GOD EATER「Past you and Now I」 (Pumpghost )
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魔女の生まれーGet ready for the next timeー
さらば-See yeah forever-


どうも、(はかいざんがいぜろ)というものです。
初めての方も、お見知りの方もこんにちは!
実は、小説を書いたことは多いですが、こんな風にたくさんの方にお目にかかってもらうことは初めてです。お気に召さないところがありましてもどうか、ご理解してていただけると幸いです。
本作は、ゴッドイーター2の詳細にされてないところを重点的に創作しています。
最後まで見てくださると嬉しいです。
改めて、よろしくお願いします(=゚ω゚)ノ


毎朝のこと、目覚ましのアラームはうるさい。変な雑音が混じった俺のは特にだ。お陰で夢心地を容赦なく叩き壊される。左手を何度かかざしてそいつを切った。

「……4時……」

 

ぼやけた視界に黒い針が2つ見える。やけに早い気がするけど仕方ない。今日はちょっと凄い予定が入ってる。

「……」

 

とわいえ、慣れない時間に起きるってのはやっぱり辛い。このまま布団を被るか、床に足をつけるか……

 

「くそ……」

後者に決まってるがな。目を擦りながらベット隣の小ちゃなテーブルで眼鏡を探る。そういやこのテーブル、片足が少し欠けて酷くガタガタしている。直した方がいいか?

「うう……」

 

フラフラしながらキッチンに向かい、顔を洗う。氷みたいな冷たい水が指に触れ、ゆっくり背筋を撫でられる不気味さが襲った。まだ半覚醒の状態でベットに戻ると、2度寝の誘惑が寄せてきた。いやあ、でもここで寝ちまったら、今度こそ起きれる気がしない。

眠気の覚ましのついでに、テーブルの真っ平な手紙を取る。何回読んだかは5回から数えてない。最初は封筒に中に丁寧に折られてた手紙が、今は折り目も見えない。

送り主は、生物研究機関、通称フェンリル。書かれてたのは、とても意外な知らせだった。

 

《拝啓:稀羅-ペル-メルディオ 様

先日は我が生物研究機関「フェンリル」の候補者テストにご参加頂き、誠にありがとうございました。測定結果、対アラガミ討伐組織「ゴッドイーター」から、貴官を「神機使い適合候補者」と判断させて頂きました。

より精密な検査で、貴官を新たな神機使いとして迎え入れたいと思う所存です。是非ともお足を運んでいただけたらと思います。

待ち合わせの日付と場所はこちらに記載いたしました。ご対面をお楽しみにしております。》

手紙なんて頻繁に受けてた訳もないので、最初は何らかのいたずらだと思った。けど、封筒に刻まれた狼のマーク。フェンリルの紋章にそれ以上の知らんふりもできなかった。

神機使い。こいつは極東地域から離れた、この北東のサテライト拠点ですらよく話題に上る。いわば'アラガミ'という、今この世界を食い付く謎の生物を撃退できる唯一の存在。一般人とはかけ離れた身体スペックを誇り、神機(ジンキ)という特殊な武器を扱う組織だ。この時代の新しい、かつもっとも稼げる職業とも言える。

他にも誇張した噂は多い。そのせいで、俺の『絶対無理』とか、『すぐにでも死ぬ』とかの半信半疑な気持ちは治まらなかった。

記された日付は2日後の今日。一応の荷物として、貴重品だけをまとめた小袋を用意しといた。何度も手紙を眺めながら、不安な日々を過ごした。

 

「平凡にも程がある俺なのに……」

 

そして迎えた今日。検査と言っても、スーツみたいな便利な服はない。適当にジーンズに、チェック模様のシャツと薄いパーカーを羽織った。

 

「……これでいいよね?変には見えないし。」

 

手紙を適当に四つ折りして小袋にぶち込み、肩に下げ、玄関のドアを開けた。太陽の日差しのない外はまだ暗く、空気も少しばかり冷えてる。

 

「ふう。」

 

白い溜息が宙で消えた。この玄関のドアを開けるのも今日で最後になるかしれない。後ろめたい気持ちに振り向いた。色が変わりあちこち曲がりもしたキッチン、テーブルとベット。この地域で1人暮らしとしては贅沢な住まいだ。使いながら情も移ったのか、思いがけない一言を口にしていた。

 

「See yeah,my room.いつか戻ってくるよ。」

 

いつになるかは知らないけど。化物狩りが仕事の神機使いは、いつ命をなくすか分からない。凡人の自分なんて、すぐにでも死んでもおかしくない。そう思うと余計に、もう1日くらいここで過ごしたい。……いや、行こうぜ。

 

「うっし!」

 

日が昇ってない午前4:30。待ち合わせ場所に足を運ぶ。

妙に足が重いと思ったのは気のせいだろうか?

 

* * *

待ち合わせ場所は、サテライト拠点の東端にあるカフェ。来たこともないし、なかなか入る勇気が出ない。でもここでグズグズしてたら、かえって店内の人に怪しまれそう。少し重いカフェのドアを押すと、カランとドアについたベルの音が店内に響き渡った。

「いらっしゃいませ!お一人様ですか?」

「はい。あ、いえ、あのー。」

「何でしょうか?」

「待ち合わせのつもりです。」

「そうですか、ではこちらへどうぞ、」

 

店の一番奥のテーブル席に案内された。早朝のこともあって、まだ客はいない。

「ご注文は何にいたしますか?」

 

黒い生地にレースがたくさんついた服。いわゆる……あれだ、メイドさん。

俺は日頃から私的に人には会わない。そのせい、喉が乾き、口がパサパサした。辛うじて言い出せたのは、

「……紅茶、」

 

いかにもありがちなものだった。

 

「はい、紅茶一つ用意いたします。他にございますか?」

「あー……」

実はその紅茶ってのを飲んだことがない。しかも値段がどんくらいかも知らないし、美味しいかどうかも分からない。よって返事は、

 

「ないです。」

 

しかない。

 

「はい、少々お待ちください。」

 

メイドが厨房に向かうのを見ながら、よくこんな場所でカフェなんかできるな、と思った。

アラガミが暴れまわる最近じゃ、サテライト拠点を出ることすら躊躇う人がほとんど。にも関わらずここで営業とは、ここの店主の度胸があってからのことか?

店自体大きいし(ちなみに俺の家の5倍はある)、西洋の古風なスタイルの店内。管理費も相当かかるんじゃないかな。どこからそんな金が出るのか。

「紅茶です。」

 

いつの間にかあのメイドがテーブルに紅茶を置いてる。

 

「あ……どうも。」

「ごゆっくりどうぞ。」

 

いけない。いつもそうだが、何かを考えだしたら周りが見えなくなる。もうすぐ向こうの人も来るはずだ。もうちょっとシャキッとしよう。シャキッと……あれ?

早速目の前にピンチが迫った。運ばれた紅茶は電球の明かりを反射し、綺麗な鮮紅色に輝く。これはいい、特に問題はない。だが、そのすぐ横の意味が分からない2つに戸惑った。

「なんだこの細長い紙のスティックは。それにあの白くて小さいキャップは。」

 

初めて飲む紅茶は状況すら最悪。訳の分からないものに、これらをどうするかものすごく悩む。とりあえず調べだ。まずは、この白いスティック。中はザラザラした粒状のものでいっぱいだ。待てよ、もしかしてこれは……

 

「麻薬?」

 

おっと、口が。いや、しかし可能性がゼロではない。少ない客に、多額の管理費。明らかにその間に何かが要る。でもなあ、常連でもない客にこんなの出すのか?

結論がでないので、密封されたところを慎重に破った。そして、軽く掌に中身を乗せる。やはり、何かしらの粒だ。結晶はとても小さい。けど匂いは……ない。どうする、軽く飲んでみる?本のちょっとを指につけ、舌にあてた。

 

「……。」

 

このほんのり甘い味は……

 

「なんだ、砂糖か。」

 

疑った俺がバカだった。うん、やりすぎた。ならこっちはいいとして、残りの……このキャップ。何かを注ぎやすく、口が独特な形だ。そして中身が漏れない様に、不透明のビニールで塞がれてる。

 

「こいつはもっとわかんねえ……」

 

中は液体だ。軽く指で押しても固い感触はない。ちょっとの味見は難しい。しかしまあ、片方が砂糖だ。多分この紅茶が苦いからだろう。つまり、こっちも大して危険……ではないはず。

「で、両方出たのは、どっちも入れろってか?」

 

どの道正しい飲む方も知らないし、従ったほうがいいかもな。キャップのビニールを剥がし、ドバーッと中身を注いだ。

 

「……これまさかミルク?」

 

白い。とにかく白い。経験上、見覚えあるのは牛乳だけ。それより、入れて大丈夫だったのかよ!全然合いそうにない素材をぶちまけてしまった。しかも全部。紅茶の味もクソも消えた。

「もういいや……」

 

残りの砂糖も諦め半分で、全部入れた。そして、なんだか変な色に滲み始めた紅茶。そいつをティスプーンでかき回す。

 

「うわわわ……」

 

もう色を見るのは辞めた。絶対やばい色になる。左右10回くらい回してゆっくり目を開けて確認する。

 

「ああ、やっちゃったかも。」

 

なんだかブラウンの色をちょっと浴びたミルクの色。人の肌色に近い様で、そうでもない様な……。まず、飲む気が失せそうな色だ。でも、折角高い金を払うもんだ。一口くらい飲もう。薄い湯気をたてる紅茶をゆっくり口に持っていった。そしてその謎の液体が口に流れ込んだ。

 

「……」

 

……あれ?

もう一度飲む。

 

「……美味しい……かも。」

 

かもじゃない。なんだこれ。普通においしい。全然苦くもない。むしろスッキリした甘さが舌に纏わり付き、喉に滑らかに入っていく。これは、どっちも入れて正解だったかもなあ。想像したのと全然違う味だが、とても美味しい。知らなかったのが損だったなと思うくらい。これならすぐに飽きずにずっと飲めそうだ。

 

「よかった……」

 

おまけに温かくて何となく心も落ち着く。仕事の終わりに一服とか、そんな想像の中の出来事もありそうだ。

 

「いらっしゃいませ、お一人様ですか?」

「ええ、」

お茶に気を取られてたら、いつの間にもう1人の客が入って来た。

 

「わ……」

 

息を呑んだ。淡いホワイトブラウンのコートを着た、短い金髪の女性が、周囲を見渡していた。丸みを浴びた顔に少し尖った顎と鋭い目線が、『ちょっと可愛い大人』の雰囲気を漂わせる。緑の目からして、アジア出身ではない。あれ、そういやまだ時間早くないか?普通の客がこんな早い時間帯にいるのはおかしい。となると、結論は……

 

「フェンリル……?」

 

の人か?いや、流石にないか。こういうのはサングラスとかをかけたスーツの男性が入って来るもんだぞ。

「すみませんが、待ち合わせの方がいますのでテーブルにお願い出来ますか?」

……何て言った、あの人。

「そうですか?でしたらあちらの……?」

 

ウェイトレスと女性がこっちを向いた。じーっと見られる俺の手が少し震えだした。え、なに。そんな風に見られるの慣れてないっす。しばし俺の顔を見たあの女性は軽く微笑んだ。

「ええ、そうですね。同席します。」

「分かりました。こちらへどうぞ。」

 

ちょっと、待ってください。予想とは大違いですが。そりゃあ、堅苦しいスーツの男よりは女の方が嬉しい。それとは別に、俺は女の子にあまり話かけたこともない。一体何の話題を取り出せっていうんだ?

俺の意思とは無関係に、その女性は上着を脱ぎ、向かいの席に座った。

 

「稀羅さん、ですか?」

「は……はあ。」

 

本当にどうすればいいんだ?だれか教えてくださいな。

「ご注文は何にいたしましょう?」

「エスプレッソで。」

 

はい、聞いたことないメニュー。この人、明らかにこういう状況慣れてる。

「かしこまりました。」

 

メイドは厨房に消えた。謎の女性はまたこっちを見つめる。いや、だからそういうの免疫ないですって。

 

「予定より1時間も早いですね。本来ならこちらが先に待っているべきなんですが……」

「はい?」

「でもこれで、ゆっくりこれからのことを説明できそうです。」

 

ダメだ。頭が真っ白だ。もしかして俺、女に対して恐怖症でもあるのか?

 

「お待たせいたしました。」

 

そこで彼女が注文したのが来た。一見、俺が飲んでいるのとあまり色の違いはない。ただ、クリーミな泡が液体の表面を覆っている。あれはあれで味が気になる。女性は優雅で、しかしどこか謙遜でもある態度でそれを飲んだ。

 

「わざわざこんなところにお越し頂いて申し訳ありません。」

「いえ、大丈夫です。家から近いんで。」

「それは何よりです。手紙はございますか?」

 

小袋の中から手紙を出して、彼女に渡した。彼女は何度か目を動かし、四つ折りして彼女のハンドバックに入れた。

 

「間違いないですね。まずは……自己紹介をさせてください。フェンリルの極地化技術開発局から参りました。今は本名は語れないので、しばらくは……そうですね、'ソワ'とお呼びください。」

「えーと、何故ですか?」

「同職でない方に、みだらに名前を出すのは業務上で禁じられてます。」

おわ、随分厳しいこと。そんなに規制酷いのか。

 

「えーと、それじゃ、ソワさん。」

「ええ、稀羅さん。」

 

ソワさんはその澄みきった綺麗な声で呼んでくれた。仕事外にこうやって名前を呼ばれたのはいつぶりかな。

 

「えーと、これからどうするんですか?」

 

一番大変なのはこれからだろうけど。




ここまで読んでくださった方、どうもどうも!!
いかがでしたか?と言っても導入ですもんね。なんともいえないのでは…
本題に入れるように着々と更新しますのでよろしくお願いします!!


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こんにちは-Hello Fenrir-

前回は中途半端で切れましたね。
すみませんすみません。
続き参ります。


「一先ずこれからの流れについて説明しましょう。」

 

ソワさんがもう一度カップを傾けた。

 

「稀羅さんにはこれから、私たちの支部'フライア'にご搭乗し、そこで神機使いになるための最後のテストを受けて頂きます。」

あれ?今搭乗と言ったよな。普通の支部なら建物だから、ちょっと違う言葉があるんじゃね?

 

「あのー。」

「はい。なんでしょう?」

「支部って普通には入れないんですか?」

「フライアはフェンリル数々の支部の中でも独特で……そうですね、移動要塞とした方が正しいでしょう。」

「い、移動要塞?」

 

世界は俺が知らないところでそんなことになってました、と。移動要塞って、よくそんなのが出回ってるな。

 

「どうしてそんなのを?」

「あまり詳しいのは言えません。少しお控えいただけませんでしょうか?」

「す、すんません。」

踏み込みすぎたみたいだ。一旦移動要塞については置いとこう。なら次は……

 

「最後のテストってのは?」

「はい、いわば神機使いになるための最後の壁と思ってくだされば結構です。」

「な、なんか実技でもあるんですか?」

 

実は筆記の方も困るんだが。

 

「いえ。ただ、これから神機を扱うゆえ、それに対する適合率を上げておくための一種の処置です。」

「処置なら、どうしてそれが検査とかになるんですか?」

「それを理解する前に、神機がどんなものかはご存知ですか?」

「……いいえ。」

 

せいぜい知ってるのは、アラガミに有効な唯一の武器。それだけだ。他にもたくさん噂があるが、所詮噂なのでデタラメな情報に決まってる。

 

「神機は、アラガミの細胞を元に作り出した、生体兵器です。」

ちょい聞き捨てならないことを聞かされた気が。

 

「も、もう一度お願いします。」

「はい、神機はアラガミの細胞、'オラクル細胞'というものでできた、生体兵器です。」

「アラガミの細胞?!」

 

聞き間違いと信じたかった。まさかあの神機ってものが。

 

「声が大きいです。」

「あ……すんません。」

「驚くのも無理はないです。人を……いえ、目の前のものをなんでも食べたがる細胞が神機になってますから。」

「それ以前に、神機使いはなぜ食べられないんですか?」

「いいところにお気づけました。神機使いは神機を駆使するために、オラクル細胞に食べられないようにするための機構が必要です。そのため、体内に少量のオラクル細胞を取り込み、簡単に捕食されない様にします。」

「オラクル細胞を体内に……?」

 

聞くほど恐ろしいものばかりだ。俺らを食い散らす細胞を、自ら取り込むって……自殺かよ?

 

「く、食われないんですか?体内に入っても?」

「もちろん、それを防止するための特殊なものを体内に注射します。」

「それって?」

「すみませんが、この先は言えません。」

「言えないって……」

「まず重要なのは、これから稀羅さんが受ける検査は、つまりはオラクル細胞にいかに馴染めるかを試すテストです。そこで、適合率が安定ラインを超えることで、合格となります。」

「も、もし、適合率が低かったら?」

「そうですね。体が完全に無事だとは言い難くなります。」

 

てっきり神機使いは任務中で死んじゃったりするもんだと思ってた。けど、それ以前に、なる前から命にさらされてしまっていたとは。

 

「だから今日稀羅さんをここに来て頂いたのです。」

「どういう?」

「現在、民間人の方には、あくまでもこの検査の候補者を選定するための、軽いテストしか知られていません。」

「例の'アルコールパッチテスト'とか言って、本当はDNAによる?」

 

確かにあれはちょろいもんだった。たった髪の毛1本回収に、無臭の液体がついた布を肌につけてから提出させられて、それで終わってしまった。

 

「今回のは度が違います。よって、この検査には本人の意思が第一優先にされます。稀羅さん、改めてお聞きします。検査の内容を聞きなさった今でも、この検査を受けることに変わりはないですか?」

「……それはないです。」

「返答が早いですね。」

「もともとどんなものでも受けるつもりでしたから。」

 

確かに、手紙の結果を見た時には信じられなかったこともあったが、一方ではこれで神機使いにもう1歩近づいたと思った。グダグダした生活よりは、神機使い人生がよっぽど送り甲斐がありそうだった。

それに、神機使いに志願したのは、単にその稼ぎの良さだけではない。もう1つ、俺個人として重要な理由もある。

 

「なら安心です。それでは……」

 

ソワさんが腕時計をしばし眺めた。

「フライアとの合流までおよそ1時間です。歩くことも考え、早めに出発しましょう。」

「わかりました。」

ソワさんがコップの中身を空にし始めた。こっちもすっかり冷えた紅茶を口に含む。

* * *

 

会計を済ませたのち(向こうが払ってくれたが)、ソワさんについて搭乗ポイントまで動いた。かつて何かの巨大な施設の跡かもしれない、広い荒野だ。

 

「ここですか?」

「ええ、あと10分……ほどです。」

「移動要塞ってどこからどこまで動くんですか?」

「特に目的地が定まってる訳ではございません。世界各地を転々しながら、そこの支部との情報交換を行ったりします。」

「じゃあ、そういうのは多いですかね?」

「いえ、少しコストがかかるので今は1台のみです。」

 

ちゃんとそこは考えてるんだ。

そうやって5分少々待つと、いきなり地面が微弱に揺れ始めた。

「え、何これ。アラガミ?」

「アラガミではありません……地鳴りが途切れたりしませんから。」

「なら……要塞?」

「……ええ、来ました。ほら。」

 

彼女が示した方向を見て、驚愕した。想像した以上に巨大なものがこっちに動いている。まるで、巨大な戦車の下半身の上に、数え切れない多くのビルが埋め込まれた様な形で、先端は船のように尖っていた。最も前方のビルはまるで教会の塔を思わせる作りだ。いや、それより……

 

「速い……」

あの巨体としては一般の車と匹敵するスピードを兼ね備えている。複数の車輪がチェーンに巻かれて、一斉に高速に回ってる。

 

「あの、」

「なんでしょう?」

「さっき乗ると言いましたけど、あの要塞のどこにドアがあるんですか?」

「残念ながらそんなものはございません。よって横からはなく、上から乗ります。」

「どうやって?」

 

俺は空が飛べる鉄人ではございませんよ、あの。

 

「へリが来ました。乗りましょう。」

「へ?」

 

上空から、濃い緑色に尾が長く、フェンリルの紋章が付いたヘリが降りて来た。やばい、あの要塞、乗る時点で常識をかけ離れている。ヘリが着陸し、一気に風を巻き起こす。その風でできた砂風で、目が痛い。ここは荒野だ。ちょっとくらい場所を考慮して欲しい。ヘリから誰かが降りた。シルエットからして男性だ。

 

「候補者の方ですね?!」

「っ、はい!」

 

とりあえず返事からしてみる。

「どうぞ、こちらへ!」

言われるがままヘリに乗ると、すぐドアが閉まり離陸した。ふわっと体が空中に浮かんで、少し驚いた。窓からはあの要塞の全体図が少しずつ見えてきた。

ビルはどれも似た形で、その高さはバラバラだ。数はおよそ10以上。眺めてるうちにへリは中でも一番高いビルの屋上に着いた。再びドアが開くと、今回はあの砂嵐はなかった。

 

「着きました、では早速、現場へ向かいましょう。」

「え、はい。」

 

同じ状況だった筈にも、俺と違ってソワさんの顔からは特に辛いと様子はなかった。何をしたんだ。のんびり周りを見ることができず、ソワさんに連られるまま、中に入った。

 

* * *

 

「少し待ってください。」

 

重い金属音をたてて動き出す、全身鉄骨のエレベーター。何階か知らないフロアに着くと、ソワさんがエレベーターから降りて、何処かに歩いて行っちゃった。

「……あれ?」

 

待てと言われたもんで、ボタンを押しっぱなしにした。ちなみになぜかソワさんはエレベーターに入ってすぐ、3つのボタンを押したが……なんでだ?

すると1分足らずで、彼女が戻ってきた。

「まずはこれをどうぞ。」

 

再び動きだしたエレベーターで彼女が渡したのは、丁寧に畳まれたある服。

 

「えーと、これは?」

 

受け取ると、今までどんな服よりも軽い。なんの素材を使ったんですか?

 

「ゴッドイーター特殊部隊、'ブラッド'の制服です。」

「と、特殊部隊???」

「あなたは候補者の中でも特に有望だと言われています。」

 

嘘だろ、いきなり特殊部隊とかいいのか?

 

「次に降りるフロアのトイレできがえてください。もと着てた服はこちらが預かっておきますので、」

「……はい。」

 

答えたそばに、エレベーターが止まった。

 

「降りてすぐ右にあります。ここで待ってますので、」

 

* * *

 

渡された服は、人の体にピッタリ密着するゴムの様なシャツ、スーツの上衣みたいで、その背中にフェンリルのマークが金色で縫いとめられたジャケット。下はポケットが多いスリムのズボンだ。いかにも戦闘時のことを重視し作られたおかげで、動きやすい。

もと着てた服は畳み、エレベーターへ戻った。

 

「大変お似合いです。」

「ど、どうも」

彼女に服を渡した。

 

「その小袋はどうしますか?」

「……検査に邪魔なら、預けたいんですが……」

「わかりました。」

 

ついでに渡した。

 

「何か大事なものでもございますか?」

「そう、ですね。できれば残して欲しいです。」

 

中に入ってるのは自分なりに大事にして来たものだ。実は……ほとんど誰かの遺品ばかりだ。

 

「では後に稀羅さんの部屋に送ります。」

「もう決まってたんですか?」

「一応の手続きです。」

「しっかりしすぎ……」

 

そしてエレベーターも目的地に降りた。開くと、さほど明るいとは言えない一本の廊下が続いた。

 

「こちらへどうぞ。」

 

彼女についてしばらく歩くと、その先で赤い鉄製のドアがはばかった。重圧感がビシビシ伝わってくる。

「ここ……ですか?」

「ええ……健闘をお祈りします。」

 

うわあ、案外いきなりなもんね。このドアを開けたらすぐにでも始まる。何かこう……気慰めとかが欲しい。ソワさんに振り向くと、何も言わずにただじっと俺を見ていた。自分からは何も言おうとしない。

 

「……あのー、まあ死んじゃったら、お葬式なしで適当にどっか埋めてください。」

 

無言が続く雰囲気が嫌でちょっと冗談混じりに発すると、なぜか彼女は驚いた。

 

「……それがお望みでしたら、本当にそうしますよ?」

「……へい。」

冗談が通じたかどうかは知らない。お互い意味が曖昧な会話で終わり、なんだか中途半端だ。結局気にしないことにし、赤いドアの前に立った。まずはやろう。それから色々考えよう。ロックの解除の音が聞こえ、ドアが開き始めた。先までいろいろ考えていた頭は徐々に白紙になりつつ。




とりあえずこれで原作の最初まで到達しました。
頑張ります。


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痛み-Machine breaks god-

どうも、前回のを読んでくださった方には申し訳ないですが、戦闘シーンは次回から入れます。このままじゃ原作に追いつけないorz

ではどうぞ


「お疲れ様でした。神機はこちらへ。」

 

適性検査が終り、あの赤いドアではなく反対のドアで出たら、数々の神機が並んでいる部屋に着いた。そこに緑色の制服を着た作業員さんたちがいた。

「よろしく……お願いします。」

「はい、任せてください。」

 

検査が終わったのはいいもの、あまりいい気分じゃない。検査の感想は至って単純。もう二度と受けたくない。それだけだ。右腕にずっしりした黒い腕輪をつけられ、しかもそれをつける際の痛みはもうどんな言葉でも表現し足りないくらい。さらに妙にぼーっと痛い頭に、具合が悪化する。腕輪つけられて、神機を持ち上げ……それで終わってしまって、合格かどうかすら分からない。簡単に嬉しく思えるわけが無い。

「単にオラクルってやつを注射するだけなのに、なんでこんなに痛いんだ?」

 

疑問の中で、さっきの風景がふいに浮かぶ。

 

* * *

 

あの赤いドアの先、訓練場みたいな要素が色々と目についた。どこも強固な鉄製の壁や床、高い天井。しかも壁に刻まれた怪物の爪の跡らしきものが無数にあった。

その真ん中には誰かを寝かせるために作ったのか、長い台があった。横になるかどうするか悩んでると、

『フライアへようこそ、これより適性試験を始めます、準備ができましたら、その台に横になってください。』

 

案内放送らしきものが響いた。

その後のことはあまり良く憶えていない。言われるがまま横になると、台の付近から、'神機らしきもの'が(見たこともないが)、ケージから現れた。それを握ったら、いつの間にかでかい腕輪がつけられ……。そして急な激痛が走り、そのあとは痛みに必死でほとんど忘れたかもしれない。

 

* * *

「ふう」

 

神機の格納庫を出たら、エレベーターがあったので適当に乗り込んだ。行くあてもないので、1と書かれたボタンを押す。ソワさんはどこに行ったんだろう。それより、これからどうすればいい?チクチクとまだ腕が痛い。オラクル以外に何か仕込みでもしたのかと思ってしまう。

そういや、あの放送の人は誰なんだ。初めて聞く声だったはず。が、何と無く懐かしさが滲み出ていて、何処かで……聞いたことのあるような気がした。

 

『貴方には、期待していますよ。』

と言われたことは憶えている。ますます不思議な感覚だ。俺は……あの声を知っているのか?

エレベーターが止まった。開いら先に大理石のような白い床に、ゴージャスな雰囲気が漂うフロアが続いた。

「……どこですか?」

 

右手に多人数が座れるソファーが幾つ、さらに巨大でブルーの液晶のディスプレイが置かれ、目の前には広いスペースと自動販売機らしきものがあった。

突っ立てるのもなんなんで、前に進もうとしたら、急に目眩がした。やばい。また頭が……。そのままソファーに進み、倒れるように座った。それで……意識が何処かへ飛んじまった。

 

* * *

 

『さあ、ようやく目が覚めたな。』

 

白い……部屋。目の前に、3人の白衣を着た男たちがいる。そして自分はベットに寝ていた。ここは一体どこだ?先までフライアっていう移動要塞にいたはずだ。なんでいきなりこんなところに?

『君は自分の名前を知っているかね?』

「名前……知らない。」

 

男たちの声が嫌味に頭に響く。まるで耳で聞いた心地がしない。しかもそれに対して、不思議に口が意思とは無関係に、勝手に動いた。いやいや、俺の名前は稀羅だよ?どうしちゃったんだ、俺の口。

 

『ふむ、これは想像以上に悪化してますね。』

『ええ、まさか記憶喪失のレベルが、自己認識障害まで来てるとは……』

『まあまあ、今はよしとして、彼に新しい名前を授けましょう。』

 

なんだか俺がぼーっと眺めてる間にもこの3人の男たちは忙しい。記憶喪失って、新しい名前って?

 

『ですが、本当にいいんですか?その名を言った瞬間、私たちは1人の立派な神機使いを殺すことになります。』

『それは少し違います。'アルケイ博士'、我々が覚えていれば良いのです。』

アルケイ博士?待てよ、この名前もどこかで聞いた覚えがあるぞ。

 

『そうです、いずれ彼が自分のことを探し始めたら、それを目一杯支えればいいのです。』

『うむ、しかし。』

 

アルケイ博士がこっちを見てる様だが、肝心なその人の顔が天井からの光で見えない。

 

『……わかりました。』

『いいご判断です。さて、君は私たちのことが見えるかね?』

3人の中でもっとも若そうな人が話をかけてきた。

 

「聞こえる。けど、顔は見えない。」

 

おや、また口が勝手に動いた。これってもしかして過去の回想ってもの?でも俺にこんな記憶があったか?

 

『なら結構。君の名前は'稀羅-ペル-メルディオ'。ペルは祖父の、メルディオは父親のものだ。聞き覚えは?』

「ない。」

『そうか、まあ、いい。これから君は稀羅だ。今度こそ忘れることがないようにね?』

「どうして俺はこんなところに?」

『君はアラガミに襲われたんだ。それで頭に大きな損傷があったんだよ。』

 

頭部に損傷って。これもしかして……俺が2年前にフェンリルの病棟で目覚めた時のやつか?

「ここはどこ?」

『フェンリルの総合病院だ。君はアラガミの災難から逃げる時に襲われた。』

 

アルケイ博士という人が丁寧に解説をしてくれる。聞けば聞くほど懐かしい声だ。どこかで聞いたことがある。いや、それ以上に、どこかで会ったこともあるはず。

 

「俺をどうする気?」

『どうもしないさ。君は被害者だ。これから安全なサテライト拠点へ君を送ろう。そこで落ち着いて住んでくれ。』

「サテライト?」

『君みたいな人々を集めている場所さ。すぐに慣れる。』

そうか、俺はこの人たちにサテライト拠点へ移住されたのか。自分の中で霧がかかったような記憶が少しずつ明らかになってくる。

 

『しかし、アルケイ博士、彼を極東に送るわけには……』

『極東ではありません。この度新設された北東のサテライト拠点です。』

『ああ、レイティ-フォルンですか。そこなら……』

『ええ、迂闊に彼の記憶を呼び戻す必要はありません。彼が苦しくなるだけですから。』

 

……この3人、かなりやばいことを企んでないか?主犯は彼らだった。俺が突然北東のサテライト拠点で生きることになったこと。それと未だに俺が昔の記憶を取り戻せない理由も、全部……彼らのせいだったのか?

 

『さあ、稀羅。そろそろ眠る時間だ。次目覚めた時は、君は新しい家にいるぞ。』

視界が急にぼやける。やめろ、どうして俺の記憶を消す?叫ぶも、その声は口から出ない。自分ではない、まるで他人の夢に入ってるみたいだ。そして視界はどんどん白くなり、そして一瞬でブラックアウトした。俺の声が一切届かないまま。

 

* * *

 

『稀羅さん、稀羅さん?』

 

夢か幻かもはっきりしない所から意識が現実に戻った。目を開けた先に、今朝会った彼女がいた。

「……ソワさん?」

「はい、そうです。具合は大丈夫ですか?不具合はすぐに申し出る様に、検査で言われたはずですよ?」

「あ、そうだっけ?」

ダメだ。全く思い出せない。

 

「憶えていらっしゃいなら仕方ないですが。」

「すんません。」

「それより、今の体調はどうですか?」

 

改めて自分が汗でびっしょりのことを気づいた。まあ、あんなものを見てしまったし、焦ったといえばそれも正しい。でも本当は先よりずっと楽だ。右腕の痛みも嘘のように消えて、腕輪の重さのかさばりにも多少慣れたみたいだ。

「ええ、大丈夫です。すみません。」

「いつでも声をかけてください。病室まで案内しますので。」

「はい、どうも。」

 

ゆっくり立ってみると、頭痛も治まっていた。体はもう心配しなくていいだろう。ただ、先のことで精神的にはまだダメージがある。色々混乱するのも多いし。

 

「あ、そういや……俺、適性試験に合格したんですか?」

「ええ、ご立派に。あなたはすでに我々ブラッドの神機使いです。」

「なら……よかった。」

「あ、それと、これからの日程がございますが、お聞きになります?」

 

そういや試験が終わった後、何も聞いてないな。

 

「はい。」

「本日から早速訓練がありましたが、時間が大幅ロストしたので、今日はこのまま部屋でお休みなさってください。」

「い、いいんですか?せめて今からでもやれば……」

「いいえ、無理な訓練はかえって障害を起こします。休んでください。」

その力強い発言に、次の単語が喉に埋まってしまった。

 

「……じゃあ、部屋に行きます。」

 

どうも男は口喧嘩には女に勝てそうにない。特に俺にとしてはソワさんに……

 

「よろしいです。では、部屋の案内をしますので、こちらへ。」

 

またあの鉄骨エレベーターに乗ると、彼女が10と書かれたボタンを押した。

「神機使い方々の部屋は、この建物にはございません。他の建物に渡る必要があります。この要塞のビルは全て10階で各施設を渡れる通路がありますので、そこを使ってください。」

「施設は全て人が使う空間ですか?」

「正確には違います。ほとんど要塞の運行の維持に使われています。例えば、後方のビルは全て、要塞を動かすエネルギーを発電させる施設です。逆に前方のビルは、主に事務、居住に使われますが、せいぜい全体の3分の1に満たないくらいです。」

「じゃあ、このフライアってのは途中で止まったりせず、永遠に動き続けられると?」

「そういうことになりますね。」

 

そんな発電施設あったら是非こっちにもよこしてくれ。フェンリルの人々がズルくもなるが、俺も今はその1人だから、口に出せない。それにしてしてもこのエレベーターを動かすエネルギーもここで作られるのか……たいした技術ね。

降りてからの道のりはさほど難しくなかった。通路二つを突っ切ったところで、居住用のビルに入り、いつのまにか自分の部屋の前に立ってた。

「26号室……」

「今日からあなたの部屋になります。お気になさらず、自由に過ごしていただければ結構です。」

「……わかりました。」

 

ドアの形から、この部屋がいかにすごいことになるかを暗示させる。あ、開けるのが怖くなったぞ?

 

「指紋認識用の鍵なのでアップデートしてください。それでは、私はここで……」

「はい、どうも。あ、ちょっと!」

踵を返ろうとした彼女を止めた。

 

「名前、教えていただけますか?今朝は言ってくださらなかったので……。それにいつまでもソワさんと呼ぶわけにはいけないし。」

「私はとくに構いませんけど?ソワは本名の一部ですから。」

「え、そうなんですか?」

「名前が非常に長いので、下の名前だけお伝えします。'フラン=フランソワ=フランチェスカ'、と言い方は多いですが、大抵'フラン'と呼ばれています。皆さんの戦闘のサポートを行う、オペレーターを勤めています。」

 

オペレーター。初めて聞く職だ。

「えーと、フラン……さん?」

「はい。」

にっこりと彼女が笑う。やっぱ無表情よりはこっちが站前似合う。

「……今朝からどうもありがとうございます。」

「いいえ、これからも頼ってくださってもいいですよ。(あ、もちろん、事務的な意味です。)」

 

最後になんて言ったんだ?

「ちなみに今何時ですか?」

「え、あ、はい、19:00くらいです。」

「嘘……」

 

どんだけあの世界にいたんだよ。

 

「大丈夫です。よくこんなケースはありますので。何より……」

「……?」

「適当に埋蔵することにならずに済んでよかったです。」

「……そ、そうですね。」

 

彼女は割と本気であの言葉を聞いたみたいだ。自分で言い出してから言うのもなんだが、反応に困る。

「それでは、」

「お疲れ様でした。」

* * *

 

とにかく部屋が豪華だ。うん、あの暗示は全くもって正しかった。清潔な床に、群青色のカーペットが敷かれ、壁はクリム色。適当に明るい光が似合う。家具はベット、本棚がセットの机だけだが、そのどれも精巧に作られていた。あらら、いきなりこんな部屋に変えられて平気か?

 

「すげー、なんだこのベット、ふわふわする。」

 

どこかのボロクソなベットとは大違いだ。何回かベットの上で跳ねてたらまた眠くなった。やれ、今日はやたらと眠いなあ。

「……寝るか?」

眼鏡を適当に机に投げ、そのまま横になった…………。

しばらくし、床に降りてきて再び横になる。うん、あのベットが良すぎて、むしろ慣れなくて寝れないや。意外と少し柔らかいカーペットで、またも意識が遠のいて行った。




少し、原作からずれましたね。
確か、試験を受けた後、イベントがあるんですよね。
それはさっさと次回に回さないと(あせあせ)
まだ戦闘シーンが少なく退屈かもしれませんが、次から早速入れて行きます。
よろしくお願い申し上げます。


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捕食とおでんパン-Jurius and Nana-

続き参ります。なんかだんだん長くなって、読みづらいですよね。
すみませんすみません。
キレどころがまだ曖昧で…(完全言い訳じゃんかコウラアア!」
とにかく今回も無理やり戦闘シーンを入れて増えましたが、どうかよろしくお願いします。


次に目が覚めた時は、頬にカーペットが貼り付いてた。そういやベットが無理でこっちに下りたっけ。窓の外は日差しがなくて暗い。残念ながら時間まではわからない。

「……あ、制服のまんま寝ちゃった……」

 

やっと気づいた頃は、制服にしわが出来てしまってた。折角のものが台無しだ。周りが気にしなければいいけど……。机の上の眼鏡を鷲掴みし、顔でも洗おうと洗面台を探す。らしきところのドアを開けると、

「ここまで凄いことになってるんですが。」

綺麗の一言では言い切れない空間が出やがった。浴室1つでサテライトとの格差はさらに広がった。知ってる訳もない素材での浴室は、極端に言えば……キラキラする。うん、言い過ぎかもしれないけど、とにかく俺はそう見える。

「温水が普通に出るわ……」

サテライト拠点では温水が貴重だった。かつて風呂の文化が発達したと言われるこの国が、今や世界中で最も水が足りないことになってるもんだ。何と無くサテライトも人々に申し訳ない気持ちで顔を洗う。

そこでいつもより右手が少し重いことに、

「あ、腕輪……」

痛みを代償に受けとった腕輪を自覚した。

 

* * *

 

部屋にじっとしているのもなんだし、腹も少し減ったので、部屋から出た。昨日と変わらず、赤いカーペットが敷かれた清潔な廊下。フランさんに案内された道を逆戻りし、あの大理石の床の(本当はどうなのか知らないが)ロビーに着いた。

 

「改めて見ると、ここも大した広さね。」

 

先までいた部屋も中々だが、ここはここで昔の家の5倍以上の空間はある。しかも2階構成で階段もある。

まずは1階の探索から。周囲が黒い柵で囲まれているのが気になって、その外側を覗いた。途端、すぐに後悔する羽目になったけど。

 

「……オーイ……」

 

叫ぶ。どうもこのエントランス自体、どこかの壁にくっついている様で、下がガラ空きだ。宙に浮いてるのか、と見間違っちゃいそう。下から強い風が吹き上がってきたので、見るのをやめた。

ささ、気をとり直して次に。ブルーのディスプレイには旧日本の地図が表示され、幾つかの場所にメッセージが浮いてた。場所は地名ではなく、なんか変な名前が付いてあった。

「……これ、単純にその地域の特徴でつけたよな、明らかに。」

 

鎮静のお寺だの、贖罪の街だの。まあ、近々わかるっしょ。

次は謎の自動販売機だ。記憶が正しければ、普通のは飲み物を売っている……はず。

 

「装備、アイテム、ウェスト……」

 

あれー、完全に常識をかけ離れてる。こいつがやけにデカくなってるのも納得だ。出るもんが大きけりゃ、その図体も大きくなるもんね。

探索のつもりが返って頭を混乱させた。結局わからないもんが増えたまま、2階に上がった。

 

「あら、稀羅さん、もう起きましたか?」

「あ、フランさん、どうもおはようございます。」

黒いカウンターでフランさんがいた。それぞれ反対方向を向くパソコン2台が置いてある。多分ここがフランさんの職場だろう。

 

「ちゃんと休みましたか?」

「部屋入ってまた熟睡しましたから。」

「それは良かったです。にしては早いですね。まだ4時くらいですよ?」

 

体内時計狂ったな。

「ま、まあ。適当に時間潰しますんで。」

「日程でもお伝えしましょうか?」

「そうですね。」

「昨日言いました通り、新米の神機使いには訓練があります。基本動きや、情報収集についての訓練で、第一の基礎といえます。まずはこれを耳につけてください。」

彼女がくれたのは、非常に小さく丸い機器だった。指示どおり耳の奥に入れてつけたら、

『どうですか?ちゃんと聞こえますか?』

耳の奥からフランさんの声が響いた。

「はい、これ無線機なんですね。」

「ええ、業務上の連絡や、戦闘時に使います。コンパクトに収縮し、しっかり固定されるようにしています。」

「軽く耳の奥に当てただけですよ?」

「強力な接着剤がありますのでご安心を。」

「へー。」

「訓練は……早ければ6:00くらいから開始になります。5:30には知らせしますので、何処かで時間を潰してはいかがですか?」

「あ、じゃあ、飯にでも行ってきます。案内してもらえますか?」

『では、早速こちらで案内しましょう。』

こ、これは適用化の速さが尋常じゃない。

「りょ、了解。」

* * *

 

無線で案内され、食事だけじゃなく、他の施設を幾つか見回った。

 

「無線機の使い心地はいかがですか?」

「だいたい慣れてきました。耳の奥がくすぐったいですけど。」

「いずれないものと思えます。」

 

頷くと同時に、一つ何かが浮かんだ。

 

「あの、突然ですけど、昨日俺の適性試験でアナウンスをした人って誰ですか?」

「ラケル博士です。」

「誰?」

「このフライアと特殊部隊ブラッドを創設した方です。フェンリルでは屈指の頭脳明晰な科学者としても知られております。」

「そんなすごい人がどうして俺なんかを?」

「実はですけど……」

 

フランさんが身を少しかがめてきた。

 

「稀羅さんを候補者にする際、最も強く推してくれた方です。」

「俺、なんかありました?」

「どうでしょう。確かに稀羅さんの身体スペックは相当高いと私も存じておりますが……」

「身体スペック……ですか?」

「ええ。今度の訓練で確認なさればどうですか?向こうも期待してましたからね。稀羅さんの戦闘データ。」

「まあ、やることはやって見ます。」

「頼もしい返答です。それでは、訓練までまだ時間がありますから、庭園をご覧いたしますか?」

「庭園?」

「水と植物を使った休憩スペースです。5階にあります。」

「わかりました。行って見ます。」

 

あのラケル博士って、一体どんな人なんだ。俺には全然見覚えないけどな。

 

* * *

 

庭園。たくさんの花と草に茂ったここは、他の場所とは別の次元みたいに美しい所だった。奥へ進むと、大きな木が植えていて、その木陰に……ある男性がいた。ぼーっと斜め上の空を眺めていた。

何も言えず、じっとしてた自分を気づいたのか、話をかけてきた。

 

「ああ、適合試験お疲れ様。こっちに来ればどうだ?」

「……はあ。」

 

近づくと座れと言われた。

 

「ここはフライアの中で最も落ち着く場所だ。暇があると、ずっとここでぼーっとしてる。」

 

心が落ち着く適度に太い声。茶色ににじんだ金髪と、その髪の色に似た瞳。声がなかったら貴族の女性と見間違えてしまいそうだった。美形男子ってのはこういう?

 

「確かにいい場所ですね。」

「ああ、気に入ってる。」

「……どちら様ですか?」

「そういやまだ名乗って無かったな。俺は'ジュリウス-ヴィスコンティ'。」

「ジュリウスさん?」

「ああ、君たちが配属されるブラッドの隊長を勤めてる。」

 

すごいことを言ってないか、このひと。

 

「あまり恐縮しなくていい。よろしく頼む。」

「……こちらこそ。」

「君は?」

「稀羅-ペル-メルディオと言います。」

「キラ……か。どんな漢字を使う?」

「まれの稀に、修羅の羅です。」

 

自分の名前なのに変な説明しちゃったな。

 

「そうか、名前は……気に入って無いのか?」

「へ?」

「いや、なんでもない。」

 

彼は立ち上がって服の土を落とした。

 

「さて、後でゆっくりフライアを見回ってみるといい。また後で会おう。」

 

後ろに左手を軽く振りながら、ジュリウスさんはエレベーターの方へ去った。彼を見ながら、最後の一言を思い出す。

 

『名前は気に入って無いのか?』

 

どうかな。本当は好き嫌いとかあまり自覚がなかった。ただ、昨日あの夢を見てしまってからは、自分の中で少し変わってしまったかもしれない。もしそれが、初対面の人に気づかれるくらいなら……しばらくは気を配った方がいいだろう。

 

* * *

 

フランさんのレクチャーのもと、神機を自分に合うようにカスタマイズした。刀身はバスターという、切断属性では攻撃性抜群のもので、シールドはタワーシールドと言い最も頑丈なものを、銃身は火力の強いブラストをつけた。

 

『できました?』

「はい。いいんじゃないかな?」

 

一見めちゃくちゃ重そうだが、すごく軽い。薄い木材を一枚持ってる感じ。理由は分からん。

 

『稀羅さんの神機はスピードには劣りますが、それを補える火力とパワーがあります。相手について行くよりは、一定時点でとどまって攻撃するという手もいいでしょう。』

「参考にします。」

 

不思議。他の複雑な説明は2回聞いてもあやふやなのに、戦闘に関する情報は容易く頭に叩きこまれていく。

 

『ゲートを開放。訓練中は別の方が指示をしてくれますので、聞き逃さないでください。』

「了解。」

 

大丈夫、今ならなんでも聞き取れる自身がある。

訓練場は昨日適合試験を受けたあの場所だっだ。違うのは、今の俺は神機をもっていて、真ん中にあった台はないということくらい。

 

「よし、行くか。」

 

無線機から音声が流れた。声の主は、

 

『準備はいいか、始めるぞ。』

「……え?」

 

庭園で挨拶を交わしたばかりの、ジュリウス-ヴィスコンティさんの声だった。

 

* * *

 

『いい動きだ。次、行くぞ、』

「どうぞ」

 

視野の確保と戦況確認、基本動きをざっとこなすと、指示もどんどん早くなってきた。

 

『ダミーのアラガミだ。倒してみろ。』

 

離れたところから、全身が赤黒い変な化け物が出てきた。恐竜の子供って感じだな。

 

「ダミーね、」

 

両足で地面を蹴って距離を詰め、頭上に神機を振りかざす。グサっといい音を共に、化け物が凹んで盛大な血を吹きながら、両断された。

 

「……ああ、なんかいい感じ。」

 

爽快感が全身を支配する。

 

『神機はプレデタフォームと言う、アラガミのオラクルを吸収し一時的に能力が上がるシステムがある。倒したアラガミの死体を食ってみろ。』

「食う?これを?」

 

すると、神機が……変形し始めた。瞬時にそれは終わり、まるである生物の頭を握っているような格好になった。まるで何かで溶け出した瞬間の様子で、色は茶色。餓え、欲求といった感情がうっすら伝わってくる。

 

『死体に向かって放て。』

 

待ってたよと、死体にかぶりつくその頭。そして何回か口を動かすと一気に小さくなり、神機に収納されるかのように消えた。

 

「何だこいつ。」

『今のは死体を食ったため、そのアラガミの素材を回収することで終わったが、戦闘中に捕食するとエネルギーを強制的に奪える。』

 

ほうほう。エネルギーを、か。

 

『ではもう一度先のアラガミと戦ってもらう。』

 

先と同じ地点から同じ形をしたダミーアラガミが出てきた。

 

「はっ!」

 

右足に体重をのせ、短い気合とともに水平に神機を振る。足を両方切断、当然ながら、倒れた。

 

「それ、」

 

再びこいつを食おうと思ったら、神機からあの歪な頭が出た。かぶりつくと同時に無理やり引っ張って収縮させると、急に体に力がみなぎる。

 

「おお、なるほどね。」

 

こっちを睨むダミーの首を切り飛ばした。そして残骸も喰うことで……

 

『ご苦労、今日の訓練はここまでだ。』

 

最初の訓練を終えた。

* * *

 

好調な結果に満足しながらエントランスへ出た。

 

「お疲れ様でした。いかがでしたか?」

「思った割には簡単でしたね。」

「いいご返事です。くれぐれも油断はなさらぬように。実戦ではより厳しいですよ?」

「……まだ新兵っすからあんまいじめないでくださいよ。」

「ふふっ、では次の訓練まで休んでください。」

「了解です。」

 

1階のソファーがあるところに行くと、猫の耳みたいにぴょこっとした髪型の女の子がいた。黒く艶やかな髮も印象深いけど……かなり露出度の高い服にギョッとした。白く薄い布に胸を隠し(しかも最低限)、それを黒いベルトで固定し、その上にヒラヒラのピンクのチョッキを羽織っている。下はホットパンツというので、全体的に目のやり場に困る格好だ。

 

「ああ!おつかれさまあ!」

 

声をかけられた以上、通り過ぎるという選択肢は消えた。

 

「お疲れ様です。」

「君もブラッドの新入生、じゃなく新入りの方だよね?」

「そちらも?」

「うん!私は'ナナ'!同じく、ブラッドの新入りです!よろしくね!」

 

そしたら食事の途中だったのか、いろいろ盛り沢山のパンを食べ始めた。

 

「よく……食べますね。」

 

手に余るよっぽど大きなパンを、いとも簡単にかぶりつきながら、幸せそうに食べてる。

 

「そう?これでも結構普通だよ?それにさ、ゴッドイーターは食べるのが仕事だから、これも仕事の一環みたいなもんですよ。でしょ?」

 

仕事、かあ……あ、喰うね、確かに。俺じゃなく、神機のほうだけど。

 

「そうかもしれませんね。」

「ああ、敬語禁止い!同じ年頃そうだし気楽に行こうよ!」

「あーはい、じゃなくて、うん。」

「うんうん!」

 

満足そうに頷いた次の瞬間、彼女はまだ半分以上も残ったパンを一気に食べ干した。いやいや、今のは飲んだぞ?てかあの小さな口に?

 

「そうだ!お近づきの印に!」

 

彼女が食べてた同じパンを渡された。

 

「お母さん直伝、ナナ特製おでんパン!すっごく美味しいから、よかったら食べてよ!」

「あ、どうも。」

 

てか待て、結局のところ何回噛んだ?こいつ。内蔵どっかにかかったりもしないか?

 

「おーっと、あたしこれから訓練だから、」

 

いかにも平気そうなナナさんは大きな白い袋を持ち上げた。

 

「いってきまーす!!」

 

何も言えずにぼーっとおでんパンを眺める俺に、

 

「残したら、後で怒るからね!!」

 

向こうで叫んでくるナナさんだった。はあ。てか残してもどこに捨てるんだよ。苦笑しながら、小さくパンをちぎって食べた始めた。

 

「あ、これ割とうまいかも。」

 

カリカリに焼けたパンに暖かい汁が滲み出るおでんの具がたくさんのってて、なかなかバランスが合う。にしてもあの子、よくこれを一気に食えるな。頑張ってみたが、結局ゆっくりパンを囓るしかない俺であった。




ジュリウスとナナの登場!!
やっと原作の入り口に到着です。
実は、ナナの服装はこの原作のゲームでは一番露出度が高いです。
ちょっと男としてハアハアしそうですが、気をつけようか。

読んで下さんた方、今回もどうも!
次はできれば実戦も入れたいです!(出来れば アセアセ)


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出会い-Blood and Romeo-

ロミオ登場です。
次は初陣は行けそうです。
でもなあ、他の優秀な方々はしょっぱなから初陣の話が出来るんすよ。
テクをまなべるといいな。


その次の訓練もさほどきつくはなかった。ダミーのアラガミを3体ぶちのめして終わり。目の前のアラガミを倒すことは包丁で肉の塊を切る感覚で、さくさくと終わってしまった。印象に残ったのは、任務中に拾うことになる廃材でも神機を強化できるということぐらい。

 

「すごいですね、稀羅さん。ラケル博士が推奨したのも納得です。」

 

二つ目の訓練が終わり、ロビーでフランさんとのんびりしてたら突然そう言われた。

 

「……何がですか?」

 

フランさんはこっち向きの小さいモニターに映像を映した。

 

「これ、さっきの?」

「はい。稀羅さんの戦闘データを分析するための映像です。ご覧の通り、なんの躊躇いもなく、ダミーアラガミを叩きつけてますね?新人の方々も最初は一歩下がるところを、稀羅さんはむしろ前に出ている。これは相当の度胸か、それともそれなりの自信がなければ、なかなか見れない姿勢です。」

「自信?」

「でも私は少し違う方向で考えました。」

「と言うと?」

「稀羅さんの神機の扱いが、いかにも自然で、慣れた動きでした。まるで、現役の神機使いを無理やり訓練させているみたいに。」

「流石にそれは大げさですよ?」

 

そこまですごいことなのかな。目の前のアラガミを……敵を殺す。それだけ。至ってシンプルな考えがなぜここまで周りを驚かせるのか?

