墨影二郎丸は影柱(仮)に就任しました (トライオ)
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番外編
伊黒小芭内


投稿が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。

※この話では二郎丸は十六才となっています、番外編なので読まなくも問題ありません

※本誌の188話のネタバレが若干含まれており、蛇柱がかなりキャラ崩壊していると思います。

それが駄目と言い方はブラウザバック推奨です。


「おーい、伊黒ー。」

 

「む?」

 

伊黒が一人で歩いていると、後ろから誰かに話しかけられ後ろを振り返った。

 

「なんだ、墨影に煉獄か。」

 

話しかけてきたのは同期である墨影二郎丸、その隣には同じく同期の煉獄杏寿郎がいた。

 

「どうしたのだ?」

 

「うむ、俺達はこれから昼食を食べるつもりなのだが、伊黒も一緒に行かないか?」

 

話の内容は昼食への誘いだった。

この二人と知り合ってから約二年、何度も同じ任務に同行し、けして浅くはない仲となっている三人、そうなれば任務外での付き合いも自然と生まれてくる。だが、

 

「すまない、一緒には行けない。」

 

伊黒はそれを断った。

 

「む、何故だ?」

 

杏寿郎は何故かと聞き返してきた。意外と押しの強い二人だ、これだけでは引き下がる筈もないと、伊黒は考えた。

 

「…そうか、行きたくないなら仕方ないね。」

 

「…は?」

 

「二郎丸?」

 

だが意外な事に二郎丸はあっさりと引き下がってしまい、他の二人は呆気にとられた。

 

「よもや、珍しいではないか、何かあったのか?」

 

「…」

 

「…そう言う事か。」

 

不思議そうに話しかけてきた杏寿郎を無言で見つめる二郎丸、その間何も語らなかったが杏寿郎は何かを理解したようだった。

 

「無理を言ってすまなかったな伊黒。」

 

「は?いや、そんな事は」

 

「よし、行くぞ二郎丸!さらばだ伊黒!」

 

「おい人の話を」

 

だが、伊黒が言い終わる前に二人は駆け足で去ってしまった。

 

「…全く、相変わらず話を聞かない奴らだ。」

 

誰に呟いた訳ではないが、不意に口からこぼれ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伊黒は二郎丸と杏寿郎の二人と仲が悪い訳ではない、寧ろ他の鬼殺隊士達と比べてもかなり親しいのだ。だが、それでも誘いを断るのは伊黒なりの理由があった。

 

伊黒は普段から顔の下半分を包帯で覆っているが、その下は蛇のように口元から切り裂かれた跡があるのだ、しかも只の傷ではなく、伊黒の抱える忘れたくても忘れられない忌々しい過去に付けられたトラウマを呼び起こす傷だった。そしてそのトラウマは伊黒の記憶に、心に深く広く根付く程のものであった。

 

別にあの二人であれば、この切り傷を見ても馬鹿にする様な事は一切ないと、今までの付き合いで理解していた、が、こればかりは伊黒が持つ二人に対しての劣等感があり、簡単に済ませられる話ではなかったのだ。

 

そんな中で、伊黒は二郎丸と杏寿郎との付き合いを辞めるべきではないかと考えていた。

 

あの二人は余りにも純粋で善良だ、その心は脆い様で何よりも強固なものだ、そして、鬼と対峙した時こそ暴れ馬となる二人だが、その行動原理の根底にあるものは、他者への思いやりだ。二人は鬼の被害者の為に怒るのだ。

自分自身の行き場のない怒りと恨みを鬼に向けている自分とは余りにも違う、ひょっとしたら自分のせいであの二人を穢してしまうのではないか?そんな考えが伊黒の頭を常に過り、離れることがなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「伊黒!」

 

「む?あぁ、墨影に煉獄か。」

 

「うん、はいこれ。」

 

「…なんだこれは。」

 

「「和菓子の詰め合わせ。」」

 

「何故唐突に」

 

また別のある日、伊黒は二郎丸と杏寿郎に出合ったのだが、出会い頭に和菓子の詰め合わせを渡されて戸惑っていた。

 

「この和菓子は全部うまいからな、伊黒にも食べてほしいと思ったんだ!」

 

そうやって嬉々として話す杏寿郎だが、伊黒にはある疑問が浮かんだ。

 

「俺に対して、そこまでする必要はあるのか?」

 

「え、だって友達でしょ?」

 

伊黒が呟いた疑問に、二郎丸はさも当然のように答えた。

 

最も、そうする理由は他にもあるが、二郎丸と杏寿郎は伊黒に話す必要はないと考えていた。

 

「…それだけか?」

 

「え、十分な理由だと思うけど…まさか、伊黒は僕達のことを友達と思ってない!?」

 

「なんと!そうだったのか!?」

 

「なぜそうなる。」

 

伊黒は頭を抱えた。

 

「そう言う訳じゃない、俺だってお前達の事は友だと思っている「なら良かった!なら僕達は任務にいくから!」おい、まだ話の途「次あったら食べた感想を聞かせてくれ!」おい待て!」

 

話を聞かない二人を呼び止めようとするが、流石暴れ馬。そんな事で制止する筈もなく、あっという間に見えなくなってしまった。

そして、一人取り残された伊黒がそこにいた。

 

「…全く、あいつらは。」

 

そう呟く伊黒は、呆れているようで、どこか嬉しそうな表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局の所、伊黒自身が二人との付き合いをやめることが出来ないのだ。

二人によく振り回される伊黒だったが、それも悪くないと考えていた。

あの二人と関わるべきではないと考えてるが、こんな自分の事を二人が友と呼んでくれるからこそ、共にいることを許されているのだと思っていた。

 

だからこそ、自身が死ぬまでは友と呼んでほしいと、

 

伊黒は密かに願っていた。




※伊黒が誘いを断った時に二郎丸は伊黒の抱えるトラウマを感じとりました(内容までは理解していません)。



188話の蛇柱がマジで辛いです。


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プロローグ
就任、影柱(仮) 前編


某柱合裁判の約三年前

 

とある日の産屋敷、お館様こと当主・産屋敷耀哉の元に、一人の隊士が呼び出されていた。

 

「二郎丸、頭を上げてくれるかい。」

 

「はっ!」

 

お館様にそう言われ、跪いていた隊士は頭を上げる。

 

雪の様に白い髪に宝玉を埋め込んだかのような翡翠色の瞳、そして隊服の上から頭巾のついた漆黒の外套を羽織っていた。

彼の名は墨影二郎丸、影の呼吸を扱う十八才の階級乙の隊士だ。

 

「今日は来てくれてありがとう、急に呼び出して悪かったね。」

 

「いえいえ、お気に為さらないで下さい。」

 

二郎丸はお館様の鎹烏により直々に呼び出され産屋敷に足を運んでいたのだ。

 

「それで、君を呼び出した理由だけど、」

 

「はい…。」

 

二郎丸はその言葉の続きを固唾をのんで待つ、そして御方様の口から出た言葉は、

 

「二郎丸、君を特例として十人目の柱、“影柱”に任命したいんだ、席がないから“仮の柱”としてだけどね、それでも引き受けてくれるかい?」

 

「……え?」

 

まさかの柱の任命だった、そしてそれを聞いた二郎丸は呆けてしまった。

 

「お、お待ち下さいお館様。」

 

「なんだい?」

 

「僕…私はまだ柱となる条件を満たしていないのですが。」

 

柱になる条件は『階級甲であり十二鬼月を討伐している。』又は『階級甲であり鬼を五十体を討伐している。』なのだが、そもそも二郎丸は階級乙であるためどちらの条件も満たせていない。

因にだか、二郎丸がこれまで任務で鬼を討伐した数は二十五体だ。

 

「確かにそうだね、」

 

その後だけどねと続ける。

 

「君は任務外でも鬼を討伐していたんだよね?」

 

「…はい?」

 

そう、この男、任務でなくても鬼をバッサバッサと討伐していたのだ。その討伐した数は任務時の倍近くあり、任務時合計すれば七十体を越えているのだ。

 

「それに、十二鬼月を二体討伐しているよね。」

 

「…いや、それは複数人の隊として討伐したのですが。」

 

「話を聞けば君が他の隊士を庇いながら殆ど戦っていたみたいだね。」

 

「…あー。」

 

「あと、剣の腕も杏寿郎と同等だと本人から聞いているよ。」

 

「…」

 

この時、二郎丸は金髪の目をかっ開いた一つ下の幼馴染の顔を思い出していた。

 

「二郎丸、君は既に柱になれる筈だったんだ、だからこそ私は仮としてでも柱として任命したいんだ。」

 

「…」

 

そう言いお館様は二郎丸を説得するが当の本人は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(不味い、どうすれば柱に成ることを断れるんだ!?)

 

こればかり考えていた。

 

何故そう考えるのか、その理由は“立場に縛られたくない”ただそれだけである。

 

二郎丸の趣味は旅である、寝泊まりは宿や藤の家紋の家を使用すれば良い。任務は鎹烏が伝えてくれる、更に報酬も届けてくれる。着替えなどは藤の家紋の家や訪れた川で出来る。

鬼殺隊の立場を利用しての旅は、案外不自由がないため二郎丸は今の状況を気に入っていた。

 

だが柱となればそれはそれが出来ないと考えていた。たかがそれしき、責任感はないのか、等と思われるかもしれない、ただ彼にとっては唯一の、それでいて最大の趣味であるためどうしてもやめたくない。それに任務でなくとも鬼を討伐すれば誰かの助けになれるとも考えていた。(ただ、任務時の倍近い数の鬼を討伐することになるとは思っていなかったが)

 

以上のことから二郎丸は柱(仮)の任命を断ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…お館様。」

 

二郎丸が重い口を開いた。

 

「確かに仰る通りかもしれません、ですが私はまだ階級は乙です、柱になるにはにはまず階級甲にならなければなりません。それで私か柱(仮)となれば多くの者から反感を買うかもしれません。私はそれは避けたいです、なので今は柱になることは出来ません。」

 

様は今の階級を盾に断ろうとしていた。

 

「…確かにそうだ、ごめんね。わかった、今回の話は保留にしよう。」

 

だがその後あっさりと引き下がってくれた、二郎丸にとっては喜ばしいことなのだが、お館様のひどく申し訳なさそうな顔を見ると自身の良心がえぐられるような気がした。

 

「そ…それでは私はこれで…、」

 

「あぁ、二郎丸、少し間ってくれるかい?もう一つ話があるんだ。」

 

話を聞くと、とある森で鬼が出たらしく何人もの隊士が討伐に向かったが未だに討伐出来ておらず更に近くの村にも被害が出てきているらしい。柱に頼もうにも今は全員忙しくすぐに向かうことが出来ない、そこで現柱に匹敵する実力を持つ(と言われた)二郎丸にその討伐を頼みたいとのことだった。

 

「二郎丸、引き受けてくれるかい?」

 

「御意。」

 

元々断る理由も無いが、柱(仮)の任命を断ったこともあるため、その任務を引き受けることにした。

 

「ありがとう、すごく頼もしいよ。任務が終わったら私に直接報告してほしい。」

 

「承知しました、では私はこれで失礼します。」

 

そう言ってお館様の元を去るとすぐさま目的地へと向かっていった。

 

 

 

 



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就任、影柱(仮) 中編

「…見つけた。」

 

頭巾を目元が隠れるほど深く被った男──二郎丸が呟く。彼はお館様直々の命によりこの森に来ていた。

 

二郎丸が見据えたその先には動く何かがいた。四つん這いで移動していたため一瞬熊かと思ったが、直ぐに鬼であると理解した。鬼を見つけた二郎丸は木に登りその鬼を観察するにした。

 

赤黒い肌をしており、肥大化した上半身にそこから伸びる木の幹の様に太い腕。獣のような後ろ足にトカゲのような太く長い尾が生えている。だがそれ以上に気になったのはその巨体、立ち上がれば三メートルは優に越えているだろう。

 

これを見て二郎丸は成る程と思った、この鬼に立ち向かった一般隊士は直ぐに駆逐されてしまっただろう、そして直ぐにでも討伐しなければ更に被害は大きくなるのは確実だった。

木から降りた二郎丸は腰に携えた深い緑に刃が染まった二本の脇差を抜く、そして大きく吸い込み吐き出した息は、唸るような腹に重く沈みこむ低い音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここで、二郎丸の使用する“影の呼吸”について説明する。

影の呼吸は風の呼吸から派生した呼吸であり、型の数は七つある。適正がある者は日輪刀が濃い緑色になり、適正が強ければ強いほどより深く濃い色となる。

数少ない二刀流を基とした呼吸であり、全ての型が攻撃力、攻撃回数を重視しているため、名前に反して非常に攻撃的な呼吸である。

ただ、無理に使用すればすぐに疲労がたまってしまい、さらに型と型を上手く繋げなければ隙が生まれてしまうため、かなりの技術を必要とする扱いが非常に難しい呼吸である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二郎丸が呼吸をする度に黒い霧が辺りに立ち込めどんどん深く濃くなっていく。当の本人は右足を大きく引き腕と脇坂で円を作る様な構えをとる、そして鬼を見据えて宣言する。

 

「全集中 影の呼吸 肆ノ型 『畝り黒潮(うねりくろしお)』!!」

 

時間差で振り上げた二本の刃は辺りの黒い霧を巻き込み、乱気流を発生させて大きく畝りながら鬼へと向かって行った。

鬼がそれに気付き慌てて飛び退くが、不規則に動くそれの起動を読みきれず、その畝りに腕を抉られていた。

 

「グォォォオオオ!?」

 

腕の痛みに絶叫する鬼だが、直ぐに腕は再生していき既に元に戻っていた。

しかし、二郎丸もそれを只見ているわけもなかった。肆ノ型を放ったと同時に自信も鬼に向かって走っていた、そして、鬼が気付いた時には、既に目の前にいた。

 

「影の呼吸 陸ノ型 『御影石(みかげいし)』!!」

 

鬼の頚の前で地面にヒビが入るほど大きく踏み込み、逆の足を後ろに振り上げると同時に二本の脇差しを振り下ろす。だが頚に届く前に後ろに飛び退かれたため、鬼の顔を削ぎ取る程度に留まった。

 

「…速いな。」

 

二郎丸はそう呟いた、陸ノ型は威力が高い分、予備動作が大きい、だとしてもあの状態で避けられるとは思わなかった。しかも一飛びであの巨体の倍以上の距離を飛んでいる、見かけによらず身軽でもあるようだ。さらに先ほど削ぎ落とした筈の顔も既に再生している。何処を見てもそこらの野良鬼とは一線を愕す、恐らく下弦の鬼程度の戦闘能力はあるだろう。

 

「グルルルルゥ…、」

 

「ん?」

 

不意に鬼が立ち上がる、何かと思い身構えていると

 

「グオオオオオオオ!!!」

 

「のわ!?」

 

辺りを震わせる咆哮をしてきた、不味いと思い飛び退けば、もといた地面は穴が掘られたのかと思うほど凹んでいた。

 

「グオオオ!」

 

「はぁ!?」

 

鬼が間髪入れずにこちらに向かって来る、動きが速いためあっという間に距離を詰め腕を振り下ろしてきた。

 

「くっ、影の呼吸 惨ノ型 『餓乱洞(がらんどう)』!!」

 

脇差しを前後で構え、高速で回転する事により、その流れに乗せて腕を剃らすことに成功する、そして鬼の動きが止まった隙に距離をとった。

因にだか、本来惨ノ型は体を横に捻りながら前進する、移動、攻撃、そして申し訳程度の防御を兼ねた型であり、先ほどの様にその場に立ち止まり残像が見えるほど回転するものではない。

 

「ふぅ。」

 

十分距離を取ったところで一息着き二郎丸は思考を巡らせる。

あのふざけた威力の咆哮は恐らく血気術、確かに強力ではあるが、連続的に、括何度も使用できるものでは無いのだろう、現に距離を置いたこの状況はその血気術を使用する絶好の機会の筈だが一向に使用してこないのだ。

ただ、それよりも気を付けなければいけないのは鬼自身の身体能力、特に足の速さが脅威だった。

現に足の速さは鬼の方が速く、自分が逃げれば確実に追い付かれ、鬼が逃げに徹すればこちらが追い付くことはまず不可能。それに逃げられでもすれば、また被害が大きくなることは確実だ。

 

「…よし!」

 

何かを決心したのか、二郎丸は声を上げて気合いを入れ、鬼に向かって走り出す。当の鬼は二郎丸返り討ちにしようと、どっしりと待ち構えていた。

 

それは二郎丸にとっては好都合だった。

 

「全集中 影の呼吸 壱ノ型 『黒霧』。」

 

息を大きく吸い込み勢い良く吐き出すと、濃く深い黒い霧が二郎丸の足元から吹き出す、その範囲はどんどん広くなり、鬼を巻き込んでも直範囲を広げていた。

 

「グオ!?グアアア!!」

 

鬼は立ち上がり腕を奮って霧を晴らそうとするが一向に晴れる気配はない。それもその筈、この霧は呼吸により生まれた幻影であり、目視できても実態はない。

 

「ギャッ!?」

 

不意に足に痛みが走り、体が崩れ落ちる。足を切られた、鬼がそう気付いたのはそれから少ししてからだった。

 

「グゥゥゥ…、」

 

体を起こし急いで足を再生させようとするが、今度は腕を切り落とされまたも崩れ落ちる。

 

「ガアアア!!」

 

鬼は混乱していた、戦っている筈の人の姿は見えず、逆に一方的に攻撃される始末、体を再生させて逃げようにも、片っ端から体を切り刻まれていくため、それすらままならない。どうするべきか、どうすればこの状況を切り抜けられるのか、必死に考えるが

 

獣に成り下がったこの鬼にはその術を考えることは不可能だった。

 

「影の呼吸 弐ノ型 『影切舞(かげきりまい)』。」

 

そしてその言葉を最後に鬼は頚を切り落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒い霧が晴れた時、そこには 地面に倒れ崩れていく鬼の巨体、その近くには二郎丸が佇んでいた。鬼の巨体が崩れきったのを見届けた後、二郎丸は木にもたれ掛かり、ずるずると崩れおちた。

 

「…ふぅ、」

 

頭巾を脱いだ二郎丸の顔にはぎっとりと脂汗が張り付いていた。

今回は怪我一つなく鬼を討伐できたが、一撃でも受けていれば怪我どころでは済まなかっただろう。それに鬼が逃げに徹しなかったのは運が良かった、そうされれば討伐するのは極めて難しかっただろう。

とにかく、今夜討伐できて良かった。

 

「よし、休憩完了!帰ろ。」

 

暫くして、二郎丸は立ち上がり帰路に着く。

 

月明かりに照らされた白い髪が月に負けない程、綺麗に輝いていた。

 




獣鬼

二郎丸が今回討伐した鬼、身体的特徴は本文の通り、食いはしないが他の獣を良く殺す。
百人以上の人食い強い力を手に入れたが逆に理性を失い獣の様になってしまった。
もとの人間は狩人であり、狩りの帰りに鬼にされてしまった。

血気術『名称無し』
クレーターを生み出す程の威力を誇る咆哮を放つ。
威力は高いが連発できるものではない。
名前が無いのは獣に成り下がった知性で考え思い付くことが不可能だったからである。


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就任、影柱(仮) 後編

「という訳でございます。」

 

「報告ありがとう、助かったよ。」

 

後日、二郎丸は産屋敷を訪れ、任務の報告をしていた。

 

「まさか一人で討伐してしまうとはね、見事だよ、二郎丸。」

 

「はっ、有り難きお言葉。」

 

このように、社交辞令紛いの言葉を投げ合った後、お館様が口を開く。

 

「これだけの武功を上げれば、文句無しに昇格出来る様になった、寧ろ昇格出来ない方が皆から文句を言われてしまうね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?今なんと?

