石の世界と星の少女たち (aterm)
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Dr.STONE×スター☆トゥインクルプリキュア~石の世界と星の少女達~ 予告編

 スター☆トゥインクルプリキュアサイド

 

 

 

 私、星奈(ほしな)ひかる!宇宙と星座が大好きな中学3年生!この春から高校生になるんだ!

 

 実は私、少し前まで伝説の戦士『スタートゥインクルプリキュア』として、宇宙の支配を目論むノットレイダーと戦っていたんだ。

 

 

 ノットレイダーは地球から遠く離れた所にある星空界の中心にある聖域、スターパレスにいた12星座のスタープリンセス達を襲って宇宙を支配しようとしていたの。

 スタープリンセス達は襲われた時に12本のスターカラーペンとなって宇宙に散らばってしまったんだけど、その直前にプリンセスが生み出した最後の希望、フワとスターパレスに仕えていたプルンスを逃がしたの。

 フワとプルンスは逃げた先でサマーン星から来た宇宙人、ララと出会ってそれから地球へやって来て……私と出会った。

 

 

 その日からとってもキラやば~☆な日々が続いたの!

 

 

 だって本物の宇宙人に出会って友達になれて、私もララもプリキュアになれて、フワをきっかけに同じ学校の先輩の天宮(あまみや)えれなさんと香久矢(かぐや)まどかさんに出会えたし!

 しかもえれなさんとまどかさんもプリキュアになれて、さらに石化されたレインボー星の人々を救おうとと頑張っているユニにも出会えて、ララのロケットのAIも含めて8人(ユニと出会うまでは7人)でいろんな星を冒険したんだ!

 

 もちろん楽しい事ばかりじゃなくて辛い事もあったけど、皆がいるから乗り越えられた。

 プリキュアと日常生活の両立は大変だったけど、毎日本当に、本当にキラやばで楽しかった!

 

 その後、ノットレイダーとはいろいろあって和解した後、ダークネスト…蛇遣い座のスタープリンセスによって宇宙が闇に飲み込まれたりしちゃったけど、イマジネーションの力で宇宙を元通りに戻せたんだ。

 12星座のスタープリンセスは全員復活したし、1度消えちゃったフワも戻って来たし、本当に良かった。

 

 でも、ララやユニ、フワとプルンスとお別れする事になっちゃって……。皆、自分の故郷に帰ったんだ。

 フワのワープの力はもう使えないし、プリキュアにも変身できなくなっちゃったから、ララ達とはしばらくの間会えない。

 

 

 でもやっぱり、ララやフワ達に、会いたいよ…。とっても寂しいよ…。

 

 

 だけど挫けていられない。寂しいのなら、今度はこっちから会いに行けばいいんだ!

 私、絶対に宇宙飛行士になって星空界に行ってララ達にまた会うんだ!

 

 

 そう決めてから、またいつものように星空を観察しながらノートに星座を書いていたんだけど、突然空から眩しい光が降ってきて気がついたら周りにたくさんの人の石像がある所にいたの!

 

 えー!?ここどこなのぉー!? 

 

 とりあえず辺りを探索していたら、そこで千空(せんくう)大樹(たいじゅ)に出会ったんだ!

 今から3700年前に突然謎の光で地球上の全ての人類が石化してしまって、石化が解けたのは2人だけなんだって。今は全ての人類の石化を解こうと復活液を作っている最中らしいけど……。

 

 

 え!?ここって地球なの!?しかもよくよく話を聞いたら、私のいた地球とは別の地球!?

 

 

 そして千空と大樹から話を聞いている途中で、突然空からロケットが降ってきて中からララとフワが出てきたの!

 ララ達の話によると、ノットレイダーとは全然違う謎の敵がスターパレスを襲撃してきて、なんとスタープリンセス達が石になっちゃって、その魂が再びスターカラーペンとなって千空と大樹がいる地球に散らばってしまったんだって!

 

 思わぬ再会でとても嬉しいけど、いろいろ起こりすぎてキラやば~☆

 

 さらにその敵がスターカラーペンを手に入れようと襲って来たから、もう大変!しかも私とララとフワだけじゃなくて、えれなさん達もこの地球に来ているみたい!

 おまけにスターカラーペンを全部集めないと元いた地球に帰れない!?それに私、千空と大樹や石化してしまった人達を放っておけないよ!

 

 またプリキュアに変身できるようになったし、プリンセススターカラーペンをもう1回集めて、皆と合流して、全人類を石化から救うために頑張っちゃうぞ!

 よーし、ストーンワールドの冒険に出発だーっ☆

 

 

 

 

 

 

 

 Dr.STONEサイド

 

 

 

 その日はなんて事ない極々普通の日だった。

 

 1つだけいつもと違う点は俺の幼馴染の大樹が、5年も想いを寄せていた(ゆずりは)についに告白する決心をした事ぐらいだ。

 口ではなんだかんだ言いつつ、ようやくあの2人がくっつくのだと内心では喜びつつ廊下の窓から一世一代の告白の様子を見守る。

 そうして、大樹が自分の気持ちを杠に伝えようとした正にその時。突然空を謎の光が覆って……。

 

 

 

 その日、世界中の全ての人間が石になった──

 

 

 

 それからおよそ3700年後、俺──千空は文明が完全に滅んだストーンワールドにて目覚めた。

 そこから生活基盤を整えたり、石化解除のための復活液を作ろうとしたりとまあ、ちぃーと大変だったが俺が目覚めてから半年後にやっと大樹が起きてきてこっからだ……。どれぐらいかかるか分からねえが、必ず全人類を復活させる!

 そうして大樹と共に日々実験を繰り返していた、ある日の事。

 

 突然、空から少女──ひかるが現れた。

 

 しかも、この宇宙とは違う別の宇宙から。

 

 さらにはロケットが落ちてきて宇宙人と妖精が出てくるわ、異形の奴らが俺達に襲ってくるわ、奴らを追い払うためにひかると宇宙人──ララがプリキュアに変身するわで、まるでニチアサのような出来事が次々に起きて……。

 

 

 全人類石化の時点で相当ファンタジーだって言うのに、いくら何でもファンタジー過ぎんぞ!

 

 

 奴らが襲ってきたのはひかる達のいた宇宙の均衡を保っていたスタープリンセスの魂が込められた、12本のスターカラーペンを奪うため。

 さらにはそれが全部、俺達のいる地球に散らばってしまった上、厄介な事にこのままだとひかる達のいた宇宙だけでなく、俺達のいる宇宙も闇に飲み込まれてしまうらしいが……。

 

 ファンタジーの連続で置いてけぼりになりかけていたが、地球も宇宙も全部消えちまうのはすげぇ困るからなぁ。

 ククク、こうなったら全人類を丸ごと救うついでに宇宙も救ってやろうじゃねえか……!

 

 

 (そそ)るぜ、これは!




 初めまして。atermと申します。ハーメルンに投稿するのは初めてですので、いろいろ手探りしながら書いている状態です。
 至らない点が多々あると思いますが、よろしくお願いします。
 
 あらすじにも書いてある通りDr.STONEの良さを少しでも知って読んでくれる人を増やすため、スタートゥインクルプリキュア(以降スタプリ)の良さを広めたいため、そして千空とひかるがすごく相性が合いそうだと思ったので、このクロスオーバー小説を書きたいと思い立ちました。
 絶対千空とひかるは、宇宙の話で意気投合すると思うんだ。
 pixivにも投稿させて頂きました。
 
 ただ、こちらであまりにも需要がなさそうでしたらこの小説はこっそり消します。pixivでは需要がなくても書いていきたいと思います。
 自分の想像を形にしたいですし。
 
 スタプリの最終回を踏まえて、予告編を少し書き直しました。本編の投稿については活動報告に載せています。
 スタプリを見続けてきて、本当に良かった。
 
 
 個人的には、ハーメルンでの活動は敷居が高く感じているので少し緊張していますが、始めたら完結はしたいです。
 願わくば、少しでもDr.STONEやスタプリに興味を抱いて、好きになって、夢中になってくれる人がいますように。

 
1/3
 一部文章を追加したのと、改行の手直しを行いました。
 評価コメントにて詰め過ぎとご指摘を受けましたので、直しましたがこんな感じでよろしいでしょうか?
 それから、お知らせは活動報告に書くべきとご指摘を頂いたので、そちらへ移動致しました。
 神威混淆様、貴重なアドバイスをありがとうございます。
 まだまだ不慣れで申し訳ありません。精進します。

1/28
 上で述べたように、予告編を少し書き直しました。

7/31
 本編スタート。予告編はこのまま残ります。


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キャラ紹介 9/10更新

本当はストーンワールドへ~の投稿後すぐに書きたかったけど、仕事で疲れていて眠くて後回しにしちゃったので、初投稿です。

次のお話の前にこちらを先に書きたかったので、こちらを先に投稿致します。
ちなみに私は、書き溜めは基本的にしていないです。
思いついたネタは覚えておいて、書く時はノリと勢いで書いております。

話が進むごとに更新していきます。


スター☆トゥインクルプリキュアサイド

 

 

 星奈ひかる

 

 星座と宇宙が大好きな(本来なら明日から)高校1年生。入学式目前で、ストーンワールドにやって来た。

 オカルトもUMAもSFも大好き。千空とは、宇宙の事で語り合える友達になれると確信している。

 科学知識は千空には劣るものの、将来の夢に向けて勉強中。

 普段から星を観察している事もあり、観察力はピカイチ。想像力豊かで好奇心旺盛。直感で行動するタイプ。かわいい。

 口癖は「キラやば~☆」。

 星のプリキュア・キュアスターに変身でき、星型のエネルギーフィールドを用いた肉弾戦を行う。

 必殺技は、星を拳で飛ばすプリキュア・スターパンチ、ピンクの星を拳で飛ばすプリキュア・おうし座スターパンチ。

 イメージカラーとマークは、ピンクと星。隠しモチーフは春。

 

 

 羽衣ララ

 

 オヨルン星人……ではなく、惑星サマーンの宇宙人。15才だけどサマーンでは大人。

 生真面目で大人としての強い責任感を持つけど、その精神は年相応。ひかるとは逆に慎重に動くタイプ。かわいい。

 ストーンワールドに来る前まで、調査員見習いとして数々の星を巡っていた。

 口癖は「オヨ~」、「ルン」。

 天の川のプリキュア・キュアミルキーに変身でき、主に電撃やハート型のバリアで戦う。

 必殺技は、両側のセンサーから電撃を放つプリキュア・ミルキーショック、2人の女神の姿の強力な電撃を敵に向かって放つプリキュア・ふたご座ミルキーショック。

 イメージカラーとマークは、青緑とハート。隠しモチーフは夏。

 本当は彼女の変身口上や必殺技なども青緑で書きたかったが、それでは見えにくかったので断念した。

 ちなみに、スタプリ勢の変身シーンで1番ヌルヌル動くのはミルキーである。

 

 

 フワ

 

 スターパレスの宇宙妖精。本名はとても長いが、感触がフワフワなので『フワ』とひかるが命名。

 好奇心旺盛で誰かが傷付くのは大嫌い。

 なぜか、スタプリ本編で使ったことがないピンク色のバリアをちょっとだけ使えたりする。

 姿は最後にひかる達が見た姿のまま。

 フワが心を許して気に入った人が『大切なものを守る力が欲しい』と強く願ったその時、フワはその人に『力』を与える。それがどんな世界であっても。

 口癖は「~フワ」。

 

 

 12星座のスタープリンセス

 

 ひかる達のいる地球から遠く離れた星空界にある聖域、スターパレスにて宇宙の均衡を保っている12星座の守護者達。

 スタプリ本編後も自分達の役割も果たしていたが、『災いの眷属』に襲撃され、再びプリンセススターカラーペンとなってストーンワールドに散らばってしまう。

 彼女達を元に戻さないとひかる達のいる宇宙はいずれ滅ぶため、ペンを集めるのは必須。

 ひかる達をストーンワールドに連れて行った『彼女』の力になること、そして二度と『隠し事』をしないと誓う。

 なお、『災い』の詳細はとある星に襲来した時は内輪揉めを起こしていて気づく余裕がなく、封印から復活した時はノットレイダーに襲われてペンになっていたので、関わる余裕がなかったために知らない。

 

 

 現在所持しているプリンセススターカラーペン

 

 ・おうし座のスタープリンセス(ひかるが所持。スタープリンセスのリーダー格)

 ・ふたご座のスタープリンセス(ララが所持。ふたご座故に2人で1つ)

 

 

 

 

Dr.STONEサイド

 

 

 千空

 

 科学と宇宙が大好きな純情少年。石化当時は高校1年生。

 科学知識は全部彼の頭の中。時計なしでしっかり『3700年』数えられる超絶すげえ奴。だが、体力はもやしである。

 大樹とは親友で小学校からの幼馴染。杠とは中学の時からの友達。大樹と杠の仲を絶賛応援中。プリキュア? んなもん興味ねえ。

 初見だと分かりにくいが、リアリストなようでロマンチスト。そして、人を決して見捨てられないお人好し。

 最近、ファンタジーやSFが大量に押し寄せてきたため、唆りまくってたりフリーズしてたりした。

 ひかる達の宇宙にある星空界に興味深々。そのため、やるべきことが他にあるのは分かっているが、つい長々と聞いてしまうことも……。

 実は、最も作者がうまくキャラ描写ができているか不安になっている人物でもある。

 ひねくれているようで性根は真っ直ぐな主人公なんて初めてだからよお、ちゃんと書けてるか不安なんだぜ。

 口癖は「唆るぜ」、「100億~」。

 

 

 大木大樹

 

 声も体も大きな熱血少年。石化当時は高校1年生。

 考える事が苦手だが、体力が超絶ありまくる非常に真っ直ぐな男。

 千空とは幼馴染。杠が好き。

 プリキュアについては全く知らんな! 

 優しい性格故に、人や動物を傷つける事ができない。嘘を吐くのも苦手。

 口癖……と言うか、よく「ウオオオオ!」と叫んでいる。

 杠を守りたいと強く願った時、大樹のプリキュア・キュアウッドに覚醒。

 肉弾戦は行わない代わりにバリア、時には自身の肉体を張って仲間を守る。また、背中のマントで空を飛べる。

 必殺技は、木の枝を広げるように広範囲にバリアを張るプリキュア・ウッドシールド。物語に出てくるプリキュアの中で、彼の出すバリアが1番丈夫。

 イメージカラーとマークは、緑と木の葉。

 

 

 小川杠

 

 常に周囲を気遣い、自身よりも他人を優先する優しい性格の少女。石化当時は高校1年生。

 石化前は手芸部に所属していて、手先が超絶器用。根気は人一倍あるよ!

 口癖は「ワオ」。 

 絶対に大樹とは両想い。可愛い。千空と大樹とは中学からの友達。

 石化後はクスノキに守られていたが、なんやかんやあって千空達のツリーハウスに移動された。未だ石化中。

 

 

 

 

 

謎の敵サイド

 

 

 忌まわしき災い(あのお方)

 

 今はまだ完全に復活していない。完全に復活するまで、このままだと数年はかかる。復活するのは遠い宇宙の果て。過去に多くの星を滅ぼした。

 かつて、ひかる達のいた世界で地球上の生命を消し去る程の強力な災いをもたらしたが、『3人のプリキュア』によって浄化された。

 災いの詳細は、現時点で知っている者が1人を除いていないため不明。

 

 

 ラブー

 

 最初にスター達と遭遇した災いの眷属。

 見た目はランプの魔人を思わせる風貌で、かなりの面倒くさがり屋。

 まだ本調子じゃないが、『あのお方』のためにプリキュアとスタープリンセスを排除しようとする。

 前より力が少し衰えているので、暗い雲の結界は作り出せない。

 

 

 ドンヨクバール

 

 ムホーと呼ばれる力で生み出された黒き怪物。中央に赤い×印、額に渦巻き模様がある。

 鳴き声は「ドンヨクバール」。了解する時は「ガッテン」。

 2つの物体を融合させて生成される。眷属は指パッチンするだけで生成することができる。

 プリンセススターカラーペンの力で浄化可能。浄化されると元の物に戻る。

 

 

 

 

 

 

 夢の女性

 

 ピンクの髪にエメラルドの瞳を持つ女性。

 ひかる達をストーンワールドへ転移させた張本人。

 本当は自分が行きたかったが、『やるべき事』があるために行けれず。

 もしそれが済んで大切な人達に再会できたら、その人達と一緒にストーンワールドにいらっしゃる予定。

 ちなみに夢の中では大人の姿で、フワとは少女の姿で対面している。

 フワを自分と、ひかる達を大切な人達と重ねている。

 

 

 ひかる達の元いた世界

 

 ひかる達が本来住んでいる世界。

 数年前に災厄で地球が大ピンチになったり、約1年程前に宇宙が消滅してしまったりと、割と神様クラスで物騒な世界。

 その世界にある星空界が、ストーンワールドにもあるかは不明。

 なお、ニチアサはない。当然プリキュアの番組すらない。

 ストーンワールドとはかなり時間の流れが違うため、数年ストーンワールドにいてもこちらだとたった数分の出来事で済む。

 さらに、ストーンワールドである程度成長しても元の世界に戻れば、転移する寸前の姿に戻れる親切設計。

 夢に出てきた女性の力でそのようになっている。

 

 

 ストーンワールド

 

 人類総石化が起こった世界。

 石化前の世界は、この物語では作者と読者の皆様(わたしたち)がいるこの世界とほとんど変わりがない。

 違いは千空達ドクストキャラがいるかどうか、千空達の通っていた広末高校があるかどうか、そして人類総石化が起こるかどうかだけ。

 それ以外は起こった出来事も、放映されていた番組も私達の世界と同一。

 2019年は、スター☆トゥインクルプリキュアの放映年でもある。つまり……。

 良かったね、ララちゃん! 不安に思った『何か』の正体に気づいていたら、SAN値(正気)が大幅に削られていたよ! 

 なお、自分達の世界にアニメキャラが現実となって現れた事を知っているのは、今のところ誰もいない。



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序章~未知との遭遇~
石の世界のプロローグ


予告編を投稿してから半年近く過ぎてしまったので、実質初投稿です。

まず、予告した投稿日より大幅に遅れてしまい、大変申し訳ありません。
コロナに関わる騒ぎや、職場・家庭の人間関係で自分が大嫌いになる程精神が不安定になってしまい、小説を書いたり、大好きなDr.STONEやスター☆トゥインクルプリキュアを見れる状態ではありませんでした。

今はだいぶ持ち直したので不定期になりますが、自分のペースでこの物語を書いていきます。

そんないつ本編が始まるか分からない状況でお気に入り登録をして下さった光凪様、レツ様、涙と三日月の悪魔様、DCD様、モリソン様、リョード様、新暁様、仮面ライダーハードエボル様、千龍様、名前も分からない誰か様。
心からありがとうございます!

前書きが長くなってしまいましたが、ひかるや千空達が織りなす物語を楽しんでもらえたら嬉しいです。

…え?予告編の内容と少し違うって?細かいことはいいんです!(本当は予告編での設定から少し変えただけです)


8/2
人類が全て石化した日が、公式でちゃんと設定されていました。
それに気づかず、間違った日付を書いてしまいました。申し訳ございません。
該当箇所を訂正致しました。今後、このような致命的な間違いがないように気を付けます。

8/17 全体的に細かい修正を入れたりしました。

3/21 全体的に加筆修正を行いました。これが完全版です。


 あの世界を、どうか助けて下さい。

 

 

 あの世界に今、闇が……混沌が迫ろうとしています。あの世界が飲み込まれたら、今度は皆さんの世界にも……。

 

 

 突然巻き込んでしまって、本当にごめんなさい。本当は私……ううん、私達が向かうべきなのに、どうしてもやらないといけない事があるから、あの世界に行けないの。

 その代わり、ほんの少しだけあなた達をお手伝いします。

 

 

 お願いします、スタートゥインクルプリキュア。どうか、あの世界を……『ストーンワールド』を救って────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昔々、あるところに【千空(せんくう)】という、科学と宇宙が大好きな少年がおりました。

 

 

 小学1年の頃に「宇宙に行く、ソッコーで行く」と決めてからと言うものの、科学に関するあらゆる事柄をとにかく試して試しまくって、どんどんどんどん科学の知識を頭の中に詰め込んでいきました。

 そうして高校1年の今、彼の頭の中にはほとんどの科学知識がすっぽりと収まっていました。

 そんな彼は今日も今日とて、科学室で実験をやっていました。

 そこへ突然扉を勢いよく開けながら、大柄な少年が入ってきました。

 

 

「聞いてくれ千空!! 俺は決めた!! 今日こそ今から、この5年越しの想いを!! (ゆずりは)に伝える!!」

「ほーん。そりゃすげえ興味深い深い。声帯がブチ切れるほど応援してるわ。この科学部室から」

「おおそうか! ありがとう千空!!」

「うるせえな。1mmも応援してねえよ、このデカブツ」

「なにぃ!? どっちだー!!」

「そもそも5年も何も言わねぇとか、バカはどんだけ非合理的だ」

 

 

 周りの部員が突然の来訪者に驚いているのにも関わらず、千空と話す少年の名は【大木大樹(おおきたいじゅ)】。

 千空とは小学校からの幼馴染です。

 

 実は彼は、千空の言う通り5年前から【小川(おがわ)杠】に恋心を抱いていましたが、『友達』という今の関係が壊れるのを恐れ、ずっと告白できないでいました。

 ですが6月のある日、とうとう決心を固めたのです。

 ちなみに、杠は手芸部に所属していて千空とは中学校からの友達です。

 

 そんな彼に、千空は死ぬほど合理的な方法をくれてやると言って、メスフラスコに入った何かの薬品を手渡します。

 

 

「フェロモン放出を極度に活性化する、いわゆる惚れさせ薬。こいつ飲んどきゃ100億%だ」

「うむ……。ありがとう千空。だがすまん! こんなインチキには頼れん!」

 

 

 ですが大樹は、マッドサイエンティストのごとく悪い顔をした千空から受け取った惚れさせ薬を流しに捨てて、そのまま校庭に生えているクスノキの下に待たせている杠の元に向かいました。

 なお、一連のやり取りを見ていた男子生徒達が、名残惜しそうに流しを眺めていたり、肩を落としていたのはここだけの話です。

 

 

「てかマジか? 千空、惚れさせ薬って……」

「んなもんあるわけねぇだろ。ただのガソリンだ。ペットボトルのキャップから精製した。ポリエチレンの分子構造、考えろバカ。

 ガソリンの長さに炭化水素ぶった切ってるだけだ。見りゃ分かんだろ」

 

 

 大樹が立ち去った後に流しにマッチを投げ入れて、ガソリンが燃え上がるのを見つつ千空は言いました。

 彼の話に分からんてと内心でつっこむ部員が多い中、眼鏡をかけた男子生徒が飲んでたら大樹君が死んでたんじゃないかと、今の科学部長に聞きます。

 それに対して、たくさんの信頼を言葉に乗せて答えます。

 

 

「ククク。100億%飲みやしねえよ、あの真面目バカはよ」

 

 

 その直後、後ろから部員が何かに興奮しているような声が聞こえてきました。

 そちらに振り向くと、換気のために開けておいた窓の外に向かって、しきりに部員が指差していたので千空も見上げてみました。

 

 

「おい! 見ろよあれ! 流星群だ!」

「あ"? 流星群? 昼間に見れることもあるが、6月の流星群はまだのはず……。突発群か?」

 

 

 見上げた先。青空に、12個の流れ星。

 その小さな星々は、昼間でもはっきり見えるほどの輝きを放ちながら、弧を描いていました。

 流星群には毎年同じ時期に出現する定常群、数年から数十年おきに活発に出現する周期群、突然活動する突発群があり、千空は突発群と思い流れ星を見続けます。

 すると突然、その中の1つがまるで『意思を持ったかのように』ぐるりと方向転換すると、科学室────この時は誰も気づかなかったのですが、はっきりと千空の方へ向かってきたのです。

 

 

「はあ!? 向きが変わった!?」

「流れ星は大気圏内で燃え尽きるから、地上に落下することなんてないはずなのに!」

「つか、なんでこっちに来るんだ!?」

 

 

 流れ星が落ちてくる、と慌てる部員達。そんな部員達を見て千空は、突如向きが変わった流れ星に驚きつつも、部員を落ち着かせてこの場から避難させようとしました。

 その時です。

 

 

(この光は!?)

