事だ。」

 

「ふぅん…まあ良いでしょう。スッキリはしないけど、アンタの言う事は分かるわ。」

 

敵対するのなら全力で潰す。オルタのそのスタンスは何ら変わりはしないが、ランサーの言葉は一理ある。そもそもこれから大ボス戦が控えているのに、態々今無駄な労力を割くのも本意では無い。

故に、特に拘りも無く彼女は剣を鞘へと戻す。

ただその瞳は、ウヴァを冷たく見据えていた。

 

「それに、分かりやすくてかえって良いんじゃねぇか?真木との戦闘中に虎視眈々と裏切る機会狙う輩だと一切信用ならねぇが、こいつはそのリスクを充分に理解してる。俺らと組んだ方が得、殺し合うのは終わった後───単純だがお互いその方が安心だろ。」

 

淡々と告げるランサーもまた、ウヴァへ向ける視線は冷めたものだ。失望や嘲笑の類ではない、純粋に冷静な敵対心を込めた視線。

両者からの冷ややかな視線を受け、その上でウヴァは二人の敵意を何ら意に介さず肩を竦めた。

 

「ハッ!良いだろう。お前達ごときが俺に勝てる前提で話してたのも、今はそれで良い。話が終わったのなら俺は行くぞ?」

 

「何処行く気だ?グリードがちょいとコンビニ、ってワケじゃねぇんだろ?」

 

話を切り上げ、二人に視線を向ける事すら無く立ち去ろうとするウヴァ。だがランサーの問い掛けに一度足を止めた彼は…僅かな沈黙の後、面倒臭いという感情を隠す事無く事実を述べる。

 

「……セルメダルの回収だ、オーズには黙っておけ。そもそもヤツの許可を取る必要は無いが…大事の前の少事だ。戦力補給の為のセルメダル集めを、あいつに咎められ噛み付かれても面倒だからな。」

 

そうして今度こそ止まる事無く、彼は工場を後にする。

 

「……見ていろドクター。このままでは済まさん…最後に生き残るのは俺だ…!」

 

決意と怒りを無機質な複眼の奥に宿し、昆虫の王は改めて復讐を誓うのだった。

 

 





ウヴァさんは特異点消滅したらどうなるのか知ってるパターンと、知らなくて「ウェ!?どういう事だぁ!?」ってなるパターンと迷った結果今回の形に落ち着きました。落とし穴にも落としたかったけどそれは断念。
爬虫類メダルも実は特に深く考えてなかったので、今回それっぽくなって安心したぜ!
伊達さんと後藤さんは清涼剤。一番爽やかな主人公が一番ヘヴィだから仕方無い。ちなみに二人がルビーとサファイアを珍しがってるけど、実はルビーもサファイアもバースドライバーに意思が宿ってるの気付いてる…という話も入れたかった。

次回『異世界転生ウヴァ!妖精國とモルガンと虫達の逆襲!』絶対見てくれよな!



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正解と間違いと映司の後悔


前回の話とかで、「タトバ揃ってるのにウヴァ完全体はおかしくない?」と思った方がいたらごめんなさい。
あなたの計算は合ってます。その辺の話は今回していきます。




『……以上が私の推理だ。ウヴァというあのグリードは、恐らくドクター真木の撃破後には敵として立ち塞がる筈だろう。

─────ただ、それまでは裏切る可能性を考慮する必要は無い。紫のメダルに加えてコアメダル五種の内の二種をほぼ全て、そして聖杯まで敵が有している事を考慮すれば…まあ、戦力として心強いのは事実だろうね。』

 

「……はい。」

 

通信越しにホームズが語る、最終決戦に向けた重要な考察。

本来ならば集中して聞くべき内容に間違いない、にも関わらず立香は沈んだ表情を浮かべ、何処か上の空である。

 

『……心ここに在らず、と言った所か。君の悩みを当ててみせよう。君は…』

 

『────おっとホームズ、それは流石にデリカシー不足じゃないかな?私も割とロクデナシの部類だけど、流石にそれは引くぜ?』

 

口を開いたホームズの言葉を遮り、回線に割り込むのはダヴィンチちゃん。

 

『藤丸君。君の悩みはこの気取った探偵でなくとも、君の旅路を見届けて来た者なら誰だって分かる。…だけど、敢えて厳しい事を言おう。それは他人が暴いて、知った様な口を利いても解決しないものだ。

─────だから聞くよ。カルデアのマスター…藤丸立香。君は何を考え、何に苦悩しているのかな。』

 

日頃の愉快な声音は鳴りを潜め、ダヴィンチちゃんは敢えて淡々と問い掛ける。

自分の言葉にして、自分で向き合わなければ解決しない…言外にそう告げる彼女なりの誠意と優しさは、彼女という人となりを知ってきた立香にも理解出来た。

故に、立香はぽつりぽつりと心境を曝け出す。そうしなければ、あんな恐ろしい敵と戦う事なんて出来ない…彼はそれを知っているから。

 

「……俺には、映司さんの欲望が間違ってるとは思えないんです。」

 

伸ばした手が届かなかった。

その結果、救いたかったものを取り零した。

映司の欲望の根底に在るもの。その辛さを…その無念を、立香も少しは知っているつもりだから。

 

「初めてカルデアに来た日…爆破された管制室で、もしあの時マシュの手を掴めていなかったら。その事を考えたら、怖くて仕方無くなるんです。だって俺は…その手を掴めないって経験を、もう何度も繰り返してしまったから…。」

 

冬木でレフ・ライノールが立ち塞がった時。あの時自分がもっと強ければ、オルガマリー所長の手を掴めたかもしれない。

時間神殿でゲーティアと向き合った時。あの時自分にもっと力があれば、ドクターロマンという大切な人を失わずに済んだかもしれない。

 

ゲーティアとの最後の戦い。あの中で、自分は一度マシュという掛け替えの無い存在を失った。

もしも彼女が帰って来なかったら…もう二度とマシュに会えなかったとしたら。

そんな事になってしまったら、自分だって映司と同じ様になっていたかもしれない。

 

伸ばした手が絶対に届く…守りたいものを守る為の力が欲しい。

二度と手を掴み損ねたくない。

そんな映司の欲望は、きっと自分にだって…。

 

「…マシュ。ダヴィンチちゃん。ホームズ。…最終的には映司さんから聖杯を返して貰わなくちゃならない。それは分かってる。だけど…!

……あの人の…映司さんの欲望って、本当に間違ってるのかな…?俺にはどうしてもそうは思えなくて…。」

 

『先輩…。』

 

深く項垂れた立香と、彼を気遣うマシュ。

けれどマシュだって、立香と同じ想いを抱いてしまった。だから彼女には、立香に告げるべき言葉が分からない。

 

『……そうだね。藤丸君。そして多分、彼と同じ事を考えているであろうマシュ。君達はこれまでの旅路でとても強くなった。────だけどまだ若い。そんな悩める若人に、人生の先達が答え合わせをしてあげよう。』

 

とても穏やかに、ダヴィンチちゃんは諭す様に語り掛ける。

 

『簡単な事だとも。火野映司君の欲望は間違ってなんかいない(・・・・・・・・・・)。そもそも、欲望というのは人の想いそのものだ。

そこに善きものと悪しきものは存在しても、正しい正しくないという回答を求めるのはナンセンスなのさ。』

 

深く垂れていた立香の頭が、彼女の言葉に反応してゆっくりと上がる。そうして虚空を見上げる彼の表情には、ダヴィンチちゃんの言葉をどう捉えて良いのか分からない…そんな戸惑いがひしひしと見て取れた。

 

『ダヴィンチちゃん…それは、どういう意味で…?欲望にも、正しい正しくないはあるのではないですか…?』

 

『じゃあ聞くが、戦争は良いか悪いか…って聞けば、君達はきっと迷いも無く悪いと言うだろう。その良い悪いという感性は間違っていない。

────なら次だ。戦争、ひいてはそれを引き起こした欲望は正しいか正しくないか。これはどうかな?』

 

「そんなの…正しくないに決まって…。」

 

『そうかな?例えば圧政に苦しむ民が、侵略に心痛めた王が武力で抗ったとして…結果戦争が始まったとしよう。戦争という結果、武力行使という道を選んだ事に対する是非は…ここで議論するべき事ではないので割愛しよう。ああ、別に私は戦争賛成派という尖った思想の持主では無いと断っておく。

─────さて。では行動そのものではなく、その行動を起こすに至った想いが正しいかどうかと聞かれたらどうだろう?ミスター・藤丸、そしてミス・キリエライト。君達は否定するのかい?』

