転校生 (帰宅部係長)
しおりを挟む

1話

初めて小説書くので駄作になると思います。
段々質が良くしていけるよう頑張ります。




 

「君の名前はちまんって言うんだ?」

「へんな名前だね!」 

「ねぇ、はちまんくん僕と友達になってよ!」

 あいつと初めて会った時を思い出す。

初めて会う相手に向かって変な名前とは…、

小学生とはいえ失礼だと思う。

 …って言うか俺って変な名前なのかなあ?

 ……変じゃないよね?

 

 

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 

 

 

 

 転校生。

 

 それは、学生生活を送る者にとっては魅力的な響きを持った言葉だ。まず、転校生自体が珍しいので、顔も知らない転校生に期待し、男も女も関係なく盛り上がってしまう。

 しかし、盛り上がれば上がるほど、転校生がイケメンじゃなかったり、可愛くなかったりした時のクラスの盛り下がりは本当に酷い。転校生にとってはただの公開処刑である。

 そもそも、転校生に期待する事自体間違っているのだ。家の事情で転校を余儀なくされる奴が不憫でしかない。まぁ俺には関係無いけど。

 

 

 

「皆席に着けー!HRを始めるぞ!」

 独身アラサー教師の大きな声してガタガタと音をたてながら皆席に着く。

 皆黙ってはいるものの、落ち着きがない。今、クラスの中で落ち着いているのは俺だけだろう。

 理由は簡単、俺は既に転校生に会ってる…と言うか知り合いなんだよなぁ…。最近まで忘れていたけど…

 

 

        ×   ×   ×

 

 

 先日、奉仕部で由比ヶ浜の依頼を解決(?)したその翌日、学校から帰る途中に気まぐれで喫茶店に寄った時……。

 

「…ズズッ…偶にはブラックも悪くないな…」

 コーヒーを飲み、気持ち悪い独り言を呟きながら本を読んでいると横から

 

「すみません、相席いいですか」

 

と、声を掛けられた。

 

 何故だか懐かし感じのする声だったが、

気のせいだなと思いゆっくりと本から顔を上げて、声がした方を見ると自分と同じぐらいの歳の、ニコニコした顔の男が居た。

 俺はすぐにこの男が嫌いなタイプだと感じた。この胡散臭いニコニコ顔もそうだが、この男が纏う雰囲気が、葉山隼人に似ているからだ。

 

 男は俺の顔を…正確に言えば目だろう、それを見て少し驚いた顔をしたがすぐに元顔に戻った。

 まぁ何時もの事だから無視して店内を見回す。

 

 全部の席が人で埋まっていた。

 正直相席はしたくないがこの状況で断るのは気が引ける。相席するしかないようだ…。

 

心の中で溜め息をついて答える。

 

「……どうぞ」

「ありがとう!」

 

 男はそう言って俺の対面の席に座り、メニューを取って見始め、俺は本の続きを読み始める。

最初は警戒していたが気まずいのですぐに本に集中する。

 

 

 

 

「君、頭良いんだな」

「……へ?」

 

 いきなり声を掛けられたので、間抜けな返事をしてしまった…、顔を上げて相手を見るといつの間に届いていたのか分からないコーヒーを飲みながらスマホを弄っていた。

 俺の視線に気付いたのかスマホを置いて俺の方を見る

 

「だってその制服、総武高校のだろ?」

「…あぁ…そうだけど」

 

 

「…間違ってたら恥ずかしいんだけど」

「…あ?」

「君の名前って比企谷八幡?」

「………」

 

体中に鳥肌が立ち、顔から冷や汗が出る。

 

 何故コイツが俺の名前を知っている?

 驚きと恐怖で混乱する。

 何故俺を知ってるのか聞きたかったが、口が動かない。その様子見て察したのか男は少し戸惑いながら

 

「驚かせておいてなんだが、少し落ち着いてくれ。周りの目が怖いから。まぁ…俺のせいなんだけど…」

「言って置くけど、俺はストーカーではないからな?」

 

 

        ×   ×   ×

 

 

 暫くして、俺が落ち着いたのを見て男は喋り始める。

 

「改めて聞くけど、君は比企谷八幡?」

「いいえ、違います」

「……………」

「……嘘です、比企谷八幡です」

 

 真顔にならないで怖いから。会った時のニコニコ顔とのギャップが凄くて不気味だから!

 

 そして、男は俺が比企谷八幡だと確定したからなのか?

 さっきまで目がよく見えなくて気付かなかったが、この男の目は俺が毎朝歯を磨く時に鏡に映る人間の目をしていた…。この顔がこの男の素顔なのだろうか?

 

「いやー、見た目や性格は曖昧にしか伝えられなかったから合ってて良かったよ」

「…何故俺の名前を知ってる? そして誰に伝えられた?」

「? お前の親父だが?」

「は、はぁ?」

 

「…えーと、お前家で親と会話とかしないのか?…って言うか何も聞かされてない?」

「………?」

 

「あ…そういえば両親共働きだったな…」

 

 俺の両親は共働きで帰りが遅い、家に帰って来ても夕飯食って風呂入ってその後すぐに寝てしまう。

 夜、俺は自分の部屋にいることが殆どだから、夜中リビングに水飲みに行った時ぐらいしか顔を合わせる事はない。

 会話なんて休日以外殆どしない。

 だけど……たしか二週間ぐらい前に親父が何か言ってたな…あれか? 覚えてないけど…。

 

「すまん、最近親父に何か言われたが、内容は覚えてない」

「そうか、なら面倒だけど俺が説明するよ」

 

 …面倒って言ったよコイツ。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

短いです、すいません。


「さて、まず何から説明しようか…」

「いや、まず名前を教えろよ…」

「あぁ、そういえばそうだった、まだ名乗って無かったな」

 

 

 

「俺の名前は雨矢上善光だ。雨天の雨に一矢報いるの矢に上座の上、善光寺の善光でよしあきと言う」

「おう…長かったな…」

 

 なんだよなその自己紹介、何処ぞの詐欺師だよ。その自己紹介名前長い人がやるとこんなに長くなるんだな…。

 

「あの詐欺師、最低で最悪の悪党なのに、カッコいいよ。な俺の憧れだ」

「そうだな…って心読むな、気持ち悪い。てゆーか、あんなもんに憧れを持つな」

「ん? 読んだつもりはないけど?」

 

「……と言うか、お前変な名前だな」

「お前には言われたくない、比企谷だって変な名前だろ」

「うるせぇ、俺は八幡って名前結構気に入ってんだよ」

「それは俺も同じだ」

 

 

「…さて、次は俺と比企谷の関係について説明するか」

 

 そうだ、これが一番気になっている。何故コイツが俺の事を知っているのか、未だに分からない。

 

「…って言うか名前聞いて思い出すとかないの?」

「……?」

「えぇ……少し傷付いたわ」

 

 頭の中の記憶を遡ってみるが、こんな奴知り合いにいた記憶がないぞ? …って言うかあまり昔の事思い出したくないんだけど…。 あ? 理由は察しろ。

 

「うーん…小町さんなら覚えてると思うんだけどなぁ」

「小町の事も知っているのかよ」

「ん?…いや、家族ぐるみの付き合いだったし」

「と言っても、俺だけしか付き合いに参加しなかったんだけど」

「?………あ」

「お?」

 

 あぁ…そうだった。ずっとボッチだと思っていたけど、居たな、俺にも友達と言う奴が。長い間ボッチだったから友達が居た記憶すら忘れていた。

 ……都合よく思い出す事だってあるだろ?

 

「…思い出したよ。お前変わり過ぎだろ、さっきの仮面もそうだが今の俺みたいな腐った目も」

「確かに……変わった、色々あったからな。だが、お前には言われたくない、何だその腐った目は」

「それはお前もだろ」

 

「……フフッ」

「……何が可笑しい?」

 

 俺が睨みつけながら言うと、雨矢上は俺が睨んでいるのを全く気にする事なく、静かに笑いながら答える。

 

「いやな? 俺と同世代の人間で、腐った目の奴を見るとは思わなくてな? ましてやそれが、自分の昔の友人だったからさ、少し可笑しくて…」

「……」

 

 コイツ…。知り合いじゃなかったら殴ってたところだった…。あ、知り合いじゃなかったとしても殴らないよ? 八幡暴力嫌い。

 

「なぁ比企谷」

「あ?」

「異常だと思わないか?」

「何がだ」

「若くして、こんな腐った目になってしまう事がだ」

「俺のは生まれ付きな気がするが?」

「お前は目つきが悪かっただけで、腐ってなんかいなかったよ」

「……」

「どれほど辛い事があったんだ? 言いたくなければ言わなくてもいいけど」

 

 雨矢上は明るく話しているが、表情は暗く、目からはハイライトが消えている。多分こいつも散々な人生だったんだろう…。 話しを変えたほうがよさそうだ…。

 

「そういやお前、小3の時転校したろ? 何で帰って来たんだ?」

「あー…」

「?」

 

 雨矢上は少し考えてから口を開いた。

 




MAXCOFFEEって甘過ぎないところが好きです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

 

「俺がこの街に帰って来た理由は、二つあって一つはもう解決してる」

「解決? 何か依頼でもあったのか?」

「……去年の12月にここらへんで通り魔事件があったろ?」

「あぁ、あったな、確か学生が狙われたってやつだろ?」

 

 もともとこの地域は治安が良いとは言えないが、比較的安全な地域ではあった。だから、通り魔事件が起きた時はそれなりの騒ぎになった。

 それから、身の安全のため高校生以下の学生は、必ず二人以上で登下校する事になったのだ。

 悲しい事に俺は一緒に登下校するような知り合いがいなかったから仕方なく小町と一緒に登下校していた。

 …仕方なくだからね? 小町と一緒に居れる時間が増えて嬉しいとか思って無いからな?

 

「…相変わらずのシスコンだな」

「ナチュラルに俺の心を読むな。そして俺はシスコンじゃない」

「それで、その通り魔がその後どうなったか知ってるか?」

 

 俺の否定は無視ですか……八幡悲しいなぁ…。

 

「確か、事件以来あまり聞かなくなって、先月犯人が捕まったよな。んで、その時襲われた学生を庇って重症を負った人が警察関係者でそのま…ま………ん?」

「お、気付いた?」

「何してんのお前…」

「さっき言ったろ? 依頼だよ。犯人があまりにも捕まらないからって俺個人に依頼が来たんだよ」

「…誰から?」

「守秘義務があるからな、依頼主については教えられない」

「そうか。で、怪我は?」

「腹部を一回刺されただけだよ。それに、もう治ってる」

「軽く言うなよ…重症だったんだろ?」

「まぁ重症だったな、半月間病院のベッドで寝たきりだったよ。さらに、そのせいで転校遅れたりして大変だよ」

「そうか…大変だったな………あ? 転校!?」

「あ、それも言って無かったな」

「転校って、どこにだよ」

「どこって…総武高校だが?」

「は?」

「え?」

「は?」

「え?」

「ちょっと待て、転校は…まぁいい、でも、何で総武高校なんだ?」

「? 家が近いからだが?」

「マジか……」

「あ、俺一人暮らしだからさ、暇な時遊びに来いよ、何なら泊まって朝までカルドセプトやろーぜ!」

「……ゲームのチョイスが古すぎませんかね? カルドセプトって今の子供達しってるかな?」

 

 

 

「そういやお前、よく総武に入れたな、難易度高かっただろ?」

「ん…そうでもなかったぞ?」

「へぇ…ちなみに前の学校はどこだったんだ?」

「永和学園」

「ブーッ!」

「うおっ、コーヒー吹くなよきたねぇな…ほら、ハンカチ」

「おぅ…ありがとう……」

「………!?」

 なんだこのハンカチ、物凄い爽やかな香りするんですけど!? この匂い…ミントか?

「あーそれミント塗り込んでるから少し匂いキツイかもしれん」

「いや、そこまできつくないぞ? てか、何でミント?」

「面白いと思ったから?」

「さいですか…」

 

 




 親と一緒にカルドセプトやってます。楽しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

 

「永和学園って名門だろ? わざわざ転校しなくても良かったんじゃないか? もったいねぇ…」

「まぁ、もったいないかもな。でも俺、大学は何処でも入れる様に勉強してるから、高校に拘りは持って無いんだよなー」

「…頭いいんだな」

「…努力の賜物だよ」

 

 雨矢上はそう言うと、口の端を少しつりあげ、ドヤ顔をした。ウゼェ…。

 

「お前、努力とかすんのな」

「当たり前だ、俺は天才じゃないんだ、努力しないと天才達には勝てないだろ」

「それで?もう一つの理由はなんだ?」

「えぇ…無視かよ」

「で? 理由は?」

「暇だったから」

「…は?」

「冗談だ」

「…帰るぞ?」

「それは困る」

「次冗談言ったら本当に帰るからな」

「せっかちだなぁ」

「俺はせっかちじゃない。早くもう一つの理由を教えろ」

「せっかちじゃないか…」

 

 

「比企谷は俺の兄については知っているよな?」

「詳しくは知らないが、薬を作ってるんだっけ?」

「そうそう。この街に帰って来た一番の理由は薬を作る手伝いをする事なんだ」

「へぇ…」

「あ、ちなみに俺の兄は登場しない予定だ」

「メタいな…」

 

 そう言う事言っていいのかよ…。

 

 

「お前、何時転校してくるんだ?」

「明後日には総武高校に登校するつもりだ」

「直ぐじゃねぇか…」

「まぁ、手続きはもう終わってるからな、後は登校するだけなんだよ」

「そうか…」

「同じクラスになれるといいな!」

「それは、まじで勘弁してくれ…」

「何故嫌がる?」

「お前は、俺の平和なボッチlifeを破壊しそうだからだ」

「比企谷…本当に変わったな…。あと、言ってて悲しくならないのか?」

「か、悲しくなんてならねーし…」

「いや、それ悲しい奴が言う台詞だぞ…」

「それに、俺もボッチlifeを送っていたから、その気持ちは分かる、だから壊そうなんて思わないよ」

「はぁ…ならいいけど…」

 溜め息ついて、俺はカップに残っていたコーヒーを飲んだ。雨矢上も自分のカップに残っていたコーヒーを飲む。

 

「「…冷た…」」

 

 まぁ、長い間話していたし、仕方の無い事なんだが、なんだろう…冷めたコーヒーを飲むと虚しい気分になるよな?な?

 

「さて…話したい事は大体話せたし、そろそろ帰るか」

「俺はまだ聞きたい事とか色々あるんだけど…」

「それはまた今度俺の家ででも話そうぜ。それに早く帰った方がいいんじゃないか? 小町さんに心配かけない為にも」

「そうだな、そんじゃ帰るか」

 雨矢上が先に席を立ち帰ろうとする

「……同じクラスになったら、そんときは宜しくな」

「あぁ。でも、期待すんなよ」

「大丈夫。期待してないから」

「……」

「じゃあまたな」

「ん、じゃあな」

 

 その後すぐに俺も喫茶店を出て家路についた。帰ったら案の定小町に色々聞かれたが、言わない方が良いと思ったから言わないで置いた。

 

 

 





 俺ガイル完結しましたね…。おめでとう(?)ございます。
 間違った青春をありがとう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

5話

 

  ここでようやく回想が終了する。

 

「えー、もう皆知っているだろうが。今日このクラスに転校生が来る。入りたまえ。」

 

 先生の合図で教室の前の扉が年季の入った音を立てながら開かれて、転校生が入る。と、同時にクラス内がどよめく。

周りからそこそこイケメンだーとか、愚腐腐腐やら色んな声が聞こえる。 いや、うるせぇよ…そんな騒ぐな…。

 ……ん? 葉山だけ妙に落ち着いているな…?

 

「皆静かにしろ!」

 

 先生の一言で皆静かになる。流石平塚先生。てか、声がでかいよ先生…。だから結k……何でも無いです。

 

「では、皆に自己紹介してくれ」

 

 雨矢上は先生にそう言われると、黒板に自分の名前とふりがなを、リズムよく綺麗な字で書く。そして笑顔で—

 

「永和学園から転校して来た、雨矢上善光です、宜しくお願いします!」

 

 すげぇ…完璧な仮面だ…。

 そういえば、読者の皆様には雨矢上の外見の話しはしてなかったな。まず、顔で言うと自分で言うのもなんだが、俺と同じぐらいだな。

 誰かそこそこイケメンって言ってたから、俺、もしかして目を何とかすればイケメンになるのでは?! ……なんてね。(ジト目)

 

 後は…髪が少し赤みがかってるくらいかな? 確か地毛だった筈。

 と言うかお前、なに普通の自己紹介してんだよ。詐欺師の自己紹介して、クラスがどんな反応するのか見たかったんだけど…。まぁ、大体どうなるか予想つくけど…。

 ……まぁあれだよな、ラノベとかは表紙絵や挿絵とかあるお陰で、見た目の説明とか必要無くて済むけど、こう言う場所ってのはそう言うのが無いから、説明するのが大変ではあるよな…、文字数稼げるからいいけど…。 

 やはり絵師は偉大だな。

 ……俺は何を考えてるんだ?

 

「では雨矢上、何か一言あれば」

「はい」

「転校したばかりで色々分からない事とかあるけれど、宜しくお願いします」

「だそうだ、皆仲良くしてやってくれ」

「先生俺は何処の席に座れば?」

「あー…そうだな、あそこの席に座ってくれ。今日からあそこ席が雨矢上の席だ。それと、席替えとかは基本無いから」

「分かりました」

 

 平塚先生はそう言うと、教室の一番後ろの列の、扉から二番目の誰も使ってない席を指差した。

 雨矢上は、平塚先生の指示に従い席に座る。

 もともとそこの席になるとは思っていたけど、いざ座られて見ると近い。

 歩いて来る時、葉山の方をチラッと見た気がしたけど…気のせいか?