 

 

 突然向かってくる流れ星が強く輝きだし、千空の目の前が真っ白に染まり、思わず目を閉じてしまいます。

 すぐに光は治まったので、そろそろと目を開けてみました。

 

 

「なんだこのファンシーな空間……。宇宙にしてはちぃと明るすぎるだろ、これ」

 

 

 そうして見えたのは、色鮮やかな空間に球形ではなく正に『星形の』星が散在している光景。

 自分の知っているものとは大きく異なりますが、おそらく今見えているのは宇宙だと千空は思いました。

 

 

 自身がフワフワ浮いていることから無重力の中にいるのだろうが、いやにスイスイと動けている。

 宇宙服を着ていないのに、1分経過しても息ができている。

 てか第一、いきなり科学室から宇宙にワープできねえわ! 

 

 

 以上のことから、すぐに「これは幻覚だ」と結論を出しました。

 ただ、幻覚にしては感覚がリアルでしたが。

 

 

(しっかしまた、なんでこんな幻覚が見えるんだ? こんな子供が大喜びしそうな宇宙なんて、一度も考えたことねえぞ、俺は)

 

 

 このファンシーな宇宙には、千空の知っている宇宙には存在しないはずの星がいろいろありました。

 

 

 飴やポップコーンの形をした星々。

 

 連なっているピンク・青緑・オレンジ・紫・青・白・緑・黄色・赤・藍色・水色の星々。

 

 カラフルな跡を描く数々の流れ星。

 

 魚達が周りで泳いでいる水だけでできている星。

 

 浮き輪に囲まれた青緑の星。

 

 まだまだたくさんある不思議なお星様。

 

 

 誰かの『想像力』でできているかのような、それこそまるで子供向けアニメのような、この不思議な宇宙を最初は幻覚だと冷めた目で見ていた千空ですが、しだいに興味津々に辺りを見渡すようになりました。

 幻覚だと分かっていても、完全に水だけでできている星など本当にあってもおかしくない星々を見つける内に、宇宙が大好きな千空はワクワクし始めたのです。

 そうしてしばらく。ふと、前方に奇妙な星を見つけます。

 

 

(あの星……。見ていると妙にゾワゾワしやがる……。いったいなんで……)

 

 

 それは、真っ黒に黒ずんだハートの形をした星。青いリボンに包まれていますが、それさえも黒ずんでいました。

 その星を見ていると胸の内が騒めいてきます。なぜ胸がこんなにざわつくのか分からず、千空はもっと近づいて見ようとしました。

 

 

「いでえ!?」

 

 

 次の瞬間、おでこに何かがぶつかってその拍子に倒れてしまいます。まず感じたのは固く冷たい感触。そして聞こえてくる、自分を心配する声。

 悶絶しながらも千空は気づきます。

 

 自分は戻ってきたのだと。

 

 周りの部員は変わらず千空を心配しますが、大丈夫だ、ちょっと痛えだけだと言って、立ち上がって近くにいた眼鏡をかけた部員に尋ねます。

 

 

「なあ、今あの流れ星が強く光んなかったか?」

「お、おい千空。本当に大丈夫か? 光の強さはずっと変わってなかったけど? 

 それに千空、お前じっと動かずあの流れ星をずっと見ていたんだぞ。しかも、それがそのままおでこに……。なあ、本当に大丈夫か?」

 

 

 そう告げる眼鏡の部員や周りの部員達の反応を見て、一連の出来事は全て自分の身だけに起きたのだと気づきました。

 即座に今まで見ていた宇宙の事を内緒にすると決めた後、「何でもねえよ」と言ってから、眼鏡の部員が指差す落ちている流れ星を拾い上げます。

 

 

 

 ────千空はあの宇宙を途中からワクワクしていたとは言え、幻覚だと今でもそう考えていました。幻覚のはずなのに感覚が現実のと変わらなかった理由も、あの黒いハートの星を見て不安(・・)に思った理由も、何一つ分からないままでしたが。

 

 

 

「お、おい、触れて大丈夫なのか? いくら手袋してるとは言え、熱かったりするんじゃ……」

「あ”ぁ。デコにぶつかった時痛みはあっても、なぜか熱さは感じなかったからな。いけると思った。

 しかしこの形状……、まるで『ペン』みてえだな。

 流れ星は宇宙空間に浮遊する塵が、地球の引力で大気圏に突入する時に摩擦で燃えて発光する現象。隕石だとしても、空気の摩擦もねえのにずっと光ってやがるのは妙だ。いったいどんな構造してんだ?」

 

 

 部員の心配をよそに千空は流れ星を観察しますが、ずっと光輝いたままで本当はどんな色をしているのか、どんな見た目をしているのか、全く見えません。

 ですが、壊れないように慎重に触ってみる限り、どうやら『ペン』のような形をしているようでした。

 

 

「ククク、自分で向きを変える上に燃え尽きず、地上に落ちても光り続けるお星様……。唆るぜ、これは! 早速調べて」

「杠! 待たせてすまん!」

 

 

 とても嬉しそうにする千空を遮るかのように、大樹の声が聞こえてきます。

 流れ星の騒ぎを知らない大樹は、今まさに一世一代の告白をしようとしていました。

 それを聞いた部員達はついさっきまで流れ星と騒いでいたのに、色恋沙汰の方が気になると、急いで科学室から飛び出して行きました。

 盛り上がる場面を途中で遮られた感じがしつつも、千空も部員達の後を追うように廊下の窓際に寄りました。

 

 部員達は校庭にいる大樹と杠を見て、フラれるに100円だの、思いっきしフラれるに300円だの、フルパワーでフラれるに500円だの、大樹に大変失礼な賭け事をし始めます。

 そして大樹の恋を応援する科学部長は、意外とフラれねえに1万円を賭けました。

 部員達はそれに驚いていますが、2人とずっと一緒に実験やら何やらをしてきた彼には分かります。

 だってほら。

 

 

「聞いてくれ杠! 俺は……5年間ずっと!」

 

 

 その時の杠の顔は、はっきりと真っ赤に染まっていたのですから。

 

 

 

 

 

 

 本来なら、千空の予想は大当たりし、2人に向かってお祝いの言葉がかけられるはずでした。

 

((なんだ……? あの光は……))

 

 空一面に、禍々しい光が現れるまでは。

 

 

 光から盾になろうと、杠に近くにあったクスノキに捕まるように指示し、前に出た大樹。

 

 不思議な流れ星の次はこれかと内心で思いつつも、流れ星を握りしめたまま空を眺める千空。

 

 自分を守ろうとしている大樹を、心配そうに見つめる杠。

 

 そして、三者三葉に光を見つめていた他の人達。

 

 その全てが光を浴びてしまい────

 

 

 

 

 

 

 

 地球上の人類は全て石になってしまいました。

 石化した直後も皆意識がありましたが、次々に闇の中に呑まれて失ってしまったのです。

 

 

 

 そうして、長い歴史をかけて人類が積み重ねてきた文明が、完全に消え去ってしまったおよそ3700年後。

 気の遠くなるような長い時を越えてなお、意識が残っていたのはたった2人だけ。

 その2人────千空と大樹は強い意志で意識を保ち続け、『奇跡の水』によって半年の差があれど石化が解けたのです。

 

 

 こうして千空と大樹は、人類全てを石化から復活させる事を誓い合い、『石の世界(ストーンワールド)』を巡る冒険に出る事になったのです──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の夢は……ってここはどこ!? 私、なんで山の中にいるの!?」

 

 

 そうして壮大な夢から、ピンクのツインテールの少女が目を覚まし、すぐに戸惑い始めました。

 

 

 そうなってしまうのも無理はありません。

 なぜなら、2人の少年の夢を見る前の最後の記憶は、明日から通う学校の下見のために並木道を歩いていたはずなのに、いつの間にか森の中にいたからです。

 その時持っていたバッグや着ていた服はそのままでした。

 

 

「う~ん……。考えたって分からないし、動くしかないよね!」 

 

 

 少女は少しの間考えこんでいましたが、ここでじっとしていても何も始まらないと判断し、当てはないものの歩き始めます。

 それから時間がそんなに経たない内に、この場所に違和感を持ち始めました。

 

 

(なんでこんなに人の石像が多いのかな? まるで、あの時のユニの故郷みたい……)

 

 

 そう、少女が歩いている森の中は、なぜか人の石像でいっぱいでした。

 

 

 何かを指差しながら驚いた表情をした、バラバラの男の石像。

 

 何かに恐怖しているような、首だけの少女の石像。

 

 誰かに助けを乞うように、空に腕を伸ばした女の石像。

 

 何が起きたか分からずに、呆然としているような少年の石像。

 

 

 まるで、生きたまま人が石にされたような生々しい石像ばかりなのです。

 その光景は、かつて共に過ごした友達の故郷を思い出させました。

 

 

(もしかして、あの夢は現実……? ここは、地球なの?)

 

 

 そして、先程見た夢が現実かもしれない、自分を除いて皆石像に変わり果ててしまったのでは。少女は不安を抱き始めます。

 

 

 それでも歩き続けますが、木の根っこに座り込む長髪の男の石像や、少女の石像を守るようにそびえ立つ大樹を通り過ぎても、誰にも出会えません。

 鳥のさえずりが聞こえたり、鹿や猿をちらほら見かけますが、それだけです。

 

 

 どれぐらい歩いただろう。

 いつまでも周りが森ばかりで自分以外の誰かに会えていない状況に、徐々に不安が大きくなった頃ふと顔を上げると、いつの間にか崖の上に辿り着いていたのに気づきました。

 高い所からなら、森以外に何か見えないかと思い見渡してみます。

 

 

「キラやば~☆綺麗な眺め……」

 

 

 そこから見えたのは、少女の知っている地球ならばお目にかかれる機会が少ない、雄大な自然。

 人工物が何一つ見当たらない森と山だけの光景に見とれて、不安を一時忘れて目をキラキラ輝かせます。

 無意識に、じりじりと崖の淵まで歩きながら。

 

 

 もっと近くで見てみたい。そうして一歩踏み出した、その時。

 

 

「うわああああ!?」

 

 

 少女は、足を滑らして崖から落下してしまったのです。

 高さが幸いにもそれ程ないのですが、いずれにせよこのままだとただでは済みそうにありません。

 地面に衝突した時の痛みを思わず想像してしまい、少女は目を閉じてしまいます。

 迂闊だったと後悔と恐怖を抱いた、その時。

 

 

「うおおおおおお!! 今助けるぞおおおおおお!!」

 

 

 大きな男の声がしたと同時に、少女は誰かの腕に受け止められます。

 何が起きたのか分からず、目を開けてそろりと見上げてみると。

 

 

「大丈夫か!? 怪我はないか!?」

 

 

 耳元で響く大音量の声。

 少女はびっくりして思わず、耳を塞いでしまいます。

 

 

「おっと、すまんすまん! 耳も大丈夫か?」

「ひ、人にやっと会えた! ……じゃなくて、全然大丈夫! あなたが助けてくれたから怪我はないし、耳も大丈夫。

 びっくりしちゃってごめんなさい。助けてくれてありがとう!」

 

 

 申し訳なさそうに眉を下げる少年に、少女は慌てて謝罪と感謝の言葉を伝えます。

 そして、ようやく自分以外の人物に会えた喜びに目を輝かせました。

 初対面のはずなのに、少年に既視感を覚えながら。

 

 

「そうか、安心したぞ! 困っている人を助けるのは当然だ……ん?」

 

 

 少女の元気な様子に安心した少年は、ふと言葉を途切れさせ、何かに気づくと。

 

 

「うおおおおお! 俺と千空以外にも生き残りがいたぞ!

 安心してくれ、君と俺以外にもこのストーンワールドに生き残りがいるんだ! すぐに案内するぞ!」

「え、生き残り? それにストーンワールドって、どこかで……って、待って!? 速い、速いから!!」

 

 

 突然叫んで、少女を抱きかかえたまま勢い良く走り始めました。

 少女は聞き覚えのある言葉を思い返す余裕もなく、少年を止めようと叫びますが、舞い上がり過ぎていて全然聞いていません。

 彼もまた、自分と親友を除いた他の人類に会えたのがとても嬉しかったのです。

 無尽蔵の体力を活かして少年は、少女が通った道を逆に辿るように目的地に向かいます。

 

 

「千空!! 俺達の他にも生き残りがいたぞ!!」

「あ"ぁ? また洞窟に置いてあった容器のことを言って……!? 

 待て待てデカブツ! マジモンの生き残りがいたのは分かったから、早く降ろしてやれ! そいつ、目回してんぞ!」

「ん……? うお!? すまん! 今降ろすからな!」

 

 

 大柄な少年────大樹は、『研究室』と書かれた看板のある素朴な小屋の前に到着すると、中にいるネギのような、白菜のような、大根のような、とにかく独特な髪形の少年────千空に声をかけました。

 

 千空は、以前自分が『とある物』を集めるために洞窟に用意してあった容器を、大樹が自分達以外の生き残りが用意した物だとと勘違いした出来事を思い出し、今回もそうなのだろうと思いながら研究室から出てきます。

 しかし、大樹に抱えられている少女の姿を見てその考えは散開し、慌てて大樹に少女を降ろすように伝えました。

 

 舗装されていない道を全速力で駆けている間、大樹の腕の中にいた少女には絶えず、ダイレクトに揺れが伝わり続けていました。

 そのせいで、少女はすっかり気分を悪くしていたのでした。 

 

 千空に言われてそのことに気づいた大樹は、慌てつつも余計に揺らさないようにしながら少女を降ろします。

 ようやく腕から降ろされた少女は未だに目を回したままでしたが、こちらに近づいてきた千空の姿を見つけると、気分の悪さなんて何のそのと言わんばかりに思い切り立ち上がりました。

 そして、千空と大樹を交互に指を指しながらこう言ったのです。

 

 

「あー!! 思い出した! 2人とも夢に出てきた人だ!」

「あ"? 夢?」

「えっと、こっちの大柄な人がなんか告白しようとしてて、いきなり皆が石化して、空がパァーって光って、女の人に救ってと頼まれて……」

「な、なんでそのことを!? 告白のことは千空と科学部の皆以外には言ってないはずだ!」

「ちょっと待て、お前の言ってることがごちゃごちゃしててよく分かんねえよ。一旦落ち着け」

 

 

 大樹がなぜか初対面のはずの少女が告白の件を知っていることに動揺しているのを他所に、千空は明らかに混乱している少女に落ち着くように促します。

 それを聞いた少女は、「あ……。ごめん。突然言われても分かんないよね」と申し訳なさそうにして、1回深呼吸します。

 そして、まずは自己紹介からと名乗ることにしました。

 

 

「私、【星奈(ほしな)ひかる】! 宇宙と星座が大好きな中学……じゃなかった、高校1年生!! よろしく!」

「(正直言ってこのストーンワールドじゃあ、名字と学年はあまり意味ないんだが……)千空だ」

「俺は大木大樹。石化した時は高校1年生だったぞ!よろしくな、ひかる!」

「やっぱり。夢と同じだ……」

「なあ、さっきから言っている夢ってどういうことなのか、最初から話してくれねえか? 他にも気になる点はあるが、まずはそこから聞かせろ」

「うん、分かった」

 

 

 互いに名乗りあった後、千空に問われたひかるは、自分の身に起きたことを順序よく話し始めました。

 

 

「私は明日の下見をしていたの。舞い散る桜がとっても綺麗で、思わず見とれながら。ここに来る前の記憶はそこまでしかないんだ」

「その時に石化してしまったのか……」

「桜……。で、その後は?」

「えっと、気づいてたら夢を見ていたんだ。辺り一面がお花畑でね、顔とかよく覚えていないけど女の人に『ストーンワールドを救って』って、そう頼まれたんだ。闇とか、混沌が迫っているからって」

「闇? 混沌? いったい何のことだ?」

「分からない……。だけど、絶対良くないことだと思う。その後急にどこかの学校の……科学室、だよね? に場面が移ったの。まるでテレビを見ているみたいに。

 大樹君が千空君に杠さんって人に告白するって宣言して、千空君が告白を応援してくれて、科学室にペンが落ちてきて……。それから、地球の人達皆が石になってしまう、怖い夢。

 ……ねえ、これって全部本当に起きたこと、なんだよね?」

 

 

 夢について語った後、ひかるは不安げに千空に尋ねます。

 

 

「一部訂正したいところがあるが……、ひかるの言う通り、どれも現実に起きたことだ」

「……そっか。じゃあ、まどかさんやえれなさん、お父さんにお母さん、おじいちゃんにおばあちゃんも、姫ノ城さんもタツノリも皆、石になっちゃったってこと、だよね?」

 

 

 現実だと断言された瞬間、心の底にしまっておいた不安が一気に溢れ出します。

 自分が知らない間に、友達や家族が皆石になってしまった。

 その衝撃に、ひかるの目に涙が溜まり始めます。

 

 

「そんな……。明日入学式(・・・)だったのに……。新しく始まる高校生活にワクワクしてたのに、どうしてこんな……」

「安心してくれ、ひかる! 俺と千空で人類70億人を復活させるって決めたんだ!

 今はまだ復活液は完成していないが、いつか必ず……!」

「あー……。盛り上がっているところ悪ぃが、そいつはたぶん、人類総石化の生き残りじゃねえぞ」

 

 

 とうとう泣き出してしまったひかるを大樹が励まそうとしますが、千空がそれに待ったをかけました。

 

 

「……え?」

「む? どういうことだ? 千空?」

「ひかる。ここに来る前は何年何月何日だったか、覚えてるか?」

「う、うん。覚えてるよ。2021年4月4日。……そうだ! 栞にしたくて桜の花びらちょっと貰ったんだ! 今出すから待ってて」

 

 

 首をかしげる大樹を他所に、涙を拭ったひかるは千空の質問に答えます。

 その証拠として、入れ物に入った数枚の桜の花びらをバッグから取り出して2人に見せます。

 

 

「ほーん。こりゃ確かに純粋な『ソメイヨシノ』だな。見ればすぐ分かる。

 ところで大樹、人類が全て石化しちまった年と日付、覚えてるか?」

「雑頭の俺でも流石に覚えてるぞ! 2019年6月3日だ! ……ん!?」

「最初からおかしいとは思ってた。

 3700年もの月日が流れたら石化前に着ていた服なんか余裕で風化するのに、ひかるはそれと1mmも変わらない服を着てるじゃねえか。

 杠並みに超絶器用ならできるとは思うが、十分な機材が揃ってない今の現状じゃあ厳しすぎる」

「杠さん……がどれぐらい器用か知らないけど、お裁縫はちょっと苦手。1人で今着てる服全部作るのは難しいかも」

 

 

 そう言って、困り顔で自分の着ている服を見やります。

 髪を二つ結びしている黄色いゴムに、肩出しの薄ピンク色のトップス、それにヒップ部分に星のアップリケが付いた青いキュロット状のオーバーオール。

 そして、大きく描かれた黄色い星がチャームポイントのハンドバッグ。

 どれもひかる自身で作れない服とバッグです。

 

 

「に加えてだ。このストーンワールドに純粋なソメイヨシノがあること事態ありえねえんだ。

 そもそもソメイヨシノは、人の手で交配されるもの。自家受粉できねえんだよ。受粉に欠かせない人間様がいなくなったから、俺らの知っているソメイヨシノは即刻滅びただろうよ」

「つまり、存在しないはずの桜の花びらをひかるが持っていたことになるのか……。まさか!」

「俺らが石化したのが桜の時期をとうに過ぎた後なのに、服の件に加えて桜とか入学式とか言ってる時点でほぼほぼ確信していたが、ソメイヨシノの花びらで決まりだ」

 

 

 

 ひかるが着ている今の(・・)ストーンワールドにはない服や持っているバッグ。

 

 ストーンワールドには存在しないはずの花びら。

 

 そして、ひかると千空達の致命的な認識の差。

 

 

 ここまで揃えば、この場にいる全員がひかるがどこからやって来てしまったのか、よく分かりました。

 

 

 

「ひかる。100億%テメーは俺らとは別の世界からやって来たんだ」

「……え、えぇぇぇぇ!?」

「な、なにぃぃぃぃぃ!?」

 

 

 

 ひかると大樹の叫びが、ストーンワールド中に響き渡ります。

 この日千空と大樹は前代未聞のファンタジーに立ち向かっている最中に、未知との遭遇を果たしたのです。




イメージOP:キラリ☆彡スター☆トゥインクルプリキュア




次回はなるべく早く投稿したいです。
もう2話程、アニメDr.STONEの第1話に当たる内容+オリジナル展開を書いていく予定です。

私も正直、原作にとっとと進めたいのですが物語の構成上、どうしても外せない内容となってしまいますので、飛ばせません。

このような感じであらゆる点が拙い小説ですが、どうかよろしくお願いします。


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ストーンワールドへようこそ!宇宙(そら)からやって来た少女たち☆

地球上の人類が全て石化した日を間違えてしまうという痛恨のミスを初っ端からやらかしてしまったので、初投稿です。

まず、プロローグを読んで下さり、ありがとうございます!
新たにお気に入り登録して下さったかわりょう様、蟲鳥獣様もありがとうございます! 