 

「いいえ、非常に素晴らしい動きです。実戦投入も間もないのでは……」

「ま、となったら死なないように気い使わないと。」

「それだけでは足りないですよ?」

「へ?」

「一切攻撃を受けないつもりで注意してください。」

「りょ、了解。」

 

冗談なのか、注意なのか区別のつかないことを言われちまった。うーん、とりあえず忠告として受け取ろう。

階段を下りて、ソファーへ向かうと、

 

「ああ!先の人だ!」

「あ、どうも……ナナさんでしたね?」

 

あの猫髪の女の子がいた。

 

「うんうん!あ、敬語禁止い!」

「あ、すみません、じゃなくて、ごめんなさい。癖なのかな。」

「早いー、あたしが先に訓練行ったのに、終わるのがほぼ一緒だなんて?」

「おでんパン食べた後にすぐだったけど?」

 

ナナさんの向かい側に座った。

 

「ええ?!じゃああたしがまだ訓練足りないってこと?!どうしよう。」

「そ、そうなる?」

「だって、あれ最初は結構食べ辛いとみんなから言われるよー。」

 

はい、食べ辛かったです、と口が裂けても言えない。なるほど。確かにあれを食い終えるのにかなりの時間を使った。

 

「そっちはどうなの?訓練、うまくいった?!」

「まあまあかな?怪我はないし、アラガミは一撃で死んでくれたし。」

「うええ?!あたしは4回叩いても起き上がったのよー!やはり斬る属性がいいのかな?」

「えーと、もしかしてブーストハンマー?」

 

文字どおり、巨大なハンマーに、スピード向上を図ろうとブーストという機構が内臓されている武器パーツだ。属性は、破砕だったはず。

 

「そうなのー!あれー、それとも最初から頭を狙った方がいいのかな?でもちょっと危ないんだけど、」

「……これから研究して行けばいいじゃない?」

「そうね!あ、それとさ、おでんパンどうだった?美味しかった?」

「そうね、なかなかよかったよ。」

「よかったー!さっきも言ったけど、大きすぎて食べらませんって人もいるもん。」

 

……迂闊に口を開いたら、次の瞬間に頭が潰されそう。表情管理にも手間がかかるものだ。

 

「あれ?見ない顔だね、君ら。」

 

そこで、後ろから聞き覚えない声がした。

声主は派手なパンク衣装の金髪男。と言っても同じ年頃に見える。男にしては甲高い声で、表情豊かな顔だ。外見としては明るい人だ。

 

「ああ、こんにちは!」

 

ナナがもう挨拶をするのでこっちも会釈くらいはした。

 

「あ!噂の新人さん?」

 

噂になってるんだな。

 

「はい、これからお世話になります、先輩!」

 

先輩と呼ばれた男はビクッと反応した。

 

「先輩……いいね。なんかいい響き!」

 

あの、心の声がただ漏れですが……。うん、もしかしたら憧れてたかもな、この人。

 

「よし、俺は'ロミオ'と言うんだ。先輩がなんでも教えてやるから、なんでも聞いてくれ!」

 

もう自分を先輩と決めつけてんだが。

 

「あ、その前に言っとく。ブラッドは甘くないぞ、覚悟しとけよ。」

「そのブラッドですが、どういう部隊なんですか。特殊部隊とは聞きましたけど。」

「お、おお。いい質問だね。うーんそうだな。ブラッドは血の力を秘めていて……そう!それが発動すると、必殺技が使えるんだ!うちの隊長なんか凄いんだぜ?どんなアラガミでもずばーん、どがーんって倒してしまうからな。」

 

血の力……か。血、異国語でblood。ああ、名前の由来が分かった。なら、血の力はなんだろう。そんな疑問を抱く自分とは違って、ナナはむしろ必殺技というのに興奮したらしい。

 

「すっごおい!ロミオ先輩も持ってるんですか?」

「ば、馬鹿。そういうのはさ、そんなすぐに取れるようもんじゃないんだよ。」

 

つまりは持って無いんだな、先輩さんよ。

 

「そうだな。今のような質問はラケル先生に聞いてみるといいと思うよ。んじゃ、俺は用事があるから。」

 

場の雰囲気をおもむろ気づいたのだろう。ロミオさんは逃げる様に去ってしまった。

 

「あれ?なんかまずいの聞いちゃったのかな?」

妙な感じに彼女も気づいたんだろう。

「さあね。」

 

あえて無視する。

にしてもある程度キャリアのありそうなブラッド隊員でも必殺技を持って無いというのは、それほど扱いの難しい力だとも思える。

 

「そういえばあたしたち何話してたっけ?」

「おでんパンがどうだこうだと。」

「うんうん、それ!それでね?ほんとはみんなにいっぱい食べて欲しいけど、結局あたしが全部食べちゃうんだ。」

「太らないのがすごいね。」

「なんでだろう?今まで気にしたことはないけどね。」

この子、いずれ女の敵になれるんじゃないかな。

「そのおでんパンってお母さんの直伝とか言ってたね?」

「うん!あたしが幼い時にいつも作ってくれたんだー。」

「優しい方ね。じゃあ今は……実家に?」

「えーと……う、うん!そうだよ。昨日だってメール送ったしね?」

 

ちょっとつまずいてるみたいけど、マズイのを聞いてしまったのかな。いや、単に気にしすぎか?

 

「稀羅はどうなの?やっぱ家族はサテライトに?」

「……まあ、そうかもな、」

「あれ?家族と一緒に暮らしてなかったの?」

「何年か前からは1人暮らしだったんだ。無事に……いてくれればいいんだが。」

 

当然嘘に決まっている。2年より以前の記憶なんぞない。初対面の人にバラすほど図太いわけでもない俺は、その場に合わせて誤魔化した。ナナのやつ、ひょっとしたら俺と似た境遇かもな。場のノリに合わせて急に偽ろうとすると、どうも外に出てしまう様だ。特に慣れてない人は。

 

「今は連絡してないんだ。」

「頻繁にどっか引っ越すから。」

「うーん……」

「……」

 

ああ、対話がフリーズしました、と。俺も様子みて離れた方がいいのかな?

 

「よし!この話はもうやめよ!」

「へ?」

「あたし、こういう話題苦手。そもそもこの雰囲気が嫌だけど。」

「そ、そう?」

 

そりゃあ、あんたの外見からだいたい予想はつきますけど。

 

「というわけで!稀羅からなんか面白い話題出してよ!」

「はい?」

「いいでしょー?ずっとあたしばっか言ってたし。」

「あー……」

 

そもそも最近人と話したこと自体少ないです。これは参った、どんな話をすればいいのかやら。

 

「えーと、もしよければ例のおでんパンの作り方教えてくれない?」

「えー、いいけど。それだと稀羅があたしのおでんパン食べてくれなくなるじゃん。」

 

私はそのパンの咀嚼機ですか。てか話が続かん。

 

「えーじゃあ、ハンマーの攻撃パターンの研究でもするか?」

「あ、あたしー、今からそんなすごく真面目なの無理。」

「どうしろってんだ!」

「きゃあ!怖いよ!稀羅!」

あかん。落ち着け、俺。

やっぱ日頃から人とちゃんと話すべきだと今更思う。話題の尽きるのが早すぎる。

 

「じゃ、じゃあ今からお互い何話すか考えようよー。どう?」

「いいんじゃない?」

 

2人とも目を閉じてじっくり悩み始めた。

 

「……」

「……」

 

この沈黙はあまり長く耐えられそうにないが……。




ロミオはいわゆるいじられキャラと解釈していいでしょうか?
ナナはできる限り元気な印象を書きたいんですが、少し難しいな。
まあ、次から、続々とミッションが追加されますので期待していただけると幸いです。


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初陣-twenty-three heads-

悩み始めて10分弱。俺からいい話題は出るはずもなく、考えるふりしながらナナの閃きを待ってた。

 

「うーん……ねえ稀羅、ちゃんと考えてる?」

「してる。浮かばないだけ、」

 

ごめんなさい棒読みの嘘です。正直に、ナナがこう悩んでいるのを眺めているのがただ楽しい。

 

「……むー、もう無理。」

投げ出しますか。せめてあのロミオさんさえ残ってたら、何かしらで盛り上がったかもしれない。なんとなく話が上手そうなひとだったからな。ったく、都合良く逃げやがって。

 

「うー、こんな時は何かを食べてながら考えよう。それで絶対いい案が出る。」

体格並みに大きい白い袋がまた出た。ナナはおでんパン1個をかじり始めた。食べながらって、むしろその味に興味を乗っ取られそうだが?

 

「うんうん、やっぱりおいしい。」

 

はいそうですか。普段どんな生活を送ってるのかもう目に見えだよ。

 

『業務連絡です。』

 

無線に慣れずに、フランさんの声がした時、つい周りをキョロキョロしちゃった。訓練で使いまくったのにも。

 

『稀羅さん、ナナさん。ラケル博士からのご指名です。博士の研究室へ向かってください。』

へえ、こっちが気にしてた方がわざわざ指名か。

 

「研究室ってどこですか?」

『その建物の8階です。』

「えい、今行きます。」

 

話題が底を尽きてしまったし、進みそうにないし、ちょうどいい。

 

「りゃけりゅはかしぇー?」

せめて全部食ってから話さない?

 

「知り合いか?」

「そんな気がする。」

「どういう意味だよ?」

「……ううん、わかんない。でも何処かで会ったことはあるかもー。」

「そう?」

 

もしかたら俺とちょっと似てる感じかもな。一部しか知らず、記憶が微妙な状態。

 

* * *

 

エレベーターで8階に降りたら、何故かジュリウスさんとまた会った。

 

「ああ、来たな。ラケル先生からの召集か?」

「はい、そちらは?」

「同じくお前たちに用がある。ラケル先生の後でいいからもう一度来てくれ。」

「了解。」

「お、ジュリウス!」

 

俺たちの後ろの通路から声がした。ん、この声は……さっきお逃げなさった誰かさんだな。ちょい挑発気味で声をかけてみることにした。

 

「おやおや、これはロミオ先輩ではございませんか?」

「げっ、お前らは。」

 

ロミオさんは一歩遅れにこっちのことを気づいた。うわ引いてる。あきらかに引いてる。あの、引きたいのはこっちですよ。

 

「ロミオか、二人と同じ用か?」

「ラケル先生にな。んで、そっちこそどうしたんだジュリウス。この時間帯にこのフロアってのは珍しいね。」

「この二人に用があってな。」

「あ、そう……んじゃー俺は先に!」

「あ!先輩!待ってください!」

 

ああ、また逃げようとしてる。彼の心情が読めるはずもないナナは彼を追って、両開きドアの部屋に入った。

 

「ロミオとはもう挨拶を済ませたのか?」

「向こうがこっちに声をかけてきた感じでしたけど。」

「にしては様子が怪しいな。何かあったか?」

「……本人に聞いた方が良さそうです、それは。」

説明すれば長引きそう。あと、自分の口から言わせた方が、聞く側としては面白い。もちろん第三者の立場として。

 

「誰に対しても気楽に接する彼からは、あまり見れない表情だった。」

「気楽、ですか。」

「ああ、俺が奴から欲する唯一の長点さ。」

一見完璧そうな人でも、どこかしら望むものがまだあるんだな。自分より他人をよく見るってことか?

「……そんじゃ、あとで伺います。」

「下のロビーで待ってるぞ。」

「へい。」

 

* * *

 

ラケル博士は、その名声とは裏に車椅子の生活を強いられている女性だった。雑毛のない綺麗な金髪と真っ青な瞳は、まるでジュリウス隊長に似ていた。かなり長期間車椅子で過ごしたせいか、体が細く小さい。黒い喪服の様なドレスは、見る人の気持ちを瞬時に鎮めてくる感じだった。

今度召集されたのは、ブラッドの候補生のみらしく、俺らが秘める血の力ってやつについて聞かせてもらった。まだまだ未確定要素ばかりのその力は、見つけた人も、持つ人も悩ませるものだった。

人の強き意志に基づき、その本性を見せるという血の力。つまり、個人差が激しく、それによる効果もそれぞれ。

結局のところはこれだ。詳しく分かっているのは何一つないということ。最後にそれを聞かされては、まるで俺たちがその力の実験体にでもされてる気がしてたまらなかった。

 

* * *

 

ラケル博士の説明が案外長引いたのにも、ジュリウス隊長はちゃんとロビーで待ってくれていた。

 

「そんじゃ、俺はここで。」

 

メンツを一瞥したロミオさんは、今度こそみたいな勢いでまた早足で去ってしまった。うん、でもこれからどんどんからかうにはちょうどいい感じの人だ。

 

「うーん。先輩どうしちゃったんだろ……」

 

色々知らないことが多いナナはナナで鈍いというか。いつか教えた方が。

 

「さて、二人とも先日の訓練は上出来だった。」

「あ、どうも。」

「よかったー!」

「今日は外でより実践的なことを行う。神機を整備次第、指定ポイントまで来てくれ。」

 

場所はかつて人で盛んだった大都市……今は単なる廃墟だ。そういやこの写真って先ディスプレイで見た気がする。地名が……'何かしらの亡都'だったか?

 

「先に行ってる。」

 

ジュリウスさんはテキストファイルを渡し、2階に登って行った……適当すぎじゃないかと思うけどな。なんかもっとブリーフィングでもするんじゃないのかと期待したんだが……。

 

「ねえねえ、これって実戦?」

「さあ。単に外で動いてみよう、だけじゃない?」

 

不明な点を抱くまま、神機の整備しに向かう。

 

* * *

 

「ではそろそろ時間だ。2人とも行けるか?」

「……さっきみたいのはごめんですけど。」

「あ、あたしも。」

 

ヘリでざっと20分飛んで着いた、廃墟の都心地。これがまた悪趣味とも言える風景で、どっかしら必ず割れてたり壊れてたりしてる多数のビル群、発生源の不明な池に陥没した地面、人の管理を離れて勝手に育ち過ぎた草木……都心の衰退のはずが、自然に還元されていくのを見てる様だ。

ここでジュリウス隊長と合流するとこまでは良かったが、いきなりアラガミ1体が俺たちのいる丘の上に攻めてきた。んまあ、隊長がうまく追い払ってくれたからいいけど。で、要するにちょっとしたショックを受けた訳だ。

 

「安心しろ。今のはレアなケースだ。」

だったらなんでそんなケースを俺らが味わう必要があるんですか?

 

『かなり突拍子なものでしたね、サポートします。』

 

あ、この声はフランさんだ。隊長から実践だと言われたし、オペレーターも入るのか。

 

「いいんですか?俺はど素人ですよ?」

「さっきも言ったが、お前たちが実力さえ発揮できれば問題になるような相手じゃない。」

「だからさらっと言わないでください。」

「うわああ、本物のアラガミだあ。」

 

いきなり突きつけられた課題に困惑してしまう俺とナナだが……ここまで来ちゃったらやるしかないかな。

 

「はあ。了解です。せめて死なせないでください。」

「ああ。もちろんだ。」

 

複合コアでちょっとばかり強化した神機を肩にのせた。

 

「ねえねえ、稀羅。あのアラガミたち……ダミーに色塗ったと思っていいよね?」

「……よし、それで行こう。」

 

緊張感がかなり和らいだ。ダミーだと思った途端にこの安堵って……。

 

「またアラガミが登ってくる前に行くぞ。」

 

隊長に続いて丘を飛び降りた。さっき攻めてきたアラガミはいないが、代わりに変な茶色の布を被った独眼のアラガミが3体いた。地面に足が埋れてるみたい。

 

「下がってアラガミの行動を把握しろ。稀羅、10時方向、ナナ、12時方向!俺は2時方向を預かる。奴らは移動はできないが、砲撃に注意しろ。」

「了解。」

 

10時方向のやつを目掛けて走る。するとそのアラガミの目から何か放たれた。弾丸なのかと、左にかわすが何もなかった。ただ自分が先いた地点が妙に黒く光ると思ったら、何かが炎上した……便利な攻撃ね。

 

「賢いけど、遅いね。」

 

至近距離まで詰め、神機をその黄色い独眼に突き立てた。柔らかな感触と真っ赤な血しぶきとともに、深々と刺さった。

 

「うおら!」

 

そのまま神機を右にひねって切り上げる。アラガミの上半身が宙に舞い、それをキャッチするようにプレデタフォームで捕食。

 

「ちっ、死んだかよ。」

 

素材だけで、力はみなぎらない。

 

「てやああ!」

 

残り2体は、ナナに潰され頭部の形を失い、ジュリウス隊長に全身が切傷で大出血を起こす有様だ。ナナはともかく隊長はどうやってあんな短時間にたくさん斬れるんだよ……。

 

「終わりか?」

「あ、もうおわり?」

「みたいですね。」

 

ダミーと想定したこともあってか、何より相手が動けない奴でよかった。

 

『アラガミ反応多数、近いです!』

 

……今倒したばかりなんですが?鼓膜を叩くフランさん声に誰もが警戒する。

 

「種別は?」

『オウガテイルと思われます。』

「よし、迎撃するぞ。」

「あいあいさー!」

「了解。」

 

返事の直後にこっちから見える角から、4匹のアラガミが一気に出てきた。あ、こいつら先丘の上に登ってきた種別じゃん。それよりどれもが違う方向を向いていて誰を狙ってるのか判定ができない。

 

「っ!稀羅とナナで前方の二体を仕留めろ!後方はこっちが預かる!」

「ちぇ!」

 

最前のアラガミの頭を、地面に埋めた左足を軸に、思いっきり右の方に飛ばす。幾つかの血雫が眼鏡のレンズを汚した。

 

「よしっ!」

 

頭が消えた首を頂く。同時に望んでたあの力みなぎる。視界もくそも失った赤子の恐竜のアラガミはフラフラしてはあっちで倒れた。

 

「てえい!」

 

俺の右から走ってきた奴を、ナナが顔の側面にハンマーを当ててそのままぶん回した。

 

「あ、あれでいいのかよ?」

「多分!」

 

飛ばされたアラガミは、壁に激突し地面に伏した。それからピクリともしない。

 

「毎日あんだけ飯を食うくらいはありますな……」

「ナナ、素材の回収をしろ!」

 

一振りで2体の頭を切り落とす隊長さんからの指示に、

 

「いっただきまあす!」

 

プレデタフォームを展開するナナだ。

 

『っ!隊長!複数のアラガミの反応を再び捕捉!」

「なっ?数と種別を!」

『同種別です、数は……そんな、12?』

「先まで何の反応もなかったはずだ!」

『さらに、その後方で4体捕捉、危険です。』

「適当に蹴散らし撤退するしか……」

 

少し弱気になってないんですが、隊長さん。

 

「もうここまできたら全部ぶった切って帰りましょうよ。」

「調子に乗るな!いったん撤退体制を取れ!」

「と仰っても、もう目の前ですよ!」

 

突進してくる2体。

 

「うわあ、稀羅、危ないよお!」

「ああ、もう死ね、クソが!」

 

肩に神機を構えた。そして微かな感覚で手に力を入れ直す。

 

「はああ!」

 

データでは……チャージクラッシュとか言ってたな。このバスターだけが出せる唯一の技。体内のオラクル細胞を一時的に活性化させ、その影響を神機に移して刀身の長さを2倍に延長する。やがて神機がうずうずしい紅いオーラに包まれる。

 

「てや!」

 

一気に縦に下ろす。そして派手なエフェクト共に、2体の6割以上が切断され俺の両肩を掠りながら後ろに転がった。

 

「っ!」

「うそ!」

 

隊長さんもナナも驚いたが、放った自分も驚いた。これこそ規格外の技じゃないですか……

 

「後方3体!ナナ、援護にまわれ!」

「りょ、りょーかい!」

 

またかよ。しつこい奴ら。

ナナが先方の二体を一気に右に追っ払おうとすると、真ん中の一体がジャンプした。

 

「え?」

 

二体を飛ばしたばかりのナナの頭に、かぶりつく勢いで降下するアラガミを

 

「頂くぜ、その体……全部!」

 

できる限り大きくプレデタフォームを開き、半分以上を捕食した。ひっ千切られた下半身の足が力なく落ちた。

 

「おお、来たきた。」

 

さっきよりも大きく体に力がみなぎった。

 

「後方7体が一気に出現、散らばって行くぞ!稀羅は左側面から、ナナは正面、俺は右側面から攻める!」

「もう全部もらうぜ!」

 

一度活性化した体はまったくおさまる気配がしない。こっちに来る1体を頭上から叩いて、脳味噌みたいなのを液体にし、そのままその後ろの1体にすれ違い様で神機を咥えさせ、尻尾の所まで横長く切れ線を描いた。更にナナが腹を砕いた野郎をおまけに捕食、そして隊長さんと逆方向から突き、鈍い剣先を脇腹に押し込んだ。

 

「稀羅速い!」

「いい腕だ。」

 

7体は呆気なく肉片に変わった。そしてズルズルとその死体は地面の下に引きずり落とされた。

 

『凄い……、初陣でこんなに。』

 

フランさんも予想以上の働きに惚けたみたいだ。

 

「フラン、後方隊の4体は?」

『あ、はい、只今戦域に侵入、距離近いです。』

「一旦スタート位置まで戻るぞ!」

「了解。」

「りょーかい!」

 

警戒しながら後ろに進むと、4体が出てきた。

 

「……ここで一度ブラッドアーツを見せておこう。君たちもこの調子なら、すぐに扱える。」

 

隊長さんが一歩前に出る。

 

「ぶらっどあーつ?」

 

ナナも俺も初耳だ。

 

「戦況を覆す大なる力だ。俺たちブラッドのみが成せる特殊技だ。」

 

ロミオさんが言ってた例の必殺技ってやつか?

 

「あれ、待ってください。あの4体を一気に?」

 

流石にそれは……。と思う刹那、隊長さんがロングソード特有の構え、ゼロスタンスをとる。すると、

 

「力が、みなぎる!」

「うわ、これ何だ、先よりずいぶん強い。」

 

捕食で無理やり敵からエネルギーを奪った時のように、体が活性化した。

 

「今から放つ、少し離れろ。」

 

ほんの一瞬、隊長さんの神機が紅く光り、妙に白い空気みたいなものを纏った。

 

「はあっ!」

 

それは本当に瞬く間に起きた一撃だった。急なスピードで動き出した隊長さんが真っ直ぐダッシュしながら放った一振りが、4体に全て当たる。が、それだけでは止まらず、当たった箇所から無数の剣閃が発生する。傷はその剣閃に深く、さらなる致命傷を促した。

この光景がわずか2秒満たさずの状況で、ナナと俺は口が閉じない。なるほど、先隊長に死んだ野郎がああなってなのも納得だ。

 

「これがブラッドアーツだ。」

 

隊長さんが戻ってきた。

 

「己が強く望むにつれ、さらに発展していく、一種の必殺技でもある。これをどう生かし、どう使って行くかは全て君達の意志次第だ。覚えておけ。いいな。」

 

辛うじて頷いた。その初陣は、後にも忘れられない激戦だった。3人が倒したアラガミは総計23体。普通の新人は決して味わえない疲れがあったが、裏では比べもんにならない達成感がそこにあった。




初陣書きました!
うわあ思いっきり字数増えとるわ
すみませーん!!!
でも読んでくれた方、本当に優しい方です。
今後もだんだん戦闘シーンが増えるでしょうね。何か指摘ございましたら、どうぞお願いします。
次もよろしくお願いします!


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5人目-Gilbert Marclane-

すみません
少しサボったかも
今週は用事が多すぎて、ちゃんと連載できるかどうか。


盛大な風を起こしながら近づくヘリを眺めながら、今日の初陣をふりかえる。終いだ。そう思うと、先まで体を支えてた力が抜けてしまいそうだ。

 

「二人とも今日は本当にご苦労だった。」

 

ヘリの中で少し落ち着くと、隊長さんが口を開けた。

 

「適切な指示があってからです。」

「そうでもない。あれはほぼお前自身の成果だ。まして人の命令にああ素直に聞いてもらっては……。」

「逆に聞かねえ連中もいるんですか?」

「各々自信がつくとそうなる。」

「……とにかく今は結果オーライでいいですよね?」

「そうだな。ナナもご苦労……だったよ。」

 

隊長が珍しく苦笑した。横目で見ると、ナナはあの短い間に俺の肩に頭を垂らして寝息をたて始めていた。あのちょっと……この妙にくすぐったい髪の毛と甘い香り、相当男には厳しいぞ?無防備だな。

 

「俺以上に疲れたみたいっすね。」

「こういった女の子まで戦場に立たされるなど、未だ納得し難い話ではあるな。」

「ほんとっす。」

 

アラガミなんてもんがなかったら、今頃ナナはどんな子になってたんだろう。

 

「ところで稀羅、君は何処かで剣術を学んだのか?」

「ないっすよ、どうかしました? 」

「いや、君の神機の扱いが初心者としては並外れだったものでな。」

「……そりゃあどうも。」

「ナナも訓練相応の実力を見せてくれたが、君はまた一味違ってた。まるでキャリアを積んだ神機使いと一緒に戦っている気分だったよ。」

「そこまで?」

「君はそれくらいの働きをしたのさ。」

「……言われすぎるとこっちも負担になるってことは知ってください。」

「ふっ、それもそうだな。」

 

フランさんに続いて、ましてやこの人まで。段々とその言葉に重くなってく圧迫の裏では、自分がどこでこんな腕を磨いたのかが怪しくなった。分からない所で、それはどうかなとも思うが……。

* * *

 

フライアで最初に俺らを迎えたのは、嬉しいながらも驚きを隠せない表情のフランさんの顔だった。

 

「皆さん、ご無事で何よりです!」

「フラン、二人は疲れている。言いたいことは山々だろうが、休息が最優先だ。」

「わかりました。ナナさん、稀羅さん、今日はもう部屋にお戻りになさってください。他のアサインされたミッションは全てキャンセルします。」

「うわあ、よかったあ。休めるう。パタンキュウー。」

 

ナナは近くのソファーにすがる格好で倒れた。

 

「おいおい、部屋で寝ろよ。」

「うーん……そうする。」

 

フラフラしながら部屋に向かうその背中に、さらに心配になってきたぜ。

 

「稀羅、お前も戻れ。」

「了解。流石に予想外展開には疲れましたよ。」

 

表には出さなかったもの、疲れきった体を引きずって自室に戻った。赤いカーペットがお迎えって……どうかなと思うが。

 

「こんなに疲れてりゃ、ベットでも寝れそう。」

 

以前は木面がむき出しの硬いベットに慣れたもんで、ここの柔かすぎるベットは寝心地が悪かったが、今日はどうでも良さそう。適当にブラット制服の上着を脱ぎ捨て体を投げた。

ほんと……今日みたいのはごめんだ。

 

* * *

 

次の朝、自然に目が覚める形で起きた。が、腹が痛くなるくらい異常なほどの飢えが……。

 

「食生活最悪だな。てか、あんなにアラガミを食べても減るか。いや、あれは神機が食ってるか……一先ず洗おう。」

 

昨日何もせず寝たもんでかなり汗臭くなってしまった。制服を洗濯機にぶち込んでシャワーで汗を流した。は、いい。それはいかに普通でいいんだが……

 

「やばい。服何着ればいいんだ?」

 

うわー参った、今更考えてるとかもう後の祭りじゃないか。

 

「うーん……」

 

部屋をゆっくり眺めたり、クローゼットを開けたりしても、下着一つない。確かブラット制服を頂いた時に自分の私服はフランさんに預けたはずだが……今それがないってのはもしや……処分?それとも……

 

「単に危険物がないのかをチェックを行っているとでも願おう。」

 

なら前の私服は置いといて、どこで服を調達するか?このまま部屋から出るにはかなり勇気の要る格好だし、そもそも制服が乾くまでこの飢えを抑えられるかどうかも不安だ。

 

「はあ。どうしたもんか……」

 

バスタオル1枚を巻きつけて、ベットの上でぼーっと周囲を眺めてたら、ふと視界に入るものがあった。部屋の隅に設置された、背の高い変な機械。

 

「ターミナル?」

 

神機使いとして最も使うことになるとあった端末。神機の整備や副装備の準備、重要文章の作成やメールのやりとり、データ閲覧の他諸々のとこに使うらしい。

 

「……うん?副装備?」

 

主装備が神機だとしたら、服は……副装備じゃないか?ターミナルを起動させ、幾つかのメニューをいじる。

 

「……ビンゴ。種類が凄いんですけど……」

 

たまたま入った装備手配のメニューに入ったら、2、3項目が並び、服装ってのを入力した。そしておよそ100に達しそうなカタログがずらりと続く。どうやらここで必要な素材と金を渡して、服を調達してもらう形式のようだ……でもな、

 

「素材が足りないのがほとんどじゃん。」

 

ギリギリ作れるのを見つけそいつを注文すると、端末機の下が開くなり、注文した服が出た。

 

「おお!速くて助かる。」

 

5分後、流石に下着は乾かしたのを着て、その上に注文したのを着た。下はブラックのスーツズボンに、上は白いワイシャツと栗色のチョッキを羽織る。

 

「なんか、ウェイトレスになった気分。」

 

意外に少ない種類でなんとかうまくいった。これなら特に目立つこともないだろうし、当分生活できそうだ。

 

「よし、飯に行くか。」

 

多少軽くなった足取りで部屋を後にする。

 

* * *

 

新しい服装はやっぱり人の目を引くようだ。

 

「おはよー、稀羅!おお!なんか執事になってる!」

「おはようございます。服装変わりましたね。お似合いです。」

「どうも。買うのに苦労しました。」

 

ほらね、ロビーでの話題は早速そっちに回る。

 

「でしたら今は洗濯ですか?」

「あの制服ですか?はい。」

「ねえねえ稀羅、せっかくだし一緒にご飯食べようよ。」

「そうしよう、こっちもスッカスカだよ。フランさんも一緒にどうです?」

「お誘いは嬉しいですが、もう済ましましたので。」

「そうですか、んじゃ、後でまたお伺いします。」

* * *

 

神機使いになってから食欲が増したみたいだ。今までの3倍くらいの量でも全然きつく感じない。

 

「稀羅も結構大食いだね、へへっ。」

「お互いさま。てかナナがまだ上か?」

「えっへん、それは当然。」

 

褒めたつもりはないがまあ、いいか。ちなみにナナは俺の2倍は食べてる。

 

『ナナさん、稀羅さん?』

あれ?なんでいきなりフランさんが。

 

「はい、どうぞ。」

『少々……私の手に負えない状況になりましたけど、ロビーに来てもらえますか?』

そしてその無線から何か固いものがぶつかる音がした……ちょっと待て、何が起きてる?

「え、何?この音。」

「ロビーだろ?行こうぜ。」

 

慌てて食堂を出てロビーに入ったが、1階には何の異常もなかった。そう判断した次にはもう2階に登った。

 

「あ、稀羅さん。」

「例の状況って?」

カウンターにいたフランさんは、目をむかずただある方向に指差していた。その方向に視線を泳がすと……

 

「いきなり殴って来ることはないだろ!」

 

そこに尻餅をついたロミオさんと、その向かい側にある長身の男がいた。誰だ、この人は。

 

「状況を説明して欲しいな。」

 

隊長のジュリウスさんもご登場。てか遅すぎません?

 

「あたしたちも来たばっかでよくわかんなくて。」

 

俺も全くの同意見だからそんなに俺を見ないでくださいナナさんよ。

 

「こいつの前にいるとこ聞いただけだよ。そしたら急に殴りかかってきて。」

 

うーん……相当大雑把な説明なんですが、ロミオさん。これにはジュリウスさんが困惑する。

 

「あんたが隊長か?」

 

するとロミオさんを殴ったのであろうと男が言い出す。顔にはうっすらと傷跡の残し、黒く長い髪の毛が肩に垂れる。一見気の強そうな、それでも大人の雰囲気を漂わせる奴だ。

 

「俺はギルバート-マークレイン、ギルでいい。このクソガキがムカついたから殴った。それだけだ。」

 

うわ、ロミオさんを一発でガキと称する、やるわこの人。

 

「懲罰房でも除隊でも勝手に処分しろ。じゃな。」

 

隊長が直接指示を出すも前に、てくてくと歩いて行っちまった。

 

「あいつ、短気すぎるよ。そりゃあおれも悪かったかもしれないけどさ。」

「単に聞くだけならあそこまで怒りません。ちょっとしつこかったんじゃないんですか?」

「そうそう、暴力も良くないけど、先輩も弄りすぎなんじゃない?」

 

俺とナナが弱く責め立てても、

 

「そっちが速く打ち解けられるじゃん。」

 

反論するロミオさんである。間違ってはないけど。

 

「今回の件は不問に伏す。ただし、戦場に私情を持ち込まぬよう、関係を修復しておくこと。」

 

うーん、一見心が広そうにも見えるが……単純に状況の悪化を防ぎたいだけですか?

 

「ええ、無理だよ、あんなの。」

 

だんだん子供っぽくなっていきますから、ロミオさんもそこらへんにしてください。

 

「お前たちもサポートしてくれ。いいな。」

「了解。」

「あいあいさー。」

 

ここではっきりした。隊長、俺らに全部任せっぱなしだったら許しませんよ?もちろん彼にこれが聞こえるはずもなく、退場の素早い隊長だった。

 

「無理だって、あんな暴力ゴリラととか。やってらんねよ。」

 

ついにロミオさんにも天敵現し、かあ。にしてもゴリラって……

 

「俺はあのギルという人のとこに行ってくるよ。ナナ、そっちは任せる。」

「うん、行ってらっしゃい。」

 

ただ周りの人が迷惑なのは確かなのだがね。

 

* * *

 

「ギル、と言いましたか?」

「ん?ああ、お前は?」

「稀羅、と言います。」

 

ギルバート、自称ギルさんを見つけたのは庭園だ。下の階はあんなに修羅場ってのに、張本人はここでゆったりとベンチで休憩していた。これを見るロミオさんがどう反応するか。

 

「俺の処分は決まったか?」

「ロミオさんとの仲直り、それが処罰です。」

「はっ、それはそれでいいね。」

「少しは落ち着きました?」

「ああ。お陰でな。そっかー、奴とか。出来そうか?お前から見ると?」

「んまあ、見る限りまさに犬猿の仲ですよ。そのうちなんとかなるでしょうが。」

 

不思議にこの人の清々しい態度が気に入った。何だか思ってることが似てるからかな?

「はは、その通りだ……頑張っては見るぜ。そうだ、あの時にはデタラメだったからもう一度自己紹介させてくれ。俺はギルバート-マークレイン、一応5年のキャリアで槍はそこそこ扱える。」

「親米の稀羅-ペル-メルディオです。一応バスターです。」

「まあ、よろしくな。」

「こちらこそ。てかこっちがこうなってもなあ。」

「はは、安心しろ、あいつには俺が後で直接謝っとくぜ。」

「助かります。」

「あとな、その敬語、遠慮してくれないか?そう待遇されるほどの奴じゃねえんだ。俺は。」

「ふーん、んじゃ改めてよろしく……でいいか?」

「ああ、よろしく。んじゃ、また後でな。」

 

ギルが先に庭園から出て行った。たまにはこういう刺客もロミオさんにも悪くないかもな。

 

* * *

 

『稀羅さん、本日のミッションを入れて置きました。至急取り掛かってください。』

「了解、昨日のリプレイは御免ですよ?」

『ええ、ご心配なさらず。』

 

庭園で池の端に座ってた体を起こし、ロビーへ動いた。一般的に任務に関するデータはすべてカウンターで確認できるらしい。

 

「あれ?」

 

そんで任務事項を読んでたらちょっとやばいことに気づいた。同行者が……かなり豪華だ。

 

「あの、フランさん、これ誰が編成組んだんですか?」

「実は、ジュリウス隊長です。」

 

……やっぱりか。ミッションの同行者は2人指名されていた。それは……。

 

* * *

 

「お、先会ったばかりだが、よろしく。」

「はあ、こちらこそ。」

 

ギルと、

 

「なあ、稀羅、俺ちょっとトイレ行きたいけど。」

「何十回でもどうぞ。」

 

ロミオさんだ。未だ自分のプライドを優先させるこの2人、先は神機格納庫でまた殴り合いでもしそうだった。ながらも2人の表情を第三者の立場から見てると、これはこれで面白い。思いっきり嫌な顔をするロミオさん、余裕満々な顔のギル……さては俺にこの嵐を静めろってのかよ、隊長さん。

 

「ターゲットは……ああ、言う必要ないか。どうせ雑魚だし?」

「ニュービーですから雑魚も何もないよ、ギル。」

「いいから早く終わらせて帰るぞ!」

「おお、ロミオさん、やけにやる気いっぱいですね。」

「ま、やる気だけ走っちゃって変に死ぬなよ?」

「い、いつもの調子だよ。それとてめえはうるさい!」

 

あー、はいはい。そこらへんにしてくださいよ。

 

「おい、ヘリだ。乗るぞ。」

「ステージはあの廃墟の都心だっけな?」

「(くそ、ジュリウスの奴、後で覚悟しとけ。)」

 

こそこそ何か言っているロミオさんは放っておこう。どうせろくなことは喋ってない。




これでブラッドメンバー4人目です。
ゲームでは悩みましたね。誰とミッションを行うか。
気づいてたら5人目ですから。


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緊急事態-It pressed RED SWITCH-

『前方、小型アラガミ、9体確認。いつでもどうぞ。』

 

初陣と全く同じステージに着くなり、誰もが躊躇いなしにヘリから飛び降り、早速任務が始まった。

 

「うっし、いくぞ!」

 

青紫のしなやかな印象の槍を器用に回すギル。あれって確か、チャージスピア言ってたな。何をチャージするんだ?

 

「稀羅、中には浮遊タイプも混じってる。頼める?」

 

ロミオさんの神機を見るのは初めてだが、俺と同じくバスターのやつだ。ただ、個人的にカスタマイズでもしたのか、エッジがオレンジ色にカラーリングされてた。

 

「どっちかというとギルにお願いしたいんだけど。」

「いいぜ、悪くない。」

「名称は、ザイゴートと言ったっけ。」

「ああ、それじゃ、下のドレッドパイクは任せるぞ。」

 

ドレッドパイク?何だそいつは。

 

「あのデカカブトか。」

「お、そんくらい知ってるのか?」

「バカにすんなよいい加減!」

 

その軽い冗談まじりの挑発に乗るロミオさんも……。それよりデカカブト、ね?

 

「オッケー、行きましょう。」

 

これ以上の騒ぎがないのをただ祈るだけだ。そろそろ止めるのも面倒になって来たし。

* * *

 

カブト野郎の緑色の殻に神機が食い込んだ。ヒビが全体に広がる中、硬そうな殻は徐々に裂けて中の肉が露わになった。手首に入れた力がそれさえも抉るように神機を動かした。

 

「……やっぱ小型は脆いね。」

 

思わず呟く。昨日と変わらずいい斬れ味だ。いや、今のは破砕といった方がいいか。

 

「浮遊タイプ、終了。」

 

女性の上半身に、黒色の化け物の頭を被らせた形のアラガミ。ギルはその3体を穴だらけにしちゃった。

「うらあ!」

 

デカカブトの角がついた頭を剥がすみたいなチャージクラッシュが一度に2体を仕留める。へえ、ロミオさんもやるな。9体中ざっと俺は4体は片付けた感じだ。

 

「終わり?」

 

ギルが槍を肩にのっけて周りを確認し始めた。今のところ死んだもん以外は見当たらない。

「みたいですね、フランさん?」

『目標アラガミは掃討完了です。ただ……』

「ただ?」

『想定外のアラガミの反応ありです。中型の模様。』

 

おいおい、昨日と同じパターンかよ。あんなに嫌だって願ったんですが……

 

「どこですか?」

『同じ戦闘エリアですが、かなり離れています。どうしますか?』

「うーん。」

 

ロミオさんとギルの方を向いた。2人ともチラ見でお互いお顔を伺ってる。

 

「……ま、小型だけだったし、まだいけるともうぜ。」

「そ、それは俺だって、」

「まあ、そのさらに後で出現するとかは遠慮したいが……やる?」

「おう。」

「行こうぜ!」

「フランさん、こんな感じです。」

『昨日に引き続きで申し訳ありません、稀羅さん。』

「いいです。これからもそうなるだろうし。」

『ならないのが本来正しいのですが……』

「クレームはいくらでも入れます。今はあの中型の情報を。」

『はい。種別はシユウ。格闘戦に秀でた半鳥半人のアラガミです。また、手にオラクル攻撃を行う気孔があります。』

 

格闘戦に優れるってのはそれほど動きが速いとでもあること。

「シユウか、切断には絶対耐性がついてる。効くとしたら頭だよ。」

「けど貫通くらいなら足は狙えるぜ。稀羅、どうする?」

「破砕が効くところは?」

「一応手かな?」

「……ギルは奴の足を壊して、動きに制限をつけてくれ、ロミオさんと俺は、ひとまず奴の手を壊しましょう。その後に頭を叩くことで。」

「異議なし。」

「俺も。」

「フランさん、指定座標お願いします。」

『はい、現在シユウは元動植物園として使われたエリアで、捕食中です。』

* * *

 

上り道を走ると、もう手の加えようがない多種の植物が植え付けられてる地面が拡がった。俺らの頭まで届く草が、自然の再生力の凄さを見せつけてくれる。本当にここが元植物園だとでも?

「いたな。」

 

一回り大きい岩の隣で、石ころを拾い食いしてる奴がいた。巨大な青い翼をその腕にまとう筋肉質のアラガミ。翼さえなかったら、本当に人間に近いアラガミだ。

 

「後ろで一気に捕食しますよ。」

 

ロミオさんとギルが頷く。シユウの後ろに周り、静かにプレデタフォーム展開。視線を交えて、一斉にそいつに放った。

「せーの!」

金属を噛んでいるのかの音と共に、シユウの皮膚の一部分を捕食した。かなり少量だが……。

「硬すぎ!」

 

足は全く切断が効かない。それどころか通常攻撃も簡単に弾かれた。

 

「下がれ、来るぞ!」

シユウが両手を持ち上げて独特な構えをとって、両手の気功の様な穴から火の球を発射した。

 

「くっ!」

「ちいっ!」

 

2人とも後ろに下がる。ておい、これ狙えるぞ?

 

「ふっ!」

 

前方にダッシュしながらシールドを体の前に張る。球が当たって手先から振動がからだを揺さぶった。そのまま横に一の字を描く。出しっぱなしのシユウの手が、深く切り傷を負った。向こうも思わぬ一撃に、シユウは短い悲鳴とともに一歩下がる。

 

「その隙貰うぜ!」

 

後ろに回った神機を足で蹴り上げ、肩越しの縦斬り。クリティカルヒットを決められた頭が、その左半分をもぎ取られた。これはいい格好だ。

 

『結合崩壊を確認。』

「稀羅、伏せろ!」

言われるがままに伏せると、頭上にギルが投げた神機がシユウの左太ももを貫いた。槍の神機はその勢いのまま地面に埋まった。いい足止めだ。

 

「うらあ!」

 

続き様に、ロミオさんが放ったチャージクラッシュがシユウの翼の鉄羽に当たり、次の瞬間は綺麗な切断面が見えた。こっちからももう一回仕掛ける。迫るシユウの左手を軽く蹴ってどかし、その肩に乗る。掴まれるのを避けて空中に跳躍し、真下に神機を向ける。

「死ね、おらあ!」

 

腕力と落下のスピードをのせた神機が、そいつの頭から胸部にかけて深く刺さった。一旦手を放し、離脱そいつから離れた。土煙を起こしなら倒れ伏したシユウはビクリともしなくなった。

「……死んだか?」

「みたいな。」

「最後すっげーな、稀羅。」

「どうも、」

 

神機を引っこ抜くと、傷口からズルズルと鮮血が出ては地面を濡らし始めた。中型といって余計に緊張して、ちょっと損した気分だ。

 

「お前さんの行動力のお陰だ。」

「下がってばかりじゃ、意味が無いじゃん。」

「思い知らされたぜ、全く。」

 

電子音がし、またフランさんの声がした。

『アラガミ、活動停止確認。素晴らしい動きでした。』

「稀羅、お前もしかしたら、新記録叩き出したかもな。」

「え、これで?」

『稀羅さんの記録は49秒、現フライアで団体戦の記録を更新しました。』

「おお、やった。あれ?てことは、ソロの記録もあるんですか?」

『はい、ソロで18秒です。』

「……誰だよ、それ。」

18秒ってことはほぼ一か二つで仕留めたということになる。

 

「ま、稀羅なら、目指せるんじゃね?」

「さりげなく言うのやめてくれ。」

 

静かに霧散するシユウの死体を見送った。

* * *

 

「にしてもこのメンツでよくも上手く行ったな。」

 

ヘリで一息ついたギルが先に言い出した。

 

「だね。あの投げ槍は上手かったよ。さすがプロってこともあるね。」

「よせ、プロでもくそでもねえぞ。」

「ロミオさんのチャージクラッシュもいい感じ。見直しました。」

「だろ?あのタイミングを待ってたぜ。」

 

少し鼻が高くなるロミオさん。やれやれ分かり易い性格でよかったわ。

「でもよ、待つばかりじゃ、いつ噛まれるか知らんぜ。」

「は、前に出れねえ奴がよく言えるね?」

「ああん?!」

「はいはい、そこまで。」

 

軽く舌打ちしながら座り直す2人だ。こんな目にさせた隊長をどう仕返せばいいのか……。

 

* * *

 

「お疲れ、稀羅!すごいよ、記録更新?」

「んまあ、そんな感じ。」

「いいなー。もういわゆる'期待の新人'じゃない?いいなー!」

 

期待の新人か、聞き悪くはないけど……どの道それも一ヶ月過ぎると消えるかもな。

 

「ナナの方は行ってないのか?」

「ジュリウス隊長と小型アラガミ殲滅ミッション!でも小型ばかりだからなんかあっけなくて。」

「言えてるな。」

「でしょでしょ?」

新人だし、ミッション内容が配慮されていることは痛いほど分かる。そんな簡単に新人を失いたくはないということだな。でもさすがに小型ばっかり相手にしていちゃ、他のもんは対応できなくなる。そろそろ大型もやってみたいんだが。

 

「あ、ちょっとごめんね。」

 

ナナの方無線が入ったみたいだ。しばし黙って聞いてたナナは、

 

「はーい!」

 

元気な返事を入れた。こんなに喜ぶってのはだいたいあれか?

「ミッションか?」

「うん!中型だって!2体だから、隊長も入るみたい。後はギルとロミオ先輩。」

 

あれ、ってことは俺一人だけ除外だぞ。ちょっとずるくないですか、隊長さん。

「フランさんが、稀羅は少し休めってさ。」

「休む……ね。」

まだ午前の任務一つこなしただけだ。これで強制休憩ってのはちょっと。まあ、命令ならしょうがないか。

「わかった。行ってらっしゃい。」

「はーい!」

 

神機格納庫に走っていくナナが妙に羨ましくなった。でも今は我慢しよう、あとでいくらでも任務は出てくる。

 

* * *

 

「稀羅さん、神機の強化は行っていますか?」

 

暇の果てにカウンターに寄った俺をフランさんが相手してくれた。

「あの時貰った複合コアでの強化が全部です。」

「他の強化プランを発注しましょうか?」

「強化プラン?」

「既存の神機のパーツを全く違うデザインや性能を持つ他のパーツに強化するための、いわゆる設計図です。」

「あ、じゃあ、是非。」

 

見せてもらった強化プランは、形から属性まで種類が豊富だった。多すぎて何にしようか迷いそう。他に、最初から違うものを作る合成というプランも。中でも俺の目を引くものもあった。

 

「ヤエ……ガ……キ?」

 

写真に映ったそのバスターのパーツは、黒くスマートに鋭さの刀身をベースに、薄く光る線が何本か走ってた。

「作れるかな?」

 

アラガミの素材よりは、鉱石素材が必要そうだ。ストックを探りまくると、ここ何度かの任務で拾った素材が使えた。おまけに複合コアで強化も済ました。

「いいねえ、早く使ってみたいね。」

 

フランさんにも作ったパーツの写真を見せた。

「なるほど、この刀身ですか。」

「知ってるんですか?」

「今まで何回かこのパーツを取る方は目にしました。途中で強化素材の希少さと、低スペックで見捨てられたのがほとんどですが……」

 

それ、明らかに反比例になってませんか?

 

「じゃあ、俺が最後まで作りましょうか?」

「それは楽しみです。一部の意見ではこの光る線はアラガミの素材によって多少変化するらしいです。」

「今は青ですね、他に色ありました?」

「緑は。けどそれ以外はどうかと、」

「よし、がんばろう。」

「完成したらまた見せてくださいね。」

 

彼女に向かって頷こうとした時、フランさんの前のモニターから警告音がした。

 

「……なんですか?」

「……大型アラガミが……接近中?フライアに?」

「種別は?」

「えーと……これは'ガルム'です!」

「ガルム?確か……狼の?」

「ええ、前脚に強固なガンバレットをつけた、炎を操るアラガミです。」

「何体ですか?」

「2体です。」

 

ちょい洒落にならないですよ、そんなこと。

 

「……フライアに残っている神機使いは?」

「それが、貴方だけです。稀羅さん。」

「え、冗談だろ。」

「ここで冗談言っても何もなりません!」

「これくらい言わせてください!」

「どうします?他の方は先ほど出撃したばかりで、今から呼び戻しますが……。」

「どれくらいかかります?」

「ヘリを急行させても10分以上はかかります。」

 

10分。いくらフライアの走行スピードが速かろうと、あのアラガミに捕まってしまう可能性が高い。そこで……せめて何かしらで奴らの注意を引けるなら……

 

「……んじゃ、やってみます。」

「はい?」

「20分ならともかく、10分でしたらいけるんじゃないですかね?まあ、瀕死状態もあり得ますが、やりますよ。」

「危険過ぎます!」

「だからと言って他に方法あります?」

「しかし機動力の高いアラガミが2体です!」

「ふーん、一方を速攻で倒してリスクを極端に減らすってのは?」

「しかしそれだと……一撃必殺の何かが要求されます。」

「……チャージクラッシュはどうです?隊長さんのブラッドアーツには劣るけど、それなりの効果は出してくれるはずです。」

「それは……。」

「やりますよ。フランさんはみんなに至急こっちに向かうように誘導してください。フライアが逃げる時間を稼ぎます。運が良けりゃ2体とも倒せるかもしれないし、でしょ?」

「……ご武運を祈ります。」

「そうこなくちゃ。早速向かいます。」

「あ、稀羅さん!」

 

走り出そうとした体を危うく止める。

 

「お葬式とかやらせないでください!」

 

多少焦っているあまり叫ぶフランさんがなんか可愛らしい。まだあれを覚えてるのか。

 

「……気をつけますよ。」

 

格納庫に向かって走り出した。

 

* * *

 

「2体を一気に一人でなんて、無茶です!」

今度は神機格納庫のフェンリル職員にも止められた。はっきり言ってこんな暇は全然ないんだけどな……

 

「いいですから、俺も死に急ぎ野郎になる気は無いですよ。」

「……それなら、これを、」

職員から見慣れない黄色の円盤を渡された、なにを盛れっというのですか?

 

「トラップです。動きを一時的に止めてくれます。」

「……おお。」

「どうか、生き残ってください。貴方たちは我々の希望なんですよ?」

「了解。」

 

戦闘アイテムはスタングレネードしかないと思って、それでもポケットいっぱい入れたんだが、まさかこんなもんもあったなんてな。

 

* * *

 

『どこに降ろせばいいんですか!』

無線の2番目のチャンネルに、ヘリ操縦士さんの声が届いた。

「2体のうち、先頭の方より少し離れたところで降下します!」

『お気をつけて!』

「よろしくお願いします!」

 

一陣の風を巻き起こしながらヘリが離陸した。

『稀羅さん?聞こえますか?』

「はい、なんですか?」

『先ほどジュリウス隊長と連絡がとれました。そちらに急行すると。』

「了解、きっちり時間稼ぎますよ。」

 

正直、本心はまだこの状況に追いついていない。心よりも体が先に動き出している、そんな感じ。まるで、こうするのが性に合っていて、慣れているみたいに。けど、なんだろう。それ以前にもこんなことをしたことがあった気がする。いつだっけ?