 

『だからホームズ、長いし回りくどいよ。……でもまあ、言いたい事はその通りだけどね。戦争という例えが悪かったかなー…。』

 

結局黙っていられなかったホームズに難色を示しつつも、伝えたかった事は概ねその通りだと溜め息を漏らすダヴィンチちゃん。

とは言え、立香とマシュにも真意は伝わったらしい。二人は一層困惑しながらも、その顔に浮かべた表情は先程までのものとは違う。

 

『…火野さんの欲望が間違いでは無い。なら、私達のするべき事は…。』

 

「映司さんを信じて、付いて行く事…?」

 

『惜しい!彼を信じる、そこは良いと思うよ。確かにこの特異点の修正には、彼の持つ聖杯もどうにかしなくちゃいけない。でもだからって、彼の欲望を否定する事には繋げなくて良い。

 

───────大事なのは、彼とその欲望にどう向き合うかだ。彼に間違いが有るとするなら、欲望そのものじゃない。聖杯を使ってまで、それを一人で抱えようとしてる事だ。思い出して?君達は今までに良い反面教師を見てきた筈さ。』

 

ダヴィンチちゃんの言葉で二人の脳裏に思い起こされるのは、七つの特異点を巡って出会ってきた数々の人物達。

イアソンは王として世界を救う事に固執するあまり、メディアの言葉の真偽を確かめずに破滅した。

獅子王は"人"を救う事を是とし、結果"人間"を救う事をしなかった。

エジソンもオジマンディアスも、民と国を救う想い故にそれ以外を切り捨てようとした。

他にも多くの英霊達と出会ってきた。彼等一人一人が根底に抱く願い…欲望は、決して間違いでは無かった筈なのに、やり方を間違えてしまった。

けれど、エジソンを叱ってくれたエレナのように。獅子王を悪だと断じ命懸けで止めたベディヴィエールのように。近くで支えてくれる者達が居てくれたら…。

 

「……そうか。そう、だったのか…!」

 

『お?気付いた?』

 

立香の顔はもう沈んだ表情ではない。決意を固め、その瞳の奥には強い意志が宿っている。

 

「はい。俺、やっと分かりました。

────欲望そのものに間違いは無い。でも、それをどう叶えるかが大事なんだ。映司さんは皆を守りたいと願って、何処までも届く腕を欲しがった。」

 

『ですが、人間一人に可能な事には限りがあります…残念ながら。私達の手は、この世の全てを掴める程大きくはありません。』

 

「俺だって一人で人理修復を成し得たわけじゃない。マシュやダヴィンチちゃん、ドクターロマン…カルデアを支えてくれた皆や、沢山の英霊達。沢山の人達の力を借りて、今ここに立っているんだ…!」

 

『そうとも!万能の天才たる私だって、その力を万全に果たす為に多くの者達に手を貸して貰ってる。

自分一人の手が届かないなら、別の誰かの手を掴めば良い。そうやって…』

 

『そうやって誰かと手を取り合い、掴みたかったその先に手が届くまで皆で手を繋いでいけば良い。人類史というものは、その繰り返しでこうして積み上げられてきた結果なのだから。Nobody's Perfect(完璧な人間はいない)…という事さ。』

 

映司は言った。俺達の手が届く範囲なんて小さなものだと。それは事実だし、だからこそ目の前の事を一生懸命にやるしか無い。

だが、無理にその手が届く範囲を一人で大きくする必要は無いのだ。一生懸命に伸ばしたその手が掴んだ先に、別の手が有れば…その手はいつか、もっと先に必ず届く。

 

「俺は映司さんの手を掴む。」

 

『ふふっ…なら、私達が先輩の手を掴みます。そして…』

 

────掴んだその手を絶対に離さない。

 

人類最後のマスターとして戦った少年と、彼のサーヴァントとして共に歩んだ少女は。

誰かの手を掴む、その本当の意味を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の決戦に挑む前、その最後の一時をここまで見届けてきた。

そして残るは二人。

 

「………なあ、アンク。」

 

「…なんだ。」

 

こちらの陣営に残ったメダルを手に取り見詰めていたアンクは、映司の呼び掛けに素っ気なく言葉を返す。

 

「正直、やり方は不味かった…それは俺にも分かってる。それでも……また会えて嬉しい。」

 

「ハッ!会えて嬉しいか…お前の事だ、それは本心なんだろうがな。だが、やり方が不味い自覚も有ったから俺に会うのが怖かったんだろ?」

 

「そんな事……今は、無いとは言いきれないかな。」

 

アンクと再会した時の、彼の言葉の意味。彼が示した怒りの理由が今なら分かる。

自分は力を求めるあまり、仲間達と知らず知らずの内に距離を置いていたのだ。

 

「お前が力を求めた事に後悔は無かったとしてもだ。悪さがバレるのに怯えるガキみたいな、そんな後ろめたさは残ってたんだろう。そんなお前の妙な律儀さと小賢しさを、聖杯とやらが汲み取った…だからややこしい事になったんだ。少しは反省しろ、このバカが。」

 

伊達や後藤と連絡が取れなくなった…その理由は並行世界の存在だからだと一度は納得した。世界の壁まで越えられる連絡手段を、自分達が有していなかったからなのだと。

だが、そうでは無かった。向こうの時空の仲間達が会えなくなったのは、向こうに居る筈の映司であり。自分が会えなくなったのは、こっちの仲間達なのだから。

 

「真木博士は今も聖杯を持ってる。だけど、元々この現象を引き起こす為に使った聖杯は…俺の中にある物だ。」

 

「ヤツは恐らくこの特異点の維持を、今はもう一つの聖杯でやってる。だからお前に聖杯を渡して、もう一つの聖杯を手に入れるまでの僅かなタイムラグ…特異点の所有権がお前に移った短い間に、お前の心理が聖杯に影響を及ぼした。二つの世界の二人の映司に、アイツらに出会わない為の人避けの結界みたいなモンが生まれたんだろう。

─────火野映司の神隠し事件、これが真相だ。いっそお前がもっと開き直って、真木や鴻上みたいに好き勝手やってる人間なら…こうはならなかっただろうがなぁ?」

 

「悪かったよ…!……きっと、こっちにはこっちの伊達さんや後藤さんが居る。でもグリード復活があれだけ多くの人達に知られてる中で、二人とも出てこないって事は…多分こっちの二人は、単に俺と会えないように設定されてるだけじゃない。負傷とか、俺が壊した鴻上ファウンデーションの後始末とか…何かしらの理由で戦えなくなってる筈だ。」

 

真相を知り、自分の心境に変化があったとはいえ…だからすぐに増援を期待出来る、なんて考えるのは浅はかだろう。

今居る皆で戦うしかない。

 

「こっちのメダルは…お前が持ってる紫が七枚。後はタカ、トラ、バッタ。それにゴリラと、メズールのメダルが七枚。俺とウヴァは九枚揃った完全体…メダルの数だけ見ればこっちが有利か…だが状況は前と違う。

俺達グリードをメダルの器にしようとした前と違って、今の真木が狙ってるのはお前だ。仮に全部のメダルが揃ってても、お前が暴走したらヤツの勝ちだ。映司、その辺分かってんだろうな?」

 

「分かってるよ…だけど、多分これでもまだ力が足りない。俺も聖杯は持ってるけど、真木博士程は使いこなせないと思う。向こうはいざとなれば、俺から聖杯を一度取り上げたら逆転だって出来る筈だ。」

 

「チッ…面倒な事してくれたな、お前も鴻上も。」

 

アンクの苛立たしげな言葉に、映司は意味が分からず小首を傾げる。

 

「鴻上会長?何で今?」

 

「二つ目の聖杯の出所なんざ他に有るか。鴻上は脅しに屈するタマでも無いだろう…ヤツの事だ。」

 

 

 

"素晴らしいッ!!!世界を終わらせるという君の思想には共感出来ないが、その欲望は素晴らしいよドクター真ァ木ィ!!

────良かろう、その聖杯を持って行きたまえ!そして君を打ち倒すべく、オーズは更なる進化を遂げる!!君達の欲望の連鎖が、新しい世界を生み出すのだ!!!"