どうやら、ドクスト2期が来年の冬から放映されるようです。おめでとうございます!
これは1期の見直しを早急にせねば。

2期放映開始までに1期でやった内容、小説で書き終わりそうにないんだよなあ…。自分のペースでやるしかないけどね。

ちなみに前回言い忘れていましたが、この物語はほのぼのを目指しております。
自分の考えた物語をどれぐらいこちらに反映できるのかは未知数ですが、うまく形にしていきたいです。

そして今回、初めての変身シーン描写と戦闘シーンの描写があります。うまく書けてるといいのですが……。
ちなみに、今回出てくるプリキュアの変身シーンは、動画で確認した方が1番いいです。

片方だけ、ぬるぬる動きすぎやで。


8/18 全体的に細かい修正を入れたりしました。


 ひかるが千空達と出会っている頃。

 

 ワープホールの中で、可愛らしいロケットが岩でできた黒い顔の怪物に追われていました。

 両肩には大砲がついており、そこから岩の塊がどんどん発射されています。

 ロケットに降り注ぐ量は多いですが、何とか避けきっています。

 ですが、このままだとロケットに当たってしまうのも時間の問題です。

 

 

「ララ、大丈夫フワ……?」

《な、何とかルン……。AI、あとどれぐらいでワープホールを抜けられるルン?》

『はい、ララ様。あと3700秒でワープホールを抜けられます。その先は未知数のエリアです』

《AI、ありがとルン。フワが開いてくれたこのホール、いったいどこに繋がっているルン……?》

 

 

 青緑色のボブカットの少女────【ララ】は、顔を青くしながらもロケットの操縦を続けています。

 

 ちょうどその時、岩の塊がロケットをかすりました。しかし、その衝撃は大きくロケット全体が揺れてしまいます。

 

 

《オ、オヨ~!?》

「フーワー!!」

 

 

 ララは慌てふためき、フワは耳にある輪っかを回転させてロケットの進行方向にホールの出口を開きます。

 この先に、ララにとって1番会いたかった人との再会が待っていることも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。ストーンワールドでは。

 

 

「キラやば~☆まさか宇宙だけじゃなくて、パラレルワールドにも行けちゃうなんて!」

 

 先程までとは打って変わり、ひかるはめちゃくちゃ目をキラキラ輝かせていました。

 

「ついさっきまで泣き出しそうだったくせに、今度は大喜びとか情緒不安定かよ」

「だって、SF好きとしてはパラレルワールドってキラやばなものだから!」

「何はともあれ、ひかるが元気になったからいいことじゃないか!」

「確かにあのまま泣き出されるより100億倍マシだが、帰りどうすんだ?」

「「あ……」」

 

 

 今度は、千空の一言で大樹と共に停止しました。

 

 

「そうだった! たぶん、夢で出会った女の人に導かれてストーンワールド(この世界)にやって来たのは分かるんだけど、どうやったら帰れるのかな?」

「夢で他に覚えていることはねえのか?」

「う~ん……。千空君達のことははっきりと覚えているんだけど、女の人についてはうろ覚えなんだよね……。

 この世界を救ってって言われたのは、はっきり覚えてるんだけど」

「そもそも何から『救って』ほしいんだ? 闇とか混沌とかって、石化のことじゃないのか?」

「だったら最初から『石化から救ってほしい』って言うだろうよ。

 そもそも、パラレルワールドは存在する『かもしれねえ』ってだけで、未だに観測なんざされてねえんだ。もちろん、行き来する方法も一切不明だ。

 ククク、人類総石化という壮大なファンタジーの次は、前代未聞のパラレルワールドからの来訪者。唆るじゃねえか……!」

 

 

 帰り方のヒントを得られないかと夢を思い返しますが、かつての千空達の日常以外のことはうろ覚えなひかる。

 大樹も考えてみますがさっぱり分かりません。

 そんな2人を他所に千空は、石化に続く新たなファンタジー()に唆りまくっていました。

 

 

「とりあえず、帰り方については今はおいて、だ。ひかる、ちょっとついて来い」

 

 

 今の段階だと何も分からないので、夢とかパラレルワールド(別の世界)はそのままにしておくとして、千空はひかるを、『研究室』へと案内します。

 

 そこにあったのは、棚に置かれている大量の鳥の石像。そして、石像の下に張られている『焼く』などの何かの条件が書かれた動物の皮。

 

 

「これは、みんな石になっちゃった鳥?」

「あ"ぁ。人類が石化する数日前からツバメ『だけ』が世界中で石化しててな……。

 ひかる、夢で見たのは石化前の俺らの日常生活だけで、石化後は見てねえよな?」

「うん。そういえば、千空君達ってどうやって石化が解除されたの?」

「そうだな。まずはそこから説明しないと、だな」

 

 

 そうして、時折首をグキグキ鳴らしながら、千空はどうやって石化から解除されたのかを話し始めます。

 時々、大樹からの補足付きで。

 

 

 元々は学校の敷地内にいたけれど、大雨やダムの決壊による洪水で、洞穴の近くまで2人とも流されてしまったこと。

 

 石になっている間、暗闇に飲まれないように2人とも意識を保ち続けたこと。

 

 千空は考え続けることで、大樹は杠を想い続けることで、何らかのエネルギーを消費していたこと。

 

 それに加えて洞穴にいたコウモリの糞から生まれた奇跡の水、『硝酸』が2人にかかり続けたことによって石が腐食し、半年の差があれど2人とも石化から解除されたこと。

 

 そして今日が、西暦5739年4月1日であること。

 

 

「え!? なんで今日の日付が分かるの?」

「あ? ただ数えてただけだ。他に方法あんのかよ? 石化後も石化から解除された後も、ずっとな」

「石にされてても数え続けてるなんて、キラやば! かっちょいい!」

「いや、ただ数えてただけなんだから、かっこよくも何ともねえよ」

 

 

 ひかるは、またも目をキラキラさせています。キラキラしすぎて、目がシイタケになっています。

 千空はそれにほんのちょっとだけ引きながらも、説明を続けます。

 

 

「それで今は、高校生のガキ2人で復活液作ってる最中だ」

「なんで? 硝酸で千空君と大樹君が復活したんだから、他の人達もそれで復活できるはずでしょ?」

「それだけじゃ足りねえんだよ」

 

 

 千空は棚からツバメの石像と硝酸の入った壺を取り出すと、ツバメに硝酸をかけます。

 しかし、石化が解除される気配は一切ありません。

 

 

「既にアホほど試してんだ。手を変え品を変え、な。何回も、何十回も、何百回も。

 そもそもファンタジーの領域だ。鉱物か細胞か。今となっちゃ調べる機材もねぇ」

「……それでも、諦めてないんだよね?」

「あぁ。だから、仮説と実験を繰り返しまくってるんだよ。で、そんなある日大樹が大手柄立ててくれてな、おかげで復活液に一気に近づいた」

「ああ! 何でも酒のアルコールと混ぜてできるのが復活液でな。確か、エターナル液だったか?」

「ちげえわ雑頭! 『ナイタール液』だ。硝酸にエタノール混ぜるだけで、もろ工業用の腐食液になるからな。そっちの方が石化から復活する可能性が100億%高えんだ」

「そうそうそれだ! 俺が偶然見つけたブドウからワインを作って奇跡の水と混ぜる! それで復活液が完成するぞ! 

 ……ただ、それぞれの量を調節しないといけないらしくてな、まだできてないんだ!」

「試して試しまくって復活液を完成させる! んで、ゼロから科学文明を復活させる!」

 

 

 ひかるは2人を見ていて、とてもキラやばなことだと思いました。

 

 だって、文明が何もかも滅んでしまった世界で、諦めずに2人とも全人類復活&文明復興計画を実現する気満々だからです。

 その強い意志を感じ取ったひかるは、ある決意をします。

 

 

「決めた! 千空君、大樹君。私……」

 

 

 

 

 

 その時、研究室の外から何かが聞こえた気がしました。

 

 

 

 

 

 

「オ、オヨ~!?」

「フーワー!!」

 

 

「今の声はいったい……?」

「こ、この声もしかして……!」

「あ、おい待て! 急にどうした!?」

 

 

 とても懐かしいその声につられて、ひかるは急いで外に飛び出します。

 いったいどこからと辺りをキョロキョロしていると、ひかるの頭上が突然光りだしました。

 眩しさに目を細めつつ、見上げてみるとそこには。

 

 

「う……そ……」

「うおお!? なんだあれは!?」

「!?」

 

 

 空に大きく開いた星形の穴。

 中はとてもカラフルで、そこから1台のロケットが降りてきました。

 ちょうど研究室の前に着陸すると、ゆっくりと扉が開かれていきます。

 その中にいたのは、ひかると同じぐらいの背丈のシルエット。

 そのロケットとシルエットは、ひかるにとって非常に見覚えがある物でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────ひかるには、かけがえのない大切な友達がいました。

 

 ひかるの『想像力』と、それに呼び寄せられた1匹の妖精をきっかけに、ある日宇宙人の少女と出会ったのです。

 最初は価値観の違いで喧嘩することもありましたが、一緒に学校へ通ったり宇宙に冒険に行ったりする内に、互いに大切な友達(親友)になりました。

 けれど、共にすごしてきた日々は突然終わりを告げて、2人は離れ離れになってしまいました。

 

 ひかるの住む星(地球)と宇宙人の少女が住む星は、とても遠すぎたのです。

 

 だからこそひかるは、再び親友と出会うために1つの夢を抱いたのですが。

 

 

「ずっと、ずっと、先だと思ってたのに、また、会える、なんて……」

「ひかる、どうしたんだ!? なんで泣いてるんだ!?」

 

 

 予想外の再会にひかるには、驚く大樹の声は聞こえず、呆然とロケットを見つめている千空も見えていませんでした。

 ただただ、ロケットだけを見つめてそこへ走り出します。

 

 

「ララ……! ララ! ずっと……ずっと会いたかったよ!!」

 

 

 宇宙のオトモダチ(ララ)

 彼女に会いたい一心で、瞳から涙をこぼしながらもロケットに向かって走り続けます。

 ララもひかるを認識したのか、「ヒカル……?」と一瞬硬直した後、ひかるの元へ駆け寄ります。

 そうして互いに抱きつきあおうとして。

 

 

「オヨ……」

「え"」

 

 

 突然ララは顔を真っ青にして、立ち止まってしまいます。

 

 

「……そういえば初めて会った時ララ、乗り物酔いしてたような」

「なあ千空。彼女の顔が真っ青になってるように見えるんだが、大丈夫だろうか?」

「どう見ても大丈夫って面じゃねえだろうよ!! 今すぐに酔い止めの薬草持ってくっからそれまで持ちこたえて」

 

 

 千空は慌てて薬草を用意しようとしますが、時すでに遅し。

 

 

「オ、オヨオエ……」

「ラ、ララァー!?」

 

 

 こうしてひかるとララの願いは、可憐な乙女が人様に見せられないことをする中、見事に叶ったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ララ、大丈夫?」

 

オヨ……。ルルールルン……。ルルルルルン(オヨ……。もう平気ルン……。ありがとルン)

 

 

 しばらくして、片付けるモノを片付けた後にひかるはララの背中をさすっていました。

 ララはすっきりしたようで、さっきより顔色はだいぶ良くなっていました。

 今は移動して、研究室の隣のツリーハウスの中にいます。

 

 

「いやあ、いきなり吐いた時はびっくりしたが、元気になってよかったぞ!」

「いきなりの超展開であれだが……、ゲロってすっきりできて良かったじゃねえか」

ルルルルールルン……!?(迷惑かけたルン……!?)チキュウジンルン!?(地球人ルン!?)

 

 

 千空と大樹に申し訳なさそうにしていたララですが、ふと何かに気づくと突然、2人を指さしながら慌て始めます。

 

 

ヒ、ヒカル……。(ひ、ひかる……。)ルルルルルルン!(どうしようルン!) ルルルールルルルン!(ロケット見られちゃったルン!)

「ララどうしたの……あ! そうか! 宇宙人は地球人に見つかっちゃいけないって、『宇宙星空連合』の規則で決まってたんだった! 

 でも大丈夫だよララ! ここは私達がいた世界とは別の世界。別の世界の地球人にばれてはいけないって、規則はないじゃん!」

「ロケットごと空からやって来たり、さっきからオヨとルンしか言ってねえからまさかとは思ったが……、本物の宇宙人か!?」

「なにぃ!? 宇宙人だと!? それは本当なのか!?」

「あ"ぁ。このオヨルン星人は突然湧いて出たロケットに乗ってやって来たんだ。俺らだけしかいないストーンワールドにな。

 しかも、見た感じかなりしっかりと作られてやがる。鉄とか何もねえゼロからの状態であそこまで作れねえから、宇宙人一択。

 ククク……。パラレルワールドのお次は宇宙人ときた! 唆るじゃねえか!!」

 

 

ルルンルルルルルルルルン!?(第一ここはどこルン!?) ルルルルールルルン!(観星町じゃないルン!) ルンルンルルルルルン!(ちゃんと説明するルン!)」とララがひかるに問い詰める横で、千空と大樹は本日2度目のファンタジーに興奮していました。

 さっきからララは母星の言葉でしか話していない(一部除いて話せない)ので、千空にも大樹にも話している内容は分かりませんが。

 ただ、ひかるはおよそ1年程とは言え長く付き合ってた方なので、ララが何を話しているのかは何となく分かりました。

 

 

「う~ん……。でも、『スターカラーペンダント』があればララと自由に話せるのに……」

「フワに任せるフワ! フーワー!」

「フワ!? フワも来ていたんだね! 会いたかったよ、フワ……」

 

 

 翻訳何とかならないかな~とひかるが思っていると、突然横から飛び出してきた白い妖精、【フワ】が力を込めると、ひかるとララの胸元に光が集まって、インクボトルのペンダントに変化しました。

 

 

「オヨ! これで、ようやくひかると話せるルン……。私も、ひかるに会えて嬉しいルン」

「ペンダント! ってことはフワ、力が戻ったんだね!」

「フワ! 夢の女の人(・・・・・)のおかげフワ! フワもひかるに会えて嬉しいフワ!」

 

 

 突如現れたペンダントの力で日本語が話せるようになった(正確には発声した言葉が相互に理解できるようになった)ララと、自慢げなフワ。

 そして、1人と1匹に抱き着くひかる。

 ぱっと見、久方ぶりの再会に喜んでいる少女達の図ですが、終始見ていた千空と大樹にとってはつっこみどころが満載でした。

 

 

「あ"ー……。感動のお涙頂戴な雰囲気出してるとこ悪ぃが、そろそろちゃんと説明してくれねえか? 

 ごく自然にファンタジー連発しまくってるせいで、デカブツが固まったじゃねえか」

「喋るぬいぐるみ……。宇宙人……。ペンダント……」

「あ、2人のこと忘れてた! ごめん! 今からちゃんと説明するから!」

「それにここがどこなのか、ちゃんと説明してほしいルン」

 

 

 このまま放置しておくと混乱しそうになったところで、互いに情報交換することに。

 

「まずはここについて知りたいルン」というララの要望で、最初にストーンワールドについて話すことになりました。

 とは言っても、先程千空がひかるにしたのと同じ説明をしただけですが。ついでに、ひかるの夢の件についても話しました。

 

 

「ストーンワールドに不思議な夢、石化ルン……。あの夢はそういうことルン……。

 いろいろ驚いたけど、だいぶ分かったルン。教えてくれてありがとルン! 

 ……他の人に宇宙人だってばれないようにすれば、きっと話しても大丈夫ルン」

 

 

(ロケット見られたから今更隠せないルン)と内心思いつつ、改めて自己紹介することにしました。

 

 

「初めましてルン。私は『惑星サマーン』の住民、ララルン。地球にいた時は【羽衣(はごろも)ララ】と名乗ってたルン」

「千空だ。よろしくな」

「俺は大樹。大木大樹だ! よろしくな、ララ!」

 

 

 大樹は握手しようと両手を差し出しますが、ララは手の代わりに頭についている『触角』を大樹の手に向けました。

 

 

「ララ、それは……?」

「私の星ではこのセンサーにタッチして挨拶するルン」

「ほら、こうやってやるの!」

 

 

 ひかるはお手本を見せようと、両方の人差し指を触角にタッチ。

 ララは嬉しそうにしています。

「なるほど! こうだな!」と大樹も真似して、そっと触角にタッチしました。

「大樹、よろしくルン」と挨拶を終えた後、次は千空の番だと彼の方に触角を向けます。

 

 

「千空! お前もやってみないか! 結構楽しいぞ!」

「……おう」

 

 

 初めて出会う本物の宇宙人に緊張しつつも、恐る恐る人差し指をララの触角に触れます。

 

 

(目の前に本物の宇宙人……。こんな時に生で会えるなんて予想外じゃねえか! 唆るぜ!)

 

 

 千空は今、表面上は平然としているように見えますが、内心はとてつもなくハイテンションです。

 大樹はそんな彼の内面を何となく察しているのか、ニッコニコで千空を見守ってました。

 ララの故郷については、復活液を完成させてからゆっくり聞き出そうとこっそり誓った後、サマーン式の挨拶を終えた千空は、ひかるの近くに浮いていたフワに近寄ります。

 そのまま、フワをそっと掴みました。

 

 

「で、こいつはぬいぐるみ、じゃなさそうだな……」

「フワはぬいぐるみじゃないフワ! フワはフワフワ!」

「そうだよ。この子はフワ。私達にとって大切な、仲間だよ」

 

 

 突然掴んできた千空に驚きつつも、あちこちなでまわす千空の指使いに心地よさそうにするフワ。

 

 

「こいつはガチモンのファンタジーじゃねえか。体は何でできてるんだ?」

「よろしくな、フワ!」

「そう言えば、ララ達はどうやってこの世界に来たの?」

「それは……ってこうしちゃいられないルン!」

 

 

 千空がフワについて考察を始める横で、大樹もフワの触り心地を堪能する中、突然何かを思い出したかのようにララは急いでツリーハウスから出て行きます。

 

 

「突然どうしたんだ!? 何をそんなに慌てているんだ?」

「それは……、『スターパレス』を襲撃したモノに追われているからルン!」

「なにぃ!? 襲撃だと!? ……スターパレスってなんだ?」

「またスターパレスが襲われた!? じゃあ、夢の中で千空君が拾った『ペン』はもしかして……」

 

 

 ララの様子を見て只事ではないと感じる千空と大樹。

 ひかるはララの言葉から何となく察したものの、同時に夢で見たある物(・・・)の存在を思い出し千空に尋ねようとした、その時。

 

 

「ドンヨクバール!!」

 

 

 突然、空に黒い穴が開いたかと思うとそこから先程ララを追いかけていた怪物が現れ、ズシンと地面に降り立ちました。

 

 

「うお!? 今度はなんだあ!?」

「ファンタジーの次は特撮か……。今日は超展開ばっかじゃねえか!」

「まさかノットレイダー!? ……違う。カッパード達とは分かり合えたし、『あの人』はどこかで宇宙を見守っているはずだし……」

「アレが何なのか分からないけれど、ノットレイダーとは違うのは確かルン! 今はとにかくここから逃げるルン!」

 

 

 ララはそう言うと怪物に驚く2人を他所に、ひかるの手を掴んで引っ張りロケットの中に入って行きます。フワもその後に着いて行きます。

 

 

「ララ!? 待って、千空君と大樹君は!?」

「あの怪物の狙いは私達ルン! ここにいたら2人を巻き込んじゃうルン! だから、宇宙へ行ってアレを追い払うルン!」

「……! そうだよね、ペンダントがまた出たということは、もう1度変身(・・)できるってことだよね! 

 分かった! 私も一緒に行く!」

「ひかる、ララ! いったい何しようとしてんだ!?」

「ごめん! 私達ちょっとあの怪物を追い払ってくるから、ここにいて! 

 千空君、大樹君。お世話になりました!」

「いろいろありがとルン!」

「追い払うってどうやって……って待て!」

 

 

 千空が引きとめるのにも関わらず、ひかるとララは短く礼を述べてロケットに乗り込んで行きます。

 

 

「千空……。俺には何が起きているのかさっぱり分からん! が、今何をすべきかは分かるぞ!」

「あ"ぁ。乗り込むぞ、大樹!」

 

 

 そうして『4人と1匹』を乗せたロケットは猛スピードで、空高く昇って行きました。

 岩の怪物もその後を追いかけます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところ変わってロケットの内部。

 急激に上昇しているせいで、乗員全員に多大な重力がかかっていました。

 ララは何とか操縦を続け、フワも小さな体でシートベルトをしながら必死に耐えています。

 ひかるは「久々グワァ……」と唸りつつも、テーブルに突っ伏していて、そして。

 

 

「うおおおおおおお! これぐらい、なんてことないぞおおおおお!!」

「うる、せえぞ、雑、頭……。こっち、は、重力に、耐える、ので、精一杯、なん、だぞ……」

 

 

 ソファに捕まりながらもなんとか重力に耐える大樹と、その横でギリギリ気絶せずに仰向けになっている千空がいました。

 

 

「えぇぇ!?」「オヨー!?」

「な、なんで2人ともここにいるルン!?」

「千空も大樹も来てたフワ!」

 

 

 慌ててララは、ロケットを停止させます。

 重力がなくなったことでようやく千空は、「グヘエ……」と呻きつつもヘロヘロと立ち上がれました。

 ちなみに大樹は、重力がかかっている間も今も、変わらず立ち続けていました。

 体力無尽蔵にも程がある。

 

 フワは、さっきぶりの再会に嬉しいのか千空の胸に飛び込みます。

 千空は驚きつつも、優しく抱きしめてそっとフワの頭をなでました。

 

 その時、急にふわっと自分の体が浮き上がりました。

 千空だけでなく、ひかるもララも大樹もみんな同じです。

 これはもしやと思っていると、ひかるが「外見てみて」と促してきます。そのまま千空が星の形をした窓から外を見ると。

 

 

「ろくに文明が発展してない中で宇宙に行けるなんてなあ……! 唆るじゃねえか!」

 

 

 目を見開いた千空の視線の先にあるのは、青い青い星、地球。

 自分が今どこにいるのか気づいた千空は、目をキラキラさせて外を眺め続けます。

「うおおおおお! 宇宙に行けるなんてすごいぞ!!」と、大樹も大騒ぎ。

 ひかるとララとフワは、そんな2人を微笑まし気に見守っていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、この平穏もつかの間。

 突然、ロケットに強い揺れが起こりました。揺れに驚く乗員達。

 その答えはすぐに分かりました。

 

 

「ドンヨクバール!!」

 

 

 黒い怪物が、ロケットに追いついてきたのです。

 

 怪物は、岩の塊を乱れ打ちしてきます。

 ララはロケットを操縦して岩の弾幕を避けまくりますが、その多さに避けきれず、とうとう直撃してしまいます。

 そのせいで窓にひびが入ったと思うと、どんどん広がりやがて割れてしまいます。

 さらにできた穴に吸い込まれるように、空気の流れが激しくなってしまいました。

 全員何かしらに掴まっていますが、このままだと宇宙に飛び出してしまうのも時間の問題です。

 

 

 外も中も大ピンチでも、(どうする……!? この状況を乗り越える方法を考えろ!)と、打開策を考え続ける千空。

 

「フ、フワ!?」と飛ばされそうになるフワ。

 

 を、「大丈夫だぞ! フワ!」と力強く抱きしめフワを守る大樹。「ちょっと苦しいフワ」とフワがきつそうにしていたので、すぐに飛ばされない程度に緩めましたが。

 

 そして、互いに頷き合うひかるとララ。

 

 

「フワ、千空君と大樹君をよろしくね!」

「AI、ロケットを自動操縦に切り替えるルン」

『了解しました、ララ様。気をつけて行ってらっしゃいませ』

 

 

 AIの見送りの言葉を背につつ、2人は宇宙へと飛び出して行きました。

 ペンダントと、どこからか出てきた『インクペン』を握りしめながら。

 

 

「ひかる! ララはどうだか知らねえが、お前は宇宙服なしで出ると死んじまうんだぞ!」

「大丈夫! このペンダントがあれば、宇宙でも平気だから!」

「……だとしても、ニチアサみたいに宇宙へ出てあの怪物と戦うってか?」

「うん。……今なら分かる。きっと、『ストーンワールドを救って』ってこういうことだと思うから」

 