 

「後で考えようぜ、後で。」

 

自分のことより、まずは目前のことをなんとかしようぜ。

 

『いました!アラガミです!』

来たか。ヘリのドアを開いて下を見やる。全身緑に、頭に赤い毛を植えた、まさに狼のアラガミだ。かなりのスピードでフライアを追っている。

 

「あの頭、まるで狙ってくださいと言ってるみたいね。」

神機に指を絡め、微かに力を入れた。微弱な音と共に肩の上で神機がうっすらと紅いオーラに包まれる。ブルブルと震えるそいつが、今すぐにでも何かを斬りたがってるみたい。

 

「我慢しろよ、もうすぐだ。」

 

ヘリの頭の方向が奴らと同じになった。同時に相対スピードもバッチリだ。

 

『今です!!』

「どうも!」

 

息を吸い……吐く。両足でヘリの側面を蹴った。ふわっと浮いた体が、下に引っ張られる。

「ううっ!」

すごい風だ。上空何メートル?死ななければそれでいいけど。神機がどんどん大きいオーラーに包まれた。上に構えた。米粒のアラガミがどんどん大きく見える。狙いは、赤い頭の、首の方。

 

「うらあ!」

 

一回転で助力のついた神機を頭の後ろから垂直に下ろした。

 

「行くぜ、てめえら!」

視界が……閃く。




さて、原作ズレきたぞ!
気に入らないとおっしゃる方、すみません。エミールとシエルはこの後に載せます。
でも流石に原作ままだとつまんないというのが私の意見でして。
続きもよろしくお願いします。


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緑と赤と白-Just one he said-

雷鳴のような凄まじい音に鼓膜が破れそう。チャージクラッシュが直撃した地面にひびが入る。

 

「やったか?」

 

地面に当たる直前に何かを切った感覚があった。地面の神機を抜き、できる限り後ろに離れた。

 

「……やっちゃった、」

 

狙いの首は落とせず、右腕と顔の右半分までしかもっていかなかった。状況が呑み込めたガルムがいきなり空へむかって咆哮を放つ。泣き声からして、向こうも戦闘に入る気満々だ。だが同時に、

 

「……っ?!」

 

おかしなことに、その鳴き声に頭が割れるみたいに激痛が走った。身体がフラフラし、視界もどんどん狭まれて行く。待てよ、こいつの泣き声が人間に害を及ぼすとかそんなデータはなかたぞ?耳は神機のせいで片方しか塞げず、どんどん激痛がしてきた。

 

「ちょっとは黙ってろ、てめ……ウアっ!」

 

油断した。向こうは2体なのに1匹に気を取られ過ぎで、もう1匹に背中から打撃を食らった。左に飛ばされた体が地面を4、5回転ぶ中で神機を立てて危うく立ち直った。どうやら咆哮もちょうど止んだようだ。

 

「……くそ……」

 

初撃はどっちかというと失敗。ただ、別に持久戦に持ち込んでも、奴は出血で瀕死になる。ただ、初見の相手に俺がどこまで持つかが不明だ。少しでも速く片方を潰した方が勝機が高まるしな。あと、そもそも……

「てめえの鳴き声うざいんだよ!」

 

神機を右後ろに構え、地面を蹴った。たとえ無傷の奴が迫ろうと先に動けねえ奴を仕留める。それしか方法がない。ガルムは残った3本の足にも関わらず、高高度のジャンプを決めた。そのまま俺を潰す気で落ちてくる。

 

「ありがたく頂くぜ、その面!」

口を開いた半壊の頭に、神機をはめ込んでから自分の体を回転させた。奴の首を捻って折るようにひっちぎると、黒い血が顔にブワッと当り、重い図体は地面に落ちた。眼鏡を拭いてる時間もないんで、外して投げ捨てた。急いでもう1体を確認する。

 

「何やってんだ、あいつ。」

 

ガルムのガンバレットが着いた地面が微妙に赤熱する。差中にもう一方の手を高く掲げ、何かを投げ出すための予備動作をしてきた。あれ、これさ……頭で割り切ってすぐ、右回りで接近した。その瞬間、ガルムの構えた左足が動き、抉られた地面から灼熱の岩石が飛んできた。だいたい予測したけど、

「炎まで纏うのは聞いてねえぞ!」

 

攻撃も何もやめて、とりあえず横に体を投げた。頭上をかするように岩石が通ってから、すぐに二度目の突撃を試みる。未だ地面に着いたガンバレットを狙って、縦に振り下ろすも、

 

「かた!」

 

切断は臨なかった。 しかも直後に、奴の方からバックステップで距離をとった。狼と呼ばれることはあってなかなか速い。バスターの俺には苦戦が強いられる。

短く鳴いたガルムは急に全足に力を入れこっちに飛びかかってきた。これは……オウガテイルが比にならないくらい一瞬だ。しかもあの重い足に鋭い爪って。寸前に開いたシールドにその衝撃が襲いかかった。両腕の骨関節が外れそう。こっちが弾くと、ガルムはもう一度すばやく後ろに下がった。やっと反撃に転じそうだと思ったその時、下がったはずのあいつがいつの間にまたこっちに迫っていた。

 

「……嘘でしょ!」

今度は防ぐ暇もない。横から神機をそいつの両爪を目掛けて水平に繰り出した。

 

「うっ、あ!」

 

遅れたタイミングで、十分な力で弾くことができずに体が飛ばされ、しかも神機を手放してしまった。その隙を逃がすまいとガルムが大きく右腕を挙げ、叩き潰そうと下ろした。

 

「わわわ!」

 

必死にコロコロと体を回してかわした。伏せた状態から神機を目指して走り出す。するとまたも後ろから鳴き声がしたので後ろを見やると、あの火だるまを投げる姿勢をしている。神機を鷲掴み、あいつを見る暇もなく後ろに向けてシールドを展開した。またもジャストガードで体に反動が大きすぎだ。

 

「つくづくとクソ野郎が!」

 

右足を軸に、一気に方向を変え、急接近をかける。そこでガルムが両手を地面につけると、カチャンと開いたガンバレットの発熱機関が急速に回転を始めた。また何をしやがる気だこいつ。

 

「てめえもあの野郎についていけ!」

 

頭に神機が当たるように降ろした途端……爆発が視界を覆った。そして、誰かに押されたでもしたような強烈な衝撃で体が吹っ飛んだ。息が止まってしまいそう。胸の辺りを強く叩かれた感じ。

 

「ううっ……おえ……」

 

吐き気まで。人生初経験の爆発は凄まじい一言では足りない。よりによって眼鏡のなさに悪くなってる視界がさらにぼやけた。やばい、あの攻撃スピードに全然追いついてねえ。そんなとこか、ほとんど全部どこかに当たったし。

 

「ん?」

 

飛ばされながらも掴んでた神機の先端に、なんか変なのがついてある。よく見ると、あいつの頭の一部だ。本体を見ると、少しあやふやだが、確かに奴の頭から血がダラダラ垂れてる。全く無意味ではなかったかもな。ただ、ここからは生半端な戦法じゃ、単に俺の体力が減る一方だ。もうちょっと戦況を有利にするためには……あいつのスピードを抑えなきゃ。

 

「なら、あの後ろ脚?」

 

巨体をしっかり支えながらもあの速度ってのは、かなりの力が要る。あれを切れば、ほぼ勝負が決まる。が、そう簡単に切れるのか?むしろ……どっかに注意を引かせてからにした方が……進路を大きく右回る形で、奴の前足の攻撃はスライディングでかわしながら股の下をくくる。思惑がばれたのか、あいつが急に走り出そうとした。けど、狙いは足ではない。むしろ……

 

「尻尾!」

 

ひらりと下がった赤い毛だらけの尻尾をプレデターで喰らいつく。そして、奴の運動に体ごと引っ張られた。

 

「げっ、こいつ速い!」

 

空中で腕を体の方に引き、尻尾を根元ごとちぎった。着地にしくじりまた転んで砂だらけになった。でもその分、尻尾をなくしたガルムは走るのをやめて、痛みのあまり地面に体を擦り付ける。

 

「ざまあですよ!」

 

奴が暴れる中、そいつを飛び越えながら、縦に神機を叩いて後ろの両足を骨ごと砕く。勢い乗って、一本はどっかに飛んでいった。完全にバランスを失ったガルムは立つこともできずに、懸命に体を跳ねてるだけだ。

 

「はあ、はあ、少しは落ち着いたか?」

 

しかし、状況の整理も兼ねて、周囲を確認した目に映った光景に唖然とした。一番初めに頭を落とした奴が……生きてる?!頭がなく何も見えないはずなのに、こっちにフラフラしながら歩いてくる。不気味すぎですよ!

 

「呪われ死体とか、そんなんじゃないよね?」

 

完全にこっちの存在を気づいたそいつが、まるで体あたりでも仕掛けるように全力で走り出した。一般的な攻撃でもダメなら、チャージクラッシュしかない。今日二度目にオーラーを包む神機。多少上斜めから、綺麗な線を描きながら残った首とガンバレットを斬りかかる。

 

「いい加減にしろ、この野郎!」

 

ガンバレットは砕かれ、その中肉もしっかり断面をみせた。走りの勢いで、さらに向こうへ滑るガルムを、再びチャージクラッシュを用意しながらその上へ跳躍する。真上から落とし、2つに裂く。内蔵も色々切られ血だけじゃなく他のもんも飛び出して全身を濡らした。

 

「へえ、へえ、げっ、どうだ。クズ野郎?」

 

普段なら不快な気持ちにもなりえるが、むしろ今は最高だ。2体を無力化した、完全に。

 

「いや、まだ残りがあるね……」

 

後ろ足を切ったままだった、もう一体。大出血で血の気も失せた野郎がまだバタバタしてる。ああ、ほんと採りたての魚みたい。ゆっくり近づき、神機を上に構える。

 

「じゃなー」

 

今度こその思いで斬り落とした。すぐにバタバタした動きが止み、ブルブル震えてたら……それすらも止まった。一応念のため切り口の所を強く踏みにじってやった。疲れが一気に体を支配し、膝が笑い出した。無理もないか……被弾するわ、走るわ、爆発に巻き込まれるわ。これ終わりだと願いたい。

 

「フラン……さん?」

 

先から何度か電子音が聞こえたが、聞く暇もなく、無視していた。

 

『稀羅さん?やっと繋がりました。状況報告を!』

「2体は沈黙です。俺は……軽症です。」

 

嘘ですけど。上半身が軽く火傷、背中の重撃打撲傷、あちこちの擦り傷。でも今は言わないでおいた方がいいかな。

 

『よかったです。ブラット隊がそろそろ着くはずです。一先ずそこから……』

 

無線が止まった……ん、一先ず、なに?

 

「フランさん?」

『き、稀羅さん!新たなガルムを補足、そちらに向かってます!』

「げっ、マジかよ。」

『これ以上の戦闘は危険です。離脱を!』

「一体どうやって、俊足の狼さんから逃げきれと?と言うより、もう見えてきましたよ。」

 

小ちゃな点があそこで動いてる。あれだろうな。

 

「そういやアイテムは全然使って無かったんで、せめてそれでも使ってみます。」

『で、でも、』

「だから逃げ切れないんですって、絶対に!ブラッド隊がつくまでどれくらいっすか?」

『……あ、あと、3分弱です。』

「どうぞこちらへだ、くそども。」

『稀羅さん!』

「生き残るにはそれしかないでしょ?!」

 

言っている間にもう形がはっきりしてきたガルムが、まっすぐこっちにむかって走ってる。そのまま踏み潰す気か?

 

「……来なよ……」

 

流石にチャージクラッシュを何度も使えるわけではない。とゆうわけで後ろに神機を落とす。ガルムがどんどん大きく見えてきた。まずは左足を固定し、右足を少しあげる。距離、200くらい。

 

「……後片付けはお任せします。隊長さん……」

 

距離、150、100、50、20、10……

 

「うらああ!」

 

右足を回転させ後ろに引く。遠心力で振り出した神機をガルムの頭へ。そして色々ぶち壊れる音とともに、ガルムの頭が爆散したように、弾けた。腕を伸ばして、刀身をさらに入れ体の半分まで斬り刻む。そして残りの回転で神機を軌道から外し、後ろに振り抜いた。

 

「追い打ちだ!」

 

地面にバウンドして跳ね上がった神機を、そのまま前を過ぎる巨体に叩き込む。半分切断、見たくもないいびつな内臓がまた散る。力なく崩れるそいつを一瞥し、次の奴に目を向ける。次はもうだいたい200メートルもない。接近するそいつは、いかにも俺を食べたいように口を開いている。そこで1つひらめいた。

スタングレネード。

バックポケットから一個を少し出してすぐに使えるようにする。

 

「地獄にこれでも持ってけ。」

 

かかってきたガルムの左足に神機を貫いて、おまけに地面に刺した。奴の姿勢がこっちに崩れる。少し右に体を寄せ、その開いた口の歯に、ピンを抜いたスタングレネードを差し込んで目を閉じる。音のしばらく後に目を開けた。足に神機が刺さったまま、視界を奪われたガルムがあそこで急停止していた。何も考えず走り出し、そして、神機にとび蹴りを入れる。痛みにガルムが鳴きだした。

「だからその声うざいって。」

 

蹴りを入れた神機が足から外れた。当然、無理やりだから、ガルムの足も一本いかれた。

 

「かかってきたお前が悪いからな?」

 

垂直に、さらに横に斬り裂くことで十の字をつくる。先の奴の様に上半身がボロボロになり、死体化し始めた。

 

「さーて……残りは?」

 

精神的なにはどうか知らないが、まだ喋られる体がすごい。

 

「お前も同胞のところに送ってやるよ。」

 

動かないと自覚するも、それでも足を動かす。残り、1体……

 

「死ねー!」

 

怒りを乗せた最後まで神機が手の中で震えていた。




一日遅れになってしまい申し訳ありません!
実は端末が通信はし辛くなり、増して、バッテリー切れでもうピンチでした。(これって神のいたずらなんかじゃないよな。)

と、とりあえず、これで番外の方は終わりです。しっかり本編に戻れるようにします。ありがとうございました。


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回想-Deadly memory-

お久です
すみません結構ブランク空いちゃったなあ。
妙にペースが乱れちまい対策を立てました
これからは週2回のペースで投稿できればと考えています。
付き合っていただければ嬉しいです。


無線の状況が想定以上に悪い。先ほどヴァジュラを2体討伐の任務を急遽中止し離脱。理由は、オペレーターのフランから入った無線だった。

 

『フライアに急接近するアラガミを補足!今、稀羅さんが出撃しました。応援要請します!』

 

予想外の展開。タイミングが噛み合い過ぎだ。まるでこの時を待っていた様だ。ブラッド隊の台半が出撃する中でも、苦労した新米の稀羅を休憩させた。そのつもりが……かえって彼をこんな有様に。

 

「おい、ジュリウス!フライアは絶対アラガミに狙われないんじゃなかったのかよ?」

 

隣で困惑するロミオが問い詰めてきた。

 

「俺もその気だった。しかし何故……」

「ねえねえ、隊長。このヘリーもっと速くとべない?稀羅が死んじまうよー」

「現気象ではこれが最大だ。」

 

さらに、所詮は人民輸送ヘリ。速くても戦闘用の半分も飛べないだろう。折角の新米を失いたくはない。まして彼はきっと俺らブラッドに大なる存在になれる者だ。こんなところで死ぬべきではない。

 

「フラン、彼は?」

『既存の2体を撃沈、増援の3体の相手をしています!』

大した奴だ。まさか初見のガルム2体を独断でとは。だが、残り3体には持たないかもしれない。最悪、瀕死から死亡へと繋がる可能性も否定できない。

 

「……もう少しだけもち答えてくれ、稀羅!」

* * *

 

累計12分、ガルムと稀羅が交戦した場所から少し離れたところに着陸した。

 

「各員、稀羅を探せ!戦闘中である可能性もある。注意しろ!」

「「「了解!」」」

 

索敵開始、すぐにある異変に気づいた。

「静かすぎる。」

 

戦闘は既に終了しているのか?

 

「フラン、彼の無線は?」

『生体反応はありますが、応答がありません!』

 

だとしたら昏睡状態。幸い生き残ってくれていた。しかしこれ以上時間を引くわけにもいかない。

 

『あのー隊長?』

「どうした、ナナ?」

『あ、アラガミの死体がね?バラバラなんだけど、大丈夫かな?』

 

周囲を見ると、ガルムの象徴のガンバレットが本体から離れ、あちこちに転がっている。

 

「……なぜここまで……」

 

コアさえ回収すれば、活動は停止する。簡単に取れはしないが。ただ、こんな殺風景も久しい。

 

『隊長!聞こえるか?!』

「ギルか?なんだ?」

『稀羅を見つけた!おまけに血だらけの眼鏡も見つけたぞ!かなり衰弱している!アラガミの死体の上で……こいつ、寝込んじまったのか?』

「彼の意識を確認しろ!ブラッド隊、ただちにギルのところへ集合!」

* * *

 

稀羅はボロボロの神機を抱えた状態で、ガルムの死体の上に座っていた。燃焼で幾つか欠落したワイシャツやズボンと刃が傷だらけの神機は、戦闘の激しさを物語っていた。。

 

「嘘、稀羅ー、大丈夫なの、ねえ?」

「意識がない。気絶か?」

「疲れと負傷で気を失ったようだ、ロミオ、救援隊を呼べ!」

「お、おう!」

「し……し、白。」

 

刹那、稀羅のうめき声がした。姿勢は変わってないが。

「稀羅!気がついたか?」

 

目も開いてない。おそらく寝ぼけだろう。

 

「白は……どこ?どこだ。あいつを……殺さなきゃ。」

「っ!」

 

白、だと?稀羅がそう言った時、前言撤回せざるを得なかった。ただの寝ぼけではない。

 

「隊長、稀羅のやつ、完全に気を失っちゃった。どうする?」

「焦るな、救援隊が来る。」

 

そして後に合流した救援隊に彼を任せ、フライアへ帰還することになった。フライアへの報告書、ラケル先生への追求、施設関連事務員との議論と、様々な予定が頭をよぎるも、目はこの残酷な風景に釘付けられていた。主を失い転がる一方の手足、掘られたり盛り上がった地面、点在する血の池、焦げた跡……再現なんぞできる気がしない。

「白……」

 

彼は何を見たのか。なぜ、白を。いや、今はよしとしよう。とりあえず彼が意識を取りもどすのが先だ。それからでも遅くない。俺らを乗せたヘリはゆっくりとその激戦地を後にした。

 

 

 

「暗い。」

 

はじめの印象だ。意識はいつも体が停止すると、この無重力の様な世界にお邪魔する。ふわふわして、儚くて、一方では虚無感も絶えない。しかしそれが嫌だなとか、不気味だなとは思ったことはない。醜い現実という名の世界と一時的だけでもお別れできるから。疲れた自分には、この世界が余りにも大切だった。だけど今回は、唯一今回だけは、心から頼りにしていた世界があまりにも憎くなった。この世界が今回俺に突きつけたのは、他でもなく俺の過去だからだ。確かに記憶がない俺にとっちゃ必要だ。けど、こんな形での気づきは望んでいなかった。

 

* * *

 

「ガルムを倒して……」

 

暗い。黒、深い黒。光が届かない。

 

「死体をバラバラにして…」

もしここにずっといることになったら、普通の生物はどうなっちゃうんだ?

「その死体に座って……」

 

いつかは現実に馴染めなくなるのか?

 

「休もうと目を閉じて……」

 

なら俺は?

「ここに来たのか。」

 

ここにずっといたいと望んでいるのかな。嫌、わからないや。でも確かに今の俺は、まだここで休みたいと思ってる。だから、この世界で流されるままなんだ。

 

「外はどうなったのかな。みんな到着したかな。」

 

わからない。けど、いいや。俺はここにいるから。これが夢ならきっといつかは現実に引き戻されるだろう、嫌でもね。今日はどんな夢だろう。何を見せてくれるんだ、この世界は……

 

* * *

 

木材の壁、薄暗い家の中、その部屋で俺は佇んでいる。何と無く見慣れた部屋。どこだっけ、フライアに来る前の自宅の部屋とは違うな。あれ、そうなると……そこでドアが開いた。焦げ茶色のさらさらな髪をポニテールでまとめた、ちっちゃい女の子が入ってきた。後頭部でも蹴られた気分だ。何年か前なくした、まだ5歳の妹だ。名前はエイル。エイルは部屋のベッドの布団をその小さな腕で揺らす。

 

『にいちゃーん、おきてー』

『うーん、分かった。』

 

愕然した。これ普通の夢じゃないぜ。俺の過去回想だ。でもどうして。起こされたのは、ざっと10年前の、見間違うはずもない、俺自身。自分だと思った瞬間、頭に色んな情報が流れ込んだ。この頃、家族皆で暮らしていて、親父はサテライト拠点の医師を勤めていた。その息子の俺も必然的に親の仕事を手伝うことになってて、気がついたらあらゆる知識をつけていた。

『さあ、今日も仕事だぞ?父さんはF-14地区を担当することになったんだ。悪いが、今日はH-30地区を担ってもらえるか?』

 

あれ、普通父親って息子の名前くらい呼ぶよな?そもそも俺、この頃の名前はなんだったんだ?

 

『わかった。そうする。』

 

地区の名称を聞いた途端頭がふらっとする。確か、この日は……、不安が全身を這いずり回る。思い出した。そう、この日は、'何もかも失った日'。もともとお袋は俺が5歳くらいになって、急な病気に堕ちていた。病名は覚えていない。体力と免疫力の低下、といった症状を抱え込んだ、そんなお袋の代わりに働き始めたのはこの頃からだった。

* * *

 

その日は家からかなり離れた地区まで移動し、患者の手当てをすることになった。患者のほとんどは小型アラガミに襲われて怪我をした人だった。この頃は患者さん達と一緒に、神機使いの陰口を叩くことも少なくなかった。

 

『つぎのかた、どうぞ。』

 

10年程の前の自分は、どうも大人の風格は一切持たず、声もほっそりしている。

 

『やあ、まいど、今日も悪いね。』

 

見慣れた灰色の髪のお爺さんだ。でも……誰だっけな。

 

『きょうもすりきずですか?』

『ああ、おうがている、ってか?あやつの尻尾、なかなか鋭くてな。』

『もうこれで10かいめですよ?』

『はは、でもなあ俺が働かないと誰も生きれんからなあ。』

 

選ばれし人間、ゴッドイーター。それ以外の人はもうドン底の生活を強いられた。逆らえない。そうした瞬間、この世界では生き残れないから。一方で俺としては、何故こうにも人は生きたがりなのかと真剣に悩んだのもこの時期でもある。

 

『これで、いいですかね。』

 

大人の半分小さい手が、老人のシワだらけの腕を撫でながら、薬を塗り、包帯を巻く。この時点でもうかなり慣れてたみたいんだ。

 

『おう、ありがとう。』

 

笑顔でかえる患者。かつてはこういう笑顔が見たくてこの仕事を続けたいと思った。多少生活面はきついが、それでも誰もが希望を捨てない幸せな街だと、誰もが思った。ここほど頑張って生きる街も少ないと。だが、いずれはこういう街も神に壊されるものだった。

 

* * *

 

病院に、警報が鳴った。そう、患者と医者関係なくみんな慌てて外へ出た。そして目の前に開かれた地獄に目を疑い、四肢を震え、泣き、脆弱に崩れていった。

 

『お袋、エイル!』

 

口では叫ぶものの、なかなか走れず、おどおどする俺を、他の医者さんが促した。

 

『君!直ちに家に戻って、外へ避難しなさい!ここはもうだめだ。運搬車両に乗るんだ!ここでの後始末はこっちがするぞ!』

『で、でも、』

『いいから、行きなさい!』

『は、はい!』

 

走り出す昔の自分を追いかける。向こうの自分のように、今の俺も胸騒ぎが治まらない。見てはいけないと体が反応する。この先、自分として最も辛い光景が開くのだと。それでも足は止まらない。やばいのはわかるけど、それでもここまで来てしまったら、もう見ない方がずっと後悔することになる。

そして、目の前の少年について行きながら着いた先に、炎の海に塗り潰された家屋が並ぶ……自分の家は、何かにもぎ取られた様に、半分に減っちゃっていた。

 

『う、うわああっ!!』

 

家に飛び込む少年、その目には、バラバラの人間の残骸が映った。

『親父!エイル!お袋!』

 

信じたくないその一思いにかられ、我を失い、頭を抱えうずくまる少年。

 

「やめろよ……」

 

親父の白衣を着た、死体の左半分。その手に光る何かが握られてる。

「俺が何をしたってんだ?」

 

さらに首のないその半身に、その横の白い足。室内用の靴下が紅く染められていた。

 

「もう、やめよう……お願い……もう」

さらに離れたところで惚けた表情で天井を見上げる……

「ここまでしなくてもいいだろ、ねえ」

ポニテール女の子の……首、そしてそれを片足で踏んで立っている……

「本当にもう……」

 

炎をその黄色い目に写す白いアラガミ。

 

「……ぃやめろおお!!」

 

昔と現実の俺が、あいもかわらず、叫びだした。

 

* * *

 

「稀羅さん?稀羅さん!」

「うはっ!」

 

戻された意識と……ぼやけた目の前と……白い部屋。ここは……はじめて天国と勘違いしちゃいそうな……現実だ。




回想っと。
もう少し詳しく書いてもよかったと思いますが、少しずつバラして行くにはこの程度がいいと思いました。
さて、やっと、現実っす。(まずいな遅すぎる)

ひ、引き続きお願いします!


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現実の話-Place to return-

とにかく白、という印象しか与えない部屋。ベッドに寝ている俺ははもう汗だくだった。息も上がり、額から流れた汗が目をチクチク刺していた。

「稀羅さん、大丈夫ですか?」

 

安否を尋ねる、とても慣れ親しんだ声。

「め……がね。」

 

情けながら全然答えに適しないことを言ってる。

 

「あ、眼鏡。えーと、どうぞ。」

それでも声主は俺に眼鏡をかけてくれた。レンズが赤黒く汚れてる。そういや……途中で捨てたよな?そんな眼鏡越しに映る人は、短い金髪の少女だ。

 

「……フラン……さん?」

「はい、フランです。よかった、人の認識には問題がないみたいです。具合はどうです?」

 

起き上がろうとしても体が言うことを聞かなかった。

 

「動けないんですけど……」

「身体が衰弱状態に至りました。急に動くのはお辞めになさった方が。」

 

疲れ切って……ああ、5体のガルムとノンストップで戦ったっけ。そんで終わった後に意識が消えて……そうか、その後に救出されたのか。

 

「あの……俺が奴らを狩り終わって、どうなりました?」

「はい。その……戻ったブラッド隊が、稀羅さんを回収しました。ガルム全滅から約1分後です。稀羅さんが意識不明だったので急遽フライアの医務室へ搬送しましたけど。」

「……そうですか。ここ医務室なんだ……フライアは……無事なんですね。」

「はい、貴方のおかげです。」

「俺、どれくらい寝てました?」

「今日で二日目です。」

「二日も?」

 

想定以上に疲れたみたいだ。二日ぶっ続けて寝るのも初めてかもな。

 

「フランさんは……」

「はい。」

「いつからここに?」

「稀羅さんが入院してほぼずっと……でしょうか。」

「え?あ、あれ、オペレーターの業務は?」

「する必要がなくなりました。」

 

いやいや、仕事の放棄は流石に良くないですよ。じゃなくて何があったんだ?

「フェンリル本部の方針により、アラガミに攻撃された支部は、全ての討伐任務の撤回、及び防衛が義務化されます。さらに、移動中のフライアは防衛がうまくできないため、あえて言うと戦闘員は待機を命じられています。」

「その防衛ってのはどれくらい続くんですか?」

「基本1周間です。」

「で、今日はその二日目だと。」

「はい。でもよかったです。今日稀羅さんが起きたことで、フェンリル本部の病院に搬送せずに済みました。これでフライアも進路を元に変更できます。」

「……寝てる間にもすごいことになってたんですね。まあ、でも欠ける人が誰もいなくてよかったです。」

「私はむしろ稀羅さんのお葬式をせずに済んで何よりです。」

「……なんでそんなに覚えてるんですか?」

「お葬式を……幼い頃から散々やってきたから……でしょうか。」

ひょっとして家族を全員失ったのか。だとしたら……俺とゆう似てるかもな。そう思うと余計にさっきの夢がまた脳裏に写ってくる。

 

「っ?」

 

そんな俺の額をフランさんがハンカチで軽くふいてくれた。

 

「ベットに寝かされてから、何度も悶えてましたけど、さぞかし辛い夢でも見ました?」

 

見え見えか。そりゃあ、ずっとここにいたって言うのなら……当然気付くよな。

 

「ちょっと……昔のことを……」

「でしたら聞かずに黙ります。今はゆっくり休んでください。まだ時間はありますから。」

「…………。」

「稀羅さん?」

「……あ……ありがとうございます。」

「へ?」

「看病、の事です。」

 

ずっとここにいたくれた上に、心の傷をさらけるのではなく、包み込もうとしてくれた。こんな人に優しくされたのはいつぶりかな。

 

「……や、やだなあ。稀羅さん。当然のことをしただけです。」

「すみません、人の情に触れるのは久しぶりで。」

「も、もういいです。とにかく、休んでください。」

 

何で彼女がこんなに慌てるのかよくわからないけど、そのせい俺も次に言うことがなくなった。

 

「……」

「……」

 

そのおまけにこの気まずさ……俺なんかまずいことでも言ったか?

 

「そ、それでは私は医者の方に報告してきます。」

「あ、はい。お願いします。」

「それでは、」

 

ドアへ向かうフランさんが急に止まってはこっちに振り向いた。

 

「……そ、その。また看病に参りますので。お困りでしたら遠慮なく呼んでください。」

「は、はい。どうも。」

 

フランさんが逃げるみたいに部屋を出たのは……俺が悪いのかそうでないなら何が悪いのか……わかんねえ。

 

* * *

 

それからいろんな人が病室を訪れた。最初はまあ、担当の医者がリンガー液の調節と様子見にいらっしゃり、その後はブラッド隊が訪れた。

 

「本当に良くやった。まさか一人であれだけの数を。」

 

ジュリウス隊長からの惜しみない褒め言葉にどんな顔すればいいのか。

 

「ねえねえ稀羅、ガルムってどんな感じだった?やっぱ速いかなー?」

「こら、ナナ、稀羅はまだ治療中だぞ。今は安静した方が。」

 

ずいぶん大人っぽい発言をするロミオさんですけど、多人数で病人の部屋にやってくるの自体どうかと。

 

「流石に俺は無理だぜ、あんな量。稀羅お前が新人なのか到底信じられねえ。」

「運が良かっただけだよ。あの5体が一斉にかかってきたらひとたまりなかったし。」

 

キャリアではこっちの倍以上はあるギルさえ褒めてくる。嬉しいけどそこらへんにしてくれよ。

 

「ところで稀羅、一つ聞きたいんだが。」

「はい、なんでしょう?」

「ガルムを倒す際、あんなに死体をバラバラにした理由はなんだ?」

「首を落としても死んでくれなかったんで。」

「コアは回収したか?」

「コア……ですか。多分してないと、あ、そのせいかな。」

「なるほど。しかし、あれほど深く切られてもなお立ち上がるなんて、何か心あたりはないか?」

「自分じゃわかりません。普通なら即死ですよね?」

「その筈だが。」

 

じゃあ、やっぱコアか。回収しないだけであれだけ動けるのか。怖いもんだ。

 

「おそらくは神機のステータスが関連してるかもしれません。」

 

フランさんがまた来てくれた。手に食事が少し盛られたプレートを持っていた。

 

「神機のステータス?」

「どうも、フランさん。」

「どういたしまして。後でゆっくり食べてください。」

 

フランさんはベッド付近のテーブルにプレートを置くと、近くの椅子を出した。

 

「稀羅さんの神機がどんな状態かご存知ですか、隊長。」

「損傷が激しかったな。」

「え、本当ですか?」

「案ずるな。スタッフが総動員されたから。が、それがどうしたフラン?」

「あれほど神機がボロボロになることは滅多にないです。第一、神機は多少ながら自己修復能力も備えています。に対してあの損傷具合はおかしくないですか?」

「……焦らされるのは得意ではない。」

「今回稀羅さんが討伐したガルムは、フェンリル公式基準上、危険度4から6に置かれるアラガミです。既に身体的に進化を遂げています。」

「危険度?」

「フェンリルでは各神機使いへ、それぞれの器量に合わせたミッションを提示します。まだ新人の稀羅さんは、比較的弱いアラガミ、すなわち危険度1から3に入るアラガミが討伐対象となっています。」

「結構厳しんですね。」

 

考慮されてたのはアラガミの種別だけではなかったのか。

 

「稀羅の神機は?」

「はい。未だ高危険度のアラガミと対するための強化が施されていません。」

「強化一つで大きく変わるもんですか?」

「一度の攻撃で吸収できるオラクル細胞と、またそれを活用させる発展回路の数が圧倒的に差が出ます。」

「……ごめんなさい、わかりません。」

「長く説明するのは控えよう。要するに、君の神機が少しあのアラガミに向いていないため、一撃で殺せる筈が、一変したという事だ。」

「つまり弱い……と。」

 

答えはわかってたものの、いざ自分の口で言うとかなり辛い。

 

「そう気を落とさないでください。朗報もあります。」

「朗報?」

「稀羅さんの実績に、神機をさらに強化できる素材がわざわざフェンリル本部から支給されました。少しは役に立つでしょう。」

「ほお、良かったな。稀羅。」

 

え、やった。マジかよ、ただでくれるのか、あんな大量の素材を。

 

「ご褒美と思っていいですかね?」

「ご自由にどうぞ。ただし、その分命も危機にさらされると自覚なさってください。」

「そうだな。強い者は更に前に出なきゃいけない。それで段々と一人前になっていく。」

 

一人前の神機使い。うん、これは自分としても入りたい領域だ。

 

「私からの知らせは以上です。稀羅さん、何か質問は?」

「あー……飯いただきます。」

「では、失礼します。」

「ご苦労、フラン。」

 

食事は卵のおかゆと、幾つかの野菜付け。すごく気を使われてるんだなあ。

 

「後でお礼でもしないと。」

「体を治してからでも遅くはない。」

「そうですね。」

「それでは、ブラッド隊、俺らも引き上げるぞ。」

「え、もう?」

「えー、まだ稀羅とあんま話してないよお」

「彼は療養中だ。少しほっといてやれよ。」

 

ギルの一言に、湧き出しそうだった騒ぎが一気に沈んだ。

「うー、ギルがそこまで言ったら、稀羅ーまた来るねー」

「近々退院できるから、そう心配しなくていいよ。」

「程々に頑張れよ。稀羅。」

「……忠告として頂く。」

 

時間は短かったものの、ブラット隊も病室を出て行った。

 

* * *

 

夜。寝るのが多少嫌になった。また、あの夢を見ることになりそうで。

 

「と言っても時間潰しにできそうなもんがねえわ。」

 

さすがは病室、ほんとに何もない。リンガー液の効果が薄れ、体が少し動けるようになったせいで、余計目が冴える。

 

「コーヒーか紅茶でもくれよ。」

 

最初にあそこで飲んだ紅茶すごく美味しかったんだがな。だけどポット1つ見当たらない。どうしようか。半分諦めてベッドに寝転ぶ……寝るか?しょうもなく布団を掴んだところで、自動ドアの開く音がした。

 

「誰ですか?」

「あ……稀羅さん。私です。」

「フランさん?」

病室は電気が消えれば暗黒そのもので、物陰一つもうまく区別できない。

 

「どうしたんですか?」

「い、いえ、看病……というかお見舞いです。」

「……電気つけましょうか?」

「お願いします。」

 

白い壁と天井に反射した光が、病室とまだ制服姿のフランさんを照らした。

 

「ま、まだ、起きてたんですね。」

「楽には寝れませんね。」

「……また嫌な夢を?」

「はい。それなら寝ずに過ごした方がいいかな、と。」

「……」

 

ちょ、フランさん黙らないでください。俺人との会話は大の苦手なんっすよ。特に女の子とは。

 

「……す、座ればどうですか?」

「は、はい。」

 

いざ彼女が近づくと、その手にちょっと厚い本が1冊握られていた。

 

「それはフランさんの?」

「本のことですか?はい……そういうことになりますね。」

「そういうことって……?」

 

自分の本だと言うには何か不自然な言い方だと思うけど。

「それで、お眠りになさらず夜を過ごせる方法はありましたか?」

「ノーですけど?」

「なら、持ってきた甲斐があるかもしれませんね。読みます?」

「あ、いいんですか?」

 

群青色の、傷があまりついてない古い本だった。何度もページをめくった跡がある。タイトルは……

 

「六つの宝……」

「稀羅さん、この文字読めるんですか?」

 

ここフライアで話す言葉とは違う言語だ。彼女が驚くのも無理はない。

 

「え?あ、はい。結構馴染みある文字です。」

「そうですか。この文字知らない方が殆どで。」

「昔はEnglishという言語だったらしいです。国がなくなった今の世界じゃ名無しの言語ですが……。」

「イングリッシュ……なんですね。」

「実はこの本も馴染み深いです。」

「え?」

「いつ読んだかは曖昧ですけど……確かある王国から出て旅をする魔法使い話でしたっけ?」

「は、はい。正にそのままです。」

 

表紙も最初に読んだ当時の物と似ている。いやあ、でもいつ読んだっけな。

 

「内容はもう全部覚えてるんですか?」

「んー、多分かなり忘れたと。」

「じゃあ、印象深い内容とかは?」

 

フランさん、本が好きなんだな。こっちを見つめるキラキラとした目が、本当の彼女の歳にあった女の子にさせてくれる。事務員を離れた、未成年の女の子へ。

 

「3番目に見つけた宝で大きな紫の薔薇。あとは、最後の宝、青い鳥と白い鳥、ですね。」

「わあ、最後の宝は私も気に入りました。青い鳥が幸運の妖精、白いのはなんだか分かりますか?」

「……幸福の妖精でしたね。」

「はい、少し微妙ですよね。でもその理由が分からないんです。」

「後半に書かれてましたよ?」

「そこまで読めてないんです。私、この本の言語がまだ未熟で、いつも厚い辞書をもって読んでたので。」

「が、頑張りましたね。」

 

相当の根性がいるだろうに。いちいちめくらないといけないって、想像以上に面倒くさそう。

「んじゃ、後半だけ、俺が解説しましょうか?」

「……嬉しいですけど少し待ってもらえませんか?自分で最後まで読みきりたいです。」

「それじゃ待ってますんで。」

「はい。あのーところで、稀羅さん、この本ご存知でしたらまた読むのはやっぱり……」

「貸してもらえますか?」

「へっ?」

「もう一度読みたいです。明日くらいに返したいんですが……ダメですか?」

「い、いいえ、どうぞ。でも少しは眠ってくださいね?」

「本に没頭しちまったら無理ですけど……」

フランさんが渡した本の一枚一枚をゆっくり眺める。保存状態がとてもいい。新品ほどとは言えないけど、古いもんとしてはすごく手がかかったのだろうと印象をくれた。

「大事に扱います。」

「ありがとうございます。それでは私は……」

 

本にうっとりしちゃった俺は拍子遅れて気づいた。フランさんがこっちをむいてぼーっとしている。

 

「……どうかしました?」

「へっ?い、いいえ。すみません。ちょっと考えごとを……こ、ここで失礼します!」

「本、どうも。」

 

かなり慌てた様で、椅子から転げ落ちそうだったが、何とかフランさんはドアまで辿りついた。ペコっと会釈してはさっさと部屋を出て行っちまった。昼間といい、今といい、どうしたんだろう。またなにかやらかしたのか俺。結局答えは出なかったので、本に目を移した。




甘ったれた雰囲気が嫌いな方にはどうも申し訳ない内容でしたね。多少個人的な理想を盛ってしまいました。
次はちゃんとゴッドイーターの仕事に戻せねば…


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戦場への帰り-Black cat loves electoronic-

時間帯遅くなりました。すみません。毎回見てくださる方に感謝込めます。


ほんのり病室がオレンジの光に包まれた。結局本に夢中になってたまま、徹夜をした。疲れと達成感が入りまじった気持ちで本をベットのそばのテーブルにおいた。

「後4日か……」

 

フランさんが言っていたフェンリル本部の方針による、所属支部の護衛。正直、神機使いにとってはただの罰に思える。

「そんな最中に今から復帰してもなあ。」

 

今日もベット過ごしかと嘆いてたら、ドアをノックする音がした。

 

「……どうぞ。」

 

普通の人はなかなか起きない早朝に、フランさんが入ってきた。何時間寝てるんですか……

 

「おはようございます……やっぱり眠れませんでしたか?」

「その分、こいつは読み終えました。」

「読める読めないでこんなに差が出るなんて……」

「まあ……」

 

苦笑しながら彼女にその本を返した。両手で大事そうに抱えることから、もしかしたら誰からもらったのかなと思わせた。

 

「具合は昨日と比べてどうです?」

「好調です。といっても寝なかったから少し疲れてます。」

「では、担当医の方を呼びますので、」

「お願いします。」

* * *

 

後に担当医がいらした。特にこれと言ったことはなく、ちょっとした諸注意を聞かされてすぐに解放された。服装が病人用のパジャマだし、そもそも行く当てもなかったんで、とりあえず自室に戻ることに。自室に着くと、その前でジュリウス隊長が立っていた……ここの人間たちって普通に睡眠取らねえのか?

 

「……今日で退院だと聞いた。」

「おはようございます。いつからここに?」

「ついさっきだ。届き物でな。」

 

ジュリウス隊長かから新しい服を手渡された。受け取った時、服の質感と重さからして、かなりの高級素材だってのがよくわかった。

 

「わあ、ありがとうございます。てかいくらだったんですか?」

「支払いは結構、これは俺からの謝礼だ。」

「謝礼?」

「隊員を一人戦わせて、負傷を負わせた。その責任は俺にある。」

「いやいや、あれは不測の事態ですよ……しかも俺の独断行動だったから、」

「いい。気にせず取ってくれ。ズボンは洗濯したが、シャツとチョッキは少し焦げていたので別の物にした。生憎、パッションというものにはロミオより疎いが、気に入って貰えると助かる。」

 

そんなかっこいいジャケット着たままで言わないでください。全然説得力ないですよ……

 

「いやいや、もらう側は嬉しいだけです。少しでも長持ちさせます。」

「ならありがたい。では、俺はこれで失礼する。お前の体調が整う次第に部隊に戻す。いつでも申し出てくれ。」

「了解。お疲れ様です。」

 

言葉が硬くてちょっと不器用だが……あの人も情ってのは持ってるんだな。隊長から貰った上は黒いワイシャツに黄土色のチョッキ。早速部屋で着替えてみたが、全然問題なしだ。うん、割と合ってる。派手過ぎでもなく、動き安い。

 

「後は……飯か。」

 

自分でも笑っちゃうくらいダサい残りの仕事だ。

 

* * *

 

食事を済ませロビーに戻ると、退院した自分を歓迎する者もいれば、もう退院かと心配する者もいた。

 

「んまあ、あれだ。どうやら、ラケル博士ってのが、残り4日の待機命令を解除しようと本部に持ちかけてるみてえぞ。」

 

ギルからの最新情報。

 

「ラケル博士って案外見えない所で頑張る人よねえ。」

「ラケル先生はああでも強い権力の持ち主でもあるよ。きっと解除されるんじゃないかな?」

 

ラケル先生……か。前回一度だけ会っただけだが、車椅子の可憐なお嬢様、というイメージの裏に、なんか黒くてもやもやするのがある様な気もしたんだが……

 

「ロミオさんはよくラケル博士のことを先生と呼びますよね。何か訳でも?」

「ん?あー、昔はラケル先生が運営する児童館にいたから。そのせいかな?」

「児童館?」

「マグノリア-コンパス。アラガミに被害を負って孤児になってしまった子供を育てくれる場所だよ。」

「へえ、そこまで気を配っているんですね。」

「だろ?やっぱ凄い人だよ。ラケル先生は。ちなみに、ジュリウスもそこにいたよ。」

「って事は昔からの知り合いですか。」

「まーね、顔自体合わせる日が少なかったけど。」

 

一つの児童施設でもそうだってのは……施設自体がでかいってことか?

 

『フライアの神機使いの方々に連絡します。』

 

軽く振動する無線で耳奥がくすぐったい。フランさんの業務連絡だ。

 

『先ほどフェンリル本部より重要指令が入りました。至急ミッションカウンターの前にお集まりください。繰り返します……』

「おおお!ついに復帰か?!」

「さーな、にしてもずいぶん早いな。稀羅が目が覚めた頃に要請をしたと言うのに。」

「わあい、あのアラガミを叩けるんだね?行こう行こう!」

「確定してないからあんまはしゃぐなよ。」

 

* * *

 

「全員いるな。」

 

ブラッド隊が集合すると、ジュリウス隊長が人数を確かめる。

 

「全員集合です。」

「そう。では先ほどラケル先生からの知らせだ。只今を持って、ブラッド隊のアラガミ討伐任務が許可された。」

 

全員が歓声をあげた。まあ、そうよね。病室でくたびれてた俺とは違ってずっと退屈だっただろうな。

 

「ただし、条件もある。もし今度もフライアがアラガミに狙われる状況に陥ったら、その時は防衛期間が延長される。」

「おいおい、隊長。そっちも俺たちせいになるのか?」

「周りのアラガミを徹底的に潰せなかったという事だ。」

「人員も少なく、移動し続けるフライアは不利じゃないですか?」

「残念ながら、上層部はそれを認めてくれない。これからはより賢明な任務進行が必要だろう。」

「賢明かー……」

 

ナナだけでなく、全員で頭を抱えて考えて始めた。

 

「フライアは今何処に向かっているんですか?」

「何故それを?」

「アラガミが多く発生する地域かどうかを聞きたいです。」

「極東地域に向かっている。通りすぎるかどうかは未定だが。」

「極東?」

「世界で最も多種多様なアラガミが出てくるという場所だ。」

 

アラガミ豪華セットは勘弁してくださいな。

 

「徹底的に潰すなら……先に大雑把にアラガミを蹴散らす突撃隊……あと、倒しきれなかったアラガミを後から片付ける防衛隊が要りますかね?」

 

けろっと吐いた言葉に皆目をむいた。いや、どう考えてもそうでしょ?

 

「確かにいい提案だが、今のブラッドは5人だ。更に、まだ血の力に未覚醒の諸君が多い。」

「えー、なら、ジュリウス隊長が皆の前で引っ張ってくれるといいじゃん!」

 

ナナ、お前も案外プレッシャーかけてないか。

 

「いや、俺は無敵ではない。」

「5人といっても大体の戦闘はできますよ?突撃隊に……ジュリウス隊長をいれて3人ってのはどうです?」

「お、それいいんじゃないか?」

「だが稀羅、それでは防衛隊に負担をかけることになる。」

「じゃ、俺がつきます。あと、ギルも。」

「おい、稀羅、おま勝手に……ま、いいか。」

 

ギルが文句を言いそうに見えたが急にやめた。ちょっと間違ったのかな?

 

「稀羅とギルか。いいのか?」

「突撃隊がしっかり潰してくれるなら、こっちは楽チンです。」

「……よし、ではまずその形で進めて行こう。うまく行かないならまた変更する。」

「「「「了解!」」」」

 

しばらくこれで持ってくれるといいけどな。

 

* * *

 

短い会議後、すぐにフライアの近くでアラガミが見つかった。俺らの作戦どおりに各隊に任務が配置され、俺は急いで本部からのプレゼントを全部神機に注ぎ込んだ。その結果、刀身は緑線が光ることになり、銃身はクロガネ製のショットガン、装甲もクロガネのタワーシールドになった。

突撃隊のジュリウス隊長に、ナナ、ロミオさんはすでに出撃した。残りのギルと俺は、フライアの後方のアラガミを討伐する任務にあたる。

 

「言いたい放題言って、いまさらだけど……良かったの?俺と防衛隊になって。」

「はっ、ほんといまさらじみてるな。気にしねえよ。むしろお前さん組んだ方がよっぽど行けるぜ。」

「ベテランからニュービーにプレッシャーかけられても何も出ないぞ?」

「よせよ、ベテランは。」

 

今度のミッションのステージ付近に着いた。正午を過ぎ、移動に時間を食らったせいか、ヘリの窓から夕日が差してきた。

「今日のステージは贖罪の町……だっけ?」

 

任務内容を再確認する。知らないステージである分、ちょっとばかり不安だ。

 

「ああ、中央に教会がある、中々広い戦域だ。行ったことは?」

「ないね。」

「ま、相手はヴァジュラだ。どうせ猫だから。」

「猫?」

「俺たちの間ではそう言う。本来は、電気を操る虎、が正しいかもな。けど、ほとんどが次の種別に進化しちまうからそう強くもねえ。」

「進化って、何に?」

「似た種別に二つタイプがある。悪いが名前は忘れた。ただ、進化すると中々手応えのあるやつになるぞ。」

「主に突撃隊の仕事になるな。」

「というわけで、ちゃちゃと片付けて帰るぜ。」

「了解。」

『フランより、稀羅さんとギルさんへ、間も無く戦闘エリアです。無線の具合はいかがですか。』

 

左耳から無線が入った。って、突撃隊の方にじゃなくてこっち?

 

「良好、てかフランさん、向こうの方につかなくて良いのかよ。」

『ご心配なさらず。別の職員が担当することになりました。』

 

ならいいが。

 

「降下地点まで後どれくらいです?」

『1分弱です。』

 

視察も兼ね、ヘリのドアを全開した。眩しい夕日が目を刺激する中、足元に町の風景が広がる。

 

「うわ、すご。」

 

宗教と経済が一体化していた大都市。あちこち崩れ色あせた建物は、当時の繁盛だった一面はちっとも残してない。最も印象的なのは、地面と建物に無数に残った丸く掘られたくぼみ。深いのは建物に完璧に穴を作ってしまっている。

 

「あの窪地か?全部アラガミが食った跡だってな。」

「とんだアートだぜ、全くよ。」

『目標はヴァジュラ一体。先ほど戦闘エリアでの反応を探知。準備はいいですか。』

「OK。」

「いつでもいける。」

『……どうぞ、』

 

ワイヤーなしに高度100メートル上から飛び降りた。普通の人間なら即死するだろうけど……

 

「よいっと、」

 

神機使いとして移植したオラクル細胞が強化し尽くした体は、ソフトに着地した。

 

「さーて、行くぞ、俺は西を索敵、お前さんは東を頼む。」

「了解。」

 

神機を肩にのせたまま、巨大な建物の壁に沿いに走り出した。よく見ると壁がかなり損傷して、鉄骨がむき出しになってたりしてる。しかし中でも夕日に輝くモザイクガラスもまだまだたくさんだ。

 

「これが教会?」

『そう。ああ、ここは俺が入るぜ。』

「よろしく。」

 

吹き抜けに出た。変なコンテナがいくつか積もった広いフィールドで戦闘はしやすそうだ。そのまま何かの建物の側面の穴に入り、壁に隠れながら奥に進む。一番奥に来てそーっと覗くも、なにもなかった。

 

「ちっ、いない。こっちは外れ。」

『あいよ。教会も異常なしだ。』

「西に行く。」

 

東の建物から出て、先程の教会の表に回った。特に何もないのでさらに西側にすすんで、西側の吹き抜けに出た。だが、何かでかい奴が見え、すぐに教会の外壁に隠れた。

 

「げっ、あいつなのか。」

『どうした?いたか?』

 

顔だけ出してもう一度確認する。うん、いるね。

 

「四つ脚獣に赤いマントみたいな鬣がある。毛の色は黒と白。」

『間違いねえ、何処にいる?』

「西側の吹き抜けだ。今どこ?」

『西側の端だ。すぐに向かうから先に始めてくれ。』

「了解!」

 

壁から飛び出した。奴もこっちを見つけた様で、警戒態勢で空へ鳴きだした。化け物として少し薄い声。あれ?おかしい。ガルムの時みたいな頭痛がしない。

 

「……今はいいっか。」

 

ヴァジュラの赤い鬣が逆立ちに、電気が血走った。すぐにそいつの正面に幾つかの電球が並び始めた。

 

『稀羅さん、討伐対象との接触を確認しました。』

「……フランさん、され何ボルトですかね。」

『すみません、私にもわかりません。とにかく素早い動きに注意してください。ガルムに決して劣らない筈です。』

「い、今更それを?!」

 

こっちへ飛んでくる電球をシールドを開いて3球防ぎ、距離を詰めた。すると奴の周辺が妙に光りだした。おい、まさか。ちょっと嫌な予感がしてすぐにかかとを立てて後退。次の瞬間、広範囲に放電が生じた。

 

「うおおっ!」

 

下がって良かったぜ。あれ絶対ビリビリして痛いだろ。ヴァジュラは続きに、全身に電気を纏い始めた。痛くないんですか?呑気にそんなことを思ってたら、いきなりトップスピードで体当たりを仕掛けてきた。

 

「げっ!」

 

ビリビリするその体をガードで受け止めた。幸い、この装甲は電撃も吸収してくれた。フランさんの丁寧な忠告どおり、速い上に電気もとても上手く扱ってる。

 

「ふっ!」

 

ガードを収納するのと同時に、真上から振り下ろした神機が奴の前足に当たった。が、余りにも微かで、爪を砕くだけで終わる。多少怯んだヴァジュラがもう一方の足で振り出した 。バックダッシュでかわし、すぐにステップで接近しその顔を飛ばす気で横に振った。しかし奴が先にバクターンで下がってしまった。

 

「本当、猫だなてめえ。」

 

よくもあんな巨体で。けどよく見ると、一つ一つの動作の後の隙が多少大きい。バクターンから着地したヴァジュラが今度はがむしゃらに走ってくる。これ、ガルムの攻撃と似てないか?

