がっこうぐらし!ver2.0_RTA 『一人ぼっちの留年』ルート≪参考記録≫ (ゆキチ)
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前日 Osananazimi Is Trap

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※これは最近アップデートされたゲーム版『がっこうくらし!』のRTAです。

※淫夢要素は(ないです)

※ガバは死ぬほど(ありますねぇ!)

※なので参考記録なのです。

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最近追加されたシステムで、最高のエンディングを、最速でクリアしようとして、最初でつまずいたRTA、はーじまーるよー!

 

計測開始はOP開始、計測終了はエンディング終了とします。

では、早速。

 

 

はい、よーいスタート(棒読み)

 

 

キャラクリは――します!

名前だけ入力するのでそれほど誤差はありません。

『万寿 柳』と入力し、きちんとその横に(幼馴染)と付け足しましょう。リセットが続くとたまに忘れます(5敗)。

それではゲームスタート。

 

 

ver2.0から飛ばせなくなったOPムービーをだらだら見ながら、その間に今回使用する『幼馴染』システムについて説明します。

 

『幼馴染』システムは、ver2.0で実装されたもので、キャラクリの際、名前欄に(幼馴染)と入力すれば、主要キャラの幼馴染になれるというものです。

残念ながら、幼馴染になれるキャラを選ぶ事は出来ませんが、そのキャラの好感度はゲーム開始時点でかなり高くなり、キャラによって様々な恩恵があります。

 

このゲーム、少しのガバが命取りになるので、最初から調整しないで済む分めちゃありがたく、個別ルートへ行くのも楽になるまさしく神システムなのです。

UNEI IS GOD

 

 

今回はこの新システムで楽をしつつ、私の大好きなエンディングの一つ『一人ぼっちの留年』を目指していきます。

 

『一人ぼっちの留年』は、名前からわかる通りバッドエンドです。でも、私の中ではグッドエンドです(不屈の意思)。

 

これは、学園生活部の面々(+α)を生存させ、なおかつ全員の好感度を一定値以上上げる。そして抗ウイルス剤が無く、主人公が感染した状態で、学校脱出の場面になると移行する、かなり面倒な条件があるエンディングです。

 

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陰に日向にみんなを支えた主人公と主要キャラ達の涙の別れ。

夜明けの朝日に向かうように去っていく面々を見送りながら、主人公はどんどん『かれら』へと変わっていってしまうのであった……。

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このスチルが…たまらねぇぜ!(メリーバッドエンド大好き民)

好感度が高ければ高いほど、キャラの悲壮感は上がり、その悲しみは鰻登り。美少女の涙は……やっぱり、最高やな!

 

そんな、空しくも希望を託すようなこのエンディングが私は好きです(鋼の意思)。

だから、これでRTAします(狂った意思)。

 

 

さて、OPが丁度終わりましたのでさっそく逝ってみましょう。

 

 

 

使うキャラは入力した通り、『万寿 柳』

アダ名はやーくんのショタです。名前は渋いくせに、中世に産まれれば権力者が黙っていないような実にホモ受けのする顔と体型をしています。

 

能力値はそこらのメスガキにも劣り、特に筋力と持久力はカスです。お前女の子みてぇな肌してんな!腕も細いしな!(男の娘並感)

当然このゲームの敵である『かれら』に正面から立ち向かう事など出来ません。

 

しかし、その代わりに初期スキルを異例の三つも保持しています。

『発見』・『隠密』・『話し上手』はそれぞれ、全行動の発見率アップ・『かれら』の探知能力の減少・会話による好感度上昇率アップと中々のものです。

 

これらを十全に使い、またレベルアップで取得するスキルなどを駆使し、幾つもの屍を乗り越えてきた私のプレイスキル(リセットの賜物)を以てすれば、このクソザコ能力値もカバーできます。

無双など容易いのです(自信)。

 

 

 

さて、ゲーム開始時点は学校の教室の夕方。日付はアウトブレイクの前日になりました。

 

好スタートですね。

開始時点の日付は、当日・前日・一週間前のどれかなので、ベターと言えるでしょう。

一週間前の方がありがたく見えますが、罠です(16敗)。その理由は後で説明します。

 

 

幼馴染になったキャラは、スタートの時に話しかけてきます。ドキドキですね。

 

本命は、スコップゴリラことくるみです。

主要キャラ中突出した戦闘能力を持つこのゴリラと幼馴染であれば、大抵のガバをカバー(激ウマギャグ)してくれ、なおかつ恩恵としてこちらも体育会系になり初期スキルと一緒に、戦闘スキルが一つランダムで手に入ります。

実に頼もしいゴリラです。

 

そうじゃなくても、みーくん・けい・チョーカーさんじゃなければそれほど問題ではありません。この三人は、アウトブレイク発生地点が特殊になり、学園生活部と接触出来ないのでリセットです。

 

 

――だが、ゆき。テメェはダメだ。

 

たとえ超絶可愛くて私の最推しだからって絆されてはいけません(51敗)。

この子はめぐねぇ(要介護。目を離すと死ぬ。この主人公の場合、目を離さなくても死ぬ)が死亡した場合、高確率で精神を幻想入りさせ、生存キャラの正気度を0が見えるぐらいにゴリゴリ削り、主人公の行動にも影響を与える動く爆弾です。

 

なのでゆきちゃんにならないように祈りましょう。

 

ゆきはいやだ、ゆきはいやだゆきはいやだゆきはいやだ……!

 

 

「あっ!やーくん!」

 

 

グリフィンドォォォォォォル!!!!!

 

……。

はい、スリザリンですね。

ぼんやりと教室に突っ立っていた私に抱きついてきたのは、ぽやぽやロリっ子の精神安定剤枠の丈槍由紀、ゆきちゃんでした。

 

いや、マジでどうするのもうリセット?早ない?ええ……これで何度目リセットめんどいもうこれ神様がゆきちゃんでやれって言ってるんじゃいやでも戦闘中に無邪気に寄ってこられても困るしこのチャートじゃあ精神幻想入りさせられたし死ぬしいやでもめぐねぇとチョーカーさんがいれば違うか……?(0.3秒)

 

……よし。続行しましょう。GOのお告げです。

この時点で私は、今回のRTAに暗雲が立ち込めているのは直感的に理解しています(114514敗の実績と信頼)。

ですが、私の最推しであるゆきちゃんの幼馴染で『一人ぼっちの留年』行ったら最高に気持ちがハイになります(ゆきちゃんの泣き顔すがり顔絶望顔)。

なのでやりましょう(お目々グルグル)。ダメならリセットすりゃええねん(やけくそ)。

 

 

取り敢えず。

 

「丈槍さん……?補習を抜け出していったい何をしているのですか……?」

「めっ、めぐねぇ……!」

 

補習をサボってきたゆきちゃんをめぐねぇ(男女経験無し)に押し付けましょう。

 

「やーくん助けて!」

「こらっ!万寿くんに迷惑かけないっ!」

 

(生徒に恋愛事情で敗北して内心ショックな)めぐねぇに引きずられながら、涙目で此方に手を伸ばすゆきちゃんを見送ってから行動開始です。

 

 

アウトブレイク前日にスタートの場合、軽い下準備が可能なので、さっそく主人公のスキルである『発見』を活用すべく、工具箱のある一階事務室に向かいましょう。

工具箱を荒らして、ゾンビ映画では欠かせないバールを手にいれます。バールは一定確率で工具箱で入手可能で、なければリセットですが、この主人公なら大丈夫でしょう(2敗)。

 

バールは校舎内全ての扉をこじ開ける事ができ、なおかつ『かれら』への攻撃力も高く、能力値を必要としないマルチツールです。

本来であれば、リーチのあるモップや即死攻撃のあるドライバーなどの方が確率に左右されず入手出来る分、楽です。

しかし、ゆきちゃん幼馴染ルートで戦闘スキルのないクソザコ主人公にはひのきのぼう以下なので、ここは攻めます。

 

事務室に到着しました。この時間帯には、誰も居ないのは屍を積み上げていた過程で知っています(これをガバ中の幸いと言います)。

なので、人目を気にせず荒らしましょう。

 

ご ま だ れ~!

 

おおっ、長柄・ステンレス製を手に入れました。

リーチが長く、比較的軽くて血錆びしないという主人公にとっては最高のバールです。確率はおおよそ三割でしたので、運が良いですね。

 

ですが、問題点として隠し持つ事が出来ません。

アウトブレイク後なら気にならないデメリットですが、前日ではこれを持っているのを見られると一発補導で没収されます。没収されてしまったらもう手に入れる事は出来ません。

なので、どこかに隠す必要があります。

 

アウトブレイク当日の、屋上手前攻防戦の為に、三階の廊下にある掃除ロッカーに隠しましょう。一日ならバレる事はありません。

……一週間前に隠した場合、誰かがその間に見つけててアウトブレイク当日に持ち逃げされるので注意が必要です。

 

本来であれば、このバールを一階から三階まで持ってくのは大変です。他生徒に見つかったら先生にチクられますし、主要キャラに発見されたら、後々大変な事になります。

 

ですが、ご安心下さい。

ここでゆきちゃんの幼馴染としての恩恵が生きてきます。

 

ゆきちゃんの恩恵はずばり『初期好感度上昇』です。

簡単に言えば、アウトブレイク当日までに関連するキャラ全ての好感度を10換算で5にします。5は友達以上親友未満。普通ならリア充生活まったなしですね。

 

おかげでバールを持って校舎を歩いていても不審に思われません。安心して隠しに行きましょう。

 

ですが、これでも主要キャラとは遭遇してはいけません。

他のと会ってもいいのは、結局こいつら全員『かれら』になるからです。死人に口なしです。

下準備を主要キャラに悟られると、アウトブレイク後に『もしかしてこの事件が起こるのを知っていた……?』と疑念を抱かれ、好感度上昇が妨げられます。さらに好感度が足らないと『黒幕だ!』と難癖付けられ、拷問・監禁、最悪殺害されます。

なので、注意が必要なんですね。

 

おっと、道の先に覚醒素材(せんぱい)と一緒に歩いているゴリラがいました。回避しましょう。

 

 

 

 

 

三階の掃除ロッカーに難なく隠す事が出来ました。

ゴリラ以外に主要キャラを見なかったのは実に運が良いです。この積み重ねが、ゆきちゃん幼馴染ルートをカバーしてくれる事でしょう。

 

今回のRTAで出来る下準備はこれだけです。

後は家に帰り、さっさと当日にします。

幼馴染システム使用の場合、幼馴染と一緒でないと家に帰れないのでゆきちゃんを探しに行きましょう。

 

めぐねぇの補習は、空き教室を利用しているので直ぐ見つか……あれ?居ない。ああ、この隣でし……いなっ、あれ?

 

あれ?

 

………(チャートガン見)。

 

 

「む……あっ!やーくん!」

 

――直ぐに見つかります。ええ、直ぐに見つかりました。

……誤差だよ誤差(小声)

 

性懲りもなく、ゆきちゃんが飛びかかってくるので避けます。

捕まると抵抗出来ないのでロスです(可愛さ的にも、能力値的にも)。

 

避けられてぶーたれるゆきちゃんに早く帰ろうと急かして、さっさと補習を終わらせます。ゆきちゃんはヤればデキる子です。

それでも難航している場合は、めぐねぇに適当に話しかけ視線をこちらに向けさせ、答案をゆきちゃんにチラチラさせてゴリ押します。バレると大幅なロスになりますが、いったいどれほど私がやり込んだと思っている!(13敗)

 

補習が終わりました。

ゆきちゃんとおててを繋いで帰りましょう。

 

夕焼けが綺麗ですね。嗚呼、これから始まる悲劇を想うと胸がきゅうとしてニヤニヤが止まりませんね。

 

 

校門を潜ったと同時に、暗転し――アウトブレイク当日が始まります。気合いを入れましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

わたしは、学校が好きだ!

理由はたった一つだけ。やーくんと一緒にいれること!

 

やーくんとは一緒のクラスで隣の席!いつも一緒で、行きも帰りも授業中も休み時間もごはんも一緒!……さすがにおトイレとか着替えは恥ずかしいけど……。

小さい頃からの公認カップルなの!

 

でも、さいきん不安で不満だ。

それはやーくんを狙うどろぼーねこが沢山いること!

 

やーくんは可愛い。しょーじき、わたしよりも可愛い気がする……。

そんなんで優しいならみんな好きになっちゃうのはしょーがない。でも、好きが愛してるになるのはしょーがなくない。

……やーくんと一緒にいるのはわたしだけでいいのに。

 

だから、わたしは監視しなくちゃいけない。

目を光らせて、お邪魔虫を見つけなきゃいけないのだっ!

 

 

「――だからね、めぐねぇ。わたしが宿題やってなくてもしょうがないと思うの」

「そう……。さあ、丈槍さん。宿題終わらせましょうね」

 

せっ、説得がきかない……!

たかえちゃんにやったときは「はいはいわかったわかった」って納得してくれたのに!

 

「むぅ……終わんないよぉ、めぐねぇ……!」

「しょうがないでしょう?宿題をしなかった丈槍さんが悪いんです。あと、佐倉先生です」

 

めぐねぇが厳しい。

しょうがない子ね……みたいな目で見てるけど、加減してくれない。

プリント一枚しかないのに、積み上がった束みたいに見える。

 

「うぅ……やーくんと遊びたいぃ……」

「でも、やってれば今の時間は万寿くんと遊べていたんですよ?」

「うぐぅ……」

「これからは計画を立てて、その通りにちゃーんとやりましょうね」

 

「実に耳が痛い話ですね」

 

 

むっ!この声は!

 

「あっ!やーくん!」

 

教室の出口には、愛しい王子さまが立っていた。

わたしはたまらず、やーくんに抱きつく。

 

「あいきどー!」

「ぬわー!?」

 

でも、私の愛の抱擁は避けられた。

ひどい、あいしてるのに。

 

「やーくんひどい!」

「ひどいのはゆきちゃんのあっぱらぱーな頭でしょ」

「さらにひどい!」

「ほら、そんな事よりさっさと補習終わらせて。一緒に帰るよ」

 

ぶぅ。でも、やらないと帰れないのは事実だ。

わたしは机に戻って、プリントにがっついた。……でも、分からないのは分からない。

 

「すみません、めぐねぇ。うちのゆきちゃんが」

「いいえ。丈槍さんがやってないのがいけないんです。万寿くんは気にしなくていいんですよ。あと、佐倉先生です」

「はい、めぐねぇ」

「もうっ!ですから――」

 

……やーくんとめぐねぇが仲良さそうに話してる。

ずるいずるい、とやーくんを睨んでいると、やーくんがめぐねぇの持ってきていた答案をチラチラ見せてきた。

 

っ!流石やーくんだっ!わたしは急いでそれを写して、めぐねぇに見せる。

 

「めぐねぇ!終わったよ!」

「………………まあ、いいでしょう。はい、帰っていいですよ」

「やったー!やーくん帰ろ!めぐねぇ、さようなら!」

「はい、さようなら。……次はないですよ?」

 

ば、バレてた……!

 

 

 

「~♪~♪」

「機嫌良いね。ゆきちゃん」

「うんっ!やーくんと一緒にいられるからっ!」

「そっか」

 

いつもの夕方。いつもの帰り道。

わたしとやーくんはいつも手を握って一緒に帰る。

わたしがやーくんに笑いかけると、やーくんもわたしに笑いかけてくれる。

この瞬間が、わたしは何よりも大好きだった。

 

「また明日も一緒に帰ろうね!」

「……そうだね」

 

暖かい気持ちに満たされながら、わたしとやーくんは一緒に帰る。

また明日、また明日も一緒にいようね。

 

 

 

 

 

わたしは、学校が好きだ。

やーくんがいる限り、ずっと……ずぅっとそう思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっと一緒にいようね。

離ればなれになるなんていやだよ

もし……離ればなれに、なるくらいなら……

 

 

 

 

 




――
※解説
・幼馴染システム
キャラクリの際に、名前に(幼馴染)と入力すれば使用される。
完全ランダムで主要キャラの一人の幼馴染になれる。
()()()()()()()()()()()()()()()5()()()()(上限10)、キャラによって恩恵が貰える。
「このゲーム難しすぎぃ!」と嘆くユーザーへの救済措置の一つ。

・ゆきちゃん幼馴染ルート。
一番ポピュラーな選択肢の一つ。恩恵として、アウトブレイク以前に出会う()()()()()()()()()5()()()()(上限10)。
初期の時点で皆と仲良くなるので、やれる事が多い。とはいえ、仲が良い=クリア出来るじゃないのがこのゲームの厭らしいところ。


……5+5(小声)


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当日・昼 The Project SWEETPOTATO

私が大活躍で無双する(予定)なRTA、はーじまーるよー!

 

 

暗転して、即、翌日の教室に移行しました。

アウトブレイク当日です。

やれる事はやったのでどぅんどぅん行きます。

 

まずは、原作に従いましょう。

ゆきちゃんの補習の一環で、屋上にある園芸部を手伝わせる為に、めぐねぇがゆきちゃんを迎えに来ます。

それが来るまで、景気付けに隣の席のゆきちゃんのほっぺをもにもにして、気合いを入れます。

 

 

「うにゃ!?……にゃーきゅん……?」

 

 

かあいい(思考停止)。

ですが、これは皆様にエンターティーメントを提供出来るユーモラスな私をアッピルしているのではありません。

 

ゆきちゃんは一定の好感度のある人物からスキンシップを取られると正気度が増えます。またやる方も、ほっぺの絶妙なモチ肌で癒されるのか微量ですが増えるのです。

アウトブレイク前でも、あって損は無いのでやれる暇がある時はやっときましょう。

ホラホラホラ!どんどん行くぜぇ!(十八連打)

 

 

「うにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ」

 

「……なにやってんだあのバカップル」

 

 

同じクラスで主要キャラの一人であるチョーカーさんが呆れた目でこっちを見ています。

彼女は、原作ではモブのように『かれら』になってしまいますが、ゲームだと助ける事が出来ます。色々と便利なスキルも持っているので助けには行く予定です。……チャート通りに行けば。

 

 

「――丈槍さん、ちょっといい……相変わらず、仲が良いですね二人は」

 

 

おっと、めぐねぇがやってきました。

丹念にこねた餅が名残惜しいですが、ゆきちゃんを見送ります。また後でな!地獄で会おうぜ!(直喩)

 

 

「……ほっぺ真っ赤ですけど大丈夫?」

「ふへへ、あい……」

「そう……」

 

 

二人の背中を見送った後――急いで逆方向から屋上に先回りします。

持久力カスのショタですが、スタミナバーギリギリまで走って回復させてからまた走ってという非人道的走法を使えば、容易く二人より前に屋上に行けます。

 

 

「あら、柳くん?どうし――えっ、なんでそんなくたくたなの?」

 

 

コラテラルダメージだ。気にするでない。

屋上には、園芸部の活動をしている主要キャラの一人、若狭悠里ことりーさんがいます。巨乳美人で隠れ発狂枠です。丁寧丁寧丁寧に扱いましょう。

ゆきちゃん幼馴染ルートの恩恵で気安く挨拶してくれるので、こっちも気安く挨拶しましょう。

 

さて。此処にやってきたのは、アウトブレイクを屋上で迎えたい……という事でもありますが、確認をしておきたい事があるからです。

 

おうりーさん!その恵体(筋力値、主要キャラ中三位)で育てた畑には何があるんだい?

 

 

「畑?このプランターのお野菜のこと?ええっとね……」

 

 

アウトブレイクの際、最初に手に入る食べ物は、この屋上にあるプランターの野菜です。

ゴリラと私が三階を制圧するまで、食べられるのがこの野菜だけなので、そこで育てられる種類はとても重要です。

 

ランダムで二種類育てられています。因みに季節感は関係ありません(ゲームだからね)。

優良なのはキャベツです。生で食えて、且つ茹でれば満腹度が増えます。キャベツがあれば、後一種類は適当でいいです。

これで「育ててるのはきゅうりとミニトマトよ」って言われたらリセット……までは行きませんが、三階制圧の予定を早める必要があります。

そんなんじゃ腹は膨れねぇんだよぉ!(男子高校生並感)

 

 

「育ててるのは、キャベツとサツマイモね」

 

 

ファ!?(歓喜)マジで!?(素)

キャベツは良しとして、サツマイモですか!これは実に運が良いです。このショタの『発見』スキルはこれにも作用するんでしょうかね(リサーチ不足)。

 

サツマイモは、野菜の中で唯一甘味にも属する万能食材です。火を通さないと食べられないのがネックですが、お菓子などの甘味が手に入らない序盤・終盤はとても心強いです。

甘味を食べれば、正気度回復や好感度上昇に繋がります。『一人ぼっちの留年』エンドには好感度が重要なので、稼げる手段は多い方が最高です。

 

さらに、このサツマイモから作られるデザート、スイートポテトは正気度回復と好感度上昇の値がとても高いのです!

 

良いですね!実にベネ!ディモールト!

サツマイモは、育てられている可能性が低いので、最初から選択肢に入れていませんでしたが、これはチャート変更が求められますね……。

 

りーさん対策にありがたいので、これは利用しない手はありません。

 

 

「ん?スイートポテト?ああ、確かにいいわね。サツマイモも大きいし、美味しくなりそう……」

 

 

りーさんも美味しそうやな……(体を見ながら)。という冗談はよしましょう。

サツマイモは、スイートポテトだよねと話題を振り、りーさんがそれに乗ってきたら、「いつかごちそうするね」と言います。

 

 

「あら、いいの?ふふっ、期待してる。ありがとね」

 

 

ふふふのふ。約束フラグが立ちました。

りーさんには、アウトブレイク前にこういった日常を想わせる約束をしておくのが重要です。

 

りーさんは、アウトブレイク後は料理などの家事・物資の管理など雑事のオールラウンダーとしてとても重宝するのですが――いかんせん正気度がくっそ低いのです。正直ゆきちゃんの半分ほどしかありません。ひっくい!

 

そのせいでほっとくと気付かない内にひっそりと発狂し、非実在系妹を脳内に召喚したりしてしまいます。さらにこのショタがいると実在系弟にもしてくる、姉を名乗る不審者にもなります。人の業とはやべぇですね。

……私は『偽物の家族』エンドも好きですが、今回は『一人ぼっちの留年』に行きたいので、りーさんの正気度はきちんと管理していきます。

 

こうした約束は、正気度を大きく回復させるのでありがったい。運が良い、実に!

 

 

「若狭さん。お待たせしました。……あら?」

「あっ、やーくん!とぅ!」

 

 

おや、二人がやってきたみたいですね。条件反射で飛び込んできたゆきちゃんはりーさんにでも受け流しておきましょう。

 

補習イベントは適当に流しながら、この途中で起きるアウトブレイクに備えます。

 

……ふむ。

先ほどスイートポテトをごちそうするぜ!っと、このショタは言いましたが――おわかりの通り、このショタは料理スキルは持っていません。その為、スキルポイントでの取得が必要です。

早めに取っておけば不測の発狂にも役立つので、屋上手前攻防戦はチャートよりも多く稼ぐとしましょうか。なあに、私のプレイスキルを以てすればそれほどのロスにもなりますまい(自信)。

 

あと、サツマイモ自体普通に食べれるように火も確保しておきましょう。

三階制圧で火が使えるようになりますが、初日から使えるようになっていればキャラの正気度の減少を抑えられます。

攻防戦の際に、不良の『かれら』を倒すと、一定確率でライターが手に入りますので、それを使って火を起こし、アウトブレイク初日は焼き芋を食べましょう。温かい食べ物を渡すと、少しですが好感度も上がりますし。

 

大胆なチャート変更は、走者の鑑。

これをプロジェクト:スイートポテトと名付けましょう。

 

 

――悲鳴が聞こえてきました。アウトブレイクが始まります。

 

 

屋上から校庭を覗くと、命を賭けた逃走中が始まってるのが確認出来ます。もう始まってる!

……あっ、ゴリラが星四種火(せんぱい)を背負って校舎に入って行くのが見えました。これは早めに屋上に来そうですね。ラッキー。

 

 

「なっ、なに?」

「やーくん?」

 

 

不安そうにしているりーさんとゆきちゃんを宥めます。この際、私自身も困惑している風なのを忘れないようにしましょう。あまりにも超然としていると前述した“不審な下準備”に該当します。

 

 

『屋上!? なら絶対に鍵をかけて絶対に誰も入れちゃダメ!!ひっ!だれか職員室の――』

「神山先生!……神山先生!!」

 

 

めぐねぇが同僚メガネからの電話を受けてました。

屋上施錠のフラグです。

この時に、この助言に従うと屋上手前攻防戦がキャンセルになります。タイムを意識するなら、これに従うべきですが、良い稼ぎを逃す訳には行きません。

 

「……先生は、校舎の様子を見てきます。丈槍さん達は此処に居て下さい。扉は閉めて、私や他の生徒じゃない時は絶対に開けないように」

「めっ、めぐねぇ……」

「大丈夫です。……大丈夫ですからね」

 

めぐねぇがそう言って、校舎に消えていきます。

おっ、待てぃ(江戸っ子)。私も行きましょう。居て下さい(居るとは言ってない)の精神です。

 

 

「柳くん!駄目よ。……危ないわ」

 

 

知ってる。

でも、行くの。スイートポテトの為に。

初日に、焼き芋。食べたいでしょう?私は食べたい。

 

怯えるゆきちゃんをりーさんに任せ、私も校舎の中に入ります。

 

 

こちら現場です。

はい。有り体に言って、地獄です。以上。

 

「こっ、こんなの……ありえないっ……!」

 

私が隣に来ている事も気付かずにショックを受けているめぐねぇは正気度減少中です。

でも、安心してください。初日に焼き芋を食べさせれば、減った正気度などちょっちょいのちょいです。

 

 

「……柳!めぐねぇ!」

 

 

おっ、どんどん増えていく『かれら』の隙間から、強化石(せんぱい)を背負ったくるみが走ってきました。……校庭から三階まで駆け上がっているのに息すら切れていません。覚醒前にこれなら、覚醒後にゴリラになるのは必然だったんですね。

 

 

「いったい何が起きたんですか!?」

「わかんないっ!いきなり襲って来たんだよ!ゾンビみたいに……それで、先輩が……!」

「っ、屋上ならまだ安全なはずです!そちらに行って下さい!」

「はいっ!」

 

 

おう、気を付けろ。

因みにシャベルなら分かりやすい所に置いといたからな(優しさ)。

 

めぐねぇが『かれら』の一人と目が合いました。

 

 

「――ひっ!」

 

 

さて。増えた『かれら』がこちらの存在を捉えました。

 

『かれら』との戦闘、開始です。

 

初戦である屋上手前攻防戦は、時間制限付きの無限湧きイベントで、クリア条件は『時間経過』か『屋上に立てこもる』で達成します。

スキルが整ってない内に、大勢とやり合うのは大変ですが、まとまった数出てくるので良い稼ぎになります。

普通プレイでもスキルポイントを手に入れる為、何体か狩るのが定石ですね。

無論、私もそれに従います。特に狙い目は不良『かれら』です。焼き芋の為に、わかりやすいリーゼントな『かれら』には犠牲になって貰いましょう。

 

だから、掃除ロッカーにバールを隠しておいたんですね(例の構文)。

 

呆然とするめぐねぇを尻目に颯爽と前に出ます。

ふっ……ショタ無双する瞬間をとくと見るんだなぁ!私のプレイスキルの見せ所さんです。見とけよ見とけよぉ(自信)

 

 

ロッカー の中に バール が ある!

取りに 行く!

 

 

「――やーくん、ダメぇ!!」

 

 

あっ!(腕を捕まれる)

 

このゆきちゃん(唐突なエントリー) つよい!(フィジカル)

 

ぼぼぼぼぼぼぼっ!(振りほどけない) ぼあっ!(ダメージ)

 

 

ゆきちゃあああああん!?

なぁんで邪魔するのぉ!?いつもだったら屋上にって……そういえばこれ幼馴染ルートだっ、たぁ!(池沼)

好感度が高いと不安で見に来るのを忘れてました。

 

おおおおおちつけ、まだ焦る時間じゃあありません。

慌てず騒がず、抵抗しましょう。

 

離して?

 

 

「嫌!」

 

 

なんで?(半ギレ)

 

 

「危ないよやーくん!逃げよっ!もう、みんな……無理だよぉ!」

 

 

危なくない!無理じゃない!まだ間に合う!まだ行けるから!バールがあれば大丈夫だから!バールでいけるからぁ!

うぉぉ!離せぇ!流行らせコラっ!(がっこうぐらしRTA) ムーミン野郎!(精一杯の罵倒)

 

くっ、クソザコ能力値のこのショタではゆきちゃんですら振りほどけません!

ち、ぢぐじょぉ……!

こっ、この中に『合気道』持ちの方はいらっしゃいませんか!いらっしゃったらこのゆきちゃん投げ飛ばしてくださぁい!

 

うわぁぁ!『かれら』が来た!無限湧き特有の複数で来たぁ!

むっ、無防備では流石のプレイスキルを持つ私でも無理です!ゆきちゃん離して!バール取らせて!頼むお願い何でもするからぁ!

 

ぬわぁぁぁぁん!(絶望)

こんな事なら「私のプレイスキルで行けます(笑)」とか言ってこんなショタ使うんじゃなかったぁぁ!さいっしょから『アーノルド・シュワルツェネッガー』って入力して、ターミネータープレイにしときゃ良かったよもぉぉん!!

 

ああ……終わっ……えっ、あれ?

めぐねぇが前に出てきました。えっ、なして……?

 

 

――ガッシャンッッ!!

 

 

 

………………

…………

……

 

 

万寿くんは、職員の間でも有名だ。

なんでも卒なくこなして、面倒見も良くて下手な女の子よりも可愛くて――幼馴染思いの子。

友達だって多くて、学校中の子と知り合いだって言われてる。……ちょこっと灰色な青春を送った私には、正直、ちょっと羨ましいぐらいな子だ。

それに優しい子だ。

……先生の目を盗んで、答案を幼馴染に見せるというのが果たして優しさなのかと思わなくもないが、それでも優しい子だ。

 

それに丈槍さんもちょっとおっちょこちょいで、勉強をおろそかにする気弱な子なのに、万寿くんの事になるともの凄い行動と主張をし出す面白い子だった。

 

丈槍さんの補習を見ている内に、なにかと万寿くんとも仲良くなった。

二人との関係は、他の生徒よりもちょっと抜きん出ていた。充実していた。

 

 

このまま続けば、きっと――安穏とした幸せが、あったはずなのに。

 

 

なにかありえない事が起きた。

突然の悲鳴、逃げ惑う生徒の姿。神山先生の切羽詰まった電話。

 

校舎に入って見えた――人が人を喰らおうと襲う凄惨。

 

ほんの数分前の現実は、血で潰され始めた。

 

 

恵飛須沢さんが一人の男子生徒を背負って走って来た。

状況を聞いても、まるで映画みたいとしか思えない。彼女を屋上へ誘導する事しか私には出来なかった。

 

 

――その時。

 

ふら、と――万寿くんが、私の前に出てきた。

 

どうして、と思う前に、その後ろから彼の腕を掴む丈槍さんも出てきた。

 

 

……つくづく私の話を聞かない二人だ、と逃避ぎみに思った。

 

 

「ゆきちゃん離して!」

「危ないよやーくん!逃げよっ!もう、みんな……無理だよぉ!」

 

「――無理じゃない!!」

 

それは彼にしては強い口調だった。聞いた事が無いくらい激しい叫びだった。

 

「無理なんかじゃない!まだ……まだ間に合う!絶対に!」

 

丈槍さんに引っ張られながら伸ばされた彼の手は、前に伸ばされている。

その先には――襲われ、血を流しながら、変貌していく生徒だった『かれら』。……万寿くんの友達だったはずの『かれら』がいた。

 

……万寿くんは信じられないんだ。

たった数分。ほんのその時まであったはずの輝かしい記憶、思い出。それがこんな凄惨なもので塗り潰されているのを。

 

『かれら』の一人が万寿くんへと手を伸ばす。

それが友好的ではない事は私にも分かった。……それはきっと万寿くんにも伝わっただろう。

 

伸ばした手を下げた彼の目に、恐怖が浮かんだのを横目で見て……

 

 

「―――」

 

私の中に駆け巡ったあの時の感情は、今でも言葉で表せない。

 

 

――ガッシャンッッ!!

我に返ったのはロッカーが倒れた音でだった。

『かれら』の一人に当たって倒れた。先生が、私が、生徒だった『かれら』を突き飛ばして……ロッカーが倒れた。

 

「めぐねぇ……?」

 

茫然と呟く万寿くんの声が背中から聞こえた。ロッカーに潰された『かれら』の一人は血を流しながら動かない。

――殺した。私が。

 

「めぐねぇ、前!」

 

丈槍さんの声が聞こえた。

前を向くと、『かれら』の一人がこちらに手を伸ばして近寄って来ていた。口は裂け、血と唾液が溢れて気持ち悪い。

一歩後ずさる。カンッ、と足に何かが当たった。

視線を向ける。そこには、ロッカーが倒れた時に散乱したであろう掃除箒に混じって。

 

――銀色に輝く長柄の()()()があった。

 

 

「――」

 

 

なんでここにあるかなんて考えなかった。葛藤は直ぐ。

 

 

――目の前には、守るべき生徒()()()『かれら』――

 

――背には、守るべき生徒()()()二人――

 

 

……葛藤なんて言ったが。

今思えば、そんなものあってないようなものだったのかもしれない。

 

 

確かな重さの物を振り抜いた。ぐしゃりと湿った柔らかい感覚は今も手に残っている。自分のせいで倒れたあの人型は、忘れられない。

息は切れ、足だって震えたし、気を抜けばその場で吐きたくなるくらい気持ち悪かった。

 

 

「私の……」

 

 

それでも……きっと。

 

 

「私の生徒に手を出さないで……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『かれら』の数は、悲鳴が聞こえなくなると一緒に増えていった。

対処出来ないのは直ぐに分かって、急いで私達は屋上へと戻った。

鍵を掛け、農業用具があったロッカーを倒して、バリケードを作る。直ぐに『かれら』が扉を叩いてきたけど、頑丈なおかげで『かれら』は入って来れない。

 

……屋上は安全だった。

 

血に塗れて茫然とする恵飛須沢さんを、泣きながら必死で抱きかかえる若狭さんと、その近くでスコップが突き刺さってる人型。

何があったかは一目瞭然だった。

 

それでも、ここは安全だった。

 

 

これは――現実だ。と私はその時初めて思った。

 

手に握る血塗れのバールが、それを如実に教えてくれた。

 

「め、ぐねぇ……」

「……っ……っ」

 

弱弱しく私を呼ぶ丈槍さんとこちらを見て震える万寿くんを、私は抱きしめる。

腕の中で震える二つの温もり。

それを守れた事は、確かに現実だ。

 

 

――私達の絶望はこの日、この時始まった。

 

――そして

 

――失いかけたものを守れたこの感覚だけが、私の、残された希望だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

なっ……なっ……!

 

私のバールがめぐねぇに盗まれたぁぁぁ!!!?

 

 

なぁんで覚醒めぐねぇに……?

ていうか、こっ、攻防戦……すっ、スキルポイント……!

 

すっ、すっ。

 

スイートポテトぉぉぉぉぉぉ!!!!(断末魔)

 

――――



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当日・夜 The Nightmare

 

めぐねぇに見せ場もバールもスイートポテトすらも奪われたRTAはーじまーるよー!!!!!!!

 

 

すぅー……はぁー(深呼吸)。

 

はい。

 

屋上手前攻防戦の達成条件である『屋上に立てこもる』を選択すると、『かれら』は扉をぶち破ろうとしてきます。

 

本来ならば耐久フェイズとしてボタン連打で耐えるのですが、めぐねぇがロッカーをバリケードにしたおかげでその必要がありません。

 

なので後は、『かれら』が飽きるまで(ドラム)でリズムを刻んでいるのを聞いているだけです。

おおよそ1分ほど。

いい休憩になりますね。

 

はい。

 

はぁ…………(クソデカ溜め息)。

あ ほ く さ(諸行無常) やめたらこのRTA?(栄枯盛衰)

 

なぁんでこういう時に限ってポカやらかすんですかねぇ!?ゆきちゃん幼馴染ルートなら今まで沢山やったダルルォ!?あっゆきちゃんルートやる時いつも「ゆきちゃんを危険に晒すなんて僕にはできない!」って言ってすぐ扉閉めてたわそれかそれだなそれだわぬわぁぁぁぁぁぁちぁぁぁぁくぁぁぁわぁぁぶぁぁっぁ!!

 

――続行します。

 

…………。

はい。理由を説明します。

まず、攻防戦が序盤でキャンセルされ、かつ稼ぎを行う時間ロスが無くなったおかげでタァイム自体は良い事。

そして、この序盤で『覚醒めぐねぇ』というレア中のレアを手中に納めた事です!

これって……勲章ですよぉ……?(ねっとり) 傷だらけのだけどな!

 

 

めぐねぇは主要キャラ唯一の成人女性という事もあってステータスは万能型。

家事全般は勿論、戦闘も出来るポテンシャルを持っています。

 

これだけ見るとゴリラ並みに有能に見えますが、弱点としてメンタルが脆いのと――生徒である『かれら』に攻撃することが出来ません。

びっくりするぐらい致命的です。

アウトブレイクが学校スタートである以上、当然、敵はそこにいた生徒の『かれら』が大半なので……まあ、有り体に言ってお荷物です(断言)

 

ですが、その弱点を無くす事が出来るイベントが定期的に発生します。

それが覚醒イベントです。

めぐねぇが『覚醒』するには、このイベントをクリアしなければなりません。

 

実に簡単そうに見えますが、これが実に難しいのです。

 

覚醒イベントは、敵と遭遇する・衝撃的なものを見るなどの“転機”を迎えると発生します。

そのイベントの際、めぐねぇは何とか奮起してその事実に向き合おうとします。

――で、大抵失敗します(無慈悲)

 

失敗すると正気度は、まるでかき氷器を回すようにガリガリ削れ、数秒その場から動けなくなります。敵と相対していた時などは、すぐに掴み・噛みつき・感染・『かれら』化の即死コンボを食らいます。

 

ですが、打って変わって。

成功すると生徒であった『かれら』相手に戦ってくれるようになり……なんか補正が掛かるようになるらしいです(リサーチ不足)。

正気度が下がりにくくなるんだっけかな……(不安)

……いや、だって覚醒めぐねぇになると思わなかったんだもん!?私は悪くない!めぐねぇが悪い!(責任転嫁)

 

まあ、めぐねぇ特有の詰めの甘さがあるので、要介護なのは変わらないみたいですが、ステータスの高さを存分に発揮してくれるようになるのは実に魅力的です。

 

今回は、私が運良く手に入れた最強バールもあってか成功したようですね。

能力値クソザコなショタが使って強いなら、ステータスだけは万能なめぐねぇが使えば、鬼に金棒、ゴリラにシャベルなんだよなぁ……。

 

……そう考えると、ロスもロスじゃないように見えますねぇ!(ポジティブ)

めぐねぇも頑張ってるし、私も頑張らないとっ!

でも、バールは返して(切実)

 

よって、止まりません。

主人公のスキルポイントに不安がありますが、それを除けば結果的には良い感じになったんじゃないですかね(適当)

あっ?スイートポテト?……知らない子ですね……。

 

世の中には『急ガバ回れ』という名言があります。

きっと大丈夫でしょう。

 

 

 

「行った……のでしょうか……」

 

 

おっ。丁度『かれら』の扉ドラムが終わったので耐久フェイズは終了しました。さっきのめぐねぇの台詞がその合図です。

一回暗転し、ここから場面は、夕方~夜に移ります。

 

 

 

「これから、どうなっちゃうの……?」

 

こちら現場です。

生き残った要介護(めぐねぇ)ゴリラ(くるみ)偽姉(りーさん)最可愛(ゆきちゃん)役立たず(ショタ)が、屋上にあった懐中電灯の周りに座ってます。近くには、シャベルが突き刺さったままの先輩もいます。

場の空気は時間が過ぎる毎に死んでいっています。宜しくお願いします。

 

はい、初めての夜は空気最悪です。

覚醒めぐねぇを以てしてもこれを脱する事は出来ません。

本当なら……そう、本当ならここに、なぁ?火があるはずだったんだよなぁ!?あれれー?おっかしいぞー?(白目)

 

ともかく、このままでは宜しくありません。

 

 

ですが、やれる事は限られています。

 

食事を与える事は出来ます。

……ほっ、本当ならここでやきっ焼き芋、だったのですが!(滲み出る悔しさ)

火が無いので、食べる事が出来ません。

ですので、キャベツを与える…………のは待ちましょう。

 

このゲームは狡猾です。

大抵のプレイヤーは満腹度を心配し、プランターの野菜を皆に与えようとします。

……満腹度を増やす事は、確かに重要です。

 

ですが、こんな絶望的な状況で、粗食以下の餌を貪ると逆に正気度が減っていきます。特に初日で気持ちに整理がついていないので、余計に減ります。

すぐに変化として現れませんが、後々に響いていきます。

ので、今日一日は我慢しましょう。チャート通りに行けば、明日にはまだ文明的なものが食べれますし。

 

会話による好感度上げも、ゆきちゃん幼馴染ルートなので、特に何もしなくても心配ありません。

 

よって――後は寝ましょう。

嫌な事があったら、さっさと寝るのがいい。この世の真理です。ニーチェも言ってました(賢いアピール)

時間を無駄にせず、就寝準備に入りましょう。

 

 

おう、りーさん!そのダイナマイトボディを隠せるようなブルーシートはあるかい?

 

「…………」

 

ん?りーさん?

 

「……えっ?ああ、ブルーシート?そこにあるわ」

 

ベネ。

ブルーシートは屋上にある寝具として唯一使えるものです。何もなく寝るよりはかなりマシです。

返答が遅かったのは、流石に疲労でしょう。

 

 

では、皆に今日はもう寝る事を提案します。

ブルーシートでくるまって一緒に寝ようぜ!

コンクリブルーシートはテンション下がるけど、キャンプに来たみたいでテンション上がるよなぁ!?(実質プラマイゼロ)

 

 

「……うん、やーくんと一緒に寝る……」

「そうですね。このままでいても気が滅入るだけですし……」

 

 

幼馴染ルート不使用の場合、好感度上げてないと大抵嫌がられて蹴られる提案ですが、ゆきちゃん幼馴染ルートなのでそこは問題ありません。

ゆきちゃんとめぐねぇはともかく、華の女子高生二人は戸惑いを見せますが「もう二人は家族みたいなもんやし(平行世界の記憶)」でゴリ押します。

 

お前の知らないお前と一緒に寝た事があるから問題ない(支離滅裂)

 

では、ブルーシートを取ります。園芸部のプランターの近くにあるので、大きめのを持っていきましょう。

 

あっ、シャベルに刺さったままの先輩。

……今回は先輩殺害シーンには関与してなかったのであれですが、絶命するまで滅多刺しにしてますね。正気度減りますねクォレは(実際、今減った)。

 

公共の福祉です。ブルーシートを掛けて隠してあげましょう。このままにしてると、視界に入る毎に正気度が減ります。

 

 

「……柳」

 

 

先輩を労った(ように見える)ので、まだゴリラじゃないくるみちゃんの正気度が少し回復します。

好感度も恩恵で上がっていますし、この勢いならば明日の朝にはクルミ・クルミとして活躍してくれる事でしょう。

 

 

では、皆でもそもそとブルーシートに包まります。

ゆきちゃん幼馴染ルートで皆まんべんなく好感度が高いので、大きいの一枚に皆で入ります。人肌でぽっかぽかやぞ(ご満悦)。

 

好感度が高いキャラと同じ布団を共にすると正気度が大幅に回復します。現状ゆきちゃんが一番上がり幅が大きいです。

まあ、幼馴染だし安心は一塩なのでしょう(ほっこり)

 

「あったかぁい……」

 

ゆきちゃんがすり寄ってきます。ああ~……最高や……!(癒し)

 

「ふふっ、モテモテね。柳くん」

「…………」

「ちゃんとぎゅーってしますからね。もう怖くないですよ」

 

おっ、りーさんが軽口を言いました。……意外に正気度は減ってない?うーん、まあ中間くらいでしょうか。

くるみちゃんは表情が落ち着いてきました。これは明日に期待です。

あと、めぐねぇ。ゆきちゃんごと抱き締めてくるのはいいけど、バールが当たってダメージ受けたんですが今。意地でも離さない気だなこいつ。

盗んだバールを持ちながら一緒に寝るのは気持ちいいか?(煽り)

 

 

では、就寝に入ります。

おやすみなさーい。

 

 

 

ここから、本格的ながっこうぐらし!が始まる為、フィールドの読み込みに少し時間が掛かります。

 

ので、暗転している間(NOW LOADING)

明日・二日目の予定についてお話ししましょうか。

 

 

二日目には、必ず三階職員室に向かわねばなりません。

そこには本RTAにおける、薬にも毒にもなる物への行き先が書かれた物があります(意味深)

 

まあ、職員用緊急避難マニュアルの事なんですけどね(暴露)。キャラがそれを読むと、正気度がかなり減りますが、その代わり隠された地下室へのルートが開放されます。

そこには多くの物資と、感染を一度だけ食い止める重要アイテム『抗ウイルス剤』があるのです。

 

高校脱出までに手に入る数は一本のみなので、通常プレイではエリクサー並みに出し渋るやつです。

 

しかし、このRTAでははっきり言って邪魔者です

 

本RTAの目指す『一人ぼっちの留年』達成条件の一部に『主人公が感染状態である事』がありますが、これのせいでリセットポイントを発生させています。

 

抗ウイルス剤を所持している状態で感染した場合、主要キャラの好感度の関係上、たとえ拒否したとしても無理くり使ってきます(11敗)

所持してなくても、存在を知っていれば、無理して地下室まで取りに行ってしまうのです(4敗) 取りに行く場合、取りに行った人は高確率で感染して帰ってきます。

やめてくれよ……(恐怖)

 

こうなると『一人ぼっちの留年』エンドには行けません。

その為、誰かに知られる前に抗ウイルス剤の事が書いてあるマニュアルをどうにかする必要があります。

 

本当は私以外の誰かが感染した時の保険の為に取っておきたいのですが……地下室まで行く時間ロスと前述の条件不達成の可能性を踏まえて、やりません!(RTA走者の鑑)。

 

 

 

 

 

……………もう私は、泣きながら笑うというやべぇ顔をしながら、抗ウイルス剤片手ににじり寄ってくるゴリラ(噛み跡付き)と筋力対抗フェイズをしたくありません(本音)

コントローラーと親指が死にました。その犠牲でも突破出来ませんでした……。

 

ので。

明日は、脇目も振らずに職員室に向かい、地下室の存在が知られる前にマニュアルをこの世から抹消しましょう。

焼き芋の燃料には良い代物です。

 

 

明日の探索には、私とゴリラになっているであろうくるみちゃん。あとは、おそらく覚醒めぐねぇが付いてくるでしょう。

頭数は三人。これなら何があっても大丈夫です(自信)

 

まあ、反対されるでしょうが、このゲームにおける私の実績と信頼を知っている皆様なら、大丈夫なことは分かりますね?

まあ、ダメだったら先駆者兄貴みたいに振り切って行けばいいねん。

 

 

おっ、そろそろ始まりますね。

 

 

 

 

……それにしても素朴な疑問なんですが、伝説の剣の台座みたいになってた先輩の死体って二日目の朝には消えてるんですけど、何でなんですかね?

蒸発でもしたんかな(適当)

まあ、ゲーム上の仕様なんでしょうけど。

 

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

 

――寝る前に思った事。

ブルーシートがあるとはいえ、コンクリートで寝るのは身体痛くしそうだな。誰かと一緒に寝るって、暖かくて安心するんだな。先輩の死体が消えていますように。

 

今までの事が全部夢でありますように。

 

 

――起きた時に思った事。

もう二度とコンクリートでは寝ない。誰かと一緒に寝たおかげか意外と頭がスッキリした。先輩の事をどうにかしないと。

 

今までの事は、全部が全部悪夢(げんじつ)だった。

 

 

「……」

 

ぼんやりと空に浮かぶ夜の雲。地平線から出てくる小さな朝の光。

屋上から見える景色は実に綺麗だった。

校庭に蠢く人型と、遠くの街並みから浮かぶ大量の黒煙さえ無ければ。

 

心の底から、()はそう思っただろう。

 

 

「はぁーあ……」

 

屋上の手すりに凭れかかる。からん、と手すりに立て掛けたシャベルが風で傾いた。

()()()()()()()()が、やけに鬱陶しくて、ひどく辛い。

 

 

「――恵飛須沢さん?」

 

後ろを向くと、めぐねぇが立っていた。

優しいめぐねぇには似つかわしくない、血がついたままの銀色のバールを手に持って。

 

「……見てた?」

「見て……た?なにを……?」

「いや、見てないなら、いい」

 

私の問いにめぐねぇは一瞬戸惑った。

でも、突き刺さっていたはずのシャベル。手すりへと延びる赤い跡。べっとりとへばりつく手すりの赤色で……察してくれた。

 

 

「……ごめんなさい。嫌なことさせてしまったみたいですね」

「……いいって。私が、やったんだから」

「恵飛須沢さん……」

 

めぐねぇが私の隣に立つ。私と同じように景色を見る。

 

目に見えるのはどうしようもない悪夢だけ。

めぐねぇが小さく「夢であったら良かったのに」と呟いたのが聞こえた。

 

「……私さ。さっき死のうかなって思ったんだ」

 

めぐねぇが私を見てくる。

ひどく悲しげで焦燥した表情だった。

 

「最初は……埋めようとしたんだけど。畑に埋めるのは皆も抵抗あるだろうなって思って。でも、このままにしとくのもダメだから…………それで、引きずったんだ。身体に、手を通して……」

「…………」

「泣きたくなるくらい、冷たかった」

 

抱きつくのはぼんやりと浮かんでいた夢だった。

叶った。こんなバカらしい悪夢が、握り潰すように叶えてくれた。

 

「終わった時。気づけば抜け落ちてたシャベルが見えて……刺さるくらいだから、これで首でもやれば一発だろうって」

 

刺した感覚は手に残っていた。

向ける側が、自分か自分じゃないかってだけの違いだった。

 

「それで――」

「もういい、恵飛須沢さん。もう、言わないで」

 

ふわり、と何かに包まれた感覚。抱き締められたのは直ぐにわかった。

そう、これだ。寝る時にも感じたこの“暖かさ”。それを思い出したら……シャベルがそれ以上動かなかった。

 

「こんな時、どう言えばいいか。私にはわかりません。でも――私が、皆を守ります」

「みんな……?」

「ええ、丈槍さんと万寿くん。若狭さんも、勿論恵飛須沢さんだって。絶対に、私が守りますからね」

 

その言葉を聞いて。

私の視界が急に晴れたような気がした。

 

「初めて……」

「うん?」

「初めて、めぐねぇを先生って呼びたくなった」

「……出来れば、もっと前に言って欲しかったです」

 

「こっ、これからはちゃんと佐倉先生って呼んだ方がいい?」

「いいえ。もうめぐねぇで結構です。その代わり――これから恵比須沢さんの事、くるみさんって呼ぶから」

 

照れ臭くなって離れる。

上がってきた朝日のせいか、顔が暑い。

 

 

「……ん」

 

シャベルを持つ方の手を、めぐねぇに伸ばす。

それを見て、めぐねぇはポカンとした表情を浮かべていた。

あ~……めぐねぇ、こういうのあんま知らなさそうだもんな。仕方なく、めぐねぇのバールを持つ方の手を引っ張った。

 

「こうだよ。こう」

「あっ……」

 

こつんっ、と握った拳同士を当たる。シャベルとバールが微かな金属音を響かせた。

友達が、親友がやるような――友情の証。ちょっとやってみたかった事が出来て、嬉しい。

 

軽く深呼吸をする。さっきの光景がほんのちょっとだけマシに見えた。

 

「これからどうすんだ。めぐねぇ」

「え?あっ……そうね……取り敢えず、職員室に行こうかなって。そこなら屋上からすぐだし、非常時に用意されたマニュアルや宿直用に保存食もあると思うの」

「よっしゃ。んじゃあまずはそこだな」

 

「……くるみさん。その――」

「――自分がやるからって言うなよ?」

 

私は手に持つシャベルを見せる。

そこにはまだ赤黒い跡が残っている。めぐねぇのバールと同じように。

 

「めぐねぇが皆を守ってくれるんなら――私も。皆を守りたい。めぐねぇを守りたい」

 

意識して、シャベルを強く握り締める。

 

 

「お願いだから、これに――縋らせてほしい」

 

 

少しして。めぐねぇは軽くため息を吐くと、そっとまた私を抱き締めてくれた。

 

「無理はしない事。いい?」

「めぐねぇもな」

「もう」

 

もぞもぞと後ろで動く音が聞こえた。

三人が起きたみたいだ。

私は、急いでめぐねぇから離れて、意味もなくシャベルを担ぎ、腰に手を当てた。

 

「みんな、おはようっ!それで早速だが……みんなでサバイバル、するぞ!」

 

空元気でも明るく叫ぶ。

皆には私のような目覚めをしてほしくない。

それが嘘でも、まやかしでも――明るく一日を始めさせたい。

 

 

 

おやすみ、()

 

おはよう、()()()

 

 

今日から、この悪夢(げんじつ)を生き抜いていこう。

 

“つづける”か、“おわる”か。

 

あたしに残されたのは、その選択肢だけなのだ。

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

「んじゃ、言った通り。あたし達は職員室を見てくる」

「一時間以内には戻ります。直ぐにごはんも持ってきますからね」

 

 

やはり職員室ですか……。

いつ出発を?私も同行する(花京院並感)

 

 

「柳は駄目だ」

「万寿くんはダメです」

 

 

なんで?(半ギレ)

 

 

「いや、だってお前……あたしより弱いだろ、たぶん」

 

 

お前が……お前が言うのか……!

ここにいるキャラ全員の筋力値を足しても、尚も上回るお前が!?

……何も反論出来ないでしょうが!(敗北)

 

 

「そうですよ。武器も無いですし……危ないんですよ?」

 

 

その武器をお前が持ってるんだよなぁ!?

それがないと今のショタじゃあ確かに危ないんだよなぁ!?(敗北)

 

……よし、問題ないな!(0勝2敗)

バカ野郎お前私は行くぞお前!(強行突破)

 

 

「駄目だよやーくんっ!」

「そうよ、柳くん。これは遊びじゃないのよ?」

 

 

そうだよ!遊びじゃねぇんだよRTAはなぁ!(至言)

 

うわっ、あにすんだこら……!

離せこのっ……!

 

流行らせコラ!(がっこうぐらしRTA)

 

 

流行らせコラァ!!(がっこうぐらしRTA)

 

 

 




抵抗しながら、番宣するRTA走者の鑑。



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二日目・午前 Restore

主人公が戦力外通告とかいう前代未聞なイミフRTAはーじまーるよー!

 

 

 

「じゃあ、行ってくるからな。柳、頼むから大人しくしてろよ」

「心配してくれるのはわかります。ですけど、本当に危ないんです。……わかってね、万寿くん」

 

 

無常にも扉が閉まって行きます。

無事ゴリラとなっていたくるみちゃんと覚醒めぐねぇ(バール万引き犯)が行ってしまいました。

 

私(主人公)を残して。私(タイム)を残して……私(RTA)を、残して……!!

 

なーぜーなーのーくわぁぁぁ!!!

 

 

「うにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!」

 

 

なぁんでまた!?まぁたぁ!?

あれか、めぐねぇか!まためぐねぇのせいか!(責任転嫁)

うわぁぁぁぁぁ!!ぬわぁぁぁぁぁ!!またガバったぁぁぁぁぁ!!!

 

 

「うにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!」

「あの……柳くん?どうして、ほっぺ……」

 

 

八つ当たりだよぉ!やってれば正気度回復するから無駄のない効率的な八つ当たりなんだよぉ!!(RTA走者の鑑)

くそぉ……くそぅ……。

ゆきちゃんのほんわかボイスが私のハートに響くぜっ……!(癒し効果)

 

 

「うにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!」

 

 

……最高や。

やっぱりムカッ腹が立った時は、ゆきちゃんのほっぺをむにゅるに限るぜ。

 

はぁ……いますぐ職員室の書類だけ焼き尽くす隕石とか落ちねぇかな……。

ゾンビ化ウイルスとか、一振りで三人薙ぎ倒すシャベルゴリラがいるんだから、そういう隕石だってあってもいいだろ!(暴論)

落ちろ!(祈り)…………落ちたな(幻覚)。

 

 

「うにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ――ぷへっ」

 

 

ふぅ……(満足)。正気度回復はこのくらいでいいでしょう。

 

さて。これから本当にどうしましょうか。

正直、ここまでチャートが狂うと再走も考えねばなりません。

普通なら、気軽に「再走します!」って直ぐにリセットボタンを押します。

そして、アニメ版がっこうぐらしを三周して、一週間寝込んでから、再走します。実に気軽な再走です(お目々グルグル)。

 

ですが、ゆきちゃん幼馴染ルートでの、覚醒めぐねぇ・二日目万全ゴリラという、この立場は中々無いので手放したくないのが本当なとこです。

もう最初からしたぁない!リセットしたぁないんやワイは!(豹変)

 

それに――私は成長しました。

このまま茫然と続行を選ぶような以前の私は、ガバの海に流れて消えたのです。

 

 

「大丈夫?」

「……うん。今回も熱烈な愛でした……」

「あんな猛然とほっぺをぐにぐにするのが愛なのね……」

「ふふふ。愛が強いから、熱も良く分かるの」

「ほっぺが林檎みたいになってれば、そりゃあね」

 

 

幾つもの屍を晒してきた歴戦の私は、非戦闘者プレイもした事があるので――この時間がいかに暇かもわかります。

行動範囲がまだ屋上しかないので、出来る事は野菜の世話と会話だけ。

野菜の世話は、特に消費してないのでいらないですし、会話イベントもゆきちゃん幼馴染ルートのおかげで、今やる必要性はありません。後々、いっぱいありますし。

 

めぐねぇ達が帰ってくるのはリアルタイムで大体、五分程度。

今時走らない流行遅れの『かれら』に、余裕で帰ってくる事でしょう。

 

暇な上に、時間が良い感じに余る……実に良いものです。

 

ですので。

 

 

み な さ ま の た め に ~

 

 

これ以上のガバが起きないように――攻略WIKIを見ようと思います

(時間を無駄にしないのは)当たり前だよなぁ?情報戦が物を言うってそれ一番言われてるから。

 

形振り構っていられません。(ガバを)やるか、(ガバに)やられるか。それがRTAというものなのです。

 

私の全ての敗因は『覚醒めぐねぇ』です。めぐねぇのせいなのです(これをガバのなすり付けと言います)。

ですので、今の時間を利用して『覚醒めぐねぇ』の特性を完全に把握します。「こんなレアな事滅多に起こらねぇし、スルーで大丈夫大丈夫」という過去の私を全力でぶん殴って行きましょう。

それにこうなってしまった以上、前線で戦っているだけではもう無理なので、後方でのタイム短縮方法も予習しておきます。

 

元々のチャートを保全するような形でオリチャ―を混ぜ込んで行けば、もう何のガバもない素晴らしいRTAになるでしょう。

こういう時の為に、PCを側に置いといたんですね(例の構文)

 

すごいよぉ、かがくのしょうりだよぉ!(ゆきちゃん並感)

 

 

「そういえば、自己紹介してなかったわよね。私、若狭悠里っていうの。宜しくね、丈槍由紀さん」

「……私の事知ってるの?」

「ええ。柳くんといつも一緒にいる子猫みたいな子って有名よ?」

「そっ、そんな子猫みたいにかわいいなんて……照れるよぉ」

「……柳くんに近づく人に誰彼構わず威嚇するって意味だったんだけど……」

 

 

勿論、片手はコントローラーに。

ボタン連打して、会話イベントを飛ばしていきます。

こちらに話を振られる時がありますが、この会話イベントで好感度が増えはしても、減りはしません。それにゆきちゃん幼馴染ルートなので、たとえ下手な選択をしても滅多な事はありません。

 

適当に流して、チャート再構築に集中しましょう。

 

 

「やーくんはやーくんだよ!」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

「そうね。柳くんとは良く話していたし……ねっ?柳くん」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

「……そうなの?」

「ええ、たまに園芸部の仕事を手伝って貰ったりとか……ありがたかったわねぇ、私以外真面目にやる人居なくて……」

「……ふぅーん。やーくん、そんな事してたんだ。私がめぐねぇとの補習の時にやってたの?」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

「私を置いて?若狭さんと?二人っきりで?」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

「ふぅーん……」

「あっ……。そっ、それよりもっ!今の話をしましょう。少し、怖いけども……」

 

 

さて、攻略WIKIを立ち上げましょう。

ブックマークバーに登録してたので、キーボード打つよりもタイム短縮ですね。

 

あっ、『やさしいきょうしつ』エンドRTAがまた世界記録更新されてる。

まぁた、ゆきちゃん化めぐねぇが量産されたのか、(精神)壊れるなぁ……。五分切ってるし、これ終わったら見よ。

 

ええっと。『覚醒めぐねぇ』の項目を……。

≪『かれら』との戦闘参加・各種補正の強化・主要キャラの正気度減少抑制・レアイベント発生率アップ≫……?