 

 そうして2人は、怪物の方へ向かって行きました。

 千空は引き止めようとしましたが、ひかるの『決意を固めた目』を見ると、それ以上何も言うことができず、見送るしかありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 昔々、と言っても1年程前のことですが、ひかる達のいた世界ではかつて、宇宙に伝わる伝説がありました。

 

 星々の輝きが失われし時、戦士・プリキュアが輝きを取り戻す。

 

 その伝説の通り、5人のプリキュアは宇宙を支配しようとしていたノットレイダーと戦いながらも、『とある物』を回収してどんどん宇宙の輝きを取り戻していきました。

 

 宇宙を無に還す程の強大な闇を消し去った時、プリキュアの使命は終わりを告げ、5人のプリキュアはそれぞれ元いた星に帰って行きました。

 帰らざるを、終えませんでした。

 しかし、その伝説が今度は全く別の宇宙、ストーンワールドで再び蘇ろうとしています。

 

 

「懐かしいなあ。初めてララに会った時、ララ達を追いかけてロケットに乗って、飛ばされたフワを守るために飛び出したんだよね」

「ルン。あの時はひかるが無茶するから、びっくりしたルン」

「だけどそのおかげで、私はプリキュアになれてキラやばな日々が始まったんだ。……そして今も!」

「別の世界でひかるにまた会えて、しかももう1度プリキュアになれるなんて予想外の連続ルン!」

「予想外でもいいじゃん! ララにも、新しい『友達』にも出会えたんだから!」

「……ルン!」

「じゃあ……、行くよ! ララ!」

「ルン!」

 

 

 新たな伝説の幕開けを告げるかのように、少女達が掲げたペンダントがキラリ。

 

 

 

 

「スターカラーペンダント!カラーチャージ!!」

 

 

 突如どこからか聞こえてきたBGMと共に、インクを補充するかのように『スターカラーペン』をペンダントに差し込みます。

 ひかるが自身を囲むようにペンで星を描くとピンクの星が降り注ぎ、ララは小さくハートを描くとそこから出てきた波にハートのサーフボードで乗りこなします。

 

 

「きらめくほしの力で」

「あごかれのわたし描くよ」

 

 

『なりたい自分』を描くように。

 

 

「トゥィンクル☆トゥインクルプリキュア!」

「トゥィンクル☆トゥインクルプリキュア!」

 

 

 ひかるは、バレエのクラシックチュチュを思わせるような恰好。加えて右足だけ、太腿部分に星マークがついたピンクのオーバーニーハイソックスを履いて。

 ララは、全体的に丸みがある天女を思わせるような格好を描き。

 

 

「トゥィンクル☆トゥインクルプリキュア!」

 

 

 ひかるの耳に輪っかのイヤリングがついたと思うと、髪型がピンク色の巨大なツインテールに変わり、その先端を巨大なシニヨンにまとめてそれに輪をかけて土星のように見せるような形に。

 ララの耳に星のイヤリングがついたと思うと、髪形はそのままに頭に星飾りがつき、さらにセンサーが星のオブジェに変わり。

 

 

「スタートゥィンクル☆スタートゥインクルプリキュア☆アアァ~」

 

 

 ペンをペンダントに当ててブローチに変化させると、仕上げにひかるは頭に花模様が描かれた土星の髪飾りをつけ、ララは左足に青いグラデーションのかかったタイツを履き。

 

 

宇宙(そら)に輝くきらきら星! キュアスター!!」

「天にあまねくミルキーウェイ! キュアミルキー!!」

 

 

 こうしておよそ1年の時を経て、伝説の戦士《スタートゥインクルプリキュア》が復活したのです。

 

 2人の変身を呆然と眺めていた怪物ですが、すぐに我に返るとプリキュアに向けて岩の砲弾を飛ばします。

 スターは星型のエネルギーフィールドを拳の前に展開させ、ミルキーはセンサーからハート型のエネルギーフィールドを展開して攻撃を防ぐと、次々に降り注ぐ岩に飛び移りながら怪物に接近します。

 そのままスターは真上から星のバリアで怪物を吹っ飛ばし、その先にいたミルキーがキックで蹴り飛ばしてロケットから遠く離れさせました。

 

 

 

 

「……なあ大樹。ここはいつから、ニチアサの世界になったんだ?」

「分からん! だが、ひかるもララも宇宙を自由に動けていて、すごいぞ!」

 

 

 一方ロケットでは、千空が追加のファンタジーに呆然としている横で、大樹が細かいこと等諸々置いておいて、キュアスター(ひかる)キュアミルキー(ララ)の活躍に興奮していました。

 千空は横にいた大樹の腕をつねります。

 

 

「ん? どうした千空?」

「俺の攻撃力じゃ無理か。……痛ぇ」

 

 

 しかし、その程度じゃ全然動じなかったので、今度は自分自身の腕をつねります。

 痛かったので、すぐにこれは夢でなく現実だと理解しました。

 

 

「全人類石化にパラレルワールドに宇宙人はまだいい。だが、妖精に怪物の時点で相当なもんなのに、いくら何でもファンタジー過ぎんぞ!」

「プリキュア~頑張れフワ~」

「見ろ、千空! 必殺技が出るみたいだぞ!」

 

 

 千空が頭を抱える中、大樹に抱きかかえられたままのフワは空気の流れから千空と大樹を守るために、薄くピンクのバリアを張りながらもプリキュアを応援していました。

 ライダーと戦隊物は幼い頃に見ていても、プリキュアのことは名前ぐらいしか知らない大樹は、スターとミルキーの活躍に大はしゃぎしていました。

 

 

「プリキュア! スターパンチ!!」

「プリキュア! ミルキーショック!!」

 

 

 スターが拳で放った大きく黄色い星。

 ミルキーが両側のセンサーから放った青緑色の電撃。

 それらが左右同時から怪物に直撃しました。

「ドドド……」と怪物はよろめきますが、すぐに持ち直すと大砲をスターとミルキーに向けて、岩を連続で発射してきました。

 スターとミルキーはバリアで防ぎながら、隙間を縫って怪物に攻撃しますが、未だ倒れる気配がありません。

 

 

「なかなかしぶといルン……。こんな時、『プリンセススターカラーペン』があれば……」

 

 

 長期戦になりそうな予感にミルキーが焦りを見せる中、スターはミルキーの呟きであることを思い出しました。

 

 

「ペン……。そうだ! プリンセススターカラーペン、もしかしたら持ってるかもしれない!」

「持ってるって……、どういうことルン?」

「ミルキー、ちょっと千空君から貰ってくるから、それまで耐えられる?」

「なんでそこで千空が出てくるルン!? ……でも、スターには考えが何かありそうルン。分かったルン! ここは任せるルン!」

「ありがとうミルキー! すぐ戻るから!」

 

 

 ミルキーが頷いてくれたのを確認したスターは、急いでロケットの方へ向かいます。

 空気の流れに巻き込まれないように、星のバリアで防御しつつ。

 

 

「ひかる、急にどうしたんだ!?」

「千空君、あの時拾ったペン、まだ持ってる!?」

「ペンって……、あの流れ星のことか?」

「お願い! もしまだ持っていたら私に譲ってほしいの!」

 

 

 突然戻ってきたひかるに驚く大樹をスルーして、スターは千空に頼み込みます。

 

 

(石化から解けた時、運良く左手で握ったままだったあの流れ星……。3700年も経ったのに光り続けていたから外見も見れず、文明が戻ったらじっくり調べようと持ち歩いてはいたが……。

 ペンみたい(・・・)ではなく、ペンそのもの(・・・・)なのか……?)

「私、夢で見ていたから千空君がペンを拾ったの、知ってるよ! 

 あれは流れ星じゃなくて【12星座のスタープリンセス】の魂と力が変化した、プリンセススターカラーペンなんだよ! 

 私達プリキュアが触れないとずっと光り輝いてるままなんだけど、もし持ってたらお願い!

 それがあればアレを浄化できるし、何より『私達がいた世界の宇宙にとって、とっても大切なもの』なの!」

 

 

 千空が考え込んでいるのを見て渋っていると思ったスターは、頭を下げて頼み込み続けます。

 スター達が変身したその姿は何なのか、スターが言うスタープリンセスとかプリンセススターカラーペンとか何なのか、何1つ分かりません。

 けれど。

 

 

「それがあれば、あの怪物を倒せるのか?」

「……! うん!」

「ククク……。おありがてえことに今も持ち歩いてるまんまだ。全部終わったら1から説明しやがれ! ニチアサヒロイン!」

 

 

 目の前の少女が、体を張って自分達を守ろうとしてくれている。それだけは分かっていました。

 腰に下げた袋からペンを取り出すと、スターに投げ渡します。

 すると光が消え、牛柄のドレスを羽織った女性の絵が先っぽに描かれたピンク色のペンが現れました。

 

 

「ガチでペンだ……」

「やっぱり! 直感で感じていたけど、これって『おうし座のプリンセススターカラーペン』だ!」

 

 

 ありがとう千空君! 

 

 笑顔で千空にお礼を告げると、スターはミルキーと怪物が戦っている現場へ戻って行きました。

 一方ミルキーは、砲台から連続で発射され続けている岩の砲弾を、ハートのバリアで全て受け切っていました。

 防御に専念するので手一杯で、ミルキーはなかなか攻撃ができませんでした。

 

 

「お待たせミルキー! やっぱり持ってた! 千空君が科学室で拾ってたの、プリンセススターカラーペンだったよ!」

「拾ったルン……? ううん、それよりも今は!」

 

 

 湧いた疑問は後回しにして、ミルキーはバリアごと砲弾を怪物に跳ね返すと、砲弾が直撃して呻く怪物に追撃のキックを放ちました。

 怪物はそのまま、グルグル回転しながら飛ばされていきます。

 

 

「スター、今ルン!」

「うん!」

 

 

 スターは、おうし座のプリンセススターカラーペンをペンダントに差し込んでから取り出すと、自分の前に一筆書きで星を描きます。

 そこからおうし座のマークが出たと思うと、ペンダントに吸い込まれました。

 ペンダントからピンクの光が溢れ出し、やがて黄色く大きな星が出たかと思うと、ピンク色に染まります。

 

 

「プリキュア! おうし座・スターパンチ!!」

 

 

 その星に思いっきりパンチをして飛ばすと、怪物に直撃してそして……。

 

 

「ドンヨクバール……」

 

 

 岩の怪物は浄化され、元の素材であった2つの岩に戻り、そのままどこかへ飛んで行きました。

 

 

「やったね! ミルキー!」

「ルン!」

 

 

 無音のはずの宇宙空間で、ロケットの2人と1匹の耳にハイタッチの音が届いた気がしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあ……。まさかこの世界にも(・・)プリキュアがいるなんてなあ……。

『あのお方』が来るとなればまだ本調子じゃねえけど、今は俺しかいないしやるしかないか」

 

 

 そして、何者かがスターとミルキーの戦いを見ていたことは、誰も知りませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、さっきのはいったい何なんだ?」

「うむ! 千空から流れ星については既に聞いていたが、あのペンのことも気になっていたぞ、俺は!」

「オヨ……。どれから話せばいいか分からないルン……」

「全部話すと長くなるもんねー」

 

 

 窓を応急処置のテープで塞いでからちょっとして。

 ひかるとララは、千空と大樹に何からどう説明しようか悩んでいました。

 ちょっと考えたひかるは、まずプリキュアについて説明することにしました。

 

 

「コホン。じゃあまずはプリキュアについて!

 私達、元の世界では1年程前までプリキュアやってました!」

「宇宙に伝わる伝説の戦士。宇宙に輝きを取り戻す、スタートゥインクルプリキュアルン」

「……マジか。ひかるとララは、ニチアサの世界からやって来たのか?」

「「ニチアサって……?」」

「あ"あ。ニチアサってのは主に、5チャンネルの日曜日の朝に放映されるアニメや特撮番組を指すんだが、お前らの世界にはねえのか?」

「その曜日のその時間帯で、アニメや特撮ってやってたかな……。聞いたことないから、もしかしたら私達の世界にはないかも」

 

 

 本物のプリキュアだと断言されたことで、(まるでアニメキャラが現実に出てきたみてえだ)と現状を何とか受け止めつつも、千空は話を聞き続けます。

 

 

「俺は小さい頃、ニチアサでやってたライダーは見てても、その前に放映されてた『プリキュア』については全く知らないのだが……、目の前にいると不思議な気分だぞ!」

「えぇ!? プリキュアってこの世界ではテレビに映ってたの!? キラやば~☆ねえねえ、私達はどうだった!?」

「いや……。俺も大樹も、いかにも幼女向けアニメですってことぐらいしか知らねえな。大樹に付き合って、ニチアサのライダーや戦隊は何回か見たことはあるが……。それだけだ」

「なあ~んだ……」

(それって、いろいろと大丈夫ルン……?)

 

 

 もしかしたら自分達の活躍がテレビで放映されていたと期待したひかるは、千空の返答を聞いてガックシと落ち込みました。

 一方、ララはそれに対して『何か』に不安を覚えました。

 

「で、次はプリンセススターカラーペンについてだけど」と、気を取り直したひかるが説明を続けようとした、そのタイミングで突然船内が赤く染まりアラートが鳴り響きました。

 アラートを聞いて、ララは今の今までまですっかり忘れていた大事なことを思い出します。

 

 

「しまったルン! ロケット、故障していたの忘れてたルン!」

「あれ……? このパターンってどっかで……」

「……俺達が乗っているロケットが故障していて、このやばそうな雰囲気はつまり」

「墜落すんぞ! どこかに捕まれ!」

「「うわあああああ!」」 「オヨー!!」 「ぬぐぐ……」 「フワー!!」

 

 

 悲鳴が船内に木霊している間に、先程の攻撃で実はエンジンもやられていたロケットは、重力に従いながら地球に落ちていきます。

 

 

 

 

「うん? あれは……流れ星か?」

「ヤベー! あんなデケェ流れ星は初めて見たぜ!」

 

 

 金髪の少女と黒髪の少年が、研究室とツリーハウスからかなり離れた所で、墜落している最中の流れ星(ロケット)を見かけたのは、また別のお話。




イメージED:パぺピプ☆ロマンチック



ええ!?プリンセススターカラーペンがまた散らばった!?

おまけに全部集めないと、元の世界に帰れないルン!

しかもこのストーンワールド中にか……。全部見つけるのに、どれぐらいかかるか分からんな!

どちらの宇宙のためにも一刻も早く探さないといけないルン!だから、千空達とはお別れルン……。

なんで!?千空君達のお手伝いしたいよ!

人手が足りてねえ中でハイサヨナラってのは、流石に納得できねえわ……何だあいつ、杠に何してやがる!

杠!今度は俺が守る!!


次回Dr.STONE×スター☆トゥインクルプリキュア!
石の世界のプリキュア☆キュアウッド誕生!


次回もキラやば~☆



おまけのQ&A

Q.ひかるがよく言ってるキラやば〜☆って何?
A.キラキラしてやばい。興味ある物事に対しての感嘆や喜びを表す言葉。
 つまりは、キラやば〜☆=唆るぜ、これは(暴論)
 ちなみに、ひかるのお父さんから移った口癖。

Q.じゃあ、ララのルンは?
A.語尾にルンとつくのが、元々のサマーン星人の性質。
 頑張ればルンなしで話せるけど、とてつもない違和感と苦痛を感じるとか。

Q.本文中のララのサマーン語は……?
A.適当に書いたもの。


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石の世界のプリキュア☆キュアウッド誕生!

生まれて初めて自分で描いた絵をネットにアップするので、初投稿です。

まず、投稿が想定より遅れて申し訳ありません。気づけば9月だよ……。
夏の暑さにダウンしていたのと、全体の書き方に悩んでいたのが原因です。
読む側の負担にならないような書き方が、うまくできていればいいのですが……。

新たに当小説をお気に入り登録して下さったマシュ・マック様、stan.if様、茨木翡翠様、ありがとうございます!

今回からDr.STONEサイドの人物がプリキュアに変身するようになるので、読者様がイメージしやすいようにと、絵を描いてみました。
自分の絵の腕はド素人なので期待はしないで下さい。あくまで『イメージ』としてご覧下さい。

記念すべき最初のストーンワールドのプリキュアは、あの人です。プリキュア名ですぐ分かるかな……。
そして、今回のお話から『スタプリとは違うプリキュア作品からのキャラクター』が本格的に出始めます。
タグに追加しきれなかったので、注意書きに書いてあります。

にしても、プロローグと前回のお話を見返すと所々で細かいミスが多いこと多いこと(白目)。
現在はどちらも全体的に修正済ですが、今後は浮かれすぎてやらかさないようにしっかり確認してから投稿致します。


今回の話、長すぎたかな……?


「ねえ、フワは大切な人達……ひかるや皆に会いたいの?」

 

 

 ひかるのいる地球から遠く遠く離れた所にある宙域、『星空界』。

 その聖域であるスターパレスにて、フワはいつものように遊んだ後、うとうとと微睡んでいました。

 

 そんな時、唐突にフワの目の前に白いワンピースを着た少女が現れました。

 ピンクのストレートヘアとエメラルドの瞳の少女は、フワに優しく微笑んでいました。

 フワはこの少女とは、完全に初対面です。けれども、花の香りがほんのりとしていて安らぎを感じ、どこか安心感を覚えました。

 だから、なぜ初対面の少女が自分やひかる達のことを知っているのかも、全く疑問に思いませんでした。

 

 

「フワ! ララやユニ、プルンスにはいつでも会えるけど、地球は遠いからひかる、えれな、まどかには会えないフワ……。皆大好きだから、ひかる達に早く会いたいフワ!」

「そうなんだ……。私と一緒だね!」

「一緒フワ?」

「うん。今はまだ会えないけど、また会いたい大切な人達が私にもいるからフワの気持ち、分かるよ。

 ……ねえ、もしもここではない別の世界で、もう1度ひかる達に会えるならあなたはその世界に行きたいと思う? また、『前』みたいに危ない目に遭うかもしれないとしても」

 

 

 フワの心からの願いに少女は寂しそうな表情を見せると、一転して真剣な様子でフワに問いました。

 それにもフワは即答します。

 

 

「フワ! ひかるや皆が一緒ならどんな場所でも、どんな時でも、全然平気フワ!」

「そうなんだ……。そこも私と一緒、だね」

「フワ?」

 

 

 心から嬉しそうに話すフワに、少女は手を差し出します。そして、その手の中に虹色の球体を現出させました。

 その球体をフワに近づけると、フワに吸い込まれるように消えていきました。

 

 

「これは私自身とこの世界と、この世界と別のもう1つの世界────『魔法界』。その全ての命から少しだけおすそわけしてもらって集めた、『イマジネーション』。

 前と少し違うし、完全ではないけれど力を戻したよ。加えて、ちょっとしたおまけ(・・・)もつけちゃった!」

「本当フワ!?」

「うん。でも、その代わりに頼みがあるんだ。

 ……フワもストーンワールドに行って、スタートゥインクルプリキュアのお手伝いをしてほしいの。

 その世界に混沌が迫っていて、このままだとその世界の全ての命が消えてしまう。その世界が滅んだら、今度はこちらの世界にも……。

 私は2つの世界だけじゃなくて、私の大好きな人達に似たあの2人も、命溢れるあの世界も守りたいの。

 意地悪なことして、ごめんなさい。本当は私達が行きたかったけど、やらなきゃいけないことがあるから。それが終わったら、私達もすぐにストーンワールドに向かうから。

 お願い、フワ。どうか石の世界に────」

 

 

 心から申し訳なさそうに、そして懇願するように頼み込む少女の言葉は、大きな衝撃によって遮られてしまい、少女の姿は消えてしまいました。

 もっと言えば、突然の衝撃でフワは夢から覚めたのです。

 

 寝ぼけまなこでフワが顔を上げると、そこには青色の魔人に襲われる12人の宇宙のお姫様。

 そして、彼女達の胸から出てきたプリンセススターカラーペン(流れ星)

 魔人が出てきたそれに手を伸ばそうとしているのを見て、フワは咄嗟に『力』を使いました。

 

 

「フーワー!!」

「!? この力は……!?」

 

 

 力強く叫ぶとフワの体が光り出し、スタープリンセスの頭上にワープホールが現れました。

 魔人がフワから放たれる力に驚く間に、12本のプリンセススターカラーペンは宙に現れたワープホールに全て吸い込まれるように入って行きました。そして、役割を終えたワープホールはすぐさま閉じられました。

 

 

「ふむ……。あれがプリンセススターカラーペン、そしてワープホールだね。ねえ、君はあれをどこに」

「フワ、早く逃げるルン!」

「ララフワ!? フーワー!!」

 

 

 魔人がペンの行方を探るためにフワを捕えようとしたその瞬間、聞きなれた声の少女(ララ)に抱きかかえられ、彼女が乗ってきたロケットに乗り込みます。

 フワは一瞬戸惑いましたが、抱きかかえられた腕の温かさに安心します。

 そのままララはロケットを発進させて、抱きかかえられたままのフワがもう一度ワープホールを開くと、ロケットはその中に入って行きます。

 

 

「あらら、逃げられちゃった。ドンヨクバール、彼女達の跡を追って行って。僕も後から行くから」

 

 

 ロケットが逃げるのを面倒くさげに見ていた魔人は、近くに待機させていた岩の怪物に命じます。

 その怪物は「ガッテン!」と頷くと、ロケットを追うためにホールへ入って行きました。そして、すぐさまホールが閉じられます。

 それを見届けた魔人は指をパチンと鳴らすと、周りの風景に溶け込むように消えてしまいました。

 

 

 

 

 

 

 そうして誰もいなくなってから、しばらく。

 

 

「フワの力と、ストーンワールドにもあるイマジネーションの力を合わせれば、あの人達ももしかしたら……。

 フワ、スタートゥインクルプリキュアの皆さん。ストーンワールドの皆さん。巻き込んでしまってごめんなさい。

 2つの世界を安定させるためにまだ、この世界から動く訳にはいかないけれど、それももう少しで終わるから。だからせめて、その間はほんの少し皆をお手伝いするね」

 

 

 今度は、先程フワの夢に現れた少女がポツンと1人。

 

 

「5人のプリキュアとフワ達宇宙妖精。3700年の時を超えてもなお、変わらず輝きを放つあの2人。そして、彼女達と彼らがこれから出会う様々な人達。

 その全てのあまねく生命(いのち)に、未知とワクワクが溢れるストーンワールドに祝福を」

 

 

 少女の祝福の言葉は、誰にも聞こえず。

 しかしその祈りは、遠い遠い異世界へと運ばれて行ったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は現在に戻って。

 ララが触角で操縦席に付いているボタンを操作すると、ロケットの図やら何やら書かれた画面が出てきました。

 

 

『緊急モード、ロケットの損傷率は92%。燃料は充分に残っていますが、修理を行わない限り宇宙へは飛べません』

「オヨ……。ここまで再現しなくていいルン……」

「うおおおお! 千空、ロケットが、ロケットが喋ってるぞー!」

「耳元で叫ばなくても分かってるての。ざっと見た範囲だが、AIが俺らの時代のよりかなり高性能じゃねえか。サマーン星……、どんだけ文明進んでやがるんだ?」

「うんうん、懐かしいねえ。私もAIさんが初めて喋った時に、大樹君と同じ反応してたなあ……」

 