 

「えーと……踏み潰す気か?」

 

衝突する寸前に、左にステップで回避しながら、神機を右にはみ出させた。手首が折れない様に力を入れる。

 

「くっ!」

 

少し腕の衝撃があったが、やつの顔に神機を埋め込めた。不快な柔らかい感触がした直後に、思いっきり前に神機を振り抜いた。ヴァジュラの顔が半分砕かれた。痛みにヴァジュラの前足が崩れ、その巨体が急停止し、ダウン。

 

『敵、ダウン。結合崩壊を確認、オラクルが一気に乱れました。捕食か追撃をしてください。』

「捕食はいいです!」

 

砕かれた顔からはみ出た赤黒い血と黒い組織が傷を修復できずに外に流れ出した。走り出し、再び前足を狙う。

 

「今度は当ててやるよ!」

 

空中に跳躍して、一回転の力を加えた神機をもう一度垂直に下ろす。立ち直ろうとしたそいつの足を両方飛ばした。

『敵、ダブルダウン!捕食とフィニッシュ両方可能です!』

『そこは俺も頂くぜ!』

 

振り向くとギルが高速で槍の神機を突き出して突進してきた。バスターとはまた違った特殊な黒いオーラに包まれてるんだが、これがとてつもなく速い。超高速の神機はそのまま後ろ足を貫通し、ヴァジュラの後半の体に窪みを開けた。あやー、ヴァジュラの悲鳴が絶えないわ。痛いよなそりゃあ。気を使いながらもプレデタフォームでその下半身を頂く。そのせいで出血が増した。もうあちこち壊れたヴァジュラは先みたいに動ける気配すらない。

 

「さーて、」

 

ゆっくりやつの前方に廻り、頭を神機と一緒に地面に突き刺した。グニャリと顔が一気に歪む。わざと一度外し、左に出した神機を両手でささえ、再び顔にアッパーを入れた。更にジャンプして、片手で神機を半分やけに振り下ろした。気づいた頃には頭がもう原型を保っていなかった。

 

『おいおい、そこまで殴ったら即死だろ、普通、』

「いや、前回は死ななかったよ。」

『……アラガミの活動停止を確認。またもこんなに早く仕上がるなんて……』

「んじゃ、コアは俺が抜くか?」

 

大きく展開したプレデタフォームで残り体をほとんど全部咥えた。骨が幾つか折れる音がして、やがて捕食も完了。

 

「いいねえ。でも稀羅のせいであっけなさ過ぎたぜ。」

「別にいいだろ?さっさと終わらせた方が。」

「ちぇ、こいつはいたぶるからこそ狩り甲斐があるってのに。」

『ギルさん、今の発言はオープンチャンネルでは控えてください。』

聞き耐えられなかったフランさんの無線である。

 

「おっと、いけない。」

「いや、お前わざとでしょ。」

 

回収したコアは赤く球型の拳くらいの大きさだ。宝石みたいに何だか綺麗に光る。これが単に研究素材として使われるってかなり勿体無くないか?

 

『任務終了です。ただいま帰投準備にかかりますのでしばしお待ちを。』

「へい。」

 

二日ぶりの復帰戦はヴァジュラの早急掃討で、特に辛いこともなく無事に幕を下ろした。




ヴァジュラ、ねーこ、ヴァジュラ、ねーこ
もうはっきりいってディアウスピターとやっちゃったらヴァジュラは猫にしか見えませんね。バスターでも余裕になります。ましてやショートの方はどうかと。

さて、大きく原作から外れ、ようやく戻りました。当分、原作通り進めないと…


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更なる出会い-Emil and Yno-

遅い。まずいぞ遅い。
せっかくお気に入り入り登録して下さった方々、申し訳ございません!たとえ一週間2回とはいえ、23:00は遅すぎました!
とにかく、すみません!


『迎えのヘリの到着を確認、どうぞ。』

「おう。」

 

贖罪の町を一望できる丘でヘリが合流、フライアへ戻る。

 

「……なあ、ギル、」

「ん?」

「ガルムと交戦した事、あるか?」

「せいぜい二度位。」

「少ないね。」

「ま、グラスゴー支部はそんなに大型のアラガミは出なかったからな。他の支部への遠征に行った時に、な。」

「グラスゴー支部……」

 

えーと、グラスゴーって確か昔はイギリスって国の領域だっけな。

 

「んで?どうした?」

「ああ、あいつの鳴き声なんだけど、聞いて頭痛がするって事とかあったか?」

「頭痛?ないな。あるのか?」

 

首を縦に振った。

 

「ミッションに支障が出るぜ?それだと。」

「何かいい案はある? 」

「そうだな……ヘッドホンは知ってるか?」

「音楽を聴く端末ってのは。」

「最近は外部の音の周波数を変えて聴かせる物もあるらしい。そんなもんどうだ?」

「へえ、そんな優れ物なのか。今度探してみるか……」

「まあ、根本的な頭痛の訳を無視するけど、いちいち調べてられねえだろ。」

「だな。」

 

一ついい情報を得た。後でフランさんにじっくり聞いてみよっと。

* * *

 

「さーて、次のミッションまで休憩っと。何か食わないか?」

「悪りい。例のヘッドフォン探してみる。あと任務報告も。」

「おっと、そうだな。」

「……ブラッドというのは、君たちか?」

 

対話に夢中で通り過ぎた後ろから、初耳の声がした。振り向くと、やっぱ見たことのない男だ。身に引き締まる様な……貴族?を思わせる服装。巻き毛の金髪、どうも近くの地域の出身ではない顔をしている。

 

「ふっ、緊張するのも無理はない。だが安心したまえ!この僕が来たからには、心配は完全に無用だ。」

 

とりあえず話しながら体をそこまで大げさに動くのは辞めてもらえませんか?

 

「おっと、失礼した。」

 

それは気づいて頂いて何よりです。

 

「僕はエミール、栄えある極東支部の第一部隊所属、エミール-フォン-シュトラスブルクだ!」

 

あわわ……予想はしたがかなり長い名前だぞ、これ。

 

「そーか、よろしくな。」

 

おい、ギル、そんな態度で良かったのか。丁寧に接しようと色々考えてた俺がアホらしくなってくるぞ。

 

「このフライアはいい船だね。実に趣味がいい。しかーし!その美しき祝福すべき航海を妨げるかのように、怒涛の様なアラガミの大群が待ち受けているという……」

 

表現がいちいち気に障って聞いてられない。あーつまり、援助に来ましたと言いたいみたいだ。

 

「……いても立ってもいられなくなったのだ!」

 

そこでいきなりこっちを向かないでください。返答に困りますよ、貴族出身の超長名称の誰かさん。

 

「あ、はい。」

「そういうわけで、君たちには僕が同行するよ。まさに、大船に乗ったつもりでいてくれたまえ!」

 

最初からそう言ってくれるとすごく助かるんだが、てか大船って、相当腕に自信があるようね。

 

「はあ。」

「共に戦おう!人類の輝かしき未来のために!」

「あ、はい。」

「我々の勝利は、約束されているー!」

 

そして去って行く……ああ、怠かった。

 

「……ややこしいのが来たな。」

「俺、ああいう人苦手。」

「否定はしない。」

「熱過ぎる。とにかく肯定してあげた方が早く済むんだよな。」

「逆効果を招く事だってあるぞ?」

「そん時は全力で逃げる。」

 

ま、あれ程自負感溢れる人だ。少しでも戦力補充になってくれるならそれでいい。それ以上は結構だ。

 

「それじゃ、フランさんに任務報告してくるから。」

「お、わりい。」

* * *

 

面倒な紳士の相手の次に、適当に任務報告のレポートを書かされ、ついでにヘッドホンのことも聞いて見た。そこでありがたいことに、フランさん自ら探してくれるという話になった。

 

「あ、稀羅お疲れー!どうだった?」

「ま、2日休んだくらいでは死なないってことは気づいたよ。」

 

突撃隊のナナたちは先に帰ってきたらしい。ナナはロビーのソファーでまたパンを齧ってた。

 

「そっかー、あたしも結構楽だったよ。やっぱ隊長がいる事だけでも違うのかな?」

 

隊長が頭を抱える発言を思いっきり吐くことは気にしないでおこうか。

 

「そっか、特にチーム内での問題はなかったみたいね。」

「うん、このままで行けると思うなー。」

「ただいまっす。」

 

突撃隊もう一人のロミオさんが来た。いけない、さっきのあの野郎とかぶる所が色々あるぞ?

 

「あ、お疲れ様です。そういやロミオさんはどうです?今の部隊に何か意見とかあります?」

「いや、特には。むしろ行けるじゃん?第一、あの暴力ゴリラと別ならなんでもいいぜ。」

 

殴られたのまだ根にもってるみたいねこの人。

 

「でもロミオ先輩って、あんまり攻撃しないんだよねー、あんな立派な神機持ってるのに。」

「う、うるさい!様子を見るんだよ。奴がどれほど強いか。」

「いや、むしろ見過ぎじゃありません?大体感はあるんじゃないっすか?」

 

なんだかナナとこうしてロミオさんをいじるのが結構楽しい。反応が面白いというか。

 

「だいたいお前らさあ、前に突っ込み過ぎなんだよ。もうちょっと敵の動き見極めてからさあ、」

「ええー?ロミオ先輩がビビりすぎなだけなんじゃない?」

 

まさかの発言にちょっときてしまったナナがロミオさんに迫る。

 

「ちょ、ナナ近いよ?うわっ!」

「おいちょっと!」

「きゃっ!」

 

転けそうになったロミオさんを受け止めるあまり、後ろの人に気づけなかった。慌ててロミオさんを立て直して振り向くと、一人の女の子が立っていた。

 

「ああ、すみません。」

「すみません……うわっ!」

 

ロミオさんはその女性を見てすごく驚いた様子だ。まあ、確かに彫刻みたいにとても綺麗な顔に、流れるブラウンの髪の女性ではある。ってあれ?歳は……さほど変わらないみたいけど。

 

「全く貴様らは……ユノさん、本当にすみませんね。」

 

そこで初見の軍服のおっさんが出てきた。黒茶色の短髪に線の太い髭。四角い顎は強い目つきとよく合っていた(あんまいい印象をくれないという意味で)。軍服についた各様各色の勲章とやらが、地位の高い人だと思わせた。でも……結局誰だ?このおっさんも?

 

「いえ、そんな。」

「ふふっ、あまりロビーでははしゃぎ過ぎないでね?大事なお客様にご迷惑でしょ?」

 

ユノと呼ばれた女の子が慌てて否定する中、またも知らない人が出てきた。真っ赤な長い髪に鋭く整った美顏。どっちかというと大人の女性ってモチーフが強い。勲章のついた白衣からして……研究者とか何かか?

 

「はーい。すみませんでしたー。」

「こちらも。」

 

ナナがあまりにも素直に謝るので一応流れる事にした。けどロミオさんはどうもユノという女の子から目が離せない様。彼らが俺らと離れ、エレベーターの方に行く最中もずっと目で追いかけてた。

 

「あれー、どうしたの、ロミオ先輩?」

「ばっかお前……あれ、あれ、ユノ!」

「ユノ?知ってる。」

 

いやいや、俺に振ってくれないでよ。って意味で両手あげ。

 

「マジで?葦原ユノだよ、ユノアシハラ!ちょー歌上手いの、有名人!ああ、くそ!カメラ持ってくればよかった。」

 

へえ歌手か、よくもこんな時代に……エレベーターの方に目を見やると、ちょうどユノという女の子もこっちを見ていた。目が会うと小さく会釈をしてきたので、こっちも首を動かした。

 

「ん、まだユノの香りが残っている気がするよ。今日は風呂に入らないようにしとこう。」

 

今この人が正気かどうかすら分かんなくなってきた。恐るべし、歌手の力。

 

「えー、先輩、お風呂くらい入ろうよ。」

「いやいや、だって、今日という日はもう二度と来ないかもよ?」

「成る程、そうなんですね。よし、先行こう?」

 

呆れてしまったのか、ナナは俺に向けて、逃げようって目線で合図した。

 

「そうね。一人妄想に浸らせた方がいいかもな。」

「おい、まてよー!」

 

2階に上がりながら、後ろから必死についてくるロミオさんの声に笑いを堪えずにいられなかった。

 

* * *

 

「防衛戦の任務は新しく入りましたし、隊長からのリクエストもあります。」

「リクエスト?」

「いわゆるクライアントオーダーと思ってください。」

「すみまません、あの隊長ですから不吉な予感しかしないんですが……」

「……そう仰らず挑戦してはいかがですか?」

「……任務内容ですが……フランさんもう確認済みですよね?」

「……はい。」

「やっぱ他の人に回してください。」

「只今編成メンバーに呼び出しいたします。」

 

む、無理矢理すぎです。明らかにこの状況楽しんでませんか、フランさん?その不適な営業スマイルがすごく怖いんですけど。

 

「……た、ターゲットはなんですか?」

「ウコンバサラという、鰐みたいなアラガミです。背中のタービンによる、強力な電気攻撃が特徴です。牙が鋭い顎にもご注意ください。」

「その顎に神機を突き立ててやるのもいいんじゃないですかね。」

「ご自分の手が食われる事を覚悟してから、ですね。」

 

ダメだ。この人本気で俺をこの任務に送る気だ。

 

「メンバーは……もうあの人が指定しましたよね?」

「稀羅さん、ギルさん、あと、先程極東支部からの援助に来て下さったエミールさんですね。」

 

……くそ、頼むから嘘だと付け加えてください。維持張ってでも行きたくないのですが。やばいな。早速面倒な人とミッションだなんて。

 

「あー、それと稀羅さん、」

「今度はなんですか?」

 

もうこれ以上やばい情報を聞いたら一気に崩れそう。

 

「エミールさんもゴッドイーターとなってまだ実践経験浅いらしいです、あの……くれぐれも。」

「後で本部にクレーム入れますんで準備してください。」

 

そんな奴が来て時点で、是非とも本部のやからの常識レベルを問い出したいものだ。

 

* * *

 

「さあ!では早速あの忌々しいアラガミを倒しに向おうではないか!」

「あー、そうなんですけど、」

「どうかしたか?」

 

始まりから落ち着きそうにない、ウコンバサラ2体討伐任務。ステージは鉄塔の森。ヘリーから降りるなり、すぐさま出撃しようとするエミールさんを危うく引き止めた。

 

「2体討伐なんで、二組に分かれましょう。俺と、ギル。そして、エミールさんで。必然的に先に終わるのはこっちでしょうから、後にそちらに合流するというのでどうです?」

「うむ、実にいい策ではないか。私は構わんぞ。むしろこちらが先に仕留めてみせよう。」

 

俺と同じく新人のくせによくも言えるね。

 

「俺も賛成。んじゃ、奴らが合流する前に行こうぜ。」

「了解。」

 

人員を適当に補充する本部にとっちゃ、神機使いが死なせなければどうでもいいだろう。ま、死ぬギリギリの状況に持ち込んであの口を黙らせる手もあるけど。

 

「では参るー!」

 

黄金のハンマー型神機を携えたエミールさんが待ってましたと飛び出した。こっちも後を続いた。

 

「俺と稀羅は3時方向、エミールだっけ?あんたは11時方向から索敵。」

「了解。」

「承知した。」

 

3時方向で角を曲がると、広いフィールドが続いた。とわいえ、ほとんどの錆びてしまった複数のパイプが占めていて、人が動ける範囲は少ない。円柱型の工場施設が数多く植え付けられたこのステージは、遠くから見ると茂った木々に隠れる。名前はそこから由来したかもしれない。変な色に濁った水がステージの中央と、海岸を流れ、鉄製の床や壁とパイプはみんな揃ってどっかしらが錆び切っていた。

 

「鉄塔の森はでかい楕円形のステージだと思え。で、真ん中に通じる道が2箇所ある。それだけだ。大して複雑ではない。」

「コンパクトな説明でいいね。」

「ここは何度か来たからな。お、早速お出ましか。」

 

くるっと丸い角を抜けると、十数の小型アラガミがいて、そのさらに奥に、今日の討伐対象が待ってる。

 

「あれか、あの紫の鰐。」

『稀羅さん、ギルさん、アラガミと接触。ナイトホロウ4体、オウガテイル2体、ザイゴート3体、ターゲット1体。』

 

さーて、雑魚とはいえ結構の数だ。どこから攻めようか。

 

「稀羅、上を頼む。」

「この間みたいに、逆がいいとは思わない?」

「突進で地上を一掃するぜ。」

「ちぇ、あのずる技か。分かったよ。」

 

ギルが槍の部分の装甲を開くと、見覚えある黒いオーラが滲み出てきた。ゆっくりと神機全体を包み始める。ギルの両足が地面から離れた途端、神機ごとギルが複数のアラガミ群を通り過ぎ、周囲のアラガミは体の一部が何処かに消えていった。

 

『小型アラガミ4体活動停止。続けてください。』

「それ!」

 

手首のスナップで神機を回し、ナイトホロウの頭を切り落とした。切断面を踏み台にし、空中に跳ぶ。そのまま目の前のザイゴート1体を叩き潰し、その反動で更に宙に登った。

 

「2……」

 

こっちを振り向いたザイゴートの目玉に蹴りて足を一部埋めながら、その頭の上に着地。止まらず、神機をその頭に食い込ませてながらジャンプし、宙で浮いた体を更に横回転で神機を抜いて、最後のザイゴートを薙ぎ払った。

 

「3……4と!」

 

仕上げに自分の足元まで跳んだオウガテイルに体を踏むことで地面に落とし、落下スピードを載せた神機で盛大な音と共に2等分した。

 

「5!」

「よくそんな動きできるなおい。」

 

そう言うギルはもうウコンバサラの開いた口の奥に槍を突き刺し、引っこ抜いたところだ。

 

「そっちこそ!」

 

着地した両足でまた地面を蹴り、一気にウコンバサラへ距離を詰めた。

 

「おい、止まれ!」

 

こっちの接近に合わせ一歩下がるようにみせたウコンバサラが、急に床を滑り出し前へ突進してきた。

 

「うおおっ!」

 

慌てて止まりながらジャンプすると、その下をウコンバサラが瞬時に通り過ぎた。

 

「びっくりするじゃんかよ!てめえ!」

 

右腕を捻り、神機を奴に向けてなげた。運がよく刀身が尻尾に当たり、防具としての金具を砕いた。

 

『尻尾の弱結合崩壊を確認!オラクルはまだ安定しています!』

 

腕を巧みに使い、素早く回転したウコンバサラは口に電気を走らせ、かぶりつこうと突進。そこをギルがアサルトライフルで銃弾を浴びせ、びっくりするウコンバサラが突進を辞めた。

 

「ナイス!」

 

すれ違い様に口に神機を咥えさせ、その牙と歯を全部砕いた。悲鳴を出すウコンバサラを、ギルは容赦無く、神機を奴の開いた口から喉に深く突き刺して動きを止めた。

 

『ダウンです。オラクル変動広がります!』

「決めろ、稀羅!」

「分かってる!」

 

チャージクラッシュでやつのタービンごと全体を両断した。噴水のような血飛沫が上空に登る。ウコンバサラは神機を刺されたせいかうめき声一つ出せず、崩れ落ちた。

 

「……コアもらうぜ。」

 

ギルの神機のプレデターが何度か口を動かし、収納された。これで1体、と。

 

「こっちは終わりか。」

『中型アラガミの活動停止を確認。残り1体です。』

「あーらら、以外と呆気ないね。もうちょっと電気使った攻撃見せて欲しかった。」

「これじゃ猫にも劣るもんだな。」

「全くだぜ、はは。」

 

この間のを思い出して笑っていたら、突然、遠くからエミールさんの叫びがした。

 

「ぐわああ!」

「ん?くそ、なんだよ?」

「行こうぜ……まだ終わってない。ったく、『先に終わらせよう』だって?」

 

残り1体を探しに走り出した。




終わった。とりあえず今日は終わった。
(うん、いろんな意味で。)
やっぱ人間って休日だとなまっちゃうもんですね。
(言い訳作ろうと必死)
次は少し早くなるようにします(T . T)


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脳裏の残照-A white fire fox-

鉄塔の森の真ん中を突き進んで、スタート地点付近に戻った。そこでちょうど地面を転がってた……エミールさんと合流した。

 

「あの、エミールさん、無事ですか?」

「闇の眷属どもめ!」

 

はい?俺今なんて言われた?

 

「ここは僕の、騎士道精神にかけて、お前を土に返してやる!」

 

ああ、俺じゃなくてアラガミか。とにかくそんなわけのわからん宣戦布告をしたエミールさんは、ウコンバサラの顎での突き上げで弱5メートルを宙に舞った……何やってんだ、こいつ?

 

「おのれ、なかなかやる!だが、今度はこちらの番だ!必殺!エミール-スペシャルーウルトラ、クホッ!」

 

必殺技とか辞めてください!ロミオさんとかぶるんじゃないですか?!

 

「ちっ、一人で突っ走りやがって。おい、さっさと片付るぞ稀羅。」

「いや、ここは僕に任せてくれ!僕の騎士道を、君たちに示して見せる!」

 

騎士道とか長セリフ喋る暇があったら、一発でも入れてくださいよ。見てる側が辛いです。

 

「こっちも死力を尽くして相手しりゃあ!ゴホッ!」

 

はて、今度は何メートル飛ばされた?そろそろちゃんと測ってみるか。

 

「お前の騎士道に付き合ってる暇は無いんでな。さっさとやらせて貰うぞ。」

「まあまあ、あそこまで言うし、もうちょっと様子見てあげれば?」

「……と言っても次のミッションもあるぞ?」

「エミールさんがまたも同じ有様だったらその時に入ろうぜ。」

「ちっ、勝手にしろ。」

 

エミールさんもかなりお疲れのようで、息が上がっている。

 

「……ご、ゴッドイーターの戦いは……ただの戦いではない、この絶望の世において…神機使いは…人々の希望の依り代だ!」

 

おお、いきなり語りだしたぞ?あれか、遺言ってやつか?

 

「正義が勝つから、民は明日を信じ!正義が負けぬから皆、前を向いて生きる!故に僕は、騎士は、絶対に倒れる訳にはいかないのだ!」

「ちょっといいですか?さっきから倒れまくってるんですけど。」

「ぬおおおっ!」

 

こっちに貸す耳は最初からなかったみたいで、エミールさんは再度攻撃を仕掛けた。一見またやられそうだが、今度は何だか動きが違う。ほんの少しだけど……速くなってる。予想は正しく、今度は噛み潰しにかかったウコンバサラの攻撃をかわすように空中に逃げた。宙に留まったと思いきや、急降下したエミールさんは渾身の力で神機を敵の頭に打ち込んだ。重い一撃と瞬時に襲いかかった衝撃に、ウコンバサラは特に抵抗すらできずに倒れた……。

 

「や、やったぞ!騎士道の、騎士道精神の勝利だ!」

「はっ、馬鹿なりに筋は通った奴みてえだな。」

「うおおお!」

 

空に向かって轟き叫ぶエミールさん。まあ倒したことは本当だし、放っておくとしよう。

 

「援助があれだと先が思いやられるぜ。」

「ま、俺たちは俺たちのペースで続けるしかなさそうね。てか最初からああやってくれれば良かったものを。」

 

ギルと顔を合わせ、お互い何かを納得したと首を振った。

 

* * *

 

『帰投のヘリが間も無く到着です。お怪我とかは今のうちに申し出てください。』

 

別に怪我はないけど、違う意味で色々疲れちゃいました。

 

「全員無事だ。普通に帰れる。」

 

代わりに報告してくれるギルがありがたい。ただ、その代わりというか、エミールさんの話し相手を任されてしまった。

 

「諸君!これで証明して貰えたかね。我が騎士道を!」

「あーはい。多分。」

「冴えない顔だな。どうした、悔しいか?己の精神を貫く事出来ず?」

「いえいえ、ちょっと疲れただけです。」

「ほう、そうか。なら良いが。いくら神機使いとはいえ、無理は禁物なのだぞ?」

 

自分1人でウコンバサラを仕留めたということに、とにかく上機嫌な彼である。その討伐についての突っ込みは数え切れないと思うが。

 

「おい稀羅、一つ知らせだ。突撃隊からこっちとの合同任務がしたいってよ?」

「合同任務?」

「あっちだけじゃ手に負えない数とな。よって次の防衛ミッションはお預けだ。」

「そのお預けが気にかかるけど……まあ、了解。」

 

あれ、そういえば……ちょっとまてよ。

 

「なあ、エミールさんはどうするの?」

「援助に来た以上、無視はできないってさ。」

 

……頭を抱えたくなる。あれか、また騎士道とかを間近で聞かされなければならないのか。

 

「(耳栓あったらすごくいいと思うな……)」

「どうした、稀羅?」

「いやなんでもないです……」

「皆!ヘリが来たのだぞ!」

 

隅っこでこの先を想像し出す自分の頭に拳をいれた。むしろ空にしたほうが、絶対いいに決まってる。

* * *

 

「今回の討伐対象は、コンゴウ2体にヤクシャ1体。」

 

フライアへ着くなり、すぐにロビーに召集がかかった。ブラット……あと+αで始まったブリーフィングは、知らねえ奴ばっかを聞かされて理解に苦しむ。

 

「なあ、ギル。後でその2体の解説頼めるか?」

「おう、いいぜ。」

 

とりあえず分からないというリスクを減らそう。

 

「この作戦に部隊を総動員したのは、早期に決着をつけねばならないと判断したからだ。」

「というと?」

「戦域の付近で、例の感応種が捕捉された。現状で種別は判明出来ないが、広範囲の強力な偏食場を発信している。」

 

むずい単語が続出するんですけど。俺もナナもぽかんと口を開いて聞くしかなかった。

 

「要するに……感応種が合流したら色々面倒な目に会っちまう。だから隊長さんはその前にさっさと片付けようってご心境だ。俺らはまだまともに奴に対抗できねえからさ。」

「それで……2チームに分かれ、効率よく始末する。コンゴウ2体は突撃隊が担う事にし、ヤクシャを防衛隊に任せたい。」

「エミールさんは?」

「彼はこっちについてもらおう。」

「ふっ、了解した。」

 

あ、それはよかったです。耳栓買う必要もなくなったわ。

 

「ミッションは後5分以内に始める事にする。他に質問はあるか。」

 

感応種が出る前に……か。全体を見渡したところ、感応種という言葉を聞いて、顔の表情から2パターンに分かれた。そいつがどれほど危険なのかを知ってる人と、全くもって知らない人で。多分ろくなことはないっていうのは確かだ。でも3体って……そんな早く片がつくのか?つーかさっきのミッションから全然休んでないし……

 

「……感応種と出くわした場合は?」

「状況次第、交戦もあり得ると思ってくれ。」

「了解。」

 

やはり、ただ逃げられるほどの簡単な相手ではないみたいだ。

 

「……そんじゃ稀羅、ターゲットの軽いラクチャーをするからついて来な。」

「あ、ギル、あたしも!」

「おう。」

 

ターミナルが4台くっついた2階の所に場所を移した。ギルはその1台を起動させ、幾つかのファイルを開いた。

 

「基本、人間と交戦記録があったアラガミは、その情報がターミナル載ってる。俺が伝えるのは今回だけだぞ?」

「わりい。」

「気にすんな。まず、ヤクシャか?奴は銃一丁を持った人間型アラガミだ。お陰でその動きも人間にそっくり。遠距離射撃が得意だが、他にも器用に銃を使いこなす。ここまではどうだ。」

 

人間型なら、脚を先に潰した方が断然楽だろうな。普通の人だって、立てないと何もできないし。

 

「続けて。」

「オッケー。」

「で、コンゴウ。ああ、ナナはもう交戦済みか?」

「うん、でも隊長があっという間に倒しちゃった。」

「そう?まあ、いいや。猿って動物は知ってるか?そいつの凶暴化したのだと思え。体を惜しみなく使った技と、背中から空気を無理矢理圧縮した弾丸を作り発射する。まあ、攻撃の予備動作とか、攻撃後からの立ち直りが遅いから、そこは狙えるな。」

「概要は掴めたよ。サンキュー。」

「うーん、つまりあたしは猿の相手すればいいのよね?」

 

にしてもコンゴウを単なる猿に格下げするこの二人って。

 

「うっし、じゃ行くぜ!」

「「おー」」

 

* * *

 

『稀羅さん、ギルさん。帰還から間もないのですが、よろしいのですか?』

 

鰐の相手の次は、猿と人だ。かなりタイトなスケジュールだとは思うが、不思議に体はあまり疲れていない。

 

「問題ない。まだ行ける。な、稀羅?」

「こっちもオーケーです。」

『分かりました。くれぐれも無理の為さらないように。』

「了解です。」

 

ヘリは2台。2部隊ともターゲットの真上から狙う予定だ。

 

「ヤクシャが終わった後は、コンゴウ討伐手伝いでもする?」

「それがいいんじゃね?」

『いや、2人はそのまま他に小型アラガミの討伐、及び周辺偵察を要請する。』

 

隊長側のチームに無線が繋がってたせいか、隊長から直々辞令がおりた。

 

「偵察、ですか?」

『主に感応種が出現するかどうかを確認して欲しい。それ以外にも、中型と大型の出現も警戒して貰う。』

「で、両方の仕事が済んだら即時撤退ってか?」

『ああ、それでいい。よろしく頼む。』

 

そもそも感応種自体顔を合わせたことがないから、判別できるかどうかも微妙だ。

 

「運が悪けりゃあ、こっちが最初に感応種に会うかもな。」

「無駄に動きたくないけど。」

『神機使いの皆さん!見えました!アラガミです!』

 

ヘリーの操縦士さんから無線が入った。ドアをこじ開くと、どうやらかつて図書館として使われた場所に来ていた。そこに、片膝を曲げて座り、左右を警戒しながら捕食をしている、黄色い肌の人間型アラガミがいた。

 

「あいつの真上から攻めるけど、ギルはどうする?」

「適当にやるぜ……まあ、初撃はこっちがするけどな!」

 

ちょっと、いきなり飛び降りるのは反則だ。慌てて後を追う。

 

「待てよ、こら!」

 

下から吹き上げてきた風が全身を揺らした。そのせい少し動き辛いが、プレデターフォーム展開。

 

「頂きます!」

 

先に着地したギルに視線を向けていた奴の顔ごと食い散った。

何かを切ったのと同じ音と、そいつの甲高い悲鳴が、共に鼓膜を刺激した。こいつもあの猫と同様、別に頭が痛くなったりしない。

体を前に回転させ無理矢理首を引っこ抜いた。後ろで鮮血が飛び散り、自分より背が2倍はあるその体が顔の殆どを失ってフラフラしだした。

 

『結合崩壊を確認!視界を奪いました。』

「気を付けろ!まだ片方の目が残ってる!」

「綺麗に食えねえのかよ、くそ!」

 

ほぼ4分の1に減ったその顔に赤く光る目が見えた。ヤクシャは手にしている銃を構え、片膝をついてこっちを狙う。だが、ヤクシャが弾丸を放った時は、俺らはもう奴の両サイドに動いていた。

 

「はっ、おっせ!稀羅、左足!」

「了解!」

 

腕の下を通ってヤクシャの脇腹に潜り、床に寝かしたその足を水平斬りで砕くと同時に切り落とした。反対ではギルが投げた神機が立てている右足を完全に貫いた。両脚の支えを失い、ヤクシャが倒れ伏す。

 

『少し……速すぎませんか?こっちから全っく追いつけません。』

「とどめ行くぜ!」

 

状況の流れについていけないフランさんが不満を一声漏らしたが、今は気にしないでおこう。

宙に跳んでから、首の付け根を狙って突き刺す形で落ちた。色んな物が切れる音がし、ヤクシャの体がビクビクと痙攣を起こした。胸部の長く裂けてしまったそいつの傷から、ギルがコアを回収した。

 

「っと。どいつもこいつもろくに反撃せずに死んでくれるな。」

「むしろ楽で助かるぜ。」

『小型アラガミ複数!来ます!』

 

ヤクシャとの戦闘が一騒ぎになったのか。ザイゴートにドレットパイク、オウガテイル、ナイトホロウ。

 

「ちぇっ、雑魚は雑魚らしくお座りしてろってんだ。」

「ほんとだよ。面倒に邪魔しやがって。」

 

移動の出来るアラガミが複数で一斉に走ってきた。ここで時間を割くわけには勿体無い。さっさと終わらせて偵察を始めないと……

 

「とりあえず、生意気なお子さんから……」

 

既に充電完了のチャージクラッシュをお見舞いする。複数の振動が神機に伝わり、ざっと5体以上のアラガミが無惨にバラバラにされた。

 

「うおら!」

 

そんな中でも、ギルの特技の突進が横を瞬時に過ぎた。今回は上半身ごと空に舞う奴も出てきた。

 

「おいおい、俺は後処理担当かよー」

 

彼を追いながら、まだ生きている何匹かのアラガミを振りたい放題振りながらとどめをさす。浮遊するアラガミはありがたく、地面に降りて来たので軽くジャンプして床に叩き付ける。

 

「よし、外に出たぜ!」

 

先に狭い岩だらけの通路を抜けたギルの声が聴こえた。

 

「感応種は?!」

「ない!てか何もないな……」

 

最後のオウガテイルに神機を突っ込んで壁に押しつぶし、外へ出た。多少荒くなった地面が広がる吹き抜けの上には、何一つない。

 

「これは……分けて偵察した方がよさそうね。」

「俺は一度図書館の方に戻る。ここら辺の偵察頼めるか?」

「どうぞ、お好きに。」

 

ギルが図書館の方に向かうと、丁度隊長から無線が入った。

 

『こちら、突撃隊、アラガミ2体の活動停止確認。偵察を行うと同時に撤退準備を進める。各員周辺の索敵を開始。』

 

複数の返事の声が聴こえる。遭遇せずに撤退できるのかな。吹き抜けには未だ敵の気配はない。

 

「フランさん、感応種の反応はどこです?」

『先ほど戦域の付近を徘徊してましたが……えっ?』

「……フランさん?」

『全ブラッド隊員へ、想定していた感応種が侵入!チームの一人を狙っている模様です!』

「付近に誰がいるんですか?」

『それが……』

彼女が言いかけた瞬間、無線と自分の後ろから悲鳴がした。

 

「『ぬおおお!』」

 

やばい、エミールさんかよ。てかよりによってあの人か?絶対今度は死んじまうぞ?

 

『何故だ?何故神機が動かない?!』

 

神機が動かない?プレデターフォームが出来ないって事か?やがてエミールさんが植物園の所から出てきて、彼をを追う感応種の姿も見えて来た。

 

「……えっ?」

 

思わず声が出てしまった……その感応種って奴を、俺が余りにもよく知ってるからだ。真っ白な毛が、黒くて筋肉質な体を包み、赤い触手が首の辺りから靡いている。その前脚と後脚はガルムととても似て、銀色に輝いた。そして何よりその顔、黄金に光るその目が埋れた狼の顔……それは……

 

「ぬわああ!」

 

その感応種の右腕のなぎ払いに、エミールさんが遠く飛ばされ意識をなくした。だが、今の自分はもうそれがどうでもよくなった。

 

『稀羅さん!エミールさんの悲鳴がありました。容態を伝えてください!』

「あ……はは……」

 

ごめんなさい。無線に一々答えられる状況じゃありませんよ、これ。

 

『稀羅!感応種との交戦に入ったか?!引け!奴は……』

「……やっと、見つけた。」

 

隊長の指示ももう耳に届きやしない。体の全ての細胞と神経が目の前の感応種に集中する。勘違いなはずがない。あの夢……そう、こいつが……

 

「てめえだな。」

 

こいつがあの日……

 

「勝手に人の頭に……」

 

俺の……

 

「土足で踏み込むくそ野郎は!」

 

家族を殺した!

10年前の記憶と今の俺が重なる。手が痺れるほど、今まで以上に神機を強く握った。体もどんな時よりも精神より速く反応し、気づいた頃、俺は地面を片足で深く地面を抉ってそいつの近くまで迫っていた。




サーて、血の覚醒間近まで到達です。
まだ未熟すぎるこの小説を読んでくださって毎度ありがとうございます。
次回は土曜日の は、や、い、時間帯に出せるようにします。


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血の覚醒-One more you and prettily poor I-

金属音が空に高らかに響いた。こっちの神機と感応種の前脚が押し合う。

 

「これで21回……嘘……何だこいつ。」

 

出した攻撃は一度も致命傷を与えられなかった。切り傷くらいは何度か作ったが、以外は全部かわされた。そういう意味で、こいつの知能レベルが類にないことを思い知らされた。このままではこいつを倒せるのに日が暮れてしまう。それとも俺が殺されるか……

「くそが……」

神機を引き下げ、後退した。一回一回の攻撃を全力でまわしたせいで、体力も限界に近づき、足はとっくに震えて始めた。

反面、奴はまだまだ元気だ。持久戦に持ちかけても勝率が低いだろうな。さあ、どうする。ゆっくり対策を考えていたいものの、ちょっとでも隙が空いたら奴の方から攻めてくる。

 

「くそがあっ!」

 

奴が振り出す足と、対称方向に神機を突き出した。またも火花を起こし衝突する。力で敵わないと分かってたから、先に奴の股下に逃げた。

その時、願ってもない不吉な音がした。もしやと思い神機を確認した時はもう遅かった。神機に……ヒビが入ってしまった。

以前フランさんが教えた、危険度という言葉が頭をよぎった。感応種に、ほぼ成体といえる状態。つまり硬度という面でも明らかにこっちより上だ。逆に今まで耐え抜いたのが信じられない。

 

「まずいな。どうする。」

傷を負った神機に目を逸らしてしまった隙に、接近した感応種が両脚を振り下ろした。

 

「うわっ!」

 

何とかかわすも、姿勢が崩れてしまった。その機も譲らず、銀色のアラガミが体を回転させ、尻尾を鞭のように振ってきた。

 

「くっ!」

 

左に激痛が走り、体が遠くへ飛ばされた。

 

「はあ、はあ、っ!」

 

立ち上がるも、左腕に力が入らない。神機に伴って、こいつまで持って行かれるって……こっちのピンチは向こうも気づいた様で、傲慢とした、余裕な足取りで徐々に距離を縮めてきた。その態度にはただ腹が立った。

「じゃあ……こっちはどう?」

 

右足で蹴り上げた神機を右腕で振り回した。回転を続けながら、全力でダッシュ。神機に回転力とスピード全部のせ、渾身の力で振り下ろした。鋭い音がし、奴の片方の足の先が砕けた。同時に神機の亀裂がのびる。

呻き声とともに、奴からも右フックが入り、またも左を強く打ち抜かれた。

 

「かはっ!」

 

何がかんでもこれはやばい。左腕の感覚が完全に無くなった。内出血でも起こしたのか、腕が腫れ上がって痛みが増した。

ゆっくりとした足音に、少しボヤけていく視界を向ける。また来るね、でもな……これ以上は……。頭でいくら無理だと判断するも、体はまた残った右腕で神機を構えた。神機も自分も、ついに限界だ。次でおそらく最後だ。

でも……悔しい。たった10分に満たない戦闘で……猫の手でも借りたい状況になった。俺が抱いた怒りはこんなもんか?自分だけボロボロになって……何も倒せなくて……

≪なあ、こんなもんか?お前さん。≫

 

ふと何かが聴こえた気がした。他からでもなく、自分の中から。

 

≪また2人揃って、あんなに苦しい思いを味わいたいの?≫

この声……俺のだ。いや、ちょっと細いか?でも確かの俺のだ。でも……俺は二重人格とかなかったはず。

 

≪この一撃にかけようぜ。じゃないと今まで生き延びた意味が全部ぱあーになっちゃうぜ??≫

 

「言われなくてもそのつもりさ。誰だか知らねえが……お前も手貸せるなら貸せよ。」

何もかも必死になり、いつの間にかその謎の声に必死に話す俺がいる。

≪……言われなくてもそのつもりさ。≫

 

その声がそう語った瞬間、体に力がもう一度湧き上がる。これってあれか、底力?いや、少し違う感覚。けど、どの道この力を使わざるを得ない。

 

「……うううっ……」

 

右腕の筋肉の悲鳴をしのぎながら神機を下に構える。今までとはちょっと違う構え。意識した訳じゃない。自然とこの構えに勿っていく。

異変に気付いた感応種が、すぐに脚に力をいれ飛びかかる。

「……いい加減当たれー!」

完全に押しつぶす気でかかる奴の、その憎らしい面へ向かって、今まで出したことのない軌道で攻撃をした。

振り下げではなく、振り上げ。

すると、赤白い剣閃が共に起きた。何かが当たる感じがし、体は神機の運動に連れられてバランスを崩してしまった。

 

「……何だ今の?」

 

顔を上げて周りを見る。感応種が倒れていた。やったか?

しかし期待は虚しく、奴がゆっくり起き上がった。でも顔には……目にかけた長い傷ができていた。運もよく、左目を完全に切り飛ばしたようだ。

感応種が血が止まらない状態でもなお、こっちを睨む。

「へへっ、ざまあ……」

 

口ではそう言えるも、正直体が言うことを聞かない。正真正銘、さっきのが全力でかつ最後だ。感応種が再びゆっくり迫る。あは、やばいな。遂に食われるか。

自分の死を覚悟した瞬間、先まで無視した無線が鼓膜を叩いた。

『稀羅!もういい!下がれ!』

 

同時に何処からか飛んできた銃弾が感応種を撃つ。不意打ちのせいで、感応種がふらついた。そしてギルが銃に転換した神機を持って走ってきていた。

 

「稀羅!無事よね!ここは任せて!」

「すまん、稀羅!遅れた!」

ナナにロミオさん。やれやれ、今まで何してたんだ。救援に来てくれた三人は銃口を感応種に向け、一斉に発射し始める。最初は堪えたが、猛攻な銃撃に感応種は建物の上に避難し、屋上にそびえ立った。引く気か?射程距離の限界か、全員の銃撃も止んだ。

奴のもう片方の目がこっちを睨んできた。すかさず睨み返した。

 

『次戦場で会ったら、確実にその顔ごとぶっ潰してやるよ。』

やがて、感応種は戦域を離脱した。勝ったのか負けたのかは微妙だ。むしろ己の弱さを目の当たりにされ、最悪な気分だ。

頭から戦闘が終わったのを認めた途端、体の力が瞬時に抜けた。ジュリウス隊長が支えてくれる。

 

「大したやつだ。よくやった。」

「……それより、撤退を……あと……エミールさんも。」

 

自分よりも他を気にする暇など本当はないはずだけどな。俺ってやつは……

「エミールは先にフライアへ搬送した。心配するな。」

「それよりおい、お前、左腕大丈夫なのかよ!」

 

はっと腕を確認すると、通常とは違う角度に腕が曲がっていた。しかも少し傷ができたみたいで血がちょっとずつ滲み出ていた……やっちゃったな。

「内側での骨折か、至急撤退する。フラン、ヘリはついたか?」

『もうすぐです。稀羅さんの容態を!』

「左腕の骨折、数々の打撲傷、体力がほとんど残っていない。」

『分かりました、至急に治療の用意をさせます!』

は、速い対応どうもです。

『稀羅さん…また無茶して。』

無線に小ちゃく流れたフランさんの声が、自分に向けているのか、独り言かわからなかった。

 

「……すみません。頭に血が登っちゃって。」

『言いたいことは山々すが、まずは帰ってきてください。』

 

叱るのは勘弁を。今の状態じゃ何もかも入っては抜けてしまいそうだ。ちょうど帰還のヘリが着いたのが幸いだった。

 

* * *

 

「治療は以上です。骨折してもある程度処置をしとけば、神機使いさんはたいてい修復します。偏食因子のおかげですけど。」

「……ありがとうございます。」

フライアの病棟にすぐに運ばれ、治療が施された。来る途中で気を失わなかったのが不思議だけど。色んな薬を飲まされ、打撲傷と切傷の手当てをされたが……もっとも重症な左腕には特に処理がなされれいない。不信感を伴う治療が終わると、ブラッド隊の入室が許可された。

「全く、前回といい、今回も無理しすぎです。」

早速フランさんからの叱りがきた。

 

「……すみませんでした。」

「……そんなに素直だと何も言えないのではありませんか。」

「……相手にならないことを知っての上だったんで。」

 

そう。切れて頭に血が上りはしたが、心の余裕ってのが一切なかった。焦ったと言ってもいい。

「そう言っている割りに、あいつの顔、見ものだったぜ。やるじゃないか。」

 

逆にギルは上機嫌のようで。

「血の力に覚醒したのは間違いなさそうだな。」

「……へっ?」

 

そして突然の隊長の言うことに頭がまわらない。血の力?

 

「あー、やっぱそうだったんだー、すごいね稀羅、」

「僕もまだってのに。」

「ま、戦力補充になるのは確かだろ。」

 

みんなはもう納得しましたと顔をする。が、当の俺だけは、

 

「え、待って。どういうこと?」

 

知らずのこと。

 

「稀羅、君は先の戦いで血の覚醒を果たした。自覚がないのか?」

 

改めて先ほどの戦闘をふりかえる。右腕だけで放った、最後の一撃。確かに普通ならあり得ない、派手な赤白いエフェクトが発生した。

「あの剣閃が、血の力?」

「薄々と気づいている様だな。通常攻撃は、血の力の目覚めで一段と強化された技になる。予想をはるかに超える技に、な。」

 

確しかにそれまで出してた一般攻撃より、パワーとスピードは圧倒的だった。それが、血の力……。

「自覚がないなら、これからの戦闘で味わえばいい。いずれ、あらゆる技へと変わっていく。」

「もっと頑張れと?。」

「やらねばならないのはこれから沢山だが、今日はまず回復に専念しろ。後日に話す。」

「……はい。」

「それでは俺は報告も兼ね、失礼する。」

「お疲れ様でした。」

 

隊長が出て行くと、周りのみんなが一斉に話を始める。

「ねえねえ、どうやって血の覚醒できたの?辛い?」

 

辛い…って。拷問じゃないですよ。

 

「なあ、稀羅、やっぱ血の覚醒ってそのきっかけになる何かが必要なのか?例えば、劣勢の時とか。」

「ど、どうでしょう。」

 

早速やばいものに挑戦しそうなロミオさんの目がキラキラしている。

 

「稀羅の序盤戦は大らかピンチな状態での戦だったからな。一理はあるな。どんな感じだ?血の覚醒って。痛みはあったか?」

「どんなって。痛くはなかったよ。多分。」

 

一つ一つの返答に頭を抱えそうになりながらも気づいたことはあった。ああ、この3人とも、血の覚醒を心から望んでいるんだな、と。

 

≪なあ、こんなもんか?お前さん。≫

 

ふと蘇り自分の中で響いた、もう一人の自分の声。俺はあの時、その声にすがった。力を貸せ、と。その声の主がどこから来て、どういうものなのかは全然気にもせず。それでもその声は力を貸してくれた。

『でもあれがなんなのかわからないままじゃ、後味が悪すぎる。』

 

今も思う。あれは何……違うな、誰だったのかと。

「ん?稀羅、どうしたんだ、渋い顔して。」

「え……あ、いや、ちょっとぼーっとした。」

 

いつのまにそんな顔になってたか。

 

「みなさん、今の稀羅さんはまだ怪我人です。質問は次回でも良いのでは?それに、ナナさん、ロミオさん、ミッションの報告書がまだです。」

 

フランさんが呼びかけると、血の力について言い争うナナとロミオさんも真っ青な顔になった。

 

「……そ、そうだね。ごめん、稀羅。」

「わるい、俺も失礼するよ。お大事に。」

「はあ、どうも。」

 

ナナとロミオさんは慌てて病室を出て行く。しばし黙ってると、

「んじゃ、俺も今のうち休んどくぜ。稀羅なしで防衛ミッションは規則上禁止されてるんでな。」

「お、おう。」

ギルも退室し、あっという間に3人とも出ていった。たった一言にすごい対応だな、お前ら。

 

「……どうも、フランさん。」

「今の稀羅さんでは……正常にコミュニケーション取りづらいと判断しましたので……、私も言いたいのはいっぱいありますが。」

「空気が読めるってのはまさにこういうことですかね。」

「それはどうかわかりませんけど…まずは怪我を治してください。今日の薬でおそらく一晩で治るかどうかも不明ですが。」

「……寝なきゃいけないんですかね。」

「今度は避けられませんね。」

 

さらに現実的な負担。不安が拭いきれない。まして、あの謎の声のことも。

「大変お疲れですし、夢も見れないくらい深く眠りにつくのでは、と。」

「理想的な睡眠ですね。」

 

固定具に固まった左腕に目をやった。未だ力は入らない。これじゃ本も楽に読めないか。

 

「……寝ますか……」

 

こんなに寝るかどうかを真剣に選んだのも初めてだ。

 

「その気になりました?」

 

立てていたベットを平にする。いざと寝転がると、意外に睡魔が襲ってきた。

「……それじゃ、寝ますんで、その……」

「あ、はい。私も失礼させてもらいます。」

ドアまで行ったフランさんがしばし黙っていたら、ぽつり呟いた。

 

「その……お困りでしたら、呼んでください。」

「……ええ、どうもすみません。」

 

軽く会釈するとフランさんも出ていった。沈黙がよぎる病室で、電気を消し、再びベットに寝る。

なんだか心もとなくて、

 

「夢を見ませんように、いや、悪夢を見ませんように。」

子供を思わせる小さいおまじないの後に目を閉じ、徐々に意識をあの世界に送った。

 

* * *

次の早朝、目覚めた俺の頭は病室並みに真っ白になっていて、腕もくっついていた。幸い夢は……見なかった。




原作の序盤到達ですかね。やっぱ加工を入れながら進めるってそう簡単でもありませんでした。
読みづらい文章ですが毎回読んでくださって嬉しいです。
多分、このあとオリジナルエピソードを入れる予定です。噛み合うようにはしますが…


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謎の声とブラッドアーツ-Keil Orfis-

実は今回の話と、以前の第10話の話のかみ合いのため、10話の小規模の修正を入れました。と言ってもほんの少しなんで気がむいたかたはちらっと覗いてください。


目が覚めたあとは、まるでこの前の退院までの流れをリプレイする気分だった。思う他近々常連にでもなりそうね。

そして今、自室でもまた、新しい服を調達するのに手間取っていた。ジュリウス隊長がくれたあの服は汚れすぎて洗濯機行き。

 

「……全部作れないものばっかだし。てか金がねえ……」

 

聴いたこともない材料がずらりと並ぶカタログにため息が出る。ターミナル端末と10分以上の睨めっこのあとに選んだ服とは、何日か前に洗濯したブラッド制服だった。10分も悩んだ意味はどこに?