やべぇ……これは確かに覚醒めぐねぇですねクォレハ。これでさらに万能ステータスなんでしょ?ゴリラに匹敵するなぁおい。

……伏せ字で『ゴリねぇ』と書かれているのは見なかった事にしましょう。人権尊重ムーブ、いいゾこれ(自画自賛)

 

なら、二日目にゴリラがいるのは納得です。

正直好感度が高くて、不安は残ってました。覚醒めぐねぇの効果が効いたと思うのが自然でしょう。

ありがとう、めぐねぇ……でも、バール盗ってったのは忘れないよ赦さないよ。

 

ふむぅ……でも、やはり突発的戦闘イベントの耐性は弱いのか……覚悟を決める時間がいるとかでしょうか、めぐねぇ的に。

それでもこの序盤に戦闘キャラが増えるのはいいですね。

じゃあ、ただのショタが弾かれるのは当然か……。

 

これからどうしましょうか。

 

 

「……すごい事になっちゃったね」

「ええ、恵飛須沢さんが……その、殺した時から、頭がどうにかなっちゃいそう」

「……やーくん」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

「……やーくん?」

「……少しだけ、そっとしてあげましょ。だって、今二人がやろうとしてる事って――」

「……うん、そうだね。ぎゅー」

 

 

――……この状態では、三階制圧もダブルゴリラに頼らねばならないでしょう。三階は、数は居ないので問題無いとは思いますが。対策の為、非戦闘員にも武器を……あっ、枝切りバサミ。これはいいですね……――

 

 

「大丈夫だよ、やーくん。私はずっといるからね」

「………」

「どうかした?」

 

 

――……チョーカーさんも助けるには少し手間が要りますね。……うーん、夜はどうせ見張りはゴリラがやるだろうし、その時に何とかどうにか言い包めて……――

 

 

「二人は仲が良いわよね。幼馴染……だっけ」

「うん。あと許嫁なんだよ。前世も夫婦で、産まれ変わって夫婦なの。ねっ、やーくん」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

「二人が羨ましいわ……」

「そう……?」

「ええ、そういうの家族みたいで……私には、そんな……」

 

 

――……減少抑制があるとはいえ、減少はするみたいなのでそこはしっかり調整すべきか。……サツマイモ。これで……くそぅ、なんでこういう時だけは運が良いんだ……――

 

 

「どうして、こんな事になったのかしら……私何か悪い事した……?いままで頑張って真面目にしてきたのに……今度は私から何を奪うって言うの……また、一人にするの……?」

「若狭さん……?」

 

 

――……他の三人はともかく、りーさんは本当に知らぬ間に狂ってる事が多いからなぁ。ギリギリまで非戦闘者で正気度回復を優先した方がいいか、いやでもな……――

 

 

「――どうしてっ!なんでこうなるのよっ!なんでっ!……なんでっ!?」

「あわわわ……どっ、どうしよやーくん!若狭さんが……」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

「……えっと、えっと……そうだ!なればいいんだよ、若狭さん!」

「……なる?」

()()()()()()()()()()()なんだよ!……だって、そうじゃないと私とやーくんが家族になれないし」

 

 

――……だとすると“えんそく”も考える必要がありますね。戦闘員になれれば行けますが、このままの場合………――

 

 

「……か、ぞく」

「だからね。家族――その、ともだちに……なろ?一人じゃないよ、若狭さん。ねっ、やーくん!」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

「……いいの?」

「うん!……あっ、でも私の家族はやーくんだけだよ心配しないでねやーくん、やーくんの家族は私だけだよわかったやーくん?」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

「……()()()()()()()()()()()()。そうよね、なら私は……――」

「若狭さん……?」

 

 

――……ふむぅ。後は何か必要な事は……――

 

 

「ごめんなさい。丈槍さん。取り乱しちゃったりして。その……私でよければ友達になってくれない……?」

「うん!もちろんだよっ!よろしくね――りーさん!」

「りー、さん?」

「えっと、ね。若狭悠里さんだから、後ろを取ってりーさん!友達ならアダ名だよっ!」

「……――」

 

 

――……チョーカー救出、補強……物資……――

 

 

「……そうね。じゃあ、私はゆきちゃんって呼んでいいかしら?」

「――うん!」

 

「ありがとうゆきちゃん。ふふっ、友達とあだ名で呼び合うなんて初めて。嬉しいわ」

「……その、私もりーさんが、初めて」

「あら。じゃあ初めて同士ね。一緒」

「……!そうだね、一緒!」

 

 

――……ショッピングモール、駅は……どうしようか。タイム短縮にはどうしても頭数が……――

 

 

 

「それじゃあ、柳くんってのも変えたいわ。私もやーくんって――」

「それはダメ」

「……ダメ?」

「やーくんは私だけ。だからダメ」

「……じゃあ、なぎくん……だったらいい?友達として、友達の未来のお婿さんにあんまり他人行儀は嫌なの……」

「うっ……………うん、それなら、いいよ」

「ふふ、ありがとう。これからも宜しくね?なぎくん?」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

「あっ、やーくんの事も忘れてないよっ!私はやーくんが一番大好きだからねっ!不安にしてごめんねっ!愛してる!」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

 

 

「……………でも、私の事も愛してるって言ってたわよね」

「ええー?もーっ、りーさんったら。やーくんがそんなこ――」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

「――えっ?」

「昨日の夜だって抱き合って寝たものね」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

「――ええっ!?」

「熱烈だったわ」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

「……っ……っ!」

「――なーんて。ふふっ、冗談よ。こういうのって一回やってみたか……あの、ゆきちゃん?顔が……」

 

 

おっ、そうだな。

 

 

「いや、あのね?私も二人と仲良くなりたくてあの冗談だったのごめんな――」

「――やーくんの浮気者っっ!!」

 

 

――ふむ。

まあ、こんぐらい考えれば大丈夫でしょうか。

さて、会話イベントはどれだけ進――――ふんならばっ!?(ガード不能・中ダメージ・スタン付与)

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

 

 

屋上から、三階へ。

階段を下りる毎に、バールを握る手に力が入った。

 

「………」

 

遠くで聞こえる、人ならぬ呻き声。生徒()()()、『かれら』の声。

やらなくちゃいけない。教師である私には、守るべき生徒であるあの子達がいる。

 

「……めぐねぇ」

 

階段も終わる。

目の前には誰もいない。でも、曲がればいるだろう『かれら』が。

一緒に来てくれたくるみさんの顔は強張っていた。……その大きな瞳に映る私も、似たような顔だ。

 

「……取り敢えず、確認します。左は私、右はくるみさん。数が多ければ、一度引き返しましょう」

「ああ。わかった」

 

足音を経てず、静かに壁に背を当てる。聞こえる心音が、耳の奥でうるさい。

バールを見つめ、深呼吸。

大丈夫。あの子達の為なら、私は――出来る。

 

「――いくぞ」

 

くるみさんの言葉を合図に、意を決して、顔を覗かせて……

 

 

――拍子抜けした。

 

 

「……居ない?」

 

 

廊下には誰も居なかった。

まるで、あの悪夢が無かったかのように――直ぐに、廊下のあちらこちらに散らばる血が現実だと教えてくれたが。

 

「……どういう事?」

 

昨日を思い出す。

あの時、屋上まで戻る時は十数体の『かれら』がいた。教室にいたのも数えればもっといただろう。

なのに、今はとても閑散としていた。……移動したという事?

 

「めぐねぇ。教室には何人かいる。それでも二人、か……」

 

くるみさんが近くの教室を覗きこんでいる。

呟く言葉に嘘はないのが分かるほど、素直な驚きが見えた。

 

くるみさんへ手招きして、屋上への階段へと戻る。

ある意味、想定外の事態だった。

 

「あたし、リアル無双ゲーの気持ちだったんだけど……」

「……そのたとえはよくわかりませんが。沢山いる事は私も想像してました。……良い兆しなんでしょうか」

「……だと思う。罠……できると思わないしな」

 

茫然とよだれまみれで寄ってくる『かれら』。

そこに知性は見られなかったように思えた。そう考えれば、今は本当に運が良い時なのかもしれない。……罠だったら、おしまいだが。

 

「目的は変わりません。職員室へ」

「ああ」

 

とはいえ、このままびくついてる訳には行かない。

私達は廊下へと躍り出た。

 

ゆっくり進む中。

私達の現実だったものは崩れ去ったのを如実に教えられた。

割れた窓、血に塗れたハンカチ、跡、跡、跡――ひどい、匂い。

 

飲みこむ生唾に、その味が通るようで――吐き気がした。

 

 

 

 

職員室にいた『かれら』は三人ほどだった。

 

そしてその『かれら』は――私にとって、良き同僚たちだった人達。

あのジャージは、あの大きなお腹は、あの小さな背丈は――間違えようもなかった。

 

「………」

「めぐねぇ」

 

放心するのは一瞬。肩に乗せられた温もりが、我に返してくれた。

振り向く。強張りながらも――決心した瞳、光に反射するシャベルの金属。それが見えた。

 

「……あたしがやる。めぐねぇは、その……」

「いえ、ダメです。私も……」

 

そこで。

ひた……ひた……と、引き摺る足音が聞こえた。

 

 

「――っ!」

 

私達が覗いていた職員室の扉――その反対側。開いていたのだろうその扉から、一人の『かれら』が出てきた。

 

 

見た事のあるスーツだった――何故なら、私が一緒に選んだものだったから。

見た事のある姿だった――何故なら、私の同僚だったから。

見た事のある顔だった――何故なら、私の友人だったから。

 

 

「――神山先生……!」

 

の――『かれら』。

最後の、最期。私に警告してくれた――一番仲が良かった同僚。良き隣人、()()()もの。

 

ソレは、緩慢な動作で首をぐるりと動かすと、白く濁った目で私を捉えた。

小さな呻き声、求めるように手を伸ばして来る。それがどういう意味かは、口から延々と漏れ出る涎が教えてくれた。

 

「――っ、来やがった!」

 

先んじて動こうとするくるみさんを止める。

一歩前に出る。両手でバールを握り締め、ゆっくりと振り上げた。

 

誰もが見れば分かる。振り下ろす構え、攻撃する動き――それでも、『かれら』は向かって来た。

 

「……よかった」

 

これは神山先生――()()()『かれら』だ。

なら、私に出来るのは力を込めて、それを振り下ろすだけ。

 

 

「じゃあね、昭子ちゃん」

 

 

 

 

 

『かれら』についてわかった事。

動きが非常に緩慢。攻撃しようとしても避けようともしない――頭を潰せば、もう動かない。

職員室に立っているのが私とくるみさんだけになった時、それが良く分かった。同僚達が、未熟な私に教えてくれた最後の事だった。

 

 

職員室の扉を閉める。これで『かれら』は、こちらに気付かないだろう。

 

息を整えるくるみさんに努めて、落ち付いて声を掛けた。

 

「大丈夫?くるみさん」

「……大丈夫、だけど――大丈夫っ、じゃない……」

「……少し休んで。私が必要なものを集めてるから」

「それは、めぐねぇだって……」

「私は大丈夫です。ホラー映画とか大好きで良く見てましたから」

 

「――うそつけ。序盤に流れるBGMにすらビビりそうなくせに」

 

――なぜバレた。

とはいえ、くるみさんは休ませるべきだ。彼女を面談用のふかふかソファに座らせる。

勇気ある子。でも――彼女は私が守るべき生徒だ。

なら、任せるとこは任せる。気負うべきなものは気負う。そうしたメリハリは大切だ。

 

それに動いていた方が、気が紛れる。

 

集めるべきは先生達が持ち寄っていたもの。

暇な時に摘まむおやつ、宿直用の置いてあったカップ麺、私が持ってきていたダイエット用のカロリーメイト。

それを先生達の誰かのバッグに詰める。中身は捨てた。もう、使う人はいない。

 

集めるだけ集めた。バッグ二つに満載。これを切り詰めて行けば、三日は大丈夫なはず。

 

「ああ、でもカップ麺は……」

 

ポットはある。だが、お湯はどうしよう。

まさか直にバリボリ食べさせる訳にはいかない。屋上の太陽電池のおかげで電気は動いているし、ポットで沸かして持ってくのは……ああ、でも人数分は量が。往復するにしても『かれら』が潜んでる中は危険だ。誰かだけっても可哀そうだし、どうすれば――

 

「延長ケーブル」

 

ふと、くるみさんが声を掛けてきた。

ソファから立ち上がり、軽く屈伸している。

 

「あの丸くて、ケーブルがまとまってるやつだよ。どっかのコンセントに刺して、屋上まで持ってけば、あっちでもポットは使えるだろ。水はまだ出るだろうし」

 

……それは考えつかなかった。

それにしても。

 

「なっ、なぜ私がカップ麺で悩んでいるってわかったの……?」

 

やはりこの子は天才か。

頭も良く運動できるとか、心の中の若い私(今も!)が嫉妬僻みの嵐なんだが。

 

「いや、そりゃめぐねぇ――カップ麺両手にウロウロしてたら想像つくって」

「あっ……あー、これは恥ずかしいところを」

「ちょっと可愛かったよ、年の割に」

「もうっ、からかわな――今、なんて言いました?」

 

「さてっ、こーたいっ!今度は私が探すよ。めぐねぇは休んでな」

「今、なんて言いました?ねぇ、なんて言ったの?謝らないとバールがどこに飛ぶかわかりませんよ」

 

「――めーんごっ!」

 

くっ、かわいい。許す。

くるみさんは教えた用具棚を漁り始めた。あの中には、他にも使えそうなのがあったからきっといいのも見つけてくれるだろう。

 

その間に、私は――

 

「………」

 

生徒名簿を手に取った。

机に座り、綺麗な紙を取り出して、名簿を開く。

まず思い出すべきは――最初に殺した生徒の名前。

変わり果てた顔を思い出して、照らし合わせる――見つけた。その名前を書く。

次に書くのは、殺した同僚達の名前。一つ一つ、噛みしめるように書いた。

 

 

――『かれら』は生徒()()()。同僚()()()。良き隣人()()()

 

そう、()()()

 

だから――忘れる訳には行かない。

 

「………」

 

いつか、この罪が償える時。

忘れない為にも――殺した『かれら』の名前を書く。そう決めた。

 

書き終わり、ペンを置く。

少し、深呼吸をして、引き出しを開けた。

 

そこには――職員用緊急避難マニュアルと書かれた、仰々しい文書があった。部外秘と赤く書かれた表紙が、実にしかめっ面だ。

……赴任した際に渡されたこれ。埃をかぶるだけのものだと思っていたが、使う時が来るとは。

 

「――それが、マニュアル?すげぇこわい表紙」

 

気が付けば、くるみさんが肩越しからこちらの手元を見ていた。

背にはバッグの一つ。手には延長ケーブルとシャベル。あとは、腰に――縄?

 

「……それ、何に使うの?」

「ああ、この紐?まあまあ、気にしない気にしない」

 

そう言われると余計気になるんだが。

 

「で。そのマニュアル。今、読むのか?」

 

くるみさんに聞かれて、そうは思っていたが――彼女がもう準備万端なのに、悠々と読む訳には行かない。

 

「いいえ。()()()()()()()。大切なものですし、()()()()()()()()()()

「ああ、そう。まあ、情報の共有は必要だしな」

 

 

くるみさんに急かされるように、私はマニュアルをバッグを詰め、ポットとバールを持った。

……残った彼らの死体は、後で処理しよう。くるみさんのように。……ゲームみたいに自然と消えてくれればいいのに。

 

 

 

 

屋上までの道。

小さくカラカラとケーブルが延びる音だけが響いていた。

 

「――今がチャンスだと思う」

 

くるみちゃんが突然呟いた。

 

「このまま屋上にいたってダメだ。日除けは少ないし、雨でも降られれば風邪引いちまう」

 

それで、なんと言おうとしているかわかった。

 

「……どういう訳か、三階には数は居ないですもんね」

「ああ、階段にバリケードでも作って、三階にいるやつらを処理すれば――」

「――私達の安全地帯が手に入る」

「そゆこと。まあ、今は飯にしようぜ。あいつらも腹空かせてるだろうし」

 

まあ、私は腹空いてないからいらねぇけどな、とくるみさんは笑った。

……それは私もだ。あんなのを見た後に口に何か入れたら吐きそうだ。あの子達にも、あっちで済ませたと嘘をつこう。心配させないように。

 

 

階段を登る。

そこまで行けば、流石に緊張も解けてきた。

くるみさんと「なんとかなったね」と笑い合っていると、

 

 

――外で騒ぎ声が聞こえてきた。

 

 

「……っ!」

 

緩んだ緊張が、背筋に鋭く突き刺さる。

まさか、私達が居ない間に『かれら』が入って来た?それとも、噛まれた誰かが居て今襲ってきたのか?

 

直ぐに駆け出して、扉を開ける。

そこには――

 

 

「ぬぐぉぉぉ」

「やーくん大丈夫!?ごめんね、結構奥に入ったよねっ!」

「ごめんなさい、なぎくん!私が変な茶目っ気なんて出したから……!」

 

『かれら』よりもゾンビみたいな呻き声を上げながら蹲る万寿くんと、その周りでわたわたしている丈槍さんと若狭さんがいた。

 

特段、血の匂いはしなかった。

 

 

「なにやってんだあいつら……」

 

私も思う、くるみさん。

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

――持ってかれた!

ゆきちゃんのビンタで、HP半分が持ってかれた……!脳も揺らされた……!!

 

 

「やーくん大丈夫!?ごめんね、結構奥に入ったよねっ!」

 

 

入るどころかめり込んだ気がするんですが!?

痛恨の一撃と会心の一撃が、同時に入った気がするんですが!?

 

 

「ごめんなさい、なぎくん!私が変な茶目っ気なんて出したから……!」

 

 

茶目っ気って何言ったの!?

ゆきちゃんオークの腕力を獲得するほどの冗談っていったいどんな冗談なの!?

 

 

「――なにしてんだよお前ら。びっくりさせやがって……」

 

 

ああ、ゴリラが帰って来た。

……なに持ってきた……?

 

 

「んん?ああ、カップ麺」

 

 

ベネ。

回復量、高い。オデ、今ソレ、必要。

テ。オ湯ハ……?

 

 

「電気は使えるので、延長ケーブルを引いてきました。これで温かいものが食べれますよ」

 

 

なら、3分のを2分でお願い……そうすれば固めで美味しくタイムたんしゅ……ぐぅ。

 

 

「やーくぅぅぅん!」

 

 

 

 

 

 






―――
※解説
『やさしいきょうしつ』
達成条件:主要キャラが屋上で合流後、めぐねぇ以外が全滅する。

俗に言う、ゆきちゃん化めぐねぇエンド。
達成条件の容易さから、RTA走者(タイムのアクマ)に目を付けられた、色んな意味で悲惨なエンディング。

今日も日夜≪屋上で立て籠った後、わざと扉を開け放ち、『かれら』を招き入れてめぐねぇ以外を殺す≫という非人道的走法によって、世界記録更新(ゆきちゃん化めぐねぇ)が量産され続けている。
なお、良心の呵責に耐え切れず、ゆきちゃん化する走者も現れる。お前がやったんやろがいっ!





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二日目・午後 Warm

(書きたい事が多くて取捨選択している最中に、走者兄貴達のを見てさらに書きたい事が増えてぬわあああとなって遅れたので)初投稿です。

ちょっと長いけど、めーんごっ!


戦闘力皆無なはずのゆきちゃんにビンタされて、HP半分持ってかれたクソザコショタのRTA、はーじまーるよー!

 

 

……。

かなり叫んでみましょう。

 

元気でーーーーすっ!(やけくそ)

 

ゴリラズがカップ麺を持ってきてくれて助かりました。もし無ければ、私はリセットの向こう岸へと繰り出していたとこでしょう。

 

 

朝食兼早めの昼食の時間です。

皆で輪になって、カップ麺を食べましょう。

 

ポットと延長ケーブルを持ってきてくれているので、皆が食べる事ができます。これらが無ければ、お湯が足りず、あぶれた誰かがカップ麺をクッキーモンスター(動詞)しなければならなかったのでありがたいです。

こうした差を作ってしまうと、正気度増減の値が変化しやすいので注意。ラブ&ピース!平和で平等なのが一番!

 

 

「やーくん、りーさん、ごめん……」

「いいえ、ゆきちゃんは悪くないわ。ごめんなさい……なぎくん」

 

 

……私は赦そう。

だが――RTA(こいつ)が赦すかな!(豹変)

 

RTA「赦そう」

 

だそうです。

 

ショタがイキかけましたが、結果的に回復しています。どのみち、飯は食うつもりだったので、RTA的にはロスらしいロスはしていませんので特に問題はありません。

チャートは補強できましたし。

……ビンタは、走ってる最中にWIKIを見るという暴挙をRTAの神がお赦してくれなかっただけなんでしょう。

 

……チャーメン……(走者の祈り)

 

 

「ん?なぎくん、りーさんって……アダ名か?」

「あっ、うん!これから一緒なら仲良く!だよ」

「へぇ、いいなそれ。あたしらも混ざっていいか?」

「もちろん!」

 

 

おっ、アダ名呼びイベントが始まりました。

このイベントは主要キャラが一堂に会し、好感度・正気度が著しく低くなければ大抵発生します。

アダ名で呼び合うようになれば、互いの好感度が下がりづらくなるので、ありがたくスルーしましょう。

 

ゆき、りーさん、くるみ。

あとは、めぐねぇですが、先生という立場を誇示するのでやんわりと拒―――

 

 

「めぐねぇはめぐねぇだねっ!」

「ああ、よろしくな。めぐねぇ」

「改めてよろしくお願いします。めぐねぇ」

 

「もう……はい、宜しくね。ゆきちゃん、くるみさん、ゆうりさん」

 

 

おやおやおやぁ?

……覚醒めぐねぇのせいか(直感)

まあ、特段メリットもデメリットも無いので気にしない方向で。

 

 

「やーくんはやーくん!」

「そうね、なぎくん」

「んー……まあ、あたしは普通にやなぎで」

「やなぎくんも宜しくね」

 

 

私にも、しっかりとイベントが来ました。

好感度が足りないとナチュラルにハブられたりするので、よかったです。ゆきちゃん様々ですね。

 

 

 

「――そういえば、二人は食べないの?」

 

 

おっ、その話題は。

 

 

「……あー、ごめんな。あたしら我慢できなくてあっちで済ませてきたんだよ。なっ、めぐねぇ」

「ええ。ですから、気にしなくて大丈夫ですよ」

 

「…………そう」

 

 

はい、嘘です。二人は何も口にしていません。

それはりーさんにも伝わってます。

 

これは、戦闘に参加するキャラの起こす現象ですね。

戦闘慣れしていない序盤は、食欲が減退しほんの軽いものしか食べなくなります。特に肉や赤色の食べ物はダメです。

……まあ、ついさっきまで知り合いだったのをフルスイングでぶっ潰しているのでさもありなん、ですけど。

 

ですが、それではダメです。

 

二人がお腹空いていないと思っていても、二人の空腹値は容赦なく減っており、ステータスに影響を及ぼしています。

……だいたい一日は食べていない事を考えると――今の状態が続くと行動が精彩を欠き始め、些細なミスが発生するようになっていくでしょう。

 

私が先頭に立って三階を制圧するのであれば放置でも構いませんが、この二人に任せるしかないこの現状。ガバを引き起こしかねない要因は排除せねばなりません。

 

……本当なら、一緒にカップ麺を食わせたいとこですが、それは諦めて菓子くらいは食べて貰いましょう。

 

とはいえ、特別なにかする必要はありません。

 

 

ズルズルズル。

ああ~、やっぱラーメンは醤油に限るんじゃあ~。

このサッパリ感が……たまらねぇぜ。

お前どう?……豚骨醤油?またヘビーなもんを……だからそんなデカいんですかね……(りーさんを見ながら)

 

ちらっ。

 

 

「…………」

「……っぐ」

 

 

もう一押しですね。

はい、ゆきちゃんあーん。メンマ食ぃ。えっ?チャーシューがいい?……もー、しょうがないなぁ。はいっ、あーん。おいしい?ああ、良かったねぇ。

そんな笑顔を見ると――

 

ちらっ。

 

 

「……ぽり、ぽり……」

「パリッ……」

 

 

――勝った。

決まり手、ゆきちゃんの笑顔――プライスレス。

めぐねぇとくるみちゃんが各々適当に菓子を摘まみ始めました。一度してしまえば、求めるのが人間です(意味深)。

合間合間に食べ始めるので空腹値を心配する必要はなくなります。

やったぜ。

 

 

「……やったわね、なぎくん」

 

 

りーさんが私の意図に気づいたらしく、好感度が上がった模様。

ダブルやったぜ。

 

 

では、食事をさっさと終わらせて三階制圧に移りましょう。

いやぁ、どうなるかと思ったけど意外に何とかなるもんですね。悩みの種である覚醒めぐねぇ(柿の種)が可愛く見え――

 

 

「そういえば、皆さん。良いものを持ってきましたよ」

 

 

ん?

 

 

「良いもの?なぁに、めぐねぇ」

「ふふふ……じゃーん」

「……職員用緊急避難マニュアル?随分、物騒な表紙ですね」

 

 

えっ?

 

 

「こういった非常時になったら見るように、と教員全員に配布されたものです。……あんまり期待はできませんが、今の事態に有用なものが書かれてるかもしれません」

「サバイバル術とか?そういうのだったら必要そう」

「でしょう?だから――」

 

 

……は?

 

 

「――皆さんと一緒に見ようと思って」

 

 

…………(思考停止)

 

 

なっ――

 

なんてもん持ってきてやがる、この≪検閲済(ぴーー)≫!

 

バカかバカなんだなバカじゃないとできねぇよ、この≪みせられないよ(ぴーーーーーー)≫!≪みせられないよ(ぴーーーーーー)≫!!≪みせられないよ(ぴーーーーーー)≫!!!

だから、お前は万年≪nice boat.(ぴーーー)≫なんだよもう!

 

ぬわあああああああああ!!!

 

これもめぐねぇか!覚醒めぐねぇのせいか!?――そうだよっ!!!(断言)

 

どっ、どうする……!

ここでこんなもん見たら三階制圧以前に、RTAどころじゃなくなるぞ……!!

まず、めぐねぇがこっから飛び降りて、皆の正気度ストップ安!RTA株は紙切れ以下、価値ゼロになるぅぅぅ!!

ここは――!

 

 

「では――」

 

 

――多少不自然でも真っ向から誤魔化すしかねぇ!!

 

おっ、待てぃ(江戸っ子)。

こんなのいつでも見れるんだよなぁ。まずやる事があるってそれ一番言われてるから。

このまま屋上に居てもダメだゾ。なんか考え、あるんでしょ?(知将)

疾きこと風の如し、侵略すること火の如くってはっきりわかんだね(武田並感)

 

だからそれ仕舞って?あくしろよ……あくしろよぉ!

 

 

「…………そう、ですね。やなぎくんの言う通り、目先の事を済ませてからにしましょうか」

「そうだな。その方がいい。皆、聞いてくれ――これからの事だ」

 

 

勝った!RTA……完!(まだまだ続くんじゃ)

 

とはいえ、安心は出来ません。

なんとかできたのは、このマニュアルが『あってもなくても構わないもの』という認識であるからです。こんな事態が想定されてるなんて思ってもないですからね。だから正気度減少の値が死ぬほど多いのです。

 

ですので、何の気無しにこの悪魔の書を捲ろうとする愚か者が出るやも――いや、出ます(反語)。

 

まだ間に合います――焼きましょう。

 

職員室にある教員全員のもの。その後は、めぐねぇのものです。

……あっぶねぇ。

なんとか挽回できそうですね……。

 

 

「やなぎも気づいていたみたいだけど――」

 

 

という前置きと共に、ゴリラズは『このまま屋上にいても体力を消耗するだけ、三階に一通りの設備があるのでそこを一先ずの住処にしよう』と提案してきます。

その為には、三階にいるやつらを一掃する必要があるとも。

 

 

よし、これで三階制圧のフラグが立ちました。

 

ゆきちゃんとりーさんは渋りますが、このままでも意味ないというのは分かっているので、頷いてくれます。

皆、察しがよくて好きですが、そういうとこが嫌いです(ガバの要因)。

 

では。

この後、戦闘になります。

こちらにはシャベルゴリラとバール万引き犯がいるので、だいぶ戦力過多ですが、こちらも出来る事はやっておきましょう。

 

 

おう、りーさん!その恵体揺らして、ちょっくら園芸部の備品の枝切りバサミを持ってきてくれや!

 

 

「……武器に使う気?」

 

 

使うけど使わないから大丈夫だよ(適当)。

 

 

「…………」

 

 

渋々ですが、りーさんが枝切りバサミを持ってきてくれました。往年のシザーマンが持ってるデカいハサミの農業版ですね。

これを分解すると、ほど良い短さの槍として使う事が出来ます。しかも、二つになるというコスパの良さ!これは大きいですねぇ!(りーさんを見ながら)

攻撃箇所を絞れば即死が狙え、且つリーチが少しはある――ベストではありませんがベターな武器です。

 

 

期待を込めて、枝切りバサ槍さんと名付けましょうか。自分のネーミングセンスにクラクラしますね(照れ)

 

 

片方はりーさん。もう片方は私が持ちます。ゆきちゃんは戦闘力が皆無ですので、(持たせたところで)意味ないです。

……あのビンタは本当になんだったんだ……(戦慄)。

常に使えるようにすればゆきちゃんも戦闘員で行けますかね。これ走り終わったら検証してみましょうか(向上心の塊)

 

はい、りーさん。大切にしてね。

 

 

「……枝切りバサ槍さん……?」

 

 

私の苛烈なハイセンスについてこれないなんて遅れてますね(嘲笑)。

これで武器が手に入りました。……最強バールには劣るので不安は残りますが、これでゴリラズが討ち漏らしたやつを倒して、スキルポイント確保を狙いましょう。

運良ければ戦闘組昇格、本チャートに戻れるチャンスだぜ。

 

 

「はーい。脇からちょっと失礼するぞー」

 

 

むっ?ゴリラが抱きついてきました。

くるみちゃんは好感度が高い相手には積極的なスキンシップを取ってきます。

これは好感度足りてますねぇ!(歓喜)

 

 

「――むっ」

「ゆきちゃん。大丈夫よ、腰を見て」

「――むむっ」

「それもダメなのね」

 

 

はっ?腰?

腰に……紐?……これは、紐ルートぉ!?

私の腰に紐が巻き付いてあります!これは信頼されてない時に発生する行動が著しく阻害されてしまう魔のイベントです!

やっぱり好感度足りてないじゃないか!(憤怒)

 

 

「――ごめんな、やなぎ。りーさん」

「ええ、私が持ってる。絶対に離さないから安心して」

「たのむ」

「――むむむっ」

「……なんで、ゆきは膨れっ面してんだ。ていっ」

「――ぷひゅぃ。なにするのっ!」

 

 

なにするの、はこっちの台詞なんだよなぁ……。

えー……まあ、紐ルートは動きづらくなるだけなのでそこを考慮していれば戦闘行動自体可能です。クソザコショタはゴリラズとは違い、攻めるよりかは迎撃でカウンターを狙った方が効率が良いので。

最悪、枝切りバサ槍さんを使って脱出する事も考えときましょう。

 

が、紐ルートが発生しているという事は、ゴリラとの信頼度が足りてない事を示しています。これは後でゴリラに媚びを売っておかねばなりませんね……。バナナとかあげればいいんでしょうか。

 

 

「――やなぎくん」

 

 

おう、なんだ正気度テロリスト。着実に罪状増えてるからなお前な。

 

 

「どうか、気をしっかり持ってね。……私達が、付いてますから」

 

 

……?

なに言ってだこいつ。

 

 

「私とくるみさんがやります。三人は後ろから警戒していて下さい。かれらが近づいてきたのを知らせてください。……無理をする必要はありません」

 

 

めぐねぇの号令と共に、三階制圧が始まります。

ふふふ。太陽の光に照らされて、枝切りバサ槍さんが輝いています。これは行けます。期待できそうですね。

 

 

 

 

 

 

 

こちら現場です。

 

 

「はぁっ……!」

「……っ!」

 

 

ゴリラズが無双しています。大体一撃で仕留めてます。

こっちに『かれら』が来る気配がありません。……つうか、これ一部屋に2、3人しか居なくないか……?

 

一部屋に何人いるかはランダムで、少なくて2人・多くて30人というガバガバで選ばれます。

つまり、三階は――良い引きを連発しています。なんでこういう時だけ良い引きすんの!

自己ベが絶賛更新中なんですが!(複雑な思い)

 

いつもは死角やロッカーなどの隠れた所に、ひょっこり出現したりするのですが――それも無く。果敢な大進撃が続いています。もう半分くらいですね。

このままでは、『かれら』が完全に駆逐される……!こっちにお鉢すら回ってきません!

 

――くそっ、誰か……誰か居ないのか!スキルポイントがなくなっていく!

体裁など気にしてられません。ロッカーや教室、手当たり次第覗きに行きます。紐など知るか!

 

まだ誰か残ってるか?(本当に動かない)死体だけです。ぎゃっでむっ!

 

 

「やーくん……」

「なぎくん……離れましょ。もう、誰もいないわ」

 

 

いるねっ!絶対いるねっ!ロッカーとか低確率で!

私がいるって思えば、開けるまではそこにいるかもしれないだろ!(シュレディンガーの猫並感)

くそっ、先駆者兄貴達の時には大抵いるのに、どうして私の時はもぬけの殻なんですかねぇ!?

 

手頃な奴、その辺で適当してる奴とか!

早く……早くしないとスキルポイントが……!

 

 

「――このぐらいか」

「ええ、もうこの階に彼らは居ないみたいですね……」

 

 

――ジーザスッッ!!!!

 

戦闘終了!

被害ゼロ!私の獲得スキルポイントもゼロ!プラマイゼロ!!

自己べ更新!タイムも良き!私がやった時よりはやーいっ!

ちくせう。

 

…………。

私達いりましたかね、この戦闘!?

枝切りバサ槍さんが……意気揚々としてたのに出番が無かった枝切りバサ槍さんが見えないのか貴様らぁ!おいどんは恥ずかしかっ!

 

 

 

 

 

 

 

三階制圧した後は、急いでバリケードを設置します。ほっとくと、二階から補充要員がやってくるからです。

 

バリケードには机と椅子が大量に必要になり、本来なら一日は掛かる行程ですが――スタミナバーギリギリ酷使走法を会得している私の手にかかれば、夕方には形は出来上がります。

どうせ、終わったら特に重要な事もないので、惜しみ無く酷使していきましょう。

 

全身筋肉痛になるのはショタであって、私ではありません(無慈悲)。

 

 

「――やなぎくん。このぐらいでいいわ。後は私達がやるから大丈夫よ」

 

 

おっ、ストップが出ました。

では後は任せましょう。このショタにバリケードを作るスキルはないので邪魔にしかなりません。疲労がマックスなので参加すると音を盛大に立ててしまい、二階のかれらを引き寄せる結果が見える見える……(五敗)。

ああ……労働の後の夕日が眩しいぜ。

 

 

「ゆきちゃんもお疲れ様」

「……うん。やーくんと、屋上に行ってていい……?」

「ああ、いいぜ。これが終わったらあたしらも行くよ」

 

 

という訳で。

ゆきちゃんと行動開始、自由行動のお時間です。

ですが、三階が開放されたとはいえ、各種施設はまだ使用できないのでやる事はまたありません。

本チャート通りなら、屋上で適当に待ってればバリケードを設置し終えた三人と合流、就寝になり――二日目は終了になります。

 

三階が開放されたので、今日はおシャワーでお布団。こういった衛生的なものはあるのとないのとではダンチなので、さっさと制圧したんですね。

 

まっ、他にも理由はありますが(意味深)。

 

 

「………」

 

 

ゆきちゃんがアンニュイな感じです。

初めて、人の生き死にを直視するとこんな感じになります。この状態が続くと、他のキャラにも影響が出るので良くありません。本チャートであれば、屋上でのお話で和らげます。

ですが、ここは――。

 

 

ゆきちゃん。

 

 

「なぁに……?」

 

 

焼き芋、食おうぜ。

 

 

「えっ……?」

 

 

チャート補完、あーんど回収!

初日と二日目で、本来やるべきだった事を今やりましょう。

ただ待っているだけなど、RTA走者にあるまじき暴挙!こういう時は無駄の無い無駄じゃない動きをしましょう!

 

向かうべきは、職員室。

 

教員にはタバコを吸う奴もいるのでライターを余裕で見つけられますし、今は人目はゆきちゃんしかいません。隠蔽工作など容易い容易い。

紐ルートの事もあるので、皆の好感度をまとめて稼ぎに行きましょう!

 

 

あっ。職員室の死体がまだ消えてません。

……オブジェクトが消えるタイミングっていまいち把握されてないんですよねぇ。気が付けばもう無くなってるのが多くて。

まあ、居ても居なくても特に意味はないのでちゃっちゃと済ませてしまいましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

―――――

 

 

 

 

 

――ぐしゃあ。

 

 

潰れて、はじけた。遠くから聞こえた、そんな音。

それが――耳に纏わり付いて離れない。

 

 

「……っ……っ」

「ゆうりさん……」

「すみません……もう少し……このままっ……」

 

りーさんがめぐねぇにすがりついている。震えた身体、冷たくなった手を温めるように、めぐねぇが静かに抱き締めていた。

気持ちはわかる。あたしだって、先輩の事がなければああなってた。

 

冷たさが伝わってくるように感じて、気付かれないように顔を背けた。

 

 

バリケードを作り終わった後。

あたしとめぐねぇ、りーさんがやったのは――後処理だ。

 

 

三階を住処にするなら綺麗にしとかなきゃいけない。血だなんだは気が滅入るし、よく知らないが病気になりそうだった。

それに――もう動かない『かれら』を放置しておく訳には行かなかった。

直ぐに済ませる部分はそれだった。

 

最初、りーさんにやらせるつもりはなかった。

やなぎとゆきの様子を見に行って欲しいってのもあったし、こんな事をやる人など増やしたくはなかった。

 

でも、りーさんは気丈にもやってくれた。

おかげで早く終わった。……りーさんの精神に傷を付けて。

 

「……ありがとうございます」

 

数分して、りーさんがめぐねぇから離れた。

顔色はマシにはなっていた。

 

 

「……今日は、もう休みましょうか。掃除は明日にしましょう」

 

 

その言葉に異論はない。

もう、気が参るような事なんてしたくなかった。

 

やらなくちゃいけない事をやった。そのはずなのに、誇れなかった。

血に濡れたシャベルが、ひどく虚しかった。

 

 

 

「………」

「………」

「………」

 

屋上までの道。

色んな疲れのせいか足が重くて、中々進んでないように感じてしまう。

 

 

「やなぎは」

 

 

ふと、口が滑った。

 

「やなぎは、軽蔑したかな」

「そんな事――」

 

「だって、あたしが殺したのは――あいつの友達だ」

 

やなぎは人気者だった。

なぜなら――()()()()()()()()()()()()。生徒も教師も、用務員とだって。誰にでも名前呼びは当たり前だった。それはあたしもだし、りーさんも、めぐねぇだってそうだ。

アイツがいるとこは、いつも明るかった。

 

そんなアイツの前で――友達だった奴を殺した。

肌は赤黒く、血と涎に塗れて、あたしには誰が誰なのか判別なんてもう付かなかったけど――アイツはきっと、気付いただろう。

 

「なぎくんは、言ってたわ。――『誰も居ないのか』って」

 

りーさんが呟いた。

 

「ロッカーとかトイレとか。誰かが隠れられそうなとこを何度も見てた。くるみが紐で結んでくれてなければ、飛び出していたかも。あれは良い判断だったわ」

「……そっか。そこだけは良かった」

「ええ」

 

沈黙が、少し流れた。

ちらりとめぐねぇを見ると、何を言おうか言うまいか悩んでいるようだった。

それでも、何も言わず――ただ、バールを強く握りしめた。

 

何を言えばいいのか。

あたしにも分からなかった。

 

 

 

ただただ沈んで行く空気が変わったのは、屋上への階段を登り切ろうとした時。

物理的に、空気が変わった。

 

「なんか煙たくないか」

「確かに」

「いったいなにが……?」

 

疑問のまま、扉を開けると――

 

 

「いいかね、ゆきちゃんくん。焼き芋はね、タイミングなんだ」

「タイミング?」

「焼きが短くても、長くてもダメ。じっくりコトコト、でも焦がさない……シチューのような心持ちでなくちゃいけないんだ」

「……にゃるほど?」

 

園芸部の畑――その端で、黒い煙を上げながら燃える火の側でしゃがみこむ、やなぎとゆきがいた。

枝切りバサミから作ってた槍で焚き火の灰をかき混ぜながら、やなぎは講釈を垂れていた。横のゆきは確実に良く分かっていない。

 

「おっ、皆。おつかれさん」

「なに……やってんだ?」

「なにって……焼き芋。あっ、ゆきちゃんくん。皆に例の物を配るように」

「はーいっ!くるみちゃん、りーさん、めぐねぇ!これどーぞ」

 

さっきよりも一段と明るくなったゆきが渡してきたのは――軍手だった。

 

「園芸部から勝手に使ったけど、大丈夫だった?」

「え、ええ。別にそれはいいのだけども」

「じゃあ、良し!焼き芋よぉーい!」

「焼き芋よぉーい!」

 

やなぎがそう言うと、ゆきがばたばたと焚き火に駆け寄る。

……さっきとは打って変わった明るい雰囲気に。あたし達はただぼんやりと見ているしかなかった

 

「やーくん!熱くて取れない!バサ槍さん貸して!」

「なぬ。オーライ、任せろ。このバサ槍さんにかかれば……!」

 

枯れ葉と紙カスに塗れた焼き芋を、枝切りバサミの槍で掻き出す。

その刃先で、ついっと突っつけば――湯気と一緒に、美味そうな黄色が見えた。

上手くいったようで、ニヤリと笑い合う二人の顔。

 

――何故かすごくほっとした。

 

 

「ん?」

 

 

安心したようにあたし達を見ていためぐねぇが、ふと焚き火をじっと見たと思ったら、ずずいっと近づいた。

ぎくり、とゆきとやなぎの肩が揺れる。

 

「ねぇ、やなぎくん……」

「な、ななななんでしょうか」

「今、焚き火から紙が見えたのだけど、あれは?」

「しょっ、職員室にあったのを使っただけ!適当に……適当に!」

「そう――今、ゆきちゃんの名前が書かれたテストが見えたわ」

 

「――貴女のような勘の良い教師は嫌いだよ」

「もーっ!なにどさくさに紛れて赤点燃やして、証拠隠滅してるの!」

 

――ぶふっ。

急な事で、あたしとりーさんは吹き出してしまった。

こんな状況で何してんだコイツは。

 

「はっはっは」

「誤魔化さない!」

「あっ、くるみの赤点もやっといたよ」

「おっ、サンキュー」

 

「――くるみさん!」

 

「りーさんのは無かったからしなかったよ」

「……ここで仲間外れはなんか嫌ね」

 

「――ゆうりさん!」

 

「因みにこの証拠隠滅の発案は、ゆきちゃんです」

「ええ!なんで言うのやーくん……あっ」

 

「――ゆ~き~ちゃ~ん~?」

 

「わっ、私にだけ当たりが強い!やーくんがやったのに!」

「焼けてる赤点の大半が貴女のなんですから当たり前でしょう!!」

 

ひぃやぁぁぁぁ!と叫びながらほっぺをむにゅられるゆき。

その間、やなぎは――ほっと息をついていた。……怒られる矛先を逸らすとは中々の知能犯だった。

 

やなぎは枝切りバサミの槍で器用に焼き芋を半分に切ると、それを誰かの赤点用紙に包んだ。

 

 

「さあ、食いねぇ食いねぇ。――おつかれさま」

 

 

焼き芋が手渡される。

じんわりと――手が温かさで包まれた。甘やかな湯気があたしの顔を撫でた。

ふと、目頭が熱くなった。

 

 

「――ありがとう」

 

 

自然とそれが口から出ていた。

 

「大事に食べるからな」

「……?まだいっぱいあるから遠慮しなくていいよ?」

「バカ。そういう事じゃねぇよ」

「……?……?」

 

分かって無さそうなやなぎの頭を、りーさんが静かに撫で始める。

 

「はい、りーさんもお上がりなさいな」

「ええ。……あら?手が塞がってるわ。食べさせて?」

「……頭撫でるのを止めるか、バサ槍さんを離せばよいのでは?」

「あーん」

「………」

「あーん」

「……あーん」

「ふふっ、ありがとう」

 

………。

温かな光景を見ながら、焼き芋を食べる。

じんわりとした熱と、ねっとりとした甘さが喉を通る。

 

冷たさを消すように。

 

 

「ふふっ」

 

 

不思議と、何かが軽くなったようが気がした。

 

 

 

 

 

 

 

――夜が更ける。

昨日とは違って、コンクリブルーシートは卒業だ。

三階中から集めた簡易布団を並べて、被害が無かった資料室を寝室に、そこで休む事になった。

 

その前で、あたしは――軽くシャベルを素ぶりする。見張りを買って出たからだ。

 

ガラガラと寝室の扉が空く。

振り向くと、めぐねぇが申し訳なさそうに顔を出していた。

……その後ろで、やなぎがゆきに襲われてるんだが、あれは大丈夫なのだろうか。

 

「見張りを、任せて大丈夫?」

 

「ああ、バリケードを作ったけど不安は残るだろ?」

「でも……」

「いいから寝なって。めぐねぇは今の今迄気張ってたんだから」

「でも……」

 

「はーい。でもでもだっては明日にしましょうね。おやすみなさーい」

 

そこに同じく見張りを志願したりーさんが有無も言わさず、めぐねぇを寝室に押しこむと扉を閉めた。

……少しして諦めたのか、もぞもぞと衣擦れの音が聞こえて――それは直ぐに止んだ。ぬわあああ、と吸い込まれるように消えた悲鳴は聞かなかった事にした。

 

「……りーさんも寝てても良かったんだぞ?」

「いいえ。くるみを一人にする訳にはいかないわ。それに、私にも武器はあるし」

「……でも枝切りバサミだろ?」

「枝切りバサ槍さんよ。きっと使えるわ」

「そうだな。さっき、焼き芋作る時に使われるぐらいだもんな」

 

まあ、そんぐらい平和な使い道の方が良いんだろうけど。

 

「さて。長丁場になるだろうし。コーヒーでも淹れましょうか。くるみもいる?」

「ああ、砂糖いっぱいな」

「あら、お子ちゃまね」

「……そう言うりーさんは?」

「……ミルクたっぷり」

「お子ちゃまめ」

「ぐぐっ……」

 

悔しそうにしながら、りーさんはコーヒーを淹れに生徒会室に向かって行った。

その背中を見ながら、あたしは静かに寝室の前に腰掛ける。

 

 

夜の廊下。惨劇を想像出来る血。割れた窓ガラスからは風が流れてくる。

でも――あまり冷たくなかった。

 

 

「また……焼き芋、食いたいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

「………」

「………」

 

…………(ゆきちゃんに筋力対抗フェイズに負けてショックです)。

 

「……ねぇ、めぐねぇ。起きてる?」

「まだ起きてますよ。貴方達が寝るまで起きててあげますからね」

 

…………(お母さんかお前は)。

 

「……焼き芋、美味しかったね」

「ええ、赤点で焼かれてなければもっと美味しかったと思います」

「………もくひします」

「折りを見て、再試験です」

「あ~う~」

 

…………(MEGE IS HUSIANA)。

 

「……これから、どうなっちゃうんだろうね」

「そうですね。でも、大丈夫ですよ」

「大丈夫?」

「ええ。だって――私が守ります。だから、安心して笑っていて下さいね。それが私達を救ってくれます」

「……そう?だって、やーくん」

 

…………(寝てますねぇ!)。

 

「……やなぎくんも疲れたんでしょう。さっ、ゆきちゃんも寝なさい」

「はーい。……おやすみ、めぐねぇ」

「はい。おやすみなさい」

 

…………。

 

「………」

「………」

 

…………。

 

「……すぅ……すぅ」

「……むにゃ」

 

――きゅぴーん(起床)

 

 

そのまま寝ると思ったかバカめ!

夜廻の時間だオラァ!チョーカーさん助けに行くんだよぉ!!

 

 

 




次回――SYOTA EATER作戦。


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二日目・深夜 Dream

ある意味そのままな深夜廻りを敢行するRTA、はーじまーるよー……(小声)

 

 

 

ゲーム内時間で、就寝から一時間くらい経ちました。

このぐらい過ぎれば、寝ている二人はノンだのレムだのに入って起きませんし、見回りの二人も緊張が解れ出している頃です。

動くには実に良いタァイム……(イケボ)

 

とはいえ、行動開始には少し時間がかかります。

気持ち良く寝入り始めた段階での起床なので、ショタがしっかりと起きれてないのです。

就寝前の疲労度によって最適な睡眠時間が設定されています。無論、全然足りてないので覚醒まで若干の時間を有してしまう訳ですね。

 

何しても無意味なので、ここは心を落ち着かせて意識が覚醒するまで待――はよ起きろやオラァン!!(ボタン連打)

 

…………ちっ。

やはり無理か(仕様に抗う走者の鑑)。

 

仕方ないので、時間を無駄にしない為にも――これから行う、チョーカーさん救出について少しお話しておきましょうか。

 

チョーカーさんこと、柚村貴依ちゃん。

彼女は、アウトブレイク後において主要キャラ以外で唯一学校で生存する、サブキャラ・隠しキャラ的な立ち位置の子です。

 

まあ、有り体に言って居ても居なくてもどっちでもいい子ですね(明け透け)。

彼女専用のイベント・エンディングを取ろうとしない限り、救出してもしなくてもストーリー進行に影響はありません。

 

しかし、彼女は平均的なステータスながら、キャラ同士のコミュニケーションを円滑にする『話し上手』スキルを持っていて――学園生活部のペペローション(迫真)になりうる存在です。

 

基本、主要キャラは武力最強(かれら割り人形)雑事最強(恵体)魅力最強(上位三隊)基本万能(何も思いつかない)という特化キャラしかいないので、居れば痒いところに手が届くようになります。

こうした中間管理職はやっぱり大事なんやなって。

 

それに本チャートにおいて――()()()()()()()()()()()()

ケツイをキメて救出に行きます。

 

ですが、問題点として。

 

彼女はアウトブレイクからだいたい三日ほどしか生存出来ず、且ついる場所も学校のトイレの個室――時間も場所もランダムです。

つまり、下手をすれば一日目の時点でかれらになっていたりしてますし、運が悪ければ一階から三階のトイレの個室を全部見ないといけません。

 

その為、どーーーしても……!(苦渋)

救出出来ない可能性が出てきます。今の私は後衛組なので余計に。その場合はロスになりますが諦めるしかないですね。

 

ですから、今が実にベネなんですね。

二日目が過ぎれば正直見込みは無くなります。夜は『かれら』はゴーホームで少ないので絶好の救出日和です。

 

 

「すぅ……すぅ……」

「んっ……むにゃ、や……」

 

 

二人とも気持ち良く寝てますねぇ……(ニチャァ)

チャンスです。ゆきちゃんはやけに鋭かったり、めぐねぇは大人の汚さで妨害してくるので二人が封じられてるのは実に大きいです。

さっさとチョーカーさんを助けにいきましょうか。

二人とも一度寝入れば何しても中々起きないのは知ってます(平行世界の実体験)。

 

行って帰って、そのままチョーカーさんも一緒に寝るまでが一セットが理想ですね。

まあ、余裕ですけどねっ?あったりまえだよなぁ?

 

 

――おっ、動くようになった。

では、行動開始です。するりと布団から抜けだします。

 

まずは寝室を出る扉に、耳を立てましょう。

今回見張りをしているのはゴリラとりーさん。……りーさんも一緒に見張りは予想外デス……。大抵、二日目はゴリラズの片割れなんですけどねぇ。

 

 

『……ろ、かしら……』

『ん……な。もう少し……な』

『コー……り……る?』

『……むわ』

 

 

むっ。

丁度二人共いますね。出るのは待つべきです。

 

時計を見ます。……22時ぴった。

見張りは基本的にくるみが仕切るので、彼女の趣味的な意向で時間刻みでバリケードの点検に行きます。後少ししたら出かけると思うので、くるみはクリア。そうすると残りはりーさんですが……お茶を沸かしに行くか此処に残るかのどちらかですね。前者である事を祈りましょうか。

 

では、二人は行動するまで部屋でやるべき事をやりますか。

 

まずは枝切りバサ槍さんを回収します。頼りにしてるぜ相棒。月明かりで煌めいて自信満々ですね。

あとはバッグがあればいいですが……あー、めぐねぇのしか無いですね。チョーカーさん救出の合間に物資回収もしときたいんで、空のバッグが必要です。中身引っくり返して音を立てる訳にはいきません。バッグは二階で適当に取る事にします。

 

……あっ、因みにここでバカ正直に『外行ってくる!!』と言うのは止めましょう。

 

先に結論から言います――大ロスです。

 

寝てる二人はともかく、外の二人は閉鎖的なリアリスト(偏見)なので、なにバカな事言ってんだと一笑されます。好感度低い状態だとさらに下がるほどです。説得も可能ですが、それは『かれら』の中をすいすい泳げるような武力を二人に見せとかないと無理です。

つまり無理なんですぅ!(慟哭)

 

そっ、それもこれも……!

 

 

「すぅ……びーる、びーる……」

 

 

このめぐねぇのせいだぁ!おっ、冷えてるかぁー?(煽り)

こいつが私のバールを盗むからぁ……!

 

皆さんは知らない事だと思いますが――私は根に持つタイプです

具体的にはたとえショッピングモールとか行っても、ぐびねぇの為にお酒は持ってきてあげません(ドヤァ)。……まあ、このままじゃあ私が外行けるかどうかもアレなんですが。

 

……それにしてもまたバール持ったまま寝てますね。何でしょうか、固めが好きなんでしょうか(レッテル張り)。

――ふむ。今ならイケるか?さすがにステータスだけは優秀(だった)めぐねぇが相手でも、寝ている間ならバールを取るぐらいいけるのでは?『かれら』の間をスルスルと進む必要があるので、正直あれば助かります。

……ていうか、本チャート通りなら使うつもりでした!(怒)

 

まあ、二人がどっか行くまで時間ありますし、ここは盗りに行きましょうか。

筋力対抗フェイズに入ります。1か、2分くらいで余裕でしょう。

まあ、流石にこのクソザコショタでも寝ている相手に負けるはずが――

 

 

 

盗れなかったぜ。

投稿者:がっかりザコ走者 何月か分からない日 22時30分くらい。

 

めぐねぇの握力がつええぜ。最悪や。

筋力対抗フェイズに入る余地すら無かった。もう気が狂う。

なんとか離させようと脇とか首を擽ってたら、寝ぼけて抱きついてきた。あばらが三本ずつ折れた(比喩表現)。もうめちゃくちゃや。

腹が立ったんで、仕返しにめぐねぇの髪を纏めて、天辺で結んでやったぜ。そうすれば、朝起きた時に髪が広がって虚無僧になってるはずや。ざまぁねぇぜ(タイムロス)

 

 

ふぅ……。

嫌な……事件でしたね……(現実逃避)。

もういいや。もういいですぅ!……酒見つけても片っ端から穴開けてやる……(怨)。

 

バールは諦めて次だ!次ぃ!

壁に立てかけてあるめぐねぇのカバンからマニュアルをスります。

 

すっ(バッグを開ける)

サァー!(迫真のマニュアル奪取)

 

よしっ。

これで、マニュアルは全部手中に収めました。まあ、こいつ以外すでに……ククク(黒幕並感)。

 

では、この世から抹消……する前に、ショタに一回読ませます。

チャート補完の一環です。本チャート通りなら、ショタの口から皆に漏れる可能性も込みで完全に闇に沈めるところですが――ここは把握だけはしておきます。選択肢は多い方がいいので。

使う場面が無い事を祈りますが……。

 

ここは暗いので、読む事は出来ません。

灯りを付けると流石の二人も気付くので、違うとこで読みます。

 

扉に耳を当てて……。

 

…………。

 

おっ、何も聞こえませんね。(気配も)ないです。

――頃合いです。出撃しましょうか。

 

 

 

 

……だぁれもいませんね。

廊下は静かなもんです。いや、遠くでライトの光が見え隠れしたんで、くるみが三階を回ってるのは確かですね。気付かれないように、反対側のバリケードを目指しましょう。

りーさんどこ行った?反対側のバリケードですかね……?

 

ここからは時間との勝負です。

見張り組が定期的に三階を回る事もそうですが――寝室の様子も確認してくる場合もあります。

そうなると一発で気付かれるので、こればっかりは乱数の神に祈る他ありません。まあ、遅かれ早かれ気付かれるのは想定済みです。出来る限りそれが遅れれば楽は出来るのですが……。

 

むっ、廊下の先に明りが漏れてます。

……生徒会室。後の学園生活部の部室ですね。あそこは三階唯一のキッチンがあるとこなので、予想通り、茶ァ沸かしに来ているみたいです。

 

……ちらっ。

 

 

「……ふふ~ん……」

 

 

やはりーさん。ここにいましたか。

恵体を揺らしながら、インスタントコーヒーを淹れてます。

 

……すげぇ機嫌良いですね?

アウトブレイク発生直後は一人でいる時は死んだ魚みたいな目をして、じっとしている事が多いんですが――これは正気度足りてますねぇ!(満足)。焼き芋が活きたんですかね。

定期的にやりましょうか、アレ。

 

 

「さてっと、くるみのところに……」

 

 

おっと。こっちに来ます。えーと……隣の教室で隠れましょう。

 

お盆を持ったりーさんが出てきました。

そうして……くるみが居た方向に行きましたね。よし、なら反対側は安心です。

 

オーケー。

ついでに生徒会室でマニュアル読んどきましょうか。下手に違う部屋の明かりを付けて感づかれても面倒です。

 

では、いざ読書タイムとしましょう。

私は親の顔より読んだ内容ですが、このショタには初めてです。

 

 

――正気度はガツンとイキます。

 

 

はえー、すっごい減り幅……。これが所持金なら過呼吸起きそうな勢いですねぇクォレハ……。

まあ、プレイキャラ側の正気度減少は操作に影響を及ぼすだけです。ゲームプレイにこういった感情的機微を反映させるのはちょっと大変だったんですね、きっと。

ですので、慣れてる我らRTA走者からすれば死に設定に近いです。常時メダパニなだけですので。えっと、↑は→、→は↓、↓は←で←は↑……っと。おしっ。

 

さて、マニュアルはこれで用済み……。

ふふふ……皆の安寧の犠牲になって貰いましょうか。これもRTAのため……。

生徒会室のコンロで炙っていきましょうか。赤目は火を嫌うってそれ一――ん?

 

――足音。

 

てぇ……こっち来てる!?

えー……もう気付かれました?くそっ、今回は乱数の神様は微笑んで下さらなかったか!

タァイムに響いちゃぁーう↑↑↑。

 

マニュアル燃やすのは中止します!

ええっと……そう、棚!棚に一先ず隠れましょう!このショタの体型なら大丈夫です!あっ……っと。バサ槍さん忘れるとこだったあぶねぇ!

 

 

「――っとと。忘れものしちゃった」

 

 

――セーフ!んんん……ンセーフゥゥゥ!!

危ない、あと数秒遅かったら見つかってました。

 

りーさんです。何か忘れて戻ってきたみたいですね。

気付かれた訳じゃないみたいですね。良かった。まだバレてません。

 

 

「お砂糖お砂糖……あら?()()()()……消し忘れたのかしら?」

 

 

んー!バレてない!バレてないぞぉ!

私がバレてないと言ってるのだからまだバレてない!(自己暗示)

 

ん?また足音が……。

 

 

「――りーさん」

「あら、くるみ。コーヒーはちょっと待ってね。今お砂糖入れるから」

「あんがと。それより……ガムテープないか?」

「ん何使うの?」

「いや、バリケードをもうちょい補強しとこうと思って。まだ不安でさ」

「そうね……やり過ぎるなんて無いものね」

 

 

KURUMI IS GANBARIYA。

ありがたい。滅多に壊れませんが、バリケードを補強するに越した事はありません。

安全はタイムの次に大切です!いえーい!ありがとうくるみ!もうゴリラとは言わなくもないよ!

 

……ん?りーさん。なんでこっち……。

 

 

「確か、棚に何個かあったはずよ」

「ああ、一個くれ」

「一個?もっと必要じゃない?」

「いや、なんかあった時の為に残しといたほうがいいだろ?」

「それもそうね――くるみ、かしこいっ!」

「……褒められてるのかこれ」

 

 

――ファッ!?

えっ、まっ……ああ!確かにガムテは棚にたまにあります!

ちっ畜生、こっ……こっちに来るな!ああ、マズイです!ここでバレたら連れ戻されるに決まってます!マニュアルもバレ……!

ぴぃ!リセットはやだ!やだぁー!小生やだ!

 

ごめんりーさん!もう裏でセクハラしないから許し――

 

 

「――はい」

「おっ、サンキュー。んじゃあ、ちゃっちゃとやってくるわ」

「ええ、コーヒー。そっちに持っていくわね」

「おーう」

 

 

……と、隣の棚……。

ペッ!恵体め!恵体め!……ビビらせやがってこのぉ……恵体めっ!(語彙力不足)

 

 

……二人が行きました。棚から出ましょう。

廊下を確認します。……あっちのバリケードに行きましたね。補強をするならしばらくはこちらには来ないでしょう。

 

 

ふぅ~……あっぶねぇ……余裕でしたねっ!

 

 

いや、危うくイく所でしたよ。いやぁ……良かった良かった。

 

では、今の内にバリケードへ向かいますか。

バリケードは作る人によって大きく癖が異なります。

ですが、このゲームをやり込んだ私にはその癖――バリケードの弱点が完璧に分かります。

えっと、今回はめぐねぇ・くるみ・りーさんだから……右下!よし、紐を切れば通れる箇所です!行くぞ、バサ槍さん!

 

 

 

 

 

 

――少しのアレはありましたが。

体良くバリケードを抜けられました。安全地帯を抜けたので、ここから戦闘パートですね。

 

『かれら』は勿論、います。ですが、その数は少ないです。昼間の三階程度ですね。

 

『かれら』は――生前の行動に沿って行動します。

つまり、学生なら朝は家・昼は学校・夜は家ですね。ですので、大半はゴーホームしているという訳です。それでも感染の進行具合によってはそれすら忘れて、徘徊するようになります。

今いるのがそれらの個体ですね。

 

……廊下に二人。教室に出現する数は多くて、三人です。楽勝です。目的を一つ一つクリアしていきましょう。

ここはRTA走者っぽくステルスで…………――いや、RTA走者だよあたしゃ!(セルフツッコミ)

 

最近、カボチャ派ニンジャなる存在が台頭していますし、ここは一つ――このショタもヤればデキる子であるという事も証明していきましょう!サツマイモ派は、決して屈し…………うーん、カボチャ。あれも中々……いや、皮が分厚くてこのショタじゃ無理だわ。

やっぱサツマイモイチバーン!

