ありふれていない世界最強メイド【本編完結済み】 (ぬくぬく布団)
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ありふれていない世界最強メイドの設定+作者のやらかし 読んでも読まなくても大丈夫だ問題無い  2020/09/01更新

布団「小ネタと作者のやらかしと設定です・・・ハズカシイ///」
深月「説明はしておかなければ読者の皆様方が疑問に思われておいでですよ」
布団「言わなきゃ駄目・・・?」
深月「ではこれらが設定と作者さんのやらかしです。そして皆様に注意を申し上げます」
布団「すまねぇ・・・あ、いえ・・・本当にごめんなさい」
深月「初期投稿からの読者様は「あぁそう言う事だったのね」と呟く筈でしょう。では皆様、ごゆるりとどうぞ」









――――――追申―――――――

読者様の希望によりステータスを記載致しました(※ステータスプレートでの奴ではありません)










神楽深月(かぐらみづき)

輪廻転生で前世の記憶を持っており、今世は女、前世は男という主役。今は完全無欠の超メイドで全ての仕事をこなすオールワークスを超える唯一無二の存在となり主である高坂皐月の絶対なる忠犬。もしも主に死を向ける敵勢が居たら処分する事に躊躇いは無い

幼少期には両親から酷く扱われ、そのストレスからリストカット。しかし皐月によって命を助けられ両親との絶縁も手助けして貰った事に恩義が出来た。明るい性格の皐月の姿を見て自身の全てを捧げたいと思いメイドとしての修行を行い、やり過ぎだと思う程の経験を積む事となる。最年少で優秀なメイドとして完成された深月は軍人よりも強く、その噂を聞いたセレブ層達から雇用の手紙が沢山届くも却下し皐月の元へと仕える

たったの6年、されど6年――――――最初は矯正とメイドとしての仕事の全てを二年で完了、戦闘訓練一年、未開の地の地獄のサバイバルを二年、残るは知識と教養を一年。因みに地獄のサバイバルとは未開、未知の生物が存在する人工島で着の身着のままで放り出されると言うヤバイの一言である。深月本人も「よく生き残れましたね私・・・」と呟く程

約六年ぶりに再会した皐月に絶対忠誠を誓い時偶愛が暴走してしまうのはご愛嬌

今作のオリ主兼ハジメハーレムのサブヒロイン

 

ステータス

 

(魔物肉による変化前)

 

身長165cm 体重53kg Dカップ

 

トップ:85

 

アンダー:68

 

ウエスト:61

 

ヒップ:85

 

 

(魔物肉による変化後)※現在も成長中

 

身長170→170→172cm 体重58→59→60kg D→E→Hカップ

 

トップ:90→94→96

 

アンダー:71→71→70

 

ウエスト:64→64→65

 

ヒップ:88→90→92

 

 

 

 

 

 

 

 

高坂皐月(こうさかさつき)

神楽深月の主人でお金持ちのお嬢様。秀才と呼ばれる程の頭脳に常識的な人とは誰とでも接する人でとても人気が高い。しかし告白する勇気を持つ者は誰一人とて居ないのは何故か?深月からのプレッシャーが凄まじいからである

今作のハジメのメインヒロイン

 

ステータス

 

(魔物肉による変化前)

 

身長155cm 体重48kg Cカップ

 

トップ:77

 

アンダー:62

 

ウエスト:55

 

ヒップ:78

 

 

(魔物肉による変化後)※現在も成長中

 

身長160→163→164cm 体重50→52→53kg D→E→Eカップ

 

トップ:82→85→86

 

アンダー:64→63→64

 

ウエスト:52→53→52

 

ヒップ:80→83→84

 

 

 

 

 

 

 

 

南雲ハジメ(なぐもはじめ)

オタクで座右の銘は"趣味の合間に人生"。中学の時本屋で物色中にサブカルに興味を持った皐月と出会い一緒に遊んだりする程仲が良い間柄で嫉妬の視線が原作よりも増大している。ハジメの両親は皐月が遊びに来る事を快く思っており、尚且つ温かい目で二人を見守っている・・・ぶっちゃけた話し「お前達付き合っちゃいなよ」と言う事だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

書く前のオリキャラ設定としてメイドの名前は深月では無く、冥と言う名前にしていた!しかし布団は重大な事に気が付いたのだった!!

 

布団「今日の金曜ロードショー何じゃろな」

家族「大泥棒だってよ」

布団「ジ〇リじゃないんかーい」

家族「ジ〇リかー懐かしいな」

布団「紅〇豚にとなりの〇トロ・・・」キュピーン!

家族「懐かしいよなぁ」

布団(ヤベェ・・・名前がもろ被りしていやがる・・・変えなきゃ!)

 

そして少し書き貯めをしていた小説の名前を変更中・・・

布団「消さなきゃ消さなきゃ・・・修正修正・・・・・」

こんな感じでいろいろとやっちゃった感満載だったのである

 

 

 

 

 

 



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番外編(何かの記念話)
メイドの秘話








△▽△▽WARNING△▽△▽











この物語は(嘘ではないけど)ネタなので、それでも見る方はご注意をお願いします。嫌な方はブラウザバックをして下さい












準備は―――――――OK?













皆さんこんにちは。私の名前は深月と申します・・・あれ?かなり前に自己紹介をしたような気がするのですが・・・まぁ、今はそんな事どうでもいいですね。苦節二年・・・メイドのなんたるかを、徹底的に叩き込まれましたよ!ちっ、あの執事長め。ピコピコハンマーで容赦無く叩きやがっ

 

ピコンッ!ピコンッ!ピコンッ!

 

内心でどの様に思っているのかも把握しているのですか。・・・ですが!私は絶対に貴方を超える!いえ、超えてみせます!!そうと決まれば、さっそく行動に移りましょう!

 

深月は大きな音を立てずに、早足で移動。そして、皐月の父―――――高坂 薫(こうさか かおる)が常日頃居る仕事部屋の前に到着。ノックして、返事を待ってから入室。室内には、薫と皐月の母―――――高坂 癒理(こうさか ゆり)の二人がイチャイチャしながら仕事をしていた

 

「旦那様、奥様、失礼致します」

 

「ん?深月か。どうしたんだ?・・・今日、仕事はお休みの筈だからお義父さんと呼んでも構わないんだよ?」

 

「そうよ深月ちゃん!オフの日だからお義母さんと呼びましょう?いえ、呼んで!」

 

子供に甘く、過保護な二人。だが、今回は仕事のお話なのでそうは呼べない

 

「実はお願いがあるのです」

 

「お願い!?深月がお願いか!」

 

「・・・嫌な予感が」

 

「私を―――――私をアメリカの軍隊に入隊をさせて下さい」

 

「「    」」

 

二人はあまりにもぶっ飛んだ深月のお願いにシロメとなって呆然とした。勿論、賛成する筈も無く駄目だと拒否するが

 

「私はお嬢様に全てを捧げると誓ったのです!執事長に勝てない様ではお嬢様を御護りする事も出来ません!お願いします!私は強くなりたいのです!だから・・・だから、どうかお願いします!」

 

土下座して必死にお願いする深月。二人は、深月がどれだけ本気なのかは目を見て分かっていたが・・・土下座までして頼み込む姿にタジタジとなっていた。必死にお願いを続ける深月に折れた二人は、ある条件を付けた

 

「・・・一年。それ以上は駄目だ」

 

「薫!?」

 

「深月の目を見て分かるだろう?あれは決意した目だよ。放っておけば単身で乗り込む可能性があるよ」

 

「深月ちゃんは子供で、未だ八歳なのよ!?」

 

「癒理が反対するのは当然だよ。私だって大反対だけど・・・単身で乗り込ませるよりも、知人にお願いして仮入隊させる方が幾分もマシだよ」

 

「・・・深月ちゃん。本気なの?日本じゃ駄目なの?」

 

「子供だからという理由で中途半端な訓練では駄目なのです。強くなりたい・・・強くなって、お嬢様を御護りしたいのです!」

 

ジッと癒理の目を見る深月。子供の真剣な眼差しに、最終防衛線の彼女も遂に折れて許可を出す。但し、これも条件付きだ

 

「薫が一年と言っていたけど、知人が駄目だと判断したら切り上げて戻ってこさせるわ。良い?これは絶対よ!」

 

「絶対に一年で強くなって戻って来ます」

 

こうして深月のアメリカ軍の入隊が決まった。・・・いや、入隊というよりも経験を積むと言った方が良いだろう。だが、二人は予想していなかった。深月がこれをきっかけとして、チート級の力を付ける事に・・・

深月は二人の了承を得て、薫の知人の伝手を使ってアメリカへと出立。――――――メイド服を着たまま

すれ違う人達からは、「メイド・・・だと!?」「リアルメイド・・・しかも幼女がコスプレ」「可愛い。お持ち帰りしたい」「一人?おじさんが色々と案内しようかな?」等と、注目の的だった。しばらく約束の場所で待っていると、軍服を着たおじさんがSP?を連れて近づき、日本語で話しかけてきた

 

「君が薫の言っていた神楽深月かな?」

 

「はい!私は神楽深月本人です!」

 

ゴツイ体格のおじさんに、内心緊張する深月

 

「ハッハッハ!そんなに緊張をしなくても大丈夫だよ。子供は大人に甘えても良いのだからね」

 

「は、はぁ・・・。わわわ!?」

 

おじさんが頭をいきなり撫でてビックリする深月

 

「さて、着いて来たまえ。これから君は―――――――本物に近い戦場を経験するのだから」

 

「!――――頑張ります!」

 

「良い元気だ。その元気が何時まで続くのか期待しているよ」

 

車へと案内されて基地へと移動する深月。彼等は訓練初日から度肝を抜かれる事になるのはもう少し後の話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いか貴様ら!今日から新しい仲間の追加だ!」

 

「マジっすか~、絶対に着いて来れないって。隊長もそう思うでしょ?」

 

「・・・本音を言うと絶対に着いて来れない!だが!これは"元帥"直々の命令だ!しかも、元帥自らが後程視察に来る!心して掛かるように!」

 

部隊に配属している人達は全員が呆然となったが、直ぐに真剣な眼差しに変わって隊長の話の続きを聞く

 

「時間も押しているので、早速紹介しよう。・・・では、入って来てくれ」

 

全員が入り口に注目する中、入って来たのは子供。しかも、物凄く幼い・・・妻子持ちの者からの反応は、「小学生辺りの年齢か?」と呟いている

 

「神楽深月と申します。本日からよろしくお願いします」

 

「・・・と、いう訳だ。新しい仲間として協力しろよ?」

 

『はあああああああああああああああああああ!?』

 

誰だって驚くだろう。深月が入ってきただけで、親と別れが寂しい子供かと思っていたのだ。予想を遥か斜め上に行く事実だった

 

「おいどういう事だ隊長!こんなガキが俺達の訓練に着いて来れる訳ないだろ!」

 

「ガキはママのおっぱいでも吸ってな!」

 

「待て待て!逆に考えるんだ。子供を助ける光景を元帥が見るかもしれないと」

 

『それだ!』

 

「因みに、元帥の視察は何時かは分からん。では、早速訓練に入るぞ」

 

「分かりました」

 

スタタターと手早く行動する深月。部隊員はその姿に和みながらテキパキと移動をして、グラウンドに整列した

 

「では、腕立て、腹筋、スクワットを各500回、20kmランニングだ。出来た者から次に移っていけ!」

 

『殺す気か!』

 

この舞台の教官は超鬼畜で有名なのだ。部隊員を吐かせるのが趣味だというイカれ野郎である。渋々メニューをこなす隊員達

 

「くそっ!あのイカレ野郎くたばらねぇかな?」

 

「悪い趣味だから毛根が逝ってるんだろ?」

 

「だから結婚できないんだよ」

 

「お前等ー!連帯責任として各三つを200回追加だ!」

 

『ふざけんなああああああああああ!』

 

ヒィヒィ言いながら筋トレをする隊員達を見ながら、愉悦に浸っている教官だった。周りをじっくりと見ながら歩いては上げ足を取って追加をしている。そして、ある一角に目を付けた。それは深月の場所だった。この時、隊員達は「可哀想に・・・何かあったらフォローしておこう」と思っていた。だが、予想を上回る出来事が教官の目の前で起きていた

 

「ば・・・バカな!?この子供は化け物か!」

 

隊員達が一斉に深月の方を向くと、逆立ちをして腕立てをしている姿が映った

 

『うそん・・・』

 

「417・・・418・・・419・・・420・・・」

 

黙々と腕立てをして、数はもう既に400を突破していた。何故ここまで深月の腕力が強いのか・・・それは全て執事長のせいであった。自分の体重よりも重い物を持たせて一時間それを耐えろという鬼畜内容だった。今でもクリアした事が無いこれに比べたら遥かにマシである。少しでも負担を付ける為に逆立ちで腕立てをしているのだ

深月はこの調子で腕立て、腹筋、スクワットをこなしてランニングに移っていた。駅伝選手並の速度を保ったまま走り、部隊員がスクワットに取り掛かろうとしたところで終了

 

「幼女コワイ」

 

「筋肉は何処にあるんだ!」

 

「あれ?戦闘訓練ヤバくね?」

 

深月は再び筋トレを開始、二セット目に突入した。他の隊員も「幼女に負けてたまるか!」と意気込んでいつも以上の力を出してスクワットを終わらせてランニングに突入。もう半分で終わるといった所で、深月がランニングに突入。だんだんと追い付き、追い抜かれてプライドが粉々に打ち砕かれた隊員達だった

筋トレも終わり、休憩を挟んでからの戦闘訓練。深月と対峙する相手は・・・隊長で、全員が黙祷して祈りを心の中で捧げた。だが、予想外な事に深月の戦闘訓練は素人のそれに変わりがなかった。ポンポンと投げ飛ばされる深月。深月は、未体験の訓練に対してアドバイスをしっかりと聞いて部隊員の信頼を勝ち取っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年後――――――――――――――

 

「皆さん、大変長らくお世話になりました!」

 

『深月ちゃんが抜ける。むさくるしい男だけの部隊なんて嫌だぁ!!』

 

深月は一年の訓練を終えて日本へと帰る為の挨拶回りをしていたのだ。部隊の仲間とはとても仲良くなっており、深月に色々と助けたり、助けられたり等の出来事があった。男まみれの部隊に桃色が一点―――――女の子が居るので隊員達のテンションは爆上がりで、どんな危険な任務でもこなせる様になったのだった。戦場での雄叫びは凄まじいの一言で、「深月ちゃんの膝枕あああああ!」「俺は耳かきだあああああ!」「頭ナデナデしたいんじゃああああ!」「一緒にお買い物!」「テメェ等は俺達の敵だぁ!特に深月ちゃんの敵だぁああ!」「深月ちゃんの攻撃を援護しろ!」『了解したぁ!』―――――と、同じアメリカ人でも「あの部隊の人間達と一緒にしないでくれ」と声を大にして叫びたい程だった

 

「日本は基本的に安全だとは思うが、体には気を付けるんだぞ?」

 

「はい。元帥さんもお体には気を付けて下さい」

 

元帥との別れの挨拶も済ませて飛行機に乗って日本へと帰還した深月。アメリカで一年、とても濃い生活を送った深月は、元帥に頼んで薫と癒理に内緒で銃器の扱いと戦場を経験したのであった

日本に無事帰還した深月は、薫と癒理に報告に行こうとしたのだが執事長に捕まってあれやこれやと流されて無人島に連れて行かれた。待っていたのは、深月の人生の中で最も思い出したくないとされるサバイバルであった。最初はサバイバル程度は余裕だと執事長に宣言。だが、執事長から伝えられた言葉は深月をもっとやる気にさせる悪魔の一言であった

 

「私は一年を保たずにこのサバイバルをリタイアしました。私を超えるのであれば、分かりますね?お二人には私から説明いたしますので、何ら心配する事はありません」

 

「ならば、二年間生き抜きましょう!絶対に貴方を超えてみせます!!」

 

執事長を乗せたボートは去り、深月はサバイバルを開始したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギャアギャアギャア

 

聞いた事の無い鳥の鳴き声をBGMにして、水源の確保と拠点の制作する事にした深月。何事も計画性が大事である

 

「ふぅ。サバイバルとはいえ、ナイフを持たせてくれた事だけは感謝ですね。あの執事長を超えてみせる!私はやってみせます!!」

 

だが深月は重要な事を忘れていた。"あの執事長"が一年も保たずにリタイアする理由を―――――その答えは直ぐに見付ける事が出来た。いや・・・見付かったと言った方が正しい

 

ガサガサッ

 

「野生動物?今晩のご飯にはもってこいで・・・・・す・・・・・ね」

 

深月の目の前に居た動物?は大きい牙を持った虎の様な生物。だが、頭が二つある時点でおかしいのだ。ヒクヒクと頬が吊り上がり、目と目を合わせ無い様にゆっくりと退避しようとしたが、虎?の方が早く動いた。大口を開けて深月に飛び掛かり、反射的に避けた深月。噛みつかれた木の幹はバキバキと音を立てて倒れた。逃げる事も出来ない

 

ここで倒さないと駄目だ!

 

深月はナイフを構えて虎?を見据える。相手も深月を警戒しているのか、さっきとは違って中々襲い掛からないので睨み合いが続く。痺れを切らした虎?は深月に飛び掛かって攻撃するが、深月は真正面から進んで虎?の腕の振り降ろしを回避。そして、流れる様に刃を目玉に向かって全体重を乗せて脳まで突き刺した

 

「やああああああああ!」

 

ブシュッ

 

噴き出る血。虎?が叫び声を上げて少しして、動かなくなった。深月は油断せずに、大きい石を持って執拗に頭部を叩き付けて完全に絶命させて一息付いた

 

「うわぁ、メイド服が血まみれに・・・早く洗わないと汚れが落ちませんね。それに、これも血抜きをしないと美味しく食べる事も出来ませんし」

 

急いで水源を探し、小さな川を発見。メイド服を川に漬けて、仕留めた虎?を引きずって川の中に落として血を抜き出していく。これで簡易的な血抜きは出来るが、まだまだほど遠い。皮を傷つけない様に解体して、ブロック毎に解体。そのまま水にさらして完全に血抜きを行った

 

「早く火も確保したいです・・・ですが、この大自然の中で火を焚くのは危険ですね。・・・穴を掘って住居を作りましょう!」

 

近場にあった硬い山を太い木の枝で掘って掘って掘りまくる。万が一大型の獣が入って来ても危ないので屈んでは入れる程度の大きさにした。只々穴を掘った拠点だが、無いよりはマシ。ちゃんと空気穴を作る事も忘れない

大まかに掘り終わると、日が陰ってきた。急ぎ川まで戻り、服と肉を回収して竹に似たそれを切って水を入れて持ち帰る。後は火おこし。枯れて倒れた竹があったので、擦って擦って着火。枯れ木を放り込んで火を焚いて虎?の肉を枝に刺して焼いていった

 

「モッキュモッキュ。・・・塩が欲しいです」

 

血抜きを行った事で獣臭さは減ってはいるが、それでも臭い。こうしてサバイバル初日は終了したのだった

それからは―――――拠点を拡張したり、器を作ったり、塩を作ったり、探索をしたり、獲物をしとめたり、調教したりと野生児並みの生活を続けた

 

サバイバル開始から半年、現代機器のありがたさを痛感しました。それは・・・毒キノコを食べてしまい、のたうち回ったからです。インターネットや本で調べる事も出来ないので実食するしかなかったから

サバイバル開始から一年、一人が寂しい。そうだ!この島で最初に出会った虎?を調教して飼いならそうというぶっ飛んだ思考に至りまして・・・見事、調教完了!

サバイバル開始から一年半、遂に島の生物の頂点になった。大抵の生物は、深月を見るなり逃げだして行った。襲われる事は殆ど無くなったが、食料が逃げていくという超悪循環の前に死にかけた

サバイバル開始から二年、執事長が船に乗って迎えに来た。ペットの虎擬き・・・二つ頭のサーベルタイガーと言えば良いでしょう。執事長にけしかけた私は悪くは無いです。悪くないと言ったら悪くないのですよ――――執事長

ペットとお別れをして日本へと戻った私は、知識の詰め込みを行った。だが、サバイバルに比べたら余裕ですよ!サクサクと覚える私を見てドン引きする屋敷の皆さん?あれもこれも執事長がいけないのです。いけないのですよ

 

深月の執事長が悪い宣言で、皆が執事長を責め立てたのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解放者の拠点―――――オルクス深層

 

「と、いう訳です。私が迷宮の魔物を見ても驚かないのはこの経験があったからです!」

 

「「「    」」」

 

「どうかされましたか?」

 

「「知らない・・・そんな島があるなんて知らない・・・」」

 

「・・・深月はどんな環境でも適応する人外」

 

夕食を食べながら、深月の過去が気になったハジメ達にメイドになるまでの過程を話したのだ

 

「地球に帰還したら、ペットを紹介しましょう。大丈夫です。私が傍に居れば襲う事はしませんので」

 

「執事長には襲い掛かったのに?」

 

「全ては執事長がいけなかったのです。いいですね?」

 

「えっ?」

 

「全ては執事長がいけなかった。い・い・で・す・ね・?」

 

「「「あっ・・・はい」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「今日が4月1日だと気が付いて速攻で書き上げた話です」
深月「物凄く端折っていますね」
布団「・・・細けぇ事は良いんだよ!」
深月「サバイバルは本当に死ぬかと思いました・・・」





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プロローグ
お嬢様のメイド・・・それは私です


布団「やぁ。布団が新たなる小説を出すんだよ!だが忘れないで欲しい。この作品は息抜きと勢いだけで書いているから書留はほとんど無いんだ!最初のクロスオーバーが書き終わるまでは其処まで頻繁に投稿は出来ないから悪しからず!では楽しんでくれたまえ!」


~深月side~

 

皆様輪廻転生をご存知でしょうか?私事神楽深月(かぐらみづき)はそれを果たした者です。とは言いますが二次小説等にある神様転生とは違います。私は神様にも会っていないし特典?と言うのも無いですからね・・・しかし私は前世についてはっきりと覚えているのですが此処で大問題だったのです。それは―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前世は男性、今世は女性

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俗に言う性転換ですね。最初こそ戸惑いが有りましたが今では順応して女性としてしっかりと生きています

 

「深月ー紅茶が飲みたいから淹れてー!」

 

「畏まりましたお嬢様」

 

少々お待ちください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お待たせして申し訳御座いませんでした。さて、話は戻りまして前世と今世の違いについて説明と行きたかったのですがこれについては特に変わりはありません。死んでから産まれた年月が一緒、つまり異世界等と言うファンタジックでは無く現代社会なのです。では何故にメイドの真似事をしているんだと突っ込みを入れている読者様に説明致します

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は本物のメイドで御座います

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘ではありませんよ?秋葉原等で見られるコスプレメイドとは違うのです。私がメイドになる切っ掛けはお嬢様との出会いから遡る事になります。私の両親は屑でした――――えぇ、物の見事に屑でした!大事な事なので二回言いました。いきなり仕事がクビになったと覚えています・・・お酒に溺れる様に逃げて依存症となり、当時四歳だった私に暴力を振るっていたのです。そのせいで男口調の俺と言う言葉を使い鬱憤を晴らすが如く八つ当たり、親からまた暴力と言った負の連鎖でした

約二年続いた暴力に先に根を上げたのは私でした・・・私はどうしてこんな不当に扱われるのか―――――何故?何故?何故?疑問ばかりが頭を巡りたどり着いた答えは死。痛いのは嫌だ、もう楽になりたいと言う思考だけとなりナイフでリストカットした。目の前が暗くなり意識を失ったが目が覚めると知らない天井だった。曰く、お嬢様が何かあると言って入っていった先の路地裏で私を見付けたとの事でした

当然私は当たり散らし、『何故放って置いてくれなかったのか、何も知らないくせに』等と言いお嬢様からの平手打ちを貰った。泣きながら「そんなこと言っちゃ駄目!」と泣きながら説教され、その場に居たお嬢様のご両親からも説教されたのは今の私にとって黒歴史でしょう。説教が終わった後は私の現状を説明し色々やって解決。両親とは絶縁し完全に無関係となり新しい今の名前を持って自由の身となりました

完全に一人立ち出来るまで支援をする話が上がっていましたが私はそれを拒否、そして地獄から救い上げてくれたお嬢様に恩返しをする為お仕えする事を必死に説得。そして出された条件――――それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私のありとあらゆる物。人生から血肉、髪の毛一本までお嬢様に捧げるという事

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無論私は迷い無く了承して、この身の全てをお嬢様に捧げることを誓いました。しかし、問題は山積みで当時の私は男口調で喧嘩っ早い性格だったので、それらを矯正する為徹底的に指導され間違えればピコピコハンマーで叩かれ叱られを繰り返し直す事が出来ました。指導してくれた家の使用人の方達には頭が上がりません

パーラー・キッチン・スカラリー・ナーサリー・チェンバー・ハウス・スティルルーム・ランドリー・レディース―――――それぞれの役職全てを叩き込み、最後の仕上げは戦闘訓練にサバイバル。これに関してはやらずとも良いと旦那様達は仰っていましたが私はお嬢様を護る為に必要だと説明し数年の時を経て12歳で遂に獲得し、最年少でオールワークスを超えた唯一無二の存在となりました

上流階級・・・セレブの方達ですね。極々一部の方達には私のメイドとしての資質、軍人にも匹敵する戦闘能力、暗殺者も怖じ気づく等と噂されたりしました。私に此処までの才能が有った事にビックリしています。正直今でもそう思っていますが努力を怠らなければ天才は天災になり得ると思っています。お嬢様と約7年ぶりに再会した私は心の中で歓喜していました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お嬢様は天使に成られていたのです!愛くるしかった目は宝石のように輝いておりお肌もすべすべで!etc――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

またしても申し訳御座いません。つい、お嬢様の事を語ってしまいました。でも仕方がありませんよね?綺麗ですから。再会を果たした私にお嬢様は飛びついて喜んでくれました―――――――これだけでも昇天物ですね♪・・・・・お嬢様は誰にもあげませんよ?お嬢様の心はお嬢様の物、そして時には律する事も私の役目・・・その時には心を鬼にしてと思っていましたが、噂に聞く所によると秀才、誰とでも等しく接するという大天使そのものでした。私はふと思いお嬢様に尋ねました"何故あの時私を助けてくれた"のかと

曰く何か有るというだけでは無く運命的な物を感じたからだそうです。流石お嬢様、私が此処までの潜在能力を兼ね備えていると言う事を直感で理解してくれたのですね!それは、正に運命の出会い!必然的にお嬢様と私は出会ったと言う事ですね!!←深月は暴走中

お嬢様を護る為、中学からは同じ学校に入り色々とサポートに回りました。何故サポートに回ったのかですか?学生とは、自らが何かをする為の施設です。今の状態で何もかも私がしてしまいますと何も出来ず、発想も不十分になるかもしれない・・・とお嬢様の未来の道が絶たれてしまうからというものです。まぁその心配も無くお嬢様自身から学生は学生の本分を忘れずにの範囲でと言われましたので将来はとてもしっかりとした主となるでしょう。とても楽しみです♪

しかし、その学生生活の中でも最も忌避したい汚物が居ます。えぇ・・・天之河光輝というど腐れ野郎です!「お嬢様に近づくなこの下郎!」と声を大にして言いたいと思う程の極端なご都合主義者です。貴様がお嬢様に話し掛ける事によって嫉妬した周りからお嬢様に虐めを敢行しようとする輩がいましたよ・・・えぇ居ました。もう過去形ですから―――――――私自らがOHANASHIして遠くの方へと消えて頂きました。お嬢様の害と成る全ては私が排除致します。因みにお嬢様自身も鬱陶しく思っているらしく放課後になると愚痴を漏らす程・・・・・これは何とかしなければと思い早速行動、信頼できる生徒に一旦お嬢様を預けど腐れ野郎とその取り巻きの女子達と男子達に警告しました

 

「貴方の様なご都合解釈主義者と傍観している幼馴染みの方達はお嬢様の教育に悪いので近づかないで下さい」

 

ど腐れ野郎は何か喚いていましたが無視、幼馴染みの女性が後でフォローしてきましたが忠告を少々入れてあの手この手でお嬢様に近づけない様工作をし無事見事に任務を達成致しました。まぁこの後お嬢様に程々にと怒られてしまいました・・・くっ!何て情けない!お嬢様に怒られてしまうなんて・・・まだまだ精進あるのみです!!

その様な流れを幾つも経験、実行、そして中学二年のある日お嬢様の運命の出会いがありました。立ち寄った書店にて小説を探そうとするお嬢様・・・所謂オタク達が愛する小説に興味がお有りとの事で赴きました。其処で目にしたのは同じコーナーにてどれを買うか迷っている男子学生を発見。何を思ったのかお嬢様は、いきなりその男子学生に話し掛けどれが良いのかどれがお勧めなのかと尋ね一冊の小説を購入。今思えばこれが運命の出会いその二というやつですね

 

その一は私の物ですので駄目ですよ?その二で我慢して下さい

 

そして小説を読んだお嬢様は物の見事にどハマり、あれから定期的にあの書店へと通う様になりました。そしてお勧めしてくれた男子学生と楽しそうにお話しておりあの様な新鮮な笑顔を持って笑っている姿を始めて見ました・・・あの男子学生侮れない!!お話も終わり新たなお勧めの小説を手に入れたお嬢様は何と男子学生と連絡先を交換していました。因みにあの男子学生の顔はお嬢様の美しさの余り赤くなっているご様子でした。あの男子学生は南雲ハジメと言う男子中学生で歳はお嬢様と同じ中学二年、ご両親はゲーム会社社長と漫画家。・・・こう見ればあの南雲ハジメさんがオタクとなる運命は確定していたのですね

そして、月日は経ち中学を卒業し高校へと入学したお嬢様は、秀才ですので偏差値の高い高校へと進学するのだろうと思っていたのですが違っていました。平凡な高校――――――お嬢様ならもっと上の高校へと進学出来ると説得しましたが無意味に終わり原因を探す私と旦那様達。そして私はある一つの原因に気が付き皆様に説明すると・・・旦那様の目がこれまでに無い程無機質な物に・・・一方の奥様達女性陣はというと「あの子にも春が来たのね~。何時紹介してくれるのかしら~」等と言う方向に発展。旦那様は「娘は何処の馬の骨とも分からん平凡な男には渡さん!」と言い奥様に平手打ちをされ正座にてお説教をされていました。奥様は何時になっても怖いです

それとなく私がお嬢様に理由を聞くと、南雲ハジメさんと同じ高校が良いと仰られました。理由はもっと楽しく同じ趣味の人とお話したいというありふれた理由ですが、私はお嬢様と毎日話している為理由は分かっている。いつも楽しそうに彼の事を話しているのでご自身の初恋に気が付いていないのでしょう。・・・とても微笑ましいが何時如何なる時にライバルが現れるかもしれないので早く自覚して欲しいです。そして旦那様には申し訳御座いません。私はお嬢様の幸せの為ならばそれをサポートします。・・・・・まぁぶっちゃけて言えば彼とお嬢様をくっ付けるつもりですのでご容赦して下さい

高校の受験も終わり羽根を伸ばしながらの最後の中学生生活を送る中、お嬢様がお出かけをするとの事。しかも内緒というハラハラ物です。とは言え私はお嬢様のメイド!どの様な事があろうとその責務は変らない。落ち着きながらお嬢様へと付いて行く。休日もあって仕事服であるメイド服は周囲の視線が集まりかなり目立つ

 

まぁお嬢様の方が私よりも美しくて目立ちますがね!

 

歩いて行き足を止めたその場所には普通の一軒家。ごく普通のありふれた家、そして躊躇いなくお嬢様は呼び鈴を鳴らし相手方に自分の名前を告げると直ぐに玄関が空き南雲ハジメさんが出てくると固まった。その視線の先は私で何か変な所でも有るのかと自分の服を確認するが問題は無く疑問が尽ず・・・お嬢様は「あぁ」と呟き彼に答える

 

「彼女は神楽深月。私の専属のメイド―――――ビックリした?生のメイドさんだよハジメ♪」

 

少しの間が空きハッと気付いた彼は「兎に角狭い家だけどどうぞ」と言いお嬢様と私は上がらせて貰うと――――待っていたのは暴走気味の彼のご両親だった

「メイドさん!?しかもモノホン!!」「我が世のネタがキターーーーー!」等と私に関する事だらけである。「えっと神楽さん僕の親が色々とごめんね?」ととても礼儀正しい謝罪、「私は気にしていないのでお構いなく」と伝えるとホッとしているご様子。恐らくご両親の暴走で落ち着きを取り戻したのであろう・・・それからはお嬢様と彼との二人だけの空間を作り私は台所を拝借、皆様の紅茶をご用意し配膳―――――私に関してはご両親方と出会いからのお話等、有意義な時を過ごすことが出来ました。因みに彼とお嬢様が何時くっ付くのかが楽しみなご様子でした。これはもうカウントダウン待ったなしと言う事ですね♪「頑張って下さいお嬢様」と心の中で応援しました。楽しい時はあっという間に過ぎ門限に間に合う様お嬢様に呼び掛け切り上げさせる。残念そうな顔を見ると心が痛くなりましたが仕方が無い事でした。ですがこれを切っ掛けとして何度もお邪魔をさせて頂いたので進展はあったと言っても過言では無いでしょう。彼の様な男性は奥手ですのでグイグイと押して行かなければ落とせないのです

そして高校の合格発表ではお嬢様を含み私も余裕での合格、美しさも含みダントツなお嬢様に新入生の挨拶を頼みに来た教師達に快く二つ返事をし始業式の新入生代表挨拶となりました。

 

これはビデオカメラを持参してお嬢様の記録コレクションに入れなくては!

 

あっという間に過ぎ去る日々、そして始まる高校生活に心が踊っているお嬢様。彼を見つけて名前を呼びながら近付き趣味の事について色々とお話をしているご様子。因みに私はメイド服での登校となっているので注目度は二番目でしょう←お前が一番目立っているよ!

義務教育は中学までなので高校からはお金の力と何故私がメイドなのかを説明し学校の方からは文句を言わせず特殊措置として認可して頂きました。入学式を含め始業式も私の姿に驚愕する人達が多いですね・・・メイド服がそんなに変なのでしょうか?因みにお屋敷にて着衣しているメイド服よりも露出は少ないタイプです。(※お屋敷での着衣しているタイプはアズールレーンのベルファストを想像して下さい)

肩口も胸元も開いてなくスカートはそれなりに長いので素肌が覗くという事は無く黒を基調とした服に黒いタイツ、白いエプロンという学校の黒い制服に近い基調としているので問題は有りません。無論お嬢様と同じクラスになる為にOHANASHIもしました

お嬢様のクラスには、何と南雲ハジメさんが居るではありませんか!お嬢様は近付き一緒にお話をしておりとても楽しそうでした。しかし容姿端麗、新入生代表挨拶もした事で知名度がある事で彼に嫉妬の視線が降り注ぐのは必然となり絡まれたりしており注意しようとしましたが、彼の大丈夫だからという気持ち含んだ視線の為何もせずにいました。一方のお嬢様は、彼が絡まれている事自体ご存じではありません。そんな感じであっという間に一年は過ぎ私達は二年生へとなりましたが、ここでも邪魔する厄介な奴――――――ど腐れ野郎と同じクラスとなりまたしてもご都合解釈でお嬢様を含め彼も迷惑していました。この一年またど腐れ野郎の被害が続くと思うと気が滅入ります―――――――そう思っていました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの出来事が起こるまでは・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「これを書こうとした切っ掛けはメイドの目線からという物が無かったのがいけないんだよ!メイドって良いよね♪私もご奉仕してもらいたいんだ~!」


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メイドでも毒を吐くときはありますよ?

布団「ど、どういう事だこれは!いきなりお気に入りが61件だと!?」
深月「それは皆さんが私のお嬢様の愛を見たいと言う事でしょうか」
布団「此処はR-15ですよ?」
深月「大丈夫です。事故に見せかけて犯るのです」
布団「字が隠せていない!」
深月「冗談ですよ・・・心の奥底では致したいと思っていますが」
布団「取り敢えず我慢してね?」
深月「私はお嬢様のメイド、誘われない限りは大丈夫ですよ」
布団「うん・・・まぁ・・・はい」
深月「では始まります。皆様どうぞ宜しくお願い致します」




読者様の誤字報告有り難う御座います




~ハジメside~

 

憂鬱だ・・・また始まる。嫌な学校が・・・・・

 

月曜日、学校へと行っている学生ならば理解できるだろう。めんどくさい登校、勉強、付き合い等々それは人それぞれだろう。しかしながら南雲ハジメと言う少年はそれ以上に嫌な事がある。それは――――――

 

「よぉ、キモオタ!また、徹夜でゲームか?どうせエロゲでもしてたんだろ?」

 

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

 

檜山を始めとした四人組からのいじめである。アニメやラノベが大好きなだけだと此処まで酷くはないだろう・・・しかしいじめとなる原因そのものはハジメの行動には無く

 

「南雲くん、おはよう!今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

その答えの一つは彼女である

彼女の名前は白崎香織、学校の三大女神の一角の一人である。いつも微笑の絶えず非常に面倒見がよく責任感も強い為、学年を問わずよく頼られている。これだけで分かるだろう?成績が平凡、授業では居眠りとしている為に不真面目生徒と思われている彼に快く思わない者、彼女を好いている男共からの嫉妬が原因なのだ

 

「あ、ああ、おはよう白崎さん・・・」

 

ホント何故彼女は僕に付き纏うのだろう・・・不思議で堪らないよ

 

ハジメはどうにかしてこの状況を脱したいと思っていると

 

「南雲君。おはよう。毎日大変ね」

 

「香織、また彼の世話を焼いているのか?全く、本当に香織は優しいな」

 

「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ」

 

お馴染み組の三人が声を掛けてきた。ハジメは心の内で「ナイスッ!」とグットポーズを取っていた

最初に挨拶をしてきたのが八重樫雫。白崎の親友でポニテ女子のお姉さま系の女性で、しっかりとしておりオカン気質

次はキラキラネームこと天之河光輝。容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能と正に勇者タイプの男

そして最後は坂上龍太郎。天之河と親友であり努力、熱血、根性が大好きで細かい事は気にしないタイプの脳筋野郎

 

「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」

 

ハジメは"趣味の合間に人生"を座右の銘としている為直す気は全くと言って良い程無い

 

「それが分かっているなら直すべきじゃないか?いつまでも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

 

と、このように勇者天之河は何時ものご都合思考にて注意するが南雲自身何を言っても意味無いだろうと諦めている。そもそもハジメの両親がゲームクリエイターと漫画家でバイトをする程の将来設計が出来ているのである。クラスの中でも早い段階で此処までの将来設計が出来ているのは凄い所だろう

そしてハジメが妬まれているもう一つの原因とは

 

「やっほーハジメ君!( ^ω^ )おっはよ~♪」

 

彼女の名前は高坂皐月。お金持ちのご令嬢であり常識的な人とは誰にでも分け隔てなく接する三大女神の一人だ。しかし、南雲にとって彼女とはとても仲が良いのである。前話でも説明していたが、高坂は南雲を切っ掛けにオタクの仲間入りを果たしたからだ

 

「ねぇねぇハジメ君、先週借りたこのラノベが予想を遥かに越えて面白かったよ!今度は直に借りに行っても良い?」

 

先程までオタクのハジメをいじめていた四人組は何も言わない。いや、何も言えないのだ―――――彼女のファンは多く信者も・・・そして何よりも怖いのは彼女の側に居るメイド

 

「皆様おはよう御座います。そして南雲さんもお元気そうで何よりです」

 

神楽深月――――高坂皐月の忠犬、オーバーキラー、超人メイド等と噂が絶えない女性だ

 

 

 

~深月side~

 

不愉快な塵芥共はお嬢様が入室してから一気に何も言わなくなりましたね。まぁ当然でしょう・・・お嬢様のファンクラブ達に知られれば矛を向けられると自覚している事でしょうから。まぁ例えファンクラブの方達が見逃したとしてもこの私は見逃すという事は絶対にありませんし、生きている事を後悔させる程OHANASHIをいたします

 

「皐月に深月も、眠そうにして真面目に話を聞こうとしない南雲と話すなんて香織と同様優しいな」

 

「私とお嬢様の名前を何時呼んで良いと言いましたか?お嬢様の許可を得ずに呼ぶ事は不敬ですよ」

 

「中学の頃から一緒だし、それに今もクラスメイト―――――名前で呼ぶのは当たり前だろう?」

 

本当にご都合解釈のど腐れ野郎は腹立たしい・・・お嬢様!早く私にこれを排除する様に申しつけ下さい!秒殺で終わらせますから!!

 

不愉快そうに天之河に視線をやり一言

 

「中学からって私はハジメ君と中学から一緒に遊んでいるから問題無いでしょ?そもそも遊んだ事が無い貴方にどうこう言われる筋合いは無いと思うのだけれど?」

 

「光輝君?私は私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」

 

殺気と嫉妬が入り交じった視線を浴びるハジメはビクッと肩を震わせた。檜山達四人は良からぬ事を企んでいるご様子

 

「え?・・・ああ、本当に香織や皐月は優しいな」

 

またしてもご都合解釈。これによって人生を狂わされた人は居るんじゃないかと思うばかりです・・・親はどの様に教育を成されたのでしょうか。その顔を見てお説教をしてみたいものですね

 

ハジメもハジメで厄介極まりないなぁ・・・と心の中で思いこの空気から逃れたいが為、教室の窓から青空を眺めた

 

「ごめんなさいね? 二人共悪気はないのだけど・・・」

 

雫は人間関係の心情等を理解しているのでこっそりとハジメに謝罪をする。まぁハジメは「仕方が無いよ」と完全に諦めて苦笑いを浮かべるばかりだ

 

「お嬢様そろそろお席に・・・もうすぐチャイムが鳴ってしまいます」

 

「ありがとう深月。それじゃあハジメ君、また後でね?」

 

皐月は深月に手で制し席に座る様促し着席。そうすると丁度チャイムが鳴り教室に教師が入り午前の授業が開始される。ハジメは直ぐに寝始め、皐月はその姿をこっそりとカメラで保存、深月は皐月の様子を脳内に録音するかの如く見続ける。この光景は教師も見慣れた物で放置し時間は過ぎ去っていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ジメ君―ハ―メ君?もうお昼だよ?昨日はそんなに忙しかったの?」

 

ゆさゆさと肩を揺する皐月、そして目が覚めるハジメ

 

「高坂さんおはよう。うん・・・昨日は母さんのアシで夜遅くまで手伝っていたからね」

 

「あぁ~成る程ね」と納得した皐月は十秒でチャージできる定番のそれをハジメから奪い取り深月へと渡す

 

「今日という今日こそは!何が何でもしっかりとしたご飯を食べさせるからね!深月!ハジメ君を捕まえて!!」

 

ハジメはハッとするがもう遅い

 

「では失礼致します南雲さん。少々強めに拘束をさせて頂きますのでご了承下さい」

 

後ろから羽織い締めをする深月。ハジメは逃れようと体を動かそうにも動かせずにいる・・・ハジメはただ逃げたいが為に拘束を逃れようとしているのでは無い。背中に当たる柔らかい物――――――深月のたわわなそれから逃げ様としているのだ。まぁ男子は嫉妬し女子はその男子達を極寒の視線で見る

 

「ではプスッとします」

 

「ちょ!?」

 

瞬間手足だけ自由が効かなくなり動きを完全に止められてしまったハジメ、深月は極細の針にてプスッと麻痺をさせただけである←普通は有り得ないし出来ません

 

「さぁこれで一緒に食べれるね?大丈夫!深月に食べさせるから何も問題は無いよ?」

 

本物のメイドによる「あーん」は特大の羞恥である。それを意図もたやすく実行する皐月・・・恐ろしい子である!

 

「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当?よかったら一緒にどうかな?」

 

追い打ちを掛ける様にハジメの心は悲鳴を上げる

 

どうして構うの!?高坂さんじゃなくて何で貴女が構うの!?と言葉が飛び出そうになるが、我慢――――――――そして

 

「あ~、誘ってくれてありがとう白崎さん。僕は高坂さん達と食べる予定だから天之河君達と食べたらどうかな?」

 

「てめぇ何してんだごらぁ!」と言わんばかりにギラギラとした視線がハジメに突き刺さる。皐月はニコニコしているが内心「どっか行けこいつ!」と思っているだろう。深月は「はぁ~」とため息を付き、この現状を嘆いている

 

「なら皆で食べようよ!」

 

まさかの爆弾発言に周囲がピシリッと固まった。「止めろ馬鹿!」と言いたげな皐月・・・深月は咄嗟に主の肩を抑え冷静さを取り戻させるとさらなる燃料が近づいてくる

 

「香織、皐月、深月。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

ハジメはギギギッと錆び付いたブリキ人形の様に声のした方向へ向くと、ご都合解釈大好き君が居た。香織についてはナイス~!で、皐月に関しては関わるなぁ!と思いつつ苦笑いをしているが

 

「え?なんで光輝くんのゆ―――――――」

 

「南雲さんここの空気が汚染されたので外で食べませんか?」

 

「深月の言う通りだね!ハジメ君!外に移動して一緒に食べよう?」

 

うぉおおおおおおおい!?どないしてくれるんだこの空気!!とハジメは深月に視線で訴えかけるが強制的に連れて行くと言わんばかりの強烈なお返しにため息が出る

 

(もういっそ、高坂さん達二人を除いて異世界召喚とかされないかな?どう見てもあの四人組、そういう何かに巻き込まれそうな雰囲気ありありだろうに。・・・でも正直異世界のメイドさんと神楽さんのメイドの力量差を見てみたいと思っている僕がいる・・・・・)

 

と思っていると、ハジメの目の前―――――天之河の足元に純白に光り輝く円環と幾多の紋様の輝きが現れ凍り付いた。その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気付くが全員が金縛りにでもあったかの様に出現した魔方陣に視線が奪われる。深月は「お嬢様!」と主の皐月の手を掴み外へ出ようとするが、徐々に輝く速さが加速し教室全体を覆い尽くさんばかりに拡大、悲鳴を上げる生徒達に教室にいた畑山先生が咄嗟に「皆!教室から出て!」と叫んだと同時に光が全員を飲み込んだ

 

 




評価、感想等お気軽にどうぞ


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召喚とオルクス迷宮
異世界召喚ですか・・・そちらのメイドは名ばかりの物ですね


布団「ダニィ!?お気に入りが115件だとお!?」
深月「それもこれも全てお嬢様の輝きがあってこその物です」
布団「主役はメイドさんなんだけどなぁ・・・」
深月「ではお嬢様の回を増やせば良いのです」
布団「うぐぅ・・・む、難しいけどやってみよう。(必ずやるとは言っていないけど)」
深月「駄目ですよ?唯でさえ誤字報告を心優しき読者様方から報告されているのですから努力して書いて下さいね?」
布団「ゲハァッ!」トケツッ

深月「では作者様は放置しましょう。では、ごゆるりとどうぞ」








~皐月side~

 

教室に魔方陣の様な物が浮かび上がり、光が爆発した後目の前に見えるは見た事も無い作りをした建物、いや・・・違うわね。古代から中世のヨーロッパの神殿に近しい造りとなっている事から転移もしくは異世界召喚・・・ラノベの異世界転移物が流行っている流れとよく似ているこの現状はとても良くない。周りには教室に居たクラス全員がこの場所へ立っている。・・・恐らく転移の指定があの教室内だけの者と言う事なのかな?お弁当とかの物がこちらに無いから・・・きっと・・・ね

 

皐月は自身の手を掴んでいるメイドの深月に視線を向けると、彼女の手には学校の鞄が握られている。この事から身につけている――――もしくは触れているという条件でこちらに来たのだろうと予測が容易に出来た

 

とにかく様子を見ないとどうする事も出来無いし、取り敢えずは静観しようかな?ハジメも何も言わず周囲を観察しているから恐らくこの後の展開を予想している筈。そして恐らくこの召喚は、私達を兵士としての召喚もしくは生け贄・・・

 

目の前に居る集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏った七十代くらいの老人が進み出て来た。全員がこの人物こそこの集団のトップなのだろうと感じた

 

「ようこそトータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様――――――歓迎致しますぞ。私は聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた

 

 

 

~深月side~

 

咄嗟に鞄を回収出来た事に安堵した私です。この中にはお嬢様の私服を数着、私の屋敷でのメイド服が入っている為、着たきり雀という最悪な事態は避ける事に成功ですね。しかし、この場所は大聖堂に似ている・・・となれば此処は神官等が居る場所という可能性が高いと言う事。―――――――そしてお嬢様が現在読まれている異世界転移という小説と似た感じですね

お嬢様と南雲さんは、周囲を観察そして最悪の想定を元に動く事になるでしょう。そして、あの豪華な衣装を纏った老人は覇気がありますが、それだけの人物。・・・色々言いたい所ですがまずは話でも聞きましょうか。何事も情報が一番大切ですので

 

深月は、これからの事について設計を立てて行こうと情報を聞き出す為に、注意深くイシュタルの言動を気付かれない様に自然体で観察する事にした

場所は移りテーブルが並べられている大広間へと全員が集められた。メイドの深月以外が着席、そして絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入って来た。生のメイドさんに全員の目が向くが驚きは無い・・・そもそも学内で皐月に付き従う生のメイドさんをほぼ毎日見ているので殆どが慣れていた。まぁそれでも美女・美少女メイドである為、男子達は凝視している。しかし、それを見た女子達の視線は氷河期もかくやという冷たさを宿していたのだがそれはお約束

ハジメの側にもメイドさんが飲み物を給仕するが凝視はせず、ただただ軽い会釈をもって感謝するが・・・背筋に悪寒を感じさせる程の視線が突き刺さり、そちらを見ると何故か満面の笑みを浮かべた白崎がジッと見ていた。ハジメは無視を決める事にした。そんな中良い表情をしなかった人物が一人―――――深月である。そして誰もが予想していなかった言葉が発せられ

 

「本当に貴方達はメイドなのですか?大方美女を宛てがい印象を良くしようとしたのでしょう。・・・しかし問題は其処ではありません。この飲み物は全くもってなっていません!お嬢様が飲まれる分はこの私自ら用意致しましょう!さあ厨房へと案内しなさい!!」

 

全員がぽかーんと口を開けて呆けている。その間に早足を持って厨房へと消えて行く深月、皐月は小さく微笑みを浮かべていた。そして数分後にカートにカップ、ポット、茶葉を乗せて帰って来たのだが、彼女の後ろを付いてくるメイド達はズーンと沈み込んでいた。そしてここでも天之河の思い込みは激しく憤る

 

「深月!彼女達に何をしたんだ!いきなり違う世界に来たからといって他人に当たり散らすなんてしてはいけない!」

 

皐月が「はぁー」とため息を吐き、深月は天之河を無視して皐月の元へ行き紅茶を慣れた手つきで入れ終わり差し出し終えた後、ご都合君に言い放つ

 

「彼女達はメイドとしての心構えが全くもってなっていません。メイドとは主に尽くす事、そして与えられた役割に全力を注ぐ事。基本すら出来ていないこの半端者達に私がお説教をし、手本となる仕事を示しただけの事――――大方私と自身の差にショックを受けているだけでしょう。・・・全くもって嘆かわしい。一度この私自らが指導して差し上げた方が有益とも言えますね」

 

天之河は何かを言おうとするが馴染みの雫に首根っこを掴まれて元の場所へと着席した。ゴホンッと咳を一つ付きイシュタルは説明を開始する

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

ふむふむ成る程。・・・魔人族が強くその使役する魔物もまた強い。人間族のパワーバランスが負けている為にこの勇者召喚を行ったと言う事ですか

 

更に簡単に言っちゃうと――――――「魔人族強すぎ!人間族滅んでしまいそうだから異世界から兵士呼べば良いじゃん」という事

 

「あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にしてこの世界を創られた至上の神。エヒト様は悟られたのでしょう――――――このままでは人間族は滅ぶと。そしてそれを回避する為にあなた方を喚ばれこの世界より例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という救いを送ると。あなた方には是非その力を発揮し、エヒト様の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

これは不味いですね・・・エヒトと名を出した瞬間周囲の目は狂信者のそれと同じ類の目その物。そして何よりこの言い方では一方的に魔人族が悪であるという事

 

深月の読みは正しく、エヒトを信者とする者達は狂信者のそれだった。人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒で度々降りる神託を聞いた者は、例外なく聖教教会の高位の地位に付くとの事と、神の意思を疑いなく嬉々として従うこの世界の歪さが酷い。しかし此処で突然立ち上がり猛然と抗議する人物――――――愛子先生だ

 

「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようって事でしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっとご家族も心配している筈です!貴方達のしている事はただの誘拐ですよ!」

 

通称――――愛ちゃん

 

この様な理不尽な行為を否定し、イシュタルに食って掛かる物の告げられる言葉に凍り付く

 

「お気持ちはお察しします。しかし・・・あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

「ふ、不可能って・・・ど、どういうことですか!?喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

混乱しているだろう。しかし希望はへし折られる

 

「先程言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

 

「そ、そんな・・・」

 

ぺたんとその場に崩れ落ちる様に座り込む愛子先生、そして周囲もその理不尽さに腹を立てる

 

「嘘だろ?帰れないってなんだよ!」

 

「いやよ!何でも良いから帰してよ!」

 

「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」

 

「なんで・・・なんで・・・なんで・・・」

 

「どうしてこんな事になるのよ・・・嫌だよぉ・・・・・」

 

殆どの生徒がパニック、ハジメも外見は冷静を装っていても内心は焦っていた。それでも、予想していた幾つかのパターンの中でも最悪の物では無かったので他の生徒達よりは平静さを取り戻していた。皐月もハジメ同様落ち着きを取り戻し静観、この先に待ち受ける何かに用心するかの如く見ていた

未だにパニックが収まらない中、天之河が立ち上がりテーブルをバンッと叩き、その音にビクッとなり注目する生徒達――――皆から目を向けられるのを確認して提案をする

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。・・・俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺には出来無い。それに、人間を救うために召喚されたのなら救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。・・・イシュタルさん、どうですか?」

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

「俺達には大きな力があるんですよね?此処に来てから妙に力が漲っている感じがします」

 

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えて良いでしょうな」

 

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

そう宣言した天之河。無駄に光るし、カリスマ性を持っている為、絶望していた生徒達は冷静さを取り戻しやる気になっている。女子の方は熱っぽい視線を向けているが、まぁイケメンは爆ぜろと言いたい

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。俺もやるぜ?」

 

「龍太郎・・・」

 

「今の所、それしかないわよね。気に食わないけど・・・私もやるわ」

 

「雫・・・」

 

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

 

「香織・・・」

 

何をやっているのやら・・・あのど腐れ野郎は遂にやってはいけない所までやらかしてしまいましたね。無駄にカリスマ性を持っているからややこしい。・・・あぁ周囲も皆賛同して行きます――――――――お嬢様と南雲さんは何も言わずに黙って聞いていますね。今は恐らくこれが正しいのでしょう。愛子先生は否定していますね・・・こんな中でも否定を貫くとは教師の鏡ですよ貴女は――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これが夢であればそう言いますが、これは現実。その様な甘い考えは何時の日か大きな後悔を持って貴女自身に帰って来ますよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静観していた深月だが此処に来て厄介な矛先がこちらへと向く

 

「皐月も深月も俺達と一緒に戦おう!」

 

あぁこれは駄目だ。もう我慢が出来無いと手を上げそうになるが一旦冷静になろうと深呼吸すると、ツカツカとお嬢様がど腐れ野郎に近いて行く

 

「やっぱり皐月も戦ってくれるんだよな!よし!皆で地球に帰―――――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァン!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お嬢様の平手打ちがど腐れ野郎の頬へとシュートッ!!何が起きたか分からなさそうに呆然とお嬢様を見るあれは見物ですね!お嬢様流石でございます!!

おっと、こうして見ていてはいけませんね。このハンカチを水に濡らしお嬢様の綺麗な手を拭いて冷やさなければ。・・・そういえば、この世界は魔法を使えるのでしょうか?あそこにいるメイドに聞いて濡らせる魔法が無いか聞いてみましょう

 

 

 

OHANASHI中―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

ふぅ、これで濡れハンカチが出来たのでお嬢様の元へと急がねば!待ってて下さいお嬢様~♪私が今すぐお嬢様のお手々を冷やします!!

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

うわぁ・・・高坂さんがあそこまで怒っているの初めて見ちゃったけどもの凄く怖い。取り敢えず黙って様子を見よう。・・・そうする事しか僕には出来無いよ

 

「な、何をするんだ皐月!?」

 

「黙りなさい。そして私の名前を勝手に呼ばないで下さる?深月から散々警告したのにも関わらずに直す気配が無いとは最低ですね」

 

皐月の天之河を見る目は道ばたの小石程度の評価となった

 

「貴方のその言葉には重みの無い薄っぺらな物。正義という言葉を知った子供と同義で、その果てに何が待っているか何が起こるかを理解していない。そして、取り巻きの貴方達三人も理由無く私達に話し掛けないで下さい。直そうともしないその無責任と何時か何時かという先送りする事はもううんざりです。そして私はこの戦争には参加しませんので悪しからず」

 

そう言い放ち天之河君達が何を言っても無視を決め込み先生の元へと歩き、神楽さんも合流し濡れハンカチかな?それを高坂さんの手に巻き付けている。そっか・・・張った手も怪我をするから冷やしているんだ。流石本物のメイドさん・・・この世界のメイドさんよりも凄いって事が良く分かるね

だけど色々と観察して思った事、高坂さんが天之河君に反対した時のイシュタルが向ける目が敵対者とかそういった嫌悪感を出していた。・・・多分神楽さんも気付いてか先生の側に移動させ側を離れない様にして周囲を注意深く観察している

 

ハジメはこの事からイシュタルを要注意人物の一人に上げ警戒をしながらこの世界でどうやって生きていこうか考え始める

 

 




布団「どやぁっ!お嬢様視点出せたぜ!」
深月「全くもってなっていませんね!もっと半分近く埋める形で書きなさい!お嬢様のご偉功をもっと知らしめないといけませんのに!」
布団「主人公sideは多用出来るんだけどなぁ・・・」
深月「ちぃっ!今すぐ書き貯めている分を全て放出しなさい!さぁ出すのです!」
布団「書き貯めって何ですか?」
深月「せめてお嬢様の強さを表す所まで!早く次話を寄越しなさい!」
布団「頑張るんだよ?・・・・・それと読者さんはこの後書き見ているけど大丈夫?」
深月「・・・ゴホン、大変お見苦しい所をお見せ致し申し訳御座いません。ですが皆さんも気になりますよね?ですよね!」
布団「必死にアピールやめれ」
深月「さて、冗談は程々にしましょう」
布団「感想、評価バッチ来い!」
深月「でも作者さんのメンタルは豆腐より柔らかく脆いでしょう?」
布団「自分でもかなり気にしている事実を言わないで・・・」グスン
深月「少し弄りすぎてしまいましたね。私は作者ではありませんが生暖かい目を持って待っていて下さいね?誤字報告等ありましたら宜しくお願い致します」






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ステータス?メイドの私は既に決まっています

深月「作者さん・・・無理していませんよね?フリじゃありませんよ?」
布団「大丈夫だ、この回は設定をある程度決めていたから」
深月「もう一つのクロスオーバー小説は大丈夫なのですか?」
布団「ダイジョウブダヨーモンダイナイヨー・・・」
深月「反省していませんね!其処に正座しなさい!」


説教中・・・



深月「全く・・・作者の無計画さにはほとほと呆れてしまいますね」
布団「 」チーン
深月「それはそうと、読者の皆様の感想有り難うございます。作者の誤字報告もありましたのでとても助かっています」
布団「グフゥ」グサグサッ!
深月「では次のお話です。ではごゆるりとどうぞ」












~深月side~

 

お嬢様の口からハッキリとど腐れ野郎とその取り巻き三人組に理由無く関わらないでと口にされたので、これからはかなり心身的に楽になりますね。ハッキリと戦闘参加を決意した以上、戦いについて学ばなくてはいけない事から正直に言いまして期待なんてこれっぽっちもありません。幾ら潜在能力があるからと言ってもそれを扱う人間の力量が伴っていないとどうする事も出来無いのです

狂信者について行くと柵に囲まれた円形の大きな白い台座が鎮座しており、大聖堂で見たのと同じ素材で出来た美しい回廊を進みながら促されるままその台座にお嬢様を抱え乗ると、その台座には巨大な魔法陣が刻まれていました。すると狂信者が呪文を唱え

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん――"天道"」

 

終わったと同時に足元の魔法陣が燦然と輝き出し、まるでロープウェイのように滑らかに台座が動き出して地上へ向けて斜めにおりていきます

因みに私達が居た場所は聖教教会は【神山】の頂上で召喚された様です。しかもその高さは凄まじく、雲海が見える程高い場所でした。普通は息苦しかったり寒かったりとするのですがおそらく魔法で生活環境を整えているのでしょう。そうして雲海抜け地上が見えた大きな町―――――ではなく国が見える。巨大な城と放射状に広がる城下町は主要都市と言えば良いでしょうか・・・台座は王宮と空中回廊で繋がっている高い塔の屋上に続いているようですね

演出としてこの様な光景を見せられればこの街は魔人族に滅ぼされ、瓦礫の山となるでしょう。それを防ぐ為には「あなた方の力が必要なのです!」等と言っている様な物ですね。現にど腐れ野郎はその様に感じているでしょう・・・正義とは人それぞれですが、現実を理解していないこの者達に忠告しても遅いでしょうね

 

徐々に近づいていく地表、そして外の景色を静観しながら深月は皐月の忠犬として、害ある物をどう払うか考えている内に到着。そして一同は王宮の玉座へと案内されて行く

王宮は教会に負けないくらいの内装で、道中に騎士っぽい装備を身につけた者や文官らしき者、メイド等の使用人とすれ違い、その一人一人の目が期待と畏敬の籠った視線であり何者であるか予想が出来ていたのだろう。ハジメは居心地が悪そうに最後尾を歩く。まぁこの中でこの様な視線を向けられていないのは深月ただ一人。メイド服を着ているから仕方が無いのである

そして巨大な両開きの扉の前に到着すると、両サイドに立っていた兵士二人がイシュタルと勇者一行が来たことを大声で告げて扉を開け放つ。イシュタルは悠々と、天之河達の様な一部例外を除いては恐る恐るといった感じで潜って行くが深月だけが兵士に呼び止められるが、皐月の一言でギョッとして謝罪し一同の元へと合流する

扉をくぐった先には真っ直ぐ延びたレッドカーペット、その奥の中央に豪奢な玉座があり、その手前で立ち上がり待っている初老の男性がいた

 

成る程、本来は王であるあの男性が立ち上がり待っていたとなる所を見るとこの狂信者は国王よりも地位が高いという事が確定致しました。お嬢様も南雲さんも気が付いた様で何よりです。周囲を見るにあの方は王妃、その息子の王子と娘の王女辺りでしょうか?

 

またもや深月の予想は正しく、国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリア、王子はランデル、王女はリリアーナという。その他にも騎士団や宰相等の高い地位の者達が紹介されて行き、晩餐会が開かれ異世界料理を堪能する。見た目は洋食のそれに近い物だったが、超メイドこと深月は厨房へと赴いて使われている食材、調理方法を見て学び自分の物とした。深月は皐月の為となるならば知らない知識を学ぶ事を当たり前とし、見ただけで覚えるという規格外な才能を持っているのだ

王宮では勇者達の衣食住が保証されており、訓練における教官等も現役の中から選ばれている。いずれ戦いに赴く為の親睦を兼ねてと言う事もある。晩餐が終わり各自に一室と割り振られる部屋に鎮座する天蓋付きのベッド―――――庶民の彼等からすると戸惑いがあるのだが皐月に関しては慣れたベッドの光景だった。ちなみに深月は一室を拒否、皐月の専属メイドと言う事で一緒の部屋で寝ているのである。そして皐月から一緒に寝ようという無茶ぶり命令により現在一緒に寝ている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お嬢様!お嬢様!お嬢様!お嬢様の匂いがああああああああ!クンカクンカスーハースーハー・・・・・フゥ。つい、お嬢様の愛が爆発してしまいました。お見苦しい所をお見せして申し訳御座いませんでした

 

こうして怒濤の一日が終わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日から戦闘訓練と座学が始まるにあたって、銀色のプレートが全員分渡され騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた

 

「よし、全員に配り終わったな?このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれる物だ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

皐月は表裏と確認するがただの銀板ではないのではないかと不思議そうに思っているが内心ワクワク、深月は皐月のステータスについての心配をしていた

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう?そこで一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らすとそれだけで所持者が登録される。ステータスオープンと言えば表に自分のステータスが表示される筈だ。原理とか聞くなよ?そんなもん知らないからな?神代のアーティファクトの類だ」

 

「アーティファクト?」

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現出来無い強力な力を持った魔法の道具の代物の事だ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな・・・複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及している物としては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが・・・これは一般市民にも流通している。身分証になるからな」

 

各生徒達はステータスプレートへと血を魔方陣へと擦り付けると淡い光が灯る。周りの様子を確認した皐月もやってみる

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

高坂皐月 17歳 女 レベル:1

天職:錬成師

筋力:5

体力:5

耐性:5

敏捷:5

魔力:5

魔耐:5

技能:錬成 直感 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「・・・・・ナァニコレ」

 

自分の数値の低さに絶望している皐月に追い打ちを掛けるかの如くメルドはこう続けた

 

「全員見れたか?説明するぞ、まず最初にレベルがあるだろう?それは各ステータスの上昇と共に上がり、上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

「ゴフッ!」

 

「お、お嬢様!?」

 

自分の血を擦りつけようとした深月だったが、OTL状態となった皐月を支えるのが優先な為中断する

 

「げ、現実が私を殺しに来てる・・・・・ゴホッ!」

 

更なる追い打ちを掛けるメルド

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させる事も出来る。魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなるのだがそこまで詳しい事は分かっていない。魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。そしてお前等用に装備を後で選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

「グペェ!?」

 

まだまだ追加攻撃は止まらない

 

「次に天職ってのがあるだろう?それは言うなれば才能で末尾にある技能と連動している。その天職の領分においては無類の才能を発揮するし、天職持ちは少ないぞ!戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、代物によっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが・・・百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくない物も結構ある。生産職は持っている奴が多い」

 

まだ俺のバトルフェイズは終了していないぜ!

 

「後は・・・各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな!全く羨ましい限りだ!あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

「  」チーン

 

現実は非情なり、ステータスが低い者なぞ誰も見向きもしない筈だ・・・というか間違いなくそうする。成長の伸び代が無いと言っている様な物―――――――そして追い打ちの中で一番酷い追い打ちに遭う

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性 全属性耐性 物理耐性 複合魔法 剣術 剛力 縮地 先読 高速魔力回復 気配感知 魔力感知 限界突破 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

皐月が否定した天之河のステータスがチートの権化であった

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か・・・技能も普通は二つ三つなんだがな~、規格外な奴め!頼もしい限りだ!」

 

「いや~、あはは・・・」

 

因みに団長はレベルは62でステータスはおよそ300前後、という伸び代によっては速攻で追い抜かれてしまう程の物だった。色々と見込みのある者達が居てメルド団長はホクホク顔であったが皐月よりも前に「ん?」と言う声が漏れ「見間違いか?」等と言う始末そしてステータスプレートに異常が無いか調べ、何も無いと分かると

 

「ああーその・・・なんだ。錬成師というのは言ってみれば鍛治職の事だ。鍛冶する時に便利だとか・・・」

 

ハジメの天職は錬成師と歯切れ悪く説明するメルド団長に私は少し疑問が残りました。何故あそこまで歯切れが悪いのか?と、後方で戦線を維持する為には錬成師は重要なポジション・・・そこで一つの可能性が思いついたのです。南雲さんはお嬢様の様にステータスが低いのでは無いかという結論に至りました。そして彼を目の敵にしている塵芥共が調子に乗り出します。正直言って不愉快です――――――お嬢様にも同じ様な事をしたのであれば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

殺す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてお嬢様の命令で南雲さんを助けろと言われたのならば助けましょう

 

深月は待機、行く末を見つめる

 

「おいおい、南雲ってもしかして非戦系か?鍛治職でどうやって戦うんだよ?メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」

 

「・・・いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」

 

「南雲~?お前、そんなんで戦えるわけ?」

 

「さぁ、やってみないと分からないかな」

 

「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」

 

檜山の取り巻き三人もはやし立て、強い者には媚び、弱い者には強く出る典型的な小物の行動に不愉快な視線が突き刺さるも全く気付かずに居る。檜山はハジメから奪い取る様にステータスプレートをひったくり、ステータスの内容を見て爆笑。斎藤達取り巻きに投げ渡し内容を見た他の連中も爆笑なり失笑なりをしていく。そしてクラスの一部の人達も失笑する

 

「ぶっはははっ~、なんだこれ!完全に一般人じゃねぇか!」

 

「ぎゃははは~、むしろ平均が10なんだから、場合によっちゃその辺の子供より弱いかもな~」

 

「ヒァハハハ~、無理無理!直ぐ死ぬってコイツ!肉壁にもならねぇよ!」

 

とハジメを馬鹿にしている最中――――――

 

「あー・・・えっとだな・・・分かっていると思うが、錬成師は・・・その・・・・すまん」

 

しんと静かになった取り巻きとクラスメイト達、何故か?それは皐月のステータスプレートを見たメルドの発した言葉だったからだ

 

「ハジメ君、同じ錬成師として一緒に頑張ろうね♪」

 

「そういえば高坂さんのステータスはどんな感じ?やっぱり僕よりも高いよね?」

 

にやりと悪い笑みを浮かべる檜山含む取り巻き男子達だがその全てを裏切る

 

「えっとね?私のステータスってハジメ君の半分の5なの」

 

更に空気が固まった事に気付くハジメ、そんな中フォローをしようとする愛子が近付き二人にステータスプレートを見せ―――――――

 

「南雲君、高坂さん、気にすることはありませんよ!先生だって非戦系?とかいう天職ですしステータスだってほとんど平均ですからね!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

畑山愛子 25歳 女 レベル:1

天職:作農師

筋力:5

体力:10

耐性:10

敏捷:5

魔力:100

魔耐:10

技能:土壌管理 土壌回復 範囲耕作 成長促進 品種改良 植物系鑑定 肥料生成 混在育成 自動収穫 発酵操作 範囲温度調整 農場結界 豊穣天雨 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

死んだ魚の様な目をするハジメと皐月

 

「あれっ・・・どうしたんですか!?南雲君!高坂さん!」

 

愛子は二人に止めと言わんばかりの一撃を放つ

 

効果は抜群だ!

 

死んだ目をしながら逃避する様に標的を切り替える為、ハジメは未だにステータスプレートに何もしていない深月へと標的を切り替える

 

「そう言えば神楽さんのステータスってどうなのかな?様子を見てたけど、高坂さんに付きっきりで確認していなかった筈だけど・・・」

 

「あぁ・・・そう言えばそうね。深月のステータスってどんな感じ?」

 

この時全員が思っただろう。学校では運動能力抜群、男子すらをも上回るそれを考慮するならば、二人目の勇者だろうと思っていた

 

「では確認致します」

 

小指に針を少し刺して血を一滴、表示されたステータスは

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:1

天職:メイド

筋力:250

体力:400

耐性:250

敏捷:350

魔力:400

魔耐:250

技能:生活魔法 熱量操作 気配遮断 高速思考 精神統一 身体強化 縮地 硬化 ■■制御 魔力制御 気配感知 魔力感知 家事 節約 交渉 戦術顧問[+メイド] 直感 心眼 極致[+剣裁][+拳闘][+体術] 限界突破 言語理解

称号:メイドの極致に至る者

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

( ゚д゚)ポカーン

( ゚Д゚)( ゚Д゚)( ゚Д゚)( ゚Д゚)エッ!?ショウゴウナニソレ!?

 

最早誰もが呆然としていた

 

「・・・ハッ!?いかんいかん余りにも凄まじく呆然としていた!」

 

そして小悪党四人含めクラスの全員は笑う事を許されない。もしも笑ったが最後、物理的なOHANASHIが待っている為である

 

「ふむ・・・もう少し欲を言えば耐性系統が高い方が良いですね」

 

ちょっと待てえええええええい!と突っ込みを入れたい程チートである。天職がメイドってそれ違う!―――――しかも勇者よりステータスが高いという何とも言えないやっちゃった感が否めない

 

「流石~♪やっぱり深月は最強ね!私も鼻が高くて嬉しいわ!!」

 

るんるん気分の皐月はニコニコしておりとても良い気分だったのだが

 

「深月にそれだけの力が有るんだ!俺達と一緒に魔人族を倒そう!」

 

昨日の今日でこれである。絶対零度の視線を天之河へと向ける皐月はこう告げる――――――――

 

「ねぇ深月?あのご都合解釈者に本当の戦いというのを経験させて あ・げ・な・さ・い」

 

今までに無い底冷えした声に全員が驚愕する中、深月はただ一言―――――――

 

「了解致しましたお嬢様」

 

「徹底的に心という心をへし折って上げなさい」

 

「かしこまりました」

 

こうして前代未聞、勇者Vsメイドの戦いが幕を上げる

 

 

 

 

 

 

 




布団「良い感じにバグレベルにしちゃったんだぜ!」テヘペロ
深月「やりすぎでしょうに・・・」
布団「全てのお仕事をこなして戦闘までも出来るメイドなんて居ないんだぁ!」
深月「それはお嬢様の為です!」
布団「職業はビックリだろう?」
深月「いえそれは全く」
布団「なん・・・だと・・・・・!?」
深月「お嬢様のメイドとは私ですので」
布団「本当に狂化されてないんだよねぇ・・・?」
深月「お嬢様ニウムが足りませんので補充してきます」
布団「あ、はい・・・どうぞ」
深月「感想や評価はお気軽に          お嬢様~♪」
布団「ではこの辺で終わりましょう次話までさようなら~」




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メイドは手加減して差し上げます

布団「たったの4話の投稿でUA9000越えにお気に入りが293件だとぉ!?どどど、どうなっていやがる!?」
深月「どんどんと伸びていますね」
布団「ぷ、プレッシャーに押しつぶされそうだ・・・」
深月「私は問題無いです」
布団「そ、それじゃあハジマルンダヨー」ガクブル
深月「では皆様、ごゆるりとどうぞ」




~深月side~

 

さて、お嬢様からの命令は徹底的に心をへし折り勝利せよとの事。ど腐れ野郎がこの戦いについてどう思っているか知りませんが私は全力で命令を遂行し他者がお嬢様への虐めが出来無い程の恐怖を植え付けて差し上げましょう

 

この世界へと持ってきた鞄の中には何も着替えだけが入っている訳では無い。ちゃんとした武器・・・暗器が入れられているので戦いは十全にそして万全の状態なのだ。訓練場の広場へと行くと木刀を手にしている天之河が居り、深月はこの試合の審判として自薦したメルド団長にチラリと視線をやるとそれに了承したかの様に頷いた

 

「ではこれより勇者達の試合を開始する。双方問題は無いか?」

 

「問題ありません!何時でもいけます」

 

「私としては問題だらけです。真剣も持たず何故この場に立っているのか不思議でなりません」

 

「しかし、メイドはその軽装で大丈夫なのか?胸元や腕が露出しているのだが・・・」

 

現在、深月の服装は屋敷でのメイド服――――――言うなれば実戦用のメイド服である為何も問題は無い

 

「このメイド服こそ、この私の本来の動きに対応出来る服です。そもそもの問題として私が勇者(笑)の攻撃が一つでも当たるとお思いですか?」

 

「・・・そうだな。余計な事を言ってしまった様だな」

 

メルドは深月の歩く姿だけでその実力を確信していた。自分と戦った際このメイドに勝つ事が出来るのであろうかという心配がある中で天之河との対戦、本当の実力を見るのには持って来いのタイミングであったのだ

 

「光輝これを使え。それは聖剣で自身を強化したりと装備するだけで良いことずくめの物だ―――――教会も王も皆がお前にこれを使わせる予定だから丁度良いだろう」

 

天之河の手に聖剣が渡り今まで以上の力が沸く自身に驚きを隠せないでいたがそれも束の間、聖剣を深月へと向け告げる

 

「もしもこの勝負で俺が勝ったら皐月と深月は皆と協力し魔人族を倒す事を約束するんだ」

 

「また勝手に名前を・・・まぁ、お嬢様から了解も得ましたし良いでしょう。もし私に勝つ事が出来ればお嬢様と一緒に協力を致しましょう」

 

その言葉にニコリと笑みをこぼす天之河だが深月の本題は此処からである

 

「もし私が勝てば貴方は一生、お嬢様と私の名前を呼ばず、邪魔せずの不干渉を命じます」

 

「な!?何でそんな事を言うんだ!!」

 

「何故?そもそも私達の行く末を貴方が決める道理はありません。それを試合で勝利したからと言って協力させるというのは人生の縛りですよ?ならば貴方が負けた場合の不干渉は何も不思議では無いでしょう?試合に自分だけが得をする条件を押しつけて損をする条件は許さない――――――どちらが理不尽であるか一目瞭然でしょう?」

 

「・・・分かったその条件を飲む。だけど勝ったら!ちゃんと皆と協力する事を約束するんだ!」

 

「私に勝てたら、受け入れましょう」

 

条件は決まりお互いに相対

 

「それではこのコインが落ちたら戦闘開始だ」

 

そしてコインを上へと弾き回転しながら落ちてゆき―――――――チンッとコインが落下した音を合図に天之河が走り出し、深月の懐へ飛び込み一閃するが紙一重で躱される

 

「これで一回」

 

二撃三撃と続けざまに振るうも全て紙一重で躱して行く深月

 

「四回、七回、そしてこれで十回です」

 

段々と増えて行く回数に疑問を感じつつある天之河、自身が聖剣を振るう回数につれそのカウントは進み今では三十まで数えられていた。深月は大きく後退する様に跳躍、天之河と距離を取りため息を吐く

 

「三十回・・・これが何を指し示しているかご存じですか?」

 

天之河は深月の言葉を無視し攻撃を続ける為追撃を行う

一方この戦いの様子を見ていたギャラリーの中で気付いたのはごく少数、メルド団長や騎士団の軍人、八重樫、皐月の三人だけであった

 

「はぁ!?幾ら何でも強すぎるじゃない!何なの彼女は!メイドでしょう!?」

 

「ちょ、ちょっと雫ちゃん落ち着いて!?」

 

気が動転している八重樫を白崎がどうどうと落ち着ける中、メルドは冷や汗を掻いていた

 

(ただ者じゃないと確信はしていたがこれ程までなのか!?両者には隔絶とした技術の差がありすぎる。・・・もしも俺が彼女と相対する事になれば確実に殺されてしまうだろう。そろそろ彼女が反撃に出ると思うがどの様に攻め立てるか・・・彼女の主であるあのお嬢さんに心を徹底的に折れと言っていたがどの様にするつもりだ?)

 

興味深そうに深月を観察するメルド。天之河が攻撃を続けていて深月は回避するだけの光景に素人達は天之河が優勢だと考えていた

 

「どうだ!俺は皆を守れるだけの力を持っている!回避ばかりで手一杯で言葉だけなのは深月の方じゃないのか?」

 

「掠りもしない攻撃を続けて未だ理解出来ませんか・・・では次はこちらから攻めさせて頂きましょう。何の変化も無いただの棒振りに長々と付き合うつもりもありませんので――――――では行きますよ?」

 

振り下ろしに被せる様に横一閃にナイフを素早く滑らせた深月、先読にて咄嗟にナイフを避けようと体をずらした天之河だがそれは悪手であった。ナイフへと視線を逸らされたと同時に聖剣を持っていた手は手首を捻る様に関節を外され聖剣がこぼれ落ちる。痛み無く手首の関節を外された天之河は驚愕するが、この隙を見逃さず腹部へとペタッと手の平を当て寸剄に近いオリジナル打撃を打ち込む

 

「ガハアッ!?」

 

深月を中心に広がる衝撃の波紋は、天之河を数十メートル吹き飛ばし口から吐血する程の強烈な一撃だった。地面へと膝を突き、誰がどう見ても天之河の敗北だと疑わなかった――――――しかし深月の攻撃はそれだけでは留まらず顎の骨が砕けたりしない程度の絶妙な力でもって蹴り上る。強制的に天之河を立たせた後、鉄震靠擬きを打ち込み更に吹き飛ばし更なる追加攻撃をしようとしたが天之河は失神していた為に戦闘続行不能――――――

 

「この程度の動きにも付いて来れず、あまつさえ気絶するとは・・・もっと手心を加えた方が宜しかったですね。これでは徹底的に心をへし折る事も出来ませんし・・・お嬢様に怒られませんよね?」

 

こうして一方的な試合は幕を下ろした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神楽さんちょっと良いかしら?」

 

試合が終わったその日の夜、ハジメとの二人きりの空間を作った皐月に自由時間を言い渡され深月は鍛錬をしていた。その最中に八重樫が声を掛けてきたのだ

 

「何用ですか?勇者様方にはお嬢様から干渉をするなとのご指摘があったと存じておりますが」

 

「それは光輝だけでしょう。私達三人に関しては干渉するなと言われていないし私は理由があって話しかけているだけ・・・それよりも今日の試合だけれど、あのカウントは光輝を殺した回数で間違い無い?」

 

「あらごめんあそばせ――――――という冗談は無しにしてお答えしましょう。八重樫さんの言う通りあのカウントは私があのど腐れ野郎を実際に殺せた回数です。まぁ最も最大限の手加減をしてもあの回数だという事ですので」

 

八重樫は最後に深月に何故強さを求めたのかを質問する

 

「何故神楽さんはそこまでして強さを求めたの?」

 

「全てはお嬢様の為、私の全て血肉や髪の毛一本に至るまでこの身を捧げて護ると誓いましたので」

 

「そう・・・神楽さんはとても強いのね・・・・・」

 

「八重樫さんもお強いでしょう?あのど腐れ野郎と比べれば」

 

「嫌味を混ぜないでくれるかしら?それとど腐れ野郎って・・・光輝は一応幼馴染み何だけど?」

 

「ど腐れ野郎で十分でしょう?貴女もあれを取り巻く女性達に色々とされていたのではありませんか?」

 

ビクッと図星を付かれたの様な反応をする八重樫、その様子を見る深月はクスクスと笑っている

 

「まさかカマを掛けただけで此処までの反応を頂けるとは予想していませんでした」

 

「それが本性?だとしたらとんでもなく意地汚いメイドね」

 

クスクスと小さく笑みを浮かべる深月にギロリと睨む八重樫だがそれは無意味、恐怖も何も感じない。怯ませる事も出来無い程度の睨みだからだ

 

「あれもこれも全てが私の本性ですよ?この様に、遊び心満載の駆け引きも出来無ければお嬢様は守れませんから。それではお休みなさいませ」

 

足音を立てずその場から音も立てず去って行く深月に八重樫はため息を吐く

 

「どうやって現代社会であれ程の絶対なる忠誠心を持つ者が現れるっていうのよ。・・・恐らく彼女は経験しているのでしょうね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人殺し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてさて!お嬢様は南雲さんと何か進展があったでしょうか♪何時二人がくっ付くのか楽しみで仕方がありません!

 

深月が妄想に耽りながらハジメに宛がわれた一室前に到着、それと同時に扉が開き皐月が出てくる

 

「お嬢様そろそろお時間です。お部屋に戻りましょう」

 

「ふふ、深月はいっつも私の事を思ってくれてるからとても助かっているわ」

 

こうして二日目の夜が終わり、本格的な訓練が開始されるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから二週間が経ちました。南雲さんは自身が戦闘に役立たないと理解したその瞬間にサポートの為の訓練、知識の詰め込みを行っていますね・・・何故私が知っているかですか?お嬢様の益となる情報は新鮮な物程良いからです。お嬢様もお嬢様で一緒に知識の詰め込み、お互いが駆け足で二人三脚をしている光景は微笑ましいですね・・・ここは一つお嬢様方に頼み事でもしてみましょうか?きっとお二人の共同作業で作られる筈ですので更なる効果が期待できそうです!有言実行!速攻です!!早速頼みに行きましょう♪

 

深月は勉強をしている二人に近付き頼み事をする

 

「お嬢様、南雲さん。お勉強も宜しいですが煮詰めすぎるのも効率が悪くなる恐れも御座いますので少し休憩されては如何でしょう?そして図々しくもお願いが御座います」

 

「そうだね・・・偶には休憩を入れないと効率良く学習なんて無理だよね」

 

「それじゃあ少しだけ休もうハジメ君。深月も私達に何かお願い事があるみたいだから」

 

「それで?神楽さんは僕達にお願いがあるって言ってたけど・・・それはどういう事?」

 

「実は折り入ってお願いが御座います。私は暗器を主体で戦うのですがどうしても大きい得物、刀に似た得物が欲しいのですが錬成にて作る事は出来ませんか?」

 

二人は深月のお願いに色々と考え案を出して行く

 

「刀か・・・素材があれば似た形の物が創れるかもしれない」

 

「資料館や博物館で本物の刀を見て触った事があるよ私!形もしっかりと印象強く覚えているから枠組みを作るぐらいなら大丈夫!」

 

「なら僕はネットやテレビで得た知識を元に刀身を創ってみるよ!」

 

創作意欲が降って沸いたのか、あれをこうしたら―――――これをどうしたら等とポンポンと出てくる。オタクのハジメと皐月はこの手の話題が大好きなのだ

 

「それじゃあ僕は鉱石を使えるかどうか聞いてくるよ!」

 

「いえ、お嬢様の事も含めると一人一人では無く三人纏めての方が手早く済みます。幸いにもメルド団長のスケジュールを前もってお聞きしていましたので何処に居るかは把握しております」

 

「それじゃあ三人で行こう!」

 

早速図書館から出てメルド団長がいる場所へと向かっていると丁度仕事が終わったのか対面から本人がやって来た

 

「メルド団長、今大丈夫ですか?」

 

「ん?坊主にお嬢さんとメイドじゃないか?一体どうしたんだ三人で俺に何か用事か?」

 

「私の武器を作って頂く様お願いをしたのです」

 

「それに私達の錬成の練習にもなるからね?」

 

「もしも刃が欠けて使い物にならなくなった場合に素材があれば元通りに直せるかもしれないから練習をしたいという事なのです」

 

感極まったのか、メルドは泣いていた

 

「坊主やお嬢さんの意気込みは心に響いた!任せろ!俺が今すぐ許可を貰ってくるから此処で待ってろ!」

 

走って何処かへと行ったメルド。恐らく重鎮達に許可を貰いに行ったのだろうと容易に推測できる

 

「簡単にお願い出来ちゃったね」

 

「あの方はしっかりとした人ですから、やる気に満ちた南雲さんのお顔に思う所があったのでしょう」

 

「そうだね~今のハジメは、とっても生き生きしてて自分の様に喜ばしいよ!」

 

「ちょ・・・恥ずかしいよ。と、取り敢えず僕はトイレに行きたくなったからちょっと待っててね。直ぐ戻ってくるから」

 

皐月と深月に一言残しトイレへと急ぐハジメ――――――

二人から少し離れた場所になると横から唐突に衝撃を受けて転んでしまった。其処に居たのは檜山が率いる小悪党四人組でハジメにちょっかいを掛け始めてきた

 

「よぉ、南雲。なにしてんの?そんなに急いで何処行こうってんだよ?無能は無能らしく地ベタに這いつくばってろよ」

 

「ちょっ、檜山言い過ぎ!いくら本当だからってさ~、ギャハハハ」

 

「訓練もせずに毎日図書館に通うとか小学生かよ!マジ笑えるわ~、ヒヒヒ」

 

「なぁ大介。こいつさぁ、なんかもう哀れだから俺らで稽古つけてやんね?」

 

最悪だ――――――とハジメは感じた。ここ最近は皐月達と一緒に居た為に絡まれていなかったがこのタイミングで絡んでくるとは気が緩みすぎていた

 

「あぁ?おいおい信治、お前マジ優し過ぎじゃね?まぁ俺も優しいし?稽古つけてやってもいいけどさぁ~」

 

「おおいいじゃん。俺ら超優しいじゃん!無能のために時間使ってやるとかさ~。南雲~感謝しろよ?」

 

皐月達からは見えないが其処を通るクラスメイト達は見て見ぬふりをする為どうしようも出来無い

 

「僕は今からとても大事な仕事が入っているから、放っておいてくれていいからさ」

 

やんわりと断りを入れるハジメだが

 

「はぁ?俺らがわざわざ無能のお前を鍛えてやろうってのに何言ってんの?マジ有り得ないんだけど。お前はただ、ありがとうございますって言ってればいいんだよ!」

 

そう言ってハジメの脇腹を蹴り上げる檜山。痛みに顔をしかめながら呻くが振るわれる暴力にだんだんと躊躇いを覚えなくなって来ている。檜山はハジメを人気の無い場所へと連れ込み突き飛ばす

 

「ほら、さっさと立てよ。楽しい訓練の時間だぞ?」

 

「ぐぁ!?」

 

背中を強打

 

「ほら、なに寝てんだよ?焦げるぞ~。ここに焼撃を望む――――火球」

 

火属性魔法による攻撃を転がる事で危機を脱したが

 

「ここに風撃を望む――――風球」

 

続く風魔法は避けれずに腹部へと直撃、吹き飛ばされ胃液を吐き出しながら蹲る

 

「ちょ、マジ弱すぎ。南雲さぁ~、マジやる気あんの?」

 

南雲を容赦なく蹴り続ける檜山、ハジメはずっと続く四人の虐めを耐える耐える耐える――――――痛みによる苦痛を漏らしゲラゲラと笑う四人が更なる追撃をせんとハジメに攻撃しようとした時

 

「ねぇ?ハジメ君に何をしているのかな?」

 

サアーっと青ざめた顔を声がした場所へ向けると其処には笑っているが全く笑みが含まれていない目を浮かべた皐月の姿であった

 

「ねぇ?何してたの?誰がどう見ても虐めをしているとしか見えないよね?」

 

「いや、誤解しないで欲しいんだけど・・・俺達は南雲の特訓に付き合ってただけで」

 

「何やってるの!?」

 

その声と共に駆け付けてくる女の子は檜山達が惚れている白崎だったからだ。そして白崎だけでなく、天之河、坂上、八重樫とオールスターが勢揃いである。檜山達はハジメにしていた行為は特訓だと言い張り弁明をしているが

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこれを見てもまだそう言い切れますか?」

 

最凶最悪の最終兵器が登場―――――――その声と同時に深月の進路上のクラスメイト達がザッとモーゼの様に道を空ける。最早どこぞの覇王と呼んでも過言では無い。深月がその手に持つ物それはス〇ホ、本来であれば充電が切れている筈なのだがソーラータイプの充電器を持っていた為動いているのだ。そしてそれから流される映像と音声にどんどんと顔色を悪くする四人

 

「特訓ねぇ・・・それにしては随分と一方的みたいだけど?」

 

「いや、それは・・・」

 

「言い訳はいい。いくら南雲が戦闘に向かないからって同じクラスの仲間だ。二度とこういうことはするべきじゃない」

 

「くっだらねぇことする暇があるなら、自分を鍛えろっての」

 

その間に深月は南雲の手を握り暖かな光が灯る

 

「神楽さん・・・これは一体?」

 

「大丈夫ですよ南雲さん。これは私の技能の一つ気力操作。文字化けで見えなかったと思いますがこれはそれです―――――この気力とは、現代で言う所の気功術の一つです。細胞の活性化を促進させ、自然治癒能力を向上させる事です」

 

あっという間にハジメの傷は癒え肌のつやも良くなる程回復した

 

「今回は私の気を送る事で直ぐに癒えましたが、本来はもっとゆっくりなのですよ?過度な期待は危険ですのでご注意を」

 

「あ、ありがとう神楽さん。本当に助かったよ」

 

「南雲君はいつもあんな事されていたの?それならいっその事・・・私が

 

「いや、そんないつもってわけじゃないから!大丈夫だからホント気にしないで!」

 

「だが、南雲自身ももっと努力すべきだ。弱さを言い訳にしていては強くなれないだろう?聞けば、訓練の無い時は図書館で読書に耽っているそうじゃないか。俺なら少しでも強くなるために空いている時間も鍛錬にあてる。南雲も、もう少し真面目になった方が良い。檜山達も、南雲の不真面目さをどうにかしようとしたのかもしれないだろ?」

 

あわあわとするハジメに天之河が水を差し空気が重くなっていく中パンッ!と手が鳴らされそちらを向くと皐月が無機質な表情を持って深月に命令を下す

 

「ねぇ深月?虐めをしている奴らを見ていると思う事が一つだけあるのだけど何か分かる?」

 

「ではご命令をお嬢様。私は躊躇いも無くその命令を実行致します」

 

「虐めをするのならそれ相応の報いが返ってくるのよ?撃って良いのは撃たれる覚悟のある者だけ――――――と言う事でハジメが受けた傷を全てあの四人に与えなさい」

 

「な――――ま、待っ―――――――――――」

 

天之河の声よりも先に鈍い音が鳴り響く。深月が四人の懐へ一瞬で入り込み脇腹へ殴り四人は苦痛により蹲るが手袋に刻み込まれた魔方陣から風属性魔法を放ち上へと撃ち上げ、空中へと飛び上がり四人の背に向けて回し蹴りを叩き込んだ。ドチャッという音を立て地面へと落下し、それを追撃しようとしたが

 

「深月、そこでストップ。これ以上は死ぬかもしれないから終わりよ。そしてそこの塵芥四人、もしもハジメ君に何かしたら殺すからそのつもりでね?――――――――さてと!ハジメ君、一緒に武器を作りに行こう!」

 

ハジメの手を掴み強制的に連れて行く皐月、白崎は無機質な目で睨付けるも鼻で笑われる始末。その後メルドから許可を貰ったハジメ達は失敗に失敗を重ねたが遂に深月の武器、日本刀擬きを完成させた

 

 

そしてメルドから発表された実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へと遠征が決まった

 

 

 

 

 




布団「ゆ、勇者(笑)は大変な事を・・・」
深月「所詮は口先だけの甘ったれど腐れ野郎です」
布団「お、おうソウデスネ・・・」
深月「南雲さんとお嬢様が"二人で"作り上げる武器、とても楽しみです」
皐月「任せて!」
布団「此処は後書きの場所やで?」
深月「それは今更だと言う事です」
布団「か、感想マッテルンダヨ?」
深月「何時までびくびくしているのですか!待っている読者様も居るのですからもっとシャキッとして下さい!」
布団「ひょ、評価もお気軽にどうぞ・・・です?」
深月「チキンハートな作者ですね・・・だからメンタルが豆腐より脆いのですよ」


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頑張って下さいお嬢様!メイドはお二人を応援致します

布団「・・・」
深月「どうかされましたか?」
布団「釣りに行ったけど何も釣れなかったので投稿するの」
深月「その様な時も御座いますよ」
布団「読者の皆よ作者にモチベを分けてくれぇー!!」
深月「では皆様、ごゆるりとどうぞ」




~ハジメside~

 

メルド団長からオルクス大迷宮への実戦訓練を兼ねての遠征が言い渡された僕達は迷宮に近い冒険者達の宿場町の【ホルアド】に到着、何でも王国直営の新兵訓練用の宿屋があるらしく其処に泊まる予定だ

宿屋に到着し室内を見ると王宮と比べると質素な作りのベッドだけど僕にとってはごくごく普通の作りに落ち着く。本来は二人部屋なのだが僕だけ一人部屋でとても気が楽だ。・・・べ、別に寂しくなんてないんだから!

今回の訓練では二十階層までの予定だそうで、その辺りまでなら僕でもサポーターとして役立てる範囲内との事だ。メルド団長本当に申し訳無い・・・

 

心の中でメルドに謝罪し、予習を行おうと借りてきた迷宮の魔物図鑑を読もうとしたが辞めた。地球で皐月とゲームを一緒に長々と遊んでいた際、深月から「やり過ぎては明日に響きますよ?」と言う注意を受けていた事を思い出していた。明日は低層とはいえ命の危険のある迷宮、注意力を損なわない様にする為寝る事にしたのだ

しかし、ハジメが寝ようとした時に扉がノックされ、深夜の唐突なる訪問にびっくりした

 

「南雲くん起きてる?白崎です。ちょっと良いかな?」

 

一瞬硬直したハジメだが、女性を待たせるのもいけないので慌てて扉を開けると―――――純白のネグリジェにカーディガンを羽織った白崎が立っていた

 

「・・・なんでやねん」

 

「え?」

 

余りにも想定外で、驚愕な光景につい関西弁で突っ込みをを入れるハジメにキョトンと白崎。ハジメは気を取り直してなるべく白崎を見ない様用件を聞く

 

「えっと、どうしたのかな?何か連絡事項でも?」

 

「ううん。その、少し南雲くんと話したくて・・・やっぱり迷惑だったかな?」

 

「・・・どうぞ」

 

小心者のハジメは断る事が出来ず扉を開いて部屋の中へと招き入れる。何の警戒も無しに部屋へと入って来る白崎にハジメは「警戒心無さすぎだろ!」と密かに思いつつ部屋に置かれているテーブルセットに座らせた

それに続く様にノックされる扉に「今度は誰だ!」と思いながら扉を開くと見知った顔―――――皐月が居たのだ。冷や汗を掻き顔を青くするハジメに気付き笑顔を浮かべながら質問をしていく様子は蛇に睨まれた蛙の様だ

 

「何故顔を青くしてるのかなハジメ君?中に見られたらいけない"者"が居るのかな?」

 

高坂さんは何でそんなに勘が鋭いの!?明らかに確信してるじゃないか!どどど、どうやって乗り切れば―――

 

と思考を加速させ最適解を導き出そうとしたが、ここで天然がやらかす

 

「南雲くんどうしたの?誰か来たの?」

 

ピシリと空気が死んだのを確信した。修羅場になると思っていたハジメ、当然白崎の目は無機質な物へと変わったが皐月の方は変わらず自然体だ。ほっ―――と息を吐くハジメに皐月は追い討ちを掛ける

 

「私も部屋に入れてくれるかしらハジメ君?錬成師同士で明日の事と深月について二人で話したいのだけれど・・・あぁ先に天然ビッチとお話しても大丈夫よ?」

 

「だ、誰が天然ビッチなの!?」

 

ヒェエエと心の中であわあわしているが此方にヘイトが向かない様黙りとしている

 

「ハジメ君の―――いえ、男性の部屋にその様な格好で入室する時点でそう思われても不思議では無いと言う事よ?」

 

自身の格好を再び見直した白崎は沈黙した後、顔が一気に茹で蛸状態となりモジモジとしている。皐月は興味を無くし部屋の外へと出た

気まずい空気を絶ち切る為、ハジメは白崎に尋ねる

 

「えっと・・・白崎さんは僕と何を話したくて此処に?もしかしなくても明日の事についてなのかな?」

 

ハジメの質問に頷き険しい表情で告げる

 

「明日の迷宮だけど・・・南雲くんには町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得するから。だから!お願い!」

 

「えっと・・・確かに僕は足手まといだとは思うし、流石にここまで来て待っているっていうのは認められないと思うんだけど」

 

いきなりの事でハジメは誤解をしたが、白崎は慌てて弁明して深呼吸して自分を落ち着かせてから切り出す

 

「あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。夢を見てて南雲くんが声を掛けても全然気がついてくれなくて・・・走っても全然追いつけず、最後は消えてしまうの・・・・・」

 

「・・・そっか」

 

とても現実味を帯びている夢、しかし夢だからと言って待機が許可される程この世界は甘くない。例え許されたとしても批難の嵐があり、ハジメが居場所を失うのは目に見えているだろう。それ故にハジメの選択肢は行く意外の選択はあり得ない

 

「夢は夢だよ白崎さん。今回はメルド団長率いるベテランの騎士団員も居るし、僕と高坂さん以外クラス全員チートじゃないか。敵が可哀想に見える程だと思うよ?実際僕は弱い所を沢山見せているから、そんな夢を見たんじゃないかな?」

 

「で、でも・・・」

 

中々引こうとしない白崎にハジメはこう付け加える

 

「いざって時には高坂さんの側にいて神楽さんに守ってもらえる様にお願いをするよ」

 

まぁもしも駄目って言われたら高坂さんに泣き付けば何とか行けるかもしれないからね・・・

 

何やら白崎が小声でブツブツと呟いているがハジメには聞こえず

 

「ハジメ君お話はそろそろ終わったかしら?こちらの用事も早く済ませたいのだけれど」

 

丁度良く話を切り上げようとしたハジメに皐月から声が掛かる

 

「あ、うん分かったよ。白崎さんも態々僕を心配してくれてありがとう」

 

「何で其処で神楽さんの名前が出るの?私は治癒専門だし、怪我をしても直ぐに治せるのにどうして南雲くんは神楽さんに頼るの!?」

 

「え、え~っと・・・白崎さん大丈夫?何処か具合でも悪いなら直ぐに休んだら良いと思うよ?」

 

ハッ!?と我に返った白崎は慌てて平静を取り戻し「大丈夫大丈夫!」と返事をする

 

「そっか、それならよかった。白崎さんは治癒師で戦線補助には欠かせない人だから今日はもう部屋に戻って寝た方が良いよ。僕も高坂さんと早めに話を切り上げて明日に備えないとね」

 

「う、うん・・・それじゃあ南雲くんおやすみなさい」

 

「おやすみなさい白崎さん」

 

白崎は扉を開け皐月と入れ違う形で外に出て自分の部屋へと戻る。その背中を無言で見つめる者が居り、その者の表情が醜く歪んでいた事は殆どの者が知らない

皐月が南雲の部屋へと入る。因みにこの時の皐月の服装は普通の服装で、ネグリジェの様な思春期の男子に目の毒の様な物で無く長袖と膝下部分まで隠された服装だ

 

「ハジメ君に提案が有るの。深月の武器を追加で作ろうと思っていてね?ツインダガー系の武器デザインでアイデアが欲しいの。何か良さげな形有る?」

 

ハジメは何故深月にもう一つの武器が必要なのかと問うと

 

「深月はね?器用なのよ。初めて触る武器であろうと問題なく扱える・・・でもそれだと一番の長所である技量を十全に使えないし本人も暗器系の武器を主に使用しているって言っていたでしょう?実際問題よく素振りしたりするのにそのタイプを使っているのよ」

 

「えっ、それ本当!?」

 

「それに理由はもう一つ有るのよ?迷宮が洞窟タイプだと片手剣や刀みたいに中途半端に長いと取り回しが難しくなるし、短刀系なら事故も無いでしょう?最も深月がそんな失敗するとは思えないけれど」

 

「確かにそうだよね・・・二次創作系に出てくる完璧超人メイドが形を持ったと言っても過言じゃないからね」

 

ハッキリ申しまして神楽さんの仕事内容を聞いた時に休みが無いじゃん!って突っ込んだ事があったな~。しかも答えが全てはお嬢様の為にっていうね・・・忠誠心がとんでもない程高かったのは今でも思っているよ。どうしてそれ程までの忠誠心が有るのか聞いても教えてくれなかったし・・・まあ仕方がないね

それにしてもツインダガーか・・・某デスゲームの黒の剣士のは片手剣二本だから邪魔になりそうだし、某正義の味方の中華剣の方が良さそうだね。技量が高いと言う事は手癖が悪いとも捉える事が出来るし・・・よっし、そうしよう!!

 

「コンセプトは決まったよ。高坂さんは知っているかどうか分からないけど某正義の味方が使っていた中華の夫婦剣にしようと思うんだ」

 

「中華剣・・・直剣と違い刀身が曲がっているから深月の技量なら受け流しも出来るかもしれないからピッタリかも。ハジメ君、一緒に夫婦剣を作ろう!きっと喜んで使ってくれるわ!!」

 

夫婦剣作ったらあの刀擬き使ってくれるのかなぁ・・・

 

「それに深月ならあの刀も必ず使ってくれるわ!」

 

・・・本当に高坂さんは僕の考えた事が分かっているんじゃなかろうかと思うよ。何でピンポイントで思っている事をフォロー出来るか不思議で不思議で堪らないんだけど

 

その疑問を忘れようと集中して夫婦剣のデザインと形を説明、皐月が何処からか持ってきていた鉱石を使用しハジメが錬成。それに続く様皐月も錬成にて整えおおよその形を作り其処から二人で力を合わせて一つ一つを凝縮する様に錬成

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「やったー♪」」( ´∀`)人(´∀` )

 

黒と白の双剣が完成し、二人は息を吐き出しハイタッチをする。あくまでも小さな声で、周りの迷惑にならない程度でだ

 

「いやぁ~見事に綺麗に仕上がって良かったよ!それもこれも高坂さんが居てくれたからだし僕一人だけだと此処までの完成度は出来なかったよ」

 

「それを言うならこっちも。ハジメ君が居なければこの夫婦剣を作る事も出来なかったわ!」

 

互いが誉め、そして謙遜する――――こう言う所だけ似た者同士で微笑ましい

 

「ハジメ君・・・明日はいよいよ大迷宮に入るけどこれだけは約束して。錬成師は一人じゃない―――――私も居るから何かをする時は二人一緒だよ?」

 

「うぇい!?ちょっと高坂さんそれはフラグだよ!建てないで!?ホントお願い!!」

 

皐月はしっかりとしていて秀才なのだが、ハジメの前となるとボロボロとメッキが剥がれる。某運命のうっかり娘よりかはマシな部類だろうが、別のベクトルから見ればそれと同等かそれ以上だろう・・・まぁメッキが剥がれると言うよりも本当の素顔と言った方が良いのだろう。ハジメもそれに気付いている為、余りツッコミは入れたりしない

 

「フラグ?―――――――あ・・・・・」

 

「ま、まぁフラグは建てたとしても折る事も出来るから問題無いよ!」

 

「ごめんね・・・・・」

 

ヤメテ!?そのショボンとした姿を神楽さんに見られたら僕何されるか分からないから!?と、取り敢えずフォローして部屋に帰さないと・・・もうそろそろ寝ないと明日に響きそうだよ・・・・・

 

皐月に出来うる限りのフォローを入れ送り届けるハジメ。「おやすみ」と言い来た道を早足で引き返して行き自室にたどり着いたと同時に眠気が一気に襲って来た。そのまま真っ直ぐにベットへダイブ―――――――ものの数秒で眠りへとついた

 

 

 

 

 

~深月side~

 

お嬢様は南雲さんとうまくやっているでしょうか?・・・しかしながら暇ですね。お嬢様から南雲さんの部屋へ近づくなとのご命令もされましたので尚更でし、今し方お部屋の掃除等も全て終わらせましたしどうしましょうか?

あぁ良い事を思いつきました!技能の再確認を行いましょう。これなら時間も潰せますし、派生技能だったでしょうか・・・それも手に入る可能性も有りますしね

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:5

天職:メイド

筋力:500

体力:700

耐性:400

敏捷:650

魔力:800

魔耐:400

技能:生活魔法 熱量操作 気配遮断 高速思考 精神統一 身体強化 縮地 硬化 ■■制御 魔力制御 気配感知 魔力感知 節約術 交渉術 戦術顧問(メイド限定) 直感 心眼 極致[+剣裁][+拳闘][+体術] 限界突破 言語理解

称号:メイドの極致に至る者

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

当初よりもレベルやステータスは向上している物の技能に至っては何も習得出来ていません・・・

↑ステータス向上は化け物級ですよ!

兎に角努力ですね・・・生活魔法に関してはお掃除です。正直私自身がやった方が早くて良いと思っていたので最初の確認だけしか使っていませんでしたね―――――これが成長し便利だと言って頼ってしまうと・・・こう・・・・・負けた気分になってしまいますし。私の技術が魔法に負けるのは許せないのです!

 

深月は嫌々ながらも生活魔法の清潔を発動、しかしながら床の汚れが少し落ちる程度だった

 

何なんですかこの生活魔法は!最初に確認した時もそうでしたが、汚れを落とすだけだとは何とも言えない使いにくさですね。汚れを落とすだけ・・・いっその事現代の清掃機器が出現し魔力で動かせれば時間も短縮できお嬢様の為にもっと尽くすことが出来るのですが

 

絶対に有り得ない事を思いつつ清潔――――すると床の超細かい埃まで一カ所に固まるかの様に集まる光景に唖然、まるでダ〇ソンの様な強力な吸引力で埃を集めた様だ。余りにも驚愕して深月の思考はストップ・・・直ぐに再起動した後

 

「はい?・・・・・何ですかこれ」

 

今起きた光景を有り得ないと思いつつもう一度清潔―――――先程と同じ様に埃を集める

 

「いやいやいや・・・確かに私は掃除機が使えたら今以上に埃は取れると思っていましたが、えっ?生活魔法とは本来こういう代物なのですか!?」←違います

 

ここで深月は慌ててステータスプレートを確認し

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:5

天職:メイド

筋力:500

体力:700

耐性:400

敏捷:650

魔力:800

魔耐:400

技能:生活魔法[+精密清潔][+想像操作] 熱量操作 気配遮断 高速思考 精神統一 身体強化 縮地 硬化 気力制御 魔力制御 気配感知 魔力感知 節約術 交渉術 戦術顧問[+メイド] 直感 心眼 極致[+剣裁][+拳闘][+体術] 限界突破 言語理解

称号:メイドの極致に至る者

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「えぇー・・・」

 

最早有り得ないと言わんばかりに頭を痛める深月。恐らく追加された派生技能の精密清潔と想像操作でこの様な現象が起きたのだろうと予測、精密清潔は恐らく超高性能掃除機の吸引力がこれとなったのだろう。最近の掃除機の力は凄まじい物だからね!さて続いて想像操作、これも掃除機の機構を完全に理解していた為の物だろうと予測される

 

掃除機をイメージしてこれ程とは凄まじい・・・洗濯機等も試したいですが流石に無理ですね。もしも脱水まで出来たとしても乾燥出来るかも怪しい。今日はこれまで―――――――と思いましたがこれだけは確認しておきましょうか

 

イメージするは頭皮と髪質――――――シャンプーやリンス、トリートメントによるさらさらの髪という馬鹿げた物。だが侮るなかれ、女性にとって髪は命と言う人も居るので重大案件、異世界にはその様な物は無いのでもしかしたらこの魔法でどうにか出来るのでは?と自身の髪で挑戦して呆気なく成功。これで皐月に褒めて貰えるとルンルン気分で反復練習して気が付いてしまった。深月は生活魔法の虜になってしまったと言う事に!ショックで落ち込む深月曰く

 

「生活魔法の誘惑に勝てませんでした・・・」

 

と真っ白になりかけていた所で皐月が帰って来て深月を励まし制作した夫婦剣をプレゼントして事なきを得た

因みに派生技能で全体清潔・清潔鑑定と言った清潔に関しての技能が増え想像操作は清潔操作へと進化した

 

 

 

 

 

 

 




布団「燃えろ作者の魂!」
深月「お嬢様が居なければ燃え尽きる所でした・・・」
布団「魔法には勝てなかったよ」
深月「お嬢様が第一ですので仕方が無いのです」
布団「時短になるからどうしてもね?」
深月「ファンタジーの力とは凄まじい物でした」
布団「もうそろそろ読者とのお別れですね」
深月「感想や評価はお気軽にどうそ宜しく御願い致します」


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メイドはお嬢様と離ればなれになりました

深月「凄まじい伸びですね」
布団「何故こんなに伸びたんだ?」
深月「まぁ良いではありませんか。お気に入り件数が500を突破しましたよ!」
布団「もうすぐあっちのよりも多くなりそう・・・」
深月「UAもそろそろ20,000突破しそうですね」
布団「お気に入り500件突破記念とか書いた方が良いのかな?」
深月「本編が終わってからIFの物語を書けば宜しいのでは?」
布団「R―18は流石に厳しい・・・作者の文才が無いからね・・・」
深月「そこは読者様のご要望と言う形で良いのではないでしょうか?」
布団「せ、せやな」
深月「長々と喋るのも悪いと思いますので切り上げますね?では皆様、ごゆるりとどうぞ」


~深月side~

 

迷宮の入り口前まで来た私ですが想像していた雰囲気とは違っていました。立派な入場口があり職員の方がチェックをする中々に厳重な物ですね・・・周囲には露店等もある事から迷宮都市と言っても過言では無いでしょう

 

深月は少し目を向ける程度だが皐月は物珍しさにキョロキョロとしている

 

お嬢様は周りが気になるご様子ですね・・・おや?メルド団長様が立ち止まられましたか。恐らく注意点等の再確認を行うつもりでしょうか、ならばこの隙に露店の食べ物を買っておきましょうか

 

メルド団長のあつーいお言葉が言い渡されている最中に深月は気配を周囲に溶け込ませ露店へと行き数分も待たずに買い終え合流、あつーいお言葉は丁度終わった所であった

 

「お嬢様、こちらは先程露店に出されていた串焼きです」

 

「流石深月!ありがとう♪」

 

「メルド団長に見つかったら怒られるんじゃ・・・」

 

「問題有りません。気配を溶け込ませて買いに行きましたのでバレていませんよ?―――――南雲さんの分もありますがどうですか?」

 

「・・・いただきます」

 

深月達は一番の最後列なので前の人が気付く事は無い。後ろにも騎士は居るのだが深月が渡した串焼きを食べた事で口止め料を払った事となっているので問題になったりはしないのだ。迷宮へと入って行く一同、中は真っ暗では無く、緑光石という特殊な鉱物が光る事で松明等の明かりが無くともある程度視認する事が出来ている

 

「よし、光輝達が前に出て他は下がれ!交代で前に出てもらうから準備しておけ!あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいがたいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

しばらく歩いていると隊列が止まりメルドの声が響いた。異世界に来て初めて魔物との戦闘だが、危なげなく纏めて葬り去った

 

「よくやった!次はお前等にもやってもらうから気を緩めるなよ!」

 

着々と進む中ハジメ、皐月、深月の三人は殆ど魔物を倒す事が出来ていない。倒そうにもこちらに到達する前に倒されている為仕方が無いのである。まぁその分錬成によるサポートで魔物の動きを阻害したり止めたりとしている

 

(これじゃあ完全に寄生型プレイヤーだよね・・・はぁ~)

 

錬成の練度が少しずつ上昇していると感じられるのだが欲を言えばもっと上がって欲しいのだ。ハジメと同じ様に皐月もため息を吐きショボンとしている。時々白崎から視線を向けられるハジメ、昨日見た夢の所為か普段よりも多く見られている。そしてハジメは朝から不気味な視線をずっと感じており、今も尚感じる・・・周りを見ると霧散しまた見られ、霧散、見られ、霧散と言った感じなのだ。そうこうしている内に二十階層へとたどり着いた

 

「擬態しているから周りをよ~く注意しておけ!」

 

すると前方の壁が突如変化したそれは擬態能力を持ったゴリラの魔物であった

 

「あれはロックマウントだ!あの腕は豪腕だから注意しろ!」

 

注意と同時にロックマウントは巨大な咆哮を上げ全体を硬直させる

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ!?」

 

「きゃあ!?」

 

その隙を見て傍らにあった岩を砲丸投げの様に後衛組へと投げつけた。迎撃をしようと魔法を発動しようとすると岩が変化、それもロックマウントだったのだ。ロックマウントがロックマウントを投げつけてきたと言う事、しかもその姿が某大泥棒ダイブと笑顔というのも合わさり「ヒィ!」とと思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断する後衛組

「いっただっきま~す」と聞こえそうな勢いで飛んでくるロックマウントと後衛組の間に割り込む一人、メイドの深月である

 

「この汚物が。お嬢様のお目が汚れるので即刻消え去りなさい」

 

後衛組から深月の胸へと標的を変えて飛んでくるロックマウントと交差、深月は無傷で服にも触れる事も許さず首を刀擬きで切断。クルクルと飛んで落ちて来るそれを更に切断し、細切れと化した

余りにも早い抜刀にて切った刃には血糊はほとんど付着していない。それでも汚いと思ったのかポケットから布を取り出し全体を拭き納刀、桁が違うその攻撃速度は凄まじい光景だった。そして後衛組の綺麗所たちが襲われそうになった様子を見てキレる若者、ご都合思想大好き勇者天之河である

 

「貴様・・・よくも香織達を・・・許さない!」

 

怒りを露わにした天之河に呼応する様に聖剣も輝き

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――――"天翔閃"!」

 

「あっ、こら!馬鹿者!!」

 

メルドの声を無視して大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした瞬間、強烈な光を纏っていた聖剣から斬撃が放たれた。それはロックマウントを両断し奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。破壊し尽くした後「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで白崎達へ振り返った天之河にメルドは笑顔で拳骨を入れる

 

「へぶぅ!?」

 

「この馬鹿者が!気持ちは分かるがこんな狭い所でそんな大技使ってここが崩落でもしたらどうするつもりだ!」

 

「うっ」とバツが悪そうに謝罪する天之河、それをフォローするように慰めを入れるお馴染み組

 

あぁ汚い。切るのでは無く蹴り飛ばすべきでしたね。しかもあのど腐れ野郎は向こう見ずですね。近くに居たら何かしらありそうで怖くて堪りません。しかし迷宮とは不思議です・・・少しだけ調べてみましょう

 

「お嬢様、私はこの迷宮の壁を調べてみたいので少しだけ離れます」

 

「目に見える場所には居るよね?」

 

「勿論です。少し後ろの壁で見張りを兼ねた調べ物ですから」

 

「はいは~い了解。大丈夫だと思うけど気を付けてね?」

 

深月はメルドに一言入れ隊列から少し離れ後方の迷宮の壁を観察する

 

見れば見る程不思議ですね・・・どうして光っているのでしょうか?恐らく壁に含まれる何らかの物質の性質による物だと思いますが現時点では不明ですね。それに多少持ち帰っても怒られないでしょうし、色々と実験してみるのも有りですね。あそこに転がっている石が丁度良さげなので持って帰りましょうか

 

側にあった石を拾おうとしゃがみ―――――――

 

「団長!トラップです!」

 

「「ッ!?」」

 

突如として光る部屋、そして部屋の外に出ていた深月。もうお分かりだろう・・・深月を残して他の全員は姿を消してしまったのだ

 

「お、お嬢様・・・・・」

 

自身の主も転移のトラップに巻き込まれたと判断した深月は直ぐ様行動、異変があった部屋の中へと入り見渡すと鉱石が上の方から覗いていた。これに仕込まれたトラップに巻き込まれたと判断し、その鉱石へと触るが何も起こらず思わず舌打ちを鳴らす深月

 

「冷静になりなさい深月。・・・お嬢様が読んでいた小説の展開としては下層へと飛ばされたりした筈・・・それならトラップという仮説も成り立ちますね」

 

覚悟を決めた深月は全速力で走り集中力を極限にまで高め下層へと降りて行く。道中に出てくる魔物は刀擬きで首を切り落とし放置、先へ先へと急ぐ深月、運命の分岐まであと少し

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:7

天職:メイド

筋力:530

体力:750

耐性:440

敏捷:700

魔力:850

魔耐:440

技能:技能:生活魔法[+精密清潔][+清潔操作][+全体清潔][+清潔鑑定] 熱量操作 気配遮断 高速思考 精神統一 身体強化 縮地 硬化 気力制御 魔力制御 気配感知 魔力感知 家事 節約 交渉 戦術顧問[+メイド] 直感 心眼 極致[+剣裁][+拳闘][+体術] 限界突破 言語理解

称号:メイドの極致に至る者

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

光が収まると私達は全員十メートル程の幅がありそうな橋の上に居た。だけど緑石や手すりもないこの場所は不味い。下は真っ暗闇の奈落、端の両奧に見えるは階段。奧は下層へ後ろは上層へと繋がっている事が直ぐに理解出来た

 

「お前達、直ぐに立ち上がってあの階段の場所まで行け!」

 

しかし後ろには大量の魔物が出現し行く手を阻んでおり撤退は叶わず、そして通路側からは大きな魔物が出現しメルドは呻く様に呟いた

 

「まさか・・・ベヒモスなのか・・・・・」

 

そして放たれる大きな咆哮を合図にメルドは正気を取り戻し矢継ぎ早に指示をだしてゆく

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

「待って下さいメルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう!」

 

「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら今のお前達では無理だ!ヤツは六十五階層の魔物―――かつて、"最強"と言わしめた冒険者が束になっても歯が立たなかった化け物だ!私はお前達を死なせるわけにはいかない!さっさと行け!」

 

メルドの指示に従わない天之河、どうにか撤退させようと再度メルドが光輝に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず―――――"聖絶"!!」」」

 

強力な守りの障壁がベヒモスの突進を防ぐが衝撃は凄まじく石橋が揺れる程の強烈な代物だ。そして道を塞ぐ様に出現している魔物、トラウムソルジャーは今までの魔物よりも一線を画す戦闘能力を持っており生徒達はパニック、騎士団員のアランが落ち着かせようとするも誰の耳にも届いていない

生徒の一人、園部が後ろから突き飛ばされ転倒し呻きを上げ真正面へと視線を移す。そこにはトラウムソルジャーが剣を振りかざしており

 

(あ・・・私死んだ)

 

頭部へと振り下ろされるそれにどうする事も出来ずに直撃する瞬間、地面が隆起し剣はずれて地面を叩きつける

 

「え・・・あ・・・」

 

呆気に取られる中地面の隆起は止まらず、滑り台の様に変化し奈落へと落ちて行く

 

「早く前へ!冷静になればあんな骨どうってことないよ。うちのクラスは僕を除いて全員チートなんだから!」

 

「ハジメ君!反対側もそれなりに落としたわ!」

 

「あ、ありがとう!」

 

その一言を残し園部は駆け出して行く。ハジメと皐月は魔力回復薬を飲みながら次々と錬成、トラウムソルジャーの足下を崩し、固定し、出っ張らせたり等の動きを阻害する様に立ち回り状況を冷静に分析して行く

 

「なんとかしないと・・・必要なのは・・・強力なリーダーで高火力の人・・・」

 

「正直言って頼りたくは無いけどどうする事も出来無いとなると一人しか居ないわよね」

 

「だね・・・天之河君!」

 

ハジメと皐月は天之河達が居る前線へと走り出す。一方の前線はと言うと――――ベヒモスの猛攻は続いており、障壁には幾つものヒビが入っている状態だった

 

「ええいくそ!もうもたんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前達も早く行け!」

 

「嫌です!メルドさん達を置いて行くわけにはいきません!絶対、皆で生き残るんです!」

 

「くっ、こんな時に我儘を言うな!」

 

メルドは苦虫を噛み潰したような表情になりながらも刻々と悪くなって行くこの状況をどうにかするべく思考を続けるがどれも無理だった。全てはベテランの騎士や冒険者達でないと対処出来無い物だったのだ

 

「光輝!団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

 

八重樫は状況判断がしっかりと出来ているのだ。天之河を諌めようと腕を掴み後退させようとしているが

 

「へっ、光輝の無茶は今に始まった事じゃねぇだろ?付き合うぜ光輝!」

 

「龍太郎・・・ありがとな」

 

「状況に酔ってんじゃないわよ!この馬鹿共!」

 

「雫ちゃん・・・」

 

脳筋馬鹿の言葉に更にやる気を見せる天之河に舌打ち。そんなやり取りをしていると後ろから

 

「天之河くん!」

 

ハジメと皐月が到着

 

「なっ、南雲!?それに皐月!?」

 

「どうして二人が此処に!?」

 

「早く撤退を!皆の所に君がいないと誰が引っ張っていくんだ!」

 

「いきなりなんだ?それより、なんでこんな所にいるんだ!此処は君がいていい場所じゃないし俺達に任せて南雲や皐月は非戦闘職だろ!?」

 

「貴方がメルド団長の指示に従わずに後方へ来ないから皆がパニックになっているんでしょ!」

 

「一撃で切り抜け皆の恐怖を吹き飛ばす力が必要なんだ!それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ!前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

 

「ああ、わかった。直ぐに行く!メルド団長!すいませ――」

 

「下がれぇー!」

 

遂に障壁が砕け散り突破を許してしまう

 

「くそっ!神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!神の息吹よ!全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!神の慈悲よ!この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――――"神威"!」

 

土煙が立ち込めるがお構いなしに聖剣の極光を走らせ光が辺りを満たし白く塗り潰し、激震する橋に大きく亀裂が入っていく。しかしベヒモスの体は無傷、天之河達に追撃をせんと角に魔力を溜めようとした瞬間足下の地面が陥没し下半身が地面へと埋まる

 

「坊主にお嬢さん・・・・・やれるんだな?」

 

「「やります・・・絶対に保たせてみせます」」

 

「そうか・・・後で助ける。だからその間は頼んだぞ!」

 

「「はい!」」

 

メルドはハジメと皐月にベヒモスを任せ全員を後方へと連れ下がる

 

「待って下さい二人がまだっ!」

 

「坊主達の作戦だ!ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する!もちろん坊主達がある程度離脱してからだ!魔法で足止めしている間に帰還したら上階に撤退だ!」

 

「なら私も残ります!」

 

「ダメだ!撤退しながら、香織には光輝を治癒してもらわにゃならん!」

 

「でも!」

 

食い下がる白崎にメルドは一喝

 

「あいつらの思いを無駄にする気か!」

 

「ッ!?」

 

後方へと下がる前衛組、ハジメと皐月は蟻地獄の様にベヒモスを下へ下へと沈み込ませる様に錬成。ベヒモスも上へ上へと登る様に足掻いているので一向に沈まず浮かずの状態を保っている。錬成し続けるハジメは内心で一人ではここまで上手く出来なかっただろうと思っていた。隣をチラリと見れば自分よりも低いステータスの皐月が苦しそうな顔をしつつも手伝ってくれており、「自分も頑張らなくては」と限界以上の力を発揮出来ているのだった

 

「ハジメ君、苦しくない?」

 

「大丈夫!僕よりもステータスの低い高坂さんも頑張っているんだから僕はもっと頑張らないと神楽さんに怒られちゃうよ!」

 

やっぱりハジメ君は凄い・・・私は一杯一杯なのにステータス以上の力を行使しているようにも見えちゃうよ

 

皐月は後方はどうなっているだろうと気になり始めていると閃光が光ったり激音が響いたりする回数が減っており、ようやく退路の確保が出来た辺りだった

 

「皆、待って!南雲くんと高坂さんを助けなきゃ!二人であの怪物を抑えてるの!」

 

「何だよあれ、何してんだ?」

 

「下半身が埋もれてる?」

 

「そうだ!坊主とお嬢さんがあの化け物を抑えているから撤退出来たんだ!前衛組!ソルジャー共を寄せ付けるな!後衛組は遠距離魔法準備!もうすぐ二人の魔力が尽きる。アイツが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

直ぐに逃げたいとする生徒達に激を入れ準備をさせる中、檜山は昨日の光景を見て嫉妬から憎悪の感情を溢れさせていた。檜山は白崎に好意を抱いており昨日の・・・ネグリジェ姿でハジメの部屋へと入って行く姿を見ていたのだ。その時の事を思い出した檜山はベヒモスを抑えるハジメを見て、今も祈るようにハジメを案じる白崎を視界に捉えほの暗い笑みを浮かべた

その頃ハジメはタイミングを見計らっていた。隣に居る皐月の具合は目に見えて分かる程疲れており顔色も悪くなっている状態だ。「早くしてくれ」と内心で焦りつつもベヒモスを逃がさない様錬成を続けていた時、ピシッと石橋に数十の亀裂が入った。それを見て全力の錬成、陥没した足下にベヒモスは一瞬行動が出来無くなりハジメは隣の皐月を背負い全力で走り出す

 

「今だ!後衛組魔法を放てえー!」

 

あらゆる属性魔法がベヒモスへと殺到、次々と着弾しベヒモスの足止めをしており一瞬気が緩んだハジメ。だが放たれる魔法の一つ、火球がクイッと軌道を曲げハジメへと誘導されたのだ

 

(なんで!?)

 

途中で止まろうとして直撃を避ける事に成功をしたが、着弾の衝撃波をモロに浴び来た道を引き返すように吹き飛んだハジメ。無論背負っていた皐月も同様でベヒモスの近くまで吹き飛んだ。三半規管が揺れ上手く立ち上がれないでいるハジメだが、皐月は吹き飛んだ衝撃なのか何処かにぶつかった為に気絶しておりピクリとも動かない。体に鞭を打ち皐月の側まで近付き腕を肩へと回しその場を離れようとするが亀裂の入った石橋が崩れ始めた

 

「グウァアアア!?」

 

ベヒモスも爪を使い必死に足掻くが崩落に巻き込まれ奈落へと消えて行きハジメ達の足下も崩れ底なしの闇へと落ちて行く

 

(もう・・・駄目だ・・・・・)

 

落ちて行く中ハジメは皐月を一人にさせない様、抱き寄せ小さくなっていく光をずっと見続けた

 

 

 

 

 




布団「メイドさんは今回不注意ですね」
深月「お嬢様ああああああああ!」
布団「ではこれからも頑張って書いて行くぞ!」
深月「・・・感想や評価も宜しくお願い致します」


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お嬢様が居ない・・・ならばメイドも追うまでです!

布団「あれれ~おかしいぞぉ?たったの三日でお気に入り件数伸びすぎていませんか?」
深月「まぁ良いではありませんか。その分皆様がお待ちしているの筈ですよ」
布団「ゲームするよりも、小説書くのが有意義・・・なのかな?」
深月「では頑張って執筆なさって下さい。文字数も見やすい程度でお願いしますね?」
布団「おまりにも長いと疲れちゃうの」
深月「投稿間隔も長くなってしまいますからね」
布団「取り敢えず出している小説は完結させる!」
深月「逃亡しないで下さいね?」
布団「出来れば一週間に一話か二話のペースで頑張る」
深月「作者さんには並列しながら頑張って貰いましょう。そして読者の皆様方、誤字報告とても感謝しております。それでは皆様、ごゆるりとどうぞ」


~深月side~

 

お嬢様達が罠に掛かり、何処かへと転移されてしまいました。私は先へ先へと急ぎ下の階層へと降りて行きます。どうして道行きが分かるですか?騎士団の方達から、マッピングされた地図を複写させて頂き手持ちに持っているからですよ。備えあれば憂い無しとは正にこの事ですね・・・最短距離で行けますから時間のロスも少ないですしね?「罠とか有るだろ!」と言いたげな画面前の貴方達に言いましょう。この程度の罠なぞメイドには通用しません!実戦訓練の地獄に比べれば全てが生ぬるいです!全て目で見て反応出来ますので問題無いのです!←それはあんただけだ!!

走って走って、一気に四十階層まで来れたのは良かったのですが、これから先のマッピングは無し。頼れるのは己の経験のみ。焦りもありますが、一度ここで深呼吸をして集中力を更に高めましょう。風の通り道を見つけ、反響する音を頼りに下層へと降りて行き、もうそろそろ五十五階層。少しづつではありますが極小さな音――――――悲鳴と轟音が聞こえてきましたね。お嬢様の所まで後少しですね!

 

深月は更に走る足に力を込め速度を上げ下層へと降りて行く。とうとう六十五階層へと到達。その光景は白崎を羽交い締めしている天之河と八重樫、目や口を手で覆うクラスメイト、メルド達騎士団の面々も悔しそうな表情を浮かべている物だった

深月は直ぐに周囲に皐月が居ないかを確認するが、居ないという最悪の状況だった。この面々の中で居ないのはハジメと皐月の二名、そしてこの暗い雰囲気、更には崩壊した石橋――――答えを導き出すには簡単すぎていた

 

「離して!南雲くんの所に行かないと!約束したのに!私がぁ、私が守るって!離してぇ!」

 

「香織っ、ダメよ!香織!」

 

「香織!君まで死ぬ気か!南雲はもう無理だ!落ち着くんだ!このままじゃ体が壊れてしまう!」

 

あのど腐れ野郎は他人の気持ちを理解しようともしませんね。・・・白崎さんについてもどうでもいいですね。私の大切な者はお嬢様だけですし・・・まぁ、南雲さんも大切ですよ?お嬢様の大切なご友人(今現在は)ですので。しかしあのど腐れ野郎は言葉をもっと選ぶべきですね。それでは余計に悪化するというのに・・・皆さん私が気配を消しているから気付かないのでしょうがこれは酷すぎますね

 

「無理って何!?南雲くんは死んでない!きっと助けを求めてる!」

 

案の定これだ―――――天之河の白崎を気遣っての言葉は一番言ってはいけないものだった

すると、メルド団長がツカツカと歩み寄り問答無用で白崎に手刀を落とした。一瞬痙攣し、そのまま意識を落としぐったりとする体を抱きかかえ天之河がメルドを睨むも八重樫に制される

 

「すいません。ありがとうございます」

 

「礼など止めてくれ。もう一人も死なせるわけにはいかない。全力で迷宮を離脱する間は彼女を頼む」

 

「言われるまでもなく」

 

「私達が止められないから団長が止めてくれたのよ。分かるでしょ?今は時間がないの。香織の叫びが皆の心にもダメージを与えてしまう前に、何より香織が壊れる前に止める必要があった。・・・ほら、あんたが道を切り開くのよ。全員が脱出するまで。・・・南雲君も言っていたでしょう?」

 

「そうだな、早く出よう」

 

目の前でクラスメイトが二人死にクラスメイト達の精神は多大なダメージが刻まれ誰もが茫然自失といった表情で石橋のあった方をボーと眺めて中には「もう嫌だ!」と言って座り込んでしまう者も居た。天之河はカリスマ性を発揮させ声を張り上げる

 

「皆!今は、生き残ることだけ考えるんだ!撤退するぞ!」

 

ノロノロと動き出すクラスメイトの中に一人だけ悪どい笑みを浮かべている者を深月は見逃さなかった。気配遮断をしたまま近付き首根っこを掴まえた

 

「グエッ!?」

 

『!?』

 

皆が振り向いた先には、冷徹なる目で見下ろすメイドの深月がいた

 

「な!?みづぅおばぁ!?」

 

案の定、深月の事を名前で呼ぼうとした天之河は殴られる

 

「て、転移に巻き込まれなかった筈じゃ!?」

 

「えぇ、巻き込まれませんでしたよ?お嬢様を追って最短距離を走って来ました。周囲の状況から察するに、大体は理解出来ました。しかし、どうしてお嬢様が居ないのでしょうか?貴方達はこんな骨如きに手を焼いていたと?」

 

この場に居なかった者の身勝手な物言いにクラス一同が怒り出す

 

「手を焼いていただと?巫山戯るな!俺達は精一杯やったんだ!」

 

「神楽さんは、この場所に居なかったから私達の気持ちなんて何も分からないのよ!」

 

「そうだそうだ!一人だけ安全な所にいやがって!」

 

「何様のつもりよ!」

 

ギャアギャアと喚くクラスメイト達を黙らせる様にナイフを投擲。ガンッと地面にヒビが入る程の威力に全員が押し黙った

 

「あれはこの骨達が転移で出ている魔方陣だったので先に潰しました。さて、何があったのかちゃんと説明して下さいね?」

 

笑ってはいるものの怒気を発している深月に皆恐れた。そんな中でもご都合解釈勇者は口を開く

 

「それよりもまず檜山を離すんだ!何故彼を掴んでいるんだ!」

 

クラスメイトや騎士団全員がそれを思っていた

 

「何故?まぁ、説明をする前にある程度の状況予想ですね。恐らく貴方達は、転移した後何かと戦っていたのでしょう。ですが、それはどうでも良い事です。私が一番聞きたかった事は、何故この塵芥は笑っているのかですよ?普通は絶望なり恐怖の表情が見える筈なのですが余りにも違う。・・・恐らく南雲さんが死んで万々歳と喜んでいるのでしょう?」

 

「ち、違う!俺じゃねえ!」

 

「俺じゃない?それは何かしら事故があって、それを"引き起こした者"が使う言葉ですよ?」

 

どんどんと顔を青ざめさせて行く檜山、それを敬遠するように見つめるクラスメイト達

 

「そんな事を言うんじゃない!あれは事故だ!確かに魔法が南雲に当たったからとしても、わざとやったというのは有り得ない!」

 

深月は天之河の言い分にため息、ヤレヤレと頭に手を当てて呆れ果てていた

 

「・・・分かりました。えぇもう結構です――――――あなた方とはこれ以上付き合う気も失せました。フレンドリーファイアをする者達と一緒に居るのも嫌ですので、丁度良いですね」

 

「丁度良い・・・だって?」

 

「何をするつもり?」

 

「・・・まさか!?」

 

クラスメイト達は全くもって理解していない中、メルドや騎士団の者達は理解した。この後の深月が取る行動を

 

「お嬢様と南雲さんを追わせて頂きます。最短距離で―――――ですがね?」

 

崩れた石橋へと躊躇無く進んで行く深月、この行動で周囲も何をするか理解出来たのだろう。全員が制止の声を上げるが無視―――――そして

 

「では皆さんお達者で。それと塵芥の処分は任せますよ?もし何もしなかったのであれば、周囲が止めようと私自ら殺して差し上げますので」

 

最後の宣告を告げ、躊躇いなくその身を奈落へと投げ出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

肌に刺さるほのかな暖かさに目を覚ますハジメ

 

「うっ・・・痛っ~、此処は・・・僕は確か・・・」

 

「ハジメ君!良かった・・・良かったよ~!」

 

濡れているにも関わらず目を覚ましたハジメに抱きつく皐月

 

「ちょっ!高坂さムグッ!?」

 

ふらつく頭だが、柔らかな物によって包み込まれ混乱するハジメ

 

「目を覚まさないから心配で心配で!」

 

「わ、分かったから一旦離れて!?」

 

皐月を一旦離して、自身に何があったのかを思い出すハジメ

 

「・・・そっか。僕達は橋が崩れて・・・落ちたんだ」

 

だんだんと頭が回り始め理解する。ハジメと皐月が助かったのは幸運の賜物だ

 

「よく思い出せないけど、とにかく、助かったんだな・・・ハックシュン!さ、寒い・・・」

 

「ちょっとまってて。魔力も大分回復してきたから暖を作るから―――――求めるは火、其れは力にして光、顕現せよ、"火種"」

 

魔方陣を描き詠唱、皐月の拳大の炎で二人は暖を取りこれからの事について話し合う

 

「どうしようか・・・」

 

「どうするって言っても上に登るしか無いと思う・・・」

 

「かなり落ちたけど・・・帰れるのかな・・・」

 

二人の胸の中に不安が募り心が折れそうになるのをグッと我慢、何よりも違うのは一人では無く二人だと言う事だろう

 

「やるしかない。どうにかして地上に戻ろう。大丈夫、きっと大丈夫だ」

 

「そう・・・だよね。うん!頑張ろうハジメ君!」

 

数十分程経てば服も乾き二人は出発する事にした

長い時間歩いていると、巨大な四辻の分かれ道に辿り付いた二人。岩陰に身を潜め何処へ行こうかと考え、奥の方で何かが動いたと気づきそっと息を潜める。そこから様子を伺うと白い毛玉がピョンピョンと跳ねている。見た目はまんま兎なのだが中型犬に匹敵する大きさ、活後ろ足が異様に発達した姿。そして何よりも目に付いたのは赤黒い線がまるで血管のように体を走り、ドクンドクンと脈動していたのだ。明らかにヤバそうな魔物なので二人はジェスチャーで兎に見つかりにくい通路へと入ろうとタイミングを見計らっているとスッと背を伸ばし耳を忙しなく動かし周囲を警戒し始めた

ギクリと動きを止め様子を更に伺っていると、白い毛並みの狼のような魔物がウサギ目掛けて岩陰から飛び出したのだ。ハジメも皐月も兎が狼の魔物に食われると思っていたが予想の斜め上を行く物だった。兎は空中へとジャンプ、そしてそこから繰り出される蹴りにて狼の首をへし折り、そのまま頭を粉砕、そして極め付けは空中を踏みしめて勢いを付けての蹴りにて倒した

 

(・・・嘘だと言ってよママン)

 

(あんなの兎じゃない!伝説の超兎でしょ!?)

 

二人して一旦下がろうとした瞬間

 

カラン

 

ハジメが小石を蹴ってしまったのだ。そして兎と目が合い見つめ合っていると皐月がハジメの左手を掴み一気に駆け出す

 

「走ってハジメ君!」

 

そして爆音、先程までハジメが立っていた場所に兎の蹴りが直撃していたのだ。衝撃は凄まじく、爆発があったかの様な代物で小石などが飛んで来たがそんなのはお構いなしに追撃が来る。とっさに、ハジメが錬成にて壁を作り防御したのだが、壁を突き破ったその足が皐月の右腕に直撃

 

「―――ッ!?」

 

声にならない悲鳴を上げてハジメ諸共に吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。ゆっくりと近づいてくる兎にずり下がる事で距離を取る事しか出来ず、片足を大きく振りかぶった兎

 

(・・・ここで、終わりなのかな・・・)

 

(ごめん深月。私死んだ―――――――)

 

だが何時まで経ってもその衝撃は来ない。恐る恐る目を開き兎を見ると震えていたのだ

 

(な、何?何を震えて・・・これじゃまるで怯えているみたいな・・・)

 

(震えて?ッ!兎以上の捕食者が此処に居るって事!?)

 

それはハジメ達が逃げようとしていた右の通路から出て来た白い毛皮を纏い長い爪を持つ魔物だった。その爪熊がいつの間にか接近しており、蹴りウサギとハジメを睥睨していたと言う事だ。

 

「・・・グルルル」

 

突然爪熊が唸りだす事で自体は急変。兎は脱兎の如く逃げ出したが、それよりも素早い動きにて爪を一閃ずるりと体がずれ絶命した。ハジメと皐月も逃げようと立ち上がり走るが、風が唸る音がして衝撃――――二人は吹き飛ばされ違和感を覚える。先程までしっかりと繋いでいた手の感覚が無かった――――そして爪熊が咀嚼している物体。それは二人の腕、理解したと同時に押し寄せる痛み

 

「「あ、あ、あがぁぁぁあああーーー!!!」」

 

絶叫する二人。ハジメは左肘から先を皐月は右肩から先を、手を繋いでいた所をまとめてやられたのだ。原因は何か――――それは爪熊の固有魔法、あの三本の爪は風の刃を纏っており最大三十センチ先まで伸長して対象を切断できるのだ

ハジメは痛みに動けずその場で蹲っているが皐月は痛みを堪えながら後ろ側の壁に錬成を行使

 

「れ"ん"せ"い"!」

 

人が屈んで入れる大きさを作り出した後、左手でハジメの右手をひっ掴み奧へ奧へと錬成を行使する。しかし、回数は少なく途中で意識を失い動けるのはハジメだけとなった。爪熊は獲物が逃げた穴を削り外へと出そうと壁を削る

 

「う、うわあああああああああああ!」

 

ハジメは恐怖しながらも口で皐月の首元の服を噛みしめ奧へ、奧へと錬成をして行く

 

「ふ"ぇんせぇ!ふ"ぇんせぇ!ふ"ぇんせぇ!ふ"ぇんせぇ!」

 

力が続く限り前へ前へと進み遂に壁が変化し無くなった―――――――魔力が尽きたのだ。そこからは意識が朦朧とし真っ暗闇へと落ちて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

「最短ルートとはいえ選択を早まったかもしれませんね・・・」

 

深月はハジメ達よりも上層で川から上がり濡れた服を乾かし考えていた。流れる川は、この先も続いており下へと落ちて行き滝の様で、更に下へと流れ続いていた

 

お嬢様と南雲さんは何処まで流されたのでしょうか・・・此処は落下地点の場所に近いですが、最悪の場合は下へと落ちているという事でしょう。しかし確証も無いまま下へと降りてしまうと駄目ですからね

 

思考に耽っている深月の後ろから轟音、岩を押しのける様に出て来たそれはベヒモスだった。落下してから瓦礫が上に積もり自由が出来なかったのだ。しかしその瓦礫全てを除けた事により動ける様になった。周りを見渡し目に付いた深月に八つ当たりをしようと殺気を込めた目を向けてしまった

 

「迷宮の魔物というのは此処まで勘が鈍い物なのでしょうか?能ある鷹は爪を隠す。それは生き物であれば当然の事だと思っていたのですがそれすら理解出来無いとは嘆かわしいですね・・・」

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

咆哮と同時に突進、そして腕を振り上げて叩きつけた。ベヒモスは、反応もせず唯見ている事しか出来ないでいた人間を潰したとお―――――

 

「潰したとお思いですか?そして、さようならです」

 

振り下ろした手の上に潰したと思っていた人間が傷付く事無く立っていたのだ。驚愕し一瞬固まったと同時に視界が180度反転、回る景色の最後に見た物は自身の首から上が無い体だった

神速の一閃により首が跳ね飛ばされたベヒモスはぐらりと傾き倒れ、深月は血糊が付いていないか確認するとほんの少しだけ付いており、尚且つ刃が少しだけ欠けていたのだ

 

「最低ですね私は・・・お嬢様達が丹精込めて作って頂いたこの刃を欠けさせるとはまだまだ未熟です」

 

普通は刀その物が折れても不思議では無いと突っ込みたいが、それは深月だから仕方が無いとしておこう。血糊を川の水で落とし一閃、それだけでほぼ全ての水気は飛び僅かに湿っている程度―――――血糊が付いたままよりも遙かにマシな部類だ

 

「とにかく、この階層の全てを調べて下へと降りて行きましょう!長い道のりですが頑張るのです私!お嬢様なら機転を活かして生き残っている筈です!いえ絶対そうです!!」

 

近くの洞窟の道へと入っていく深月、襲う魔物は全て切り捨て一つ一つの道を調べて何も無ければ下層へ―――――と無限に続く様なそれを皐月が見つかるまで辿って行く。しかし深月も生きている人間である。飲み水は川の水からと大丈夫ではあるが、食べ物は無く、日に日に増して行く飢餓感が襲い来る中それを我慢し探索を続けていきとうとう出会った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメと皐月の腕を奪い去った爪熊に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして見たくなくても目に入るそれ――――――――下層へと続く広間に居る魔物の足下にある布切れ。それは皐月の服の一部で、極限状態の深月の冷静さを崩壊させるには十分過ぎる物だった

 

 

 

 

 

 

 

「きっ―――――――――貴様あああああああああああ!!」

 

目に殺意を孕ませた深月は、爪熊へと襲い掛かった

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「死の宣告をしましたね・・・」
深月「勿論です」
布団「どうなるのかねぇ~」
深月「私個人としては、殺りたいのですが」
布団「あの場で殺らなかったのは?」
深月「今は未だ情報が不足していますから。あの場で殺って異端認定されてしまえば後々の行動に響くかと」
布団「成る程!」
深月「そろそろ後書きからもお別れですね」
布団「頑張って書いて行くんだよ!そして沢山上がる誤字報告は、とても有り難いです」
深月「感想、評価。どうぞ宜しくお願い致します」


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お嬢様と南雲さんの回ですメイドは出ません。空気を読みますので

布団「これから忙しくなるので投稿をしておきます」
深月「この話では私は登場致しません。悪しからず」
布団「投稿間隔が少し長くなるのは申し訳ないです・・・」
深月「・・・ゲームではありませんよね?」
布団「仕事だからね?忙しくなると言われちゃったよ!」
深月「毎日少しずつ書いていけば何とかなりますよ」
布団「そして誤字報告有り難う御座います。とても助かります」
深月「では読者の皆様方寒さに気を付けて、ごゆるりとどうぞ」




~ハジメside~

 

ハジメの頬に定期的に当たる水が頬を通り口の中へと入って行く感触に意識が徐々にではあるが回復、その事を不思議に思いつつゆっくりと目を開く

 

(生きてる?・・・助かったの?)

 

疑問に思いつつ上体を起こそうとするとガンッと天井に頭をぶつけ、自身に何が起きたのかどうなったのかを少しづつ鮮明に思い出して来た。奈落へ落ち兎の攻撃に吹き飛ばされ爪熊に出会い、そして攻撃をされた・・・そして腕を食われた事を

そして理解したと同時に襲い来る幻肢痛に腕を押さえて有る事実に気が付く。切断された箇所は肉が盛り上がり傷を防いでいたのだ。しばし呆然としているとある事実に気が付いた

 

「そ、そうだ高坂さん!高坂さんも腕を切られたんだ!」

 

慌てて探し自身の横に居りそっちの方にも水滴が滴り口の中へと入っており傷が塞がっていた。この事からハジメはこの水が何処から流れ出ているのかを辿り錬成、すると青白く発光する鉱石から出ていたのだ。しばし見惚れていたが皐月の事を思い出し鉱石の周辺を広く錬成、そして四苦八苦しながらその場へと引きずる形で移動させた

そして錬成していた時に気が付いた点、この水を飲むと魔力が回復し傷も治ると言う事だ。ハジメはこの鉱石についてふと思い出した―――――――皐月と一緒に知識を蓄える為に図書館へ行き文献の中に伝説上の鉱石"神結晶"という遺失物扱いされた鉱石だと言う事。その神結晶から流れ出た水は"神水"、正に自身の欠損を除く傷を癒やしたこれは紛れもなく神水であると確信した瞬間だった

だがしかしこの神水や神結晶があるからと言って何が出来ると言うのだろうか。外は爪熊の様な自身を餌としか見ていない捕食者が集う迷宮、そして助けが来ないこの状況にハジメの心は完全に折れていたのだ

 

「誰か・・・助けてよ・・・・・」

 

小さな呟きと共に襲い来る睡魔の誘惑に勝てずその場で寝るハジメ。この言葉は誰にも届かない・・・皐月も気を失っているからだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから一日が経過、ハジメは殆ど動かず丸まっており絶望していると

 

「うっ・・・ここは・・・何処?」

 

皐月が起きた事に気が付いたハジメ

 

「高坂さん気が付いた?」

 

「え・・・あぁ・・・・・ハジメ君。あれからどうなったか分かる?私はあの熊に腕をやられてからあんまり分からないのだけれど」

 

爪熊からの攻撃で激痛が走る中、必死に死にたくないという思いから壁を錬成し、ハジメを引っ張った皐月のお陰で助かった様なものだ。その事実にハジメは心が痛い気持ちで一杯だった。何よりも目に見えている其れ―――――自身が左腕の肘から先が切られたという点に対し皐月は利き手の右肩から切られているからだ

 

「あれから僕は高坂さんを引っ張って錬成してどんどん奧へと進んでいったんだ・・・そして偶然見つけたこの光る鉱石――――――――文献にあった神結晶で、その流れ出た水で僕たちの傷が塞がったんだと思う」

 

「・・・そう。これからどうしよう」

 

現実を直視している皐月はこの迷宮において自分達が生態ピラミッドの中でどの位置づけがされているのかは十分過ぎる程理解していた。故にハジメ同様心が折れていたのだ

 

「私達死んじゃうのかな・・・」

 

「・・・・・」

 

否定する事が出来無いハジメは沈黙、そして皐月の側で抱きしめる様に横になる。その様子で皐月も理解したのであった。ハジメもまた自分と同じ様に理解し絶望している事に

二人はそのまま眠りに付き起きては神水を飲みと繰り返すだけとなっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に数日後、あれからどれ程の時間抱きしめ合っているのか理解出来無い二人は心の中で思っていた

 

(どうして僕(私)がこんな目に?)

 

飢餓感と幻肢痛が襲い来るそれを紛らわすかの様に神水を口にし苦痛の微睡みと覚醒を繰り返し―――――繰り返し――――そしてハジメと皐月は神水を飲むのを止めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もうこの苦痛を終わらせたい・・・・・だけど死にたくない。まだ生きたい

 

 

 

 

 

 

 

 

ただそれだけだった。更に数日が過ぎ頭の中には疑問ばかりが押し寄せていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(なぜ苦しまなければいけない・・・僕(私)達が何をした・・・)

 

(何故こんな目に遭っている・・・何が原因だ・・・)

 

(神は理不尽に誘拐した・・・)

 

(クラスメイトは裏切った・・・)

 

(ウサギは見下した・・・)

 

(アイツは腕を喰べた・・・)

 

(何故僕(私)だけで無く彼女(彼)まで巻き込まれた・・・)

 

二人の思考がドロドロと真っ黒に塗りつぶして行く。無意識に敵を探し求める中でも飢餓感と幻肢痛は治まらず、思考を暗い感情へと導いて行く

 

(どうして誰も助けてくれない・・・)

 

(誰も助けてくれないならどうすればいい?)

 

(この苦痛を消すにはどうすればいい?)

 

更に数日が経ち憎しみや怒りといった感情は無くなっていた。黒く染まった感情を持っても何も期待出来無いし収まる事も無い

 

(俺(私)は何を望んでる?)

 

(俺(私)は"生"を望んでる。)

 

(それを邪魔するのは誰だ?)

 

(邪魔するのは敵だ)

 

(敵とはなんだ?)

 

(俺(私)の邪魔をするもの、理不尽を強いる全て)

 

(では俺(私)は何をすべきだ?)

 

(俺は、俺は・・・)

 

(私の道は・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に数日が経過―――――

ハジメの心の中にはただ生きる事だけ。憤怒も憎悪も理不尽もクラスメイトの裏切りも魔物の敵意も今は居ない守ると口にした物も全てどうでも良い。ただ側に居る不出来だった自分を守ってくれた皐月以外は眼中に無い。ただ単に皐月と一緒に生き残ると言う事

皐月の心の中も殆ど一緒で、生き残る以外は殆どどうでも良い。自分の側に居るハジメと一緒に生き残りたいと言う事。二人は確固たる意思を持った時気が付いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皐月(ハジメ)が好きだと言う事に。そして更に記憶を思い出していくと、何故深月が二人だけの空間を作り出していたのか―――――深月は皐月の幸せだけを思い行動していた事を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、くははははははは。あっははははははははは!」

 

「ふふっ、ハジメ笑いすぎ」

 

「いや、すまんすまん。そして気が付いた事があったんだよ。俺は何で今の今まで気が付かなかったんだよって今更ながらに思ったんだよ」

 

「それなら私もよ。気が付かなかった―――――こんな事になるまで気が付かなかった」

 

「それじゃあ俺が考えている事分かるよな?」

 

「分かるに決まっているでしょ?」

 

「なら"いっせーの"で言うか?」

 

「違うでしょ?それは私から言うのが理想でしょ?」

 

「男からすれば理想だな」

 

皐月は一呼吸置いてハジメに告げる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、高坂皐月は貴方を心の底から愛しています」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてハジメの答えも決まっている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は高坂皐月、お前を心の底から愛している。何処までも俺と一緒に付き合ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい。これから永遠にお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして二人は晴れて恋人・・・・・いや、結婚前提としたお付き合いを誓い合った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃあいっちょやるか皐月」

 

「勿論よハジメ」

 

「「錬成の特訓の開始だ(ね)」」

 

「そして」

 

「邪魔する奴は」

 

「「殺す!殺して喰らってやる!」」

 

こうして奈落の底で無能と呼ばれた者達は変貌した瞬間であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから幾度も錬成の訓練をし、速度、範囲、正確性、を求め、成果は有り有りと目に見えて分かる程にまでとなった。慎重に慎重を重ねゆっくりと気配を出来るだけ殺しながら二尾狼の後を追跡して行くと四頭の群れを作っていたので、ハンドサインにて一匹一匹確実に壁の中へ閉じ込め引きずり込む作戦に出た

結果は上々、一匹また一匹と消えて行く仲間に疑問を覚え壁を背に警戒していたが仇となったのだ

 

「グルゥア!?」

 

後ろの壁が下半身を飲み込む様に蠢き、固まり、ゆっくりゆっくりと拘束したまま引きずり込む事態に悲鳴を上げる二尾狼。見事に成功したのであった

 

「さぁて、生きてっかな?まぁ、俺達の錬成に直接の殺傷力はほとんどないからな。石の棘を突き出したくらいじゃ威力も速度も足りなくてここの魔物は死にそうにないし」

 

「そうよね。現に錬成で巨大な棘を錬成して刺しても傷なんて無かったし普通じゃ無理ね」

 

「窒息でもしてくれりゃあいいが・・・俺達が待てないなぁ」

 

呻き二人を睨付ける二尾狼だが全く身動きが取れず拘束されている為、怯えもせず淡々とどうやって殺そうか思考中

 

「よし決めた掘削するか!」

 

「良いわねそれ!遠くから安全に捻り込む様に殺せるから安心ね!」

 

ニヤリと笑うハジメと皐月の目は完全に捕食者のそれで、右腕を壁に押し当て錬成を行使。明確なイメージを持って少しずつ加工していくと、螺旋状の細い槍の様な代物が出来上がった。更に、加工した部品を取り付け槍の手元にはハンドルのが取り付けられた

 

「さ~て掘削、掘削~!」

 

二尾狼達に向かってハジメはその槍を突き立てるも硬い毛皮と皮膚の感触がして槍の先端を弾く

 

「やっぱり刺さんないよな。だが、想定済みだ」

 

皐月はハジメの作った掘削槍を興味深そうに観察、ハジメは上機嫌に槍についているハンドルをぐるぐると回し、それに合わせて先端の螺旋が回転を始めた。これは硬い皮膚を突き破るために考えたドリルで、体重を掛けながらハンドルを回して行くと少しずつ先端が二尾狼の皮膚にめり込み始めた

 

「グルァアアー!?」

 

「痛てぇか?謝罪はしねぇぞ?俺と皐月が生きる為だ。お前らも俺らを喰うだろう?お互い様さ」

 

そう言いながら、更に体重を掛けドリルを回転させる。二尾狼が必死に暴れるが、周りを隙間一つなく埋められている為不可能。そして遂に、ズブリとドリルが二尾狼の硬い皮膚を突き破り体内を容赦なくグリグリと破壊して行き断末魔の絶叫を上げた。しばらくするとビクッビクッと痙攣しパタリと動かなくなった

 

「よし、取り敢えず飯確保」

 

「お腹空いたわねハジメ?」

 

「そうだな。取り敢えず残りの三匹も殺しておくか」

 

嬉しそうに嗤いながら、残り三頭にも止めを刺し、全ての二尾狼を殺し終えたら錬成で二尾狼達の死骸を取り出して二人で毛皮を不器用ながらも剥がし、飢餓感に突き動かされる様に喰らい始めた

 

「あが、ぐぅう、まじぃなクソッ!」

 

「うぇええ、不味すぎるよぉ。こういう時に深月が居たら美味しくしてくれそうなんだけどなぁ・・・」

 

愚痴を吐きつつも咀嚼する二人。悪態を付きたくなるのも当然の物で、えぐみのある硬い筋ばかりの肉と言えば理解出来るだろう。二人しておよそ二週間ぶりの食事に胃がビックリしてキリキリと悲鳴を上げるが何のその、生きる為に次から次へと飲み込んでいく。その姿は完全に野生児その物だ。神水を飲み水として食べ続ける二人に突如異変が襲いかかる

 

「あ?――――ッ!?アガァ!!!」

 

「ハジ――――ッ!?ウギッ!!」

 

突如全身を激しい痛みが襲って来たのだ。まるで体の内側から侵食されている様なおぞましい感覚・・・その痛みは時間が経てば経つほど激しくなる

 

「ぐぅあああっ。な、何がっ――――ぐぅううっ!」

 

「いっ、ぎぃいいいいいい!」

 

耐え難い痛みと自分を侵食していく何かに襲われ地面をのたうち回る。幻肢痛など吹き飛ぶような遥かに激しい痛みだ。ハジメと皐月はは震える手で懐から錬成にて作り上げた石製の試験管型容器を取り出すと、端を噛み砕き中身の神水を飲み干すと効果を発揮し痛みが引いていく―――――――がしばらくすると再び激痛が襲う

 

「な、なんで!じんずいがぎがあああ効がな"いの"!?」

 

「ひぃぐがぁぁ!!なんで・・・治らなぁ、あがぁぁ!」

 

二人からドクンッ、ドクンッと体全体が脈打ち至る所からミシッ、メキッという鈍い音が聞こえ始める。体の筋繊維、骨格が悲鳴を上げて破壊、そして神水の効果で治り、またしても襲い来る激痛。二人は絶叫を上げながらのたうち回り地獄を味わい続け、ひたすらに耐える

すると体に変化が現れた。日本人特有の黒髪は真っ白となり、筋肉や骨格が徐々に太く体の内側に薄らと赤黒い線が幾本か浮き出て来たのだ。幾何も続くその苦痛を耐え続け痛みが来なくなった所でようやく地面へグッタリと大の字で寝転んだ

ハジメは筋肉質な体となり以前よりも背が高くなっていた。皐月の方ももの凄い変貌を遂げ、筋肉は目に見えて浮かんではいないが密度が高く、そしてそれの基礎となる骨の密度も上がっているのだ。そしてハジメ同様以前よりも背が高くなっており、胸は大きく、ウエストは引き締まりと女性が羨む体型と変貌したのだ

 

「・・・そういや、魔物って喰っちゃダメだったか・・・アホか俺は・・・」

 

「・・・でもしょうが無いでしょ?食べなきゃ死ぬんだからこうなったのは必然、ハジメが悪い訳じゃ無いわ」

 

「しっかし俺の体どうなったんだ?何か妙な感覚があるし・・・」

 

「私も同じく、変な感覚があるわ」

 

体の変化だけでなく二人は体内にも違和感を覚えていた。温かい様な冷たい様な?どちらとも言える奇妙な感覚で、意識を集中してみると腕に薄らと赤黒い線が浮かび上る

 

「うわぁ、き、気持ち悪いな。なんか魔物にでもなった気分だ。・・・洒落になんねぇな」

 

「こ、こういう時はステータスプレートを見るのが一番よね?」

 

存在その物を忘れていたステータスプレート。二人して入れていたであろうポケットを探ると無くしてはいなかったようで一安心、そしてこの異常について何か表示されていないか確認する為覗くと

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:8

天職:錬成師

筋力:100

体力:300

耐性:100

敏捷:200

魔力:300

魔耐:300

技能:錬成 魔力操作 胃酸強化 纏雷 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

高坂皐月 17歳 女 レベル:7

天職:錬成師

筋力:80

体力:250

耐性:80

敏捷:180

魔力:280

魔耐:280

技能:錬成 魔力操作 胃酸強化 纏雷 直感 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「「・・・なんでやねん」」

 

二人して驚愕のあまり思わず関西弁でツッコミを入れる。それはそうだろう。ステータスは軒並み上昇、派生技能が三つ追加しかも未だにレベルが一桁台であるからだ

 

「「魔力操作?」」

 

二人は互いを見合い、魔物肉を食べてから感じる奇妙な感覚は魔力なのでは?と推測し、集中して"魔力操作"とやらを試みる。すると赤黒い線が再び薄らと浮かび上がり掌に集中させると、ぎこちないながらも奇妙な感覚・・・もとい魔力が移動を始めた

 

「おっ、おっ、おぉ~?」

 

何とも言えない感覚に戸惑いを覚え、錬成を試みるとあっさりと地面が盛り上がる

 

「マジかよ。詠唱要らずってことか?魔力の直接操作はできないのが原則の筈だが例外は魔物・・・やっぱり魔物の肉食ったせいでその特性を手に入れちまったのか?」

 

「見て見てハジメ!これ凄い!私、某忍者の千鳥を再現出来たわ!」

 

冷静に分析していたハジメが皐月の声に反応しそちらへ目を向けるとバチバチと左手に雷を纏わせて構えている皐月の姿だった

 

「・・・もしかしなくても魔物の固有魔法はイメージが大事って事か?」

 

「多分そうかも。左手で"纏雷"を使用したら静電気みたいにバチバチっと纏わせたらいけるかな~?ってイメージしたら出来ちゃった♪」

 

「成る程なぁ。んじゃあ最後の"胃酸強化"ってのは大体予想が付くんだが・・・」

 

「それしかないと思うわ」

 

二人は再び二尾狼から肉を剥ぎ取り纏雷を使い肉を焼くと悪臭が酷くこれを耐え、こんがりと焼き上げた肉を食べる―――――――

十分程経過しても先程の様な激痛は襲ってこず、次々と肉を焼いて食べる。量を食べても激痛が襲ってこないので理解する二人

 

「胃酸強化なぁ・・・便利だな」

 

「お肉は美味しくないけど、飢餓に苦しむ事が無い分マシね」

 

二人は二尾狼達を食べ尽くした後に一度拠点へと戻り一日は終了、翌日からは錬成や纏雷と言った他の技能鍛錬を行っていると派生技能が備わったのだ

 

"鉱物系鑑定"

王都の王国直属の鍛冶師達の中でも上位の者しか持っていない技能で、この技能を持つ者は鉱物に触れてさえいれば簡易の詠唱と魔法陣だけであらゆる鉱物を解析出来るとても便利な代物なのだ。潜在的な技能ではなく長年錬成を使い続け熟達した者が取得する特殊な派生技能である

それから二人は迷宮内の鉱石を探す為彷徨い調べて行くと、切り札―――打開策となる代物を見付ける事に成功したのだ。その名は"燃焼石"と"タウル鉱石"と言う二つの鉱石で、燃焼石は現代知識で言う所の火薬に近しい物で、一方のタウル鉱石は衝撃と熱に強く冷気に脆い鉱石だ

これらと皐月が見たと言う実物の拳銃を元に錬成を何度も試行錯誤、失敗に失敗を重ねて遂に完成したのだ

 

「・・・これなら、あの化け物も・・・脱出だって・・・やれる!やってみせる!」

 

「私もお荷物にならない程度だけど頑張るわ!」

 

「皐月は無茶してくれるなよ・・・俺と違って肩から切られてんだから体重バランスが悪いだろ?利き手でもないしよ」

 

「それは練習と実戦を持って克服するに決まっているでしょ」

 

「・・・それもそうだな――――――俺の背中は任せたぞ皐月」

 

「私の背中も任せるわハジメ」

 

ハジメと皐月が持つ其れは大型のリボルバー式拳銃、名はドンナー。魔物を食べてから成長したステータスのお陰で力等に関しては問題無く、罠などの知識、経験も学ぶ事が出来たのだ。因みに水の上を歩いていた蹴りウサギを纏雷で感電させた後ドンナーで撃ち殺したりと検証と実戦も兼ねる事も出来たのである。そして二人のステータスはというと

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:12

天職:錬成師

筋力:200

体力:300

耐性:200

敏捷:400

魔力:350

魔耐:350

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査] 魔力操作 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地] 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

高坂皐月 17歳 女 レベル:12

天職:錬成師

筋力:180

体力:270

耐性:180

敏捷:350

魔力:350

魔耐:400

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査] 魔力操作 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地] 直感 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

皐月は殆どがハジメのステータスと同じ位で、魔耐の数値と技能の数だけが上である。天歩は蹴りウサギを食べて得た技能で、何回も地面とキスをしつつも自分の物と出来たのだ

二人は現在の装備を確認、不備等もチェック、無し―――――――

 

「よし、遂に来たぜこの時がよ!」

 

「うふふふ、待っててね爪熊さん♪」

 

「「今度は逆に俺(私)が喰らってやる(わ)!」」

 

途中で遭遇した二尾狼はドンナーにてヘッドショット、頭部を粉砕し奧へと進んで行く。すると響くうなり声と金属音に二人は不思議に思った

 

「あぁん?このうなり声は爪熊の野郎って分かるが金属音ってのが分からねぇ。クラスメイトの連中がチートの集まりだろうとここまで深部へと潜る事なんて不可能なんだが・・・」

 

「それよりも今はこの現状の様子を見なきゃいけないでしょ?可能性としては魔人族って線も否めないし」

 

「あぁそうだった。魔人族っていう奴らが居たんだったな。すっかり忘れてたぜ」

 

「私はあそこの岩陰から様子を見るわ。ハジメは対面をお願いね?いざとなれば挟み撃ちの形で殺せば良いし」

 

「だな。・・・ここで別れるぞ」

 

「気を付けてね」

 

「どっちがだよ。皐月の方こそ気を付けろよ」

 

二人はこの迷宮の階層を庭の様に把握しているので二手に分かれ敵対したならば確実に仕留める為に分けれて岩陰に待機。そしてゆっくりと様子を伺う様に様子を見ると二人は驚愕した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あのトラップから離れ離れとなったメイド―――――――深月が爪熊と戦っていたからだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「エンダアアアアアアア!」
深月「ようやくお嬢様と南雲さんがお付き合いに!私はとても喜ばしいです!」
布団「あの二人は、もう付き合っちゃいなよ。レベルの仲良しさんでしたからなぁ」
深月「作者さん」
布団「何でしょう?」
深月「無理をしてはいけませんよ?」
布団「だ、大丈夫な筈・・・」
深月「体調管理も本人次第ですので、私がどうこう言える事ではありませんが」
布団「頑張って執筆するさ」
深月「ではこの辺りで終わりに致しましょう」
布団「読者の皆!体調管理に気を付けてね!」
深月「感想、評価等もお気軽にどうぞ。それと、寒暖差に気を付けて下さいね?」


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メイドは死力を尽くします

布団「さみぃ!」
深月「冷え込んできましたね」
布団「執筆速度が落ちそう。ってか、確実に落ちてる」
深月「頑張って書いて下さいね?」
布団「今年一杯までにオルクス迷宮攻略(執筆)したいなー」
深月「ゲーム等は程々にして下さいね?」
布団「・・・はい」
深月「読者様も待って下さっているので始めましょう」
布団「刮目s―――――――」
深月「作者は放置して始めましょう。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」







~深月side~

 

時間は少し巻き戻り――――――

 

「きっ―――――――――貴様あああああああああああ!!」

 

皐月の衣服の一部の残骸を見て激怒。そして殺意を孕ませた目を持って爪熊へと一直線に駆け出した

 

「グゥウ!?」

 

死角からいきなり躍り出た深月は懐近くまで一気に近付き刀を一閃。しかしここまでの道中で沢山の魔物を切り続けてきた為に切れ味は落ち、表面を薄く切る程度で精一杯だった

 

「ちぃ!硬い!!」

 

振り下ろされる爪熊の一撃を紙一重で回避しようとしたが言いしれぬ悪寒を感じ横っ飛びに回避、すると先程まで立っていた地面に切り傷が付けられていた

 

「斬撃を飛ばす固有能力ですか・・・なら直線上に入らなければ良いだけの事です!」

 

縦に振り下ろされる腕には横飛びで回避、横に振り出される腕は攻撃の出だしの所で腕を斜めに切り流し、そしてその切り返しで爪熊を傷付ける。だが無情にも幾度にも渡り酷使してきた刀は遂に根元から折れてしまったのだ

爪熊は厄介な刃が無くなった事で揚々と攻撃に転じるが、深月は手に持っていた柄を爪熊の口へとピンポイントで投擲、運良く中に入ったそれは隙を生じさせるには十分だった。怯んでいる内に距離を取り太股部分に張り付ける様に装着していた夫婦剣を構えて一呼吸入れる。爪熊も口の中から柄を吐き出し終え、更なる怒りを含んだ目で深月を睨付けている

普通の人間であればこの睨みだけで足が竦んで動けないのだが、数多なる地獄のサバイバル(生死問わず)を生き抜いてきた深月にとっては動物も魔物も変わりない。魔物はちょっと特殊能力を持った動物程度に思っている位

 

「せいっ!はぁっ!」

 

「グゥウウウ!」

 

先程までとは違い切って流す事は出来無いが、超接近戦にて振るわれる二刀の刃は踊る様に舞ながら爪熊の体を傷付けて行く。ボロボロとなった刀とは違い新品同然の夫婦剣の切れ味は良いのだが、切断には至らない

そして何よりも深月とて人間・・・あの日からずっと何も食べておらず、水だけ飲む生活だった。だが階層全てを探索して下層へと潜る行為は、想像以上の体力と精神力を削っており、不調が何時襲い掛かってくるかも分からない為にずっと張り詰める様な警戒をしていたのだ。何時決壊しても不思議では無いそれは最悪のタイミングで襲い掛かる

 

「ッ――――――!ゴボッゴホッ!」

 

耐え難い痛み、胃から沸き上がる熱を持った其れは大量の血

吐血により一瞬の間だけ視界を一瞬寸断させる。タイミングは最悪、回復した視線の先には振り下ろされて行く腕

 

「クッ!?―――――――――――――――いっづあ"あ"あ"あ"あああああ!!」

 

振り下ろされた腕を回避したまでは良かった。だが回避に手一杯になった深月は爪熊の突き出される腕が腹部に直撃、爪に貫かれる形で被弾したのだ。そのまま地面へと押さえつける様にされた状態は正に絶体絶命、顔に食らいつかんと前目に迫る頭部。だが未だ手に持っていた片方の剣を爪熊の片目へ突き刺す

 

「グゥアアアアアア!?」

 

切り潰された激痛により深月の上から離れ目を押さえている。深月も引き抜かれた爪から血が大量に出ているが、その痛みを堪え肉薄、もう一方の目に向かってもう片方の剣を"下から抉る"様に刺し貫く。体の構造的に其れは脳へ一直線の攻撃なのだが、目を刺し貫くが骨を貫通するには至らなかった。横へと振るわれた腕に当たり壁際へと弾き飛ばされた深月

 

「・・・申し訳御座いませんお嬢様」

 

擦れる様に呟いた一言、薄れ行く目で見た光景は頭部が粉砕された熊の最後だった。そして其処で完全に意識を失った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

ヤバイ・・・私のメイドが強すぎる件について

 

皐月がハジメをチラッと見るとそちらも驚愕している様子で呆然としていた。自身が見ただけで恐慌状態に陥った爪熊と相対して攻め込んでいるという光景だったからだ

ハンドサインと言うよりもジェスチャーに近いだろう。皐月とハジメはテンパった感じでワタワタと表現していた。ハジメの心の内と皐月の心の内は殆ど同じ感じで

 

(おいおい嘘だろ・・・神楽の奴?あんな近距離で攻撃を回避したり切り流したりしてんのかよ!俺が初めて出会った時は恐怖で怯えて動けなかった位ヤバイ奴だぞ!?)

 

(深月が凄いって分かってはいたけどまさか此処までとは思っていなかったわ。あの爪熊に接近戦で挑むなんて怖くないの!?)

 

二人で作った刀で切り結んでいた深月に驚愕していた二人、互いに見合いどうするかをハンドサインで決めようとした瞬間だった。キィンッというかん高い音が聞こえ深月の方へと目を向けると手に持っていた刀が根元から折れた音で、援護をしようと思ったのだが深月はその隙も与える事無く柄を爪熊の口の中へと投げ込んだのだ

 

(嘘やん・・・)

 

(曲芸か何かですか?)

 

あの攻防の中の一瞬でその様な判断をし行動した光景に更に驚く二人、そして再び見合い

 

(幾らあいつでもこれ程までの芸当は出来無いと思わないか?)

 

(正直そう思うわ。私の深月がいくら優秀だからと言ってこれ程出来るなんて思いもしなかったわ)

 

(俺が思うに迷宮の幻影を作り出す、もしくは象った敵だとしたらどう思う?)

 

(可能性としては有り。だけど・・・)

 

(どうした?)

 

(あれは深月本人だと私の勘が囁いているのよ)

 

(だがもうちょっと様子を――――――)

 

「いっづあ"あ"あ"あ"あああああ!!」

 

絶叫が聞こえ目を向けると腹部を爪で貫かれ押し倒された深月の状態だった

 

(ヤッベェ!)

 

(ッ!)

 

ドンナーを構えようとするもそれよりも先に届かんとする牙だが、深月の片手剣は目を突き刺す事でその危機を脱したのだ

 

(ハジメごめんね・・・)

 

(皐月のお願いじゃ仕方がねえか。俺が撃つから神水持って行けよ)

 

壁際へと飛ばされた深月、ハジメは両目を潰された爪熊の頭部に向け発砲、頭部を粉砕させたのを確認して皐月は走って行き気絶した状態ではあるがなんとか一つを飲ませ、もう一つを傷へと掛ける事で傷は無くなった

ハジメは爪熊が本当に絶命したかを確認し終えた後、皐月の側まで爪熊を引きずりながら移動した

 

「どうだ皐月?」

 

「やっぱり深月よ。私の勘がそう囁いているわ」

 

「皐月の勘は伊達じゃないから間違い無いだろうな。だが分かっているよな?」

 

「分かっているわ。"敵なら殺す"でしょ?まぁ深月なら私に付いて来るから大丈夫よ」

 

「このままは危険だし錬成で拠点を作るとするか」

 

「お願い」

 

ハジメは壁を錬成、大きく空洞状に作ったその中に入る。勿論倒した爪熊もだ

リベンジする事は叶わなかったが、「まぁいいや」と言う事で気にせず肉を剥ぎ取り纏雷で焼いて食べたのであった。こうして新しい技能も手に入れたハジメと皐月は深月が目を覚ますまで拠点で待機する事とした

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:17

天職:錬成師

筋力:300

体力:400

耐性:300

敏捷:450

魔力:400

魔耐:400

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合] 魔力操作 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地] 風爪 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

高坂皐月 17歳 女 レベル:17

天職:錬成師

筋力:250

体力:350

耐性:250

敏捷:430

魔力:450

魔耐:450

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合] 魔力操作 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地] 風爪 直感 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

夢・・・と言うより走馬燈みたいな物ですね

お嬢様と出会い、教養を身に付け――――訓練―――修行――――サバイバル・・・本当に色んな事がありました。異世界へ拉致されても頑張るお嬢様、そして離ればなれになった。必死に探したけれど、見つからない見つからない見つからない。痕跡を見つけたと思えば其れは血が大量に付着したお嬢様の服の一部。爪が発達した熊と戦い・・・・・戦い?どうなったのでしょうか・・・確か最後はトドメの突きが失敗して腕ではじき飛ばされてからが分かりません

しかしこの匂い・・・悪臭に混じった匂い。微量ながらもこの濃厚な匂いは・・・良く知る男性と―――――――――

 

「お嬢様!!」

 

カッと目を見開きガバッと体を起こした深月、そして横に目を向けると白髪の男女二人。そして気が付き女性の方へと抱き付く

 

「お嬢様お嬢様お嬢様!申し訳御座いません申し訳御座いません!この深月が側を離れなければあんな塵芥共の蛮行を行わせる事など無かったと言うのに!申し訳御座いません!!」

 

深月が涙を流しながら皐月に謝った

 

「え~っと深月?大丈夫だからね?私生きてるから」

 

「ですが・・・ですが!お嬢様の利き腕が無いのは私が至らなかった為で御座います!申し訳御座いません!だから捨てないで!捨てないで下さい!」

 

余りの変りぶりにアワアワと焦る皐月

 

「あー・・・まぁ何だ?皐月は神楽を見捨てるなんてしないと思うし有り得ないぞ」

 

「南雲さんは私とお嬢様の出会いを知らないから楽観的に捉えられているのです!私の人生はお嬢様の幸せの為に全てを捧げているのです!ましてや利き腕が無くなると言う最悪が!お嬢様を守ると誓った私を不出来に思い捨てられる可能性が少しでも有るのです!!」

 

「えっとね深月?私は捨てないし手放すつもりも無いからね?だから・・・えっと、落ち着いて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土下座で謝る深月を諫める事数十回、ようやく落ち着きを取り戻したら起きてからの出来事を思い出し赤面しているのである

 

「た、大変お見苦しい所をお見せして申し訳御座いませんでした・・・先程までのは忘れて下さい」

 

深月の意外な一面を知ったハジメは笑っていた

 

「神楽は皐月一筋なんだな。ハッハッハッハ!なら俺達の敵って事は有り得ないだろうな」

 

「何を仰いますか南雲さん、私がお嬢様の敵となる?そうなってしまえば私は自らの首を吊りますよ」

 

「そうか・・・俺の名前を呼ぶのはハジメで良いぞ」

 

「ではハジメさんとお呼び致します」

 

「敬語は無しでお願いしたいんだが・・・・」

 

「私はメイドですのでそれだけは譲れません。では私の事も神楽ではなく深月とお呼び下さいハジメさん?」

 

「そ、そうか・・・分かった深月」

 

深月の絶対譲れない信念に強制的に納得させられたハジメ。典型的な女性に尻を敷かれる男性の姿だ

 

「それにしてもハジメさんとお嬢様の雰囲気がどことなく変っていますが何か有ったのでしょうか?あぁ髪の色とかではありませんよ?こう・・・距離感的な感じです」

 

迷宮に入る以前と比べ二人の雰囲気が変っている事にいち早く気が付いた深月、それは正にその通りである

 

「深月、私からせつ――――――」

 

「いや此処は俺から言うのが良いだろう。まぁ何だ・・・俺と皐月は将来を誓い合った仲となった。結婚前提のお付き合いって奴だな」

 

「と、言う訳で祝福してくれるわよね深月?」

 

「ふむ」と納得し素直に祝福する深月

 

「おめでとう御座いますお嬢様、ハジメさん―――――――いえ、結婚前提のお付き合いと言う事はハジメさんを旦那様とお呼びしたら宜しいのでしょうか」

 

「お願いだから止めてくれ!俺の事はハジメで固定してくれ・・・本当に頼む」

 

「まぁ今は良いでしょう。ですがお嬢様とご結婚されたら必然的にそう呼びますので悪しからず」

 

「あ、はい」

 

こうしてハジメの将来は旦那様呼びが確定したのであった

 

 

 

 

 

 

深月はハジメと皐月が奈落へと落ちてからの経緯を聞いて暗い顔をしていたが、「過ぎた事」と言う事で無理矢理納得させステータスの事も説明した

 

「成る程・・・魔物の肉は有毒ですが、この神水が有れば大丈夫だと言う事なのですね」

 

「そうそう。不味いけど技能が手に入るのは捨てがたいからな」ニヤニヤ

 

「深月も食べなさい。私に尽くしてくれるんでしょ?」ニヤニヤ

 

「では食べましょう。食べてお嬢様に害成す者全てを排除致しましょう」

 

神水を片手に爪熊の肉を食べた深月、因みにハジメと皐月は激痛については話していないのだ。「お前も道連れだ!」と言いたげな笑みを浮かべながら勧めたのだ

もっきゅもっきゅと今までの空腹を埋める様に食べ進めて行き、訪れる痛み

 

「っ!?い、痛いですね・・・神水を飲んでおきましょう」

 

少し顔を歪めた程度の深月に対し二人は「何故だぁ!?」と内心呟いたのであった

 

「筋肉断裂、復活の繰り返し・・・超復活ですね。まぁこの程度ならば地獄のサバイバルで体験済みですし今更感が否めないです。しかしこの骨格を作り替えようとする痛みは凄まじく、立つ事が出来ません」

 

「地獄のサバイバルってそんなにヤバかったの?」と言いたげにドン引きする二人を置いて深月の体からゴキッ、メキッ等の鈍い音が時偶聞こえるがやがて聞こえなくなる。それを確認した深月は立ち上がり体の隅々をチェック

 

「骨格が歪んだり等の事はありませんね。・・・問題としては少々背が高くなった事と少し引き締まったウエストですね。服は紐で縛れば大丈夫なのですが、背丈に関しては少々慣れなければ戦闘に支障が出る恐れが有りますね」

 

パパッと一通りの動きと体型をチェックし終えた深月、しかし二人の視線はそっちでは無く頭部・・・髪であった。魔物を食べた事により白く変色した二人とは違い、深月の髪は白に近い銀色―――――アニメやゲームに登場する様なメイドとなってしまっていた

 

「「何故に白銀・・・」」

 

その呟きから深月は自身の髪をチェックし変っている事に疑問を覚えたが支障をきたしている訳でも無いので気にせず、ハジメと皐月を見て一言

 

「時に、お嬢様にハジメさんはちゃんと水浴びしていましたか?」

 

「あーそういや錬成の鍛錬ばっかりやってて忘れてたわ。ってかやらなくても生きていけるし」

 

「私達は弱かったからそんな余裕が無かったのよ。と言っても浴びなくてももういいやって思っているわ」

 

「・・・・・」ゴゴゴゴゴッ

 

「「ヒィッ!?」」

 

「お・ふ・た・り・と・も?服を脱いで私に預けて下さい」

 

「ちょ!?服脱いだら俺と皐月は全裸になるんだが!?」

 

「ぬ・い・で・く・だ・さ・い」

 

「いy―――――――――」

 

「ハ・ジ・メ・さ・ん?」

 

「・・・ワカリマシタ」

 

深月の圧によりスゴスゴと引き下がるしか出来無かったハジメだが、流石に女性の前で全裸になるのは抵抗があり迷っていた。しかし深月によって強制的に衣服を脱がされてしまった。因みに皐月は深月に頼み脱がせて貰っていたのである

二人の衣服を持ち生活魔法の派生技能、清潔操作と全体清潔を同時に行使――――――思い浮かべるは洗濯機、布に付着した小さな汚れが剥がれ落ちるイメージを持って血濡れ、土汚れをどんどんと落として行く。そして綺麗な状態、正に新品同然とも言えるまで汚れを落とす事に成功

 

「では続いて洗髪です。お二人共こちらに来て下さい」

 

清潔操作、全体清潔、精密清潔を行使、傷だらけでごわごわしていたハジメと皐月の髪はサラサラと滑らかさを取り戻したのだ

 

「なぁ深月、体に生活魔法はやらないのか?」

 

「此処に濡れタオルが御座いますよ?」

 

「え・・・いや・・・深月がやった方が早――――――」

 

「あ・り・ま・す・よ・?」

 

「ハイ・・・」

 

深月は皐月の体全てをフキフキ、ハジメは自分の体をゴシゴシと洗うが背中と右手は拭けず「これでいいか」と思ったが持っていたタオルを深月に奪われ、綺麗な状態となったそれで背中をフキフキとされておおよそ清潔となり服を着終えた二人は何気にグッタリとしていた

 

「深月を怒らせるとヤバイな」

 

「私達を思っての事だけど怖かったわ・・・」

 

「あの無言の圧力を加えた決定に逆らえねぇ」

 

「ねえハジメ。深月の武器どうする?」

 

「あぁー、タウル鉱石で硬い武器を作っておくか。何なら拳銃を持たせてみるか?」

 

「私達の出番が無くなるわよ」

 

「剣だけにしておくか・・・」

 

二人はタウル鉱石を使用し黒い刀を生成

ハジメ命名:黒刀【霧斬(むざん)】 深月が使う事で無残にも細かく斬り殺され黒く変色した刀

―――という設定付けた名前だ。一方深月は名前は気にせず、唯即戦力となる武器が出来ただけでご満悦

そして二人で作った夫婦剣も新しく一新

皐月命名:黒双剣【対極(ついきょく)】 ハジメと皐月が作ったのは以前使用していた夫婦剣、それはそれなりに頑丈さをコンセプトに作っていたので、タウル鉱石で覆う形で新しく作られた。深月に渡すと「ふむ」と呟き一つを投擲、するとブーメランの様に戻るそれを危なげなくキャッチして「これは戦闘の幅が広がりますね」との事だった。ハジメは「何処ぞの正義の味方かよ・・・」と呟いたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ!もうちょい錬成速度を上げねぇと足下掬われちまいそうだな!」

 

「反動は大丈夫だとしてもまだ精度が足らないわ」ドパンッ

 

武器制作が終わった後も錬成の鍛錬をするハジメと射撃訓練を行っている皐月。そして屠られて行く魔物達はドンマイとしか言えないだろうが、それは襲ってきた為なのでそうとも言えないのだ

 

「しっかし油断している訳じゃ無いんだが、拠点からあまり離れるなって過保護すぎるんじゃねえか?」

 

「トラップの時に対処出来無かったのを未だ引きずっているみたいよ」

 

深月は準備しているのだ。ハジメが提案したそれは危険極まりない物だったがそれに賛成、下層へと続く迷宮の最下層まで行くと言う物だった。何故か?ハジメと皐月は「教会は危険だからこのまま離脱」という考えで、深月に至っては「教会は何時爆発しても可笑しくない程危険な爆弾、そしてエヒト神はそれ以上の危険性が有る」と述べ、一同の考えは「迷宮潜って魔物肉食べて強化しまくっちゃえ!」と言う事

明日から潜るとは言えそのまま何もせずでは無く「己の研磨を如何なる時も絶やさない事が最も大事」だと深月の言い分はとても重要だと理解している二人はそれぞれの気になる、不十分な部分を徹底的に反復練習して向上させて行く。そんな集中した訓練を終え拠点に戻るとムワッと溢れ出る良い匂いに、二人の腹の虫が大きな音を立てる。滴る涎を気にせず匂いの原因となる一点は、深月が調理している魔物肉の物であった

 

「ちょっ!?深月!おまっ!?それ魔物肉じゃねぇのか!?」

 

「悪臭じゃなくて良い匂い・・・ジュルリ―――――――ハッ!?」

 

「お帰りなさいませ、お嬢様にハジメさん。調理はもうすぐ終わりますので今しばらくお待ち下さい」

 

何故?と疑問に思いながら何度も喉を鳴らし待ち続ける二人。そして出されたそれは赤黒い液体がたっぷり掛かったステーキだった。見た目はグロテスクで魔物肉を焼いた上に血を掛けた様なそれは、普通の常人であれば食欲が無くなるだろう。しかしこの場で腹を空かせている二人は、生の魔物肉を喰らったことがあるのでその様な事は全く気にならないのである

 

「二つの尻尾を持つ狼のステーキです。筋切り等の下処理も済ませていますのでどうぞご堪能下さい」

 

「うぐ・・・匂いは良いんだが」

 

「食べるとあの言い知れぬえぐみがあるのよね・・・」

 

深月が完璧超メイドだとしても調味料の無いこの場でえぐみ等を取れるとは思っていない二人は一口サイズに切られたブロックを頬張り―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「うまあああああああああああああああい」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素直な感想有り難う御座います♪」

 

「この淡泊な味わい!脂は多く乗っていないが、噛んだ瞬間に溢れ出る肉汁!」

 

「所々硬く、そして柔らかくの飽きさせない食感!」

 

「「正しく食べ物だ!」」

 

モリモリと食べ進める二人は皿の上のステーキが直ぐに無くなりハッと我に返ると、もっと味わって食べるべきだったと言わんばかりに絶望としているが

 

「まだ沢山有りますので焦らなくてもお肉は逃げませんよ?」

 

「「おかわりー♪」」

 

深月の一言で完全復活して、おかわりの肉をモリモリと食べて行く最中にハジメは疑問に思った

 

「そういや魔物肉が何故此処まで美味しくなるのかが不思議で堪らないんだが・・・」

 

「そうよね・・・深月何かやった?」

 

「そうですね・・・生活魔法の清潔で血抜き等の下処理が出来ると把握出来ましたので、味見をしながら少々このえぐみが消えたら良いな~と思いつつ清潔を使ってみたのです」

 

「「なんでやねん!」」

 

ツッコミを入れつつ理由を考えるハジメはある一つを思い出す

 

「ちょっと深月のステータスプレートを見せてくれ」

 

「困った時のステータスプレートね。何かしらの良い原因が見つかると良いのだけど・・・」

 

「私も迷宮に入ってから一度も見ていませんね」

 

深月はポケットに仕舞っていたステータスプレートを取り出して二人に見せると――――

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:33

天職:メイド

筋力:1500

体力:2500

耐性:1500

敏捷:2500

魔力:2000

魔耐:1500

技能:生活魔法[+完全清潔][+清潔操作][+清潔鑑定] 熱量操作 気配遮断 高速思考 精神統一 身体強化 縮地 硬化 気力制御 魔力制御 気配感知 魔力感知 家事[+熟成短縮][+魔力濾過][+魔力濾過吸引] 節約 交渉 戦術顧問[+メイド] 纏雷 天歩[+空力] 風爪 魔力操作 胃酸強化 直感 心眼 極致[+剣裁][+拳闘][+体術] 限界突破 言語理解

称号:メイドの極致に至る者

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「なぁにこれ」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精密清潔と全体清潔は無くなり完全清潔へと統合、そして家事の技能から派生で熟成短縮・魔力濾過・魔力濾過吸引と三つが新たに追加、最初の熟成短縮は分かるのだが残りの二つが意味HU☆ME☆I☆である

 

「魔力濾過?・・・それに魔力濾過吸引?どういう技能だ?」

 

「魔力濾過って事は有害を無害にさせるって事かしら?魔物肉が有害魔力を保有して食べれない事を前提にしたら理屈は通るわね・・・」

 

「最後の魔力濾過吸引だが・・・濾過した行き場の無い魔力を自分の魔力へと変換していると仮定しよう。料理して清潔とかやっていた時に疲労感は無かったのか?」

 

「そう言えば妙に力が沸き上がる感じでした・・・となると、ハジメさんの予測が正しいという事でしょうか?」

 

「手から他人の魔力を吸収して自分の物に出来たとしたらとんでもないスキルよね」

 

試しに皐月は纏雷を指先に使用し、深月は掌を近くに持って行き魔力濾過吸収を発動すると微々たる量ではあるが吸収されていった

 

「流石に超ぶっ壊れ性能では無かったか」

 

「流石の深月でもぶっ壊れでは無かったと言う事ね」

 

皐月の悪気無い一言に深月は一瞬だけムッとしたが直ぐに隠しある実験を試してみる事に

 

「ハジメさん、もう一度纏雷をお願いします。少し試したい事が御座いますので」

 

「お、おう。別に良いが無茶はするなよ?」

 

「大丈夫です」

 

先程皐月がした事をハジメが同じ様に使用、そこから深月は完全清潔と清潔操作と魔力濾過吸収の三つを行使した

 

イメージは掃除機と同じ様に掌に纏雷の魔力を集めて、完全清潔により私に対して有害な部分を消し去った綺麗な魔力を全身に纏わせる!