 

 

 

「"ハッピーバースディ!!"…ってな。見てないが、大方そんな所だろ。」

 

「そ、そうとは限らないんじゃないかな…。けど、全面的に否定出来ないから困るね…。」

 

苦虫を噛み潰した様な顔で、大仰な仕草も含めて物真似を披露するアンク。結局の所それは彼の推測に過ぎないが…その光景は容易に想像出来る為、映司は苦笑を浮かべるしかない。

 

「ま、まあ会長の事は置いといて。アンク…一つ聞きたいんだけど。お前もウヴァも、メダルは全部揃ってるんだよな?けど、俺の手元にはタカもバッタも有る…これって何で?」

 

「フン、やっぱり気付いて無かったか。それは十枚目…お前が一度だけ使った、800年前の王のメダルだ。」

 

アンクは映司の問いを鼻で笑い、嘲笑めいた口調で答えを示す。

映司が再現したのは五体のグリードを形作る、各九枚のコアメダル───だけではない。

爬虫類の力を宿した橙のメダル同様に、真のタトバコンボとして使用したあの三枚も復元していた。だからこそ、アンクとウヴァは九枚ずつ揃えて復活する事が叶った…これが真相だったのだ。

 

「じゃあ、ウヴァから貰ったこのトラは…。」

 

「そっちが本当のカザリのメダル。お前が盗まれたのは真のタトバコンボの方だ。」

 

「え、じゃあこれどうしたの!?」

 

「俺が逃げる時に拝借したに決まってるだろ。真木も厄介だが、次に面倒なのはアイツだったからな…こんな形で役に立つとは思わなかったが。」

 

相棒の変わらぬ抜け目の無さに、映司は乾いた笑いを浮かべ。

 

「で?やっぱり気付いて無かっただろうが、それが分かって何かあんのか?」

 

「……うーん。気付いて無かった…って言われたら確かにそうなんだけどさ。

───うん。記憶を取り戻すまでは確かに気付いて無かった。けど、思い出してからは…薄々気付いてはいたけど、確証が持てなかった。今こうして理解したから、俺の考えは間違ってない…そう思った。」

 

すぐにその笑みを引っ込めた彼が浮かべるのは、何か覚悟を決めた様な真剣な顔付き。

声音に滲み出た違和感に気付いたのだろう。アンクは手元のメダルから視線を上げ、映司の方へと向き直る。

 

「……映司。お前、何を…。」

 

「俺の欲望が、この世界で消えた筈のメダルをもう一度造り出した。それはずっとオーズとして使ってきたメダルだけじゃない…橙色のメダルや、800年前の王が使ったメダルも復元出来たのなら。

俺の中に在る聖杯は、どんなコアメダルだって生み出せる(・・・・・・・・・・・・・・・・)筈だ。」

 

映司の瞳が紫色に輝く。

それに気付いたアンクが止める間も無く、映司は聖杯の力を呼び起こし…。

 

「俺に……もっと、もっと力を!!」

 

彼の内から生み出される、新たなコアメダル。

 

コブラ、カメ、ワニの橙に輝くメダル。

 

────それだけではない。

ムカデ、ハチ、アリ。

エビ、カニ、サソリ。

サメ、クジラ、オオカミウオ。

シカ、ガゼル、ウシ。

セイウチ、シロクマ、ペンギン。

 

爬虫類以外、全てアンクが知らないメダルだ。

聖杯の機能を停止させ、少し疲れた様子で笑う映司に、アンクは怒りの形相で掴み掛かる。

 

「おい映司!!お前、これは何だ!?こんなコアメダル俺は知らないぞ!」

 

「ごめん、俺もよく知らない…多分、お前も知らない過去か…もしかしたら未来のメダルだと思う。」

 

「何だと…!?お前、聖杯に何を願った!」

 

「決まってるだろ…もっと、もっと強い、皆を守れるだけの力を。俺が欲しいと望んだのはそれだけだ!」

 

聖杯を取り込んだ事で、映司には聖杯戦争や英霊召喚の知識が与えられた。

曰く、英霊達は"座"と呼ばれる場所に記録された存在だという事。

曰く、英霊の座には時間の概念が無い…故に、英雄本人が存在している時代や、その英雄が生まれてすらいない過去に未来から召喚される場合も有る事。

 

なら、この聖杯(ちから)が有れば…どんな時代も越えて、真木の知らない更なる力を引き寄せられるのではないか。

 

「そう思って使ったんだ。けど、やっぱり俺じゃ真木博士程聖杯を上手く使えてない…。戦闘中に同じ事する余裕は無さそうだから…多分、これ全部一回きりの使い捨てになっちゃうと思う。けど…!」

 

「─────俺が言いたいのはそういう事じゃない!映司、お前まだ分かんないのか!?お前には懲りるって事は無いのか大バカ野郎!」

 

アンクは怒りと、何処か悲しさを滲ませた声で映司を怒鳴りつける。彼の胸倉を掴み、今にも締め上げんとばかりの勢いだ。

 

「──────懲りたさ!!手が届かないのはもう懲り懲りだ!お前も、あの女の子も!!俺にもっと力が有れば助けられたんだ!!もうあんな思いはしたくない!!」

 

そんなアンクに負けじと、自身の胸倉を掴む手を振り払いながら声を張り上げる映司。

対峙し、睨み合う二人。それは暫く続き…軈て根負けした様に、先に視線を外したのはアンクだった。

 

「それで…お前自身が死ぬ事になってもか。」

 

「…別に俺も、進んで死にたいワケじゃない。けどそうする事で…この手が掴める命が有るなら。俺は迷わず掴む。助けられる手段が有るなら、誰だってそうするだろ?」

 

何処か寂しそうに微笑む相棒に、アンクは物悲しげに目を伏せる。

 

「だが────「やあ!……あれ、取り込み中?」

 

空気を読まない明るい声に、二人の視線はそちらへ吸い寄せられる。

立っていたのは何処から侵入したのか、散々掻き回して消えたあの泥棒だった。

 

「泥棒さん!?何処から!?」

 

「その呼び方は止したまえ。僕は海東大樹…またの名を、仮面ライダーディエンド。

そんな事より敵が動き出した。士も戻って来てね。出撃だ…って呼んでるよ。」

 

使い走りの役目に不満そうに告げると、役目は果たしたとばかりに海東はさっさとその場を立ち去る。

 

「行こう、アンク!」

 

「………ああ。すぐ行く、お前は先行ってろ。」

 

「…分かった!」

 

去った海東の後を追い、映司も部屋を後にする。最後に一人残されたアンクは───。

 

 

 

「誰だってそうする…だと?笑わせんな。そんなワケが無いだろうが…!お前のは、とっくに"誰だってそうする"の範疇を越えてんだよ…!」

 

やり場の無い感情をぶつけるように、その拳を壁へぶつけるのだった。

 

 






尺の都合で省略しましたが、ドクターが二個目の聖杯ゲットだぜ!した経緯はアンクの推測通りです。余計な事ばっかするけど味方としても有能過ぎるし、本人に悪意が無いから何も言えない鴻上会長クオリティ。
つまり本作品の首謀者はドクター、それを操ってた黒幕はリンボ。別に悪い事はしてないし、状況的に仕方無い面も有るけど、それはそれとして余計な事して原因の一部を担ったのは会長。
では次回予告です。


異世界転生ウヴァ!
突如現れた胡散臭い系王子様・オベロン!
彼の魅力とカリスマに虫達からの信頼、そして女性ユーザーからの人気を奪われたウヴァはムシキングの座を追われてしまう!
追い詰められた彼は、飲み屋のツケの精算に追われる賢神グリムとバイトに励む事に!
時代を先取りした『ウヴァEats』で店は大繁盛!だが次なる配達先は、あのモルガンの娘───
バーヴァンシーの屋敷だった!

「まいど!出前の配達だぁ!…配達、だ。」

「貴様…!!」

果たしてウヴァは、激怒するモルガンの追跡を振り払いバーヴァンシーへラーメンを届けられるのか!そして更なる悲劇が彼を襲う!
次回、異世界転生ウヴァ!
『届けろ出前!覚醒のガタキリバエタニティ!』
次回も見てくれよな!