 

 

皆さん忘れていない事を祈りますが――このショタの初期スキルに≪隠密≫があります。体格も込みで、大きな音を立てるか目の前を堂々と歩くかしない限りは『かれら』にバレません。私のプレイスキルも相俟って、ニンジャプレイは余裕なんだよなぁ(自信)

 

因みに此処でスキルポイントを稼ぐのはロスです。

ショタ単体の場合、まず攻撃を待ってからの――カウンター!でしか殺せないので。強制戦闘はこの先もあるのでスキルポイントさんはここでは端から期待はしません。

 

では、一番近い教室に入って、まずはバッグを手に入れます。

バッグは生徒のがいっぱいあるので、ショタの体格にあったのを適当に選びます。こういうサバイバル物では容量が多いモノを選びがちですが、体格が良い奴ではないとかえって動きが鈍くなってしまうのでロスです。

 

バッグには物が入っているので、中身を全部出して空にしてしまいましょう。どうせ誰も使いません。

捨てる際に音が出るので『かれら』に気付かれます。

――が。

攻撃モーションは≪掴み≫からの≪噛み付き≫しかないので、スルスル避けて次に行きます。数も居ないので。

 

 

はい、お湯―。

 

 

次の教室は……むっ。一人ですか。ならここで必要な物資を集めきってしまいましょうか。

とはいえ、教室で回収できるのは一区分の物資だけです。

 

――『誰かの物』。

 

教科書・文房具・キーホルダーとかそういった雑多なものを合わせて、そう表示されます。

正直、通常プレイでも使う機会は少ないゴミ区分です。文房具はともかく、教科書なんて使わん使わん。

 

ここで必要になるのは、ハサミや先の鋭いペン、後は金属で出来たキーホルダーを集めます。バッグいっぱいになるまで集めます。それ以外は要らないので容赦無く捨てましょう。

ハサミやペンは言うまでも無いでしょう。近接武器として使います。特にハサミは即席ナイフとして分解出来るので用途は多く、『誰かの物』区分では一番有用と言えるでしょう。

 

むっ。捨てる音で『かれら』の一人に気付かれました。

教科書でも投げ付けて妨害しながら回収を続けましょう。おらっ、『かれら』になっても勉強すんだよおらっ!(鬼畜の所業)

 

次にキーホルダーですが、一つだけではゴミです。

ですが、これを纏めると即席の鈍器に早変わり。バール補完の一つです。バサ槍さんは歴戦の枝切りバサミだったので、いつ折れるか分かりませんし。

おっ、これは旅館の売店にある男子中学生が絶対買う龍の剣のキーホルダー……!キーホルダーの中では一番殺傷力が高いので回収です!

……キーホルダーの中で一番殺傷力あるってなんだよ(素)

 

 

――こんぐらいですかね。バッグん中がパンッパンだぜ。

 

 

さて。やる事は終えました。

とっととトイレでチョーカーさんを助けましょうか。じゃあな!教科書踏んでねぇできちんと読めよ!

 

廊下をダッシュで進みます。

 

無論、音で『かれら』に気付かれますが――スルリスルリと回避しつつ突貫です。私に掛かれば、こんなの本当に余裕なんだよなぁ!

あっ、ここ走れない人はRTA止めてGEOってからまた買ってRTAして下さい(大煽り)。

 

 

――ふぅ。

やばいです。

 

なんか――私今、すごいRTAしてる気がします(錯乱)。

 

いやぁまじか。最高だわ。予定通りに事が運ぶってこんなに気持ちがいいんですね!(純粋)

ここの区間タイムも、物資回収分を含んでも誤差は一分単位!ぼく、満足!

 

 

――難なくトイレ着。女子トイレに入りましょう。ここまで良い感じなんだから此処にいてくれよなぁ?

では、個室を開けます。三室なので直ぐに済みます。

 

一室目。居ない。

……ままっ、たまにはね?

 

二室目。居ない。

…………いやね?最後があるから、気配とか何も感じないけどいるかもしれないからぁ!

 

三室目。居ない。

………………ええ……。

 

まじか。えー、まじかぁ……。

一階?一階行かなきゃだめ?いや、一階は流石になぁ……。生徒じゃない外の『かれら』も入り込んでいるので数はダンチです。生徒が持っていないモノを持ってるので、有用ではありますが今の状況ではロスでしかありません。

どーすっかなぁ。物資回収できたので諦めるのも手ですがいやでも全体のタイムを考えるとここで諦めるのは――

 

――ガンッッ!

 

むっ。隣の男子トイレで音がしました。

まあ、『かれら』が適当に転ん………ん?男子、()()()

 

…………。

 

――シュババババババッッ!(ダッシュで隣に行って扉を開け放つ音)

 

 

「――ひぃ……!」

 

 

ああ!ここかぁ!

男子か男子トイレにもいる事があるのか!基本女子トイレにいたから男子はないとずっと思ってたよもう!不安にさせやがって!

あー……良かった。タイムは守られた。

 

では、トンットンッ。

 

 

「……っっ!~~~っ!」

 

 

必死に息を殺してますねぇ……(愉悦)。

チョーカーさんは警戒心が強い為、普通に声を掛けても開けてくれ――ないと思っていたのか?(サイヤ人並感)

 

ここで、ゆきちゃん幼馴染ルートが活きてきます。

だから、あの子は最強に可愛いんですね。

 

――おーい。柳くんだよー。だれかぁー、誰かいますかー。

 

 

「えっ……や、なぎ……?」

 

 

――そうだよ。

 

 

「――!柳ぃ……!」

 

 

はい。秒で開けてくれました。ははっ、すげぇ隈。涙混じりに抱きついてくるのはご愛敬です。

チョーカーさんはゆきちゃんとは、親友一歩手前な関係のお友達です。ゆきちゃんの幼馴染になると私にもその状態が付与されます。ですので、声を聞くだけで開けてくれます。

タイム短縮ですね。

 

 

「あのっ、なにが起きてるのか分からなくて隠れて……私、誰かみ、みごろ――!」

 

 

はいはい。落ちつきましょうねー。大丈夫大丈夫いい子いい子。0……0……0……。

――ショタの耳囁きASMRで心を静めてあげましょう。この状態だと『かれら』を見ると腰が抜けてお荷物になった挙句噛まれます(2敗)。

落ちつくと『かれら』にビビっても黙って付いて来てくれるので、それで十分です。

 

 

「柳……」

 

 

おし。落ちつきました。

取り敢えず、簡潔に状況を説明し、フォローミー!と叫びます。大統領の娘並みに付いて来ます。

 

 

第一目標はクリアですね。

では、三階にもどっ――*おおっと*。

 

 

「大丈夫か……?」

 

 

――大丈夫だ、問題無い。

プレイ画面が少しブレましたね。これは疲労がキてる事を指しています。

寝不足、悪魔の書(マニュアル)とダブルで疲労を削りに行ってるので、体力持久力クソザコのショタにはキツイです。ですが、三階まで行っちゃえば問題ありません。

耐えてくれよマジで。

 

 

では、行きましょうか。

さっきとは違い、チョーカーさんがいるので廊下を走る事は出来ません。これ終わったらGEOってこのゲームを買い直しましょう。

 

ですので、さっきのバリケードの逆側――くるみとりーさんが補強していたバリケードに向かった方が早いです。

では、行くぞー!

 

 

「うっ」

 

 

口を押さえて吐き気と恐怖に耐えてるチョーカーさん……最高やな!

でも静かに付いてきてくれてます。さんきゅーでっす!

 

むっ。先にいる『かれら』の位置、ちょっと悪いですね。このままスルーしても気付かれてチョーカーさんが美味しく頂かれそうです(比喩に非ず)。

ここは、集めておいたキーホルダーの一つを適当にそこらに投げて誘導しましょう。

 

 

「――それは……」

 

 

ん?そこらで集めたキーホルダーだよ。

ぽいーっ。

 

……オーケー。行きましたね。

チョーカーさん行くよ。

 

 

「……ああ。照子……」

 

 

だれだよ(ピネガキ)

 

 

 

 

むーっ。

こっち側は結構多いですね。誘導できて進めてるのは良いんですが。

 

 

「………」

 

 

チョーカーさんが青ざめながらも付いて来てます。

ありがたし。キーホルダー投げる度に顔色変えてるのは気になりますが。キーホルダーマニアなのかな?

 

バリケードの直ぐ近くに来ました。

……小さく話し声が聞こえますね。くるみとりーさんです。……補強が終わって、休憩中かな?さっきからゲーム内時間で30分かそこらなので妥当でしょう。

 

 

「……!着いた!」

 

 

あっ、おいバカ!走るな!(素)

その近くに『かれら』の一人がいるのが見えんのかお前ぇ!

 

 

「――ひっ!」

 

 

ああもう!

気持ちは分かるけど!最後で気抜けるのは分かるけどぉ!

くそっ!しょうがない!行くぞバサ槍さん!

 

突進して、脇腹を抉ります!

 

 

「……柳!」

 

 

口しか出せんのかお前は!

よしっ、このまま押し出してぇ……!

 

 

――ポキッ。

 

 

ん?

あれ、急に感触が無くな――ああ。

刃先が『かれら』の腹に刺さってますね。歴戦のバサ槍さんは老年のバサ槍さんだったんですね。接合部分が脆かったみたいですはははははははははははははははは――ジィィィィィィザァァァァァス!!

 

 

「……だっ、誰か!そこにいるんだろ!助けてッ……!」

 

 

ばっか叫ぶな!他の来るダルルォォ!?

でもナイス!このままじゃ二人とも死ぬからネ!リィセットの危機ィ!

 

――くるみー!早く来てくれー!(クリリン並感)

 

 

「……えっ?」

「なぎ、くん?そこにいるの?」

 

 

――いるからとっとと来て!やーらーれーるー!

 

 

「――っ!くるみっ!」

「ああくそっ!()()()()()()()()()()()()()!やなぎっ!待ってろ直ぐにそっちに……!」

 

 

おしっ、これで大丈夫――じゃねぇ!

流石『かれら』脇腹刺されてもびくともしねぇか!くそっ、こうなるんだったら、ヘッドォショォォを狙うべきだった。体格上むずかったけど!

 

ああ、このままじゃあくるみが来る前に!

 

………やりたくなかったけどしゃあない!

先ほど『かれら』は生前の行動に沿って行動をしていると説明しました!つまり――生前の事を利用すれば誘導出来る余地はまだあります!夜にまだいる奴なんで期待は出来ませんが、やらなきゃリセット!やったるぞコラぁ!

 

こいつは誰だ……?

さっさと思い出せショタァ……!義一くん?サーカー部?

 

いや、だれだよ(ピネガキパート2)

 

いや、そんな事はどうでもいい!ともかく、声を掛けます!

大丈夫だ私を信じろ!――ゆきちゃんと幼馴染の私を信じろぉ!!

 

 

――あれ?義一くんまだ学校に居るの?また顧問に怒られるから早く帰った方がいいよ?

 

 

こい!こいこいこいこいこぉい!

 

 

「あっ――」

 

 

よしっ!止まった!今がチャンス!

くるみぃ!

 

 

「――やなぎから離れろ!!」

 

 

――グシャァ。

うわぁ……ぐろてすくぅ……(助けてもらった人)

 

 

「やなぎ!……ああくそっ、噛まれてないよな!なんであたし達に何も……って。柚村?」

「……恵飛須沢」

 

 

あっ、この子生存者。助けてもいいよね?

――まあ、事後承諾させるけどなぁ!おらっ、見ろ!さっきの騒ぎで『かれら』が寄ってきてるぜ?感染の有無よりまずは脱出だぁ!

 

 

「――くるみっ!なぎくんは無事っ!?」

「っっ!今は後だ!二人とも行くぞ!」

「……ああ」

 

 

やった!勝った!

チョーカーさん救出、完!!

 

今回はRTA出来た気がするぞおい(歓喜)!

 

あっ、こういう脱出になると後で詰問になるのですが――ショタの疲労がピークで、安全地帯に入ると気絶するのでその詰問もカットされます。

だから、早く起きてマニュアルを読んだんですね(偶然)。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――

 

 

 

――何が起きたのかは分からなかった。

 

 

でも、悲鳴と轟音と呻き声――血。

それだけでなにか酷い事が起きたという事はわかった。

 

私は、トイレまで走って個室に隠れた。

 

友達に「なにがあったの!?」と聞かれた。無視した。

知り合いが「助けてくれぇ!!」と血に塗れた手を伸ばしてきた。無視した。

ゆきもやなぎも――どうなったかすらも考えなかった。

 

ただじっと耳を塞いで、目を閉じた。

扉を叩かれて、悲鳴と怒号――すぐに呻き声と血が溢れた音と咀嚼音が聞こえても。そしてしばらくして、動き出した音が聞こえても。

 

聞こえても、ただ……ただじっと隠れていた。

 

 

……意識が覚醒する。何度目かわからない目覚め。朝か昼か夜かも定かじゃなかった。

私は個室から一歩も出られなかった。あの光景が過るとどうしても足が動かなかった。外に出ないで済むのなら――便器に顔を突っ込むのも苦じゃなかった。

 

……これからどうなってしまうのだろう。

不安と恐怖と、空腹で――頭がおかしくなりそうだった。いっそこれは全部ドッキリでトイレを一歩出れば、皆がクラッカー片手に大笑いしてくれればどんなに良いと思った事か。

 

 

 

また意識を失って――覚醒した。もう限界だった。

ずっとこのままでいるくらいなら、いっそああなった方がいいんじゃないか、と変な笑いが零れた。

お腹は空いたし、便器に顔を突っ込む自分を笑う事すら出来なくなった。

 

――もう、いいじゃん。

 

 

そう思って、立ち上がって。

ふと――隣から物音が聞こえた。

 

「……っっ!」

 

身に張り付いた恐怖と空腹のせいか、足に力が入らず――転んでしまった。

ごつんっ、と壁に頭を打ってしまう。

 

呻いてる暇は無かった。

その物音が――直ぐにこのトイレの扉を開けたから。

 

「――ひぃ!」

 

怯えは一瞬。

ただ口を紡いで耐える。そうすれば居なくなる。居なくなってくれる。

何が聞こえても、動かず……ただ、聞こえない振りをしていれば――

 

 

「――おーい。誰かいる?やなぎくんだよー」

 

 

ふと――聞きたかった友達の声が聞こえた。

なんで。どうして。――そんな事も考えられず。私は直ぐに扉の鍵を外した。

 

ああっ、やっと……やっと!

 

 

「ふーん――ボくなら、開ケるんダ?」

 

 

そこにいたのは――血に塗れた友達と、私が見捨てた知り合いが立っていた。

 

「私ガ聞いタ時は、聞きモしなカったのに?」

「僕が手を伸バして助けてっテ言った時ハ、跳ネのけタのに?」

「俺ガ開けてクれって言ッた時は、何モしなカったノに?」

 

「「「柳なラ開けルのカ?」」」

 

 

ちっ、ちがっ……!

 

 

 

「ヒキョウモノ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ッ!!」

 

――身体が起き上がった。

久しく感じなかった感触。

 

「はぁ……はぁ……」

 

窓から差す朝日、温もりが残る布の感触、飛び跳ねてるであろう髪の鬱陶しさ――良くあるような、朝の目覚めだった。

 

「………」

 

――助かった。

一番に想ったのはソレ。私は助かった。……皆を見捨てた卑怯者が、助かった。

 

 

「――目、覚めたか?」

 

 

重い頭を横に動かすと、シャベルを持った恵飛須沢が気持ちよさそうに寝ている柳の頭を撫でながらこっちを見ていた。

その横には、ゆきと佐倉先生が静かな寝息を立てている。……ゆきも助かっていたんだ。佐倉先生は寝る時、あんな面白い結び方して寝るのか、とどうでもいい事が頭を過った。

 

「三人、寝てるから静かにな……」

 

そう言って、顎を部屋の外へとしゃくる。柳の頬を一つまみしてから外へ出てった。

 

 

――あの後。

バリケードを越えた後は大変だった。

恵飛須沢はこっちにシャベルを向けて「奴らにならないだろうな!」なんて凄んできたし、若狭は若狭で、柳を抱きしめて「どうしてこんな事したの!」って絶叫してたし――当の本人は、気絶したみたいに寝始めるし。

 

実に混沌とした現状だった。

 

結局、やけになった私が服全部脱いで「どこも噛まれてねぇよ文句あるか!」と叫んだのを最後に収束したが。

……今思えば、相当キテたな、私。

 

ゆっくり立ち上がって、起こさないように外を出る。

私を助けてくれた勇者は、何も無かったような安らかな寝息を立てていた。

 

 

「………」

 

廊下に出ると、恵飛須沢がバツの悪そうな顔をしていた。

 

「なんだよ」

 

特に何も無いが、ついそう言ってしまった。

 

「いや、その――ごめん。夜の時は悪かった」

「……いいよ。あの時はきっと恵飛須沢が正しかっただろうし」

 

人を喰らうような化け物が徘徊してるんだ。

そんな所で、いきなりまともそうなのが出たらああなるだろう。私だって、逆ならそうする。

恵飛須沢はきっと、私が寝ている間も――じっと睨みつけたんだと思う。私がいつ奴らになってもいいように。

 

結果、朝まで私はぐっすりと悪夢を見てたから。問題無いと判断して謝ってきた。そんなとこだろう。

 

「それでもだ。ごめんな」

「………」

 

こいつ。こんな、良い奴だったのか。

恵飛須沢はどっちかっていうと寡黙な奴で、卒業したOBの事しか興味がないって印象だったんだが……なんか――意外だ。

 

……こんな状況でもなきゃあ、卒業までそのままだったかも。

 

「じゃあ、謝るのはこれで終わりにしよう。私もアレで、恵飛須沢もアレだった。それでいいだろ」

「そう、だな。……あんま、湿っぽいのもな」

 

そうして、へへっと笑う恵飛須沢はやっぱり新鮮だった。

 

 

 

「りーさん。柚村が起きたぞー」

「……あら、おはよう。お湯でいいかしら」

「……?コーヒーもうないか?」

「いえ――コーヒー飲み過ぎたせいか、頭痛いのよ。カフェイン摂り過ぎたかしら」

「ははは、ありそう」

 

生徒会室では、若狭がお湯をくれた。

夜とはうってかわって、焦りを煮出したみたいな顔じゃなくて――疲れてても穏やかな顔だった。

 

 

……誰も何も喋らない沈黙が広がった。お湯を啜る音が、やけに大きい。

特に何も無かった。でも、私が居た場所や出来事は軽く話した。便器に顔を突っ込んだ事とか――友達を、見捨てた事は隠して。

 

その後、今度は二人が何があったのかを話してくれた。

屋上で難を逃れた事、生存の為に三階にバリケードを築いた事。話してない事もありそうだったが、お互い様だ。そこは聞かない。

 

「運が良かったんだな」

「運が良い……のか?」

「さあ?」

「……お前が言ったんだろ」

 

なんだか会話が楽しくて、つい軽口も漏れてしまう。

悲鳴しか言えなくなったと思ったが、良く生きていたな私の口。

 

話題は自然と柳の事になって言った。

というか、私が誘導した。聞きたかった事があったからだ。

 

「そういえば、柳はどうして外に居たんだ?」

 

バリケードは強固の印象だった。

奴らを近づけないように考えられていて、端から外に行くなんて思考の外にあるように隙間が無かった。

つまり、皆としては外に出るつもりは無かった――なのに、柳は外に出た。

 

それのおかげで私は助かった訳だけど、どうしても知りたかった。

 

二人は息を呑んで――深刻そうな顔をした。

 

「……抜けだしたんだ。きっと、生存者を探そ――いや、きっと信じられなかったんだと思う」

「そうか……」

 

柳はきっと――信じたくなかったんだと思う。

あいつは皆と仲が良かった。それの日々を、血で塗り潰された。そんなの認めたくなかったろう。

 

「……ねぇ、二人とも。なぎくんのバッグの事なんだけど」

 

若狭はそう言うと柳が背負っていたバッグを机に置いた。

チャックを開けると――血に塗れた文房具やら、キーホルダーが雑多に詰め込まれていた。もう何も入らないほどにギッチリと。

 

「なんだこりゃ」

「ええ。なんでこんなもの……」

 

二人は分かっていないみたいだった。

でも――私には分かっていた。その意味が。

 

柳が、奴らになっていた友達に投げたキーホルダーを思い出す。

……彼氏に貰ったって喜んでいた淡い水色の魚のキーホルダー。照子……私の友達だった奴のモノだった。

アイツはそれを目で追って、近づいて行っていた。あれは、音に寄せられたのか――それとも、他に何かあったのか。それは私にはわからなかった。

 

私がその事を話すと。

二人は――静かに項垂れた。……ぎしりと歯ぎしりが聞こえた。

 

 

話す事はもう無かった。

軽口を言える空気でも、もう無かった。

 

私はお湯を啜りながら、窓の外を見る。

奴らが校庭で蠢いていた。体育着の奴らが多い。まるで――朝練しているようだった。

 

 

ふと。奴らに襲われた事を思い出した。

 

 

『あれ?義一くんまだ学校に居るの?また顧問に怒られるから早く帰った方がいいよ?』

 

 

誰かもわからないくらいな奴に、あたかも当たり前のように言った柳。

それを聞いて――()()()()()()()()()()()()アイツ。

 

『……ァ、ヤ……』

『――やなぎから離れろ!』

 

想像は血を思い出したので頭から追いやった。

もう、どうでもいい事だ。

 

それよりもこの空気を何とかしたかった。

もう裸になるのは通じなさそうだったから。

 

 

 

 

 

―――――

 

 

「――んっ。むぅ……ふぁー、やーくぅんおはよぉ」

 

 

おはよう。ゆきちゃん。はい、ぎゅー。

 

 

「むふふ」

 

 

……うーん、チョーカーさんが居ませんね。

早めに起きたんでしょうか?まあ、寝室に戻ってるので問題なしです。

 

 

「……んんっ、っむ」

 

 

おっ、虚無僧が起きたぞ。

 

 

「……めぐねぇ?なにそのあたっ――むぐっ」

 

 

しー。ゆきちゃん、しーっ。

私は、根に持つタイプです(大事な事なので二回)。

 

 

「……ふふっ。やーくんもワルよのぅ」

 

 

「あら?見づらい……」

 

 

寝ぐせすごいっすよめぐねぇ(大嘘)

 

 

「そうだね。早く、鏡見た方がいいよ」

 

 

「ぅうん……そうね。ちょっと行ってきまふ……」

 

 

……なんかバール持って歩いてる虚無僧って下手な『かれら』より怖いなアレ。

 

 

「ねぇ……やーくん」

 

 

なぁに、ゆきちゃん。

 

 

「この後怒られる気がする」

 

 

おっと、それを考慮に入れないとは悪代官失格だぞ、ゆきちゃんよ。

 

 

「そっかぁ」

 

 

――悲鳴が聞こえてきました。こっち誰か走ってきますね。

…………。

チョーカーさん、救出大成功!ミッションコンプリート!今回はガバなかっ――

 

 

「やなぎくん!ゆきちゃん!私の頭をパイナップルにした件についてお話があります!!」

 

 

いや、それ虚無僧です(鋼の意思)

 

 

 




――
※解説

『誰かの物』
教室を探索する際に入手する一区分のアイテム群の事。
主に教科書・文房具・キーホルダーが多い。有用なものは少なく、大抵は使いどころなどない。

それが何に使われ、どう想われていたかなど血に塗れてしまったが――これらをどう使い、どう想うかは自由だ。

どうせ、もう『かれら』には必要ないものだ。



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三~四日目 Lost

(2日分に纏めたから長いので)初投稿です。

あっ、あと次回はちょっと遅れます。めーんごっ!(可愛げアッピル)


やっとRTAっぽい事が出来て嬉しいRTA、はーじまーるよー!!

 

 

三日目に入りました――私は死ぬほど元気です!(テンションバリ高)

 

いやぁ……やっと、やっとチャート通りに進んだんやなって。

色々あったですけれど、チョーカーさんを救出できたのは大きいです。頭数はあるだけでタァイム短縮に繋がり、多少のガバはチャラにできます!

 

バンザーイッ!(テンション↑↑)

 

 

「それで?やなぎくんはどうして先生の頭をパイナップルにしたんですか?」

 

 

だから虚無僧だって言ってんじゃねぇかよ(テンション激サゲ)

 

寝室から、場所は生徒会室に移動しました。

そこに主要キャラ達が集まっており――私はそこで正座をしています。

 

 

「あー、びっくりした。ジャンルがサバイバルからホラーになったかと思った……」

「そのたとえは良く分かんないけど……あれは妖怪だったわよね……」

 

 

くるみとりーさんが仲良くお菓子を摘まみながら談笑してますが――私はそこで、正座をしています。

 

 

「たかえちゃん、たかえちゃん!無事で良かったよぉ……!」

「ゆき……」

 

 

目の前で感動シーンで繰り広げられているというのに――私は!そこで!正座をしています!

なんとめぐねぇは空気が読めないのでしょうか。風情が無いってそれ一番言われてるから。

 

 

「こらっ、不服そうな顔をしないっ!」

 

 

おっ?やんのか――むぎゅっ。

うおっおっおっ。めぐねぇがいたいけなショタの頬を捏ね繰り回しています!ダメージが、微妙にダメージが蓄積するから止めろぉ!(主要キャラ筋力値二位)

いっ、いきなり他人のほっぺいじくるとか常識無いのか!捕虜への拷問は条約違反なんだぞ!

 

 

「………やわっこい」

 

 

あっ……あの?いつまでやってらっしゃるの?(お嬢様部)

いっ、痛い(HP減少中)

 

 

「あーっ!めぐねぇだめだよっ!やーくんのほっぺは私のものっ!」

 

 

止めて近づかないでゆきちゃん!参加しないで!

ふぅおおおおお(HP減少率アップ)。死ぬぅ!死んじゃぁーう!ほっぺいじくられて死ぬとかスペランカー大先生以下だぞショタお前ぇ!

 

 

「あー、ほらほら。あんまいじくってやるなって可哀そうだろ」

 

 

GORIMI IS YASASII

助かりました。このままだと進行しませんし。……お菓子食って回復しておきましょう。

 

 

「こほんっ。それで……柚村、さんですよね?」

「はい――柳のほっぺ触って恍惚としていた佐倉先生」

 

「そっ、それは違います!……違った、わよね?よねっ!よねっ!?」

 

「率直に言ってBPO案件だったぞめぐねぇ」

「くるみ、それを言うならPTAよ」

「――はうっ!」

 

「大丈夫だよめぐねぇ!――私も気持ち分かるもん!」

「――ふぐぅ」

「あーあー、トドメ刺したるなよ、ゆき……」

「トドメってなに!?」

 

 

なにやってんだあのショタねぇは……(ポリポリ)

 

今始まってるのは新キャラが救出された際に入る『合流イベント』です。顔合わせですね。

ここで互いの好感度が低かったりすると、険悪な雰囲気になり、下手したら合流すらしなくなる事もあります。滅多に起こらねぇ事ですが。

 

会話を見るに……互いの好感度は問題なしですね。特に問題無く、チョーカーさんは受け入れられるでしょう。

チョーカーさんが加入すると、ゆきちゃんの正気度減少に補正が掛かります。めぐねぇもいるので、誰か死なない限り――ゆきちゃんは、発狂とは無縁な空気清浄機(比喩)として活躍してくれるでしょう。やったぜ。

 

 

この後、軽い自己紹介とあだ名決めのイベントが始まりますが、ここは何しても変わんないのでスルーしながら、菓子を摘まんで回復に勤しみましょう。

タァイムの短縮には――出来る限り、今ある食糧の消費を早めておく必要がありますので、さりげなーく、食い散らかしておきます。

 

 

「それで、どうやって此処に?他に誰か居たの?」

 

 

おっと。

めぐねぇ、それは。

 

 

「……他に、人は居ない。私一人だった。どうやっては……あー」

 

 

チョーカーさん悩んでますねぇ。

私を見て、くるみりーさん、んで私を見て、言おうか言わずか悩んでます。

くるりーさん達は……こっちも悩んでますね。

 

 

「……?どうしたの?」

「いや……その――」

 

 

さて。ここで私が一人で夜廻を敢行したのがバレたら――秒でお説教です。

今日のお昼頃まで時間が潰れてしまいます。まあ、三日目はやれる事も少ないので構いませんし、チャート的にも想定済みですが――この時間を有効活用したいっていうのも本音です。

 

ここは一つ。こっちをチラチラしてるチョーカーさんにウィンクをかまして、黙って貰うように伝えましょうか。単独での救出の為、好感度は高めのはずです。私の意図はしっかり伝わるはず。

 

 

「えっと……だな」

 

 

チョーカーさん!――バチコーンッッ(迫真)

 

 

「柳に助けて貰ったんだ」

 

 

あれー?

 

えっ、伝わんなかった?さっきお前言おうか言わずまいかチラチラ見てただろ?スゲー見てたゾ。

なのになんでウィンク見た途端、迷いなく暴露し始めたんだよおい。無視より酷いぞお前!意図を察してもその通りにしてくれないとか……えっ、意外に好感度は低いのか……?うーん?

 

 

「やなぎくん。どういう、事……?」

 

 

――説教確定ですねクォレハ……。

チョーカーさんの裏切り者ぉ!空気読めるチョーカーさんなら伝わってただろ絶対ぃ!ああ……横からの視線の圧がつよい。見なくても涙目のゆきちゃんが見える見える……。

バレたのなら仕方ありません。説教を甘んじて受けましょう。

むしろ、めぐねぇの説教は心が和むのでほんわかしながら流しましょう。顔真っ赤にしてプンプンでめっ!してくるめぐねぇいいゾ~これ。

 

さて、適当に――

 

 

「どうして、そういう事したの?危ないのよ?」

 

 

えっ、危なくなんて無いんですけど。余裕だって安心しろよぉ~(RTA走者の鑑)。

ヘーキヘーキ、ヘーキだから。三十分で一人!簡単だったぜや。褒めてくれてもええぞ!

 

 

「――平気ではありませんッ!」

 

 

――ふやっ!?

………めぐ、ねぇ?

 

 

「今、外がどういった事になってるか。分かってるでしょう?なんで誰にも言わずに……!」

 

 

……けっ、気色が違う!

私が想像していたのはプンスコッ!ってオコしてるめぐねぇなの!こんな、こんな……!――何しても怒んない眼鏡の友達から眼鏡取り上げてガチギレさせちゃった、みたいな説教は望んでない!

見てよ!めぐねぇがあまりの剣幕だから――皆して、悲壮に満ちた顔してるじゃん!

 

えー……えー……?

なんかぁ、アレですね?――意外に。皆、好感度、低い……?

ゆきちゃんはビンタだし、ゴリラも腰紐だし、チョーカーさんはスルーしてくるし、めぐねぇはこれだし……あれ?想定以上なのりーさんだけじゃね?いつもは隠れ発狂してるりーさんだけ上手く行ってるってどういう事?嬉しいのにすっげぇ複雑!

 

ゆきちゃん幼馴染ルートのはずなのにぃ!

なんでしょう?知らずの内に、好感度を下げる行動をしていた、とかでしょうか?あー……アカン。特に思いつかない。いや、ガバはあっても好感度が下がるような行動は……。

ええい、仕方ありません。後で全員に死ぬほど媚びを売っておきましょう。

 

 

「やなぎくん……やなぎくん!」

 

 

だから、今は甘んじて受けてやるぅ!!

ひぃ、本気モードめぐねぇ迫真過ぎる!これも覚醒めぐねぇのせいなのか!ショタじゃなくて、私自身が怒られるように錯覚するほどなんですけどぉ!

 

 

 

 

 

 

 

「うー……」

 

 

三日目、昼です。

こってり絞られたような気がします。気持ちは牛乳を拭かれた後の雑巾。実に惨めな気持ちです。今も右腕はゆきちゃんによって絞られています。柔らか痛いです。

ガバはあっても上手く行ってたはずなんですけどねぇ……。

 

 

まあ、気持ちを切り替えて行きましょう!(ポジティブ)

 

 

三階制圧までが言わば、序盤!

ここからは耐久戦な中盤の始まりです。ここまで行けば、滅多な事はあっても私ほどの歴戦の走者ならば問題ありません。安心して終盤に備えて行きましょう。

 

主要キャラ達は、朝になると朝食を摂った後、バリケードの外に出る“えんそく”などのコマンドが発生しない限りは――皆自由に活動し始めます。

あっ、夜に見張りを行なったキャラは三時のおやつ辺りまで寝室に行きます。

……今頃、りーさんは恵体を投げ出して寝ている事でしょう……くっくっく。まあ、何もしないし、したら好感度高いりーさんでも問答無用でイく(そういう意味ではない)なので注意しましょう。

 

 

「うー……うー……」

 

 

ここから恐れるべきは――直近で七日目。皆大好き“あめのひ”イベントです。

このゲームは、七日過ぎる毎に雨が降り、そうすると雨でビチョビチョになる事が嫌な『かれら』が校舎内に殺到し、朝昼夜限らず飽和状態になります。ゾンビクラフト系かな?(すっとぼけ)

ですので、階段が上がるのが難しい『かれら』もバリケードまで到達しやすくなり――バリケード崩壊、総力戦っていう事が起こるのです。雨は流石に止める事が出来ないので、その為の準備が必要になります。

 

が。

 

 

「うー……うー……」

 

 

知る人ぞ知る()()()があるので――特に準備する事はありません。

ここは本チャート通り、好感度稼ぎと食糧の貯蓄をこなしていきましょうか。特に、好感度ガバが激しいのが分かって来てるので積極的に揉み手で媚を売りに行きましょう。うーん……足を舐める辺りまでなら大丈夫ではないでしょうか!(謎基準)

 

では、早速。

――キャラの好感度稼ぎをやっていきましょう!

 

 

「うー……――がうっ!」

 

 

痛っ!ゆきちゃんに噛まれた!(小ダメージ)

これは、感染してしまいました!――ゆきちゃん可愛過ぎ病に!(バカップル並感)

あー、ほっとき過ぎて怒っちゃったんだねー。ほぅら、よしよしー。頭もほっぺも撫でてスキンシップを取りましょう。

 

 

「うー、んにゃう!」

 

 

子猫かな(鼻血)――たまらねぇぜ。

 

 

「むーっ、やーくん。私も怒ってるんだからね?」

 

 

まあ、ゆきちゃんに隠れて外に行ったという事ですしね。

これは好感度高低関係ありません。素直に謝っておきましょう――次は一緒に行く?(ぜってぇ行かせねぇけど)

 

 

「もー!めぐねぇのお説教理解してないでしょっ!やーくんのお馬鹿!」

 

 

ひっ、酷い!

全教科赤点なゆきちゃんにバカって言われました!

ここはプンスコゆきちゃんを落ちつかせる為に、ほっぺをむにゅりますか。ほーら、うにゃにゃしてねー。ふっふっふ、怒り状態を保てず、口元が緩み始めたぞバカめ!このちょろゆきちゃんめ!

 

 

「うーっ、やーくんったら。……誤魔化されてあげるよ、もう」

 

 

よし、勝った!

では、気を取り直して――好感度稼ぎ、やっていきましょう!

 

 

 

 

 

 

「ねー、やーくん。なにする?めぐねぇはくるみちゃん達が起きてくるまで自由にしてていいって言ってたけど」

 

 

じゃあ、お外――

 

 

「あっ、お外はダメだからね!行こうとしたら私の幻の右手が炸裂するからっ!」

 

 

それはノーサンキュー。

まあ、お外はジョークです。流石にお昼はかれらの数が多いのでムリのムリ、カタツムリーです。

 

めぐねぇが言ったのは、くるみ達が起きてから始まる清掃の時間の事ですね。廊下も教室も、血塗れガラス塗れですから。……運営も、かれらの死体を自動で消すんなら血の跡とかも自動にしてくれればいいのに。変に不親切ですよねぇ。

 

清掃の時間は夜まで掛かるので、三日目の好感度稼ぎは今の時間にしか行えません。ちゃっちゃと行きましょう。

 

まずは、めぐねぇですかね。

……お説教のさっきのさっきなので、顔を合わせづらいのは否めないですが――今のめぐねぇは覚醒めぐねぇ、ゴリラに匹敵する戦闘能力を持っています。私は常に強い者の味方です。合わせる顔がなんぼのもんじゃーい!

 

 

「えっ、めぐねぇに会いにいくの?……うーん、そうだね。行ってみよっか」

 

 

めぐねぇは基本的には職員室か生徒会室に居ます。今回は……職員室みたいですね。行きましょう。

 

おっ、職員室の扉が空いてます。

ここは堂々と……は、止めて。先にこっそりを様子を見てからにしましょう。

 

――ちらっ。

 

 

「…………」

 

 

あら?あれは私のバッグ。

アレを眺めて茫然としてますが、どうしたんでしょうか。

使い道を捻りださないと使えもしないゴミの束なんですけどね、アレら。

 

 

「……なに見てるんだろうね?」

 

 

私のバッグ、お外で色々持って来たんだよ。

 

 

「……キーホルダー?ペン?何使うの?」

 

 

補強だよ、補強。

……そういえば、バサ槍ブッ壊れちゃったし、ある意味やっておいて良かったですね。

ついでに補強もやっておきたいですし、返してもらいましょうか。

 

 

おーい!(媚び)

めぐねぇ様ぁん!(媚び媚び)

どうしたのぉーん!?(媚び媚び媚び)

――これオカマだわ。

 

 

「えっ?あっ……ううん、なんでもないの。どうしたの二人とも?」

「えっとねっ!やーくんがめぐねぇに謝りたいんだって!」

「……そうなの?」

 

えっ、そうなの?そうだったっけ?(池沼)

あー……まあ、特に拒否る必要はありませんので謝っときましょう――めーんごっ!(精一杯の可愛げ)

 

 

「……もう」

 

 

ひぃ、めぐねぇが近寄ってきました。

また圧力がががが――と?おや、頭を撫でられています。これはぁ……これはぁ……?

 

 

「先生も……私も。言い過ぎたと反省してたの。ごめんね」

 

 

これはぁ……大丈夫やな?(不安)

 

 

「だから、ね?――皆、やなぎくんが心配な事だけはどうか分かって欲しいの」

 

 

大丈夫……って範囲内でいいですねこれ!(確信)

めぐねぇの顔が実に優しげです!そうこれだよ!これ!さっき欲しかったのはさぁ!

ここは神妙に「はーい」と項垂れて、恭順を示しましょう。こうすれば、いざの時まで警戒されないので(ゲス)

 

 

「……うん。やなぎくんは良い子ね、本当に」

「そうだよっ!」

 

 

いや、そんな事……――ありますねぇ!(得意げ)

 

……めぐねぇはもう大丈夫そうですね。もう怒ってないみたいです。

次はチョーカーさんのとこに行きましょうか。あっ、めぐねぇ。バッグ返して。

 

 

「あっ、ええ。はい――何に使うの?」

 

 

いやね。あっ、あとバサ槍さん知らない?私の方の。

 

 

「ばさやり……これの事?」

「ああっ!バサ槍さん!」

 

 

oh~、これは無残ですね。

 

昨日は暗くてあまり見えなかったですけど、やっぱり酷いですね。刃の部分が根元から完璧にイってしまってます。

これでは槍ではなく、ただの古びた棒です。はじまりの城で貰える棒よりも弱くて脆いとかゴミでねこれは(辛辣)。いけませんね。

 

ですから――このバッグの中身が必要なんですね。

 

おうりーさん!その恵体でちょっくら工具のドリルを探してぇ……って。そういえば、寝てるんだった。……うぅ、今んところの私へ確実な好感度を示してる唯一の良心がぁいないぃ……。

 

うぅ……。

――ねぇ、めぐねぇ。工具のドリルない?

 

 

「ドリル?……うーん?」

「なぁに?ろけっとぱんち?」

 

 

ゆきちゃん、それはロボに付ける方のドリルや。

 

 

「ああ、もしかしてネジ穴を開ける奴の事?それなら確か、園芸部の備品に……」

 

 

……ほんと何でもあるな園芸部。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ん?どうした?ゆき、やなぎ」

「あっ、たかえちゃん!」

 

 

こちら、屋上。

恥知らずのチョーカーさんが黄昏てました。

おまえの大ピンチを助けてあげたのわかってる!?この恩知らずめぇ!(ゆきちゃん並感)

 

まあ、好感度稼ぎは後です。

先にバサ槍さんを治してしまいましょう。えーっと、では備品を荒らしましょう。ショタならば直ぐに見つかるでしょう。

 

 

「……んー?やなぎは何を探してるんだ?」

「ドリルだって!」

「ドリル?ぐれんらがん……?」

 

 

だから、そういうドリルじゃねぇ!

おっ――こっ、これは、コードレス・高品質バッテリー・小型サイズの工具ドリルです!これはレア度高い!……いや、これにレア度求めてねぇよ!こういう時に豪運発揮すんのやめて!?

 

 

「ああ、それか」

 

 

それだよ。

あっ、ゆきちゃん。ちょっとバサ槍さん押さえててくんない?

 

 

「……こう?」

 

 

では――ギュイイインと。柄の部分に穴を開けましょう。これはクソザコショタにも容易いです。

そこに、取って来ていたキーホルダーの中で、おっきめの輪っかが付いてるのを嵌めます。

 

そして、その輪っかに一個ずつ。キーホルダーを付けて行きましょう。

 

 

「あっ――」

「………」

 

 

出来れば、ゴツゴツでトゲトゲなのを選びます。

あっ、修学旅行で男子中学生が必ず買う龍の剣のキーホルダー!修学旅行で男子中学生が必ず買う龍の剣のキーホルダーじゃないか!こいつは絶対付けましょう。

こうやってキーホルダーを重ねて付ける事によって、振るえば鈍器になります。丁度槍ではなくなったので良いリカバーですね!

 

よし、出来た。このぐらいでいいでしょうか。

余ったのは、またいつか使う為に適当な箱に移して、バッグを空にしておきます。

 

これで新しいバサ槍、さん……ではないですねもう。

 

バサ……バサ……アンバサ(イミフ祈り)……――そうだ!バサ杖!

今からコイツは枝切りバサ杖さまと命名しましょう!かーっ、なんて粋な名前!痺れるセンスが光りますね私は!

 

丁度見た目も僧侶が持ってそうな感じですし、実に良いです。動く度にシャランシャラン煩いですが、かれらを音で誘導できると考えるべきでしょう!

 

じゃあーん!見てよゆきちゃーん!

枝切りバサ杖さま!

 

 

「……うん、かっこいいよ。やーくん」

 

 

ダルルォ!?

 

 

「………」

 

 

チョーカーさん。

なんだその目は!なんだその目は!こらっ、頭を撫でるな恩知らずめ!

 

 

 

 

「――皆。二人が起きたから、来てくれる?やっておきたい事があるの」

 

 

おっ、めぐねぇが来ました。もうそんな時間ですか。かしこまりっ!

チョーカーさんの好感度稼ぎは出来なかったな……。まっ、いっか。

良いリカバーできましたし、三日目は良い感じですねっ!

 

めぐねぇめぐねぇ。

ほら――枝切りバサ杖さま。

 

 

「……そう。かっこいいわね、やなぎくん」

 

 

……ゆきちゃんと同じは面白くありませんねぇ(わがまま)

 

 

 

 

 

 

 

午後は(スタミナバー酷使走法を使って秒速で綺麗にするだけだから)倍速です。特に面白みも無いですしねぇ。

 

普通なら、直ぐにでも二階制圧を試みたりだとかをすべきでしょうが――正直、後衛組に入ってしまった以上、ゴリラズに任せるしかありませんので無理です。あまり運頼みはちょっと、ですし。

 

という訳で、モップ片手にバサ杖さま片手にちゃっちゃと終わらせ……くっ、モップがデカイ。バサ杖さま邪魔だわ。チャリチャリ鳴るだけやんけお前ぇ!

 

 

――工事完了です……(ご満悦)。もう夜ですね。

 

 

「今日は私が見回りをやります!」とやけに自信満々なめぐねぇに、私達は寝室に押し込まれてしまいました。うーん……本当はあめのひじゃなければバリケード突破されないからやんなくてもいいんですけどねぇ。掃除の最中にバリケードの状態もチェックしましたけど、特に問題ありませんでしたし。

 

皆は、私と違ってかれらの法則をまだ理解してないので仕方ないんですが。

早めにそれとなぁく周知させたい所です。

 

 

では、とっとと寝ましょう。

皆清掃で疲れてるからか、いそいそと就寝に入ります。私も寝ますが……――また夜廻を試みましょう。

正直、行っても行かなくても問題ありませんが――行って損はありません。必要なのは腐ってしまう生鮮食品とかですかねぇ。

 

まだ物理的な拘束もされてないのでささっと向かいましょう。なぁに、今回は急ぎじゃありません。バレれば時間の無駄なので即撤収します。

 

持ち物……バサ杖さま、空にしといたバッグ。諦めない心~。では、まいりましょう!

 

 

布団を出て、廊下を歩いているのはいいですが。

むぅ……やっぱ体力持久力も無いショタだと二日連続は流石に――

 

 

「……やーくん」

 

 

ひぇ、ゆきちゃん。いつのまに。

うー……見逃して?

 

 

「戻ろ?めぐねぇにまた怒られちゃうよ、だから――戻ろ?大丈夫だから」

 

 

くそ、聞いてもねぇ。

仕方ない。今回は諦めてやりますか――今回はな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おはようございます。四日目、七時の朝――生徒会室でのお時間です。

めぐねぇは「ふぁあ、わらしはねまふね……」とかふにゃふにゃしながら寝室に行ったのでもう居ません。……大丈夫だよな、廊下でもう寝てたりしてねぇよな。絶対宿直が苦手なタイプですねアレは。

 

朝ごはんは――残りのカロリーメイトと蒸しキャベツです。食い合わせ、イミフで最悪です。

さっきのめぐねぇの縮小版みたいになってるゆきちゃんの口に詰め込んで起こしてあげましょう。おら、私の分も食えやおら。

 

私が良い感じに食い散らかしたおかげで、もう食糧が底を突き始めましたね。ひゅ~、タイム短縮ぅ~。

 

 

「……んー、どっかで飯を取りに行かないとなぁ」

「そうね、三階のはもう取り尽くしたし」

「でも……外、だろ?大変じゃないか?」

 

 

お外ですか。

ここは、バサ杖さまを揺らして、自己主張しましょう――私が行ってもええんやで?(決め顔)

 

 

「………」

「………」

「………」

 

 

――ええんやで?(エコー)

 

 

「そういえば、夜はやつらが少なかったな」

「えっ、そうなの?」

「ああ、廊下にまばらに居るぐらいだった」

 

 

おーい。

こっち見たのにスルーはないじゃないのー!ひどい……ひどくない?

 

 

「……そういえば、夜は校庭には誰も居なかったような」

「確かに。今は……たくさんいるわね」

「ひょっとしたらアレか――夜は家に帰ってるとか」

 

 

おっ、なんとなく法則に気付いてきたかしら?

それは良いですね。そうすれば、私もそれに則った裏技で楽が出来ますし。

 

 

「……取り敢えず、この話はめぐねぇに通してからにしようぜ」

「そうね。今日も一先ず、ゆっくり過ごましょ」

「……ああ」

 

 

今日の予定が決まりましたね。

まあ、自由行動ってだけなので今日も適当に好感度稼いで行きましょうか。

 

 

「そういえば、焼き芋。食いたい。……やなぎが作ると美味しいんだ」

「んー、そうね。朝からすきっ腹だとね。……なぎくんが作ってくれたら」

「焼き芋か。いいな。……やなぎが上手く作れるのか?」

 

 

……期待した目で見ても、さっきの事――私、忘れてませんよ。

………無論、これが良い好感度稼ぎになる事も――私、忘れてませんよ。

 

しゃあないな。しゃーあ、なーいなぁ!(銀河系より広い心)

やってあげましょう。どうせ、好感度稼ぎに終始する予定でしたし――あー、でも燃料が。

 

 

「燃やす物だったら、棚に何かいっぱいあるから適当に使えるわよ?」

 

 

棚ね。

ふっふっふ。

まあ、焼き芋だけで好感度が稼げるなら楽な商ばっ――

 

 

マニュアル「ハァイ」

 

 

――閉めます。

 

すぅー……ふぅー……(深呼吸)。

いや、まさか。いやぁ……まさかねぇ?きっと見間違いですね!RTAのやり過ぎで目がやってしまったんですねきっと!

マニュ……マニ……アニ――そう!アニマル!

きっと、棚の中にライオンが入っていたんですよ!

ああ、よかっ――

 

 

マニュアル「ハァイ、ジョージィ……」

 

 

――ふぁっきゅー!ふぁっきんみーっ!

私のバカ!そういえば、忘れてたくそが!ああ、取り敢えず、適当なものを上に置いて一先ず目に見えないようにして……!

いや待て。このまま一緒に焼却してしまえば――!

 

 

「ん?なにかあっ――」

 

 

覗き込むな、ゴリラ!

閉めます。閉めまぁーす!押さないでくだぁーい!!(駅員並感)

見られる訳には行きません!――いっ、いやぁ。棚には何にも無かったな!紙も無かった!しょうがないから、職員室まで取りに行かなきゃ……。

 

 

「そうか。んじゃあ、あたしが取ってくるよ。頼むのはこっちだしな」

 

 

流石、ゴリラ優しいな!だからこの棚からとっとと離れろ!

 

 

「じゃあ、私はお芋掘ってるわね。なぎくん、たかえちゃん。ゆきちゃんが起きたら手伝いに来てね」

「ああ」

 

 

おう!分かった!とっととゴー!

ふぅ……ゆきちゃん。ほっぺちょっと借りますわ。

 

 

「むにゃ……うにゃ……むにゃ――ふえ?」

 

 

アレ、適当な時にどっかに隠すかコンロで焼きますか。あー……でも、生徒会室って基本誰かいんだよなぁ……。

 

 

「…………」

 

 

チョーカーさん。なんだその目は!

こっち見んな!棚を見るな!見ないでぇ!

 

 

 

 

 

焼き芋を振舞いました。好感度が十分に稼げた事でしょう。

スゲェ嬉しそうにしてたんだ。これは低いから普通よりちょい上になったのでは?

なれ(豹変) なって(懇願)。

 

 

では、自由時間です。

生徒会室に行って、マニュアルを入手しに行きましょう。

くっそ、これならまだめぐねぇのとこに置いとけばよかった……!

 

 

「あら?どうしたのなぎくん?なにか用?」

 

 

用があるのは恵体じゃなくて、マニュアルなんだよぉ!

仕方ない――もう数時間後にもっかい……!

 

 

「ん?おー、どした?あたしになんか――」

 

 

なんもねぇよゴリラ!

くそっ、また数時間後なら……誰も居ないは――

 

 

「む……どうした?柳」

「やーくん。また、だるまさん転んだしてるの?」

 

 

ぬわぁぁぁぁぁん!絶対誰かいる!なぁんでいっつも誰かいんだよ!もぉー!

 

 

「ふわぁ、おふぁようございまふ……」

 

 

ちっ、めぐねぇも起きてきたか。時間を完全に無駄にしました。

……苦渋ですが、また機を狙いましょう。まあ、あんなとこにマニュアルがあるなんて誰も思わないでしょうし。

 

 

 

 

 

夕方――そして、夜になりました。

 

何も無いとほんと何も無いのがこのゲームの良いとこですよね(トイレ休憩の多さ)。

 

 

「じゃあ、今日も私が夜にいるわね」

「えっ?いいよ、めぐねぇ。今日はあたしが……」

「ううん、大丈夫。くるみさんは寝てて?」

 

 

おっ、今日もめぐねぇが見張りを……。

うーん、ていうか。そろそろかれらの習性を周知させて、夜寝かせた方がいいですね。昼夜逆転に慣れさせると面倒ですし、すれ違いが起きて好感度が下がりやすくなります。なに?お前ら両働きの夫婦かなにか?

五日目に、それとなぁく伝えるとしましょう。時間的にも丁度良いですし。……四日目。ほんと時間の無駄だったなマジで。

 

 

「あっ、めぐねぇ。私も付き添いますよ」

「それじゃあ、私も。その、話したい事があるし。佐倉……いや、めっ、めぐねぇ……」

 

 

チョーカーさんかわゆす。

りーさんも職員室に向かうようなので、これはこれは――夜行けそうな匂いがしてきますねぇ!

 

 

 

「……まあ、夜起きてるのは辛いからありがたいか。んじゃ、寝ようぜ」

「うん!はい!おいでやーくん!ぬくぬくしよ?」

 

 

んじゃおやすみなさーい(ガンスルー)。

 

 

「ふぇ……」

「………。おーい、やなぎー。ゆきが泣く一歩手前だぞー。一緒に寝てやれ」

 

 

――ちらっ。

 

 

「ふっふっふ。うっそ――」

 

 

――すやぁ(秒速寝入り)。

 

 

「……あれー?」

「やなぎがあんな呆れた顔すんの初めて見た……」

 

 

おら、とっとと寝る寝る!ネルネルネルネしてやるぞ!(謎脅し)

 

 

 

 

 

 

……――とでも、言うと思ったか!(今回二回目) 夜廻の再来を行ないます(今回二回目)。

ふっふっふ、ゆきちゃんも何とか起きようと頑張ってたみたいですが、ぬくぬくの魔力には耐え切れなかったようですなぁ(ニチャァ)

 

 

では、スルリと布団を抜け出して廊下を目指し……うおっ、また画面がぼやけた。ショタはこういうのが弱いなぁやっぱり。

うーん、この辺は諦めてチャート変更すべきですかねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――お菓子数箱、カロリーメイトもそのぐらい。カップ麺人数分。キャベツは十玉、サツマイモは把握はしてないけどそれなりに。

 

それが私達に残された食糧だった。

 

 

「やっぱり……もうご飯が無いですね……」

「はい。キャベツとかお芋があるので当面は大丈夫ですけど……」

 

それでも、それだけじゃいつか枯渇する。余裕がある内にどっかから取って来た方がいいのは明らかだった。

 

夜。職員室で丁度良いからと話しかけてきたのは――世知辛い食糧事情だった。

残ってるのは心もとないもの。どう考えても足らない。多くあったように思えたが、意外に少なかったようだった。……餓死なりかけの私がいっぱい食べたってのもあるかもしれない。

 

持って、明日まで。

それが過ぎれば――焼き芋を主食にした、茹でキャベツの茹で汁生活だ。嫌だ、そう言える事態ではないと分かっているが――やはり、嫌だ。

 

「……外に、取ってくるしかないと思う」

 

私がそう言うと、めぐねぇとゆうりは小さく頷いた。それでも不安は隠し切れない。

……当然だ――外には『やつら』がいる。耳の奥で呻き声が聞こえたような錯覚を受けた。

 

「ねぇ、たかえちゃん。夜に、あいつらが少なかったって本当?」

「えっ、そうなの?」

 

朝の話に戻った。

やなぎが、これみよがしに「この僕が行ってきてあげるよ?」とドヤ顔しながら、バサ杖とやらをチャラチャラ鳴らしてたのを思い出して――少し、心が軽くなった気がした。

 

「ああ。その……やなぎが連れてってくれた時、廊下に数人しかいなかった。教室も、そんぐらいだったと思う」

「そっか。じゃあ、行くとしても――夜」

「……」

「大丈夫よ。くるみさんもいるしね?」

 

そう言って笑うめぐねぇだが――ゆうりからは見えない手元は、静かに震えていた。

やつらはやつらでも――それでも、元は知り合いだった。そう思うと、めぐねぇの気持ちは理解出来た。

 

それでもやらなくちゃ生きられない。それは、とても悲しい事に思えた。

 

 

静けさが職員室を覆ってしまった。

めぐねぇはバールを見つめて。ゆうりは頭を静かに抱えてしまった。

……これじゃあ、相談してもさらに落ち込むだけだな。取り敢えず、空気を変えようと生徒会室で温かい飲み物でも淹れてこようと立ち上がった時――

 

 

シャラン……シャラン……。

 

 

金属が擦れる静かな音が廊下から響いてきた。

私達は顔を見合わせて――また、顔を曇らせてしまう。私の相談の元がやってきた。

 

音を立てないように静かに扉から覗きこむと、

 

 

「………」

 

バサ杖さまだ。バサ杖さまだと自慢していた杖を片手に廊下を歩いている柳がいた。

その足取りはおぼつかず、わかりやすいくらいフラフラしていた。

 

「……やなぎくん」

 

そう呟いためぐねぇは酷く悲しげだった。

溜息を一つ。呼び止めようとしたのを――私は止めた。

 

 

「――やーくん」

 

 

後ろから、ゆきが近づいてきたのが見えたから。

ゆきに声を掛けられると、ふらっとそこに目を向けた柳は、何事か呟いていた。

 

「大丈夫――戻ろ?ぐっすり寝れば、また元気になるよ」

「………」

「だから、戻ろう?明日になれば、悲しくないよ」

「………」

 

ゆきの言葉に従うように、音は遠ざかって行った。私達はそれを――ただ、見ているしかなかった。

 

 

「無意識、なのかも」

 

ふと、ゆうりがそう呟いた。

 

「なぎくんはめぐねぇの気持ちを不意にするような、そんな子な訳がない。でも、きっとそれでも……」

「こんな状況だものね。その……おかしな事が起きても不思議じゃない……」

「めぐねぇ……」

 

あの杖に、一個ずつあいつらの形見を付けていた柳を思い出す。

それはとても悲しげで――何処か、上の空な印象を受けた。

シャラン……シャラン……と擦れて鳴るアレは空虚で、もう無くなってる過去を――必死で隠しているような、そんな雰囲気があった。

 

 

「相談ってのは、柳の事なんだ。その……何とかしてやりたい」

 

 

めぐねぇとゆうりはしっかり者な印象が前からあった。こうした相談に乗ってくれるはず。くるみもいいやつなのは知ってたが、戦うなんて役目が強いアイツには酷だろう。ゆきは……まあ、うん。

 

「私達に接する時は、酷く明るいんだ。いつもよりもおどけて……励まそうとしてくれてる」

「………」

「でも、それが見てて辛いんだ。アイツだって、苦しいはずだろ……?あんなの作って、あんなになって……!」

「……たかえさん」

「私はっ、アイツに助けられた。だから、助けたいんだ。だから、知恵を借りたい。私には何も思いつかないんだ……」

 

この二日間。見てて思った。

 

――柳は危うい。

 

めぐねぇの説教は、てんで効かない――何を言っているのかよくわかってすらも無かったように思えた。

現実を理解しているのか、していないのかも定かじゃない。

そもそも現実を見ていれば――私を助けようと、果たして考えただろうか。

 

――『あれ?義一くんまだ学校に居るの?また顧問に怒られるから早く帰った方がいいよ?』

 

血に塗れ、こちらを食べようと口を開いていた化け物を目の前にして、そう言える――それが果たして、正気なのか?

 

わからない。わからない。私達は専門家じゃない――だから、怖いんだ。

柳が壊れようとしてるのに、何も出来ない。助けられたのは私なのに、私は何も――――!

 

 

「――たかえさん」

 

 

めぐねぇの言葉に、顔を上げる。

気が付けば、視界が曇っていた。めぐねぇが浮かべているのだろう淡い笑顔が良く見えない。

 

「ありがとう、打ち明けてくれて。たかえさんは優しいのね」

「へっ……?」

「だって、そうでしょう?人の為に涙を流せるのは、優しい証拠。大丈夫、絶対それはやなぎくんにも伝わってるわ」

「……そう、かな」

「そう、思いましょ?」

 

視界を拭っていると――ゆうりが何かを思いついたように表情を明るくしていた。

 

「ねぇ、二人とも――だったら、楽しくすればいいと思うの」

「楽しく……?」

「終わった事は、終わった事……だから。それだったら今が楽しい方が楽しいに決まってる――家族だって、他人がなれるんだから、心は持ちようだと思うの!たぶん!」

「いっ、いきなり明るくなったわね、ゆうりさん……」

 

若干、良く分からないゆうりだったが――言いたい事は、理解出来た。

今をよりよいものにするのだ。過去が過去だと言えるような、そんな明るい今を。空元気であろうとも。

 

 

「この生活を、例えば部活って事にして」

「部活……だったら、名前とかどうしようかしら――」

 

 

盛り上がる二人に、私は「二人が不安だから」と席を立った。

それは本当だし、二人ももう大丈夫だろう。それに――指針が見えたような、そんな気がした。

 

 

寝室に戻るまでに、ふと生徒会室で立ち止まる。

そういえば、気になる事があった。

 

「………」

 

棚。そこで柳は変な事をしていた。開けて閉めたと思ったら、また開けて。くるみが近づいてったら中の物を隠そうとわたわたしてた。二人は気にしてなかったようだったが――私は妙に気になった。

 

その後、柳がゆきのほっぺで遊び始めたってのもある。

 

柳がゆきのほっぺをいじくる行為。皆は微笑ましい光景として見ていたが――二人と絡みが多い私には、気付いていた。

 

あれは――柳が不安になったり、怯えた時にやるやつだ。

ゆきも、それを分かってるはずだ。だから甘んじてる――それで、柳が癒されるなら、と。あいつはポヤポヤしてるくせに、妙に鋭いとこがあるし。

 

つまり――この棚には何かがある。

 

「………」

 

開ける。

そこにあったのは、良く分からない紙の束だけだった。特段、気になるものは見当たらない。

 

「……気のせい?」

 

それも、あるかもしれない。

柳は今――ひどく、疲れている。いつもと違う行動を取る事も不思議ではなかった。

 

 

「……どうにか、元気になってほしいな」

 

私も二人と同じ方向性で、何らかのアプローチをしてみたい。行動をしていないと不安でしょうがなかった。

 

アイツを意識させるもの。

過去じゃなくて、今――私達を強く思わせて、現実を見させる方法。

 

少し考えて――頭のふちに、引っ掛かるものがあった。

 

「………」

 

私の教室は――運良く三階だ。

なら、まだあるはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

「あった」

 

無残な教室。

私が座っていた席から――かなり離れたとこに吹き飛ばされながらも私のバッグはあった。

 

探し物はその中。

いつかの為にと取っておいたものだ。恥ずかしくて誰にも言わずに、それでも持ち歩いていたもの。

 

『一対のチョーカー』

 

二つ合わせたら満月になるっていう、今思えば少女趣味甚だしい代物だ。正直、今もちょっと顔が熱いのを感じる。

 

「……むぅ」

 

付けていたチョーカーを外し、このチョーカーの片割れを身に付ける。

床に散らばったガラスの破片を覗きこめば――首元に半月が揺らめいていた。

 

ふと、柳がこれを付けるのを思い浮かべる。

似合うだろう――きっと、似合う。

 

「柳、気付いてくれるかな」

 

手の中にある片割れを弄ぶ。

今は気付いてくれなくても、いつかきっと気付くだろう。

 

それがどういう意味かは、恥ずかしくてあまり考えたくは無いけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――五日目に入りました。おはよ……あれ?なんかショタの首元に何かありません?