 

ハジメの指先の纏雷は深月の掌に集められ一瞬で綺麗な魔力となり、そのまま全ての魔力が深月の身体中に行き渡る

 

「やりましたよお嬢様!」

 

「「なんでやねん・・・」」

 

こうして深月は相手の魔術攻撃を無効化して自身の物へとする技を編みだし、その理不尽さを目の当たりにした二人。こうして最強戦力が更に強化されたのだった

 

 

 

 

 




布団「何故、熊にやられたのかって?」
深月「私も人間ですよ?」
布団「半月近く絶食+気が抜けない状態。後は分かるね?」
深月「ストレスマッハという奴ですね!」
布団「ステータスはチートなのにね♪」
深月「ですが良いのです!私は遂にお嬢様と合流する事が出来たのですから!」
布団「そして胃袋を掴んでいくぅ!」
深月「三大欲求の一つを確保しておかなければなりませんからね」
布団「おっと、そろそろ時間ですね」
深月「ですね。読者の皆様方、感想、評価等お気軽に宜しくお願いします」
布団「そして誤字脱字報告に日々感謝しています!」
深月「今回も見直ししましたよね?」
布団「十回やった。けど作者は良く見落としちゃうから赦して・・・」


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メイドは居ません。クラスメイトsideですから

布団「クラスメイト達はどうしているかな?」
深月「ではそちらへ目を向けてみましょう」
布団「話しは変って、誤字報告有り難う御座います」
深月「作者さんは国語の成績が低かったと記憶していますが?」
布団「・・・ではどうぞ!」
深月「逃げては駄目ですよ?しっかりとお話ししましょう。それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」


爪熊の討伐より遡る―――――

ハジメと皐月の二人が落ち、そして深月も二人を追う様に落ちた。特に深月の存在が大きかったのだろう・・・ステータスは勇者天之河よりも高いし、戦闘能力も抜きんでていたからだ。強い敵と遭遇すれば深月が何とかしてくれるだろうと心の底で思っていた事は崩されたから・・・

何よりもクラス全体の空気が悪い理由とは檜山の事についてだった。ハジメと皐月が奈落へと落ちたきっかけとなり、深月も居なくなるという問題を作った張本人だから―――――檜山は直ぐに孤立、殆どのクラスメイトが彼を憎むような視線を向けている

 

「何でだ・・・俺は間違ってない・・・白崎を、白崎を正気に戻す為だ。俺は悪くない俺は悪くないんだ・・・」

 

心の中の悪魔の囁きを実行したが深月の前でボロを出し今、こうなっている現状を否定する様に自分が正しいと思い込ませている。そんな彼にもう一人の悪魔が囁く

 

「いや~流石だね。異世界最初の殺人がクラスメイト、中々やるね?」

 

「だ、誰だ!?」

 

振り返った先には同じクラスメイトの一人

 

「それよりもさ~人殺しさん?今どんな気持ち?恋敵をどさくさに紛れて殺すのってどんな気持ち?」

 

クスクスと笑いながら檜山を見るそれは、まるで喜劇でも見たように楽しそうな表情を浮かべている。クラスメイトが死んだ事に何とも思っていない瞳、当初は他のクラスメイト達と同様に、ひどく疲れた表情でショックを受けていたはずなのにその影は微塵もなかった

 

「・・・それがお前の本性なのか?」

 

「本性?そんな大層なものじゃないよ。誰だって・・・特に女性は猫の一匹や二匹被っているのが普通だよ。そんな事よりさ―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白崎香織、欲しくない?

 

「ッ!? な、何を言って・・・」

 

暗い考えを一瞬で吹き飛ばすには十分で、驚愕に目を見開いて凝視する檜山。そんな様子をニヤニヤと見下ろし、その人物は誘惑の言葉を投げ続ける

 

「僕に従うなら・・・いずれ彼女が手に入るよ。本当はこの手の話は南雲にしようと思っていたのだけど・・・君が殺しちゃうから。まぁ、彼より君の方が適任だとは思うし結果オーライかな?」

 

例えこのクラスメイトがハジメにこの話しを提案しようとも拒否されるのは目に見えて分かるが本人は気が付いていない

 

「・・・何が目的なんだ。お前は何がしたいんだ!」

 

「簡単だよ。僕の手足となって動いてくれればそれで良いんだよ。理由は、欲しいモノがあるとだけ言っておくよ。それで返答は?」

 

あくまで小バカにした態度を崩さないその人物に苛立ちを覚えるが、あまりの変貌ぶりに恐怖を強く感じた檜山はそれを振り払う様に釣り針へと付けられた餌へと食いついた

 

「・・・従う」

 

「アハハハハハ、それはよかった!まぁ、仲良くやろうよ人殺しさん?アハハハハハ♪」

 

楽しそうに笑いながら踵を返し歩き去っていくその人物の後ろ姿を見ながら、檜山は「そうだ・・・白崎が手に入れば周りなんてどうでも良い・・・」と小さく呟いた

そして自分がどうすれば孤立しないかを必死に模索、うまく立ち回らねば・・・自分の居場所を確保しなければ――――今更立ち止まれないし、あの人物に従えば、消えたと思った可能性の白崎を自分の物にできるという可能性すらあるのだ

 

「ヒヒ、だ、大丈夫だ。上手くいく。俺は間違ってない・・・」

 

こうして暗く、闇の存在は徐々に広がり、大きくなりつつある

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイリヒ王国王宮内の召喚者達に与えられた部屋の一室で、八重樫は暗く沈んだ表情で未だに眠る親友の白崎を見つめていた。あの迷宮の出来事からもう既に五日・・・その間にあった出来事を思うと寝てくれていた方が良かったのか、起きていた方が良かったのかは分からない

一同が王国へと帰還しメルド達は出来事の詳細を報告、迷宮で死んだのは勇者ではなくお荷物扱いされていた二人、ハジメと皐月の両名だった事を知ると誰もが安堵していたのだ。錬成師でステータスが一般人という事から戦力低下はしていないと判断したのだった

 

『しかし落ちたのが"無能"の二人と、それに付き従うメイドだけで良かった』

 

『そうですな。大きな戦力低下もせずに済んだのが幸いだ』

 

吐き捨てられるそれらは八重樫にとって不愉快そのもの。だが此処は命の価値が低い異世界、弱肉強食の世界なのだ。・・・彼等を罵倒される事で手を出そうと我慢していると、天之河が激しく抗議した事で国王や教会も悪い印象を持たれてはマズイと判断したのか、ハジメを罵った人物達は処分を受けたらしい

逆に天之河は無能達にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局天之河の株が上がっただけで、ハジメと皐月は勇者の手を煩わせただけの無能であるという評価は覆らなかった。天之河がその事を全くもって理解していないのはお約束

あの時、自分達を救ったのは紛れもなく勇者も歯が立たなかった化け物をたった二人で食い止め続けたハジメと皐月だというのに。そんな彼を死に追いやったのは檜山――――深月の言を信じるならばそうだろう。だが天之河は檜山の犯した罪を許してしまった

 

「檜山の攻撃が南雲に当たってしまったのは事実だ。だけどそれはワザとじゃ無い。皆だってそうだろう?必死になって生き残る為に放つ魔法を他人に向ける余裕は無い」

 

持ち前のカリスマで徐々に周囲を納得させて行き、遂には檜山が皆の前で謝罪する事でこの出来事は葬られる事になったのだ。しかし八重樫だけはそれを否定して「牢屋に入れておけ」と言い張るが天之河がそれを却下

 

「皆で力を合わせなければこの世界の人達を救う事は出来無い!あの攻撃はワザとじゃ無かったんだ。それを許して過去を乗り越えなきゃ死んだ南雲も報われない!」

 

等と言い出す始末。――――――故に、諦めたのだ。本当に何故こうなったのかと苛立ちが募る。その現実を受け入れたく無く、殆どの時間を白崎が目を覚ますまで見続けるといった形になったのだ

 

「あなたが知ったら・・・怒るのでしょうね?」

 

あの日から一度も目を覚ましていない白崎の手を取ってそう呟く八重樫。白崎の様子を見た医者からは精神的なショックが大きく心を守る為に、深い眠りに付いているのではないか?との事。詰まるところ、時が経てば自然と目を覚ますと言っているのだ

八重樫は白崎の手を握り「どうかこれ以上、私の優しい親友を傷つけないで下さい」と祈っていると不意に、握り締めた香織の手がピクッと動いた

 

「!?香織!聞こえる!?香織!」

 

「・・・雫ちゃん?」

 

ゆっくりと開かれ、しばらくボーと焦点の合わない瞳で周囲を見渡していたのだが、やがて頭が活動を始めたのか見下ろす雫に焦点を合わた

 

「ええそうよ。私よ。香織、体はどう?違和感はない?」

 

「う、うん。平気だよ。ちょっと怠いけど・・・寝てたからだろうし・・・」

 

「そうね、もう五日も眠っていたのだもの・・・怠くもなるわ」

 

「五日?・・・それで南雲くんは・・・・・南雲くんは!?」

 

徐々に覚醒しその時の事を思い出して行った白崎は八重樫に問い詰める

 

「ッ・・・それは」

 

八重樫の言葉が詰まる。そして思い出す記憶が現実の物だと悟るが白崎自身到底受け入れる事は出来無い

 

「・・・嘘だよ、ね。そうでしょ?雫ちゃん。私が気絶した後、南雲くんも助かったんだよね?ね、ね?そうでしょ?此処はお城の部屋だし皆で帰ってきたんだよね?南雲くんは・・・訓練かな?訓練所にいるよね?うん・・・私、ちょっと行ってくるね。南雲くんにお礼言わないとだから、離して?雫ちゃん」

 

「・・・香織。分かっているでしょう?・・・此処に彼は居ないわ」

 

「やめて・・・」

 

「香織の覚えている通りよ」

 

「やめてよ・・・」

 

「彼等は・・・」

 

「嫌!やめてよ・・・やめてったら!」

 

「香織!彼等は橋の崩落に巻き込まれて落ちたのよ!」

 

「違う!死んでなんか無い!絶対、そんな事無い!」

 

「落ち着きなさい香織!何も私は死んだとは言っていないでしょう!殆どの人達は死亡扱いをしているけれど、私はそう思わないわ・・・実は香織を気絶させた後で神楽さんが来たのよ。分かる?たった一人で――――あの短時間で来たのよ?そして彼女は二人を追う様に飛び降りたの」

 

「それだったら何で雫ちゃんは私を止めたの?」

 

「決まっているでしょ。私は親友の貴女を死なせたくなかったからよ」

 

白崎をゆっくりと落ち着かせようと抱きしめ背中を擦る

 

「私達は弱い。それに比べ神楽さんは私達より倍・・・いえ、何十倍も強いわ」

 

「そう・・・なの?」

 

「そんな彼女が二人を追いかけて行ったのだから合流している可能性は高い筈よ」

 

先程まで震えていた白崎も落ち着きを取り戻したのかそれは治まり、ゆっくり・・・ゆっくりと現実を受け入れて行く

 

「・・・雫ちゃん。南雲くんは此処には居ないんだね・・・」

 

「そうよ」

 

「あの時、南雲くん達に魔法を当てたのは・・・誰なの?」

 

八重樫は白崎がどういった行動に出るのか容易に想像が付いた。しかしそれを実行させる訳にはいかない

 

「知っているわ。だけど報復行為をしては駄目よ」

 

「何で?」

 

「魔法を当てた人・・・檜山を光輝が許しちゃったのよ。私は「地球に帰るまで牢屋に入れておけ」と、何度も何度も提案したけれど全て却下されたわ。勇者の光輝が否定したら周囲の人達もそれに賛同、本当に何でこうなったのでしょうね・・・」

 

「そうなんだ」

 

「もしも彼等が生きていたら、檜山は死ぬわ。神楽さんは"処分しなければ殺す"と宣告したのよ。一瞬だけ目を合わせたけど、あれは間違い無く地球で人殺しを経験している筈よ」

 

「そっか・・・それだったら神楽さんに任せようかな」

 

問題ばかり押し寄せてくるそれに疲れ果てている八重樫、世界が考えを否定していると思う程立ち回れない白崎。この二人はしばらくの間沈黙してこれからの指針を決める

 

「雫ちゃん、私は信じないよ。南雲くん達は生きてる。死んだなんて信じない」

 

「そうね・・・」

 

「あそこに落ちて生きていると思う方がおかしいって。でもね、確認した訳じゃないし可能性は一パーセントより低いけど、確認していないならゼロじゃない。私はあんな状況でも皆を守れるくらい強くなって南雲くんの事を確かめる・・・雫ちゃん」

 

「なぁに?」

 

「私に力を貸してください」

 

今の白崎は絶望による狂気等の危険な目をしておらず、唯真っ直ぐに、自身の答えを探し納得するまで諦めないという力強い意思が宿っていた。こうなった白崎はテコでも動かないず、家族も手を焼く頑固者になるのだ

そしてこれは確実に幼馴染である天之河や坂上も含めて殆どの人間が白崎の考えを正そうとするだろう。だからこそ八重樫の答えは決まっていた

 

「もちろんいいわよ。香織が納得するまでとことん付き合うわ」

 

「雫ちゃん!」

 

白崎は八重樫に抱きつき「ありがとう!」と何度も礼をいう。「礼なんて不要よ、親友でしょ?」と、どこまでも男前な雫――――現代のサムライガールの称号は伊達ではない

その時、不意に扉が開かれ二人が姿を見せ

 

「雫! 香織はめざ・・・め・・・・・」

 

「おう、香織はどう・・・だ・・・・・」

 

「す、すまん!」

 

「じゃ、邪魔したな!」

 

天之河と坂上だったが、二人は硬直し直ぐに部屋を出て行った。そんな二人を見て、香織もキョトンとしているが、聡い雫はその原因に気付いた。二人の其れは激しく百合百合しい光景で、雫は深々と溜息を吐き、未だ事態が飲み込めずキョトンとしている香織を尻目に声を張り上げ二人を追いかけた

 

「さっさと戻ってきなさい!この大馬鹿者共!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八重樫に追いかけられ説教をされた後、天之河と坂上は訓練場へと再びやって来ていた。ハジメと皐月を見殺しに、そして続く様に後を追った深月もまた死んだと誰もが思っている

 

「光輝、俺達は弱いな」

 

「あぁ・・・死んだ南雲の為にも俺達は強くならなくちゃいけない。この世界の人達を救って皆で地球に帰ろう」

 

「それじゃあもっと訓練やるか!」

 

「あぁそうだな!」

 

誰もがこの光景とやり取りを見て頑張ろうと思った。しかし違和感には誰も気が付かない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天之河の中で死んだとされているのがハジメだけという事に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「お説教はおぼろ豆腐メンタルに響くぜ」
深月「少し揺らしただけで崩れてしまう心とは・・・」
布団「だがモチベーション上げていくぞぉ!」
深月「では次話も宜しくお願い致します」


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メイドはお二人と共に着々と降りて行きます

布団「今回は連投だよ」
深月「想定よりも早く仕事が終わったのですか?」
布団「目先の奴だけです。細々とした仕事は放置してます」
深月「ちゃんとやりましょうね?」
布団「イ、イエッサー」
深月「読者様達も、お体に気を付けて下さいね?」
布団「作者は風邪引いたかも」
深月「・・・一週間以上開けますか?」
布団「読者様の為に無理しない程度で頑張る・・・」
深月「それでは始まります。ごゆるりとどうぞ」


~皐月side~

 

私とハジメは真っ暗闇の中を、ゆっくりと警戒しながら歩いている。深月はどうしたのかって?先に進んじゃっていますがそれが何か?

 

「やっぱり深月の事が心配か?」

 

「違うわ。私達の様に明かりも無く先に進んでいる事にビックリしているだけよ」

 

「俺達が無理言って先行させたからなぁ」

 

そう。私とハジメは深月に、"余程の事が無い限りは手を出すな""先行して次の階層前で待っていろ"と、二つ命令したの。この迷宮は何か有ると私の勘がそう言っているし、クリアしたら特典とか有りそうじゃない?恐らく寄生プレイは駄目、パーティーとしての共同クリアなら成功って所だと思う。それだとしたら、深月の無双で私達にその特典が貰えない可能性が高くなっちゃうからね

 

「しっかし、本当に真っ暗だな。深月の奴どうやって進んだんだ?」

 

「この即席ランプが無いと先は見えないっていうのに・・・」

 

緑光石を光源とした即席ランプをぶら下げて、ハジメと皐月は周囲を警戒しながら進んで行く。すると遠くではあるが、チラッと光が反射した。二人は最大限の警戒をしてその場で待機していると、灰色のトカゲが姿を現したのだ。ギョロッとした金色の瞳を二人に向けた途端、その目が一瞬光り異変は直ぐに分かった。二人の体が端の方からパキパキと石に変化し始めたのだ

 

「チィッ!」

 

「石化っ!?」

 

二人は直ぐに岩陰に隠れて、石化を止める為に神水を飲む。すると、石化の進行が止まり、石状態となっていた部分の体は元通りに

 

「厄介ではあるが」

 

「射線に入らなければ問題無いわ!」

 

二人は縮地で、二手に別れる様に飛び退く事で金目トカゲの隙を一瞬だけ生じさせる事に成功。そのままの流れで、手に持ったドンナー二丁が火を噴く。挟撃される形で飛来する弾丸、トカゲは知覚する事を許されずに頭部を粉砕され、壁に銃痕を付けた

 

「バジリスクか何かかよ」

 

「このトカゲの肉を食べておかないといけないわね」

 

全ての素材を剥ぎ取る暇も無いこの現状。素早くトカゲの肉を少しだけ剥ぎ取って飲み込んだ。ステータスは後でも確認出来るので、二人は早足でこの階層を調べて行く。勿論、道中に出てくる魔物は全てヘッドショットにて殺し、魔物肉は手に入れている。暗闇の性で体感時間は明るい所よりも長く感じ、無理をせずに一旦休憩を入れる。深月が居ない中での食事、唯焼いて終わるだけのそれは酷い物だ

 

「・・・やっぱり深月を先行させるんじゃなかった!」

 

「美味しいご飯が食べたい・・・だけど食べなきゃ」

 

何も考えない様にしていても、食べるだけで思い出してしまうのだ。深月が作る料理のありがたさを・・・

 

「バジリスク擬き?のトカゲ肉は食べたとして、残りの奴らからはどんな技能をくれるか楽しみだ!」

 

「フクロウと足が六本ある猫よね?」

 

焼けていく肉を見ながら、道中で倒した魔物の姿を思い出していく二人。丁度良く肉も良い感じに焼けたので食べると

 

「ぐっ!」

 

「いたたたたた!痛い痛い!」

 

体に痛みが襲い掛かって来たので、神水を飲み二人はそのまま食べ進めて行く。初めて食べた時の痛さに比べればどうという事は無い。耐えられる程度の痛さなのだ

だが、この痛みが有ると捉えるならば体が強くなっているという事だ。爪熊よりも高いステータスを持っているというのは確定、バジリスク擬きを食べた時に痛みが生じなかったのは、"石化の能力に特化している為ステータスの高さは低い"と仮定すれば辻褄は合う

全てを食べ終えた二人は、ステータスプレートを確認する事にした

 

「それじゃあ、どんな感じに仕上がっているのか楽しみだ」

 

「石化の魔眼とか手に入ったり~♪」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:23

天職:錬成師

筋力:450

体力:550

耐性:350

敏捷:550

魔力:500

魔耐:500

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合] 魔力操作 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地] 風爪 夜目 気配感知 石化耐性 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

高坂皐月 17歳 女 レベル:22

天職:錬成師

筋力:400

体力:500

耐性:300

敏捷:500

魔力:550

魔耐:550

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合] 魔力操作 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地] 風爪 夜目 直感 気配感知 石化耐性 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「夜目・・・魔物肉を食べてから周囲が見やすくなったのはそれのせいか?」

 

「魔眼じゃなくて耐性かー、仕方が無いと言ったら仕方が無いわね。それよりも、気配感知は嬉しいわね」

 

「だな。準備の有無で状況は一変するし、戦いならば尚更だ」

 

技能の把握も終えた二人は消耗品の錬成をしていく。弾丸一つ錬成するだけでも時間が掛かるが、深月からの忠告で予め大量の弾丸の錬成にて熟練度を高めていた。ハジメは一発辺り約10分、皐月は約15分まで短縮する事に成功したのだ。最初は三~四十分だったのに比べれば凄まじい成果だ。何故短縮できたのか?二人の錬成を観察、実物の弾丸制作を体験した事を参考に色々とアドバイスをした為だ

 

「深月のアドバイスが無ければかなり時間が必要だったんだろうな」

 

「何時、何処で弾丸制作を体験したかは突っ込まないけどね」

 

このアドバイスを聞いていた時には「あれ?深月って、私達が小学校に通っている間で体験したのよね?」と思い口に出そうとしたが、「深月だから何でも有りよね」と割り切る事にした

粗方の補充を終えた二人は再度出発。夜目と気配感知によって今までよりも段違いの速さを持って、下層へと繋がる階段の場所へ辿り着くと階段の中で深月が待機していた

 

「お嬢様、ハジメさん、お疲れ様です」

 

深月の体を見る二人。服には汚れは無く、体にも傷等は付いていないのだ

 

「深月・・・ここに辿り付くまでに魔物と戦ったか?」

 

「気配感知でやり過ごしたりしてない?神水で傷を治したりとかは?」

 

いくら深月が強かろうとも、「傷一つ無くは無理だろう」とタカを括っていた二人だが現実は無情だ

 

「大丈夫です。此処に来るまでにトカゲと猫にフクロウ、"ライオン"と"カマキリ"の形をした魔物はサクッと殺しましたので。一応『お二人と出会っていない魔物も居るのではないか?』と思い、全魔物の肉を剥ぎ取っていますのでご安心下さい」

 

「「ライオンにカマキリ?何それ・・・」」

 

「口から空気砲を連続で撃ち出すライオンと、不思議な歩法を使うカマキリです」

 

深月はステータスプレートを二人に見せた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:38

天職:メイド

筋力:1600

体力:2600

耐性:1600

敏捷:2600

魔力:2100

魔耐:1600

技能:生活魔法[+完全清潔][+清潔操作][+清潔鑑定] 熱量操作 気配遮断 高速思考 精神統一 身体強化 縮地 硬化 気力制御 魔力制御 気配感知 魔力感知 家事[+熟成短縮][+魔力濾過][+魔力濾過吸引] 節約 交渉 戦術顧問[+メイド] 纏雷 天歩[+空力] 幻歩[+幻影][+認識移動] 風爪 夜目 魔力操作 胃酸強化 直感 石化耐性 衝撃波[+収束][+拡散][+並列] 心眼 極致[+剣裁][+拳闘][+体術] 限界突破 言語理解

称号:メイドの極致に至る者

 

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「よし、分かった。参考にならない深月はもういい」

 

「私達が食べて、基礎がどれだけか試すだけでいいわね」

 

「お嬢様達の為に頑張ったのですよ!?酷いではありませんか!」

 

いつも通りのぶっ壊れである。たった二~三日で派生技能を開花させた深月に対してハジメと皐月は、もう何も考えない事にしようとしたのだが、深月のステータスが殆ど上昇していない事に気が付くハジメ

 

「ん?ちょっと待て。深月の技能については何も突っ込まないが・・・ステータスの上昇率が悪いのはどうしてだ」

 

「あ、ホントね。技能に目を奪われていたけれど、ステータスをしっかりと見ていなかったわ」

 

幾ら考えても分からない

よって、深月のステータス確認についてはもっと落ち着ける場所で考察する事とした。二人は深月が調理した魔物肉を食べたが、此処である一つの問題点が浮上。それは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深月が調理した魔物肉を食べても技能が獲得出来ない事だった

理由は単純明快で、深月が調理する過程に原因があったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔力濾過

文字通り、有害を無害にするという魔物肉の調理には欠かせない技能。有害と認識されている魔力が、技能取得に繋がっていると考えられる。拠点を作り、二人は調理前のライオンとカマキリの魔物肉を一口大に切り、そのまま焼いて食べて技能を得たが、気分は消沈している

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:26

天職:錬成師

筋力:550

体力:600

耐性:450

敏捷:700

魔力:600

魔耐:600

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合] 魔力操作 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地] 幻歩 風爪 衝撃波 夜目 気配感知 石化耐性 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

高坂皐月 17歳 女 レベル:25

天職:錬成師

筋力:500

体力:550

耐性:400

敏捷:700

魔力:650

魔耐:650

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合] 魔力操作 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地] 幻歩 風爪 衝撃波 夜目 直感 気配感知 石化耐性 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

派生技能までは獲得出来無かったが、しっかりと技能その物は獲得出来た。これからの成長次第で派生技能が生まれる筈なので、取り敢えずは一安心だろう

消沈している二人を癒やすのはたった一つだけ

 

「お嬢様、ハジメさん。料理が出来ました」

 

今回はドロドロとしたコンソメの様な薄黄色いスープにボイルした肉を裂いて入れた料理だった。無論、味の方も問題無く

 

「「うまあああああああああああああああい」」

 

バクバクと食べ進める二人を微笑ましく見つつ自分の分を確保、おかわりを要求する二人。錬成にて作られた大きな鍋に一杯あったスープは八割近く無くなった。※残った余りも含めてしっかりと深月が全部食べたので何も問題はありません

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

とても心配でした。お嬢様とハジメさんのお二人からの命令は、『自分の力で迷宮をクリアする』との事でした。説得しても駄目で、全てを却下されてしまいました。それならばと思い先行する許可を頂こうかと提案すれば、すんなりと通りました。まだまだつめが甘いですねお二人共♪

真っ暗闇の迷宮を進んで行くと、猫やフクロウ、トカゲ、ライオン、カマキリ等の特徴を持った魔物達に出会いました。猫とフクロウは、夫婦剣を投擲して頭部にサックリと刺さって即殺、もの凄く呆気ない・・・と思ったのも束の間で、横から来る嫌な予感を感じたので後退。私が先程まで立っていた地面は砲弾が直撃したかの様なクレーターが出来たのです。すかさず飛来してきた場所へ一直線へと走り、気配感知と魔力感知にて敵から飛来してくる魔力弾を黒刀にて切り落として自身の直感を信じて抜刀。暗闇の中ではありましたが、長年の経験から敵は首を絶たれて即死と判断しました

此処で一度体勢を整えようとしたのですが、背後から悪寒を感じて足下に転がっていたフクロウを咄嗟に肉壁としたのです。一瞬だけ閃光が弾けたかと思うと肉壁としていたフクロウが石になり始め、剣を引き抜きフクロウを掴み上げて光源へと突進。少しした所で気配の有る場所へ向けて上へと投擲し、私は姿勢を低くして真っ直ぐ滑り込んでトカゲの頭部へ剣を突き刺しました。ですがまだまだ終わらず、こちらへとジグザグに走りながら向かって来た最後の敵――――カマキリですね。回収した夫婦剣を左右に投擲、黒刀で切り上げる事で鎌部分の攻撃を弾きました。後は皆様のご想像通りです。横と真後ろから飛来する夫婦剣により頭部を切断、そして串刺しという流れで殲滅を完了しました

そのまま各魔物肉を少しだけ剥ぎ取って、飲み込んで技能を獲得。ステータスを確認した後は、風の通り道を見つけて真っ直ぐに下層へと向かったのです。魔物は全てズリズリと引きずる形で持って行きましたが、その間は全く攻撃をされませんでした。討伐して引きずっている魔物の中にボス的な存在が居たのでしょうね。ちゃんと野生の勘が働いた様で何よりです♪

何事も面倒事が起こる事無く無事に階段へと辿り付いた私は、素材を剥ぎ取って食べれる部分を確保して待つ事およそ一日。無事にお二人が階段前へと到着して私はとても安心しましたよ・・・

 

深月の濃すぎる戦いよりも幾分もマシな二人だった。深月と一緒に行動しなかった事により、不味いご飯での意気消沈は戦闘にも少なからず響いた。なので次の階層からは一緒に同行をする事となった

 

「深月の料理が無いと攻略ペースが段違いなんだ・・・」

 

「食は偉大。迷宮内では深月の料理が無いともう駄目・・・」

 

「私にとっては大変喜ばしい事ですね♪次の階層からは、一緒に同行させて貰いますが宜しいですか?」

 

「「お願い。本当にお願いします。不味い魔物肉は嫌なんです!」」

 

(よしっ!これでお嬢様達と別攻略しなくて済みます!流石私です!胃袋を掴めば勝利確定です!!)

 

外見はニコニコと笑っているだけだが、内心ではとても喜んでおり、コロンビアポーズをしている程である

拠点で料理も食べ終え、仮眠を取った三人は次の階層へと降りて行く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・うそん」

 

「火気厳禁じゃない・・・」

 

「このタール状の泥は可燃性なのですね」

 

ハジメと皐月が周囲を鉱物系感知で調べ、気になった鉱石が問題の原因だった

 

フラム鉱石

艶のある黒い鉱石で、熱を加えると融解しタール状になる。融解温度は摂氏50度程で、タール状のときに摂氏100度で発火する。その熱は摂氏3000度に達し、燃焼時間はタール量による

タール状の粘つく泥沼を避けるながら、空力を使って所々出ている岩場を足場にする他無い。レールガンと纏雷が使えないという縛りプレイに頬を引きつらせる二人

 

「お二人共、この場は私にお任せ下さい」

 

ハジメと皐月は深月を前衛にローラー探索をしようとするが

 

「この道が下層に繋がる最短ルートですね」

 

「「は?」」

 

深月の探索能力を知らない二人からすれば、当然の反応と言えるだろう。※深月は空気の通り道から下層へと繋がる最短ルートを割り出す事を二人に教えていません

 

「どうかされましたか?」

 

「何で最短がこっちだって分かるんだ?」

 

「こちらの道から空気が強く通っているからですが」

 

「「俺(私)達の苦労は一体何だったんだ・・・」」

 

お膝を付きズーンとする二人はOTL状態となっていたが、「早く地球に帰る為だから・・・」と言いつつ、ゆっくりと復活して攻略を再開した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ!」

 

タールの海からサメが気配も無く深月へと強襲したが、神速の抜刀にて唐竹割りの真っ二つにされた

 

「ねぇ、ハジメ・・・あのサメって」

 

「・・・気配って無かったよな」

 

「ふぅ。お二人共、このサメは気配を持たずに攻撃して来るのでお気を付け下さい」

 

「・・・一応聞くが、どうやって分かった」

 

「水(タール)を切る音が聞こえて、そちらを見るとサメが目の前に飛び込んで来たので・・・つい唐竹割りしてしまいました♪」

 

「反応早すぎだろ」

 

テキパキとサメを解体して行く深月。清潔と濾過を使ってキレイキレイされたサメを刺身で食べた三人は、ステータスも向上し技能も獲得した

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:27

天職:錬成師

筋力:600

体力:650

耐性:500

敏捷:750

魔力:650

魔耐:650

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成] 魔力操作 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地] 幻歩 風爪 衝撃波 夜目 気配感知 気配遮断 石化耐性 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

高坂皐月 17歳 女 レベル:26

天職:錬成師

筋力:550

体力:600

耐性:450

敏捷:750

魔力:700

魔耐:700

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成] 魔力操作 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地] 幻歩 風爪 衝撃波 夜目 直感 気配感知 気配遮断 石化耐性 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「気配遮断か」

 

「予想通りね」

 

「では私のステータスを――――――」

 

「「深月のはもっと落ち着いた時で良い!」」

 

「・・・はい」

 

二人に却下されショボンとする深月

タールザメから得た気配遮断を活かして最短距離で下層へと進む三人。火気厳禁の階層から抜けてからの攻略は苦難の連続であった。※この苦難は深月が手を出さなかった場合の戦闘に限る

毒を吐き出すカエルと麻痺の鱗粉を撒き散らす蛾の二体は、特にヤバイの一言に尽きた。カエルと戦い、粘つく毒液に直撃した二人を待っていたのは激痛。それも初めて魔物肉を食べた時に近い痛みだった。その光景を見た深月がカエルを瞬殺して、二人に神水を飲ませなかったらお陀仏だったかもしれなかっただろう。この経験から奥歯に神水を仕込んだ三人。薄く出来た石の容器は、歯で噛み砕ける程度の物だ。その後に戦った蛾は、この保険のお陰で倒す事が出来た。因みに深月は、少し動きが鈍くなる程度で問題無く殺戮していたのだ。深月はステータスの差が大きいからだろうと言っていた←それだけではありません。地獄のサバイバルにてある程度の毒物耐性を持っていた事とステータスの恩恵からです

さらに下層へと降りて行くと、分裂するムカデと戦った。数が多くリロードが追いつかず、二人は風爪や衝撃波に慣れない蹴り技で襲い掛かるそれらを必死になって撃破したのだった。深月に向かっていったムカデ達は、黒刀の名前の設定通り攻撃を赦されず無残にも細切れにされていた

次に出会ったのはトレント擬きで、二人が目の色を変えて殺戮した魔物である。何故か?それは頭部にある果実が原因―――――――その実に毒は無かった。だが問題は味だった・・・・・滅茶苦茶美味しかったのだ!甘く瑞々しいその赤い果物は、例えるならスイカ。目の色を変えて蹂躙して確保――――深月も料理の幅が広がり、簡易的なデザートを作って美味しさの余り叫んだのはお約束

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:50

天職:錬成師

筋力:900

体力:1050

耐性:920

敏捷:1200

魔力:850

魔耐:850

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成] 魔力操作 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地][+豪脚] 幻歩[+認識移動] 風爪 衝撃波[+拡散] 夜目 遠見 気配感知 気配遮断 毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

高坂皐月 17歳 女 レベル:50

天職:錬成師

筋力:880

体力:1000

耐性:900

敏捷:1200

魔力:920

魔耐:920

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成] 魔力操作 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地][+豪脚] 幻歩[+認識移動] 風爪 衝撃波[+拡散] 夜目 遠見 直感 気配感知 気配遮断 毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

現在三人は、技能の熟練度を高めている最中だ

今居る場所は五十階層。どうして練度を高めているのか、明らかにこの階層は何かが違うと分かるからだ。脇道の突き当りにある空けた場所に高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ

明らかにヤバイと感じるも、扉を開けない選択肢は無い。もしかしたら、迷宮から出れるかもしれないからだ。だから手前で練度を高め、弾丸等の補充をしているのだ

 

「さながらパンドラの箱だな。・・・さて、どんな希望が入っているんだろうな?」

 

「私は嫌な感じがするわ。・・・でも、迷宮攻略のキーワードかもしれないから無視する訳にもいかないわ」

 

「罠があるのは間違い無いでしょう」

 

「俺は、生き延びて故郷に帰る。日本に、家に・・・帰る!邪魔するものは敵だ!敵は・・・殺す!」

 

「私だってそうよ。無事日本に帰って、両親にハジメを紹介するんだから!」

 

「えっ・・・そっち」

 

皐月の願望は、この三人だけでも良いから日本に帰る事。そしてハジメと結婚するという事だけだ

二人は扉を細かく調査、中央に二つの窪みのある魔法陣が描かれているのが分かるが、魔法陣の式を全く読み取れない。王国の図書館で知識をそれなりに詰め込んだのだが、それでも全く分からないのだ

 

「相当、古いって事か?」

 

「古いから文献が無いっておかしくない?」

 

二人は疑問に思いつつ調べて行く。深月はその様子から一つの仮説を立てた

 

古いから文献が無いというのはおかしすぎます。可能性として一番高いのは、この魔方陣を描いた人物だけが知り得る物。そして重要なのは、この扉を守る様に壁に埋もれている魔物。恐らくこれは門番で何かを封印している筈・・・何かから守る為、何かから隠す為なら納得がいきます。しかし、何から守るのかが理解出来ませんね。魔人族から?いえ・・・有り得なくも無いですが、可能性としてはいまひとつですね

此処は反逆者と呼ばれる者達が作り上げた迷宮で神と敵対する者達。敵対するならば情報を渡さない様に隠匿するのが常。神、狂信者、反逆者、神が狂信者を作り上げて反逆者を作り上げた?反逆者は神と敵対?・・・待って下さい。反逆者は人間の筈ですよね?神を信じるこの世界の人間達が反逆する可能性は限りなく低い。神が何かしらの悪行、人間に不利な事をしようとした。それに抗った果てに反逆者となった。それならば全てに辻褄が合います。神―――――エヒトは人間の敵という事でしょうか・・・

とは言え、全てが憶測となるので判断が難しすぎます。確信に至った時にお二人にお話ししましょう

 

「ふぅ」と一息入れたと同時にバチイッと音が響き、ハジメの手から煙が噴き上がる。悪態を吐きつつ、神水を飲む事で回復

 

――――オォォオオオオオオ!!

 

その直後、野太い雄叫びが部屋全体に響き渡り、声の主が姿を現した

 

「まぁ、ベタと言えばベタだな」

 

「お約束すぎて呆れちゃうわ」

 

壁を壊しつつ出てくる二体の魔物は、肌が暗緑色の一つ目巨人サイクロプスだ。手には巨大な大剣を持っており、三人を睨付け―――――――――

 

ドパンッ!

ドパンッ!

 

「悪いが、空気を読んで待っていてやれるほど出来た敵役じゃあないんだ」

 

「登場シーンを待つ程、甘くは無いわよ」

 

無情にも二体のサイクロプスは、ハジメと皐月に撃たれて頭部は粉砕。意気揚々?と出たのにも関わらず、あっという間にやられた姿は悲しいものだ。深月の方も容赦無く、頭部を粉砕され死亡したサイクロプス達の心臓部に黒刀を突き刺していたのだ

 

「この巨体が再び動くと面倒ですので」

 

是非も無い。サイクロプス達を解体して魔石を取り出したハジメと皐月は、窪みがあった場所へ魔石を持って行きはめ込む。パキャンという何かが割れるような音が響き、魔力によって周囲の壁が発光し始めた。発光も収まり、警戒しながら扉を開いたハジメと皐月

深月はどうしているか?清潔にて血抜き作業中。勿論、二人に注意を向けているので作業効率は通常よりも遅い

ハジメと皐月は中に入る為、扉が閉まらない様に固定に取り掛かっていると

 

「・・・だれ?」

 

弱々しい少女の声が聞こえ。ビクリッとしてハジメと皐月は慌てて部屋の中央を凝視する。すると、部屋の中央部に置かれた巨大な立方体の石から発せられたのだ。その石から生えるそれがユラユラと動き出し、差し込んだ光がその正体を照らす

 

「人・・・なのか?」

 

「人・・・?じゃないわね貴女」

 

手は石に拘束され、上半身だけを立方体の外に出ていた。長い金髪、その隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗き、年の頃は十二~三歳位だろう。大分やつれているが、それでも美しい容姿をしていることが良く分かる

流石に予想外だったハジメと皐月は硬直し、少女も二人をジッと見つめていた。ゆっくり深呼吸した二人は、決然とした表情で告げた

 

「「すみません。間違えました」」

 

 

 

 

 




深月「お嬢様とハジメさんの無茶に心配で心配で・・・」
布団「強くならないと駄目だから」
深月「私が無双をすれば良いのです!」
布団「お嬢様自身が力を欲しているから無理だよ」
深月「あぁ・・・心配です。大丈夫でしょうか・・・・・」
布団「ここでどうこうしても仕方が無いよ」
深月「諦めも肝心という事ですね・・・そうしましょう」
布団「そろそろお別れの時間だね」
深月「感想、評価。どうぞ宜しくお願い致します」
布団「迷宮終わった辺りでアンケートするから宜しくね?」
深月「えっ?」


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新たな仲間とメイドの意味不明技能(今更感

布団「正月に向け準備をしている作者です」
深月「お正月ですか?普通はクリスマスなので――――」
布団「リア充は爆発してしまえばいいんだあああああ!」
深月「作者もリア充しているではありませんか。妄想の中で」
布団「  ゲハァッ!」
深月「目標通り、お正月までに迷宮編が終わるのでしょうか・・・」
布団「ゲームほっぽりだして書いてるんです。赦して頂戴」
深月「R-18書きませんか?」
布団「作者の文才見てるでしょ?そんな高度なもの書けませんよメイドさん」
深月「私とお嬢様の〇〇〇(ピー)を書いても良いのですよ?」
布団「そんなもしも話しは無いですよ」
深月「チッ」
布団「舌打ちしないで!?」
深月「ゴホン。前書きもこの辺りに致しましょう。それでは始まります。ごゆるりとどうぞ」




―追伸―
読者様のメッセージから一文を修正いたしました





~皐月side~

 

「「すみません、間違えました」」

 

「ま、待って!・・・お願い!助けて!」

 

「嫌です」

 

「拒否します」

 

私とハジメは、触らぬ神に祟りなしという事でさっさとこの場を離れようとしたよ?すると懇願してこちらの情に訴えかけてくるとは。・・・だがしかし!私達にとってはどうでもいいのよ。さっさとドアを閉めよう!ハジメもそうしてるし♪

 

「ど、どうして・・・何でもする・・・だから・・・」

 

「何でもするですって?―――――――だけど断るわ!」

 

「皐月と同意見だな。あのな?こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されている様な奴を解放するわけないだろう?絶対ヤバイって。見たところ封印以外何もないみたいだし・・・脱出には役立ちそうもない。という訳でさようなら」

 

ハジメの言は正論だ。以前の二人ならば助けていただろう。・・・だが、この迷宮の地下深くに封印された存在は、厄ネタ以外に他ならない。損得勘定で損の割合が大きいとの事だ。よって無慈悲にも扉は徐々に閉められて行く

 

「ちがう!ケホッ・・私、悪くない!・・・待って!私・・・裏切られただけ!

 

閉められて行く扉は止まり、僅かに隙間が空いている程度だった。それでも未だ開いている。十秒、二十秒と過ぎ、やがて扉は再び開いた。そこには、苦虫を大量に噛み潰した表情のハジメと皐月が扉を全開にして立っていた

 

「裏切られたと言ったな?だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」

 

「封印するというなら、それ相応の理由がある筈よ。それをさっさと話しなさい」

 

二人が戻ってきた事に呆然とする少女。沈黙が続くので皐月はハジメを連れて踵を返す。少女は再起動した様に慌てふためき、封印された理由を語り始めた

 

「私、先祖返りの吸血鬼ですごい力持ってる。だから国の皆のために頑張った。でも・・家臣の皆がお前はもう必要無いって・・・おじ様が、これからは自分が王だって・・・私はそれでもよかった。でも、私にすごい力あるから危険だって・・・殺せないから封印するって言ってた。それで、ここに・・・」

 

「貴方は、どっかの国の王族?」

 

「・・・(コクコク)」

 

「殺せないってなんだ?」

 

「勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

 

「・・・そ、そいつは凄まじいな。・・・すごい力ってそれか?」

 

「これもだけど・・・魔力、直接操れる。陣もいらない」

 

へぇ、魔法適正が無い私とハジメでもこの子が反則級って理解出来たわ。魔方陣を書く暇も与えず、バカスカと撃てるから勝負にならない。・・・そしてほぼ不死属性というのが大きいし、深月並みのチート属性ね

 

「たすけて・・・」

 

ポツリと女の子が懇願し、ハジメが一人で悩む。皐月はハジメと少女の二人をジッと眺め

 

「・・・良いわ。助けてあげる」

 

皐月の意外な提案にちょっとだけ驚いているハジメ

 

「ハジメ、確かに損が大きいかもしれないわ。でも、連れて行かないと思うと・・・こう・・・ぞわぞわするのよ」

 

「・・・いつもの勘か?」

 

「だと・・・思うわ」

 

ハジメは「はぁ~」とため息を吐き頭をガシガシと掻き、立方体に手を置いた。それを察して皐月も手を置く

これから何をするのか、その意味に気が付いた少女は大きく目を見開く。二人は錬成を使い形を変えて行く。魔力の通りは悪いが、二人で支え合う様に錬成しているので負担は少ない。それでも膨大な魔力をつぎ込んで行く二人

今まで以上に使う膨大な魔力に脂汗を流し始め、徐々に徐々にと少女の手足を拘束する枷を解き―――――――少女を立方体から出す事に成功した。一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、一般の人から見れば、神秘性を感じさせるほど美しいと思う筈だ。二人は座り込み襲い来る激しい倦怠感に神水を使い魔力を回復しようとすると、弱々しく力のない手が震えながら二人の手を握った

 

「・・・ありがとう」

 

小さいが、はっきりと少女は告げた

その言葉を贈られた時の心情をどう表現すればいいのか、二人には分からなかった。しかし、それは悪い気はしなかった。むしろ心が温かくなり、少女のこれまでの事を聞いていると

 

「お嬢様、ハジメさん。下処理は済みました。そして初めまして名も知れぬ方」

 

深月はつい今し方下処理を済ませて、二人に合流したのだ。そして三人共が名前について聞いていなかった事に気が付き互いに自己紹介をする

 

「そういや自己紹介が未だだったな。俺の名前は南雲ハジメだ」

 

「私は高坂皐月。ハジメと結婚前提のお付き合いをしているわ」

 

「私は神楽深月と申します。お嬢様の専属メイドです」

 

少女は三人の名前を何度も呟き、大事なものを内に刻み込んだ。そして少女は三人にお願いをする

 

「・・・名前、付けて」

 

「は?付けるって何だ?まさか忘れたとか?」

 

「あ、・・・あぁ~そういう事ね。」

 

私の時と同じですね――――――ハジメさん。この方は新しい自分に生まれ変りたいという事ですよ」

 

「成る程な。以前の自分を捨てて新しい自分となるか。強制的な俺の時とは違って、自分からって所が唯一の違いだな」

 

「そうだな・・・"ユエ"なんてどうだ?ネーミングセンス無いから気に入らないなら別のを考えるが」

 

「ユエ?」

 

「ユエって言うのは、私達の故郷だと"月"を意味するの」

 

「最初この部屋に入った時に、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな・・・どうだ?」

 

女の子が瞬きし、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせていた

 

「・・・んっ。今日からユエ。ありがとう」

 

「おう、取り敢えずだ・・・」

 

「?」

 

「これ着とけ。いつまでも素っ裸じゃあ悪いし、何より皐月以外の裸は極力見たくないからな」

 

「・・・」

 

ハジメは自身の外套を脱ぎユエへと渡す。ユエ本人は自身を見下ろし一瞬で真っ赤になると、ハジメの外套をギュッと抱き寄せ上目遣いでポツリと呟いた

 

「ハジメのエッチ」

 

「だ~から。皐月の裸以外は極力見たくねえって言ってるだろ」

 

「でも見た事は事実」

 

「それは不可抗力よ」

 

「でも見ら―――――」

 

「ふ・か・こ・う・り・ょ・く。イイネ?」

 

「は、はい・・・」

 

皐月の圧に後退るユエは、強制的に納得させられてしまった

 

「互いの紹介も終わりましたね。それでは皆様、壁際へと移動して下さい」

 

「「「え?・・・あ、はい」」」

 

取り敢えず移動する三人―――――深月は黒刀を抜き待機した事でハジメと皐月は神水を急ぎ飲む、と同時に天井が崩壊。落ちてきた二体の魔物は、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針があり、サソリに似た魔物であると判断した

魔物から伝わる強者の気配に深月を除く三人は額から汗が流れるが、二人はドンナーで片方のサソリを撃つと

 

ガガィン!

 

「「なぁ!?」」

 

驚愕、サソリの甲殻はドンナーの攻撃が効かなかったのだ。ヘイトは前に居た深月ではなく、後方の三人に切り替わった。サソリの尻尾から噴射された紫色の液体を避ける為、ハジメはユエを背負い、皐月はドンナーで本体を撃ちながら縮地でその場を離れる。着弾した紫の液体は音を立てて瞬く間に床を溶かしていった

 

「溶けているって事は・・・溶解液!?」

 

「皐月にヘイトが向いてるぞ!」

 

「分かってる―――――わ!」

 

皐月へと向けられていた尻尾は突如膨らみ、凄まじい速度で細長い針を撃ち出してきたのだ。驚きつつも直感を駆使して、ドンナーと風爪で防ぎきった。ハジメは皐月をサポートする様にサソリの背後から手榴弾を投げ、それを確認した皐月はドンナーを撃ちつつ後退。そして爆発する手榴弾から泥の様な物が飛び散りサソリに付着した

焼夷手榴弾に似た代物で、タールの階層で手に入れたフラム鉱石を利用して、摂氏三千度の付着する炎を撒き散らすそれに、サソリは大暴れする。その間に皐月とハジメはリロードを行う

サソリは大層怒っており、ハジメにヘイトを向けて突進。巨大な弾丸と思わせる程早く、硬いそれは壁にぶつかり階層を大きく揺らし二人を攻撃させる隙を生じた。それに合わせ二人は攻撃しようとドンナーを構えた瞬間

 

「キィィィィィイイ!!」

 

サソリが巨大な咆哮上げた事により、全身を悪寒が駆け巡った二人は飛び退こうとしたが遅かった。絶叫に近い咆哮が響き渡ると同時に、地面が膨らんで円錐状の棘がハジメへと突き出された

 

「クソッタレ!」

 

「危ないじゃない!私のハジメになにするのよ!」

 

ハジメは空中で無数の棘を全て捌ききる事は出来無い。横から皐月のドンナーが火を噴き、棘を粉砕する事で難を乗り切れたがそれは囮。本命は皐月の方で、尻尾がそちらへと向いている。皐月は、ハジメの方へと突き出されている棘を迎撃しており気が付いていなかった

 

「皐月避けろ!」

 

「何っやば―――――――」

 

もう少しで噴射されるそれ。しかし噴射される事無く、歪み落ちた

 

「お嬢様を殺せるとお思いですか?ですがそれは叶えられません。何故なら、この場には私が居ますので」

 

チンッと音を立て納刀。何故離れた場所に居る深月がそう言ったのか――――――答えは斬撃を飛ばしたからである

 

「ギィィィィィイイイイイイイイ!?」

 

噴射される寸前の物は全てサソリの背中部分に落ちた。溶解液にて少しばかり溶けた甲殻は脆く、針が突き刺さる

冷や汗を掻いた皐月と、無事だった事に安堵するハジメ。二人は思い出したかの様に深月が対処していたもう一体の方へ目を向けると―――――――ダルマにされていた

 

「もう一体は無力化も出来ましたので、残るは貴方だけですね」

 

ゆっくりと歩きながら近づく深月に向けて、サソリは四本のハサミを同時に切りつける様に繰り出した。地面に激突した爪は、床を砕き土煙を立ち上らせ視界全てを包み込む。だがここでサソリは自身の違和感に気が付き、ハサミを目の前へと戻すと一つが切断されていた。そして遅れて到達したであろう痛みに後退ろうと――――――

 

「所詮はサソリ。ハサミが邪魔なら減らせば何も問題はありませんよね?」

 

深月の声が響くと同時に、二本のハサミも切断された

サソリは恐怖した。いち早くこの場から離脱する為に反転する間も無くそのまま後退しようとしたが、一歩踏み出した足に地面を踏みしめる感覚は無く転倒した。直後に残されたハサミが切断された。見えない恐怖に足をばたばたと上下して暴れるも―――――――一つ、一つ、また一つと感覚が無くなって行き、同胞と同じダルマと化した

 

「「「     」」」

 

この一方的な蹂躙の光景には、三人共が口を大きく開けて呆然とする。深月は「ふぅ・・・」と一息入れており、いち早く回復したのはハジメだった

 

「ハッ!?深月が規格外なのは分かっていたんだが・・・どうやって馬鹿硬い甲殻を切ったんだ」

 

「そ、そうよね!私達のドンナーでも少ししか怯まなかったあのサソリをどうやって!?」

 

「(コクコク)」

 

矢継ぎ早に深月へと問うハジメと皐月、二人と同じ様に首を立てに振るユエ

 

「答えは食事の時で宜しいですか?このサソリ擬きも下処理しておきたいので」

 

「「はい。待っています」」

 

「!?」

 

二人の変わり身の早さに驚くユエ。そんな三人を余所にテキパキと血抜きの下処理を行う深月。気配感知にて魔物が居ないのを確認し、サイクロプスの時よりも早く処理を済ませたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

おや、私の出番ですか?もう少しお嬢様sideを書いて欲しい所でしたが致し方がありませんね

部屋の前へと置いていたサイクロプスのお肉を中に入れて・・・私の最大のお仕事、ご飯の時間です!悪い事を言ってしまうと、お二人の料理は唯々焼くだけですので・・・皆様の予想通りお察しです。血抜きをするか否かで味が激変してしまいますからね。一度舐めてみましたが、そのままではとても使えた物ではありませんでしたし・・・

そういえば食事について説明していませんでしたね!実はあれらの料理はほぼ魔物だけの物です。以前説明したドロドロの薄黄色いスープですが、あれはトカゲの目玉を丸々使ったスープなのですよ?目玉は栄養たっぷりですからね

では、今回も気合いを入れて美味しく作りましょう!――――――ふと気が付いたのですが、吸血鬼のユエさんの食事はどうしましょうか。・・・ふむふむ、食べる事は出来ると。でも魔物肉は食べたくは無いと。・・・私が調理した物なら大丈夫ですよ?毒となる部分は清潔にて取り除いていますので

さて、了承も得ましたので今日も頑張ります!

 

サソリとサイクロプスの素材を使い調理して行く深月。ハジメ達三人は、消耗品を補充しながらお互いのことを話し合い、それを聞き拾う深月

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

 

「・・・マナー違反」

 

「ハジメ。女性に対して年齢と体重はマナー違反よ?」

 

皐月とユエがジト目でハジメを睨付ける。どの世界においても女性のタブーは決まっているのだ

 

しかし吸血鬼ですか。三百年前の大規模な戦争のおり吸血鬼族は滅んだとされていた筈ですから興味があるのは分かりますよ?

 

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

 

「私が特別。"再生"で歳もとらない・・・」

 

そして細かく語られて行くユエの生い立ち

 

ユエさんの話では、先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角とされ王位に就いた・・・ですか。そして魔法の才能はピカイチで、全属性適応かつ強大な魔法もほぼノータイムで撃てて、不死身。叔父から"化け物"扱いされて、殺しきれないからこの地下に封印。そして自動再生は魔力に依存していて、魔力が無くなれば殺す事も出来ると。・・・最悪の場合は、敵に回るという事でしょうか。その際は魔力が尽きるまで殺し尽くせば問題無いだけですので私次第ですね

しかしながら全てを鵜呑みには出来ませんね。封印される理由としては良いかもしれませんが、海にドボンする方が確実です。死んだら死んだで魚の餌にもなりますし。・・・そうしなかったのは切羽詰まった事態、ユエさんの体に価値が有ると誰かが思ったのでしょうね。大切だからと隔離をしたとしても何処からか噂が広まる。ですが"化け物"として処理すれば周囲も殺したと思うでしょう

ここで殺すのが良いと思うのですが、お嬢様の提案なので私はそれに従うまでです。お嬢様の幸せこそが、私の全てですから―――――――――――と、こんな暗い事は思わずにしっかりと料理しなければ!

 

最悪の考えが深月の頭を埋め尽くすが、それを振り払い調理へと戻る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

「大変お待たせ致しました」

 

深月が運んで来た料理は、ハンバーグにサラダチキンを裂いた様な肉―――――恐らく、ハンバーグがサイクロプスで、サラダチキンみたいなのがサソリ擬きね

 

「今回はこれでお食べ下さい。お嬢様とユエさんはこちらのフォークを」

 

深月がハジメに手渡してきたそれは、とても馴染み深い物

 

「これって・・・箸か?」

 

「深月は錬成使えないよね?」

 

「これはトレントから採取した木材を使用した手作りです。長さと太さ共にお二人に合っていると思います。使い心地は如何ですか?本当は食器等も作りたかったのですが、持ち運びには困りますので。お箸は私のポケットに入れたら大丈夫です♪」

 

「あ、あぁ。・・・有り難く使わせてもらう」

 

まぁ、私は利き手じゃないから持てないんだけどね・・・

 

「ん、美味しい」

 

「私以外の者が魔物肉を調理する事は出来ませんのでご注意して下さいね?」

 

「わかった」

 

ユエも深月の料理が気に入ったのは上々ね。では私もハンバーグを一口

 

「美味しい・・・美味しいよぉ。私の体、深月の料理が無いと生きていけないようにされちゃった」

 

「焼いただけの魔物肉が苦痛以外の何物でもないな」

 

「お嬢様達の胃袋を掴むのもメイドの勤めで御座います」

 

「深月の料理は美味しい。だけど血を飲みたい・・・ハジメ・・・良い?」

 

おぉっとユエ?私に許可無く頂こうとするのは駄目よ!

 

「血を飲んで全快するなら良―――――」

 

「ではこちらをどうぞ」

 

ハジメが返事をする前に、深月が横から試験管の容器を差し出したわね。展開から分かるけど、あれって深月の血が入ったやつね。流石深月――――――流深ね♪

 

「・・・ん」コクコク

 

少しだけ間を空けた返事を返すユエに、皐月は確信を持った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こいつはハジメにホの字だと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深月もそれに気付いており、起こるであろう展開を予想して試験管の容器に二本だけストックを作ったのだ。そして今し方一本使用したので、残り一本となったのだ

 

「ユエ。貴女が吸血鬼で、血を吸う方が良いと理解しているわ。だけどね?ハジメの血を吸う時は非常事態で、近場に私や深月が居ない時だけよ。それだけは守ってね?」

 

「ん。分かった」

 

皐月の約束に了承するユエ。そんな中、ふと疑問に思っていたハジメはユエに尋ねた

 

「俺達の世界―――――ラノベ知識でいう所の吸血鬼は、血の味について色々と言っていたんだがユエもそうなのか?」

 

「深月の血は美味しい。濃厚だけどさっぱりした味わいだった」

 

「・・・俺の血も飲んでみるか?」

 

「良いの?」

 

「あぁ良―――――」

 

「私の血で我慢してね?」

 

「皐月?俺は別にだいzy――――――」

 

「イイネ?」

 

「「はい・・・」」

 

皐月の指を噛んでチウチウと血を吸うユエ

 

「皐月の血は熟成された味だった」

 

「そんじゃあ俺の血だな。・・・大丈夫だって皐月、安心しろよ。なにも直接って訳じゃ無え――――ちゃんと深月と同じ様に試験管に入れたやつを飲ませるだけだからよ」

 

「まぁそれなら良いわ」

 

「・・・ハジメの血も皐月と似た味で、一番美味しかったのは深月だった」

 

「「ステータスがトンデモだからなぁ~」」

 

「酷くありませんか!?お嬢様のお力と成るべく修行したのですよ!」

 

解せぬと言いたげにムッとした表情にジト目で睨む深月

 

「まぁユエについてはここら辺りで良いとして、深月はどうやってあのサソリを切ったんだ?甲殻はもの凄く硬い鉱石で出来た物だったんだぞ?」

 

シュタル鉱石

サソリの甲殻は鉱石で出来ており、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な代物だった

切断されたハサミを調べると、鉱石鑑定が出来たので硬い原因は理解出来たのだ。それと同時に、深月が切断した事実が疑問だった

 

「簡単です。関節部を切断しただけですから」

 

「流石深月・・・さす深ね」

 

「あの素早い攻撃を見切って切断とかマジかよ」

 

「規格外・・・」

 

「いずれ皆さんも出来る筈です!」

 

深月がどうやってサソリをダルマにしたのかようやく理解出来たわ。硬い装甲の可動部は僅かな隙間か、柔らかくないと動かす事も出来無いし・・・切断したのは深月だからという事にしておきましょう

 

メイドに常識は当てはまらない。もしかしたら、地球に居た時点で人間という枠組みから外されていたとしても不思議では無いだろう

 

「さてと、ここの部屋は魔物が出てこないからステータスを確認しましょう」

 

「深月の化け具合を見るのにも丁度良いしな」

 

「・・・深月はこの中で最強?」

 

「強くなければ守る事すら出来ませんからね」

 

ハジメ、皐月、深月の三人はステータスを確認すると

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:56

天職:錬成師

筋力:1300

体力:1500

耐性:1100

敏捷:1500

魔力:980

魔耐:980

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成] 魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮] 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地][+豪脚] 幻歩[+認識移動] 風爪 衝撃波[+拡散] 夜目 遠見 気配感知 気配遮断 毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 金剛 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

高坂皐月 17歳 女 レベル:56

天職:錬成師

筋力:1150

体力:1350

耐性:1100

敏捷:1500

魔力:1050

魔耐:1050

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成] 魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮] 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地][+豪脚] 幻歩[+認識移動] 風爪 衝撃波[+拡散] 夜目 遠見 直感 気配感知 気配遮断 毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 金剛 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:65

天職:メイド

筋力:3400

体力:4300

耐性:2600

敏捷:4600

魔力:3000

魔耐:2600

技能:生活魔法[+完全清潔][+清潔操作][+清潔鑑定] 熱量操作 気配遮断 高速思考 精神統一 身体強化 縮地[+無音加速] 硬化 気力制御 魔力制御 気配感知[+特定感知] 魔力感知[+特定感知] 家事[+熟成短縮][+魔力濾過][+魔力濾過吸引] 節約 交渉 戦術顧問[+メイド] 纏雷 天歩[+空力][+豪脚] 幻歩[+幻影][+認識移動] 風爪 夜目 遠見 魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮] 胃酸強化 直感 状態異常完全無効 金剛 威圧 衝撃波[+収束][+拡散][+並列] 心眼[+見極め][+観察眼] 極致[+剣裁][+拳闘][+体術] 限界突破 忠誠補正 言語理解

称号:メイドの極致に至る者

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

深月のステータスを見た三人はため息を吐く

 

「これはあれだ・・・参考にならないやつだ」

 

「ステータスの上昇率おかしいよ・・・」

 

「 (唖然)」

 

ちゃっかりと新たに追加されている技能に派生技能といったオンパレード、耐性は進化して状態異常無効となっている

 

「まぁ~た意味分からん技能が・・・」

 

「忠誠補正ってぇ・・・」

 

「・・・忠誠心の底上げ?」

 

「「上限の深月に限ってそれは無い」」

 

四人共考えるが、何一つ思い浮かばなかった

実はこの忠誠補助というのはレベルアップ時のステータス上昇のプラス補正が掛かる技能だ。だがこれには制限が有る。側に居る忠誠対象を守る事でこの補正の恩恵があるのだ。何故最初に存在しなかったのか―――――忠誠心により限界以上のステータス上昇が数回と普通の上昇が数回あったので、この技能を獲得出来たのだ

効果もご覧の通り――――――深月一人で倒した際のステータス上昇値が目に見える程の物では無い。トカゲ達の居た階層で倒した時の事を思い出してくれれば分かるだろう

 

「分からないのは仕方が無い。追々分かるかもしれないからその時まで放置だ」

 

「結論、深月に常識はあてはまらない。以上!」

 

「・・深月強い」

 

ハジメ達に新たな仲間、ホの字のユエが加わった。ハジメの修羅場が不可避となった

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「メイドさんがどんどんと強くなっていきますねぇ」
深月「そうですか?」
布団「ま、まぁ仕方が無いとしよう。・・・うん、そうしよう」
深月「作者さん」
布団「はい?」
深月「私にクリスマスプレゼントはありますか?」
布団「お嬢様が〇られそうなので無しです」
深月「ではお嬢様へのクリスマスプレゼントはどうでしょう。内容はメイド――――――」
布団「却下」
深月「酷くないですか?」
布団「初めてはハジメ君でしょうに。"はじめ"だけに」
深月「さて皆さんこの様な後書きは終わりましょう」
布団「えっ、無視?」
深月「感想、評価。どうぞ宜しくお願い致します」


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メイドたる者、主のピンチを救うのです

布団「さぁ、クリスマスプレゼントだ」
深月「作者さんは如何様に過ごされるご予定ですか?」
布団「通院だぁ・・・」
深月「それはまたお気の毒ですね」
布団「湿ったい話しは止めだああああ!リア充爆発してしまえ!」
深月「そこは・・・祝福してあげましょう」
布団「エンダアアアアアアアア!」
深月「では、読者様。お体に気を付けて、ごゆるりとどうぞ」


~ハジメside~

 

「だぁー、ちくしょぉおおー!」

 

「しつこい!ウザい!どんな物量作戦よ!!」

 

「・・・ハジメ、皐月、ファイト・・・」

 

「「ユエは気楽すぎ!」」

 

俺達は草むらを掻き分けながら必死に逃げている。何故かって?

 

「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」

 

数え切れない程の魔物達に追いかけられているからだよ。クソッタレ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは数時間前に遡る――――――

ハジメ達が攻略を再開し、序盤はユエの魔法による殲滅で楽々と攻略できたのだ。しかし、この階層は一味違っていたのだ。ティラノサウルスに似た爬虫類が、頭に花を生やした状態で襲いかかって来た。最初はユエの魔法、"緋槍"により体を溶かして絶命させた

次々と襲い掛かる魔物達の共通点、頭に花を生やしているという事だった。いち早くそれに気付いた皐月は、ドンナーで花だけを撃ち抜いて散らす。一瞬だけ痙攣をした魔物はハジメ達を襲わず、憎らしげに散った花をこれでもかという程踏みつけていたのだ。そして、容赦なくドンナーを撃って頭部を粉砕し終えたハジメ達は仮説を立てた

 

「もしかしなくても、こいつらって操られていたのか?」

 

「だとしたら脅威ね。私達が大量破壊兵器を持っていないこの現状だと数の暴力が天敵ね」

 

「ユエの魔法も限度が有るからな」

 

「私は大丈夫」

 

「そうじゃねえよ。もしも、この規模の軍団を何度も差し向けられたら直ぐにガス欠になるだろうが」

 

「これは逃げ一択ね」

 

「そういや深月は大丈夫か?」

 

ハジメが周囲を見たが深月は居らず、どうやらはぐれてしまった?

 

「は!?深月の奴が居ねえぞ!」

 

「うぇっ!?もしかしてはぐれた!?」

 

「深月ピンチ?」

 

ユエの一言に皆が考え――――――

 

「「「深月がピンチになるとか想像つかない・・・」」」

 

どうにかして合流するだろうと判断し、先を急ぐ事にした

そして時は戻り、沢山の魔物達から追いかけ回されるハジメ達である

 

「何処までも何処までも追いかけてきやがる!」

 

「一体何時まで逃げれば良いのよ!」

 

「頑張れ頑張れ」

 

「「そんな事言われんでも分かるわ!」」

 

どんどん増える恐竜擬き達から必死に逃げ回る三人。そして狭まり始める通路の先は壁

 

「クソッ!先が行き止まりじゃねえか!!」

 

「ユエをこっちに投げて。ハジメが先行して穴を開けて!」

 

「了解!」

 

返事と同時に上へとユエを放り上げるハジメ。一瞬だけギョッと目を見開いたユエを皐月は背負う形でキャッチ。そのままスピードを落とさずに駆け抜けて行く

 

「皐月そのまま駆け抜けろ!」

 

先行して壁に穴を開けたハジメはドンナーで追いかけてくる魔物を狙撃する。そして皐月達が穴を通り抜けたのと同時に錬成で穴を塞ぎ壁を作る。壁は分厚く錬成したので壊れる事が無いか確認し、ドッと疲れが押し寄せため息を吐く

 

「ハァ、ハァ。これで一安心だな」

 

「そうね・・・」

 

「ハジメ。皐月。お疲れ様」

 

「「自分で走れよ!」」

 

「・・・無慈悲」

 

ユエは、シュンと落ち込むがそんな事知ったことじゃない二人。全力疾走で逃走していたので仕方が無いだろう。一息入れつつハジメはこの先をどうするかを考える

 

本当にどうしたもんか。皐月の言う通り物量作戦こそ俺達の天敵だからなぁ・・・こりゃあ本格的に範囲制圧武器を作らないとヤバイかもな。そして俺の仮説が正しいとすれば何処かに植物系の魔物が居る筈だ

 

「やっぱり大元を叩かないと駄目かしらね」

 

「だな」

 

「探す?」

 

「下層へと続く階段が有ればそっちを優先する。だが、道中に原因があればそれを叩き潰す!」

 

「じゃあ、原点に振り返ってのローラー作戦という事ね。深月が居れば楽なのに・・・」

 

「それを言うなよ皐月。・・・余計に滅入る」

 

三人は魔物に見つからない様に岩陰に隠れてやり過ごしながら攻略する。そして徐々に広がる通路は、一段と広い場所へと繋がっていた。察した三人は警戒を上げてゆっくりとその場へと進んで行く

 

「こりゃあ階段前に陣取っていると判断しても良いな」

 

「環境変化にも注意しないといけないわね。・・・不可思議な現象一つにも細心の注意をしないとね」

 

「分かった」

 

「だな。・・・出るぞ」

 

広がった場所へ出た三人に待っていた洗礼。全方位から緑色のピンポン玉?の様な代物が無数に降り注ぐ。ハジメと皐月とユエは背中合わせになり、飛来する緑の球を迎撃する

ハジメと皐月は前方の玉を錬成で作った壁で防ぎ、頭上から落ちてくる物は衝撃波にて弾き飛ばす。そして、玉は脆く、壁にぶつかっただけでも割れる程度だった。ユエの方も問題なく、速度と手数に優れる風系の魔法で迎撃している

 

「ユエ、恐らく本体の攻撃だ。何処に居るか分かるか?」

 

「・・・」

 

「ユエどうし―――――――散開ッ!」

 

皐月は、いち早く反応してユエから飛び退く。ハジメも一瞬だけ戸惑ったが、ユエが自身に手を向けようとしており瞬時に理解して飛び退く。それと同時にハジメの立っていた場所が抉れる

 

「ハジメ・・・皐月・・・逃げて!」

 

二人に容赦無く襲い掛かる風の刃。そしてユエの頭には真っ赤な薔薇が咲いていた

 

「クソッ、さっきの緑玉か!?」

 

「原因は玉その物じゃなくて中に入っていた何かって事ね」

 

「・・・うぅ」

 

「どうしてあの恐竜擬きがあの花を踏んでいたのか理解したわ」

 

「本人の意識を残したまま操り人形とか碌な奴じゃねえな!」

 

二人で花を散らそうとドンナーで狙いを定めても激しく動く事で狙いが定まらず、下手をすれば頭部を撃ち抜きかねないのだ。近づこうとすれば、ユエは自身の手を頭に向ける。二人が近付こうとすれば容赦なく人質を殺すというメッセージだ

 

「・・・やってくれるじゃねぇか!」

 

「人質を取られるのがどれ程厄介なのかが理解出来るわね!」

 

攻めあぐねる二人を察したのか、奥の縦割れの暗がりから現れる者。アルラウネやドリアード等という人間の女と植物が融合したような魔物は、ハジメ達の前に現れた正しくそれだった

見た目は人間の女性なのだが、内面の醜さが溢れているかのように醜悪な顔をしていた。無数のツルが触手のようにウネウネと動き実に気味が悪く、ニタニタと笑っている

エセアルラウネに銃口を向けようとすると、ユエを盾に射線を妨害する

 

「・・・ごめんなさい」

 

「ちぃっ!」

 

「嬲り殺しにしようって魂胆って事かしら!」

 

苛立ちを募らせる二人を見て、更にニタニタを三日月の様な笑みを浮かべるエセアルラウネ。ひっくり返す事の出来無い現状だが、何事も例外は存在する

 

「それでは、プスッといきますよ?」

 

「「「えっ?」」」

 

ユエの頭の薔薇が落ちると同時にエセアルラウネも倒れ伏した。その背後に居た人物は皆が知るメイド―――――深月であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

いや・・・あのー、本当に申し訳御座いません。またしてもお嬢様とはぐれてしまいましたメイドです・・・

実はあの恐竜擬き達を倒していたら置いて行かれてしまったのです。・・・ちゃんと一匹残らず倒したのですよ?最初は群れが来ようともしっかりと倒されていたので全部討伐するのかと思っていたのです。お嬢様達は敵対する魔物達は殲滅していたので今回もそうだと思ったのですが、先入観とはいけませんね。殲滅し終えた後に後ろを振り返ると誰も居なかったのです

私は直ぐにお嬢様達の足跡を追って、全速力で追いかけたのです!勿論、当然の選択ですよ!追いかけている途中に出会う恐竜擬き達は全部首ちょんぱです♪追いかけて行く先にはハジメさんとお嬢様の声が聞こえましたので安堵したのですが、それがフラグでした。錬成でハジメさんが穴を開けて塞いでしまったのです。泣いて良いですか?ちょっと腹が立ちましたので八つ当たりとして袋のネズミでは無く恐竜擬き達を殺してしまった私は悪くないです―――――――多分

 

実はハジメ達を追っていた恐竜擬き達は花が生えておらず、生物の本能で深月から逃亡していたのだ。きっと恐竜擬き達は、この様な感じで逃げていたのだろう

擬き1「すんごく強い奴が近づいているぅ!?」

擬き2「逃げろおおおおお!」

擬き3「前方に何か居る!」

1・2「「無視して走れ!」」

――――――と。そして、ハジメによって穴は作られて歓喜した恐竜擬き達。直ぐに閉じられてしまった為に絶望。そして蹂躙されてしまったという事だ

 

話しを戻しましょう。私は八つ当たりを終えた後、違う道からお嬢様達を追いかけて走りました。途中で遭遇した蜘蛛さんは申し訳御座いませんでした。通り過ぎで足を一本拝借したのです。切断したのかですか?面倒だったので足を掴んでもいじゃいました♪

走りながら足の肉を一口・・・・・あまりにも不味かったので捨ててしまいましたよ。技能は恐らく糸か何かだろうと思い、指先から『糸よ出ろ』と念じたら出ました。これは良いですね!とても便利です♪

進む道の先から感じる気配は、お嬢様達の物でした。しかし何やら機嫌が宜しくない感じでしたので気配を溶け込ませて音を立てずに伺うと、薔薇の花を生やしたユエさんが居るではありませんか。側に居る魔物で理解出来ましたので、そのまま気配を溶け込ませた状態でスススッと近付いてプスッと針を一刺し。そして、すかさず夫婦剣の片方でユエさんに生えている薔薇の根っこ部分を一閃して完了です。針は特注ですよ?シュタル鉱石製の針は頑丈ですね♪後は直感に従い首筋をプスリとして麻痺させました。魔物だろうとも、人型ですから何となく分かるのですよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何処を弄れば何処が壊れるという事が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして話は合流に戻りまして、私は何があったのか説明をし終えたのです

 

「・・・て事はあれか?俺達が追われていたと思っていた恐竜擬き達は深月から逃げてたって事か?」

 

「ハジメさんが穴を閉じてからは必死に私から逃げようともがいていたので・・・恐らくですが」

 

「そして道中の魔物を切って捨てて、合流を優先にして―――――――これと」

 

「直感に従ってプスッと致しました♪」

 

「私を操ってハジメと皐月を攻撃させた恨みはこの程度じゃない・・・」

 

ユエは現在進行形で、エセアルラウネの四肢を風の刃で切り落として徐々に焼き殺している

 

((ユエの恨みが尋常じゃない))

 

「駄目ですよユエさん。そのエセアルラウネは面倒な能力を持っているのでサクッと殺らないといけません!また操られたりしたらどうするのですか!」

 

「・・・ごめんなさい」

 

「トドメは私が行います。耐性が無いユエさんは危険ですので―――――――――お嬢様とハジメさんが心を痛められたのにも関わらず、楽に死ねる幸せを噛みしめなさい

 

頭と心臓部に剣を突き刺し、首を切断した後に体を両断する深月。その様子を見ていた三人は

 

(((深月を怒らせちゃ駄目!絶対!!)))

 

この四人の中で一番腹を立てていたのは深月なのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

エセアルラウネの事件からどれだけ日が進んだのかな。こんな迷宮に籠っていたら経過日数なんて分からないわ。深月に聞いても分からないって言ってたし・・・閉鎖空間ってヤバイわね、本当に洒落にならないわ

あの教訓から私達は、深月とはぐれない様に下層へと降りて行ったわ。だってね?ローラー探索よりも遙かに楽なの!分かってくれるわよね?というより分かりなさい。――――――ゴホン。話しを戻して、遂に辿り付いた100層。どうして分かるのかですって?深月が教えてくれたのよ。表と裏では、魔物の強さが違いすぎるって言っていたからよ。正直言って終わりが見えてきたと感じたわ。だって、この先から強者の圧と言ったら良いのかしら?それがヒシヒシと伝わって来るのよ。という事で、私達は補給作業中なのよ

 

「三人共・・・いつもより慎重」

 

「うん?ああ、次で百層だからな。もしかしたら何かあるかもしれないと思ってな。一般に認識されている上の迷宮も百層だと言われていたから・・・まぁ念のためだ」

 

「違うわよハジメ。この先からは、ヒシヒシと威圧が感じられるからボス的な何かが居るのは間違い無いわ」

 

「お嬢様の言う通りです。今まで出会った魔物達よりも強大な力が感じられます」

 

「マジか」

 

「「マジよ(です)」」

 

ハジメは、いつも以上に張り詰めている深月を見て理解した。予想よりも強大な敵を予想し、倍近い弾薬を生成する事にした。因みに三人のステータスはこうなっている

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:80

天職:錬成師

筋力:2000

体力:2450

耐性:1800

敏捷:2750

魔力:1900

魔耐:1900

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成] 魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作] 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地][+豪脚] 幻歩[+認識移動] 風爪 衝撃波[+収束][+拡散][+並列] 夜目 遠見 気配感知 魔力感知 熱源感知 気配遮断 毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 金剛 威圧 念話 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

高坂皐月 17歳 女 レベル:80

天職:錬成師

筋力:1950

体力:2350

耐性:1800

敏捷:2750

魔力:2100

魔耐:2100

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成] 魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作] 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地][+豪脚] 幻歩[+認識移動] 風爪 衝撃波[+収束][+拡散][+並列] 夜目 遠見 直感 気配感知 魔力感知 熱源感知 気配遮断 毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 金剛 威圧 念話 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:85

天職:メイド

筋力:5500

体力:6000

耐性:4300

敏捷:6500

魔力:5000

魔耐:5400

技能:生活魔法[+完全清潔][+清潔操作][+清潔鑑定] 熱量操作 気配遮断 高速思考 精神統一 身体強化 縮地[+無音加速] 硬化 気力制御 魔力制御 気配感知[+特定感知] 魔力感知[+特定感知] 熱源感知[+特定感知] 家事[+熟成短縮][+魔力濾過][+魔力濾過吸引] 節約 交渉 戦術顧問[+メイド] 纏雷 天歩[+空力][+豪脚] 幻歩[+幻影][+認識移動] 風爪 夜目 遠見 魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮] 魔力糸[+伸縮自在][+硬度変更][+粘度変更] 胃酸強化 直感 状態異常完全無効 金剛 威圧 念話 衝撃波[+収束][+拡散][+並列] 心眼[+見極め][+観察眼] 極致[+剣裁][+拳闘][+体術] 限界突破 忠誠補正 言語理解

称号:メイドの極致に至る者

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

深月の派生技能に関しては触れないでおこう

ステータスの上昇は目に見えて分かる通りである。しかしながら、新しい技能に関しては殆ど増えなくなっていたのだ。恐らく、レベルが上昇するにつれて技能が身につきにくくなっている仮説を立てた

十分な補給と休息を終えた一同は、下層へと続く階段を降りて行く。最初に目に映った広い空間は、無数の強大な柱に支えられた場所だった。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートルはありそうだ。地面も荒れたところはなく平らで綺麗なものである。制作者の美意識がこれでもかと盛り込まれている様な代物だった

見惚れていたが、ハッと我に返り周囲を警戒するハジメ達三人。深月はヒシヒシと感じる言い知れぬ圧に冷や汗を流していた。奧へ進むと、全長十メートルはある巨大な両開きの扉があった

 

「・・・これはまた凄いな。もしかして・・・」

 

「反逆者の住処だったのかしら?」

 

いかにもラスボスの部屋といった感じだ。実際、感知系技能には反応がなくともハジメの本能が警鐘を鳴らしていた。この先はマズイと

 

「ハッ、だったら最高じゃねぇか。ようやくゴールにたどり着いたってことだろ?」

 

「・・・んっ!」

 

「それじゃあ行くわよ!」

 

三人は一歩踏みだした所で変化が起きた。扉とハジメ達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。ハジメ達は忘れもしない魔方陣、転移のそれと同じだった。だが、その大きさは歴然で、眼前の魔法陣は三十メートル程の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている

 

「おいおい、なんだこの大きさは?マジでラスボスかよ。皐月と深月の勘は当たってたか」

 

「・・・大丈夫・・・私達なら負けない」

 

「それじゃあ開幕ブッパしましょうか」

 

皐月に慈悲は無い。対物ライフルのシュラーゲンを上部へと構え、ハジメとユエもそれに続き構える。魔方陣がより一層輝き、光が収まると――――――体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラが其処にいた

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

叫びを上げたヒュドラに一瞬動きが止まったハジメとユエ。その隙を見逃さず、赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き――――――

 

「はいはい、邪魔だから取り敢えず一つは死んでね」

 

ドガンッ!!

 

口を開き、何かをしようとした頭は粉砕されていた

 

「ッ―――助かったぜ皐月!」

 

「皐月ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

取り敢えず一つ!と内心ガッツポーズをした三人だった。しかし、白い文様の入った頭が「クルゥアン!」と叫ぶと同時に、赤い紋様の入った頭は逆再生されたかの様に巻き戻り開いた口から火炎放射を放ってきたので散開する事で回避する

 

「回復持ちかよ!」

 

「はぁ!?ちょっと嘘でしょ!」

 

「・・・回復ずるい」

 

三人は柱を背にしながら念話で突破口を探る

 

(何よりも最初に白い奴から倒さない事にはどうする事も出来ねぇな)

 

(回復持ちが居るなら、盾役も居る筈よ!まずは盾役を見つけないと!)

 

(今度は俺が白に攻撃する)

 

(了解!ユエは普通の魔法で牽制、もしくは違う頭を潰して!)

 

(んっ!)

 

(深月は斬撃を飛ばしながら援護を――――――)

 

深月なら敵の攻撃を回避しながら傷を付けれるだろうと判断していたハジメ達だったが、一向に深月からの返事が返ってこない事に疑問に思い後ろのを見ると

 

(((嘘やん・・・)))

 

一人の人影と戦っており、深月が防戦一方状態だったのだ

 

(深月の返事が返ってこないって事は余裕が無いって事よ。このヒュドラ擬きは私達で倒す他無いわ!)

 

(だな。俺達が早く終わらせて深月の援護に入るぞ!)

 

正体不明と戦う深月の援護をする為に三人でヒュドラ擬きと戦う事となった

 

 

 

 

 

 




布団「最後の敵はヒュドラ擬きだけだと思った?残念!メイドさんに瞬殺される未来しか見えないのです!現在、メイドさんは手一杯なので後書きには出てこないのは仕方が無いよね!」
深月「と思っていましたか?」
布団「ナニィ!?」
深月「この後書きは時間が止まっているので誰でも参加出来るのですよ」
布団「もう滅茶苦茶だぁ!」
深月「もうすぐお正月です。作者さんなりのお年玉を期待しても宜しいですか?」
布団「またしてもか!そんなにお嬢様とイチャイチャを書いて欲しいのか!」
深月「頑張っている私のご褒美を―――――と」
布団「アンケートでもすれば良いと思うよ・・・」
深月「では早速実行に移しましょう!」
布団「内容はこちらで決めさせて頂きます」
深月「では、その様に――――――感想、評価。どうぞ宜しくお願い致します。投票もお願いしますね!」
布団「最後の堤防は読者だけなんだ・・・頼むぞぉおお!」


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メイドは死闘を繰り広げます

布団「投稿だよー」
深月「今回も大分空きましたが・・・何かされていましたか?」
布団「リアルではお正月用のお飾りとお餅様を作っていました。そして素材の採取です」
深月「お餅ですか・・・食べ過ぎると太ってしまいますね」
布団「あんこ餅、すや餅!」
深月「お鍋に入れて食べるのも有りですね♪」
布団「ま、未だ・・・冷凍庫にすや餅ががががが」
深月「頑張って消費しましょう!」
布団「さて、前書きも此処までにして始めましょう!そして誤字報告はとても有り難いです!」
深月「それでは読者の皆様、ごゆるりとどうぞ」




~深月side~

 

転移魔方陣が前方に出現し、巨大な蛇が姿を現した事で戦闘を開始したお嬢様達。それに続いて私も参加しようとしたのですが、背後から重圧を感じ取り振り向くとドス黒いモヤに覆い尽くされた者がこちらを見ていたのです。その瞬間、私は駆け出し胸元へ一閃―――――――それは苦も無く防がれてしまいました。それと同時に体全体に鳴り響く警報に反応して地面にしゃがむと、頭上ぎりぎりを大剣が通り過ぎて髪の毛を少しばかり切られてしまいました

体勢が整っていない私の顎へつま先が襲い掛かって来ますが、バク転にて受け流して、その勢いで相手を蹴り上げましたが防がれてしまいました。この数手の手合いだけで理解しましたよ・・・この方は、私が今まで出会って来たどれよりも強者であると

 

深月は自身の技能をフル活用して相手に肉薄、剣術と体術を織り交ぜて相手の考えを纏まらせない連撃を繰り出す事で均衡を保つ。しかし、ステータスは相手が勝っているのだろう。大剣の攻撃を受け止めようとした深月は、直感に従い受け流す。それだけで深月の足下が少し陥没してしまったのだ

 

(受け流しただけでこれですか!?同程度の体格だというのにこれ程・・・ステータスは私よりも上を想定して動かなければいけませんね)

 

黒いモヤに覆われた人は、徐々に深月の動きの最適解を導きだし順応し始めた

 

(ッ!動きに隙が無くなり始めましたか・・・予想していたとは言え早すぎます。ですが未だです。もう少しの間だけでもこの均衡を保たねば!)

 

しかし、この均衡は呆気なく崩れてしまった。破壊力の凄まじい大剣の攻撃を幾度となく受け流していた夫婦剣は、持ち手の根元部分が砕けてしまったのだ。前方へと体重を乗せていた為に、少しだけ前屈みになる深月。この大きな隙を見逃す敵でも無く、がら空きの腹部へ強烈な蹴りを叩きつけられて柱の所まで吹き飛ばされてしまう

 

「ガハッ!」

 

衝撃を吸収する事も出来ず、打ち付けられた体に鞭を入れながら黒刀を抜き追撃の大剣の攻撃をギリギリの所で受け流す。横薙ぎの一閃を入れて壁際から脱出する深月。しかし、一度体勢が崩れて防御に回ってしまったが最後。相手は大剣を暴風の如く振り回しており、受け流して防ぐしか出来無い現状は最悪の一言に尽きる

 

(馬力が違いすぎます!単純な力にこれ程までの早さで振り回されると技術もへったくれもありません!唯一の救いは私しか狙っていないという点です。もしもお嬢様達の方へ向かってしまえば最後です)

 

内心で舌打ちをしつつ、一撃一撃を受け流す深月は少しずつ冷静さを取り戻し始める

 

(大丈夫、黒刀にヒビも入っていません。次の横薙ぎを切り上げ、返す刀で切りつけて仕切り直しです)

 

叩きつける様な攻撃を左へと受け流すと、回転しながら右側から大剣が襲い来る。全て深月の予測通りのシナリオだ

 

(これを切り上げて仕切り直しにしましょうか!)

 

剣先を大剣の下に滑り込ませ、流そうとした――――――――その瞬間に大剣が一瞬だけ輝き姿をかき消したのだ

 

「しまっ!?」

 

腕は振るわれ続け、剣先の下側に来た所で再び武器が現れる

大剣が現れると踏んでいた深月は黒刀を手放し、襲い来るであろう刃を飛び越えようとしていたが、現れた武器は円錐の槍だった。裏をかかれた深月の懐に横薙ぎの槍が直撃、柱を通り越して壁へと吹き飛ばされ完全に体勢が崩れてしまい起き上がる事すら出来無い。そして深月の心臓部へと槍を突き出して突撃する敵

 

「「「避けろ(て)深月!!」」」

 

丁度、ヒュドラを倒し終えたハジメ達の声が聞こえるとほぼ同時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

「食らえや白頭!」

 

「緋槍!」

 

白い紋様の頭を狙い撃つハジメとユエ。しかし、黄色い紋様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させ、淡く黄色に輝きハジメのレールガンもユエの緋槍も受け止めてしまった。だが、予想の範囲内だった

 

「黄色が盾役だ皐月!」

 

「取り敢えず怯みなさい!」

 

焼夷手榴弾を黄色の頭に投げ付ける。瞬間ダメージでは無く、持続的なダメージなら効果が有ると予測していた皐月の予想は正しく、所々が焼け焦げていた

 

「クルゥアン!」

 

すかさず白頭が黄頭を回復させるが。焼夷手榴弾の粘つきのあるタールの一部が白頭に付着し、苦痛に悲鳴を上げながら悶える。このチャンスを活かそうとハジメは念話で皐月とユエに合図を送ろうとした瞬間、ユエの絶叫が響き渡った

 

「いやぁああああ!!!」

 

「!?ユエ!」

 

「私がユエに行くわ!ヘイト取って!」

 

「ユエを頼んだ!」

 

縮地にてユエに近づこうとする皐月を狙おうとする赤頭と緑頭はハジメの援護射撃で撃ち落とされる。未だ絶叫を上げるユエに、歯噛みしながら一体何がと考える皐月は未だに攻撃で動いていない黒い文様の頭の事を思い出す

 

(そういう事ね・・・ハジメ!ユエは黒頭から何かしらのバッドステータスを付与されているわ!)

 

(任せろ!)

 

皐月はユエを抱えて柱の陰へと連れて行き、ハジメは黒頭を撃ち落とす。ハジメが黒頭を撃ち落としたと同時にユエの虚ろだった瞳に光が宿り始めた

 

「ユエ!しっかりしなさいユエ!」

 

「・・・皐月?」

 

「大丈夫?何をされたか理解出来る?」

 

「・・・よかった・・・見捨てられたと・・・また暗闇に一人で」

 

「はいはい。私達はユエを見捨てないから安心してね?」

 

ユエ曰く――――突然、強烈な不安感に襲われ気がつけばハジメ達に見捨てられて再び封印される光景が広がっていたという。そして、何も考えられなくなり恐怖に縛られて動けなくなったと

 

(皐月まだか!?そろそろキツいぞ!)

 

(ユエはもう大丈夫よ。ハジメが黒頭を撃ち落としたと同時に元に戻ったわ。恐らくだけど、恐慌状態に陥らせる最低の黒頭よ)

 

(ホントにバランス良すぎだろ。くそったれ!)

 

敵の厄介さに悪態を付くハジメと皐月。ユエはユエで不安な瞳を皐月に向けている

 

「行くわよユエ。ハジメを助けないと」

 

「・・・私」

 

皐月の裾を離すまいとギュッと掴んでいる。皐月は「ハァ」とため息を吐き、ユエの視線まで低くなってムニュっと頬をつまむ

 

「いい?ユエはもう私達の家族同然よ。そんな大切な存在を私達が蔑ろにするとでも本当に思っているの?約束したでしょ?私達の故郷に一緒に帰るって」

 

「んっ!」

 

「よしよし!それじゃあ一緒にハジメの援護をするわ。シュラーゲンを使うから援護は任せるわよ」

 

二人は一気に柱の陰を飛び出し、ハジメの援護に出る

 

「緋槍!砲皇!凍雨!」

 

矢継ぎ早に放たれる魔法が一斉にヒュドラを襲う。隙を狙われ死に体となった赤頭、青頭、緑頭の前に黄頭が出ようとするが、白頭の方をハジメが狙っていると黒頭が気付き恐慌魔法を放つ。ハジメの胸中に不安が湧き上がり、奈落に来たばかりの頃の苦痛と飢餓感が蘇ってくるが

 

「それがどうした!」

 

ハジメは皐月と耐えきり、一緒に乗り越えた過去。今更あの日々を味わった所で皐月が側に居る時点でどうという事は無く、黒頭をドンナーで撃ち落とす。次なる獲物はお前だと言わんばかりに白頭へと狙いを付けると黄色頭が射線に飛び込む

 

「おいおい。いつから白頭を狙っているのが俺だけだと思った?――――――――皐月今だ!」

 

「忘れてもらっちゃ困るわよ!」

 

声のした方を見るがもう遅い

 

狙い撃つ!

 

ドガンッ!!

 

発射の光景は正しく極太のレーザー兵器。ぎりぎり射線上に入った黄色頭は硬化でも使っていただろうが、シュラーゲンの前では無意味。易々と貫通して奧の白頭諸共吹き飛ばした。後に残ったのは、頭部が綺麗さっぱり消滅しドロッと融解したように白熱化する断面が見える二つの頭だった

 

「天灼!」

 

三つの頭の周囲に六つの放電する雷球が取り囲む様に空中を漂う。次の瞬間、それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばして繋がり、その中央に巨大な雷球を作り出した

 

ズガガガガガガガガガッ!!

 

十秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、三つの頭は断末魔の悲鳴を上げながら遂に消し炭となった。ハジメとユエは皐月に向けてサムズアップした。二人はヒュドラの僅かに残った胴体部分の残骸に背を向けユエの下へ行こうと歩みだそうとしたが、皐月はシュラーゲンの次弾を装填音と声に身構えた

 

「ラスボスが復活するのはお約束でしょ!」

 

「「ッ!」」

 

音もなく七つ目の頭が胴体部分からせり上がり、ハジメとユエを睥睨していた。思わず硬直する二人に向けて予備動作無しの極光が襲い掛かる

 

「やらせないわよ!」

 

先程と同じ様な極太レーザーが放たれる筈が、それは引き絞られた様に細いレーザーだった。しかし、ヒュドラの放った極光にひけを取らない位の威力だったが徐々に押され始めていた。ハジメはユエを抱きかかえ皐月の側へと駆け寄る。目に見て分かる程、魔力がゴリゴリと減っている皐月の様子にハジメは神水を飲み

 

ユエ、俺の血を吸え!

 

「んっ!」

 

ハジメを吸血し急速に魔力を回復させるユエ。ハジメは皐月の隣に立ち同じ様にシュラーゲンを構えて、皐月の様な細いレーザーをイメージ

 

「ユエの雷魔法を俺達のシュラーゲンに送ってくれ!」

 

「わかった!」

 

三人の協力攻撃。そして追加で放たれるハジメのレーザーは皐月のと交わる様に合わさり、ヒュドラの極光を押し返して貫通。ヒュドラの胴体に直撃したそれは熱量が凄まじく、頭と地面を融解させて全てを消し去った。二人のシュラーゲンは長時間のレーザーによって銃身が完全に融解してしまい使い物にならない状態となった

 

「やっ・・・たのか?」

 

「・・・やっとおわり?」

 

「つ・・・疲れた・・・」

 

どっと疲れが襲い立ち上がる事すら出来無い三人。だがもう一つの問題が残っている事を思い出す

 

「―――――――――未だだ!未だ深月の奴が残っている筈だ!」

 

私はハジメの一言で後ろを振り向くと、槍の横薙ぎによって壁際へと吹き飛ばされた深月だった。そして深月を追いかける様に突進する敵の動きがスローモーションの様に見えるも体は動かない

 

「「「避けろ(て)深月!!」」」

 

皆も体が動かず声だけが出るだけで、槍の切っ先が深月の胸へと突き立てられ―――――――――

 

ドォオオオオン!

 

敵が突進する衝撃波にて土煙が舞い上がり何も見えなくった

 

「み・・・づき・・・・・。うそよね?」

 

最悪の光景が頭を過ぎる。体勢が完全に崩れ、完全に無防備となったあの状態から生き残れないと理解していても分かりたくないと必死にその考えを否定する。徐々に晴れる土煙の先に見えたのは―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後少しで深月の胸に刺さる状態で固まっている敵の姿だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

お嬢様の悲痛の声が聞こえます。申し訳御座いません・・・こうする他無かったのです

 

「深月生きてるよね?生きてるよね!?」

 

「生きていますよ、お嬢様。ですが、危険ですので近づかないで下さい」

 

ギリギリと敵が震えており、全く身動きが取れない状態だった。端から見れば敵が一時停止しているのでは無いか?と思う状態なのだ

答え合わせをしよう。何故この敵が動けないのか――――――それは深月の技能の一つ、魔力糸である。魔力によって作り出される糸は派生技能の伸縮自在、硬度変更、粘度変更という三つが存在し、これで受け止めたからである。普通に受け止めるだけでは不可能なのは皆まで言わなくとも分かる通りだ

 

私からも説明致しましょう。先ずは硬度変更と粘度変更にて戦いながら地面へと接着、上から踏んでも引っ付かない様に這わせて待機させておきます。そしてトドメの柱を通り越しての壁際へ飛ばされこの行為は柱へ幾重もの魔力糸を張り巡らせて地面へ垂らしておく為です。そして突進して柱の間を通る手前で伸縮自在と硬度変更と粘度変更を使用して、限界まで縮めて、硬くして、粘着力を高めた代物ですよ。蓑虫の糸に近い頑強さを持つ糸ですよ?しかも魔力糸なので透明なので目に見えない太さを作り出せるのです!

魔力感知で分かるのでは無いかと言いたい其処の皆様に説明しましょう。ヒュドラ擬きやお嬢様達のバカスカ撃たれる魔力の前に微々たるそれが感知できると思いますか?微々たる物よりも、大きい物に反応するのが常ですよ。要するに、お嬢様達の攻撃を隠れ蓑とさせて頂きました。私自身も体術に乗せて衝撃波も使用していたのでカモフラージュは完璧です。魔力の残滓は残りますので♪

 

「何時までも絡めておくの訳にもいきません。・・・もう終わらせましょう」

 

相手の首に掛かっている糸を極細のノコギリ状にして締め上げる深月。細かな刃が肉を切り裂いて首を切断した後、拘束を保ったまま地面へと落ちていた黒刀を拾い上げて心臓部へ一突きする事で絶命させた。張り詰めていた状況も無くなり、今まで我慢していた痛み等の本流が一気に押し寄せて吐き出される

 

「ゲホッ、ゴホゴホッ!」

 

口から吐血した深月は、奥歯に仕込んだ神水の容器を噛み砕き飲み込む事で傷を全回復させた。と同時に泣きながら胸へ飛び込んでくる皐月を危なげなく受け止める

 

「うわあああああああん。みち"ゅきぃいいいいいいいい!し"ん"た"か"と"お"も"った"のよ"おおおおおお!」

 

「あの敵は私が今まで出会ってきた中でも最も強敵でした。もしも、魔力糸が感知されていれば死んでいましたよ」

 

「まぁ・・・取り敢えずお疲れさん」

 

「・・・深月お疲れ」

 

皆が深月を心配していた。そして一同が思う事はたった一つ

 

「正直言うと、深月が戦っていた敵は何者だったんだ?」

 

「うん・・・・・私達が戦ったヒュドラよりも強いと感じたのだけれど」

 

「・・・もしも戦っていたら負ける」

 

深月も同意見だった。明らかにこの迷宮には不釣り合いの強さを持った敵だった。何故?どうして?この疑問ばかりが尽きない

 

「・・・一つだけ心辺りがあります」

 

「「「あるの!?」」」

 

「ですがこれはあくまでも予想です」

 

「予想でも聞くしかねえだろ」

 

「深月の予想って当たっていそうなんだよねぇ」

 

「・・・休憩を兼ねての説明」

 

床にへたり込む四人。流石の深月も限界突破を使用したまま戦っていたので限界だったのだ

 

「私の予想では、この世界の神。エヒトとは人類――――――いえ、この世界に住まう全ての者達の敵ではないかという事です。王国に居たイシュタル達教会関係者の狂信者達はご理解されていると思うので省かせて頂きます。迷宮を作り出した者達は反逆者として扱われていますが、此処で一番の疑問点

何故彼等は反逆をしたのかという事です。普通に生活していたのならば有り得ない行動となります。ですが、もしも彼等がエヒトがとんでもない行為をしていたと知ったとしたらどうでしょうか。例えば、この世界を壊す等如何ですか?もしも全人類がそれを知ってしまえば大混乱となって歴史に残ります。ですが、王国等の図書ではその様な資料は無く、知っていると言う点は潰えます。もしも、反逆者達の様な迷宮を作ったとされる力を持った人達だけが知っていたとすれば?

彼等が神と戦い敗北、神の手から逃れる為に迷宮を作ったとしたら?神が事実を知る彼等を"悪"だと信者に知らしめれば悪逆と捉えられてしまうのは間違い無いでしょう。私が先程相手をしていた存在・・・恐らくは神に仕える戦士の劣化コピーだと踏んでいます」

 

語られる深月の予想にハジメ達は納得する

 

「確かに・・・そう考えれば辻褄が合うな」

 

「迷宮って神に対抗する試練って事?」

 

「・・・神が敵?」

 

沈黙する一同

 

「とはいえ、これは私の予想・・・もしかしたらこの迷宮を攻略すれば答えが分かるかもしれません」

 

「そうか!真実を書き記している可能性もあるって事よね!」

 

「んじゃあ、回復したらあの扉を潜るで良いか?」

 

「・・・賛成」

 

神水を飲み、回復し終えた一同は奧へと開いた扉を潜ると広大な空間に住み心地の良さそうな住居があった

 

「なんじゃこりゃあ・・・」

 

「地上じゃ・・・無いよね?」

 

「・・・反逆者の住処」

 

「成る程・・・迷宮を作り出して雲隠れしたという事は、拠点等が有っても不思議では無いという事ですか」

 

皐月が地上と錯覚した理由とは、目に入ったのが太陽だったからだ。ここは地下迷宮であり本物ではないと分かっていても頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じない為、思わず"太陽"と称したのである

川や畑も有り、何処から水を引っ張っているのか気になる所ではあるが気にせず奥へと進んでゆくと、一つの住居が建っていた。室内はつい最近まで人が住んでいたのでは無いか?と思わせる程綺麗な物だった。リビング、台所、トイレ、果てには風呂も存在していた

 

「まんま、風呂だな。こりゃいいや。何ヶ月ぶりの風呂だか」

 

「深月、後で一緒に入りましょ。ユエも私達と一緒よ?

 

「うっ・・・わかった」

 

二階では書斎や工房らしき部屋が有ったが、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開けることはできなかった為、仕方なく諦めて探索を続ける。三階の奥の部屋の奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの今まで見た事もないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた

 

「綺麗な魔方陣ですね」

 

「しかも見た事がねぇな」

 

「警戒は怠らない様にね?」

 

「んっ」

 

それよりも注目すべきなのは、豪奢な椅子に座った人影である。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。薄汚れた印象はなく、お化け屋敷などにあるそういうオブジェと言われれば納得してしまいそうだ。その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか

 

「何かあるとしたらこの魔方陣しかないよなぁ・・・。まぁ、地上への道を調べるには、この部屋がカギなんだろうしな。俺の錬成も受け付けない書庫と工房の封印・・・調べるしかないだろう。三人は待って―――――」

 

「駄目よハジメ。深月、ハジメと一緒に入って」

 

「かしこまりました。では行きましょう、ハジメさん」

 

グイッと手を引っ張られて魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。光が収まり、黒衣の青年が立っていた

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

物語は加速する―――――――

 

 

 

 

 




布団「いやぁ~。今回はメイドさんも大変でしたね」
深月「全くです!作者さんは私に無茶振りをさせすぎです!」
布団「でも勝ったでしょ?」
深月「偶々ですよ」
布団「運も実力の内と言いますので」
深月「そうですね。・・・・・それは兎も角、投票の方はどうなりましたか!私とお嬢様のイチャイチャは」
布団「うん。・・・まぁ、需要はある」
深月「ですよねですよね!さぁ書きましょう!お嬢様×私のお話しを!!」
布団「アンケートの結果。ご主人様プレイに決定しました!」
深月「やりまし―――――――」
布団「尚、主人公×メイドの絡みなのです!」
深月「t・・・今、何と仰いました?」
布団「しょうが無いなぁ。ハジメ×深月が一番の需要だよ♪」
深月「そ、そんな・・・お嬢様との絡み合いが・・・・・私の願いが・・・・・」
布団「さぁ~生まれて初めての試みだけど頑張るぞぉ!」
深月「  」マッシロ
布団「感想、評価宜しくなのです~。感想はモチベーション上げ上げにも繋がるんだよおおお!」


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メイドは神の思惑に気付きました

布団「くっそ!遅れちゃった!!」
深月「予定では前日でしたのにね?」
布団「忙しかったんや!これでストックも無くなったんや!」
深月「そ、そんな!?」
布団「三が日を過ぎても忙しいいいいいい!」
深月「早く執筆しましょう!読者の皆様も心待ちにしている筈ですよ!」
布団「唸れ!俺のダブルフィンガー!」
深月「それでは読者の皆様、ごゆるりとどうぞ」


~深月side~

 

ある程度予想はしていましたが・・・まさか映像を映し出す魔法が存在するとは少し予想外です

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな?」

 

私の予想通りですね。お嬢様達も少しだけ驚いているご様子ですね・・・私をじっと見ないで下さい。お前は「超能力者か!」と言いたげにするのは止めて頂きたいです

 

「ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか・・・メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

語られる事実は、狂った神とその子孫達の戦いの物語であった。それぞれの種族が崇める神は同じで、神託による争いの日々。そんな無益な争いが何百年と続き、終止符を討たんとする者達が現れた。それが当時、"解放者"と呼ばれた集団だった。彼らには共通する繋がりがあり、全員が神代から続く神々の直系の子孫であったという事だ。解放者のリーダーである一人が偶然にも神々の真意を知ってしまい理解したのだ。人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促していたという事に

後は深月の予想通りで、神に逆らおうとした解放者達は神によって意識操作された人々から反逆者という悪として扱われてしまった。解放者は守るべき人々と敵対する訳にもいかず、徐々に仲間が討たれてしまい、最後まで残ったのは中心の七人だけだった。そして彼等は何時の日か来たる真の解放者達へ試練を残し、自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願った

 

「君が何者で何の目的でここにたどり着いたのかは分からない。君に神殺しを強要するつもりもない。ただ、知っておいて欲しかった。我々が何のために立ち上がったのか。・・・君に私の力を授ける。どのように使うも君の自由だ。だが、願わくば悪しき心を満たすためには振るわないで欲しい。話は以上だ。聞いてくれてありがとう。君のこれからが自由な意志の下にあらんことを」

 

長い話が終わり、オスカーは穏やかに微笑むと同時に記録映像はスっと消えた。そして魔方陣の上に立っているハジメと深月の脳裏に何かが侵入してくる。ズキズキと痛むが、それがとある魔法を刷り込んでいたためと理解できたので大人しく耐えて、痛みも収まり魔法陣の光も収まる

 

「ハジメ、深月・・・大丈夫?何処か変な所は無い?」

 

「ああ、平気だ・・・にしても、深月の予想がほぼ合っていたな」

 

「・・・どうするの?」

 

ユエはこれからどうするのかと尋ねるが

 

「うん?別にどうもしないぞ?元々、勝手に召喚して戦争しろとかいう神なんて迷惑としか思ってないからな。この世界がどうなろうと知ったことじゃないし。地上に出て帰る方法探して、故郷に帰る。それだけだ」

 

「そうそう。私達はこの世界を救いたいとは思っていないし、一番の目的は故郷に帰るだからね」

 

「私の居場所はここ・・・他は知らない」

 

ハジメ達はこの世界の事はこの世界の者達がどうにかしろと結論を出した。ユエは二人の手をギュッと握る。そもそも信じていた者達に裏切られて、長い幽閉の中で既にこの世界は牢獄だった現実を救い出してくれた三人の隣こそがユエにとっての全てである

 

「ユエも私達の家族同然だもんね?」

 

「そうだぞ。俺達は一緒に帰るんだ」

 

「・・・ありがとう」

 

とても良い雰囲気なのだが、一人だけ深刻そうに考えている深月

 

(神々が人を駒として遊ぶですか。・・・この手合いの者は、他者の絶望を楽しむ最低最悪の性格でしょう。種族間の戦争に愉悦を求め、どちらかが滅んだとしたら?盤面は一色となる筈。・・・・・魔人族よりも人族の絶望の顔を見るのが一番の愉悦となるならば矛先がこちらへと向かうでしょう。ボードゲームはどちらかが勝利すれば元通に――――――――)

 

「深月どうした?」

 

「複雑そうな顔をしているけど、何か予想をしているの?」

 

「・・・名探偵深月」

 

最悪のシナリオ。それを思い浮かべると大変な事実を、深月は告げるかどうか迷っていた

 

「言いなさい深月。予想だとしても可能性は捨てきれないかもしれないでしょ?」

 

「思い悩むなら俺達にもぶちまけろよ」

 

「・・・私達は家族同然」

 

「有り難う御座います。私の予想を全てお話ししましょう」

 

そして深月は自身が思い付く最悪のシナリオを語り始める

 

「解放者のリーダーの言が正しいのであれば、エヒトはこの世界を一つの遊戯盤としているのでしょう。お嬢様、ハジメさん。戦争のボードゲームと言われたら何を思い浮かべますか?」

 

「戦争のボードゲームなら、将棋かチェスだろ」

 

「私も同意見。一番例えやすいならチェスしか思いつかないわ」

 

「・・・しょうぎ?ちぇす?」

 

「今度教えるからね?」

 

「んっ!」

 

「チェスで話を進めましょう。敵の駒を全て取り終えたならどうされますか?」

 

「何って・・・もう一度盤面を整えるだろ。って・・・おい、まさか」

 

「神と人の対戦。正しく人VS神(ラグナロク)ね」

 

「・・・この世界はじきに滅びる?」

 

三人も思い至った。冷静に考えれば子供でも分かる程単純な思考

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝ったなら元に戻して遊び直そうと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間制限の有るこの現状に冷や汗を流し始めるハジメと、深月の予想を聞いて自身の考えを組み立てる皐月に対して更なる爆弾を深月は投下する

 

「遊戯盤を直すのは神であろうと直ぐには出来無い筈です。そして私達の居た故郷の地球――――――そこに干渉出来る存在ならば」

 

「やっぱりそうなるわよね・・・」

 

「どういう事だ!?」

 

「よく聞いてハジメ。盤面を直すには時間が掛かるのは常よ。もしも、用意されている盤面が隣に置かれていたならばどうする?」

 

「おい待て。・・・エヒトの次なる標的は地球って事か?」

 

「その通りで御座います」

 

「地球に帰るにはエヒトが必ず邪魔をしてくるって事かクソッタレ!」

 

ハジメもようやく理解した。最悪のシナリオは可能性の高いそれだったからだ

 

「神は敵、確定ね。"神を殺す"―――――か」

 

すると、またしても光り輝く魔方陣。だが、今回は誰も上に乗っていないので一同は臨戦態勢を取ると、再び同じ様に映像が映し出された。だが内容は違う物だった

 

「この映像も同じく質問には答えられない事を許して欲しい。この映像はある言葉を鍵として映し出される物なのだ。"神を殺す"の一言を告げた者にだけ教えよう。この迷宮の百層には神の先兵を出来る限り模倣したゴーレムが居る。特殊な技能を付与出来無かったのは仕方が無いが、ステータスその物はオリジナルと遜色無い。神と敵対するならば、これに打ち勝たねばどうする事も出来無いだろう。実際に私達解放者の殆どが、先兵に倒されてしまったのだ。このゴーレムは一定以上のステータスを持っていないと襲う仕様となっている為、挑戦するのであれば気を付けるんだ」

 

そして映像は消える。これで合点がいった一同

 

「深月が戦っていたあれは先兵の模倣体か。・・・深月やべーわ」

 

「技能が再現出来なかったとはいえ倒しちゃったからね」

 

「・・・さすがMEIDO」

 

「最後のは字が違いますよ!?」

 

こうして私達の謎は解け、お嬢様とユエさんが魔方陣の上に立ちました

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オル―――――etc」

 

同じ映像が流れるのですね・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

うぅ・・・頭がズキズキする。でもこれで私も神代魔法を覚えたわ!ユエも覚えたけど、適性が無いのか痛みは無いらしい

 

「大丈夫か皐月?」

 

「この痛みって適正有無で痛みがあるって事よね。もしかして深月も適正無かった感じなのかしら」

 

「いえ、痛みは有りましたので適性は有ると思います」

 

うそん・・・これって錬成師にとって有り難い魔法だけど、メイドの深月に適性ってどこら辺に有るっていうのよ

 

「メイドの深月に生成魔法の適性有りって・・・何処に有るんだ?」

 

「魔力糸ですね。透明なそれを物質化させる事が出来ます」

 

「もしかしてそれだけ?」

 

「裁縫には欠かせませんよ?」

 

「あ、うん。裁縫には欠かせないよね・・・」

 

私達の服はボロボロで、所々穴あきなので・・・まぁ、うん。便利ね!その一言だけで良いわ!

 

皐月は流深で納得し、新たなる力にワクワクしながら何を創ろうかと考える事にした

 

「これならアーティファクトを創る事が出来るな」

 

「・・・アーティファクト作り放題?」

 

「おう。―――――それよりもあの死体を片付けるか」

 

「畑の肥料にしましょうか」

 

「・・・土に還る」

 

三人の慈悲は無く、風もないのにオスカーの骸がカタリと項垂れた

 

「駄目ですよ。しっかりと弔いましょう。壺を創って下さい――――――良いですね?」

 

深月に胃袋を制圧されている三人は逆らう事は出来無い為、そこそこ大きい壺を創り、焼いた骨を入れて簡易的なお墓を作った深月。因みに、オスカーが装着していた装飾品は全て剥ぎ取られている。何事も有効活用するのはお約束である

 

装飾品の一部、十字に円が重った文様が刻まれた指輪が開かずの間の鍵となっていたわ。書斎の一部をパクったのは言うまでも無いわね。色々と探索していると、ハジメがゴーレムを見つけてじっと見ていたわ。しかも、そのゴーレムはメイド服を装着している

 

「ハジメはメイドフェチなの?コスプレした方が嬉しい?」

 

「ち、違う!?誤解だ皐月!何故ゴーレムがメイド服を着ていたのか気になっただけだ!」

 

「・・・ご奉仕?」

 

「・・・そういえば、ハジメさんと初めて出会った際にジッと見つめられていましたね」

 

「余計な事を言うな深月!この場が更にややこしくなるだろ!!」

 

ハジメがメイドフェチと確信したわ!

トータスで出会ったメイドには興味が無さそうだった?いつも極上のメイドを目にしているからそう思わなかったのでしょうね!

 

結局、ハジメのメイドフェチ疑惑は晴れなかった

燃料を投下した本人の深月はというと、お風呂の準備をし終え、食事の下準備へと取り掛かっていた

 

「皆様、お風呂のご用意が出来ました。どちらから先に入られますか?」

 

「ハジメが先には行って良いわよ」

 

「良いのか?」

 

「大丈夫。私はユエのストッパーとして待機するだけだけよ」

 

だってユエを放置したら絶対に風呂場へと突入するだろうし。・・・私は未だ認めません!

 

「助かる。ユエを頼む」

 

「任せて~。・・・・・さぁユエ?一緒にあっちでお話しましょう?」

 

「ハ、ハジメ助けて!」

 

皐月によって、がっしりと体を固定されて奧へと連行されていくユエを見送るハジメ。合掌した後直ぐに脱衣室へと直行したのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

「あぁ~、極楽だ。異世界に来てお風呂に入れるとか思ってもみなかったぜ」

 

幾度となく襲い掛かった試練により精神はゴリゴリと削れていった。しかし、それは皐月と深月とユエの三人が居たからであって一人では完全に潰れていただろう

 

もしも、この奈落に落ちたのが俺だけだったら・・・完全に心を壊していたかもな。それこそ、人間性を捨て去った獣になっていただろうな。俺が生きていたのも皐月のお陰に近いからな。爪熊の時に壁に穴を開けて俺を引き込んでいなかったら終わっていただろうしな

 

目を閉じて過去を振り返れば、全てを鮮明に思い出せる程の濃密な出来事だったからだ。何度も死にかける度に神水を飲んで回復を繰り返し、少しづつ力を付ける日々は常人が経験する事は無いだろう

すると、ヒタヒタと歩く音が聞こえた。完全に油断していたハジメは「何故!?」と疑問が頭の中を埋め尽くす。ゆっくりと隣に入って来た人物は皐月であった

 

「き、気持ちいいわね」

 

「お、おう。――――――――ところで、何故に皐月は入って来たんだ。ユエはどうして」

 

「ユエは深月に拘束されているわよ」

 

「あぁ成る程。・・・南無三」

 

深月がどの様にユエを拘束されたのか大体予想が付いたぜ。恐らく、針でプスッとして動けなくしたんだろう・・・あれから逃れるのは不可能に近いからな

 

しばし沈黙が続き、ジャバジャバとお湯が注がれる音だけがその時間を支配する。ハジメは冷静になり、覚悟を決めた。右手を皐月の肩に乗せて、引き寄せる。突然のハジメの行動にアワアワと驚く皐月だが、そんな事は関係無いと言わんばかりだった

 

「皐月」

 

「ひゃい!?」

 

「愛している」

 

「わ、私も・・・愛しているわ」

 

皐月は奥手のハジメに自身から迫るの事が殆どだが、今回はハジメから皐月に迫っている突然の状況に頭が付いて行けていない。普段よりも男らしさ全快の行動に顔を真っ赤に染めてキスをされた。しかもディープな大人のキスを

最初はやられるだけだった皐月は、落ち着きを取り戻して一旦顔を離す。体勢を整え、ハジメの真正面へと移動して再びキス。甘く、甘く、とろける様なそれは、二人の歯止めを無くし、長時間お互いを貪る様に求める。時間も忘れ、余計な音すらも遮断する様に求め続ける二人だったが

 

(お嬢様、ハジメさん。お風呂場でイチャイチャするのは構いませんが、そろそろ食事の時間です。のぼせる可能性もあるので、焦らずに出て来て下さい。因みにユエさんは、こちらで"協力"して頂き"清潔"をさせて頂きました)

 

((あ、これはOHANASHIで実験に付き合わされた奴だ))

 

心の中でユエに黙祷を捧げる二人。こうして深月は新しく、清潔の派生技能を取得したのである

お風呂から出ると下着と寝間着が籠に折り畳まれて入っており、その側にはお盆の上に二つのコップに水が入っていた

 

「どこまでも用意周到な深月だな」

 

「この寝間着はどうやって作ったのよ」

 

様々な疑問を抱きつつ着替えて髪を乾かす。二人はリビングへ入ると、盛り付けされた皿を机へと運ぶユエの姿があった。二人と目が合うと頬を膨らませ、明らかに怒っていますと言わんばかりに不機嫌だった

 

「・・・ハジメ、皐月・・・遅い」

 

「い、いやー。スマン」

 

「ゴメンねユエ」

 

素直に謝る二人。深月の実け―――――もとい、検証に付き合わされたユエの心労は普通では無いだろうと理解していたからだ

 

「んっ。・・・深月怖い」

 

「あははは・・・」と苦笑いを浮かべながら三人は椅子へ腰掛ける。目の前にはサラダやスープが有り、深月は料理場から皿をバランス良く乗せて運び各自の目の前へと置く

 

「こちらはヒュドラ擬きを使用したステーキです。因みにこれらを食べる前にこの焼いただけのお肉を先に食べて下さいね?ステータスが上昇しますので」

 

一口大に焼かれ、ソースをかけただけの状態でちょこんと鎮座する肉をため息を吐きながら食べて神水を飲む二人。強くなれるとはいえ、痛みが襲う美味しくない肉を食べるのは嫌だからだ。不味い肉も食べ終わり、良い匂いを出すヒュドラ肉を食べる三人。そしてお約束の

 

「「「うまあああああああああああああああい」」」

 

読者もお気付きだろう。吸血鬼であるユエが混じっている事に

魔力を速急に回復させるには吸血が一番手っ取り早い。しかし、食事に至っては深月の料理で胃をしっかりと掴まれてしまったのだ。血を飲むよりも美味しい料理達。食事がハジメの血か深月の料理どちらかを選べと迫られれば、深月の料理と選んでしまう程にまで開発されてしまったのだ。深月曰く「これもメイドとして当然の勤めです」との事

 

「ヒュドラ肉うまっ!今までの魔物肉でダントツに旨い!」

 

「筋っぽいかな~って思っていたけど、全然違うわ!溢れ出る肉汁は甘くて濃厚なのに胃もたれしない程さっぱりしている!」

 

「・・・うまうま。・・・幸せ」

 

「野菜も食べましょうね?今までお肉ばかりで栄養が偏っていますので」

 

「「「分かった」」」

 

バランス良く食べて、三人の健康管理もお手の物。食生活に限らず、日常生活には深月が欠かせなくなる一同である

 

 

 

 




布団「ヒャッハー!迷宮編の終了だー!」
深月「・・・私はこれからR―18でのお仕事ですか」
布団「仕方が無いよね。自分から言い出したアンケートなんだからさ!」
深月「うぐぅっ!」
布団「さぁさぁ、頑張って書くぞぉ!」
深月「こんな筈では・・・」
布団「次回のアンケートはもうすぐだよ!皆大好きモンスターテイマーの処遇だよ!」
深月「感想、評価宜しくお願い致します・・・」


―追記―
R-18は2020/01/04に投稿します。投稿時間は本編と お・な・じ・♪


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ウサギとライセン大峡谷
メイドのチートが加速する


布団「投稿だよ~」
深月「お正月も過ぎ忙しくなりますね」
布団「それはそうと、意味深回の方は凄いですねぇ」
深月「その話を今、此処でするのですか?」
布団「・・・止めておこう」
深月「それで良いのです。深く掘り返さなければ何もしませんよ」
布団「さ、さあ。前書きもここまでにして本編へ行きましょう!」
深月「読者の皆様方、誤字報告有り難う御座います。それでは、ごゆるりとどうぞ」


~皐月side~

 

うぅ~・・・勝てない。ハジメとの初夜を経験した後、数回やっても全然勝てないわ。寧ろ初めてよりも上手になってて、弱点部分ばかり攻められてしまいノックアウト。一人では保たないと判断した私は、ハジメに好意を抱いているユエを参加させたわ。もうね、ハーレムばっち来いって事よ!一人だと身が保たないわよ!因みに、私とユエの二人は返り討ちに遭っちゃいました。ハジメの理性が飛ぶと勝てないわ・・・

ハーレム有りと堂々と宣言した私だけど、ユエにはある条件を飲む事でOKとしたわ。正妻は私―――――これは確定で、ユエ自身も納得していたわ。だけど次の条件では渋っていたわ。それは、第二婦人は深月だという事よ!え?本人の許可はどうしたのか?私が決めたから問題無いわ!余談だけど、深月もハジメとやったからね?18歳以上で気になる人はそちらを覗いてね?一番の予想外だったのは、ハジメが深月をノックアウトさせた事ね。ステータスが格段に上の深月を倒すとは・・・私達はとんでもないモンスターを覚醒させたのかもしれないわ

そんな生活をする事おおよそ二ヶ月。これからの行動予定の指針の決まった私達は、修行、休息、補給等々をして着々と準備を進めているのよ

 

四人の生活は修行によるステータス向上――――――熟練度上げ等と兵器開発だ。自身の手でアーティファクトを創り出せるハジメと皐月は、次々と地球産の物を創り上げたのだ

 

「お嬢様、腕の調子は如何ですか?」

 

「・・・ハジメ、気持ちいい?」

 

「「ん~、気持ちいいぞ~(わ)」」

 

ハジメの左腕の義手と皐月の右腕の義手はアーティファクトであり、身体に馴染ませる為にマッサージを行っているのだ。ハジメは二の腕が存在するので、纏う感じでの一品だ。しかし、皐月に関しては肩から全ての義手である。創る際に最も複雑だったのは言うまでも無い。ここで役立ったのは、某錬金術師の義手である

切断面を鉱石で塗り潰す様に纏わせて疑似関節を作る際に痛みが生じる。疑似神経の接合の為に一定部分の肉を抉らなくては駄目だったからだ。深月の針刺しで疑似麻酔を施すが、それは気休め程度で痛みは有ったのだ。処置をするハジメも皐月の痛がる姿に心を痛めながら作業をして、製作することに成功したのであった。因みに、義手のギミックはハジメよりも上回る程搭載されている

この二ヶ月で装備は以前とは比べ物にならないほど充実しており、ユエを除く三人のステータスは現在こうなっている

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:???

天職:錬成師

筋力:14050

体力:15000

耐性:13000

敏捷:16050

魔力:14050

魔耐:14050

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成] 魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作] 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光] 幻歩[+認識移動] 風爪 衝撃波[+収束][+拡散][+並列] 夜目 遠見 気配感知[+特定感知] 魔力感知[+特定感知] 熱源感知[+特定感知] 気配遮断 毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 恐慌耐性 全属性耐性 先読 金剛 威圧 念話 追跡 高速魔力回復 魔力変換[+体力][+治癒力] 限界突破 生成魔法 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

高坂皐月 17歳 女 レベル:???

天職:錬成師

筋力:12050

体力:14500

耐性:12500

敏捷:16050

魔力:15000

魔耐:15000

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成] 魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作] 胃酸強化 纏雷 天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光] 幻歩[+認識移動] 風爪 衝撃波[+収束][+拡散][+並列] 夜目 遠見 直感 気配感知[+特定感知] 魔力感知[+特定感知] 熱源感知[+特定感知] 気配遮断 毒耐性 麻痺耐性 石化耐性 恐慌耐性 全属性耐性 先読 金剛 威圧 念話 追跡 高速魔力回復 魔力変換[+体力][+治癒力] 限界突破 生成魔法 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:???

天職:メイド

筋力:28000

体力:30000

耐性:31000

敏捷:35000

魔力:26050

魔耐:26050

技能:生活魔法[+完全清潔][+清潔操作][+清潔鑑定] 熱量操作[+蒸発][+乾燥][+瞬間放熱] 超高速思考 精神統一[+明鏡止水] 身体強化 魔気力制御[+放射][+圧縮][+遠隔操作][+複合][+憑依] 気配感知[+特定感知] 魔力感知[+特定感知] 熱源感知[+特定感知] 気配遮断[+透化][+断絶] 家事[+熟成短縮][+魔力濾過][+魔力濾過吸引] 節約 裁縫 交渉 戦術顧問[+メイド] 纏雷 天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光][+無音加速] 幻歩[+幻影][+認識移動] 風爪 衝撃波[+収束][+拡散][+並列]  夜目 遠見 魔力糸[+伸縮自在][+硬度変更][+粘度変更][+着色][+物質化] 胃酸強化 超直感[+瞬間反射][+未来予測] 状態異常完全無効 金剛[+超硬化] 威圧 念話 追跡[+敵影補足][+識別] 超高速体力回復 超高速魔力回復 魔力変換[+体力][+治癒力] 心眼[+見極め][+観察眼] 極致[+武神] 限界突破 生成魔法 忠誠補正 言語理解

称号:メイドの極致に至る者

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

最早、レベルに至っては表記されない状態だ。深月に関してはもう言うまでも無いだろう

因みに、勇者である天之河光輝の限界は全ステータス1500位だ。限界突破の技能で更に三倍に上昇させる事が出来るが、それを含めてもハジメと皐月とのステータスには約三倍の開きがある。だが、魔物の技能を吸収した事により技の引き出しが圧倒的に多く、限界突破もあるので実質五~六倍の開きがあると言っても良いだろう。深月に関しては限界突破をしなくても、戦闘の経験、即時状況判断、幅広い戦闘方法により十倍以上の開きがあるのだ。そもそも、神の先兵の劣化コピーとの戦闘時、ステータスの差が三~四倍あったのにも関わらず倒す事が出来ている。この時点で不利的状況下での引き出しが圧倒的に多く、訓練とはいえハジメと皐月とユエの三人相手に勝利しているのである。この時の三人の感想は「単調な動きにさせられる」「避けた先に攻撃が来る」「・・・魔法を叩き切るのは反則」という具合なまでのぶっ壊れなのだ

 

まぁ深月に関しては言うまでも無いわね。特に派生技能が目に見えて増えてるのは理由は恐らく神の先兵のコピーと戦った際に覚醒したんだろうなぁ。後は私生活で色々と多様しているというのも含まれるわね。魔力糸を生成魔法で物質化してたら派生技能として開花しちゃうし・・・多分"節約"が関わっているんだろうなぁ

 

深月が魔力糸を物質化する際には生成魔法も行使しなければならない。二重に魔力を消費しなければいけないのだが、節約にて魔力消費量を軽減させながら沢山衣服を創っていたから派生した技能なのだ。蒸発、乾燥、瞬間放熱は家具、甘味を作る際に熱量操作を試行錯誤した賜物だ。武神に関しては武器だけでなく無手で三人を相手していた時に派生して、今なら無手で表オルクス迷宮の魔物ならば全て倒せる程だ

 

深月の武神は最早チートを通り越していると思うわ。だってね?三人の同時攻撃が当たると思った瞬間に動きが明らかに違ったのよ!訓練中に覚醒した深月相手に私達は分も持たなかったわ

んんっ!話を変えるわ。新装備に"宝物庫"という便利道具を手に入れた私達。これはオスカーが保管していた指輪のアーティファクトで、勇者の道具袋みたいな物だったわ。かなりの容量があって、半径一メートル以内なら任意の場所に出す事が出来る超便利アイテムなの。遠距離武器を必要としている私達にとって相性が良くて、弾丸の保管庫ね。これは一つしか無かったのでハジメが付けているわ。私の側には深月を置く事でいざという時に対処が出来るわ。ハジメは宝物庫から弾倉を出して空中リロードを習得、私も一応出来る様にしておいたわ。何事も備えあれば憂い無しとはこの事ね

お次は、魔力駆動二輪と四輪―――――簡単に言えば魔力を燃料として動くバイクと車よ。バイクに関しては三台、車は二台。車に関しては某エイリアン対策部みたいにギミックが搭載された代物よ。バイクに関しては深月専用の物が一台創られたわ。これだけは超特注で、某ソルジャーバイクみたいに刀剣類を積み込んだのよ

武器に関しては、対物ライフルのシュラーゲンが復活。耐久性を上げながら持ち運び便利の一品となり、私の愛用武器となったわ。ドンナーはどうしたのかですって?深月にホルスターを創って貰って其処に装着しているわよ。そしてドンナーの対となるシュラークも開発して装備しているわ。恐竜擬き達の一件から手数と面制圧系の武器の二種類

メツェライ・・・分かりやすく言うとミニガンね。そして連射可能なロケット&ミサイルランチャーのオルカンを開発。これで大量の魔物相手には遅れは取らないわ!

ここで残念なお知らせが一つ、実は私の目が見えなくなったのよ。欠損では無い限り癒やす神水を飲んでも直らなかったのよ。義手を創る際に神経が傷付き死んだと判断したわ。まぁ、ハジメが代わりとなる義眼を作ってくれたから気にならないけどね?生成魔法を使い、神結晶に、"魔力感知""先読"を付与することで通常とは異なる特殊な視界を得る事ができる魔眼なの。魔法の核となる部分が見えて其処を撃ち抜くと魔法を消す事に成功してはしゃいじゃったのは言うまでも無いわ・・・某型月の魔眼と似た事が出来たから仕方がないわよ。ハジメも気になったのか、魔眼の効果を付与した眼帯を開発して装着。これで二人お揃いね♪と嬉しかったが、深月が指さす鏡の方を見ると正しく中二病患者の姿にハジメが絶望して膝から崩れ落ち四つん這い状態になり丸一日寝込んじゃったのよ。格好いいと思うんだけど・・・何がいけなかったのかしら?

 

中二病患者のハジメを慰め、夜戦する事で持ち直させる事に成功した皐月。ダメージは余りにも大きいと思ったが、優しく慰める事でハジメも理性を暴走させる事無くとても良い夜戦となったのだった

完全回復したハジメは、神結晶の膨大な魔力を内包するという特性を利用して錬成でネックレスやイヤリング、指輪などのアクセサリーに加工。それを皐月とユエに贈った

 

「・・・プロポーズ?」

 

「・・・それで魔力枯渇を防げるだろ?今度はきっとユエを守ってくれるだろうと思ってな」

 

「大丈夫よユエ。私はハーレムばっち来いだから。それに、婚約指輪は故郷に帰ってから作ってくれる筈よ」

 

「・・・なら大丈夫!」

 

「ふふふ、――――――大好きよ。ハジメ」

 

「ありがとう・・・大好き」

 

「・・・おう」

 

それから十日後。遂に四人は地上へと出る為、三階の魔法陣を起動させる

 

「俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているという事はないだろう」

 

「兵器等のアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きいわ」

 

「ん・・・」

 

「神は敵と仮定してこれからは干渉されない立ち回りをしなければなりませんね」

 

「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

 

「今更・・・」

 

「「俺(私)達が互いを守る。それで俺達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越える」」

 

「んっ!」

 

「いざという時は私に頼って下さいね?」

 

「「「深月は最終兵器だから」」」

 

光が四人を包み込み魔方陣の上には誰も居なくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

光が晴れた先に見える景色は洞窟だった。ハジメは地上だと信じ込んでいたのか、もの凄く落ち込んでいたのだった

 

「何落ち込んでいるのよハジメ。隠し通路が見つかる所にあれば意味無いでしょ」

 

「皐月の言う通り・・・秘密の通路・・・隠すのが普通」

 

「あ、ああ、そうか。確かにな。反逆者の住処への直通の道が隠されていないわけないか」

 

いつになく浮かれていた事に恥じるハジメ。頭をカリカリと掻きながら気を取り直し、緑光石の輝きも無い真っ暗な洞窟を道なりに進む事にした。途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。一応警戒していたのだが、拍子抜けする程何事も無く洞窟内を進み、遂に光を見つけた。外の光を求めて止まなかった三人は顔を見合わせニッと笑い駆け出そうとするが

 

「三人共、浮かれてはいけませんよ。この先が魔物が大量に居る場所可能性も捨てきれません」

 

ピタッと止まり、深呼吸して落ち着きを取り戻す三人。改めて、警戒をしながらゆっくりと歩を進めて行くと風を感じた。奈落の様な淀みのある物では無く、清涼で新鮮な風にハジメ達は、"空気が旨い"という感覚をこの時ほど実感した事はなかった。そして待望の地上へ出た

それは地上の人間にとって地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えず、多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡。【ライセン大峡谷】と

 

「・・・戻ってきたんだな・・・」

 

「やっと・・・やっと戻って来た!」

 

「・・・んっ」

 

「よっしゃぁああーー!!戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

 

「地上よ、私は帰ってきたぁあーー!」

 

「んっーー!!」

 

念願の地上、懐かしき匂いと光に三人共歓喜する。とても良い笑顔だった

 

『グギャアアアアアアアアアアア!?』

 

そして響き渡る絶叫。咄嗟に身構えるが、それは深月が周りに居た魔物を蹂躙している光景だった

 

「ま、そうなるな」

 

「深月に見つかったが最後ね」

 

「・・・南無」

 

三人共が魔物に対して心の中で合掌。数分も満たない時間で殲滅し終えて合流した深月

 

「全く、嬉しいのは分かりますが大声を出されては魔物が集まってしまいますよ?先程の手応えから奈落の魔物達よりも弱いと確信致しましたが、此処では魔力が分解されてしまうので注意して下さい」

 

「「「はい・・・」」」

 

軽くお説教をされた三人はこの場所について色々と調べていた。ハジメは魔物の素材を剥ぎ取り回収、皐月とユエは魔法に関してだ

 

「ユエどんな感じ?」

 

「・・・分解される。・・・十倍位の力を入れないと駄目」

 

「効率悪いわね。この場所だとユエは温存して私とハジメで魔物を殲滅するわ」

 

「うっ・・・でも」

 

「適材適所、群れならいざ知らず。多くても五~六匹程度余裕よ」

 

ユエが渋々といった感じで引き下がる。せっかく地上に出たのに、最初の戦いで戦力外とは納得し難いのだろうか頬を膨らませて拗ねている

 

「さて、この絶壁を登ろうと思えば登れるだろうが・・・どうする?ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」

 

「そうね。峡谷抜けて砂漠横断とか嫌だし、樹海側なら町にも近そうだし」

 

「・・・確かに」

 

方針は決まり、ハジメは宝物庫から魔力駆動二輪を取り出した。ハジメの後ろはユエ、深月の後ろに皐月と魔力駆動二輪に跨がる。ユエがハジメに引っ付くが本妻の余裕もある皐月は気にしないのである。魔力駆動二輪を走らせていると魔物が襲ってくるが、深月が投擲する魔力糸が結ばれた刀剣が頭部に突き刺さり絶命。それを回収、また投げるという行為だけで殲滅して行く。ハジメと皐月も襲い来る魔物を蹴散らしている

しばらくすると、遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえた。中々の威圧で、少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画すようだ。突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。かつて見た恐竜擬きに似ているが頭が二つあり、真に注目すべきは双頭ティラノの足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だ

 

「・・・何だあれ?」

 

「・・・あれって兎人族よね?」

 

「何でこんな所に?兎人族って谷底が住処なのか?」

 

「普通は森じゃないかしら?」

 

「じゃあ、あれか?犯罪者として落とされたとか?処刑の方法としてあったよな?」

 

「・・・悪ウサギ?」

 

「それ以外となると、奴隷と言った所でしょうか?帝国は亜人種を奴隷としているとお聞きしていますので」

 

「そうなのか?」

 

「そう言えば弱肉強食国家って書いてあったわね」

 

赤の他人である以上、単純に面倒だし興味が無く面倒事の匂いしか無いのでとっとと立ち去ろうとしたら

 

「だずげでぐだざ~い!ひっーー、死んじゃう!死んじゃうよぉ!だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けて来たのだ。そのすぐ後ろには双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。心優しき人達であれば助けるのであろうが

 

「うわ、モンスタートレインだよ。勘弁しろよな」

 

「・・・迷惑」

 

「どうしますか?」

 

「立ち去る。以上」

 

助ける気は皆無。ウサミミ少女の必死の叫びは無慈悲にも届かない。さっさと立ち去ろうと余所に向くと

 

「まっでぇ~、みすでないでぐだざ~い!おねがいですぅ~!!」

 

「「グゥルァアアアア!!」」

 

「あ"ぁ"?」

 

ハジメ達に殺意と共に咆哮を上げたが最後。その殺気に反応して

 

ドパンッ!!

 

二本のウサミミの間を一条の閃光が通り抜けた。そして、目前に迫っていた双頭ティラノの口内を突き破り後頭部を粉砕し貫通した。力を失った片方の頭が地面に激突、慣性の法則に従い地を滑る。双頭ティラノはバランスを崩して地響きを立てながらその場にひっくり返った

 

「きゃぁああああー!た、助けてくださ~い!」

 

衝撃でウサミミ少女は再び吹き飛び、狙いすましたようにハジメの下へ飛んで行くが一瞬で魔力駆動二輪を後退させると華麗にウサミミ少女を避けた

 

「えぇー!?」

 

驚愕の悲鳴を上げながらハジメの眼前の地面にベシャと音を立てながら落ちた。両手両足を広げうつ伏せのままピクピクと痙攣している。双頭ティラノが絶命している片方の頭を、何と自分で喰い千切りバランス悪目な普通のティラノになっ―――――

 

「うっさいわよ」

 

ドパンッ!!

 

皐月にもう一つの頭を撃ち抜かれて絶命したのだった

 

「おい、こら。存在がギャグみたいなウサミミ。助けてやったんだからとっとと消えろ」

 

「えっ?――――――し、死んでます・・・そんなダイヘドアが一撃なんて・・・」

 

とっとと去ろうとするハジメ達に気が付きハジメにしがみつくが、ハジメは脇の下の脳天に肘鉄を打ち下ろす

 

「へぶぅ!!」

 

呻き声を上げて、「頭がぁ~、頭がぁ~」と叫びながら両手で頭を抱えて地面をのたうち回るウサミミ少女。それを冷たく一瞥した後、ハジメ達は再び何事もなかったように魔力駆動二輪に魔力を注ぎ先へ進もうとする。しかし、物凄い勢いで跳ね起きて、「逃がすかぁ~!」と再びハジメの腰にしがみつくウサミミ少女

 

「先程は助けて頂きありがとうございました!私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです!取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

四人は奈落から脱出して早々に舞い込んだ面倒事に深い溜息を吐くのだった

 

 

 

 




深月「・・・」
布団「( ´゚д゚`)アチャー。お嬢様がやっちゃった」
深月「し、仕方ありません!お嬢様ですのでセーフです!」
布団「なら、蒸し返してもオッケーって事だよね!」
深月「本気で仰っているのでしょうか?」ゴゴゴッ
布団「あ、はい・・・すいませんでした」
深月「まぁ許して差し上げます。ですが!アンケートを出して下さいね?」
布団「よっしゃ任せろ!」タタタッターン
深月「これならば、お嬢様とイチャイチャできる可能性が」
布団(神は言っている。それは定めでは無いと!)
深月「それでは、読者の皆様!アンケートを宜しく御願い致します!」
布団「感想、評価宜しくです~。あ、非ログインユーザーからでも感想を書ける様に設定し直しておきます」
深月「フフフッ!皆様、お待ちしておりますよ!」
布団(暴走を止めるのも作者の使命ですねぇ)



ー追記ー

布団「反映出来ていなかったです。申し訳無い( ・ω・)」


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メイドは怒りました

布団「次話投稿だ!」
深月「今回のお話に関して注意です」
布団「容赦無く、帝国の兵士さんが無残に殲滅させられてしまいます!」
深月「当然ですね」
布団「苦手な方は・・・どうしよう・・・・・」
深月「お話の最後の方に書かれてありますのでご注意下さい」
布団「そ、そうだね!フォント変えてるから注意してね!」
深月「続きまして、誤字報告や修正有り難う御座います」
布団「すまねぇ・・・ホントすまねぇ・・・・・」
深月「作者さんの国語力は貧弱で、誤字も多いのでいけませんね」
布団「グハッ!(吐血」
深月「前書きも終わりましょう。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」


~深月side~

 

どうしましょうか・・・このウサミミ少女が言っている家族を助けた分のメリットが思い付きませんね。

 

「お願いです家族も助けて下さい!」

 

ユエさんに蹴られながらも離す事は無いですか。余程大切なのでしょう―――――――ですが、それは些末事。私達の指針の邪魔にしかなりません。おや、ハジメさんが近づいて・・・「アババババババババババアバババ!?」纏雷で痺れさせましたね

 

「全く、非常識なウザウサギだ。三人共、行くぞ?」

 

「ん・・・」

 

「・・・」

 

ハジメは何事も無かったかの様にバイクに魔力を注ぎ発進させようとしたが

 

「に、にがじませんよ~」

 

再び立ち上がって、ハジメにしがみ付くシアにドン引きする三人

 

「お、お前、ゾンビみたいな奴だな。それなりの威力出したんだが・・・何で動けるんだよ?つーか、ちょっと怖ぇんだけど・・・」

 

「兎人族って皆がこれだけの耐久力を持っているの?」

 

「・・・不気味」

 

「うぅ~何ですか!その物言いは!さっきから、肘鉄とか足蹴とか、ちょっと酷すぎると思います!断固抗議しますよ!お詫びに家族を助けて下さい!」

 

怒りつつも、さらりと要求を突きつけるシア。ハジメは離すまで引きずり倒すという事も考えたのだが、もしも離さずにしがみついたままの状況を思う。血まみれになりながらも自身の足にしがみつくウサミミ少女・・・ホラー直行物である。仕方無く、経緯を聞こうとするハジメよりも先に深月が口を開く

 

「メリットは何を提示出来るのですか?」

 

「えっ?」

 

「貴方達を助けて私達に何かしらのメリットは有るのかという事です。等価交換は理解出来ますよね?」

 

「・・・わ、私を好きにして良いです!それなら問題は無いですよね!」

 

「お前みたいな残念ウサギを誰が欲しがるかよ。皐月みたいな見目麗しいお嬢様な彼女を持っている俺からすれば、お前はそこら辺りに落ちている石ころと同価値なんだよ」

 

「なっ!?石ころって酷くないですか!?」

 

「お前が皐月に勝っている部分って何だ?ハッキリ言って俺h―――――――」

 

「勝っている部分は目の前に有るじゃないですか!其処に居るメイドさんは兎も角、そこのお二人よりも私の胸は大きいですし。・・・・・そこの金髪の人に至ってはペッタンコじゃないですか!」

 

"ペッタンコじゃないですか!""ペッタンコじゃないですか!""ペッタンコじゃないですか!"

 

峡谷に命知らずのウサミミ少女の声が木霊する。ハジメの後ろに乗っていたユエは固まり、ゆっくりと地に足を下ろして近づいて行く。ハジメは天を仰ぎ、無言の合掌。皐月は親指で首を切るジェスチャーをユエに送る。深月はどうでも良いと思っているので様子を見ている

 

「・・・お祈りは済ませた?」 

 

「・・・謝ったら許してくれたりは」

 

「・・・許すと思う?」 

 

「死にたくない!死にたくなぁい!」

 

「"風帝"」

 

「アッーーーー!!」

 

ユエの魔法によって生み出された竜巻はシアを飲み込み、錐揉みしながら天へと昇らせて行く。悲鳴が木霊しながら、ピッタリ十秒後にグシャッ!という鈍い音を立てて四人の目の前に墜落した。犬〇家のあの人の様に頭部を地面に埋もれさせビクンッビクンッと痙攣しているその姿は、神秘的な容姿とは相反する途轍もなく残念な少女である

「いい仕事した!」と言う様に、掻いてもいない汗を拭うフリをするとハジメの下へ戻り、二輪に腰掛けるハジメを下からジッと見上げた

 

「・・・ハジメは皐月みたいにおっきい方が好き?」

 

「・・・胸は人それぞれだ。おっきかろうが、小さかろうが、それは些細な事だ。相手が誰か、それが一番重要だ」

 

「・・・皐月の方がおっきい」

 

自身の胸をペタペタと触り、表情が暗いままのユエ

 

「胸でハジメの好き嫌いが変る訳無いでしょ。ハジメは、私の胸が小さくなったとしても今までと変らないわよね?」

 

「当然だ。俺が皐月とユエを嫌う筈が無いだろう」

 

「だから、あんまり気にしないの!そもそも、ユエは吸血鬼なんだから魔法を開発して大人の身体を創れば万事解決でしょ。吸血鬼じゃないと出来無い事だってあるわよ」

 

「・・・・・ん」

 

何とかユエを持ち直させた二人はため息を吐く

 

「おや、あれを直撃しても未だ立ち上がるのですか」

 

「「「え・・・?」」」

 

三人は犬〇家状態だった場所へ視線を戻す。それは、痙攣していたシアの両手がガッと地面を掴んで、ぷるぷると震えながら懸命に頭を引き抜こうとしている姿だった

 

「アイツ動いてるぞ・・・本気でゾンビみたいな奴だな。頑丈とかそう言うレベルを超えている気がするんだが」

 

「えぇい!兎人族は化け物か!?」

 

「・・・ん」

 

ズボッと頭を引き抜き、シアが泥だらけの顔を抜き出した。涙目で、しょぼしょぼとボロ布を直すシアは、意味不明な事を言いながらハジメ達の下へ這い寄って来る

 

「うぅ~ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに・・・」

 

「はぁ~、お前の耐久力は一体どうなってんだ?尋常じゃないぞ・・・何者なんだ?」

 

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は―――――カクカクシカジカで」

 

「分からねぇから。ってか何でこっち側のネタを色々と知っているのかが不思議なんだが」

 

シアの説明を要約すると―――――

兎人族・・・ハウリアと呼ばれる者達の中から、異常な女の子が生まれた。基本的に濃紺の髪をしているハウリアだが、その子の髪は青みがかった白髪。亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操り、とある固有魔法まで使えたのだ。当時の一族は大混乱で、必ず迫害対象なってしまう。しかし、ハウリアは百数十人全員を一つの家族と称する種族なので、ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった

故に、ハウリア族は女の子を隠しながら十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった為、ハウリア族は追放処分となってしまった。それからは、魔物、帝国兵から逃げる日々を送り、大多数のハウリアが帝国兵に捕まってしまったとさ

とても不運な者達だ。そう感じたハジメ達

 

「・・・気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

最初の残念な感じを見せず、悲痛な表情で懇願するシア。どうやら、シアは、ユエやハジメと同じ、この世界の例外というヤツらしい。特に、ユエと同じ、先祖返りと言うやつなのだろう。話を聞き終ったハジメと皐月は特に表情を変えることもなく端的に答えた

 

「「断る(わ)」」

 

端的な言葉が静寂をもたらし、何を言われたのか分からないといった表情のシアは、ポカンと口を開けた間抜けな姿で二人をマジマジと見つめた。そして、話は終わったと魔力駆動二輪に跨ろうとしてようやく我を取り戻し、抗議する

 

「ちょ、ちょ、ちょっと!何故です!今の流れはどう考えても『何て可哀想なんだ!安心しろ!!俺が何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ!流石の私もコロっといっちゃうところですよ!何、いきなり美少女との出会いをフイにしているのですか!って、あっ、無視して行こうとしないで下さい!逃しませんよぉ!」

 

再びハジメの足にしがみつくシア。ハジメは足を振って離そうとするが、離れる気配の無いシアに対してため息を吐きながら睨付ける。そんな中、深月はふとある一点を思い付く

 

「ハウリアは樹海の中で迷う事無く進む事は出来ますか?」

 

「ふぇ・・・?」

 

「どうなのですか?」

 

「で、出来ます!樹海の案内なら大丈夫です」

 

「ちょっと待て深月。厄ネタ他ならないそいつらを助けたら俺達のデメリットが大きすぎるだろ」

 

「・・・厄ネタ要らない」

 

「確かに亜人族以外の者は樹海で迷うと言われているわ。いざとなれば、森の木を切れば問題は何も・・・・・。いや、ちょっと待って。やっぱり助けましょうハジメ」

 

いきなりの助ける提案をする皐月にハジメは気付く

 

「・・・いつもの勘か?」

 

「えぇ。何故か分からないけど、ハウリアが気になって仕方が無いわ」

 

「・・・?・・・?」

 

「皐月の勘がそう言うのなら仕方がないな」

 

「その前に一つだけお聞きしたい事があります。貴女は先程"見えていなかった"と仰いましたがそれは未来予測の技能を持っていると判断しても宜しいですか?」

 

「えっ・・・何で"未来視"の事を?」

 

「成る程、持っている事を教えて頂き有り難う御座いました」

 

「えっ・・・知っているんじゃ?」

 

深月が問いかける誘導尋問に見事に引っ掛かるシアを見て皐月は心底残念そうに見つめる

 

「うわぁ・・・正真正銘の残念ウサギじゃない」

 

「馬鹿正直に言うか普通?」

 

「・・・残念ウサギだからしょうが無い」

 

「「それもそうだな(ね)」」

 

「酷すぎませんか!?」

 

「おい、喜べ残念ウサギ。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ」

 

台詞は完全にヤクザのそれである。しかし、それでも、峡谷において強力な魔物を片手間に屠れる強者が生存を約束したことに変わらない。シアは飛び上がらんばかりに喜んだ

 

「あ、ありがとうございます!うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」

 

ぐしぐしと嬉し泣きするシアは、仲間のためにもグズグズしていられないと直ぐに立ち上がる

 

「あ、あの、宜しくお願いします!そ、それで貴方達の事は何と呼べば・・・」

 

「ん?そう言えば名乗ってなかったか・・・俺はハジメ。南雲ハジメだ」

 

「私は高坂皐月。ハジメと将来を誓い合った正妻よ」

 

「・・・ユエ。ハジメと将来を誓い合った側室」

 

「私は神楽深月。お嬢様専属のメイドで御座います」

 

「ハジメさんと皐月さんと深月さんとユエちゃんですね」

 

「・・・さんを付けろ。残念ウサギ」

 

「ユエさんは吸血鬼で貴女よりも年上ですよ」

 

「ふぇ!?」

 

シアはユエを外見から判断して年下だと思っていたのだが、深月の説明を聞いて土下座する勢いで謝罪した。しかし、ユエはシアが気に食わない。敢えて何も言わないハジメ達は何処がどういう理由でそうなのか分かっている

そんな状態をスルーしてハジメはシアに後ろに乗るように指示を出し、訳も言わせずに乗らせた。シアは振り落とされない様にユエに捕まるが、凶器を押しつけられている現状に苛立って、ハジメの前へと移動。シアは「え? 何で?」と何も分かっていない様子で、いそいそと前方にズレるとハジメの腰にしがみついた。ハジメは特に反応することもなく魔力駆動二輪に魔力を注ぎ込む

 

「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが・・・この乗り物?何なのでしょう?それに、ハジメさんもユエさん魔法使いましたよね?ここでは使えないはずなのに・・・」

 

「あ~、それは道中でな」

 

そう言いながらハジメは魔力駆動二輪を一気に加速させ出発した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

深月の後ろに乗っている皐月は自身の勘が良く当たる事は理解している。だが、今回は厄ネタばかりのそれに多少なりとも疑問に思っている。悪路を走り、カーブを曲がったり坂を跳ねたりとしている最中で深月に問いかける

 

「深月なら樹海の案内出来るかしら?」

 

「普通であれば大丈夫です。しかしここは異世界―――――――恐らく、樹海も反逆者達の生み出した物だと推測します。それを前提に考えれば、何かしらの制約が有ると思われます。例えば、亜人族との協力で迷宮に辿り付く等如何ですか?恐らく、お嬢様の勘はこれ以上の何かが有ると感じて反応したのだと私は考えます」

 

「そう。・・・なら、恩はタップリと売っておかなきゃ行けないわね!」

 

「命を助けられた者というのは、助けた者に依存する可能性があります。そこだけを改善させなければ返ってくることもありませんのでご注意を」

 

「戦闘訓練させるしか無いわよね・・・」

 

しばらく魔力駆動二輪を走らせていると、ワイバーン?が二つの人影を襲おうとしているわね

 

(ハジメ、私が攻撃するから)

 

(分かったが・・・シュラーゲンだと過剰攻撃だと思うぞ)

 

(深月専用バイクの瞬間到達速度を調べるのも兼ねてよ。流石にシュラーゲンは使わないわよ)

 

ハジメと念話を終えた皐月は深月に全速力を出すように指示。それに了承した深月は一気に魔力を流し込み加速させる。まるで流星の如き――――――――バンピーな路面を利用してバイクごとワイバーン擬きに突進し、すれ違い様に一体の頭部をドンナーで粉砕。残りの五体を皐月はバイクから飛び退きワイバーン擬きの群れの中心へ飛び込むと、コマの様に素早く回転しながらドンナーとシュラークで発砲

 

ドパパパパパンッ!!

 

乾いた炸裂音を立てて全てのワイバーン擬きの頭部を粉砕し終えた後、先に地上へと降り立ったバイクの後部座席へ着地した

 

「な、何が・・・」

 

「あのハイベリアが・・・一瞬で全滅?」

 

一体何が起こったのか理解出来ていないハウリア達

 

「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」

 

「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」

 

ハジメは後部座席に立って手をブンブンと振るシアをうっとうしく感じていた。凶器を頭の上に乗せられているので、重たいのなんの。いい加減、我慢の限界に来たハジメはシアの服を力強く掴んだ

 

「えっ?ハジメさん?何をするつもりですか?もう敵は居ないですよね!?」

 

「いい加減俺の頭の上から、その脂肪をどけやがれやあああああ!」

 

「いやぁあああーー!!」

 

高ーく放り投げられたシアの落下点は、ハウリア達の目の前。墜落して、またしても犬〇家の様な姿を晒してしまう残念ウサギであった。ハジメ達がハウリア達の側まで近づくと、丁度地面から頭を抜いたシアだった

 

「ぶはぁっ!うぅ~、私の扱いがあんまりですぅ。待遇の改善を要求しますぅ~。私もユエさんみたいに大事にされたいですよぉ~」

 

シアを投擲する事で更にボロボロとなった服は、正に申し訳程度の代物だった。ハジメは鬱陶しいと感じながらも、宝物庫から予備のコートを出してシアの頭に被せる。シアはキョトンとするが、コートと分かった瞬間ニヤッと笑いながらコートを着込む

 

「も、もう!ハジメさんったら素直じゃないですねぇ~、ユエさんとお揃いだなんて・・・お、俺の女アピールですかぁ?ダメですよぉ~、私、そんな軽い女じゃないですから、もっと、こう段階を踏んで『ドパンッ!』きゅん!?」

 

シアを撃ったのは皐月で、目が笑っていない様子を見たハジメとユエは小さな悲鳴を漏らした。絶対に怒らせてはいけない人――――――皐月と深月の二人だ。皐月が怒るのは珍しいと言う程、器が大きい。深月は一番怒らせてはならないのは言うまでも無いだろう

シアの妄想にイラッとした皐月だったのだ。何故か?シアはハジメの本妻がユエであると思っているからだ。一応自己紹介した時に説明はしていたのだが、等の本人は忘れ去っていたのだろう。それが皐月を怒らせるのに十分な物だった

 

「ねぇウサギさん。ハジメの正妻は誰か理解しているのかしら?」

 

「ユ、ユエさんです『ドパンッ!!』ぶぎゃあ!?」

 

「自己紹介の時に説明した筈なんだけどなぁ~。もう忘れたのかしら?」

 

「ヒィッ!?す、すすすスミマセンでしたあ!!」

 

「だから、残念ウサギって呼ばれるのよ。次に巫山戯た事を言うのであればその耳を引きちぎるわよ?」

 

「言いません!もう言いません!本妻は皐月さんと心に刻み込みますのでゆるしてくだざいいいいいい!」

 

皐月は気が済んだのか、ハジメの側に行き腕に引っ付いた。それだけで、不機嫌だと言うのが目に見えて分かる

シアは「ホッ」とため息を吐くが、怒っているのはもう一人居る。ポンッとシアの肩に手が乗せられた。振り返った先に居たのは、ニコニコと笑っている深月だが背後に死神が佇んでいると錯覚させる程で

 

「お嬢様が次回は耳を引きちぎると仰っていましたが、本当に次回はありませんよ?もしも次回があるなら、私が貴女をダルマにして貴族にでも売って差し上げます」

 

「ピィッ!?」

 

想像しなくてもヤバイと十分理解出来る。シアは、深月に向けられた威圧に悲鳴をもらした

シアを放置してハジメ達三人は助けたハウリア達の側まで行き、現状報告の確認をする

 

「俺達はこの残念ウサギのお願いを聞いてお前達を助けた。報酬はお前達の命―――――――それに伴い、樹海の案内という事になっている」

 

「私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとは・・・父として、族長として深く感謝致します」

 

「まぁ、礼は受け取っておくわ。だけど、樹海の案内と引き換えという事を忘れないで?それより、随分あっさり信用するけど、亜人は人間族にはいい感情を持っていないと聞いているけれど?」

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから・・・」

 

「えへへ、大丈夫ですよ、父様。ハジメさんは、女の子に対して容赦ないし、対価が無いと動かないし、人を平気で囮にするような酷い人ですけど、約束を利用したり、希望を踏み躙る様な外道じゃないです!ちゃんと私達を守ってくれますよ!」

 

「はっはっは、そうかそうか。つまり照れ屋な人なんだな。それなら安心だ」

 

イラッとしてドンナーに手を伸ばそうとするハジメだが、違う方面からも援護が飛んでくる

 

「ハジメの内心は苛ついているけれど、感謝されて悪い気分じゃないって思っているから大丈夫よ」

 

「・・・ん、ハジメは照れ屋」

 

「皐月!?ユエ!?」

 

早く切り上げたいと感じているハジメだが、皐月とユエがハウリア達と話し始めている。もう打つ手は無いと感じられたが

 

「皆様方。世間話も宜しいですが、集団での行動は魔物を引き寄せると同義ですので早く移動をお勧め致します」

 

「あぁ、そうね深月。こんな話しは何時でも出来るわね」

 

「・・・ん。早く移動しないと」

 

(助かった・・・)

 

二人の尻に敷かれているハジメは、心の中で深月に感謝をする

 

(いえいえ、ハジメさんが困っているご様子でしたので当たり障りの無い提案をしただけですので大丈夫ですよ)

 

(!?)

 

考えている事はお見通しと言う深月である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

大人数での移動は魔物にとって好機に近しいですが全ては無駄に終わりました。私はお嬢様達と離れて、先に魔物狩りを行っています。本能で分からない魔物ばかりでため息しか出ませんね

 

一人の深月は格好の餌だと勘違いした魔物達が襲い掛かるが、全て無意味に終わった。周囲に張り巡らされた魔力糸の粘着によって、身動きを取れなくなった後に首を絶ち斬られているからだ。まるで、蜘蛛の巣に自ら飛び込んで行く虫の様な光景にため息も吐きたくなる。単純な作業を一通り終えた後、気配を溶け込ませて帝国兵達の居る場所へと到着して待機する。そうすると、階段を上りきったハジメ達の姿を確認。案の定帝国兵に絡まれていたので気配を溶け込ませたまま帝国兵達の背後に移動し終え、話の内容を聞き取る

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

「小隊長! 白髪の兎人もいますよ!隊長が欲しがってましたよね?」

 

「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

 

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ?こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

 

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

 

弱肉強食の国家はゲスですね。精神が腐りきっています。弱いとはいえ、万が一にも逃げられてしまえばもっと面倒な事になります。網を張っておきm―――――――

 

「ん?おっほぉ~♪あの白髪の女、すっげぇ美人じゃねえか!おい坊主、そいつを寄越したらお前と男の兎人族は見逃してやるぞ?」

 

「ちょっ!?一番の上玉じゃないっすか!小隊長、ずるいですよぉ~」

 

「お前らにも味見させてやるから一番は我慢しろよ?」

 

「ひゃっほ~、流石、小隊長!話がわかる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あいつらは今何と言った?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、帝国兵の後ろから途方も無い殺気を放つ深月。突如現れた殺気に気付いた兵士達は後ろに振り向いて、深月を視界に入れた。そしてそれだけで兵士達の命運は決まった。ハジメ達も今までに無い殺気に身構えたが、それが深月からの物であると知り武器を納める。ハウリア達は恐怖からガクガクと震えている

 

「メイド・・・だと?」

 

「何でこんな所にメイドがいるんだ?」

 

最早深月に帝国兵の言葉は届かない。何故なら、下品で愚かしい物言いをしたのだから

 

お嬢様を犯す?その様な下劣な事を発する者は死あるのみです

 

「あ"ぁ"!?この人数を見て物を言ってんのかメイド!」

 

「いや、お前も上玉だな。なんだったら良い所に案内してやろうか?」

 

それは良いですね。案内してあげましょう

 

「それじゃあ早速あんな―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地獄へと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深月の言葉と同時に一人の帝国兵の首がゴトリと落下。一瞬の沈黙は吹き出る血と共に破れ、帝国兵達は武器を構えようと動こうとしたが

 

「な!?う、動かねぇだと!?」

 

「一体何が起こってるんだ!?」

 

「動かねぇ!動かねぇよぉ!!」

 

帝国兵達は深月の魔力糸によって絡まれて身動きできない状態となっていた。その様子を見ていたハジメと皐月とユエの三人は合掌をする。最早どうなるかは目に見えて分かるからだ

 

何故こうなったか分かりますか?分かる訳ありませんよね?貴方達は品性の無い獣ですから

 

深月が一歩一歩歩み寄るにつれて、一人、また一人と帝国兵の首が落ちて行く

 

「ひぃっ!?た、助けて!助けてくげぇ!?」

 

「死にたくない!死にたくなぎゅ!?」

 

「おい!お前ら、見ていないで助げぎゅ!?」

 

深月が小隊長と呼ばれた者の側に辿り付くと生き残っているのは唯一人となった

 

「捕まえていたハウリア達はどうされましたか」

 

「た、助けてくれたら話す!だから命だけは取らないでくれ!!」

 

「良いですよ?話してくれれば私はこの拘束を解き解放しましょう」

 

「多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから・・・」

 

そう言い終えた小隊長の拘束は解け、それを理解したと同時に脇目も振らずに走り出す。だが、地面へと転けたと同時に両足に襲い来る激痛に悲鳴を上げた。何故か?両足の膝から下が切断されていたからだ

 

「や、約束が違うだろ!?助けるって言っていたじゃないか!!」

 

「おや?私は拘束を解くとだけしか言っていませんよ?それに―――――――――お嬢様に対して暴言を吐いた貴方達を見逃す筈が無いでしょう

 

四肢を切断され、地を這うダルマと化した帝国兵にトドメの言葉を投げつける

 

「捕らえた兎人族の一部を殺したのです。殺って良いのは殺られる覚悟のある人だけですよ」

 

トドメの首を切断し終えた深月は「ふぅ」と一息入れ、何事も無かったかの様にハジメ達へと近づく

 

「全く、お嬢様と事を致して良いのはハジメさんだけです!」

 

プンプンと怒っている深月。皐月達は「まぁまぁ」と言いながら宥めて落ち着きを取り戻させて行く。しかし、恐怖から深月に対して負の感情を露わにしているハウリア達にユエが一言

 

「・・・守られているだけのあなた達がそんな目を深月に向けるのはお門違い」

 

事実を言われてハウリア達はバツ悪そうな表情をしている

 

「ふむ、深月殿、申し訳ない。貴女に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな・・・少々、驚いただけなのだ」

 

「いえいえ気にしていませんよ。兎人族は温厚と前知識が御座いますので、争い事を嫌う事は理解しております」

 

深月は気にしていませんと手を振る。ハジメ達は無傷の馬車や馬のところへ行き、魔力駆動二輪を馬車に連結させて一行は樹海へと進路をとった。これで半日程掛かりそうな道のりを大幅に短縮する事に成功したのであった

因みに、帝国兵達の死体は谷底に落として血溜まりは深月の清潔にて掃除されたのである

 

 

 

 

 

 

 




布団「ふ、復活するんだよ~」
深月「豆腐メンタルでよく復活出来ましたね」
布団「まだだ、まだ終わらんよ!」
深月「赤い〇星ネタは要りません」
布団「・・・・・そ、そんな事よりもアンケートだぁ!」
深月「っ!そうです!すっかり忘れる所でしたよ!何故私関連のアンケートじゃないのですか!?」
布団「何時からイチャイチャアンケートと錯覚していた?」
深月「巫山戯ないで下さい!」
布団「前回の後書きをよ~く思い出して下さい?作者が、何時、イチャイチャアンケートをすると宣言している?してないよね?」
深月「 」
布団「是非も無いよね!」
深月「乙女心を弄ばないで下さい!」
布団「それはあっちに置いておいて、接戦していますねぇ」
深月「置かれるのですか。・・・はい、そうですね。見事に別れています」
布団「ヒャッハー!メイドさんが増えるかも?」
深月「作者さんの暴走も放置しておきましょう。・・・感想、評価、お気軽に宜しくお願いします」
布団「テンション上げて行くぜー!」
深月「と、この様に感想が来るとテンションが上がる謎の作者さんです。アンケート期間は――――――次話投稿と同時に締め切りとの事です。ご注意下さい」


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メイドの料理は全てが美味しい訳では無い

布団「お待ちどぅ!」
深月「今回は早いですね?どうかされたのですか?」
布団「ちょっと忙しくなるかもだから早めの投稿だよ!」
深月「不定期投稿ですね」
布団「不定期じゃ無いよ!?一週間に一話位のペースだよ!?」
深月「なら、私とお嬢様のイチャイチャアンケートを早くして下さい」
布団「まだ駄目だぁ!」
深月「ならば作者さんのキーボードを占拠します!」
布団「布団から占拠だと?笑わせる!PCを布団の隣に置けば不可能だああああ!」
深月「・・・まぁ、冗談はこの辺りに致しましょう」
布団「(・ω・)セヤナ」
深月「度々寄せられる誤字報告にとても感謝しています。有り難う御座います」
布団「誤字脱字の多い作者さんなんです(。・ω・。)ユルシテ」
深月「この様な茶番もお仕舞いにして次へ行きましょう。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」


~ハジメside~

 

俺は変わったな。深月の手で帝国兵全てが蹂躙された時に何も感じなかった。ただ、目の前で人が死んでいる光景はその程度としか感じられなかった。オルクスでの出来事は、俺にとてつもない変化をもたらしたのだと改めて実感させられた

 

「ハジメ。気が付いた?」

 

「あぁ、皐月もそうだろう?」

 

「えぇ。・・・価値観がもの凄く変化したと言えば良いのかしら。多分だと思うけど、人を殺しても何も感じないと思うわ」

 

「だな」

 

オルクス迷宮で変ったと自覚があったが、ここまでの変化しているとは思ってもいなかった二人。深月による殺戮を目の前にしても、「人が死んだ」唯それだけしか感じなかったのだ。変る以前のハジメ達であれば確実に吐いていただろう

 

「まぁ、この世界は弱肉強食だ。弱い奴は死ぬ―――――それだけだ」

 

「そうね。少なくとも、こっちの世界ではそれが常識。人を殺したとしても後悔なんてしないわよ」

 

「弱かった事を恨め―――――ってな」

 

「でも、無関係の人を巻き込みたくないわ」

 

俺達はオルクス迷宮で価値観がガラリと一変したが、それはあくまでも殺意を向けてきた相手に対してだ。全くの無関係な奴らまで殺すのは狂人の類・・・獣と同じだ

因みに、人殺しを躊躇わないかどうかの確認と人間相手にドンナーで撃つと周囲被害がどうなるのかを確認したかったのが一番の本音だけどな。まぁ、人殺しを直に見ても何も感じなかったから躊躇いなく撃てるがな

 

心配そうにハジメと皐月を見るユエの視線に気付く

 

「・・・二人共・・・大丈夫?」

 

「大丈夫よ。以前と価値観が変った事に驚いただけよ」

 

「人殺しとは無縁の世界で生きてたからな。帝国兵の殺戮を見ても何も感じなかったから自分が殺してもどうも思わねえよ」

 

「・・・そう」

 

少しだけ沈黙して重い空気となるが、残念な人物は何時だって居る

 

「あの、あの!ハジメさん達の事、教えてくれませんか?」

 

「俺達の事は説明しただろう?」

 

「いえ、能力とかそういうことではなくて、何故、奈落?という場所にいたのかとか、旅の目的って何なのかとか、今まで何をしていたのかとか、お二人自身の事が知りたいです」

 

「一応聞いておくが、どうするつもりだ?」

 

「どうするというわけではなく、ただ知りたいだけです。・・・私、この体質のせいで家族には沢山迷惑をかけました。小さい時はそれがすごく嫌で・・・もちろん、皆はそんな事ないって言ってくれましたし、今は、自分を嫌ってはいませんが・・・それでも、やっぱり、この世界のはみだし者のような気がして・・・だから、私―――――」

 

「あぁ、同族みたいで嬉しいって事ね。浮いた存在で、周りに迷惑を掛けた~、という事でしょう?」

 

「うぅ・・・そうです。皐月さんの言う通りですぅ」

 

「別に話しても良いぞ。特段隠す事でも無いからな」

 

ハジメ達が召喚までに体験した経緯とユエがどうして封印されていたのか、全てを語り始めた結果――――――

 

「うぇ、ぐすっ・・・ひどい、ひどすぎまずぅ~、ハジメさんも皐月さんもユエさんもがわいぞうでぶぎゃぁ!?あ、はい・・・深月さんも含みますです。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて・・・うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

深月は強いので可哀想では無いと判断したシアだが、深月が後ろを振り向かずに投擲した小石を顔面に直撃して付け加える事で追撃は来なかった。だが、滂沱の涙を流して濡れた顔をハジメの外套で拭うのは如何な物かと。・・・しばらくメソメソしていたシアだが、決然とした表情でガバッと顔を上げると拳を握り元気よく宣言

 

「ハジメさん!皐月さん!深月さん!ユエさん!私、決めました!四人の旅に同行していきます!これからは、このシア・ハウリアが陰に日向に皆様を助けて差し上げます!遠慮なんて必要ありませんよ。私達は五人の仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

 

「「えっ・・・要らない」」

 

「・・・邪魔」

 

「残念な結果ですね」

 

「酷すぎますぅ!」

 

「現在進行形で守られている脆弱ウサギが何言ってんだ?完全に足手纏いだろうが」

 

「・・・さり気なく『仲間みたい』から『仲間』に格上げしている・・・厚皮ウサギ」

 

「な、何て冷たい目で見るんですか・・・心にヒビが入りそう・・・というかいい加減、ちゃんと名前を呼んで下さいよぉ」

 

「旅の仲間が欲しいだけでしょ。寂しがり屋の兎じゃあるまいし・・・」

 

「そもそも、俺達の目的は七大迷宮の攻略なんだ。恐らく、奈落と同じで本当の迷宮の奥は化物揃いだ。お前じゃ瞬殺されて終わりだよ。だから、同行を許すつもりは毛頭ない」

 

無情な宣告を告げてしばらくすると、一行はハルツィナ樹海と平原の境界に到着した。樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい

 

「それでは、ハジメ殿、皐月殿、深月殿、ユエ殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。皆様を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

 

「ああ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

 

ハジメ達はこのハルツィナ樹海そのものが迷宮ではないか?と考えていたのだが、冷静になって考えれば違う事に気が付いた。もしそうであるならば、奈落の底の魔物と同レベルの魔物が彷徨いている魔境ということになり、とても亜人達が住める場所ではなくなってしまうからだ。そしてオルクス迷宮と同様に、真の入り口が有るのではないか?もしそうであるなら、カムから聞いた"大樹"が怪しいと踏んだ

カムは、ハジメの言葉に頷くと、周囲の兎人族に合図をしてハジメ達の周りを固めた

 

「ハジメ殿、出来る限り気配は消してもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」

 

「ああ、承知している。俺達もある程度なら、隠密行動はできるから大丈夫だ」

 

「深月みたいに気配を隠す事は出来無いけどね?」

 

「・・・ん。・・・深月は暗殺者」

 

「もう何もツッコミませんよ」

 

ハジメと皐月は気配遮断スキルを、ユエは奈落で培った方法で気配を薄く、深月は何時も通り溶け込ませた

 

「ッ!?これは、また・・・ハジメ殿、皐月殿、出来ればユエ殿くらいにしてもらえますかな?そして深月殿は何処に?」

 

「ん?・・・こんなもんか?」

 

「完全では無くって事ね」

 

「いつもの癖で溶け込ませてしまい申し訳御座いません」

 

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな!」

 

身体スペックが低い代わりに聴力等の索敵関連に秀でているが、ハジメや皐月のレベルは達人級。深月に関しては、影が薄いクラスメイトの遠藤よりも上である。カムは、人間族でありながら自分達の唯一の強みを凌駕され、もはや苦笑い。隣では、何故かユエが自慢げに胸を張っている。シアは、どこか複雑そうだった。ハジメの言う実力差を改めて示されたせいだろう

 

「それでは、行きましょうか」

 

カムの号令と共に準備を整えた一行は、カムとシアを先頭に樹海へと踏み込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

ふむ、森に入って直ぐに濃い霧が発生し視界を塞ぎましたね。カムさんの足取りを見るに、迷いは全くありませんか。・・・これは亜人族限定の何か・・・渡り鳥の様な方位磁針を搭載しているといった所ですね。これは視界を頼りにせず、音の反響から場所を特定した方が早そうです。おや、魔物ですか・・・今回はハジメさんが動かれますか。ならば私は緊急時以外は特に動かない様に致しましょう

 

順調に進んでいたが、カム達が立ち止まり周囲を警戒し始めた。深月は三人の様子を観察していると気が付いていおり、ハジメが左手を素早く水平に振る。微かに、パシュという射出音が連続で響き―――――

 

「「「キィイイイ!?」」」

 

三つの何かが倒れる音と、悲鳴が聞こえた。そして、慌てたように霧をかき分けて、腕を四本生やした体長六十センチ程の猿が三匹踊り掛かるも

 

「"風刃"」

 

魔法名と共に風の刃が高速で飛び出し、空中にある猿を何の抵抗も許さずに上下に分断する。その猿は悲鳴も上げられずにドシャと音を立てて地に落ちた。残り二匹は別れて別々の獲物として襲うが、再びハジメが左腕を振う事で二体の魔物の頭部に十センチ程の針が無数に突き刺り絶命させた

因みに、これはハジメの義手に仕込まれたギミックの一つ―――――ニードルガンである。ドンナー・シュラークの威力には全く及ばず、射程が十メートル程しか無いものの、静音性に優れ、針の種類・・・状態異常系の切り替えも出来る超便利な暗器の一種である

 

「あ、ありがとうございます、ハジメさん」

 

「お兄ちゃん、ありがと!」

 

ハジメは気にするなと手をひらひらと振り、カムを促して先へと急がせる。その後もちょくちょく現れる魔物もハジメと皐月とユエの三人で静かに片付ける。その様子をしっかりと観察する深月

 

やはりこの辺り一帯の魔物は、オルクス迷宮の魔物よりも弱いですね。迷宮にも難易度があるのでしょうか?次の迷宮を攻略しなければ何も分かりませんね。・・・あちらから獣の匂いがしますね。しかも複数。亜人種の可能性が大。と、なれば此処は静観する他無いですね

 

深月が複数の気配を感じ取った少し後、今までにない無数の気配に囲まれてハジメ達は歩みを止める。数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。ガサガサと草を掻き分けて出て来た者達

 

「お前達・・・何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。しかも周囲に数十人配置しており、殺気を滾らせながら包囲している

 

包囲されていますね。・・・お嬢様とハジメさんがどの様に行動するのかしっかりと見させて頂きます。そして、度が過ぎたならば注意するだけです。ですが、念には念を入れて行動に移りましょう

 

深月は誰にも気付かれない様に気配を溶け込ませて目の前に居る虎の亜人の後ろに立つ

 

「あ、あの私達は・・・」

 

「白い髪の兎人族だと?・・・貴様ら・・・報告のあったハウリア族か・・亜人族の面汚し共め!長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは!反逆罪だ!もはや弁明など聞く必要もない!全員この場で処刑する!総員かッ!?」

 

ドパンッ!!

 

攻撃の命令を出そうとした直後にハジメのドンナーが火を噴き、一条の閃光が虎の亜人の頬を掠めて背後の樹を抉り飛ばした。今まで体験した事の無い出来事に硬直し、気負った様子もないのに途轍もない圧力を伴ったハジメと皐月を前にして足が後退った

 

「今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射出来る。それに、周囲を囲んでいるヤツらも全て把握している。お前等がいる場所は、既に俺達のキルゾーンだ」

 

「な、なっ・・・詠唱がっ・・・」

 

詠唱の声も無く攻撃された事実に驚愕を露わにする者達。不意に皐月は木の上へとドンナーの銃口を向けた。その先に居るのは隠れた亜人族、虎の亜人の腹心の部下がいる場所だった

 

「殺るというのなら容赦はしない。約束が果たされるまで、こいつらの命は俺が保障しているからな・・・ただの一人でも生き残れるなどと思うなよ」

 

(冗談だろ!こんな、こんなものが人間だというのか!まるっきり化物じゃないか!)

 

威圧感の他にハジメと皐月が殺意を放ち始める。あまりに濃厚なそれを真正面から叩きつけられている虎の亜人は冷や汗を大量に流しながら、ヘタをすれば恐慌に陥って意味もなく喚いてしまいそうな自分を必死に押さえ込む。だがここで、制止の声が掛かる

 

「お嬢様、ハジメさん。これ以上この方達に威圧と殺意を向けるのを止めて下さい。迂闊に話す事が出来無くなっている状態です」

 

虎の亜人の背後から聞こえた声に、この場に居た亜人族全員が驚愕した。背後から声が聞こえた等の本人はゆっくりと後ろに振り向き、深月の姿を視認して身体を震わせながら大量の冷や汗を流している

 

(・・・あり得ない。一体何時から其処に居た!隠密に特化した者であろうと匂いで分かる!だが、この人間はいきなり其処に現れた!何をどうすればそれ程までに極まる!?)

 

殺気を発していない深月だが、虎の亜人は本能で理解した。飛び掛かれば細切れにされて死ぬと錯覚させる程だ。深月が手をパンッと叩くとビクッと身体を震わせたが、何も起こらない。ただ目の前に立っており、頭を下げた

 

「驚かせて申し訳御座いません。私達は樹海の深部、大樹の下へ行く為にこのハウリア達に道案内を報酬に命を助けました。貴方方に迷惑を掛けるつもりは無かったのですが、改めて謝罪致します」

 

「あ、あぁ・・・そうか。しかし、大樹の下へ・・・だと?何の為に?」

 

今まで見てきた人間に比べると謙虚で、誠実な者だと認識した虎の亜人。てっきり亜人を奴隷にするため等という自分達を害する目的なのかと思っていたら、神聖視はされているものの大して重要視はされていない"大樹"が目的と言われ若干困惑する。"大樹"は、亜人達にしてみれば樹海の名所のような場所に過ぎないのだ

 

「私達四人―――――あちらに居る白髪の男性と女性の二人と、金髪の女性と最後に私。七大迷宮の攻略を目指して旅をしております。本当の大迷宮への入口は大樹だと想定して動いております」

 

「本当の迷宮?何を言っている?七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進む事も帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

 

「それはおかしいわ」

 

「あぁ、この樹海にいる魔物達は酷く弱いからだ」

 

「弱い?」

 

「そうよ。大迷宮の魔物は、どいつもこいつも化物揃いだったの。少なくともオルクス大迷宮の奈落はそうだったのよ」

 

「大迷宮というのは、"解放者"達が残した試練なんだ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろ?それじゃあ、試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮ってのはおかしいんだよ」

 

「・・・」

 

虎の亜人は深月の謝罪から冷静さを取り戻しており、ハジメと皐月の言っている事を冷静に聞いている。普段ならば戯れ言と言って切り捨てているが、今まで出会った人間よりも違う事から真面目に考えている。この場で追い返そうものなら、この人間達は自分達を排除する可能性が少なからず有る。目的を果たさせれば無意味に命を散らす事も無いだろうと理解

ささと目的を果たして立ち去って貰いたいが、自分の一存で野放しにするわけにも行かない。この問題は完全に手に余ると判断し、リーダーであろうハジメでは無く、一番異質である深月に提案した

 

「・・・お前達が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」

 

その言葉に、動揺する気配に気付く深月。樹海の中で、侵入して来た人間族を見逃すということが異例だからだろうと直ぐに理解出来た

 

「周りが動揺しておりますが、本当に宜しいのですか?」

 

「一警備隊長の私如きが独断で下していい判断では無い。だが、本国に指示を仰ぐ。お前達の話も、長老方なら知っている方もがおられるかもしれない。お前達に、本当に含む所が無いというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

 

深月はハジメと皐月をチラリと一目見て頷く

 

「さっきの言葉、曲解せずにちゃんと伝えろよ?」

 

「無論だ。ザム!聞こえていたな!長老方に余さず伝えろ!」

 

「了解!」

 

ハジメと皐月はドンナーをホルスターに納めて待機する。深月は虎の亜人の背後から皐月の側に移動、戦闘態勢を解かれた状態を好機と判断した亜人が居たが、それは止められる

 

「奴らに攻撃はするな!こちらが何もしなければ向こうも何もしない!・・・もしも攻撃したら俺達は全滅すると思え!」

 

「俺達は向かってくる敵には一切容赦しないからよ~く理解しろよ?」

 

「・・・お前達が強いのは理解している。そして、一番異質な強さを持っているのはそこの白銀髪の女だろう。確実にお前達二人よりも強いと断言出来る」

 

「お褒め頂き有り難う御座います」

 

「褒めていない。恐怖しているだけだ」

 

「深月は私達三人が束になっても勝てないからね?」

 

皐月の強調された言葉に呆然とする亜人達。待っている時間は退屈で、皐月がハジメとイチャついてとても甘~い空気になっている。ユエが少しだけ不機嫌になるが、皐月に招かれて一緒にイチャつき始めた。シアも「私もかまってください~」と良いながら突撃するが深月の容赦無い捕縛技術によって拘束、正座させて足の上に何時準備したのか分からない石板を積み重ねられていた

 

「ハジメさんに甘えて良いのは、お嬢様とユエさんだけですよ。貴女は万年発情兎ですか?」

 

「ち、ちがいますぅ~!構って欲しいだけです!お二人だけずるいじゃ無いですか!・・・・・ちょっと待って下さい深月さん。その巨大な石板を乗せるつもりなんですか!?乗せたら足が死んじゃいます!た、助けて下さい皐月さん!」

 

「ギルティ―――――やっちゃいなさい深月。発情兎にはお灸が必要よ」

 

「では遠慮無く乗せましょう」

 

「や、止め―――――――にぎゃあああああああああ!!」

 

周囲の亜人達は呆れを半分含ませた生暖かな視線で見つめていると、何かが近づいている気配がした。場に緊張が漂うも、深月によって追加された石板によって悲鳴を上げるシアの声が全てを台無しにさせていると、霧の奥から数人の新しい亜人族――――森人族(エルフ)が居たのだ

 

(は、ハジメ!エルフ!エルフが居る!!生エルフ!!)