 

 あの後、思いっきり落下してしまったロケットですが、耐久性がとてつもなく高かったのか、中の乗員は全員五体満足でいました。

 その代わり、ロケット本体はプスプスと煙を上げる程にボロボロになってしまったのですが。

 

 夕闇に染まるツリーハウスの前で、ララがひかると初めて会った日と全く同じようにロケットが損傷しているのに、「最悪ルン……」と落ち込んでいて。

 ひかるもその日を思い出して、感慨深げに頷いていて。

 大樹はAIにワクワクしている中、千空はララの故郷の科学技術の高さに唆っていました。

 

 

「ルン……。ここでじっとしてても仕方ないルン。まずはプリンセス達に会いに行くルン。そっちの方がいろいろと効率的ルン」

「じゃあ、早速スターパレスに向かってみよう!」

「さっきも言っていたが、スターパレスって何なんだ? そもそもどうやって行くんだ?」

「まあ見てて! おうし座のプリンセススターカラーペンがあるってことは……」

 

 

 大樹の疑問にはすぐに答えると言わんばかりに、ひかるはバッグから1冊の茶色いノートを取り出しました。

 すると突然それが光り、光が収まると表紙に流れ星が描かれた、ピンクのノートに変化したのです。

 

 

「その手帳は……?」

「これは『トゥインクルブック』。フワのごはんを出せたり、フワがこの中で寝れたりするんだけど……。驚くのはまだ早いよ!」

 

 

 続いて、おうし座のプリンセススターカラーペンを手帳の右上に差し込んで、開いたページの中の星にピンク色の液体が注がれます。

 液体で満タンになると星の中央におうし座を表す記号が浮かび上がり、それがクルクル回転しだすとそこからピンクの光が溢れ出し、やがて無数の星が点在する宇宙を映し出す画面が出てきました。

 ひかるはノートに差し込んでいたペンを取り出し、映し出された星の1つにタッチ。

 今度は勝手に線が引かれ始め、1つの星座が描かれました。

 

 

「おうし座フワ! フーワー!!」

 

 

 同時に、フワの姿がピンクの牛の姿に変わると思いっきり叫んで、この場にいる全員────ひかる、ララ、千空、大樹を12本の柱がある神殿へと転移させました。

 

 

「着いたよ! ここが私達の宇宙にある星空界の聖域、スターパレスだよ! ちなみに星空界は、地球に光が届かないぐらい遠い所にある宙域なんだ!」

「つまりここは、ひかる達の宇宙での『観測可能な宇宙の遥か外側』って訳か……。

 んでもって、星の宮殿(スターパレス)と御大層な名前がついているこの場所が、星空界の……拡大解釈するなら宇宙の中心ってことだな?」

「大正解!」

「千空! あれ……!!」

「どうした大樹……!?」

 

 

 スターパレスがどういった場所なのか即座に検討がついた後、千空は大樹の声がした方を見てみます。

 そこにあったのは、

 

 

「……え!? なんで!? スタープリンセスも石になっている(・・・・・・・)の!?」

 

 

 変わり果てた、12人の宇宙のお姫様(スタープリンセス)の姿。

 千空の頭の回転の早さに感心していたひかるも、彼女達の石像を見てショックを受けています。

 

 

「……ルン。私が来た時には、もう……。ここから先は本人に話を聞くべきルン。フワ、お願いルン」

「……フワ! 星の輝き、戻るフーワー!!」

 

 

 同様にショックを受けていたフワですが、ララの言葉に気を持ち直すと、両手の中にピンクの星を生み出して、牛を模したドレスの女性の石像に向かって打ち出しました。

 星が石像に当たると同時に、石像にひびが入ったかと思うと見る間に砕け散り、そして。

 

 

「お久しぶりです。キュアスターにキュアミルキー。そしてフワと異世界の少年達よ。私を元に戻してくれて、感謝します」

 

 

 最初に、【おうし座のスタープリンセス】が蘇ったのです。

 

 

「これが、スタープリンセス……」

「ほーん。こいつがスターパレスのお姫様か。いかにも重要ポジですって面しているこいつは、宇宙の神様ってところか?」

 

 

 大樹が目の前にいる人物に無意識に畏怖の念を抱いている一方、千空は首をゴキゴキ鳴らしながらもいつもと何一つ変わらない様子でした。

 

 

「ちょっとしか話していないのにそこまで分かっちゃうルン!?」

「スターパレスが星空界(ここ)の中心。で、ここは俺らが知っている範囲の宇宙の延長線上にあるから、その主のスタープリンセスが宇宙の神様じゃねえかと半分冗談で言ってみたんだが……大当たりみてえだな」

「なにぃ!? ひかる達の宇宙の神様だと!? 無礼を働かないようにせねば……!」

「いや、俺らは別にこの世界の人じゃねえんだから、変に気を使う必要なんかねえだろ」

「千空は平常運転しすぎだ!」

「いえいえ、無理して畏まる必要はありませんよ。気軽に接してくれて構いませんよ」

「そうそう! 私達もそんな感じだし!」

 

 

 千空と大樹が漫才を繰り広げる横で、おうし座のスタープリンセスとひかるがフォローします。

 それから少しして落ち着いた後に、スタープリンセスはララの補足付きでここで起きたことについて語り始めました。

 

 

 いつものようにスタープリンセス全員でお茶会を開いていたら、突然黒いワープホールが開かれ、そこから邪悪な気配を感じる魔人が出てきたこと。

 

 手から気味が悪い緑色の光を放つと同時に体がどんどん石化していったこと。

 

 自らの魂と星座の力を悪用されないために、プリンセススターカラーペンに変えてどこかへ飛ばそうとしたこと。

 

 完全に石化されて魔人がペンを手に取ろうとする前に、フワが開いてくれたワープホールに12本とも吸い込まれたこと。

 

 ララが駆けつけた時には、スタープリンセス達は体のほとんどが石になっていて、フワが魔人に襲われそうになっていたこと。

 

 そして寸前でララがフワを助け出し、もう一度フワが開いてくれたワープホールに入って行って、岩の怪物に追われながらもストーンワールドに辿り着いたこと。

 

 

「光を浴びて石化……。正に俺達の身に起きたことそのままじゃないか! 石化の犯人はその魔人なのか!?」

「あなた方を石化させた犯人と同じかは分かりませんが……、魔人の正体なら検討がついています」

「本当ルン!?」

 

 

 話を聞いて驚く大樹に、おうし座のスタープリンセスは首を縦に動かします。

 スターパレスを襲撃した犯人の正体を早く知りたいララに、コクリと頷き返すと続きを話し始めました。

 

 

「大昔に生命が溢れるとある星に、多くの眷属と共に大いなる『災い』が攻め込んできました。その時はその星を守っていた『ある者』により災いは太陽へ封印され、眷属もまた封印することに成功しました。

 しかし、今より数年前に災いとその眷属の封印が解けてしまい、他の星々を滅ぼしながらも地球を狙ってやってきました。一時は地球上の全ての生命が消えてしまいましたが、スタートゥインクルプリキュアとは別の3人のプリキュア(・・・・・・・・)によって災いと眷属は浄化されました」

「3人のプリキュア!? キラやば! 私達の他にもプリキュアがいたなんて! ……でもそんな大事件、覚えてないよ?」

「それに、他にプリキュアがいるなんて聞いたことないルン」

 

 

 自分達以外のプリキュアの存在に目を輝かせつつも、そんな地球を揺るがす程の大事件に遭遇した記憶がないのに首を傾げるひかると対照的に、ララは訝しげに語り手を見つめています。

 

 

「無理もありません。災いを跳ね除けた後、それは『なかったこと』になりましたから。そして、その方達は諸事情により二度とプリキュアになれません。

 奇跡(・・)がもう1度起こらない限り、難しいでしょう」

(『あの方』を除いては)

 

 

 おうし座のスタープリンセスは、口には出すことなく3人のプリキュアの内の例外である『彼女』に想いを馳せます。

 

 

「1つの星の生命体全部消し去るなんざ、スケールデカすぎだろ……。んで、当たってほしくねえが、今までの話の流れからしてその災いとやらが、俺らの世界で復活した……ってことか?」

「……ええ。あなたの言う通り理由は不明ですが、今度はあなた達の世界でまだ完全ではないとは言え、災いが復活してしまいました」

「命を消し去る災いが、俺達の世界に……」

 

 

 顔をしかめた千空の予想に頷くスタープリンセス。

 大樹は思わず人も、虫も、魚も、鳥も、木々や草花も、全て息絶えた不毛の大地を想像してしまい、固唾を飲み込みます。

 告げられたのはあまりにも突拍子もない内容ですが、目の前の女性の深刻な様子から、嘘ではないと判断した千空は質問を続けます。

 

 

「災いって奴とその眷属の詳細って分かるか?」

「残念ながら。1度目はこちらでいざござがありまして、2度目はノットレイダーに襲われた時に力を使い果たしペンになっていたので、いずれも私達は関与していないのです」

「ノットレイダー?」

「そう言えば、まだちゃんとプリキュアについて話していなかったね」

 

 

 眉を下げて首を横に振るおうし座のスタープリンセス。千空は「そうか……」と一言だけ、少し残念そうに呟きました。

 その横で、聞きなれない単語に疑問をこぼした大樹にひかるとララが説明します。

 

 

【ノットレイダー】は元々は広い宇宙の中で故郷の星にいられなくなったり星が消滅したりして、居場所がなくなってしまった者達の集まり。

 ただそれだけの存在だったのですが、ある日彼らの元に蛇を模した鎧を纏った【ダークネスト】が現れて、自分の部下になり宇宙を支配する手助けをするように取引を持ちかけられました。

 今まで誰も自分達に手をのばしてくれなかった、助けてくれなかったノットレイダー達にとって、ダークネストだけが手をのばしてくれた者でした。

 だからこそ彼らはダークネストに忠誠を誓い、全宇宙の支配を目論み様々な惑星を侵略していました。

 

 そんな時に現れたスタートゥインクルプリキュアは、宇宙に散らばってしまった12本のプリンセススターカラーペンを集め、ペンとノットレイダーからすごい力を持っている『器』と認識されていたフワ、そして宇宙をノットレイダーから守るのが使命でした。

 

 宇宙を支配するために必要だと言われていたフワやプリンセススターカラーペンを巡り、何度も衝突を繰り返す中で、彼らの心の傷に気づいたプリキュア達が何度も歩み寄った結果、和解と改心を果たしました。

 その最中に実は宇宙の支配ではなく、『宇宙の消滅』が真の目的だったダークネストに捨て駒にされていたと言う真実に、ノットレイダー達は多大なショックを受けますが、割とすぐにダークネストに反旗を翻したのでプリキュアと共闘することに。

 その果てに結局ダークネストの目的が果たされてしまいますが、プリキュアの大奮闘で宇宙は元に戻り、自身の持つ『闇の力』だけを消し去られたダークネストはどこかへ姿を消してしまいました。

 

 

『プリキュア、では見せてみろ。キラやばな世界とやらを。もしその世界が誤っていれば、我は再び現れよう』

 

 

 多様性溢れるこの宇宙(キラやばな世界)を望むひかるにそう告げて。

 

 

 ひかるとララの話を聞いた千空と大樹は

 

 

「おおお……。プリキュアっていうのは壮大な物語だったんだな! 壮大すぎて全然分からん! けど、スタートゥインクルプリキュアがすごいのは分かるぞ!」

「あ"ぁ……。ひかる達の宇宙が1回全部消えたってのにも流石に驚くが、それ以上に宇宙を丸ごと元通りにする……。さらっと言ってるが、お前らも充分神してんじゃねえか! 

 スタープリンセスと言いダークネストと言い、神のバーゲンセールかよ……。科学の世界に神はいなくても、宇宙にはいるってか?」

 

 

 と、思っていたより広く深い話に圧倒されています。

 ちなみにプリキュアを全く知らない千空は思いもしませんが、実は歴代のプリキュアシリーズでラスボスが『神様クラス』、最悪『神そのもの』なのは割かし多いのです。

 正体が宇宙そのものだったり絶望そのものだったり、とある星の神様だったり……。

 

 ちなみに元ノットレイダー達は、今は新たに移住した星の土地を皆で協力して開拓中だとか。彼らには、ノットレイダー時代よりもたくさんの笑顔と幸せで満ち溢れているそうです。

 ララから聞かされたひかるは、自分と何回も衝突を繰り返した河童に似た宇宙人、【カッパード】を思い出して頬を緩ませました。

 

 

「幸いにも、災いそのものが完全に復活するまでに、ストーンワールドから見て数年の猶予があります。ですが、当時より幾分か力が弱まっているものの、眷属は既に復活して活動を始めています。スターパレスを襲撃した魔人がそうです。

 このまま放っておくとストーンワールドの地球だけではなく、その世界にある全ての星々が滅ぼされ、その次はこの世界の地球……そして星空界の全ての命が消えてしまうでしょう」

「星も命も全部消えてしまうなんて、そんなの絶対に嫌だ! 例え他の世界でも!」

「ストーンワールドだけじゃなくて、この世界の地球と星空界まで……! どっちも私にとってとても大切な居場所(故郷)ルン! 絶対に守りたいルン!」

「俺も嫌だぞ! 復活液はまだ完成していないが、まだまだこれからなんだ!! 千空と杠と一緒に人類を助け出すんだ! だから、地球を死の星になんかさせんぞ! なあ千空!」

「あ"ぁ! 人類復活させて文明を取り戻したら、今度は自力で宇宙に行くんだよ。ククク……。想定よりだいぶ壮大になっちまったがな、人類救うついでに宇宙も救ってやんぞ! 唆るぜ、これは……!」

「フワも皆のお手伝いするフワ!」

 

 

 おうし座のスタープリンセスが告げる最悪の未来予想図に、闘志を燃やす5人。

 

 

「つーことは、俺らが今最優先でやるべきことは復活液の完成にプラスして、眷属の撃退。加えて、残り11本のプリンセススターカラーペンの回収ってとこか。本当は、災いそのものを完全に復活する前に叩きてえところだが……」

「災いが復活したのは、地球より遠く遠く離れた宇宙の果てです。今のフワの力があればそこに行けるでしょうが……」

「ロケットは今壊れちゃってるから無理ルン……。あの状況じゃあ修理は当分先ルン……。それに、プリキュアはまだ全員揃っていないルン」

「心配は要りません。残りの3人、そしてプルンスも時期にストーンワールドにやって来ることでしょう。これは『彼女』から聞いたので間違いありません」

 

 

 災いが復活した場所を知ったものの、ロケットが修理できないのと残りのプリキュアが揃っていない現状に、触角ごとしょんぼりするララ。

 そんなララにおうし座のスタープリンセスが残りの仲間も来訪することを教え、それを聞いたひかるが

 

 

「やったぁー! えれなさんにまどかさん、ユニもプルンスもこっちに来るんだ!」

 

 

 と、大はしゃぎしてララに抱き着きます。

 フワも「あの人が言っていた通りフワ!」と大喜びしながら、ひかるとララの頭上をクルクルと回ります。

 ララも嬉しくなったのか、触角をハート型にして頬を緩ませています。

 

 ちなみに、【プルンス】はフワのお世話係兼スタープリンセスに仕える宇宙妖精。

 ノットレイダーが襲撃した際にはフワを連れて逃げ、道中でララと出会いなんやかんやあって、フワの力でララと一緒に地球にやってきました。1年近くの大冒険の中で、要所要所でひかるやララ達を助けてくれた、頼れるサポーターでもあります。

 おうし座のスタープリンセス曰く、魔人に襲撃された日は彼はたまたま用事があって、その場にいなかったそうです。

 

 

「む? 眷属の撃退は分かるが、どうしてそこでプリンセススターカラーペンが出てくるんだ?」

「あのな、今おうし座のお姫様の話にあっただろうが。『魔人がペンを手に取ろう』としていたってな。

 ペンを利用したいのか破壊したいのかは知らねえが、そいつは原理は不明だが、変化したスタープリンセス(宇宙の神)の魂と力そのものなんだぞ。絶対碌なことにならねえだろうが」

「話が早くて助かります。私達スタープリンセスには宇宙の均衡を保つという役割があります。

 残り11星座のスタープリンセスの力を取り戻さねば、災いが攻めて来るよりも先にこの宇宙の全ての星々がいずれ消え行きます」

「……! そうだよ! ロケットが修理できるまで時間がかかりそうなのに、全てのペンを集めるまでの間、この宇宙はどうなっちゃうの?」

「それにもし、ペンを集めるのに何年も時間がかかってしまうなら、その間ずっとストーンワールドにいなきゃいけないルン。絶対私の家族やひかるの家族が心配するルン……」

 

 

 一方、大樹の素朴な疑問に推測を述べる千空。

 それに対して、ペンを集めないとどうなるかおうし座のスタープリンセスが告げると、ひかるとララはそれぞれ別の観点から、自分達がいない間の世界(故郷)を心配します。

 

 

「そちらも心配しなくて大丈夫ですよ。この世界とあちらの世界の時間の流れは大きく異なり、ストーンワールドで例え1年過ごしても、元の世界に戻る際はこちらは1分しか経ちません。

 長い時間いて体が成長してしまっても、『彼女』の力でストーンワールドに来る前の姿に戻れます。スターパレスからストーンワールドへは、フワの力でそんなに時間が経つことなく戻れますよ」

「え! ってことはずっとストーンワールドに居放題ってこと!? キラやば~☆」

「オヨ……。ひかる、喜びすぎルン……」

「だってそうしたら、千空君達の人類&文明復活作戦のお手伝いを最後までできるじゃん!」

「……それは」

 

 

 おうし座のスタープリンセスの説明を聞いて、期間限定とは言え、ストーンワールドにいられて千空と大樹に協力できると、またも目をシイタケにするひかる。

 ですが、ララはやる気に満ち溢れているひかるに、複雑そうな表情を見せました。

 

 

「ククク……。異世界人なのにやる気満々なのは、実におありがてえことだ。が、そんな虫のいい話、本当にあるのか?」

「信じられないかもしれませんが、『彼女』のおかげで今の状況が成り立っています。おそらくひかるやフワ、ララは既にお会いしていますよ」

「え……。あ! フワがさっきからちらほら言っていたからもしかしてと思ったけど、フワも私の夢に出てきた女の人と会ったの!?」

「フワ! 優しい香りのする人だったフワ!」

 

 

 都合が良すぎる話に本当は何か裏があるのではと疑う千空ですが、言外にひかるの夢に出てきた女の人のおかげで、支障なくストーンワールドにひかる達がいられると聞いて、全部を鵜呑みにした訳ではありませんが、そっと胸をなで下ろしました。

 

 

「女の人ルン……?」

「ん? もしかしてララの夢には出てきてないのか? てっきりララもひかると同じように、石化前の俺達の様子や女の人に頼まれる夢を見ているとばかり思っていたんだが……」

「女の人に『ストーンワールドを救って』と頼まれるのと、『スターパレスにいる皆が危ないから早く向かってあげて』とお願いされる夢は見たけど、大樹達の出てくる夢は見てないルン。

 スターパレスに駆けつけた時、本当はプルンスも一緒にと思ったけれど、探しに行く暇がなかったルン。……用事でいなかったとは言え、心配ルン」

「フワもプルンスに会いたいフワ……」

「ララもフワも見ていないんだ……。それに、その人に頼まれたからララはスターパレスに駆けつけてこれてフワを守れたんだね。その人に直接お礼を言いたいな……。

 ララ。フワを助けてくれてありがとう! プルンスもきっと大丈夫だよ。会えるっておうし座のスタープリンセスも言ってたし!」

「……ルン」

 

 

 自分の見た夢を話してくれたララに、ひかるは心からの感謝の気持ちを伝えます。

 以前守ると決めていたのに、フワを守り切れなかった(・・・・・・・・)故に。

 ひかると同じ思いを味わったララは、静かに頷き返しました。

 

 

「伝説の戦士・スタートゥインクルプリキュア、フワ。そして異世界の少年達よ。改めてお願いがあります。

 ────どうかプリンセススターカラーペンをもう一度集めて、災いを打ち払って下さい。双方の世界のために」

「うん! 任せて! ストーンワールドも大好きなこの世界も宇宙も守るよ!」

「フワも頑張るフワ!」

「俺は人は殴れないが……、守ることなら任せろー!!」

「とは言え、直接災いと対峙するのはプリキュアだがな。直接は戦えねえが、ペン探しぐらいなら手伝える。んで、どっちの世界も丸ごと救ってやるよ。唆るじゃねえか……!」

「……ルン。私も頑張るルン」

「皆さんの優しさに、感謝します」

 

 

 再び課せられた使命に決意を見せるひかると張り切るフワ。

 どちらかと言うと巻き込まれた側なのに、プリキュアに協力する気満々の千空と大樹。

 そして、そんな異世界(ストーンワールド)の2人に対して眉をひそめるララ。

 

 

「最後に1つだけ。私達はもう……、あんな『儀式』をする必要、ないよね?」

「ええ。あの時は、騙すようなことをしてしまい申し訳ありませんでした。ですが、今回はペンを集めて災いを再び浄化する。それだけで十分ですので」

「そっか……。なら、良かった」

「では頼みます。プリキュア達よ」

(儀式……?)

 

 

 ひかるとおうし座のスタープリンセスの会話に疑念を抱く千空を余所に、おうし座のスタープリンセスの言葉を受けて5人はスターパレスから、ストーンワールドへと帰還していきました。

 

 

 

「あの時の過ちを繰り返さないためにも、私も『あなた』に微力ながらも力を貸します」

 

 

 空を見上げながら、今はまだ1人の星のお姫様は誓いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ストーンワールドに戻った時、辺りはすっかり暗くなっていました。

 

 

「うお!? 俺達がスターパレスに向かった時は夕方だったのに、もう夜になっているぞ!」

「まあ、今日はイベントがたくさんありすぎたからな。とっとと飯食って寝て明日に備えるぞ。明日から3人にもバリバリ働いてもらうからなあ……」

 

 

 首をゴキゴキ鳴らしながら、千空が少し悪い顔をして3人(正確には2人と1匹)を見やります。

 

 1人は、とびっきりの笑顔で「うん! じゃんじゃん働くから任せて!」と、腕をグルグルさせながら元気良く。

 1人は、ひかるによく似た笑顔で「フワ!」と、勢いよく。

 そしてもう1人は、「……ルン。私もお手伝いするルン……」と、どこかぎごちなく返しました。

 

 その夜は、火を起こして焼いた鹿のお肉とキノコを皆で食べることにしました。

 

 

「キラやば! キノコもお肉も、めちゃくちゃおいしい~!」

「ルン! お肉は少し固いけど、どっちも適度な塩分が最高ルン!」

「そうだろうそうだろう! 俺も初めて食べた時はとても感動したぞ!」

「海水から取った塩をまぶしただけだけどな。人間塩ふりゃ大抵のモンは食える。大樹に前言ったが、塩漬けの保存食にも必須だし、塩は原始人類最大の発明だな」

「お塩は最高の調味料ルン!」

 

 

 ストーンワールドに来てからの初めての食事に、ひかるとララは大喜び。

 フワも小さく切ってもらったお肉やキノコを食べて、ほっぺたが落ちています。

 

 

「フワ、ケーキもあるから食べよう!」

「ケーキフワ!?」

「ん? ケーキを持っているのか?」

「持っていると言うか……、まあ見ててよ!」

 

 

 そう言ってひかるは、トゥインクルブックとおうし座のプリンセススターカラーペンを取り出します。

 そして手帳を開き、星空のページにケーキの形になるように点を結びます。

 すると、手帳が光りだして中からイチゴのショートケーキが飛び出てきたのです! 