 

 

「あれ?ねー、やーくん。そのチョーカー、どうしたの?」

 

いや、わかんない。

いつの間に……って、アレこれ。この形状って……確か、チョーカーさんから貰えるアイテムの……

 

「ほら、なにしてんだ。もう皆生徒会室に集まってんぞ」

 

おっす。チョーカーさん。これ、チョーカーさんが付けてくれたの?

 

「………何の話だ?ほっ、ほら!早く行くぞ」

 

あれー?

気のせいなのかな?えっ、幽霊が付けたとかバグ?……これ終わったら報告案件?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……たかえちゃん、首輪変えた?」

 

「首輪じゃなくて、チョーカーだっての。気分で変えてみた……似合う?」

 

「うん!とっても綺麗!……やーくんのとそっくりだね?」

 

 

 

 

 

「……ゆきは気付いたってのに、なんであいつは気付かないんだっての。……気付け、バカ」

 

 




――
※解説

『たかえのチョーカー』
入手条件:たかえの信頼イベントのクリア後・死亡時。

柚村貴依からの“おくりもの”。
彼女が「いつか必要になるかも?」と買っておいた一対のチョーカー、その片割れ。

装備すると、一度だけ首への攻撃を守ってくれる。

これを贈ったのは、貴方に――気付いてほしいため。
それがどういう意味かは贈られた貴方が考えるべきだろう。
これは、そういう“おくりもの”だ。




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五~六日目  Present

――七日目までやる事が少ないRTA、はーじまーるよー!

 

 

 

「おはよう。良く眠れた?」

「それなりー。めぐねぇとりーさんもお疲れ。なんかあったか?」

「特に変化はないわ。……くるみ。後で話があるからお願いね」

「んー?わかった」

 

 

五日目の朝、生徒会室。皆集まってのご朝食です。

本日の献立――キャベツ塩スープを啜ります。(スープはあったかいけど、食材のバリエーションは)冷えてますよぉ~。

食い荒らした経験が活きてきました。食材が枯渇し始め、危機感が強くなる頃合いです。タァイム短縮に近づきました。

何故か、の説明の前に。

 

このショタの首にチョーカーが着いてる理由を……

 

 

「やーくん。はい、あーん!おいしっ?おいしっ?」

「………」

 

 

(塩だけで茹でられてしなしなしていて、且つ味すらお湯で薄まったキャベツ)おいしいですねぇ!

やっぱ、ゆきちゃんに食べさせられると無色もバラ色になるやなって。

 

いや、そうじゃなくて。

一瞬焦ったけど、このゲームの面白いところをですね……

 

 

「……なあに、たかえちゃん?こっちを見てもやーくんしか居ないよ?」

「――っ!あっ、いやなんでもない……あー、ご飯美味しいなぁ……」

「……ふぅ~ん……」

 

「修羅場ね」

「修羅場だ」

 

「…………」

 

「めぐねぇ――そんな置き去りにした青春を羨むような灰色の瞳しないでください」

「大丈夫だよめぐねぇ。まだチャンスあるって」

 

「しっ、してません!」

 

 

……ええ、はい。

 

朝食を済ませている間に――ショタの首元にチョーカーが着いている事について説明します。

一瞬、バグか?と焦りましたが、これはただのチョーカーではありません。この意匠には見覚えがあります。

 

これは“おくりもの”――『たかえのチョーカー』です。

 

“おくりもの”とは、キャラとの信頼イベントをクリアした際に入手する事がある特別なアイテムで――主要キャラ全員から、その象徴する物を貰う事が出来ます。それぞれ特殊な効果を持っていて、大変有用です。

一番最強なのはゴリラからの“おくりもの”です。こう言えば察しの良い皆さんなら分かると思います(視聴者への信頼)。

 

しかし、この信頼イベントというのが中々の曲者で――殆どが、好感度を上げるだけでは発生しません。キャラによっては、バッドエンドギリギリまで行かなくちゃいけなかったりと入手条件はかなり困難です。

一番難しいのはゴリラからの“おくりもの”です。こう言えば察以下略(信頼の再確認)。

 

これがただのチョーカーなら「そっ、装備した覚えない!ヤダ……コワイ……(恐怖)」とRTA中断でのバグ報告ですが――“おくりもの”なら話は違います。

 

柚村貴依の信頼イベントである『気づいてほしい、貴方へ』はひっそりと進行されるからです。

 

というのも、チョーカーさんは、自分をサバサバなパンク系だと思い込んでいる中身純情乙女なので――信頼イベントは、面と向かって発生する事はありません。『気がついたらアイテム欄にあった』『気がついたら装備されていた』というなんとも心臓に悪っ…………乙女ないじらしさで渡してきます。

 

その為「……まぁたガバァ?」と呆れた視聴者の皆さん、安心してください。

RTAはげんきです。信頼イベントの発生はしないと思っ――いや、想定の範囲内です。ガバはガバでも良いガバなので大丈夫です(一行矛盾)。

 

でもなぁ……(ジト目)。

 

 

「ん……なっ、なんだよ柳」

 

 

……でも。

信頼イベントが発生するくらい好感度が高いなら――どーして前回は意図を理解してくれなかったんでしょう?

通しプレイだと、大抵ああいった場合はこちらに利する形でフォローしてくれる空気が読めるチョーカーさんだったんですが。

 

 

「……っ、みっ、見るな。見るなよぉ……そっ、それは、ほんの出来心で……!」

 

 

……やはりバグ?

ですが、『好感度とかのステータス調整がブッダも引くほどシビアでも、バグの類はほぼない神ゲー』なこのゲームで、まさか此処一番でやべぇいの引くとは思えません(断言)。

思いたいです(願望)。思わせて(懇願)。思え(同調圧力)。

 

 

「~~~~っっ!」

 

 

昨日着いてなかったチョーカーに、周りの言及が少ないのも不穏ですし…………そうですね。バグであったなら、リセなので…………朝食中なら大したロスでもありませんしぃ…………。

 

ここは一つ。

確実な安心を得るという形で――()()()()()()()()()()()()()()。。

 

着けたかどうかが大切です。バグならリセット(寝込みます)

バグじゃなければ、チョーカーさんの好感度は高いのが分かりますし、『たかえのチョーカー』自体は有能なアイテムなので装備しているのは問題ありません。

 

――ねぇねぇ、チョーカーさん。このチョーカーって貴女が着けましたか?

 

 

「なっ……えっ、いやそれは……あっと、ちがっ、わなく……あの……」

 

 

ええい!なんじゃい!どっち?それはどっち!?言い淀むなその時間がロスダルルォ!?

 

着けたのか!着けてないのか!ハッキリ声に出して言って貰おうかッ!チョーカー!

 

 

「~~~!ああ着けた!着けました!あんなとこから助けてくれた感謝ですぅ!……これで満足かっ、言わせるなバカ……!」

 

 

ベネ。

よかった。バグじゃなかった。じゃあ、RTA続行!問題なし!チョーカーさんの好感度が高いのを示しています。これは大きいですねぇ!(りーさんへの飛び火)

では、“おくりもの”を貰ったお礼を言いましょう。重要なものなので、こうした細かいところを注意しないと好感度が下がる時があります。面倒だなっ!(素)

 

ええと、そうだな。こんな感じでいいですかね。

 

――ありがとう。大切にするね。

 

 

「―――」

 

 

なぜ黙る?

 

 

「―――」

 

 

なっ、なんか言えよ。なんか言ってよ!不安になるでしょ!?

――えっ、フリーズとかした?バグ以前の問題?

 

 

「…………むぅ」

「あら、ゆきちゃん。邪魔しないのね」

「だって……しょーがないもん。たかえちゃんの気持ちもわかるもん……」

 

「なら、なんでさっきまで威嚇してたんだよ」

「それは乙女の尋常な戦いだもん。……いいもんいいもん。どんなに女に粉かけられても、最後にこの私の側にいてくれるなら」

「ラオウかお前は」

 

 

あっ、他の人のは進行した。

ふぇぇ……(幼女走者)。チョーカーさんまだ何も言わずこっち凝視してるよぉ。

 

 

「……私は若い……私は若い……私は若い……!」

「いけない。めぐねぇが若さに当てられたせいで、目が虚ろになってるわ」

「よーし、皆。早く飯食い終われー。早くしないとめぐねぇが永遠の十七才とか言い始めるぞー」

 

 

仕方ない。時間ももったいないですし、朝食を終えましょう。

信頼イベントが進んだのは確定しているので、変な事にはならないはずです。

 

 

 

 

 

五日目の自由時間に入りました。

今回は――少々の確認と、フラグ建てを行ないます。それ以外に特にやる事がないんですよねぇ……。

本チャートだったら、この時間は三階を降りて購買部や学生食堂でメシをかっぱらいに行くはずだったのですが……めぐねぇあいつめ……(怨嗟)

 

 

「ねぇ、やーくん。私のだったら何が欲しい?」

 

 

君が欲しい(適当)。

 

 

「きゃーっ!もー、やーくんったら……んじゃあ、夜にね」

 

 

はい。

例によって、ゆきちゃんも一緒です。幼馴染で後衛組だと大体一緒ですね。

ゆきちゃんは一緒にいるだけで、正気度が安定するのでありがたし。拝むようにほっぺをむにゅりましょう。

 

 

「うにゃみだぶつ」

 

 

なんて?

 

それでは行動開始。

まずは、めぐねぇかくるみの様子を見に行きましょうか。その反応を見て、今後の行動如何を決定します。

 

移動の間に――何故、私が食糧をクッキーモンスターの如く食い荒らしていたかについて説明しましょう。

まあ、ざっと言えば食糧を取りに行かせる為なんですけどね。そうすれば、エンドまで行く時間が短縮されます。……なんでだって?なんでやろなぁ……?(すっとぼけ)

 

本チャート通りなら、んな事せずに私が勝手に取って来て皆の口に突っ込ますのですが、こうなってしまった以上そうする事は出来ません。むりくり行っても妨害されるだけでしょうし。

だから、危機感を煽らせて急かしていたんですね。ほらほらほら、どんどん行くぜぇ!(デブの道)

戦闘メンツがゴリラがいる時点で過多なので、死亡の危険もありません。安心して逝って貰いましょう。……あれ?

 

 

「……で、今日……」

「……い。準備を……」

 

 

――おっ。

丁度良く、めぐねぇとくるみが職員室にいました。声を……掛けずにひっそりと覗きましょう。

 

 

「……?なんで隠れるのやーくん?」

 

 

隠れたいから(適当)。

ゆきちゃんに聞かせないように耳を塞ぎましょう。互いの好感度が高いと危ない事だと止める事があるので。現状を諭されれば、結局頷きますが――その時間自体がロスです(走者の鑑)。

 

 

「ひゃっ、くすぐったいよぉ……」

 

 

かわいい声出すじゃねぇか。黙っててね?

ゆきちゃんの耳を適当にこねこねしながら、二人の会話に集中します。夜探索の話かの確認です。……まあ、あんなシリアスチックな顔して校舎図らしきものと睨めっこしてる時点で確定ですけど。

 

 

「……たかえの言う通りなら、夜にやつらは少ない。行って帰るくらいなら危ない事も少ないよな」

「ええ。必要なのはスパゲッティとかお米とかレトルトとか。電気が通ってる内に、冷凍食品とかも回収したいですね。腐る前に食べちゃいましょう」

「あっ、だったらさ。明日のあの時に盛大に食べないか?ある意味祝い事なんだから、そんぐらいしてもバチは当たらないだろ?」

「……そうですね。ちょっとくらい贅沢しちゃいましょ」

「おっしゃっ!やる気出てきた!」

「もう……本番は夜なんだから、あまりはしゃがないようにね」

 

 

ふむ。やっぱり夜探索をしようとしてますね。おっけ、問題なし。

……それは良いとして――()()()()()()ってなんでしょう?特に明日はイベントらしいイベントは無いんですが……。

 

うーん?

ええっと、現時点で発生しうるイベントは『ゆきちゃんの補習』『めぐねぇの授業』でしょ、あとは『スケベシャワーシーン』とか『校長室のワインを飲んだぐびねぇ』とか?いや、それで贅沢という言葉は出ないでしょうしぃ……。

 

…………あっ、『学園生活部、結成』。

そういえばこれありましたわ(素)。これなら確か、食糧が豊富な時は少しの贅沢としてご飯が豪勢になったはずです。

いやでもこれ、『誰かの正気度が著しく減少している際に発生』するイベントなんですが、そんなのっていましたっけ?

 

めぐねぇとくるみも、チョーカーさんも大丈夫そうですし。

 

 

「ふにゃぁ……ふにゃぁ……」

 

 

正気度爆弾なゆきちゃんも、耳をこねこねされてうとうとしてるし。猫かな?

りーさん?りーさんかなぁ。いやアレは隠れ発狂の達人だから、誰にも悟られずに発狂するはず。……ニンジャかな?

 

うーん……?

まっ、いっか。明日はガチで何にも無いですし。『学園生活部、結成』の際に入手出来るアイテムもあったら嬉しい神アイテムなのでオーキードーキー。

 

 

では、職員室から離れます。

次はフラグ建てを行ないましょうか。……恋愛フラグではありませんよ?

 

このフラグとは――七日目“あめのひ”の総力戦の際に使用出来るギミックと必殺技の解除です。

かなりの数の『かれら』がやってくるので、覚醒めぐねぇが居ても突破はされてしまうってWIKIにも書いてありました。その為、やるだけやっておきましょう。

 

本チャートなら……うぅ、本チャートならなぁ……。

外に出た際に、『かれら』の習性とか教えられて――こういった事しなくても、必殺技が出来るんだけどなぁ……。

怨嗟が……怨嗟が私に降り積もって行く……(責任転嫁)。

 

 

バリケードの前に到着しました。ゆきちゃんの耳こねこねを止めましょう。

 

 

「ふにゅぅ……もういいの?」

 

 

ありがとう。とてもよかった(意味深)。

 

では、フラグ建てを……っと。

 

 

「ん?なにしてんだ二人とも。……あぶないぞ」

「あっ、たかえちゃーん。さっきぶりー。あははのはー」

「……屈しない。屈しないぞ……渡したのに反省はあるけど後悔はない……!」

 

 

チョーカーさんが来ました。二人ともやっぱり仲が良いですね。

丁度良いです。フラグを建てるのは多い方がいいですし。

 

 

見て、二人とも――ここにバリケードがありますね。

 

 

「あるね」

「……?そうだな」

 

 

よし、次行きましょう。

 

 

「おーっ!」

「えっ?……えっ?」

 

 

次のフラグは、消火栓です。直ぐ近くです。とっとと行きましょう。

 

 

「……なんなんだ?」

「………――フッ」

「むかっ」

 

「あら?三人とも、仲が良いわね」

 

 

おっ、りーさんちーすっ!

見回り後ですから寝るみたいで、体操服姿です。デカイ(デカイ)。上も下も。

 

 

「りーさん!今からおやすみ?」

「ええ、寝させて貰おうかなって。あっ、ゆきちゃん。そういえばめぐねぇからお話があるから聞いといて」

「うげぇ、赤点の事かなぁ」

「うーん。そんなとこ、かな。たかえちゃんもお願いね」

「おう。アレだろ?」

「しぃー……」

「あっと」

 

 

アレとは?っと聞くのはロスです。どうせ、夜探索の話ですので。聞いても聞かなくても進行するので気にしなーい。気にしない。

あっ、皆見てくれ――消火栓があるぞ!

 

 

「あるねっ!」

「あるな」

「……?ええ、触っちゃダメよ?」

 

 

よし、次行くぞ!りーさんも来いほらっ!

 

 

「えっ?ええ、別に構わないけれど……なにこれ?」

「わからん」

 

「――フフフの、フッ」

 

「なんでゆきちゃんはこんなドヤ顔なの?」

「ああ、こねくり回したくなるくらいムカつくよな」

「うっ、うにゃあ!ほっぺはやーくんのものぉ!」

 

 

次は、ラスト――放送室です。これだけしとけば、ギミックも必殺技も使用出来ます。えっ?指差してるだけで傍目から見れば変質者だって?別にいいんですぅ。確認だけすればフラグは建ちますしぃ。

 

 

「ん?なにやってんだよ、お前ら」

「皆、集まって……大名行列?」

 

 

おっ、さらに丁度良い。

お前らも来いほいっ!

 

皆さん。こちらをご覧ください――放送室がありますね?

 

 

「あるねっ!」

「あるな」

「あるわね」

「そうだな」

「そうですね」

 

 

はい。フラグ建て終わり!

以上、解散!みんな帰っていいよっ!ラブ&ピース!

……時間は昼か。もう何も無いから昼寝して、夜に起きてまた寝ますか!

 

じゃあ、皆――あばよっ!

 

 

「ええ……?」

「なぁ、りーさん。なんだったんだ?」

「さぁ?」

 

「フッ、フッ、フッ……ふぅ――フッ」

 

「ゆきちゃんはわかるの?先生、分からないんだけど」

「うん………――わかんない!」

「胡桃。押さえといてくれ」

「あいよー」

 

「ふにゃぁ!やっ、やめっ!ほっぺはやーくんの!ねっ、寝取りは悪い文明!悪い文明だよぉ!」

「人聞きの悪い事を言うな!紛らわしいんだこの野郎!」

「女だもんっ!」

「この女郎!」

「律儀かお前」

 

 

 

 

 

 

――夜になりました。

今回の見張りは、めぐねぇ、くるみ、チョーカーさんだそうです。

ゆきちゃんもりーさんも、皆そわってますねぇ……なんでなんですかねぇ(すっとぼけ)。

 

どうやら、あの後ゆきちゃんにも夜探索の事を伝えたみたいですね。寝てる間の事なのでロスに非ずやで。

 

では、寝ま……

 

 

「やなぎ」

 

 

おん?どうした、くるみよ。明日のご飯は楽しみにしてますよ。その腕力であるだけかっぱらってきてください。

――っとと。頭を撫でてきました。これはぁ……ただのスキンシップやな?(不安)

頭撫でてるのは振りで腰に紐はぁ……付いてない!

 

 

「行ってくるよ。ゆっくりしてろよ」

 

 

……お前それ今日は違う事やるって言ってるのとおんなじやぞ。

なに?フリ?付いてけばいいの?(芸人)

ロスだから行かないけど(走者)。

 

三人が行きました。まあ、ゴリラ・ゴリねぇ・一兵卒なら大丈夫でしょう。

 

 

「ねぇ、やーくん。一緒に寝よ?」

 

 

ええで(かわいい)。

 

 

「なぎくん。私もいい?」

 

 

ダメです(でかい)。

 

 

「あら、なんで?」

「ダメだよ。私達は幼馴染で、愛し合ってるんだからいいんだもーん。ねーっ、やーくん」

 

 

(このショタはりーさんと一緒に寝ると胸元に顔突っ込んで呼吸困難になって朝起きた時にHP真っ赤になったりするからね)そうだよ。

 

 

「そう、()()()。……んじゃあ、寝ましょうか。明日はきっと、楽しいわ」

「うんっ!」

 

 

明後日からは地獄だからね、腹一杯になるくらいメシを持ってきてればいいんですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六日目、朝になりました。

 

 

「いっぱい……持ってきたわね」

「ああ、往復したんだよ。こんぐらいあれば大丈夫だろ?」

「何回も行ったの?……大丈夫だったの、めぐねぇ」

「ええ、夜だったからかれらも居なかったので。チャンスだと思って。集めるだけ集めたの」

「そっか……」

 

戦果は――上々!FU~!!

スパゲッティ、お米、レトルトがダンボールいっぱい!お菓子もありますねぇ!冷凍食品もありますあります。流石ゴリラズ&Msチョーカー、やりますねぇ!満足行く成果です!

購買部とぉ、ついでに学生食堂も行きましたねクォレハ……。流石に一階に行くのは止めて欲しかったですが、無事なら結果オーライ!

……あっ、因みに居なかったは嘘です(看破)。

(流石に誰も居ないは)ないです。ゆきちゃんを心配させないめぐねぇは先生の鑑。でも、スカートの裾に血ぃついてるのゆきちゃんガン見してるの気付かない先生の屑。

 

さぁて。

では、朝食……の前に、りーさんがやけにニコニコしてるのでこれはその前にイベントですね。『学園生活部、結成』でしょ?知ってる知ってる。

 

 

「ねぇ、皆さっそくだけど部活……始めない?」

 

 

知ってる(念押し)。

 

 

「ぶっ、部活ぅ?いっ、良いんじゃないか。たのしそー」

「でしょう?こうして皆でいるんだもの。楽しい事しましょう?……くるみ、演技下手過ぎるからもう黙ってて!

「……すまん

 

 

はい、『学園生活部、結成』が始まりました。

本編でもりーさんとめぐねぇが主導した、がっこうぐらしっ!の代名詞ですね!……基本的に本編見た人なら皆を曇らせないように行動してしまうので結局結成しないでクリアしてしまう事が多い、影が死ぬほど薄い代名詞ですけどねっ!

 

 

「ええ、貴方達は学生ですからね。因みに私が顧問ですっ!」

「えーっ、めぐねぇが顧問?不安だなぁ」

「……ゆきちゃんは顧問権限でこの後補習です」

「げぇ!」

 

 

互いの好感度も大丈夫ですし、このまま何もしなくても勝手に進行していきそうですね。

では、私は適当にボタン連打で聞き流しましょう。アイテム入手に行くまでバサ杖さまでも揺らしてBGMに花でも添えましょうか。

 

しゃらんしゃらーん。

 

 

「――ほら。柳」

 

 

うん?

なぁに、このイベントでは居ても居なくても大丈夫なように台詞数が少ないチョーカーさん。

……ていうか、こっちに話しかけてくる時ってありましたっけ……?

 

 

「ちゃんと、聞こうぜ。大丈夫――今だって、きっと楽しいぞ?」

 

 

………?

なにいってんだこいつは。

 

 

「そうよ、なぎくん。部長なんだから、ちゃんと聞いて」

 

 

……んぅ?

えっ、ショタが部長?りーさんじゃなく?

 

 

「私は副部長よ。部長はなぎくん。貴方がやるの」

「じゃあ!私はやーくんの補佐やりたいっ!部長補佐?秘書?」

「んー、私はアレかなぁ。戦闘員?」

「悪の組織か。ショッカーかよ」

「むしろ、お前がショッカーっぽいだろチョーカー的に」

「お前も付けてんでしょうが」

 

「私は顧問っ!」

 

「……なんでめぐねぇはあんなに嬉しそうなんだ」

「確か、なんかの顧問やりたかったけど頼りないとかでやらせて貰えなかったらしいぞ」

「世知辛い。でも納得」

 

 

なんかショタが部長やる事になってる……。

別に特に部長だからってやる事は特に増えはしないので構いませんが……うーん?いつもはりーさんなんですけど……。

まっ、いっか。

 

 

「それでは!結成を祝ってお食事の、前に!」

 

 

あかん。めぐねぇが凄いテンション上がってる。本編でもこんなに上がってないだろ。なに?深夜テンション?

 

めぐねぇが取り出したのは――ポラロイドカメラ。

撮った瞬間にべーっと写真が出て、少しすると映るやつですね。今で言うとチェキ?とかいうらしいですよ(時代)

 

 

「皆で一緒に、記念写真を撮りましょう!」

 

 

いつの間にやら用意されていた学園生活部の紙を生徒会室にペターッと。これで此処は今から部室に変わります。

文字数が楽……楽……。

 

 

「ほら、皆集まって!」

 

「やーくんは真ん中ー!私はその横!」

「じゃあ、私はその後ろで」

「あたしもそうしよっかな」

「……すすっ」

「あっ、たかえちゃん!やーくんの横っていいよねー?」

「うっ、うぅ……」

「ここまで来ていじめてやるなよ、ゆき……」

 

「じゃあ、撮りますよ?はいっ――チーズ!」

 

 

――パシャリと。

はい。これで『学園生活部、結成』イベントは達成……ではありません。写真は計二枚です。本当はりーさんが撮るのですが、私が部長になっているので私が代わりにやらなきゃ進行しないでしょう。

 

――めぐねぇ、カメラパス!

 

 

「えっ……?」

 

 

――めぐねぇも一緒に撮るんだよ。あくしろよ。

 

 

「そうだよ、ほらっ!めぐねぇも!」

「ですね。顧問が映らないと恰好が付きませんよ」

「だなー。後で、めぐねぇの顔写真。右上にはっつけてもいいけど」

「やめろ、悲しくなるやつだろソレ」

 

「皆さん……」

 

 

感動的だけど、早くしてね?(数秒でも気になる走者の鑑)

 

では――パシャリッと。

これで『学園生活部、結成』イベント達成です。

神アイテム、『学園生活部の写真』を入手しました。適当に装備しましょう。

 

これは、装備していると――正気度が高い状態で維持されます。RTAの都合上、おろそかになりますからね。操作しづらくなるだけのバッドステータスですが、無いに越した事はありません。

問題はデメリットですが、大丈夫大丈夫。私は歴戦の猛者ですからねっ!

 

 

「それでは、結成を祝って。今日は贅沢をしましょうか!」

 

「やったぁー!」

「……あったかいご飯が食いたいなぁ」

「私はパスタが食べたい……」

「腕によりを掛けて作っちゃうわよ!なぎくんは何食べたい?」

 

 

えっ、ハンバーグ。

 

今日は食事だけで、後は会話でもして好感度稼ぎでもして終えましょうか。

英気を養って――明日に備えましょう。

 

うーん――正直に言います。

 

 

不安しかぬぇ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

職員室。手に握るペンの感触。

 

 

――増えていく、名前。

 

五人。

また新しい名前が、増えた。増えてしまった。

 

「………」

 

見えもしない終わりの頃には、いったいどれだけの数を書かねばならないのだろう。

私達以外の全員?……それとも私達の名前も書く時が、来るのだろうか。

 

「……やめましょう」

 

暗い気持ちを掻き消すように頭を振る。

そんな事を考える必要はない。ただ、忘れないように書くだけだ。事実を。それだけ、それだけの事。

 

それより、今日は良い事があった。

 

「……ふふっ」

 

写真立てに納めた、写真を眺める。

楽しそうに笑う姿を見て、心が軽くなるのを感じた。

 

――『学園生活部』。

 

ゆうりさんが考えた――言い得て妙な部活動。

ついぞ任される事が無かった私が初めて顧問をやる、拠り所。これからの皆の居場所。

 

 

「そうだ」

 

 

部活動なら、やっておかなきゃいけない事があるのを思い出した。

 

私は、各種書類が納められている棚から――部活動申請書を取り出す。

軽く眺めて、必要事項を書いていく。

 

――――――

部活動名、『学園生活部』

顧問、佐倉慈。

部長、万寿柳。

部員、丈槍由紀。若狭悠里。恵飛須沢胡桃。柚村貴依。

 

活動内容。

小さく残った大切な日々を忘れないように、大切にする部活動です。

――――――

 

 

そこまで、書いて――教頭先生の机に置いた。

 

 

「教頭先生、確認をお願いします」

『佐倉先生……ふざけているのですか?こんな意味のわからない部活、承認する訳ないでしょう!』――なんて。

 

そんな神経質な声が聞こえた気がした。

聞く事すら嫌だったそんな声も、今は酷く懐かしい気がして――小さく笑いが零した自分が、やけに可笑しかった。

 

 

 

 

 

 

寝室は、皆の気持ち良さそうな寝息で満たされていた。

月明かりで照らされた皆の顔は、安らかだ。久しぶりにお腹いっぱい食べたからかもしれない。現に私も良く眠れそうだった。

 

「あら……?」

 

ふと、やなぎくんの手に――写真を持っているのが見えた。皆が映った、皆の写真。

 

「よかった……」

 

どうやら、彼の何処かに感じ入る物があったようだ。

これでほんの少しだけでもやなぎくんが前に進めるといい。部活動の中でゆっくりと育めばいいのだ。

 

胸の奥から湧いてくる感情のまま、彼の頭を撫でようとしたら――月明かりが急に薄くなって、彼の顔が見えづらくなった。

 

 

見上げると、分厚い雲が綺麗な月を覆い隠そうとしていた。

 

 

「……無粋な雲」

 

 

これじゃあ、撫でててもこの子の顔が緩んだとか見えないじゃない。

まあ、いい――機会はきっと沢山ある。

 

皆を起こさないように静かに床に就く。

 

 

 

 

 

 

これからの活動がとても楽しい事になりますように、と。

 

雲に隠れても、それでも光ってる月に祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 




―――――
※解説 byWIKI

・『学園生活部の写真』

学園生活部結成時に撮られる写真。その時点での主要キャラ全員が映る。計二枚。

通称、“お手軽正気度調整キット”。
これを装備していると、正気度が上昇している事にできる。つまりは正気度は変動していないが――これを装備している間は高い正気度を保つ事ができる。

デメリットとして、これを紛失・または写真に映るキャラが複数死亡した場合、上がった数値分が元の数値から引かれる(正気度が10換算の場合、これを装備すると3を8にできるが、効力を失うと3に戻り、そこから5下がる。つまり、-2になりおしまいだ!)。

歴戦の猛者が使うと、正気度低いキャラのフォローをする神アイテムにも、わざと紛失させてバッドエンド類をクリアするという非人道的なアイテムにもなる。

みんなもうまく、使おうね!


――因みに、装備する写真によってキャラの行動傾向が変わる事はあまり知られてないぜ。なぜだって?俺がこうして隠しているからな!(赤さん)






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七日目・表 R()e-What() Colla()pse?

(リアルで忙しかったり、ヌカコーラ飲んだりしてました。去年以来なので文字通り)初投稿です。

長くなりそうなので良くある表・裏で分けました。




狂気の世界の始まりだぜぇ……!なRTA、はーじまーるよー!

 

 

七日目に入りました。

ずっと続いていた晴天の日々とは打って変わっての――大雨。

分厚い雨雲が朝日を覆い隠して、今が夜に思えるほどに外は薄暗くなってしまってます。

 

……まるで、この後に何か起こるような空気だぁ(直喩)。

 

校庭に『かれら』の姿が一人も居ないような気がしたり、雨が窓に当たる音に混じって――なぁんか聞き慣れない音が沢山してる気がしますねぇ!

 

なんででしょうかねぇ~?不思議ですねぇ~?(すっとぼけ)

 

 

「部活始めだってのに……この天気かぁ……」

「まあまあ、くるみ。天気はしょうがないわ。それより、ほら――好きな缶詰を選びなさいな。因みに私はコンビーフ」

「んー……じゃあ、あたしも」

「あらやだ、私の事好きなの?」

「ちゃうわい」

 

 

生徒会室改め、部室。

皆揃っての朝食タァイムです。

薄暗い雨に負けず、場の空気は日向のように穏やかですね。

 

この後大変なので惜しい気がしますねぇ……(ニチャァ)。

 

本日の献立――白米・インスタント味噌汁・好きな缶詰一つ。身体に良さそうに見えるけど悪そうにも思える、実に感慨深いお食事です。

備蓄は十分ですが、昨日贅沢したので若干の節約を、といった感じでしょうか。

 

……気にせず浪費していって欲しい所ですが、食事関係は現在りーさんとめぐねぇに牛耳られている今、ショタが口出しする事ができません。

「(タイムの為に)いっぱい作って?」と言っても「(いつ無くなるか分からないから)ダメです」と正論で諭されて終わりです。

 

……くっ、スキルポイントさえ……!

スキルポイントさえあったなら《料理》スキル取って、私が牛耳る事もできたのにぃ……!(怨嗟)

 

まあ、それはともかく。ともかくぅ……!(不満の鬼)。

 

七日目、“あめのひ”はもう始まっています。

必殺技のおかげで楽出来ますが、初のガチ総力戦な危険地帯です。

帰らぬ過去より、変え得る今に目を向けましょう(私かっこいい)

 

 

「私はねぇ……大和煮!朝から牛!」

「私はサバの味噌煮かなぁ、王道を行く」

「それじゃあ、先生はサバの水煮に醤油とラー油~」

「……めぐねぇ、チョイスがおじさんだね」

「ひどい!美味しいのに……」

 

 

皆、朗らかに食事を楽しんでます。

正気度が低かったりすると、会話しなかったり、食事の量が少なかったり、そもそも食事に来てもなかったり、と分かりやすいアッピルがあります。

ですので――この段階では、全員安定していると言ってもいいでしょう。

 

良いことです。私が矢面に立ちづらくなっているので、一人でも欠けるとえらいこっちゃなので。

 

 

「やーくんやーくんっ!やーくんは何食べる?」

 

 

あっ、やまとにぃ!まだあったんだぁ!(ゆきちゃん並感)

 

…………はい(羞恥)。

此処はゆきちゃんと同じ物を選んで少しばかりの好感度アップでも狙います。

もうビンタはい”や”な”の”です!(ぷらずま)

 

 

「一緒だねっ!……やーくん私の事好きなの?」

 

 

そうだよ(適当)。

 

 

「きゃーっ!私も大好き!」

 

 

ヨシッ!(作業猫)

これで好感度が上がりま――寄るな触るな抱き締めるなはよ食えタイムロスるしお行儀が悪いダルルォ!?(自業自得)

 

 

「…………さぁ!くるみっ!」

「さぁ、ってなんだよ」

「恥ずかしい気持ちも分かるわ……でも私は大丈夫……――さぁ!」

「でさぁ、今日一日は何するんだめぐねぇ?」

 

「んぅ?……んぐっ。そうですねぇ、ここは部長のやなぎくんに決めて貰いましょうか。部長始めてのお仕事って事で」

 

 

おや、学園生活部の部長になったおかげで一日の行動の裁量権が委ねられたようです。これは良いタイム短縮です。

部長じゃなくても選択できますが、時たま反発されてその説得に時間を要する事もあるので、こうした実権は嬉しい誤算。

 

こういったとこでリカバーを図るのが、RTAの基本なんですね(ただの偶然)。

 

 

「…………」

 

 

……ああ、はいはい無視されて悲しいのね。無言涙目でにじり寄って来ないでねぇ、りーさん――好感度上げミスった後の悲しみの向こう側エンド思い出すから(異次元の記憶)

おーよしよし……(怯え)。

 

……なんかやけにテンションたっけぇなりーさん。

どうした、アニメでお行儀についてゆきちゃんを諭していたあの聡明に見えて中身ボロボロなりーさんはどこへ行ったんや!

お前誰や!(錯乱)

 

りーさんに限っては――元気な事はいいですが、元気なのは良くないんです(矛盾)。

 

 

「あら、やなぎくん。今日はお腹空いてたんですか?」

 

 

そうだよ(肯定)

さっさと、飯をかっ食らってショタを腹いっぱいにします。

おすそわけして、好感度稼ぎもいいですが――不測の事態に十全に動けるように気力だけは万全にしときます(走者の鑑)。

 

これから始まる“あめのひ”は、がっこうぐらしRTAでの大きなリセットポイントの一つなので。

 

……最早、チャートなどはシロアリに食われまくった木造建築並みにスッカスカですので、何が起きても驚きません。驚けません。悲しいです。

 

ですので!日頃のプレイスキル(長年の自信)で何とか乗り切ってまいりましょうっ!

行き当たりばったりでもタイムが早ければRTAだって、それ一番言われてるから(暴論)。

 

 

「あっ、そうだ。皆さん、聞いて下さい」

 

 

ん?

 

 

「今日の午後にミニテストをやるので準備していてくださいね?」

 

 

……あー。

イベントが挟まってしまいました。

 

 

「えーっ」

「えー、じゃありません。皆は生徒なんですから、お勉強するのは当然ですからね。もうテスト用紙を用意してます。ていうか、教室に配置済みです」

 

「……準備万端じゃねぇか……!」

「どっ、どうするくるみちゃんっ!大ピンチだよぉ!」

「おっ、おおおおちつけっ。ここは一つカンペを作るところから……!」

 

「……まったくいつもちょこちょこ勉強してないから焦るんだよ。なぁ、悠里?」

「…………」

「……悠里?」

「たかえちゃんは私の事好き?」

「口裂け女みたいになってるぞ」

 

 

これは――『めぐねぇの授業』ですね。

 

ゆきちゃんが本編で、一人で黒板に書いて一人で答えて一人で全問不正解なのを一人で諭して一人でびっくりするというかなり闇深なシーンが、このイベントに該当します。

 

これは、学園生活部の面々(全員ではない)が生存且つ正気度が高い状態(各種アイテム・『疾患』による見せかけ可)の場合に起こるイベントで、高校脱出の目処が立つまで何度でも発生します。

 

発生条件を満たしているとはいえ、まさか“あめのひ”である今日に挟まってしまうとは……。

 

イベントでは、学力を見せつけると好感度が上がったり、リーダーシップが増したり、発狂しているキャラを現実に引き戻せたり、と通常プレイではかぁなぁりぃありがたい良イベントなんですが――このチャートでは、はっきり言って時間の無駄無駄無駄ァ!

 

好感度稼ぎならさっきのようにちょいちょいできますし、本チャートも補完チャートも、説得力は別にいりません。

 

誰かの発狂の予定も、ありまっ、せんっ!!(断固たる意思)

 

 

はぁ……。

これはロスになっちゃぁー…………あっ、そっかぁ(知将)

 

失礼。ロスじゃないですね。

だって、今日の午後でしょ?――“あめのひ”総力戦でキャンセルされますねぇ!しゃあおら、ロスにはならなぃ!

 

予定されているイベントがキャンセルされると若干正気度が変動しやすくなりますが、これもタイムの為。

では、イベントも過ぎたので朝食の時間を終わらせましょう。

 

――『かれら』は着実にこちらにやってきています。

 

 

 

 

 

 

 

朝食が終わって、いつもなら自由行動のお時間ですが――今回は配置を選択します。

学園生活部、且つショタが部長になってるので、ちょっと不審な配置をしても怪しまれづらいでしょう。

 

 

「さぁ、やーくん!私たちは何をすればいい?」

 

 

なんだかほんわかした目を向けられているのが気になるところですが……。

 

選択タイムです。

 

今の状態では、第一バリケードと第二バリケードの点検。

後は三階の各種施設の利用。もしくは、前日までしていた、何も選択しない自由行動が選べます。

 

ここは補完チャート通りに。

 

くるみを第一バリケードへ。りーさんはその補佐。

めぐねぇは第二バリケードへ。その補佐にゆきちゃんとチョーカーさん。

ショタは部室に待機させる、を選択し。

それが終わったら、『めぐねぇの授業』へと進むという予定で決定します。

 

 

「うーい。じゃあその通りに行こうぜ」

「ふふふっ、なぎくんに命令されるってなんか新鮮ね」

「てか、自分はナチュラルにサボり宣言してるぞ。……別にいいけど」

「部長さん特権ね。先生は許しますよ」

「ぬふふ……亭主関白やーくん」

 

 

なんだか皆和やかですが。

この後、何が起こるか知ってる視聴者の皆さんならわかると思います。

 

はい――戦闘配置です。

 

最適な持ち場へ向かわせ、備えます。

本チャート通りなら、片方はゴリラ・片方は私といった分担でしたが、今の私はただの満腹クソザコショタなので代わりに覚醒ゴリねぇに担当させ、私は全体の補佐に回ります。

 

……運ゲーが混じるのが痛い……痛いですね。イタイデスヨー……(エコー)

 

まあ、三階制圧戦ではAIがやったおかげでむしろ効率良かったので、今回もそれに期待します。

 

それに“あめのひ”は、ヌッコロヌッコロな殲滅戦ではなく、エッチラホッチラな耐久戦ですので、引き際を弁えれば大丈夫です。コッコロコッコロ(性癖開示)

 

 

「では、バリケードの確認が終わったら、テストですからね」

 

「……ゆき、作戦通りにな……」

「……うんっ、バッチリ見てくるよっ!……」

 

「たかえさん、ゆきちゃん見てて」

「はいはーい」

 

「――げぇー!!」

「いや、諦めなよ……」

「くっ……こうなったらやなぎに……!」

「はぁい、なぎくんを悪の道に誘わないでねー。じゃあ良い子で待っててね。直ぐ戻ってくるから」

 

 

うーい。

 

……………………行きましたね。

 

では、コーヒーブレイクでも……な訳はありません!さっさと棚開けてマニュアルを持ち出します。

 

このっ!このっ!

もうこやつの悪運もここまでです。邪悪は今ここで断たねばならぬ。我は無垢なる刃……!!

さっさとコンロを着火し、全てを灰塵に帰しましょう。

 

 

ボッ!

チチチチチチチチチチチチ……ッッ!

ソォ……――

 

 

「――なぎくんっ!いるっ!?」

 

 

――カチッ(コンロを切る音)

――ガチャッ!(コンロ下の棚を開ける)

――サッ!(マニュアルを放り込む)

――バンッ!(クソデカ閉める音)

 

チラッ……。

 

 

「よかったっ……!おいでっ、バリケードが……!!」

 

 

 

はえーよぉ(半ギレ)

 

 

すぅ……(深呼吸)

 

 

はえーんだよぉ!!(全ギレ)

 

 

まぁた燃やせなかったじゃんよもぉぉぉぉぉ!!

タイム的にありがたいですけどぉ!?RTA的には構わないですけどぉ!?

最早、タイムしか誇れないRTAだから良いですけどねぇ!?(逆ギレ)

 

 

 

りーさんに連れられ、廊下に出ると――画面暗転(Now Loading)

 

戦闘前ムービーが入ります。

良くある、ボス出現演出みたいなものです。

 

 

と言っても、『かれら』が階段を上がろうとしてスッ転び(いつみてもかわいい)、その転んだ奴を足蹴に他のかれらがズンズン上がってくる(いつみてもこわい)――

気が狂う人海戦術の様子を見て怯える学園生活部の映像が流れるだけです。

 

このムービーの間に――今回の“あめのひ”について説明しますね。

 

 

――“あめのひ”は3分間の耐久戦です。

 

 

血の気の多いプレイヤーは、全員殺し尽くせば終わると思い「丸太は持ったな?いくぞぉ!!」と果敢に戦いますが――それは不可能で、千体以上殺しても延々と湧いて出てきます。

巡ヶ丘高校は市内有数のマンモス校だった……?(たぶんちがう)

 

その為、バリケードで『かれら』を塞き止め、適度に殺しつつ、時間を稼ぐ必要があります。

 

――3分。

 

それはカップ麺の聖なる時間。……地味に長いですよね?

その為、大抵のプレイヤーは引き際を誤り、ひーひー言わされる……『がっこうぐらしっ!』の鬼門たる所以の一つです。

 

3分経過すると、選択肢が現れ、『何処かに立て籠る(任意選択)』『徹底抗戦』のどれかを選ぶ事が出来ます。

 

さっきも言った通り、『徹底抗戦』を選んでも『かれら』は枯渇しません。また選択肢が出るまで3分戦う羽目になります。これを選び続けると、B級映画の派手だけど胸糞エンドが待ってます。

 

その為、まともな選択肢は『何処かに立て籠る(任意選択)』だけ。

絶望だけしか残ってなさそうですが、ステータスが育ちきったプレイヤーなら、どこに立て籠ってもそれなりの苦労はしますが突破出来ます。

 

が――それが出来ないと、一人犠牲にならなければなりません。

 

状況が好転しないと、こちらの制止を振りきってランダムで一人が囮として外に出ちゃうんですね。

……本編の、めぐねぇのような末路になります。

 

ですが……まあ。そうですね。

 

ある意味、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

――()()()()()?(人道派)

 

本編めぐねぇの献身を見て涙した純真無垢人畜無害な私には到底選ぶ事ができない選択です。でも、ここでりーさんをリタイアさせると後の正気度管理が楽――ああいや、なんでもないですなんでも。きょーはいーてんきだなー。

頭数が大事な本チャートでそんな外道するわけありません。あははのすけー。

 

私には秘策があります。……まあ、ちょっと前から言ってる必殺技の事です。

知らない方に説明しますと――少し前に、『かれら』は生前の事柄である程度誘導出来ると説明しましたよね?

そして此処にいる『かれら』は生徒(+α)です。一日の半分ほどをチャイムと放送で支配される存在でした。

 

後は分かりますね?

つまり――放送室で『下校の時刻です』とか『全校集会なので体育館へ』などと流せば、『かれら』は緩慢にですが向かっていくのです!

これを使えば、難なく“あめのひ”を突破出来るという訳ですよっ!

 

えっ?なんでこんな便利なのを最初から使わないんだって?

 

……連続して使うと成功率が下がりますし、こうした緊迫な状況下で行わないと、ただのイカレ行動だと思われるだけならまだしも――「なんで知ってるの?」と不信感を抱かれて後の行動に大きく影響を及ぼす結果になるからです。

あんま楽をさせないようにする運営はゲーム制作者の鑑。RTAの敵。

 

 

3分経つ頃に全員が放送室の前にいる事が理想ですね。選択肢が出た瞬間、サァー!と入ってパパッと放送を流して終わりッ!にしてしまいましょう。

 

でもまあ、3分耐えなければ意味ないですが。

 

数を減らしつつ、ゆっくりと後退していくのを意識しましょう。意固地にバリケードを守っていてはロスです。

十分距離が開けば、バリケードが壊れても問題ありませんし。

 

 

では――ジャジャァーン、と。

 

私の方で、さっきお昼ご飯のチキンラーメンに使ったキッチンタイマーを用意しました。これを使って正確に行動していきましょう

 

スタートは動けるようになった瞬間、ゴールはめぐねぇの「こ、これじゃあキリがないわ!」までです。

 

 

ではぁ……。

はーい、よーいスタート(本RTA二度目)

 

 

 

まずはりーさんに連れられるまま、くるみがいる第一バリケードに向かいます。

 

 

「くるみッ!」

「りーさん!やなぎは……!」

「いるわ!」

 

 

こちら現場です。

第一バリケードの隙間から見える二階は『かれら』でひしめき合ってます。数に押し出されるようにこちらの階段にも増えてますねぇ!

 

まるで、昔のドラクエの発売日みたいだぁ。

物売るってレベルじゃねぇぞ!(PS3)乗るしかない、このビッグウェーブに(iphone)。

 

 

「なんで……!」

 

 

数が圧巻なせいで、りーさんの正気度が下がるのが手に取るように分かります。

これは予測可能回避不可能で、主要キャラ全員が受けるので諦めます。今迄、そこそこ回復行動していってるのでそこまで影響は無いっしょ。

 

『かれら』は、まだバリケードに到達していません。ですが、来るのはもう時間の問題。

(流石のバリケードも肉の質量に押し潰されてしまえば意味)ないです。

 

 

「胡桃、悠里ッ!……柳も居たか、良かった。姿が見えないから心配したぞ」

「やーくんっ!!」

 

 

おっと、チョーカーさんとゆきちゃんが来ました。っっとと。ゆきちゃん受け止めー。

……めぐねぇが居ないって事は第二バリケードで足止めしてくれてるみたいですね。やっぱ覚醒めぐねぇってすげぇや(小並感)。

 

 

「……たかえ、あっちもか」

「ああ。……くそっ、今日になってどうしてこんなこ、と……に……?」

 

と。

惨状から顔を背けたチョーカーさんは――窓から見える雨を見て、ちょっと固まります。こうした事に引っ掛かりを覚えるチョーカーさんはほんと中間管理職の鑑。

これは放送室に行く口実が増えましたね。

 

皆、雨に濡れるのが嫌だから中に集まってるだけなんだよなぁ……。

 

『かれら』ってやってる事は死ぬほどこわいっすけど、行動とかたまに幼稚園並みに素直なのでこっちとしてはやりやすいです。

 

 

――ミシッ。

 

 

おっと、屍ロードを越えた一人がバリケードに組み付きました。

 

 

「――ッッ!たかえ!お前はあっちに回れ!ここはあたしたちがッ!」

「わかった!いいかっ、バカな真似はするなよ!絶対に!」

「こっちの台詞だっ!」

 

 

チョーカーさんは第二バリケードへ。

ゆきちゃんも行って欲しい……のですが、不安と絶望に染まった顔でキツく手を握られてしまえば無理に行かせるのもロスでしょう。私と一緒に行動します。

 

でも、手は離して?

 

 

「やだ……」

 

 

なん――とか言ってる場合ではありません。

流石に手元が少ないと大変なので、ここは説得します。

 

――大丈夫大丈夫。私がいるから。私が守るから。大丈夫だって安心しろよぉー。

 

……よし。ほどいてくれましたね。

 

 

そうこうしている間にも『かれら』はやってきてます。

くるみがバリケードから手を離させようとシャベルで手を払おうとしますが……。

一人を対処している内に二人。二人を対処している内に四人と。

呻き声は増える一方。

 

バリケードに『かれら』が殺到し始めました。

 

 

「くっ……くるみ!」

「りーさん!やなぎ達を……!」

「…………わかったわ。なぎくん、ゆきちゃん。こっち……!」

 

「うん……!」

 

 

おっ、おっ?

バリケードから離されました。……まあ、今此処にいても何も出来ません。今は従って援護出来るものを探します。

 

ゆきちゃんとりーさんとで、手頃な教室に向かいます。

 

その際、ショタがバサ杖さまを持っている事を確認し、行動する際は常にジャラジャラ鳴らす事を意識します。こうすれば耳が良い『かれら』は音で少し動きが止まります。

嫌らしい遅延行為イイゾぉ~。……できれば私もバリケード防衛したかった。もぐら叩きみたいで結構白熱なんですよあれ

 

んんっ!(咳払い)

 

ここで探すのはバリケードを補強する板状の物。あるいは『かれら』を押し戻す棒状の物が良いですね。

ちょっと前にバリケードはくるみが補強してくれたので、ここは掃除ロッカーから地味に万能武器であるモップを取り出します。

殺傷力は少ないですがリーチ良しで、今の状況にピッタリです。

ゆきちゃんとりーさんに装備させます。これ持って。

 

 

「えっ……う、うん……」

 

 

素直なのはいいゾ。ゆきちゃんはやっぱ天使や。

さっ、りーさんもりーさんも。

 

 

「……なぎくん。私は大丈夫」

 

 

えっ?

いや、拒否してる場合じゃないんだって!ショタがクソザコなんだから助け……あわ……な……?

 

 

「……私も、戦わなきゃ……」

 

 

おや?なんでりーさんが――バサ槍さんを?相棒は殉死したはずでは……!

まさか、生きて……!

 

…………あっ。そういえば、片割れ渡してました。

 

りーさんは基本戦わないから存在忘れてましたわ。テヘっ(精一杯の誤魔化し)

 

でっ!でも、これは良いガバですよっ!

 

りーさんが珍しく戦おうとしてくれています。前から刃物持たせていたからでしょうか?りーさんはほんと予測不能ですな!(理解放棄)

消極的でも積極的でも戦ってくれる事はありがたい!

私も後ろからサポートするで!行きましょう!

 

 

「……なぎくん達は此処にいて」

 

 

なんで?(半ギレ)

 

 

「……お願い。その、くるみの気持ちをわかってあげて。私も……その、不安なの」

 

 

りーさんはそれだけ言うと、ショタの頭を撫でてから行ってしまいました。

 

……いや、行きますけど(反逆)

 

不安がどうのとかって話だが、お前らだけで耐えれる訳ねぇだろぉ!行くぞぉぉぉおお!!

 

 

「まっ、待ってやーくん!」

 

 

ふっ、ゆきちゃんに止められようが――とぉ!?↑↑

最初の方から思ってたけど力強いなこのゆきちゃん!ゴリラ並みか!?いっ、いや違うショタだ!ショタがクソザコなだけだこれぇ!

 

 

「りーさんの言う通りだよ!此処にいよ?皆なら大丈夫だよ。きっ、昨日だって無事に……!」

 

 

……いや、確かにゴリラズいるから大丈夫だろうけどさ。

 

 

「それに……りーさん達はやーくんに……」

 

 

いや、良く分かんないけど――不安じゃん。なんかあったらカバーできる立ち位置っていうか、備え万全にしたいじゃん。

これ以上ガバはお呼びじゃねぇんです!

 

ごほんっ!(説得タイム)

 

ここまで来たんだ。色々あったけど。

もうチャートが息していなくても。最早、RTAという名の行き当たりばったりのタイムアタックだとしても。

ここまで、私達は辿り着いたんだ。

 

尊い犠牲があって(ショタの富士山)道行きへの不安があって(複雑過ぎるゲームロジック)、それでも!残された時間の中(リアルの隙間時間)でここまで、来たんだ!

 

もう……。

 

 

もう……!

 

 

もう――再走、したくないっ……!!(ここまで来るのに78敗)

 

 

 

――頼むゆきちゃん(再走は嫌だ再走は嫌だ)行かせてくれ(再走は嫌だ再走は嫌だ)後悔したくないんだ(再走は嫌だ再走は嫌だ)

 

 

「うっ……あっ、でも……でも、やーくん……わたしは……!」

 

 

頼むお願い!説得通って!

後でアマゾンで他の奴と三倍くらい値段違うゆきちゃんのフィギュア買うかもしれなくもないかもしれないからぁ!!(虚勢)

がっこうぐらし全巻GEOってからまた新品買い直すからぁ!(嘘)

 

 

「……わたしと、いっしょなら……」

 

 

やりぃ!

ゆきちゃん愛してる!――この言葉で十分だよな!

……えっ、さっき何か言ってた?……なんのこったよ(屑)

 

 

では、さっさと向かいます!

もう1分半経過しました!残り半分です!……10分は優に過ぎてるような気がするほど濃かったですが!

そろそろなんとかしないとバリケードが悲鳴を上げる時間です!

 

 

りーさんの下に戻ります。

大丈夫そうならめぐねぇのとこの様子を見に行きます!

 

 

 

 

「くっ……!このっ!さっさと……!!」

「もうっ……!どうして、どうして私達が……!!」

 

 

現場に戻りました。

――さっきより地獄ですね。

 

『かれら』は進む事しか考えていないので――前の人が押されて、誤ってバッグの底に入れてしまったオニギリみたいにペチャンコになろうともズンズン来ています。

 

くるみりーさんは返り血、返り肉片塗れ。シャベルとバサ槍さんをやたらめったら振り下ろしてます。……ちょっと恐慌入ってるな。まずいかもです。

 

 

うーん、ぐろてすくぅ……(見慣れた光景)。

 

 

にしても――ちょっと『かれら』の数多くなぁい?

にしても――ちょっと『かれら』の数多くなぁい?

 

 

「ひゃ……!」

 

 

――っと。

ゆきちゃんには刺激が強いですね。目を隠します。少しでも正気度減少を抑えましょう。

あっ、そういえば本チャート通りだったら二階にもバリケード設置するはずでした。それが無いから足止めされるはずの分が一気に来てるんだ。

 

あー……これはちょっとこのバリケードはもう駄目かも分からんね(冷静な判断)。

 

 

「あっ……やなぎ……」

「――ッ!なぎくん駄目!見ちゃ駄目!」

 

 

あっ!バカ!くるみは攻撃を放棄するな!!りーさんはこっちに来ちゃ駄目だってぇ!!

焼け石に水に見えるけどそれすら止めると――!!

 

 

――ミシッミシッミシッ。

 

 

oh~……。

 

…………。

――昔の諺にこういったものがあります。人は城、人は石垣、人は堀と。

つまり――大量に集まれば、バリケードなんて物の数じゃあないんですよ。

 

 

「……下がれ」

 

 

ゆきちゃん。目を瞑ってていいから後ろ反転。走って。

大丈夫――残り1分。

 

 

「――下がれぇ!!」

 

 

――ドンガラガッシャーン!!

はい、第一バリケード崩壊しました。『かれら』が安全圏に侵入――撤退します。

 

『かれら』は足は牛並みなので走れば追い付かれませんが、掴まると即死攻撃のオンパレードなので十分に距離を取ります。

 

……にしても、廊下全体を覆い隠すみたいな数はやっぱりこわいですね。バリケードが壊れた反動で潰された奴らも這いずりながらこっちに来てるとかパニックホラ―ですな(今更)。

よほど腹減ってんですねぇ……。

 

 

「ごめんっ……ごめんっ……!」

「くるみは悪くない!私がもっと……!」

「……っっ!……っっ!」

 

っと。恐慌状態が高まってまいりました。

放送室前まで後退しました。これで少しの間は接敵しませんが……うーん、残り40秒。これはちょっと、逃げ切れませんね……。

 

 

「――皆さんっ!」

 

 

あっ、めぐねぇ達が合流してきてくれました。同じく血塗れですが無事みたいです。……肉片塗れのバールがセクシー……エロい!(ホラー映画の見過ぎ)

……第二バリケードの崩壊の音は聞こえてきませんので、二人は黙々と良い仕事をしてくれたみたいです。……やっぱ――覚醒めぐねぇってすげぇや!何も言えない!(KTGM)

 

 

「……あっちは?」

「……まだ保ってるけど時間の問題。後少しすればああなる」

 

「ここは、あたしが――」

「駄目ですくるみさん!こんな数では……」

「――じゃあ!どうすりゃいいんだよ!このままじゃああたし達みんな……!」

 

「……やーくん」

 

 

残り30秒。『かれら』は目と鼻の先です。

これ以上後退すると、『かれら』に放送室の入り口が妨害されてしまうので出来ません。もう少しどうにかも無理ですね。

 

……ふぅ。…………ふぅ。

 

 

ぬわああああああああ!!!くそっ!やだぞ!ここまで来てリセはほんとにやだぞ!冗談抜きで!本当にぃ!

この数で、この狭さではゴリラズも足止め出来ませんし第二バリケードもじかっ――

 

 

――ドンガラガッシャーン!!

 

 

ふぁっきん、ゆーっっ!!!

のっ、残り25秒……。

 

 

「……たかえさん。皆を連れて屋上に」

 

 

おい、めぐねぇ――そっから先はマジで言うなよ!!

めぐねぇが言っていい言葉は「こ、これじゃあキリがないわ!」だけだからなっ!

 

くっ、ぢぐじょー……!

 

 

「やーくん!だめっ!」

 

 

二度の制止に引っ掛かるかお間抜けゆきちゃんめ!可愛いぞっ!

伸ばされた手を受け流し、そのままめぐねぇに向かって押します。そうすれば、囮しようとしためぐねぇも止まります。

前述した通り――事態が好転すれば、いいのです。

 

 

「やーくん……!!」

 

 

大丈夫、ゆきちゃん――感染する予定はまだ先だからなっ!

 

 

「な、なぎくん……」

「ああ、くそ!止めろ、やなぎ!早まるな!」

 

 

私がやる事は足止めです。残り20秒程度なら、スキルポイントを振ってないクソザコショタでも、私に掛かればこのぐらいは出来ます。出来るはず。出来るに決まってる!

強いゴリラもこの数では怯えますが、私が入ったショタでは問題ありません。

 

 

……バサ杖さまも必要ねぇ――いや、必要だ。てめぇらなんか怖くねぇ!!

 

 

野郎オブクラッシャー!!!

 

 

 

そぉい!(手近な奴を攻撃する)

 

あっ……!(残った奴に腕を掴まれる)

 

あにすんだ離せぇ……!(振りほどこうとする間にまた掴まれる)

 

なんだお前ら!ショタの腕なんか触って喜んでんじゃ……!(這いずってる奴に足首を掴まれる)

 

あっ……!ちょっ、ちょっと待ってもらって……(引っ張られる)

 

ちょっと待ってくれ、待てって言ってん――マ゚ッ!(転倒・後頭部強打)

 

 

 

……画面暗転しました。

 

なぁーんも見えないです。なぁーんも。

私のキューティクルなフェイスしか見えません。あははのはー。

 

………。

……。

…。

 

……ふふっ。

 

 

いやぁああああああ!!!にゃああああああああん!!ぎゃああああああああ!!ぐあああああああああああ!!!こっ、こんなのRTAのはずがない!!!即堕ち2コマなこんな無様がRTAのはずがない!!!!

あ……でも今迄のゲームプレイも多量のガバもよく考えたら………――

 

 

こ れ は R T A じ ゃ な か っ た?

 

 

にゃあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!

そんなぁああああああ!!いやぁぁぁあああああああああ!!はぁああああああん!!巡ヶ丘ぁああああ!!

 

この!ちきしょー!やめてやる!!RTAすらマトモに出来ないこんな人生なんかやめ……て……え!?画面……に?画面の右下にNow Loadingが出てる?

 

画面の右下にNow Loadingが出てるぞ!Now Loading中に見えるTipが出てきたぞ!なんかGAMEOVERじゃないぞ!!

ショタが……あんな状況下でまだショタが生きてるゾ!!!よかった…世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!

 

いやっほぉおおおおおおお!!!私には運が付いてる!!やったよゆきちゃん!!続いてるならまだRTAだもん!!!(難癖)

 

 

 

 

……えっ、いや――なんで生きてるん?(素)

 

正直、自分でも「だめだこりゃ」くらいな即堕ち2コマかましたはずなんですが……もしやあれから誰か犠牲になったとか?それとも前の日のフラグが活かされたんでしょうか……?

 

おっ、ゲーム画面が出てきました。

 

ここは……職員室の天井?時間は……17時過ぎ。

あれは朝だったから、かなり時間が過ぎてる事になります。……雨が上がってる、夕日が眩しいとこを見るとイベント自体は終わってますが――*おおっと*。

 

ゲーム画面が揺れました。これはぁ……疲れじゃないですね。『脳震盪』の疾患です。

まあ、後頭部打ったからなぁ……。画面見辛くなるだけなのでさっさと起き上がりましょう。

 

どうやらショタは職員室のフカフカソファーに寝かされていたみたいです。

 

辺りには、応急処置用の本が数冊、無造作に広げられてますね。血塗れのタオルも……頭を触ると拙いですが包帯が巻いてあります。どうやら倒れた時に当たりどころが悪くて、頭から派手に出血したみたいです。運悪いな、くそう。

 

《応急処置》スキルは、本を読めば楽に習得出来る半面、完治は出来ず、且つ使用者によって効果がまちまちです。ですので、上位スキルである《医学》がとれるまで、『脳震盪』や頭の傷とは長いお付き合いになります。

ですが、《応急処置》スキルはプレイヤー視点でメリットがあるんです。

 

このゲームに慣れた人ならば、処置の方法で誰にやられたかはわかるんですよ。

 

くるみならおおざっぱ、りーさんならきちんと、ゆきちゃんならがたがた、とかだから、結構わかりやすいんですよね。

 

これはぁ……えっ……めぐねぇ?