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進軍と奇襲と異色のタッグ


?「のう。平成ライダー、それもオーズの話でワシが出てこないまま最終決戦きたんじゃけど。やっぱこの作者クソじゃわ、低評価不可避。」

?「知りませんよ。沖田さんの出番はゴーストですし、何ならヒーリングっどしてますし。」

?「命燃やすか病気治すかどっちかにしとけ。大体中の人の話したらワシだってエースだし。」

?「野球漫画ですか?」

?「ブッ飛ばすぞ。」




 

そこは、まさに"世界の終末"と呼んで差し支えない状況だった。

屑ヤミーを含む無数のヤミーが町を跋扈し、その光景はさながら百鬼夜行を思わせる。助けを求め逃げ惑う人々に襲い掛かるヤミーの群れは、明らかにこれまでのグリード達によるセルメダル集めと一線を画していた。

 

「欲望は無…!」

 

「無こそ欲望…!」

 

二体のプテラノドンヤミーが、周囲の建物を消滅させながら飛び回る。

彼等の目がその影に隠れていた人々を捉えた。

 

「「世界に良き終末を!!」」

 

上空から高速で迫る二体のヤミー。その無慈悲な一撃が無辜の人々を襲うその瞬間───漆黒の短剣が彼等の目と翼を貫く。

 

「がっ…!?」

 

「な、何……!?」

 

「終わりたきゃ勝手にやってろっての!」

 

視界と飛行の制御を一度に失ったプテラノドンヤミー達を、オルタの旗が薙ぎ払う。燃え盛る業火に全身を焼かれ、ヤミーは物言わぬセルメダルと化した。

 

「ハッ!ざまあない!こっちの攻撃さえ通れば、あんたら程度なんて事無いわよ!」

 

片手で旗を肩に担ぎ、オルタは上機嫌に鼻を鳴らす。

 

「調子に乗るな!メダルの力が切れる前に、お前らは倒せるだけ倒しておけ!!」

 

『アタック・ライド!スラッシュ!』

 

そんな彼女を怒鳴りながら、複数の屑ヤミーを纏めて斬り伏せるマゼンタの戦士───仮面ライダーディケイド、彼本来の姿だ。

 

「うっさいわねピンクバーコード!言われなくてもやってるわよ!」

 

「変な名前を付けるな!もっと手を動かせ!───おい藤丸、調子は大丈夫か!?」

 

互いに声を張り上げながら、二人は次々とヤミーを消し飛ばしていく。

そんな彼等を見守る立香。最低限の護衛としてハサンのみを傍へ置き、ディケイドやオルタと共に無数のヤミーに対処するのが彼の役目だ。

調子を問われた立香は問題無いとばかりに力強く頷き、ディケイドを見据えて声を張り上げる。

 

「大丈夫です!皆とのパスも安定してるし、寧ろ魔力の減りは少ない…!」

 

サーヴァント達がヤミーと渡り合えるカラクリは、ウヴァが集めてきたセルメダルにある。

真木がコアメダルをサーヴァントに投入し、グリードサーヴァントを作り上げたように。立香が率いるカルデアの英霊達も、その霊基にセルメダルを取り込む事で"オーズの世界"に課せられたルールを突破可能…士の授けた策は見事に的中した。

 

「目には目を、メダルにはメダルってな。難点はコアメダルと比べて力が弱い事…そしてバース同様、セルメダルの力は使い捨てって事だ。」

 

「かといって一度に取り込み過ぎては、どの様な不具合が起きるか分からない。以前の戦いで映司殿が、無数のセルメダルを取り込んだ負荷に倒れたのと同じリスクは付きまとうでしょうな。」

 

「あれはあのバカがやり過ぎたってだけでしょ。このくらいならなんて事無いわよ。…というか寧ろピンク仮面、アンタこそ何で普通にヤミー倒せてるワケ?」

 

「ピンクじゃないマゼンタだ。俺の力は世界の破壊者…全ての仮面ライダーとその敵に対して俺はジョーカーになり得る、それだけだ。」

 

「丁寧な説明ありがと!取り敢えず考えるだけ無駄って分かったわよ!!」

 

幾つもの世界を渡り、仮面ライダーの歴史を繋ぐ存在であるディケイド。世界の破壊者の称号を持つ彼の力は、その世界のルールすらねじ曲げる一種のチート。

ただ、その事を立香達カルデア側に知る由も無い。

なので、さも当然とばかりに告げる彼にオルタは苛立ちを隠さず皮肉を飛ばす。

そんな場の空気はともかく、彼等は漸くヤミー達と対等に戦う土俵に登れた。土俵に上がってさえしまえばこちらのものだ。

立香が指示を出し、オルタが剣を振るい、ハサンが短剣(ダーク)の投擲で急所を貫く。そして強力なサーヴァントにも匹敵するディケイドもまた、ライドブッカー片手に次々とヤミーを斬り伏せていく。出だしとしてまずまず優勢な戦況だ。

 

「だが、セルメダルでのドーピングは一種の裏技だ。そこの魔女は平気と強がったが…異常を感じたら止めさせろ。倒せなくても、制圧するだけならサーヴァント本来の力で充分だ。藤丸、お前の役割はその司令塔だ。」

 

「はい!」

 

ディケイドの言う通り、宿った力に比例するかの如くリスクも大きい。幾らグリードの宿らぬセルメダルとはいえ、バースの様に専用の調整を施したワケでは無い。セルメダルの力に影響され、サーヴァント達自身が抱く欲望で暴走するリスク…グリードサーヴァントならぬ、ヤミーサーヴァントと呼べる様な状況に陥ってしまうのは避けたい所。

とはいえメダルの力無しではヤミー相手に決定打を与えられないのもまた事実。各サーヴァントにセルメダルを持たせ、各々の裁量で取り込ませた上で立香がレイラインを通して監督する…という方針に落ち着くのは自然な流れだった。

 

「一応ランサー殿は以前槍の刃先にメダルを合わせて、物理的にメダルで敵を粉砕していたとの事ですが…」

 

「流石に今の状況で、そんな悠長な曲芸やってる暇は無いからな。」

 

「ま、暴走云々の前にあいつらが戻って来ないと始まらない…でしょ!ああ、もう鬱陶しい!」

 

無数に湧く屑ヤミーを薙ぎ払いながら、オルタは宙へと視線を向ける。

 

その先、遥か上空に浮かぶのは巨大な八面体。石にも金属にも見える奇妙な材質の飛行物体────メダルの器の暴走体によく似たそれは、地上のありとあらゆる存在をセルメダルに変え、吸収している。そして吸収されたメダルはヤミーへと変わり、地上へと産み落とされる…悪夢の様な負のスパイラルが展開されていた。

 

「士殿に見せられた過去の光景と比べれば、些か形状が違いますな。それに大きさも幾分か小さい。」

 

「そりゃそうだろ。あれは真木が作った複製品…メダルの暴走体そのものじゃない。奴の手に有るコアメダルを、聖杯の魔力で補強した贋作だ。奴の本命になる器は他に居るんだからな。」

 

「それでも、このまま放置するワケには…。」

 

個々の能力では勝る状況。だが相手は無尽蔵に発生する怪物だ。今は優勢でもいずれは引っくり返される。

───そんな時、けたたましいエンジン音が戦場に鳴り響いた。

 

「─────来たか。」

 

『カメン・ライド!ウィザード!!』

 

「遅いっての!アサシン、マスターちゃんを守りなさいよ!」

 

「心得た!」

 

疾走するバイクの音を合図に、ディケイドとオルタが動き出す。

彼等を押し込まんと殺到するヤミーを、オルタは盛大な炎の壁で焼き尽くす。呪いを帯びた業火の前に、何体ものヤミーが手を出す間も無くセルメダルと化した。

そんな同胞達に目もくれず、さながら光に集まる虫の様に次々と押し寄せるヤミーの群れ。

対してディケイドは────深紅の宝石を思わせる仮面を着けた希望の魔法使い(ウィザード)へと姿を変え、彼等へ向かって走り出す。

 

「しくじったら殺すわよ。」

 

「誰に言ってる。」

 

すれ違いざまに毒を吐き合いながら、オルタとディケイドウィザードは立ち位置を交代。

彼女を庇う様に立つディケイドウィザード。彼と、眼前に迫ったヤミーの群れとの間に、赤く輝く魔方陣が出現する。

 

『ファイナル・アタック・ライド!ウィ・ウィ・ウィ・ウィザード!!』

 

「さあ、ショータイムだ。」

 

魔方陣はオルタの起こした炎を全て吸い上げ…ディケイド自身の魔力を上乗せし、悉くを焼き尽くす炎の奔流を巻き起こした。

龍の息吹(ドラゴンブレス)を思わせる爆炎の地獄に、迫っていたヤミーの群れが一掃される。

そして荒れ狂う炎を飛び越え、三台のバイクがオルタとディケイドウィザードの背後に着地した。

 

「お待たせ!遅くなってごめん!」

 

「映司さん!!」

 