 

御方様の言葉が頭のなかで反芻する、階級乙の隊士が昇格すれば階級はどうなるか。あ、そう言えば任務に行く前御方様と何を話したっけ…、

 

「二郎丸は階級甲になれるよ、これで柱になる条件を全て満たしたね。」

 

この言葉がとどめだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──しまった、嵌められた!──

 

あの時の二郎丸は階級を盾に柱(仮)に成ることを断った。逆に言えば、それがどうにかなってしまえば断る理由が無くなる訳で、任務を与えることでやや強引に階級を上げたのだ。

しかも、本来柱を向かわせる筈だった任務を二郎丸が単独で引き受け、見事にその鬼を討伐した。これで柱に匹敵する実力が間接的にだが証明された、これにより一層断りづらくなってしまった。

もしかすると自分が断ることを見越していたのかもしれない、そう思わずにはいられない二郎丸だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだい?二郎丸。」

 

二郎丸は戦慄していた、御方様の策略に、そしてそれに気づけなかった自分の鈍感さに

 

「いえ、何でもありません、大丈夫です。」

 

「そうかい、ならいいんだけどね。」

 

二郎丸は焦っていた、このままだと柱(仮)に任命されるのは確実、断れば回りから顰蹙を買うのは間違いなかった。

 

「それで、任務前に「お待ち下さい御方様。」ん?なんだい。」

 

二郎丸はお館様の言葉を遮った。

 

「先日話していただいた柱(仮)への任命のことですが、引き受けましょう。ですが、私が柱(仮)なるに当たって一つ願いがあります。」

 

言い終えた後、二郎丸は後悔した。なんて自分勝手で傲慢なのだろうか、柱(仮だけども)に任命されることは鬼殺隊の隊士としての誉の筈、それを自分の都合で断ろうとしていて、今は柱(仮)に成ることを条件に自分の都合を押し付けようとしているのだから。

 

だがお館様は

 

「わかった、その願いを受けよう。」

 

「………え?」

 

その都合を聴くまでもなくあっさりと受け入れてくれたのだ。

 

「どうしたんだい?言ってご覧。」

 

「え、あっ。」

 

呆けていた二郎丸に対して優しく促す。

 

「わ、私は一ヶ所に留まることが無いのですが、その事を許していただければ…」

 

素直に『旅が趣味なのでそれを許してほしい』と言えば良いのだが、今さら怖じ気づいていた。

 

「そんなことか、いいよ。」

 

あっさりと許しをもらえた、その事実に二郎丸は呆けてしまった。

 

「そう言えば、二郎丸は旅が趣味なんだよね、だったらその新しい道具も揃えてあげよう。」

 

「え!?」

 

お館様の提案に二郎丸は驚いた。

 

「お、お館様!そこまでされなくても!」

 

「良いんだよ、柱になった子ども達には屋敷を用意してるからね、それくらい安いものだよ、もちろん二郎丸にも屋敷は用意するよ。」

 

「いや、私は柱ではなく柱(仮)の筈では、」

 

「あくまで席がないから柱(仮)としているだけだからね、待遇は他の柱と何もかわらないとよ。」

 

「…」

 

ここまで話して、二郎丸は一つの疑問が浮かんできた。

 

「お館様、何故ここまで良くして下さるのですか?」

 

その問に対してお館様は穏やかに答えた。

 

「柱の子ども達は他の子ども達よりも実力が高く強い、それゆえに鬼との戦いに明け暮れることが多いんだ、もちろんそれには他より大きな危険が伴う。だからせめて、戦いの場以外では不自由なく過ごしてほしいんだ、これでもまだまだ足りないだろうけどね。」

 

そして御館様は更に続ける。

 

「実を言うと、君の実力は前から知っていたんだ、柱合会議にも出ていたほどなんだよ。ただ階級が足りなかった、それで柱にはなりたがっていないと予測はしていたんだ。」

 

そしてその予測は当たっていたよと苦笑いする。

 

「正直柱に成ることは断ると初めから思っていたよ。ただ君はかなりのお人好しだからね、何か明確な理由がない限り断れない、だからこそ、断る理由を無くしてしまえば嫌でも引き受けてくれると思ったんだ、任務中では誰よりも危険に飛び込み、同じ隊の子ども達をも守ろうとして、任務外でも率先して悪鬼を討伐するような…そんなお人好しの君ならね。」

 

「…」

 

「柱に無理やり就任させようとして本当に申し訳ない。だけど、鬼殺隊には力が必要なんだ。

 

鬼を、

 

十二鬼月を、

 

上弦の鬼を…

 

鬼舞辻無惨を倒す力をね。

 

だけども私はそんな力を持っていない処か、呪いの影響で常人以上に非力だ、だからその力を持つ他の者達を頼るしかないないんだ、そして君にはその力がある。だからこそ、その力を捧げてほしい。」

 

そう言ってお館様は手を床に付き深々と頭を下げた、

 

それを見た二郎丸は、呆然として唯々涙を流していた。

お館様の人と成りを観た、願いと想いを聴いた、そして、悪鬼──鬼舞辻無惨への憎悪と鬼殺隊の当主としての偉大さを感じた。

 

それに比べて、自分はなんと浅はかなことか。

今すぐに土下座してでも謝りたいと思ったが、お館様はそんなことを聞きたい訳ではない筈。ならどうするべきか、それはもう決まっていた。

 

「お館様、どうかお顔を上げて下さい。」

 

お館様が顔を上げると二郎丸は姿勢を正しお館様の目を見る、そして

 

「お館様、あなたの願い、想い、確かに聴き入れました。お望み通り、この力を貴方に、鬼殺隊に捧げましょう!

必要となれば何時でもお呼び下さい、直ぐにでも駆けつけます。

お館様の願いを叶えるために、鬼に虐げられし弱き者達を守るために、そして鬼舞辻無惨を屠るために!この力を捧げます!!」

 

言い切った。

 

それを聴いたお館様は、少ししてから、ありがとうと呟いた。

 

「なら、引き受けてくれるかい?」

 

「勿論です!」

 

それならば、と、お館様が姿勢を改める。そして

 

「二郎丸、君を特例として十人目の柱“影柱”に任命する。席がないから仮の柱としてだけど、その力を鬼殺隊の為に捧げてほしい、よろしく頼むよ。」

 

「御意!!」

 

この日、墨影二郎丸は影柱(仮)に任命された。

 

 

 

 



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影柱(仮)に至るまで 幼少期
浅はかな憧れ


どうもトライオです。
今回から過去編に入ります。影柱(仮)が殆ど関係ないと思うかもしれませんが、それでも良いという方は読んで行って下さい。


墨影家は、代々“影の呼吸”を継承し、影柱を輩出してきた一族である。

墨影家の男児は、かの煉獄家の様に顔の造形が殆ど同じであり、白い髪に翡翠色の目をしていた、そして性格もよく似ており、寡黙で表情に乏しく、物静かな者が殆どであった。

それは、二郎丸の父である墨影(すみかげ)零郎(ぜろう)もそうであった。

そんな一族の嫡男であり、当時の影柱であった、十八才の零郎に、縁談があった。その相手は零郎の幼馴染であり、定食屋の看板娘である当時十五才の日向(ひなた)という美少女であった。

物静かな零郎とお転婆な日向、性格は真逆と言って良かったが、元から非常に仲が良く、互いに想い合っていた二人の縁談はトントン拍子に話が進み、翌年に結婚。更にその翌年には長男の一朗太を出産。

 

そしてその三年後に、二郎丸が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

墨影家の男児は寡黙で表情に乏しく物静かだだと言ったが、次男のだけは二郎丸は例外であり、その特異性は産まれた時からあった。

二郎丸の産声は、泣き声ではなく、笑い声だった。産まれた瞬間から大声を上げてケタケタと笑う二郎丸を見て、父と母、そして二郎丸をとりあげた助産婦は大変驚いて腰を抜かしそうになったらしい。

その後も泣かないことは無かったのだが、それも非常に少なく愚図ることも殆ど無かった、寧ろ笑っている時の方が圧倒的に多く、非常に手の掛からない子だと言われていた。

※そもそも人として特異ではないか、とは言ってはいけない。

そして墨影家の子ども達は非常に人見知りであり、父母兄姉以外に抱かれればギャン泣きしてしまうのだが、二郎丸は人懐っこく、誰にでも笑顔を振り撒いていた。その為、他の大人達からも非常に可愛がられてきた。特に母がとても可愛がり、表情に乏しい父も顔を綻ばせる程だった。

 

だが兄である一朗太は鬱陶しいと思っていたのか、仲はあまり良くなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二郎丸が剣の稽古を始めたのは四才の時だった。

 

父と兄を探して本来立ち入りを禁止されていた稽古場に向かい、兄に稽古をつける父を見つけたのだ。その時に使用した 影の呼吸 弐ノ型 『影切舞』 を見て、子どもながらに格好いいと思ったのだ、その後直ぐに父に見つかり叱られたのだが、二郎丸はそんな事を気にせずに、自分も稽古をしたいと言ったのだ。その事に父である零郎から酷く困惑した。

 

切っ掛けは偶然、理由は子ども特有の浅はかな憧れだった。

 

父である零郎は剣術──影の呼吸を教えることをあまり善しとはしなかった。その理由は剣術──影の呼吸を教えればいずれ鬼と戦うことになる。それは非常に危険で死と隣り合わせであり、自分の手で我が子を死に向かわせている様なものだった。

だが子ども達が自ら剣術──影の呼吸を学びたいと言うのであれば話は別、その為それまでは一切教えることはなかった。

 

だが二郎丸は四才でそうしたいと言った。

 

兄である一朗太は六才、零郎自信は五才から稽古を始めた。なのでせめて兄と同じ六才になるまで我慢するように嗜めたのだが、二郎丸はそれを聞かずに駄々をこねたのだ。因に、これが二郎丸の初めての我が儘だった。

まだまだ子どもらしいと微笑ましく思う反面、それが剣術を学びたいというものであった為、零郎の気持ちは非常に複雑な物であった。

その後、妻の日向にも頼み込み、共に説得しようとしたのだが、それでも聞かずに二週間も駄々をこね続け、結局は零郎が折れて二郎丸に剣術を教えることになった。

零郎は二郎丸の稽古をあえて厳しくした。それで心が折れて諦めるかもしれない、だがそれでも良いと思っていたからだ。

だが予想に反して、二郎丸は一切根を上げなかった。幾ら怪我が増えても、どんなに疲れても、辛い表情は一切せずに寧ろ笑っていた程だった。そして厳しい稽古の中でどんどん技術を吸収して、瞬く間に力を付けていった。

そんな二郎丸を我が息子ながら恐ろしいと思う反面、ひょっとすれば自分以上、それどころか歴代最強の影柱になるかもしれないと期待する零郎だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その事が二人の息子の仲により一層亀裂を入れることになるとは知らずに。




※オリ主以外のオリキャラ設定

墨影零郎

この作品のオリ主である二郎丸の父、十勝丸、百瀬という名の二人の弟がいる。
先代の影柱でもあり、十七才の時に就任した。
表情が乏しく口数が少ないが義勇っとはしていない。
息子への稽古は非常に厳しいが、
諦める→鬼と戦うことは無くなり命の保証が出来る。
続ける→任務で鬼に負けない力を身につけさせることが出来る。
という不器用な親心によるもの。その為自分で選んだ道であれば、鬼殺隊に入っても、他の道に進んでも良いと考えているが、親としては、あまり鬼殺隊には入ってほしくないと思っている。
五才から稽古を始めたが、自分からしたいと言った訳ではない。
しかも才能があった為、稽古はどんどん厳しくなっていき、稽古が終わった後よく泣きべそをかいていたが、その度に幼馴染である日向に慰められていた。
十三才で鬼殺隊に入った後に家出しており、正確には家督を継いだ訳ではない、今住んでいる屋敷は当時のお館様に建てて貰ったもの。
日向に惚れていたがそれに気づけたのは十六才の時、告白する勇気が無く、日向との縁談の話がが上がった時に凄く喜んだ、両想いと気付いて更に喜んだ。
婿養子だが夫婦共に墨影と名乗っている。
実は歴代最強の影柱なのだが、本人ぱ自覚していない。
分かりづらいが非常に子煩悩である。















※墨影家には子どもの名前に数字を入れる式たりがある(上の子が若い数字となる)。
因に、零郎の父(二郎丸の祖父)の名は十兵衛(長男)、その兄弟は百ノ助(次男)、千鳥足(長女)である。


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焔のような友人

この章では二郎丸ではなく、その父である零郎が主人公みたいな扱いになるかもしれません。
早速タイトル詐欺だと思うかもしれませんが、どうかご了承下さい。

※新しくタグを追加しました。後、次から更新ペースが遅くなるかもれません。


墨影家の中で二郎丸は例外と言ったが、実は父である零郎も例外に当てはまっていたりする。

 

歴代の影柱達の殆どは、他の隊士達との関わりを避けていた。だがしかし、零郎は口数少ないが他の隊士達と積極的に関わり、当時の柱達とも良好な関係を築いていた。

その中でも当時の炎柱であった煉獄愼寿郎とは特に仲が良かった。性格は真逆と言っても過言ではないが、だからこそ、仲良くなれたのかもしれない。

その交流はお互いに結婚し、子どもが生まれた後も続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼もう!!」

 

ガラガラと勢い良く玄関の引き戸が開け放たれると同時に、溌剌とした声が響いてくる、声の主は炎柱、煉獄愼寿郎であった。

 

「たのもー!」

 

「お邪魔します。」

 

その後、子どもの声と女性の声が聞こえた。六才になる息子の杏寿郎と妻の瑠火である。

 

「良く来たな、歓迎する。」

 

「いらっしゃい!ゆっくりしていって頂戴!」

 

それに気付いた零郎と日向が玄関まで来て三人を向かい入れる。そして遅れてドタドタと足音を立てて子どもが走って来た、七才になった二郎丸である。

 

「きょうじゅろう、いらっしゃい!」

 

「うむ!おじゃまするぞ、じろーまる!」

 

二郎丸と杏寿郎は親同士が仲が良いこともあり、物心着く前から一緒にいるため、今ではお互いに親友と言っても過言ではない仲となっていた。

 

「あそびにいこ!」

 

「そうだな!」

 

「あぁっ、ちょっと待て。」

 

零郎の制止を聞かずに、二人は外に駆け出して言った。

 

「何かすまないな、愼寿郎。」

 

「ははは!元気なことは良いことではないか!」

 

「えぇ、その通りですね。」

 

零郎が謝るが、気にすることはないと愼寿郎は豪快に笑い飛ばし、瑠火をそれに同意する。

 

「あなた、話の続きは客間に行ってからにしましょ。」

 

「そうだな。案内する、既に分かるだろうがな。」

 

「そうか、なら失礼する!」

 

「改めて、お邪魔しますわ。」

 

そうして四人は客間に向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、一朗太君はどうしたんだ?」

 

愼寿郎は二郎丸の兄である一朗太について尋ねる。

 

「あぁ、今日も一人で稽古をしている。」

 

「また稽古をしているのか、相変わらず熱心な子だなぁ!実に羨ましい!」

 

「まぁ、そうなんだが…。」

 

「ん?どうした。」

 

話の途中で言い淀む零郎に愼寿郎は疑問を浮かべた。

詳しく話を聞けば、一朗太は二郎丸が同じく稽古を始めた時からより稽古に打ち込む様になったらしい、そして、二郎丸の才能が表れ始めた時、さらに稽古に打ち込む様になったそうだ。

 

「ふむ、弟に抜かれたくないからではないのか?」

 

「そうかも知れないが、遊びもせずに稽古ばかりをしていてな。」

 

「そう言えば、最近一朗太と凧揚げで遊ぼうと誘ったら断られて日が沈むまで落ち込んでたわねぇ。」

 

「日向、それを言うのはやめてくれ…。」

 

「あらあら、微笑ましい事ではないですか。」

 

「ははは!実に子煩悩なお前らしいではないか。」

 

日向から隠しておきたい事をバラされ、零郎は顔を赤くし、そして拗ねた様な表情を見せる。

 

「しっかし、お前も変わったなあ!」

 

「…なんだ?」

 

零郎は不機嫌なまま尋ねる。

 

「いや、あそこまで無表情だった零郎がここまで表情豊かになったと思ったんだ。」

そう言いながら愼寿郎は当時の事に思いを馳せる

 

「やはり家族が出来たからなのか?」

 

「…そうだな。」

 

「一朗太を抱いて泣かせてから必死で笑顔をつくる練習をしていたものねぇ♪」

 

「だから言わないでくれ!」

 

「がはははは!」

 

「うふふ♪」

 

賑やかに、それでいてほのぼのとした雰囲気で話は盛り上がり、いつの間にか昼になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふははははは!」

 

「なははははは!」

 

「あーっはっはっはっはっはっはっは!!!」

 

「…。」

 

そのまま屋敷で共に昼食を取ろうという話になり、零郎は二郎丸と杏寿郎を迎えに行くことになった。

そして二人を見つけるのだが、何かに取り憑かれたかのように大声で笑っていた。

思考が止まってしまったが、ずっとそうするわけにもいかないので、二人の方へと近づいて行った。

 

「何をしている?」

 

「「どちらが素晴らしく笑えるかを競っていました!!」」

 

「うむ、本当に何をしている?」

 

そう、この二人は別々であればそんな事はないのだが、二人揃うと珍妙な遊びをすることがあるのだ。

因に、これはまだ可愛い方であり、零郎の記憶の中で一番酷かったのは神を讃えると称して珍妙な躍りを延々と続けるというものだった。さすがに零郎もこれにはビビり、即日神社に向かいお払いをさせようとした程だった。

そんな二人を連れて、零郎は屋敷に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ごちそうさまでした!』

 

全員で合掌して、皆で片付けを行う。

 

「父上、私は稽古に戻ろうと思います。」

 

片付けを終えた後、一朗太は稽古場に戻ろうとするがそれを零郎が止めた。

 

「一朗太、たまには稽古を忘れて遊べばいい。」

 

そう言って凧やメンコを持ってくる。

 

「いえ、結構です。一日でも早く強くなりたいので、」

 

だが一朗太はそれを断った。それを聞いた零郎は酷く落ち込んだ。

 

「中々に熱心だな、良いことだ!どれ、今日は俺が稽古を付けてやろう。」

 

「本当ですか?お願いします!」

 

「愼寿郎さん、それはいいのですができる限りお手柔らかにお願いしますよ。」

「うむ、善処する!」

 

「…。」

 

そして一朗太は愼寿郎と共に稽古場へ向かって行った。

 

普段滅多に見せない笑顔を一朗太が自分以外に向けた事、そして自分ではなく愼寿郎と共に稽古を行う事、それを目の当たりにして零郎はさらに落ち込んでしまった。

 

そんな父を見かねてか、二郎丸が杏寿郎を連れて近づいて来た。

 

「父上、今日は僕達に稽古を付けて下さい。」

 

「俺からもお願いします!おじ様!」

 

「二郎丸、杏寿郎君…、分かった、今日は俺が稽古を付けよう。」

 

「あなた~、あんまり厳しくしちゃダメよ~。」

 

「善処する。」

 

そして零郎は二人を連れて外に向かって行った。

 

「ごめんなさいね、主人が見苦しい所を見せて。」

 

「いえ、そんな事ありませんよ、内の主人も杏寿郎に遊びを断られて落ち込むことは良くありますから。」

 

「ええ!?愼寿郎さんが?」

 

「はい。」

 

そして残された妻二人は、再び話に花を咲かせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、疲れはてている子ども達を見られて二人の旦那が妻に叱られるのだが、それはまた別の話である。




※零郎と愼寿郎は同い年、日向と瑠火は日向の方が年上というこの小説の独自設定があります。


pixivにて影柱をオリ主とする全く別のssがあり驚きました。信憑性ないかもしれませんが、けしてそのssからパクった訳ではありません


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墨影兄弟

新しく書いたものになります。かなり駄文かも知れませんそれでも良いならよろしくお願いします。


墨影二郎丸は好意に対して鈍感である。その理由は幼少から大変可愛がられてきたからだ。だがそんな環境だからか、相手に対して好意を持って接し、行動することが二郎丸にとって当たり前となり、それ故にお人好しと言われる様になった。

だが逆に悪意に対しては非常に敏感である、それも自分以外に向けられているもの理解できる程にだ。因に、二郎丸の差す悪意は、害を望む感情だけではなく、怒り、悲しみ、絶望、欲望等の、いわゆる“負の感情”と呼ばれるものも含まれており、それらの違いも理解することが出来る。

そんな二郎丸だからこそ、兄である一朗太が自分に対してどのような感情を持っているか、それを誰よりも良く理解していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうしたものか。」

 

零郎は悩んでいた、それは一朗太と二郎丸の中である。表立って喧嘩することは一切無いのだが、お互いに関わらない、と言うよりは一朗太が二郎丸を一方的に避けているのだ。

そもそも、一朗太はあまり誰かと関わろうとはしない性格ではあるが、そうだとしても二郎丸への態度は異質なもであり、それも二郎丸が生まれた時から関わろうとはしていなかった。二郎丸は兄と仲良くしたいと何度か関わろうとしていたのだが、その度に避けられており、最近は二郎丸も避ける様になっていた。

何度か仲良くするように二人の息子に持ちかけてはいるのだが、零郎はあまり強く言えずにいた。

その理由は大きく分けて二つ有る。

 

一つ目は自分自身の立場だ。

 

零郎には十勝丸と百瀬と言う年子の弟達がいるのだが、零郎自信、兄弟だけではなく親とも非常に仲が悪く、十三才の時に家出してからと言うものの、帰る処か連絡すらも一切行っておらず、結婚したこと子供が生まれたことさえも伝えていなかった、

果たしてそんな自分が兄弟仲をとやかく言えるのだろうか?