めぐねぇは生きてる?囮を止める事には成功した?では、必殺技を――うーん……駄目だ。あれからどうなったのかいまいち読めません。

 

意味不明なほど高度なゲームシステムなこのゲームですから、何が起きても不思議ではありません。

 

……ともかく。

 

ある意味タイム的には得出来ました。かなりの時間短縮です。

これが私の考案した気絶キャンセルです(大嘘)。……そう思うしかありません。

 

しかし、これが一人犠牲になった結末だと結果的にはプラマイゼロ。いや、マイナスに傾くかもしれません。

特にゆきちゃんが死んでると不味いどころの騒ぎではありません。まず私のモチベが死んでしまいます(自分本位)。

 

 

全員の無事を確認しにいきましょう。

職員室を出て皆を一人一人見つけ――*おおっと*。

……あれ?前に行こうとしたのに、なんで後ろって……ああ!写真!写真がないっ!『学園生活部の写真』が!

 

そのせいで正気度がオカシクなってしまったから、またメダパニが……ああ、めんどい……!

 

↑↑↓↓←→←→BA!――ヨシッ!問題ないな!

 

三階を急いで見に回りましょう!

廊下に出ます!

 

 

「あっ……」

 

 

おっ、チョーカーさん!よしっ、これで二人生存確認です!

……なんで扉の前で座り込んでるの?えっ、大丈夫?

 

 

「柳……」

 

 

ていうか、チョーカーさんに誰が生き残ったかこれで聞けますね。

ええっと。チョーカーさん、誰か死に――

 

 

「やなぎぃ……!!!」

 

 

ぬわっ、抱きついてきたっ!

ああ!揺らさないでっ!脳震盪が……脳震盪がぁ!

脳が揺れるっっ!!(SYMIKO)

 

 

「よかったぁ……ぐずっ、よがっだよぉ……!!」

 

 

あー、うん。ごめんね。心配掛けましたね。

確かに目の前で死にかけるのは堪えましたよね。少し待ちますか。

…………でさぁ、誰か死んだりし――

 

 

「わたしっ、わたし不安で!柳が死んじゃうんじゃないかってぇ……倒れた時、頭まっしろになって……!」

 

 

ああ、うんうん。そうだね。

それで、誰か死ん――

 

 

「でも、でも……――もう誰も見捨てたくなくて!!だから私頑張って、何とか……何とか出来ても皆が……」

 

 

せやな(天下無双)。

それで、その皆のお話なんだけどさ。誰か――

 

 

「皆、思い詰めちゃって……!わっ、私がっ、何とかしなきゃしっかりしなきゃってがんばってぇ……!!」

 

 

んにゃぴ……。

 

 

「取り繕っても……柳が居なくなると思うと苦しくてぇ……!」

 

 

いや、あの――

 

 

「だから、柳が居なくなるなら……私も死のうって思って……うぅ……やなぎぃ……!!」

 

 

――いや、お話聞いて!?ショタの言葉聞いてあげて!?

 

 

「うわああああああああんっっ!!!」

 

 

あー……だめだ。完全に泣きに入った。

これではお話が出来ないです。

 

泣き止むのを待つのはロスですねぇ……。

泣いてていいから、はいっ離す!はいっ手を繋ぐ!

簡易電車ごっこで他の人を探すとしましょう。

 

まずは部室に行くのが最優先…………ん?その他の教室で――めぐねぇがうずくまってますね。肩震わせてるから泣いてます。

なんでこんな特になにもないとこに……あっ、プリントがある。ここが『めぐねぇの授業』のイベント会場だったのか。

 

 

「……えっ、やなぎくん……?」

 

 

(たぶん)治療ありがとよっ!でもフォローは後だ、次イクゾー!

 

 

「まっ、待って……!お願い、離れないで……!!」

 

 

 

むっ、部室から料理のかほりをショタが感じとりました。……カレーとな?

りーさんやなっ!(女子力消去法)

 

 

「……あっ、なぎくん。よかった」

 

 

……若妻風りーさん、疲れ添えだけか。くるみとゆきちゃんがいません。

……泣いてないな。お話できそうですね。

りーさんやりーさんや。くるみとゆきちゃんは何処か――

 

 

「夜ご飯は貴女の大好きなカレーよ。自信作。……ほんとに、お疲れさま。貴方のおかげで……。ありがとう、なぎくん」

 

 

ちっ、台詞被った。もっかい。

りーさんやりーさんや。くるみとゆきちゃんは何処かのう?

 

 

「…………。くるみは確か、休むって言ってた気がするわ。ゆきちゃんは……ごめんなさい。分からない」

 

 

微妙に使えない恵体ですねぇ(明け透け)

ままっ、ええわ。生きててくれたならそれでええ。

 

休むなら……寝室ですかな。向かいましょう。

あばよ――旦那とすれ違い気味で少し欲求不満な若奥様風りーさん!

 

 

「もう……怪我してるんだから、あんまりはしゃいじゃダメよ」

 

 

わぁーてるわぁーてるぅ!(くるみ並感)

 

寝室に向かいましょう!チョーカーさんはそろそろ泣き止んで!

寝室ぅ、寝室ぅ、ベッディングルームにはぁ……。

――ガラッと、な、

 

 

「すぅ……すぅ……」

 

 

ゴリラ……かな、アレは。

……うん、くるみだ。ツインテールとシャベルがある。うちのゆきちゃんは横に寝そべってもあんな艶かしいラインは出ない子だからな。……やらしいゴリラねっ!

てか、あそこってショタの寝床…………いやまあ、良いんですけど。

 

 

……ゆきちゃんは?えっ、ゆきちゃんどこ行った?

 

トイレ?…………居ない。

他の教室…………居ない。ロッカーにもゴミ箱にも居ない。

下の階……は、簡易的にバリケードが設置されてます。行くはずがない。

 

 

……屋上?なして?ま、さか……。

 

いっ、いやぁそれはね?それはないと思いますよ。だってショタの頬に一発食らわせ、主要キャラ中最下位の筋力なのにショタが押し潰されたあのゆきちゃんですよ?

まさかそんな――

 

 

(本編のゆきちゃん回想中)

 

 

――あっ、やるわこれ。

めぐねぇ死んだらエアめぐねぇを出現させるポテンシャル持ってるから、世を儚んで(意味深)とか余裕だわ。

 

いっ、急げ!時間がない!

ゆきちゃんが死んだら、主要キャラ(と私)の正気度がイク!修正とか絶対無理ぃ!

せっかく拾った人生だぞ!無様でも完走までは行きましょうぞ!

 

 

 

「あっ、柳……」

「やなぎくん!待ってっ、やなぎくん!!」

「なぎくん」

「……んぅ?」

 

 

 

屋上まで遠い……意外に遠くない?

いや、ショタの足が遅いのか。スタミナバー酷使走法も『脳震盪』のせいで使えないし……くそぅ、疾患めぇ……!

 

やっと、着きました!

……扉が半開きです。これは絶対ゆきちゃんがいます!

 

――ゆきちゃん、大丈夫で、

 

 

「………………」(屋上の柵に寄りかかってる)

 

 

スタァァァァァァァプッッ!!

 

 

「わっ!……やーくん?」

 

 

あっ、あぶねぇ。ギリギリ間に合った……!

非力なショタックルでもゆきちゃんをどうにかこうにか止められたみたいです。

……?意外に顔が普通な気が、いや万全を期しましょう。

 

説得で何とか離させます。ゆきちゃんを心配している言葉を掛ければ今だけは止められるという事を私は知っている!(異次元の記憶)

 

選択肢で出現した中で優しい言葉をこれでもかっと連打します。

 

――大丈夫だって、生きてれば良いことあるよ、僕はゆきちゃんと一緒にいたい、ゆきちゃんに行って欲しくない、死なないで……。

 

うわぁ、全部月並みぃ……。

ありふれた言葉じゃ心に響かないってはっきりわかんだね(辛辣)。

 

 

「……うん、ごめんね」

 

 

ゆきちゃんはチョロい。QED(大人の汚さ)。

 

 

「ごめんね、やーくん。ごめんね」

 

 

やっぱ天使ですね。

ふんわりと抱き締めてきました。ヒュー!夕日をバックに映えるぜ!まあ、このスチル全主要キャラバージョンもう見てますけどね。

その時は、こんな台詞ではなくて、愛の告白だったんですけど。

 

 

「だから、おねがい……――」

 

 

とりあえず、7日目は終了!

何とかリカバー出来たと思われます!(推測)思いたいです!(願望)思え!(強制)

 

全員生存(ショタ重症)で、戦いがカットされたからタイムは想定の半分ちょっとで大変良き!

結果的には良かったんじゃないでしょうか!

 

……気絶している間、何が起きたのか不安でしょうがないですけどネ!(空元気)

 

 

 

 

 

 

 




ーーーーーーーーー
※解説

・ステータス『疾患』

キャラが負傷・発症、あるいは精神的苦痛を受けた際に発生する状態変化。
元々、罹患しているキャラも存在する。
 
《医学》スキルで治療できる。
《応急処置》スキルでは進行を遅らせる事しかできない。

『疾患』に侵されたキャラは、種類によって様々な行動阻害が発生する。
しかし、『疾患』の悪影響は予期せぬ形でーーより良い変化をもたらすことがある。


『疾患』は貴方に苦痛と絶望を背負わせるが、ほんの少しの希望も乗せる。

苦痛や絶望を消し去りたいと思うのは当たり前のこと。
だが、小さくとも希望諸共投げ捨てるのは、果たして最良と言えるのだろうか。





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七日目・裏 Re-Wh()at Co()llap()se()?

(色んな人のがっこうぐらしRTAを見せられてしまったら)
こちらも抜かねば、無作法というもの……。


……ちょこっと突貫工事なので。
ひっそりと直したりするかもです。


ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

――()()()

 

 

一瞬。

なにもかもスローモーションになったような錯覚を受けた。

 

血の臭いと一緒に押し寄せてくる、在りし日の隣人たちの波。

怯えて、恐慌に包まれる私たち。

 

――離れる手。

 

私たちの為に立ち向かおうとする小さな背中。

波に溺れるように――『かれら』に飲まれる愛しいあの子。

 

ひりつく喉も強張る顔も、喉奥から込み上げる吐き気さえも。

それすら吹き飛ぶ絶望が、私を包み込んだ。

 

私のせいで。

先生が、私が……もっとちゃんとしていれば。

あの子は――

手に握っていた私の意思が、ひどく空虚なものになった気がした。

 

 

 

 

 

 

 

『――やーくん!!』

 

 

ゆきちゃんの叫びで、私は我に返ったのを覚えている。

体の感覚が戻って……でも、目を背けたくなる絶望は私の前にあった。

 

 

『なぎくん……!あっ、いっ、いやぁぁ!!!』

 

 

ゆうりさんは、顔を真っ青にして腰を抜かしていたと思う。

からん、と床に落ちたのはあの子が作ったお手製の武器。ゆうりさんが勇気を振り絞って立ち向かおうと、握っていたものだった。

 

――あの子が『かれら』に飲み込まれていく。

 

私たちの為に立ち向かったあの子を嘲笑うように『かれら』は蹂躙した。足を掴み、手を掴み――体勢を崩して、そのまま押し倒す。

地面に叩きつけられたあの子の呻きは、おぞましい『かれら』の声にかき消されて。

 

 

『――っ!!やなぎぃ!!』

『待て!胡桃!!』

『ぐっ……離せよたかえ!!やなぎがどうなってもいいってのか!?』

『ち、ちがう!ちがっ……だって、あれじゃ、あ……お前まで……!』

『あ、ぐっそ……!あっああああああ!!!』

 

 

そこで。

這いずっていた『かれら』の一人が、あの子に覆い被さるように向かっているのが見えた気がする。

 

足先からゆっくりと。血に汚れた唾液で、あの子を汚しながら。

 

 

『やめて』

 

どこからか声が聞こえた。

おぞましいくらい感情が無い、そんな声。

横目で、呆然とこっちを見つめる皆の視線を感じた。

 

 

『やめて』

 

 

すぐに気がついた。

私の声だ。

 

 

『やめて……』

 

 

あの子を取り囲もうとするソレらの中から、私たちに近づいてきた一匹に、握っていたバールを打ち付けた。

ぐしゃりと潰れて動けなくなっても――まだソレらはたくさんいる。

 

早くしなきゃ――あの子が殺される。

 

 

『やめて……やめてぇ!!』

 

 

私は狂ったようにソレらを潰しながら、あの子に向かっていった。

いや、きっとあの時の私は狂ってたんだ。今もそうなんだろう。

 

『くっ、めぐねぇ!』

 

私が潰し損ねたソレが私の足首を噛む前に――くるみさんが、潰してくれた。それに感謝を言う余裕は、あの時の私には無かった。

 

 

『その子だけは……!お願い!やめて!!』

 

 

あの子を見るあまり、視界の端から襲いかかってくるソレに気づかず、首元に噛みつかれる――前に、たかえさんが拾った枝切りバサミの槍を、ソレの口に突き刺して、押し退けてくれた。

 

きっとあの時、私が噛まれてでもあの子を救おうとしていたんだ、と今でも思う。だからこうして生きているのはきっと二人のおかげだ。……この話を、蒸し返したいとも思わないけれど。

 

 

私は、言葉にならない声を叫びながら――あの子に手を伸ばす。

やめて。やめて。やめて。

そう叫んでもソレらに届くはずもないのに。

 

あのまま行ってたら、私たちは死んでいた。

 

 

『――どうして』

 

 

確か。その時聞こえた声は――ゆきちゃんだった。

もう一人の私の大切な子。ポツリと呟いただけの言葉は、今でも私の耳の奥に残っている。

 

あの時のゆきちゃんの目はソレらを見ているようで、見てはいなかったように思えた。それを通して、もっとちがうのを見ていた。

 

 

『どうして?――()()()()()()()()()()()()()!?』

 

 

ゆきちゃんの叫びは、私たちにも、ましてやあの子にも向いていなかった。

あの子を食らおうと、私たちを食らおうとした――ソレらに向かって。

 

ゆきちゃんは怒っていた。

 

 

『あんだけにいっしょにいて!あんだけで楽しそうに笑って!私の大切なやーくんとの時間を奪ってたくせに!』

 

 

ゆきちゃんは泣いていた。

 

 

『それは――やーくんなんだよ!?みんなの友達でしょ!?』

 

 

人を食べるおぞましい化け物に向けての言葉とは思わない、そんなゆきちゃんらしい、優しい言葉だった。

悲しい現実を見てないと言えばそれまでだ。私たちはなまじ、現実を見ていたせいかそんな言葉なんて考えもしなかった。

 

 

『お願いだからわかってよ……!!』

 

 

皆と仲が良いあの子を、ずっと横で見ていたゆきちゃんだからこそ。

私たちのように殺すことの無かった――夢見がちな、そんな言葉。

 

 

『……ァ』

 

 

だからこそ。

きっと、そんな奇跡は起こったんだ。

 

 

『ヤァ、ィ……』

 

あの子を噛み付こうとしていたソレは、固まって。

緩慢な動作で首を揺らしていた。ゆきちゃんを見て、それから覆い被さっているあの子を見て。

 

濁った瞳が、見開かれていたような気がした。

 

それからあの子を噛む訳でもなく――()()()()()()()()()()

 

 

『は……?』

 

 

それはきっと皆の声だったと思う。

 

『ソレら』はただの化け物。在りし隣人なだけで、私たちを食らうおぞましい存在のはずだった。

思い出は血に汚されて、そうであったかすらも定かではないほどに。

 

それがあの時、ふらりふらりとあの子から離れようと蠢いているように見えた。

まるで、自分のやろうとした事に怯えるように。

私たちに襲いかかろうとしていたソレらも動きを止めて――緩慢な動作で、倒れたあの子を見つめていた。

 

ソレらの呻き声は、束の間。言葉にならない声に変わっていたように思った。

 

 

『――っ!()()()()()()()()()()()()

 

 

たかえさんが叫んだ。

それになにか言う前に、たかえさんは壁に設置されていた消火栓を叩いた。

併設された警報器のスイッチが押され、けたたましい警報が鳴り響く。

 

 

『めぐねぇ!胡桃!――柳を!』

 

 

たかえさんのやろうとしている事は、流石の私もすぐにわかった。

一歩下がる。横から、引っ張り出した放水ホースを構えるたかえさんが出てきて。

 

勢い良く吹き出た水流が、ソレらの群れを押し退けた。

 

踏ん張る事も忘れたソレらは転がるように後ろに下がる。

あの子の周りに誰も居なくなるほどに。

 

 

『やなぎくんっ……!!』

 

 

すぐに私はあの子を抱き抱えた。

血と水に濡れた彼の体は本当に小さくて……こんな子に、勇気を出させるほど情けない私が許せなかった。

 

 

『ゆきっ!りーさんを助けてやって!』

『うっ、うん……!』

『胡桃!放送室に行くぞ!』

『なんで……?』

『いいから!』

 

 

雪崩れ込むように放送室に駆け込む瞬間。

ふと、私は後ろを向いた。

 

――ソレらは血と涎を溢しながら向かってきていた。

 

……やっぱり。

今思っても、あれは私の幻だったんじゃないかと思ってしまう。弱い私が見せた――“都合の良い現実”。

それでなんとかなったとしても、どうしても信じる訳にはいかなかった。

 

 

 

 

放送室に入っても状況は悪かった。

 

ソレらが扉を破ろうとしているのを、くるみさんが抑えて。

ゆきちゃんとゆうりさんは、あの子にすがり付いて泣いていた。

手持ち無沙汰な私を尻目に、たかえさんがテキパキと放送室の設備を操作していた。

 

 

『っっ!たかえ、何すんだよ!?』

『アレを見たろ!?アイツらにもまだ残ってるんだきっと!』

『ああ!?』

『意識とか……記憶とか!じゃなきゃ、ゆきの言葉で止まったりしない!あの夜だって、柳の言葉に耳を貸してた!』

『おっ、おい?本気か……?』

『じゃあ、今すぐ扉開けて応戦するのか!?ーーこれしかもうできる事はない……!』

 

 

たかえさんは、マイクを私に向けてきた。

目まぐるしく変わる状況に戸惑う私に、たかえさんは説明してくれた。

 

 

『アイツらはまだ聞いてくれるはず。今日がこんなに多いのも、きっと雨が降ったせい。外にいた連中が校舎に戻ったんだ――()()()()()()()

 

 

そんなこと、と否定するのは簡単だったが。

 

 

『体が覚えているんだよ、学生の時の事を』

『じゃあ、まさか……!放送でアイツらを追い出すのか!』

『ああ!集会とかなんとか言えばきっと!……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

でも、もうそれ以外選択肢はない。

私はすがり付くようにマイクに向けて、告げる。

 

 

『ぜっ、全校生徒……並びに教職員に連絡、します。これから全校集会を行いますので、しっ、至急体育館に向かって、下さい……』

 

 

先生の時に何度か言った事のある台詞。

その時は違う緊張を振り払って、何度も何度も。その言葉を繰り返した。

 

一分、十分、三十分。一時間も経ったかもしれない。

 

しばらくして。

ふと、もう扉を叩く音が聞こえなくなった。

 

 

『ま、マジ……』

 

 

くるみさんがゆっくりと扉から離れても、ソレらが破ってくるような事はない。

慎重に扉を開けて――

 

 

『いっ、居ない。あんなにいたのに……』

 

 

その言葉を聞いて、私も廊下を覗く。

隙間もないようなソレらの群れは、本当に居なくなっていた。

廊下が血とガラスに汚れている。それだけが、確かにソレらが居たという事を教えてくれている。

 

 

『やっ、やったなたかえ!おまっ――』

『ふ、わっ……!』

 

 

くるみさんがたかえさんを近づくと、すとんとたかえさんが座り込んだ。

笑いながらぽたぽたと涙がこぼして……。

 

 

『は、はは……!やったやった、私……私はやった……!』

『ああ!大手柄だよたかえ!お前……ほんとに最高!』

 

 

くるみさんは感極まってたかえさんに抱きついて。

それを見た後、私は急いであの子に近づいた。安全になったならすぐに手当てしなくちゃ、と。

現に倒れた時に何かで切ったのか、頭から血がたくさん流れていた。

 

私はすがりついている二人に声をかけた。

 

 

『ゆきちゃん。急いでやなぎくんを手当てしましょ。私が運びます』

『うん……』

『さっ、ゆうりさんも』

『…………て、ゃ……』

『――ゆうりさん?』

 

 

そこで、私はゆうりさんの様子がおかしい事に気がついた。

横たわるあの子の頭の傷を手で抑えて――血まみれになりながら、錯乱していた。

 

 

『……やっ、なんで……なんでまた、私の目の前で……やだ、るーちゃっ――なぎくん……!』

 

 

小さく呟く言葉を聞いている暇は私には無かった。

出てる血が多くて、ゆうりさんを気遣う余裕なんてなかった。

 

ゆうりさんを押し退けるように、あの子を抱き抱える。

向かう先は職員室だ。あそこなら、横たわせるのに丁度良いソファがあるし、救急箱もあった。

 

 

『めぐねぇ!はやくいこっ!やーくんが……!』

『ええ』

『あたしも行く。まだアイツらが隠れてるかもしれないからな』

『じゃあ、私と悠里はここにいるよ。動きたくないし……悠里を落ち着かせとく』

 

 

私は、たかえさんの言葉に甘えて、三人で職員室に向かった。

そこであの子を手当てして、一緒に助かった事を喜び合うのだ。

 

 

――()()()()()()()()()()()()

 

 

『……やーくん、やーくん……!』

『ほんとに居ないな。……じゃあアイツらは……』

 

 

あの時。ああ、あの時。

 

不安げなゆきちゃんの言葉に急かされた気持ちを感じなければ。

くるみさんの後悔するような呟きが耳に入らなければ。

 

 

――あの子はとっても頑張ったんだから。

すぐに癒して慰めて、いっぱい褒めてあげたい。抱き締めてあげたい。

 

なんて。

そんな自分本位な気持ちを優先しなければ。

 

 

 

 

『ァ……オァ』

 

 

()()()()()()()()()()()

いつも集会の時。生徒に渡すプリントを運ぶ――学年主任がいる事に気づけたはずなのに。

 

 

 

大口を開いて飛び付いてくるソレに、反射的に守ろうと身を捩る。

 

 

――痛みは訪れなかった。ふわりと香ったのは、甘い香り。

 

訪れたのは、悲鳴。怒号。嘆き。

潰れたソレに濃い血の臭い。

走り去っていく背中を辿る血の跡――固く閉められた扉。

 

私は何も出来なかった。

扉を開けろ、大丈夫だからと叫ぶ声も、扉の先から聞こえる圧し殺す泣き声も。

呆然と眺めてしまった。

 

腕の中にある暖かな感触。皆の、絶望に染まっていく瞳。

 

ふと――割れたガラスの破片に気がついて。

 

へらり、と歪む私の顔を写していた。

 

 

ああ

 

ああ

 

ああ

 

 

ほんの少し前に誓った約束さえ、守れない私は――いったいなんなのだろう。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

人間。

切羽詰まれば、何も考えなくても動けるものだ。

 

私は、逃げ隠れたトイレの中で――無意識に便器に顔を突っ込んだ辺りから、それがずっと頭にある。

生きる為。やらなきゃいけないのは勝手にやっているんだ。

 

だから、ふと気づいた時――二階への道を塞ぐバリケードがなんかそれっぽく出来ていた事に驚いた。

 

 

「…………」

 

 

拙いも拙い。

工作が得意でもない小娘がやった程度、アイツらに群がられたらすぐに崩れるような……そんなもの。

それでも――ひどく安心した。私たちの場所を取り戻せた。そんな気分が、ずいぶん心を軽くする。

 

 

「……皆。大丈夫、かな」

 

 

――()()()

どうなったか思い出したくもないほどに鮮明に覚えている。バリケード作りに没頭したのはそれを少しでも忘れたかったのかもしれない。

 

誰も責められない、出来事だった。

めぐねぇも胡桃も悠里も。私は……どうなんだろうか。

 

あの時。()()()()()()()

 

集会を口実に追い出せるのは生徒が殆どで、先生は居ないのもいたのに――とか。

誘導できても、それでも化け物には変わりないのに。何故追い出した程度で安心したのか――とか。

追い出して。三階を全部見て回って、こうしてバリケードを作って。

それから初めて、生還を喜ぶべきだっただろう――とか。

 

そうすれば――今も私たちは笑えてたはずなのに……とか。

 

 

「……っっ!!」

 

 

頭に浮かんだ“都合の良い現実”を振り払うように、壁に拳を叩きつける。じん……と手首に響く痛みが、私に現実を教えてくれた。

 

逃避、している場合じゃない。

起こった事は……しょう、が……ない。のだ。

 

今を見据えるしか、私たちにできる事はないんだ。

 

 

「……もう夕方か」

 

 

外を見れば、朝方の雨が嘘のように――綺麗な夕日が空に浮かんでいた。

 

それを浴びるようにアイツらが蠢くように学校を出ていくのが見えた。

私の推測が正しいなら家に帰るのだろう。それでまた明日、何食わぬ顔で校舎を占拠するんだ。

 

――()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……っ。この……!」

 

胸の奥から湧き出すような苛立ちがむず痒い。

ああ、アイツら全員殺――

 

 

『ぐっ、ずっ…………』

 

 

そこでふと、泣き声が聞こえた。

一瞬、肝が冷えたが――()()()()()()

 

女子トイレから聞こえた声。

勝ち気な印象のはずのソレは、ひどく弱々しかった。

 

 

「…………」

 

 

私は女子トイレに入って――閉じられた扉の前に立つ。

扉の隙間からは、血で赤くなったシャベルの先が見え隠れしていた。

 

 

『…………』

「…………」

『……用を足すなら、男子の方使ってくれ……』

「ちゃうわい」

 

 

くるみがいるから躊躇しているんじゃない。

――どう、話しかけた方がいいか躊躇していただけだ。

 

 

「……バリケード、また作ったぞ」

『……そっか。わりぃ、手伝えば良かった』

「いいよ。良い気分転換にはなった」

『…………他のみんなは?』

「これから。私もさっき我に返ったって感じ」

『…………そっか』

 

 

沈黙が少し。

話したい内容は沢山あるのに――どれも話したくない。

 

 

『あたしさ。ずっとぼんやり考えててさ』

「ああ」

『どうして、あの時あたしが前に居なかったんだって。そうだったらあのハゲくらい、すぐにヤれたってのに』

「……学年主任、禿げてたっけ」

『…………そういえば。フサフサだったよな』

「カツラか」

『カツラだな』

 

特に知りたくもなかった。

 

『なんかさ。すごい辛い。先輩を殺しちゃった時よりも』

「…………」

『アレはさ。今思えば、それしか手段は無かった。怪我した先輩をほっとく訳無かったし、ああなった先輩を野放しにしてたらあたしが死んでた』

「…………」

 

 

初めて知った事だった。

胡桃の好きだったOB、死んでたのか。それも胡桃が殺して。

ああ――だからああも、殺すのに躊躇無かったのか。最初に大切な人を殺したから。

 

 

『でも、さ……あの時、もっとやれる事……たくさんあっ、たなって……!バリケードももっと頑丈にできた。もっと上手く、もっと多く、もっともっともっと――()()()()()()()()()()()……!!』

「…………」

『後悔だな。ははは、陸上やってる時から後悔しないように全力でって。ずっとバカみたいに言ってた気がすんのにな』

 

 

胡桃も、私と同じ気持ちだった。

いや、推し量るなら胡桃の方が辛いと思う。

だって、目の前にいて。後一歩、行ってれば――間に合った。

なまじ、現場を見たから想像が止まらない。

 

 

『あーあ。トイレから出たら全部嘘でしたー。……なんて都合の良い事なんて無いよな』

「ああ。無かったな、私の時も」

 

 

このまま胡桃をほっとく訳には行かなかった。

それは理屈ではなく、経験談。

トイレにずっといると――気が参る。

 

 

「ともかく。出てきなよ。そこにいるよりかは、布団で転がってた方がいい」

『…………』

「それとも。お前も便器の水飲みたいのか?」

『…………飲んだのか?』

「んんっ!誰にも言うなよ。特に柳には」

 

 

少しして……ぎぃ、と扉が開く。

俯いた胡桃が立っていた。血と埃まみれ、見てられない格好だった。……私もか。

 

 

「出る。ついでにシャワーも浴びて寝るわ」

「おう」

「……りーさんには今日の飯はもう要らんって言っといてくれ」

「ん?悠里は部室か」

「うん……ふふ、部室か。今じゃあ少し笑っちゃうな」

 

「――おい」

 

 

ふと、胸から湧き上がった感情を抑えきれなかった。

言っちゃ駄目だ。それだけは。それだけは、私たちは。

 

 

「……すまん。やっぱ、疲れてるなあたし」

 

 

胡桃は視線も合わせずに、トイレを出る。

廊下を歩いていくその様は――アイツらみたいに、死んでいた。

 

 

「なぁ」

 

 

ふと、声を掛けられる。

背中越しからのその声は聞きそびれるほどに小さくて――

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

私は一回口を開きかけて――閉じて。

 

 

「――()()()()()()()()()()()()()

「だよな。……っ、だよな……」

 

 

胡桃はそのままシャワー室に消えていった。

震える体も、出る頃には少しはマシになってるだろう。

 

ふと、耳の奥からくぐもった泣き声が甦ってきた気がした。

 

 

 

 

「……悠里か」

 

 

部室に足を進めながら、少し不安になる。

放送室の時はちょっと混乱してたし、落ち着かせる前に――あんな事になったし。

それから今まで、悠里と話した記憶はない。

 

ずっとあのまま。なんて事はないだろうけど。

 

 

「ご飯の話はしてたし。少しは…………むっ」

 

 

そこで、ふんわりと。

カレーのいいにおいが私の鼻を撫でた。

……特段、お腹が空いてるとは言えないけど。習慣的に涎が出てくる。

 

 

「あら、たかえちゃん」

 

 

部室に入ると――エプロン姿の悠里がキッチンにいた。

ポコポコ言う鍋をかき回しながら、目元はちょっと赤いが――元気そうに見えた。

そんな悠里は、私の顔を見て心配そうに顔を歪める。

 

 

「……お茶でも淹れる?」

「いや、そこまではいいよ」

「じゃあ、缶コーヒーでもいいから。なにか飲んだ方がいいわ」

 

 

そう言って、昨日校舎内から掻っ払ってきた段ボールの中から、コーヒーを出してくれた。

……有りがたく頂く。

 

 

「……大丈夫か?」

「大丈夫かそうじゃないかって言われれば。大丈夫じゃないわ。でも……泣いてても変わらないの。変わって、くれないの」

「……だよな」

「くるみとは話した?」

「ああ、シャワー浴びて寝るってさ。ああ、飯は要らないって」

「そう」

 

 

ぐるぐるとカレーを焦がさないようにかき回す悠里は――自嘲気味に笑った。

 

 

「それにしても。経験が活きたわ」

「……経験?」

「――家族が死んだ時」

「…………」

「辛くても苦しくても泣いても何しても――どうしようもならない。それがなきゃ、私は今も放送室にいたわ」

 

 

急にぶっこまれた重い話に私は咄嗟に反応出来なかった。

それなら……私もそうだ。考えたくないが――この状況じゃあ、私たちが奇跡だってのはわかる。

私がなにも言わなかったからか、悠里は慌てて、誤魔化すように。

 

 

「あっ、ごっ、ごめんなさい!そ、それに私には下の子がいるから……一人って訳でもないし……そのぅ……」

「ああ、悪い。黙って。……下の子って、弟?」

「…………。…………。ええ、そう。()。大切な、()()()()

「……そうか」

 

 

 

悠里とも、こうなる前は特に知り合いでもなかった。

だから小さいとこでも知れるというのは少し嬉しい。――たとえ、生存が絶望的であったとしても。

 

悠里はそこで「そういえば」と呟くと、食べ物を適当に詰め込んだだけの段ボールの中から、缶詰を取り出した。

なんてことはない。スイートコーンの缶。子供が好きそうな奴。

 

 

「たかえちゃんって、カレーにコーンを入れても大丈夫な人?」

「んん?食べた事は無いけど……合いそうだしいいよ」

「良かった。家じゃあ入れてたから。なぎくんも大好きでね――よく一緒に食べてたの」

「へぇー」

 

 

……柳の好物ってコーンカレーだったのか?

初めて知った。アイツ、購買のパンでもゆきの消し炭弁当でも私のおかずでも何でもうまそうに食ってたけど、そうなのか。

 

……うん?ていうか、一緒に食ってたの?家のカレーを?

いや、ゆきの奴が、泥棒猫を許す訳が――ああいや、私も学校の外は詳しくないし……そうだったのかも。柳、誰とも仲良かったし。

 

 

「だったら、早く起きるといいな。柳」

「……そうね。とても心配だわ」

 

 

柳は――アイツらに噛まれては居なかった。

血を拭っても、怪我らしい怪我は、頭をちょっと大きく切った傷とタンコブだけ。そこだけが不幸中の幸いだった。

あとは――アイツが目覚めてくれるだけ。残ってるのは。

 

 

「……ちょっと見てくる」

「ええ。ああ、そうだ。めぐねぇにもコーヒー持ってってあげて。きっと気を張り詰めてると思うから」

「そうだな。……ブラック?」

「めぐねぇ的にはカフェオレじゃない?甘いやつ」

「……間を取って微糖にしとくか」

「それは間って言うのかしら……」

 

 

そうして、缶コーヒーを手に――職員室に向かう。

保健室が一階にしかないのが悔やまれる。あったら万全に治療出来たかもしれないのに。

 

廊下を歩く。

綺麗だった。そう思い出すしかない、血に濡れた廊下を。

 

 

「…………」

 

 

トイレじゃないが――気が参る。

綺麗な時を知っていたせいで、余計に。

 

 

「ん?」

 

 

そこである教室に目が留まった。

色々グチャグチャな中で整然と並んだ綺麗な机と椅子。そしてそこに並べられた数枚の紙。

黒板には……抜き打ち、テストの……文字……。

 

 

「………っ…くそっ……」

 

 

――気が参る。

 

 

 

職員室の扉は空いていた。

覗くと、柔らかなソファで寝ている柳と――その横で座り込んでるめぐねぇの姿が見えた。背中を向けてて表情は見えなかったけど。

離れてても沈んでるのはよくわかった。

 

 

「無理も、ないか……」

 

 

小さく呟く。

だってめぐねぇは――張本人だ。両方の、出来事の。

胡桃も悠里も、そして私も。柳も……ゆきだって――めぐねぇを責めないだろう。

そう思えるほどには私たちはきっと仲が通じていたと思う。

 

私はめぐねぇに近づく。

そうして声を掛けようとして――

 

 

「どうしてこうなっちゃうんだろう」

 

 

――無機質な声に足を止めた。

 

 

「私ってどうしてこうなんだろうなぁ。成績はそれなりにいいのに、本番になるとてんで駄目。恋も駄目だったし、部活だって……就職はすぐに決まったけど。でも、顧問すら任せて貰えなかったし」

 

 

何故か、喉がひりついた。

ただの呟き。ただなんてことないような言葉なのに――妙に心がざわついた。

 

 

「それでこれでしょ?二人だけは守るって言っておきながらこの様。やなぎくんは私のせい。ゆきちゃんも私のせい。私がもっとちゃんとした先生だったら。ちゃんとした大人だったら。……あー、あー、あー。ほんと――私って使えない」

 

 

そうだ。私たちは絶対に責めない。

でも――めぐねぇだけはきっと、自分を責めるだろう。

 

私の知ってるめぐねぇは大人しくてどこか抜けてるふわふわとした大人な女だった。

こんな――淡々と己をなじるような人だったか。

 

 

「アレが元は人だからってなんていうだろう。罪を償うってバカみたい――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……っ……っ」

「やなぎくん。先生……いや、私はもう絶対に間違えない。何があっても守る。……守らせて。私、なんでもする。だって――」

 

 

――これ以上、聞いてはいけない。

きっと、誰も聞いちゃいけない事。めぐねぇだけの、めぐねぇしかわかっちゃいけないものなんだ。

 

私は後ずさって部屋から出ようとする。

今ならまだ――

 

 

「――ああ、そうだ。もうあんなの要らないじゃない……」

 

 

――不意に立ち上がっためぐねぇから隠れるように、手頃の机の陰に蹲る。

めぐねぇの表情は髪に隠れて見る事は出来なかったがーー口許は。酷薄に歪んでいた。

 

 

「ついでに、顔を洗ってこよう。こんな顔、この子に見せられない」

 

 

そうしてふらふらと。

めぐねぇは廊下に出ていった。少しして――くしゃり、と紙を丸める音が、やけに良く聞こえた。

 

 

 

「…………」

 

私はなにも言えなかった。

きっと踏み込んでいたら――何かが壊れるのはわかっていた。もう、なにかが壊れるのは嫌だ。

 

私は――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

柳を見る。

……顔は青かった。散らばる応急処置の本、血がついたタオル――ガタガタに歪んだ包帯。

どこを取っても痛々しい。

跪いて、手を握る――ひんやりするほど冷たくて。私の体温を奪うようだった。

 

 

「あれ?」

 

 

――柳って手の平は熱い奴じゃなかったっけ?

 

 

「えっ、あれ……えっと、あ、っと……」

 

 

いや、どうだったろう。

たまにゆきのほっぺをつまみ合う時にちょっと触れあった時は、いやあの温度はゆきのほっぺのせいか?違う、ちゃんと触った……はず。暖かった……はず。

あれ?どうだったっけ?えっ、大丈夫なのか――ほんとに、このままでいいのか?

 

暖めるように掌を両の手で包む。

 

それでも――柳の顔は青くて。あれ?そういえば、呼吸が浅いような気がする。いや、違う。眠ってる時は呼吸が深いはずで……あれ?ならこれでいいのか?悪いのか?

 

――()()()()()()

 

 

「とっ、とりあえず……悠里に頼んでタオルを温めてもらいに……」

 

 

このままでは埒が空かない。

そう思った私は、手頃なタオルを引っ付かんで廊下に出て、扉を閉める。

キッチンにいる悠里に頼んで電子レンジとかで温めて貰えば――それで。

 

……もし目を離した時に柳の容態が変わったらどうしよう。いや、そんな事言ったら何も……いやでも、そうして誰も居なくて――死んだら。

 

 

()()()()

 

柳が死んだらどうする。ゆきも柳も居なくなったら。私たちは、私は――どう生きればいいんだ?

 

柳に助けて貰った。なら、そのお礼に柳を……皆を助けるべきで。

でも、ゆきはいなくなって。柳も死んで……いや、柳は死んでない!死んでない……いや、このまま起きなかったら?頭を打ったんだ。もしかしたら当たりどころが悪くて。

柳が死んだら。柳が死んじゃったら。

 

私は、生きる必要があるの?

 

 

 

――ガラガラッ。と。

 

ふと、開くはずの無い扉が空いた。

 

 

「あっ……」

 

 

視線を向けると――痛々しい姿をした柳が、私を見下ろしていた。

……見下ろす?そこで私はやっと――自分が座り込んでるのに気がついた。

 

 

「むっ、たかえちゃん発見。……他の皆は?」

 

 

そう尋ねてくる柳に――私は泣き出すのは抑えられなかった。

 

不安になった。どうしようもないくらいに。

ただ悪い方向に転がっていくだけの現状に、挫けそうになった。

 

でも、もう――今は大丈夫だ

柳がいる。柳が生きてくれている。それだけで、今は。

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()

 

見落としたんだ。柳が焦ったように皆を探し回るのを。段々、段々と。柳が狂っていくのを。

 

自分が安心してもう大丈夫だなんて。

――ほんの少し前に後悔した事すらも忘れて。

 

なんとかなったはずなんだ。

泣く前に――泣かせる前に。柳に伝えるべき、大切な事が。

 

 

()()()()()()、ってこと。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよゆきちゃん!そりゃあ、辛い事いっぱいだったけど、生きてれば良いことあるよ!」

 

「僕は、ゆきちゃんと一緒にいたい。ゆきちゃんに行ってほしくない、死なないで――」

 

 

こうして。

私たちの地獄は、また一つ過ぎ去った。

新しい希望は血で汚されて。ガラスのように砕け散って。

 

 

「えっ?なに冗談だったの」

「……ごめんなさい」

「もーっ、ゆきちゃん。流石に今、その冗談はちょっとキツいよ。まあ、いいけどさぁ」

 

 

つまらなくとも暖かい日々を失い、それでも懸命に生きようとした私たちを嘲笑うように、絶望は押し寄せて。

 

 

「それよりゆきちゃん。辛かったよね……ごめんね。僕がもっと……もっと」

「ごめんなさい……!やなぎくん、ごめんなさい……!」

「――むっ。……やっぱりゆきちゃんは優しいね。あったかい」

 

 

ついには。

 

 

「だから、お願い……――」

「まあ、全部終わり良ければすべてよしだよね。僕も大丈夫だし、ゆきちゃんも大丈夫。皆大丈夫ーー万々歳!」

 

「――お願いだから私を見て!」

 

 

()()()()()()()()

 

 

私たちがなにをしたって言うんだろう。

 

大それた事なんて一つも望んではいなかった。

私たちはただ……静かに、普通に……生きていたかっただけなのに。

 

 

 

 

どうして、こうなってしまったんだろう。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ーーーーーーーーーーー

※解説byWIKI

『ゆきちゃん化』

某年、『がっこうぐらし!』という作品を世界に轟かせ、当時のごちうさ難民を容赦無く爆撃した衝撃の現象。

本編でのゆきちゃんの壮絶な様から、そう呼ばれているが――ゲーム内では『解離性~~』や『夢遊病』『幻視・幻覚』がこれにあたる。


好感度の高いキャラが重傷・死亡、もしくは失踪し、その際に発生する“覚醒”イベントに失敗すると――そのキャラの“都合の良い現実”が見える(思い込む)ようになる。

これは正気度が低い状態、または互いの好感度が高いほど、確率が増加する。
主要キャラ……特に、ゆきとりーさんが起こりやすいが――主人公にも当然起こりうる。

『ゆきちゃん化』は、周囲の正気度減少抑制や好感度上昇補正などのメリットはあるが、“都合の良い現実しか理解しない”という特大のデメリットがそれの邪魔をする。

さらには、“都合の良い現実”の内容によっては――プレイヤー自身が『ゆきちゃん化』している事に気づかないというリアルゆきちゃん体験が発生する。

「全員生存エンドできたぜ!」→「は?実績解除されないやん!どうすんのこれ。運営に連絡させてもらうね」→『僕がさっき……食べちゃいました(死亡実績解除)』→「食べた!?よりにもよってこの中の中で!?(混乱)」→「はぁー……あ ほ く さ(虚無)」となる。

特に細部を確認しないRTA走者には地雷。
全員生存を基本としたチャートが組まれている事が多い為、余計に気づかない場合がある。

対策
動く奴も動かない奴も全員殺せ。


ーーーーーーーーー
コメント欄(114514)

・最近、がっこうが――
 ・またゆきちゃんが出たぞ!
 ・隔離しろ!
 ・MGNE IS DEAD
 ・MGNE ALIVE YOUR HEART

・全員生存できたと思ったら、欠けてる時の絶望感。誰か教えてよ……
 ・教えられる精神があるなら、話合わせるわけないだろいい加減にしろ!
 ・みーくん「笑顔には勝てなかったよ……」
 ・めぐねぇ「笑顔には勝てなかったよ……」
  ・お前は勝て
   ・ひどい
   ・美女に辛辣なホモの鑑
 
・ていうか、好感度上げなきゃいいんでない?
 ・そうすると、勝手に離反して勝手にかれらになってるか、ショッピングモールのバリケードをペットの為に退かし始めるババァ並みの害悪になる。
 ・殺されなければいいんだけど、たまに事故るとねぇ。大体は起きないけど、幼馴染みになってたら大抵起こる印象。
 ・一人生存はつまらないしなぁ

・結局殺される前に殺せばいいだけなんだけどね。
 
・ゆきちゃん化に気づかないまま走ったRTA走者がいるらしい。
 ・草
 ・かわいそう
 ・リガバーの人
 ・RTAのハードルを地下にめり込むほど下げた人

 


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八日目・日中 Sweet Dream

(ちょっと前は欠片も展開を思い付かなかったのに、今は書けちゃう不思議)なので、初投稿です。


 

この世には結果だけが残るRTA、はーじまーるよー!

 

(気絶していた間の)過程や……(私抜きで生き残った)方法など……(タイムが良ければ)どうでもよいのだぁぁ!

 

まあ、良くはないんですが(素)。

 

……結果的に全員生き残って、重傷だったのはショタだけ。

こう挙げれば――まあ、ベターベターのベトベターです。

どう生き残ったのか、聞いときたいですが――最早、タイムしか誇れるところが存在しなくなってきたこのRTAにおいて、それはロスですからねぇ!(自虐)

 

まあ、なんやかんやあってなんとかなったんでしょう。なんやかんやあって。

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

「――やーくん、あーんっ」

 

あーん。

 

 

――八日目、朝。

部室での朝食の時間です。

 

……お通夜状態です。

カチャカチャと響く食器の音以外ほんと無音。

これじゃあ、りーさん謹製のカレーの味もわからないんだよなぁ……。

ゆきちゃんだけが心の拠り所やでぇ……。

 

 

「……くるみさんは」

「まだ寝たいって……まあ、しょうがないよ」

「できれば朝ごはんは食べてほしいけれど……」

 

「はい、やーくん。あーんっ、あぁーんっ」

 

あーん。

 

――正直、ちょっと由々しき事態です。

 

前にどこかでお話したと思いますが――朝食での皆の状態が、どのぐらい正気度が減っているかの目安として分かりやすいのです。

食べる量が減ってたり、やけに会話しなかったり――そもそも朝食の場に来なかったり。

 

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

 

完璧に当てはまりますねぇ!

おっ、冷えてるかぁ~?(場の空気) ヒエテマスヨォー(エコー)

ヒール、ヒール!(世界観ガン無視)

 

 

「……昨日は大変だったもんね。疲れちゃうのはしょうがないよ。はい、あーん」

 

 

あーん。

……昨日の“あめのひ”が余程堪えたようですねぇ。

まあ、然もありなん。

 

二階を制圧してなかった事でかなり多くなった『かれら』の群れ。バリケード崩壊に、ショタの戦闘不能……不利な状況てんこ盛りでしたし。

 

必殺技のフラグとか、覚醒めぐねぇとか。

そういった有利な条件があったから、皆の頼れる私が居なくてもなんとかなりましたが――正気度減少は、想定より多くなっても不思議ではありません。

 

しょーじき。一人も怪我無く、それも脱落しなかったのが奇跡です。

 

めぐねぇあたりがポカやらかして一人脱落とか平気であるので、これは覚醒めぐねぇのせい……いや、おかげでしょうか。

バール窃盗犯ですが、恐らくは一連の流れの救世主です。感謝の祈りを捧げましょう。

 

アーメン……バールカエセーメン……(執念)

 

 

「りーさんのカレーおいしいね。あーんっ、あーんっ、ああーんっっ!」

 

 

あーん……って。

ていうか、ゆきちゃん。なんであーんばっかりしてくるのん?

こういった行動は好感度が高いなによりの証ですが、やけに多いような。

 

 

「だって、やーくん。頭怪我してるでしょ?病人なの!だから、私に任せて?はいっ、あーんっ!」

 

 

ああ、なるほ―あーん―ど。

ショタが怪我したせいでゆきちゃ―あーん―んの庇護欲を掻き立ててしまったようです。まあ、いいでしょう。

お互いの好感度が高い状態で“看護”されると、両方の好感度が上がりますし、正気度も少し―あーん―回復します。ゆきちゃんリカバーとして、為さ―あーん―れるままになっときます。

……他の連中にもリカバーを―あーん―しないとですね。

これで皆がわかりや―あーん―すい怪我でもしてば私も“看護”でいけ―あーん―るんですが。

うーん、ショタが―あーん―怪我してし―あーん―まった以上、他に―あーん―もリカ―あーん―バ…………ってちょっ、多すぎィ!?

 

ちょっとゆきちゃん、ペース!ペース早い!

 

ショタの小さな口にそんなの(大量のカレー)挿入らない!

はやくそんなもの(スプーンいっぱいのカレー)閉まって下さい……!

ちっ、近づけないで……(カレーの良い)匂いが……!!

 

 

「えー。いっぱい食べないと元気にならないよ」

 

 

不満そうにしな―あーん―言ってるそばから!

 

くっ、何故だ……!何故今回はこうも甲斐甲斐しい……!?好感度か?正気度か?ショタの怪我具合のせいか!?

くそっ、このゲームの高度なフラグ管理のせいで曖昧にしかわか―あーん―ちっ、窒息する……!この万寿柳がカレーで窒息死してしまう……!!

 

 

「……ふふふっ、美味しいですか?やなぎくん」

 

 

なにわろてんねん!

……たとえゆきちゃんにわんこソバよろしくされても美味しいですねぇ!当たり前だよなぁ!?(ゆきちゃんへの愛)

 

 

「気に入ってるからってそうがっつくなよ。喉詰まらすぞ」

「いっぱい食べてくれるのは嬉しいけど……たかえちゃんの言う通り――めっ、よ?なぎくん」

 

 

それ、ゆきちゃんに言ってくれませんかねぇ!?

 

 

「にへへ……あーんっ」

 

 

くそっ、可愛い許す!(これをゆきちゃん無罪と言います)

 

 

「じゃあ……私たちも食べちゃいましょうか」

「そうだな」

「ですね」

 

 

おや。

どうやら一連の流れで多少……ほんとに多少ですが、和やかな食事風景に戻りました。

これを不幸中の幸いと言います(正しい表現)。

 

やっぱりこういう時のゆきちゃんの空気清浄器っぷりは伊達ではありません。後でほっぺむにゅむにゅで労ってあげましょう。

 

 

さて。

ゆきちゃんにわんこカレーをされてる様を皆がほほえま~している間に――今日やるべき事を軽く説明しましょうか。

割りと窒息死の危機ではありますが。私がボタン連打すれば問題ありません(意地でもゆきちゃんを責めないスタイル)。

 

八日目は、中盤の鬼門たる七日目の“あめのひ”が終了した次の日――『かれら』によってメタクソになった安全圏の修復や、生存者の回復に勤しむ……そんな重要な一日になります。

 

これを怠れば、次の“あめのひ”かつ最終戦の十四日目を待たずに、『かれら』が入り込んでタイムロスの原因になりかねませんし、皆の正気度の具合によっては要らぬイベントが挟まり、これまたタイムロスに繋がります。

 

傷は、出来てすぐに処置をした方が悪化もしないし早く治るのは自明ですね?

今日はそんな一日なのです。

 

……本チャート通りで行っていれば、ここでエンディングに向けての下準備とかショッピングモール組の救出のフラグ建てとかもやる予定でした。でした!(苦渋の過去形)

ですが、周りの正気度の減少幅……特に此処に居ないゴリラはかなりヤバそうなので………そういったのは隙が空いた時に、振り分ける事にしましょう。

ショッピングモール組に関してはショタがこんな様なので……修正が必要だ……。

 

 

「……今日の事なんですが」

 

 

なんれふふぁ、めふねぇ(口に物を入れて喋るお行儀わる子)

 

 

「取りあえず、バリケードの修繕を。もう……入り込まないように」

「ええ、廊下も綺麗にしなきゃですし……その……」

「ああ、そうだな――()()()()()()()()()

 

 

……三人は前向きに話を進めてますね。表情も良いものではないですが、悪いものでもないです。

一様に暗いですが、建設的な話ができているので――正気度的にはそれほど深刻にならなくてもいいでしょう。

後でハグでもして補強しつつ、それでも足りなさそうなら今日一緒に添い寝でもしとけば大丈夫です。

 

ショタであれば、体を売る事で異性を元気にさせる事ができます(悪意ある解釈)。

 

 

「うーん……やーくん。私たちはどーする?手伝う?」

 

 

いいえ。

ここでゆきちゃんに協力させてもそこまでの短縮にはなりません。ショタも怪我を負っているので、いつものスタミナバーギリギリ酷使走法は封じられてます。

 

今日のRTA的短縮ポイントは、いかに効率良く皆の正気度を一定水準に戻し、且つ安全圏を素早く確保するかに限ります。

 

ですので――とっとと、くるみのケツを蹴り上げて立ち直させましょう。

 

食事にすら来てないという分かりやすいほどイッてるので、色んな意味で急務です。

空気清浄器ゆきちゃんもいれば、正気度回復は確実。

学園生活部の力(直喩)が復帰すれば、後片付けも早く終わりますしね。

 

一石二鳥……ある意味、くるみがダウンしててありがたいですね!(屑)

 

じゃあ、ゆきちゃんにくるみを起こしに行く事を手伝って、とお願いしましょうか。

 

 

「わかったっ!じゃあ、寝坊助なくるみちゃんを起こしに行こう!おーっ!」

 

 

おーっ!(今のうちにゆきちゃんからスプーンを取り上げて、手の届かない所に置きます。お腹いっぱいでちっ!)

 

 

「あら、なぎくん。ふふ……お腹いっぱい?」

「……まあ、そんなに食えばな」

「でも、気持ちはわかるわ。ゆうりさん、ありがとうね?」

「いえいえ。昔からおんなじのを作ってますから……ねー?なぎくん?」

 

 

ねー……ぇ?えっ、なにがよ(ボタン連打で聞いてない)

 

まま、ええか。

んじゃあ、私――ちょっとナマケモノになったくるみを起こしに行ってきます。

その間、先に片付けてて?

 

 

「――駄目よ」

 

 

なんで?(半ギレ)

 

 

「一人じゃ危ないわ。そうね……じゃあ、私が付いてくから、二人は先にお願いしていい?」

「いや、胡桃と最後に話したのは私だし。私が行くよ」

「いいえ。私が付いてってあげます。なぎくんもその方がいいでしょ?」

 

「ダメ!だぅめぇ!やーくんとは私がいっしょに行くの!三人ともっ、カップリングは大事なんだよっ?寝取りいくない!」

 

 

まあ、なに言われてもゆきちゃん一択なんですけどね。

趣味も実益も兼ねた選択、イイゾ~これ(満悦)。

じゃあゆきちゃん行くよー。

 

 

「うん!いこいこっ!」

 

 

うきうきゆきちゃんカワユス。

じゃあ、ほな。ワシらはイチャイチャしながら行ってくるさかい。

そっちはそっちでたのんますわぁ――

 

 

「――あっ……えっ……」

「…………っ」

「――――」

 

 

――いや、無言はちょっと止めて!?

 

 

 

 

 

 

 

「やーくんとぉ~、二人っきりぃ~、ぬふふふん」

 

……あっけなく場面転換したけどほんと大丈夫なんですかねこれは。

 

まま、ええか(今回二回目)。

 

ご機嫌ゆきちゃんと一緒に向かうのは、くるみがいる寝室ですが――十中八九いません。

こういった場合、くるみは屋上で黄昏ています。

くるみが正気度減った状態でどっか消えたなら屋上を探せば問題ありません。

 

では、ちゃっちゃと屋上へ。行くゾー!

 

 

てってててて、かーん!ててっ――臭っ!?

 

 

「あっ……やなぎ……」

「むむっ……ちょっと焦げ臭いよ、くるみちゃん……」

 

 

思わずショタがのけ反りました。

(屋上へ来た途端、むわぁとした黒い煙が顔に直撃したら)そりゃそうよ。

焚き火の横でくるみが項垂れてます。……これはアレじゃな?旨いもん食わせた弊害じゃな?

 

で、くるみは何をしていたのですか(詰問)

 

 

「焼きいも、食べたくなって……やってみたんだけど……」

 

 

その手に持ってるのはなんですか(追求)

 

 

「焼きいも、の……つもり」

 

 

焼き炭の間違いでは?(揚げ足取り)

 

 

「…………」

 

 

勝ったな(なにがだ)。

 

 

……ふむ。

これは想定よりも早くくるみのゴリラ(比喩)を元気に出来そうですねぇ!

ちょうどいいバナナ的なアイテムが!

 

では、私が代わりに焼き芋焼いてあげます。ゆきちゃん手伝って下さい。

 

 

「はぁーい!じゃあじゃあくるみちゃん!ちょっと待っててね!」

「…………」

「美味しいの作るからねっ!……やーくんが!」

 

 

……まあ、ゆきちゃんは調理スキル壊滅的だからね、しょうがないね。

 

では、調理開始。

 

ここで一子相伝の秘伝の裏技テクニックをお教えしましょう。

 

焼きいもはね。火で焼くじゃない――()()()()()()()

 

石焼き芋ってありますよね?あれは熱した石が放つ熱がじんわりと芋を温めるからとても美味しいのです。だから田舎を練り歩く屋台のジジィは大抵石焼きィ芋ォ~などと叫んでいる訳です。最近見なくなってとてもさみしいです。直火も電子レンジも駄目です。芋は一気に火を通すと固くなって風味が落ちてしまいます。ただの芋でも蜜を溢すほどうんまくするには、石焼きが強い。故に至高。異論はあんまり認めない。オーブンも美味しくなりますが風情ってものがないですよ風情ってやつが。石が無ければ、燃え尽きた灰の中でもいいじゃない。焚き火跡の土の中に入れるだけでもぜんぜ――なんか脇から腕が視点が浮いた抱き抱えられた髪に顔を埋められたぁ!?

 

わっ、私はただ美味しいやき芋講座を……!(趣旨を忘れる走者の屑)

 

 

「…………」

 

 

まあ、こうなるのは想定通り。

少し前に言った通り――ショタを抱くと気持ちいいですからね(意図的な切り取り)。

 

ともかく。

美味しい焼き芋が出来るまで、誰かの赤点用紙の灰をぐーるぐーる掻き回しながら――くるみの正気度回復を始めましょう。

 

とはいえ、難しくはありません。

くるみが欲しがってるのは、褒める事と愛する事。

承認欲求をこれでもかっと満たして、無償の愛を見せつけてやりましょう。これだけで問題ナッシング。

心の綺麗な私だからこそ出来る事ですね!

 

 

「なぁ……怒ってないか、私の事」

 

 

怒ってないですねぇ!

だって基本くるみが居ないと『かれら』相手はハードモードですから。主要キャラ全ての筋力値を足しても尚も上回る暴力の化身に対して、媚を売って靴を舐めて体を売って焼き芋を貢ぐのはともかく――怒る事はありえないですねぇ!

 

 

「だって……だって、私のせいで――!」

「――むぅ、ちょっとやーくん。私の事忘れてない?」

 

 

あっ、ごめんゆきちゃん。今忙しいからちょっと脇行ってて。

そこにいるだけでマイナスイオン出てるから。

 

 

「――――っ」

「むぅー!あーそうですかそうですか!いーですよーだ。やーくんのバカ!大好き!愛してる!」

 

 

可愛すぎか(鼻血)。

 

まあ、空気清浄器YUKIChanは稼働してもらっておいて。

呆然とするくるみに畳み掛けます。

くるみが居なければそもそもここまで来てない。くるみが居たから皆生き残れた。つまり、くるみ=希望なんだよなぁ。誇りに思って、どうぞ。

……ていうか、本編もくるみ居なかったら一巻辺りで全滅してそうだし。

 

 

「そうかな……?」

 

 

そうだよ(適当)

ゆきちゃんもそう思ってるって大丈夫だって安心しろよぉ~。

 

ふぅ……。

くるみの顔色もだいぶ良くなってます。

まあ、こんなかわゆいショタに慰められれば誰でも嬉しくなるってはっきりわかんだね。

 

焼き芋も良い感じに仕上がりました。ついでに他の三人分も見繕っといて、くるみに朝ごはんとしてこれを食わせましょう。

これでもう平気やろ。

 

 

「――()()()……」

 

 

あん?

 

 

「――ゆきも……そう思って、くれる……かな」

 

 

だってよ、ゆきちゃん。

このゴリラに、慈悲深い御言葉を告げておやりなさい。

 

 

「つーん」

 

 

つーん、てかわいいかよ。

抵抗しないで言ってあげなさいって。

 

 

「……やーくんが言ってあげて」

 

 

なんで?(0ギレ)

 

 

「くるみちゃんはやーくんの口から聞きたがってるの」

 

 

…………。

いや、なんで?(0.0001ギレ)

 

 

「いいからっ。さん、はい!」

 

 

……うむぅ?ふむ……ふみゅぅ……(可愛げアッピル)

()()()()()()()()()()()()

ゆきちゃんがここで渋る必要が――

 

 

「――ごっ、ごめん!変だよな、変だったよな……あっ、あはは。すまん、なんでもない忘れてくれ!バカだよな私。ほんと……ほんとにバカだ……」

 

 

うわわ!

不味い、せっかく戻ってきた正気度が……!

ええとええと、このゆきちゃんマイスターであるこの私が算出する、ここでのゆきちゃんの気持ち――!!

 

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

……どーよ。どーよ!

月刊『ゆきのきもち』を購読してた私に隙はない!

 

 

「……っ。ああ、ああ……!そうだよな、ゆきならそう言うかもな……!」

「そうだよ!くるみちゃん!私がくるみちゃんを嫌いになるわけないもん!大丈夫大丈夫!――元気出して?」

 

 

くるみ嗚咽、ゆきちゃんご満悦。

……完璧な仕事ですねクォレハァ。

 

 

「………………――よしっ!」

 

 

現場猫かな?

 

 

「くよくよすんの終わり!あたしのやる事はまだある!なら、じっとしてる訳にはいかないよな!」

 

 

おーし、よぉーし。

くるみ復帰ですね。流石ゆきちゃん。辛い空気も完璧浄化ですね。

これで問題ありません。

 

さぁ、くるみ。

この焼き芋を食って今日もRTAの為に馬車馬の如く働くのです。

 

 

「ああ!行ってくる!」

 

 

くるみは焼き芋咥えて屋上を出ていきました。

食パン咥えて走る女子高生かな?……女子高生だな。

 

 

「……良かったね。やーくん」

 

 

ほにほに。

ゆきちゃんもあんがとね。ほら、ほっぺふにふにしてしんぜよう。

 

 

「すぃー……」

 

 

何故避ける!?