ライドベンダーから降り、立香と合流を果たすオーズ。

その後ろでは同じくバイクから降りたバースとプロトバースが、ウィザードへと詰め寄っていた。

 

「あっぶねぇよ!?俺らまで焼き肉になっちまうところだったろ!!」

 

「遅かったのが悪い。大体、お前らがあの程度でくたばる筈が無い…と分かってたからな。」

 

「そ、そう…?それはまあ…」

 

「伊達さん、なんでちょっと言いくるめられそうになってるんですか。」

 

目に見えて機嫌の良くなったプロトバース(伊達)に呆れた声音で突っ込むバース(後藤)

肝心のディケイドは本来の姿に戻りながら、そんな話をしている場合ではないと二人を無視してオーズへ視線を向ける。

 

「で?お前らは足を確保した。敵の居場所はどうだ。」

 

「─────鴻上ファウンデーションの跡地だ。」

 

オーズへ向けられた問いに割り込みながら、上空から急降下して来るのはアンク。彼に続き、ウヴァ、イリヤ、美遊も空から降りて来る。

 

「ライドベンダーが使える以上、鴻上は生きてるだろうな。だがあそこに居るのか、何処かに逃げたのかまでは知らん。まあ、奴は放っておいても平気だろ。どうせ最後にはしれっと生きてる…そういう人種だ。」

 

『アンクさんとウヴァさんの目、それにルビーちゃんとサファイアちゃんの魔力レーダーでも探知しました。いやぁもう、ヤミーが多過ぎて見付からないようにするの大変でしたよ…。』

 

「よし。戦力増強はどうだ。」

 

「そっちも───立香君!!」

 

限界まで気配を隠し、高い敏捷性をもって一瞬の内に立香の背後へ迫るシャムネコヤミー。立香が振り向く間も無く振り下ろされる、鋭い爪による一撃は────

 

 

「シャアアア────ガッ……!?」

 

「……遅い。」

 

しかし、彼の首へ届く事は無い。

神速の矢に頭部を貫かれ、動きが一瞬止まった隙にヤミーの肉体は両断された。

 

「そっちも何とかなったぜ。ったく、人使い荒過ぎんだろ。」

 

次なる問いに答えたのは、立香の後ろから歩み寄るランサー。今しがたシャムネコヤミーを切り裂いた槍を、既に肩へ担いで息ひとつ切らしてはいない。

その後ろに続くアタランテもまた、既に弓を消し去り涼しい顔で歩いて来る。

 

「マスター、役目は果たしたぞ。そらっ。」

 

彼女はオーズ目掛けて一本の缶を放り投げる。無論、水分の補給ではない。

 

『タカ・カン!』

 

宙を舞う缶はオーズの手元へ収まる事無く、空中で変形し小さな鳥型メカになる。鴻上ファウンデーションが作り出したガジェットの一つ、カンドロイドだ。

 

「預かったメダルで片っ端からこいつらを起動してきたぜ。ヤミーを倒せるとは思わんが、相当な数だからな…逃げ遅れた連中の時間稼ぎには充分だろ。」

 

「よし、状況は大体分かった。────藤丸。お前が采配を決めろ…オーズを真木と戦わせる、それ以外の連中の動きをな。」

 

ディケイド…もとい士の立てた作戦はシンプルだ。

戦力を分けて別行動を行う。ヤミー達の対処に当てる者と、真木を叩く者。

敵が周囲に存在するもの全てをセルメダルに変える以上、被害を抑える意味でも敵の戦力を増加させない意味でも速攻が鍵になる…だからこそ、ライドベンダーまで用意させた。真木には少数精鋭での電撃特攻を実現し、ヤミー達の増殖にも広範囲に対応するためである。

 

「……分かりました。それじゃあ、まず─────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無数のヤミーを蹴散らしながら疾走する二台のバイク。ライドベンダーとマシンディケイダーが並走しながら目指す先は、真木の待つ鴻上ファウンデーション跡地に他ならない。

そして彼等の上空を翔る者達と、彼等に並び大地を駆ける俊足の狩人。彼等の前に、一際大きなヤミーの一団が迫る。

 

「次の波が来るぞ!」

 

先陣を切るディケイドが声を張り上げる。

その言葉の通り、彼等を迎え撃とうと雪崩れ込んで来るヤミーの大群…それも数だけではない。バイソン、リクガメ、アンキロサウルスと、タフネスの高いヤミーを揃えて彼等の動きを阻む為の布陣だ。

 

「ここは私が!クラスカード、騎兵(ライダー)!」

 

「私も…魔術師(キャスター)!」

 

「「"夢幻召喚(インストール)ッ!!"」」

 

先行するバイクを追い越しながら、二人の魔法少女が転身する。

夢幻召喚(インストール)───即ち、彼女達の持つカードへ封じられた英霊の力を身に纏い、一時的に自らを英霊と同じ次元へと押し上げる切り札である。

 

「邪魔…しないで!!」

 

美遊が纏うは神代の魔術師(メディア)の力。

今の彼女が放つ物理保護は、魔女の名に恥じぬ強度を誇る最強の結界となる。それをヤミーの進軍を逸らす様に弓形に展開する事で、突破出来ないヤミー達は一行の側面へ動きを流されて行った。

 

「だけど、それにも限界は有る…だから!」

 

「ここを一気に突破する!行くよルビー!」

 

『お任せを!モタモタしてたら挟み撃ちにされちゃいます!

皆様、ひとっ走り付き合って下さいよ~!!』

 

有する魔力をフル稼働し、その身に取り込んだセルメダルの力も全力で解放するイリヤ。

彼女が握るは一本の手綱、そしてそれが御すものこそ神話の再現。顕現した純白の天馬が嘶き、流星の如く天から地上へ駆け抜ける。

 

「─────"騎兵の手綱(ベルレフォーン)"!!!」

 

宝具の展開に合わせ美遊は正面の結界だけを部分的に解除。そこからヤミーが雪崩れ込むより速く、天馬が敵を蹴散らしながら疾走していく。敵の布陣を容易く切り崩しながら前進する彼女に続き、他の面々もヤミーに触れる事すら無く包囲網を突破した。

 

『ここまで来たら後少しです!この勢いで突破を────』

 

「何か─────きゃあ!?」

 

大部分を削られ、生き残ったヤミー達も体勢を整えられぬ間に一気に引き離した一行。そのままラストスパートをかけようとした矢先、飛び出して来た何者かにイリヤは無理矢理ペガサスの背から引き離される。

 

「あれは…カザリ!?」

 

下手人の正体は消滅した筈のカザリ。

アレキサンダーの霊基は既に無く、グリード本来の姿でイリヤの上に覆い被さりっていた。

 

「いや…微妙に違う、アレにヤツの意識は宿って無い。コアはライオン一枚だけ。他は全部セルメダルだ。」

 

「って事は…昔戦ったアンクの偽物みたいな感じ!?」

 

「どうだかな。どっちにしろ、本物よりは弱いが相手にするのは面倒だ。」

 

「そんな事言ったって助けなきゃ!イリヤちゃん、待って…」

 

「────良いから先に行って!このままじゃまたヤミーが来ちゃう!」

 

イリヤの救出へ動こうとするオーズを、他ならぬイリヤ自身が声を張り上げて制する。

彼女の言う通りなのは確かだ。ここで勢いを止めれば、ヤミーに物量戦を仕掛けられて消耗するのは目に見えている。だが幾らなんでもグリード相手にイリヤ一人を残していくのは危険過ぎる。

段々とイリヤ達の元へ近付いて行く一団。先頭を走るオーズは思案の末イリヤの方へと進行方向を変えようとし…

 

「オーズ!持って行け!」

 

上空からかかる声に意識を引き戻される。反射的に見上げれば、オーズ目掛けて降って来る二枚のメダルが視界に映る。

咄嗟にそれをキャッチしながら、同時に彼はイリヤの方へ飛び去って行くウヴァの姿を目の当たりにした。

 

「ウヴァ……」

 

「今はあいつらに任せるぞ!このまま突っ切る!藤丸、良いな!」

 

「………ッ。───はい!イリヤ、頼んだよ!!」

 

そのまま二人を残して進軍を続ける───即座に判断を下したディケイドが一気に加速し、他の面々もそれに続いた。

 

「……イリヤちゃん、無理はしないでね!」

 

最後まで迷っていたオーズも、苦渋の決断でスロットルを捻る。ライドベンダーがエンジン音を轟かせ、イリヤ達を抜き去って行った。

 

 

 