 

「——以上でHRを終了だ」

 

 HRが終わって、またクラス内が騒がしくなる…。

 授業までまだ時間あるし、音楽でも聴くか…

 

「そうだ、雨矢上」

「はい、何ですか?」

「部活についてなんだが、入る部活は決めてたりするのか?」

「いえ、まだ決めてません。一応、全部の部活を見学するつもりでいます」

「そうか、見学するなら顧問の先生に許可を取ってからするといい」

「分かりました、ありがとうございます」

「うむ。では、授業頑張れよ」

 

 

 ん? 葉山が雨矢上に何か話しかけてるな…。俺は音楽を聴いてるし、周りも騒がしい。少し気になるし嫌な予感がする…。

 まぁ、別にいいか、俺には関係無い……無いのか? 時間は随分立っているが、俺の友達だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




俺ガイル十四巻。青春の最後を見るのが怖くて全く読めてません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

6話

 

 俺はさり気なく、雨矢上と葉山に近付き聞き耳を立てる。

 さっきの葉山が妙に落ち着いていたのも気になるし…、何の話をしてるんだ…?

 

「雨矢上、君と少し話したい事がある」

「ん? 此処じゃ話せない事か?」

「………あぁ」

「……そうか、じゃあ昼休みあたりに話そうか。あと、俺はこの学校について詳しくは無いから、葉山が話しやすい場所に俺を連れて行ってくれ」

「分かった」

 

 ……嫌な予感がする。

 昔から、俺のこう言う勘はよく当たる。そういう時はすぐに、危険を回避する行動を取るのだが……、どうするか…正直面倒事は避けたい、だが、その面倒事に友達が関わるとしたら、俺はどうするべきなんだ? 長い間ボッチ生活を送ってきた俺にはどうすればいいか、全く分からない。

 こう言う時は、漫画とかドラマみたいに、二人の後をつけてみるか。

 こう言う事するのは気が引けるが、友達の為だ、仕方が無いが話を盗み聞きしよう。

 

「うし✕はやキターー!!」

「ちょっ、擬態しろし!」

 

 ……あれは、葉山グループの…名前は確か…海老名さんと三浦…だったっけな。雨矢上…ネタにされてるぞ…。

 葉山がネタにされるのは何とも思わないが…いや、何なら少しスカッとした気分なる。

 スカッとジャパン…胸糞悪い展開が多くてあまり好きではなかったな…。

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

 勉強に勤しむ学生達ちの耳に、昼休みが訪れる合図のチャイムの音が届く。その音ど同時に授業が終わり、待ちに待った昼休みが始まる。

 教科の先生が授業の終わりを告げると同時に、生徒数名が席を立ち、購買へ向かう。

 他の生徒は、持参した弁当や、登校中にコンビニで買っておいた惣菜パンなどを、仲のいい生徒達で集まって、無駄話をしながら食べるのだろう。

 そういや、あいつは昼飯何食うのだろうか。…まぁあいつの事だ、何かしら用意してるだろう。

 

「…………お」

 

 葉山が、席を立ち、雨矢上に声を掛ける。

 雨矢上は、葉山に声を掛けられると、席を立って、葉山の後をついていく。 あぁ、何処かで鼻血が噴き出す音が聞こえる…。

 

「さて、あいつ等の後をつけるか…」

 

 小声でヤバイ事を言いながら、俺も席を立つ。そして、少し距離を開けて、二人の後をつける。

 二人が向った先は屋上だった。

 屋上はいつも開いているから、授業中でなければ何時でも出入り可能だ。さらに、海に近いこの学校の屋上は、そこそこ風が強くて、休み時間人がいる事はまず無いだろう。

 俺は二人が屋上に入った後に、扉の近くに立ち聞き耳を立てる…。

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

7話

 

 ……漸く俺の視点か。漸くって程でも無いか?

 

 オリ主タグとかついているけどさ、正直ストーリーテラーをやるのは面倒くさいんだ。いや本当に。

 そういうのは諸々、比企谷にやってもらおう。

 …本当、他人任せって楽だよな。

 

 まぁ、こう言う事を言ってはいるけど、罪悪感は感じているんだ。……本当だよ? 本当って言葉遣い過ぎか?

 そろそろ話の続きをしないとな、葉山隼人に目の前でずっと待っててもらうのは良くないしな。

 それと、比企谷。つけてきてるのバレバレだぞ…。

 俺の妖怪アンテナをなめないでほしい…。 

 

 ん?これだと比企谷が妖怪になってしまうな……まぁ、あながち間違ってはいないだろう。

 つけてきた事は後でさり気なく伝えるか…。

 

「? 雨矢上? どうかしたか?」 

「あぁ、すまん。…少し考え事をしてた」

「そうか」

「それで、話って何だ」

「どうして…」

「?」

「どうして、この街に帰って来たんだ」

「そんな眉間に皺寄せるなよ。かっこいい顔が台無しだぞ」

「…君にかっこいいと言われても、少しも嬉しくないな」

「だろうな。 俺は葉山の顔がかっこいいの事は認めるが、それ以外の事は基本無関心だ」

「君は大分変わったな…」

「そりゃ五年の間で、変わらない方が可笑しいだろ」

「……そうだな」

「俺に比べて葉山は、身体以外殆ど変わって無いみたいだな。今の葉山からは精神的成長を感じられない」

「…………」

「…これ以上は、話しても意味ないしやめにしよう」

 

「それで、話ってのは俺が帰って来た理由を聞きたいだけか?」

「他にも聞きたい事はあるけど、まずは君がこの街に帰って来た理由を聞きたい」

「すまないが、色々な事情があって理由は言えない」

 

 まぁ、事情が無かったとしても教え無いけどな。

 教える義理も無いし、そんな関係でもない。

 

「どうしても言えないのか?」

「…しつこいぞ」

「ッ…」

 

「理由は言わない。そして、他に聞きたい事はなんだ?」

「やっぱり聞くのはやめるよ。そろそろ戻らないと、優美子達に心配掛けてしまうかもしれないしね」

「そうか…。俺はもう少し此処で涼むとするよ」

 肌寒いな…。

 

 

 

 

 葉山が戻ってから、暫くして俺も屋上から出る。

 

「……比企谷、いるんだろ。出てこい」

 

 俺が声を出すと、近くにあった掃除用具をしまうロッカーの横から、比企谷が微妙な顔をしながら出てきた。

 

「バレたか…。我ながら完璧な隠密だと思ったんだけどな…」

「バレバレだ。俺の妖怪アンテナなめんなよ?」

「…おい、それだと俺が妖怪って事になってしまうだろうが。確かに俺は昔女子から妖怪と呼ばれた事はあるが…」

「予想どうりのツッコミありがとう。だが、その自虐は此方が泣きたくなるからやめてくれ」

「嫌だね」

「さいですか…」

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

8話

 

 昼休みが終わる頃。屋上から教室に、二人で戻る。

 そろそろ昼休みが終わるというのに、まだ廊下には人が多い。

 通行の妨げになってるというのに、友達と固まってウェイウェイしてる連中とか、付き合ってる男女達とかが、昼休みが終わるギリギリまで雑談に花を咲かせている。 …なに花咲かしてんだ、枯らすぞ。

 そんなことを心の中でブツブツと言っていると、それに気付いたのか雨矢上が口を開く。

 

「皆余裕だな。教室で次の時間の授業の予習をしている生徒だっているのに、昼休みの終わりギリギリまで雑談に花咲かせてな。」

「…本当、その花ごと木っ端微塵に爆発すればいいのにな…」

「………」

 

 コイツ……俺より酷いことを、人がいる廊下で口に出して言いやがった…。だが、八幡は賛成だ、皆爆発しろっ。

 

「そんな事言うぐらいなら、クラスの連中と話しとかすればいいだろ。お前は転校生なんだ、お話ししたい奴なんていくらでもいるだろ? そもそも、お前がボッチある俺とこうやって話てる事態おかしいんだ」

「何もおかしくなんかねぇよ。曖昧な関係だけど俺とお前は友達だろ? 何なら友達以上と言っても過言ではない」

「ちょっと気持ち悪い…」

「酷い…」

 

 

「さっきお前が言ったように、俺と話したい奴なんて沢山いるだろう。でも、俺は面白く無い人間達と話したくないし、下手に話して相手が勘違いして、変な関係になるのはゴメンなんだよ…」

「確かにそれはゴメンだな…。やっぱボッチこそ至高だな…」

「お前ボッチじゃねぇだろうが、俺ガイルんだし」

「関係があっても独立してればそれはボッチだろ。それに俺の根っからのボッチは変わらないし、変えられんよ」

「うわぁ、めんどくせぇ…」

 

 コイツはどう思ってるか分からないが、俺は青春が嫌いだ

 ……青春とは嘘であり悪である。青春を謳歌せし者たちは常に自己と周囲を欺く。

 自らを取り巻く環境の全てを肯定的に捉える。

 なにか致命的な失敗をしても、それすら青春の証とし、思い出の1ページに刻むのだ。

 仮に失敗することが青春の証であるのなら、友達作りに失敗した人間もまた青春のど真ん中でなければおかしいではないか。

 しかし彼らはそれを認めないだろう、なら それは欺瞞だろう。彼らは悪だ

 一一一ということは逆説的に青春を謳歌していない者の方が正しく 真の正義である

 ……こんな文章を見せた所為で、平塚先生にあの面倒な部活に半強制的に入部させられたんだっけな…。

 はぁ…こんな事ならあんな文章書かなければよかった……。

 …いや、あれは正しい! けっして間違いではない!あれは平塚先生がおかしいのだ。…それと青春も。

 部活といえば、コイツは何処の部活に入るんだろう?

 

「なぁ、お前って部活どこに入るんだ?」

「あぁ…一応全部の部活見学してから入る部活を決めるつもり……なんだが」

「?」

「お前は、部活何処に入ってるんだ?」

「…………」

「…どうした? いきなり黙り込んだりして」

「先に言って置くが、俺はあの部活に入りたくて入ったわけじゃ無い」

「おう…」

「特別棟は分かるな?」

「あぁ」

「そこにある奉仕部って言う部活に籍を置いているんだ」

「奉仕部? なんだそれ。お前……そんな部活に入っているのか?」

「引くなよ。俺は平塚先生に半強制的に入部させられたんだ!」

「あー…あの先生そういう事しそうだよな。何というか、男勝りだよな、あの先生…」

「お前それ本人前で言うなよ?殺されるぞ…」

「………マジか」

「マジだ…。既に俺は何度も殴られている」

「はぁ…先生にサンドバックにされるとは…流石だな比企谷は…」

「うるせえ。お前もいつかは平塚先生の拳を食らうはめになるぞ。てか食らえ」

「なんでだよ…食らわねぇよ。だが、言葉遣いには気をつけておく」

 

「お、教室着いたな。それじゃまたな」

「おう」

 

 




 寝ている時に電気ストーブで火傷しました。
 皆さん寝る時に電気ストーブを使う時は気を付けて下さい


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

9話

 

 待ちに待った放課後だ…

 うん、午後の授業の記憶が無い、…だがノートはとってある。 俺ってば優秀

 このまま家に帰れればどれだけ幸せか。

 あぁ、部活行きたくねぇ…。 

 放課後なんて全然待ってないわ。俺が待っているのは家に帰った時の、小町のおかえりの言葉だ。そして小町が待っているのは、このお兄ちゃんって訳だ。 

 あ?シスコン?千葉の兄妹なら当たり前の事だぞ。多分。

 

 教室を出て、春だけどまだ肌寒い廊下を、億劫になりながら歩いて奉仕部のある特別棟に向かう。

 

 奉仕部に着いた。

 はぁ…扉を開けずにこのまま帰りたい。 

 まぁ、部活サボると明日平塚先生の鉄拳食らう事になるだろうから、このまま帰るなんて事はしないけど…。

 少し古い扉を開けると、雪ノ下雪乃が何時もの席で読書をしていた。

 

「うっす」

「………」

 

 コイツ…。挨拶しなかったら罵倒されるから、わざわざ挨拶してやってんのに無視かよ…。

 

 雪ノ下雪乃。俺と同じニ年生で、普通科より偏差値が2.3高いニ年J組に所属している。

 流れるような黒髪に大人びた美少女。容姿端麗、才色兼備この学校で雪ノ下雪乃を知らない奴なんていないだろう。

 

 雪ノ下雪乃はこの奉仕部の部長だ。

 正直俺は、こういう人間とは一生関わる事が無いと思っていたのだが、あの三十路教師に無理矢理入部させられた所為で関わりを持ってしまった訳だ。

 あ、ちなみにコイツは罵倒のスペシャリストなんで。

 

「あら、比企谷君居たの? 存在感無さ過ぎて気付かなかったわ」

「…何お前、一日に一回罵倒しないと死んじゃう呪いにでもかかってるの?」

「話しかけないでくれるかしら? 読書に集中できないのだけれど」

「………」

「………」

 

 …俺も読書するか。

 自分が何時も座っている席に着いて、鞄から本を取り出して読み始めようとした時に元気よく扉が開かれる。

 …もう少し静かに開けられないのかなぁ……。

 

「やっはろー!」

「こんにちわ。由比ヶ浜さん」

「うっす」

 

 ……何、やっはろーって。挨拶のつもりなのか?

 ていうか、よく元気に大声でそんな恥ずかしい事言えるな…。 流石アホの子由比ヶ浜さん。

 

「由比ヶ浜さん。紅茶飲むかしら」

「飲む!」

 

 

 

「ねぇねぇゆきのん。今日転校生が来たんだけど知ってるー?」

「えぇ、知ってるわ。名前は知らないけれど」

 

 まぁ、転校生の話しをするわな。 

 学年カースト上位に所属している由比ヶ浜だ、転校生とかそういう話しは大好きだろう。

 転校生が知り合いじゃなければ、俺はこういう話しを全く気にせず読書をしていただろう。

 自分の近くで、自分の知り合いの話しをされるのは、何かむず痒い。

 

「えーとね! 名前は、雨矢上善光って名前でね。永和学園から転校して来たんだって!」

「永和学園…ね、それはまたすごいのが転校して来たわね」

「えー? 何がすごいの? ゆきのん」

「逆に、由比ヶ浜さんは知らないの?」

「知らなーい」

「はぁ…流石ね由比ヶ浜さん」

「えへへ、ゆきのんに褒められた」

「褒めてないわ、由比ヶ浜さん」

「…永和学園の偏差値は78、所謂エリート高校なのよ」

「へー。じゃあ雨矢上君は頭いいんだね!」

「頭いいとかのレベルじゃないわ…」

 

 雪ノ下がこめかみに手を当てている。

 …由比ヶ浜の将来が心配になってきた。

 

「…でも何故、わざわざこの高校に転校して来たのかしら?」

「なんでだろーね。ねぇ、ヒッキー何か知らない?」

「…し、知らねぇよ」

「本当にー?」

 

 …アホの子のくせに無駄に勘が鋭い。 いや、近づいて来るなよ。

 近い近い!由比ヶ浜さん近い!何なの?わざと?やっぱりビッチなの?!

 

「比企谷君。あなたの腐った目が泳いでいるわよ。目は口ほどに物を言うとはこのことね」

「くっ…」

「観念しなさい比企谷君」

「そーだよヒッキー」

「……雨矢上は俺の知り合いだ、これ以上は言えん」

「えー!? なんでー!」

「大丈夫よ由比ヶ浜さん、すぐに吐かせるわ」

「おい、何をする気だ…」

「拷問?」

「可愛く首傾げながら物騒な事言うなよ。ていうかマジでやる気!?」

「っ……じょ、冗談よ。いくらなんでも拷問なんてしないわよ。それに、比企谷君に触れたら腐りそうだもの」

「………そうか」

 

 ならよかったとはならないぞ。少なくとも最後の一言で俺の心は傷付いたぞ…。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

10話

 

「雨矢上君が、比企谷君の知り合いと言う事は分かったわ。というか、比企谷君、知り合いなんていたのね」

「いるわ、知り合いぐらい」

「それと、比企谷君の知り合いって言う事は、目が腐っていたりするのかのかしら?」

「おい。俺の知り合いってだけで、目が腐っているなんて偏見はやめろ。俺の目の腐りは感染しない!」

「でもゆきのん。雨矢上君はヒッキーみたいに目腐って無かったよ?」

「あらそうなの? おかしいわね……」

「おかしいも何も、俺の目の腐りは感染しないって言ってるだろ…」

「というか。雨矢上君はどちらかと言うと隼人君みたいなタイプな感じがしたよ?」

「………そう」

 

 由比ヶ浜の発言を聞いた途端、雪ノ下の顔に苦虫を噛み潰した様な表情が浮かび上がる。

 多分…いや、確実に雪ノ下は葉山隼人が嫌いなのだ。

 雪ノ下の様な人間が、葉山隼人という人間を見たら、九分九厘今の雪ノ下と同じ表情をするだろう。

 俺も同じだ、葉山のあの薄っぺらい笑顔を見る度に不快な気分になる。

 

「どうしたの? ゆきのん?」

「何でもないわ、由比ヶ浜さん」

「まぁ、お前らとは関わることのない人間だろうから、もうこの話やめようぜ」

「そうね」

「えー? もっと話そうよー! …あ、じゃあ別の話ししよ!」

 

 由比ヶ浜が煩くなり始めたところで、いきよいよく扉が開かれる。 …ナイスタイミング。

 

「失礼する! 今日も元気に部活してるか?」

 

 扉を開けて入って来たのは、平塚先生だった。 

 …何でこの人はノックをしないんだろ?

 

「先生、入るときはノックをしてください」

「すまんすまん」

「それで、何の用ですか?」

「突然だが、新入部員を紹介する!」

「「「?!」」」

「入りたまえ」

「助けてくれ…比企谷」

「雨矢上!?」

「あ、雨矢上…君?」

「……何か、見た事のある光景だわ」

 

 いきなり新入部員とか言われても困るぜ先生…。

 …ていうか、何で雨矢上が? あいつ部活見学するって言ってなかったか? それに何で素なんだよ、いいのか?