 

 

「フワー! ケーキフワ!」

「い、今の見たか千空!? 手帳からケーキが出てきたぞ!」

「こりゃすげえなあ……。さっきひかるがちらっと言っていたのは、これのことか。ペンダントもそうだが、妖精関連の物は全て超技術じゃねえか! 正直、どっちも解体して詳しく調べてみたいんだが……」

「だめに決まってるルン! トゥインクルブックはフワの家で、ペンダントはプリキュアへの変身とペンの捜索に欠かせない物ルン!」

 

 

 目を輝かせた大樹がよだれをちろっと垂らしながら、じぃっとケーキをおいしそうに頬張るフワを見つめています。

 千空はペンダントやトゥインクルブックの構造に興味深々ですが、ララにダメ出しされました。

 

 

「分かってるって……あ"? そういやこの広い地球でどうやってペンを探すか考えてはいたが、そいつはペンの探知機も兼ねてんのか?」

「そうだよ! ペンが近くにあるとこうやって音が鳴って光り出すの!」

 

 

 千空と大樹によく見えるように、ペンダントとプリンセススターカラーペンを取り出すと互いに近づけます。

 すると、ピロピロリンと鳴って白くペンダントが輝き出しました。

 

 

「このペンダントはね、羅針盤みたくこうしてペンの場所を教えてくれるの! 宇宙中にペンが散らばった時も、ペンダントのおかげでペンが落ちている星に辿り着けたんだよ!」

「うおおおお! このストーンワールドでどうやってペンを探し出したらいいか全然思い浮かばなかったんだが、これなら残り全部余裕で探し出せるぞ!!」

「あ"ぁ。だがまあ、全部日本にあるって考えるのは止めた方が良さそうだな。3700年も経てば地形が大きく変わっている。加えて雨風の影響とかで遠くへ流されたかもしれねえからな。

 けどいずれは、全ての人間を石化から復活させるために世界を巡るんだ。災い完全復活までまだ数年猶予があるし、地道に行こうぜ。

 なあ、オヨルン星人?」

 

 

 ひかるが実演している横で、何かを考え込んでいたララは試すように問いかけた千空に「オヨ!? ……もちろんルン」と、またもぎこちなく頷きました。

 

 

「……ララ?」

「それより、ごはんを食べたらさっさと寝るルン! 明日のためにも今日は早く体を休めた方がいいルン!」

「ああ! 食料を確保したり復活液を作ったり、やることはたくさんあるからな!」

「……そうだな」

 

 

 先程から少し様子がおかしいララを心配するひかるですが、隠し事など一切ないと示すかのように、ララはしきりに就寝を進めます。

 大樹は大きく頷いていますが、どこかララが空回っているのに、大樹以外の全員が気づいていました。

 

 食事を済ませ火を消した後、ひかるとララはロケットへ向かいます。

 ひかるやララにとっては寝る時間が早い気がしますが、明かりが火を除いてほとんどないこのストーンワールドだと、夜にやれることが限りなく少なくなってしまうのです。

 

 ところでララのロケットには、1年程前までに5人の少女達がそれぞれ使っていた専用部屋があり、突然の別れで片付ける暇がなかったためにそのままになっています。

 ひかるや他の仲間達の部屋は、ララが定期的に掃除しているので綺麗に保たれているままです。

 それを聞いたひかるは、自分達にいつ会えるか分からないのに掃除してくれていたのがとても嬉しくて、満面の笑みで「ありがとうララ!」と感謝の気持ちを述べました。

 その笑顔を見てララは(また、会える日を夢見て大事にしておいて良かったルン……)と、そっと微笑みました。

 

 就寝の時間となって、真っ先にお休みの挨拶を言ったのはフワ。「お休みフワ~」と眠たそうにフワフワ漂っています。

 ひかるは腕を振りながらお休みと挨拶をし、ララは頭だけを千空と大樹の方に向けながら、やはりどこかぎごちなくお休みルンと言いました。

 大樹もまたブンブンと大きく腕を振りながら大声で、千空は腕を組みながら静かに挨拶を返しました。

 その直後、ララは2人に気づかれないように、そっとひかるとフワに耳打ちしました。

 

 

「ひかる、フワ。千空と大樹が寝静まった後、こっそり外で話したいことがあるルン」

「……? うん、いいよ」

「分かったフワ!」

 

 

 そうしてロケットの中に2人の少女が入って行ってから、しばらく。

 ツリーハウスで「仲間も増えたし明日からまた頑張るぞ!」と寝る前なのに、やる気満々の大樹に千空は声をかけます。

 

 

「大樹。ちょっと付き合え」

「何かするのか?」

「なあに。ちぃっと夜のお散歩するだけだ」

 

 

 そう言って千空は目を細めてどこか懐かしそうに、そしてほんのちょっとだけ寂しそうに夜空を見上げます。

 

 

 今日はちょうど、雲一つない満月の日。

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくしてから、ツリーハウスから人が起きている気配がしなくなったのを確認してから、ひかるとララとフワはロケットから出てきました。

 ララがご丁寧にロケットをキャリーモードにして、愛用の乗り物を小さな白い玉に変えてから。

「こっちに行くルン」とララに導かれるまま、ひかるは夜の森の中を歩いて行きます。フワはあれからパッチリと目が覚めて、ララが何をしようとしているのかずっと気になって、ソワソワしながら2人の後を着いて行きます。

 幸いにも星と月の光のおかげで、スイスイとまではいきませんが、特に支障なく森を歩くことができています。

 

 しかし、その道中にいくらひかるとフワがララを呼びかけても、どこへ向かうのか尋ねても、彼女は無言を貫いたままなので互いに顔を見合わせました。

 返事をちっともしてくれないので、ひかるもフワもまた何も言わなくなってからしばらくして。

 異世界から来た少女達は、一際大きな樹の前で立ち止まりました。

 

 奇しくもそこは昼間にひかるが通り過ぎた、少女の石像を守るかのように大地に根を張る大樹の前でした。

 

 

「ねえララ。今日のララ、途中から元気がないように見えるよ。スターパレスでおうし座のスタープリンセスと話した時から。……ララは何が不安なの?」

 

 

 樹を挟むようにララと向かい合っているひかるは今度こそララに尋ねます。

 

 

「ひかるは、千空と大樹を巻き込んでいいルン? このままプリンセススターカラーペンを探すのに巻き込んだら、ノットレイダーと戦っていた時みたいに、また周りや千空と大樹に被害が及んでしまうかもしれないルン……。

 だから私達は2人から離れて、残りのペンを探すのに専念すべきだと思って、ここまでやって来たルン」

 

 

 ペンダントを両手で包み込むように持ちながら、不安そうに口から漏らすララの言葉の意味が、ひかるには痛い程に分かっていました。

 

 ノットレイダーと戦っていたあの頃は、12本のプリンセススターカラーペンが宇宙中に散らばってしまったため、フワの持つワープの力を使い様々な星を巡ってペンを回収していました。

 たまに、地球にいる間にペンを手に入れたノットレイダーの方からやって来て、彼らからペンを取り戻すこともありました。

 ペンを全て回収した後はフワを執拗に狙ってきたため、地球で戦うことが必然的に多くなっていきました。

 

 その戦いの最中、ノットレイダー達はダークネストから貰った力を使って、人の持つ想像力(イマジネーション)を塗りつぶして【ノットリガー】と呼ばれる怪物に変貌させたり、人や動物から負の感情や思い(歪んだイマジネーション)を抜き取り武器に変えてしまったり、歪んだイマジネーションを増大させて巨大な【ノットレイ】に変えてしまったりと、地球・宇宙関係なく多くの人が巻き込まれてしまいました。

 その中にはひかるやララ、仲間達の家族や友達がいたのです。

 

 それらはプリキュアの力で無事に浄化され、怪物や武器の素体にされてしまった人達はその時の記憶がないまま、元の生活に戻ることができました。

 しかし時には、ノットレイダーの攻撃で周りが破壊されてしまうことも……。

 人や建物がいる付近でノットレイダーと遭遇した際は、周りに被害が及ばないように誘導する時もありましたが、その場で戦わざるを得ない時の方が多かったのです。

 

 

(ララの言ってること、分かるよ。アレは人の『心』じゃなくて『物』が素体になっているみたいだけど、あちこちに石像があるこの世界で災いの眷属と戦うことになったら、戦いの余波で壊されちゃうかもしれない……。それでも……!)

 

 

 目を閉じながらあの戦いの日々とストーンワールドに来てからのこと、夢で見た日常を思い返すひかる。

 そして、現状にめげずに大きな夢を抱き続ける千空と大樹を見ていて抱いた想い。

 

 少しの間、されどしっかり考えて答えを出した少女の開かれた桃色の瞳には、強い決意が宿っていました。

 

 

「私ね、この世界に来る前に夢を見たんだ。千空君や大樹君達が過ごしていた当たり前だった(・・・)日常の夢。その日常があっけなく壊れてしまった、悲しい夢も」

「ひかると大樹が言っていた夢のことルン?」

「うん」

 

 

 頷いてひかるは、大きな樹に守られている少女の石像を見やります。

 

 

「大樹君は夢の中で、杠さんにとても大事な話をしようとしていたんだ。だけどその前に石化の光が現れて大樹君は、杠さんを近くの樹に掴まるように言って光から守ろうとしたの。……でも、大樹君も杠さんも、石になっちゃった」

 

 

 告白の件はぼかしたまま、ひかるは少女の石像に歩み寄ってそっと頭を撫でました。

 

 

「最初来た時は混乱してて通り過ぎちゃったから気づかなかったけど、よく見たらこの人は杠さんだ……。そっか……、ずっとこの樹が守ってくれていたんだね」

「この石像が杠ルン? 近くで見るとよくできた人の石像に見えるけど、どこか生きているようにも見えるルン。不思議で少し怖いルン……。まるで、かつての惑星レインボーの人達みたいルン」

「フワ……。杠も早く大樹に会えたらいいのにフワ」

 

 

 悲し気に眉を下げるララも、石に変えられた杠に近づいて頬にそっと触れます。ひかるの話から(恋愛については全く知らないけど)杠が大樹にとってとても大切な人であると悟ったフワもまた、杠の頭をヨシヨシと小さな手で撫でます。

 そうして思い出すのは、かつてノットレイダーの幹部だった科学者の【アイワーン】のせいで暮らしていた人々がある日突然石に変えられてしまった、仲間の故郷のこと。

 

 

「そう言えばまだ聞いていなかったけど、惑星レインボーはあれからどうなったの?」

「石に変えられてしまった人達はアイワーンの研究のおかげで皆元に戻ったって、こないだ訪れた時にユニから聞いたルン。

 鉱石しかなかったあの星に畑を耕す研究をアイワーンが進めているって、ユニと惑星レインボーの人達は皆喜んでいたルン」

「そうなんだ……。良かった。ユニとアイワーンとレインボーの人達が仲良くなって。いつか、惑星レインボーの人達とお話したいな……」

 

 

 石化から逃れた、たった1人のレインボー星人と悪の科学者の軌跡を思い返しながら、ひかるは心の底から安心しました。

 

 最初は、惑星レインボーの人々を石に変えたことに何の罪悪感も抱かなかったアイワーンでしたが、猫の獣人の少女で惑星レインボーの唯一の生き残り、【ユニ】と衝突する内に彼女の深い悲しみを知り、ユニと元に戻ったレインボー星人にきちんと謝ることができるようになりました。

 元々孤児でたまたまノットレイダーのいる星に流れ着いたアイワーンですが、ユニが言うには、今の彼女はノットレイダーにいる時よりもずっと幸せそうだそうです。

 

 

「……それでね。この世界に来た時、夢のこともあったからここが元いた地球で、私の知らない間に家族や友達が皆石に変えられてしまったんだって思って、とっても怖かったし寂しかった。

 きっとそれは1番最初に目覚めた千空君も、杠さんを想い続けた大樹君も同じ、ううん、それ以上だと思う」

 

 

 話を戻したひかるは、最初にストーンワールドにやって来た時を思い返します。

 大樹に出会うまでの間、それほど長い時間ではなかったとは言え、人が誰もいない森の中を彷徨っている時、心細さと不安と恐怖をずっと感じていました。

 

 あんな思いは、二度としたくない。

 

 

「オヨ? 2人同時に石化から解かれたじゃないルン?」

「うん。千空君はずっと考え続けていたって言うか、3700年もの間ずっと日にちを数えていたから、そのおかげで大樹君より半年早く目覚めることができたって言ってたよ。キラやばだよね!」

「さ、3700年もずっと数えてたルン!? 流石に今の私でもAIを使わないとできないルン!」

「そうだよね。しかも石化している間は、暗闇に意識を持っていかれないように頑張っていたみたいだし……。

 おまけに、石化から解ける時に体にひびが入ってしまうみたいなんだ。2人とも言っていなかったけど、3700年前にはなかったひびが顔に入っていたから。

 ……石化している時どんなに怖かったか、誰もいない文明が滅んだ世界で1人で生きるのがどれだけ寂しくて大変か想像しきれないし、私だったらどっちも耐えられる自信なんて全然ないよ。でも」

 

 

 それでも立ち上がって諦めないでここまで頑張ってきた……ううん、今も頑張っている千空君と大樹君がキラやば! って思ったんだ! 

 それに、石になってしまった人達を私も助けたい! 

 だから、千空君と大樹君のお手伝いができないままここから離れるなんて、できないよ! 

 

 

 そう続けたひかるの瞳は、星と月の明かりを受けてキラキラと輝いていました。

 さながら、何千年経とうと輝き続ける星に手を伸ばそうとする純粋な子供のごとく。

 

 ララはその瞳に見とれます。

 出会った時から変わらずある、自分の中の『心の宇宙』を広げてくれたひかるの(イマジネーション)に。

 

 

「……私もストーンワールドに来たばかりだけど、来てみて初めて分かったルン。『ストーンワールドを救って』って言葉の意味を。それは災いのこともそうだけど、この地球(ストーンワールド)で石にされてしまった人達のことも言っていたと思うルン。

 私だって本当は2人に協力したいし、この世界の人達を放ってはおけないルン。でも、この世界の人達を私達の戦いに巻き込みたくなくて黙って行っちゃったルン。

 ひかる、1人で考え込んで勝手に動いてごめんルン。朝になったら千空と大樹にも謝らないといけないルン……」

「そんなことないよ! ララの言うことも正しいし、やりたいことを改めて決められたし! やっぱり、ララはしっかりしてて頼りになるね。ありがとうララ!」

 

 

 ララが本当の気持ちと少しの後悔を暴露すると、ひかるは改めて自分のやるべき/やりたいことを自覚できたと、出会った時から変わらないララの慎重さに感謝します。

 

 

「ルン……! じゃあそろそろツリーハウスに戻って……オヨ!?」

 

 

 ひかるのおかげで先程から固くなっていた表情をようやく緩めたララは、元の場所へ戻ろうとして樹の根っこに引っかけてしまったのか転んでしまいます。

「ララ、大丈夫!?」とひかるに声をかけられ、うつ伏せから仰向けに体制を変えたララは差し出された手を掴もうとして────

 

 

 ピロピロリンと軽快な機械音が静かな森の中に響き渡りました。

 

 ひかるとララと、空気を読んでひかるが話しだしてからずっと黙り込んでいたフワが音の発信源の方を見てみると、ちょうど水平(・・)になったララのペンダントが光り輝いていました。

 

 

「ララ、これって……!」

「ルン! これは『ふたご座のプリンセススターカラーペン』ルン!」

 

 

 ペンダントに描かれた星座のマークが知らせる2本目のペン。場所を特定するために音と光が強くなる方向を探すと……。

 

 

「えぇぇ!? ペンはここにもあったの!?」

「オヨ! もう2本目ルン!」

「ふたご座発見フワー!」

 

 

 ペンダントが示すのはなんと、杠を守る大きな樹の天辺。よくよく目を凝らすと、樹の枝に混じって少々見えにくいですが、白く輝くペンが木の枝に挟まっているのが見えました。

 

 

「早速回収しに行くルン!」

 

 

 そう言ってララが樹をよじ登ろうとした、正にそのタイミングで。

 

 突然、強い風が吹き荒れました。

 ひかるとララとフワはその強さに、思わず目をつぶってしまいます。

 

 

「見ーつけた! どうもこんばんは、プリキュアのお嬢ちゃん達」

 

 

 風が止んだ後にかけられた声に驚いて、その方向を見ると1人の男がそこに立っていました。

 けれどその風貌は、頭に一対の角がある丸々と太ったオレンジ色の肌の巨漢の、童話に出てくる『ランプの魔人』のようなこの世のものならざぬモノ。

 

 

「オレは【ラブー】。……いきなりで悪いけどさ、消えてくんない?」

 

 

 フランクな態度や言葉とは裏腹に、ひかるとララとフワを鋭く睨み付けるラブーと名乗る魔人。

 

 

「あなた、まさかスタープリンセスが言ってた災いの眷属なの!?」

「あ~スタープリンセス? 『あいつ』が石に変えたって言っていたのに、話が違うじゃないの。まあいいか。また石に変えればいいだけの話だし。

 そうだよ。なんて聞かされているのか知らねえけど、俺は偉大なる『あのお方』の眷属ってわけ」

 

 

 もしやと察したひかるが確かめるように尋ねると、すんなりとラブーは肯定しました。

 

 

「スターパレスを襲ったのもあなたルン!? まさか、この世界の人達を石にしたのも……!」

「いんや。俺は1回もそこに行ったことないね。それにさ、俺()はあのお方が来る前に、この地上から邪魔者をお掃除しとくってのが仕事なわけなのよ。まだ数年の余裕はあるけども、『前』みたいになりたくないからね。

 だから、何の力も持たない地上の者なんかに構ってる暇なんてないのさ。

 おまけに、俺らはまだ復活したばかりで本調子じゃないんだよね。この体(・・・)にも馴染んでないしさ。そのせいで前みたいに『結界』は張れないけども……。

 出てきな! ドンヨクバール!」

 

 

 そう言ってラブーが指をパチンと鳴らすと、突如虚空にひびが入りそこから黒い怪物が顔を覗かせます。

 するとひかる達の後ろにいた、3700年もの間1人の女性を守り続けてきた大きな樹が石像と一緒に、怪物の口の中に吸い込まれてしまいました。

 

 黒い怪物はそれらをパックンチョすると、地上に降り立ちその姿を変えます。

 そうして現れたのは、大きな樹の幹に赤いバッテンの付いた黒い顔が生えた、この世界のモノざる怪物。手の代わりと言わんばかりに長く伸びる枝の1つには、杠の石像が抱えられていました。

 

 

「ドンヨクバール!!」

「ああ! 杠さんと樹が!」

「こいつは【ドンヨクバール】。我らが『ムホー』の力が生み出す魔物さ」

 

 

 ひかるが悲鳴を上げているのにも関わらず、ラブーは自慢げに語り出します。

 

 

「ムホー……?」

「そうさ。ムホーは地上のあらゆる道理を超え、強大なエネルギーを自在に操る力。これはよ、俺達にとっちゃできて当然のものなのよ」

「そんなこと聞いてないルン! 今すぐに「杠を離せ!!」……ルン?」

 

 

 自慢げなラブーの態度にカチンときたララが言い出すよりも先に、杠の解放を命じる大きな声。

 突然響いたその声にこの場にいる全員がその方向に首を向けると、そこにいたのは怒りの灯る瞳でラブーとドンヨクバールを睨む大きな人影。

 

 

「「「大樹/君/ルン/フワ!?」」」

 

 

 なぜツリーハウスで寝ているはずの大樹がここに……? 