 

(落ち着け皐月。エルフを見て感動するのは良いが、今はそれどころじゃないだろ)

 

(・・・皐月・・・落ち着く)

 

(・・・はい。落ち着きました)

 

様子を見ていたハジメと深月は、彼が亜人達の中心に立っていた事から"長老"と呼ばれる存在であると推測した

 

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね?名は何という?」

 

「ハジメだ。南雲ハジメ。あんたは?」

 

ハジメの言葉遣いに憤りを見せるも、それを片手で制止させて彼も名乗り返す

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが・・・その前に聞かせてもらいたい。"解放者"とは何処で知った?」

 

「うん?オルクス大迷宮の奈落の底、解放者の一人、オスカー・オルクスの隠れ家だ」

 

「ふむ、奈落の底か・・・聞いたことがないがな・・・証明出来るか?」

 

「証明か・・・俺自身の強さじゃ駄目だからなぁ」

 

咄嗟に何も思い付かないハジメだが、皐月が素材やオルクスが身に着けていた指輪をと提案。ハジメはポンと手を叩き、"宝物庫"から地上の魔物では有り得ない質を誇る魔石をいくつか取り出して指輪と一緒に渡す

 

「こ、これは・・・こんな純度の魔石、見た事がないぞ・・・」

 

アルフレリックは少々驚いていたが、隣に居た虎の亜人は驚愕の余り声が漏れ出ていた

 

「なるほど・・・確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着いたようだ。他にも色々気になるところはあるが・・・よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

前例に無い結論に、虎の亜人を筆頭に異を唱えて猛反対する亜人族。先程言った通り前例が無いのだ。今までフェアベルゲンに人間族が招かれた事など無かったのだから

 

「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」

 

アルフレリックが厳しい表情で周囲の亜人達を宥めが、今度はハジメ達の方が抗議の声を上げた

 

「待て。何勝手に俺の予定を決めてるんだ? 俺は大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はない。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてもらう」

 

「私達はさっさと迷宮を攻略したいのよ」

 

「いや、お前達。それは無理だ」

 

「なんだと?」

 

「え?」

 

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。・・・亜人族なら誰でも知っているはずだが・・・」

 

「何?」

 

「・・・なるほどねぇ~」

 

アルフレリックを初めとし、ハジメと皐月の二人がカムの方へと視線を向ける。そのカム本人はというと、「あっ」と声を漏らした。今まで気付かなかったのだろう・・・深月は空気を読んで準備を開始する

ハジメはというと、額に青筋を浮かべながらジト目で見る

 

「カム?」

 

「あっ、いや、その何といいますか・・・ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか・・・私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか・・・」

 

「忘れてたと言いたいのね?」

 

「ええい、シア、それにお前達も!なぜ、途中で教えてくれなかったのだ!お前達も周期のことは知っているだろ!」

 

「なっ、父様、逆ギレですかっ!私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って・・・つまり、父様が悪いですぅ!」

 

「そうですよ、僕たちも、あれ?おかしいな?とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって・・・」

 

「族長、何かやたら張り切ってたから・・・」

 

責任の擦り付けが始まった

 

「お、お前達!それでも家族か!これは、あれだ、そう!連帯責任だ!連帯責任!ハジメ殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」

 

「あっ、汚い!お父様汚いですよぉ!一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」

 

「族長!私達まで巻き込まないで下さい!」

 

「バカモン!道中の、ハジメ殿の容赦のなさを見ていただろう!一人でバツを受けるなんて絶対に嫌だ!」

 

「あんた、それでも族長ですか!」

 

兎人族の情の深さは随一といわれているが、見ていられない・・・段々とハジメと皐月の苛立ちが増していく。そして、ハジメと皐月は一言呟く

 

「・・・ユエ」

 

「・・・深月」

 

「ん」

 

「土に埋める準備は出来ていますよ?」

 

ハジメの言葉に一歩前に出たユエがスっと右手を掲げ、皐月の錬成で掘られた穴の側に深月が居る。それに気がついたハウリア達の表情が引き攣る

 

「まっ、待ってください、深月さんユエさん!やるなら父様だけを!」

 

「はっはっは、何時までも皆一緒だ!」

 

「何が一緒だぁ!」

 

「深月殿、ユエ殿、族長だけにして下さい!」

 

「僕は悪くない、僕は悪くない、悪いのは族長なんだ!」

 

ギャアギャアと喚くハウリア達に薄く笑い、ユエは静かに呟く

 

「"嵐帝"」

 

『――――アッーーーー!!!』

 

天高く舞い上がるウサミミ達の声が、樹海に彼等の悲鳴が木霊する。同胞が攻撃を受けたはずなのに、アルフレリックを含む周囲の亜人達の表情に敵意は無かった。むしろ、呆れた表情で天を仰いでいる。彼等の表情が、何より雄弁にハウリア族の残念さを示していた

高ーく舞い上がり、皐月が掘った穴の中へと墜落。一人一人首だけが出る様に深月が支えて地面を埋める。全員の処理が完成した今、最大級のお仕置きが彼等を待っていた。深月が手に持っているのは、見るからにヤバそうな麻婆豆腐擬き。赤を通り越した真っ赤・・・マグマの様なそれは周囲に居た鼻の良い亜人達を全員ノックアウトさせていたのだ

 

「麻婆・・・うっ頭が・・・」

 

「食べるのは嫌だけど・・・この残念ウサギ達にはお似合いよ」

 

「・・・あれは毒物」

 

因みに三人はオルクスの拠点にて一口だけ食べた事があった。・・・いや、食べさせられたと言っても過言では無い。深月が美味しい美味しいと何事も無く食べていたので、興味を持った三人が一口食べてぶっ倒れてしまったのだった。毒耐性を貫いて襲い掛かる刺激だった為、深月が作る麻婆系は食べない事を決意したのであった

まぁ、そんな代物を手に持っているのだ。最早言うまでも無いだろう

 

「さぁ口を開けて下さい。大丈夫です。美味しいですよ?」

 

安心させる為に深月が一口食べて何事も無いと見せる。それに安心したカムは、先陣を切って深月が差し出すスプーンに乗せられた麻婆を一口―――――――――

 

「ッーーーーーーー!?」

 

「吐き出しては駄目ですよ?食材に感謝を込めて食べるのです。飲み込めないというのであれば手助けを致しましょう!」

 

カムの口を手で塞ぎ、顔を上に上げて鼻を塞いで強制的に飲み込ませた。そこからは、ガクガクガクと身体を震わせ「ゴアーーー!」や「グエエエーーーー!」等の奇声を発して、燃え尽きたかの様に沈黙する。少しの間の沈黙から回復して奇声を発して沈黙を繰り返す

 

「では、お次はシアさんですよ。口を開けて下さい。メイドのあ~んは希少価値がありますよ?」

 

「い、嫌です!死にたくない!死にたくなぶるえああーーーーーーー!!」

 

機械の様にせっせとハウリア達の口へ麻婆を放り込んで行く深月。全員に食べさせた後はお決まりの

 

「皆さんも食べますか?美味しいですよ?」

 

『要らんわっ!!』

 

「・・・そうですか。残念です・・・」

 

残っていた分は全て深月のお腹の中へと処理されました。こうして、ハウリア達の制裁は成されたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「あれ?メイドさんが食べている物体Xって・・・」
深月「有名処の飲食店料理を食べている時に出会った衝撃の一品です」
布団「・・・お店の名前は?」
深月「そこまでは覚えていないのですが――――」
布団(思い過ごしか)ホッ
深月「店内ポスターにて"泰山の麻婆神父直伝"と書かれていたのは印象に残っています」
布団「あっ・・・」
深月「神父が何故麻婆を伝えているのか理解出来ませんでしたが、食べてみれば別の景色が見えたのです!」
布団(違う景色でも地獄しか見えなさそうなんですけど・・・)
深月「辛いだけでは無いのです!もう一口、もう一口――――と欲求を沸かせるあの旨さを未だ再現出来ていないのです!!あ、作者さんも一口如何ですか?」
布団「ニゲルンダァ」
深月「逃がしませんよ!」
布団「フザケルナ!フザケルナ!バカヤロオオオオオオオ!  ヴェアアアアアアアアアアアアア!」
深月「どうですか?美味しいですよね?」
布団「  」チーン
深月「ゴホン。・・・感想、評価どうぞ宜しくお願い致します。投票の方は・・・・・よしっ!!」


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メイドは進化し続ける

布団「誤字報告ありがとうなんですうううううう!」
深月「忙しい中頑張りましたね」
布団「作者のモチベは感想で出来ているんです!」
深月「おふざけもこの辺にしてパパッといっちゃいましょう」
布団「いつの間にかお気に入りが1000超えていた事に驚きを隠せない作者でした。そして読者の皆様!麻婆神父は宝石爺によってやって来た伝道者なんだ!」
深月「作者さんも麻婆を食べましょう?」
布団「そんな物を食べたら作者が失踪しちゃう」ガクブル
深月「モッキュモッキュ。では、処理も済みましたので行きましょう。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」





~皐月side~

 

残念ウサギ共を制裁し終えた私達は、亜人達とフェアベルゲンへと歩いていると、霧が少しだけ晴れた一本の道が有って其処を辿っているわ。まるで霧のトンネル・・・道の端に誘導灯のように青い光を放つ拳大の結晶が地面に半分埋められてるわね。何かの境界線の様な物なのかしら?

私とハジメが結晶に注目している事に気が付いたのかアルフレリックが解説を買って出てくれた

 

「あれは、フェアドレン水晶というものだ。あれの周囲には、何故か霧や魔物が寄り付かない。フェアベルゲンも近辺の集落も、この水晶で囲んでいる。まぁ、魔物の方は"比較的"という程度だが」

 

「なるほど。そりゃあ、四六時中霧の中じゃあ気も滅入るだろうしな。住んでる場所くらい霧は晴らしたいよな」

 

「ふ~ん。・・・街の中は霧に覆われていないって事ね」

 

話しをしながら歩いていると、巨大な門が佇んでいた。太い樹と樹が絡み合ってアーチを作っており、其処に木製の十メートルはある両開きの扉が鎮座していた。天然の防壁は高さが最低でも三十メートルはあり、亜人の"国"というに相応しい威容を感じれた。門番の亜人族に合図を送り、重たそうな扉がギギギッと音を立てながらゆっくりと開いて行く。この間に突き刺さる様な視線は恐らく亜人族達だろう。前例の無い人間族の訪問は何かしらの一悶着を呼ぶのだが、それを察して長老自らが出て来たのであろう

門を潜ると、そこは別世界の様だった。巨大な樹が乱立しており、その樹の中を住居としているのだろうか――――ランプの明かりが樹の幹に空いた窓と思しき場所から溢れている。人が優に数十人規模で渡れるであろう極太の樹の枝が絡み合い空中回廊を形成し、樹の蔓と重なり、滑車を利用したエレベーターのような物や樹と樹の間を縫う様に設置された木製の巨大な空中水路まで存在していた。ハジメと皐月とユエの三人はその美しい街並みに見蕩れて、深月は生活風景を観察していると、ゴホンッと咳払いが聞こえた。どうやら、気がつかない内に立ち止まっていたらしくアルフレリックが正気に戻してくれたようだ

 

「ふふ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」

 

「ああ、こんな綺麗な街を見たのは始めてだ。空気も美味い。自然と調和した見事な街だな」

 

「まるでお伽噺に出て来そうな光景・・・」

 

「ん・・・綺麗」

 

「私としては、亜人族の方々がどの様に生活しているのかを拝見したいですね」

 

ありのままの称賛。そこまで褒められるとは思っていなかったのか少し驚いた様子の亜人達。・・・やはり故郷を褒められたのが嬉しいのか、皆、ふんっとそっぽを向きながらもケモミミや尻尾を勢いよくふりふりしている。ハジメ達は好奇と忌避、あるいは困惑と憎悪といった様々な視線を向けられながら、アルフレリックが用意した場所に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

「・・・なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か・・・」

 

四人はアルフレリックと向き合い、オルクス迷宮で知った事を話していた。その他にも、迷宮を創り上げた解放者や神代魔法、故郷に帰る方法等諸々だ。アルフレリックから教えられた事は少なかったが、重要な点と言う事は間違い無いだろう。フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟――――それは、この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと、そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くことという何とも抽象的な口伝だった

ハルツィナ樹海の大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが、迷宮攻略者の脅威を踏まえての口伝だった事が分かった。そして、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ

 

「解放者ハルツィナは心優しいわね。普通そういう事は伝えないと思うのに」

 

「本当にそうだな。だが、残虐な奴等には意味無いだろうがな」

 

「その様な者は目を見ずとも、雰囲気だけで分かるものだ」

 

「・・・気配が独特」

 

「ですが、問題が幾つか有りますね。口伝の中に含まれる"気に入った者"―――――恐らくこれが鍵でしょう。お嬢様の勘はこれに反応したのではないでしょうか?」

 

「そうよねぇ・・・やっぱりそうなるよねぇ・・・・・」

 

「あー。・・・迷宮に関してなのか?」

 

「予測ですが、ハルツィナ大迷宮を攻略する際に亜人族が必要かと・・・」

 

「マジかよ」

 

「確定ではありません。ですが、可能性は大きいかと思われます」

 

迷宮攻略の鍵は亜人族の可能性が出て来た事を知ったハジメは落ち込むが、皐月の一言でそれは吹き飛ぶ

 

「こうなったら最終手段よ。深月が徹底的に亜人族の一人を鍛えたら問題が全て解決するわ!」

 

「おっ、そうだな。生け贄を一人連れて行けば良いのか」

 

「・・・深月と特訓は地獄」

 

「アルフレリックさん。特訓してみますか?」

 

「い、いいや・・・遠慮させて頂く。歳には勝てんのでな。恐らく何処かが駄目になってしまう」

 

「話を変えまして―――――後程、亜人族の方々の生活風景を見せて頂けませんか?」

 

「私と一緒に行動してくれるのであれば構わないが・・・宜しいかな?」

 

「では、その様に」

 

ハジメとアルフレリックが今後の予定を確認し合おうと話し出そうとした時、階下が騒がしくなった。階下にはシア達ハウリア達が待機しているので、何かしらのトラブルが起きたのだろう。ハジメとアルフレリックは顔を見合わせ、同時に立ち上がって下へ降りて行くと、様々な亜人族達が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。部屋の隅で縮こまるシアをカムが必死に庇っており、シアもカムも頬が腫れている事から既に殴られた後のようだ。ハジメ達に気が付いた熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言した

 

「アルフレリック・・・貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた?こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど・・・返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

 

「何が口伝だ!そんなもの眉唾物ではないか!フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

 

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

 

「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか!敵対してはならない強者だと!」

 

「そうだ」

 

この亜人族の長老の方々は口伝を守らないのですか?もしや、アルフレリックさんの様な厳守派が珍しいのでしょうか?この流れから察するに強硬手段に出ますね。ハジメさんの前に出ておきましょう

 

誰にも悟られずに気配を溶け込ませて移動、そして案の定深月の予感は的中しており

 

「・・・ならば、今、この場で試してやろう!」

 

いきり立った熊の亜人が突如、ハジメに向かって突進した。余りにも突然の出来事に周りも、アルフレリックも反応が出来無かった。だが、熊の拳はハジメに直撃する事は叶わなかった。深月がいきなりハジメの目の前に居たことに驚愕した亜人族だが、熊の亜人はそんなもの知った事か!といわんばかりに、豪腕を振り抜いた

 

「力尽くでどうにか出来るとでもお思いですか?」

 

深月も動く。豪腕を受け止める為に左の掌で受け止めると同時に、右手を相手の胸部手前に突き出すと――――――相手がトラックに衝突したかの様に大きく吹き飛んだのだ。これには皆が唖然とした。壁を突き破る程の勢いで吹き飛んだ熊の亜人はそのまま下へと落下、様子を見るからにそれ程の怪我では無いのは間違いないだろう

 

「因みに、私からは攻撃していませんよ?」

 

「嘘だ!」と叫びたい一同だが、感覚の優れている亜人族は深月が攻撃していない事実は知っている。だが、何故熊の亜人が吹き飛ばされたのかが理解出来無いのだ。右手は胸部に当たらない程度で止めていた事を見ていた・・・だが、何かに飛ばされたのは事実だからだ

 

「答えは――――――攻撃の衝撃を相手にお返ししたからです」

 

『は?』

 

「私はオルクス迷宮での苦戦から学んだのです。受け流せないのであれば、返せばいいと!」

 

『いや、その発想がおかしい』

 

全くもってその通りである。深月の行ったことについて説明しよう!

左手で相手の攻撃を受け止めた時に生まれた衝撃を右手に流したのだ!人間の身体に限らず、生き物の身体は殆どが水分で出来ている。衝撃を気で包みこんで水の中を移動させて放出・・・深月といえど無理なのだが、この世界に転移した時に魔力の存在に注目を置いたのだ。「気だけで駄目なら魔力も使おう!」――――――気は身体の循環に充てて、魔力は衝撃を包む膜としたのだ。結果はご覧の通り。魔力で包み込んだ衝撃を、気の循環で放出したい場所へ素早く持って行きポイしちゃった!である

 

「万〇の杖じゃねぇぞ・・・」

 

「知識無しで此処まで出来るってぇ・・・」

 

「・・・もしかして魔法も対象?」

 

「魔法も試してみましたが、無理でしたよ?」

 

「・・・なら問題な――――」

 

「ですが、取り込んで纏う事は出来ました」

 

『  』呆然

 

「あっ、何時もの事なので気にしちゃ駄目よ?」

 

『何時もの事なのか!?』

 

いつも通り、意味不明な技術をいつの間にか体得しているのである。もう、「深月だから」という事で割り切った方が色々と楽なのだ

 

「で?お前らは俺の敵か?」

 

ハジメの威圧が全体に広がり、その言葉に頷く者は誰一人居ない

深月が熊の亜人を吹き飛ばした後、アルフレリックが執り成す事で威圧は解かれ戦闘・・・では無く、蹂躙劇を回避する事が出来たのは亜人族達にとって幸いだっただろう。熊の亜人は胸部を複雑骨折と足首の脱臼だけだった。深月は、吹き飛ばす際に魔力糸を片足に巻き付けていたからだ。もしも、地面に落下となればこれだけでは済まなかっただろう

現在、当代の長老衆がハジメと向かい合って座っていた。ハジメの傍らには皐月と深月とユエとカム、シアが座り、その後ろにハウリア族が固まって座っている

 

「で? あんた達は俺等をどうしたいんだ?俺は大樹の下へ行きたいだけで、邪魔しなければ敵対することもないんだが・・・亜人族(・・・)としての意思を統一してくれないと、いざって時、何処までやっていいかわからないのは不味いだろう?あんた達的に。殺し合いの最中、敵味方の区別に配慮する程、俺はお人好しじゃないぞ」

 

「こちらの仲間を倒しておいて、第一声がそれか・・・それで友好的になれるとでも?」

 

「え?何言ってるの?先に攻撃して来たあの熊さんを深月が返り討ちにしただけ。再起不能になって無いだけマシでしょ?ハジメが処理していたら、あれ以上の怪我になっていたのよ?」

 

「き、貴様!ジンはな!ジンは、いつも国の事を思って!」

 

「それが、初対面の相手を問答無用に殺していい理由になるとでも?」

 

「そ、それは!しかし!」

 

「勘違いするなよ?俺が被害者で、あの熊野郎が加害者。深月は俺を護る為の正当防衛だ。長老ってのは罪科の判断も下すんだろ?なら、そこの所、長老のあんたが履き違えるなよ?」

 

「深月の攻撃というよりも、自分の攻撃が自身に返ってきただけよ。それをとやかく言われるのは間違いよ。話し合いの場で攻撃するなら普通寸止めするわよ?」

 

頭ではハジメと皐月の言う通りだと分かっていても心が納得しないのだろう。だが、そんな心情を汲み取ってやるほど、二人はお人好しではない

 

「グゼ、気持ちはわかるが、そのくらいにしておけ。彼の言い分は正論だ」

 

長老衆は互いを視線でやり取りした後ハジメ達に代表としてアルフレリックが伝える

 

「南雲ハジメ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを口伝の資格者として認める。故に、お前さん達と敵対はしないというのが総意だ・・・可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。・・・しかし・・・」

 

「絶対じゃない・・・か?」

 

「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に、今回再起不能にされたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな・・・」

 

「それで?」

 

「お前さんを襲った者達を殺さないで欲しい」

 

「「えぇ・・・」」

 

ハジメと皐月はいかにも面倒くさそうな表情を浮かべる

 

「殺意を向けてくる相手に手加減しろと?」

 

「そうだ。お前さん達の実力なら可能だろう?」

 

「あの熊野郎が手練だというなら、可能か否かで言えば可能だろうな。だが、殺し合いで手加減をするつもりはない。あんたの気持ちは分かるけどな、そちらの事情は俺にとって関係のない物だ。同胞を死なせたくないなら死ぬ気で止めてやれ」

 

「・・・まぁ、私は別に良いわ。但し!再起不能になっても文句は言わせ無いわよ?私達は奈落で培った経験は、"敵対者は殺す"という事よ。四六時中狙われ続ける日々を送っていたから、"つい"殺っちゃっても文句は聞か無いわ」

 

しかし、そこで虎人族のゼルが口を挟んだ

 

「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」

 

「いや、ハウリア達に道案内を任せているから要らねぇよ」

 

「そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

虎人族の言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もシアを責めないのだから情の深さは折紙付きだ

 

「長老様方!どうか、どうか一族だけはご寛恕を!どうか!」

 

「シア!止めなさい!皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」

 

「でも、父様!」

 

「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」

 

「そういうわけだ。これで、貴様が大樹に行く方法は途絶えたわけだが?どうする?運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」

 

こちらの要求を飲めと言外に伝えてくる虎人族。他の長老衆も異論は無いようだが、ハジメ達は特に焦りを浮かべることも苦い表情を見せる事も無く、何でもない様に軽く返した

 

「お前、アホだろ?」

 

「な、なんだと!」

 

「そこのハウリア達は私達の物なのよ。彼等と契約した内容は、"大樹の元まで案内する事""その間は守る"という事なの」

 

「俺達は、お前らの事情なんて関係ないって言ったんだ。こいつらを奪うって事は、結局、俺達の行く道を阻んでいるのと変わらないだろうが」

 

ハジメは泣き崩れているシアの頭に手を乗せた。深月はほんの少しだけ皐月の雰囲気が悪くなった事を把握した

 

「俺から、こいつらを奪おうってんなら・・・覚悟を決めろ」

 

「ハジメさん・・・」

 

はぁ・・・ハジメさん。女誑しを此処でも発揮しますか。シアさんの心拍が僅かに上昇、そして落ち着きを取り戻しましたか・・・惚れましたねこのウサギは。まぁ、全てはお嬢様方が決める事ですので私は口を出しませんよ?但し、"口を出さない"だけです。今の立ち位置は、ハジメさんを狙うウサギですから

 

「本気かね?」

 

「当然だ」

 

「フェアベルゲンから案内を出すと言っても?」

 

「何度も言わせるな。俺の案内人はハウリアだ」

 

「何故、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう」

 

「約束したからな。案内と引き換えに助けてやるって」

 

「・・・約束か。それならもう果たしたと考えても良いのではないか?峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう?なら、あとは報酬として案内を受けるだけだ。報酬を渡す者が変わるだけで問題なかろう」

 

「問題大有りだ。案内するまで身の安全を確保するってのが約束なんだよ。途中でいい条件が出てきたからって、ポイ捨てして鞍替えなんざ・・・」

 

ハジメは一度、言葉を切って三人を見て、目が合うと僅かに微笑む。それに苦笑いしながら肩を竦めたハジメはアルフレリックに向き合い告げた

 

「格好悪いし、筋が通らねえだろ?」

 

ハジメ達に引く気がないと悟り、アルフレリックが深々と溜息を吐く。他の長老衆がどうするんだと顔を見合わせた。しばらく静寂が辺りを包み、やがてアルフレリックがどこか疲れた表情で提案した

 

「ならば、お前さんの奴隷という事にでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰って来なかった者、奴隷として捕まった事が確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬ様に死亡と見なして後追いを禁じているのだ。・・・既に死亡と見なしたものを処刑は出来まい」

 

「アルフレリック!それでは!」

 

「ゼル。分かっているだろう。この少年達が引かない事も、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対する事になる。その場合、どれだけの犠牲が出るか・・・長老の一人として、その様な危険は断じて犯せん」

 

「しかし、それでは示しがつかん!力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」

 

「だが・・・」

 

色々と面倒事が多いのですね・・・仕方がありません。妥協案を出しましょう

 

「口伝に従うのであればシアさんを見逃す程度気にしなくても宜しいでしょうに・・・」

 

「何?」

 

深月は魔力操作で纏雷を使い、指先にスパークを発生させる。長老衆は、その異様に目を見開いた。そして、詠唱も魔法陣も無く魔法を発動した事に驚愕を表にする

 

「私達四人は直接魔力操作を行う事が出来ますし、固有魔法も有しております。口伝では"それがどのような者であれ敵対するな"と申された筈です。掟に従うのであれば私達も含めてですので、そこに一人加わるだけです。落とし処としては十分だと思いませんか?」

 

長老衆は、顔を見合わせヒソヒソと話し始めた。そして、結論が出たのか、代表してアルフレリックが・・・それはもう深々と溜息を吐きながら長老会議の決定を告げる

 

「はぁ~、ハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、同じく忌み子である南雲ハジメの身内と見なす。そして、資格者南雲ハジメに対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、南雲ハジメの一族に手を出した場合は全て自己責任とする・・・以上だ。何かあるか?」

 

「いや、何度も言うが俺達は大樹に行ければ良いんだ。こいつらの案内でな。文句はねぇよ」

 

「・・・そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが・・・」

 

「気にしないでくれ。全部譲れない事とは言え、俺達の方こそ相当無茶言ってる自覚は有るんだ。むしろ理性的な判断をしてくれて有り難い位だよ」

 

ハジメは立ち上がり、呆けているハウリア達を促してこの場をさっさと離れて行く。少しばかりボーッとしていたハウリア達も気が付いたのか、ハジメの後を追う様に小走りで付いて行った。アルフレリックを含め、他の長老達は渋く、疲れた様な表情だ

最後にその場を離れようとした深月は、長老達に一言だけ忠告する

 

「本当に手を出さないで下さいね?ハジメさんがあの様に宣言されたのであれば、"死"を覚悟して下さい。私からの忠告はこれだけです」

 

ハウリア達の後ろにから付いて行く深月の背を見て、長老達は再び大きいため息を吐いた

 

念には念を入れて忠告しましたが、反応から察するに何人かは仕掛けて来そうですね。この数日の間でハウリア達の価値観を変えなければ、全滅するでしょうね

 

背中から伝わる不快感や憎悪の視線に、ため息を吐く深月。勿論、ハジメ達三人もこの視線に気付いている

フェアベルゲンから離れ、ハジメがさり気なく盗ん・・・貰ってきたフェアドレン水晶を使って、簡易的な拠点を作り一息ついているハウリア達にハジメは

 

「さて、お前等には戦闘訓練を受けて貰おうと思う」

 

切り株などに腰掛けながら、ウサミミ達はポカンとした表情を浮かべた

 

この方達は本当に現状を理解出来ていないのですね・・・

 

ハジメの牙がハウリア達に襲い掛かるまで後少し――――――

 

 

 

 




布団「アンケートの時間だ!」
深月「私の願いが叶うのですね」ヤッター♪
布団「R-18アンケートだ☆」
深月「私の勝利は確定ですね♪」
布団「ま、まぁ・・・予想以上にって言うか・・・・・続きを所望されたというか」
深月「赤バーですからね。・・・何故に人気があったのでしょうか?」
布団「ありふれR―18が物の見事に少ないからじゃない?」
深月「あぁ成る程。・・・・・と、それは置いておきましょう」
布団「そ、そうだった!作者は頑張って書いていくよ!」
深月「感想、評価宜しくお願い致します。アンケートも宜しくお願い致します!」
布団(メイドさんの予想通りとはいかないけどねぇ~)
深月「何か仰いましたか?」
布団「イイエケフィアデス」


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メイドは観察するつもりです

布団「投稿だよー」
深月「全く!意味深回を二つも投稿するなんて何を考えているんですか!」
布団「筆が進んでしまったんだっ!」
深月「お気に入り件数が1400を超えていますよ作者さん!」
布団「(゚Д゚)エッ・・・イツノマニ」
深月「これは記念回を書きましょうと私に言っている様な物ですよ!」
布団「えぇ・・・。ま、まぁ?1500に行けばだけどぉ?期待しないでね♪」
深月「へぇ・・・・・そう言えば、アンケートの結果を言っていませんよね?」
布団「原作通りになったのさ・・・」
深月「作者さんの本音はどちらですか?」
布団「ケモナーメイドだったよ!」
深月「ザマァ無いですね!私とお嬢様のイチャイチャ回を出さなかったツケが回ってきたと思って下さい!」
布団「あ、あれはっ!読者達のアンケート結果なんだよぉ!」
深月「これもですよね?」
布団「ウワァアアアアアアアアアアアアアン!」
深月「作者さんはまた放置しまして、読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」










~皐月side~

 

「さて、お前等には戦闘訓練を受けてもらおうと思う」

 

ハジメの言葉を理解出来無かったのか、ハウリア達はポカンとした表情を浮かべている

 

「え、えっと・・・ハジメさん。戦闘訓練というのは・・・」

 

「そのままの意味だ。どうせ、これから十日間は大樹へはたどり着けないんだろ?ならその間の時間を有効活用して、軟弱で脆弱で負け犬根性が染み付いたお前等を一端の戦闘技能者に育て上げようと思ってな」

 

「な、何故、そのような事を・・・」

 

うわぁ・・・この残念ウサギ達は全然理解していないわ。危機感を感じていないなんて本当に頭大丈夫かしら?

 

「何故?何故と聞いたか?残念ウサギ」

 

「あぅ、まだ名前で呼んでもらえない・・・」

 

「いいか、俺がお前達と交わした約束は、案内が終わるまで守るというものだ。じゃあ、案内が終わった後はどうするのか、それをお前等は考えているのか?」

 

ハジメの言葉にハウリア族達が互いに顔を見合わせ、ふるふると首を振っているわね。・・・不安から逃げる様に頭の隅へと追いやったのね。まぁ、温厚な種族って知ってたからこうなる事は予測済みね。・・・でも、現実逃避ばかりしていたら何も変らないし、変えられない。

 

「まぁ、考えていないだろうな。考えた所で答えなど無いしな。お前達は弱く、悪意や害意に対しては逃げるか隠れる事しか出来ない。そんなお前等は、遂にフェアベルゲンという隠れ家すら失った。つまり、俺の庇護を失った瞬間、再び窮地に陥るというわけだ」

 

『・・・』

 

ハジメのド正論の言葉に、ハウリア達は暗い表情で俯く

 

「お前等に逃げ場はない。隠れ家も庇護も無い。だが、魔物も人も容赦なく弱いお前達を狙って来る。このままではどちらにしろ全滅は必定だ・・・それでいいのか?弱さを理由に淘汰される事を許容するか?幸運にも拾った命を無駄に散らすか?どうなんだ?」

 

「そんなものいいわけがない」

 

「そうだ。いいわけがない。ならば、どうするか。答えは簡単だ。強くなれば良い。襲い来るあらゆる障碍を打ち破り、自らの手で生存の権利を獲得すれば良い」

 

「・・・ですが、私達は兎人族です。虎人族や熊人族の様な強靭な肉体も翼人族や土人族のように特殊な技能も持っていません・・・とても、そのような・・・」

 

兎人族は弱いという常識が彼等を支配している。どうやっても勝てないと思い込んでいるのだ

 

「はぁ・・・見てられないわね。良い?私達だって最初からこんなに強かったわけじゃ無いのよ?」

 

「俺達二人はかつての仲間から"無能"と呼ばれていたぞ?」

 

「え?」

 

「"無能"って言ったのよ"無能"って。ステータスも技能も平凡極まりない一般人で私はハジメよりも弱かったわ。仲間内の最弱。戦闘では足でまとい以外の何者でもない。故に、かつての仲間達からは"無能""深月無しでは何も出来ない"と呼ばれていたのよ。実際、その通りだったし・・・」

 

皐月の告白にハウリア族は例外なく驚愕する。ライセン大峡谷の凶悪な魔物を苦もなく一蹴したハジメと皐月の二人が"無能"で"最弱"など誰が信じられるというのか

 

「因みに私も最初から強かったわけではありませんよ?子供の時から死に物狂いで獲得した強さですから」

 

「「深月はこの世界に来てからはチートだろ(でしょ)」」

 

「酷いですよお嬢様、ハジメさん!八歳の時に戦闘訓練、九歳からは未知の生物たちが蔓延る人工島に着の身着のままで放り出された結果なのですよ!?」

 

「「それで生きていた深月がおかしいんだよ(のよ)」」

 

「・・・深月は化け物」

 

「私はメイドです!」

 

「・・・ん"んっ!ま、まぁこの様に、最初は誰しもが弱いという事は変わりないわ。深月を除いて。追い込みに追い込んだ結果が私達―――――死に物狂いでやれば大抵の事は出来る筈よ」

 

「皐月の言う通りだ。奈落の底に落ちて俺達は強くなる為に行動した。出来るか出来ないか何て頭に無かった。出来なければ死ぬ、その瀬戸際で自分の全てを賭けて戦った。・・・気がつけばこの有様さ」

 

ハジメ達から淡々と語られる内容は壮絶、その内容にハウリア族達の全身を悪寒が走る。ハウリア達よりも低スペックな一般人ステータスで、ライセン大峡谷の魔物より遥かに強力な化物達を相手にして来たというのだ。追い込みに追い込んだ結果、最弱であろうとも、生き残る為に強者へと挑む精神の異様さにハウリア達は戦慄した。もしも、自分達なら―――――と想像すると、絶望して諦め諦観と共に死を受け入れただろう

 

「お前達の状況は、かつての俺達と似ている。約束の内にある今なら、絶望を打ち砕く手助けくらいはしよう。自分達には無理だと言うのなら、それでも構わない。その時は今度こそ全滅するだけだ。約束が果たされた後は助けるつもりは毛頭無いからな。残り僅かな生を負け犬同士で傷を舐め合って過ごせばいいさ」

 

自分達の視線の先には真っ暗闇の場所へと入り込む様な物だ。ハジメ達の様な特殊な状況にでも陥らない限り、心のあり方を変えるのは至難である。黙り込み顔を見合わせるハウリア族だが、そんな彼等を尻目に、先程からずっと決然とした表情を浮かべていたシアが立ち上がった

 

「やります。私に戦い方を教えてください!もう、弱いままは嫌です!」

 

一族を窮地に追い込んだのは紛れもなく自分が原因で、何も出来ずに唯朽ち果てるのはゴメンだ――――そんな運命は嫌だと、シアは兎人族としての本質に逆らってでも強くなりたかった。シアの覚悟は決まった。優しい心を持ったシアの様子を唖然として見ていたカム達ハウリア達は、また一人、また一人と、地面から立ち上がった。男だけで無く、女子供も含めた全てのハウリア達が立ち上がってカムが代表として一歩前へ進み出た

 

「ハジメ殿・・・宜しく頼みます」

 

言葉は少なく小さいが、言葉には確かに意志が宿っていた

 

「分かった。覚悟しろよ?あくまでお前等自身の意志で強くなるんだ。俺は唯の手伝い。途中で投げ出した奴を優しく諭してやるなんて事はしないからな。おまけに期間は僅か十日だ・・・死に物狂いになれ。待っているのは生か死の二択なんだから」

 

「どれ程の覚悟か見させて貰うわよ」

 

ハジメと皐月はハウリア達に錬成の練習用に作った装備を彼等に渡して、その武器を持たせた上で基本的な動きを教える。奈落の底で数多の魔物と戦い磨き上げた"合理的な動き"を叩き込みながら、実戦を積ませれば大丈夫だと思っていたのだ。奇襲と集団戦―――――ハウリア達の強みを活かした索敵能力と隠密能力ならばと

だが、現実はそう上手くはいかない。訓練開始から二日目。ハジメと皐月の額には青筋が幾つも浮き出ており、ヒクヒクと頬を痙攣させている。何故か?

魔物の一体に、ハジメ特製の小太刀が突き刺さり絶命させる。それまでは良いのだが・・・

 

「ああ、どうか罪深い私を許してくれぇ~」

 

「ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!それでも私はやるしかないのぉ!」

 

瀕死の魔物が、最後の力で己を殺した相手に一矢報いる。体当たりによって吹き飛ばされたカムが、倒れながら自嘲気味に呟く

 

「ふっ、これが刃を向けた私への罰というわけか・・・当然の結果だな・・・」

 

「族長!そんな事言わないで下さい!罪深いのは皆一緒です!」

 

「そうです!いつか裁かれるとき来るとしても、それは今じゃない!立って下さい!族長!」

 

「僕達は、もう戻れぬ道に踏み込んでしまったんだ。族長、行けるところまで一緒に逝きましょうよ」

 

「お、お前達・・・そうだな。こんな所で立ち止まっている訳にはいかない。死んでしまった彼(小さなネズミっぽい魔物)の為にも、この死を乗り越えて私達は進もう!」

 

「「「「「「「「族長!」」」」」」」」

 

これにはもう、ハジメも皐月もイライラが爆発した

 

「だぁーーー!やかましいわ、ボケッ!魔物一体殺すたびに、一々大げさなんだよ!何なの?ホント何なんですか?その三文芝居!何でドラマチックな感じになってんの?黙って殺れよ!即殺しろよ!魔物に向かって"彼"とか言うな!キモイわ!」

 

「敵は即殺しなさいよ!何?何なの!?そんなに他者の命が大切なの!?自分の命と相手の命とどちらが大切か位分かりなさいよ!しかも相手は魔物でしょ!害獣でしょ!」

 

ハジメと皐月の怒りを多分に含んだ声にビクッと体を震わせながらも、「そうは言っても・・・」とか「だっていくら魔物でも可哀想で・・・」とかブツブツと呟くハウリア達。二人の額に青筋が更に増える。二人の様子を心配したのだろうか、ハイベリアに喰われそうになっていたところを間一髪皐月に助けられた男の子が近づく。しかし、進み出た少年はハジメに何か言おうとして、突如、その場を飛び退いた

 

「?どうした?」

 

「刃物でも落ちてたの?」

 

だが、心配は無意味だった

 

「あ、うん。このお花さんを踏みそうになって・・・良かった。気がつかなかったら、潰しちゃう所だったよ。こんなに綺麗なのに、踏んじゃったら可愛そうだもんね」

 

「お、お花さん?」

 

「  」(絶句

 

「うん!ハジメ兄ちゃん、皐月姉ちゃん!僕、お花さんが大好きなんだ!この辺は、綺麗なお花さんが多いから訓練中も潰さない様にするのが大変なんだ~」

 

ニコニコと微笑むウサミミ少年。周囲のハウリア族達も微笑ましそうに少年を見つめている中、ハジメがポツリと囁く様な声で質問をする

 

「・・・時々、お前等が妙なタイミングで跳ねたり移動したりするのは・・・その"お花さん"とやらが原因か?」

 

時偶、妙なタイミングで歩幅や立ち位置を変えたりとしていたハウリア達。二人は次の動作の為の行動だと思っていたのだ

 

「いえいえ、まさか。そんな事ありませんよ」

 

「はは、そうだよな?」

 

「ええ、花だけでなく、虫達にも気を遣いますな。突然出てきたときは焦りますよ。何とか踏まない様に避けますがね」

 

その言葉と同時に二人の表情が抜け落ちた。ハジメはゆら~りゆら~りと揺れ始めながらゆっくり少年のもとに歩み寄ってニッコリと笑う。少年もニッコリと笑みを返した。そしてハジメは、笑顔のまま眼前の花を踏み潰した。踏んだ後もグリグリと踏みにじる

 

「お、お花さぁーん!」

 

「は、ハジメど『ドパンッ!』ッ!?」

 

カムが仰け反る様に吹き飛び、少しの間だけ宙を舞った。そして、ポトリと落ちる非致死性のゴム弾――――皐月は、気絶して白目を向いて倒れるカムに近寄り、今度はその腹を目掛けてゴム弾を撃ち込む

 

ドパンッ!

 

「はうぅ!」

 

ウサミミおっさんが地面にへたり込んでいるシュールな光景を無視してハジメは宣言した

 

「貴様らは薄汚い"ピッー"共だ。この先、"ピッー"されたくなかったら死に物狂いで魔物を殺せ!今後、花だの虫だのに僅かでも気を逸らしてみろ!貴様ら全員"ピッー"してやる!分かったら、さっさと魔物を狩りに行け!この"ピッー"共が!」

 

ハジメに合わせる様に皐月は、ハウリア達に向けて発砲を開始。ハジメも懐からドンナーを取り出す

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

蜘蛛の子を散らす様に森へと逃げて行くハウリア達を追いかける皐月。足元で震える少年は、ハジメに必死で縋り付く

 

「ハジメ兄ちゃん!一体どうしたの!?何でこんな事するの!?」

 

ハジメは周囲に咲いている花に発砲して、全てを散らして行く

 

「何だよぉ~、何すんだよぉ~、止めろよぉハジメ兄ちゃん!」

 

「黙れ、クソガキ。いいか? お前が無駄口を叩く度に周囲の花を散らしていく。花に気を遣っても、花を愛でても散らしてく。何もしなくても散らしていく。嫌なら、一体でも多くの魔物を殺してこい!」

 

再び花を撃ち抜いてくハジメ。少年は「うわ~ん」と泣きながら樹海へと消えて行き、それ以降、樹海の中に"ピッー"なる単語と、笑いと、悲鳴が入り交じった声が鳴り響く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

お嬢様達の方からは色んな声が聞こえてきますね。ズガンッ!ドギャッ! 悲鳴と笑いや・・・"ピー"用語・・・ガキッバキッバキッ! ハー〇マン方式で心を一から鍛え直すつもりですか。ドグシャア! 因みに、私は今ユエさんとシアさんの戦いの様子を見ています

 

「でぇやぁああ!!」

 

「・・・"緋槍"」

 

砲弾に見立てた大木は燃やされてじり貧状態ですね。

 

「まだです!」

 

「ッ!"城炎"」

 

今までと同じ攻撃パターンに変化を入れて意表を突く。それに見事に引っ掛かったユエさん・・・後程二人纏めて相手取りましょうか

 

ユエは背後から深月の視線を浴びながら戦っているが、ちょっとした油断を見せれば背筋に悪寒が感じられる。とてもやりにくいし、緊張するのだ

丸太を蹴って粉砕した事で、散弾と化した攻撃を炎の壁で防がれシアの攻撃はユエには届かなかった。しかし

 

「もらいましたぁ!」

 

「ッ!」

 

気配を断って背後に移動したシアの手には、超重量級の大槌が握られており、豪風を伴って振り下ろされた

 

「"風壁"」

 

砕かれた大地の破片や風圧を風の壁で防ぎ、攻撃直後の隙を見逃さずに追撃を掛ける

 

「"凍柩"」

 

「ふぇ!ちょっ、まっ!」

 

シアが待ったを掛けるが、問答無用に発動された魔法は頭だけを残して全身氷付けにされたのだった

 

「づ、づめたいぃ~、早く解いてくださいよぉ~、ユエさ~ん」

 

「・・・私の勝ち」

 

「うぅ~、そんな~、って、それ!ユエさんの頬っぺ!キズです!キズ!私の攻撃当たってますよ!あはは~、やりましたぁ!私の勝ちですぅ!」

 

「・・・傷なんて無い」

 

「んなっ!?卑怯ですよ!確かに傷が・・・いや、今は無いですけどぉ!確かにあったでしょう!誤魔化すなんて酷いですよぉ!ていうか、いい加減魔法解いて下さいよぉ~。さっきから寒くて寒くな・・・あれっ、何か眠くなってきたような・・・」

 

「ユエさんの負けで、シアさんの勝利です」

 

全身氷付けのままで言われてもちっとも嬉しく無いのだが、深月の熱量操作であっという間に氷は溶かされて元通りとなった

 

「ユエさん。私、勝ちました」

 

「・・・・・ん」

 

「約束しましたよね?」

 

「・・・・・ん」

 

「もし、十日以内に一度でも勝てたら・・・ハジメさんとユエさんの旅に連れて行ってくれるって。そうですよね?」

 

「・・・・・ん」

 

「少なくとも、ハジメさんに頼むとき味方してくれるんですよね?」

 

「・・・・・・・今日のごはん何だっけ?」

 

「ちょっとぉ!何いきなり誤魔化してるんですかぁ!しかも、誤魔化し方が微妙ですよ!ユエさん、ハジメさんの血さえあればいいじゃないですか!何、ごはん気にしているんですか!ちゃんと味方して下さいよぉ!ユエさんが味方なら、七割方OK貰えるんですからぁ!」

 

シアはユエと約束していた。それは、シアがユエに何かしらの一撃を加えればハジメ達の旅に同行の説得をするという事

 

「・・・はぁ。わかった。約束は守る・・・」

 

「ホントですか!?やっぱり、や~めたぁとかなしですよぉ!ちゃんと援護して下さいよ!」

 

「・・・・・ん」

 

「何だか、その異様に長い間が気になりますが……ホント、お願いしますよ?」

 

「・・・しつこい」

 

渋々ではあるが、シアに勝ちを認めるユエ。シアは大層喜んでおり、ユエはハァとため息を吐いた所で肩に手が乗せられた。これから起こる事を全て察してのため息なのは言うまでも無い

 

「それでは、シアさんには訓練を含めユエさんとペアになって私と模擬戦をしましょう」

 

「え?」

 

「・・・シア。・・・本気でやる」

 

「えっ?えっ??」

 

「・・・早く。・・・二人で深月と戦う!」

 

「では、参ります」

 

「ひ、ひえぇえええええええーーーーー!こ、こうなったらやってやりすよおおーーー!」

 

無手での戦闘を開始する深月に対して、シアは大槌で迎撃してユエは魔法で狙撃。圧倒的な力を持っているシアは直撃は避けるだろうと想定していたのだろう。だが、思い出していただきたい。熊の亜人を吹き飛ばしたあのカウンターを

大槌を片手を突き出して受け止めようとする深月を見て、チャンスと思っていたのだろう

 

「ユエさん今ですぅうう!」

 

「・・・シア駄目!」

 

だが遅い。深月が大槌に触れた瞬間、深月の足下の地面が粉々に砕け散り、周囲に砕けた破片が飛び散る。ユエは防御では無く、シアの視界を確保する形での攻撃をする

 

「"緋槍"」

 

シアの目の前を通り過ぎる形で放たれ、視界を奪っていた土煙や破片は無くなった。深月は緋槍を数歩下がる形で避けており、シアから見れば絶好の距離に居るのだ。欲が冷静さを奪い去り一旦離れる事をせずに、攻撃へと移行してしまった

 

「うりゃあああーーーですーーーー!!」

 

「これでシアさんは脱落です」

 

大槌の側面を叩いて軌道をほんの少しだけずらし、目に指を突き入れる様に攻撃する。当然、シアは驚いて目を瞑りながら仰け反りながら避ける。動きがそれ以上取れなくなった隙を突いて顎先を掠める様に拳を当てて軽い脳震盪に陥らせる。僅かな思考の鈍りがトドメとなり、顎下を掴んで地面に叩きつけたのだ。先程の軽い物とは違って強烈な揺さぶりの緩急は、シアの意識を完全に断つには十分過ぎる一撃だった

 

「・・・・・見逃しては?」

 

「ユエさんも最低限の近接戦闘―――――護身を出来る様にしましょうね?」

 

ドンッ!と鳴り響く大地の割れる音と同時にユエの目の前に移動した深月。ユエは「ヒィッ!」と小さな悲鳴を上げた後、顎に僅かな衝撃を感じた瞬間に目の前が真っ暗になり意識を手放したのだった

 

「ふむ、一応私の姿を捉える事は出来たので収穫は有りですね。拠点での修行は何が起きたかすら分からない状態でしたが、確実に成長しておりますので少し安心です。二人を回収して、お嬢様達と合流致しましょう」

 

深月は倒れ伏したユエとシアを俵を担ぐ様に持ち上げ、悲鳴が聞こえる場所へと歩を進めるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

ユエとシアを担いだ深月がハジメ達の元へと到着した時、ハジメと皐月はイチャイチャしていた。三人の気配に気が付いた二人は、ユエとシアの現状を見つつ率直な感想を述べた

 

「何でユエとシアが気絶してるんだ?」

 

「ユエがシアと戦ったとしても気絶する様な事は無いと思ったのだけれど・・・」

 

「試合はシアさんが勝ちました。ユエさんがワンパターンの攻撃を作業の様に対処している際に少し・・・」

 

「あぁ、攻撃方法を変えてビックリした所に一撃入っちゃった感じね」

 

「その後、ユエさんとシアさんと私の二対一で戦いました」

 

うわぁ・・・って事は、ユエ達は深月の攻撃で意識を無くしたって事か

 

ハジメと皐月は心の中で二人に合掌を送り、ユエとシアの戦いについて詳しく話しを深月から聞く。深月の観察から、シアの魔法適性はハジメ達と変わりが無い。しかし、身体強化系に特化しているとの事で

 

「恐らく最大値でハジメさんの五割~六割辺りだと思って頂ければ分かりやすいかと。そして、鍛錬次第で伸びると思われます」

 

「マジか・・・」

 

「十分、化け物レベルって事ね」

 

すると、先程まで気を失っていた二人が徐々に目を覚まし始めた

 

「・・・め、メイドが襲って・・・ウッ頭が・・・」

 

「うぅん。此処は一体何処ですか?」

 

ユエの反応は仕方が無いとしか言い様が無い。オルクスでの戦闘訓練で、何度も襲われていればトラウマとなるだろう。シアは徐々に意識が回復し、大分ハッキリとした所で耳をピンッと伸ばして一世一代の頼み事をする

 

「ハジメさん皐月さん。私をあなたの旅に連れて行って下さい。お願いします!」

 

「断る」

 

「まさかの即答!?」

 

考える間も無く拒否されるとは思っていなかったのか、驚愕の面持ちで目を見開いた

 

「ひ、酷いですよ、ハジメさん。こんなに真剣に頼み込んでいるのに、それをあっさり・・・」

 

「いや、こんなにって言われても知らんがな。大体、カム達どうすんだよ? まさか、全員連れて行くって意味じゃないだろうな?」

 

「ち、違いますよ!今のは私だけの話です!父様達には修行が始まる前に話をしました。一族の迷惑になるからってだけじゃ認めないけど・・・その・・・」

 

「その?なんだ?」

 

「その・・・私自身が、付いて行きたいと本気で思っているなら構わないって・・・」

 

「はぁ?何で付いて来たいんだ?今なら一族の迷惑にもならないだろ?それだけの実力があれば大抵の敵はどうとでもなるだろうし」

 

「で、ですからぁ、それは、そのぉ・・・」

 

皐月は察し、ハジメの袖を引っ張りボソボソと答えを告げる。それの少し後で

 

「ハジメさんの傍に居たいからですぅ!しゅきなのでぇ!」

 

「・・・へぇ。・・・で?」

 

「ふぇ?」

 

「ふぇ?じゃねーよ!今までの流れで惚れるとかあり得ねーだろ!!」

 

実は皐月もユエも気付いていない。何処で惚れる場所があったのかは

 

「いえ・・・ハジメさん?あそこまで口説いておきながら気が付かないのですか?もしもそうであれば、とてつもない女誑しですよ」

 

「な・・・んだ・・・と・・・?」

 

「長老会議の時に言ってましたよね?」

 

皐月とユエはやり取りを思い出して、「あぁ・・・あの時か」と呟いた

 

「さ、皐月!俺はそんなフラグを建てた発言してないよな!?」

 

「・・・ごめん。これは擁護出来無いわ」

 

「・・・女誑し」

 

「俺はそんなフラグを言った覚えは無いぞ!?」

 

「いえ・・・『俺から、こいつらを奪おうってんなら・・・覚悟を決めろ』と言いましたよね?」

 

「あ、あぁ・・・そう言ったが?」

 

「それまでは、『俺達』と仰っていたのですが・・・シアさんを庇う様に言われたのがいけなかったと・・・・・」

 

ハジメは冷静に状況を考えて思い出して行く。そして、自分が逆の立場・・・はあり得ないとしても、似たような状況化でその発言をしたならば・・・

 

「俺って無自覚の女誑しだったのか・・・」

 

自身が何をやったのかようやく気が付いた様だ。皐月とユエは、ジト目でハジメを睨付けている

 

「そうですよ!そうですよ~!ハジメさんが私を護る様に壁となって立ち塞がった時は心が温かくなったのです~♪」

 

「俺は皐月とユエ以外どうでもいい!」

 

「大丈夫です!私のダイナマイトボディにてハジメさんを陥落させて正妻を勝ち取りますから~♪そうすると・・・いやんいやん♪」

 

体をくねくねとしながら妄想に耽るシア。だが、忘れないで下さい――――――正妻は皐月に決まっているのだ。そんな事を許さないのは三人である

 

「おい、残念ウサギのシア。正妻は私だけど、奪うというのなら連れて行かないわよ」ゴゴゴッ

 

「・・・皐月が正妻。・・・これは絶対」ゴゴゴッ

 

「ウサギさんにはお灸が必要ですね?」ゴゴゴゴゴッ

 

「ヒィッ!?」

 

今まで感じた事の無い威圧に悲鳴を上げるハジメと、自分の発言が、如何に愚かで無粋だったのかを改めて理解したシア

 

「で、でも!ユエさんは側室ポジで良いんですか!?納得しているんですか!?満足なんですか!?」

 

「・・・私は三人に助けられた。・・・それでもハジメが愛してくれるなら満足」

 

「み、深月さ―――――」

 

「お嬢様はハジメさんのご両親公認の仲ですよ?」

 

「・・・皐月さん」

 

「なぁに?」

 

「・・・・・許してくれたりは」

 

「愚かしい発言をした雌を調教しないとでも?」

 

「・・・ニ、ニゲルンデスゥ」

 

全力の身体強化で逃走を図るシアだが、皐月の錬成の方が早く、躓かせて首根っこを掴まれ二人に連行される形で森の奥へと姿を消した。少ししてから悲鳴が鳴り響いたのは言うまでも無いだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なぁ深月」

 

「何でしょうか、ハジメさん」

 

「俺はどうなると思う?」

 

「精のつく料理をお嬢様とユエさんに作る予定です」

 

「俺の分は?」

 

「ありませんよ?」

 

ハジメに救いは無い

 

「ちくしょおおおおおおお!やってやるよおおおおおおおお!」

 

ハジメは皐月とユエとの夜戦が決定したのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「ハウリア達生きてるの?」
深月「分かりません。お嬢様達の加減によるのでは?」
布団「ま、まぁそれはどうでもいいや!メイドさんとの訓練で吸血鬼さんが成長しているけど・・・」
深月「魔法無効化を所持した近接特化の魔物が現れたら危ないでしょう?」
布団「生存確率を上げている最中?」
深月「そうですね。目が徐々に慣れ始めているので、もう少し早くしても良いでしょう」
布団「頑張って・・・作者はこれしか言えない。それでは、今回はこの辺りで!」
深月「感想、評価宜しくお願い致します」
布団「毎回上がる誤字報告にとても助かっています(・ω・)b」


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メイドは大樹の元に到着です

布団「投稿しまする」
深月「UAが100,000を超えましたよ!イベントシーンを書いて下さい!」
布団「例えば?」
深月「お嬢様と私のイベントですよ!」
布団「それは以前書いたから別のでお願い」
深月「なっ!?」
布団「それよりも、前書きはこの辺りにしましょうや」
深月「・・・コホン。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」






~皐月side~

 

ふぅ、こんな所ね。この残念ウサギは、正妻の座を奪おうと発言したから当然の結果よ

 

「ヒッグッ、うっく・・・皐月さんがもの凄く怖かったですう・・・」

 

「・・・皐月が怒るのは当然」

 

ちょうk――――――もとい、シアに説教をし終えた皐月

 

「さてと、本題の旅に連れて行く事だけど・・・ユエを傷付ける程度には力があるから、妥協して許可してあげるわ」

 

「ほ、ホントですか!」

 

シアの正妻発言で有耶無耶になっていた事を掘り返す皐月。同行を拒否したのはハジメだけであって皐月は妥協しており、ユエに一撃入れたらシアを連れて行く事は何も問題は無いと思っていたからだ。シアはハジメをユエ以上に甘い皐月が説得してくれると宣言した事に喜んだ。拒否される可能性は限りなく低くなったからである

 

「本当よ。ハジメを説得してあげると言ったわ。但し!貴女には首輪を付けさせて貰うわよ」

 

「つ、付けます!付けますから、絶対にハジメさんを説得して連れて行って下さい!」

 

何故シアに首輪なのか―――――――シアは兎人族の中でもとりわけ珍しい容姿をしている為、街へ入ったら狙われる可能性が特大なのだ。それを、少しでも回避する為の首輪という訳だ

 

「ほら、さっさと立ってハジメの元に帰るわよ」

 

「うへへ、うふふふ~」

 

「・・・キモイ」

 

同行の説得をしてもらえると言うよりも、ほぼ確定した説得にクネクネと体を捩らせているシアの姿を見てユエの率直な感想が口から出る

 

「・・・ちょっ、キモイって何ですか!キモイって!嬉しいんだからしょうがないじゃないですかぁ。何せ、皐月さんに甘々なハジメさんですよ?それを、皐月さん自らが説得してくれるんですよ!」

 

「・・・でも確定では無い」

 

「絶対に確定ですよ!」

 

シアとユエのやり取りを無視して皐月はハジメの元へと帰ると・・・・・

 

「聞け!ハウリア族諸君!勇猛果敢な戦士諸君!今日を以て、お前達は糞蛆虫を卒業する!お前達はもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない!力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せる!最高の戦士だ!私怨に駆られ状況判断も出来ない"ピッー"な熊共にそれを教えてやれ!奴らはもはや唯の踏み台に過ぎん!唯の"ピッー"野郎どもだ!奴らの屍山血河を築き、その上に証を立ててやれ!生誕の証だ!ハウリア族が生まれ変わった事をこの樹海の全てに証明してやれ!」

 

「「「「「「「「「「Sir、yes、sir!!」」」」」」」」」」

 

「答えろ!諸君!最強最高の戦士諸君! お前達の望みはなんだ!」

 

「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」

 

「お前達の特技は何だ!」

 

「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」

 

「敵はどうする!」

 

「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」

 

「そうだ!殺せ!お前達にはそれが出来る!自らの手で生存の権利を獲得しろ!」

 

「「「「「「「「「「Aye、aye、Sir!!」」」」」」」」」

 

「いい気迫だ!ハウリア族諸君!俺からの命令は唯一つ!サーチ&デストロイ!行け!!」

 

「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」」」」」」

 

ハジメの号令に凄まじい気迫を以て返し、霧の中へ消えていくハウリア族達だった。これにはユエとシアがビックリしていた

 

「さ、皐月さん?み、皆さんの口調と雰囲気がもの凄く変っているんですが?」

 

「・・・誰?」

 

「ハウリア達よ?」

 

「父様達が別人になっちゃいました~!うわぁ~ん」

 

ショックの余り泣きべそを掻くシアは、踵を返し樹海の中に消えていこうとする。しかし、霧に紛れる寸前で小さな影とぶつかり「はうぅ」と情けない声を上げながら尻餅をついた。小さな影は転倒せずに持ちこたえ、倒れたシアに向けて手を差し出した

 

「あっ、ありがとうございます」

 

「いや、気にしないでくれ、シアの姐御。男として当然のことをしたまでさ」

 

「あ、姐御?・・・・・も、もしかしてパルくんなんですか!?待って下さい!ほ、ほら、ここに綺麗なお花さんがありますよ?君まで行かなくても・・・お姉ちゃんとここで待っていませんか?ね?そうしましょ?」

 

「姐御、あんまり古傷を抉らねぇでくだせぇ。俺は既に過去を捨てた身。花を愛でるような軟弱な心は、もう持ち合わせちゃいません」

 

ちなみに、パル少年は今年十一歳

 

「ふ、古傷?過去を捨てた?えっと、よくわかりませんが、もうお花は好きじゃなくなったんですか?」

 

「ええ、過去と一緒に捨てちまいましたよ、そんな気持ちは」

 

「そんな、あんなに大好きだったのに・・・」

 

「ふっ、若さゆえの過ちってやつでさぁ」

 

「それより姐御」

 

「な、何ですか?」

 

"シアお姉ちゃん!シアお姉ちゃん!"と慕って、時々お花を摘んで来たりもしてくれた少年の変わり様に、意識が自然と現実逃避を始めそうになるシア。パル少年の呼び掛けに辛うじて返答する。しかし、それは更なる追撃の合図でしかなかった

 

「俺は過去と一緒に前の軟弱な名前も捨てました。今はバルトフェルドです。"必滅のバルトフェルド"これからはそう呼んでくだせぇ」

 

 

「誰!?バルトフェルドってどっから出てきたのです!?ていうか必滅ってなに!?」

 

「おっと、すいやせん。仲間が待ってるのでもう行きます。では!」

 

「あ、こらっ!何が"ではっ!"ですか!まだ、話は終わって、って早っ!?待って!待ってくださいぃ~」

 

自分以外のハウリア達の変貌にがっくりと項垂れ、再びシクシクと泣き始めたシアは正に実に哀れを誘う姿だった

 

「・・・流石ハジメと皐月、人には出来ないことを平然とやってのける」

 

「いや、だから何でそのネタ知ってるんだよ・・・」

 

「・・・闇系魔法も使わず、洗脳・・・すごい」

 

「・・・正直、ちょっとやり過ぎたとは思ってるわ。けどね?」

 

「「反省も後悔も無い(わ)!」」

 

すすり泣くシアは、この二人に訓練させたのが間違いだったと後悔した。そして思った―――――完璧超人メイドの深月ならもっと上手く出来たのではないかと

 

「どうじで訓練は深月ざんじゃながっだんでずがあああああ!」

 

素晴らしい率直な感想。だが、深月が訓練をしなかった理由があるのだ・・・

 

「深月が訓練だと?」

 

「寧ろ私達の方が優しい部類の訓練よ」

 

「・・・深月は恐ろしい」

 

「下手すると・・・ハウリア達が潰れる可能性が大きかったからな」

 

「極限を超えた極限を引き出すだけですよ?」

 

深月の一言であぁ、これは駄目だと改めて感じたシアであった。皐月は何故ハウリア達が再び森の中へと姿を消したのか不思議だった

 

「でもおかしいわね。訓練は終わる時間だった筈だけど・・・?」

 

皐月達がハジメの元へ帰って来た時に命令が下されていたのだ。一体全体何があったのか分からない状態だった

 

「あぁ、そう言えば皐月達に説明していなかったな。実はな?完全武装した熊人族の集団が大樹へのルートを防ぐ様に待機しているとの報告があったんだ」

 

「そこで、ハウリアの方達がどうにかするとハジメさんに提案したのです」

 

「あぁ・・・成る程ね」

 

「ちょっ!?熊人族って冗談ですよね!?もの凄く強いんですよ!」

 

「大丈夫って言ってたから大丈夫じゃないか?」

 

「取り敢えず様子を見に行くか」

 

シアは駆けて、ハジメ達は歩いてハウリア達の所へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

私達がハウリア達の向かった先へと追いかけると、熊人族の死体が至る所にありました。そして、目先には大槌を持ったシアさんがハウリアの方達を説得しています。一方、ハジメさんとお嬢様は「やっちまった。殺人衝動の事を考えていなかった」と呟かれています。まぁ、仕方が無いと割り切って行動しましょう

 

ドパンッ!

 

「ぐわっ!?」

 

「なにドサクサに紛れて逃げ出そうとしてんだ?話が終わるまで正座でもしとけ」

 

此処はハジメさんとお嬢様に任せて大丈夫ですね。私はハウリアの方々にお説教でもしておきましょうか―――――お説教という名の躾をですがね?

 

ハジメ達が熊人族と交渉をしている最中にハウリア達の前まで移動して気配を現せた深月に、ギョッと目を剥くハウリア。ハジメが「貸し一つ」と熊人族に伝言したと同時に、魔力糸を全てのハウリア達の周りに配置して待機する。ハジメは俯いたまま、ゆらりゆらりと近づく。笑顔だが、目が笑っていない。シアは気が付いたのか、冷や汗をダクダクと流している。カムは、恐る恐るハジメに声を掛ける事に・・・

 

「ボ、ボス?」

 

「うん、ホントにな?今回は俺の失敗だと思っているんだ。短期間である程度仕上げるためとは言え、歯止めは考えておくべきだった」

 

「い、いえ、そのような・・・我々が未熟で・・・」

 

「いやいや、いいんだよ?俺自身が認めているんだから。だから、だからさ、素直に謝ったというのに・・・随分な反応だな?いや、わかってる。日頃の態度がそうさせたのだと・・・しかし、しかしだ・・・このやり場のない気持ち、発散せずにはいれないんだ・・・わかるだろ?」

 

「い、いえ。我らにはちょっと・・・」

 

ガクガクと体を震わせ始めるハウリア達・・・ハジメが完全に怒っている事に気が付いたのだ。ハジメが見渡すように端から端へと目を這わせて―――――

 

「今ですぅ!」

 

シアが一瞬の隙をついて踵を返し逃亡を図った。傍にいた男のハウリアを盾にすることも忘れない。だが、現実は無慈悲だ。深月が魔力糸を予め展開していた為、シアは蜘蛛の巣に掛かった獲物となった。そして、ハジメは動けなくなったシアに対して容赦なく引き金を引いた。―――――――お尻に向けて

 

「はきゅん!」

 

あまりの痛みに体をビクンッビクンッと痙攣させている。ハウリア達は一斉に逃げだそうとするが、全員がシアと同じ様に魔力糸に捕縛されてしまった

 

「ヒィッ!?ぼ、ボス!止めて下さい!」

 

「ぼ、ボス・・・その振り上げた手をどうするつもりですか・・・・・?」

 

「取り敢えず、全員一発殴らせろ!」

 

一人一人に近づいて拳骨して行き、ハジメが近づくハウリアは涙を流しながら必死に懇願するが、その全てが無意味であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在ハジメ達は、カム達を先頭にして大樹の元へと向かっている。全員が真面目に索敵しており、表情は真剣だ。しかし、頭に大きなたんこぶを付けているので締まりの無い微妙な姿である

 

「うぅ~、まだヒリヒリしますぅ~」

 

「そんな目で見るなよ、鬱陶しい」

 

「鬱陶しいって、あんまりですよぉ。女の子のお尻を銃撃するなんて非常識にも程がありますよ」

 

「そういうお前こそ、逃げる際に隣にいたヤツを盾にするとか・・・人の事言えないだろう」

 

「うっ、ユエさんの教育の賜物です・・・」

 

「・・・シアはワシが育てた」

 

「では、ユエさんとシアさんは、後ほど私と二度目の組み手をしましょう」

 

「「え"っ・・・」」

 

「無論、ハジメさんとお嬢様も含めますよ?」

 

「「オワタ・・・」」

 

ドンヨリとした悲壮感を漂わせる四人

それからも、雑談をしながら歩く事おおよそ十五分。一行は遂に、大樹の元まで辿り着き一言

 

「・・・なんだこりゃ」

 

「・・・枯れてる」

 

驚きと疑問のといった感じだった。深月もユエも予想が外れていた感じで微妙に驚いていた。大樹は、フェアベルゲンみたいに木々のスケールが大きいバージョンを想像していた。だが、実際の大樹は・・・見事に枯れていたのだ

 

「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちる事はない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが・・・」

 

四人の疑問の表情を見てカムからの解説が入る。それを聞きつつ、ハジメ達は大樹の根元まで歩み寄るとアルフレリックが言っていた通り石板が建てられていた

 

「これは・・・オルクスの扉の・・・」

 

「・・・ん、同じ文様」

 

「指輪と同じ紋様・・・此処が入り口で間違いなさそうね」

 

四人は何の変化も起こらない大樹に疑問に思いつつ、カム達に何か知らないかを聞くが答えは「分からない」との事。皐月は、ユエと一緒に石版の方を調べて気になる場所を見つけた。注目していたのは石板の裏側、文様に対応する様に小さな窪みが開いていた

 

「これって・・・オルクスが身につけていた指輪が嵌めれるんじゃないかしら?」

 

「ハジメ・・・来て」

 

「何か見つけたか?」

 

皐月が見つけた窪みについて聞いたハジメは、指輪をそこへ嵌めてみる。すると、石板が淡く輝きだしたのだ。何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まって来た。しばらく、輝く石板を見ていると、次第に光が収まり、文字が浮き上がった

 

"四つの証"

"再生の力"

"紡がれた絆の道標"

"全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう"

 

「・・・どういう意味だ」

 

「この迷宮を攻略する際に必要な鍵という事?」

 

「四つの証は迷宮攻略って分かるが・・・再生の力と紡がれた絆の道標ってのは」

 

「恐らくですが、後者の絆の道標は亜人族との協力でしょう。前者の再生の力は神代魔法の再生を司る力かと思われます」

 

目の前の枯れている樹を再生する必要があるのでは?と推測するハジメ。皐月も深月もユエも、そうかもと納得顔をする。つまり―――――

 

「はぁ~、ちくしょう。今すぐ攻略は無理ってことか・・・面倒くさいが他の迷宮から当たるしかないな・・・」

 

「ん・・・」

 

「シアは連れて行く予定だから・・・一つの条件は達成されたも同然ね」

 

「・・・この残念ウサギをか?」

 

「名前!?私の名前はシアですう!ちゃんと名前を呼んで下さいよ~」

 

シアの事は放置して皐月はハジメに提案していく

 

「連れて行く事にメリットの方が大きいからよ。もしも、他の迷宮も此処と同じ様に制限が有ると思うとね?ユエに一撃入れる事が出来たシアなら問題は無いと判断したのよ」

 

「・・・俺達は他の迷宮に関しても知らないからな」

 

皐月の提案を飲む事にしたハジメ。シアに家族との別れの挨拶を済ませておけとチラリと見て、そういう意図が含まれているのをシアは正確に読み取った

 

「とうさ「ボス!お話があります!」・・・あれぇ、父様?今は私のターンでは・・・」

 

ビシッと直立不動の姿勢を取ったカム

 

「あ~、何だ?」

 

「ボス、我々もボスのお供に付いていかせて下さい!」

 

「えっ!父様達もハジメさんに付いて行くんですか!?」

 

「我々はもはやハウリアであってハウリアでなし!ボスの部下であります!是非、お供に!これは一族の総意であります!」

 

「ちょっと、父様!私、そんなの聞いてませんよ!ていうか、これで許可されちゃったら私の苦労は何だったのかと・・・」

 

「ぶっちゃけ、シアが羨ましいであります!」

 

「ぶっちゃけちゃった!ぶっちゃけちゃいましたよ!ホント、この十日間の間に何があったんですかっ!」

 

ハジメと皐月は「はぁっ」とため息を吐いて一言

 

「「却下」」

 

「何故です!?」

 

「足手纏いだからに決まってるでしょ!」

 

「しかしっ!」

 

「調子に乗るな。俺の旅についてこようなんて百八十日くらい早いわ!」

 

「具体的!?」

 

必死に食い下がろうとするカム達にどうするか考えるハジメと皐月。拒否しても、無理矢理着いてきそうな雰囲気もあるので落とし処を考えるも思い付かない。皐月は深月に目配せして助けを求め、深月は頷く

 

「今の貴方方では足手纏いでしかありません。ですが、私達は再びこの大樹の元へ帰ってきますので、それまでにハジメさん達の部下として使える様に努力しなさい。そうすれば一考はして下さる筈です」

 

「・・・本当ですか?」

 

「あ~・・・使える様だったら部下として考えなくもない」

 

「・・・そのお言葉に偽りはありませんか?」

 

「ないない」

 

「嘘だったら、人間族の町の中心でボスの名前を連呼しつつ、新興宗教の教祖のごとく祭り上げますからな?」

 

「お、お前等、タチ悪いな・・・」

 

「そりゃ、ボスの部下を自負してますから」

 

頬を引きつらせるハジメ。皐月とユエがぽんぽんと慰めるようにハジメの腕を叩く。ハジメは溜息を吐きながら、次に樹海に戻った時が面倒そうだと天を仰ぐのだった

 

「では頑張って下さい。使えると判断しましたら―――――私が更なる訓練を付けて差し上げましょう

 

「お前達!やるぞ!!」

 

「「「「「「「「「「やるぞおおおおおおお!」」」」」」」」」」

 

「ぐすっ、誰も見向きもしてくれない・・・旅立ちの日なのに・・・」

 

傍でシアが地面にのの字を書いていじけているが誰も気にしていない悲しい現実だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹海の境界でカム達の見送りを受けたハジメ、皐月、深月、ユエ、シアは再び魔力駆動二輪に乗り込んで平原を疾走していた。位置取りは前回とは違って、ハジメ、皐月――――ユエ、深月、シアの順番である。納得がいかないと頬を膨らませるシアだが、其処は深月クオリティーで黙らせる。ユエは文句も無い

ハジメと相席の初めてを譲ってくれた皐月の優しさと、正妻でありながらの器の広さから納得しているからである。シアはもう少しだけお淑やかになって、皐月に認めてもらえる様に頑張れば良いものをと思いつつそれは教えない。深月の肩越しからシアが質問する

 

「深月さん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」

 

「シアさんには教えていませんでしたね」

 

「・・・私は知っている」

 

「わ、私だって仲間なんですから、そういう事は教えて下さいよ!コミュニケーションは大事ですよ!」

 

「・・・もう少し考える努力をしろ」

 

「次の目的地はライセン大峡谷です」

 

「ライセン大峡谷?」

 

「ライセンでも大迷宮があると噂されています。シュネー雪原は魔人族の領土ですので面倒事は避けたいのです。グリューエン大火山を目指す方が良いと思われますが、どうせなら西大陸に行くなら東西に伸びるライセンを通りながら途中で迷宮が見つければお得でしょう?」

 

「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか・・・」

 

思わず、頬が引き攣るシア。ライセン大峡谷は地獄にして処刑場というのが一般的な認識で、つい最近では、一族が全滅しかけた場所でもあるので内心動揺する

 

「ライセン大峡谷は魔力を霧散させる場所から処刑場と名が付けられたそうです。ユエさんには天敵も良い所ですが、シアさんは身体強化に特化しているので影響無く動けるでしょう」

 

「・・・師として情けない」

 

「うぅ~、面目ないですぅ。と、ところで、今日は野営ですか?それともこのまま、近場の村か町に行きますか?」

 

「予定としては、食料や調味料関係を揃えたいと思っております。今後の為にも素材を換金してお金を手に入れる必要が有りますので町に行きます。前に見た地図が合っているのであれば、この方角の先に町があります」

 

深月は町での料理も気になるし、調味料と普通の食材を使った料理をしたいという点もあったのだ

 

「はぁ~そうですか・・・良かったです。ハジメさん達の事だから、ライセン大峡谷でも魔物の肉をバリボリ食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして・・・ユエさんは三人の血があれば問題ありませんし・・・どうやって私用の食料を調達してもらえるように説得するか考えていたんですよぉ~、杞憂でよかったです」

 

「オルクス迷宮に居た時は食料が殆ど無かったからですよ。好き好んで魔物の肉を食べる事は致しません。何より、オルクス産の魔物よりも弱い魔物の肉を食べても技能が増える可能性は限りなく低いですから」

 

数時間程走り、そろそろ日が暮れるという頃、前方に町が見えてきた。ハジメと皐月の頬が綻ぶ、奈落から出て空を見上げた時の様な、"戻って来た"という気持ちが湧き出したからだ。ユエもどこかワクワクした様子。きっと、ハジメ達と同じ気持ちなのだろう

 

「そう言えば・・・この首輪、取ってくれませんか?何故か、自分では外せないのですが・・・」

 

「当たり前です。その首輪はお嬢様の特注ですよ?貴女は奴隷として入場させた方が厄介事も無いのですから」

 

「奴隷!?私って奴隷扱いなんですか!?ひどいですう~!」

 

「うるさい残念ウサギ」

 

「うわ~ん!深月さんもユエさんもひどいですう~!」

 

だが、シアはこの首輪の有無でどうなるかを改めて理解するのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「何か書いて下さい~!お嬢様とのイベントシーンを所望します!!」
布団「今は忙しいんや」
深月「型月ゲームをやっているではありませんか!」
布団「最低限は確保しておかないとね?未だ終わってないのよ」
深月「書いてくれるという事で間違い無いのですね!」
布団「読者の希望が募ればだけど」
深月「アンケートを出しましょう!」
布団「いや、アンケートはしばらくお休みします」
深月「・・・えっ?」
布団「ある程度話しを進めてからアンケートをするつもりよ」
深月「いや・・・えっと・・・イベントシーンは?」
布団「お気に入り1000件到達で何かやった?」
深月「R-18を投稿したじゃないですか!」
布団「無理難題を押しつけてくれる・・・」
深月「イベントシーンは書いて下さいよ!」
布団「モチベーションが上がったら執筆するわ~」
深月「約束ですよ!―――――約束ですよ!」
布団「あぁうん。後書きもこの辺りにしましょうよ」
深月「・・・感想、評価お気軽にどうぞですよ~」



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メイドはお手伝いをします

布団「投稿しまっす!」
深月「早く話しを進めましょう!」
布団「息抜きぐらいさせてくれー」
深月「息抜きついでのお話を書かれても良いのですよ?」
布団「最近寒いから執筆のモチベが上がらないんじゃ・・・」
深月「頑張って下さい!」
布団「ありふれを執筆されている人達に負けないようにか・・・」
深月「そうですよ!」
布団「・・・がんばるかぁ」
深月「前書きもこの辺りに致しまして、読者の皆様方ごゆるりとどうぞ」






布団「誤字報告とっても有り難いです」







~ハジメside~

 

ハジメ達一行は町からある程度離れた所で、魔力駆動二輪を宝物庫にしまって徒歩で門の前までたどり着いた。どの町でも門番は居るだろう。門の脇にある詰め所と思われる小屋から武装した男が出て来たのだが、装備は革鎧に長剣・・・冒険者風である

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

「食料の補給がメインだ。旅の途中でな」

 

ハジメ達・・・ステータスプレートを所持している三人が提示する。気のない声で相槌を打ちながら門番の男が三人のステータスプレートをチェックする。皐月と深月は普通に見ていたが、ハジメのステータスプレートを確認すると目を瞬かせた。ちょっと遠くにかざしてみたり、自分の目を揉みほぐしたりしている。その門番の様子をみて、ハジメは「あっ、ヤベ、隠蔽すんの忘れてた」と内心冷や汗を流した

 

(ちょっとハジメ!隠蔽してないの!?何やってるのよ!)

 

(わ、悪い!ステータスが化け物染みている事をすっかり忘れてた!だ、大丈夫だ。言い訳を思い付いたから!)

 

ハジメは咄嗟に誤魔化すため、嘘八百を並べ立てる

 

「ちょっと前に、魔物に襲われてな・・・俺の女を護ったその時に壊れたみたいなんだよ」

 

ハジメは皐月とユエの肩に手を当てて抱き寄せる

 

「こ、壊れた?いや、しかし・・・」

 

「壊れてなきゃ、そんな表示おかしいだろ?まるで俺が化物みたいじゃないか。門番さん、俺がそんな指先一つで町を滅ぼせるような化物に見えるか?」

 

「はは、いや、見えないよ。表示がバグるなんて聞いたことがないが、まぁ、何事も初めてというのはあるしな・・・そっちの二人は・・・」

 

「さっき言った魔物の襲撃のせいでな、こっちの子のは失くしちまったんだ。こっちの兎人族は・・・分かるだろ?」

 

言葉だけで門番は納得したのか、「成る程・・・」と頷いてステータスプレートをハジメに返す

 

「それにしても随分な綺麗どころを手に入れたな。そっちのメイドは付き人って分かるが・・・白髪の兎人族なんて相当レアなんじゃないか?あんたって金持ちなんだな」

 

チラチラと四人を見て羨望と嫉妬の入り交じった表情の門番。ハジメは肩をすくめるだけで何も答えなかった

 

「まぁいい。通っていいぞ」

 

「ああ、どうも。おっと、そうだ。素材の換金場所って何処にある?」

 

「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」

 

「おぉ、そいつは親切だな。ありがとよ」

 

門番から有益の情報を手に入れたハジメ達は門をくぐり町へと入って行く。町中に入れば賑やかで、オルクス近郊の町程では無いものの露店も出ており活気に溢れていた。ハジメ達は楽しげに目元を和らげているが、シアはプルプルと震えていた

 

「はぁ・・・その様子だと自覚が無いようね」

 

「だって!奴隷ですよ!?私は仲間じゃないんですか!?」

 

「もう少し自分の容姿を考えてものを言いなさいよ。兎人族にしては珍しい髪の色に、スタイルが良い・・・首輪を付けて無かったら、引っ切りなしに人攫いに遭っているわよ。それでも良いなら外してあげるわ――――――但し、自分一人でどうにかする事が条件よ」

 

「・・・・・わーい。首輪うれしいですぅ」

 

軽く想像して思い至ったのだろう。棒読みだが、納得した様だ

 

「つまりだ。人間族のテリトリーでは、むしろ奴隷という身分がお前を守っているんだよ。それ無しじゃあ、トラブルホイホイだからな、お前は」

 

「・・・はい」

 

ショボンとするシアのウサミミは垂れ落ちる

 

「・・・有象無象の評価なんてどうでもいい」

 

「ユエさん?」

 

「・・・大切な事は、大切な人が知っていてくれれば十分。・・・違う?」

 

「・・・・・そう、そうですね。そうですよね」

 

「・・・ん、不本意だけど・・・シアは私が認めた相手・・・小さい事気にしちゃダメ」

 

「・・・ユエさん・・・えへへ。ありがとうございますぅ」

 

「・・・皐月と深月は未だ認めていないだろうけど」

 

「えぇ・・・。あの二人に認めて貰える様にってどうすれば良いんですかぁ~」

 

「・・・それは自分で考える」

 

「そ、そんな~」

 

若干涙目になりつつも、負けない気持ちで「やってやりますよ~!」と意気込みを入れる姿は好印象だろう。但し、調子に乗り過ぎない事が前提だ

メインストリートを歩いていると、一本の大剣が描かれた看板を発見する。かつてホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。看板の確認も済んだハジメ達は扉を開いて中に踏み込んだ。ハジメと皐月の二人は、荒くれ者が集う場所のイメージを持っていた。しかし、中へ入ってみると全体は清潔に保たれており、正面入り口はカウンター、左手側は飲食店となっていた

中に居た冒険者達は当然の様にハジメ達に注目しており、特に女性陣四人に視線が集まっている。テンプレよろしく絡んできたりする者は居らず、皆が理性を働かせて観察するだけに留まらせているのだ。ハジメ達は真っ直ぐカウンターの方へと進むと、大変魅力的な・・・笑顔を浮かべたマダムがいた

ハジメと皐月は内心でオバチャンと思っており、二人の内心を知ってか知らずか、オバチャンはニコニコと人好きのする笑みでハジメ達を迎えようとし――――――――

 

ゴスゴスッ

 

二人の頭に深月のチョップが叩き落とされた

 

「お二人共が何を思っているかは大体予想出来ましたが、あまり失礼な事を考えるのは宜しくありませんよ?もう少し柔らかくしましょうね?」

 

「「はい・・・。もうオバチャンなんて二度と思いません」」

 

「おや、立派なメイドさんだねぇ。普通は仕えている者に手を上げる事は出来無い筈だけど」

 

「お嬢様達の考えを正すのもメイドの勤めで御座います。―――――マダム」

 

「主の考えを正す―――――ね。良い言葉じゃないか。で?今回は何用かしら?」

 

「あ、ああ・・・素材の買取をお願いしたい」

 

「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

 

「買取にステータスプレートの提示が必要なの?」

 

「ん?お嬢さんの方はいざ知らず、坊やは冒険者じゃ無かったのかい?確かに、買取にステータスプレートは不要だけどね、冒険者と確認できれば一割増で売れるんだよ」

 

「成る程・・・メリットがあるのか」

 

オバ・・・マダムは何も知らないハジメ達に、冒険者になった際のメリットを説明していく。宿や店では一~二割―――――高ランクになれば、移動馬車を利用する料金が無料になったり等々

 

「と、いう事ね。どうする?登録しておくかい?登録には千ルタ必要だよ」

 

「う~ん、そうか。ならせっかくだし登録しておくかな。悪いんだが、持ち合わせが全くないんだ。買取金額から差っ引くってことにしてくれないか? もちろん、最初の買取額はそのままでいい」

 

「可愛い子が居るのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」

 

ハジメは、有り難く厚意を受け取っておくことにした。今度こそ、完全に隠蔽したステータスプレートを差し出す。ユエとシアの分はまた機会があればという事にしておいた。隠蔽する事が出来無いユエ達となると、初日早々から目立ってしまう。それを避ける為の一時で的な措置をした

戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに"冒険者"と表記され、更にその横に青色の点が付いている。青色の点は、冒険者ランク―――――上がるにつれて色が変るのだ。因みに、戦闘系天職を持たない者で上がれる限界は黒だ。辛うじてではあるが四桁に入れるので、天職なしで黒に上がった者は拍手喝采を受けるらしい。天職ありで金に上がった者より称賛を受けるというのであるから、いかに冒険者達が色を気にしているかが分かるだろう

 

「男なら頑張って黒を目指しなよ?お嬢さん達にカッコ悪ところ見せないようにね」

 

「ああ、そうするよ。それで、買取はここでいいのか?」

 

「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」

 

ハジメは、事前に宝物庫から取り出していた素材をバッグに入れていたので、そちらから素材を取り出す。品目は、魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石だ。カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、再びオバチャンが驚愕の表情をする

 

「と、とんでもないものを持ってきたね。これは・・・・・樹海の魔物だね?」

 

「ああ、そうだ」

 

「樹海の魔物ってやっぱり珍しかったのね」

 

「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」

 

マダムはチラリとシアを見る。おそらく、シアの協力を得て樹海を探索したのだと推測したのだろう。樹海の素材を出しても、シアのおかげで不審にまでは思われなかったようだ。しばらくして、マダムは全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は四十八万七千ルタ。結構な額だった

 

「これでいいかい?中央ならもう少し高くなるだろうけどね」

 

「いや、この額で構わない」

 

ハジメはバッグに入れる様にしながら宝物庫へ貨幣を収納して、門番の男から聞いた事を尋ねた

 

「ところで、門番の彼に、この町の簡易な地図を貰えると聞いたんだが・・・」

 

「ああ、ちょっと待っといで・・・ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

一枚の地図がハジメに手渡されて、皐月も釣られる様に覗き込む。中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来で、これが無料・・・ちょっと信じられない位だ

 

「これが無料?本当に良いの?十分お金を取れる位精巧なレベルなのだけど・・・」

 

「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」

 

「そうか。まぁ、助かるよ」

 

「良いってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいい所に泊りなよ。治安が悪い訳じゃあないけど、その三人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね。メイドに関しては正直言わせてもらうと、黒に近い位の腕があるだろうね」

 

「これはこれは、ご謙遜を」

 

「誤魔化さなくても私には分かるよ。人を見る目は誰よりも優れているって自負があるからね」

 

ハジメ達を見ていた冒険者達はポカンとしながら開いた口が塞がらない。所々で「マジか・・・」「オバチャンがいきなり認めるってぇ・・・」「超メイド・・・ご奉仕されたい!」とザワついたりしている

 

ハジメ達は苦笑いしながら入口に向かって踵を返した。四人も頭をマダムに下げてハジメに追従し、最後に出た深月が深く一礼してパタンッと小さな音で扉を閉めた

 

「ふむ、いろんな意味で面白そうな連中だね・・・」

 

マダムは小さく呟き、紙を取り出して何かを書き出したのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

あの冒険者ギルドに居たマダムの観察眼は素晴らしいですね。腕が立つ冒険者にも悟られない程度に誤魔化しを入れた歩き方と姿勢だったのですが・・・そこに違和感を持たれて確信されたのでしょうね。かなり名が知られている方なのでしょう

 

ハジメ達は地図というよりガイドブックと称すべきそれを見て決めたのは"マサカの宿"という宿屋だ。料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後が決め手だった。料金は割高だが、金はあるので問題ない。何が"まさか"なのか気になったというのもあるが・・・。一階が食堂で、複数の人間が食事をとっていた。ハジメ達が入ると、お約束の様に女性陣に視線が集まるが、無視してカウンターらしき場所に行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた

 

「いらっしゃいませー、ようこそ"マサカの宿"へ!本日はお泊りですか?それともお食事だけですか?」

 

「宿泊だ。このガイドブック見て来たんだが、記載されている通りでいいか?」

 

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

 

テキパキと宿泊手続きを済ませる女の子から告げられ、マダムの名前を初めて知った。ハジメは何処か遠い目をしている・・・あのマダムの名前がキャサリンだった事が何となくショックだったらしい

 

「あの~お客様?」

 

「あ、ああ、済まない。一泊でいい。食事付きで、あと風呂も頼む」

 

「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」

 

女の子が時間帯表を見る。ハジメとしては、男女別でゆっくりと入りたいと思っているので二時間必要の旨を伝えると「えっ、二時間も!?」と驚かれたが、日本人たるハジメ達としては譲れない

 

「え、え~と、それでお部屋はどうされますか?二人部屋と三人部屋が空いてますが・・・」

 

好奇心含む目でハジメ達を見る女の子。お年頃な彼女は気になっているし、周囲に居るお客もソワソワしている

 

「ん~・・・二人部屋を三つd――――――」

 

「何を迷っているのよ。二人部屋一つに、三人部屋一つよ」

 

「え、えっと・・・誰がどの部屋に入るかを・・・」

 

周囲の客は、ナイスッ!と言わんばかりに興味津々なのだ。誰を選ぶのかが知りたいのである

 

「・・・二人部屋はハジメと皐月。・・・三人部屋は私と深月とシア」

 

成る程、他の三人は旅の仲間なのかと納得した様にウンウンと顔を縦にふる客達だが―――――

 

「ユエのそれはやっぱり無しにして。ハジメと私とユエが三人部屋で、深月とシアが二人部屋ね。異論は認めないわ」

 

周囲の男性客は絶望した。リアルハーレムを築いているハジメが羨ましいと思ったのだ

 

「ちょっ、何でですか!私だけ仲間はずれとか嫌ですよぉ!後で突撃しますからぁ!」

 

嫉妬はもう一段階強くなる

 

「深月は、この残念ウサギが入って来れない様に簀巻にしておいて」

 

「了解致しました」

 

「うえっ!?じょ、冗談ですよね・・・皐月さん、冗談ですよね!?」

 

「ほら店員さん。さっさと書いて鍵を渡して」

 

「あっ、は、はいっ!直ぐに渡します!」

 

鍵を取り出す女の子を待つ皐月は呟く

 

「残念ウサギが居ると・・・邪魔でしかないのよね。うるさそうだし」

 

「・・・ん。・・・皐月と私がハジメを気持ち良くする」

 

「わ、私は諦めません!突撃してハジメさんに私の処女を貰ってもらいますぅ!」

 

静寂が舞い降りた。誰一人、言葉を発することなく、物音一つ立てない。今や、宿の全員がハジメ達に注目、もとい凝視していた。厨房の奥からは、女の子の両親と思しき女性と男性まで出てきて「あらあら、まあまあ」「若いっていいね」と言った感じで注目している

 

「冗談もそこら辺にしないと怒るわよ?」

 

「うっ、ま、負けません!今日こそ皐月さんを倒して正ヒロインの座を奪ってみせますぅ!」

 

「・・・師匠より強い皐月と戦う事すら出来無い事を教えてあげる」

 

「下克上ですぅ!」

 

ヒートアップする三人の首に深月の手刀が叩きつけられてゴトゴトゴトッと地面に倒れされ、周りはより一層静かになった。深月の素早すぎる手刀は殆ど見えなかったから・・・

 

「さぁ、ハジメさん。小一時間程眠る程度に加減しておきましたので早く部屋に運びましょう」

 

「あ、ああ・・・そうだな。他の客の迷惑になるからな」

 

ハジメは皐月をお姫様だっこして、深月はユエとシアを俵担ぎして部屋へと連れて行く。それを見送る客達は、皆こう思った―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのメイドを怒らせたらヤバイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お嬢様達の対処が雑ですか?平行線を辿るので両成敗です。手荒な事は避けたかったのですが、公共の場であの様な事を何度もされてはいけませんからお灸を据えさせて頂きました。ハジメさんの部屋にユエさんを入れて、シアさんは後ほど簀巻に致しましょう。お嬢様方の夜の営みの邪魔立てする悪い輩は間引かねばいけませんので!

ハジメさんは少しばかり眠りに就かれるとの事なので、私は私で宿の夫妻と等価交換で色々と致します。色々って何だ―――――ですか?市民が口にする食事内容を把握するのと、手伝いの代わりとして一通りの作り方を覚えるだけです。そうすれば、食材が有れば皆様に提供できますので。それではお休み下さい

ハジメさんもベッドにダイブして直ぐお眠りになりましたので、行動開始しましょう!お嬢様達の為に美味しい料理を沢山覚えます!

 

その後―――――深月は一階に戻って夫妻と交渉して、二つ返事で許可を貰った。深月からは調理風景を見学、夫妻からは接客業務を今日だけ手伝ってくれればという内容だった。一通りの接客の仕方と、マナーの悪いお客の対処を確認・・・接客は変らないが、マナーの悪いお客相手は実力行使で大丈夫だそうで――――――"後にも先にも本日限り!メイドさんの接客※夕食まで"という大きな看板を立てて仕事を手伝う事に

そこそこ居たお客は、メイドさんの接客をして貰いたいという欲求から追加注文を―――――――新しく入って来たお客さんは、本物のメイドが居る事に驚愕しつつご飯を食べる。"超絶美人メイドがマサカの宿で接客している"という噂は一気に町中に広まった。しかも、この日限り・・・殆どの男性が仕事を怒濤の勢いで終わらせて向かい、店から出た時には至福の笑顔

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

噂が流れている時の男性達の反応はこんな感じだった・・・

 

「おい!メイドがマサカの宿で接客しているってよ!」

 

『メイド服を着ているだけだろ』

 

「本当だって!」

 

『うっそだ~』

 

「お~い!噂のマサカの宿のメイドさんの噂本当だったぜ!この目で見てきたし、体験してきたぜ!!生メイド最高~♪」

 

「・・・まじ?」

 

「・・・嘘じゃ無いよな?」

 

「何でも宿泊客の付き人で、調理風景を見させる代わりに手伝っている言ってたぞ?」

 

「あーーーーー思い出した!!今日、冒険者ギルドにメイド連れの奴等が入っていったのを見たぞ!」

 

「・・・キャサリンさんの地図のおすすめ宿がマサカの宿だったよな?」

 

『・・・・・』

 

男達の心の中は何時だって―――――モワンモワン

 

『行ってらっしゃいませご主人様』

 

『何かご用ですか?』

 

『ご、ご主人様・・・いけませんっ!』

 

と、ありもしない妄想をし終えた男達の顔はだらしなかったが・・・直ぐにハッと正常に戻った後、仕事をそっちのけでマサカの宿に直行しようとウズウズしていた

 

「あぁ~、あのメイドさんは凄かったなぁ~。・・・仕事をキチッとこなす姿は癒やされた。――――――そういや、仕事そっちのけで来ていた馬鹿には接客していなかったのは笑っちまったぜ!文句を言おうとしたら物理的に外に追い出されてたからな~!」

 

「おらぁ下っ端!さっさと手を動かせ!早く仕事を終わらせるんだよ!!」

 

「あっあっあっ!増えろ俺の腕!何で二本しかないんだよっ!これじゃあ終わらねぇよおおおおお!!」

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!―――――ッフ、解体は終わった。今行くぞおおおおおおお!!」ダッシュッ

 

ある者は部下と共に癒やしを分かち合う為に、ある者は一人という現実に絶望しながら希望にすがる為に、ある者は覚醒した動きで終わらせる。男達は努力して仕事を終わらせて向かい、心優しき男は手を差し伸べ協力して生のメイド接客を受ける事が出来たのだった。因みに、最後の男性は身綺麗にしていなかった為に追い返されて接客されなかったという悲しい結末だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が接客を始めてから一気にお客さんが増えましたね。沢山料理の注文が出され大変そうで―――――また新しいお客様ですね。現在満席となっていますので、時間を改めるか列に並んでお待ち下さい――――――そうです。他人に迷惑を掛けないようにして下さいね?でないと、私は接客致しません

これで万事解決です!皆さん御行儀良くお話ししながら列に並んで良い事ですね。あぁ、高ランク冒険者だからと言って割り込みをしてきた者には接客拒否させて頂きます。ん?接客するのは当然と言いたいのでしょうが、私は"マナーの悪いお客様"を接客したくありません

 

高ランク冒険者と自称する男が深月の腕を掴もうとするも、紙一重で躱され深月に腕を捻り上げられる。深月は手刀を首元に落として気絶させて、首に看板を垂れ下げて店前に放置。その看板には「私は他のお客様に迷惑を掛けてメイドに倒された高ランク冒険者(自称:笑)です」と書かれていたのだ。店前に並ぶ客は、それをしっかりと理解してマナーを守る

ハジメ達が起きて、食事をしに一階へと降りればもの凄いお客の数に驚愕していた。殆どの客は男性だが、殆どが行儀良く最低限のマナーを守って食事をしている。厳い奴もしっかりと守っているのだ・・・

男性達の視線は1カ所に集まっており、先を辿れば料理をしている深月。余りにも手が回らない為、深月も一通りの手順を見て学んでヘルプに入っているのだ。出来た料理を深月が持って行くと、モーゼの様に男達が下がって行く・・・・・深月が運んだ料理を食べる男は涙を流しながら「うめぇ・・・うめぇよぉ・・・・・」と嗚咽を鳴らしながら食べているのだ――――――最早カオスとしか言い様が無い

深月の接客時間も終了し、ハジメ達に合流して次の日の予定を立てながら夕食を摂った。お風呂は男女別で入り、シアは深月の当て身で気絶して簀巻にされて回収された。夜は約束通り夜戦―――――ハジメと皐月とユエで激しくしたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「ちょっとやり過ぎてしまいましたね」
布団「せやな」
深月「お嬢様も暴走しなければ手荒な事はしないのですが・・・」
布団「あきらめろん。今は未だ」
深月「そうですね。ゆっくりと観ていきましょう」
布団「あ、アンケート出すわ」
深月「お嬢様回ですか?」
布団「クラスメイトsideです」
深月「要らないですね」
布団「ま、まぁ・・・一応ね」
深月「それでは、感想、評価宜しくお願い致します」


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メイドは服を手に入れます

布団「よし、投稿だ!」
深月「作者さん、作者さん。お気づきですか?」
布団「なんだぁ?」
深月「お気に入り1500件ですよ?何か番外編なる物を書いて下さい。あっ、お嬢様とのイチャイチャでも構いませんよ?」
布団「メイドぇ・・・」
深月「さぁ!さぁさぁさぁ!書きましょう!」
布団「うぎぎぎぎぎ!ま、まぁ待て。待つんだ。こうしよう!読者様に決めて貰おうと!」
深月「振りですよね?」
布団「振りじゃねーよ!」
深月「と、作者さんとのやり取りも終わらせましょう」
布団「はい」
深月「誤字報告をされている読者様、本当に有り難う御座います。お待ちかねの本編へと参りましょう。ごゆるりとどうぞ」







~皐月side~

 

うぅ・・・私達は今回もハジメに敗北した

あ、私達は今洋服を買いに町を歩いているわ。深月のチートで修理されたとはいえ、予備を購入しておかないと駄目よね♪シアの服を一新するのがメインだけれど

 

「・・・服か。俺はどれが良いとか分からないんだが」

 

「私達が試着するからハジメの感想が聞きたいのよ」

 

「・・・ハジメに褒めて貰える。・・・ポッ♪」

 

「女性は男性に褒められるのが嬉しいのですぅ~」

 

ハジメはそういった所が疎いので苦手なのだ。どうにかして別行動をと思っているが、皐月に腕を掴まれているので抜け出す事が出来無いのだ。そんなハジメの心情を察している皐月は、どうにかして服選びに集中させようかと考えていると一つだけ有効手がある事に気が付いた

 

「ねぇ、ハジメ。そんなに服選びが嫌なの?」

 

「いや・・・嫌って訳じゃ無い。ただ・・・こういった事自体初めてだからセンスがな」

 

「じゃあ――――――メイド服を数着買うのはどう?」

 

一瞬だけハジメがピクリと反応。見事、興味を引く事に成功した皐月は更に誘惑する

 

「ハジメが望むなら―――――――あっち(意味深)で着てあげるわよ?」

 

「ぐっ・・・だ、だけどなぁ」

 

「へぇ~、それなら諦めるわ。――――――深月の新しいメイド服をハジメに選ばせようかと思っていたのになぁ

 

最後の一言がトドメだった。オルクス同様、メイド好きーなハジメにとって深月は正に理想のメイドその物。地球に居た時から「こんなメイド服似合うだろうなぁ~」と妄想する位興味があった。目の前に垂らされた餌の付いた針――――――無論、飛びつかない訳が無い

 

「仕方が無い。行こう」

 

「無理しなくても良いわよ?」

 

「これから先も同じ事があるだろう?なら今回は練習を踏まえて―――――だ」

 

「・・・・・そう。なら行きましょう?」

 

計画通り!

 

某自称新世界の神の様に、誰にも見え無い様に悪どい笑みを作る皐月だった。言い忘れていたが、現在深月は食料や調味料等の買い出しを命令されているのでこの場には居ない

キャサリンさんの地図には、どの様な服が置いてあり、何処がお勧めかがしっかりと記載されている。四人は、普段着も置いている冒険者向けのお店へと向かった。その店は、流石はキャサリンさんがオススメするだけあって、品揃え豊富、品質良質、機能的で実用的、されど見た目も忘れずという期待を裏切らない良店だった――――――だが

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら~ん、いらっしゃい♡可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~。た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♡」

 

 

 

 

 

 

 

化け物が居た。身長が二メートル越え――――――――全身の筋肉という天然の鎧を装備し、濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めている。動く度に筋肉ピクピクと動き、巨体とは思えない程クネクネと体を動かしている。全員が硬直して、目の前に居る化け物に恐怖を抱く

 

「あらあらぁ~ん?どうしちゃったの貴方達?可愛い子がそんな顔してちゃだめよぉ~ん。ほら、笑って笑って?そこに居るのは彼氏かしら~ん。どう?お姉さんと・あ・そ・ぶ・?」

 

処理が追いつかない為、皐月の口からつい本音が零れてしまった

 

「ば、化け―――――」

 

「だぁ~れが、伝説級の魔物すら裸足で逃げ出す、見ただけで正気度がゼロを通り越してマイナスに突入するような化物だゴラァァアア!!」

 

「ご、ごごごごごごめんなさいッ!」

 

反射的に謝って、ハジメを盾にして隠れる皐月。何時もの威厳も何も無い・・・。店主に正直に謝った事で再び笑顔?を取り戻し接客に勤しむ

 

「いいのよ~ん。それでぇ?今日は、どんな商品をお求めかしらぁ~ん?」

 

ハジメはフリーズしている。対応できるのは三人だけだが、シアはヘタリと座り込んでいるので戦力外。ユエは未だに現実に追いついていない。皐月は恐る恐るながらも説明する

 

「え、えっと・・・。そこにヘタリ込んでいるシアの服を見繕って頂きたい・・・です。・・・お願いします」

 

「あらそうなの~ん?それじゃあ、任せてぇ~ん」

 

シアを担いでお店の奥へと入って行く。その時の、三人を見つめるシアの目は、まるで食肉用に売られていく豚さんの様だった

奧へ消えてから数分足らずで出て来たシア。店長のクリスタベルさんの見立ては見事の一言だった。店の奥へ連れて行ったのも、シアが粗相をしたことに気がつき、着替える場所を提供するためという何とも有り難い気遣いだった。思考を停止していたハジメもその頃には戻っており、ビクつきながらも全員でお礼を言って店を離れて高級服を取り扱うお店へと向かった

 

「いや~、最初はどうなる事かと思いましたけど、意外に良い人でしたね。店長さん。」

 

「ん・・・人は見た目によらない」

 

「ですね~」

 

「・・・皐月大丈夫?」

 

「ハジメさんも大丈夫ですか~?」

 

未だに気分が優れない二人を心配するユエとシア。一瞬で削られた精神が回復するまで時間が掛かったが、どうにか受け答え出来るまで回復したハジメと皐月。ありのままの感想は唯一言

 

「「正直・・・怖かった」」

 

ああいう手合いは、ファンタジー世界の作り物だけだろう―――――現実にはあり得ないと決めつけていた価値観が崩れ去ったのだ。まぁ・・・直ぐに受け入れる事の出来無い衝撃だったのだから仕方が無い。しかし、悪夢は終わらない。ハジメと皐月は深月にメイド服を買う為に高級店の方に訪れ、目的の物があったのは良かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃ~い♡今日は、何を・お・さ・が・し・かしら~ん♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二の筋肉モリモリ店主が居た――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラッと立ち眩む皐月を咄嗟に支えるハジメ。自分だって頭が痛くなる光景だが、欲望の方が強いので耐えるしか無いのだ。クリスタベルの一件から同じ過ちは犯さない様、言葉に気を付けながら説明した。何故此処で深月のメイド服を新しく購入するのか―――――――ユエには申し訳無いのだが、胸の辺りがキツくなってきているとの事だった。理由は読者達のご想像にお任せしよう

ハジメは、学校で着用していた深月のメイド服を手本に少しだけ?改造する事にしたのだ。二の腕を露出させていた部分を隠すだけだが、露出部が一つとなる事でより際立つと思ったからだ。後は実行するのみ。転移の際に着ていた露出の無い黒を基調としたメイド服を一部露出する様に改造する感じだ。(※アズールレーンのフォーミダブルの服を想像して下さい)

一からのオーダーメイドなので、時間は約三日必要との事。予定は明日辺りで出発しようかと考えていたが、新作のメイド服を楽しみにしているハジメは滞在日数を変更する事を決意した

注文も終わって皐月達と市居を回ろうとしたハジメだったが、目先に食料などの消耗品を購入している深月の姿を発見した

 

「皐月、悪いが食料を買っている深月の方に合流する。俺も居た方がこれからの予定と相談しながら出来るからな。だから、三人は自由に行動してくれ」

 

「えっ、ちょっとハジ――――」

 

ハジメは早足で深月の元へ行き、置いて行かれた皐月達。ハジメからすれば三人で自由行動をして、ゆっくりしてもらおうと配慮したのだ。だが、今回は逆効果である。メイド服に情熱を注ぐ様にオーダーメイドした後だからだ・・・

 

「・・・ハジメは深月と一緒が良い?」

 

「むぅ~!深月さんが大変そうなのは分かりますが、私達を置いて行くなんて酷くありませんか?」

 

「本音で言うと、ハジメと一緒に散策したかったのだけど仕方が無いわね。多分、私達をゆっくりとさせたかったのだとと思うわ」

 

「・・・今回は裏目に出た」

 

「割り切ってゆっくりしましょう」

 

「ん!」

 

「えぇ~・・・私はハジメさんと一緒に行動したいですぅ~」

 

「・・・シアはこっち。・・・拒否は認めない」

 

「話す事もあるんだからこっちに来なさい!」

 

「ハジメさんの正妻争いですか?それなら負けませんよ!私の胸はパーティーの中で一番ですから!!」

 

フンスッと胸を張るシア。確かに、皐月と深月とユエの三人よりも大きい―――――――だが、頭の方が残念すぎて何とも言えない。持たざる者に対しての禁句を言ってしまったシアの末路は決まっている。ユエはシアを殴る―――――――しかし、胸の脂肪の前には無力だった。たわわなそれに弾かれてしまったから

 

「ムッフッフッフ♪効かないですぅ~」

 

腹立たしいユエに変って皐月の右手のアイアンクローがシアの頭部を捕まえ、ギリギリと徐々に締め上げていく

 

「い"っ!いだだだだだ!?痛いです!痛いですよ皐月さん!?は、はなしてぇ~」

 

「一々煽る言動はしない。――――――いい加減に学びなさい」

 

解放されたシアは涙目になりながらユエに謝罪。自分の代わりに皐月が締め上げたのに満足したので許し、三人は散策を再開した

薬屋、道具屋等の小さな消耗品を店を転々と回る。皐月は義手に眼帯としているが、三人共が見目麗しい為―――――気付けば数十人の男共に囲まれていた。一瞬拉致か何かだと思っていたユエとシアだが、男達を良く見ると服が統一されていない。皐月は「テンプレかぁ~。面倒くさいだけね」と小さく呟いていた。そんな男達の内、一人が前に進み出た

 

「皐月ちゃんとユエちゃんとシアちゃんで名前あってるよな?」

 

「?・・・合ってる」

 

ユエの返事を聞いて、男共は頷いて覚悟を決めた目で三人の前に進み出た

 

「「「「「「皐月ちゃん!俺を執事にしてください!!」」」」」」

 

「「「「「「皐月ちゃん!俺と付き合ってください!!」」」」」」

 

「「「「「「ユエちゃん、俺と付き合ってください!!」」」」」」

 

「「「「「「シアちゃん!俺の奴隷になれ!!」」」」」」

 

見目麗しい三人は兎に角目立っていた。ハジメとの仲が非常に近しいのは理解しているが、それでも諦めきれない為の告白。皐月に関しては、執事希望は恐らく深月とお近づきになりたいからだろう・・・。で、告白を受けた三人は興味を失ったので無視する事にした

 

「さっさと次の道具屋に行くわよ」

 

「・・・シア、道具屋はこっち」

 

「あ、はい。次の一軒で全部揃うといいですね」

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!返事は!?返事を聞かせてく『『『断る(ります)』』』・・・ぐぅ・・・」

 

完全に玉砕・・・尚且つ興味の一欠片も無い事を知り四つん這いに崩れ落ちる男達。しかし、諦めの悪いお馬鹿な男は何時の世も存在する

 

「なら、なら力づくでも俺のものにしてやるぅ!」

 

皐月に向かって某大泥棒ダイブで飛び込む男。目は血走っており、男の中の妄想では皐月が組み伏せられているのだろう。皐月は殴ろうとするが、それよりも先にユエが一言呟いた

 

「"凍柩"」

 

「ふぉおおお!?」

 

首から上だけを残して身体中を凍らされた男は、驚愕しながら重力に引かれて落下した。周囲は、ユエが無詠唱で魔法を行使した事にざわついていたが「事前に詠唱していた」「魔法陣を服の下にでも隠している」等の解釈をしているのでとても助かった

 

(ユエ、無詠唱は駄目でしょ。今回は都合良く解釈してくれているから良いけど、無詠唱について知識を持っている人にバレたら目を付けられるわよ)

 

(・・・次から気を付ける。・・・これどうする?)

 

(犠牲になって貰いましょう)

 

(ん!)

 

皐月との念話を終えたユエは、男を包む氷を少しずつ溶かす。男は解放してもらえると思ったのか、表情を緩めて熱っぽい瞳でユエを見つめる

 

「ゆ、ユエちゃん。いきなりすまねぇ!だが、俺は皐月ちゃん事が・・・」

 

「・・・皐月はハジメの正妻。・・・・・だから見せしめ」

 

「ひょ?」

 

溶かされていた氷の部分は男のシンボル。丸出しで動けないこの状況を理解して、男は徐々に顔を青ざめて行く

 

「あ、あの、ユエちゃん?どうして、その、そんな・・・股間の部分だけ・・・・・嘘だよね?嘘だと言って!?」

 

「・・・狙い撃つ」

 

その一言と同時に、風の礫が連続で男の股間に叩き込まれた

 

「ッアーーーーーーーーー!」

 

男の悲鳴が昼前の街路に響き渡る。某配管工がコインを手に入れる様な効果音がピッタリだろう。執拗に狙い撃ちされる男の股間に、周囲の男達―――――――言い寄ってきた男達だけで無く、関係無い野次馬や露店の店主も内股になりながら股間を手で覆い隠した

風の礫は、一撃で男の意識を飛ばさずに徐々にダメージを積み重ねる様な攻撃で、永遠に続くだろうと思われた。ユエは人差し指の先をフッと吹き払い、置き土産に言葉を残した。

 

「・・・漢女になるがいい」

 

「・・・てい」

 

皐月はその辺りに落ちていた小さな石ころを親指で弾き、地面に跳弾させて攻撃。ズドムッ!と真下からの衝撃は、風の礫よりも強烈で、男の意識を完全に飛ばすには十分なものだった

 

『ヒィッ!?』

 

皐月の容赦の無いトドメを目の当たりにして身体中をガクガクと震わせる男達。三人は畏怖の視線を向けてくる男達の視線を無視して買い物の続きに向かった。道中、女の子達が「皐月お姉様・・・」「ユエお姉様・・・」とか呟いて熱い視線を向けていた気がするがそれも無視して買い物に向かった

 

この日、一人の男が死に、第三のクリスタベル・・・後のマリアベルちゃんが生まれた。そしてユエには"股間スマッシャー"皐月には"死神の一撃"という二つ名が付き、後に冒険者ギルドを通して王都にまで名が轟き、男性冒険者を震え上がらせるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

「助かりましたハジメさん。宝物庫のお陰で食料品を大量に購入出来ました」

 

「まぁな。荷物持ちはそれなりに居た方が良いだろう」

 

ハジメは深月と合流して一緒に食料を中心とした補給を行っていた。旅の人数が増えたので消費も多いので、それなりに時間が掛かってしまうのだ。深月が聞いていた予定は、明日にはこの町を発つとの事だった。だが、ハジメが滞在日数の延長した事で余裕を持って補給を行えるのだ

しかも、所々で発揮する深月の交渉術は凄まじいの一言・・・男性女性と関わりなく、少量の割引が行われているのだ。塵も積もれば山となる――――――正にそれだった。想定以上の食料を購入出来た事にハジメは「マジか・・・交渉スキル半端じゃねぇ」と零す程。だが、誰でもこれ程の成果が出る訳では無い。地球に居た頃から行ってきた割引交渉術の経験が活きているから―――――普通の人がした所で、成功するのは一割未満だ。正に深月専用の技能である

ハジメと深月の二人は、三人よりも早く宿へ帰って戦闘関連の消耗品の補充と手入れを開始した。ハジメは弾丸の補充、深月は夫婦剣と刀の手入れと服の修正等だ。ハジメは小休止を入れて深月の方を見ると、魔力糸を操作して色んな形を作り出していた

 

・・・魔力糸ってホント深月にピッタリな技能だな

 

じーっと自身を見ているハジメに気付いている深月

 

「あの・・・ハジメさんは私に何か御用ですか?」

 

「いやな、魔力糸って便利そうだな~って思って見てたんだよ」

 

「確かに便利です。・・・ですが、使いこなす事は未だ出来ていません」

 

驚愕して呆然となるハジメだった

 

・・・は?あそこまで罠を仕掛けたりして絡め取っているのにか?あの神の先兵擬きの攻撃も受けきったのに使いこなせていないのは有り得ないだろ

 

「ハジメさん。有り得ないなんて事は有り得ませんよ」

 

「俺の思考を読むなよ」

 

「顔に出ていましたよ」

 

「俺ってそんなに顔に出やすいのか?」

 

「いいえ。・・・将来を踏まえてハジメさんが何を考えているのかを予測したまでです。主が二人に増えますので、しっかりと把握しなければいけません」

 

「主の考えを把握する事もメイドの勤めです―――――ってか?」

 

「そうですよ?」

 

ノータイムで返すって事はその位本気って事かよ。ホント二次元のパーフェクトメイドが現代に現れたって疑いたくもなるぜ

 

ハジメは内心で新しく出来るメイド服にワクワクしていると、ドアが開き町を散策していた皐月達三人が帰って来た

 

「ただいま~」

 

「おう、お帰り。町中が騒がしそうだったが、何かあったか?」

 

「何も無かったわよ」

 

「・・・問題ない」

 

「あ~、うん、そうですね。問題ないですよ」

 

皐月達は町中でナンパに遭った事は言わない。制裁も済んだので気分がさっぱりしているから・・・

 

「さて、シアにプレゼントだ」

 

「ほんとですか!わ~いやりましたぁ~♪」

 

「ほれ」

 

そう言ってハジメはシアに直径四十センチ長さ五十センチ程の円柱状の物体を渡した。銀色をした円柱には側面に取っ手のようなものが取り付けられている

 

「重っ!?」

 

シアは咄嗟に身体強化の出力を上げてたたら踏まずに済んだ

 

「これ武器ですよね?ハジメさんからのプレゼントは?」

 

「?武器をプレゼントしただろ?」

 

「あっ・・・・・はい。ソウデスヨネー」

 

皐月やユエに付けられている装飾品を貰えると勘違いしていたシアはガックリした

 

「武器はこの先必要だろ?」

 

「それよりも・・・もの凄く重たいんですけど」

 

「そりゃあな、お前用の新しい大槌だからな。重いほうがいいだろう」

 

「へっ・・・?これが大槌ですか?」

 

今シアが持っている武器・・・円柱部分は、槌に見えなくもないが、それにしては取っ手が短くアンバランスだ

 

「ああ、その状態は待機状態だ。取り敢えず魔力流してみろ」

 

「えっと、こうですか?―――――ッ!?」

 

シアは言われた通りに槌モドキに魔力を流すと、カシュン!カシュン!という機械音を響かせながら取っ手が伸長し、槌として振るうのに丁度いい長さになった

この大槌型アーティファクト:ドリュッケン(ハジメ命名)は、幾つかのギミックを搭載したシア用の武器だ。魔力を特定の場所に流すことで変形したり内蔵の武器が作動したりする

 

「今の俺にはこれ位が限界だが、腕が上がれば随時改良していくつもりだ。これから何があるか分からないからな。ユエのシゴキを受けたとは言え、たったの十日。まだまだ危なっかしいが、その武器はお前の力を最大限生かせるように考えて作ったんだ。使いこなしてくれよ?仲間になった以上勝手に死んだらぶっ殺すからな?」

 

「ハジメさん・・・ふふ、言ってることめちゃくちゃですよぉ~。大丈夫です。まだまだ、強くなって、どこまでも付いて行きますからね!」

 

こうして一日、また一日とゆっくりと休養した五人

そして待ちに待った日(※ハジメにとって)・・・宿のチェックアウトを済ませ、メイド服を受け取りに行く。皐月は少し嫌そうにしていたが、深月の主として行かないという選択肢は無い

第二のクリスタベルの待つ服屋の前へと到着した一同は入店――――――

 

「いらっしゃ~い♡あら~!ご注文の品は完成しているわよ~♡ささっ、メイドの貴女はこっちに来て~♡」

 

「えっ?私ですか?」

 

「そうだぞ」

 

「メイド服は私の仕事服です!脱ぎませんよ!?」

 

「だ、大丈夫よ深月。新しいメイド服を注文したから!ほら、気分一新も良いでしょ!!」

 

「・・・そうですね。この服一着だけですので助かりますが・・・お金の方は大丈夫なのでしょうか?」

 

「気にするな。服が一着しか無いのは困るだろ?」

 

「分かりました。それでは店主さん、お願い致します」

 

「こっちよ~♡貴女程の綺麗な子ならピッタリよ~♡」

 

店主と共に奧へと入っていった深月を見て四人の思った事はただ一つ

 

「「「「何故平気なんだ(なの)(なんですか~)!?」」」」

 

深月は並大抵の事では動揺しない。こういう人も存在するだろうと、個人の感性まで否定する事は無い。但し、限度は有る。天之河の様な現実も見ないご都合解釈が良い例だろう

数分経った後、奧から店主が先に出て来た。何故最初に店主!?と思った四人

 

「最初はあの子が出てくると思ったのかしら~ん?これには理由があるのよ~ん♡」

 

「どういう事だ?」

 

「う・し・ろ・よ~ん♡野次馬が暴走しない様にするのも~わ・た・し・の仕事よ~♡      ね?」

 

店主が後ろの野次馬達にニッコリと微笑むと、顔を青くしてザザザッと後退った。恐らく、過去に何かしら遭ったのだろうと容易に想像出来る

 

「さぁ、主役の登場よ~ん♡」

 

店主が横にずれて奧から現れた深月。黒い生地に包まれた肌だが、胸元と肩部分だけが露出している。隠しているようで隠していない神秘にハジメは心の中でコロンビアポーズをしていた。そして、この世界に転移して二番目に嬉しかった。自分の考えたデザインの服を来た超メイド―――――歓喜以外の表現は無い。因みに、一番は皐月と将来結婚前提でお付き合い出来る事である

深月を除いた女性陣三人も、深月の変わり様にビックリしていた。服が変るだけで此処まで違うのか!?と声を大にして叫びたい位だから

 

「流石深月・・・メイド服一つで此処まで変わるなんてね―――――――私が着たとしても、それは所詮コスプレって事ね・・・チクショウッ!!」

 

「・・・深月の胸が大きくなっている・・・だと!?」

 

「ま、未だです!胸の大きさなら私が勝っていますぅ!」

 

「・・・生活面では何一つ勝っていない」

 

「グハアッ!?」

 

何もしていないのに一人一人に深刻な傷を付けて行く深月は、主の皐月の前に立ってゆっくりと回転して後ろ姿も見せる

 

「店主さんに聞きました。一からオーダーメイドされたとの事ですが・・・如何ですか?」

 

「俺がデザインしたメイド服だ。多少二次元から引用する所もあったが、もの凄く似合っているぞ!」

 

「え、えぇ・・・とっても綺麗よ」

 

「・・・綺麗だけど・・・深月ばかりズルイ」

 

「生活スキル・・・フヘッ・・・深月しゃんに勝てるわけないじゃないですかぁ~」

 

ハジメはとっても喜んでおり、皐月とユエは褒めるよりも悲しみが大きく、シアはユエの一言で落ち込んでいる。そして野次馬の男共の反応は予想通りだった

 

「「「うひょ~!あのメイドにご奉仕されたい!」」」

 

「「「ご主人様と呼んで欲しい!」」」

 

一方、そんな馬鹿な男達を見て呆れ果てている女性陣達。当然の結果である

 

「私の主はお嬢様ですのでお断り致します」

 

口に出していた欲望を拒否されて膝から崩れ落ちる男達。そして、今回は馬鹿な男は誰一人居ない。この場に居る男性陣の殆どが深月の強さを知っている・・・宿で返り討ちに遭った男の末路が悲惨だからだ

自称高ランク冒険者(笑)は自信喪失により女性から離れられ、解体屋の男は女性達からの利用客が減ってしまった。何かしらの損失(※女性関連)がある為、手を出す猛者は誰一人この町には居ない

 

「さてと、深月の服も新しくなったから旅の続きに行くぞ」

 

こうして五人は門を出てライセン大峡谷へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「アンケートしましょう?」
布団「最近アンケート多いと思う自分が居る」
深月「作者さんの優柔不断がいけないのですよ」
布団「はい・・・そうです。スイマセン」
深月「内容はどうします?」
布団「書くか書かないかの二択にしましょう!」
深月「本当に宜しいのですか?」
布団「幅広く決めれるから大丈夫だ問題無い」
深月「特大のフラグを建てましたね」
布団「そいじゃあいっきまーす」
深月「あぁ、行ってしまいました。読者の皆様方、評価、感想等お気軽に宜しくお願い致します」


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メイドは居ません。クラスメイトsideですから 2

布団「アンケート結果からクラスメイトsideの第二弾!」
深月「お嬢様方は出ませんので悪しからず」
布団「記念話をどうしようかと迷い中」
深月「無難にしましょう。私とお嬢様のイチャイチャという事で!」
布団「はいはいはーい。まだアンケート終了していないから却下!それに、意味深でやったでしょう!?」
深月「ぬぐぐぐぐ!」
布団「あ、誤字報告有り難う御座いましたー」
深月「ン"ン"ッ! 読者の皆様もお待ちになられていますので前書きもこの辺りにして始めましょう」
布団「ごゆるりとどうぞ」
深月「私のセリフですよ!?」







これは、ハジメ達がサソリ擬きを倒した日まで遡る――――――

 

天之河率いる勇者パーティー達は、再びオルクス迷宮へやって来ていた。だが、人数は少ない。勇者パーティーは当然として、小悪党の塵芥共、それに永山重吾という大柄の柔道部の男子生徒を率いた男女五人のメンバーだけ。何故か?理由は明白――――――ハジメと皐月の死。そして、勇者よりも高スペックの深月が後を追ったからだ。"死"というものを身近に実感した事で、まともに戦闘する事すら出来無くなったのだ

この事態に教会関係者はいい顔をせず、全員に復帰を促した。しかし、これに待ったを掛けた人物が居たのだ。教師の畑山先生だ。食糧問題を解決する程のチート生産職の彼女との関係を悪化させてしまえば大きな損失に繋がる為、教会は畑山先生の抗議を受け入れた。結果、上記に上げた者達だけが訓練の継続と、オルクス迷宮に挑む事となったのだ

迷宮攻略から六日目・・・階層は六十層付近で、立ち往生をしていたのだ。理由は、何時かの悪夢を思い出しているからである。彼等の目の前には何時かの物とは異なるが、同じ様な断崖絶壁が広がっていたのである。次の階層へ行くには崖に掛かった吊り橋を進まなければならないのだが、やはり思い出してしまうのだろう。特に白崎は顕著で、真っ暗闇の奈落をジッと見つめたまま動かなかった

 

「香織・・・」

 

「大丈夫だよ、雫ちゃん」

 

「そう・・・無理しないでね?私に遠慮する事なんて無いんだから」

 

「えへへ、ありがと、雫ちゃん」

 

今の白崎には絶望に染まった瞳は感じられない。それどころか、日に日にギラギラとしているのだ。これは白崎が目を覚まして数日後の事だった。八重樫と一緒に話していた時に、ニュ〇タイプの如く何かを感じ取ったのか・・・「先を越されたっ!」等と意味不明な事を漏らしていた。(※この時ハジメが皐月に告白したのである)奈落でハジメとイチャつく皐月を敏感に感じ取っていたのだろう。八重樫曰く、「般若が見えた」との事

洞察力に優れた八重樫は白崎が本心で大丈夫だと言っているのだと分かった

 

(やっぱり、香織は強いわね)

 

絶望的な状況でも納得がいくまで諦めずに進む白崎に、八重樫は誇らしい気持ちで一杯だった。だが、そんな事も気にせずに空気をぶち壊していくのが勇者(笑)クオリティー。天之河視点からは、白崎がハジメの死を思い苦しんでいると決めつけて早速行動

 

「香織・・・君の優しいところ俺は好きだ。でも、クラスメイトの死に、何時までも囚われていちゃいけない! 前へ進むんだ。きっと、南雲もそれを望んでる」

 

「ちょっと、光輝・・・」

 

「雫は黙っていてくれ!例え厳しくても、幼馴染である俺が言わないといけないんだ。・・・香織、大丈夫だ。俺が傍にいる。俺は死んだりしない。もう誰も死なせはしない。香織を悲しませたりしないと約束するよ」

 

「はぁ~、何時もの暴走ね・・・香織・・・」

 

「あはは、大丈夫だよ、雫ちゃん。・・・えっと、光輝くんも言いたい事は分かったから大丈夫だよ」

 

「そうか、分かってくれたか!」

 

そこまでは良かった・・・そう。そこまでは・・・

 

「落ちた皐月と深月を一刻も早く助けないといけないからな!」

 

その言葉を聞いた瞬間に白崎の表情は能面の様になり、八重樫は怒りで表情を歪ませた

 

「・・・光輝あんたねぇ!」

 

ついに手を出しそうになったが、白崎が八重樫を止めた

 

「放っておこうよ雫ちゃん。光輝くん・・・ううん。"天之河"くんはもう手遅れだから」

 

「ッ!そ、そうね。兎に角、私達は私達の出来る事をしましょう」

 

先程までは大丈夫だと思っていたが、それは見当違いだった。少しだけ歪んでいると感じた。だが、実際は日に日に歪んでいるのだ。もしも、ハジメが死んでいたら確実に狂っていただろう。それこそ、死を振り撒く敵みたいになるだろう

 

「早く南雲くんに会いたいなぁ」

 

誰にも聞こえない一言を零して、迷宮を進んでいく一行。そして、特に問題も起きず遂に歴代最高到達階層である六十五層にたどり着いた

 

「気を引き締めろ!ここのマップは不完全だ。何が起こるか分からんからな!」

 

メルドの声が響く。天之河達は表情を引き締め未知の領域に足を踏み入れてしばらく進む。少し進めば大きな広間に出て、何となく嫌な予感がする一同。その予感は的中した。広間に侵入すると同時に、部屋の中央に赤黒く脈動する魔法陣が浮かび上がったのだ。それは、とても見覚えのある魔法陣だった

 

「ま、まさか・・・アイツなのか!?」

 

「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」

 

天之河と坂上は驚愕を露わに叫ぶ。しかし、険しいながらも冷静なメルドが応える

 

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ!退路の確保を忘れるな!」

 

念には念を押して退路を確保するメルド率いる騎士団。だが、天之河は不満そうに言葉を返す

 

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ!もう負けはしない!必ず勝ってみせます!」

 

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」

 

メルドはやれやれと肩を竦めるが、今の天之河達の実力なら大丈夫だろうと不敵な笑みを浮かべている。そして、遂に魔法陣が爆発したように輝き、かつての悪夢が再び光輝達の前に現れた

 

「グゥガァアアア!!!」

 

咆哮を上げ、地を踏み鳴らす異形。ベヒモスが光輝達を壮絶な殺意を宿らせた眼光で睨む

今、過去を乗り越える戦いが幕を上げた

 

「万翔羽ばたき 天へと至れ"天翔閃"!」

 

前回の戦いでは、天翔閃の上位版である神威を以てしてもかすり傷一つ付ける事が出来無かった。しかし、今回は違った

 

「グゥルガァアア!?」

 

悲鳴を上げ地面を削りながら後退するベヒモスの胸にはくっきりと斜めの剣線が走り、赤黒い血を滴らせていたのだ。自分の攻撃が通じる――――――その事実は周囲の士気を更に上昇させる

 

「いける!俺達は確実に強くなってる!永山達は左側から、檜山達は背後を、メルド団長達は右側から!後衛は魔法準備!上級を頼む!」

 

「ほぅ、迷いなくいい指示をする。聞いたな?総員、光輝の指揮で行くぞ!」

 

天之河の指示の元、ベヒモスを包囲する

 

「グルゥアアア!!」

 

「させるかっ!」

 

「行かせん!」

 

ベヒモスは後衛組を行かせんと攻撃するも、坂上と永山がベヒモスに組み付いて"剛力"を使って突進を防ぐ

 

「ガァアア!!」

 

「らぁあああ!!」

 

「おぉおおお!!」

 

完全に動きを止められないながらも、勢いを削ぐ事は出来る。その隙を他のメンバーは逃さずに攻撃を加える

 

「全てを切り裂く至上の一閃"絶断"!」

 

八重樫の抜刀術がベヒモスの角に直撃するが、切断までには至らなかった

 

「ぐっ、相変わらず堅い!」

 

「任せろ!粉砕せよ、破砕せよ、爆砕せよ"豪撃"!」

 

メルドの追撃が叩き込まれ、遂にベヒモスの角の一本が半ばから断ち切られた

 

「ガァアアアア!?」

 

角を切り落とされた衝撃にベヒモスは力に任せて暴れて、八重樫、坂上、永山、メルドの四人を吹き飛ばす

 

「優しき光は全てを抱く "光輪"!」

 

本来は衝撃に息を詰まらせ地面に叩きつける所だが、白崎の行使した防御魔法が四人を光の輪が無数に合わさって出来た網が優しく包み込んで衝撃を殺した。そして、間髪を入れずに回復魔法も行使する

 

「天恵よ 遍く子らに癒しを "回天"」

 

"天恵"の上位版である回復魔法。遠隔の、複数人を同時に癒せる中級光系回復魔法だ

天之河は、未だに暴れ回るベヒモスに真っ直ぐに詠唱しながら突進。先程入れた傷口に切っ先を差し込んで、最後のトリガーを引いた

 

「"光爆"!」

 

聖剣に蓄えられた膨大な魔力が、差し込まれた傷口からベヒモスへと流れ込み大爆発を起こした。傷口を抉られ大量の出血をしながら、技後硬直中の僅かな隙を逃さずベヒモスが鋭い爪を天之河に振い吹き飛ばす。攻撃自体はアーティファクトの聖鎧が弾くが、衝撃が内部に通る為に激しく咳き込む

 

「天恵よ 彼の者に今一度力を "焦天"」

 

すかさず、白崎の回復魔法が掛けられて直ぐに治まった

ベヒモスは、咆哮と跳躍による衝撃波で他のメンバー達を吹き飛ばし、折れた角にもお構いなく赤熱化させていく

 

「・・・角が折れても出来るのね。あれが来るわよ!」

 

八重樫の警告と同時に襲い掛かるベヒモス。皆は一度経験している為、一斉に身構える。だが、想定よりも違っていた点、跳躍距離だった。前衛を飛び越えて、一気に後衛組へと襲い掛かったからだ。前衛組が焦りの表情を見せる中、後衛組の一人――――谷口が詠唱を中止して前に躍り出る

 

「ここは聖域なりて 神敵を通さず "聖絶"!!」

 

ベヒモスの必殺の一撃を受け止める事に成功したが、完全詠唱の"聖絶"では無い為にひび割れ始めていた

 

「ぅううう!負けるもんかぁー!」

 

障壁越しに睨付けられる殺意を大量に含んだ眼光。全身を襲う恐怖と不安に、掲げた両手が震えるが、弱気を払って必死に叫ぶが限界はもうそこだ。「破られる」と心の内で叫ぼうとした瞬間

 

「天恵よ 神秘をここに "譲天"」

 

谷口の体を光が包み、"聖絶"に注がれる魔力量が跳ね上がった

 

「これなら!カオリン愛してる!」

 

一気に本来の四節分の魔力が流れ込むと同時に完璧な"聖絶"を張り直す。パシンッと乾いた音を響かせ障壁のヒビが一瞬で修復された。ベヒモスは突破出来無い苛立ちを術者を睨むが、谷口も気丈に睨み返し一歩も引かない。徐々にベヒモスの角の赤熱化が効果を失い始めた。突進の勢いも無くなると同時に谷口の"聖絶"も消失した

 

「後衛は後退しろ!」

 

天之河の指示に後衛組が下がり、前衛組がヒット&アウェイでベヒモスを翻弄し続け、遂に待ちに待った後衛の詠唱が完了する

 

「下がって!」

 

中村の合図と共に、天之河達は渾身の一撃をベヒモスに放ちつつ、その反動も利用して一気に距離をとった。その直後に、炎系上級攻撃魔法のトリガーが引かれた

 

「「「「「"炎天"」」」」」

 

術者五人による上級魔法。超高温の炎が球体となり、太陽の様に周囲一帯を焼き尽くす。ベヒモスの直上に創られた"炎天"は一瞬で直径八メートルに膨らみ、直後、ベヒモスへと落下した。絶大な熱量にベヒモスの外殻は融解して断末魔を上げる

 

「グゥルァガァアアアア!!!!」

 

いつか聞いたあの絶叫だ。鼓膜が破れそうなほどのその叫びは少しずつ細くなり、やがて、その叫びすら燃やし尽くされたかのように消えていった。黒ずんだ壁と床―――――そして、ベヒモスの物と思しき僅かな残骸だけが残った

 

「か、勝ったのか?」

 

「勝ったんだろ・・・」

 

「勝っちまったよ・・・」

 

「マジか?」

 

「マジで?」

 

「そうだ!俺達の勝ちだ!」

 

キラリと輝く聖剣を掲げながら勝鬨を上げる天之河。その声にようやく勝利を実感したのか、一斉に歓声が沸きあがった。男子連中は肩を叩き合い、女子達はお互いに抱き合って喜びを表にしている。メルド団長達も感慨深そうだ

白崎だけはボーッとベヒモスが居た場所を眺めており、八重樫が声を掛ける

 

「香織?どうしたの?」

 

「えっ、ああ、雫ちゃん。・・・ううん、何でもないの。ただ、ここまで来たんだなってちょっと思っただけ」

 

「そうね。私達は確実に強くなってるわ」

 

「うん・・・雫ちゃん、もっと先へ行けば南雲くんも・・・」

 

「それを確かめに行くんでしょ?そのために頑張っているんじゃない」

 

「えへへ、そうだね」

 

ハジメを探せるという安堵と、もしも死んでいたらと思う不安を実感したのだ。答えが出てしまう恐怖に、つい弱気がでたのだろう。八重樫は白崎の手を力強く握る。その力強さに白崎も弱気を払ったのか、笑みを見せる中――――天之河達が集まってきた

 

「二人共、無事か?香織、最高の治癒魔法だったよ。香織がいれば何も怖くないな!」

 

「ええ、大丈夫よ。光輝は・・・まぁ、大丈夫よね」

 

「うん、平気だよ、天之河くん。皆の役に立ててよかったよ」

 

「これで、南雲も浮かばれるな。"自分を突き落とした魔物"を自分が守ったクラスメイトが討伐したんだから」

 

「「・・・」」

 

もう言葉も出ないというよりも諦めている。天之河の脳内フィルターの前にはベヒモスの攻撃がハジメを落としたと認識させているのだ。犯人である檜山は謝罪したからわざとじゃ無いという謎の思考。訳が分からない。よって、白崎と八重樫は犯人の檜山の処遇を許した天之河を諦めている

微妙な空気が漂う中、クラス一の元気っ子が飛び込んできた

 

「カッオリ~ン!」

 

「ふわっ!?」

 

「えへへ、カオリン超愛してるよ~!カオリンが援護してくれなかったらペッシャンコになってるところだよ~」

 

「も、もう、鈴ちゃんったら。ってどこ触ってるの!」

 

「げへへ、ここがええのんか?ここがええんやっへぶぅ!?」

 

変態親父の如く白崎の体をまさぐる谷口の頭に、八重樫の手刀が炸裂

 

「いい加減にしなさい。誰が鈴のものなのよ・・・香織は私のよ?」

 

「雫ちゃん!?」

 

「ふっ、そうはさせないよ~、カオリンとピーでピーなことするのは鈴なんだよ!」

 

「鈴ちゃん!?一体何する気なの!?」

 

白崎と八重樫と谷口を挟んでのジャレ合いに、いつしか微妙な空気は払拭されていた

これより先は完全に未知の領域。天之河達は過去の悪夢を振り払い先へと進むのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に日は流れ――――――

ハジメ達がヒュドラ擬きと神の先兵のデッドコピーを倒した辺りまで進む。勇者一行は迷宮攻略を一時中断して王国へと戻っていた。理由は、ヘルシャー帝国から勇者一行に会いに使者が来るのだという

歴史上の最高記録である六十五層が突破されたという事実は、帝国側の者達からしても是非会ってみたいとの事だそうだ。王宮に戻る中、馬車の中で一通りの説明を受けた勇者一行

馬車が王宮へと到着し、全員が降車すると王宮の方から一人の少年が駆けて来る。その正体はハイリヒ王国王子ランデル・S・B・ハイリヒ――――思わず犬耳とブンブンと振られた尻尾を幻視してしまいそうな雰囲気で駆け寄ってくる

 

「香織!よく帰った!待ちわびたぞ!」

 

これだけでお分かりだろう・・・ランデル王子は白崎に惚れているのだ。実は、召喚された翌日から、ランデル殿下は香織に猛アプローチを掛けていた。白崎は、相手が十歳辺りの男の子という事もあり、弟の様な感じを抱いているのである

 

「ランデル殿下。お久しぶりです」

 

「ああ、本当に久しぶりだな。お前が迷宮に行ってる間は生きた心地がしなかったぞ。怪我はしてないか? 余がもっと強ければお前にこんなことさせないのに・・・」

 

「お気づかい下さりありがとうございます。ですが、私なら大丈夫ですよ? 自分で望んでやっていることですから」

 

「いや、香織に戦いは似合わない。そ、その、ほら、もっとこう安全な仕事もあるだろう?」

 

「安全な仕事ですか?」

 

「う、うむ。例えば、侍女とかどうだ?その、今なら余の専属にしてやってもいいぞ」

 

「侍女ですか?いえ、すみません。私は治癒師ですから・・・」

 

「な、なら医療院に入ればいい。迷宮なんて危険な場所や前線なんて行く必要ないだろう?」

 

これだけのやり取りだけで分かるだろう。白崎と離ればなれになりたくないとランデル王子は思っているが、鈍感な白崎には全く伝わらない

 

「いえ、前線でなければ直ぐに癒せませんから。心配して下さりありがとうございます」

 

「うぅ」

 

そこに空気の読めない勇者(笑)の天之河が乱入

 

「ランデル殿下、香織は俺の大切な幼馴染です。俺がいる限り、絶対に守り抜きますよ」

 

天之河の善意100%は、恋に盲目なランデル王子からしたら「俺の女に手を出すんじゃねぇ!」的に聞こえるのだった

 

「香織を危険な場所に行かせることに何とも思っていないお前が何を言う!絶対に負けぬぞ!香織は余といる方がいいに決まっているのだからな!」

 

「え~と・・・」

 

「ランデル。いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう?光輝さんにもご迷惑ですよ」

 

「あ、姉上!?・・・し、しかし」

 

「しかしではありません。皆さんお疲れなのに、こんな場所に引き止めて・・・相手のことを考えていないのは誰ですか?」

 

「うっ・・・で、ですが・・・」

 

「ランデル?」

 

「よ、用事を思い出しました!失礼します!」

 

自分の非を認めたくないランデル王子は踵を返してササッと消えていった

 

「香織、光輝さん、弟が失礼しました。代わってお詫び致しますわ」

 

「ううん、気にしてないよ、リリィ。ランデル殿下は気を使ってくれただけだよ」

 

「そうだな。なぜ、怒っていたのか分からないけど・・・何か失礼な事をしたんなら俺の方こそ謝らないと」

 

白崎と天之河の言葉にリリアーナは苦笑いを浮かべる。姉として弟の恋心を察してはいるのだが、全く気付かれていない現状に多少なりとも同情してしてしまう

 

「いえ、光輝さん。ランデルのことは気にする必要ありませんわ。あの子が少々暴走気味なだけですから。それよりも・・・改めて、お帰りなさいませ、皆様。無事のご帰還、心から嬉しく思いますわ」

 

「ありがとう、リリィ。君の笑顔で疲れも吹っ飛んだよ。俺も、また君に会えて嬉しいよ」

 

「えっ、そ、そうですか? え、えっと」

 

またしても天之河の善意100%の言葉が炸裂。リリアーナは聡明であり、秀才、王女という事もあり、お世辞混じりの褒め言葉等は慣れているし、そういった事を見抜く事も出来る。だが、下心一切無く素で言った天之河にどう返そうかとおろおろとしている

 

「えっと、とにかくお疲れ様でした。お食事の準備も、清めの準備もできておりますから、ゆっくりお寛ぎくださいませ。帝国からの使者様が来られるには未だ数日は掛かりますから、お気になさらず」

 

天之河達は迷宮での疲れを癒やして、居残り組達にベヒモスを倒したと報告して舞い上がったのは言うまでも無い

それから三日後、遂に帝国の使者が訪れた

 

「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」

 

「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

 

「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」

 

「はい」

 

「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので?確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが・・・」

 

使者は天之河を観察する様に見て、疑わしそうにしている。特に、使者の護衛の人は値踏みする様な感じでジロジロと見ている

 

「えっと、ではお話ししましょうか?どのように倒したかとか、あっ、六十六層のマップを見せるとかどうでしょう?」

 

「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか?それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

 

「えっと、俺は構いませんが・・・」

 

「構わんよ。光輝殿、その実力、存分に示されよ」

 

「決まりですな、では場所の用意をお願いします」

 

勇者(笑)と帝国の使者の護衛の戦いが決定した

相手の護衛は、見た目は平凡で、特に目立った特徴の無い人物で強そうには見えない。だが、刃引きした大型の剣をだらんと無造作に持っているのだ。これといって意識をしていない天之河は、使者は強くないと判断した。この場に居る全ての人に、驚かせてやろうと割かし本気の一撃を放つ事にした

 

「いきます!」

 

縮地で一気に距離を詰めて唐竹に振り抜いたが、天之河の反応よりも早く護衛の攻撃が直撃して吹き飛ばされた

 

「ガフッ!?」

 

地を滑りながら体勢を整える天之河は驚愕の面持ちで相手を見る。護衛は、掲げた剣をまた力を抜いた自然な体勢で構えている

 

「はぁ~、おいおい、勇者ってのはこんなもんか?まるでなっちゃいねぇ。やる気あんのか?」

 

その表情は失望。天之河は、意気揚々と仕掛けた自分が吹き飛ばされた事実を受け入れ、相手を舐めていたと自分に怒りを抱く

 

「すみませんでした。もう一度、お願いします」

 

天之河は再び気合いを入れ直して攻撃を開始する。超高速の剣撃は体をブレさせて残像を生み出す程――――――だが、紙一重で躱されて隙あらば反撃されて天之河は、自分の戦闘を見失っていた。それでもステータスに物を言わせて直撃を避けているという点は流石勇者(笑)だろう

 

「ふん、確かに並の人間じゃ相手にならん程の身体能力だ。しかし、少々素直すぎる。元々、戦いとは無縁か?」

 

「えっ? えっと、はい、そうです。俺は元々ただの学生ですから」

 

「・・・それが今や"神の使徒"か」

 

チラッと教会関係者の方を見て不機嫌そうに鼻を鳴らす

 

「おい、勇者。構えろ。今度はこちらから行くぞ。気を抜くなよ?うっかり殺してしまうかもしれんからな」

 

「ッ!?」

 

気付かぬ内に懐に潜り込まれ、不規則な攻撃が天之河を容赦なく襲う。先読や縮地で体勢を整え様とするが、まるで磁石の様に一定の距離を保ったまま離れない。徐々に焦りが顔に出始め、多少のダメージ覚悟で剣を振ろうとした瞬間に護衛が魔法のトリガーを引いた

 

「穿て――"風撃"」

 

「うわっ!?」

 

片足に撃ち込まれた魔法の威力は高くは無い。だが、姿勢を崩す程度の威力が有り、バランスを崩した。それと同時に、壮絶な殺気が天之河を射貫いた。ようやく天之河は理解した。相手は自分を殺すと―――――しかし、そうはならなかった

 

ズドンッ!

 

「ガァ!?」

 

今度は護衛が吹き飛んだ。天之河は全身から純白のオーラを吹き出しながら、護衛に向かって剣を振り抜いた姿で立っていた。生存本能に突き動かされるまま、限界突破を使用したのだ。殺されていたかもしれない・・・天之河の表情は恐怖を必死で押し殺した険しい顔をしていた

 

「ハッ、少しはマシな顔するようになったじゃねぇか。さっきまでのビビリ顔より、よほどいいぞ!」

 

「ビビリ顔? 今の方が恐怖を感じてます。・・・さっき俺を殺す気ではありませんでしたか?これは模擬戦ですよ?」

 

「だからなんだ?まさか適当に戦って、はい終わりっとでもなると思ったか?この程度で死ぬならそれまでだったってことだろ。お前は、俺達人間の上に立って率いるんだぞ?その自覚があんのかよ?」

 

「自覚って・・・俺はもちろん人々を救って・・・」

 

「傷つけることも、傷つくことも恐れているガキに何ができる?剣に殺気一つ込められない奴がご大層なこと言ってんじゃねぇよ。おら、しっかり構えな?最初に言ったろ?気抜いてっと・・・死ぬってな!」

 

だが、護衛はそれ以上踏み込んでは来なかった。何故なら、二人の間に光の障壁がそそり立っていたから

 

「それくらいにしましょうか。これ以上は、模擬戦ではなく殺し合いになってしまいますのでな。・・・ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」

 

「・・・チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」

 

護衛は、耳に付けていたイヤリングを外す。すると、霧がかった様に姿がボヤけ始め晴れる頃には別人が立っていた

 

「ガ、ガハルド殿!?」

 

「皇帝陛下!?」

 

「どういうおつもりですかな、ガハルド殿」

 

「これは、これはエリヒド殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」

 

それからは無し崩しで試合は有耶無耶となって終わり、その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質が取れ、訪問の目的も達成された

晩餐も終わり、部屋で部下と共に勇者(笑)について本音で話し合うガハルド

 

「ありゃ、ダメだな。ただの子供だ。理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口だ。なまじ実力とカリスマがあるからタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだな。"神の使徒"である以上蔑ろにはできねぇ。取り敢えず合わせて上手くやるしかねぇだろう」

 

「それで、あわよくば試合で殺すつもりだったのですか?」

 

「あぁ?違ぇよ。少しは腑抜けた精神を叩き治せるかと思っただけだ。あのままやっても教皇が邪魔して絶対殺れなかっただろうよ」

 

「まぁ、魔人共との戦争が本格化したら変わるかもな。見るとしてもそれからだろうよ。今は、小僧どもに巻き込まれないよう上手く立ち回ることが重要だ。教皇には気をつけろ」

 

「御意」

 

部下からもたらされる情報を一つ一つ聞くガハルド。その中に一つだけ興味を引く物があった

 

「あぁん?メイドだと?」

 

「はい。ステータスは勇者よりも高く、試合で圧倒したとの情報です。聞き伝ですが、目撃者も多数存在している事から間違い無いかと思われます」

 

「・・・未だ何かあるんだろう?」

 

「勇者一行が初めてオルクス迷宮に挑み奈落へ落ちて行ったと」

 

「ん?待て。今"落ちて行った"と言ったな?"落ちた"じゃなくて」

 

「現場に居た神の使徒の報告では、転移に巻き込まれなかった唯一の人物。そして、短時間でその場所に到着して無能と呼ばれる二名を躊躇無く追いかけたらしいです。落ちる際に、フレンドリーファイア?なる者と一緒に行動出来無いと言う事と、処罰をしなければ殺害も辞さないと宣言されていたとの事です」

 

「へぇ。フレンドリーファイアってのが何か分からないが想像は付くな。極め付けは最後の処罰・・・間違い無く味方を攻撃した何者かが居るのは確定だな。んで?仲間を攻撃した人物は処刑されたか?」

 

「・・・いえ。あの勇者が許したとの事です」

 

「・・・・・嘘だろ?」

 

「・・・・・本当です」

 

ガハルドは深い深ーいため息を吐き、勇者(笑)の評価を最低の物へと切り替えた

 

「ありゃあ人の善性しか見てねぇガキだな。戦力にもならねぇ・・・」

 

「・・・同感です」

 

「それよりもメイドについてだが、聞き伝だけでもハッキリと分かる。日和った連中と違って絶対に裏で色々とやってそうだな」

 

「実は・・・騎士団長曰く、自分よりも強いと感じさせる程との事です」

 

「何かしらの考えが有って後を追ったんだろうな。・・・って事は生き抜いている可能性は大きい」

 

「情報を収集致します」

 

「おう」

 

翌日には帰国するガハルド達・・・何ともフットワークの軽い皇帝である。余談ではあるが、早朝訓練をしている八重樫を気に入り愛人にどうだと割かし本気で誘ったというハプニングがあったが、当人は丁重にお断りして、皇帝陛下も「まぁ、焦らんさ」と不敵に笑いながら引き下がったので特に大事には至らなかった

知らずの内にガハルドにロックオンされた深月。だが、ガハルドの失敗はそこだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皐月の絶対なる忠犬である深月を手に入れよう等、絶対に出来無いのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「いやぁ~メイドさんは大変だ~大変だ~」
深月「えっ・・・ちょっと待ってください。私大変じゃないですか!?」
布団「皇帝さんは有能な人材ほちいだからね♪」
深月「私の主はお嬢様だけです!!」
布団「皇帝がお嬢様を狙ったら?」
深月「無論、玉を引きちぎって竿をぶった切ります!」
布団「ひゃ~!過激だぁ!!」
深月「それでは、今回もこの辺りにしましょう」
布団「記念話はもう少し余裕が出来た日に書く予定ですー」
深月「感想、評価、お気軽にお願い致します」


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またしてもお嬢様と離ればなれに・・・メイドは戦います

布団「ホワァーーーー!」
深月「何を言っているのですか」
布団「はい。投稿しまーす」
深月「今回はタイトル通りですね」
布団「まぁ・・・そうなるよね」
深月「しかし・・・またですか」
布団「今回は真逆だね」
深月「私の幸運値低くありませんか?」
布団「しょうが無いのよ。メイドさんが一緒に攻略すると駄目駄目だああああ!」
深月「・・・では、本編に参りましょう!」
布団「誤字報告有り難う御座います。本当に助かります」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」


~深月side~

 

ブルックの町を出てライセン大峡谷に入っておよそ二日、私達の通った後の道は蹂躙した魔物の死骸で一杯です。そしてここからが怒濤の展開なのです。シアさんが"お花摘み"に席を外した先に見つけた案内板は迷宮の物でした。これだけなら、運が良かっただけで怒濤の展開ではありませんよ。・・・何故なら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁさぁさぁ!絶望絶望♪たった一人でのラスボスのミレディちゃんと一騎打ち!プププッ♪ねぇねぇ、今、どんな気持ち?ねぇねぇどんな気持ち?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に佇む巨大ゴーレム――――――ミレディ・ライセンが居るからです

どうして私の目の前に居るのかですか?あれはほんの少し前に遡ります

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハ、ハジメさ~ん!皐月さ~ん!深月さ~ん!ユエさ~ん!大変ですぅ!こっちに来てくださぁ~い!」

 

ライセン大峡谷を探索して数日―――――野営のしようとした一同だが、シアが花摘みで席を外していた。すると、帰って来たシアは四人を導いて岩の隙間に入ると、意外なほど広い空間が存在した。そして、その空間の中程まで来ると、シアが得意げな表情でビシッと壁の一部に向けて指をさした

 

"おいでませ!ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪"

 

『は?』

 

呆然と地獄の谷底には似つかわしくない看板を見つめるハジメと皐月とユエ。深月は周囲の様子を観察している

 

「・・・マジだと思うか?」

 

「・・・・・ん」

 

「マジだと思うわ・・・だってミレディって書いてるし」

 

「やっぱそこだよな・・・」

 

外で知られている名前は"ライセン"。ファーストネームが分からないのが普通だが、オスカーの手記に書かれている。故に、その名が記されているこの場所がライセンの大迷宮である可能性は非常に高かったのだが、素直に信じられない理由は・・・

 

「「何でこんなチャラいんだよ(のよ)・・・」」

 

ハジメと皐月とユエの予想では、オルクスみたいに死闘を繰り返す迷宮だと踏んでいたからだ。これを見るからに誰かのいたずらではないかと疑っているのだ

 

「でも、入口らしい場所は見当たりませんね?奥も行き止まりですし・・・」

 

「シアさん、駄目ですよ。不用意過ぎます」

 

微妙そうにしている三人と警戒をしている深月を余所にシアは、「入口はどこでしょう?」と辺りをキョロキョロ見渡したり、壁の窪みの奥の壁をペシペシと叩いたりしている

 

「シア。あんまり・・・」

 

ガコンッ!

 

「ふきゃ!?」

 

"あんまり不用意に動き回るな"そう言おうとした皐月の眼前で、シアの触っていた窪みの奥の壁が突如グルンッと回転し、巻き込まれたシアはそのまま壁の向こう側へ姿を消した。深月は「だから不用意だと申しましたのに・・・」と頭に手を当ててため息を吐いている

 

「「「・・・・・」」」

 

ハジメ、ユエ、皐月―――――と続く様に、シアが飲み込まれた回転扉に手を掛ける。グルンッと後方に居る皐月を巻き込んで扉の向こう側へと送る最中、深月が皐月を呼んだが皐月当人は聞こえていなかった。中は暗闇で見えず、ガコンッと扉が停止すると同時にこちらに向かってくる飛来物・・・それは矢だ。全く光を反射しない漆黒の矢が侵入者を排除せんと無数に飛んで来たのだ

皐月はドンナーを出さず、拡散型の衝撃波を放って迎撃。吹き飛ばした矢の本数は二十程だった。静寂が戻ると同時に周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出す。十メートル四方の部屋で、奥へと真っ直ぐに整備された通路が伸びていた。そして部屋の中央には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた

 

"ビビった?ねぇ、ビビっちゃった?チビってたりして、ニヤニヤ"

"それとも怪我した?もしかして誰か死んじゃった?・・・ぶふっ"

 

「「「・・・」」」

 

ハジメと皐月とユエの三人の内心はかつてないほど一致している。―――――「うぜぇ~」と。わざわざ、"ニヤニヤ"と"ぶふっ"の部分だけ彫りが深く強調されているのが余計腹立たしい。特に、パーティーで踏み込んで誰か死んでいたら、間違いなく生き残りは怒髪天を衝くだろう

多少額に青筋を浮かべていると、ユエが思い出した様に呟く

 

「・・・シアは?」

 

「「あ」」

 

二人は思い出し、先に入ったシアを確認するべく、巻き込まれない様に扉を回転させると・・・シアは回転扉に縫い付けられていた

 

「うぅ、ぐすっ、ハジメざん・・・見ないで下さいぃ~。でも、これは取って欲しいでずぅ。ひっく、見ないで降ろじて下さいぃ~」

 

もの凄く哀れな姿であった。恐らく、天性の索敵機能が飛んで来る矢を察知して回避行動を行ったのだろう。だが、全てがギリギリでの回避だった為に非常口のピクトグラムに描かれている人型の様な格好で固定されていた。そして、何故シアが泣いているのか・・・恐怖故の物では無く、足元が盛大に濡れていたから―――――お漏らしをしてしまったからだ

 

「そう言えば花を摘みに行っている途中だったな」

 

「そういう事は良くあるわよ・・・・・多分」

 

「ありまぜんよぉ!うぅ~、どうして先に済ませておかなかったのですかぁ、過去のわたじぃ~!!」

 

無表情ながらも同情を禁じ得ない皐月とユエは張り付けにされたシアを解放する

 

「・・・あれくらい何とかする。未熟者」

 

「面目ないですぅ~。ぐすっ」

 

「ハジメ、着替えを出して」

 

「あいよ」

 

宝物庫からシアの着替えを出してやり、シアは顔を真っ赤にしながら手早く着替えて顔を上げると三人が見た文字が目に入る。八つ当たりする様に壁をドリュッケンでドッカンドッカンと破壊するが、砕けた石板の跡―――――地面の部分に何やら文字が彫ってあり、そこには・・・

 

"ざんね~ん♪この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!!"

 

「ムキィーー!!」

 

シアが遂にマジギレして更に激しくドリュッケンを振い、壁を粉砕して行く。しばらく破壊行為をした後、復元する壁には更に文字が彫られていた。それは・・・

 

"むだむだむだ~♪お馬鹿さん♪それよりも気付かない?気付いていない?プークスクスクス!"

 

「一旦止まりなさいシア」

 

「何でですか!この恨み晴らすべからずうううう!!」

 

「と・ま・れ」ゴゴゴゴッ

 

「スイマセン」

 

徐々に修復されて行く壁。新たに彫られている文字・・・

 

"お仲間が減ってる事に気付かない?あっゴッメーン!ひとりの君はボッチだよね?ソロ=ボッチ―――――ブフッ!"

"えっ?減った事に今気付いたの?プギャー♪鈍感鈍感!後方さんはボスと一騎打ちなの~!あ、戻ってもむ・い・み!焦った?焦った?ねぇねぇ、今、どんな気持ち?どんな気持ち?"

 

最後の彫られた文字を見て四人は合掌した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深月では無く、ミレディに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦闘はしました。もう過去形ですよ?

 

「それで?私と戦っていた巨大ゴーレムは、ミレディ・ライセンご本人様で宜しいでしょうか?」

 

『えっと・・・はい。ってか最初に思っていたけど何でメイドなの!?普通は冒険者じゃないの!?そして強すぎるんですけど!?何で重圧を増やしたのに動けるの!?』

 

「この程度の重圧で動けなくなる様ではメイドとして失格です」

 

『それメイドじゃ無いよね!?何処の世界に超人メイドを育成する所があるの!?』

 

「全てはお嬢様の為にです」

 

『会話が成立してないよ~!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡ること数刻前――――――

ミレディゴーレムと一対一の勝負で、深月はゴーレムを攻撃するも傷一つ付かなかった。その事実を踏まえながら、関節部を攻撃するも無傷。ミレディが高笑いしながら挑発するも、深月は気にせずに要所要所で攻撃して行く

 

『も~!避けて攻撃、避けて攻撃ばっかりでウザったい!という訳で、レッツゴーゴーレムちゃん♪』

 

総数およそ五十体の騎士型ゴーレムが剣を携えて深月に群がる

 

『むっふっふっふっふ♪ねぇ、今、どんな気持ち?卑怯?セコイ?でも私ボスだから~♪』

 

ギリギリでゴーレム達の攻撃を回避している深月の様子を見て上機嫌なミレディだが、深月のいやらしさは全く知らない。このメイドはチートを超えるチート・・・特に、魔力糸を獲得してからはそれが顕著に表れている

振り下ろされるゴーレムの腕に、不可視状態の糸を巻き付けて身を屈めながら引っ張る。隣のゴーレムの胴体を軸に巻き付けているので、降り下ろしが横薙ぎとなって周囲のゴーレムをなぎ倒した。自分の命令とは違う動きをするゴーレムに驚愕するミレディは、一瞬だけ意識を深月に反らしてしまった。その隙を逃さず、魔力糸を細いノコギリ状の形へと変えて一気に引き絞る。避けながら、関節部へと巻き付けていた魔力糸・・・引き切る様に四肢の関節に絡ませていたので、殆どのゴーレムがダルマとなり地面へと崩れ落ちた

 

『はぁ?』

 

目の前で起きた事が理解出来無いミレディ。完全に硬直したその胴体に金剛で極限まで硬くした拳を心臓部へ向けて殆ど同時の連打八卦を打ち込んだ

 

ドガガガンッ!

 

某グルメ主人公の連続パンチを再現した攻撃。ステータスに物を言わせたごり押し・・・貫通と破壊に特化したそれの衝撃は凄まじく、巨大ゴーレムを大きく仰け反らせる程だった

 

『ちょ!?ちょちょちょ、ちょっと待って!?素手でこの威力ってヤバイわよ!?このゴーレムじゃなかったら完璧に破壊されていたんですけど!?』

 

「ちっ!」

 

『ひぇっ!?こ、このメイド、私を完全に破壊するつもりなの!?で、でも残念でした~♪アザンチウムの硬度は最強!破壊なんて出来無いのよ!!』

 

「そうですか・・・アザンチウムを使用していながらその動きとなれば――――――装甲板の扱いをしているのですね」

 

『どうして分かったの!?攻撃した瞬間に気付いたの!?』

 

会話をしながら攻守攻防?・・・ミレディの攻撃は空を切るばかりだが、周囲の騎士ゴーレムは再生して復活してミレディを注視している深月の死角からの攻撃。ゴーレムの為笑みを浮かべたり出来無いが、間違い無く「勝った」と確信したのだが、それすらも裏切られた

深月は振り向き様に刀身の腹に裏拳を叩き込んで弾き、ミレディ本体に叩き込んだ連続八卦を胸部に打ち込んだ。粉々に砕け散った礫は、後方に待機していた騎士ゴーレム達を巻き込み全滅させたのだ。これ程までのTHE理不尽の前に、ミレディは激おこだ

 

『理不尽でしょ!?粉砕した礫で奧のゴーレムまで倒すとかわけ分かんない!!』

 

騎士ゴーレムの再起動まで少しだけ余裕が出来た深月は、再び巨大ゴーレムの攻略を開始する。しかし、攻撃全てがアザンチウムの前に弾かれたり、傷を付ける程度だった

 

「硬い・・・」

 

『チマチマと!挑戦者ならドーンと大きな攻撃でもしてきなさいよ!』

 

巨大ゴーレムが何やら文句を垂れていますが無視です。現在知り得ている情報を整理しましょうか・・・

一つ。アザンチウム鉱石で出来たゴーレムですが、装甲板として使用している事

二つ。周囲の騎士ゴーレムが動く際は本体が殆ど動けない事

三つ。傷を付ける事が出来る武器は、同じアザンチウム製の武器とノコ状の魔力糸

そして、最後は予測となりますが・・・人間と同様に心臓部に核がある筈です。騎士ゴーレムの核も同じ部分に存在して、私が胸部を攻撃した時に"完全に破壊するつもり"と発言されていたので間違い無いでしょう

これだけの条件が揃えば、殺りようはありますね

 

思考は途切れさせずに、微々たる成果しか無いものの"同じ場所"に攻撃を続けていく。勿論巨大ゴーレムに気付かれない様に、魔力糸を常時ノコ状にして小さな傷を付けている。ゴーレム自身は、同じ場所を攻撃されている事に気が付いてないのか大振りの攻撃ばかりを繰り返している

深月は次の一手を出す為に大きく後退。ゴーレムは後退する深月に向けて手をかざした。その瞬間、深月の体がズシッと重くなり膝を付く

 

「――――ッ!これは重さを変える魔法!?」

 

『ふっふ~ん!私の重力魔法のお味は・い・か・が・?これで私の勝ち確定ね!残念ね~♪貴女は私に潰される運命なのよ。じゃあね~♪』

 

膝を付いて動かない深月に向けて特大の拳を振り下ろすゴーレム。近づく拳の前に微動だにしない深月を見て勝ちを確信するが、それすらも裏切られた。ゴーレムの一撃は、深月の前眼で止まったから。それは奇しくもオルクスでの使徒擬きと同じ状態だった。そんな事を知らないゴーレムは当然驚愕して焦った

 

『な、何で!?嘘!動かない!?引く事も押す事も出来無い。それどころか体が動かないんだけど!!』

 

「これで終わりです」

 

微動だにしなかった深月は、何事も無かったかの様に立ち上がってゴーレムを見据えた

 

『じゅ、重力魔法が効かない!?嘘!?だって五倍の重さを掛けたのに!』

 

「それは残念でしたね。私は限界突破の技能を持っています―――――後はお分かりですか?」

 

『げ、限界突破を持ってるの!?・・・で、でもっ!私は健在しているから攻略は出来ていないわ!』

 

「そうですね。アザンチウムの装甲の前には"普通の攻撃"は通用しません」

 

『そうよ!だから、貴女は迷宮から出る他無いのよ。ねぇねぇどんなk―――――』

 

「ですので、普通の戦闘では出来無い攻撃を致します。動きを封じたのもその為です」

 

『えっ?――――――ちょっと待って何を』

 

深月は考えていた。どうすれば貫けるのか――――――と

ハジメがパイルバンカーを創っていた事は知っているが、当人はこの場に居ない。よって、この現状を自分の力だけでどうにかしなければいけないのだ。そこで、一つだけ思い至った方法が魔力糸を物質化させた攻撃という事だ。ゴーレムを拘束している糸はそのままで、胸部に向けてバリスタの様な形を作って黒刀をセット

 

『・・・その剣ってもしかしなくても』

 

「アザンチウム100%の武器です♪」

 

『で、でも貫通力は無いわよね!?』

 

「貴方はお気づきでは無いでしょうが、私が無意味な攻撃を続けるとお思いですか?胸部をしっかりと観察してみてください」

 

『・・・あっれれ~?おっかしいぞ~?傷が付いているんだけど』

 

「私の攻撃で薄い切り傷が付く程度でしたが、塵も積もれば山となります」

 

『だ、だけど!最初に言った通り貫通力が無いと意味が無いわよ!』

 

「これを見てもそう言い切れますか?」

 

深月は破砕したゴーレムの一部を取って、纏雷を使って指で弾くとキュガッ!と音を立てて壁を貫通していった

 

『  』

 

「後はお分かりですね。では、早速実行しましょう♪」

 

『待って!?待って待って待って!!降参するから!?降参するから破壊だけはしないで!?』

 

「振りですね。分かりました」

 

『まっt―――――』

 

「待ちません」

 

黒刀の柄を魔力糸で縛り付けたのを確認した後、バリスタ擬きを躊躇無く発射。轟音と共に傷付いた装甲を黒刀が貫通してゴーレムの核を砕き、ドォンと地面に崩れ落ちたのだった。深月はやり切った顔をして壁の奥へと貫通していった黒刀を、魔力糸をつたって回収したのは言うまでも無い

 

『はぁ・・・止めてって言ったのに。・・・容赦ないなぁ』

 

「まだ息があるのですか。今の内にトドメを刺しましょう」

 

『まぁまぁ、もうすぐ消えるから少しぐらい・・・お話ししようよ』

 

「・・・お話ですか。それなら大丈夫ですよ」

 

『私の名前はミレディ・ライセンよ』

 

そして話しは戻る――――――――

最初の紹介は終わり、何故迷宮を攻略しているのか――――ミレディは迷宮の本当の意味を深月に教える

 

『神代魔法は貴女達が帰還する為に必要』

 

「そして、盤面を引っ掻き回す私達はイレギュラー」

 

『いつ頃から手出しをしてくるか分からないけれど、確実に来るから注意はしてね』

 

「忠告感謝致します。ですが、恐らく既に目を付けられているのは確実でしょう」

 

『ははは・・・あいつらは性根が悪いから・・・もうそろそろ・・・時間かな』

 

「ではお休みなさい」

 

『メイドフェチな・・・オーちゃんだと・・・嬉しいだろうなぁ・・・』

 

「"その体"ではもうお休みなさいでしょう?早く切り替えて修復しなければお嬢様達が来られますよ?」

 

『・・・何時から気付いたの?』

 

「出会って直ぐの性格から考えてです。ハジメさんとお嬢様は気付くでしょう」

 

『あっ・・・はい。それじゃあ、あの浮遊ブロックに乗ってね』

 

「解放者の拠点があちらですか」

 

奥に案内された浮遊ブロックに乗って進んで行くと、扉に刻まれていた七つの文様と同じものが描かれた壁があった。深月が近づくと、タイミングよく壁が横にスライドし奥へと誘う。浮遊ブロックは止まることなく壁の向こう側へと進んでいった

 

「やっほー、さっきぶり!ミレディちゃんだよ!」

 

「では、私は此処で皆さんを待たせて頂きます」

 

「神代魔法は?」

 

「後でお願い致します」

 

「それじゃあ私は修復しに行ってくるよ~♪」

 

こうして、深月は最初の迷宮攻略者となりハジメ達の到着をゆっくりと待つ事に

修理を終えたミレディと雑談をしたり、ミレディの案内から外に出て魔物を駆逐して食料にしたりと何気にオルクスでのサバイバルと変らない事をやっていたりしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ達と分断されてからおおよそ一週間。ハジメ達はようやくボス部屋へと到着したのだった

戦闘描写は特にこれと言って無い。何故か?開幕速攻で終わったからだ。巨大ゴーレムの四肢、特に関節部を水で濡らしてユエの魔法で凍らせてパイルバンカーを心臓部に撃ち込んだからと言っておこう。皐月は魔力そのものを見通す魔眼を持っている。ハジメも同じ効果を持つ眼帯を創っているので核は直ぐに発見。初撃はオルカンのロケット弾で傷付かなかったから、パイルバンカーの最大火力でやっちゃおうとの事。パイルバンカーで完全に貫く事は出来無かったが、シアのドリュッケンで杭を叩き込む事でぶち抜いたのだ。あっという間の攻防。迷宮でのイライラを最大火力出発散したと言う事である

その後は、ミレディの死の演出によりユエとシアが騙されてという流れである。何が言いたいかというと

 

「・・・死ね」

 

「死んで下さい」

 

「ま、待って!ちょっと待って!このボディは貧弱なのぉ!これ壊れたら本気でマズイからぁ!落ち着いてぇ!謝るからぁ!」

 

ドッタン!バッタン!とユエとシアに追い回されているミレディの姿である

じゃれ合いを無視してお互いの状況を説明するハジメ達。深月はどうしたのか、ハジメ達は攻略でどうなったのか等々

 

「「本当にウザかったんだよ(のよ)!深月がいたら一直線だったのに!!」」

 

オルクスでの出来事から深月の探索能力を目の当たりにしているハジメと皐月は手痛い出来事だったのだろう

 

「いえ・・・お話を聞く限りですと、オルクスと同様の事は出来ませんよ?」

 

「「えっ?」」

 

「あれは部屋が移動したり創り変らないという点が前提ですから・・・」

 

「そうか・・・」

 

「深月ならチートを生み出すかと思ってたの・・・」

 

追いかけ回されているミレディは無視して話し込んでいる三人・・・特に、話し安く、乱暴にしないであろう深月の背に回り込む様に隠れた。流石のユエとシアも止まった

 

「助けて!あの二人私を殺すつもりなんですけど!?」

 

「駄目ですよユエさん。シアさん。神代魔法を手に入れていないのですから」

 

「そーだ!そーだ!・・・・・あれ?その言い方だと手に入れたら不要って事?」

 

「知るべき情報は手に入れましたから」

 

「・・・もしかしなくても・・・私とのお喋りは情報収集だった?」

 

「そうですが何か?」

 

「うわああああん!もう誰も信じられないよ~!」

 

ミレディとのお喋りは雑談だったのだが、殆どが有益な情報だったので深月にとって有意義な時間であった。大迷宮の内容は知る事が出来無かったが、場所等については正確に把握出来たのである

 

「それじゃあ・・・さっさと神代魔法を寄越せ」

 

「キリキリと働きなさい。さもないと砕くわよ?」

 

ミレディを脅す二人。皐月に関しては義手の手でミレディをギリギリと締め付けている

 

「あのぉ~、言動が完全に悪役だと気づいてッ『メキメキメキ』了解であります!直ぐに渡すであります!だからストーップ!これ以上は、ホントに壊れちゃう!」

 

魔方陣の中に入り、神代魔法を書き込まれて行く。経験者の四人は無反応だが、初体験のシアはビックン体を跳ねさせた

 

「これは・・・やっぱり重力操作の魔法か」

 

「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね――――って言いたいところだけど、君と貴女とウサギちゃんは適性無いねぇ~もうびっくりするレベルでないね!」

 

「それくらい想定済みよ」

 

「まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。君は・・・生成魔法使えるんだから、それで何とかしなよ。メイドと金髪ちゃんは適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ」

 

初めての神代魔法の適性が無いシアはガックリと項垂れた。ユエは適性が有るとの事だったので内心嬉しかった。ここでもやっぱりあれなのが深月である

 

「ホントさぁ・・・メイドって何なの?生成魔法は鉱石に付与する筈なのに、魔力糸?に適応しているとかありえないでしょ。そして重力魔法も適性有りって・・・」

 

「「「「深月(さん)だから仕方が無い(ですぅ)」」」」

 

「・・・貴方達も諦めているのね」

 

「重力魔法ですか・・・抽出する際には便利ですね」

 

深月の頭の中で一番早く思い付いた活用法は、"植物性油を手に入れる"―――――これで料理の幅が広がったのである。そんな深月を放置してハジメ達は、ミレディに対して要求していく

 

「おい、ミレディ。さっさと攻略の証を渡せ」

 

「便利そうなアーティファクト類と感応石みたいな珍しい鉱物類もね?」

 

「・・・君達さぁ、セリフが完全に強盗と同じだからね?自覚ある?」

 

はぁ、とため息を吐きつつ一つの指輪を取り出し、それをハジメに向かって放り投げて虚空に大量の鉱石類を出現させる。しかし、この程度でよしとしないのがハジメクオリティー

 

「おい、それ"宝物庫"だろう?だったら、それごと渡せよ。どうせ中にアーティファクト入ってんだろうが」

 

「あ、あのねぇ~。これ以上渡すものはないよ。"宝物庫"も他のアーティファクトも迷宮の修繕とか維持管理とかに必要なものなんだから」

 

「知るか。寄越せ」

 

「あっ、こらダメだったら!あげないって言ってるでしょ!もう、帰れ!」

 

ジリジリと迫ってくるハジメに、ミニ・ミレディは勢いよく踵を返すと壁際まで走り寄り、浮遊ブロックを浮かせると天井付近まで移動する。この時、深月は何かに感づいたのか皐月の側に待機

 

「逃げるなよ。俺はただ、攻略報酬として身ぐるみを置いていけと言ってるだけじゃないか。至って正当な要求だろうに」

 

「それを正当と言える君の価値観はどうかしてるよ!うぅ、いつもオーちゃんに言われてた事を私が言う様になるなんて・・・」

 

「ちなみに、そのオーちゃんとやらの迷宮で培った価値観だ」

 

「オーちゃぁーーん!!」

 

今までミレディに散々やられたユエとシアも参戦して包囲していく。皐月も混じろうとしたのだが、深月に止められている

 

「はぁ~、初めての攻略者がこんなキワモノだなんて・・・もぅ、いいや。君達を強制的に外に出すからねぇ!戻ってきちゃダメよぉ!」

 

今にも飛び掛からんとしていたハジメ達。ミレディは、いつの間にか天井からぶら下がっていた紐を掴みグイっと下に引っ張った

 

「はぁ・・・やはりそうきますか」

 

「「「「?」」」」

 

深月を除いて、ミレディが何をしているのか分からない一行。だが、次の瞬間・・・嫌と言う程聞き覚えのある音で確信した

 

「ハジメさん、ユエさん、シアさん。早くこちらに!」

 

ガコン!

 

「「「「!?」」」」

 

トラップの作動音。その音が響き渡った瞬間、轟音と共に四方の壁から途轍もない勢いで水が流れ込んできた。四方八方から襲い来る。そして、部屋の中央にある魔法陣を中心にアリジゴクのように床が沈み、中央にぽっかりと穴が空いた

 

「てめぇ!?」

 

「こういうのは緊急脱出用じゃないの!?」

 

「お嬢様失礼致します」

 

深月の招集よりも、激流を逃れようとユエが"来翔"を行使しようとするが

 

「させなぁ~い!」

 

ミレディの重力魔法が襲い掛かり、激流へと飲まれる。深月の方は、皐月を抱き上げて魔力糸で繭の様に展開させた。本来は五人で入りたかったが、ハジメ達が集まらなかったので皐月と深月の二人だけだ

 

「それじゃあねぇ~、迷宮攻略頑張りなよぉ~。そしてメイドはしっかり対応しているって・・・」

 

「ごぽっ・・・てめぇ、俺たちゃ汚物か!いつか絶対破壊してやるからなぁ!」

 

「ケホッ・・・許さない。・・・深月いr――――――」

 

「ちょ深月ざん!?わだじもおぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!」

 

ハジメ達はそう捨て台詞を吐きながら、なすすべなく激流に呑まれ穴へと吸い込まれていった。穴に落ちる寸前、ハジメだけは仕返しとばかりに何かを投げたようだ。ハジメ達を流した後はあっという間に水が引き、床も戻って元の部屋の様相を取り戻した

 

「ふぅ~、濃い連中だったねぇ~。それにしてもオーちゃんと同じ錬成師、か。ふふ、何だか運命を感じるね。願いのために足掻き続けなよ・・・さてさて、迷宮やらゴーレムの修繕やらしばらく忙しくなりそうだね・・・ん?なんだろ、あれ」

 

ミレディが独りごちる中、ふと視界の端に見慣れぬ物を発見。壁に突き刺さったナイフとそれにぶら下がる黒い物体。嫌な予感がヒシヒシと伝わり、わたわたと踵を返すミレディだが、時すでに遅し。ミレディが踵を返した瞬間、爆発――――――。「ひにゃああー!!」という女の悲鳴が響き渡った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「いやぁ~メイドさんはお強いですなぁ」
深月「これも全て派生技能のお陰です」
布団「節約とかぶっ壊れ性能だと思うのよ」
深月「本来の魔力消費量が10の所を1辺りまで抑える事が出来ますので」
布団「うん・・・もうさ、メイドさんに勝てる人って居ないんじゃないかな?」
深月「油断や慢心はいけませんよ!」
布団「罠に掛かったじゃん?」
深月「一度に入れる人数が決まっていたのです!」
布団「しっかし・・・糸を束ねて武器を創るって・・・錬成師顔負けじゃないですかぁ」
深月「いえいえ、硬度は変えれますが鉱石の特性までは再現出来ませんので・・・」
布団「某正義の味方みたいに同調開始出来るんじゃない?」
深月「ふむ・・・ハジメさんに色々と教えて頂きましょう」
布団「あっ!ちょ!?タンマ!それ駄目ええええ!」
深月「感想、評価、お気軽にお願い致します。では、私はハジメさんにアドバイスを」


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メイドは暗躍していました

深月「投稿ですよ!今回は作者さんが忙しそうにしているので、私一人の豪華一本立てでございます。・・・とはいえ、前書きで話す事は殆ど無いにも等しいです。ですが、このまま終わるとなると味気無いので独り言を呟きましょう
お嬢様は日々進化しておられます。それはもう、あらゆる所ですよ!(意味深の)訓練や(戦闘の)諦めない粘りで私の攻撃を凌ごうとする姿はたまりません!!さぁ皆さんもおzy―――――――」
布団「それ以上はいけない!無理矢理にでも話しを断ち切らせて頂いたのです」
深月「チッ・・・」
布団「舌打ちしないで下さいよぉ。お嬢様について色々書いてみるから(本当に書くとは一言も言っていない)」
深月「作者さんは遊んでいました―――――と、いう事ですね?」
布団「朝から晩まで色々と諸事情で書けなかったんです!  誤字報告有り難うなのですよー」
深月「感想も有り難う御座います。・・・作者さんのモチベを上げ上げするには必要なのですね」
布団「テンション上がってきたー!   って?」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」




~ハジメside~

 

ブルックと隣町の間にある湖がいきなり泡立ち

 

ゴポッ!ゴポゴポゴポッ!    ゴッパーーーン!

 

「どぅわぁあああーー!!」

 

「んっーーーー!!」

 

「   」

 

吹き上がる水の勢いそのままに、三人と大きい白い玉が飛び出す。おおよそ十メートルまで飛ばされた一行はボチャンと水柱を立てながら墜落した。そして、その光景を見ている者達・・・服屋のクリスタベルと、マサカの宿の娘のソーナと、護衛の冒険者達は呆然としていた

深月は、魔力糸を球体からボートの形に変えてハジメ達三人の回収する

 

「ゲホッ、ガホッ、~~っ、ひでぇ目にあった。あいつ何時か絶対に破壊してやる。ユエ、シア、無事か?・・・皐月と深月は・・・まぁ、そうだよな・・・」

 

「ケホッケホッ・・・ん、大丈夫。・・・深月酷い」

 

「お声を掛けたのですが聞こえませんでしたか?」

 

「・・・むぅ。それを言われると何も言い返せない」

 

水面からボートに上がった二人と、回収された一人。返事が無いシアは、現在皐月が人工呼吸を行っている

 

「それにしても、深月の魔力糸だが・・・応用効き過ぎだろ」

 

「・・・船」

 

「重力魔法で沈まない様にしているだけですよ?本来は定員一~二人です」

 

魔力糸でオールの形を作りクリスタベル達が居る岸へと近づけて行くと、シアも目を覚ましたのか・・・皐月にアイアンクローをされている

 

「・・・何があった」

 

「・・・ん」

 

「この残念ウサギッ!あそこに居るクリスタベルさんの所までぶっ飛びなさい!!」

 

まるで水切りの様にシアを水面に叩き付けて吹き飛ばした皐月。シアは「あっぶぇえええええ!」と叫びながら吹っ飛んでいった

 

「本当に何があった・・・」

 

「・・・なにかされた?」

 

「人工呼吸をしている私をハジメと間違えてキスをしてきたのよ。救助している人に対しての侮辱に等しいわよ!」

 

「後程OHANASHIしておきましょうか?」

 

「やらなくて良いわよ。その代わり、ハジメに癒やしてもらうから―――――――良い?」

 

「ん!」

 

「おっ、おう」

 

ハジメの右腕に引っ付く皐月。肉眼でハジメ達を見て、「あら? あなたたち確か・・・」と記憶にある三人を思い出すクリスタベル。そして、嫉妬の炎を瞳に宿す男共とそんな男連中を冷めた目で見ている女冒険者

シアの元まで到着したハジメ達の元に、飛ばされたシアが帰ってくるなり文句を言い始める

 

「酷いですよ皐月さん!ちょっと間違えてキスしちゃった位であんなに怒る事ないじゃないですか!これは断固抗議です!対価としてハジメさんを一日貸して頂きます!!」

 

「あ"ぁ"ん"?」

 

「・・・調子に乗ってすみません」

 

皐月の憤怒の視線を浴びて素直に土下座して謝るシア。中々怒らない人物が怒るのはとても怖いのである

 

「お嬢様がシアさんをあのまま放置していたら死んでいましたよ?助けられた際に言うべき言葉は何かお分かりですか?それをちゃんと言いましたか?」

 

「ありがとうですぅ~」

 

「はいはい。どういたしまして」

 

あまりの棒読みに戸惑う。それ程までに怒っていると改めて気付き、シュンと耳を垂れ下げたシア

クリスタベルが近付きハジメ達に状況を聞こうとすると、顔を背ける二名。深月は初対面という事もあって、ユエが対処する事で、一緒にブルックまで同行する事となった

 

「・・・店主いい人」

 

「ですねぇ~」

 

揺れる馬車に馬の足音、心地よいBGMを聞きながらブルックへと進む一行。道中で出てくる魔物達は全て深月によって瞬殺されたのはお約束である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

月が時折雲に隠れながらも、夜の闇を光りが地上のとある建物を照らす。分かりやすく言うならば、建物の屋根からロープを垂らして綺麗に下降している少女――――――ソーナがそこに居た

 

「ふふっ、あなた達の痴態、今日こそじっくりねっとり見せてもらうわ!」

 

ゆっくりと、しかし、スルスルと慣れた様子で三階にある角部屋の窓まで降りるて窓の上部から中を覗き見る

 

「この日のためにクリスタベルさんに教わったクライミング技術その他!まさかこんな場所にいるとは思うまい、ククク。さぁ、どんなアブノーマルなプレイをしているのか、ばっちり確認してあげる!」

 

ハァハァと気持ちの悪い荒い呼吸をしながら室内に目を凝らすソーナ。普段は明るく、ハキハキとしたしゃべりに良く動き回る働き者、美人の様に目立つ様な少女では無いが素朴な可愛らしさを持つ看板娘。そんな彼女は、現在、持てる技術の全てを駆使して、とある客室の覗きに全力を費やしていた

 

「くっ、やはり暗い。よく見えないわ。もうすこってきゃああああああああーーーーーー!」

 

視界をずらして中を覗き込もうとした彼女だが、自身を吊していたロープが切れて落下する。地面と激突する寸前で止まった

 

「な、何でロープが切れたの。新品同然だったのに・・・」

 

シュルルル

 

紐が引かれる様な音が聞こえた瞬間、ソーナを拘束するロープ。何が起きたのか理解出来無い彼女の前に現れる人物―――――深月がそこに居た

 

「一体何をなされているのですか?」

 

「わ、罠よ!これは罠よ!誰かが私を陥れようとしているの!」

 

「そうですか。・・・貴女が縛られているロープはあそこで切れている物ですよ?」

 

「えっ?違いますよ。切れたロープは私の腰に――――――」

 

「ご協力感謝致します。自ら自首されたので私からは何も言いません」

 

「えっ?自首って?」

 

「貴女の腰に付いているロープは上のそれだと自身で申されましたよ?」

 

深月の後ろからヌッと出てくる人影――――――笑顔だが、眼が全く笑っていない母親が現れたのだ。ソーナは顔を青ざめて母親にドナドナと連行されて、少しして小さな悲鳴が上がった

 

「さて、私は私でシアさんのお説教をしませんと」

 

実は、ソーナが覗きをする前にハジメ達の部屋へと突撃しようとしていたシアを深月が捕縛して説教をしていたのだ。その為、少しばかり遅めの対処とした

 

「ひんひん。どうじで深月しゃんにばれちゃうんですかぁ~」

 

「あれで気配を消しているつもりだったのですか?それはそれとしてお説教の再開です」

 

「もう許してください~!」

 

再び深月のお説教が始まった。ハジメはもう既に寝ており、皐月とユエの二人がひっそりと起きている

 

「全く、油断も隙も無いわね」

 

「・・・皐月はシア反対?」

 

「そうじゃ無いのよ。ユエ、ハジメの正妻は?」

 

「皐月」

 

「納得はしているの?」

 

「文句無い。・・・ハジメが私も愛してくれる様に気配りしてくれているから」

 

「ちゃんと見てるのね。まぁ、シアがハジメの正妻となったとしたらどうなると思う?」

 

「・・・自分ばかり良い思いをしそう?」

 

「そゆこと。ちゃんと分かってるじゃない」

 

「・・・シアが認められないのはそれが理由?」

 

「ちゃんと普段の生活の中でチャンスを与えているわよ?それを物に出来るかは観察しているけれど」

 

「・・・そこまで気が回らなかった」

 

皐月はシアを拒絶はしていない。寧ろチャンスを活かせる機会を作っているのだ。何気ない所でも目を光らせており、空振りとハジメの感情を読み取って、うっとうしいと感じるまでの行為を見て減点を付けているのは言うまでも無い

 

「・・・シアはがっつきすぎ?」

 

「一歩手前に下がって物事を見れば良いのにね。ハジメも嫌がってはいないのよ?ただ・・・やり過ぎでウザいと認識しているの」

 

考えても見て欲しい。押して押して押しまくる女性を好きになれるか?積極的にアピールするのは未だ許せる範疇だが、度が過ぎればただただウザいだけ。シアの現在がこれに相当し、自らが好感度をへし折っていくスタイルだ

 

「教えたら駄目よ?自分で気が付かない様なら、ハジメへの愛情もその程度なのよ」

 

「・・・分かった。・・・けど、助言する」

 

「ほんの少しだけなら良いわよ」

 

「ん!」

 

「それじゃあ私達も寝ましょう」

 

「おやすみ皐月」

 

「おやすみユエ」

 

ハジメを真ん中において川の字で眠った二人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう寝させてください~」

 

「反省するまで終わりませんよ!」

 

深月のお説教は一晩中続いたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が昇り、朝になった。ハジメ達は一階に降りると、お尻を腫らして吊されている看板娘と、目の下に隈を浮かべて椅子に座っているシアが居た

 

うわぁ・・・深月のお説教が一晩中続いたのね。きっとお説教中に眠ったのね

 

三人は何があったのか容易に想像出来、深いため息を吐いてシアが座っているテーブルへと着く

 

「ハジメさん聞いて下さいよ~。深月さんが~」

 

「大方、説教中に居眠りでもしたんだろ」

 

「ぎっくぅ!」

 

「自業自得よ」

 

「・・・それは怒る」

 

三人共が深月に賛同している。シアの味方は誰一人居ない

 

「それでもお説教が長すぎますよ~。ハジメさん、どうにかして下さいよ~」

 

「俺に振らず自分でどうにかしろ」

 

「え~、いいじゃないですかぁ~!ほらほら、私の胸を触っても怒らないですよ~」

 

「うっとうしい!そんなに眠たいんだったら目を覚まさしてやるよ」

 

「い"っ!?イダダダダダダダ!め、めり込んでいますぅ!指が頭にめり込んでぇえええええ!?」

 

「・・・はぁ」

 

本当に残念ね。早々に減点とは・・・

 

皐月は、ハジメがシアの頭をギリギリと締め付けている光景を眺めつつ、ユエと一緒に朝食を注文した。厨房から深月が運んでくる料理は、パンとスープのありふれた料理だ。しかし、一つだけ違う点があった。パンである

話は変って、この世界に来てから深月が料理を始めたのは迷宮に入ってからだ。王国に居た時は離れる余裕が無かったのと、深月はクラスメイトを赤の他人として認識していた。戦闘面で目立っていた為、これ以上目立つ事はしまいと息を潜めていた

しがらみも無くなり、思う存分力を振るえる環境に解き放たれた者が自重をするとお思いだろうか?・・・絶対にしない。この世界の食文化レベルは低いのは分かりきっていたので、手近な所から変えていこうと行動を起こしたのだ。特にパンは違い過ぎるの一言。カッチカチのパンを主食にしているこの世界は、ハジメ達の様な柔らかいパンを食べ慣れている者達からすれば地獄以外に他ならない。そこで、深月は天然酵母を作る事から開始したのだ。果実や小麦等も露店で容易に手に入ったので、残る手間は熟成や温度管理等だが―――――忘れてはいけない。深月の技能に熟成短縮と熱量操作を保有しているので、発酵と保温は完璧。本来は数日掛かる種酵母作りが数時間で出来てしまい、ガス抜きも清潔で抜き取って時間短縮。数日間が、数時間に短縮されるという・・・本職の人間がそれ聞いたら膝を付いて倒れ伏すだろう

話しは戻り、硬いと思い込んでいたパンを手に取った皐月は驚いた

 

「は、ハジメ!パンが硬くない!柔らかい!!」

 

「何っ!?・・・ほ、本当だ。柔らかい・・・何故だ・・・?」

 

「やわらかい!」

 

「何ですかこのパン!?ふわっふわしてますよ!」

 

周囲の客達は、ハジメ達を見て「何言ってるんだ?パンは硬いだろ?現にこれは硬いし」と疑問に思っていた

 

深月が運んで来たという事は、作ったって事よね?・・・パンってイースト菌が無ければカチカチになるんじゃないの?イースト菌は培養の筈よ。・・・何故?何かの技能で出来たの?分からない・・・

 

「うめぇ・・・柔らかいパンは偉大だな」

 

「うまうま♪」

 

「んほおおおおおお!おいしいですううううう!おかわり!おかわりを要求します!!」

 

思考に耽っている皐月よりも先にパンを食べた三人は、その味と食感を噛みしめていた。皐月も考えるのを止めて、手に持っているパンを千切って一口

 

「ん、美味しい♪」

 

自然に笑みが零れる皐月を見る周囲のお客は見惚れていた。自然に笑みを零す姿の皐月は、高貴な令嬢を幻想させる。まぁ、地球では本物の令嬢なのだが・・・

周囲を気にせず黙々とパンを食べる皐月を見ながらハジメは、周囲の客(※男性)に向けて警告を込めた殺気を一瞬だけ叩き付けた。警告も済んだハジメは、幸せそうにパンを食べている皐月を見ながら厨房に戻って行く深月を見て一言

 

「このパンを作ったのってどう考えても深月だよなぁ」

 

「・・・深月は私達の胃をつかんでいる」

 

「あははははは・・・私も既に掴まれちゃってますぅ~」

 

「それにしても、柔らかいパンを作るにはイースト菌が必要な筈だが・・・この世界では手に入らないぞ?」

 

ハジメも皐月同様で、イースト菌が無いと柔らかいパンは作れないと思っていた。二次小説等で、柔らかいパンを作って儲ける等は良く目にするが、行程は書いていない物が殆ど。どの様な二次小説にもあるご都合主義だろう・・・そう考えていた時期があったが、実際に体験すると疑問ばかりだ。すると、厨房に行った深月が容器を片手に持って戻って来たのだ

 

「もしや・・・お嬢様以外は既にパンを食べ終えてしまいましたか?」

 

「あ、・・・あぁ。久しぶりの柔らかいパンだったからな」

 

「おいしかった」

 

「おかわりは無いんですか?」

 

「お試しで作ったパンですので・・・おかわりはありません」

 

「そ、そんなぁ~」

 

「深月が持っているその容器は何なんだ?」

 

「秘密です♪」(ハジメさんには教えますが、口外はしないで下さい。ユエさんとシアさんは喋りそうですので)

 

(念話にしないといけないぐらいヤバイ代物なのか?)