 

「助けてくれとはなんだ。まるで私が、君に酷い事をしているみたいじゃないか」

「現在進行形で俺に酷い事をしてるじゃないですか…」

「ほーう?…君は私の、撃滅のセカンドブリットを食らいたいのか?」

「ごめんなさい何でもありません」

「おい、雨矢上。何でお前が奉仕部に入部する事になったんだ?」

「それはな——」

 

 

 

-------------------------------

 

 20分前 生徒指導室

 

「失礼します」

「おぉ、来たか。それで? どの部活に見学しにいくかは決まったのか?」

「それの事なんですけど…。俺、部活入りたく無いんですけど…。帰宅部とか無いんですか?」

 

 部活とか本当面倒くさいし、まぁどうせ部活入っても幽霊部員にでもなるか…。

 中学校は、部活強制参加とか無かったから楽だったのになぁ…。

 前の学校では、何処かのお嬢様に、変な部活に入らされたし…。

 

「は?」 

「?」

「君はそれを本気で言っているのか?」

「はい…」

 

 やっぱり怒られるかぁ…、まぁ分かってはいたけど……あれ?…先生何で拳構えてるの?

 

「衝撃のぉ…ファーストブリットォー!!」

「ゔぐっっ??!!」

 

 先生の拳が無防備だった俺の鳩尾にめり込む。と同時に、体の中で内臓が動くのを感じる。

 

 なんだこれ!? 痛いとかのレベルじゃねぇ! 死ぬ死ぬ! うまく呼吸ができん!

 

 比企谷が言ってたのはこれか…。

 確かにこれはやばい。てか、あんた本当に女性か? 拳の重みが達人のそれなんだが…。

 ていうか先生、それ古く無いですか…?

 

「はぁ、最初は比企谷の友人と言うわりには、君はまともな奴だと思っていたんだがなぁ…」

「はぁ…はぁ…。先生、知ってますか? この世の中にまともと呼べる人間は、滅多にいないですよ?」

「まだ、言うか…?」

「何でもございません。すいませんでした」

 

「ん。そうだ、君にピッタリの部活を紹介しよう」

「……面倒くさくなければ、もう何処でもいいですよ」

 

 

------------------------

 

「と言う事があって、今に至る訳だ」

「お前…馬鹿だなぁ」

「雨矢上君ヒッキーと同じじゃん」

「…………」

 

 雪ノ下は呆れて物が言えないと言う感じた。

 

「ま、そいうことで、雨矢上はこの部活に入るから。後は宜しく! 先生は忙しいんだ」

「ちなみに拒否権は?」

「実際拒否してみればいい。そしたら間もなく、撃滅のセカンドブリットが、君の鳩尾を貫くけどな」

「拒否なんてしませんよ。はぁ…本当、平塚先生って男勝りだよな」

「…何だとぉ?」

 

 雨矢上が言葉の最後に、先生にボソッと一言言うとそれが先生の耳に届いたようで、先生から殺気が溢れ出す。

 雨矢上…ご愁傷様。お前の事は明後日まで忘れねぇよ。

 

「撃滅のぉ…セカンドブリットォー!!」

「がはぁっ!!」

 

 雨矢上は膝から崩れ落ち、倒れた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

11話

 今回は微妙に長いです。



 

「先生、戻らなくていいんですか?」

「お、そうだな。では」

「じゃーね先生」

 

 

 

 先生が職員室に戻ってから数分たった。今の部室の中の状況を説明しよう。

 俺は雨矢上の方は見ないようにして読書をしている。これに関しては、あいつの自業自得だから助けん。

 雪ノ下は読書をしながら、未だに起き上がる気配が無くうつ伏せに倒れたままの、雨矢上をチラチラ見ている。

 由比ヶ浜は、倒れてる雨矢上のアホ毛を弄って遊んでいる。 ……何考えてんのあの子は…。

 

「ねーゆきのん。平塚先生さ、流石にやり過ぎじゃない?」

「えぇそうね。雨矢上君の発言も悪いのだけれど、幾らなんでも殴るのはどうかと思うわ」

「俺はそうは思わんな」

「どうしてかしら?」

「ヒッキーちょっと酷くない?」

「いや、俺は昼休みに、そいつに平塚先生の前では発言に注意しろと警告しておいたんだ」

「警告って…あなたは先生の事を何だと思っているの…」

「触らぬ神に祟りなしって言うだろ? 今回のは雨矢上の発言が神の怒りに触れてしまったんだよ」

「それだと意味がちょっと違うわね」

「相手に通じていれば問題無いだろ」

「さわらぬかみにたたりなしってどういうこと?」

 

「マジかよ由比ヶ浜…」

「由比ヶ浜さん……」

「なんで可愛そうな人を、見る様な目で見るの? 二人とも」

「由比ヶ浜。お前いっつも携帯弄ってんだから、少しぐらい言葉を調べたりしろ」

「うぅ〜! 知らないものはしょうがないじゃん!」

「なんで逆ギレすんだよ…」

 

 アホの子由比ヶ浜の頭の悪さに、二人で頭を痛めていると。倒れている雨矢上が、うめき声を出しながら少し動いた。まるで映画に出てくるゾンビだ。

 

「うぅ…痛ってぇ……ん? ここは?」

「おう雨矢上。起きたか」

「比企谷?……あぁそうかここは奉仕部か。そして俺は、先生の渾身のセカンドブリットを食らって倒れた訳か…」

「ん? 先生は何処に行ったんだ?」

「先生なら、数分前に職員室に戻ったわ」

「なんか忙しいっぽかったよね?」

「あぁ…」

 

 多分合コンで忙しいんだろうな…。誰か!早く貰ってやってあげて!

 

「教えてくれてありがとう…。それで…誰だ?」

「えー!? ゆきのんならそうかもだけど、私同じクラスじゃん!」

「なぁ比企谷。クラスにこんなビッチいたっけ?」

「なっ!? ビッチじゃないし! 私はまだ処——」

「あー…由比ヶ浜は葉山グループの人間だぞ。休み時間とかに集まって無駄話とかしてるだろ?」

「ヒッキー話し遮るなし!」

「このくだり色々面倒くさいんだよ…」

「そういえば金髪の人と、眼鏡の人と一緒にいたような」

「優美子達その程度の認識なんだ…」

「雨矢上…君? まずは簡単自己紹介してくれないかしら? あなたは比企谷君よりはマシな感じがするからちゃんと自己紹介してもらいたいのだけれど」

「そうだな。オリキャラなんだしちゃんと自己紹介しねぇとな」

「オリキャラ? 何かしらそれは?」

「ん、なんでもねぇよ」

「「?」」

「……」

 

 いきなり爆弾落としやがった…。

 

「名前は雨矢上善光。嫌いなものは嘘と偽物とナメクジだ」

「ナメクジ嫌いなんだ…」

「自己紹介にしては、短いしめちゃくちゃだけれど…まぁいいわ。…ねぇ比企谷君? あなたの知り合い目が腐っているのだけれど? やっぱりあなたの目の腐りは感染するのね。今後、私に近付かないでちょうだい」

「いや、感染しねぇから…」

「大丈夫だよゆきのん。目の腐りが感染するなら、私達も既に目が腐っているはずだし」

「それも…そうね。ごめんなさいね、二人の目があまりにも腐っていたものだから……」

 

「てゆーか! ウッシークラスにいた時とキャラ違くない?」

「誰だよウッシーって…。てかなんでウッシーなんだよ」

「え? だってヒッキーの友達で目が腐ってるから。あとウッシーとヒッキーって音感が似てるじゃん?」

「語感な…。由比ヶ浜はネーミングセンス無いんだな」

「っ! そんなことないし!」

 

 

 

「クラスではキャラ作ってんだよ。キャラ作っておくと何かと便利だからな…」

「………」

 

 雪ノ下の視線が鋭くなり部室の空気が凍りつく。

 数十秒後由比ヶ浜が耐えきれなくなって喋りだす。

 

「ねぇ、それだと皆を騙してる様に聞こえるんだけど…」

「由比ヶ浜さんの言う通りね。あなたはさっき嘘が嫌いと言っていたわよね?なのにどうしてかしら?」

 

 雪ノ下が問うと、雨矢上の表情がほんの一瞬曇った様に俺には見えた。

 

「流石議員の娘だ。芯が強く正義感が強いんだな」

 

 雨矢上が珍しく褒めたのだが、雪ノ下には皮肉に聞こえたのか、雪ノ下の顔が険しくなる。怖い。由比ヶ浜震えてるじゃん…。

 

「親の事は関係ないでしょう。それと、早く答えてくれないかしら」

「確かに俺は嘘が嫌いだ。だけど、だからと言って嘘をつかないなんて事は無い。必要ならば嘘なんて幾らでもつく」

「…そう。分かったわ。出会って数分だけれど、私はあなたの事が嫌いだわ」

「ウッシー…ゆきのん…」

「大丈夫だ由比ヶ浜。こういうのは慣れてるから」

「でも…」

 

 その後、誰も喋ることなく部活は終わった。

 

 

 




 雪ノ下した怒り過ぎですかね…。
 それと、主のクリスマスは狩猟祭りになる事が決定しました……。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

12話

 漸く俺ガイル14巻読み終わりそうです。




 

 最終下校時刻のチャイムが鳴り。部活をやっていた生徒達が帰り始める。

 今日の部活は最悪な雰囲気だったな…。今後あの部活が、続けられるのか心配になってきたぞ。

 …別に俺は奉仕部が無くなっても構わないけど……いや、大歓迎なまである。

 そんな事を、頭の中でブツブツ言いながら玄関から出て、駐輪場に向かう。

 

「お、来たか」

「何でいるんだよ…」

 

 駐輪場に着くと、俺より先に部室を出たはずの雨矢上がいた。

 

「いや、途中まで一緒に帰ろうと思ってな」

「何でだよ…。俺は早く帰って、録画したアニメを見たいんだが」

「録画なら何時でも見れるだろ?」

「母親みたいなこと言いやがって……。分かったよ途中までだからな」

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

 日が沈み。春と言ってもまだ寒い橙色に染まる街の中…。目の腐った男子高校生が二人並んで歩く……これなんてBLゲーだ?

 

 ……そして静かだ。静かなのは好きだが、こういうの気まずい静かさは正直苦手だ。てかコイツ全然喋らねえな…。

 俺から話し掛けてみるか…。

 

「なぁ雨矢上」

「ん、何だ」

「何で、雪ノ下を怒らせる様な事を言ったんだ…?」

「それと、何で素の状態で来たんだ?」

「俺は別に雪ノ下を怒らせるつもりは無かった……が」

「が?」

「雪ノ下の…あの自分以外の人間を見下している様な感じが、気に入らなかった。だから、雪ノ下が嫌いな事を言ったんだよ…」

「そう…か…」

 

 雨矢上の言う事は分かる。俺も、雪ノ下の人を貶す様な態度は気に入らない。

 だけど俺は…、自分の価値観と雪ノ下の価値観が似ているからか、雪ノ下を嫌いになれない…。

 

「嫌いな事を言ったと言っても、あれが俺だからな。あそこで嘘つけば、それこそ雪ノ下の嫌いな事だろう?」

「まぁ、どちらにせよ、俺は雪ノ下に嫌われていただろうな」

 

「お前…、よくそんな平気でいられるな。俺だったら気まずくて、明日から部室に行かないまであるぞ…」

 

「まぁ、慣れてるしな。どうって事ない。それに、比企谷が今言ったように、明日からは部活サボればいいしな」

「いや、やめとけ」

「ん?何故だ」

「平塚先生がそんな事を許すと思うか?」

「………許す訳無いな」

「その…まぁ、頑張れよ」

「そうそう。平塚先生と言えばな。俺が素の状況だったのは、平塚先生に『素の自分のままでいいぞ』って言われたからなんだよ」

「へぇ…平塚先生らしいな」

 

 あんなんでも、ちゃんと俺達の事を理解してくれているしな…。 暴力がなければなぁ…。

 

「なんでだろうな。俺みたいな生徒を見た事があるのか…?」

「さぁな」

 

 そこから暫く経ち。

 

「それじゃ、俺はここで」

「おう、またな」

「おう」

 

 雨矢上に別れを告げ、自転車に乗って家に向かう。

 

 数分後。家に着き、何度も開けた玄関の扉を開ける。

 何時もより家に帰る時間が遅くなったな…。まぁいいか。

 

「たでーまー」

「あ!お兄ちゃんおかえりー!」

 

 玄関を開けるとリビングから、愛しの我が妹小町が出て来きて、おかえりの声を掛けてくれる。小町ちゃんマジ天使。

 

「お兄ちゃん今日は帰るの遅かったね。何かあったの?」

「何もねぇよ、途中まで友達(?)と歩いて帰ってたから遅くなっただけだ」

「何で(?)が付くのさ……ってえぇ!? 友達!? お兄ちゃんが?!」

「そんなうるさく驚くなよ…ご近所迷惑でしょうが…」

「誰?! 誰?! 女の子?!」

「聞いちゃいねぇ…。覚えてるか? 昔家族ぐるみで遊んでいた雨矢上って奴なんだが」

「…え?」

「ん?」

「それ……本当?」

「嘘つく意味がねぇだろ」

「前に帰り遅かった時あっただろ?」

「うん」

「あの日、偶然雨矢上に会って話してたから遅くなったんだよ。話聞くまで雨矢上の事思い出せなかったけどな」

「何で教えてくれなかったの!!??」

 

 騒いだり驚いたり怒ったり忙しい奴だな…。

 

「いや、なんだ。別に教えなくてもいいかなと…」

「信じらん無い! お兄ちゃんそういう事直した方がいいよ! それと! 普通そういうのは覚えてるものだから!」

 

 小町はそう言うとそのまま部屋に閉じこもってしまった…。

 

「あの…小町さん? お兄ちゃんの晩飯は…?」

「知らない!! 作ってあるから適当に食べて!」

「はい…」

 




 
 最近ハイポーションの動画にハマっています。あの馬のマスク、イカしてますよね。
 という訳で(どういう訳だよ)12話でした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

13話

あけましておめでとうございます。




 

 俺が現在住んでいる家は船橋にある。梨汁ぶっしゃしてる非公認ご当地キャラもとい、梨の妖精が住んでいる街だ。え?古い?しるか。

 船橋にある高級タワーマンション。そこに俺は一人で暮らしている。

 

        ×    ×    ×

 

 カードキーで鍵を開け。無機質な音と共に扉を開け、暗い部屋に入る。

 

「ただいま」

 

 返事は無い。まぁ一人暮らしだしな。これで返事が返ってきたら。それこそ驚くどころの話しじゃない。

 なんか今日は疲れたな…主に精神的に。

 

 部屋の照明をつけて、一人暮らしにしては大き過ぎるソファに身体を投げる。

 ……あぁそうだあの人に電話しねぇと。

 床に置いた鞄に腕を伸ばす。

 

「…うぅっ」

 

 微妙に届かない。仕方ない立つか。

 

 ソファから立ち上がり、鞄から携帯電話を取り出し、携帯を開いて電話帳からある電話番号に電話を掛ける。

 

 プルルルル♪プルルルル♪

 3回目のコールが鳴るところで電話が繋がる。

 

『もしもし——です』

 

 電話の向こうからダンディな男の声が聞こえる。いや、ダンディと言うより渋いかな? 何方でもいいや。

 

「もしもし雨矢上善光です。すいませんお忙しい中」

『いやいや気にすることないよ。今丁度移動中だったからね』

「そうですか…」

『君から連絡が来るのは久しぶりだね? どうかしたのかな?』

「少し時間が経ってしまったけど、依頼の件です」

『そうか…。そういえば、もう怪我は完全に治ったのか?』

「はい。殆ど兄のお陰ですがね」

『本当、君のお兄さんはすごいね、流石アイツの息子だな……っと話がそれてしまったね』

『依頼の件は本当によく頑張ってくれた。後日、使いの者に、何かしら持たせて訪ねさせるよ』

「大丈夫ですよ。それに、俺は殆ど何もして無いですから」

 

 俺はただ刺されただけだ。他には殆ど何もして無い。かっこ悪い。俺にとって、この依頼の解決は不完全燃焼だ。 心の中に、何とも言えないモヤモヤしたものが残っている。

 

『いいや。君は人を助けたろう?身を呈して』

「見ず知らずの赤の他人ですけどね…」

『見ず知らず??……ふむ』

「どうしました?」

『いや、何でも無いよ』

「今、少しニヤッてしませんでした?」

『してないが?』

「そうですか?あ、それともう一つ」

『ん?』

「———さんが薦めてくれた学校、比企谷がいる事は、あっちの親父さんから聞いていましたけど、貴方の娘がいるとは、聞いていなかったんですが?」

『おお!娘に会ったのか?どうだったかな?可愛かっただろ?』

「…ノーコメントで」

『君らしいね』

 

 電話の向こうから愉快な笑い声が聞こえる。

 

『おっと。そろそろ時間だ。土曜日か日曜日に使いの者を向かわせるから』

「分かりました」

『…怪我の事は申し訳無いと思っている。やはり君の親父のアイツには、今度もう一度謝るよ』

「怪我の事は気にしないで下さい。親父の事に関しては好きにして下さい」

『そうか…。それじゃ、そろそろ』

「わかりました。電話切りますね」

 

 

「……はぁ」

 

 明日学校行きたくねぇー…。

 

 

        ×    ×    ×

 

 

 朝。カーテンの隙間から射し込む光で目を覚ます。

 

「朝か」

 

 何時も通りの朝だ。

 寝ぼけ眼を擦っていると、誰かが階段を登ってくる音が聞こえてきた。足音的に小町だろう。

 足音は俺の部屋の扉の前で止まり、直ぐに部屋の扉が開かれる。

 

「お兄ちゃん起きてる? 朝ご飯できてるから」

「おう」

「早く降りてきてね」

「おう」

 

 小町。何時もより元気がないみたいだな…。昨日の事か?