 ひかる達が疑問に思っているのを余所に、大樹はもう一度「杠を離せ!! 杠をずっと守ってくれていたそのクスノキもだ!」と、ラブーに言います。

 

 

「やだよ。だってさ、さっさとプリキュア(邪魔者)を消しちゃいたいからね! やれ! ドンヨクバール!」

 

 

 ラブーは大樹の願いを当然のごとく拒否。まずは、目の前のうるさく取るに足らない存在を排除しようと、ドンヨクバールに攻撃を命じます。

「ガッテン!」と答えた怪物は大樹を薙ぎ払おうと、大量の枝を勢いよく振りかぶります。

 枝が急速に自分に迫ってきたので、回避が間に合わないと判断した大樹は、衝撃に備えて両腕をクロスさせて身構えます。

 

 

「危ないフワ! フーワープ!!」

 

 

 その寸前で、フワが駆け寄り彼にタッチしながら呪文を唱えると、2人の姿があっという間に消えてしまいました。

 大樹を薙ぎ払うはずだった枝は見事に空振りし、ドンヨクバールは「ドド!?」といきなり大樹が消えたのに混乱します。

 ラブーはフワのワープを見ても、「あらら。また逃げられたよ。まあ、あいつはどうでもいいけれども」と、特に気にしていないようでした。

 

 

「フワ、ナイスだよ!」

「ん!? いつの間に移動したんだ、俺は!?」

「フワがワープの力を使って大樹を助けてくれたルン! 無事で良かったルン……」

「そうだったのか! フワ、助けてくれてありがとう!」

「フワ!」

 

 

 件の彼は急に移動したので辺りを見渡して軽く混乱しており、ドンヨクバールと少し離れた所にいるひかるとララの近くに移動していました。

 ひかるはフワに親指を立てて、ララは胸を撫で下ろします。フワは少女達の説明で混乱が収まった大樹の礼に得意気に。返事を返しました。

 

 実はフワには、かなり距離が開いている地球と星空界を一瞬で移動できる程の凄まじいワープの力があり、その力のおかげでひかる達は気軽に地球と星空界を行き来できていました。

 さらに、瞬間移動を駆使するあるノットレイダーの幹部と対峙した後は、その動きを参考にして自分や他人を短距離テレポートさせる技も身に付けました。

 その力もダークネストとの戦いの後に失われてしまいましたが、ある程度力が戻った今は再びワープできるようになったのです。

 

 

「でもなんで大樹君がここに……?」

「オヨルン星人があからさまに挙動不審だったんでな。ついてきたんだよ」

「オヨ!? 千空までいるルン!?」

 

 

 疑問に思うひかるの後ろからもう1人の少年の声が聞こえてきて、ララは触角をギザギザにさせながら驚きで飛び跳ねます。

 

 

「大樹テメー、何があっても飛び出さないようにって……と言いてえところだが、流石にこの状況じゃあ、じっとなんてしてられねえわな」

「千空すまん! だが杠が!」

 

 

 杠の石像を抱えたままのドンヨクバールを睨みつけている千空に謝る、両の握り拳を震わせる大樹。

 その拳に、温かみのある手が重ねられます。

 

 

「大樹君、大丈夫だよ!」

「ひかる……」

 

 

 左側には大樹を安心させるように微笑むひかるが。

 

 

「杠は私達が助けるルン!」

「ララ……」

 

 

 右側には大樹を励ますように笑顔を見せるララが。

 

 

「2人とも……すまん! 杠を頼む!!」

「「任せて/ルン!!」」

 

 

 2人の少女に頭を深く下げる大樹。下げられた側は揃って頷くとフワに「もう一度大樹君と千空君を守ってて!」と頼むと、あれから動きを見せない異形のモノの元へ向かって行きました。

 

 

「作戦会議は終わったかい、お嬢ちゃん達?」

「……返してもらうよ! 杠さんと」

「杠をずっと守ってきたクスノキを!」

 

 

 ひかるとララは即座にペンダントを構え、本日2度目の変身をします。

 

 

「スターカラーペンダント! カラーチャージ!!」

 

 

 先程の宇宙空間の時と同じように、『なりたい自分』をペンで描いていきます。

 

 

「スタートゥィンクル☆スタートゥインクルプリキュア☆アアァ~」

宇宙(そら)に輝くきらきら星! キュアスター!!」

「天にあまねくミルキーウェイ! キュアミルキー!!」

 

 

 宇宙を守る伝説の戦士が、今度はストーンワールドの大地に再臨しました。

 

 2人に向けてドンヨクバールは、大樹に向けたのと同じように大量の枝を勢いよく伸ばします。

 

 

「「はぁ!」」

 

 

 2人同時に大きくジャンプして枝を躱すと、スターは星形の足場を作りそこから勢いをつけてドンヨクバールに突撃。

 ミルキーもまた、迫りくる無数の枝を躱しつつも枝にうまく飛び移りながら、杠の元へと向かいます。

 

 

「やあ!」

「ルン!」

 

 

 星のバリアで枝を弾き、それでも弾ききれなかった分はミルキーの放つ電撃とバリアで対処してもらい、スターはノーダメージで杠が抱えられている枝の元へ辿り着きました。

 

 

「杠さん、今助けるからね!」

 

 

 石にされていて意識はないかもしれないけど、それでも気持ちが届くようにと杠に声をかけて、スターはペンを構えます。

 

 

「プリキュア! おうし座・スターパン……」

 

 

 速攻で決着を付けるために大技を出そうとした、その瞬間。

 

 

「ドンヨクバール……!」

 

 

 ドンヨクバールが杠の石像を構えたのです。自身を守る盾のごとく。

 杠を人質にするかのような行動に、スターは一瞬動きを止めてしまいます。

 1年近く戦ってきた伝説の戦士でも、少女の石像を人質にされては攻撃を止めざるを終えませんでした。

 なぜなら、自分が放つスターパンチで石像が砕けてしまう可能性があったからです。

 

 ────しかしそんな戸惑いは敵には関係なく、戦いの場で一瞬だけとは言えスターは、致命的な隙を見せてしまったのです。

 

 

「スター、危ないルン!!」

「……は! きゃああああ!」

 

 

 ミルキーの忠告が聞こえるも間に合わず星のバリアを張る暇もなく、横から大きく振りかぶってきた枝に直撃してしまい、星々が輝く空中へ吹っ飛ばされてしまうスター。

 

 

「スター……!! わああああ!」

 

 

 重たい攻撃をまともに喰らってしまったスターを心配そうに見上げるミルキー。彼女もまた、仲間を心配した隙を突かれて放たれた枝の攻撃で、大きく吹き飛ばされて地面に激しく衝突してしまいます。

 

 

「スター!!」

「ミルキー!!」

「フワー!!」

 

 

 その惨状に観戦することしかできない千空と大樹とフワは、思わず大きく声を上げてしまいます。

 そして3人の見ている前で、スターとミルキーは体勢を立て直す暇もなく、大きな枝に巻きつかれてしまったのです。

 

 

「く、苦しい……」

「オ、オヨ……」

「あらら……。そっちのプリキュアの力はこんなもんかい? ほんの小手調べのつもりだったのにさ、ちょっと石ころを盾にしただけでこの様だねえ……」

 

 

 枝に締め付けられて苦しむスターとミルキーを嘲笑うラブー。

 

 

「い、石ころって……!」

「杠さんは石ころじゃない! 大樹君にとってとても大切な人なんだよ!」

「人、ねえ……。そういや、石に変えたとか何とかお嬢ちゃん達話してたねえ……。俺には関係ないけどさ! トドメをさしてやりな! ドンヨクバール!!」

 

 

 杠に対するあんまりな物言いに憤慨するスターとミルキーですが、それでも平然と構えているラブーはドンヨクバールに命令を下します。

「ガッテン!」と頷いたドンヨクバールは、枝の締め付けをさらに強めます。

「うぐぐ……」とさらに苦しみだすスターとミルキー。

 

 

「スター、ミルキー! 今助けに行くぞ!! うおおおおおおお!!」

「あの雑頭! 何の策もなく向かって行っても攻撃くらうだけじゃねえか!」

 

 

 千空が止める間もなくドンヨクバールに突進していく大樹。

 その一直線で単純な動きに対し、羽虫を払うかのように枝の一振りだけで大樹をはじき飛ばすドンヨクバール。

 今度はフワが駆けつけるのにも間に合わず、近くの木に背中を強く打ちつけてしまいます。

 

 

「フヘヘヘ……。プリキュアならともかく、何の力もない人間如きが俺達に勝てる訳ないじゃない」

「グ……」

「大樹!!」

「大丈夫フワ!?」

「千空、フワ……。これぐらいどうってことない!! まだまだ平気だ!! それより、杠とスターとミルキーを放せ!!」

 

 

 心配して千空とフワが駆け寄りますが、痛みがあるもののまだまだ余裕を感じる大樹は、2人を安心させるように微笑みかけると、再度ドンヨクバールに3人を解放するように言います。

 

 

「プリキュアもそうだけどさあ、人間はこんな物(・・・・)のために頑張るものなのかね? 面倒くさいねえ」

「こんな物なんかじゃない!!!」

「「大樹/君……」」

「……」

「フワ……」

 

 

 ドンヨクバールが未だに抱え続けている杠の石像を呆れた目で見るラブーに、強い怒りを見せる大樹。

 縛られたままのスターとミルキーも、千空もフワも彼を心配そうに見つめています。

 

 

「石にされていた3700年の間、ずっと杠に想いを伝えることだけを考え続けていた」

 

 

 突然、身の上話を始めた大樹を怪訝そうに見つめるラブー。その視線にも関わらず大樹は話し続けます。

 

 

「何十年、何百年、何千年……。気が遠くなりそうだった。いつになったら石化が解けるのか、もしや永遠にそのままなのではないか。そう考えた時もあった」

 

 

 石になっている間、見えていたのは辺り一面の闇だけ。何もないあの空間で正しく、大樹は『一人(独り)』でした。

 

 

「あの絶望的な暗闇の中で一人生きていられたのは、杠のおかげなんだ。

 あの時、クスノキに掴まった杠が大丈夫だって信じていたから耐えられた。──────杠にずっと守られてきたんだ、俺は」

 

 

 中学の時、千空が作ったロケットに乗せるための編みぐるみを作って欲しいと手芸部に頼みに行った時、快く承諾してくれた彼女。

 そのまま、ロケットの打ち上げにも立ち会ってくれた少女。

 打ち上げられたロケットから出てきた編みぐるみが宇宙にいる映像を見て、少し照れながらも嬉しそうにしていた女の子。

 その縁で、千空の実験を自分と一緒に手伝うようになったウルトラ器用なあの子。

 手芸部を覗いた時にたまたま見かけた、手際よく服を何着も作っていた根気のある女性。

 告白しに向かう時にちらっと見えた、折れかけたクスノキの枝にリボンを結んでいた女子生徒。

 

 

『ここにもう1人、その考えなしの恥ずかしい子がいます。ワオ!』

 

 

 そして、石化事件が起きる数日前。

 石にされてしまったツバメを遅刻覚悟で連れて行ったものの、まだ開いていなかった動物病院の前でばったり会った、自分と同じくツバメの石像を運んできた、とても優しい子。

 

 どれだけ時が経っても想いを伝えようと決めた、大好きな人。

 

 

「だから今度は、俺が守りたい! 杠と、杠を流されて壊れないように守ってくれたクスノキを!! そして、杠とクスノキを助けようとしてくれた、スター(ひかる)ミルキー(ララ)も!!!」

 

 

 ドンヨクバールにされてしまったクスノキと、囚われたままの杠の石像に想いの丈をぶつける大樹。

 長い時を経ても消えることのない強い想いを感じ取ったフワは、そっと彼のそばに寄りました。

 

 

「……面倒だね。プリキュアより先にこいつを始末しちゃえ!!」

「ガッテン!!」

「「「大樹/君!!!」」」」

 

 

 その尊い想いに心からうんざりしたラブーは、今捕まえているプリキュアよりも先に大樹を倒すようにドンヨクバールに命じます。

 命じられたドンヨクバールはもう一度枝を大きく振りかぶり──────

 

 

 

「俺はこの世で一番大好きなあの子を……、杠を、守る!!」

 

 

 

 自分に迫る枝を真っ直ぐに見据えながら宣言した大樹。その強い意志を感じたフワは、両耳に付いたリングを光り輝かせます。

 

 

「フーワァァァ!!」

 

 

 やがてその光は大樹を包み込むように広がり、それにひるんだドンヨクバールは枝の攻撃を中断してしまいます。

 

 

「こ、この光は……!?」

「も、もしかして……!」

「ルン! 私達の時と一緒ルン!」

「いったい何が起きているんだ!?」

 

 

 ラブーが戸惑っている一方で、スターとミルキーはよくよく身に覚えのある現象に驚きを隠せません。

 千空にも、何が起きているのかさっぱり分かりません。

 

 一方で、光に包まれた大樹の目の前に突然トゥインクルブックが現れました。

 その開かれたページから、『青いペンダント』と『先端にカラフルな6つの星がついた透明な羽の形をした緑色のペン』が出てきました。

 大樹はそれを見て一瞬驚きましたが、この力があれば皆もクスノキも、そして杠も守れる。

 そう確信した大樹は、力強くペンを握りしめます。

 

 すると、スターカラーペンが輝きを放ちました。そして────。

 

 

 

 

 

 

 

 ペンダントの蓋が開き、スターやミルキーの時と同じようにどこからかホップなBGMが流れてくると、大樹の周りが緑色が多めのカラフルな異空間へと変わります。

 同時に大樹の着ていた服が動物の毛皮でできた服ではなく、鮮やかな緑のシャツとズボンに変わりました。

 そして掲げたペンを数回振ると、その羽飾りが白い輝きを放ちます。

 

 

「スターカラーペンダント! カラーチャージ!!」

 

 

 ペンをペンダントに挿入したのとほぼ同時に大樹のおでこから左目までに伸びていたひびが消え失せ、ペンダントの中央部分が緑色に発光します。

 そのままペンダントからペンを離して、自分を囲うように木の葉のマークを描きます。

 すると、大柄な彼を覆い隠すように大量の若葉が吹き乱れました。

 ペンをペンダントにタッチすると、ペンダントが純粋な白に輝きを変えます。

 

 

「きらめく~ほしの力で~あごかれの~わたし描くよ~」

 

 

 力強く舞いながらペンで空間に白い線を描くと、その線が大樹の両手と両足に蔦が生えるかのごとく纏わりつき、葉っぱの飾りが付いたグローブと短めのエメラルド色のブーツに変化します。

 

 

「トゥィンクル☆トゥインクルプリキュア!」

 

 

 今度はその場でグルッと一回転すると、ペンから出た白い線が木の葉のように変わり、上半身に張り付くように覆うと半袖の緑のシャツに変わりました。

 同時に、大樹の腰の辺りに紫のペンケースが装着されます。

 

 

「トゥィンクル☆トゥインクルプリキュア!」

 

 

 周辺に舞い散る葉が大樹のズボンを覆うと、黄緑色のズボンに変化。

 ペンの先から星を出して、自身の腰よりちょっと上の辺りをグルリと一周分なぞると、星飾りの付いた茶色のベルトが現れました。

 

 

「トゥィンクル☆トゥインクルプリキュア!」

 

 

 その次に、ブーツとシャツの真ん中にそれぞれペンをタッチすると、蕾が湧いて出て白い花が次々に開かれていきます。

 その後、両耳にペンを当てて葉っぱのイヤリングを付けてそれから、宙で森の木こりを思わせるような帽子を描くとそれが本物になり、頭に被ります。

 すると、帽子に流れ星の飾りが付くと同時に、彼の髪の色が新緑に変わります。髪の量も変身前より少し増えています。

 それと同時に、両目に緑色のハイライトが付きました。

 その次にペンダントにペンを当てると、真ん中部分が青、白、青、緑と次々に変わり、ペンダントが青いブローチに変化します。

 

 

「スタートゥィンクル☆スタートゥインクルプリキュア☆アアァ~」

 

 

 背後で大量の流れ星が天に昇る中、仕上げと言わんばかりに宙に今度は大きな四角を描くと、それが色とりどりの星とロケットが描かれたマントに変わり、肩に装着されます。

 そして、星の舞台にドンッと思いっきり着地すると、ペンケースの中に変身スターカラーペンがしまわれていきました。

 

 

「星空を守る大いなる樹! キュアウッド!!」

 

【挿絵表示】

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 大地に力強くそびえ立つ樹のように、ドッシリ構える大樹のプリキュア。

 

 この瞬間、石の世界初のプリキュアが誕生したのです。

 

 

 

 

「な!? プリキュアが増えただと!?」

「キラやば~☆キュアウッド……!!」

「ストーンワールドのプリキュア……!」

「大樹がプリキュアに……!ククク、今日は本当に予想外の連続だな!」

 

 

 突然現れた新たなプリキュアに、三者三葉の反応を見せるスター達。

 当のキュアウッドとなった大樹は

 

 

「うおおおおお!? なんだこれは!? 変身しているし、なんか勝手に歌っていたぞ!?」

 

 

 と、大きく変わった自分の格好と歌いながらの変身に、自分の体をペタペタ触りながら戸惑っていました。

 

 

「……まあいい。こいつも倒してしまえばいいだけだから。やれ! ドンヨクバール!!」

 

 

 突然の出来事に固まっていたラブーは復帰すると、ドンヨクバールにウッドを攻撃するように命じます。

「ドンヨクバール!!」と勢いよく鳴き声を上げながら放たれた枝の攻撃にウッドは咄嗟に、思い切りジャンプして躱します。

 

 

「うお!? 千空、空を飛んでるぞー!!」

 

 

 変身する前より遥かに高い所までジャンプできたのに驚きますが、それだけでなくなんと、背中のマントによって夜空を自由自在に飛べるようになっていたのです。

 これは変身した時に、なんとなく頭のどこかで分かっていたことですが、それでも驚きます。

 

 

「あ"ぁ。バッチリ見えてるわ。……ガチモンのスーパーマンじゃねえか、大樹」

 

 

 千空は、満月を背にして飛び回る大樹(ウッド)に嬉しそうに目を細めます。

 そして、ドンヨクバールの天辺に目を向けてから「フワ、テメーに頼みたいことがあるんだが……」と、そばにいる白い妖精に話しかけました。

 

 千空とフワの会話を知らないウッドはそこから急降下して、まず最初にとスターとミルキーを救出しに向かいます。

 ウッドも捕えようとたくさんの枝が伸ばされてきますが、

 

 

「プリキュア! ウッドシールド!!」

 

 

 木の枝が大きく伸びるように両腕を広げると、ウッドの体全体を覆うように木の葉のマークが描かれたバリアが張られて枝が全て弾き返されます。

 バリアに戸惑ったドンヨクバールの一瞬の隙をつくように、スターとミルキーに接近すると縛られていた枝を通常よりさらに倍増された腕力で剥がします。

 

 

「ウッド、助けてくれてありがとう!」

「ありがとルン! これであとは……」

「ああ! 杠だけだ!」

 

 

 3人のプリキュアが見つめる先には囚われの石像が。3つの視線に気づいたドンヨクバールは、先程と同じように盾にするように石像を構えます。その瞬間。

 

 

「よっし! 2本目のペン、ゲットしたぜ!!」

 

 

 突然自分の頭(正確には1番上の枝)から聞こえてくる1つの声。その声に驚いたドンヨクバールは声がした先を見ながら、枝を伸ばそうとして────。

 

 

「今だ! キュアウッド!」

「……ああ! 今行くぞ、杠!!」

 

 

 親友の意図を察したウッドはマントを翻しながら、杠の元へと一直線に飛んで行きます。

 それを黙って見過ごすドンヨクバールではなく、今までで1番多くの枝を振りかぶろうとしますが。

 

 

「ふん! ウッドの邪魔はさせないよ!!」

「ルン! 何度も同じ手は食らわないルン!!」

 

 

 スターの星のバリアとミルキーのハートのバリアに阻まれてしまいます。その間にウッドは目的の場所へと辿り着き

 

 

「杠……! 良かった、どこも壊れてない!!」

 

 

 囚われのヒロインを助け出して、少し涙ぐみながらもお姫様のように抱えながら地上に降り立ちました。

 

 

「大樹……いや、ウッド。杠救出大作戦、大成功だな!」

「ああ! 千空が気をひいてくれたおかげでな。助かった! ……ところで、どうやって千空はあそこに?」

「ククク……。さっきテメーが体験したばっかじゃねえか。こいつの力だよ」

 

 

 握り拳を向ける千空に杠を降ろしたウッドも握り拳を向けて、互いの拳を軽くぶつけ合います。

 杠救出のきっかけを作ってくれた彼にお礼を言うと、ドンヨクバールの頭にいた理由を尋ねます。

 すると千空は、そばにいた妖精を撫でながらそちらに目を向けます。

 撫でられているフワはちょっと気持ちよさそうに「フワ」と、返事をしました。さっきより幾分か元気がなくなっているように見えますが、どこか誇らしげにしています。

 

 ちなみに、ドンヨクバールがウッド達に気を取られている間に、千空とフワはもう一度ワープして元の位置に戻りました。

 

 

「ところでドンヨクバール。テメーの元となったその樹の天辺にはある物があったんだよ。……テメーの主が血眼になって探している、ペンだ」

 

 

 千空は今度はドンヨクバールに多少オーバーな物言いをしながら、上の方を指差します。ちょうどフワを背中に隠すように立ちながら。

 指差した先はちょうどついさっきまで彼がいた場所で────。

 

 

「俺が探している物? ……まさか!?」

「そのまさかだ! 受け取れ、ミルキー!!」

 

 

 そう言って千空は、細長い何かを思いっきりミルキーに向けて投げます。投げられたそれに壊すように命じられたドンヨクバールが枝を向けます。

 そのままそれと枝が衝突して、バラバラになったのを枝先で感じます。

 

 

「やっぱり人間は愚かだね。わざわざ俺らが消し去りたい物をよこしてくれるなんて」

「千空! 受け取ったルン!」

「……は?」

 

 

 何かがバラバラになったのを見ていたラブーは愚者(千空)を嘲笑っていましたが、下の方から聞こえてきた少女の声に疑問符を浮かべます。

 声の方を見やると、そこには双子の絵が描かれた孔雀色のペンを持つミルキー。そしてそのそばにはフワも。

 

 

「面倒くせえな……! これでもくらえ!!」

 

 

 何が起きたのか察したラブーは指をパッチンして、周りにいくつかの紫の火球を生み出すと、ミルキーとフワに飛ばします。

 

 

「今度は決める! プリキュア! おうし座・スターパンチ!!

 

 

 しかし、スターがピンク色の大きな星を火球にぶつけると全て打ち消されてしまいました。さらに星がそのままドンヨクバールにぶつかると、「ドドド!?」と悲鳴をあげながら転んでしまいました。

 

 

「ミルキー、今だよ!」

「スター……! ルン!」

 

 

 スターが作ってくれたチャンスを逃さないために、ミルキーはふたご座のプリンセススターカラーペンをペンダントに差し込みます。

 すぐに取り出してペンで星を一筆書きで描くと、そこからふたご座のマークが現れペンダントに吸い込まれると孔雀色に輝きます。

 ペンダントから孔雀色のハートが飛び出すと、ミルキーの頭に付いている星飾りに吸い込まれます。

 そこから染み渡るように星のオブジェの色が両方とも孔雀色に変わると、女性の姿をした電撃が飛び出してきました。

 

 

「プリキュア! ふたご座・ミルキーショック!!」

 

 

 強化された電撃を存分に浴びたドンヨクバールは「ドンヨクバール……」と力なく呟いた後、元の姿であるクスノキへと浄化されていきました。

 

 

 

 

 

 その光景を見ても、ラブーはまだまだ余裕そうにしていました。

 

「こっちのプリキュアもやるじゃない。今日はもうやめとくよ。疲れたし、まだ力が完全に戻ってないからね」

「何度来たってラブーの思い通りになんかさせんぞ!」

「何度も来ないよ。『次』で終わりにしてあげるからね」

 

 

 勇ましく吠えるウッドに対して、ラブーは指を鳴らすと空気に溶けるようにその姿を消してしまいました。

 

 

「消えた……」

「次で終わりにするって言ってたけど……」

「俺『ら』って言っていたし、これからってところだな。それに、奴らの狙いが『ペンの破壊』だって分かったのは大きな収穫だった。じゃなきゃ俺が投げた()に攻撃を差し向けないし、第一思い切り『破壊しろ』って言ってたしな。……ペラッペラ喋りすぎだろ、あのランプの魔人」

 

 

 ラブーが去った後、変身を解いたひかる達。千空は早々にラブーのいた所から目を離すと、今回の戦いで手に入れた情報を確かめるように話します。

 同時に、敵に情報を漏らしたラブーの迂闊さに呆れてもいましたが。

 

 

「にしても、千空すごいルン! 私の目の前にペンを持ったフワがいきなり現れた時はとても驚いたけど、囮を投げてドンヨクバールとラブーの注意を引きつけてくれたおかげで、ドンヨクバールを浄化できたルン。ありがとルン!」

「いんや。ただ、俺にできることをしただけだ」

 

 

 実は千空は、ウッドがドンヨクバールの注意を引きつけている間にフワに今回の作戦を話していました。

 

 まず、フワープで樹の天辺に移動して、ふたご座のプリンセススターカラーペンを手に入れる。ラブーが樹にあったペンの存在に気づくことなく、怪物に変えていたので元あった場所にあるままだと睨んでいましたが、ものの見事に当たっていました。

 

 次に、ペンを手にした後にわざと大声をあげてドンヨクバールの注意を引き、ウッド達が杠を救出できるように誘導する。

 

 最後にもう一度フワープで地上に降りた後に、フワを隠しながらこっそりペンを渡してフワープで今度は、フワとペンだけをミルキーの元へと向かわせる。

 

 その結果、見事に敵は千空の策にはまってくれました。

 

 

「千空は昔からそういうのがうまかったからな! 俺に指示を出す時は雑頭でも分かりやすく教えてくれるんだ」

「なるほど~。ところで大樹君。杠さんはどうするの?」

 

 

 誇らしげに幼馴染を褒める大樹に関心を示したひかるは、ちらっと大樹のそばに置かれている杠の石像を見やります。

 

 

「うむむ……。そうだな、浄化された時にクスノキから離れてしまった訳だし……」

「だったら置けばいいだろ。ツリーハウスに」

 

 

 杠をどうするか悩む大樹に、千空は言いました。

 

 

「その方が復活液ができた時に即、杠にかけられて100%合理的じゃねえか」

「千空……。そうだな! その方がいいな! またドンヨクバールに捕まってしまうかもしれないしな!」

「私もそれが合理的だと思うルン!」

「うんうん! 復活液ができたらすぐに杠さんが復活できる!! ……杠さん、絶対喜ぶよ!!」

「フワも賛成フワ!」

 

 

 千空の提案に皆賛成します。特に大樹は、心から嬉しそうにしていました。

 

 

「じゃあ、ツリーハウスに杠を置いてきたらスターパレスに……」

「その前に、いいだろうか?」

 

 

 早速、ツリーハウスに戻ろうとするララに待ったをかける大樹。

 大樹は浄化され元に戻ったクスノキを見て、3700年ぶりに杠と再会した時のことを思い出します。

 

 洞窟から川に沿って歩き続け見つけた、大きく成長したクスノキ。そして、リボンの恩返しをしているかのように守っていた、最も会いたかった少女に再び会えた時のことを。

 

 

(あの時は『大好きでした(・・・)』と告白した訳だが、千空達がいる今は違う。人がいないこの状況で言うのはずるしているみたいだから、直接言えるのは当分先になってしまう。それでも待っててほしい、杠)

 

 

 杠、()も大好きだ。何百年も、何千年も……! 