 

* * *

 

「おはようございます。腕は大丈夫なんですか?」

 

早朝のホールで最初に会うのはやっぱりフランさん。ほんと勤勉だなあ。

 

「はい、まあ、半分様子見ですけど。」

「ミッションはどうしますか?」

 

腕がまた折れるのはごめんだし、小型が揃う簡単なミッションを予約することにした。ついでにギルもアサインしとこう。

 

「ギルが起きたら教えてください。」

「わかりました……、あ、稀羅さん!」

 

呼び止められる。

 

「はい?」

「先日仰ってたヘッドホンのことですが、ありました。外部の音を変えるタイプが。」

「え、どこで探せばいいんですか?」

 

早いわ、もう見つけたか。

 

「こちら……ですね。」

 

カウンターの下から小ちゃい箱が出された。

 

「え、もう買ったって、いくらでした?」

「その……前回の感応種撃退任務の報酬だと思ってください。」

「……ついでにその報酬金額も聞いていいですか?」

 

でかい仕事一つでここまでとは。ついているのかどうやら。

 

「色は……私が選んだのでお気に召さないかもしれませんが……」

 

箱からワイヤレスの黒と赤で配色されたヘッドフォンが出た。暗いベースにアクセントがついて印象がいい。

「いや、この色いいと思うんだけど……」

 

試しに大きさを調節してかけた。

 

「……どうですか?」

「あ、いいですね。フィット感に多少のノイズキャンセルもあるし。フランさんから見てどうですか?」

 

耳を軽く包む感じのいい着け心地だ。鏡がないからフランさんにみてもらってる感じだが。

 

「あ、お似合いだと……(よかった)」

「にして代わりに買ってもらって助かりました。」

「これで少しはミッションが円滑に進めばいいですけど。」

「全然問題なしです。できそうですね。」

 

ヘッドホン内蔵システムをつけたら、外部の周波数を変えたといえ、人の声や物音に特に差異はなかった。

 

「一応アラガミの音声専用ですか?」

「ええ、よって生活面では問題ないかと。」

「としたらもっとすげえ。」

 

昨日の出来事で多少沈んでいたテンションが徐々に上がる。

 

「……では、準備も揃ったことだし、しっかり働いていただきますよ?」

「あ、あれー……」

 

最後だけ撤回してください。お願いします。と言いながらも今まで味わなかった新鮮な感覚に身を委ねた。

 

* * *

 

「よお、稀羅、いいもんつけてるな。」

「おっす、ギル。」

 

ホールでばったり会ったギルの髪に多少寝癖に吹きそうだった。

 

「ミッションにアサインされてたんだけど、お前さん、行けるのか?」

「サポートよろしく。」

「あいよ。んじゃ、こっちも準備済ましたら行くことにするぜ。あとな、稀羅。」

「うん?」

「……ブラッドアーツってやつ、使えそうか?」

「……ごめん、まだわからないかもな。」

「そう?無理強いるつもりはちっともねえから、ほどほどに解放していけ。」

「だな。」

 

去るギルの背中を見送るも、胸騒ぎは収まらない。血の力には解放したものの、正直に不確定な要素が多すぎて使うのを躊躇ってしまう。解放した人はジュリウス隊長だけで、ましてやブラッドアーツ自体についてはあまり研究も進められていない。

……最も、あの謎のもう一人の自分も、本当は何なのかわからない。

 

「たった一つ掴めば全部わかりそうだけどな。」

 

どこから探っていけばいいのかやら。

しばらくぼーっとしてたら、足が先に動き出した。まるで次に行くべき所へ導くように。

 

* * *

 

「やあ、退院したそうだな。」

 

偶然か、それとも無意識に狙ったのか、庭園の大きな一本木の下に、居座っているジュリウス隊長がいた。

 

「どうも。ちょっと頭の整理にきました。」

「そうか、ま、ゆっくりするといい。」

 

隊長の反対側に背をもたれた。時々小鳥の鳴き声が耳を愉しませ、日差しが伸ばした足を撫でてくれた。この庭園のどこからどこまでが自然物で人工物なのか……

 

「……」

「……」

 

そうやって二人ともしばらく黙っていた。

 

「……あのー、」

「どうした?」

 

やっと本能的に庭園に来た訳に気づいた。聞いてみたい、この人に。

 

「血の覚醒って、隊長はどんな感じでした?」

「俺は……戦闘中に急に生じた。君のようにな。」

「……何か聴こえたものはなかったんですか?」

「聴こえたもの?」

「俺は、自分の声が聴こえました。他でもなく、」

「そう……か。俺は残念ながらなかったな。」

「そうですか。」

 

やれやれ、せめてこの人ならわかるんじゃないかなと思ったが。

 

「ただ……」

「?」

 

隊長がもう一度口を開けた。

 

「君と同じようにあと一歩で死ぬところまで追い込まれたのは同じだ。あの時は色々必死だった。もしかしたら、聴こえたかもしれんな。」

「……ははっ、そうなんだ。」

 

心遣いとしてなのかは微妙だが、もしそうだったら、やっぱ優しいんだな、この人。

 

「それじゃ、俺はミッションに行く。今日も頑張ろう。」

「ええ、それと隊長、」

「なんだ?」

 

ついでに浮かんだもの。

 

「初対面で、'名前が気に入らないか?'と聴いたのは、なんでですか?」

「……自分の名前を他人の名前のように言う君が印象的だったからかな?足りないか?」

「……色んな意味で鋭いっすね。隊長。」

 

隊長がこっちを向いた気がしたけど、気のせいかな。

 

「……褒めごとばとしていただく。」

「はい。」

 

そして隊長はエレベーターへ去った。 ……結局、欲しい回答は見つからず、思いの外のことを聞いてしまったかもな。

 

『稀羅、準備オッケーだ。どこだ?』

 

あの隊長みたいにぼーっとしてるとギルからの無線が入った。

 

「庭園。今行くぜ。」

『お?なんか弾んでないか?声、』

「気のせいだよ。」

 

それでも……いざ誰かに言ってみると、少し気が楽なもんだ。治った左腕のうずきはいつの間にか消えてるし。

 

* * *

 

「やれやれ、鎮静の寺かよ、今回は……」

「流石にこの薄着はまずかったか。」

 

小型アラガミ計20体くらいの討伐任務。フィールドは、雪で覆われた古い寺で、腐れ果てたその木製の壁が年月の残酷さを見せつける。修理が終わったばかりの神機を携え、ヘリーのドアを開けると、凍った風が頬を切り刻んだ。ブラッドの制服は下のシャツが薄いもんで、どうもこれだけでは寒すぎる。保険がてら幾つかのジャケットボタンはしめたが。

 

「このステージ、3階構成だっけ?」

「ああ、奴らは主に2階と3階に出現するらしい。俺は2階、稀羅が3階でどうだ?」

「わかった。さっさと済まして帰ろう。凍死にされっちまう。」

『アラガミ反応多数、迅速に討伐願います。』

 

ヘッドフォンの内側に無線があるせいか、さらによく聴こえる。聞き漏れの心配はなさそうだ。

 

「20体全部出てます?」

『はい、くれぐれもお気をつけて。』

「一応聞きますが……ノーダメージ?」

『極力そっちの方で。』

 

要するにそうしろってか……

やがてヘリーが指定ポイントまで来た。高度50メートル以上で無難に着地し、ついたところから梯子を登って、小屋に入る。小屋の壁ごと消えた穴からフィールドを見渡せた。

 

「ここから先が戦闘エリア?」

「おう、んじゃ俺は左から行く。そんで2階。」

「へい。」

『ミッション開始です。』

「「よろしくっす。」」

 

小屋から飛びおりると、少し積もった雪に足がうもる。どうやら年中低気温のせいか、降って積もったらそのまま凍って地面の標高が高まるらしい。噂では永久凍土という説も。

 

「10年後はどうなっちゃうんだよ、まったく。」

 

ギルと反対の右側を進んで階段を登る。すると、ばったりオウガテイルと対面した。

 

『稀羅さん、戦闘開始、オウガテイル堕天種です。』

「っ!堕天種?」

 

慣れない単語につい聞き返した。

 

『ある地域に適応し、体の性質を変えた種です。』

「色が違うのはそのせい?」

 

群青色の装甲が特徴なオウガテイル、特にすごい攻撃はなさそうなのでザクっと倒すことにする。

 

「それっ、」

 

肩越しで降り下ろした一撃で、その変な面を割りながら頭を潰し、そのまま捕食。上半身をなくし、力なく倒れるやつを一瞥し、次の階へ向かう。

 

『アラガミ、活動停止。ギルさん、2階到達し、戦闘始まります。』

「了解。」

 

階段を登りながら、次々に邪魔な小型を右左に片付けながら進む。ふと思ったのは、自分がよくアラガミの頭部を攻撃する、ということ。あと振り下ろしの攻撃が多いということだ。

 

「お、結構いるな。」

 

気づいちゃもう3階。独眼とカブトの雑魚どもが散らばってる。何から狩ったら効率がいいかな……

こっちに気づいて突進してくるカブトどもはとりあえずパス。ということで適当に蹴りを入れながら道を開け、ナイトホロウに接近。

 

「だるいからみんな一片に死にな。」

 

ナイトホロウ群が一の字に見えるポジションに動き、チャージクラッシュを用意する。軸足の左足を固定し、渦渦しいオーラーの神機を地面に叩きつける。幾つもの柔らかい感触と血飛沫を伴い、ざっと5体以上は終わった。

 

『アラガミ、6体停止確認!あの……いきなりすぎませんか?』

 

6か、ま、いい感じ。

血で濡れた頬を拭いてたら、後ろからカブトたちの鳴き声がうざい。またも突進するカブトどもの最前の奴を上から突き刺した。悲鳴一つ出せず沈黙したそいつを群れに投げ飛ばす。衝突するなり、慌てる奴らを頭上からの一撃を見舞いする。一見硬そうな殻も音をたてて全部崩れた。中の筋肉組織もいい音を鳴らし断たれ、二重奏の音が殺戮の衝動をかきたてた。おまけに放った横の一撃でバラバラの死体がばらける。

 

『……え、えっと……』

 

瞬時に切り替わる戦況にオペレーターが間に合わずにいた。

 

「後は……残りの独眼くんか。」

 

走る意味もなくなり、ゆっくりと歩き出した。徐々に上に持ち上げた神機を奴の間近で神機を回し、その横からなぎ払う。

 

『今ので……何体でしょうか……』

 

独り言が漏れてますよ、フランさん……

「3階はこいつで終わりか。」

最後に残ったナイトホロウがブルブルと震えるのがもう目に見えだ。

 

「あれ、もしかして……怖いの?」

 

口ではそういうも、砲弾を放とうとするその黄色い目に、神機を両手に、深く刺した。勢いに地面に刺さった。

 

「……3階終了です。」

『か、確認しました。周囲のアラガミ反応はありませんが……警戒を怠けないでください。』

 

あっさりすぎて向こうも当惑したようだ。でもまあ、所詮雑魚だからここでヘマしてもなあ。

 

『残り、2体だ。わり、少し待ってくれ。』

 

ギルからの無線も入った。

 

「了解。のんびりでいいから。」

 

ズルズルと刺したままの神機を抜く。神機が血に濡れ、卑しく光った。不思議に嫌な感じがしなかっのはなんでだろ。

 

* * *

 

時間が余り、昨日感応種との最後の一撃を出すための構えをした。左腕もあえて使わないように。

 

「ふっ!」

 

前回とほぼ同じように力を入れ、まだ慣れない軌道に神機のせて振る。が……なにも起きない。あの赤白い閃光などなにもない。あれは気まぐれだったのか?

 

「もう一回……」

 

同じ構えをもう一度だけとる。

 

「……なんで何も聴こえないんだ。」

 

頭にしっかり響いていた自分の声は、今は全く聴けない。仕方なく、いつもの自分の構えに変える。そして、

 

「はあっ!」

 

気合とともに地面を振り下ろす。すると、妙に紅い衝撃波を浴びた神機が地面を叩き、ひびをつくった。

……やった?

 

「もう一回……」

 

同じ姿勢、軌道、力。3つの要素が基づき、放った同じ攻撃はまたも紅く光る。

 

「やった……。」

 

二度目で、地面に陥没を作れた。いける、この威力の技ならしばらくはやっていける。

 

『こちらギル、終わった。』

 

夢中になって時間を忘れてた。

 

「ギル……やったぜ。」

『へ?』

 

あちゃ、主語が……

 

「ブラッドアーツ、1種類できるようになったぜ。」

『お、そいつはいいね!次のターゲット狩る時見せろ!』

「おう!」

 

胸に滲む妙な嬉しさがくすぐったい。これでやっと本当の意味で血の力に覚醒したといえる。あの声に頼って覚醒したのではなく、自分で。

 

『んじゃ、1階のところで集合な?フランさん、新手はないよな?』

『はい、お二人とも見事でした。今のうちに帰還してください。』

「了解です。」

 

一気にテンションが上がった俺は、後で気がつくともうあの謎の声など、気にとどめていなかった。

* * *

 

「本当、日に日に伸びて行きますね、神機の扱いが…」

「ああ、ほんとだ、稀羅、お前さん取得が早すぎる。」

「そりゃあどうも。」

 

ミッションの快調にフランさんとギルとで3人で盛り上がる。自分はどっちかというとブラッドアーツを覚えた方が嬉しいが…

 

「ところで次のミッションは何ですか?」

「実は領域から大きく外れたのでキャンセルされました。今は待機です。休んでください。」

「お、それはいい、俺はちょっと部屋に行ってくる。」

「いってら。」

 

用事か、てくてくと去ってくギル。

 

「じゃ、後でミッション出たら知らせてください。」

「はい、お疲れ様でした。」

 

カウンターから離れ、ターミナル端末が集まってるところにむかった。ギルのアドバイスもあって、アラガミの予習でもしておこう…と。

 

「……人物?」

 

データベース項目に入ると、アラガミ以外、もう一個メニューがあった。人物って歴代の人を記録したのか?

適当にズラーっと眺めた。どうやらいろんな支部の人々が混じっているらしく、見慣れない名前が多い。そこで極東支部と分けられているファイルを見つけた。そこには極東支部での引退、現役、失踪、死亡とタグがついたたくさんのフェンリル関係者の名前が並んだ。

 

「死亡判定された人は思ったほど多くはない…か。逆に失踪判定が多いって。」

 

MIA、いわゆる'ミッション行動中の失踪'が3件以上上がってる。逆にKIA'ミッション行動中の死亡'は2件以上。

MIA判定の中で気になる部分があった。幾つかの名簿の中で、今から4年前に、同じ日に失踪された3人。しかもその3人とも同じ部隊だ。

 

「'ナインフォール'……」

 

その3人が所属していたチームが最後に行ったミッションだ。このミッションを機に失踪したみたいだ。

 

「……うん?」

3人の中で特に目を引く名前があった。それは…

 

ケイル-オルフィス

誰だ?

どうもこの名前がかなり気になる。あれ?初めて見るはずだ。なんでだ。

それからざっと30分は悩んだが、頭では何も浮かばず、ずっと同じ文字だけを見続ける俺だった。




何か…あれですね。ちょい面白くない内容になったかもですね。安定しすぎで。他の方がどう思ってくださるか微妙ですが…
そろそろあの子の登場も間もないですね。うん、興奮するる。(べしっ)
それでは次回もよろしくお願いします。


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ブラッド集合-Ciel Aranson-

やばい、平気で文字数が多いですね。次回から4000にしますので…
今回でブラッドの出会いは終わりです。


『ジュリウス君、ブラッド隊を私の部屋に集めてもらえますか?』

 

ヤクシャラージャ、シユウ堕天種、小型アラガミ6体。突撃隊のミッション内容は、極東に近づくせいかハードルが上がっていく。にも関わらず疲れた顔一つしないナナとロミオが頼もしい。

 

「ああ、そうする。」

 

以前から敬語一つ使わなかった癖の返事。またも召集か。しかも今度はブラッド全員。あの人が何を考えているかは何年も共に過ごした自分でもわからないものだ。

神機の格納庫で皆の神機のステータスのチェックを中止し、無線を入れた。

 

「ブラッド隊、ラケル先生からの召集だ。直ちに研究室へ向かってくれ。」

 

複数の了解を耳にしながら、ロビーに出た。ちょうどナナと稀羅が階段を降りていくところだ。稀羅の後ろ姿を見ながら、今朝の彼との会話を思い出した。

 

『鋭いっすね。』

 

実を言うと、稀羅との初対面でああ言ってしまったのは、彼がその時、他人の名前を言うってよりは、

'憎い名前'

を口にしたような口調と表情だったから。

また、最後に彼に一言いわれ、振り向いてしまったのは、適当に誤魔化した返答が、案外彼の心に踏み込み過ぎたことを後で気づいたから。それと、彼が案外かなり深刻な顔をしていたからだ。

 

「あいつには悪いことをしたな。」

 

後で謝れるならいいが、どうもタイミングが悩ましい。しばらくはギクシャクするかもしれない。

 

「お疲れ様です。」

「ご苦労。」

 

フランとの事務的挨拶をかわしながら1階に降りる。エレベーターへ向かおうとすると、後ろから足音がした。職員の方なのかとちらっと振り向いたが、そうではなかった。

 

「……久しぶりだな。」

 

声をかけた先は、端正に両側にまとめた銀髪の、一人の女の子だ。誰なのかは一見でわかった。あの頃の面影をしっかり残しながらも成長した、美人の顔になっていた。体もあの頃と比べられないくらい大きく成長している。ま、おおらか10年ぶりなものだ。変わらない方がおかしい。

 

「ラケル先生の付き添い……じゃなさそうだな。」

 

日常的な服装だが、それが動きやすくデザインされ、身に引き締まっているのがよくわかる。

 

「ええ、任務は更新されています。」

 

その声にまたも懐かしさを覚えた。ほんの少し、ハスキータイプになっている。

 

「正式にブラッドの隊員として招聘されました。」

 

召集の訳はこれか。

 

「貴方もお変わりなく何よりです。」

「相変わらず社交性に欠ける言い方だな。」

「そこはお控えていただきたいと思う所存です。」

 

軍事訓練の厳しさはここまで人を変えてしまうか。思わず額に手を当てたいところだ。

 

「ラケル先生のところへ行かれるのですか?」

「ああ、そっちも要件は同じようだな。行こうか。」

 

さてはこの子と接した皆は果たしてどんな反応を見せるだろうか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ケイル-オルフィス……」

 

静かに何度も口ずさむ。すればするほど自分に馴染む。

 

「…変だな」

 

かつて他人の名前にこんな感情を味わったことはないし、普通ならふーんと見過ごすのに、この名前は見るほど不思議さと不安を増やした。

 

「……」

「あれー?稀羅?どうしたの?すっごく難しい顔して。」

「……」

「うーん?」

「……」

「……へー、それっ!」

「うわあ!なに?!」

 

いきなり脇腹をいじられた。主犯はナナ。

 

「んもう、人が呼んでも無視ってひどいよお。」

「わ、わりい。どうしたの?」

「それ、あたしが言いたいけど?」

「あ…まあ、データベース見てたら、なんだか気になるところがあってさ。」

「どれどれ?」

 

ナナが割り込み画面を覗く。

 

「けいる-おる……ふぃす?あれえ、MIAってどういう意味だっけ?」

「任務中の失踪。」

「うそお!まだ見つかってないの?」

「見たいね。」

「にしても極東かあ、嫌ねえ、行きたくなくなっちゃう。」

「失踪が4年前ってのは死んだのと同然かな。」

「きっとそうかも。お腹ペコペコで死んじゃうよ?」

 

妙にこんな時に当てはまる現実的な答え。

 

「あり得るな。とにかく、4年過ぎてなお、情報が更新されないって、捜査を辞めたとでも言いたいのか?」

「えー、それはひどいよ!フェンリルってそんなに薄情?」

「どうだろう。」

「それで稀羅はそんな顔してたんだ。心配してるの?この人のこと?」

「心配ってか、気になるね」

 

きっとナナが言う'難しい顔'ってのはそれ以外の訳がありそうだが。

 

「でも、今のあたし達じゃこの先の情報はないかもよ?」

「それなんだよね。最後のミッションは書いてあるものの、肝心な内容は白紙だからな。」

「ずるーい!」

「だな。」

『ブラッド隊、ラケル先生からの召集だ。直ちに研究室へ向かってくれ。』

 

これはまたいきなりですな隊長さん。

 

「はーい!」

「了解です。」

 

とりあえず返事はしたものの、ケイル-オルフィスのことが調査の途中で後味が悪い。

 

「ほら、稀羅!行くよ!」

「お、おう!」

 

仕方ない。後でまた調べらるといいが……といってもこれ以外に俺が見れる情報があるかな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「みなさん、ようこそ。今日は新しいメンバーを紹介で集まってもらいました。」

 

おいおい。ギルの時とは歓迎が天と地の差だな。だが、ギル本人はあまり気にしていないようにもみえる。

ジュリウス隊長から指令を受け、再びあの不気味な…いや、何と無く嫌な感じの部屋に入った。ま、早速2人でもめているギルとロミオさんを落ち着かせるのに疲れたが……。

 

「それでは、シエル、どうぞ。」

 

シエル?

そして研究室のドアがもう一度開き、銀髪の女の子が入ってきた。両サイドに長さを残してまとめた髪型に、白肌、綺麗な顔、引き締まった体。

 

「……綺麗、」

 

同性のはずのナナも驚いた表情をしていた。確かに誰もが同じく思える綺麗な女の子だった。

 

「本日付で極地化技術開発局配属となりました。シエル-アランソンと申します。」

 

敬礼か。俺らはどういう姿勢を取れっているんだ。

 

「ジュリウス隊長と同じく、児童養護施設、'マグナリア-コンパス'にて、ラケル先生の薫陶を賜りました。」

 

お、また出た。マグノリア-コンパス、ラケル博士ってどんだけ人脈を広めているんだ?

 

「基本、戦闘術に特化した教育を受けて参りましたので、今後は、戦術、戦略の研究に勤しみたいと思います。」

 

……人生でこんなに難しい言い方を聴いた覚えがない。一個聴き逃したら訳わからないね、多分。

他のメンバーも思っているのは似ているそうで、みんな目を逸らしたいと困った顔だ。

 

「…以上です。」

 

気まずさに気づいたか、態度が小さくなった。

 

「シエル、硬くならなくていいのよ?ようこそ、ブラッドへ。」

 

ラケル博士が全員を見渡す。

 

「これで、ブラッドの候補生が皆揃いましたね。血の力を以って、遍く神機使いを、ひいては救いを待つ人々を導いてあげてくださいね……ジュリウス?」

 

血の覚醒をもって一人前のブラッド隊員と見てくれるってか?ま、覚醒はしたからいいけど。

 

「これからブラッドは、戦術面における連携を重視して行く。その命令系統を一本化するために、副隊長を任命する。ブラッドを取りまとめて行く役割を担ってもらいたい。」

 

はて、副隊長?人数的にうまくまとめるためってことか?それならやっぱり……

 

「これまでの立ち回りと……」

 

うん、今までの戦闘を考えても……

 

「早くも血の力に目覚めたことで、お前が適任だと判断した。」

「ギルが合ってるんじゃない?」

 

ジュリウス隊長と自分の声が重なり合い意味がとれない。って、お前って?その時、隊長が自分に向かって言っていることに気づいた瞬間、

 

「稀羅、副隊長、やってくれるな?」

「……へ?」

 

だからさらっと言うなと何度も言ったが。

 

「うわあ!副隊長!よろしくね?!」

 

待てください、ナナさん。

 

「ま、順当だろ。ナナはあれだし、ロミオは頼りないしな。」

「そこはお前がやってくれないと困るよ!ギル!」

「前にも言ったが、俺はベテランでも、先輩とも言われるほどのガラじゃねえ。キャリアはあまり関係ないんだ。」

「彼の言うとおりだ、稀羅。突然の任命に慌てるのはわかるが、理解してほしい。」

「いや、でも、始まって間もない新人を副隊長にしていいんですか?」

 

なんか横ではロミオさんとギルの喧嘩が始まったか、それよりも、

 

「せめて戦術に詳しいシエルさんに…」

「シエルはまだ部隊に慣れていない。ゆえに、彼女は誰かに指示を出すこと自体苦手だ。」

 

うわあ、めちゃくちゃだ。

 

「だが、ここはあえて願う。承てくれ。」

「……ああ、もう……わかりましたよ。」

 

ヤケクソ!

 

「ありがたい、お前らもそれまでにしておけ!」

 

ロミオさんとギルの喧嘩も落ち着いた。

 

「チームの現状に疑問が残るが、お前ならできるさ。」

だから、隊長、さらっと言わないで、頼む。

「シエル、副隊長とブラッドについてコンセンサスを重ねておくように。」

「了解しました。」

「それではブラッド各員のさらなる奮闘を期待する。戦場でも今のように規律正しく頼む。」

 

それぞれの口から了解が出た。

 

「解散!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おめでとうね、稀羅。あ、これからは副隊長って呼んだ方がいいかなあ?」

「もう勝手にどうぞです。」

 

自分以外は何だかこの状況楽しんでいるみたいだ。

 

「まあ、そんなに気を落とすな。大抵の仕事は隊長がこれまで通りやるし、手が足りない時の補助役が自分だと考えればいい。」

「絶対ジュリウス隊長いろいろ目論んでるんじゃないか?」

「さあな、俺にはさっぱりだ。」

 

研究室を出てから、全身が重くなった感じだ。

 

「……副隊長、」

 

忘れる頃にまた頭を痛ませるあのラケル博士の声に加え、副隊長という仕事。

「……副隊長、」

「ん?あ……あ、ごめんなさい!」

 

しかもまだ現実に慣れない自分は、呼んでいるシエルさんのことも気づけない。

 

「どうして謝るんですか?」

「そりゃあ、すぐに返事できなかった…から?」

「わかりました。それより、ブラッドのこれからの活動方針を未然に決めたいと思いますが、どうでしょうか?」

「えーと。」

 

活動方針……か。あれ?確かこれっぽいやつを決めてなかったっけ。

 

「まあ、必要かもな。シエルさんが入ってきたし。」

 

あかんな。敬語抜いてるわ。

 

「そうですか、ならこちらから場所と時刻を指定させていただきますが、よろしいですか?」

「そ、そうね。」

 

こんなに難しい会話も久しぶり、うん、久しぶりすぎる。

 

「では……」

『稀羅さん!ギルさん!聴こえますか?』

 

シエルの声が無線に消された。

 

「えーと、ちょっとごめん、シエル、無線が…」

『聴こえる、どうした?』

 

返答どうも、ギル。

 

『緊急事態です、キャンセルされた討伐対象のクアドリガのことですが、群れをなし、フライアを追っています。数はおそらく3です。』

 

クアドリガ……先データベースで大型アラガミに分類される種だっけ。

 

「どれくらい離れてます?」

『もう1kmも残っていません!出撃を急いでください!』

 

これは、きっとヘリーで降りて即戦闘開始のパターン。

 

「了解。ギル、先にヘリーチャーターしといて!」

『あいよ!』

 

さて、俺も行かないと……

 

『稀羅、突然すまないがちょっといいか?』

 

隊長、今度はまたなんの無茶を……

「はい、」

『シエルを防衛隊に回してもらえないか?戦力補充にはなるはずだ。』

 

ちょ、正気かよ!

 

「回せと言っても、一度も合同任務なしですよ?お互いの戦い方も知らずに、連携しろと?!」

『彼女が君たちを見て馴染む形で動けば何とかなる。頼む。』

 

確かにギルと俺だけじゃ2 : 3で分が悪い。

 

「……フランさん。一応シエルさんと無線繋げてください、」

『……入りました。』

「それじゃシエルさん、隊長の指示もあるんでとりあえず今からの緊急任務に付き合ってもらいたいです。任務はできそうですか?」

「……はい、身体に異常はありません。」

「んじゃ、神機持って、ヘリーの搭乗地点まで。」

「了解しました。」

 

先までいろいろ考えてごちゃごちゃした頭は、いつ間にか戦闘のことだけでスッキリしていた。戦いにしか向いてないのか?俺の頭脳ってのは。

多少虚しく思いながらも、メンテナンスが終わったばかりの神機を取って、ポイントへむかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

土煙半端ねえ。

大型アラガミ3体の様子をヘリーから見た時だ。

 

「今回は最悪撃退もありえるってよ。どうする?副隊長。」

「てめえ明らかに楽しんでないか?その言い方!」

「副隊長、基本指示を、」

 

あ、はい。やばい2人から副隊長呼ばわりされてる。

 

「……小型がねえから、全部ねじ伏せる。破砕、効くんだっけ?」

「おう!」

「シエルとギルで奴らの視線をひいて。その間に下の装甲を剥がしておく。」

「その後は各個撃破と?」

「それでいい。主に銃で注意を引けるから。」

「「了解。」」

 

やばい。すごく慣れない感覚。

 

「フランさん?」

『状況解説をしますので……稀羅さん、無視しないでくださいね?』

「努力します。」

 

ヘッドホンはあるし、聴こえるんじゃないかな。

 

『降下地点、もう間も無くです!』

 

操縦士からの連絡だ。3人でドアの前に並ぶ。

 

「くれぐれもあの足は気をつけようぜ。潰されて真っ平になるのはごめんだ。」

「ははっ、だな。」

「了解。」

「……いくぞ、戦闘開始!」

「くっ!」

「っ!」

 

順次に3人で、砂嵐だとも思われる煙に向かって飛び降りた。




シエルも来た!
後は極東支部まで頑張れば、オリジナル書けそうです。

余談ですが、3月23に共闘祭があるみたいですねえ。
(せっかくGE2あるのに行けない現実。)
うわあ、悔しすぎ。
まあ、来年っすかね。あるなら。



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一流スナイパーの一途な思い-training plan-

大変お待たせいたしました。
遅れて申し訳ありません。
とりあえず、一つ流しましょうか。


いざと高く登る砂の嵐の中に入ると、案外クアドリガの影が見えてくる。

 

「なんでもいいから、あたれー!」

 

半分賭けのつもりの一撃はヒット。どこに当てたのかは知らないが、返り血が飛び、悲鳴がした。

ロオオオ

独特な声。攻撃したのは先方らしく、群れの動きが止まった。煙が落ち着き、クアドリガの形が見える。

それはまるで、戦車を無理やり四つ脚獣に変えたよう、その上には骨だけの人間の上半身らしきものがついてあった。背中に幾つかの箱型の何かを載せており、ほぼ全身が硬い装甲で覆われていた。

 

『稀羅さん、接触を確認、破砕の稀羅さんが有利です。積極的に前に出てください。』

「なるほど、破砕…ね…」

 

硬くはあるが薄い装甲はしっかり叩けば割れそうな感じがする。

ロオオッ!

後ろの一体が予備動作なしの突進してくる。

はい?

 

「副隊長!伏せてください!」

 

シエルの言われるがままに地面に伏せる。突進中のクアドリガの頭に光線が貫いた。急停止にその体がおいつかず、俺の上を飛び越える形で転んだ。

 

「す、すげえ…」

 

まさにクリティカルヒット。ぽっかり奴の頭に穴が空いた。

 

『敵、ダウンです!オラクル反応が一気に乱れます。』

「うおら!」

 

そこで降りて来たギルの地面突き、これもまた見事に当たり、首を跳ね飛ばした。

 

「副隊長、コアを!」

「サンキューです!」

 

走り出しながらプレデターフォームを開き、装甲ごとコアを食い散らしながら次の奴を狙う。そこで後方の2体のクアドリガの背中の箱……いや、ミサイルポットが開く。

 

「……聴いてねえぞ、こら!」

 

ミサイルは垂直降下の仕様みたいで、ざっと20発くらいのミサイルが降り注いできた。

 

「副隊長、左!」

「わかってる!」

 

ミサイルの射程範囲から外れるように接近した俺の左から、1体がチェーンの前脚で踏み潰しにかかってきた。

 

「まずは、てめえな、」

 

その前脚の懐に突っ込み、変な紋章が書かれた腹の装甲を砕く。痛みにクアドリガは破れた装甲を床に擦りつけながら倒れた。よく見ると、最初の一撃が上半身に当たった奴だ。

 

「ギル!」

「あいよ!」

 

ギルの自慢の突進突きが一瞬で横を通りすぎる。その腹の装甲にくぼみができた。

 

「最後は……へ?」

 

チャージクラッシュを用意する刹那、奴の装甲が妙に半開きした。

 

「!みなさん、ミサイルです!」

 

シエルに言われ、その腹にもう一つのミサイル発射口があるのを見つける。そこから白く光る何かがはみ出した。

 

「いらないです!」

 

チャージクラッシュを中止し、神機を掴みなおしてシールドを展開する。そのままその発射口に叩くように押し付ける。

爆発の衝撃と音が全身を揺るがした。だが、実際被害を負ったのはクアドリガ。

コロオオオ

さすがに傷口を火傷されるとそりゃあ痛いか。ま、最初から気にしてないけど。

出血と火傷で、立ち上がる気力すら失ったクアドリガのコアをもう一個いただく。

 

『2体目活動停止確認、いい感じです。』

「さーて、」

 

残りはこっちからまだ少し離れたところの1体のみ。

 

「終わらせる!」

 

ギルが攻め込む。すると、クアドリガは大きくバックステップをした。

 

「はっ、下がるだけじゃ刺されるぜ!」

 

黒く光がまとう神機の推進力でさらにあがる。だが、そこでやっと気づいた。

 

「ギル!フェイクだ!上!」

「な……うわあっ!」

 

奴はバックステップと同時に、ギルの突進進路にミサイルを落としたのだ。防御すらできず直撃したギルが、爆発の反動で飛ばされた。

 

「ち、シエル、ギルの援護を!」

「りょ、了解!」

 

シエルがギルに向かうと、クアドリガが彼らに向かって突進の構えをした。その間に割り込み、クアドリガに向かって神機を投げ飛ばす。ちょうど走り出そうとする奴の上半身に深く刺された。

悲鳴がし、やったかと思うと、なんと立ち直った。今度はこっちを睨み、ミサイルポットと前面装甲がひらく。

 

「よくもまあ…」

 

シエルとギルをつかみ、後方に逃げると、先の地点にミサイルが数発落ちる。だが、腹から出されたミサイルはホーミング型でまっすぐ狙ってくる。

 

「くっ!」

 

そこでシエルが放った狙撃がまた綺麗にミサイルを貫いた。空中爆発の煙の向こうの、クアドリガも顔にもかすった。

 

「副隊長!神機は?」

「後で引っこ抜く。今はあいつの注意を引いてくれ!」

「了解。」

 

ギルを抱え、さらに後ろに下がった。黒く所々焼き付いた服が気になるが、本人は大して怪我はないようだ。

 

「ギル、立てるか?」

「ああ、すまん。くそっ。」

「一旦離れろ。ここはシエルとなんとかする。」

「行けるのか?」

「ま、新人同士の連携プレイってことで。最悪、サポート頼む。」

「わかった。」

 

ギルを壁にもたれさせ、クアドリガの方に走った。シエルが回避行動を繰り返しながら狙撃を試みているが、うまく当たらない。

 

「シエル!今度はこっちが注意を引く!その間にあのミサイルポットを両方ぶっ潰してくれ!」

「了解です!」

「残りOPは?」

「あと1発はいけます!」

「これ使え!」

 

OP充電用のアンプルを幾つか渡す。正直、俺にはあんま使い物にならない。

 

「ありがとうございます。」

 

神機は奴に突き刺さったままだ。抜くかそれとも何かに利用するか。

 

「こっちだ!てめえ!」

 

クアドリガがこっちを向いた途端、またも構えなしの突進をしてくる。横に体を投げ出してかわすも、向こうで奴が体の向きを変えてまたも突進だ。これではシエルもまともに狙えない。

仕方なく接近。そこで、またも腹の装甲が開き、ミサイルが放たれた。

てか、神機ない!

 

「副隊長!前へ!」

「へっ?」

 

今度も完璧にシエルが撃ち落とす。とんだ射撃実力だ。煙をかき分けて再び接近し、神機を引っこ抜こうとすると、ある異変に気づく。

 

「なんだ……この黒い粉は……」

 

突然クアドリガの周辺に黒色の粉が撒き散らされた。

 

「これ……この匂い……」

 

見覚えあるような。

ロオオオッ

そしてクアドリガの気合のような鳴き声……まさか……

 

「いぎぎっ!」

 

踵を返し、奴から離れた。奴の周辺に火の海が流れる。そう、あれは火薬。

 

「自爆でもないのがおかしい…」

 

そしてその爆発の中心のクアドリガは一切の傷も負わない。

 

「リロードします、しばし耐えてください!」

 

残弾1発を使ったシエルがアンプルを叩き割ってその液体を飲み始める。

そこでまだこっちを向いているクアドリガのミサイルが装填された。

 

「また同じやり方はきついか?」

 

かわす、といっても今回は援護射撃なしだ。

神機を外すのはやめよう。なら、まずはあの前面装甲のミサイルをなんとかかわす必要がある。どうやって?

そこでなんらかの記憶がフラッシュする。

 

「思いだせ、どこかで見た空戦映画……そこで、あの戦闘機ってのはミサイルをどんな風に避けたか。」

 

フェイクの旋回かそれとも迎撃マシーンガーン、それとも全速力で切り離すか。今できるのは、フェイクな動き。

考え終えた時、ミサイルが発射される。

 

「副隊長!」

 

まあ、見てな。

動かずギリギリまで引きつける。ほぼ50センチになった時、両手と左足に全神経を集中させて右にステップ。左肩をかする格好でミサイルが外れる。そしてそのまま後ろに少し離れたところに着弾し、爆発。その衝撃波に乗って一気に近づき、突き刺さった神機を横に強く蹴り飛ばした。火薬を撒いていたクアドリガは痛みに負けうずくまった。

 

『敵、ダウン!今です!』

 

転がった神機を拾う。

 

「シエル!撃ちまくれ!」

 

続いてシエルの正確無比な連射が一瞬で奴のミサイルポットを穴だらけにする。

 

「締めは、これな!」

 

充電完了のチャージクラッシュを思いっきり縦に下ろす。巨体があらゆる音とともに半分に割れ、煙を起こし倒れた。

 

「……終わった?」

「そのようです。」

『3体目、停止確認!状況の報告をお願いします。』

「ギルが軽く打撲、いや、火傷か?」

「俺なら問題ない。」

 

コアの回収も終え、いつの間にか後ろにいる。

 

「本当なのか?」

「ああ。」

「……怪我人はいません。フランさん。」

『わかりました。今迎えのヘリーが出ました。あとしばらく待っててください。』

「その前に、他に追ってくるやつは?」

『……ありません、お疲れ様でした。』

「よ、よかったです。」

 

シエルがその場に座りこむ。ま、あれだけ撃ったもんだし。

 

「いい射撃、ありがとうございます。」

「え?あ、いいえ。こちらこそ、アンプルの用意がなかったため、大変助かりました。」

「んま、あれは無用物だから、俺には。」

 

にしても本当にあの正確性はすごい。動くもの自体を当てることだけでも難しいはずだが……。

 

「俺は、今回は役立たず、か、」

 

ギルが多少渋い顔になる。

 

「そうでもねえ。お前じゃないと、俺がやった。」

「いやあ、でも人間より低知能の野郎にフェイク食らうとはな。」

 

そこでシエルの突っ込みが入った。

 

「アラガミが低知能だというのは単なる仮説と認識しています。十分人間が騙されるのは想定の上なのでは?」

「……あー、つまり?」

「ま、しょうがないと、あと、良くやったのでは?と言っているんだよ、多分。」

「撃たれてよくやったと言うのかおい、」

「そう発言したつもりは微塵もございません。」

あれ、なんか流れが変だぞ……。

「じゃあ、なんだよ、今のことは?」

「おい、ギル、そこまでにしろ。ヘリーは来たぞ、」

「……わりい。」

「シエルさんもできれば誤解を招くようなややこしい言葉は控えて欲しいな。」

「命令と承ります。」

「……はい。」

 

ダメだ。当分この人との会話はかみ合いづらそうだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「稀羅!ご苦労だった。すまないな。」

「それが言えるなら今度は免じてあげますよ。」

 

帰還し、今なおギクシャクする2人の間に挟まれた自分がとても悲しい。

 

「じゃ、俺は着替えてくる。」

「お、おう。」

「副隊長、先ほどの話ですが…」

 

ギルが視界から消える途端、シエルが俺の服の袖を引っ張る。

 

「ブラッドのこれからの方針について、話し合いを要請します。」

「あー、どこで?」

「ラケル先生に研究室を貸していただくことにしました。どうぞ、こちらへ。」

「じ、自分で行けるからそんな引っ張らなくてもさ、」

 

と言いながらも階段で転びそうになった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まずは、ブラッドとしてのミッション回数を聴きたいのですが…」

「うーん、数回?」

「わかりました。つまりほとんどないということですか。」

「少ないのは事実ね。」

 

ブラッドになって行ったミッション回数なんてかなり少ないゆえ、病室に2回も行ったもんだ。

 

「なら、これからブラッドの連携性を重視するため、団体、及び個人での更なる訓練が必要だと存じますが、」

 

シエルが取り出したのは何らかの手帳。

 

「ここに、各メンバーに合わせた訓練計画表を記載しています。中に、睡眠8時間、任務4時間、雑業2時間を外し、のごりの時間で座学を6時間、訓練4時間と決めております。」

 

色々さらっと言われた気がする。なんで隊長も、この子もこんな無茶なことをさらっと言えるんだ?

にも関わらず僕の手にその手帳が握られた。

 

「というわけでこれからもよろしくお願いします、副隊長。」

 

くるっと後ろを向いた彼女がドアに歩きだす。

単純に一方的に押し付けられたような。

諦め半分で文字びっしりの手帳を見た時、俺は彼女を呼び止めた。

 

「なあ、ちょっと、シエルさん。」

「…はい?」

 

もうドアを開けてるし。

 

「少し…いや、色々おかしな点があるんだけど。」

 

シエルはドアを閉じ、眉間にしわを寄せた。

 

「なにが…ですか?」

「まず…」

 

この計画表…明らかにやばい。色んな意味で。

 

「俺の訓練がなぜ'ハンマーを使ったダミーアラガミ20体討伐'なの?」

「同じく重さが中心の武器を扱えば、バリエーションが増すのでは?」

「えーとね、そもそもハンマーはブースターが着いてあるし、チャージクラッシュはバスター専用だ。それに、バスターはどっちかという'切る'という感覚が強い。に対してハンマーは殴るような感じ。いくら重さが中心でも、攻撃のやり方はかなり違う。」

「……それは……」

「あと、ギルの訓練になぜ、ショートが入っているのかな?」

「同じく貫通属性なのでは?」

「そうね、けど…リーチと立ち振る舞いが全然違うよ。スピア使いでもない俺が言うのもなんだけど…」

「あ……」

「あと、なんで俺たちの主武装の訓練内容が一切ないんだ?」

「それは……」

 

なぜかシエルが黙り込む。もしかして

 

「なあ、シエルさん。この計画表、いつの物?」

「その……1ヶ月前です。」

「……はい?」

 

自分にも彼女にもまずいことを聞いた気がする。




いやー、通知は入れましたもののなかなか心苦しい一週間でした。ましてや、己の時間の大半をかけた定期テストがああも無様になるとは…
はっ!いけない!


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煙草の紳士と車椅子のお嬢様-Mr.Grem-

まさかの一日の2つ投稿
ま、私の友人はこれが普通、みたいですが…


「1ヶ月前って……むしろどうやって?」

「皆さんがじきにブラッドに編入されることが確定され、その身体データーが送られてきたのが1ヶ月前です。」

「その結果、誰の武器もこの計画表に合わないと。てか何で俺らのデータがシエルの所に……」

 

妙に赤くなったシエルの顔が縦に揺れた。

 

「んまあ、それにしてはかなりがんばったね。」

「……へ?」

「いや、少なくとも、ナナがハンマーで、ジュリウス隊長がロング、あとロミオさんがバスターなのはあってる。あと、かなり訓練内容が綿密に書かれてる。実はこれ結構苦労したんじゃないのかな?」

「それは……多少時間がかかりましたが。」

「そうか……お疲れ様とは言いたいね。でもどの道、俺とギルのは組み直した方がいいかもな。」

「今日中に仕上げて参ります!」

 

あれ?め、目が怖いよ、シエル。

 

「……あともう一つだけど、」

「何か?」

 

計画表を渡される前に言うべきだったことをやっと口に出した。

 

「今、フライアの神機使いは、一丸となって防衛ミッションを当たっている。つまり、この計画表で言う、残り時間ってのはほぼないよ。」

「どういう……ことですか?」

「フライアが今日みたいに複数のアラガミに追われた緊急事態が前にあったのは知ってる?」

 

何時間か前の風景がちらっと蘇る。ちょっと吐き気がするなあ。

 

「はい、副隊長が全てのターゲットを撃破なさったと。」

「んまあ、その点はさて置き、あの事件以来、ラケル博士が無理やりミッション再開を本部にお願いしたせいで、全力でこの施設を防衛しなきゃいけなくなったんだ。それで今は6人の部隊を2グループで前衛と後衛をしているよ。」

「私たちは、後衛ですか?」

「そう。それで、いつなにが起きても対処できるように、また危険視されるアラガミを先に排除するため、皆で集まることすらうまくいかない。ましてや座学をできる時間も確保しづらいし。」

「そう……なんですね。」

「せっかくここまで書いてくれたのはありがたいが、少し、今は控えてもらえないかな?」

 

厳しい訓練メニューではあるが、どれも必要不可欠でぜひ取り入れたい内容ばかりだ。彼女が真剣に組んでくれたのは見なくても明らか。だけど、おそらくこの計画表通りに進めるのは全くの至難の技に近い。

 

「……ご指摘、ありがとうございます。」

「いや、こちらこそ、なんかごめん。」

「いえ、現状を見極めなかった私も責任です。それでは……」

 

シエルはこっちに顔を見えないようにしながら手帳を取った。

 

「この事はなかったことにしてください。」

「え?いや、でも、さすがに消すってことは……」

「お願いします!」

「は、はい……」

「し、失礼します!」

 

とんでもない早足で退場する彼女を見て、気づかざるを得ない。あのあからさまな態度からして……

 

「やばい。怒らせてしまった。」

 

誰もが気づけるだろう。

 

ーーー

 

「あ!稀羅!こっちこっち!」

 

ホールに降りると、ソファーに座ったブラッドメンバーが見えた。中でナナが手を振る。

 

「どうした?」

 

ジュリウス隊長と、ナナだけだ。他の人は……

 

「ああ、稀羅、一つ知らせだ。今回君たちの緊急事態に対する迅速かつ、良好な戦績に、本部からの任務中断予告は取り消された。続いて任務を遂行するように。」

「そういえばあの任務、例の本部からのクレームの引き金になりうるミッションでしたね。」

 

2度目のフライアがアラガミに被害を負う羽目になると、任務中断期間を延ばすというのが本部の指示だった。

 

ていうか実際戦っているのはこっちだし、それくらい無視してもいいんじゃないのか?

 

「どうしたの稀羅?なんかくらーい顔してる。」

「あれ?そう?」

 

おかしいな。顔にそのまんまでるタイプなのか、俺は。

 

「先、シエルと何話したの?」

「ほう、それは俺にもぜひ聴かせてほしいものだ。」

「ちょっと、ナナはともかく、隊長も?」

 

直接聴けば済むだろうに。そんな自分の脳裏に、最後にちらっと見えたシエルの顔が浮かぶ。

 

「先出てきたシエルは、さっさとターミナルの方に向かってしまって聴けなかった。何かあったのか?」

「いえ、特には。ただこれからブラッドが連携性を重視するためにどうすればいいかについて話したまでです。」

「なるほど、それで?結論は?」

「……お互いもう少し考えて見ることに。」

 

もちろんながら本当のことが言える訳ない。もはや彼女の心にまで干渉してしまう事になる。

 

「そうか、答えが出ていないのは残念だな。」

「それで稀羅そんな顔になってたんだ。」

「……そうね。」

 

やれやれ。一思いがここまで自分を追い込める羽目になるとはね。

 

「それじゃ俺は次のミッションに備え、神機の強化でもしておくから。」

「うん!今日も頑張ろう!」

ーーー

 

上の階に登ると、フランさんは見当たらず、先ほど見送ったシエルの背中が目の前にあった。何かを熱心にターミナルに打ち込んでる。静かにその左の端末の前に立った。

 

「っ!」

 

彼女も気づいたみたいだ。だが、すぐに画面に目をそらした。こっちも一先ずターミナルを作動させ、神機の強化プランメニューを開いた。

すでに本部からの何度かの援助で、かなり強化された俺の神機はもはや危険度6に対抗できるレベルに育っていた。ただ次の強化に向けて、明らかに素材が足りない。ま、せいぜい5回戦った程度だし、コアの回収も適当の済ましちゃっては、なかなか溜まることもない。できないのがわかった上でも何度もそのリストを眺めた。頭では既に別のことを考えてるが。

 

「……あのさ、シエル。」

 

一言がこんなに重いって、嫌になってくるな。

 

「今度皆で集まって訓練計画表立てないか?」

 

彼女の背中がビクッとした。

 

「……どういう意味ですか?」

 

そこまで警戒なさらなくてもいいのではありませんか……

 

「だから、その……シエル1人だけに負担かけるのも悪いし、あともし作っても皆の体に合わないようだと……ね?作った甲斐がなくならないかな、と。」

「……わかりました。」

「あ、でももしシエル独自のお勧めプランがあるならそれでもいいよ。だから……」

「?」

 

……次の言葉が出るまで間が長すぎだよお、おれ。本当に会話能力低いな。

 

「あまり根に持たないでほしい、それだけだよ。」

「……。」

 

やばい!何も返してくれない!端末にすがりたくなる。もういっそこのまま自然消滅もいいかなと思う。

 

『全神機使いへ業務連絡、至急局長室へお集まりください。繰り返します。』

 

助けなのかどうかわからないが、ホール全体に案内放送が響き渡った。てかまた召集かよ。いい加減勘弁してよ。いくら突飛なことが多いとはいえ、やりすぎな気がする。

 

「行きましょう。」

 

シエルは作業途中のターミナルを切っては階段を下りて行った。

 

「お、おう。」

 

そして俺はついていく形で。

 

ーーー

 

「なあ、この2人、本当に姉妹なのかな?あんま似てないよな?」

 

局長室ってやらは、一見でも丸わかりの高級素材を惜しみなく使い果たした部屋だった。レッドカーペット、黄金の窓枠、質のいい木材の壁。しかも数々のシャンドリエと光が明るく部屋を照らしていた。

集まった俺らは、先にいたジュリウス隊長の指示に、ドアの前から奥の方に向けて一列に。そこでラケル博士が来て、それから赤い髪の毛の白衣の女性が入ってきた。この人があの時、葦原ユノという人と一緒にいたというのは言うまでもない。

 

「姉妹なんですか?知らなかったです。」

「無理もないよ。まずフェンリルのトップクラスの人物の個人情報だしな。」

 

そうやってロミオさんとヒソヒソやりとりしていると、外から声がした。

 

「一括で設けるからこそ利ざやが取れるんだろうが!そんな弱気でどうする!競合なんて潰してしまえ!」

 

おや、これはまた葦原ユノさんの前で猫かぶってたおっさんのこと。その隣には顔色から健康が疑われる研究員がいた。

てか競合って、何をやってるんだこの人たちは……。

 

「おっと、この話はまた後にしようか。」

「けほ、けほっ!」

 

そこで珍しくナナが咳をする。よく見ると、おっさんの左手に煙草が煙をたてていた。おい、未成年ばかりだ。少しは場を考えろよ。

 

「ご足労いただき、感謝します。グレム局長。」

 

まずはラケル博士が口を開く。

 

「お忙しいところ時間をとらせてしまい、申し訳ありません。」

 

続いてレア博士という赤い髪の毛の女性も。

 

「挨拶はいい、とっとと理由を聞かせてもらおうか。なぜ最前線の極東地域にこのフライアを向かわせるのだ?」

 

極東支部……?みんなが互いをちらっと見渡す。確か、アラガミがかなり多いと隊長が言ってたあそこか。そしてこのフライアがそこに向かっていると。

 

「こちらはフェンリル本部特別顧問であり、このフライアを統括する、グレム局長です。」

 

はあ、親切なご解説ありがとうです。

 

「相変わらず話を聞かない。少しは君のお姉さんを見習いたまえ。」

「ふふ、ラケル、あまり失礼のないように、ね?」

 

そしてラケル博士の表情が多少一変する。あ、どうもこれ仲がそんなによろしくないのか。

 

「極東支部において、ブラッドと神機兵の運用実績が欲しいのです。」

「実績なら、この辺りのアラガミだけでも十分だろう。なにもあんな、アラガミの動物園のような場所に行く必要はない。」

 

そもそもその神機兵ってのはなんだよ。新しい武器か?それとも新しい部隊か?

 

「神機兵の安定した運用を目指すなら、もっと様々なアラガミのデーターないと、本部も認めてくれません。」

「ふむ……しかしだな……」

「極東支部には葦原ユノ様がいます。本部に対しても発言力のある彼女への助力なら、決して無駄な投資にはならないかと。」

「……確かに、な……ラケル君、神機兵とブラッド。どちらも本当に損害を出さずに済むんだろうな?」

 

このおっさん、ユノさんの名前が出た途端に態度が変わったのは、黙っておくべきか?

 

「ええ、信頼を裏切ることはありませんよ……」

「ふーむ」

 

煙草をくるくると指で回して考え込むと、決断した。

 

「よし、わかった。後で稟議書を出しておいてくれ。レア君だけ残ってくれ、あとは下がっていいぞ。」

「では…」

 

満足げな微笑みを浮かべ、ラケル博士は車椅子を動かし、ドアへ向かう。俺たちも続いた。ラケル博士といい、あのおっさんといい、何か気に入らない。自分がなぜあんな人間のために戦っているのか馬鹿馬鹿しくなりそうだ。

 

ーーー

 

「隊長とシエルさん、そして副隊長には、局長からこれが配られています。」

 

ホールで出くわしたフランさんが渡したのは幾つかの枚数で束ねられたプリントだ。中身は相当量の文章と、アラガミのデータ、レーダーの記録、数枚の写真だ。

 

「これ、なんですか?」

「大規模な作戦がもうすぐ始まります。そこで主に難しい役割を、3人が担当する事になりました。」

「難しい役割って……」

 

防衛ミッションは放ったらかしでいいのかよ。

 

「詳しくはそのプリントを参照してください。もうじき、また局長に呼ばれると思うので。」

 

またかよ。一日に二度もあの人の顔を見るなんて義理はないんだが。

 

「よろしくお願いします。」

「わかりました。」

「ああ。」

「……へい。」

 

なんでこの2人はすんなりと答えられるんだよ。洗脳でもされたか?ますます困難が起きそうで頭を抱えたくなった。




遅い時間帯に出してしまい大変ご迷惑をかけました。
ダメだな、こりゃあ。

余談ですが、テストが終わった日、GE2の仲間に叫びました。
「僕を!殴ってくれ!」
まあ、結末までは及びませんでしたが、そこでわかってくれた友人に感謝したいところでもあります。

あと、もうひとつ。GR2のアップデートが少し遅れ気味らしいですね。まあ、デバックが大変でしょうからしょうがないですけど。
願わくば、ゴッドイータープレヤーが減らないことを祈るばかりです。


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神機兵-Big Doll-

やあ……今日も多少なりに遅れましたと。
すみません、どうぞ。


「おい、副隊長。何してるんだ。」

「んがっ」

 

ギルの声に眠りから覚めた。あれ、いつから寝てたんだ?