 

零郎の答えは否だった。だがそうだとしても、親の立場として何とか仲良くするように持ちかけていた。

 

二つ目の理由は息子達の言葉であった。

 

仲良くするように言う零郎を鬱陶しく思ってか、一朗太はある時にこう言ったのだ。

 

「父上、あんまりしつこいと嫌いになりますよ。」

 

父の事を良く理解した長男である。

 

この言葉は零郎に対して効果的面だった。零郎にとって息子に嫌われることは死活問題であり、それが例えや言葉のあやであったとしても、これ以上何も言う事ができなかった。

 

因みに、一朗太を避ける様になった二郎丸にも仲良くするように言った時に。

 

「どの兄弟も仲が良く出来る訳ではありません、ですが兄弟として生まれた以上一緒に生活することになります。であれば、お互いに不快な気分にならないように過ごすしかないんです。」

 

そう言ったのだ。兄を思い遣るできた次男坊である。

 

零郎は当時の自分を思い出して泣いてしまった、それを見た二郎丸は戸惑い、そして日向には呆れられてしまったのだった。

 

そのようなことがあったのだが、零郎はまだ諦めたわけではなかった、そして、それをなし得るであろうものが一つだけあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零郎は屋敷のとある一室に訪れていた、そこには妻である日向がおり、布団の上に座り込んでいた。

 

「大事ないか?日向。」

 

「大丈夫ですよ、お気遣いありがとうございます。」

 

「当然だ、それに、お前に何かあればお腹の子に障るからな。」

 

そう、日向が子を妊娠しているのだ。そしてこれこそが、二人の息子の仲を取り持つ鍵となるのではない

 

かなり歳が離れており、まだ弟か妹か分からない状態であるが、一朗太も二郎丸も手放しに喜んでくれており、楽しみだといってくれた。それならばこれから産まれてくる子の兄として、二人の仲が改善することが出来るかもしれない、零郎はそう考えていた。

当然、そうでなくても零郎は産まれてくることを非常に楽しみにしているのだが。

 

それ以上に淡く大きな期待があるのだった。

 

「楽しみですね。」

 

「あぁ。」

 

膨れた腹を愛おしげに擦る日向の手に零郎が自分のてを重ねる。

 

二人は、これから産まれてくるこの子が、いつか二人の兄の手を繋いでくれることを願っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、そのようなことはなかったのだが。

 




※この話での二郎丸の年齢は九才です。


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影柱(仮)に至るまで 最終選別
最終選別 前編


今回から二郎丸達の最終選別になります


あれから、いろいろな事があった。

 

まず二郎丸が九才の時に弟が生まれた、時を同じくして杏寿郎にも弟が生まれた。それぞれの名は三郎助と千寿郎だ。

 

だが瑠火の病状が悪化し、その二年後に帰らぬ人となった。その影響か愼寿郎が突然柱をやめ、剣を手放し腑抜けになってしまった。が、それを見かねて零郎が自ら愼寿郎の元へ赴き、柄にもなく激を飛ばした、その結果かつて程ではないがいくらか正気を取り戻したのだ。

 

そして翌年に十五才になった一朗太が最終選別を生き残り見事鬼殺隊に入隊した、その時は煉獄家も加わりその事を大いに祝った、また時を同じくして零郎は柱を引退した。

 

二郎丸と杏寿郎がいつの間にか全集中・常中を体得していた、嬉しい反面何故教えてくれなかったのか疑問に思えば、かつての自分を思い出しかなり肝が冷えた。

結果、驚かせようとしていが、その前に気づかれてしまっただけだった。

 

内容はよく覚えていないが十三才になった二郎丸が初めて零郎と喧嘩をした、そしてそのまま家を飛び出して行った、この時何故か杏寿郎を連れ出していた。

そして真夜中になっても帰って来ない二人を心配して愼寿郎と共に死に物狂いで二人を探した、そして見つけた二人はなんと勝手に持ち出した日輪刀で鬼を討伐していた、そして駆けつけた鬼殺隊士に話しかけられている二人を無理やり連れて帰りかつてない程叱りつけた、叱り過ぎて逆に零郎が泣き出して周りにいた皆に大いに引かれた。

 

そして二郎丸は十四才になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では父上、母上、三郎助、行って参ります。」

 

「あぁ、」

 

「二郎丸、御武運を。」

 

「わかりました。」

 

二郎丸は今日、最終選別へ向かう、その為に家族でお見送りをしてた、だが兄の一朗太は任務に着いており、参加していなかった。

 

「じろーにーさま、がんばってください!」

 

「ありがとう三郎助。あ、母上、帰ったら天ぷらが食べたいです。」

 

「えぇ、たくさん作ってあげるから楽しみにしてて頂戴。」

 

「ありがとうございます、それでは。」

 

そう言って二郎丸は振り返って走り去る、そして二郎丸が見えなくなった後、日向は零郎にもたれかかった。

 

「…あなた、」

 

「日向、不安なのか?」

 

「おかーさま、ないているのですか?」

 

二郎丸は贔屓目無しにかなりの実力がある。だがそうだとしても、親としてあの危険地帯に我が子を向かわせることは不安でたまらないのだ。

 

「だいじょうぶですよ、じろーにーさまはつよいですから!」

 

不安にかられる母を三郎助は元気付ける様に声を上げる。

 

「その通りだ、それに俺たちに出来る事は、二郎丸の信じて帰って来た時のために天ぷらを沢山作っておいてやる事だけだ。」

 

零郎も不安が無いわけではない、だがそれ以上に二郎丸の事を信用しているのだ。

 

「…そうよね!母である私が信じてあげないでどうするの!」

 

「その意気だ、日向。」

 

「あ!おかーさまが笑った!」

 

いつもの活気を取り戻し笑顔を見せる日向を見て三郎助も笑顔になる。

 

「さあ!二郎丸が帰って来た時のために美味しい天ぷらを作ってあげなくちゃ!」

 

そして地獄の天ぷら生活が始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終選別のある藤襲山へ向かう道中、二郎丸は金髪の頭を見つけた、

 

「おーい!杏寿郎!」

 

「ん?よもやよもや、二郎丸ではないか!」

 

その正体は幼馴染である杏寿郎だった、お互いに最終選別を受ける事を知っていたため途中で合流する約束をしていたのだ。

 

「いよいよだね。」

 

「うむ、気を引き締めなければならんな!」

 

「けど、張り切り過ぎるのもダメだよ。」

 

「それもそうだな、寝不足でうっかり鬼に襲われれば一大事だ!」

 

「その通り。」

 

最終選別があるのは明日だ、それまでに藤襲山に近い藤の家紋の家に赴き、当日の明け方に入山する予定である。

そして二人は道中、甘味処に立ち寄っていた。

 

「「うまい!うまい!うまい!」」

 

在庫を全て食い尽くす勢いで団子に饅頭、羊羹等の甘味を頬張る二人、どちらも大量の小遣いを親から貰っており、金の心配をせずに、遠慮無く食べることが出来るのだ。そして〆とばかりにお汁粉を啜り

 

「「ごちそうさまでした!」」

 

代金を払い再び藤襲山に近い藤の家紋の家に向かうのだった。

 

因に、その甘味処は日の高いうちに閉店したそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ~、やっと着いた。」

 

「中々長い道のりだったな!」

 

二人が藤の家紋の家に着いたのは夕焼けが赤々と空を照らす時だった。それぞれ部屋に案内された後、二人で準備された部屋へと案内された。

夕食の内容はさばの味噌煮、味噌とさばの旨味がぎゅっと詰まっており、それ故にご飯がよく進む、二人して大盛五杯も食べていた。

その後は風呂に入り特に何もすることはないので直ぐに床に就いた。

そして翌日の日が昇る前に起床し日が出ると同時に二人は藤襲山へ向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梺からの藤林に入り込み、山を登り、山の中腹にある鳥居を潜れば集合場所である社にたどり着くそこには既に十人程集まっていた。その後も人は増え続け最終的には二十人以上にもなった。

そして何処に居たのか、白髪の人形の様に美しい女性が現れた。

 

「始めまして皆様、私は鬼殺隊当主・産屋敷輝哉の妻、産屋敷あまねと申します。これから最終選別について、私から説明させていただきます。」

 

あまね様の話によれば、最藤林を抜けた先は鬼が多く居る、そこが最終選別を行う場所であると、その中で七日間生き抜くこと、それが合格条件であると説明された。

 

「では、いってらっしゃいませ。」

 

そう言ってあまね様は去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藤林を歩きながら、二郎丸は杏寿郎に語りかける。

 

「…杏寿郎」

 

「む?」

 

「生きて帰るよ。」

 

「うむ、そうだな!生きて帰って」

 

「「鬼殺隊に入隊する!」」

 

この藤林を抜けてしまえば、己を守るものは己の力のみ。

 

最終選別が今始まる。




※原作の捏造、改変部分

愼寿郎が原作の様な腑抜け状態から既に脱却しています。
杏寿郎が二郎丸の同期です。


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最終選別 中編 壱




── 一日目 ──

 

「杏寿郎、これからどうする?」

 

「うむ、そうだな。」

 

二郎丸と杏寿郎は見晴らしの良い川岸に居り、そこで何をするべきか考えていた、まだ日は高い、なので鬼が出ることはない。つまりやることが無いのだ。そしてち頭を捻り唸りながら二人が出した結論は、

 

「「よし、寝よう!」」

 

日が落ちるまで休憩することだった。

名案だと言わんばかりにウンウンと頷き、木陰に行き、二人並んで寝転んだ。だがしばらくすると、

 

「おい貴様ら、何をしている?」

 

不意に声をかけられた。二人が声のした方向を見ると口に布を巻いた黒髪の小柄な少年が立っていた。

 

「全く、鬼の蔓延るこの山で呑気に昼寝とは随分とお気楽だな。そうであれば直ぐに鬼に殺されてしまうぞ。」

 

それからしばらく、その少年はネチネチと喋り続けていた。

 

「要は気を付けろて言うことだね。」

 

「そういうことか!忠告感謝する!」

 

「フン、分かればいい。」

 

「「よし寝よう!」」

 

「待て貴様ら、分かってないだろ!」

 

再び木陰に戻ろうとした二人を少年が引き止める。

 

「む?忠告は聞いたぞ、おかっぱ少年。」

 

「誰がおかっぱだと?」

 

「名前を知らないからそう呼ぶしか無いんだよ。あ、僕の名は墨影二郎丸。」

 

「俺は煉獄杏寿郎だ!」

 

「「それで、名前は?」」

 

「…」

 

ダメだ、話が通じない。と言わんばかりに少年は頭を抱える。

 

「伊黒小芭内だ。」

 

そして諦めたのか、素直に名乗った。

 

「伊黒か、宜しく頼む!」

 

「フン、貴様らだと次に会えるかどうかわからんがな。まあいい、とにかく忠告はしたぞ。」

 

そう言って伊黒は去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん」

 

あの後、二人は寝た。

 

そして、二郎丸が起きたのは、太陽が半分程地平線に沈んだ時だった。杏寿郎はまだ隣で任務に寝ている。

 

「なんだ、起きたのか。」

 

振り返れば伊黒が立っていた。

 

「あれ、起こしに来てくれたの?」

 

「そんな訳ないだろ。この俺が忠告しても寝ようとした奴らだからな、鬼に喰われてないか見に来ただけだ。」

 

実のところ、まだ太陽が沈みきっては無いため、まだ襲われるということはなかったのだが。

 

「要は心配してくれてたんだね。」

 

「…違う」

 

そう言って伊黒はそっぽを向いてしまった。

 

「杏寿郎起きて、もうすぐ夜だよ。」

 

「む、もうそんな時間か…ん?よもや、そこにいるのは伊黒ではないか?」

 

杏寿郎は既に日が沈みかけていたこと、そしてこの場に伊黒が居ることに驚いていた。

 

「僕達の事を心配して来てくれたんだよ。」

 

「そうだったか!何度もすまないな!」

 

「だから違うと言っているだろ。」

 

話しているうちに、日が完全に沈みきり、鬼の蔓延る夜が訪れた、が、

 

「あれ?鬼が来ない限り夜もずる事がない?」

 

そういうことだ。

 

「なら、自分で鬼を探しに行けば良いではないか。」

 

「いや、ここの鬼は比較的弱いと聞いているけど、万が一が有るかもしれない。だからそれはしない。」

 

「確かにそうだな。」

 

「お前達、この俺を忘れていないか?」

 

「「あ」」

 

『ヴオオオ!』

 

「「「ん?」」」

 

振り向けば森の中から一匹の鬼が三人に向かって飛び出してきた飛び出してきた、だがこの程度の鬼に遅れを取るような三人ではない。

 

「「「全集中」」」

 

「蛇の呼吸 弐の型」

 

「炎の呼吸 壱の型」

 

「影の呼吸 弐の型」

 

『狭頭の毒牙』『不知火』『影切舞』

 

三人で一斉に鬼へと駆け出し、頚に目掛けて剣を振るう、その刃は同時にたどり着き、鬼の頚は体を置いて彼方へと飛んでいった。

 

「…実力は確かな様だな。」

 

「当然!伊黒もやるではないか!」

 

「確かにね。」

 

鬼を討伐した後、互い誉めあった。

結局、襲って来た鬼は先程の鬼一匹だけであり、そのまま朝日が昇った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー 二日目 ーー

 

「これはマズイぞ、二郎丸。」

 

「確かに、これは一大事だね。」

 

二人は新たなる危機に直面していた、

 

「「腹が減った。」」

 

「何の茶番をしている貴様ら。」

 

近くに居た伊黒が呆れて声を上げた。

 

二人は藤の家を出た後何も口にしてない。それは育ち盛りの二人にとっては酷なものであった。

因に、二人に渡された大量の小遣いなのだが、あれは零郎と愼寿郎が当時の最終選別を振り返り、食料に困らない様にと渡していたものだった。渡す際に、『これで食い物を買え』と言って渡したのだが。当の二人は道中の甘味処で殆ど使い果たしている、間違ってはいないが根幹を全く理解していなかったのだ。

 

さて、そんな二人が頭を捻りながら出した答えは

 

「「狩りだ!」」

 

「…は?」

 

そう言うと呆れる伊黒を置いて、森の中へと走り去って行った。

 

ここで獲物を狩れなければ、その先は死あるのみ。

 

命を掛けた狩りが今始まる。

 

 




※二郎丸と杏寿郎、二人が揃うとお互いのIQが若干溶けます。ただし二人であれば大抵何とかなります。


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最終選別 中編 弐

アンケートの結果、六話は消すことになりました。いいえに投票してくださった方、申し訳ありません。


一匹の猪が森のなかを必死に走っている、そしてその後を金髪の目をかっ開いた少年が刀を構えながら追っている。そう、猪はこの少年から逃げているのだ。

 

「そっちに行ったぞ!二郎丸!」

 

「了解!」

 

その掛け声と同時に、先に生えた木の上から白髪の少年が飛び降りてきた。

 

「全集中 影の呼吸 陸ノ型 『御影石』!!」

 

そのまま落下の勢いも乗せて二本の脇差を振り下ろし、猪の頭を切り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

獲物を探して小一時間、遂に見つけた大物を仕留めてホクホク顔の二人、猪を担いだ二人の足取りは非常に軽かった。森を抜け、先程の川岸には伊黒がいた。

 

「遅いぞ、一体何をしてい、た…。」

 

二人を見た伊黒は絶句する、それもそのはず二人の服には担いだ猪の血がべっとりと張り付いており、伊黒はそれを見て大怪我をしたと勘違いしたのだ。

 

「ど、どうした!?貴様ら!」

 

「ん?あぁ、これ全部猪の返り血だから。」

 

「心配無用だ!」

 

「…は?」

 

呆れる伊黒を無視して二人は猪を切り分けて肉を焼く、その間に川へ飛び込み服に付いた血と汗を洗い流す、そして焼けたのを見て川から上がり肉にかぶりつく。

その味は

 

「「臭い、硬い、不味い。」」

 

「馬鹿なのか?貴様らは。」

 

それはそれはひどいものだった、本来革を剥いだり血を抜いたり内臓を取り除いたりしなければいけないのだが、空腹だった二人ではそこまで考えることは出来なかった。

だが、だからと言って残すのは御法度、二人はそれらを我慢して猪を食べきった。

 

「「ごちそうさまでした!」」

 

「…あれを全部喰ったのか。」

 

一部始終を見ていた伊黒は驚いていた。

 

「あれ、伊黒も食べたかった?」

 

「違う、そうじゃない。」

 

因にこの日の夜は、鬼の襲撃は無かった。

 

「そういえば」

 

「む、どうした?」

 

「なんで伊黒がいるの?」

 

「…悪いか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── 三日目 ──

 

「よし!今日も狩りをするぞ!」

 

「応!」

 

「貴様らは何をしにここにに居るんだ?」

 

今日も狩りをする為に森の中にいる、今回は伊黒もついて来ていた。何故かと聞けば二人が何を仕出かすか分からないから監視のためと言った。

 

解せぬ

 

一時間後、兎を三羽と鹿を狩ることができた、特に兎はすばしっこく動く為、追いかけるだけでそれなりの鍛練になった。

きちんと下処理をして焼いた肉は何とか食えるものとなっていた、因に兎は結構美味いと三人は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

── 四日目 ──

 

「おい、墨影はどうした?」

 

「すまん、見失った!」

 

「何をしているんだ。」

 

今日も狩りをしていたのだが、途中で二郎丸とはぐれてしまった。

 

「全く、さっさと二郎丸を探し出すぞ。」

 

「誰を探すって?」

 

「「うおっ!?」」

 

だが心配する必要は無く、いつの間にか戻って来ていた。

二人の人間を担いだ状態で、

 

「二郎丸、その二人は誰だ?」

 

「知らない。」

 

「そうか!」

 

「違う、そうじゃないだろ。」

 

微妙に噛み合わない会話をする二人の間に伊黒が割り込む。

 

「ん?あぁ、ぶっ倒れてたから連れてきた。」

 

「…それだけか?」

 

「うん。」

 

伊黒は頭をおさえた。

 

「墨影、お人好しが過ぎるぞ。」

 

「良いじゃん、助けない理由も無いんだし、それにお人好しなのは伊黒もでしょ。」

 

「なんだと?」

 

「二人共、話は後にしないか?」

 

杏寿郎がそう言った為、一旦戻ることにした。助けた二人はどちらとも男であり、どちらとも気を失っていた。一人は腕に引っ掛かれたような切り傷があり、もう一人は怪我こそ無いものの、かなり衰弱しているようだった。

 

二人が目覚めたのは陽が完全に沈み、月が空に昇り始めた時だった。

 

「無様にも程があるぞ貴様ら。」

 

「「はい…」」

 

「伊黒、そこまでにしてやったらどうだ?」

 

「いや、ダメだ。」

 

あれから伊黒は一時間以上も二人に説教をしていた、杏寿郎が止めようとしても、やめることはなかった。

怪我をしていた男の名は齊藤、森の中で鬼に襲われたが、日の出が近かった為、何とか助かったらしい。

怪我をしていなかった男の名は山本、空腹で倒れ込んでしまい、気を失っていたようだ。

「全く、あまりにも不甲斐無い。本来であれば死んでいてもおかしくなかったんだが。」

 

「す、すみません、」

 

「謝罪はいい、寧ろ貴様らを助けた墨影に感謝すべきだ。」

 

「は、はい!」

 

「墨影さん、助けていただきありがとうございました!」

 

「ありがとうございました!」

 

「いえ、別に良いですよ。」

 

この日は三匹の鬼が襲撃してきた。

そして、最終選別五日目の朝を迎えた。




※伊黒はネチネチ言ってますが、本当は心配性で仲間思いな人だと思っています。


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最終選別 中編 惨

新六話はただいま制作中です、もうしばらくお待ち下さい。


── 五日目 ──

 

「伊黒、その鬼で何匹目だ?」

 

「確か、十五匹目だ。」

 

「うわ、そんなに倒したんだ。」

 

夜、二郎丸達五人は鬼の襲撃に対応していた。だが、前日と比べてその数はかなり増えており、苦戦はしなくとも疑問に感じていた。

 

「あ、齊藤さん、山本さん、そっちの鬼お願いしますね。」

 

「はい!」

 

「わかりました!」

 

昨日助けた二人も、戦えるまでには体力を回復していた。

結果、鬼の襲撃は日が出るまで続き、討伐した鬼の数は二十匹だった。

 

── 六日目 ──

「墨影さんは何故鬼殺隊に入隊しようと思ったんですか?」

 

今回は二郎丸と齊藤、杏寿郎と伊黒と山本の二手に別れて狩りをしていた。そして狩った猪を捌いている途中、齊藤は二郎丸に質問を投げ掛けた。

 

「んー、鬼殺隊の父上が格好いいと思ったからですかね。」

 

「…それだけですか?」

 

「最初はそうでしたけど、明確に決心したのは十一才の時ですね。」

 

「と、言いますと?」

 

二郎丸は今は亡き杏寿郎の母、瑠火の事を語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつであったか明確に覚えていないが、一家総出で瑠火の見舞いに行ったことがあった。この時の瑠火は病状が更に悪化しており、医者からはもう長くはないと伝えられていた。

しばらくして瑠火は杏寿郎と一朗太、そして二郎丸だけで自分の元に来るように言われた。三人が揃った時、こう言われたのだ。

 

『弱き人を助けることは 強く生まれた者の責務です。』

 

あなた達は強さがあるのですから、と、そう言われて三人まとめて抱き締められた。

病気の影響で力も弱くなり、体も冷えていた筈だが、抱き締めるその腕は何よりも力強く、それでいて温かく感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからこそ、僕は鬼殺隊になりたいと改めて決心したんです。」

 

「ずばら゛じい゛でずう゛う゛ぅ!!」

 

「のわっ!?」

 

気が付けば齊藤が泣きじゃくっており、二郎丸は驚いた。そして泣き止んだ後、齊藤も自分の身の内を語り出した。

 

話を聞けば齊藤は孤児であり、その当時はかなり荒れていたようだ。何か才能がある訳でもなく、人付き合いが良い訳でもなく、あるとすれば喧嘩が強いくらいであった。そんな中で今の育手の人に拾われ、その人に剣の技術と礼儀を学んだそうだ。

 

だが、育手の元にいる内にある悩みが生じたらしい。

 

育手の人は自分以外の人たちも育てていたそうだが、その誰も彼も鬼によって大事な人たちを奪われており、その意気込みは尋常ではなかったそうだ、だが、自分は鬼に対して恨みがあるわけではなく、育手に拾われたから、鬼殺隊を目指しているだけだ。

 

はたしてそんな自分が鬼殺隊になって良いのだろうか。

 

その答えは遂に出ることはなく、そのまま最終選別を受けることになったそうだ。

 

「その結果があの様です、本当に情けない…。」

 

「…」

 

そんな齊藤の話を二郎丸は黙って聞いていた。

 

「墨影さん、こんな俺が、鬼殺隊に入隊してしまって大丈夫なんでしょうか、本当はあのまま死んでしまった方が「そんな事は断じてありません。」…え?」

 

齊藤の言葉を遮り、二郎丸は語り出した。

 

「確かに理由は大事なものです、ですが僕はそれ以上に大事なことがあると思うんです。」

 

「…それは?」

 

「行動する意思です、想いがあっても行動に移さなければそれは無いものと同じです。貴方は今まさに鬼殺隊になるために命を落とす危険のある最終選別を受けてるじゃありませんか。」

 

「いや、それは」

 

「言ったでしょう、想いがあっても行動に移さなければそれは無いものと同じと、それは誰でも出来ることではない、想いを行動に移した貴方のそれは敬意を表するべき、それでいて貴方自身が誇って良い事です。」

 

それが鬼殺隊であれば直の事です、と締めた。

 

それを聞いた齊藤は、また涙を流していた。

 

「本当に、そう、思っているんですか?」

 

「もちろんです。」

 

「俺は、録に鬼に勝つことが出来ないほど弱いんですよ?」

 

「なら、強くなりましょう、今から行動しても遅くはないです。」

「…ほ、本当に俺が鬼殺隊になっても、」

 

「それは齊藤さんが決める事です。齊藤さんはどうしたいですか?」

 

「俺は…俺は、」

 

そして

 

「俺は!鬼殺隊になりたいです!貴方の様に、誰かを助けることが出来るなら!!」

 

そう、大声で宣言した。

 

「よくぞ言ってくれました、であれば、最終選別を絶対に生き残りましょう!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む、齊藤殿、どうしたのだ?」

 

杏寿郎は疑問に思った。目元を真っ赤に腫らした齊藤を見て、

 

「改めての決意表明、ですよね齊藤さん。」

 

「まぁ…はい、そうですね。」

 

齊藤は頬を赤くしてそっぽを向く。

 

「なるほど!」

 

「いや、意味がわからんぞ。」

 

杏寿郎は納得したようだが、伊黒は納得していないようだ。

 