 

 

 

 心の中で告白すると、今度はクスノキを見上げて深く頭を下げます。

 

 

「クスノキ! 3700年もの間、杠を守ってくれて、ありがとうございました!!」

 

 

 その様子を見ていた4人は、大樹のそばに並び立ちクスノキに向けて頭を下げました。

 

 

「クスノキさん、杠さんを守ってくれてありがとうございます!」

「3700年がどれ程長いのか実感湧かないけれども、クスノキもずっと頑張っていたのは分かるルン。ありがとルン!」

「クスノキさん、ありがとうフワ!」

「大樹。テメーがあの時、杠にクスノキに掴まるように言ってなければ、洪水で流されて壊れていたかもしれねえ。だから、テメーも立派に杠を守ってるんだよ。それに、すぐそばにクスノキがいなきゃ、杠が掴まれる所がなかったしな。

 感謝するわ、クスノキ。これからは俺らで杠を守るから、テメーはそこで大人しく突っ立ておけ。もう怪物にされるなよ?」

「……千空! うおおおおお!! そう言ってくれるだけで俺は、俺は……!」

「デカブツ、テメーのその腕力で抱きしめるんじゃねえ! 骨が折れるわ!」

 

 

 ひかるとララとフワが素直に礼を言っている横で、千空は少し素直じゃないお礼と共に大樹に『事実』を伝えます。

 それを聞いた大樹は千空に抱きつこうとしますが、そのチート級のパワーをよく知っている千空は激しく抵抗します。

 幼馴染同士の慣れ親しんだその様子を見ていた、異世界の来訪者達はちょっとだけポカンとすると、やがてフフフと互いに小さく噴き出しました。

 

 満天の星空の下で、クスノキもまた笑っているかのように風がそよぎ、枝や葉っぱが優しく揺れました。

 

 

 

 

 

 ツリーハウスに戻って杠をそっと置いた後、ララがトゥインクルブックに新たに手に入れたペンでふたご座を描くと、光が溢れ出しフワの姿が変わります。

 両耳が小さなフワのぬいぐるみのように変化したので、今のフワの見た目は双子どころか三つ子のようになっています。

 

 

「ふたご座フワ! フーワー!!」

 

 

 そして夕方と同じく、瞬く間にスターパレスへと転移しました。

 

 

「星の輝き、戻るフーワー!!」

 

 

 そう言ってフワは、孔雀色の星を生み出すと見た目が瓜二つの2人の女性の石像へと打ち出しました。

 星は当たる寸前に2つに分かれると、それぞれの石像の中心に当たります。

 すると、石像が同時に砕けて中から小さなハープを2人で抱え持つ、孔雀色の髪と瞳の女性が現れました。

 全く姿が同じと言う訳ではなく、髪型や付けているさくらんぼの髪飾りの色が異なりますが、星座の名に相応しく正に双子でした。

 

 

「【ふたご座のスタープリンセス】が元に戻ったルン!」

「キラやば~☆」

「おお! 本当に双子だ!」

「しかもご丁寧に、俺らの世界の星座と同じくハープまで持ってやがる。12星座は地球だけ(・・)の基準のはずなんだが……」

「「プリキュア、私達を助けてくれたことに感謝します」」

 

 

 ひかるとララが喜び、大樹が星座のまんま(正確には、ストーンワールドでのふたご座の元になった人物達は男性ですが)なスタープリンセスに目を輝かせ、千空がある疑問を抱いているとふたご座のスタープリンセスは同時にお礼を言いました。

 

 

「まさか、ストーンワールドで新たなプリキュアが誕生するとは……」

「キュアウッド。そしてもう1人の異世界の少年よ。こちらの事情に巻き込むような形で申し訳ないのですが、どうかスターやミルキー、フワの力になってあげて下さい」

「「世界を超えて助け合うその想像力は、必ずあなた方の力になります」」

 

 

 濃い赤色のさくらんぼの髪飾りを付けた女性が意外そうに大樹を見つめる一方で、薄いピンク色のさくらんぼの髪飾りを付けた女性が大樹と千空にお願いをします。

 それに対して2人の少年は

 

 

「もちろんだ! 俺達の世界は俺達で守りたいし、俺自身もスター達の力になるぞ! 守ることなら任せてくれ!」

「俺はプリキュアじゃねえが……、その代わりに科学の力で思う存分手助けしまくるわ。だから、ここでただ突っ立ってこの宇宙(ひかるとララの世界)を守ってくれればそれで充分だ」

 

 

 と、どこか頼もしそうに返しました。

 ふたご座のスタープリンセスは2人揃って少年達に微笑みながら、「「ありがとう」」と言いました。

 

 残りのスタープリンセスは、あと10人。

 

 

 

 

 

 

「そう言えば千空君、さっき私達の後をついて来たと言っていたけどもしかして、クスノキの前の私達の会話聞いてた?」

「あ"ぁ。バッチリ聞いてたぜ。テメーらが本気で、こっちの世界に関わろうとしているってな」

「ああ! ララが俺達から離れると聞いた時は思わず飛び出しそうになったぞ!」

 

 

 ストーンワールドに戻ってきた後、尋ねてきたひかるの質問に千空と大樹は正直に答えます。

 

 ひかる達がロケットから出て行った後、眠ったふりをしていた千空達は彼女達をこっそり尾行していたのです。

 ララがさよなら発言をした時、尾行前に話した千空が大樹に言った「何があっても絶対に飛び出すんじゃねえぞ」という忠告を守るために、動いたり大声を出すのを我慢していたのと、道中で大樹が枝などを踏んで音を鳴らさないように千空がフォローしていたことは、それぞれの心の中にそっと閉まっておきました。

 

 

「……千空、大樹。その、ごめ……」

「正直、俺はひかるやララを疑っていた」

 

 

 ララが謝ろうとするのを遮るように話す千空。疑っていたと言う言葉に顔を強張らせるひかるとララに、「1mmだけな」と指を1本立てた後続けます。

 

 

「マンパワーが欲しいのも、パラレルワールドからの来訪者に宇宙人に妖精、宇宙の中心にプリキュアと唆りまくっていたのも全部本当だ。だが、同時にこうも思った。

 いくら災いとやらが俺らの世界で復活したとしても、俺らの人類皆復活させましょ作戦にまで関わる必要なんざねえ。それこそ、ララの言う通りにプリンセススターカラーペンを全部集めて、災いとその眷属達を倒すだけで事足りるってな。

 ……地球も宇宙も滅ぼす災いさえ倒せば、ひかるもララもフワも、元の世界に帰れるだろ」

「千空君……」

 

 

 月を見上げながらそう話す千空がほんの数秒だけ、心配そうに3人を見たのにこの場にいる全員が気づきました。

 

 

「が、ひかるとララのあの熱烈な告白を聞いたらな。心変わりしたわ」

 

 

 どこかとぼけたように言っていたルビーの瞳の少年は、一転して真剣な表情に変わるとひかるとララとフワを真っ直ぐに見つめ、「頼みがある」と切り出しました。

 

 

「さっきも言ったが、このストーンワールドで文明を復活させるためには、マンパワーが圧倒的に足りねえ。人類全員もれなく助け出して文明を200万年駆け上がって、宇宙に行く。その夢を叶えるために、少しでもマンパワーが欲しい。ペンを全て集めて、ある程度文明が戻るまでで充分だ。

 ────俺らに、手を貸しちゃくれねえか?」

「俺からも頼む!」

 

 

 3人を真っ直ぐに見つめながらもどこか不安気に瞳を揺らす千空に続き、大樹も地面にぶつかってしまうぐらいに深く頭を下げて頼み込みます。

 そんな少年達の様子を見て、少女達は互いに目を合わせて頷いて彼らに笑いかけます。

 

 

「そんな水臭いこと言わないでよ! 話聞いてたなら分かってるじゃん! 私達、最後まで千空君達を手伝う! ペンを集めて石になってしまった人達を助けて、この世界を守る!」

「ルン! 私達の世界の時間経過は気にしなくていいと言われたし、災いを追い払って文明が完全に元通りに……1から発展させるのに最後まで付き合うルン!」

「フワ! フワもい~っぱいお手伝いするフワ!」

 

 

 返ってきたひかる達の答えを聞いた千空はそっと息をつくと、ニヤリと笑って言いました。

 

 

「ククク……。これで労働力3人分ゲットしたぜ。テメーら、明日からバリバリ働いてもらうからなあ」

「もちろん! じゃんじゃん働くから任せて!」

「フワ!」

 

 

 返事は2つ。そしてもう1つは

 

 

「ルン! いっぱい手伝うから任せるルン!」

 

 

 先程とは逆にはっきりと元気ありまくりで返ってきました。

 

 

「ああ! こちらこそ、これからよろしく頼む!!」

「うん! よろしく!」

「よろしくルン!」

「よろしくフワ!」

 

 

 パラレルワールドからの来訪者を心から歓迎する大樹にも、ひかる達は返事を返します。

 

 こうして、新たにひかるとララとフワが加わって再び復活液のレシピを探る日々が始まりました。

 しかし、人数が増えてもそう簡単に人類の希望(復活液)は完成できません。

 それでも、5人で過ごすストーンワールドの日々は大変だけど、とても楽しいものでした。

 

 

 

 

 

 例えば、プリキュアの能力のおかげで狩猟が簡単になったり。

 

 

「ミルキー、そっちに猪行ったよ!」

「分かったルン! プリキュア・ミルキーショック!」

 

 

 ミルキーの電撃でバタリと倒れ込む猪。

 

「千空から『プリキュアの力を使えば、大型の獲物取り放題じゃねえか!』と提案されてやってみたものの、罪悪感が出るルン……」

「ララ……。それが自然界ってことなんだよ、きっと。だからせめて……お肉も皮も感謝の気持ちを込めて、大切に使おう」

「……ルン。猪、ごめんルン。そしてありがとルン」

 

 

 ひかるとララが原始の世界で生きるとはどういう事かを学んだり。

 

 

 

 

 例えば、夜に星空界について聞きたがる千空と大樹にひかるが話したり。

 

 

「骨の雨が降る星、ケンネル星……。唆るじゃねえか!」

「でしょでしょ! 星そのものも骨の形をしていて、住民は皆モジャモジャなんだよ!」

「ほーん……。骨は主にカルシウムやマグネシウムなどのミネラルで構成されているが、雲つーか大気がミネラルでできているのか……? なあ、ケンネル星人の特徴は他に何がある?」

「えっと、数える時には『ワン』としか言わなくて、フサフサでいるのが1番大事で、挨拶はこう!」

 

 

 左右に向かってワンワンと吠えた後逆立ちするという、ケンネル星式の挨拶を再現するひかる。

 

 

「おおお! ケンネル星の挨拶は随分独特なんだな! こうか!?」

 

 

 それを真似する大樹。

 

 

「そうそうそんな感じ! ……現地でやってみた時は、ダメ出しされてたけどね」

「星が違えば文化も異なる、か……。そこは地球の国とそう変わんねえな。他にはどんな星があるんだ?」

「他に、は岩も木も地面も宝石でできた惑星クマリンとか……」

「宝石でできた星! 唆るじゃねえか!」

 

 

 目を輝かせる千空に、同じく嬉しそうにこれまで巡ってきた星々について語り出すひかる。そして

 

 

「ひかる! ロケットに戻っていないと思ったら、ツリーハウスにいてしかも夜通し話続けていたルン!?」

「いやあ、千空君と星空界について語り合っていたらつい……」

「千空もマンパワー足りないとか言っていたくせに、寝不足でなくしてたら意味ないルン!!」

「いやあ、宇宙大好き少年として話を夢中になって聞いていたらつい……。言っとくが最初から夜更かしする気は」

「何か言ったルン?」

 

 

 言い訳しようとする千空を鋭く睨むララ。加えて、ピンク色に変色してバチバチと電気を放つ触角。千空はそれを見て黙り込みます。

 

 

「とにかく! 少しだけならともかく、一睡もしないで語り合うのは禁止ルン! ちゃんと早く寝るルン!」

「「はい、すみません……」」

 

 

 例えば、ひかると千空が夢中になりすぎて朝まで一睡もせずに語り合ったので、ララがそれに怒って、以降それで夜更かしするのを禁止したり。

 ちなみに、大樹は途中で脱落してしまい、ひかると千空が話し続けている間もいびきをかきながら眠っていました。

 フワもまた、トゥインクルブックの中でぐっすり眠っていました。

 

 

 

 例えば、ララの触角を利用して小魚を捕まえたり。

 

 

「ルン! ……やった! お魚獲れたルン!」

「ララの触角から流れる電流って、マッサージや工具として使えるだけじゃなくて、そうやって魚を気絶させたりできるんだよね。応用性があるよね!」

「ルン。電流の強さはこっちで調節できるから簡単ルン。……最近、自分で生き物を狩るのに慣れてきてる感じがするルン。生きるために必要とは言え、複雑ルン……」

「痛ぁ!」

「ひかる!?」

 

 

 魚獲りの最中にひかるがサワガニに指を挟まれてしまったり。

 

 

 

 例えば、ララがワインに興味を持ったり。

 

 

「オヨ……。これがワインルン。これ、おいしいルン?」

「市販品の100億倍酷ぇが、思ったよりいけるぞ」

「え!? 実際に飲んだの!? だめだよ、未成年の飲酒は違法だよ! それに体に悪いし!」

「未成年者飲酒禁止法や他の法律なんざとうの昔に消えてるし、それに俺と大樹は3716歳。未成年余裕で飛び越して爺さん……仙人の域だ」

「でも、体は石化当時のままだから、肉体は高校生のままなんじゃ」

「試し飲みでちょっとしか飲んでいないから大丈夫だ!」

「むー…。それならいいけどなんか納得いかない……(ってあれ? そう言えば、千空君がさらっと『市販品の100億倍ひどい』って……。石化前にも飲んだことあるの?)」

 

 

 ひかるが首を傾げる横で、「いただきますルン」とワインを一口飲むララ。すぐさまに「ゲボッ!?」と変な声をあげます。

 

 

「ワ、ワインって苦いルン……。大人(・・)の私だけど、酒はまだ早かったみたいルン……」

「大人って、俺達とそう変わらないだろう?」

「サマーンでは13歳から大人ルン! だからお酒も大丈夫ルン!」

「なにぃ!? 中学の時点で大人だと!?」

「中には16~18歳で大人だと認識される国もあるから、そんな星があってもおかしくはねえよ」

「……今更だけど、その法律って正確には『満20歳未満』の飲酒を禁止しているんじゃ」

 

 

 初めてお酒の味を味わうと言う、ある意味貴重な体験をしたララでした。

 なお、試し飲みでちょっとしか飲んでいないために酔うこともなく、体も健康なままです。

 

 

「フワもワイン飲みたいフワ!」

「「フワは絶対飲んじゃだめだよ/ルン!!」」

「急に慌ててどうした?」

「フワは酔っぱらってしゃっくりを起こすと、たくさん増殖しまくるルン!」

「フワ☆パニックが起きちゃうよ!」

「しゃっくりで増える……?」

「改めて思うが、妖精って規格外過ぎやしないか……?」

 

 

 未成年の飲酒や未成年にお酒を飲ませるのは違法だから、絶対にやっちゃだめだよ! お酒は20歳になってから! byひかる

 

 

 

 例えば、首をゴキゴキ鳴らしながら土器を作る千空を、彼の手と首をちらりと見てひかるが心配したり。

 

 

「ねえ、ずっと気になっていたんだけど千空君、首凝ってるの?」

「あー、まあな。今更これぐらい、どうってことねえよ」

「だったらさ、私揉もうか?」

 

 

 両手をにぎにぎさせながら近づくひかるに千空が顔をしかめる。

 

 

「いや、そんなのいらねえって」

「まあまあ遠慮しないで! 無理は禁物だよ! こう見えてもおじいちゃんとおばあちゃんの肩や腰をよく揉んでいたから、マッサージは得意だよ! あと、ララの触角で電流マッサージもできちゃうし!」

「押しが強えな、ひかるテメー……」

 

 

 もしやマッサージが下手と考えているのではと思い、自信があると伝えるひかる。その善意増し増しの様子に断りづらくなる千空。悪意が全くないから余計に。

 彼は少し考え込みます。ひかるのキラキラした目に見つめられながら。

 

 

「……分かった。揉むの頼むわ」

「やりぃ! じゃあ揉むね!」

 

 

 そしてとうとう折れた千空の返事にひかるは喜び、早速マッサージを始めます。

 

 

 モミモミ「力加減はどう? 気持ちいい?」

「あ"ぁ。すげえ効くわ……」

 

 

 思ったよりかなり上手な、ひかるのマッサージに心地良さを感じる千空。そうしてしばらく。

 

 

「あれ? ここ(・・)、残ってるよ?」

「そのままでいい」

 

 

 何かを見つけて疑問に思うひかるに、ピシャリと告げる千空。

 

 

「でも、ずっとそのままだと辛くない? できたらすぐに」

「余裕ができたら何とかする。それまではそのままだ。ララや大樹に話したらお人好しのあいつらは心配して、真っ先に俺の方に使おうとするだろうから、まだ話さないでほしい」

「う~ん。千空君がそこまで言うなら……。分かった。でも辛くなったらちゃんと言ってね! 私だけじゃなくて、大樹君もララもフワも心配するから。ね?」

「分かってるって」

 

 

 

 例えば、復活液を作ったり。

 

 

「ううむ……。今日もだめか……」

「オヨ……。ワインと硝酸の配合をいろいろ変えて試しているけど、全然ツバメが復活しないルン……」

「フワ……」

「分かってはいたが、中々うまくいかないもんだ。復活液ができるのは早ければ早い程いいんだが……」

 

 

 落ち込む3人を尻目に研究室の入り口で苛立ちを隠すように、足元にあった小さな土器を軽く蹴り上げる千空。

 

 

「待って! 皆、これ見て!」

 

 

 その直後に響くひかるの声と何かがひび割れるような音。

 千空がその方向を振り向くとそこには、試作品をかけた部分の石化が解けた(・・・)1枚のツバメの羽。

 

 

 

 ひかる達がストーンワールドにやって来てから1週間。

 長く地道な努力の末に、とうとう復活液が完成したのです。

 

 

 

 

 

 

 

「教えてやるよデカブツ、ひかる、ララ、フワ」

 

 

 外に出て、石のツバメに千空が復活液をかけながら言います。

 

 

「科学では分からないこともある、じゃねえ。『分からねえことにルールを探す』。そのクッソ地道な努力を、『科学』って呼んでるだけだ」

 

 

 すると、左目からひびが入って全身に広がり、そして。

 

 

「うおおおおおお!」

「キラやば!!」

「オヨ……!!」

「フワ!!」

 

 

 3700年の眠りから目覚めたツバメは、今まで動けなかった分を発散するかのように、ストーンワールドの空を飛び回ります。

 

 大樹は、ちょっぴり涙を浮かべながら歓喜の雄叫びを上げ。

 ひかるは、人類の希望が完成されたことを実感しながら目を輝かせ。

 ララは、驚愕と感動が入り混じりながら空を見上げ。

 フワは心から嬉しそうにツバメ程の高さではありませんが、宙をクルクル飛び回っています。

 そして、復活液のレシピを考えついた張本人(千空)はと言うと。

 

 

「実験始めて1年……。意外と早かったな。ククク……、地道なもんだ。ファンタジーに科学で勝ってやんぞ……!」

 

 

 石の台に腰掛けて目を細めながら、ツバメが自由に飛び回る大空を見上げます。

 これまでの努力を示すかのように、汗を流しながら。

 

 千空が石化から目覚めて1年。大樹が石化から目覚めて半年。ひかるとララとフワと出会ってから1週間。

 ようやく、人類総復活計画が本格的に動き始めました。

 

 

 こうして、この小さな木の家と質素な研究室、そして可愛らしいロケットが置かれているこの大地から、千空とひかる達の壮大な冒険が始まったのです。

 

 

 

 

 

 

「唆るぜ! これは……!」




イメージOP:Good Morning World!



やったあ!!ついに復活液完成だ!!

おめでとうルン!それに、大樹もプリキュアになれて嬉しいルン!

大樹がストーンワールド最初のプリキュアか……。めでてえじゃねえか。
その記念に、大樹。テメーが最初に復活させる人選べ。

ありがとう千空!もちろん決まってる!だが、予想外の出来事が起きてだな……。

最初の復活者は……、霊長類最強の高校生!?


次回、Dr.STONE×スター☆トゥインクルプリキュア!
新たな復活者と純白の貝殻☆

次回も唆るぜ、これは!




おまけのQ&A

Q:なんでこのタイミングで大樹がプリキュアになったの?
A:メタ的に言って、後の展開考えるとこのタイミングしかなかったんよ……。

Q:変身時の歌の一人称は『わたし』のままなの?
A:最初は該当箇所を『じぶん』にしようかと思ったんです。本家スタプリとの差別化のために。
 でもそれだと、『替え歌』に相当すると思ったのでそのままにしました。
 まあ、男の人でも一人称が『私』の人はいるから、セーフセーフ!

Q:なんで前の話でペンダントが出た時に、千空が持っていたペンに反応しなかったの?
A:ペンダントが水平じゃなかったから。水平じゃないと反応しない。

Q:なんで千空の方へ、おうし座のプリンセススターカラーペンがやって来たの?千空が見たのは何?
A:千空が見たのは星空界の光景。そこら辺は今回入れる隙間がなかったので、次回入れる予定。


それと、活動報告にドクストキャラが持つスターカラーペンダントと、キュアウッドのスターカラーペンの絵を載せます。
本編に載せるのは少し違うかもと考えたために、そちらに表示致します。
絵のクオリティはキュアウッドと同じですが、もし時間があれば参考までに。


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