 

「……ありがと、ギル。」

「だから何してんだ?」

「これ読む途中で寝落ちしたみたい。」

 

ギルの前で、ざっと50枚はあるぶ厚いプリントをびらかした。

 

「やけに読む気失せるな、それ。」

「もうとっくに失せてる。フランさんから渡されたんだけど……。」

 

煙草臭い局長室のあとは、次の作戦についての情報がずらりと書き留められたプリント。受け取ってはすぐに目次を一瞥し、パラパラとその束ねを読み流すシエルと隊長には頭が上がらなかった……

 

「で、何が書いてあるんだ?」

「ざっと見たところ、神機兵とやらのでかいお人形のさんの子守りってさ。」

「神機兵か。名前なら聴いたことあるな。」

「んじゃ、これ読む?嬉しくないほど詳しく書いてあるぞ?」

「よせ、めまいがする。」

「残念。」

 

重いまぶたをこすって再び目をおとす。いまだ半分も読んでない。こんな長文のレポート読みとか、デスクワークの方の専門じゃなかったのか?

 

「つーか、俺は研究員でもないし、この情報どうでもよくない?」

「まあ、そう言わずにがんばって読めよ。副、隊、長さん。」

「起き上がれなくなるまで殴っていい?」

「おいおい。」

 

しかも読む量も多いのに、さらには文章もかなり読みづらい形だ。今日中に読み終わるのかな、これ。

 

「邪魔しちゃわるいし、俺は先に寝る。」

「は?もうそんな時間?」

「もう11時過ぎてるぞ。」

 

やべえ、早く読まないと。

 

「じゃな。」

「うう、助けてはくれないんだ。」

「俺じゃ読んでも次の日に忘れてるぜ。」

「自慢にもならねえこと言うな。」

「おっと、わりい。」

 

エレベーターへ去るギルを恨めしのまなざしで見送った。

 

ーーー

 

……読みおわった。

読む途中は時間を気にするのはとっくに諦めたけど、きっと夜明けが見れそうな時間にでもなってる。固まった腰と首を軽く叩きながらホールのソファーから立つ。ホールの光も小さくなっていた。

色んな情報で一気にふくらんだ頭をおさえつつ階段を登ると、カウンターのモニターが目につく。近づいて見ると、4:06と表記されていた。

 

「飯もろくに食わずにこの有様って……」

 

寝るのは諦めてターミナルの端末に電源をいれた。ちょうど午後に開いた強化プランが浮いてある。

 

「……何しよう。」

 

そこでふと、シエルと隊長のもと居場所、'マグナリアーコンパス'を思い出した。ロミオさんも確かそこの出身だ。一応下調べくらいしといた方がいいんじゃね?そもそも児童院だと言うが、なぜシエルはそこで軍事情報とかを学んだんだ。とても子供が真っ先に学ぶようなものとは思えない。

索引キーワードに入力すると、色んな情報ファイルが出た。

 

「歴史に、人物データ、新聞……結構あるね。」

 

見ただけで10件以上はある。中でも目を停めたのは、最も右端のファイル。

 

「死亡、履歴?」

 

児童院で死亡ってありなのか?児童院っては要するに、孤児を親代わりに育てる施設、伝染病とかで死亡だったらまだしも、これが堂々と1つのファイルとして出てることは……要するにそれほど数が多かったということになる。

そのデータを開こうとしたら、あるメッセージが浮かんだ。

 

「あれ……取得不可?パスワード、もしくは使用者の名前を入力してください……。」

 

朝、ナナが言っていた通りだ。情報の制限はきびしい。これを開くにはジュリウス隊長の相応の権限か、それともあのおっさんの権限がいるかもしれない。

 

「ちっ、黒歴史は隠したいです、ってわけ?」

 

しかしブロックするなら、なぜ表に出ているのかがまた疑問だ。ダメだ、考えすぎればするほど頭が混乱する。

検索をキャンセルしようとした時だった。突然、あの名前が浮かんだ。

 

「……ケイル-オルフィス、」

 

ミッションで調べるのをやめた、また自分も不思議な気分になるあの単語。

 

「もうちょい調べてみようか。」

 

キーワード、ケイル-オルフィス、と。午前中に見たようにたくさんの資料が並んだ。ここでは主に新聞記事がのっている。が、ほとんどが同じ話題を扱っていた。

 

「ラストミッション、'ナインフォール'……」

 

誰が名付けたんだ?やはり報道陣にも、ミッションのアラガミ情報は伝わってないようで、不明と記載されている。不明なら最初から書くなっつーの。舌打ちしながら、さらに目録を見て行くと、またも目を引くものがあった。

 

「チームメンバーについて……提供、フェンリル本部……?」

 

なぜかフェンリルの情報サイトに直につながってる。アクセスも可能だった。

 

「さて、メンバーは、と……」

 

そこには

 

ケイル-オルフィス

ブレイス-コル-アルヴィー

中部-清火(なかべ-きよか)

桐谷-ヤエ(きりたに-やえ)

 

と書いてあった。

 

「4人組……」

 

追加には、ブレイス、中部はKIA判定。桐谷、ケイルは、ミッション'ナインフォール'よりMIA判定。しかし2072年に桐谷が生還し、2073年に再入隊、だ。

 

「部隊が解散し、行方不明が2人。帰ってきたきた人もいる。」

 

現在は極東支部での看護師を勤めているらしい。

 

「この人になら、ケイル-オルフィスのことを聞けるか?」

 

かすかな期待をのせながら次の記事に移した。中に、彼らが扱った神機の情報ものっていた。全員が第一世代型、つまり、剣か銃しか選べないやつだ。中でもケイルと中部が剣タイプらしい。でも今この情報はあんま使えないかも。

他の記事に移す。だが、それ以降はどの記事にものってる同じことばかりだった。

 

「今の俺の権限だとこれくらいかな。」

 

またも足りない情報で頭にくるが……そこはまあ、我慢。ファイルを全てとじて、端末を切った。

 

ーーー

 

そしてむかえた朝。

やけに目が痛い。自室で徹夜したあとの朝陽なんて、たんなる悪魔のいたずらにしか思えない。何度か寝てみようと試みたが、これがまたうまくいかない。

ただ、サボることだけはやめようと、あのプリントの束ねを持ってホールに降りた。職員達が増え、夜よりはだいぶ賑やかになっていた。

 

「あ、稀羅さん。おはようございます……ってどうしたんですか、その顔?」

「あ、フランさん、お宅のこれのせいですね。」

 

左手のプリントをあげる。

 

「あー、確かにひどい量だとは思いましたが……、あら、もしかして眠れませんでしたか?」

「まあ。」

「大丈夫ですかね?」

「大丈夫かと。」

「とりあえず、朝食でも?」

「行ってきます。」

 

短い会話を切りあげ、食堂にむかった。

 

ーーー

 

「それで?何時間もかけてその資料を読んだのか?全く大した根性だ。」

「逆になんでそっちはあんなに読むの速いんですか?」

 

食事のあと、行くあてを失い庭園にいくと、また隊長がいた。

 

「俺とシエルは神機兵の情報はあらかじめ把握ずみだ。仕方ない。」

「例のマグナリア-コンパスで、ですか?」

「ああ、あそこでは孤児の才能を発揮させようとあらゆる教育をしている。そのせいだろ。」

「で、シエルは特に軍事について習ったんですね?」

「そうだ……実は彼女、かなり力のあった軍閥家庭の娘らしい。」

「げっ、それであんなずば抜けた射撃が?」

「才能が磨き上げられた結果だ。」

 

ならば日ごろの彼女の様子もうなずける。

 

「それより、寝てないと言ったが、行けるのか?」

「ミッションですか?」

「それ以前に局長からのよび出しがある。」

「代わりによろしくです。」

「3人揃ってだ。いけるな?」

「いやでも引っ張っていくんでしょ?」

「分かってるじゃないか。」

 

次から次へと……

 

ーーー

 

今朝から会ったひとはみんな自分の安否を聞いてきた。べつに徹夜くらいで……かえって応答に疲れた気がする。

 

「ブラッド隊長、ジュリウス-ヴィスコンティ、以下2名入ります。」

 

そしてあのおっさんの部屋に。薄く漂う煙草の匂いが鼻から喉奥をチクチク刺してきた。

入った時、レア博士と出くわし挨拶をしたのだが、なぜか顔がひきつっていた。何を話したんだ、あの人。こっちを見ることもなく速足で出ていったものだ。

 

「あ、ブラッドのみなさん、お待ちしておりました。」

 

昨日おっさんと一緒にいた血色のよくない研究員もいた。

 

「ラケル博士から聴いているとは思うが、神機兵の無人運用テスト及びその護衛をしてほしい。詳しくは、あー、九条くん、」

 

九条とよばれた研究員が口をひらいた。なんだか細くて高い声に少し鳥肌がたった。

 

「はい、えーと、ジュリウスさんとシエルさんは確か、ラケル博士とレア博士のもとで……?」

「ええ、我々は両博士に育てていただきました。ですので、神機兵の運用テストに搭乗したこともあります。」

「ならば話ははやい。要するに、神機兵が戦う様子を観察しつつ、万が一のときには守ってほしいのです。なるべく、一体一で神機兵とアラガミが戦う状況をつくりたいので、まずは周辺のアラガミを一掃していただきます。」

 

……つまりそれって、

 

「露払いをしろ、ということですか?」

 

ジュリウス隊長が確認に問う。ああ、それなんだね。

 

「そうだ、今回の主役はあくませも神機兵だ、というのを肝に銘じておけ、いいな?」

 

うわ、気味悪すぎ。なんか自分の子供を授ける性格の悪いおっさんの感じだ。子守程度のレベルじゃ済まさねえぞって顔。

 

「……了解いたしました。」

 

さすがに隊長も納得しがたい顔だ。

 

「よし、あとは現場で話を詰めてくれ、俺も忙しんでな。九条くん……」

「はい、えー、ではジュリウスさん。詳しくはミッションブリーフィングの時に。」

「承りました、では後ほど。」

 

隊長の一礼とともに、局長室を出た。

 

「……。」

「隊長?」

 

エレベーターの前で黙りこむ隊長にシエルが静かに尋ねる。

 

「なんだ?」

「い、いいえ。」

 

おい、シエルそこでびびっちまったら負けだよ。

 

「にしても今回はどうも気が進みませんね。」

「奇遇だな。」

「へ?」

「俺もあのひ人の態度は気に入ってない。」

 

よっぽど先言われたのが気にくわないようだ。かなり冷気が吹き抜ける声だ。

 

「た、隊長、それは?」

「部下なら、上司のわるいところは特によく噛みつくようになるさ。だろ、稀羅?」

「初見から反吐が出るところでしたよ。」

「いい回答だ。」

「もっとも、俺の上司は……ジュリウス隊長、あんたも含まれますが……」

「文句があるなら遠慮なく言え。」

「お言葉に甘えて。」

 

なおも動揺するシエルが気になるが、今は放っておく。軍閥出身だと、なおさら上のひとには頭が上がらないもんだからな。

 

「ブリーフィングは2時間後に行う。神機兵の搭乗の前に、身体検査が必要でね。」

「了解っす。」

 

エレベーターにのって、ホールに着くと、2人はさっさとどこかへ行っちゃった。

 

ーーー

 

そして2時間後、珍しくブラッド隊みんながホールの1階、つまりソファーとでかいディスプレイがあるところに揃った。

 

「それでは本日の大規模作戦についてのブリーフィングを始める。」

 

全員が身をのりだして耳を傾けてた。

 

「今回の主な目標は、神機兵の護衛だ。そしてその運用テストは俺とシエルが神機兵にのって無人神機兵を観察しながら行う。他は、テストに適する環境をつくってもらいたい。よって、今回の討伐部隊の指揮は……すまないが稀羅、きみに任せたい。」

「……はいはい。」

 

反論は余計に疲れそうだ。結局また大仕事だ。

 

「稀羅が勧める部隊の展開はあるか?」

「まあ、さすがに2人同時にテストをすると、手が足りないと思うんで、一方がテストをする間、もう一方は護衛の1人と待機すればいいんじゃないんですかね?ワンオンワンって言いましたよね?」

「ああ。」

「どうやってアラガミをよぶんですか?」

「偏食場パルスを発生させる特殊な装置をつかう予定だ。ただし、必要な場合のみだ。」

「なら、それこそ一方ずつやったほうが良さそうですね。」

「承知した。他に異論はあるか?」

 

無反応、か。じゃ賛成ってことで。

 

「九条博士はフライアにのこり、神機兵についての情報サポートをお願いします。」

「かしこまりました。」

「では、稀羅の討伐部隊の動きにもとづいてこのミッションをすすめることにする。作戦は1時間後にはじめる。では、解散!」

 

すると、みんな2階のほうにのぼりに行く。俺もついて行く形で階段を踏んだ。

 

「稀羅くん?」

「へ?あ、はい?」

 

まさかの九条博士から話とは。追加任務とかはご勘弁を。

 

「神機兵の護衛ということで満足な戦闘はむずかしいでしょうが、あまり気負わないでもらいたいのです。」

「どういう?」

「神機兵はこわれても、直せます。だが、あなた方が怪我をしてしまってはこのフライアが危険です。くれぐれもお気をつけて。」

「……ありがとうございます。」

「よろしくお願いします。」

 

意外なことをいわれ、少し暖かくなった気持ちになった。どこぞのおっさんとは大違いだな、こりゃ。




さきに申しあげたいのは、原作の神機兵護衛任務については完全にオリジナルで書かせていただくことです。といっても今日投稿しますので。
まだまだ原作の半分も来てないですね。
これはいつ完結を迎えるのかやら。


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護衛任務(上)-Blue and Red-

文字数が大変多くなっております。
すみませんが、今回も何卒最後まで読んでくださるとありがたいです。


冷たい風がふきぬけ、眠気も少しさめた。

'蒼氷の峡谷'

かつて誰かがつくったダムの跡といわれ、雪山のおくにひっそりと佇んでいた。今や観光地には使えないというが、贅沢な話だ。凍りついたダムと黒と白が混ざりあう雪山は、まさに爽快な調和をなしていた。

 

「副隊長、みんな集まったぜ。」

 

かなり高い地点の丘、ダムとその周りが一望できるここで、ジュリウス隊長とシエルの準備を待っている。

後ろをちらっと見ると、うん、ギルにロミオさんにナナ。全員いた。

 

「OK、あとは合図を待つだけか。」

 

目をふせ、再び無線の神経をかたむけた。

ーーー

 

『神機兵部隊、準備完了です。討伐部隊、どうぞ。』

 

ざっと10分くらいか。

立ちあがって神機をつかんだ。

 

「了解。まずは近くのジュリウス隊長のほうからやって行こう。ナナは先回りしてシエルの方にむかってくれ。」

「あいあいさー!」

「あとは接近中のアラガミを一部かたづけて、のこった1体を神機兵にゆずること。いいね?」

「「了解!」」

 

高いのを承知のうえ、飛びおりる。壁面をかるく蹴る形でおりて、そしてソフトに着地と。

 

「じゃ、いってきまーす!」

「おう!」

 

肩に神機をぶらさげて、ナナは向こうへ走っていった。そして自分は先ほど受けとった変な箱型の、偏食場パルス装置を床に設置した。やがて電源がつく。

 

「偏食場パルス、起動です。」

『確認しました。制限時間は5分です。』

「へい。まわりのアラガミの状況は?」

『はい……小型4体、中型1体がジュリウス隊長から10時方向に50メートルです。種別はオウガテイルとコンゴウ。」

 

「肩ならしにオウガテイルから行きますか?神機兵γ?」

ちなみに無線でのジュリウス隊長は神機兵γ、シエルは神機兵β、あとは無人機のαとδだ。

 

『それがいい、ただ、コンゴウなら問題ないだろ。オウガテイルを先にこっちに送り、コンゴウをおさえてくれ。』

「へい、みんな。聴いたとおりで。」

 

ダムの方にはしって間もなく、2体のオウガテイルが出た。こっちが片方の頭を潰し、ギルがもう一方を串刺しすることでおわり。

もうほんとうに雑魚になったな。

そしてのこりが出てきた。

 

「ギル!コンゴウおさえて、ロミオさん!オウガテイル1体を神機兵まで誘導して、あとは俺が殺る!」

「「了解」」

 

口をひらいてかかってくるオウガテイルに、神機をよこにはめる形で差しこみ、腹のところまで斬り裂いた。さらに上から叩いて背骨をボロボロにし、捕食で回収。

ロミオさんは銃でうまく注意を引きながら、神機兵のところへ向かう。ギルはコンゴウと交戦開始。

 

「ギル!あくまでも、牽制だ。殺すなよ?」

「わかってる!」

 

うまくコンゴウのパンチ攻撃をかわしながら移動を妨げている。こっちもやつの周辺の地面に弾を撃ちこみ、怯ませた。

 

『すげえ!神機兵のやつ、たった一撃でオウガテイル殺しちゃったよ!』

 

ロミオさんの無線だ。神機兵、たいしたもんね。

 

「了解、ロミオさんはこっちへ!ギル、やつを誘導して!」

「了解だ!」

 

さきに自分が後ろにさがり、コンゴウの視界から消えると、コンゴウはギルの方を狙う。とっくにさがったギルは余裕な面で少しずつ逃げていく。コンゴウはただ無闇に彼を追って行った。

 

「フランさん!次は?」

『えーと……中型種!これは…ヤクシャです!稀羅さんから20メートル付近です!』

「隊長!そちらは?」

『コンゴウと接触、ヤクシャには間に合わない。処理してくれ。』

「いよっしゃあ!やっと潰せるやつがきた!」

 

ロミオさん、そう喜ばなくても。

 

「副隊長、指示は?」

「ないっす。適当に足切って潰しましょう。」

「オーライ!」

 

ダムの外から来たヤクシャのその腕を、ロミオさんが水平に斬り、指を何本か消しとばす。うめく間もなく、膝の側面に神機の剣のはらをあて、骨を折る。

 

『ヤクシャ、ダウン!捕食もしくはとどめを!』

 

せっかくだし食ってやろうか。

でかくひらいたプレデターで、やつの左上半身をいただく。食いおわると、またあの力がみなぎった。

 

「ロミオさん、殺していいですよ!」

「任せろ!」

 

銃にきり替え、たおれて地面を向いているヤクシャの顔に銃口をあてたまま派手に一発をかます。

へえ、ああいうのもいいかも。

 

『ヤクシャ、沈黙!アラガミ反応あり!ロミオさんから10メートル?背後です!』

「げえっ?」

 

ダムの外側に背をむけていたロミオさんの後。ダムの下から飛んできたシユウが襲う。

 

「ロミオさん、伏せて!」

「うわああ!」

 

ダムの端に降りたった、やつの胸に蹴りを入れた。予想どおり、偏食因子で強化された蹴りはたやすくやつを下に落とす。そのままやつの体のうえに乗っとり、銃にきり替えた神機を顔にあて、引き金をひいた。

盛大な音とともに散る頭をちら見し、さっさと剣にきり替え、ダムの壁に突いた。

 

「稀羅!生きてる?!」

「生きてますよー!」

 

まあ、けっこう危なかったかも。

 

「いたいた、はい!」

 

半分身を乗りだして手をさしのばすロミオさん。その手を捕まえると、次に体が宙に浮かんだ。

 

「ちょ!もうちょっと優しく引っ張ってくださいよ!」

 

背中で着地……って痛え!

 

「ごめん、」

「いいですから次!」

『ジュリウス隊長の3時方向!小型2体!大型1体!』

「もうお出ましか?ギル!そっちの状況?」

『コンゴウが瀕死状態!小型2体ならおさえられる!』

「神機兵γは?」

『大型確認、種別は……ボルグ-カムラン、厄介だな。』

 

ボルグ-カムラン。確か、鎧の蠍。手に持つ巨大なシールドと尻尾の針が特徴。

 

「援軍要りますか?」

『1人送ってくれ!俺だけでは無理だ!』

「行って、ロミオさん。」

「え、でも…」

「なんとかなる。」

「…わかった!」

『稀羅さん、小型3体、あと…これは、さきのシユウ?』

「けっ、しぶとい!」

 

カブトムシの雑魚がさっそくかかってくるので3体まとめて壁になぎ払う。そこで頭をすっ飛ばしたシユウが半分もない顔でダムにおりる。

 

「鳥の前に幼虫どもだな!」

 

カブトムシのうえに、チャージクラッシュを見舞い、その鎧ごと中身を粉砕する。返り血が口について、つばと吐き捨てた。

 

『稀羅さん!大型もう一つ!12時方向!』

「めんどくせえ!」

 

現れたのは黒猫、ヴァジュラだ。ちょっとスピーディなバトルになりそうね。

さっそく迫るシユウの低空滑走をかかんで避け、続くヴァジュラの電球2個をシールドで弾く。走ってくるシユウの股のしたを滑りながらスタングレネードを転がす。閃光がして、2匹とも頭をふりながら視界をもどそうとする。が、

 

「んな余裕ある?」

 

肩ごしの一撃にブラッドアーツをのせ、顔をかくす、その両手を砕いた。

ゴオオオッ

痛みにひざまずくシユウの頭にもう一度至近距離からロケット弾を放った。今度こそ上がぽっかり空いた上半身は力なく崩れた。ヴァジュラのほうを見ると、そろそろこっちが見えてきたようだ。

 

『シユウ、撃沈!あとはヴァジュラです!』

「なんだかんだで銃が楽しくなってきた。」

 

ポケットのOPアンプル3つをとりだし、神機にぶつけて割り、口に流した。

ギャアアアア

やっとこっちが見えるか、猫ちゃん。

アンプルの破片を投げ捨て、神機を構えた。突進してくるのを右によけながら、よこに一撃。やつの顔に軽くかする。するとマントような鬣が逆立ちし、電気がはしる。

 

「っ、なに?」

 

放電?それとも…?

バックステップをしながら、まるで昨日のクアドリガのように、いくつもの電球をふりまく。

うわっ、それはない。

よこに体をなげてよける。すぐに起きあがり、攻めこむ。

グルルル

頭は回るようで、黒猫は自分の前方に電球をならべ、充電をはじめる。

 

「残念!」

 

その電球のバリアをとび越え、その顔の鼻を地面におしつけ、右手の神機で両眼を突き刺す。

グルアアアア

激しく頭をゆらす黒猫の顔に膝蹴りを入れながら、またも銃に変形。ひらいた口に、深くねじ込み、そこで貯めておいたOPを一気に放射した。やつの全身が一度大きく跳ね上がると、動きがとまった。

神機を引っこ抜くと、血まみれになっていた。

 

「……きったねえじゃんか、てめえ!」

 

ブラッドアーツでその頭の装飾ごと破壊する。さらに血があふれ、服まで濡らした。

 

「あーも。また洗濯かよ。」

 

よもや制服まで……と、こんなこと言ってられないな。

 

「フランさん、始末しました。」

『確認しました、お疲れ様です。ソローでここまでとは。』

「それより、あの偏食場装置ののこり時間は?」

『のこり1分をきりました。もうすぐです!』

「どうも。神機兵γ!そっちはどうです?」

『ボルグ-カムランと交戦中、神機兵δが独自でやろうとしている。』

「行けるんですか?」

『できそうだ、そっちは引きつづきアラガミを排除してくれ。』

「了解!」

『稀羅さん、今のところ反応はありません。体を休めてください。』

「それはいいですね。」

 

プレデターフォームでヴァジュラに食いつかせてその体のうえに座った。黒いもふもふとした毛がなかなかいい感触。神機を握るちからをぬき、次の戦いに備える。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

作戦開始から4分。ダムの向こうは、すでに戦闘で忙しい。

 

「ねえ、シエルちゃん、その人形のなか、暑くないのー?」

 

ブラッドに入って間もない私に、たくさん話かけてくれた同性のひと。

 

「それほど苦しくありません。ご心配なさらぬよう。」

「うん、わかった。とりあえず5分後にみんなが来るのを待てばいいのかな?」

「ええ、そうですね。」

 

まっすぐで明るい性格。自分が持たないようなものを色々持っている彼女が、少し羨ましい。だから彼女と一緒にいれば、自分も少しは変わるかなと期待して、彼女に寄り添った。

 

「にしても、」

「はい?」

「うちの隊長もすごいけど、副隊長の稀羅もすごいなあ。さきの無線きいた?」

「ええ、こっちも慌てさせる、緊迫感溢れる無線でした。それほど奮闘なさってる事でしょう。副隊長が。」

「なんか2体の中型と大型で一気に片付いちゃったみたい。怪我してないのかな?」

「ヘリーがおりてこなかったので、大丈夫なのでは?」

「そうね。よし、あとはあたしたちね!精一杯がんばろう!」

「はい!」

 

副隊長、稀羅-ペル-メルディオ……ジュリウスと似ているようで明らかにどこかが違う気もする。また、彼にも一種の羨ましいところはある。何年もボディガードを勤めても、会話に馴染めない私は、あって間もないはずの副隊長に、ジュリウスとの会話の主導権を、あっという間に取られた。

私も、彼のように誰かの考えにすぐに馴染むことができれば……ジュリウスとは今ごろ、他のことも話せただろうに。

ただただ広がる蒼い空を寂しく眺めた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『偏食場パルス装置が停止!のこりの小型アラガミを一掃してください!』

「こっちはとっくに終わりましたよ、と。」

 

黒猫の後にはつまらない小型を、3体ほどしとめた。その間に神機兵側は大型の処理におわったようだ。

 

『制圧完了。』

『うっし、稀羅、終わったぜ。くたばってないよな?』

「ちゃんと足ついてあるよ。」

『一度合流すればどうだ?』

「わかった。」

 

血まみれの神機を肩にのせ、彼らのほうに向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「よし、俺は一度フライアに帰投する。稀羅、あとは任せた。」

「そう言うと思ったよ、全く。」

 

神機兵から出た隊長はなぜか少し体が濡れていた。

 

「中に何の液体を入れてるんですか、いったい?」

「まあ、近々教えよう。俺はヘリーがついたらそのまま行く。さきに彼女たちのほうに行ってくれ。」

「了解です。んじゃ、ロミオさんはここで神機兵が回収されるまで護衛してもらえますか?」

「あいよ。」

「それじゃ、ギル、行こうぜ。」

「ああ。」

 

隊長とロミオさんとわかれ、シエルたちがいる北のほうに向けて歩きだした。

 

「にしても最後は1人で担当するとはね、すごいぜ副隊長。」

「そんな褒めるなって。中型もう1体出てると、さすがに疲れはててたよ。」

「まあ、おつかれさん。」

 

その時、いきなり変な音がした。まるで金属どうしを摩擦させているかのような音。小さくも、しっかり鼓膜を刺激する。

 

「ん?どうした、副隊長?」

 

止まった自分を変に思ったのか、ギルが振り返る。ヘッドホンを外す。それでもなお聴こえた。

 

「なあ、変な音しないか?」

「変な音?」

 

おかしい。確かに今も聴こえる。

 

「つかれたのかな?副隊長。」

「いや、そんなことじゃないと思う。ほんとうに聴こえないの?あの金属をこするような音が?」

「わからないよ。」

 

どういうことだ?

 

音が聴こえる方は、ダムの一部が壊れ、沼のようになった海岸だ。

 

「ごめん、ちょいいってくる。」

「お、おい、ちょっと副隊長!」

「すぐ行く!さきに合流していて!」

 

ぽかんとするギルを置きざりに、音が聴こえる方にはしる。海岸の泥は靴をのみこみたいように貼りついてきた。

キイイーン

なんだ、この音。もしかしてアラガミ?

 

「フランさん、今俺がいる付近でアラガミの反応はありますか?」

『いいえ、なにも。』

 

耳がわるくなっただけなのかと思い、踵を返そうとした瞬間だった。海岸の向こう、海を渡ったところに、自然でつくられた洞窟が見えた。

 

「なんであそこに洞窟なんか……え?」

 

思わず声をあげたのは、その洞窟のなかで、こっちを見つめる視線に気づいたからだ。緑に光る、2つの塊が、むこうに小さい点となって見える。

アラガミか?

しかし、点は動かない。耳もとではいまだあの音が響く。

 

「フランさん、戦闘区域の外にもないんですか?」

『ありません、稀羅さん、捜索はいったん中止し、ミッションに戻ってください。』

「……そう、ですね。」

 

まだ動かないあの2点を見つめながらゆっくり下がる。そして、それを待ってたかのよう、2つの緑の点が消え、とてつもなく大きい咆哮がした。

オオオオオオ

これ、もしかしてガルムか?

反射でヘッドホンをかけ直すも、咆哮はすぐにおわり、静寂が訪れた。

 

『稀羅さん!12時方向で、感応種の反応!種別は…アンノウン?』

「フランさん、あいつ、逃げたみたいけど。」

『あ……はい。本当だ。いつの間に?』

 

なんだったんだ、あれ……。

耳鳴りも止んだ。結局どうしようもないまま空に目を向けた時、またの異変に気付いた。

 

「は?なんだ……あれ……」

 

深く蒼いはずの空は…真っ赤な雲で覆われはじめた。




まだまだあとばなしは残っております。
次回は水曜日ですかね。

ないものを一から作るのか大変だという気分をしっかり味わいつつあります。ましてや他の作家さんを敬いたくもなりますね。

いつも読んでくださる方々のためにもこの護衛任務話はしっかりまとめないとですね。


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護衛任務(下)-By my own invention-

「副隊長!」

 

さきに送ったはずのギルが走ってきた。

 

「あの咆哮、アラガミか?」

「多分そう。」

「どこにいる!」

 

返事の代わりにむこうの洞窟を指さした。

 

「あそこにいるのか?なら……」

「やめとけ、もう消えた。」

「な、どういう?」

「ただのだったみたいね。ただ、先の咆哮で天気が一気に狂いだしたよ。」

 

空をもう一度見ても、赤い雲は間違いなくこっちに動いている。

 

「ちょ、待てよ。あれって……」

「なにが?」

「赤乱雲じゃん!」

「へ?」

「知らねえのか?赤い雨の兆しだよ!」

 

ここまで言われ、はっとした。

赤い雨、触れたら高確率である病を発症させる、謎の多い雨。突如できあがった異常気象で、まだ不明な点があまりに多いといわれる。

 

「なら逃げないとやばいんじゃねえの?」

「何をいまさら!」

「くそ、フランさん、赤乱雲です。赤乱雲がきます!作戦続行は無理です!指示を!」

『反応確認しました!雨は降っていますか?』

「まだですが、あまり時間の余裕はなさそうです。」

『そちらには今ごろ、神機兵を回収するヘリーがついたはずです!まずはそれでもう一人乗れます!』

 

ならば……、

 

「ギル、行け!」

「ば、バカ言え!お前らだけ残して逃げろって?」

「ロミオさんと近いのは俺たち。けど俺は最後まで残ってお前らの帰りを見とどけないといけない。」

「しかし……」

「あまり好きじゃないが、ここは副隊長の権限をもって言う。ギルバート、ロミオと合流し、フライアへもどれ!」

「……ずるい事言うぜ!わかったよ……けど必ず全員帰投させろよ!そこまで言ったなら!」

「当然だ。」

 

その言葉を合図に、俺とギルはそれぞれ逆方向をとった。

 

「フランさん!神機兵αとβを運ぶヘリーが必要です!もう一台あります?」

『すみません、ロミオさんの方の1つだけです!』

「なら、フライアへ着いたらすぐに向かうようにしてください。」

『分かりました。ナナさんとシエルさんは?』

「こちらが何とかします。」

 

ちょうどナナと神機兵2体のところに着いた。

 

「副隊長、あれなに?」

「赤い雨だ、撤収準備をしろ!」

「うそー!」

 

シエルはまだ神機兵の中のようだ。

 

「副隊長、私は……」

「すまん、シエル。神機兵を回収するためのヘリーが来れない。わるいが、まだ中に入っていてくれ。」

 

ましてや雨が降りだしたら、生身での護衛はさらに難しくなるだろう。

 

「了解です。」

「まず俺とナナがもどって対策をとるから。それまでなんとか持ちこたえて。」

『稀羅さん!民間人用ヘリーがきました!ひとまずこれで!』

 

いつもミッション後の帰投につかうヘリーがきた。

 

「頼むぞ、シエル!ナナ、いくぞ!」

「はい。」

「うん、早くいこー!」

 

緑色のドアを乱暴にこじ開いてのりこんだヘリは、だんだん赤くなっていく空へ上がる。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

どれくらい飛んだのだろう。今じゃ1分を1時間と思ってしまうほど焦っていた。ついにヘリーがフライアへ着き、神機も格納庫に投げだすまま、ホールに駆けつけた。

 

「稀羅、やっと来たか!」

「シエルは?」

 

さっそく隊長とギルの出迎えだ。

 

「今は神機兵の護衛を任せてさきに避難した。隊長、なにか策はないですか?」

「それなんだが……」

 

隊長が言いだした時、カウンターのモニターからシエルの無線がながれた。

 

『神機兵β、背部に大きな損傷!フライア、判断願います!』

「背部だと?!回避制御の調整が甘かったか?いや、空間把握処理の問題か?くそお、なんでだ?」

 

九条さんにも予想外だったみたいだ。

 

「神機兵βを停止します。アラガミを撃退し、神機兵を護衛してください。」

 

当りまえの対応ではある。が、それでは、

 

「雨が降っちまったらどうしようもないんでしょ?」

「それは、そうですが……」

「いや、まだ間にあうかもしれん。フラン、赤い雨はすでに降り出したか?」

「いいえ。まだです。」

「なら、ブラッド各員!防御服を着用、および携行し、シエルの救援に当たってくれ!戦闘時に防御服が破損する可能性が高い。なるべく交戦を避けるようこころがけろ。」

 

はて、防御服?

 

「その防御服ってのはちゃんと機能はするんですよね?」

「ああ、開発に成功したのはフライアだけだが、本部からの承認はある。」

「じゃあ、はやくそいつを保管してるところを…」

「待て!勝手な命令を出すな!」

 

聴きたくもないあの声が遮る。

 

「グレム局長……」

 

ちい、よりにもよってこんな時に……。

 

「神機兵の護衛が最優先だろ?おい、アラガミに傷1つつけられないように守りつづけろ。」

 

こいつ、無茶苦茶なこと言ってやがる。

 

「バカな、赤い雨のなかでは、戦いようがない!」

 

隊長もさすがに無理な注文に堪えきれないようだ。

 

「俺がここの最高責任者だ。いいから命令を守れ!神機兵を守れ!」

「人命軽視も甚だしい!あの雨の恐ろしさは、貴方だって知っているはずだ!」

「なら、命令を違反するというのかね?ジュリウス君?」

「人の命を粗末にするような人間の命令など!」

「ほう、それではブラッド隊は、上司の命令を遂行しない名目上、解散させても文句はないだろな?」

「貴様……!」

「さあ、どうするかね、クホッ!」

 

突然この局長が呻いたのは、他でもなく俺が、その腹に拳をいれたからだ。

 

「この人でなしが!」

「き、稀羅さん?」

「副隊長……」

 

みんなが驚くなか、倒れかけた局長が立ちなおった。

 

「貴様!上司にむけてなんという………」

「黙れ、煙草おっさん分際で!フランさん、例の防御服ってどこ?」

「えっと、それが……」

「なんだと?もう一度言ってみろ、ガキ!」

「黙れと言っている!くそジジイ!耳まで煙草の粉で詰まったのか?!」

「ぬうっ!」

 

言を返せなくなった局長は何かの端末を取りだし、幾つかのボタンを押した。

 

「西側のとなりのビルです。そこの9階、非常用具の倉庫があります!」

「サンキュー。」

 

そこで、エレベーターへ向かおうと階段を降りようとしたら、防具で身をつつみ、機関銃を構えた兵士2人が道をふさいでいた。

 

「……なんだ、てめえらは。」

 

もう頭のてっぺんギリギリまで怒り度が増した。

 

「我ら、局長の直属の特殊部隊。」

「申し訳ありませんが、ここは通行どめにさせていただきます。」

 

そろいもそろって言ってくれるわ。

 

「へえ、あのジジイの命令をしかと受けとる猟犬と、」

 

一歩前に進むと、さらに銃をこちらにむける。

 

「じゃあ、たった今あんたらは俺をとめているこの瞬間、人間性をドブに捨てたもんだ……って覚悟しとけ!」

 

もっともこっちに近いやつの銃を左手で引っ張って、うしろに抜かし、そのまま喉に手刀をいれる。姿勢がくずれたそいつの顎をつかみ、残りの手を後頭部にそえ、一気に右上へ首をひねる。

 

「てめえ!」

 

もう一人の兵士が発砲する。それを今制圧したやつの体を盾にしてふせぎ、銃を奪って膝に何発か撃ちこむ。

 

「ぐあああ!」

 

倒れて膝を抱えるそいつの腕にも何発かいれ、動けないようにした。

そして機関銃の銃口を局長にむける。

 

「な、なんだと?」

「つくづく最低なやり方ね、ジジイ。ますます失望したよ。あんたが俺たちと博士たちを全員招集させて言ったことをもうお忘れか?」

「な、なにを?」

「'ラケル君、神機兵とブラッド。どちらも本当に損害を出さずにすむだろうな。'と仰ったのはどこのどちら様だっけ?」

「!」

 

は、今更気づいたか、アホが。

 

「さっきの命令といい、今といい、昨日の自分と矛盾しすぎだとは思わないか?」

「むうっ!」

「隊長も言ったが、あんたみたいな野郎の命令、きく耳なんかないから。」

「貴様!」

「おい、ギル。」

 

憤る局長は無視して、唖然とながめているギルをよんだ。

 

「な、なんだ?」

「これ。」

 

手にしていた銃をパス。両手で受けたギルは、さらに困った顔になった。

 

「そいつでそのジジイを引きとめていろ。変なスイッチ押しそうだったら遠慮なく撃て。」

「お、おう。」

「あと、隊長。負傷したこの兵士2人の治療お願いします。」

「……了解した。」

「他にシエルの救援に同行するやつはいるか?!」

 

いないのかと思ったその時、手があがった。

 

「俺が行く!」

 

ロミオさんだ。

 

「……オーケー。ジュリウス隊長とフランさんはここで状況の解析と知らせをしてください。」

「しかし、稀羅さん、赤い雨とアラガミの中で、たとえシエルさんが救出できても、脱出が困難になります。」

「まあ、それなりに策が1つあります。成功できるかどうかは、運と、あとはアラガミたちがいかにうまく騙されてくれるかかによるけど、」

「……わかりました。では頼みます。」

「はい。」

 

指定されたビルにむけ走りだした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロミオさんのレクチャーに従って防御服を着て(てかなんでこの人は知ってるんだ)、もう一着をもってホールにもどった。

 

「フランさん、神機兵輸送ヘリーは?」

「はい、ただいま動ける状況です。」

「無線繋げられます?」

 

フランさんが何度かキーボードを叩く。

 

「……どうぞ。」

「こちら、ブラッド副隊長、稀羅といいます、輸送ヘリーのパイロット、聴こえますか?」

『こちら神機兵輸送部隊のヘリー、どうぞ。』

「局長が怯えなさって動けないんで、こちらの指示をきいてもらいたいです。お願いできます?」

『ラジャー。指令をどうぞ。』

 

おや、けっこうすんなりだな。

 

「これからは神機使い1人と神機兵2体を回収する任務になります。まずこっちのヘリーの後をついてくる形で飛行してください。それ以降の指示はおって伝えます。」

『ラジャー、民間人用ヘリー発見。追尾します。』

「行きましょう、ロミオさん!」

「オッケー!」

 

格納庫で転がってた神機を拾い、目の前で離陸準備をすましたヘリーに乗る。やがてドアが自動で閉まり、空へあがる。

待ってろよ。シエル……。

あのむこうの、赤く成りはてた空を睨む。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「まず神機兵の回収ポイントについたら、すぐに動かず、その上空を飛行していてください。」

 

窓をみると、もう赤い雨が降っていた。貼りつく水玉はまるでひとの血のような感じ。

 

『アラガミのせいですか?』

「はい、で、アラガミをこちらで誘導しますので、合図をだしたら回収作業にあたってください。」

『わかりました!』

 

そして自分の乗っているヘリーのパイロットにも指示をだす。

 

「神機兵たちがいる地点の上空を通りながら、ダムの南端に飛んでください。そこで俺が降ります!」

『その後は?』

「ロミオさんをダムの中央で降ろして、いったん上昇してください。そして合図をだしたらシエルとロミオさんを乗せてすぐに離脱してください!」

『しかし、貴方は……』

「輸送部隊のヘリーをチャーターします!」

『りょ、了解です!』

 

さて、次はロミオさん。

 

「ダムの中央で降りたらまっすぐシエルに移動し、防御服を着せてください。その後はこのヘリーでフライアまで帰投です。いいですか?」

「了解!気をつけてよ。副隊長。」

「危険は承知です!」

 

最後にフランさん。

 

「こちらから合図をだしたらそれをヘリーのパイロット達に伝えてください!」

『お任せを!』

 

指示をだすのを終えたころ、ヘリーはまたもあのダムの上空に来ていた。ヘリーがだんだん高度を下げるのを見計らい、ポケットに残っていた偏食場パルス装置を起動させ、ドアを開けた。そしてヘリーはシエルに接近中のアラガミたちの頭の上を過ぎる。

 

『もうすぐ着陸地点です!』

「よし!」

 

ヘリーがダムの南を通った瞬間、飛びおりる。そして右手の装置を高くかかげ、さらに南へ走る。後ろをちらっと見るといくつかのアラガミが追ってきた。丘の下まで来たところで、装置を地面に深く埋める。

 

「少しはもってくれよ。」

 

そしてこっちに移動しているアラガミたちを少しでも引きよせようと、じっとする。

 

『こちら、ロミオ!シエルにむかって移動中!』

「防御服の着用が終わったらもう一回連絡してください。」

 

さて、どんどん近づいてくるぞ。

クアアアア

うわ、オウガテイル。

 

「お前と会うの今日で何度目だ?ね。」

 

なにも知らずにかかってくるもので、頭上から神機を垂直に下ろし、地面に埋めた。すぐに抜いて、今度は多少宙からかかってくる奴を、両足を切断するついでに遠くへ投げ飛ばす。

隊長からは戦闘は避けるよう心がけろといわれたものだが……。

 

「これじゃ無理ね……」

 

呟きながらまたもかかってくる小型のアラガミを右左へとなぎ払う。時々返り血が服について、どれが雨か血なのか見分けがつかなくなった。

そして、カブトムシの装甲の隙間に、神機を差しこんで剥がして、中身をつき刺したころ、無線が耳もとで響く。

 

『こちらロミオ!シエルと合流し、防御服の着用も終わった!』

「了解、フランさん!」

『どうぞ。』

「民間人ヘリーがシエルとロミオさんを回収するように、あと、輸送部隊にも行動を開始するようにつたえて!」

『了解です。』

『稀羅!さらに多くのアラガミがそちらに向かっている。その数、およそ30体。ほとんど中型や大型だ!急げ!』

 

隊長からのありがたい(?)情報だ。

 

「ほんと時間が惜しいね、これは……」

 

雑魚を適当にきり裂きながら、とりあえずダムの中央をめざす。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

開始からどれくらい経ったのかやら……

動きだしてから小型を10体、中型2体を仕留め、ダムの中央に着いた。

 

「隊長!偏食場パルス装置、残り時間どれくらいですか?」

『あと、2分42秒!半分を切るぞ!』

 

互いにギリギリな状態……

 

『こちら、ロミオ!戦域を離脱!フライアに移動中!副隊長、そっちは?!』

「なんとかなりそう。」

 

本当は違うけどな。

作戦自体はあまり時間をかけないつもりだった。ただ、この雨は輸送部隊にも予想外で、神機兵の収納に足止めをくっているようだ。

 

「フランさん!輸送部隊はまだ?!」

 

さすがにもう疲れた。いくら脱出とはいえ、相手したアラガミの数は想像を絶している。幸いなのは、未だ防御服はどこも破れていないこと。

 

『来ました!神機兵の収納完了!稀羅さん!』

やっとか。

「無線繋げて!」

『こちら、輸送部隊、回収終わりました。稀羅氏、今どこですか?』

「そっちに行くからまず3メートルくらい上昇していてください!」

 

後は、俺だけ!

ポケットの中、残りのスタングレネードを取りだす。全部で4つ。

 

「それっ!」

 

ピンを外し、1個を肩越しに投げ、全力疾走。しかし、まだダムを渡りきるには……

クオオオ

キャアア

クルアア

どういった鳴き声百重奏ですか?!

とにかくうしろを振りむかず、グレネードを撒きながらただただ走る。そしてダムの終わりが見えてきた時、もう一個を投げた。鮮やかな音とともに炸裂する閃光が、またも奴らの視界をうばう。

もうちょっと、ほんの少し!

顔のまえに被った透明フードと赤い雨で、限りなく悪化した視界のさきに、風を起こして浮遊している黒いヘリーが見えた。

 

『うわあ!アラガミだあ!』

「いいから急上昇の用意!」

 

3個目。今度は後ろをむいて力いっぱい投げる。そして爆散するのを待たずにヘリーの足にむかってジャンプ。

届けー!

強化された体は裏切らなかった。ヘリーの足にしがみつき、叫んだ。

 

「イッケぇぇぇ!」

 

轟音と風を切る音を伴い、体が空に引かれる。徐々にアラガミたちが小さくなっていた。

これで一安心か?

 

『稀、稀羅氏!アラガミです!飛んできます!』

 

あ、そ。

慌てるパイロットとは大違いに、今の俺は頭が澄み切っていた。

 

「あばよ、クズども。」

 

最後のスタングレネードのピンを歯で外し、ぽろっと落とした。そして一瞬の光のあと、俺の目には地に堕ちていく何体かのアラガミが映った。




さて、終わりました。神機兵護衛任務。
ほとんどオリジナルでしたのでまあ…ふむふむと読みながしてくださっても結構だったとも思います。

これは座談ですが、ワイヤレスのキーボードを購入し、パソコンのように打ち込む練習を始めました。やっぱ慣れませんねwwもうちょっと早くうてるようにしないとな。

あと、もう一つ。友人とダウンロードミッションの、
亡国の血戦
をタイムアタックに挑発し、なんとか1分48秒を叩き出しました。あ、ちなみに僕はバスターで、むこうはショートです。チートは使っておりませんので誤解なさらないでください。

それではまた土曜日にお目にかかります


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罪と贈り物-Especially severe you-

土曜日とは言っていましたものの、少しペースをあげてみようと思いまして書きます。(明らかに迷惑だなこれは)
ま、まあ、細かすぎるのはお気になさらずどうぞ。


ヘリーに吊るされたまま10分くらいは飛んだ。そろそろ腕と肩が痛い。

というも、まだ赤い雨の領域の内だもんな。

ひき上げるには少し勇気がいるだろうとしみじみ思う。

なのに、何故かドアが開いた。見上げると、これが人ではなく神機兵だ。ドアの端を片手でつかみ、もう一つの手をこっちに伸ばしている。

 

「上げてくれるのか?」

 

反応なし。掴むか……

 

「うおっと!」

思った以上の大きな力に引っ張られ、気づいたらヘリーの床を転がっていた。

 

「あ、稀羅氏!よかったです!いつになったら救助できるか心配していました。」

 

ほらね。

 

「神機兵が独断で動いたんですか?」

 

フードを外す。

「あ、はい。急に動きだしてびっくりしましたよ。」

 

神機兵をもう一回しっかり眺めた。しなやかな筋肉質の体に、それをしっかり守ってくれている、薄くて丈夫な灰色の装甲。まるで西洋式の鎧をさらに密着しやすくしたような作りだ。もっとも、こっちをじーっと見つめる赤い2つの目が印象的。

ありがとな。

心でそう呟きながら、そいつの膝に軽いパンチをいれた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

さらに10分くらい飛んで、フライアについた。

といってもどうせあの中ではお祭り騒ぎなっているだろうね。

その張本人の俺は苦笑せざるを得ない。いつの間にか雨の止んだ空を確かめ、地面に降り立つ。

 

「うおっ」

 

すると、いきなり誰かに抱きつかれ首が締まる。

 

「……よかった、」

 

声からするとシエルかな。ていうか

 

「チョ、シエル、イキガ、イキガ!」

 

恐るべし、この子の腕力。

 

「す、すみません!」

「い、いや、大丈夫。(なんとか)」

「雨に濡れなさってはいないのですか?」

「ああ、こいつがあったしな。」

 

黒色の防御服は雨を浴びすぎたせいか、まるで血塗られている格好だ。

 

「おお、副隊長!ちゃんと両足ついてあるよな?」

「怪我も、死んでもいないっすよ。」

 

ロミオさんだ。こっちの濡れ具合もなかなかのもので。

 

「とりあえず、中に入ろうよ。みんなに顔見せないと。」

「あー、それなんですけど…」

「うん?どうした?』

「盛大な歓迎式はどうも無理っぽいっすね。」

 

わずか1時間も満たない以前に顔を合わせた、例の特殊部隊さんたちがわざわざあんな大勢でお迎えとはね……。

 

「これは確か、局長の……」

「ええ、直属だと。」

「げっ、もう来たの?」

 

一斉に銃口がこっちに向かれる。

 

「ブラッド副隊長の稀羅-ペル-メルディオ、貴方を命令違反、および暴力行為に基づき、逮捕いたします。」

「副隊長、一体これは?」

「んまあ、あれだ。シエルを助けるのにちょいと面倒な出来事があったって訳さ。」

 

それよりもこいつら、急かしすぎだろ。もうちょい時間くれってんだ。

 

「いいぜ、喜んで捕まらせてもらうよ。捨てるのは神機だけでいいかな?」

「他、小道具があるならそれもです。」

 

あえて神機を地面に突き刺す。これにビクッとした、情けねえ連中は無視することに。ポケットの回復錠とトラップを放り投げた。

 

「手を頭の後ろで組んで、背中を向けてください。」

 

いわれるがままにすると、未だ状況がのみこめないといった2人が映る。

 

『あとはよろしくな。』

 

果たしてこの口パクがどこまで伝わったのかな。

そうしている間に俺のズボンのポケットを探っていた兵士が、手錠をかける。

やれやれ、こんなもので体を強化された神機使い1人を抑えられるのかよ。

 

「連行しろ。」

 

そして両腕をぐいぐい引っ張られる状態で中に入る。チームメンバーと顔を合わせたものの、わざと視線をそらした。

そして隣のビルの地下深いところまで移動させられ、やっと着いたところは、鈍い色のシメント製の懲罰房が並ぶフロアだ。

右側の6番目の部屋に入る。運がよく、カビやネズミはなさそうな、清潔な部屋だ。作って間もないのだろう。

 

「貴方の処遇は後日決まる予定です。それまでこの部屋で待機してください。」

「へい、お疲れ様。」

「何か言い残したいのはありますか?」

 

おや?そんなことまで認められるんだね?

 

「んじゃ、今回の事件の責任はすべて俺のほうに回してくれよ。全部俺が勝手にやったんだから。ただし、証人はジュリウス隊長にさせて。あの人ならもっとも客観的な視線で言ってくれるだろうから。」

「いいでしょう。」

 

大きな金属音がフロア中に響き、出口はかたくロックがかかった。

さーて、これからなにしよっか。

適当にベットに座り込む。だがその瞬間、適度の硬めのよさによる、座り心地の素晴らしさに感動した。

何これ。以前の部屋のベットよりずっといい感じじゃん!