 

(危険では無いのですが・・・実は、オルクス迷宮に居たトレント擬きの果実を使用しているのです)

 

(あぁ、成る程な。確かに二人には教えない方が良いだろう。うっかり喋りそうだからな)

 

深月の懸念を理解して話しを合わせる事にしたハジメ

 

「秘密なら仕方がねぇな」

 

「えぇ~、ケチケチしないで教えて下さいよ~」

 

「お嬢様、こちらを塗って食べてみて下さい」

 

深月はシアを無視して皐月が食べているパンに、ペースト状のそれを渡す。皐月は深月なら良い物を作ると理解しているのでパンに付けて一口

 

「爽やかな甘みのジャム?ね。砂糖を使わず、素材本来の味でこれならコスパも良いわね」

 

「量は少ないですが、これと同程度の容器に三つ作れました」

 

「趣向品として偶に食べましょう。素材は中々手に入らない物でしょ?」

 

「ご想像通りです」

 

「なら、素材も聞かないわ。その方が楽しみも増えるしね」

 

「えぇ~、素材なら取りに行けばいいじゃないですか~。私にも食べさせて下さいよ~」

 

「・・・素材を知ったらどうするつもりか聞いても良いかしら?」

 

残念そうに、諦める形でシアに尋ねる皐月。皐月の予想では、シアは情報を共有して世に広めようと思っているのだろうと予想した

 

「勿論採りに行きますよ!他の人達にも広めて流通させるのです。そうすれば何時でも食べれて幸せになれます!」

 

「はぁ・・・」

 

「な、何ですかその反応!私何か変な事言いましたか!?」

 

見事に皐月の予想通り。呆れて物も言えず、盛大なため息を吐いた

 

「この世界の人達を見てきたけど、広めるのは悪手よ。どうせ、貴族辺りが乱獲して種その物が無くなるわ。例え、法を敷いたとしてもそれを破る人間は居るわ。私達の世界でもそういう人は少なからず居たわ」

 

「そ、それなら・・・自分で採りに行けば」

 

「深月が手に入れて来たと言ったわよね?考えてもみなさい。"深月じゃないと行けない"場所にあったらどうするつもり?自殺行為に他ならないわ。だったら、深月の負担にならない程度で味わう方が手間も無いわよ」

 

「あうぅぅ・・・」

 

「人の闇は深いのよ。シア自身も気が付いていないだけで、貴女を連れ去ろうとした企んでいた連中はこの町に何人も居たらしいわよ?」

 

「え"っ!?」

 

「全部深月が処理したと言っていたわ。まぁ、私も気が付かなかったけれど」

 

「もしかして・・・私は深月さんに負担をかけてました?」

 

「今更気付いたのですか?」

 

「す、すいませんでしたああああああーーーーー!」

 

「食事処で働いていたのは理由は、情報が沢山入ってくるからです。寝室を同じにしたのも同様で、考え無しに行動しているとお思いでしたか?」

 

シアを連れ去ろうとした輩はそれなりに存在した。だが、その全ては深月の暗躍により悉くが潰えた。噂は噂を呼び、シアを狙う輩達がどんどんと消されている事実は関係者に広がり恐怖に駆られた者達は計画を取り止めていき、鎮火していったという事だ

 

「これからは、自分がどういった問題を引き寄せるかちゃんと理解しておきなさいよ?全部が全部、深月だけで対処させるわけにはいかないの」

 

「はいぃ」

 

シリアスな話しを切り上げて、皐月はパンをじっくりと味わいきり食事を終えた。朝食を済ませて冒険者ギルドへと直行した。道中で変人や変態に出会ったが、ハジメと皐月が対処したのは言うまでも無い。深月は皐月から「自分がやる」と命令されていたので今回はギャラリーに徹した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

カラン、カラン

 

冒険者ギルド:ブルック支部の扉を開き中へと入るハジメ達は、この数日でかなりの有名人?となった。ギルド内の男共は皐月、深月、ユエ、シアに見惚れ、ハジメには羨望と嫉妬の視線を向けるが陰湿な物は一つも無い

ブルックに滞在して一週間、その間に"死神の一撃"の皐月。"股間スマッシャー"のユエ。"決闘スマッシャー"のハジメ。誰が言い始めたのかは分からないが、パーティー申請もしていないのに"死神のスマッシュ・ラヴァーズ"という名が浸透しており、自分の二つ名と共にそれを知ったハジメがしばらく遠い目をしていた

深月の二つ名が何故無いのかと疑問に思うだろう。裏で暗躍していた時期が極僅かで、姿を見た者が誰一人居らず、ライバル組織の邪魔の可能性という事も有る為に正体を掴ませていない。因みに、裏が勝手に付けた二つ名は"白の霧"。見せしめとして一人だけ生き残りを残した深月、その者の証言曰く「白が迫って・・・」「来るなぁ!来るんじゃ無い!・・・消え?うわああああああ!」等と姿を全く想像も出来ない事から付けられた二つ名である

 

「おや、今日は五人一緒かい?」

 

ハジメ達がカウンターに近づくと、マダム事――――キャサリンが居り、先に声をかけた。彼女の声音に意外さが含まれているのは、この一週間の間にこのギルドにやって来たのは大抵、ハジメ一人か皐月と深月の二人組かユエとシアの二人組だったから

 

「ああ。明日にでも町を出るんで、あんたには色々世話になったし、一応挨拶をとな。ついでに、目的地関連で依頼があれば受けておこうと思ってな」

 

「広い部屋を貸してくれたからそのお礼も兼ねているの」

 

ハジメと皐月は生成魔法と重力魔法の組み合わせを試行錯誤する際に、ギルドの一室を無償で提供してくれていたのだ。なお、ユエとシアは郊外で重力魔法の鍛錬である。深月は既に物にしているので問題は無い

 

「そうかい。行っちまうのかい。そりゃあ、寂しくなるねぇ。あんた達が戻ってから賑やかで良かったんだけどねぇ~」

 

「勘弁してくれよ。宿屋の変態といい、服飾店の変態といい、皐月とユエとシアに踏まれたいとか言って町中で突然土下座してくる変態どもといい、"お姉さま"とか連呼しながら三人をストーキングする変態どもといい、決闘を申し込んでくる阿呆共といい・・・碌なヤツいねぇじゃねぇか。出会ったヤツの七割が変態で二割が阿呆とか・・・どうなってんだよこの町」

 

現在、ブルックの町には四大派閥が出来ており、日々しのぎを削っている。一つが「皐月ちゃん見守り隊」、もう一つは「ユエちゃんに踏まれ隊」、もう一つは「シアちゃんの奴隷になり隊」、最後は「お姉さまと姉妹になり隊」である。それぞれ、文字通りの願望を抱え、実現を果たした隊員数で優劣を競っているらしい

町中でいきなり土下座で「踏んで下さい!」と叫ぶのだ。恐怖以外の何物でも無いが、ユエが踏むと「WRYYYY!」と叫んだりする。「奴隷になり隊」は見つけ次第駆逐している。最後の隊は女性のみで結成された集団で、皐月とユエとシアに付き纏うか、ハジメの排除行動が主だ。一度は、「お姉さまに寄生する害虫が! 玉取ったらぁああーー!!」とか叫びながらナイフを片手に突っ込んで来た少女も居たが、皐月が見せしめに叩きのめした後、裸にひん剥いて亀甲縛りモドキをして一番高い建物に吊るし上げた挙句、"お姉様の幸せを邪魔した愚か者です""次邪魔したら殺す"と書かれた張り紙を貼って放置した。皐月手ずからの行為だったので、少女達の過激な行動がなりを潜めたのはいい事である。この中で一番常識のあるまともなのは「見守り隊」だけだ

 

「まぁまぁ、何だかんで活気があったのは事実さね」

 

「やな、活気だな」

 

「で、何処に行くんだい?」

 

「フューレンよ」

 

ハジメ達の次の目的は、グリューエン大火山。その次はメルジーネ海底遺跡となっている。大火山に行くには、大陸を西に向かわなければならないのだが、その途中に中立商業都市フューレンがあるのだ。大陸随一大陸一の商業都市に一度は寄ってみたい。何より、深月が寄って下さいとお願いをしている事もあるので寄るのは確定である。深月は調理道具や交易品等を調べたいという考えを持っている

 

「う~ん、おや。ちょうどいいのがあるよ。商隊の護衛依頼だね。ちょうど空きが後一人分あるよ・・・どうだい?受けるかい?」

 

「連れを同伴するのはOKなのか?」

 

「ああ、問題無いよ。あんまり大人数だと苦情も出るだろうけど、荷物持ちを個人で雇ったり、奴隷を連れている冒険者もいるからね。まして、ユエちゃん、シアちゃんも結構な実力者だ。一人分の料金でもう二人優秀な冒険者を雇えるようなもんだ。断る理由もないさね」

 

「そうか、ん~、どうすっかな?」

 

「全部を急ぐ必要は無いわよ。偶にはゆっくりとした旅を満喫したいわ」

 

「・・・皐月と同じく」

 

「そうですねぇ~、偶には他の冒険者方と一緒というのもいいかもしれません。ベテラン冒険者のノウハウというのもあるかもしれませんよ?」

 

「急がば回れ。急ぎすぎて何かを仕損じてはいけませんので、ここは一つ回り道をするのも良いかと」

 

「・・・そうだな、急いても仕方ないし偶には良いか・・・」

 

ハジメは皆の意見を取り入れてキャサリンに依頼を受けることを伝える。何事も経験が一番。特に、ベテラン冒険者からノウハウを学ぶ価値も有ると理解した

 

「あいよ。先方には伝えとくから、明日の朝一で正面門に行っとくれ」

 

「了解した」

 

「あんた達も体に気をつけて元気でおやりよ?この子に泣かされたら何時でも家においで。あたしがぶん殴ってやるからね」

 

「ハジメを信頼しているから泣かされないと言いたいけど、もしもそうなったらそうさせて貰うわ」

 

「・・・ん、お世話になった。ありがとう」

 

「はい、キャサリンさん。良くしてくれて有難うございました!」

 

「あんたも、こんな良い子達泣かせんじゃないよ? 精一杯大事にしないと罰が当たるからね?」

 

「・・・ったく、世話焼きな人だな。言われなくても承知してるよ」

 

キャサリンの言葉に苦笑いで返すハジメ。彼女はそんなハジメに一通の手紙を手渡した

 

「これは?」

 

「あんた達、色々厄介なもの抱えてそうだからね。町の連中が迷惑かけた詫びの様な物だよ。他の町でギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね」

 

思わず頬が引き攣るハジメ。このオバチャン一体何者だ?と思った所で

 

「ハ・ジ・メ・さ・ん・?キャサリンさんに失礼な事を考えませんでしたか?」

 

お前はエスパーか!?と叫びたかったが、その言葉を飲み込んで心の中で謝罪しておいた

 

「おや、ちゃんと謝るとは成長したねぇ?」

 

お前もか!?と叫びそうになったが、その言葉も飲み込んでこれ以上詮索しない様にした

 

「・・・はぁ、詮索もしねぇよ。これは有り難く貰っとく」

 

「素直でよろしい!色々あるだろうけど、死なない様にね」

 

謎多き、片田舎の町のギルド職員キャサリンの愛嬌のある魅力的な笑みと共に送り出されたハジメ達。その後、お世話になったクリスタベルと第二のクリスタベルことエリナベルの所にも寄った。ハジメは拒絶、皐月は顔色を悪くしていたが、ユエとシアがどうしてもというので仕方なく付き添った。だが、町を出ると聞いた瞬間、クリスタベルは最後のチャンスとばかりにハジメに襲いかかる巨漢の化物と化し、深月が一瞬で無力化する事で難を逃れる事に成功したハジメだった

宿の方にも最後の晩だという事を伝えると、遂には堂々と風呂場に乱入しようとしたり、そして部屋に突撃を敢行しようとしたソーナちゃんは深月がしっかりとOHANASHIして母親に引き渡し、ブチギレた母親に本物の亀甲縛りをされて一晩中、宿の正面に吊るされるという事件があったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「暴走する奴が多いなぁ・・・」
深月「お嬢様とハジメさんのお二人は、クリスタベルさんにトラウマを植え付けられてしまいました」
布団「メイドさんが速攻で沈めたのにも関わらず?」
深月「そのー・・・クリスタベルさんの表情が、肉食獣のそれと同じだったのです」
布団「もう少しでホモォ展開だったという事か!」
深月「特に、ハジメさんが心に深い傷を負ってしまいました・・・」
布団「ヒェッ」
深月「フォローはお嬢様達に任せて私は自分のお仕事を致します」
布団「ファイトデスーメイドサンー」
深月「それでは、この辺りでお別れです」
布団「誤字報告にとても感謝感激です」
深月「感想、評価等。お気軽にお願い致します」


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再会と変態
メイドはあくまでメイドです


布団「とうっ!こうっ!だっ!!」
深月「普通に話して下さい」
布団「(´・ω・`)ソンナー」
深月「しょぼーんとしても駄目な物は駄目です!しっかりとして下さい!」
布団「はい」
深月「それではアンケートの結果に参りましょう」
布団「いや・・・もう良いじゃない?」
深月「本編を進めましょう!」
布団「う、うん・・・了解しました。頑張って書きますよお!」
深月「それで良いのですよ。頑張って書いて下さいね?」
布団「はい」
深月「読者の皆様方からの誤字報告にとても感謝しております。有り難う御座います」
布団「すまない・・・誤字が多い作者で本当にすまない」
深月「では、読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」





~深月side~

 

『これが人生勝ち組の余裕かよチックショオオオオオオオーーーー!』

 

今現在私達は、中立商業都市フューレンに向かうユンケル商会の馬車の護衛任務を行っております。十四人程の冒険者達との合同なのですが・・・冒険者の方々は殆どが男性で、ハジメさんに嫉妬しております。ほんの数人だけ女性の冒険者が居ますが、冷めた目で見られていますよ

 

「女を護る為にあそこまで言い切れるのは凄いわね」

 

「まぁ、この男共にはそれ程の気概は無いわよ」

 

「私もあんな事言われたいわ~」

 

実は・・・護衛の商会の方がシアさんを欲しがっていましたが、ハジメさんが拒否しても商売人魂燃やしてしつこく交渉をしていました。そこで、ハジメさんが「例え、どこぞの神が欲しても手放す気はないな・・・理解してもらえたか?」と宣言されてこのお話は無かった事になりました

今は、お嬢様とユエさんのお二人に挟まれて心を癒やしている最中です。しかし・・・ユンケル商会ですか。商売人としては優秀ですが、相手の力量を見抜く力を持っていないのが残念です

 

六日の道のりの為、日の出前から出発して、日が沈む前に野営の準備に入る。これの繰り返すこと三回目。フューレンまで残り三日の位置まで来たハジメ達は、野営の準備を始めていた。基本、冒険者達の任務中の食事は雑の一言。だが、ある程度の物を用意するとなれば荷物がかさばって時間が掛かるし、邪魔にもなるから雑になるとの事

そして現在―――――彼等は、ハジメ達が用意した豪勢なシチューにパンを浸したりしながら食べている

 

「カッーー、うめぇ!ホント、美味いわぁ~、流石深月ちゃん!もう、俺の嫁にならない?」

 

「ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇ、何抜け駆けしてやがる!深月ちゃんは俺の嫁!」

 

「はっ、お前みたいな小汚いブ男が何言ってんだ?身の程を弁えろ。ところでシアちゃん、町についたら一緒に食事でもどう?もちろん、俺のおごりで」

 

「な、なら、俺はユエちゃんだ!ユエちゃん、俺と食事に!」

 

「ユエちゃんのスプーン・・・ハァハァ」

 

「ばっかお前ら!皐月ちゃん一択に決まってんだろ!!」

 

「皐月ちゃんを嫁にすれば、深月ちゃんも一緒に付いてくるんだよ。間抜け共」

 

「「「そうだった!?」」」

 

「で?腹の中のもん、ぶちまけたいヤツは誰だ?」

 

「「「「「「「調子に乗ってすんませんっしたー」」」」」」」

 

何故こうなったのか・・・。原因は、ハジメ達が用意する料理の匂いにつられてハイエナの如く群がって来たからだ。ハジメと皐月とユエの三人は、無視して食べようとしていた。しかし、シアがお裾分けしましょうと言い出し、深月も負担にならないとの事でゴーサインが出たのだ。冒険者達も最初の方は恐縮していたが、彼等も次第に調子に乗り始めて四人を口説き始めていた

段々と五月蠅くなるし、自分の仲間を・・・特に、嫁の皐月とユエを口説く事は腹立たしかったのだ。ギャアギャアと騒ぐ冒険者達に、無言の圧と殺気を叩き付ける事で調子に乗っていた彼等はスゴスゴと引き下がったのだ

 

「もう、ハジメさん。せっかくの食事の時間なんですから、少し騒ぐくらい良いじゃないですか。そ、それに、誰がなんと言おうと、わ、私はハジメさんのものですよ?」

 

「そんな事はどうでもいい」

 

「はぅ!?」

 

シアさん、貴女のそういう所が・・・いえ、もう何も言いません・・・・・。これ以上説明したとしても本人の為にはなりませんね。特にお嬢様がそこの所を見ているでしょうし

 

深月の予想通りである。皐月はシアを見ており、その目は残念そうだった

 

「ハジメさん!そんな態度取るなら、"上手に焼けた"串焼き肉あげませんよぉ!」

 

「・・・深月。そっちの串焼きをくれ」

 

「私の分もお願い」

 

「こちらですね?」

 

「むっぎぃいいいいいいい!」

 

シアが焼いている串焼きも上手に焼けているのだが、如何せん相手が悪すぎた。どの様な環境下でも適応して、料理を作る深月が相手となると勝ち目が一つも無いのだ。しかも、深月は、ハジメの好みの味も把握しているので万に一つも有り得ないのだ

串焼きを受け取ったハジメは早速食べようとするが、皐月によってその腕は止められた

 

「・・・皐月?」

 

「あーん」

 

皐月は、手に持った串焼きをハジメの口元へ持って行き、口を開けている

 

「あーん」

 

ハジメは、躊躇いなく皐月の口へと串焼きを持って行き、皐月が差し出している串焼きを食べる。二人の食べさせ合いを目の前で見たユエは、自分もと言わんばかりに両手に串焼きを持ってハジメに突撃。勿論、食べさせ合いは成功した

 

「皐月さんもユエさんもズルイですぅー!こうなったら・・・」

 

シアは何を思ったのか、串焼きの肉を口で咥えてハジメに突撃

 

ふぁふぃめふぁん。ふぉうふぉ(ハジメさん。どうぞ)!」

 

「・・・お前は自分で食べろ」

 

「ゴックン そんなぁ~」

 

ハジメ達のやり取りを目の前で見せられている冒険者達の心の声は一致している。「爆発してしまえ!」と。だが、深月が追加の串焼きを渡す事で癒やされたのだった

あれから二日―――――フューレンまで残り一日となったのどかな旅路は、襲撃者によってぶち壊された。最初に気付いたのは深月で、少し遅れる様にシアが気付いた

 

「森の中から敵が来ます。皆さんは襲撃に備えて下さい」

 

「数は百以上います!注意して下さい!」

 

二人の警告を聞き、冒険者達の間に一気に緊張が駆け抜ける。現在通っている街道は、森に隣接してはいるもののそこまで危険な場所では無い。整備されているこの道で、魔物の襲撃に遭ったとしても二十から四十程度が限度の筈だった

 

「くそっ、百以上だと?最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか?ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 

物量差の前では押し切られてしまう。どうしようかと考えている冒険者の彼等に凶報が追加される

 

「これは・・・反対の方からも襲撃が来ますね」

 

「なにぃ!?」

 

「クソッタレ!スタンピードまでとは言わないが、多すぎるだろ!」

 

落ち着かせようとした思考は再び慌てふためき、まともな判断を下せずにいた

 

「迷ってんなら、俺らが殺ろうか?」

 

「えっ?」

 

もの凄く軽い口調で提案するハジメに、護衛隊のリーダーのガリティマは提案の意味を掴みあぐねて、つい間抜けな声で聞き返した

 

「だから、なんなら俺らが殲滅しちまうけど?って言ってんだよ」

 

「い、いや、それは確かに、このままでは商隊を無傷で守るのは難しいのだが・・・えっと、出来るのか?このあたりに出現する魔物はそれほど強いわけではないが、数が・・・」

 

「数なんて問題ないわよ。ユエは右、深月は左。それで大丈夫?」

 

「・・・問題無い」

 

「討伐した魔物の処理はどう致しましょうか?」

 

「ハジメどうする?」

 

「森から出て来た魔物の順番で殲滅出来るか?中に入ると焼却処分出来無いからな」

 

「では、左の森から出て来た魔物を殲滅。逃げる魔物は引きずり出して殲滅ですね」

 

「お、おう・・・引きずり出せるのか

 

ハジメのオーダーを聞いて了承する二人

 

「分かった。初撃はユエちゃんに任せよう。仮に殲滅出来なくても数を相当数減らしてくれるなら問題ない。我々の魔法で更に減らし、最後は直接叩けばいい。深月ちゃんに関しても同じだ!みな、分かったな!」

 

「「「「了解!」」」」

 

流石に二人では魔物を殲滅する事は出来ないと思っているガリティマは、他の冒険者達にフォローする様に待機させる。ユエは屋根の上へ、深月は左側の森の手前で待機している

 

さて、高々百程度の魔物では相手にならないと思っていたのですが、更に後方から魔物が来ていますね。ですが、ハジメさんからのオーダーは、殲滅となっていますので倒しましょう

 

右と左から魔物が姿を現し、ユエのオリジナル魔法が炸裂。取り囲む様に放たれた龍を象ったそれは、右側の魔物を全て焼き付くした

一方、深月の方はユエの様な派手さは無い。ナイフの柄を糸でくくりつけた状態で、魔物の頭部に向けて投擲するだけ。だが、深月の投擲するそれらは全てが正確無比。一撃で魔物の命を絶ち、糸を引っ張って回収して再び投擲。繰り返すことおよそ十回で百居た魔物は絶滅し、少しして深月の予想通り大型の魔物が姿を現した

 

グゴォオオオオオオ!

 

馬の様な頭を持つミノタウロスだった

 

「なっ!?み、ミノタウロスだと!?」

 

「何でこんな所に居るんだよ!?」

 

「クソッ!間に合わねぇ!」

 

冒険者達は悲鳴を上げて、ミノタウロスが持つ大斧で深月が叩き潰されると想像した。だが、ハジメ達はミノタウロスに向けて合掌した

 

「牛肉ですか。そういえばすき焼きを久々に食べたい気分なので、その為に死んで下さい」

 

黑刀を一閃。叩き付けようとした豪腕が肩から切断され、痛みの悲鳴を叫ぶ前に返す刀で首が切断された。あまりにも早い動作は、ベテラン冒険者達とユエとシアは視認する事が出来なかった

 

「お、おい・・・二撃目の攻撃が見えなかったんだが」

 

「あの剣は何かしらのアーティファクトか・・・?」

 

「全然見えなかった・・・」

 

「・・・深月は何時も通り」

 

「あれ?深月さんってものすごく手加減して私達と闘ってたのですかぁ?」

 

「今更気付いたのか?」

 

「私とハジメとユエの三人がかりでも一分保たないのよ?手加減しているのは当たり前でしょ」

 

地面に仰向けに崩れ落ち、切断された事に気が付いた様に血が吹き出る。深月は油断無く、ミノタウロスの心臓部に黑刀を深々と突き刺してその命を絶った

深月は、ハジメ達が来る間に四肢を切断して解体して行く。因みに、このミノタウロスの肉は、高い値段で取引される牛肉みたいな肉質だ。但し、魔物の肉なので一般用の食肉ではない。商会の者はこれ幸いと思っており、ミノタウロスの素材を売ってくれとハジメに交渉している

 

(ハジメさん。素材の買い取り交渉は私にお任せ下さい)

 

(そうだな。・・・しつこいから頼むわ)

 

ハジメにしつこく言い寄る彼の間に割り込んで流れを途切れさせる深月。普通のメイドがその様な行為をすれば、不躾だと思うだろう。しかし、目の前で見せられた戦闘力と奉仕の技術は天下一品の一言だったので、何かしらの考えがあると感づいた

 

「近い将来、私の主の一人となられますのでお手数を掛ける訳には参りません。よって、私を介しての交渉とさせて頂きます」

 

「交渉して頂けるなら構いませんよ」

 

目の前に吊り下げられた針の餌は巨大で、彼がなんとしても成功させたいと見え透いている

 

「では、この魔物の素材についてですが・・・五万ルタでどうでしょうか?その際に、こちらから一つだけ厳守して頂きたい条件を提示します」

 

「えぇ良いでしょう!ささっ、お受け取りください」

 

「では、こちらの書面にサインと血判をお願いします」

 

「ふむふむ、この条件を破棄した際には互いが"無関係"になるということですね」

 

破格の値段に条件も旨い。大金が転がり込むのを想像して、認識がそちらに誘導され―――――躊躇い無くサインと血判を押した

 

「こちらからの条件の詳細につきましては、"私達の障害にならない事"です。その書面にも書かれている通り、とても分かりやすいでしょう?」

 

「いやはや、こちらとしては旨味ばかりですな」

 

(おい・・・条件に関しては言うまでもないが、破棄した際の無関係は不味くないか?)

 

ハジメの言う通りである。だが、深月のターンは未だ終了していない

 

「ふふふ、サインと血判を本当に有難う御座います♪これで私達の条件を破棄した際には、問答無用無く貴方様に関係する全てを潰せますね♪」

 

「「は?」」

 

商会の彼は勿論だが、ハジメも呆然としていた。最も、ハジメの場合は想像以上の対応だった事に驚いているのだ

 

「お、お待ち下さい!」

 

「大丈夫ですよ。貴方の商会が私達に手を出さなければ良いだけですし、素材も破格で提供されるのですよ?」

 

「そ、それはそうですが・・・」

 

彼は頭をフルに働かせて対処をしようとするが

 

「もしも、国に助力を乞うて害を為すならば―――――国落としもいいですね」

 

「一国を敵に回して生き残れるとお思いですか?」

 

個では群に勝てないと踏んでいるのだろう。深月はカードをもう一枚切る事にした

 

「私のステータスは万越えですが、如何されますか?」

 

最後のがトドメとなった。歴代最強の冒険者といえども、千を越える事は出来ないステータスなのだ。全て手遅れ―――――欲を出し過ぎた故の失敗は、彼の顔を真っ青にさせた

口外すれば、国を巻き込んでの絶滅。闇討ちしようにも、それを許さない程の力量。賭け事の一騎討ちは論外である

 

「私は悪魔と契約したという事ですか・・・」

 

「悪魔とは酷いですね。私はあくまでメイドです」

 

「・・・狙って言ってるだろ」

 

ハジメの突っ込みは響かない。しかし、彼の前に天使が舞い降りる

 

「深月やり過ぎよ」

 

「しかし――――」

 

「しかしもへったくれも無いわよ。・・・私のメイドが御免なさいね?私達はむやみに敵を作りたくないだけなのよ。まぁ、手にしている者に何かをしようとしたら敵対者として始末するわ。しっかりと覚えてね?」

 

「は、はい!かしこまりました!もう二度としません!!皐月大天使様!!」

 

・・・・・私の何処に天使要素があったのかしら

 

「さ、さぁな・・・」

 

ハジメは皐月の新たな二つ名に苦笑しながら事を見守る

 

「兎に角!私達の事は広めず、厄介事を寄越さない様にする事よ。しっかりと守りなさい」

 

「ははぁっ!」

 

こうして、何事も問題無く切り抜ける事が出来た一行であった。余談ではあるが、皐月を神聖視する者達が現れて、当人の頭を悩ますのである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フューレンに到着した一行は、証印を持って冒険者ギルドに直行した。ギルドに到着したハジメ達は、軽食を食べながら町の案内人のリシーから色々と説明を受けた

 

「そういう訳なので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行く事をオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

 

「成る程な、なら素直に観光区の宿にしとくか。どこがオススメなんだ?」

 

「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

 

「そりゃそうか。そうだな、飯が上手くて、あと風呂があれば文句はない。立地とかは考慮しなくていい。あと責任の所在が明確な場所がいいな」

 

「あの~、責任の所在ですか?」

 

「ああ、例えば、何らかの争い事に巻き込まれたとして、こちらが完全に被害者だった時に、宿内での損害について誰が責任を持つのかという事だな。どうせならいい宿に泊りたいが、そうすると備品なんか高そうだし、あとで賠償額をふっかけられても面倒だろ」

 

「え~と、そうそう巻き込まれる事はないと思いますが・・・」

 

「まぁ、普通はそうなんだろうが、連れが目立つんでな。観光区なんてハメ外すヤツも多そうだし、商人根性逞しいヤツなんか強行に出ないとも限らないしな。まぁ、あくまで"出来れば"だ。難しければ考慮しなくていい」

 

リシーは軽食を食べている皐月、ユエ、シアの三人とメイドの深月を見て「あぁ~」と納得していた。皐月の姿は痛々しいが、高貴な令嬢を思わせる姿。ユエもかなりの美人である。だが、目を引くのは兎人族のシアで、奴隷だろうと強引に誘拐される可能性もあるから。で、一番目を引いているのは深月である。普通の人間の認識だと、メイドは弱く、奉仕するだけの存在だ。シア同様狙われる可能性が大なのだ

 

「うちのメイドは問題無いが、兎人族の方は隙がありすぎるからな」

 

「え?メイドって奉仕するだけだと思いますが・・・」

 

「共通認識はそうだ。だが、うちのメイドは戦闘もこなせるスーパーメイドなんだよ。あいつに手を出した奴には―――――きっと、死よりも恐ろしい事が待ち受けているんだろうなぁ」

 

容易に想像出来る光景を思い浮かべながら呟くハジメ。二人の会話から情報を聞き出そうとしていた輩は、ギョッと眼を剥いて深月を一瞬見やる。深月は相手に合わせる様にニッコリと微笑み、それに気が付いた者はサァーッと顔を青ざめてちょっかいを掛けまいと心に誓った

宿については一通りの条件を提示して区画の説明を受けていると、ハジメ達は不意に強い視線を感じた。特に、深月とシアとユエに対してだ。ユエとシアは、今までで一番不躾で、ねっとりとした粘着質な視線が向けられている。視線など既に気にしないユエとシアだが、あまりに気持ち悪い視線に僅かに眉を顰める。深月は、地球に居た時から経験済みなので表情には出さずにスルーしている

ハジメがチラリとその視線の先を辿ると・・・ブタがいた。体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目にもわかるいい服を着ている。そのブタ男が深月とユエとシアを欲望に濁った瞳で凝視していた。案内をしていたリシーも視線に気付いて視線を向けると、営業スマイルを忘れて「げっ!」というはしたない声を漏らす

豚男はハジメ達の近くまで近づいて三人をジロジロと見て、ハジメ達に一方的な要求を口にする

 

「お、おい、ガキ。ひゃ、百万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの金髪はわ、私の妾にしてやる。メ、メイドは俺に奉仕させてやる。い、一緒に来い」

 

ハジメと皐月は、豚男に殺気を一点集中で叩き込むで失禁させる

 

「席を変えるぞ」

 

「汚物を撒き散らすなんて最悪ね」

 

早々と立ち去ろうとする一行の前に、全身筋肉の歴戦の戦士が立ち塞がった。その者を目に入った豚男は、再びキィキィと喚きだす

 

「そ、そうだ、レガニド!そのクソガキ共を殺せ!わ、私を殺そうとしたのだ!嬲り殺せぇ!」

 

「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

 

「やれぇ!い、いいからやれぇ!き、気味悪い白奴等以外は、傷つけるな!私のだぁ!」

 

「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

 

「い、いくらでもやる!さっさとやれぇ!」

 

「おう、坊主達。わりぃな。俺の金の為にちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ、そっちの三人の嬢ちゃん達の方は・・・諦めてくれ」

 

「お、おい、レガニドって"黒"のレガニドか?」

 

「"暴風"のレガニド!?何で、あんなヤツの護衛なんて・・・」

 

「金払じゃないか?"金好き"のレガニドだろ?」

 

筋肉の塊はレガニドと言うらしい。男の名前を聞いた冒険者達はざわめきだす

ハジメと皐月は冒険者ランクが黒という事は、上から三番目の強者?の実力とはどれ程なんだろうと対処しようとするが、ユエがシアの手を引っ張って三人の間に入り込む

 

「・・・私達が相手をする」

 

「えっ?ユエさん、私もですか?」

 

「ガッハハハハ、嬢ちゃん達が相手をするだって? 中々笑わせてくれるじゃねぇの。何だ?夜の相手でもして許してもらおうって『・・・黙れ、ゴミクズ』ッ!?」

 

風刃がレガニドの頬を深く切り裂き、プシュッと血が吹き出る。レガニドは、ユエの魔法が速すぎて全く反応できなかったのだ。心中では「いつ詠唱した?陣はどこだ?」と冷や汗を掻きながら必死に分析している

 

「・・・私達が守られるだけのお姫様じゃないことを周知させる」

 

「ああ、なるほど。私達自身が手痛いしっぺ返し出来ることを示すんですね」

 

「・・・そう。せっかくだから、これを利用する」

 

「深月さんは・・・問題無さすぎて何もしなくても大丈夫ですね」

 

「・・・深月の戦闘力は未知数」

 

「ユエさんが何人居れば勝てますか?」

 

「・・・深月は私の天敵」

 

「それだと・・・全ての人に対して天敵と思った方が良いでは?」

 

「まぁ、言いたいことはわかった。確かに、お姫様を手に入れたと思ったら実は猛獣でしたなんて洒落にならんしな。幸い、目撃者も多いし・・・うん、いいんじゃないか?」

 

「・・・猛獣はハジメの方。・・・ポッ///」

 

野次馬達の心の思いはただ一つで、「爆発してしまえ!こんちきしょー!!」嫉妬の眼差しで睨み付ける

シアは、ドリュッケンを軽々と片手で持ち上げて、レガニドに突きつける

 

「おいおい、兎人族の嬢ちゃんに何が出来るってんだ?雇い主の意向もあるんでね。大人しくしていて欲しいんだが?」

 

「腰の長剣。抜かなくていいんですか?手加減はしますけど、素手だと危ないですよ?」

 

「ハッ、兎ちゃんが大きく出たな。坊ちゃん!わりぃけど、傷の一つや二つは勘弁ですぜ!」

 

ドリュッケンを腰溜めに構えたシアを見て、無手でも無傷で捕獲は無理だろうと直感したレガニドは、豚男に断りを入れて戦闘準備を整える。少しだけの沈黙を破り、シアが一気に踏み込んで前眼へと躍り出る

 

「ッ!?」

 

「やぁ!!」

 

可愛らしい音声とは裏腹に素早く振り抜かれたドリュッケンは、レガニドの胸部に迫る。咄嗟に両腕をクロスにしてガードするが

 

(重すぎるだろっ!?)

 

踏ん張る事も叶わず、速すぎる攻撃の衝撃を逃せない。直撃した生々しい音を響かせて、ギルドの壁に激突してめり込んだ。意識が朦朧とするレガニドを無視して、ユエの追撃が襲い掛かった

 

「舞い散る花よ 風に抱かれて砕け散れ "風花"」

 

迫る風が直撃する前にレガニドは内心で愚痴る

 

(坊ちゃん、こりゃ、割に合わなさすぎだ・・・)

 

空中で踊るという生涯初めてを体験したレガニドは、床に墜落してピクリとも動かなくなった

静寂な空気を破る様にハジメが豚男の前まで歩み寄り、全員の視線が釘付けとなる

 

「ひぃ!く、来るなぁ!わ、私を誰だと思っている! プーム・ミンだぞ!ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

 

「・・・地球の全ゆるキャラファンに謝れ、ブタが」

 

顔面を踏みつけて、グリグリと少しずつ力を入れていく。床と靴底にサンドイッチされた豚男

 

「おい、ブタ。二度と視界に入るな。直接・間接問わず関わるな・・・次はない」

 

「深月は私専属のメイドよ。例え、嘘だとしても容赦しないわ」

 

ハジメに頭を踏みつけられて動きが出来ない豚男の股間とお尻に向け、硬貨を二枚弾き飛ばす。威力は今までの中で一番で、生々しく潰れる音とめり込む音が響き渡った。部屋に居たハジメを含む男達は内股になって、咄嗟に両手で前と後ろを覆い隠す

 

「その硬貨は乙女にした駄賃よ。受け取っておきなさい」

 

ハジメは、追撃として錬成で靴底をスパイクにして踏みつけようとしていたのだが、皐月の無慈悲な攻撃を前に・・・男の同情から追撃はしないでおいた

 

「じゃあ、案内人さん。場所移して続きを頼むわ」

 

「はひっ!い、いえ、その、私、何といいますか・・・」

 

恐怖で何も言えなくなっているリシーは、咄嗟に逃げようとするがユエとシアの二人に腕を掴まれて逃げ場は存在しない。そんな彼女に救世主のギルド職員が姿を現したが、ハジメが典型的なクレーマーの様に物申していると

 

「何をしているのです?これは一体、何事ですか?」

 

眼鏡を掛けた理知的な男性が、厳しい目付きでハジメ達をみていた

 

「ドット秘書長!いいところに!これはですね・・・」

 

どうやら彼はお偉いさんだ。ハジメはまだまだ解放されない事にため息を吐いた

 

 

 

 

 

 

 




布団「さーてと、頑張るぞい!」
深月「あれ?私が悪魔表現されているのですが・・・」
布団「お嬢様の害となる者全てを排除するメイド―――――格好いいよね!」
深月「無闇矢鱈とその様な事は致しません!利用価値のある者をちゃんと見ていますから!!」
布団「不要となったら処理しちゃうんでしょ?」
深月「・・・仕方の無い犠牲ですよ」
布団「いやぁ~メイドさんも凄いけど、お嬢様も無慈悲ですねぇ。男だと昇天してしまいます!」
深月「ウフフフ、お嬢様は私を必要として下さっています。とても嬉しいです♪」
布団「おぉっと、これ以上は暴走しかねないので終わりにしましょう」
深月「ふぅ・・・。それでは、感想、評価等、お気軽にお願い致します」
布団「頑張ってモチベーション上げて書くぞおおお!」
深月「頑張って下さいね♪」


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メイドは依頼を受諾します

布団「投稿だ!」
深月「その前に言う事がありますよね?」
布団「・・・やっちゃったんだZE☆」
深月「意味深回を執筆する暇があったのなら、本編をキリキリと書いて下さい!」
布団「やむにやまれぬ事情があったんです・・・本当よ?だから赦して!!」
深月「本当ですか?」
布団「本当でござるよぉ~」
深月「はぁっ・・・もう深くは聞きません。ですが!しっかりと書いて下さい!!」
布団「がんばる」
深月「話は変わりまして、誤字報告有難うございます」
布団「変換がいかんかったんや!」
深月「読み直ししましたか?」
布団「最低でも五回はやってるよ!」
深月「では、読者の皆様方ごゆるりとどうぞ」
布団「え?まさかの無視ですか?」







~皐月side~

 

「話は大体聞かせてもらいました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょうね。やり過ぎな気もしますが・・・まぁ、死んでいませんし許容範囲としましょう。取り敢えず、彼らが目を覚まし一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが・・・それまで拒否されたりはしないでしょうね?」

 

「ああ、構わない。そっちのブタがまだ文句を言うようなら、むしろ連絡して欲しいくらいだしな。今度はもっと丁寧な説得を心掛けるよ」

 

ハジメと皐月の二人は、呆れ顔のドットにステータスプレートを差し出す

 

「連絡先は、まだ滞在先が決まってないから・・・そっちの案内人にでも聞いてくれ。彼女の薦める宿に泊まるだろうからな」

 

ハジメに視線を向けられたリシーは、ビクッと震えて全てを察して諦めたか深い溜息を吐いた

 

「ふむ、いいでしょう・・・"青"ですか。向こうで伸びている彼は"黒"なんですがね・・・そちらの方達のステータスプレートはどうしました?」

 

レガニドを倒したのは、あくまでもユエとシアの二人。明らかに疑問点が多いので、ステータスプレートの提示を要求する

 

「あっ・・・あー・・・・・実はあの二人、ステータスプレートを紛失させたのよ。再発行は高額だから、今は出来無いの」

 

さらりと嘘をつく皐月。二人のステータスを事細かく知られるのは得策ではないと判断したのだ

 

「しかし、身元は明確にしてもらわないと。記録を取っておき、君達が頻繁にギルド内で問題を起こす様なら、加害者・被害者のどちらかに関係なくブラックリストに載せる事になりますからね。よければギルドで立て替えますが?」

 

痛い所を突かれてしまった。相手が提案している事実はどれも正論で、もしも拒否などしようものなら疑惑が向けられてしまう。そうなってしまえば、敵対する可能性が無きにしも非ず。どうしようかと内心焦っていると、深月が一歩前へ出てドットへ手紙を渡す

 

「こちらのお手紙はブルックの冒険者職員からの物です。宜しければこちらを拝見してから判断をお願い致します」

 

「うぇっ!?何時の間に!?」

 

手紙を預かっていたのは皐月で、手提げ鞄の中に入れていたのだが深月に気付かぬうちに抜かれていたのだった。本当は皐月が出した方が良かったのだが、手紙の事をすっかりと忘れていた。皐月の内心を見抜き、会話が不利にならない様に即座に行動に移したのだった。返答が遅れれば遅れる程怪しまれるし、例え疑惑を晴らせたとしても何かしらの無茶な要求を提示される可能性が有ったのだ

ドットは、深月から手渡された手紙を拝借して、目を皿のようにして手紙を読んでいる。やがて、ドットは手紙を折りたたむと丁寧に便箋に入れ直し、ハジメ達に視線を戻した

 

「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが・・・この手紙が差出人本人の物か私一人では少々判断が付きかねます。支部長に確認を取りますから少し別室で待っていてもらえますか?そうお時間は取らせません。十分、十五分くらいで済みます」

 

深月を除いたハジメ達は「キャサリンさんって何者?」と心同じくしていた

 

「まぁ、それくらいなら構わないな。分かった。待たせてもらうよ」

 

「職員に案内させます。では、後ほど」

 

ドットは仕事の引き継ぎを他の職員に任せて、便箋を持ったままギルドの奧へと消えていった。ハジメ達は別室へと案内されて待機する

 

「そういえば、何で深月は皐月の鞄の中から手紙を抜き取ったんだ?助言でもして出させても変らないと思うんだが」

 

「いいえ・・・お嬢様は内心で焦りを感じていましたし、返答が少しでも遅れてしまえば疑われます。唯でさえ私達は注目の的―――――騒ぎを大きくし過ぎてしまいました。例え疑惑が解消されたとしても、何かしらの要求は確実です。少しでも要求の内容を軽くする為に、即時行動が必要だっただけです」

 

「・・・もしも手紙の内容が無関係だっ―――――」

 

「それは有り得ません。キャサリンさんは、最初の出会いで損得計算をされて得が大きいと判断されています。そして、個人の力量も把握して敵対してはならないと感付いています。これは、私個人の感想ですが・・・彼女は教育者だったのでは?と予測しています。あれ程の観察眼を持った人が教育者ならば、上層部は是非ともスカウトしたいと思うでしょう」

 

「「「深月が言うと現実味を帯びる・・・」」」

 

流石にそれは無いだろうと言いたいが、深月の予測は馬鹿に出来無い。この世界の神が何をしているのかを予測して、それが見事に的中しているからだ

ハジメ達が応接室に案内されてから丁度十分。扉がノックされ、ハジメの返事を一泊置いて扉が開かれる。現れたのは、金髪オールバックに鋭い目つきをした三十代の男性と先程のドットだ

 

「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。ハジメ君、皐月君、深月君、ユエ君、シア君・・・でいいかな?」

 

簡易な自己紹介の後に握手を求めるイルワ。ハジメも握手をしながら握り返す

 

「ああ、構わない。名前は、手紙に?」

 

「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている・・・というより注目されているようだね。将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」

 

「トラブル体質・・・ね。確かにブルックじゃあトラブル続きだったな。まぁ、それはいい。肝心の身分証明の方はどうなんだ? それで問題ないのか?」

 

「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」

 

ハジメ達は、イルワが言う"先生"が恐らくキャサリンさんなのだろうと理解した

 

「あの~、キャサリンさんって何者なのでしょう?」

 

「ん?本人から聞いてないのかい?彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の五、六割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都が」

 

「はぁ~そんなにすごい人だったんですね~。そして深月さんの予測が当たりましたね」

 

「・・・キャサリンすごい。・・・深月もいうまでもない」

 

「只者じゃないとは思っていたが・・・思いっきり中枢の人間だったとはな。ていうか、そんなにモテたのに・・・今は・・・いや、止めておこう」

 

「もうね?・・・予想は深月に任せようと思ってしまうわ」

 

「駄目ですよ?何事も経験するのが一番で御座います」

 

「・・・主として頑張るわ」

 

ハジメ達はここにもう用は無いと判断して一言だけ入れて退室をしようとする

 

「まぁ、それはそれとして、問題ないならもう行っていいよな?」

 

そもそも、この部屋に来たのは身分証明だけだったのでこれ以上居る意味は無いのだ。しかし、イルワは「少し待ってくれるかい?」とハジメ達を留まらせる。皐月は「あぁ・・・やっぱりそう来るわよね」と呟く

 

「皐月君は理解しているだろうけど、一応提案しよう。実は、君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている」

 

「ことわ――――――イテェ!?」

 

ちょっと待ってハジメ。深月が言っていた事をもう忘れたの?恐らくこの件を不問にする代わりの依頼の筈よ

 

イルワの依頼を間髪入れずに拒否しようとしたハジメを、皐月がハジメの耳を抓って寸断させた。ハジメは、皐月の言った事を改めて思い返し、話の主導権を握っているのは相手だと自覚する

 

「その依頼の話を聞かせてもらっても良いかしら?」

 

「皐月君は理解していた様だね。でも、話を聞くか・・・中々に鋭い」

 

「ここ最近は物理で押し通すばかりで偶には頭で考えて駆け引きをしないといけなくなったのよ。・・・それに、ハジメが否定していたら今回の件を不問にするかどうかの餌をちらつかせるつもりだったのでしょう?なら、話を聞いて情報を精査しないといけないわ」

 

殆どは深月の予測通り。目先の問題を最小限の被害でどう切り抜けるかを見つけ出そうとしているのだ。イルワの方も、皐月が落としどころを探している事を理解しているので丁度良い依頼を提示するつもりだったのだ

 

「・・・分かったよ。皐月の言う通り話を聞くよ」

 

「聞いてくれるようだね。ありがとう」

 

「・・・流石、大都市のギルド支部長。いい性格してるよ」

 

「君も大概だと思うけどね。さて、今回の依頼内容だが、そこに書いてある通り、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻って来なかった為、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ」

 

話しを細かく聞く所によると、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物が依頼していた予定の冒険者パーティーに強引に同行を申し込んでの臨時パーティーとなった。彼等が向かう場所は北の山脈地帯で、魔物を見かける頻度が増えた事を調査する事だった。伯爵家の方も馬鹿ではなく、連絡員を影ながら同行させていた。しかし、その連絡員からの情報がパッタリと無くなった事から、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したそうだ

 

「伯爵は、家の力で独自の捜索隊も出しているようだけど手数は多い方がいいと、ギルドにも捜索願を出した。つい、昨日の事だ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば、並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ」

 

「前提として、俺達にその相応以上の実力ってやつがないとダメだろう?生憎俺は"青"ランクだぞ?」

 

「さっき"黒"のレガニドを瞬殺したばかりだろう?それに・・・ライセン大峡谷を余裕で探索出来る者を相応以上と言わずして何と言うのかな?」

 

「なっ!・・・どうして知って」

 

「えっ!?私はキャサリンさんとお話をしたりしたけど、そういった情報を話したりしてないわよ?」

 

ハジメ達がライセン大峡谷を探索していた話は誰にもしていない。イルワがそれを知っているのは手紙に書かれていたという事以外には有り得ない。しかし、ならば何故キャサリンは、それを知っていたのかという疑問が出る

 

「ユエさん、シアさん。正直に言うならば今の内ですよ?」

 

深月の宣告を聞いたハジメと皐月は、二人を見ると冷静そうで冷静じゃ無いユエと、冷や汗を掻いているシアの姿だった

 

「・・・お前等」

 

「深月、後で良いから二人にOHANASHIしておきなさい。内容は任せるわ」

 

「かしこまりました。お二人共、逃げないで下さいね?」

 

「「・・・はい」」

 

二人は後程、深月からのOHANASHIを受けたのは言うまでも無い。イルワは、そんな三人の様子を苦笑してハジメと皐月の二人を見つめ直して話を続けた

 

「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、できる限り早く捜索したいと考えている。どうかな。今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?」

 

「そう言われてもな、俺達も旅の目的地がある。ここは通り道だったから寄ってみただけなんだ。北の山脈地帯になんて行ってられない」

 

「断るわ。今回の件を不問にするだけなら旨みが何も無いわ」

 

「報酬は弾ませてもらうよ?依頼書の金額はもちろんだが、私からも色をつけよう。ギルドランクの昇格もする。君達の実力なら一気に"黒"にしてもいい」

 

「いや、金は最低限でいいし、ランクもどうでもいいから・・・」

 

「なら、今後、ギルド関連で揉め事が起きたときは私が直接、君達の後ろ盾になるというのはどうかな?フューレンのギルド支部長の後ろ盾だ、ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ?君達は揉め事とは仲が良さそうだからね。悪くない報酬ではないかな?」

 

「・・・予想だけど、その依頼を薦めたのは貴方なの?」

 

「察しが良くて助かるよ。あの依頼を薦めたのは他でもない私なんだ。調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思った。実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと、昔から冒険者に憧れていてね・・・だが、その資質はなかった。だから、強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて・・・だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに・・・」

 

ハジメ達はイルワの独白を聞きながら思案する。思っていた以上に繋がりが深い事から察するに、内心では藁にもすがる思いな程焦っているのだろう。ハジメ達は、これからの事について考えていた。ユエやシアのステータスプレートの有無で起こりうる問題の数々・・・恐らく想像を上回るだろう。もしも、ギルドという大きな組織が後ろ盾になってくれるのならばその問題も少なからず減るだろうし、それに必要な時間も無くなるという事だ

 

「そこまで言うなら考えなくもないが・・・二つ条件がある」

 

「条件?」

 

「ああ、そんなに難しいことじゃない。ユエとシアにステータスプレートを作って欲しい。そして、そこに表記された内容について他言無用を確約すること、更に、ギルド関連に関わらず、アンタの持つコネクションの全てを使って、俺達の要望に応え便宜を図ること。この二つだな」

 

「それはあまりに・・・」

 

「出来ないなら、この話はなしだ。もう行かせてもらう」

 

「何を要求する気かな?」

 

「そんなに気負わないでくれ。無茶な要求はしないぞ?ただ俺達は少々特異な存在なんで、教会あたりに目をつけられると・・・いや、これから先、ほぼ確実に目をつけられると思うが、その時、伝手があった方が便利だなっとそう思っただけだ。面倒事が起きた時に味方になってくれればいい。ほら、指名手配とかされても施設の利用を拒まないとか・・・」

 

「指名手配されるのが確実なのかい?ふむ、個人的にも君達の秘密が気になって来たな。キャサリン先生が気に入っているくらいだから悪い人間ではないと思うが・・・そう言えば、そちらのシア君は怪力、ユエ君は見たこともない魔法を使ったと報告があったな・・・その辺りが君達の秘密か…そして、それがいずれ教会に目を付けられる代物だと・・・大して隠していないことからすれば、最初から事を構えるのは覚悟の上ということか・・・そうなれば確かにどの町でも動きにくい・・・故に便宜をと・・・」

 

頭の回転が早いのは流石だろう。イルワはしばらく考え込んで、意を決してハジメ達に視線を合わせる

 

「犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になることは約束しよう・・・これ以上は譲歩できない。どうかな」

 

「まぁ、そんなところだろうな・・・それでいい。あと報酬は依頼が達成されてからでいい。お坊ちゃん自身か遺品あたりでも持って帰ればいいだろう?」

 

「本当に、君達の秘密が気になってきたが・・・それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。ハジメ君の言う通り、どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい・・・ハジメ君、皐月君、深月君、ユエ君、シア君・・・宜しく頼む」

 

イルワは最後に、真剣な眼差しを持ってハジメ達を見つめた後、ゆっくり頭を下げた

 

「あいよ」

 

「まぁ、やってみるわ」

 

「・・・ん」

 

「はいっ」

 

その後、支度金と紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取ってハジメ達は部屋を出た。深月がゆっくりと扉を閉めて、少しした後で「ふぅ~」と一息吐いて椅子に深く座り込んだイルワ。部屋にいる間、一言も話さなかったドットが気づかわしげにイルワに声をかける

 

「支部長・・・よかったのですか?あのような報酬を・・・」

 

「・・・ウィルの命がかかっている。彼ら以外に頼めるものはいなかった。仕方ないよ。それに、彼等に力を貸すか否かは私の判断でいいと彼等も承諾しただろう。問題ないさ。それより、彼らの秘密・・・」

 

「ステータスプレートに表示される"不都合"ですか・・・」

 

「ふむ、ドット君。知っているかい?ハイリヒ王国の勇者一行は皆、とんでもないステータスらしいよ?」

 

「ッ!支部長は、二人が召喚された者の"神の使徒"の二人であると?しかし、彼等はまるで教会と敵対する様な口ぶりでしたし、勇者一行は聖教教会が管理しているでしょう?」

 

「二人じゃなくて三人だよ。でもね・・・およそ四ヶ月前、その内の三人がオルクスで亡くなったらしいんだよ。奈落の底に魔物と一緒に落ちたってね」

 

「・・・まさか、その者達が生きていたと?四ヶ月前と言えば、勇者一行もまだまだ未熟だったはずでしょう? オルクスの底がどうなっているのかは知りませんが、とても生き残るなんて・・・」

 

ドットは信じられないと、イルワの推測を否定する。しかし、イルワには確信めいた物を感じていた。顔には出さない様にしていたが、感付かれていただろうと考えている

 

「一人だけはこちらの考えを全て見抜いていただろうねぇ」

 

「あの白髪の彼女ですか」

 

「違う違う。キャサリンさんの手紙に直接書かれてはいないけど、伏線として深月君・・・メイドさんについて色々と書かれているよ。多分だけど、この会話すら予測しているんじゃないかな?」

 

「神の使徒の事ですか・・・」

 

「そうだね。でも、もし、そうなら・・・何故、彼等は仲間と合流せず、旅なんてしているのだろうね?彼等は一体、闇の底で何を見て、何を得たのだろうね?」

 

「何を・・・ですか・・・」

 

「ああ、何であれ、きっとそれは、教会と敵対することも辞さないという決意をさせるに足るものだ。それは取りも直さず、世界と敵対する覚悟があるということだよ」

 

「世界と・・・」

 

「私としては、そんな特異な人間とは是非とも繋がりを持っておきたいね。例え、彼等が教会や王国から追われる身となっても、ね。もしかすると、先生もその辺りを察して、わざわざ手紙なんて持たせたのかもしれないよ」

 

「支部長・・・どうか引き際は見誤らないで下さいよ?」

 

「もちろんだとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

ハジメ達は、部屋から退出してから市場で消耗品の食料を補給していた

 

「あぁ~、面倒くさい。寄り道しないとしけないとか本当に面倒いの一言だ」

 

「仕方が無いと割り切りましょう。これからの旅で、ユエとシアのステータスプレートが無いと困り事が増えるじゃない」

 

「「・・・ごめんなさい」」

 

ションボリと反省しているユエとシア。自分達がやらかした事と、面倒事を引き連れた事を改めて気付いたのだろう

 

「ほらほら、落ち込む暇があるなら反省して次に活かしなさい。この依頼を終わらせたら問題が減るのよ?しっかりと依頼を達成する為に行動に移しなさいよ」

 

「ん!」

 

「はい、分かりました!」

 

四人は気分を一新して買い物に戻ろうとしているが、深月だけは時偶冒険者ギルドの方をチラ見している。皐月は、そんな深月の様子を疑問に思った

 

「冒険者ギルドをチラ見しているけど・・・何かあったの?」

 

「いえ、メリットとデメリットを考えていたのです。つい先程メリットに傾きましたので問題ありません」

 

「・・・一応聞くが、何をした」

 

「私達が退室してからの会話を聞いていたのです。糸電話の要領で盗み聞きしていたのですよ」

 

あっけらかんと答える深月に、「はぁっ」と溜息を吐く一同。こいつは本当に何でも有りだなと心同じく思ったのだ

 

「大丈夫ですよ。彼等はこちらを害そうとする事は有り得ないでしょう」

 

「あ・・・あぁ~。よくよく考えればそういう事なのね」

 

「どういう事だ?」

 

額に手を当てて察した皐月。ハジメの方は、感付いていない模様だった

 

「今回の条件提示でステータスの他言無用に教会に異端認定。これだけの情報があれば、私達が召喚された事実に辿り着くって事よ」

 

「・・・そうか。他国でも召喚については知らされているのか」

 

「有り得ないステータスに、有り得ない技能数と来れば確信されるわよね~」

 

「だが、他言無用の条件を付ける事が出来ただけでも十分だな」

 

「ですが、油断は禁物です。これからの旅も気を付けて行動に移りましょう」

 

「おう」

 

「そうね」

 

食料補給を終えた一行は、一泊した後に魔力駆動二輪で湖畔の町―――――ウルへ出発した

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「・・・主武装が魔力糸な件について」
深月「糸の可能性は無限大とも言います」
布団「初めて聞くんだけど」
深月「作ればいいのですよ。作れば!」
布団「ごり押しですね。分かりました」
深月「次の町が楽しみです」
布団「何があったんや?」
深月「香辛料を使う料理を扱っているとの情報を得ました!しかも稲作地帯なのです!」
布団「カレーかな?」
深月「全容は判りませんが、カレーに類似する食べ物だと思います」
布団「レパートリーが増えるんですね。分かります」
深月「感想、評価等、お気軽にお願い致します」
布団「次回が楽しみだわ~」



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メイドは再会します

布団「忙しい・・・イベントに追いやられて忙しい・・・」
深月「ゲームですか」
布団「ごめんね!最低限のノルマがまだ終わらないの!」
深月「残り数日ですが間に合いますか?」
布団「間に合わせる!そして書く!・・・と宣言したいところだぁ」
深月「イベントのノルマが終わればちゃんと執筆できますね」
布団「もちろんさぁ。それはそれとして、誤字報告ありがとうございます!」
深月「本当に誤字が多いですね」
布団「ぐふぅっ!」
深月「長々と前書きを埋めるのもいけませんので進めましょう」
布団「投稿だよ!」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」






~ハジメside~

 

広大な平原のど真ん中に、北へ向けて真っ直ぐに伸びる街道を爆走する二つの影。一つは、黒塗りの車体に二つの車輪のバイク。もう一つは、タイヤを二つに直結させた大きい車輪のバイク――――――ハジメと深月の操る魔力駆動二輪である

 

「はぅ~、気持ちいいですぅ~、ユエさぁ~ん。帰りは場所交換しませんかぁ~」

 

「・・・ダメ。ここは私に託された場所」

 

「え~、そんな事言わずに交換しましょうよ~、後ろも気持ちいいですよ?」

 

「・・・深月の方に移れば良い」

 

「う"っ!・・・いやぁ~、深月さんはちょっと怖いので遠慮しておきま―――――」

 

(シアさんは私の事を恐怖の代名詞としているのですね)

 

(深月が怖いですって?怒る時は怒るし、褒める時は褒めるじゃない。そう感じるのはシアが失敗ばかりしているからよ)

 

「正論過ぎて何も言えないですぅ~」

 

「あのなぁ、お前じゃ前には座れないだろ?邪魔でしょうがねぇよ。特にそのウサミミ。風になびいて目に突き刺さるだろうが」

 

「あ~、そうですねぇ~」

 

ハジメの追い打ちに何も言い返す事も出来無いシアは、うっつらうっつらと眠りに落ちていく

 

「・・・ダメ、ほとんど寝てる」

 

(長時間揺られて眠くなるのは解るけど・・・危ないからやめなさい)

 

皐月は右手で小石を弾き飛ばしてシアの頭にぶつける

 

「あうっ!・・・酷いですよ~」

 

(眠るぐらいならイメージトレーニングでもしていなさい。深月との訓練でいの一番に陣形を崩されているのはシアなのよ?)

 

そう。現在の訓練では深月に対して、ハジメと皐月とユエとシアの四人掛かりでの訓練なのだ。だが、四人は未だに深月に勝てないでいるのだ。更に付け加えるなら、シアを切っ掛けとして陣形を崩されて各個撃破されてしまっているのが現状なのだ

 

(シアさんはフェイントも何も無い唯の猪ですので・・・その・・・・・私はどうしても楽な者を先に対処してしまいます)

 

「むぎいいいいいいい!それって、私が馬鹿って事じゃないですか!」

 

「いや・・・深月相手に真っ正面からフェイントも無しに突っ込む事自体が馬鹿だろ」

 

「・・・もう少し頑張る」

 

(ユエさんは目で追える程度まで成長されています。後は、完全な無詠唱で魔法が撃つ事が出来れば完璧です)

 

「・・・頑張る。・・・暇な時は深月を驚かせる魔法を研究中」

 

(ほっほ~う、ユエの新しい魔法ね。・・・深月が本気を出すと魔法が全て吸収されちゃうからね)

 

「・・・ライセン大峡谷よりも酷い」

 

「えっ・・・深月さんに魔法が効かないって?」

 

この面子の中で深月に対しての魔法攻撃が効かない事を知っているのは、ハジメと皐月とユエの三人だけ。深月の数少ない凶悪な初見殺しのカードを公にしたくないからである。ユエは口が軽いが、シアの口はもっと軽いだろうと予想していた皐月の提案でしばらくの間は内緒にしておく事になっていたのだ

 

「深月の技能の一つだ。自分に害を及ぼす魔法攻撃を無効化して自身の物にする――――――魔法の性能を理解していないと使えないから、他の奴等がそれを習得しても使い道の無い代物なんだよ」

 

(深月の思考速度は群を抜いているから出来る芸当なのよ)

 

高速思考で集中力を極限にまで高めて周囲をスローモーションの様に捉えて、その間で魔法攻撃の害意を判断する。戦闘センスが高い深月だからこそ出来る芸当なのだ

 

「それに・・・もしかしたら、俺達が知らないだけで新しい技を開発している可能性があるからな」

 

「・・・深月の進化は無限大」

 

(この世界に来てからは、それが顕著に現れているのよ)

 

「・・・深月さんに関しては人智を越えた存在と認識します」

 

(酷いですね。私はメイドですよ?)

 

「「「(普通のメイドはそんな事しません!)」」」

 

しばらく魔力駆動二輪を走らせる一行は、北の山脈地帯に一番近い町まで後一日ほどの場所まで来ていた

 

(フューレンで得た情報によりますと、予定の町―――――ウルは水源豊かで稲作地帯との事です)

 

「何?」

 

(ニルシッシルと呼ばれる香辛料を使った料理が有るとの情報も得ています)

 

ハジメと皐月は脳裏に米が思い浮かんだ

 

「よし・・・このペースなら後一日ってところだから、もう少し速度を上げてノンストップで行くぞ!米が俺を待っている!!」

 

「・・・米?」

 

「おう、つまり米だ米。俺の故郷、日本の主食だ。こっち来てから一度も食べてないからな。同じものかどうかは分からないが、早く行って食べてみたい」

 

(お米食べたい・・・パンも美味しいけど、お米が恋しいのよ!)

 

ハジメが更にペースアップして、それを追う様に深月もペースアップ。食は偉大なのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

町の手前で降りてハジメさんとお嬢様は早足で向かっています。お米が恋しいのは分かりますが、ユエさんとシアさんのペースに合わせて下さい。食事は逃げませんよ?

 

深月は、二人に一言入れてペースを落とさせて一緒に町へと到着して目当ての宿へと向かう。宿に入ってチェックインした後、部屋に入って依頼の再チェックを行いつつ時間が経つのを待った。深月は何時もの様に宿の主に許可を貰い厨房へ入って使用している食材等を見せてもらっていた

すると、聞いた事のある声がチラホラと深月の耳に入って来た

 

この声は・・・畑山先生の声でしょうか?それに若い男女数人と、成人男性の声が複数――――――放っておいても大丈夫ですね。今は赤の他人、誰が何を言おうと旅の目的は変りません

 

深月は気にせずに食材と香辛料を直に観察し、触り、覚えた。料理人に一言入れて、気配を溶け込ませてハジメ達が降りてくるタイミングと合わせて合流し、席へと移動して行く

 

「おや、噂をすれば。彼等ですよ。騎士様、彼等は明朝にはここを出るそうなので、もしお話になるのでしたら、今のうちがよろしいかと」

 

「そうか、わかった。しかし、随分と若い声だ。"金"に、こんな若い者がいたか?」

 

あれは・・・騎士、神殿騎士で間違い無いですね。大丈夫かと思った矢先にこれですか・・・目を付けられなければ良いのですが、無理ですね・・・諦めましょう

 

深月は気付かぬふりをして皐月達の後を追って席に着く

 

「もうっ、何度言えばわかるんですか。私を放置して"皐月"さんと二人の世界を作るのは止めて下さいよぉ。ホント凄く虚しいんですよ、あれ。聞いてます? "ハジメ"さん」

 

「聞いてる、聞いてる。見るのが嫌なら別室にしたらいいじゃねぇか」

 

「んまっ!聞きました?ユエさん。"ハジメ"さんが冷たいこと言いますぅ」

 

「・・・今日は"皐月"に譲るのは当たり前。・・・でも、"ハジメ"・・・メッ!」

 

「へいへい」

 

「そういうシアも、もう少し余裕を見せないと駄目よ」

 

「うぐぅっ!"深月"さんだって"ハジメ"さんとイチャイチャしたいですよね!?」

 

「えっ?・・・いいえ。思いませんが?」

 

そのまま席の場所まで移動しようとする一行の側のカーテンが勢い良く引かれた

 

「南雲君!高坂さん!神楽さん!」

 

「あぁ?・・・・・・・・・・・先生?」

 

「あっ」

 

カーテンを引き開いた先に居た人物は、クラス担任の畑山先生――――――通称"愛ちゃん先生"だった

 

「やっぱり・・・やっぱり南雲君達なんですね?生きて・・・本当に生きて・・・」

 

「いえ、人違いです。では」

 

「へ?」

 

死んだとされた三人の再会に感動して涙目になっていた畑山だが、返ってきたのは全くもって予想外の言葉だった。思わず間抜けな声を上げる畑山を無視して、ハジメは出口へと向かったが皐月の手に引き戻される

 

(こらっ!咄嗟に口に出たのは言い逃れできないわよ!大人しくしなさい!)

 

皐月の言う事は正論だ。渋々皐月の元まで戻り、無難な言葉で返事をする事に

 

「まぁ・・・なんだ。・・・久しぶりだな、先生」

 

「先生、久しぶり」

 

「畑山先生、お久しぶりで御座います」

 

「あ、お久しぶりです。・・・・・じゃなくて!今まで何をしていたんですか!!」

 

ハジメに言い寄る畑山にユエが割り込む

 

「・・・離れて、ハジメ達が困ってる」

 

「な、何ですか、あなたは? 今、先生は南雲君と大事な話を・・・」

 

「・・・なら、少しは落ち着いて」

 

「すいません、取り乱しました」

 

ハジメ達はテーブルに座り、続く様に皐月とユエとシアが座って、最後に深月が座る。畑山達はハジメ達の行動にポカンとしているが、それを気にせずに宿の主のフォスを手招きして料理の注文をする

 

「ニルシッシルをくれ」

 

「私も同じく」

 

「・・・ハジメの好みの味を知っておきたい」

 

「私も同じのをくださ~い」

 

「私もニルシッシルをお願い致します。全員同じ料理ですので、ニルシッシル五つをお願い致します」

 

自然な流れで料理を注文しだしたハジメ達に呆然していた畑山は息を吹き返し、ツカツカとハジメのテーブルに近寄ると「先生、怒ってます!」と実に分かりやすい表情でテーブルをペシッと叩く

 

「南雲君、まだ話は終わっていませんよ。なに、物凄く自然に注文しているんですか。大体、高坂さんと神楽さんを除くこちらの女性達はどちら様ですか?」

 

この場に居る全員の台詞を代弁する一言で、周りの騎士も、クラスメイト達もウンウンと頷いている。ハジメと皐月は面倒くさそうに眉をしかめるが、畑山は持ち前の行動力で食い下がる

 

「申し訳御座いませんが、私たちは休憩を挟まずにこちらまで来ましたので先にお食事を済ませたいのです」

 

深月の一言で「うぐっ!」と止まるが、せめて彼女達がどういう関係なのかは聞き出そうとする

 

「あぁ、それとこいつらは・・・」

 

「・・・ユエ」

 

「シアです」

 

「ハジメの女・・・側室」

 

「ハジメさんの女ですぅ!せいさいっだぁ!?―――――――そくしt――――――――ぐっふぅ!?―――――――仲間ですぅ」

 

シアが馬鹿な発言をする前にユエの拳が鳩尾に入り込み悶絶して、側室と言い直そうとするが、再び拳がめり込み悶絶し、無難な事で落ち着いた

 

「は?・・・え?・・・側室って?えっ?」

 

「・・・正妻は皐月。・・・これは絶対。・・・だれであろうとその座は奪っちゃダメ」

 

「ハジメが平等に愛してくれれば良いのよ。・・・多少は融通してもらうけれど」

 

「・・・皐月の器はとても大きい。・・・だから融通は当たり前」

 

「そんな事を言えるユエは大好きよ」

 

「私も皐月の事が大好き」

 

「俺は?」

 

「一番好きよ」

 

「・・・おう」

 

未だに情報の処理が追いついていないのか、畑山は「えっ・・・えっ・・・?」と混乱していた。それは周囲も同様だった。ハジメと皐月の甘い空気を作りだした所で、情報が整理し終えた畑山は顔を真っ赤にして非行に走る生徒を何としても正道に戻してみせるという決意に満ちていた

 

「ふ、二股なんて許しませんよ!直ぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか!もしそうなら・・・許しません!ええ、先生は絶対許しませんよ!お説教です!そこに直りなさい、南雲君!」

 

「なんでやねん・・・」

 

きゃんきゃんと吠える畑山を尻目にして、ハジメと皐月は深い深い溜息を吐いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

畑山が沢山吠えた後、VIP席の方に案内されたハジメ達。多く質問されるが、全てを端折って答えをおざなりに返していく

 

Q.橋から落ちた後、どうしたのか?

A.超頑張った

 

Q.なぜ白髪なのか

A.超頑張った結果

 

Q.皐月の目はどうしたのか

A.超超頑張った結果

 

Q.なぜ、直ぐに戻らなかったのか

A.戻る理由が無い

 

そこまで聞いた畑山は「真面目に答えなさい!」と頬を膨らませて怒るが、全く持って迫力が無い。ハジメは皐月とユエと食べさせ合いをしながら、ニルシッシルに舌鼓を打っていた

その様子にキレたのは、愛子専属護衛隊隊長のデビッドだ。愛する女性が蔑ろにされていることに耐えられなかったのだろう。拳をテーブルに叩きつけながら大声を上げた

 

「おい、お前等!愛子が質問しているのだぞ!真面目に答えろ!」

 

「今は食事中よ?礼儀がなっていないのは一体どちらか分かってる?」

 

プライドが無駄に高いデビッドは顔を真っ赤にして、何を言ってものらりくらりとして明確な答えを返さないハジメ達から矛先を変え、その視線がシアに向ける

 

「ふん、行儀だと?その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前達の方が礼儀がなってないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ?少しは人間らしくなるだろう」

 

シアの耳はシュンと項垂れて端から見ても、悲しそうにしていると見て分かる。皐月はシアの手を握って頭を撫でて言い放つ

 

「器の小さい男ね。男ならもっと大きくないとモテないわよ?」

 

皐月はデビッドを、ただの種族の違いで優劣を決める程の器の小さい男と嗤った。唯でさえ怒りで冷静さを失っていたデビッドは、よりによって畑山の前で男としての器の小ささを嗤われ完全にキレた

 

「・・・異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる」

 

無表情で剣に手を掛けたデビッド。修羅場にオロオロとするクラスメイト達と、愛子やチェイス達は止めようとするが声も聞こえない様子で、遂に鞘から剣を僅かに引き抜いた

 

ドパンッ!!

 

炸裂音が宿全体に響き渡り、デビッドの頭部が弾かれたように後方へ吹き飛んだ

 

「俺の温情に感謝しろよ?もしも俺がお前を撃たなかったら、首が確実に飛んでいたぞ?まぁ、ここから先はどうなっても知らないがな」

 

騎士達は突然の出来事に硬直して直ぐさま警戒する様に剣を引き抜こうと手を動かそうとするが、ピクリとも動かない。それは畑山とクラスメイト達も同じだ。今まで見た事も無い目で自分達を刺す無機質な視線――――――深月の眼光が普段の物とは違っていた

 

「私はお嬢様のメイドで、お守りする主。分かりますか?貴方方は敵意を向けたのです。つまりは―――――殺されても文句は無いですね?」

 

深月が右手を少しだけ握ると騎士達が苦しみだした。畑山とクラスメイト達は「何事!?」と様子を伺うと、首筋が何かに絞められている事に気付いた。その締め付けは徐々に強くなって行き、騎士達はより一層苦しむ

 

「まっ、待って下さい!これをしているのは神楽さんですよね!?お願いです!彼等を離して下さい!!」

 

「何故ですか?」

 

「こ、このままでは人を殺してしまいます!それだけは絶対にだm―――――」

 

「私は人殺しには慣れています。ですので、今更増えた所で何も思いません」

 

更に締め付けを強くする深月。騎士達の首筋から血がツゥーと垂れはじめる。もう容赦は無く、殺す気は見て取れる。クラスメイト達は、知り合いが・・・深月が殺人に躊躇いを覚えない事に顔を青くする

 

「・・・お願いです。止めて下さい・・・」

 

「はぁっ、深月止めなさい」

 

「かしこまりました」

 

皐月の一言で、騎士達の首を締め付けていた物は取られて彼等は咳き込みながら大きく息をする

 

「俺は、あんたらに興味がない。関わりたいとも、関わって欲しいとも思わない。いちいち、今までの事とかこれからの事を報告するつもりもない。ここには仕事に来ただけで、終わればまた旅に出る。そこでお別れだ。あとは互いに不干渉でいこう。あんたらが、どこで何をしようと勝手だが、俺の邪魔だけはしないでくれ。今みたいに、敵意をもたれちゃ・・・つい殺っちまいそうになる」

 

「"今回"は許したけど、覚えておきなさい。深月が本気でキレたらどうなるか・・・私は見た事が無いわ。多分・・・今まででキレた事は無いんじゃないかしら?」

 

深月の威圧は解いたが、ハジメと皐月の威圧によって彼等は何も言葉を発せずにいる。二人は、彼等に興味を無くし威圧を解いてニルシッシルに再び手を付け始めた。未だに落ち込んでいるシアに四人は話しかける

 

「おい、シア。これが"外"での普通なんだ。気にしていたらキリがないぞ?」

 

「はぃ、そうですよね・・・分かってはいるのですけど・・・やっぱり、人間の方には、この耳は気持ち悪いのでしょうね」

 

「・・・シアのウサミミは可愛い」

 

「ユエさん・・・そうでしょうか」

 

「大丈夫よ。私もハジメも、シアが寝ている隙にウサ耳を堪能しているわ」

 

「おいっ!それは言うな!」

 

「ハ、ハジメさん・・・皐月さん・・・私のウサミミお好きだったんですね・・・えへへ」

 

「あの騎士達は神殿騎士です。幼少の頃から人族至上主義の刷り込みがされていますので気にせずとも良いかと。それに、愛玩奴隷としての需要はかなり高い所を察するに、一般の方からは敬遠される事は無いでしょう」

 

「・・・深月」

 

「・・・最後の最後でそれは俺でも酷いと思うぞ」

 

「・・・容赦ない」

 

「私は何か間違った事を言いましたか?」

 

「事実だけど・・・もうちょっと優しい言い方をした方が・・・ね?」

 

最後の深月の言葉はスルーして、四人で桃色空間を作り出している事に目を白黒させる彼等。しばらく、ハジメ達のラブコメなやり取りを見ていると、男子生徒の一人相川昇がポツリとこぼす

 

「あれ? 不思議だな。さっきまで南雲のことマジで怖かったんだけど、今は殺意しか湧いてこないや・・・」

 

「お前もか。つーか、あの二人、ヤバイくらい可愛いんですけど・・・どストライクなんですけど・・・なのに、目の前にいちゃつかれるとか拷問なんですけど・・・ってか高坂さんと神楽さんがより一層奇麗な件について」

 

「・・・南雲の言う通り、何をしていたか何てどうでもいい。だが、異世界の女の子と仲良くなる術だけは・・・聞き出したい!そして最後の二人がもっと奇麗になった事がヤバイ!・・・昇! 明人!」

 

「「へっ、地獄に行く時は一緒だぜ、淳史!」」

 

ハジメを見ながら、嫉妬を込めた眼で一致団結する男子三人。そして、それを冷めた目で見る女子

騎士の一人――――チェイスは場の雰囲気が落ち着いたのを悟り、デビッドの治癒に当たらせる。同時に、警戒心と敵意を押し殺して、微笑と共にハジメに問い掛けた。ハジメの事情はともかく、どうしても聞かなければならない事があったのだ

 

「南雲君でいいでしょうか? 先程は、隊長が失礼しました。何分、我々は愛子さんの護衛を務めておりますから、愛子さんに関することになると少々神経が過敏になってしまうのです。どうか、お許し願いたい」

 

「へぇ?少し観察して察したけど、相当腹立たしいようね。因果応報――――――殺っていいのは、殺られる覚悟のある者だけよ」

 

冷めた目でチェイスが必死に隠している心情を読み取って言い返す。無論、チェイスは皐月の言が正論過ぎて何も言い返せない。チェイスは頭の回転を変えて、ハジメが持っているアーティファクトらしき物に目を向け切り込んだ

 

「そのアーティファクト・・・でしょうか。寡聞にして存じないのですが、相当強力な物とお見受けします。弓より早く強力にも関わらず、魔法のように詠唱も陣も必要ない。一体、何処で手に入れたのでしょう?」

 

詠唱も要らず、殺傷能力の高い武器が目の前に存在する。戦争の情勢を一気に左右させる程の力を秘めている為、聞かずにはいられなかったのだ

 

「そ、そうだよ、南雲。それ銃だろ!?何で、そんなもん持ってんだよ!」

 

「銃?玉井は、あれが何か知っているのですか?」

 

「え?ああ、そりゃあ、知ってるよ。俺達の世界の武器だからな」

 

「ほぅ、つまり、この世界に元々あったアーティファクトではないと・・・とすると、異世界人によって作成されたもの・・・作成者は当然・・・」

 

「俺だな」

 

ハジメがあっさりと認めた事に驚いたのか、意外感を顔に出す

 

「あっさり認めるのですね。南雲君、その武器が持つ意味を理解していますか?それは・・・」

 

「この世界の戦争事情を一変させる・・・だろ?量産できればな。大方、言いたい事はやはり戻ってこいとか、せめて作成方法を教えろとか、そんな感じだろ?当然、全部却下だ。諦めろ」

 

ハジメに却下されるが、目の前の銃があまりにも魅力的でチェイスは引き下がらない

 

「ですが、それを量産できればレベルの低い兵達も高い攻撃力を得ることができます。そうすれば、来る戦争でも多くの者を生かし、勝率も大幅に上がる事でしょう。あなたが協力する事で、お友達や先生の助けにもなるのですよ?ならば・・・」

 

「なんと言われようと、協力するつもりはない。奪おうというなら敵とみなす。その時は・・・戦争前に滅ぶ覚悟をしろ」

 

「ふふふ、王国に居た時には私たちを無能と蔑んでいたわよね?居なくなって万々歳と喜んでいたのに、有益な者だったと理解すれば掌を返して乞うなんて厚かましいと思わないの?」

 

「な――――」

 

「何故情報を知っているのか知りたいの?でも、駄目よ。教えないわ。そもそも、人の耳に入れば情報は一気に拡散される。違う町に流れないとでも思っているの?」

 

「あの場には教会関係――――――」

 

「チェイスさん。南雲君には南雲君の考えがあります。私の生徒に無理強いはしないで下さい。南雲君も、あまり過激な事は言わないで下さい。もっと穏便に・・・南雲君達は、本当に戻って来ないつもり何ですか?」

 

「ああ、戻るつもりはない。明朝、仕事に出て依頼を果たしたら、そのままここを出る」

 

「どうして・・・」

 

畑山は悲しそうな目で、変わり果てた三人を見る。(※深月に関しては裏の顔を知らなかっただけ)理由を聞こうとするが、ハジメ達は食事を食べ終えたので席を立って二階へと戻っていった。深月は、ハジメ達が食べ終えた食器を集めて調理場へと持って行く。すると、ふと何かを思い出したかの様に立ち止まって最も触れたくもない問題を尋ねた

 

「あぁ、思い出しました。あの塵芥・・・檜山でしたか?ちゃんと処分はされましたよね?」

 

「えっ?なんで檜山君の事が出るんですか?」

 

いきなりの事に頭が追い付いていない畑山だが、クラスメイト達は理解した。二人を追って奈落へと落ちていく間際に言い残した言葉を

 

「おや、畑山先生は何もご存じないのですか?ハジメさんとお嬢様を奈落へ落した張本人ですよ」

 

「え!?あ、あれは事故だと天之河君が言っていましたよ!?」

 

「そうですか・・・その様に判断したのですね。情報提供有難うございました畑山先生。これで、やるべき事が一つ決まりました」

 

深月はそのまま食器を下げて二階へ上がっていった。未だによく理解出来ていない畑山は混乱しており、説明を求めようと後ろの生徒達に目を向けると、申し訳無さと檜山の運命を確信して顔を青ざめさせていた

 

「み、皆さん・・・ほ、本当は何があったんですか」

 

「先生・・・ごめんなさい・・・でも・・・あそこで反対していたら・・・」

 

本当に何が何だか理解出来ていない畑山は生徒に言い寄ろうとするが、思い出して苦しそうにしている生徒を見て思いとどまった。暗い雰囲気の中、生徒達の一人―――――園部がぽつりぽつりと呟く様に口に出す

 

「天之河が赦した時・・・それを反対すれば孤立すると思って・・・流されるままに・・・みんなが赦したの・・・」

 

「そ・・・そんな事・・・嘘ですよね?」

 

「神楽さんが・・・奈落に落ちる前に言ったんです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『では皆さんお達者で。それと塵芥の処分は任せますよ?もし何もしなかったのであれば、周囲が止めようと私自ら殺して差し上げますので』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――って」

 

「ころっ――――――――!?」

 

自らの教え子が言った言葉だが、脳では「ありえない」と必死に否定するが

 

「・・・あのメイドが・・・そう言ったのであれば確実に殺すでしょう」

 

チェイスの発言に「何故そんな事を」と否定する様に振り返れば、騎士全員が絞められた場所を手で触りながら青い顔をしており、何も言えなかった

 

「愛子・・・彼女は危険です。・・・いえ、主が手綱を握っているだけマシですね。もしもあのメイドの主が、今ここにいる私達全員を殺せと命令すれば確実に殺します」

 

「か、神楽さんはその様な事は・・・」

 

します!彼女が私たちに向けていた眼は物を見る眼でした!まるでそこら辺のゴミを排除するかの様な無機質な物です!」

 

「で、ですが・・・」

 

畑山は否定したかったが、出来なかった。学校での深月の生活態度は優秀で、基本、誰とでも接する心優しいと思っていたからだ。だが、それは表の顔・・・裏の顔は、殺人に後ろめたさを一切感じさせないものだった

チェイスの言う通り、騎士達を殺そうとしていた眼は冷めていてゴミを掃除する様な目つきだったから

 

「・・・先生。・・・神楽さんは・・・有言実行すると思います」

 

「園部さん・・・」

 

畑山含む生徒達と騎士達は暗い雰囲気のまま自室へと戻るのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月の光が部屋に差し込む。誰も居ない部屋で、深月は月を見ながら呟く

 

「あぁ、本当に良かった。予想通りの展開で私は嬉しいです。お嬢様が止められようとも、私は止まりません。だって

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の最も大切で、光り輝くそれを傷つけたのだから――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「メイドさんやばいですよぉ」
深月「何か問題でも?」
布団「神殿騎士をぬっころしちゃったら異端どころじゃないって」
深月「あれは・・・お嬢様を殺そうと剣を抜いた相手がいけないのですよ」
布団「もうちょっと手加減してあげようよ」
深月「嫌です」
布団「即答ですかぁ」
深月「もしもお嬢様のモチモチなお肌に傷がついたらどうするつもりですか!」
布団「ミレディの迷宮で傷ついたりは」
深月「していなかったですよ」
布団「・・・もしかして、眼の事を引きずっている?」
深月「グッハァ!」トケツ
布団「吐血したぁ!?メディーーーーック!メディーーーーーーーーーック!!」


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メイドは山登りをします

布団「少し遅れてしまい申し訳ありませぬ」
深月「次回は余裕をもって行動しましょうね?」
布団「はい」
深月「では読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」






~皐月side~

 

「それじゃあ行くか」

 

「まぁ・・・一応ね」

 

「先生はどこまで行っても先生だからな」

 

「この世界の事実の一端を知るのは、大人のあの人だけが良いと思うわ」

 

「何時ものか?」

 

「そ。何時ものよ」

 

夕食を食べ終えたハジメと皐月は、誰も居ない時を見計らって畑山に世界の真実の少しだけを知らせる事にした。流石に全部を教えてしまえば、先ず間違いなく旅に着いてくる可能性が大きいからだ

この神は今度は地球に手を出そうとする可能性が大きい→私たちも強くならないと!南雲君の旅に着いて行って鍛えます→足手纏いが増える

と、こういう事になり得るのだ

気配遮断を使って、抜き足差し足忍び足であっという間に畑山の部屋の前まで到着。錬成で鍵を創って素早く開錠して中に入ると、鍵が開いた音にも気付かずにうんうんと表情を変える姿がそこにあった

 

「なに百面相してるんだ、先生?」

 

「ッ!?」

 

ビクッと体を震わせて体を振り向ける畑山

 

「な、南雲君?それに高坂さんも?な、なんでここに、どうやって・・・」

 

「どうやってと言われると、普通にドアからと答えるしかないな」

 

「えっ、でも鍵が・・・」

 

「俺達の天職は錬成師だぞ?地球の鍵でもあるまいし、この程度の構造の鍵くらい開けられるさ。なぁ皐月?」

 

「シンプルすぎて一呼吸する前に創れるわ」

 

「高坂さんを連れているとはいえ、こんな時間に、しかも女性の部屋にノックもなくいきなり侵入とは感心しませんよ。わざわざ鍵まで開けて・・・一体、どうしたんですか?」

 

ありもしない妄想が頭を過るが、それは無いと頭から追い出して冷静になって考えるも、二人が何故わざわざここに来る理由が分からない

 

「まぁ、そこは悪かったよ。他の連中に見られたくなかったんだ、この訪問を。先生には話しておきたい事があったんだが、さっきは、教会やら王国の奴等がいたから話せなかったんだよ。内容的に、アイツ等発狂でもして暴れそうだし」

 

「話ですか? 南雲君は、先生達のことはどうでもよかったんじゃ・・・」

 

「えぇ、どうでもいいわ。・・・ですが、これから話す内容は騎士達にも内密にして下さい。もし、口を開けば異端認定されて処刑されるのは容易に想像がつきます」

 

皐月の重々しい言葉が畑山の思考を鈍くさせる。誰にも知られてはいけない程の内容。二人は、反逆者と呼ばれた解放者達がどうして神と戦ったのかを話した

何故畑山なのかというと、彼女は生徒中心で行動を起こしているからである。この世界の為ではなく、生徒を思っているからだ。これがもしも、ご都合解釈主義の勇者(笑)の天之河にでも話してみたとしよう。間違いなく否定するからだ。これ以上の説明のしようがない

例えば、皐月が天之河に言ったとしよう。そうすれば、『南雲は死んだんだ。きっと魔族が南雲に化けて何か良からぬ事を吹き込んで洗脳したに違いない。この世界を救おうとする神様とその使者である俺達を陥れる為に魔族が俺達の絆を弄んでいるんだ!』と言い出すと深月が予想したのだ。・・・うん。間違いなく言いそうだと感じた二人は、偶然にも再会した人格者の畑山に話す事にしたのだ

 

「まぁ、そういうわけだ。俺が奈落の底で知った事はな。これを知ってどうするかは先生に任せるよ。戯言と切って捨てるもよし、真実として行動を起こすもよし。好きにしてくれ」

 

「な、南雲君は、もしかして、その"狂った神"をどうにかしようと・・・旅を?」

 

「先生は本気でこの世界を救おうと思っているのですか?違いますよね?先生の目的は地球への帰還ですよね」

 

「・・・はい。生徒が欠ける事無く地球へ帰りたいです」

 

「まぁ、私たちが大迷宮を攻略する間に死人が出なければいいですね」

 

「大迷宮・・・そこに、帰還のあてがあると踏んでいるんですか?」

 

二人は知っていた。深月がミレディの思い出話を聞きつつ、各大迷宮の神代魔法を聞き出していたから

 

「あぁ。情報通りの神代魔法が手に入れば―――――だがな」

 

「そう・・・ですか。私達を連れていくというのは出来ませんよね・・・」

 

「それは無理です。着いて来たが最後です」

 

「護る事なんて無理だからな。最低限、自分の身は自分で守れ―――――――だ」

 

沈黙が続き、これ以上話す事は無いと踵を返そうとした二人に、畑山は思い出した様に話す

 

「白崎さんと八重樫さんは諦めていませんでしたよ」

 

「ふーん」

 

「皆が貴方達は死んだと言っても、彼女達だけは諦めていませんでした。特に白崎さんは、自分の目で確認するまで、君の生存を信じると。今も、オルクス大迷宮で戦っています。天之河君達は純粋に実戦訓練として潜っている様ですが、彼女達だけは貴方達を探す事が目的のようです」

 

「・・・二人は無事か?」

 

「は、はい。手紙のやり取りではありますが、順調に実力を伸ばして、攻略を進めているようです・・・・・恐らく大丈夫だと思います」

 

「・・・ねぇ先生。出会った時の反応から先生は私達が事故で奈落へと落ちたと感じたのだけれど、今は違うわ。どうしてですか?」

 

「・・・実は、神楽さんと園部さんの独白で何があったのかを初めて知りました。あれは事故では無く、故意だったと。それと天之河君が赦して無罪放免になったとも・・・」

 

ハジメと皐月は深々と、それはもう深々とため息を吐いて頭を抱える

 

「はぁ~・・・本当にあり得ねぇ」

 

「どうしようもないわ。先生、誰一人も欠ける事無く地球へ帰還は不可能です。諦めて下さい」

 

「あいつらと再会したら間違いなく死人が出るわ」

 

「こ、高坂さんは神楽さんの主人だから止めれますよね!?」

 

「「無理」」

 

二人の即答に畑山は固まる

 

「先生は知らないと思うから先に言っておくぞ?俺達・・・ユエとシアも含むんだが、深月に一回も勝てた事ないんだわ」

 

「えっ?」

 

「四対一なのに無傷で分殺されてるのよ。多分・・・いや、確実に手綱が千切られるわ」

 

「えっ?・・・えっ!?」

 

「最初の爪熊の時ですら理性はあったからなぁ」

 

「理性が吹き飛ぶ・・・・・逆に一周回って、冷静になって対処しそうね」

 

「あり得るなぁ~。その場合だと合掌だな」

 

「せめて苦しまずに死ねたら良いわね」

 

「それ絶対に不可能だわ」

 

「やっぱり?」

 

「俺達は皐月がどうでもいいと思っているのは知っている。だがな?深月の奴は別物だ。自分の全てを捧げる程の忠誠心となると、主が止めようとしても無駄だって事だ。正直、俺自身がド頭をぶち抜きたい気持ちがある!だが、深月のそれと比べると小さいからなぁ。・・・檜山ドンマイ!来世はまともになる事を祈る!」

 

二人の頭の中で、檜山の運命は"死"。どの様に深月に処刑されるかを色々と想像しているが思い浮かばないのだ。異様ともいえるその二人の姿を見て畑山は心が痛んだ

 

「お二人は・・・檜山君が死ぬのをどうとも思わないのですか?」

 

畑山の率直な思いだった

 

「ん?いや・・・自業自得だとしか言えない」

 

「そもそも、あの四人には予め釘を刺しておいたわ。ハジメに何かしたら殺すって」

 

「で、でも!人殺しは良くないです!」

 

「「そう言われても・・・」」

 

畑山の声が徐々に大きくなる

 

「愛子、大丈夫ですか?」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「一応顔を見せて下さい。貴女の手前で言うのも心痛みますが、あのメイドの言から気分を暗くされていますので」

 

騎士の声が扉の奥から聞こえて返事を返すが、それでも畑山の事を心配しているか顔を見せるように促す

 

「そんじゃあ俺達はここまでだな」

 

「先生、おやすみなさい」

 

二人は畑山に一言残して窓を開けてそそくさと退散していった。畑山は騎士に一度顔を見せてから部屋に戻り、開かれた窓から吹き込む夜風が入り込む。ハジメ達からもたらされた多大な情報に悩み、なかなか眠れない夜を過ごした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月の輝きが薄れた夜明け。ハジメ達五人は旅支度を終えて北門へと向かう。今回の依頼は早さが命のものだ。魔力駆動二輪で飛ばしておよそ二~三時間で着くだろう。今日の天気は快晴で、捜索するにはベストコンディション

五人が北門へ到着すると、門の傍に複数の気配――――――畑山と生徒六人の姿だった

 

「・・・何となく想像つくけど一応聞こう・・・何してんの?」

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね?人数は多いほうがいいです」

 

「却下よ。一緒に行って私達に何のメリットがあるの?」

 

「その様子から見るに、先生達の移動は馬だろ?単純に足の速さが違う。先生達に合わせてチンタラ進んでなんていられないんだ」

 

ハジメと皐月は、「こいつら乗馬出来るの?」と真っ先に疑問が思い浮かんだが、至極どうでもいいのでスルーする事にした。そんな二人の様子にカチンと来たのか、園部が強気で食って掛かる

 

「ちょっと、そんな言い方ないでしょ?南雲が私達の事をよく思ってないからって、愛ちゃん先生にまで当たらないでよ」

 

ハジメは「はぁ・・・」とため息を吐いて、宝物庫から魔力駆動二輪を二台取り出す。突然、何もない所から大型のバイクが出現し、ギョッとなる畑山達

 

「理解したか?お前等の事は昨日も言ったが心底どうでもいい。だから、八つ当たりをする理由もない。そのままの意味で、移動速度が違うと言っているんだ」

 

マジマジと魔力駆動二輪を見ている畑山達の中の一人、バイク好きの相川が若干興奮したようにハジメに尋ねる

 

「こ、これも昨日の銃みたいに南雲が作ったのか?」

 

「まぁな。それじゃあ俺等は行くから、そこどいてくれ」

 

しかし、畑山はそれでもハジメに食い下がる。理由は色々とあるが、一つは深月をどうにかして止める為の説得と、二つ目は現在失踪中の清水という生徒の安否だ

 

「南雲君、高坂さん、先生は先生として、どうしても二人からもっと詳しい話を聞かなければなりません。だから、きちんと話す時間を貰えるまでは離れませんし、逃げれば追いかけます。二人にとって、それは面倒なことではないですか?移動時間とか捜索の合間の時間で構いませんから、時間を貰えませんか? そうすれば、二人の言う通り、この町でお別れできますよ・・・一先ずは」

 

「・・・本当に先生って教師なのね」

 

因みに、皐月は畑山に敬語で話す事は基本的にしない。する時は、何かしらの大事な事を伝えたりする時だけにしたのだ

ハジメは尚も食い下がる畑山の視線から逃れる様に空を見上げると、徐々に明るくなってきていた。これ以上の門答は時間の無駄だと判断して、諦めて畑山に向き直る

 

「わかったよ。同行を許そう。といっても話せることなんて殆どないけどな・・・」

 

「構いません。ちゃんと二人の口から聞いておきたいだけですから」

 

「はぁ、全く、先生はブレないな。何処でも何があっても先生か」

 

「当然です!」

 

ハジメが折れたことに喜色を浮かべ、むんっ!と胸を張る畑山。どうやら交渉が上手くいったようだと、生徒達もホッとした様子だ

 

「・・・ハジメ、連れて行くの?」

 

「ああ、この人は、どこまでも"教師"なんでな。生徒の事に関しては妥協しねぇだろ。放置しておく方が、後で絶対面倒になる」

 

「ほぇ~、生徒さん想いのいい先生なのですねぇ~」

 

ハジメが折れた事に驚くユエとシア

 

「でも、このバイク二台じゃ乗れても六人でしょ?どうするの?」

 

園部がもっともな事実を口にする。しかし、ハジメは慌てる様子無く魔力駆動二輪一台を収納して魔力駆動四輪を取り出す

 

「それじゃあ、さっさと行くぞ。深月は二輪で移動してくれ。魔物が出たら俺が撃つよりも早く処理できるだろ?」

 

「かしこまりました。お嬢様は車内でお願いします」

 

「乗れない奴は荷台な」

 

呆然とする畑山達を傍目にして、そそくさと運転席に移動するハジメ。助手席にはユエとシア、後部座席に皐月と畑山達女性陣で、男子は大人しく荷台へと座り出発した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前方に山脈地帯を見据えて真っ直ぐに伸びた道を、ハマーに似た魔力駆動四輪と深月が乗る魔力駆動二輪が爆走する。ハジメの隣に座るユエは気分が良く、時々調子に乗ってハジメにちょっかいを掛けようとするシアを制裁したり、お話をしたりとしている。皐月に関しては、女性陣同士でハジメの関係性について根掘り葉掘り聞かれたりしている

 

「どうして私がハーレムを容認しているかを聞きたいの?」

 

「そうよ!南雲がハーレムが良いって言ったからそれを尊重したのかどうかよ!」

 

「それよりもどこまで進んだのかよ!やっぱりキスは済ませた感じ?」

 

「そ、そうですよ!あのユエさんが側室って言っていましたが、どういう事ですか!?」

 

ハジメのハーレムについて物凄く気になる男子達も聞き耳を立てる

 

「はぁ。・・・何故って、決まってるでしょ。私一人だと駄目だと思ったからよ」

 

「えぇ~どうゆう事~?」

 

「何があったのよ」

 

「ハジメとやった(意味深)って事よ」

 

「高坂さんってオープンなんですね」

 

「それにしても・・・ゴクッ。体が保たないねぇ~」

 

「あわわわわわわ!?」

 

女子は色めき立ち、畑山は生々しい告白に顔を真っ赤にさせる

 

「生々しすぎんだろっ!」

 

「南雲の息子は化け物か!?」

 

「あそこか!あそこが強くないとハーレムは無理なのか!!」

 

男子は南雲に嫉妬の視線をぶつけるが、当の本人は知らんぷりして運転に集中する

 

「それにしても・・・話を聞いていると神楽さんの投擲が凄まじいんだけど」

 

「百発百中って話?投擲士の優花にはマネ出来ないの?」

 

「だって・・・あれ見て出来ると思う?」

 

園部が視線を外へ向けると、魔力駆動二輪に乗ったままナイフを投擲し魔物を一撃で仕留めている光景だった

 

「・・・ごめん」

 

「深月と比較しない方が良いわよ。私達、未だに深月に勝てた事無いんだから」

 

『ん?今なんて・・・?』

 

事前に知っていた畑山はともかく、残りの面子は初めて知り呆然としていた。本日何度目の呆然かはお察しである。そしてハジメの追加情報が投下される

 

「正直言うぞ。俺達に戦闘訓練をつけているのは深月だ。はっきり言って勝てん。・・・メイドって何だっけ」

 

「優秀なのは知っていたけど・・・はぁ・・・戦闘訓練が嫌になるわ・・・・・」

 

「・・・深月は理不尽の権化」

 

「もうお説教は嫌ですぅ・・・」

 

四人は遠い目をしてそれぞれの感想を漏らして、更なる事実を漏らす

 

「もう・・・四人でもキツイ。・・・この倍の人数は欲しい」

 

「例え増えたとしても、直ぐに順応して対処しそう」

 

そこで園部は気付いた。いや、気付いてしまった

 

「え・・・ちょっと待ちなさいよ。その言い方だと一対一じゃなくて四対一って事なの?」

 

「園部。だから俺達は遠い目をしてんだろ」

 

「いやいやいや!南雲達は銃を持ってるんだろ!?それでも勝てないのか!?」

 

「「全部叩き切られる」」

 

『えぇ・・・』

 

「な、なら魔法は!?強力な魔法なら大丈夫だろ!?」

 

「・・・全部当たらない。・・・当たったとしても利用される」

 

『えぇ・・・』

 

「力技なんてもっての外よ。受け流されるが関の山よ」

 

もう何も言えない。沈黙が車内を支配する中、園部は皐月が手に持っていた包みからパンを取り出した所を見た。見てしまった。飯テロの様に取り出されたそれを見れば、違いが一目瞭然。園部達が王国で食べたパンは柔らかい部類に入るが、彼等からすれば硬いパンだ。だが、皐月が包みから取り出して、ハジメ達に手渡している時に見えてしまったのだ。パンを受け取った時に弾力のあるそれを

 

「ちょっと待って高坂さん、そのパンどうやって作ったの!?」

 

「あぁ、これは深月が作ったのよ」

 

「神楽さんが・・・?」

 

園部以外の者達は、皐月がハジメ達に手渡していたパンを注視していなかったので「何事?」と頭に?を浮かべている。家が喫茶店を営んでいる園部だからこそ気が付いたのだった

 

「そうですよ~。深月さんの作ったパンは柔らかいのですう~」

 

「・・・深月の作ったパンは世界一」

 

「といっても、深月が作ったパンを食べたのはこれで二回目だがな」

 

「イースト菌が無いのに良く作れたと思うわ」

 

「いやいやいや!イースト菌じゃなくても作れるからね!?多分、天然酵母のパンよね。・・・でも、種を作るのには数日掛かるし・・・どうやって?

 

園部が一人の世界に入り、ブツブツと独り言を呟いていると

 

「・・・深月が言うには、酵母や種とか諸々は技能で時間短縮しているらしいわ」

 

「料理人泣かせか!全世界の手間暇かけている料理人に謝れ!!」

 

「そ、園部さん。落ち着きましょう!?」

 

その後もウガーと色々と唸っていたが、落ち着きを取り戻して考える事を止めて皐月からパンを一つだけ恵んでもらい事なきを得た

 

「美味しい・・・本当に美味しいよぉ・・・」

 

園部の素直な反応からクラスメイト達は一口ずつ分け食べて、「うめぇ・・・うめぇよぉ・・・」「柔らかいパン美味しいよぉ・・・」「南雲達はこんなに美味しいご飯を毎日食べているのかよ」といって涙を流しながらモソモソとパンをじっくりと噛みしめながら食べたのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、食って偉大よね・・・」

 

「奈落で深月が居なかったらと思うと絶望しかないな」

 

「・・・心が壊れているかも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

珍事もあったがハジメ達は、麓に四輪を止て、しばらく見事な色彩を見せる自然の芸術に見蕩れた。女性陣の誰かが「ほぅ」と溜息を吐く。ゆっくりと鑑賞したい気持ちはあるが、その気持ちを抑えて四輪を宝物庫にしまい込んで八機の鳥型の模型を取り出した。六機を皐月に手渡して、二人は模型を空に飛ばすと山の方へと飛んで行った

 

「あの、あれは・・・」

 

「無人偵察機よ。現代風に言うならドローンが良いわね」

 

「処理能力は俺よりも皐月の方が良いから多く操れるんだよ」

 

「今回は集中したいから頼むわよ深月」

 

「では、失礼致します」

 

深月は、皐月をお姫様抱っこをして準備完了。ハジメ達は、冒険者達も通ったであろう山道を進む。魔物の目撃情報があった山道の中腹より少し上、六合目から七号目の辺りをドローンを先行させて重点的に捜索する。ハジメは念の為に手前側を、皐月は奥側という感じで手分けをして探しながらハイペースで山道を進んだ

約一時間程で六合目に到着したハジメ達は、一度そこで立ち止まった。理由は、そろそろ辺りに痕跡がないか調べる。そしてもう一つは・・・・

 

「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか・・・けほっ、はぁはぁ」

 

「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか・・・愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー」

 

「うぇっぷ、もう休んでいいのか?はぁはぁ、いいよな?休むぞ?」

 

「・・・ひゅぅーひゅぅー」

 

「ゲホゲホ、南雲達は化け物か・・・」

 

畑山達の休憩の為だ。彼らをこの世界の一般人と比較すると、普通であればこの程度では息切れはしない。だが、ハジメ達の進行速度が予想以上に早かった為に、気がつけば体力を消耗しきってフラフラになっていたのである

四つん這いで息を整えている彼等を放置して、周辺状況を確認をするハジメと皐月。ユエとシアは、近くに流れている小川で軽く休憩を取っている。素足になってパチャパチャと遊んでいる。各自が川で水分補給していると

 

「これは・・・鉄の臭いがしますね。恐らく、この上流に何かしらの手掛かりが有ると思われます」

 

「流石ね。川に沿って広く飛ばしてみるわ」

 

迷う事無く、上流へと飛ばす皐月。ハジメも近場の川に何か落ちていないかを確認しに行く。少しして、皐月が反応した

 

「これは・・・砕けた盾に鞄かしら?しかも、真新しいわね」

 

「当たりだな」

 

「急ぐわよ!」

 

皐月と深月は先行して、ハジメは休憩している者達を立ち上がらせて後を追った。ハジメが皐月の元へと到着すると、遺留品と思われるロケットペンダントを手に持っていた

 

「遺留品で間違いないが、肝心の死体が見付からないって事は・・・生きている可能性は少なからずあるって事か」

 

「魔物との戦闘跡からして上流か下流に沿って移動しか考えられないわね」

 

「体力や精神面から予想すると、下流の探索が宜しいかと」

 

ハジメ達はドローンを上流へと飛ばして、下流へと降りて行く。すると、大きな滝を発見した瞬間に深月が反応した

 

「この滝壺の奥に一つの気配があります」

 

「一つか・・・だが、何にしても生き残りに間違いないな」

 

滝横の崖を急いで降りて、ユエに一言掛ける

 

「ユエ、頼む」

 

「・・・ん。"波城" "風壁"」

 

滝と滝壺の水が、紅海におけるモーセの伝説のように真っ二つに割れ始め、更に、飛び散る水滴は風の壁によって完璧に払われた。ユエの魔力を無駄に消費させる訳にはいかないので、呆然としている畑山達を促して中へ入り奥へ続く道を進んで行くと、横倒しになっている男を発見した

寝ているのか、ハジメ達が近づいても気付く様子がない。さっさと確認を取る為、ハジメは男の額にデコピンをした

 

バチコンッ!!

 

「ぐわっ!!」

 

あまりの痛さにのたうち回り、涙目になる男性。ハジメは、そんな事を気にせずに近づいて尋ねる

 

「お前が、ウィル・クデタか?」

 

「いっっ、えっ、君達は一体、どうしてここに・・・」

 

「質問に答えろ。答え以外の言葉を話す度に威力を二割増で上げていくからな」

 

「えっ、えっ!?」

 

「お前は、ウィル・クデタか?」

 

「えっと、うわっ、はい!そうです!私がウィル・クデタです!はい!」

 

どうやら、ハジメ達が探している張本人で間違いないそうだ

 

「そうか。俺はハジメだ。南雲ハジメ。フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来た。(俺の都合上)生きていてよかった」

 

「イルワさんが!?そうですか。あの人が・・・また借りができてしまったようだ・・・あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」

 

寝惚けも覚めたのか、ハキハキと答えるウィルに何があったのかを要約して聞き出す

彼等は五日前にハジメ達と同じ様に山道に入って、中腹辺りでブルタールというオークの様な魔物と遭遇して戦闘。倒しても倒しても増え続けるブルタールの群れ。包囲網を突破する際に二人の冒険者が犠牲になり、森を抜けた先に黒い竜が居たとの事。開幕早々のドラゴンブレスで一人が消されて、ウィルは川へと吹っ飛ばされた。残った二人の冒険者は、挟撃される形で亡くなった。一人残されたウィルは、流されるままこの滝まで下り、この滝壺の奥へと身を隠したのだという

 

「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで・・・それを、ぐす・・・よろごんでる・・・わたじはっ!」

 

誰も何も言えなかった。顔をぐしゃぐしゃにして、自分を責めるウィルにどう声をかければいいのか見当がつかなかった。生徒達は悲痛そうな表情でウィルを見つめ、畑山はウィルの背中を優しくさする。ユエは何時もの無表情、シアは困ったような表情だ。だが、ここで意外な―――――ハジメが動いた

 

「生きたいと願うことの何が悪い?生き残ったことを喜んで何が悪い?その願いも感情も当然にして自然にして必然だ。お前は人間として、極めて正しい」

 

「だ、だが・・・私は・・・」

 

「それでも、死んだ奴らの事が気になるなら・・・生き続けろ。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けろ。そうすりゃ、いつかは・・・今日、生き残った意味があったって、そう思える日が来るだろう」

 

「・・・生き続ける」

 

「誰しもが生きたいと思うのは当たり前の事なのよ。死んだら最後――――――生きて欲しいと願っている人達も傷つくのよ」

 

「そう・・・ですよね・・・」

 

ハジメは、ウィルの自らの生を卑下した言葉が、まるで「お前が生き残ったのは間違いだ」と言われているような気がして、つい熱くなってしまった。ハジメの心情に気付いた皐月はウィルの生存本能を正当だと言って、陰ながらハジメのフォローもする

少しばかり暗い雰囲気が漂うが、ずっと静観する訳にもいけないので早々に下山する事にした。ユエが再び魔法で滝壺から出ると、一行を熱烈に歓迎するものが居た

 

「グゥルルルル」

 

漆黒の鱗で全身を覆い、翼をはためかせながら空中より金の眼で見つめる竜だった

 

 

 

 

 

 

 




布団「ありふれの作品が増えてきて嬉しいです」
深月「何故です?」
布団「他の作者さん達が頑張っているから、自分も頑張ろうと思えるんだよ」
深月「成程。・・・私の様にメイド作品が増えろと言いたいのですか?」
布団「(*'▽')」
深月「その表情だけで何を思っているかは理解出来ました」
布団「いやいやいや!新しいジャンルが増えているから嬉しいな~っとね?(;^ω^)」
深月「そうですか」
布団「そうなのです!それと、誤字報告有難うございますー」
深月「感想、評価等、お気軽にお願いいたします」
布団「次はいよいよ黒竜戦だ!」
深月「ドラゴンスレイヤーですね♪」


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メイドは主と共に竜を叩きます

布団「投稿だよ!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」
布団「あっという間に前書きが!?」








~深月side~

 

目の前に映るその竜の体長は七メートル程。翼をはためかせる度に強風が渦巻く。黒竜はウィルの姿を発見したのか、ギロリとその鋭い視線を向けて口内に魔力が集束し始めた

 

「ッ!退避しろ!」

 

ハジメが全員に向けて叫ぶが、畑山含むクラスメイト達は突然の事態に体が硬直して動けず、ウィルに至っては恐怖に縛られて視線すら逸らせていなかった

 

「チッィ!!」

 

ハジメは皐月とユエとシアに念話で指示を出しつつ縮地で畑山達と黒竜の間に割り込んで、宝物庫から二メートル程の柩型の大盾を取り出して地面に杭を打ち付けて固定する。直後、竜からレーザーの如き黒色のブレスが一直線に放たれた。徐々に後ろへとずり下がるハジメが、これ以上は拙いと感じると同時に皐月が放ったドンナーの弾丸が直撃して大きく仰け反らせた

 

「お前ら邪魔だからウィルを連れて奥に隠れてろ!ユエはこいつらを守ってくれ!」

 

「ん!"波城"」

 

高密度の水の壁を生み出して防ぎ、保険として氷の壁を追加する

 

「・・・死にたくないなら、私の後ろから動かないで」

 

ウィルは依頼の為に全力で守るが、生徒達に関してはどうでも良かったが、ハジメや皐月が畑山を気にかけている人物でもあるから一応、死なせないように声を掛けておく。もしも、この状態から動いて死んだ場合は自己責任という事という事をつけ足して釘を刺す。ウィルや畑山や生徒達は、ユエの傍にいるのが一番安全だと判断して身を寄せている

 

「いっけ~ですぅ~!」

 

身体強化で強化した跳躍で黒竜の背後から奇襲を掛けたシア。ドリュッケンを振りかぶって打ち下ろすが、その場で旋回した尻尾に直撃して弾かれてしまった

 

「ほらほら!こっちを無視しないでよね!」

 

こっそりとシュラーゲンに魔力を充填していた皐月に気付くが、迎撃のブレスを放つよりも早くに撃たれた。遅れながらもブレスを放出して弾道を逸らして牙の数本だけの犠牲に留めた

 

「皐月を見るのもいいが、俺を忘れてもらっちゃ困る――――――ぜっ!」

 

ハジメが自身の懐まで近づいた事に気付いたが、ブレスで硬直した体を動かす事は叶わずに豪脚を叩き込んで黒竜の体がくの字に折れる

 

「グルァアアア!!」

 

黒竜はハジメに噛みつこうとしたが、言い知れぬ悪寒が脳裏を過り首を引っ込めると同時に鱗が数枚切り裂かれた

 

「勘が良いですね」

 

黒竜は、音も気配も無く至近距離まで近づいた深月の一閃を運良く回避した

 

「狙い撃つわ!」

 

ズガンッ!

 

二発目の溜めを終えた皐月のシュラーゲンが再び火を噴き、黒竜の片翼を吹き飛ばした。空を飛ぶことが出来なくなり、悲鳴を上げながら錐揉みして地に落ちた。ハジメは黒竜に近づきながら、左腕がキィイイイイイ!!!と甲高い音を発する。皐月がシュラーゲンで黒竜を落とす前から溜を作っていたのでチャージも万端のそれを、地に落ちた事で低くなった頭部に向けて放った。大質量の岩石すらも粉砕するそれを受けた黒竜は、口から血が噴き出て頭が跳ね上がるものの、絶命には至っていない

 

「ちっ!まだ死なねぇか」

 

「私が行きます」

 

後ろから深月の声が聞こえたハジメは横に跳んで進路を開けると、深月が弾丸の様なスピードで黒竜の懐に飛び込んで攻撃した。発勁から始まり、肘打ち、裏拳、鉄山靠、止めのグルメ漫画の連続打撃。懐でクルクルと回りながら次々と勢いをつける攻撃は強烈の一言に尽きる。特に、最後の打撃は、黒竜の背から衝撃が突き抜けたかと錯覚させる程の威力だった

 

「クゥワァアア!!」

 

ハジメのドンナーと剛腕が頭部を、皐月のシュラーゲンは攻撃を邪魔しようとする尻尾を、シアは背中を、深月は鱗を削ぎ落とす

 

「すげぇ・・・」

 

ハジメ達の戦闘を安全圏から眺めていた玉井淳史が思わずと言った感じで呟く。他の生徒や畑山やウィルも同意する様にコクコクと頷き、戦闘の様子を唯々ジッと見ていた

 

「では、そろそろフィナーレと参りましょう」

 

深月の言葉を察した三人は攻撃を止めて深月の後ろへと移動した。直後、深月が両腕を引き絞ると、黒竜が動かなくなった

毎度お馴染みの魔力糸である。黒竜の体全体をグルグル巻きにして、周囲の木々を杭替わりとして固定させているのだ。動けなくなった黒竜を見て、ハジメはある事をふと思い出した

 

「そういやこの世界では"竜の尻を蹴り飛ばす"ってあったな」

 

宝物庫からパイルバンカーの杭を取り出して移動して、ある部分へとロックオンした。全員が 全員が、ハジメのしようとしていることを察し、頬を引き攣らせた。皐月達三人は「あぁ成程」と呟いて、深月に関しては「汚物を浴びないで下さいね?」とどこ吹く風状態だ

そして遂に、ハジメのパイルバンカーが黒竜の"ピッー"にズブリと音を立てて勢いよく突き刺さった

 

"アッーーーーーなのじゃああああーーーーー!!!"

 

杭を打ち付けて、殴ってぶち抜こうとしたハジメもこれはビックリ。拳を握り込んでいたが、驚愕して思わず握った拳を解いてしまった

 

"お尻がぁ~、妾のお尻がぁ~。ぬ、抜いてたもぉ~、お尻のそれ抜いてたもぉ~"

 

普通の魔物は人語を喋らない。だが、この竜は明らかに喋っているし、意味も理解している。可能性は二つ。この黒竜が、五つ目の山脈地帯よりも向こう側の完全に未知の魔物である可能性。そしてもう一つは

 

「お前・・・まさか、竜人族なのか?」

 

"む?いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。偉いんじゃぞ?凄いんじゃぞ?だからの、いい加減お尻のそれ抜いて欲しいんじゃが・・・そろそろ魔力が切れそうなのじゃ。この状態で元に戻ったら・・・大変な事になるのじゃ・・・妾のお尻が"

 

「それで?その竜人族が何故こんな場所に居るのよ」

 

「・・・普通は居ないはず」

 

ハジメと皐月は呆れているが、ユエは自分と同じ絶滅したはずの種族の生き残りとなれば、興味を惹かれるのだろう。瞳に好奇の光が宿っている

 

"いや、そんなことよりお尻のそれを・・・魔力残量がもうほとんど・・・ってアッ、止めるのじゃ!ツンツンはダメじゃ!刺激がっ!刺激がっ~!"

 

皐月とユエの質問よりも自分の要望を伝える黒竜に、ハジメが「皐月とユエが質問してんだろうが、あぁ?」とチンピラのような態度で黒竜のお尻から生えている杭を拳でガンガンと叩く

 

「は、ハジメさん!?それ以上はいけません!」

 

深月の言を聞くが、それでもハジメは叩くのを止めない

 

「滅んだはずの竜人族が何故こんなところで、一介の冒険者なんぞ襲っていたのか・・・俺も気になるな。本来なら、このまま尻からぶち抜いてやるところを、話を聞く間くらいは猶予してやるんだ。さぁ、きりきり吐け」

 

ハジメは、杭をグリグリしながら少し猶予して話を促す

 

「ほ、本当に駄目ですよハジメさん!これ以上は危険です!!」

 

"あっ、くっ、ぐりぐりはらめぇ~なのじゃ~。は、話すから!"

 

黒竜から語られる話はこうだ

異世界から来た人間達について調べる事だった。もしも、里に危害を及ぼす存在ならどうするべきか―――――話し合いの結果、調査する事が決定したらしい。山脈を超えて人化してからの情報収集を行おうとしたが、体調を万全に期する為にも休憩を挟む事にしたので、黒竜状態で睡眠していたという事だ。すると、睡眠状態に入った黒竜の前に一人の黒いローブを頭からすっぽりと被った男が現れて眠る黒竜に洗脳や暗示などの闇系魔法を多用して徐々にその思考と精神を蝕んでいった

普通ならそこで起きる筈なのだが、ここで竜人族の悪癖が出たのだ。例の諺の元にもなったように、竜化して睡眠状態に入った竜人族は、まず起きない。それこそ尻を蹴り飛ばされでもしない限りだ。竜人族は精神力においても強靭なタフネスを誇るので、そう簡単に操られたりはしないのだが、何故、ああも完璧に操られたのか。それは・・・

 

"恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった・・・"

 

「・・・それってつまり、魔法をかけられても気付かないぐらい爆睡していたって事?」

 

黒竜は明後日の方向を向き、何事もなかったように話を続けた。何故丸一日かけたと知っているのかというと、洗脳が完了した後も意識自体はあるし記憶も残るところ、本人が「丸一日もかかるなんて・・・」と愚痴を零していたのを聞いていたからだ

その後は、ローブの男に従って魔物の洗脳のお手伝い。そして、ある日、洗脳をしたブルタールの魔物を移動させていた際に山に調査依頼で訪れていたウィル達と遭遇したのだ。目撃者は消せとの命令を受けていた為に追いかけていたのだ。で、気がつけばハジメ達にフルボッコにされており、ハジメの頭部への攻撃で意識を失い、尻に名状し難い衝撃と刺激が走って一気に意識が覚醒したのである

 

「・・・ふざけるな」

 

説明をし終えた黒竜に向けて、激情を押し殺した様な震える声―――――ウィルが発した声だった

 

「・・・操られていたから…ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを!殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」

 

"・・・"

 

「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう!大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」

 

"・・・今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない"

 

言い募ろうとするウィルに、ユエが口を挟む

 

「・・・きっと、嘘じゃない」

 

「っ、一体何の根拠があってそんな事を・・・」

 

「・・・竜人族は高潔で清廉。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族の伝説も、より身近なもの。彼女は"己の誇りにかけて"と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに・・・嘘つきの目がどういうものか私はよく知っている」

 

"ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは・・・いや、昔と言ったかの?"

 

「・・・ん。私は、吸血鬼族の生き残り。三百年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」

 

"何と、吸血鬼族の・・・しかも三百年とは・・・なるほど死んだと聞いていたが、主がかつての吸血姫か。確か名は・・・"

 

ユエから明かされる自分の種族に畑山や生徒やウィルは驚いていた

 

「ユエ・・・それが私の名前。大切な人達に貰った大切な名前。そう呼んで欲しい」

 

ユエの竜人族に向ける言葉の端々に敬意が含まれている。ウィルの罵倒を止めたのも、その辺りの心情が絡んでいるのかもしれない

だが、それでも親切にしてくれた先輩冒険者達の無念を思い言葉を零してしまう

 

「・・・それでも、殺した事に変わりないじゃないですか・・・どうしようもなかったってわかってはいますけど・・・それでもっ!ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって・・・彼らの無念はどうすれば・・・」

 

頭では黒竜の言葉が嘘でないと分かっている。しかし、だからと言って責めずにはいられないし、心が納得しないのだ

 

「そういえば・・・あれがあったわよね?」

 

「ん?あぁ、あれか。ウィル、これはゲイルってやつの持ち物か?」

 

そう言って、ウィルに向けてロケットペンダントを投げ渡すハジメ。ウィルはそれを受け取ると、マジマジと見つめ嬉しそうに相好を崩す

 

「これ、僕のロケットじゃないですか!失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!」

 

「あれ?それって貴方の?」

 

「はい、ママの写真が入っているので間違いありません!」

 

「マ、ママ?」

 

予想の遥か斜め上の答えに頬が引き攣るハジメと皐月。聞くところによると、「せっかくのママの写真なのですから若い頃の一番写りのいいものがいいじゃないですか」と、まるで自然の摂理を説くが如く素で答えられた。女性陣の殆どはドン引きし、その場の全員が「ああ、マザコンか」と物凄く微妙な表情をした

母親の写真を取り戻したせいか、随分と落ち着いた様子のウィル。だが、それでも恨み辛みが消えたわけではない。ウィルは、今度は冷静に、黒竜を殺すべきだと主張した

 

"操られていたとはいえ、妾が罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。じゃが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで。あの男は、魔物の大群を作ろうとしておる。竜人族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は妾の責任もある。放置はできんのじゃ・・・勝手は重々承知しておる。だが、どうかこの場は見逃してくれんか"

 

黒竜の魔物の大群の言葉を聞いて驚愕をあらわにする。自然と全員の視線がハジメに集まる。このメンバーの中では、自然とリーダーとして見られているようだ。そして、そのハジメの判断はというと

 

「はぁっ・・・分かったよ。本当は殺す予定だったが、ユエに感謝するんだな」

 

「本音は、竜人族と対立したら面倒だからよ」

 

ユエの頭を撫でるハジメと皐月の間にホワホワな空気を作り出される

 

"いい空気を作り出すのは構わんのじゃが・・・取り敢えずお尻の杭だけでも抜いてくれんかの?このままでは妾、どっちにしろ死んでしまうのじゃ"

 

「ん?どういうことだ?」

 

「ハジメさん。説明にもあった様に彼らは"竜人"族です。つまり、魔力が無くなれば人の形となりますので・・・あの巨大な杭を抜かなければ死んでしまいます」

 

"そのメイドの言う通りなのじゃ。想像してみるのじゃ。女の尻にその杭が刺さっている光景を・・・妾が生きていられると思うかの?"

 

その場の全員が、黒竜のいう光景を想像してしまい「うわ~」と表情を引き攣らせた。特に女性陣はお尻を押さえて青ざめている

 

"もう一分も保たずに魔力が尽きるのじゃ。新しい世界が開けたのは悪くないのじゃが、流石にそんな方法で死ぬのは許して欲しいのじゃ。後生じゃから抜いてたもぉ"

 

「そんじゃあ抜くぞ」

 

ハジメはで黒竜の尻に刺さっている杭に手をかけて力を込めて引き抜いていく

 

"はぁあん!ゆ、ゆっくり頼むのじゃ。まだ慣れておらっあふぅうん。やっ、激しいのじゃ!こんな、ああんっ!きちゃうう、何かきちゃうのじゃ~"

 

「これは・・・最早手遅れですね」

 

「深月どういう事?」

 

「・・・新しい扉を開いた変態が生まれ落ちたのです」

 

「え"!?それってつま―――――――」

 

皐月が理解すると同時に、ズボッ!!という音が聞こえ、黒竜の叫びがこだまする

 

"あひぃいーーー!!す、すごいのじゃ・・・優しくってお願いしたのに、容赦のかけらもなかったのじゃ・・・こんなの初めて・・・"

 

直後、その体を黒色の魔力で繭のように包み完全に体を覆う。徐々に小さくなっていき、黒き魔力が晴れたその場には、両足を揃えて崩れ落ち、片手で体を支えながら、もう片手でお尻を押さえて、うっとりと頬を染める黒髪金眼の美女がいた

 

「ハァハァ、うむぅ、助かったのじゃ・・・まだお尻に違和感があるが・・・それより全身あちこち痛いのじゃ・・・ハァハァ・・・痛みというものがここまで甘美なものとは・・・」

 

危ない表情で危ない発言をしている黒竜は、気を取り直して座り直し背筋をまっすぐに伸ばすと凛とした雰囲気で自己紹介を始めた。しかし、若干、ハァハァしているので色々台無しだが・・・

 

「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」

 

更に詳しく語られる内容に畑山達は驚愕した

黒いローブの男は魔人族だと思っていたのだが、ティオを配下にして浮かれていたのか、仕切りに「これで自分は勇者より上だ」等と口にしていたとの事だ。黒髪黒目の人間族の少年で、闇系統魔法に天賦の才がある者。ここまでヒントが出れば、流石に分かるだろう

すると、ハジメが山の向こうを見て一言呟く

 

「おぉ、これはまた・・・」

 

ティオの言葉を聞いたと同時に、ドローンでローブの男を探していたのだ。そこで、とある場所に集合する魔物の大群を発見したのだ

 

「こりゃあ、三、四千ってレベルじゃないぞ?桁が一つ追加されるレベルだ」

 

「それ本当?この近くだったら面倒ね」

 

「この距離にこの進行速度だと・・・半日か一日で町に到着するな」

 

ハジメの報告に全員が目を見開いた

 

「は、早く町に知らせないと!避難させて、王都から救援を呼んで・・・それから、それから・・・」

 

事態の深刻さに、畑山が混乱しながらべきことを言葉に出して整理しようとする。万越えの魔物相手・・・戦力にならない畑山に、トラウマを引き摺っている生徒に、新人冒険者のウィルに、魔力が枯渇しているティオ。とてもではないが対処出来ない。最善策は逃げて王都に応援を要請するぐらいなものだ。皆が動揺している中、ふとウィルが呟くように尋ねた

 

「あの、ハジメ殿達なら何とか出来るのでは・・・」

 

全員が、ハジメ達にもしかしたらという期待の色に染めて向ける。しかし、それらの視線を鬱陶しそうに手で振り払う素振りを見せて、投げやり気味に返答する

 

「そんな目で見るなよ。俺達の仕事は、ウィルをフューレンまで連れて行く事なんだ。保護対象連れて戦争なんてしてられるか。いいからお前等も、さっさと町に戻って報告しとけって」

 

ハジメのやる気なさげな態度に反感を覚えたような表情をする生徒達やウィル。そんな中、思いつめたような表情の愛子がハジメに問い掛けた

 

「南雲君、黒いローブの男というのは見つかりませんか?」

 

「ん?いや、さっきから群れをチェックしているんだが、それらしき人影はないな」

 

「南雲君達は残れませんか?せめても、ローブの男性が清水君がどうかを確認したいです」

 

「却下よ。先生は死にたいの?いくら私達が強くても、護りながら戦うなんて無理よ」

 

「か、神楽さん!神楽さんなら出来ますよね!?お願いします!確認だけでも」

 

「却下です。事態は変化するもの――――――魔物が進行速度を上げてお嬢様達に危険が及ぶ可能性もございますので諦めて下さい」

 

畑山はハジメ達の言葉にまた俯いてしまう。それならば、一人で残って黒いローブの男が現在の行方不明の清水幸利なのかどうかを確かめたいと言い出した

 

「ねぇ先生?どうして魔物の大群が町に向かっているか理解してるかしら」

 

「え、えぇっと・・・分かりません」

 

「・・・戦争に一番必要な物って何か理解してる?勿論、人以外でよ?」

 

この場に居る全員に尋ねる様に皐月が質問する

 

「お金じゃないの?」

 

「武器だろ?」

 

「資源でしょ」

 

「医薬品じゃない?」

 

生徒達はこう口々にするが、すべて違う。この世界に居るウィルは分かると思っていたが、貴族様なので分からない模様

 

「・・・食料」

 

「そうよ。食料はどこの世界でも重要なのよ。先生の技能は食料生産系なのよ?魔人族が勇者なんかよりも、真っ先に狙うのよ。そして、この場には居ない一人の人間・・・闇魔法の適性を持った清水だったかしら?」

 

「はい・・・清水君が行方不明・・・です」

 

「そこのティオが言っていた事から踏まえると、彼は魔人族に寝返ったか、思考誘導されているわね」

 

「そ、そんな!?」

 

「大方、先生を殺せば魔人族の勇者として迎え入れよう――――――なんて、ベタな言葉に乗ったと思うわ」

 

それでも畑山は諦めずに説得をしようとするがいい加減、この場に留まって戻る戻らないという話をするのも面倒になったハジメは、愛子に冷めた眼差しを向ける

 

「残りたいなら勝手にしろ。俺達はウィルを連れて町に戻るから」

 

そう言いって、ウィルの肩口を掴んで下山し始めた。それに慌てて異議を唱えるものの却下する

 

「さっきも言ったが、俺達の仕事はウィルの保護だ。保護対象連れて、大群と戦争なんかやってられない。仮に殺るとしても、こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない。真っ平御免被るよ。それに、仮に大群と戦う、あるいは黒ローブの正体を確かめるって事をするとして、じゃあ誰が町に報告するんだ? 万一、俺達が全滅した場合、町は大群の不意打ちを食らうことになるんだぞ? ちなみに、魔力駆動二輪は俺達じゃないと動かせない構造だから、俺達に戦わせて他の奴等が先に戻るとか無理だからな?」

 

「何故この場所に貴方達が居るのかを理解しなさいよ。私達に無理を言って着いて来たのよ?だったらおとなしく従いなさいよ。決定権はこちらにあって、貴方達には無いの。これ以上ごちゃごちゃ駄々をこねるなら置いていくわよ?」

 

理路整然と自分達の要求が、如何に無意味で無謀かを突きつけられて何も言えなくなる

 

「まぁ、ご主じ・・・コホンッ、彼等の言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何も出来ん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろう。妾も一日あれば、だいぶ回復する筈じゃしの」

 

押し黙った一同へ、後押しするようにティオが言葉を投げかける。若干変な呼び方をしそうにしていたが、気にしないでおこう。畑山も、冷静さを取り戻して、それが最善だと清水への心配は一時的に押さえ込んで、まずは町への知らせと、今、傍にいる生徒達の安全の確保を優先することにした

ティオが魔力枯渇で動けないので、深月の魔力糸でグルグル巻きにして引き摺って下山する事に。畑山達は猛抗議するが、ティオが恍惚の表情を浮かべていたのでそのままとなった

一行は急ぎウルの町へと戻る

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「では改めてまして、誤字報告有難うございます」
深月「前書きで感謝出来ませんでしたね」
布団「メイドさんがいけないn」
深月「何か仰いましたか?」
布団「・・・ナンデモナインダヨー」
深月「そうですか」
布団「・・・メイドさんの人でなし!」
深月「お待ちなさい!」
布団「はやさg」
深月「速さが足りませんよ!」
布団「ヒェッ」
深月「次回、メイドの料理が炸裂です!」
布団「それは嘘よk―――――――ウワアアアアアアア!」


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メイドに不可能はございません!

深月「早くないですか?」
布団「久々の早めの投稿だよ」
深月「もう一つの方は・・・?」
布団「ちょっと難産なんです」
深月「息抜きでこちらを書いているのですね・・・」
布団「あっ!誤字報告ありがとうございまーす!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」






~皐月side~

 

悪路を爆走する四輪と二輪。整地機能が追い付かない速度での移動は、天井に張り付けたティオと荷台に乗っている男子生徒をシェイクする。ウルの町と北の山脈地帯のちょうど中間辺りの場所で完全武装した護衛隊の騎士達が猛然と馬を走らせている姿を発見。先頭には鬼の形相で突っ走るデビッドやその横を焦燥感の隠せていない表情で併走する騎士達の姿

畑山は窓枠から半身を乗り出して両手を振り、大声を出してデビッドに自分の存在を主張するが、それを無視するのがハジメクオリティー。「さぁ! 飛び込んでおいで!」とでも言うように、両手を大きく広げている騎士達を素通りする。畑山の「なんでぇ~」という悲鳴じみた声が後方へと流れて行き、騎士達は「愛子ぉ~!」と、まるで恋人と無理やり引き裂かれたかの様な悲鳴を上げて、猛然と四輪を追いかけ始めるのだった

 

「南雲君!どうして、あんな危ないことを!」

 

プンスカと怒りながらハジメに猛抗議する畑山

 

「止まる理由がないだろ、先生。止まれば事情説明を求められるに決まってる。そんな時間あるのかよ?どうせ町で事情説明するのに二度手間になるだろ?」

 

「うっ、た、確かにそうです・・・」

 

「まぁ・・・騎士連中が気持ち悪かったというのもあるわ」

 

「・・・ん、同感」

 

ンッホォオオオオ!ユレテ・・・ユレテカラダガウチツケラレルゥウウウウ!ハァハァ!モット、モットハゲシクヲキボウスルノジャアアアア!

 

車体の上で誰もがドン引きする言葉を口にしている変態。皆は敢えて触れない様にしていたのだが・・・

 

「ねぇ、ハジメ。私・・・今から深月の方に乗り移るって言ったら止める?」

 

「俺の隣に居てくれ。・・・本当に頼む・・・上の変態によるストレスが凄まじいんだ。皐月の癒しが無いと俺が困る」

 

「・・・あれ、本当に竜人族?」

 

「幻想は打ち砕かれるものなのよ・・・」

 

上で車体の振動で刺激され続け恍惚の表情を浮かべるティオにショックを受けているユエ。竜化を解いてから何処かおかしいと感じていたが、痛みで快楽を得るというドン引きな性癖を前に、竜人族に抱いていた憧れと尊敬の気持ちが幻想の如くサラサラと砕けて消えてしまった様である

 

アッフゥ!ッテナンジャ!?イトガカラダヲマイテエェェェェェェ!?

 

これ以上は主の心身に関わると思った深月がティオを回収したのだった。因みに、ティオは回収される際にゴキッと人体で鳴ってはいけない様な音を立てた後にぐったりとしていた。何があったのかはお察しである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

ウルの町へ到着したハジメ達。畑山と生徒とウィルは、急いで町長の居る場所へ駆けていった

 

「おいおい、護衛対象の奴まで行かれたら面倒じゃねぇか」

 

「さっさと連れ戻してフューレンへ戻りたいわ」

 

口ではそう言いつつも、屋台の串焼きやら何やらに舌鼓を打ちながら町の役場へと向かった。ハジメ達が到着した頃には場は騒然としており、ウルの町のギルド支部長や町の幹部、教会の司祭達が集まり喧々囂々たる有様だった

 

「おい、ウィル。勝手に突っ走るなよ。自分が保護対象だって自覚してくれ。報告が済んだなら、さっさとフューレンに向かうぞ」

 

「依頼の時間が長引く程、イルワさんに心配が掛かるんだから早く移動するわよ」

 

ハジメ達のいきなりの登場にウィルや畑山達は驚き、その場に居た重鎮達は「誰だ、こいつ?」と、危急の話し合いに横槍を入れたハジメ達に不愉快そうな眼差しを向けた

 

「な、何を言っているのですか?ハジメ殿、皐月殿。今は、危急の時なのですよ?まさか、この町を見捨てて行くつもりでは・・・」

 

「見捨てるもなにも、どの道、町は放棄して救援が来るまで避難するしかないだろ?観光の町の防備なんてたかが知れているんだから・・・どうせ避難するなら、目的地がフューレンでも別にいいだろうが。ちょっと、人より早く避難するだけの話だ」

 

「そ、それは・・・そうかもしれませんが・・・でも、こんな大変な時に、自分だけ先に逃げるなんて出来ません!私にも、手伝えることが何かあるはず。ハジメ殿も・・・」

 

「私達はあくまでも貴方の救出が依頼なのよ?危険な所に滞在させる訳ないでしょ」

 

「はっきり言わないと分からないのか?俺達の仕事はお前をフューレンに連れ帰る事。この町の事なんて知った事じゃない。いいか?お前の意見なんぞ聞いてないんだ。どうしても付いて来ないというなら・・・手足を砕いて引き摺ってでも連れて行く」

 

「なっ、そ、そんな・・・」

 

ハジメの醸し出す雰囲気が変わり、その言葉が嘘ではないと察したウィルは顔を青ざめさせる。あまりにも無関心さに言葉を失い、ハジメから無意識に距離を取るウィルにハジメが決断を迫るように歩み寄ろうとする。周囲の者達は、ハジメとウィルを交互に見ながら動けずにいると、ハジメの前に立ちふさがるように進み出た人物――――――畑山がいた。彼女は、決然とした表情でハジメを真っ直ぐな眼差しで見上げる

 

「南雲君、高坂さん。貴方達なら・・・貴方達なら魔物の大群をどうにかできますか?いえ・・・出来ますよね?」

 

畑山のどこか確信している声色に重鎮達は一斉に騒めく。"神の使徒"にして"豊穣の女神"の畑山の確信めいた言葉は信じるに値するもの。彼等は期待を含んだ視線を向けるが、ハジメは鬱陶しげに手で払う素振りを見せて誤魔化す事にした

 

「いやいや、先生。無理に決まっているだろ?見た感じ四万は超えているんだぞ?とてもとても・・・」

 

「でも、山にいた時、ウィルさんの南雲君なら何とか出来るのではという質問に"出来ない"とは答えませんでした。それに"こんな起伏が激しい上に障害物だらけのところで殲滅戦なんてやりにくくてしょうがない"とも言ってましたよね?高坂さんも"護りながら戦うなんて無理"と言っていましたよね?それは平原の様に開けた場所でなら殲滅戦が可能という事ですよね?違いますか?」

 

「・・・よく覚えてんな」

 

「はぁ・・・。そうは言ったけど・・・」

 

口を滑らした事と、畑山の記憶力の良さに顔を歪める二人。後悔先に立たずである

 

「南雲君、高坂さん、神楽さん。どうか力を貸してもらえませんか?このままでは、きっとこの美しい町が壊されるだけでなく、多くの人々の命が失われることになります」

 

「・・・先生は生徒の事が最優先だと言っていたのに、それを無視するかの様な提案じゃない。色々活動しているのも、それが結局、少しでも早く帰還できる可能性に繋がっているからと知っていたわ。なのに、見ず知らずの人々の為に、その生徒に死地へ赴けと?その意志もないのに?まるで、戦争に駆り立てる教会の連中みたいな考えね」

 

「・・・元の世界に帰る方法があるなら、直ぐにでも生徒達を連れて帰りたい、その気持ちは今でも変わりません。でも、それは出来ないから・・・なら、今、この世界で生きている以上、この世界で出会い、言葉を交わし、笑顔を向け合った人々を、少なくとも出来る範囲では見捨てたくない。そう思う事は、人として当然の事だと思います。もちろん、先生は先生ですから、いざという時の優先順位は変わりません。ですが、穏やかで明るかった貴方達が、そんな風になるには、きっと想像を絶する経験をしてきたのだと思います。そこでは、誰かを慮る余裕等無かったのだと思います。君が一番苦しい時に傍にいて力になれなかった先生の言葉など・・・貴方達には軽いかもしれません。でも、どうか聞いて下さい」

 

二人は黙ったまま畑山を見つめ返す

 

「お二人は昨夜、絶対日本に帰ると言いましたよね?では、南雲君、高坂さん、貴方達は、日本に帰っても同じ様に大切な人達以外の一切を切り捨てて生きますか?貴方達の邪魔をする者は皆排除しますか?そんな生き方が日本で出来ますか?日本に帰った途端、生き方を変えられますか?先生が、生徒達に戦いへの積極性を持って欲しくないのは、帰ったとき日本で元の生活に戻れるのか心配だからです。殺すことに、力を振るうことに慣れて欲しくないのです」

 

「「・・・」」

 

「貴方達には貴方達の価値観があり、未来への選択は常に貴方達自身に委ねられています。それに、先生が口を出して強制するような事はしません。ですが、君がどのような未来を選ぶにしろ、大切な人以外の一切を切り捨てるその生き方は・・・とても"寂しい事"だと、先生は思うのです。きっと、その生き方は、貴方達にも君の大切な人にも幸せをもたらさない。幸せを望むなら、出来る範囲でいいから・・・他者を思い遣る気持ちを忘れないで下さい。元々、貴方達が持っていた大切で尊いそれを・・・捨てないで下さい」

 

畑山の一つ一つの言葉は、二人に余すことなく伝わる。例え世界を超えても、どんな状況であっても、生徒が変わり果てていても、全くブレずに"先生"であり続ける畑山に内心苦笑いをせずにはいられなかったが、それは、嘲りから来るものではない。心の底から感心が来るものだった。だが、奇麗事ばかりでは済まされないのがこの世界のルールだ

 

「とてもいい言葉です。貴女は何処であろうとも"教師"なのですね」

 

「深月・・・?」

 

微笑みで返す深月の言葉に顔を明るくさせる畑山だが、さっきも言った様にこの世界のルールはそれだけでは押し通れない。皐月は深月の様子が少しだけ違う事に感づいた。それは、ハジメも、ユエも、シアも、ティオも気付いた

 

「ですが、その心の甘さだけはいただけません。生徒全員を帰還させたい――――――それは唯の夢物語です。闇を放置して光を蝕むこの状況・・・一度でも心を闇に染めた者は二度と正常な歯車には戻りません」

 

「確かに私の言葉は甘さだけです。それでも・・・それでも私は教師です!生徒達を全員帰す希望は諦めません!」

 

「そうですか。・・・では、その夢物語を貫き通せる事を期待しましょう」

 

深月は一歩下がり、皐月の傍の定位置へと戻った

 

「・・・先生は、この先何があっても、俺達の先生か?」

 

ハジメは問う。絶対に生徒の味方かどうかを

 

「当然です」

 

問いを一瞬の躊躇いもなく答える畑山

 

「・・・俺達がどんな決断をしても?それが、先生の望まない結果でも?」

 

「言った筈です。先生の役目は、生徒の未来を決める事ではありません。より良い決断が出来る様お手伝いする事です。南雲君が先生の話を聞いて、なお決断した事なら否定したりしません」

 

「言質は取ったわ」

 

「だな・・・流石に、数万の大群を相手取るなら、ちょっと準備しておきたいからな。話し合いはそっちでやってくれ」

 

「南雲君!高坂さん!」

 

ハジメと皐月の返答に、顔をパァーと輝かせる畑山

 

「俺の知る限り、一番の"先生"からの忠告だ。まして、それがこいつ等の幸せにつながるかもってんなら・・・少し考えてみるよ。取り敢えず、今回は、奴らを蹴散らしておく事にする」

 

「でも、忘れないでね先生。深月が言った様に、残酷なこの世界でも頑張ってその信念を貫き通して下さいね?」

 

皐月の最後の言葉は、尊敬の念を込めた一言である。ハジメ達は踵を返して部屋を出ていく。ユエとシアも続く様に出て行き、最後に深月が出て行った

畑山は、ハジメ達がこの一件をどうにかしてくれる事に喜びつつ、町で出来得る事を重鎮達と話し合う。だが、危険な行為を生徒にさせる事に、内心、自分の先生としての至らなさや無力感に肩を落としていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

畑山先生、貴方はお気付きではないでしょうが・・・心が壊れた者はこの世界に来る前からいましたよ。あれは私と同じ様に完全に壊れていますから。まぁ、私の方が歪ですが・・・あれは目的の物を手に入れる為には何でも利用しようとする害虫ですね

 

"あれ"を本当に理解しているのは深月以外誰一人いない。観察眼に優れていた皐月でさえ気付いていなかったにも関わらず、深月が"あれ"を放置していたのはこちらに害が向かないからだった。偶に殺気が向けられるが、それは微々たるもので本人すら気付いていないのだろう

 

もし、お嬢様方に危害を及ぼすのであれば――――――――処分も検討しておきましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

「先生にあぁ言った手前、投げ出す事はしないが・・・正直言ってめんどくせぇ」

 

「言質は取ったから良いじゃない。これで、異端認定される可能性が低くなったから儲けものでしょ」

 

「はぁ~。万単位の敵となると、弾薬消費がバカにならねぇ」

 

現在ハジメ達は一台の駆動二輪に乗って、整地と錬成で町の周囲に壁を作っている。ハジメが整地、皐月が壁作りをしている

 

「今までに体験した事の無い集団戦。貴重な経験になると思ってやりましょ」

 

「だな。神の先兵だって幾つ居るか分からねぇからな」

 

この集団戦は、いつか来る神との闘いの練習に過ぎない。先兵と魔物の力の差は月とスッポンだが、立ち回り等の把握には必要だ。それに、エヒトが魔物を操れる可能性があるので無駄ではない

 

「それにしても・・・今頃町の住人は混乱しているわよね」

 

「そこは先生に任せる他ないだろ?」

 

「そうね。・・・でもね?深月があそこまで先生に言うとは思わなかったわ」

 

「何かしら過去にあったんじゃないのか?」

 

「ん~?何かを隠しているの・・・かな?」

 

「本人に聞いても話を逸らされるか、はぐらかされるな」

 

「いつの日かちゃんと告白してくれるわよ。それまで待ちましょう」

 

「そうだな」

 

二人は作業の速度を上げて帰還すると、町の中はパニックとなっていた。恐らく、魔物の大群がこの町に向かっていると説明があったのだろう。町の重鎮達に言い寄ったり、泣いて崩れ落ちる者、隣にいる者と抱きしめ合う者、我先にと逃げ出そうとした者同士でぶつかり、罵り合って喧嘩を始める者がいた

 

「やっぱりカオスになったわね」

 

「自分の故郷が滅びると言われたと同じなんだ。そりゃあこうなるのは目に見えていただろ」

 

そんな彼らの冷静さを取り戻させたのは畑山だ。高台から声を張り上げて恐れるものなどないと言わんばかりの凛とした姿と、元から高かった知名度により、人々は一先ずの冷静さを取り戻していったのだ

 

「脳内お花畑の勇者(笑)よりも勇者しているわね」

 

「天之河の奴が気になるのか?」

 

「そんな訳ないでしょ。気になるのは女子組よ」

 

「あ、あー・・・地球ではよく話をしていたな」

 

「どうせ勇者(笑)のせいで貧乏くじを引いている筈よ」

 

「・・・容易に想像が出来てしまった」

 

ハジメ達は即席の城壁に腰かけて武器の点検と弾丸等のチェックを行う

 

さっきも気になったけど、白崎さん達は今頃何をやっているのかしら?流石にベヒモスを単騎で倒す位の実力はつけているわよね?もしもそんな力が無かったら・・・真のオルクス迷宮に挑む事すら出来ないでしょうね。ばったり再会したら私達に着いて来るって言いそうなのよね~

 

「ハジメさん、何か手伝う事無いですか~?」

 

「俺よりも皐月の方を手伝え。俺は深月と各自の配置とペアを相談する」

 

「わっかりました~」

 

「ユエも皐月の手伝いを頼む」

 

「ん!」

 

ハジメは深月の方に行ったわね。丁度三人だけで、周りには誰も居ないわ

 

チェックをする皐月の元にユエとシアが混ざり、皐月の指示に従って一つ一つをチェックしていく。三人だけの場になったので皐月は率直にシアに質問する

 

「で?シアはどうなの?」

 

「ふぇ?」

 

「ふぇ?じゃないでしょ。ユエの助言で半歩でも引いた立ち位置でハジメを見る様にしているでしょ?」

 

「・・・もしかしなくても気付いていました?」

 

「気付くに決まっているでしょ。時々暴走するけどその都度ユエの指摘が入っているし、何より変わり過ぎなのよ。先生と出会ってから半歩引いて全体を見ていたでしょ?」

 

時々暴走する事もあったが、確実にその回数が減った事は気付いた皐月。恐らく、畑山の出会いとユエの助言で気が付いたのだろう。皐月にバレない様に変えていこうとしたのだろうが、明らかに別物な点からあっという間にバレてしまったという事だ

 

「シアがハジメを好きなのは出会って少しして分かっていたわ」

 

「・・・」

 

「その様子だと気づいたのかしら?」

 

「はい・・・私は自分の事ばかりを考えていました」

 

「・・・私の助言が活きた。・・・でも、それは皐月の了承があったから言った」

 

「うぅ、皐月さんがちゃんと私を見ていた事に気づきませんでした」

 

シアは気が付いたのだ。半歩でも下がって見た景色が違う事に。皐月が自分にチャンスを与えている事、ユエが陰ながら応援をしている事、深月が自分を思って説教をする理由が理解出来たのだ

 

「ハジメは気付いていないけど、私達はちゃんとシアにチャンスを与えていたのよ。今までは押せ押せの押し付けで空回りしていただけ。後はどうすれば良いかは分かるわよね?」

 

「はい、ありがとうございます!ハジメさんの側室になれる様に頑張ります!」

 

「・・・でも条件がある」

 

「条件ですか。・・・難しいんですか?」

 

「・・・私は聞いた時に納得する時間が掛かった。・・・けど、ちゃんと納得した」

 

「ユエさんでも納得するのに時間が掛かったんですか!?」

 

「簡単よ。深月を第二夫人と認めるだけよ」

 

「えっ?でも・・・深月さんはハジメさんに興味が無いと言っていましたが?」

 

そう。深月はハジメと関係を一度だけ持ったが、無かった事にしている。それからは、メイドとして将来の関係性から興味を持たない様にしているだけだ。まぁ実際問題、本人はそれに関しては興味を持っていないのである

 

「シアは気付いていないと思うけど、ハジメは深月に好意を抱いているわ。自分でも気付いていないのが余計に質が悪いわ」

 

「むむむっ!深月さんを第二夫人は良いのですが、どうやって迎え入れるかが問題ですね!」

 

「・・・納得したの?」

 

「いや~、深月さんなら納得出来ます。私自身得意だと自負していた料理が、深月さんの前では完膚無きまでに負けてますぅ。あ、料理を時々教えてもらっていますよ?皆さんの好みの味を再現できる様に特訓中ですぅ!」

 

「「なん・・・だと・・・!?」」

 

シアが深月の元で料理の特訓をしている事を初めて知った皐月とユエ

 

「あっ、でも、簡単な料理ですよ?"とある"難しい料理は絶対に無理だと言われちゃいました!」

 

「「あぁ・・・あれか」」

 

「お二人は知っているのですか?」

 

シアは知らない。極稀に魔物肉を使った料理を出されている事実を

その際は周りに人が居ない事を第一条件としたものなので、出される時は限られているのだ

 

「もしかして・・・」

 

「・・・知りたい?」

 

「知りたいですよ!私だって美味しい料理を作って褒めて貰いたいんです!」

 

二人は少し考えて教える事にした

 

「教えるのは良いわ。・・・ユエ、準備は良い?」

 

「・・・ん」

 

「ドキドキ」

 

「ライセン大峡谷の野営で食べた料理だけど・・・あれって魔物肉なのよ」

 

「  」

 

「聞こえなかった?四人だけの野営の時に、魔物肉料理が出されたのよ?」

 

「うぇええええ!?まもガガガガ!?」

 

ユエが後ろから口を塞ぐ事で大事には至らなかった。だが、その事実に頭が追い付かないシアは落ち着きがない

 

「ま、ままままま魔物肉って!?う、嘘ですよね!?み、深月しゃんがだだ出した、りり料理は美味しかったんですよ!?魔物肉を食べたら人は死にますよ!?」

 

「まぁまぁ、これを食べて落ち着きなさいよ」

 

「・・・あっ」

 

物凄くどもりながら、「嘘だ!嘘だ!?」と否定するシアだが、皐月から手渡された干し肉を食べて落ち着きを取り戻す

 

「ふぅ・・・この干し肉美味しいですね!これも深月さんが作ったやつですか?」

 

シアは美味しそうに干し肉を食べているが、肝心な所に気付いていない

 

「・・・シア」

 

「何ですかユエさん?この干し肉はあげませんよ!」

 

「・・・それ、魔物肉」

 

「  」

 

自分が今現在美味しく食べている肉が魔物肉である事実に硬まるシア。チェックをし終えた皐月は、追加の干し肉を取り出してユエに一つ手渡して食べる。もちろんユエも躊躇い無く食べる

 

「ゴクンッ・・・私死んじゃうんですかぁ?」ウルウル

 

「もしそうだったら、今頃激痛が襲っているわよ」

 

すると、深月との相談が終わったハジメが帰ってきた

 

「三人共、チェック終わったのか?」

 

「どれも完璧よ。ハジメも干し肉食べる?」

 

「サンキュー、これ美味いから好きなんだよな!」

 

ハジメも躊躇い無く食べていると、シアが瞳をウルウルさせて落ち込んでいる状態に気付く

 

「おい、どうしたシア?」

 

「ハジメさ"ああああん!わ"た"し"死んじゃうんですか~!?」

 

「ドわぁ!離れろ!っつか何があった!?」

 

「あー、それはね―――――」

 

皐月は、シアが魔物肉を食べた事実をハジメに説明。どうして泣いているのかようやく理解したハジメだった。知らず知らずのうちに致死率100パーセントの魔物肉を食べたのだ。涙目になるのも仕方がないだろう。だが、食にうるさい日本人であるハジメや皐月にとっては美味しいか美味しくないかが全てであるし、既に毒されたユエも同じだ

 

「死なないんだからいちいち小さい事を気にするなよ。美味しいから全てを帳消しにしてくれるだろ?」

 

「日本人って食にうるさいと本当に実感するわよね」

 

「・・・美味しいは正義」

 

「うぅ、確かに美味しいですけど・・・。あれ?このにおいって」

 

「「ニルシッシル!」」

 

「・・・いい匂い」

 

ハジメ達が振り向いた先には、三つの鍋を持った深月だった

 

「そろそろお腹が空かれると思いましたので、厨房を借りて"カレー"を作ってみました」

 

「「ん?カレーって言った?」」

 

「はい♪ウコンに似た物がありましたので、採取してそれを使っています。勿論、念の為に清潔で毒抜きはしていますよ?」

 

「カレー粉の黄色ってウコンだったの!?」

 

「ありがとうございます深月様!」

 

奇麗な土下座で感謝するハジメ。ニルシッシルもカレーの類似ではあるが、やっぱり黄土色のカレーがなじみ深いのだ。胃袋を掴まれているハジメ達は、座って待機。深月が各自に配膳して全員に行き渡り、お約束の感謝の言葉を

 

「「「「「いただきます(ですぅ)」」」」」

 

スプーンで米とルーを掬い、匂いを堪能して一口。爽やかな味わいから舌に来る刺激、しっかりと噛みしめて食べ終える一口

 

「やっぱりカレーはこれなんだよ!」

 

「はふぅ~、一口だけなのに体中に力を漲らせるわ」

 

「・・・辛いけど美味しい」

 

「食べる手が止まりません!」

 

「シアさん、魔物肉は入っていませんので安心してくださいね?」

 

バクバクと食べていると、畑山と生徒がハジメ達の元へと近づく

 

「南雲君、準備はどうですか?何か、必要なものはありますか?」

 

「いや、何も問題ねぇよ」

 

畑山の方を見ずに食事を続けるハジメ達。普段なら「こっち見て返事しろよ」と言いそうな生徒達が何故黙っているのかというと、全員がハジメ達の食べている物に目が奪われているからだ

 

「な、なぁ・・・南雲。そ、それって・・・カレーだよな?カレーだよな!?」

 

「ニルシッシルじゃない・・・だと!?」

 

「あの色・・・この匂い・・・間違いない!カレーだ!!」

 

「いいなぁ」

 

「飯テロ!」

 

「神楽さんが作ったの・・・?カレー粉とかは無いのに・・・どうやって?」

 

欲しそうに一点を見つめる生徒達。畑山もチラチラと見るが、大人として我慢している。しかし、体は正直だ。彼らはジリジリとにじり寄ってきている

 

「おい、もしもそのカレーに手を付けたらこいつが火を噴くぞ?」

 

ドンナーを手に持ち、凶悪な顔をするハジメ。お代わりする気満々な彼は、カレーに手を付けたら本気で撃つだろう。それ程までに食は人を変える

生徒達はウッと足を止めるが、涎を零す口が汚い。その光景に見るに見かねた皐月は諦めた

 

「男子達は我慢出来るとして、女子達なら少しぐらい分けてもいいわよ」

 

「「「ありがとう高坂さん!」」」

 

「「「あんまりだああああああああ!」」」

 

土下座で感謝する女子と、膝を付いて崩れ落ちる男子。だが、ここで天使の様な悪魔が男子達に唆す

 

「こちらのカレーなら大丈夫ですよ?」

 

男子達の前に置かれる鍋に入っているのは、色も匂いも普通のカレー。皐月は全てを察して、女子達を連れて自分の皿から取る様に促す。男子達は、ハジメが錬成で創った皿を持って深月の近くに待機する。因みに、この時のハジメの顔はあくどい笑みを浮かべていた

女子達は先にカレーを食べて、懐かしき味に心打たれる者や、泣く者、研究する者が居た。畑山も皐月に引っ張られてこちらの仲間入りしている。男子達は早く早くと深月を急かし、全員分が配膳されたのだった

 

「食べるのは構いませんが、ちゃんと残さずに食べて下さいね?残そうとしたら、無理やりでも食べさせます」

 

シアはいつかの出来事を思い出したのか、顔を青白くさせてユエに介抱されている。ハジメと皐月はニヤニヤと見守る。何も知らない畑山と女子生徒は不思議そうに見ている

 

「大丈夫だって神楽さん。俺は激辛麻婆豆腐を食べても平気な男だぜ?」

 

「少しぐらい辛くても男なら食べるって!」

 

「カレーが辛いのは当然だ!辛くないカレーはカレーじゃない!」

 

露骨にフラグを建てまくる男子達を無視して、深月は自分のお代わり分を入れて普通に食べる

 

「「「いただきます!!」」」

 

三人同時に一口食べ――――――

 

「「「ぐっはあああああああああ!」」」

 

地面に手を付いて、尋常じゃない汗を掻いて体を震わせる

 

「い、痛い!グホッ!ゲホガホッ!」

 

「水!水!水うううううううう!?ゴクッゴクッ ゲッハァアアアアア!染みるぅううううう!?」

 

「これカレーじゃない!ゴフッ!こ、これは兵器だっ!」

 

物凄く悶絶する男子達を見て何事も無い様にパクパクと食べている深月。女子生徒達は不思議に思って、深月に一言入れて皿から一口だけ貰い―――――

 

「「「グホッ!?ゲホゲホッ!い、痛い!痛い痛い痛い!?」」」

 

悶絶する

 

「駄目だ食えねぇ!これ以上は無理だぁ!!」

 

だが、それを許さないのが深月である

 

「逃がしませんよ。私は言いましたよね?"ちゃんと残さずに食べて下さいね?残そうとしたら、無理やりでも食べさせます"と」

 

男子達は顔を青褪めさせて逃げようとするが、三人共拘束されて正座で固定されてしまった

 

「本職メイドのあーんは嬉しいですよね?残さず食べましょうね?」

 

一人一人に零さず丁寧に食べさせる深月。男子達は奇声を発しながら食べ進めて、食べ終えた時には真っ白に燃え尽きていたのはお約束

夜も明け日が昇り始めた。それぞれが出来る事をする為に動き出す。怒涛の一日が始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「麻婆豆腐の次はカレーですか」
深月「作者さんも食べますか?」モッキュモッキュ
布団「劇物を人に勧めるな!?」
深月「美味しいですよ?」モッキュモッキュ
布団「味覚は人それぞれ!押し付け良くない!?」
深月「むぅ、そう言われてしまうと無理強いは出来ませんね」
布団(助かった・・・)
深月「それでは、感想、評価、お気軽にどうぞです」モッキュモッキュ
布団「せめて食べる手は止めようね?」
深月「なら一緒に食べましょう!」
布団「アッ!ヤメッ!ッアーーーーーーーーーー!」


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メイドの気力が100上がった

布団「ヒャッハー!投稿じゃ!!」
深月「えっ?・・・何をしているんですか」
布団「こう・・・インスピレーションがビビビッと来たのよ」
深月「本音は?」
布団「イベントめんどい。・・・そうだ!執筆しようと思い至った」
深月「終了間際になったら投稿間隔が空くのでしょう?」
布団「是非もないよね!」
深月「反省して下さい!」
布団「誤字報告感謝でっす!」
深月「もう何も言いません・・・読者の皆様方、無計画な作者さんを生温かい目で見てあげて下さい」 
布団「魔物戦だぞ!」
深月「では、ごゆるりとどうぞ」






~ハジメside~

 

日も昇り、戦いの準備をしている者達と仮眠をとっている者達と別れている。夜明けと共に避難した女子供含む住民達が居ない町は静かだ。この場に居る者達は"豊穣の女神"一行が何とかしてくれると信じているが、それでも、自分達の身は自分で守り、出来る事をしようとする気概に満ちている

城壁の上に立ってどこを見るわけでもなくその眼差しを遠くに向けるハジメと皐月。勿論、傍には深月とユエとシアが居る。そこへ愛子と生徒達、ティオ、ウィル、騎士達がやって来た

 

「南雲君、準備は・・・出来ているのですね」

 

「あぁ」

 

振り返らず、遠くを見つめながら簡易に答えるハジメ。だが、騎士達は納得がいっていない模様で

 

「おい、貴様。愛子が・・・自分の恩師が声をかけているというのに何だその態度は。本来なら、貴様の持つアーティファクト類の事や、大群を撃退する方法についても詳細を聞かねばならんところを見逃してやっているのは、愛子が頼み込んできたからだぞ?少しは・・・」

 

「デビッドさん。少し静かにしていてもらえますか?」

 

「うっ・・・承知した・・・」

 

畑山に黙れと命令されたデビッドはシュンとした様子で口を閉じる

 

「南雲君。黒ローブの男のことですが・・・」

 

「正体を確かめたいんだろ?見つけても、殺さないでくれってか?」

 

「・・・はい。どうしても確かめなければなりません。その・・・貴方達には、無茶な事ばかりを・・・」

 

「取り敢えず、連れて来てやる」

 

「え?」

 

「黒ローブを先生のもとへ。先生は先生の思う通りに・・・俺も、そうする」

 

「南雲君・・・ありがとうございます」

 

ハジメの予想外な協力的な態度に少し驚いたようだが、振り返らず答える事からハジメ自身にも思うところが多々あるのだろうと、その厚意を有り難く受け取る事にした

畑山の話が終わったのを見計らって、今度は、ティオが前に進み出てハジメに声をかける

 

「ふむ、よいかな。妾もご主・・・ゴホンッ!お主に話が・・・というより頼みがあるのじゃが、聞いてもらえるかの?」

 

「?・・・・・・ティオか」

 

「お、お主、まさか妾の存在を忘れておったんじゃ・・・はぁはぁ、こういうのもあるのじゃな・・・」

 

皐月は全てを察した表情でティオを見る。しかも、何処か諦めた様子である

 

「んっ、んっ!えっとじゃな、お主は、この戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?」

 

「ああ、そうだ」

 

「うむ、頼みというのはそれでな・・・妾も同行させてほし――――――」

 

「断る」

 

「・・・ハァハァ。よ、予想通りの即答。流石、ご主・・・コホンッ!もちろん、タダでとは言わん!これよりお主を"ご主人様"と呼び、妾の全てを捧げよう!身も心も全てじゃ!どうzy」

 

「帰れ。むしろ土に還れ。ご主人様呼びは深月だけで十分だ」

 

ハジメは汚物を見るような目で、ユエは能面の様に、シアは気持ち悪そうな目で見ている。唯一違った目をしているのは深月だけだ。この中でティオの味方をする者は殆ど居ないだろう

 

「そんな・・・酷いのじゃ・・・妾をこんな体にしたのはご主人様じゃろうに・・・責任とって欲しいのじゃゴフッ!?」

 

深月の容赦の無い腹パンに体をくの字に折られるティオ。だが、恍惚の表情をしている時点でドン引きものである

 

「ゴホッゴホッ。・・・その様な汚物を見るような目で・・・ハァハァ・・・そして重く体の奥底に響く衝撃・・・たまらんっ!・・・ごほんっ・・・その、ほら、妾強いじゃろ?」

 

体をくねくねしながら突飛な発想の思考回路を説明し始めるティオ

 

「里でも、妾は一、二を争うくらいでな、特に耐久力は群を抜いておった。じゃから、他者に組み伏せられることも、痛みらしい痛みを感じることも、今の今までなかったのじゃ。それがじゃ、ご主人様達と戦って、初めてボッコボッコにされた挙句、組み伏せられ、痛みと敗北を一度に味わったのじゃ。そう、あの体の芯まで響く拳!嫌らしいところばかり責める衝撃!体中が痛みで満たされて・・・ハァハァ」

 

「・・・キモッ」

 

「アッフゥウウウン!その目が堪らん!・・・ハァハァ・・・もっと見てもいいのじゃぞ?」

 

「しかも、殆どが事実だから言い返しようが無い!こんな変態を引き取るなんて一生の不覚だわ!!」

 

「おい皐月!こんな変態を連れて旅をするだと!?俺は断固反対だぞ!!」

 

ハジメは拒否するが、それを許さずに反論するティオ

 

「それにのう・・・妾の初めても奪われてしもうたし」

 

その言葉に全員がハジメの方を見る。ハジメは頬を引き攣らせて「そんな事していない」と首を振る

 

「妾、自分より強い男しか伴侶として認めないと決めておったのじゃ・・・じゃが、里にはそんな相手おらんしの・・・敗北して、組み伏せられて・・・初めてじゃったのに・・・いきなりお尻でなんて・・・しかもあんなに激しく・・・もうお嫁に行けないのじゃ・・・じゃからご主人様よ。責任とって欲しいのじゃ」

 

「深月の懸念が全部当たっちゃったぁぁぁぁぁ!」

 

頭を抱える皐月。例え竜化していたとはいえ、初めての・・・しかもいきなりアブノーマルな後ろの扉を無理やり開通させたのだ。それはもう、責任を取らないと駄目な男だと思われる

畑山達は事の真相を知っているにも関わらず、責める様な目でハジメを睨む。ユエとシアですら、「あれはちょっと」という表情で視線を逸らしている。迫り来る大群を前に、ハジメは四面楚歌の状況に追い込まれた。

 

「お、お前、色々やる事あるだろ?その為に、里を出てきたって言ってたじゃねぇか」

 

「うむ。問題ない。ご主人様の傍にいる方が絶対効率いいからの。まさに、一石二鳥じゃ・・・ほら、旅中では色々あるじゃろ?イラっとした時は妾で発散していいんじゃよ?ちょっと強めでもいいんじゃよ?ご主人様にとっていい事づくしじゃろ?」

 

「変態が傍にいる時点でデメリットしかねぇよ」

 

「・・・茶番劇もこの辺りで終わりにしましょう」

 

深月の視線がある一定の所から動されない。他の者達もそちらの方向を見るが、何も見えない。だが、ハジメと皐月は飛ばしていたドローンから映像をはっきりと見た。それは、大地を埋め尽くす魔物の群れだ。大地だけで無く、空にも何十体という魔物が飛んでいる。その中に一体だけ一際大きく、その個体の上には薄らと人影のようなものも見えた

 

「・・・ハジメ。・・・皐月」

 

「ハジメさん、皐月さん」

 

「深月の言う通り来たぞ。予定よりかなり早いが、到達まで三十分ってところだ。数は五万強。複数の魔物の混成だ」

 

当初の予定を超える数の魔物に顔を青褪める畑山達

 

「そんな顔するなよ、先生。たかだか数万増えたくらい何の問題もない。予定通り、万一に備えて戦える者は"壁際"で待機させてくれ。まぁ、出番はないと思うけどな」

 

「分かりました・・・君をここに立たせた先生が言う事ではないかもしれませんが・・・どうか無事で・・・」

 

畑山はそう言って、騎士達を連れて町中に知らせを運ぶべく駆け戻っていった。ウィルもティオに何かを語りかけると、ハジメに頭を下げて愛子達を追いかけていった

 

「今回の出来事を妾が力を尽くして見事乗り切ったのなら、冒険者達の事、少なくともウィル坊は許すという話じゃ・・・そういうわけで助太刀させてもらうからの。何、魔力なら大分回復しておるし竜化せんでも妾の炎と風は中々のものじゃぞ?」

 

たわわなそれを強調させる様に胸を張るティオに、ハジメは無言のまま魔晶石の指輪を投げてよこした。疑問顔のティオだったが、それが神結晶を加工した魔力タンクと理解すると大きく目を見開き、ハジメに震える声と潤む瞳を向けた

 

「ご主人様・・・戦いの前にプロポーズとは・・・妾、勿論、返事は・・・」

 

「ちげぇよ。貸してやるから、せいぜい砲台の役目を果たせって意味だ。あとで絶対に返せよ。ってか今の、どっかの誰かさん達とボケが被ってなかったか?」

 

「・・・なるほど、これが黒歴史」

 

指輪を見てニヨニヨしているティオにアイアンクローをして言う事を聞かせる深月。変態といえど、キャパシティを超えた威力を誇る攻撃を前にしては大人しく従う他ないのだ

そんなこんなをしていると、遂に、肉眼でも魔物の大群を捉えることができるようになった。続々と弓や魔法陣を携えた者達が集まってくるが、大地に地響きが聞こえ始め、遠くに砂埃と魔物の咆哮が聞こえ始めると今にも死にそうな顔で生唾を飲み込む者が殆どだ

ハジメは錬成で即席の演説台を創り上げて、全員の視線が自分に集まったことを確認すると、すぅと息を吸い天まで届けと言わんばかりに声を張り上げた

 

「聞け!ウルの町の勇敢なる者達よ!私達の勝利は既に確定している!なぜなら、私達には女神が付いているからだ!そう、皆も知っている"豊穣の女神"愛子様だ!」

 

ハジメのその言葉に、皆が口々に愛子様?豊穣の女神様?とざわつき始めた。当の本人は後方で人々の誘導を手伝っており、ギョッとしたようにハジメを見ていた

 

「我らの傍に愛子様がいる限り、敗北はありえない!愛子様こそ!我ら人類の味方にして"豊穣"と"勝利"をもたらす、天が遣わした現人神である!私達は、愛子様の剣にして盾、彼女の皆を守りたいという思いに応えやって来た!見よ!これが、愛子様により教え導かれた私達の力である!」

 

ハジメは皐月に念話を送り、シュラーゲンを構えて空を飛んでいる魔物に照準を合わせる。そして、町の人々が自身を注目する中・・・引き金を引いた。皐月もハジメとタイミングを合わせて引き金を引き、魔物を粉砕する。そのまま第二射、第三射と続けて射撃して空にいる魔物の殆どを駆逐した。その中に、黒ローブが乗っていた魔物も含まれている

空の魔物を駆逐し終えたハジメは悠然と振り返った。そこには、唖然として口を開きっぱなしにしている人々に最後の締めに愛子を讃える言葉を張り上げる

 

「愛子様、万歳!」

 

すると・・・

 

「「「「「「愛子様、万歳!愛子様、万歳!愛子様、万歳!愛子様、万歳!」」」」」」

 

「「「「「「女神様、万歳!女神様、万歳!女神様、万歳!女神様、万歳!」」」」」」

 

こうして、ウルの町に本当の女神が誕生した。町の皆は今までの不安や恐怖も吹き飛んだようで、希望に目を輝かせ愛子を女神として讃える雄叫びを上げた。遠くで、顔を真っ赤にしてプルプルと震えている畑山を放置して魔物の群れへと向き直るハジメ

メツェライ二門を担いで前に進み出る。シアはオルカンを担いでいる

 

「さて、殲滅戦の開幕だ」

 

「ユエとシアは左。私は狙撃で各自の援護をするわ」

 

「んで、真ん中は俺だ」

 

「それじゃあ深月、私からの命令(オーダー)よ。右側の敵を一気に食い破り蹂躙しなさい」

 

「かしこまりました。お嬢様も三人の援護射撃を頑張って下さい。では、行って参ります」

 

深月が居た場所の地面は陥没し、姿が消える。そして、右側から聞こえる魔物達の叫び声

 

「気合入ってるわね~。私は土台を創って上から撃ちまくるわよ!」

 

錬成で高台を創り、シュラーゲンで狙いを定めて撃つ。着弾した場所は、爆発して魔物達を吹き飛ばした。その光景を見つつメツェライを扇状に薙ぎ払って、弾幕の壁を作っているハジメ

 

「成程、炸裂する弾丸か・・・良いなあれ。俺もバカスカ撃ちてぇ」

 

本音が駄々洩れだ。危なげ無く魔物達を殲滅して行きながら再び皐月の様子を見ると、銃身が変わっていた。細長い筒だけの物となっていた。まるで何かを撃つ為だけに切り替えたかの様なそれは銃口を光らせて、極細の光を伸ばす。直撃した魔物は焼け焦げ、その光はスパッと横に振るわれる。光が過ぎ去った場所に居た魔物達は切断されて、大地に崩れ落ちた。これらは皐月が考案した特殊兵装だ。フラッシュストライクはその名の通り、閃光の様に早い光の一撃――――――一発撃つと冷却が必要で使いにくい代物だ。だが、銃身を取り外し可能にした事によって、冷却の最中は他の銃身を付けて攻撃すれば良いとの事

 

「えげつない事考えるもんだな。あの銃身を量産でもしたら、レーザー撃ち放題じゃねぇか」

 

だが、問題は魔力に依存した攻撃なので、連射は出来ないのが普通だ。だが、それを可能にするのが神結晶印の指輪。今回は連射はしないが、自身に影響が出ない範囲でレーザーを撃つ事を決めている皐月

 

「ふんふん。フラッシュストライクの試運転は上々ね♪後はカートリッジを変えつつ攻撃で良いわね」

 

銃身を元に戻し終えた皐月は、再び爆撃を開始しながら右側を見てみると・・・

 

「いや・・・確かに私は一気に食い破って殲滅しろとは言ったけどね?私達よりも殲滅速度が速いとは思わなかったわ・・・」

 

皐月が全体を見た時、四人が倒した魔物の数は三割程だが、深月はつい今しがた右側の魔物を殲滅し終えた所だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

お嬢様からの命令(オーダー)が入りましたよ!久しぶりです!私ドキドキワクワクします!

 

内心ウッキウキの深月。こちらの世界に来てから最初の塵芥を締め上げる時だけにしか命令されなかったので、脳内で会議が繰り広げられていた

 

深月1「お嬢様の命令(オーダー)ですよ!急ぎ、お嬢様会議を開かねばなりません!」

深月2「三秒で支度しな!」

深月3「遅い!遅すぎる!お嬢様の為ならゼロコンマで支度しな!」

深月4「煩い。少し黙ってなさい」

深月1「静粛に。先ずは予想です。お嬢様の考えを察してこその私達ですよ?」

深月3「ヒャッハー!決まっています!サーチアンドデストロイです!!」

深月2「いいや違う!私達だけで魔物の殲滅です!」

深月4「心お優しいお嬢様がそんな無茶を言う事はありえません!」

 

"右側の敵を一気に食い破り蹂躙しなさい"

 

深月1「さて、準備は良いですか?」

深月2「誰に物を言っているつもりだぁ?」

深月3「黒刀、夫婦剣、魔力糸、各技能、神代魔法共に準備万端!何時でも発進出来ます!」

深月4「容赦はしない!パパッと手早く終わらせて援護しましょう!そうすれば、私たちの評価がうなぎ昇りです!」

234「「「もう我慢出来ない!早く発進しましょう!!」」」

深月1「では、行きましょう!」

「「「「全てはお嬢様の為にいいいいいい!!」」」」

 

体の機能を十全に使いこなし、一気に魔物達の眼前に躍り出る深月の顔は笑顔であった

 

殲滅!殲滅!殲滅!!フフフ、アハハハハハハハハ!これぞ正しく、最高にハイってやつです!力があふれ出て漲ってきます!!早く終わらせて、援護をしてお嬢様に褒めて頂きましょう!あわよくば、添い寝のチャンスをゲット出来る可能性も捨てきれません!

 

目に映る魔物達を蹂躙する深月。黒刀で唐竹割、夫婦剣を投擲して首を跳ね飛ばし、魔力糸で切り刻んでいく。だが、如何せん殲滅能力が低いのが難点だ。だが、そんな問題を解決するのも深月ならではの行動だった

 

お嬢様が爆撃をされていますね。・・・この調子では私の方が遅くなってしまいます。爆撃・・・爆撃・・・良い事を思い付きました!無いなら、作れば良いだけですね♪

 

魔力糸を球体状に物質化させ、思いっきり空高く飛ばす。深月の謎の行動を理解出来ない魔物達は、薄ら笑いを浮かべて迫りくる

 

「これぞ、死の雨ですね♪」

 

降り注ぐ物体によって、魔物達はグッチャグチャに潰れて肉片と成り果てた。降り注いだ物体とは、魔力糸で創った球体だ。普通ならこれ程までの惨劇にはならないのだが、深月は重力魔法が使える。空高く飛ばした硬い球を重力魔法で一気に重くしたらどうだろうか。答えは簡単、ビー玉程の大きさの球が空から物凄い速さで落ちてきたのだ。貫通力よりも、衝撃を主としたその攻撃の雨には全てが無に帰する

 

「さぁ、球はまだまだ沢山ありますよ?存分に味わってくださいね♪」

 

投げて、投げて、投げて、蹂躙して、回収して、投げて、投げて、蹂躙してを何度も繰り返す深月。何時の間にか深月の進路上に居た魔物は全滅していた

 

「終わってしまいましたね。ハジメさん達の方はまだまだ残っているので、頂いてしまっても構いませんよね♪攻撃の手段を変えてみましょう。何かしら良い使い方が思いつくかもしれません!」

 

魔力糸を弓状に形成して、矢を型どって―――――狙いを定めて・・・・・撃つ!

ヒュンッ!と勢い良く飛んだ矢は魔物達の首の高さで通り過ぎ、その近くに居た魔物は首がズリ落ちて絶命させた。矢の横側に、極細で強靭な糸を真っ直ぐに伸ばしていたのだ

 

「これは使えますね。もうしばらく実験致しましょう」

 

どんどんと矢を放つ深月。魔力糸を魔物の首に引っ掛けて矢を刃に変えると、魔物の首を支点として周囲の魔物達を切り裂く。糸を繋げた矢を足止めのトラップにしたり、当たる直前でワザと糸状に戻して捕縛したりと本当に便利の一言に尽きる

実験しながら、ハジメ達が処理する筈の後方の魔物達を仕留めていき――――――決着がついた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

ハジメと皐月とユエとシアとティオの攻撃で、敵はなすすべも無く数を減らして行く

 

「うわぁ~・・・深月が色々と実験し始めたわね・・・」

 

皐月は、深月がビー玉程の大きさの物体を空高く投げて重力魔法で落とすだけの単純作業と、魔力糸で創られた矢で新たな事にチャレンジしている様子を見たのだ

 

「何がヤバイかって?あの雨あられが凶悪過ぎて笑えないわ。・・・あれって、頭上で地上に向けて爆発させたクレイモアみたいな光景ね」

 

呟きつつ、弾倉をリロードして爆撃を再開する。深月は放置してハジメ達四人の様子を見ると、青を通り越して白くなった顔をしているティオを発見した

 

魔力を全て使い切ったのね。・・・ハジメに冷たくあしらわれて興奮する変態は見なかった事にしよっと。数は一万を切ったけど、未だに突撃をする魔物。でも、戸惑いを覚えている個体が殆どね。奥には、偉そうに指示を出して踏ん反り返っている奴らが少々。リーダー各を操って命令させているのね。効率を重視したつもりだろうけど―――――――その司令塔が居なくなればどうかしらね!

 

ズガンッ!

 

爆撃タイプでは無く、普通の弾丸で超遠距離射撃をして、リーダー格の魔物をヘッドショット。いきなり頭部が無くなり、崩れ落ちる魔物を見て戸惑いを見せた周囲の魔物達

 

ビンゴッ!ハジメも私の攻撃の意味を理解してくれたし、無駄撃ちをしないで司令塔になりそうな魔物を選んで潰していこう!さてと、目標はユエが対処している魔物をって・・・矢が頭に刺さってる!?あそこから深月の居る場所がどれだけ離れていると思ってるの!?あっ、その周りに居た魔物もやられた

ユエは魔法を撃つ準備をしていたのね。・・・深月の矢でリーダー格が居た一帯が全部潰されて呆気に取られているわ。深月は・・・ユエの様子に気が付いて攻撃を止めたわね。あぁ・・・八つ当たりで魔物達が燃やされているわ

 

ユエは、狙いを定めていたリーダー格の魔物を倒そうとしていたのだが、深月の攻撃が先に直撃して奪われてしまった。ハジメに活躍を見てもらいたいと思っていたのか、八つ当たり気味で目に付く魔物達を焼き尽くしていた

 

シアは突撃してぶっ潰しているけど、危なっかしくて見てられないわ

 

スコープを覗かず強化した視覚で全体の様子を見ると、明らかに動きが違う魔物が居た。黒い四つ目の狼は他の魔物とは違い、シアの攻撃を奇麗に避けたのだ。予想外な出来事に硬直させた隙を突かれて、ドリュッケンに飛び掛かって強靭な顎と全体重で地に押し付ける様にしてシアを封じたのである。そして、同じ魔物のもう一体がシアに襲い掛かった

 

(油断大敵よ。気をつけなさい)

 

ズガンッ!ズガンッ!

 

二発の弾丸はシアに当たらない様に、襲い掛かっていた黒い四つ目の狼の頭部を粉砕する

 

(皐月さん。ありがとうございました!)

 

(どういたしまして。私が見ててあげるから、油断せずに突っ込みなさい)

 

(皐月さんの援護があれば百人力ですぅ!)