……まあ、機嫌めっちゃ良さそうですから別にいいか。

さぁて。私たちも手に入れた焼き芋を他の三人にも渡して、正気度を回復させてやるとしましょう。

 

 

 

 

では、夜まで倍速でさくさくっと行きましょう。

 

前にもやったモップ持って廊下を綺麗にして、バリケードを作り直すだけの単純作業ですからね。時給は焼き芋半欠片!

……あれ?そういえばバサ杖さまは?決死の特攻を共にしてくれた私の戦友はぁ!?

でっ、出てこない。……まさか、『かれら』の誰かが持ってった?生前の癖とか習慣で行動しがちですからアイツら。

 

あちゃー。武器がまた無くなった。

……まあ、そこらへんのリカバーは……もう、ええか(投げ槍)

 

ショタ怪我しちったし。それも自然に治らない『脳震盪』だし。

完全に後方ムーヴに切り替えた方が良いでしょうね。切り替え切り替え。

 

 

「――このぐらいで、いいですかね」

 

 

っと。めぐねぇの一言でお掃除タイム、終わり!

 

 

 

そのまま場面はぁ……寝る頃合いになりました。

……マジで何もねぇ時何もねぇなこのゲーム(RTAの味方)

夜ご飯?……さつまいもカレーにでもなったんじゃないですかね。

 

 

では、いつもの雑魚寝ですが…………。

今日は正気度の兼ね合いもありますしぃ……安全策でめぐねぇあたりと――

 

 

「じゃあ、やなぎくん。私と寝ましょうか」

「やーくん――私とだよね」

「なぎくん、おいで」

「浮気はダメだよやーくん」

「……まあ、柳が来たいってなら、断る気は……」

「マスコミさんの前で土下座したい?いしゃりょうとるよ?私スーパー弁護士と知り合いだからね」

「やなぎを困らせるなって。ほら、やなぎ。こっちゃこいこい」

「……………………」

 

 

――ゆっ、ゆきちゃん一緒に寝ますっっ!正気度とか知ったことか!その前にniceboatになるわ!

みっ、皆そこで能面になってるゆきちゃんの前で良く誘えるな!?好感度高いと独占欲とか出るけど乙女ってほんと逞しすぎぃ!!

 

 

「そ、そうですか」

「………………」

「まっ、まあ柳がそう言う、なら」

「んじゃ、寝るかー。やなぎ――トイレとかは私を絶対起こせよ」

 

 

うん、わかった(起こすとは言ってない)。

 

 

「むふふっ……とーぜんだね」

 

 

恫喝で勝ち取った添い寝は気持ちいいか?

たぶん最高でしょうね。顔が言ってます。

 

電気を消して、横になります。

 

 

さて………………。今日の夜廻はどうしましょうか。

色々補完とかもしたいところですし……でも、怪我してるショタを野放しにしてはくれないとも思います。

怪我人が出てるとこういうのは気づかれやすいんですよねぇ……。

 

うーん。

うーん。

 

……試してみますか。大してロスでもないですし。

 

成功すればヨシッ!ってことで。

では、もう少しだけ時間を置く間に…………。

 

 

 

次に発生する直近のイベントの“()()()()”――ひいてはショッピングモール組こと主要キャラのみーくんとけい、後は太郎丸について軽く説明しておきましょうか。

 

おでかけ”は校内の物資が少なくなった時に発生し、そこから巡ヶ丘市全体マップから選択した所に向かうという内容です。

駅とか小学校とか警察署、製薬企業……それなりに選択肢はありますが――まあ、皆は大抵ショッピングモール行きますよね。

 

本編ではそこに向かってます。

物資も食料以外も入手は容易く、さらにはマジレスウーマン直樹美紀こと“みーくん”と癒しマスコット()“太郎丸”と合流出来ますし。

 

みーくんは学園の後輩で、主要キャラ屈指の頭脳派であり、方針の決定はもちろんのこと、探索もある程度はイケる良キャラ……本編でも人気があるので仲間にする人は多いんじゃないでしょうか。

 

しかし、それは軽く罠です。

 

少し前のマジレスウーマンが罠なのです。

みーくんはちょっと……そう、ちょっと思慮に欠ける言動が多くて。

ほら……たまにするりと正論を言われてカチンッと来る事ありません?

アレです。みーくんはアレです。……不和の呼び水としてはこれ以上にないでしょう。

 

その為、合流直後の状況によっては――敵対一歩手前まで行ってしまう事もあったりと割りととんでもないキャラです。

それが原因で全滅とかなったりする時もあるし、まさしくサークルクラッシャーウーマン、MIKI……!!

 

……そういうのを乗り越えると超絶有能なんですけどねぇ……。

 

 

そんなみーくんのストッパーとなってくれるのがけい。

ゆきちゃんがあだ名を付けるところによる“けーちゃん”です。

 

けーちゃんはみーくんの親友であり、みーくんのちょっとヤベェ言動を窘め、もっと柔い感じにしてくれ、チョーカーさんと同じく『話上手』を持ってたりと中間管理職として便利。

意外にありがたいキャラ…………なのですが。

 

私たち学園生活部が行く頃には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

化け物が徘徊する恐怖と何も変わらないのに減るものは減る現状に嫌気を差して、みーくんを振り切って外に飛び出しちゃってるんですよね。助けを呼びにいくって。

 

まあ、その……ね?

現実というものは残酷で――普通に行けば、『かれら』となったけーちゃんが学校に登校してくるようになるんですが。

 

ですので、仲間にするにはその前に救出する必要があります。

条件は『ラジオでけーちゃんの救難メッセージを拾う』『駅に向かう』で、救出クエスト的なものが発生し、『かれら』のお仲間になる前に助ける事が出来るんですね。

 

……みーくんはともかく、けーちゃんは別にいてもいなくてもですが…………頭数を増やすという確固たるチャートは破りたくない今日この頃。

 

出来れば……出来れば、救出しましょうか。

 

なあに頑張りますよ――めぐねぇたちがなっ!

私?……ワタシ、ビョーニンヨッ!アンセイ、シナキャッ!オダイジニアボリジニ!

 

まあ、キーアイテムのラジオを入手せんことには話は始まりませんがね。

 

……?

ああ、太郎丸?

太郎丸は犬。骨あげると喜ぶ。ゆきちゃんの愛情を奪う末っ子。以上です。

 

 

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

さて――そろそろ良い塩梅じゃないですかね。寝入ってしまえば、ゆきちゃんでも妨害できませんし。

では、行動開始――ほぼ寝てたショタを叩き起こします。

 

ふぅ~!ふらつく視界ぃ~!

 

ひょこりひょこりと廊下に出ましょう。

月の光に照らされて雅な廊下を歩いて向かうのは、部室です。

 

元・生徒会室なあそこにはラジオもありますし――今だに生にしがみついてる死に損ないもいます。さくさくっと処理しましょうか。

 

 

部室に入りました。

まずはラジオを……この棚に中確率だったですが………………おおっ!これはっ!

――広範囲アンテナ・高品質バッテリー・非常事態仕様のラジオ!

……くぅ、運が良い……道具類だけはすんなり手に入ってしまう……!(複雑)

 

非常事態仕様のラジオは、充電用の手回しハンドルと懐中電灯が備わった――まあ、災害用のやつです。ありがたし。

 

では…………奴を。

適当に放り込んでいた――マニュアルを取り出します。

 

こやつの命運も、本当に……そう、本当におしまいです。

コンロで灰塵に帰し、灰はトイレに流してやりましょう。ゴー・トゥ・ゲスイドー!

 

では、コンロを――付ける前に安全確認ッ!

私は最早過去の私ではありません。邪魔などもう二度とさせません。

 

部屋をかくにーん。扉も……ヨシッ!

上、ヨシッ!下、ヨシッ!左右……ヨシッ!

 

…………ヨシッ!じゃあマニュアルを燃や――

 

 

「――なにやってるの、やーくん」

 

 

にゅわぁぁぁあ!?なぁんでぇ!?

 

 

 

 

 

 

 

………………。

…………。

……。

 

 

――ほっとしたの。

 

鬱々とした朝の目覚め。悪夢のような現実の始まりで。

やなぎくんが――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

夢中で食べるあの子を見て、ほっとしたの。

 

きっと、昨日の事は混乱して口走っただけの幻で――今日我に返ってくれて、現実を……受け止めてくれたんだって、思ったの。

 

 

『じゃあ、僕はくるみちゃんを起こしに行ってくるね』

 

 

そんな事ある訳ないのに。

 

 

『……?いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そう言って、手を繋いでるように部屋を出ていくあの子に私は何も言えなかった。

私の都合の良い、そんな甘い夢は跡形も無く砕け散った。

 

 

 

――そろりと、私たちを起こさないように、優しげに扉が閉まる。

 

ととと、と廊下を歩いていく音を聞いて――私たちは寝てる振りを止めて起き上がった。

 

 

「やっぱりか……」

 

 

そう呟くくるみさんの声は、諦めと――ほんのちょっとの悔しさが滲んでいるようにも聞こえた。

 

やなぎくん……とゆきちゃんのいない間を縫って、私たちはこれからを話し合った。

 

あの子は――壊れてしまっている。

 

ゆきちゃんがいると思い込んで、あの雨の日以前までの生活を続けてようとしている。

それを――()()()()()、を。

私たちは専門家ではないし、職員室に少ないながら置かれていた医学書にも精神の治療法なんてある訳がなかった。

 

 

なら――あの子に付き合うのか。

それとも――真実を告げるのか。

 

 

その二択が会話で浮かんだ時。

きっと私たちが思い浮かんだのは――やなぎくんの笑顔だったろう。

 

幸せそうに微笑む、あの子の。

 

それが脳内に浮かんでしまうと……後者を選ぶ事は、私たちにはどうしても出来なかった。

 

とはいえ、じゃああの子の甘い夢に寄り添い続けるのか、と聞かれれば否だ。

だから私たちは、あえてあの子を一人にした。

 

一人の時にゆきちゃんに会えるのか。どうなのか。

 

なんでもいいから。今のやなぎくんのことを知りたかった。

 

 

「行くか」

「ああ」

「…………ふぁい」

「――ええ、行きましょう」

 

 

私たちは頷きあって、廊下へと出る。

月の明かりに照らされたそこから、やなぎくんが部室へと入っていたのが見えた。

 

 

「……なんとか、してやりたいよな」

「当たり前だ。その為に、少しでも……くそっ……」

「しぇ……そう。たしゅけ、なきゃ……むにゃ……」

「……やなぎくん」

 

そうして私たちはひそひそと部室の前へと歩き出す。

目を反らしてはいけない。

 

これはきっと、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「うにゅ……ぬ、むぅ……」

 

…………………………。

 

「……むにゃ、むにゃ」

 

………………えっと。

 

 

「あの、ゆうりさん?流石に辛いなら明日教えるから寝てても……」

「――だめでふ……むにゃ、わたしゅはなぎくんの……だから、ぜんぶ知っておかないとだめ……だめ、だ……むぐっ……」

「あー、取り敢えず枕持ってくる。いつでも悠里が気絶出来るように」

「りーさん、寝付き異様に良いから辛いよなそりゃ」

 

 

……なんとも締まらない私たちは苦笑しあっていたけど――それでも。

ある事については、私たちの気持ちは一致していた。

 

職員室の……()()()()()()()()()()()()()()()()()

たとえあの子が真実に向き合えたとしても――きっととても酷な事だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

な、なじぇゆきちゃんがここに!?自力で脱出を!?

 

 

「やーくん、なにしてるのって。聞いてるの」

 

 

えっと、その……あっと、そもそもどうやって部屋の中に……?

 

 

「やーくんの事で私に出来ない事はないの」

 

 

謎の説得力すげぇ……。

 

 

「……手に持ってるソレ、なあに?」

 

 

ん?非常事態用マニュ――あっ、いやなんでもない!なんでもないです!ただのゴミなんで!

 

 

「……じゃあ、私が捨ててあげるから貸して?」

 

 

いやぁ、流石にそんな事させられないっすよ、へへへ……。

さっ、ゆきの姉御。寝室に戻って、寝てしまってくだせ――

 

 

「――さけぶよ」

 

 

へっ?

 

 

「見せてくれないなら、さけぶ」

 

 

いっ、いやそれはぁ……。

 

 

「………………」

 

 

………………。

 

 

「――すぅ」

 

 

あー!わかった!わかったから!

だからめぐねぇたちを呼び寄せるのは止めて!ほんとにRTAおわっちゃーう!

 

 

「わかればいいの。…………」

 

 

あわわわっ……!(精一杯の可愛げ)

どっ、どうしてこんな事に……ちゃっ、ちゃんと部屋チェックしたのに……!

 

いっ、いやおちけつ!おちけつ!

ここまで来て退くのはチルドレンの恥……!長時間RTAでの不慮の事故は必定……大事なのはリカバー力……!!

 

こうなったら……!

 

 

「ねぇ、やーくん。これって――」

 

 

なんやかんやして、なんやかんやするしかない……!(ノープラン)

 

 

 

 

 

 





(本人にとっては)必死の(無駄な)抵抗が今、始まる……!


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八日目・夜半 Bitter Reality

(とくにかくことがない)ので初投稿です。


ピンチをチャンスに、チャンスを短縮に変えるRTA、はーじまーるよー!!

 

 

皆さん、不測の事態ってぇ……ありますよね?

 

例えば…そう。

 

電車が遅延で行き先に間に合わなくなってしまう……だとか。

行こうと思っていた店が突然閉店してがっかり……だとか。

そのまま行けば、最悪の最悪。一日、気分ダウン。もうマヂムリ……リスカシヨ……ってなっちゃうでしょう。

 

ですが、そこでこそ視点を変えるのです。

 

――電車が遅延なら、路線を変えればいつもより早く行けるかもしれない。

――店なら他にもあるじゃない……違う店を探せば、面白い発見があるかもしれない。

 

即ち、ピンチをピンチとして受け止め、諦めるのではなく。

ピンチを新たなチャンスと見るのです。

 

予定(チャート)通りに行かない?……予定(チャート)とはそういうもの。

 

我らが父祖は、こう……おっしゃられました。

『RTAとは最速のみに在らず――走り抜け、それを形にし、世に放ったものこそがRTA』だと。

 

 

つまり――ガバはガバじゃない!まだイケるッ!ってことなんだよっ!(史学家特有の歪曲展開)

 

 

はい!言い訳終わりッ!(正直)

今は、目の前の事態に集中しましょう……!(現実直視)

 

 

 

 

「………………」

 

 

ああ……熟読されてる……完璧に網羅されてしまっているぅ……!

どうしてこうなった!ちゃんと見たのに!現場猫風に茶化したけど、ちゃんと見たのは確かなのにぃ!

 

ふぅ……ふぅ……!(瀕死)

 

……ここで、常時赤点獲得大天使であるゆきちゃんに、こんな小難しいもの理解出来るはずがない!……と期待してはいけません。

 

今読まれている緊急避難用マニュアルは、悪魔の書。

開いた者に正気度を犠牲に、地下への道を教えます――強制的に。その為、これを漢字が読めない小学生が読んでも理解できます。

必要なのは知力(INT)ではなく、正気度(MP)。……魔術書かなにか?

 

 

「…………」

 

 

ひぃ……ひぃ……ふぅ……!(全集中・苦悩を逃がす呼吸)

 

さて――問題はここから。

マニュアルを読んだ主要キャラは、正気度減少後に――二種類の行動に別れます。

 

 

即ち、正気度・高(ポジティブ)ネガティブ(正気度・低)か。

 

 

丹念に正気度管理していれば、がくんと下がってもまだポジティブ――問題ありますが、問題ありません(矛盾)。

運が良ければ何も無く、不眠になったり嘔吐したり一人になる事に怯えたり……と軽傷なので――まだリカバーが可能です。

 

しかし、ネガティブは……もう無理です。

錯乱・発狂・自殺はまだマシ。

好感度が高ければ絶望して無理心中、これを隠そうとしたショタが黒幕なんじゃないかと勘違いされての拷問・監禁は勿論――皆大好き『ゆきちゃん化』の可能性も浮上します。

 

それほどまでに、マニュアルによる正気度減少幅はとんでもないんです。

 

まあ、数週間はイケる豊富な物資と、一度だけ感染を防げる『抗ウィルス剤』が手に入るようになるのもそうですし――書いてある内容が、マジで地獄な現実そのものですから残当なんですけど。(精神)こわれる~。

 

 

「ねぇ、やーくん。これって――」

 

 

ここに至っては祈るほかありません。ゆきちゃんへの愛を示す時が来ましたね……!(ちがう)

 

信じろ……日頃、ゆきちゃんを真綿で包むように慈しんできた私とゆきちゃんのほっぺを信じろぉ……!!

ポジティブならセーフ、ネガティブでもぉ…………『ゆきちゃん化』以外ならまだセーフって事にしたいぃ……!(自分に甘い走者の屑)

 

お願い、ゆきちゃん!耐えて!

 

 

「――やーくん、これってとっても大切なものじゃんっ!なんで捨てようとしたの?」

 

 

おっ……?

 

 

「た、しかに。辛いものだけど……目を背けたいけど、必要な物があるのに……」

 

 

これはぁ……ポジティブやな?

それも表向き変化の無い、軽いものも軽いバカ軽の!

 

 

「むぅ、やーくん。聞いてるの?」

 

 

やった!やりました!

日々、ほっぺをむにゅった甲斐がありましたね!

むにゅりも積もればリカバーになる――至言です。

メモ帳に記して、後世に残しましょう。千年後の史学者もびっくりするぞっ!

 

いやぁ……よかった。これならまだ何とかなります。

誰も死んでないので『ゆきちゃん化』はないだろうとは思ってはいましたが、不安なものは不安ですからね。

……誰かが死んでるとマニュアルで大抵、ゴートゥお花畑しますし。

 

――『ゆきちゃん化』は誰が成ってもロスです。

 

その場合は、諦めて再走――こればっかりはしょうがないです。不確定要素だらけになっちゃうんで。……通常プレイだと結構スリリングで楽しいんですが。

 

…………。

……『ゆきちゃん化』したゆきちゃんも、かわいいんですけどねぇ……(RTAに私情を持ち出す走者の屑)。

 

―――――――

 

これは絶望と苦難と、そして希望の本編……(唐突な語り)

 

 

唯一心から信じられる対象だっためぐねぇを失った事を信じられなくて――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

それでも頭の冷静な部分はしっかりしているのか――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 

そして、妄想を尊い思い出として昇華し――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!!

 

 

―――――――

 

 

ああ~、最高や。たまらねぇぜ……!(ゆきちゃんガチ勢)

このRTA終わったら、また『ゆきちゃん化』したゆきちゃんと遊ぼう、そうしよう。ずっといっしょだよっ!(お花畑疾走)

 

 

「……もう!なんで黙ってるの!やーくん、誤魔化しは……めっ!なんだからねっ!」

 

 

おっ、とっと。

黙ってたら良い物も悪くなってしまいます。難関は越えました。さくっと行きましょう。

 

言い訳という名の説得を行ないます。

ゆきちゃんを言いくるめるのは簡単です。ゆきちゃんマイスターの私にかかれば余裕のよっちゃんイカです。

華麗にケリをつけてやります――いざっ!

 

 

――いや、だってこれ皆に知られちゃいけない事だし(RTA的に)

 

「でも、学校の見取り図とか地下のこととか。みんなに教えたほうが生活が楽になるとおもうよ?」

 

――……いや、でもウィルスの事はちょっと皆にはキツいじゃん?(正気度的に)

 

「……でも、みんなならきっと受け止められるんじゃないかな。やーくんがいたら、大丈夫だよ」

 

――おっ……?おっ、おぅ!?(語彙紛失)

 

「ねぇ、やーくん。不安なのはしょうがないよ。でもね?抱え込んじゃったらツラいのはやーくんなんだよ?……わたしは、やーくんがツラいのはやだな……」

 

――なんか正論で諭された!?さらに情で訴えられて倍プッシュやんけ!

ゆきちゃんはこんな頭の良い事しないっ!()

 

 

 

おっ、おっ、どうすんだこれ。説得できねぇ。

正論だもん。正気度ブッ飛ぶけど知っといた方がいい情報の方が多いもん。ウィルスの事とかこの学校の事とか。

 

 

「……やーくん」

 

 

でもさ……でもさ。

後顧の憂いっていうのがありまして……。

最終的には、私が感染状態のままでなくちゃいけないので……。

だから『抗ウィルス剤』が邪魔でして……。

好感度高いとみんな聖人君主様々で脱出前でも取ってきて自分が感染してても私に使ってくるので……(これを大きなお世話と言います。最低ですね)。

 

ここは一つ。

好感度でゴリ押し――情で訴えます!(土下座外交)

ゆきちゃんならいける……いける……!

 

 

――それでも……みんなには言いたくないかなぁって。

 

「…………むぅ」

 

 

大丈夫、私はゆきちゃんを信じています。

好感度が高い状態だと――理屈より情を選ぶゆきちゃんをな!(大人の汚さ)

へへへっ、そこが可愛いぜっ!(きたない)

 

 

「――わかった。ナイショにする。でも、捨てるのは駄目。私がぼっしゅーします」

 

 

――っしゃ、おらぁ!(体育会系)

 

なんとかなりました。

処分できないのは…………まあ、折衷案としてまだマシ。「大人のめぐねぇには見せとこ?」と言われないだけマシです。

 

……まあ、今回のゆきちゃんバレは、今の今まで処理できなかった私への戒めにしましょうか。

他走者の皆さんにタイム短縮の余地を与えるのもチルドレンの定めです(これを、論点のすり替えと言います)。

 

 

――マニュアル、ちゃんと隠してね?

 

「だいじょーぶっ。誰もわからない場所知ってるからっ!」

 

 

……例の仕掛け棚だな(本編でのマニュアルの隠し場所)。

アレならめぐねぇとゆきちゃん以外知らないし、めぐねぇもマニュアルのことがなければ開けないので大丈夫ですね。

オーキードーキー。

 

 

ふぅ……(余韻)。

とりあえず、最悪の事態は避けられました。

大量の物資もそうですし――『抗ウィルス剤』を周知される訳には行きませんからね。

 

 

「ね、ね。やーくん」

 

 

おや。

どうしたの、ゆきちゃん。

 

 

「この――『抗ウィルス剤』ってなあに?」

 

 

あー。どうやら、興味をそそられてしまったようですね。

…………ただのビタミン剤って嘘つく――のは止めますか。下手に嘘ついて、やっぱやーめた!って言われるのは勘弁です。

 

――『抗ウィルス剤』はワクチン的なサムシング。

名前の通り、ウィルスを抑制するお薬……まあ、ヤクって言っても差し支えないヤバイクスリです。

医薬部外品……ぷくくっ……!(上手い事言ったつもり)。

 

 

「ふぅん。治せるんだね。すごいや」

 

 

うーん……感染直後ではまあその通りなんですが。

 

ゲーム内では、『感染者を治療できる。発症者の場合、日数によって確率が変動する』って感じで。

感染直後は100%治療出来ますが、感染から日にちが経っていくと成功確率が下がっていって――七日を過ぎると使用しても治療出来なくなるっていう仕様です。

 

まあ、基本。噛まれて発症する間ぐらいにしか使う暇ないのでこのデメリットは無いに等しいですね。

『かれら』になったらデストローイ。これ鉄則。本編でもそう記されている。

 

 

「あっ……エレベーターもあるんだね……知らなかったよ」

 

 

……エレベーター?

あっ、三階から地下まで行ける、マニュアルで示されている職員避難用のやつの事か。一般生徒にはわからないように壁の中に偽装されています。

まあ、知っていたとしても――アウトブレイク直後に地下からロックが掛かるのでこちら側からは使えません。

RPGとかでよくあるステージ間のショートカットのようなものです。(基本使わ)ないです。存在を忘れる空気そのものです。

 

 

「…………やーくん。やっぱりみんなに――」

 

 

――いやです……ずぇったぁいにぃやだぁ……!!(終盤、土壇場で持ってこられて皆に抑えつけられて無理くり使われたのを思い出している)

 

 

「――そっか」

 

 

…………くそぅ。

大人しく寝てればこんな事には……(オリチャーいくない、はっきりわかんだね)。

ふぅ……もう、ふて寝しましょう。敗残兵はさっさと寝床へゴーホーム。

 

とほほ……もうガバはこりごりなん……。

 

 

「あっ…………ね、ねぇ。やーくん?」

 

 

なんだい、ゆきちゃん。

私もう寝たいんですけど。

 

 

「あのねっ……その、えっとぉ……」

 

 

……おや?

ゆきちゃんの様子が……。

 

 

「ちょっと、職員室まで一緒に行かない?……ほっ、ほらこの本隠さないといけないし、えっと……それにね?――」

 

 

――頬の赤らみ(かわいい)。

 

――もじもじと擦り合わせる太もも(せくしー……)。

 

――マニュアルで顔を隠しながら流し目チラチラ(えろいっ)。

 

そして――まるで往年のラブストーリーによくある、月だけが私たちを見ている夜の学校!(いんもらるっ!)

 

これはぁ……アレじゃな?

 

 

「――渡したいものがあるの。……だめ?」

 

 

――信頼イベントキタァー!

やった、これはありがたい!やっぱ今までのマニュアルの下りガバじゃないわ!これが出たならガバではないです!

 

信頼イベントは、ちょっと前のチョーカーさんにもあった一定条件を達成した際に起こるイベントで――“おくりもの”が入手できる良イベ!

特にゆきちゃんの“おくりもの”はなっかなかに有用です。欲しい欲しいっ!

 

――行かない手はぬぇ!

 

……あん?やること済んだから寝たい?

…………誰ですかそんな事抜かしたチャランポランなアンポンタンは。

 

 

「そっ、そっか!んじゃ、いこ!」

 

 

ははは。嬉しいからってそんなあわて――引っ張る力がつよいっ!(くそ雑魚ショタ)

病人!私まだ病人だから!

 

 

て、そうだ。

職員室まで、まあまあ距離ありますな。ゆきちゃん歩幅に合わせるので。

ですのでここは――み な さ ま の た め に ~――ではなくて。

 

せっかく手にいれたラジオを使って、けーちゃんの救難放送を拾っちゃいましょうか(オリチャー補完)。

私が聞いてさえいれば、後は駅に向かわせるだけで救出条件満たせるガバガバ仕様なので。

……そこまで期待はできませんが。

 

ラジオは、周波数がわかってないと――ランダムで適当に繋がります。繋がった放送はブクマされて、次からは選択できるようになる感じですね。

聞ける放送は六種類……けーちゃんの放送が出る確率は六分の一といったとこでしょうか。

当たりは一つ――大外れも一つ。……なるべく外れ来る前に聞いときたいですね。ラジオ壊れるかもしれないので。

 

では……ちぇけらっ!

 

 

―…ザッ……ザザッ……―

 

 

「……ラジオ?……むぅ、やーくんやーくんやーくん」

 

なんだい、ゆきちゃんや。

 

「デートの時はスマホ見ちゃしつれーです」

 

これはラジオです(屁理屈)

 

「むっ……それは、たしかにそうだけど……むにゅ」

 

……これで丸め込めれるのに、なんでさっきは出来なかったんだろうか……コレガワカラナイ。

 

 

ザッ……『――かれらをおそれてはいけません』……『かれらは未来です。クラウドです』……―

 

 

あら、残念。

クラウドおじさんに繋がっちゃいましたね。

 

 

―……『クラウド、わかりますか』……―

 

 

すまねぇ。英語はさっぱりなんだ(赤点ショタ)。

 

 

―『データをネットワークで薄く薄く遠くまで広げることです』……『人間の心もデータですから薄く薄く遠くまで、広げることができます』……―

 

 

クラウドおじさんは、本編でもよくわかってない謎のおじさんで――こうしてよくわからない妄言を垂れ流しています。

ちょっと宗教っぽい感じですよね。

 

 

―……『かれらにとって、心は一つの肉体に収まるものではないのです』……『かれら全体の中に薄く遠く広がっているのです』……―

 

 

自衛隊駐屯地とかで電波傍受して場所を特定しても、この放送のメモがあるだけ、という実にミステリアスなおじさんです。

ゲーム内で言えば、感染者ルートでは聞いといた方が有用だったりします。

 

今回は特に使わないので、ほんとにただの妄言垂れ流しおじさんです。

 

 

―……『かれらを迎えましょう。クラウドを迎え』…………ザザッ……―

 

 

はい、次~。……距離的に聞けるのはあと二つぐらいですかね。

 

「さっきの……なんだろうね。やーくん」

 

ねー。

邪淫おじさん並みに意味不明な存在だよね。

 

邪淫について……お話しします……(全省略)

 

 

―…………ザザッ……『圭で』……『こえてますか?』……『駅の北口』……『駅長室』……――

 

 

おっ!圭――けーちゃんの放送です!

よかった……ギリギリ聞こえましたね。

 

 

―……『足を怪我して、噛まれてはないと思うけど、うまく動けない』……『結構、痛くて』……『聞いてる人、もしいたら来てください』……『水が少な』……――

 

 

――フラグがたちました。

後は、駅に行けば救出できるようになります。

 

……まあ、たぶん私は連れてって貰えないでしょうけど。……でしょうけど!(苦渋)

 

ですので、くるみ達には――駅前のマックで月見バーガー買ってきて、とか適当言って行ってもらいましょうか。

マックのバーガーは一ヶ月経ってもさほどカビは生えないらしいからイケるイケる。

 

 

――……『あと』……『ショッピングモールの最上階』……『女の子』……ザ、ザザッ……―

 

 

(みーくんの事は知らなくても助けられるから)キャンセルだ。

必要なことだけ聞く……まるでRTAみたいだぁ……。

 

 

「……やーくん?」

 

 

っとと。

けーちゃんの放送に集中しちゃって足を止めちゃいました。

……止まるんじゃねぇぞ……(団長並感)

 

 

「…………ねぇ、私もラジオつかっていい?」

 

 

うん、どうぞ。

…………あれ?わかりやすい救難放送を聞いて、ゆきちゃんが何も言わない?……途切れ途切れだったから?

うーん?

 

 

……ザザザッ……『当社では、新たな世界にふさわしい……未来を担う人材を募集しています!』……―

 

 

げっ。

 

 

―……『あなたも私達の元で、新たな未来を作ってみませんか?』……『いつでもお待ちしています!』……―

 

 

あーっと。この放送は大外れです。不味い。

…………いや、ゆきちゃんに限ってはないか。流石に大丈夫なはず。

 

 

―……『よりよい未来をお届けする――ランダル・コーポレーションよりお知ら』―

 

 

「…………ッ!!」

 

――ガッシャンッ!!

 

 

――ゆきちゃぁぁん!?

ええ!?ゆきちゃんでもやるのぉ!?

あー……ラジオが叩きつけられて大破しました。……これはぁ、修理しないともう使えないですね。

 

 

「……っ、っ……!」

 

 

えー。

ゆきちゃんには似つかわしくない暴力的側面が出た理由を説明します。

 

まずマニュアルには、この騒動の事実が記されています。

 

――()()()()()()()()()()()()

アウトブレイク時の避難方法、待機方法、処理のやり方。何もかも、今の状況が想定されていたのです。

そしてこれを主導したのが――ランダル・コーポレーションである事も。

 

この会社……まあ、製薬企業なんですが。

ウィルスウィルス言ってる中で『製薬』という名で大体わかる通り――このゲームにおける黒幕です。

 

コイツらのせいで――巡ヶ丘市に『かれら』が発生するようになりました。

 

ですので。

マニュアルを読むとそれが理解できちゃう為――主要キャラのランダル・コーポレーションに対する敵意が跳ね上がります。

もうそれは殺意と言っても過言じゃないほど。

 

 

……でも、ゆきちゃんが読んでもここまでになる事は無かったんですが……。

正気度が高い弊害?私しか居ないから?

うーん?うーん?

 

 

「――あっ」

 

 

おっ、我に返ったなゆきちゃん。

 

 

「ごっ、ごめんなさい!ラジオ壊しちゃって……あっと、えっとね」

 

 

かまへんかまへん。

ラジオはもう用済みだったからねっ!

……正直、一緒にくっついてた懐中電灯とかクラシック兄貴姉貴とかがかーなぁり惜しいですが、ゆきちゃんは悪くありませぇん!(意地でも非を認めないモンペの鑑)

 

ほらほら、職員室着いたよ。ゆきちゃん気にしない気にしない。

 

 

「うー……ほんとにごめんね?」

 

 

ええんやで(やさしいせかい)。

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふ、みてみてやーくん。ここを押すとね……じゃぁーん!隠しスペースになってるのだっ!」

 

知ってる。

 

「あっ、このちっちゃな金庫はめぐねぇのだよ!大事なものはここに閉まってるんだって」

 

知ってる。

 

「――てぇ、えへへ。やーくんも一緒に見てたから知ってるか……」

 

知って――えっ、そうなん?

じゃあ、さっきの下りロスやんけ!(短気)

 

 

……さて。

ロマンチックな感じはさっきのラジオでちょっと飛んじゃったけど、ちゃんとイベントやるよね………

 

 

「………………」

 

 

…………よね?(不安)

 

 

「ねぇ……やーくん――こっちにきて?」

 

 

ふぅー!(テンションマックス)

 

あー……良いシチュですよーこれこれ。

職員室は月明かり。乱雑になった室内に、初々しい二人の男女。お互いの心音すら聞こえるような静寂……。

――たまらんっ!

 

 

「――これ、あげる」

 

 

そうして渡されるのが――――“ゆきのぼうし”

するりと脱いで、しゃらんと揺れる髪がセクシー、エロい……!潤んだ瞳とほのかに赤い頬がアクセントですねぇ!七兆点、優勝。

 

これはゆきちゃんの信頼イベント『離れたくない、貴方へ』を達成すると手に入るアイテム!

装備すると《主要キャラとの好感度が下がりづらく、上がりやすくなる》――好感度が重要なこのRTAには神アイテム!!

 

さっそくいそいそと装備しましょう。

 

 

「やーくん、似合ってる。……うれしいな」

 

 

まあ、でもそこまで希少ってほどでもありません(明け透け)。

ゆきちゃん幼馴染みルートだと大抵入手出来ます。それ以外にも入手自体はできるイベントはありますし。

難点は――ショタぐらいじゃないと、かぶっても似合わないってだけです。……普通の野郎が装備すると、ハンターハンターのゲーム編に出てくるドッジボールの人が使ってくる念獣みたいになりますねぇ!(うろ覚え)

 

 

「――やーくんは、()()()()()()()()()()?」

 

 

当たり前だよなぁ!?(ゆきちゃんガチ勢)

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()のがショタの好感度を示してますねぇ!

 

 

「……そっか。そっか!」

 

 

思いが通じあって嬉しそうなゆきちゃんをみると私も嬉しい……(幸せスパイラル)

 

 

「じゃあ――これからもずっといっしょだよ。やーくん」

 

 

わぁい!

ゆきちゃんの信頼イベント達成!

RTA成功に大きく一歩近づきましたね……。

 

ふふふのふ。

最初はマニュアルでとんでもないガバをやらかしてしまったと思いましたが――ラジオでのけーちゃん、そしてこの“おくりもの”。

かなりリカバーできましたね!これなら、他の部分の時間も短くなりますし……タイム短縮短縮ぅ!

 

………………。

――そうだ。アレも済ましてしまいましょうか。

 

ちょっと前に話題に出したと思いますが『校長室のワインを飲んだぐびねぇ』っていうイベントがありまして。

めぐねぇは、酒をかっくらうとストレスが減少して好感度も上がりますし、絡み酒で他の連中も巻き込んで行けます。

 

ついでです。

校長室にお邪魔して、ちょっくらワインを掻っ払っていきますか!

 

 

「……やーくん?」

 

 

……そういえば。

やけに――校長室への扉に机多くない?

職員室の机はランダム配置だけど、こんな塞ぐみたいな……まあ、ランダムだし。そういう配置もあるか。

 

 

「やーくん。戻ろっか」

 

 

ガバもリカバーもやったし――ほんの補完。

十数秒でめぐねぇの機嫌(+α)取れるなら儲けものよっ!

夜出歩いたのバレても「大好きなめぐねぇのためだもん……」って言えばむしろ好感度上がるし。

 

 

「めぐねぇたちも心配しちゃうよ。はやくいこ?」

 

 

ああ、ゆきちゃんちょっと待って。

そのめぐねぇの為に、校長室行ってくるから。

ワインをスッ……ってすり盗ってすぐ戻ります。

 

 

「駄目だよ。戻ろっ?もうめぐねぇに怒られたくないでしょ?」

 

 

むしろ喜ばれるんだよなぁ……。

……まあ、そんな事ゆきちゃんにはわからないだろうし。不安にさせとくのもアレだし――さっさと机を退かしちゃいましょう。

 

 

「やーくん。だめ、戻ろうよ。もう寝よう?くるみちゃんもりーさんも、たかえちゃんも待ってるよ?」

 

 

……どうやらゆきちゃんはめぐねぇに怒られるのが怖い様子。まあ、この中で唯一の大人ですしさもありなん。

でも、私は行きますぜ!非行は大人の始まりってはっきりわかんだね。

 

 

「だめ、だめだよ……やーくん」

 

 

――退かし終えました。

校長室のドアを開けましょう。校長室のワインは、部屋の隅の冷蔵庫の中に――

 

 

「ダメッ!――そのドアを……」

「――はいっ。みつけましたよ、やなぎくん」

 

 

げぇ!?めぐねぇ!?

ちっ……タイムアップですか。

まあ、かなりのリカバーもできました。“ゆきのぼうし”もあるし、ヨシッ!としましょうしましょう。

ガバは見えなぁい、しらなぁい。

 

ていうか。

めぐねぇにかぶってちゃったけど、ゆきちゃんなんか言ってませんでした?

 

 

 

 

 

 

………………。

…………。

……。

 

 

「――はいっ。みつけましたよ、やなぎくん」

 

 

笑え。笑え。笑え。

今の私は、ただ寝ている隙に夜遊びをしているこの子を注意しにきただけ。私は出歩いてるのを呆れながら注意しにきた先生だ。

それだけを意識しろ――ドアノブを握る手を抑えているのは、()()

 

――()()()()()()()()()()()()()()。それを絶対に悟らせる訳にはいかない。

 

さりげなく校長室を机で塞いでいれば、特に用もないから開けようともしないはず、と皆に結論付けた。

甘かった。油断した。――あの子が聡いことぐらい知っているのに。

 

 

「……めぐねぇ?」

 

 

突然、現れた私をぼんやりとした瞳で見上げるやなぎくんの頭には――ゆきちゃんの帽子がある。

きっと隠れた時に落ちた物が、職員室の机の陰とかにあったのだろう。

それをゆきちゃんから受け取った――と思う。やなぎくんが嬉しそうにゆきちゃんにお礼を言ってる――ように見えたから。

 

 

「もう、探しましたよ?おトイレかな?ってちょっと待ってても来ないんだから……くるみさんもちゃんと起こしてって言ってたでしょう」

「あはは、ごめんなさい。ちょっと……その、めぐねぇに喜んでもらいたくて」

「――っ。それでもっ、です」

 

 

この夜。この子の夢の中。

それを――私達は眺めていた。

 

 

――月明かりだけが差す部屋の中で。

 

――やなぎくんが笑って嬉しそうに話していた。

 

――誰にも見えない世界の中で、ゆきちゃんと一緒に。

 

 

想像できた事だ。覚悟もしていた。

昼間のあの子の様子を思えば、わかりきった事だった。

けれど――面と向かって見つめれば、胸の奥に重いものが込み上げる。息も出来ないほど苦しかった。

 

それは他のみんなも同じことだったろう。

 

……約一名はもう耐え切れずに夢の中だっただけども。

いっそ、ゆうりさんのように夢の中に行けば――私もゆきちゃんに会えるのかな、なんて。バカな考えが浮かんだ自分がおぞましい。

 

 

「――ああ、ごめんね。ゆきちゃん、見つかっちゃった」

「…………ゆきちゃんも。やなぎくんが出歩いてるならあぶないって言わないとだめでしょう?」

 

 

――きっと、あの場に飛び出すのが正解だったのかもしれない。

 

飛び出して、どこも見ていないあの子の頭をひっぱたいて、目を覚ましなさいって叫ぶ。

そうすれば、やなぎくんは目を覚ます。きっと。あの子はやさしくて強い子だから。

 

でも、出来なかった。

あんな幸せそうな笑顔を消すなんて……残酷なこと。

 

目を覚ましたところで、どうなのだ――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「あっ。それより見てよめぐねぇ!これこれ、ゆきちゃんからもらったんだ!……似合う?」

「ええ、とっても。頭の怪我も保護できるし、丁度良いかも。……ゆきちゃんにお礼は言った?」

「――もっちろん」

 

 

でも、今はそんな事はどうでもいい。

 

何故、あの子が職員用の緊急避難マニュアルを私達に隠れて読んでいたの?とか。

何故、突然豹変してラジオを地面に叩きつけたの?とか。

 

そんな疑問は今は瑣末な事でしかない。

――ここからすぐに離れよう。()()()()()()()()()()()()

 

 

「さっ。もう寝ますよ?明日もあるんですから」

「あっ……その、もうちょっと待ってもらっていい?」

「……どうして?」

「校長室の中にワインがあってね……ほら。めぐねぇ、疲れてるでしょ?お酒を飲めば元気になるかなって」

「それは……――」

 

 

 

 

 

『……ァ、アァ』

 

 

 

 

 

 

ああ……ああ……。

 

 

――きっと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……めぐねぇ?」

 

 

扉の奥――()()()()()()()()()()()

やなぎくんにだけは聞こえないように、ぎゅう……と抱き締めた。

腕の中、胸の中に仕舞いこむ。苦い現実が――これ以上、この子を壊さないように。

 

 

「……そんな事。気にしなくていいんですよ」

「でも、めぐねぇ飲ん兵衛でしょ?」

「誰情報ですかそれは」

「かみやん」

「昭子ちゃん……。んんっ!確かにそうですけどっ――」

 

 

――とん、とん、とん。

 

扉を叩くか弱い音。ふとしてもわからないような弱弱しい音――何かを求めているような、そんな音。

その“何か”は――決して私の空想通りのはずはない。私には、やなぎくんの世界は見えない。苦い現実しか映らない。

 

ふと、視界の端で小さな光がちらついた。

気付かれないように視線を向けると、扉の陰でたかえさんと、眠っているゆうりさんを背負うくるみさんが見えた。

手に、月明かりを跳ね付けるバールとスコップを握り締めて。目に、決意があって。

 

――だめだ。

すぐに首を振る。たかえさん達もこの子も、あの子も。

もう血はたくさんだ。今日は……もういいでしょう……?

 

 

「――私は、貴方が笑っていてさえくれれば、もう幸せですよ」

 

 

 

甘い夢を汚す事は絶対にさせない。

 

 

 

「……そう?」

「ええ。さあさ、寝ますよ。ゆきちゃんも」

「うん、そだね。いこっかゆきちゃん」

 

 

 

気付かれないようにくるみさん達に先に行くように促す。

……夜の事をやなぎくんは知られたくないだろうから。

 

 

さあ、今日は一緒に寝よう。

たとえゆきちゃんがなんと言おうとも今日はこの子を抱きしめて、一緒の布団で眠ろう。

 

せめて、夢の中だけは――やなぎくんが見える世界が、甘い夢が見れることだけを信じて。

 

 

 

 

 

 

嗚呼、この子の笑顔はどうしてこんなにも痛々しくて――愛おしいんだろう。

苦い現実すら、閉じ込めているだけの私には、もうこれにすがる以外に――立つ勇気すらも湧かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

さて。寝室に戻ってきた訳ですが。

 

 

「すぴー……すぴー……」

 

「……っ……っ」

「ふぅ……ふーっ……」

 

 

約二名が汗かきながら息絶えてる件について。

これはぁ……アレだな?見たな?急いで戻ってきた口だなこれ。

 

 

「なっ……なっ……!!」

 

 

あーあー。ゆきちゃん顔真っ赤だよ。

 

 

「……えっと、そのアレです」

 

 

……めぐねぇが言い訳を考えてる……。

 

 

「――ごめんなさい二人とも。ちょっと無理ありましたね。ゆうりさんのせいで」

 

「くっ……!そうだよ、これもそれも全部りーさんが重いから悪い!主に一部が!」

「そーだ!そーだ!たゆんたゆんしてるのが悪い!……くっ!」

 

 

開き直りやがったぞこいつら!?

それも弁明できない爆睡してる奴押し付けたぞ、なんて奴らだぁ!?

 

 

「もーっ!乙女の秘めごとを隠し見るなんて!ぷんすこっ!!」

 

 

 

「すぴー……すぴー……」

 

 

にしても気持ち良さそうに寝てるな、りーさん。

……りーさんのこの寝顔って、安心できる何かが無いと見れないんだけど……アレか。学園生活部ができたからか。

 

正気度安定ひゃっほい!

 

 

 

 

 








――――
※解説


『ゆきのぼうし』
入手条件:ゆきの信頼イベントのクリア後・“Sweet Dream”イベント進行時・死亡時。

丈槍由紀からの“おくりもの”。
名状しがたい謎の耳の形をしている変な帽子。ゆきのトレードマーク。……薄く血がこびりついている。

装備すると、接触するキャラとの好感度が下がりづらく、上がりやすくなる。

これを贈ったのは、あなたと――離れたくないため。
強く想っているし、強く想っていて欲しい。ならば渡すのは自らを示す物……重さを物語る。
その“重さ”を――束縛を。要らないかどうかはあなたが考えるべきだろう。

これは、そういう“おくりもの”。……そのはずだ。






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九日目 “THE SHINING” of りーさん -PART1-


(題名がキャッチー過ぎると言われたので)初投稿です。
長いかも、ごめぬね。


 

運が良ければ今日は大幅短縮なRTA、はーじまーるよー!

 

九日目に入りました。

二桁が見えてきましたね。もうそろそろ終盤です。

 

昨日は少し予定外な部分が入ってしまいました。

ですが――

(結果的には)マニュアルの隠蔽。

(犠牲になったラジオ君に捧ぐ)けーちゃんの救出フラグ。

(愛しいマイハニーの)『ゆきのぼうし』。

と――実にうまあじな一日でした。

 

後顧の憂いも人手も好感度調整も。終盤に向けてどれもが重要です。運が良かったですね。

それにけーちゃん救出フラグが出たので――今日にも“おでかけ”イベントが発生するはず。

そうすれば、後衛組ならではのタイム短縮が可能なのです。期待しましょうか。

 

 

「――はーい。みんな、朝ごはんですよー」

 

「わーい!おなかすいたーっ!」

「うーい。……なんかりーさんがすっかり食事係になっちゃったな」

「まあ、うまいし。私は文句はないよ。料理ができるって訳でもないしなぁ」

「……いいんですか、ゆうりさん。流石にお手伝いを……」

「いいんですいいんです、気にしないでください。……さっ、なぎくん。どうぞ」

 

 

謝謝茄子!(エセ中華)

 

ほう…………オムライスですか。

卵と米、ケチャップさえあれば作れる簡素さ、尚且つ満腹度も正気度も回復幅が大きいありがた料理の一つ……大したものですね(メガネクイッ)。

 

部室での、いつものお食事シーン。

 

今日は全員いますね。顔も特に暗くなく、“あめのひ”前の和やかな感じが戻ってきました。正気度が落ち着いてきた良い証拠です。

 

特にりーさんが笑顔なのが実によき。

 

りーさんは日が経つほどに疲れを隠さないようになるので、昨日の爆睡然り今日の笑顔然り――しっかり、学園生活部が心の支えになっているようで。

日頃の私の行いのおかげでしょうか?えがったえがった。

 

 

「今日は良く出来たと思うの。召し上がれ?」

 

 

では、頂きましょう。

 

時に、皆さん。

オムライスにケチャップで絵を書くっていうのは最早あらゆる所での定番ですよね?

 

このゲーム、オムライスを作って他人に振る舞うと……その人への好感度がわかります。

 

――好感度が普通なら無難なもの。

――好感度が高ければハートマーク。

――好感度が低ければ……ケチャップはセルフサービスです。…………地味に効くんだよなぁ!?(思い出し泣き)

 

机に並べられたりーさん謹製オムライス。めぐねぇ達のは無難ですね。真ん中にブチョーっと出されてるだけです。

 

問題は私のオムライスですが……さてはてショタへの好感度は――

 

 

「すげぇ……一面ハートマークなんだが」

「ハートマークの中にもハートマークあるぞ。……贔屓も極まると笑えるなこれ」

「あはは……」

 

 

こっ、これは好感度が極高状態にのみ起こる乱れ撃ちハートマ――

 

 

「――ふんっ!!」

 

 

ゆきちゃぁぁん!?

スプーンの腹でハートをぐりぐり潰してる…………。

いや、わかるけど。わかるけども!好感度的に!

 

でもさ。

 

 

「あっ……」

 

 

ほら!ゆきちゃん見て!

りーさんの悲しそうな顔を見て心痛まないのゆきちゃん!私そんな子に育てた覚えありませんよ!?

三人もちょっと責めるような目で見てるよ?…………――私を!

えっ、ゆきちゃんがやったんですけど!なに、監督責任かなにかです!?

 

 

「浮気はだめなんだよ、やーくん」

 

 

いっ、いやでもねゆきちゃん――

 

 

「浮気はだめなんだよ、やーくん」

 

 

せっかくのご厚意というのを無駄にするのはね――

 

 

「浮気はだめなんだよ、やーくん」

 

 

……ていうか、私達“恋仲”状態でもないし――

 

 

「う・わ・き・は!だめ、なんだよ……やーくん……?」

 

 

ひぃ!?

ゆきちゃんおかしい……おかしくない……?(困惑)

 

ここまで独占欲高いのは……いやでも、信頼イベントクリアしたし、仲の良い女の子はすぐに嫉妬するってラノベに書いてあったし……(真剣ゼミ理論)。

 

さもありなんか……?

 

 

「ああ、()()()()()。それならしょうがないわ。ごめんね、ゆきちゃん」

「うんっ!ちゃんと理解してくれるならわたしももう怒らなっ――」

「次はゆきちゃんにバレないようにやるわね」

「もーっ!そうじゃないの!やーくんはわたしのやーくんなの!ぷんすか!」

 

 

あっ……周りの空気が和みました。よかった、いつものじゃれあいだと分かってくれたみたいです。

まあ、真顔で愛情を潰し始めたら流石にね…………。

 

にしても、りーさんの好感度が極高なのは驚きです。

そりゃあ地道に稼いで来たので、順当に上がっててもおかしくはありませんが…………りーさんの好感度が高すぎると、下手すればとんでもない地雷が炸裂するので……どうしましょうか。

 

乳でもビンタすれば好感度下がるかな。

 

 

「なぎくん?どうしたの?いつもと作り方違うけど、これも美味しいわよ」

 

「……いつもの作り方?」

「ええ、私た………じゃない、私の家だとごはんにお肉とかお野菜を細かくして混ぜるんです。今回は食料に余裕がなくて……」

「へぇー、手間をかけてるんですね。私が作るとどうしても面倒で……お米、卵、ケチャップだけのシンプルなのなっちゃって」

「めぐねぇ……それはシンプルじゃなくて必要最低限って言うんじゃないかな……」

 

 

まあ、やらないけど。やったらむしろ減りすぎて別の地雷が炸裂しそうだし。

地雷女(直喩)りーさん、侮りがたし……!

 

まあ、好感度調整は追々。

今は血の池地獄になったオムライスを平らげて、次の場面へと進めましょうか。

 

 

「あっ!やーくん!あーんっ!」

 

 

……まだ食べさせてくれるのか……。

まあ、ええんですけども。自分のもちゃんと食べなねゆきちゃん……。

 

 

「それで……皆さん。大事なお話があるんですが」

 

 

はふはふはふはふ(返事をしないお行儀わる子)

 

 

「……話って?」

「シビアですが……ごはんの話です」

「あー……確かに。もう場所が……」

「ええ。もう取れるところは取っちゃってます。購買、食堂……これ以上違う場所探しても……」

「あってもお菓子ぐらいですもんね。……なぎくんにはおいしいごはんを食べてほしいですし」

「だな」「そうだな」「勿論です」

 

 

まだ地下がありますねぇ!ありますあります……(超絶モスキート小声)

 

 

「ですから余裕がある内に――“外”に行こうと考えているのですが、どうでしょうか?」

 

 

ヨシッ。

予測通り、“おでかけ”のフラグが経ちましたね。

 

前に説明した通り、巡ヶ丘市内の各スポットに行ける探索パートです。お食事問題でお外に出るなら、私が何もしなくても100億%ショッピングモールに行きます。

うちはゴリラを二人飼っていますので、これでみーくん救出は確定です。

や(↑)ったぜ。

 

 

「あたしは良いと思うぜ。さんせー」

「四の五の言ってられないもんな。私も賛成」

「…………。そうですね。良い機会だと思います」

「おでかけだー!」

 

 

“おでかけ”では、編成するパーティの面子が重要です。

まあ基本、特に触らなければ――全員出撃の脳筋スタイルになります。皆も最初からその方向で話が進めますしね。

それで問題はありません。『かれら』も次のあめのひまでバリケードを越える事は滅多にありません。

 

話をボタン連打でスルーしてちゃっちゃと進めちゃいましょうか。

 

 

「面子はどうする?あたしとめぐねぇは確定として」

「危ないけど全員でいいんじゃないか?雨でも降らなきゃ、奴らも三階には上がってこないだろうしさ」

 

「……()()。万が一ってのもあるわ。二人ぐらいは、残ってた方がいいと思うの」

 

 

……会話がまあまあ長いので………。

――“おでかけ”に行くことになるイカれたメンバーを紹介するぜ!(唐突)

 

くるみは……何も言わなくていいよな!(最初から紹介になってない)。

めぐねぇは今回、“覚醒”しているのでくるみに次ぐ戦闘要員としてイケるぜ!

りーさん、チョーカーさんは……特に突出してはないが、人手=物資の数なのでありがたいぜぇ、ふぇい!!(謎の掛け声)

 

 

「そうか?前みたいに、連中をどっかに誘導すれば一日くらい……」

「いいえ。くるみ、劇的だったのはわかるけど――あんなのを信用して行動するのは危険だと思うの。……ここは私達の家なのよ。誰かが待っていないと」

「そりゃぁ……たしかに」

 

「いやでも、悠里。人が居た方が沢山集められるだろ?」

「でも、帰ってきたらまた三階入ってるってあるかもしれないでしょう?たかえちゃん」

「……まあ、それもそうか。帰ってきたらもう一仕事ぉ……は嫌だしな、うん」

 

 

そしていっちゃん重要なのはゆきちゃんです。

ゆきちゃんは戦闘クソザコの代わりに『発見』などの探索系スキルが極まっています。ゆきちゃん一人いるだけで集まる物資の質が全然違う。ハンバーガーが、かぶりつく奴からフォークで食う奴に変わるくらい違う。

最高かわいい愛してる(確定事項)

 

んで、この私は……ですが、と。

 

 

「それで、やなぎくん。あの、ね――」

 

 

唐突ですが、皆さん。

 

私――名探偵です。

かのシャーロック・ホームズに匹敵するとも(私に)言われています。

 

最初から今までの、状況。

ショタと彼に取り巻く人々の心情・イベントフラグ・各種パラメータを正確に読み取ることで――予言にも近い卓越した推理を披露できます。

 

ここでショタがこう言うとしましょうか。

 

 

――連れてって?

 

 

そしてこう返されます。

 

 

――ダメです。

 

――なんで?(半ギレ)

 

 

はい。

最早いつもの流れですね。

不毛です。ロスです。ロスチャイルドです。これはフリーメーソンの策略です(陰謀論者風飛躍的解釈)。

 

ここは抗う必要はありません。

いつものように説得しようとしてくる会話もロスなので、さっくりこっちから伝えちゃいましょう。

 

――あっ、私お留守番で。

 

 

「……そう、ですか。でもやな――」

 

「――()()()()()。なぎくんはお留守番として。他にもう一人誰が残るか決めましょ」

「……だな。流石にやなぎを一人にしとく駄目だし」

「……私が残ろうか?バリケードを点検してあいつらを入れないくらいなら――」

 

 

一人お留守番を選択すると、もう一人お留守番を選択しなければなりません。ツーマンセルが基本です。

何もしなければ、この中ではりーさんかチョーカーさんでしょう。たまにゆきちゃんになったりもします。

 

編成を選択しない事によって、数秒でもタイム短縮。それ以降の会話もズバッといきたいですねぇ……。

 

ここは、かかかっとオムライスを掻き込んで平らげて朝食の時間を切り上げる方向で。

ゆきちゃんスプーン返して。昼休憩中のサラリーマンみたいに食べるから。

 

 

「えー……やーくんお行儀」

 

 

男子高校生だからセーフ(正論っぽい暴論)。

 

 

「ねぇ、私が残ってもいい?」

 

「りーさんが?」

「ええ。…………えっとね?やっぱりお外で頑張るなら帰ってきたら美味しいご飯があったら嬉しいでしょう?――食料に余裕もある事だし、少し凝ったのを作ろうかなって」

「おっ、それいいな」

「……?でも、りーさん。さっき食料に余裕ないって――」

「――それはオムライスの材料が、って事よ。心配しないで」

「そっか。おけおけ」

 

 

ふむ、りーさんがペアですか。

……まあ、その体じゃあ満足に行動できないでしょうからねぇ……(ねっとり視線)。

 

 

 

ふぅ……(まんぷく少年)

 

さて。オムライスを食べ終わりました。朝食終了として、引き上げる…………前に。

 

――皆、聞いてほしい。とっても重要な事なんだ。

 

 

「……っ!なんですかやなぎくん」

「なんだよ改まって」

「どうした?」

 

 

――駅前のマックでハンバーガー買ってきて。

 

 

「……へっ?」

 

 

――後、駅前の本屋でジャンプ買ってきて。

 

 

「……おっ、おう?」

 

 

――駅前の酒屋さんでお酒も買ってきて。チューハイがいいな。

 

 

「……いや、流石にそれはダメだからな?」

 

 

……お留守番になると編成に口出せても、行き先の指定はできませんからね。

 

ここまで言い含めておけば、けーちゃんのいる駅前に寄ってはくれるでしょう。そうすればイベント発生――結果はお任せですが、タイム短縮したいので致し方なし。

 

まあ、それでも行かない時はありますが……まあ、そのときはそのとき。

私がけーちゃんの分までごはんを食べればいい訳ですし。太っちょショタもアリだと思います(幅広い度量)。

 

んじゃ、よろぴくとばかりに席を立ちます。これ以降の会話は全てロスです。

ほな、さいなら。頑張ってなー。

 

 

「あっ、その、やなぎくん――!」

 

 

はい!余計なイベントが発生する前に廊下に出る!

七日目の教訓!

 

 

 

 

廊下に出ました。

向かう先は一にも二にも――寝室です。

 

“おでかけ”は拠点である学校では入手できない物資を獲得できる重要なイベントです。

 

本チャートであるならば、ここで颯爽と先頭に躍り出て、皆を率いて繰り出します。

――戦闘スキルもなく、そもそも武器すらもない今のショタでも、『発見』スキルがあるので、レアアイテムとかも見つけやすいです。

 

ですが、それ以上に。

この“おでかけ”でお留守番をしていた方が、タイム的には良いのです。

 

“おでかけ”でお留守番を選ぶと学校内での行動になり、そこから選択できるのは『バリケードの点検』と『会話』、そして『休む』だけ。

 

重要なのは『休む』――端的に換言すれば、おひるねです。おひるねショタです。

皆が帰ってくる夕方頃まで時間を飛ばすことができます。

 

……タイム短縮ですね?(得意気)

 

ゲーム的にはクソつまんねぇので誰も選択しないお留守番……RTAでは有用の有用です。

 

とはいえ、お留守番の場合。

 

“おでかけ”イベントは、某艦これで言うところの遠征と似たようなものに変わります。

違いは――下手すると死ぬとこでしょうか。

 

皆に全てを任せる事になるので――成果も無事も何もかもランダム……まあ、そこまで不安になることはありません。

成果はともかく、無事はゴリラと一緒なら――生存確率は八割は堅いです、ガチで。そこに覚醒めぐねぇも加えれば九十九割大丈夫大丈夫。

 

 

――スパーンッ!と寝室の扉を開け放ちます。

 

――とぅ!と布団にダイブ……あかんお腹打った痛いっ!(HP半減)

 

――うずくまりながら、ゆきちゃんの布団にくるまりましょう(これを役得と言います)。

 

 

後は寝て夕方になるのを待ちます。

果報は寝て待て、これ至言。

 

いやぁ……これは良いタイム短縮になったんじゃないでしょうか!(誇らしげ)

 

丸々半日……だから、リアルで30分くらい?かなり大きいんじゃないかと!……まあ、その代わり成果に期待は出来ませんが。

 

うーん、ショタが戦力外じゃなけりゃなぁ……“外”には有用なのは結構ありますし。例を一つ挙げるなら、警官かれらの六連拳銃とか。人の形をしてれば何でも一発で殺せる公式チーテムです。

 

……いっそ『ゆきちゃん化』でもしてれば、気晴らしにと連れてってくれるんですが…………まっ、それ以上にメンドイのであれですけどね。

 

ささっ、お腹いっぱいなので眠気も十分。

すぐに画面が暗転します。

 

んー。

さてどうなるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こんっこんっこんっ!やーくんやーくん!』

 

 

……なんやねん、騒がしいなぁ(巡ヶ丘クレーマー)。

 

寝室には……誰もいない?

あっ、ドアの前。陽の光のシルエット的にゆきちゃんですね。

時間は……寝る前とさほど変わらない……?

 

ゆきちゃんも行くはずですが……あっ、いってきますのあいさつ?新婚さんかな?

 

 

『あちゃ寝てた?ごめんね、やーくん。でも、ごはん食べたあとにすぐに寝たら牛さんになっちゃうよ?』

 

 

牛さんになっても私はかわいいから問題ありません(暴論)。

 

 

『そっかー』

 

 

納得するのか……(困惑)

 

 

『…………ねぇ、やーくん』

 

 

はい?