「山本さんはどうしたんですか?」

 

二郎丸も疑問に思った。げっそりとやつれている山本を見て、

 

「な、なんで鹿や兎を生身で追いかけなきゃいけないんですか?そしてお二方は何故あの森の中で追い付くことが出来るんですか?」

 

「…御愁傷様だな、山本」

 

そんな不憫な山本に齊藤は労いの言葉を掛けることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※おまけ(他の三人は何をしていたのか)

 

「む?あそこに鹿がいる、追い掛けるぞ!」

 

「了解。」

 

「いやいや、人の足で追い付くわけないじゃないですか!」

 

──しばらくして──

 

「「仕留めた」ぞ!」

 

「何でですか!?」

 

次の場所では、

 

 

「む?兎が二羽いるな、ちょっと狩ってくるぞ!」

 

「いやいや、二羽同時は無理ですって!」

 

──しばらくして──

 

「三羽狩れたぞ!」

 

「何故増えてるんですか!?」

 

「ふん、俺は四羽狩ったぞ。」

 

「なんだと!?負けた!」

 

「あんたは何張り合ってるんですか!?」

 

 

また次の場所では

 

『プギィィィ!』

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!?」←猪に追いかけられています

 

「どうしたのだ山本殿?早く仕留めねば。」

 

「その通りだ、鬼と同じく頚を斬れば一発だろう?」

 

「いや無茶言わないで下さいよぉぉ!!」

 

──しばらくして──

 

「不甲斐ない、これでは鬼すら狩れんぞ。」

 

「確かに、そうかも知れぬな!ははは!」

 

「…(鬼殺隊って狩人集団だったのか?)」←対象が鬼になっただけであり、あながち間違いではない

 

 

 

段々と二人に染まって来た伊黒、そしてこ二人に振り回される山本であった。

 




※齊藤さんは十六才、山本さんは十五才、三人よりも年上なので二郎丸と杏寿郎は敬語を使っています、伊黒は使いそうにないのでタメ口です。モブ二人が敬語を使うのは助けられた恩によるものです。

※現時点の二郎丸と杏寿郎の身長は約160cm、伊黒は150cmにまだ届いてないと想像してください。因に山本さんは二郎丸より少し高い程度、齊藤さんは170cmを越えています。


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最終選別 後編 壱

遅れてしまいすみませんでした。今回の話は今までよりも長くなっています。

六話を新しく書き変えたので、そちらの方もよろしくお願いします。




ーー 七日目 ーー

 

「遅い、余りにも遅すぎる!あいつらは一体何をしているんだ?」

 

伊黒が腹ただしげに呟く、今回は二郎丸と杏寿郎、伊黒と齊藤と山本で別れて狩りをしていたのだが、今日は日が沈んで、それからしばらく経っても二郎丸と杏寿郎が戻ってきていないのだ。

 

「やはり一緒にすべきではなかった!…仕方ない。齊藤、山本、俺は今から「伊黒!齊藤殿!山本殿!」ん?」

 

二人を探しに再び森の中に入ろうとした時、焦った様子で杏寿郎が三人の元へと駆けてきた。

 

「遅いぞ煉獄!それと墨影はどうした?」

 

「それはすまなかった!だがそれどころではないんだ!」

 

「何?」

 

「今までの鬼とは比べ物にならない程デカイ鬼が現れた!二郎丸が戦っている筈だから今すぐ俺についてきてほしい!」

 

「…は?」

 

「「え!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「早く戻らないと。」

 

「そうだな!さすがに夢中になりすぎてしまった!」

 

今日の二人の狩りの成果は、猪二匹、鹿三匹、雉二羽、兎六羽、という大量だった。だが余りにも夢中になりすぎていたため、下処理等を終わらせた時には既に日が沈んでしまっていたのだ。

 

「伊黒に怒られてしまうかもしれぬな!」

 

「けど、これだけ肉をもって帰れば許してくれるかもよ?」

 

「そうだな!であれば、早く戻るぞ!」

 

「そうだね!」

 

急いで戻ろうとした時、更に辺りが暗くなった。

 

「「ん?」」

 

そして、嫌な気配を感じ、背負った肉を捨て去り慌てて飛び退けば、そこに巨大な物体が落ちてきた。

 

「ほぉ、今のを避けるとはなぁ。」

 

その物体が喋りだしたかと思えば、モゾモゾと動いた後、すくりと立ち上がった。

 

二メートルは越すであろう巨体と見るからにぶよぶよの肌、巨体の割には比較的細い腕脚に、それには不釣り合いな程の大きな楓の葉のような手足、そして飛び出る程に大きな目玉に、無数の牙が並び、長い舌が伸びたこれまた大きな口。

 

かなり異形ではあるが、鬼であることは間違いない、さながら“蛙鬼”と呼べる鬼だった。

 

「ほぉ、今のを避けるとはなぁ。」

 

振り返った蛙鬼がニヤリと笑う。

 

「久しぶりに起きてみれば、活きの良いガキが二人、中々ついてるじゃねぇかぁ!」

 

がっはっはと蛙鬼のさが豪快に笑う、対して二郎丸と杏寿郎はかなり焦っていた。

 

「杏寿郎、どうする?」

 

「そうだな…。」

 

「「…よし。」」

 

二人で暫く考え、刀を抜いて構えをとる。

 

「ほぉ、この俺に掛かってくるかぁ。」

 

蛙鬼がまたもニヤリと笑う。対して二人は

 

「「…三十六計逃げるに如かず!」」

 

そう叫び、反対方向へと走り出した。

 

「…は?」

 

蛙鬼は少しの間呆気に取られたが、

 

「逃がすかぁ!!」

 

直ぐに舌を二人に向かって勢いよく伸ばした。

 

「二郎丸!」

 

「任せて! 全集中 影の呼吸 惨の型 『餓乱洞』!!」

 

だが二人は追撃も予想しており、二郎丸が伸びてきた舌を回転によって切り刻む。

 

「よし!」

 

「二郎丸、危ない!」

 

「え?ぬあ!?」

 

だが安心するのもつかの間、蛙鬼がこちらに向かって蛙鬼が跳んできており、二郎丸はそれに気付けなかった。

だが杏寿郎が二郎丸に突進して一緒に飛び退いた事で、寸での所で回避することが出来た。

 

「まだまだぁ!」

 

「炎の呼吸 弐の型 『昇り炎天』!!」

 

今度は大きな手を振り下ろしてくるが、杏寿郎が腕ごと斬り落とすことでそれを回避する。

 

「痛ぇ!?くそっ!何度も斬り裂きやがってぇ!!」

 

「行くぞ!」

 

「うん!」

 

蛙鬼が怯んだ隙に二人は森の中へと逃げ込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこにいるぅ!?さっさと出てこいぃ!!」

 

「不味いね。」

 

「うむ、そうだな。」

 

木々をなぎ倒しながら蛙鬼が二人を探している。森の中に逃げ込んで暫くたったが未だ二人は逃げられず、そして倒せずにいた。

 

だが、二人はただ逃げていた訳ではない、

手足は細いが木々をなぎ倒せる程の怪力、けして身のこなしが速い訳ではなく寧ろ遅い方だが、それを補えるほどの跳躍力と素早い舌の動き、だがこれ血気術を使えるわけではない。そして、頚が非常に硬かった。

 

これが今まで分かった蛙鬼の性能だった、だがそれがわかっただけではこの状況を切り抜けることが出来る訳ではなかった。

 

「…杏寿郎。」

 

「む?どうした。」

 

暫く考え、二郎丸は一つの提案をする。

 

「僕が劣りになる。」

 

「…なんだと?」

 

杏寿郎は驚いた。

 

「お前を置いて逃げろというのか!?」

 

「違う。」

 

「なら!」

 

「助けを呼んで来てほしいんだ。」

 

「…伊黒か?」

 

「そう。」

 

「見つけたぞぉ!」

 

「「あ。」」

 

振り下ろされた蛙鬼の手を二人は避ける。

 

「全集中 影の呼吸 肆の型 『畝り黒潮』!!」

 

「全集中 炎の呼吸 惨の型 『炎渦竜巻』!!」

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!?」

 

蛙鬼の頚は硬いがそれ以外は他の雑魚鬼より上程度、放たれた風の刃と炎の渦は蛙鬼の顔を容赦なく切り刻んだ。

 

「今の内に!」

 

「だが!」

 

「大丈夫、勝てはせずとも負けはしないから。」

 

「…死ぬなよ!」

 

「もちろん。」

 

そして杏寿郎はこの場から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「二郎丸ー!どこにいるー!」

 

「墨影!返事をしろ!」

 

「墨影さーん!」

 

四人は杏寿郎と二郎丸が別れた場所までやって来たのだが、二郎丸も蛙鬼の姿も見えず現在進行形で探している真っ最中だった。

 

「お前らは何故ここにいる?」

 

そして伊黒は齊藤と山本には待機しておく様に言っていたが、何故か二人とも付いてきていた。

 

「いや貴方達といた方が安全ですから!」

 

「一昨日みたいに襲撃されたら寧ろ私達だけでは間違いなく死にますから!」

 

これが二人の言い分だった。

 

「あ!皆さん!来て下さい!」

 

山本が全員を呼ぶ声が聞こえた。そして向かってみれば、

 

「なんと!」

 

「…これは。」

 

「まさか。」

 

急に森が開けており、その先は傾斜のある崖、更にその近くには崩れた跡があった。

 

「す、墨影さんは、鬼と一緒に落ちたんじゃ。」

 

「かもしれぬな。」

 

「どうする?」

 

「「「…」」」

 

「…、はあ!」

 

「「「え?」」」

 

どうするべきか悩む中、なんと齊藤が崖の傾斜飛び降り器用に滑り降りていった。

 

「齊藤殿!」

 

「齊藤さん!」

 

「あの馬鹿!おい、さっさと降りられる場所を見つけて追いかけるぞ!」

 

「うむ!」

 

「わかりました!」

 

残された三人は慌てて追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、崖から落ちた二郎丸は気絶していた。

 

「……ぐぅ。」

 

が、ようやく目覚めたようで非常に痛む体を何とか起こし、立ち上がる。

すると、少し離れた場所の瓦礫の山が音を立てて崩れ落ち、中から蛙鬼が這いて出てきた。

 

「…随分と、舐めた真似をしてくれたじゃ…ねぇかぁ。」

 

暫く交戦した後、二郎丸は例の崖際まで追い込まれてしまっていた。そして勝ち誇ったかの様に嘲笑う蛙鬼がゆっくりと近づいて来たとき、二人がいた地面が崩れてしまい、瓦礫と共に落ちてしまったのだ。

 

絶体絶命の中、二郎丸は驚くほど冷静だった。

 

落ちる中で蛙鬼に器用に近づくと先ずは腕脚を切り落とし、馬乗りになった。そしてそのまま力を込めて頚を叩き斬ろうとしたのだが、その前に地面に到達してしまい、そのまま投げ出されてしまったのだ。

蛙鬼の体を盾にして、落ちた衝撃は幾らか吸収出来たが、それでも強い衝撃であったことには変わりはなく、瓦礫に埋もれていく蛙鬼を見ながら二郎丸は意識を失ったのだ。

 

「…お前が馬鹿なだけじゃないの?」

 

軽口を叩いているが、二郎丸は非常に焦っていた。

痛みからして、左腕とあばら骨数本が折れてしまっている、辛うじて肺には刺さってないようだが、無理に動けばそうなるのも時間の問題である。そんな中で自分一人だけであり、誰の助けも借りることができない。正に絶体絶命であり、二郎丸は既に死を覚悟していた。

 

「はんっ、お前は今の状況を分かってんのか…よぉ!!」

 

「がぁ!!」

 

勢いよく薙ぎ払われた腕により二郎丸は吹き飛ばされる、が、二郎丸は直ぐに立ち上がっていた。

 

「ほぉ、まだ立ち上がれるかぁ。」

 

全身に激痛が走る中で、二郎丸が立ち上がれるのか、それは彼自信が『自分の苦痛を一切苦と思わない』からである。

だがそれでも、怪我をしている事には変わりはなく、無理は出来ないことは二郎丸もわかっていた。

 

「ぐぅ…!」

 

蛙鬼に体を握られ、骨の軋む嫌な音がする。振り払おうにも力が強いため、それはできなかった。

 

「ガハハハ!いぃ顔じゃねぇかぁ!」

 

顔を歪める二郎丸を見て大笑いする蛙鬼、そして二郎丸を喰おうと大きく口を開けたとき

 

「うおおおおお!!!」

 

「…あぁ?」

 

頭上から唸り声が聞こえてきた。声のする方向を見れば、何かが崖の傾斜を滑り降りていた。

 

そしてその正体は。

 

「さ、齊藤さん!?」

 

そう、齊藤であった。

 

「墨影さんから、離れろぉぉ!!」

 

崖から跳び上がり、蛙鬼に向かって刀を振り下ろす。

 

「ふん、邪魔だぁ!」

 

「ぐぁ!?」

 

「あぁ!」

 

だが、その刃は届くことはなく、そのまま薙ぎ払われてしまった。

 

「くそ!まだだ!!」

 

だがそれでも立ち上がり、蛙鬼へと向かって行く。

 

「ふんっ!」

 

「がぁ!!」

 

だがまたしても、薙ぎ払われてしまう。

 

だがしかし

 

「まだだ!!」

 

それでも

 

「まだまだぁ!!」

 

何度も

 

「はあ゛ぁぁぁ!」

 

立ち上がり

 

「だぁっ!」

 

立ち向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

「ふん、まだ立ち上がるかぁ。」

 

既に齊藤は立ち上がる事がやっとの状態であった。

 

「齊藤さん!もう辞めてください!死んでしまいますよ!」

 

今にも倒れそうな齊藤に辞めるように懇願するが、

 

「…構わないでですよ。」

 

「え?」

 

齊藤は遠回しにそれを否定した

「貴方に救われたこの命、貴方を助けて死ぬのであれば…それは寧ろ、本望だ!!」

 

「下らん。」

 

「がぁ!」

 

未だに立っている齊藤に対して舌を伸ばして振り払う。

 

「お前はもういぃ、死ね。」

 

「齊藤さん!」

 

そして倒れた齊藤を殺さんと、再び舌を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全集中 炎の呼吸 肆の型 『盛炎のうねり』!!」

 

「え?」

 

「なんだと!?」

 

だが齊藤に届くことはなく、突如現れた炎の壁によって阻まれた。

 

「全集中 蛇の呼吸 壱の型 『委蛇斬り』。」

 

「グァ!?」

 

だが驚くのも束の間、二郎丸を掴んでいた腕を斬り落とされ、その影響てバランスを崩し、そのまま倒れてしまった。

 

「遅れてすまぬ!」

 

「待たせたな。」

 

「杏寿郎!伊黒!」

 

そう、二人が助けに来たのだ!

 

「齊藤殿、大丈夫…ではないな!」

 

「…はい。」

 

「二郎丸は?」

 

「大丈夫!」

 

「なら良し!」

 

「んな訳ないだろ。」

 

「おぃ、何を無視してるんだぁ?」

 

「「ん?」」

 

振り向けば、蛙鬼が怒りの表情を露にしていた。

 

「さっきからこの俺を苛つかせる様なことばかりしやがってぇ…、どうなるか分かってるんだろうなぁ!?」

 

「ふん、貴様が怒る等、とんだ検討違いだ。むしろ、今まで喰って来た者達の怒りを受けるべきだ。」

 

「その通り!そして俺たちも今正に怒っている!」

 

「そういう事、それもお前の比じゃないからね。」

 

「お、俺だって!「「「大人しくして(ろ)(くれぬか)(下さい)。」」」あ、はい。」

 

一度離れはしたものの、今再び、炎蛇影が集った。

 

四人の反撃が今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、待って下さい…、速すぎますよ…。」

 

いや五人だった。




関係無い話ですが、シリアスを書くのは苦手だと感じました。

※齊藤のそれは火事場の馬鹿力です。
炎の呼吸 惨の型は捏造したものです。


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最終選別 後編 弐

六話を新しく投稿したのでそちらの方もよろしくお願いします。


「ガハハハ!どうしたどうしたぁ!」

 

「あぁ、もう!邪魔!」

 

離れた場所から長い舌で牽制され、近づく言葉のあや難しい。

 

「はぁ!」

 

「おっと危ない。」

 

「ちぃっ、またか!」

 

舌を避けて、懐に飛び込もうとも驚異的な跳躍力で直ぐに距離を取られてしまう。

 

「むん!」

 

「ふん、きかんなぁ。」

 

「やはり固いな!」

 

何とかたどり着き頚を斬ろうとしても、あまりにも硬く斬り落とすことが出来ない。

 

蛙鬼と交戦する二郎丸と杏寿郎と伊黒、だが未だに突破の糸口を見つけることが出来ずにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そもそも、この戦闘は、圧倒的に二郎丸が不利だった。

先ず三人での戦闘と言ったが、これは半分間違いである、既に二郎丸は負傷しており、普段よりも動きが鈍ってしまっているのだ。

そして、そして更にひどい怪我を負っている齊藤の存在もあり、庇いながら戦闘をせざるを得なかったのだ。

そんな不自由な戦闘の中で、三人の疲労は増すばかりであった。

 

「どうした、もうお終いかぁ?」

 

既に肩で息をする三人を見て蛙鬼はふと立ち止まり、ニヤリと笑う。

今駆け出しても直ぐに飛び退かれて距離を取られてしまう為、迂闊に近づく事が出来ない。そしてそれを蛙鬼は理解しているからこそ、このように相手を嘲笑う様な態度をとることが出来るのだ。

 

「やはりお前らではこの俺を殺すことは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「水の呼吸 壱の型 『水面斬り』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グァ!?」

 

『え?』

 

突如放たれた一刀によって、蛙鬼の脚が切られ、その場で体が崩れ落ちた。誰もが驚く中、蛙鬼の脚を切ったのは、

 

「「「山本(さん)(殿)!?」」」

 

「私だって居るんですよぉぉ!!(泣)」

 

そう、山本だった。この場いた誰もが、それも蛙鬼でさえも気にも泊めていなかったが、それが吉と出て見事蛙鬼に一撃を与えることが出来たのだ。

 

「…よくやった。行くぞ煉獄!」

 

「うむ!了解した!」

 

これを好機と見た伊黒が杏寿郎に呼び掛け、二人は走り出し、最大火力の型を繰り出した。

 

「「全集中」」

 

「蛇の呼吸 漆の型 『邪薙・大蛇(やなぎ・おろち)』!!」

 

「炎の呼吸 玖の型 『煉獄』!!」

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!?」

 

「ひいぃぃぃ!!」

 

蛙鬼の絶叫が木霊する、首こそ斬れなかったものの、四肢は吹き飛び、殆ど原型を留めておらず、辛うじで胸部と頭部があることを理解出来る状態であった。

 

「墨影!」

 

「今だ!!」

 

「はあああ!! 全集中 影の呼吸 陸の型 『御影石』!!!」

 

身動きさえもとることが出来ない蛙鬼の頚めがけて渾身の一撃を叩き込む、だが食い込みはしたものの、頚を斬ることは出来ない。

 

「がぁぁ!硬ったい!」

 

「墨影!」

 

「加勢するぞ!」

 

伊黒と杏寿郎が二郎丸の刀の上から自分の刀を叩きつける、だかそれでもまだ切り落とすことは出来ない。

 

「わ、私も!」

 

山本も加わり更に刀は食い込むが、あと少し足りない。

 

「貴様らぁ…!」

 

「ま、不味い!」

 

「押し込め!」

 

「「がぁぁぁあ!!」」

 

見れば蛙鬼の身体は殆ど再生しており、腕脚も生え始めている。この状況で反撃されてしまえばなす術が無い。

 

そんなどうすることも出来ない状況で

 

「ヴオオオオ!!」

 

「え?」 「は?」 「何と!」 「齊藤さん!」

 

立ち上がることすらままならない筈の齊藤がこちらに向かい、そして刀を振り下ろす。そして五人の刀が重なりあった時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──スパンッ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見事に蛙鬼の頚を切り落としたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ぎゃあぁぁぁぁ!?』

 

蛙鬼の頚を斬り落とした反動で体制を崩してしまい五人はその場に転げてしまう。

 

「斬ったのか!?」

 

「頚はどこだ!」

 

「あそこです!」

 

山本が指差した方を見れば、確かに蛙鬼の頚が転がっている。

それを見た二郎丸はある違和感を覚えた。

 

「…泣いてる?」

 

そう、今までの嘲笑う様な表情は一切なく、唯々涙を流していた。

 

「…。」

 

「二郎丸?」

 

「おい待て!」

 

それは唯の好奇心か、それとも二郎丸のお人好しさ故か、二人の制止も聞かずに二郎丸は駆け出していた。

「──」

 

「え?」

 

ある程度近づいた時、蛙鬼の呟きが聞こえ、そとで脚を止め、耳を澄ました。

 

「…やめて…返し、て…帰……り──」

 

だが、その言葉は最後まで紡がれることはなく、蛙鬼は塵すら残らず崩れ去ってしまった。

 

あの蛙鬼とは思えぬ程弱々しかった。そして悲しんでおり、何かに恐れていた。

 

だがその理由は、二郎丸でさえもわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして。朝日が昇ってきた。

「…終わった?」

 

「うむ、終わったな!」

 

「あぁ、そうだな。」

 

「終わりましたね。」

 

「はい、終わりました。」

 

しばらくの静寂、そして

 

『うおおおおお!!!!』

 

全員が叫び声を上げる、その声は限りない程の喜びが満ちていた、が、

 

「ゴッファ!?」

 

「二郎丸!?」

 

「「「墨影((さん))!?」」」

 

二郎丸が血反吐を吐いた事で中断されてしまった。

 

「全く、無理をするな。」

 

「ご、ごめんなさい。」

 

「早く下山して墨影さんと齊藤さんの怪我の治療をしましょうよ!」

 

「うむ、齊藤殿、肩を貸すぞ!」

 

「はい、ありがとうございます、煉獄さん」

「墨影さん、担ぎますよ。」

 

「あー、ありがとうございます。」

 

「俺も手伝おう。」

 

「「え?」」

 