『……で、ここからどうしましょうイリヤさん。ぶっちゃけ、結構ピンチでは…?』

 

「分かってるから!流石に、キツい…!」

 

両腕を、相手の両腕により地面へと押さえ付けられ…一切の身動きが封じられた。今は夢幻召喚したライダー(メドゥーサ)の怪力で必死に抗ってはいるが…一瞬でも気を抜けば首を獲られる。

 

「どけゴラァ!!」

 

そんな拮抗した状態を破ったのはウヴァ。粗暴なヤクザキックでカザリを蹴り飛ばし、間髪入れずにイリヤの手を掴んで引き起こす。

 

「わっ!?ちょ、手が刺々してて痛い!?」

 

「助けてやったんだ、それくらい我慢しろ!…とっとと構えろ、来るぞ…!」

 

「は、はい…!」

 

二人は油断無くカザリへ向き直り、戦闘態勢を取る。

狙うは早期決着───魔法少女と昆虫の王による、異色のコンビが今ここに誕生した。

 





ライダー【真名:アレキサンダー、カザリ】

ステータス
筋力B
耐久B
敏捷A+
魔力C+
幸運A
宝具C+
(メズールとの戦闘時。その他の場合所持メダルに応じて変化)

所持スキル
・対魔力(D+):魔力への耐性。通常Dランクでは詠唱が一行程の魔術を無効に出来る程度だが、コアメダルの影響でオーメダルの魔力以外に依る魔術への耐性が付与された。

・変化(メダル)(EX):文字通り「変身」する能力。アレキサンダーの霊基と混ざり合ったカザリの影響で、コアメダル及びセルメダルを取り込む程その姿、能力はグリードのそれへと近付いていく。それに伴いステータスも上昇するが、セルメダルは消耗品の為、魔力を消費する度にグリードから通常のサーヴァントへと近付くという逆戻り現象が起きる。

・騎乗(A+→E)
・神性(E→E-)
グリードと混ざった事で、元々所持していた能力や神性が低下した。特に騎乗スキルに関しては、カザリ自身が自らの脚で地を駆ける事を前提としている為に相性は最悪である。神性については元々アレキサンダーの時点で然程高くないため、神性を求められる場面で無効判定が出る場合もある。

・紅顔の美少年(B-):通常は変化無し。但しアレキサンダーとして活動している状況に限られる為、グリード態へ変化すると全く意味を為さない死にスキルとなる。

・カリスマ(C)→謀略のカリスマ(B):本来のアレキサンダーが持つ"人を惹き付ける意味でのカリスマ性"が変貌したもの。カザリの巧みな話術と知略がカリスマ性をより高く見せ、相手に取引や共謀を持ち掛ける場面でのみ有効に働く。場面を限定する代わりに、本来アレキサンダーが有するカリスマ以上の効果を発揮する。但しその性質上、相手に交渉の余地が無ければ意味がない。可能性が0.1でも有れば意味の有るスキルだが、端から0ではどうしようもないという事。

・覇王の兆し(A→消失):アレキサンダーの持つ、いずれイスカンダルとして有する事になる精神性の片鱗。カザリに意識の全てを奪われ、霊基もグリードサーヴァントとして異なる形に成立した状態では消失してしまった。

宝具
・始まりの蹂躙制覇(ブケファラス)
アレキサンダーの愛馬にして伝説の名馬であり、恐るべき人食いの馬。彼以外には誰も乗りこなす事の出来ない暴れ馬であり、もしも乗りこなす事が出来た者は世界を得るだろうと語られた。宝具として召喚されるブケファラスは英霊でもあるため、宝具にして英霊、英霊にして宝具というべき存在である。
一応アレキサンダーの霊基を持つため、今のカザリにも使用は可能。但し言うまでもなくインチキによって成立した宝具であり、ブケファラス側は納得していない。この状態で使用すると、ブケファラス側の抵抗として宝具ランクはB+からC+へ低下し、場合によっては召喚に応じない可能性すら有り得る。オーズが乗りこなせたのは、召喚者と同じコアメダルによるコンボを用いていた事、ラトラーターコンボの持つ高い騎乗能力、そしてこの戦いが世界を救うためのものであり仕方無くブケファラスが妥協した事…等、複数の要因が絡み合った結果だった。

※神の祝福(ゼウス・ファンダー)は覇王の兆しの消失、神性の低下と同様の理由で使用不可。

所持メダル
ライオン×3
トラ×0→1(メズール撃破後オーズから奪取)
チーター×2
(計6枚)

※なお、上記は全てメズール戦時点参照。現在ウヴァとイリヤが対峙している偽物は、ライオンコア一枚だけを所持した最低限の状態を真木が強化したもの。聖杯の力による補強と多量のセルメダルで、コアメダル5枚所持程度の力になっている。





真木博士めっちゃ強くて底見えないくらいに描いてるつもりだし、実際強いんですけど、見映え的にはちょっと過剰戦力過ぎる気がしたので分散させましょう!劇場版でよくある展開だから許して。
あと(ウヴァさん飛べたっけ…まあクワガタもカマキリもバッタも飛べるしええかな…)のガバガバ思考。
結果オシャレ魔法少女ウヴァ&イリヤ爆誕。

「お兄さん、あっちこっちの女性とフラグ立ててすごいな!(ウヴァさんスマイル)」

「この人絶対煽ってる!!」


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連携とスピードとウヴァの教え


イリヤとウヴァのタッグ戦。つまりウヴァのゴルフクラブもカレイドステッキ…?



 

 

「ちっ…まさかキャスターの俺を羨む日が来るとは、夢にも思わんかったぜ…!」

 

ぼやきながらも手を止める事無く、ランサーは迫り来る屑ヤミーを斬り伏せる。

 

「ハハッ…お互い、宝具がヤミー相手では効果薄ですからな。しかしランサー殿の場合、投げ槍を使えば一網打尽も容易いのでは?」

 

苦笑気味の声音で同調しつつ、短剣を振るってヤミーを次々に仕留めていくハサン。最早暗殺も何もあったものではないが、この状況下では仕方無い。

 

「それも考えたけどな…確か、お前さんの宝具でヤミーを倒そうとした時、心臓じゃなくてセルメダルが再現されたんだろ?」

 

「左様。セルメダルを取り込み、ヤミー相手でも攻撃が届く今の我等ならば…貴殿の宝具も、メダルを心臓と定義して万全に発動するやもしれませぬ。」

 

「だが、まだ逃げ遅れた連中も残ってる。基本一般人が出くわす事のねぇ聖杯戦争ならともかく、この状況下で俺の突き穿つ飛翔の槍(ゲイ・ボルク)はまだ使えねぇ…。」

 

ランサーの宝具である魔槍『ゲイ・ボルク』は二種類存在する。

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』は因果逆転を引き起こす文字通り必殺の槍。槍による刺突が届く射程に入らなければならないものの、そのレンジの短さと引き換えに持つ殺傷能力は絶大なものだ。

対してもう一つの宝具である『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)』は投擲による対軍宝具。因果逆転による必殺は失われる代わりに、対象の心臓をターゲットに追尾するミサイルの様なもの。

死棘の槍があらゆる防御を無効化する決定力の極みならば、死翔の槍はあらゆる防御を強引に突破する破壊力の極致。

普通の戦場で使うなら良い。だがまだ周囲に逃げ遅れた一般人がいる状況下では、些か戦況と噛み合わない。

刺突では一度に倒せる数が少な過ぎるし、投擲では周囲を巻き込む可能性が高過ぎる。一般人の避難が完了するまで時間を稼ぐくらいなら、宝具の能力に頼るより敵を斬り伏せて制圧する方がマシ…実に面倒な状況だ。

 

「結局、槍で斬ってルーンで燃やして…地道にブッ飛ばしてくのが一番の近道ってワケだ。」

 

「まあ、それも無辜の民が逃げ切るまでの話。周囲を気にする必要が無くなれば対軍宝具を使えるだけ、私よりは幾分かマシでしょう。辛抱ですぞ、光の御子殿。」

 

短剣でヤミーの喉笛を掻っ切りながら、自嘲気味に苦笑するハサン。

そう口にはしつつも、暫く持久戦が続きそうだ。すぐ傍で戦うバース二人も、同じ理由で砲撃(ブレストキャノン)は当分使えないだろう。難儀な戦況に歯噛みしつつ、二人は動きを止める事無くヤミーを次々に仕留めていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このぉ!!!」

 