手錠のかかったままの手は気にせずにゴロゴロする。これなら何の違和感もなく寝れそうだ。むしろこのベットを提供してくれたあの部隊に感謝したいとも思う。

 

「ふわああ……」

 

やばい。一気に眠くなって来たわ。まあ、あんなに動いたもんな。しかも前日のほぼ徹夜に近い夜明け。

 

「寝よう。あ、その前に……」

 

若干両手に力を入れ、思いっきり反対に引っ張る。一見かなり強度のありそうだった手錠は、虚しく壊れてしまった。

これを見たあのジジイの顔はとんだ見ものになりそうね。

再びベッドに転がりながら笑を堪えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

久々の熟睡からの目覚めは、灰色の天井から。それで自分が監禁されているのをうっすら実感する。

さて、腹が減ったぞ。何か食えるもんはもらえないのかね。

といっても監禁されているのはどうやら俺1人だ。ましてや監視員も見当たらない。一方で警備のおろそかさにあざ笑いつつも、そこまで設備に自信があるのかと疑いたくもなった。

そんな時、誰かの足音がきこえる。堂々とした歩きではなく、泥棒のように静かに歩いてる音だ。

 

「そこ誰?」

 

足音が止む。

もうちょっとうまく歩けないかね。

 

「ふ、副隊長、もうお目覚めですか?」

 

シエルがそーっとドアのちっちゃい窓から覗く。

 

「おう、結構眠れた。そっちこそ体調はどうだ?」

「快調です。おかげさまで。」

「そうか。」

 

流れる沈黙。これはこれでなかなか気まずい。

 

「なあ、シエル。それでここに来たのは?」

 

ほんの何時間前までだと、さん付けをしていたが……。

 

「その、稀羅さんの処遇が昨夜決まりました。」

「お?そうか。」

「除隊はないそうです。本部からはむしろ、人の価値を格段に下げた命令を出してしまったということで、グレム局長を査問会に召集しました。」

「え、まじで?ははは、たまんねぇ!」

 

自分の笑い声がフロアに響き渡る。

 

「おっと、ごめん。シエルもいるのに、」

「いえ、お気になさらず。それより、稀羅さんが局長と兵士2人に危害をくわえたということで、監禁2週間だそうです。」

「妥当だよ、いたって正当。異議なし。俺は。」

「でもそれでは私が困ります。」

「へ?」

 

彼女の発言に、笑いがとまった。

 

「だって、副隊長がここにいては、誰が私を導いてくれるんですか?誰がチームのみなさんを助けてくれるんですか?」

「それは……隊長がいるじゃん。」

「いいえ、ジュリウスだけではダメなんです。彼は不器用すぎる。」

 

まさかのシエルからの爆弾宣言。

 

「私がこのブラッドの一員として戦ってきて思ったのは、みなさんが作戦や訓練もなしに、まるで心が通じあったような、役割をしっかり認識した連携のある行動をしていたことです。そして、その真ん中には…副隊長、貴方がいました。」

 

……自分の行動を、ここまで真面目に受け取ろうとしてくれる人って本当にいるんだな。

 

「じゃあ、代わりというのもなんだけど、シエルがジュリウス隊長を手伝ってやれよ。」

「へ?」

「俺はどの道2週間は出れないし。頼りになるのはお前だ。不器用でもいい。最初から完璧にできるなどありはしないし。」

「し、しかし、私は口下手で……先方でリードするなど……」

「周りの誰かを、特にチームのメンバーを誰よりも深く考えているのは君でしょう?」

「そ、そんな……」

「じゃなきゃ、先のような言葉は言えるわけがないでしょう?」

「!」

「俺からすると、シエルは自分にとても厳しい奴だよ。んまあ、昔の育ちの影響もあるだろうけど。それでもシエルは自分が足りないところを、周りから見習おうと必死に努力してると、思うよ。だからこそ、よりみんなをじっくり観察しているし。」

 

そう、彼女の日常を見た回数は少ないが、皆がわいわいと話し合うところを、少し離れて眺め続ける彼女を見たことがある。

 

「だからさあ、今回も自分のためだと思って、やってみなよ。誰も責めはしないさ。努力する奴に口なんてだせるもんか。」

「……。」

「シエル?」

「じゃあ、あの……その、ここから出てからでも私を見守ってくださいますか?」

「そうね、日に日に変わっていく仲間も見たいし。」

「仲間……」

「うん?」

「えーと、その、こんな時にはなんて言えばいいか……ちょっと待ってもらえます?」

「うん。」

「……私と、友達になってください!」

「……へっ?」

 

急に頭のどこかで思考が停止した気分。

 

「へ、変でしょうか?」

「変と言うか……妙だね。」

「何が……ですか?」

「いや、俺はもうシエルと友達になっているんじゃないのかと思ってたからさ。」

「い、いつからですか?」

「シエルと同じチームの仲間になったその瞬間。一応友達の基準は人それぞれだけど、少なくとも俺にとっちゃ、シエルはもうその時から俺の友達だった。」

「じゃあ、どうすればいいんでしょうか?」

「うーん、友人でも、とびっきり仲のいい、親友になろうか?といっても単に仲がいいだけじゃダメな気もするけど。」

「親友……」

「もちろん嫌なら友達でいいよ。そしたら、」

「親友になってもらえますか?」

「……おう。」

「あと、副隊長のことを時々、君、と呼んでいいですか?」

「逆にそう呼んでこなかったのかを聞きたいね。」

「だって、あの……君が……私の……初めての親友ですから。」

 

昨日、隊長との会話を思い出す。軍閥の娘。

となると、マグノリア-コンパスでも軍に関連したことばかり学んで、その裏で友達をつくる機会なんてないに等しかったんだろうな。

 

「そうか、そうだよね。わりいな」

「何を?」

「いや、いろいろ。そうだな、よろしくな、親友。」

「……はい!」

 

その時、彼女の声が嬉しさで弾んでいたのは言うまでもないだろう。

 

「と言うわけで、しばらく外のことは頼んだよ。負担かけてしまうけど。」

「お帰りを待っています。」

「ありがとう。」

「最後に、その……一度手を握ってもらえませんか?」

「はい?」

 

さらにこれはなんちゅう状況かな。

 

「あ、いいえ。ただ、その……あう……。」

「ほい。」

 

手が一つギリギリとおるその窓に右手を突っ込んだ。すると、暖かいぬくもりが宿る。

 

「これが……私を助けてくれた人の手……とっても、暖かいんですね。」

「……。」

 

ただ、なにも言わず、優しくその両手に握りかえした。

すると、ほんの一瞬、胸の奥が熱くなって、全身に渡る。

 

「えっ、」

「今の、あの時の…」

 

血の覚醒。

 

「すごく気持ちのいい熱がこみ上げてきました。なんでしょう?」

「多分、血の力の目覚め、」

「な、まさか。」

「俺が最初に感じたのと似てるな。」

「そう、ですか……」

 

俺の手を握る彼女の両手に、さらに力が加わる。

 

「大事に使います。」

「……あいよ。」

 

今しばし、このぬくもりに身を委ねよう。




原作から外れすぎましたね、なんだかんだで調和はできているもんですが。
とりあえず予定として日曜にもう一回載せる予定です。極東支部、間も無くですね。


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整頓されていく各様の歯車-Other's feeling-

どうもです。
一応日曜出せたものの、時間ひどいっすね。
とりあえず、今回もどうぞ。


「へえ?120発かあ……」

「ああ、一応サブマシーンガーンとしては当たり前にもなるがね。」

「弾倉はマックス何個?」

「俺は3個ね。先輩には4個持つ方もいるけど。」

 

懲罰房での14日目、昨日から入れ替わった特殊部隊の兵士さん(男)と、彼が肩にかけている銃で話が弾む。

 

「じゃあ、あの時俺が強引につかったのは別のものかもな。」

「うちらのベテラン2人を病室送りにした事か?」

「え?あれでもベテランなの?」

「ああ、それがな、こっちの話なんだが……」

 

急に声を抑える。

 

「この特殊部隊とかなんやらって、成立して1年すら経ってねえんだ。」

「最悪だね。」

「最悪さ。年齢も実力もバラバラで、統率する隊長さんも面食らっているさ。逆にそっちはどうなんだ?ブランドってのは?」

「まあ、メンバー間の多少の衝突はもちろんあるけど、」

 

脳裏では例の2人のことが……

 

「別に支障はないと思う。」

「あんな化け物たちになんの役にも立たねえ民間の部隊より、あんたら神機つかいになればよかったものを。」

「適合は?」

「ご覧のとおり、無理だったぜ。ったくよ。」

「今にもなりたいとは思ってるか?」

「さあな……あの時、自分の限界を知った頃にもう諦めたからな。」

「そうか……」

 

ドアを間において話しているものの、なんとなく今の彼の表情を伺える。

 

「あんたはどうだ?」

「うん?」

「神機つかいになってよ、後悔はしてないのかってさ?」

「今のところ、ないね。」

「ははっ、そうか。なら助かる。」

「まだ夢見れるから?」

「そのとおりだぜ。」

 

人はやはり生きながら、自分と性に合う人とは確かに会えるみたいだ。その証拠に、相手が何を思っているのかさえも、素直に心から読み取れる。たとえ会って間もないといえども。

 

「それより、」

「うん?どうした?」

「明日で釈放だな?」

「……そうね。」

 

一気に押し寄せる現実感。同時に、せっかく気のあったこの人との別れも、言われずとも自覚する。

 

「また会えるかね?」

 

向こうも考えるのは一緒のようだ。

 

「会えるといいね。珍しい組みだしな。」

「ははっ、そうね……わりいな、変なこと言っちゃって。」

「いや、いいさ。」

 

14日目は最後まで彼との会話でゆっくり幕を下ろした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

1日目から早速ぶっ壊した手錠については、結局なんの処置もされなかった。しかもそれを特殊部隊が気づいたのは、釈放日の今日でやっとだ。忍び笑いを漏らしながらエレベーターで10階に上がる。

さて、今は昼間。みんなミッションにでも行ってるのかね。

呑気のまま見据えた、開いたドアの向こう。頭に浮かべたあの5人が並んでいた。

 

「……どういうシチュエーションっすか、これは?」

 

おいおい、集団でサボりか?まさかの。

 

「あー!来た!副隊長ー、」

「お待ちしておりました。」

「ったく、長いもんだな。」

「やっと帰ってきた。」

「おかえりだ。副隊長。」

 

全然気にせず言いたいこと言ってくれるな。

一方で2週間ぶりのチームメンバーは、誰もが傷も、除隊も、何もされていない。そう、変わっていなかった。本当は単にそれが、嬉しくも思える。

 

「ミッションとか大丈夫なのかよ。」

「最初の言葉はそれか?もうちょっと他に言うことあるだろ?」

 

ギルに指摘され、あえて口にした。

 

「はいはい……ただいま。」

「「「「「おかえり!」」」」」

 

待ってかのような返答。

とりあえず、これでいいか。どうせ細かいのも後でうるさいほど聴けるだろ。

ゴッドイーターとしての騒がしい日常がもう一回動きだした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「護衛任務時、副隊長が最初にお気づきなされたアラガミについてです。」

 

メインホールへ入るなり、シエルを中心とした、ブラッドでの情報交換が始まった。ちなみに場所はディスプレイの前。

 

「まずは、これを。」

 

リモコンを操作し、2つのファイルを取り出す。2つともなんらかの曲線グラフだ。一見して思ったのは、

 

「似ているね。」

 

波の増幅から、その数まで。完全一致まではいかないものの、まるでコピーしたものに少しだけの手を加えられたような形。

 

「ええ、この2つのグラフは非常に似ています。上の緑のはマルドゥークの、下の赤いのがアンノウンとされるあの時のアラガミです。」

「マルドゥーク……か。」

 

否定はしない。元を言えば、あの鳴き声自体をきいてすぐに思い出したのがそいつであるもんだ。

 

「この2つのグラフより、2頭のアラガミが同種別であることが明らかなのですが、問題は、どれが進化以前で、進化以降なのかがはっきりしないのです。そこで、実際にそのアラガミ双方に対峙した副隊長の意見が聞きたいです。どれが、進化以降だとお思いですか?」

「俺はどっちかと言うと片方は超遠距離で見たものに過ぎないぞ?」

「それでも、部隊全員が感じ取れなかったのを、唯一聞き取った君にこそ聞きたい。感覚だけでもいい。」

 

と言われましても隊長さんよ。

 

「はあ。これはあくまでも俺の直感だよ?あてにしないでよね。」

「お願いします。」

「進化したんだと思う。あのアラガミは。」

 

集まった全員の顔が引き締まった。

 

「なんだか覚悟してましたという顔ね。」

「はい。実は、まだ幾つかの情報があります。まずは、副隊長が聞き取りなさったあの金属音についてなんですが、なぜか隊長の無線機のほうにのみ記録されておりました。」

「はあ?嘘だろ?」

「私が調べた結果です。稀羅さん、帰ってきたのなら挨拶一言くらいください。」

「は、はい。すみませんでした。」

 

フランさん、出るタイミングが神の領域だとは思わないんですか。てか明らかに怒ってるな、この人。

 

「私のパソコンの端末には、みなさんの無線機が記録したあらゆる音をセーブしています。」

「それが、こちらです。」

 

次に出されたファイルは小さく6つ。ミッション当時の時刻が表記され、一本ずつ緑の線が引かれたままブルブルと震えている。

 

「音波探知機といって、音を識別する機械の表記です。」

 

そして、上から2番目のグラフが突然上下に激しく動きだした。連れてあの時に聴いた金属同士を摩擦させるかのような音が響く。

 

「そう!あれだよ。あの音。誰も聴いてないの?」

「正直、ここで聴いたのが副隊長以外は初めてです。」

 

逆にすごすぎて笑えない。

 

「結果、この音は副隊長の仰るとおり、なんらかの金属の摩擦もしくは連打の音と判断しました。また、この音は……マルドゥークには備わっていません。」

「やっぱりそうなる?」

「稀羅さんだけが聞き取ったといのが私は不思議です。どの無線機も性能の差はないのですが。」

 

この点についてはオペレーターのフランさんも答えを出せなかったみたいだ。

 

「それで、他には?」

「はい、最後はこれです。」

 

既存のファイルがすべて消され、3つのファイルが浮かぶ。

 

「これはラケル先生の助けで得られた、偏食場パルスの記録です。稀羅さんがあのアラガミと出会った時、そのアラガミが消えた後、そしてその後の様子です。」

 

最初のファイルは記録なしだ。そう、確かフランさんも見つからなかったっけ。

2つ目は大きい赤色の円が多数重なって表記され、最も中心から離れてしまったところでその数値が出ている。3つ目は2つ目よりも小さな円が中心の付近でウロウロしているかのような形だ。

 

「にしてもラケル先生はどうやってこの記録を全部とってるんだ?」

「ラケル先生の研究室には、24時間フライアの半径4キロメートルまでの偏食場をチェックできる機械があるそうです。」

 

便利なもんで。

 

「それで、やっぱり。あつつが叫びだした直前までは何も表示されてないな。」

「そこでラケル先生と私が出した1つの結論ですが……」

「出せたの?」

「はい。推論に過ぎませんが。あのアラガミはマルドゥークの進化種のゆえ、新たにできることが増えている。その1つは、固有の偏食場を自由に隠したり表すことができるということ。」

 

ぽかーん。ってのが俺の第一反応。おそらくほとんどみんな同じだとは思うがね。

 

「その偏食場はどうやって記録されるんだ?」

「よろしければ説明しますが……」

「いや、ごめん。また次回にしてくれ。」

 

絶対パンクするわ。

 

「つまり、あれか?通常のアラガミなら絶対できるはずのないことをできていると……。」

 

ギル、お前は賢くてよかったな。

 

「そういうことです。アラガミとなった以上、必ずそれが手にするのは偏食場です。これはコアというものをもつ彼らには、いかにも自然のことです。」

 

コアか。

 

「んじゃ、あの変なアラガミのコアはいきなり消えたり、生えたりするのかなー?」

 

な、ナナ。さすがにその予想は今の説明と食い違いすぎだよ?

 

「あり得なくはありません。」

「まじで?」

「もともと記録にない時点で、私たちの常識や予想を越えたということです。ここまで来たら、もはや常識を外すことだって必要でしょう。」

 

真顔で言わないでくれ。今その常識ってやつさえも完全に押さえてないから、俺は。

 

「それで、記録はそれが全部か?」

 

隊長が仕切り直す。

 

「あ、はい。とりあえずあまりわかっていることが少なすぎる、という点でしょうか。」

「足りない情報はいつかは得られる。急ぎすぎても無駄だ。ただ、今俺たちが抑えなきゃならないのは……」

 

全員の目が隊長に向く。

 

「あのアラガミはいずれ大きな脅威になりうるといったことだ。」

「そうね。あの子が来たら、また赤い雨が降っちゃいそうだし。」

「赤い雨って、前の神機護衛任務の時に降ってたやつ?』

 

やっとロミオ先輩の口も開く。

 

「あの雨に濡れるとマジでヤバイんだよね?」

「なんだっけ、あれでしょう?こくしゃ、こくしぇ……」

あ、それってもしかして……

「黒蛛病。」

 

シエルから答えが出た。

 

「赤い雨に濡れることで、高い確率で発症する病、通称は黒蛛病。現段階において有効な治療法は確率されておらず、発症した場合の致死率は、100%とされています。」

「ぬ、濡れなきゃいいだけだよ。」

「病気は嫌だね、食欲なくなっちゃう。」

「いや、むしろナナは増すと思うぞ。」

「むー、副隊長、それ酷くない?」

「さあな。」

 

とか言ってる自分のなかでも、今の説明でなんだか頭が少

し痛くなった気がする。これは確か前にも、なんらかの記憶がもどる度の症状。

 

「赤い雨の話についでだが、副隊長、今この付近は3日前から赤い雨が続いてる。そのせいでミッションはできていない。」

 

ギルからのありがたい情報。

 

「それで今日全員、俺の釈放に迎いに来れたのか。」

「そのついでに、ブラッドのみなさんに連絡です。」

 

今度はフランさん。

 

「今日午後7時ころ、極東支部に到着する予定になりましたので、各自の荷物をまとめてくださいね。」

「「「ええええ???」」」

「へえ、もうそんなに。」

「なるほど、至急取り掛からねばな。」

「了解いたしました。」

 

彼女の連絡に驚いたのが誰なのかは言わないでおこうか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

情報交換の直後、ブラッド隊は各自の部屋に戻り、荷物まとめに忙しい他なかった。ただし、一部の人のみ。

その例外の俺は、前に洗濯をし、干していたジュリウス隊長がくれた服装に着替え、ブラッド制服の洗濯をしていた。

 

「でもまあ、まとめるもんはないね。」

 

1ヶ月もいたわけでもないんじゃ、こんなもんだ。ずっと部屋で洗濯機を眺めているのも変で、静かになったホールに下りた。頭のなかは色んなものでぎゅうぎゅう詰め。少しでも解消しようとついでに、次のミッションでの支障がないようにと訓練を受けることにする。

 

「あ、稀羅さん。」

「まとめるものもないんで、」

「そうだと思いました。じゃあ、訓練ですか?」

「とびっきり面倒なものでかつ、時間潰せるやつで。」

「それではダミーの60体を3体同時に出すという仕組みでやって見ましょう。」

 

おお、彼女もやる気あるみたいだ。

 

「了解。今から向かいますんで。」

「……あの、冗談のつもりでしたが……」

「……に聞こえませんよ。」

「なぜですか?」

「逆に誰が今のを冗談と思えるんですか?」

「…………」

「…………」

「……ぷっ」

「ちょ、」

 

そこで彼女が、リミッターが外れ軽く笑ってしまう。にしてもなんで笑っちゃったんだろう。

 

「んもう、冗談の聞かない男。」

「仕事柄での冗談は控えてくださいよ。」

「でもこれで、はっきりしたんじゃありませんか?」

「へ?」

「また……無茶しようとしてますし。」

「……すんません、」

「よろしいです。全く、なんですか前のミッションは。自分を囮にしてみんなを助けようとなど。一歩間違えば、稀羅さんがシエルさんの立場になりましたからね?」

「はい。」

「ふう。といっても、どうせ向こうでも無茶しそうなのが目に見えです。」

「成り行きなんですから少し理解……」

「できません。」

「はい。」

 

ダメだ、勝負かけるんじゃなかった。

 

「せめて……」

「?」

「また会った時に、ボロボロの状態でも生きていてください。命令ではありません。私個人の願いです。」

「生きていろ……と。」

「ええ、死んだら、一生その魂まで恨んであげます。」

「……はい。」

「ふう、いいですよ、もう。訓練、入りますか?」

「えー、はい。多少控えめってことで、小型を1体ずつ50体討伐で……」

「却下。」

 

ですよね。

 

「と私がいくら言ってもやるんでしょう?」

「え?」

「一先ず10体で。様子見て、ガンガン追加していきます。いいですよね?」

「お、おおせのままに。」

「なんですか、その変な言い方は?」

「なんでもないです。」

「では、どうぞ。いってらっしゃい。」

「ありがとうございます。」

 

表情管理に困ったまま、カウンターを後にした。

正直、彼女が正しい。自分だって無理を強いて行った策でもあったからだ。でもあの時にああしたように、緊急な時にはどうもあんな風にしか俺の頭がまわらない。そんな自分を死にたがりだとも己を罵ったことがあるのを、彼女は気づけたんだろうか。




予想よりも書きたい内容が増えてしまい、極東支部に着くのは次回になりそうです。
アナグラにつくとさらにカオスになりそうで怖いんですが。


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離別と再会-Silver flute calls blue book-

またも遅い時間にしかも5000文字とやは、
面目ないです。




霧散されずに残った死体で、訓練場が埋まり尽くされそうになった。

 

『50体終了。どうします?追加しますか?』

 

かれこれ2時間は経った。10体のはずの最初の目標は、開始10分満たずクリア。

 

「5体追加。一気に。」

『またそんな注文を……』

 

とか文句を言う彼女だが、しっかりダミーのオウガテイルを出してくれる。

飛びかかってくる1体を刀身の先で突き返しながら壁まで追い込む。勿論デカイ風穴が空いたままエンド。

次に来る奴を、下へ体をスライディングさせてかわし、尻尾を捕食。そのまま大きく2回転振り回す。追い打ちを仕掛けようとした連中は、回転に巻き込まれた。適当に捕食を辞めて放すと、4体まとめてあちらへ。それをチャージクラッシュで全部バラバラにすることで5体討伐。

 

『終了。追加します?』

「極東支部まであと何時間っすか?」

『えーと、2時間半くらいです。』

 

だいたいの戦闘感覚は取り戻した。まあ、一部は偏食因子のおかげだとも思うが。問題は次だ。

 

「ブラッドアーツ」

『ブラッドアーツでしたら何度か拝見させていただきましたが?』

「あれ弱い気がします。」

『え?床に穴を掘るくらいの威力はありましたが。』

 

彼女が言っているのは、振り下ろしに血の力をつけたやつ。一応名前は決まってない。しかし、あれを訓練で度々使いながら思ったこと、

 

「何せ、単体仕様になっちまいます。あのままじゃ。」

『それでも中型や大型にはかなり向いているとは思いますが。』

「いや、一撃が命のこの武器じゃ、もうちょっと力を出してもらわないと。」

『2体以上を同時に出させたのはそういう訳でしたか。』

「なんかいい方法がないっすかね」

『チャージクラッシュはいかがですか?先も4体まとめて処理したものですし。』

「でも一箇所に集まってる時にしかできませんよ。ああ言うの。」

『でもそれは縦の一撃ですから。』

 

うん?まてよ。

 

「フランさん、今のもう一回。」

『え?縦の一撃ですから……何か?』

「……横に振ってみようかね。」

『あ、それは。』

「できそうじゃないっすか?」

 

オラクル現象で刀身が2倍になるやつだ。たった一瞬のものじゃ勿体無さすぎ。

 

『でしたら、もう少しそのオラクルによる刀身を延長させる必要がありそうですが。まして振り回すつもりでしたら。』

「あ……」

 

確かに、せっかくなら、ね。

 

「ちょっとやってみます。」

 

肩の上にとどめることで姿勢を取り、神機を握る手に力を加える。やがて微弱に振動する神機に、赤紫のオーラがまとわりつく。

 

『それで通常のです。』

 

そう。そしてここから、

 

「ふうっ!」

 

最初にあの技を放ったように、体ではなく、心の奥から解き放つ力を。そしれそれを手の位置まで運ぶ。そして、

 

『オレンジ?そんな色になりました!』

 

どうやらオーラの色が変わったようだ。

 

「長さは?!」

『お見事です!3、いや、4倍?』

「うらああ!」

 

力を入れたまま左側に落とした神機を、右足と腰を後ろに引くことで遠心力を無理矢理つくり、一気に右側までなぎ払った。最後に肩のところまで持ってくることで力を抜いた。

 

『今の……すごいです。』

 

感嘆に浸ったフランさんの声が流れた。確かに形的にはこれでいいんだと自分でも思った。けど、

 

「やっぱ、実用化には少し工夫を入れないと。」

『そうですね、放つまでの時間がかなり長いです。』

「しかも体力消費も酷いな、これは。」

『でも完成したら、とんでもない技になりそうです。』

「もう一回やってみようか。」

 

幾つかの改良の要素を浮かべながら、また神機に力を入れた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お疲れ様です。中々見えて来たのではありませんか?」

「はい。コツなら掴みました。あとは実践でいかに活かすかですけど。」

 

およそ1時間。新しいブラッドアーツ開放はなんとか上手くいった。通常より貯めるための時間が1.5倍になったことを除けば、長さは4倍まで伸び、それを横に振るうことができる。

 

「とりあえず極東支部まで間もないので、シャワーとかでしたら今のうちに済ましてください。」

「そうですね。」

「あと、そのまま荷物を持って下りればどうです?」

「はい。んじゃ失礼します。訓練の付き合いありがとうございました。」

「せめてこれで稀羅さんが生き残る確率が高まればいいのですが……」

「そこらへんで終わらせてくださいよ。」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

部屋に戻り、洗濯が終わった制服を乾かし、シャワーを浴びた。おまけに汗だくの服も同時進行で洗濯。

今は制服姿。ワイシャツが乾かなっかたらこのまま行くことにしよう。

 

「そういや、今頃みんなどこまで片付けたのかね。」

 

少し気になり、一番自分の部屋に近いギルの部屋にお邪魔する。

 

「お前か?入れよ。」

「わりい、邪魔したか?」

「案外ここに来て数日だからな。たいして溜まってねえさ。服とか小物は多少散らかってたが。」

「前の支部での荷物はあんま無かったみたいね。」

 

スーツケースはたったの2つ。しかも小型サイズだ。

 

「ん、ああ。それもそうね。あの頃は自分の部屋にいる時

間は短かったし。」

「任務?」

「いや、メンバーの部屋によくお邪魔した。」

「そんなに仲良かったのか。」

 

簡単に他人の部屋を行ったり来たりできるって。

 

「とわ言え、メンバー少なかったからな。当然ちゃ当然になるぜ。」

「そんなもんか?」

「ああ。それより、そっちの荷物はどうだ?まとまったか?」

「今のギルの言い訳を理由にさせな。服1着だ。」

「やれやれ。しょうがないか。」

 

懐かしさと楽しさをその目に秘めたギルであった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして、いよいよフライアが極東支部に到着。なぜか先に乾いたウェイトレス服装で、片手にビニールを被せた制服を持つことになった。

大きいスーツケース1つだけ転がしながら進む隊長とシエルに、ざっと3つ以上の荷物を両手いっぱい抱えるナナとロミオさん、2つの小さいバックを両手で転がすギルと俺が続いた。

なんだか難民を思いだしっちまうな。この2人は。

フライアの職員さん達と挨拶をしながら一人一人、外へ出て行く。

フランさんはまるでいつものミッションの時のように、カウンターで見送ってくれていた。

 

「稀羅さん。これ。」

 

最後に俺との別れ挨拶になった時に彼女が取り出したのは少し厚めのあの本だ。

 

「私はフライアに残ることにしました。」

「え、本当ですか?」

「はい。神機兵のサポートを任されてしまいまして。」

「あのジジイ。」

「そしてこれ、実は最後までまだ読めなかったんです。本当は、サクッと読み終えて、稀羅さんと話したかったのですが。」

「うあ。それは結構残念。」

「そこで、稀羅さんが最後の内容教えてもらえますか?」

「え?うーん、いいですけど。流石につまんなくなっちゃうでしょ?せめて……」

 

本の最後のページをめくる。前に彼女に言った英語での文章がずらり並ぶ。

 

「この2つの対話文だけ訳してみません?」

「そこまでのあらすじは?」

「6つ目の宝に、魔女が会ったというところまで読みましたよね?」

「はい。」

「えーと、魔女は、2匹の鳥。つまり幸福と幸運の鳥に聞きます。幸せになる方法を教えろと。そこで幸福の鳥が言ったのは、一つのヒントです。

『私たちは、お互い近くにいるからいつも幸せになれる。』

と。ただ、その意味を理解できないまま、魔女はまた道を進み、途中でへばってしまいました。」

「え、なぜ?」

「食糧も、力も尽きたからでしょう。しかし、誰かによって、危うく雪山で凍りかけた彼女は助かります。救ったのは、かつて彼女が旅に出る時に最後まで見送った人でした。」

「あ。確か、魔女の弟子!」

「はい。そして再会した時に彼が言うのが、そしてそれに答えた魔女の言葉がこの2つです。」

 

指で位置を示す。

 

「でも、その2つでストーリが……」

「そうですね。終わってます。あとはご想像に、と言うことでしょう。」

「結構長いセリフですね。」

「物語の鍵ですから。」

「じゃあ、これを?」

「また会えた時に話しましょう。男の弟子の方は俺がいいますんで。魔女の役を、フランさんが言ってください。」

「面白そうですね。」

 

フランさんはその本をそーっと閉じてそれを両手で抱いた。

 

「忘れないで下さいね?」

「自分で言い出したんですからそうそう忘れませんよ。あ、あともう1つ。」

 

制服をカウンターに置いて、自分の首の辺りに手を入れた。取り出したのは、銀色の細い笛。

 

「綺麗。」

「短いですけど、6音くらいだせます。」

 

そして両端を掴んで逆方向にそれぞれ捻る。そしてぱかっと半分に割れた。

 

「半分になると、2つの音しか出ません。一つ、どうぞ。」

 

彼女の手に載せる。

 

「え、いいんですか?」

「色々お世話になりましたからね。心配もかけちゃいましたし。これを、再開した時に俺に見せてください。一曲演奏しますんで。」

「さらに会いにいきたくなっちゃいますよ。これでは。」

「本当は、親父のものですけどね。」

「そうですか?」

「ええ、遺体から辛うじて見つけました。一応それ、糸を通せるやつなんで。こんな風に。」

 

自分の首にかかった笛の半分を見せる。

 

「……大事にします。」

「そう言われると嬉しいですね。」

「おーい!稀羅!」

 

突然ギルの声に俺とフランさんは現実に戻る。

 

「ゲート開くぞ、はやくしろ!」

「わりい!待ってて!」

 

ったく。時間ってのは人をここまで急かすもんだ。

 

「それじゃあ、失礼します。お元気で。」

「ええ、そっちこそ、本当に無理しないで下さいね?」

「へい、そうします。」

「おーい!」

「わかったってば!」

 

フランさんに軽く会釈をし、ギルの方に走った。ちらっと後ろを見ると、彼女が小さく手を振ってくれていたので、もう一度会釈をした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

極東支部は地上から何十メートルに及ぶ巨大な壁に守られた円陣の形だった。まるで要塞の外壁を思わせるその作りと、その内側の沢山の家屋のサテライト拠点。

これはそう簡単に壊れそうにないね。

誰もがそう思わせる難攻不落の施設だ。

壁の近くに行くと、2人の極東に神機使いが出迎えていた。

 

「極東支部第一部隊所属、エリナ-デア-フォーゲルヴァイデです。ブラット隊の護衛に参りました!えーと……」

 

1人はどう見てもまだ幼い。しかも女。ある意味ナナ以下に幼い子がゴッドイーターに採用されるほど、この支部は危険なのかと疑ってしまう。

薄緑の髪の毛は真っ白な肌で際立ち、まだ子供の面影を残す繊細な顔。華奢な手足と小さい顔がいいバランスを成していた。

そして、

 

「おお!これは我がライバル、稀羅ではないか!待ちくたびれたぞ!」

 

げっ。どうも俺はこの声を聞いた途端、透明人間にでもなりたいと願う。

 

「あ、はい。その……誰でしたっけ?」

「寂しいことを言ってくれるのではないか、戦友!我を忘れたか!エミール-フォン-シュトラスブルクを!」

 

頼むから『確かに、君は誰なのかね?』と言ってくれませんか。

 

「あー、はい。そうでしたね。あはは。」

 

そんなの無理か。

 

「エミールうるさい!また私が話出した時に割り込まないで!」

「うむ?どうしたエリナよ。我はただ新しい極東の仲間同士で親睦を深めるべく……」

「だから、今言ったでしょ!邪魔しないでよ!私が話してるんでしょ?」

「そう!ここにいるのはエリナ!我が盟友のエリック-デア-フォーゲルヴァイデの妹!すなわち、我の妹だと思ってくれればいい。」

「誰があんたの妹よ!」

 

ダメだ。どんどん混雑する。

 

「コホン。」

「あ、」

「む、」

 

ナイスです隊長。

 

「わざわざご苦労して頂き、心から感謝します。このまま支部まで案内してもらえないでしょうか?」

「はい!すみません。こちらへ。エミールは一番後ろで護衛。いいわね?」

「よかろう。」

 

ようやく落ち着いた状況の後、大きい外壁をくくり、支部につながる道を歩く。古びた家屋がよく目に入る。それでも改修作業が進んでいるところも多い。少なくとも俺が元住んでいたサテライト拠点よりは楽な暮らしなのかもしれない。毎日色んなアラガミに怯え続ける日々でも。

 

「……」

 

ざっと歩いて5分くらい。たまたま隊長の隣で、先頭を歩いていたら、エリナといった女の子にジロジロ見られた。

 

「な、なに?」

「貴方がブラッドの副隊長?」

「そうだけど?」

「……(強いですか)?」

 

横目で妙に小さい声で呟いたので聴こえなかった。

 

 

「ごめん、なんて?」

「なんでもないです。ほら、もうそこです。」

 

彼女が指差した先に、黄色の光に包まれた、黒色で少し背の高いビルがあった。

あそこがねえ。

一見どこでもありがちなビルだ。その意味では、ここが余計な金はかけない節約じみた支部だとも思わせる。

 

「どうですか?うちの支部。」

「丈夫そうですね。この外壁のことも。」

「あれはきっとフェンリルの支部においては最先端の技術ですよ。」

「へえ、すごい。」

 

自慢げに言うエリナ、この支部が好きなんだろう。そしてそれは、この支部に助けられたからこそそう思えるのかもしれない。

 

「ブラッドのみなさんは支部についたら、荷物はこちらに預けてください。各自の部屋まで運びますので。」

「あ、それはどうも。」

「その後はまずは支部長の方にいらしてください。」

「分かりました。って、みんな聴いたよな?!おい!」

 

念のために後ろに声をかけるが、帰ってくる返事は3人くらい。

うん、だいたい誰なのかは予想がつくな。

残りの2人が心配になってきた。

 

「ようこそ!極東支部、'アナグラ'へ!」

 

ビルの入り口前で、エリナの一声が空に響いた。




なんとなく内容の多さに欲張っちゃっているのかもしれませんね。
今度も大量で読むのにお疲れなさったと思います。
こりゃあ本当に減らしたほうがいいのかね。


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白を想う黒-You in somewhere-

どうも
今回はフランの回想シーンになります。



上半身だけをこっちに向いて頭を下げる稀羅さんを見送る中、脳裏では、その姿に重なりつつある少年の影があった。忘れそうな度に何度も出てくる彼。今はどうしているのだろう。

やがて稀羅さんの姿も消え、頭ではある記憶がリフレインする。

あれからもう10年って、時間は残酷ね。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『彼』と会ったのは私が5歳の時。親を亡くし、どっかのサテライト拠点の病院に移送されていた。そこで私は単に児童というだけではなく、患者として扱われた。病名は覚えていない。一応ながら急性ショックによる言語不自由化といった症状だった。それに対し、自分としてはただ心を閉ざしたようなもんだった。誰とも話したくなかった。また親しくなった誰かを失うことが何より怖くて。そしてその先に自分が壊れるてしまいそうで。

ショートカットに、みんなとも難なく話せる今の私とは違い、あの頃は、顔を隠してしまいそうなくらい長い髪に、服は真っ白でなんの柄もない地味なワンピースといった格好だった。そして体のど真ん中にぽっかり穴の空いたクマさんの人形、テディベアを抱きかかえていた。

これだけではなくすもんか、と。

病院に入り、1ヶ月。私を担当していた主治医はある少年を連れてきた。

 

「さあ、フランちゃん、新しいお友達ですよ。ほら、君も。」

 

ボサボサとした黒い髪の毛の、目がキラキラしていた男の子。あの時、髪で顔を隠していた私の顔を、彼は見たのかな。

「あのこ、ひとりでいたいみたいですよ?」

 

細高い、男としては珍しい声。

「うむ。そうか。なら私は失礼する。後は頼むぞ、ケイル。」

「はい。」

 

彼らから目を離し、テディベアを見下ろす私。男の子がベットの隣にやって来た。

「よこ、すわっていい?」

 

頭をコクっと返事をすると、ゆっくり腰掛けた。

 

「ぼくはけいる、けいる-おるふぃすというんだ。きみは?」

 

かつてこの子以前にも、私を治療しようと派遣された、たくさんの医者がいたものの、結局はあちらが泣き顔になって帰ってしまうの繰り返しだった。

 

「……フランチェスカ。」

「そっかあ、でもながいなあ……あのさ、ちぇすかってよんでいい?」

 

はっとした。その呼び名は、両親だけが私を呼ぶ時に使ってたものだ。

「……うん。」

なぜか声が出る。

あれ、もう喋らないと決めてたのに。

「ありがとう。ちぇすかってこえきれいなんだね?」

「……!」

 

彼の対応が今までの医者とは大違いで、頭がついて行けなかった。それに声のことで褒められたのも初めて。

 

「……」

 

何も言えずに黙りこくってしまった私にその子はそれ以上の質問はしなかった。むしろ、

 

「つかれたのかな?ごめんね。めい……わく?かけてしまって。」

 

まだまだ不器用な表現を一生懸命口に出す彼。そんな彼が同じ年ごろなせいか、思わず心を寄り添えてしまう。

 

「それじゃあ、きょうはさよならするよ。おやすみ、ちぇすか。」

 

何も言わなく、いや、言えなくなった私にそう声をかけ、部屋を静かに出て行った。

「……おやすみ……っ」

 

自分にびっくりした。二度と声をあげないと、開かないと決めた喉と口は確かに彼にむけて挨拶をした。それを私が意図的にやったのかどうかは曖昧すぎる。それでも、久々に声を出し、もっと喋りたいという欲が微かにあったのは気づかない訳がなかった。

後日から、来る日も来る日も、彼は短い時間でもちゃんと会いに来てくれた。私がなかなか喋らないのはすでに分かっていたせいか、一回声を出すと彼はすごく喜んでくれた。そいやって目に見えるくらい、私の1日の話す量が増えたのは言うまでもない。

 

同時に彼についても色々知ることになった。名前はケイル-オルフィス。歳は私より3つ上の9、それで少しだけ背が高かった。出身はかつて米国といった地域のため、2ヶ国語も話せた。アラガミの被害に会い、この地域に移住し、それから医者の親父と仕事を一緒にしていた。

毎日ケイルが、自分の身長に合わない長い白衣を着て、その丈を床に引きずりながら来るのを

 

「似合わない。」

 

と言うと、悔しさと嬉しさが混じった顔になっていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

そして、彼と出会ってかれこれ半年以上の時だった。

「こんばんは、ちぇすか。」

「こんばんは。」

挨拶は自然になり、

 

「きょうはおもしろいことあった?」

「ううん、またまずいごはんと、おなじけしきだけ。でもそとでいぬにあった。」

ここまで話せるようになってた。忍耐強い彼のお陰だと言える。

 

「いぬって、ああ、あのくろいわんちゃんか。しってる。」

「かわいかった。」

「そうだね。でもさいきんはまちのねことあそんでるのもおおいみたいよ?」

「ねこ?」

「それもかわいいどうぶつ。」

「こんどみせて。」

「うん!いっしょにおそとへさんぽしにいこう。」

「うん。」

 

もう1つ、私ができるようになったこと。それは、笑うこと。髪で隠れた顔だから誰が気づくかはさておき、微笑むことができた。これはケイルが最も私を大きく変えてくれた点。

「そうだ、きょう、ちぇすかのたん……じょう……び?だときいたよ。それで、びょういんのみんなでちぇすかにぷれぜんと。」

 

彼が取り出したのはまさかの白いテディベア。胸のまえで抱いている黒いテディベアといいペアになりそうだった。

「……これ、だれが?」

「だから、びょういんのみんな!」

「……ありがとう……。」

 

そしてその日、家族を失って初めて嬉し涙を流した。もちろん、意味が分からないケイルは混乱してたけど。

「え?ご、ごめん。いやなのかな?このクマさん。」

「ううん、」

 

2つのテディベアを力いっぱい抱きしめた。

「どっちも大好き。」

「……そっか。よかったあ。おめでとう。」

「うん!」

黒いテディベアは、9歳の誕生日に親から貰ったものだった。親が死んで、ずっとそのテディベアだけが自分の理性の頼りだった。そして、医者たちは、この汚なくなったテディベアを新しいものに変えようとしたが、そんなの、私が望むはずがなかった。

私がクマさんが好きなのを知ったケイルからこそ、みんなにこのテディベアを選んでとお願いしたのだろう。

「これで、くろいくまさんにもともだちがふえたね。ひとりでさみしそうだったよ。まえのちぇすかみたいに。」

「え?」

そこまで考えていたなんて信じられなかった。むしろ大人の医者に囲まれ、寂しかったのはケイルのはずなのに。

「これで4にん!たのしくなりそう!」

「ありがとう。だいじにする。」

「うれしいな、そういわれると。そうだ、もういっこ。」

2つ目に出したのは厚い本。タイトルは分からない文字だった。

 

「これ、おとうさんからもらったよ。なんだっけ、こどもむけではないけど、おもしろいぞといわれた。」

「でも読めない。」

「大丈夫、これからまいにちよんであげる。ちぇすかにも、くろいくまさんにも、しろいくまさんにも。」

「たのしみ。これ、なんてよむの?」

 

タイトルを指差すと、

「six treasure、えーと、むっつのたから?」

「むっつ?」

「はやくよんでみよう。えーと、」

それから、たまに悩んでもしっかり訳して物語を読んでくれるケイルの声を耳にしながら、その後日からも彼と過ごす時間は長くなった。ゆったりと流れるその時間が幸せだと思えて仕方がなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

しかし、神様はそんな私たちを許してはくれなかった。ほんの一夜のアラガミの襲撃で、全てが狂いだしてしまった。

夜、いつもどおりケイルが来るのを楽しみにしながら、彼がくれた本を一枚ずつめくっていると、建物が激しく揺れ出した。自ずと2つのテディベアをぎゅっと抱く。これがアラガミによるものだと頭で瞬時に気づいた。

「……けいる、どこ?」

 

無意識に彼を呼ぶものの、いるはずがない。その時だった。

「フランちゃん、いるかい?」

 

私にケイルを紹介した、主治医のおじさんが来た。

「はやく動かないといけない。大事なものだけ持っておじさんについて来なさい。」

「けいるは?」

「彼はきっと無事だ。まず、君がしっかりしないと。」

「けいるにあいたい。」

「いつか会えるさ。そのためにも今はおじさんについて来なさい。」

 

仕方なく両手いっぱいにケイルがくれたものを持って、おじさんに続いた。そのまま運搬車両に乗り、ずっと南へ向かった。

後に分かったことは、彼は家族を非難させるため、自宅に帰らざるを得なかったらしい。ただ、その後彼がどこに行ってしまったのか、そして何をしたのかが全く分からなくなった。

そうやって、たった1年のケイルとの生活は無情にも幕を下ろした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「これかな……」

自室で棚をいくつか調べ、ちょうど良さそうな細い金糸を見つけ、笛の穴に通した。それを首にかけて眺める。笛が窓からの夕日に照らされ、綺麗に輝いた。

ベッドに寝転び、枕のそばにに置いといた白いテディベアを抱いて、顔を埋める。

「ケイル……結局どこに行ったの?」

 

11歳に、お世話になっていたサテライト拠点に廻る噂があった。とある神機使いが、まる半年は保つくらいの食糧を送って来たと。名前はオルフィス。

そして、単純すぎた私は、その噂に身を任せ、神機使いになるため応募したものの、適合する神機が見つからず、オペレーターになった。本当は、向こうからオペレーターの仕事を要請されたもので、私はケイルに会うためだけに、迷いなく受け入れた。

「極東支部にもいないなんて……」

 

オペレーターになって、真っ先に彼について調べたものの、自分は常にどこかへ移動するフライア、彼は遠くの極東支部所属になっていた。最近になって、極東支部に着く前日に極東の神機使いの名簿を調べたが、彼の名前はなかった。どこかへ転属したのかもしれない。だけど、悔しい。それもあまりにも。

 

「……稀羅さん。」

 

そして浮かぶあの人の顔。

神機使いの候補面接で、彼と会った時は、目を疑った。ケイルの面影を残す、大人びた顔。そして唯一、

名前が違う。

で、表は落ち着きは保ったものの、心は動揺しっぱなしだった。

彼が緊急事態で怪我をして病室に入った時も、彼が心配だということよりも、眼鏡を外し、安らかに寝息をたてる彼があまりにもケイルに似ていたからだ。さらに、あの本を渡した時、それをじっくり眺める横顔。以前何度も目にしたその顔に惚けてしまったが、流石に稀羅さんもおかしく思ったのだろう。それほどあの人はケイル、彼に似ている、度が過ぎるほど。

「はやく戻ってよ。ケイル。じゃないと、貴方が大人になったようなあの人に……同じ感情を持っちゃうから。」

正直、フライアに残るのは自分からの申し出だった。理由は……10年前のあれと同じだ。稀羅さんを失うのが……ケイルを失うようなことになりそうで、それがたまらなく怖い。

泣きそうな顔を誰にも見せまいと、テディベアをさらに強く抱いた。




こうやって設定を自分なりにする時、時期設定に頭を抱えます。
なんとか合うようにしないと!
って必死になっちまいますね。
それではしばらく戦闘シーンがお預けでしたが、まあ、次回からガンガン書いていきます。


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魔女の存在意義ーFinding myself in calm daysー
第二の初陣-Emergency be dyed chaos-


こんばんは
はい、今日もこの時間です。
もう私10以降に出すって宣言してもいいかも(おい、なんだと?)
と、とりあえず今回もよろしくです。


「失礼しました。」

エリナさんの指示通り、荷物を極東の職員さんに預け、支部長室で色々用事を済ました。

そこで、ここの支部長の'ペイラー-サカキ'と出会った。一見穏やかそうなその顔だが、瞳が読み取れない狐面がなんとなくもう一つの性格を裏付けている様で、結構気になる。ちなみに以前は、いや、今も博士の様で、眼鏡を3つも首にかけていた。

そこまで要るかよ。

と、同じく眼鏡をかけている俺の最初の感想だ。

そして、支部長室を出た時、ちょうどこの支部で第一部隊隊長の'藤木コウタ'さんにも会った。赤毛の男に歳も近い故、ナナとロミオさんに劣らない明るい性格の持ち主だ。

彼から1つ知らされたのは、

 

「ブラッドの歓迎式を準備しているから、午後6時にラウンジに集まってくれないか?」

 

ジュリウス隊長の答えは勿論OK。コウタさんは良かったって顔で支部長室に入った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

エントランスに降りた。周りを一見した隊長は、

「そうだな、今からは各自の自由行動としよう。これからは極東の神機使いとのミッションも多くなるだろう。いち早く面識を深めて置くことに。」

と指令を出したもんで、それぞれの返事がし、みんなどこかへ行ってしまった。

さて、俺はどこに行こうかな。

「とりあえず自室でも……て、シエルさん、なんでこっちをじっと見てるの?」

「君と行動を共にしたいだけです。」

「え、俺の部屋にまで入ってくる気?」

「……遠慮しましょうか?」

「聞くことじゃないでしょ?それよりなんだよ、今少しの間は?」

「君が自室を出るまで待機しますが。」

無視した。うん、今。

「結構です。ああ、もういいよお好きに。」

 

気を取り直してエントランスを見渡す。2階構成で、1階は鉄製の床で、2階は木製だ。2階はソファーとテーブルで、たまにはくつろげそうだ。

1階に行くと、なぜか任務に使う回復錠とかアンプルを売っている商売人がいる。そして、円形のミッションカウンターと、オレンジ色の液晶のでかいディスプレイがある。

「極東って、この地図のどこらへんかわかる?シエル。」

「えーと、多分こちらだと。」

ディスプレイに表示される、旧日本という地域の地図で、シエルは真ん中より少し右下のあたりを指した。

「あの出っ張ってるところ?」

「はい。私はそう教わりました。」

「へえ。やっぱ豆知識1つ2つくらいあるのっていいかもな。」

「君はどこの出身でした?」

「多分この地域じゃない。記憶が曖昧だけど。」

「憶えていないんですか?」

「それがね……ざっと2年前以前の記憶は空なんだ、俺。」

そう、こうやって誰かに言うのも初めてだが、俺は2年にも満たない1年前半くらいから、その以前の記憶がなぜかない。理由は不明。そして、家族が殺された記憶を戻したのは、このフライアに入ってから。そう、あのガルムを5体を討伐した時だ。

 

「じゃあ、どこから憶えているんですか?」

「えーと、フェンリルの病棟にいた頃、かな。目を覚めたら、知らない医者たちが俺の病室にいて……俺がアラガミに襲われ、記憶障害を起こしてしまったと言ってたな。」

 

真っ白な空間の中、ベットで目を覚めた時には3人の医者がとても哀れな眼差しで俺を見ていて、彼らから自分の名前を教えてもらった。

 

「俺の名字のメルディオは、お父さんのらしい。DNA鑑定で家族関係を調べたみたいし、間違ってはないだろ。」

「それじゃ、今も失った記憶が多すぎると……」

「そうね。でもさ、神機使いになって気付いたのは、もしこのままでいたら、記憶を取り戻せるんじゃないかということなんだ。何が条件になるかは全く分からないけど。」

「……お手伝いします。」

「ありがと。さて、ここでのんびりしているのもなんだし、上の階でも見にいこうか?」

「そうですね。」

その時、俺たちの後ろのカウンターの女の子が無線に叫んだ。

「エリナさん、すみません!予想外のアラガミ反応がしました!そちらに移動しています!」

あれ、エリナって先俺たちを支部まで護衛した……そのままミッションに行ったのか?

 

「え?間に合わない?わかりました!今すぐコウタ隊長をそちらに送ります!しばし耐えてください。」

ゆるい三つ編みを肩に流した赤毛の女の子。いや、多分二十歳にはなってるんじゃないか?フランさんと似た服装から、オペレーターであるのを確信した。

「コウタ隊長!第一部隊が危険です。至急援護に向かってください、お願いします!」

 

もしかして、第一部隊ってたったの3名なのか?

 

「あの、」

 

とりあえず声をかけてみる。

「はい?あ、えーと……」

「今日から極東に赴任したブラッドですけど、」

「あ、はい!こんにちは。あ、でも今はその、」

「場所、どこですか?」

「はい?」

「だから、例の第一部隊さんたちのミッションのステージがどこなのか聞いてるんです。」

「あ、えーと。」

やばい、流石に無茶苦茶か?