「…俺だって外道ではない、山本、お前だって疲れてるだろう。」

 

「…そうですか。」

 

「おい貴様、何ニヤついている。」

 

そんな言葉を交わしながら、五人は下山を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうこうしている内に五人は初日に集まった社にたどり着いた。

 

「おー、僕達が一番乗りみたいだね。」

 

「うむ、そのようだな!」

 

「やっと、戻ってきたんですね。」

 

「皆様、お疲れ様です。」

 

いつの間にか、あまね様がやって来ていた。

 

「貴殿方は見事最終選別を生き残りました。」

 

「…あれ?」

 

二郎丸は疑問に思うことがあった。

 

「…他の人たちはどうしたんですか?」

 

「合格者はあなた方だけです。」

 

「…え?」

 

「…成る程な。」

 

『え?』

 

あまね様の答えに二郎丸は驚いたが、伊黒が納得した様に呟いた。

 

「五日目の夜に襲撃してきた鬼の数が急に増えただろ、恐らくあのときには俺たち以外は既に全滅していたんだろうな。」

 

「そ、そんな」

 

「私たちは本当に危なかったんですね。」

 

齊藤と山本はその事実に青ざめていた。

 

『ガァァァァァ!!』

 

「え?」

 

突如、烏の鳴き声が聞こえて来たかと思えば、一羽ずつ五人の側に降り立った。

 

「その烏達は鎹烏、人の言葉を話し、伝令等を行います、皆様の良き相方になってくれるでしょう。」

「…二郎丸です、よろしく。」

 

『官玖郎ダ。』

 

「それでは皆様、御武運を。」

 

そう言ってあまね様は、また去っていった。

 

「…官玖郎、とりあえず父上達に僕の安否を伝えて来てくれない?」

 

「うむ、俺のもたのむぞ!」

 

二郎丸と杏寿郎は自分の鎹烏にそう頼む。

 

『『承知。』』

 

二人の鎹烏はそう言って飛び立っていった。

 

『『何処二向カエバ良イ?』』

 

だが直ぐに戻ってかてしまった。

 

「…とりあえず、近場の藤の家に向かいましよう!そうすれば二人の治療も出来る筈です!」

 

「そうだな!善は急げだ!」

 

山本の進言に杏寿郎が肯定する、そして再び、五人は下山していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終選別を生き残った彼らの行く先はそれ以上に危険なものだ。

 

だが、彼らは無意識の内にそれを理解している。

 

そして既に、死ぬ覚悟を持ちながら生き抜く決意をしていた。

 

これから彼らに何が起こるかは一切分からない、だがたった一つだけ、断言出来るものがあるとするならば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らの戦いが、今まさに始まった。




齊藤さん
情に厚い、風の呼吸を扱う。

山本さん
影が薄い、水の呼吸を扱う。

次の話で最終選別編は最後になります。

※蛇の呼吸 漆の型も捏造です。


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最終選別 完




あの後、藤の家に着いたのだが、二郎丸と齊藤は怪我が酷いため、結局帰るのは一週間以上後のことになった。杏寿郎、伊黒、山本は一足先に帰路に着いている。

因みに、二郎丸の安否は杏寿郎が伝えてくれることになった。

 

そして二週間後、

 

「息子が世話になった、礼を言う。」

 

「ありがとうございました!」

 

「いえいえ、お気を付けてくださいね。」

 

骨はまだ完全に繋がってないが、父である零郎が迎えに来たため、二郎丸はそのまま帰宅することになった。

 

零郎のおんぶで

 

「父上、この年で親におんぶされるのは流石に恥ずかしいですよ。」

 

「この方が速いんだ、我慢しろ。どうしても嫌なら横抱きに「おんぶで大丈夫です、はい。」なら良いが。」

 

確かに二郎丸を背負っているが、風が流れるような速さで走り続けている。とても三十七才になった男の身のこなしとは思えなかった。

 

「着いたぞ。」

 

「…本当に速かったな…。」

 

藤の家から二時間弱、零郎は一切休まずに走り抜け、屋敷の目の前で下ろされた。

 

「ただいま。」

 

「ただいま戻りました。」

 

「二郎丸!」

 

「のわっ!?」

 

玄関を開けるや否や、真っ先に母である日向が凄い勢いて飛んできて二郎丸を抱き締めた。

 

「良かった…本当に良かったわ!」

 

「母上、恥ずか「三週間も会えなかったのよ!少しぐらい抱き締めさせなさい!」…はい。」

 

日向に気圧され、ただ返事をすることしかできなかった。

 

「じろーにーさま!おかえりなさい!」

 

「おー、三郎助、ただいま。」

 

遅れて、弟である三郎助も駆けつけてきた。と、ここまで来て二郎丸に一つ疑問が浮かんだ。

 

「そういえば母上、兄上はどうされたのですか?」

 

兄との仲を考えれば、出迎えに来ることは無いと想像出来るが、気配すら感じないのだ。

 

「それがね、遠方の任務に出向いているのよ。」

 

「またですか?相変わらず仕事熱心ですね。」

 

最近、一朗太は積極的に任務に出向く様になったのだ、例えどんな遠方の任務だったとしても。そのため、屋敷に居ない時間が多くなってきたのだ。

 

「少し淋しいけど、鬼殺隊である以上仕方ないことだわ。あ!そういえば今夜の夕食は杏寿郎君達も呼んでるのよ!」

 

「え、本当ですか?」

 

「おかーさま!せんじゅろう君も来ますか?」

 

「えぇ、勿論よ。」

 

「やったー!」

 

「日向、俺も初耳なんだが?」

 

「それはそうですよ、今日呼び掛けたんですもの。」

 

「…そうか。」

 

「…(あぁ、帰って来たんだなぁ。)」

 

他愛ない会話を交わしながら、二郎丸は我が家に帰って来たのだと実感するのだった。

「母上、そろそろ放して下さい。」

 

「ダメよ。」

 

「えぇ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いただきます!』

 

声を揃えて言った後、二郎丸と杏寿郎は天ぷらを一つ箸で掴むと勢いよくかぶりつく。美味い!美味い!と更に頬張る二人を零郎達は微笑ましく思った。

ふと、二郎丸は違和感を感じて箸を止める、そして直ぐに違和感の正体に気がついた。

 

「父上、食べないんですか?」

 

「ん?あぁ、食べるが。」

 

零郎、そして三郎助の箸が全く進んでいないのだ。

 

「どうしたんですか?」

 

たずねてみると、零郎は語りだした。

 

「いや…日向がな、二郎丸が帰って来た時のために天ぷらの練習をしていたんだ。」

 

「え?母上は料理が上手なのでその必要はなかったんじゃ無いですか?」

 

「より美味い天ぷらを作りたかったらしい。」

 

「はぁ、」

 

「そして三週間、毎日晩飯として出続けていたんだ。」

 

「…うわぁ。」

 

要約すると、もう天ぷらは食べたくないらしい。

流石にこれには二郎丸も引いてしまった。好物であっても三週間同じ物を食べるのは流石に辛いのだ。

 

そういえば兄上の最終選別の時も帰ってくるまで兄上の好物である牛筋煮込みが毎日夕食に出てたような。

 

「今回に限っては、兄上はもう天ぷらを食べたくないから敢えて遠方の任務に出向いたんですか?」

 

「かもしれんな。」

 

結局、二郎丸と杏寿郎が零郎と三郎助の分の天ぷらも食べ尽くしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「乾杯。」」

 

すっかり夜が更けた頃、零郎と槇寿郎は酒を飲み交わしていた。

 

「遂に杏寿郎と二郎丸君も鬼殺隊に入隊…か。」

 

「そうだな、時が経つのは本当に早い。」

 

夕食が終わった後、杏寿郎達は帰る筈だったが、三郎助がごねてしまい、結局止まることになったのだ。

因みにその三郎助は千寿郎と遊んでいるうちに寝堕ちしてしまい、二人並んで寝ていた。

 

「そういえば、一朗太君も任務をすごく頑張っているそうじゃないか。」

 

「…あぁ、そうだな。」

 

「ん?どうした。」

 

若干声が沈んだ零郎に対して槇寿郎は尋ねる。

 

「いやな、一朗太を見ていると当時の自分を思い出してな。」

 

「…なるほど。」

 

当時の零郎も結婚するまでは、怪我も厭わず身を削って任務を行っていたのだ。その為、一朗太のことを非常に心配しているのだ。

 

「そういえば、お前は杏寿郎が心配ではないのか?」

 

「俺か?勿論心配だとも。」

 

零郎の質問に槇寿郎はあっけらかんとして答える。

 

「だがな、それ以上に杏寿郎自身のの強さを信じているんだ。」

 

「…ほぉ、できた親だな。」

 

零郎はその答えに感心していた。

 

「確かに、どうなるかは本人次第、俺達は信じるしかないな。」

 

「おぅ。」

 

「それに、一朗太も二郎丸も俺の息子なんだ、弱い訳がない。」

 

「そうだな、であれば杏寿郎は俺の息子なんだ、弱い訳がない!」

 

「その通りだ。」

 

「うむ!ならばもう一度、」

 

「あぁ、そうだな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

強き俺達の子供達の門出を祝い

 

乾杯!





前話の後書きで蛙鬼のことを書くのを完全に忘れてたので、ここに載せます。

※蛙鬼

二郎丸達が最終選別で出会った鬼、体が大きく蛙に似た容姿をしている。
鬼になる前は貧しい生活をしており、苛められっ子であった。
ある日苛めっ子に自分の宝物を奪われて森の中に隠されてしまい、夜になって宝物も見つからず、帰り道も分からなくなってしまったところで鬼にされてしまった。
嘲笑う様な態度は当時の苛めっ子のエミュ、ただし割とガバガバ。
因みに宝物は親が買ってくれた蛙の形をした玩具であり、親からの数少ない贈り物だった。

※「帰る」と「返す」にかけたいと言う安直な考えから、蛙鬼になりました。


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影柱(仮) 墨影二郎丸
柱合会議


これは「就任、影柱(仮)」の続きの話となっています。最終選別から後の話は過去編として書いて行こうと思っています。


影柱(仮)に就任することが決まった後、御館様から翌日の柱合会議に参加するように言われた。そして屋敷を出た後、和菓子屋に立ち寄っていた。

 

「どれにしようかな~。」

 

二郎丸は手土産を探していたのだが、どれにするか悩んでいた。目の前に並べられた様々な和菓子、どれも美味しそうだが、流石に全て買うというのは無理な話だった。

 

「…すみません、ちょっといいですか?」

 

「は~い!」

 

結局、自分では決めることは出来ずに店員に頼ることにした。

「この店のおすすめってありますか?」

 

「それでしたら、こちらの羊羹がおすすめですね、」

 

呼び掛けに答えた若い女性の店員がそう言った。

 

「良かったら一つ食べてみますか?」

 

「え、いいんですか?」

 

そして差し出された羊羹を一切れ掴む、食べてみれば舌触りが非常に滑らかで上品な甘さが際立っていた。

 

──確かにこれは美味い、よし決めた。

 

「すみません、これと同じ物を十一本下さい。」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったな。」

 

「え?」

 

柱合会議が始まる前に二郎丸は柱達の前で挨拶したのだが、挨拶が終わった直後、二郎丸はそう言われたのだ、そしてその言葉を発したのは、以外にも水柱の冨岡義勇だった。

普段、余りにも口数が少ない義勇が発言すること事態稀なことであり、その事に周りは驚いていたが、中にはその発言に納得するものも少なくなかった。

 

「大変癪だが、確かに冨岡の言うとおりだ。お前ほどの実力があれば今頃(仮)ではない影柱に就任していたとしてもおかしくない筈だ。」

 

「そうだな!寧ろ今まで柱になれなかったことの方が可笑しいことだ!」

 

不機嫌そうにしながらも義勇の発言に同意する蛇柱の伊黒、そしてそんな伊黒に同意する炎柱の杏寿郎。

 

「そうよね、どうして今まで柱になれなかったのかしら?」

 

そして二郎丸が柱になれなかったことに疑問を持つ花柱の胡蝶カナエ。

 

この四人は鬼殺隊の中で特に二郎丸と親しい仲のため、二郎丸の実力もよく理解している、故に他の三人は義勇の発言に納得していたのだ。

 

「ほぉ、見た感じは地味だが、派手に信用されてるみたいだな。」

 

二郎丸を一瞥して、そう語るのは音柱の宇随天元。

 

「みんな、話したいことは沢山あるだろうけど、先ずは柱合会議を始めようか。」

 

『はっ!』

 

そして御館様が話を切り上げたことで柱合会議が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の柱合会議の内容は近状報告と鬼達への対策、そして二郎丸の活動区域の選定だった。

その後柱合会議が終わり、昼食会が開かれることになった。そして昼食会の中で御館様が、二郎丸の影柱(仮)となった経緯が話したりもした。そしてその反応も笑ったり呆れたりと様々であった。

 

「そういえば、何故この時期に私を柱(仮)に任命したんですか?」

 

御館様の話が終わった後、二郎丸は御館様に対して質問する。

 

「あぁ、それはね。」

 

────

 

話は遡ること前回の柱合会議にて、柱の後任について議題が上がった時、杏寿郎が発言した。

 

「御館様!柱の後任であれば二郎丸と言う者が居ます!」

 

「二郎丸…確か杏寿郎と小芭内の同期だったね。」

 

「はい、彼であれば柱の後任を…いえ!本来で.あれば既に柱に任命されている筈です!」

 

「…その通りだな。」

 

「寧ろ何故未だに柱になれていないんだ?」

 

そして杏寿郎に同意する伊黒と義勇。

「わかった杏寿郎、後で確認しておくよ。」

 

「ありがとうございます!」

 

とは言ったものの、二郎丸が柱候補に上がったのは今回が初めてではない。だがいつも階級が足りてないため候補から外れていたのだ。だが確認してみれは二郎丸は乙になっていた、であれば、何か一つ任務を与えれば多少無理にでも甲まで階級を上げて柱に任命出来るのではないかと。そう考えた御館様は善は急げとばかりに行動を開始した。だが階級甲に昇格出来て、かつ柱として申し分ないと証明出来るような任務が中々見つからず、この時期になってしまったのだ。

 

────

 

「そんなことがあったんですね。」

 

御館様の話を聞いて幾らか納得する二郎丸

 

「ですが本当に(仮)だとしても私が柱になって良かったんですか?」

 

だが二郎丸はまだ不安があった

 

「俺は良いと思うが。」

 

そしてそれに答えたのは、またも義勇だった。

 

「例え空きが無かったとしても柱になってほしいと言われたのだろう?それは俺とは違ってお前の実力が御館様から認められているからこそだ、寧ろ俺はお前が羨ましいくらいだ。」

 

「義勇、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちゃんと話せる様になってるじゃん、良い進歩だよ。」

 

「…そうか。」

 

「違う、そうじゃないだろう。」

 

検討違いな返事をする二郎丸に、誉められたことを嬉しく思いムフフと笑う義勇、そしてその会話に割って入る伊黒。

 

「なんだ?お前には話してない。」

 

「ちょっと義勇、それは言ったらダメな奴。」

 

「…なんだと?」

 

「待って!伊黒待って!」

 

そして突如(一方的な)一触即発の雰囲気になる伊黒と義勇、そしてそれを止める二郎丸。

 

「冨岡があそこまで派手にしゃべるとはな。」

 

それを見ていた宇随は感心したように呟いた。

 

「そうなのよ~、実は結構前から私たちにも話をするようになってくれてね、しのぶも義勇君が話してくれるようになったって喜んでいたのよ♪」

 

「…その話もっと詳しく聞かせてくれねぇか?」

 

「えぇ、勿論よ!」

 

そして胡蝶と宇随は別の話で盛り上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ずっと気になってたんだけど、その風呂敷に巻かれているのは何?」

 

胡蝶が二郎丸の側にある風呂敷を指して聞く

 

「これですか?手土産として買ってきた羊羹です。」

 

『え?』

 

ほどいた風呂敷から出てきた大量の羊羹を見て驚く周りの者達

 

「お!気が利くではないか!」

 

「一本いただこう。」

 

それに全く動じずに羊羹を受け取る杏寿郎と義勇。

 

「…そういうことか。」

 

そして何か納得した様子の伊黒。

 

「おい墨影。」

 

「あ、ごめん。伊黒は別の羊羹が良かった?」

 

「違う、そうじゃない。」

 

「もしかして、羊羹が嫌いだった?」

 

「違う、そうでもない。」

 

「そういえば、伊黒は少食だったね。けど大丈夫!食べきれない分は僕がたべるから!」

 

「そうだけどそうじゃない。」

 

「あ!あまね様の分を買うのを忘れてた!」

 

「違う!というか何故ここまで会話が噛み合わないんだ!!」

 

そう叫んで頭を抱えてしまう伊黒。

 

「はははは!地味だと思ったが派手に面白い奴だな!」

 

そして大笑いする宇随、よく見れば他の者達も吹き出したり肩を震わせたりしていた。

 

「冨岡、どういうことだ?」

 

「わからん。」

 

だが杏寿郎と義勇だけは頭に疑問符を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、実力を確かめたいという事で、二郎丸は試合をすることとなった。

ただ、その相手というのが

 

「…よろしく頼むぞ、二郎丸。」

 

「…はい。」

 

鬼殺隊最強と言われている、岩柱の悲鳴嶼行冥だった。

 

(なんで、よりにもよって悲鳴嶼さんと…。)

 

実は二郎丸、鬼殺隊に入る前に零郎を介して悲鳴嶼と会ったことがあるのだ。当時は子供であった二郎丸がどれ程の実力をつけたのかを自分自信で確かめたく思い、自ら試合を申し出たのだ。

 

ただ実の所、二郎丸は悲鳴嶼が苦手であった。

会った当時、二郎丸は悲鳴嶼の胸の内にある自分に対しての僅かな嫌悪感を感じ取ってしまっており、更に体格も大きいため、悲鳴嶼のことを恐れていたのだ。

今でこそ当時感じ取った嫌悪感は感じ取れないものの、当時のことを思い出してしまうため、柱合会議や昼食会の時にもあまり関わろうとしていなかったのだ。

だがどういう訳か、こうして手合わせをすることになってしまったのだ。

 

(けど、そんな事を考える時じゃない。今は勝負に集中するべきだ。)

 

二郎丸は気持ちを改めて二本の木刀を構える。

 

「準備はいいか?」

 

「勿論です。」

 

岩柱と影柱(仮)の試合が、今始まろうとしていた。




この小説の義勇さんは二郎丸にとって杏寿郎、伊黒に次ぐ長い付き合いがあるという設定があります。

因みに二郎丸と仲が良くなったことで話すようになり胡蝶姉妹と親しくなっており、しのぶさんと割といい感じになっています。尚、コミュ障と口下手は治っていません。


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試合

お気に入り登録者数が百人を突破しました、いつも読んでいただきありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。


(不味いな、隙が全くないんだけど。)

 

悲鳴嶼との試合を開始したのだが、二郎丸は防戦一方、隙を見て攻撃するも届く前に殆ど捌かれ、仮にその防御を掻い潜ったとしても、その巨体からは想像もつかない程身軽に動くため、あっさり避けられてしまっていた。

 

そもそも、二郎丸が悲鳴嶼に勝る点が無いに等しい。

 

二郎丸の身長は六尺弱(180cm)と一般男性と比べても非常に背が高いのだが、悲鳴嶼と比べると頭頂が肩の高さにも及んでないのだ、そしてこの身長差は筋肉量や攻撃範囲の差に直結する。

背が高ければその分筋肉を増やせる為より力強くなり、手足も長くなる為より遠くまで攻撃が届く。

更に悲鳴嶼は既に六年もの間柱として在任しており、より強い鬼と何度も戦闘を行っている、対して二郎丸は鬼殺隊に入隊して四年で昨日影柱(仮)になったばかり、つまり経験の差もあったのだ。

そしてお互いに二刀流であり、恐らく技能でも負けている。

 

(だけど、けして勝てない訳じゃない。)

 

こんな絶望的な状況であるが、二郎丸はけして諦めてはいなかった。

 

「…よし。」

 

悲鳴嶼の攻撃を捌き後方へと大きく飛び退くと、木刀を上段で大振りに構え、すぐさま悲鳴嶼に向かって飛び出した。悲鳴嶼はそれを弾き返そうと木刀を振るうが、二郎丸にとってそれは好都合だった。

「があぁぁぁぁ!!」

 

「む?」

 

二郎丸の振るった木刀は空を切り裂く程の速度で振るわれ、逆に悲鳴嶼の攻撃を弾き返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ、悲鳴嶼さんの攻撃を弾き返しただと!?」

 

それを見ていた宇随は非常に驚いていた。いや、宇随だけではなく他の者も驚いていた。が、杏寿郎、義勇、伊黒は他とは違いニヤリと笑みを見せていた。

 

「義勇君、何か知っているの?」

 

その様子に気付いた胡蝶は不思議に思い義勇に問う。

 

「あぁ。二郎丸は、全てを同時に動かしている。」

 

「え?どういうこと?」

 

「む?そのままの意味だが?」

 

だが口数が少なく、且口下手な義勇が人に説明するなど、余りにも無謀なことだった。

 

「それでは誰もわからんだろう、俺が説明する。」

 

それを聞いて呆れた伊黒が、代わりに説明することになった。

 

ーーーー

二郎丸は趣味の旅で鍛えられた脚力は秀でているが、腕力は幼馴染である杏寿郎には劣る。だが二人が刀で打ち合った場合、必ずと言っていい程二郎丸が打ち勝つのだ。その理由は二郎丸の体の動かし方にあった。

 

二郎丸は刀を振る為の筋肉を全て同時に動かすことができる。

 

一見簡単なように思えるかもしれないが、そんな事は一切無い。ただ刀を降るにしても、無意識で肩から肘へと動きが開始、そして完結してしまう。また、どちらかを一切動かさないという事もある為、非常に難しいことなのだ。

だが仮に同時に動かすことができれば、それ以上の速度と力で刀を振ることができるのだ。

更に二郎丸は手首、腰、腹筋、背筋と、上半身の全てを駆使するため、振るう刀は空を切り裂く音がする程の速度になり、その速さが乗った攻撃は、本来二郎丸が持つ力以上の威力を発揮できるのだ。

ただ、それを無意識で行うのは二郎丸でさえも不可能なことであり、扱うには高い集中力を必要とする。更に体への負荷も大きいため、痛に対する耐性が非常に高い二郎丸でない限り、長時間使用することは厳しいものだった。

ーーーー

 

「それがあのタネだ。因みに墨影はこれを『連結動作』と言ってたな。」

 

「そういうことだ。」

 

「黙れ冨岡。」

 

「…ありがとう、理屈はわかったわ。」

 

「けどよ、本当にそれを実現させてしまうなんてな。」

 

伊黒の話を聞いた胡蝶と宇随は未だに信じられないようだった。特に胡蝶は強いという事は分かってはいたが、ここまでとは想像していなかった。

 

「確かに信じられぬかもしれん。だが、それをやってのけるのが二郎丸と言う男だ。」

 

「煉獄、お前も似たようなものだぞ。」

 

「何と!」

 

「…その通りだな。」

 

「お前もだ冨岡。」

 

「(心外!)」

 

「何だその腹立つ顔は。」

 

「…まぁ、あいつが想像以上にド派手な奴だったのはわかったぜ。」

 

たまにあらぬ方向に飛ぶ話をしながら、中々に面白い奴が現れたと、宇随はそう思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…いける!)