気を付けていってらっしゃいねゆきちゃん。

 

ゆきちゃんはいかんせん好奇心が先走って危険な状況に合いやすくて、目を離すとすぅぐ襲われたりしますからね。……『ゆきちゃん化』してれば、妄想めぐねぇとかが諌めてくれるんですけど。

 

……他の皆?ゴリラがいるからなんとかなるよ(ある種の信頼)。

 

 

『やーくん……いっしょにお外行かない?』

 

 

――いやです……(小声)。

 

 

『――なんで?』

 

 

タイムの為……(ささやかな抵抗)。

 

 

『――お外はこわくないよ。あぶないのはみんな、くるみちゃんとめぐねぇがえいってやっつけちゃうもん。たかえちゃんもいるし、りーさんもおいしいごはんを作って待っててくれるよ?』

 

 

……ゆっ、ゆきちゃんになんて言われようともタイムすら消えてしまえば私のRTAとしての意義が……!(苦渋)

 

 

『わたしだって一緒にいるよ。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

……なんか今回のゆきちゃん、やけに頭いい事ばっか言ってる……(偏見)。

 

でもまあ、率先して下がったのはちょっとマイナス印象ですからね。ショタにデロ甘なゆきちゃんでもちょっと苦言してくるのもしょうがないでしょう。

 

ですが―ータイムの為。

私はその為ならば、負け犬にもなりましょう。

くぅーんくぅーっん(私はかわいい)。

 

流石にゆきちゃんの好感度下がるでしょうが、やむを得ません。

ここはざっくりと拒否を示します。

 

 

――こわいからいや。

 

 

『……そっか』

 

 

……ん?

声のトーンが想定と違いますね。失望するときの暗い感じじゃありません。

……ままええか。幼なじみだから減らないだけなのかも。

 

 

『――わかった!じゃあ、やーくんはそこにいてね!わたしがうんと美味しいもの取って来るからね!』

 

 

ハンバーガーよろしくね。

 

 

『テリヤキワッパーなら任せてっ!』

 

 

いや、それバーガーキン…………行っちゃいました。

 

…………うーん?まあ、いいか。

 

さあさ、寝ましょう寝ましょう。

ゆきちゃんが状態の良いメガマックでも見つける事を願って……!(打ちきり並感)

 

すぅ……すぅ……。

 

…………。

……――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇ、なぎくん。起きてる?』

 

 

寝てます!!!!!(クソデカ肯定)

いや、寝かせて?タイム短縮以前の話になっちゃうだけど!なぁんの為にお留守番選んだと思ってるんですかねぇ!?

 

ていうか、りーさん?ゆきちゃんならともかくなんで今――

 

 

『入るわね』

 

 

うんともすんとも言ってないんだよなぁ……。

 

 

「ああ……やっぱり起きてた。ごめんなさい、眠たいわよね」

 

 

はいはい、りーさん。

それでどうして来たの?眠いんだけど?(塩対応)

 

まぁったく、どう、して……………………あれ?

 

 

 

――なんで、包丁持ってるの?

 

 

 

「皆行ったわ。言いくるめるの、ちょっと大変かなって思ったけど、なぎくんが残るって言ってくれたからスムーズだった。……やっぱりわからなくても通じ合ってるのかもね、私達」

 

 

おっ、おう……?

 

 

「そういえば、なぎくん――()()()()()()()

 

 

えっ。

さ、さっきぃ……すれ違いませんでした……?

 

 

「…………。そうだったわね。ゆきちゃんもお外行くのよね?」

 

 

はっ、はぁ……。

 

 

「……そう。そう!なら、私達は……ふふっ!なら丁度良いわ。話したい事があるの。私達にとって、とっても大切な事」

 

 

あれれー?おっかしいぞー?(死神並感)

今の状態でこのテキスト出るのはぁ……――あれ、マズくね?

 

 

「これまで言おうか言うまいかずっと悩んでたわ。なぎくんは多感な年頃だし、拒絶されたらって思うと悲しかったし。でも、こんな状況でしょう?貴方も心細いと思うから言おうと決めたわ。でも……でもね……?」

 

 

いやぁ……流石にこれはぁ……。

あのエンド?あのとてつも理不尽なりーさんのバッドエンディング?

じょっ、条件満たしてる……満たして――ない!満たしてない!満たしてないったら!!(現実逃避)

 

 

「――皆は違うじゃない?私達だけが……なんて言われて、なぎくんが傷ついたらって思うと躊躇っちゃって。だから、ずっと……ずっと待ってたの」

 

 

正気度はまあ、それなりに低いな、うん。

好感度はぁ……高いな。さっきのオムライスがある。

『ゆきちゃん化』……あっ、やべぇ。目の前でショタ倒れてたぞ。するぞこれ、運悪いとしてるぞこれ。

 

 

 

「やっと――()()()()()()()()()()()

 

 

 

あー…………うん。

ちょっと。

 

 

……………………ちょっと気絶していいですかぁ!??!??!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

血で塗り潰されたのは平坦な日常。どうせ惜しくもないのにどこか恋しい、くだらない日々。

 

化け物になった同級生達が徘徊する学校。目まぐるしく進んでいく、絶望にしか変わらない現実。

 

 

――頭が痛かった。

ほんとは痛くないのかもしれない。でも痛かった。

自分でも何を思っているのかもわからない。ただ意識を押し潰すような現実に、痛みを感じているのはすぐにわかった。

 

どうしてこんな目に合わなきゃいけないのだろう。これでも嘘はあまり吐かず、誠実にを心掛けて過ごしていたのに。

 

そんな馬鹿を嗤うように。

家族を失った私から、今度は日常すら奪った。

 

なら――()()()()()()()()()()()

その答えは返らない。

ただ、呻きと意識だけが削られていく日々が流れていく。

 

ぐちゃぐちゃと揺れ動く思考を何とか取り繕いながら――私達は生き残る為に行動し始めた。

 

皆が一緒で良かった。

もし、私一人だけだったらどうなっていたかなんか考えなくても分かる。

 

皆、いい人達だ。

 

くるみは――私の人生の中で一番のお友達。こんな状況でも私達を守る為に前を歩いてくれる勇気があって優しい子。

……わかってればこんな事になる前からお友達になってれば、なんて思うくらい。

 

佐倉先生……めぐねぇは優しげでぽやぽやしたちょっと頼りない先生だと思ってたけど、とんでもない。彼女は大人として私達を守ろうとしてくれている。……震える身体を押さえ付けて。

もう“先生”なんて肩書きは肩書きですらないのに。それでも、私達を助けてくれる――立派な先生だ。

 

たかえちゃんは元々友達が沢山いたからか、私達にすぐに馴染んだし――なぎくんに助けられる前はひどい目に合ったせいか、やけに肝が座ってて。所々で支えてくれている。

 

あと。

ゆきちゃんと――なぎくん。

正直、私はこの二人に対して複雑な気持ちを抱いていた。

 

 

だって、二人だけだったのだ――失っていないのは。

 

 

くるみは、恋していた先輩を失った。

めぐねぇは、安穏とした日常を失った。

たかえちゃんは、人としての尊厳を失った。

 

なら、あの二人は?

 

手を繋いで、お互い触れ合って、仲良く連れ添って。

彼が苦しそうだと彼女が寄り添って。彼女が悲しそうだと彼が笑わせて。

確かに、二人も……友達を家族を日常を失った。でも――互いを思い合ってる二人は残っている。

 

とても――(ねた)ましい関係だった。

 

でも、嫌いという訳じゃない。二人とも良い子だし、居るだけで励まされた。

あいつらを処理した氷のように冷たい手を溶かした――あの焼き芋の暖かさは、何があっても忘れる事はないだろう。

 

だからか、いつしか二人は私達の大切なものに変わっていった。

もう戻ってこない日常の形。友達であり、恋人であり――家族である形。

 

 

それが私達の希望だった。

 

もう、それは粉々になってしまったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『家族はなれるし、なるものなんだよ!』

 

 

ああ、だからかな。

 

 

『家族はなれるし、なるものなん■よ!』

 

 

私は大切な事を思い出した。

()()()()()()()()()()()()()()()――私となぎくん……二人だけの秘密。

 

 

『家族はなれ■し、なるもの■ん■よ!』

 

 

ごめんね。ごめんね。

どうしてこんな大切な事を忘れていたんだろう。

なぎくん、もう大丈夫よ。泣かないで。

 

 

『家族は■■■し、なるもの■ん■■!』

 

 

ゆきちゃんの代わりに。

 

 

『家族は■■■■、なるもの■■■■!』

 

 

今度は絶対に――()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

こんな事になってから聞く事は無くなった聞き慣れたエンジン音。駐車場から校庭へと躍り出た赤のお洒落な軽自動車。

私は車に疎いけど――いかにもめぐねぇらしい車だと思った。

 

エンジン音に誘われて、校庭のやつらがゆるりと車に近づくけど、追い付く事はなく。

めぐねぇとくるみ、たかえちゃんを乗せた車は校門を出て――“外”へと出た。

 

私達が知っていて、そして知らない街並みへと。

 

 

 

「…………」

 

 

私は、それを二階の教室から眺めていた。

 

三階のバリケードの“外”。階段を降りた二階すぐの教室。その窓枠から校庭へと垂らされた火災避難用の梯子の先を撫でる。

 

“外”に出るにしても、二階はともかく一階は予想以上にやつらが多かった。

だから、ここから三人は降りた。

 

ふと先ほどまでの会話が耳の奥から響いてきた。

 

 

『……やなぎに会わなくていいのか、めぐねぇ』

『ええ。ちょっと、急ぎ過ぎたみたいです。……やっぱり怖いわよね』

『まあ、露骨に避けてた感じだったな。要求だけはきちんとしてたけど』

 

 

めぐねぇは言った――“外”に行こうと。余裕がある内に行動しようと。

 

それは嘘じゃない。

でも、それを建前にした本当の理由に気づかないほど私達は鈍くはない。

建前なんて置かずに、直接言えばいいなんて益体の無い事を考え付いたりもするが――私がめぐねぇの立場になっても濁した言葉で誘う事しかできなかったろう。

――それが彼を傷つける可能性がある限り、一歩踏み出す事は決して出来ない。

 

まあ、だからこそ。

それを私は利用できた訳なのだけど

 

 

『行く予定はショッピングモール……だっけか』

『はい。そこなら食料もそれ以外の物も沢山あるでしょうから』

『柳のご所望の物はどうする?』

『そうですね……駅はショッピングモールの通り道ですし、寄るだけ寄りましょう。危なければ避けるイメージで』

『りょーかい。酒は……こどもビールでいいか』

『逆にウケそうだな』

 

 

三人は“外”に行くにしては穏やかな会話をしていた。

奴らと対峙してきた自信からか。それとも帰るべき家があるからか――守らなくちゃいけない存在がいるからか。

 

 

『んじゃ、頼んだりーさん。帰りもここ使うから、連中が入らないようにドアは閉めといてくれ』

『美味しいご飯、期待してるよ。こっちも期待しててくれ』

『夕方には戻りますが、奴らが多そうなら夜を待ってから帰ります。やなぎくんを、見ていてね――ゆうりさん』

 

 

先ほどまでの三人の会話。頼まれた事。

私はそれをぼんやりと反芻して――

 

 

「………よいしょっと」

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「…………ふふっ」

 

 

溢れた笑みは、呻きに覆い隠される。

私がいる事に感づいたやつらが緩慢に寄ってきてる。

が――そんな事はどうでもいい。

 

 

「さぁって。なぎくんに美味しいご飯を作ってあげなきゃ」

 

 

バリケードへ向かい、屈んで通って――開けた穴を念入りに塞ぐ。これでいい。

家の廊下を進む。まずはお料理の下ごしらえをしないと。

 

 

「ふんふん、ふーん……♪」

 

 

ああ、やっとだ。

やっと二人きりになれた。

私の家族――たった一人だけの、私の(おとうと)と。

 

 

私達はもう二人だけ。

奴らのせいじゃない。ずっと前からそうだ。お父さんもお母さんも、ずっと前に亡くなっている。

 

冴えないサラリーマンだったお父さん。

いつも優しいけれど、悪い事は叱ってくれたお母さん。

そして――小さな小さな、私の弟。

 

慎ましくてよくあるような家族だった、幸せだった。

事故が全て奪っていったけれど。

 

 

ああ、今でも思い出せてしまう。

 

買い物に出掛けると言って、小さな壺に収まって帰ってきた二人。

その悲しみが消える前に、私の目の前で車に轢かれて、血塗れになったあの子……私は、なにも、できなく、て………………?

 

 

あら?じゃあ――どうしてなぎくんは、

 

――『なにもおかしくない』――

 

 

ふと振り向けば、窓に薄く私が写し出されている。

眺めていると――小さく笑みを浮かべた。

 

()()()。なにもおかしくない。

私はあの時、何とかあの子を――なぎくんを助けられた。病院に連れてってお医者さんに治して貰った。

うん、そうだ――()()()()()。久しぶりに思い出したから、記憶が混同しちゃった。後でぎゅーってなぎくんを抱き締めてあげなきゃ。

 

 

リビングに入る。邪魔なものは多いけど、片付けは後。

 

今は料理が優先。

私はあらかじめ準備しておいた物を使って――カレーを作り始める。あの子が良く食べたいとせがんでいたコーンカレー。

甘口で挽き肉は多め。お野菜は細かく、特に人参は念入りに。……少しでも人参が目につくと嫌だ嫌だとグズっていたのが懐かしい。

 

……お父さんは私がカレーを上手く作れる事を誉めてくれたっけ?お母さんは……ちょっと嫉妬して、悔しそうにしてた気もする。美味しい美味しいと笑顔で食べてくれるあの子の笑顔も忘れられない。

こんな事になってもこうして家族と過ごせるなんて、私は幸せだわ。

 

………………。

…………。

……――いや、待って。じゃあ、なんでなぎくんの名字は私と同じ若狹じゃないの?そもそも同級生だったし、それにもう一人私の大切な、

 

――『きにすることじゃない』――

 

ふと、具材を刻んでいた包丁が目に入る。

手首を返す。てらりとした刀身に、歪んだ私の口許が反射していた。

 

 

…………そうよ。そうだった。

なぎくんはお父さんの連れ子だった。お父さんとお母さんは再婚して、私はお母さんの連れ子。

でも、お母さんが自分と血が繋がった私以外育てたくないって言って……お父さんはお母さんの我が儘を聞いちゃって。

お父さんは国の偉い人だったから、小さななぎくんの戸籍を偽装したんだわ。その時、年齢も誤魔化した。

だから、なぎくんは他の人より小さいのよ――本当は年下の私の弟だから。

 

これよ。()()()()()()()

……やっぱり私も疲れてるのね。こんな大事な事忘れるなんてあり得ない。お姉ちゃん失格ね。

 

 

「ふぅ……」

 

――少し落ち着こう。家族二人きりになって、テンションがあがちゃったのがいけないんだ。

 

思い出に浸るのもいいけれど、これからはなぎくんと家族として新しい思い出を作らなきゃ。

――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……そろそろ一回、なぎくんとお話しようかしら」

 

 

――小さい頃の話だから。

なぎくんは私と家族である事はきっと覚えていないだろう。でも、お話すれば。

何度も何度も話そう。思い出を。私しか知らない、覚えていない思い出を。

そうすれば、きっと。なぎくんも――思い出せるはず。

 

 

カレーが良い具合に仕上がるには時間が掛かるから、その間にすれば、終わる頃には出来上がってるはずだ。

 

 

 

 

 

「……いないわ」

 

 

リビング(部室)、廊下、バスルーム(シャワー室)、トイレ、お庭(屋上)。家の中を少し回ったけどなぎくんは居ない。……流石にお姉ちゃんに黙って“外”に出るのはあり得ないし…………。

 

 

「……むむっ」

 

 

そこでふと、寝室でぼそぼそと声が聞こえた。ああ、おひるねしてたのね。

耳を済ますと誰かと話しているようにも聞こえる。

 

 

「……ゆきちゃん……」

 

 

私となぎくんが親の勝手な都合で離ればなれになっているときに――()()()()出会った、なぎくんの幼馴染。

今でも、なぎくんの心にいるほどに、大切な子。

 

 

ああ、苦しいのね。悲しいのね。

でも、もう大丈夫。家の中には家族だけ。もう煩わしいものも邪魔をするものも居なくなった。

 

それに。それにだ。

とても重要な事――()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

声掛けをして、部屋に入る。

……ちょっと不機嫌そう。ノックをしなかったからかな。年頃だし、そこら辺は気にしちゃうのかも、ふふっ。

 

 

そんななぎくんを喜ばせる為に、ゆっくりとゆっくりと言葉を紡ぐ。

少し勿体ぶっちゃったけど、その方が嬉しいのも一塩よね?

 

 

ああ、震えるなぎくんの大きな瞳には――笑顔の私が映っている。

 

私は幸せだ。

だって――これからずっと家族と一緒にいられるんだから。

 

 

ねぇ、なぎくん?

 

もう我慢しなくていいのよ?

 

なぎくんもきっと――もう気づいてくれているはず。

 

 

さあ

 

 

また

 

 

 

もう一度

 

 

 

 

ずっと

 

 

 

 

 

 

 

私をお姉ちゃんって呼んで?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

………………。

 

 

「………………」

 

 

………………お――

 

 

「……っ!お?――」

 

 

――お断りだよばぁぁぁか!!!はいっ、横すり抜け脱出!!早く同じ空間から離れないと!

 

 

「まあ!……もう、なぎくん反抗期?だめよ、お姉ちゃんに向かってそんな事言っちゃあ」

 

 

まずいまずいまずい!!

よりにもよってぇ!よりにもよってりーさんのバッドエンドの中で一番最悪なの引いた……!

 

――『偽物の家族』エンド!

 

 

「ふふっ、鬼ごっこ?そういえば昔やってたわね。いいわ。私が鬼役ね?――」

 

 

くそぅ!くそぅ!

えっ、イケる?……無理くね?特にフラグ建ても、ああもう!

これじゃあタイム短縮案も今までやってきた事も全部ぱぁ!じゃねぇか畜生めっ!

 

鬼!悪魔!デカ乳!

 

 

「絶対に逃がさないわよ。私の私の、大切な弟」

 

 

ああ…………(諸行無常)。

 

 

 

 

 





ーーーーーーーーーーー
※解説byWiki

エンディングNo.R3
『偽物の家族』

達成条件:りーさんが『ゆきちゃん化』し、且つ好感度が高い状態で――二分間、二人きりで同じ空間にいる。


りーさんの『ゆきちゃん化』によって発生する世にも恐ろしいバッドエンド。その理不尽さはゲーム内でも五指に入る。
この時のりーさんは『家族を名乗る不審者』『姉もしくは妹、あるいは妻なるもの』『ファミパンりーさん』『ふぁみりーさん』など多くの通り名がある。


・概要
『りーさんと主人公が、お互いを自分の家族(兄弟・姉妹)であると思い込むようになり、二人は仲良く幸せに暮らしました』というエンド。因みに“恋仲”状態だとこれが夫・妻に変わる。

エンディングの際、他の面々は姿を見せない。

これは、そこら中に血が不自然に散らばっている事や、最後のスチルの『手を繋ぎながら互いに微笑み合う』側で、他の面々を象徴する品が血塗れで放置されているのを鑑みて――『家族の生活に邪魔だと思われて殺された』と見るのが、現在の主要な考察である。

それだけでも非常に恐ろしいが、このエンディングの真の恐ろしさは他にある。

それは、達成条件を満たした瞬間――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

進行状況だとか装備、体制だとか。
そういったなにもかも全て吹き飛んで、エンディングへと向かうその様は即堕ち二コマなどという、そんなチャチなものでは断じて無い。
ポルナレフのような恐ろしい片鱗を味わう事になる。能力的にはディアボロであるが。


・エンディング移行までのプロセス
りーさんの正気度が減少し続け、何らかの“覚醒”イベントに失敗して『ゆきちゃん化』し――りーさんがふぁみりーさんに成ると、主人公に対して『私達は家族だからずっと一緒よ』と告げ、迫ってくる。

こうなるとエンディング回避は不可能に近い。

何故なら、ふぁみりーさんには『貴方と私は家族である』という謎に確信めいた確固たる前提があるせいで、反論や証明による“説得”も――『でも私達は家族だわ』で一切合切封殺されてしまうのである。

会話が続くと主人公自体も洗脳され始め、こちらの操作を受け付けなくなる。

それでもなんとかしようとしていると、達成条件の“()()()()()()()()()()”がクリアし、エンディングに移行するという悪辣な罠も潜んでいる。

なら、逃げればいいと考えるのが必定だが……隠れても逃げても――手段を選ばず追い縋ってくる。
ふぁみりーさんは、ゲーム内の数あるりーさんの中でも、一番倫理観が終わりーさんなので、かれらを殲滅してでも、主人公の手足を折ってでも、向かってくる――私達は家族だと信じさせる為に。

こうなってしまうと――世の中、どうにもならない事もある、という気持ちが心を過るようになる。
まさしく諸行無常。引き際だと心得よう。


・対策
――と。
散々脅しつけたが――このバッドエンド自体を発生させないのは難しいことではない。

りーさんの正気度と好感度をきちんと管理し、『ゆきちゃん化』による発狂を起こさせない。
ちゃんと気配りし、りーさんに急がし過ぎないほどには仕事を与えて、考え込ませる時間を与えない。
――等々。
対策自体は特に苦労するものでもない。

が、りーさんの発狂は基本、外に見えるように起こらないので――気が付いたら成っているという事態も多い。
だから、地雷女(直喩)りーさんとか呼ばれたりするのである。

ふぁみりーさんに成ってしまうと、極論、排除するしかないのだ。

数少ないエンディング回避の方法には()()()()()()()()()()()()()()()()()というのもあるが、アウトブレイク以前・“友人”状態・何らかの約束ができる状況……と条件が厳しくて現実的ではない。


・エンディング回避による恩恵
回避に成功すると――りーさんの好感度と正気度が高い状態で固定になって下がる事はなくなり、且つ何を指示しても拒まなくなるという利点がある。
“おくりもの”も手に入るので、挑む価値は非常にあるが――難易度はこのゲーム屈指の難しさであるので、上級者以外はあまりおすすめできない。






・余談
運営が何を血迷ったのか、このエンディングを音声作品として再編集し、『若狭悠里のぞわぞわ洗脳ボイス~あなたは私の家族でしょ?~』として発売した。
大手CDレーベルから出たせいか、発売一週でオリコンチャート堂々の一位を叩き出し――多くの何も知らぬ日本国民を困惑させた事件は記憶に新しい。



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九日目“THE SHINING” of りーさん -PART2-

(ノリを忘れたので、とりあえず勢いでぶっち抜いたので)初投稿です。





 

 

 

 

――はいッ!(いつもの気だるげな前口上は)キャンセルだッッ!

 

 

「ふふっ……鬼ごっこだもの。ちゃあんと十数えてから始めましょう?」

 

 

まずは四の五の言わずに、すぐに近場の教室に逃げ込みます!

とにかく視界から外れる事が肝要です!

 

 

「いっ~ち。にぃ~ぃ。さぁ~ん…………」

 

 

……りーさんにしては、妙に明るい声なのが背筋にゾクゾクきますね……!

 

教室の中は散乱した机椅子その他諸々に溢れています――適当なとこの陰に隠れて、暫く様子を窺いましょう。

 

……出入り口にバリケードでも設置した方がいいと思うかもしれませんが、倫理観終わりーさんに強行突破されてしまった際は、出口が無いという事。

秒でガメオベラです。ここは基本バレるという事を踏まえ、すぐに脱出できるようにします。

 

……慎重に……慎重に。

 

 

「よぉ~ん。ごぉ~お。……ふふ。ねぇ、なぎくん。こうしてると、よく近所の公園で二人きり遊んだのを思い出すわね?鬼ごっことかかくれんぼとか……でも、二人きりだとすぐ終わっちゃってつまんないから、結局は一緒にお手々繋いでのんびりしたり……なぎくん。覚えてる?覚えてるわよね。覚えてない訳ないわ」

 

 

…………………………………………(知らないですねぇ!知らない知らない……)

 

 

「あら?お返事が聞こえないわ?もしかして覚えてない?…………。…………ああ、必死に思い出そうとしてくれてるの?ふふふ、良い子。ほんとに良い子。大丈夫よなぎくん。思い出せないのは小さかった頃だからしょうがないわ。お姉ちゃん怒らないから。……これから、これからまた新しく思い出を作りましょう?だって、私達――家族だもの。ずっと。ずぅっと一緒。だから安心して?」

 

 

…………………………………………(その怪文書のどこに安心する要素が!?)

 

 

 

「ふふっ、ふふふ。…ろぉ~く。なぁ~な。…………」

 

 

 

(こわい)

 

えー、はい。

この絶望的な状況についてさくっと説明しましょうか。

 

今、現状は――バッドエンド一歩手前です。

それも特に狂っていて、そして理不尽なりーさんのエンディングの一つ――『偽物の家族』エンドです。

 

これは『ゆきちゃん化』してしまったりーさんが、主人公と自分が家族であると思い込み、それを主人公に強要するといった内容で。

恋仲でなければ、姉弟か兄妹か姉妹だと認識し、りーさんの本当の妹――るーちゃんと同一視し始めるのです。

 

これ自体は、このゲームでは良くある病み病みエンドなのですが――達成条件が超絶鬼でありまして。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――()()()()()()()()()()()()()()

 

 

……まあ、プレイに自信ニキなら「いや、なら同じ空間にいなきゃいいじゃんww逃げれば余裕wwぶぅ~んっww」とか言うかもしれません。

 

しかし、もうこのりーさんはただのりーさんではありません。

倫理観終わりーさん。ふぁみりーさん。

そして――空気強制汚染機RE=SANなのです!

 

先ほどのような現実と妄想が混じり合った妄言は、締まりの悪い穴(意味浅)のように常に垂れ流されています。

そして、操作キャラがそれを聞いていると――段々「……アレ?そういえば確かにりーさんはぼくのおねえちゃんなんじゃ……?(錯乱)」状態になり、こちらの操作が鈍くなったり、受け付けなくなる“スタン状態”になります。

この状態は、りーさんの妄想を聞いている時間と比例して、効果時間が増加していきます。つまり時間が経てば経つほど詰みやすくなります。

 

そうして動かなくなった状態で、りーさんが忍び寄ってまた妄言を垂れ流し、そのせいでまた動けなくなり……の無限ループでガメオベラ直行が、ふぁみりーさんの基本戦術です。

 

……この才能溢れる私が、数々の難事を潜り抜けた華麗なる“説得”も『私はお姉ちゃんである』という謎に確固とした信念によって効かず、そうこうしている内に、洗脳に嵌まり……と。

滅亡を止められぬ平家のように、ぽかんと諸行無常の祇園精舎の鐘の音ぐわんぐわん(教養の開示)。

 

極論、続行するなら“排除”が選択肢に挙がります。

が。

そもそも、あのりーさんはりーさん最強装備の包丁を持っている上、倫理観崩壊しているので遠慮も呵責もありません。

こちらが好感度高い状態の相手への攻撃という苦痛に対して精神対抗フェイズしている間に――

 

身体ズバズバ足の健スパーッ→これでもう鬼ごっこはおしまいね?→それでね。お姉ちゃん達はね(以下エンドレス洗脳)→あっそっかぁ(納得)。ワイらは姉弟やったんや!→ジ・エンドってね。

 

――です。

 

 

もうね。どうしろと。

 

 

「はぁ~ち。きゅ~ぅ――」

 

 

正直言います。

 

 

――もうこれ再走案件だろ

 

 

いやいや。いやいやいやいや。

これもう無理だってばさ。だってアレだぞ。

スキルでの防御とか“説得”無効で、尚且つ精神貫通させて洗脳してくるお姉ちゃんビームの使い手だぞ?さらには同じ空間にいるだけで即死付与とかもう無理ぃ!

流石の私でもこれはお手上げです。まずこれを突破する未来が見えない。

 

だって、唯一と言っていい回避方法が「世界が狂う(アウトブレイク)前の約束を果たす」ですよ?いや、そんなのあるわけないじゃないですかと。

プレイ時間で言えば、序盤15分くらいですよ?その間に、んな事不可能ですってばさ。

 

スイートポテト「やぁ、待たせたね諸君」

 

ぐぅ……このRTA……結構良かったと思うんですが……。

ぐだぐだのガバガバでしたが、奇跡的にタイムは良かったですし。

これをサイトに乗せればウケる上にバズってウェーイwウェーイwwと思っていたのですが…………やっぱり思い通りには行かないのがこのゲームですね。

 

スイートポテト「序盤から速攻で影薄くなっちゃって――」

 

まあ、教訓は得ました。

これをバネに今度はより洗練したRTAをやろうと思います。

これまでのプレイ映像は戒めと後続への期待と私の承認欲求の為にサイトにあげます。

 

スイートポテト「――存在すら忘れられていた遅れた救世主のぼくだよ」

 

それでは皆さん。

また次回。今度は完璧なRTA動画でお会、い……?

 

 

スイートポテト「ぼくだよ」

 

 

ん?

 

 

スイートポテト「ぼくだよ」

 

 

………………。

…………。

……。

そういえば、アウトブレイク前にプランターの作物を聞いた際に、スイートポテトの話をりーさんにしましたよね。

それで確か、良ければご馳走するって。りーさんは期待してるって…………。

これってぇ……約束に該当しません?

 

 

スイートポテト「端的に換言すれば、該当するよ」

 

 

ぞっ、続行!これは続行しますッ!

スイートポテト!スイートポテトぉおおおお!!(歓喜)

 

そういえば居たよお前が!いや、居ましたよねお前さまが!

これはひょっとすればひょっとするかもしれませんよ?

 

……正直、これはこれで突破確率は極低ですが、それでも――やる価値はあるってものです!

 

このふぁみりーさんを正気に変えさせると、凶行に対する負い目から滅多にこちらの言う事を拒まない故、何かと進んでこちらのフォローをしてくれるような有and能な恵体に早変わり!

これはリカバーの価値!時間は結構ロスりますが、後の安定にあって損はありません!RTAの危機にタァイムなんて言ってる場合ではぬぁい!

 

イクゾー!(てってってててん!)(カーン)

 

もうとっくにガバのガバです!

これで失敗してもいいという腹積もりで、やれるとこまで行きましょうか!

 

では、約束――『スイートポテトを御馳走する』をクリアする為に!

 

 

「――じゅ~ぅ!ふふっ……さぁ。私の愛しい弟くんはどこかしらぁ?」

 

 

さぁ!

では今すぐ適当なリュックを手にいれて、職員室で要らない紙を大量に詰め込んでから、屋上に行ってサツマイモを掘ってじっくりと焼いておいしい焼きいもにした上で、かれらを適当に狩ってスキルポイント獲得して《料理》スキルを覚え、部室のキッチンでスイートポテトに調理し、見つかれば遠慮無く攻撃してくるりーさんに食べさせましょう!!

 

ヨシっ!

 

 

 

出来る訳ねぇだろクソッタレがァああああ!!!!(豹変)

 

 

 

 

「――みぃ~つけたぁ」

 

 

――ひぃ!?はやっ!

恋人エンドを迎えても淑女の微笑みくらいしか笑顔を見せないりーさんが、ゆきちゃん並みの満面の笑みでにじり寄ってきた!

正直メッチャ好みですよ包丁さえ持ってなければね!

 

 

「……ふふ。どうしたの?そんなにびっくりしてぇ……あっ。もしかしてそこが良い隠れ場所だった?……ごめんね?お姉ちゃん――大好きななぎくんの事ならどこにいようとも見つけられる自信があるの。だから、安心して捕まって欲しいな……」

 

 

さっ……!(顔が青ざめる音)

散乱としている教室から、適当にリュックを引っ掴んで脱出します!

とにかくっ!とにかく、一つ一つトピックを消費していくしかありません!成り行き任せで突っ走ります!!

 

 

「きゃっ!……もう危ないわ、なぎくん」

 

 

ショタの足に向かって的確に包丁振ってきたお前の方がアブナイわっ!この天才の私でなければ、足の腿がクパァってなってたからな!?

なんで大好きとか言ってる側から殺意マシマシの攻撃してくんの!?……これが殺し愛ってかやかましいわ死ね!!

 

 

 

 

 

 

廊下に出ました。

ショタは頭の傷のせいで《負傷》状態なので、最高速度が出せず、りーさんに走られると秒で捕まります。

ですが、さっきの通り。

りーさんにとってはこれは“遊び”なので、一生懸命に遊ぶ弟を微笑ましく思いながらニコニコと歩いてくるので何とか逃げるという体を保つ事が出来るのです!(ひぇこわ)

 

手にいれたリュックの中身は今の内に床にばら蒔いて、まきびしにしますか。

数秒も足止め出来ませんが――ほんの一秒でも距離を離します!間合いに入れば刃物と洗脳光線が飛んできます!

 

向かうは、次の目的の職員室!

大量の紙ですが……今回は赤点用紙を狙うのではなく、コピー機を狙います。アレを調べれば適当な紙がたくさん入手出来ますからね。

 

 

「まあまあ、なぎくん?おうちの廊下を散らかしちゃダメでしょう?まったくもう、これが終わったらきちんとお片付けましょうね?……そういえばぁ……昔は良くこうして怒ってたわよね?そうでしょう?ふふっ、おっきくなっても変わらないのね。かわいい……」

 

 

あー!あー!きこえなーい!

はい、目に見えて走るスピードが遅くなったのは気のせいー!私の指が折れてるだけであって、疲労と洗脳が同時にショタに響いてる訳ではありませんー!(自己暗示)

 

 

職員室は今日もはっちゃかめっちゃかで……す?

アレ?またなんか配置変わってません?

なんで?いつから職員室は不思議なダンジョンになったの?

 

……まあ、コピー機の配置は変わってないから今はパス!

 

コピー機のカバーを外して、設置されている紙をリュックにありったけ詰め込みます!グシャグシャでも何でもとにかくみっちりと!

 

 

急がないとりーさんがやって……やって……?

 

 

 

…………?

 

 

 

……来ないですね。

ぬるっと職員室に入って、にやぁ……と昔話攻撃(妄想を根拠とした)を仕掛けてくると思ったんですが。

 

……あっ。

これ出待ちだ。狡猾な罠だ。

居ないのに困惑させた所で――ばぁ!!って出て来て、正気度とスタミナを根こそぎ奪うくっそイラつくやつ。

 

ふっ。

確かに今の私は焦ってる上、時間が惜しい。

こんな状態なら引っ掛かる可能性が高いだろう。だが――このゲームをどれだけやりこんだと思っているのだね!

 

さっき聞こえたぞ――()()()()()()()()()()()()()()()

 

今この三階にいるのはショタとりーさんだけ。つまりは!

りーさんは校長室側の入り口の陰で私を待ち構えてるの確定ぃ!なら、そこじゃないもう一つの扉から出ればいいのさ!

 

フハッハッハーッ!!

ここは年季の差が活きたなーッ?これで十分なリードを保ったまま屋じょ――

 

 

「――ばぁ!!」

 

 

――うううわああああなぁぁんでぇええええ!?!?(正気度・スタミナ減少の音)

 

 

「ふふ、びっくりした?びっくりした?あんまりもツレないからいじわるしちゃった」

 

 

どっ、どうしてこっち側にいるの!?

物音した側にいっつもいるじゃん!WIKIにもそう書いてあるじゃん!えっなに知らぬ間にアプデ!?それかFGORPG並みにうちのWIKIも信用ならなくなってきたの!?

 

いや、そんなはずは。

私が聞いたのは確かに校長室側だったはず。焦って聞き間違えた?えー?どゆことぉおお――っってってって!どうでもいい事考えてる場合じゃないのよぉ!

 

りーさんがぁ!包丁をぉ!振りかぶってるぅ!

 

 

「――ていっ」

 

 

うわ!かすった!

ショタの腕に包丁かすった!切れた制服の隙間から血が!血がぁ!

マジでキ印入ってるぞあの女ァ!?

 

 

「ああ……なぎくん……痛い?痛いわよね?可哀想に……ほら、お姉ちゃんの側においで。手当てするわ。いたいのいたいのとんでけーって」

 

 

やったお前の台詞じゃなくね!?

雑なマッチポンプやめてくださるっ!?

……ショタもショタでりーさんの側に行くって選択肢出してくんな、逃げるの一択決まってるだろ屋上行くぞごらぁ!!

 

 

「ああ、駄目よ。なぎくん早く……早く手当て……怪我、しっ死んじゃう……なぎくん……るーちゃ……なぎくんなぎくんなぎくん……!!」

 

 

もうほんとこのりーさん怖い嫌い!

倫理観帰ってきてぇ!

 

 

 

りーさんの悲痛な声に時々立ち止まってしまいましたが――十中八九!間違いなく!完璧に!

気のせいですがなにか!?(強硬)

 

なんとか屋上に着きました。扉を閉め、初日でやったロッカーバリケードを作った後――急いでいもを掘り出します。もうこの際手で構いません。身体中泥だらけになってでも手にいれます。

わっせわっせ……くっ、傷口に土が擦れて追加ダメが地味にきっつ……!

 

 

――てててってんっ(巡ヶ丘サツマイモ(品種魔改良)×1を入手しました)

 

 

ヨシ!

今度はリュックを開けて紙を……ああもう面倒です!リュックごと燃やします!これで少しは時短になるはず……!

サツマイモは紙に包んで、その中に!

 

後はこれで――ひぃ!?

割れたドアの窓から笑顔でこっち見てる人がいるぅ!

 

 

「――なぁぎくん。あけて?」ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

 

――いやです……。

 

「なんで?」ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

 

――こわいもん……。

 

「お姉ちゃんは怖くないわ?寧ろ、なぎくんが世界で一番安らげる所なのよ?」ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

 

――おねっ……!りーさんはお姉ちゃんじゃない!

 

「まあ、ひどい。でも、お姉ちゃんなの。ほら、今そっちに行くから一緒にお話しましょ?」ガチャガチャガチャガチャガチャガチャ

 

 

お話通じなぁい。

てか、意味も無くドアノブ回して精神ダメージ与えてくんの止めてくんない!?

 

 

こほんっ。

――では、耐久戦です。

 

焼きいもが出来上がるまではリアル時間で一分ほど。

つまり、この屋上で――この空間で、タイムアップまでの半分を耐えきった後、さらに半分が過ぎるまでに焼きいもを回収。屋上を脱出します。

わぁ、無理ゲー。

 

 

…………やったるぞこの野郎ぉ!

 

 

取り敢えず距離を取ります。

流石の倫理観終わりーさんでも、バリケードごと扉を開けるのはほんのちょびっとだけ時間が掛かるので。少しでも時間を稼ぐ要因は確保しておきましょう。

 

その数秒の間にぃ…………。

み な さ ま の た め に ぃ ~。

――ちょっと弱音吐いていいですか?

 

 

……《料理》スキル……どーしよ……

 

 

いや、スキルポイントを獲得の為に『かれら』倒すの無理くね……?ショタは負傷中で尚且つ武器も無いしぃ……。

あっ、つまりこれはめぐねぇのせいだなっ!おのれめぐねぇ……!(隙逆恨)

 

 

 

「なぎくん、なぎくん」

 

 

あっと、キの字りーさんがエントリー。

ここでやるのは、古き良き追跡者を撒く逃走術――障害物グルグルです!青鬼とかで良くやるやつです!

 

これを花壇でやりま……あっ!乗り越えてくんの反則だろお前!

ゲームの追跡者が一番やっちゃいけない事平気でやらないでよ!うわっ、一瞬で破綻したぁ!

 

ぐっ、また包丁がかすりました。

 

……なんとかギリギリ直撃は回避してますが、かするだけでもクソ雑魚ショタには致命的です。じわじわと体力が削られます。

体力が減るとその分動くスピードも落ちますので、さらにそこを狙われ、また体力が削られます。

うぅ……ジリ貧……!

 

 

「なぁぎくん」

 

 

――うひぃ!?

そんな思いやりの籠った言葉と一緒に包丁振り下ろすのマジ止めて精神が揺れるの!主に私自身が!

てか、直撃コースだったらふくらはぎパクって裂けてたと思うんですが!?姉弟として幸せになる前に死会わせでナムーでお仏壇の長谷川ー!(混乱)

 

 

「なぎくん――止まって?」

 

 

はッ!(嘲笑)止まれと言って止まるやつがどこに――って、止まるなショタマジで止める奴がいるかぁ!?

ぐおっおっおっ。

ゆっくり近寄ってくるりーさんマジキレイ…………目ぇガン開きで包丁持ってそこから血が滴ってなければね!

 

 

「なぎくん。私達は家族なの。一緒にいるべきなの。だからもう鬼ごっこはやめましょう?お姉ちゃん、大好きななぎくんがお遊びでも離れていくのを見るととても辛いの」

 

 

(家族じゃ)ないです。

 

 

「…………ん。お姉ちゃんは悲しい。イヤイヤ期なのは分かるけど……どうしたら素直になってくれるのかしら?」

 

 

えぇ……(ドン引き)。

 

さて――おいもはぁ、まだちょっと掛かりますか。

早くとりたいですが、ベストなタイミングじゃないと「焼きいも」じゃなくて「生焼きいも」になってしまって、スイートポテトになりませんからね。

その前に、ショタの命の蝋燭が焼き落ちそうですけどねぇ!?

 

 

「――あっ、そうだ!お姉ちゃん、良いこと思い付いちゃった」

 

 

ろくな事じゃないのだけはわか、うひゃああああ!?

なっ、舐めっ!いきなりショタの傷口舐めた!流石にちょっと今のはゾクっとしましたちょっと興奮する(性癖の開示)。

 

てぇ……えっ――なんでいきなり、包丁で自分の指でサクッって刺したんですの?

あっ、自分で指ペロしてる……えっ、イメージビデオみたいな事してどうしたの……?現役○K鮮血指ペロ動画なの……?

 

 

「私達は姉弟。血が繋がってるの。だから、ほら――お互いの血を舐め合ったら、きっとなぎくんは、心の底から素直になれると思うの――私達は姉弟だって!!本能で、身体で、心で。……ね?お姉ちゃん賢いっ!」

 

 

………?

 

…………????

 

???????????

 

 

Hey, Siri.

りーさんは何を言ってるの?

 

――すみません。よくわかりません――

 

だよなぁ?

こればっかりはSiriを責められん。

 

えっ、どゆこと?

アレか?血で感じろっていう事?いつからこのゲームはBloodborneになったんです?

 

あっ、もしかして血を飲み合えば混じって血が繋がる→つまり家族!

そういう理論……?

うわキツ好き。

 

 

「さぁ……なぎくん……」

 

 

さぁ……じゃないんだが。

てか、血の滴るりーさんの指は結構セクシー……エロい……!ってってそうじゃないそうじゃない。

にっ、逃げます!このショタはノーマルなんだよぉ!(私は一向に構わんッ)

 

おいもっ!おいもは……まだ掛かる……!

ええっと。ええっと。なんか、もうちょいなんか無いのか……!

 

 

「逃げないで」

 

 

ぐっ……!ぐぐっ……!

何とか回避出来てはいますが、それでも小さな傷は増える一方ですね。

てか、この傷の量じゃあ遅かれ早かれ処置せんとこのクソ雑魚ショタなら瀕死やぞええんか!お姉ちゃん!?…………じゃない!りーさん!?

 

 

「受け入れて?」

 

 

おいもぉ!(回避)

…………ヨシッ!もういいな!

 

では、さっさと入手します!あっちちっち……!(火傷)

手のひら全体が大火傷ですが、気にしません!その前に死とRTAの危機なんだよぉ!

 

三階に戻り、バリケードまで走りま――とぉ!?あかん!転んだ!くそっ、流石に病弱怪我人ショタには辛かったか!

傷でのダメージ蓄積もありますし、仕方ありませんが――早く起きないとお姉ちゃんがくるぅ!

 

ボタン連打で起こします!

――諦めんなよお前!どうしてそこで諦めんだよそこでぇ!(SYUZOU式ボタン連打術)

 

 

くっ!(疲労困憊)

流石にキツいですね……。このままだと普通に逃げ回っても捕まるビジョンが見える見える…………(戦慄)。

なんとか一つ、大きく時間を稼げるイベントでも起こせれば……!!

 

 

「……なぎくん。本当にそろそろお遊びはおしまいにしましょう?遊んでる時にお怪我したでしょう?早めに手当てしなきゃ、いたいいたいなのよ?」

 

 

…………()()()。――そうです!

 

私に良い考えがあるっ!

 

ここは強引にバリケードに向かいます!

いっそ捕まる一歩手前でもいいから、強引に!

 

 

「あら。なぎくんダメよ。そっちはお外よ。危ないわ」

 

 

今のお姉ちゃんに比べたら『かれら』の方がまだ可愛いですよーだっ!

 

 

 

 

 

 

バリケードに着きました!バリケードはぁ……ああ、やっぱり隙間が塞がれてる。きたない流石お姉ちゃんきたない。

 

では、後は――待ちの一手です。

 

 

「うふふっ……――もう鬼ごっこはおしまいね?」

 

 

ショタも限界なのか、バリケードにもたれ掛かって座り込んでしまいました。ううん…………ファインプレイ!

バリケードに血が擦れて、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「さぁ……お部屋に戻りましょう?そこでゆっくり過ごしましょうね?」

 

 

来い……来い来い来ぉい!

二分以内!二分以内来て……来て下さい!新鮮な良い匂いがするダルルォ!?

 

 

「お姉ちゃんがぎゅーってしてあげる。よしよしっていっぱい慰めてあげる――もう苦しむ必要なんてない。泣く必要なんてない。必死に取り繕って誤魔化す必要はないの。お姉ちゃんに全部委ねて……?そうすれば守ってあげる。どんなものからも――絶対。だって、私はなぎくんのお姉ちゃんだもの」

 

 

…………(白目)。

 

どっ、どうして来ないの!?いつもは「( ・∀・)ノ」とか「♪( ´∀`)人(´∀` )♪」とか「( ̄ー+ ̄)」とかみたいな感じで、呼んでもないのに湧いてくるくせに!

こういう時に限って来る気配ないとかほんと性格悪いよ君たち!?

 

 

「ふふふ、さあ……なぎくん。おいで……?」

 

 

うへわあ!

プレイ画面もドンドン暗くなって、お姉ちゃんの恍惚とした笑みが迫ってくるぅ!怖いけどエロい、エロいけど怖いお姉ちゃんがぁ!?

 

夢に出てきそう(率直)。

 

 

 

「これから――ずっと、お姉ちゃんが一緒よ。絶対に離さない」

 

 

 

あっ(過呼吸)

 

 

 

 

 

あっ……(酸欠)

 

 

 

 

 

あっ………………(窒息)

 

 

 

 

 

『……ァ……ィア……』

 

 

 

 

――キタァァァあァ!(蘇生)

 

 

 

 

「なっ……!」

 

 

おし!蕩けスマイルが離れた。

そうでしょうそうでしょう!なんたって――ショタの血に引き寄せられて、『かれら』がやってきましたからねぇ!

 

 

『……ァ……ァァ……!』

 

 

おおっ、バリケードの隙間から腕が――痛っ、いたた……!

ショタの肩が引っ張られてます。バリケードで口が届かないから、獲物を引き寄せようとしてるようですねぇ。

 

…………。

 

エンディングには……移行、しない!

……という事は!

 

 

「……っ、汚い手で私の弟に触れないで……ッッ!!」

 

 

よし!回避!はい、緊急回避ィ!

エンディング条件は()()()()だもんなぁ……?

ショタ、お姉ちゃん、『かれら』の一体――これで三人だから無効だって、はっきりわかんだね。

 

 

「――このッ!」

 

 

っとと。

お姉ちゃんの攻撃で『かれら』の手が離れました。……そのままやたら半狂乱で隙間から刺し続けてますね、こわっ。

……キレる十代や……現にショタ斬ってるしな、ってやかましいわ。

 

気が逸れている間に、この場を離れましょう。

これならしばらくの間、『かれら』に釘付け。この間に、部室のキッチンに向かいましょう。

 

 

 

 

部室に着きました。

扉を閉め、ついでに鍵を掛けてしまいましょう。

 

キッチンでは、お姉ちゃんが作った美味しそうなカレーがコトコトしています。んまそぉぉぉ!!(グルメスパイザー)。

 

…………クリアしていない諸々は一先ず置いといて。

――『スイートポテト』の材料を用意しましょう。 

 

ゲーム内で必要なのは、焼きいも・砂糖。後はコンロと鍋類です。

ええっとぉ……ああ、ありますあります。

 

 

でぇはぁ………………スキル。

どうしましょうか。いや、ここまで至ってはもうどうにもできないんですけどもね。

 

 

……無くても出来るかなぁ。

 

 

もしかしたらWIKIがスキル無いと出来ないって思ってるだけで、ほんとはできるかもしれないし。さっきの「――ばぁ!!」で信用ならないってのは確定してますからね。

 

よぅし……では――調理(クッキン)開始(オン)

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

・まずは焼きいもを潰します。

 

・砂糖をたくさん入れて混ぜ混ぜします。

 

・それをフライパンで油も引かずに焼きます。

 

・で き た ! (迫真)

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

………………。

 

………………。

 

これただのさつまいもの素焼き(砂糖味)じゃねぇか!!!

 

えっ、えっ、えっ。

それも焦げが付きまくって見映え最悪。ただ潰して丸めて焼いただけじゃん。えっ、スイートポテト?スイーツ(笑)ポテトの間違いでは?

これが高校三年男子の料理なんですか(苦笑)。幼稚園年長さんの間違いでは(微笑)。笑っちゃうぜ!(嘲笑)

 

あっはっはっははっはははははははあははh「なぎくん、開けて」あびばいおじがlでぃfさじlさkどj!!!

 

オワタ……オワタ……!(鳴き声)

 

 

「――怖いのはお姉ちゃんがやっつけたわ。怖がらせてごめんね?びっくりしちゃったよね。不安だよね。ほら、開けて?もう怖がらないで……?」

 

 

怖いのはお姉ちゃんなんですけどねぇ!

あっ、あっ。どっ、どうしよ――うもねぇ!?もう万策尽きたよ、

いまの今までのが全部、スイーツ(笑)ポテトのせいで全部おじゃんだよ!これならまだただの焼きいも渡した方が良かった気がする!

 

 

スイーツ(笑)ポテト「本当に申し訳ない。ぺこり。……でも、こういうのは被造物のぼくではなく制作者が責を負うべきだとぼくは――」

 

 

うっさい!散れ!

 

ああ……ドアが軋む。めっちゃ蹴られてるですけど……。

 

ああ。

 

 

もっ。

もう――これ食わせます!いやもうそれ以外できる事はありません!

他はお姉ちゃんの弟になるか、抵抗してからお姉ちゃんの弟になるかのどちらかしかありませんからね!

 

くっ、来るなら来《ドンガラガッシャーン》……やっぱり来ないで……!

 

 

「――ふぅ。あっ、いたぁ」

 

 

いなぁい(最後の抵抗)。

蹴破ったドアを踏み潰しながらやってくるお姉ちゃんが逞しいが過ぎる……!

 

 

「ふふっ、お腹がすい……?ああ、もしかしてお姉ちゃんの為にお料理してくれたの?嬉しいわ……でも。火は危ない。危ないのよ?これからはお姉ちゃんと一緒にやりましょうね?」

 

 

これだけ聞くとまるでお姉ちゃんみたいだぁ。

でも全身血まみれで包丁持って言われるとアレですね。貫禄というか…………殺人鬼感っていうか……(畏怖)。

 

びっ、ビビってる場合ではありません。

もうやるしか……ゴー!

GO IS GOD……つまり、行動する事(GO)とは(IS)神の一手(GOD)……!(こじつけ)

 

 

――こっ、これ!

 

 

「……?なあに?お姉ちゃ、ん………………――それは」

 

 

おっ、この反応は――真剣ゼミ(こうりゃくどうが)で見た奴だ!

押し通れェ!!(誉れ並感)

 

 

――これ、スイートポテト!あの日約束したでしょ!?お姉ちゃん!

 

 

それはスイートポテトそれはスイートポテトそれはスイートポテトさつまいもの素焼き(砂糖味)ではない違うあり得ない断じて違う――敵を騙すにはまず味方から!

でも、見た目自体はほんとにこのゲームの『スイートポテト』なんだ――焦げまみれで砂糖がそのまんまの、そのまんまサツママッシュポテトなんだけどさ。

スイートポテト……これはスイートポテトなんですよお姉ちゃん……!!

 

……てか、ショタもうお姉ちゃんって言ってる!?これもう洗脳されてんじゃん!失敗です!?

 

 

「………………」

 

 

……いっ、いやこれはぁ……もう一押し!

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()でも、でも……()()()()()()()()()

 

 

どうだ。良い感じだろ!

月並みだからこそ刺さるものがあると信じてる!

 

通れ……通れ……!

通ってくれぇ……!!

 

 

 

 

「――あっ」

 

 

 

 

おっ?

 

 

「えっ?あれ、なにが……っ?………どうして血……ひっ……!?」

 

 

――からん、と落ちる包丁。

ガン開き血走り目はぁ――閉じられた。

 

 

…………っ!

 

 

() () () () ()

いけた!さつまいもの素焼き(砂糖味)で行けたぞ!えっ、マジでこれがスイートポテトだったりするこれ!?

それとも今までの技術点が功を奏したのか……!?

 

ともかく!

ともかくやりました!――バッドエンド回避FU~!!

 

 

あ゛あ゛あ゛……づがれだ。

 

タァイムはぁ…………ああ、かぁなぁり、ロス。

これは二日目の三階制圧の分とか、チョーカーさん救出の分とか全部帳消しでなおかつお釣りがドン!……とんでもねぇな、ふぁみお姉ちゃん。

でも、RTAのバトンが繋げられた事は喜びましょう!

……動画的に見せ場もできたって事で視聴数も爆上がり、コメントもいっぱいのはず……!(欲望の開示)

 

これからは正気度特級爆弾お姉ちゃんでは無くなるって事自体にも、目を向けましょうか。はぁ……なんか一生分のRTAやったような気がします。

 

 

……むむっ。視界が揺らぎました。

ショタの方も安心して、張りつめた糸が切れたみたいですね。

丁度いいです。このまま気絶して、めぐねぇ達が帰ってくるまでスキップしましょうかね。

 

はい、ばたんきゅー。

がっしゃん!――あっ、さつまいもの素焼き(砂糖味)が地面に落ちた、まあ残当かな。

 

 

 

 

――これでもう、おねっ……りーさんは大丈夫……だよね……?

 

 

 

おい、お姉ちゃんの事りーさんって言うのやめろよ。

 

…………。

 

…………?

 

…………!

 

あっ、やべっ素で間違えちった。私の方が洗脳されてる……!(戦々恐々)

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

――()()()()()()()()()()()()()

深く、ドロリと熱くて冷たい泥の中。そこから意識が這い出た。そうとしか表現出来なかった。

 

夢が覚めたきっかけは単純。

――私を見上げた弟の顔が、妹と噛み合わなくなった。それだけ。

 

 

 

 

「――あっ」

 

 

気がつけば、私は部室で呆然と立っていた。

 

 

「えっ?あれ、なにが……」

 

 

記憶がひどく曖昧だった。

どうして自分がここに立っているのか検討も付かない。鼻を撫でるカレーの香りが、辛うじて料理をしていたという事を思い出す。

そこでふと――嗅ぎ慣れない、鉄錆びの匂いが近くから濃密に漂っているのを感じた。

 

 

「っ?」

 

 

視線を辿ると――制服の前面が、血で真っ赤に染まっていた。

 

 

「………どうして血……ひっ……!?」

 

 

右手に握られた血まみれの包丁に気がついて、反射的に手放した。

からん――と落ちたその音は、これが現実だと、私に教えてくれた。

 

どういう事?私はいったい何をしていたというの……?

記憶を辿ろうにも浮かぶ思考はひどく焦燥として――()()()()()()()()()()()()()、という確信めいた強迫観念だけが心臓を強く叩く。

 

――がっしゃん。

 

そんな私の耳に響いた、お皿の割れた音。

突然脳裏に浮かんだのは――今はもう古ぼけた、お母さんに怒られた時の記憶だった。

 

振り向きたくない――と、誰かが呟いた。

振り向きなさい!――と、誰かが怒鳴った。

 

恐る恐る向けた視界に映ったのは――床に倒れ伏したなぎくんだった。

 

 

「――なぎくん……っ!!」

 

 

慌てて駆け寄ると、彼はひどい姿だった。

全身は血と土に汚れて。顔は青白く、力無く投げ出された腕は制服の外から切り傷だらけで、手のひらは赤く水ぶくれが出来ていた。

溢れる吐息は痛みに揺れて、か細くて。

 

「いったいなにが――「やっと――二人きりになれたわね?」…………あっ」

 

 

耳の奥から聞こえてきたのは、熱く蕩けた――気色悪い自分の声。

 

「ふふっ……鬼ごっこだもの。ちゃあんと十数えてから始めましょう?」

 

「逃げないで――受け入れて?」

 

「ふふふ、さあ……なぎくん。おいで……?」

 

「これから――ずっと、お姉ちゃんが一緒よ。絶対に離さない」

 

 

弾かれるように、床に落ちた包丁を見た。

皆を助けていたはずソレは、血脂で濁っていて。

刃に写ったのは――そんな大切な友達を、身勝手なイカレた妄想で傷つけたどうしようもない女の姿。

 

 

「ち、ちがっ……!」

 

 

誰かに言われるまでもない。

 

 

「いやっ、いやぁ……!」

 

 

私がやったんだ。

 

 

「いやあああああ!!!!」

 

 

くしゃりと歪んだ顔。

泣きたいのは、きっとこんな私じゃなくて――なぎくんのはずなのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

応急手当の本と救急箱があって助かった。きっと、よりひどくなる前に処置ができたと思う。

 

……でも、なぎくんの傷を一つ一つ見ていく内に、それをやった時の私のほの暗い悦びを思い出す度に。

そして――()()()()()()()()()使()()()()()()()……使わなければいけないほどだったという事実が。

 

私を苛んだ。

 

 

「…………」

 

 

部室の床の上。

幾分か落ち着いた顔で、私の膝で眠っているなぎくんを眺める。

 

 

私は全て思い出した。

 

私は羨ましかったのだ。

家族を失った私の側で、互いを唯一無二と笑い合うなぎくんとゆきちゃんが。

 

 

そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と想像し始めた事が全ての始まり。

 

それから現状が悪くなる度に、頭が痛くなる度に。

空想に逃げた。呼び掛けられるまでぼんやりしてしまうほど、深く。

 

なぎくんの優しさに触れる内に――いつのまにか、その相手がなぎくんにすげ替わって。

 

 

そしてあの、雨の日に。

私達を守ろうと飛び出したなぎくんが――亡くなった私の妹……るーちゃんと被ったように見えた。

それから……恐怖で。

 

なぎくんとるーちゃんが混じって……――あの子は私の(いもうと)。そう思うようになった。

 

それから今の今まで、なぎくんは私の家族だった。私の中だけで。

膨れ上がった妄想を抑えられなくなって、いつしかそれが現実だと思い込んだ。るーちゃんとの思い出はなぎくんとの思い出になって。

辻褄合わせを繰り返して――――

 

誰にも気がつかれる事の無かった私の狂気は、二人きりになってしまった事で――鎌首もたげて、彼に襲いかかった。

 

 

「……なぎくん」

 

 

ほんの少し前まで助け合う友達だったはずの女が――突然己の姉を名乗り出し、刃物片手に襲いかかったのだ。

どれほど、どれほど……!

怖かっただろう。辛かっただろう。気持ち、悪いと。思った事だろう。

 

無意識になぎくんの手を握ろうとして――火傷の水ぶくれが目に入って、やめる。

 

私は彼の手を握る事も出来ない。その資格もない。

傷つけて、追い詰めて、こんなにもボロボロにして。

 

なのに――()()()()()()

 

 

「なんで……」

 

 

思い出すのは――なぎくんとの“鬼ごっこ”。

あれは恐怖から逃げているのだと思っていた。でも違う。

彼は恐怖から逃げていなかった――私を、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なんで……私は……!」

 

 

職員室、屋上、部室。

駆け巡ったそれは全部――なんてことのない“約束”を果たす為だった。

私が気づくであろう、友達であった時の記憶。そうすれば、きっと元に戻ってくれるはずだって信じて。

 

私を、助けようとしてくれた。

あんな狂って狂って狂いきった気持ち悪い女を……彼は……!

 

 

なぎくんは、自分もおかしくなっていても――助けてくれた。救いだしてくれた。

 

それが――

 

 

「どうして――()()()()()()()()()……!?」

 

 

傷つけたくせに。

追い詰めたくせに。

こんなにもボロボロにしたくせに。

 

――私は、なぎくんに対してほの暗い悦びを覚えていてしまっていた。

 

 

「――んっ……?」

 

ふと、膝から小さな音が聞こえてくる。

下を見ると――うつらうつらと目を瞬かせたなぎくんが、こっちをぼんやりと見つめていた。

そうして、私が膝枕をしている事に気づくと――びくりっと身体を震わせる。

 

 

「おっ……おねえちゃん?」

 

怯えるような。すがるような。

そんな小さな声に、私はせめて安心させるように首を振った。

 

 

「ううん。――私は、()()()()()

「……そっか。うん、そうだ……そうだった……うん」

 

 

ふぅ……と深く息を吐いた彼の頭を静かに撫でる。

震えが返ってくる事が、私の罪を自覚させてくれる。

 

 

「ねぇ、なぎくん」

「なっ……なに……?おねっ……じゃないちがう――んんっ!りーさん?」

 

「私は――まだ、友達かしら?」

 

 

自分でも心底虫の良い事を言っているのを理解していた。

そして――この後言ってくれる優しい言葉も。

 

 

「うん?勿論――りーさんは大事な友達だよ」

『――お姉ちゃんは家族じゃないっ!でも、でも……大切な友達なんだよ!』

 

 

ああ……ああ……。

 

 

「ありがとう」

 

私はそう呟いて、額にキスをした――歪んでいる口許が元に戻るまで。

 

 

「本当に大好きよ。私の大、切な…………わ、たしの……」

 

 

ふと、呟きそうになった言葉を抑えた。

なんだ。つまり私は――()()()()()()()()()()()()()

 

 

「ねぇ、ねぇ……なぎくん」

「えっ、は……えがおこわい……なんで、しょうか……?」

「これね。一生のお願いなのだけれど……」

「…………」

 

 

「もう一度だけ――お姉ちゃん、って呼んでほしいの」

 

 

「…………」

「…………」

「………おっ――」

「……っ!おっ?」

 

 

 

「――おとこわりですよーだ!この○姦魔!!」

 

 

 

 

あっ。

 

 

強○魔は流石にお姉ちゃんグサッときた。

いっ、いやそれは流石にひどくないかしら!?