 

「こちらからも増援の手を回したいのです。場所を教えていただけますか?」

助かるよ、シエル。

 

「ほ、本当ですか?じゃなくて、ありがとうございます!場所はですね、'黎明の亡都'です。」

「廃墟の植物園と図書館がある?」

「はい。」

「行くぞ、シエル。」

「了解しました、ですが、勝手に行動していいのですか?」

「まあ、隊長からも各自の自由行動と言ったし、俺は行く。」

「私も行きます。」

「お2人とも頼もしいです。無線の登録は直ちに済ませます!」

エントランスの2階に登り、前方に最も大きな扉をくくる。その先に幾つもの神機が並べられていた。

「ここは、格納庫?」

「そうよ、はい、あんたたちブラッドの神機。」

また初見の女の子がこっちをちらっと見ながら、ターミナルの端末をいじっている。灰色に近い銀髪を1本にまとめた上、分厚いゴーグルをつけている。手袋や腰につけてるカバンの道具から、 整備士を連想させる。

周りの神機スタンドに6つの神機が赤いケースに収められている。はみ出した部分から自分のを見つけられた。

「あった、あの赤いの!」

「ありました、薄緑です!」

「緑と赤ね?それじゃ、」

また彼女が何度か端末をいじると、神機のケースが摩擦を起こしながら剥がれて下に落ちた。露出した自分の神機を取る。

「それじゃ、行ってらっしゃい。」

「「ありがとうございます!」」

はもりの礼を言いながら、出発間近のヘリーに乗り込む。

『出発します!』

パイロットの無線に返事しようとした途端、

「2人とも待って!」

先支部長室の外で会ったコウタさんが神機を抱えて走ってくる。

「ちょっと、待ってください!」

パイロットにそう伝え、コウタさんへ手を差し伸ばす。彼が神機を持ってないで俺の手を掴み、それを引っ張る。

「どうぞ!」

やがて、ヘリーが上昇し出す。

 

「わりい。間に合ったあ。」

「それはいいです。それより、」

「ああ。第一部隊はもともと小型20体くらいを掃討する予定だったよ。途中で中型2体が乱入。たった2人なのに、はぐれちゃったみたい。」

「俺が、片方を手伝います。シエルとコウタさんでもう一方を。」

「そういや、君の名前は?」

「稀羅といいます。こっちはシエル。」

ついでにシエルの方も紹介すると、彼女も軽く頷く。

「わかった。俺はコウタという。よろしく。そんで、第一部隊にはエリナという女の子と、エミールという男の子で構成されてる。」

「面識はあります。2人ともキャリアは?」

「浅いよ。半年にも満たしてない。どっちかというとエリナの方が不安だ。」

「了解。俺がそっちに回ります。」

「ありがとう。」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ヘリーで5分くらいの飛行中、さっきのオペレーターから無線が入った。

『こちら、ヒバリです。ブラッドのみなさん、どうぞ。』

「こちら、ブラッドの稀羅です。状況お願いします。」

『救援対象は2つ、それぞれ別のエリアで複数のアラガミと交戦中です。』

「どこですか?」

『エリアさんが噴水跡の広場、エミールさんが植物園の方です。』

ドアを開けると、下にステージの風景が見えた。パイロットに叫んだ。

「広場を突っ切りながら植物園に飛んでください!」

『でしたら、広場は間も無くです!』

下になん匹かのアラガミがいて、その真ん中に囲まれた形で、青い槍の神機を持ったエリナさんがいた。

「そんじゃ、シエル。エミールさんの方、よろしく!」

「ご武運を!」

鉄製の床を力一杯踏んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うおっとと!」

高度何メートルから降りたのか、風がすごい。一番自分に近いアラガミを探す。真下の、ザイゴート!

「いただきますぜ!」

神機をその黒い頭に貫き、下に押す力を入れて肉を切り裂きながら神機を抜く。その動きで空中で体を回転させ、助力をつけた神機をちょっと前の方のドレットパイクの角を目掛けて下ろす。鮮やかな緑の殻に無数の亀裂が走り、そして形を一瞬で崩した。ダウンした2体の小型アラガミのコアをまとめて回収しながら、スタングレネードを空中で炸裂させた。

「え、な、なに?」

「おい、エリナさんよ!まだ死んでないよね?」

『稀羅さん、エリナさんとの合流。』

「ブラッド?ひ、必要ないわよ!」

エリナさんの横から飛びかかるドレットパイクの口に神機を突っ込み空に投げる。

 

「ボロボロになったくせによく言う!これ使え!」

パッケージの回復錠10個をパスした。服のあちこちが破れ、しかも小さな裂傷と打撲傷、擦過傷が多数。

 

「い、いらないわよ!」

「死にたくなかったら黙って飲み干せ!」

『エリナさん、バイタルが不安定です。回復を!』

「うう、わかってますけど!」

 

キャアア

やばい、スタン効果が切れた。

改めて周辺を確認。オウガテイル3体、ドレットパイク1体、ザイゴート4体とさらにその先にヴァジュラ1体だ。

 

「俺が大型を撃ちながら注意を引く。その間に小型を一掃しろ!」

「あ、あんたが小型片付けなさいよ!あんな猫、あたしでもできるから!」

こんな時に限って……

額に手を当てたいが、一旦彼女のリクェストどおりに動く。接近するドレットパイクの足元に神機を差し込み、オウガテイルの群れに投げる。そしてそっちに飛び込み、垂直で振り下ろす。ただ、

「硬い?!」

いつもなら柔らかくその肉に埋め込むはずの神機が、食い込まない。しかたなく横に軌道を変更して皮膚を切り剥がす。そのまま肩に運び、チャージクラッシュを一撃。後方の1体のオウガテイルも上半身に深い傷を負ってダウン。

 

「よし、これで、うわあっ!」

 

ザイゴートに体あたりをやられ、何メートル先へ飛んだ。神機を地面に刺して姿勢を直す。今度は歪な口を開けて食いかかってきたのを、素早く水平斬りで歯をすべて砕いた。血だらけのザイゴートが後方で転び、追い打ちに地面に叩きつけ、その頭を爆散させる。

キイイイ

さらにくるもう1体の口に、銃に変換した神機を突っ込み、ロケット弾をぶっ放す。体の後方の組織が破れ、爆発が漏れた。

 

「きゃああ!」

「あん?」

ヴァジュラと交戦に入ったはずのエリナさんが空中にいる。ヴァジュラはそれに向かって電球を撃ち込もうとしていた。

 

「あの、バカ!」

 

宙に跳んで、彼女を左手で掴んで自分の後ろに回し、飛んでくる電球をシールドを開かず、刀に変換した神機で直接弾く。その反動で少し後ろに下がる格好になった。

 

「おい、大丈夫か?」

「ううっ……」

ちょっと、頭から出血?

彼女が被ってる白い帽子から血がはみ出て、髪を赤く濡らす。

スタングレネードを地面に投げて隙をつくり、後ろに下がった。

『稀羅さん!エリナさんが戦闘不能です!容態を報告してください!』

「頭に出血、酷い打撲です。衛生兵もいないのに……」

『そんな、ならせめてリンクエイドだけでも!』

「リンクエイド?」

『貴方の体内のオラクル細胞を一部エリナさんに送ることで、極めて小さい活性化を起こし、エリナさんの回復力を高める機能です!』

「どうすればいいんですか?」

『エリナさんの腕輪に手を当ててください!それで、あなたの指先からオラクル細胞が自発的に露出され、エリナさんに吸い込まれます!』

ギャアア

やばい。また切れた。

急いで残り2つの中でグレネード1個を奴らに投げつける。そしてその手をエリナさんの赤い腕輪に当てた。

「……ぐうっ……なに、これ……」

力が一瞬抜ける気がするが、多少治まった。

 

「ううん、あ……れ。」

そして、閉じかけたエリナさんの目が覚めた。まだまだ意識がはっきりしないか。

『リンクエイド確認!成功です!』

「なんで俺の力が抜けるんすか?」

『あ、すみません。あくまでも元は稀羅さんのオラクル細胞なので、 それを他人に移植した時には自分の体力が減ることになります!』

「OK、だいたい理屈はわかった。」

 

残りの回復錠の1個を開けて喉に流し込んだ。

これじゃ、一気に終わらせた方が身のためだ。

チャージクラッシュの構えをとる。ただし、今回放つのは例のブラッドアーツだ。充電を始めると同時に、スタンの効果が切れ、残り4体が全部こっちに向かって走る。そして、

「よおし、」

 

オレンジのオーラが神機を包む。その長さは、今の俺じゃ見えない。左に落としながら、体を腰と右足で右に回転させながら、充電したチャージクラッシュを水平に振り抜く。

 

「せえやああ!」

 

思った以上に回った体を慌てて戻して、結果を確認。

 

『小型、全滅!嘘、すごい。』

「後は……」

地面に顔を埋めた猫だけ。よく見ると前足が両方消えてる。しかも顔のかめんみたいな装飾も2つに割けていた。

「ふう……あばよ。」

 

近づいて、チャージクラッシュで体を完全に2等分。コアが見えたのですぐ神機に取り込んだ。

 

『敵、全滅。よかったあ。』

「それより、早く運送のヘリーを!エリナさんが危ない。」

『は、そうでした。今すぐ!』

まだ血が流れているんで、背中を支えて頭部を心臓より高くする。

「あ、あれ?終わったの?」

「喋るな。」

 

という意味で彼女の口に回復錠を流す。もう反抗する体力もないエリナさんはゆっくり目を閉じ、寝息を立て始めた。

『ヘリー、到着です!乗ってください!』

成り行きにお姫様だっこの状態で彼女を持ち上げていた。神機は彼女がちゃんと握っているからいいんだが。

 

「軽い。」

予想外れの体重にびっくりした。

よくまあ、こんな体で……

砂風を起こすヘリーに、できる限り揺れないように乗った。




エリナはあれで結構かわいいですね。はい、色んな意味で癒されました。
あ、ちなみの今回の文章の段落設定ですが、あるお方のやり方がとても読みやすかったので、拝借させていただきました。
(オリジナルの方。許してくださると助かります。)
さて、弱4話ぶりの戦闘シーンです。やっぱ想像を言葉にそのまま載せるって簡単ではありませんね。

それではまた水曜くらいにお目にかかります。


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騒ぎの片付け-A result of crazy party-

「もうすぐ目は覚ますでしょう。今は安静にさせてください。」

「はい、どうもありがとうございます。」

 

頭に薄く包帯を巻いたエリナさんが寝かされたベット。その横に座って彼女を見守る。

 

「それでは私はこれで失礼します。」

「はい、お疲れ様でした。」

 

そしてこの極東で看護師を務める女性が一礼して病室を出て行った。左胸に名刹が着いてあったが、さっきは状況が状況で、のんびり読む暇もなかった。

 

「全く。手間のかかせる奴ね。」

静かに寝息をたてるその顔はどこまでも無邪気だ。

こんなに小さくて幼い子が第一前線に駆り出されるのも、結局はご時世の影響かな。

 

「エリナ!」

「ちょ、しーっ!」

 

いきなり病室に焦った面相で入ったコウタに、肝を落とされそうになった。

 

「……あ、寝てるか?」

「そう。少し落ち着け。」

「ご、ごめん。具合はどうなの?」

「頭を軽く切っただけだって。特に内部に影響はなし。多分すぐ起きるだろうね。」

「よ、よかったあ……」

 

彼に椅子を出した。コウタは座りながらエリナさんの包帯から目を離せない。

 

「記憶喪失とか、障害とかはないんだよな?」

「ないない、安心しろ。」

「よかった。こいつになんかあったら……」

「……?」

 

やっと落ち着いたみたいだが、続きを語らない。

それとも、今は無理に言わせない方がいいかな。

 

「……こいつの兄貴に合わせる顔がねえ。」

「……兄貴?」

 

突然、また彼の口が開いた。

 

「'エリック'という俺と同じ、第一型世代の神機使い。」

「引退してるのか?」

 

と言いながらも、実は答えは見えてしまっていた。

 

「いや、KIA判定だ。およそ3年前に。そして今年、エリナが入ってきたんだ。」

「……狙いは、復讐か?」

「さあ。とにかく、俺は彼女を守ってあげないといけない。じゃないとエリックさんに申し訳が立たないから。」

「状況が状況だったでしょ?あまり自責すんなよ。」

「いや、本来なら俺も同行するはずだったんだ。でもてっきり、'小型だし、2人なら十分だろ'とか思ってしまったから。」

「でも緊急事態だったんだぜ?予想できないに決まってるじゃん。」

「それでもだよ。俺は……隊長としてやっぱ未熟すぎるな。」

 

また黙りこくってしまった。彼を慰めようとするも、どう言えばいいか困る。自分の口下手さを嘆きたいところだ。

「……なあ、稀羅さんよ。」

「うん?」

「ブラッドの副隊長だって?」

「そうだよ?」

「どんな感じだ?」

「さあね。ただ、ほとんど隊長が仕切ってるもんだからさ。」

「そうか……」

「……どうして?」

「なんか参考になるもんでも欲しかった。」

「……ないよ。あったとしても必ずコウタさんに合うとも限らないし。」

「なんで?」

「人間そのもの色々だから、ある隊長さんのやり方が他の隊長たちに通用するわけないでしょ、ってこと。」

「……」

「こっちからも聞きたいけど。」

「何?」

「コウタさんの前の隊長さん、最初から上手だったの?」

「……あいつか。いや、多分不器用。」

「じゃあ、今のあんたもそうじゃん。」

「……」

「初心に戻って学び直すって思ってみれば?」

「……ありがとう。」

「いやいや。」

 

こっちとしてはむしろ調子乗りすぎた気がする。

気持ちに害がなければいいんだが。

 

「とりあえず、今回のことは反省しないとな。」

「……へい。がんばれ。」

「うん。」

「そんじゃ、俺はお先に。エリナさんよろしく。」

「うん、そういや、赴任早々、こんなミッション付き合わせて悪かったな。」

「いいよ、こっちも得たものはある。」

「得たもの?」

「こっちの話。さて、後で歓迎会で会おうぜ。楽しみにしてるから。」

「……任せろよ。」

「あいよ。」

 

少しずつ晴れてきたその顔を見れてよかった。病室後にする。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「人間そのもの……か。」

 

稀羅の言葉。痛いほど現実的で、しかしながら優しく心に届く。新米と聞いたのに言っているのは一人前だ。

「あの副隊長もしっかりしてるねえ。」

「そうね、ぬわあっ!びっくりした!」

寝てたよね?明らかに寝てたよね?あれ、違う?

稀羅が出てから真っ先に目を覚ますってのは……流石におかしい。

 

「お、おま、いつから?」

「ん、コウタ隊長が入ってきた時。」

「えええ?」

「あんな大声で入ってきたら誰だって起きるでしょ?」

「ぐっ……」

「んもう、大げさすぎ。未だに隊長としての感じがイマイチなんだよねえ。そう、威厳みたいなものが。」

「ぐうっ……」

「はあ、先が思いやらちゃう、絶対にうちら、極東の史上最弱の第一部隊になっちゃうね。」

「……」

 

しくしくしくしく。

 

「泣かないでよ、だらしない。」

「泣かすなよ!」

「それよりさ、」

「何だよ?」

「隊長……あたしさ、今日どこが悪かったのかな?」

急にエリナがシュンとした顔つきになった。

 

「うん?どこがだ?」

「だーかーら!さっきのミッション!あのヴァジュラ、危険度7だし、レベル9のあたしの神機なら絶対できるはずなのよ!どうしてやられちゃったのよ?!」

「いやー、どうしてと言われても。その……いつも通りだと思うけど?」

キリッとこっちを睨むエリナが怖い、ね、怖いよ!

 

「へー、そう?つまり、ガードなしバースト切れ回復拒絶万年突進攻撃切り替え遅延リンクバースト皆無撤退知らず他諸々……ね?」

「面倒な文字並べて、最後可愛く決めなくて結構です!」

「で、なんだと思う?」

「うーん、ごめん、全部だと思う。」

「そうなんだ。えとえと、ガードなしバースト切れ回復きょ……」

「もうやめて!」

「何よ、人がせっかくがんばって直そうとしてるのに、指導はおろか、応援もないの?」

「あのさ、指導ならいくらでもしたぞ?俺の喉が乾き切るまで。」

「実戦でのレクチャーなかったでしょ?」

「したよ!でもいつも開始からさっさと突進するお前がな!」

「突進ね、万年突進攻撃切り替えち……」

「もういいです!」

ダメだ。ペースが維持できない。完全に呑まれてるな。他の隊長はこんな時どうすんだよ?

 

「そもそもの論で、」

「……なに?」

「コウタ隊長の指摘が弱いよ!」

「……はい?」

「なんかほら、もっとビシッと言って欲しいなあ……とか。」

「び、ビシッと?」

「そうよ。例えば、回復について、コウタ隊長いつもあたしになんて言う?」

「それは…… 『回復した方がいいぞ、』とか、『そろそろ回復しろ、』とか……」

「それがいけない。」

「断言すんなよ。てかなんで?」

「あれー、稀羅さんがあたしに回復錠を投げながらなんて言ったけ、そうだ。『これ使え、』それと、『死にたくなかったら黙って飲み干せ、』と。」

「……」

「コウタ隊長には無理かなあ。」

「……逆にそこまで言っていいんだ。」

すごい、まるっきり迫力が違う。これが、俺が他の隊長さんとの差なのか!

 

「でもなあ、コウタ隊長の優しさも捨てがたいなあ。」

「どっちにすればいいんだ?」

「それは隊長の課題。とにかく隊長も変わってくれないと。そうじゃないと、いつまでもあたしとエミールあのままだよ?」

「うぐぐっ……」

 

この2人の関係はどうも毎日波乱なのはよくわかってる。

 

「仕方ない。ここは稀羅とミッションに同行しながら、やり方を改善していこう。それが早道だ。」

「おお?やる気になってくれたあ。あたしも同行しようかな?」

「なんでお前まで?」

「え?だって、稀羅さんもシエルさんも、戦うの上手だから真似したいなあ、と。」

「武器が違うぞ?」

「そんなのわかってるわよ!とにかく、」

 

エリナが頭の包帯をほどき始めた。

 

「あたしはやる。お兄ちゃんに及ばないまま死ぬなんて、あたしが自分を許さないんだから。」

「……」

「だからコウタ隊長もしっかりしてよ、ね?」

「わかった。」

 

今不器用でも、たくさんの改善方法を探り、なおそれに努力し続ける彼女が微笑ましい。

なるほど、エリックさんが妹さんをあんなに愛でたのはこう言うことか。

 

「うわ、なに隊長ヘラヘラ笑ってんの?気持ち悪い。」

「酷くない?!」

 

まあ、これはアウトとして。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……なんかやけに騒がしくなってないか?」

「そうですね、エリナさんがお目覚めになったのでしょうか?」

「にしては随分早いな。」

 

病室の前で待ってくれていたシエルと合流し、エントランスに降りるエレベーターを待つ。が、どうも病室からガーガーうるさい声が廊下に響く。

 

「元気そうでよかったです。」

「そうね、てっきり気を落としたのかと思いきや、その真逆とは。」

「君のおかげもあるでしょうね、」

「へ?」

「いえ、なんでも。」

 

その顔いっぱい笑顔を浮かべるシエルのせいでさらに気になる。まあ、いいや。

 

「あ、そう言えば先ほど神機整備士の方から、用事が済んだら格納庫へ来るように言われました。」

「俺も?」

「はい、特に君にいいたいことが多いと。」

「ものすごくやばい雰囲気がするのは俺だけですか?」

絶対ろくなことはなさそうだ。こりゃあ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「つまり、端的に言うと……」

ゴクリ

乾いた唾が喉をいじめる。

 

「神機の扱いが荒いのよ!」

「はい?!」

 

格納庫、そしてここで、俺の神機の総合メンテナンスを行っている方が、極東のエンジニアの'楠リッカ'さんだ。ここでは第一整備班の副長を担っているらしい。が、この銀髪のポニテールの女が俺を見て早速言い出したのは、神機の哀れな状態だ。

 

「そもそもフライアでちゃんとメンテナンスはしたの?あたしがそこをああだこうだ言う権利はないけど、ここははっきりさせて!残酷だよ。一言で。」

「……残酷、ですか?」

「そう、どうしたの、この刀身の刃、ボロボロだよ?ほら。」

彼女がデジタル化で写した刀身の表面には、浅い亀裂と穴が無数だ。

 

「こ、ここまでって……」

「これは3時間以上かけても治るかどうかだよ。一応がんばってはみるけど、綺麗にできるのは亀裂くらいかしら?穴は刀磨きでもしない限り、無理だね。」

「総計の修理時間は?」

「一からやったらざっと12時間は欲しいね。」

「12時間?!」

まる半日戦えない。もうミッションなしで一日が終わるな、うん。

 

「稀羅ってさあ、神機のレベルあまり気にせず強いアラガミとやってるわよね?」

「は、はあ。でも多少は気にしますが……」

「本当なの?あんた今日、危険度7以上のアラガミたちとやったのよ?」

「7?確か、俺のは……」

「6ね。しかも装甲は5。あのね?7以上になると、向こうも格段に細胞組織が硬くなって、簡単には倒せないのよ、絶対。」

「まあ、でも倒したから……」

「ダーメ、あんたたちブラッドは、その自慢のブラッドアーツがあったから生き残ったのよ?それにしちゃ、一般の神機使いたちは悔しくてしょうがないんだから。」

 

言葉を失った。そう、あの時ブラッドアーツで、なんとかエリナさんを助け、俺も無事に生還した。もしやあれがなかったら。

 

「とにかく、今後アラガミのオラクル攻撃を無理矢理刀身で弾く真似はよして。最悪、折れるから。」

「はい。そうします。」

「あとは、銃身と装甲だけど、そこまで傷が多くはないね。あんま使わないのかしら?」

「どっちかというとかわすか、当たるかどっちかです。」

「ますます危険だね、稀羅の戦い方。」

 

そう言われましてもですね。

なんだか複数の機械アームに囲まれ、あちこち直してもらっている神機にすまないと思った。

「とりあえず急ぎ直してるから。今後は気をつけて…で、辞めるわけないよな?」

「多分、はい。」

「あたしがお勧めしたいのは、この極東を機に、神機の耐久レベルを最大まで上げとくか、それとも戦闘を強引にやらないか、ね。」

「でも、いざと今日みたいな緊急事態では、こっちの意思なんて反映されないじゃないんですか?」

「それもそうだけど。」

 

リッカさんがパネルから手を離し、収納される神機を眺める。

 

「相手を見極める、と言いたいの。あたしは。わかった?」

「はい。」

「うん、よろしい。まあ、初対面からこんなきつくするのは性に合わないけど、」

「すんません。」

「いいの。それで。」

 

少し微笑む彼女を見て安心していいのかどうか。

 

「リッカさん、私のはどうでしょうか?」

 

シエルも俺たちの会話に心配になったようだ。

 

「シエルの?大丈夫。大きな傷はないし、ただ銃身の銃口が少し汚れてたからそれの洗浄作業かな?」

「ありがとうございます。」

「うん、うん、やっぱ女の子からかな?扱いが繊細だね?」

「そんなことは……」

 

うわあ、羨ましいを越えて自分が虚しくなる。

とにかくそろそろ気にしないとな。修理で12時間だ。ましてや壊れたらどんな結果になるか。

こっちに刃先を向いた神機がまるで俺を恨んでいる様だ。

 

「それより、あんたたち歓迎会はいいの?」

「へ?確か6時だとか。」

「今5時半だよ?そろそろ行けば?迷い始めたら遅れるかもしれないし。」

「そうですね。行くか、シエル?」

「はい。ではリッカさん、しばらくよろしくお願いします。」

「こちらこそ、がんばってねお仕事。」

「ここらへんで失礼します。俺の神機、よろしくお願いします。」

「うん、ここの作業はいつでも任せて。あ、でも強化とかの費用はちゃんと払ってよね?」

「……はい。」

リッカさん目が一瞬ギラギラしてたのは気づかなかったと言うことで。




エリナとリッカのファンのみなさま!
今回は自己的すぎる解釈にお詫び申し上げます!

エリナがワガママすぎたかな
リッカが厳しすぎたかな

という思考がはまれませんー!
せめて次回からは原作に沿ったほうがいいかな。

とりあえず次回としては、歓迎会は適当にとばし、ギルのエピソードに力を入れてみます。歓迎会はやっぱオリジナルの方がいいですね、何度見ても。


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旧友-Two mans and same thinking-

どうも。お待たせしました。
えーと、多分ぐっすりの方がほとんどだと思います。
すみません、最近携帯の契約会社がなんだか電波の新設をやってるみたいで、よく電波が切れます。
おかげで4000文字が一気に吹っ飛んだので、書き直したら、まあ、こんなことに……。
とりあえずどうぞ。


エレベーターからしても、鉄骨だらけのフロア移動用より、ラウンジ移動用がいかに金がかかるかを気がつく。

 

「一体なんの素材を使えば木材からこんなに光沢がするんだ?」

「私もよくわかりません。しかし、これはかなりの金額がかかったのでしょう。」

「まあ、フライアで過ごした俺らが言うのもなんだが……」

だが、止まったこのエレベーターのドアの先はさらにすごい事になっていた。

中央の大きなバーカウンターを始め、テレビ、ピアノ、ビリヤード台とたくさんのソファーが、地下のエントランス並みの広さを持つこのスペースを、上手く活用した配置になっている。床は木製で、チェック柄のレッドカーフェットが丸く敷かれている。壁は白と金でゴージャスな雰囲気。一定間隔の灯火みたいな綺麗な照明は部屋を優しく照らしている。しかもデカイスピーカーから静かな雰囲気のBGMが添える。一見して、大人の空間ってのを醸し出しているかのようだ。

 

「すごいね。こりゃあ。」

「こんな場所、見たことありません。」

「それはそれで意外だけど。」

「え?」

「いや、なんでもない。」

てっきり軍閥出身なら、こういった所は何度か目にしたんじゃないのかと思ったからだ。

いや、ただのこっちの偏見かな?

 

「あ、貴方は!確かフライアにお邪魔した時に!」

左に、ブラウンの長い髪の女性がいる。白いシルクドレスと、首と腕の彩りの小さい飾り。

 

「あ、えーと……ユナさんでしたっけ?」

「その、ユノです。葦原ユノ。」

「……すみません。」

どっかに穴ないのかな。ものすごく今自分という存在を消したい。

 

「隊長、こちらは?」

「あー、ロミオさんによると、かなり有名な歌手だって。」

「い、いいえ、それほどでも。」

「そうですか。ブラッド所属、シエル-アランソンと申します。副隊長のサポート、戦術と戦略の研究をさせて頂いております。」

「葦原ユノといいます。えと、そちらは?」

「あ、はい。稀羅-ペル-メルディオといいます。そういや紹介まだでしたね。」

「そうですね、あの時すれ違った感じですから。」

ふと、ロミオさんが倒れないように支えながら彼女にぶつかってしまった時を思い出した。

 

「シエルさんが仰る副隊長はどちら様ですか?」

「こちらです。」

 

シエル、頼むから他の人にしてくれないか?この瞬間だけでもいいからさ。

 

「あ、そうなんですか。隊長には先ほど挨拶を交わったもので。」

「そう、ですか。まあ、ご覧のとおり、あんまそんな柄じゃないんで。」

「副隊長、それは自分を卑下しすぎでは?」

「いや、いいんだ。」

 

そこは突っ込まないでおくれ、シエル。副隊長になって早速懲罰房に向かった私でございますから。

 

「あ、シエル!探したぞ。」

おや、虎の話をすれば本当に来るんだね。

ジュリウス隊長は既にここにいた様だ。

 

「はい、なんでしょう?」

「ちょっと話しておきたいことがある。2人とも、ちょっと借りていいかな?」

「俺はいいですよ?どうぞ。」

「私も構いません。」

「それでは副隊長、ユノさん、後ほど。」

「へい、いってら。」

 

隊長とシエルは、外の風景が楽しめるほぼ全部巨大が、ガラス製の窓で出来た向こうの壁に行っちゃった。

 

「副隊長さんはなんのお仕事をなさっているんですか?」

「え?うーん、特にこれと言った仕事はないですけど、単純に隊長の手が足りない時にそれを手伝うって感じです。」

「十分立派な仕事ですよ?」

「ならいいですが。はっきり言ってあまり自覚ないですから。」

「そうですか?」

「いきなり任されたもんで。しかも大した仕事はしてないですし、」

「そう仰らずに頑張ってください。貴方の仕事が必要になってくる瞬間はいくらでもありますので。」

「……そうします。」

 

ここまで語られてしまったらなあ。まあ、でもそろそろ本気だしてやって見ないと。後になって後悔する前に。

 

「はい、みなさんご注目!」

そして、時刻はいつの間にか6時を過ぎ、コウタ隊長の司会の基に、歓迎会が始まった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ここにいたのか、ギル。ミッションとか行くのか?」

「ああ、稀羅か。そうだな。ああ騒がしいのはちょっと苦手でな。」

「またそんな大人ぶった意見して。別にいいけど。」

「そっちこそ、もういいのか?」

「こっちなりに楽しませてもらったよ。ご飯も食ったし。後は、働かないとね?」

「はは、そうなるか。」

 

コウタ隊長、ジュリウス隊長のなかなかいい演説と、ユノさんの歌で場が盛り上がった。

初めてその人の歌を聴き、あ、これはみんな好きになれるもんだと思えた。希望と明るさに満ちたその歌詞と曲調は、人の心を優しく包むようないい歌だった。

それが終わってからは、晩餐会のようなもんになり、今はナナとロミオさんが皿の数で最高記録を更新しているだろう。

飯はそこそこ食って出てきた俺は、エントランスでディスプレイを眺めるギルに会った。

 

「うっし、んじゃあ行こうぜ。ちょうど良さそうな奴がある。」

「お!ギルじゃないか!」

そこで、階段の方から声がした。

 

「ハル……さん?」

 

おや、知り合いかな?

ギルは相当驚いたって顔をしている。

 

「極東に来てりゃ言ってくれればいいのに。」

「いや、ここにいるって知らなかったんすよ。」

「あれ?言わなかったっけ?いやあ、いろんな支部を流れ歩いているしな。にしてもそうか……グラスゴー以来かな?」

「そうですね、そういや極東出身でしたっけ?」

 

そうやって語り合う2人だが、どうやらお互いの顔を見ていない。違う方向を見ながらも、なんだか同じことを考えている様だ。例えばグラスゴーって所での思い出とか。

 

「この人、誰?」

「ああ、すまん。真壁ハルオミ。以前グラスゴー支部で一緒にチームを組んでいた。」

「へえー、そう?」

 

濃い緑の髪、派手なジャケットと赤いズボンに、白いブーツ。そこからしてもかなりのファッションセンスの持ち主に見える。顔も結構美顏で、耳には2つのピアスまでしている。こりゃあモテる男の一例かもな。

 

「ハルさん、今所属してるブラッドの副隊長です。」

「ああ!ブラッドか!うっすら聞いたよ。よく知らないけどさ。俺は第四部隊の隊長だ、といえ、極東はゆるくてな。ブラッドほど部隊編成はしっかりしてないと思うぜ?」

「ハルさん!榊博士への報告、先に行ってますよ!」

「へいよ!」

 

2階にある女の子がいたが、よく見えなかった。

 

「今のは第四部隊の唯一無二の隊員の台場カノンちゃんだ。ちょっと色々たよりないけど……出るとこ出てるからまあいいかな、的な?」

「またセクハラで査問会に呼ばれますよ?」

相当やばい人に会った気分だわ、これは。てかギル!またって何よ!またって!

 

「まあ、そんなわけで、こいつに何かあったら遠慮なく声かけてくれ。斜に構えてるこいつの扱い、俺は相当プロだぜ?」

「ハルさん!」

「はは、冗談よ。そんじゃ、失礼するぜ。ギル、近々飲むぞ?またな。」

 

2階に登って消えた彼をギルはずっと見続ける。しかもその後同じ所を何分間も。

 

「ギル?」

「ん?ああ、すまん。ミッションだったな。」

「いいよ、あの人ともうちょっと喋りたいなら。」

「いや、行こうぜ。大丈夫だ。」

「OK。そんで?オススメのミッションって?」

「あ、それは……」

 

ミッションカウンターに動きながらそう言っている彼の目は、やっぱり違うことを考えているかの様だった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ステージ、鎮静のお寺。ターゲットは、グボログボロ2体。危険度はギルが考慮してくれたお陰か、6だ。データベースにはデカイ魚の様な写真が一枚だ。基本属性は水、つまり炎か雷属性に弱いということ。なかでもヒレの部分は特に脆く、切断でも破砕でも効くらしい。

 

「で、スピアっていつチャージすればいいと思います?あたしは向こうが一旦下がった時だと思いますけど。」

ただ、同行人が……

 

「おい、稀羅、これはどういうことだ?」

「何度でも言うが、俺の答えはたった1通りだ。あえて言わなきゃいけないのかな?」

「ちょっと、聞いてます?ギルさん。」

「あー、だから、別に向こうが隙を見せればその度にチャージしていいと思うぞ?」

「だーかーら!そのタイミングがわからないって!隙ってアラガミによって全部違うでしょう?そこを教えて欲しいんです!」

不可3時間前に俺が救助したエリナさんと(ちなみに傷はもう癒えたようだ)、

 

「ごめん、稀羅、ギル。どうしてもと言うもんで。」

「いや、別に俺に言ってもですが……」

「ちょっと!なにあたしだけ売ってんの?コウタ隊長もブラッドの命令系統を参考に、隊長のやり方を見習いたいと言ったじゃない?」

「そこ言うのかよ!」

第一部隊の隊長のコウタ。

 

「探ってもなにも出ませんよ?」

「いや、きっと俺にはない何かがあると思うんだ。だから悪いけど、な?」

「うーん、なんならコウタ隊長が仕切ってみます?」

「いや、そこは君に任せたいよ。てか、その隊長って呼び方、よしてくれない?見ての通り、全然向いてないからさ?」

「見た目と違って副隊長になってる俺に言ってもですが……」

「だから、そこをなんとか!」

「ああ、もう。分かりましたよ。コウタ、でいいか?」

「おう!よろしく、稀羅!」

やっとこの人も表情が晴れたか。

どうやらコウタも俺と似た感じで隊長という高い地位にたったみたいだ。気持ちはわからないでもないが。

『予定どおり、2分後にターゲットが入ります。』

 

いつものフランさんの代わりに、ヒバリさんの声がした。実はヒバリさん、かなり前からこの仕事をやっているみたいで、キャリアは類に無い様だ。

 

『ブラッドのみなさんのサポートは初めてですが、何卒よとしくお願いします!』

「いえ、こちらこそ。よろしくお願いしますよ。」

フランさんよりは個人的な感情表現が豊かな感じの言い方だ。馴染みやすいって意味でもよさそうな気はある。

 

「てか、寒いな。」

「コウタ隊長、寒いよ。なんとかして?」

「俺は神様じゃないよ。それより俺も寒い!」

ヘリーが案外悪天候に会わずに済んで、予定よりだいぶ早くついている。は、いいけど、ざっと5分は待ちっぱなしだ。

「流石にワイシャツ1枚は挑戦しすぎたかな?」

「あたしは半袖よ?!」

「おい、2人とも、俺は袖というものが無いんだが?」

 

あ、はい、ご愁傷様です。

 

「隊長は2枚でしょ!」

「エリナも立派に2枚だわ!」

「あ、じゃ俺も?」

「「当たり前でしょ?!」」

 

ハモらないでくださいよ。せいぜいチョッキで2枚って色々問題が……、

 

「俺は別に寒くないけど?」

「「「長袖のジャケットがよく言う!」」」

 

うん、俺もハモっちまったな。てかなんだこの状況。

 

「これはこれで地下に行ったら暑いぞ?」

「「「うるさい!」」」

 

ていうかあの憎らしげなギルのジャケット、首元に毛まで生えておりますが?

どんな値段と素材を渡せばあんなの作ってくれるのだろうかかなり悩む。

 

『ターゲット、戦域に入ります。』

全員の神経が逆なでられる。神機を地面から抜き、最終チェックをいれる。

ていうか結局メンテナンスは途中で終わったっけ。やばい、リッカさんまた怒るのかな。

 

「ったく、弱いくせに咆哮は一人前か?」

「そう?ああ。弱いほどよく吠えるというじゃん?」

もちろん、俺はヘッドホンのこともあって音が遮断されている。便利でもあるが、奇襲には気づけないのかもしれない。

 

「そんじゃ、2体だし、俺とコウタ、そしてギルとエリナさんでいいか?」

「子供のお守はごめんだが?」

「子供扱いしないでよ!」

「まあ、死ななければ万事どうにかなるよ。このチームでいいよね?」

「「「おおお!」」」

「……元気だな。」

 

とりあえず気を取り直して正面を向き、あの先に微かに見える本堂を睨んだ。




と、おそらく明日読む方が多くなると。
予定としてはリンクサポートはこのギルの件の後に回します。
投稿は3日に1回ってペースで行きますので、待ってくだされば嬉しいです。
ではでは。


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過去の残響-Rufus Karigyula-

えーと、お久しぶりです。皆様
(すみませんだろ、こら!)

3日くらいで出しますとは言ったものの、まさか5日も。新学期って無駄に忙しいものですね。
(単なる言い訳)

罵しりなさっても仕方ないです。はい、すみません。
どうぞ。


『こちらギル、配置についた。異常なし。』

『エリナ、2階です。何もないです!』

「了解、監視を続けて。」

 

このステージの構成上、1人ずつ1つの階を担当、それで残りが本堂に入ることにした。

 

「よし!ここは任せて!」

「へい、頼む。」

 

コウタに3階を任せ、まずは本堂の階段の影に隠れた。

 

「ヒバリさん、もう出てるんですか?」

『もうすぐ戦域に侵入します。』

階段を一気に駆け上り、本堂に入った。

青黒く腐り、何箇所か変に軋んだ本堂。天井には2つの大きな穴が空いている。万年降る雪が、そこから屋内に入り少しずつ積る。

正面の3つの仏像はもぎ取られ、顔が分からない。かつて人の心を救ったのだろう、仏様たちの滑稽な跡だ。その不気味で静かな本堂の中を、空の満月が虚しく照らす。

もしここから入るとすれば、この天井の穴からだ。どっちか1つ。

 

「来いよ。身体中をギザギザにしてやるよ。」

 

後ろから何かが鈍い音がした。

 

「……ビンゴ。グボログボロね?」

 

灰色の鱗の魚を10倍に体格を増やした感じだ。青白い背ビレは硬化して少し立っているし、額に大砲のような角をつけている。何よりその顔は、下半身よりも何倍に膨らみ、開いたその口には鋭い歯がぎっしり。

 

 「どこから攻めるか……」

 

 だがそいつが先にこっちを見つけ、予備動作もなく突進してくる。おまけに自慢の口を開いて。

 

 「……酷くねえかてめえ。」

 

 とりあえずガード。震動で腕が痛み、体が反ってしまった。

実はもう1つ策として、口に神機を突っ込むというのもある。が、リッカさんに二度も怒られるのが嫌で、辞めた。

 一旦この体勢から距離を取り、一気に接近する。それであの両側のヒレを引っちぎることで……

 思いつきはよかったが、目の前に集中しすぎて、後ろにもう1体が降りてきたのを一歩遅れに気づいた。

 

 「ちょ、まじ?」

 

 同じくこっちに気づいて食いかかってくる。すでに前の奴を抑さえるのに神機を使っている。防御なんてできない。

グボログボロが両サイドのヒレで床を押し付けて、一気に推進力をかける。氷の上を滑るように距離を詰めてきた。どうも一口で俺を食い尽くす気。

……いやいや待てよ、おい!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「うぎゃああ!」

 

……何をやらかしたんだよ、稀羅。

3階の警戒。無線ではもうとっくにアラガミが侵入したと言う。何も見えないので、俺以外が当たりだと思った。そこであの本堂の方から稀羅の悲鳴がした。

 

「エリナ、稀羅と合流する。ギルさん連れてこっちに上がって!」

『了解!』

 

弾を雷属性に入れ換え、本堂を駆け上がった先……

 

「……すげえ。」

一見同じアラガミが居合いをしている様にしか見えない。だけど真ん中に、一方を神機で抑え、両足でもう一方の歯茎を踏んで停めている稀羅がいた。

こうゆうのなんて言うんだっけ、サーカス?

 

「感心してる場合か!さっさと撃てよ!」

「ご、ごめん!」

 

いかん。つい見惚れてしまった。ああやって2匹止める神機使いって他にいたっけ?

銀色に光る銃口を……まずは稀羅が足の方のやつに。ぶっ放した弾丸がグボログボロの口に放り込まれた。びっくりした奴がバックダッシュする。やっと地面に足を置いた稀羅がシールドを開いたまま壁にグボログボロを押し付け、横に逃げる。

「稀羅!後ろ!」

 

ガラ空きの稀羅の背中を、俺が先に引かせた奴が狙う。稀羅が慌てて振り向くと、灰色の角から3連の水玉が発射された。稀羅はそれを危うく受け流すも、今度は稀羅の後ろの奴が口を開いて突進する。

 

「当たれ!」

 

角をめがけて放った弾が時間差で目に当たった。グボログボロが突進を中断し、顔を上げて呻いた。

稀羅がスタングレネードを使った。閃光の中、稀羅の声が響く。

 

「くそ、外に出るぞ!」

「あいよ!」

 

本堂の階段を降りるのが面倒で、手すりの様な壁を跳び越える。稀羅も同じく反対の方に跳び降りた。

さて、今のうちに装填でもしとこう。

すると、着地した地面が妙に黄緑に輝く。

「あー……やべ!」

 

体を横に転がす。座ってた地点が緑の濁流に渦巻いた。神機使いとして3年は経ったが、あの渦に呑まれた時にどうなるかは知らない。いいのか悪いかやら。

 

「隊長!来たよ!」

 

エリナとギルさんがタイミング良く着いた。

「エリナは俺がバックアップするから1体を狙ってくれ。ギルさんは、稀羅をお願いするよ。」

「おう、あいつはどこだ?」

「階段の反対側。」

 

本堂からグボログボロ2体がぶつかり合いながら3階へ出た。とりあえず一方を押さえとけば稀羅が残りを片付けられるはず。

 

「よし、俺が撃ったら全員で突撃するぞ!」

「エリナ、了解です!」

「了解。」

 

だけど、わざわざ俺が注意を引く必要もなくなった。階段を滑り下りて周りを探る2体に、紫オーラーの何かが振り下ろされ、2本の角が全て砕けた。次に、1体がふわっと浮いてこっちに飛ばされた。

 

「お、おわわ!」

「そんな!」

「稀羅のやつ……」

 

え、今の稀羅がやったのかよ?あのオーラーって……まさかチャージクラッシュ?

瞬く間に起きた現象についていけない。

 

「……うりゃあ!」

 

稀羅の短い気合が空を揺るがす。グボログボロの尻尾が形を消して血を噴き出す。

ギルさんの正解だな。

それより、どうやら怒っている稀羅の顔が怖い。目を合うのを躊躇うくらい。

 

『アラガミダウン、態勢を整えてください!』

 

ヒバリさんの無線が鼓膜に響くもの、稀羅の怒声がそれをかき消した。

 

「グズグズすんな!コウタ、そこの片目なくした方を蜂の巣にしろ!ギル!こっち手伝え!」

「「「りょ、了解。」」」

 

……俺たち3人の、気を殺されたような、か弱い声がした。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「んー?これで終わり?んじゃあ、みんなお疲れ。」

 

2体に痛い目を合わされ、少し頭に血が登ってしまった。お陰で戦闘は見えるものを、ただただ地面につけて引き裂く野蛮なやり方。ま、ヒレは全部破れたし、角は初っぱなにぶっ壊し、おまけに歯も全部砕いてやった。

残骸の2体は形状すら曖昧だ。

 

「おい稀羅、速すぎだ。援護、なんか、必要ないのか?」

「ああ、悪りい。俺もちょっと予想外。」

 

そう、予想外。ここまで酷く荒ぶるつもりはなかったんだがな。てかなんでギルはあんなに息切れしてんだ?

 

「お、おまけに、こっちの分もやって、はあ、はあ……」

「こ、これ、が、ブラッド、なの?せえ、せえ……」

ものすごく息が上がった2人を追加しよう。何故彼らが疲れたのかは知らないけど。

 

『アラガミ2体をたったの2分で……。』

 

ヒバリさんも言葉を失った様。少し一人で暴れる度が過ぎたみたいだ。

どう言い訳すればいいやら。

 

「コア回収です。ヘリはどこですか?」

『あ、えっと、もうすぐです。それまで周囲を警戒し、待機してください。』

「了解。」

 

コアの回収中だった神機を亡骸から抜いた。俺から見ても刀身の状態がよくない。いかにも限界を無理矢理押し通した戦い、ってのを身を以て証明してる。

これはこれで言い訳作り困ったし、長時間メンテナンスが入ったら今度こそお留守番にされる。

少し大目に見てくれると助かるんだが……

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして格納庫。

 

「……」

「……」

「ふうーん。」

 

ビクっ!

やばい、とても予想通りすぎる展開。

ヘリで帰還し、早速俺らを迎えたのは、両手を腰に当て仁王立ちしてるリッカさんだった。

うん、明らかに機嫌がよくない。

 

「はあ……」

 

ため息17回目頂きました。

ここに来るまで約4つくらいの言い訳を作ったが、やっぱり黙ってた方が良さそう。

 

「フルメンテ確定。」

「……」

 

直接言われるとものすごく心が痛むね。

 

「え、えーと。何時間くらいでしょうか?」

「そうね、亀裂がさらに伸びて、剣の腹まで傷が深い。まずは、明日の正午までは絶対無理だと思って。」

「……」

 

泣き崩れそう。せめて部品を変えなくていいレベルで安心した。とわいえ、今はやっと6時だ。ざっと18時間はかかるって目度に、さらに目の前が暗い。

 

「まあ、でも1人で2体も処理したもんだし、そこは褒めてあげるよ。けど、やっぱり無理しすぎね。」

「同じことをよく言われます。」

「じゃあ、その癖でも治してよ。こんな大仕事をあたしに任せるくらいなら。」

「でも必然的に前に出るんですから。」

いつも気がつくと、一番前で戦闘をしている。無意識のうちに敵を倒して、自分だけ怪我して。

でも、不思議にそれを辞めようと自分から決めたことがない。

 

「それだよ。」

「え?」

「たまにはみんなを最前に送ってもいいんじゃないの?」

「いやー、ちょっと心配で。」

「それでも任せれば?みんなあんたと同じ、立派な神機使いだから。」

「そう……ですね。」

「多分稀羅はすごく心配性だよ。他が傷付くのが嫌い。そのくせ、自分なら平気だと思い込む。」

「……」

 

あまりにも的確に指摘され、言葉を失った。

なぜこの人はこんなに分かるんだ?自分でもない、他人の考えを。

 

「とにかく!大人しく支部で待機してなさい。この子はちゃんと直してよあげるから。」

「……よろしくお願いします。」

 

この機に、自分の戦い方を少し見直してみよう。

そう思ってきた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はい、どうぞ。」

「ありがとう。」

 

大きい窓の壁側のテーブル前に座った。

そこで、このラウンジでご馳走を作ってくれる、'千倉ムツミ'からお茶をもらった。どうもまだ9歳なのに、一般の大人に負けない優秀なシェフだそうだ。実際、歓迎会の料理も彼女が作ったくれたらしい。

ラウンジの光にさらに紅く輝く紅茶に、フライアに入る以前、これを飲んだのを思い出した。そこでフランさんと会って、神機使いになった。

 

「フランさん、今頃なにやってんのかな。」

 

彼女に約束した、無理をしないこと。でも早速今日それを破ってしまって、紅茶も味がしない。

どうすればいいかな。これから。

 

「よお、副隊長さん。」

 

声がしたのは後ろ、初対面と変わらない独特な雰囲気のハルさんがいた。

 

「あ、どうも。」

「隣、いいか?」

「へ?」

あれ、いきなりすぎです。

 

「心配するな、別に口説きに来たわけじゃないさ。」

「そこまで思ってないですよ、てか男にもするんですか?」

「いやいや、まさか。」

 

隣の椅子に腰を下ろすハルさんが愉快に笑う。

 

「ギルから聞いたぜ?ここに来る前に随分無茶したんだってな?赤い雨の中、命令違反し、仲間を助けに行ったって?」

 

ぐっ、ギルまでも言うんだ。

 

「もともとあんな命令誰が納得するんっすか?無茶だとは思ってたけど気づいたらまあ……」

「はは、なるほど。やっぱ面白いやつだ。気に入ったぜ?」

「口説き、じゃないですよね?」

「違う違う……はあ、どうせギルのことだ。他人についてはあんなに言いながら、自分のことはなかなか話さないよな?」

「せいぜいグラスゴーにいたことくらい。」

「ああ、そう。でもさ、おかしくないか?なぜ今となってフライアに来たか。」

「たまたまそれができるとわかったから?」

「いいや、本来フライアってのは結構前からあったぜ?ギルが神機使いになる前からさ。」

「そんなに歴史あるんですか?あの船。」

「そりゃあ、フェンリルにもマスコミにもトップシークレットだったしな。今感応種が出てからようやく表に出たんだよ。」

「あ、そうなんだ。」

「ところで、聞きたくないか?あいつのグラスゴー支部で、何があったとか?」

言い方がまるで、秘中のお宝話でも始めようと雰囲気だ。そりゃあ、他人の話だし、それ相応の価値はあるか。

「……気に障らないくらいなら。」

「オーケー。じゃあ、どこから話すか……グラスゴーはな、ギルと俺を入れて神機使いが3人しかいない小さな支部だったんだ。」

「3人?」

「ああ、そこで俺らの隊長がいたよ。名前はケイト、ケイトロウリー。ま、俺の嫁だったんだけどね。」

「今なんて?」

「ん?嫁だよ、嫁。」

 

いるのかい!ていうかなんでお嫁さんが隊長をやってる?普通逆じゃない?

 

「そう驚くなよ。結局結婚はできなかったからさ。」

「はい?」

「うーん、そうだな。わり、ここから結構重い話になるが、それでも付き合ってくれるか?」

「……もう人物構成まで言われましたよ?聞きます。」

「うん、まあ、要するに、俺らの最後のミッションで……ギルが、ケイトを手にかける羽目になっちまったんだ。」

彼はさらっと言うつもりだった様だが、かなり頭に響いた。

 

「どう見ても他のやり方はなかった。軍法上でも無罪だしな。それでも、騒ぎたてるやつがいてな。その日からやつには、'フラッキングギル'、'上巻殺しのギル'って名前がついた。」

「そんな。でもなぜ?」

「そうだな。副隊長は、腕輪が破壊されるとどうなるか知ってるか?」

彼が俺の黒い腕輪を指す。

 

「いえ、」

「そいつは俺らの体内のオラクル細胞を制御する、いわば飯を与えてるんだ。」

「飯?」

「偏食因子と言ったな。ただ、それがなくなると、オラクル細胞が暴れるんだ。腹が減るからな。」

「そ、それで?」

 

もしかして、人間を?

 

「人の体を貪る。そんで、アラガミ化が始まるんだ。」

 

予想通り。

「じゃあ、ケイトさんも?」

「ああ、全部訳があったからのことだ。少し話を戻そう。あの日、俺らはいつも通り、簡単な小型の討伐を任された。ギルはケイトと組んで、俺とは別のルートで回り込んだ。そこで、彼らの前に、あいつが出て来たんだ。」

 

急にハルさんの目が鋭くなった。

 

「何が?」

「お前さん、カリギュラってのは知ってるか?」

「……いえ。」

「だろうな。そいつの原種、ハンニバルってのもここでは3年前にやっと発見されたから。カリギュラはそいつの変異種だ。骨格と動きは似てるが、攻撃の仕方がかなり違う。詳しくは後でデータベースで見てくれ。」

「カリギュラ……」

「おう、そんで、中でも赤いカリギュラがあの時現れたんだ。」

「元は何色なんですか?」

「青。ちなみに赤い野郎は個体数も少ないせいで、情報が一切なかった。今となって本部がそいつをルフス-カリギュラと名付けたくらい。」

「強い……ですよね?」

「歴戦の神機使いも最初はしくじるだろうな。とにかく、そいつが出て来て、俺は直ちに合流を指示された。けど、俺が着いた頃には……あいつはいなかった。」

 

ハルさんが机の上で組んだ腕に顔を埋めた。あの辛い光景を思い出しているのだろう。

 

「ケイトの服は、ギルの槍で岩に縫いとめられ、ギルのやつはそいつの腕輪を抱えて、ずっと……泣き続けてたんだ。」

「ルフスカリギュラはまだ生きてるんですか?」

「ああ、ちなみにここ最近極東での発見報告が上がってる。」

「じゃあ、間もなく……」

 

討伐依頼が出る。

 

「……実はな、副隊長さん。そのことであんたに頼み事がある。」

「……同行してくれ、と?」

「話が速くて助かる。すまないが多分、俺とギルだけじゃ無理だ。あいつは。」

「事情を万遍なく言われましたよ。今更嫌ですって言えないでしょ?」

「……すまんな、成功したら一杯おごるぜ。」

「俺……まだ未成年ですよ?」

「マジか!はは、それは残念。じゃ、ご飯で?」

「はい、ありがとうございます。」

ハルさんの笑顔が戻され少しほっとした。やはりこの人は笑ってる顔が似合う。

 

「おう。それじゃ、頼むぜ、副隊長。」

「はい、スケジュールはできる限り明けときます。」

 

実際明日はガラ空きだし。

 

「少なくとも次回は面白い話でもしようぜ。それじゃ、」

「お疲れ様です。」

去って行く彼を見送りながら、人ぞれぞれの内側がとても深いことを思い知らされた。ギルがああ性格が荒くなったのも頷ける。そして、俺の無茶を心配するのも。

すっかり冷めた紅茶をゆっくり喉に流した。




実はですけど、1話からいくつかどうも書き方が酷いものがあるんで、大きく修正をいれることにしました。
予定としては4月中に終わらせる予定です。
それで概略はかわりませんが多少追加内容もあるかもしれないのでもう一度見てくだされば嬉しく思います。
5話ずつ終わるたびに通知をいれます。何卒よろしくお願いします。

さて、次ですが、もうすぐGE2のアプデが近いです。待ちに待ったインフラ搭載。早速平日の夜中に暴れることにしました。

名前はこの作品に沿って

P M 稀羅

です。一応赤いヘッドホンもありますんで。
コードネームは

Kousuke

です。バスターである程度腕はありますんで、共闘の方はぜひ声かけてください。

ではでは見てくださった方、ありがとうございます。
修正早めに終わるといいなあ。


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