 

一方、これを好機と見た二郎丸は反撃に出る。連結動作を駆使して速さと威力を増した連撃を繰り出し続けた。それに対して悲鳴嶼は防御するが二郎丸の攻撃に圧されてどんどん後退りする、攻守逆転した瞬間だった。

 

「せいっ!やあぁ!!」

 

「ぬぅ!ふんっ!」

 

しばらく攻防を繰り返す中、ふと悲鳴嶼が呟いた。

 

「成る程、素晴らしい技術だ。であれば、私も本気を出そう。」

 

「……え?」

 

そして打ち合った瞬間、二郎丸は吹き飛んでいった。

 

「なぁ!?」

 

一瞬、何が起こったのか理解できなかったが、吹き飛ばされたことに気づくと空中で体制を整えて着地する、が

 

「まだだ。」

 

「のわ!?」

 

既に目の前には悲鳴嶼がおり、間髪入れずに攻撃を仕掛けてくる。咄嗟に防御するが、それも叶わず再び吹き飛ばされてしまった。

 

(ま、まだ)

 

「終わりだ。」

 

「」

 

浮遊する二郎丸の頭上には、何故か悲鳴嶼がいる、二郎丸を吹き飛ばしたと同時に、止めをさすために自分自身も飛び上がっていたようだ。

 

「南無!!」

 

「がっ!?」

 

無防備な状況で木刀を振り下ろされ、地面に叩き付けられたと同時に二郎丸の意識も吹き飛んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んぬ?」

 

しばらくして、縁側に寝かされていた二郎丸は目を覚ました。

 

「良かった、目が覚めたのね。」

 

二郎丸の近くには胡蝶が腰かけており、

 

「…南無阿弥陀仏。」

 

悲鳴嶼が涙を流しながら見下ろしていた。

 

「うわっ、悲鳴嶼さん!?」

 

「あ!急に動いちゃダメよ。」

 

悲鳴嶼に驚いた二郎丸は飛び退こうとしたが、その前に胡蝶に押さえられてしまった。

 

「…すまなかった。」

 

「え?」

 

少しして、急に悲鳴嶼が謝ってきた。

 

「え?あぁ、謝らないで下さいよ!寧ろいい稽古になりました。」

 

「それもあるが、今はそうじゃない。初めて会ったときに、怖がらせてしまったな。」

 

「え?」

 

何故そんな昔のことを話すのかと疑問に思う、すると悲鳴嶼は自分の過去を語りだした。

 

当時は寺で子供達と暮らしていたが、ある日言いつけを守らずに夜になっても帰らなかった子供が鬼に唆され藤の香を消して寺を襲わせたこと、

自分の言うことを聞かずに外に飛び出した子供達は鬼に殺され、唯一助けられた子には人殺し扱いされて死刑囚になったこと、

それ以来、子供を信用出来なくなってしまったこと、

悲鳴嶼から聞いた話はかなり鬱なものであった。

 

「…成る程、だからだったんですね。」

 

二郎丸は、当時自分に向けられた嫌悪感の意味を理解した。

「あの時は仕方のない事だとは分かっていた、そしてお前が優しく正直であることも零郎殿から聞かされていた。だが、それでも割り切れない自分がいる。だが、」

 

すると、膝を折って二郎丸の目線に合わせると、頭の上に大きな手を乗せてきた。

 

「そなたは全うに育ったようだな、零郎殿の言ったことは本当であった。あの時、疑ってしまって本当にすまなかった。」

 

そう言って優しく微笑んだ。

 

「悲鳴嶼さん、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

子供扱いしないで下さいよ、僕はもう十八才ですよ。」

 

「墨影君、気持ちは分かるけど言うべきことはそれじゃないと思うわ。」

 

膨れる二郎丸に対して胡蝶がツッコミを入れる。

 

「そうか、もうそんなに経っていたか。だが子供扱いされていると思う辺り、まだ自分が子供であることを自覚しているようだな。まずはそこを直すべきだな。」

 

「なっ///」

 

「フフフッ♪」

 

「何笑ってるの胡蝶さん?」

 

「あら、ごめんなさいね♪」

 

色々と脱線したが、こうして二郎丸は数年後しに悲鳴嶼との隔たりを取り払うことができたのだった。




※この後悲鳴嶼さんは二郎丸から連結動作の詳細を聞いて、一年後に使いこなせるようになります。

※本来は試合を通して和解しようとしていましたが、うっかり気絶させてしまいカナエさんに怒られました。


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帰郷

後日、二郎丸は用意された自分の屋敷に訪れていた。一人で住むには広いような気もするが、質素で落ち着いた雰囲気があり、庭に咲く藤の花がとても印象的であった。

「ほう、ここが二郎丸の屋敷か。」

 

「杏寿郎、何でいんの?」

 

「今日は非番だったんだ。」

 

「そうなんだ、とりあえず入ろ。」

 

「そうだな!」

 

何故か付いてきた杏寿郎と共に屋敷に入り中を物色する、広い居間と小部屋が幾つかあり、台所に風呂、そして稽古場まである、更に机や箪笥等の家具に、皿、丼、箸までも用意されていた。

「衣服や食料以外の必要な物は全て揃っているようだな。」

 

「隊服は沢山あるけどね…あ、あった!」

 

押入を漁っていた二郎丸が背負い紐が取り付けられた大きな木箱を引っ張り出した。木箱を開けると中から杖や菅笠、足袋等の様々な道具が出てきた。

 

「二郎丸、それは?」

 

「御館様が用意してくれた旅道具一式だね。」

 

「なんと!そんなものまで用意されていたのか!」

 

まさか本当に用意してくれていたとは思わなかったけど、と呟いた。

 

「それで、これからどうするつもりなんだ?」

 

ある程度確認が終わった後、杏寿郎が訪ねてきた。

「うーん、今から実家に帰ろうと思う。」

 

「む、それは何故?」

 

影柱(仮)に就任した日の夜、二郎丸は鎹烏を飛ばして家族に柱(仮)に就任した事と、近い内に帰ることを伝えていたのだ。

 

「そうなのか、だったら俺もついて行ってもいいか?」

 

「え、なんで?」

 

「今日は非番なんだ。」

 

「そうだったね。」

 

「それに、久しぶりに親父殿達とも会っておきたいからな。」

 

「そうか、ならいいよ。準備するからちょっと待ってて。」

 

「うむ!」

 

そして旅装束に着替え、木箱を背負った二郎丸が戻ってきた為、二人は二郎丸の実家に向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、やっと着いた。」

 

「想像以上に時間が掛かってしまったな!」

 

夜、二郎丸の実家に到着したした二人は息が上がっており肩で呼吸をしていた。

実はこの二人、最短距離で向かおうとして、野を駆け、山を越え、森を抜け、途中で鹿や熊を狩りながら走り続けたのだが、当然、足場が悪く障害の多い中を走り抜けるにはそれ相応に大変なものであり、普通に向かうよりも時間が掛かってしまい、実家にたどり着いた時には既に日が沈んでしまっていた。

 

「今度からはちゃんとした道を通ろ?」

 

「うむ、そうするべきだな!」

 

そして二郎丸は玄関を開けた。

 

「ただいま戻りました。…あれ?」

 

「失礼します。…む?」

 

声をかけるが何も反応がない、誰もいなければ当然なのだが屋敷には灯りが灯っているためそれは無い、本来であれば必ず誰かが迎えにくるのだが、それがないため二郎丸はおかしいと思っていた。

 

「二郎丸「まぁ、いいや。みんな忙しいかもしれないし、杏寿郎も上がって。」う、うむ。」

 

屋敷に上がった後、杏寿郎にも上がるように促すと、二郎丸はやや駆け足で居間へと向かった。

 

「父上、母上、三郎助、あと兄上。いたら返事、を…」

 

そして二郎丸は居間に集まる家族を見つけた。が、

 

二郎丸は見てしまった、床に広がる血溜まりを、折り重なって倒れる、父、母、弟を、そしてそれを見て佇む刀を持った兄を。

 

「二郎丸…な、なんだ!?」

 

遅れてきた杏寿郎も、これには驚きを隠せなかった。

「…久しぶりだな、二郎丸、杏寿郎。」

 

「一朗兄、まさか!」

 

この惨状から、一朗太が家族を殺したと理解したが、それ以上に衝撃的なものがあった。

虚無の表情を張り付けて、振り向いた一朗太の顔は血に塗られており、縦長の瞳孔を持った翡翠色の瞳がギラリと輝き、口元からは、長く鋭い牙が見えていた。

 

墨影一朗太は鬼となったのだ。

 

「兄…上?」

 

本当は気づいていた、屋敷に漂う血の匂いに、潜む鬼の気配に。だが二郎丸は、よりにもよって自分の家族がそんな筈はないと、信じたくて(まだ生きていると)信じたくなかった(既に死んでいると)のだ。だが、現実を観てしまった二郎丸は、矛盾する想いと現実が頭の中でどうしようもなく混ざり反発しあい、動くことも、考えることさえも出来なくなってしまった。

 

「…じゃあな。」

 

「ま、待ってくれ!」

「影の呼吸 壱の型 『黒霧』。」

 

「な!?」

 

立ち去ろうとする一朗太を引き止めようとした杏寿郎だったが、一朗太の起こした霧によって視界を遮られてしまった。直後、物を砕く大きな音がした後に霧が晴れると、既に一朗太の姿はなく、代わりに部屋の壁に大きな穴が開いていた。

 

「兄…ぅ、」

 

この間、二郎丸は変わらず放心状態であった。

 

「おい、二郎丸!しっかりしろ!」

 

「……」

 

「二郎丸!?」

 

どうしようもない二郎丸の肩を揺さぶり杏寿郎は呼び掛けるが、二郎丸は既に気を失っており、そのままゆっくりと床に崩れ落ちた。

 




いつも読んでいただきありがとうございます。よろしければ評価や感想等もお願いします。


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合同任務

その後、二郎丸は葬儀をおこなった。一人で行うつもりであったが、この件で責任を感じていた杏寿郎が任務を断り一家総出で参加していた。杏寿郎は二郎丸の事を非常に心配していたが、葬儀を終えた後の二郎丸は余りにもいつも通りだった。

幼い頃から飛び抜けて明るい訳ではないが、暗くなる事は一切ない二郎丸だが、それでも杏寿郎は心配になり、大丈夫なのか?後悔はしてないのか?と聞いた。

 

「確かに後悔はしてる、今までで一番辛いよ。けどね、僕以外にもこんな、あるいはそれ以上に辛い想いをしている人はいる筈だからね。そんな人達を、あるいはそうなるかも知れない人達を出来る限り助ける為には、ウジウジしている場合じゃないでしょ?」

 

父上達もそれを望んでいる筈だから

 

その答えはある意味、自分より他人を優先する二郎丸らしい返答だと杏寿郎は思った。

 

「そうか、ならいいが。これからどうするつもりだ?」

 

杏寿郎は今後の任務の予定等を聞いたつもりだったが。

 

「いつも通り、今まで通りにするつもりだけど、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつか必ず兄上の頚を斬る。」

 

「…え?」

 

二郎丸は違う意味で捉えたようで、その表情は今まで見たことの無い怒りや憎悪がない交ぜになった決意の表情をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「杏寿郎、二郎丸、宜しく頼むよ。」

 

「「御意!」」

 

二人は御館様直々の命で合同任務にあたることになった。

 

やや遠方の村で行方不明者が増えており、その調査を、そして鬼であったならばその討伐をするように言われたのだ。

 

「よし、どうする?」

 

「そうだね、」

 

早朝から出発して、昼前に到着した二人は何をするか考えるが、答えは殆ど決まっていた。

 

「「飯屋を探そう。」」

 

そして二人は都合よく通りかかった若夫婦に話を聞くことにした。

 

「すみません、この近くに美味しい料理屋はありますか?」

 

「できれば、よく人が賑わう所であれば、嬉しいのだが。」

 

そして二人は近くの定食屋を教えてもらうのだった。

 

 

 

「ごめん下さーい。」

 

「いらっしゃい!」

 

教えられた定食屋に入ると、まだ昼前でも既に何人かの客が訪れていた、そして二人は定員に厨房前の板前に案内され、二人並んで席に着いた。

 

「サバの味噌煮定食を一つ。」

 

「俺も同じものを頼む!」

 

「はい、かしこまりました。」

 

しばらくすると料理が運ばれてきた。

 

「「いただきます!」」

 

食べた感想は一言で言えば美味いであった。じっくり煮込まれたサバは旨味が閉じ込められており、ご飯がよく進む、時折二人で美味い!美味い!と叫んでしまったり、味噌汁をすすった杏寿郎がわっしょい!わっしょい!と叫んだりもしたが、それはまた別の話だ。

 

「兄ちゃん達、本当に美味しそうに食べてくれるなぁ。」

 

「えぇ、美味しいからですね。」

 

「特にこのさつまいもの入った味噌汁が美味かった!おかわり出来るか?」

 

「ははは!そう言ってくれるとこっちも嬉しい限りだよ!」

 

店主であろう恰幅の良い壮年の男が板前越しに話しかけてきた。見るからに人の良い男だと二人は思った。

 

「その制服、ひょっとして兄ちゃん達は鬼殺隊なのかい?」

 

新しく注いできた味噌汁を杏寿郎に渡した後、店主がそう言ってきた。

 

「よもや、鬼殺隊を知っているのか?」

 

「あぁ勿論!たまに来てくれるからなぁ。」

 

どうやらこの店主は鬼や鬼殺隊の存在を知っているようだ。ならば話が早い、何もかも都合が良いと思い、二人はほくそ笑んだ。

 

二人が人が賑わう料理屋を探していたのは、美味い料理を食べたおと思うのもあるが、それは二の次である。一番の目的は情報収集であった。

人が多く訪れる場所には、当然多くの話が入ってくる。そして客とよく話す人の良い店主であれば尚良し、その分店主にも話が行くのだ。

別に行き交う人々に聞いて回るのも良いのだが、知らなかったり、あまり良い情報を聞けない事が良くあるのだ。そして軍人でもなければ警官でもない鬼殺隊がそのような事をすれば当然怪しまれてしまう。であれば、様々な情報を持った者に聞くのが手っ取り早い、そしてその場所が二人にとっては人の賑わう料理屋なのだ。

因みにこれは二人の経験によるものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここみたいだね。」

 

「うむ、間違いないな。」

 

今回の行方不明者の事を店主に聞いたところ、二人にとって有益な情報をもたらしてくれた。

店主の話によれば、その行方不明者は決まって夜に居なくなるらしく、何かに取り付かれたかのように歩き出してそのまま帰って来なくなるらしい。そしてその向かう方向ははこの村の外れにある地主の屋敷らしかった。

そして怪しいと思った者が屋敷に向かったが、誰一人帰っておらず、誰も手が付けられない状態だった。

それを聞いた二人は定食の代金と少しばかりのお布施を置いて直ぐに地主の屋敷に向かった。そして、辺りに漂う肉の腐った臭いと屋敷の中から感じる不快な気配により、二人は確信した。

 

「二郎丸、どうする?」

 

「どうするって、もうやることは決まってるでしょ?」

 

「あぁ、そうだったな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この屋敷をぶっ壊そう。」

 

二人は建物を壊す方が鬼を殺すよりも楽だと考えているらしく、建物に潜む鬼を討伐すると時、決まってそうしてきたのだ。

そして最終確認とばかりに語りだした。

 

「周りへの被害はどうする?」

 

「この屋敷以外は建物は見当たらない、よってこれは考えないものとする!

他の者への配慮は?」

 

「あの店主の話ではこの屋敷には既に人が寄り付かなくなっているみたいだからね、これも考えないものとする。

屋敷の中の人間の安否は?」

 

「恐らく地主が鬼になっている、そうでなくても既に殺されてしまっていると考えて間違いない。であれば、中にいるのは鬼だけだ!」

 

ならば最終に、と二人は顔を合わせる。

 

「この屋敷の事後処理は?」

 

「全て隠に任せる。」

 

「良し!行くぞ二郎丸!」

 

「了解!」

 

そう言って二人は屋敷の屋根に飛び乗ると、鞘に納めたまま刀を振り回し、瓦を剥ぎ取り垂木や母屋をへし折った。

 

「次に行くよ!」

 

「うむ!」

 

梁と天井であろう板を残して屋根から飛び降りると今度は柱を残して外壁や雨戸を破壊して回った、そして屋敷の中で食い散らかしたであろう人の残骸が見えてきた。

 

「鬼の場所はわかるか!?」

 

「勿論、あっちだね。」

 

二郎丸は鬼特有の悪意と、怯えの感情を感じ取っており、既に鬼を居場所を理解していた。

 

「ならば行くぞ!」

 

そして二人はその方向へ壁を破壊しながら一直線に向かった。するととある一室に繋がり、そこには一体の鬼がいた。

 

「な、なんなんだ貴様らは!?」

 

「「鬼殺隊。」」

 

鬼の問いに二人は答えた。

 

「やはり間違いなかったようだな。」

 

「ならさっさと討伐しよ。」

 

「くそっ!この俺を殺せると思うな!」

 

「「!?」」

 

すると鬼は手のひらから幾つもの肉塊を飛ばしてきた。ただ特別早い訳ではなかった為、二人は危なげなく避ける。が、

 

「え?」

 

「何と!」

 

その肉塊から手足のような触手が生えて再度二人に迫ってきた。

 

「ハハハ!その肉塊に取り憑かれたら最後、この俺の操り人形になるのだ!!」

 

「「成る程。」」

 

聞いてもないが自分の血気術を語る鬼の話を聞いて行方不明事件のタネを二人は理解した。

 

「一旦引くよ。」

 

「うむ!」

 

そして二人は飛び上がると天井を破って梁に飛び乗った。

 

「…あれ?」

 

「よもやよもや。」

 

ふと開けた穴から中を覗くと、陽の光を浴びた肉塊が燃えていた。

 

「杏寿郎。」

 

「うむ。」

 

顔を見合わせた二人は、鬼の居る部屋の天井を全て破壊した、途中で鬼の悲鳴が聞こえた気がしたが、当然無視した。

 

そして再び部屋に降り立ち辺りを見渡すと、鬼は辛うじて光の差さない部屋の隅に張り付くように立っていた。

 

「ヒィィィ!ゆ、許して下さいぃ!」

 

鬼は怯えた表情で都合よく助けを求めていた。だが、

 

「嘘を付くなよ。」

 

「…二郎丸?」

 

それに返事をしたのは二郎丸だった。だが普段の二郎丸からは考えられないような見下し蔑むような目で鬼を見ていた。

 

「お前はただ助かりたいだけ、本当に許してほしい訳ではないでしょ。僕はそんな自分の都合で嘘を付く奴が一番嫌いなんだ、例えそれが人であってもね。」

 

そう語りながら刀を抜いて鬼に近づいて行く。

 

「や…やめ「まぁ、お前は鬼だからどのみち許される訳が無いんだけど…ふんっ!」ぐえっ!?」

 

そして、刃が鬼の頚まで届く場所で立ち止まると、躊躇いなく鬼の喉を刀で貫き日の力任せに持ち上げると、そのまま陽の光が差す場所に乱暴に投げ捨てた。

 

「ギャァァ!!「うるさい。」ーー!」

 

汚い断末魔を上げる鬼の顎を切り落として無理やり黙らせる、そして直ぐに鬼は塵も残さず燃え尽きてしまった。

「…やはり、たちの悪い鬼を前にすると人が変わるな、二郎丸。」

 

杏寿郎は二郎丸に対して苦笑いを浮かべていた。

 

「当たり前じゃん、こんな奴に慈悲はない。」

 

それに対して二郎丸は、さも当然の様に答えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくすると、隠が事故処理の為にやって来た。「うわ、また派手にやってるよ。」「もっと別の方法を考えないのか?」「だからこの二人の後始末はなるだけやりたくないんだよな~。」と口々に語る中、比較的大柄なの隠が二人に近づいて来た。

 

「お二人共、お久しぶりですね。」

「あ、齊藤さん!」

 

「よもや、齊藤殿か!久しぶりではないか!」

 

話しかけてきたのは、当時最終選別を共に生き残った齊藤であった。

実はあの後、怪我はなんとか回復したのだが、隊士としてはやっていけないと言われてしまい、それでも他の隊士の役に立ちたいと思い、隠となっていたのだ。

 

「おーい、話したいのは分かるが、とにかく手伝ってくれ!」

 

「はい、分かりました!それでは俺はこれで、お二人共、怪我等には気をつけて下さいね。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

「うむ!齊藤殿も気をつけるのだそ!」

 

そして齊藤は集団の中に紛れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、二人は任務の事を御館様に報告するのだが、それを聞いた御館様もその内容を聞いて流石に苦笑いするのだった。

 