 

シアは真っ直ぐにリーダー格の魔物に走り近づき、邪魔しようとする魔物は全て皐月の狙撃で潰されていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

様子を見ていたが・・・シアの奴は危なっかしいな。だが、皐月が援護しているから大丈夫そうだな

 

ハジメはガン=カタでドンナー・シュラークを縦横無尽に操りながら、ラウンドシールドの様なものが取り付けられている金属製の十字架―――――クロスビットを併用して、嵐の様な攻撃を繰り広げる。数十体のリーダー格の魔物を葬ったハジメは、遠くで何かを喚いている人影を発見。その頭は黒いローブで覆われていた

 

あいつか

 

黒ローブの男は、子供の様に癇癪を起こしてアーティファクトの杖をかざして何かを唱え始める。しかし、それを黙ったまま待つ義理はない。ハジメはドンナーで狙撃して杖の半ばから吹き飛ばすと、その余波で揉んどり打って倒れる男

すると、今まで様子を伺っていたのか、黒い四つ目の狼の群れがハジメに襲い掛かった。先読の技能を持っているのか、ドンナー・シュラークで連射するも当たらない。しかも、先読で敵の未来位置に撃ち込むんでも回避する個体も居るのが驚きだ。何故これ程までの力を持った魔物がこの場に居るのかが疑問に残るが、厄介な個体が多く時間が掛かる

 

二尾狼とは違うが、明らかにこの場に居る事がおかしい魔物だな。しかも未来位置に撃ち込んでも回避する・・・面倒極まりないが、深月の動きに比べたら月とスッポンだな

 

ハジメは再度、明後日の方向と未来位置に撃ち込む。初撃を避けた魔物は、未来位置に置かれた二撃目も避けた。しかし、どこからともなく飛来した弾丸が腹部を貫いた。三撃目は、明後日の方向に撃った弾が跳弾して襲い掛かったのだ。精神を集中して攻撃しなければいけないので大変だが、深月との訓練で実践レベルで使用が可能となっていた

だが、それでも一体だけだ。最初は六体だったが、数が増えて今では十一体だ

 

「チッ!数が無駄に多い!」

 

一瞬だけ黒ローブの方を見ると、同じ魔物が五体こちらに向かってきていた。流石にこれ以上数が増えるとなると危険だ。シアの方を見ると、数は少ないが群がられていた。ユエの方には居ない模様。だが、この状況も直ぐに覆った

ハジメに襲い掛かった一体が体を捻って大きく後退。だが、着地する直前で飛来した二刀によって首が切り落された。ハジメに襲い掛かっていた魔物達が一斉に二刀が戻っていった先を見ると、シアが対処していた五体が深月によって苦も無く蹂躙された場面だった。魔物達が一斉に警戒をすると同時に、深月が一体の狼の前眼まで接近していた。手を交差していたが、持っていた夫婦剣の姿は無い。先読で左右の未来位置に飛来する事を理解してそのまま深月に噛みつこうと口を開けた瞬間に、上顎と下顎を素手で掴まれて引き裂かれた。先読を使って自身に害が無いと思われる攻撃は無視するだろうし、そのまま動かせば相手に怪我をさせる事が出来ると分かっていると注意が疎かになる

 

「点や線で攻撃するから避けられるのです。面で攻撃すれば何も問題はありません」

 

その瞬間、深月の前方に居た魔物は上空から降り注ぐ物に蹂躙された。僅か数秒の出来事、そのまま振り返ってナイフを投擲。正確に放たれるそれを回避、未来位置に置かれた攻撃も避けようと体を動かしたのだが

 

解放(リリース)

 

深月の一言で未来位置に置かれたナイフ達が糸状に解け、魔物に絡み付き

 

固定(フィックス)

 

引き縛った。四肢を体に接着する様に固定された魔物達は動けず、再び投擲されたナイフで蹂躙された。しかも、援護で来ていた五体も同じ有様となっていた。その事実に少しばかり呆然とするローブの男だったが、手持ちに魔物が居なくなったと理解して走って逃走する。しかし、魔力駆動二輪を取り出して一気に加速して追いかけたハジメによって後頭部を殴りつけられ、シャチホコの様に地面とキスをして数メートル程地を滑って停止した

 

「さて、先生はどうする気だろうな?こいつの事も・・・場合によっては俺の事も・・・」

 

ハジメは、ローブ男を義手から出したワイヤーを括り付けて二輪で引き摺って町へと踵を返した。そんな男の姿は、敗残兵と言った有様だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「お嬢様に褒めて頂けますかね?」
布団「多分?」
深月「・・・そうですか」
布団「でも、久々の命令でウッキウキだったでしょ?」
深月「当たり前じゃないですか!」
布団「よーしローブ男の結末が楽しみだわ」
深月「そういえば、日間ランキングに載りましたよ」
布団「( ゚Д゚)ハ?」
深月「初めてランキングという項目を見たのですが、下の方にありました」
布団「(*´▽`*)ワーイ      ヤベェ・・・誤字の多い作者で申し訳ない・・・」
深月「本音はそれですか!?」
布団「と、豆腐より柔らかいメンタルなんだぞぉ!?」
深月「それでは、読者の皆様方。次回をお待ち下さい♪」


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メイドでも驚きますよ?

布団「ヒャッハアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!」
深月「うるさいですよ」
布団「テンション上がって来たあああああーーーー!」
深月「・・・」
布団「WRYYYYYYYYYY!」
深月「当身!」ゴスッ
布団「)'▽')グブルアアアアアア!」
深月「さて、ウルでのお話がこれで終わります。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」








~深月side~

 

・・・あの黒い四目狼は異質でしたね。先読に近い技能があったとはいえ、未来位置に置かれた攻撃を避ける身のこなしはオルクス迷宮でも中々居なかった筈です。オルクスとライセンでは見なかった事から推察するに、別の大迷宮の魔物の候補があります。ですが、この近場には存在しない事からそれも除外・・・もし、魔人族側に魔物を操る者が存在するのであれば、借り受けた可能性が大きい。お嬢様の推測通り、魔人族と繋がっているのは明白ですね

何処の世界でも捕虜となった人物をみすみすと逃す事はありえません。隙を見て排除は確実―――――畑山先生には申し訳御座いませんが、囮役として使わせて頂きましょう。その方が、お嬢様に対して危害が少ないのです

 

深月はいつもの様に気配を溶け込ませて周囲を警戒しながら索敵を行う。音も無く、気配も無く移動する深月は誰からも見つける事が出来無い。唯一発見出来る者が居るとすれば、同程度の技術を持った者にしか不可能だろう

ハジメ達を中心として、グルッと大きく円を描く様に移動しながら警戒する。無論、この時でも皐月の様子をジッと見ているのはいつもの事だ

ローブ男は敗残兵の如くズタボロとなって町外れに連れて行かれており、その場には愛子と生徒達の他、護衛隊の騎士達と町の重鎮達が幾人か、それにウィルとハジメ達だけだ。二輪で引き摺られる様に連行された為、頭からすっぽりと被っていたローブは外れていた。ローブ男の正体は清水だった。畑山は戦場から直接連行して来られたという事実に、悲しそうに表情を歪めつつ、清水の目を覚まそうと揺り動かしている

 

本当に甘い。それでは人質として下さいと言っている様なものですよ?周りの騎士達も止めているのにも関わらず拒否して、拘束すらもしていない。確か・・・あれの名前は清水だったでしょうか?事前の調書では、中学ではイジメによって登校拒否。そこから二次創作物に興味を持ち、家族間の関係に溝が生まれて隠れオタクとして生活でしたね

異世界へ転移、魔法、一般人よりも高いステータス・・・今まで遠慮しがちな性格が歪む要因の一つでしょう。しかし、ど腐れ野郎と比較して、クラスメイトの死が身近にある事を実感した事から更に歪んだのでしょうね。まぁ、私達は死んでいませんが

 

深月は遠目で彼らの口の動きを観察して話の内容を見る

 

『清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません・・・先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんな事をしたのか・・・どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?』

 

『なぜ?そんな事も分んないのかよ。だから、どいつもこいつも無能だっつうんだよ。馬鹿にしやがって・・・勇者、勇者うるさいんだよ。俺の方がずっと上手く出来るのに・・・気付きもしないで、モブ扱いしやがって・・・ホント、馬鹿ばっかりだ・・・だから俺の価値を示してやろうと思っただけだろうが・・・』

 

『てめぇ・・・自分の立場分かってんのかよ!危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!』

 

『そうよ!馬鹿なのはアンタの方でしょ!』

 

『愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!』

 

畑山は清水を罵倒する生徒達を抑えて、再び清水に話し掛ける

 

『そう、沢山不満があったのですね・・・でも、清水君。みんなを見返そうというのなら、なおさら、先生にはわかりません。どうして、町を襲おうとしたのですか?もし、あのまま町が襲われて・・・多くの人々が亡くなっていたら・・・多くの魔物を従えるだけならともかく、それでは君の"価値"を示せません』

 

『・・・示せるさ・・・魔人族になら』

 

『なっ!?』

 

これで魔人族との繋がりが有ると自白した様なものですね。気付かれない様に迅速に動きましょう

 

深月は彼らの様子を見つつ、索敵を続ける

 

『魔物を捕まえに、一人で北の山脈地帯に行ったんだ。その時、俺は一人の魔人族と出会った。最初は、もちろん警戒したけどな・・・その魔人族は、俺との話を望んだ。そして、分かってくれたのさ。俺の本当の価値ってやつを。だから俺は、そいつと・・・魔人族側と契約したんだよ』

 

『契約・・・ですか?それは、どのような?』

 

『・・・畑山先生・・・あんたを殺す事だよ』

 

『・・・え?』

 

清水が企んでいた衝撃の事実に周囲は一瞬だけポカンとしたが、直ぐに激しい怒りを瞳に宿して清水を睨みつける。清水は、畑山やハジメ達以外の者達から強烈な怒りが宿った眼光に射抜かれて一瞬身を竦めるものの、半ばやけくそになっているのか視線を振り切る様に話を続ける

 

『何だよ、その間抜面。自分が魔人族から目を付けられていないとでも思ったのか?ある意味、勇者より厄介な存在を魔人族が放っておくわけないだろ・・・"豊穣の女神"・・・あんたを町の住人ごと殺せば、俺は、魔人族側の"勇者"として招かれる。そういう契約だった。俺の能力は素晴らしいってさ。勇者の下で燻っているのは勿体無いってさ。やっぱり、分かるやつには分かるんだよ。実際、超強い魔物も貸してくれたし、それで、想像以上の軍勢も作れたし・・・だから、だから絶対、あんたを殺せると思ったのに!何だよ!何なんだよっ!何で、六万の軍勢が負けるんだよ!何で異世界にあんな兵器があるんだよっ!あのメイドも何なんだよ!お前は、お前達は一体何なんだよっ!』

 

狂気で濁りきった眼ですね。ですが、そろそろ動く筈です・・・気配感知に反応が無い可能性が高い。ならば、別の手段で探し出すだけです

 

目を閉じて、五感を極限にまで高め始める深月。風が吹いて魔物達の血の匂いが充満する中、明らかに違う匂いが一つだけ感じられた。その場所に目を凝らして注視すると、今正に動こうとしていた人影を発見した。視線に感付かれない様に一瞬だけ見て、再び畑山達の方へと見やると、清水の手を握っている畑山の姿を見た

 

『清水君・・・君の気持ちはよく分かりました。"特別"でありたい。そう思う君の気持ちは間違ってなどいません。人として自然な望みです。そして、君ならきっと"特別"になれます。だって、方法は間違えたけれど、これだけの事が実際にできるのですから・・・でも、魔人族側には行ってはいけません。君の話してくれたその魔人族の方は、そんな君の思いを利用したのです。そんな人に、先生は、大事な生徒を預けるつもりは一切ありません・・・清水君。もう一度やり直しましょう?みんなには戦って欲しくはありませんが、清水君が望むなら、先生は応援します。君なら絶対、天之河君達とも肩を並べて戦えます。そして、いつか、みんなで日本に帰る方法を見つけ出して、一緒に帰りましょう?』

 

肩を震わせ項垂れる清水の頭を優しい表情で撫でようと身を乗り出した畑山の手を逆に握り返しグッと引き寄せ、畑山の首に腕を回してキツく締め上げた。後ろから羽交い絞めにし、何処に隠していたのか十センチ程の針を取り出すと、それを畑山の首筋に突きつけた

 

『動くなぁ!ぶっ刺すぞぉ!』

 

では、参ります!

 

畑山達の方へ手を突き出している影に向かって急接近する。深月の踏み込みで砕けた大地の轟音に驚いて、全員がつい顔を向ける。影の人物も同じく音の方へと顔を向ける事で、姿形が露になる

 

魔人族―――――ですが、もう遅いです

 

魔人族が逃走用に待機させていた魔物は、深月が踏み込む前に投擲した夫婦剣によって頭部と胸部に突き刺さって崩れ落ちる。自身の逃走用の魔物が死んだ事に一瞬だけ目を逸らした魔人族。深月は更に地面を踏みしめて加速し、音の壁を突破して魔人族の傍を通り抜けた。深月が通り抜けて少しして、両腕両足が横にズレて魔人族はダルマとなった

 

「ぐ、ギ、ギャアアアアアアアアアア!?」

 

気配遮断が解けた魔人族の悲鳴が響き渡った

 

「なっ!?」

 

「魔人族!?」

 

「えっ!あれが魔人族なの!?」

 

周囲が驚愕する中、清水の表情は絶望に覆われた。自分を助けに来てくれたであろう魔人族がダルマにされて、逃走用の魔物も殺されたからだ。深月は、ダルマになった魔人族を魔力糸で拘束してハジメ達の元へと引き摺る

 

「さて、ちょっかいを掛ける者も居なくなりました。こちらはこちらで、このダルマから情報を引き出す仕事が御座いますので、続きをご自由になさって下さい」

 

「お、お前等俺に手を出すな!この針は北の山脈の魔物から採った毒針だっ!刺せば数分も持たずに苦しんで死ぬぞ!分かったら、全員、武器を捨てて手を上げろ!それと、おい、お前等、厨二野郎共、お前等だ!後ろじゃねぇよ!お前等だっつってんだろっ!馬鹿にしやがって、クソが!これ以上ふざけた態度とる気なら、マジで殺すからなっ!わかったら、銃を寄越せ!それと他の兵器もだ!」

 

清水の無茶振り要求に嫌そうな顔をするハジメと皐月

 

「いや、お前、殺されたくなかったらって・・・どうやって殺すんだよ?」

 

「お迎えの魔人族は今現在進行中で情報を吐かせているのよ?」

 

ちらりと深月の方を見ると、肉を削ぎ、歯を抜き、片目をくり抜かれ、内臓を素手でかき回されている光景だった。ハジメ達を除くこの場に居る殆ど者達が顔を真っ青にさせ、生々しい光景を見たクラスメイト達は嘔吐したりしていた。清水は体が震えているが、畑山の拘束を解かずにそのままの状態を維持している

 

「ふむ、まだ情報を吐きませんか」

 

「ガボッ!ゴブッ!ゴボッ!わ"、我らの"不利にな"る"情報は絶対に"話さ"ん"」

 

「そうですか。ならば、今以上の苦痛を与えましょう」

 

深月が次なる一手を打とうとした時、シアの未来視が働いた

 

「ッ!?駄目です!絶対に避けて下さい!」

 

シアは畑山の元へ一気に接近して強引に引き剥がすと、光の槍が二つ襲い掛かった。一つは、清水ごと畑山を殺す為、もう一つは深月と魔人族を殺す攻撃だった。畑山はシアが強引に引き剥がした事で光の槍の難は逃れたが、清水が手に持っていた針に刺されてしまった。深月の方は魔力糸で軌道を逸らそうとしたが、光の槍が触れた瞬間、魔力糸が難なく切断されてしまった。このままでは直撃してしまうと判断した深月は、そのまま回避する事で事なきを得たが、魔人族は頭部を槍に貫かれて絶命した

 

「「「シア!」」」

 

「わ、私は何処も怪我をしていません!ですが、先生さんが針に刺されてしまいました!」

 

ハジメと皐月とユエの三人がシアの元へ駆け付けて心配をするが、本人は大丈夫な模様。しかし、畑山が毒針に刺されたのだ。見れば、畑山の表情は真っ青になっており、手足が痙攣し始めている。ハジメは躊躇う事無く、宝物庫から試験管型の容器を取り出した。その頃になってようやくハジメ達の元に駆けつけた周囲の者達が焦燥にかられた表情で口々に喚き出す。特に生徒達と騎士達は動揺が激しく、ハジメに対して口々に安否を聞いたり、様子を見せろと退かせようとしたり、効きもしない治癒魔法を掛けようとしたり・・・

 

「黙りなさい」

 

皐月の威圧を込めた一言に、一歩後退って押し黙る。何故ハジメが躊躇い無く神水を使おうとしたのかには訳があった

本来、あの光の槍はシアに直撃している筈だった。だったら何故無事なのかというと、深月の魔力糸で体を引っ張られたおかげなのだ。深月は遠い位置から魔力糸で逸らそうとしていたが、何の抵抗も無く魔力糸が切れた事から掠るだけでも危険と感じ取り、高速思考で無理矢理シアの体に巻き付ける様に魔力糸を操作して引いたからである。そのせいもあって、魔人族を殺されたのだ。無理矢理での行使で痛む頭を我慢して、敵に悟らせない様に警戒する深月。そのおかげか、追撃は来ず、姿を現す事も無かった

ハジメは神水を片手に持って、皐月に抱えられている畑山に近付いて神水を流し込んでいく。しかし、畑山の体は全体が痙攣を始めており思った通りに体が動かないようで、自分では上手く飲み込めずに気管に入ったのかむせて吐き出してしまった

ハジメは、愛子が自力で神水を飲み込む事は無理だと判断し、残りの神水を自分の口に含むと、何の躊躇いも無く畑山に口付けして直接流し込んだ

 

「ッ!?」

 

畑山は目を大きく見開き、ハジメの周囲で男女の悲鳴と怒声が上がった。だが、全てを無視して流し込む。すると、畑山は喉がコクコクと動き、神水が体内に流れ込む。先程まで体を襲っていた痛みや、生命が流れ出していくような倦怠感と寒気が吹き飛び、まるで体が熱を持ったかの様な快感を覚え、体を震わせる

口移しは終わり、ハジメが畑山から口を離す。皐月は畑山の体調を様子を見極めているが、畑山は未だボーとしたまま焦点の合わない瞳でハジメを見つめている

 

「先生」

 

「・・・」

 

「先生?」

 

「・・・」

 

「おい!先生!」

 

「ふぇ!?」

 

皐月の呼び掛けに答えない畑山を見て業を煮やしたハジメが、軽く頬を叩きながら強めに呼び掛けると何とも可愛らしい声を上げて正気を取り戻した

 

「体に異変は?違和感はどう?」

 

「へ? あ、えっと、その、あの、だだ、だ、大丈夫ですよ。違和感はありません、むしろ気持ちいいくらいで・・・って、い、今のは違います! 決して、その、あ、ああれが気持ち良かったということではなく、薬の効果がry」

 

「そうか。ならいい」

 

問題が一段落したハジメは、恐らく全員が忘れているであろう哀れな存在を思い出させる事にした。ハジメは、一番近くに居る騎士に尋ねた

 

「・・・あんた、清水はまだ生きているか?」

 

ハジメのその言葉に全員が「あっ」と思い出し、清水の方へと振り返る。畑山だけが「えっ?えっ?」と現状を理解しておらず、キョロキョロとして自分がシアに庇われた時の状況を思い出し、顔色を変えて慌てた様子で清水がいた場所に駆け寄る

 

「清水君!ああ、こんな・・・ひどい」

 

清水の胸にぽっかりと穴が開いており、出血が激しく大きな血溜まりが出来ていた

 

「し、死にだくない・・・だ、だずけ・・・こんなはずじゃ・・・ウソだ・・・ありえない・・・」

 

清水の片手を握り、周囲に助けを求めても誰もが目を逸らす。もう助からないし、助けたいとも思っていない表情だった。畑山は縋った。ハジメが持っていたあの薬に

 

「南雲君!さっきの薬を!今ならまだ!お願いします!」

 

ハジメは溜息を吐き、二人の元へ近づきながら畑山がどんな返答がなされるか分かっていながら質問する

 

「助けたいのか、先生?自分を殺そうとした相手だぞ?いくら何でも"先生"の域を超えていると思うけどな」

 

「確かに、そうかもしれません。いえ、きっとそうなのでしょう。でも、私がそういう先生でありたいのです。何があっても生徒の味方、そう誓って先生になったのです。だから、南雲君・・・」

 

「・・・仕方がねぇな。―――――――――おい清水。聞こえているな?俺にはお前を救う手立てがある」

 

「!」

 

「だが、その前に聞いておきたい」

 

「・・・」

 

「・・・お前は・・・敵か?」

 

清水はその質問に一瞬の躊躇いもなく首を振り、卑屈な笑みを浮かべて命乞いを始めた

 

「て、敵じゃない・・・お、俺、どうかしてた・・・もう、しない・・・何でもする・・・助けてくれたら、あ、あんたの為に軍隊だって・・・作って・・・女だって洗脳して・・・ち、誓うよ・・・あんたに忠誠を誓う・・・何でもするから・・・助けて・・・」

 

「・・・そうか」

 

ハジメは、清水の目に憎しみと怒りと嫉妬と欲望とその他の様々な負の感情が入り混じっていたのを確信した。もう誰の言葉も心に響かないし、改心する事も無い。皐月に視線を合わせて、最後に一瞬だけ畑山に合わせた。畑山はハジメが何をするつもりなのか察した様で、血相を変えてハジメを止めようと飛び出した

 

「ダメェ!」

 

ドパンッ! ドパンッ!

 

「ッ!?」

 

清水の心臓に一発、頭部に一発。・・・正確に撃ち込まれた弾丸に、体を一瞬跳ねさせ、確実で覆しようのない死を与えた。ハジメと皐月の放った弾丸―――――銃身からは白煙を上げており、二人は物言わぬ死体を見ている。静寂が辺りを支配し、誰もが動けない中、畑山からポツリと言葉がこぼれ落ちた

 

「・・・どうして?」

 

呆然と、清水の亡骸を見つめながら、そんな疑問の声を出す。畑山の瞳には、怒りや悲しみ、疑惑に逃避、あらゆる感情がごちゃ混ぜとなっている

 

「敵だからな」

 

「そんな!清水君は・・・」

 

「改心したって?悪いけど、それを信じられるほど俺はお人好しではないし、何より自分の眼が曇っているとも思わない」

 

「ハジメの言う通りよ。改心?そんな事が出来る人間の目は、後悔と懺悔に満ちた深い輝きを持っているわ」

 

「対して、清水はどす黒く濁った目だったよ。復讐、憎悪、憤怒、嫉妬を含んだそれだ」

 

「だからって殺す事なんて!王宮で預かってもらって、一緒に日本に帰れば、もしかしたら・・・可能性はいくらだって!」

 

「・・・どんな理由を並べても、先生が納得しないことは分かっている。俺達は、先生の大事な生徒を殺したんだ。俺達を、どうしたいのかは先生が決めればいい」

 

「・・・そんなこと」

 

「先生の言葉はとても綺麗で良いと思うわ。だけど、この世界での命の価値なんて薄っぺらなの。敵対した者には容赦しないという考えは変えられそうにもないわ」

 

「躊躇いと甘さが死を招く。いくら俺達でもそんな余裕は無い」

 

「二人共・・・」

 

「これからも俺達は、同じ事をする。必要だと思ったその時は・・・いくらでも、何度でも引き金を引くよ。それが間違っていると思うなら・・・先生も自分の思った通りにすればいい・・・ただ、覚えておいてくれ。例え先生でも、クラスメイトでも・・・敵対するなら、俺達は引き金を引けるんだって事を・・・」

 

「例えクラスメイトといえど、今は赤の他人に他ならないわ。私達と敵対をしない限りは手を出す事もないからそのつもりでね?」

 

唇を噛み締め、俯く畑山。"自分の話を聞いて、なお決断したことなら否定しない"そう言ったのは紛れもなく自分自身で、言葉が続かない。ハジメ達は、そんな畑山を見て、ここでのやるべき事は終わったと踵を返す。二人に静かに寄り添うユエとシアと四人の後ろに続く深月。ハジメと皐月の圧力を伴った視線に射抜かれて、ウィルも後ろ髪を引かれる様子で黙って付いて行く。町の重鎮達や騎士達が、ハジメ達の持つアーティファクトやその強さを目的に引き止めようとする。だが、二人の圧力以上の代物が一帯を覆う

 

「お二人は敵対しなければ攻撃はしないと仰いましたが、私は違いますよ?主の障害となる者を取り除くのもメイドの勤めですので――――――お忘れなき様、御願い致します」

 

主の皐月が止めない事から、これ以上踏み込むならば自殺と同義と感じた彼等は、先の戦いでの化け物ぶりを思い出し、伸ばした手も、発しかけた言葉も引っ込める事になった

 

「南雲君!高坂さん!・・・先生は・・・先生は・・・」

 

「・・・先生の理想は既に幻想だ。ただ、世界が変わっても俺達の先生であろうとしてくれている事は嬉しく思う・・・出来れば、折れないでくれ」

 

「深月も言ったけど、先生の考えは甘いだけ。・・・でも、その考えを持って行動する事には感心するわ。だから、折れずに頑張ってとしか言えないわ」

 

周囲の輪を抜けて魔力駆動二輪(※深月専用)と魔力駆動四輪を取り出し全員を乗せて走り去った。ハジメ達の後には、何とも言えない微妙な空気と生き残った事を喜ぶ町の喧騒だけが残った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

ウィルを連れて、ウルからフューレンへと魔力駆動四輪と魔力駆動二輪を走らせるハジメ達。運転は当然ハジメで、隣は皐月が座り、その隣にユエが座っている。シアは魔力駆動二輪に乗っている深月の後ろに乗っている。後部座席に乗っているウィルは、少々身を乗り出しながら気遣わし気にハジメ達に話し掛ける

 

「あのぉ~、本当にあのままでよかったのですか?話すべきことがあったのでは・・・特に愛子殿には・・・」

 

「ん~?別に、あれでいいんだよ。あれ以上、あそこにいても面倒な事にしかならないだろうし・・・先生も今は俺達がいない方がいい決断が出来るだろうしな」

 

「・・・それは、そうかもしれませんが・・・」

 

「お前・・・ホント人がいいというか何というか・・・他人の事で心配し過ぎだろ?」

 

「それが美徳でもあるわね。貴族特有の踏ん反りが無いのは市民から好印象を受けるわ」

 

「・・・いい人」

 

「うむ、いい奴じゃな」

 

男からの言葉なら嬉しいのだが、女性からの"いい人"というのは男としては何とも微妙な評価だ

 

「わ、私の事はいいのです・・・私は、きちんと理由を説明すべきだったのではと、そう言いたいだけで・・・」

 

「・・・理由だと?」

 

「ええ。なぜ、愛子殿とわだかまりを残すかもしれないのに、清水という少年を殺したのか・・・その理由です」

 

「・・・言っただろ。敵だからって・・・」

 

「それは、彼を"助けない"理由にはなっても"殺す"理由にはなりませんよね? だって、彼はあの時、既に致命傷を負っていて、放って置いても数分の命だったのですから・・・わざわざ殺したのには理由があるのですよね?」

 

「・・・貴方ってよく見ているのね」

 

ウィルの指摘はもっともで、図星である。クラスメイトであり、愛子の助けを求める声が響く中で、問答無用に清水を撃ち殺した二人の所業はインパクトが強く、二人が殺す必要は無かったという事実は上手く隠れてしまっている

 

「貴方の言う通りだけど、これは私達なりの気遣いよ。もしも、あのまま見殺しをしていたら先生は今以上に自分を責めるのは目に見えているわ。そして、心が壊れると感じたの」

 

「心が壊れて、完全に折れてしまえばそこで終わりだ。教会の良い様に使い潰される可能性が大きいからな」

 

皐月の予想通りに心が壊れてしまったとしよう。"自分のせい"でと追い詰めて、体を酷使するだろう。それ幸いと見て、教会は今以上に無茶振りをして仕事をさせるだろう。もしも拒否をすれば生徒を殺すと脅せば従うだろう。そうなってしまえばもうお終いだ

 

「人形が壊れてしまえば補充すれば良いと判断して、再度勇者召喚なんて事をするでしょうね」

 

「そういう事でしたか・・・」

 

「・・・二人共ツンデレ?」

 

「なるほどのぉ~、ご主人様達は意外に可愛らしい所があるのじゃな」

 

「・・・でも、愛子は気がつくと思う」

 

「分かっているわよ。それでも折れずにいてくれる事を祈っているのよ」

 

「・・・大丈夫。愛子は強い人。ハジメや皐月が望まない結果には、きっとならない」

 

「・・・」

 

(私と深月さんを放置して雰囲気になるなんてズルいですぅ~)

 

「こ、これは、何とも・・・口の中が何だか甘く感じますね・・・」

 

「むぅ~妾は、罵ってもらう方が好みなのだが・・・ああいうのも悪くないのぉ・・・」

 

三人の甘い雰囲気に当てられて居心地悪そうなウィル達。特に、シアは頬を膨らませ唇を尖らせいじけている

 

「それにしても、今回ばかりはシアに助けられたわ」

 

「・・・いい仕事をした」

 

皐月とユエはシアを見てからハジメに視線を向ける。ハジメも今回ばかりは二人が何を言いたいのか理解した

 

(・・・シア。その、何だ、今回は助かった。遅くなったが・・・ありがとな)

 

(・・・・・誰ですか?)

 

(怒るぞ?)

 

(そう思われても仕方がないでしょ?自業自得よ)

 

ハジメの額に青筋が浮かぶが、皐月の正論過ぎる一言で何も言えなくなる

 

(・・・まぁ、そういう態度を取られても仕方ないかとは思うがな・・・これでも、今回は割りかしマジで感謝してるんだぞ?)

 

ハジメのストレートな言葉に視線を激しく彷徨わせ、頬を真っ赤に染めて、ウサミミがピコピコと動き回っている

 

(え、えっと、いえ、そんな、別に大した事ないと言いますか、そんなお礼を言われる程の事ではないといいますか、も、もう!何ですか、いきなり。何だか、物凄く照れくさいじゃないですか・・・・・えへへ)

 

ハジメは苦笑いしながら少し疑問に思った事を尋ねる

 

(シア。少し気になったんだが・・・どうしてあの時、迷わず飛び込んだんだ?先生とは、大して話してないだろ?身を挺するほど仲良くなっていたとは思えないんだが・・・)

 

(そ、それは・・・ハジメさんや皐月さんが気に掛けている人だからです。私自身も先生さんを見て、色々と教えられましたから)

 

(・・・それだけか?)

 

(?・・・はい、それだけですけど?)

 

(・・・そうか)

 

これは、皐月やユエに言われるまでもなく何かしらの形で報いるべきだろうと、ハジメは未だテレテレしているシアに話しかける

 

(シア。何かして欲しい事はあるか?)

 

(へ?して欲しい事・・・ですか?)

 

(ああ。礼というか、ご褒美と言うか・・・まぁ、そんな感じだ。もちろん出来る範囲でな?)

 

いきなりの言葉に「う~ん」と頭を悩ませるシア。皐月とユエは優しげな表情でシアを見つめている

 

(決まりました!フューレンに戻ったら一緒にお買い物に付き合ってください!勿論二人っきりですよ?)

 

(・・・あぁ、分かったよ)

 

シアのお願いを聞いて少しして了承するハジメ。その後は、車内でティオが暴走して皐月に撃たれてビクンッビクンッと体を跳ねさせて恍惚な表情でおねだりをしたり、連れて行かなければ各町々にハジメが自身に行った行為を赤裸々に吹聴して回るなどと言って強引に仲間入りを果たしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「作者さんは意識を戻していないので後書きは私で埋めましょう」
皐月「駄目よ。私だって出たいわ!」
深月「それではお嬢様と一緒に進めましょう(やったあああああああああ!)」
皐月「あの光の槍だけど・・・防げなかったの?」
深月「魔力糸が触れただけで千切られました」
皐月「魔力糸を多用しても良いけど、気を付けて使用してね?」
深月「心得ております」
皐月「それにしても・・・いえ・・・なんでもないわ」
深月「・・・気になります」
皐月「・・・深月特製麻婆豆腐で魔物を駆逐出来ないかしら」
深月「いくら何でも酷過ぎませんか!?」
皐月「評価、感想お気軽によろしくね♪」
深月「誤字報告も有難う御座います」
皐月「次回をお楽しみに!」




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メイドは更に進化していました

布団「ちゃちゃっといこう」
深月「投稿ですよ~」
布団「誤字報告有難う御座いました~」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」








~ハジメside~

 

フューレンの門前に辿り着き、順番まで待っているとチャラ男がユエとシアにナンパを仕掛け、あまつさえ飛び掛かるという所業に出た。しかし、それは全てハジメの蹂躙で吹き飛ばされて問題解決。その様子を聞きつけて門番の男が近づき事情聴取を取り、ハジメ達がギルド長直々の依頼帰りという事を理解して順番待ちを飛ばして入場した

そして、ハジメ達は冒険者ギルドにある応接室で出された如何にも高級そうなお茶と茶菓子をバリボリ、ゴクゴクと遠慮なく貪りながら待っていた。およそ五分後に部屋の扉を蹴破らん勢いで開け放ち飛び込んできたのは、ハジメ達にウィル救出の依頼をしたイルワ・チャングだった

 

「ウィル!無事かい!?怪我はないかい!?」

 

以前であった落ち着きのあった雰囲気はまるで無く、ハジメ達に挨拶もなく安否を確認するイルワ。それ程までに心配だったのが伺える

 

「イルワさん・・・すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を・・・」

 

「・・・何を言うんだ・・・私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった・・・本当によく無事で・・・ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ・・・二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」

 

「父上とママが・・・分かりました。直ぐに会いに行きます」

 

イルワは、ウィルに両親が滞在している場所を伝えると会いに行くよう促し、ウィルが出て行った後、改めてイルワとハジメが向き合う。イルワは穏やかな表情で微笑むと、深々とハジメと皐月に頭を下げた

 

「ハジメ君、皐月君、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」

 

「まぁ、生き残っていたのはウィルの運が良かったからだろ」

 

「ふふ、そうかな?確かに、それもあるだろうが・・・何万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう?女神の剣様?」

 

「・・・随分情報が早いな」

 

「ギルドの幹部専用だけどね。長距離連絡用のアーティファクトがあるんだ。私の部下が君達に着いていたんだよ。といっても、あのとんでもない移動型アーティファクトのせいで常に後手に回っていたようだけど・・・彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。諜報では随一の腕を持っているのだけどね」

 

苦笑いするイルワ。最初から監視員が付く事を理解していたので特に怒りを抱く事も無いハジメ達

 

「それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは・・・二重の意味で君に依頼して本当によかった。数万の大群を殲滅した力にも興味はあるのだけど・・・聞かせてくれるかい?一体、何があったのか」

 

「ああ、構わねぇよ。だが、その前にユエとシアのステータスプレートを頼むよ・・・ティオは『うむ、二人が貰うなら妾の分も頼めるかの』・・・ということだ」

 

「ふむ、確かに、プレートを見た方が信憑性も高まるか・・・分かったよ」

 

イルワは、職員を呼んで真新しいステータスプレートを三枚持ってこさせる。結果、ユエ達のステータスは以下の通りだった

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ユエ 323歳 女 レベル:75

天職:神子

筋力:120

体力:300

耐性:60

敏捷:120

魔力:6980

魔耐:7120

技能:自動再生[+痛覚操作] 全属性適性 複合魔法 魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収] 想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動] 血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約] 高速魔力回復 生成魔法 重力魔法

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40

天職:占術師

筋力:60 [+最大6100]

体力:80 [+最大6120]

耐性:60 [+最大6100]

敏捷:85 [+最大6125]

魔力:3020

魔耐:3180

技能:未来視[+自動発動][+仮定未来] 魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ][+集中強化] 重力魔法

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

天職:守護者

筋力:770  [+竜化状態4620]

体力:1100  [+竜化状態6600]

耐性:1100  [+竜化状態6600]

敏捷:580  [+竜化状態3480]

魔力:4590

魔耐:4220

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換] 魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮] 火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇] 風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇] 複合魔法

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

ハジメ達には及ばないが、チート集団である事には変わりない。しかも、勇者が限界突破を使っても及ばないレベルである。流石に、イルワも口をあんぐりと開けて言葉も出ない様子だ。無理もない。ユエとティオは既に滅んだとされる種族固有のスキル―――――"血力変換"と"竜化"を持っている上に、ステータスが特異に過ぎる。シアは種族の常識を完全に無視している。驚くなという方がどうかしている

 

「いやはや・・・なにかあるとは思っていましたが、これ程とは・・・」

 

「・・・それでも深月には勝てない」

 

「・・・見せては・・・くれないよね?」

 

「あ、あぁ~・・・深月のステータスって今どうなっているの?」

 

「申し訳ございません。最後に確認したのはシアさんと出会う前ですので、私自身把握が出来ておりません」

 

「深月が良ければここに居る皆で見せても良いかしら?無論、他言無用は誓ってもらうわよ?」

 

「他言無用は当然だとも。ハジメ君と皐月君と深月君の三人は異世界人だという事は理解しているからね」

 

「少々お待ちください」

 

普段は使わないポケットの中に入れたステータスプレートを取り出し、確認――――――目頭を押さえる深月。これだけでどうなったのかは容易に想像が付くだろう

 

「深月・・・お前・・・」

 

「深月・・・嘘でしょ?」

 

「・・・限界を知らない?」

 

「深月さんのステータスが物凄く気になります!」

 

「竜人の妾よりも強い事は確実じゃからの」

 

「私は今までの人生の中で一番ワクワクしているかもしれないね」

 

深月から皐月に手渡されるステータスプレート。全員が覗き込む様に見ると――――――

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:???

天職:メイド

筋力:34000

体力:50000

耐性:42000

敏捷:54000

魔力:35550

魔耐:34050

技能:生活魔法[+完全清潔][+瞬間清潔][+清潔操作][+清潔鑑定] 熱量操作[+蒸発][+乾燥][+瞬間放熱][+放熱持続] 超高速思考[+予測] 精神統一[+明鏡止水] 身体強化[+魔力吸引補強][+全属性補強][+全属性性能向上] 魔気力制御[+放射][+圧縮][+遠隔操作][+複合][+憑依] 気配感知[+特定感知] 魔力感知[+特定感知] 熱源感知[+特定感知] 気配遮断[+透化][+断絶] 家事[+熟成短縮][+魔力濾過][+魔力濾過吸引] 節約[+気力][+魔力] 裁縫[+速度上昇][+精密裁縫] 交渉 戦術顧問[+メイド] 纏雷 天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光][+無音加速][+音越え][+無間] 幻歩[+幻影][+認識移動] 風爪 衝撃波[+収束][+拡散][+並列] 夜目 遠見 魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作] 魔力糸[+伸縮自在][+硬度変更][+粘度変更][+着色][+物質化] 胃酸強化 超直感[+瞬間反射][+未来予測] 状態異常完全無効 金剛[+超硬化] 威圧 念話 追跡[+敵影補足][+識別] 超高速体力回復 超高速魔力回復 魔力変換[+体力][+治癒力] 心眼[+見極め][+観察眼] 極地[+武神][+絶剣] 限界突破[+覇潰][+極限突破] 生成魔法 重力魔法 忠誠補正[+成長補正][+技能獲得補正] 言語理解

称号:メイドの極致に至る者

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

この場に居る全員が目を見開き、目をゴシゴシと擦って再び見る。「派生技能多すぎぃ!」と声を大にして叫びたいが、それをせず、深月同様目頭を押さえる

 

「もうお前自重しろよ・・・」

 

「派生技能が多すぎる件についてどう思う?」

 

「・・・技能もすごいけどステータスが」

 

「ぶっ壊れですね☆」

 

「す、すさまじいのじゃ。・・・はっ!という事は、お仕置きはご主人様では無くメイドにお願いすればよいという事じゃな!」

 

「二度と朝日を拝めない様にしましょうか?」

 

「すまんかった」ドゲザ

 

「いやぁ~・・・ほんと・・・敵対しなくて正解だったよ。これなら余裕で国落としが出来るね!」

 

とんでも具合が更に加速した深月である

増えた派生技能――――生活魔法[+瞬間清潔] 熱量操作[+放熱持続] 超高速思考[+予測] 身体強化[+魔力吸引補強][+全属性補強][+全属性性能向上] 節約[+気力][+魔力] 裁縫[+速度上昇][+精密裁縫] 天歩[+音越え][+無間] 極地[+絶剣] 限界突破[+覇潰][+極限突破] 忠誠補正[+成長補正][+技能獲得補正]

合計で17個。ハジメ達の訓練や普段の生活で使う物が殆どだが、特に目を引くのが身体強化と限界突破と忠誠補助の派生技能だろう

ハジメと皐月とユエだけしか知らないが、身体強化と魔気力制御の合わせ技がチート過ぎて話にならないのだ。攻撃魔法を清潔で無害として自身の魔力として吸収する事が出来るのは皆が知っての通りだ。そこで深月は考えてしまった・・・只々吸収するだけじゃ駄目だと。吸収した魔力を操作し圧縮して自身に憑依させる事で強化するというぶっ飛んだ事をしでかしたのだ。最初は一人だけでの訓練で失敗ばかりしていたが、直ぐに物にして実戦でも使える程にまで昇華させた。某魔法使いの子供先生の使用する魔法と似ているのはお約束である。因みに、実際に吸収して憑依させた深月を見たハジメと皐月はこう叫んだ。"おまえは一体何時からマギア〇レベアを使える様になった!?"―――――と。ユエの様々な属性魔法を吸収して、物理攻撃の通用しない無敵状態となった深月にフルボッコにされたのは真新しい記憶である

限界突破はその名の通りで覇潰が最終形態なのだが、深月だけが特殊な極限突破という派生を手に入れた。だが、これは超欠陥の派生技能だ。何故欠陥なのかはそれ相応の理由があり、何処ぞの落第騎士の主人公みたいに全身がボロボロとなる。30秒だけの強化はステータスを数十倍まで引き上げる代物なのだが、制限時間が過ぎれば全身の骨の殆どにヒビが入っており、毛細血管はズタボロ、筋線維の八割が引きちぎるといったオワタ技能なのだ。常人であれば絶対に使いたくないだろう。深月自身も使いたくないと言ったが、どうしても・・・使わざるを得ない場合は躊躇い無く使うとの事だ

最後の忠誠補助だが・・・二つ目の技能獲得補正は文字通り、技能を獲得しやすくするだけ。それでは、もう一つの成長補正とは何かというと―――――ステータスではなく、身体の成長である。メイド服を新調した際に言っていた事を思い出して欲しい。つまりはそういう事だ。女性なら羨む技能に違いない。しかし、これにもデメリットはある。それは・・・太りやすいという事で、油断していたらぽっちゃりになり兼ねないのだ。深月だからこそ体系を維持出来ている様なものである。だが、深月はチートを通り越しているので、パッシブなこの技能をオン・オフに切り替える事が出来るかもしれないだろう

 

「いやぁ~今日は驚いたよ・・・道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。・・・実際は、遥か斜め上をいったね・・・」

 

「・・・それで、支部長さんよ。俺達の後ろ盾になってくれるよな?」

 

「当たり前だよ。約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろう。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員"金"にしておく。普通は、"金"を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど・・・事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに"女神の剣"という名声があるからね」

 

イルワの大盤振る舞いにより、他にもフューレンにいる間はギルド直営の宿のVIPルームを使わせてくれたり、イルワの家紋入り手紙を用意してくれたりした。今回の依頼のお礼も含まれているのだろうが、個人的に仲良くしたいと思っているという事だろう。ハジメとしてもそれには願ったり叶ったりのものなので、ありがたく利用させてもらう事にした

その後、イルワと別れ、ハジメ達はフューレンの中央区にあるギルド直営の宿のVIPルームでくつろいだ。途中、ウィルの両親であるグレイル・グレタ伯爵とサリア・グレタ夫人がウィルを伴って挨拶に来た。かつて、王宮で見た貴族とは異なり随分と筋の通った人のようだ。ウィルの人の良さというものが納得できる両親だった。何かしらの金品の支払いを提示したが、ハジメ達が固辞するので、困ったことがあればどんなことでも力になると言い残し去っていった

 

「取り敢えず今日はもう休もう。明日は消費した食料とかの買い出しとかしなきゃな」

 

「あのぉ~、ハジメさん。約束・・・」

 

「・・・そうだったな。観光区に連れて行くんだったか・・・」

 

「買い物は私とユエとティオがしておくからシアの約束を果たしてね?」

 

「・・・いいのか?」

 

「その代わり」

 

「代わりに?」

 

今夜は楽しみに待っているわ

 

皐月とユエの顔を見て返事をする

 

「・・・気が付けば、ごく自然に三人の世界が始まる・・・正妻の皐月さんパッないです」

 

「ふむ、それでもめげないシアも相当だと思うがのぉ。まぁ、妾はご主人様に苛めてもらえれば満足じゃから問題ないがのお」

 

皐月の不意打ちに理性が飛びかけていたハジメも何とか正気を取り戻し、六人はあれこれと雑談しつつ夜を迎えたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜の出来事だが、冒険者ギルドの直営宿、最上階のテラスに抜き足差し足でこそこそ動く人影が三つ。深月とシアとティオの三人だ

 

「いいですか?私の案内はここまでとなります。これから先は自己責任ですので、私のせいにしたら―――――私がお勧めする麻婆豆腐を食べさせてあげます」

 

「ヒェッ!?」

 

「麻婆豆腐とな?それは一体何なのじゃ?」

 

「まぁ実際には擬きなのですが・・・辛くて美味しい食べ物です♪」

 

「後で馳走になろうかの」

 

「それでは、私はこの辺りで失礼します」

 

深月は元居た場所へと戻って行き、残された二人はそろそろと気配を殺しながらとある部屋の窓辺に近寄ると、こっそりと中の様子を伺う。その部屋の様子はというと、ハジメ達が事(意味深)を致している場面である

 

「ふわっ!見て下さいティオさん!あんなに激しく・・・皐月さんとユエさん壊れちゃいますよぉ」

 

「ふぉおおおお!ご主人様激しいのじゃ!し、しかし、シアよ。あの二人の表情を見よ!正直あれはヤバイのじゃ!同じ女である妾でも、変な気分に・・・」

 

「はぅうう、確かに蕩けそうな表情が堪りませんね!物凄く幸せそうですぅ~、羨ましいなぁ~」

 

「むぅ~、苛めてもらえれば満足と思っておったが・・・ああいうのも悪くないのぉ~」

 

「ん?なんだかハジメさんの様子が変わった様な?」

 

「なんじゃと?」

 

「わっ!わわわわわ!?ヤバイです!ハジメさんが野獣になっちゃってます!」

 

「な・・・な、なんて羨ましい!!妾もあんな風に激しくされたいのじゃ!」

 

・・・この後、二人をノックアウトさせて落ち着きを取り戻し、シアとティオの気配に気がついたハジメに、出歯亀の二人がキツイお仕置きをされた事は言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

ハジメさん達の覗きを行ったシアさんとティオさんのお仕置きの内容に不服しか感じません。何故なら

 

「シアとティオ、お前らは深月お手製の麻婆豆腐を食って寝ろ。そして覗くな」

 

「は、ハジメさん!それだけは赦して下さい!!お願いです!助けて下さい!!」

 

「シアよ、所詮は食べ物。何故そこまで恐れているのじゃ?」

 

「ティオさんは食べた事が無いからそんな事が言えるんですよ!」

 

「シアの言いたい事は分かるが、罰は罰だ。大人しくあの兵器に特攻して寝てろ」

 

ハジメさん、何故私のお手製麻婆豆腐が兵器扱いなのですか?いくらハジメさんといえど、言って良い事と悪い事はありますよ?少しばかり怒りました。限界を超えて作りましょう。そして、明日のハジメさん夕食は麻婆尽くしにして差し上げます

 

悟らせない様にハジメの罰を決めた深月だった。胃袋を掴んでいる者に対しての悪口は禁止という事をしっかりと学ぼう

深月は黙って厨房へと入って行き、慣れた手付きで麻婆豆腐擬きを作っていく。ほのかに香る香辛料の匂いは食欲をそそり、お腹を鳴らすシアとティオ。そして、二人の目の前に出されたそれは、グツグツと煮えたぎったマグマの様な代物だった

 

「・・・なんじゃこれは?」

 

「いやですぅ!死にたくない!死にたくないですぅ!!」

 

本当に食べ物かと疑うティオに、必死に命乞いをするシア

 

「失礼ですね。ちゃんとした食べ物ですよ?現に、私が食べているではありませんか」

 

シア達よりも多く盛られた麻婆豆腐をモッキュモッキュと何事も無い様に食べ進めている。因みに、ハジメは避難して皐月達と事(意味深)の続きをしている

 

「仕方がありませんね。シアさんには私が食べさせてあげましょう」

 

「ピィッ!?」

 

スプーンに盛った麻婆豆腐をシアに近づけるが、明後日の方向に向いて拒否する。少しして、深月の圧がシアだけに浴びさせられる

 

「食べないと―――――未処理の魔物肉を食べさせますよ?」

 

「・・・食べます」

 

流石に魔物肉を食べるのは嫌だったのか、渋々顔を向き直したシア。その瞬間、シアの口を掴んで口を開いてそこから麻婆豆腐を流し込んだ深月

 

「み、深月しゃ!?オブブボボボボボボッ!?」

 

シアはビクンッビクンッと体が跳ねて、グッタリとして動かなくなった

 

「さぁ、ティオさんもどうぞご堪能ください♪」

 

「い、いただくのじゃ」

 

ティオが一口麻婆豆腐を頬張る。それと同時に襲う衝撃。ハンマーを直接脳髄に叩き付けられたかの様な一撃は、ティオの意識を一瞬で奪い去った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はっ!?妾は何をしておった!?』

 

目を覚ましたティオの目の前には大きな川が流れており、対岸には年老いた二人が手を振っている

 

『あれは・・・死んだ叔父様と叔母様?何故この様なへんぴな場所に居るのじゃ?』

 

手を振る年老いた二人はだんだんと霧が掛かる様に薄れて行き―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――オさん。―――ィオさん―――――ティオさん」

 

「ハッ!?いかんいかん・・・川の向こうで死んだ筈の叔父様と叔母様が手を振っておった」

 

「大丈夫ですか?麻婆豆腐のお味をお伺いしたかったのですが・・・」

 

「麻婆豆腐?」

 

テーブルを見やると、未だにグツグツと煮えたぎっている物

 

「うっ!麻婆豆腐・・・頭が!?」

 

今まで感じた事の無い様な何かが体中を這いずる。顔は真っ青を通り越して白く、鳥肌が立ち、冷や汗がドパドパとあふれ出ている

 

「体調不良ですか?」

 

「・・・すまぬ、その様じゃ。せっかくの馳走を用意してくれたのに申し訳ないのじゃ。味が全く思い出せん」

 

「かしこまりました。ティオさんが食べていた物はこちらでどうにかしておきますので、ゆっくりと体をお休め下さい。シアさんは先にベッドの方へと運びましたので心配はしなくても大丈夫です」

 

「恩に着るのじゃ」

 

立ち上がり、フラフラとした足取りで寝室へと戻って行ったティオ。その背をジッと見つめながら、ティオが残した麻婆豆腐をモッキュモッキュと食べる深月

 

「とても美味で味が分からなかったのでしょうか?・・・次回は更に進化させた麻婆豆腐を食べさせましょう!」

 

こうして、次回には進化した麻婆豆腐を食べる事が決定したティオだった

 

「それにしても・・・フリートホーフですか。・・・翌日に早めの対処を致しましょう」

 

フリートホーフは知らず知らずの内に、チートメイドの深月の標的となってしまった。そして、この出来事でハジメと皐月が大きく変化する事を深月は知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「フリートホーフさんオワタ」
深月「人身売買組織は根絶やしにするのが一番です♪」
布団「それにしても・・・変態龍さんは大丈夫かねぇ?」
深月「大丈夫です!次回はもっと美味しくなった麻婆豆腐を食べてもらいますから!!」
布団「お、おう・・・」
深月「それにしても・・・告知無しでお話を投稿するなんて何を考えているんですか!」
布団「エイプリルフールじゃん?だからさ!」
深月「ま、まぁ・・・本編も投稿されたので何も文句はありませんよ?」
布団「これからも頑張る」
深月「体には気を付けて下さいね?」
布団「読者の皆様も体に気を付けてね!」


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メイドは変態を連れて殴り込みです

深月「投稿です。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」

















~皐月side~

 

「ふむ。それにしても、ご主人様、ユエよ。本当に良かったのか?」

 

「・・・敢えて突っ込まないけれど、シアの事かしら?」

 

「うむ。もしかすると今頃、色々進展しているかもしれんよ?二人が思う以上にの?」

 

「大丈夫よ。ハジメを想った行動なら良いし、ウザったいと思わなければ良いの」

 

「・・・シアはあれから一歩引いて全体を見ている」

 

「でも・・・昨日の覗きは良くなかったわ。ティオはそこの所分かっているのかしら?」

 

「あっふん!その冷たい眼差し堪らん!!」

 

冷めた目でティオを見る皐月。現在三人は買い出しという名の観光をしている。宝物庫に沢山の物資を保管しているので消費した分よりも、補充のペースの方が早いのだ。一体何処で補給しているのかというと、旅路でちょくちょく深月が手に入れているのだ。実はこの中には魔物肉も含まれているのだ

彼女等はブティックで展示品を品定めしており、三人しか居ないので腹を割って話をしているのだ

 

「私はハーレムを容認しているのよ」

 

「・・・正妻は皐月。・・・私は側室」

 

「ふむ。昨夜の様子から見るに・・・一人では体が保たないといった所かの?」

 

「そうなのよ・・・初めての時は死ぬかと思った位よ。深月が助けに入らなかったら危なかったわ」

 

「・・・もしもシアが入るなら嬉しい」

 

「そうよね~。そろそろ入ってくれると嬉しいわ」

 

「ん?なら何故昨夜の覗きについて怒ったのじゃ?」

 

「・・・恥ずかしいから」

 

「後は、ハジメがシアのハーレム入りを容認すれば良いだけよ」

 

「・・・妾も入れるかのう?」

 

「・・・変態は駄目」

 

「ユエ、逆に考えるのよ。例え入ったとしても、この変態にはお預けが一番なのよ」

 

生々しい話をしながらブティック鑑賞を済ませて外に出た直後

 

ドガシャン!!

 

「ぐへっ!!」

 

「ぷぎゃあ!!」

 

すぐ近くの建物の壁が破壊され、そこから二人の男が顔面で地面を削りながら悲鳴を上げて転がり出てきた。更に、同じ建物の窓を割りながら数人の男が同じように悲鳴を上げながらピンボールのように吹き飛ばされてくる。その建物の中からは壮絶な破壊音が響き渡っており、その度に建物が激震し外壁がひび割れ砕け落ちていく

建物は度重なるダメージを前に、とうとう自壊してしまった。野次馬が悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らす様に距離を取る中、皐月とユエとティオは聞き慣れた声と気配があった

 

「ああ、やっぱり三人の気配だったか・・・」

 

「あれ?皐月さんとユエさんとティオさん?どうしてこんな所に?」

 

「何をやっているのよ。・・・こんなド派手なデートが良かったの?」

 

「・・・それはこっちのセリフ・・・デートにしては過激すぎ」

 

「全くじゃのぉ~、で?ご主人様よ。今度は、どんなトラブルに巻き込まれたのじゃ?」

 

「あはは、私もこんなデートは想定していなかったんですが・・・成り行きで・・・ちょっと人身売買している組織の関連施設を潰し回っていまして・・・」

 

「何で潰そうと思ったのよ?何時もなら無関係を貫くのに・・・」

 

「・・・成り行きで裏の組織と喧嘩?」

 

皐月とユエは呆れた表情をして、ハジメに事情説明を求める

 

「実はな・・・」

 

ハジメ達がデートを開始。メアシュタットという水族館?を見て終わり、町を散策中に気配感知に何かが引っ掛かったのだ。常に気配感知を使っているから疑問に思うのだが、反応があったのは地下・・・下水道だった。気配も小さく弱い事から子供と分かり、シアに求められるがままその場所へ向かって拾ったのが三~四歳程の海人族子供だった。それから名前を聞いて、お風呂に入れて体を綺麗にして串焼きを食べさせて保安所に預けた。それだけなら良かったのだが・・・ハジメ達と離れたくなかったのか、駄々をこねて中々離れなかったが無理矢理預け終えてデートの続きとなった。しかし、事態は急展開を迎えた。保安所は爆破されて、海人族の女の子"ミュウ"が連れ去られてしまった。しかも、返して欲しいのならばシアを寄こせとの事らしく、現在進行形で潰して回っているという

 

「子供・・・ね。当たり前だけど、助けられたらヒーローみたいに思われるわよ。自分を守ってくれると思ったから離れたくなかったのでしょうね・・・」

 

「俺のわがままを聞いてくれるか?」

 

「良いわ。でも、これは時間との勝負になりそうね・・・問題行動にも発展する可能性も否めないから一度冒険者ギルドに行くわよ。何も言わずに破壊行為を行ったとすれば、後ろ盾も何もヘッタクレも無いわ」

 

「よし、急ぐぞ!」

 

ハジメ達は急ぎ冒険者ギルドへと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険者ギルドに急ぎ走ったハジメは、この事を直接イルワに話を通す為に直行する。ギルド職員もハジメ達が直接ギルド長に訪れる事を了承しているらしく、何も言わずにすんなりと部屋の前まで辿り着いた

 

「俺だ。ちょっと急用で来たんだが、今良いか?」

 

ノックして返答を待つと、今回は直ぐに扉が開き中へ招かれた。部屋の中に居たのは、イルワとドット、そして何故か深月が居たのだ。最初の二人については居るだろうと確信していたが、深月が居る事は予想外だったのか目を見開いて驚いていた

 

「どうして深月がここに居るんだ・・・」

 

「深月は一体どうしてここに居るのかしら?」

 

率直な疑問を深月に尋ねると、予想の斜め上を行く言葉だった

 

「お二人を交えてフリートホーフを駆除しても良いかと判断を仰いでいたのです」

 

「「「「フリートホーフ?」」」」

 

聞いた事の無い名前に疑問を浮かべるハジメ達

 

「フリートホーフは裏組織・・・人身売買をしている総元締をしている組織と言った方が良いかな?」

 

「シアさんを狙う可能性が特大の輩ですので駆除する為の許可を貰ったばかりなのです」

 

「いやぁ~、深月君にはとても助かるよ。このフリートホーフにはこちらも手をこまねいていてね・・・一斉に取り締まれないのが現状なんだよ」

 

「そうか」

 

「丁度良いわね」

 

「ん?シア君が狙われたのかい?」

 

「直接ではないがな」

 

ハジメは皐月達にした説明と同じ内容をイルワ達に話した

 

「海人族か・・・」

 

「オークションが始まってしまえば足取りが着かなくなる恐れがあります」

 

「私一人でも駆除できますが?」

 

深月が言うのであれば出来るのだろう。だが、大切な者に手を出した輩に何もせずに待つ事をしないのはありえない

 

「いや、俺達もそいつ等を潰す」

 

「こういう奴等は改心する事は絶対に無いわ。殺処分が一番良い解決方法ね」

 

「ミュウちゃんを絶対に助けます!」

 

「・・・二人がやるなら私もやる」

 

「妾も一緒にやるのじゃ」

 

ハジメ達も参加する事が決定した。深月は、イルワの机の上に広げられた地図に印を付ける

 

「私が印を付けた場所がフリートホーフの拠点達です。ただし、昨日の情報収集でこれだけしか集める事が出来ませんでしたので全てでは無いと思います」

 

「結構ありますね・・・」

 

「おーし、潰す。俺達の大切な者に手を出したんだ」

 

「誰一人容赦せずにド頭をぶち抜くわ。子供を食い物にするなんて許せないし」

 

「何かあったら念話しろよ?まぁ・・・無いとは思うがな」

 

ギルド長の部屋から踵を返し、二人三組で行動する事となった。ハジメとユエ、皐月とシア、深月とティオで組み、各組が拠点を潰して回る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

商業区の外壁に近く、薄暗く、道行く人々もどこか陰気な雰囲気を放つ場所。その一角の七階建ての大きな建物、表向きは人材派遣を商いとしているが、裏では人身売買の総元締をしている裏組織"フリートホーフ"の本拠地で騒然とした雰囲気で激しく人が出入りしていた

 

「ふざんけてんじゃねぇぞ!アァ!?てめぇ、もう一度言ってみやがれ!」

 

「ひぃ!で、ですから、潰されたアジトは既に五十軒を超えました。襲ってきてるのは二人組が三組です!」

 

「じゃあ、何か?たった六人のクソ共にフリートホーフがいいように殺られてるってのか?あぁ?」

 

「そ、そうなりまッへぶ!?」

 

室内で怒鳴り声が響き、ドガッ!と何かがぶつかる音がして一瞬静かになる。どうやら報告していた男が、怒鳴っていた男に殴り倒されでもした様だ

 

「てめぇら、何としてでも、そのクソ共を生きて俺の前に連れて来い。生きてさえいれば状態は問わねぇ。このままじゃあ、フリートホーフのメンツは丸潰れだ。そいつらに生きたまま地獄を見せて、見せしめにする必要がある。連れてきたヤツには、報酬に五百万ルタを即金で出してやる!一人につき、だ!全ての構成員に伝えろ!」

 

男の号令と共に、室内が慌ただしくなり男の指示通り、組織の構成員全員に伝令する為部屋から出ていこうとしたが

 

ドガガガガガガガガガガガガ!

 

建物の屋上から何かが降り注ぎ、構成員に伝令する為に部屋から出ようとした者達全てが肉片となった。いきなりの光景に目が点となるフリートホーフの頭、ハンセン。そして、ヒュンッと一瞬だけ聞こえた何かを引っ張る音を皮切りに男の周りの建物が切断された

 

「何だこれはああああああ!」

 

切断して崩れた周りに続く様に、ハンセンが立っていた場所も崩れ落ちた。何とか生き残った男の目の前に居たのは二人―――――深月とティオの二人だった

 

「・・・てめぇら、例の襲撃者の一味か・・・その容姿・・・チッ、リストに上がっていた奴らじゃねぇか。深月にティオだったか?あと、ハジメと皐月とユエとシアかいうやつらも居たな・・・成程見た目は極上だ。おい、今すぐ投降するなら、命だけは助けてやるぞ?まさか、フリートホーフの本拠地に手を出して生きて帰れるとは思ってッ!?『ヒュンッ!』グギャアアア!!!」

 

好色そうな眼で深月とティオを見ながらペチャクチャと話し始めたハンセンの指が一本切断された

 

「生き残りは貴方だけですのでどうする事も出来ませんよ?」

 

「バカな事を言ってんじゃ――――」

 

「後ろを見るんじゃな」

 

「後ろだ・・・と・・・」

 

ハンセンが後ろへと振り返ると、首吊り死体が沢山出来上がっていた。深月の魔力糸超便利である

建物に入ろうとした構成員の殆どを捕まえて、情報を聞き出した後に魔力糸で首を吊ったのだ。目に入る沢山の首吊り死体に驚愕して言葉も出ないハンセン

 

「本当に裏組織の構成員かと疑いましたよ?全く教育が出来ていませんね。組織の拠点が潰されている程度で狼狽えて、本部まで案内とは・・・本当に組織の一員という自覚があるのでしょうか」

 

ヤレヤレと残念そうに溜息を吐いてつい独り言が漏れる

 

「本当の裏組織の者は一般人と何ら遜色ない装いと仕草で連絡をするものですよ?一つの日常の動作、例えるなら手洗いの洗濯が良いですね。洗いをしながら瞬きの間隔と数で連絡が出来ます。貴方方の組織とは、子供でも思いつくお遊びのそれと同義です」

 

この場に居るティオとハンセンは心の内で「そんな事あるか!」と叫びたいが、深月の用意周到さと無慈悲な攻撃を見た後なら何も言えない程だ。まるで、本当に体験したかの様な言い草だから

 

「た、たのむ。助けてくれぇ!金なら好きに持って行っていい!もう、お前らに関わったりもしない!だから助けてぐぎゃああああああああ!!」

 

「私が何時、その口を開いて良いと言いましたか?貴方に残された選択肢は、黙って私に情報をもたらす事だけですよ」

 

手首から先を切り落とす深月。その目は無機質で、作業をこなすだけの機械的なものだった。あまりの不気味さと今まで味わった事の無い言い知れぬ感覚に襲われ、ハンセンは自分の命惜しさにペラペラと自白していった

 

"こちら深月です。フリートホーフの本拠地をたった今壊滅させました。頭が言うには観光区の近くにあるそうです。門番に黒服を着た巨漢が居るので目印には丁度良いかと思われます"

 

"観光区は私とシアが近くに居るから向かうわ。ハジメ達は残りの拠点を全て潰して回ってね"

 

"情報ありがとうございます!皐月さんと向かいます!"

 

"真正面から行くなよ?絶対に皐月に従って行動しろ。見つかりでもしたら移送される可能性があるんだからな"

 

"了解ですぅ!"

 

念話で連絡を取り終え、ハンセンへと向き直る深月。ハンセンは出血多量で顔を青くしており、意識が朦朧とし始めている

 

「た、助け・・・医者を・・・」

 

「将来性のある子供達を食い物として、さぞ懐が温かくなったのでしょう?今は出血多量で体中が寒くなってきているので、温めて差し上げましょう」

 

熱量操作でハンセンの体を温める深月。だが、ハンセンは更なる恐怖を魂に刻み込まれる事となる

 

「な、なぁ。熱いんだ・・・もう温めなくても・・・」

 

「この世界には電子レンジが無いので理解できないのでしょうが、そんな貴方にも解りやすく説明してあげましょう。人体は殆どが水分で出来ています。それが蒸発すればどうなるか・・・とても簡単です♪体が破裂するだけですから」

 

熱量を更に上げて、電子レンジの要領で温めていく

 

「あっぎああああああああああああああ!やめでぐれえええええええええ!」

 

ボコボコと徐々に体が膨れ上がる怪奇な光景と、自分の体を焼く熱に絶叫が漏れる

 

「貴方方は今までやめてくれと言った子供達に対して何かしましたか?何もしていませんよね?ですので、その罰が回ってきたという事ですよ」

 

熱量を一気に上げた深月。ハンセンの体は一気に膨張して破裂、大量の血と内臓が至る所に飛び散る光景は絶対に見ない光景だろう。血を浴びない様に魔力糸で壁を創った事で、ティオは汚れる事は無かった。深月はハンセンを掴んでいた右腕だけが真っ赤に濡れていた

 

「・・・深月よ。妾にはあの様な事は・・・」

 

「しませんよ?」

 

「ホッ・・・」

 

「敵に回らなければですがね?」

 

「絶対に敵にはならないのじゃ!」

 

その後、深月は清潔で綺麗サッパリにしてハジメ達に合流した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

深月からオークション会場の様相を聞いた皐月とシアは遂に目的の場所へと到着。深月からもたらされた情報通りで、黒服を着た巨漢が門番をしていた

 

「シアこっちに来なさい」

 

「気配を殺して入らないんですか?」

 

「深月みたいに溶け込ませる事が出来るの?」

 

「無理です」

 

「時間が押しているから錬成で地下へと潜るから静かにしててよ?」

 

裏路地に移動して、誰にもバレない様に錬成で地下へと侵入した。気配遮断を駆使して素早く移動して行くと、地下深くに無数の牢獄を見つけた。入口に監視が一人おり居眠りをしており、首の骨をへし折って絶命させた

 

「あ、あの~・・・殺さなくてもいいのでは?」

 

「お花畑はそこまでにしておきなさい。この先に囚われている子供達の事を考慮すれば騒ぎ出す可能性は否めないわ」

 

「成程、確かにそうかもしれないですね」

 

中に入ると、人間の子供達が十人程いて、冷たい石畳の上で身を寄せ合って蹲っていた。皐月は突然入ってきた人影に怯える子供達と鉄格子越しに屈んで視線を合わせると、静かな声音で尋ねた

 

「ここに、海人族の女の子は来なかった?」

 

未だに戸惑う子供達。沈黙をしていた子供達だが、皐月の傍に珍しい兎人族が居た事で助けに来てくれたと思い込んだ様だ。すると、七、八歳くらいの少年がミュウの事を知っていたのか、皐月達に情報をもたらしてくれた

 

「えっと、海人族の子なら少し前に連れて行かれたんだ」

 

「成程。・・・シアはこの子達を頼むわ」

 

「わ、私が行きたいです!」

 

「人質として掴まれたらどうする事も出来ないでしょ!適材適所、この子達もミュウちゃん?と同じ境遇の子なのだからしっかりと守りなさい」

 

「うぅ~、わかりました。ミュウちゃんをお願いします!」

 

「それじゃあ行ってくるわ」

 

皐月は錬成で地上までの道を創り、シアに子供達を任せてオークション会場へと急ごうとした時、先ほどの少年が皐月を呼び止める

 

「姉ちゃん!助けてくれてありがとう!あの子も絶対助けてやってくれよ!すっげー怯えてたんだ。俺、なんも出来なくて・・・」

 

この男の子は亜人族差別をしない心優しい少年なのだろう。自分の無力に悔しそうに俯く少年の頭を、皐月は優しく撫でる

 

「わっ、な、なに?」

 

「男の子が悔しいと感じたなら強くなれば良いのよ。少なくとも、私の好きな人は無力だと思い込んでいた殻を破って強くなったわ。今回は私がするけど、もしも、今回と同じ様な事が起きたら強くなった貴方が止めればいいのよ。男の子なんだから頑張りなさい」

 

それだけ言って、皐月は踵を返してオークション会場へと向かった。撫でられた頭を両手で抑えていた少年は、何かを決意したかの表情でグッと握り拳を握った。シアは、その少年の姿を見て微笑ましげな眼差しを向け、子供達を連れて地上へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オークション会場は、一種異様な雰囲気に包まれていた。会場に居る客の誰もが奇妙な仮面をつけており、物音一つ立てずに、ただ目当ての商品が出てくるたびに番号札を静かに上げるのだ。素性をバラしたくないが為に、声を出すことも躊躇われるのだろう

そんな彼等ですら、その商品が出てきた瞬間、思わず驚愕の声を漏らした。出てきたのは、ハジメ達が探している海人族の幼女のミュウだった。二メートル四方の水槽に入れられ、衣服も剥ぎ取られ裸で入れられて水槽の隅で膝を抱えて縮こまっており、手足に付けられた拘束具は痛々しい光景だ。多くの視線を向けられ怯えるミュウを尻目に競りは進んでいく。ざわつく会場に、ますます縮こまるミュウは、その手に持っていた黒い布をギュッと握り締めた。それは、ハジメの眼帯だった。ミュウと別れる際、ミュウを宥めることに忙しくてすっかりその存在を忘れていたハジメは、後になって思い出し、現在は予備の眼帯を着けている

母親と引き離され、ずっと孤独と恐怖に耐えてきたミュウは、ハジメ達を遠く離れた場所で出会った優しいお兄ちゃんとお姉ちゃんと思っていた。故に、保安署に預けられる事で、再び孤独になるかもしれないと思うと耐え難かったのだ。ミュウは全力で抗議した。ハジメの髪を引っ張ってやったし、頬を何度も叩いたし、目に付けた黒い布だって取って、返して欲しくばミュウと一緒にいるがいい!と。しかし、ミュウが一緒にいたかったお兄ちゃんとお姉ちゃんは、結局、ミュウを置いて行ってしまった

 

「お兄ちゃん・・・お姉ちゃん・・・」

 

もう会えないと分かっていても、縋らずにはいられない。ミュウが呟いたとき、不意に大きな音と共に水槽に衝撃が走った。すると、すぐ近くにタキシードを着て仮面をつけた男が、しきりに何か怒鳴りつけながら水槽を蹴っていた

 

「全く、辛気臭いガキですね。人間様の手を煩わせているんじゃありませんよ。半端者の能無しのごときが!」

 

震えて縮こまっていたミュウに痺れを切らしたのか、司会の男が脚立に登り上から棒をミュウ目掛けて突き降ろそうとして、その光景にミュウはギュウと目を瞑り、衝撃に備えた

 

「そのセリフ、そっくりそのまま返すわよ?屑男」

 

聞いた事の無い声。だが、凛とした温かい声はどこか懐かしさを思い出させた。声の聞こえた天井を見上げると、人影が舞い降りて司会の男を踏み潰した。衝撃的な登場をした皐月は、踏み潰した男に目もくれない

 

「さぁ、ここから出ましょう?私がお兄ちゃんとお姉ちゃんにもう一度会わせてあげるわ」

 

義手で水槽を砕き、破砕音と共に水槽が壊され中の水が流れ出す

 

「ひゃう!」

 

流れの勢いでミュウも外へと放り出されたが、皐月が優しく抱きかかえる事で怪我一つ無い

 

「さぁ~てと、一緒にこんなジメジメした薄暗い場所から出ましょうね?」

 

「・・・お兄ちゃんとお姉ちゃんにまた会える?」

 

「会えるわよ。私は二人の仲間なの。保安署でミュウちゃんが居なくなったからとても心配していたわよ」

 

「・・・うん」

 

「それってお兄ちゃんが付けていたやつだよね?」

 

「・・・うん」

 

「一緒に返そうね?」

 

「うん!」

 

ミュウは、皐月に抱きついてひっぐひっぐと嗚咽を漏らし始めた。子供をあやす様にミュウの背中をポンポンと叩き、道中で拝借してきた新品の毛布にくるんだ。と、二人に水を差す様に、ドタドタと黒服を着た男達が皐月とミュウを取り囲んだ。客席は、どうせ逃げられる筈が無いとでも思っているのか、ざわついてはいるものの、未だ逃げ出す様子はない

 

「クソアマ、フリートホーフに手を出すとは相当頭が悪いようだな。その商品を置いていくなら、苦しまずに殺してやるぞ?」

 

「はぁ、頭が悪いのはどちらの方か分からない様ね。ミュウちゃん、目を瞑って耳を塞いでちょうだい。私が良いと言うまでは開けたり離したりしちゃ駄目よ?」

 

「はいなの!」

 

皐月の言葉を素直に聞いて、両手で耳を塞いで目を閉じて胸元にギュッと顔を埋めた

 

「商品に傷をつけるな!ガキは殺せ!」

 

ドパンッ!

 

乾いた炸裂音を立てて、命令を出したリーダー格の黒服の頭部が爆ぜた。この会場に居る全ての者が「えっ?」と事態を理解できないように目を丸くして後頭部から脳髄を撒き散らして崩れ落ちる黒服を見つめる。皐月はそんな事はお構い無しに次々と発砲して、彼等が正気を取り戻す頃には十二体の頭部を爆ぜさせた死体が出来上がった

ようやく皐月の恐ろしさを知ったのか、黒服たちは後退り、客達は悲鳴を上げて我先にと出口に殺到し始めた

 

「お、お前、何者なんだ!何が、何で・・・こんなっ!」

 

「未来ある子供を食い物にして生きている貴方達がそれを言うの?まぁ本当は無視しても良かったのだけれど、私達の大事な仲間に手を出した事が全ての間違いなのよ。・・・私達が手を出すまでもなく壊滅していたのは間違いないけれどね?後は、見せしめを兼ねているのよ」

 

空力を使って、ホールの天井まで上がって行き、いつの間にか空いていた穴に飛び込んでそのまま建物の外まで空いた穴を通って地上へと出た皐月は念話で合図を送る

 

"無事にミュウちゃんを確保したわ。怪我一つ無いから安心してね?そっちはどう?"

 

"・・・ん。・・・今準備が出来た"

 

"建物からお客さんがワラワラと出てきています!"

 

"んじゃあ、フィナーレといくか"

 

皐月とのお約束を律義に守っているミュウは「もういいわよ、ミュウちゃん」という言葉に目をパチクリさせながら周囲を見渡し・・・「ふわっ!?」という驚きの声を上げた

 

「お姉ちゃん凄いの!お空飛んでるの!」

 

「正確には跳んでるんだけど・・・まぁいいか。それより、ミュウちゃん、もう少しで派手な爆発が見れるわよ?」

 

「爆発?」

 

「そろそろね。・・・耳を少しの間だけ塞いでてね?大きい音が鳴り響くから」

 

「はいなの!」

 

耳を塞ぐミュウ。遅れる様に、至る所が爆発して裏オークションの会場となっていた場所も木っ端微塵に粉砕されていった

 

「・・・やり過ぎね。後でお説教が必要かしら」

 

「爆発コワイ」

 

「やっぱり爆発は怖いわよね。でも、最後のは綺麗だと思うわ」

 

「さいご?」

 

すると、少し離れた場所で空に突然暗雲が立ち込め始めた。そして、雷鳴の咆吼と共に、四体の"雷龍"が出現して取り残していたフリートホーフの重要拠点四ヶ所に、雷鳴を轟かせながら同時に落ちたのだった

 

「それじゃあ、お兄ちゃん達に会いに行こっか!」

 

「うん!」

 

ハジメ達は冒険者ギルドに集まっており、皐月とミュウの帰りを待っていた。皐月はミュウとお話ししながら、ゆっくりと冒険者ギルドへと向かったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「倒壊した建物二十二棟、半壊した建物四十四棟、消滅した建物五棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員百八十名、行方不明者百十九名・・・で?何か言い訳はあるかい?」

 

「町が綺麗になって良かったわ」

 

「はぁ~~~~~~~~~」

 

冒険者ギルドの応接室で、報告書片手にジト目でハジメ達を睨むイルワだったが、出された茶菓子を膝に載せた海人族の幼女と分け合いながらモリモリ食べている姿と反省の欠片もない言葉に激しく脱力する

 

「まさかと思うけど・・・メアシュタットの水槽やら壁やらを破壊して少女が空を飛んで逃げたという話・・・関係ないよね?」

 

「ミュウ、これも美味いわよ?食べてみる?」

 

「あ~ん」

 

やり過ぎ具合にそれはもうとても深い溜息を吐いて、片手が自然と胃の辺りを撫でさすり、深月お手製の胃薬がさり気なく渡されている

 

「まぁ、やりすぎ感は否めないけど、私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね・・・今回の件は正直助かったといえば助かったとも言える。彼等は明確な証拠を残さず、表向きはまっとうな商売をしているし、仮に違法な現場を検挙してもトカゲの尻尾切りでね・・・はっきりいって彼等の根絶なんて夢物語というのが現状だった・・・ただ、これで裏世界の均衡が大きく崩れたからね・・・はぁ、保安局と連携して冒険者も色々大変になりそうだよ」

 

「まぁ、元々、其の辺はフューレンの行政が何とかするところだろ。今回は、たまたま身内にまで手を出されそうだったから、反撃したまでだし・・・」

 

「唯の反撃で、フューレンにおける裏世界三大組織の一つを半日で殲滅かい?ホント、洒落にならないね」

 

「一応、そういう犯罪者集団が二度と俺達に手を出さない様に、見せしめを兼ねて盛大にやったんだ。支部長も、俺等の名前使ってくれて良いんだぞ?何なら、支部長お抱えの"金"だって事にすれば・・・相当抑止力になるんじゃないか?」

 

「おや、良いのかい?それは凄く助かるのだけど・・・そういう利用される様なのは嫌うタイプだろう?」

 

「持ちつ持たれつ。そちらのお世話になるのだから、それ位は大丈夫よ。はい、あ~ん♪」

 

「あ~ん♪」

 

「・・・まぁ利用するにしても、ギルド長なら匙加減も分かっているだろ?俺等のせいで、フューレンで裏組織の戦争が起きました、一般人が巻き込まれましたってのは気分悪いしな」

 

「・・・ふむ。ハジメ君と皐月君、少し変わったかい?初めて会った時の君達は、仲間の事以外どうでもいいと考えている様に見えたのだけど・・・ウルで良い事でもあったのかな?」

 

「・・・まぁ、俺等的には悪いことばかりじゃなかったよ」

 

「最も、深月君に関しては全くもって変わっていないけどね!でも、主を守るメイドさんだから仕方がないよね!こんなに気遣いが出来る人材が私も欲しいよ」

 

「恐縮です」

 

因みに、ハジメ達がした行いは何も残りの裏世界の二大組織の抑止力だけではないのだ。実は皐月なのだが、顧客名簿やその他重要書類などを全て拝借してギルド長へと渡したのだ。利用していた腐った貴族達は軒並み粛清されて、平民に落ちたのは言うまでもない

そして、何よりも問題なのはミュウの扱いについてだった

 

「それで、そのミュウ君についてだけど・・・」

 

イルワがはむはむとクッキーを両手で持ってリスのように食べているミュウに視線を向ける。ビクッと反応して皐月に抱きつくミュウ。恐らく再び引き離されてしまうと感じたのだろう

 

「こちらで預かって、正規の手続きでエリセンに送還するか、君達に預けて依頼という形で送還してもらうか・・・二つの方法がある。君達はどっちがいいかな?」

 

誘拐された海人族の子供。本来ならば公的機関に預けるのだが、今回の様な事件があったので迷っているのだ。本音としては、フリートホーフを殲滅したハジメ達の傍に置いた方が安全なので任せたい。しかし、彼等も目的があって旅をしているので強制は出来ないのだ。だから、ハジメ達自身で決めてもらおうと提案したのだった

 

「ハジメさん、皐月さん・・・私、絶対、この子を守ってみせます。だから、一緒に・・・お願いします」

 

「・・・私もおねがい」

 

ユエとシアのお願いに沈黙するハジメと皐月だが

 

「お兄ちゃん、お姉ちゃん・・・一緒・・・め?」

 

皐月の膝の上から上目遣いでのお願いは反則である。というより、ミュウを取り返すと決めた時点で本人の自由意思にさせようと考えていたので答えは既に決まっている

 

「まぁ、最初からそうするつもりで助けたからな・・・ここまで情を抱かせておいて、はいさよならなんて真似は流石にしねぇよ」

 

「問題は山積みだけど、どうにかするしかないわね。何より、こんなに幼い子が母親と離れ離れというのは可哀想なのよね」

 

「ハジメさん!皐月さん!」

 

「お兄ちゃん!お姉ちゃん!」

 

満面の笑みで喜びを表にするシアとミュウ。問題としては【海上の都市エリセン】に行く前に【大火山】の大迷宮を攻略しなければならないだ。追々でどうにかするしかないなと覚悟を決めてミュウの同行を許すのだった

 

「ただな、ミュウ。そのお兄ちゃんってのは止めてくれないか?普通にハジメでいい。何というかむず痒いんだよ、その呼び方」

 

喜びを露にするミュウ。だが、オタクのハジメは"お兄ちゃん"呼びに色々と何かクルものがあったのか、変更を求める

 

「お兄ちゃんで良いじゃない。あ、そういえば私達の名前を教えていなかったわね。私は高坂皐月よ。そして、あそこに居るメイドが神楽深月、私専属のメイドなのよ?」

 

「・・・私の名前はユエ」

 

「皐月お姉ちゃん?深月お姉ちゃん?ユエお姉ちゃん?」

 

「よく言えました!えらいえらい♪」

 

ミュウの頭をナデナデする皐月。だが、ここでとんでもない爆弾が投下される

 

「ん~・・・ママ!」

 

『   』

 

この場に居る全員が固まった。皐月も予想の遥か斜め上の呼び方に固まっている

 

「ふっ、一児の母親になったな・・・皐月」

 

「お兄ちゃんはパパなの!」

 

『   』

 

再び全員が固まった

 

「・・・・・な、何だって?悪い、ミュウ。よく聞こえなかったんだ。もう一度頼む」

 

「パパ」

 

「・・・そ、それはあれか?海人族の言葉で"お兄ちゃん"とか"ハジメ"という意味か?」

 

「ううん。パパはパパなの」

 

「うん、ちょっと待とうか」

 

ハジメと皐月が目元を手で押さえ揉みほぐしている内に、シアがおずおずとミュウに何故"パパ"なのか聞いてみる

 

「ミュウね、パパいないの・・・ミュウが生まれる前に神様のところにいっちゃったの・・・キーちゃんにもルーちゃんにもミーちゃんにもいるのにミュウにはいないの・・・だからお兄ちゃんがパパなの」

 

「待って!それだとどうして皐月さんがママなんですか!?」

 

「う~んとね。ママは、ミュウのママにそっくりなの」

 

「いやいやいや!?皐月さんそっくりってどれだけ似ているんですか!?」

 

「えっとね?ミュウのママみたいに声が温かいの!それでね?ミュウのママみたいに優しいからママは、ママなの!」

 

「何となくわかったが、何が"だから"何だとツッコミたい。ミュウ。頼むからパパは勘弁してくれ。俺は、まだ十七なんだぞ?」

 

「やっ、パパなの!」

 

「わかった。もうお兄ちゃんでいい!贅沢はいわないからパパは止めてくれ!」

 

「やっーー!!パパはミュウのパパなのー!」

 

ハジメは必死に抵抗するが、皐月に止められる

 

「もう諦めましょう。子供は何時だって強いのよ」

 

「諦めるなよ皐月!?」

 

結局撤回する事は出来なかった。イルワ達の話を終えて宿に戻ってから、自分達もママと呼ばれたいと感じたユエとシアとティオの三人はママ呼びをお願いするも、結局、"ママ"は本物のママと皐月しか駄目らしく、ユエもシアも一応ティオも"お姉ちゃん"で落ち着いた。因みに深月も"お姉ちゃん"呼びで決定している。そして夜、ミュウたっての希望で全員で川の字になって眠る事になり、ハジメと皐月の間でミュウが眠る形で落ち着いたのだった

この日、ハジメと皐月は十七歳でパパとママになった・・・これより子連れの旅が始まる!

 

 

 

 

 

 




布団「お嬢様は子供に弱かったね」
深月「そうですね」
布団「それにしても・・・フリートホーフの頭ぇ・・・」
深月「何か問題でもありましたか?」
布団「いや・・・掃除が大変そうだな~と」
深月「掃除はお手伝いしましたよ?」
布団「アッ・・・ウン・・・ワカッタ」
深月「お嬢様がミュウさんの第二のママとなりましたか。・・・伏線回収しましたね」
布団「オ、オウ・・・意味深回で伏線張ったからね」
深月「では、次回にご期待ください!」


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メイドは居ません。クラスメイトsideですから 3

布団「今回はメイドさんは出ません。クラスメイト側のお話で、原作とほぼ同じ内容だから端折っている所があります。では、どうぞ!」







薄暗い地下迷宮では、激しい剣戟と爆音が響き渡る。苛烈さを増す戦闘は迷宮の壁が振動する程だ。剣線や、曲線を描いて飛び交う炎弾や炎槍、風刃や水のレーザーはまるで弾幕だ

 

「万象切り裂く光 吹きすさぶ断絶の風 舞い散る百花の如く渦巻き 光嵐となりて敵を刻め! "天翔裂破"!」

 

聖剣片手に自分を中心に光の刃を無数に放つ天之河。襲い掛かろうとしていた蝙蝠型の魔物達は細切れにされ、肉片となって地に落ちる

 

「前衛!カウント、十!」

 

「「「了解!」」」

 

彼らが居る場所はオルクス迷宮の八十九層。前衛を担当する天之河、坂上、八重樫、永山、檜山、近藤に、後衛からタイミングを合わせた魔法による総攻撃の発動カウントが告げられたのだ。後衛組に襲い掛かろうとする魔物達は、彼らの攻撃で打倒されていく。時々その攻撃を掻い潜って後衛組に突撃する魔物が居るが、結界師の谷口によって防がれる

 

「刹那の嵐よ 見えざる盾よ 荒れ狂え 吹き抜けろ 渦巻いて 全てを阻め "爆嵐壁"!」

 

攻撃性を持った防壁が、突撃してくる魔物達をグシャグシャにして絶命させる

 

「ふふん!そう簡単には通さないんだからね!」

 

谷口が得意気な声を出す

 

「後退!」

 

天之河の号令と共に、前衛組が一気に後退して魔物から距離を取る。次の瞬間、完璧なタイミングで後衛六人の攻撃魔法が発動。巨大な火球が魔物達に着弾して大爆発を引き起こし、刃を持った竜巻が魔物を飲み込みながら切り刻む。足元から射出される石の槍が魔物を串刺しに、氷柱の豪雨が上方より魔物の肉体に穴を穿つ

 

「よし!いいぞ!残りを一気に片付ける!」

 

九割近い魔物が倒され、残りは殆ど瀕死の重傷を負っている。天之河達前衛組が再び前に飛び出していき、残った魔物を駆逐していった

 

「ふぅ、次で九十層か・・・この階層の魔物も難なく倒せるようになったし・・・迷宮での実戦訓練ももう直ぐ終わりだな」

 

「だからって、気を抜いちゃダメよ。この先にどんな魔物やトラップがあるかわかったものじゃないんだから」

 

「雫は心配しすぎってぇもんだろ?俺等ぁ、今まで誰も到達したことのない階層で余裕持って戦えてんだぜ?何が来たって蹴散らしてやんよ!それこそ魔人族が来てもな!」

 

感慨深そうに呟く天之河に八重樫が注意するも、脳筋の坂上が豪快に笑いながら慢心をしており、天之河と拳を付き合わせて不敵な笑みを浮かべ合っている。八重樫はその様子に溜息を吐きながら、眉間の皺を揉みほぐしていた

 

「檜山君、近藤君、これで治ったと思うけど・・・どう?」

 

内心では嫌々だが、治癒師としての役割をしっかりとこなす白崎

 

「・・・ああ、もう何ともない。サンキュ、白崎」

 

「お、おう、平気だぜ。あんがとな」

 

二人にお礼を言われて、「どういたしまして」と当たり障りのない返事を返して奥へと続く薄暗い通路を憂いを帯びた瞳で見つめ始めた

 

「・・・・・」

 

未だにハジメの痕跡を見つける事が出来ておらず、強い決意であっても、暗い思考に侵食され始めるには十分な時間だ。そんな白崎に八重樫が声を掛けようとする前に、ムードメーカーの谷口が背後から抱きつく

 

「カッオリ~ン!!そんな野郎共じゃなくて、鈴を癒して~!ぬっとりねっとりと癒して~」

 

「ひゃわ!鈴ちゃん!どこ触ってるの!っていうか、鈴ちゃんは怪我してないでしょ!」

 

「してるよぉ!鈴のガラスのハートが傷ついてるよぉ!だから甘やかして!具体的には、そのカオリンのおっぱおで!」

 

「お、おっぱ・・・ダメだってば!あっ、こら!やんっ!雫ちゃん、助けてぇ!」

 

「ハァハァ、ええのんか?ここがええのんか?お嬢ちゃん、中々にびんかッへぶ!?」

 

「・・・はぁ、いい加減にしなさい、鈴。男子共が立てなくなってるでしょが・・・たってるせいで・・・」

 

八重樫のチョップを頭上に落とされてタンコブを作ってピクピクと痙攣している谷口を、中村が苦笑いしながら介抱する

 

「うぅ~、ありがとう、雫ちゃん。恥ずかしかったよぉ・・・」

 

「よしよし、もう大丈夫。変態は私が退治したからね?」

 

涙目で縋り付く白崎を、八重樫が頭を撫でて癒す

 

「あと十層よ。・・・頑張りましょう、香織」

 

「うん。ありがとう、雫ちゃん」

 

八重樫の気遣いが、自身を支えている事に改めて実感し、瞳に込めた力をフッと抜くと目元を和らげて微笑み、感謝の意を伝える

 

「今なら・・・守れるかな?」

 

「そうね・・・きっと守れるわ。あの頃とは違うもの・・・レベルだって既にメルド団長達を超えているし・・・でも、ふふ、もしかしたら彼等の方が強くなっているかもしれないわね?あの時だって、結局、私達が助けてもらったのだし」

 

「ふふ、もう・・・雫ちゃんったら・・・」

 

ハジメ達の生存を信じる白崎と八重樫。八重樫の冗談めいた言葉だが、これは的を射ており、後に色んな意味で度肝を抜かれるのだが・・・その事を知るのはもう少し先の話である

現在この場に居るのは、天之河、白崎、八重樫、坂上、谷口、中村、永山を含める五人及び檜山達四人の十五人の面子である。メルド達は七十層で待機している。実は、三十層と七十層をつなぐ転移魔法陣が発見され、深層への行き来が楽になったのだ。しかし、メルド達のステータスでは七十層より下の階層は限界だったのだ。元々、六十層を越えた付近で、天之河達に付き合える団員はメルドを含めて僅か数人だったからである

メルドは天之河達に迷宮でのノウハウを既に教えきっていた事もあったので、自分達は転移陣の周囲で安全地帯の確保に努める事にしたのだ。たったの四か月程度で自身を超えられた事に苦笑いを浮かべていたが、天之河達と付き合う事で、七十階層でも安全を確保出来る程の実力を自分達も付けられた事に喜んでいた

因みに、現在の天之河達のステータスはこんな感じである

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:72

天職:勇者

筋力:880

体力:880

耐性:880

敏捷:880

魔力:880

魔耐:880

技能:全属性適正[+光属性効果上昇][+発動速度上昇] 全属性耐性[+光属性効果上昇] 物理耐性[+治癒力上昇][+衝撃緩和] 複合魔法 剣術 剛力 縮地 先読 高速魔力回復 気配感知 魔力感知 限界突破 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

坂上龍太郎 17歳 男 レベル:72

天職:拳士

筋力:820

体力:820

耐性:680

敏捷:550

魔力:280

魔耐:280

技能:格闘術[+身体強化][+部分強化][+集中強化][+浸透破壊] 縮地 物理耐性[+金剛] 全属性耐性 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

八重樫雫 17歳 女 レベル:72

天職:剣士

筋力:450

体力:560

耐性:320

敏捷:1110

魔力:380

魔耐:380

技能:剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇] 縮地[+重縮地][+震脚][+無拍子] 先読 気配感知 隠業[+幻撃] 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

白崎香織 17歳 女 レベル:72

天職:治癒師

筋力:280

体力:460

耐性:360

敏捷:380

魔力:1380

魔耐:1380

技能:回復魔法[+効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動] 光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動] 高速魔力回復[+瞑想] 言語理解

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

白崎に関しては、回復魔法と光属性魔法が極まっていた。特に回復魔法に関してはすさまじいの一言。これ程までに成長したのは寝る間も惜しんで、ひたすら自分の出来ることを愚直に繰り返してきた結果なのだ

 

「そろそろ、出発したいんだけど・・・いいか?」

 

天之河達は、白崎と八重樫を促して探索を開始する。九割探索し終え、残りの場所を探索すると一行は階段を発見した。トラップの有無を確かめながら慎重に薄暗い螺旋階段を降りていき、遂に九十階層まで到着した

警戒しながらゆっくりと探索を始める一行だが、少しして違和感を感じた

 

「・・・どうなってる?」

 

「・・・何で、これだけ探索しているのに唯の一体も魔物に遭遇しないんだ?」

 

天之河達が探索し始めてから約三時間、魔物が一体も姿を現さないのだ。いくら何でもおかしいと感じ始めた一行

 

「・・・なんつぅか、不気味だな。最初からいなかったのか?」

 

「・・・光輝。一度、戻らない?何だか嫌な予感がするわ。メルド団長達なら、こういう事態も何か知っているかもしれないし」

 

「大丈夫だ雫。今の俺達ならこの程度異常だろうと乗り越えられる!」

 

「光輝の言う通りだぜ。確かに不気味だが、今の俺達なら問題ないぜ!」

 

「・・・はぁ、分かったわよ。でも、何かしら見つけたら撤退しましょう。無計画で進むには危険すぎるわ」

 

すると、辺りを観察していたメンバーの何人かが何かを見つけた様だ

 

「これ・・・血・・・だよな?」

 

「薄暗いし壁の色と同化してるから分かりづらいけど・・・あちこち付いているよ」

 

「おいおい・・・これ・・・結構な量なんじゃ・・・」

 

青ざめるメンバーの中から永山が進み出て、血と思しき液体に指を這わせて指に付着した血をすり合わせたり、臭いを嗅いだりして詳しく確認する

 

「天之河・・・八重樫の提案に従った方がいい・・・これは魔物の血だ。それも真新しい」

 

「そりゃあ、魔物の血があるって事は、この辺りの魔物は全て殺されたって事だろうし、それだけ強力な魔物がいるって事だろうけど・・・いずれにしろ倒さなきゃ前に進めないだろ?」

 

「天之河・・・魔物は、何もこの部屋だけに出るわけではないだろう。今まで通って来た通路や部屋にも出現したはずだ。にも関わらず、俺達が発見した痕跡はこの部屋が初めて。それはつまり・・・」

 

「・・・何者かが魔物を襲った痕跡を隠蔽したって事ね?」

 

八重樫の言葉に、二人を除く全員がハッとした表情になって警戒レベルを最大に引き上げた

 

「それだけ知恵の回る魔物がいるという可能性もあるけど・・・人であると考えたほうが自然って事か・・・そして、この部屋だけ痕跡があったのは、隠蔽が間に合わなかったか、あるいは・・・」

 

「ここが終着点という事さ」

 

天之河の言葉に引き継ぐ様に、女性が発する男口調のハスキーな声色が響き渡った。咄嗟に戦闘態勢に入り、声のする方に視線を向けると、奥の闇からゆらりと現れたのは燃えるような赤い髪をした妙齢の女。その女の耳は僅かに尖っており、肌は浅黒かった

 

「・・・魔人族」

 

「それで?勇者はあんたでいいんだよね?そこのアホみたいにキラキラした鎧着ているあんたで」

 

「あ、アホ・・・う、煩い!魔人族なんかにアホ呼ばわりされるいわれはないぞ!それより、なぜ魔人族がこんな所にいる!」

 

「はぁ~、こんなの絶対いらないだろうに・・・まぁ、命令だし仕方ないか・・・あんた、そう無闇にキラキラしたあんた。一応聞いておく。あたしらの側に来ないかい?」

 

「な、なに?来ないかって・・・どう言う意味だ!」

 

「呑み込みが悪いね。そのまんまの意味だよ。勇者君を勧誘してんの。あたしら魔人族側に来ないかって。色々、優遇するよ?」

 

魔人族のいきなりの提案に理解が追い付かず、クラスメイト達は自然と光輝に注目し、光輝は、呆けた表情をキッと引き締め直すと魔人族の女を睨み付けた

 

「断る!人間族を・・・仲間達を・・・王国の人達を・・・裏切れなんて、よくもそんな事が言えたな!やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ!わざわざ俺を勧誘しに来たようだが、一人でやって来るなんて愚かだったな!多勢に無勢だ。投降しろ!」

 

「あっそ・・・一応、お仲間も一緒でいいって上からは言われてるけど?それでも?」

 

「答えは同じだ!何度言われても、裏切るつもりなんて一切ない!」

 

仲間には相談せずに断言する天之河。しかし、八重樫や永山は小さく舌打ちを鳴らした。二人は一度、嘘をついて魔人族の女に迎合してでも場所を変えるべきだと考えていたのだが、その考えを光輝に伝える前に彼が怒り任せに答えを示してしまったので、仕方なく不測の事態に備えているのだ

 

「そう。なら、もう用はないよ。あと、一応、言っておくけど・・・あんたの勧誘は最優先事項ってわけじゃないから、殺されないなんて甘い事は考えないことだね。ルトス、ハベル、エンキ。餌の時間だよ!」

 

魔人族の女の号令と同時に襲い掛かった衝撃。バリンッ!という破砕音と共に、雫と永山が苦悶の声を上げて吹き飛ぶのは同時だった

 

「ぐっ!?」

 

「がっ!?」

 

二人は近くの空間が歪んだ事に咄嗟に防御に回るが、相手の攻撃が予想以上に重かった為に地面に吹き飛ばされてしまったのだ。特に、八重樫は攻撃を受けない事を前提としたスピードファイターなので脆く、防御を崩され腹部を浅く裂かれた上に肺の空気を強制的に排出させられる程強く叩き付けられたのだ

永山は重格闘家という天職で、格闘系天職の中でも特に防御に適性があるのだが、その永山でさえ防御を突破されて深々と両腕を切り裂かれ血飛沫を撒き散らしながら吹き飛んだのだ。たまたま檜山達が後方に居た事で地面に衝突する追加ダメージを免れたのだが、それでも傷は深い

これを皮切りに、天之河達と魔人族の女の戦闘が開始した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八十九層の最奥付近の部屋・・・天之河達は魔人族の女が操る魔物の猛攻の前に撤退を余儀なくされた。しかし、半数近くの仲間がやられたのだ。完全に石化した者や、半身が石化した者。もしくは重傷、倦怠感を募らせている者と様々だ

 

「ふぅ、何とか上手くカモフラージュ出来たと思う。流石に、あんな繊細な魔法行使なんてしたことないから疲れたよ・・・もう限界」

 

「壁を違和感なく変形させるなんて領分違いだものね・・・一から魔法陣を構築してやったんだから無理もないよ。お疲れ様」

 

「そっちこそ、石化を完全に解くのは骨が折れたろ?お疲れ」

 

野村の天職は土術師。天之河達が身を隠しているのは迷宮の一角で、その入り口を土魔法でカモフラージュして隠れているのだ

 

「お疲れ様、野村君。これで少しは時間が稼げそうね」

 

「・・・だといいんだけど。もう、ここまで来たら回復するまで見つからない事を祈るしかないな。浩介の方は・・・あっちも祈るしかないか」

 

「・・・浩介なら大丈夫だ。影の薄さでは誰にも負けない」

 

「いや、重吾。それ、聞いてるだけで悲しくなるから口にしてやるなよ・・・」

 

彼等が話している人物―――――遠藤浩介は天職が暗殺者なのだが、地球に居た時から影が薄く、自動ドアにも認識されなかった時がある程の影の薄い者なのだ。因みに、深月は一度たりともその姿を見失った事は無いのだが・・・鍛えれば自分を超える程の力量になるとの事だ

そんな彼が七十層に居るメルド達に事の次第を伝えに行ったのである。皆と別れる時に、遠藤は少し涙目だったが・・・きっと、仲間を置いて一人撤退することに感じるものがあったに違いない。・・・多分

 

「白崎さん。近藤君と斉藤君の石化解除は任せるね。私じゃ時間がかかりすぎるから。代わりに他の皆の治癒は私がするからさ」

 

「うん、分かった。無理しないでね、辻さん」

 

「平気平気。というかそれはこっちのセリフだって・・・ごめんね。私がもっと出来れば、白崎さんの負担も減らせるのに・・・」

 

野村達が話している傍らで魔力回復薬を服用する辻を、何とも言えない表情で見つめている野村

 

「・・・こんな状況だ。伝えたい事があるなら伝えておけ」

 

「・・・うっせぇよ」

 

野村はぶっきらぼうに返事を返すだけだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤は走る。走って、走って、走って・・・メルド達騎士団が居る場所まで走って到着した

 

「団長!俺です!気づいてください!大変なんです!」

 

「うおっ!?何だ!?敵襲かっ!?」

 

「だから、俺ですって!マジそういうの勘弁して下さい!」

 

「えっ?って、浩介じゃないか。驚かせるなよ。ていうか他の連中はどうした?それに、何かお前ボロボロじゃないか?」

 

「ですから、大変なんです!」

 

遠藤は何があったのかをメルドに話した。魔人族が襲い掛かって来た事、仲間の半数が重傷を負った事、天之河でも歯が立たなかった事、自分に希望を託して送り出した事を話した

 

「泣くな、浩介。お前は、お前にしか出来ないことをやり遂げんたんだ。他の誰が、そんな短時間で一度も戦わずに二十層も走破出来る?お前はよくやった。よく伝えてくれた」

 

「団長・・・俺、俺はこのまま戻ります。あいつらは自力で戻るっていってたけど・・・今度は負けないっていってたけど・・・天之河が"限界突破"を使っても倒しきれなかったんだ。逃げるので精一杯だったんだ。みんな、かなり消耗してるし、傷が治っても・・・今度、襲われたら・・・あのクソったれな魔物だってあれで全部かはわからないし・・・だから、先に地上に戻って、この事を伝えて下さい」

 

泣いた事を恥じるように、袖で目元をぐしぐしとこすると、遠藤は決然とした表情でメルドに告げる。メルド達騎士団は悔しそうに表情を歪めながら、回復薬の入った道具袋を遠藤に託した

 

「すまないな、浩介。一緒に、助けに行きたいのは山々だが・・・私達じゃあ、足でまといにしかならない・・・」

 

「あ、いや、気にしないで下さいよ。大分、薬系も少なくなってるだろうし、これだけでも助かります」

 

「・・・浩介。私は今から、最低なことを言う。軽蔑してくれて構わないし、それが当然だ。だが、どうか聞いて欲しい」

 

「えっ?いきなり何を・・・」

 

「・・・何があっても、"光輝"だけは連れ帰ってくれ」

 

「え?」

 

メルドの言葉に、遠藤はキョトンとしてしまう

 

「浩介。今のお前達ですら窮地に追い込まれるほど魔物が強力になっているというのなら…光輝を失った人間族に未来はない。もちろん、お前達全員が切り抜けて再会できると信じているし、そうあって欲しい・・・だが、それでも私は、ハイリヒ王国騎士団団長として言わねばならない。万一の時は、"光輝"を生かしてくれ」

 

「・・・俺達は、天之河のおまけですか?」

 

「断じて、違う。私とて、全員に生き残って欲しいと思っているのは本当だ。いや、こんな言葉に力はないな・・・浩介、せめて今の言葉を雫と龍太郎には伝えて欲しい」

 

「・・・」

 

遠藤はメルドに裏切られた様な気持ちに襲われた。だが、この世界では誰よりも信頼している人物で、本心で言っていないのは理解出来ていたので衝動のまま罵る事はしなかった遠藤は、暗い表情のままコクリと頷くだけで踵を返した瞬間―――――

 

「浩介ッ!?」

 

「えっ!?」

 

メルドが遠藤を弾き飛ばすと、ギャリィイイ!!という金属同士が擦れ合う様な音を響かせて、円を描く様にその手に持つ剣を振るった。そして、クルリと一回転して遠心力の付いた回し蹴りを揺らめく空間に向けて放つ。ドガッ!という音を立てて揺らめく空間は後方へと吹き飛ばされ、五メートル程だろうか、地面に無数の爪痕が刻み込まれた。遠藤は顔を青くした

 

「そ、そんな。もう追いついて・・・」

 

闇の奥から現れた魔人族の女は、遠藤を見て舌打ちをした

 

「チッ。一人だけか・・・逃げるなら転移陣のあるこの部屋まで来るかと思ったんだけど・・・様子から見て、どこかに隠れたようだね」

 

四つ目狼の背に乗って現れた魔人族の女に警戒する騎士団。彼女の予測では、天之河達がこの転移陣へと逃げ込むと考えていたが、予想が外れたのだ

 

「まぁ、任務もあるし・・・さっさとあんたら殺して探し出すかね」

 

直後、魔物達が一斉に襲い掛かる

 

「円陣を組め!転移陣を死守する!浩介ッ!いつまで無様を晒している気だ!さっさと立ち上がって・・・逃げろ!地上へ!」

 

「えっ!?」

 

「ボサっとするな!魔人族の事を地上に伝えろ!」

 

「で、でも、団長達は・・・」

 

「我らは・・・ここを死地とする!浩介!向こう側で転移陣を壊せ!なるべく時間は稼いでやる!」

 

「そ、そんな・・・」

 

「無力ですまない!助けてやれなくてすまない!選ぶ事しか出来なくてすまない!浩介!不甲斐ない私だが最後の願いだ!聞いてくれ!」

 

戸惑う遠藤。に、兄貴のように慕った男から最後だという願いが届く

 

「生きろぉ!」

 

遠藤はグッと唇を噛んで全力で踵を返し転移陣へと向かった

 

「させないよ!」

 

魔人族の女は黒猫の魔物を差し向け、自らが放つ魔法で遠藤を狙う。黒猫の背中から触手の様な弾丸が豪速で射出さるが、それをいなして躱す。だが、女が放った石の槍の魔法が直撃コースだった。避ける事も出来ないそれを前に歯を食いしばって衝撃に備えた。例え直撃したとしても走り続けてそのまま転移陣に飛び込んでやるという気概を持って。だが、その衝撃はやって来なかった。騎士団員の一人、アランが円陣から飛び出し、その身を盾にして遠藤を庇ったからだ

 

「ア、アランさん!」

 

「ぐふっ・・・いいから気にせず行け!」

 

腹部に槍が刺さったまま剣を振って魔物を転移陣へ近づけさせない

 

「チッ!雑魚のくせに粘る!お前達、あの少年を集中して狙え!」

 

魔人族の女が少し焦った様に改めてそう命じるが・・・既に遅かった

 

「ハッ、私達の勝ちだ!ハイリヒ王国の騎士を舐めるな!」

 

魔物の大群を差し向けるが、巧みな技と連携で魔物達の動きを阻害する

 

「舐めるなと言っている!」

 

多勢に無勢でありながら、その防御能力と粘り強さは賞賛に値するものだったが、遂に腹を石の槍で貫かれていたアランが膝を付いて崩れ落ちてしまった。それを好機と見たキメラ型の魔物が防衛線を突破しようと突撃する

 

「まっ・・・・・まだまだぁ!絶対に行かせん!!」

 

崩れ落ちていたアランが、キメラ型の魔物の足を掴んでほんの僅かな時間を邪魔する。それを無視して転移陣の上へと乗ったが、光が輝く事も無かった。遠藤が向こうで転移陣の破壊に成功したのだろう

 

「フッ、ここを死地と定めたのなら最後まで暴れるだけだ。お前達、ハイリヒ王国騎士団の意地を見せてやれ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

メルド号令と共に部下の騎士達が威勢のいい雄叫びを以て応える。その雄叫びに込められた気迫は、一瞬とはいえ、周囲の魔物達を怯ませる程のものだったが・・・その十分後。転移陣のある七十層の部屋に再び静寂が戻った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちくしょう!ちくしょう!!メルドさん・・・アランさん・・・ごめん・・・ごめんなさい!」

 

三十階層に居た騎士達の静止を振り切って転移陣を破壊した遠藤は、急ぎ救援を求めて地上へと戻る為に走り出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「と、いう事でした。・・・後書き終わりです」




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メイドは影の薄い人と再会します

布団「クラスメイトsideだけで終わると思っていたのかぁ?だがしかし、だーがーしーかーしー!予定外なサプライズをするのが作者の悪い癖なのです!」
深月「無計画投稿ですね・・・一日で二話ですか」
布団「流石に・・・クラスメイト側の話だけだと物足りないでしょ?」
深月「それでは、手早くいきましょう。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」









~ハジメside~

 

「ヒャッハー!ですぅ!」

 

ライセン大峡谷と草原に挟まれた道を魔力駆動二輪と魔力駆動四輪が、太陽を背に疾走する

 

「・・・シアのやつご機嫌だな。世紀末な野郎みたいな雄叫び上げやがって」

 

「・・・むぅ。ちょっとやってみたいかも」

 

「駄目よユエ。シアは後で深月にお説教させるわ」

 

「パパ!ママ!ミュウもあれやりたいの!」

 

目をキラキラとさせておねだりするが、ドリフトしてみたりウイリーをしてみたりする危険運転をする行為をさせる訳にはいかない

 

「ダメに決まってるだろ」

 

「えぇ~!ミュウもあれやりたい!」

 

「ミュウ、シアお姉ちゃんを見ていなさい。とても危険だというのが分かるわ」

 

皐月がミュウにどれだけ危険か見せつける為に、シアには犠牲になってもらおうと画策したのだ

 

(ミュウの教育に悪いから―――――深月、やりなさい)

 

(かしこまりました)

 

その瞬間、魔力駆動二輪に急ブレーキが掛かり、ハンドルの上に立っていたシアが放物線を描きながら頭から地面に着地して数十メートル転がった。シアが乗っていた魔力駆動二輪は深月が魔力糸で隣接する様に固定させて走らせている

 

「ほらね?あんな事になったら怪我しちゃうから真似しちゃ駄目よ?」

 

「は~い!」

 

(・・・皐月容赦ない)

 

(ミュウが居なかったら大目に見ていたわよ。でも、今は違うでしょ?子供は私達にとって小さな事でも興味を持ってしまうのよ)

 

(・・・勉強になる)

 

シアは深月に回収され、走りながらお説教されている。恐らくホルアドに着くまでずっと続くお説教を見て、ミュウが絶対にマネしないと心に誓ったのは言うまでもない。だが、ミュウに甘いハジメと皐月なのでフォローは入れておく

 

「深月が怒っているのは心配しているからよ?シアは初めて運転するからあそこまで怒られているの。だから、運転に慣れたパパか私、もしくは深月お姉ちゃんなら大丈夫よ?」

 

「・・・本当?深月お姉ちゃん怒らない?」

 

ウルウルと涙目で尋ねるミュウの頭を優しく撫でながら「大丈夫」と落ち着かせる皐月

 

「あっふん!シアが羨ましいのじゃ!妾も激しく打ち付けられたいのじゃ!」

 

「ママ、ティオお姉ちゃんが何か言ってるよ?」

 

「あれは絶対に真似したらいけない大人の例よ。もしも真似したら・・・深月のお説教がもの凄~く長くなるわ」

 

「わかったの!ティオお姉ちゃんのマネはしないの!」

 

にっこりと笑って視線を前へ戻すミュウ。すると、お説教を終えた深月がシアを解放。危険運転しないように再度注意して、シアは黙って深月の言う通りに普通の運転に戻った

 

「これである程度ストレスが無くなったな」

 

「それじゃあ、今から深月にお願いしてみよっか♪」

 

「いいの!」

 

「さっきのシアお姉ちゃんみたいに危険な運転はしないから大丈夫よ」

 

「おねがいなの~!」

 

(深月~、ミュウを乗せて運転出来るかしら?)

 

(大丈夫ですが・・・先程のシアさんの様な危険運転はしませんよ?やったとしても、緩やかな蛇行運転までです)

 

(それで良いわ)

 

深月の了承も得た皐月。深月は四輪のすぐ隣まで近づいて並走して、助手席の扉が開かれてミュウを抱えた皐月を重力魔法と魔力糸で持ち上げて後ろに座らせる。ミュウは深月の前に魔力糸で作った椅子に座らせた

 

「あまり身を乗り出さないで下さいね?」

 

「はーいなの!」

 

深月は徐々にスピードを上げて、緩やかに右、左、と移動して景色を楽しませる様に走らせた

 

「ミュウはとても喜んでいるな」

 

「・・・うれしそうに笑ってる」

 

「いい笑顔じゃな。妾としては是非とも引きずってもらいたいがの!」

 

「変態は黙ってろ!」

 

「・・・きもい」

 

「あっふううううん!辛辣ぅ!じゃが、その対応がなんとも堪らん!!」

 

「・・・皐月・・・戻ってきてくれ」

 

「・・・私じゃ駄目?」

 

「ユエの癒しも含まれているんだが、・・・癒しよりもストレスが凄まじいんだ」

 

ユエだけの癒しでは変態のストレスを帳消しには出来ない。ハジメは、皐月に戻ってきて欲しいと切に願うが叶う事はなかったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

ハジメには悪いと感じているけど、変態の傍から離れる事に成功して三人のツーリング。しばらく走らせると四ヶ月ぶりのホルアド・・・私個人の感覚だと数年も前の様に感じるわ

 

「ママだいじょうぶ?」

 

「・・・大丈夫よ。ミュウと一緒に何処を回ろうか迷っていたのよ」

 

「ミュウあそこの食べ物屋さんみたい!」

 

「あそこって食料品店よ?露店の食べ物じゃなくて?」

 

「えっとね~?深月お姉ちゃんが作ってくれた食べ物の方が美味しいの♪」

 

子供の純粋な感想。しかも、周囲に聞こえる程の透き通った声を聞いて、露店の店主は良い顔せずに睨もうとしたが、ハジメの威圧によって押し黙った

 

「素直な感想を有難う御座います」

 

「ミュウ。パン食べるか?」

 

「食べる!」

 

ハジメは宝物庫に常備しているパンが入ったバスケットを取り出して、各自に一つずつ手渡す。食べ歩きをしながら、露店で売っている小麦、果物、花、種を購入。種は、油分を大量に含む物を購入した。食べ物を売っている露店の前をパンを食べながら通ると、厳つい男がハジメ達の行く手を遮る様に立ちはだかった。ミュウが一瞬だけ「ひぅ!」と小さな悲鳴を上げ、その男を血祭りにあげようとしたハジメと皐月。だが、男の目的は皐月達では無く、ハジメ達が食べていたパンだった。ハジメ達が怒るよりも前に土下座して「そのパンを食べさせてくれ!そしてレシピを!製法を教えてくれ!!」と懇願してきたので、面倒になる前にパンを一つと製法を簡易的に書いたメモを添えて渡した

 

「製法を教えても良かったの?」

 

「大丈夫ですよ。製法を教えたとしても、味が違いますから」

 

「深月のパンを食べて、追い求める様に作るのか・・・とてつもなく遠い道のりだろうな」

 

冒険者ギルドに向かうハジメ達。後ろから「ウーーーーーマーーーーーーーイーーーーーーゾオオオオオオオオオオ!」と、叫び声が聞こえたが無視する事にした

ハジメ達が冒険者ギルドへ踏み入れると、彼等はピリピリとしていたのか一斉に視線をハジメ達に向けた。鋭い視線に、皐月に抱かれているミュウが再び「ひぅ!」と悲鳴を上げて、皐月の胸元に顔を埋める。まるで鬱憤を晴らす様な八つ当たりと、やっかみ混じりの嫌がらせを行っている事は明らかだ。が、最近めっきり過保護なパパとママになりつつあるハジメと皐月は額に青筋を浮かべていた

皐月はミュウを宥めて落ち着かせ、ハジメは威圧と魔力放射を冒険者達にぶつけた。ハジメの威圧に意識を辛うじて失っていない者も、大半がガクガクと震えながら必死に意識と体を支え、滝のような汗を流して顔を青ざめさせている。ハジメは少しだけ威圧を弱めて、ニッコリ笑いながら話し掛ける

 

「おい、今、こっちを睨んだやつ」

 

「「「「「「「!」」」」」」」

 

「笑え」

 

「「「「「「「え?」」」」」」」

 

「聞こえなかったか?笑えと言ったんだ。にっこりとな。怖くないアピールだ。ついでに手も振れ。お前らのせいで家の子が怯えちまったんだ。トラウマになったらどうする気だ?ア゛ァ゛?責任取れや」

 

ハジメの眼光が鋭くなり、冒険者達は頬を盛大に引き攣らせながら笑って手を振る。ハジメが皐月の胸元に埋まるミュウにの耳元にそっと話しかけ、ミュウはおずおずと顔を上げるとそこには当然、必死に愛想を振りまくこわもて軍団

 

「ひっ!」

 

案の定、ミュウは怯えて皐月の胸元に再び顔を埋める。ハジメの眼光が再び鋭くなり、「どういうことだ、ゴラァ!」と冒険者達を睨みつけ、「無茶言うな!」と泣きそうな表情になって内心ツッコミを入れる冒険者達

 

「ハジメさん、無視してさっさと行きましょう。長い時間留まるのもミュウさんに悪いです」

 

「・・・それもそうだな。・・・次は無いからな?」

 

最後に、強めた威圧を冒険者達に浴びせてカウンターへと進む。ちなみに、受付嬢は可愛かった。ハジメ達と同じ年くらいの明るそうな娘だ。テンプレはここにあったらしいが、普段は魅力的であろう受付嬢の表情は緊張でめちゃくちゃ強張っていた

 

「支部長はいるか?フューレンのギルド支部長から手紙を預かっているんだが・・・本人に直接渡せと言われているんだ」

 

「は、はい。お預かりします。え、えっと、フューレン支部のギルド支部長様からの依頼・・・ですか?」

 

ハジメから手渡されたステータスプレートに表示されている情報を見て目を見開いた

 

「き"金"ランク!?」

 

つい口に出てしまった個人情報に「あっ」と口を紡ぐが、既に聞こえていた為に、冒険者ギルドの中は騒がしくなった

 

「も、申し訳ありません!本当に、申し訳ありません!」

 

「あ~、いや。別にいいから。取り敢えず、支部長に取り次ぎしてくれるか?」

 

「は、はい!少々お待ちください!」

 

受付嬢は奥に引っ込み、ハジメ達は呼ばれるまでしばらく待つ事にした。その間、子連れで美女・美少女ハーレムを持つ見た目少年の"金"ランク冒険者に、ギルド内の注目がこれでもかと集まる。多くの視線が集まるのに慣れておらず、怯えるミュウを総出であやすが怖いものは怖いのだろう・・・効果は全くと言って良い程無い。しかし、ここでもどうにかするのが深月クオリティー。ミュウの目の前で焼きリンゴ擬きを作り、出来立てを食べさせて落ち着かせた

 

「・・・食べ物でどうにかなるなんて納得がいかない」

 

「・・・仕方がないと割り切るしかないな。美味しいは正義だからな」

 

ミュウが美味しそうに食べる姿を見て、冒険者達は和んだ。子供の笑顔を見て自然に笑顔になった事で、彼等は怖くないよアピールをして問題は去ったのだ

すると、五分も経たないうち、ギルドの奥からズダダダッ!と何者かが猛ダッシュしてくる音が聞こえだした。何事だと、ハジメ達が音の方を注目していると、カウンター横の通路から全身黒装束の少年がズザザザザザーと床を滑りながら猛烈な勢いで飛び出てきて、誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡し始めた

ハジメと皐月はその人物に見覚えがあり、こんなところで再会するとは思わなかったので思わず目を丸くして呟いた

 

「「・・・遠藤(君)?」」

 

ハジメと皐月の呟きに気付いたのか、遠藤はキョロキョロと辺りを見渡し、それでも目当ての人物が見つからないことに苛立ったように大声を出し始めた

 

「南雲ぉ!いるのか!お前なのか!何処なんだ!南雲ぉ!生きてんなら出てきやがれぇ!南雲ハジメェー!」

 

「あ~、遠藤?ちゃんと聞こえてるから大声で人の名前を連呼するのは止めてくれ」

 

「!?南雲!どこだ!」

 

ハジメの声に反応してグリンッと顔をハジメの方に向ける遠藤。余りに必死な形相に、ハジメと皐月は思わずドン引きする

 

「くそっ!声は聞こえるのに姿が見当たらねぇ!幽霊か?やっぱり化けて出てきたのか!?俺には姿が見えないってのか!?」

 

「いや、目の前にいるだろうが、ど阿呆。つか、いい加減落ち着けよ。影の薄さランキング生涯世界一位」

 

「!?また、声が!?ていうか、誰がコンビニの自動ドアすら反応してくれない影が薄いどころか存在自体が薄くて何時か消えそうな男だ!自動ドアくらい三回に一回はちゃんと開くわ!」

 

「三回中二回は開かないって・・・透明人間か何かなのかしら?」

 

「こっ、この声は高坂さんか!?ど、どこに居るんだ!出てきてくれぇーーーー!」

 

そこまで言葉を交わしてようやく、目の前の白髪眼帯の男と女が会話している本人だと気が付いた。遠藤は、ハジメと皐月の顔をマジマジと見つめ、まさかという面持ちで声をかけた

 

「お、お前・・・お前が南雲・・・なのか?それに・・・そっちは高坂さんか・・・?」

 

「はぁ・・・ああ、そうだ。見た目こんなだが、正真正銘南雲ハジメだ」

 

「姿形はこんな事になっているけど、ちゃんと生きているわよ」

 

二人の姿をマジマジと見るが、記憶にある二人との余りの違いに呆然となっている

 

「お前等・・・生きていたのか」

 

「今、目の前にいるんだから当たり前だろ」

 

「何か、えらく変わってるんだけど・・・見た目とか雰囲気とか口調とか・・・」

 

「奈落の底から自力で這い上がってきたんだぞ?そりゃ多少変わるだろ」

 

「そ、そういうものかな?いや、でも、そうか・・・ホントに生きて・・・」

 

遠藤はクラスメイトの生存が嬉しかったのか、涙を流しながら喜んでいた

 

「っていうかお前等・・・冒険者してたのか?しかも"金"て・・・」

 

「ん~、まぁな」

 

「・・・つまり、迷宮の深層から自力で生還できる上に、冒険者の最高ランクを貰えるくらい強いってことだよな? 信じられねぇけど・・・」

 

「まぁ、そうだな」

 

「なら頼む!一緒に迷宮に潜ってくれ!早くしないと皆死んじまう!一人でも多くの戦力が必要なんだ!健太郎も重吾も死んじまうかもしれないんだ!頼むよ、南雲!高坂さん!」

 

「ちょ、ちょっと待て。いきなりなんだ!?状況が全くわからないんだが?死んじまうって何だよ。天之河がいれば大抵何とかなるだろ?メルド団長がいれば、二度とベヒモスの時みたいな失敗もしないだろうし・・・」

 

遠藤の切羽詰まった尋常ではない様子に困惑するハジメ。皐月は冷静に考えて、ある一つの結論に思い至った

 

「もしかして・・・魔人族?」

 

「そうなんだよ!魔人族が俺達を襲って来たんだ!!メルド団長もアランさんも他の皆も!迷宮に潜ってた騎士は皆死んだ!俺を逃がす為に!俺のせいで!死んだんだ!死んだんだよぉ!」

 

「「・・・」」

 

ハジメと皐月はメルドと接点が少なかったが、錬成の特訓の折に少なからずお世話になった。奈落に落ちた日、最後の場面で"無能"のレッテルを貼られた自分達を信じてくれた数少ない人格者だ

 

「それで、他には何があったんだ?」

 

「それは・・・」

 

事の次第を話そうとする遠藤だが、静止の声が掛かった

 

「話の続きは、奥でしてもらおうか。そっちは、俺の客らしいしな」

 

声の主は、六十歳過ぎくらいのガタイのいい左目に大きな傷が入った迫力のある男だった。恐らく彼がこのホルアドのギルド長なのだろう。全身から溢れ出る覇気がそれを物語っている。ギルド支部長と思しき男は、遠藤の腕を掴んで強引に立たせると有無を言わさずギルドの奥へと連れて行った。遠藤は、かなり情緒不安定なようで、今は、ぐったりと力を失っている

 

「これは、また厄介な事になりそうだな」

 

「ほんっとうにトラブル続きね」

 

絶対に厄介事になるだろうと思いつつ、ハジメ達は後を付いて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

「魔人族・・・ね。予想通りだとすれば・・・」

 

「神代魔法が目当てでしょうね。・・・恐らく、相手側にも迷宮攻略者が居ると見て間違いないわ」

 

ハジメ達の対面のソファーにホルアド支部の支部長ロア・バワビスと遠藤が座っており、遠藤の正面にハジメが座っている。ハジメの隣には皐月とユエで、その隣にシアとティオが座っている。深月は皐月の後ろで立って待機している

魔人族の襲撃に遭い、勇者パーティーが窮地にあるというその話に遠藤もロアも深刻な表情をしており、室内は重苦しい雰囲気で満たされているのだが・・・ハジメの膝の上で幼女がモシャモシャと頬をリスのよう膨らませながらお菓子を頬張っている

 

「つぅか!何なんだよ!その子!何で、菓子食わしてんの!?状況理解してんの!?みんな、死ぬかもしれないんだぞ!」

 

「ひぅ!?パパぁ!」

 

場の空気をことごとく壊すミュウに遠藤が怒声を上げて、ミュウが悲鳴を上げてハジメに抱きついた

 

「てめぇ・・・何、ミュウに八つ当たりしてんだ、ア゛ァ゛?殺すぞ?」

 

「遠藤君は死にたいのかしら?家の子供に当たり散らすなんて・・・殺して下さいと言っているのと同義よ」

 

「ひぅ!?」

 

ハジメと皐月から吹き出す人外レベルの殺気に、ミュウと同じような悲鳴を上げて浮かしていた腰を落とす遠藤。両隣から「・・・もう、すっかりパパ」とか「さっき、さり気なく"家の子"とか口走ってましたしね~」とか「果てさて、ご主人様達はエリセンで子離れ出来るのかのぉ~」と聞こえるが、全てを無視してミュウを宥める二人

 

「さて、ハジメ。イルワからの手紙でお前の事は大体分かっている。随分と大暴れしたようだな?」

 

「まぁ、全部成り行きだけどな」

 

「手紙には、お前の"金"ランクへの昇格に対する賛同要請と、できる限り便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていた。一応、事の概要くらいは俺も掴んではいるんだがな・・・たった数人で六万近い魔物の殲滅、半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅・・・にわかには信じられんことばかりだが、イルワの奴が適当な事をわざわざ手紙まで寄越して伝えるとは思えん・・・もう、お前が実は魔王だと言われても俺は不思議に思わんぞ」

 

「バカ言わないでくれ・・・魔王だなんて、そこまで弱くないつもりだぞ?」

 

「ふっ、魔王を雑魚扱いか? 随分な大言を吐くやつだ・・・だが、それが本当なら俺からの、冒険者ギルドホルアド支部長からの指名依頼を受けて欲しい」

 

「・・・勇者達の救出だな?」

 

「そ、そうだ!南雲!一緒に助けに行こう!お前がそんなに強いなら、きっとみんな助けられる!」

 

「断る」

 

「な・・・何でだよ!?俺達は仲間だろ!?」

 

「仲間?」

 

先程よりも濃密な殺気が皐月から溢れ出た。これにはハジメも驚き、ミュウは怖くなってハジメの胸元に顔を埋めた

 

「私達を奈落に落とした罪人を赦して、呑気に迷宮を攻略している貴方達の仲間扱いされるのは嫌よ。はっきり言わせてもらうけれど、私達が貴方達の事を唯の"同郷"の人間程度であって、それ以上でもそれ以下でもない。他人と何ら変わらないわ」

 

皐月の冷たい言葉に狼狽する遠藤。しかし、ハジメは一つだけ気になる事があった。それは白崎の言葉だった。異世界に来て"無能"だったハジメを最後まで心配して、今も尚諦めずに捜索を続ける彼女についてだった

 

「白崎は・・・彼女はまだ、無事だったか?」

 

狼狽する遠藤にハジメがぽつりと尋ねる。いきなりのハジメの質問にポカンと呆気にとられるが、もしかしたらハジメが協力してくれないのではと思い、慌てて白崎の話す遠藤

 

「あ、ああ。白崎さんは無事だ。っていうか、彼女がいなきゃ俺達が無事じゃなかった。最初の襲撃で重吾も八重樫さんも死んでたと思うし・・・白崎さん、マジですげぇんだ。回復魔法がとんでもないっていうか・・・あの日、お前達が落ちたあの日から、何ていうか鬼気迫るっていうのかな?こっちが止めたくなるくらい訓練に打ち込んでいて・・・雰囲気も少し変わったかな?ちょっと大人っぽくなったっていうか、いつも何か考えてるみたいで、ぽわぽわした雰囲気がなくなったっていうか・・・」

 

「・・・そうか」

 

ハジメは頭をカリカリと掻いて、自分を見つめているパートナー達を見やった

 

「・・・・・」

 

「・・・ハジメのしたいように。私は、どこでも付いて行く」

 

「わ、私も!どこまでも付いて行きますよ!ハジメさん!」

 

「ふむ、妾ももちろんついて行くぞ。ご主人様」

 

「ふぇ、えっと、えっと、ミュウもなの!」

 

「皐月・・・悪いが付き合ってくれ」

 

皐月は深い溜息を吐く。本音は面倒事に首を突っ込みたくないのか、はたまた勇者(笑)と会いたくないのかは分からない。ハジメは皐月を抱き寄せて呟く

 

「白崎との義理を果たしに行く」

 

「はぁ・・・分かったわよ。・・・あの勇者(笑)とは会いたくないのだけれど、ハジメのお願いなら仕方がないわ」

 

これで全員参加が決定した。対面では、遠藤が愕然とした表情をしながら「え?何このハーレム・・・」と呟いている。遠藤の話を聞くと、既に戦った四つ目狼が出た様で、キメラ等にしても奈落の迷宮でいうなら十層以下の強さだろう。何の問題もない

 

「え、えっと、結局、一緒に行ってくれるんだよな?」

 

「ああ、ロア支部長。一応、対外的には依頼という事にしておきたいんだが・・・」

 

「上の連中に無条件で助けてくれると思われたくないからだな?」

 

「そうだ。それともう一つ。帰ってくるまでミュウの為に部屋貸しといてくれ」

 

「ああ、それくらい構わねぇよ」

 

ミュウを冒険者ギルドに預けて、子守役兼護衛役にティオも置いていく事にした。離れると知ったミュウは物凄く駄々をこねたが、全員で宥めすかして出発する

 

「おら、さっさと案内しやがれ、遠藤」

 

「うわっ、ケツを蹴るなよ!っていうかお前いろいろ変わりすぎだろ!」

 

「やかましい。さくっと行って、一日・・・いや半日で終わらせるぞ。仕方ないとは言え、ミュウを置いていくんだからな。早く帰らねぇと。一緒にいるのが変態というのも心配だし」

 

「・・・お前、本当に父親やってんのな・・・美少女ハーレムまで作ってるし・・・一体、何がどうなったら、あの南雲がこんなのになるんだよ・・・」

 

迷宮深層に向かって走る一行。遠藤は仲間の無事を祈りつつ全力で走り出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「待ちに待った再会ですね」
布団「次回、奈落に落ちた無能達の無双!絶対に見て頂戴!」
深月「嘘予告のタイトルは不必要です。感想、評価、お気軽にどうぞ」





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メイドならば、魔人族程度ちょちょいのちょいです♪

布団「遅くなってすまない。待たせたな!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」
布団「えっ?」










~深月side~

 

ハジメ達は遠藤に案内されながら走る。だが如何せん、ステータスが違い過ぎる為に進行速度は遅い

 

「もっと速く走りやがれ遠藤!」

 

「勇者(笑)組って今まで何してたの?見た感じだと、ステータスが1000有るか無いかじゃない。深月、持ちなさい」

 

「では、失礼致します」

 

後ろで走っていた深月は遠藤を俵の様に担ぎ、ハジメはユエを、皐月はシアを担ぐ

 

「それではお嬢様、ハジメさん、走りますよ」

 

「俺達が追える程度でな」

 

「道中の魔物が襲って来ない様なら無視で良いわよ」

 

「殲滅しますので大丈夫です」

 

「えっ?今殲滅って言った!?ってか言ったよな!?」

 

深月を先頭にして最短距離を走って進む。自分達が走る速度よりも圧倒的に早いハジメ達を見て、遠藤は「俺って弱かったんだな・・・」と呟く程だ。そして二十階層・・・ハジメ達は転移トラップのあった一角に辿り着き、深月は躊躇う事無くグランツ鉱石に近づく

 

「ちょっと待って!そのトラップは未だ活きているんだぞ!?あの時みたいに敵が―――――」

 

遠藤の言葉も空しく、深月は触れた。足元に魔法陣が浮かび上がり、光に包まれて石橋の上に転移した。それに連動する様にベヒモスとトラウムソルジャーの群れが出現

 

「も、もう駄目だ。おしまいだ・・・」

 

圧倒的な物量に絶望する遠藤だが、深月は下層を守る様に佇むベヒモスに突撃。ハジメ達もその後に続いて走る。近づく深月に、ベヒモスが角を真っ赤にして突進するが

 

「邪魔です」

 

すれ違いざまに黒刀で首を跳ね飛ばし、側面を殴って吹き飛ばす事で邪魔な障害物を排除した。前方から襲い来るトラウムソルジャーは、ノコ状の魔力糸を伸ばし、腕を扇状に振るって一掃。たったの三つの動作で全滅した魔物に、遠藤は目が点になっていた

 

「おーおー、深月が先頭だと楽だなぁ~」

 

「深月の魔力糸・・・私も欲しいわ」

 

呑気に感想を述べる二人

更に下層へと行くと、深月がふと足を止めて下を見る。ハジメ達は感知系能力をフルに使ると、下で魔力の奔流が感じ取れた

 

「なんだ、もう終わるじゃねぇか」

 

「えっ?」

 

「限界突破よりも大きい魔力の奔流ね」

 

「皆さんも聞きますか?」

 

「えっ?」

 

何時の間にか深月の手元に魔力糸で作られたカップ・・・糸電話だった。糸は地面に向かって伸びており、恐らく地面を貫通して下の階層で何が起きているのかが分かるのだろう。五人は耳に当ててその様子を確かめる

 

『まいったね・・・あの状況で逆転なんて・・・まるで、三文芝居でも見てる気分だ』

 

聞いた事の無い声にハジメ達は、「誰だこいつ?」と頭を傾げると、遠藤が「魔人族の声・・・天之河がやったのか!」と喜んでいた。この声を聞くだけで、魔人族は慢心して逆転されたのだろうと容易に想像が付いた

 

『ごめん・・・先に逝く・・・愛してるよ、ミハイル・・・』

 

「よーし、後はゆっくり行くか」

 

「ご飯食べながら行きましょう」

 

「・・・急がなくてもいい」

 

「観光気分を味わうですぅ~」

 

「良かった・・・これで魔人族を倒した!」

 

「・・・・・あの口だけのど腐れ野郎」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

今まで聞いた事の無い様な深月の声。何があったのかと再び耳を澄ませて聞くと―――――

 

『・・・呆れたね・・・まさか、今になってようやく気がついたのかい?"人"を殺そうとしていることに。まさか、あたし達を"人"とすら認めていなかったとは・・・随分と傲慢なことだね』

 

『ち、ちが・・・俺は、知らなくて・・・』

 

『ハッ、"知ろうとしなかった"の間違いだろ?』

 

『お、俺は・・・』

 

『ほら?どうした?所詮は戦いですらなく唯の"狩り"なのだろ?目の前に死に体の一匹がいるぞ?さっさと狩ったらどうだい?おまえが今までそうしてきたように・・・』

 

『・・・は、話し合おう・・・は、話せばきっと・・・』

 

「「「「何言ってんだこいつ?」」」」

 

「おい・・・どういうことだよ天之河!?さっさと殺せよ!」

 

遠藤が声を荒げるも、向こうには届かない。これはあくまでも聞くだけに特化している物だから

 

『アハトド!剣士の女を狙え!全隊、攻撃せよ!』

 

『な、どうして!』

 

『自覚のない坊ちゃんだ・・・私達は"戦争"をしてるんだよ!未熟な精神に巨大な力、あんたは危険過ぎる!何が何でもここで死んでもらう!ほら、お仲間を助けに行かないと、全滅するよ!』

 

事の急展開に呆然とするハジメ達は全員が頭を抱えた

 

「は、早く助けに行かないと!?た、頼むっ!どうにかしてくれ南雲!!」

 

南雲の足に縋り付いて懇願する遠藤。ハジメは「何か・・・助けたくなくなってきた・・・」とぼやく始末。その間も声が響く

 

『・・・へぇ。あんたは、殺し合いの自覚があるようだね。むしろ、あんたの方が勇者と呼ばれるにふさわしいんじゃないかい?』

 

『・・・そんな事どうでもいいわ。光輝に自覚がなかったのは私達の落ち度でもある。そのツケは私が払わせてもらうわ!』

 

『や、止めるんだ雫!人殺しはいけない!』

 

『ハッ、本当にこの坊やは笑わせてくれるね!ほらほら!私を殺らないと死んじまうよ!』

 

『くっ!』

 

「思ったんだが・・・八重樫を勇者にして行動させた方が良くないか?」

 

「苦労人だから胃に穴が開いて血反吐を吐きそうね」

 

「・・・吐血勇者?」

 

「言ったら本当に泣くか吐血するかもしれないわね」

 

ハジメは宝物庫からパイルバンカーを出して設置して、チャージを開始してゆっくりと待つ

 

「おい南雲!どうするつもりなんだよ!このままじゃ皆死んじゃうだろ!?」

 

「黙ってろ」

 

「うっ・・・」

 

ハジメの威圧を込めた一言に遠藤は押し黙る。今も尚声が聞こえ、大ピンチ―――――いや、死が目前といった所だろう

 

『あぐぅう!!』

 

『雫ちゃん!』

 

白崎の悲痛な声から察するに、八重樫が魔物の攻撃を食らって重傷を負ったのだろう

 

『えへへ。やっぱり、一人は嫌だもんね』

 

『か、香織・・・何をして・・・早く、戻って。ここにいちゃダメよ』

 

『ううん。どこでも同じだよ。それなら、雫ちゃんの傍がいいから』

 

『・・・ごめんなさい。勝てなかったわ』

 

『私こそ、これくらいしか出来なくてごめんね。もうほとんど魔力が残ってないの』

 

魔力も既に空っぽだろう。絶望に心が折れて死を受け入れようとしている声色だった。すると、丁度良くチャージも終わった

 

「幸運だったな。今し方チャージが終わったぞ」

 

「ちゃ、チャージ?」

 

「ぶち抜くわよ~♪」

 

「ぶ、ぶちぬ――――――」

 

遠藤が言い終わる前にパイルバンカーの杭が地面を穿ち、大穴を開けて目標地点まで到達した

 

「おっし、行くぞ」

 

「え!?行くって、飛び降りるのかよ!?」

 

「行ってっきま~す」

 

躊躇無く飛び降りる皐月。続く様にハジメ、ユエ、シアが飛び降りて行き、遠藤も覚悟を決めて飛び降りた

 

「フフフ♪お嬢様はど腐れ野郎達とは会いたくないでしょうが、私個人の意見では彼等に会いたかったです。目的は塵芥ですがね?」

 

小さな声で呟く深月の声は誰にも聞こえず、深月も続く様に飛び降りた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

ドォゴオオン!!

 

大きな音を立てて貫通した地面の穴に、皐月が最初に飛び降りた。すると、杭に潰された馬型の魔物――――アハトドが見えた。皐月は気にする事無く、クッション代わりとしてアハトドの上に降り立って横に寄ると同時にハジメが降り立った。続いてユエ、シア、遠藤、深月と降り立つ。ユエは重力魔法でシアと遠藤の落下速度を緩めて地面に降り立たせ、深月は空気を蹴って減速しながら着地地点を皐月の斜め後ろに変えて降り立った

 

「・・・相変わらず仲が良いわね、貴女達は」

 

「百合の背景が見えてるな」

 

「ハジメくん!高坂さん!」

 

白崎は分かった。姿形が別物ではあるが、分かったのだ

 

「へ?ハジメくん?って南雲くん?えっ?なに?どういうこと?それに高坂さんって?」

 

白崎は見ただけで確信に至ったが、八重樫は変わり果てた彼らの姿を見ても理解が追い付かず未だに混乱している

 

「えっ?えっ?ホントに?ホントに南雲くんと高坂さんなの?えっ?なに?ホントどういうこと?」

 

「いや、落ち着けよ八重樫。お前の売りは冷静沈着さだろ?」

 

「勇者(笑)パーティーで、気苦労が絶えなくて遂におかしくなっちゃったのかしら?」

 

「おかしくなってないから!?というよりも、二人共変わり過ぎ!?」

 

深月が何故無視されているかだが、絶賛気配を透過しているので誰も気付かない。・・・いや、一人だけ気付いていた。それは、影の薄さ世界一の遠藤だ。遠藤は「えっ?何で誰も神楽さんが高坂さんの斜め後ろに居るって気付いていないんだ?」と呟くが、今はそんな場合では無いと切り替えた

 

「皆、助けを呼んできたぞ!」

 

『遠藤(浩介)!』

 

遠藤の"助けを呼んできた"という言葉に反応して天之河達と魔人族の女も我を取り戻し、ハジメと皐月と二人の少女を凝視する

 

「ユエ、悪いがあそこで固まっている奴等の守りを頼む。シア、向こうで倒れている騎士甲冑の男、容態を見てやってくれ」

 

「ん・・・任せて」

 

「了解ですぅ!」

 

ハジメが二人に指示を出し、皐月は魔人族の女の方を向いて敵ではないが故の慈悲を与えた

 

「そこの魔人族。死にたくないのであれば直ぐにここから立ち去りなさい。もし、敵意を向けたのであれば・・・その時は容赦無く殺すわ」

 

「・・・何だって?」

 

興味無さ気に魔人族の女に言い放つ皐月。魔物の大群に囲まれたこの状況下で言う台詞ではなかった

 

「戦場での判断は迅速にしなさい。本当に死にたいのかしら?」

 

魔人族の女はスっと表情を消して「殺れ」と、皐月を指差し魔物に命令を下した

 

「へぇ・・・じゃあ貴女は敵って事で良いのね」

 

「「高坂さん!」」

 

皐月に襲い掛かるキメラの攻撃が来ると思い、危ないと叫ぶが、皐月は右手の義手でキメラの頭部を鷲掴みして握り砕いた

 

「物凄く中途半端な固有魔法ね。大道芸のつもりかしら?」

 

すると、ハジメから途方もない殺気が漏れ出した

 

「おいテメェ。俺の女に手を出しやがったな?絶対に容赦しねぇ・・・絶望を味わわせて殺してやるよ」

 

ドパパパパパパパパパン!

 

素早くドンナー・シュラークを引き抜き、周囲に発砲。ハジメのあまりにも早い動作に八重樫達の目では何をしているのかが分からなかった。すると、空間が揺らいで頭部を爆散させたキメラと心臓を撃ち抜かれたブルタールモドキが、ぐらりと揺れて地面に倒れ伏した

一瞬で数十の魔物が駆逐された光景を見て、魔人族の女は全ての魔物達に一斉に襲い掛かる様に指示を出した

 

「殺れ!あの二人を殺せ!!」

 

襲い来る魔物達を、ハジメと皐月は背中を合わせてドンナー・シュラークで殲滅して行く。二人きりの世界で、ダンスの様に舞いながら息ぴったりのコンビネーションで魔物を次々と撃ち殺す

黒猫は頭部を粉砕され、四つ目狼は跳弾させた弾丸の檻に貫かれる。皐月が跳弾で四つ目狼を駆逐していると、真正面からキメラが突撃する。皐月は焦る様子も無く四つ目狼の処理を優先。殆どの者が皐月に直撃すると思ったが、ハジメが背中合わせのままシュラークを後ろに構えてキメラの頭部を撃ち貫く

 

「ちっ!アブソド!」

 

六足亀の魔物アブソドが口を大きく開いてハジメ達の方を向くと、その口の中には純白の光が輝きながら猛烈な勢いで圧縮されているところだった。だが、忘れてはいけない。強靭な魔物だろうと、殺しの方法は幾らでもある

 

「駄目ですよ?无二打(にのうちいらず)!」

 

亀の硬い殻に打ち込まれた深月の拳―――――普通の人間ならば、拳が粉々に砕けるだろう。しかし、気に入った技を自分に合った形で昇華させるチートメイドの前ではその心配は無用

亀は深月の拳が直撃した瞬間に「グゴゲゲゲゲゲゲ!?」と意味不明な絶叫を上げて、時間差で吹き飛んで迷宮の壁にぶつかって破裂。姿形も無くなったのだ

 

「ふっ!」

 

黒刀を引き抜いて、無間と音越えで音速を超えた速度で音も無く魔物達の間を通り抜けて切り刻む。早すぎる斬撃は魔物達も認識出来ず、深月が通り過ぎたと自覚して振り向くと同時に体がズレ落ちて絶命した

 

ドパァンッ!

 

魔人族の女は、最初の蹂躙を見て魔法の詠唱を始めていた。しかし、ハジメの放った弾丸が肩に乗っていた白鴉の魔物に当たったのだ。白鴉はその白い羽を血肉と共に撒き散らし、レールガンの衝撃の余波で魔人族の女はバランスを崩して尻餅を付いた

 

「何なんだ・・・彼等は一体、何者なんだ!?」

 

天之河は動かない体を横たわらせながら呟いた

 

「はは、信じられないだろうけど・・・あの三人は南雲と高坂さんと神楽さんだよ」

 

「「「「「「は?」」」」」」

 

遠藤の言葉を聞いた一同は遠藤を見て「頭大丈夫か、こいつ?」と思っている。その様子が手に取る様に分かった遠藤は肩を竦める

 

「だから、南雲ハジメと高坂皐月さんと神楽深月さんの三人だよ。あの日、橋から落ちた南雲と高坂さんとそれを追った神楽さんだ。迷宮の底で生き延びて、自力で這い上がってきたらしいぜ。ここに来るまでも、迷宮の魔物が完全に雑魚扱いだった。マジ有り得ねぇ!って俺も思うけど・・・事実だよ」

 

「南雲って、え?南雲が生きていたのか!?」

 

「あの白髪野郎がやる気の無い奴だっていうのか!?ありえねぇだろ!?」

 

「いや、本当なんだって。めっちゃ変わってるけど、ステータスプレートも見たし」

 

皆が信じられない様な目で二人の無双っぷりを見ていると、檜山が酷く狼狽した声で遠藤に喰って掛かる

 

「う、うそだ。南雲達は死んだんだ。そうだろ?みんな見てたじゃんか。生きてるわけない!適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

 

「うわっ、なんだよ!ステータスプレートも見たし、本人達が認めてんだから間違いないだろ!」

 

「うそだ!何か細工でもしたんだろ!それか、なりすまして何か企んでるんだ!」

 

「いや、何言ってんだよ?そんなことする意味、何にもないじゃないか」

 

顔を青ざめさせて遠藤の胸倉を掴んで叫ぶ檜山。周囲は若干引いた感じで見ているとユエから冷たい一言が発せられる

 

「・・・大人しくして。鬱陶しいから」

 

まるで虫けらを見る様な冷たい目だった

魔人族の女は、魔物を数体天之河達の方へと襲わせる。恐らく人質にするつもりなのだろう。谷口が咄嗟に盾を発動させようとするが、怪我をしており、その激痛で詠唱すらままならなかった

 

「・・・大丈夫」

 

ユエが谷口を見ながら発した言葉。ユエは谷口から視線を外して襲い来る魔物達に向けて、魔法のトリガーを引いた

 

「"蒼龍"」

 

燦然と燃え盛る蒼炎が突如うねりながら形を蛇の様に形を変えて、魔物達を飲み込んで消し炭にする

 

「なに、この魔法・・・」

 

今まで見た事も聞いた事も無い魔法に、呆然とする天之河達

 

「くそっ!化け物ばっかりか!だったら―――――」

 

「だったら―――――どうしますか?」

 

まるで瞬間移動でもしたかの様に眼前に現れた深月に驚愕し、体を硬直させた魔人族の女。隙だらけな彼女の腹部に、強烈な拳が突き刺さった

 

ズドムッ!

 

深月なりに手加減をした一撃だったのだが、魔人族の女からすれば凶悪な一撃だった。衝撃で宙に浮き後方に吹き飛び、口から内臓が噴き出ると思う程の錯覚する威力だった。口から大量の血を吐いて地に伏し、ゆっくりと近づく深月を標的として石化魔法の"落牢"を放った。煙で視界を遮断した事で逃走出来ると思い逃げようとしたが、足を踏み外してこけた。それと同時に襲い来る痛み―――――足首が切断されていた

 

「はは・・・既に詰みだったわけだ」

 

「その通りです」

 

煙の中から何事も無く姿を現す深月に、天之河達は本日何度目か分からない驚愕をしていた。ハジメ達も魔物を殲滅し終えたのか、動けない魔人族の女に銃口を向けて近づく

 

「・・・この化け物共め。上級魔法が意味をなさないなんて、あんたら、本当に人間?」

 

「実は、自分でも結構疑わしいんだ。だが、化け物というのも存外悪くないもんだぞ?」

 

「化け物夫婦という事ね」

 

「違いないな」

 

「私はメイドですよ?」

 

「「深月みたいなメイドが何人も居てたまるか!!」」

 

「私とて人間ですよ。悲しいですシクシク」

 

「嘘泣きは似合わないから止めなさい」

 

「かしこまりました」

 

他愛無い話をしているが、威圧は変わらずに魔人族の女に突き刺さっている

 

「さて、普通はこういう時、何か言い遺すことは?と聞くんだろうが・・・生憎、お前の遺言なんぞ聞く気はない。それより、魔人族がこんな場所で何をしていたのか・・・それと、あの魔物を何処で手に入れたのか・・・吐いてもらおうか?」

 

「あたしが話すと思うのかい?人間族の有利になるかもしれないのに?バカにされたもんだね」

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

「あがぁあ!!」

 

両肩と両足を撃たれて悲鳴を上げる魔人族の女。情け容赦の無いハジメの行動に、クラスメイト達は息を呑んだ

 

「てめぇに選択権は無いんだよ。特に、俺の女に手を出したんだ。この程度で済ませているだけありがたいと思えよ。それに―――――人間族だの魔人族だの、お前等の世界の事情なんざ知ったことか。俺は人間族として聞いているんじゃない。俺が知りたいから聞いているんだ。さっさと答えろ」

 

「・・・」

 

「だんまりしているけれど、大体は予想が付くわ。大方、この迷宮を攻略するつもりだったのでしょう?そしてあの魔物達は神代魔法。恐らく変成魔法の産物ね。そして、この使えない勇者(笑)の勧誘と迷宮の調査でしょう?」

 

「な、何で・・・まさか・・・」

 

「お、ようやく理解出来たか?」

 

魔人族の女は、ハジメ達が迷宮攻略者だと理解したのだろう。全てを察して諦めた目をしていた

 

「なるほどね。あの方と同じなら・・・化け物じみた強さも頷ける・・・もう、いいだろ?ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね・・・」

 

「あの方・・・ね。皐月の予想通り、魔物は攻略者からの賜り物ってわけか・・・」

 

「いつか、あたしの恋人があんたを殺すよ」

 

「恋人ねぇ・・・確かに厄介だろうけれど、本当の意味も知らずに神に踊らされている程度なら、私達には届かない」

 

「恋人がいるのか。・・・だったら、慈悲としてこれ以上苦しませずに殺してやるよ」

 

ハジメは銃口を魔人族の頭部に向けて、引き金を引こうとした瞬間に静止の声が掛かる

 

「待て!待つんだ、南雲!彼女はもう戦えないんだぞ!殺す必要はないだろ!」

 

「・・・」

 

「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。南雲も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」

 

天之河の甘々言動に呆れて何も言えないハジメ

 

「敵だけど・・・貴女には同情するわ」

 

「・・・そうかい。さっさと殺しておくれよ」

 

「おう」

 

ドパンッ!

 

躊躇い無く引き金を引いて、魔人族の女を殺したハジメ。今更だと分かっていても、同じクラスメイトが躊躇無く人を殺した事に息を呑み戸惑ったようにただ佇む。特にショックを受けていたのは白崎だろう。皐月が居ながら、あそこまで人殺しに対する忌避感や嫌悪感、躊躇いというものが一切無かったから

この事に正義感の塊たる勇者の方は黙っている筈が無く、静寂の満ちる空間に押し殺した様な天之河の声が響いた

 

「なぜ、なぜ殺したんだ。殺す必要があったのか・・・」

 

「シア、メルドの容態はどうだ?」

 

「危なかったです。あと少し遅ければ助かりませんでした。・・・指示通り"神水"を使っておきましたけど・・・良かったのですか?」

 

「ああ、俺達はこの人に、それなりに世話になったんだ。それに、メルドが抜ける穴は色んな意味で大きすぎる。特に、勇者パーティーの教育係に変なのが付いても困るしな。まぁ、あの様子を見る限りメルドもきちんと教育しきれていない様だが・・・人格者である事に違いはない。死なせるにはいろんな意味で惜しい人だ」

 

「・・・ハジメ」

 

「ユエ。ありがとな、頼み聞いてくれて」

 

「んっ」

 

「あぁ~・・・シアも頼みを聞いてくれてありがとな」

 

「はいですぅ!」

 

「そして皐月、俺のわがままを聞いてくれてありがとな」

 

ユエとシアには言葉だけだが、皐月には手を取って感謝するハジメ。明らかに対応が違い過ぎていた

 

「駄目でしょ。二人にも、私の様にもう一回感謝しなさい」

 

「・・・おう」

 

皐月と同じ様に感謝の言葉を述べるハジメ。二人の気分は上昇して、皐月に感謝の念を込めた視線を向けた。まぁそんな中で、天之河達とは違う視線が突き刺さって何故か背筋が粟立った

 

「おい、南雲。なぜ、彼女を・・・」

 

「ハジメくん・・・色々聞きたい事はあるんだけど、取り敢えずメルドさんはどうなったの?見た感じ、傷が塞がっているみたいだし呼吸も安定してる。致命傷だった筈なのに・・・」

 

「ああ、それな・・・ちょっと特別な薬を使ったんだよ。飲めば瀕死でも一瞬で完全治癒するって代物だ」

 

「そ、そんな薬、聞いた事無いよ?」

 

「そりゃ、伝説になってるくらいだしな・・・普通は手に入らない。だから、八重樫は、治癒魔法でもかけてもらえ。魔力回復薬はやるから」

 

「え、ええ・・・ありがとう」

 

ハジメから薬を受け取った八重樫は、きっちりと薬瓶をキャッチして中身を飲み干す。味わいはフルーティーで、口の中一杯に広がって少しずつ活力が戻ってくる。とりあえず、メルドの容態は大丈夫だと告げられて一安心する白崎達。再び勇者(笑)が口を開くが

 

「おい、南雲、メルドさんの事は礼を言うが、なぜ、かの・・・」

 

「ハジメくん。メルドさんを助けてくれてありがとう。私達の事も・・・助けてくれてありがとう」

 

再び白崎によって遮られる。白崎は込み上げてくる来る何かを押さえて服の裾を両の手で握り締め、しかし、堪えきれずにホロホロと涙をこぼし始めた

 

「ハジメぐん・・・生きででくれで、ぐすっ、ありがどうっ。あの時、守れなぐて・・・ひっく・・・ゴメンねっ・・・ぐすっ」

 

クラスメイトの男子少しと、女子達は白崎の気持ちを察して生暖かい目で見ていた。檜山達子悪党組は苦虫を噛み潰したような目を、天之河と坂上は分かっていない様でキョトンとしていた。シアは「新たなハーレム要員ですか!?」という表情をしており、ユエは無表情で白崎を見ている。皐月に関しては正妻の余裕なのか、白崎の一挙一動を観察をしている

ハジメは困った表情をして、苦笑いしながら白崎に言葉を返した

 

「・・・何つーか、心配かけたようだな。直ぐに連絡しなくて悪かったよ。まぁ、この通り、しっかり生きてっから・・・謝る必要はないし・・・その、何だ、泣かないでくれ」

 

白崎の純粋な好意に戸惑うハジメ。奈落に落ちる前から気に掛けられていたのでタジタジとなっているのだ。その様子を見て、八重樫が「私の親友が泣いているのよ!抱きしめてあげてよぉ!」という視線が叩き付けられているが、皐月とユエとシアが見ている中でするのは非常に危険だと感じたので、軽く頭を撫でる程度に止めた

良い雰囲気の中、空気を読まずにぶち壊す存在は何時だって居る。それが天之河―――――勇者(笑)である

 

「・・・ふぅ、香織は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて・・・でも、南雲は無抵抗の人を殺したんだ。話し合う必要がある。もうそれくらいにして、南雲から離れた方がいい。皐月も深月も危険な南雲から離れた方が良い」

 

「ちょっと、光輝!南雲君達は、私達を助けてくれたのよ?そんな言い方はないでしょう?」

 

「だが、雫。彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。南雲がしたことは許されることじゃない」

 

「あのね、光輝、いい加減にしなさいよ?大体・・・」

 

とんちんかんな事を言い始める天之河。ハジメの事が気に食わない子悪党組も、それを助長する様に光輝に加勢し始めた

 

「雫は黙っていてくれ!南雲は無抵抗な人間を殺したんだ。人を殺す事に躊躇いを持たない危険な奴なんだ!そんな南雲の近くに居れば心優しい皐月達が傷つくんだ!」

 

次第にハジメに対する議論が白熱する中、そんな彼等に、今度は比喩的な意味で冷水を浴びせる声が一つ

 

「・・・くだらない連中。ハジメ、皐月、もう行こう?」

 

「あー、うん、そうだな」

 

「早く新鮮な空気が吸いたいわー」

 

ユエの一言に続く様にハジメ達は部屋を出ていこうとした。だが、ここでも空気を読まない天之河が引き止める

 

「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。南雲の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないなんて・・・失礼だろ?一体、何がくだらないって言うんだい?」

 

「・・・」

 

黙って天之河を見るユエ。「自分の胸に手を置いて考えろ」と言いたくなっている様子だ。だが、予想しない人物からも静止が掛かる

 

「くだらない連中だとしても、用件はあるのです。にとって重要な要件が」

 

ハジメと皐月を除く全員が驚き、声のした方に振り返ると笑顔の深月が佇んでいた。だが、深月の事をよく知っているユエとシアは深月の様子を見て体を震わせる。他の者達は、ニコニコと微笑んでいる深月にしか見えなかった

 

「・・・い、今直ぐじゃないと駄目なの?」

 

「そうですよ?何故なら―――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで血の匂いに塗れた塵芥を殺せませんから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これだけで分かるだろう。深月は絶対に赦さない

主が持つ手綱を引き千切り、ハジメ達の殺気が可愛く思える程の殺意がこの一帯を支配したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「次回が楽しみだぁ」
深月「どの様に処分しようか楽しみです♪」
布団「次回、塵芥の処刑!ぜったいn――――」
深月「誤字報告有難う御座います。それでは次回をお楽しみにして下さい♪」









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メイドが処分します

布団「またせたな!」
深月「楽しみです!」
布団「あ、誤字報告ありがとうございます!」
深月「作者さんは誤字が本当に多いですね」
布団「見直しは十回はやってるけど・・・見逃す点がちょこちょこあるんです。許して」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」








~ハジメside~

 

迷宮から帰ろうとするハジメ達は足を止め、深月の様相が完全に変わった事に冷や汗を流す

 

「そうですよ?何故なら――――そこで人殺しの匂いに塗れた塵芥を殺せませんから

 

深月の視線の先には小悪党組の四人、彼等は途方もない殺気を浴びて失禁してしまった。殺意はこれ程までに人を変えるのだ

ズン、ズン、とゆっくり四人へと近づく深月。だが、ここでも空気が読めないご都合解釈勇者(笑)の天之河が深月の行く手を阻む様に立ちはだかって子悪党組を守ろうとする

 

「待つんだ深月!彼等は何もしていない。当たり散らすなんて駄目だ!」

 

「そ、そうだ!俺達は何もしていない!お前達が魔人族を倒す邪魔なんてしていないだろ!?」

 

檜山の言葉に子悪党組の残りも賛同して否定し、天之河と一緒に坂上も交じって深月を止めようとする。彼等は完全に忘れている・・・深月が別れ際に言い放った言葉を

白崎と八重樫は邪魔にならない様に一歩下がり、遠藤達も後ろめたい表情をしながら下がる。これから何が起こるか―――――全てを察しているのだ

 

私は言いましたよ?"処分は任せます"、"何もしなければ殺す"―――――

 

深月が言った事をようやく思い出したのか、小悪党組は檜山から逃げる様に離れて、当の本人は顔を青ざめさせて震えている

 

「待つんだ深月!檜山はちゃんと反省しながら皆の前で謝ったんだ。改心して、俺達と一緒に迷宮に挑む事で贖罪をしてい―――――――」

 

ズブリッ

 

「え?――――――――ぐっ、ガハッ!?」

 

鎧を貫通して、天之河の腹部に深月の手刀が浅く突き刺さり血が噴き出る。突然の出来事にほとんどのクラスメイト達はパニックに陥った。同じ学び舎で過ごしたクラスメイトに躊躇い無く攻撃・・・しかも、勇者という発言力が高い存在を攻撃する深月に恐怖する。一早く我に返った坂上が、深月を天之河から引き離そうと拳を振るう

 

「てめぇ!光輝から離れろおおおお!」

 

大振りの拳。深月なら難無く避ける事が出来るが、敢えて真正面から受け止めようとする。地面を砕く剛腕を片手で受け止めようとする光景を見て檜山はニヤケたが、地面にヒビが入る事も無く受け止められた事に驚愕して再び顔を青ざめる。深月は坂上の拳を受け止めた反対の手を天之河の頭部に向けており、受け止めた衝撃を放つ

 

「ぐわっ!」

 

訳も分からず吹き飛ばされる天之河を見て、坂上は目を見開く。その隙を待つ程深月は優しくは無い。一瞬で背後に回り込み、シュタル鉱石印の針を首筋にプスリと刺す。坂上は体に力を入れる事が出来なくなり、地面に倒れ伏した

 

「なっ!?か、体に力が入らねぇ!?」

 

さて・・・邪魔者達も動かなくしましたので、処分が出来ますね

 

「ひ、ひぃいいいいいい!?」

 

檜山は逃げるが、首筋を掠めたかの様に深月の手刀が襲い掛かり衝撃で地面に転げ落ちた。起き上がろうとした檜山は違和感に気付く。右半分が見えなくなっていたのだ

 

首筋には、重要な神経が色々とあるのですよ?

 

深月の左手の人差し指が血に濡れていた。あの一瞬で、痛みも無く神経の紐を切断したのだ。檜山は地面に倒れたまま逃げようとして左手を地面に這わせるが、バランスを崩して再び転げる。恐る恐る左手を持ち上げて視界に入れると、親指以外が全て指が根元から切断され、血が噴き出す

 

「いぎゃあああああああああ!?ゆびぃいいい!?ゆびがあああああああああ!!」

 

叫ぶ檜山の口を挟む様に掴み上げて、切り落とした四本の指を関節毎に切り離し、一つ一つを檜山の口の中にねじ込んでいく

吐き出そうと必死に抵抗するも顔を上に向け、全てを飲み込まされて地面に落とされる。檜山は必死になって吐き出そうとするが、その尽くを邪魔されてどうする事も出来ない

 

「お"、俺が何をしたっていうんだよおおおおおおおおお!」

 

自分が犯した罪を認めない檜山の下の玉を蹴り上げて潰す

 

「お"っ!?」

 

床に崩れ落ちそうになる檜山の四肢を魔力糸で拘束して宙に持ち上げる。見せしめを兼ねた処刑が下されるのだ

 

「お"、お"ろ"せ"え"ええええぇぇぇぇぇぇ!」

 

深月が指を少し動かすと片方の足首が切断される

 

「いぎゃああああああ!?あづい!?あづいあづいあづい!」

 

熱を持たせた魔力糸で焼き切り、失血死の心配は無い

 

「や、止めるんだ深月!俺達は仲間じゃないか!?どうしてそんな酷い事をするんだ!」

 

天之河は、いつも通り言葉だけの力無い説得だ。そんな天之河を無視して檜山を目の高さまで下ろす。天之河は「ようやく考え直してくれたのか」と呟くが、深月はさも当たり前の様に檜山の右目を抉り取った

 

「ぐぎゃああああああああ!や"へ"て"!も"う"や"へ"て"く"れ"えええええええ!」

 

「ぐっ、うぉおおおおおおおおおおお!止めるんだ深月いいいいい!」

 

傷だらけの体に鞭打って限界突破を使って深月を止め様と捕まる為に近づく天之河。しかし、トータスに来て初めての試合と同じ様にすれ違いざまに関節を外されてしまった。今回は肩の関節を外したので、バランスを崩して地面に転げる。それでも止めようと体を動かして深月達の方へ視線を向けると、檜山の右腕を肩から、左腕を肘から焼き切る

 

痛いですか?その痛みはお嬢様達を奈落へと落とした分と、奈落へ落ちてから傷付いた分です

 

深月が檜山を更に痛め付け様とする姿を見て、天之河は自分一人では止められないと判断して周りに協力を求める

 

「香織!雫!他の皆も深月を止めるんだ!このままでは深月が人を殺してしまう!!」

 

だが、動こうとした者は居ない

 

「な!?何で皆は動こうとしないんだ!このままだと檜山が死んでしまうんだぞ!?」

 

殆どの者は、止めようとした時に反撃される事に恐れているからだ。しかし、白崎と八重樫の表情は青ざめているが、冷めた目で事の光景を見ている。一方通行で信頼する天之河は、何故心優しい二人が止めないのか、主である皐月が止めないのかが理解出来なかった

 

「香織!雫!皐月!お願いだ!深月を止めてくれ!」

 

だが、返ってくる答えは非情だ

 

「天之河くん。私は止めないよ?私自身、檜山くんを殺したいと思う程憎んでいるから。だけど・・・私は檜山くんを憎しみで殺す権利を持っていない。その権利は神楽さんだけが持っている。だから、止めないよ」

 

「私も止めないわ。彼の自業自得・・・いえ、因果応報と言った方が正しいわ。高坂さんが言ってたでしょ?南雲君に手を出したら殺すと」

 

「はっきりと言わせてもらうわ。私は"あれ"がどうなろうとどうでも良いわ。この場所に居る理由は、ハジメに頼まれたから。深月が行動をするのは、いつも私を想っての事なの。確信を持って、この先敵対すると判断して処分をしているだけよ」

 

「檜山は敵にならない!檜山は改心したんだ!俺達と一緒に迷宮を攻略して自分の罪を贖罪しているだけなんだ!」

 

「・・・はぁ~」

 

皐月は頭を押さえて、呆れた様に溜息を吐いて

 

「・・・深月」

 

「はい。何か御用でしょうかお嬢様?」

 

深月を一旦止めた皐月を見て、天之河は「やっと分かってくれたんだな!」と思い顔を上げた。それと同時に下される命令

 

「醜い声を聞きたくないから早くしなさい」

 

「え?」

 

「・・・・・・・・・もっと絶望させて殺したかったのですが、お嬢様の気分も害したくはありません。勿体ないですが、終わらせましょう。それでは、さようならです」

 

深月の腕が振るわれ、吊るされていた檜山はバラバラとなりその生を終わらせた。形あったクラスメイトが無残にも細かい肉塊へと変貌した光景を見て、壁際に移動して胃の中身をぶちまける者、尻餅を付いて悲鳴を上げる者、深月を睨み付ける者、目の前で殺された事に呆然とする者と様々だ

 

「何で・・・何で殺したんだ!俺達は仲間じゃないか!!」

 

「何故と言われましても・・・お嬢様を殺そうとした者だからとしか言えません。・・・何か間違っていますか?それと、私達は仲間ではありません」

 

何処に間違いがあるのかと首を傾げる深月

 

「人殺しは犯罪だぞ!?間違っているに決まってる!」

 

「それでは、貴方は殺人未遂の人を赦す狂人なのですね」

 

「話をすり替えるな!俺は人殺しがいけないと言ったんだ!」

 

「これ以上の問答は平行線ですので、私はもう行かせて頂きます」

 

天之河はハジメ達の元へ帰る深月の背をジッと睨みつけ、今度はハジメを睨む。メルドもようやく目を覚ましたのか、事の顛末を聞いて残念そうに表情を曇らせたが・・・深月の表情を少し見て「・・・そうか」と呟いた

未だに怒りと納得できない気持ちで表情を歪める天之河に向けて、ハジメは面倒そうに溜息を吐いて睨み付けて言葉を発した

 

「天之河。存在自体が色んな意味で冗談みたいなお前を、いちいち構ってやる義理も義務もないが、それだとお前はしつこく絡んできそうだから、少しだけ指摘させてもらう」

 

「指摘だって?俺が、間違っているとでも言う気か?俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ!」

 

「お前は、俺が人を殺したから怒っているんじゃない。人死にを見るのが嫌だっただけだ。だが、自分達を殺しかけ、騎士団員を殺害したあの魔人族の女を殺した事自体を責めるのは、流石に、お門違いだと分かっている。だから、無抵抗の相手を殺したと論点をズラしたんだろ?見たくないものを見させられた、自分が出来なかった事をあっさりやってのけられた・・・その八つ当たりをしているだけだ。さも、正しいことを言っている風を装ってな。タチが悪いのは、お前自身にその自覚がないこと。相変わらずだな。その息をするように自然なご都合解釈。まぁ、最後の深月の行動については含まれていないがな

 

「ち、違う!勝手な事を言うな!"お前は"無抵抗の人を殺したのは事実だろうが!」

 

「敵を殺す、それの何が悪い?」

 

「人殺しだぞ!悪いに決まってるだろ!」

 

「はぁ、お前と議論するつもりはないから、もうこれで終いな?――――俺は、敵対した者には一切容赦するつもりはない。敵対した時点で、明確な理由でもない限り、必ず殺す。そこに善悪だの抵抗の有無だのは関係ない。甘さを見せた瞬間、死ぬという事は嫌ってくらい理解したからな。これは、俺が奈落の底で培った価値観であり、他人に強制するつもりはない。・・・が、それを気に食わないと言って俺の前に立ちはだかるなら・・・例え、元クラスメイトでも躊躇いなく殺す」

 

「お、おまえ・・・」

 

「私がさっきも言った様に・・・ここに来た理由は、ハジメが白崎さんに義理を果たしに来たからよ。私は頼まれて付いて来ただけ」

 

「皐月の言った通りだ。俺は白崎に義理を果たしに来ただけ。ここを出たらお別れだ。俺達には俺達の道がある」

 

「・・・戦ったのはハジメ。恐怖に負けて逃げ出した負け犬にとやかくいう資格はない」

 

「なっ、俺は逃げてなんて・・・」

 

天之河がユエに反論しようとしたが、予想外な人物から反論の声が響く

 

「・・・るな」

 

「浩介・・・?」

 

「ふざけるな!どこまでふざけてるんだよ天之河!!」

 

感情の爆発―――――ハジメ達の会話に遠藤が無理矢理入り込んで、天之河を殴りつけたのだ。これには全員がビックリした。深月は表情に出していなかったが、内心でビックリしている

遠藤は興奮した様子で天之河の胸倉を掴んで、無理やり立たせてまくし立てる

 

「お前があのまま攻撃して魔人族を倒していれば、皆が瀕死になるなんて事にはならなかったんだ!お前が戦争に参加する、皆を守るって言っていたのに・・・言っていたのに!何で魔人族を殺さなかったんだよ!!」

 

「お、落ち着くんだ遠藤!人殺しは良くないだろ!」

 

「あぁ、人殺しは良くない。そんな事分かってるんだよ!だったら何で戦争に参加するなんて言ったんだよ!」

 

「この世界の人達を助ける為だ!俺達にはその力があるんだ!だったら助けるのは当たり前だろう!」

 

「先生から戦争の事は教えられただろ!人と人の殺し合いだって!!」

 

「ま、魔人族が人間だと知らなかったんだ!?」

 

「だったら何で南雲を責めるんだよ!俺達が死にそうだから助けに来てくれたんだぞ!俺達が人殺しを出来ないから尻拭いしたんだ!」

 

「だからといって人殺しは良くない!話し合えば分かり合える!」

 

「その甘さが皆を殺しかけたんだろ!お前が―――――って離せよ!離せ!」

 

暴走する遠藤を見て、ヤバイと感じた永山と野村の二人掛かりで引き離す

 

「よせ、遠藤」

 

「メルドさん。・・・だけど・・・だけどっ!」

 

メルドは未だはっきりしない意識の中、天之河達の言い合いを聞いていた。重傷な自分を助けたハジメ達―――――あの日助ける事が出来なかった彼等に土下座する勢いで感謝と謝罪するメルド。そして、天之河達の方に向き直ってハジメと同じ様に、土下座をする勢いで謝罪した

 

「メ、メルドさん?どうして、メルドさんが謝るんだ?」

 

「当然だろ。俺はお前等の教育係なんだ・・・なのに、戦う者として大事な事を教えなかった。人を殺す覚悟の事だ。時期が来れば、偶然を装って、賊をけしかけるなりして人殺しを経験させようと思っていた・・・魔人族との戦争に参加するなら絶対に必要な事だからな・・・だが、お前達と多くの時間を過ごし、多くの話しをしていく内に、本当にお前達にそんな経験をさせていいのか・・・迷う様になった。騎士団団長としての立場を考えれば、早めに教えるべきだったのだろうがな・・・もう少し、あと少し、これをクリアしたら、そんな風に先延ばしにしている間に、今回の出来事だ・・・私が半端だった。教育者として誤ったのだ。そのせいで、お前達を死なせる所だった・・・申し訳ない」

 

メルドが謝罪をしている中、白崎は考えていた。ハジメと皐月と深月について色々と考えていたのだ。奈落の底で培った価値観、敵ならば躊躇い無く殺す・・・それが例えクラスメイトであったとしても。殺さなければこちらが殺される・・・奈落に落ちる前の彼等はこれ程までに変わってしまった事に不安に思った。地球に帰った時も今と同じ様に殺すのかと

白崎が考え込んでいると、不意に視線を感じてその先を見やると、そこには金髪紅眼の美貌の少女。無表情で白崎を見つめるユエ

 

「・・・フ」

 

「っ・・・」

 

その見つめ合いはユエの方から逸らされた。嘲笑付きで

嘲笑の内容を予想した白崎は、「この程度の気持ちで揺らぐなら、何処かに行ってしまえ」と感じた。一方、ユエも白崎の気持ちに気付いており、ハジメ達が奈落に落ちても諦めずに探していたのは分かった。だが、考えは違っており、「お前では皐月の様に全員を見て、チャンスを与え、しっかりと気遣う事も出来ないだろう?」といった嘲笑だった。白崎は未だにこの事実には気付かないだろう。・・・いや、下手をすればシア以上の塩対応を取られるだろう。ハジメは女性に甘いので、ここは皐月が対応をする形の・・・筈。もしかしたら拒否の可能性がある

目で語るユエに、白崎は顔を真っ赤に染めて睨む。だが、反論や否定は出来ない。してしまったら自分の負けを認めている様なものだと思った

ハジメ達は、撃ち込まれたパイルバンカーの杭やその他もろもろを回収して地上へと向かう。クラスメイト達もハジメ達の後ろに着いて行き、道中でユエやシアに下心満載で話しかけたり、手を出そうとした男子達を皐月がゴム弾をしこたま撃ち込んだり蹴ったりとしていた。そんなこんなが色々ありつつ、一行が地上へたどり着いて入場ゲートを出るとやってくる人影

 

「あっ、パパー!ママー!」

 

「むっ!ミュウか」

 

小さな人影はミュウだった

 

「パパー、ママーお帰りなの!」

 

「ただいま。ミュウは良い子にしてた?」

 

「うん!パパ達が帰ってくるまで良い子にしてた!」

 

「そういえば、ティオが居ねぇな」

 

「妾はここじゃぞ」

 

人混みをかき分けて、ティオが姿を現す。過保護な二人は、この人混みの中ではぐれたらどうするんだと非難するがこれには理由があったのだ

 

「おいおい、ティオ。こんな場所でミュウから離れるなよ」

 

「目の届く所にはおったよ。ただ、ちょっと不埒な輩がいての。凄惨な光景はミュウには見せられんじゃろ」

 

「それなら仕方が無いわね・・・で?その自殺志願者は何処に居るのかしら?」

 

「ミュウに手を出そうとしたんだ・・・無傷で帰さねぇよ」

 

「いや、ご主人様達よ。妾がきっちり締めておいたから落ち着くのじゃ」

 

「「・・・チッ、まぁいいだろう(わ)」」

 

「・・・ホントに子離れ出来るのかの?」

 

どうやら、ミュウを誘拐しようとした愚かな奴らが居たのだろう。皐月は深月に、「ミュウを誘拐しようとする馬鹿共や、ちょっかいを掛けてきそうな連中を全てを潰しなさい」と命令を下し、深月は了承してこの場から消える様に離れて行った

そんなやり取りを見ていた天之河達は呆然としていた。ハジメ達が奈落に落ちてからおよそ四ヵ月・・・様々な経験をして強くなったと理解はしていたが、「まさか父親になっているなんて!」と誰もが唖然とする。特に男子達は「一体、どんな経験積んできたんだ!」と、視線を皐月とユエとシアとティオに向けて明らかに邪推をしていた。そして、テンパる一同の中でも白崎が一番酷く、ハジメに掴み寄って問い詰める

 

「ハジメくん!どういうことなの!?本当にハジメくんの子なの!?高坂さんの子供なの!?それとも、神楽さん!?ユエさん!?シアさん!?そっちの黒髪の人!?まさか、他にもいるの!?何人孕ませたの!?答えてハジメくん!」

 

「いや・・・たったの数ヵ月で子供が出来る訳ないだろ」

 

ハジメの冷静なツッコミが入るが、物凄くテンパっている白崎には全く聞こえておらず、今も尚ガッチリ掴んで離さない

 

「何だあれ?修羅場?」

 

「何でも、女がいるのに別の女との間に子供作ってたらしいぜ?」

 

「一人や二人じゃないってよ」

 

「七人同時に孕ませたらしいぞ?」

 

「いや、俺は、ハーレム作って何十人も孕ませたって聞いたけど?」

 

「でも、妻には隠し通していたんだってよ」

 

「なるほど・・・それが今日バレたってことか」

 

「ハーレムとか・・・羨ましい」

 

「漢だな・・・死ねばいいのに」

 

周りは周りで、ハジメを妻帯者にも関わらずハーレムの主で何十人もの女を孕ませた挙句、それを妻に隠していた鬼畜野郎という事になった。未だにガクガクと揺さぶってくる白崎を尻目に天を仰ぐハジメは、皐月が抱いているミュウの頭を撫でて深い溜息をついた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

「穴があったら入りたい・・・」

 

白崎が顔を真っ赤に染めて八重樫の胸に顔を埋めている。改めて冷静になって考えると直ぐに分かる事なのに、自分がありえない事を本気で叫んでいた事に気が付いたのだ。ハジメ達は、入場ゲートを離れて、町の出入り口付近の広場に来ていた。ギルドでの依頼完了の報告を二、三話してから深月を待って出発する予定で門の近くまで歩く。天之河達もハジメ達の後をゾロゾロと着いて来る。いや・・・正確には、ハジメ達の後ろに着いて行く白崎を追ってなのだ

白崎は現在迷いに迷っていた。ハジメの事をずっと思い、やっと再会出来たので着いて行きたいと思っているのだ。だが、踏ん切りがつかず天之河達のパーティーから離れる罪悪感と、変わりきったハジメと皐月の心に動揺しているからだった。自分の想いはユエに勝てないのか?今、好意を寄せたとしても邪魔だと思われているのではないか?そして何より、自分は今のハジメをしっかりと見つめているのか・・・昔のハジメばかりをみているのではないかと思っている

 

「あのお姉ちゃんは何を考えてるの~?」

 

「どうせ私達の旅に付いて行こうか迷っているだけよ。まぁ、連れて行かないけど」

 

「・・・連れて行かないの?」

 

「・・・ミュウ、弱いから連れて行かないのよ?」

 

「でも、パパとママと深月お姉ちゃんなら守れるよ?」

 

「守れないわよ」

 

「・・・一緒に行くの・・・め?」

 

「うっぐぅ・・・・・」

 

ミュウの一言一言で皐月の決定がボロボロと崩れ落ちる。過保護なのは良いが、子供に甘いのだ。皐月が動揺している中、ユエが白崎に否定の言葉を投げ付ける

 

「・・・弱い。・・・私たちの旅には力不足」

 

その一言が白崎に突き刺さった。確かに弱いだろう。だが、この一言が逆に白崎の心に闘争心に火をつける燃料となった。白崎は決意した様にハジメに近づいて宣言した

 

「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな?・・・ううん、絶対、付いて行くから、よろしくね?」

 

「・・・・・は?」

 

あまりにもいきなりの展開にハジメはポカンとして、ユエはムッと苦虫を潰した様に嫌悪する。皐月はミュウのお願いに必死に抵抗して話が耳に入っていない。ユエは前に進み出た

 

「・・・お前にそんな資格はない」

 

「資格って何かな?ハジメくんをどれだけ想っているかって事?だったら、誰にも負けないよ?」

 

「・・・フッ」

 

またしてもユエは嘲笑った。白崎の一言を聞いて、ユエは確信したのだ。「こいつは皐月が決めているハーレム入りの条件を何一つ満たしていない」と。だが、それでも白崎は止まらない

 

「貴方が好きです」

 

「・・・白崎」

 

ハジメは白崎の目を見ると、不退転の決意が宿っていた。ハジメもそれに応える様に真剣さを瞳に宿して答える

 

「俺には惚れている女達がいる。白崎の想いには応えられない。だから、連れては行かない」

 

「・・・うん、分かってる。高坂さんとユエさんの事だよね?」

 

「ああ、だから・・・」

 

「でも、それは傍にいられない理由にはならないと思うんだ」

 

「なに?」

 

「だって、シアさんも、少し微妙だけどティオさんもハジメくんの事好きだよね?特に、シアさんはかなり真剣だと思う。違う?」

 

「・・・それは・・・」

 

「ハジメくんに特別な人がいるのに、それでも諦めずにハジメくんの傍にいて、ハジメくんもそれを許してる。なら、そこに私がいても問題ないよね?だって、ハジメくんを想う気持ちは・・・誰にも負けてないから」

 

皐月とユエに向かって、私の想いは貴女達にだって負けていない!という宣戦布告の決意表明だった。だが、悲しき事かな・・・皐月の課したハーレム入りの条件の前では、その想いは邪魔でしかないのだ

 

「・・・なら付いて来るといい。そこで教えてあげる。皐月とお前の器の違いを」

 

「お前じゃなくて、香織だよ」

 

「・・・なら、私はユエでいい。香織の挑戦、黙って見て嘲笑ってあげる」

 

「ふふ、ユエ。私が正妻になっても泣かないでね?」

 

「・・・ふ、ふふふふふ」

 

「あは、あははははは」

 

バチバチと火花の散る様な睨み合い。ハジメとシアとティオとミュウはガクブルと震えていた

 

「ハ、ハジメさん!私の目、おかしくなったのでしょうか?ユエさんの背後に暗雲と雷を背負った龍が見えるのですがっ!」

 

「・・・正常だろ?俺も、白崎の背後には刀構えた般若が見えるしな」

 

「パパぁ~!お姉ちゃん達こわいのぉ」

 

「ハァハァ、二人共、中々・・・あの目を向けられたら・・・んっ、たまらん」

 

お互いに、背後にスタ〇ドの様な物が顕現していると錯覚させる。だが、二人よりも凶悪な代物を生み出す人物が居る

 

「ハジメ」

 

「待った。皐月が行ってもあれは止められな―――――」

 

「ミュウを預かってね?        ね?

 

「はい」

 

皐月の背後に佇む物が更にヤバイと理解したハジメは素直に従ってミュウを抱き寄せる

 

「ママ・・・おねえちゃん達よりコワイ」

 

「奈落の魔物が可愛く見えちまった」

 

「  」シロメ

 

「ヤバイのじゃ。あんな目で見られたと思うと、体がゾクゾクするどころか下が濡れるのじゃ!」

 

対峙する二人に、音も無くゆっくりと近づく皐月を見て周囲の者達は体を震わせる。二人の傍まで近づき、皐月の影に気付いたユエと白崎は「邪魔するのは誰だ!」と言わんばかりに睨み付け様としたが・・・顔を青ざめさせた。皐月は二人にアイアンクローを仕掛けて、宙吊り状態にして絶妙な力加減で締め付けていく

 

「うるさい。公共の場でこれ以上バカな事を仕出かさないで。分かった?わ・か・っ・た・?」

 

「「分かった!分かったから降ろして!?」」

 

皐月は素直に降ろして、二人を見下げる様に睨み付ける

 

「次にバカをやらかしたら・・・分かるわよね?」

 

「「ハイ・・・」」

 

正座で皐月の言葉を聞く二人。この時、皐月を見ていた者達は全員が「背後に大鎌を振り上げている死神が見えた」と口を揃えた。その後、二人は仲直りして良い感じに締め括られ様とした空気。だが、壊す存在は何時の世も居る

 

「ま、待て!待ってくれ!意味が分からない。香織と皐月が南雲を好き?付いて行く?えっ?どういう事なんだ?何で、いきなりそんな話になる?南雲!お前、いったい二人に何をしたんだ!」

 

「・・・何でやねん」

 

ハジメの厄介事は未だ終わらない・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「はぁ・・・」
布団「そ、そう落ち込まないで・・・お嬢様の為なんや」
深月「四肢を全て切り落としていない状態での即殺はこう・・・物足りません」
布団「一応奈落のワクワクサバイバルも候補にはあったんだけど」
深月「お嬢様と離れてしまう事を思うと・・・駄目です!」
布団「予定では、当日に町を出るつもりだからね」
深月「二輪が無い状況で大峡谷に戻るとなると、合流するまでの時間が長くなってしまいます」
布団「よって、お嬢様の気分を害さない程度でしか出来なかったという事なのです」
深月「チッ」
布団「次回も楽しみだぁ」
深月「ど腐れ野郎がまた何かするのですね。・・・お嬢様達の癒しを作らないといけませんね」



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メイドは悪口を根に持ちますよ?