 部屋着から制服に着替えてリビングに向かう。 ブレザーは着てないよ。汚れると困るからね。

 

「おはよう」

「おはようお兄ちゃん」

 

 小町は、既に椅子に座っていて、俺が座ったら何時でもいただきますできるような状態になっている。何時も通りだ。けど、やはり元気がないように見える。

 俺も椅子に座って二人で手を合わせる。

 

「「いただきます」」

 

 お互い、話すことなく黙々と飯を食べる時間が過ぎていく。

 …気まずいし話し掛けてみるか。

 

「なぁ小町」

「なに」

「元気無い様に見えるんだけど…何かあったのか?」

「別に」

「そうか…」

 

 昨日の事じゃ無いのか? まぁ、昨日の事じゃ無いなら俺には分からない事だし、そのうち元に戻るだろ。

 

 人の気持ちは大抵時間が解決してくれる。でも時間が解決してくれない事もある。例えば、傷付きまくった心とかな。

 

 




 俺ガイル14巻読み終わりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

14話

 

 —学校—

 

 昼休み。今日は風が強かったため、俺は平塚先生に許可をとって、奉仕部で昼飯を食っていた。

 たまには別の場所で、1人で飯を食うのも悪くない。

 …なのに何故だ……何故雨矢上がいる…。

 

「何故、お前がいる…」

「何故って。今日、風が強かったから、ここで飯を食おうと思ってな」

「お前なぁ…。ちゃんと平塚先生に許可とってるのか?」

「許可を取るも何も、昼休みはここ、鍵かかって無いから、部員であれば、自由に使っていいんだぞ?」

「俺、そんな事知らないんだけど…」

 

 鍵かかって無いとか不用心過ぎだろ…。此処には雪ノ下が使っている、ティーカップとかあるんだぞ? 色々ヤバいだろ…。色々は明言しないけど。

 

「マジか…。でも、今知れたから別にいいだろ?」

「知ったとか知らなかったとか、そう言う話じゃ無いだろ…」

「ん、そうだ比企谷」

「あ?」

「雪ノ下の事なんだが。噂話とかあったりするか? お前、休み時間の時よく聞き耳立ててるだろ?」

「よく見てんなお前…ストーカーかよ…」

「で、どうなんだよ?」

「聞いちゃいねえ…。うーん…雪ノ下についての噂話は聞いたこと無いなぁ…。あっ。別の噂話なら聞いたことあるぞ。それも、お前に関係ある噂話だ」

「俺に関係ある…?」

「あー…通り魔事件の事か」

「そうだ。あの事件で、お前が身を呈して庇った学生いるだろ? その学生が、総武高校の生徒らしい」

「へぇ…」

 

 雨矢上は、特に驚くとかそう言うリアクションは、しなかった。強いて言えば、少し何か考える素振りを見せたぐらいだ。

 

「ていうかお前、庇った相手の顔見てないのか?」

「暗かったからな。相手の顔はよく見えなかったよ。さらに言えば、庇った相手は見舞いには来なかった」

「…そうか…報われないな…」

「いや。報われたいとか、そう言う事は思ってねえから」

「お前がいいならいいけどよ…」

 

 部室の空気が重くなる。

 それを感じてか雨矢上が話を戻す。

 

「まぁ、噂話が無いならしょうがないな」

「もういいのか?」

「別に、それ程知りたい訳じゃ無いからな」

「そうか…」

「あ、俺今から自販機に飲み物買いに行くけど、何か買って来るか?」

「いや、なら俺が行ってやるよ」

「いやいいって。いいから」

「そうか…ならマッ缶を頼む。金は後で払う」

「おう。じゃ、行ってくる」

 

 雨矢上が扉を開けて出て行く。さっきまでも、話をしてる割には静かだったが、1人になる事でより静かになる。

 まぁ、数分で戻って来るだろ。それまで少し考え事でもしているか…。

 

 

       ×    ×    ×

 

 

 奉仕部を出て、校内に設置してある自販機向かう中。

 

「やっぱり風強いな……ん?」

 

 目線の先。目的地である自販機の前に、人が立っていた。

 普通の生徒なら、気にすること無く近付いて行けるんだが。俺の目線の先にいる人は普通では無かった。

 

 その男は、ブレザーの上からコートを羽織り、手にはメンタリストじゃない方のDAIGOがはめていそうなグローブを、はめている。そして、太い体格で眼鏡を掛けていた。

 

 俺は見たままを説明しただけだ。決して、俺の頭がおかしくなった訳ではない。多分だけど頭がおかしいのは、俺の視線の先で、ずっと何を飲むか悩んでいる男の方だな。

 ……うん、奉仕部に戻ろう。比企谷には帰りに何か奢ってやればいいだろ。

 

 

        ×    ×    ×

 

 —放課後—

 

 今更ではあるがこの奉仕部と言う部活は、生徒のお願いを聞きその手助けをする部活である。 と、こうして確認しておかないとこの部活が何をしているのかわからなくなる。

 いつもどうり、奉仕部がある特別棟へ向かう。

 奉仕部に着くと、雪ノ下と由比ヶ浜が部室の扉を、少し開けて中の様子を窺っていた。

 本当に何してんだろうな…。

 

「何してんの?」

「ひゃう!」

 

 由比ヶ浜が変な声を出してびっくりする。雪ノ下は声は出さなかったが、ビクッ! とリアクションした。何か良い気分だ。

 

「いきなり声をかけないでもらえるかしら」

「悪かったよ。で、何してんの?」

「部室に不審人物がいんの」

「はぁ?」

「中に入って様子を見てきてもらえるかしら」

「はぁ…」

 

 俺は少し緊張しながら部室の扉を開ける。

 部室の扉を開けると、窓が開いていたようで、強い風が流れてきた。部室の中で何かの紙がパサパサと音を立てながら散らばる。そして部室の窓際で腕を組んだ男が立っていた。

 

「クックック…まさか此処で出会うとは驚いた」

「待ちわびていたぞ比企谷八幡!!」

「な、なんだとっ! 驚いたのに待ちわびていた?!」

「……あの不審者はあなたの知り合いなの? 名前呼んでいたけれど」

「知らない…こんな奴知っててもしらない」

 

 雪ノ下にジト目を向けられながら、実逃避をしていると、奉仕部最後の部員が少し遅れてやって来た。

 

「すまん。進路の紙提出していたから遅れてしまった……って、何してんの?…しかもなんだよ、この散らばった紙は…」

「雨矢上君。遅れるなら先に部員の誰かに伝えておいてもらえないかしら? それともそんな事すら——」

「はいはいすいませんでしたよ…」

「……ピクッ」

「…おい雪ノ下。今はそんな事している場合じゃ無いだろ」

「…そうね。ごめんなさい」

 

「むむっ! お主は噂の転入生殿!」

「お前は…昼休み自販機の前にいた奴か。てか俺、噂になってんの? …そりゃそうか…」

「なに。ウッシーも知り合い?」

「いや、知らん」

 

「はぁ……なんの用だ。材木座」

「やっぱヒッキーの知り合いじゃん!」

「へぇ、材木座って言う名字なのか。変わった名字だな」

「お前の名字だって変わった名字だろうが…」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

15話

 アンケート見た俺→(・・;)マジ?




 

 材木座の依頼は、自分の書いた小説を読んでもらい、その感想を聞きたい。というものだった。

 

「なぁ材木座。感想聞きたいなら、ネットのサイトとかにでも投稿した方がいいんじゃないのか?」

「雨矢上の言う通り、ネットの方がいいだろ」

 

「転入生殿が言う事は正しいのだが、ネットに投稿して感想でボロクソ言われたら我、自殺するかもしれん」

「中2メンタルよわっ」

「豆腐メンタルかよ」

「ぐぅ……とにかくっ! 八幡達にはこの小説を読んでもらい、そして読んだ感想を聞かせてもらいたい!」

「分かったわ。材木座君の依頼を受けましょう」

「えぇ…マジ?」

 

 部活終了後、材木座の小説をコピーして各自家に持ち帰り、小説を読む事になった。

 由比ヶ浜はマジで面倒くさいって顔をしていた。雪ノ下は少し読んで苦い顔をしていたが、ちゃんと読んでくるだろうな。

 由比ヶ浜あたりは読んで来ないだろうな…。雨矢上も多分読んで来ないだろう。 俺はちゃんと読んで来るぞ? いやマジで。

 

「おう、比企谷」

 

 駐輪場に行くと雨矢上がマッ缶を器用に二つ手に持って立っていた。

 

「一緒には帰らねぇぞ」

「別に一緒に帰ろうなんて言ってねぇだろ…。ほら」

「うおっ…。いきなり投げんなよ」

「一本やるよ。昼休みは買えなかったからな」

「いや、別に——」

 

 俺は断ろうとしたのだが、雨矢上は「じゃあな」とこちらの言葉を待たずに行ってしまった。

 

「俺もさっさと帰ろう…」

 

 自転車に跨り家路につく。

 家に帰ると何時も通りに小町が迎えてくれる。そんな時にふと思い出す。

 ……確か雨矢上は一人暮らしだったな。あいつには、こうやって自分を迎えてくれる人間がいないんだな……。

 

「なぁ小町」

「何?お兄ちゃん」

「今度、雨矢上を家に連れて来てもいいか?」

「え?本当に!?」

「何だ、ダメか?」

「いやいや大歓迎だよ! 何なら今からでも連れて来てもいいよ!」

「ん、小町がいいならいいか」

「あ、でも連れてくる時にには小町に必ず連絡してね」

「おう、分かった」

 

「楽しみだなー。十年ぶりくらいだよね?」

「そうだな。まぁでも、あまり期待しない方がいいぞ」

「え?何で?」

「目が若干腐ってるからだ」

「マジ?」

「マジ」

「まぁ…腐った目ならお兄ちゃんので耐性ついてるから平気だよ」

         

       ×     ×     ×

 

 —翌日 学校の駐輪場—

 

「ふわぁ」

「おはようヒッキー!」

「ぐえっ」

 

 こいつ…。後から鞄で…。

 

「あれ? ヒッキー元気なくない? どしたー?」

「いやいやいや、あんなの読んだらそりゃ元気無くなるだろ」

「っつーかむしろなんであれ読んで元気なのか知りたいわ」

「え? あっ、だよねー。あたしもマジ眠いから」

「お前絶対読んでないだろ」

 

 由比ヶ浜と二人で話していると、不意に声を掛けられる。俺が後ろを向くと、朝から仮面モード全開の雨矢上が立っていた。

 

「おはよう」

「お、おはよう」

「おはよー!」

「雨矢上。お前は材木座の小説読んで来たのか?」

「ん、あぁ読んで来たぞ。おかげて寝不足だ」

「寝不足には見えねぇけどな…」

「お前“は"って事は読んでない奴がいるのか?」

 

 俺の横でばつの悪そうな顔をしている由比ヶ浜に向けて目を動かす。 雨矢上はそれを察したのか、由比ヶ浜に腐った目を向けて黙る。

 

「うぅ…」

「……」

「はぁ…」

 

       ×     ×     ×

 

  —放課後—

 

 あれを読むのはきつかったな…。色々な意味で。なんて言うか…心が痛かった。何でだろうな。主の影響か……。

 

 廊下の窓から見える外の景色を見ていたら、直ぐに奉仕部に着いてしまった。ちなみに俺は一人だ、比企谷は教室で寝ていて、由比ヶ浜は比企谷の寝顔をちらちら見ては、頬を赤らめていた。 まったく……幸せでなによりだ。

 

「お疲れ………っ!」

 

 奉仕部の扉を開けると、雪ノ下がパイプ椅子の上で斜陽の淡い光の中で、気持ち良さそうに寝ていた。

 流石の雪ノ下でも、あれを読んだら疲れてしまうか…。

 ……それにしても絵になるなあ。雪ノ下ほどの美少女ならパイプ椅子に座るだけでも絵になるんだな…。

 悔しいけど見惚れてしまう。

 

「んぅ…」

「…よう」

「驚いた、あなたの顔を見ると一発で眠気が飛ぶわね」

 

 うわぁ…。寝起きでここまで言えんのかよ…。

 ………比企谷が言われなくて良かった。あいつの事だ、永眠させてやりたいとか、心の中で思うだろうな…。

 

「あら、何も言い返さないのね」

「比企谷が言われなくてよかったって思ってただけだ」

「それはどうしてかしら?」

「……思いの外傷付いたからだ」

「え……」

「比企谷には言ってやるなよ」

「…っ」

 

 

 

「………」

 

 多分だが、雪ノ下は自分の吐いた言葉に対して『傷付いた』と言われた事が無かったのだろう。さっきから俯いて黙ったままだ。

 部室に気まずい雰囲気が漂う。

 俺は自分の席である比企谷と由比ヶ浜の席の間に置いてあるパイプ椅子に座り、鞄から材木座の小説を取り出して読み始める。

 …別にこの小説が面白いから読んでいるわけではない。小説を読んでるだけで、気まずい雰囲気から目を逸らす事ができるから読んでるだけだ。

 

 読み始めてから二分ぐらいの所で、部室の外の廊下の奥から二つの足音が近付いて来るのが聞こえた。その足音は、部室の扉の前で止まり、それと同時に扉が開かれる。

 

 

「やっはろー!」

「すまん。ちょっと遅れた」

「ほんの数分程度、気にしねーよ」

「こんにちは。由比ヶ浜さん…と、比企谷君」

「あれ? ゆきのん元気無くない? …ウッシー。ゆきのんに何かしたの?」

「なんで俺が何かした事になるんだよ…」

「大丈夫よ由比ヶ浜さん。彼は何もしてないわ」

「そお?」

「おい、由比ヶ浜。お前は今からでも材木座の小説を少しでも読め。材木座が来たときに、感想の一言でも言えるようにしておけ」

「だって面白くなさそうなんだもん…ゆきのんは?」

「この手のもの全然読んだことないし……あまり好きになれそうにないわ」

「読む気無くなった…」

「読め」

 

 由比ヶ浜はブツブツ言いながらも、一応は読み始める。由比ヶ浜は活字読むのが嫌いなんだな…。まぁアホの子なのに活字大好きってのはおかしいもんな。

 

「頼もう!」

「よう材木座。お前はそこのパイプ椅子に座ってくれ」

「承知」

 

 俺達は材木座の周りに椅子を持って来て座る。

 

「さて。では感想を聞かせてもらうとするか」

 

 

       ×     ×     ×

 

 

「ぴゃあ!!」

 

 材木座が奇声をあげながら床に倒れる。あの後雪ノ下の厳しい言葉の嵐は凄かった。

 

「…その辺でいいんじゃないか。あまりいっぺんに言ってもあれだし…」

「まだ言い足りないけど…まぁいいわ」

 

 まだ言えるのかよ…。見てるこっちが辛くなってくるわ。やめて! 材木座のライフはもうゼロよっ!

 

「じゃあ次は由比ヶ浜さんかしら」

「え、えーーと…」

「あ! む、難しい言葉いっぱい知ってるね!」

「ひでぶっ」

 

 無意識なんだろうけど、由比ヶ浜…それは他に褒める所が無いって意味だ…。

 

「じゃ、じゃあ次はヒッキーどうぞっ」

 

 お、比企谷か。さてあいつは何て言うのだろうか…。

 比企谷は無言で席を立ち材木座の元へ行き。倒れている材木座の肩に手を置いて——

 

「で、あれってなんのパクリ?」

 

 材木座はショックのあまり言葉が出ないと言った様子で、涙を流しながら転げ回って、壁に勢いよくぶつかり、仰向けになって停止する。

 

「あなた容赦ないわね…」

「…ちょっと…フォローした方がいいんじゃない」

「フォローは雨矢上に任せた」

「え、俺?」

「ウッシー早くフォローしてあげて」

「お、おう。」

 

 

「材木座、大事なのはイラストだから中身はあまり気にするなよ!」

「カハッ…」

「うわぁ」

「うわー」

「はぁ……」

 

 言い過ぎたか? いや、言い過ぎだな…俺達。

 

「——また、読んでくれるか」

 

 材木座が立ち上がり言った。

 

「…え?」

「また読んでくれるか」

「お前…」

「どMなの?」

「あんだけ言われてまだやるのかよ」

「無論だ」

「確かに酷評された。だが、それでも嬉しかったのだ」

「自分が好きで書いたものを、確かに読んでもらえて感想を言ってもらえるというのはいいものだな」

「この想いになんと名前をつければいいのか判然とせぬのだが…」

「読んでもらえるとやっぱり嬉しいよ」

 

 そう言って材木座は笑った。それは剣豪将軍の笑顔ではなく、材木座義輝の笑顔。

 そうか、こいつがかかっているのは中二病だけじゃないんだな…。 俺の中での材木座の印象が大きく変わった。

 

「ああ読むよ」

 

 比企谷が言った。

 

「また新作ができたら持ってくる」

 

 材木座はそう言って奉仕部をあとにする。

 …多分、あいつはジ○ジョで言う作者の分身。岸○露伴みたいな立ち位置なのだろう。二次創作で言うオリキャラみたいなもの。作者の人格の一部が反映された者で…主人公では無いが、必ず何かの想い入れがあるキャラだ。………作者ってなんだ? …これ以上は触れない方がいい気がする。

 

 

        ×     ×     ×

 

 

「雨矢上。ちょっといいか」

 

 部活が終わり、何時もの様に荷物を持って部室を出ようとした時、比企谷に声を掛けられた。

 

「なんだ?」

「帰り俺の家に寄っていかないか?」

「えー!?」

「うるさいぞ由比ヶ浜」

「ひ、ヒッキーどうしてウッシーを家に?」

「いやな。俺と雨矢上は、昔から家族どうしで仲が良くてな、こいつがこの街に帰って来たのを妹に言ったら連れてこいって言われてな」

「小町さんか…」

「よ、よかった…」

「? 何がよかったんだ?」

「何でも無いし! ヒッキーキモイ!」

「何でだよ…キモイ関係ないし…」

「それで、どうすんだ雨矢上。用事とかあるなら無理しなくていいぞ」

「用事は特に無いが…。そうだな、挨拶も兼ねて行くことにするよ」

「おう」

「でもいいのか? いきなりおじゃましても」

「大丈夫だ。小町には連絡してあるから」

「そうか、なら大丈夫か」

 