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

「――ふぅ。さあって。ようやっと到着だぞぉ……皆お疲れさん」

「あああああ、つかれた。荷物はぁ……どうする?まだ大半は車の中だけど……」

「折を見て、次の夜に回収しましょ?皆日持ちするものだし。ふぅ……美紀さんも圭さんも手伝ってくれてありがとうね?……太郎丸もおつかれさま」

 

 

「いっ、いえいえ!あんな大ピンチを助けてくれて、尚且つ学校にまで連れて来てくれて……それに、大の親友とも再会させてくれて……寧ろもっと好き勝手使ってくれて大丈夫ですよっ!」

「圭、言い方。……私も改めてありがとうございます。あのままだったら……きっと」

「わんっ!」

 

「ああ、いいのいいの。気にすんな気にすんな。こういうのは……ほら、“旅は道連れ”……だろ?」

「そーそ。一番先頭に立って無双しまくった胡桃本人が言ってんだし、そう気負らなくていいって」

「ええ、そうですよ。それに…………」

 

「……?」

「それに?」

「わぅん?」

 

 

「――もし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そーだなぁ、やなぎなら助けるな絶対」「寧ろどんな大ピンチでも行ってたな、柳なら」

「……結果的に今回は連れてこなくて正解だったな」「んだなぁー」

 

「――そう、ですか」

「…………。えっとぉ、万寿先輩は、若狭先輩とお留守番してるんでしたっけ。佐倉先生」

 

「ふふっ、別にめぐねぇでもいいわよ圭さん。ええ、ちょっと……ね。まだ説明が思い付かなくてごめんなさい」

 

「いえいえ!別に……他にも助かってる人がいるなら嬉しい限りですよ!ねっ、美紀!」

「……そうだね、圭」

「わん!わん!」

 

 

「まあ、そんなこんなでおつかいは大成功な訳だが…………」

「……そうだな。だが、二人が心配だ」

「梯子が片付けられている。バリケードは通る隙間を塞がれている。……なにかあったと見ていいかもしれません」

 

 

「……連中の死体も血の跡も無い。だから、大丈夫……だろ?」

「だと、いいんだが」

「……!声が……!」

 

「あっ、おい!めぐねぇ!危ないかもしれないって!」

「あー。とりあえず二人とも。それと犬っころも。着いてきてくれ」

 

「はぁーい!」「はい」「わぁん!」

 

 

 

 

「やなぎくん!大丈夫で――」

「めぐねぇ!前に出過ぎて、またなん――」

 

 

「――ふしゃぁああ!!」

「落ち着いて?ねっ、落ち着いてなぎくん!ほっ、ほら一回だけ!一回だけでいいの!それだけで私頑張れる気がするの!だから包丁持って威嚇しないで!」

「――ふしゃぁああ!!」

 

 

「…………えっ、これどういう状況です?」

「……けんか?」

 

 

「先っちょ!先っちょだけでいいから!」

「ぅぅぅ……うるさい!最初は皆そういう言うって結局ズルズルなし崩しって相場が決まってるの!」

「えっとえっと……ともかく!一回!お願い!これで最後だから!」

「そんな、別れたいのに身体の相性だけは良すぎて結局惜しくなって別れられない爛れたカップルみたいな事言わないで!」

 

 

「えっとぉ……色々気になる事があるけどとりあえず止めましょうか。くるみちゃん」

「……そうだな。特に――やなぎが傷だらけの件とか」

 

 

 

「ゆきちゃんたすけてぇぇぇぇえ!!!」

 

 

 

 

 

 





ーーーーーーーー
※解説byWiki


『りーさんの包丁』

入手条件:りーさんの信頼イベントクリア後・“YOU MAY CALL ME SISTER”イベント回避時・殺害時。


若狭悠里がいつしか使っていた包丁。
その用途は物を斬る事であれば何でも出来る。
――ようは使い方次第で、これはその意味合いを変える。

だが、ナニカの脂で光が鈍った刃を見れば、これを食用に使う者は少ないだろう。


装備すると、攻撃力が中程度アップし、カウンター成功時に高確率で相手が即死する。


これは彼女の罪の証。
見る度に彼女は決意を新たにするはずだ。

彼女は、もう二度、あなたを、傷つけない。
あなたを決して否定しない――たとえどんな事を行おうとも、彼女は微笑んであなたを肯定する。

彼女は、もう二度と、あなたを、決して裏切らない。
その――狂気のような正気を以て。




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十日目 WELCOME TO “SCHOOL liFe CLUB”!!


(びっくりするほど期間が空いて、申し訳なさ過ぎて)初投稿です。
(待たせたお詫びに前後編を混ぜて一つにしたのでボリュームがとんでもないので)初投稿です。

(ちなみに私が密かに悩んでた「文字数からしてRTAじゃねぇんだよなぁ!?おめぇなぁ!?」問題は、時間とともに吹っ切れたので)初投稿です。


完走の為に安定を取ったぜ(結果的)なRTAはーじまーるよー!

 

 

前 回 ま で の あ ら す じ 。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

・VSふぁみりーさん。

 

・要約:「お前も家族だ」「家族じゃねぇし!」「お前も家族だ」「だからちがっ「お前も家族だ」「話聞けよ!」

 

・慟哭、苦痛、洗脳、希望、陵辱、感動――全てを乗り越えた先に待っていたものとは―――!!

 

「くにへ かえるんだな。おまえにも かぞくが――は?もう一回だけお姉ちゃんって呼んで?……………は?」

 

は????

――ラウンド2……ファイッッ!!

 

ゴリラ一行「なにやってんだあいつら……(ドン引き)」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

――はい。

まあ、ラウンド2は無いんですけどね。初見さん(無慈悲)

 

 

昨日の最後のドタバタは流石にイベント扱いなので暗転します。

(あんな状態で収拾つくわけ)ないです。

なんやかんやあってなんとかなります。なんやかんや。

 

 

さて。

イベント連打流し中に、えんそく組が帰ってきたのも確認出来ました。

とりあえず、無事えんそくは成功したと見ていいでしょう。

うーん……みーくん達を助けられたでしょうか。特にけーちゃん。駅からの救出は結構難しいですからねぇ。

 

 

「――あっ。……おはよう、やなぎくん。よく眠れた?」

 

 

――ぬっ。

目を開けると、そこにはめぐねぇのドアップ。どうやら起きるのを待ってたみたいですね。

ショタの枕元から見下ろす状態で、垂れる髪で陰る優しげな顔も良――髪が顔に当たって邪魔だおらァ!

場所は寝室で、朝日が覗いています。どうやら十日目に移行したようです。

 

 

「やっと起きたぁ……ふふっ、お寝坊さんだね」

 

 

――ぬッッッッ!!!……ふぅ。

ゆきちゃんが、ひょこりと顔を出してきました。一緒に待っててくれたようですね。

 

――あぁ〜……!(浄化の音)

 

このスチル、この……ねっ!

髪先がかすかに顔を擽るこの距離感、少し空いた窓から覗くお日様に照らされ、少し陰る顔には、優しげに緩む瞳と悪戯な口許……!!

最高やで。めぐねぇと比べるまでもねぇ。

 

りーさんの蕩け笑顔とは大違いで心が落ち着くなぁ!!(小声)

 

 

「……まだぼうっとしてるの?朝ですよ、そろそろ起きましょ?」

「そーだよやーくん!ほらぁ、起きないとほっぺ、くにくに〜ってするよ?」

 

 

う゛う゛……!!クニクニシテェ(断末魔)

 

 

「ありゃ。……もう!二度寝はだーめぇ!起きるの起きるのおーきーてぇ!」

 

 

――起きます(げんきのかたまり)(ザオリク)(フェニックスの尾)(リザレクション)(メダパニ)(メロメロ)(パフパフ)(アニメ版だと意外にセクシー曲線が輝くゆきちゃん)(ニフラム)

 

二人とも、おはよう(すっきり)。

 

 

「うん!おはよーやーくん!」

「……ええ、おはよう。ゆきちゃんも、おはようね。……さっきもやったかしら」

「したよめぐねぇ。もー、こーねんきはまだ早いよ?」

 

 

めぐねぇがキレそうな事をさらっと言うゆきちゃんはマジゆきちゃん。

 

と、いう訳で。

前回、無事に……無!事!に!

ふぁみりーさんを突破する事が出来た訳ですが気を抜いてはいけません。

 

――RTAは続いています。

 

RTAは続いています(固辞)。

RTAは……続いて、いるんです……!(切実)。

 

ですので、今日は皆様に「あっ、そういえばこれRTAだったな……(懐古)」と思わせるムーヴを徹底していこうと思います!ロスと引き替えに切り札を一つ増やせたと思えばいいんですよ昨日のは!

 

昨日は――タイムを犠牲にRTAの安定を取ったんですよ。

……てぇ、事はですよ?

これ以降は――安定を犠牲にタイムを取ればプラマイゼロでイーブンになると思いません?(単細胞思考)

 

チャートは逐次、組み直して進んでいきましょう!

……だって、本チャートがどっかのバール泥棒で崩壊して、残骸から作った補完チャートもふぁみりーさんが蹴散らしやがりましたからね!

 

高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変なRTAです(これを、行き当たりガバったりと言います)。

 

とはいえ、今日に関しては短縮要素は少ないです。処理と外せない好感度稼ぎが控えています。

……午後くらいですかねカットできるの。幸いな事に、ふぁみりーさんのせいでショタの疲労は留まる事を知りませんからね。

 

 

「やなぎくん……」

 

 

ん?何やら心配げなめぐねぇが。

どうしたどうし――おや、ふにふにと頬を挟み込んできました。

おっ、これは……?

 

 

「ごめんなさい」

 

 

なんのこったよ。

 

 

「ゆうりさんの事……気づかなくて」

 

 

まあ、アレは私も予測してなかったですからね。しょうがないね。

隠れ発狂枠としての実力を遺憾なく発揮した形です(白目)。

……くそっ。気づいてたら、上京する恋人を乗せた電車を無謀にも追いかける田舎少年ムーヴで無理矢理着いてったものを……!

 

 

「こんなに……っ、傷ついて」

 

 

めぐねぇが潤んだ目でショタを見つめてきてます。顔も少しクシャついて泣く一歩手前ですね。

あー、てかこれは――

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……怖かったよね?痛かったよね?私がちゃんと見てなかったばっかりに、また貴方を傷つけて……!」

 

 

――責任、感じてますよね?

腕の傷や手の平の火傷を撫でる手先が震えて悲壮感パないです。

 

いや、めぐねぇは悪くないと思いますよ正直。大体ふぁみりーさんが悪いと思うよ?だってショタを家族だと勝手に思いこんでるってどう考えても気付ねぇって。しょうがな、……しょうが、うん?

 

……いや、ちょっと待ってほしい。

 

そもそもあの場面で学校に残るという選択肢を選んだのは、めぐねぇがバールを盗んだからでは?ショタが戦闘員になれなかったからでは?

 

――やっぱりめぐねぇのせいじゃないか!責任感じてろおまえ!(手のひらクルー)

 

 

「ごめんね、本当にごめんね……!」

「めぐねぇ……」

 

 

とはいえ、このまま落ち込ませているのは悪手です。

 

めぐねぇはただでさえメンタルよわよわなので、こういうちっちゃな事ですーぐ行動不能になりますからね。(普通めぐねぇならともかく、覚醒めぐねぇにくよくよさせる時間は)ないです。

横で、ゆきちゃんもアワアワしているので、さっくりケツを蹴り上げましょう。

 

……なんで慰められる側のショタが慰める必要があるのだ?(疑問)

 

ええっと。そうですね。変化球飛ばすとあらぬ球が飛んできそうだし……。

――大丈夫だよ。結果的に皆無事だったじゃん。ヘーキヘーキ。

 

まあ、こんなんで大丈――

 

 

「――大丈夫じゃないっ!」

 

 

えっ。

 

 

「大丈夫なんかじゃない!貴方が……貴方が無事でなければ何の意味もない!!貴方を守る為に、守る……なのに、また、また私は……!!」

「えっ……あっ、め、めぐねぇ?」

「ねぇ、ねぇお願い約束して次こんな事あったら自分の身を守る事だけを考えて周りなんてどうでもいい貴方さえっ、貴方さえ無事なら私は――っ!!」

 

 

あっ、なんか地雷踏んだ。

なして?いや、普通に悪くない返答だったじゃん!?

だっ、大丈夫です。こういう時は、奥の手をですね!猫の手を!

 

 

――ゆっ、ゆきちゃんヘルプ!

 

 

「――――」

「あわ、あわわ……あの、めぐねぇ?し、心配してくれるのはありがたいけど、おちついてほしーなぁって。ほら!あんまり騒ぐと近所めーわくだし?」

「………()()()()()

「あの、えっと、心配かけたのはやーくんが百パー悪いし、あとでわたしからもお説教しとくから、ねっ?ねっ?落ち着いて……怒らないで……」

 

 

えっ、なにそれ聞いてない。

 

 

「まだ言ってなかったからですー!もぉー、りーさんの為とはいえ頑張り過ぎ!やり過ぎ!帰ってきたと思ったら包帯まみれだったのを見たわたし達の気持ちになってよもう!」

 

 

でっ、でも乗り越えなかったらガメオベラだったし、そもそも私のせいではなく勝手に発狂したりーさんのせいでは……?

 

 

「いいわけむよーっ!むがぁーっ!」

 

 

ひぃ!牙を剥き出しにして襲いかかってきました!

ゆきちゃんフレンズです!タタリガミです!鎮まりたまえ!

さざかし名のあるゆきちゃんと見受けたが何故そのように荒ぶるのかは分かってますが鎮まりたまえーッ!

 

……ここで、めぐねぇを盾に。

そうするとぉ……?

 

 

「っ。……。……ゆきちゃん、落ち着いて。突然取り乱した私が悪かったです。だから喧嘩しちゃだめよ」

 

 

ヨシッ!なし崩しに落ち着きましたね。

流石、空気清浄機YUKI=TYAN。修羅場に混ぜるとあら不思議。途端に和むんで場が落ち着きます。こういうとこは本当に有能ですね。尚、本人大体特大爆弾皆死終。

 

 

「うーっ、うーっ」

「ともかく。やなぎくん、次は絶対に危険な事はしないで。私と……ゆきちゃんに約束して」

「そーだそーだっ!」

 

 

おう、考えてやるよ(危険な事しないと短縮にならないからね。しょうがないね)。

 

 

「やーくん!」

「もう……まあ、次は絶対にありませんから。ゆきちゃんもしっかりやなぎくんを見ていてね?」

「はぁーい!」

 

 

わぁい嬉しいなぁ(正直、邪魔になる)。

……にしても、めぐねぇのショタへの依存が強いな。

いえ、庇護対象に対してはそうなる傾向にはありますが……好感度を稼ぎ過ぎましたかね?後衛要員ってのもあるんでしょうが。

 

メイン盾にはなってほしいんですが、モンペにはなってほしくないんだよなぁ……(わがまま)。

 

 

「それじゃ、ご飯にしましょう?ゆうりさんの事もそうだけど、“外”で助けたやなぎくんのお友達も紹介し――」

「――わんっ!」

 

 

ん?

 

 

「えっ…?」

「およ?」

「……わぅん?」

 

 

おや。

気づけば、近くにちっこいのがいますね。

 

何者でしょう。

この――終盤に視聴者の涙腺を根こそぎ奪い去る、愛らしくも憎らしい、まるでゆきちゃんの愛をかっさらう為に産まれてきたような、アンポンタンふぁっきん子犬は。

 

 

「わぁ〜!ワンちゃん〜!!」

 

 

…………チッ。

おっと、失礼。つい条件反射で。

淑女の前でなんて下品な……。

 

紳士たるもの。

淑女が子犬と戯れる光景には笑みを浮かべ……――そのまま舌打ちしましょう。

 

ニコチッニコチッ。ニチッコニチッコ。チッチッチッチッチッチッ。

 

 

「かわいいねぇ〜!」

「わん!」

「んぅ〜?こっち向かないねぇ。照れ屋さんなのかな?むふふっ、かあいい」

「わん!わん!」

 

 

……ッッッチィィィィ!!!(霹靂一閃)

 

こっ、このイヌガキ……!

恐れ多くもゆきちゃんに構われているというのに、何故ショタをガン見しやがる……!?ゆきちゃんが可哀想だと思わんのか……!

 

チッ!!!!

……ともかく。

この犬っころがいるという事は――

 

 

 

「あっ……」

「あちゃー……太郎丸……」

 

 

 

直樹美紀(みーくん)祠堂圭(けーちゃん)

 

加入していればこの二人がいるという事です。

まだ知り合って一日も経っていないので、この犬っころはどちらかの側を離れないんですよ。

 

二人とも顔色も悪くないですし、目立った外傷も無さそうですね。特にイベントも起こらずに事が運んだようです。

……救出できててよかったぁ……。

これでダメだったらダメダメのダメでダメがじsglんj(動揺)。

 

 

「……美紀さん、圭さん」

「あっ、えっと……佐倉先生、その……覗き見のつもりは……えっとですね、出るタイミングと、言いますか、あの」

「……いえ、大丈夫。むしろ、丁度良かったです。正式な自己紹介は後でやるつもりだったけど……やなぎくん、二人は昨日おでかけ先で見つけたの」

 

 

ええ、見つけさせましたからね(黒幕並感)。

 

気さくに挨拶をして、無事を喜びましょう。

ゆきちゃん幼なじみルートのおかげで二人とも友達関係ですからね。ほんと、こういう場面では刺さる有能恩恵です。尚、本人(以下略)。

 

 

「はい、なぎ先輩も無事で何よりです!」

「………」

「……ほら、美紀」

「……元気そうで、えっと……良かったです」

 

 

うん?みーくんの方はやけに気まずそ――ははーん(閃き)。

さては私とめぐねぇが絡み合ってるシーン(意味浅)が複雑なんですね。端から見れば禁断の恋だからね。しょうがないね。

 

 

「……っ…」

「あー、っと。太郎丸ー、こっち来なさい」

 

「わんっ!」

 

「あ〜!太郎丸〜!行かないでぇ……」

 

 

こっ、このイヌガ(以下略)。

 

にしても。

この二人も朝起こしに来るとは珍しいですね。こういう時は既存のメンバーが来るのが大半なんですが……。

『合流イベント』前ですしぃ……?

 

 

「それにしてもどうしたの?なにかありました?」

「あっ!そっ、そうでした!」

 

 

――あっ、そっかぁ(天啓)。

昨日はふぁみりーさんの件が――また、りーさんか……!

 

えっと。

仲間が仲間に殺傷沙汰を起こすと発生する、イベントがありまして。

 

 

「そのっ、実はくるみ先輩たちが、若狭先輩の事を囲んで問い詰めてて……!ねっ、美紀!」

「……そうだね」

 

 

ゲーム内で言うと――『尋問イベント』。

ざっくり言えば、吊し上げです。

 

そりゃあ刃物持って仲間を切り刻んで殺しかけたからね。しょうがないね。残当だね。

 

 

「えっと……私たちは当事者じゃなかったので外れてたんですが――ちょっとよくない雰囲気で。圭と話して、先生を呼ぼう、と」

「あー……」

 

「たっ、たいへんだよ!やーくん、二人を止めなきゃ……!」

 

 

まあ、今までの関係性や好感度的にやんべぇ事にはならないと思いますが、このままボケボケする時間がもったいないです。

急いで向かいましょう。ダッシュで!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こちら現場です。

部室前に来ましたが、実に物々しいオーラが漂っていますね。

 

 

「あわわ……!」

 

 

ゆきちゃんのこのくそかわ慌て姿を見れば、雰囲気が如実に伝わってくることでしょう。

腕を前に抱えるブリっ子ポーズでも、ゆきちゃんにさせればタイっ子ポーズ……――王の中の王と言えるんじゃないでしょうか(追いメダパニ)。

 

現場からは以上です。

 

 

「えっと、大丈夫そうですか?なぎ先輩」

 

 

――大丈夫だ。問題ない。

 

………いや、フラグではなくガチで。

吊し上げって言っても大した事は起きないです。流石にこれまでの好感度と正気度は信用出来ます。りーさんとかいう隠れ発狂専門家とは違いますからね。

それに、万が一にもやべぇなら、めぐねぇが近寄らせる訳はないので。

 

ではぁ、行きつけのラーメン屋に入るように気軽にドアを開けましょう。

 

ちわーっ。

 

 

 

「いふぁい……いふぁいわ、ふるみ。ほっぺのひちゃう……」

「おーおー延びとけ延びとけ、このバカりーさんが。やなぎにあんな怪我させやがって……世が世なら極刑だぞこの野郎」

「おんななんらけど……」

「この女郎!」

 

「いちいち律儀か。……よし、悠里。今日から少しの間このボード提げてな」

「……?なぁにこれ」

「お前の悪行が目に見えるようにしたんだ。これを時々見て反省しなよ」

「……たかえちゃん」

「どう?やっぱ、文字にすると客観的に見れ」「これ、女じゃなくておねえちゃんって直し――いっっ!?」

「ごめん、腕抓っていい?」

「抓りながら、いふぁない……ふるみ。やめふぇ、きゃぱおーふぁーになっふぁ――いっっふぁあ!?!」

 

 

「……どういう状況?」

 

 

――私が積み重ねた成果です(ドヤァ)。

はい。部室に入ると、りーさんのほっぺを千切らんとばかりに引っ張るくるみと、手作りボードで戒めを与えようとしているチョーカーさんがいました。

ボードには……『わたしは ひれつなてで やなぎくん を きずつけた さいていおんな です』。

うん、しめやかに悔い改めろ。

 

 

――と、まあ。このように。

 

互いの好感度が高い状態であれば、殺しや悪辣な事をしなければたいていは温い方向になります。

後は被害者本人が許す選択をすればいいだけです。

次やったら、これで済みませんが――ふぁみりーさんに関しては“次”なんてないので問題ありません。

 

皆も出来れば、仲間内で殺傷は嫌だからね。しょうがないね。

 

……ちなみに。

これで好感度が低いと仲違いや幽閉は勿論――極論、処刑です。

『がっこうぐらし!』は好感度激低状態だと、途端に現実的で生々しくなるんですよね。

きららの絵でウォーキング・デッドはやめてくれよなぁ〜頼むよぉ〜。温度差で風邪引くわ。

 

 

「んんっ!!」

 

 

めぐねぇが咳払いすると思い思いに虐めてたいじめっ子(残当)が、いじめられっ子(残当)から手を離してこっちに――ええい!心配しながら頭を撫でるな!両手が塞がってて逃げれん!さっさと次行かせろ!!

 

 

「えっと。美紀さん、圭さん。昨日の事の話し合いをするので、もうちょっとだけ待ってもらってもいい?」

 

「はい。重要な事ですもんね」

「……問題ないです」

 

「ありがとう。さっ、やなぎくん」

 

 

めぐねぇに促されますが……うぅ、昨日の悪夢が蘇ってマジ手が震えてきやがった……!(恐怖)。

ちなみに震えているのは、私だけでショタは平静としてます。マジかお前。

 

 

「なぎくん」

 

 

ひえぇぇ(萎縮)。

 

 

「昨日の事、本当にごめんなさい。おねっ………、……私、どうかしてたわ」

 

 

今もどうかしてるみたいですね。

 

 

「こんな事言うのは恥知らずかもしれない。でも……どうか、私を許して……」

「……さっき、皆でゆうりさんとお話したの。もう、大丈夫だと思……おも、……思うわ」

 

「半ば反省してねぇしな」

「なっ……!傷付けた事は反省してるわ!」

「“は”って言ってんじゃんか」

 

 

せめて嘘でも断定して。

とはいえ、大丈夫か大丈夫でないかと言えば――大丈夫ではありません。

先ほどまでの言動の通り、あの鬼畜クソ展開を切り抜けたとしても、目の前にいるりーさんは――ふぁみりーさんですから。

 

 

「……やなぎ、無理はすんなよ。私たちは大丈夫だからな」

「右に同じく、柳に従うよ」

 

「……あなたが決めて、やなぎくん。……安心して?決して――悪いようにはしないから

 

 

 

囁きが物騒で引く。隣ではゆきちゃんが死ぬほど不安そうに見てきます。

 

当然ですが――即答で赦します。

いやだって、ここで赦さないって選択したらいったいあのホラーはみjfSNwかいんlんくdn(発狂)。

 

 

「……そう」

 

「なぎくん……」

「ゆうりさん。やなぎくんがこう言っているから今回だけは水に流します。でも――()()()()()()()()()()()()()()()。それだけは忘れないで」

「……わかってます、めぐねぇ」

 

 

めぐねぇの声がクソ低くて怖いゾ。

許したい気持ちも勿論あるけど――ショタが許すから許してるが大半だってはっきりわかんだね。……依存、手遅れくせぇなこれ?

 

りーさんも反省したのか、神妙な顔して怖々とショタを抱きしめます。

ショタもひしっと友情のハグを返しました。これにはオーディエンスも「しょうがねぇな(悟空)」と苦笑い。

みーくん達もなんか丸く収まったのをほっとしています。

 

うーん、感動的。

これで満面解決ハッピーエンドってはっき――

 

 

「これからもよろしくね。()()()()()()……」

 

 

やっぱ反省してねぇなこの偽姉。

 

――はい。

 

という訳で、『尋問イベント』と、ふぁみりーさんイベント『YOU MAY CALL ME SISTER』をクリアしたので――これからりーさんはふぁみりーさんとして行動を始めます。

 

ふぁみりーさんは、普通のりーさんとは違い、戦闘にも積極的に参加してくれるようになります。

さらに、これが霞むレベルで有用能力が二点追加されます。

 

まずは、正気度がこれ以上変動しない事。

そして――()()()()()()()()()()()()()()という点です。

 

正気度に関しては、隠れ発狂しなくなるのがいいですね。他の場面でもいちいち止まらない点も素晴らしい。……まあ、これ以上変動しない、という事は――ずっとこのままなんですけどね。

 

そして、命令を拒まない。これが凄いですよ。

例えば。今この場で「ゆきちゃん以外皆殺しにして?」と言うと、戸惑いながらも結局実行するというトンデモさです。これってぇ勲章ですよぉ?(首級的な意味で)

 

つまりは、ふぁみりーさんは“言いなりーさん”になりました。

RTAの為、存分に使って行きましょうふぇっへっへっへっへ(ゲス)。

 

 

 

イベント終了と同時に画面暗転(now loading)

 

 

 

 

そのまま朝食に入ります。

皆で机を囲んで、仲良くいただききます!ですね。メンバーが二人と一匹増えたのでちょっと手狭です。

 

メニューは、昨日キッチンで発見していたカレーです。コーン付きでゆきちゃん受けもいいのが二重丸。特に、新顔の二人にはクリーンヒットでしょう!ええ!

 

 

「……カレーだよ、圭」

「そう、だね……ぐずっ」

 

 

 

ほかほかのカレーを前に、みーくんとけーちゃんは震えていますね。

うるうると涙目で――感動に浸ってます。

 

 

 

「……?やーくんやーくん、二人ともカレーが大好きなのかな?」

 

 

察しの悪いゆきちゃん(かあいい)が疑問に思うのは無理もないでしょう。我々は、食事に関しては二日目辺りから潤っていますからね。

 

 

「――いただきます」

「うぅ……いだだぎまず……」

 

 

察しの良い面々の暖かな視線の中。

二人はカレーを一口。ポロリと零れる涙も飲み込みながらがっつき始めました。その姿は悲哀、そのものです。

 

ただのカレーでなぜに?――と思う初見ニキネキもいると思うので……。

 

 

食事風景を流しながら、ざっと情報の開示をしましょうか。

 

 

みーくんとけーちゃんは、例のショッピングモールでアウトブレイクを迎えた訳ですが、なんやかんやあって――ある一室で籠城生活を始めます。

運良くそこは、トイレ・シャワー完備。さらには当面の水と食料がありました。

 

――()()()()()()()()()()()()

 

 

それに食料っつっても缶詰・レトルト、それが無くなれば乾パンオンリー。

……初日くらいですかね?言ったと思うんですが、腹が満たされるからといって粗食以下の餌を貪ると――正気度が下がります。

ずぶずぶと精神がヤラれていくのです。

 

一歩出れば地獄絵図。しかし、此処に留まっていてもジリ貧になっていくだけ。

我々とは違い、ゴリラを飼っていないか弱いJKには、絶望的な状況。

 

――仲良しだったはずの二人の絆は亀裂が走っていくのです。

 

んでまあ、けーちゃんは現状が嫌になって喧嘩別れな形で“外”に出て、駅でゲームオーバー。

みーくんも孤独に耐えきれなくなって部屋から出て、『かれら』に囲まれたところを“学園生活部”に救われるが、心は荒んでしまっている………。

――というのが本編の流れ。

 

けーちゃんの『生きているだけでいいの?』――は名言であり至言でありながら悲しい言葉ですよねぇ。

 

まあ、ゲーム内では如何様にも出来ます。

今回は、けーちゃんを駅でガメオベラ寸前に救出させたんで此処にいますし、みーくんの心も合流したおかげでそこまで傷にはなっていないでしょう。

 

 

「……っぐ」

「おいひぃ……おいひぃよぉ……!」

 

 

壮絶な展開からこの学校に来るまで――つまりはアウトブレイクからこの十日間、二人はマトモな飯を食べていないのです。

十日ですよ十日。暖かい食事の有り難みが身に染みて溢れ出すのも無理はありません。

 

今の二人は食事で特効がぶっ刺さってるのも当然。些細なことでも好感度があがりやすくなっています。

 

 

ですので。

 

 

――ふ た り の た め に ぃ 〜 。

 

 

ニコリと笑顔を浮かべ「おいしい?」と優しく囁きかけ!

さらには、「もっとお食べ?」とせっせと自分の分も与えましょう!

これで好感度があがります(必勝)。

 

 

そう、気分は――拙い手料理をご馳走する恥ずかしげな同級生……!!

 

 

……あ?

これ作ったの、たぶんりーさんだろって?

…………お姉ちゃんのやった事って、実質的に家族である弟の物だったりもしません?(ここぞとばかり利用する反抗期の鑑)。

 

 

「二人ともお腹空いてたんだねぇ。はーい、おすそわけー。ほいほい」

「ありがどうでずぜんばいっっ……やざじい、ずぎですぅ!」

「あっ、一夫一妻派なんでぇ。お気持ちだけでぇー」

「……ほんとに、優しいのは変わらないですね先輩。……少しだけ安心しました」

「そーでしょう!えらいんだよー?……チラ?チラチラ?」

 

 

なっ……!

本編で空気を読まずに食い意地張ってたゆきちゃんがお裾分け……だと……!?しかも自発的に!?(アピールスルー)

馬鹿な……!これはいったい――あっ、ただの先輩風吹かせたいだけだこれ。

 

 

「はいはい、えらいえらい。……やなぎくん?二人にあげたいのも分かるけど、自分の分も取っときなさい?お腹空いちゃうわよ?」

 

 

えー。

でも、もうこれ以上ショタに飯食わすメリットもないんですよねぇ。あとは好感度上げてぇ、さくっと最終日に感染するだけなんで。

まあ、無視してゆきちゃんにでも上げましょうかね。

 

はい、ゆきちゃん。

いっぱいお裾分けえらいねー。ごほうびあげますよー。

 

 

「――()()?」

 

「わぁい!ありがと、やーくん!あーん」

 

 

うぅーん。ゆきちゃんの大口……せくしぃ。

サメってぇ口を開けるのが求愛の証らしいっすよ(雑学の開示)。

 

はい、あーん。

 

カレーはゆきちゃんの好感度上げやすいので一石二鳥でありがた――

 

 

「あら、ありがとなぎくん。んむっ」

 

 

……は?(半ギレ)

 

 

「んー!おいしい。なぎくんの愛を感じるわ」

 

 

は?(全ギレ)

 

 

「なっ…なっ…!!」

「でも、このカレーは元々なぎくん用に作ったから、なぎくんに食べてほしいなーって。はい、お返しのあーんっ」

 

 

は?えっ?あーん。

あっ、正気度の回復幅やば。もうこれショタ専用メニューじゃ――なくて!!

 

 

「なんで取るのー!やーくんの愛ー!」

「ふふふ?美味しいでしょう?……思い出は嘘だったけど、なぎくんを思って作ったのは間違いないから、遠慮なく食べてね?はい、あーん」

 

 

ちょっ。追いあーんはやめろ!好み過ぎてショタが拒めない!

すぐ横でお冠のゆきちゃんが見えないの!?これだからはお姉ちゃんは!?

 

畜生っ。えんそくで減ったゆきちゃんの好感度を取り戻そうと思ったのに!

 

 

「ていうかぁ!やーくんにあーんするのもわたしの役目なんですけどー!?」

 

 

 

 

 

 

和気藹々な朝食が終わり、自由行動になりました。

今日は“えんそく”もないので適当に、散らばって過ごしています。

 

……あれ?『合流イベント』は?あだ名決めるやつは?と思ったニキネキもいる事でしょう。

なんで発生しないのか。それはみーくんのキャラクターの影響です。

 

 

みーくんってこう……アレです。物静かっていうか……内気でしょう?(気遣い)

本編でも、本当の意味での合流には一悶着ありましたし。

それゲームにも反映されていて――最低でも一日はこちらのグループとして属した事にならないんです。

 

まあ、ゆきちゃんルートだし、カレーもありましたから。明日にはイベントが起きる事でしょう。

 

 

そんな事より!

私はこの時を待っていました!

 

 

前に言った通り、みーくんは主要キャラ随一の頭脳キャラ。

彼女一人いるだけで、勝手にフォローしてくれたり、戦闘・探索の際には高度な作戦を建ててくれる有and能な訳ですが――いかんせん、ズバズバ言いすぎて不和を呼び起こしかねないのが難点。

ですが、その難点はけーちゃんがいる事で緩和される…………のは!

 

私のチャートじゃあ、あまり重要な事ではありません!

 

二人……というか、みーくんに求めるのは一つ!

 

 

 

――“みーくんの自己分析”です!!

 

 

 

なんぞそれ?という方に説明しましょう。

 

これはみーくんが加入直後にのみ使えるコマンドで、みーくんと二人きりの状態で「ぼくたちの事どう思う?」と尋ねると、今の状況を忌憚なく語ってくれるというものです。

ざっくりまとめると“総集編”。あるいは、“これまでのあらすじ”といったとこでしょうか。

 

……そんくらいなら別にいらなくね?、と思います?思うでしょう?

 

侮るなかれ!

みーくんの語る“今の状況”は、建物の未開放箇所や充実度・満足度の具合。果ては、キャラの隠しステータスまで詳らかに教えてくれます!

 

ええ!ええ!――本当ならりーさんの正気度知りたかったんですよこれで!

 

ですが、起きた事はしょうがないです。

それ以外の情報を知りたいですし。是が非でも聞いておきたい……の、ですが。

 

 

「さあ、やなぎくん?今日はわたしとゆっくり過ごしましょうね?」

「むぅ。やーくん?わたしも忘れちゃいやだよ?」

 

 

この二人が邪魔です(明け透け)。

 

……本チャートだったらゆきちゃんを切り離すだけで簡単に聞けたはずなのに、余計なめぐねぇもショタに張り付いています。

今朝の通り、依存が強いせいでしょうね。

きっと目を離したら死ぬとでも思われてるのでしょう。はっ!要介護が笑わせてくれる……!

 

ですが、朝の時点で依存には気づいていたので、対策済みです!

では、二人を連れて寝室に向かいましょう。

 

 

「んー?もう寝るのー?」

「おひるね、ですか?……そうね、昨日は大変だったもの」

 

 

昨日、ふぁみりーさんと戦った傷がここで生きてきます。

 

元々、負傷状態のまま体を酷使したので、睡眠時間が足りていないので、こんな朝っぱらから『休む』コマンドを選択する事が出来るのです。

おやつの時間くらいまで、がっつり休みましょう。

 

はい、ここ。短縮要素ですね(黒板びしっ)。

最終日に向けての小細工とかやっておきたかったですが、そこは明日以降に持ち込めば問題無くいけるでしょう。

 

数時間くらい経てば、依存めぐねぇも違う事しだすので。

その隙に、適当にキャラを誘導して、二人きりになるだけです。ふぁみりーさんもここぞとばかりに利用しましょう。

 

 

さぁて。寝ようねー疲れたなー。ごろーん、うわぁ布団の柔らかさやべぇなぁ。

こりゃぁぐっすり寝れそうだなぁー?目ぇ離してもこのまま寝てそうなくらいだなー?

 

 

「やーくんが寝るなら、わたしもねるー」

「そうね。ゆっくり休みなさい?私が、ちゃんと側にいますからね」

 

 

いるな。どっか行け(反抗期)。

 

 

「もうっ。気にしなくていいの。側にいさせて?」

 

 

気遣いじゃねぇんだよなぁ……。

さぁて。寝ましょう寝ましょう。

めぐねぇが側にいるなら、前みたいに二段構えでの睡眠妨害も無いでしょう。

 

 

「ふふふ、あったかいね。やーくん」

 

 

そだねー。

 

 

「よしよし、大丈夫だよ。皆が側にいるからね。さみしくないよ」

 

 

うぅ、ゆきちゃんの睡眠誘導ASMR……!

 

 

 

 

………。

 

 

 

………。

 

 

 

………。

 

 

 

よし!画面暗転(now loading)入ったぁ!

ふぅー!やっぱゆきちゃんのASMRは効くぜー!

 

朝ご飯食い終わってすぐ寝て、おやつの時間までなのでぇ……大体8時間くらい?

疲労が溜まり具合によっては、いっぺん寝ると起きないっすからね。今の負傷を考えるといい塩梅かと!

 

 

 

 

 

 

「……んぅ?」

 

 

おっ、起きましたね。

さて、もうめぐねぇはいなっ――――?

 

 

「やぁくん、よく寝……た……?あれぇ?」

 

 

あれ?なんで――()()()()()

 

 

えっ?はっ……?

じっ、……じっ、時刻は!?今の時間は――七時?えっ?十九時じゃなくて?

 

は?

 

 

「あはは……気持ちよすぎて寝過ぎちゃったね、やーくん」

 

 

いや寝過ぎィ!?!?!?!

 

ありえねぇありえねぇざっと二十四時間だぞ!?どんだけ疲労まみれなんだよ!?いやおかしいおかしいおかしいおかしい!

流石にない!これはガバじゃない!ガバ以上のなんかだぞこれ!

 

待て待て待てまてめてめにめにまにまにどんな無茶ぶりも!(やけくそホイッスル)

 

 

「むっ。くるみちゃんもめぐねぇもやーくんにちかいっ……はーなーれーろー……!」

 

 

まって?まって?――()()()()()()()()()()()()()()

 

いや、重傷とはいえただの外傷だぞ?

頭の怪我は下手すれば意識障害併発するけど……?

依存めぐねぇが延々と寝かしつけた?……いや、少なくとも起きた描写は混じるはず。

いやぁこれはぁ――もっと重傷だぞ。

 

 

「……なんかりーさんが簀巻きで転がされてる」

 

 

移動に問題ないから骨は折れてない。痛みが酷くないから傷が膿んで感染症を引き起こしてる訳でもない。

頭。やっぱ、障害―――?

重度だと“昏睡”の行動不能状態も付与されるから、もしかして。

 

 

「あれ?ねぇ、やーくん」

 

 

ゆきちゃん。まって。

今ちょっと考えて――

 

 

「みきちゃんがいないよ?おトイレかな?」

 

 

みきちゃん?

………?……あっ、みーくんの事か。

ああ、『合流イベント』前だから、まだあだ名じゃないんだった。聞き慣れなくて誰かと――はっ!

 

 

――“みーくんの自己分析”ィィ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

…………。

……。

…。

 

 

 

 

 

 

――うめき声が響く。

 

聞き慣れてしまった在りし日の隣人たちの声。

よだれと血にまみれた粘ついた音を、耳が拾う度に身が軋む。目頭は熱くなって、背筋は冷える。精神をがなる、吐き気がする、気持ち悪い。

 

それが何もかも塗り潰した。

 

そのせいで。

自分の呻きすら、掻き消える。

 

 

「美紀……!美紀、起きて……!」

 

 

私を呼ぶ声で、目が覚める。

視界いっぱいに広がるのは――親友である圭の顔。

いつもは勝ち気な表情と悪戯な笑みを浮かべていた……と思う。確信が持てない。持てなくなってしまった。

 

汗で張り付いた髪、ひきつった口元。恐怖と怖気を混ぜ合わせた表情が、“いつも”だ。

 

 

「……圭?」

「起きたなら早く手伝ってッ!――奴らが入ってきちゃう!!」

 

 

圭は私が起きたのを確認するや否や、一目散に駆け出す。

その際に蹴飛ばされたお気に入りのCDプレイヤーはきっと、邪魔なものになってきていた。

 

冷たい部屋と薄い布団。積み上げられた無機質な()

そんな物が今の私達の全て。

必死に、命を削って。守らなくちゃいけない。こんなのを。

 

布団を抜け出して、部屋のドアへと向かう。

唯一の出入り口にはたくさんのダンボールを積み上げてある。奴らを通さないように。

でも、来る度に二人で抑えなければ意味もないような軽いものだった。

 

 

「美紀ぃ!!」

「あっ……う、うん!!」

 

 

圭の金切り声で我に返る。

急いでダンボールを抑えるが、奴らがドアを叩く力が勝っている。

 

――ドォンッ!ドォンッ!

 

響く度に、私達の体を揺れる。積み上げたダンボールが一つ転げ落ちる。ゆっくりと剥がれていく様は、命のカウントダウンに等しかった。

 

 

「もっとちゃんと抑えてよッ!」

「やってる!やってるってばッ!!」

 

 

親友の苛立ちに苛立ちで返す。

こんなひどい声、喧嘩した時ですら出したことなかったのにね。

 

――ドォンッ!ドォンッ!

 

ダンボールが転げ落ちる。

隠されていたガラス越しに――白く濁った目と、視線が重なった。

すぐに反らしたがもう遅く。叩く力は一層苛烈になった。

 

――ドォンッ!ドォンッ!

 

「……っ!圭!わたしが抑えてるから、新しいダンボールを!」

 

――ドォンッ!ドォンッ!

 

「圭!圭!早くして!」

 

――ドォンッ!ドォンッ!

 

「っ!ねぇ聞いてるの!?いいから早くやってよっ!!?」

 

 

隣に叫ぶ。

だけど――()()()()()

 

「えぁ……?」

 

部屋を見渡す。居ない。居るはずがない。

だって――()()()()()()()()()

 

私を置いて。一番の友達であるはずの私を。

二人で聞いていたCDプレーヤーは――使えないから、と残されていた。

 

――ドォンッ!ドォンッ!

 

「くっ……んっ!ぃやぁ…!!」

 

――ドォンッ!ドォンッ!

 

「だっ、誰か……!」

 

――ドォンッ!ドォンッ!

 

「誰か助けてっ!!お願い!誰かぁ!誰かぁあ!!!?」

 

 

助ける人は居ない。助かる道は無い。

でも、縋って――私は叫ぶ。喉が痛んでも切れても血がこぼれても。

 

きっと、うめき声しか上げれなくなっても。

 

 

『生きていればそれでいいの?』

――消えた親友の声が聞こえる。私を責める言葉。泣いてうずくまる私に向けた嘲り。

 

しらない。なんなの。いみわかんない。

 

わたしは、ただ。

 

けいと。いっしょに。

 

それが、それが。

 

 

 

そんなに だめな こと なの ?

 

 

 

 

 

「――美紀、起きて」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

――目が覚める。

荒れた呼吸、汗に塗れる背中。真っ暗な見慣れない天井に、困惑が勝った。もがくように勝手に動く体は――誰かが抑えている。

きっと奴らだ。

 

「……っ!」

 

反射的にはねのけようと体をよじる。

もうだめだ、と頭でわかっているも嫌悪が神経を駆けめぐっていた。

 

「美紀、美紀……!」

「やめっ…やめて、お願い…!」

「美紀、落ち着いて……!私、私だよ……!」

「――んっ?……えっ、あっ…?」

 

聞き慣れた声に、背けていた首を動かす。

そこには――見慣れた親友の顔があった。

 

「ねぇ、大丈夫……?」

 

()()()()勝ち気な表情を不安げに歪めて、こちらを見下ろしている。

そこに苛立ちも何もない――ただ、心配だけが伝わってくる。

 

圭。私の親友。

私を置いて行った。絶望の中に置き去りにした。

でも――それは決して苛立ちだけが全てじゃない。考えればわかる事が分からなかった。再会するまで。

 

ふと、沈黙が広がった。

荒れた呼吸を整え、混乱する頭を落ち着いていく。

 

 

「……ごめんね」

 

 

一呼吸を置いて、こぼれたのはそんな言葉だった。

圭は、私の言葉に目を閉じる。

――こつんっと額がぶつけてきた。汗で塗れる額から、かすかに震えが伝わってくる。

 

 

「……ううん。私の方こそごめんね」

 

 

圭は言葉を返してくれた。

それだけ――もう十分だった。

 

 

「起きる?」

「うん……このまま寝たら、地獄に逆戻りしそう」

「……どんな夢か聞いてもいい?」

「圭が私を置いてった後に奴らが来た時の夢」

「うっ。……それはぁ、どうもご迷惑を……」

「ほんとだよ。あの時が一番の地獄だった」

 

 

あの夢には続きがある。

とはいえ、なんてことはない。突破されるよりも前に、奴らが飽きたのかどこかへ行って終わっただけの話。

……でも、あんなに絶望的な状況じゃなかったし。そもそも私はあんな子供みたいに喚かないし。CDプレーヤーは大切だし。圭ともあそこまで険悪じゃなかったし。

 

私とはいえ酷い風評被害だ。訴えたい。裁判所機能してないけど。

 

 

「わっ、私だって地獄だったよ?外じゃ、もうひっきりなし」

「ふーん?」

「あ、自分が一番だって顔してる。へーんだ、そうやって井の中の蛙してなさいな。真の恐怖を知らないままでねっ」

 

「ちなみに私が一番怖いと思ったのは、水の為に便器に顔を突っ込むのを躊躇わなくなった自分だな」

 

「「ぇ……」」

「よし。誰が一番地獄かな選手権は私の勝ちで終わったところで――声抑えて。柳が起きる」

「「あっ……」」

 

ふと、辺りを見渡せば。

そういえば、と。

自分たちは助けてくれた恩人達と一緒に雑魚寝してたのを思い出した。

 

――()()()()()()()()()()()

お腹いっぱいごはんを食べて、恐怖とは無縁な……こんな状況になって、初めて。

寝ることが怖くなかった。そんな時間を過ごした。

 

恩人の一人、たかえ先輩が布団の中から頬杖をついて。

苦笑気味に私達を見つめていた。

 

 

「……すみません、騒いじゃって」

「んーや、しょうがないって。私も経験あるし。……それにしても、友情って感じで素敵だな二人って」

 

 

その言葉に首を傾げて……ややして、額を重ねていた場面であると思い至った。かぁ、と頬に熱がこもる。

 

 

「あっ、いやあれは……」

「謙遜しない。大切にしなよ――失ってからじゃあ、遅いんだ」

 

 

たかえ先輩の言葉には嫌なくらい実感が籠もっていた。

その視線は――万寿先輩に注がれていた。

 

 

「……結局、起きませんでしたね先輩」

「ああ、どっかのアホンダラのせいでな」

「あはは……」

 

 

先輩がゲシゲシと蹴っているのは――添い寝かまそうとして、先輩たちに毛布で簀巻きにされて放置された悠里先輩。結構な力で蹴られてるのに、俄然せずスピスピと寝ていた。

 

――万寿先輩は、朝に昼寝したと思ったらそのままずっと眠ったままだった。トイレや食事で起きる事もなく、言葉は悪いが……いっそ死んでいるのではないかと思うくらいに。

皆が言うには、疲れが出てしまったのだ言っていたけど。

 

無言で悠里先輩を見つめる佐倉先生が怖かった。

 

 

「んむぅ……?なぁんだぁ、敵襲かぁ?」

 

 

ふと、万寿先輩に添い寝していた胡桃先輩が体を起こした。むにむにと動く口元が完全に寝ぼけている。

からんっ、と握るシャベルを床に擦りながら奴らのように蠢いてた。

 

 

「違うから寝てな。ほら、柳が寒がってるぞ」

「ん、やなぎぃ……大丈夫、あたしが…んにゅっ……」

 

 

たかえ先輩の言葉を聞くと、そのまま万寿先輩のほっぺに頬ずりをしながら覆い被さるようにまた寝入った。

……胡桃先輩は悠里先輩を非難してたけど――先輩も先輩で、結構大概だと思うのが私と圭の見解だった。

 

 

かち、かち、と鳴るのは時計の音。

小さな寝息しか響かない時間が少しだけ流れた。

 

 

「あの……」

 

ふと、圭が口を開く。

ためらいがちな口調でなにを言おうとしているのかわかった。……それは、たかえ先輩も同じだろう。

 

 

「なぎ先輩は――()()()()()()()()()()()?」

 

 

万寿先輩は――圭の友達で、私の数少ない友達でもある。

男子じゃなければ、きっと気負わず名前呼びくらいはしてるほどの友達。

だから、助かっていると聞いた時は嬉しかったし、素直に無事を喜び合いたいと思った。

 

だから。だから。

 

――()()()()()()

 

誰も居ない空間に話しかけ、何もない空間と手を繋いで、宙に向かってカレーを差し出した……あの姿。

私達に向けてごはんを分けてくれたあの言葉も、今思えば――()()()()()()()()()()

 

どれもこれも異常だった。

ぎこちなく話を合わせる皆の姿も相余って。

 

そして、その理由は。

あの人の隣にいつもいた、あの小柄な先輩が居ない事でーーなんとなくわかってはいた。

 

たかえ先輩は、ややして小さく、声を出した。

 

 

「二人が地獄を見てきたように――私達も地獄を見た。競うつもりは欠片もないけど、辛かったよ。友人が化け物になって襲ってくるなんてな」

 

 

思い出すのは、奴らが溢れて大混乱になったショッピングモール。その似たような事がこの学校でも起こったんだろう。

まさしくーー地獄。

 

 

「私達は耐えれた。柳と……ゆきがいたおかげで」

 

 

でも、と。先輩は続けた。

喉に詰まった物を吐き出すように、苦しげにーー続けた。

 

 

「柳は耐えられなかった。ほんと、それだけの話なんだ」

 

 

先輩は顔を隠すようにうずくまった。

こちらに聞こえてくる大きな呼吸はなにかを堪えている。

何も言えない空気の中。

ひょこりと布団から出てきた先輩は、へらりと嗤った。

 

 

「まあ、なんだ。()()()()()()()()()()()()――柳は」

 

 

ふと、思い出したのは――さっきの夢。

圭がいなくなって、奴らに追い立てられる……あの夢。

もし。もしだ。先輩達がショッピングモールに来なかったら。

 

私は。万寿先輩のように――

 

 

「そうだ。まだ眠るつもりがないなら、めぐねぇのとこに行ってくればどうだ?」

 

 

たかえ先輩は空気を変えるように、明るげにそう言ってきた。

見渡せば、確かに一つ布団が空いていてーー特徴的なピンク色の髪が無い。

 

 

「きっと、職員室にいる。……ついでだ。きっと、めぐねぇからも話したい事があると思うし、分かっていた方がいいでしょ?」

 

 

私は圭と顔を見合わせて、頷き合うと――立ち上がる。

何も言わず、手を握ってくれた親友の温もりが、とてもありがたい。

 

そうして廊下に出る直前。

 

 

「なぁ」

 

 

ふと、声がかかってきた。

 

 

「私たちの事はいい。でも――めぐねぇを責めないでやってほしい。もう、いっぱいいっぱいなんだ」

 

 

その言葉に、嫌な予感が沸き上がった。

 

 

 

 

 

 

 

佐倉先生は、確かに職員室にいた。

 

「………」

 

月明かりの差す職員室は、私の知っていた姿ではなかった。

投げ出された机、折られた椅子。壁には消し切れない暗い赤が走っていて、乱雑に破られたカーテンからは割れた窓ガラスが覗き、深い闇を通している。

先生はそんな中で、ひっそりと座っていた。

うず高く積まれた机の奥にある、()()()()()()()()()()……ように見えた。

 

側に置かれたコーヒーの暖かな湯気が、ひどく場違いだった。

 

 

「あら?」

 

 

入り口で立ち尽くす私達に気づいた先生は、“前”に見た柔らかな笑みを浮かべた。

ほんわかと優しいけど少し頼りない先生の――()

 

 

「どうしたの二人とも、眠れない?」

「あっ……えっと……」

「夜更かしはだめよ。ぐっすり寝ないと身体によくないわ」

「………」

「さっ、寝室に戻りましょうね。安心して休んでちょうだい」

 

 

先生は笑顔のまま、私たちを窘めるとゆっくりと近づいてくる。

どうして、なのか。

 

――背筋がすごい寒い。

 

 

「……あ、あのっ!」

 

 

このままじゃ埒が明かない。なんのかんの連れ戻されそうだった。

圭の温もりを盾に――声を絞る。

 

 

「さっき、たかえ先輩から。話を、聞きました。万寿先輩の事」

「……そう。そうなのね」

 

 

すとん、と先生から表情が抜けた。

元の椅子に腰掛け、コーヒーを一口を飲むと――静かにこちらを見つめてきた。

 

 

「やなぎくんの事は気づいているわね。それで、私たちのやっている事はなんとなく分かってるでしょう?貴女たちにも……それを、お願いしたいの」

「えっと、それは……」

「ゆきちゃ……丈槍さん、覚えてる?やなぎくんの隣にいた女の子」

「……はい」

()()()()()()、って形でいてほしいの。辛かったら無視でもいい――やなぎくんが、補完してくれるわ」

 

 

矢継ぎ早に語られるソレに、私たちは反応を鈍らせた。

だって、万寿先輩はどう考えても――()()()()()()()()()。あの先輩が居ない事を認められなくて、いると思い込んでいるんだ。

 

そんなの、そんなの。

 

 

「……治そうとは、思わないのですか?」

 

 

ふと、吐けたのはそんな在り来たりな言葉。

先生は、薄く笑った。

 

 

「治して、なんになるって言うの」

「……」

「ねぇ、見て?この部屋。全部グシャグシャ。職員室だったなんて思えないくらい。学校全体も“外”だって似たような有り様だったわね?化け物がいっぱい。ご飯だって集めるのが一苦労だわ。電気も水も、いつ切れるかわかったものじゃない」

「……それが、なんだと」

「……んー、わからない?」

 

しゃらんと揺れるピンクの髪。

陰った顔には、軽薄な笑みを浮かべた。

 

 

「――こんな世界にやなぎくんを連れ戻す意味があるの?」

 

 

その言葉に――私たちは言葉を紡げなかった。

なにか言いたい感情は胸に沸き起こっている。でも、それが言葉になる前に押し留まる感覚があった。

先生の言葉を、否定出来ない自分がいた。

 

 

「やなぎくんは今幸せなの。大切な子と一緒で、懸命に生きてる。それでいいじゃない。そこから引き離してどうなるの?あの子はただゆきちゃんと一緒にいたいだけ。ねぇ、ねぇ――()()()()()()()()()?」

 

 

ふと、頭の中を過ったのは夢の中の自分。

泣いて、泣いて。ただ親友を置いてかれたことを嘆いていた――前の私。

 

何も言えなかった。

それを知っているからこそ――私にそれに対して何かを言う事が出来なかった。

 

 

 

「それにーーゆきちゃんは、ちゃんといるもの」

 

 

先生は囁くように呟いた。

怪訝な表情を浮かべているであろう私たちに、ある場所を指差した――校長室。

しばらくして……聞こえてくるものがあった。微かに、小さく、だが決して――幻聴じゃない。

だって、だって。聞き慣れてしまったものだから。

 

 

ドアを、叩く、うめき声。

 

 

「ひ……!」

 

全て思い至った。

どうして万寿先輩がああなってしまったのか、この学校で何があったのか、そして――どういう結末を迎えてしまったのか。

たかえ先輩の言う通りだ。

皆が皆――地獄を見てしまっていた。

 

 

「ねぇ、二人とも。貴女達を歓迎してるのは本当よ?皆と仲良くしてほしいし、苦しんだ分少しでも幸せになってもらいたい」

 

でもね?

 

「――あの子の幸せを奪う事だけは絶対に許さない」

 

 

そうして、ゆるりと私たちを抱き締めた。

 

 

 

「――ようこそ、“学園生活部”へ。私達は貴女たちを歓迎するわ」

 

 

 

先生――めぐねぇの浮かべた笑顔はどこまでも綺麗で暖かみがあった。

心の底から、私達を歓迎してくれているのが伝わってくる。嬉しい、と感じた。

 

でもそれ以上に。

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※解説byWiki
・みーくんの自己分析

別名『良くあるギャルゲーの友人キャラ(攻略不可)の嗜み』

直樹美紀……みーくんが仲間に加わった際に“しばらくの間”使用する事が出来るコマンド。みーくんに、二人きりの状態で尋ねれば発生する。

仲間の好感度・正気度。使用している拠点の状況など――今を取り巻く状況を教えてくれる。

客観的、かつ隠しステータスについても語ってくれる。
その為、今の状態がいいのか悪いのかの良い判断材料になる。ゲーム内一の頭脳派は伊達ではない。

このゲームは中盤を過ぎると――色々な所が、徐々に綻びを見せる。
だからこそ、はっきりと状況整理出来る機会は、本当に……本当にありがたいの塊なのである。

因みに、“しばらくの間”とは、出会って一日経過するか、好感度一定値を超えない間の事を指す。
さしものみーくんでも、仲良くなった相手に対してズバズバ言うのは流石に憚られるようだ。かわいい。


――おう!よく見つけられたな!じゃあ、教えてやるぜ――これが無駄骨って奴だぜ!!(赤さん)









えっ、先輩達をどう思うか……ですか?


うーん……言っちゃっていいのかな……ああ、確かに。まだ私達は新入りですからね。外からわかる事があるかも。
いいですよ、私で良ければ。……怒らないで下さいね?

えっと……。

皆さんとても良い状態だと思います。
なんだか親友……というか、家族みたいで。とても優しい雰囲気。
……こんな状況でもそうしていられるなんて、ちょっと羨ましいです。

ご飯も豊富ですし、ちゃんとした寝る所、シャワー、電気だって天気依存ですがきちんと使えていますし。
此処はとても安定してますね。……三階しか安全でないのがネックですが。二階の図書室とか使えるようになると便利かも。

全体的に鑑みれば、こんな状況でも最良と言える居場所です。……ここに来れたのは本当に奇跡でした。

ああ、でも先輩。
佐倉先生……なんですが。
時々暗い目をして先輩を見てますよ。……唯一の大人ですし、気苦労が多いんじゃないんですか?

えっ?悠里先輩?……ノーコメントです。
だっ、大丈夫ですよっ!あれはあれでいいんじゃないですか!……たぶん。

……その……えっとあの。先輩。
――ちゃんと休めてますか?正直、ちょっとどころじゃない隈が。




あと。




少し……皆さんが怖いです。

先輩が望んだから。先輩だったらやるだろうから、先輩が嫌がるだろうから――――()()()()()()()
ただの贔屓だけ……ならいいんですが。
私の目には――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、先輩。

……こんな状況です。
皆少しおかしくなってもしょうがないと思います。悠里先輩みたいに。

でも、健全、じゃないのは確か……です。
このままだと取り返しの付かない事に……私達だって……!
もっ、元はと言えば全部先輩が悪いんです!どうしていつも通りなんですか!どうしてそんな傷ついても壊れても、いつも通り優しいままでいられるんですか!?

皆、化け物になったんですよ!?
今までの生活がめちゃくちゃになって……!
お願いします……見てて辛いんです……はっ、はっ……腹だって立つんですよっ!

……目を覚ましてください!


貴方の隣には、誰も居ないんです!





「(なんて……言えたら良かったんだけど)」


私は益体の無い妄想にため息を吐いた。

翌朝。
結局めぐねぇに導かれるまま寝室に戻った私は――無論、ろくに寝る事が出来なかった。
あらゆることが衝撃的だった。

この世界が、どれほどひどくて最低なのかも、はっきり分かった。

まだ誰も起きていない早朝で、「学園生活部」の部室で、私はぼんやりと時を過ごしていた。圭は疲れていたからかぐっすりだった。……ああいう切り替えの良さは、憧れる。


――ドアが開く音が響く。
誰が起きたのかと振り向けば――万寿先輩がそこにいた。

昨日に比べれば良い顔色と、どこかへ延びる腕は何かを掴んでいる。
……目を凝らしても、私には“彼女”は見えなかった。


「……おはようございます、先輩」
「おっ、おはよう!みきちゃん、えっと」


やけに緊張した面持ち。
どうしたのだ、と首を傾げる。

恐る恐ると言った感じで先輩が口を開いた。


「あの……えっとね?ぼくたちの事どう思ってるのかなーって。率直な意見をね!聞きたくて」


頭を過ったのは――先程までの妄想だった。

()()()()()()()()()()()()
嘘ではない。本当の事だ。
このままでいい訳はない。気持ちは分かるがおかしいままでいる理由はない。


「……」
「……っ……っ」


縋るような視線に、喉奥から言葉が押される。
言え、言ってしまえ。
ゆきちゃんは死んだんだと。化け物になって校長室にいるんだと。
ほんとの事を言う――それが正しい、


ふと、開かれたドアの端から、()()()()()()()()()()()()()()()()


「―――」
「……?」


ゆっくりと熱が冷める。言葉がお腹の中に消えていく。
そうだ。昨日、あんな事を言った人が――この人を一人にするはずがない。
言おうとしたら、きっと止められるだろう。それこそ、手段を選ばずに。

じっと先輩の瞳を見つめる。
そして――


「悪くないと思いますよ?特に言う事はないです」



そう、嘘を付いた。


もうわからない手の温もりを求めるこの人の夢を、軽率に奪う事。
それは――きっと、間違いだから。




なのに。






()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、先輩。






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