布団「まだだ!まだ終わらんよ!」
深月「連投ですか。何か予定が入りましたか?」
布団「予定は入っていないけど、再会の章の最後なので豪勢に行こうかな~と」
深月「それはそれとして、沢山の方から誤字報告が寄せられていましたよ?」
布団「すまない。・・・誤字脱字が多い作者でほんとうにすまn」
深月「今回のお話は、前回のお話の疑問点の答えがあります」
布団「そして、治癒師さんの合流が強引だと思った方もいるでしょう。実は、かくk」
深月「かくかくしかじか―――――とは言わせませんよ?ミュウさんの、子供独特の感性―――――例えるなら、「この人と一緒だと楽しそう」等といったものを持ち合わせているからではないかと推察されます」
布団「子供は無邪気。大人でも分からない事を仕出かすのが子供なのです。特に、あの年頃はそれが顕著です」
深月「それでは、長い前書きもお終いにしましょう。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」







~皐月side~

 

うっわ・・・ここまでご都合解釈するなんて思ってもみなかったわ。ハジメが私に何かする?そんな事は絶対にありえないわよ。・・・まぁ、夜の方ではハジメが主導権を握っちゃうけどね

 

天之河は聖剣を手に持ってハジメに近づいていく。その表情は怒っており、八重樫が頭痛そうに諫めに行く

 

「光輝。南雲君が何かするわけないでしょ? 冷静に考えなさい。あんたは気が付いていないみたいだけど、香織と高坂さんは、もうずっと前から彼を想っているのよ。それこそ、日本に居る時からね。どうして二人が、あんなに頻繁に話し掛けていたと思うのよ」

 

「雫・・・何を言っているんだ・・・あれは、香織と皐月が優しいから、南雲が一人でいるのを可哀想に思ってしてたことだろ?協調性もやる気もない、オタクな南雲を二人が好きになるわけないじゃないか」

 

「天之河くん、みんな、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど・・・私、どうしてもハジメくん達と行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」

 

白崎のパーティー脱退宣言に、女性陣はキャーキャー騒いでエールを送る。永山、遠藤、野村も苦笑いしながらも応援する様に手を振る。だが、天之河は納得出来ていない模様だ

 

「嘘だろ?だって、おかしいじゃないか。香織と皐月は、ずっと俺の傍にいたし・・・これからも同じだろ?香織と皐月は、俺の幼馴染で・・・だから・・・俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、香織、皐月」

 

「気持ち悪っ!私が幼馴染って・・・どうやって考えればそんな結果に至れるの?馬鹿じゃないの?その理論だと、ハジメと一緒に行動した時間の方が長いから幼馴染はハジメになるわよ」

 

「えっと・・・天之河くん。確かに私達は幼馴染だけど・・・だからってずっと一緒にいるわけじゃないよ?それこそ、当然だと思うのだけど・・・」

 

「そうよ、光輝。二人は、別にあんたのものじゃないんだから、何をどうしようと決めるのは自分自身よ。いい加減にしなさい」

 

皐月と白崎と八重樫の三人に拒絶されて、天之河は呆然とする。そして、ハジメの方を見ると美少女達を周りに侍らせている光景に、目が吊り上がっていく。黒い感情が天之河の心を徐々に支配していく

 

「二人共。行ってはダメだ。これは、二人の為に言っているんだ。見てくれ、あの南雲を。女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで・・・しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。黒髪の女性もさっき南雲の事を『ご主人様』って呼んでいた。きっと、そう呼ぶように強制されたんだ。南雲は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っているのに、仲間である俺達に協力しようともしない。二人共、あいつに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君達の為に俺は二人を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」

 

皐月は深い深い溜息を吐き、白崎は唖然とする。だんだんとヒートアップしていく天之河の視線は、ハジメの傍に居るユエとシアとティオに向けられる

 

「君達もだ。これ以上、その男の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう!君達ほどの実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シア、だったかな?安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する。ティオも、もうご主人様なんて呼ばなくていいんだ」

 

爽やかな笑顔で手を差し伸べる天之河

 

「「「・・・」」」

 

開いた口が塞がらないというのはこういう事だろう。ユエ達は鳥肌が立っており、両腕を擦りながらハジメの背中に隠れる様に移動した。あの変態のティオでさえ、「これはちょっと違うのじゃ・・・」と言う始末

今まで女性から避けられた事の無い天之河にとって初めての出来事だった。そのショックを怒りに変換して、無謀にもハジメを睨みながら聖剣を引き抜いた

 

「南雲ハジメ!俺と決闘しろ!武器を捨てて素手で勝負だ!俺が勝ったら、二度と香織と皐月には近寄らないでもらう!そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!」

 

「・・・イタタタ、やべぇよ。勇者が予想以上にイタイ。何かもう見てられないんだけど」

 

「何をごちゃごちゃ言っている!怖気づいたか!」

 

自分は聖剣を持ったまま、ハジメに素手で決闘しろという理不尽な要求。因みに、深月は未だ帰って来てはいない。皐月は、前に出ようとしたハジメを制して天之河の目の前に立った

 

「分かってくれたか皐月!そうだ、一緒に南雲が洗脳した皆を助けだそう!」

 

皐月の返答は言葉では無く、拳だった。義手の拳を天之河の頬にぶち当てて十メートル以上吹き飛ばした。予想外な返答だったのか、天之河は「えっ?どうして殴るんだ!」と憤ると同時に、ドパンッ!という音が十六―――――皐月がゴム弾を天之河に向けて撃った回数だ。スガガガガガッ!と物凄い連打の攻撃は天之河をボロボロにした

 

「その攻撃の意味を碌に理解していない様だから"もう一度"聞きなさい。一体、何時、"私と深月"の名前を呼んで良いと許可をしたのかしら?子供の様な考えで周囲を巻き込み、綺麗事ばかり並べて自分を汚そうとしない"お前"程度の奴に名前を呼ばせる程安くないのよ。その自然にご都合解釈を並べる口を一生閉じていなさい」

 

威圧を周囲に放ち、「次は殺す」とアピール。銃をホルスターに戻し、当たり前の様にハジメの隣に立って肩に頭を乗せる。ハジメも皐月の心情を理解して肩に手を乗せて抱き寄せる。絵になる程お似合いの二人だった

すると、現在この場に居ない深月から念話で連絡が入る

 

(お嬢様、ハジメさん。申し訳御座いませんが、もう少し時間を頂けないでしょうか?後半日あれば完全に駆除出来ますので)

 

(ん~。本当は今直ぐ出立したかったんだが・・・こっちも色々とあったからなぁ~)

 

(今日は一晩泊まりたいわ。ハジメと一緒に寝たい)

 

(かしこまりました。ハジメさんは、そのままお嬢様を癒して下さい)

 

深月との念話も終えて、今日は一泊入れるとユエ達に一言入れて皐月と二人きりで宿へと向かおうとするが、八重樫に呼び止められる

 

「何というか・・・いろいろごめんなさい。それと、改めて礼を言うわ。ありがとう。助けてくれた事も、生きて香織に会いに来てくれた事も・・・」

 

「いや、すまん。何つーか、相変わらずの苦労人なんだと思ったら、ついな。日本にいた時も、こっそり謝罪と礼を言いに来たもんな。異世界でも相変わらずか・・・ほどほどにしないと眉間の皺が取れなくなるぞ?」

 

「・・・大きなお世話よ。そっちは随分と変わったわね。あんなに女の子侍らせて、おまけに娘まで・・・日本にいた頃のあなたからは想像出来ないわ・・・」

 

「本当の意味で惚れているのは一人だけなんだがなぁ・・・」

 

「・・・私が言える義理じゃないし、勝手な言い分だとは分かっているけど・・・出来るだけ香織の事も見てあげて。お願いよ」

 

「・・・」

 

押し切られてしまうハジメは黙る。こういう時は皐月がどうにかしてくれる筈なのだが、今は癒し中で、動こうともしない。話を聞かない様に明後日の方向に向いていると・・・八重樫の言葉に固まる

 

「・・・ちゃんと見てくれないと・・・大変な事になるわよ」

 

「?大変な事?なんだそ・・・」

 

「"白髪眼帯の処刑人"なんてどうかしら?」

 

「・・・なに?」

 

「それとも、"破壊巡回"と書いて"アウトブレイク"と読む、なんてどう?」

 

「ちょっと待て、お前、一体何を・・・」

 

「他にも"漆黒の暴虐"とか"紅き雷の錬成師"なんてのもあるわよ?」

 

「お、おま、お前、まさか・・・」

 

「ふふふ、今の私は"神の使徒"で勇者パーティーの一員。私の発言は、それはもうよく広がるのよ。ご近所の主婦ネットワーク並みにね。さぁ、南雲君、あなたはどんな二つ名がお望みかしら・・・随分と、名を付けやすそうな見た目になった事だし、盛大に広めてあげるわよ?」

 

「まて、ちょっと待て!なぜ、お前がそんなダメージの与え方を知っている!?」

 

「香織の勉強に付き合っていたからよ。あの子、南雲君と話したくて、話題にでた漫画とかアニメ見てオタク文化の勉強をしていたのよ。私も、それに度々付き合ってたから・・・知識だけなら相応に身につけてしまったわ。確か、今の南雲君みたいな人を"ちゅうに・・・"」

 

「やめろぉー!やめてくれぇ!」

 

「あ、あら、想像以上に効果てきめん・・・自覚があるのね」

 

「こ、この悪魔めぇ・・・」

 

「高坂さんも香織に対してキツく当たらないでね?そうすれば、"白髪の死神""銀色忠犬の眼帯主"と色々とひろめ―――――」

 

皐月はダルそうに頭を上げて、八重樫の耳元で呟く

 

「八重樫さんの好きな物はフリフリの可愛い人形って広めるわよ?最近買った本のタイトルは『熱烈、愛の―――――』」

 

「やめてぇえええ!それは駄目ええええ!何で高坂さんが知っているのよ!!」

 

「深月から教えてもらったのよ?」

 

「あのメイドめえええええええ!意地汚い攻撃どころじゃないわ!プライバシーの侵害よ!!」

 

「それとも・・・"純愛大好き雫ちゃん""シンデレラ雫"なんてどう?私達は金ランクの冒険者・・・神の使途よりも早く、一気に全世界に広がるわよ?」

 

「やめなさい!絶対にやめなさい!というか、やめて!絶対にやめて!!」

 

皐月のマウントを取ろうとした八重樫だが、藪を突いたら死神が出てきてしまい、あっという間に逆転されてしまったのだ

 

「じ、じゃあ、香織の事お願いね?南雲くん?」

 

「・・・」

 

「ふぅ、破滅挽歌、復活災厄・・・」

 

「わかった!わかったから、そんなイタすぎる二つ名を付けないでくれ」

 

「香織の事お願いね?」

 

「・・・少なくとも、俺は邪険にはしないと約束する」

 

「ええ、それでも十分よ。これ以上、追い詰めると発狂しそうだし・・・約束破ったら、この世界でも日本でも、あなたを題材にした小説とか出すから覚悟してね?」

 

「おまえ、ほんといい性格してるよな」

 

「自覚はしているわ。でも、ラスボスはどう考えても高坂さんでしょう?」

 

「どうだろうな・・・深月の可能性も否めないんだよなぁ」

 

「高坂さんが主なのに?」

 

「皐月が死神だとしたら、深月は・・・何なんだろうなぁ~。世界と言った方がいいのか?」

 

「・・・香織も大変ね」

 

「因みに、ハーレム云々に関しては全部皐月に投げているからな?教えたりするのは無しだぞ。シアだって自分で答えに辿り着いた様なものなんだからよ」

 

「・・・やっぱりラスボスは高坂さんで決まりね」

 

ハジメと八重樫は、回復してユエ達と混じって話をしている皐月をジッと見て呟くのだった。そして、ハジメは思い出した様に、宝物庫から黒塗りの鞘に入った剣を取り出して八重樫に手渡す

 

「これは?」

 

「八重樫、得物失ってたろ?やるよ。唯でさえ苦労人なのに、白崎が抜けたら"癒し(精神的な)"もなくなるしな。まぁ、日本にいたとき色々世話になった礼だ」

 

深月の黒刀に似て、刀身が真っ黒の刀だ。これも錬成の練習の過程で作った作品の一つである

 

「世界一硬い鉱石を圧縮して作ったから頑丈さは折り紙付きだし、切れ味は素人が適当に振っても鋼鉄を切り裂けるレベルだ。扱いは・・・八重樫にいう事じゃないだろうが、気を付けてくれ」

 

「・・・こんな凄い物・・・流石、錬成師というわけね。ありがとう。遠慮なく受け取っておくわ」

 

刀が手に入ったのが余程嬉しかったのか、自然に笑みが零れていた。そんな二人のやり取りを見ている者達・・・

 

「・・・強敵?」

 

「・・・雫ちゃん」

 

「えっ?なに?二人共、どうしてそんな目で見るのよ?」

 

ユエの警戒する眼差しと、白崎の困った様な眼差しに、意味わからず狼狽する八重樫。痛いやり取りをし終えたハジメ達は、冒険者ギルドお勧めの宿へ宿泊する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~???side~

 

「クソッ!クソッ!クソッ!あのメイドのせいで計画が狂ったじゃないか!!ボクがどれだけ細心の注意を払って準備してきたと思ってるんだ!」

 

路地裏で荒れに荒れる一人の人影

 

「檜山が殺されたのは計算外だったけど、まだこれからだ。挽回は出来る。早急に実行に移さな―――――」

 

「やはり、貴女でしたか」

 

少女の背後にはメイド・・・・・深月が気配を殺して立っていた

 

「いと。・・・・・い、一体何なの!?私は何も」

 

「必死に演技されている様ですが、甘々ですね。迷宮の内外でのやり取りで気持ちの動揺が駄目でしたね」

 

「何を言っているの?私は動揺なんてしていないけど」

 

「心の内ではどす黒い感情を抱き、お嬢様を見ていましたよ?」

 

「な、何を言っているの?私は高坂さんにどす黒い感情なんて向けてないよ!?」

 

かまをかけると見事に引っ掛かる彼女。必死に否定をするが、深月はお見通し

 

「貴女はど腐れ野郎に惚れているのは良いのですが、嫉妬からお嬢様を睨み付けるのは良くありませんよ?つい、あの塵芥と同じ様に殺してしまいそうで――――――――ね?」

 

少女は震えていた。深月の目は彼女よりもどす黒く、邪魔する輩は誰であろうと処分するといった眼だ

 

「お嬢様達は、ど腐れ野郎にしつこく粘着されているのです。さっさと既成事実を作るなりして束縛でもして下さい」

 

踵を返してこの場から去ろうとする深月。少女は、憤怒と嫉妬と困惑が入り乱れた眼で深月の背を見ていると、深月が再び少女へと振り向いた。咄嗟に視線を逸らしたが、感付かれたと思い得意の魔法でどうにかしようとする。しかし、それよりも早くに深月が言葉を発する

 

「もし・・・もしも、お嬢様達の邪魔を―――――障害となる様でしたら、貴女の操るマリオネットと同じ様にしてさしあげますのでご注意下さいね?それと、魔人族を人形にしたのは分かっていますので悪しからず」

 

溶ける様に消えてその場から姿を消した深月。少女は震えていた。だが、それは恐怖からでは無く、理不尽の出来事ばかりが襲い掛かってきている事からだった

 

「ムカつく。ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!なんなのさあのメイド!ボクの行動は全部お見通しみたいに反応して!このままじゃ彼がボクに振り向く事も、ボクが特別な存在になる事も出来ないじゃないか!!」

 

計画が破綻して狂う彼女は、次第に悪い方向へと考えを捻じ曲げていく

 

「そうだ。あのメイドが居るからいけないんだ。あれが居るから計画がことごとく潰れるんだ。・・・だったら殺せばいい。・・・だけど手が足りない。どうする、どうするどうする?神の使徒の発言力で潰しに掛かった方がバレにくい?ダメだ、あのメイド相手だと足取りが着く。だったら自分で?・・・無理だ。あの化け物相手には力が足りないし、追い付けない」

 

少女はブツブツと呟く様に対策を練るが、その全てが通用せず、もし実行すれば足取りが着いてしまう。正に詰みの状態に舌打ちをする。そんな少女の前に人影が現れた

 

「誰だ!」

 

現れたのは一人のシスター。顔は芸術品の様に美しく、普通の男なら十人中十人が美しいと言葉を漏らす程の美形だった

 

「・・・貴女は力を望みますか?」

 

「・・・は?」

 

「主は貴女の想いに心打たれ力を渡しても良いと判断されています。信仰をする事で、比類無き力をその身に宿せると・・・貴女は如何されますか?」

 

シスターの胡散臭い勧誘に少女は戸惑うが、この詰みに詰んでいる状況を打破するのであれば何でも利用しようと思った

 

「信仰したら・・・本当に力を手に入れる事が出来るの?」

 

「主はそう仰っています」

 

「・・・だったら入信するよ。神様もボクの想いを応援してくれているんだから、力が手に入ったら手伝うよ」

 

「それは良かった。では、また後程お伺い致します」

 

シスターは影に消える様にその場から離れて行った

 

「信仰するだけで力が手に入って、計画をメチャクチャにした―――――彼を惹き付けるうっとおしいメイドを殺せるなら何だって利用してやる」

 

大きな力が手に入るかもしれないという曖昧さにも躊躇無く信じてしまった。本来であれば疑って断る所だったのだろうが、少女の現状では不可能だった。絶対にうまくいく計画を潰され、破綻してしまったからだ

力を与えられるであろう少女はどう動くかは深月を除いて誰も知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

さて、バカな事を仕出かそうとしたあれにも忠告はしておきましたので大丈夫でしょう。と、言いたかったのですが・・・知らない声。主を信仰する事で得られる力、主が心打たれた―――――間違い無く神の先兵で間違いありませんね。ドーピングでは覆せない力の事を考えるのであれば・・・改造辺りですか。薬物だと寿命の問題が出てくるので選択肢の候補から外しましたが、それでも可能性がゼロとは言い難いですね。あれは私達に敵対する気満々ですし

はぁっ・・・奈落に落ちてから厄介事が尽きませんね

 

押し寄せる厄介事が多く、深月は思わず溜息を吐いた

 

「止めです。止め止めです!気を張り詰め過ぎれば毒となるので、今だけは気を少しだけ緩めましょう」

 

宿に入ったハジメ達はのんびりとしており、深月は気分転換を兼ねて厨房の一角を借りてせっせと料理を準備する。・・・現在、この厨房には深月以外誰も居ない

 

「周囲に人の気配無し、ハジメさんに借りた宝物庫の準備良し、では・・・いきます!」

 

宝物庫から取り出されたそれは・・・程よく霜降りがあるブロック状の肉―――――魔物肉である。ハジメ達が解放者の住処でアーティファクトを作っている間、深月は基本的に暇だ。そこで、上層へと戻って魔物肉を大量に確保したのである

この肉は、エセアルラウネが居た階層の恐竜達の物だ。深月によって狩猟される恐竜達は深月を見るなり逃走したのだが、一番後ろを走っていた者から一体・・・また一体と数を減らし、仲間同士で潰し合いが勃発。弱った者を深月の方に飛ばして自分だけ助かろうとするお陰で、深月は余計な体力を使わずに"収穫"出来たのだった。上昇しまくったステータスのごり押しの探索。僅か一日で爪熊の居た一層まで戻り、食料として良さげな獲物を中心に狩って、下処理をしてから帰ったのだった。帰った直ぐにハジメ達に怒られたが、「それでは、私の作った野菜だけのご飯で良いですよね?」と言うと、土下座で「それだけはやめて下さい」という掌返しだった。それからは、何回か狩猟を行って、不測の事態や旅の人数が増えようと十分な量を確保した深月だったのだ

 

「以前にも思いましたが・・・あの恐竜擬きはトップ10に入る程の良いお肉ですね。脂は多すぎず少なすぎずの上級クラスで、あの生物の肉とは思えない程の柔らかさ。本当はステーキが一番良いのでしょうが・・・現在は調味料が多く、この世界の物と再現する事が出来た物もありますので豪勢にいきましょう!あのど腐れ野郎と出会った気苦労を労わなければいけませんし・・・」

 

深月が手に持っている包丁は、タウル鉱石を芯としてアザンチウム鉱石で薄く覆い包んだそれはとても便利の一言。刃こぼれ一つしないという凄すぎる包丁は、正に職人泣かせの逸品である。切れ味も良く、普通に武器として扱っても大丈夫なのだ

深月は肉を切り終えた後、大きな鍋にミノタウロスの牛脂を溶かして少量の肉を焼いていく。とても良い匂いは、この場に居ない宿の料理人を引き寄せる。肉に火が通ったら、宝物庫から容器を二つ取り出して鍋の中へと投入。これは醤油擬きと料理酒もとい日本酒擬き。・・・かなり贅沢な使い方だが、深月の技能の前ではあっという間に作られるので問題は無い。砂糖の代わりとしてハチミツとトレント擬きから取れた果実の搾り汁を少量、そこへ肉を追加して、野菜で蓋をする様に敷き並べて煮立たせる。この間に、ネギ擬きを定番の形に切り揃え、蓋の代わりをしている野菜の様子を見て投入。更に煮立たせる間に器と、欠かせないあれを下処理して準備完了。火力を弱めて、先に器等をハジメ達が居る上階へと持って行く深月

思いっきりのんびりとしているであろうハジメ達と白崎。しかし、そこには白崎が抜けた筈の勇者パーティーの面々が居る。―――――そう、居るのだ

 

「・・・一応聞いておきますが、どうして勇者(笑)達がここに居るのか聞いても宜しいですか?」

 

隣だったんだよ・・・

 

「は?」

 

「部屋が隣だったんだよ!そして、絶賛イタイ奴がこっちに来たんだよ!!」

 

冒険者ギルドお勧めの宿に泊まると、隣の部屋から勇者(笑)パーティーの面々が出てきたのだ。そして、天之河は再びハジメに突っ掛かっているのだ。すぐ後ろでは、八重樫が物凄く痛そうに頭を押さえていた

 

「成程。勇者(笑)パーティーとは赤の他人の夕食をご馳走してもらう魂胆ですか。・・・死ねばいいと思いますよ?」

 

「違う!俺は南雲に彼女達から離れろと言っているんだ!」

 

「邪魔です。強制排除しても宜しいですか?」

 

「排除?俺は南雲からはな「やって頂戴」」

 

「フッ!」

 

物凄い速さで顎を掠める様に腕を振るい、天之河の意識を一瞬で断ち切った深月。八重樫はハジメ達に何度も頭を下げ、坂上が「こればっかりは光輝がいけねぇな」とボヤキながら部屋へと連れて帰った。因みに、影が薄い遠藤はほぼ全員に無視されている

 

「あのど腐れ野郎も居なくなりましたので換気をして下さい」

 

「窓開けろー」

 

「換気換気ー」

 

「ん」

 

「はいですぅ」

 

「了解したのじゃ」

 

「・・・ミュウ届かない」

 

「大丈夫だ。ミュウの分はちゃんとパパが開けたぞ!」

 

「それでは皆さん。私は下から鍋を取って来ますので、準備して待ってて下さいね?」

 

深月は、部屋にある大きなテーブルに持っていたお盆を置いて下へと戻って行った。ハジメ達は動き出し、器を各自の場所に並べて座ろうとした時に違和感に気付いた。器が一つ多い事に

 

「ん?何で器が一個多いんだ?」

 

「深月に限ってそんなヘマはしない筈だけど・・・何で?」

 

「・・・数え間違い?」

 

全員で悩んでいると扉が開き、鍋を持った深月が入って来た。丁度良いタイミングだった

 

「おい深月。器が一個多いぞ?」

 

「お箸もね?」

 

「・・・疲れて数え間違えた?」

 

心労で疲れているのではないかと心配するユエ。だが、深月以外は気付いていない

 

「遠藤さんが居ますよね?食べに来たのではないのですか?」

 

『えっ、何処に居るの?』

 

「ここに居るよ・・・何で神楽さん以外誰も気付かないんだよ・・・・・」

 

ハジメ達が声のした方へ振り向くと、部屋の隅っこで体育座りをしていじけた遠藤が居た。物凄く傷ついているご様子だ

 

「何で皆気付かないんだよ・・・皆で俺をイジメんなよ・・・八重樫さん達も気付いていないし・・・酷過ぎるだろ・・・」

 

実は遠藤、天之河達が入って来た時と同時に入ったのだがハジメ達はだけでは無く、勇者一行にも気付かれていなかった。天之河が去った後に改めて感謝をしようとしていたのだが、いくら声を掛けても気付いてもらえずに落ち込んでいたのだ。流石に悪いと思ったハジメ達は遠藤に謝罪する

 

「あ~・・・その・・・なんだ。気付かなかったんだ・・・すまん」

 

「ご、ごめん・・・ね?」

 

「・・・ごめんなさい」

 

「申し訳ないですぅ・・・」

 

「すまんかったのじゃ・・・」

 

「遠藤くん・・・本当にごめんなさい!」

 

「ごめんなさいなの・・・」

 

「うん。・・・皆がワザとじゃないって分かってても・・・辛い」

 

遠藤もハジメ達がワザと無視しているのではないと薄々感付いていたが、それでも辛いものは辛い。深月はてっきり、「無視してしまったからご飯を食わしてやるよ」と判断していたのだ。因みに、遠藤の分の器はテーブルに置く時に宝物庫から出していた

 

「と、取り合えず座れよ」

 

「本当にごめんなさい。一緒にご飯を食べましょう?」

 

ハジメと皐月に誘われて、遠藤も一緒に食べる流れとなった。丸い机の真ん中に置かれる鍋。それを見て地球組のハジメと皐月と白崎と遠藤のテンションが爆上がりした

 

「み、深月!おまっ!?これ!!」

 

「再現ってレベルじゃないでしょ!?えっ?本物よね?・・・本物の匂いね」

 

「うそっ!?だってここは異世界だよ!?これって」

 

「はぁっ!?ちょっ!?これどう見ても」

 

驚愕する一同に"?"マークを量産するトータス組。深月の作った料理とは、焦げ茶色の出汁に煮込まれた肉と野菜達

 

「「「「これってすき焼きだろ(でしょ)!」」」」

 

「私は頑張りました!」

 

エッヘンと胸を張る深月。ここまで辿り着くのに物凄く時間が掛かったが、どうにか再現する事が出来たのだ

 

「・・・すき焼き?」

 

「って何ですか?」

 

「かなり濁った色じゃが」

 

「美味しそうな匂い!」

 

だが、皆がここで気になる点が一つ・・・この肉はどうやって調達したのかだった。だが、ハジメと皐月とユエの三人は心当たりがある

 

「・・・なぁ、この肉って」

 

「あれよね?」

 

「・・・多分」

 

「えっ、あれって何?」

 

「牛ってこの世界に居たっけ?」

 

白崎と遠藤は分からないご様子・・・無理もないだろう。この肉が魔物肉だと誰が想像するのだろうか

 

「言っていいのか?」

 

「いいんじゃない?どうせ深月しか処理出来ないし」

 

「・・・二人にまかせる」

 

「このお肉って違法な手段で手に入れたの?」

 

「密猟したのか?」

 

待ちきれないご様子のミュウとティオは、お肉にスプーンを伸ばして掬おうとして

 

「魔物肉で御座います」

 

ピタッと停止、幼子でも理解しているのだ。魔物肉は劇物、食べれば死ぬ猛毒なのだと

 

「え"っ!?ま、魔物のお肉って毒だよ!?私達食べれないよ!?」

 

「なんて代物を食べさせようとしたんだ!」

 

「深月!お主・・・やって良い事と悪い事はあるのじゃぞ!?」

 

「魔物のお肉はたべちゃだめなの!」

 

知っている者達は、鍋から離れて深月を睨む。その様子を見てシアは言葉を発する

 

「あはは~・・・普通はそういう反応ですよねぇ~。でも、わたしは深月さんに胃袋を掴まれちゃってるんですぅ」

 

「「「「嘘だ(じゃ)!」」」」

 

「ほんとうです・・・もう、慣れましたから。・・・深月さんのぶっ壊れを」

 

四人は未だ納得出来ない模様。だが、ハジメと皐月とユエの三人は、疑う事も無く、さも当然の様に肉に箸を伸ばす。だが、ここで深月から待ったが掛かる

 

「ユエさんはともかく。お嬢様、ハジメさん、お二人は何が足りないかお分かりですよね?」

 

「ん?何か足りなかったか?」

 

「すき焼きに何が足りないか・・・何かあったかしら?」

 

二人は何も分かっておらず、頭を傾げて「何だっけ?」と思い出す様に考える。そこで、白崎と遠藤の二人が思い出し、嫌な予感しかしないが揃って答える

 

「「卵」」

 

「「あっ!そうだった。生卵が無かった!!」」

 

ハジメと皐月は、深月の様子から確実に用意しているだろうと思い深月に視線を戻すと、卵が入れられた器がテーブルの上に置かれた。卵の表面には水気があり、念には念を入れて洗っていると把握した二人はそのまま手を伸ばして卵を取って割入れた

 

「ま、待つのじゃご主人様達!かなり昔じゃが、同胞が寝ぼけて魔物の卵を食べて死んだのを目の前で見たのじゃ!絶対に食べるでない!」

 

だが、二人は止まらない。ユエも二人を見て、同じ様に卵を割り入れてかき混ぜる。黄色一色となった卵の中に魔物肉を投入して、冷めきらない内に食べる

 

「は、吐き出すのじゃ!猛毒なのじゃぞ!?」

 

「あわわわわわ!?ハジメくん、高坂さん、吐き出して!?」

 

二人の体が震えている事に気付いた遠藤は、「静止したのに」と呟きながら膝を付いて崩れ落ちた。しかし、三人の言葉で心配は全くの無意味だったと知る事となる

 

「「「うまあああああああああああああああい」」」

 

お決まりの言葉。ティオ達四人は、目を点にしてハジメ達三人が食べる様子を見ている。皐月とハジメは、ジーっと見ている四人の中のミュウを手招きして食べる様に促す

 

「ほ~ら大丈夫だぞ。パパが食べても平気だっただろ?」

 

「大丈夫よミュウ、深月が作ったのだから失敗は無いわ。ごく一部の料理を除いてだけどね

 

ミュウは躊躇いながらもハジメ達の元へ歩いて行き、二人の間に着席した

 

「・・・本当に大丈夫なの?」

 

「大丈夫よ。ユエお姉ちゃんとシアお姉ちゃんを見てみなさい?魔物肉を食べたのに平気でしょ?」

 

「う、うん・・・」

 

未だに食べようとしないミュウを見て、ユエとシアが「大丈夫だよ」と教える。それを見て覚悟が決まったのか、ミュウは恐る恐るながらも皐月から渡されるお肉を食べる。すると、ミュウの口の中に肉本来の甘味が一気に広がった。ミュウは驚きの余り目をまん丸にして、よく噛んで飲み込み一言

 

「おいしいの!」

 

そこからは今までの勢いを取り戻さんと言わんばかりに「はやくはやく!」と急かすミュウ。皐月とハジメはミュウの器に卵を入れる

 

「ほ~ら、混ぜ混ぜしようね?」

 

ミュウは零さない様に混ぜて黄色一面にした後ハジメがミュウの分の具材を色々と投入して渡すと、ミュウは好き嫌いをしないのか、全部を美味しそうに食べている。二人は、幸せそうに食べているミュウの様子を見ながら自分の分も食べ進める

ミュウの様子を見て、残った三人も恐る恐る肉だけを食べると

 

「「「うまあああああああああああああああいのじゃああああああ)」」」

 

食に関しては正に深月様と崇めるご様子である。美味しいと分かった三人は卵を入れて他の具材も取って食べる。四人が参戦した事により、鍋の中身は一気に無くなって行きスッカラカンとなった。物悲しい顔をする一同だが、深月が宝物庫から下処理済みの肉や野菜を取り出して鍋に投入して熱量操作で煮立たせていると

 

「えっと・・・高坂さん。雫ちゃんを呼んでも良いかな?今までお世話になったし・・・その・・・パーティーを抜ける罪悪感もあって・・・」

 

「あ~、八重樫さんねぇ・・・苦労人は労わってあげないといけないわよね。地球でも色々と苦労していたし、私自身もお世話になったから良いわよ」

 

皐月がお世話になった理由。それは、中学の時に深月が一旦皐月を預けた相手が八重樫だったからだ。それからはちょくちょくと話したり何なりとお世話にもなったし、トータスに来てから陰ながらハジメと皐月に気を配っている事を後から深月に教えられていたのだ。だから、皐月も最初よりも嫌がる事はしなかった。むしろ、勇者(笑)パーティーの中では一番気を許している程だ

 

「ありがとう高坂さん!それじゃあ呼んでくるね!」

 

部屋はすぐ隣なので、呼び出す事も直ぐだった。しかも、八重樫はまたしても苦労をしていたのか、夕食を食べる暇も無く奔走していたらしい。哀れとしか言い様が無かった。白崎に引っ張られる様に連れられて何が何だか分からない模様

 

「ちょっと香織、私に付いて来てってどういう事よ?私はこれからご飯を食べる予定だったのだけれど――――」

 

「えっとね、雫ちゃんも一緒にご飯を食べよ?高坂さんにも許可は得ているし、大丈夫だから」

 

「はぁっ、またこの子は。・・・・・ごめんなさいね高坂さん。私が居る事でちょっと気を悪くしたのなら謝るわ。それに・・・さっきの光輝のあれもごめんなさい」

 

八重樫は本当に悪いと思っている模様。本人は皐月達に嫌われていると思っているのだが、それは過去の話。皐月達が八重樫に思っている事は「本当に苦労人だなぁ・・・」なのだ。心の底から同情してしまったので、癒しを兼ねさせる為に許可したのだ

白崎に案内される様に席に座ろうとした瞬間、目に見てる鍋の正体を知って一言

 

「どうしてすき焼きがあるの!?」

 

この場では敢えて魔物肉である事は教えず、そのまま食べさせる。この世界の食生活に飽き飽きしていた八重樫は、すき焼き擬きを食べている最中に涙を流しながら黙々と食べたのだった。ハジメ達は、「遠慮しないでもっとお食べ」と微笑ましい様子で勧めたのは言うまでもないだろう

こうして、ある程度の仲直り?を含めた食事会は終了して八重樫達は、「ありがとう」と感謝の言葉を告げて部屋へと帰って行った

深月を除いてお腹一杯食べたハジメ達は、そのままベッドに直行して就寝しようとしたのだが、ハジメだけが深月に捕まって席へと無理矢理着席させられた。皆も不思議そうにハジメの様子を見ている

 

「それではハジメさん、デザートですよ?ちゃんと"全部"食べて下さいね?」

 

「パパだけずるいの~!」

 

だが、ハジメの前に出された物はデザートと呼べる代物では無かった。色と匂いは普通だが、深月お手製の麻婆豆腐擬きが置かれたのだ。それを見た皐月とユエとシアは「ヒィッ!?」と悲鳴を上げてミュウを連れて奥へと退避した。そして、扉から覗く様に見ているのだ。ティオは「麻婆豆腐・・・うっ・・・頭が!」と言って顔を青くしてベッドへと直行した。この場に残されたのは何も知らない白崎だけ

 

「え・・・えっ?」

 

戸惑う白崎。そこにハジメの助けの声が掛かる

 

「た、助けてくれ白崎。後生だ!本当に助けてくれ!!」

 

「は、ハジメくんがそう言うなら助けるよ!」

 

だが、深月の魔力糸で白崎は体を固定される。動けなくなった白崎・・・最早ハジメに逃げ場は無い

 

「それではハジメさん、どうぞご堪能下さい」

 

「どうして俺だけが・・・」

 

「いえいえ、例え、麻婆豆腐擬きが"兵器"と言われても私は気にしていませんよ?」

 

様子を見ていた皐月達三人はハジメに対して合掌し、ミュウも訳が分からなかったが皐月のマネをしてハジメに合掌。その様子を見たハジメは諦めた

 

「今回の麻婆豆腐擬きは自信作です!過去最高の出来栄えを保証いたしましょう!!」

 

「いっそ殺せ・・・」

 

ハジメは全てを察して項垂れ、置かれたスプーンを手に取った。一掬い・・・匂いは普通の麻婆豆腐と何ら変わりはないが、初めて食べた記憶がフラッシュバックして、スプーンを持つ手が震える

 

「どうして食べないのですか?はっ!もしや、食べさせて欲しいのですね!分かりました。この深月、"一口一口"ハジメさんに食べさせましょう!」

 

未だに食べようとしないハジメに痺れを切らした深月は、麻婆豆腐が入っている器とスプーンを奪い取って一掬いして口元に突き出す。白崎がハイライトを消した目で深月を見ていた。白崎は、自分が手に持って食べさせたいと思っているのだが、深月は麻婆豆腐擬きを食べたいと思っていると判断して最初の標的をハジメから白崎に変更した

 

「白崎さんも麻婆豆腐擬きに興味津々なのですね。食べても良いですよ?ただし、一口だけです。それは以上は駄目ですよ?はい、あ~ん」

 

先程まで深月にハイライトを消した目を向けていたが、白崎は急展開にビックリしつつも、流されるままに麻婆豆腐を一口

 

「ッ!?」

 

顔を真っ赤に染め、徐々に青くなっていき、最後は灰の様に真っ白に燃え尽きた。体が震えたり、のたうち回る事も許さない一瞬の衝撃―――――ハジメはそんな白崎を見て、「うそ・・・だろ・・・進化してやがる!」と呟いて表情が歪む

 

「さぁハジメさん。食べましょうね?         いいですね?

 

「フッ・・・これも定めという事か。・・・後生だから一気に流し込め!いや、流し込んで下さい!!」

 

「ダメです♪」

 

「チックシアブッ!?  ゴゴゴゴオオオアアアアアアアアア!

 

叫んだと同時に麻婆豆腐が乗ったスプーンを口の中に突っ込まれた。奇声を発しながら床にのたうち回るハジメを見て皐月達は悲鳴を上げた。幼子であるミュウでも理解した。深月の作った麻婆豆腐を食べたらハジメの様にのたうち回るか、白崎の様に真っ白に燃え尽きてしまうと

深月はのたうち回るハジメを魔力糸で捕まえて、魔力糸で作られた漏斗を口の中に差し込んで味わう様にゆっくりと入れる。燃え尽きていた白崎も目を覚まし、ハジメの方を見ると―――――一口ずつ麻婆豆腐擬きを流し込まれている光景だった。それを見て自分が食べた時の状況を思い出したのか、うっと口元を押さえてトイレへと直行。出た時には嫌な汗を大量に流していたのはお約束である

ハジメに麻婆豆腐擬きを完食させた深月は、ハジメを担いでベッドに寝かせて片付けを行う為に下へと降りて行った。そして、ハジメと深月を除いた緊急会議が開かれた

 

「全員よく聞きなさい。深月の麻婆豆腐擬きだけじゃなくて、激辛についての悪口は絶対に駄目よ。いい?もしも言ったら、助けには入らないからね?これに意見がある者は挙手をしなさい」

 

「「「「「異議なし(なのじゃ)」」」」」

 

こうして深月の激辛料理の悪口は絶対に言わない様に誓った一同。皐月とミュウはハジメと同室で、ユエとシアとティオと白崎は別室で就寝した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「モッキュモッキュ、ふぅ・・・やはり美味しいですね。この病みつきになる辛さが堪りません」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「やっとここまで来たぁ~」
深月「長かったですね」
布団「あ、今思い出した。前話で原作壊しちゃったから、一応タグに"檜山(塵芥)早死に"を付けておきますわ」
深月「原作崩壊でもよろしいのでは?」
布団「完全崩壊では無いので、微崩壊?でもいいのかな?」
深月「その辺りは作者さんの方で調整をお願いします」
布団「兎に角、これから先のお話も頑張るぞい」
深月「そうです。頑張って下さいね?」
布団「だけど、一つだけ宣言しておきます。次章開始は一週間以上空けますのでご了承をお願い致します」
深月「書き溜めをするのですか?」
布団「おざなりにしているやつをやらないとね・・・」
深月「こちらも頑張って下さいね?」
布団「本当に頑張ります!」









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実母とグリューエン火山
メイドとほのぼの?回


布団「投稿よ~」
深月「準備完了です」
布団「これからも頑張るぞい!」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」












コロナで大変な読者の皆様方の元気が出れば良いと思い、今話を書き上げました。作者もモチベーションがかなり低下していますが、めげずに書いていきます。皆様も気を付けて下さい














~皐月side~

 

昨日の麻婆豆腐がかなり強烈だったのか、ハジメは当初予定していた早朝に出発する事が出来ず、朝食を食べ終えた皐月達に続く様に起床した。予定が押している事に気付き、ハジメは朝食を食べずにギルドへ軽く挨拶を済ませて門へと急ぐ。すると、勇者(笑)パーティーが居た

 

何か言ってきそうだけど無視無視、予定外の白崎さん加入で色々と不都合もあるから戦闘力低下も否めないわね。だけど、白崎さんは回復職・・・私達のパーティーの中には誰一人持っていないから重要な回復要員だから脱退させるわけにはいけない。まぁ、そんな事したらミュウが涙目でお願いするからありえないけどね

 

当初、皐月は白崎は回復職であろうと無理矢理でも置いて行くつもりだった。だが、ミュウの「ママ・・・め?」と涙目でお願いされたのだ。最初は必死に説得したのだが、これ以上はミュウに嫌われてしまうと判断して折れたのだ

 

それにしても・・・ハジメが好きなのは理解しているけれど、現状では絶対に無理ね

 

昨日から白崎の様子を観察していた皐月は、現状ではハーレムには絶対に入れれないと判断している。ハジメが邪険にしないのは、初対面ではないからだ。もし、これが初対面でグイグイ来たのであればシアと同じ末路になっていただろう

 

「ハジメくん大丈夫?私が回復させようか?」

 

「いや、自分で蒔いた事案だから自然回復に努める。二度と同じ事をしない様にする為の戒めが必要だからな・・・」

 

「・・・そっか」

 

「ま、まぁ・・・白崎が思っている事も分かっているから落ち込むな」

 

明らかに落ち込んでいる白崎を励ますハジメの様子を見てシアが皐月に愚痴を零す

 

「納得できないです。どうして白崎さんはハジメさんに邪険にされないんですか」

 

「見知らずの人じゃないからよ。故郷に居た時から好意には気付いていたし、奈落に落ちてからも想い続けていたからよ。そうじゃなかったらシアと同じ対応をしていたわよ」

 

「そうですか」

 

しかし、成長したシアは昨日から白崎の様子を観察する事で気付いた

 

「以前の私ってああやってグイグイ行ってたんですねぇ~。ハジメさんが塩対応した理由も分かりました」

 

「それが成長よ。シアはユエの助言と先生の様子を見て一歩下がった景色を見て気付いたのは良いけれど、白崎さんには助言は無しよ。過去のハジメと今のハジメを知るからこそ、気付かないといけないのよ。それすら出来ない様であればハーレムの中には入れないわよ。例えハジメが良しと言おうと、私が駄目と拒否するわ」

 

「正妻が皐月さんじゃなかったと思うと・・・不和が起きそうですねぇ」

 

「実際問題、ハーレムを築いた者の死因は身内に刺されてが多いわよ」

 

「そうなんですか?」

 

「側室の者が正妻よりも私を見てと言って殺す未来が待っているわよ。暴力で従わせても駄目よ?寝首を掻かれて殺されちゃうし」

 

皐月が言った様に、ハーレムを築いたとしても内部崩壊が殆どである。だから皐月はそれを起こさせない様にハーレム入りをする可能性の女の観察をしているのだ。白崎はユエとの言い合いで、無自覚かもしれないが"正妻になる"と発言しているのでハーレム入りの条件を満たしていない。皐月は、地球の時からの白崎の行動を見て思った事が一つ・・・白崎はハーレム入りに一番遠いという事だ

 

「話は変わるけれど、次はグリューエン大火山の迷宮の攻略よ。移動にはグリューエン大砂漠を横断する形だけど・・・魔物の問題があるわね」

 

「えっ?深月さんがどうにかするのでは?」

 

シアの言う通りで、深月ならば魔物を余裕で倒せるだろう。だが、問題はそこでなかったのだ

 

「シア、私達がこれから行く場所は"砂漠"よ?広大な砂の大地でどうやって移動するか考えてね?」

 

「あの二輪で移動に決まっています!」

 

だが、シアは重要な事を忘れている

 

「タイヤが砂に埋もれて移動出来なくなるし故障の原因にもなるわ。そして、基本的な問題として深月の天職は"錬成師"じゃなく"メイド"よ?錬成魔法が使えないのよ。地面を固めて走れないし、灼熱の大地を一人で走らせるつもりなの?」

 

「あ、あぁ~・・・砂漠って熱い事をすっかり忘れていました」

 

「偶には皆で車に乗った方が良いでしょ?」

 

「今更ですが、深月さんってあの車に乗った事ありませんよね?」

 

「そうよ。だがしかし!宝物庫には簡易キッチンが眠っているわ!何が言いたいか分かるわよね?」

 

「車の中にキッチン・・・深月さんも車の中・・・はっ!?深月さんにリクエスト出来ます!」

 

「そういう事♪」

 

皐月はこういう事もあろうかと、四輪の後ろに設置出来る簡易キッチンを制作していたのだ。これもハジメと一緒に作ったのだ。当初、ハジメは普通の広いキッチン台を作っていたので不必要だと言っていたのだが、皐月の「運転中に深月にリクエストして作ってもらえる」という言葉の誘惑に負けて力を込めて作ったのだ

ハジメ達は予定通り門の外に出て魔力駆動四輪を取り出して、簡易キッチンを設置した。車等を知らないメルドは驚愕していたが、それを無視して皆が四輪に乗り込む。白崎は、八重樫と別れの挨拶をして後部座席へ乗り込んだ。前は運転手のハジメ、皐月、ミュウ、ユエの四人。後部座席にはシア、ティオ、白崎の三人。深月は荷台で椅子に座っており、周りにはキッチン台や調理器具が並んでいる。ハジメ達はグリューエン大火山に向けて四輪を走らせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

ホルアドから出立して数時間、ハジメ達一行は遂にグリューエン大砂漠の入口へと到着した。砂の色は赤銅色で、砂の粒が細かく、常に一定方向から吹く風により易々と舞い上げられた砂が大気の色をも赤銅色に染め上げ、三百六十度、見渡す限り一色となっている

しかも、照り付ける太陽と大小様々な砂丘が無数に存在しており、刻一刻と表面の模様や砂丘の形を変えていく。大地の熱は四十度は軽く超えており、旅としては最悪の環境。だが、それは"普通"の旅であればの話だ。魔力駆動四輪で整地しながら爆走する。道なき道だが、それは車内に設置した方位磁石が解決してくれている

 

「・・・外、すごいですね・・・普通の馬車とかじゃなくて本当に良かったです」

 

「全くじゃ。この環境でどうこうなるわけではないが・・・流石に、積極的に進みたい場所ではないのぉ」

 

シアとティオが後部座席で窓にビシバシ当たる砂と赤銅色の外世界を眺めながらしみじみと呟く。だが、車内はピクニックの様な空気だった

 

「深月、運転しながらでも食べれる物を作ってくれ」

 

「おやつがたべたいの!」

 

「私はミュウと一緒に冷たい物が食べたいわ」

 

「ハジメさんはサンドイッチにしましょう・・・お嬢様とミュウさんは冷たいデザートですね。少々お待ち下さい」

 

「それにしても、前に来たときとぜんぜん違うの!とっても涼しいし、目も痛くないの!パパとママはすごいの!」

 

ミュウは誘拐された時にこの灼熱の砂漠を渡って来たのだ。本当に衰弱死しなかったのは奇跡といっても過言では無い。そんな環境を経験したからこそ、ギャップも相まって驚きが大きいのだ

 

「ミュウさん、デザートが出来るまで時間が掛かりますのでジュースは如何ですか?」

 

「ジュース?」

 

「甘い飲み物です」

 

「のむ!」

 

宝物庫から露店で買った果物を重力魔法で押しつぶし、果汁を搾る深月。その様子をまじまじと見ていた白崎が一言

 

「神楽さんに出来ない事ってあるのかな?」

 

「私は出来る事をしているだけです。現に、錬成魔法でアーティファクトを大量に造っているお嬢様とハジメさんに頼り切っています」

 

「えっと・・・"家事"で出来ない事なんだけど・・・」

 

白崎の思う家事とは世間一般でのレベルだが、深月のいう家事とは生活における全ての事だ。基本的に全てをこなせる深月だが、やってはいけない事が一つだけある

 

「出来なくはないのですが・・・一点だけ許可が出ない物はありますよ?」

 

一同は思う、「あの深月でも許可が許されていないって何?」と

 

「フグの調理師免許を持っていないのです」

 

「「「「フグ?」」」」

 

トータス組は分からず、首を傾げる。一方で、ハジメ達は疑問に思っていた

 

「調理師免許持ってないのか」

 

「高校を卒業するまでは駄目だと判断されて許可が下りなかったのです」

 

「あっ、そういう事。お父さんからダメって言われたのね」

 

「ですが、今なら大丈夫です!この生活魔法の力ならばフグの毒程度消して差し上げます!」

 

「深月の生活魔法の清潔は本当に料理人泣かせよね」

 

「それ以外の技能も料理人泣かせがあるよな」

 

ハジメ達が深月の技能について色々と考察する中、深月はハジメのサンドイッチを作り終えてシアに渡してデザートに取り掛かる

作るのはプリン。牛乳は、オルクスで食料補充をしに行った際に牛型の魔物を発見して搾取済みである。そして!プリン作りには欠かせないあれ―――――バニラエッセンス。実は、ウィルを探索中に深月はバニラビーンズに似た植物を発見して、陰ながら大量に採取していたのだ。ホルアドで油を多く含んだ種を購入したのは、バニラエッセンス用の植物油を手に入れる為だったのだ。(※味見もして確認済み)

深月は、耐熱用の器に魔物産の牛乳と卵にフューレンで購入したハチミツを入れて泡立てない様にゆっくりと混ぜながらバニラエッセンスを加えて十分に混ざりきった事を確認して熱量操作で温める。およそ二分温めた後は常温で熱を冷ます。その間に、ハチミツを焦がしてカラメルソースを作る。ハチミツが焦げて、カラメルのいい匂いが車内に充満して全員の腹の虫が鳴る

 

「あの・・・皆さんも欲しいのであれば言って下さいね?」

 

「「「「「欲しい(のじゃ)!」」」」」

 

結局全員が欲しいとの事で、今作っているカラメルソースを作った後・・・再び同じ工程を二回繰り返した。続いて冷ます工程なのだが、この車内に冷蔵庫なる便利道具は存在しない。しかし、そこで再び活躍するのが熱量操作である。熱量操作は文字通り、熱量を操作する技能。深月は、熱する事も出来れば冷ます事も出来るのでは?と思い試行錯誤を繰り返して習得したのだ。熱量操作で七つのプリンを冷やして固め、その上にカラメルソースを垂らして出来上がり

 

「出来ました。後部座席に座っている方は前の方達に零さない様に渡して下さい」

 

ハジメは運転しているので直ぐには食べる事が出来ないが、皐月がハジメの分を持っているので何も問題は無い。各自は、スプーンを持ってプリンをまじまじと見て楽しんだ後一掬い。少しだけ硬めのプリンだが、カラメルがしっかりと絡み合って甘い匂いを漂わせるそれを一口。常温の生ぬるい物では無く、しっかりと冷たいプリンは口の中をひんやりと冷まして、鼻から通り抜けるバニラエッセンスとカラメルの匂いに一同は自然と笑顔になり一言

 

『美味しい~♪』

 

他の皆は自分のプリンを食べ進める中、皐月はハジメの口にプリンが乗ったスプーンを近づけて食べさせる

 

「こっちに来てプリンが食べられるとか思ってもみなかったぜ」

 

「本当にそうよね~。プリンはここに来てから初めてよね?」

 

「はい。どうしても簡単に出来るレシピに限定されますので、今はこれが限界ですね」

 

「神楽さんってチートなんだね」

 

「チートではありませんよ?それから、一緒に旅をする仲間となりますので私の事は名前で呼んでも構いません」

 

「あ~そう言えばそうね。苗字で呼ばれるのって何か違和感があるわ」

 

皐月は奈落に落ちてからの事を思い出した。苗字で呼ばれる事が無く、名前で呼ばれる事が当たり前のこの世界に順応していた。そして、ウルでの事を思い出すとちょっとだけ違和感があるのだ。こう・・・しっくりこないという感じだ。特に、旅の仲間として行動するなら尚更である。皐月の気付かないところでユエは白崎と名前で呼び合う仲になっている

 

「それじゃあ、皐月ちゃ「あ"?」・・・"皐月"と"深月さん"って呼ぶよ!」

 

「・・・香織、なぜ深月だけさん付け?」

 

「そ、その・・・なんていうか・・・深月だとしっくりこないの。同い年だけど、年上の雰囲気があるの」

 

深月の外見年齢は確かに高校二年生だが、忘れないで欲しい―――――深月は転生者。精神年齢は三十代後半である

 

「そうか?俺は深月でいいと思うんだが」

 

「やっぱりあれじゃない?一緒に過ごした時間が長い事と、奈落での出来事が私達の価値観をゴッソリと変えたからよ」

 

「あぁ、奈落では色んな事があったな・・・深月とか深月とか深月とか」

 

「私は食生活を支えた位しか身に覚えがありませんが?」

 

「「「それはありえない」」」

 

奈落で深月のぶっ壊れを間近で見ていたハジメと皐月とユエの三人の声は重なる。シアも出会ってからの事を思い出しているのだろうか、遠い目をしていた

 

「・・・ハジメくん達が落ちてからの事を教えてもらてもいいかな?思い出したくないとはわかっ――――」

 

「ん?別にいいけど」

 

「ているけ・・・・・えっ?良いの!?」

 

「大変な事ばかりだったが、今の俺になった切っ掛けだからな。特に隠す事はしねぇよ」

 

「私達が迷宮に落ちてからよね?それは――――――」

 

皐月が白崎に落ちてからの経緯をまとめて話す。どうして腕が無くなったのか、どうやって生き延びたのか、深月と合流して迷宮を攻略する最中にユエと出会った事等を話す。シアと出会い、ティオと出会い、ミュウと出会った経緯も話して、どうして白崎達を助けたのかも話した

 

「・・・皐月は私達を助ける事は反対だったの?」

 

「はぁ?助ける助けないは別にどうでも良かったわ。けど、あれを目に入れたくなかったから・・・それだけよ」

 

「そっか・・・それは私達のせいでもあるんだよね」

 

「幼馴染なら荒治療でもしなさいよ。あれが社会に解き放たれたらヤバいわよ?」

 

呆れた表情をして香織を見る皐月。(※皐月が白崎を名前呼び決定したのでこれからの表記は香織でいきます)

皐月は深月から逐一知らされる情報を見て、天之河がどういった人間性なのか把握していた。だが、知らされる内容は物凄く酷い物ばかりだったのだ

 

「中学時代の出来事だけど、他校で仲の良い男女の友達が一緒に行動している時にあれが介入して何があったと思う?」

 

「えっ?他校だよね?・・・・・もしかして」

 

「大体察した様子ね。その男女の仲を良く思わない輩があれに『どうにかしてくれ~』って頼んで、あれが『分かった!俺に任せろ!』みたいな感じで了承。二人の言い分も聞かずに男の方を殴ったらしいわよ?深月が収集した情報でも流石にそれは無いと思っていた時期が私にもありました」

 

「嘘・・・だよね?」

 

「ん?もしかして俺の中学の奴か?あいつらは幼馴染で、途中で不登校になったって聞いたぞ」

 

「実は深月がハジメの調書を作っていた時に得た情報らしいの・・・」

 

「ハァッ!?それ初めて聞いたぞ!?」

 

「えっ!?深月さんもハジメくんを狙ってるの!?」

 

「いえ・・・お嬢様のご友人になる予定の人ですので安全の為に調べるのは当然ですよ?」

 

深月はあっけらかんと答える。それのどこが悪いのだという表情だ

 

「話を戻して、他校との暴力沙汰は学校の印象を悪くするわ。そこで、学校のお偉いさん方はある決定を下したのよ」

 

「お互い黙って問題を無かった事にしよう――――ってか?」

 

容易に思い付く可能性を上げるハジメだったが、結果はそれを上回るものだった

 

「いいえ違うわ・・・学校側があれの行動を正当化させたのよ。要するに、あれのお陰で我が校の女子生徒を脅かす男子生徒は反省した。悪かったのは男子生徒で、正しかったのはあれだってね。お互いwinーwin関係、あれ側の学校は正しき行いをする生徒を輩出する学校―――――そして、男子生徒側の学校はあれのお陰で綺麗になった学校ですよ~って謳い文句を掲げて生徒を集めていると聞いたわ」

 

「・・・クズ」

 

「クズですねぇ」

 

「クズじゃの」

 

何処の世界でも闇は存在するのだ

 

「ふと気になったのですが、お嬢様達は元の世界に帰還した後の計画は考えていますか?」

 

地球組のハジメと皐月と香織の三人に向けての疑問だった。深月は、将来的に皐月とハジメの二人のメイドとなるので一番気になっている所だった。香織については一応程度

 

「・・・ま、まぁどうにかな―――――」

 

「お嬢様の旦那様となりますので、大舞台に出る事は決定していますよ?」

 

「マジか?」

 

「マジです」

 

「ハジメが一緒に居たら、海外のパーティーでしつこい誘いが無くなるのは嬉しいわね」

 

「よし。皐月は俺の嫁だと知らしめる必要があるな」

 

「立ち位置もしっかりと確立しなければなりませんね。いっその事、会社を立ち上げられますか?」

 

「それも有りだな」

 

取り合えず、ハジメの将来設計の予定は決まった

 

「私は何かの教育に力を入れてみようかしら」

 

皐月は指導系の方に力を入れる予定だ。因みに、深月は皐月側に行くのは決定事項である

 

「わ、私は・・・ハジメくんを支えるよ!」

 

「いや・・・この話の流れで言うなら、新しい何かを提案するでしょ」

 

「うぐぅ!」

 

「・・・フッ」

 

皐月に、「お前空気読めよ」とツッコミを入れられて心に矢が突き刺さる香織を見てユエが嘲笑するが、それはそれで藪蛇だった

 

「ユエ達も考えなさいよ?私達の故郷に来たら当然働いてもらうわ。先ずは常識を身に着ける事が前提で動くからそのつもりでね?」

 

「「っ!?」」

 

香織から標的が移動した事を察知したユエとシア。ハジメの傍に居る為に、慣れない環境下で新しい事を覚える事は苦では無いが、皐月が言った事から察した。二人の教育係は深月の可能性があるという事に・・・

 

「「深月(さん)が教育係?」」

 

「私を御指名ですか。ならば、短期間で覚えられる様に少しだけスパルタ教育に致しましょう」

 

「「   」」

 

まさかまさかの事態。自分達から指名をしてしまった

 

「まぁ、その件は追々で決めましょう。それより香織だけど・・・決まらないなら私の方で活かすわ」

 

「皐月の所で?」

 

「新事業。それはメイド教育よ」

 

『え?』

 

「メイド教育ですか。需要があるかどうかは分かりませんが、セレブ達の間であれば喜ばれる可能性はありますね。現にハウスキーパーなる存在が居ますので、彼等の上位職とすればかなり有能かと」

 

「深月の技能に戦術顧問のメイドをフルに活用すれば、超人メイドが生まれる可能性があるわ」

 

『あぁ~・・・そういえばそんな技能あったなぁ~』

 

皐月の新事業はメイドの育成と決まった。それに伴い、深月がスパルタで鍛え上げて、香織の回復魔法で元通りにさせるの繰り返し。とても有意義な訓練となるだろう

 

「ただし、問題点は一つありますね」

 

「問題点?」

 

「「何かあった?」」

 

「お気付きになられていないのですか?私達の居た地球に魔力は存在するのかどうかを」

 

「「「なん・・・だと!?」」」

 

本当に気付いていなかった三人。魔力は自然回復すると思っていたのだが、それは概念があってこそ回復するというもの。回復しない可能性も高い事を考えると難しい

 

「魔力が回復しない可能性を考えると・・・厳しいな」

 

「スパルタ訓練もね」

 

「魔力が無いと回復魔法が使えないよ」

 

「細かい点については帰還した後の話です。今はぼんやりとでも良いので考えておきましょう」

 

三人の気持ちが暗くなる前に話を切り上げた深月だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

俺は今現在進行形で精神攻撃を受けている。その原因はユエとしらs――――香織の言い争いだ。事の切っ掛けは白崎の「ミュウのパパ」呼びを止めてくれと言ったのが始まりだった。それから話がどんどん大きくなっていって、挙句には「私もいつか子供が出来たら・・・その時は・・・」の一言が火種となったんだ。その言葉にユエが反応して「・・・先約は皐月。・・・絶対だから」との言葉を皮切りにして激しさを増していった。そして今では・・・

 

「白髪に眼帯、しかも皐月に至っては魔眼・・・確か、ハジメくんが好きなキャラにもいたはず・・・見せてもらった武器だって、あのクロスビット?はファ〇ネルがモデルだろうし・・・あっ、でもハジメくんはダブ〇オーも好きだったから、GNビッ〇かな?どっちにしろ、今のハジメくんも十分にオタクなんだよ」

 

「ガハッ!?か、香織・・・」

 

「む、むぅ・・・ハジメ達の武器がそこから来ていたなんて」

 

「好きな人の好きな物を知らないで勝ち誇れる?」

 

「・・・香織・・・いい度胸・・・なら私も教えて上げる。ハジメの好きな事・・・ベッドの上での」

 

「!?・・・な、な、なっ、ベッドの上って、うぅ~、やっぱりもう・・・」

 

「ふふふ・・・私達との差を痛感するがいい」

 

誰か助けてくれ・・・俺の精神がカ〇ーユみたいに破壊されそうだ

 

表情や仕草にはなるべく出さない様にしているが、ハジメが落ち込んでいるのを把握していた皐月はミュウを一旦シアに預けてから二人にアイアンクローをして締め付けていく

 

「ミュウの教育に悪いって気付かないのかしら?現在進行形で、ハジメに精神攻撃をして落ち込ませていると理解出来ないの?運転しているのはハジメなのよ。仲直りしないのであれば、外に放り出すわよ?」

 

「痛い!皐月痛い!止めて!!」

 

「皐月痛いよ!仲直りするから離して!?」

 

徐々に力を入れる皐月に止める様に懇願する二人。皐月は手を放して二人をジッと見ている。運転しているハジメを含めてシア、ミュウの三人は皐月を怒らせたら怖いと改めて実感して、怒らせない様に良い子でいようと心に決めた。ティオはいつも通り恍惚な表情をしているが、皐月が深月を見ながら親指で首を掻っ切る様に合図を送った。深月はティオの耳元で周りに聞こえない様に呟く

 

「破裂したいですか?」

 

「申し訳ないのじゃ」

 

座席の上で土下座するティオ、日本人でも惚れ惚れする美しい土下座だった。その呟きが聞こえてしまったハジメは思った

 

破裂って何だ?・・・いや待て。深月って疑似的な電子レンジを使えるんだよな?輻〇波動・・・いや違うな。SE〇Dのサイ〇ロプスだろ!?絶対に即死コースじゃねぇか・・・・・ラスボスは皐月と深月のダブルコンビだな

 

ハジメがそんな事を内心で思う中、ユエと香織の仲直りも無事?に済んで少しだけ走らせると

 

「ん?なんじゃ、あれは?ご主人様よ。三時方向で何やら騒ぎじゃ」

 

ティオが注意を促してきた。どうやら窓の外で何かを発見した様だ。ハジメ達は言われるがままにそちらを見ると。右手にある大きな砂丘の向こう側に、サンドワームと呼ばれるミミズ型の魔物が集まっている様だった。幸いな事に、このサンドワームは察知能力は低いので近くを通るなど不運に見舞われない限り、遠くから発見され狙われるという事はない

 

「?なんで、アイツ等あんなとこでグルグル回ってんだ?」

 

ティオが注意を促した理由は見つけたからだけではない。様子がおかしかったからなのだ

 

「あの動き・・・まるで獲物は居るのに食べたら危ないという動きですね。魔物が魔物を食べても平気な事を考えると・・・ッ!こちらに来ます!」

 

「俺の気配感知には引っ掛かっていないが、深月が言うのであれば間違いない。全員しっかり掴まれよ!―――――っ!?」

 

ハジメが四輪を加速した後、僅かに車体を浮き上がらせながら砂色の巨体―――――サンドワームが大口を開けて飛び出してきたのだ。ハジメは、更にハンドルを左右にきって、高速で駆け抜けていく。Sの字を描く様に走る四輪の真下から二体目、三体目とサンドワームが飛び出してきた

 

「きゃぁあ!」

 

「ひぅ!」

 

「わわわ!」

 

香織とミュウとシアの悲鳴が上がる。事前にハジメから何処かに捕まる様に注意されていたので、吹っ飛ばされる事は無かった。サンドワームは上空から再び襲い掛かる。だが侮るなかれ―――――この四輪はオタクのハジメと皐月が作り出したアーティファクトだ。何の備えもしていない筈もない

 

「皐月。あれを使うぞ!」

 

「何気に初めてだけど問題ないわ!」

 

「ロックは任せた!」

 

「勿論♪」

 

走行しながら皐月が特定部位に魔力を流し込むと、ガコンッ!カシャ!カシャ!という音を立ててボンネットの一部がスライドして開き、中から四発のロケット弾がセットされたアームがせり出す。本当は自動でロックする機能が付いているのだが、それはせずに発射する。バシュ!という音をさせて、火花散らす死の弾頭を吐き出した

すると、ロケット弾はありえない軌道を描きながらサンドワームの口内に向かって飛び込み、一瞬の間の後、盛大に爆発し内部からサンドワームを盛大に破壊した。このロケット弾は、皐月の魔眼で遠隔操作しているのでありえない軌道を描けているのだ。サンドワームの真っ赤な血肉がシャワーのように降り注ぐが、そのまま走っていた四輪にはギリギリ降り掛かる事は無かった。だが、後ろの光景はショッキングな事には変わらない

 

「うへぇ・・・シア、ミュウが見ないようにしてやっててくれ」

 

「もう、してますよ~。あんっ!ミュウちゃん、苦しかったですか?でも、先っぽを摘むのは勘弁して下さい」

 

迫り来るサンドワーム達にもロケット弾をぶち込む事で再びショッキングな光景を見させない様にシアに配慮を頼む。シアは、既にミュウを対面方向で胸元に抱きしめて見えないようにしていたが・・・シアの巨乳に顔を包まれて苦しかったのか、ミュウが抜け出そうとした。その際、シアの何処かに触ってしまいシアが喘ぐ。ハジメは敢えてスルーして聞こえなかった事にした。だが、轟音のせいで遠くに居たサンドワーム達もハジメ達に気付いてしまったのだ。ハジメは砂丘の上へと四輪を走らせ、見晴らしの良い所で様子を見る。すると、ハジメ達に向かって一直線で向かい来るサンドワームの群れなのだが・・・微妙に砂が盛り上がっており隠密性が無い。だが、早く移動する事で攻撃する暇を与えない様にしようと思っているのだろう

ハジメはロケットランチャーをしまい込み、次なる兵器を起動。すると、ボンネットの中央が縦に割れて、そこから長方形型の機械がせり出てくる。長方形型の箱はカシュン!と音を立てながら銃身を伸ばしていき、最終的にシュラーゲンに酷似したライフルとなった。それと同時に紅いスパークが迸り、皐月自身が照準して一発。ドウゥ!!と射撃音を轟かせながら一条の閃光が赤銅色の世界を切り裂いて、盛り上がった砂地に着弾して衝撃と共に砂埃を盛大に巻き上げる。その後も射撃は続き、地中に居たサンドワーム達を爆ぜさせた

 

「ふぅ~。これで終わりだな」

 

すると、深月は素早く外に出て目を閉じて砂地に手を着ける。ハジメ達はその様子を黙って見ていると、深月はそのまま車内へと戻る

 

「先程簡易的なソナーで振動を探りましたが、この近くにはサンドワームは居ません。ですが、注意は必要です」

 

深月は、魔力糸を地中に突き刺して振動で探っても何も感じなかったので一応は大丈夫だとハジメ達に伝える

 

「ハジメくん!あれ!」

 

「・・・白い人?」

 

すると、香織が何かを見つけて前方に指を差す。その先に居たのはユエが呟いたように白い衣服に身を包んだ人が倒れ伏していた

 

「お願い、ハジメくん。あの場所に・・・私は"治癒師"だから」

 

ハジメ達も、何故あのサンドワーム達に襲われなかったのか興味があったので香織の頼みを了承して四輪を走らせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「勇者(笑)って地球でもやっちゃってるんだな」
深月「私が警戒をしている理由はこれが大きいのです」
布団「これがなくても警戒するでしょ?」
深月「勿論です!」
布団「話は変わって、回復要員が手に入りました!拍手~♪ドンドンパフパフ~」
深月「作者さん的には嬉しいのですか?」
布団「そうですよ?魔改造出来るし」
深月「あっ、そっちですか」
布団「まぁ・・・微々たる改造しか出来ませんがね!」
深月「それでは、次話が書きあがるまでお待ち下さい」



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メイドは治癒師を酷使します

布団「投稿なんだよ~」
深月「多数の誤字報告有難う御座います」
布団「読者の皆!」
深月「ごゆるりとどうぞ」



















ゴールデンウィーク期間は色々と暇になる方も居る事でしょう。その間は頑張って短い間隔で投稿する様に頑張ります。コロナ影響で気分消沈な皆様の活力の為に作者やっるぞ~
















~深月side~

 

白い人の傍に到着したハジメ達。香織は急いで、倒れ伏している人を仰向けにして顔を隠しているフードを捲った

 

「!・・・これって・・・」

 

年齢は二十代の青年だったのだが、香織が驚いたのは年齢の方では無い。青年の容態・・・彼の顔は大量の汗が浮かび、呼吸は荒く、脈も早く、服越しからでも分かる程高熱を発していたのだ。しかも、血管が浮き出ており、目や鼻といった粘膜から出血もして明らかに尋常な様子ではない

ハジメと皐月は耐性を持っているから問題は無いが、ユエ達はそうではない。ウィルス感染の可能性が否めないが、治癒の専門家が診察しているので大人しく様子を見る。深月は遠目から青年の様子を観察して、経験則から一つの可能性を思い出した。香織も"浸透看破"で青年の様子を把握して同時に発する

 

「・・・魔力暴走?摂取した毒物で体内の魔力が暴走しているの?」

 

「これは・・・体内に入った毒が原因?」

 

「香織、何が分かったんだ?」

 

「う、うん。これなんだけど・・・」

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

状態:魔力の過剰活性 体外への排出不可

症状:発熱 意識混濁 全身の疼痛 毛細血管の破裂とそれに伴う出血

原因:体内の水分に異常あり

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おそらくだけど、何かよくない飲み物を摂取して、それが原因で魔力暴走状態になっているみたい・・・しかも、外に排出できないから、内側から強制的に活性化・圧迫させられて、肉体が付いてこれてない・・・このままじゃ、内蔵や血管が破裂しちゃう。出血多量や衰弱死の可能性も・・・天恵よ ここに回帰を求める "万天"」

 

香織は冷静に診断して、回復魔法を唱える。中級回復魔法の一つで、効果は状態異常の解除。石化を解いた術なのだが、効果が表れた様子が無かった

 

「・・・ほとんど効果がない・・・どうして?浄化しきれないなんて・・・それほど溶け込んでいるという事?」

 

万天では治療では無く、進行を遅れさせる程度の効果だった。青年は今も尚苦しそうにしており、苦しそうに呻き声を上げて粘膜から出血も止まらない。香織は治療法も分からないこの現状に歯噛みして応急措置を採る

 

「光の恩寵を以て宣言する ここは聖域にして我が領域 全ての魔は我が意に降れ "廻聖"」

 

光系の上級回復魔法"廻聖"。一定範囲内における人々の魔力を他者に譲渡する魔法で、仲間の魔力枯渇を防ぐ為の魔法である。また、譲渡するだけでは無く、領域内に居る者から魔力を吸収する事が出来るドレイン系としても使えるのだ。だが、少しずつ吸収する事しか出来ないので実戦向きとは言えない

純白の光が、青年を中心に広がり蛍火のような淡い光が湧き上がる光景を見て、魔法に精通するユエやティオなど年長組が思わず「ほう・・・」と感嘆の声を漏す。ミュウは、シアに抱っこされながら、「きれい・・・」とうっとりしながら香織を見つめている。ドレインで吸収された魔力は、香織の腕に装着された神結晶印の腕輪に蓄積されていく。どうやら、上級魔法による強制ドレインでの蓄積は成功

青年の呼吸も落ち着きを取り戻し、不調も徐々に回復したようだ。続いて、廻聖の行使を止めて天恵で青年の傷ついた血管を癒す

 

「取り敢えず・・・今すぐ、どうこうなることはないと思うけど、根本的な解決は何も出来てない。魔力を抜きすぎると、今度は衰弱死してしまうかもしれないから、圧迫を減らす程度にしか抜き取っていないの。このままだと、また魔力暴走の影響で内から圧迫されるか、肉体的疲労でもそのまま衰弱死する・・・可能性が高いと思う。勉強した中では、こんな症状に覚えはないの・・・ユエとティオは何か知らないかな?」

 

なんとか青年の危機は脱する事に成功した香織は、知識の深いユエとティオに病気の有無を尋ねる。二人共記憶を探る様に視線を彷徨わせるが、該当知識が無かった。結局、原因不明である事には変わりない。皐月は、深月の呟きを聞いていた為、追及する

 

「深月、可能性は多い方が良いわ。予測でも良いから深月が思った事を言いなさい」

 

ティオ、ミュウ、香織を除く四名は深月の予測を聞くのもありと―――――殆どの出来事を的中させていたので、今回も何かしらのヒントを得る事が出来る可能性があると思い至ったのだ

 

「深月の予測を聞くのも良い手だな」

 

「・・・名探偵深月」

 

「またしても深月さんのぶっ壊れが頼りです!」

 

知らない三人は「えぇ?」と、信じられないと言わんばかりの目で深月を見つめる

 

「大きな可能性としては毒です」

 

「深月さん、毒だったら私の万天で治るよ?」

 

「そう、正にそれが疑問点なのです。香織さんの石化すら解除出来る魔法でも駄目・・・恐らく長期に及ぶ毒だと私は思います」

 

「長期に及ぶ毒・・・もしかして中毒症状?」

 

「もし、深月の予測通りの中毒症状なら危険だな。アンカジ公国内での補給は不可能だと考えた方が良いだろう」

 

ハジメ達は、深月の予測を考慮しつつこの先にあるアンカジ公国について考える。深月は一人離れて、青年の体を見て清潔鑑定で状況を見る

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

清潔場所:体全体

原因:体内水分に毒素

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

おや、これはまた・・・清潔鑑定とはここまで便利なのですか。・・・ハジメさん達は見ていないので実験をしてみま―――――

 

「み~づ~き~」

 

深月の様子に一早く感付いた皐月だった。ジト目で深月を見ている皐月に気付いて、全員深月の方を向く

 

「何用でしょうか?」

 

「何用じゃないでしょ!一体何をしようとしたのか答えなさい!!」

 

「・・・人体実験といった物騒な事はカンガエテイマセンヨ?」

 

「最後!カタコトになってるだろ!説得力皆無だろ!」

 

「チッ」

 

「舌打ちしない!―――――で?何かしようとしたのであれば何か分かった筈よ。ちゃんと報告しなさい」

 

深月は皐月に従って青年を清潔鑑定して、ステータスプレートを渡す。全員で覗き見ると先程の説明文を見て、ハジメ達は深月と香織を交互に見て一言

 

『清潔の意味って何だっけ?』

 

回復師の香織よりも分かりやすく、ピンポイントで症状が書かれていたからだ。香織に至っては物凄く落ち込んでいるのはいつも通りのお約束である

 

「それで?・・・清潔出来るのか?」

 

「魔力吸収せずに異常を治せるなら・・・」

 

「・・・深月が治す?」

 

「また深月さんですか。ヤバイですね☆」

 

「瞬間清潔とは・・・一瞬で毒状態を治すという事じゃの」

 

「深月お姉ちゃんすごい!」

 

「やっぱり私・・・深月さんの下位互換なんだね」

 

「いや違うだろ」

 

「深月は傷を治す事出来ないからね?香織は香織にしか出来ない事があるでしょ?」

 

「この方には悪いですが、実験台になって頂きます」

 

ハジメ達は内心で「絶対に悪いと思っていないだろうなぁ~」と呟く。深月の清潔が行使されて、青年の様子が先程よりも良くなった事が分かった。息苦しさも無くなったのだろう。青年は瞼をゆっくりでは無く、カッと見開いてガバッと状態を起こした

 

「こ、ここは・・・私は砂漠を歩いて・・・」

 

彼は意識が混濁しているのだろう。目を覚ましてキョロキョロと周りを見て、自分の様子を観察して体調の良さに驚いているのだ。ハジメ達は青年に説明をする。香織は神の使徒、ハジメ達は金ランク冒険者である事を

すると、ハジメ達が命の恩人であると理解し、頭を下げて礼を言うと自身の事を述べる

 

「まず、助けてくれた事に礼を言う。本当にありがとう。あのまま死んでいたらと思うと・・・アンカジまで終わってしまうところだった。私の名は、ビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ」

 

それからビィズが自国で起こっている出来事を事細かに話し出す。現在、アンカジ公国では原因不明の病気が蔓延しているとの事。四日前、高熱を出す症状の患者が二万人、意識不明者が三千人という事だ。しかも、それは初日での出来事であるのが驚きだ。日に日に多くなる患者・・・公共施設等を解放して仮設病院を設置して、医療機関の者達も全力で対処した。しかし、香織と同様で進行を遅らせる程度しか出来なかったのだ。そして、遂に医療機関関係者の中でも倒れる者達が出始め、治療が受けられなかった人々の中から死者が出てしまったのだ。発症から二日という早さの事実に絶望が立ち込めている

そんな中、一人の薬師が、ひょんな事から飲み水に"液体鑑定"を掛けた。すると、その飲み水は魔力の暴走を促す毒素が含まれている事実が発覚したのだ。その事実を受けて調査チームが最悪の事態を想定しながらアンカジのオアシスを調べると、案の定、オアシスが汚染されていたのだった。だが、警備は厳重なのでオアシスに毒素を流し込むなど不可能に近いと言っても過言ではない

そんな彼らの頭を悩ませるのはそれだけでは無かった。水の貯蓄が二日分しかない事と、既に汚染された水を飲んでしまった患者を救う手立てが無いという事だった。しかし、全くの方法が無い訳ではなく、"静因石"と呼ばれる鉱石を粉末状にして服用すれば体内の魔力を鎮める事が出来るとの事。だが、その鉱石はグリューエン大火山で少量しか採取出来ず、往復の移動に一ヵ月、迷宮に潜れる程の手練れの冒険者は病に倒れて実力のある者が居らず、安全な水のストックが圧倒的に足りない状態だったのだ

 

「それで貴方は、王国に救援を求めに行く最中だったと」

 

「父上や母上、妹も既に感染していて、アンカジにストックしてあった静因石を服用することで何とか持ち直したが、衰弱も激しく、とても王国や近隣の町まで赴くことなど出来そうもなかった。だから、私が救援を呼ぶため、一日前に護衛隊と共にアンカジを出発したのだ。その時、症状は出ていなかったが・・・感染していたのだろうな。おそらく、発症までには個人差があるのだろう。家族が倒れ、国が混乱し、救援は一刻を争うという状況に・・・動揺していたようだ。万全を期して静因石を服用しておくべきだった。今、こうしている間にも、アンカジの民は命を落としていっているというのに・・・情けない!」

 

護衛に頼んでいた者達はサンドワームに襲われて全滅。そのことも相まって悔しくてならないのだろう。幸運だったのは、体に含まれる毒素を察知して捕食に躊躇った事だ。その結果、ハジメ達に助けられて病気を治してもらえる可能性がある人物と出会う事が出来たのだ。正に一生分の運を使い切ったと言っても過言ではないだろう

 

「・・・君達に、いや、貴殿達にアンカジ公国領主代理として正式に依頼したい。どうか、私に力を貸して欲しい」

 

とても深く頭を下げて必死にお願いをするビィズ。公国領主代理としては軽々しく頭を下げる事では無いと分かっているが、この降って湧いた奇跡を絶対に逃がさないという必死さが伝わる。深月とユエとティオはハジメと皐月の二人に任せるといった視線を向け、残りのシア達は、助けてあげて欲しいという意思が含まれている視線だ。もっとも、ミュウは直接的で

 

「パパー、ママー。たすけてあげないの?」

 

ミュウの目は純真だ。二人はヒーローで、どこか期待するような眼差しを受けて、ハジメは「しょうがねぇな」と苦笑い気味に肩を竦めてビィズに了承の意を伝えた。元々、グリューエン大火山を攻略する際にミュウとティオと香織は置いて行くつもりだったのだ。流石に幼い子供と、戦力として低い香織の二人を連れて行くとなれば大変である

 

「申し訳ないハジメ殿、水の確保のために王都へ行く必要もある。この移動型のアーティファクトは、ハジメ殿以外にも扱えるのだろうか?」

 

「まぁ、香織とミュウ以外は扱えるが・・・わざわざ王都まで行く必要はない。水の確保はどうにか出来るだろうから、一先ずアンカジに向かいたいんだが?」

 

「どうにか出来る?それはどういう事だ?」

 

ハジメが色々と掻い摘んで説明するが、最初は信じられないといった表情をしていたビィズ。しかし、"神の使徒"の香織の説得もあってアンカジに引き返す事を了承した。ビィズは、滑る様に高速で走る四輪に驚きながら一縷の希望に胸の内を熱くするのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンカジへと到着したハジメ達一行。フューレンを超える外壁囲まれた乳白色の都で、外壁も建築物も軒並みミルク色で、外界の赤銅色とのコントラスト。ただ、フューレンと異なる部分は不規則な形で都を囲む外壁の各所から光の柱が天へと登り、上空で合わさりドーム状の形を形成している事だ。町の中は砂が無く、あのドーム状のが結界の役割を果たしていると判断した

光り輝く巨大な門から入る。門番は初めて見る魔力駆動四輪を見て驚いていたが、現在のアンカジの影響を受けて暗い雰囲気と覇気が無かった。しかし、四輪の後部座席に次期領主が座っている事に気付いて、兵士らしい直立不動の姿勢になり覇気を取り戻した

町の光景はオアシスの名に恥じない素晴らしい物だったのだが、今は暗く陰気な雰囲気が覆い包まれていた。通りに出ている者も少なく、ほとんどの店も営業をしておらず町全体を静けさが支配していた

 

「・・・使徒様やハジメ殿達にも、活気に満ちた我が国をお見せしたかった。すまないが、今は、時間が無い。都の案内は全てが解決した後にでも私自らさせていただこう。一先ずは、父上の元へ。あの宮殿だ」

 

一行はビィズの案内の元、原因のオアシスを背に宮殿へと進む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父上!」

 

「ビィズ!お前、もう王国へと救援を頼んだのか!?」

 

「いいえ違います。私は砂漠を横断している最中にサンドワームに襲われましたが、ハジメ殿達に助けられました。ただ・・・護衛の者達は全員・・・」

 

「・・・そうか」

 

ビィズは国を出てからの事を領主ランズィに簡単に説明すると、報告の内容を聞いて驚愕を露にした

 

「それは本当か!彼等が病を治したと!?」

 

「あ~・・・勘違いしないで欲しいが、大本を治したのは深月と香織だ」

 

ハジメは深月と香織に視線を向けると、ランズィは更に驚いていた

 

「驚くのは良いけれど、さっさと行動に移るわよ。聞いた限りでは早く手を打たないと物凄く危険よ?」

 

刻一刻と切迫する状況。皐月に言われてランズィは、ハッと我に返る

 

「じゃあ、動くか。深月と香織はシアを連れて医療院と患者が収容されている施設へ。一応魔晶石も持って行け。俺達は、水の確保だ。領主、最低でも二百メートル四方の開けた場所はあるか?」

 

「む?うむ、農業地帯に行けばいくらでもあるが・・・」

 

「なら、深月と香織とシア以外は、そっちだな」

 

ハジメは、魔力の溜まった腕輪を二つ取り出して深月と香織に手渡し各自は行動に移ろうとしたが

 

「私が施設に行くのは良いのですが・・・後程オアシスを"清潔"すれば問題は無くなるのでは?」

 

『あっ』

 

ハジメ達は、よくよく考えればそうだったと思い出した表情をしていた。だが、問題はまだまだある

 

「い、いや・・・人数が多いだろ?適材適所だ!」

 

「深月ばかりに負担を掛ける訳にはいかないわ」

 

「少々確認をしたいので」

 

『またかよ・・・』

 

国が危機に陥っているランズィからすれば、深月が国民を人体実験すると聞こえていた

 

「我が国の民を実験の対象にするのであれば・・・それ相応の対処をさせてもらうぞ?」

 

「父上。深月殿の言う事を信じてみましょう」

 

殺気立つランズィだが、ここで意外な事にビィズが深月の援護に入る。ランズィは息子の言葉に異を唱えるが、ビィズは引かなかった。一向に引こうとしないビィズに、遂にランズィは折れて条件を付けた

 

「・・・・・そこまで言うのであれば良いだろう。だが、失敗すればどうなるか分かっているな?」

 

「失敗はありえません。既にビィズさん"一人"に試しています。そして、香織さんの回復魔法を参考にさせてもらっています」

 

「えっ?私何か参考になる様な事した?」

 

香織は全く気付いていない様子だが、"ある"回復魔法を行使している香織の姿を見て習得している技能を十全に扱って魔法の"魔力の流れ"を把握した。これはぶっつけ本番ではあるが、魔法の構造を理解して出来ると確信を持っているからの発言なのだ

 

「深月が出来ると言うのなら出来るわね。失敗する可能性が少しでもあるなら絶対に提案も何もしないわ」

 

「皐月の言う通りだ。ここは深月の言う通り、全員で施設に行くか」

 

こうしてランズィの案内の元、ハジメ達一行は患者達が入っている施設へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

ランズィに案内をされた施設に入ったハジメ達が見た光景は、人々が密集して苦しんでいる光景だった。予想していたよりも切迫している状況であると判断出来た。ここに来る途中に教会と思わしき場所で棺が沢山あったので、恐らく亡くなった患者達と理解した。幼いミュウでも、この光景を見て暗い表情になっている。ハジメ達がヒーローと感じていても、流石にこの大人数となれば少なくとも死者が出る可能性があると思ったのだろう

 

これは予想以上の人数・・・流石の深月でもキツイと思うが、問題無く解決しそうだな

 

ハジメは皐月に視線を向けると、顎に手を当てて何かを考えている姿だった。深月は香織を連れて重篤患者の場所を医療関係者から聞き出し、そちらへと進んで行く。ハジメ達も後を追う様に付いて行く

案内された場所では、血を流して体を震わせている患者達だった。少なく見積もっても万は超えている。深月は奥に居る最も危険な状態の患者の元まで移動した。最初に目に入った重篤患者よりも容態が悪いと分かる程の光景で、穴という穴から血を垂れ流している。この光景を見てミュウはハジメの胸元に顔を埋めた。誰もがこの患者はもう駄目だと感じていた

 

「・・・この方が今現在、最も重症な患者です。正直に言います。この方は助からないでしょう」

 

「そうですか。では、邪魔ですので退いて下さい。香織さん、先ずは一人で実践光景を皆様に見せますよ」

 

「うん。私頑張るよ!」

 

深月は患者に手を当てて、香織に一瞬だけ視線を向けて合図を送る。香織もそれに頷き詠唱を開始

 

「天恵よ 彼の者に今一度力を――――」

 

「清潔」

 

「"焦天"」

 

香織の詠唱に合わせて清潔を行使。体中の毒素が一瞬で取り除かれたと殆ど同時に回復する。一瞬で患者の様子が変わった光景を見て、その場にいた関係者全員は「これは・・・奇跡か?」と口漏らす

 

「次は"複数人の清潔"をしましょう」

 

「「「「「「待て(って)(つのじゃ)」」」」」」

 

深月から初めて聞く単語に、一旦待ったを掛けるハジメ達。ランズィ達は一縷の光どころか、太陽の様な光の深月を止めるハジメ達を不思議そうに見つめる

 

「お前はそんな技能持ってないだろ!」

 

「ステータスプレートを見せなさい!」

 

「・・・無謀」

 

「深月さん、無理な物は無理なのですよ~」

 

「派生技能とは大本となる技能を如何にして扱うかによって生まれるのじゃ。無論、出ていない技能を使う事は出来んぞ」

 

「深月さんって意外と抜けているんだね」

 

酷い言い様である。深月はステータスプレートを渡して、まじまじと見ているハジメ達を無視して目を閉じ集中―――――魔力の散布をイメージして、範囲を周囲に居る三人の患者に絞って行使する

 

「清潔」

 

その言葉と同時に彼等の近くに居た三人の容態が一変、中毒症状による呼吸の乱れと震えが収まった。それを呆然と見るハジメ達。皐月は一早く我に返り、先程まで覗いていたステータスプレートを覗くと

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:???

天職:メイド

筋力:34500

体力:51000

耐性:42050

敏捷:54500

魔力:36000

魔耐:35000

技能:生活魔法[+完全清潔][+瞬間清潔][+清潔操作][+範囲清潔][+清潔強化][+清潔鑑定] 熱量操作[+蒸発][+乾燥][+瞬間放熱][+放熱持続][+冷蔵][+冷凍] 超高速思考[+予測] 精神統一[+明鏡止水] 身体強化[+魔力吸引補強][+全属性補強][+全属性性能向上] 魔気力制御[+放射][+圧縮][+遠隔操作][+複合][+憑依][+魔気力展開] 気配感知[+特定感知] 魔力感知[+特定感知] 熱源感知[+特定感知] 気配遮断[+透化][+断絶] 家事[+熟成短縮][+魔力濾過][+魔力濾過吸引] 節約[+気力][+魔力] 裁縫[+速度上昇][+精密裁縫] 交渉 戦術顧問[+メイド] 纏雷[+電磁波操作] 天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光][+無音加速][+音越え][+無間] 幻歩[+幻影][+認識移動] 風爪 衝撃波[+収束][+拡散][+並列] 夜目 遠見 魔力糸[+伸縮自在][+硬度変更][+粘度変更][+着色][+物質化][+振動伝達] 胃酸強化 超直感[+瞬間反射][+未来予測] 状態異常完全無効 金剛[+超硬化] 威圧 念話 追跡[+敵影補足][+識別] 超高速体力回復 超高速魔力回復 魔力変換[+体力][+治癒力] 心眼[+見極め][+観察眼] 極致[+武神][+絶剣] 限界突破[+覇潰][+極限突破] 生成魔法 重力魔法 忠誠補正[+成長補正][+技能獲得補正] 言語理解

称号:メイドの極致に至る者

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

明らかに増えている派生技能を見て皐月は、頭を抱えてハジメにステータスプレートを預ける。ハジメも渡されたステータスプレートを見て頭を抱えた。ユエ、シア、ティオ、香織と渡って深月に返却した。白崎は、あまりにもぶっ飛んだステータスと派生技能の数に頭が真っ白になっていた

 

「前も言ったけどよ・・・自重しろよ」

 

「しかも、ステータスも若干上昇しているし・・・」

 

「・・・深月は異常」

 

「ほんっと~にぶっ壊れですね」

 

「習得していないのに使えるのは異常じゃ。しかも一度使っただけで習得は更にありえないのじゃ」

 

「  」(呆然

 

今回覚えた派生技能は六個

[+範囲清潔][+清潔強化][+冷蔵][+冷凍][+電磁波操作][+振動伝達]

これらである。前者二個はつい先程で、後の四個はフューレンで確認した後からのものだ

 

「香織さん?呆然とするのは構いませんが、清潔を終えたそちらの三名の治療をお願いします。流石の私でも、回復魔法は使えませんので」

 

「あっ・・・う、うん。回復魔法いくよー」

 

香織は範囲回復魔法の回天を行使して治療をする。終われば次へと移動――――

 

「今回は一気に五十人程いきますよ」

 

「ごっ!?」

 

「清潔」

 

あっという間に毒素をキレイキレイされた者達の呼吸は落ち着き、香織が回復魔法を行使する。これの繰り返しである

 

「それでは、次は五百人ですよ」

 

だが、香織から待ったの声が掛かる

 

「ま、魔力の回復が落ち着かないから待って!?」

 

深月はニッコリと笑い、腕にはめていた神結晶印の腕輪を香織に装着。そして、香織が身に着けている腕輪を外して自身に装着した。ハジメ達は察した

 

「今、私が渡した腕輪に魔力は十分溜まっています。交換を繰り返して半日以内で全員を回復させましょうね?」

 

「   」

 

香織はブリキの人形の様にギギギッと動かしてハジメ達の方に振り向くと、全員が合掌して黙祷を捧げていた。香織は、これから自身の身に何が起こるのかをようやく理解した

 

「行きましょうね?」

 

「さ、流石に精神的に疲れそうだな~とおも――――」

 

「限界を超えれば良いだけです。それでは逝きましょう?」

 

「待って!?字が違うよね!?た、助けてハジメくん!?」

 

「俺は香織に逝って来いとしか言えない。大丈夫だ!人間誰しも限界を超えて動ける!・・・・・多分」

 

「皐月助けて!?」

 

「助けたいと最初に言い出したのは香織よ?これは運命だったと思って諦めなさい」

 

「・・・がんばれ」

 

「香織さん!頑張ってくださいですぅ!」

 

「頑張るんじゃぞ」

 

「香織お姉ちゃんがんばってなの!」

 

香織は全員に見送られ、深月にドナドナされて行った。少ししてハジメ達の耳に香織の泣きの声が聞こえたが、"人間はその程度では死にません"という深月の言葉が聞こえたのだった

こうして、たった半日でアンカジ国内の患者は全回復したのだった。これで残る問題は一つだけとなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「人間はそう簡単に死にません。個人の限界ギリギリは見極める事が出来ますので安心して下さい!」
布団「治癒師さん涙目ですわぁ~」
深月「ハジメさん達に着いて行くのであれば頑張りましょう♪」
布団「餌を吊るされた馬ですわ」
深月「次回も頑張って行きますよ!」


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メイドはまたしてもやらかす

布団「皆!待たせたな!今回もメイドさんが自重しないZO!!」
深月「お嬢様の為に頑張ります」
布団「それでは、行きましょう!」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」












コロナ騒動が続く中、ゴールデンウィークで暇している人は多い。・・・いっくぞ~!コロナなんかに負けない!皆も気を付けながら頑張りましょう!!













~深月side~

 

「もう駄目!私死んじゃう!だから休ませて!」

 

「駄々をこねてはいけませんよ。私達を希望としている患者が沢山いるのです。魔力も十分ありますよね?」

 

「集中力が途切れちゃうの!」

 

「では、集中せずに回復魔法を使う訓練です。その方が戦力になります。もしこのままならば、お嬢様達の足手まといのお荷物さんですよ?そんな香織さんにハジメさんが振り向いてもらえるとでもお思いですか?」

 

「うぐぅっ!」

 

巨大な施設に沢山の患者が居り、回復した者達を見て二人に縋る様な目で視ているのだ。もう既に五万近くの患者を治療したが、患者は数多く居る

深月のノンストップ清潔に香織は付いて行くので精一杯で、精神がゴリゴリと削られているのだ。ようやく治療が済んだと思えば、先程よりも多い患者を回復しなければいけないの繰り返しなのだ。深月の超スパルタ訓練を前に早々と根を上げた香織だった。疲れ果てた香織に深月は、「ハジメ達と一緒に旅をするなら~」と言って焚き付けるのだ。置いて行かれたくない香織に、一番心に突き刺さる言葉ばかりを投げ付けてやる気にさせているのだ

 

「今でおおよそ折り返し地点です。ここからは軽傷の方達の区画ですので頑張って下さい」

 

「深月さんは何で平気そうにしているの・・・」

 

「何故と言われましても・・・常日頃からお嬢様達の害となる者を駆除しているからでしょうか?慣れてしまえばどうという事はありませんよ」

 

「それは深月さんだけだよ」

 

「さて、おしゃべりという名の休憩は終了です。私は急いでお嬢様達の元へ合流してオアシスの清潔もしなければいけません。ここからは大量にいきますよ!」

 

「え"っ!?」

 

「先に終わらせてから魔力タンクをお渡ししますので―――――頑張って下さいね?」

 

実は深月、清潔で毒素をキレイキレイしている最中で過多の魔力を濾過吸引を行使して、神結晶印の腕輪にギリギリまで魔力を貯め込んでいたのだ。それこそ、ユエの最上級魔法を連発しても魔力切れを起こさない位・・・

深月は、香織を置いて一気に一万人単位で清潔を行使・・・それをおおよそ五回。全ての患者の毒素をキレイキレイし終えた深月は、香織の元に帰って自身のもう片方の腕に装着していた神結晶印の腕輪を外して香織に装着

 

「では、頑張って下さい♪」

 

「   」

 

深月は香織を放置して、オアシスの方へと向かったハジメ達を追いかける様に走って行った。香織は一人・・・ポツンと残され、「これもハジメくんの為、これもハジメくんの為――――etc」とブツブツ呟きながら回復魔法を行使していった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

現在、深月と香織を除く六人は問題のオアシスへとやって来た。見た目は綺麗で、水の表面はキラキラと反射して輝いており、毒素を含んでいるとは思えなかった。しかし、皐月の魔眼石に反応があった

 

「これは・・・下?」

 

「下?・・・あー、確かに何かが居るな。・・・領主。調査チームってのはどの程度調べたんだ?」

 

皐月に続く様にハジメも下に視線を向けて、下に何かが居る事を察知した

 

「・・・確か、資料ではオアシスとそこから流れる川、各所井戸の水質調査と地下水脈の調査を行ったようだ。水質は息子から聞いての通り、地下水脈は特に異常は見つからなかった。もっとも、調べられたのは、このオアシスから数十メートルが限度だが。オアシスの底まではまだ手が回っていない」

 

「オアシスの底には、何かアーティファクトでも沈めてあるのか?」

 

「?いや。オアシスの警備と管理に、とあるアーティファクトが使われているが、それは地上に設置してある・・・結界系のアーティファクトでな、オアシス全体を汚染されるなどありえん事だ。事実、今までオアシスが汚染されたことなど一度もなかったのだ」

 

ランズィの言うアーティファクトは"真意の裁断"といい、アンカジを守る様に覆うドームの事だ。しかし、それは力のほんの一部。本来の性能は、害意あるものの遮断という強力な結界なのだ。しかも、何を通すか通さないか等は使用者の設定次第で変更が出来るという優れもので、それが出来るのは領主唯一人

 

「オアシスの底に何かが居るのは間違いないわね」

 

「突っついてみるか」

 

ハジメは、宝物庫から五百ミリリットル程度の大きさの金属筒を取り出した。魔力を注入してオアシスに投下した後、オアシスから離れて皐月の傍まで退いた。皐月以外の皆が疑問に思い、ハジメの方へと顔を向けるが、ハジメは何も答えず黙ってオアシスを見ている。しびれを切らしたランズィが、何をしているのか聞き出そうと動いた瞬間

 

ドゴォオオオ!!!

 

凄まじい爆音がオアシス中央で響き渡り、巨大な水柱が噴き上がった。呆然とするランズィを放置して更に投下しようとするハジメ。だが、魔力を注入しようとした時に後頭部に衝撃が走った事で中断した。落ちていたのは"スリッパ"だった

 

「おい誰だ。俺を殴った奴は」

 

それを見て怒ったハジメは、威圧を込めた言葉と同時に振り返る。そして、目の前に居たのはいつの間にか合流した深月だった。笑顔なのに目が笑っていない事を察して事実を織り交ぜて言い訳を並べるハジメ

 

「こ、これには理由があるんだ!爆発させた方が倒せると思ってやったんだ!」

 

「爆弾漁法が何故禁止されたかおわかりですよね?」

 

「深い場所に居るから狙撃が出来ないんだ!」

 

「人間の三大欲求は何ですか?」

 

「衣・食・住」

 

「その中の一つである食を現在進行形で破壊しているハジメさんは、今後の食事で未処理の焼いただけのものを提供しますよ?」

 

「ごめんなさい!無暗やたらと意味のない破壊行動はしないのでそれだけは赦して下さい!」

 

ハジメが綺麗な土下座で深月に謝る光景を見て皐月は、「食を対価にされたら誰も勝てないわね・・・」と小さく呟いた。ハジメが必死に謝っている姿を見ていると、下から上がってくる魔力反応。お遊びもここまでだ

 

「ふぅ・・・取り敢えず謝罪も終わった事だ。これから来る奴をお出迎えしてやらないとな」

 

「大きいわよ。水面に近づいているのにも関わらず、色が変わらない事から透明な敵だから急な攻撃には注意よ!」

 

「「「了解(ですぅ)(したのじゃ)!」」」

 

「ミュウさんは私がお傍に居ますので大丈夫です」

 

ミュウの安全も確保された。ハジメ達が戦闘態勢に入ってから少しして、水面が盛り上がって敵が姿を現した。それは、体長十メートル程の大型スライムであった。無数の触手をウネウネと動かし、体の中心部には赤色の魔石があった

 

「なんだ・・・この魔物は一体何なんだ?バチェラム・・・なのか?」

 

ランズィが言うバチェラムとは、この世界のスライムを指す。だが、この世界のスライムの大きさは、せいぜい一メートル程の大きさで、水分を触手の様に操作する事は出来ない

 

「まぁ、何でもいいさ。こいつがオアシスが汚染された原因だろ?大方、毒素を出す固有魔法でも持っているんだろう」

 

「・・・確かに、そう考えるのが妥当か。だが倒せるのか?」

 

ユエとシアとティオの攻撃を避ける様に、魔石が素早く縦横無尽に移動している。生半可な攻撃では当てる事も出来ないと理解したのだ。普段目にしているものよりも火力の高い魔法に打撃ですら、魔石には届かない。だが、皐月の魔眼は、既に動きを完全に把握していた

 

「問題ないわ。既に捉えているわ」

 

皐月が片膝を地面に付けて、シュラーゲンを構える。ハジメは、皐月に向かって伸びる触手をドンナーで粉砕していく。深月はミュウのお守りをしながら、触手を黒刀で焼き斬っている。尚、魔力糸で黒刀を縛り、曲芸師顔負けの操作でユエ達の援護も行っている

 

「スー、ハァー・・・・・狙い撃つ!」

 

ズガンッ!

 

深呼吸をして、集中力を極限にまで高めた状態で狙撃。弾は真っ直ぐ魔石へと飛んで、スライムの体を大きく粉砕しながら消し飛ばした。残りの体は魔石の消滅によって構成していた水が元に戻り、大地へ降り注いだ

 

「・・・終わったのかね?」

 

「えぇ、もう終わりよ。オアシスに魔力反応は無し。原因を排除した事で浄化出来たのかは分からないけど」

 

ハジメ達のあっという間の討伐に、まるで狐につままれたような気分になるランズィ達。だが、元凶を倒した事には変わりないので、部下に急いで水質の鑑定をさたのだが

 

「・・・どうだ?」

 

「・・・いえ、汚染されたままです」

 

部下が落胆した様子で首を横に振った事で皆が落胆したが、やはりここでも活躍するのが

 

「それでは、私の出番ですね」

 

「魔力足りる?」

 

「濾過吸引で回復させますので大丈夫です」

 

「やっぱりその技能はチートだな」

 

ランズィは一応聞かされていたとはいえ半信半疑だった。幾らハジメ達が凄腕の冒険者であろうとも、水質の改善までは出来る筈がないと思っているのだ。だが、先程の圧倒的な戦闘力を目にすればもしかしたら?と期待が少しばかりあるのだ

深月は、オアシスの水面に手を付けてイメージする。オアシス全体に魔力を散布して、毒素を一固めにして濾過をして吸収する光景を。強固に固まったそれを頭に入れつつトリガーを引く

 

「清潔」

 

すると、オアシスの水が一瞬だけ光り輝いた。光の眩しさに一瞬だけ瞼を閉じたランズィ達は、少しして瞼を開けるといつものオアシスだった。ランズィは部下に命令して再び水質の鑑定を行うように指示を出すが、部下の落胆している様子は変わりない。王命なので落胆したまま水質の鑑定をすると、目に見えて分かる程驚愕して何度も鑑定をしていた

 

「その様子から大体は察するが、念の為に聞こう。水質はどうだ?」

 

水質を鑑定した者は涙を流し、声を震わせながらランズィに報告する

 

「お、オアシスの毒素は――――完全に無くなっています!本当に奇跡だ・・・奇跡が起きたんだ!!」

 

鑑定した者が、躊躇う事無くオアシスの水を飲む。自身の言葉は嘘では無いと周囲に信じさせようとした行為だったのだが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うまあああああああああああああああい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その叫びを聞いて、ハジメ達含む全員がビックリした。一体何が起きた!?といわんばかりに水をどんどんと飲んでいる。ランズィ達も手に付けようとするが、深月が待ったを掛ける

 

「少しだけお待ちください。私の方でも再度鑑定致します」

 

深月はオアシスを鑑定する。だが、結果は何とも普通で問題は無かった

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

清潔場所:無し

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

どこもおかしな様子も無く、深月はハジメ達にもステータスを見せる

 

「おかしな場所は無いな」

 

「深月の鑑定は、毒素の場所を検知出来るから問題は無いわね」

 

「・・・なら、どうしてあの男はおかしいの?」

 

「あの様子を見るとヤバイですよね」

 

「原因が分からんのじゃ」

 

全員が考えているものの、原因が全く思い付かない。なので、ここは実飲する事にしようと思い至った。毒耐性のあるハジメと皐月ならば大丈夫であり、状態異常完全無効の深月なら尚更である。最初は深月、その次はハジメと皐月の二人である

宝物庫から器を取り出し(※トレント製)、オアシスの水を一掬い。一口飲んだのだが、深月は問題なしと判断。ハジメと皐月も一口飲んで問題なしと判断。何故あの男は狂喜乱舞しているのかが思いつかなかったのだが、オアシスの水を飲んだユエは目をまん丸にして驚いていた

 

「・・・おいしい」

 

「「は?」」

 

続く様にシアとティオとミュウが飲む

 

「「「おいしいです(のじゃ)(の)!」」」

 

ハジメと皐月は意味不明な表情をしており、ランズィも腹を括ったのか、オアシスの水を飲むと

 

うまいぞおおおおおおおおおおおおおお

 

他の者も続く様にオアシスの水を飲むと

 

うまあああああああああああああああい

 

深月は再度、テイスティングをすると

 

「もしや・・・普通の水からミネラルウォーターに近しい何かに進化しているのでしょうか?」

 

「「ん?今なんて言った?」」

 

「いえ・・・水からミネラルウォーター擬きに進化しているのでは?と」

 

ハジメと皐月も味わう様に飲むと、飲んだ事のある様な味わい?に更に頭を悩ます

 

「「どうしてこうなった」」

 

深月は、こういう時はステータスプレートを見るに限ると思い手に取ると

 

「あっ・・・」

 

「「おい(ねぇ)・・・深月、お前ぇ(貴女)・・・」」

 

深月は目を逸らしてステータスプレートをハジメに渡すと

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:???

天職:メイド

筋力:34500

体力:51000

耐性:42050

敏捷:54500

魔力:36000

魔耐:35000

技能:生活魔法[+完全清潔][+瞬間清潔][+清潔操作][+範囲清潔][+清潔進化][+清潔鑑定] 熱量操作[+蒸発][+乾燥][+瞬間放熱][+放熱持続][+冷蔵][+冷凍] 超高速思考[+予測] 精神統一[+明鏡止水] 身体強化[+魔力吸引補強][+全属性補強][+全属性性能向上] 魔気力制御[+放射][+圧縮][+遠隔操作][+複合][+憑依][+魔気力展開] 気配感知[+特定感知] 魔力感知[+特定感知] 熱源感知[+特定感知] 気配遮断[+透化][+断絶] 家事[+熟成短縮][+魔力濾過][+魔力濾過吸引] 節約[+気力][+魔力] 裁縫[+速度上昇][+精密裁縫] 交渉 戦術顧問[+メイド] 纏雷[+電磁波操作] 天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光][+無音加速][+音越え][+無間] 幻歩[+幻影][+認識移動] 風爪 衝撃波[+収束][+拡散][+並列] 夜目 遠見 魔力糸[+伸縮自在][+硬度変更][+粘度変更][+着色][+物質化][+振動伝達] 胃酸強化 超直感[+瞬間反射][+未来予測] 状態異常完全無効 金剛[+超硬化] 威圧 念話 追跡[+敵影補足][+識別] 超高速体力回復 超高速魔力回復 魔力変換[+体力][+治癒力] 心眼[+見極め][+観察眼] 極致[+武神][+絶剣] 限界突破[+覇潰][+極限突破] 生成魔法 重力魔法 忠誠補正[+成長補正][+技能獲得補正] 言語理解

称号:メイドの極致に至る者

 

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ステータスプレートを見た二人は、ある項目を見て気付いた

 

「ちょっと待て」

 

「清潔進化って・・・ナァニコレ」

 

またしても意味不明の技能がり、元々あった清潔強化が清潔進化に変貌しているのだ。本当にナァニコレである

 

「進化って何だっけ?」

 

「水がミネラルウォーターに進化したって事か?」

 

「水は水よ?違いなんて・・・いや、あるわね。海外だと水飲めなかったわ。・・・あっ、それは水道水よ?でも、ペットボトルに入っている水は物凄く高いわ」

 

「日本でいうなら名水ってやつか」

 

「普通の水が美味しい水に進化したという事ね。アリエナイデショ」

 

二人は清潔進化の内容を口々に考察しており、深月はある可能性に行き着いた

 

「飲料水だけでなく食材にも適応されるのでしょうか?」

 

「食材に・・・だと!?」

 

「食材にも適応されるなら神技能ね」

 

「じゃ、じゃあ何か?例えるなら、A3の和牛がA5並の味に進化するのか!?」

 

「もしもの話よ?」

 

「食は心を豊かにするんだ!俺は・・・俺は、食材にも適応してくれる事を望む!いや、して下さい!いつもの深月チートで進化させて下さい!!」

 

食の為なら土下座をするハジメ。深月に胃袋をがっつりと掴まれており、生きて地球に帰る原動力の一つに入っている重要な項目である

それはさておき、浄化?の終えたオアシス。患者については香織の治癒待ちといった所だが、それももうすぐ終わるだろう。大本の原因も潰えた事で、ランズィ達の問題はほぼ全て片付いた。狂喜乱舞していた者達は、ようやく冷静さを取り戻してハジメ達の前へと立って全員が頭を下げた

 

「貴殿達のおかげで国民の命、オアシスの問題全てが解決した。ありがとう!」

 

「おいおい、領主様がそう簡単に頭を下げるなよ」

 

「いや、このまま救援を待っていたら確実に国は滅んでいただろう。これは人として当然の行いだ。領主ならば尚更だ。国民を救ったのだからな」

 

ハジメは、素直に感謝される事がむずがゆいのか、頬を掻きながら苦笑いをしている。その様子に気付いたランズィは頭を上げて、真剣な眼差しでハジメ達を見て宣言した

 

「我が国、アンカジ公国の領主――――ランズィの名の元に宣言する。何があろうと、我が国は貴殿達の後ろ盾となろう」

 

「未だ国民全て治っていないけど、宣言しても大丈夫なの?しかも、"何があろうと"というのは危険じゃないかしら?私達は教会に狙われる可能性が高いわよ?」

 

「それでもだ。例え教会の者達が来ようとも、我が国の被害は甚大なものとなっていただろう。・・・むしろ見捨てられる可能性も否めないのだ。例え助かったとしても、何かしらの要求で国が疲弊するのは目に見えている。その点、貴殿達は金銭等に興味は無い様な表情をしている。しかも、助けるにあたっての要求が無かったのだ」

 

「やっぱり領主だと、その辺りも気付くか」

 

「お飾りではないさ。だが、メイドの深月殿・・・貴殿の考えは殆ど分からなかったが、恐らく主の有利となる手札を作っているのだろう。私が宣言した時に少しだけ・・・そう、ほんの少しだけこちらに視線が向いたからな」

 

「ランズィ様はとても素晴らしい領主様ですね。貴方の様な方がお嬢様達の後ろ盾となるならとても心強いです」

 

すると、遠くから香織が走ってこちらに近づいて来ている。ハジメ達は「よくやった」と労いの言葉を掛けようとするが、香織はそれを無視して深月に走って行き

 

「深月さんのばかああああああああああ!」

 

涙目で深月に突貫する香織。恐らく、一人で延々と回復させていくのが辛かったのだろう。叶わないと分かっていても、一撃入れようと杖で攻撃した

 

「せい!」

 

当たると見せかけて、寸前で横に避る。その際に手首を掴み、お腹に手を添えて持ち上げる様に放り投げた

 

「ふぇ?きゃああああああああああ!」

 

ドッボーン!

 

十メートル程空に打ち上げられて、大きな水飛沫を上げてオアシスへと背中から落下した香織。全員が溜息を吐いて、陸に上がる香織を見る。衣服が水分を吸って体に密着するが、その場に居た誰しもが「残念美人だな」と心の内で思ったのであった。そんな事はつゆ知れず、香織は濡れたままで再び深月に突貫して放り投げられた

 

ドッボーン!

 

流石に懲りたのか、突貫せずに深月を恨めしそうに睨む。深月は近づいて熱量操作で香織を乾かした後、魔法の言葉を告げる

 

「これ以上睨むのならば、香織さんだけ質素なご飯を提供しますが・・・どうされますか?」

 

「ごめんなさい」

 

香織は素直に土下座した。料理が出来るとはいえ、一度美味しい方を食べてしまえば今までの料理が物足りなく感じなくなるのが普通だ。ましてや深月の料理となると更に顕著に表れる。こうして、香織の方の治療も終わった事で本来の目的であるグリューエン大火山にある迷宮へ攻略諸々の話に移る事が出来る。だが、ここで一つだけ疑問点がある。あのスライムの魔物はどうやって入って来たのかで、ランズィは全くもって心当たりが無かった

 

「・・・しかし、あのバチュラムらしき魔物は一体なんだったのか・・・新種の魔物が地下水脈から流れ込みでもしたのだろうか?」

 

「あぁ、それは魔人族の仕業だと思うわ。ウルの町で魔物の大群が襲撃、オルクス迷宮で勇者が魔人族に遭遇。ほら、結構活発に動いているでしょ?」

 

「ウルの町に魔物の襲撃、勇者との遭遇時の魔物。・・・魔人族を殺した時にかま掛けて答えを教えてくれたからな」

 

「あの方の贈り物と言った事から察するに魔物を使役する事が出来るのは間違いない。そして、ウルの町とアンカジは食料補給には欠かせない重要拠点。どちらも都市部から離れているから襲撃がしやすい事を考えると、可能性は大よ」

 

「そうか・・・あんな魔物までも使役出来るか。見通しが甘かったという事だな」

 

「まぁ、仕方ないんじゃないか?王都でも、おそらく新種の魔物なんて情報は掴んでいないだろうし。なにせ、勇者一行が襲われたのも、つい最近だ。今頃、あちこちで大騒ぎだろうよ」

 

「いよいよ、本格的に動き出したという事か・・・ハジメ殿、皐月殿、深月殿・・・貴殿達は冒険者と名乗っていたが・・・そのアーティファクトといい、強さといい、やはり香織殿と同じ・・・」

 

ハジメ達は何も答えず、肩を竦めるだけ。ランズィ達は何かしらの事情があると判断して、それ以上の詮索は止めた。どの様な事情があろうとも、これ以上の詮索は国を救った者達に無礼だと分かっているからだ

 

「さて、話を切り替えてハジメ殿達に依頼を頼もうかと思っている」

 

「依頼だと?」

 

「そうだ。毒素で倒れていた者達が回復したとはいえ、全快ではない。・・・察しの良い貴殿達なら気付いているだろう?依頼とは、静因石の採取だ。出来るだけ多く頼みたい」

 

「念には念を入れてという事ね」

 

「その通りだ。使役していた魔物が居なくなった事に気付いて、再び同じ魔物をこちらに寄こす可能性がある為だ。いや、もしかしたらそれ以上の魔物かもしれん」

 

「成程な・・・分かった。静因石の採取の依頼を引き受ける。だが、この巨恩を忘れるなよ?」

 

「ふっ、救国の英雄を裏切る事は断じてありえない。我がアンカジの民は、それが分からない者達ではない」

 

ランズィ達は、もう一度ハジメ達に感謝の言葉を告げて政務に戻って行った。この場にはハジメ達だけとなったので、再び計画の練り直しをする事に

 

「静因石の採取が追加された事を踏まえると、少しだけ攻略ペースが長くなったと考えても良いだろう。だが、せっかく助けた国が再び汚染される可能性が否めない事から考えると」

 

「層が深くなるにつれて沢山取れるとの情報から、最深部辺りから一気に採取した方が早いと判断するわ」

 

「・・・はやく攻略」

 

「危険ですぅ」

 

「確かに、速度を優先するのであれば危険じゃの」

 

「まぁ・・・だからという訳じゃないけれど、ティオと香織とミュウはここでお留守番よ」

 

「・・・ミュウお留守番するの?」

 

涙目でハジメと皐月を見上げるミュウ。二人は心に幾多の矢が突き刺さり苦しむが、ここだけは心を鬼にしてでも連れて行く訳にはいかない。いや、下手をすればユエとシアも駄目な可能性があるのだ

 

「火山地帯ですので、有毒ガスが噴出している恐れもあります。その場合、ユエさんとシアさんもミュウさん達と一緒にお留守番ですね。香織さん達の護衛にはティオさんを置いておきましょう」

 

何時状況変化が起きても不思議ではない。連れて行くのが一番良いのだが、それでも危険な目には遭わせられない。ハジメと皐月は、ミュウの頭を撫でながら一旦別れのあいさつをする

 

「私達は行くから、いい子でお留守番しててね?」

 

「ミュウ、行ってくる。いい子で留守番してるんだぞ?」

 

「うぅ、いい子してるの。だから、早く帰ってきて欲しいの、パパ、ママ」

 

「「出来るだけ早く帰る(わ)」」

 

ミュウをティオ達に預けて、出立の準備を手早く済ませる。グリューエン大火山へと歩を進めようとするハジメに、香織が声を掛ける

 

「あ、ハジメくん・・・その、いってらっしゃい」

 

「おう、ミュウの事頼んだぞ。それと、そこに居る駄龍もな」

 

「うん・・・それで、その・・・キ―――――痛い!?痛い!痛いよさつ――――――グフッ!?」

 

「・・・フッ」

 

皐月にアイアンクローをされている香織に深月が当身で気絶させる。その様子を見ていたユエは、香織を嘲笑した

ミュウの声援を背に、ハジメ達五人は、四輪に乗ってグリューエン大火山へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「ふぅ、またやってしまいましたね」
布団「んん~?清潔進化ってヤバくないですか?」
深月「しかし、それはあくまでも清潔した場合のみです。する必要のないものは適応されませんよ?」
布団「食材にはいっつもキレイキレイしているじゃん?」
深月「飲料と魔物肉に限りますが、いつかは進化させます!」







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メイドさん達の大冒険?

布団「投稿です!」
深月「多数の誤字報告を有難う御座います」
布団「とても助かります!それと、読者の方からメイドさん技能が多すぎて何が追加されたのか分からないとの事で、文字を太字にしました。色分けするよりも見やすさを意識したのでそこだけは注意して下さい!」
深月「私の技能が多すぎて申し訳御座いません。それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」












~皐月side~

 

・・・ホント深月様様だわ。あ、今私達が居る場所はグリューエン大火山の迷宮よ。ラ〇ュタの様に覆われた砂嵐を抜けて、岩石地帯を登っての大迷宮。何故深月様様なのかと言うと・・・熱量操作が凄まじすぎる件について

 

「深月がチートなお陰で快適な攻略が出来ているな」

 

「・・・さすが」

 

「ぶっ壊れですね!」

 

つい数時間前までは、マグマの高熱で汗を垂れ流してまともな思考をする事すら許されなかったハジメ達。だが、今は違う。深月の熱量操作がここでも活躍したのだ。温かい断層と冷たい断層を重ね合わせる事で、常温に近い快適な空間を作り出したのだ。およそ六畳程の広さだが、それだけでも充分である。いや、もう少し狭くても文句は絶対に言わない。それだけ環境が違うのだ

 

「お嬢様達を苦しめる環境であろうとも、それを防ぎサポートするのが私の勤めです!」

 

大迷宮に近づいている道中でも暑くて汗を掻いていたのだが、攻略する為に階段を下りれば灼熱地獄。とめどなく溢れ出す汗。流石に不味いと判断した深月は、早急に対処の方法を考えた。その方法が上記で説明した断熱である

魔物と戦う際にはどうしても動くので熱い空間に身を置く事になるのだが、それ以外では快適空間の中に居られる。要するに、魔物とエンカウントすれば即殺する。遠距離攻撃が出来るハジメと皐月とユエは良いのだが、近距離での攻撃しか出来ないシアに関しては一気に飛び出して、一撃で殺してすぐさま戻るの繰り返しである。そして、シアが何故一撃で倒せるのかというと・・・深月が透明の魔力糸で魔物を捕えているからだ。一行の攻略スペースはとても順調の一言である

 

極限の環境下でも深月が居ればどこにでも行ける。・・・あれ?氷雪地帯にある大迷宮も深月が居れば万事解決って事よね?・・・一応頼り過ぎるのはいけないから暖房系のアーティファクトを創った方が良いわね。大丈夫だとは思うけど、魔人族の奇襲で対処出来ない可能性もあると思うわ。まぁ、深月だと対処出来ると思うけれど

 

攻略を開始する一行は広間へと出た。幾ら深月の技能に節約の技能があるとはいえ、いざという時に魔力が無くなりましたでは冗談では済まされないので休憩を挟む事にした。マグマから比較的離れた場所の壁に錬成で横穴を空けて、空気穴を最低限の大きさを確保する。後は、横穴の壁だけ硬い金属でコーティングを施して魔物とマグマの噴出に襲われない様にして安全を確保する

 

「よし・・・ユエ、氷塊を出してくれ。深月がどうにかしてくれているのは良いが、念には念を押して回復をさせたいからな」

 

「集中し続ける事が出来ても、し過ぎたらいけないからよ。致命的なミスを誘発する可能性を少しでも取り除いておきたいのよ」

 

「ん・・・了解」

 

ユエは頷き、部屋の中央に氷塊を出現させて風魔法で部屋全体に冷気を行き渡させる

 

「はぅあ~~、涼しいですぅ~」

 

「・・・深月が居なければ危険だった」

 

この熱さは危険だと体感した二人はタレモードに突入している。ハジメは、宝物庫からタオルを取り出して全員に手渡してこの先の事について皐月と話し合う

 

「この大迷宮はヤバイな。最初は、手持ちの冷房アーティファクトでどうにかなると思っていたが足りなかった」

 

「今回は仕方が無いと割り切って行動した方が良いわ。念の為に高性能にして数を増やすのが無難ね」

 

「あぁ。それに、氷雪地帯にある大迷宮―――――シュネーを攻略する際には、暖房アーティファクトを用意しておかないとな」

 

「恐らくこの迷宮の試練は、この熱さ。いえ・・・もしかしたらまともに思考が出来ないというのをコンセプトにしているかもしれないわね。ミレディが言っていたでしょ?エヒトは意地汚いって」

 

「・・・なるほどな。攻略する事に変わりはないから特に考えた事が無かったが試練そのものが解放者達の"教え"になっているって事か」

 

予測は尽きない。ハジメ達は、汗をタオルで拭き取っていると深月から声が掛かる

 

「お嬢様、ハジメさん。少々宜しいでしょうか?」

 

「ん?また何か推測するのか?」

 

「今度は何を言い当ててくれるのかしら?」

 

深月の予測だと十中八九予想していた二人だが、それは違っており

 

「快適なのは良いのですが、服を変えたいのです。ハジメさんがデザインしたこの服でも良いのですが・・・これからの事を考えると動きにくくなりますので」

 

「「あぁ・・・その服だと暑い筈だな(わ)」」

 

深月が現在来ている服は、胸元だけが空いている黒を主としたメイド服。ここで、白を主とした元の服に戻る方が動きに阻害が出にくいとの事。ハジメは、内心で「元のメイド服に戻る・・・久しぶりに見たいな」と呟いて、宝物庫から以前のメイド服を手渡す。元のメイド服なのでサイズがキツイのだが、深月は紐を解いて拡張する・・・あっという間に調整されたメイド服。深月はそのまま流れる様にメイド服を脱いでいく。ハジメは視線を逸らして見ない様にしている

手早く着替え終えた深月は、先程まで来ていた服を清潔して綺麗に折り畳みハジメに手渡して宝物庫へとしまった。グ~ッとひと伸びして、体を動かし不備が無いかを確認している。ハジメは無意識に深月の動作を見ており、それに気づいている三人は念話で会話をする

 

(・・・やっぱりハジメは深月が好き)

 

(しかも無意識です!)

 

(ハーレムは良いけれど、深月をどうやってハーレムに入れるかが一番厳しいわね)

 

(・・・鋼鉄の意思)

 

(深月さんを説得ってかなり難しくないですか?)

 

(こちらを言いくるめたり、ひらりひらりと回避しているから大変よ。命令しようとすれば感付いて逃げるし)

 

(・・・どうやって深月をハジメに惚れさせるかが問題)

 

(ハジメさんが告白しても断りそうですよねぇ~)

 

(とにかく様子見は続くわ。深月がひた隠しにしている秘密・・・あれが鍵になりそうなのよね)

 

((秘密?))

 

(私と出会った時は違和感が無かったのだけど、年々と違和感があるというかなんというか・・・。私の勘が囁いているのよ)

 

(・・・待つ)

 

(皐月さんの勘に引っ掛かっているのなら何かあるのは確実ですね!)

 

深月は転生者。前世が男だった為に"結婚"というワードに躊躇いを感じているのだ。夜の行為(意味深)は、かなり割り切っているのと、興味があったからでもある

動作確認も終了した深月は、手持ちの武器の一つ一つをチェックしてメンテが必要な物をハジメに渡して調整をしている。この熱さで歪んだりしていたら武器が壊れる危険性もあるからだ。チェックも終わり必要な休憩も取れたハジメ達は、再び大迷宮の攻略を再開した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

「気分は、ハードモードのインディさんだな・・・」

 

現在ハジメ達が居る場所は、マグマの上。赤銅色の岩石で出来た小舟で、どんぶらこ~どんぶらこ~と流れに沿って流されている。どうしてこの様な状況になっているのかというと・・・皐月がミスを犯したからだ。実は、少し前の階層で静因石を回収していた際にマグマが噴き出た事が原因だったのだ。栓の役割を担っていた静因石の回収により、マグマが湧き出して勢いを増したのだ。皐月は寸前でマグマから飛び退いた事で怪我は無かった。しかし、あっという間にマグマに取り囲まれてしまった。マグマはユエが張る障壁で防ぎ、その間に錬成で小舟を作り出しそれに乗って事なきを得た。因みに、熱せられる小舟は深月の熱量操作で高温になる事は無い

 

「下に流れて行っているのは良いんだが・・・これって大丈夫なのか?」

 

「あっ、ハジメさん見て下さい。トンネルです!」

 

「トンネルを出た先に敵が居るかもしれないわね。その時は頼むわよユエ」

 

「ん、魔法の餌食」

 

トンネルを抜けた先の光景は、マグマの川が宙に浮いていた。その場所に踏み入れた瞬間に沈没しそうになった小舟をシアが重力魔法を行使して防ぐ

 

「あっぶねぇ、助かったぜシア」

 

「未来視がなければ危なかったです・・・」

 

「・・・ナイス、シア」

 

その後も流れるマグマに任せて進む。すると、視線の先にはマグマの川が途切れていた

 

「ちょっと待って。ねぇ待って!これってあれなの!?ジェットコースターみたいに下るやつなの!?」

 

「怖いのか?」

 

「怖い。バンジージャンプとかそういうのは大丈夫だけど、乗り物で急坂を下るのだけは苦手なの・・・」

 

皐月は少しだけ震えて顔も強張っており、とても大丈夫そうではない。ハジメは靴底をスパイク状に錬成をして踏ん張り、皐月の肩を持って抱き寄せる。さながら、絶叫アトラクションの前に彼女を心配する彼氏である。だが、マグマの川なので絶叫アトラクションが可愛く見える。ユエとシアは「良いな~」と内心思っていたが、皐月の意外な弱点に少しだけほっこりしている。誰しも、弱点は存在するのだ

 

「私が重力魔法を使って落下速度を落としましょうか?その場合は熱量操作が出来ませんが・・・如何されますか?」

 

「「「「熱量操作に集中して下さい」」」」

 

熱いのは嫌・・・多少の恐怖と熱いの二択ならば、恐怖を取る一同だった。皐月も覚悟を決めているが、ハジメに抱き寄せられながらも震えている。徐々に近づく川の途切れ。遂に小舟が到達した瞬間、グラリと先端が一瞬浮いて、一気にマグマの川を下る

 

「き、きゃああああああああああああああああ!

 

皐月の叫びが木霊する

それはさておき、マグマの川を下る一行を待ち構えていたのか、コウモリが一斉に襲い掛かって来た。数にしておおよそ六十体。かなり素早く飛ぶコウモリは、マグマ混じりの炎弾を飛ばすものの、ユエの障壁で弾かれて着弾する事は無かった。炎弾が効かないと分かるや否や、ハジメ達に向かって突撃をして来た。しかし、またしてもユエの魔法でその悉くを吹き飛ばす

ようやく川の下りも終わって一息、皐月は冷や汗をたっぷりと掻きながらハジメに引っ付いている

 

「ようやく終わった。・・・もう二度と体験したくないわ」

 

「あっ」

 

深月が何かに気付いたのか、とても複雑そうな表情をしながら皐月を見ている。深月の視線を感じた皐月は、深月の表情を見て悟った

 

「うそ・・・よね?深月、嘘だと言って!」

 

「無理です。諦めて下さいお嬢様。標高的に考えますと・・・かなり高い場所から下るか、先程のが数回続くかです」

 

皐月は先程よりも青ざめて、白に近しい色となっている

 

「もうヤダ・・・おうち帰る。・・・帰りたい。・・・ごめんねミュウ、ママ死んじゃうかも」

 

涙目で心が折れそうになっている皐月。誰がどう見ても、このマグマ下りを終わらしてと思っているのだろう。そして、再びマグマ下りをして悲鳴を上げてを五回。ハイライトを失った眼でぐったりとして、ハジメに支えられていた皐月であった

最後のマグマ下りを終えた先に待っていたのは洞窟の出口。光が見えて、皐月は、「ようやく終わった。・・・ママ頑張ったよ」と言って褒め称えていたのだが、直ぐに絶望した。今度は完全にマグマが途切れていたのだ

 

「掴まれ!」

 

ハジメの号令と共に深月とユエとシアは船に掴まって、マグマの激流の勢いを保ったまま洞窟へと放り出された。直後、襲い来る浮遊感。素早く、周囲の状況を判断するハジメと深月。皐月は現在使い物にならないので除外している

ハジメ達が見た先の光景は、広大な空間。オルクス大迷宮の最深部よりも広く、地面の殆どはマグマで満たされている。だが、一つだけ異質な場所――――マグマの海の中心部にある小さな島。海面から十メートル程の高さにせり出した岩石の島。何より目を引いたのが、その島の上をマグマのドームが覆っていたからだ

 

「"風よ"」

 

本来なら放り出された時に船から落ちる筈だったのだが、深月の魔力糸が船がひっくり返らない様にバランスを取っていた。そこに、ユエの魔法―――"来翔"で船の落下速度を調整して一同が降り立つ。その後、柔らかくマグマの海に着地したのだ。明らかに雰囲気が違う事に気付いたハジメ達は、警戒している。皐月も、ようやく終わったマグマ下りに落ち着きを取り戻して警戒している

 

「・・・あそこが住処?」

 

「階層の深さ的にも、そう考えるのが妥当だろうな・・・だが、そうなると・・・」

 

「最奥のガーディアンが居る筈ですが・・・マグマの中に居るのでしょうか?」

 

「ショートカットして来たっぽいですし、とっくに通り過ぎたと考えてはダメですか?」

 

「ダメです」

 

「ですよね~」

 

道中の楽すぎる道のりに、冗談交じりでシアが言いつつ深月が否定。シアも、それが分かっているので警戒は解いていない。すると、宙を流れるマグマからマグマの弾丸が飛び出す。それが合図だったのか、周囲のマグマからも弾丸が降り注ぐ

 

「ちっ、散開だ!」

 

このままでは駄目だと判断したハジメは、小舟を放棄して近場の足場に散開する様に指示をする。先程まで乗っていた小舟は、大量の炎弾が降り注いで粉砕されマグマの海に沈んだ

散開したハジメ達を追って炎弾が降り注ぐ光景に、深月を除く面々は苛立つ。快適な温度から一変、周囲の景色が歪む程の熱量が原因だ。熱さを我慢して、ハジメと皐月はドンナー・シュラークで炎弾を迎撃。ユエは魔法で、シアは回避だけに専念している

止まらない攻撃の原因の手掛かりになりそうな中央の島を調べる為、ハジメは空力を使って移動して、あと一歩という所で体ごと引き戻される。深月がハジメの腰に巻いた魔力糸を引っ張ったのだ。ハジメは、深月に怒ろうとした瞬間

 

「ゴォアアアアア!!!」

 

「ッ!!」

 

先程まで居た場所を、巨大な口を開けたマグマ蛇が通り過ぎたのだ。運が悪ければ飲み込まれ、運が良くても態勢を崩されていただろう。ハジメは、引かれたまま蛇の頭部に照準を合わせて引き金を引いてマグマ蛇の頭を捉え、弾き飛ばす

 

「なにっ!?」

 

頭部を粉砕して絶命するだろうと思っていたハジメだった。結果的には頭部を粉砕したが、その中身が無かった――――マグマ蛇はマグマだけで出来ていたのだ。今までの魔物は、マグマの鎧を纏った魔物だった為にこの驚愕は大きかった

 

「マグマだけで出来た蛇・・・恐らくあのスライム同様、何処かに核がある筈よ。魔眼石でも魔石の位置は確認来ないけれど、面制圧ならっ!」

 

皐月に向けて飛び掛かる様に、口を大きく開けて突撃するマグマ蛇。その口内に向けてドンナーで撃ち貫くと同時に跳躍、粉砕しきれなかった胴体の上からもう一発。弾け飛ぶ様に倒されたマグマ蛇は、そのままマグマの海へと沈んだ

 

「成程な。シアはユエを抱いて回避に専念しろ!ユエは遠慮無く魔法でぶっ潰せ!」

 

「ん!」

 

「了解ですぅ~!」

 

シアはユエを抱き上げて移動――――シア達を襲い来るマグマ蛇は、ユエの魔法で切り刻まれる。動く魔法砲台はとても素晴らしいの一言だ

 

「俺が頭部を吹き飛ばした奴は再生しているな。だが、皐月が倒した奴は再生していない。やはり、核を破壊で間違いないな」

 

皐月が倒して一体減った残りの十九体がマグマから一斉に頭を出し、炎弾を吐きながらハジメ達に向かって一直線に突き進む

 

「ラッキー♪これでもくらいなさい!」

 

いつの間にかシュラーゲンの銃身を変えていた皐月。装着しているのは、以前、ウルの町での魔物の討伐の際に使用していたフラッシュストライク。レーザーを横なぎにして切断するのだが、今回は出力を上げている。薙ぎ倒す様な太いレーザーが蛇達を飲み込む事で全滅させる

 

「お~、正に圧巻だな」

 

「ふっふ~ん♪もっと褒めても良いのよ?」

 

だが、これだけでは終わらないのが大迷宮クオリティー。計二十体倒されたマグマ蛇が、再びマグマの海から出現した

 

「フラッシュストライクは三本しか無いんだけど・・・。・・・この熱さだと冷却なんて出来ないし」

 

「何で復活したんだ?倒すことが条件じゃないのか?」

 

「あっ!ハジメさん、皐月さん見て下さい!岩壁が光ってますぅ!」

 

「何?」

 

「確かに光っているわね。およそ二十・・・光ってない物も合わせたら百位あるのかしら?」

 

「・・・条件は百体倒す?」

 

再び襲い来るマグマ蛇。皐月は銃身を交換して、再度、横なぎレーザーで殆どを仕留めて生き残りが五体。一行は岩壁を確認すると、倒した分だけ光り輝いていた。そして、また一つ光が増えた

 

「深月がやったな」

 

「暗殺者ですねぇ~」

 

「・・・ニンニン」

 

「どこでそのネタを知ったのよ・・・」

 

ユエのやつ、何処からネタを仕入れてきてるんだ?香織からか?それとも深月か?まぁいい。今は目の前に集中だな

 

深月の黒刀が閃き、斬撃がマグマ蛇を縦に両断。早すぎる斬撃のせいか、そのまま崩れ落ちる。恐らく、核を移動させるよりも早く斬られたのだろう。そして、最後の一体を仕留めると再びマグマ蛇が二十体現れた事で確信に至る

 

「後はこれを三回だな」

 

「ん!」

 

「熱いけど頑張ります!」

 

「手早く済ませたいから、もう一発いくわよ!」

 

熱く、判断力が鈍る中での耐久戦が始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

熱い・・・ただひたすらに熱い。さっさとこの戦いを終わらせたいぜ

 

ハジメのドンナーが火を噴き、粉砕。核が露出した瞬間皐月が狙撃といった事を繰り返す。空力で跳びながら攻撃をしているせいで、全方位からの攻撃にも注意を割かなければいけないのが難点だが仕方が無いと割り切って行動している

汗が滴り落ちて集中力を削ぐが、それでも戦闘時間は短い。およそ十分でマグマ蛇は壊滅しており、残り九体となっていた

 

「これでカウントダウンだ!」

 

「一ですぅ!」

 

シアがユエの放った魔法で倒されたマグマ蛇をカウント。そして、続く様にハジメと皐月のカウントも続く。深月は、全体に牽制を入れる事で直撃をしやすくしているのでカウントはしない

 

「これで――――五!」

 

「六・・・七っと!」

 

「・・・これで八」

 

ラストは、ハジメと皐月のダブルショット。合わさる銃声。マグマ蛇に直撃すると確信した瞬間、二人の背中に強い衝撃が襲い掛かった

 

「「きゅ――――ぐあっ(いづっ)!」」

 

吹き飛ばされながら態勢を変えて振り返りる二人。襲撃した人物は深月だった。しかし、深月は何かに焦っていた表情をしていたのだ。勢いよく吹き飛ばされる二人が目にしたのは、極光に飲まれる深月

 

ズドォオオオオオオオオ!!!!

 

かつて戦ったヒュドラ擬きの極光と同等・・・いや、それ以上の威力の代物だった。二人はギリギリ極光の範囲に入らず、驚愕の表情でその光景を見るだけだった

 

「「「「深月ぃ!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

何か嫌な予感がします・・・まるで、体中を粘つく何かが張り付いている様な感覚。あの時・・・戦場で体験した事のある

 

「六・・・七っと!」

 

そう、あれは戦場で敵に観察される様な

 

「・・・これで八」

 

まさか上!?

 

深月は、急ぎ見上げると普通では見慣れない魔物。白い龍の口が光っていた

 

標的はお二人っ!それだけはさせません!!

 

深月は、空気を蹴って二人の背を押す様に飛ばす

 

痛かったのでしょうが申し訳ございません。こればかりは危険なのです―――――さて、耐えますよ私!

 

深月は、無色透明の魔力糸を円錐状にして盾の様に右腕に装着。そのままかざして極光に飲み込まれる。そして直ぐに分かった。魔力糸で創って超硬化をかけている盾が、ボロボロに砕けているのだ。盾では防ぎきれないと即座に判断して、自身だけに超硬化をかけて歯を食いしばる。その瞬間、盾はバラバラに砕け散って、極光が深月を焼く。両腕をクロスする形で防いでいたので頭部と胸部は守れたが、それ以外の部位は焼ける

 

「ぐっ!いっづ!うぁぁぁあああああああ!!」

 

極光は深月を飲み込み、マグマの海を穿ち続けたが、次第に細くなる。ハジメ達は、直ぐに深月の元に向かおうとしたが、それを遮る様に無数の閃光が豪雨の如く降り注ぐ

 

「ちっ!!」

 

「聖絶!!」

 

ハジメは盾を宝物庫から出して皐月の肩を掴んで抱き寄せる。ユエは障壁をシールドの様に張って自身とシアを守る

 

ドドドドドドドドドドッ!!!

 

小さな閃光――――極光の十分の一程度の威力だが、それらがハジメと皐月が居る場所を執拗に降り注ぐ。ユエ達の方も、動けなくする形で降り注いでいる。途方もない弾幕と、尋常ではない攻撃の前に動けない四人。これでは深月の様子が全く分からない

 

「こっんのクソッタレ!動くなよ皐月!!」

 

「で、でも!?」

 

「深月がこの程度で死ぬか?絶対にありえない!あいつは何時だって俺達の予想を超えるからな」

 

おおよそ一分間の集中攻撃・・・永遠にも続くと思われた攻撃は止み、ようやく終わりを見せた。周囲は酷く、ハジメ達の足場以外は全て見るも無残な状態になっており、あちこちから白煙が上がっている

ユエは魔力を使い切り、肩で息をしながら魔晶石にストックしてあった魔力を取り出して充填していると、上空から感嘆半分呆れ半分の男の声が降ってきた

 

「・・・看過できない実力だ。やはり、ここで待ち伏せていて正解だった。お前達は危険過ぎる。特に、その男女は・・・付き人によって邪魔をされたのは痛いが、戦力を低下させる事が出来ただけでもよしと考えるべきか」

 

ハジメ達は、声のした天井付近に視線を向けて驚愕した。いつの間にか、おびただしい数の竜とそれらとは比較ならないくらいの巨体を誇る純白の竜が飛んでおり、その背には赤髪で浅黒い肌、僅かに尖った耳を持つ魔人族の男がいたからだ

 

「報告にあった強力にして未知の武器・・・女共もだ。まさか総数五十体の灰竜の掃射を耐えきるなど有り得んことだ。貴様等、一体何者だ?いくつの神代魔法を修得している?」

 

怒髪天になりそうになったが、一旦気持ちを落ち着かせる

 

「質問する前に、まず名乗ったらどうだ?魔人族は礼儀ってもんを知らないのか?」

 

「・・・これから死にゆく者に名乗りが必要とは思えんな」

 

「全く同感だな。テンプレだから聞いてみただけだ。俺も興味ないし気にするな。所で、お友達の死亡報告は聞いたか?」

 

魔人族の男は、眉をほんの少し吊り上げて先程より幾分低くなった声で答える

 

「気が変わった。貴様は、私の名を骨身に刻め。私の名はフリード・バグアー。異教徒共に神罰を下す忠実なる神の使徒である」

 

「神の使徒・・・ね。大仰だな。神代魔法を手に入れて、そう名乗ることが許されたってところか?魔物を使役する魔法じゃねぇよな?・・・極光を放てるような魔物が、うじゃうじゃいて堪るかってんだ。おそらく、魔物を作る類の魔法じゃないか?強力無比な軍隊を作れるなら、そりゃあ神の使徒くらい名乗れるだろうよ」

 

「その通りだ。神代の力を手に入れた私に、"アルヴ様"は直接語りかけて下さった。"我が使徒"と。故に、私は、己の全てを賭けて主の望みを叶える。その障碍と成りうる貴様等の存在を、私は全力で否定する」

 

「それは、私達のセリフよ。私達の前に立ちはだかったお前は敵。敵は・・・皆殺す!」

 

皐月の宣言と同時に攻撃が開始される。ハジメはドンナーを、皐月はシュラーゲンの炸裂を、ユエは雷龍を、シアは炸裂スラッグ弾を放ち、ついでと言わんばかりにクロスビットを射出する。フリードに当たる前に、射線上に入った灰色の竜が正三角形が無数に組み合わさった赤黒い障壁を出現させて攻撃を防ぐ。しかし、ハジメ達の攻撃が絶大である為障壁にヒビが入るが、他の灰竜が射線上に入り障壁を展開してことごとくを防ぐ

何故?と、目をよく凝らして竜の背を見ると亀型の魔物が張り付いており、甲羅が赤黒く輝いている。恐らくあの障壁は、亀形の魔物の固有魔法なのだろう

 

「私の連れている魔物が竜だけだと思ったか? この守りはそう簡単には抜けんよ。さぁ、見せてやろう。私が手にしたもう一つの力を。神代の力を!」

 

詠唱に入ったフリードを見て、攻撃の手を激しくするハジメ達。だが、障壁は破れない。舌打ちをしたと同時に完了する詠唱

 

「"界穿"!」

 

「ッ!後ろです!」

 

詠唱が完了すると同時に、白竜と共に姿が消えた。正確にいうのであれば、光り輝く膜の様な物の中に入って行ったと言った方が正しいだろう。シアの警告を聞いた二人は振り返ると、二人の眼前に現れた白竜。しかも、口内には、既に膨大な熱量と魔力が臨界状態まで集束・圧縮されている。一瞬だけ硬直してしまった二人に逃げる隙は無く、武器を盾にする。白竜の極光がはなたr――――――

 

「わざわざ近くまで来て頂き感謝です。 无二打(にのうちいらず)

 

放たれる前に白竜の首が大きく弾き飛ばされた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「お嬢様は完全無欠だと思った?苦手なものもあっても良いよね♪」
深月「ジェットコースターはもう二度と乗らないと宣言していましたね。車輪部分が壊れてしまう夢を見たとの事で・・・」
布団「悪夢どころじゃねぇ・・・」
深月「ジェットコースターだからまだマシですよ。飛行機や船等でしたら、移動手段がありませんので」
布団「それにしても・・・メイドさんの熱量操作ヤッベェ」
深月「季節の外仕事に便利ですね♪」


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魔人族よ、メイドの壊れっぷりを刮目せよ!

布団「ゲームしたいけどぉ・・・執筆しなきゃ・・・・・」
深月「最低限のノルマだけでも良いのでは?」
布団「・・・暗い話は切り上げだぁ!今回は魔人族とメイドの戦い」
深月「そして、神代魔法の習得です」
布団「個人的にはこの魔人族さん好きよ?」
深月「・・・処分します」
布団「・・・・・では、この辺りで止めておきましょう」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」














~深月side~

 

極光に直撃した深月の体は痛々しく、腕の肉が溶けて殆どが骨だけとなっており全身火傷状態であった。奥歯に仕込んでいる神水の容器を噛み砕いて飲むが、傷の治りが非常に遅い。何かしらの阻害があると判断した深月は、清潔で体中をキレイキレイすると傷はあっという間に塞がって完全回復した。気配を溶け込ませて、ハジメ達が攻撃しているフリードの様子を見ていると、何かしらの詠唱をしていた

 

詠唱・・・恐らく神代魔法。ミレディさんから聞き出した情報では、グリューエンでの神代魔法は空間魔法だった筈

 

様子を見ていると、輝く膜の様な光に入って行く光景が見えた。深月は、無音加速でハジメ達の後方全体を見渡せる位置に待機。すると、シアから警告が発せられた

 

「ッ!後ろです!」

 

先程の極光の威力は凄まじい物でした。ですが、それをお嬢様達に向ける事は叶いません。私が徹底的に叩きのめします

 

ハジメ達が後ろに振り返った時には、無音加速と無間で一気に距離を詰める。武器を盾にする二人にブレスを放とうとする竜の側頭部に向かって最大威力の打撃を繰り出す

 

「わざわざ近くまで来て頂き感謝です。 无二打(にのうちいらず)

 

頭部を大きく仰け反らされて、ブレスを吐く竜。明後日の方向へと放たれたそれは、マグマの海を穿った。驚愕している魔人族は隙だらけで、一気に肉薄しようとする深月。だが、途中で赤黒い障壁にぶつかって止まる

 

「ッ!まさか生きているだと!?貴様は白竜のブレスに直撃した筈だ!!」

 

深月の無事に安堵するハジメ達。深月は、安堵しているハジメ達に視線を向けずに障壁に手を付けて、体全てを使って一撃を放つ

 

「ふぅーーー、―――――はあっ!!」

 

足から腕にかけての連動。深月を中心に波紋が広がり、障壁を砕く

 

「この障壁を素手で破るだと!?」

 

亀形の魔物が素早く障壁を幾枚も出現させて、深月の行く手を阻む。しかし、その都度攻撃して砕く。一方深月の地となっている白竜は、背から腹に突き抜ける様な衝撃が何度も襲っている。地にしっかりと足を付けた状態でしか最大限の効果を発揮しないオリジナル発勁の威力は、貫通力に特化しているのだ

 

「くっ!撤t―――――」

 

「させるとお思いですか?お嬢様達を害そうとした貴方は私の敵。――――抹殺対象です」

 

周囲の者達全員が心臓を鷲掴みにされた錯覚に陥る程の底冷えている声。オリジナル発勁だけでなくても障壁の破壊が出来ると直感した深月は、止まる事を知らない。一発毎に地(白竜の背)を踏みしめて連撃を放ち、詠唱をしているフリードに近づいて行く。フリードは、止まらない深月を見て先程よりも素早く詠唱する

 

「邪魔、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!全て邪魔!!」

 

深月が前眼に迫るが、フリードの詠唱の完了が先だった。最後の障壁を砕いたと同時に、白竜が降下して一瞬だけ宙に浮いた深月

 

「界穿!」

 

白竜の下に膜が広がる。フリードは、白龍と共に下に落ちて空高い場所へと避難した。冷や汗を掻きながら一番の脅威を深月と理解し、白竜のブレスをもう一度放とうと判断したと同時に展開された障壁。フリードを狙った攻撃は、ハジメ達のものだった

 

「くそっ!やっぱりあの亀の魔物がうっとうしいな!」

 

「それより、冷や汗を掻いたわよ!深月が助けてくれなかったら直撃していたわ!」

 

「ゆるさない!」

 

「うぅ~、あんな場所に居たらぶっ叩けないですぅ!」

 

白竜の周りに、灰竜が再び集まり始める

 

「危険だ。貴様達はここで死ね!」

 

フリードは、ブレスの合図を出す。再び小型ブレスの雨が降り注ぎ防御するハジメ達をその場から動けなくすると同時に、白竜の口内に魔力が充填されていく。魔眼石を持つ皐月が一早くそれを察知して焦る

 

「ちょっ!?この動けない間に白竜のブレスの溜めって事は、止んだらあれが来るって事じゃない!」

 

「やばいな。この動けない状態であのブレスを受けると盾が保たないぞ!」

 

「ぐぅっ!」

 

「ユエさん頑張って下さい!」

 

絶体絶命――――ハジメ達の脳裏に敗北の文字が過った。フリードは、動けずに攻撃を防ぎ続けるハジメ達を見ながらある違和感を感じた

 

(何故だ?今はこちらが優位の筈だ。だが、この言い知れぬ悪寒は何だ。私は何かを見落としている・・・?)

 

ドンッ!

 

ハジメ達やフリードにも聞こえる音が響き渡る。フリードは、その音が自身に近づいている事に気付いてそちらを見てみると――――ブレスの弾幕が薄い場所を狙って、深月が空力を行使して途方もない勢いで接近している姿だった。ブレスの雨の中を突き進むという頭のネジが吹っ飛んだ行動に恐怖を感じ、灰竜のブレスを深月だけに集中させる指示を出した

 

「う、撃て!あのメイドを集中攻撃しろ!!」

 

一歩一歩、加速する様にこちらへと接近する深月に恐れたからだ。ブレスの雨が深月に降り注ぐ瞬間、深月の体が紅い光の奔流が溢れ出す

 

「限界突破」

 

深月のぶっ壊れたステータスでの限界突破だ。数多のブレスの内一発でも直撃すると踏んでいたが、その悉くを紙一重で躱して突き進む

 

「化け物がっ!」

 

深月だけを見ているフリードだが、ドパンッ!!という音と同時に一体の灰竜の頭部が粉砕された。慌ててハジメ達の方を見ると、深月を援護する様に灰竜だけを狙って攻撃している。普通の攻撃ならば障壁を突破できないが、深月のオリジナル発勁を見た皐月は、貫通力に特化させた攻撃なら当たると予想して一ヵ所に弾丸を集中させると予想通りの結果となった。ハジメもそれを悟り、皐月と同じ様に灰竜だけを狙撃する

 

「チッ、これ以上のリスクは危険か。同族の事を思うと勿体ないが―――――――やれ!!」

 

いつの間にかフリードの肩に乗っていた小鳥の魔物に合図を出した。その直後、空間・・・いや、グリューエン大火山全体に激震が走り、凄まじい轟音と共にマグマの海が荒れ狂い始めた

 

「うおっ!?」

 

「ちょっ!?」

 

「んぁ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「まさかっ!?」

 

フリードは少し残念そうな表情をしながらも、深月を見て口角を上げていやらしい笑みを浮かべた

 

「時と場合は見極めているという事ですか!」

 

「チッ!」

 

魔力糸で創った槍を物質化させて、全力で投擲。狙いはフリードだったが、深月の狙いを知っていた為寸前で避ける事に成功したが体勢は崩れた。槍がその後ろに居た亀形の魔物は粉砕して遠くの彼方へと飛んでいき、フリードが体勢を整えている間に深月はハジメ達の元へと合流していた。脇目にそれを見て、さっさと火山から脱出したフリードだった。一方ハジメ達は、何があったのかが理解しておらず混乱していた

 

「ハジメさん!水位が!」

 

「何が起こっているんだ!?」

 

「あの魔人族が何かをした?・・・一体何をしたの?」

 

「・・・危険?」

 

何が起きているかさっぱり分からないハジメ達の元に深月が到着して、四人の体を有無を言わさず魔力糸で拘束。そして、せり上がる水位に舌打ちをしながらマグマドームが無くなった中央の島まで一気に駆け抜けて漆黒の建物の傍まで近づいた。大迷宮を示す文様が刻まれている場所の前に立つと、音も無くスッと壁がスライドして駆け込むと扉は閉まった。時間的にマグマが到達しても侵入して来ない事を確信した深月は、拘束を解いて地面にへたり込んだ

 

「一先ず安心ですね・・・」

 

「お疲れ様」

 

「・・・助かった」

 

「もしかして・・・深月さんが居なければ、私達はマグマに飲み込まれていたかもと思うとゾッとします」

 

「お、おう。取り敢えず何が起きたのか説明してくれる・・・って、気絶?」

 

「これは・・・疲労で寝ている?」

 

皐月に体を預ける様に眠る深月。呼吸等は普通で、大きな怪我もしていない

 

「・・・深月大変だった」

 

「そうですね。あの白竜のブレスを直撃した後であの動き・・・普通じゃ無理ですよ。それに・・・最後の私達全員を持っての移動が響いたのかと」

 

ハジメと皐月は、グリューエン大火山に来てからの深月の仕事内容を思い出してみるといっぱいあった

 

「常時熱量操作で快適空間を作って、敵の動きを阻害して・・・あれ?俺達深月を酷使し過ぎじゃ・・・」

 

「深月がぶっ壊れだからずっと疑問に思っていなかったけど、私達と同じ人間なのよね・・・。火口に近づくにつれて熱量操作を変えてという事を思うと・・・ブラック企業も真っ青な事をしていたのね・・・」

 

「しばらく休ませるか」

 

ハジメ達は、深月が起きるまで休息を取る事にした。その間、ハジメは装備の点検と弾丸の作成、皐月は深月を膝枕で寝かし、ユエはオリジナル魔法を試案、シアは身体強化の制御をする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん・・・私は眠っていたのでしょうか。体の疲労が予想以上だったのですね。しかし・・・この頭に当たる柔らかな物と温かさは・・・・・ハッ!?この匂いはお嬢様の!しかも、側頭部が下となっているので匂いが濃いです!熱で掻いた汗を吸った服が堪りません!!ここは寝たふりをしてこの楽園を楽しみます!!バレない様に・・・クンカクンカスーハースーハー!お嬢様ニウムが私の脳を汚染しています!グヘヘヘヘ!!しかも――――しかもしかもしかも!最近はハジメさんと致していませんのでヤバイです♪この場所は譲れません!

 

皐月のにお―――――膝枕を堪能する深月。深月の思考を読める者が居たら、ドン引きする事間違いなしである

 

「深月、起きてるでしょ?」

 

「オキテマセン、オキテイマセンヨー」

 

だが、ここ最近ご無沙汰だったのが仇となっていた。ポーカーフェイスが得意な深月でも、この楽園の前では頬が緩んで笑顔になっていたのだ。当然、深月を見ていた皐月にバレてしまう

 

「起きないとお仕置きするわよ?」

 

「お嬢様からのお仕置きなら――――いえ、起きます」

 

少し考えた後に、素直に起き上がる深月

 

(ちっ!あのまま頷いていたら良かったのに!)

 

(危ないです。・・・あのまま返事をしていたらハーレムに加えられていましたね)

 

深月の予感は正しく、本能のままに了承していればハーレムに加入させられていたのだ。受け入れようとした瞬間に感じた嫌な予感に従った事でピンチを切り抜ける

 

「深月が起きたのか?」

 

「はい。少しだけ疲労を感じますが戦闘に支障をきたす事はありません」

 

「・・・そうか」

 

「え?どうされたのですか?・・・空気が重いですよ?」

 

四人の様子が暗いと直ぐに感じ取れた深月。本当に理由が分からないので、少しばかり焦っている

 

「いや・・・な。・・・俺達って深月を酷使していたと理解したんだよ」

 

「この大迷宮でほとんど休み無く動いていたのは深月だし・・・」

 

「・・・働きっぱなし」

 

「頼り過ぎと改めて思い知りました・・・」

 

はて?私は働き過ぎなのでしょうか?お嬢様の為を思い動いているのですが・・・そこまででしょうか?

 

前世の社畜精神と、今世の忠誠心の融合によって生み出されたハイブリッドは伊達ではない。働き過ぎで少しばかり疲れる事があるのだが、その場合は皐月の匂いをクンカクンカスーハースーハーのドーピングによって回復しているのだ

本当に心あたりが無い深月は、首を傾げて身に覚えが無いといった表情だ

 

「マジで無自覚かよ・・・ヤベェだろ」

 

「う、う~ん。これは私が一番の原因よね・・・」

 

「・・・忠誠心が限界突破している」

 

「さ、皐月さんの為になる事が癒しなんじゃないですか?」

 

「「「ありえないだろ(でしょ)」」」

 

シアの冗談交じりの意見にハジメ達は否定するが

 

「シアさんの言っている事は正しいですよ?」

 

「「「えっ?」」」

 

「・・・冗談交じりで言ったんですが、マジですか」

 

「お嬢様の為ならば身を粉にして働きますよ!」

 

ドヤァッと胸を張り、誇らしく宣言している。しかし、一般常識?を持っているハジメ達はそれは駄目だと深月に言うと

 

「私の癒しを奪うのですか!?酷過ぎます!」

 

だが、ハジメと皐月の言う事はこれだけ―――――

 

「「一週間の一日でもいいから休んで体調を完璧にしておけ(しなさい)」」

 

「そ、そんな・・・・・」

 

四つん這いで目に見えて落ち込んでいる深月。とても悪いとは思うが、危険な旅なので、この決定だけは譲れなかった

落ち込んでいる深月を連れて神代魔法を手に入れる事が出来る魔法陣を発見したハジメ達は、迷う事無く魔法陣の中へと踏み入れると、脳内に直接神代魔法が叩き込まれる

 

「・・・空間魔法か」

 

「あの魔人族が使ったやつね」

 

「・・・瞬間移動のタネ」

 

一応ミレディからの情報収集で把握していたが、空間魔法での転移は凶悪極まりない魔法だった。知っていれば対処は可能だが、知らない者からすれば初見殺しに他ならない

神代魔法を手に入れたハジメ達。これからの行動は一つだけ

 

「・・・さて、魔法も証も手に入れた。次は、脱出なわけだが」

 

「・・・どうするの?」

 

「何か、考えがあるんですよね?たぶん、外は完全にマグマで満たされてしまってますよ?」

 

「マグマの中を突き進むわよ!」

 

「「え?」」

 

何言っているの?と言いたげな目でハジメと皐月を見ているユエとシアは知らなかった。ハジメと皐月が創ったアーティファクト――――潜水艇がある事を

 

「ここのグリューエン大火山を攻略した後のメルジーネ海底遺跡用に造ったんだよ」

 

「潜水艇の装甲板の一部をマグマの上に落としたけど、溶けなかったから大丈夫よ」

 

「後は上昇して天井のショートカットで大迷宮を脱出という流れだ」

 

「・・・なるほど」

 

「流石ですぅ!」

 

「潜水艇が溶けないのでしたら、早急に乗り移りましょう。私が気を失っていた間で何かしらの急変はある筈です。下手をすれば、マグマが溢れ出ている可能性もありますので」

 

活火山ならば、刻一刻と状況が変わる。拠点内部では、外の様子が分からないのでそれを知る必要もあるのだ

 

「ユエ、障壁を頼む」

 

「ん!」

 

ユエは、念には念を入れて聖絶を三枚重ねにして五人を包み込む。全員の準備も完了し、扉の前に立ってマグマで満たされた外へと扉を開く。扉が開くと同時に部屋の中にマグマが入り込んで、あっという間に視界全てが紅蓮に染まる。ハジメ達は急いで外へと出て、ユエに頼んで潜水艇を出せる程の大きさまで障壁を広げて宝物庫から出現させる。このまま乗り込もうとしたハジメ達だが、深月から静止の声が掛けられる

 

「待って下さい。ユエさん、障壁は今の状態――――潜水艇を包み込んだままにして下さい。マグマ一色で分かりにくいですが、マグマの流れが出来ています」

 

「ちょっと待て。上か下のどっちだ?」

 

「下ですが、とにかく今は乗り込みましょう。ユエさんの魔力を無駄に消耗させるのはいけません」 

 

「そう・・・ね。先にマグマの流れが分かっただけでも良しとしましょう。乗り込むわよ!」

 

ハジメ達が潜水艇に乗り込み終えたと同時に障壁を無くすと、マグマが勢いよく潜水艇を飲み込んで揺らす

 

「おわっ!?」

 

「ひゃあっ!?」

 

「んにゃ!?」

 

「はぅ!?い――――痛くない?」

 

「皆さん大丈夫ですか?」

 

深月が出した粘性のある魔力糸で、ハジメ達を壁に叩き付けられる前に張り付けたので怪我はない。潜水艇の揺れは凄まじく、運転席の元まで行くのは難しい。しかし、ここでユエが絶禍を応用した魔法を発動。深月は魔力糸を解くと、ハジメ達が黒い渦の球体にゆっくりと引き寄せられる事でシェイクされる事を防ぐ

 

「たすかった。ありがとな、深月、ユエ」

 

「危うく周囲にぶつかって怪我するかと思ったわ」

 

「ですぅ~。揺れで胃の中身を出さずに済みました」

 

ユエは絶禍を移動させてハジメと皐月を運転席の方まで運ぶ。二人は、魔力を流して潜水艇のコントロールを試みるがマグマの流れが激しいのと、粘性が強くて思うように舵が取れなかった

 

「クソッ!予想以上に流れが速い!」

 

「サラサラのマグマじゃなくて、ドロドロ―――――粘り気のあるマグマね」

 

「体感からして斜め下に流されていますね」

 

「特定石を組み込んだクロスビットを外に出していなかったのが痛いな。これじゃあ方向が分からねぇ」

 

ハジメの懸念点は場所についてだった。潜水艇がマグマの中を耐えうるのはいいのだが、アンカジに待機させているティオ達が心配なのだ。恐らく、火山の爆発の如き噴火は外からでも見える筈。どう考えても生存が難しいと思われる

 

「ここまで離れていると念話も出来ないし・・・」

 

「ミュウが心配しているだろうな」

 

「・・・どうする?」

 

「どうしましょう?」

 

「アンカジ方面に向かって伝言を書いた槍を投擲しましたが、問題は槍そのものが通り過ぎていなければよいのですが・・・」

 

「「「「え?」」」」

 

深月がフリードに向けて放った槍・・・魔力糸を物質化させた物を投擲している。実は、アンカジ方面へと全力投擲した槍なのだ。深月のステータスとはいえ、100km以上離れた場所までは投擲出来ない。出来たとしても30kmが限度。これだけでも十分化け物レベルなのだが、瞬間的に極限突破をすれば造作もない

 

「え?ちょっと待って。ん?槍を投擲?」

 

「・・・いつの間に」

 

「あっ!あの魔人族に向けて放ったやつですか!?」

 

「それが本当ならどこまで見通していたのよ・・・」

 

「ですが、これはあくまでも運が良ければの話です。"超高速思考"の"予測"を頼りに飛ばしたので確実とは言い切れません」

 

「「「「・・・アンカジ大丈夫(かしら)(でしょうか)?」」」」

 

四人が心配する所は、槍が届くかどうかではなくアンカジの結界の心配をしていた。深月の全力に近い投擲で、結界が破壊されないかだけが心配であった

 

「多分大丈夫です。王国にあった結界は、アーティファクトそのものが破壊されない限りは破れないとの事です」

 

「お、おう・・・取り敢えず流されるままに行くか」

 

「そ、そうね・・・アンカジについては追及しない様にするわ」

 

「・・・深月のやらかし?」

 

「大丈夫ですよ~・・・キット・・・・・タブン」

 

これ以上の追及をしない現実逃避をして、これからの事について考える事にしたハジメ達。五人を乗せた潜水艇は、マグマの奔流に流されて行く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ティオside~

 

ご主人様達がアンカジを出立してからこの町を見ておったが、住民達はほぼ全員が回復したのう。特に深月と香織の二人を神聖視しておる。ん?違う?メイドではなくその主であるご主人様じゃと?メイドが主を崇めよと言っておったのか。ん?それも違う?どうしてじゃ?――――――ほう、深月は昔ご主人様に助けられてご主人様を神聖視をしておるのか。お主らも深月が神聖視するご主人様を神聖視するという事じゃな。ふむ、色々と理解したのじゃ

・・・・・ご主人様、深月はやらかしているのじゃ。下手をすれば新しい宗教が生まれるやもしれん

 

グリューエン火山がある方角を見ながら、どこか諦めた様な表情で見つめる

 

「ティオどうしたの?」

 

「ティオお姉ちゃんだいじょうぶなの?」

 

「だ、大丈夫じゃ。少し考え事をしていただけじゃ」

 

「ハジメくん達の事を考えていたの?」

 

「うむ。あそこで何が起こっておるのか分からんからのぉ」

 

「そう・・・だね。本当は一緒に行きたかったけど、私は足手纏いになっちゃうからね・・・」

 

「それが分かっているだけでも十分じゃ。下手に行動すれば何が起きるか分からん。それに、今も回復魔法の特訓を続けておるのじゃろ?ご主人様もそこら辺りはしっかりと見る筈じゃ」

 

香織が陰ながら凄まじい努力しているのは知っている。だが、それはあくまで普通の者からすればだ。ハジメ達の様な特異な者達からすれば当たり前。だから白崎は、今までしていた努力を更に煮詰めた超スパルタで訓練をしている。特に、深月が言う息をする様に何時でも回復魔法が行使できる様に頑張っているのだ

 

「香織お姉ちゃん頑張ってるよ?」

 

「確かに頑張っているよ?・・・でも、ハジメくんや皐月がした努力と比べたらまだまだだよ。特に深月さんと比べちゃうと、月とスッポン処じゃないしね」

 

「月とスッポン?」

 

「比較するのが失礼にあたる位、努力の種類が違うっていう事なの。深月さんって中学生の時からメイドさんだったから・・・それに至るまでの努力は私達の想像を遥かに超えているの」

 

「確かに。妾の里にも従者は居ったが、深月と比較してしまうと霞んで見えてしまうからのう」

 

ハジメと皐月とユエ以外の面子は深月が体験してきた事を全くもって知らない。オルクスの住処で初めて聞かされたハジメ達は物凄く驚いていたので、それ以外の者達も驚くだろう。いや、顔を青ざめる可能性は特大だろう

アンカジの町の中を歩きながら、回復魔法の可能性を模索する香織。その様子を見つつ歩いていると

 

ガィィィィン!!

 

上から何かが弾かれる音が大きく響き渡った。アンカジ国内に居た全ての者達が上を見上げると、棒状の影が正門の方へと転がり落ちて行った。アンカジに向けての攻撃だと感じ取ったミュウを抱いたティオや香織、アンカジ兵士達が走る。正門へとたどり着いた彼等が見た物、それは一本の槍だった

 

「槍?」

 

「何でこんな物が空から・・・」

 

「魔人族の攻撃か?でも、姿は無いぞ・・・」

 

門番をしていた兵士達が、結界に直撃して転がり落ちた槍を囲む様に見ている

 

「ちょっと失礼するのじゃ」

 

「すいません。ちょっと見せて下さい」

 

アンカジの民達を救った香織とその仲間であるティオを見て、門番の兵士達が道を開けると同時に凄まじい音が響き渡った

 

ドォオオオオオオオン!!

 

顔を上げると、槍が飛んできた方向―――――グリューエン大火山が爆発した光景だった。何が起きたのかを察した者達は、嫌な予感が脳裏を過った

 

「う・・・そ・・・ハジメくん?」

 

「パパ?ママ?」

 

困惑する中、ティオだけは一人冷静になって考える

 

この槍が飛んできた方向は火山があった方向・・・何者かの攻撃?いや、それはありえないのじゃ。周囲に人影は無い。唯一考えられるのは槍の投擲。しかし、火山からここに向かって投擲できる人物など・・・・・一人だけ居たのじゃ

 

心あたりは一人。ティオは、問題の槍に異常が無い事を確認して手に持って全体を見る。すると、中央の一部分だけが黒い文字が描かれていたのだが、全く読めなかった

 

「何じゃこの文字は?長き間生きた妾でも見た事が無いのじゃ」

 

「ティオどうしよう・・・ハジメくん達が――――――えっ?これって日本語?」

 

ティオが手に持っていた槍に書かれている文字を見て、不安げにしていた香織の表情が少し明るくなった

 

「知っておるのか!一体何と書かれておるのじゃ?」

 

「"必ず帰ります"って書いてる」

 

「成程・・・何が起こったのか理解したのじゃ」

 

「ど、どういう事!?ハジメくん達に何があったの!?」

 

ティオに勢いよく詰め寄る香織。ティオは、香織を一旦落ち着かせて周囲の者達にも聞こえる様に説明をする

 

「これは深月が創った槍―――――恐らく火山の頭頂部から投擲したのじゃろう。しかも、槍に付いているこの色は魔物の血じゃ。何かしらの襲撃があったのは確実・・・恐らく魔人族の襲撃があった筈じゃ。戦いが激しさを増し、何かしらの理由で火山が爆発すると悟った深月が限界突破を使ってここまで投げ飛ばしたのじゃろう」

 

槍の細部を見るティオの推理は殆ど正解だった

 

「じゃあ」

 

「恐らく無事じゃ。深月がこの様な物を飛ばしてくるとなれば、少しばかり帰りが遅くなるという事じゃろう」

 

「そっか、なら大丈夫だよね」

 

「うむ、例え傍から見れば絶望的な状況でも、ご主人様達なら普通にひょっこりと生還する。無条件にそう信じられるのじゃ・・・」

 

「うん・・・ハジメくん達なら大丈夫。だから、私も私がやるべき事をやらないとね」

 

「そうじゃな。もちろん、妾も手伝うからの」

 

「パパとママを迎えに行くの?」

 

「今はまだ無理じゃ。爆発の影響で何が起きるか分からんからの」

 

「だから、ミュウちゃんは一旦本当のママの所に行こうね?ハジメくん達と合流したらもう一回行くから」

 

「・・・うん」

 

ティオ達の方針は決まった。一度、ミュウをエリセンへと送り届ける事にした

 

「ふむ、それが妥当じゃろうな・・・よかろう。ならば、妾の背に乗っていくがよい。エリセンまでなら、急げば一日もかからず行けるじゃろう。早朝に出れば夕方までには到着出来よう」

 

少しだけ返事を渋るミュウを見て、ハジメと皐月は本当に実母並の親になっているなと苦笑いをする二人。アンカジの皆にミュウの実母が居るエリセンまで行く事を伝えると、悲しそうな顔をしながらもお見送りをする。竜化したティオの背中に香織とミュウが乗り、エリセンへと旅立った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「チッ!フリードなる魔人族を処分出来ませんでした」
布団「まぁまぁまぁ、メイドさんはお嬢様の膝枕を堪能したからいいでしょ?」
深月「・・・危うく暴走してしまうところでした」
布団「メッキが剥がれ落ちて、お嬢様にバレるのを期待しています」
深月「バレません!いえ、隠し通してみせます!」
布団「おっ、そうだな(以前からフラグ回収してますねぇ~)」
深月「それでは、次回も期待?して下さい?」
布団「まぁ・・・頑張るよ」


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メイド特製麻婆が!?

布団「投稿よ!」
深月「沢山の誤字報告を有難う御座います」
布団「作者が忙しい時期に突入するので頑張って書いたよ!」
深月「・・・次回の投稿予定は?」
布団「正直言うと、かなり長いです。ごめんなさい!お米作るの!許してつかぁさい」
深月「という事ですので、読者の皆様には申し訳ございません」
布団「ちょこちょこ書きながら投稿出来たら・・・いいなと思う。物凄く忙しいので察して下さい」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」


















~皐月side~

 

私達を乗せた潜水艇は、マグマの流れに身を任せていたわ

 

「ユエさん、シアさん。お寿司のお味は如何ですか?」

 

「うまうま」

 

「おいしいですううううう!」

 

「それは良かったです。ハジメさん、観念して下さい!!」

 

「やめろおおおお!ちょっとだけ興味があっただけなんだ!俺は悪くない!悪くないんだぁ!だからそれを仕舞ってくれ!やめっ―――――オゴゴアアアアアア!

 

寿司が美味しいわ。・・・うん・・・本当に美味しい。久しぶりに食べる海の幸だからというのもあるのだけれど・・・こればっかりはハジメ自身の責任よね。ちょっとばかり私自身興味があったけど、普通実行には移さないわよ

 

皐月が見ている光景は、ユエとシアが自身と同じ様に寿司を食べて幸せそうに頬を緩ませている場面なのだが、ハジメに関しては、海に囲まれた潜水艇の上・・・逃げ場の無い状態で深月に追い回されて麻婆豆腐擬きを口に突っ込まれて悶絶している光景だった。何故こうなったのか、それは数十分前に遡る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マグマの中から出れたのは良いんだが・・・まさか、潜水艇が破損するとはなぁ」

 

「海底火山の水蒸気爆発が予想以上の破壊力だったという事ね」

 

「・・・でも、これで地上に出れる」

 

「海の上ですよ!マグマの中とは違って明確な出口があります!」

 

ハジメ達の乗る潜水艇は、つい先程、水蒸気爆発に巻き込まれて海へと放り出されたのだ。強烈な衝撃で、深月の金剛――――超硬化が無ければお陀仏だったかもしれない程の衝撃だったのだ。現に少しばかり浸水しているが、皐月が急いで応急処置した事で何とか無事な程度だ

 

「静かな海の旅は良いもんだなぁ」

 

「魔物が居ない世界・・・まるで遊覧船ね」

 

ハジメは、潜水艇を海上まで浮上させると大きく息を吐き出した

 

「はぁ~~~~、疲れたぞ!」

 

潜水艇が広くても限度がある。密閉された空間で、ずっと操縦をしていた事の解放感と潮風の涼しさも相まって気分が違う

 

「あの怒涛な展開でお腹が減ったわ」

 

「・・・お腹・・・空いた」

 

「ユエさんを抱えて動いていましたからペッコペコですぅ~!」

 

お腹が空いているいるハジメ達。宝物庫に調理済みの食料を備蓄しているとはいえ、それは長持ちする保存食ばかりだ。まともな食べ物は入っていないにも等しい。一応簡易キッチンがあるのでここでも料理出来る。すると、深月が魔力糸を括り付けた銛を投擲した

 

「セイッ!」

 

ドッパアアアアアアン!

 

深月の小さな声と同時に、海中へ投擲。勢いは凄まじく、海が抉れる程の威力―――――もちろんお約束通り魚の急所に直撃しているので後は回収するだけだ

 

「おっかしいなぁ~。水中抵抗がある筈なんだが・・・」

 

「泳ぐ魚の急所に直撃させるって・・・」

 

「・・・野生児?」

 

「いつもの事ですよねぇ~」

 

糸を引っ張って魚を回収しようとする深月の背を見て、いつも通りのぶっ壊れだな-と口々にする四人。急所に銛をぶち込まれた魚は、必死に暴れているものの、ステータスが圧倒的に高い深月の引っ張りに成すすべも無い。その様子をみていたハジメが、一早く違和感に気付く

 

「ん?あの魚・・・でかくねぇか?あの距離であの大きさだと・・・」

 

「必死に暴れているけど・・・そりゃあ成すすべも無く引きずられるのは当然よね」

 

「・・・黒?くて大きい」

 

「おっきい魚ですねぇ~。あんなの初めて見ます!」

 

深月は、潜水艇の近くまで引っ張り纏雷の電気ショッカーで魚を痺れさせて手早く回収。自身の倍近くある大きさの魚を引き上げ、潜水艇の上で解体する。内臓は全て海の中へ放り投げて、清潔で血抜きをし、三枚に下ろしていく

マグロの解体ショーみたく、どんどんと切り分けられる魚。十分もしないうちに全てを切り分けられ、ハジメの宝物庫へと保管された。・・・現在、ハジメの宝物庫の中は武器弾薬が四割、生活必需品が二割、食料が四割も占めている。これを聞いただけで、ハジメの食への拘りぶりが良く分かる。そして、宝物庫へと入れなかった魚は調理をする為に簡易キッチンを取り出してまな板の上に乗せる。キッチンの上に乗せただけでも存在感が凄まじく、半分以上スペースを占めているのだ。深月は、キッチンに常備している包丁でブロック状に切り分けて、刺身用、調理用と分ける。刺身用が六割、調理用が四割といった具合だ。だが、ここで深月は宝物庫から凶悪な代物を取り出した。それは、冷凍保存された麻婆豆腐擬き

 

「お、おい・・・その固まった板状のやつは!?」

 

「私達に食べさせるつもりじゃないわよね!?もしそうなら嫌よ!断固拒否するわ!!」

 

「だめ!絶対!!」

 

「深月さんが食べるだけですよね?そうですよね!?」

 

「それ程引かなくてもいいではありませんか。これは私用です。あのフリードなる魔人族を殺せなかったイライラを癒す為に取り出しただけです」

 

冷凍保存された麻婆豆腐擬きを一旦器に乗せて魚の調理に取り掛かると同時に、海面が大きく盛り上がって半透明なゼリー状の何かが襲い掛かってきたのだ

 

「うおっ、何だこいつ!?」

 

ハジメは驚きつつ、反射的にドンナーで迎撃。伸ばされた触手に直撃して粉砕したが、貫通する手前で弾丸そのものが溶けた様に無くなった事を確認した皐月

 

「体全体が酸性で出来ているの!?と、兎に角物理攻撃でも駄目なのは分かったわ!あれが飛び散らない様に気を付けて!」

 

「凍柩」

 

ユエの魔法が敵を氷で閉じ込めるが、ここで違和感を感じ取ったユエ

 

「む?・・・魔法も溶かすゼリー?」

 

「ちょっと待って、何処のラスボスよ。この海ではこんなのがウジャウジャ居るっていうの?」

 

ハジメが吹き飛ばした部分は既に再生している事から、再生系列の技能を持っているのは確実だ。ならば早々に核を探し出して破壊する方向に切り替え、魔眼石で探した。だが、どこにも魔石の反応が無かった

 

「ちょっ!?魔石が無いってどういう事よ!?本当にラスボス級じゃない!」

 

「何っ、魔石が無いだと!?・・・こっちは皐月程の精度じゃないが・・・確かに確認できないな。いや、あれ自身が赤黒い色一色だな」

 

「ゼリー全てが核なのでしょうか?」

 

「どこぞのピンク色の魔人だよ!?」

 

「・・・やっかい」

 

「えっと・・・私の攻撃って厳禁ですよね?」

 

「「当たり前だ(でしょ)!」」

 

「ひんひん。二人の当たりが強いです」

 

シアは落ち込みながら、あのゼリー状の魔物の様子を観察する。その間にも攻撃は続くが、そのことごとくが通用しない。唯一効果がありそうな攻撃が深月の斬撃だけだ。とはいえじり貧な事に変わりが無い。だが、シアはある一点に気が付いた。あのゼリー状の魔物が現れた場所は、深月が解体した魚の内臓付近なのだ。これから確証を得られない行動をする自分に、深月が怒るのは確実だろうと思いつつも行動する事にした

 

「フラッシュストライクが飲まれる!?ふざけんな!!」

 

「・・・皐月の口調が荒っぽい」

 

「そりゃあそうなるだろ!今の状態だと逃げたくても逃げれないぞ!」

 

「だああああああ!これで五本全部撃ち尽くした!!」

 

「深月、動きを止めれるか!?」

 

「無理です。魔力糸で拘束を試みたのですが一瞬で溶かされました。唯一効果が見られるのは斬撃だけです」

 

「熱量操作は!?」

 

「あそこまで大きいと一瞬では無理です。そもそもの問題として、水蒸気爆発で私達もお陀仏になってしまいます。当然却下です!」

 

深月でも攻め手に欠ける相手を前に、ハジメ達は歯ぎしりする。すると、視界の端から赤い物体―――――深月が解体した魚の塊だった。何事!?と視線を一瞬だけ端に寄せるとシアが投擲した姿が映り、深月はニコリと微笑んでシアを射貫く。シアの反応は「まぁそうなるな」と呼べるに等しい反応。話は戻り・・・ゼリー状の魔物に当たらない様に投げられた魚のブロックは、横切ろうとした瞬間触手に捕まり溶かされた

 

「直撃しない筈のあれを捕まえて溶かしただと?」

 

「どんな大食間よ!」

 

「・・・食いしん坊」

 

「でも、一瞬だけ動きを止めれました!」

 

「ッ!」

 

ハジメは、皐月の一言を聞いて閃き、キッチンの上に置かれている"ある物"に目を付けた。もしかしたらこの状況を打破する可能性があると思いドンナーで牽制しながらキッチンの傍まで近づき、"それ"が入った器を引っ掴んで放り投げた

 

「ちょっと!餌あげないでよ!」

 

「・・・動きを止める間に魔法を準備」

 

「えっ・・・ハジメさん。あれは流石にマズイのでは!?」

 

高速で黒刀を振るう深月は、ギリギリまでそれを見る事は出来なかった。だが、ゼリー状の魔物の直ぐ傍まで投げられたら嫌でも気付いた。深月にとっては癒しの御馳走―――――麻婆豆腐擬きだ。後はお分かりだろう。深月特製の麻婆豆腐擬きは、ゼリー状の魔物に喰われた

 

「私の麻婆が!?」

 

魔物の動きを一瞬でも止める為とはいえ、大好物が喰われたとなれば少なからずとも落ち込む。皐月達は白い目でハジメを見ているが、度肝を抜く変化は直ぐに訪れた。麻婆豆腐擬きを食べたゼリー状の魔物が激しく触手をウネウネと動かし始め、体がほんのり赤く染まっていたのだ

 

「「「は?」」」

 

皐月とユエとシアの反応は、一体何が起こってそうなったんだ?と言わんばかりにポカンと口を開けていた

 

「どうしてですか!!」

 

深月は納得いかないご様子

 

「おっしゃあ!流石は深月製の麻婆豆腐擬きだ!もっと喰らえや!!」

 

期待以上の効果を見て歓喜の声を上るハジメは、宝物庫から追加の冷凍保存された麻婆豆腐擬きを取り出して投げ付ける。その数およそ二十個。全てがゼリー状の魔物の体に当たり溶けていく。すると、先程までよりも体を赤くしてのたうち回る様に暴れる。その隙を逃さず宝物庫から素材を厳選して錬成。真っ黒に染まった魚雷を創り、ゼリー状の魔物に向けて放った。大量の黒い魚雷がゼリー状の魔物に突き刺さるが、爆発せずに魔物の体全てを黒く染め上げた。黒色の正体は、タール状のタウル鉱石。取り扱いの際は、厳重注意の代物だ

 

「お前の再生能力は異常なのは分かった。魔法を吸収して物理攻撃も溶かしたのは厄介極まりなかったが、深月の斬撃で斬られた時の再生速度の違いが僅かにあった。恐らく溶かして吸収した力を再生能力に回している―――――だったら、再生が追い付かない程の超高火力で燃やされたらどうなるだろうな?ユエ、超強力な障壁を頼む!」

 

「んっ!」

 

レールガンで放たれた一発の弾丸は、ゼリー状の魔物に吸い込まれ火種が一気に燃え上がった。ユエが障壁を潜水艇の周りに張ったと同時に

 

ズッドオオオオオオオオオオオオオオン!!