「ウッシーいいなー…」

「私達も帰りましょう。由比ヶ浜さん」

「うん!」

 

 

          ×  ×  ×

 

 —比企谷宅—

 

「着いたぞ」

「おぉ…懐かしい」

「さ、入れよ」

 

 比企谷が扉を開けて家に入るよう促す。

 

「お、おじゃしまーす」

「そんな緊張するこたないだろ、素のお前でいいんだぞ」

「たでーまー。小町ぃー雨矢上連れてきたぞ」

 

 比企谷がリビングの方に声をかけると、暫くしてリビングの扉が開き、比企谷と同じアホ毛の生えた中学生ぐらいの女の子が、緊張した様子で出てきた。

 

「お兄ちゃんお帰り。それと、お帰りなさい。雨矢上さん」

「何で他人行儀なんだよ…」

「だ、だって…」

「久しぶり小町ちゃん、大きくなったな。俺の事は昔の様に呼んでいいからな」

「っ〜!久しぶりっ!善兄さん!」

「うおっ!」

 

 飛びついて来たよ…。昔と変わらないなこの子は…。

 

「こらこら。雨矢上が困っているだろ、離れなさい」

「あっ、そうだ善兄さん、よかったら家で晩ご飯食べて行きません?」

「いいのか?」

「小町が言ってるんだ、俺に拒否権はねえよ。それに俺も全然構わないから食ってけよ」

「そうか、じゃあありがたくいただくよ」

「おう」

 

       ×     ×     ×

 

 

 今の比企谷家では晩ご飯は小町ちゃんが作ってるみたいだ。

 目の前にある料理を見て思う。

 

「昔は比企谷が作っていたが、今は小町ちゃんが作っているんだな」

「そーなのです! 小町は勉強を頑張っている兄に変わりこの家の家事をしているのです!」

「…恩着せがましいぞ」

「小町ちゃんは中学生なのにしっかりしてんな。それに料理も上手いし」

「えへへ…。もっと褒めてもらっても構いませんよ?」

「あんまり褒めんなよ、こいつすぐ調子乗るから」

「そうなのか?」

「お兄ちゃん! 余計な事言わないでっ!」

 

 こんな賑やかな食事は何時ぶりだろうか…。家族のとは違った賑やかな食事。たった三人だけだが、俺にはこれが十分だな。こういう中にいると、偶にはこういった食事も悪く無いと思ってしまう…。

 

 

       ×     ×     ×

 

 

「さて。そろそろ帰らねぇとな」

「もうそんな時間か、ほんじゃまた学校で」

「おう、じゃあな」

「いやいやいや。見送りとかしないの?」

「面倒くさいからよくね?」

「うわぁ…」

 

 比企谷らしい…、小町ちゃんも大変だな。まぁ変に気を遣われても気持ち悪いしな。

 

「別に気にしないでいいぞ、小町ちゃん」

「で、でも…」

「じゃあ、小町が玄関まで見送りますよ!」

「そうか、ありがとう小町ちゃん」

「いえいえ」

「それじゃ、さよなら小町ちゃん。見送りありがとな」

「っ…はい! また何時でもいいので、来てくれると小町的にポイント高いです!」

「おう!」

 

 扉を閉めたあとしゃがみ込む。

 

「……不意打ちの笑顔は卑怯だよ…」

 

 




 限界。とにかく時間がないです。
 ……あれ?カマクr…


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

16話

少し短いです。




 

 —雨矢上宅—

 

 土曜日の午前十一時。自室のベッドで寝ていた俺は、突然鳴ったインターホンに起こされた。

 

 ……長い眠りについていた伝説の龍が、勇者に起こされて怒る理由がちょっと分かった。

 

「ったく……誰だよこんな時間に…」

 

 自分で言っておいておかしいと思う台詞を、溜め息混じりに吐きながら、リビングへ向かう。

 廊下を歩きながら、覚めてきた頭で考える。

 多分あの人の使いの人だろうな…。

 

「はい。どちら様でしょ…う……か?」

『え?…その声は…』

 

 リビングに設置してあるハンズフリー式のインターホンは現在エントランスに来ている来訪者が映る。だが、そこ映っていたのは、あの人の使いの人でも見知らぬ人でも無かった。

 

『どうして…』

「それは俺の台詞だ…。どうして俺の目の前のモニターに雪ノ下が映っているんだ?」

『私はお父さんに言われて来たのだけれど?』

「あの人は……」

 

 頭を抱える。

 やられた。まったく……どういう意図で雪ノ下を送ったんだあの人は…。

 とにかく雪ノ下には帰ってもらおう。

 

「雪ノ下」

『なにかしら?』

「すまんが帰ってくれないか?」

『嫌よ。まだこの状況が全く把握できないのに、帰れるわけないでしょ?』

「今日の事はお互い帰って忘れよう。それでいいだろ? 俺は既に家にいるけどな」

『嫌といっているでしょう? あなたよくこの状況で帰そうとするわね。私はあなたにこの状況の説明をしてもらうまで帰らないわよ』

「説明するにもなぁ…お前俺の家に上がりたくないだろ」

『…誠に、誠に不本意ながら。本当は嫌で嫌でしょうがないけれど、仕方がなくあなたの家に上がらせてもらうわ』

「……あっそ」

 

 暫くして玄関のインターホンが鳴る。

 扉を開けると、やはり雪ノ下が立っていた。

 

「こんにちは。雨矢上君」

「よう……まぁ入れよ」

「え、えぇ」

「お邪魔します…」

「律儀だな…。あ、お前の親父に持たされた荷物はキッチンに置いてくれ」

「えぇ」

 

 雪ノ下が俺の事をじーっと見ている。

 

「なんだよ…」

「それにしても。…あなた自宅ではそんな服装なのね」

「そんなに見るなよ…」

「べっ、別に見てなんかいないわ! あなたなんて、何時だって私の視界に入れたくないもの」

 

 俺の現在の服装は、長袖の黒いヒートテックと黒のスウェットパンツという生活感丸出しで、女性に見せるにしては色々酷いものだった。……いやいや、酷くないし。ヒートテック着心地最高だぜ? 皆着てるだろ? え? 着てない…?

 

「まぁ、そこソファにでも座ってくれ。それと、飲み物は?」

「随分手慣れているのね…」

「……親に余計に教え込まれたんだよ」

「そう。では、紅茶をお願いするわ」

「そういえば、お前奉仕部では何時も紅茶飲んでいるもんな」

 

 紅茶とコーヒーを淹れ、ソファの前に置いてあるガラステーブルの上に置く。

 

「…ありがとう」

「ん…」

 

「では雨矢上君。この状況の説明をしなさい」

「いきなりだな…。状況か…」

「雪ノ下が、現在俺の家にいる?」

「そっ、そういうことではないでしょ!」

「ちゃんと説明してちょうだい」

「はぁ…分かったよ」

 

「まず、雪ノ下はお前の親父さんになんて言われて来たんだ?」

「荷物をこの家に届けるようにとしか言われてないわ」

「そうか」

「察しはついている思うが、俺の親父と雪ノ下の親父さんは知り合いなんだ」

「そして、お前の親父さんから俺に依頼が来て、それを俺は解決したんだよ」

「んで、報酬、言い方を変えればお礼を使用人に届けさせる予定だったわけだ」

「なのに。何故か私が届けに来た…と…」

「正直あの人の意図が全然分からん」

「私もよ」

「そもそも、お父さんはあなたにどんな依頼をしたの? そもそも依頼って何なのかしら?」

「俺には守秘義務があるんでな。依頼に関する事は、全部言えない」

「あなた…まともな事言えるのね」

「俺がまともじゃ無いみたいな言い方だな…」

「あなたがまともな人間なわけないじゃない」

「……」

「まぁいいわ。後でお父さんに聞けばいいもの」

「そうか…」

「そうよ」

「……」

「……」

 

 暫くの沈黙の後、雪ノ下がもう一度部屋を見回す…。と、雪ノ下の視線があるところで止まった。

 その視線の先を見てみると、そこにあったのは12年ほど前、俺が4歳か5歳ぐらいの時に、母に買ってもらったパンさんの限定ぬいぐるみが置いてあった。

 

 ……こいつ、もしかしてパンさん好きなのか? 目とかすごい輝かせてるし…。

 

「パンさんがどうかしたのか?」

「どうしてあなたがパンさんのぬいぐるみなんかを…?」

「なんだよ、俺がパンさんのぬいぐるみを持ってちゃダメなのかよ」

「以外だったのよ…」

「小さい頃はパンさん好きだったんだよ…」

「…そう」

「………」

 

「てゆーか…帰らねぇの? 用はもう済んだろ」

「……」

「…欲しいのか?」

「!? べっ、別にそんな事……無いわよ」

「言葉尻がすごく弱くなってるぞ…」

「………」

「欲しいならやるよ」

「…えっ?」

「……」

「いいの? これ限定品なのよ? それに、随分前から大事にしているのではないの?」

「俺より雪ノ下の方が、大事にしそうだからな。その方が、コイツの為になるだろ」

「本当にいいの?」

「いいと言っているだろ…」

 

 パンさんのぬいぐるみを雪ノ下に渡す。

 雪ノ下は目を輝かせながらぬいぐるみを受け取った。……こんな雪ノ下を見るのは初めてだ。

 

「……ありがとう」

 

 雪ノ下は緩んだ口をパンさんで隠して、上目遣いでお礼の言葉を口にした。なるほど、これは…やばいな。

 

「ん、大切にしてくれよ」

「言われなくても大切にするわ」

「それじゃ、そろそろ…」

「えぇ、帰るわね」

「エントランスまで送るぞ」

「別に、そんな事しなくても…」

「…親からそう教わってるんだよ」

 

 

       ×     ×     ×

 

 

「……今日は荷物届けてくれてありがとな」

「え…?」

「あ?」

「あなたって普通に感謝の言葉を言えるのね」

「なに以外そうな顔してんだ。普通に感謝の言葉ぐらい言えるわ」

「まぁ、あなたに感謝されても気分は全然良くないし、何も感じないのだけれどね」

 

 こいつ…人が珍しく感謝してるというのに…。本当いい性格してんなこの女は…。

 

「そんな事いいから、早く帰れよ」

「そうね。…これ、本当にもらってもいいの?」

「くどいぞ。俺がいいって言ってんだ、さっさと持って帰れよ」

「…それじゃ、また学校でね」

「ん。じゃあな」

 

 何時もと変わらず雪ノ下の足取りは、悠然としていて近寄りがたい雰囲気を纏っているのだが…。 

 

 …いや、パンさんのぬいぐるみを抱えたま帰るんですね…。見た目と抱えている物とのギャップで凄い不自然なんですけど…。

 

 

       ×     ×     ×

 

 

 部屋に戻ると、携帯電話に一通のメールが来ていた。送り主は雪ノ下父だった。内容は『今君のお父さんと会っている。そっちはどうだったかな?』と、いうものだった。

 

「………」

 

 疲れていた俺は、今回の出来事の意図を問いただす様な内容のメールをうち、送信し終えると、携帯電話をソファに放り投げ、……寝ることにした。

 目上の者に対しては多少失礼なメールを送ってしまった。…まぁ、あの人の事だ、笑って許してくれるだろう。多分

 

 翌日、俺の部屋の扉の前に紫の芍薬が一輪 置いてあった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

17話





 

 キュッ!

 

「…フッ」

 

 パコーン!

 

 いい調子だ。 壁打ちが…。

 

 今月の体育はサッカーとテニスだ。

 自称俺の相棒だった材木座は、ジャンケンの末サッカーに振り分けられたので、今日から俺のパートナーはこの壁だ。

 雨矢上は材木座と同じくサッカーに振り分けられている。

 

 …まぁ、あいつは先生に運動は控えた方がいいと言われてるから、何時も通り暇そうに授業風景を眺めている筈だ。

 

「うおーっ 今のやばいわー」

「絶対取れないわー 激アツだわー!!」

 

 …うっせーな○ねよ。

 必ず居るよなクラスにうっせー奴。どうしてそこまで騒げるのか教えて欲しいわ。 いや、教えて欲しくないけどさ。てか、話したくない。

 

「やっべー葉山君曲がった? 曲がったくね? 今の」

「いや打球が偶然スライスしただけだよ。悪いミスった」

「ごっめーん。えっと……ひ? ヒキタニ君ボールとってくんない?」

 

 誰だよヒキタニ君。

 俺は無言で名前の知らないクラスメイトにボールを投げる。

 

「サンキュー!」

 

「ありがとねーヒキタニ君」

 

「うす」

 

 ……なんで俺会釈とかしてるのん。本能的に葉山が上と判断してしまったらしい…。我ながら卑屈だ。

 

 

       ×     ×     ×

 

 

 昼休み。何時もの昼食スポットで飯を食う。

 場所は説明しなくてもいいよな? どうせ皆知っているだろうし。

 

「…!」

 

 風の向きが変わった。

 

 臨海部に位置するこの学校は、お昼を境に風向きが変わる。

 朝方は海から吹き付ける潮風がまるで元いた場所へ帰るように陸側から吹く。

 

 その風を肌で感じながら一人で過ごす時間が俺は嫌いじゃない。

 

「あれー? ヒッキーじゃん。どうしてこんなとこいんの?」

 

 ウェーブのかかった髪、着崩した制服、アホの子由比ヶ浜とエンカウントした。

 

「普段ここで飯食ってんだよ」

「へー…なんで? 教室で食べればよくない?」

 

 察しろよ。

 

「それよかお前はなんでここにいんの?」

「それっ! 実はね、ゆきのんとゲームでジャン負けして…。罰ゲームってやつ?」

「罰ゲーム…」

「?」

「俺と話す事がですか…」

「ち、違う違う! 負けた人がジュースを買ってくるってだけだよ!」

 

 なんだーよかった、うっかり死んじゃうところだったわ。

 

「ゆきのん最初は渋ってたんだけどね」

「まぁ、あいつらしいな」

「うん。けど『自信無いんだ?』って言ったら乗ってきた」

「…あいつらしいな」

「でさ。勝った瞬間無言で小さくガッツポーズしてて…」

「もうすっごい可愛かった…」

 

「なんか、今までもみんなでやっていたけど。この罰ゲーム初めて楽しいと思った」

「そんな罰ゲームで内輪で盛り上がっていたわけだ」

「感じ悪。そういうの嫌いなわけ?」

「内輪ノリとか内輪ウケとか嫌いに決まってんだろ」

「なぜなら俺は内輪にいないからなっ!!」

「悲しい理由だ!?」

 

「でも、ヒッキーにはウッシーいるじゃん」

 

「確かに内輪たが、あいつも俺もお互いを内輪だと認めていないんだよ」

「なんで?」

 

「あいつも内輪ノリとか内輪ウケが嫌いだからだよ」

「あー…確かにウッシーあまりクラスの皆と絡まないもんねー」

「そもそも二人だけじゃ輪なんて作れねぇよ…」

「またそんな…」

「……」

 

「…ところでヒッキーさ。入学式の日のこと覚えてる?」

「……え?」

「…あー、いや。俺当日に交通事故に遭ってるからなー」

「事故…」

「あぁ。その日は一時間くらい早く家をでたんだけど」

「途中、自転車を漕いでたらアホな奴が犬のリード放してな」

「ワンちゃんが車道に飛び出しちまって車にはねられそうになったんだよ」

 

「それを俺が身を挺して守ったの」

「アホな奴のおかげで入学早々三週間の連休貰えたが、入学ボッチも確定した」

「あ、アホな奴って…。ひ、ヒッキーはその子の事覚えてたりしないの?」

「痛くてそれどころじゃなかったしな——」

 

「昼間っからなに二人で重たい話してんだよ…」

 

「「!?」」

 

 由比ヶ浜と二人で声のした方に顔を向けると、いつにも増して腐った目をした雨矢上がマッ缶片手に立っていた。

 

「…そんな驚かなくてもよくない?」

「う、ウッシー?」

「なんだ雨矢上か。盗み聞きなんてお前いい趣味してんのな」

「偶然聞こえただけだ。それと」

「あ?」

「お前、どんな車に轢かれたか覚えているか?」

「……確か黒塗りの車だったような」

 

「……なるほどな」

 

 手を顎にあて少し考える様な仕草をすると。そう言って何かを理解した様子。

 

「あれ?」

「由比ヶ浜さんに比企谷くんと雨矢上くん?」

 

「あっ、さいちゃんだ。よっす!」

 

 …誰だ?

「…誰だ?」

 

 …シンクロした。

 

「よっす。三人はここで何してるの?」

「別になにもー? さいちゃんは練習?」

「うん。うちの部すっごい弱いからお昼も練習しないと…」

「さいちゃん授業でもテニスやっているのに昼練もしてるんだ。大変だねー」

「ううん。好きでやっている事だし…」

「あ! 授業のテニスといえば」

「ん?」

「比企谷くんテニス上手いよね」

「え?」

 

 …っていうか何で俺の事知ってんの?

 

「比企谷お前昔テニスでもやってたのか?」

「やってねーよ。言わなくても分かるだろ」

「まぁそうだな」

 

「さいちゃん、ヒッキー上手いの?」

「うん。フォームがすごく綺麗なんだよ」

「てれるなーはっはっは」

「なぁ…こいつ誰?」

 

 俺は由比ヶ浜に小声で目の前にいる人物について聞いた。すると隣で何故か雨矢上が耳を塞いだ。…なんで耳塞いでいるのん? 