鎖に繋がれた杭が、標的目掛けて一直線に放たれる。

しかしカザリは危なげ無くそれを回避。軽く身を捩り最低限の動きで回避しながら、足を止める事無くイリヤへ向け疾走する。

 

「オラァ!!」

 

その進行を妨げるべく、間に割り込むのはウヴァだ。

右手に備えた鉤爪を振り下ろしながら、カザリを強引に止めに掛かる。

 

「…フン。相変わらず低能だね、君は。」

 

「何ッ!?喋れるのか!?」

 

それすらも難無く回避すると、カザリは一旦後退して距離を取る。

 

「そりゃ喋るさ。君達の知る()とは別人だけど。

……にしても、馬鹿の一つ覚え?そんなんだから君は僕にもアンクにも見下されるんだよ。」

 

「黙れ!!!」

 

後退したカザリ目掛け、ウヴァの角先から電撃が放たれた。だがそれすらもカザリの想定内。彼は縦横無尽に駆け回り、その全てを避け切ってみせる。

 

「この…偽物のクセにちょこまかと…!」

 

「アハハ、図星突かれて怒ってる?けど良いのかなぁ…僕だけ見てて。」

 

「────!しまっ…!」

 

挑発に冷静さを欠いていたウヴァへ、頭上から迫るピラニアヤミーの群れ。咄嗟に雷で迎撃するも多量のヤミーを全て撃ち落とす事は叶わず、数体のヤミーがウヴァの体へ噛み付いた。

 

「この、邪魔だ…!」

 

一匹一匹を引き剥がす事はウヴァにとって造作も無い。だが群れで襲い来るピラニアヤミーは次々に迫り、剥がすより次なる襲撃の方が早いのは目に見えている。

 

「呆気無かったね、ウヴァ。それじゃ…」

 

「─────私も居るんだから!勝手に終わりにしないで!!」

 

瞬間、ウヴァ目掛けて殺到していたピラニアヤミーの群れが沈黙する。

両者が声の方向へ視線を向ければ、眼帯を外したイリヤがピラニアヤミー達を睨み付けていた。

 

「魔眼か!」

 

「でかした小娘!消し飛べ!!」

 

張り付いていたヤミーを引きちぎり、ウヴァは周囲のヤミーを一気に消し炭と化す雷撃を放つ。好機とばかりに攻め込もうとしていたカザリは、想定外の反撃に堪らず後退を余儀無くされた。

 

「チッ…余計な真似を…。」

 

苛立たしげに舌打ちを飛ばすカザリ。一方ウヴァも深追いはせず、一旦イリヤの傍へ合流した。

 

「大、丈夫…ですか…?────っ!」

 

「フン…まあ、正直助かった。感謝はするが、人の心配をしてる場合か…?」

 

『そうですよ、無茶し過ぎですイリヤさん!一度カードを解除して下さい…すぐに限界が来てしまいますから。』

 

息を荒くしながら問うイリヤの全身を襲う強烈な倦怠感。立香(マスター)からの魔力供給に加え、セルメダルの魔力で補強されている現状はすぐに限界を迎える程では無い…が、全開の宝具解放直後に、不意討ちをかけられそのまま突入した戦闘だ。肉体的にも魔力的にも精神的にも、万全とも言えないのは事実。

おまけに相手の敏捷性は凄まじい。ただでさえ負担の大きい英霊化(インストール)状態を維持したまま、相手に翻弄され長期戦を強いられれば先にガス欠を起こすのは目に見えている。

 

「あのカザリってグリード…本当に速い…!」

 

『相手はこちらを殺る気満々ですけど、極論こっちの攻撃全部避けられて持久戦に持ち込まれたら厄介ですね。仮にその後倒せても、その間は映司さん達の援護に行けませんし…最初に立てた作戦が水の泡です。』

 

攻防の中で把握出来たのは、今のカザリの能力自体は倒せない相手ではないという事。コアの枚数は足りず、英霊の力も無い…強敵に違いは無いが、メダルを七枚有するウヴァは勿論イリヤでも決して分の悪い相手とまではいかない。

だが厄介なのは相手の素早さだ。アンクやウヴァの見立てが確かなら、相手はチーターのメダルを所持していない…にも関わらず、恐らくアタランテやクー・フーリンにも引けを取らないスピードで動ける。そしてもう一つの難点は、周囲のヤミーによる援護だ。大局的に見れば、ここで時間を稼がれるだけでこちらの敗北に近付いていくのは容易に想像がつく。

 

「どうすれば…。」

 

「………おい、小娘。一つだけ策がある。

───だが文字通り捨て身の策だ。俺も、お前もな。」

 

「え…?」

 

それは、と問うより早く肩を引かれ耳打ちされるイリヤ。告げられた作戦に彼女は目を見開き、驚きに満ちた表情でウヴァを見た。

 

「……どうだ。やれるか?」

 

『危険過ぎます!幾らなんでもイリヤさんの負担が大きいですし、破られたらウヴァさん自身も───』

 

「……ううん、やる。こんな所で立ち止まってなんていられない…だから、やらせて!」

 

『イリヤさん…!?』

 

覚悟を決めて、強い眼差しで敵を見据える。

形振り構ってなどいられない。彼女が短い言葉に込めた決意に、ウヴァもまた満足そうに頷いた。

 

「よし。やるぞガキんちょ!!」

 

「その呼び方は嫌だよ!?く、クラスカード・狂戦士(バーサーカー)!"夢幻召喚(インストール)"!!」

 

イリヤが手にしたカードの力を解放する。

その身に纏うは魔法少女のファンシーな衣装から、必要最低限のサラシと腰蓑に。その手が握る武器は魔法のステッキから武骨な石の斧剣に。

有した力の名はバーサーカー。その真名こそギリシャ神話最強にして、人類史に名を刻んだ英霊達の中でも最高峰の大英雄…ヘラクレス。

 

「ふぅん…能力を変えたのか。確かにさっきのより強そうだし、多分スピードもそれなりにはあるんだろうけど。それだけで僕に勝てると思うなら、甘く…」

 

「甘く見られていた方がお前には幸運だったな、カザリ!お前のお喋りはウンザリだ!!」

 

カザリの言葉を遮り、ウヴァは手にした数枚のメダルをイリヤへ投げ与えた。

 

「……!?バカな…それは…!」

 

セルメダルは良い。先のヤミーから奪い取った物を使ったのだろう…イリヤの魔力を回復させ、カザリへ攻撃を通させる為に理に敵った行動だ。

だが彼は見逃さなかった。その中に一枚、緑色のメダル(・・・・・・)が混ざっていた事を。

投げ込まれたメダルはそのままイリヤの肉体へ入り込み…全身をグリードの力(・・・・・・)で満たす。

 

「ぁ……あああ!!」

 

「良し!今の内に───いや、これは…!」

 

「あぁ……!こ、の…動いて…!」

 

苦しい。

本来なら今の隙にカザリを倒す作戦だったのに…身体が上手く動かない。

バーサーカーのカードから流れ込む狂気に加え、コアメダルの影響で欲望が増幅させられていくのが分かる。カードとメダル、それぞれから与えられる力も強大だ。

ウヴァの意識が宿るメダルで無かった分、源頼光(メズール)と比較すればマシなのかもしれないが…制御を見誤れば同じ状況に陥る可能性は充分にある。

全身を襲う苦痛と疲労感に、思わず足がすくむ。

 

「……ハハッ!何だ!浅知恵を絞ったかと思えばそんな程度か!やれやれ、一瞬肝を冷やしたのすら損だよ。終わりだ、じゃあね!!」

 

絶好の機会を逃さず、カザリはイリヤへ飛び掛かる。避けなければ───理解はしつつも、暴走寸前の力を抑えるので精一杯だ。

時間にすれば一秒にも満たぬ間に、イリヤ目掛けて振り下ろされるカザリの爪。食らえばイリヤの肉体等、一撃で肉片となるその攻撃を。

 

「……くそっ…!使えん、ガキんちょだ…!」

 

「何…!?」

 

間に割って入り、身を挺して彼女を守ったのはウヴァだった。昆虫の強固な甲殻をも切り裂くカザリの爪は彼の肩から腹部まで通り…しかし、そこで止まる。

 

「黒焦げにしてやる…!オラァ!!」

 

両腕でカザリの腕を抑え込み、自らの肉体を裂いた攻撃をギリギリの所で振り抜かせない。咄嗟に距離を取ろうとカザリが藻掻くも時既に遅く、ウヴァの放った全力の放電が敵対者の全身を迸る。