 

ゼリー状の魔物の水分を蒸発させたものと連鎖して、超強力な水蒸気爆発が一帯を襲った

 

「ぐっ、うぅううううううう!」

 

ピシリッと幾枚にも重ねた障壁にヒビが入った。ユエが割れない様に全魔力を使って強度を上げる事で事なきを経た。周囲と海の底を見ても反応は無く、超が付く程の強敵を倒した事を確認し終えた所でハジメ達は座り込んだ

 

「だああああああああー!つっかれたぞおおおお!」

 

「敵正反応無し・・・完全に殺し尽くしたわね」

 

「ま、魔力切れで動けない」

 

「ユエさん大丈夫ですか!?」

 

「・・・この際シアでも良い。いただきます」

 

「えっ?ちょ!?ッアーーーーーーーーーー!」

 

ユエに吸血されるシア。ハジメと皐月は微笑ましそうな表情でそれを見ていたが、ハジメの後ろに立つ人物を見た皐月は音を立てずにスススッと離れる。ハジメも人影に気付いた様子で、ブリキ人形の様にギギギッと後ろへと振り向く。振り向く最中にユエとシアが離れて行った事を見ていたので、誰が怒っているのかは理解出来た。振り向いた先には深月が居り、背後には超凶悪な生物達が融合した姿を幻視した

 

「そ、そう!これはあの魔物の足止めに必要な犠牲だったんだ!俺は最善の行動をしただけだ!見れば分かるだろ!?麻婆豆腐擬き一つで長時間攻撃が無かったんだ!普通の食料を食わせるよりも遥かに有効で大量に食わせたのは錬成する時間を稼ぐ為だったんだ!俺は悪くないだろ!?」

 

「えぇ、効率は重要ですね」

 

「だ、だろ?」

 

深月は何もせず、ハジメから宝物庫を奪って中から魚のブロックを一つ取り出し、簡易キッチンで調理を再開した。魚を薄く切って刺身にしている様子を見たハジメは、心の底から安堵して料理が出来るのを待つ

 

「いやぁ~、深月の麻婆豆腐擬きがあそこまで効果があるとはな・・・予想以上だったぜ!」

 

「そ、それはそうだけど・・・流石にあれは酷いと思うわよ?」

 

「・・・鬼畜」

 

「深月さんの大好物ですよ?ハジメさんってドSですね」

 

「俺は悪くねぇー!悪いのはあの魔物で、人の食事を邪魔したからあれは当然の報いだ!!」

 

「・・・そう」

 

ハジメは「俺は悪くない!悪いのは魔物だ!」の一言で切り捨てる。皐月達はジトーッとハジメを見ており、流石に心に来たハジメは反省の色を少しだけ出した

 

「ま、まぁ・・・深月には悪いとは思っているさ。だが、手近にあったのは麻婆豆腐擬きと魚のブロックだけだったから反応の違いを見たかったというのもあるがな。倒す方法は、一瞬で体全てを吹き飛ばすしか思いつかなかったんだよ」

 

「なら追加で投げる必要は無かったんじゃ・・・」

 

「・・・(コクコク)」

 

「念には念を押してだよ。錬成している最中に攻撃されちゃあ失敗するからな」

 

「そういう事にしておきますね~」

 

潜水艇の上で寝そべっていると、刺身を乗せた皿を持った深月が四人の中心にテーブルを出してその上に置いた。まるでマグロの様に、赤い身と桃色の身が盛られていた

 

「それじゃあ食うか!」

 

「手を合わせて」

 

『いただきます!』

 

先ずは何もつけずにそのまま。少し青臭いが、空腹状態なので美味しいと感じられる。一方で、ユエとシアは、微妙な表情をしていた。食べ慣れていないという事もあるのだろう

 

「ユエとシアはそのまま食べたの?」

 

「・・・二人が食べていたから」

 

「正直微妙です」

 

「食べ慣れていないというのもあるが、それを解決するのが――――この醤油だ」

 

「正確には擬きが付くのだけれど、本物と遜色ない位の出来なのよねぇ~」

 

皐月は、中央の皿の横に置かれた小皿を一枚取って醤油擬きを入れ、刺身に付けて一口。噛めば噛む程、魚の旨味と醤油擬きの味が合わさり口内全体に甘味が広がる。感想は一言

 

「はぁ~、美味しい。久しぶりというのもあるけれど、日本人として刺身は食べたいわよね~」

 

「美味い!醤油を付ける事で青臭さが無くなり、魚本来の甘味が広がる。最高だな!」

 

ユエとシアも二人に続く様に、醤油擬きを付けた刺身を一口

 

「おいしい!」

 

「醤油?を付けるだけでここまで違うなんて驚きです!」

 

四人は赤身をそれなりに堪能した後、大トロ部分の桃色の身を食べる。すると、噛まずとも分かる脂の甘味が口内で暴れながら身そのものが解ける様に溶ける

 

「「「「うまあああああああああああああああい」」」」

 

初めて食べるユエとシアの反応もそうなのだが、ハジメと皐月の反応も同じだった。地球で食べた大トロの刺身よりも美味しい事にビックリする皐月と、初めて食べる大トロの美味さとインパクトの強さに心を揺さぶられたのだ。大トロ部分をもう一切れ食べた後に赤身部分を食べてさっぱりさせて、再び大トロ部分を味わう贅沢な食べ方。皿に盛りつけられた刺身は全て無くなる頃には、深月が新たな料理を持ってくる。それは、握り寿司だった

 

「米だ!刺身に米だ!」

 

「寿司!最強の組み合わせが来た!!」

 

皐月とユエとシアの目の前に置かれる寿司。だが、ハジメだけは麻婆丼が置かれた。全てを察した三人は、固まっているハジメを他所に、自分の皿を持って端っこに移動した

 

「あの~・・・深月さん?何故に俺だけ麻婆丼なのでせうか?」

 

「宝物庫に備蓄した麻婆豆腐擬きを"全て"あの魔物に与えた罰です。私は見ましたよ?これ幸いと、嬉々として魔物に向けて投げるハジメさんの姿を――――これは麻婆の恨みです。完食して下さい」

 

「・・・悪いが断る!」

 

今度は魔力糸に捕まらない様、眼帯に反応する魔力糸を避けて飛び退いた。逃げるハジメに麻婆を食べさせるべく、容器とスプーンを持って追いかける深月だった

これが冒頭に至るまでの出来事だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

「グフッ、麻婆・・・麻婆が襲って・・・」

 

潜水艇の上で伸びているハジメ。皐月達は、ハジメを自業自得と切り捨てて美味しそうに食べ進めており、深月は削ぎ終えた魚の骨をどうしようかと悩んでいる。すると、シアが何かを感じ取ったのか、ウサミミを跳ね立てて忙しなく動かす。伸びていたハジメと寿司を食べていた皐月も気配感知に引っ掛かった様で、周囲を見渡す様に視線を動かす

直後、潜水艇を取り囲む様に三又の槍を持った人が複数現れた。およそ二十人。全員がエメラルドグリーンの髪と扇状のヒレのような耳を付けているので、海人族である事に気付いた。しかし、彼等の目は警戒心たっぷりご様子で、リーダーと思わしき一人が槍を突き出しながら問い掛けた

 

「お前達は何者だ?なぜ、ここにいる?その乗っているものは何だ?いや、それよりもどうやって悪食を倒した?」

 

「悪食って何だ?」

 

「お前達が倒した半透明の魔物の名前だ」

 

「何でも溶かす事から悪食って名前が付いたのね。あれにぴったりの名前じゃない」

 

「それでお前達はどうしてこんな場所に居る?」

 

「谷よりも深い深~い事情があったんだよ」

 

潜水艇の上でうつ伏せに状態のまま返答するハジメの態度に、尋ねた海人族の男の額に青筋が浮かぶ。正に一色触発になりそうな様子を感じ取ったシアが代弁しようとしたが

 

「あ、あの、落ち着いて下さい。私達はですね・・・」

 

「黙れ!兎人族如きが勝手に口を開くな!」

 

兎人族の地位は低いのは何処に居ても共通らしい。ふざけた態度のままのハジメに警告する形で、シアに向けて槍を突き出した。直撃はしない位置・・・シアは身体強化で避ける。掠る程度の攻撃を見た皐月が、槍を突き出した男一人に向けて威圧を掛ける

 

「海人族は戦闘民族なのかしら?もし、私達の仲間に攻撃を加えようとするのであれば骨の数本は覚悟しなさい。因みに、ハジメがうつ伏せになっているのは故意では無いわ。・・・自業自得だけどね」

 

「・・・俺が動けないのはへい・・・きょ・・・・・麻婆豆腐擬きを食べたせいだ」

 

「酷いですよ?」

 

気配を溶け込ませていた深月がいきなり現れた事で、二十人程いた海人族全員が驚愕した。潜水艇の上に居た者を警戒していたが、全く気付かなかった存在。深月は、冷や汗を流しつつ先程以上に警戒をする男を見つつ麻婆豆腐擬きをモッキュモッキュと食べている

 

「食べますか?」

 

容器を差し出して尋ねるが、男はやってはいけない事をしてしまう

 

「要らん!お前達がする事は質問に答える事だけだ!」

 

容器を弾いて海に落ちる麻婆豆腐擬きを見て、顔を青ざめたハジメ達が男達を助ける為に行動する

 

「おいお前、今直ぐ謝れ!マジで!!」

 

「深月ステイ!待ちなさい!彼等は海人族だから!ミュウの家族に近いのよ!?ストップ!!」

 

「はやく謝る!」

 

「ひ、ひぇええええええ!早く謝って下さい!深月さん!海が・・・海が真っ赤に染まる光景だけは勘弁して下さい!」

 

ハジメ達の言葉・・・特に皐月のある言葉に対して過剰反応した海人族は、更なる燃料をぶちまける

 

「ミュウだと!あの子を攫ったのは貴様達か!ならば生かしてはおけん!お前達全員ころ――――ッ!?」

 

ズンッと全てを圧殺する様な殺気が深月から放たれる。ハジメ達は対象外だが、それ以外の者達に放たれたそれは凄まじい。海の生物――――魚達が最初の犠牲者で、殺気だけでショック死して海面に浮かび上がった。海人族はギリギリ意識を保っていたが、今まで体験した事の無い恐怖を前に体を震わせて動けない

 

「私の麻婆だけでは飽き足らずお嬢様達をどうすると?殺すと言いかけましたよね?ミュウさんには悪いですが、ここに居る者は全員sy――――んむっ!」

 

深月の行動を止めたのは皐月だった。キッチンの上にあった麻婆を口に突っ込んで一旦落ち着かせる事に成功したのだ。皐月が動きを止めている内にハジメが海人族の男に必死に説得をする。流石にミュウの同族の殺戮はいただけない。もしも、この中に身内が居たら?そう思うとゾッとする

 

「いいか、さっきのは全面的にお前らが悪い!麻婆は深月の精神を癒す食べ物なんだ。否定する程度だったらまだ大丈夫だったが、お前達は叩き落すという最低な行為をしたんだ。だから誠心誠意謝れ!特に、皐月に対して謝れ!そうすれば乗り切れる筈だ!」

 

海人族の男達は、首を高速で縦に振って直ぐに実行

 

『申し訳ございませんでした!!』

 

海に漬ける勢いで頭を下げる海人族達。すると、先程までの殺気の重圧が徐々に薄れて何事も無かったかの様に晴れ晴れとした

 

「落ち着いた?」

 

「落ち着いていますよ?」

 

「・・・もう一口食べる?」

 

「食べます!」

 

皐月に一口一口食べさせられている事で、精神の浄化を行われている。とにかく、一難去った事にハジメ達はホッと息を吐き、ミュウの事について話す。しかし、どうにも信じられない様子で一度エリセンまで行き事情を再度説明する流れとなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海人族の案内の元、エリセンへとたどり着いたハジメ達。深月の御機嫌取りも終わって事は順調?に進んでいるが、未だに海人族はピリピリとしている。金ランク冒険者でミュウの身に何が起きたのか、保護している経緯を説明したのだが完全には信用しきれていない様子だ。すると、完全武装した海人族と人間の兵士が詰めかけ、海で出会った海人族の青年がお偉いさんらしき人と話す。だが、ある程度の所で切り上げられてたのか、慌てる青年を押しのける様に兵士が押し寄せてハジメ達を完全包囲した。

 

「大人しくしろ。事の真偽がはっきりするまで、お前達を拘束させてもらう」

 

「おいおい、話はちゃんと聞いたのか?」

 

「もちろんだ。確認には我々の人員を行かせればいい。お前達が行く必要はない」

 

「あのな。俺達だって仲間が待っているんだ。直ぐにでもアンカジに向かいたいところを、わざわざ勘違いで襲って来た奴らに手を出さずに来てやったんだぞ?」

 

「果たして勘違いかどうか・・・攫われた子がアンカジに居なければ、エリセンの管轄内で正体不明の船に乗ってうろついていた不審者という事になる。道中で逃げ出さないとも限らないだろう?」

 

「どんなタイミングだよ。逃げ出すなら、こいつらを全滅させた時点で逃げ出しているっつうの」

 

「その件もだ。お前達が無断で管轄内に入った事に変わりはない。それを発見した自警団の団員を襲ったのだから、そう簡単に自由にさせるわけには行かないな」

 

「殺気立って話も聞かず、襲ってきたのはコイツ等だろうが。それとも、おとなしく手足を落とされていれば良かったってか?・・・いい加減にしとけよ」

 

目の前の人間族のリーダー。胸元のワッペンにはハイリヒ王国の紋章が入っており、王国の保護によって駐在している者達だろう。武器をこちらに向けて拘束をしようとする彼等に威圧するが、それでも拘束の宣言の撤回はしない。一触触発の緊張感―――――

 

「ん?・・・ちゃんとミュウさんを見ていたのですか?・・・・・少し失礼します」

 

上を見ていた深月が空へと駆け上がる。釣られる様にハジメ達も見上げると、見知った人影が近づいていた

 

「上に何が?・・・ってはぁっ!?」

 

「―――パパぁー!!ママぁー!!」

 

「ちょ、ミュウ!?」

 

いきなり空からダイブしているミュウ。その上にはミュウを追いかける竜と、その背に乗っているであろう人影――――ティオと香織だろう。恐らく、エリセンへとたどり着いた三人の内一人――――ミュウが町の様子を見て、一早くハジメ達が居る事に気付いてスカイダイビングしたのだろう。深月が誰よりも一早く気付き、ミュウの落下地点場所まで空力で駆け上がる。粘性と伸縮性のある魔力糸を網目状に展開。頑丈な柔らかいネットに当たる事で、減速してトランポリンの様に上へと少しだけ跳ね上がった。その勢いに追いつく様に下から掬い上げる様に危なげなくキャッチした深月は、そのままハジメ達の元まで降りた

 

「パパッ!ママッ!」

 

皐月の胸元に飛び込んで喜んでいるミュウを撫でながら、心を鬼にして叱る事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「はい!メイドさんの麻婆がヤバイ件について一言」
深月「納得出来ませんね!」
布団「メイド印の麻婆は魔物にも有効――――っと」カキカキ
深月「ネタにしようとしていますね?」
布団「是非もないよね♪」
深月「作者さんにも麻婆を食べさせましょう。いえ、食べさせます」
布団「え、ちょま――――ウワアアアアアアアアアアアアアアアア!」
深月「感想等、お気軽にお願いします♪」


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メイドのテンション上げ上げです

布団「な、なんとか一話書けれた・・・」
深月「お仕事頑張って下さい」
布団「お米は偉大なのです。お店で買うよりも断然に美味しいのですぅ!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」













~皐月side~

 

「ひっぐ、ぐすっ、ひぅ」

 

桟橋の近くでミュウのすすり泣く声が響く。野次馬やら騎士やらで溢れているのだが、皆が沈黙してその様子を見ていた。何故静かなのか―――――それは、空からミュウが飛び降りているところを深月にキャッチされて、皐月達に抱き着いていたが、地面に降ろされて叱られていたからだ

 

「危ないでしょ!もうあんな危険な事はしちゃいけません!」

 

「ぐすっ、ママ、ごめんなしゃい・・・」

 

「俺や皐月も好きで怒っているわけじゃない。一歩間違えれば死んでいたかもしれない・・・だから怒っているんだ。分かるな?」

 

「ひっぐ、うん・・・」

 

「もうあんな危ない事しないって約束する?」

 

「うん、しゅる」

 

「よし、ならいい。ほら、来な」

 

「パパぁー!」

 

膝立ちでミュウを叱る二人と、泣きながら素直に反省してハジメの胸に飛び込むミュウ・・・正に親子だ。特に、ハジメと皐月の呼び名が"パパ"と"ママ"・・・攫われた海人族の幼子がここまで親しみを込めた言葉を連呼して、ハジメと皐月の二人も娘の様に扱っているので意味が分からず呆然としているのだ。周囲に居る者達の内心は「どうなってんの?」の一言である

よしよしとミュウの背中をポンポンと撫でるハジメ。ようやく周囲の者達も我を取り戻した様にざわめく。周囲の困惑の喧騒を他所に、香織がハジメの背中に抱き付いた

 

「よかった・・・よかったよぉ~、ぐすっ」

 

「心配掛けて悪かった。この通り、ピンピンしてるよ。だから、泣くなよ・・・香織に泣かれるのは・・・色々困る」

 

「うっ、ひっぐ、じゃ、じゃあ、もう少しこのまま・・・」

 

ハジメは困った様子で香織の頭をポンポンと撫でる事しか出来なかった

 

「おい、お前、一体どういうことか、せつッぷげらっ!?」

 

「ご主人様~~!」

 

ハジメ達を連行しようとしていた隊長らしき人が空気を読まずに詰め寄ろうとしたが、ハジメに向かって飛び込んだティオに吹き飛ばされた

 

「せいっ!」

 

「ごしゅじっ!?何故じゃ~~~~!?」

 

ドッボーーーン!

 

深月の受け流しで空高く打ち上げられたティオは、弧を描きながら海へと落ちた。深月は、ミュウを抱き、背中には香織が引っ付いているハジメの状況を見て、ティオの飛び込みは危険と判断したのだ。ちなみに、ティオに轢かれた隊長らしき人物は、海へと落る寸前で魔力糸で引き揚げられた事によって落下せずに済んだ

 

「あっぶねぇ・・・助かったぜ深月」

 

「今のハジメさんの状況を見て、受け止める事は出来無いと判断しただけですよ」

 

「酷いのじゃ・・・妾もご主人様達の事を心配しておったのじゃぞ?・・・しかし、海に叩き落される快感も中々良いものじゃな///」

 

恍惚な表情で語る危険なティオにドン引きする者達。流石にこれ以上変態モードのティオを見せるのはミュウの教育に悪いので、皐月が深月に"やれ"とアイコンタクトを送る。同時に、ティオの鳩尾に深月の拳が突き刺さり、顎を打ち上げて気絶させる。一般人には見えない速さの攻撃なので、周囲の者達はティオがいきなり倒れた様にしか見えない

 

「ハジメさん達と再会の興奮で気を失いましたか。私が介抱しておきますので御用がある場合だけお呼び下さい。それと、イルワさんからの手紙を取り出せば万事解決ですよ?」

 

「あぁ、そういやそうだったな」

 

ハジメは、宝物庫からイルワ直筆の手紙を取り出して隊長らしき人物に渡す。彼は、ハジメから渡された手紙の内容を見て驚愕した

 

「・・・なになに・・・"金"ランクだとっ!?しかも、フューレン支部長の指名依頼!?」

 

「そういう事だ」

 

「・・・依頼の完了を承認する。南雲殿」

 

「疑いが晴れたようで何よりだ。他にも色々聞きたいことはあるんだろうが、こっちはこっちで忙しい。というわけで何も聞かないでくれ・・・一先ず、この子と母親を会わせたい。いいよな?」

 

「もちろんだ。しかし、先程の竜の事やメイドの先程の跳躍、それにあの船らしきもの・・・王国兵士としては看過出来ない」

 

「それなら、時間が出来たら話すって事でいいだろ? どっちにしろしばらくエリセンに滞在する予定だしな。もっとも、本国に報告しても無駄だと思うぞ。もう、ほとんど知ってるだろうし・・・」

 

「むっ、そうか。とにかく、話す機会があるならいい。その子を母親の元へ・・・その子は母親の状態を?」

 

「いや、まだ知らないが、問題ない。こっちには最高の薬もあるし、治癒師もいるからな」

 

「そうか、わかった。では、落ち着いたらまた、尋ねるとしよう」

 

隊長らしき男は、本当に隊長だったらしく、最後にサルゼと名乗った彼は、そう言うと野次馬を散らして騒ぎの収拾の行動をする。ハジメ達も、ミュウの実母に早く会わせたいのでこれ以上の追及をさせない様に視線で制止させる

 

「パパ、ママ。お家に帰るの。ママが待ってるの!ママに会いたいの!」

 

「そうだな・・・早く、会いに行こう」

 

「怪我をしない程度で急ごうね?」

 

「あっちなの!」

 

手を引っ張って急かすミュウに連れられる様に、ミュウの実家へと向かうハジメ達はある一点に気付いていた

 

「兵士達の話から察するに、攻撃されて連れて行かれたとみて間違いないわね」

 

「そうだよね。あの話が本当なら・・・」

 

「命は助かっているが、大怪我をしている筈だ。後は精神的な問題だな」

 

「精神的の方はミュウが居るから問題ないと思う。だけど、怪我の具合が分からないから香織に任せるわ」

 

「うん。任せて」

 

ハジメ達が急ぎ足で話していると、少し先の方で男女の騒ぎが聞こえてきた。皐月は、この先にミュウの母親が居り、怪我を理由に止められていると思った。近づく事で、声もはっきりと聞こえ始める

 

「レミア、落ち着くんだ!その足じゃ無理だ!」

 

「そうだよ、レミアちゃん。ミュウちゃんならちゃんと連れてくるから!」

 

「いやよ!ミュウが帰ってきたのでしょう!?なら、私が行かないと!迎えに行ってあげないと!」

 

家から飛び出そうとしている女性を数人がかりで引き止めようとしている海人族達

 

ヤバイわね・・・あの会話だけでどれだけ酷い怪我を負っているか予想出来るわ。最悪の場合は、神経系の損傷と考えるべきね。香織の回復魔法で治せるならいいのだけれど、神水を飲ませる事を視野に入れないといけないわね

 

玄関先で倒れ込んでいる女性の姿を見たミュウは、顔をパァアっと輝かせて声を上げながら駆け出した

 

「ママーー!!」

 

「ッ!?ミュウ!?ミュウ!」

 

ミュウは、母親であるレミアの胸元に飛び込む。レミアは、もう二度と離れない様に硬く抱きしめて「ごめんなさい」と繰り返していた。自分が目を離したから――――迎えに行けなかったから――――等と色々な感情があるからだろうか、涙をポロポロと流していた

 

「大丈夫なの。ママ、ミュウはここにいるの。だから、大丈夫なの」

 

「ミュウ・・・」

 

自分よりもつらい目に遭っているであろう娘が、母親の方を心配している。攫われる前は甘えん坊で寂しがり屋のミュウが成長して帰ってきたのだ。レミアは、つい苦笑いをこぼした。肩の力も抜け、涙も止まり、再び抱きしめ合ったミュウとレミア。だが、ミュウが肩越しから見た光景―――――レミアの両足に包帯でぐるぐる巻きされた痛々しさを見て悲鳴を上げた

 

「ママ!あし!どうしたの!けがしたの!?いたいの!?」

 

レミアは、これ以上心配を掛けられないと笑顔で「大丈夫」と伝えようとする。だが、それよりも早く、ミュウが頼りにしている"パパ"と"ママ"に助けを求めた

 

「パパぁ!ママぁ!ママを助けて!ママの足が痛いの!」

 

「えっ!?ミ、ミュウ?いま、なんて・・・」

 

「パパ!ママ!はやくぅ!」

 

「あら?あらら?やっぱり、パパとママって言ったの?ミュウ、パパとママって?」

 

レミアは大量の"?"を思い浮かべた。周囲の者達も同様で騒ぎ出し、「レミアが・・・再婚?そんな・・・バカナ」「レミアちゃんにも、ようやく次の春が来たのね!おめでたいわ!」「ウソだろ?誰か、嘘だと言ってくれ・・・俺のレミアさんが・・・」「パパ・・・だと!?俺のことか!?」「きっとクッ○ングパパみたいな芸名とかそんな感じのやつだよ、うん、そうに違いない」「おい、緊急集会だ!レミアさんとミュウちゃんを温かく見守る会のメンバー全員に通達しろ!こりゃあ、荒れるぞ!」「いや、待て!ママとも言っていたぞ!?」「どういう事だ!」「夫婦?・・・ハーレムだと!?」「修羅場ね!頑張りなさいレミアちゃん!」等と、危ない発言が沢山飛び交う

ハジメは内心で「この中に行くのかよ・・・」と盛大な溜息を吐きながら、頬を引き攣らせている一方、皐月も「予想はしていたけど・・・これ程とは思っていなかったわ・・・」と呟きながら頬を引き攣らせていた

 

「パパぁ!ママぁ!はやくぅ!ママをたすけて!」

 

ミュウの視線がガッチリとハジメと皐月の二人を捉えており、この場に居る全員がミュウの視線の先に居る二人に気付いた

 

「パパ、ママ、ママが・・・」

 

「大丈夫だ、ミュウ・・・ちゃんと治る。だから、泣きそうな顔するな」

 

「はいなの・・・」

 

「ママが二人は誤解されちゃうから、おn――――」

 

「やっ!ママはママなの!」

 

「・・・せめて名前を付けて呼んで?」

 

「皐月ママ」

 

「あぁ・・・うん・・・それでいいわ」

 

皐月のお姉ちゃん呼びは否定され、皐月ママと呼ばせる結果となった。ハジメと皐月は、泣きそうなミュウの頭を撫でながら視線をレミアに向ける

 

「悪いが、ちょっと失礼するぞ?」

 

「え?ッ!?あらら?」

 

「ハジメさん、早速フラグ建築ですか?」

 

「正妻は皐月だ!邪な気持ちは一切無い!」

 

「ミュウのパパはハジメよね~♪」

 

「んみゅ?"パパはパパだよ?それと~、ミュウのママはママと皐月ママ"だよ?」

 

皐月はチラッとレミアを見る。レミアも皐月の視線に気付き、皐月を見つめる。ハジメは周囲を無視して、家の中に入り、ソファーの上にそっとレミアを下ろす

 

「香織、どうだ?」

 

「ちょっと見てみるね・・・レミアさん、足に触れますね。痛かったら言って下さい」

 

「もしかして・・・回復魔法を?」

 

「まぁな。ここまで酷い怪我だと歩けないだろ?」

 

「香織、どう?」

 

診察が終わった香織の表情は少し暗く、治癒が難しいと分かった

 

「ごめんなさい・・・私だけだと難しいの」

 

「・・・マジかよ」

 

「深月でもどうにもできないわね」

 

香織の診断は、傷を治す事は出来るが何故か全快までは回復する事が出来ないとの事だった。だが、例外は何時だってつきものだ

 

「呼びましたか?」

 

「うおっ!?深月か・・・驚かすなよ」

 

「ティオは・・・簀巻きにしているなら安全ね」

 

簀巻きにされたティオを肩に担いでいる深月がハジメ達と合流したのだ。いきなり現れた深月に、ハジメ達以外は驚いて口を開けて呆然としている。深月は、香織の診断結果を聞いて悩む

 

「それは・・・難しいでしょう・・・・・」

 

「やっぱり深月さんでも思い付かないよね」

 

「私は"回復魔法"が使えないので・・・」

 

だが、ハジメはここで思い付いた。可能性が無くはない。魔法の奇跡よりも人体の奇跡を頼る事にしたのだ

 

「深月、気功術はどうだ?俺を治療した時に使ってただろ?あれなら何とかなるんじゃないか?」

 

「以前にも説明しましたが、自然治癒能力を高めるだけですよ?」

 

「深月お姉ちゃん。・・・ママ治る?」

 

流石に気功術では無理と判断していた深月は、神水を使うべきだと判断してハジメ達の方に視線を向ける。しかし、全員が深月に期待している眼をしていた

 

「えっ?ちょっと待って下さい皆さん。その目は何ですか?私がどうにかしろと!?」

 

「・・・深月はチート」

 

「いつものぶっ壊れを期待しています!」

 

「為せば成るのじゃ!」

 

「大丈夫、私も回復魔法頑張るよ!」

 

「・・・神水を節約したいとかって訳じゃないからな。深月でも無理だった場合には、神水を使うつもりだ」

 

「遠慮は要らないわ。深月、今回も進化して良いからね?治せたら・・・添い寝s―――」

 

「やりましょう!」

 

深月の返事は早く、欲望駄々洩れである

 

いつもより返事が早いわね・・・そんなに添い寝が良いのかしら?

 

深月の内心は、「おっしゃあああああああああ!お嬢様との添い寝がきたああああ!絶対に治してみせましょう!!」といった感じでヒャッハー状態である。深月は、レミアの足に巻かれた包帯を解いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

フフフフ、お嬢様の添い寝。素晴らしいです!王国に居た時は添い寝をしていましたが、迷宮に入ってからずっとお預けでしたので絶対に成功させますよ!ここ最近は良い事づくめです!!膝枕然り、あ~ん然り、そして添い寝。常識なんて幾らでもぶっ壊してみせましょう!

 

レミアの足に巻かれた包帯を解いていくと、火傷の痕が大きく、どれだけ酷い攻撃を受けたのかが容易に想像が付いた

 

「予想はしていたが、・・・酷いな」

 

「神経が焼け焦げたのね」

 

怪我を負ってから治療等したのだろうが、それでも酷い火傷痕だった。深月は、足を指で押して感覚の有無を再度確認したが、結果は言うまでも無く駄目だった

 

「香織さんの診察ではどの様に表示されましたか?」

 

「えっと・・・"傷は癒せても足は動かない"って」

 

「話は変わるのですが、腕が切り飛ばされたりした人を回復させた事はありますか?」

 

「欠損は無理だよ!?」

 

「あぁ、欠損ではありません。切り飛ばされた腕を引っ付けた事はあるのかという事です」

 

「さ、流石にそれはないよ・・・」

 

「怪我で腕が動かなくなった方を治癒は?」

 

「それは大丈夫。ちゃんと傷も無くなって、腕や足も動いていたよ」

 

「神経細胞は回復出来るという事ですね。それでも回復できないという事は、原因は二つだけですね。ですが、先ずは回復が一番です。香織さん、レミアさんの治癒にどれ程時間が必要ですか?」

 

「長くて三日・・・早ければ二日だと思う」

 

「分かりました。三日でお願いします。いつも通りではなく、小さな細胞も思い浮かべながら回復をお願いします。―――――という事ですので、レミアさんは安静にして下さいね?無理にでも動こうとすれば治るものも治りません」

 

「えっと・・・家事は――――」

 

「ママ!深月お姉ちゃんがつくるごはんとってもおいしいの!」

 

「足が完治するまでの間は、深月に任せるわ」

 

「かしこまりました。レミアさん、家の中にある物も使わせて頂きます」

 

深月は、レミアに家の中にある物の使用許可を取り溜まっている洗濯物へと取り掛かって行った。その間ハジメ達は、レミアにミュウと出会ってからの事を包み隠さず説明する

 

「本当に、何とお礼を言えばいいか・・・娘とこうして再会できたのは、全て皆さんのおかげです。このご恩は一生かけてもお返しします。私に出来ることでしたら、どんなことでも・・・」

 

未だに宿泊先が決まっていないハジメ達にレミアは、家の中を使って欲しいと提案する

 

「どうかせめて、これくらいはさせて下さい。幸い、家はゆとりがありますから、皆さんの分の部屋も空いています。エリセンに滞在中は、どうか遠慮なく。それに、その方がミュウも喜びます。ね?ミュウ?ハジメさん達が家にいてくれた方が嬉しいわよね?」

 

「?パパと皐月ママ、どこかに行くの?」

 

「母親の元に送り届けたら、少しずつ距離を取ろうかと思っていたんだが・・・」

 

「ハジメ、レミアさんの言葉に甘えましょう。ミュウもパパ達と一緒に居たいわよね?」

 

「うふふ、皐月さんの言う通りですよ。パパが、娘から距離を取るなんていけませんよ?」

 

「いや、それは説明しただろ?俺達は・・・」

 

「ハジメが懸念する通り、ミュウと別れる時に泣くわ。でも考えてもみて?距離を取ってからのさよならをされたミュウの気持ちを。きっと自分を責める後悔ばかりする筈・・・それだったら、再会を約束して別れた方が幾分かマシでしょ?」

 

「・・・まぁ、それもそうか・・・」

 

「うふふ、別に、お別れの日までと言わず、ずっと"パパ"でもいいのですよ?先程、"一生かけて"と言ってしまいましたし・・・」

 

レミアの少し赤く染まった頬に片手を当てながらおっとりした微笑み。普通なら和むものだろうが、ハジメの"後ろ"にブリザードが発生する

 

「そういう冗談はよしてくれ・・・空気が冷たいだろうが・・・」

 

「あらあら、おモテになるのですね。ですが、私も夫を亡くしてそろそろ五年ですし・・・ミュウもパパとママも欲しいわよね?」

 

「ふぇ?パパはパパだしママもママだよ?」

 

「だってさ?」

 

ハジメに肘打ちする皐月を見たユエとシアとティオは驚愕しており、香織は更に冷たい空気を生み出していた。深月は自分が対象になっていないので、気配を溶け込ませて買い出しの為に家から出た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お嬢様・・・ミュウさんのママになりたいから外堀を埋めましたね。ハーレムがどんどんと築き上げられています。・・・お嬢様は何人まで許容するのでしょうか?人数によっては、ハジメさんに滋養強壮の食事を提供しなければいけません

しかし、新鮮な魚介類は見当たりませんね。冷蔵技術が全く普及していない事を考えるなら当然と言えば当然ですよね。・・・直接取りに行きましょう

 

食材の購入を諦めた深月は、潜水艇の場所まで戻り沖へと出港した。沖に出た事で魔物との遭遇は当たり前なのだが、その悉くを退ける。特に酷いのは、鮫に似た魔物だ。遠距離から魔法で攻撃する嫌らしさだが、魔力糸で滅多切りにする事で全てをかき消して深月に乱獲されたのだ。因みに、鮫形の魔物は丁寧に一体ずつ凍らされている

鮫形の魔物を乱獲した次は、トビウオに似た魚が飛び交っていたのでそれも収穫。再びエリセンへと戻った深月は、メイド服を脱いで水深がほどほどの場所で昆布に似た海藻を収穫して、ついでに自身より大きいタコ擬きの急所を黒刀で一突きして仕留めた。ホクホク顔で海上へと上がり、体と昆布擬きを乾かしてメイド服を装着。タコは鞘付きの黒刀でぶら下げ、ハジメ達の元へと帰宅する。尚、深月の持っているタコを見た者達は気持ち悪い物を見た様な表情をしていた

 

「ただいま帰りました。美味しいものを大量収穫ですよ♪」

 

「おか・・・えり」

 

「おかえ――――にぎゃああああ!気持ち悪いです!」

 

「おか―――って、もしやその様な物を!?」

 

「おかえりなさい・・・な・・・の」

 

「深月さん、おかえり・・・な・・・さい」

 

トータス組の歯切れが悪く、全員がタコの存在感に引いていた。姿が気持ち悪く、食べない獲物の代表格である。しかし、地球組のテンションは爆上がりである

 

「よっしゃあ!久しぶりにタコを食べれるぜ!」

 

「タコ・・・タコ・・・・・はっ!タコ焼き!」

 

「お刺身でも良いかな~♪」

 

ハジメはガッツポーズを取り、皐月は深月が持つ宝物庫から熱に強い鉱石を取り出して錬成を、香織はトータスに来て以来食べていない刺身に期待をしている

 

「あの・・・それは美味しくないのですが」

 

「ヌルヌルでおいしくなかったの!」

 

食べた事があるのだろうか、レミアとミュウの反応はいまいちであった

 

「大丈夫だ。深月が調理すれば、ある程度は食べれる」

 

「出来た!タコ焼きプレート完成したわ!」

 

「あれ?たこ焼きには片栗粉が必要じゃなかったっけ」

 

「「なん・・・だと・・・!?」」

 

四つん這いで絶望しているハジメと皐月に追い打ちを掛ける様に深月からの追撃が入る

 

「片栗粉が無ければトロふわに出来ませんからね」

 

更に絶望したハジメと皐月は、暗い空気を作り出す

 

「あの・・・フューレンで購入したイモを使えば片栗粉は作れますよ?」

 

「「本当!?やった!」」

 

「今回は手伝ってくださいね?」

 

胃袋を握られているので、深月には逆らえないハジメ達。イモを摩り下ろして、布で包める様真ん中に設置。その後、水の入った容器の中に漬ける。十分程で布を絞って水から取り上げて数十分放置。沈殿した物を流さない様に上層の水を捨てて、再び水を入れてかき混ぜて放置。これを数回繰り返して、容器の水を完全に捨ててほぼ完成。最後の仕上げで、深月の熱量操作で乾燥させて出来上がりである

その間に仕込むタコ。滑り取りは粗塩なのだが、異世界で塩は貴重。そこで、ウルの町で手に入れた米ぬかを代用するのだ。異世界では畑の肥料にするしか使い道の無い物でも、立派な滑り取りの材料なのだ。しかも、タコに要らぬ傷が付かないのが一番良い所だろう。吸盤一つ一つ、丁寧に洗って石を落とす。後は茹でるだけである。タコ足が大きいので、先端は最後に投入する様にゆっくりとお湯に投入。数秒して氷水に近い温度まで下げた冷たい水に投入して熱を冷まし、まな板の上に取り上げて一口大にカット。そこで、待ちきれないご様子のハジメ達にカットしたタコと醤油擬きを渡して調理場から遠ざける

 

「ヒャッハー!タコだタコだ!刺身だぁ!!」

 

「美味い!」

 

「お刺身美味しいよぉ」

 

「モチモチ♪」

 

「弾力凄いですぅ!」

 

「んほぉおおおおお!噛めば噛む程、旨味の暴力が襲うのじゃあああああ!」

 

「おいしいの!」

 

「下処理だけでここまで変わるなんて・・・怪我が治ったら深月さんに料理を教えてもらいましょう」

 

凄まじい勢いで無くなっていく刺身。深月は、タコ足を茹で終えたお湯を一口飲んで出来立ての乾燥昆布を投入。本来なら時間を掛けて作った方が良い出汁が出るのだが、そこは妥協するしかないのである。昆布の出汁が出終えたら、火を止めて生地作りに移行する。小麦粉、片栗粉、タコ汁の昆布出汁、醤油、水を投入して泡立たない様に切る様に混ぜる。タコと生地の処理をしていた間に鍋で煮ていたトマト擬きのソースも完成していた。醤油とハチミツ、トレント擬きの果汁を少し入れて疑似オタフクソースの完成である。マヨネーズは卵、お酢、塩の三点セットである。ソース類の制作も終わり、タコ焼きプレートも程よい熱を持ち準備万端

 

生地とタコだけでは味気が無いので、みじん切りにしたキャベツ擬きを混ぜ合わせます。こうする事で、冷めた時にタコ焼きの生地が萎むのを防げますし、球を反しやすいのです

 

キャベツ擬きを混ぜ合わせた生地をプレート七分目まで入れて、素早くタコを投入して生地を再び流し込む。並々まで入れ、生地の色が少し白くなったら魔力糸の串で一つ一つのブロックに区切り、綺麗な玉になる様に折り込みながらクルッと回転させる。焦げない一歩手前の焼き加減。サササッと素早くひっくり返して、反対側も焼いていく。時々生地が繋がらずにバラけそうなやつもあるが、繋がり部分を焼く事で崩れる心配は無い

 

後は、生地の焼け具合を見ながら火力の強い所と弱い所を入れ替えて焼くだけですね。油は勿体ないので最後の方に少しだけですね。一気に五十個焼きは初めてでしたが、上手くできて良かったです。個別皿よりも大皿の方がインパクトもありますので用意を―――――

 

深月がお皿を出そうと振り返ると、刺身を食べ終えたハジメ達が後ろに待機していた

 

「もうすぐ出来ますのでお待ち下さい」

 

飢えた獣達を追い払いながら大皿を取り出して盛り付け、ソース等をかけて出来上がりである。オタフクソース擬きとマヨネーズしかないのが残念だが、それだけでも十分すぎる程の出来栄えだ。子供のミュウと足が動かないレミア用に小皿を二つに、一人二本の爪楊枝を人数分取り出して完璧である

 

「タコ焼き擬きの完成です。出来立てで中がとても熱いので、火傷しない様に焦らず気を付けて食べて下さい。それと、これはジュースです。さっぱりの柑橘系ですので、お口直しには丁度良いと思います」

 

宝物庫からキンキンに冷えた柑橘ジュースを取り出してテーブルの上に、人数分のコップも忘れず各自の前に置く

 

「私はこれから追加分を焼くので直ぐにはおかわり出来ませんのでご注意を」

 

再びキッチンへと潜る深月を見て、ハジメ達はあつあつのタコ焼き擬きを食べる

 

 

 

 

 

うまあああああああああああああああい

 

 

 

 

 

お決まりの叫びを上げて食べ進めるハジメ達であった。深月はせっせと作っては持って行き、作っては持って行きと繰り返す事五回。・・・・・はっきり言って食べ過ぎである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして、深月の美味しい手料理を食べながら三日。レミアの足の傷は完全に治り、後は動かすだけとなった。レミアを仰向けに寝かせて触診する深月

 

「それではレミアさん、再び診察です。足の感覚はどうですか?」

 

「・・・すみません」

 

「なるほど・・・指圧でも感覚が無いという事は、やはり電気信号の類ですね。少し失礼致します」

 

深月は、ポケットからアザンチウム鉱石印の針を数本出して煮沸消毒する

 

「今から針を刺しますのでご了承下さい。大丈夫です、血が出にくい所に刺しますので」

 

用意した針は物凄く細く、圧縮錬成で更に硬度高めた逸品だ。トントントンっと軽く叩きながら針を刺すこと計十四本。針の上には紐が結ばれており、全て深月の手に集められている

 

「ふぅっ――――――。では、目を閉じてリラックスして下さい」

 

言われた通り目を目を閉じて体の力を抜くレミア。それを確認し終えた深月は、更に指示を出していく

 

「次は歩くイメージをして下さい。怪我をする以前―――――普通に、当たり前に歩いていた時を思い出して下さい」

 

気力操作で深月自身の気をレミアの足に送り込む。糸から針へと両足全てに行き渡った事を確認した深月は、一定のリズムで気を送り、止めてを繰り返す。すると、レミアが直ぐに変化を感じ取った

 

「あっ―――――足が温かいのかしら?トン、トン、トンと一定のリズムを刻んでいるわ」

 

「それは上々。このまま歩くイメージを止めないで下さい」

 

深月は、気を送りながら纏雷で超微力な電気を混ぜ合わせて送り込む。さながら電気ショッカー。深月が電気を流す事で、レミアの足の筋肉が少しずつ動き始める

 

「それでは、一、二の、三で眼を開けて下さい。いきますよ?一、二の――――」

 

三を言う前に、超微力だった電気を少しだけ強くして流した

 

「さ―――――痛っ!?」

 

足が跳ね上がり、電気の痛さに涙目になったレミア。だが、次に感じた感覚に呆然とした。それは、足がソファーに落ちた感触があったからだ。呆然としながらも足を動かすレミア

 

「足は動きましたね。これにて治療は終了です。お疲れさまでした」

 

レミアの足に刺していた針を抜いて、回収する深月。こうして、レミアの足の治療も終わったハジメ達一行は、メルジーネ海底遺跡の探索の準備へと取り掛かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「次は海底遺跡へレッツゴー!」
深月「レミアさんの治療も終わりましたので、攻略に集中しましょう」
布団「そして、メイドさん無双ですね。作者はそう思います」
深月「感想や評価等、お気軽にどうぞです♪」
布団「田植えはまだ終わらない。終わるのは・・・7月頃だ!それまでは許して下さい」





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王都と海底遺跡と神山
試練・・・メイドは問題なしです


布団「や、やっと書けた( ;∀;)」
深月「お仕事の進捗状況は如何ですか?」
布団「雨の日だから一時お休みで久々に筆が進んだよ」
深月「左様で御座いますか。読者の皆様方もお待ちでしょう」
布団「それでは、はっじまるっよ~」
深月「ごゆるりとどうぞ」







~皐月side~

 

レミアの治療も終わり、メルジーネ海底遺跡への攻略を開始するハジメ達。ミレディから、事前情報で月の光をグリューエンの証に集める事が分かっていたので入り口は直ぐに見付けることが出来た。途中で襲い掛かる魔物達は、新型魚雷の餌食となったのである

 

「トビウオ擬きね」

 

「だな」

 

「・・・ミンチ」

 

「死んだ魚の様な目です」

 

「シアよ、死んでいる魚じゃぞ?」

 

「随分と凶暴なトビウオだね」

 

「そのトビウオ擬きを刺身に出来ますが・・・食べますか?」

 

「「「「「食べる(わ)(ですぅ)(のじゃ)!」」」」」

 

手早く解体して皿に盛りつけて出来上がり。その時間僅か三分

潜水艇を運転しながら醤油を付けて食べるハジメ。続く様に皐月達も食べる

 

「トビウオ擬き・・・やるじゃねぇか」

 

「青魚みたいな見た目だから特有の味があると思ったのだけど、意外と淡白でさっぱりした味わいなのね」

 

「地球でもトビウオの刺身は提供されていますよ?」

 

「そうなの?私見た事ないよ」

 

「スーパー等でもトビウオは売られていますが、刺身で提供される地域は限られています」

 

「・・・海辺?」

 

「美味しくなくなるんですか?」

 

「出来立てに勝るものはないからのう」

 

皆が刺身に夢中になっていると、いきなり海流の流れが変わって潜水艇を大きくグルングルンと揺らす。だが、新実装した船底の重力石で船体を安定させる事で落ち着きを取り戻した。しかし、それでもダメージはある

 

「うっ、このぐるぐる感はもう味わいたくなかったですぅ~」

 

「直ぐに立て直しただろ?もう、大丈夫だって。それより、この激流がどこに続いているかだな・・・」

 

洞窟内に流れ込む奔流に任せて進む。道中に居た魚群の魔物は魚雷でミンチに―――――変わり映えの無い景色を見ながら進んで行くと、見た事のある破壊痕とミンチされた魚の破片があった

 

「・・・ここ、さっき通った場所か?」

 

「迷路って感じゃなかったから、繋がっているのね」

 

「・・・ぐるぐる周ってる?」

 

「扉の鍵が必要となるのでしょうか?」

 

「もう一度周ってみた方が良いわね」

 

皐月の提案を採用して、探索する様にゆっくりともう一周りするハジメ達。ほとんど変わり映えの無い洞窟だが、それでも目印はあった

 

「あっ、ハジメくん。あそこにもあったよ!」

 

「これで、五ヶ所目か・・・」

 

洞窟の数ヵ所にメルジーネの紋章が描かれており、円環状の洞窟の五ヶ所

 

「まぁ、五芒星の紋章に五ヶ所の目印、それと光を残したペンダントとくれば・・・」

 

「ペンダントが鍵になるのはお約束ね」

 

ペンダントのランタンの光が紋章に伸びる。そして、光が紋章に当たると、紋章が一気に輝きだした

 

「これ、魔法でこの場に来る人達は大変だね・・・直ぐに気が付けないと魔力が持たないよ」

 

「未だランタンに光があるって事は、残りの四ヵ所にも同じ様にしろって事ね」

 

再び周りながら紋章にランタンの光を当てて光らせる。皐月の予想通りランタンの光は徐々に少なくなってきていた。四つの紋章を光らせ、最後の紋章に光を注ぐと、円環の洞窟から先に進む道が開かれた。縦真っ二つ別れ、真下へと通じる水路へ潜水艇を進める。すると、突然、浮遊感を感じた瞬間に落下する

 

「おぉ?」

 

「んっ」

 

「ひゃっ!?」

 

「ぬおっ」

 

「はうぅ!」

 

「落下ですか」

 

六人の反応は様々だった。だが、一人だけインパクトが違う

 

「にゃああああああああああ!?」

 

それは、皐月である。乗り物による落下は超苦手で、グリューエン大火山のマグマ下りもそうだった。フワッと感じる瞬間に訪れる落下の衝撃。ズシンッ!と轟音を響かせながら潜水艇が硬い地面に叩きつけられたのだ

 

「皐月、香織、無事か?」

 

「もう嫌・・・こんなのばっかりなんて・・・・・」

 

「うぅ、だ、大丈夫。それより、ここは?」

 

「ドーム状の空洞ですね。恐らく、ここからが本番という事でしょう」

 

「魔物の反応も無いな」

 

「・・・全部水中でなくて良かった」

 

一行は潜水艇から出て、ハジメが宝物庫に戻すしながら奥の様子を見る。すると、天井にびっしりと生えているフジツボ擬きがあった

 

「ここから進んだらフジツボ擬きの攻撃が来るって事だろうな」

 

「恐らく、真上だけじゃなく斜めからの攻撃もあると考えた方が良いわね」

 

「私の出番」

 

ユエは障壁を展開。それを確認し終えたハジメ達は、迷宮へと第一歩を踏み出す。すると、頭上から水を圧縮したレーザーが降り注いだがユエの強力な障壁を貫通するまでの威力は無く、ハジメ達が動揺する事はない。しかし、香織だけはそうではなかった

 

「きゃあ!?」

 

香織は、突然の激しい攻撃にビックリしてよろめいて、ハジメが手を引っ張って傍に引き寄せる

 

「ご、ごめんなさい」

 

「いや、気にするな」

 

普段の香織ならここで赤面するのだが、ここは迷宮内部―――――表情は優れず、少しだけ落ち込んでいた。そんな香織の様子を見つつ、絶え間無い猛攻が続くこの場所を移動する。助けられた時から分かっていた事だが、今の自分が居る事で劣等感をより一層感じていたのだ

 

「どうした?」

 

「えっ?あ、ううん。何でもないよ」

 

「・・・そうか」

 

不甲斐ない――――香織が感じたのはその一つだけだ。ユエの魔法の技量は自分よりも上だとは分かっていた。しかも、予想よりも遥かに上回っているのと、いきなりの攻撃にビックリしてしまったという二つ。表層ではあるが、天之河達と攻略していたオルクス迷宮で培った技量なんて子供遊戯と同等に思える

 

「あのフジツボって食べれたりするのかねぇ」

 

「食に走るのは良いけど、今回は無しよ。ミレディの情報では、再生魔法を使う人の迷宮だから敵が復活する恐れがあるわ」

 

「・・・地球に帰ったら食べるか」

 

ハジメと皐月の二人は、しょうもない事を言いつつも警戒を一切解かずに歩を進めている。ティオは火炎で天井に貼り付いているフジツボ擬きを焼き払っている

フジツボ擬きを一掃し終え、奥へと続く道を進む。道中でハジメ達を襲う魔物達は居たが、全てを粉砕して苦も無く道のりを進んで行く。あまりにも不気味な迷宮の道のりを前にハジメと皐月はいつも以上に警戒している

 

「おかしいな」

 

「そうね」

 

「え?どこかおかしい所があった?」

 

香織以外は迷宮の様相に疑問点が尽きなかった。あまりにも呆気ない・・・これでは試練と呼べる物が何一つとして無い

 

「再生に司る魔物も居ないし、環境変化も無い。本当に大迷宮なのか疑いたくなるわ」

 

「入口のギミックは・・・まぁ分かる。だが、落ちた所からここまでの道のりで目印なり変化の一つも無いのはな・・・」

 

「・・・不気味すぎる」

 

「火山の魔物よりも弱いですね」

 

「何かしらの罠が設置されていてもおかしくはないのじゃが」

 

「そ、そうなんだ・・・」

 

しばらく進むと、広い空間へと出たが何一つ変化が起こらない。不気味さがより一層強くなった

 

「おいおい、流石にここまで苦も無くってのはありえないだろ」

 

「魔人族と言いたいけど、何一つ痕跡が無いからその可能性は限りなく低いわね。魔物の反応も全然無いし・・・いったいどういう事なのよ」

 

「広い場所に出ただけ」

 

「分かれ道なんて無かったですぅ」

 

「入り口は複数あったのかの?」

 

「あ、ちょっと待って。この下が空洞になっているわ」

 

「空洞か・・・だったらぶち抜くしかないな!」

 

ハジメは宝物庫からパイルバンカーを取り出して設置してチャージ。深月は、ぶちあけた穴に勢いよく流れ込むであろう海水と下層の現状が分からない事から全員の腰に魔力糸で結ぶ。これで余程の事が無い限りは大丈夫だろう。魔力糸がちゃんと縛られているか再度確認し終えたと同時にチャージも完了。ハジメは迷う事無く打ち込んだ。大穴が空いた事で足元に溜まっている海水が勢いよく流れ込み、ハジメ達も一緒に落ちていく

下層でハジメ達を下で待っていたのは、まるで嵐のような滅茶苦茶な潮流だった。噴き出たり流れ込んだりしている光景で、逸れたら間違いなくめんどい展開だった。だが、深月が事前に全員を魔力糸で繋いでいた事でこの難を逃れることが出来たのだ。深月が先頭となる様に結ばれているので、重力魔法で斜め下へと下っている場所に向かって方向転換をする。深月に続いて一人、二人、三人と流れ込む事で全員が一緒の場所へと流されて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

全員が芋づる式で流れ込む事に成功したハジメ達。先程の落下地点よりも流れが弱いものの、普通の人からすれば危険極まりない程の流れだ。しかし、その勢いも徐々に弱くなって、広い水溜まりでその勢いは完全に止まった

深月によって離散の危機を回避する事が出来た一行は、水溜まりから出て陸地へと移動。ずぶ濡れの服で風邪をひく事もあるが、深月が熱量操作で全員分の服を乾かす

 

「いやぁ~、落ちた先があそこまで入り組んでるとはなぁ」

 

「ユエの水流操作で大丈夫だと思っていたけど、あれ程の激流の入り乱れだと難しかった筈よね」

 

「凄い流れだった」

 

「ホントですよ!深月さんが全員分を結んでいなかったと考えるとゾッとします」

 

「試練の内容が個々となる様に造られていたと思うと・・・制作者には申し訳ないのう」

 

「深月さん、ありがとう」

 

「海底遺跡なので何処かしかに水が流れ込む場所が有ると予想は出来ていました。ちゃんと対処出来てなによりです」

 

服も完全に乾いた事で周囲の様子を観察すると海底遺跡の名の通り、周囲にはボロボロになった建物が幾つも並んでいた

 

「こんな所に建物か・・・住む環境から考えると絶対にお断りしたい場所だな」

 

「海面の上昇という事はありえないね。もしそうだったとしたら、先兵を送り込まれる可能性もあるし・・・」

 

「えっと・・・その先兵ってどのくらい強いの?」

 

香織は先兵の強さをあまり理解出来ていなかった。恐らくステータス的に5000~8000辺りだと予測しているのだ。ハジメが言葉を発しようとした瞬間、周囲の景色がグニャっと歪んだ事に気付いた一行はより一層警戒を高める

 

「景色が変わったわね。廃墟だった筈の建物が綺麗になっているわ」

 

ハジメ達は、皐月の視線の先を確認すると先程までオンボロの廃墟が綺麗に立っていたのだ

 

「再生魔法・・・という事は、ここから先が本当の試練って事か」

 

「全員気を引き締めて行動するわよ。再生する魔物が出てくる可能性が大よ」

 

「凍らせて動けなくする」

 

「ぶっ飛ばすですぅ~!」

 

「再生も出来ん程に燃やすだけじゃな!」

 

「回復は任せて!」

 

ゆっくりと全方位を警戒する様に歩を進めると、目先に一際大きい石の柱が立っていた。その石の表面には小さく文字が書かれており、石碑と判断して何かしらのヒントがあるかもしれないと思い近づくと

 

――――うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

――――ワァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!

 

「ッ!?なんだ!?」

 

「皆!周りがっ!」

 

「迎撃準備!」

 

突然、大勢の雄叫びが聞こえた事に驚きつつも攻撃態勢へと切り替えたハジメ達。すると、ハジメ達が立つ石碑を中心に周囲に兵士が現れて魔法で攻撃を放ってきた。ハジメと皐月がドンナー・シュラークで迎撃をしたが、炎弾をすり抜ける形で攻撃を撃ち落とせなかった

 

「私が防ぐよ"光絶"!」

 

香織の光系初級防御魔法の障壁を出現させる。ハジメと皐月の放った弾丸がすり抜けた現象がこの障壁にも適応されると香織が怪我を負う可能性があるので、ハジメが壁になる様に前に出て金剛を発動させる。炎弾が近づき障壁にぶつかると、普通に防ぐことが出来たのでそこから予測をする皐月

 

「魔力は干渉するけど、レールガンの弾丸は素通り・・・純粋な魔力だけの攻撃や防御なら大丈夫という事かしら?」

 

ハジメは皐月の予測を元に、風爪で再び迫り来る炎弾を迎撃すると真っ二つにする事が出来た

 

「皐月の推測通りだな。これらの攻撃は実体を持っているが、魔力オンリーの攻撃でしか打ち消せないって事だな」

 

「・・・防ぐ?」

 

「いや、迎撃だ。この迷宮の試練がこの幻影?を打ち倒す事が前提なら意味がない」

 

「あの~、今回も私の出番が無いんですね・・・」

 

「シアは物理攻撃オンリーじゃからのう」

 

周囲から襲い来る魔法の礫を撃ち落とすハジメ達。すると、今度は人が現れて攻撃を仕掛けてきたのだが

 

「全ては神の御為にぃ!」

 

「エヒト様ぁ!万歳ぃ!」

 

「異教徒めぇ!我が神の為に死ねぇ!」

 

兵士達が眼を血走らせ、涎を垂らしながら狂気の雄叫びを上げながら襲い掛かって来たのだ。皐月は、ドンナー・シュラークを構えて発砲。本来なら弾丸が撃ち出されるのだが、魔力放射と魔力圧縮で作られた魔力の弾丸が兵士達を襲う。一発目で兵士の頭部を撃つ事で光の粒子となって消えた事を確認し終えると、衝撃波の派生技能の拡散を込めて一発一発の攻撃範囲を広げて撃ち込む事で殲滅力を高める

 

「まさか、お蔵入りとなったこの攻撃が使う時があるとはね」

 

「非殺傷だが、威力が弱いからな」

 

ユエとティオも魔法を使い攻撃を開始する。蹴散らしながら歩を進めていると、大怪我をしている青年が倒れており香織が回復魔法を行使すると光の粒子となって消えてしまった

 

「魔力オンリーなら何でも良いって事か」

 

「香織、範囲回復魔法で近づく敵を一気に倒せる?」

 

「取り敢えずやってみるよ!」

 

範囲回復魔法の回天でハジメ達を中心に十メートル程の距離に回復魔法を行使すると、近づく兵士達の悉くを光の粒子へと変えた。ハジメは、遠くの方で争っている兵士達を観察していると名前の違う神を信仰する者達が争っており、皐月もそれに気づいている様子だった

香織の魔力も限界に近く肩で息をしていた為、ユエとティオの二人と交代する。ハジメと皐月→深月→ユエとティオ→深月→香織のローテーションで押し寄せる狂信者の兵士達を倒す。だが、長時間に及ぶ狂信者達との交戦は慣れない者達の精神をゴリゴリと削っており、最終的にハジメと皐月と深月の三人の迎撃と化していた。表情には出ていないが、ハジメと皐月もかなり疲弊している。一方で、深月は疲れた様子が皆無だった。一帯の兵士達の殆どを倒し終えたハジメ達は、改めて狂信者達の歪さに気分を悪くする

 

「疲れた。・・・敵を倒すのはいいんだが、気持ち悪い奴等が大量だったから意気消沈だな」

 

「まさか、あれ程まで狂っているとは思ってなかったわ」

 

「う"っぷ・・・ごめん・・・ちょっと・・・・・」

 

R-18が生ぬるく感じる程の光景に、顔を青ざめて嘔吐する香織。ハジメ達と行動を共にする前までは、魔物相手と戦っていただけだ。しかも、日本という平穏な日々を送り、人の闇に一切触っていなかったから余計である

「エヒト様!我が心臓を捧げます!」と言って嬉々として自分の心臓を抉り取る者や、「アルヴ様ばんざああああい!」と言って自爆特攻する者、「エヒト様の為にいいい!」と言って物言わぬ死体を壁にして突撃する者と様々だった

 

「・・・香織よりマシだけど、それでもキツイ」

 

「怖すぎますよぉ~」

 

「妾もあれは怖いと感じたのじゃ」

 

「・・・だけど、ハジメと皐月と深月はすごい」

 

「本当に頼りになりますぅ」

 

「ご主人様達は流石の一言じゃな」

 

「いや・・・俺達だって気が滅入ってたぞ?」

 

「表情にあまり出さなかったけどね。・・・でも」

 

皐月が深月に視線を向けただけで全員が察した。思う事は唯一つで、「何故平気なんだ・・・」この一言に尽きる

 

「どうかされましたか?」

 

「いや、何でもない」

 

「深月のメンタルは超合金・・・いや、アザンチウムで出来ているんだな~って」

 

「私の心は硝子ですよ?」

 

「「「「「「絶対に硝子じゃない(ですぅ)(のじゃ)!」」」」」」

 

冗談交じりのやり取りを終えて、続いている道へ進む先には大きな建物があり、その門をくぐると変化が直ぐに出た。まるでお化け屋敷の様で、建物の内部は薄暗くガラスが所々欠けていたり、カーテンの一部が破れていたりと色々だ

 

「試練だよな?」

 

「お化け屋敷かしら?」

 

「・・・血の手形」

 

ユエの言葉と同時にバンバンバン!と血の手形が壁に沢山着いていく。しかも、血が滴り落ちるおまけ付きで――――ホラーに弱い香織が皐月に引っ着く

 

「・・・邪魔なんだけど?」

 

「む、無理無理無理!私怖いの苦手なの!」

 

「はぁ~」

 

必死の形相でしがみつく香織の姿に溜息を吐いて、空いている左手のシュラークを構えて警戒を続ける。その後も続くホラーに、叫び声を上げる香織。その様子を見る深月は、羨ましそうにしている

 

チッ、お嬢様にしがみつくなんて羨ましいですね!この程度のホラーで悲鳴を上げて引っ付――――――いえ、待って下さい。私も何か弱点があれば引っ付いても良い筈・・・希望が湧いてきましたよ!さて、私に弱点・・・弱点・・・弱点・・・・・あれ?もしかしなくても皆無じゃないですか?

 

あの手この手で、超メイドとして特訓してきた事が仇となってしまったのだ。"怖い物があれば体験して慣れよう""苦手な物があれば喰らって克服しよう"の努力をし続けて、完璧に克服してしまったから弱点や恐怖が無いのだ

 

何か一つでも苦手な物を残した方が良かったです・・・

 

心で泣いた深月は、少しだけどんよりとしていた

 

「深月さんが落ち込んでいますが・・・何かあったのでしょうか?」

 

「・・・この迷宮に飽きたとか?」

 

「歯ごたえが無さすぎるのではなかろうか?」

 

ユエ達は分からないご様子。だが、ハジメは気付いていた

 

「いや、あれはただ単に羨ましがっているだけだな。偶~に目を細めて皐月の腕をチラ見しているだろ?多分、皐月の腕の抱き心地を想像したが、その光景が全くもって見えなかったのさ。完璧な超メイドを目指して弱点とか諸々を克服した自分ではあんな事出来ないって絶望しているんだろうよ」

 

我ながら名推理と少しだけ胸を張るハジメを見て、ユエ達は小声でぶっちゃける

 

「・・・ハジメ、それはちょっと」

 

「絶対に自分では気づいていないでしょうけど、言っている事は変質者のそれですよ」

 

「やはり、ご主人様は深月に好意を持っているのじゃ」

 

ハジメの危険極まりない発言に頭を悩ませる三人は、深月の方を見て「はぁ~」と深く溜息を吐いた

室内を進むにつれてホラー要素が満載だったが、ハジメのヤクザキックと深月の掌底で襲い来る人形や死体をバッタバッタと吹き飛ばしながら進む。途中で真っ暗闇となった部屋で香織を襲った死体が居たが、皐月のシュラークが火を噴いて死体蹴りの形で倒し終えた所で魔法陣が浮かび上がった

 

「転移の魔法陣ね」

 

「今度はどんな試練が待ち受けているのやら」

 

「・・・皆で行く」

 

「私の出番が少ないですぅ」

 

「さてはて、どうなるのかのう」

 

「私だってやれば出来るもん!」

 

「じゃあ、行くわよ」

 

ハジメと皐月と深月の三人を先頭に全員が同時に魔法陣の上に立つと、魔法陣が輝き一行を転移させた。だが、一行が予想していた結果とは違い、転移場所は解放者の拠点だったのだ

 

「呆気ないですね」

 

「言うな・・・」

 

「意気込んでいたのにこの落差は・・・」

 

ハジメ達は、あれ以上の試練が来るだろうと予想していたのだ。しかし、蓋を開けてみれば試練は終了というなんとも締まりのない終わり方だった。全員が神代魔法を手に入れる為に魔法陣の上に立つと、この迷宮で体験した事を事細かく思い出させながら刷り込みが終了した。二回目の狂信者との戦いを強制的に思い出されたユエ達は、先程よりも顔色を青くしていた。ハジメと皐月も少なからず表情に変化があったが、深月に関してはいつも通りである

 

「再生魔法を手に入れたのは良いが・・・」

 

「あの狂信者達との光景をもう一度見せられるとは思っていなかったわ・・・」

 

「・・・酷かった」

 

「あれをもう一度体験するとは・・・なんともじゃのう・・・」

 

「うっぷ・・・耐えられないです」

 

「皆ごめん・・・私も・・・もう無理」

 

シアと香織が皆から離れる際に深月がハジメお手製の宝物庫からバケツを二個取り出して手渡し、受け取った二人は壁際に行って胃の中身をバケツの中にぶちまけた。中身を殆ど出し終えた二人を見つつ、水・塩・砂糖の三つで出来る超お手軽経口補水液を飲ませる事で少しばかり表情が回復した

 

「うぅ・・・ありがとうございます」

 

「耐えられなくてごめんなさい」

 

「いや・・・普通の奴なら耐えられないから気にするな」

 

「私達は奈落で培った価値観があるからマシなだけよ」

 

全員の体長が回復し終えると同時に、床から小さな祭壇がせり上がって淡く輝き光が人の形を形成する。輪郭がはっきりすると、一人の女性―――――メイル・メルジーネが映し出された。エメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳から察するに、彼女は海人族と関係のある女性と分かった。オスカー同様、自己紹介と解放者達の真実を語り最後は攻略者達に向けての言葉だった

 

「・・・どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」

 

光は霧散して、彼女が座っていた祭壇の上の小さな魔法陣からメルジーネの紋章が掘られたコインが置かれた

 

「証の数も四つですね、ハジメさん。これで、きっと樹海の迷宮にも挑戦できます。父様達どうしてるでしょう~」

 

「ハジメさんとお嬢様の訓練でヒャッハーとしていると思いますよ?」

 

「デスヨネー」

 

死んだ目で、懐かしの家族の光景を思い出すシア。穏やかで温厚だった家族はもう居ない

ハジメは、宝物庫にコインをしまい込むと同時に拠点が揺れる。すると、周囲から水が一気にせり上がり始めたのだ

 

「おいいいいいいい!おっとりしているから優しく退場じゃねぇのか!?」

 

「見た目に反して過激なのね。油断したわ!」

 

「・・・んっ」

 

「わわっ、乱暴すぎるよ!」

 

「ライセン大迷宮みたいなのは、もういやですよぉ~」

 

「水責めとは・・・やりおるのぉ!」

 

「変態は口を閉じていなさい」

 

「んんっ!そのゴミを見る目が堪らん!!」

 

「破裂させますよ?」

 

「いや・・・それだけは勘弁願いたいのじゃ」

 

「ティオさんには後程淑女としての訓練を致しましょう」

 

ハジメは、宝物庫から小型酸素ボンベを全員に手渡して、深月は全員を糸で繋げる。酸素ボンベを装着したと同時に、天井部分がスライド。グリューエン大火山の様なショートカットが開いて、下から上へと押し上げる様に猛烈な勢いで上方へと吹き飛ばす

迷宮から追い出される様な形で海の中へと排出されたハジメ達。宝物庫から潜水艇を取り出して、全員が乗り込む事で落ち着きを取り戻した

 

「ふぃ~。ミレディもそうだったが、解放者の女性陣はこうも過激なやつばかりなのか?」

 

「かなり混沌な時代だったからそうなる他なかったんじゃない?」

 

ハジメ達一行は、海上へと浮上しながらエリセンへと帰還した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「今回の迷宮攻略はライセン大峡谷と同じぐらい早かったですね」
布団「ボスかと思われる魔物を先に倒しちゃったし・・・」
深月「逆に考えましょう。ミュウさんと一緒に居られる時間が増えたと」
布団「取り敢えず、次話も頑張って書くぞい」





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メイドはうっかりをやらかしてしまう

布団「ようやく田植え"は"終わりました。後は管理や片付けでてんてこ舞いです」
深月「誤字報告有難う御座います」
布団「頑張って書くから待っててね!」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」










~皐月side~

 

メルジーネ海底遺跡を攻略したハジメ達は、レミアの家で寝泊まりをしていた。ハジメの本音を零すなら、皐月と一緒にイチャイチャしたかった。しかし、皐月本人から「ミュウと別れてからよ」と言われて渋々従っている状態だ。一方で、皐月とレミアとミュウの三人で川の字になって寝ている。因みに、ミュウが寝てからは皐月がレミアと色々と話し合いをしている事をハジメは知らない

 

「という訳で、レミアさん――――いえ、レミアは大丈夫?」

 

「とても良い提案で嬉しいです。まさか、皐月さんから"お誘い"されるとは思いませんでしたよ?」

 

「ミュウだってハジメがパパになった方が嬉しいし、私だってミュウのママになりたい。"夜の戦力不足"を補うのは当然よ」

 

「シアさんとティオさんのお二人はどうされるのですか?」

 

「シアは確定で、ティオは・・・深月の淑女としての再教育が終了すれば入れる予定よ」

 

「一番の難関は深月さんですね」

 

「あの鋼鉄の深月をどうやって引き入れるかは、ハジメの力に頼るしかないわ」

 

「フフフッ、ハジメさんは無意識で深月さんを目で追われていますね」

 

私が何をしたかって?迷宮から帰ってから本格的にレミアとお話ししただけよ!それはさておき、海底遺跡から帰還してほぼ一週間。深月が食を豊かにする為の回収なり制作なり色々と行っている中、私達はミュウとのスキンシップを沢山しているわ。何故なら、明日はここを出立するからよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、ミュウと一緒にハジメを起こしに行くとユエと二人で裸で寝ていた。ミュウが、「どうしてはだかで寝てるの?」と皐月に尋ねて来た時には物凄く頭を悩ませたのは言うまでもない。一旦ミュウをレミアに預けた皐月は、二人に拳骨を落として怒髪天の如く説教した。尚、扉の隙間越しにハジメ達の様子を見ていたミュウが怖がっていたが、深月が回収しながら「他所様のお宅で裸で寝るのはいけませんよ?」と駄目な大人の仕業という事で納得した

 

あんの二人は・・・今日はミュウとのお別れのでしょうが!イチャイチャするなとは言わないけど、レミアのお家で裸で寝ないでよ。レミアは、「あらあら~、皐月さんを置いて大丈夫なのですか?」といたずら風に言っていたから気にしていないだろうけど

 

「はぁ~」

 

「あ~・・・その・・・・・すまん」

 

「ごめんなさい」

 

「そっちじゃないわよ。流石にもうそろそろ出発しないといけないからミュウにどうやって切り出そうかと思っているのよ」

 

「あの無言の懇願はなぁ~」

 

「特に深月に何回もお願いしていたのは用意周到ね。確実に外堀を埋めようとしていたわ」

 

「俺達、深月に餌付けされているからな」

 

ミュウは、ハジメと皐月を引き留めようとあの手この手で工夫をしていたのだ。特に、旅をしていて気づいていた深月の存在。難攻不落だが、攻略すれば確実にハジメ達は留まると分かっていたから同時攻略をしていたのだ。だが、結果はのらりくらりと躱され、話の流れを変えられ、逆に説得されてしまう程だった

 

「ミュウには一旦のお別れだから我慢してもらうわ。地球に帰る時には二人を連れて行ける様に模索すれば良いのよ」

 

「ん?ちょっと待て。二人?」

 

「レミアとミュウだから二人よね♪」

 

「待て待て待て!これはあれか?未亡人を地球に連れて行って、そこで暮らさせるという事か?」

 

「ハーレム要員が増えるという事よ」

 

「なん・・・だと!?」

 

「バカな!?」

 

「え?ハジメは驚くのは分かっていたけど、ユエが分からなかったってホント?」

 

そこに、新たな声が三つが待ったを掛ける

 

「ちょ~っと待ってくださぁああああああい!」

 

「待つのじゃ!シアと同じく待つのじゃあああ!」

 

「待って!私は!?」

 

シア、ティオ、香織の三人だった

 

「レミアさんが良いのなら私は良いですよね?良いですよね!?」

 

「そうじゃ!妾だってご主人様の事を一番に好いておるのじゃぞ!」

 

「私だってハジメ君が好きな気持ちは誰にも負けないよ!」

 

「シアは良いに決まっているでしょ。ティオと香織は条件満たしていないから駄目よ。答えはちゃんと自分で見つけないとね?レミアは、流石未亡人と言うべきか・・・あっさりと条件を取得して納得したわ」

 

「よかったですぅ~。私が駄目だったらどうしようかと思いましたよぉ~」

 

「シア!条件とは何じゃ!妾にも教えて欲しいのじゃ!!」

 

「私も教えて欲しいな?」

 

「ヒィッ!?だ、だだだ駄目です!私だって自分で気付いたんですぅ!それに、教えたら皐月さんから拒否されるに決まっています!!」

 

「教えちゃ駄目よ?もしも告げ口をしたら―――――両者共にハーレム要員から永久に外すわ」

 

ギロリと皐月が睨みつける事でタジタジになったティオと香織は、シアから離れて必死に考え始めた

 

「こればかりは自分で気付かないと駄目なのよ。"恋は盲目"―――――二人は正にこれよね」

 

「あっれ~?私より分かりやすいヒントじゃないですかぁ~?」

 

「大丈夫、直ぐには気付かないわよ。もしも気付かないなら、その程度の想いでしかなかったという事よ」

 

「・・・いつ気付くか楽しみ」

 

朝食を食べ終えた一行は、ミュウと一緒に水中鬼ごっこを楽しんでいた。(※全員ビキニタイプの水着を着用)

ステータスチートの権化のユエ達から逃げているミュウの表情は笑顔で、一緒に逃げている皐月もまた笑顔だ。鬼は皐月を除いた四人だ。因みに、深月は相変わらず食料調達をしている

 

ふむ、海人族だけあって泳ぐのが上手ね。しかも早いわ。私のステータスチートで並走出来ると言えば分かりやすいかしら?因みに、私達が身に着けている水着は深月お手製よ。フッ、四人共甘々ね。私とミュウのペアが負けると思っているのかしら?

 

スイスイと泳いで躱す皐月とミュウを必死に追う四人。皐月は、ハジメの方をチラッと見るとレミアと一緒にお話をしていた

 

うふふふ♪大人は余裕があるわね。大方、地球に着いて行く事を話しているのね。って・・・私の視線の先に気付いて嫉妬しているお馬鹿な二人ね

 

ハジメの方へと泳いで行くティオと香織を追う様に、皐月達も泳ぐ。その途中で、ミュウがシアの水着を剥ぎ取りハジメに渡そうとしたが、第二のママである皐月に岸に上がってからやんわりと怒られた

ミュウとの戯れも終わり、その日の夕方にミュウとお別れを告げる。着ているワンピースをギュッと握り、泣くのを堪えていた

 

「・・・もう、会えないの?」

 

「大丈夫だ。また会える」

 

「これからの旅は今まで以上に危なくなるから、一旦バイバイなの。全部片が付いたら迎えに来るから、良い子で待っててね?」

 

「・・・うん。ママと一緒に良い子にして待ってる」

 

「ちゃんと良い子で待ってろよ?必ず迎えに来て俺達の故郷に連れて行ってやるからな」

 

「パパと皐月ママと深月お姉ちゃんの生まれたところ?みたいの!」

 

「楽しみか?」

 

「すっごく!」

 

「あ~・・・その・・・さっきも言っていたが、レミアも来るんだろ?生活環境がガラリと変わるが、本当にいいのか?」

 

「それこそ愚問です。娘と一緒に着いて行かない選択肢はありませんよ? ア・ナ・タ♪」

 

ハジメに寄り添うレミアを見て、外野の男達が阿鼻叫喚な悲鳴を上げ、同性の女達はエールを送っていた

 

「絶対に世界を行き来する手段を手に入れるわよ」

 

「あぁ。手に入れてパパとママは凄いんだぞって自慢させてやるさ」

 

良い雰囲気のハジメと皐月を見て、ティオと香織がライバル心を燃やして、ユエとシアがその様子を見て微笑む。まぁ、そんな事は関係ないと、ミュウが二人に抱っこを再要求したのだった。ハジメ達一行は、日が完全に暮れる前にエリセンを旅立ち、アンカジへと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

エリセンを出てから一日半でアンカジ公国手前まで到着したハジメ達。そこで目にしたのは、アンカジ公国がハイリヒ王国に救援依頼をしてやって来た救援物資運搬部隊と、それに便乗した商人達の行列である。普通なら後ろに並んでの入国なのだが、そんな事知らんといわんばかりに四輪を進めて門前へ進める。門番をしている兵士がハジメ達に気付きアンカジへと誘導して入国した。ハジメは、初めて来た時よりも住民達は元気だと気づき、深月と香織を見た者達が崇めたりしていたのは見なかった事にした

 

「治療して活気が戻ったのは良いですが、皆少しばかり痩せられていますね」

 

「あ・・・深月が清潔したのってオアシスだけだったわね。つい見逃してしまったわ・・・」

 

「どういう事だ?食料の備蓄が有るのは普通だろ?」

 

「アンカジの国民全員が回復したのよ?体力を回復させるには多くの食べ物が必要不可欠。多めに見積もった備蓄も直ぐに尽きるわよ」

 

「・・・食材に清潔をしていなかったですね」

 

「う~ん、いい機会だから再生魔法で浄化出来るか試してみても良い?」

 

「再生魔法と相性が良いから訓練も兼ねていいんじゃねぇか?」

 

メルジーネ海底遺跡の神代魔法は再生魔法、その名の通り再生に特化した魔法である。特に、治癒師の香織との相性が高く回復力が目に見えて違ったのだ。因みに、深月はお約束通りだった

 

「深月はいつでもどこでもチートだな」

 

「メイドに再生魔法って何に使うのよ・・・」

 

「物が壊れてしまった時に便利ですよ?まぁ、壊す事は無いですが」

 

本当に便利の一言、木製の器が欠けた所も再生出来たのはとても素晴らしい結果です。ですが、この再生魔法の真骨頂はそこではありませんよ?

 

内心ではグヘヘと酷い笑みを浮かべている深月。何故そんな事になっているのかと言うと、エリセンで再生魔法を陰ながら行使していた時に気付いたのだ。器を再生中にどの様に直っているのかを観察していた時、まるで時間を逆行するかの様に再生した事を発見して色々と考えた結果、再生魔法は時間に干渉する魔法ではないかと仮説を立てたのだ。切りの良い所で寝ようとした際にふと気づいた。オスカーやメルジーネの解放者達が残した映像は、再生魔法ではないかと。抜き足差し足忍び足で外に出て、真新しい記憶――――たこ焼きを作りながらハジメ達の様子を見ていた光景を強くイメージして再生魔法を使う。するとどうだ、タコの刺身を笑顔で食べて団欒する映像が流れたのだ。そこから深月のタガが外れ、脳内で録音した皐月フォルダの記憶を掘り起こしてヒャッハーしてテンション爆上がりしたのは言うまでもないだろう。新たな癒しを手に入れた深月は満足して寝た

 

再生魔法とは、神代魔法の中でも一番素晴らしい魔法で間違いありません!これがあれば、初めてであったお嬢様を映し出す事も容易です。フフッ、グフフフフフ♪ガラス玉の様なおめめクリックリの小さいお嬢様と宝石の様なキラキラ光る眼の中学生お嬢様と妖精の様な高校生お嬢様!そして、今は大天使の如きお嬢様と色々と味わえます!!私の脳内フォルダがとんでもない事になっていますよぉおおおおおおおおおお!

 

思わずニコニコと微笑んでしまう深月の様子に気付き、皐月の勘の鋭さが発動した

 

「ねぇ深月?ニコニコと微笑んでいるけど、何かいい事でもあったのかしら?」

 

「とても良い事です」

 

「新しい技覚えたのね?」

 

「再生魔法とは素晴らしい物です!―――――――あっ・・・・・」

 

「「「「「「・・・・・」」」」」」

 

脳内トリップで注意力散漫な所を突かれてつい口走ってしまい、それが運の尽きだった。ジト目で深月を見るハジメ達の無言の圧力。その程度なら問題はないのだが、今回は皐月が特に目を光らせていた為根掘り葉掘り聞き出される事になった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「再生魔法ってそこまで出来る物なのか」

 

「どうせ以前の私を見てニコニコしていたんでしょ?」

 

「う"っ!」

 

「これは深月が悪い。私達にも見せて」

 

「そうですよ~、私達も変わる前の皐月さん達を見たいですぅ!」

 

「変わる前のご主人様達の姿。とても楽しみなのじゃ!」

 

常識の範囲内で見せなさいよ?(ハジメとの出会いを見せるな)

 

皐月からの忠告を理解した深月は、少しだけ残念そうにした

何はともあれ、宮殿に居るランズィに報告と依頼の静因石を渡した

 

「ハジメ殿、皐月殿、本当に感謝する。これだけあれば、いざという時に対処出来そうだ」

 

「気にするな。こっちは恩を売る形で依頼を受けたんだ」

 

「無理しない範囲で返してくれたら大丈夫よ」

 

「ふっ、無理しない範囲か。こちらは国を――――いや、国民の命を救ってくれたのだ。多少の無茶でも民達は賛同する」

 

「助かるよ。それと、ついでなんだが土壌汚染や食物汚染を治せる可能性があるんだが、試しても良いか?」

 

「なんと・・・そこまでやってくれるとは、これでは中々に返せそうにもないな」

 

ランズィの案内の元、汚染された土壌に伴い劇物となってしまった食料の廃棄場所へと向かった。土の色は変わらないが、破棄された食料の山。今回は、深月ではなく香織が再生魔法の実験を開始する。エリセンに滞在していた時に訓練をしており、長い詠唱時間が短縮されているのだ

 

「――――絶象」

 

魔法の行使により淡く光る一つの球体が、食料の山の上にポトンと落ちる。光のヴェールが一つ一つに纏わりついて、地面まで浸透してより一層輝きを放ったと同時に纏わりついた光が蛍日となって天へと昇る。数多の光が天に昇る光景は、劇毒が昇天しているかの様な光景だ

神秘的な光景も終わりしばし呆然としていたランズィ達にハジメがチラッと視線を向け、ハッと気づいたランズィ達。今現在彼等が行える鑑定は水質のみなので、深月の清潔鑑定で有害物質が無いかどうかをチェックする

 

「おめでとうございます。光った範囲の場所は全て綺麗になりました」

 

「そうか・・・そうか!本当に助かった!」

 

「それでは香織さん、残りも綺麗にしましょう」

 

「待って、深月さん待って!私の魔力もうゼロなの!だからもう無理!?」

 

「その為の腕輪です。私が食料調達の際に何もしていないとでも思いましたか?ちゃんと、魔力の残滓をかき集めて腕輪に貯め込んでいますので、魔力切れを心配する必要は何処にもありません。今現在の詠唱時間はおよそ三分ですが、長すぎます。秒まで短縮する為に訓練あるのみです!」

 

「びょ、秒は無理じゃないかなぁ~?」

 

「甘えは駄目です。目下の目標は、敵の攻撃を回避しながらの回復魔法の行使。詠唱時間の短縮も良いですが、棒立ちの状態での詠唱は敵に攻撃して下さいと言っている様な物ですよ」

 

香織は、助けを求めようとハジメ達の方に顔を向けるが現実は無情である

 

「よし、香織頑張れ」

 

「確かに、棒立ちよりも動きながらの方が良いわね」

 

「・・・深月の特訓始まり」

 

「やれば出来るですぅ!」

 

「限界は超えるものじゃ!」

 

庇う者は誰一人居ない。それどころか、香織の強化を望む声があるのでどうする事も出来ない

 

「う~!今よりももっと強くなって見返すもん!!」

 

深月にドナドナされるまでも無く、自分の足で立って歩く香織。広い土壌汚染の再生をたった一人で行い、強くなる為の努力を惜しまずに魔法を行使する。時々、深月が範囲清潔をする事で目指す場所を再認識させながらの訓練は直ぐに実を結んだのは香織の努力の賜物だろう

土壌汚染の再生を終えると、次は食料が破棄された農地地帯へと移動する。だが、不意に感じる不穏な気配。遠目で見れば、アンカジ公国の兵士とは異なる装いの兵士達がハジメ達に近づいていたのだ。身なりからしてこの町の聖教教会関係者と神殿騎士の集団らしく、ハジメ達の傍へとやって来た彼等は、ハジメ達を半円状に包囲した。そして、神殿騎士達の間から白い豪奢な法衣を来た初老の男が進み出る。あまりにも物騒な雰囲気にランズィが間に入って遮る

 

「ゼンゲン公・・・こちらへ。彼等は危険だ」

 

「フォルビン司教、これは一体何事か。彼等が危険?二度に渡り、我が公国を救った英雄ですぞ?彼等への無礼は、アンカジの領主として見逃せませんな」

 

「ふん、英雄?言葉を慎みたまえ。彼等は、既に異端者認定を受けている。不用意な言葉は、貴公自身の首を絞める事になりますぞ」

 

「異端者認定・・・だと?馬鹿な、私は何も聞いていない」

 

ハジメ達に対して異端者認定されている事に驚くランズィだが、あくまでも皮だけだ。皐月から予めにこうなるだろうと予測を聞いていたので内心は驚いていない。だが、ランズィとて教会の信者である事に変わりがなく、何故救国の者達が異端者認定とされているのかが理解出来ていなかったのだ

 

「当然でしょうな。今朝方、届いたばかりの知らせだ。このタイミングで異端者の方からやって来るとは・・・クク、何とも絶妙なタイミングだと思わんかね?きっと、神が私に告げておられるのだ。神敵を滅ぼせとな・・・これで私も中央に・・・」

 

最後は小さな言葉だったが、ランズィにはっきりと聞こえていた。一応ハジメ達の方を見ると、当の本人達は「どうする?」といった興味無さげの様子だ

 

「さぁ、私は、これから神敵を討伐せねばならん。相当凶悪な男だという話だが、果たして神殿騎士百人を相手に、どこまで抗えるものか見ものですな。・・・さぁさぁ、ゼンゲン公よ、そこを退くのだ。よもや我ら教会と事を構える気ではないだろう?」

 

「断る」

 

司教の男がニヤニヤと勝ちを誇った表情をしているが、ランズィの否定の言葉で呆気にとられた

 

「・・・今、何といった?」

 

内容を理解していないのかと言いたげな表情をする司教だが、ランズィの揺るがぬ決意の言葉を再び送り返す

 

「断ると言った。彼等は救国の英雄。例え、聖教教会であろうと彼等に仇なすことは私が許さん」

 

「なっ、なっ、き、貴様!正気か!教会に逆らう事がどういうことかわからんわけではないだろう!異端者の烙印を押されたいのか!」

 

「フォルビン司教。中央は、彼等の偉業を知らないのではないか?彼は、この猛毒に襲われ滅亡の危機に瀕した公国を救ったのだぞ?報告によれば、勇者一行も、ウルの町も彼に救われているというではないか・・・そんな相手に異端者認定?その決定の方が正気とは思えんよ。故に、ランズィ・フォウワード・ゼンゲンは、この異端者認定に異議とアンカジを救ったという新たな事実を加味しての再考を申し立てる」

 

「だ、黙れ!決定事項だ!これは神のご意志だ!逆らうことは許されん!公よ、これ以上、その異端者を庇うのであれば、貴様も、いやアンカジそのものを異端認定することになるぞ!それでもよいのかっ!」

 

「おやおや、これは異な事を仰る。フォルビン司教、貴方は先程小声ではあるが自身が成り上がる欲があるそうではないか」

 

「黙れ黙れ黙れ!神の御意思は絶対だ!救国の英雄だと?異端者達が魔人族と手を組んで国を陥れて救っただけであろう!」

 

「それこそありえませんな。彼等は魔人族が襲ったウルの町と勇者を助けたと伝わっていますぞ?しかも、その魔人族を倒したとの報告もされている。そんな彼等が魔人族の仲間?フォルビン司教の方こそ魔人族と結託しているのではありませんか?」

 

「貴様・・・言って良い事と悪い事はあるぞ?貴様の部下やそれに慕う者達も神罰を受け尽く滅びるぞ」

 

「このアンカジに、自らを救ってくれた英雄を売るような恥知らずはいない。神罰?私が信仰する神は、そんな恥知らずをこそ裁くお方だと思っていたのだが?司教殿の信仰する神とは異なるのかね?」

 

フォルビン司教は激怒して部下達に攻撃の命令を下そうとした瞬間、神殿騎士のヘルメットにカツンと小石がぶつかり落ちた。それは、子供が投げた小石だった

 

「僕達を助けてくれなかった奴がお姉ちゃん達を悪く言うな!」

 

周りの大人達も憤慨して、司教達に敵意を向けている

 

「やめよ!アンカジの民よ!奴らは異端者認定を受けた神敵である!やつらの討伐は神の意志である!」

 

投石しようとした手が一瞬だけ止まった。しかし、ランズィが言葉を発した

 

「我が愛すべき公国民達よ。聞け!彼等は、たった今、我らのオアシスを浄化してくれた!我らのオアシスが彼等の尽力で戻って来たのだ!そして、汚染された土地も!作物も!全て浄化してくれるという!彼等は、我らのアンカジを取り戻してくれたのだ!この場で多くは語れん。故に、己の心で判断せよ!救国の英雄を、このまま殺させるか、守るか。・・・私は、守る事にした!」

 

フォルビン司教は、「そのような言葉で、神の決定を逆らう様な事は誰もしない」と嘲笑ったが、住民達の返答は投石の嵐だ。予想外な事態に言葉を詰まらせるフォルビン司教に、住民達の声が叩き付けられる

 

「ふざけるな!俺達の恩人を殺らせるかよ!」

 

「教会は何もしてくれなかったじゃない!なのに、助けてくれた使徒様を害そうなんて正気じゃないわ!」

 

「何が異端者だ!お前らの方がよほど異端者だろうが!」

 

「きっと、異端者認定なんて何かの間違いよ!」

 

「皐月大天使様と深月様と香織様を守れ!」

 

「領主様に続け!」

 

「皐月大天使様、深月様、香織様、貴女達にこの身を捧げますぅ!」

 

「おい、誰かビィズ会長を呼べ!"皐月様を崇め隊"と"深月様に褒められ隊"と"香織様にご奉仕し隊"を出してもらうんだ!」

 

住民達を癒した深月と香織に敬愛の念を含んでおり、皐月に関しては深月から素晴らしさを説かれていたので二人よりもワンランク上の信仰心となっていた。そもそも、神の使徒である香織が一緒に行動している事からハジメ達も信頼しており、フォルビン司教よりも信仰心が高い結果である

 

「司教殿、これがアンカジの意思だ。先程の申し立て・・・聞いてはもらえませんかな?」

 

「ぬっ、ぐぅ・・・ただで済むとは思わない事だっ」

 

歯軋りしながらハジメ達を煮え滾った眼で見たフォルビン司教は、苛立ちをぶつけるかの様に地面をドスドスドスと音を立てながら神殿騎士を連れて帰った

 

「・・・本当によかったのか?今更だが、俺達のことは放っておいても良かったんだぞ?」

 

「なに、これは"アンカジの意思"だ。この公国に住む者で貴殿等に感謝していない者などおらん。そんな相手を、一方的な理由で殺させたとあっては・・・それこそ、私の方が"アンカジの意思"に殺されてしまうだろう。愛すべき国でクーデターなど考えたくもないぞ」

 

「別に、あの程度の連中に殺されたりはしないが・・・」

 

「そうだろうな。つまり君達は、教会よりも怖い存在ということだ。救国の英雄だからというのもあるがね、半分は、君達を敵に回さない為だ。信じられない様な魔法をいくつも使い、未知の化け物をいとも簡単に屠り、大迷宮すらたった数日で攻略して戻ってくる。教会の威光をそよ風のように受け流し、百人の神殿騎士を歯牙にもかけない。万群を正面から叩き潰し、勇者すら追い詰めた魔物を瞬殺したという報告も入っている・・・いや、実に恐ろしい。父から領主を継いで結構な年月が経つが、その中でも一、二を争う英断だったと自負しているよ」

 

予期せぬ形で住民達からの異端認定拒否は、もの凄く大きな出来事だろう。ハジメはあいまいな笑みを浮かべつつ、自分達の安否を気遣う住民達を見て、畑山先生が言っていた寂しい生き方をしなかった結果なのかと思ったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実に良いです。はい、私の脳内フォルダにお嬢様のお姿を大量に記録しました。ベリーダンスの様な衣装を身に着けるお嬢様は、正に圧巻の一言です。ハジメさん・・・お嬢様達が着ている衣装を見て興奮するのは良いですが、時には己を律した方が良いですよ。どうしてか分かりませんか?自分をアピールしようと躍起になっているお二人が良い証拠ですよ

 

深月以外の女性陣は、全員肌の露出が多い衣装でとても目に毒なのだ。ハジメも男なので少なからず反応してしまい、ハーレムに入っていない二人の猛アピールに若干疲れが現れている。本人はどうしてこうなったと言いたげだが、深月の「反応するから食いついて来るのですよ」の一言で全てを諦めた様に成すがままだ。尚、あまりにもしつこい二人には、皐月のOHANASHIによってアピールは無くなった

 

「この衣装がハジメのストライクゾーンに入っているのは表情を見て分かったわ」

 

「・・・皐月の格好がドストライクなだけだ」

 

「取って付けた様な言い訳をしないで。ハジメはあれでしょ、彼女にコスプレさせるのが良いのよね」

 

「好きな女のコスプレは嬉しい」

 

「メイド服とどっちが良い?」

 

「メイドふ――――――いや、待ってくれ!?そ、そう!これは罠だ!これは罠なんだ!巧妙に仕組まれた誘導だ!」

 

「判決。南雲ハジメは、メイド服が一番好きです」

 

皐月の決定に誰も居を唱えない程ハジメの業は深いし、皐月達女性陣は知っている。ハジメが無意識で深月の方を見ている事。そして、咄嗟に顔を背ける時には深月の方を見るからだ

 

「ハジメへの冗談交じりの追及はここまでにして、そろそろ出立しましょうか。このまま出ると色々と大変なので、変装をして出るわよ」

 

「冗談交じりかよ・・・。だが、皐月の言う通り変装して国を出るのは決定だ。そのまま出立したら確実に住民達が見送りに来るだろうからな」

 

アンカジに数日滞在しただけで理解したのだ。すれ違う人達から感謝の言葉を言われ、消耗品を購入しようとしたら無料で渡されたり、最終的にはパレード状態になってしまったのだ。少しばかり恥ずかしい事もあって、ランズィに一言入れてから離れる事にしたのだ

 

「私とハジメが一言入れ終えてるから後は出るだけよ」

 

「住民達にはちょっとばかし悪いと思うが、騒がしすぎるのは苦手だからな」

 

目立たない様に、フード付きのコートを纏ってアンカジを出立したハジメ達。次の目的地はハルツィナ樹海。門を出て少しした所で、魔力駆動四輪を取り出してフェアベルゲンへと向かった

出立して二日後、ホルアドに通ずる街道に差し掛かる頃、賊に襲われているであろう隊商と出会った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「お嬢様が大変な事になっています」
深月「皆さんにお嬢様の素晴らしさを説いているのです!」
布団「狂信者と変わらないぞぉ!押し付け良くない!!」
深月「大丈夫です。お嬢様は心優しき方と言っているだけです」
布団「う、うむぅ・・・そ、それなら良いのか・・・な?」
深月「それで良いのです」
布団「と、取り敢えず次話の更新をお楽しみに!」
深月「久しぶりの再会となりますね」


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メイドの考察が入りますよ

布団「頑張った・・・私頑張った。少しだけ休憩するの」
深月「よく書けましたね。誤字は大丈夫ですか?」
布団「一応確認はしたけど・・・無い筈・・・。あったらごめんなさい!」
深月「ともかく、前話とその他の誤字報告有難う御座います」
布団「真っ白に燃え尽きそうだけど頑張りまぁす」
深月「それでは、読者の皆様方。ごゆるりとどうぞ」









~深月side~

 

賊に襲われているであろう隊商を発見したハジメ達。四十人程の賊と、十五人程の護衛。中々攻めきれないご様子である

 

「おや?あの隊商にユンケルさんが居ますね。トータスで出来た商人とのパイプを潰すのは勿体無いですので、あの賊共を殲滅しても宜しいでしょうか」

 

「栄養ドリンクの人か」

 

「あぁ~、深月がとんでも無い取引を持ち掛けようとした不幸な商人さんね」

 

「あっ、ちょっと待って!あの結界知ってる。リリィが使う結界に似てる!」

 

「とりあえず、突っ込むからな」

 

ハジメは四輪を加速させて、賊達が固まっている場所へと突き進む。勢いよく突っ込んでくる謎の物体にビックリした賊達は、魔法で迎撃。飛来する魔法が四輪に直撃したがどれも効果は無く、賊達の頬を引き攣らせる。それを追撃するかの様に、ハジメが四輪に魔力を注ぎ込んでギミックを発動。四輪の四方にブレードが展開されて、賊の集団にそのまま突っ込んだ。ある者は避け様と横っ飛びしたがブレードで上下にお別れをし、反応出来なかった者は撥ねられてボンネット上のブレードに追撃されて――――――計七名がお亡くなりとなった

四輪がドリフト停車をしながらと同時に、猛獣?・・・いや、死神が相応しいだろう。深月が後部から飛び出して、賊の首をへし折った。いきなり出てきた見慣れぬ鉄の塊と、この場に相応しくないメイド。そして、蹂躙が始まった。賊が放つ魔法の全てを黒刀で切り伏せて、斬り掛かる者には四肢の骨を殴り砕き、魔法を使う賊はハジメと皐月の狙撃で頭部を粉砕する。四輪に近づく賊達は、シアのドリュッケンでミンチとなり、ユエとティオの魔法で消し炭となった

たった数分の出来事―――――賊の全てを倒し終えたハジメ達。香織は急いで負傷者達を治療するが、死亡している者までは蘇生できず歯噛みした。そんな彼女に、小柄で目深にフードを被った少女が駆け寄った。ハジメと皐月は、魔力の色や気配が隊商を守っていた結界と同じである事から止める事無く素通りさせる

 

「香織!」

 

「リリィ!やっぱり、リリィなのね?あの結界、見覚えが有ると思ったの。まさか、こんなところにいるとは思わなかったから、半信半疑だったのだけど・・・」

 

香織がよく知る人物、ハイリヒ王国王女リリアーナ・S・B・ハイリヒ本人であった

 

「私も、こんなところで香織に会えるとは思いませんでした。・・・僥倖です。私の運もまだまだ尽きてはいないようですね」

 

「リリィ?それはどういう・・・」

 

あの方はリリアーナ王女でしたか。香織さんとのやり取りを見て、彼女程の人物がお忍びでこの様な場所に来る可能性は極めて低い。何かしらの陰謀に巻き込まれた可能性が高いですね

 

深月が考察していると、ハジメと皐月が香織の傍へと近づき、二人の存在に気付いたリリアーナ

 

「・・・南雲さんと・・・高坂さん・・・ですね?お久しぶりです。雫達から貴方達の生存は聞いていました。貴方の生き抜く強さに心から敬意を。本当によかった。・・・貴方がいない間の香織は見ていられませんでしたよ?」

 

「もうっ、リリィ!今は、そんな事いいでしょ!」

 

「ふふ、香織の一大告白の話も雫から聞いていますよ?あとで詳しく聞かせて下さいね?」

 

だが、ハジメの一言で空気が固まった

 

「・・・っていうか、誰だお前?」

 

「へっ?」

 

一度話した者の名前を覚えるリリアーナだが、ハジメの「会った事あったっけ?」の反応に呆然としてしまった

 

「ちょっとハジメ、名前を覚えろとは言わないけど姿は見た事あるでしょ。王国の王女よ?交えて話した事もあったわよ?」

 

「そ、そうだよハジメ君!王女!王女様だよ!ハイリヒ王国の王女リリアーナだよ!話した事あるでしょ!」

 

「・・・・・・・・・・ああ」

 

「ぐすっ、忘れられるって結構心に来るものなのですね、ぐすっ」

 

「女の子を泣かせちゃいけないでしょ!」

 

「リリィー!泣かないで!ハジメくんはちょっと"アレ"なの!ハジメくんが"特殊"なだけで、リリィを忘れる人なんて"普通"はいないから!だから、ね?泣かないで?」

 

「おい、何か俺、さりげなく罵倒されてないか?皐月・・・あ、えっと・・・その・・・・・すまん」

 

皐月の無言の圧に気圧されて、リリアーナに謝罪するハジメ

 

「いいえ、いいのです。私が少し自惚れていたのです」

 

もの凄く気まずい空気となったが、ハジメと皐月の元に見覚えのある人物が寄って来た

 

「お久しぶりですな、息災・・・どころか随分とご活躍のようで」

 

「栄養ドリンクの人・・・」

 

「は?何です?栄養ドリンク?確かに、我が商会でも扱っていますが・・・代名詞になるほど有名では・・・」

 

「あ~、いや、何でもない。確か、モットーで良かったよな?」

 

「ええ、覚えていて下さって嬉しい限りです。ユンケル商会のモットーです。危ないところを助けて頂くのは、これで二度目ですな。貴方とは何かと縁がある。そして、皐月大天使様のおかげで色々と御贔屓にさせてもらっています!」

 

「私・・・何かしたっけ?」

 

全く身に覚えも無い皐月

 

「いえいえ、アンカジ内では皐月大天使様と深月様と香織様のお名前が有名です」

 

「深月~?ちょっとこっち来なさい」

 

「お嬢様の素晴らしさを教えているだけです!私は悪くないです!」

 

「その布教がいけないって事よ!!」

 

「各町でも皐月大天使様の御心は偉大で素晴らしいと耳にしました。無論、私もそう思っております!」

 

モットーも皐月教に入信している。いや、彼こそがトータスでの信者第一号だろう。そして、その信者の入信者は留まる事を知らない。何故かと言うと、これまで皐月が滞在して色々とやらかした事を知っている者達の中に入信したいという者達が増えているのだ。しかも、陰ながらじわじわと浸食している事が厄介極まりない

 

「もしかして、高坂さんは新しい教祖にでもなるのでしょうか?」

 

「多分・・・ならないといけないかも?」

 

現実は非情だ

皐月は、「もうどうにでもなれ」と諦めて、深月はやり切ったと言わんばかりにニコニコしている。冗談はそこそこにしておき、深月は再び考察に入る

 

ん"んっ!さて、考察の続きをしましょう。ユンケルさんとリリアーナさんのお話を聞く所によると、王国がとんでもなくヤバイですね。まずはこの世界・・・トータスに来てから学んだ乗合馬車の事を考えると、ユンケルさんの行った事は信頼関係の構築、王族とのパイプ作りは当然の結果ですね。ですが、その一文の中からの緊急具合は理解出来ました。臣下やメイド等の見送りも居ない中でのお願いとなると、王国が何者かによって支配されたか、舵を取られてしまったか・・・。メルジーネで見た過去の記憶から予測するなら、先兵が動いたと判断して間違いないでしょう。恐らく洗脳か魅了系の魔法で思考誘導がベターな筈です

リリアーナ王女は聡明な方、臣下か家族が思考誘導された事に恐怖を覚え、今の自分が破壊されるかもしれないと感じて逃げたという可能性もあります。ですが、そこで一つの問題点。どうして違和感を感じる事が出来たのかですね

 

ある程度の仮説は成り立った。後はその違和感を何処で感じたのかが重要で、リリアーナの話を聞いていくと、最後のパズルのピースがカチリとはまった

 

「愛子さんが・・・攫われました」

 

「そういう事ですか。おおよその事が分かりました」

 

リリアーナの言葉にハジメ達は驚いたが、深月の理解力の方にリリアーナが驚く

 

「え?あの・・・私は、まだ何も言っていないのですが」

 

「聡明なリリアーナ様は、王族の方でもあるので記憶力が良いという前提で話を進めます。今から二つだけ質問しますが、宜しいですか?」

 

「その言い方だとすれば、人物関係ですね・・・それなら余程の事が無い限り大丈夫です」

 

「一ヵ月以内でいいのですが、銀髪の女性が増えたり等はしませんでしたか?誰でも良いのです。見た事の無い人で王宮を出入りしていた人物はいませんか?」

 

「愛子さんを攫った人が銀髪でした」

 

「それでは二つ目です。人に違和感を感じたりしませんでしたか?」

 

「・・・違和感は感じています。受け答えははっきりしているのに生気の無い感じがするんです」

 

「有難う御座いました。リリアーナ様が王国を出た事は賢明な判断です」

 

話しに付いていけないハジメ達は、深月の考察を聞き出す事に

 

「深月、王国で何が起きているか分かるか?」

 

「何が起きているのかはおおよそ分かります」

 

「先生が誘拐された理由は分かる?」

 

「そちらについては仮説が幾つかです」

 

「し、雫ちゃん達は!?」

 

「それは分かりません」

 

「・・・では、神楽さんが仮説を立てている事だけでも構いません。お教えいただけますか?」

 

「話は四輪の中でお願いします。とにかく今は時間が惜しいです。私の予想では、何もしなければ一週間以内に王国が滅びます」

 

「ッ!?」

 

「おいおい、流石に冗談だろ?」

 

「冗談ではありませんし、畑山先生を救出するのであれば後手に回る事が一番駄目です」

 

「・・・あぁ、これはヤバイわ。先生が誘拐された理由、私も分かっちゃったかも」

 

「奇遇だな。俺もだ」

 

メルジーネの記録映像を見ていた時に気付いていた。いきなりとち狂った発言をした王の傍には銀髪の女性が居た事。二人は、恐らくあれが神の先兵だろうと感付いたのだ

リリアーナを四輪に乗せて、ユンケルと別れたハジメ達。アクセル全開で王国へと向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街道を爆走する四輪の車内。リリアーナはアーティファクトに珍しがっているが、優先事項を切り替えて深月に尋ねる

 

「それで・・・王国が滅ぶかもしれないとはどういう事か教えていただけませんか?」

 

深月は、この世界の真実について言っても良いかどうかをハジメと皐月に念話で確認する

 

(リリアーナ様には酷ですが、この世界の真実を告げても良いのでしょうか?)

 

(まぁなぁ・・・信じていた神様が、実はこの事件の黒幕~だなんて知ったらなぁ)

 

(ん~?リリアーナは聡明だから、最悪の場合として認識しているかも?)

 

結果、リリアーナにこの世界の真実を告げる事にしたハジメ達

 

「それでは、まず初めにこの世界の真実からお教えいたします」

 

「い、いきなり重たい内容ですね・・・」

 

「人間族が信仰しているエヒトが黒幕です」

 

「・・・つ、続けて下さい」

 

「私達は反逆者と呼ばれる人達が創った大迷宮を幾つか攻略いたしました。その際、彼等から本当の敵は神―――――エヒトだと伝えられました。まぁ、これを完全には信用していませんでしたが、今回の一件で確実に敵だと認識しました」

 

「私達が信仰しているエヒト様が敵・・・」

 

「今回の一件には関係ないのですが、メルジーネ海底遺跡の攻略の際に見た魔人族が信仰する神――――アルヴとは、エヒトの眷属ではないかと推測しています」

 

「「「「「「「はぁっ!?」」」」」」」

 

「反逆者・・・いえ、解放者ですね。彼等が言うエヒトは、この世界を遊戯盤としているとの事です。ボードゲームに対戦相手が居るのが普通ですが、エヒトはこの世界の創造神と例えられているので事実上神はたった一人。唯一神であるエヒトが自分より地位の低い誰かを対戦相手に選ぶ事はありえない筈です。それならば、部下を意のままに動かして自分の悦となる事をするでしょう」

 

「うわぁ、仮説の説得力ありすぎぃ」

 

「エヒトって屑だな。あ、もう既に屑の中の屑だったな」

 

「そして、今回の畑山先生の誘拐の理由ですが、イレギュラーを排除したいからという事でしょう。私達三人は、魔物肉を食べてとんでもないステータスですから」

 

「ま、魔物を食べたのですか?」

 

「食べる物無かったしな」

 

「生きる為には毒を喰らわないといけなかっただけよ」

 

奈落に落ちて、生きる為に魔物を喰らった三人にドン引きするリリアーナ。だが、そうでもしないと生きる事すら出来ないと思うと苦虫を噛んだ様な表情をする

 

「畑山先生が攫われた理由の考察は終わりです。次の王国の滅亡についてですが、これは内部犯の行いです」

 

「裏切者が居るのですか!?」

 

「はい。リリアーナ様の話にあった、生気の無い人間についてです。これの犯人は、中村恵理さんです」

 

「「「え?」」」

 

中村恵理についてよく知っている皐月と香織とリリアーナは、「どうして?」と訳が分からない状態だった

 

「事前に処理をしたかったのですが、お嬢様とお友達関係でしたので一度だけ見逃しました」

 

「待って。処理?一度見逃した?どういう事?」

 

「恵理ちゃんは降霊術師だけど、死者には使えないって言ってたよ?」

 

「香織の言う通りです。恵理は臆病で死者を操る事は出来ないと」

 

「中村さんは俗にいうヤンデレです」

 

「ヤンデレって・・・今それは関係ないだろ」

 

「甘いですよハジメさん!」

 

ズビシィっとハジメに人差し指を指して指摘する

 

「中村さんは、ど腐れ野郎を好いているのです。そして、自分の物にするのであればどのような事をしても手に入れるタイプの人間です。まぁ、彼女が完全に壊れる切っ掛けとなったのがど腐れ野郎なのですが」

 

「脳内お花畑はどれだけの人間の将来をぶち壊しているのよ・・・」

 

頭が痛くなる程厄介極まりない存在に溜息を吐く皐月

 

「つい最近の調べで分かった事なのですが、中村さんは幼い頃に母親から虐待を受けていたそうです。その理由が、車に轢かれそうになった彼女を父親が庇いお亡くなりになりました。その父親は、彼女が生まれてから愛情を持って育てられましたが、母親を見ていなかったのでしょう。母親は愛情の矢が自分では無く子供に向いている事に嫉妬、父親が亡くなってからは「何故お前が死ななかった!」と言われていたそうですよ」

 

「子供に嫉妬する母親って・・・いや、父親も父親でいけなかったって事か?」

 

「そして、ここからが重要です。母親が新しい父親―――――再婚ですね。してからが、彼女のDV被害の増長となりました。母親からだけでなく、新しい父親からも・・・そして、最悪な所一歩手前まで行ったそうです」

 

「死亡寸前・・・か?」

 

「犯される一歩手前だったと」

 

「それは・・・」

 

「・・・酷い」

 

「とまぁ、心が壊れて自殺をしようとした時に現れたど腐れ野郎が何かを言ったらしいのですが、それについては不明です。大方、「大丈夫だ、俺が守る!」とか言ったのでしょうね」

 

「なるほどねぇ~、そして家に殴り込みに行―――――」

 

「行っていないそうですよ?」

 

「ん、んん~?私の聞き間違い?」

 

「そ、そうだよね。聞き間違いだよね?」

 

「二人共思い出して下さい。ど腐れ野郎から彼女をどの様に紹介されましたか?」

 

「あ、あぁ~・・・そういえばそうだったわ」

 

「これは流石にないよ・・・」

 

「そう、ど腐れ野郎は"学校で友達になってあげて=俺が守る"と勝手に解釈したのでしょう。恐らく彼女からヘルプもあった筈でしょうが、人の善性だけを信じ切っているど腐れ野郎に「親と仲良くした方が良いよ」的な何かを言われて歪みに歪んでああなったのでしょうね」

 

「何だろう・・・最後のやつだけは、脳内で簡単にイメージできるんだが・・・」

 

「ハジメと同じく」

 

「私も」

 

「そ、そこまで酷くないと思いたいです」

 

「そして、本性を表には出さない演技。お嬢様と香織さんとリリアーナ様ですら分かりませんでしたよね?」

 

少しだけ暗い表情をしながら、首を縦に振る三人

 

「本性を悟らせない演技=隠し事が上手。自分が欲しい者を手に入れる為には、どの様な手段でも行使する。この二つから分かる通り、死者を動かせる事を悟らせない演技をしていたという事です」

 

「はぁ・・・普通に話をしていたけど、全然分からなかったわよ」

 

「私もだよ・・・」

 

「神楽さんは、恵理をどうされるつもりですか?」

 

「敵対するのであれば殺します」

 

「まぁ、それが普通よね」

 

「皐月は恵理ちゃんを殺す事に忌避感は無いの?」

 

「あるけれど、この世界は命が軽いのよ。殺らなければ殺られる―――――私は、生きて地球に帰りたいから、敵なら殺すだけよ」

 

「中村さんは私かお嬢様に攻撃をする可能性が大です。その際は、出し惜しみせずに全力で殺しに掛かります」

 

深月の全力での殺害予告に香織とリリアーナは一際暗くなるが、ここで違和感を覚えたハジメと皐月。深月とクラスメイトのステータスの差は歴然としている。それにも関わらず、攻撃してきたら全力をもって殺す。傀儡をいくつか用意出来たとしても、全てを蹂躙出来る火力を持っているこちらが何故全力を出さなければならないかという事なのだ

 

「おいおい、俺達三人のステータス上で全力はやり過ぎじゃないか?」

 

「一応降伏勧告をしてからでもいいんじゃない?」

 

「いいえ、それはいけません。オルクス迷宮で魔人族を倒した当日の夜、中村さんは神の先兵と取引を行っています。"信仰をする事で、比類無き力をその身に宿せる"との事でしたので、ドーピングか姿形が変わると思って頂いたらよろしいかと」

 

「ドーピングは分かるけど・・・姿形が変わるのはありえないんじゃない?」

 

「神の先兵はエヒトが生み出しました。ならば、失敗作の魂の入っていない人形があっても不思議ではありません」

 

「恵理ちゃんが神の先兵になるっていう事!?」

 

「ステータス的に10000より下はありえないでしょう。そして、先兵の持つ技能と自身の技能を持っている筈です」

 

「うわ~、厄介極まりないわ。神の先兵とは戦った事無いから全然分からないし、手札を少しでも知られている事を思うと危険ね」

 

勇者(笑)パーティーの救出時に戦闘場面を見られていた事から、相手がどの様な武器を使用しているのかを知られているので、それに近しい武器もあるだろうと予測されているだろう。あの時使っていた武器はドンナー・シュラークとパイルバンカーの三つ。男のロマンをつぎ込んでいる事から、ロケットランチャーやマシンガン等が保持されているとも予測する事が出来る

 

「ってことは、神の先兵にも知られている事を前提に戦わなきゃいけないって事か」

 

「そうです。話を戻して、中村さん一人だとど腐れ野郎だけを連れ出す可能性は皆無。ならば味方を増やすのです。神の先兵は私達の迎撃用、となれば―――――」

 

「魔人族か」

 

「待って下さい。魔人族と連絡は出来ない筈です!王国を出て連絡を取ろうとしても、彼等には護衛が付いて私に報告が来ます。何より、その様な報告は全く来ておりません!」

 

「いやいや、王女様。一つだけ連絡方法はあるわ。魔人族の死体を使えば可能よ」

 

「まさか・・・高坂さん達が倒したと報告された魔人族・・・」

 

「正解です。外に魔人族達を待機させて、内側から結界を維持しているアーティファクトを破壊すれば一気に攻め込む事が出来ます」

 

リリアーナは、もしも自分が中村の立ち位置で行動をするイメージをすると、これ程までに簡単で綿密に計画された作戦で王国が滅ぼされると理解して顔を青くする

 

「魔人族が攻めてくるならば、魔物も一緒です。そして、あの憎きフリードなる魔人族も出てくるでしょう」

 

「そうだよなぁ~。あの白いドラゴンのブレスに、深月が深手を負ったからな・・・」

 

「小型のドラゴンのブレスも一般人からすれば災害よ。雨あられに降るとなると、王国の建物は瓦礫と化すわね」

 

グリューエン火山での交戦をそこまで詳しく知らないティオと香織は驚愕しており、リリアーナは王国が瓦礫と化すという言葉に体を震わせる

 

「中村さんがどの様にど腐れ野郎を手に入れるか分かりませんが、碌な事にはならないでしょう。それこそ、ど腐れ野郎と一緒に行動するクラスメイトを全員殺す可能性が極めて高いです」

 

「ど、どうして!?」

 

「私達への当て馬でしょう。精神を攻撃して躊躇している間に殺す算段を立てていると思われます」

 

「そんな・・・」

 

「戦争で精神攻撃程度普通ですよ。生きている捕虜を肉壁として、助けに来た者達を諸共爆殺等と色々とあります。ですが、私達の優先事項は畑山先生です。もしも、畑山先生が傀儡として洗脳でもされてしまえばお終いです。私達の行動に支障が出てしまいます」

 

「俺達が先生を神聖視させちまったのがいけないってのもあるからなぁ~。取り敢えず、先生を助ける事を第一優先として動くか」

 

「過程として、魔物と魔人族も退ける必要もあるわね。リリアーナに恩を売っておけば、後々動きやすいからね」

 

自分が仕出かした始末はきっちりと対処する事にしたハジメ達。そんな二人の言葉にリリアーナがパッと顔を上げる。その表情は、安堵と意外と頼もしさと色々と混じったものだ。リリアーナは、八重樫から二人の印象を聞いていた事から断られるだろうと思っていたのだ。だが、結果は手を貸してくれるという予想外な言葉である

 

「本当に宜しいのですか?」

 

「原因の一端を作ったのが俺達だからな」

 

「私は魔人族のフリードに借りを返しにいくわよ。私の深月を傷つけた罪は重いわ」

 

「ありがとうございます」

 

「まぁ、気にしない気にしない。借りを返しに行く=この作戦を失敗させて殺すというだけよ」

 

「過程はどうであれ、王国が救われるのです。感謝の言葉以外ありません」

 

ハジメと皐月は作戦を練る。ハジメは畑山を救うついでに神山にある神代魔法をゲットする。本来なら皐月も一緒に行動する筈だが、深月を傷付けたフリードにお灸を据える為別行動。なので、ハジメと共に行動するのは隠密に長けた深月だ。これは保険も含めてで、ハジメが神の先兵に勝てない場合に深月が対処する事となっている。オルクス深層で技能が無い状態の神の先兵を模したゴーレムを倒した深月、対処法としてはベストだろう

 

「神山に向かうのは俺と深月の二人で、魔人族と魔物の対処は皐月とユエとシアとティオで、勇者(笑)の方は香織って事だな。正直言うと香織が心配なんだが、中村の奴が暴走する可能性を少しでも低くした方が良いからな」

 

「香織もある程度は強くなっているから、大丈夫だと思うわ」

 

「大丈夫、深月さんとの特訓で一通りの詠唱時間を物凄く短縮出来たから守りに関しては任せて!」

 

「私とハジメさんに関しては時間との勝負です。無用な戦闘を避けて行動しましょう」

 

「私達は魔物と魔人族」

 

「ふっふっふ、ようやく私の出番が来たのですぅ!」

 

「妾も存分に力を振るうのじゃ!」

 

四輪を爆走させて、神山の手前で降りるハジメと深月。皐月を含めた六人は、王国へと続く街道へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「はい!という訳で、今回はメイドさんの考察回でした~。パチパチパチ」
深月「お嬢様方から名探偵深月と呼ばれる事が多いです。どうすれば良いですか?」
布団「勿論、解決方法はあるさぁ!お嬢様の思考を成長させればいいのさ」
深月「却下です」
布団「(´・ω・`)ソンナー」
深月「余裕が無いこの世界で教える事は出来ません!それよりも大事なのは修行です!」
布団「あっ、はい」
深月「修行により引き締まる体。汗を滴らせる体に、汗を吸ったタオル―――――宝物を生み出すお嬢様をこれ以上酷使するのは駄目なのです!」
布団「ドン引きです」
深月「これが本来の私ですので、諦めて下さい。えっと、感想等あればお気軽に宜しくお願いします。作者さんは夏の暑さでモチベーション駄々下がりしていますので、皆さんでドーピングを決めさせましょう!」


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先兵とメイドの激突です!

布団「やってやったぞ。投稿だ!」
深月「今回は私とハジメさんの出番です」
布団「神山へと向かった主人公とメイドさんを待ち構えていたのは、神の先兵だった!」
深月「という訳ですので、ごゆるりとどうぞ」
布団「誤字報告ありがとうなのです!」










~ハジメside~

 

王国の神山。麓から山頂へと、素早い動きで登る影が一つ

 

皐月達と別れて先生を助ける為に深月と神山を登っているんだが・・・深月が登るスピードが速すぎて笑えねぇ。まるで蜘蛛の様に垂直な壁も登っているから、俺自身が人外という意識が薄くなっている

 

音も無くスススッと登るハジメと深月の存在に、教会関係者は誰一人として気付かない。手早く登頂し終えた二人は、気配遮断をしたまま二手に別れる。深月は内部から、ハジメは外からの二面捜索だ。深月は地下が存在するかどうかの確認で、ハジメは建物の最上部の窓から畑山を探す事にした

 

(深月、そっちはどうだ?)

 

(駄目ですね。地下倉庫はありましたが、食料備蓄倉庫でした。恐らく、畑山先生は最上階の幽閉かと思われます)

 

(了解だ。丁度最上階から探そうと思っていたから手間が省ける)

 

(こちらも気配を探りながら最上階へと向かいます)

 

深月との念話も終え、最上階の鉄格子の窓へと向かうハジメ。窓際に到着して中を覗き込むと、手首にブレスレットを付けた畑山が閉じ込められていた。周りに誰も居ない事を確認していると、畑山が呟きを漏らした

 

「・・・南雲君」

 

「おう?何だ、先生?」

 

「ふぇ!?」

 

この場に居る筈が無いハジメの声に驚いている畑山。キョロキョロと周りを見ているが、気付いていないのか外の方を見ていない

 

「こっちだ、先生」

 

「えっ?」

 

もう一度声を掛ける事でようやく気付いた畑山。窓から覗き込んでいるハジメを見てポカンとしている

 

「えっ?えっ?南雲君ですか?えっ?ここ最上階で・・・本山で・・・えっ?」

 

「あ~、うん。取り敢えず、落ち着け先生。もうちょっとでトラップがないか確認し終わるから・・・」

 

眼帯越しに部屋にトラップが無いか確認をし終えたハジメは、錬成で壁に穴を空けて部屋に入り込む。一方の畑山は、地上から百メートル以上離れているこの場所に、ハジメがどうやって立っていたのかが分からず頭が混乱している

 

「何そんなに驚いているんだよ。俺が来ている事に気が付いてたんだろ?気配は完全に遮断してた筈なんだが・・・ちょっと、自信無くすぞ」

 

「へっ?気付いて?えっ?」

 

「いや、だって、俺の名前呼んだじゃないか。俺が窓の外にいるのを察知したんだろ?」

 

畑山は、無意識でハジメの事を呼んだ事に気付いて顔を紅くしながら、話の方向を変える

 

「そ、それよりも、なぜここに・・・」

 

「もちろん、助けに」

 

「わ、私の為に?南雲君が?わざわざ助けに来てくれたんですか?」

 

「俺だけじゃないぞ。内部から深月が探しているが・・・そろそろ到着するぐらいか?」

 

すると、鍵の掛かった鉄製の扉が開き、深月が部屋の中に入って来た

 

「まさか、本当に頂上の部屋に監禁されていたとは思いませんでしたよ」

 

「か、神楽さん!?えっ?どうやって?鍵が掛かっていたはず・・・」

 

「ピッキング程度お茶の子さいさいですよ」

 

ハジメは、畑山の手首に付いているブレスレットをジッと見て、罠の類や外した際の魔法が無いかを確認する。罠が無い事を確認し終えた後、畑山の手を取る

 

「ひゃう!?だ、駄目ですよ南雲君!?そんないきなりぃ!?」

 

「ん?魔封じのアーティファクトを付けられていると面倒だろ?」

 

「え?あっ、そういうことですか・・・」

 

「畑山先生は何をご想像されているのか分かりやすいですね。しかも、何気に残念そうにしているとは・・・教師と生徒の線を越えたいのですか?」

 

「・・・先生よぉ」

 

「す、すみません。勘違いしていました」

 

それから、どうして誘拐されたのか、どうして助けに来たのかを互いが簡潔に説明する

 

「教会の異端者認定は些か強引過ぎると思いました」

 

「そして、銀髪の女に連れ去られた所を姫さんが発見して俺達に伝えに来たという事だな」

 

「ど腐れ野郎達に知らせると色々と厄介になりますからね。それこそ、ハジメさんが洗脳した等と言い出すでしょうね」

 

「天之河君が色々と独自解釈するのは分かりますが、南雲君がどうにかするとは言わないのでは?」

 

「勇者(笑)は、今の俺の状態を気に入らないだけだろうな。まぁ、その話は後だ。この状況は俺にも責任がありそうだし・・・先生は会いたくなかっただろうが・・・まぁ、皆と合流するまで我慢してくれ」

 

「君に会いたくなかったなんてこと絶対にありません。助けに来てくれて、本当に嬉しいです。・・・確かに、清水君のことは、未だに完全には割り切れていませんし、この先割り切れることはないかもしれませんが・・・それでも、君がどういうつもりで引き金を引いたのか・・・理解しているつもりです。君を恨んだり、嫌ったりなんてしていません」

 

「・・・先生」

 

「あの時は、きちんと言えませんでしたから・・・今、言わせて下さい。・・・助けてくれてありがとう。引き金を引かせてしまってごめんなさい」

 

「・・・俺は、俺のやりたいようにやっただけだ。礼は受け取るけど、謝罪はいらない。それより、そろそろ行こう。天之河達のところには姫さん達が行ってるはずだ。合流してから、これからどうするか話し合えばいい」

 

「わかりました。・・・先程も言った通り、教会が頑なに貴方達を異端者認定をしました。恐らく、あの銀髪の人も貴方達狙いかと思います」

 

「分かってる。どっちにしろ、先生を送り届けたら、俺は俺の用事を済ませる必要があるし、多分、その時、教会連中とやり合う事になる。・・・もとより覚悟の上だ」

 

すると、遠くから何かが砕ける音が響き渡り、皐月から念話で大結界が破壊されたと告げられた

 

「ちっ・・・予想はしていたよりも早いぞ」

 

「王国を守っていた大結界が砕け散りましたね。お嬢様達が対処されるとはいえ、この場に長く居続けるのも悪手です」

 

「先生、取り敢えず勇者(笑)達と合流するぞ。話はそれからだ」

 

「は、はい」

 

畑山を片手で抱えるハジメ。と、その瞬間、外から強烈な光が降り注いだ

 

「「ッ!?」」

 

急いで外壁の穴から飛び出すハジメと深月。急激な動きに畑山が悲鳴を上げるが、それを無視して隔離塔の天辺から飛び出したと同時に、畑山を捕まえていた部屋を丸ごと吹き飛ばすのは同時だった

 

ボバッ!!

 

轟音が無く、熱も無く、存在そのものが消えた様な消滅の仕方だった。直撃した部分は粒子となり、風に吹かれて消えて行った

 

「・・・分解・・・でもしたのか?」

 

「ご名答です、イレギュラー」

 

ハジメの独り言に、凛とした声が響く。だが、冷たい声・・・まるで感情が無い様な声だ。ハジメが声の下方向へと顔を向けると、ハジメ達を睥睨する銀髪碧眼の女達がいた。ハジメは頬を引き攣らせた

白を基調としたドレス甲冑で、戦いに支障をきたす事をしない様にデザインされた物。頭、胸、腰、腕、足、に金属製の防具、デザインや威圧感からアーティファクトであると想像出来た。そして、完全武装である。一人だけならハジメの頬は引き攣らなかったが、今居る人数は三人。明らかに殺しに来ていると理解出来た

 

「ノイントと申します。"神の使徒"として、主の盤上より不要な駒を排除します」

 

「私はスヴァール。イレギュラーの排除を開始します」

 

「サングリーズと申します。死に行く者には名前等無価値ですが、それも一興だと言われております」

 

宣戦布告――――三人から噴き出す銀色の魔力の威圧が空間を軋ませる。ハジメも紅い魔力の威圧を放つが、飲み込まれそうになる。完全に飲み込まれる前にドンナーで牽制をするが、弾丸をバターの様に難無く切り伏せられてしまう

 

「イレギュラー、貴方を排除した後に地上に居る者達も排除しましょう」

 

見て分かる挑発。本当なら怒って攻撃するハジメだが、三人を見てニヤケが止まらない

 

「クッ、ハッハハハハハハハ!」

 

無表情でハジメを見下ろす三人はただ黙って見ている

 

「舐めるなよ。俺はそう簡単に殺れないし、皐月達も殺れねぇよ!そして、お前達はあいつの禁句を言っちまったからご愁傷様ってやつだ」

 

「何を――――ッ!?」

 

「「グハッ!?」」

 

ノイントは後ろに佇む気配に気づき、大剣を振り向きざまで切り上げる。しかし、深月は完璧に見切って避ける。深月の強襲にやっと気付いたスヴァールとサングリーズは、振り向いた瞬間に首を掴まれて教会の信者達が集う建物へと叩き込まれた。神の先兵を分断に成功した深月は、ハジメから畑山を回収して吹き飛ばした先へと向かう。これでハジメとノイントの一対一となった。ハジメは、油断せず全力をもって目の前の敵を倒さんと襲い掛かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

教会の信者達が集う場所へと降り立った深月と、片手で抱きかかえられている畑山。第三者から見れば、妹分を守っている姉と見えるだろう

 

「ひゃあああああああああ!?」

 

「舌を噛みますので、あまり悲鳴を上げない方が宜しいかと」

 

「そ、そんなこといっひゃてぇ!?・・・噛んじゃいました」

 

「・・・第三者から見ると、どちらが大人か分かりませんね」

 

「わ、私は子供じゃありません!好きで背が低いんじゃないんです!」

 

他愛無いやり取りをしつつ、神の先兵の二人が落下して舞い上がった土埃から警戒と畑山をどうにかする為にティオに念話を送る

 

(ティオさん、至急神山へ来て下さい)

 

(ぬ?神の先兵と戦っておるのか?)

 

(そうです。標的を救出し終えたのは良いのですが、護りながら先兵二人同時に相手取るのは危険と判断しました)

 

(あい分かった。急いでそちらに向かうのじゃ)

 

(神山上空にはハジメさんが戦っていますので気を付けて下さい。私は神山の地に降りています)

 

(今直ぐ向かうのじゃ)

 

ティオとの連絡も終えた深月は、感知系技能で周囲を確認すると信者たちがウジャウジャと集まって来ている。このまま集まれば、神の先兵との戦いの余波で数が減らせるという鬼畜な考えも含まれている

 

「使徒様!ご無事ですか!」

 

「貴方達は邪魔です」

 

「使命を遂行しなさい」

 

『ハハァッ!』

 

集まって来た信者達は離れてしまった。深月の余波で間引く作戦も無くなったので、土煙が晴れて姿を現した先兵と口遊びをする事にした

 

「まったく、余計な事をしてくれましたね。あのまま集って戦ってくれれば、間引き出来ましたのに」

 

「イレギュラー、貴女の力が強い事は理解出来ました」

 

「そもそもの問題として、あの程度の者達では足止めにすらなりません」

 

「貴女方からすれば、彼等は消耗品という認識でしょう?それでも大切にしようとするとは、中々滑稽ですね。神は人間を玩具として認識している。本当に神の先兵なのですか?」

 

「神の使徒様を馬鹿にするなぁあああ!」

 

狂信者の一人が、深月の言に堪忍袋の緒が切れて襲い掛かる。しかし、振り向かずに黒刀を一閃して真っ二つにする。気付かない内に絶命、幸い畑山からは見えない位置だったので嘔吐する事は無かった

 

「沸点が低い。言葉遊びをしただけでこれとは・・・相手の力量を良く知らない者の末路ですね」

 

「この者達を殺して挑発は無意味です」

 

「素直に思った事を口にしただけですよ」

 

「貴女との口遊びも終わりにしましょう。この状況で逃げられると思わない事です」

 

「逃げる?冗談もそこそこにしてほしいですね。お嬢様に敵意を向けた相手を私が見逃すとでもお思いなら、考えを改める事を提言して差し上げます」

 

言い終わると同時に途方もない殺意の圧力がこの場を支配し、感情の無い筈の先兵達の足が無意識に一歩だけ下がった。初めて感じる何かに汗を垂らした二人。だが、イレギュラーを排除する事が自らの使命。二人は、体験した事の無い闇へと躊躇なく踏み込んだ

 

「死になさい、イレギュラー!」

 

「スヴァール、合わせます!」

 

スヴァールの隙を埋める様にたたみ込むサングリーズ。深月は、魔力糸で作り出した槍を片手に相手の急所へと突き穿つ。しかし、スヴァールの持つ戦斧で切っ先を切り払われる。魔力糸の槍は、バターの様に斬られてただの棒と化した

 

「分解・・・厄介ですね。物理であろうと、魔力であろうと分解してしまう事から分解魔法と名付けましょう。しかし、それは当たらなければ良いだけです。あぁ、言い忘れていました―――――頭上注意です」

 

「これは!?」

 

「範囲攻撃!?」

 

深月の言葉と同時に感じた威圧感にスヴァールとサングリーズが反応、空へと舞った槍の切っ先が小粒の雨となって襲い掛かったのだ。空へと舞った切っ先に重力魔法と形状変化を行使して、空間魔法で空高く転移させたのだ。後は、棒術で地面の残骸を飛ばしたり、切り返しの出来ない個所を攻撃して距離を取る事で自身への直撃コースを外したのだ

 

ズガガガガガガガガガッ!!

 

スヴァールとサングリーズの二人は、殻に籠る様に背中の羽を丸めて防ぐ。その様子をじっくり観察する深月は、はっきりと見た。羽に当たる球が粒子となって霧散した事を

球の雨も終わり、羽を元に戻した二人は仕切り直して深月をより一層警戒する。深月はただ、黙々とその様子を観察する。傍から見ると、一体どちらが有利なのか分からない。畑山が感じているのはまさにこれだ

 

(か、神楽さんがここまで強いなんて。あの銀髪の人二人を相手取ってこの余裕?もしくは表情に出さない様にしているのか分かりません。―――――っ、神楽さん?)

 

膠着する状況を変える為に、深月が黒刀を縦一閃。音速を超えた斬撃がサングリーズに襲い掛かり、地面が削れたと分かるとランスで防ぐ。ギギギッと音を立てて堪える事に成功したと同時に、頭部に走った衝撃。魔力糸で作った不可視の槍が直撃したのだ。たたら踏むサングリーズに追撃をさせまいとスヴァールが前に立って警戒。だが、深月は一向に動かずに黙々と観察を続ける

すると、竜の咆哮が轟く。ようやくティオがこの場へと到着した

 

「ショータイムです」

 

スカートを舞わせる様に大きく一回転する深月を注意深く見る二人。だが、それがいけなかった。深月がスカートの端を摘まみ上げ、二人に鋭い眼光を叩き付けたと同時に皐月印のスタングレネードが炸裂した

 

「ぐっ、眼がっ!?」

 

「スヴァール、防御を!」

 

スカートを舞わせる様に一回転した最中に、宝物庫から安全ピンを抜いた状態でスカートの端に取り出したのだ。後は指先で摘まむ様に持って、上げると同時に擦り落す。二人に落ちるグレネードに視線を奪われるが、炸裂する寸前で威圧を掛けて認識対象をズラしたのだ。結果、二人は深月の一挙一動を見逃さないとしていた落とし穴にまんまと嵌ったという事だ

畑山が何故無事なのか―――――それは、ティオがここに来る直前に念話で目を閉じた状態で胸元に抱き着いて下さいと指示があったからだ。爆音については致し方なし

 

「ティオさん、畑山先生を連れて離れていて下さい。これから周囲の被害を無視して戦います」

 

『わ、分かったのじゃ!妾達は退散するのじゃ!』

 

畑山を背に乗せたティオは、ハジメと深月の戦闘被害に遭わない所まで下がった

 

「さて、お嬢様特製のスタングレネードのお味は如何でしたか?視力の方もそろそろ回復したでしょう?」

 

「・・・イレギュラー!」

 

「確実に殺す」

 

感情が無い筈の二人が、素人目から見ても怒っていると分かる位声に怒気が含まれていた。先程よりも数段早く攻撃を繰り出す二人。だが、深月はその猛攻を捌きながら気づいた点を口に出して述べる

 

「これまで攻撃して分かった事が幾つかあります。貴女方の武器や防具に付与されている分解魔法は厄介です。ですが、攻撃の衝撃までは完璧に吸収出来ていません」

 

避けて攻撃ばかりの深月に苛立ちを覚え始める二人は、自身が気付かない内に攻撃が一直線となっている

 

「であれば、完全に吸収出来ない強力無比な攻撃を前にすれば何も問題はありませんね♪」

 

深月が宝物庫から出したそれは予想外な物だった。銃身が異様に長く、真っ黒なリボルバー拳銃―――――どこぞの吸血鬼さんが扱う対化物戦闘用13mm拳銃である。この先兵達は、中村から拳銃について基本的な事を聞かされており、ハジメと皐月が使う武器で、深月が使うという事はありえないという前提で話を進められていたのだ。しかし、蓋を開けてみればどうだ?ハジメ達が取り扱う銃よりも異質な危険物を持っているのだ。彼女等の本能が大音量で危険信号を鳴らす

深月はスヴァールの胸部に向けて発砲。ノイントと同性能のステータスを持っている為、ハジメ達が扱う銃弾を叩き切る事が出来るが、これだけは違っていた。マズルフラッシュよりも先に、態勢を大きく崩しながら横っ飛びで回避するが、冷や汗を大量に流していた。何故なら、両腰に付いていた傷一つ無い合わせ大剣の内一つが粉々に砕け散っていたからだ

 

「当たれば即死ですか」

 

「えぇ、当たればですがね?」

 

スヴァールとサングリーズは魔力感知で気付いた。深月の拳銃は、魔力を込めたら込めた分だけ弾速が早くなって破壊力が増す。正にインチキなグロテスク拳銃である

 

「しかし、それは魔力を大量に消費しなければそれ程の破壊力を生み出せないという欠陥を抱えています」

 

「確かに燃費は悪いでしょう」

 

「彼女から聞きましたが、その形状の武器は計六回の攻撃しか出来ず、再び攻撃するには補給をしなければいけない。ハイリスク・ハイリターンな武器です。先程みたいに近距離でなければ悠々と回避できます」

 

スヴァールとサングリーズは空へと飛び、深月を見下ろしながら注視する。深月の方も、離れていては当たらないと分かり切っているので、空力で跳ね上がって大量の魔力を拳銃に込めていると、いきなり魔力が霧散した

 

「?」

 

体から魔力が霧散している様な感覚に、頭を傾げる深月

 

魔力が霧散というよりも抜かれているという表現が一番ですね。これでは銃に魔力を貯める事が出来ませんし・・・原因は?

 

自身の身に何が起きたか分からない状態でスヴァールとサングリーズがこれ好機と襲い掛かる

 

「最初は役に立たないと思っていましたが、今回だけは良い仕事をしましたね」

 

「イシュタルといいましたか、あの人間には後程褒章を与えるのも良いかもしれませんね」

 

「なるほど・・・見逃すのではなく、殲滅した方が良かったという事ですね」

 

地上の離れた所でイシュタル達が歌っている。正直気持ち悪いと思いながら、狙撃する。しかし、障壁が張られているのか攻撃が通らなかった

 

「吸収した魔力で結界を張っているという事ですか」

 

「よそ見が出来ると?」

 

「それは慢心です」

 

「いいえ、慢心はしていません」

 

前後から戦斧とランスの攻撃を紙一重で躱して黒刀の斬撃で二人を吹き飛ばすが、彼女等は吹き飛ばされながら深月へと分解魔法を放った。動く事の出来ない行動直後の攻撃、動かない深月を見つつもう一度分解魔法を放つ。しかも、逃げる事が出来ない様に上下と押し潰す形の攻撃。銀の極光が深月を飲み込み、手ごたえを得た二人は一息入れようと息を吐いた瞬間

 

「分解魔法を有難う御座いました。それでは、お別れです」

 

「なっ!?」

 

「スヴァール!!」

 

無音加速で一気に懐に飛び込んだ深月は、腰溜めにした右拳をスヴァールの胸部に穿つ。スヴァールは、とっさの判断で戦斧を深月の胸を刺し貫く。しかし、深月を刺し貫いた感触は無く、自分の胸部を穿たれた感触だけがあった

 

「ゴフッ・・・な、ぜ・・・・・」

 

深月の腕が引き抜かれると、瞳の光を無くしたスヴァールが地へと墜落した。その事実にサングリーズが驚愕したが、深月に向かって再び分解魔法を放つ。極光に飲み込まれたが、傷一つ無く立っている深月の姿を見て呆然としている

 

「止まっていますよ」

 

「はぁっ!!」

 

ランスを右手に、腰の合わせ大剣を左手に持って深月に攻撃する。刺して、斬って、払って、打ち付けて――――色々と攻撃を繰り返すも、その全てに手ごたえが感じられない。サングリーズの心にじわじわと恐怖を植え付けていく深月

 

「何故・・・何故!何故死なない!死ね!死ね!死ねえええ、イレギュラーああああ!!」

 

武器が体を攻撃する毎に、一歩、また一歩と近づいてゼロ距離となる。大振りでもう一撃攻撃すると、遂に深月の体は粒子となって消えた。肩を上下させて息を切らすサングリーズは、「倒した?」呟いて目の前から消えた存在に安堵。そして、ハジメと戦っているであろうノイントに助力しようと振り返る。だが、彼女の目の前に映るそれは、先程まで嫌と言うまで見知った服と白に近い銀の髪―――――気配が全く無い深月が背後に居たのだ。上半身だけの姿、まるで亡霊を見ているかの様だった

 

「抵抗は終わりですか?親へのお別れは?恐怖で震えあがる準備はOK?」

 

「ヒィッ!?く、来るな!来るな来るな来るなくるなくるなクルナクルナクルナクルナァアアアア!」

 

再びわめき散らしながら武器を振るうサングリースだが、深月の手がゆっくりと胸に突き入れられる。徐々に消え行く自分の胸。恐怖のあまり逃げ出そうとしたが、体が全く動かなくなった。例えるなら、生きたまま蜘蛛に喰われる様なものだ

 

「ァアアアアーーーーー!!」

 

「感情の無い人形に恐怖を植え付ける事が出来て、楽しかったですよ♪」

 

深月の手がサングリースの心臓部に届き、瞳の光を失って墜落。深月の手によって墜落した先兵を見たイシュタル達は、恐怖と狂乱に陥り発狂していた

ふと、深月はある事を思い付いて墜落した先兵の下へ降り立ち、死体を宝物庫へとしまい込んでハジメの下へと向かおうとした

 

さて、ハジメさんの方も終わったでしょう―――――ッ!?

 

唐突に感じた悪寒に反応した深月は、金剛と超硬化で体を強化して、更に魔力糸のドームを作り終えたと同時に襲い掛かった爆発の衝撃。木々や瓦礫の破片がドームの一部を抉り、ギリギリ防ぐ事に成功した

 

ど、どうして爆発したのですか!?ハジメさんの持つ武器でもこれ程までに広範囲爆発を引き起こす物は無かった筈です・・・

 

すると、念話石からこの爆発の原因をティオが語り納得出来る代物だった

 

土を発酵させて可燃性ガスの生成、からの爆発とは・・・畑山先生、ガス爆発の威力は知っている筈では?余裕が無くて、結界を破壊できるか分からなかったと。・・・取り敢えず、発酵のガス爆発は厳禁です。私はその爆心地近くに居たのですよ?あぁ・・・はい、そうですか。終わり良ければ総て良しと―――――私は赦しませんから、そのつもりでいて下さい。大丈夫です。何も武力でどうこうするわけではありません。後程楽しみにして下さいね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

神の先兵の一人、ノイントを倒したハジメ。かなり厳しい戦いだったが、持ちうるアーティファクトのほぼ全てを使ってやっと勝てたという厳しい勝利だった。激闘を戦い抜いたハジメを待っていたのは、神山に建っていた聖教教会の爆破であった

 

「・・・うそん」

 

キノコ雲が出来る程の強力な爆発に、もの凄くドン引きしたのだ。「何がどうなってああなった!?」と叫びたいが、その余力すら無い状態だ

 

(ご、ご主人様よ・・・そっちはどうじゃ?)

 

(お?おぉ、ティオか。いや、こっちはちょうど終わったところなんだが・・・)

 

(ふむ、それは重畳。流石、ご主人様じゃ。丁度こちらも終わったところなんじゃが、合流できるかの?)

 

(いや、それが何かスゴイ事に・・・)

 

(・・・その原因は分かっておる。というより、妾達のせいじゃし・・・)

 

(・・・何だって?)

 

あの爆発を先生とティオがやっただと?いったいどういう事だってばよ・・・

 

(あの爆発はお二人のせいだったのですね・・・)

 

(深月の方は倒せたのか?)

 

(そ、そうじゃ!深月は二人相手取っておったが大丈夫かの?)

 

(えぇ、大丈夫でしたよ。神の先兵相手には)

 

あっ、これはヤバイな。深月の奴が珍しく怒ってる―――――となると、あの爆発に巻き込まれたのか?ってか、よく生きてたな

 

深月の物言いが何時もより違う事に気付いたティオは恐る恐る尋ねる事にした

 

(・・・もしかせんでも、深月はあの爆心地の近くに居たのかの?)

 

(居ました。私は、物凄く久しぶりに悪寒を感じましたよ。ドームを作って身を硬めなければ、確実に死んでいました)

 

(す、すまんかったのじゃあああああああああ!ま、まぁ終わり良ければ総て良しとも言うじゃろ?だから怒らないで欲しいのじゃ)

 

(無理です♪)

 

(諦めろティオ。今回ばかりは、お前と先生の二人が悪い)

 

(ちょっと待つのじゃご主人様!深月が怒っておるから妾達を差し出すのじゃろ!?せめて妾だけでも弁明して欲しいのじゃ!!)

 

えぇ~・・・嫌だなぁ)

 

(聞こえとるぞおおおおおおお!)

 

(それはともかく、今は合流するぞ)

 

(妾達の事はどうでもよいのか・・・仕方が無いのじゃ。腹を括る他ないのう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、上空へと跳び上がり深月とティオ達と合流した。まぁお約束のお叱りが待っていた

 

「まったく・・・ティオさんは知識が無い分特に追及はしませんが、畑山先生は別です!教師なのですから可燃性ガスの爆発威力の予想位は出来るでしょう!?教会で私達にデバフを掛けていた者達の処理をしてくれた事には感謝しますが、危うく死ぬところでした!」

 

「ぐすん・・・はい・・・すみません」

 

う~ん、このお説教を見ているとまるで子供を叱るメイドさんとしか見えねぇ」

 

「わ、私子供じゃないのにぃいいいい!南雲君にも子供扱いされたあああああああ!」

 

「あっ、思ってた事がつい出ちまった。すまん」

 

「いいんです・・・どうせ私は子供先生なんです。生徒を殺そうとしたダメダメ教師なんです・・・」

 

畑山の自虐が天元突破状態だ。ハジメに関しては言い過ぎだが、深月に関しては仕方が無い。もしも、深月の居た場所にハジメが居たら・・・確実に爆発に巻き込まれて大怪我をしたか、最悪死んでいただろう

畑山は、生徒である深月に怒られ、あの様な惨状を引き起こし、覚悟していたとはいえ教会の者達を木端微塵にした罪悪感と色々が押し寄せ、その場で嘔吐してしまった

 

『妾の背中が・・・』

 

「私が清潔しておきますので、我慢して下さい」

 

ハジメの胸元に畑山が縋り付いて泣いており、深月は汚れている所を清潔でキレイキレイする。ティオは、再生魔法で畑山のすり減った心を少しばかり癒して落ち着きを取り戻させた

 

「落ち着いたか?先生」

 

「は、はい。も、もう大丈夫です。南雲君・・・」

 

「ハジメさん・・・またしてもフラグを建てますか」

 

「おいいいいいい!?それは今いう事か!?」

 

俺って何かとヤバイ状況に居るよな?先生は先生で顔を紅くするし、深月は避けない事を苦言するしでしっちゃかめっちゃかだろ!

 

色んな事から目を逸らそうとしたハジメ。しかし、深月とティオの警戒心を含んだ声が届く

 

『ご主人様よ。人がおる。明らかに、普通ではないようじゃが』

 

「気配が無いですね。しかし、ゆらゆらとして見えている・・・神山の大迷宮は魂魄魔法。この場に定着した魂が現れているという事でしょうか?」

 

「何だって?」

 

禿頭の男は、ハジメ達が認識したのを確認したのか、そのまま無言で重力を感じさせずに瓦礫の山の向こうへと移動した。そして、視界から消えない程度の所でハジメ達の方に振り返って待機している

 

「・・・ついて来いってことか?」

 

『じゃろうな。どうするのじゃ、ご主人様よ』

 

「・・・そうだな、さっさと皐月達と合流はしたいところだが・・・元々、ここには神代魔法目当てで来たんだ。もしかしたら、何か関係があるのかもしれない。手掛かりを逃すわけにはいかないな」

 

ハジメ達は、ティオの背から降りてそのまま男性の後ろを辿る様に付いて行く。しかし、何事も無く進む。そう、本当に何も起きないのだ

 

「何かしらの試練があると思うのですが、何もなさそうですね」

 

「いや、既に試練が始まっている可能性もあるんじゃねぇか?」

 

「試練って・・・前に言っていましたよね?死ぬ可能性が高いと・・・」

 

「迷宮を作ったやつらのコンセプトが何なのか分からないから何とも言えないな」

 

しばらく進むと、目的地に着いた様に真っ直ぐハジメ達を見つめながら静かに佇んでいた

 

「あんた、何者なんだ?俺達をどうしたい?」

 

「・・・」

 

ハジメの質問には答えず、黙って指を指す。その場所は変哲も無い瓦礫の山だが、禿男は進めと言っている様だった。警戒をしながら瓦礫の上に立つとその瞬間、瓦礫がふわりと浮き上がり、その下の地面が淡く輝き出した。しかも、そこには大迷宮の紋章の一つが描かれており、彼が何者なのかを指示していた

 

「彼は解放者なのですね」

 

「オスカーの日記やミレディからの情報だと、解放者の一人――――ラウス・バーンって所か」

 

地面が淡く輝いてハジメ達を包み込むと、見知らぬ空間に立っていた。左程広くは無いが、光沢のある黒塗りの部屋で、中央に魔法陣が描かれており、その傍には台座があって古びた本が置かれている。恐らく解放者の拠点だろう。時間が惜しいので、畑山には何も言わずに魔法陣の上に立つと、何かが入り込んでくる感覚に三人はうめき声を上げる。深月も嫌そうな顔をしつつ、声には出さない。あまりの不快感に、罠かと思ったが、あっという間に霧散した。それと同時に、頭の中に直接、魔法の知識が刻み込まれた

 

「魂魄魔法・・・」

 

「う~む。どうやら、魂に干渉できる魔法のようじゃな・・・」

 

「なるほどな。ミレディの奴が、ゴーレムに魂を定着させて生きながらえていた原因はこれか・・・」

 

「恐らく、先程の不快感は最終試練か何かだったのでしょうね」

 

「先生、大丈夫か?」

 

「うぅ、はい。何とか・・・それにしても、すごい魔法ですね・・・確かに、こんな凄い魔法があるなら、日本に帰る事の出来る魔法だってあるかもしれませんね」

 

畑山は、初めて経験する頭痛にこめかみをグリグリしながら納得したように頷く。その表情は疲れ切ったものだが、帰還の可能性が現実味を帯びてきているので少しだけ緩んでいる

 

「それじゃ、魔法陣の場所もわかったことだし、早く皐月達と合流しよう」

 

「あっ、そうです!王都が襲われているんですよね?みんな、無事でいてくれれば・・・」

 

心配そうにする畑山を促して、神山を下山するハジメ達。神山から王国へと続くリフトがあるのだが、そんなにゆっくりとも出来ないので、畑山には悪いが強制フリーフォールを体験することになった。悲鳴が木霊するもハジメ達は無視して王国へと降り立ち、戦力不足である香織達の方へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「うん。メイドさんが色々とインストールしています」
深月「ハジメさんに渡された拳銃はとても使い心地が良いです」
布団「魔力込める量によって威力が変わるなんて・・・銃の常識を崩壊させています!」
深月「ハジメさん曰く、内部バレルをアザンチウムにする事で摩耗を防ぐそうです」
布団「お嬢様も新しい武器をツクッテソウダナー」←フラグ
深月「しかしながら、私はよく生きていましたね。防御が間に合わなければどうなっていた事か・・・」
布団「戦略兵器となり得る先生パネェ!」
深月「それでは、次話の投稿をお待ち下さい」


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お嬢様の活躍を見れなくて、メイドは悲しいです

布団「今回はお嬢様達の視点だぞ!」
深月「お嬢様の活躍を見たかったです・・・」
布団「仕方がないんや。先兵が複数いたら、主人公だけでは勝てんのよ」
深月「頼りになる分には良いのですが、私が過労死してしまいます」
布団「お嬢様のドーピングするから問題ない!」
深月「楽しみにしています♪それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」










~皐月side~

 

ハジメと深月の二人が先生を、私とユエとシアとティオは魔物の駆除、香織とリリアーナは勇者(笑)の所へ。役割分担を決め終え、ハジメ達を神山手前で降ろして移動。王国へと続く街道に香織達を降ろして、私達は魔物達が出現するであろう平原に降り立った

深月の考察から予測して、魔人族が魔物を率いて出現するのはこの平原以外にはありえないわ。恐らくタイミングは、王国の結界が破壊された直後の筈・・・。偶には私自身で予測しないと、この先苦労しそうよね~。特に、地球に帰ってから

 

皐月達は、平原へと降りて四輪を宝物庫に収納して、再び作戦会議を開く

 

「魔人族達が空間魔法で現れるのは、この平原以外ありえないわ。王国内部に――――と考えたけど、精密なイメージが出来ない筈だからそれも却下。よくても、小型の魔物を解き放つ程度だと思った方が良いわ」

 

「・・・配置はどうする?」

 

「ティオは、上空に現れる小型の竜を相手して。ユエとシアは地上戦。私は両方よ」

 

「ドリュッケンが火を噴きますぅ!」

 

「・・・新しい魔法の実験台」

 

「本物の竜の力を見せつけてやるのじゃ」

 

各自の意気込みは十分。一応、念には念を入れての対策も立てる

 

「良い?もしも、神の先兵が現れたら私が相手をするわ」

 

もしも、魔法が全く効かず、物理耐性を持っているとしたらと思うと、特化型のユエとシアは間違いなくやられるだろう。唯一バランスの良いティオならばと思ったが、ステータスの事を思うと力不足だと感じたのだ

 

「先兵の強さが分からん事には何とも言えんからのう」

 

「この中で一番強い皐月さんなら余裕ですよね!」

 

「・・・皐月でも厳しいかも」

 

「えぇ~、深月さん程じゃないですが、皐月さんも化け物級ですよ?」

 

「うむぅ・・・正直言うと、ご主人様達が苦戦する姿が思いつかないのじゃ」

 

「二人は奈落の最下層で見た、先兵を模したゴーレムを見ていないからそう言えるだけ」

 

「あれはヤバかったわ。ステータスが今よりも遥かに低かったけど、十分強い深月を圧倒してたわ。竜化状態のティオよりも高いステータスにも拘らず、力強さに圧倒されていたのよ」

 

二人は想像した。竜化状態のティオよりもちょっと高いステータスの深月を思い浮かべて、皐月が言った事を想像すると

 

「「どんな化け物ですか(なのじゃ)?」」

 

「私でやっと勝てる位だと思いたいわ。・・・深月は、「技量を持っていても、力の前にはその意味を成さない」と言う程のステータスでしょうね。しかも、技能が何一つ無い状態でそれなのよ?」

 

「深月の超絶技術と策と罠の全てを総動員して勝てた相手。五人で深月と戦っても、直ぐに負ける私達じゃ不可能」

 

「マジですか・・・皐月さん、深月さんの技術だけで凌がれる私達で勝てますか?」

 

「深月相手に使ってないアーティファクトを惜しみなく使うから大丈夫よ。私とハジメのステータスだと、先兵と変わらない位って深月が言っていたわ。後は個人の技量勝負よ」

 

「深月が断定するのであればそうなのじゃろう」

 

「まぁ、今は魔人族よ。先兵がこちらに来る可能性が低いとはいえ、私達のやる事は変わらないわ」

 

「ん!」

 

「ですぅ!」

 

「そうじゃな!」

 

「それじゃあ、二人には左右を任せるわ。蹂躙の時間よ!」

 

ユエとシアが左右に別れると――――

 

パキャァアアン!!

 

何かが砕け散る音が響き渡った。恐らく王国を守っている大結界が壊されたのだろう。すると、その音を合図に、皐月達が視線を向けている前方の空間が揺らいて魔物達が大量に出現した。そして、魔物に交じる魔人族がちらほらと見える

ティオは竜化で空へと駆ける。先制攻撃としてブレスを小竜に放ち、燃やし尽くした。現れて早々に小竜の群れの一部が倒された事に驚き固まっている魔人族は、皐月が頭部に照準を合わせている事に気付かず頭部を粉砕された

 

「さて、行くわよ!」

 

空力で空に跳ね上がり、ウルの街でも使った炸裂弾を放って絨毯爆撃を開始した。強襲によって人間側を混乱に陥れようとした魔人族だが、反対に強襲された事で自陣が混乱に陥り指揮系統が乱れる

 

「何が起こっている!?これはどういうk―――――ギャアアアアアアアアアア!」

 

「くっ、魔法隊は空の人間を撃ち殺―――――」

 

ズドオオオオオン!

 

皐月は、上空から指揮官と思われる魔人族のみを狙撃する。中央から広がる混乱は周囲へと広がり、左右にも浸食する。丁度、左右に混乱の波が来たと同時に、ユエとシアが襲い掛かる。中央へと向いていた意識がいきなり前方へと移り、更なる混乱が魔人族達を襲った

 

「良い感じね、これで上空からの爆撃は終了。ここからは新兵器の出番よ!」

 

宝物庫から取り出されたそれは、ミニガンのメツェライと似通った形をしている。しかし、その銃身はフラッシュストライクの銃身を細く、長く、と改良をされている物だった。皐月が神結晶の腕輪を外して、カードリッジ部分に装着。その隙をチャンスだと思い込んだ魔人族達は突撃を開始する

 

「今だ、あの人間を殺せ!全軍突撃ぃいいいいい!!」

 

雄叫びを上げながら皐月へと群がる魔物と魔人族。皐月は、両手に持つそれを前方に構えて魔力を送り込む。キチキチキチと音を立てながら、ゆっくりと銃身が回転。だんだんと回転速度が上がり、まるで早く撃たせろと言いたげに甲高い音を鳴らす

 

キュイイイイイイイイイイイイ!

 

不気味な音を立てるそれに、臆する事無く突撃を続ける彼等の脳裏に過去の映像が高速で流れる

 

「"ミーティア"の餌食になりなさい」

 

ギュババババババババ!

 

ミーティアのトリガーを引くと同時に放たれる紅い魔力の球は、魔物達を貫通して後ろの魔人族達にも襲い掛かる。弾速は衰えず、威力もそのままで奥へ奥へと突き進むそれは凶悪極まりない攻撃だ。紅い球が通った場所には、体に複数の穴を空けた死体が築き上がる

 

キュィィィィィン・・・キチキチ・・・キチ・・・キチ

 

一仕事終えたぜ!と言いたげに回転を止めた筒は、銃身の先が少しだけ赤くなっている。すると、悪寒に駆られて伏せていた部隊だろうか?彼等は立ち上がり、仲間の死体を乗り越える様に皐月へと突撃して来た。恐らく皐月の攻撃が止み、持っている武器の先が赤くなっている事から攻撃が来ないと理解したのだろう

 

「今だ!あれが赤くなっている今がチャンスだ!仲間の仇を討てぇええええ!」

 

『うぉおおおおおおおおお!』

 

先程よりも大きい雄叫びを上げながら近づいている魔人族。リーダーと思わしき男の表情は、「今なら攻撃できまい!」と言いたげにニヤケている。しかし、悪夢はここからだ。皐月がこの程度で終わらせると思うだろうか?そもそも、フラッシュストライクを作ったのは皐月である。手に持っているミーティア本体の上にレバーを起こすと、銃身がポンッと外れた。そして、宝物庫から新しい銃身を取り出したのだ。しかも、形が物凄く歪で、一本の筒から四つのガトリングガンの銃身が付いているのだ。新しい銃身を取り付けたミーティアを見て、顔を引き攣らせる魔人族の男。だが、ミーティアのギミックはこれだけでは無かった

 

「ミーティア"コネクト"!」

 

御分かりだろうか?皐月は、義手の右腕をミーティア本体の後ろ部分に直結させた。これで狙い撃ちも容易となり、更なる殲滅力を手に入れたのだ!

 

「ミーティア・ブラストモード。最初から一気に行くわよ!」

 

先程とは違い、いきなり甲高い音を鳴らす。真ん中の柱を支点に回転を始めた四つは、その回転と連動する様に一つ一つのガトリングガンの砲身も回転を始めた。四つの銃身から放たれる魔力の弾丸の壁は、伏せて回避をしようとした魔人族を飲み込んで穴だらけにした

余談だが、皐月曰く、「四つのガトリングガンの砲身も回転した方がカッコいいでしょ?」というだけの理由で回転させている

 

「実射してみたけど・・・とんでもないわ」

 

グズグズの穴だらけの者達を見て、素直に思った事だった。皐月自身も、これ程の火力が出るとは思っていなかった。すると、筋肉で一際大きい魔人族一人だけが生き残っていた。よく見ると、当たった場所が少し焼けている程度の軽傷―――――何かしらの技能があって防ぐことが出来たのだろうと理解した

 

「この弾幕でよく生き残れたわね」

 

「化け物が!金剛と熱耐性が無ければ死んでいたところだ」

 

「一人で私と勝てるのかしら?」

 

「勝てはしないだろう。だが、一緒に死んでもらうぞ!」

 

目の前の魔人族の男は、ペンダントの様な物が幾つか身に着けられていた。これは、魔力を流す事で発動する爆弾。王国の兵士が持っていたのを奪っていたのだ

 

「アルヴ様ばんざああああああい!」

 

起動すれば止める事は出来ないそれが、合計五個。皐月程の猛者を倒すのであれば惜しみないと感じたのだろう。だが、皐月は落ち着いて対処する

 

「残念だけど、道連れは御免よ」

 

ここからがブラストモードの真骨頂。真ん中の柱が開き、中から銃身が伸びると同時に回りが高速回転を始める。赤い稲妻が迸り、真ん中へと集約され拳大の大きさになったと同時に発射。その衝撃は凄まじく、反動で十メートル程大地を削りながら後退した

 

ズガアアアアアアアアアアン!

 

直撃した魔人族はおろか、射線上の死体も全て飲み込んで存在そのものを消滅させた。皐月は、放熱するミーティアを急いで外し、宝物庫へと仕舞った

 

「うん、この威力ヤバイけど・・・隙が大きいわね。実力が拮抗している場面だと使えないわ」

 

すると、上空から聞き覚えのある声が響く

 

「あの場面からどうやって生き残ったのかは分からないが、貴様達は危険だ」

 

グリューエン火山で出会った魔人族―――――白竜に乗ったフリードがようやく現れたのだ

 

「やっと会えたわね。私の深月を傷付けた罪をお返ししてあげるわ」

 

「我らの同胞を殺した貴様は確実に殺す!」

 

開幕早々、シュラーゲンでフリードを狙撃する皐月。だが、出会ったとき同様障壁に阻まれて弾かれる

 

「無駄だ。あのメイドでなければ、この障壁を破る事は叶わん。撃て!」

 

「見え見えの攻撃に当たるわけないでしょ!」

 

皐月は、白竜のブレスを悠々と回避しながら宝物庫から新しい武器を取り出す。銃口が広いが、ありふれたライフル型の銃だ。それを見て嘲笑うフリードは、空間魔法の呪文を唱え始める。皐月はその銃に弾丸装填して、神結晶の腕輪をライフル上部に差し込んだ

 

「界穿!」

 

フリードは、火山の時と同様に白竜と一緒に転移する。その間、皐月は目を閉じて集中―――――そして、迷いなく左側に銃口を向けて引き金に指を掛けて引いた。射線の先には、白竜と一緒に現れたフリードが居た。フリードは、現れた瞬間に銃口を向けられた事に気付いて咄嗟に横っ飛びで回避した。フリードはこの時、避けなくても障壁があるから大丈夫だったと体勢を崩した事に悪態をつこうとした。しかし、皐月から放たれた弾丸は障壁を易々と砕いて、亀形の魔物を掠めた。障壁が破られた事に驚愕して、亀形の魔物の様子を見て更に驚愕した。掠った筈の魔物は、その場所が抉られたかの様な傷があり、少しして体を傾けて絶命した

 

「死になさい!」

 

亀形の魔物に気を取られた瞬間、フリードへと襲い掛かった皐月の右拳が腹部に直撃。フリードは寸前で後ろに跳ぶ事で衝撃を少しだけ逃す事に成功したが、皐月のステータスで殴られただけでも尋常では無い痛みとダメージを負った。白竜の背から吹き飛ばされて空へと放り出されたフリードは、小竜の背に着地した事で落下という難を逃れる事に成功した

 

「ちっ、逃した!」

 

皐月は、白竜の背を全力で叩き踏んで白竜を墜落させる。そして、地面へと墜落した白竜をそのまま殺す勢いで炸裂弾を大量に撃ち込んで沈黙させた

 

「今度こそ、その命刈り取ってやる!」

 

だが、フリードはその間に空間魔法の詠唱を唱え終えており、自分と白竜を対象にこの場から逃走したのだった。皐月は舌打ちして、高ぶった感情を冷やして落ち着きを取り戻していく

 

「ふぅ~、殺し損ねたか。私もまだまだね。冷静に考えれば、白竜と一緒に逃走する可能性もあったのを忘れていたわ」

 

皐月が周囲を見渡すと、爆撃や魔法の衝撃で抉れた地面を見て、「復興が大変そうだなぁ~。まぁ、命あっての物種よね」と興味を無くした。王国はどんな感じになっているのかと遠目に見ていると、ドォオオオオオン!という爆発音が聞こえそちらに目を向けると、神山にキノコ雲が出来ていた

 

「・・・は?キノコ雲?え?」

 

皐月は、ありえないものを見て混乱していると、ユエとシアが皐月に合流した

 

「皐月、あれ!」

 

「何ですかあれ!?ハジメさん達は大丈夫なんですか!?」

 

「わ、私だって知らないわよ!?あんな破壊力のあるアーティファクトなんて作ってないわよ・・・」

 

皐月は念話で深月に尋ねて、事の顛末について聞いて納得した

 

「先生ェ・・・」

 

「ウルの街の?」

 

「あの先生がやったんですか!?」

 

「あー、爆発する元を作ったのが先生で、火種はティオね。私達の故郷で言うガス爆発が原因なの。先生が可燃性ガスを作って、ティオのブレスで爆発させたんだって」

 

ガスの知識が無いユエとシアは、首を傾げて全く分からないご様子

 

「例えるなら・・・無色透明な火薬が大量にある所に火を放った結果があれよ」

 

「火薬?」

 

「ってなんですか?」

 

「・・・・・やっぱり後で説明するわ」

 

「それよりも、あの魔人族はどうなった?」

 

「皐月さんの所に居たんですよね!殺りましたか?」

 

「残念ながら逃げられたわ。つい、熱くなって簡単な事も忘れてしまったのよ」

 

「深月を傷付けたのは大罪。今度は私も一緒に殺る」

 

「熱くなってしまうのは当然ですよ~。私もぶっ叩きたかったですぅ!」

 

フリードを殺りたいのは二人共同じ。深月によって如何に餌づけされているか良く分かるだろう

 

「魔物って王国内部にも居るのかしら?」

 

「中は見れなかったけど、外壁周りには居た」

 

「じゃあ、外壁に居る魔物達を手早く片付けるわ」

 

「一番槍行ってきますですぅ!」

 

「シア、ズルい。・・・私も」

 

皐月は、競争する様に外壁に固まっている魔物の群れに突っ込むユエとシアを見てヤレヤレと肩を竦めて殲滅をしに行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これでトドメですぅ!!」

 

シアのドリュッケンが火を噴いて、魔物の体をミンチにして殲滅が完了した

 

「いや~、これまでの鬱憤を晴らせて気分爽快です!」

 

「・・・バグウサギ」

 

「シアがここまで強くなるなんて想像していなかったわ。再生魔法と相性良すぎでしょ」

 

今現在のシアのスペックを簡単に説明しよう。再生魔法で、傷を治し、体力を回復させ、状態異常を治す物理特化戦士。尚、未来視の派生技能も獲得しており、数秒先の未来を自由に見れるというお化けになっている。しかし、深月との組手ではあっという間に組み伏せられてしまったりしていたので、自分がどれ位強くなったのかを中々実感する事も出来なかったりしていた。未来が見えていたら対処できるだろうと思われがちだが、それは全くの見当違いである。未来が見えても、自分ではどうする事も出来ない技を繰り出されたらどうする?―――――何も出来ない。もしも、対処出来るのであれば、それは行動の選択肢が増えるというだけだ

 

「いやぁ~、深月さんと比べたらまだまだですよ~。ハジメさんや皐月さんやユエさんにも勝てませんし」

 

「シアは未来視に頼り過ぎているのよ。今でこそまだマシだけど、以前のゴリ押し戦術は悪手よ。今回もゴリ押しで攻撃していたでしょ?深月が見ていたら一対一の訓練直行よ」

 

「うぐぅっ!?そ、それだけは勘弁して下さい。・・・あれは悪夢です」

 

「深月からすれば、私達が死なない様にギリギリを見据えての訓練なのよ」

 

「・・・でも」

 

「分かっているとはいえ、もう二度とやりたくないと声を大にして叫びたいわ」

 

何を隠そう―――――香織を除くハジメ達五人は、深月と一対一の訓練を行った事があるのだ。ハジメと皐月とユエは二桁に及び、シアは八回と、もうすぐハジメ達の二桁の仲間入りだ

 

「話は戻って、さっきシアがミンチにした魔物で最後ね」

 

「生き残りを探しますかぁ?」

 

「・・・手負いなら兵士でも倒せる」

 

「生き残りに魔人族が居たら排除しましょ」

 

「「わかった(ですぅ)」」

 

皐月達は、生き残った魔人族が居ないかどうかを確認しながら王国内に居る香織達の元へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~香織side~

 

時間は少し遡り、皐月達と別れて街道を走って王国に帰還した香織とリリアーナは、急ぎ勇者(笑)の下に急ぐ

 

「リリィ、まだ走れる?」

 

「ゼェッ、ゼェ・・・香織は何時それ程までの体力をつけたのですか?」

 

「・・・深月さんの訓練は地獄なの。死なないギリギリで走らされてね」

 

「そ、それは・・・さぞかし大変でしたね」

 

香織が体験談を語る時、遠い目をしていた事に察したリリアーナ。恐らく、倒れる寸前まで走らされたのだろうと簡単に予想出来たのだ

 

「って、今はそれどころじゃなかった。早く雫ちゃん達を助けに行かなきゃ!」

 

「神楽さんが中村さんが裏切り者と言っていましたが・・・信じたくありません。しかし、あの話を聞けば聞く程現実味が帯びていました」

 

「ユエ曰く、名探偵深月さんらしいよ?オルクス迷宮を攻略している時に、この世界の謎の核心に至ったって言ってたの」

 

「本当にメイドなのか怪しいです。密偵と言われた方が納得出来ます」

 

「深月さんだから仕方がないよ」

 

地球に居た時の香織は深月を完璧なメイドさんと認識し、トータスに来た直後は超人メイドに切り替え、一緒に行動していく内に究極完全体チートメイドと割り切る事にした

二人が王国内を走って王宮手前まで到着すると、大きな破砕音が響き渡った

 

「結界が!」

 

「リリィ、私の傍から離れずに急ぐよ!」

 

王宮へと入った直後に王国内に響く悲鳴と絶叫が聞こえ、とっさに振り返ると魔物達が住民達を襲っていた。香織は、手に持つ杖の握る力が強くなる。本当なら彼等を助けたいと心の底から思っている。しかし、事前に深月から忠告をされており、膨大な魔力を持ってない香織では救えないと。自分すら守れない者が他人を護る傲慢は捨てろと―――――。結界を扱えるリリィと一緒に居るが、遠目から見る魔物達の強さの前ではギリギリも良い所だろう

 

「・・・急ごう」

 

「・・・はい。急ぎましょう」

 

勇者(笑)と合流する事を前提としている香織は、襲われている住民を護れない罪悪感を感じながら王宮内部を走る。最初は各自に割り振られていた自室へと向かおうとした香織。だが、深月との地獄の訓練で散々言われた一言を思い出した

 

「リリィ、こういう場合は何処に集まると思う?」

 

「恐らく騎士団達と合流する筈です。だとすれば、兵舎の近くにある鍛錬場付近かと思われます」

 

"心は熱く、頭は冷静に"

深呼吸を一つし終え、気持ちを最悪の展開が起きた場合の対処に切り替える。周囲に敵が居る事を前提に慎重に、急いで鍛錬場へと到着する。そこで見たのは最悪の光景だった

全員が騎士団の男やメイドに組み伏せられ、首輪を付けられていた。しかも、元凶が八重樫の前に立って剣を持ってヘラヘラと笑っていたのだ。激情が香織を支配しそうになるが、直ぐに落ち着かせて小声で詠唱を開始。本来の性能で展開できるよりも長めの詠唱を唱えて、完璧に防ぐ準備をする。元凶が、その凶刃を振り下ろしたと同時に駆け出してトリガーを引いた

 

「聖絶!」

 

凶刃と八重樫の間に展開された障壁は、その刃を止めて元凶以外の者達を驚かせた

 

「雫ちゃん!」

 

「香織!?」

 

「行って!」

 

香織の言葉と同時に、障壁が元凶に突撃。驚いた表情をするが、腕を交差して直撃を防ぐ。しかし、障壁の激突の衝撃はすさまじく、後方へと吹き飛ばされた

 

「光輪!」

 

その隙を逃さず、心の中で詠唱と強力なイメージを用いてトリガーを引く。光の紐が地面から伸びて、拘束していた者達の四肢に絡まり付いて動きを封じる

 

「香織・・・どうして?」

 

「雫ちゃん!待ってて!直ぐに助けるから!」

 

八重樫が何か言いたげだが、全員の傷が酷い。香織は急いで範光系最上級回復魔法"聖典"を唱える。アンカジや訓練で鍛えに鍛えた努力が実を結び、数秒の詠唱にトリガーを引いて一気に全員の傷を癒した

 

「っ!?なんで、君がここにいるのかなぁ!君達はほんとに僕の邪魔ばかりするね!僕の予想だとあのクソメイドが来ると思っていたんだけど!」

 

「深月さんとは別行動だよ、恵理ちゃん。・・・いや、中村さん!」

 

香織は再び聖絶を"中村が避けやすい間隔"で飛ばす。それと同時に、光輪で動きを封じている騎士団やメイドに障壁を飛ばして、直撃すると同時に爆破させて遠くへと吹き飛ばす。それと同時にリリアーナが香織と合流して、一気に形勢が逆転する

 

「やはり・・・神楽さんの考察は当たっていたのですね・・・。お父様、お母様、皆さん、ごめんなさい」

 

「チッ、色々と大変だったのになぁ~。まぁいいや、ゴミはゴミで始末すれば問題ないよね!」

 

「くぅっ!」

 

中村は、次々と飛んで来る障壁を悠々と回避して香織へ近づく。三日月の笑みを作って、香織と目と鼻の先の手前で正面から飛んで来る障壁を避けたと同時に、横へ大きく弾き飛ばされた

 

「グハッ!」

 

「聖絶!」

 

吹き飛ばされて地面へと倒れたと同時に、自身を中心としたドーム状の障壁を展開した。これで、障壁の中に居るのは香織とリリアーナの二人と、中村を除いた迷宮攻略組達である。この障壁を破壊されない限り一応安全である

ヨロヨロと立ち上がる中村は、狂気を孕んだ眼で香織を睨み付ける。香織も中村の眼を見て嫌な感じがして、一挙一動を注視する

 

「いや~、君は南雲と合流してから強くなり過ぎでしょ。何?詠唱が要らないとかチートじゃん。全く苛立たせてくれるよ。良かったら詠唱が必要無い裏技教えてくれない?そうしたら、この場は見逃してあげるからさ」

 

「確かにチートだよ。でも、それは努力したから・・・それ以外の言葉は見あたらないよ」

 

上から目線でこちらを挑発する中村に、冷静に対処する香織

 

「そっかそっか、努力か。それなら、僕の努力と君の努力のどちらが優れているか―――――勝負しようか♪」

 

中村は詠唱をして、炎系上級攻撃魔法を行使。しかし、香織の障壁は砕けない。メラメラと燃え揺らぎる炎の間からチラチラと見える中村の表情を見ていると、一瞬――――そう、ほんの一瞬だけ三日月に歪んだと同時に背から感じた悪寒。深月と訓練した時に感じた悪寒と同等なそれに驚愕して振り返る。それと同時に聞こえる幼馴染とリリアーナの声

 

「「香織避けて(下さい)!!」」

 

振り返った先に見たのは、槍術師の近藤の槍が香織の胸元へと迫っていた。目を見開き驚愕した香織の意識は、そちらへと割かれて障壁が消える。背から感じる熱量と目先の槍。勇者(笑)組なら、どちらを防げばいいのか分からずに殺られてしまうだろう。だが、香織は迷いなく目の前の攻撃を捌く

 

「やあああああああああ!!」

 

深月との一対一の組手は、香織にとって十分すぎる程の体験だった。眼に映るスローの世界の中、体に刻まれた一瞬の動作を無意識に行使する。受け流し等の上級な事は出来なかったが、今回は杖があり、運良く槍の側面を左手に持った杖で弾く様にずらした事で腕の肉が削げた程度で済んだ。大量のアドレナリンで痛みは来ず、そのまま右手を相手の顔面を押し倒す様に地面へ叩き付ける。極限状態の中で動く体は、聖絶を自身と近藤の間に展開して爆破させて横へと逃れる。そして、背中に感じる熱量が上がり、背を焼いた

 

「ッ"!?あ"あ"あ"ああああああーーーー!」

 

ベヒモスを焼き尽くす炎の直撃は、ぎりぎり人間である香織だと本来なら即死だ。だが、香織は無意識化の生存本能で回復魔法と再生魔法の複合魔法"刻永"を発動した。一秒毎に一秒前の状態へと戻す回復魔法。しかし、その魔力消費量は尋常では無く、炎が止むと同時に魔力切れで気絶して地面へと倒れ伏す

中村は、ようやく倒した香織を見ながらヘラヘラと笑いながらゆっくりと近づく。しかし、血を大量に流して貧血の体で黒刀を杖にした八重樫が香織と中村の間に立ち塞がる

 

「や――――っらせない!香織を殺らせないわ!!」

 

八重樫が中村を睨み付けるが、ニヤニヤと嘲笑う

 

「その状態で助けるの?プッ、アッハッハッハハハハハ!本当は君を人形にして友達同士の愉快な殺し合いをさせようと思ったけど、それは僕の綿密に立てた計画を邪魔したから後で殺してあげるよ!」

 

同時に、中村の拳が八重樫の腹部にめり込む

 

「がっ――――はっ!?」

 

お腹を押さえて蹲った八重樫。中村は剣を持って香織に近づき、無防備の首を刎ねる様に剣を振り下ろした。だが、中村の振り下ろした腕は、剣ごと消失した。それと同時に中村の横の地面にバスンッと何かが貫通して爆発した。地中が爆発して土が降り注ぐ事で、何が起きたのかを直ぐに理解出来なかった中村を現実に引き戻す。感じる違和感―――――剣を振り下ろした右腕が半ばで消滅して、血が噴き出ると同時に襲い来る痛みに悲鳴を上げた

 

「い"っ、――――――う"あ"あ"あああああああああああああ!?」

 

中村は、後退りしながら襲い来る痛みに左腕で右腕を押さえる。眼から涙が出て喚く中村の目の前に何かが降り立ち、腹部に鈍い音と衝撃。その威力は凄まじく、中村に直撃したと同時に衝撃により砂埃が霧散。少しして、中村が吹き飛んだ。中村は、鍛錬場を越え、王宮の壁にクレーターを作りながら激突した。中村を吹き飛ばした人物は、皆が知っている服装を纏った人物

 

「よく耐えました。予想以上の出来は、色々と認識を変える必要がありますね」

 

皆が知っているメイド―――――深月であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「治癒師さんが強くなっている!」
深月「何事も地道な訓練が下地となるのです。後は焚き付けるだけですよ」
布団「よぉし、忙しいけど頑張って書くぞぉ!」
深月「感想等、お気軽にどうぞです♪」


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おい、メイドさんがキレちまったよ

布団「無計画な投稿だぁ。ゆっくり、楽しんでくれたまえ」
深月「・・・本当にどうしようもありませんね」
布団「読者の皆が気になっている!だから仕方がない!!」
深月「それでは、サクッといきましょう。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」









~深月side~

 

現在私達は、ティオさんの背に乗って王宮へと目指しています。あそこに香織さんの気配を感じますので

 

「皆さん、無事でいて下さい」

 

畑山先生、全員は無理だと思います。結界のアーティファクトを破壊されたとなれば、それなりの準備が必要となってきますので、傀儡操作の上限は無いに等しいでしょう。下手をすれば、王国内部のほぼ全てが乗っ取られている筈です。勘の鋭い八重樫さん辺りなら、その辺りを警戒していると思います。しかし、絶対はありえないです。とにかく、今は香織さんの救援が必要ですね。色々と仕込みはしましたが、それは咄嗟に対処出来る様にしているだけ・・・怪我無くは無理です

 

香織が合流してからと、深月は香織を鍛えていたのだ。それもスパルタ訓練―――――全て「ぎりぎりハジメの足手纏いにならない程度まで」と言って仕込んでいた。その成果はそれなりに出ていたが、完璧ではないのが心残りだった。だが、中村と出会った際に暴走する可能性が一番低いのは香織だけという現実。ハジメや皐月や深月が居たら、戦力差からドーピングするのは確定。ユエ達の場合も可能性はあるので却下。唯一戦闘能力を見せていないのはティオだけとなるが、攻撃の際に感じ取る可能性があるという事で駄目だった

 

「先生、悪いが全員は不可能だ。今回の事件の黒幕はエヒトはそうなんだが、大結界の破壊を行ったのは中村だっけ?そいつが仕組んだ事だ」

 

「な、中村さんが!?えっ・・・中村さんは天之河君達と一緒に行動していたし、魔人族とは敵対していた筈です」

 

「深月の予想では、倒した魔人族を傀儡にして取引なりなんなりしているのでは?だそうだ。そうだろ?」

 

「そうです。彼女は、ど腐れ野郎を手に入れる為にありとあらゆる手を使って来ます」

 

「あぁ、ど腐れ野郎ってのは勇者(笑)の事だからな」

 

「ど、ど腐れ野郎って・・・」

 

「脳内お花畑野郎よりマシ?だろ・・・・多分」

 

「話を戻して、彼女はど腐れ野郎の特別になりたい。ですが、ど腐れ野郎は一人を選ぶ事は出来ない。なら、どうすれば特別になれるか?それは、周りに居る女性達を処分すれば自分だけを見てくれると考えていると考えているのでしょう」

 

「や、ヤンデレの中でも一番最悪の部類じゃないですか!?」

 

「先生も深月が調べた事を聞いてみるか?中村の奴がここまで壊れた理由が分かるぞ」

 

「・・・それ程までに酷い内容なんですか」

 

「酷いの一言だな。俺ですら、こいつ最悪だなって思ったし」

 

「無自覚にフラグを建てているハジメさんも最悪だと思いますよ?」

 

「・・・俺ってそんなに無自覚でフラグ建ててる?」

 

「それはもう・・・沢山という位です」

 

『そうじゃのう。ご主人様は無自覚かもしれんが、好意をばら蒔いておるぞ?』

 

ど変態のティオに、「ばら蒔いている」と言われてショックを隠せないハジメ。少しして立ち直り、深月が調べた限りの情報を教えると、畑山は顔を青くしてショックを隠せないでいた

その間、深月は遠目で王国の内部を様子見をする。眼に見えるのは、魔物に襲われて喰われている住民達と、神に助けを求める様に祈り捧げる者と様々だ。深月は直ぐに興味を無くして香織を探す始めると、王宮の鍛錬場の一角に香織の気配を感じ取った

 

「鍛錬場ですか。・・・結界が砕け散り、魔物の対処をする為に兵士達と合流したと考えるのならば最適です。しかし・・・」

 

「ん?何か疑問でもあるのか?」

 

「あのど腐れ野郎がその様な考えを働かせるとは思えないのです。誰かのアドバイス、もしくは助言で協力という形を取ったのではないかと思われます」

 

「・・・確かにな。外に魔物が現れたら、そのまま突っ込んで行きそうな奴だからな」

 

「八重樫さんの提案なら良いのですが、これが中村さんの提案なら死地・・・間違いなく罠です。その場合は、騎士団の全員が傀儡となっている可能性が大きいですね」

 

「そ、そんな・・・」

 

「あっ・・・この反応は予想外です。ハジメさん、あそこの少し開けた森がありますよね?」

 

「あるが・・・どうした?」

 

「衰弱?それとも瀕死なのかは分かりませんが、人が一人だけ居ます。木を背にしているので全体は見えませんが、鎧・・・騎士団の誰かでしょう。どうされますか?」

 

「た、助けないと!南雲君、お願いします!」

 

ハジメとしては香織の方へと急行したいが、畑山のお願いを無下にするのも気が引ける。少しだけ考えていると、事態は急変した

 

「っ!ハジメさん、申し訳ございません。このままでは香織さんが殺されてしまいますので先行させて頂きます!」

 

「何っ!?」

 

ハジメの返事を聞くよりも先にティオの背を飛び降りて空間魔法で転移した深月。ハジメは急ぎたい気持ちがあるが、深月なら大丈夫だと自分に言い聞かせて早急に森の中に居る騎士団?の一人を助ける為に急行した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空間魔法で香織さんが居るであろう鍛錬場の上空に繋げたのですが、予想よりも手前でした。心は熱く、頭は冷静に・・・この距離ならば狙撃出来ますね

 

宝物庫から化物拳銃を取り出して、空力で停滞する。狙撃銃以上の射程をイメージしながら魔力を充填させる。どんどんと魔力を取り込む銃に、纏雷と集約でギリギリまで高めた弾丸を放った。今回は、片手ではなく両手でしっかりと持っていたが、それでも反動が凄まじく腕が跳ね上がった。しかし、そのかいあって、香織へと振り下ろされようとした右腕を剣諸共飲み込み、地面へと着弾―――――爆発。銃を宝物庫に収納して、全体に超硬化を行使。音速の壁を越えて距離を一瞬で縮めて、もうもうと舞う土煙の上から中村の目の前に降り立つ。未だに気付いていない中村の無防備な腹部に向けて、両手を上下に合わせた掌底を叩き込む。因みに、遠目から見て香織が焦げる様に倒れた以外に見えていなかった為、威力よりも速度と吹き飛ばしを重視とした攻撃だったので中村が即死する事は無かった

倒れ伏す香織の様子を見た深月は、容態を手早く確認して魔力切れで倒れていると分かり一安心

 

「よく耐えました。予想以上の出来は、色々と認識を変える必要がありますね」

 

遠見で炎に焼かれた所を見ていたからこその素直な言葉だった。身に着けていた神結晶の腕輪を香織の腕に着けて、魔力を回復させながら魔力糸で柔らかい布を作って香織の体を包む。流石にあの炎の直撃からの回復魔法は、自分だけを対象にしたものだけだったらしく、服までは再生していなかった為の処置である

 

さて、中村さんから色々と情報を引き出す必要がありますね。あまり情報を持っていない可能性もありますが、念には念を入れた方が良いですからね

 

「神楽さん、香織を助けてくれてありがとう」

 

「一緒に旅する仲間ですし、ハジメさんも無下にしていないので当然の処置ですよ。では、傀儡はどうする事も出来ませんので早急に処分させて頂きます」

 

「未だ居ると言うのですか!?」

 

深月の"傀儡が未だ居る"という言葉に驚愕している一同。そして、谷口と永山へとナイフを突き立て様としていた"二人"に一瞬で距離を詰めて、顔面を掴んで兵舎へと叩き込んだ。人間ロケットの如く飛んで行った二人は、石壁に突き刺さった

 

「その驚愕した様な間抜け顔はどうしたのですか。まさか、他のクラスメイトが傀儡にされていないとでも思っていたのですか?」

 

「えっと・・・」

 

「あ・・・いや・・・その、助かった」

 

戸惑う谷口と永山。助けられた時にハジメ達の強さを見た事があるが、深月については全く気付いても居なかった。それこそ、見たのは亀形の魔物を殴った時と、魔人族が放った魔法が全く効いていない所だけだ

 

「早くリリアーナ様の所に行ってじっとしていて下さい。今の状態での躊躇いは、自分だけでなく他人をも巻き込みます。それでも、武器を手に取る方は出来る限り援護しますが・・・どうされますか?」

 

深月の言葉に、全員が「うっ」と嫌悪感丸出しの表情で顔を歪める。そして、いつも通りの勇者(笑)が口を挟む

 

「人殺しは駄目だ!彼等は動いている!まだ生きているんだ!」

 

「先程投げ飛ばす際に二人の脈を確認しましたが、既に死んでいましたよ」

 

淡々と答える深月に、「それでも人を殺す事は駄目だ」と喚く勇者(笑)。このままだと足手纏いよりも酷いものになりそうだと感じた坂上と永山は、勇者(笑)を引き摺って香織達の元へと移動した

邪魔者も居なくなり、そこそこ自由となった深月は、迫り来る騎士とメイドを纏めて相手取る

 

「降霊術・・・死体を操るのではなく、魂に情報を刻み込んで操る認識で確認しましょう」

 

先ずは、騎士の一人に近づいて顎先を打ったが、止まらずに深月を攻撃。距離を取って、膝横にローキックをして関節を外す。すると、倒れて這いずる様に近づいて来る。続いて発勁で心臓を破壊するが、相手は止まらず攻撃を仕掛けて来る。次は側頭部に発勁を叩き込んでみると、糸がプッツリと切れた様に倒れ伏した

 

「なるほど、そういう事ですか」

 

深月の実験はまだ終わらない。宝物庫から拳銃を取り出し、実弾ではなく、魔力弾で迎撃開始。これもまた実験だ。殺しても誰も咎めないサンドバッグが目の前にあるので、ここぞとばかりに試行する。イメージはゴム弾の様な相手を吹き飛ばす弾丸を―――――発砲

 

ドガンッ!

 

頭が跳ね上がった。次は普通の拳銃の弾丸をイメージして――――発砲

 

ドガンッ!

 

頭部を少しだけ陥没させる程度の威力だった。検証終了―――――イメージは対戦車ライフルの弾丸

 

ドガンッ!

 

頭部を粉砕して、後方の壁をぶち壊した。実験も終わり、後は突撃するのみ

 

「さぁ、パーティの時間です」

 

「皆伏せて!」

 

八重樫が全員に注意して、全員が従って伏せる。その瞬間

 

ドガンッ!

 

発砲音が一つ。しかし、結果は十人程の騎士の頭部が粉砕されていた。助走をつけて跳躍し、上空から炸裂弾をイメージで爆撃を開始。騎士の一人に直撃した瞬間に炸裂した魔力弾は、周囲の騎士やメイドを巻き込んで肉片へと変える。そして、何を思ったのか、深月は拳銃を空に放り投げた。八重樫達は呆気にとられた表情をしていたが、深月が地上に降りた瞬間にその周囲の者達の首が空を舞った。噴き出る血飛沫に、全員が吐き気を催す。そんな事はつゆ知れず、体が血で染まっても蹂躙を続ける深月。およそ一分―――――約500人居た傀儡がその生を終えた

 

「なんじゃこりゃあ・・・」

 

「うわっ・・・これ全部深月がやったの?」

 

「うっぷ・・・オロロロロロロロロ」

 

ドン引きする声が二つと、ティオの背で畑山が嘔吐する音が響く。そして、香織の容態を確認する為にハジメ達が向かった。柔らかい布に包まれた香織を見て、ハジメは背を向けて警戒。皐月は布を剥いて体をチェック。因みに、目を背けようとしなかった男子達には、女子達が眼を隠したり睨み付ける事で事なきを得た

 

「リリアーナはどうなったか見ていたのよね?どうして香織の服が無いのか知ってるの?」

 

「はい。中村さんの放った魔法で燃やされました」

 

「ん?燃やされた?香織は火傷していないけど・・・」

 

「お嬢様、香織さんは回復魔法で焼かれた傍から傷を癒していました」

 

「あぁ、なるほどね。そりゃあ魔力切れで倒れる筈だわ。それで、中村さんは何処に?」

 

「それはですね・・・・・あぁ、丁度良くあちらから来て頂きました」

 

皆が深月が視線を向けた先を見ると、口から血を流しながら、覚束ない足取りでユラユラと近づく中村の姿があった。八重樫達は、痛々しそうに表情を歪めている。しかし、ハジメ達は警戒のレベルを上げた

 

「クソッ・・・クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ!クソがああああああああ!!僕の計画の悉くを邪魔してさぁ!メイドの分際で何様だ!」

 

「えぇ・・・そんな事を言われましても、私は以前に言いましたよね?邪魔をすれば容赦しないと」

 

「分かってるよそんな事は!でも、お前達が生きていると僕が特別にならないじゃないか!!光輝君に気に入られているメイドの分際で!!」

 

「えぇっ!?そ、そんな・・・気に入られている?・・・・・気持ち悪い」

 

「光輝君は気持ち悪くないんだよ!僕の王子様なんだよ!」

 

「これは・・・どの様に返したら良いのですか?」

 

「・・・諦めちゃいなYO!」

 

「無いのですね」

 

「僕を無視するなぁ!」

 

「何を言っても怒るのに・・・理不尽ですね」

 

「理不尽はお前だろうが!僕がバレない様に必死に集めた人形を一分足らずで全滅させておいて・・・これだからチートは!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるなああああああああああ!お前のような存在はバグなんだよ!消えろよ!消えろよ!!」

 

狂気を孕んだ眼で深月を睨むも、当の本人は、「はぁ・・・?」といってどう返せば当たり障りの無い返しになるかを模索中である

 

「あー、うん。・・・深月の存在がチートを通り越して理不尽なのは分かる。超分かる」

 

「そうよねー、私達と模擬戦したら分殺されるし・・・ぶっ壊れているわよね」

 

「・・・バグメイド」

 

「見つけたら逃げるのが一番ですぅ」

 

「深月の訓練は妾も遠慮願いたいのじゃ」

 

まさかまさかの、味方であるハジメ達からの理不尽の権化扱い。中村は、「はぁ?」と訳が分からない表情をしていた。それは、皐月の言葉に対してだった。同じ様に気付いた八重樫は驚愕しながら確かめる様に聞き返す

 

「ちょ、ちょっと待って!?南雲君達でも勝てないってどんだけよ!?」

 

全員がポカーンとしているが、更なる理不尽をハジメが告げた

 

「お前らは一対一と思ってそうだが、深月との模擬戦は一対五でだぞ?」

 

再び、この場に沈黙が訪れる

 

「はっ、ハハハハハハハハ!本当にふざけるなよクソメイド!絶対に殺してやる!この場で殺す!コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス――――コロシテヤル!