 

「はぁ!? 同じクラスじゃん!! なんで覚えてないの!? 信じらんない!」

「っ…」

 

 ……普段もそこそこの声量だが、ここまで声出るのか…。アホの子…恐るべし。

 

「…あ、あはは。同じクラスの戸塚彩加です。よろしく」

「しょうがないだろ。俺女子とは関わりないからな。男子もそうだけど」

「はぁ!?」

 

「えっと…僕、男なんだけどなぁ…」

「えっ!?」

「マジか」

 

 

       ×     ×     ×

 

 

 —放課後—

 

「…神とは残酷なものだな。比企谷」

「まったくだ」

 

 俺と雨矢上は、放課後部室で昼休みに出会った男子について話していた。

 

「ゆきのーん。あの二人が気持ち悪いよぉー」

「あの二人が気持ち悪いのは何時もの事なのだから、放っておきましょう。事が起きる前に止めれば大丈夫でしょうから」

「まーそうなんだけどー」

「って、ゆきのん今日何か機嫌良くない? 昼休みも携帯電話の画面見てニコニコしてたし」

 

「なに見てたの? あたしにも見せて!」

 

 由比ヶ浜が雪ノ下に抱きつく。何時ものゆるゆりだ。眼福眼福。

 

「は、離れなさい由比ヶ浜さん。私は別になにも見てないわ…」

由比ヶ浜の抱きつきは雪ノ下に効果は抜群だ!

 

「ゆきのん…ダメェ?」

由比ヶ浜は上目遣いを放った。効果は抜群だ!

 

「うっ…しょ、しょうがないわね。私が見ていたのはこれよ…」

 

 雪ノ下は恥ずかしながら携帯電話の画面を由比ヶ浜に見せる。

 

「パンさんだっ!! かわいいー!」

「声が大きいわ由比ヶ浜さん…」

「これどうしたの? 買ったの?」

「いえ、これは貰い物なの」

「へー誰から?」

「それは…言えないわ」

「そっかぁ…」

 

 その後部活は依頼者も来ず何時も通り何事もなく終わった。

 

 

「なぁ雨矢上。今日晩飯うちで食ってかね? 小町もお前に会いたいって言ってるし。俺も全然かまわねえし」

 

「すまん。今日この後用事があってな、悪いけどいけねえわ」

 

 そう言って胸の前で手を合わせて俺の誘いを断る。こいつの事だ、それなりに大事な用事だろう。なら無理にとは言えない。

 

「そうか…。用事なら仕方ねぇな」

「じゃあな」

 

「おう」

 

 

          ×  ×  ×

 

 —とあるラーメン屋—

 

「美味い…」

「だろう? ここは私の行きつけの店なんだ」

 

 テーブルの向かい側でドヤ顔をしている女性。平塚静。奉仕部の顧問である。

 すらっと伸びた綺麗な脚に由比ヶ浜に負けず劣らずの……まぁスタイルがいいといえばそれだけのことなんだが…。とてもアラサーには見えない。

 

「すいません、奢ってもらって」

「生徒に金を払わせるわけにはいかないからな」

 

 麺を食い終わり、ひと息ついたあたりで平塚先生が話を切り出した。

 

「それで、話はなんだ? 君が私をわざわざ二人きりで食事に誘うなんて、何か聞きたい事でもあるのか?」

 

「ここで俺が『ただ先生と二人きりで食事をしたかっただけ』って言ったらどうするんですかね?」

 

「おもちかえr—」

「なんて言うわけないですけどね」

「そうか…」

 

 そんなしょんぼりしないでくださいよ…可愛いですけど…。さっきから周りの視線が痛いんですよ。…主に店主からのが…。

 

「それで、なんの話なんだ?」

「比企谷の事故についてで」

「それは言えない」

 

「即答ですか」

「当たり前だ。個人情報だ」

「まぁ、俺は答えの確認をしたいだけなんで詳しく話さなくても大丈夫です」

「答えの確認?」

 

「まず事故の当事者は由比ヶ浜と雪ノ下と比企谷です。詳しくはあと車の運転手と犬一匹ですけど」

 

「……ほう。何故そう思うんだ?」

 

 …俺は姿勢を正す。

 

「まず、犬の飼い主は由比ヶ浜で間違いない。昼の話を聞いていたら誰だって分かる」

「そもそも、俺が知らない話なのに由比ヶ浜は事故を詳しく知っている様な態度をとっていた。その時点で俺は当事者だと察しはついた」

 

「そして、比企谷を轢いた車に乗っていたのが雪ノ下だ。俺が事故の話を知らないのは、雪ノ下家の働きがあったんだろうな」

 

「君はよくそこまで分かったな…」

 

 平塚先生は驚いたような少し悲しそうなよくわからない表情で言葉を続けた。

 

「君は答え合わせと言ったな? なら、君の答えは正解だよ」

「…そうですか」

 

「それと、その事は本人達には言ったのか?」

「言ってませんよ。言っちゃいけない気がしたので」

「ならこのまま言わないでおいてほしい」

「…本人達がまだ気付いて無いからですか?」

「そこまで…。私には君が一人だけ別次元の存在の様にみえるよ」

 

「……」

 

 先生は以前に俺と同じような人間に会った事があるのか? それとも教え子の中にいたのだろうか? 彼女の目に複雑な光が揺れるのが見えた。

 

「そろそろ出ますか」

「あ、あぁ、そうだな」

 

「家まで送ってやるが? どうする?」

「大丈夫です、駅近いんで」

「そうか、では気を付けて帰るんだぞ」

「言われなくても気を付けて帰りますよ」

 

「ん、一つ言い忘れていた事があった」

「なんですか?」

 

 車に乗った先生は何かを思い出した様で、車のエンジン音にかき消されないよう少し大きな声で俺に言った。

 

「以前は殴ってすまなかった!」

 

 そう言い残し、先生の車は夜の街に消えていった。

 

 先生…遅くない? 謝るの。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

18話

 風邪を引いたり、考査の勉強したりで投稿が遅れてしまいました、すいません。ま、まぁ、不定期って書いてあるし…。
 今回は上手く書けた自信無いので、後々編集で直すと思います。




 

 —保健室—

 

「すいません、怪我しちゃったんで手当お願いします」

「少し待ってね」

「はい」

 

 テニスの授業中、転がってきたボールを踏んでしまった俺は、カッコ悪くコケて左腕を擦りむいてしまった。我ながら本当にどうしようもない…。

 近くにはクラスメイトが数人居たんだが、誰も手を貸してくれなかった…。

 

「ん? おぉ、比企谷じゃないか」

 

 いきなり近くのベッドのカーテンが開いて、中のから少し疲れた様子の雨矢上が出てきた。

 

「雨矢上? 何で保健室にいんだ?」

「ちょっと腹が痛くてな、ベッドで休んでたんだよ」

「腹? 何か悪いもんでも食ったのか?」

「…かもな。まぁ、すぐに良くなるから心配はするな」

「ん…? そうか」

「お前こそどうした、授業始まったばっかりだぞ——って見りゃ分かるけど」

「あぁ、盛大にコケた」

「比企谷くん、こっちに座って」

「あっ、はい。じゃあな雨矢上、お大事にな」

「おう」

 

 雨矢上が腹痛を起こすなんて、想像できなかった。あいつ事だから、病に関しては、人10倍気を付けている筈何だがな……。

 

        ×    ×    ×

 

 —昼休み—

 

 今日は、戸塚とペア組んでテニスができるという幸運のお陰で、俺の機嫌は頗る良かった。

 

「何ニヤニヤしてんだよ…」

「うおっ! 何だよ、雨矢上か。いやな、体育の時間戸塚とペア組んでテニスができてな」

「へぇ…よかったじゃないか」

「あぁ。…あの笑顔、守りたいなぁ…。お前も分かるだろ?」

「まぁ、分からなくも無いが…」

 

 指を顎にあて、考える様に答える。正直コイツがライバルになるのは避けたいのだが、戸塚の可愛さを共有できる相手がコイツ以外にいないんだよなぁ。……あれ? 誰か忘れているような…。

 

「あ、そういえば」

「ん?」

「戸塚からテニス部の勧誘を受けたんだが」

「…入ればいいんじゃねえの?」

「でも俺、奉仕部に所属してるだろ?」

「じゃあ、雪ノ下に許可取ればいいだろ? 何なら職員室にでも行って、平塚先生から直接許可とりゃいい」

「一応、雪ノ下に許可取ってから、平塚先生に許可取りに行くわ」

 

        ×    ×    ×

 

 —放課後—

 

「無理ね」

「いや、無理ってお前さ—」

「無理なものは無理よ」

 

 放課後の教室に響いたのは、厳しい一言だった。

 奉仕部の部長 雪ノ下雪乃は俺が考えた案を、斬鉄剣ばりにバッサリ切り捨てた。

 

「もっとも、あなたを排除する為に部員が一致団結することはあるかもしれないわね」

「けれど、それが彼ら自身の能力向上に向けられることはないわ。ソースは私」

「なるほど……え、ソース?」

「私、帰国子女なの。中学の時に編入したのだけれど、学校中の女子は私を排除しようと躍起になったわ」

「でも、誰一人として私に負けないよう自分を高める人間はいなかったわ」

「……あの低能ども」

 

 やべー…地雷踏んだかもしんない。どうしようか…。

 

「——そうでも無いぞ、雪ノ下」

 

 さっきまで、珍しくラノベを読んでいた雨矢上が、急に本を閉じてこっちに顔を向けずに話し始めた。

 雪ノ下は急に話し掛けられて少し驚いたようだが、すぐに雨矢上をキッと睨む。

 

「雨矢上君、それはどうゆう事かしら?」

「雪ノ下同様、俺も帰国子女で、同じく中学の時に編入した。だが、雪ノ下の言う様な事は起きなかった」

「何が言いたいのかしら?」

「単純に、男女の差なのかも知れないが、こういうのは大体自己紹介の時の第一印象で決まる」

「俺の場合、当たり障りの無い中性的なキャラで挨拶をしている。人畜無害だよって印象を相手に与えれば、基本そういったトラブルを未然に回避できる」

「それはあなたの場合でしょ? 私と貴方は違うしょう? 貴方にそれが出来ても私には——」

「雪ノ下」

 

 雨矢上の声が今まで感じたことの無いほど重くなる。声だけで圧殺できそうだ…。…何お前、美食屋四天王なの? でも、あの人は嘘を嫌うからどちらかと言えば雪ノ下タイプなんだけどな…。

 表情は見えないが、雨矢上は怒っている様だ。正直うちの母ちゃんより怖い。…変に茶化さない方がよさそうだな。

 

「っ…何かしら」

「お前はどんな印象をそいつ等に与えた? 大体予想がつくな、お前はそいつ等を見下すようにそっけない態度で自己紹介したろ? 思春の女の子にとって、いじめの恰好の的になる訳だ」

「あなたに私の何が分かるというのかしら? こっちに顔も向けずにさっきから!」

「おい、雨矢上その辺に…」

 

 雨矢上…何で火に油を注ぐような発言するんだ? 何時ものお前らしく無いぞ…。

 

「お前の事は分からない、お前自身の思いはお前しか分からないからな。でも、俺はお前の様な人間を何度も見てきた」

 

 最後に「見たくもないのに」と聞こえた気がした。

 

「彼等も雪ノ下同様に一人で、自分を曲げ無い強い人間だった…だけど、最終的には潰れてしまった…」

 

「雪ノ下。さっきお前は“学校中の女子"といったが、本当に全部の女子がお前の敵だったのか?」

 

「本当にお前を認めてくれる女子はいなかったのか? お前を尊敬して自分を高めようとしたやつは誰一人いなかったのか?」

「お前は“学校中の女子"と一括に否定して、ちゃんとそいつ等を見ていなかったんじゃないのか?」

 

「お前のそういうところは葉山にそっくりだな。違いは、葉山は、クラスの輪の中にいて、雪ノ下はその輪の外にいるって事だけだ」

「…まぁ、“自分"を騙している分葉山の方が——」

 

 突如として奉仕部の扉が元気よく開けられ、由比ヶ浜と戸塚が入ってきた。

 

「やっはろー! 今日は依頼人を連れてきたよ!」

「こ、こんにちはー」

「…ってあれ? ゆきのんとウッシー何か空気重くない? ヒッキーなんかあったの?」

「…実はだな。カクカクシカジカ」

「えぇーっ!! ウッシー何してんの? 馬鹿じゃなんじゃないの?! 早くゆきのんに謝って! ゆきのん泣きそうじゃん!」

「別に…泣きそうになんかなってないわ…」

 

 話を聞いた由比ヶ浜は案の定怒った、正直俺も言い過ぎだとは思った。少なくとも雨矢上が一方的過ぎた。こういうのは前に、三浦が由比ヶ浜にしていた事と同じだ。

 雪ノ下は、強がってはいるがかなり凹んでいる様に見える。さっきからずっと俯いちゃってるし…。

 

「由比ヶ浜に馬鹿とは言われたくない…」

「なにそれヒドい!」

「雨矢上、言い過ぎたのはお前だろ、ちゃんと謝れ」

「…だな」

 

 雨矢上は反省した様子で返事をし、何故か椅子を持って立ち上がった。

 

「ちょ、ちょっと! ウッシー何するつもり!?」

「あ? 何って別に」

 

 ガタン!

 

「!!」

 

 椅子を持った雨矢上は、俯いている雪ノ下の席の前に来て椅子を“わざとらしく"雑に置いた。雪ノ下はびっくりして俯いていた顔を上げ、目の前に座る雨矢上を見る。

 

「すまん雪ノ下」

「!」

 

 雨矢上は頭を深々と下げて謝罪をした。雪ノ下は頭を下げられるとは思わなかったのか少し戸惑っている。中々新鮮な光景だ。

 

「っ……頭を下げられたぐらいで許すとでも?」

「別に許されなくてもいい」

「…え?」

「俺は、両方悪いのに自分だけは正しい様に言う雪ノ下に少しイラついてしまった…。確かに雪ノ下は強くて正しいかもしれない、けど、そっけない態度で自己紹介されたら誰だって怒るし嫌な気分になるだろ? 雪ノ下はそれを分かってないだろ」

「それは…」

「ウッシー? 謝るんじゃ無いの?」

「うっ…すまん」

「…とにかく一方的に喋ってしまって悪かった」

「ゆきのん。ウッシーもここまで謝ってるんだし許して上げてもいいんじゃない?」

「…そうね、今回は許してあげるわ。でも、次からは許さないわよ」

「あぁ」

 

 救世主由比ヶ浜が来てくれたお陰で部活の雰囲気はだいぶよくなった。何時もアホの子だと思っていたが、こうして役に立ってくれると、あまりバカにできないな…。

 

 

        ×    ×    ×

 

 

「で、何で戸塚がいるんだ?」

「比企谷くんこそ、どうしてここに?」

「いや、俺は部活だけど」

「へぇ! 比企谷くんここに所属してるんだ!」

「半強制だけどな…」

「もしかして雨矢上くんもここに所属してるの?」

「あぁ…比企谷と同じく半強制にな…」

 

 二人して苦虫を噛み潰した様な顔になる。戸塚の前では自分の気持ち悪い表情を見せたく無いが、平塚先生を思い出すと、反射的になってしまうから仕方が無いのだ…。

 

「で、由比ヶ浜が連れてきたわけだが…」

「いや、なんてーの? あたしも奉仕部の一員じゃん?」

「だから、ちょっとは働こうと思ってさ。そしたらさいちゃんが困ってる風だったから連れてきたの」

 

 ふふん。と自慢げに由比ヶ浜はそう言って、鼻を鳴らした。

 

「由比ヶ浜さん」

「ゆきのん、お礼とかそういうの全然いいから、部員として当然のことしたまでだし」

「由比ヶ浜さん。別にあなたは部員ではないのだけれど…」

「違うんだっ!?」

「え? 違うのか? 比企谷」

「確かにあいつ…入部届出してないな」

「入部届をもらってないし顧問の承認もないから、部員ではないわね」

「書くよ! 入部届ぐらい何枚でも! 仲間に入れてよ!」

「必死だな…」

「仲間なのか俺達? 比企谷ならまだしも、雪ノ下とは仲間になれる気が永遠にしないんだが…」

「私も、雨矢上君とは仲良くなれる気がしないわ。仲良くしたく無いもの」

 

 確かに、俺も雨矢上ならまだしも雪ノ下はきつい、主に罵詈雑言が。

 雪ノ下の言葉のレパートリーは無駄に広いから、俺達は毎日違う暴言を喰らっている。……頭のいいやつは皆暴言のレパートリーが広いのかな…? これは雪ノ下だけであってほしいと切実に願う。

 

 

 

「——それで、テニス部を強くして欲しいわけね」

「う、うん」

「強く…してくれるんだよ…ね?」

「…由比ヶ浜さんがどんな説明をしたのか知らないけれど。奉仕部は便利屋ではないわ」

「あなたの手伝いをし、自立を促すだけで、強くなるもならないもあなた次第よ」

「…そう…なんだ…」

 

 残念そうに黙ってしまったな…。だけど、戸塚には悪いが雪ノ下の言う事はもっともだ。奉仕部は便利屋ではない。どこぞの万屋とは違うのだ。

 

「由比ヶ浜さんもあまり無責任な事言いふらさないでほしいわ」

「ん? んんっ?」

「でもさ——」

「ゆきのんとヒッキーとウッシーならなんとかできるでしょ?」

「俺もかよ…まぁいいか…」

「俺も指名されたんだ、逃さないぞ雨矢上」

「マジかぁ…」

 

 『なんとかできるでしょ?』何も考えてない由比ヶ浜があっけらかんと言った一言。これが、類まれな(皮肉)頭脳を持つ雪ノ下雪乃にかかればこう聞こえてしまう——

        

        『できないの?』と

 

「ふぅん。あなたも言うようになったわね、由比ヶ浜」

 

 あー…変なスイッチ入っちゃったよ。

 

「いいでしょう、依頼を受けるわ」

「あなたの技術向上を、助ければいいのよね?」

「は、はい」

「…ぼくがうまくなれば、みんな一緒に頑張ってくれる。と思う」

 