※次回から二郎丸と杏寿郎のIQが溶けます。






今回の鬼の詳細を知りたい方がいれば、次話の後書きか感想の返信に書こうと思っています。


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柱と継子達
考え事


投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。ここから新しい章となります。

もしかしたら、カップリング要素がこれから出てくるかもしれませんが、それがダメと言う方はブラウザバック推奨です。

※柱の人数を七名に変更しました。



柱に欠員が出たため、二郎丸は正式に柱となった。影柱(仮)となってから二ヶ月後の事である。その後も何度か柱の入れ替わりがあり、一年後、柱の総数は七名になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん。」

 

「どうした墨影」

 

二郎丸は悩んでいると、伊黒が話しかけてきた。

 

「伊黒…いや、それがね。」

 

一人で悩んでもキリがないと思い、二郎丸は伊黒に相談する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急に呼び出して済まなかった、よく来てくれた。」

 

「いえいえ、お構いなく。」

 

その日二郎丸は、話があると悲鳴嶼に呼び出されていた。

 

「それで、話と言うのは?」

 

「うむ、まずはこれを見てくれ。」

 

そう言って木刀を手に取るとそのまま降り始めた。肩から先だけで振っている筈だが、それにしては余りにも速い、だがそれだけで二郎丸は悲鳴嶼が言いたい事を理解した。

 

「悲鳴嶼さん、それって…」

 

「うむ、そなたが教えてくれた連結動作だ。」

 

二郎丸は愕然としていた。

 

連結動作の練習は、ひたすら地味なもであり、習得する方法はただ一つ、ひたすら同じ動作の繰り返しである。

初めはそれぞれの間接の機動速度を理解する事から始まる、その後、腕を木刀を含めて前方に水平に伸ばした状態から肩、肘、手首をそれぞれ九十度曲げた体制から再び前方に水平に伸ばす、この時、同じタイミングで三つの間接を動かし初め、、同じタイミングで動きを完結させなければならない。その為にハエが止まりそうな速度で動かし、少しでもタイミングが違えばその度に修正の繰り返し、頭と体に叩き込む、そしてそれが可能となった後、速度を上げて同じ動作を繰り返す。また、速度を上げた事によって動きにズレが生じた場合はその速度で再び修正を行わなければならない。

そんな地味な作業を繰り返す事で連結動作を使用出来る様になるのだ。

実際、二郎丸は五才の時にこれを思いつき、試行錯誤しながら十一才の時にコツを掴み、十五才の時にある程度自由に使用できるようになったのだ。

 

だからこそ、悲鳴嶼が連結動作をたった一年で習得したことが信じられなかった。

 

「素晴らしい技術だ。刀を振る速度を上げることができ、それと同時に威力をも補え、かつ連続的に使用することも可能だ。」

 

誉められている事は理解出来るのだが、どうしても素直に喜べない。

 

「だが、欠点としては習得難易度が高い事だ。私でさえ一年も掛かってしまった。」

 

一年しか掛かってないんですよと、言いそうになったが寸での所でそれをこらえる。

 

「そこで、そなたに頼みたい事なのだが、」

 

だが、そんな二郎丸を余所に悲鳴嶼はある頼み事をしてきた。

 

「簡易的な連結動作を考案してほしい。」

 

「…(そんな無茶な)」

 

二郎丸はそう思わざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言う訳で、今考えている訳なんだよね。」

 

そう語る二郎丸、だが伊黒にはそれ以外に聞き捨てならない事があった。

 

「少し待て、悲鳴嶼さんが連結動作を習得しただと? 」

 

「うん。」

 

「お前が教えたのは確か去年の柱合会議の時だよな?」

 

「うん。」

 

「…そうか。」

 

伊黒はそれを聞いて酷く落ち込んだ。

実は伊黒も二郎丸に連結動作を教えられており、習得する為に日々練習しているのだが、まだ実戦で使用できるまでに至ってないのだ。

因みに、練習を開始してから今で約三年目である。

 

「そ、それで簡易版の連結動作はできたのか?」

 

「うん、一応ね。」

 

「なんだと?見せてみろ。」

 

伊黒はあわよくばそれを使える様になろうと考えていた。

 

「うん、いいよ。」

 

そう言うと立ち上げられている丸太に面と向かう。そして無造作に木刀を振ると、丸太には木刀の軌道に沿って抉れた跡が出来上がった。

 

「おぉ…相変わらず凄まじい威力だな。」

 

「いや、威力じゃなくて動きを見て欲しかったんだけど。」

 

「む?」

 

そう言ってもう一度木刀を振った。その様子を見た伊黒はあることに気がついた。

 

「これは、連結動作の動きと余りにも違うではないか。」

 

「その通り、簡易版の連結動作って言うよりは連結動作に変わる戦闘技術だね。」

 

全ての間接を同時に動かす連結動作とは違い、これは肩を軸にして腕全体を鞭の様にしならせる事で速度と威力を生み出すというものだ。これは連結動作と比べて遥かに習得するのが楽なものだった。

 

「そうか!ならば早速」

 

「いや、これは没だね。」

 

「む?なぜだ。」

 

この戦闘技術には連結動作以上の欠点があった。

 

「先ず刀の切っ先を当てないと十分な威力が出ない。」

 

「そうか、だがそれは連結動作にも当てはまるのではないか?」

 

連結動作でもそうだが、この戦闘技術は、『速さを力に上乗せして威力を増す』ものである。当然、切っ先の方が速いため威力も上がる、逆に付根だと威力が下がるのだ。

 

そして二つ目

 

「気を抜くと関節が外れる。」

 

「確かにそれは…待て、その言い方だと」

 

「うん、何回か外れた。」

 

「大丈夫なのか?」

 

この戦闘技術を使用するためには力んではいけない、ただし力を抜きすぎると関節が外れる恐れがあるのだ。その為、この戦闘技術を最大限に使用するためには、関節を繋ぎ止めるために素で強靭な筋肉を持っていなければならないのだ。

 

最後に三つ目

 

「僕より広いの関節の可動域がないといけない。」

 

「お前より?なぜだ、使用出来ているではないか。」

 

「今も関節が凄く痛むんだよね。」

 

「それを早く言え。」

 

これが最大の問題、下手をすれば関節が外れるのではなく壊れる。そうなれば一生刀を握る事は不可能となる。

以上の点から、二郎丸はこの戦闘技術を没にしたのだ。

 

「そうか、ならば仕方ないな。」

 

「うん、僕も新しい戦闘技術を考えるよ。」

 

理由は違うが、二人の気分は沈んでいた。そして、落ち込む二人はそのまま解散することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『主、杏寿郎カラノ手紙ダ。』

 

「え、何?」

 

伊黒と別れた後、二郎丸の元に杏寿郎から手紙が届いた。幼馴染である杏寿郎だが、いつでも会えると言うわけではない為、たまに手紙でやり取りすることがあるのだ。

 

「え~と…、えぇ…。」

 

手紙の内容を要約すると『新しく継子をとったから会いに来ないか?』というものであり、二郎丸は不安を感じた。

杏寿郎は何度か継子をとった事があるのだが、厳しすぎて一月も経たずに逃げ出していたと耳にしていた為、かなりの不安を感じたのだ。

 

「…見に行ってみるか。」

 

とりあえず、息抜きと継子の安否も確認の為、炎柱邸に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紹介しよう、彼女が俺の新しい継子だ。」

 

「…ぇ?」

 

客間にて向かい合って座る二郎丸と杏寿郎。そして杏寿郎の隣には桜色の長い髪を三つ編みにした少女が座っていた。

 

「はじめまして、炎柱・煉獄杏寿郎の継子、甘露寺蜜璃です!」

 

これが後に恋柱となる、甘露寺蜜璃との出会いだった。




※二郎丸は技巧派ですが、戦い方はかなり脳筋だったりします。


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甘露寺蜜理

前話の冒頭で柱の人数を八名としていましたが、七名に変更しました。


蜜璃の自己紹介が終わった為、今度は二郎丸の番となった。

 

「はじめまして、僕の名は墨影二郎丸、影柱です。因みに杏寿郎とは幼馴染だよ。」

 

「はい!よろしくお願いします!…えっと、影柱様!」

 

「蜜璃、影柱ではなく二郎丸と呼んでも構わぬぞ。」

 

「いや何で杏寿郎が言うの?まぁ、いいけど。」

 

何故杏寿郎が許可するのか疑問に思ったが、二郎丸自信も堅苦しい呼び方はあまり良しとしない為、その事は否定しなかった。

 

「わかりました!二郎丸さん!」

 

「…うん、よろしく。」

 

そして、二郎丸は自己紹介が終わった後、ある疑問を杏寿郎に投げ掛けた。

 

「それで、わざわざ手紙を寄越して、僕に何を話したいの?」

 

杏寿郎との手紙のやり取りは、何も現状報告の為だけではない。

 

杏寿郎は二郎丸に一番話したい事に限って手紙には書かずに直接口で伝えようとする癖があるのだ。

杏寿郎は継子をとった事は手紙には一度も書いた事がない、だが今回はわざわざ『会いに来ないか?』とまで書いているのだ、その事から継子の事に関して何か自分に話したい事があるのではないかと考えたのだ。

 

「…よもや、気付いていたか。さすが二郎丸だな。」

 

そして、その予想は図星だったようだ。

 

「ならば話が早い、実は頼みたい事があってだな、」

 

どうやら杏寿郎は頼み事があったようだ。そしてその内容は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と共に、蜜璃に稽古をつけてくれないか?」

 

というものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…う~ん、」

 

二郎丸はそれに対して渋い顔をするが、杏寿郎は引き下がらなかった。

 

「噂程度に聞いていると思うが、俺は蜜璃以外にも継子をとったから事がある、だか皆一月もせずに俺の元から逃げ出してしまったんだ。もしかすれば俺の指導が至らないせいかもしれない、いや実際そうなんだ!他人任せと思うかもしれないが、今はそんな事を気にしている場合ではないんだ!二郎丸も気付いてるだろ?今、隊士達の質が落ちてきている、だからこそ高い実力を持つ隊士を育成しなければならない!蜜璃は、刀を握って間もないが、それでも何れ柱になれるかもしれない才を持っているんだ!だからこそ!俺が至らぬせいでその芽を潰したくないんだ!頼む二郎丸!お前の力を貸してはくれないか!?」

 

そう言って深く頭を下げる杏寿郎、彼は二郎丸が思っている以上に切実に悩んでいた様だ。二郎丸は渋い顔をしたものの、別に共に稽古をつけることを嫌がっていたわけではない、寧ろ力になりたいと思っていた。ただ、それ以上に優先したいことがあったのだ。

 

「…杏寿郎、手伝いたいのは山々だけど、僕にもやることがあるんだ。」

 

「なっ、それは?」

 

「実は、悲鳴嶼さんに連結動作以外の戦闘技術の開発を頼まれててね。」

 

そう、伊黒にも話してある事なのだが、二郎丸は悲鳴嶼に一般隊士でも使用出来る戦闘技術の開発を頼まれている。今思えば悲鳴嶼さんなりに一般隊士の質の向上を考えて頼んできたのだと二郎丸は思った。

 

「…そうか、二郎丸なりに行動していたのだな。無理を言ってすまなかった。」

 

そう言って杏寿郎はもう一度頭を深く下げた。

 

「あの…すみません。」

 

「「ん?」」

 

ふと二人以外の誰かが声を上げた、その声の主は蜜璃だった。

 

「「…あ。」」

 

ここで二人は気付く、蜜璃をほったらかしにして二人で話していた事に、

 

「…ごめん、完全に忘れてた。」

 

「うむ、気配りが足りてなかったな。」

 

「い、いえいえ!お二人とも真面目に話していたので…」

 

そう蜜璃が言おうとした時、『ぐぅぅ』と小さくお腹が鳴る音がした。

 

「「?」」

 

二郎丸と杏寿郎は顔を見合わせるが、どうもお互いではないらしい。

 

「はぅ~…///」

 

チラッと横目で蜜璃を見れば、顔を赤く染めてお腹を押さえながら俯いていた。

 

「…そういえば、もう昼時だね。」

 

「うむ、そうだな。」

 

そう言って二人は立ち上がるが、蜜璃は未だに俯いたままだ。

どうすれば良いか少し考え、二郎丸は蜜璃の前で屈み込んだ。

 

「大丈夫?具合が悪いの?」

 

「え?」

 

顔を上げた蜜璃はキョトンとする。

 

「いや、急に俯いたから具合が悪くなったのかなって、」

 

「いえっ、ただお腹が空いただけでっ…!」

 

そう言って、また恥ずかしくなったのか俯いてしまった。

 

「別に恥ずかしがることは無いよ、誰だってお腹は『ゴロロロロロ…』…。」

 

「え?」

 

そう言おうとした時、部屋中に雷が轟くような音が響いた。

 

「…ごめん、僕の腹の音だね。」

 

自分でも凄まじい音だと思ったが、逆に好都合だと二郎丸は考えた。

 

「ナハハ、聞かれちゃったか~、すっごい音でしょ?」

 

「…フフッ、そうですね。」

 

のほほんと笑う二郎丸につられて、蜜璃も笑いだした。

 

「そういうわけだからさ、一緒にご飯食べに行かない?」

 

「え、良いんですか?」

 

「うん、人は多い方が良いからね。」

 

「なら、御一緒させて下さい!」

 

「勿論!」

 

そう言って二郎丸が手を差し出すと、蜜璃も手を伸ばして手を取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よもやよもや、手を繋いだりして、随分と仲が良さそうではないか。」

 

「「」」

 

杏寿郎との言葉に固まる二人、この時二郎丸は杏寿郎の事を完全に忘れていた。

 

「場所はあそこで良いな?先に行ってるぞ。」

 

杏寿郎はそう言って少し拗ねた様子で部屋から出て行った。

 

「「…」」

 

そして部屋に残された二郎丸と蜜璃、蜜璃は先程とは別の理由で顔を赤く染めいる、対して二郎丸は顔から冷や汗を流しており若干青くなっていた。

「…行こっか。」

 

「はい…。」

 

二郎丸は立ち上がると、手を引いて蜜璃を立ち上がらせる。

 

話をしていると周りが見えなくなってしまう、これからは気を付けねば。

そう思う二郎丸だった。






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いつも読んでいただきありがとうございます、とうとう二十話に突入しました。


定食屋『満福』

 

都会の大通りから少し外れた小道に隣接する定食屋。

早い・旨い・安いを標語としており、どの料理も値段も安いが、非常に美味しいと評判であり、立地の割には非常に賑わっている。

二郎丸と杏寿郎は、柱になる前からこの店に通っており、店主とも親しくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼もう!」

 

「ごめん下さーい。」

 

「いらっしゃい…あ!二郎丸君に杏寿郎君!久しぶりね!あら、その子は?」

 

「俺の継子の蜜璃だ!」

 

「はじめまして!」

 

「あらそうなの?すごい別嬪さんね~。」

 

「べっ!?」

 

今やすっかり親しくなった店主の奥さんに案内され、板前で蜜璃を挟んで三人横並びで座る。

 

「二人はいつもので良いかい?」

 

「はい。」

 

「勿論!」

 

「え、何ですかそれは?」

 

「む、気になるのか?」

 

「はい。」

 

「そうか、俺達がいつも頼んでいるのはあれだ。」

 

そう言って一つの掛札を指差した。蜜璃が見た先には、

 

『満福限定!満足特盛定食』

 

と書いてあった。

 

「私も同じ物をお願いします!」

 

「え!?」

 

驚く店主、対して蜜璃は目をキラキラと輝かせていた。

 

「だ、大丈夫なのかい、お嬢ちゃん?」

 

「はいっ!食べることは好きなので!」

 

「店主、今している心配はしなくても大丈夫だと思うが。」

 

心配する店主だが、杏寿郎は不要だと言う。

 

「なら、いつものを三人前で良いかい?」

 

「うむ、よろしく頼む!」

 

「…そうかい、分かった!」

 

店主はそう言ってニッと笑うと厨房へ引っ込んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二郎丸は席に着いてから悲鳴嶼から出された課題の事で黙って悩んでいた。本来じっとして物を考える事は性に合わないのだが、そんな事を気にしている暇はないと思い、こうして悩んでいたのだ。

心配してか、二人が話しかけてきた為、その事を話すと、蜜璃はある程度納得したが、二郎丸の性を知っている杏寿郎は、「不思議なこともあるものだ」と呟いた。

それからも少し考えていたが、三人分の定食が運ばれて来たため、考える事は一端中断することにした。

「「「いただきます!」」」

 

三人で声を揃えた後、二郎丸は煮物を箸で一つ摘まみ口に含む。やっぱりいつ食べても美味しい、と、顔を綻ばせながらそう思った。

 

「ん~、美味しい!」

 

ふと、蜜璃の方を見ると、かなりの速さで料理を食べ進めている。

ただ、料理を口に含む度に幸せそうに顔を綻ばせていた。

 

「二郎丸さん、どうしたんですか?」

 

二郎丸の目線に気づいたのか、蜜璃が二郎丸の方に振り向く。

 

「いや、幸せそうな顔をするな~と思ってね。」

 

「え、どういう事ですか?」

二郎丸はそう言うが、蜜璃はその言葉に疑問を持った様だ、どうすれば伝えられるか二郎丸は少し考え、出てきた答えは、

 

「可愛い笑顔だな…て、」

 

あ、間違えた。

 

二郎丸は直感でそう思った。

 

「へ!?///」

その言葉を聞いた蜜璃は一気に顔が赤くなりワタワタし始めた。

 

「…はぁ~~…。」

 

対して二郎丸はまたもや冷や汗を流しはじめ、大きくため息をつき頭を抱えてしまった。

 

「美味い!美味い!」

 

そしてそんな二人を他所に、二郎丸は料理を食べ進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、何か一つでも戦闘技術は思い付いてあるのか?」

 

炎柱邸への帰り道で、杏寿郎がそう聞いてきた。

 

「うん、あるにはあるよ。」

 

「なんと!是非見せてくれぬか?」

 

伊黒も同じ様な事を言ってたなと思いながら、二郎丸はそれは没にしたと伝えたが、

 

「構わん!見せてくれ!」

 

そう言ってきたのだ。それを聞いた二郎丸は仕方ないと思いながら、杏寿郎達にも見せることにした。

 

炎柱邸に戻った後、二郎丸はその戦闘技術を二人の前で扱った。木刀の起動に添って抉れた跡が出来た丸太を見て、蜜璃は杏寿郎の様に目をかっ開いて驚いていた。

そして、その戦闘技術の欠点を伝えたが、

 

「二郎丸、その戦闘技術は使えるかも知れぬぞ。」

 

そう言ったの、どうやら杏寿郎には考えがあるようだ。

 

「え、でも」

 

「両手で構えればその危険性はいくらか軽減出来るのではないか?」

 

「あ、そうか!」

 

確かにその通りだった、だがそうすれば新たな問題が出てきた。

 

「でも、そうすれば、可動域がより狭くなる。」

 

二郎丸でさえ片手でも関節の可動域が足りないのだ、両手で扱えば、より制限されてしまう。

 

「確かにそうだ、男である俺達ではな。」

 

「?」

 

一瞬、二郎丸は疑問に思ったが、その言葉の意味を直ぐに理解した。

 

「…女性隊士に」

 

「その通り!」

確かに女は男に比べれば関節の可動域はかなり広いと聞いたことがある。であれば、両手であっても扱えるかもしれない。

 

「成る程、参考になったよ杏寿郎。」

 

「いや、礼はいらぬぞ二郎丸!だからその戦闘技術を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

是非蜜璃に教えてやってほしい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…ん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「蜜璃は男達と比べても力が非常に強いのだ。だがな、太刀筋が遅いんだ。どうすれば良いか悩んでいたのだが、その戦闘技術を扱える様になれば…ん?どうした二郎丸。」

 

「…。」

 

二郎丸は頭を抱えていた、これでは断ろうにも断れなくなったと。

思い返せば、柱(仮)に就任する時も御館様に言いくるめられて、今回の課題についても悲鳴嶼さんに言いくるめられてた様な気がする。

 

「大丈夫か、二郎丸。」

杏寿郎は心配してか、顔を除き込みながら尋ねてきた。

 

「……うん。」

 

「そうか、なら良かった!蜜璃!今日から二郎丸もお前の師範になるぞ!」

 

「え!本当ですか!?」

 

「え?」

 

違った、どうやら先程の問いは蜜璃にあの戦闘技術を教えるか否かの確認だったようだ。ここまで幼馴染と意志疎通が出来ないことは初めてであった。

 

「という訳だ!頼むぞ二郎丸!」

 

「改めてよろしくお願いします!二郎丸さん!」

 

と、笑顔で二人は言ってきた。

 

「………うん、よろしく。」

 

どうやら断れそうにないらしい、そう考えて天を仰ぐ二郎丸。

ただ、明るい笑顔を見せる蜜璃を見た時、これも悪くないかなと思うのだった。

 




※二郎丸は頼み事に対して、嫌だと思っても明確に断る理由が無ければそのまま受けてしまうところがあります。


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二郎丸と蜜璃

この話では“恋の呼吸”の独自設定があります。


「力みすぎ、もっと力を抜いて、」

 

「はいっ!」

 

「あー、それは抜きすぎ、刀を握る力は余り緩めないで。」

 

「はいっ!」

 

普段から騒がしい(約一名)炎柱邸が更に騒がしく(+二名)なった今日この頃、杏寿郎は庭で稽古を行う二人の様子を眺めていた。

 

あれから二ヶ月、二郎丸は任務等の合間をぬって、炎柱邸へと足を運んでいた。最初こそ渋々という風であったが、今では蜜璃の事を妹のように可愛がっており、時間がある場合は付きっきりで稽古を行い、最近は戦闘技術以外の事も教える様になっていた。

因みに、稽古の報酬として、稽古に来た日は炎柱低、或いは杏寿郎の奢りで昼食をすませており、さらに新しい戦闘技術の開発を杏寿郎に手伝ってもらっていた。

 

「そう、そして肩から先を鞭を振るように、せいっ!」

 

ゴキャ

 

「あ、」

 

「きゃあぁぁぁぁ!?」

 

稽古の途中、二郎丸の肩が外れてしまい、それを見た蜜璃が絶叫を上げる。

 

「じ、二郎丸さん、かた、肩が」

 