 

「がぁぁぁぁあ!?こ、この…邪魔だよ!!」

 

全身を雷に焼かれながらも、カザリはウヴァを蹴り飛ばして拘束から抜け出す。流石にダメージの大き過ぎたウヴァはそれを受け止められず、イリヤの足元へ倒れ込んだ。

 

「ウヴァさん!ごめんなさい…私が…」

 

「黙れ小娘!」

 

必死に力を抑えながら、覚束ない動きでウヴァの傍へ寄るイリヤ。

だがウヴァは怒声混じりに彼女を突き飛ばした。

 

『ちょっ!?なんてことするんですか!鬼!悪魔!グリード!!』

 

「黙れ!!…小娘!お前は何に怯えてんだ!!バーサーカーの狂気か!?グリードの欲望か!?上等だろうが!?貴様ら人間なんてモン、グリードの俺に言わせれば薄皮一枚被っただけの欲望の塊だ!俺達を生み出したのはお前らの欲望で、バーサーカーの狂気もお前達人間の持つ感情の結果だろうが!!」

 

「……そう、だよ!!だから怖いんじゃない!呑まれたら、私は…」

 

「ガキが一丁前にオーズみたいな心配をしてる場合か!!お前もカザリみたいに俺を見くびってんのかゴルァ!?」

 

「何でそうなるの!?」

 

どういう理論の飛躍なのか。突如怒りを込めて吼えるウヴァに、イリヤは思わず尻餅を着いたまま萎縮した。

 

「そうだろうが!!お前ごときが欲望に呑まれ、狂気に呑まれた所で俺に勝てるつもりか!?アァン!?」

 

「…そんな、事は…!」

 

「なら遠慮するな!!お前ら人間はその薄皮、理性で欲望やら何やらを制御するのは得意だろうが!?例え失敗して暴走した所で、カザリさえ倒せば後は俺が貴様を殺してメダルを取り返すだけだ!!

─────無理矢理抑える必要は無い。手綱を握れ。目の前のムカつくコイツをぶっ倒したい、その衝動をコントロールしろ!!ブレーキを掛けずにハンドル切って乗りこなせガキんちょ!!」

 

「…話は終わった?じゃ、今度こそ終わりだよ。二人纏めて死んじゃいな!」

 

雷撃のダメージから立ち直ったカザリがゆらり、と身を起こす。全身に焦げ跡は残っているものの致命傷には至らなかったらしい。

 

「どうせ僕には敵わないんだからさァ!!」

 

軽く足を曲げ───その足をバネに一瞬でイリヤの眼前へと飛び掛かる。先の攻撃と変わらぬ素早さで振り下ろされるは必殺の爪撃。

ウヴァはまだ動けない。ならば遮るものはもう何も……。

 

「───がっ!?な…に…!?」

 

宙を舞うカザリは自分の攻撃が防がれた───否、弾き返された事を自覚した。完全に仕留めるつもりで放ったにも関わらず、だ。

 

「………黙って聞いてたら…好き勝手言ってくれて…!絶対に負けないんだから!!」

 

今しがたカウンターの要領で振り抜き、カザリを弾き飛ばした斧剣を杖にイリヤはゆっくりと立ち上がった。

 

「行くよ、バーサーカー!!」

 

内に宿る狂戦士(ヘラクレス)の力と、イリヤの決意が共鳴する。今の彼女を支えるものは、ただ目の前の敵に勝ちたい───そんな真っ直ぐな覚悟であり、純粋な欲望(・・)

 

「調子、に…乗るんじゃない…!!」

 

完璧なカウンターを決められた筈のカザリだったが、未だ倒れるには至らず。地面へ叩き付けられながらも即座に復帰し、殺意を剥き出しにしてイリヤ目掛け疾走する。

縦横無尽に大地を蹴り、幾度もイリヤの喉元へ放たれる鋭い爪撃。だがイリヤはその悉くを回避し、合間合間に斧剣を振り下ろして反撃に転じる。

 

(馬鹿な…!?何で僕の攻撃に付いて来れる…!?)

 

それは、大英雄ヘラクレスの持つ高い敏捷性と、彼の英雄が狂気に呑まれながらも失わなかった心眼によるもの。

だがそれを知らぬカザリの胸中には焦りが募る。手数では圧倒的にカザリが押しているが、戦況自体は拮抗している…カザリからすれば、不安と苛立ちを覚えるには充分過ぎた。

 

(落ち着け…確かに状況は五分五分、認めよう。だけど相手の武器は大振りにならざるを得ない。

────敢えて隙を作って、剣を振り抜かせた直後を狙う…!)

 

目にも止まらぬ攻防の中、彼はグリード屈指の頭脳をフル回転させて策を練り上げる。

 

「この…!」

 

「─────!チャンス!!」

 

(かかった!)

 

苛立ち、強引に隙の大きな一撃必殺を狙いにいく……演技。カザリの作戦は見事に嵌まり、イリヤは全霊で斧剣を上段から振り下ろした。

 

(速い…ッ!────けど、ギリギリいける!!)

 

当たれば一撃で粉微塵にされる、狂戦士のフルパワースイング。カザリはそれを猫科特有の柔軟性を活かし、紙一重で身を捩って回避した。

 

「馬鹿だね!今度こそ終わりだよ!!」

 

伸ばしたバネが元に戻る様に。強引な形で捩った態勢を戻しながら、その勢いを用いてカザリは爪を振り抜く。

タイミングは完璧、加速は充分。仮にイリヤが回避を試みても、射程圏外へ逃れるより爪が追い付く方が速い。

 

「僕の勝ちだ────!!」

 

 

 

 

 

「バーサーカーだけならそうだろうな。だがお前は、俺が小娘に貸したメダルの種類(・・)を考慮すべきだった…間抜けが。」

 

 

 

カザリの爪が空を切る。

 

「……え?」

 

彼は、自分の攻撃が避けられたという現実に理解が追い付かない。

当然だ。彼は先の攻防の中でイリヤの戦闘能力を完璧に見切った上で、それを基に作戦を組み立てたのだ。

一度も使わず温存していた能力(・・・・・・・・・・・・・・)なんて、想定出来る筈が無い。

 

『バッタ!』

 

「なんとなく、貴方がどういう戦い方をするかは分かってた…だから、仕掛けてくるまでウヴァさんの力は使わなかったの!!」

 

時間にしてほんのコンマ数秒間。カザリが空振りの態勢から元の姿勢に戻るまでの間に生じた僅な間に、彼の目は自分の攻撃から逃れたイリヤを捉えた。

その姿は先のバーサーカー化した魔法少女と何ら変わり無─────違う。彼女の脚部は緑のオーラを纏い、不自然に長くなっている。

伸びたその脚が大地を力強く踏み込めば。イリヤの体重と着地の勢いを吸収して、人間の体構造では有り得ない形に曲がり、収縮する。

それはまるで縮んだバネの如く…即ち、次にどの様な動きをするかと言えば────。

 

「……嘘だ…!」

 

「私はミユと約束したの!!だから負けない!貴方が私達の道を塞ぐなら、それだって私は飛び越えて行くんだから!!!」

 

バッタの脚力をフル稼働させ、イリヤは大地を蹴る。同時に全力で斧剣を横薙ぎに振り抜き────弾丸の様な勢いで、カザリが次の行動に移るより早く彼を打ち砕いた。

 

「そん…な……!この、僕が……うわぁぁぁぁ!?」

 

断末魔と共にカザリが爆発し…無数のセルメダルが四散した。

 

 

 

「……倒…した…!」

 

「…やるじゃないか。褒めてやる。」

 

『貴方途中から休んでたじゃないですか。』

 

「んだと!?」

 

「ちょ、ちょっと静かにして…もう…無理…!」

 

限界を迎え、イリヤは脱力しながら地に伏せる。

ヘロヘロになりながら呟いた彼女の願いは、残念ながら両者へ届かず。

 

『この昆虫野郎!良いですね、伊達さんのこのフレーズ気に入りました♪』

 

「上等だ!へし折ってやる!!」

 

動けぬイリヤの傍で、ウヴァとルビーは口論を繰り広げるのだった。

 

 





スピードが足りなければダイジェット積めば良いじゃない。ウヴァさんがねばねばネット使えたら…。
イリヤ+バーサーカー+バッタコア、要するにデモンズのゲノミクスチェンジ的な。つまりルビーはデモンズドライバー。となるとイリヤの先代魔法少女はベイル。通り名が『あかいあくま』ってそういう…。


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