ガタッ

 

 隣で雨矢上が立ち上がる。俺は、某速い兄貴も驚くであろうスピードで、この場を立ち去ろうとする雨矢上の腕を掴んだ…。

 

「…離せ比企谷」

「…逃さないと言っただろ?」

「いや、面倒くさい事が起こるフラグが立ってるじゃん」

「面倒事はゴメンなんだが…」

「俺一人だけ巻き込まれるのは絶対に嫌だからな…」

「顔が怖いぞ比企谷…! 分かった、分かったから離せ」

「逃げるなよ?」

「…分かったよ…」

 

「で、どうやるんだよ」

「そうね。放課後には部活があるから——」

「昼休みに、死ぬまで走って死ぬまで素振りして死ぬまで練習、かしら」

「三回も死んでいるんですけど…」

「…ぼく死んじゃうのかな…」

「大丈夫だ、お前は俺が守るから」

 

「……ムゥ」

「…由比ヶ浜」

「ウッシー?」

「頑張れ…」

「っ! な、なんのことだしっ! ウッシーキモイ!」

「いや、なんで…。酷くね…?」

 

        

        ×    ×    ×

 

 —下駄箱—

 

「雨矢上、今日は家に来れるか?」

「そうだな、久しぶりにご馳走になるか」

「了解。自転車取りに行くついでに小町に連絡するから、先行ってていいぞ」

「おう、悪いな」

 

 その後、雨矢上に追い付いて暫く歩いていると近くの公園で一人の少女を見かけた。

 

「こんな時間に公園で一人か…」

「別にそこまでおかしくはないだろ」

「見た感じ、小学生っぽいぞ?」

「雨矢上お前…」

「おい、その顔やめろ…」

「公園の自販機で飲み物買うついでに少し話掛けてみるわ。少し待っててくれないか? 何なら先に帰ってていいけど」

「少しぐらいなら待っててやるよ」

「んじゃ、行ってくる」

 

 数分ぐらいで雨矢上は戻ってきた。

 思いの外早くて助かった。公園の近くで突っ立ってるってのは、不審者に見られそうで正直怖い。職質とか本当勘弁してほしいからな…。

 

「どうだった?」

「雪ノ下みたいな奴だった」

「マジかよ…」

「あの様子じゃ、多分いじめでも受けてんだろ」

「……そうか」

「世知辛いな、本当に」

「てか、あのまま放って置いて良かったのか?」

「迎えが来るらしいから、まぁ大丈夫だろ」

「そういえばお前、飲み物は?」

「あの子にあげた」

「なんだ、もうそんな仲良くなったのか?」

「なわけ。一言二言ぐらいしか話してねえよ」

「そうか…」

 

 雨矢上が歩き出し、俺はその半歩後ろについて行く。正直あの子事は気になるのだが…。まぁ、関係ない人間だしどうでもいいか…。他人の俺が変に突っかかる義理なんて無いしな…。

 

        ×    ×    ×

 

 —比企谷家—

 

「善兄さん、料理の味はどーですか?」

「うん、とても美味しいよ。小町ちゃんの料理の腕は中学生のレベルを軽く越えているな」

「えへへ…」

「お前、小町褒め過ぎじゃないか?」

「そうか? 本当の事しか言ってないつもりだが」

「善兄さんはポイント稼ぐの上手だなぁ…、うちの兄にも少しは見習ってほしいもんですなー」

「ちっ…」

「比企谷、舌打ちは良くないぞ…」

 

 小町ちゃんの料理の腕は、お世辞抜きで言ってもかなり上手い。何なら、毎日料理を作ってもらいたいぐらいだ。

 まぁ、色々問題があり過ぎて実現はしないだろうがな。

 

「…善兄さん、自炊大変じゃないですか? 何なら小町毎日料理作ってあげましょうか?」

「小町さん? 俺の飯は?」

「もちろん、お兄ちゃんも一緒にだよ」

「…ねぇ、善兄さん」

「ん?」

「善兄さんって、確か一人暮らしでしたよね?」

「そうだけど?」

「よかったら、うちで暮らしません?」

「……は?」

「うちに空き部屋なんてねえぞ…」

「何なら小町の部屋でm」

「待て小町ちゃん。それは駄目だ、色々アウト過ぎる」

「小町は別に構いませんよ? 何ならウェルカムです!」

「ウェルカムって…お前なぁ…」

「あまり人様の家に迷惑かけたくないから、気持ちだけ受け取っておくよ。それに自炊も案外楽しかったりするしな」

「……善兄さんって意外と鈍いですよねー」

「そうか? 自分で言うのもなんだが、俺ほど鋭い奴いないと思うけどなぁ…」

 

 難聴系主人公のスキルは、俺には無縁のはずだからな。そもそも、俺主人公じゃねえし。てか、難聴系って何だよ。

 

「ご馳走さま小町ちゃん」

「はい! お粗末さまです!」

「ん、そろそろ帰るか?」

「あぁ」

「今回は俺が見送ってやるよ」

 

 リビングから出て玄関に向かう。…ここなら小町ちゃんに話し声はあまり聞こえない筈だ。

 

「そうだ比企谷、帰る前に一つ警告して置く」

「何だよ、ヤブからスティックに」

「あまり雪ノ下に強い憧れを抱くなよ、もちろん俺にもだ」

「…どういう事だ?」

「まぁ、少し考えてみろ」

「じゃあな」

「お、おう…じゃあな」

 

 …さっきの話、小町ちゃんに聞こえていなければいいが…。

 強い憧れを持つのは非常に危険だ。人間は他人に対して、勝手に憧れて理想を押し付け、最終的に勝手に失望する事がある。

 例えば、強く憧れたその人に少しでも近づこうとして努力してきた人間がいるとしよう、でも、憧れの人が実は最低の人間だったと知ればどうなる? 自分のしてきた努力・時間全てが本人に否定されてしまう。大抵の人間はこの時点で、憧れが崩壊して精神が崩れかける。

 

 だから俺は、誰にも憧れを持たない。憧れは危険だから。

 比企谷はちゃんと分かってくれるのだろうか? 心配だなぁ…。まぁ、あくまで強い憧れの話だけど。

 

 




 新型コロナウイルスもありますし皆さん風邪には気を付けてください。主は学校以外基本外出しないのですが、風邪を引きました。……一番の敵は家族です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

19話

 ふ、不定期だから…



 

 —翌日の昼休み テニスコート—

 

 昨日話した通り、昼休みにテニスコートに集まる面々。

 由比ヶ浜と戸塚は運動に着替えており。雪ノ下は運動をする気が無いのか、制服のままだ。 あ、俺と雨矢上も制服だよん。

 

「では始めましょう」

「まず今日は、筋力の強化ね」

「筋力を上げれば基礎代謝も上がり、より運動に適したん身体となって、カロリーも消費しやすくなるの」

「カロリー消費!? あたしも付き合う!!」

「では早速、腕立て伏せからやりましょう」

「「はい!」」

 

 

「……なぁ比企谷、俺達もやった方がいいのでは?」

「……雪ノ下からの指示もないしやらなくていいだろ」

「「……」」

 

 目の前で汗をかきながら腕立て伏せする巨乳女の子と、女の子より女の子っぽい男の子。視線が向かないわけがないよな? …俺だって男だ、煩悩は有る。

 ……理由は言わないが、どちらかと言えば女の子の方に目が行ってしまう。……これが万乳引力か。

 

「…すごいな。何かとは言わないが」

「…そうだな。何かとは言わないけどな」

「あなた達も運動してその煩悩を振り払ったら?」

「「ひッ!」」

 

 

        ×    ×    ×

 

 

 命からがら(大袈裟)逃げて来た俺達は、テニスコートの外で暇を持て余していた。俺的には教室に戻って本でも読みたいのだが、雪ノ下が許してくれないだろうな…。

 

「ずっとぼけーっとしてるのもあれだし、何か話でもするか」

「別にいいけど、いきなりだな」

「んーそうだな、何か俺に聞きたい事とかあるか?」

「あ? 何だよ。別に聞きたい事なんて……あ」

「ん?」

 

 そういや忘れかけていたが、以前雨矢上と葉山をつけたとき、二人はわざわざ人気の無い屋上でなんの話をしたのだろうか? 結局何話してたか聞かなかったが、ちょうどいいから聞いてみるか。

 

「以前お前葉山と屋上で話した事あっただろ?」

「ああ」

「何話してたんだ?」

「何故この街に帰ってきたのかと聞かれた…それだけだ」

 

「……別に俺に話せないような事なら、話さなくていいが?」

「うーん…いや、話すよ」

 

「…俺さ、以前転校したとき、転校先が葉山が通ってる小学校でな」

「俺が通ってた学校から、お前が転校した後の話か」

「ああ」

「へぇ、仲良かったのか?」

「まさか。普段から会話するような関係ではなかったし、そもそも会話をしたい相手でもなかった。…お互いな」

「でも、何回か衝突した事があってな」

「衝突?」

「知っていると思うが、俺が転校した理由のせいで転校したあとは少し性格が変わって…」

 

 雨矢上が転校した理由……母親の病死。その出来事をさかいに、母方の家の教育方針が変わって、今よりもっと学力が高い学校に転校する事になったわけだ。

 

「性格が変わったと言うより、壊れたんだろ?」

「まぁ、そうだな…」

 

「………」

「そんな暗い顔するなよ」

 

「まぁ、衝突って言っても、葉山が一方的に俺に突っ込んで来た様なもんなんだけどな」

「…?」

「当時、俺と葉山がいたクラス内で起きていた、ある問題の解決の仕方ので少しモメた…」

「クラス内での問題? …いじめか何かか?」

「そう、いじめだよ」

「…なるほどな」

「葉山のやり方じゃ問題の解決にならなかったから、俺が動いたんだが、俺のやり方が気に入らなかったらしくてな」

「…まぁ、考えの相違だな」

「で、結局その問題は解決できたのか? 俺の経験上、そういう問題は殆ど解決できないものだが」

「比企谷の言う通り、問題の解決はできなかったよ」

「……苦いな」

「苦いよ」

 

 暇つぶしをするつもりが、かなりヘビーな感じの話になってしまった…。自慢じゃないが、俺は今までかなり辛い思いをしてきたと思っている。でも、雨矢上はそれ以上に辛い思いをしてきたのだろう…。

 

「ちょっと重い話になってしまったな」

「こういった話には慣れているから、俺は平気だぞ」

「んじゃ、次は明るい話を比企谷がしてくれ」

「めんどくせぇ…」

「小町ちゃんの話でもいいぞ?」

「え?マジで?いいのか? それじゃまず小町が小さかった頃の話から—」

「いや、やっぱりいいわ」

「何でだ?」

「無駄に長くなりそうだから…」

「む、無駄…だと?」

「そんなことより。あっちでお前のお友達が仲間になりたそうにこちらを見ているぞ」

「あ? ……材木座は友達じゃないんだが…」

「んじゃ俺は、材木座連れて雪ノ下んとこ行ってくるわ」

「おう」

 

「はぁ…」

 

 そんなこんなで日々は過ぎ———俺達のテニスは第2フェイズに突入した。

 

 

        ×    ×    ×

 

「いっくよー、えいっ」

「フッ」

パコォン!

 

「次おねがいします」

「由比ヶ浜さん、もっとあの辺とか厳しいコースに投げなさい」

「わ、わかった」

 

 雪ノ下は本気で性格が悪かった…じゃなくて本気で鍛えていた。

 ……何で俺の考えている事分かるんだよ。

 

「今更なんだが、俺らはなんの為にいるんだ…?」

「聞くな雨矢上。俺にも分からん」

 

「さいちゃん!!」

 

「お、戸塚が盛大にコケたな」

 

「だいじょうぶ?!」

「大丈夫だから…続けて」

「まだやるつもりなの?」

「う、うん…。みんな付き合ってくれるから…もう少し頑張りたい」

「………そう」

「後は頼んだわよ由比ヶ浜さん」

「え?」

 

 そう言うと雪ノ下はすたすたと校舎の方へ去って行った。

 

「なんか怒らせるような事言っちゃったかな…?」

「いや、あいつは何時もあんなもんだ。愚かだの低能だの言ってない分機嫌いいかもな」

「じゃあ、いつまでたっても上手くならないし、呆れちゃったのかな?」

 

「それはないと思うよ—」

「ゆきのん頼ってくる人を見捨てたりしないもん」

「まぁ、お前の料理に付き合うぐらいだもんな」

「どういう意味だっ!?」

 

 雪ノ下は女王で暴君だが下々の者を見捨てない。どこかへ行ったのも何か理由があるのだろう。

 

「大方、保健室に救急箱を取りに行ったんだろうな」

「伏線を切るな雨矢上」

 

 

「あっ、テニスしてんじゃん」

 

 突如としてテニスコートにクラスの上位カーストの連中が侵略してきた。

 氷の女王の次は炎の女王が来るとはな。

 由比ヶ浜はあたふた仕出し、材木座はこの場から逃げ出そうとし(逃さないが)、雨矢上は俺が見た時には既に、何時もの仮面を被っていた。

 

「テニス部以外もコート使っていいんだ」

「ならあーしもテニスやりたいんだけど。この場所空けてくんない?」

 

「…あー、ここは戸塚が許可とって使っているものだから、他の人は無理なんだ」

「は?」

「あんたらも使ってるじゃん」

「いや、俺達は練習付き合ってて、業務委託っつーかアウトソーシングなんだよ」

「は? 何、意味わからない事言ってんの? キモいんだけど」

 

 チッ…これだからビッチは……犬の方がまだ話し通じるぞ。

 

「あ…あわわ…」

「落ち着け由比ヶ浜」

「でも…」

「まぁ、修羅場だもんな…しょうがないか」

「ウッシーはこういうの平気なの…?」

「…まぁな」

 

「まぁまぁ、ケンカ腰になるなって。"みんな"でやった方が楽しいしさ」

「みんな…だと?」

「おい、やめとけ比企谷」

「なんだよ…雨矢上」

「こういった議論、話し合いはするだけ無駄だ」

 

 雨矢上の言う通り、こういった議論、話し合いはするだけ無駄だ。相手に話しが通じなければ議論や話し合い何て、そもそもできっこないのだ。

 ふむ…何時もの様に自虐ネタ使って足元すくおうとしたが…しょうがない。

 

「じゃあどうしろと?」

「んー…」

 

 雨矢上は顎に指を当て、思案する。

 

「じゃあこうしよう」

 

 葉山が言う。

 思案中だった雨矢上は少し顔を歪めている。

 

「部外者同士、俺とヒキタニ君で勝負する」

「勝った方が今後昼休みにはここを使えるって事でどうかな?」

 

「え、えっと…」

 

 戸塚が困った様子でこちらを見る。

 

「もちろん、戸塚の練習にも付き合う」

「強い奴と練習した方が戸塚のためにもなるし、いいかな?」

 

 俺は無言で頷く。が——

 

「なにそれ超楽しそう! じゃ、いっそ"男女混合"のダブルスにすればいいんじゃん?」

「っつってもヒキタニ君と組んでくれる子いんの?」

 

 くっくっくく…く、悔しいがその通りなので言い返せもしねぇ…。あと、材木座、お前は笑うな。

 

「お前には女子の友達は皆無。見知らぬ女生徒にお願いしてみたところでボッチ野郎でジミオのお前に手を貸してくれる人などいないだろう」

「材木座、お前はちょっとこっち来い」

「な、なにゆえっ?!」

 

「ヒッキー、あたしやるよ」

「なんでお前がやんの? あっち側の人間だろ。バカなの?」

「…やーなんてーの」

「あたしも部活入ったし…、ならやるでしょ普通」

 

「ユイ。あんたさぁ、やるってあたしとやるって事なんだけど、そういう事でいいわけ?」

「そ、そういうわけ…って事でもないけど…」

「あたし、部活も大事だから」

「へー…そーなん。恥かかないようにね」

 

 

        ×    ×    ×

 

 数分後。テニスコートの外は、葉山隼人がテニスをするという噂を聞きつけた生徒で溢れていた。

 

 マジかよ葉山、そこらの政治家より人望あんじゃねえの…。

 

 俺と葉山は制服のブレザーを脱ぎ、三浦と由比ヶ浜はテニスウェアに着替えコートに立つ。

 

「ふむ八幡、作戦の方はどうする」

「まぁ、ペアの女子の方を狙うのが上策だろうな」

「ふむ…では転入生殿は何かあるか」

「比企谷の女子を狙うって策はやめておいた方がいいだろうな」

「相手の三浦って奴、多分強い」

「本当か?」

「俺が見た感じだからな、本当かどうかは分からない」

「それと、俺にも一つ策があるんだが」

「どんな?」

 

「まずどちらかの打球をわざと目に喰らう。これで目が潰れれば大事になる、そうすりゃ二人に罪悪感を植え付けられる、おまけに葉山か三浦の何方かの評判は最悪になる」

「どうだ?」

 

 雨矢上は至って普通に言っているが、思った以上にエグい策が出てきて正直引いている…。

 

「却下だ」

「我も」

「相手に勝つのが目的だろ、共倒れじゃ意味ねえだろうが。それに、こんなもんに目をかけるなんてバカげている」

「てゆーか俺痛いの嫌だし」

「そうか…」

 

 




 
 投稿遅れてすいません…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

20話

「じゃあ…始めます」

 

 審判の戸塚が試合開始の合図をする。

 

「ところで転入生殿」

 

 試合が始まった直後。テニスコートの壁で俺と材木座二人で並んで見ていると、不意に材木座が話しかけてきた。

 

「何だ?」

「先程は聞かなかった事なのだが」

「正直八幡達に勝算はあるのだろうか?」

「無いよ」

「ななっ!?」

「そんなに驚くな」

「だって先程までは、何だかんだ勝ちそうな雰囲気だったではないか?!」

「いや、だってアレ見てみろよ、比企谷達かなり苦戦してるじゃないか」

 