「あー大丈夫ダイジョーブ、ほら。」

 

そう言って自力で肩を嵌め込んで、グルグルと肩を回して見せた。

 

「え、で、でも」

 

「蜜璃、腕が取れた訳ではないのだから余り心配しなくても大丈夫だ。」

 

「師範?」

 

おろおろする蜜璃を見かねてか、杏寿郎が二人の元にやって来た。

 

「そうだね、傷や骨折とかの怪我と違って直ぐに元に戻せるから。」

 

二郎丸は杏寿郎の言葉に同意し、更に補足した。

 

「…ですが、とても痛いと聞いているのですが。」

 

「うん、痛みだけなら我慢すればいいだけだから。」

 

「うむ、その通りだな!」

 

「…そうなんですか?」

 

「「勿論!」」

 

未だに不振に思う蜜璃、だがこの様なやり取りを何度も繰り返すことで、着実に二人の常識を刷り込まれる蜜璃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼しまーす。」

 

「あ!二郎丸さん、こんにちは!」

 

「こんにちは。あれ、杏寿郎は?」

 

いつもの様に炎柱低を訪れていた二郎丸だが、は杏寿郎がいないことに気づいた。

 

「師範なら任務に行かれましたよ。」

 

「成る程。」

 

言い忘れていたが、蜜璃はまだ鬼殺隊には入隊していない。そのため、杏寿郎は蜜璃を任務に同行させていないのだ。

 

「なら、一緒に街に行く?」

 

「はい!ご一緒させて下さい!」

 

そして、その場合は稽古や娯楽に関わらず、二郎丸が蜜璃を外に連れ出すのが常であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~~っ、美味しい♪」

 

「そう?なら良かった。」

 

二人は町にある喫茶店を訪れていた。蜂蜜のたっぷりかかったパンケーキを美味しそうに頬張る蜜璃を見て、自然と顔を綻ばせる二郎丸。そんな中、二郎丸はあることを不意に思い出した。

 

「そういえば、あと一ヶ月で最終選別だね。」

 

そう、蜜璃は今年の最終選別に挑む事になっている。刀を握ってから半年も経っていないが、柱二人の指導により、高い能力を身につけている為、蜜璃であれば大丈夫であろうと杏寿郎が判断したのだ。が、呼吸に関してはある意味問題があった。

 

炎の呼吸を教えていた杏寿郎だが、ある時に違和感を覚えた。蜜璃の扱う呼吸が時が経つ事に炎の呼吸からかけ離れていくのだ。ただ、その呼吸に違和感を覚えると同時に何処か既視感を覚えていた。何故かと悩んでいると不意にある人物が頭に浮かんだ。それは共に蜜璃を指導している二郎丸、その瞬間、ある答えが杏寿郎の中で導き出された。

 

蜜璃は“炎の呼吸と影の呼吸を複合した呼吸”を扱っている。

 

そう考えるとあの独特な呼吸についても説明がついた。そこから杏寿郎は呼吸を矯正、修正しようとしたのだが、この複合された呼吸が蜜璃に余りにも良く馴染んでおり、更にそこから独自に発展してしまい、修正が不可能となってしまっていた。

これに関して、珍しく杏寿郎が二郎丸と大喧嘩したのも記憶に新しい。

結局、修正することは諦めて、二人は自分の使う呼吸の型を蜜璃に教えることにした。

 

因みに、蜜璃が一番得意とするのは、影の呼吸 陸の型 『御影石』 。これだけは威力も速度も二郎丸の使う『御影石』に匹敵する程になっていた。

 

「対策とかは大丈夫?」

 

「はい!狩りの仕方や魚の釣り方、あ!後、火の起こし方もちゃんと覚えていますよ!」

 

「ならば良し、だね。」

 

違う、そうじゃない。と、伊黒がこの場に居ればそう叫びそうだが、残念ながら伊黒はこの場には居ない。

その後は近状報告や稽古の成果などを蜜璃から聞き、暫くしてから喫茶店を後にする、 そして少しした後、二人は呉服屋を訪れていた。二郎丸は蜜璃と出掛けるときは決まって何かを買い与えているのだ。

買い与えるものは簪や髪止め等、今回の様に着物を買うことも初めてではない。

 

「じ、二郎丸さん、そこまでしなくても」

 

「いいよ、僕が好きでやってるんだから。それに女の子なんだ、お洒落はするべきだよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「当然。」

 

因みに、この様なやり取りも初めてではない。

 

そしてこの日は紅色に牡丹柄の着物と紺色の女袴を買い与えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後二人は陽の沈まぬうちに炎柱低に帰って来た。

 

「お帰りなさい蜜璃さん二郎丸さん。あれ?蜜璃さん、その着物は」

 

「ただいま、この着物は二郎丸さんが買ってくれたのよ。」

 

「またですか?けど凄く似合ってますよ。」

 

「フフッ♪ありがとう千寿郎君、誉めてくれて嬉しいわ♪」

 

蜜璃を誉める千寿郎と嬉しそうに笑う蜜璃、そしてそれを眺めてドヤ顔をかます二郎丸。

 

「なら、僕はもう帰るよ。」

 

「え、もう行ってしまうんですか?」

 

「うん、夜の見回りは毎日しないといけないからね、そろそろ戻らないと。」

 

「あぁっ、そういえば、そうでしたね。」

 

「そう言うこと、じゃ、また今度。」

 

「はい、ありがとうございました!」

 

「今夜も気をつけて下さいよ!」

 

そう言って二郎丸は走り去って行き、蜜璃と千寿郎はそんな二郎丸を見送っていた。

 




※二郎丸と杏寿郎は鬼を討伐するための練習として蜜璃に狩りをさせてました。一番の理由は擬似的な戦闘訓練の為ですが、グロ耐性を付けさせる為だったり、最終選別で餓死させない為という理由もあります。


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戦闘技術

遂にこの日が来てしまった。

 

「久しいな、二郎丸。」

 

「はい、お久しぶりです。悲鳴嶼さん。」

 

何故二郎丸が悲鳴嶼の元を訪れているのか、理由は一つ

 

「早速で悪いが、見せてもらうぞ、そなたの生み出した戦闘技術を。」

 

「…はい。」

 

そう、約三ヶ月前に任された戦闘技術の開発、知恵熱を出して白目を向く事もあったが、それを今日披露するのだ。

 

「では、先ず一つ目。」

 

二郎丸は先ず蜜璃に教えていた戦闘技術を披露した。因みに名前はまだ無い。

 

「成る程、これなら採用出来るな。」

 

「本当ですか!」

 

どうやら好評の様だった。そして、弓の様に腕をしならせる所から、『弓形動作(ゆみなりどうさ)』と命名された。

だが、問題はここからだった。

 

二つ目

 

二郎丸の目の前にあるのは太い鉄柱、そしてそれに向き合い自身の日輪刀である二本の脇差しを構える、そして鉄柱目掛けて刀を振るう。一刀目が鉄柱に命中するが、当然受け止められる。だが、二刀目が一刀目の峰を叩いた瞬間、鉄柱がまるで豆腐のように簡単に切断された。

 

「…なんと、俄には信じられん。」

 

悲鳴嶼も切断された鉄柱を手に取り非常に驚いていた。

 

この戦闘技術の原理事態は単純明快、一撃目で物体の抵抗力を殺し、瞬時に二撃目を打ち込むことで完全に破壊する、様は二撃必殺の技だ。

二撃目を打つ瞬間を図るのが非常に難しいのだが、使いこなせるようになれば、通常時に鬼の頸を斬る力よりも、少ない力で斬ることが可能となる。

そして、二撃目を打つ瞬間を僅かに擦らせば、斬るのではなく爆ぜる事も可能なのだ。よって、この戦闘技術を二郎丸は『爆斬(はぜぎり)』と名付けていた。

この戦闘技術は二郎丸の中でもかなりの自信作だったが、

 

「ふむ、これは二刀流であることが前提となっているな。」

 

「あ」

 

そう、二郎丸は肝心な所を忘れていたのだ。隊士の扱う刀は基本的に一刀のみ、二刀流で戦う隊士は非常に少なかった。

 

「だが、素晴らしい技術だ、是非使わせてもらおう。」

 

「え」

 

結局、この戦闘技術は悲鳴嶼を強化するだけで没になってしまった。

 

三つ目

 

呼吸の速度と密度を上げ、血流を速くし、代謝と運動能力を向上する、これだけは全集中の呼吸の劣化だが、この戦闘技術の利点は全集中の呼吸と併用する事が可能であることだ。

 

「だが、これは肺への負担がかなり大きいようだな。」

 

「そうなんですよねぇ…、」

 

そう、それがこの戦闘技術欠点、それが痛いが全集中の呼吸と併用して扱えるという点で、改良の余地があるという事でこの戦闘技術は一旦保留となった。

 

その後も三つほど戦闘技術を披露したのだが、どれも没となった為割愛する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新しい戦闘技術の披露が終わった後、二人は縁側でまったりとしていた。

すると悲鳴嶼がある事を話し始めた。

「そういえば、そなたに言っておきたい事があったのだ。」

 

「はい?なんですか。」

 

「連結動作なのだが、あの戦闘技術は体の負担を軽減する事ができるぞ。」

 

「え!?」

 

その事に二郎丸は非常に驚いた。

連結動作は筋肉の連動によって攻撃速度と威力を上げる戦闘技術だ。寧ろ負担は大きくなる筈だ。

 

「確かに、そなたの扱い方では負担が大きくなる筈だ。だが、使い方を変えれば負担を減らせる。」

 

「ん~?あ!」

 

二郎丸は一瞬悩んだかだ、直ぐに姫島が言いたい事を理解した。

 

「成る程、腕を振るう速度はそのままにして、連結動作を扱えば、衝撃を分散させて結果的にそれぞれの部位の負担を軽減する事が出来ると言う訳ですね?」

 

「うむ、その通りだ。」

 

二郎丸は感心すると同時に何処か悔しいと思った。

 

「しかし、先程の説明でよく理解出来たな。」

 

「あ~それは、」

 

悲鳴嶼は説明が得意ではなく、本人もそれを理解している。普通であれば、あの説明でここまで理解する事は非常に難しいのだろうが、蜜璃と接する内に理解力が格段に上がっていたのだ。──蜜璃も説明が非常に下手である

そしてそれにより、もう一つ得ることが出来たものがあった。

 

それは『反復動作』の習得である。

 

以前、二郎丸は連結動作を悲鳴嶼に教えた時に、悲鳴嶼から反復動作を教えて貰っていたのだが、悲鳴嶼の説明ではその原理を理解出来なかった。が、蜜璃の説明をある程度理解出来るようになった時、 悲鳴嶼の言っていた反復動作の原理を理解し、習得するに至ったのだ。

「そうか、よくやったな二郎丸。」

 

悲鳴嶼は非常に感心していた。何せ反復動作を習得出来たのは自分を除き二郎丸が初めてだったからだ。

 

「であれば、尚更都合が良いな。」

 

「え?」

そして悲鳴嶼は考え込む様にしてそう呟いた。

 

「二郎丸、実はひとつ頼みたい事があるのだが。」

 

「はい?」

 

不意に名前を呼ばれ、二郎丸は何かと疑問に思った。そして、何を頼まれるのかと、身構えていると

 

「暫くの間、柱としての任務を解いてほしい。」

 

「…え??」

 

二郎丸は絶句した。




※『爆斬』は、刀で行う二重の極みだと思って下さい。


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嫌なこともある

投稿が遅れてしまい大変申し訳ありません、非常に難産でした。


「はぁ~…。」

 

「む?よもやよもや、久しぶりだな二郎丸!ため息とは珍しいな!」

 

炎柱邸の縁側で、足を投げ出して大の字に寝転びため息をつく二郎丸を見つけた。合うのは二週間ぶりであり、声をかけたが返事が無い。

 

「…二郎丸どうしたのだ?」

 

「…んぅ?あー、杏寿郎、実はねー。」

 

もう一度話しかけ、ようやく返事をする二郎丸、だがその声には元気がなかった。

 

こうなっているのには理由があり、約一ヶ月程前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それは、柱をやめろということですか?」

 

「いや、そうではない。」

 

急に悲鳴嶼から『柱の任務を解く』と言われ、不安になる二郎丸だが、悲鳴嶼の返事を聞いてある程度安心する。

 

「では、次は僕に何をして欲しいんですか?」

 

そして、悲鳴嶼が説明する事が苦手である事を思い出し、言いたいであろう事を質問する。

 

「うむ…それはだな。」

 

そして、次の頼みとは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一般隊士達の育成を頼みたい。」

 

「…はい。(うわぁ…)」

 

二郎丸はまた面倒な事を任されたと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今に至る。

 

「成る程、道理で最近来てなかった訳だ。」

 

二郎丸の話を聞いた杏寿郎は、暫く来てなかった理由に納得した、と、同時に項垂れている理由も理解した。

 

本来、二郎丸の根本的な性質は『自由奔放』。何かしらに拘束される事をかなり嫌っているのだ。だが、それ以上にお人好しであり、結局殆どの頼み事を引き受けていた。

不満が無いと言えば嘘になり、その不満は疲労となるが、それらを表情に出すことが無い為気付かれることがなかった。

 

そして、それらを一番理解しているのは、幼馴染である杏寿郎だった。

 

「二郎丸、お前にも自分の都合がある筈だ、断る事は別に悪いことじゃない。」

 

そして聞かないだろうと思いながらも二郎丸に忠告する。

 

「…考えとく。」

 

「やる気はなさそうだな。」

 

二郎丸のこの返事は『行動に移す気はない』と言う意味もあり、杏寿郎は半ば諦めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば、隊士達の指導はどうだ?」

 

少しして、杏寿郎は少し気になっていた隊士達の指導の状況を聞くことにした。が、

 

「全然駄目だね。」

 

「む?」

 

急に二郎丸の表情が険しくなった。

 

話を聞けば、隊士達を自分の屋敷に迎え入れて指導しているのだが、隊士達は筋力、体力の水準が低く、剣術や戦闘技術以前の話らしい。やる気の無い隊士達も多く覚えの悪いのが殆どだった。

 

「む、むう…俺がいうのも何だが、少し厳しいのではないか?」

 

「え?体力向上の為の走り込みは十キロを二回の合計十キロにして真剣じゃなくて木刀で百回の素振を合計五回で筋力向上の為の訓練は一キロの重石を両手足に括り着けるだけにおさえてて訓練の時間に関しては隊士達に極力会わせてるんだけど?」

 

「二郎丸、それは流石に甘いのではないか?」

 

「だよね!?」

 

どうやら相当鬱憤が溜まっていたようだ、それからも、やれやれ妬むくらいなら素振りをしろ、やれ蜜璃の方が実力がある、やれまだ常中をに習得していない、やれ簡単に根を上げてうるさい等、愚痴がどんどん出てきていた。だが杏寿郎は普段不満を言わない二郎丸が珍しく愚痴を言っている為、甘んじて聞いてやる事にしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師範~、ただいま戻りました!」

 

「ん?」

 

玄関の方から聞き慣れた声が聞こえてきた、声の主は杏寿郎の継子であり二郎丸の弟子でもある甘露寺蜜璃であった。そして今更ながら炎柱邸に蜜璃が居なかったことに二郎丸は気付いた。

 

「おぉ蜜璃!戻って来たか!」

 

杏寿郎は嬉しそうに声をあげると、直ぐに玄関に走って行く、そして二郎丸も不思議そうに思いながらも杏寿郎の後を追う、そして二人は玄関にたどり着く前に廊下で蜜璃と鉢合わせた。

 

「蜜璃、よく戻ってきた!」

「はい。あ、二郎丸さん!来てくれたんですね!」

 

二郎丸を見つけた蜜璃は嬉しそうに駆け寄ってきた。が、蜜璃の着ている服はいつも稽古の時に着ている道着だが、擦れた跡や鋭利な物できられた傷があり、蜜璃自信も擦り傷や切り傷、そしてそれらを手当した跡があったり、包帯を腕や額に巻き付けていた。

 

「だ、大丈夫!?」

 

それを見た二郎丸は蜜璃以上の速さで蜜璃の目の前に駆け寄った。

 

「ふぇ!?」

 

「…骨折とかはしていないみたいだね、怪我も今見える範囲だけみたいだし…ならば良し…なのか?」

 

「あ…はい//」

 

「?」

 

蜜璃は嬉しそうな、恥ずかしそうな様子で顔を染めて俯いてしまうが、二郎丸にはその表情は見えず頭に疑問符を浮かべていた。

 

「…あー二郎丸、ちょっと来てくれ。」

 

「え?」

 

何かしらを察した杏寿郎は二郎丸を呼ぶ。

 

「蜜璃、もう部屋に戻っていいぞ。」

 

そう蜜璃に声をかけた後、二郎丸を連れて自分の部屋に入っていった。

 

「さて二郎丸、杏寿郎は何の日かわかるか?」

 

自室に入って直ぐ、杏寿郎は二郎丸に対してそう訪ねた。

 

「え、何の日って?」

 

「やはり、忘れていたか…。」

 

が、二郎丸はわからない様で、その様子に杏寿郎は頭を抱えた。

 

(不味い、よく分からないけど何かやらかしたのは分かる。)

 

そう思った二郎丸は何が悪かったのか考える。そして、不意にあることを思い出した。

 

(…まてよ?そう言えば一週間前って確か。)

 

その、二郎丸が思い出したあることとは

 

「…最終選別。」

 

「なんと、思い出したか!」

 

どうやら正解の様だ。

 

「え、じゃああの怪我って。」

 

「うむ、もしかしなくても最終選別で出来た怪我だな。」

 

「成る程」

 

そう言って今度は二郎丸が頭を抱えた。

 

「俺は今の今まで蜜璃が最終選別から帰ってくるからこっちに来たと思ってたぞ。蜜璃も恐らく…いやあの様子だと絶対にそう思ってるな。お前が来てない間はそれでだいぶ拗ねてたから、今日来てくれた事が余計嬉しかったんだろう。」

 

「…そっかぁ。」

 

「取り敢えず、今まで来れなかった理由は言っておいた方が良いぞ。」

 

「分かった、そうするよ。ありがとう杏寿郎。」

 

そう言って二郎丸は部屋を出て蜜璃の部屋に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、着替えとか終わった?入っていい?」

 

蜜璃の部屋の前で声をかけると襖が開き、蜜璃が現れた

 

「どうしたんですか?二郎丸さん。」

 

不思議そうに小首を傾げる蜜璃を前にして何と言うべきか少し悩む。

 

「えーと、最終選別合格おめでとう!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

蜜璃のその言葉を聞いて、間違いではなかったと安心する。が、不意に蜜璃があることを聞いてきた。

 

「そう言えば、この一ヶ月間何をしてたんですか?」

 

「…あー、」

 

取り敢えず二郎丸は、ここ一ヶ月間の事を全て話した。

 

「そうだったんですね、お疲れ様です。」

 

文句の一つでも言われることは覚悟していたが、その反応は割と淡白であり、それどころか労いの言葉を掛けられた。

 

「え、怒ったりしないの?」

 

拍子抜けした二郎丸は、そう蜜璃に訪ねた。

 

「はい、柱の方達が忙しいというのは師範の事を見て分かっていたので。」

 

「あ、そうなんだね。」

 

「ですけどね、寂しかったんですよ?」

 

そう言うと、少し拗ねた表情をした。

 

「…ごめんね」

 

「そしてすごく不安でした。」

 

「…う~ん、僕は柱だからそうそう死ぬ事は無いと思うけど?」

 

「そういう問題じゃ無いんですよ。」

 

「あ、うん。」

 

「後、今日までの事は怒ってはいませんが許した訳じゃ無いですよ」

 

そう言うと蜜璃は頬を膨らませそっぽを向いた。

 

「えぇ…。」

 

蜜璃にこのような態度をとられたのは初めての事であり、どうすれば良いか分からずオロオロし始めた。

 

「じ、じゃあどうすれば許してくれる?」

 

結局、考えた所で何も思い浮かばなかった為、素直に聞くことにした。

 

「…そうですね~」

 

蜜璃は少し考える動作をした後、再びこちらに振り向いた。

4

「なら近いうちに一緒に出掛けましょ。」

 

「え?そんな事でいいの?」

「そんな事じゃないですよ。二郎丸さんとのお出掛けする日はいつも楽しみにしてたんですよ?」

 

「そうだったんだね。分かった、今度一緒に出掛けよ。」

 

「はい!」

 

蜜璃は嬉しそうにした。

 

「あ、後、音信不通になるのは不安になるので週に一度はお手紙を下さい。」

 

「…考えとくよ。」

 

「行動に移して下さい。」

 

「ア、ハイ。」

 

「約束ですよ?」

 

「…うん、分かった。」

 

「そうですか、なら許してあげます。」

 

そう言って何時も通りの笑顔を向ける。

 

「そう、なら良かった。」

 

そんな蜜璃の様子に安心して、二郎丸も柔らかい微笑を浮かべた。

 

「話は終わった様だな。」

 

「「え?」」

 

二人が振り向いた先には杏寿郎が立っていた。

 

「どうしたの?」

 

「うむ、先ほど父上に蜜璃が合格した事を話したらな、祝いも兼ねて年の近い三人で食べに言ったらどうだといわれたのだ。」

 

「成る程。」

 

「と言う訳なのだが、二郎丸も大丈夫だよな?」

 

「あ、うん、まぁ、疲労が貯まること以外は今は毎日休暇みたいなものだからね。」

 

「そうか、ならば行くぞ!」

 

「え、今から?」

 

「うむ!」

 

「あ!師範待ってください!」

 

そう言って玄関に掛けて行き、その後を蜜璃が追いかける。

 

「…は!ちょっと二人共待って!」

 

そして、出遅れた二郎丸も慌てて二人の後を追いかけるのだった。

 




※家族がいなくなった二郎丸にとって、炎柱邸は第二の実家の様になっています。なので蜜璃が杏寿郎の継子になる前から結構炎柱邸に入り浸っており、自分の屋敷には服の洗濯や屋敷の掃除以外で殆ど帰っていません。
その為、一般隊士や隠達には『影柱に用がある場合は炎柱邸に行け』と言う認識が広まっています。


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