 俺は現在進行形で苦戦をしている比企谷、由比ヶ浜ペアにもう一度視線を向ける。

 

「ふむぅ…」

「考えてみろよ。幾ら比企谷にテニスのセンスがあっても初心者のペアが格上に勝てる訳ないだろ?」

「た、確かに」

 

 そんな事を話していると、視線の先でボールを追っかけた由比ヶ浜が盛大にコケた。…痛そう。

 

「コケた…」

「あぁ、コケたな。それにアレ足捻ってるな」

「じゃあ試合はどうなるのだ!?」

「あの様子じゃ試合続けるのは無理だろうな」

「では………って、どうしてブレザーを脱いでいるのだ?」

「どうしてって? そりゃ、俺が出るからだよ」

 

 脱いだ制服のブレザーを近くのベンチに置いて、コートに向かう。

 医師や兄さんからは「"半年間は要安静"」って言われてるが………普段から無理してんだ、これぐらいどうってこと無いだろ。それに、由比ヶ浜や比企谷が頑張ってんだ。だったら、俺も少しは役に立たないとな。

 

        

        ×    ×    ×

 

 

「ごめ…ちょっとひねっちゃったかも…」

「負けたらさいちゃん困るよね……」

 

「あーーもう!」

「……」

 

 由比ヶ浜は膝をついたままそう言い、ラケットのグリップを強く握り締める。由比ヶ浜は頑張ると張り切っていたのだから無理も無い。

 

「…あれだ、もうお前コートの中にいるだけでいい」

「あとは俺がどうにかする」

「…どうするの?」

「テニスには古来から禁断の技がある」

「その名も『ラケットがロケットになっちゃった!』だ」

「ただのラフプレーだ!?」

 

「ラフプレーは良くないぞー比企谷」

「あ?」

 

 気の抜けた声のした方に視線を移すと、制服のブレザーを脱ぎ、軽く準備運動をしている雨矢上がいた。

 

「なんで準備運動してんだお前」

「なんでって、俺が由比ヶ浜に代わってテニスをするからだが?」

「お前…大丈夫なのか?」

「完治してるって言っただろ? 大丈夫だよ」

「ウッシー運動できるの…?」

「何故心配そうにする」

「だって…何時も体育の授業の時見学してたから…」

「もしかして体弱かったり…?」

「俺の事は別にいいから。由比ヶ浜、お前足捻ったんだろ? なら早く保健室行け」

「…そんな、悪いよ」

「……不本意だがこれでも奉仕部の部員なんだ、少しぐらい役に立たせてくれ」

「う、うん分かった、じゃあ二人ともあとはよろしくね!」

 

 由比ヶ浜はそう言うと雨矢上にラケットを手渡し、捻った足を庇いながら校舎の方へ去って行った。

 

「はぁ? なんで転校生がやるわけ?」

「えー…確か三浦だっけ?」

「そうだけど、何?」

「こっち男二人でもいいか?」

「ルールは"男女混合"なんだけど?」

「確かに、ルールは男女混合だったがこっちは初心者なんだ、これぐらいのワガママ聞き入れてくれてもいいんじゃないか?」

「ふーん……まぁ、二人対一人じゃ面白くないしね。いいわよ聞き入れてあげる」

「聞き入れては駄目だ優美子」

「隼人?」

「ちゃんとルールどうりやるべきだと俺は思う」

 

 葉山はこちらを(視線は雨矢上に向いてる気がするが)見て訴え掛ける。が、雨矢上は呆れたように言い返す。

 

「なぁ葉山。お前この試合の前に、自分で言った言葉…覚えて無いのか?」

「『強い奴と練習した方が戸塚のためにもなるし』だろ…」

「勝った方が強いって理論なら、男女混合なんてルールに拘る必要ないよな?」

「それに、こっちは正真正銘初心者なんだ。それともなんだ、初心者二人に負けるかもとか思ってるのか?」

「ねー隼人ー早くしないと時間無くなるんだけど」

「……分かった、試合を再開しようか」

 

 結局葉山は折れて、由比ヶ浜に代わって雨矢上が入る形で試合は再開した。

 

「戸塚、試合を再開してくれ」

「う、うん……じゃあ試合を再開します」

 

「言って置くけど、あたし手加減出来ないから——傷とかできちゃったらごめんね?」

 

 三浦の口角が上がる。

 なるほど…思った以上の女だった。

 

「ご親切にどうも」

 

 雨矢上も口角を上げ、含みのある言い方で言葉を返す。

 

「……あっそ」

 

 そう言うと、三浦は渾身のサーブを放った。ボールはコートの左側にいる雨矢上の方へ向かう。が、雨矢上はコートギリギリのボールを初心者と思えない程の綺麗なバックハンドで返す。

 ボールは相手コートでバウンドして後ろのフェンスに当たって落ち。外のギャラリーからは少しの間静かになった後に大きな歓声が上がった。

 

「お前本当に初心者か?」

「当たり前だろ、ラケット握ったのも今日が初めてだ」

「じゃあなんだ今のは」

「昔観たテニス選手の動きを真似した」

「マジかよ…俺よりお前の方がセンスあんじゃねぇの?」

「てゆーかめっちゃ目立ってんじゃん…」

「それに関しては大丈夫だ」

「はぁ?」

「まぁ、後々わかるよ」

「それに今のはあくまで真似だからな次からは上手くいかないかもしれん」

「…やばくなったら俺が土下座して何とかするわ」

「比企谷が土下座する展開にはならないぞ」

「なんでだ?」

「俺達が勝つからだ」

 

 雨矢上はそう言って不敵に笑った。

 

 

 

        ×    ×    ×

 

 

 

 雨矢上の言った通り俺達は勝った。…結果としては。雨矢上の圧倒的な力でマッチポイントまで点を重ねていったのだが…最後の最後で葉山に持ってかれた…。

 

「まぁ…なんだ。試合に勝って勝負に負けたって感じだな」

「馬鹿言え。俺とあいつらじゃ端から勝負になってねぇんだよ」

「なんだ、比企谷も分かっていたのか」

「当たり前だろ」

「でも、勝てたではないか」

「なぁ雨矢上お前どうしてあんなに上手いんだ?」

「別に俺は上手くねぇよ、上手い様に見せていただけだ。点がよく入ったのも相手の癖知ってたからだよ」

「癖なんていつ知った?」

「比企谷と由比ヶ浜が試合してた時」

「…すげぇなお前」

 

「ん、そろそろ教室に戻るか」

「すまないが先に教室戻っててくれ。俺は奉仕部に寄ってから教室向かうから」

「?そうか。じゃあまた後でな」

「おう」

「材木座も早く教室戻れよ」

「うむ」

 

 

        ×    ×    ×

 

 

 —奉仕部—

 

「…誰も居ないな」

 

 扉を開け、中に誰も居ない事を確認して部室に入り、何時も自分が座っている椅子に腰を下ろす。

 

「はぁ…」

 

 やっちまった…。

 

 今年最大の溜息を吐き頭を抱える。今まで何度も無茶してきたが、今回は浅慮だった…。ラノベに出てきそうなヒーローみたいになろうと思った俺が馬鹿だった…。

 

 制服のブレザーとYシャツを脱ぐと、包帯をぐるぐるに巻いた自分の腹部が露わになる。

 よく見ると巻いた包帯の一部が赤くなっており。慎重に包帯を広げていくと、徐々に赤い部分が大きくなっていった。広げ終わる頃には露わになった腹部の傷痕から生々しい血が出ていた。

 

「思ってたより血は出てないな…」

 

 心配した比企谷がここに来る前に早く応急処置しないとな…。

 部室に置かれている机たちをどけ、隠れていたロッカーから救急箱を取り出す。……「いつ置いたんだよ」とか聞かないでくれよ?

 

 

 一通り応急処置をして包帯を巻いている途中、廊下から二つの足音が聞こえた。

 音的に比企谷と平塚先生だろう。一つはヒールの音だし…。

 今この状況からはどうやったって全部を隠すのは無理だと思った俺は諦めて包帯を巻き続けた。

 数秒後扉が開かれ、案の定比企谷と平塚先生が中に入ってきた。比企谷はいつも通りの腐れ目だが若干眉を顰めている。平塚先生は険しい顔をしており、怒りがオーラになって体から溢れている。

 二人は直ぐ俺に気付き、3歩近付き立ち止まる。どうやら逃げ場は無さそうだ…。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

21話

 書けなくなった。



「………」

 

 諦めはついていたものの、いざこうなってみると中々上手く言葉が出ない。本当ならここでジョークの一つや二つ言ってこの重たい空気を紛らわしたかったんだけどなぁ…。

 

「雨矢上。その包帯はなんだ」

「傷が開いただけです…」

 

 平塚先生に問われ俺は目をそらしながら答える。

 

「お前の傷は完治してると聞いていたんだが?」

「あの傷がこんなに早く完治する訳ないじゃないですか。物語やゲームの中じゃ無いんですよ…」

 

 

「…そういえば、比企谷ならまだしも…先生はどうしてここに来たんですか?」

「比企谷にお前の行動が怪しいと言われたのでな」

「…そうですか」

 

 

「比企谷、お前どこで俺の傷が開いたって分かった?」

 

 包帯を巻き終わり、応急処置に使った道具達を救急箱に仕舞い終えた所で先程から一言も喋らない比企谷問う。

 どこで分かったかなんて予想はつくが…まぁお約束やつだ。

 

「試合の終盤、お前の動きが急に鈍くなって、試合が終わった後誰も居ないであろう部室に行こうとした所で分かった」

 

「はぁ…上手く誤魔化していた筈だったんだけどなぁ…」

 

 予想以上の痛みだったが、我ながら上手く誤魔化せた筈だ。少なくともギャラリー達にはバレて無いと思う。

 

「あぁ、上手く誤魔化せていたぞ。少なくとも葉山とギャラリーには気付かれてなかった」

「それは良かった」

 

「良くねぇよ…」

「…たしかにな」

 

 俺の傷は開くし比企谷や平塚先生にも迷惑をかけた。確かに良くない。さらにこの後医師や兄にも迷惑をかける。思ってた以上にリターンの無い結果になったな…。そもそもあの場面で俺が出るメリットなんて一つもなかった。本当、何で出ちゃったかなぁ…。

 …まぁ、奉仕部の部員の一人として出るべきと考えて俺は出たんだ。リターンとかメリットなんか関係なく、あの場面で俺が出ないなんて選択肢は無かったろ。

 

「雨矢上」

「ん、何だ」

「何で完治してるなんて嘘付いた?」

「周りの人間達に心配されるからだよ。この傷に関しては自己責任なんだ、他人に心配される事じゃない」

「他人か…」

「……」

「…でもまぁ、これでもちゃんと心痛んでいるし反省もしている」

 

「ごめん」

 

 頭を下げて、俺の事を心配してくれたであろう二人に謝る。…なんだろう…謝ったせいで嘘付いていた事の罪悪感がさらに増えたな…。

 

「……正直今回のテニスの試合で勝てたのはお前のおかげだと思う。だからこれ以上は言わないでおく」

「次からは…嘘付かないでくれ…」

「………」

 

 比企谷はそう言い残し部室を出ていった。部室を出る時の比企谷の横顔は少し悲しんでいる様に見えた。と思う。

 比企谷が扉を開ける数秒前廊下で足音が聞こえた気がしたが……気のせいだろう。いや、気のせいであってくれ。

 

「応急処置はもう終わっているのか?」

「見てのとおりです。…すいません…嘘付いて」

「謝罪言葉は後でいくらでも聞いてやる、そしてたくさん叱ってやる。今は早退して病院に行け」

「…分かりました」

「迎えの者は呼べるか? ……っとそれだと時間がかかるな…」

「雨矢上、校門で待ってろ」

「……え?」

「私が病院まで送ってやる」

「マジですか…」

「なんだ? 何か文句があるのかね?」

「無いですありがとうございます」

「ならさっさと行かんか」

「はい…」

 

 その後、平塚先生が運転する車に初めて乗った。俺を気遣ってくれたのか思った以上に丁寧な運転だった…。先生運転慣れてるなぁ……この車でよくドライブとかしてるんだろうなぁ……一人で。 あれ? 何か目から汗が…。

 

 

        ×    ×    ×

 

 

 部室を出ると廊下の向こうに雪ノ下の後ろ姿が見えた。そして雪ノ下には珍しく走っている様だ。

 

「………」

 

 聞かれたな…。

 大方部室に忘れ物でもしてそれを取りに来たんだろう。そこで偶然俺達が部室で話をしていて、それを聞いてしまった…って感じか。

 どこまで聞いていたかは分からんが、雪ノ下の事だから変な噂を流す事は無いだろう。

 

「あれ? ヒッキーじゃん! どうしてこんなとこいるの?」

「…トイレ行ってただけだ」

 

 由比ヶ浜か…運がないな。

 

「ふーん。でもヒッキー今特別棟の方から来たよね?」

「…特別棟のトイレ使ってたんだよ」

 

 こういう時に限ってこいつはアホの子じゃ無いんだよなぁ…。

 

「…なんかあった?」

「………」

「ねぇ、そういえばウッシーは? ヒッキーと一緒にいると思ってたんだけど…」

「……」

「ねぇ、なんかあったんでしょ? 言って!」

「…雨矢上が体調崩してんの隠してたから、バラして早退させただけだ」

「そ、そうなんだ…」

「さっさと教室戻らないと授業始まるぞ」

 

「ねぇヒッキー」

「何だ」

「ウッシー…明日には元気になるよね?」

「………」

 

 —放課後—

 

 ん? 部活? 何それ美味しいの? …冗談だ。今日の部活は戸塚がお礼をしに来た以外何時もと同じだったから省かせてもらった。語る所なんて一箇所も無かったんだよ…。いや、一箇所も無かったとか、そういうのじゃなくてな…。

 

 

「ねぇ、比企谷君」

 

 部活終わり、黄昏色に包まれる部室。今日は早く家に帰ろうと本を鞄に仕舞っていると雪ノ下に声を掛けられた。多分、雨矢上の件だろうな。てか、それ以外に雪ノ下が俺に声を掛ける理由なんて無いしな…。

 なら、俺の取るべき行動は一つしかないな。

 

「あの…雨矢」

「悪い雪ノ下、俺今日早く帰らないといけねーんだ」

「え…ちょっと」

 

 雪ノ下が答える前に部室を出て、早足で下駄箱に向かう。雪ノ下には悪いがこれは雨矢上のプライバシーだ、他人に教える訳にはいかない。それに…今は雨矢上の事で誰かと話なんてしたくないしな。

 

 

 —比企谷宅—

 

 

「たでーま」

「あ、お兄ちゃんおかえりー」

「小町、飯はー」

「できてるよー!」

 

「…お兄ちゃん。何か食べるの速くない? ちゃんと味わって食べてる?」

「ん? いつもと同じだと思うが? 今日も小町の作った飯は美味いし、ちゃんと味わって食べてるよ」

「ならいいけどー」

 

「ごちそーさん」

「お粗末様でした」

「ねぇお兄ちゃん、今日何かあった?」

「…何もねぇよ」

「ほんとに?」

「本当だ」

「そう、ならいいけど」

「ちょっと早いけど俺もう寝るわ」

「おやすみー。…あ、お風呂は?」

「…入ってから寝る」

 

 サービスシーン等は無いぞ。

 

 風呂から上がると一直線で自室に向かいベッドに身を投げる。

 

 今日は色々あったな…。

 

 こういう日はさっさと勉強終らせて寝るに限る。暫くは雨矢上の居ない部活になるだろうが、雪ノ下も由比ヶ浜もすぐに慣れるだろう。俺はベッドから身体を起こし、机に向かい勉強を始めた。

 

 勉強に一段落つき、時計を見ると時針は1時を過ぎていた。自分がかなり勉強に集中していた事に気付くと、一気に眠気が出てくる。硬くなった体を伸ばしベッドに向かった。

 

 

        ×    ×    ×

 

 —某病院—

 

 平塚先生に病院まで送ってもらい、受付済ませてから二時間後ぐらいの現在、俺は病室のベッドで横になっています。

 

 ていうか、ここ俺の知り合いの病院何だから送ってもらうだけで良かったのに、受付から診察まで付き添われたんだが…。まぁ、平塚先生らしいって言えばそうなのかもな…。

 

 結局診察で医師に注意と言う名のお叱りを受け。その後は開いた傷縫ってもらい、兄が来るまで病室で寝てなさいと言われ現在に至る…と。

 はぁ…たかが傷が開いただけでこんなに綺麗な個室病室を使わせて……扱いが慎重過ぎるんだよな。……でも、この傷じゃ慎重にならざるを得ないのか。

 

 病室の窓から見える景色は黄昏色で、少し上を覗くと既に星空が見え始めていた。

 

「今頃皆は何をしているだろうか…」

「まぁ、部活だろうな」

 

 腐った目で黄昏る街を見下ろしながら独り言を呟いていると、不意に病室の扉がノックされる。

 

 

        ×    ×    ×

 

 

「朝か…」

 

 勉強終わりに時計を見てからの記憶が無い。どうやらベッドに入ってすぐ寝てしまったらしい。

 

「お兄ちゃーん、朝だよー。それと今日小町日直だから学校まで送ってねー」

 

 寝ぼけ眼を擦っていると、部屋の外から小町に声を掛けられる。俺は欠伸をしながら声に答え、制服に着替え始める。

 

 制服に着替え終えリビングに向かうと、いつも通り食卓には既に朝食が並んでおり、いつでも食事ができる状態だった。

 

 食事の後は歯磨いて身支度を済ませてから玄関の扉を開ける。それから小町を中学校で下ろしてから学校に……ってこの件前にもあったような…。まぁ、学生の平日なんて毎日同じ様な事の繰り返しみたいな所あるしな…。気のせいだ。

 

 学校に着き、教室に入ると雨矢上の姿は無く、HRの時に平塚先生から雨矢上は欠席と伝えられた。結局その日は授業も部活も何事も無く終わった。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。