 

中村は、身に着けていた首飾りの宝石を外して飲み込んだ。すると、中村を中心に凄まじい衝撃が発生し、ハジメと皐月と深月以外の者達は吹き飛ばされた。この場に居る殆どの者が、"中村はヤバイ"と大音量で悲鳴を上げた。二人は見合わせて、ドンナーで狙い撃った。しかし、弾丸が中村の手前で止まってボロボロと崩れて無くなった

 

「ね、ねぇハジメ・・・ヤバくない?」

 

「気が合うな。俺もそう思っていたところだ」

 

光が蝕む様に、中村の体を徐々に包み込んでいる。一挙一挙にヤバイと感じて、深月を除いたハジメパーティーが攻撃をする。しかし、そのどれもが止められ、弾かれたりする。正にどうする事も出来ない

 

「ちょ、ちょっと南雲君!これ、どうするつもりよ!?」

 

「あ~・・・うん。逃げるのは駄目か?」

 

「南雲君のトドメの言葉でああなっちゃったんでしょうが!」

 

「・・・あ~、うん。スマン。やれるだけはやってみよう」

 

「う、うぅん。・・・私、生きてる?」

 

「香織!目が覚めたのね!」

 

「雫ちゃん、今何が起きているの?」

 

ようやく目を覚ました香織に八重樫がざっくりと説明すると、とても驚いていた。しかし、ハジメ達ならどうにか出来るだろうと思っていた

 

「高坂さん!王国は大丈夫ですよね!?」

 

「瓦礫まみれになったらゴメン!!」

 

そして、光が完全に中村を包み込み、砕け散った。それと同時に霧散する光に呆然とするが、直ぐに膨大な重圧が上空から降り注ぐ。ハジメ達三人以外は立てず、本能で四つん這いになって「勝てない」と理解した

 

「あっぐ!クソッタレが!エヒト本人が降臨したってのか!?」

 

「ハジメ空を見て!」

 

皐月の言葉を聞いて、全員が空を見上げる。雲の中からゆっくりと光が降りて停滞。その光の中から現れたのは、四翼を持った天使が上空に君臨した。美貌は、老若男女全てが美しいと賛美する造形で、髪は白銀、目は水色、神の先兵と同じ防具を身に着け、右手には装飾の施された直剣、左手には造形美溢れるラウンドシールドを持っている。王国に居る住民達は、天使の美しさに祈りを捧げ、「エヒト様が手を差し伸べて下さった!」と歓喜している者達が居たりと様々だ。天使は、ハジメ達の前に降り立ち、言葉を紡いだ。だが、その声はとても聞き覚えのある口調で、水色の眼が一瞬で狂気を孕んだ

 

「あはっ♪凄いよこの体!アハハハハハ!神様は僕と光輝君を祝福してくれているんだね!」

 

「え、恵理なのか?」

 

「そうだよ光輝君♪やっぱり光輝君は、姿形や声が変わってもボクだと気付いてくれたんだね!」

 

ねっとりとした視線を勇者(笑)に向け終えた後、中村がハジメ達へと向き直った。直後、ハジメ達を襲う重圧に少しだけずり退がる。自分よりも格上と戦った事は幾度もあった。しかし、どの格上とも違う重圧に舌打ちをする

 

「チッ、どこのラスボスだよ・・・」

 

「いや、ラスボスの一歩手前のボスかもしれないわね・・・」

 

「ヒヒッ♪」

 

冗談交じりで呟く皐月に嫌な笑みを浮かべた中村

 

「高坂大~正解♪この体だけど、神様の元部下の物だったんだよ!だ・け・ど、神様に歯向かっちゃったから魂を砕かれてお人形さんに成り果てちゃったんだ♪そこで、ボクが貰い受けたんだ!良いでしょ?でも、あ~げない」

 

「エヒトが手を付けた体なんてこっちから願い下げよ!」

 

「ん、何々~?ふんふん・・・ちゃんと伝えるよ♪」

 

誰と連絡をしたのかは理解出来た。あの体を作ったのはエヒト。ならば、連絡する事だって容易だ

 

「誰と連絡を取っていたってのは一々聞かねぇ。大方エヒト本人だろうからな」

 

「南雲正解~♪それと、南雲に提案だけど――――――高坂皐月を渡してくれたら、見逃してあげるよ?」

 

あ"ぁ"?

 

ハジメの一番大切な物を渡せと言った中村。ハジメは怒る気持ちを少しだけ抑えて理由を聞こうとするが

 

「イレギュラーで、盤面をかき乱す存在は要らない。だけどだけどだけどぉ!今ならなんと!神様に高坂皐月を献上する事で、全員地球に帰してもらえま~す♪神様太っ腹―――――」

 

ドパンッ!

 

「――――全くもう!ちゃんと返事しないと駄目じゃないか南雲~。あれ?あれれ?どうしたのかな?南雲は地球に帰りたいんでしょ?だったら、神様に差し出しちゃえば良いだけじゃん。もしかして、「俺の女に手を出すんじゃねぇ!」って言いたいのかな?」

 

「その汚ねぇ口を閉じろ。そして、百万回死ね」

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

ハジメは、中村に向けて弾丸を放つ。しかし、その全てが分解魔法を付与された鎧の前には無力。先兵と戦った時には、衝撃までは吸収出来ていなかったのだが、体のスペックなのか、はたまた鎧が進化したのかは分からない。だが、見て分かる通り、全く効いていない

 

「効かない効かない。ぜ~んぜん効かないよ!ボクのステータスは全部が約100000なんだよ!技能に、物理耐性極大、耐魔力極大、超高速体力回復、超高速魔力回復、というぶっ壊れ!更に、分解魔法って言う何でも分解しちゃう魔法も持っているんだよ♪そうそう、武器や盾の技能もちゃんとあるよ?剣術[+剣裁]っていって、相手の剣技を見抜いて自分の物にしちゃうんだ♪」

 

ユエ達は絶望した。何だそれは。そんなの勝てない――――絶対誰も勝てっこないと思った

 

「さ~て、南雲に良い事を教えてあげるよ!神様に献上された高坂皐月は、あらゆる欲求を満たされ、快楽に溺れさせるんだって♪光輝君待っててね!このゴミ掃除が終わったら、ボクの最高の体で快楽に溺れさせてあげるよ♪」

 

ハジメと皐月は迎撃態勢に移行、新しいアーティファクトを取り出して攻撃する

 

「「テメェ(お前)が死ね!」」

 

中村の上空から、極光が降り注いで地面を溶かす。その名はヒュベリオン、太陽光を溜め込んで、集束させた光をレーザーにして放つ武器だ。しかも、それが二基。自分自身に直撃すれば大怪我間違いなしの攻撃に飲み込まれた中村を見て、二人はメツェライとミーティアで限界ギリギリまで追い撃ちする

もうもうと煙が上がり、中村がどうなったかは見えない。ステータスが100000であろうと、集束された太陽光ならば致命傷を負っているであろうと思っていた二人。だが、煙から現れた中村の姿は無傷であった

 

「ん?もしかして、今のが全力の一撃だったの?」

 

「なっ!?」

 

「嘘でしょ?」

 

「あぁ、そうそう。――――――――よそ見をしていて良いの?」

 

中村の姿がブレたと同時に、皐月の前眼にいきなり現れる。一瞬の出来事、皐月は中村から目を離していないし瞬きもしていない。それでも捉えきれなかったのだ

 

「さつ――――――」

 

「おねんねしようn――――――」

 

ドッゴオオオオオオオン!

 

「うっ、グブッ・・・ゲボォア!?」

 

お腹に手を押さえながら、飛び退いて蹲った中村。皐月の隣に居たのは深月だった

 

「み、深月ありがとう。でも、あいつには物理耐性に分解魔法g―――――」

 

「おい深月、おまっ!?」

 

『な―――――』

 

皆が見たのは、深月の右拳が無くなり、腕だけとなっていた。分解魔法で拳が無くなったと悟った一同。しかし、深月は再生魔法を行使して、右手を元の状態へと巻き戻した

 

お前は殺す。嬲り殺す。―――――これは邪魔だ

 

深月の豹変に驚いているが、本人は気にせず腕に着けているリストバンドを外して、誰も居ない所に放り投げ―――――

 

ドゴォオオオオオオン!

 

地面に落ちたリストバンドが、自重で地面を砕いたのだ

 

『えっ・・・?』

 

ハジメは、中村よりもリストバンドの方が気になり、落ちた場所に行って拾い上げようとした。だが―――――

 

「んぎぎぎぎぎぎ!なんじゃこりゃあああああああ!?」

 

ハジメは、限界突破を行使してようやく持ち上げる事に成功したのだ

 

「あれ?それだけ重いと地面が陥没すると思うんだけど?」

 

香織の疑問点はそこ。何故陥没しないのか・・・それは重力魔法の並列処理の賜物だ。重力魔法は便利の一言で、めり込むなら、反発させればいいじゃないかという考えである。しかし、最初からこの重さだと足が潰れるので、重力魔法を会得してから徐々に負荷を掛けていたのだった

 

「ハッ!こんな事より中村は!?」

 

ハジメは、思い出した様に中村へと視線を向けると、完全回復していた

 

「どうして・・・物理耐性があるのに、どうして攻撃が通じるのさ!?」

 

物理耐性は打撃によるショック吸収。ならば、内部へと浸透して破壊する攻撃の前には全くの無意味だ

 

「なるほどねぇ・・・だったら、当たらなきゃいいだk―――――」

 

中村の体がブレて深月に攻撃をしようとしたが、左頬に強烈な衝撃が走って住宅街へと吹き飛ばされた。視界がごちゃ混ぜにシェイクされながら、幾つもの住宅を破壊して転がる。視界がようやく安定したところで、地面に手を付いてブレーキを掛ける。そして、周りを見ると、中村の登場にビックリしつつも祈りを捧げる住民達。だが、今の中村にはそれすら腹立たしく

 

「邪魔なんだよ!」

 

手に持った剣で右手側に居た住民達を消し飛ばした。それと同時にひびきわたる悲鳴。耳を突くうるさい声を黙らす為に、悲鳴を上げる女性を殺した

 

「うるさいなぁ、ピーピーピーピー喚かないでよ。つい、殺したくなっちゃうじゃん」

 

中村の言葉に押し黙る住民達は、恐怖に彩られた表情をして涙を流している

 

「あのメイド・・・力を隠してばっかりでウザイ!四肢を切り落として、ダルマにして、自分から死にたいと思うまでいたぶってやる」

 

だったらこっちも、同じ様にしてやる

 

言葉と同時に、中村の体のあちこちに衝撃が襲い、再び左頬に大きい衝撃が走った。再びシェイクされる視界から、手早く体勢を整え―――――首を掴まれ、地面に押し付けられて走る

深月は、そのまま掬い上げる様に空中に中村を放って、目に見えない速さでその高さまで急行。再び首を掴んで地面へと急落下、中村の顔面が地面とキスをしながら大きいクレーターを生み出した

中村は、剣を振り回して深月との距離を空けて仕切り直しに持ち込んだ。再びハジメ達の居た場所まで戻って来た中村の率直な感想はこれだ

 

あのクソメイドがああああああああ!

 

殺意に満ちた深月と中村との、本当の戦いが幕を開けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「はい!ヤンデレ少女の劇的ビフォーアフターに加え、メイドさんの素が明らかとなりました!素とはいえ、激怒からの~ですから、お口が悪い子になるのは仕方が無いよね?」
深月「ヤロウ、ブットバシテヤルゥウウウウウウウ!」
布団「次回、メイドさんはチートなんです―――――書き終わるまで待ってて下さい!そして、誤字報告に感謝しています。ありがとう、本当にありがとう」


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メイドさんはチートなんです

布団「メイドさん無双の始まり始まり~♪」
ハジメ「深月に代わって俺が語る。だが・・・正直深月がヤバイとしか言えない」
布団「メイドさんはチートなんです。これ重要」
ハジメ「この場には二人しか居ないから敢えて言おう。メイドは最高だ!」
布団「そうです!メイドは最高です!」
ハジメ「すまないが、俺はここでお別れだ。じゃあな」
布団「そして、作者だけになりました。頑張って書いたんだよ!みんな大好きメイドさんだからね。そして、数多く寄せられる感想ありがとうなのです。また、誤字報告もとても感謝しています。さて、そろそろ本編にいきましょう。読者の皆様方、ごゆっくり!」











~皐月side~

 

あのクソメイドがああああああああ!

 

中村の叫びと同時に始まった戦い。それはもう凄すぎて、何が何だか分からないよと言いたいぐらいのレベルだ。辛うじて?遠目から見て戦闘の様子が分かるハジメと皐月だが、他の者は全く分からないでいた

 

「なぁ皐月、俺の聞き間違いだと思いたいんだが・・・深月の口調が男口調になってた気が・・・」

 

あ~、そうよね。皆はあの頃の深月を知らないし、"メイド"の深月しか知らないもんね

 

深月の事を話したいが全員に全部を話す事に躊躇いがある。そういった事は、自分から教えるのが一番だと思っているからだ。とはいえ、全く分からないこの現状を納得させるにはある程度の説明が必要だ

 

「はぁっ、こればっかりは当の本人から話すのが良いのだけれど、あの状態の深月に戸惑いを見て良からぬ方向に解釈しそうな奴が居るから掻い摘んで教えてあげるわ。あの口調が素の状態の深月なのよ。幼い頃に色々あってああなったとしか言えないわ」

 

「色々あってあの口調か・・・ガキ大将になったのかしら?」

 

皐月はハジメの隣に立って、ハジメだけに少しながら本当の事を話す事にした

 

「ハジメはあの口調について気になる?」

 

「そりゃあ気になるだろ。例えガキ大将になったとしても、成長につれて変わってくるもんだろ?」

 

「普通はそう思うわよね。私が深月と初めて出会い、喋った時にはあんな口調だったのよ。幼少時代・・・親からの暴力が当たり前の毎日に、十分な食事を与えられずに生活したからあんなになっちゃったのよ。これはお父さんの部下達が調べた事なんだけど、四歳ぐらいからの暴力だったと書かれていたわ」

 

空を見上げて、中村を攻撃する深月をジッと見る

 

「四歳って・・・マジかよ。下手すれば死ぬ処の騒ぎじゃねぇだろ・・・」

 

「私が深月と出会ったのは六歳の頃だったわ。路地裏で血だらけの深月を見つけたのよ」

 

「親に暴力を振るわれて捨てられたのか?」

 

「違うわ。深月は、リストカットしたのよ。今の現状は地獄、死こそが自身の救いだと言っていたわよ」

 

「・・・俺が知っている深月のみの字すら見あたらねぇ。ってか、自殺するなら隠れた場所だろ?皐月はよく見付けれたな」

 

「勘よ」

 

「なるほどな」

 

「そして、一緒に連れていた家の従者が深月を応急手当てをして自宅に運んだのよ。そこからは色々と大変だったわ。目が覚めたら、「何故放って置いてくれなかったのか、何も知らないくせに」って言われたわ」

 

「マジか・・・マジかー。そこまで心が壊れる寸前だったのかよ」

 

「まぁ、それから色々あって家で引き取る事になったの。大金をちらつかせて深月の親権を破棄させて、深月本人の意思を尊重して今の主従とういう関係になったのよ。因みにだけど、ユエが新しい名前が良いと言った時に深月が察したのは自分が体験したからよ」

 

「屑親が付けた名前よりも、助けてくれた皐月達から貰う名前が良かったんだな。って事は、メイドになる教育の際に口調も矯正されたのか」

 

「私達の様な恵まれた幼少期を過ごした事が無かった。一言で言うならこれだけよ」

 

ハジメは、皐月を傍に抱いて戦闘の行方を見守る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

クソッ!クソッ!クッソガアアアアアア!どうしてボクの攻撃が当たらないんだ!ステータスではボクの方が圧倒的に勝っているのに、これだからチートはさぁ!!

 

深月が戦った神の先兵よりも、鋭く、早く、正確な攻撃。しかし、そのどれもが深月に掠りもしない事に苛立つ中村。逆に、深月の攻撃は全て中村に直撃している

 

今死ね!すぐ死ね!

 

殺意の連撃は、中村の腿→腹→顎と下から昇る様に跳ね上げる

 

骨まで砕けろ!

 

中村の仰け反った体の中で唯一がら空きな腹部を流星の様な軌跡を描いて地面へと蹴り飛ばし、その際に腰に巻き付けた魔力糸を引っ張って中村を引き寄せ、某グルメ主人公の連続パンチを再び腹部に叩き込む

 

これが、俺の――――三連殺だ

 

中村の腹部に走る衝撃が幾つも襲い掛かり、地面に叩き付ける。その後も腹部を叩く衝撃で地面を抉り、巨大なクレーターを生み出す。宝物庫から拳銃を取り出した深月は、魔力を限界まで溜めた炸裂弾を発砲

 

ドゴンッ!

 

鈍い音と共に吐き出された弾丸が中村へと迫るが、極光が深月めがけて放たれた。弾丸は極光と拮抗したが、ほんの一瞬だけしか保たず、そのまま深月を飲み込んだ。地面から飛び出す中村は、してやったりの表情をしていた

 

「ハハハハハッ!分解魔法の前には再生なんて無意味なんだよ!直撃したら死ぬだけなんだよ!皆も見ただろう?何も出来ずに優位に進めていたクソメイドが、呆気なく飲み込まれるのをさぁ!全部、ぜ~んぶボクの作戦通りだとも知らずに!」

 

計算通り!と某新世界の神の様ににやける中村が、ハジメ達の方へ一歩近づく

 

どこ行くつもりだぁ?

 

中村の気配感知にも引っ掛からずに、背後から声がした。中村は振り返りながら剣を薙ぐ。しかし、深月が上から肘を叩く事で軌道をずらして攻撃が外れた

 

死ねぇ!

 

自分を起点とした半径十メートル四方に分解魔法を行使。0から100で展開される攻撃は、目と鼻の先に居る者程度を分解する事も容易だ。しかし、中村は知らなかった。深月に対する魔法攻撃は厳禁である事を

 

集約―――――装填

 

深月の掌に光の壁が吸い込まれる様に集まり、それを握り込んだ。それと同時に深月の体に変化が現れた。深月の体全てが白銀に染まり、光の粒子が溢れ出る

 

それがどうしたあああああああ!

 

中村の剣が深月を横一線で切り裂く。しかし、切り裂かれた体は、光の粒子が結合する様に元通りとなった

 

「はぁ?」

 

意味が分からない。分解魔法を付与された武器で攻撃しても、深月の眉は何一つ動いていない。隙だらけの状態を深月が見逃す事は無く、掌底を胸部に放った。まるで体を貫かれたかと錯覚する様な衝撃は、強靭な肉体を持つ中村を大きく吹き飛ばして王宮の壁に叩き付ける。まぁ、分解魔法を付与している翼がクッションとなって、ダメージは殆ど無かった。しかし、驚きを隠せない中村だった。超人的な視覚で捉えたのは、鎧を貫通して自身にダメージを与えたにも拘らず、手が分解されていなかったのだ

 

何だよそれはあああああ!何で分解魔法が効かないんだ!最初の攻撃の時は、右手が無くなってたじゃないか!

 

虫けらが、這い蹲れ!!

 

ガアアアアアアアアア!?

 

深月のヤクザキックで胸部を踏まれて地面に縫い付けられた中村は、深月の足首を持って分解魔法を行使する。一瞬だけ力が無くなったと同時に脱出し、憤怒、嫉妬、憎悪と入り混じった眼で深月を睨み付けながら様々な属性魔法を叩き込む。だが、その全てが光の粒子となって消える

 

クソがっ!どういう仕組みなんだよ!物理も魔法も効かないなんてどんなチートを使っているんのさ!

 

深月は何も答えず、掌の上に球体を生み出す。それは、バチバチと紅い稲妻が迸っており、電気であると簡単に推察出来た。深月が先程と同じ様にそれを握り込むと、白銀の光の全てが紅い稲妻が迸り始めた事で中村は何が起きているのかを理解した

 

そうか、そういう事か!魔法を取り込んだのか!そして、その魔法の特性を持った体に作り替えたのか!

 

知ったところで意味があるか?

 

ボクを侮るなよクソメイド!

 

中村は、深月と同じ様に掌で属性魔法の球体を作る

 

ボクのこの体は最高傑作なんだ!その技をコピーする程度――――」

 

握り込んで魔法を体に取り込んだ中村。だが、待っていたのは力では無く代償だけだった

 

い"っ!アガアアアアアアアアア!?

 

体中から血を噴き出してその場に膝を付いた中村。深月は、呆れつつ近づいて首を掴んで引き摺って外へと移動する。王宮から出た深月達の様子を見たハジメパーティーは、「やっぱり深月が勝ったか」と苦笑いを浮かべた。勇者(笑)パーティー達は、重圧だけで濃厚な死を錯覚させた中村を血まみれにして引き摺って来ている深月を見て驚愕したりとしていた。そんな彼等は、ここれで終わりだろうと予想していた。しかし、それで見逃す深月ではなかった

 

死ねよ

 

首を掴み上げたまま、サンドバッグの要領で体を殴り続ける深月。反動の代償で傷付いた体に追い打ちを掛ける攻撃は、悲惨な光景そのもの。深月は、中村の装着している防具を取り外し、宝物庫へと収納して再び攻撃を再開。中村は、今まで感じたことの無い痛みに目を覚まして体を動かそうとするが、全く動かなかった。それ程までに反動の代償が大きい

 

お前は俺に、ダルマにして自ら死を望むまでいたぶると言ったな?逆に、自分がそうなる可能性もあると気付かなかったか?そうら、お前の傷を癒してやろう。そして、かかって来るといい。お前程度の力では俺には届かない

 

深月は、再生魔法で中村を傷を癒して放り投げる。防具の無い一対一の武器だけの勝負

 

ゴホッゴホッ、・・・本当になめるなよクソメイドが!

 

中村は、地面を踏み砕いて深月に斬り掛かる。圧倒的な力での攻撃を真正面から受け止めた深月の足元は陥没し、その場に固定させる様に剣を振るう。分解魔法を付与された剣だが、深月が黒刀を再生すると同等のスピードの分解なので壊れる事は無い

激しさを増す中村の攻撃を見て、ハジメ達と八重樫以外は押されていると勘違いしている

 

「おい・・・援護した方が良いんじゃないか?」

 

「だが、中村の奴がこっちに来たらどうする事も出来ないぞ」

 

段々不安になってきている奴らに、ハジメがただ一言告げる

 

「黙って見ていろ」

 

たったそれだけで黙り込んだ。ハジメと皐月の二人は、深月の動きをしっかりと見ているのだ。どうしてあの場所から動かずに攻撃を捌けているのか、どうして拮抗出来るのか、力の差をどうやって埋めているのかを理解する為に観察しているのだ

 

死ね!シネシネシネシネシネシネシネシネ!死んでしまえええええええ!!

 

中村は、傷を負わない深月に苛立ち、少しだけ大振りとなった。瞬間――――深月は素早く黒刀の刃を上に向け、相手に突き立てる様に構えて振り抜いた。空間魔法と再生魔法を応用した、型月世界のNOUMINが使う秘剣が中村を襲った。脱出する幅も無く、咄嗟に体を動かす事の出来ない大振りを狙われたのだ。そのまま、秘剣に直撃して切り伏せられた。人間の中村なら絶命していたが、超頑丈な天使の体の前にはかすり傷を付ける程度に止まった。だが、侮るなかれ。物理耐性極大を貫いてのかすり傷・・・武器で防ごうとすれば、間違いなく武器が斬って捨てられた攻撃だ

 

痛ったいなぁ・・・。でも、ボクの体を切断するには至らなかったらしいね。そして、さっきの攻撃は完璧に頂いたよ

 

御託は聞き飽きた。次は、その四肢の一部を貰う

 

黒刀を納刀して、腰溜めに構える深月。"次は居合で四肢の一つを切断する"という意思の表れに、あの秘剣ならば余裕で斬って捨てれると確信している中村。同時に地を踏み砕いて接近

 

あは♪

 

両者共に早過ぎる抜刀に、ハジメ達ですら見えなかった。互いが通り過ぎ、深月の黒刀を納刀する音と同時に、深月の肩が少しだけ切れて血が噴き出す。中村が深月を斬った事に驚いた瞬間

 

ガアアアアアアアアアアアア!ボクの腕が、剣が!?

 

中村の悲鳴に全員が視線を向けると、剣が根元から断ち切られ、左の二の腕からザックリと切り離されていた

 

電磁抜刀(レールガン)(マガツ)

 

深月は、上体を起こして、再び黒刀を構えて抜刀。誰もが、中村は死んだと思っていた。しかし、切断されようとした中村の姿が掻き消えたのだ。否、それは奇襲だった

 

「危うく協定仲間が殺されるところだった。だが、これ程の力を持った者が仲間というのは大変利用価値がある。しかし、そのメイドは更に危険人物。・・・・・よって、この場は一旦下がらせてもらおう」

 

そう、中村を助けたのは魔人族のフリードであった。皐月との戦闘から少しだけ回復したフリードが復帰して、空間魔法で中村を助けたのだ

 

チッ、よくも邪魔を!」」

 

「そちらも、我らの計画を邪魔しただろう?痛み分けという事だ。次こそ殺す」

 

そして、フリード達は空間魔法で王国から消えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

戦闘が終わった王国は、人々の混乱の声で一杯だが、ハジメ達の居る場は静かだった。深月は、手早く意識を切り替える

 

あ"-あー―――――ゴホン。逃げられてしまいましたか・・・申し訳御座いません」

 

『変わり身早っ!』

 

「まぁいいさ。中村のヤバさからこの場で殺したかったが、俺達がどうこう言う訳にはいかねぇよ」

 

「それよりも、私がクソ神に狙われているって最悪よ」

 

「クソ神は殺す、これは確定事項だ」

 

殺意が高い状態のハジメに誰も声を出して否定しない。いや、したら確実に撃たれると理解しているから何も言わないのだ。そんな中、やはり残念な勇者(笑)が口を挟んだ

 

「待つんだ南雲、神を殺してしまったら俺達は帰れないんだぞ!?」

 

「あ―――そ、そうだよ。神を殺したら地球に帰れないじゃんか!」

 

「考え直せ南雲!」

 

勇者(笑)を筆頭にクラスメイト達が神殺しに反対するが、この世界の真実を告げた。もうめんどくさいので、一々説明もしたくないから

 

「この世界に俺達を連れてきたのはエヒトだ。それは間違いない。だが、返してくれる保証が何処にある?」

 

「イシュタルさんが言っていただろ!エヒトが帰してくれるって!」

 

「阿保ね。あの気持ち悪い奴が何て言ったか思い出してみたら?」

 

「確か・・・「エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」だったか?」

 

永山はしっかりと覚えていた様だが、違和感に気付いていない。そこに、少しだけ回復した畑山が付け足して捕捉する

 

「先程永山君が言った事に間違いはありません。ですが、私は気付きました。誘拐されて一人となった時に、これまでの事を整理しながら振り返りました。イシュタルさんが言った事はあくまでも推測・・・たらればの話なんです」

 

「なっ!?―――――そんな事って・・・」

 

「で、でもよ!ついさっき中村が言ってたじゃねぇか!高坂さんを「ドパンッ!」――――ッ!?」

 

「おいクソ野郎、今なんて言った?皐月を献上するだと?自分が良ければ他はどうなってもいいって?」

 

「バカな事を言うなよ野村!高坂さんはクラスメイトだろ!」

 

早く地球に帰りたいと願う者達は、皐月が神様を懐柔すれば良いじゃないかと思っていると

 

「それにな、中村は"帰す"って言っただけだ。帰ってから干渉しないとは何一つ言ってないぞ」

 

「地球に干渉出来る位だから、神の先兵を地球に送り込んで戦争するという可能性もあり得るわよ。もしも戦争に負けたら、奴隷となって死ぬまでこき使われるって事ね。女は慰み者――――ってね?」

 

「え?私達が帰る為には神を殺さないと帰れないって事!?」

 

「そうなるな」

 

「南雲君達は何時知ったの!?」

 

「オルクス迷宮を攻略した際に知ったのよ」

 

淡々と答えるハジメと皐月の二人に・・・いや、南雲に問い詰めようと勇者(笑)するが、畑山が先に口を開いた

 

「今ではたらればとなりますが、それを知った事で天之河君達はどうする事が出来ましたか?私は南雲君に教えてもらった時に想像しました。皆さんに教えたら、イシュタルさんに問い詰める可能性がある事を。それだけは駄目だったんです。考えてもみて下さい。教会に反発しようとした貴方達をどうするかを」

 

「イシュタルさんはそんな「ちょっと光輝は黙っていなさい」なっ!?し、雫・・・?」

 

「先生は先程誘拐されたと言いましたが、その場所は教会ですか?」

 

「はい。私は、神の使徒と名乗る銀髪の女性に攫われて本山にある建物の最上階に幽閉されていました。もしも、南雲君達が助けに来なかったらと思うと・・・恐怖で震えながら何も出来なかったでしょう」

 

勇者(笑)は信じられないと驚愕の表情をしており、ハジメが助けた事を聞かされた時に安堵ではなく、嫉妬の様な表情をしていた

 

「南雲はどうして先生が誘拐されたと知ったんだ」

 

「あん?そんなもん偶然だ。ホルアドに立ち寄る際に、姫さんが乗っている馬車が襲われていたから助けて~の流れで知ったんだよ。ウルの街で先生を神聖視させちまったから誘拐されたかもしれないって思ったからな」

 

「それと、王国外に居た魔物を駆逐したのは物のついでよ。リリアーナに恩を売っただけで、無償で助けた訳じゃないわ。後ろ盾は多ければ多い程、色々と動き易いの」

 

「ちゃっかりとしているわね」

 

「私達って異端認定されちゃったからね。いつかはなるかもしれないとは思っていたけど、強硬策で異端認定をするのは予想外だったのよ」

 

すると、深月は何かを思い出した様にハジメにどうなったかを尋ねる

 

「あぁ、そういえば忘れていました。私が言っていた人はどうされたのですか?」

 

「戦いの邪魔になりそうだったから魔物が来ないであろう城壁上に置いてきた。そして、姫さんに朗報だ。俺が助けたのはメルド団長だ」

 

「メルドが生きているのですか!?」

 

ハジメが助けた人物とは、メルドだったのだ。体中傷だらけで、少しでも遅れれば死んでいたであろうというという程酷い傷だった。神水を使う手もあったが、温存しておきたかった事もあったので、ティオの再生魔法で傷を塞いだのだ。後は、王宮へと来る手前で降ろして、こちらに来たというだけである

 

「良かった。・・・本当に良かった・・・」

 

実は、リリィの両親が中村に殺されて傀儡となっていたのだ。既に死んでいる両親を見て、悲しみで溢れていた。だが、立ち止まる事は出来ない。弟であるランデルは、王国がおかしくなる前に外に出ていたので傀儡にはなっていない。唯一残された家族と、信頼できる部下が一人居るだけでも違うのだ。深月が気付いていなければ、弟だけとなり、様々な重圧で押しつぶされてしまいそうだった

 

「神楽さん、本当にありがとうございます。貴女のお陰で本当の最悪にはならずに済みました」

 

「リリアーナ様が気にする必要はありません。私は、こうなる可能性が高いと考察しただけです」

 

「いえ、その考察がなければ王国内部は更に酷い事になっていたでしょう」

 

「であるならば、立派なお嬢様の後ろ盾となって下さい。ただそれだけです」

 

「分かっています。高坂さん達が魔物を倒してくれた事で多くの人が助かったのですから」

 

皐月は、この場に来る最中に目に映る魔物を全て撃ち殺していたのだ

 

「さ~てと、俺達の仕事は終了だ。俺達はこれから色々とする事があるから王国から離れる。だが、療養も含めているから数日したら戻ってくる」

 

「神代魔法ゲットするわよ!」

 

「ん!」

 

「ドリュッケンが火を噴くですぅ!」

 

「あ、敵は出てこないからな?」

 

「(´・ω・`)マジデスカ」

 

ショボくれるシアを元気付けながら、ティオの背に乗って神山へと向かうハジメ達。そこで、ハジメは思い付いた様に皐月と話し始め、深月に命令を出す

 

「深月、仕事だ」

 

「深月は私達と別行動よ。少しの間だけリリアーナのメイドとして頑張ってね♪」

 

「・・・了解しました」

 

「帰ってきたら添い寝してあげるから――――ね?」

 

「行ってらっしゃいませ!リリアーナ様を仮初の主としてお仕え致します」

 

「あっ・・・えっと・・・よろしくお願いします?」

 

こうして、深月と別れたハジメ達は、魂魄魔法を手に入れる為に神山へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

お嬢様方と別れて早五日、私はリリアーナ様のメイドとして黙々と作業をこなしています。あぁ、本来のメイドさんも居ましたが、戦力になりません。メイドとは、主の為に動く者です。書類仕事は手伝えない?王族だけが処理する?貴女は本当にメイドなのですか?先程も言った通り、メイドとは主に忠誠を誓うのです。例え拷問されたとしても、どれ程の大金を積まれようとも決して主を裏切らない。それこそ真のメイド道なのです!

ヘリオトロープさん、良いですか?主の負担を少しでも無くす事こそメイドの勤めなのです。そして、主の身の周りを整えるのもメイドの勤めです。休みが無い?リリアーナ様に仕える事は幸せではないのですか?幸せだけど、疲れると――――――リリアーナ様、少しばかりヘリオトロープさんをお借りします。リリアーナ様に仕える事こそ最高の幸せ。リリアーナ様のお傍に居る事で元気にな~る―――――etc

ありがとうございます。もう大丈夫ですよ♪どうかされましたか?ヘリーナ?ヘリオトロープさんの事でしたのですね。それで・・・何かミスをしたのでしょうか?今まで手伝った事の無かったヘリーナさんがいきなり手伝いを始めたと―――――良かったではありませんか!これで戦力が増えましたよ!様子がおかしい?リリアーナ様と一緒に仕事が出来て嬉しそうにしているだけで、違和感はどこにもありませんが・・・?

 

深月は、一人のメイドをせんn・・・調ky・・・お話しする事で、メイドとは何なのかを導いた。しかし、これはあくまでも仕事だけ。深月からすればまだまだ物足りないと感じているが、一旦はこれだけに済ませておく

仕事を終えて鍛練場へと移動したリリアーナは、神山の方を見つめている八重樫に声を掛ける

 

「南雲さん達が本山へと行ってから五日・・・もう直ぐ帰ってくる筈ですよ」

 

「リリィ。そう・・・ね、それでも心配なの。香織が無茶をしていないか気になるのよ。それにしても意外ね。神楽さんがこちらに残るなんてね?」

 

「お嬢様の御命令ですから」

 

「添い寝がどうこうって言ってなかったかしら?」

 

「お嬢様の添い寝の権利は渡しませんよ?」

 

「要らないわよ」

 

からかう事すら出来ない事に、八重樫は内心舌打ちをする

 

「しかし、八重樫さんの心配事は当たるかもしれませんね。今回の敗北が香織さんに何をもたらすのか・・・少しばかり気になります」

 

「はぁ・・・本当に無茶しないで欲しいわ」

 

「フラグですよ?」

 

「フラグ?」

 

「例えばですが、死にそうな敵を見て"やったか?"と言ったら復活する感じです。もしも~が覆ってしまう可能性の旗を大きく立ててしまう事です」

 

「なるほど・・・本来なら倒れる筈が、立っている状態という事ですね。この世界に来た時の香織の無茶は見てきましたので、先程の雫の発言はフラグですね」

 

「それはそうと、ハジメさん達が帰ってきましたよ」

 

人差し指を上に立てて上空を見上げている深月に釣られる様に見上げると、この場に落ちてくる影が幾つか

 

「皆ぁ!気をつけろ!上から何か来るぞぉ!」

 

勇者(笑)が周囲の者達に注意を促し、八重樫達を退がらせようと近づくと同時に影が降り立った

 

ズドォオン!!

 

もうもうと土埃が舞い上がり、周囲を覆い尽くす

 

「姫様!」

 

遠くに居たメルドがリリアーナの傍まで近づいて、剣を抜いて警戒する。徐々に土埃が収まり、地面を砕いて降り立った人物が映った。ハジメと皐月とユエとシアとティオの五人だった

 

「南雲君!」

 

八重樫がハジメを呼ぶが、返事が無い事に心配する。しかし、それは杞憂に終わった。ハジメ達は、深月の目の前にジャンピング土下座する形で懇願した

 

「「「「「ご飯を作って下さい深月えもん!」」」」」

 

「打ち合わせをしての第一声がそんな事なのですか」

 

溜息を吐く深月と、呆然としている八重樫達

 

「深月と別れてからのご飯が悲しかったんだよおおおお!」

 

「シアのご飯も良いけど、やっぱり駄目!深月が作ったご飯じゃないと我慢できないの!」

 

「ご飯ちょうだい」

 

「深月さんの料理には勝てませんでした・・・」

 

「最上級の料理を食べ続けて舌が肥えてしまったのじゃ!深月の料理を早く食べたいのじゃ!」

 

五人共が深月に料理を作ってとせがむ。とても必死な様相に、リリアーナは「え?・・・え?」とわけが分からない様子で、殆どの者達も同じ反応だ。だが、深月の料理を一度でも食べた事のある八重樫は、「あぁ・・・それはそうよね」とハイライトが死んだ目で遠くを見ていた

 

「私の料理よりも、香織さんはどうされたのかお聞きしても?」

 

「はっ!?そうよ南雲君!香織はどうしたの!?どうして一人だけ居ないの!?」

 

「ちょ、ちょっと落ち着けよ八重樫。クールに、クールになれ」

 

「上よ上。丁度落ちてきているわ」

 

どうどうと八重樫を宥めようとするハジメだが、皐月が上に指を指したと同時に聞こえる声

 

「きゃぁああああ!!ハジメく~ん!受け止めてぇ~!!」

 

落ちて来た銀髪碧眼の女は真っ直ぐハジメに突っ込む。その目は受け止めてくれるという謎の信頼感を含んでいた。誰もがキャッチするだろうと思っていたが、ハジメはそのまま横にズレて避けた。目を点にして地面に墜落して、ハジメ達と同じ様に土埃を舞わせた。再び舞い上がった土埃が晴れた時、誰の目にも映る銀髪碧眼を理解した畑山とリリアーナが悲鳴じみた声をだして警告した

 

「なっ、なぜ、あなたがっ・・・」

 

「みなさん!離れて!彼女は、愛子さんを誘拐し、中村さんに手を貸していた危険人物です!」

 

リリアーナの言葉に、その場に居たクラスメイトとメルドと騎士団の者達が一斉に武器に手を掛ける。八重樫も同じ様に居合の構えを取って、即座に攻撃できる様にする

 

「ま、待って!雫ちゃん!私だよ、私!」

 

「?」

 

「その残念具合から判断しましたが、貴女は香織さんですか」

 

「ちょっと待って深月さん!私を判断した基準がおかしいよ!?残念具合って何!?」

 

「いつも全力で空振りしているからですよ」

 

目の前の銀髪碧眼の女が香織という事実に、皆が驚愕する

 

「・・・かお、り?本当に香織・・・なの?」

 

香織の親友である八重樫は未だに困惑しており、どうしてこうなった!?という表情をしている

 

「うん!香織だよ。雫ちゃんの親友の白崎香織。見た目は変わっちゃったけど・・・」

 

「そう・・・・・こんの突撃娘!!」

 

香織の頭に全力のチョップを落とすが、香織の方が頑丈で手を痛めてしまった八重樫を見ていたハジメが、「オカンだな・・・そして哀れだ」と呟いて睨まれたりした

色々と変わりすぎた事があったが、ハジメ達が王国へと戻ったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「いやぁ~、メイドさんがやらかしちゃったYO!」
深月「そうですか?私は、メイドの何たるかをお教えしたまでですよ?」
布団「あれはアウトですぅ」
深月「それはそうと、7/4の日間ランキングに入っていましたよ。読者の皆様方の期待に応えて頑張って下さいね?」
布団「( ゚Д゚)ハァ?ランキング11位・・・ダト?ナニカノマチガイダアアアアア!プレッシャーニオシツブサレソウダァ」
深月「感想等お気軽に書いて下さいね♪」


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メイドの仕事はこれからです!

布団「・・・どうぞ」
深月「・・・読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」










~皐月side~

 

王国に帰還した私達の行動はただ一つ。深月の手料理を食べる事。これは絶対よ。しかし、リリアーナ。今なんて言った?

 

「高坂さん、大変申し訳ありませんが今日の間だけでも神楽さんを貸してください。仕事の処理が段違いですので・・・」

 

フザケルナ!

 

「私なら、今日の間だけでしたら構いませんよ?」

 

フザケルナ!フザケルナ!バカヤロォォオオオ!

 

「神楽さんもこう言っていますし・・・お願いします!」

 

「ソ、ソウ。ダッタラワタシモミヅキトイッショニイテモイイワヨネ?」

 

「え、えぇ。高坂さんは、神楽さんの本当の主ですので何も問題ありませんよ?」

 

言質録ったわよ

 

「と言う訳で、ハジメ達は依頼達成の報告をお願いね?」

 

皐月の「別行動しましょう」という予想外の言葉に異を唱えるハジメ達

 

「待てぇい!自分だけ良い思いをするつもりか!」

 

「横暴!」

 

「絶対に許しませんよ!」

 

「例えご主人様とはいえど容赦せんぞ!」

 

ハジメ達は、深月の料理を食べたいが為に睨み合う。第三者から見れば、皐月が負けるであろうと予想するが

 

「ふ~ん、そんな事を言っちゃうの?どこかの誰かさんは、フラグを沢山立てているのは私の勘違いかしら?」

 

「グフッ!?」

 

ハジメの心にバリスタの矢が突き刺さり、四つん這いになった。ユエ達は、冷や汗を流した。このままでは、間違いなく自分が標的となってしまうと理解した。だが、遅かった

 

「幼児が居る場所で、裸でハジメと寝ていたのは誰だったかな~?」

 

「そ、それ以上は赦して・・・」

 

「ド変態のところ構わずで、フォローに奔走する私のストレスが酷いのだけれど?」

 

「うっ・・・ぐぅ!?」

 

「深月に教えてもらっているにも関わらず、美味しさが上達していなかったわよね?」

 

「ちょっと待って下さい!私だけ八つ当たりじゃないですか!」

 

「というわけで、任せたわ―――――ね?」

 

釘を刺された三人と、酷い八つ当たりをされた一人。ハジメ達は、「速攻で終わらせるからな!」と言い残して冒険者ギルドへと向かおうとした時―――――

 

「それでは、お嬢様も未来の仕事の予行演習と参りましょう」

 

「What?」

 

皐月は窮地に立たされた

 

「未来の仕事の予行演習です。思いの他リリアーナ様の書類仕事が多いのです。新事業の一環として体験しましょう」

 

「ねぇ、待って。王族が処理する仕事を私がやる?機密情報が駄々洩れになったりするから駄目な筈よね?」

 

「私も手伝っていますので、それは今更ですよ。将来で悪戦苦闘しない為ですので、お嬢様も一緒に書類仕事を致しましょう?」

 

「や、やっぱり私も冒険者ギルドに・・・」

 

「お嬢様自らが班分けされたので、我儘を言ってはなりません!」

 

「み、深月の鬼ィ!悪魔ァ!サディスト!」

 

「私は、鬼や悪魔ではありませんし、Sでもありません」

 

「ハジメ助けてぇえええええ!」

 

皐月は、ハジメに助けを求める。しかし、ハジメ達はニヤケながら皐月を送り出した

 

「頑張れよ皐月。こっちはこっちで、"丁寧にしっかりと報告"するから安心しろ。深月が皐月の事を想って、未来の仕事を体験させてくれる様にしたんだ。サポートもするって言っているから大丈夫だって・・・・・多分

 

「皐月、頑張れ!」

 

「ドンマイですぅ!」

 

「深月と共に頑張るのじゃぞ?」

 

「えっと・・・頑張ってね?皐月」

 

「ふざけるな!ふざけるな!ばk―――――ムググッ!?」

 

「それ以上はいけません。お口チャックです」

 

魔力糸の猿轡をされ、深月にドナドナされる皐月を見送ったハジメ達は冒険者ギルドへと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリカリカリカリ・・・パラッ・・・カリカリカリカリ・・・

 

皐月達が居る場所は執務室。静かな部屋の中は、羽ペンで書く音しか聞こえない

 

しょるいごじゅうまいおわった~、やっとさんぶんのいちがおわった~。・・・・・何、この紙束地獄。死にそう・・・いえ、脳が溶けそう・・・。リリアーナしゅごい・・・私よりも年下なのに難なくこなせているわ。深月は―――――あぁ・・・うん、知ってた。ノンストップで記入しているわ。手がブレて見えているのは私だけじゃないよね?リリアーナだってチラチラと深月を見ているし・・・ぬわああああん!もう疲れた!書類と戦いたくない!これだったら、魔物と戦っていた方がマシよ!」

 

「高坂さん、途中から声に出ていますよ・・・」

 

「お嬢様、ファイトです!私の方はもうすぐ終わりますので待っていて下さいね?でも、手抜きは駄目ですよ?お嬢様の為になりませんので」

 

「知ってた。今の私は書類戦士

  

 ――――――体はペンで出来ている

 血潮はインクで、心は硝子

 幾たびの書類を越えて不敗

 ただの一度の休憩も無く、ただの一度も癒しも無い

 彼の者は常に助けを求め 机の上でインクに酔う

 故に、その生涯に武器は不要

 その体は、きっとペンで出来ていた

 

私・・・もうゴールして良いよね?」

 

「お嬢様、ゴールはまだまだ先ですよ」

 

「現実に戻さないでよぉ・・・」

 

机に突っ伏す皐月。その間も深月の腕は止まらず、シュババババと残像を生み出す速さで処理をしていき、遂に自身の分を終わらせた

 

「ふぅ。私の方は終わりましたので、お嬢様のお手伝いを少しだけ致します」

 

「私の三倍近い量があった筈ですが・・・もう終わったのですね」

 

「深月みたいな万能メイドが一家庭に一人欲しいと思うわ」

 

「半分は手伝いますが、もう半分は自力で頑張って下さいね?」

 

「   」

 

皐月のノルマの半分を自分の所に持って行って記入を開始した深月は、ものの数分で作業を終了させてしまった

 

「これで終わりです。リリアーナ様、記入に不備が無いかの最終確認はお願いします。私は少しばかり席を外します」

 

一言伝えて執務室を出る深月を見送る三人。因みに、リリアーナ専属メイドのヘリーナ(※ヘリオトロープは長いので、以降はヘリーナに変更します)も居たりするのだが、存在感が薄すぎて目立たなかったりした

 

「はぁ・・・この書類の全てに目を通すとなると憂鬱になります。高坂さんも頑張って下さいね?」

 

「事務仕事は簡単だと思っていたけど、甘く見過ぎていたわ。それと、私を呼ぶときは皐月で良いわよ」

 

「分かりました。それでは、私の事はリリィとお呼び下さい」

 

「リリィよりもマシな記入仕事を頑張るわ・・・」

 

再び机の上の書類と戦闘を開始する皐月。物凄く覇気が無くて見ている方が心配だが、しっかりとやる事はやっているので安心?だろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

執務室から退室した深月が何処に居るのかというと、料理場に居るのだ。書類仕事に奮闘する皐月達は、未だに昼食を食べていないので作って持って行くつもりだからだ。中村の傀儡とされた者達は多かったが、その大半は騎士や少数のメイドで、料理人などの彼等は何もされていない。昼を少しだけ過ぎた事によって、現在の料理場は戦場となっていた。特に、騎士達やクラスメイト達が食べる物を作っているので準備が多いのなんの・・・。深月が料理場へと続く扉を開けると、タイミングが良いのか悪いのか・・・メルドと料理長と思わしき人が話している最中だった

 

「メルド、もう少しだけ待ってくれ!」

 

「料理長、忙しい中すまないな。だが、あと少ししたら騎士団の者や勇者達もここに来るぞ」

 

「炊き出しし終えて昼食の準備をし始めた瞬間にこれかよ!クソッ、おいお前等、気張れよ!」

 

『了解!』

 

普通なら、料理人達の圧にやられて踏み込めないだろう。しかし、そんな事は知らねぇと深月は入って行く。メイドという場違いの者に、料理人達が訝し気に深月を見てザワつく。それに気付いた料理長は、振り返ってどうしてこの場にメイドが居るのか分からなかったが、邪魔だと追い返そうとキツ目の言葉を投げつける

 

「メイドが何の用だ?ここは料理人の聖域――――いや、戦場だ。邪魔だからさっさと出て行け」

 

「私は、お嬢様達の昼食を用意する為に此処に来ました。まぁ、そのついででリリアーナ様の分もお作り致しますよ」

 

「・・・手を見せろ」

 

深月は黙ったまま料理長に手を見せ、ジッと見る料理長。深月の手は綺麗で、素人目では包丁は持った事無いのではないかと疑う程だ

 

「・・・綺麗すぎる手だな」

 

「自身を清潔に保つのは、従者として必須ですよ」

 

「・・・あそこの一角を使え。あそこだけなら使ってもいいぞ」

 

「かしこまりました。使用後は、しっかりと"綺麗"にしておきます」

 

「あそこにある材料ならどれを使っても構わない」

 

料理長が指差す先にある食材の山。海鮮類は無いものの、遠目から見ても分かる野菜達が積まれていた

 

「野菜だけですか・・・肉類はないのですか?」

 

「本来ならあるんだが、国の状況ぐらい分かってるだろ?」

 

「では、手持ちの分を使わせて頂きますね?」

 

深月は、宝物庫から"普通"の鶏肉を取り出して料理長へ確認をさせる。まな板の上に置いて、色や弾力を見て新鮮かどうかを確認してゴーサインを出した

 

「この肉なら十分過ぎる品質だ。まるで捌いた直後の様な肉質じゃねぇか。それに、どんな血抜きを行ったんだ?全く血が滲んでいねぇぞ」

 

「便利な技能がありますので♪」

 

「包丁はどれを使う?―――――まぁ、愚問だろうがな」

 

「無論、手持ちの包丁を使わせて頂きます」

 

料理長は、深月が宝物庫から出したハジメ印のアザンチウム包丁を見た瞬間、ギョッと目を見開いた

 

「ヤベェ・・・王国で用意された最高級の包丁が玩具に見える位良い物じゃねぇか」

 

「ハジメさんに作って頂いた世界に一つしかない包丁です。刃こぼれしないと言っていましたが、ちゃんとお手入れをしていますよ?」

 

「包丁を見ただけで分かるわ!はぁっ・・・包丁と手を見ただけで料理人の技量が分かるんだが、お前さんは俺より上だな。その年で、それ程の技術―――――停滞していた俺の目標が出来たな」

 

「お話もこの辺りで切り上げましょう。料理を作る上で、基本は重要です」

 

「フッ、正にその通りだ。何事も向上心を忘れない。そして、時には初心に振り返る事も重要さ」

 

深月と料理長は分かれて、それぞれの持ち場へと移動。深月はそのまま食材の山へと近づいて選別を開始した

 

駄目―――駄目―――駄目―――良し―――駄目―――良し―――駄目・・・・・状態の良い野菜が少ないですね。ならば、状態の良し悪しで味が左右しない料理が良いですね。取り敢えず、フューレンで手に入れたニンジンを茹でておきましょう。トータスに来てから色々な場所での食を見てきましたが、焼く、蒸す、茹でる、煮る、干す、といった事はされていました。ですが、固めるという発想がありませんでした。斬新かつインパクトのある料理となれば、アニメで見た化けるふりかけと、テリーヌで行きましょう

 

深月は、宝物庫から出した鶏肉の半ばに切り込みを入れて二枚に開けて、軽く茹でたニンジンと切ったタマネギを乗せて挟む。そして、清潔した布で香草を少し乗せた鶏肉を巻いて魔力糸でぎっちりと縛る。後は、これを茹でるだけだ

 

この茹でている間にソース作りを致しましょう。ピリッと辛めのと、柑橘ベースの二種類を作ります。ニンニクは却下――――青唐辛子とトマトに似た野菜を重力魔法で潰す!

 

押し潰すではなく、すり潰す様に重力魔法を行使。二つの野菜は、あっという間にドロドロに混ぜ合わさった

 

良い感じに混ざりましたので、布で水分だけを絞り出しましょう。――――――出来ましたが、何か足りない

 

深月は味見して何が足りないのかを考えるが、特にこれといった追加は無くても良い。しかし、ここで気付いたのは鶏肉の種類だった。もも肉ではなく、胸肉

 

油をほんの少しだけ混ぜただけで大丈夫ですね。次は柑橘ベースですが、混ぜるだけですし・・・

 

宝物庫から、醤油、酢を取り出す。その後、デザート用で置かれているであろう柑橘を手に取って、皮越しに匂う風味を厳選。選び終えた二個を手に持ってカットする

 

良い匂いですが、問題は酸味です。一房頂きます

 

果肉を噛むと同時に広がる酸味。レモン程強くは無いが、それでも酸っぱいと感じる程だった。深月の様子を少しだけ見ていた料理人達は、酸っぱい果実を食べた事ににこやかにしていた。だが、これ程の酸味を持ちながら、柑橘の独特な風味のバランスは素晴らしかった。残りの一個を、横半分に切って手で搾る。重力魔法だと搾り過ぎてしまうので、微調整できる手が一番やりやすい

 

醤油3:酢0.5:柑橘1.5の割合で混ぜて完了です!・・・・・あの果実は誰も使わないのでしょうか?偶にしか使わない?それでは、半分頂いても良いですか?全部持って行って大丈夫?ならば、遠慮せずに貰います!

それでは、宝物庫に入れっぱなしは邪魔になってしまいますので全部搾りましょう。あ、今回は重力魔法の練習として使います。すり潰すではなく、四方から押し潰すイメージでギュギュギュ~っとして汁は容器に保管です。搾り終えた皮は、乾燥で水分ゼロにして宝物庫に入れましょう。今は料理中で忙しいので

お次は、エリセンで作った寒天の出番です。フフフッ、寒天のお陰で料理の幅が物凄く広がって嬉しいです♪氷結させた魚の出汁を切り取って、別の容器に入れて熱量操作で溶かして放熱で一回沸騰させましょう。冷凍しているので大丈夫だとは思いますが、念には念をです。そして、スープをかき混ぜながら粉上にした寒天粉を入れてじっくりと冷まします。すると、徐々に固まって来ているのでお玉を回収。そして待つ事少々―――――煮凝りの完成です。そして、鶏肉を取り出して冷ます間にご飯を炊いて、青ネギを切る。鶏肉も冷めたので、布を剥がして一口大に切ります。布諸共切るのもありですが、私はメイドです。この程度で崩したりしませんよ。本当なら葉物を付けたしたいのですが、無いので悪しからず―――――です。因みに、茹で汁を捨てるのは勿体無いので宝物庫に入れましたよ

 

テリーヌを見目麗しく皿の上に盛って蓋をしたら、キューブ状の煮凝りと青ネギを小さなお椀にいれる。土鍋と料理を乗せたワゴンを宝物庫に収納して、深月は皐月達が居る執務室へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室前へ到着した深月は、宝物庫からカートを取り出し、土鍋をスペースのある場所に置いてノック

 

「深月です。お食事をお持ち致しました」

 

「神楽さんだったのですね。入って頂いても大丈夫ですよ」

 

「失礼致します」

 

扉を開けてワゴンを押して入室すると、机に突っ伏している皐月が居た。肝心の書類仕事は全て終わっていたので、深月から言う事は唯一つ

 

「お嬢様、お疲れ様です」

 

「書類は・・・もう見たくない。そして、お腹空いた・・・」

 

「丁度お昼の時間帯なので当然です。ちゃんとした料理をお持ち致しましたので食べて下さいね?」

 

「深月の料理を食べる為に頑張ったと言っても過言ではない」

 

「皐月、神楽さんの作る料理はそれ程までに美味しいのですか?」

 

「段違いよ。私達は、深月に胃袋を掴まれているから逆らえないの。あ、パンがあったら食べたいんだけど・・・ある?」

 

「今日はご飯ですので我慢して下さい」

 

「ご飯でも大丈夫!」

 

深月は、宝物庫からテーブルと椅子を取り出して設置。そして、皐月とリリアーナが座る場所に配膳していく

 

「こちらは、鶏むね肉で人参を挟んで茹でたテリーヌです。二種類のソースがありますので、各自のお好みでお願いします。赤い方がピリ辛で、黒い方が酸っぱいです。現在ご飯を入れていますが、この青ネギが入った容器を入れてお召し上がりください」

 

皐月とリリアーナは、軽めに盛られたご飯の上に、青ネギが入った容器を手に取ると、青ネギの隙間から見える薄茶色のブロックを見て首を傾げた

 

「これ・・・何?深月が用意しているから食べられるのは分かるけど、先に聞いておきたいわ」

 

「これは一体・・・?このブロック状の物が食べ物なのですか?」

 

「そのまま食べても美味しいですよ?」

 

二人は、深月に言われた通りにスプーンで一ブロックだけ掬う。透明感のある薄茶色の物体。今まで見た事の無い料理に戸惑うリリアーナより先に、皐月が口に入れた瞬間目を見開いて驚いている

 

「うっま!なにこれ!?口の中に入れたら少しずつ溶け始めたんだけど、衝撃はその次よ!溶けたと同時に舌の上に広がる濃厚な旨味は肉とは違う!」

 

「本当ですか!?――――――美味しい。・・・皐月の言う通り、肉だと舌に油の濃厚さが残りますがこれは全く残っていません。これは肉とも野菜とも違い、初めての味わいです。この様な料理を一体どうやって・・・」

 

「うまぁああああああああい!」

 

「ヘリーナ・・・貴女の顔が残念な感じになっていますよ」

 

「リリアーナ様、美味しいは正義です!」

 

「このブロック状の物体ですが、これは煮凝りと言います」

 

「「煮凝り?」」

 

「はぁっ!?こっちでどうやって作ったの!?」

 

「寒天の原材料と似た海藻を処理して作りました。エリセンでの収穫は、食の幅を物凄く広げてくれたのです」

 

「そっか~、エリセンで海藻を採って来たのね・・・。この世界だと、海藻を食べるって発想自体が無いもんね」

 

「海藻?」

 

「海の中に生えている藻です。内陸で言うならば、苔と言ったら分かりやすいでしょう。雑草とは違う土に生えている緑色の仲間です」

 

土に生えている苔を想像したリリアーナとヘリーナの二人は、頬を引き攣らせた

 

「あれの・・・仲間ですか?冗談ですよね?」

 

「土に生えているあれを・・・?」

 

「あくまでも仲間とされているだけで、一緒ではありません。私達の故郷では、干した海藻を使った料理は沢山存在します。高級品は凄いですよ?」

 

「そうなのですか?だとすれば勿体無いですね」

 

「乾燥させてしまえば長期保存も出来ますから」

 

「ちょ~っと待ったああああ!今は食事を楽しむ時間なのよ!仕事の話は駄目、ゼッタイ!」

 

ワーカーホリックの二人の話をぶった切り、皆を食事に集中させる

 

「そうですね。・・・話は戻します。お気付きだと思いますが、この煮凝りは熱で溶けます。ならば、熱々のご飯の上に振りかければどうなるか・・・お分かりですよね?」

 

「当たり前よ。全部ぶっかける!」

 

「私は半分に分けます。このテリーヌと一緒に食べてみたいですから」

 

「このソースをご飯にかけても大丈夫ですか?・・・止めた方が良いのですか・・・」

 

思い思いのやり方で食事をして味の変化を楽しむ三人を見ながら、飲み水を清潔進化と冷蔵を行使して注ぐ。とても楽しそうに食事をする三人を見て、深月は嬉しそうに微笑んでいる

 

お嬢様の笑顔を頂きました♪良いですねぇ~、私の荒れた心が浄化されていきます!

 

熱々のご飯の上に全部乗せる皐月と、スプーンで一掬いずつ入れるリリアーナ。世界の文化の違いが良く分かる

ご飯の熱で煮凝りが溶けて、ご飯をコーティング。青ネギと一緒に一口食べた皐月は、恍惚な顔で味を噛みしめており、リリアーナの方は、絡まる美味しさに手が止まらず一口――――もう一口と食べ進めている。ヘリーナは、あまりの美味しさに昇天して真っ白に燃え尽きていた

 

「うまぁ~い、凝縮された魚介の出汁がご飯粒一つ一つを覆い、口の中に入れるとブワッと広がるこの感じ・・・あぁ、食は心を豊かにするぅ」

 

「皐月と同じです。サッパリとしているのにも関わらず、旨味の爆発。今まで食べた料理の中で一番インパクトがあります。テリーヌの方も食べましたが、ソースの味の変化も楽しくて、つい食べ過ぎてしまいますね」

 

「燃え尽きましたよ・・・真っ白に・・・・・」

 

全てを美味しく食べ終えた皐月達は、これからの事について話し合いを始める事にした

 

「王国はボロボロね。騎士の人数が減り、大結界は無くなり、強大な力を持った敵が相手・・・王国は詰んだんじゃない?」

 

「そう・・・ですね。今の王国は全てがボロボロです。父上も母上も教会の上層部も居ないこの現状を延命させるには・・・帝国に同盟を求めるしかありません。本当なら、南雲さん達に助力を請いたいのですが・・・」

 

「駄目に決まっているでしょ」

 

「・・・ですよね。今の私は王国を存続させるが為の楔、政略結婚しかありません」

 

「それが妥当ね」

 

「ですが、この現状を帝国が知らない筈はありません。同盟ではなく、属国として提示される可能性が大きいでしょう。そうなれば、天之河さん達の立場が変動してしまいます」

 

「勇者(笑)だけならそれもありだと言いたいけれど、そこには先生達も含まれる。そうなってしまえば、奴隷よりも待遇は良いけれどそれと変わりないわ」

 

「私達の都合でこの世界に連れて来てしまったのです。帰還の目戸が立つまでは、護らなければいけません」

 

「・・・分かっているとは思うけど」

 

「はい、帝国の属国にはなりません。今回分かった情報のカードで対等の同盟という形に持って行きます」

 

皐月達が執務室の窓から見える王国の街並みを見つめていると、王国の端にある塔の天辺から光の粒子が天に昇って行く光景が見えた

 

「一体何が・・・?」

 

「結界が張られたわね。もしかして、ハジメがアーティファクトを直したのかもしれないわ」

 

皐月の魔眼で、王国に張られてていた結界の魔力の色が濃ゆくなった事を確認したのだ。確認の為に念話でハジメにどうしたのかを尋ねると、大結界を生み出すアーティファクトを直して鬼ごっこ中との事だ。一体何をしているのやらと呆れた

 

「リリィ、ついさっきハジメに確認を取ってアーティファクトの修復を確認をしたわ。取り敢えず、これでその場しのぎが出来るわ」

 

「そう・・・ですか。貴方達には本当に助けられっぱなしですね」

 

「別にいいのよ。持ちつ持たれつの関係と思えば良いのよ」

 

「この恩はしっかりと返しますよ?」

 

「それは良いけど、リリィは目先の事をしっかりと考えなさいよ?私達は帝国に行かないからね?」

 

すると、扉がノックされる

 

「姫様、メルドです。今宜しいですか?」

 

「メルドですか?大丈夫です」

 

扉を開けてメルドが入ると、皐月と深月が居た事に少しだけ驚くが、直ぐに真剣な面持ちで結界が直った事を伝える

 

「第三障壁が展開、王国を守る結界が直ったのを確認しました」

 

「忙しい中ご苦労様です」

 

「はっ!アーティファクトを直したのは坊主―――――いえ、南雲ハジメとの事です。それでは私はこれで」

 

メルドが執務室を去ると同時に、窓がコンコンと叩かれる。リリアーナは、音がした窓の方に視線を向けると、ハジメが居た

 

「えっ、南雲さん!?ど、どうやって此処に!?」

 

「それよりも、ここ開けてくんね?さっきから変態職人に追いかけられて大変なんだよ」

 

「な、なるほど・・・。ヘリーナ、窓を開けて下さい」

 

ヘリーナが窓を開けて、手早く避難してきたハジメ。恐らく、王女が居る執務室に居る筈がないと思っての行動だった。そして、あわよくば深月の料理を食べる為に来たのだ

 

「ふぅ、助かったぜ。それはそうと、俺の分は?」

 

「無いです」

 

「冗談だろ?もしかして、ついさっき食べ終えたとか?」

 

「ハジメ・・・ごめんね!美味しいから食べちゃった♪」

 

「ぐぉおおおおおおおお、よくも良い匂いを充満させやがったな!これじゃあ生殺しだろ!」

 

「煮凝りだけでも食べますか?」

 

「・・・食べる」

 

深月は、少量の煮凝りを出してハジメに渡す。ハジメは、少量だろうがなんだろうが関係ないと器に入った煮凝りを一口。瞬間、ハジメの脳内に雷が落ちた。深月の料理に飢えたハジメの口内を魚介の旨味が蹂躙し、少しだけ乾いた喉を潤わせた

 

「うめぇ・・・深月の料理はさいっこうだなぁ!」

 

深月は、ハジメが煮凝りをチビチビと食べている間に宝物庫から魔物肉の干し肉とテリーヌを茹でたお湯を取り出して、縦長に切った干し肉を茹で汁に投入。続いて、土鍋で炊いたご飯の残りを投入して放熱しながらじっくりかき混ぜて出来上がり

 

「テリーヌの茹で汁をベースとした雑炊擬きです」

 

「ヒャッハー!飯だ飯ぃいいいい!―――――いただきます」

 

茹で汁に付け足された干し肉の旨味は、濃厚なスープに大変身。お腹が物凄く空いているハジメには、この雑炊擬きの濃厚な味付けを欲していた。皐月とリリアーナとヘリーナの三人は、食事を終えたとはいえ、眼前で飯テロをしているハジメをジトッと睨む

 

「美味しそうよね」

 

「この濃厚な匂いはお腹を空かせてしまいます」

 

「食べたい・・・食べたい・・・雑炊擬き食べたい・・・・・」

 

腹を空かせたハジメ(猛獣)に手を出す事の出来ないリリアーナとヘリーナの二人と、一人だけ雑炊はズルいと心の内で舌打ちする皐月

 

「お嬢様方は昼食を食べ終えていますよ?」

 

「そうだ、これは俺の昼食だ。飯を食い終わった三人はそこにいr―――――」

 

「ですが、少量なら大丈夫なので小鉢に入れましょう」

 

「俺の飯が!?」

 

「作ったのは私ですので、お嬢様方に食べさせても構いませんよね?」

 

「だ、だがっ―――――」

 

「ハジメさんが作るのであれば、何も言いませんよ?」

 

「ごめんなさい」

 

素直に諦めるハジメ。皐月達は雑炊擬きを食べて嬉しそうにしていたのは言うまでもないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「飯テロの日常でっす」
深月「息抜きも必要ですね」
布団「取り敢えず、アンケートやってるのでよろしくです」


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立ち塞がる壁にメイドは立ち止まる

布団「最近忙しくて書けませんでした。そして、投稿です」
深月「今回も日常回です」
布団「それでは」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」











~皐月side~

 

リリアーナとの情報共有もあと少しで終わり、窓の外はだんだんと暗くなっていた

 

「では、国民の皆には善神と邪神に別れており、邪神が善神を殺して神を名乗っていると発表します」

 

「そして、その邪神を退治する事になったから勇者(笑)達が倒すという筋書きね。出来れば嬉しいのだけれど・・・」

 

「皐月の懸念は最もです。恐らくですが、神楽さんと中村さんの戦闘を見た者達がどう行動をするかは目に見えています。主である皐月を対象に信仰される可能性が極めて高いです」

 

「神になんてなりたくない。こうなったら、先生を神様と崇める様にしなきゃいけないわね」 

 

「畑山さんにですか。・・・胃痛にならなければよいのですが」

 

深月を崇拝するなら、深月が崇拝している皐月が真の神である。だが、皐月が教えを乞うている人が畑山。深月→皐月→畑山といった感じで崇拝対象が移っていくと信じたい

 

「もう日も陰ってきているから、これでお開きにしましょう。それに、十分すぎる程の情報共有も済んだからね?」

 

「そうですね。忙しい身ですが、体長を崩さない様に気を付けないといけませんし」

 

執務室を出た二人が夕食を食べる為に王宮へ向かっていると、何処からか帰って来たであろうハジメと畑山を発見した。ハジメの後ろに付いて行くそれと、畑山の状態を見た皐月は全てを察した

 

「ごめんね、リリィ。ちょ~っとだけ、ハジメとお話しして来るから待っててね?」

 

「あ、はい」

 

皐月は、気配遮断でハジメに近づき肩に手を乗せる。触れられた事でようやく気付いたハジメは、ゆっくりと振り返るとニコニコと笑っている皐月に固まった

 

「ねぇ、増やしたいのは良いのだけれど、ちゃんと条件を満たさないと駄目よ?」

 

「い、いやっ!そんなつもりじゃ――――」

 

「へぇ~?先生が恋する女の顔になっているのだけど・・・隠せると思ったの?

 

皐月は、畑山が泣いた跡とほの字の顔を見て分かったのだ。ハジメにあれこれと追及するつもりは無かったのだが、こればかりは流石にと思っての行動だった。天之河程酷くはないのだが、こうやってフラグを乱立させるのは良くないと判断したのだ。増えるのは別に良い。しかし、条件を満たさなければ叶わぬ恋をどうしろと?厄介にも程があるし、皐月自身もこの条件を変更や撤回するつもりはさらさら無いのだ

 

「まぁ、ハジメのそういう所は今更だからしつこくは言わないわ」

 

「・・・すまん」

 

「さて、こんな話は終わりにして食堂に行くわよ」

 

「お、おう」

 

ハジメは、皐月の圧にタジタジとなって尻に敷かれる。途中でユエ達と合流して、王宮の食堂へ入って空いたテーブルに座った

 

「飯ぃ~、腹減ったぞ~」

 

「ん!・・・深月の料理楽しみ」

 

「そうですよぉ~、お預けはきつかったです!」

 

「沢山食うのじゃ!」

 

「素人の料理だとどうしてもね・・・」

 

「あ・・・ハジメは抜け駆けで深月の料理食べたわよ」

 

「「「「はぁ?」」」」

 

いきなり皐月が爆弾を落とした。皐月が深月の料理を食べる事は知っていたが、ハジメがどうして先に食べているのか――――我慢していた四人の声が一気に冷めた

 

「待て待て待て!俺だけじゃねぇだろ!?皐月も姫さんも姫さんのメイドも食べてるだろ!?」

 

「皐月は良いの」

 

「深月さんの主ですし」

 

「仕事をしっかりとしたからであろう」

 

「一緒に仕事をしていたリリィは分かるけど、お付きのメイドさんも?」

 

「ちゃんと仕事を手伝っていたわ」

 

「「「「なら問題ない」」」」

 

皐月とリリアーナとヘリーナの三人は、仕事をしていたからそれ相応の対価という事で問題はなかった。しかし、ハジメに関しては別だ。そもそも、夜まで待てと言われているのにも関わらず、ユエ達に内緒でたかりに行ったから。言い訳をしようにもまともな言葉は思い付かないし、全てに反論されてしまうだろう

 

「ハジメ?」

 

「ハジメさん?」

 

「ご主人様?」

 

「ハジメくん?」

 

四人の背後に龍、恐竜、鮫、般若が見えたハジメは、少しだけ後退った。そして、皐月は妥協策を提示する事にした

 

「ハジメが悪い事に異論はないわ。しかし、ここで手を出しても意味はない。だったら―――――ハジメのご飯を一品ずつ取れば良いのよ♪」

 

「皐月・・・ナイスアイデア」

 

「しょうがないですね~、一品で許してあげるですぅ」

 

「ご主人様、自業自得なのじゃ」

 

「こればかりは譲れないよ」

 

「俺に飯を抜けと?」

 

「料理人さん達が作る料理があるでしょ?」

 

「嫌だぁ!深月の料理を食べたいんだ!!」

 

「裁決を取ります。一人につきハジメの一品を提供する事に賛成な人、挙手を」

 

ユエ達四人が手を上げた。これでハジメの夕食は殆ど無くなったにも等しく、ハジメ当人は机に突っ伏した。少しして深月が料理を運んで来て、ハジメがどうして突っ伏しているのか理由を聞いて「なるほど、それは仕方がありませんね」と止めの言葉を投げ付けた

各自に配膳される料理は、王宮が用意する鮮やかな物ではなく、普通の料理だった。しかし、それは地球で生まれ育った者にとっての普通の料理。所謂ソウルフード―――――肉じゃがと味噌汁である。それと同時にハジメの表情は絶望に染まった。初めて見る味噌汁を不思議そうに見るユエ達三人と、小さくガッツポーズを取っている皐月と香織

 

「今回の献立は、白ご飯にお味噌汁、肉じゃが、鮫の唐揚げ、サラダです。デザートにはゼリーを用意しています」

 

ハジメから奪う標的は決まった

 

「先ずは私から・・・味噌汁を」

 

「あぁ!ユエさんズルいですよ~・・・私は肉じゃがを要求します!」

 

「くぅっ、妾はご飯と言いたいが・・・ここは唐揚げで頼むのじゃ!」

 

「私は食後のゼリーを貰おうかな♪」

 

「ぐあああああああああああああああああ!」

 

ハジメは、ユエ達に容赦無く奪われた料理達を見ながら悲鳴を上げる

 

「さ、皐月・・・後生だ・・・少しでもいいから分けてくれ」

 

「今回ばかりは駄目よ。ユエ達もハジメにあげちゃ駄目よ?」

 

「美味しい」

 

「料理を」

 

「分けろと?」

 

「無理だよ」

 

「くそぅ・・・先に食べただけだろうが・・・」

 

「・・・ハジメなら、自分が知らない所で美味しい料理を食べた奴をどうする?」

 

「ぶっ飛ばす」

 

「そういう事よ」

 

「ちぃっ!こうなったら奥の手(ジョーカー)を切ってやる!」

 

皐月達は首を傾げて、「奥の手って深月に土下座でもするの?」と思っていた。しかし、それは無茶ではなく、予行演習でもあった

 

「深月、予行演習だ。皐月の夫として命令する――――――俺の白ご飯と残りのご飯+サラダ、魔物肉を入れて焼き飯を作れ」

 

「ちょ!?ここでそれを使うの!?」

 

「ハジメ、ズルい!」

 

「皐月さん以上の横暴ですぅ!」

 

「ぬぅ!確かに予行演習ではあるのう!」

 

「深月さん、無理なら無理って言って良いんだよ!」

 

「予行演習ですか。・・・お嬢様にも予行演習で書類仕事をさせてしまいましたので、私がしないというのはいけませんね。分かりました、少々お待ち下さい」

 

深月は、ハジメの目の前に置かれているご飯とサラダを回収して厨房へと向かって行った

ハジメの機転は上手かった。皐月達が言ったのは料理一品の提供で、残った物で料理してはいけないとは言っていないし、深月自身も「これ以上作らない」とは言っていない。しかも、予行演習と言えば反対する事はありえないだろうとも考えていた

 

「フッ、四品奪われた。しかし、おかわり分のご飯を使ってのチャーハンと言ったからそれ相応の大きさで来るのは確実だ」

 

「これじゃあ罰にならないでしょ!」

 

「最終的に勝てば良いのだよ。勝てばな!」

 

皐月達はジト目でハジメを睨むが、ハジメはどこ吹く風で無視する。睨むも無視するハジメに諦めた皐月達は自分たちの料理が冷めない内に食べ始める。だが、楽しい筈の料理がいきなり酷く感じられる程の邪魔が入って来たのだ

 

「待て南雲、どうして深月に命令をしtブアッ!?」

 

「私とその従者である深月の名前を二度と言うなって言ったわよ?次はそのど頭にぶち込むわよ?」

 

皐月の右拳が天之河にシュート!して、左手にドンナーをブラブラと見せつける。他人に迷惑が掛からない様に殴り飛ばした事で誰からも文句は上がらない。だが、天之河が近付いた事で、周りの人達に皐月達が食べている料理に目が向く。そして、地球で馴染み深いそれを見たクラスメイト達が騒めくのは必然だった

 

「ちょっと、あれって味噌汁よね!?」

 

「どうしてトータスに味噌汁が?」

 

「いや待て、肉じゃが・・・だと!?」

 

「どういう事だってばよ・・・」

 

「うらやましいうらやましい」

 

「自分達だけズルい」

 

驚愕する者や、非難する者と様々だ。そんな者達の代表者である天之河は、諦めずに再び立ち上がってハジメに問い詰める

 

「おい南雲、どうしてみ――神楽に命令をしたんだ!」

 

「はぁ?お前は本当に馬鹿なのか?皐月は俺の女だ。それと同時に深月は、皐月と俺の従者になったって事だよ。因みに、本人にも了承は得ているからお前がどうこう言うのはお門違いだ」

 

「うっ!?・・・それはそうかもしれないが、俺達はクラスメイトで仲間だろ!南雲達だけが日本食を食べる事はズルいだろ。皆もそう思っている!」

 

「あ、八重樫さーん。お宅の弟分さんがうるさいので引き取って下さーい」

 

「う、うるさい!?さ―――高坂、俺は当たり前の事を言ったんだ。食べたい物を皆に分け与えるのは当然だろう?」

 

「意味分かんないわ。無償であげる事が当然?私達が命懸けで手に入れた物を、何の対価も無しで頂くって事?図々しいにも程があるわ」

 

「邪魔です」

 

皐月達と天之河率いるクラスメイトの一部が言い争っている中、調理を終えた深月がやって来たのだ。クラスメイトの一部が、自分達だけズルい、仲間だからこちらにも融通しろ等と言ってくる。しかし、深月が全てを一刀両断する

 

「ズルい?これら全ては、私達が採って来た物や買った物です。対価も無しに頂けるとでも?そもそも、貴方達にはお金があるのですか?無論、己の身で稼いだお金です。国から貰っているお金では買いません。そもそも、そのお金は国民が払う税からの出資です。国のお金―――――決して貴方達が稼いだお金ではないのです」

 

正にその通り。クラスメイト達が持っているお金とは、国から与えられ、戦うからという理由があっての事だから支払われているだけ。尚、材料を買ったところで料理が出来るとは思えない

 

「それに食材の価値を分かっているのですか?その程度のはした金で食べれる程安い物ではありません。話を戻しますが、ハジメさんにオーダーをされたご飯を渡せませんので退いて下さいませんか?貴方達も今の食に満足出来ないのであれば自身で作れば宜しいでしょう?」

 

クラスメイト達の間を縫う様に移動してハジメの傍へと辿り着いた深月は、手に持った皿を置いて蓋を開けた。その瞬間ブワッと広がる独特な香ばしい匂いに、全員がハジメの前に置かれた料理に目を見開く。焼き飯・・・自分達が作るよりも綺麗に、繊細に作られたそれは、店に出しても気付かない程の出来栄えだ

 

「うっひょ~、美味そうだ!それでは―――――いただきます!」

 

スプーンを一掬い。そして、口に入れて数回噛んだと同時にハジメに襲い掛かった刺激

 

「ぐっ!?辛ぇ!?でも、食べれない程じゃないし・・・もう一口、もう一口と進んでしまう!クソッ、深月の料理は麻薬か!?」

 

「うわっ・・・ハジメの顔を見るからに辛そうね。汗が噴き出ているじゃない」

 

「大丈夫?」

 

「ハジメさんの舌が逝かれたのでしょうか?」

 

「いや、耐性が上がったのかもしれんぞ?」

 

「ゴクリ・・・美味しそうだけど、私は食べれないかも」

 

深月も座り、もう片方で持っていた器を置いて蓋を開ける。そして、見える赤い悪魔の料理――――麻婆豆腐があった。皐月達は、体をビクッと震わせて顔を青くした。悪食すらその強力無比な辛さに行動不能となった。そんな劇物を、深月は表情を変えずにモッキュモッキュと食す。深月が食べている物が気になったのか、劇物カレーを食べた事がある愛ちゃん親衛隊の皆が皐月に尋ねた

 

「ねぇ高坂さん、神楽さんが食べているやつって・・・麻婆豆腐よね?」

 

「・・・そうよ」

 

「もしかしなくても・・・神楽さんって、超が付く程の辛党なの?」

 

「正直言わせてもらうわ。深月が作ったカレーを食べていた貴方達の様子を見て判断するけど、麻婆豆腐はカレーよりも辛い。何故分かるかって?初めて食べた香織が"たった一口"で気絶したからよ。カレーの時は、貴方達気絶しなかったでしょ?」

 

「神楽さんに辛い料理を作らせたらヤバイんじゃ・・・」

 

「普通の辛さも分かるから大丈夫だと思うわよ。現にハジメが食べているのは、辛くても食べれる程度だろうし」

 

皐月は、汗を流しながら食べ進めるハジメを見る。それを見た親衛隊達は、「あぁ~」と納得した様子だ。そして、中立だったクラスメイトの女子の一部から言ってはいけない言葉が出た

 

「ね、ねぇ神楽さん。その~・・・厚かましいとは思うんだけど、一口だけでも良いから食べても良い?」

 

「・・・一口だけなら良いですよ。但し、貴女だけです」

 

「やったぁ!ありがとう!」

 

ハジメは目の前の食事に集中して何も気づいていない為何も言わない。そして、皐月も何も言わない。何故なら、そこら辺の匙加減は深月自身に任せているから

 

「では、口を開けて下さい」

 

「あ~ん」

 

何も知らない女子の口の中に劇物が入れられた。皐月達は心の中で合掌すると同時に、麻婆豆腐を食べた女子が真っ白に燃え尽きて床に倒れ伏した。辛うじて動けたであろう人差し指で書かれた文字は、"マーボ"の三文字だった。皆が頬を引き攣らせて深月から離れた

 

「しっかりして!?」

 

「マーボ・・・マーボ・・・マーボ・・・」

 

壊れたテープレコーダーの様にマーボの三文字だけを声に出すクラスメイトの女子。少しだけ時間が経ってようやく目覚めた第一声が

 

「川の向こうで誰かが手を振ってた・・・あ、麻婆・・・・・うっ、頭が!?」

 

こうして、クラスメイトの中で第一の麻婆犠牲者が出たのであった。そして、ご都合天之河がまくし立てる

 

「彼女に一体何を食べさせたんだ!・・・南雲!み―――神楽に何を作らせたんだ!!」

 

「ふぅ~、辛かったけど美味かった。・・・ん、どうした?」

 

「何を作らせたんだと言っている!」

 

「まるで意味が分からんぞ」

 

天之河の言っている意味が分からないハジメが周囲を見ると、深月から距離を取っているクラスメイトと深月が食べている麻婆豆腐を見て全てを察した

 

「あぁ・・・深月の麻婆を食ったのか。辛すぎて倒れただけだろ?気にすんな」

 

「南雲が作らせたんだろう!」

 

「こいつめんどくせぇ・・・」

 

もう反論しても意味がないだろうと分かっていたハジメは、無視を決め込んだ。そんなハジメを見て更にまくし立てようとした天之河を止める声が上がる

 

「光輝、止めなさい。この状況は、何も知らなかった彼女自身の問題よ」

 

「雫っ!?・・・だ、だが、知っていたなら止めるのが普通だろ!南雲は何も言わなかったんだぞ!」

 

「南雲くんは食べるのに集中していたから聞こえなかっただけでしょ」

 

「だけど・・・」

 

「はいはい皆も解散しなさい!そもそも、この料理は誰が用意したのか分かっているの?神楽さんが一人で作ったのよ?南雲くん達が買った物・・・地球でも食材は買っていたでしょ?私達がしている事はいきなりタダ飯を頂くって事よ。もしも、自分達が彼等の立場だと考えて考えてもみなさい。顔見知り程度の相手に厚かましくも食料を分けろと言っているのよ。その位我慢しなさい」

 

八重樫のド正論な言葉に、クラスメイト達は大人しく引き下がった

 

「本当にごめんなさいね」

 

「何故雫が謝るんだ!?」

 

「そろそろ巣立ちさせれば?まぁ、そうした瞬間に落下しそうよね~」

 

「同じ門下生だから放っておく事は出来ないのよ」

 

八重樫の苦労はまだまだ続く模様・・・何時になったら自由になれるのだろうか。それは、天之河次第か八重樫の諦めだろう

天之河を強引に連れて引き下がった八重樫を見送ったハジメ達

 

「ようやくうるさい奴が居なくなったな」

 

「そうね、やっとデザートが食べれるわ」

 

「お出しします」

 

深月は、宝物庫から人数分のゼリーを出して各自の前に置く。ちゃんと、ハジメの前にも置かれたのだが

 

「ごめんねハジメくん。ゼリー貰うよ」

 

「あぁ・・・俺のデザートが・・・・・」

 

香織に取られるゼリーを見てガックリと肩を落とすハジメの姿を眺めつつ、皐月達はデザートを味わって食べた。その後は、銃のメンテナンスと弾の補充をして就寝した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

殆どの者達が就寝した後、月明かりに照らされた訓練場の真ん中に白い影が一つ――――メイドの深月がそこに居た。目を閉じて瞑想しているのか、体が全く動く様子が無い

 

(あの時は最低でしたね・・・敵を取り逃すなんて最悪の一言です。再び対峙するとなれば成長している筈。今以上の引き出しで対処しなければ殺られるでしょう)

 

黒刀を抜いて、筋線維の一つ一つの動きを確認するかの様に緩やかに動く。余計な動作が無いかを確認しつつ動く。もしこの場にクラスメイトが居たら、何をやっているんだ?と深月がやっている事に疑問に思う物が殆どだろう

 

(分解魔法の処理速度に勝る再生魔法を使って切断―――――失敗。切り返し間に合わず態勢を崩されて押し込まれる)

 

先程とは違う動作でどうすれば良いか、どうしたら最適解となるかを模索していく。しかし、黒刀での迎撃のどれもが駄目だった。深月が想定している相手は、力を完全に己の物として進化した中村だ。体に完全に馴染んでいない、情報処理速度が人間の頃のまま、情報が全く無い。この三点があったからこその優勢だったのだ。今度はそれがない事を前提として動かなければいけない事を考慮してイメージトレーニングをしているのだ

 

(刀での迎撃は不可能。残される手は迎撃ではなく相手の攻撃を紙一重で回避する事―――――これも失敗。これでは次の相対で殺られますね)

 

思考がどんどんと暗くなって体の動きに違和感を感じ始める。あれをした方が良いのでは?これも駄目・・・ならどうすれば?といった蟻地獄に落ちてしまう。思考を全てリセットして、無心で体を動かす。自分が動ける範囲内での動きに精度を上げていくだけ。武に精通している者でなくても見惚れる動き。それを見ている者が二人だけ居た。離れた場所で―――――ただ、眠れないから夜風に当たりに来て偶々出会い深月を発見したから。その人物とは、八重樫とメルドだった

深月は見られている事には気付いていたが、何もして来ないから何も言わないし無視して体を動かし続けている。汗が噴き出ても止まらずに動かし続ける体にそよ風が当たって涼しいが、それ以上に温まる体は少しずつ蒸気を発する。すると、先程よりも少しだけ強い風が吹いて砂埃を舞わせる。その中に一つだけ枯れ葉が混ざっており、深月の頬に当たる瞬間に左手で"キャッチ"した

 

(左手に違和感?・・・枯れ葉ですか)

 

深月は、左手でキャッチした枯れ葉を払って再び体を動かし始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠目で見ていた八重樫とメルドの二人は、枯れ葉をキャッチした深月を見て戦慄していた

 

「メルドさん、先程の神楽さんの動きを見ましたか?」

 

「あぁ、・・・完全に死角から飛んで来た枯れ葉を受け止めた。例え玄人であろうと出来ないぞ」

 

「技能?いえ、あの動きは最小限だった・・・」

 

「無意識なのか後ろを見えていたのかは分からんが、誰も真似は出来んだろう」

 

「はぁ・・・絶対に生まれる時代を間違えているわ」

 

「この事は俺達二人だけの秘密にしておいた方が良いだろうな」

 

「偶然の可能性もありますのでその方が良いですね」

 

二人は、異常な動きをした事を秘密にして、動き続ける深月を少しだけ見てその場を離れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大量の汗を流して休憩している深月は、次はどうしようかと考える

 

(新しい技を編み出さなければ・・・何か良い方法は無いのでしょうか)

 

沢山考えたのだが、何も思い付かなかった。そこで、ふと気になった事―――――ステータスプレートだ。アンカジで確認を最後に全然見ていないし、何かしらの追加技能か派生技能があればそれを応用すれば良いと思ったのだ。ポケットからステータスプレートを取り出して見て・・・目頭を押さえた

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:???

天職:メイド

筋力:43500

体力:80000

耐性:50500

敏捷:75000

魔力:47000

魔耐:45000

技能:生活魔法[+完全清潔][+瞬間清潔][+清潔操作][+範囲清潔][+清潔進化][+清潔鑑定] 熱量操作[+蒸発][+乾燥][+瞬間放熱][+放熱持続][+冷蔵][+冷凍] 超高速思考[+予測][+並列思考] 精神統一[+明鏡止水] 身体強化[+魔力吸引補強][+全属性補強][+全属性性能向上] 魔気力制御[+放射][+圧縮][+遠隔操作][+複合][+憑依][+魔気力展開] 気配感知[+特定感知] 魔力感知[+特定感知] 熱源感知[+特定感知] 気配遮断[+透化][+断絶] 家事[+熟成短縮][+発酵][+魔力濾過][+魔力濾過吸引] 節約[+気力][+魔力] 裁縫[+速度上昇][+精密裁縫] 交渉 戦術顧問[+メイド] 纏雷[+電磁波操作] 天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光][+無音加速][+音越え][+無間] 幻歩[+幻影][+認識移動] 風爪 衝撃波[+収束][+拡散][+並列] 夜目 遠見 魔力糸[+伸縮自在][+硬度変更][+粘度変更][+着色][+物質化][+振動伝達] 胃酸強化 超直感[+瞬間反射][+未来予測] 状態異常完全無効 金剛[+超硬化] 威圧 念話[+特定念話] 追跡[+敵影補足][+識別] 超高速体力回復 超高速魔力回復 魔力変換[+体力][+治癒力] 心眼[+見極め][+観察眼] 極致[+武神][+絶剣][+絶拳] 限界突破[+覇潰][+極限突破] 生成魔法 重力魔法 再生魔法 魂魄魔法 忠誠補正[+成長補正][+技能獲得補正] 言語理解

称号:メイドの極致に至る者

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

技能はまだいいとして・・・問題は、ステータスについてだ。アンカジの確認から約1.5倍も成長していた

 

「ステータスが上昇していますね。しかし、素の状態では中村さんに勝てませんか・・・」

 

忘れがちだが、中村のステータスはオール100000―――――この世界で最強に近い存在だ。そんな相手に狙われているとなると今の状態では心許ない

 

「魔力と気力の制御を今よりも強力に、繊細に進化させる他ありませんか・・・。一度おさらいをしましょう」

 

魔力と気力制御の派生技能は、[+放射][+圧縮][+遠隔操作][+複合][+憑依][+魔気力展開]の六つ。基本的に近接戦闘だけに特化した技能ばかりです。・・・どうしましょう・・・・・これ以上成長はしないよと感じさせるステータスは。何事も向上心を忘れてはいけないと言いますが・・・どうしたら?

 

両手を見下ろしながら気落ちする。今の深月の状態をRPG的に言うなら成長限界の一言に尽きる

人間の極地――――これ以上の成長をするのであれば、人間を辞める他ないだろう。だが、深月にそのつもりは今の所ない

 

「唯一成長が見られたのは拳。・・・お嬢様達でいう所の魔拳師に近づいたという事ですね。相手の防御を貫通させる攻撃は一通り出来ますし・・・魔力を直接叩き込む事も出来ます。くっ、これ以上は無理なのですかっ!」

 

深月の受難が始まる。焦る心と思考が支配して夜が明ける

訓練を切り上げて清潔で体を奇麗にし終えた深月は、気持ちを切り替えて皐月を起こしに行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

受難は心を徐々に侵食していく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「メイドさんの受難が始まりました」
深月「厳しいです・・・」
























布団「それはそうと、意味深回をちょくちょく書いていますのでお待ち下さい」












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帝国とハウリアとハルツィナ樹海
気落ちするメイドはお休みします


布団「投稿だよ!」
深月「読者の皆様方も夏の猛暑に注意して下さい」
布団「それじゃあ帝国編がはっじまっるよ~」
深月「ごゆるりとどうぞ」
















~深月side~

 

あぁ・・・私は巨大な壁に立ち往生しています。今まで体験してきた中で最大級の壁―――――これを乗り越えなければバッドエンド直行です

 

今まではぶち壊して突き進んできた深月。しかし、今回の壁は種類が違うのだ。例えるなら、アザンチウム製の分厚い壁に素手で挑む様な感じだ

内心気落ちしている深月は、こちらをジッと見つめている皐月に気付いない。ハジメ達もこの様子には気付いており、表情に出さずに焦って念話で会話をしている

 

(おい、深月の様子が物凄くヤバいんだが・・・何があったか分かるか?)

 

(分からない)

 

(うぇええええ!皐月さんが見ているのに気付いていないですよ!災害の前兆ですか!?)

 

(いつもなら直ぐに気付いておる筈じゃが・・・)

 

(深月さんがあそこまでおかしいのは初めて見るんだけど・・・)

 

(皐月は何か心当たり無いのか?)

 

(無いわよ!それを言うなら、私の方が一番驚いているのよ!!)

 

話しは変わって、ハジメ達は空の上を飛んでいる。飛空艇"フェルニル"―――――巨大なアーティファクトの一つだ。これは、ハジメ達がノイントの死骸に香織の魂を定着させている間に作った物だ。行き先はフェアベルゲンの大迷宮。そして、搭乗員はハジメ達は当たり前なのだが、そこに追加して勇者(笑)パーティー達とリリアーナとヘリーナが乗っている

時を少しだけ遡ろう――――深月が訓練を切り上げ、皐月達を起こして朝食を食べ終えてフェアベルゲンへと向かおうとした。そこに待ったの声が掛かった。それはリリアーナの声で、帝国に行くからフェアベルゲンの前まで一緒に乗らせて欲しいとの事だった。本当なら帝国までと言いたかったリリアーナだが、ハジメ達の目的を知っていたので大迷宮を攻略した後で護衛を頼んだ。当然の如く断った所に天之河が現れて護衛に行くという流れになったのだ

 

「深月、本当に大丈夫?今の深月はおかしいわよ?」

 

「うぇっ!?い、いいえ大丈夫ですよ!?何も問題はありません」

 

「取り敢えず、一旦休みなさい。今の深月は見ていられないわ!」

 

「深月は寝ろ!中村にあんだけ重傷を負わせたんだから奇襲はありえないだろうしな」

 

「寝る!」

 

「無理は駄目ですぅ!」

 

「そうじゃぞ、深月は妾達の最強戦力なのじゃ。休める時に休む事こそ大事じゃぞ?」

 

「深月さんは働き過ぎだと思うよ?」

 

ハジメ達の言う通りである。王都騒乱からおよそ一週間―――――休まず働き、訓練をしての繰り返しをしているのだ。心配するのは当たり前だろう

 

「で、ですが・・・」

 

「ですがもヘチマもないわ!いいから来なさい!」

 

「え?あ、ちょっ、お嬢様~!?」

 

皐月にドナドナされる深月

 

「フェアベルゲンまで少しだろうけど、仮眠するには十分な時間があるわ。一緒に寝てあげるから深月も寝なさい」

 

「うっ・・・了解しました」

 

仮眠室に到着した皐月は、深月をベッドに連れ込んで添い寝する。しかし、深月の気分は未だに落ち込んだままである。これでも変わらない深月を見て、頭を胸元に寄せて撫でる

 

「一人で溜め込まない。深月は自分で気付いていないだろうけど、溜め込みやすい性格なんだから発散も大事よ?」

 

「・・・・・」

 

皐月の胸元に顔を埋めた深月は、黙ったまま皐月の言葉を聞く

 

「確かに私達は弱い・・・変貌した中村さん相手に手も足も出ないわ。深月だけが頼りだけど、私達に頼るという事を忘れないで。弱音を吐いても誰も怒らないし、一緒に乗り越える為に動くわ」

 

「・・・私が強くならなければ皆さんが死んでしまいます」

 

「それは一人じゃないと駄目なの?」

 

「・・・お嬢様達では危険です」

 

「この世界の命は軽いし、危険なら地球にもあるでしょ?」

 

「・・・・・」

 

「もう寝なさい」

 

「・・・はい」

 

深月は目を閉じ、皐月の心臓の鼓動を子守唄代わりに眠った。皐月は、小さな寝息を聞きながら頭をずっと撫で続ける

 

「・・・地球に帰るまでに隠している事を話してくれる事を期待しているわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

ハジメは、皐月にドナドナされた深月を見送りユエ達と喋りながら操舵する。すると、ハジメの後ろから予想外の人物から声が掛けられた

 

「なぁ、南雲・・・少しいいか」

 

「どぅわぁっ!?って、遠藤・・・?どうしてお前がここに居るんだ。一体何時乗り込んだんだ?」

 

そう、影の薄い遠藤がいつの間にか乗り込んでいたのだ。ハジメの気配感知にも引っ掛からずに乗り込むその影の薄さ・・・真に暗殺者。それは周囲の者達も同様で、遠藤の姿を視認出来た者達一同驚いていた

 

「いつの間に・・・?」

 

「見える位置に居たのに気付かなかったです・・・」

 

「一度体験していたのじゃが・・・今回も分からんかった」

 

「遠藤君居たの?」

 

「遠藤さん!?えっ?ついて来たのですか!?」

 

「うおっ!?い、一体何時の間に・・・」

 

「遠藤君!?・・・気付かなかった」

 

皆言いたい放題で、少しだけ心が傷付いた遠藤。しかし、挫けず南雲の前に立って土下座した

 

「頼む南雲!俺を・・・俺を強くしてくれ!」

 

「・・・は?」

 

『・・・へ?』

 

皆があまりの急展開に着いて来れず、首を傾げた

 

「あの時・・・神楽さんが来なかったら皆が死んでた。傀儡になった二人に永山や谷口さんが殺されそうになった事にも気付かなかったんだ。本当なら警戒しなきゃいけなかったんだ!南雲達に助けられた時から、もっと力があればと思って訓練もした。けど、実際は足手纏いだったんだ!俺達の思う様な努力じゃ駄目なんだ!今までやってきた訓練もお遊びに近かったんなら、どうやって訓練したらいいかなんて分かんないんだ!だから、お願いだ南雲!俺を強くしてくれ!!」

 

ハジメは、これ程までに強く願う遠藤の眼を見て、深い溜息を吐いた

 

「んで?遠藤はどうして強くなりたいんだ。訓練自体は一緒にやっても良いが、ハッキリ言って地獄だぞ?」

 

「俺は死にたくないんだ。死なない為に強くなりたいし、友達の永山達も死なせたくないんだ」

 

「へぇ・・・自分が死なない為と、身近な仲間を守る為か―――――勇者(笑)よりもよっぽど勇者らしいじゃねぇか。俺の一存では無理だが・・・ユエ達はどう思う?」

 

ハジメは、ユエ達に視線を向けてどうする?と尋ねる

 

「別に構わない」

 

「誰だって強くなりたいと思うのでありですぅ!」

 

「妾も構わないのじゃ」

 

「私も大丈夫だよ。あの地獄の訓練をかぁ~・・・懐かしいなぁ

 

「皐月達にもと言いたいが、一番先に言うのは深月にだ。あいつが俺達に訓練をさせているからな」

 

後は皐月と深月の反応待ちだが、恐らく了承するだろう。八重樫と遠藤の二人には、それなりに信頼もしている事を理解しているからだ。こうして、地獄のブートキャンプの参加を決めた遠藤。どれ程まで成長するかは彼次第だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フェアベルゲンへと向かっていたハジメが遠目で何かを発見したのか、進路を少しだけ逸らしてゆっくりと進ませる。いきなりの進路変更と速度の低下に何事と驚きながら皐月と深月の二人以外がブリッジに集結した。ユエ達は中央に置かれた水晶を覗き込んでおり、遅れてやって来た天之河達も釣られる様に覗くと―――――狭い谷間を駆ける二人の兎人族が帝国兵に追いかけられていた。よくよく見ると、追いかけて来る帝国兵達の後ろには五~六台の馬車があった

 

「奴隷にする為に追いかけているのか」

 

「何だって!?直ぐに助けに行かないと!」

 

天之河は案の定喚いて、今すぐにでも飛び降り様と準備している。しかし、ハジメは水晶を覗いたまま動こうとはしない。いや、眉を寄せて訝しげに様子を見ていたのだ

 

「おい、南雲!まさか、彼女達を見捨てるつもりじゃないだろうな!?お前が助けないなら俺が行く!早く降ろしてくれ!」

 

「シア、こいつらって・・・」

 

「へ?・・・あれっ?この二人って・・・」

 

先程よりも拡大された映像を見て気がついた

 

「二人共、何をそんなにのんびりしているんだ!シアさんは同じ種族だろ!何とも思わないのか!」

 

「すいません、ちょっとうるさいんで黙っててもらえますか?・・・ハジメさん、間違いないです。ラナさんとミナさんです」

 

「やっぱりか。・・・豹変具合が凄かったから俺も覚えちまったんだよな。・・・こいつらの動き、表情・・・ふむ」

 

シアは、天之河の言葉をバッサリとぶった切って様子を見ている。すると、谷間の少し開けた場所で二人の兎人族が躓いて足を止めてしまった。それを見た天之河は、ブリッジを出て甲板から魔法を撃って注意を逸らそうとしたが、ハジメに止められる

 

「まぁ、待て。天之河。大丈夫だ」

 

「なっ、何を言っているんだ!か弱い女性が今にも襲われそうなんだぞ!」

 

ハジメを睨む天之河。ハジメは水晶を覗き込みながらニヤリと笑った

 

「か弱い?まさか。あいつらは・・・"ハウリア"だぞ?」

 

こいつは何を言っているんだ?と天之河が訝しげな表情をしたと同時に、誰かが何かに気付いて「あっ!」と声を上げる。天之河は何事?と思い再び水晶を覗くと、そこには山となって積み重ねられた帝国兵の死体が映っていた

 

「・・・え?」

 

ハウリア族を知らない全員が目を点にする。帝国兵達は、兎人族を追った兵士が一向に帰って来ない事に疑問に思い斥候を放つ。そして、その斥候部隊が仲間の死体の山を見つけ、その中央で肩を寄せ合わせて震えている兎人族の女二人に、何かを喚きながら近づいて彼女等のウサミミを掴もうとしたその瞬間、何処からか飛来した矢が斥候一人の頭を射貫いた。後方で倒れた音を聞いて振り返った前衛を見た彼女達は、音も無く飛び上がって隠し持っていた小太刀で眼前の兵士の首を落とす

 

「「「「「う"っ・・・」」」」」

 

生々しい殺戮の光景に慣れていない天之河達は、顔を青褪めて口元を手で押さえてブリッジの隅っこに用意周到に置かれたバケツに胃の中の物をぶちまけた。そして、リリアーナやヘリーナと近衛騎士達は、兎人族が帝国兵を瞬殺する光景を見てシアを凝視する。特殊なのはお前だけじゃなかったのか!?と言いたげな表情を察したシアは、否定の声を上げる

 

「いや、紛れもなく特殊なのは私だけですからね?私みたいなのがそう何人もいるわけないじゃないですか。彼等のあれは訓練の賜物ですよ。・・・ハジメさんと皐月さんが施した地獄というのも生温い、魔改造ともいうべき訓練によって、あんな感じになったんです」

 

「「「「「「「・・・」」」」」」」

 

全員の視線がハジメに向き、「またお前か!」と睨むが、ハジメはソッポを向いた

斥候部隊が戻らない違和感を感じた帝国兵達だが、時すでに遅し―――――石が馬車に当たった音を聞いて、そちらへと意識を向けたと同時に真正面から矢が一つ頭部を撃ち貫く。矢が飛来した方向に注意を向けた瞬間、後ろから飛び出したハウリアの一人に首が落とされ、再び矢が頭を撃ち貫く。縦横無尽に攻撃される帝国兵達は、あっという間に数を減らして二人となった。残りの二人は、捕まえた亜人族達を人質にしようとした瞬間、馬車上にひっそりと待機していた二人のハウリアにあっさりと首を落とされた

 

「こ、これが兎人族だというのか・・・」

 

「マジかよ・・・」

 

「うさぎコワイ・・・」

 

天之河と坂上と谷口のハウリアの強さに呆然としていた

 

「ふん、練度が上がっているじゃねぇの。サボってはいなかったようだな。・・・だが、ちと詰めが甘いな」

 

操舵から離れて風防からシュラーゲンの銃口を突き出して狙いを定めて――――発射

 

ドバァン!!

 

赤い軌跡を描くそれは、馬車から逃亡する一人の帝国兵の頭部を粉砕した。尚、ハジメが操舵から離れても大丈夫なのは舵自体がお飾りだからである。何事も形が大事なだけと言う事だ

水晶に映っていたハウリア達は、頭部が粉砕された帝国兵を見て射線を辿って空高くを飛ぶフェルニルに気が付く。紅い閃光と初めて見る謎の物体・・・これだけで誰が何をしたのかが分かり、彼等の表情は喜色に彩られた

 

「ハジメさん、ハジメさん。早く、降りましょうよ。樹海の外で、こんな事をしているなんて・・・もしかしたらまた暴走しているんじゃ・・・」

 

どうしたら温厚なハウリア達がここまで豹変するんだ!と言いたげな視線を無視して、フェルニルを谷間へと着陸させた。ハジメ達が谷間へ降りると、そこにはハウリア族以外の亜人族が数多く居た。約百人近い数・・・恐らくあの馬車の中全てに亜人族達が入っていたのだろう。ハジメの登場に警戒や驚愕に満ちた視線を向ける中、クロスボウを担いだ少年がハジメの手前まで駆け寄り、ビシッ!と背を伸ばして見事な敬礼をした

 

「お久しぶりです、ボス!再びお会いできる日を心待ちにしておりました!まさか、このようなものに乗って登場するとは改めて感服致しましたっ!それと先程のご助力、感謝致しますっ!」

 

「よぉ、久しぶりだな。まぁ、さっきのは気にするな。お前等なら、多少のダメージを食らう程度でどうにでも出来ただろうしな。・・・中々、腕を上げたじゃないか」

 

「「「「「「恐縮でありますっ、Sir!!」」」」」」

 

谷間に響き渡る感動で打ち震えるハウリア達の声。敬愛するボスのハジメに、成長したなと褒められて涙ぐむが、泣かない様に必死にこらえている。もの凄く忠誠度が高いと見て分かる光景に、ティオや香織、光輝達とリリアーナ達はドン引きである

 

「えっと、みんな、久しぶりです!元気そうでなによりですぅ。ところで、父様達はどこですか?パル君達だけですか?あと、なんでこんなところで、帝国兵なんて相手に……」

 

「落ち着いてくだせぇ、シアの姉御。一度に聞かれても答えられませんぜ?取り敢えず、今、ここにいるのは俺達六人だけでさぁ。色々事情があるんで、詳しい話は落ち着ける場所に行ってからにしやしょう。・・・それと、パル君ではなく"必滅のバルトフェルド"です。お間違いのないようお願いしやすぜ?」

 

「・・・え?そこをツッコミます?っていうかまだそんな名前を・・・ラナさん達も注意して下さいよぉ」

 

相変わらずの中二病のパルに頭が痛くなるシア。しかし、場所を変えてから話をした方が良いと提案ももっともなので、これ以上の追及はせず、シアは、パルの中二病をどうにかしてくれとハウリアの女性と他のメンバーに注意を促す。だが、現実は予想以上に酷く、予想の斜め上に行く

 

「・・・シア。ラナじゃないわ・・・"疾影のラナインフェリナ"よ」

 

「!?ラナさん!?何を言って・・・」

 

シアからすれば、しっかり者のお姉さんだったラナからの返答に、シアは頬を引き攣らせる。しかし、彼等の怒涛は終わらない

 

「私は、"空裂のミナステリア"!」

 

「!?」

 

「俺は、"幻武のヤオゼリアス"!」

 

「!?」

 

「僕は、"這斬のヨルガンダル"!」

 

「!?」

 

「ふっ、"霧雨のリキッドブレイク"だ」

 

「!?」

 

全員がドヤ顔でジョ〇的なポーズを取りながら、二つ名を名乗った。どうやら、ハウリア達の間では二つ名が流行っているそうだ。そんな彼等を見たシアは絶望した。久しぶりに再会した家族が、ドヤ顔でポーズを決めているこの状況に、口からエクトプラズムを吐き出すシアはあまりにも哀れだ。ハジメが助け舟を出そうとしたが、流れ弾が飛んで来た

 

「ちなみに、ボスは"紅き閃光の輪舞曲(ロンド)"と"白き爪牙の狂飆(きょうひょう)"ならどちらがいいですか?」

 

「・・・何?」

 

「ボスの二つ名です。一族会議で丸十日の激論の末、どうにかこの二つまで絞り込みました。しかし、結局、どちらがいいか決着がつかず、一族の間で戦争を行っても引き分ける始末でして・・・こうなったらボスに再会したときに判断を委ねようということに。ちなみに俺は"紅き閃光の輪舞曲"派です」

 

「まて、なぜ最初から二つ名を持つことが前提になってる?」

 

「ボス、私は断然"白き爪牙の狂飆"です」

 

「いや、話を聞けよ。俺は・・・」

 

「何を言っているの疾影のラナインフェリナ。ボスにはどう考えても"紅き閃光の輪舞曲"が似合っているじゃない!」

 

「おい、こら、いい加減に・・・」

 

「そうだ!紅い魔力とスパークを迸らせて、宙を自在に跳び回りながら様々な武器を使いこなす様は、まさに"紅き閃光の輪舞曲"!これ一択だろJK」

 

「よせっ、それ以上小っ恥ずかしい解説はっ――」

 

「おいおい、這斬のヨルガンダル。それを言ったら、あのトレードマークの白髪をなびかせて、獣王の爪牙とも言うべき強力な武器を両手に暴風の如き怒涛の攻撃を繰り出す様は、"白き爪牙の狂飆"以外に表現のしようがないって、どうして分からない?いつから、そんなに耄碌しちまったんだ?」

 

「・・・」

 

遂にハジメの口からもエクトプラズムが流れ出始めた。痛々しい二つ名の由来の解説に限界が来て、シアと同じ様になっている。そんなハジメとシアの背後で、ブフッ!と吹き出す音が響いた

 

「シ、シズシズ、笑っちゃダメだって、ぶふっ!」

 

「す、鈴だって、笑って・・・くふっ・・・厨二って感染する・・・のかしら、ふ、ふふっ」

 

ハジメがハッと意識を取り戻して背後を見ると、八重樫と谷口が必死に笑いを堪えようとしている姿だった

 

「ボス、一つ気になったのですが・・・お嬢は一緒ではないのですか?」

 

「・・・皐月は深月を連れて休憩中だ」

 

「因みに、お嬢の二つ名も候補があるんです!"紅き白百合の舞踏曲(ロンド)"と"至高(ヘルサイ)の白薔薇"どちらが良いと思いますか?ここに居る全員は、"紅き白百合の舞踏曲"を押しです!」

 

「・・・深月はどうなんだ?」

 

「ボス・・・深月殿に二つ名を決めるのは無理です。力の片鱗を見た事が無いんですよ?唯一考えられるのは・・・"悪魔を手にした死神(イービルピッチャー)"しか思いつきません」

 

「おいおい、必滅のバルトフェルド。深月殿が俺達に食べさせた物の名前を忘れたのか?"麻婆(デッドポイズン)の処刑人"これ一択だろ?」

 

深月に関しても酷い二つ名だが、どちらも麻婆に関する名前だ。ハウリア達から見て、深月特製麻婆は悪夢の存在となっていた

 

「さぁボス!どれが宜しいでs―――――」

 

ドパンッ!!

 

ハウリア達の頭部にゴム弾を撃ち込んで強制的に黙らせたハジメは、そのまま後ろに振り返って笑っていた八重樫と谷口を恨ましげな眼差しを向ける

 

「八重樫、クールなお前には後で強制ツインテールリボン付きをプレゼントしてやる。もちろん映像記録も残してやる」

 

「!?」

 

「谷口、お前の身長をあと五センチ縮めてやる」

 

「!?」

 

先程まで笑っていた二人がピタリと止まり、ハジメの圧に戦慄――――ハジメが完全なる八つ当たりをすると、二人には抗う術はない

 

「あの・・・宜しいでしょうか?」

 

ハウリア達を避けて、ハジメに理不尽だと言っている二人を尻目に声を掛けてきた美少女。足元まである長く美しい金髪で、スレンダーで碧眼、耳がスッと長く尖っている事から森人族である事が分かる。しかも、彼女の容姿がフェアベルゲンの長老のアルフレリックにどことなく似ていた

 

「あなたは、南雲ハジメ殿で間違いありませんか?」

 

「ん?確かに、そうだが・・・」

 

「では、わたくし達を捕らえて奴隷にするということはないと思って宜しいですか? 祖父から、あなたの種族に対する価値観は良くも悪くも平等だと聞いています。亜人族を弄ぶような方ではないと・・・」

 

「祖父?もしかして、アルフレリックか?」

 

「その通りです。申し遅れましたが、わたくしは、フェアベルゲン長老衆の一人アルフレリックの孫娘アルテナ・ハイピストと申します」

 

「長老の孫娘が捕まるって・・・どうやら本当に色々あったみたいだな」

 

長老の孫娘・・・お姫様である彼女が捕まるとは余程の事が無い限りはありえない。今正にそれが起きている事を理解したハジメは、再び溜息を吐いてパル達から詳しく話を聞く事にした。しかし、この場にずっと留まっているのはあまり良くない

 

「おい、お前等。亜人達をまとめて付いてこさせろ。ついでだ。樹海まで送ってやる」

 

「Yes,Sir!あっ、申し訳ないんですが、ボス。帝都近郊に潜んでいる仲間に連絡がしたいんで、途中で離脱させて頂いてもよろしいですか?」

 

「ああ、それならちょうど、こっちも帝都の手前まで送る予定だった奴等がいるから、帝都から少し離れた場所で一緒に降ろしてやるよ」

 

「有難うございますっ!」

 

亜人族達が、パル達に先導されておずおずとフェルニルへと乗り込む。ハジメも戻ろうとした時、「きゃ!」と悲鳴と共に背中に小さな衝撃。アルテナが、足枷の鎖に躓き、咄嗟にハジメの背中にしがみ付いたからだ。他の亜人族達が一斉に顔を青褪めて硬直する。アルテナも咄嗟とはいえ支えにしてしまった事に気付いて、より一層顔を青褪めた。人間が亜人族をどの様に扱うかなど手に取る様に分かる。殴られるだろうと思い目をつぶるが、衝撃はいつになっても来ない

 

「あ?・・・あぁ、そりゃあ歩きにくいだろうな」

 

「あ、あの・・・」

 

「いいからジッとしてろ」

 

ハジメの手が足枷に触れると同時に紅いスパークが迸り、音も無くアルテナの足枷が外れた。そして、手枷、首輪と外し終えたハジメは、「これで終わりだな」と一人で納得して踵を返した。亜人族達からは不思議な者を見るような目で、ハウリア達は誇らしげに、天之河達は何処か複雑そうに、ユエ達女性陣は呆れを含んだ眼差しで見る。そして、当人のアルテナは、若干頬を染めている

 

「ん?どうした?」

 

「「「「・・・別に(ですぅ)(じゃ)」」」」

 

本当にハジメは何も分かっていない様子だ

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメはフェルニルに亜人族を乗せ終え、彼等に着けられている枷を全て外して離陸した。ハジメ達はブリッジにてハウリア達に事の顛末を聞いていた

 

「なるほどな・・・やっぱ魔人族は帝国と樹海にも手を出していたか」

 

「肯定です。帝国の詳細は分かりませんが、樹海の方は強力な魔物の群れにやられました。あらかじめ作っておいたトラップ地帯に誘導できなければ、俺達もヤバかったです」

 

パル達曰く、樹海にも魔人族の手が伸びてきているとの事。既にハルツィナ樹海は大迷宮の名が通っている事から、フリード達が神代魔法を狙っていると容易に予想出来た

もの凄く簡単に説明すると―――――

見た事も無い魔物を放って亜人族の兵士を一方的に殺戮されてしまった

プライドなんてドブに捨ててでもハウリア達に協力してもらおう

ハウリア「ボス達の大迷宮を攻略するだとぉ?生意気言ってんじゃねぇ!ヒャッハー!魔物狩りじゃああああ!」

魔人族は大慌て

ハウリア「数が多い・・・そうだ!大量に設置したトラップ帯に誘き寄せてよう!」

冷静さを失った魔人族はそのままトラップ帯に・・・

ハウリア「首寄こせぇえええええ!」という流れで魔人族を撃退に成功したのであった

だが、被害は甚大。ハウリア達も戦いの後で油断しており、帝国兵達に亜人族を連れ去られてしまったのだ。捕まえた一人の帝国兵を拷問して情報を抜き取って、カム達が輸送馬車を追いかけた。しかし、帝国に辿り着いたであろうとする辺りで連絡が途切れてしまったという事だ。その後、斥候を出して情報を収集した結果――――帝国に侵入してから出てこれない事が判明。助けるべく警備情報を収集していると、大量の亜人族を乗せた輸送馬車が他の町に向けて出発したという情報を掴み、パル達の班が情報収集も兼ねて奪還を試みたというわけだ

 

「しかし、ボス。"も"ということは、もしや魔人族は他の場所でも?」

 

「ああ、あちこちで暗躍してやがるぞ?まぁ、運悪く俺がいたせいで尽く潰えているけどな」

 

本当に魔人族は貧乏くじを引いている。いく先々にハジメ達が居り、計画の悉くを蹴散らされているのだ

 

「まぁ、大体の事情はわかった。取り敢えず、お前等は引き続き帝都でカム達の情報を集めるんだな?」

 

「肯定です。あと、ボスには申し訳ないんですが・・・」

 

「分かってる。どうせ道中だ。捕まってた奴等は、樹海までは送り届けてやるよ」

 

「有難うございます!」

 

シアが何か言いた気そうにモゴモゴしていたが、何も言って来なかったので深くは追及しなかった。最後に、パル達から伝言を預かって、帝都から少し離れた場所でリリアーナ達とパル達を降ろした。そして、一行は、フェアベルゲンへと出発した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「今回は主人公がメインでした。メイドさんは気落ちしているので仕方がないね!」
深月「最悪を想定して動いていますので・・・大変です」
布団「そして、来ましたよ!微改造!」
深月「遠藤さんの強化、これは使えますね」
布団「どこまで改造しようかなぁ~。楽しみだぁ♪」


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メイドのハードな特訓をお嬢様達に!

布団「主人公達の特訓はっじっまっるよ~」
深月「心苦しいですが、やってやりますよ!」
布団「それでは、ごゆっくり~」









~皐月side~

 

「ふわぁ~・・・何だか騒がしいわね。どうなっているの?」

 

深月より先に起きた皐月が独り言ちて、念話でハジメに確認を取る

 

(ねぇハジメ、ついさっき起きたんだけど・・・誰が居るの?)

 

(おはよう皐月、やっと起きたのか。ちょいとめんどくさい事があってな)

 

皐月は、ハジメから伝えられる情報量の多さについ溜息を吐いた

 

(ハルツィナ樹海の大迷宮に魔人族が来る事はある程度は予想していたけど・・・帝国ェ・・・・・)

 

本当に間の悪い・・・そして、何時の間にか遠藤が乗り込んでいるという事にも驚いた

 

(遠藤君については大丈夫だと思うわ。クラスメイトの中でも純粋な想い―――――何よりも、護る為に力が欲しいという点が良いわ。そういった人は伸びるし、私の勘が囁いているのよ。遠藤君を強くしろってね?)

 

(皐月の勘が囁くのか・・・もしかしたら遠藤の奴化けるかもな)

 

(暗殺者に必要な下地が備わっているからね)

 

(それで・・・深月の方は大丈夫か?)

 

(ん~、まぁぼちぼちぐらいかな?戦闘には支障ない程度までは回復している筈よ)

 

(了解だ。もうすぐフェアベルゲンに到着するんだが、そこで一泊して深月のハードな特訓するぞ。俺達は強くなったとはいえ、深月に勝てない。そして、中村の奴が深月並のチートになっているんだ・・・いつまでも足手纏いってのは性に合わねぇ!)

 

(私もそのつもりよ。中村さんをぶっ飛ばしてエヒトもぶっ飛ばす!)

 

(という訳で、深月に説明頼む)

 

(はいはい、少しだけゆったり出来るわ~。それと、シアがソワソワしているのはカム達を心配しているからよ)

 

(・・・勇者(笑)は降りていないぞ)

 

(・・・はい?リリィは降ろしたのよね?何で一緒に降りてないの?鳥頭なの?数歩歩いただけで忘れるとかありえないでしょ)

 

(八重樫達も居るんだよなぁ~)

 

(苦労人!しっかりと仕事しなさいよ!!)

 

リリアーナの護衛として乗り込んでいる天之河達が、どうして降りていないのか謎である。恐らく、"リリアーナ達には近衛騎士が一緒だから大丈夫だろう。だったら、襲われた村を助けるのが当たり前だ"等と解釈して優先順位を変えたのだろう。本当に勇者なのかと疑いたくもなる・・・いや、もう既に(笑)が後ろに付いているのでどうしようもないだろう

皐月がハジメと念話を終えて少ししてから深月が目を覚ました

 

「・・・おはようございます、お嬢様」

 

「おはよう、深月。しっかりと目を覚ましたらブリッジに行くわよ」

 

「知らない者がこの飛空艇に乗っていますね」

 

「道中で助けた亜人族達らしいわ」

 

「奴隷として連れ去られようとした者達ですか」

 

「正解。それと、フェアベルゲンで一泊するわ。そこで私達をいつもより厳しく鍛えて欲しいの」

 

「かしこまりました」

 

布団から出た二人は、身なりを整えてブリッジへ続く扉を開ける。皐月は天之河達が乗っている事を知ってはいたが物凄く不機嫌そうに顔を歪めていた

 

本当に何様のつもりなのかしら・・・私達がリリィの護衛をしないからと言って、「だったら俺が行く」って豪語しておきながら何で降りていないの?八重樫・・・隅っこで胃の辺りを押さえているわね。胃潰瘍はもうなっていそうよね

 

「八重樫さんは大丈夫でしょうか・・・口の端っこに血が滲んだ痕がありますよ?」

 

「え"っ!?・・・もしかして吐血した?」

 

「少しだけ伺ってきます」

 

皐月から離れて八重樫の方へ行った深月が事情聴取をしているのを傍目に、皐月はハジメ達の方へと合流した

 

「おはよう」

 

「念話でも言ったが、おはようさん」

 

「・・・深月大丈夫だった?」

 

「切り替えが出来る位には回復しているわ」

 

「はぁ~、本当に良かったです」

 

「深月があそこまで悩むとは・・・妾達の力不足が原因じゃろうな」

 

「そう・・・だよね。中村さんのあれを見ちゃったら・・・」

 

「だったら強くなれば良いだけだ。ステータスの数値で負けているなら、技術を学んでその差を埋めるだけだ。まぁ、ステータスの数値も上昇させる為に死ぬ程努力はするがな」

 

「基本的にはそれだけよ。私とハジメは、あの防御を突破出来る物を絶対に創る事が課題ね」

 

これから先の戦いを想定するならば、分解魔法が付与されている防具を貫通出来る武器が必要となってくる。特に、中村を度肝を抜く様な物が必須である

 

「その為に足が多少なりとも遅くなるのは仕方のない事だ。早々に地球へ帰りたい気持ちもあるが・・・万全を期するなら当然の事だ」

 

「私も強くなる!」

 

「あの時は心をへし折られてしまいましたが、再び出会うまでに強くなります!」

 

「足手纏いは御免じゃからの!」

 

「この体を使いこなさないといけないね!」

 

今以上に強くなる為に深月のハード訓練を受ける事が決定。今までの嫌々は無く、敵を倒して生き残る為の目標が明白となっている。ハジメ達が気合を入れ終わった少し後で深月が合流し、八重樫の現状を伝えられた

 

「簡単な質疑応答と触診から分かったのですが、過度なストレスにより胃に穴が開いている可能性があります。そのストレスの中にですが・・・香織さんの肉体切り替えがトドメとなったかと思われます」

 

深月に指摘されて驚いていたが、皐月から例え話で説明されて頬を引き攣らせたと同時に八重樫に回復魔法を行使した。八重樫本人は、香織の突撃行動が少なくなって胃を攻撃される回数が少しでも減る事を祈った

ハジメ達がフェアベルゲンの森の手前に到着してのお迎えは樹海の濃霧だった。ハジメ達ですら方向感覚が狂わされてしまう程だ。しかし、ここでもぶっ壊れていたのは深月だった。亜人族達が先導してフェアベルゲンへと向かおうとしたのだが、感覚を狂わされずに進んで行く。扇状に張り伸ばした魔力糸が、振動の反響を伝手にマッピング―――――もっと分かりやすく説明するなら、超高性能ソナーだ。深月がフェアベルゲンへと真っ直ぐ向かっている事に気付いた亜人族達は、頬を引き攣らせて驚愕し、ハジメ達は「またぶっ壊れ技を・・・」と呆れていた。少し歩いていると、深月が立ち止まると同時にシアのウサミミがピコピコと反応した

 

「人間独特の気配ではなく、武装した亜人族の兵士達ですね。ここで少し待ちましょう」

 

「う~・・・近づく気配は分かりましたが気配の種類までは分かりませんでしたよ~。修行不足です!」

 

同じ亜人族とはいえ、自分達よりも先に気配に感付いた事に驚いた者達が二人の方を向いた。少しして、霧をかき分けて見た事のある虎耳の集団が現れた。全員が武器を持って警戒をしていたのだが、戦闘に居た深月を見て目を剥き、後ろに居たハジメと皐月の二人にも気がついた

 

「お前達は、あの時の・・・」

 

かつて樹海に入った時に出会った警備隊長のギルが率いる兵士達だった

 

「一体、今度は何の・・・って、アルテナ様!?ご無事だったのですか!?」

 

「あ、はい。彼等とハウリア族の方々に助けて頂きました」

 

「それはよかったです。アルフレリック様も大変お辛そうでした。早く、元気なお姿を見せて差しあげて下さい。・・・少年。お前は、ここに来るときは亜人を助けてからというポリシーでもあるのか? 傲岸不遜なお前には全く似合わんが・・・まぁ、礼は言わせてもらう」

 

「そんなポリシーあるわけ無いだろ。偶然だ、偶然」

 

「そうか。だ、だが・・・何故メイドが先頭に立っているのだ?普通は迷う筈「気にするな。気にしたら負けだ」・・・分かった」

 

話しに全くついていけない天之河達は、ただただ黙って様子を見ている

 

「それより、フェアベルゲンにハウリア族の連中はいるか?あるいは、今の集落がある場所を知ってる奴は?」

 

「む?ハウリア族の者なら数名、フェアベルゲンにいるぞ。聞いているかもしれないが、襲撃があってから数名常駐するようになったんだ」

 

「そりゃよかった。じゃあ、さっさとフェアベルゲンに向かうぞ」

 

詳しくは着いてからだ。ギルを先頭にして濃霧を歩き、ハジメ達はフェアベルゲンへと到着した。しかし、目に映る光景は以前の様な幻想的な自然の美しさが失われていた。巨大な門は破壊され、空中回廊や水路がボロボロに途切れていたのだ

 

「・・・酷いわね。幻想的な光景がここまで破壊されるなんて・・・」

 

予想以上の被害を見た皐月の感想だった。どんよりと暗い雰囲気が漂う中、フェアベルゲンに居た者達がアルテナを見つけて驚愕し、この場に居る事に喜んで走り寄る。どんどんと人が集まり、アルテナの近くに居たハジメ達を見た亜人族達が警戒する。すると、奥から人をかき分ける様にフェアベルゲン長老衆の一人アルフレリックがハジメ達の前に現れた

 

「お祖父様!」

 

「おぉ、おお、アルテナ!よくぞ、無事で・・・」

 

もう二度と会う事が出来ないかもしれないと思われた再会に、涙ぐんで抱き合った。しばらくした後、アルフレリックはアルテナの頭を撫でながらハジメ達に視線を向けた

 

「・・・とんだ再会になったな、南雲ハジメ、高坂皐月、神楽深月。まさか、孫娘を救われるとは思いもしなかった。縁というのはわからないものだ。・・・ありがとう、心から感謝する」

 

「私と深月は現場には居なかったから、お礼はハジメに言ってね?」

 

「俺は送り届けただけだ。感謝するならハウリア族にしてくれ。俺は、ここにハウリア族がいると聞いて来ただけだしな・・・」

 

「そのハウリア族をあそこまで変えたのもお前さんだろうに。巡り巡って、お前さんのなした事が孫娘のみならず我等をも救った。それが事実だ。この莫大な恩、どう返すべきか迷うところでな、せめて礼くらいは受け取ってくれ」

 

ハジメは、アルフレリックの感謝の言葉に、若干戸惑いを感じつつ頬を掻きつつ肩を竦めた。そんなハジメを見た皐月達は、微笑まし気に見つめている。そして、人間を救う為に迷宮に潜って訓練をしていた自分よりも、意図せずこの世界の人々を救っているハジメを見る天之河は複雑な表情をしていた

その後、ハジメ達はハウリア達と合流する予定だったのだが、タイミングが悪く警戒の為にフェアベルゲンの外に出ているとの事だった。その場で待機は恩人に宜しくないと、アルフレリックが自宅に招き深月がお茶を淹れてハジメ達の前に置いた。無論、天之河達の分は無い。ハジメ達が、深月が淹れたのお茶を味わっていると、ハウリア族の男女が複数人、慌てたようにバタバタと駆け込んで来た

 

「ボスゥ!!お嬢ゥ!!お久しぶりですっ!!」

 

「お待ちしておりましたっ!ボスゥ!!お嬢ゥ!!」

 

「お、お会いできて光栄ですっ!Sir!!Mam!!」

 

「うぉい!新入りぃ!ボスとお嬢のご帰還だぁ!他の野郎共に伝えてこい!三十秒でな!」

 

「りょ、了解でありますっ!!」

 

ハジメと皐月の前に立った複数の兎人族が、ビシッ!と踵を揃えて直立不動し、見事な敬礼を決めている姿があった

 

「あ~、うん、久しぶりだな。取り敢えず、他の連中がドン引いているから敬礼は止めような」

 

「「「「「「「Sir,Yes,Sir!!!」」」」」」」

 

久々のボスの声を聞くハウリアは満足そうに、新人のハウリアは「俺達もついに・・・」と感動していた

 

「ここに来るまでにパル達と会って大体の事情は聞いている。中々、活躍したそうだな?連中を退けるなんて大したもんだ」

 

「へぇ~、ハジメから聞いただけだったけど・・・体の所々に生傷があるわね。活躍も本当の様ね」

 

「「「「「「きょ、恐縮でありまずっ!!」」」」」」」

 

感極まって涙声になっているのはご愛敬として、感極まって震えている彼等。ハジメは、パル達からの伝えられた情報を伝えた

 

「なるほど。・・・"必滅のバルドフェルド"達からの伝言は確かに受け取りました。わざわざ有難うございます、ボス」

 

「・・・・・なぁ、お前も・・・二つ名があったりするのか?」

 

「は?俺ですか?・・・ふっ、もちろんです。落ちる雷の如く、予測不能かつ迅雷の斬撃を繰り出す!"雷刃のイオルニクス"!です!」

 

「・・・そうか」

 

中二病は伝染していた。ハジメは少しだけ後悔しつつ次へ切り出そうとした時、皐月が気になった事を口にする

 

「二つ名ねぇ~、私達にもあるの?」

 

「もちろんでござっ!?」

 

嬉々として伝えようとした瞬間に、ハジメからの威圧で言い淀んだ。言ったら殺すぞ?といわんばかりの威圧だ

 

「ハジメは、私達の二つ名が気にならないの?」

 

「い、いやっ・・・一応知っているから後で教える。今はそんな事よりも大事な話があるだろ?」

 

「・・・そうね、ハジメが知っているならそれでいいわ」

 

自分の傷口を広げずに済んだ事で少しだけホッとしているハジメは、気を取り直して"雷刃のイオルニクス"に尋ねる

 

「ハウリア族以外の奴等も訓練させていたみたいだが、今、どれくらいいるんだ?」

 

「・・・確か・・・ハウリア族と懇意にしていた一族と、バントン族を倒した噂が広まったことで訓練志願しに来た奇特な若者達が加わりましたので・・・実戦可能なのは総勢百二十二名になります」

 

思っていた以上に人員が増加した事にハジメ達は素直に驚く。一方、"雷刃のイオルニクス"は質問の真意をあまり理解していない様子だ

 

「それくらいなら全員一度に運べるな。・・・イオ、ルニクス。帝都に行く奴等を明日までに集めろ。俺が全員まとめて送り届けてやる」

 

「は?はっ!了解であります!直ちに!」

 

「ハ、ハジメさん・・・大迷宮に行くんじゃ・・・」

 

「カム達の事が気になってんだろ?」

 

「っ・・・それは・・・その・・・でも・・・」

 

「そんな様子で大迷宮に挑むとでも思ったの?シアは私達の大切な一人なのを自覚しなさい。"家族"なんでしょ?」

 

「う"ぅ~、皐月さ~ん!」

 

涙目になったシアは、皐月に抱きついて頭を撫でられる。どこから見ても、子供をあやしているお母さんにしか見えない

 

「・・・ん。シア、可愛い」

 

「ふむ、たまには罵り以外もいいかもしれんのぉ~」

 

「皐月の母性が高い・・・」

 

「高坂さんはとんでもないわね。何ていうか・・・うん・・・言葉に出来なかったわ」

 

「鈴もそう思うよ・・・。サッツンの胸に埋めて頭撫でられたら幼児退行しちゃいそう」

 

「もしかしてハジメ様は母性の高い人が好き?・・・己を磨かなければいけません!」

 

上から順に、ユエ、ティオ、香織、八重樫、谷口、そして何故かアルテナの感想だ。少しして、シアは皆から見られていた事に気付き顔を真っ赤にして、ウサミミがピョコピョコと忙しなく動いていた

 

「パル達にも俺が明日から行動すると言っておいたから・・・早速特訓するか」

 

ハジメの言葉を聞いた皐月達は、先程までの和気あいあいの空気を戦闘状態に切り替えた。それを見ていたハウリア達は、「再びボスとお嬢の訓練が受けれる!」と期待していたのだがハジメに断られた

 

「今の俺達にお前達に訓練をつける余裕は全くない。お前達はお前達で訓練をしていろ」

 

「そ、そんなああああ!?」

 

「ボスの訓練が受けれない・・・?ウワアアアアアアアア!」

 

「私達よりも強い敵が現れたって事よ。自力を上げなければ死ぬ―――――だから余裕がないのよ」

 

「なっ!?」

 

「ボスやお嬢よりも強い・・・だと!?」

 

ハウリア達は、ハジメ達よりも強い存在が居る事に驚愕していた。しかも、余裕が無い。圧倒的な力を持った敵と遭遇した事にすぐに気付く

 

「あの時は深月が居たから助かっただけよ。でも、次の相対だと深月でも危険だと判断したわ。敵が多いかもしれないし、深月を無視して私達に攻撃してくるかもしれない。護りながら戦うという事はそれだけ難しく、負担を掛けるという事よ」

 

「恐らくだが・・・中村の奴が体に慣れていなかったから、深月が優勢だった筈だ。もしそうでなくとも、念には念を入れる必要があるって事さ」

 

「ボス、お嬢・・・深月殿が強いと言っていたのは冗談ではなく本当の事だったのですか?」

 

「嘘つく理由なんて無いだろ」

 

聞いた事があるハウリア達は少しばかり目をまん丸と、新人のハウリアは想像がつかない表情をしていた

 

「なんにせよ特訓だ。お前達は邪魔になるから、見学程度なら良いぞ」

 

「「「「「良いのですか!?」」」」」

 

「後学の為に見ておきなさい。・・・見えたら御の字だけど」

 

ハウリア達は少し疑いながらではあるが、ハジメ達の特訓の様子を見る事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

アルフレリックの家を出て、フェアベルゲンから少しだけ離れた開けた場所に集まった。見学者はハウリア達と数人の亜人族の兵士と天之河達である。普段よりも厳しい特訓という事で、どれ程の密度で行うのか興味があった者達だ。深月は、瞑想をして気持ちを切り替える

 

特訓・・・非殺攻撃でお嬢様達を沈める。本音を言えば怪我をさせたくありませんが、お嬢様の提案を無下にする訳にはいきません

 

深月の切り替えが終了。同じくハジメ達も連携について作戦を終え、最終確認をする

 

「俺達はオルカンとヒュベリオンとユエの絶禍、ティオのブレス、香織の分解魔法を使用禁止するが・・・深月はどうする?」

 

「今までと殆ど変わりありません。魔力糸の無色透明、魔法の装填を使いません。」

 

「了解、それじゃあ試合開始の合図を・・・八重樫に頼むわ」

 

「そこはハウリア達じゃないのね・・・。分かったわ、私が投げた石が地面に落下が開始の合図よ」

 

八重樫は、地面に落ちている石を手に持って真上に放り投げる。重力に引かれて石が落下―――――地面に落ちたと同時にユエの魔法が放たれた

 

「火光!」

 

小さな火花を爆発させて発光、スタングレネード並みに強力な光が深月の視界を奪う。遠隔操作で深月の前眼で光らせ、新しい魔法の奇襲なら即落ちする事は無いと考えたのだ。シアとハジメが接近戦を、残り四人は遠距離からの攻撃を準備する

 

「でっりゃああああああですぅ!」

 

深月に襲い掛かるシアのドリュッケン。振りかぶった全力全開の一撃は、苦もなく両手で止められた。地面も陥没せず、まるで吸収されたかの様な―――――ハジメはシアの足を引っ張って、その場所から回収。それと同時に、深月の足元の地面が砕け散る。深月によって魔改造された〇象の杖は、とっても危険極まりない。受け止めてすぐに衝撃を流すのではなく、"停滞"させていたのだ

ハジメ達の奇襲を難なく防いだ深月は、一旦後退する。しかし、これ以上は退けなかった。答えは、ユエの"幻牢"という魔法――――空間魔法を応用した無色透明の固定魔法だ。しかし、それは悪手だった。深月から放たれた斬撃がユエに直撃

 

「ッア!?」

 

それは殺気を研ぎ澄ませただけの攻撃で、ユエにけさ斬りの錯覚をさせる程の効果だった。発動していた魔法は解け、自由となった深月の右手がブレて――――

 

「グホッ!」

 

ハジメが腹筋を貫く衝撃に一瞬だけ屈んだと同時に、先程まで立っていた場所の近くを弾丸が通り過ぎる。これは皐月が放った弾丸で、深月の追撃を防ぐ為の攻撃だった。もし、あのまま何もしなければハジメが最初に脱落していただろう。とはいえ、腹筋を貫通する攻撃にすぐに立て直す事は出来なかった。即効性のあるボディーブロー――――鳩尾打ち。四肢の先端まで電気が走ったかの様な痺れが動きを阻害していた。香織がすかさず回復魔法を行使しようとした瞬間、頭部に衝撃。鈍器で殴られたかの様な痛みに涙目になるが、ハジメを回復させる事に成功

 

「香織さん下がって!」

 

「え?――――っ!?」

 

涙目の歪んだ視界から回復したら、掌底を叩き込もうとしている深月が目の前に居た。以前の人間体ならば体が動かなかっただろう。しかし、今の体は神の先兵―――――動きも見えるし、反応も出来る。バックステップと同時に無詠唱の聖絶を十枚挟む事で、衝撃を少しでも和らげようとする

 

「甘いです」

 

ただ単に突き出す掌底ではなく、体全体を使ってねじり込んだ掌底が十枚の壁を易々と砕いて香織の胸部に直撃した

 

「ケフッ!?」

 

肺の中の空気が全て抜け、回転しながら吹き飛ぶ。ゴロゴロと地面を転がり、大きな木をクッションに止まった

 

「そこじゃ!」

 

ティオの魔法が深月に飛来するが黒刀を一閃して切断と同時に、深月の頭部に向かって飛来する弾丸を振り抜いた刀を反転して、刀の腹で軌道をずらした

 

「あの状態から切り返せるの!?」

 

「伸びきった状態じゃったぞ!?」

 

「これならどうだああああああ!」

 

回復したハジメが死角からメツェライを構えており、皐月とティオが後退しながら追撃を行う。追撃の攻撃を切って逸らし終えたと同時に、毎分数百発の弾丸が深月に向かって殺到する。深月は両手を高らかに上げて地面に手を落としたと同時に、魔力糸の壁が展開された。強度は最高レベル―――――アザンチウム製の剣と切り結んでも、なかなか切れない代物だ。アザンチウム製の弾丸ではないので、全てが地面に落ちる

 

「五天龍!」

 

ユエの放った火、雷、氷、風、土の五種類の龍を象った魔法が四方全てから深月を襲った

 

ドガガガガガンッ!!

 

爆発して大地を抉り取った龍。土煙が晴れると、深月の作った魔力糸の壁が少しだけ欠けており、その後ろには所々傷付き煤だらけの深月が蹲っていた。ハジメ達は、会心の出来だと心の中で喜びながら深月に特訓を続けるかを聞いた

 

「俺達の勝ちだな」

 

「やっと勝てたわ」

 

「流石ユエさんですぅ!」

 

「あれはえげつないのう」

 

「ユエ、ナイス!」

 

「ん!」

 

流石にやり過ぎでは?と感じていたギャラリー。だが、一人だけ―――――そう、たった一人だけ違和感に気付いた

 

「ん?・・・・・あ」

 

「どうしたの遠d――――」

 

ゴキュッ!

 

ギャラリーの一人の遠藤の呟きが聞こえた皐月が、振り返ると―――――シアが深月に締め落とされていた

 

「油断しましたね?」

 

傷だらけの深月を見ていたハジメとユエとティオと香織の後ろから聞こえる深月の声。驚愕して振り返ると

 

ゴトンッ!

 

深月とハジメ達の間に、手榴弾が落ちてきた。深月よりも手榴弾に意識が向き、爆発――――周囲一帯を煙が覆い、ハジメ達は深月を完全に見失った

 

「ちぃっ、ユエ!」

 

ユエの魔法で煙を排除してもらおうとハジメが呼び掛けるが、返事はなくドサッと何かが倒れる音がした。ハジメと皐月は急いで金剛を発動して煙の外に出て合流・・・無事に脱出出来たのは、ハジメと皐月の二人だけだった。もうもうと舞う煙をかき分けて出て来た人物は一人――――深月だった。二人が深月を警戒し続けている間に煙が晴れた中に、地面に倒れ伏したユエとティオと香織の三人の姿があった

 

「どういう事だ・・・深月はあそこに居たんだぞ」

 

「ちょっと待って、傷から血が流れ落ちていない!という事は魔力糸で作ったダミー!?」

 

「お嬢様、正解です。因みに、ユエさん達は復帰出来ませんよ?」

 

「針がぶっ刺されているから分かっている。経験者は語るってな」

 

ハジメは、倒れ伏している四人の首筋に刺さっている針を見て形勢逆転された事を悟った

 

「このまますぐに終わらせてしまうと特訓になりませんので・・・お嬢様とハジメさんには、自己流の改善を見出して下さい」

 

「「何?」」

 

深月は、宝物庫から拳銃を二丁取り出す。深月専用ハーゼンとハウンド、ハジメ達のドンナー・シュラークの銃身よりも長い歪な銃だ

 

「おいおい、俺達相手に銃撃戦だと?慢心し過ぎじゃねえか?」

 

「銃の取り扱い経験は私達の方が上よ?」

 

「お嬢様方はお忘れですか?私は、幼少の頃に軍隊に入隊していたのですよ?」

 

「「・・・・・・・・・・」」

 

ハジメと皐月の二人は完全に忘れていたのだろう。二人は毎日銃を撃つ事で感覚が麻痺して、深月よりも一日の長があるといつの間にか錯覚していまっていた事に気付き、冷や汗を流す

 

「お嬢様とハジメさんに作っていただいたハーゼンとハウンドは、とても使い心地が良いですよ♪」

 

「あぁ、そうかい!」

 

「それは良かったわ!」

 

ドパパンッ!!

 

四つの弾丸が放たれた。しかし――――

 

ドパンッ!

 

ガギギギギンッ!!

 

深月の放った魔力弾に銃弾が弾かれて相殺されてしまった

 

「にゃにぃ!?」

 

「ちょ!?魔力弾でその威力はヤバイって!」

 

「行きます」

 

ハーゼンとハウンドから放たれた弾丸が、ハジメ達に向かう。しかし、軌道が少しだけズレていた。ハジメ達が左右に散開しようとしていたのだが、二つの銃弾がぶつかって左右を通り過ぎる

 

「跳弾!?」

 

「障害物じゃなくて弾丸で!?」

 

動くスペースを阻害された二人が取れる行動は一つだけ。バックステップで後退しながらハジメが迎撃、皐月は宝物庫からミーティアを取り出して右腕に装着する

 

「こんのぉおおおおおお!」

 

キュバババババババババ!!

 

深月を近づかせない事を第一として魔力弾をまき散らすが、獣の様な低姿勢の深月が右左と素早く動いて照準を絞らせない。ジグザグに走りながら徐々に近づく深月に、ハジメは咄嗟に――――ぶっつけ本番で深月と同じ技を使った。ドンナー・シュラークの放たれた弾丸がぶつかり、深月の進む前後に進む

 

「ハジメさん、今の状況でそれは悪手です」

 

「なに―――――クソッ!」

 

「させない!」

 

「流石です」

 

深月は、自身を停止させようとした弾丸がぶつかったと同時に一直線にハジメへと襲い掛かる。しかし、皐月が空いた手でシュラーゲンで狙撃という機転で窮地を脱する事が出来た。尚、深月は後ろへ跳びながらシュラーゲンの弾丸を叩き切っている

仕切り直しにしたいが、深月の凶悪さはここからが本番である

 

「シッ!」

 

深月が投擲する針が皐月の腕に飛来し、重量級の装備を扱っている皐月は咄嗟に右腕を盾にする

 

解放(リリース)

 

「やばっ!」

 

深月の呟きが聞こえた皐月は、右腕のミーティアを分離して後ろへと跳んだ

 

固定(フィックス)

 

ミーティアに当たる寸前で針が糸状に解け、ガトリング部分を引っ掛ける様に引き絞られた。ぎっちりと絡まった事で迂闊に手を出す事が出来なくなり、手持ちの武器一つを失った。ハジメは、そのまま皐月へと突撃しようとした深月の足元を狙う

 

「させるか!」

 

「追撃は駄目です―――――ッ!」

 

深月は、足元を狙っただけの弾丸ならば左程注意しなくてもいいだろうと優先順位を下げた。しかし、足元に着弾したと同時に死角からいきなり現れた弾丸を体勢を崩しながら避ける。避けた瞬間に見えたリング状の物体を見た深月は、あれがハジメ達の作ったアーティファクトであると気付いた

 

「空間魔法を付与したチャクラムですか!」

 

「おう、初めてで驚いただろ?」

 

してやったりとニヤケているハジメ。深月ならば対応するであろうと予想していたからこそ、次の一手はインパクトがデカい。深月が避けた弾丸は、ハジメと深月の中間程で破裂した

 

「なっ!?」

 

「ハッハー!弾丸が破裂するなんて予想していなかっただろ!」

 

破裂した弾丸から溢れた煙は真っ黒――――煙幕弾だった。真っ黒なコートを羽織っているハジメと皐月が隠れるにはうってつけの色だ

 

「うっ!・・・後で怒りますよ!!」

 

なんと、煙には匂いも付いていたのだ。もの凄い悪臭――――肉が腐った匂いが周囲一帯を覆い、ギャラリーや倒れ伏していたユエ達も阿鼻叫喚の代物だった

 

「く、臭い!」

 

「にぎゃああああああああ!臭っ!臭ぁっ!おえっ!?・・・・・吐きそうですぅ」

 

「んほおおおおおおお!匂い責めとは何とも新しいのじゃあああああ!あ、でも臭すぎて気分が・・・」

 

「は、ハジメくん!?私達動けない!動けないよ!?やめ――――――ウェップ」

 

この弾丸を作るのには苦労した。撃った瞬間ではなくある程度の距離で破裂するという条件を満たす・・・何度も何度も試行錯誤をして作られたのだ。中身は、炭の粉末と魔物肉の腐敗臭を凝縮させた物を詰め込んでいる。深月が怒っているのは、食材を食べずに腐らせたからだ

冷静に思考させない為の一手を切る。気配を消し足音を立てずに深月へと忍び寄ったハジメと皐月は、同時に前後から強襲する

 

(いける!)

 

(当たる!)

 

風爪の攻撃が深月へと当たろうとした瞬間、深月のハーゼン・ハウンドが火を噴いた

 

ドガンッ!!

 

二つの魔力弾が風爪を打ち消しながら二人を襲う。しかし、この攻撃は想定内だった

 

(次の攻撃は――――)

 

(ハジメを迎撃しながら私を襲う!)

 

深月の行動は二人の予想通りで、ハジメを迎撃しながら皐月へと襲い掛かった。深月は、皐月の頭に向けてハーゼンを薙ぐ。それを冷静にドンナーで受け流す皐月は、シュラークで四肢を撃とうとした

 

ドガンッ!!

 

だが、重く鳴り響いた銃声と同時に視界が真っ暗になった。ハジメは、後ろから見ていた為何が起きたのかを把握していた。深月は、薙いだハーゼンを人差し指を支点に回転させて、銃口を皐月の側頭部に向けて撃ったのだ。皐月は深月の足を撃つ事に意識を逸らしていた為、深月の反撃になすすべも無く直撃した

ハジメは、皐月の犠牲を無駄にしない為にもこのチャンスを逃さずに攻撃をしようとして深月を一瞬で見失う

 

「何・・・だと!?」

 

自身に向けられた牽制用のハウンドを注視していたのが仇となった

ミスディレクション―――――深月は、牽制用のハウンドを少しだけ上に投げてハジメの意識を一瞬だけずらし、それと同時に気配を溶け込ませた。ハジメは、気配感知も目に映らない状況に目を剥いた。深月の気配遮断を知ってはいたが、戦闘中にいきなり消えるのは想定以上の技術だった

一瞬で形勢が不利になってしまったハジメは、咄嗟に腕をクロスして胸部を庇ったと同時に衝撃。ガード程度無意味といわんばかりの突き抜ける衝撃は、ハジメを地面から引き剥がして大きく吹き飛ばした

 

ドガンッ!!

 

魔力感知で攻撃が来る事も分かっていた。しかし、強力な攻撃で体の動きを封じ込められた状態のハジメにはどうする事も出来ず、額に強烈な衝撃が襲い徐々に目の前が真っ暗になっていく中、最後の深月の言葉が聞こえた

 

「一瞬ではありますが、肝が冷えました。私もまだまだ精進が足りなかった事に気付かせて頂き有難う御座いました」

 

ハジメは背後から聞こえるその言葉を最後に、体が引っ張られる感覚と頭部に走る衝撃に意識を手放した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「食べ物を粗末にしたハジメさんには、後程OHANASHIしなければなりません」
布団「仕方がなかったんや!メイドさんを驚かせるにはこうする他なかったんや!」
深月「だからと言って腐らせるのは駄目ですよ!悪臭ではなくミントな匂いならばっ」
布団「ミントってあるのかな?」
深月「・・・探したらあるのではないですか?」
布団「取り敢えず、この攻撃方法は確定ですわ」
深月「罰当たりな・・・」






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暗殺者はメイドに教えを乞う

布団「そぉい!まだフェアベルゲンに居るぞい」
深月「帝国に入るには準備が必要です。しっかりと備えましょう!」
布団「今回は影の薄い人が活躍?するよ!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」









~八重樫side~

 

ハジメ達と深月の訓練を見ていたハウリア達はとても驚いていた。そして、ボスに特訓をつけてもらうよりも、深月にお願いした方がもっと強くなれるのではないかと歓喜する

 

「おい、ボス達があっという間に倒されちまったぞ!」

 

「なん・・・だと・・・!ボスとお嬢の輪舞だぞ!?」

 

「強すぎる!」

 

「深月殿に後でご教授願いたいな」

 

「「「「「それだ!!」」」」」

 

一方、天之河達は、戦いの一部始終を見て自分達とどれ程の差があるのかを再認識した

 

「何故だ・・・どうしてあれ程の力を手にしているのに・・・世界を救おうとしないんだ」

 

「す、すげぇ・・・」

 

「ミズキンって規格外だね」

 

「俺も・・・死ぬ程鍛えたらあそこまで行けるのか?」

 

誰もが深月が強いと言っているが、八重樫だけは少しだけ違和感を感じていた

 

神楽さんが強い事は分かっていた。けど・・・何?この違和感は?まるで体が思考に追いついていない?でも、もしそうなら南雲君や高坂さんは気付いている筈。敢えて言っていないだけ?・・・・・私の気のせいかもしれないから何も言えないわね

 

ドゴンッ!!

 

深月が繰り出したトドメの一撃はジャーマンスープレックス。地面に突き刺さったハジメは、犬神家と化していた

 

南雲君生きているのかしら・・・。頭が地面に埋まるなんてそうそう無いわよ?香織達も顔を青褪めているわね

 

八重樫は、オブジェと化したハジメを見ながら「自分に向けられる事がありませんように」と祈った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

ハジメ達との試合も終わり一息入れようとした深月に迫る様に、ギャラリーに徹していたハウリア達がジャンピング土下座で『是非、私達にも特訓を!』とお願いを申し出て来た。どうしようかと迷っていると、彼等と別れる際に言った事を思い出した

 

「そう・・・ですね。別れる際に――――"使えると判断したら更なる訓練を付けて差し上げる"と言ったので、特訓については問題ないですね」

 

「おう、新人共!お前等は未だ使えねぇから今回は見学だ。じっくり見てものにしろ!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

「深月殿、よろしくお願いします!」

 

イオ達の準備は完了。これからどんな事を体験できるのか、心をワクワクとしていた。しかし、予想は斜め下のシンプルな物だった

 

「缶は無いので、竹蹴りをしましょう♪これなら、新人ハウリアも鍛える事が出来ます」

 

『竹蹴り?』

 

「しかも、普通のルールではありません」

 

深月は、ハウリア達にルール説明をする。竹を守るのは深月で、竹から半径五メートル以上は離れる事と魔法を禁止。ハウリア達は基本何でも有り―――――竹を足で蹴るだけの制限だ。これならば、新人でも参加する事が出来る

 

「地面に置くだけでは安定しないので・・・あの切り株の上に立たせましょう」

 

深月が宝物庫から竹のコップを取り出して切り株の上に置いた。場所は悪く、十メートル先には木々が生い茂っている。これでは"隠れる事が前提"の訓練となってしまう。八重樫達や新人達は「えっ・・・ここでやるの?」と口漏らす。だが、イオ達は警戒を厳にしていた。ボス達が束になっても勝てなかった相手で力もそうであるが、技術で隙を作る事が神がかっていたのだ。油断している彼等を見て、聞こえない様に舌打ちする

 

「八重樫さん達は参加させませんが、遠藤さんは強制参加です。頑張りましょうね♪」

 

「ッ!・・・やってやるさ。俺だってやってやる!」

 

深月Vsハウリア達+遠藤の竹蹴りが始まる

 

「それでは始めましょう。"隠れる時間は"、五秒で大丈夫ですね?」

 

カウントダウンを始める深月に、新人ハウリア達が襲い掛かる

 

「「「「四方四殺陣!」」」」

 

四方から標的の攻撃は、普通ならどうする事も出来ずに蹴られるだろう。イオ達も強襲しようと考えてはいたのだが、深月が言った意味をよく理解していた為に新人達の様子を見ながら森へと駆けた

イオの予想は正しかった。深月は、カウントを進めながら足元の切り株を蹴り上げる。いや・・・切り株の側面を掬い上げる様に蹴るという表現が正しいだろう。深月が蹴り上げたのは蔦で、切り株を締めていた物だ。宙に蹴り上げられた蔦を素早く手に持って――――払った

 

「ブッ!?」

 

「ベッ!?」

 

「ラッ!?」

 

「アッ!?」

 

四方から襲い掛かった新人ハウリアの頬に、パシーン!と良い音が鳴って森の奥へと吹き飛ばされた。何時かのハジメの特訓の事を思い出したのか、イオ達の足が少しだけ鈍った

 

「足を動かさなくていいのですか?」

 

「に、逃g――――」

 

パァンッ!

 

「グッヘエエエエエエエ!?」

 

イオの腹部に直撃―――――蔦は鞭へと変貌していた。予測不能な軌道と射程に、イオは呆気なく吹き飛ばされたのだ。残りのハウリア達と遠藤が木を壁にして深月の様子を見る。しかし、手に蔦を持っている為に不用意には近づけなかった

 

「カウントダウンは終わりましたが・・・・・来ないのですか?」

 

全員が、「迂闊に近づけるか!」と心の中でツッコミを入れる。そして、深月の次の言葉に思考を一瞬だけ停止させてしまった

 

「こちらから行きますよ?」

 

『へ?』

 

ドゴン!

 

鈍い音が響く――――それは、遠藤が背にしていた木からだ。深月の攻撃からようやく回復したイオがその木を見ると、表面が凹んでいた

 

「全員射程から離れろ!今直ぐだ!!」

 

イオの叫びと同時に、全員が散開する事で一旦落ち着きを取り戻す。木々の隙間から深月を見ると、切り株を椅子にして手で触っている程度だ。それを確認し終えたイオ達は、作戦会議を開く

 

「深月殿は完全武舞(ヴィデアルウタンズ)だな」

 

「指鞭の冥土だ!」

 

「・・・作戦会議じゃなかったのか?」

 

『うおっ!?いつ間に?』

 

「その反応は知ってた・・・」

 

ハウリア達は、遠藤の指摘により現実へと引き戻される。木を凹ませる程の強力な一撃が、ギリギリ反応出来ない速さで襲い掛かって来るのだ。当たれば吹き飛ばされ、しばらくは体が動かなくなる―――――決め手が無いのだ

 

「気配を消して四方から襲撃をしても対処されるだろう・・・」

 

「ボス達みたいに予想外な事をすれば良いのだろうが・・・」

 

「深月殿には通用しなさそうね」

 

ハウリア達は蔦の攻撃に戸惑いがある。"連発出来るのではないか?""射程が伸びるのではないか?"と疑心暗鬼に陥っている

 

「いや・・・神楽さんが使っている蔦は鞭で横薙ぎにしない限り単発な筈だ。それに鞭なら懐に入れば咄嗟に対処は難しいと思う」

 

「時間差の波状攻撃ならばつけ入る隙がありそうですね」

 

「最初が肝心だな」

 

「それについては俺が出る。俺は暗殺者だし、ハウリア達よりもステータスでは勝っている」

 

「むぅ・・・近距離でも中々見つける事が出来ない気配の持ち主だと最初以外が良いのでは?」

 

「最初はそう思ってたんだ。だけど、恐らく神楽さんは俺を警戒しているかもしれない」

 

「それは・・・影の薄さという事か?」

 

「一瞬でも良いから気を逸らす事が出来れば、ほんの僅かな時間だけ俺を認識出来なくなる筈だ。南雲や高坂さんの気配感知にも引っ掛からない位だからな」

 

「本当ですか!?」

 

「認めたくはない長所だからな・・・」

 

「深淵卿」ボソッ

 

遠藤に最後の呟きは聞こえなかったが、ハウリア達は後程、遠藤の二つ名を決めようとしていた

作戦会議は続き、どうやって攻めようかと話し合っていると、遠藤の頬を掠めて後ろの木にカツっと何かが刺さった。全員が刺さった物を確認する

 

「これは木?」

 

「木片が木に刺さっている?」

 

「ッ、不味い。これは攻撃だ!」

 

音を立てずに飛来する木片が遠藤達を襲う。当たらないギリギリの攻撃が、彼等の冷静さを奪って行く

 

「遠藤殿、頼みますぞ!」

 

遠藤は震える腕を押さえて広場へと出た。案の定、切り株の傍に立って右手に持った木片を弄る深月

 

「遠藤さんだけですか?私の予想ではハウリア達が牽制として出てくると思っていたのですが・・・宛が外れましたね」

 

遠藤は喋らずに短剣を手に持ち、すり足で円を描く様に移動しながら深月の動作を見逃さない様に注視する。深月は動かない

 

(神楽さんの言葉はブラフだ。・・・思考を誘導して小さな情報まで拾う。南雲達の特訓を見ていて本当に良かったよ。視線、呼吸、立ち方で情報を拾ってしまうから、ハウリア達の出方で変わってくる)

 

遠藤の予測は当たっており、深月もまた遠藤の事を警戒しながら情報を得ようとしていたのだ

 

これは・・・予想以上の原石ですね。先の特訓風景を観察しての情報を盗み、悟らせない様にすり足で様子見をしている事が更に良いです。開花すれば先兵を殺す事も出来るでしょう。しかしながら・・・動きませんね。もう少しだけ動揺を誘ってみましょう

 

深月は、ワザとらしく大袈裟に、パチ―――パチ―――パチとゆっくり拍手する

 

「遠藤さんは素晴らしいですね。私が注視している本人が真正面から出る事で気を逸らす――――実に良い作戦です。これを考えたのは遠藤さん本人ですね?」

 

遠藤は何も言い返さずにすり足で移動を続ける

 

「生まれ持った影の薄さを利用して視線の釘付けに――――」

 

視線は遠藤に向けたまま蔦を横に飛ばして引き上げると、新人ハウリアが引きずり出された。しかも、引き釣り出した勢いのまま鳩尾に蹴られて沈黙させた

 

「ハウリアに意識が向いたと同時に突撃するだろうと予想しています。ハウリアの人数は多く、囮にして近づくには十分すぎますから♪」

 

「ッ!」

 

反応有りですね。さて、計画の一つ一つを潰していきましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~遠藤side~

 

深月の言葉に遠藤の体が一瞬だけ硬直した。しかし、それは遠藤達にとって手繰り寄せられた一途の糸

 

神楽さんが罠に掛かった!ほんの少し・・・だけどゼロじゃない。落ち着け、悟らせるな・・・

 

額から一筋の汗が流れ落ちると同時に、木々に隠れていたハウリア達が間隔を開けて一斉に飛び出した

 

「野郎共!行くぞおおおお!!」

 

「ボス、お嬢、見ていて下せえええええ!」

 

「一泡吹かせてやるう!」

 

「ヒャッハーーーーー!」

 

ハウリア達が飛び出した。神楽さんの次の行動は、切り株の傍に戻る以外ありえない!

 

遠藤の予想通り、深月はバックステップをしながらハウリア達の急所に打ち当てる事で意識を奪って行く。ハウリアが倒されながらも、遠藤はその都度生まれるタイムラグでゆっくりと近づく。しかし、深月もそこら辺りは用意周到と言うよりも、応用の幅が大きかった。蔦を払う様に地面を叩いて、ハウリア達に礫を飛ばす。腕で防ぐ者達から鳩尾に叩き込んで沈黙させていく

 

分かっていたさ。何かしらの応用で足止めをする事は!でも、その時には絶対に視線を外す――――その時だけは物は見えない!

 

手に持った短剣を竹に向けて投げる。しかし、深月は背を向けたままつま先だけで短剣の腹を叩いて自身の手元に持って行った

 

嘘だろ・・・後ろに目が付いているのかって叫びたい程のタイミングだったぞ!

 

遠藤は足を止めずに駆けるが、とうとう最後のハウリアのイオが倒されてしまった。これで残りは遠藤一人だけとなり、それからは一方的な展開だった。深月の蔦捌きは絶妙で、威力はそこそこの避けづらい攻撃を受け続けている。足を攻撃して機動力を削ぎ、腹部に叩き込んで思考を鈍らせる。腹を押さえいない腕を攻撃して隙だらけになった所で、腰に巻き付けて遠くへと放り投げた。遠藤はボロボロとなった

 

「終わりですね」

 

これ以上は無理だろうと判断した深月だったが、地面に倒れ伏していた遠藤がゆっくりと立ち上がる

 

「未だ諦めていないのですね」

 

全身がズキズキと痛むのを我慢して立っている遠藤の視界はぼやけている。だが、遠藤には硬い意志があった

 

ははは、以前までの俺だったら諦めていたんだろうな・・・。だけど・・・だけどっ!俺は死にたくないし、友達を死なせたくない!やれる事があるなら全部やってやる!この世界に来た時は天之河に流されるままだったけど、それじゃあ駄目なんだ!

 

「諦めないさ。だって・・・俺は男の子なんだから」

 

「・・・」

 

「意地があるんだよ―――――男の子にはなぁ!

 

譲れない想い。強くなるなら諦めずに喰らい付く。今の遠藤を動かす原動力は、この硬い意志だ

 

「それに、俺は勘違いしていた。俺の影の薄さは隠れる事だけしか出来ないと結論付けていた。でも、神楽さんのお陰でようやく気付けた。光と影は表裏一体―――――今から俺は光になる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

遠藤を注視する深月は、彼の言葉から情報を得ようとする

 

「それに、俺は勘違いしていた。俺の影の薄さは隠れる事だけしか出来ないと結論付けていた。でも、神楽さんのお陰でようやく気付けた。光と影は表裏一体―――――今から俺は光になる!」

 

光と影は表裏一体とは何か

 

まさかここまでとは・・・。予想を上回る成長を間近で見るとこの様に感じるのですね。過去の私を見ていた人達もこんな気持ちだったのでしょうね

 

深月は、感知技能を全てオフにして五感を駆使して行動に移った。微かに聞こえる音に反応して、背面を蹴り上げる。ゴリっと鈍い音が響き、その正体はイオだった。深月の一撃に沈黙はしたが、死んだふりでやり過ごして徐々に這い寄って来ていた

しかし、深月の蹴り上げによって完全に意識を奪われてしまった。絶対に嵌ると思っていた遠藤の唯一の失点は一つ

 

「遠藤さんは自分を小さく評価し過ぎです」

 

「な―――――」

 

「私は遠藤さんを高く評価しています。それこそ、お嬢様達と同じかそれ以上ですよ」

 

ズンッ!

 

深月は遠藤の腹部に掌底を叩き込み、裏拳で顎先に当てて意識を奪った。最後の幕切れとしては何とも言えないショボイものだったが、特訓の内容は物凄く充実して得る物もあった。そして、この訓練を見ていたハジメと皐月は特に驚いていた。深月の評価が高い事と、先程見せた違和感に頭が混乱していた

 

「は?えっ?深月からの評価が俺達よりも高いって・・・え?マジで?」

 

「いやいやいや、それもそうだけど最後のあれ何?深月が蹴り上げるまでイオの姿が見えなかったんだけど?」

 

「・・・魔法?」

 

「天職が暗殺者でしたよね?」

 

「固有魔法かのう?」

 

「遠藤くんが強くなってる・・・あれ?今の私でも勝てるのかな?」

 

ハジメ達は何がどうなっているのかが分からない様子で、勇者(笑)パーティーも同様だった

深月は、目の前の出来る事から計画を立てる事にした。目先の目標は、ハジメ達の基礎と応用力の向上である。これから先はゴリ押しでは難しい事が確定しているからだ

 

全員技術の向上が必要・・・力も必要ですが、何より重要なのは技術と応用力ですね。こればかりは特訓で見出して頂く他ありません。遠藤さんに関しては、基礎が第一ですね。ハウリアは・・・駄目駄目ですね。

 

何故遠藤が基礎が優先なのか。それは、遠藤の戦闘の型が暗殺者に合っていないからだ。深月から見て、遠藤の動作に隙が多いのだ。そこで、深月が暗殺者としてリスペクトするのは前世でプレイしたゲームのキャラ―――某蛇さんである。これは余談だが、深月が転生した世界ではこの有名タイトルが存在しておらず、似た様なゲームはあるものの評価が低い+ストーリーが全く駄目だった

話しは戻り、遠藤に必要な物は型である。現在の型は、遠藤が必死になって作り上げたのだろう。しかし、強くなる為にはそれは邪魔でしかない

 

「時間は有限ですので早く起きて下さい」

 

深月は、気絶している遠藤の顔に冷水をぶちまけて強制的に目を覚まさせた

 

「俺・・・負けたのか・・・」

 

深月にあっさりと秘策も破られ、意気消沈している遠藤。しかし、直ぐに気持ちを切り替えて立ち上がった

 

「神楽さん。・・・俺達はどうだった?」

 

先程の訓練も一方的な展開だったので、何処がどう悪かったのかを知りたかった。そして、改善する所を見つけようともしていた

 

「正直言わせて頂きますと、ハウリア達は駄目駄目です。私は言いましたよね?基本的に何でも有りだと」

 

「で、ですが、深月殿・・・あの蔦を避けるのは至難の技です」

 

「何故避ける事が前提なのですか・・・。数が多い利点を活かして、武器を封じなさい。私が攻撃の手を多くしていた理由は、武器の情報を多く伝える為です」

 

「弱点ですと?」

 

「この蔦は、鞭として使用しました。先端が見えないのは仕方が無いですが、私の手元なら見えていた筈です」

 

「・・・・・なるほど。手の動きと、蔦の形を見て避けろという事ですね」

 

「何故避ける事を意識するのですか・・・。武器を封じるのであれば、身を犠牲にして掴めば良いでしょう。ステータスで負けているのは最初から分かっていた事ですが、武器を一瞬でも硬直させる事の重要さを分からない訳ではないでしょう?」

 

「そうか!あの鞭は小回りが利かない。一瞬でも使用不能となれば手放す可能性が大きいという事ですね!」

 

「正解です。武器の情報を読み取り、どの様に対策するのかが重要なのです」

 

ハウリア達は集まって、鞭の構造からどの様に攻撃を防げるのかを話始めたが、深月は手を叩いて会議を中断させて次の議題へと移る

 

「さて、次の反省点は遠藤さんです。しかし、これは先程も言った通り、遠藤さんは御自身を過小評価し過ぎていたという事です」

 

「そ、それは・・・俺って暗殺者だし・・・表立って戦うには役不足だし・・・」

 

ネガティブになる遠藤。天之河みたく多くの技能が有る訳でもないし、坂上みたく頑丈さを売りにした攻撃も出来ないし、八重樫みたいな鋭い攻撃も出来ない。自分は陰ながらサポートする位しか出来ないと心の何処かで思っているのが原因だ。そんな遠藤を見て、皐月が素直に思った事を言った

 

「自分を卑下しない!深月が評価しているんだから、もうちょっと自信持ちなさい!正直言わせてもらうけど、さっきの特訓風景を見て一番化けるのは遠藤君と確信したわ」

 

皐月の言葉に呆気にとられた遠藤に、ハジメが皐月に便乗する

 

「遠藤、皐月の言う通りだぞ。俺や皐月も、遠藤に関しては影が薄いだけの暗殺者と思っていた。だが、さっきのを見せられちまったら撤回しなきゃいけねぇ位だよ」

 

「お、俺が・・・?」

 

「あぁそうだ。影のお前が光になる事でイオ達を隠したのは驚いたぜ?俺や皐月も、深月が蹴り上げるまでイオの存在を忘れた位だったからな」

 

「私達も気配を消す事は出来るわ。だけど、ヘイトを集めて仲間を見えなくするなんて芸当は無理よ」

 

「そっか・・・俺だけしか出来ないのか・・・」

 

遠藤はようやく自分が強くなった事を自覚し、感慨深そうに両拳を握りしめて噛み締めていた

 

「それで?深月から見て遠藤君には何が必要だと感じたかしら」

 

「俺は攻撃動作の隙の多さだと思うんだが・・・合ってるか?」

 

「ハジメさんの言う通りです。動作の隙が多い点を修正に伴い、遠藤さんに酷な事を言う様で申し訳ありませんが今以上に強くなるなら既存の型を捨てて下さい。遠藤さんに関してはCQCが一番適しています」

 

『CQC?』

 

全員が頭の上に?マークを大量に浮かべる。オタクであるハジメですら聞いた事の無い単語だった

 

「Close Quarters Combatの略称です。日本語風に言うのであれば、近接格闘術です。ゲームにも使われていますが、評価等が低かったので知っている人が少なかったのでしょう。早速体験して頂きたいのでこちらに来てください」

 

「あっ、はい」

 

深月に言われるがまま不用意に近づいた遠藤。開始の合図は無く、遠藤の左肩を少し小突いて態勢を崩させ、真っ直ぐに伸びた右腕に自身の腕を巻き込んで肩を押す。すると、遠藤はあっという間に背中から地面に崩れ落ちる

 

「え?・・・何が?」

 

遠藤は、痛み無くあっという間に崩されてしまった事に混乱している。ハジメ達も一部始終を見ていたが、遠藤でも反応出来る速度での崩しに呆然としていた

 

「これがほんの一部です。とても簡単な部類ですので覚えたらすぐに使えますよ。ハジメさんも本格的に体験してみますか?」

 

「そうだな・・・やってみるか」

 

「私もやるわ」

 

「あっ、なら私もお願いしますぅ!」

 

「・・・シアもやるなら私も」

 

「妾も体験したいのじゃ」

 

「私もやるよ!」

 

「強くなるなら俺も参加する!」

 

「ズリィぜ。俺もやるぞ!」

 

「参加出来るなら私もやりたいわ」

 

「シズシズがやるなら鈴もやる!」

 

ハジメ達は全員参加、それに続く様に勇者パーティーも参加表明をする

 

「・・・それでは、武器は有りの魔法は無しのルールでいきましょう」

 

深月としては天之河達は参加させたくないが、拒否すれば煩くなるので渋々参加をさせる事にした。深月が教えるのは実戦形式で、遠藤に仕掛けたのはあくまでも模擬戦形式である。要するに、只々姿勢を崩すだけでは終わらないという事だ。因みに、遠藤は参加せずに先程の動作をシャドーで再現している

 

「それでは、何時でもどうぞ」

 

「俺は遠藤みたいに弱くないぞ!」

 

「先手は光輝に譲らねぇぞ!」

 

どこからでもかかって来いと言い放つ深月に天之河と坂上が突進する。ハジメ達は「あちゃ~」と空を見上げていた。無策に突っ込む二人は馬鹿以外に他ならない

 

「ドラァ!」

 

坂上の拳が深月に襲い掛かるが、深月は拳の側面を押して軌道をずらし、手首を持って背中に捻り上げる

 

「グッ!?」

 

そのまま押し込みながら半回転させて、続いて突っ込んでくる天之河に向けて坂上を押し出す事で動きを一瞬だけ止める

 

「なっ!?」

 

天之河が咄嗟に坂上を受け止めようとした瞬間に、深月のヤクザキックが坂上の背に直撃。押し込みの勢い+蹴り込みの勢いで、人間砲弾と化した坂上を直撃した天之河は一緒に吹き飛んだ。後方に吹き飛び態勢を整えようとした天之河に、深月の肘打ちが顎に直撃して意識を断ち切り、起き上がろうとした坂上には側頭部に膝をねじ込まれて沈黙させた。一連の動作は、インパクトの瞬間以外はゆったりとした動きだった。坂上の頑丈さを知っていた八重樫と谷口は頬を引き攣らせ、ハジメ達は「えっ・・・投げるだけじゃないの?」と呟いた

 

「私は言いましたよ?"本格的に体験してみますか?"と。投げるだけでは敵を無力化出来ませんよ?」

 

ハジメは深月の言葉を思い出して苦虫を潰した様な表情をする

 

「ちっくしょう!こうなったらやってやらあ!」

 

「何事も体験よ!」

 

「動きを封じる!」

 

「そうです。四肢にしがみ付けばどうにかなるですぅ!」

 

「名案じゃのう!」

 

「先兵のステータスは伊達じゃないよ!」

 

ハジメ達は覚悟完了しているが、八重樫と谷口は出来ていない

 

「・・・神楽さんのあの攻撃を食らうって事よね?」

 

「す、鈴はリタイアしt「リタイアは駄目ですよ」・・・シズシズ助けてぇ!」

 

「無理よ!」

 

深月は八重樫達でも見える程度で走って近づく。ハジメと皐月とシアとティオと香織の五人が一斉に深月へと襲い掛かる。狙いは四肢を掴んで動きを阻害する事。これなら直ぐに倒される事はないだろうと想定していたが、そのどれもが踏み潰されてしまう

深月の右腕を掴んだハジメは深月に引っ張られ、体が流れた所で腹部に左手を添え、右腕を押し込まれて一回転。そのまま膝上に背中から着地した事で弓なりとなり背に激痛が走る。ハジメが一瞬で投げられた隙を突いて、左から強襲した香織だが、首筋を掴まれて引き寄せられハジメの顎に側頭部をねじ込まれてしまった。こうして主戦力の内二人が脱落。皐月が背中からタックルする形で深月の腰を掴んで移動を阻害させると、ティオとシアが正面から襲う。だが、シアは未来視で自分が倒される姿を見て後退する。一方、ティオにそんな技能は無い為、無残にも王都襲撃の際に香織が使用した技と酷似する押し技で地面に叩き付けられて、深月がしゃがみ際に鳩尾に膝を付きたてられてしまった。そして、深月がしゃがんだ事で体制を崩してしまった事で皐月の拘束が緩んでしまった。その隙を逃さず腰を回して首筋に手刀を落として皐月も倒された。残されたのは三人となってしまった

 

「こうなったら・・・未来視で避けまくるですぅ!」

 

シアも無謀に突っ込むが、未来視で見える光景のどれもが呆気なく深月に倒される自分の姿だった

 

「あっ、駄目でしブヘッ!?」

 

足の甲を踏まれ、動きが止まった所に掌底のかち上げられ地面に崩れ落ちたシア。これで残りは二人

 

「ミ、ミズキン・・・鈴には優しく~が良いかなぁ・・・」

 

「南雲くん達みたいな強烈な攻撃は遠慮願いたいわ」

 

だが、現実は無慈悲である

 

「大丈夫です。優しく意識を刈り取りますので」

 

「それ絶対信用ならないやつだよ!?」

 

「くっ、やるしかないわ!」

 

谷口は、深月が近付けない様に障壁を張る。これなら時間稼ぎが出来ると思っていた二人だが、そんなに甘くはなかった。深月がスローモーションみたく拳を突き出して障壁に当たると、粉々に砕け散った

 

「にゃっ!?」

 

「シッ!」

 

八重樫は神速の一太刀が振るうも、深月に刀を持っている拳そのものが受け止められた。深月は刀の頭を叩いて八重樫の手から刀を落とし、そのまま流れる勢いで肘を八重樫の顎に叩き込んで沈黙させる。戦闘職全てが倒され、残りは谷口のみ・・・。深月がユラリと振り向き、谷口の懐に飛び込んで肘打ちで終了した

 

「それにしても、何故ハジメさんやお嬢様が銃を使わなかったのでしょうか?私、武器の使用有りと言ったのですが・・・」

 

深月の言う通り、ハジメ達は銃を使っておらず、理由は無手だから危ないと思い込んでいたからだった。しかし、よく考えて欲しい。弾丸を叩き切る事が出来る深月が無手だと危険だと思うだろうか?答えは否――――余裕で回避出来る

 

「さて、遠藤さん。私の動きを見て色々と学べましたか?」

 

「CQC・・・か。今の型よりも動きやすそうって感じた。でもさ、近接格闘術って本当に暗殺者に合っているのかな?」

 

「暗殺者の技能が十全に活かせない場面は何だと思いますか?」

 

「・・・多対一の状況?」

 

深月の問に、少しだけ考察して出した答えだった。一対一ならば、素早さを活かして隙を突いたり逃げたりと出来る。しかし、多対一だと活かすことは出来ない

 

「先程のCQCをちゃんと見ていましたか?私がどの様に相手を捌いたのかを思い出して下さい」

 

「攻撃を避けたり受け止めて――――あっ、そう言う事か!」

 

「気付いた様ですね。相手の姿勢を崩して攻撃は、急所攻撃に特化した暗殺者にとって相性が良く、CQCは多人数を相手取れます。まぁ、後半のは技量次第となりますが・・・」

 

遠藤は、今の自分に足りない物をしっかりと理解する事が出来た。ならば、後は鍛えるだけだ

 

「えっと・・・今からでも一対一で指導してもらっても大丈夫?」

 

「元々そのつもりでしたので構いませんよ。動き方から攻撃の流れを叩き込みますが、それからは自分次第です」

 

「絶対に物にしてみせる!」

 

ハジメ達が目を覚まさないまま、深月と遠藤のマンツーマン授業が開始された。お預けのハウリア達は、見様見真似で形だけでも良いから物にしたいと訓練を始めた。そして、ハジメ達が目を覚ましたのは夜中だった。夕食はフェアベルゲンの者達が用意していたので深月の料理を食べる事は無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「何回も言いましたが、遠藤さんは暗殺者の原石です」
布団「メイドさんも暗殺者として活躍出来るでしょ?」
深月「紛いではありますがね?ですが、遠藤さんみたいな事は出来ません。一定の条件下でのみ発動するスキルですから」
布団「しっかし・・・凶悪極まりない技ですわぁ」
深月「粗削りですが、洗練すればよりすさまじい効果を発揮するでしょう」
布団「さて、次は帝国へと入るよ!」
深月「変わり映えの無い話が続きましたが、次回をお楽しみに―――でしょうか?」
布団「頑張るよ!」


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メイドは潜入します

布団「投稿ですよ~」
深月「帝国へ到着です!」
布団「またしてもメイドさんが活躍?します!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」










~皐月side~

 

深月のCQC体験の翌日、ハジメ達は帝国へと向かった。道中、カム達とイオ達を合流させる為、帝国手前の岩石地帯に降ろして帝国へ徒歩で移動した。帝国へと足を踏み入れたハジメ達に待っていたのは、強引な引き抜きをしようとする愚かな兵士達だった

 

「おう、坊主共。いい女達を侍らしているじゃねぇか。少しばかり俺達と遊ぼうぜ?」

 

「仕事をしている俺達を奉仕してくれるよなぁ?」

 

「なぁに、明日には返すからよぉ?」

 

卑下た笑みを浮かべながら、皐月達女性陣を品定めする様にジロジロと見ている。天之河と坂上が動こうとしたが、先に動いたのは深月だった

 

「そうですね。お嬢様に奉仕等させる訳にはいけませんので、私が手取り足取りじっくりと致しましょう」

 

勇者(笑)パーティー達は驚愕の表情をして、これから深月が行う事を予想したハジメ達はスッと視線を逸らして心の中で黙祷した。深月は一人で兵士達五人を連れて空き家へと一緒に入って行った。そして、何も知らず・・・知ろうともしない天之河がハジメに詰め寄る

 

「おい南雲!み―――神楽が連れて行かれたんだぞ!どうして何もしないんだ!」

 

「深月がやるって言ってるんだから、俺達はその行動を尊重するだけさ」

 

「さつ―――高坂も主として止めるべきだろう!」

 

皐月は無視して帝国の日常風景を観察して小さな情報を拾い集める。召喚当初、帝国について調べた事と相違点が無いかをチェックしているのだ。何がこの国では常識なのか、どの様に成り立っているのかを――――

天之河を無視している皐月に痺れを切らしたのか、八重樫と谷口が深月の安否について心配を口出す

 

「高坂さん、いくら神楽さんでもこの状況だと手出し出来ないと思うのだけれど?」

 

「シズシズの言う通りだよ!早く突撃してミヅキンを助けなきゃ!」

 

だが、皐月の判断は変わらない。深月単体で行動させる方が内部情報を多く引き出す事が出来るし、どうやっても犯られる光景が思い浮かべれない。いや、兵士達が無事に帰ってくる事が出来るかが心配でもある

 

「はぁ~・・・深月が一人で動いたのよ?何も心配要らないわ。むしろ私達を巻き込んだ方が色々と大変なのよ」

 

「こういう時に使いたくはないけど、私達は神の使徒という地位よ?この程度なら――――」

 

「リリィが帝国に何をしに来たのか知らないの?同盟を結ぶ為に来ているの。リリィに余計な枷を嵌めたいと言うなら、その立場を利用すれば良いわ。その分交渉は難航するし、下手すれば王国が属国にならなければいけなくなるわよ」

 

「え?同盟だよね?交渉なんてしなくてもいいんじゃ?」

 

「権力を笠にした人と友達になりたいと思うの?」

 

「うっ、それだとなりたくないかも」

 

神の使徒とは、王国が召喚した者達の事だ。決して帝国が召喚した者達では無いし、自国でその権力を振りかざすなら処分も厭わない。所詮他国の存在、力が正義のこの国にとっては膿に他ならない。そして、皐月の分かりやすい例えでも理解していない者は二人

 

「俺達は神の使徒だ。魔人族を倒して悪神であるエヒトを倒す為に呼ばれて来たんだ。皆俺達の言う事は聞いてくれるから大丈夫だ」

 

「種族の危機なら皆協力するだろ?」

 

天之河と坂上は全然理解出来ていなかった。皐月は二度は言わない。所詮、勇者(笑)パーティーは同行者であり、他人なのだ。八重樫と谷口が巻き込まれるだろうが、それは残念だったと切り捨てる事も出来る。だが、余計な問題を抱えたくない身としては注意もしなければいけない

深月は未だに出て来ず、ハジメ達も町の様子を見ている。その様子としてはあまり良くない印象だ

 

「うぅ、話には聞いていましたが・・・帝国はやっぱり嫌なところですぅ」

 

「うん、私もあんまり肌に合わないかな。・・・ある意味、召喚された場所が王都でよかったよ」

 

「まぁ、軍事国家じゃからなぁ。軍備が充実しているどころか、住民でさえ、その多くが戦闘者なんじゃ。この程度の粗野な雰囲気は当たり前と言えば当たり前じゃろ。妾も住みたいとは全く思わんがの」

 

「シア、余り見るな。・・・見ても仕方ないだろう?」

 

「・・・はい、そうですね」

 

シアの目に入ったのは亜人族の奴隷達だ。視線の先には値札付きの檻に入れられた亜人族の子供達がおり、シアの表情を曇らせていた。ハジメ達でシアのフォローを入れつつ気分を紛らわせる

 

「・・・許せないな。同じ人なのに・・・奴隷なんて」

 

ハジメ達の後ろに居る天之河は、歯噛みしている。今にも突撃しそうで、皐月が溜息を吐いている

 

「ちょっと・・・苦労人が止めなきゃ誰がお花畑を止めるのよ。しっかりとリードを掴んでいなさいよ」

 

「光輝は犬ではないのだけれど・・・」

 

「帝国の常識について勉強しているわよね?していないのならブッ飛ばすわよ」

 

「奴隷が居る事は教えられていたわ。でも、あんな子供もなんて聞いていなかったわ」

 

「そんなの私だって一緒よ。ただ、想定はしていただけ・・・それだけの違いよ」

 

「考えが甘かったと言う事ね」

 

「たらればの行動をするなら、想定よりも酷い前提で考えなさい。その方が幾分かマシよ。・・・その際に、私情は持ち込まない方が良いわよ」

 

「高坂さんは私に冷酷になれと言いたいの?」

 

「冷酷な心も持ち合わせなさいと言っただけよ。・・・いつまでも御守りをするつもり?同門だから、幼馴染だからと言ってズルズル着いて行った先には、身の破滅よ」

 

「・・・」

 

「まぁ考えるのは人それぞれだから、私からの忠告はこれで最後よ」

 

皐月は八重樫の傍から離れてハジメの傍へと帰り、深月の連絡を待つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ達の帝国の観察も済み、これ以上長くなる様なら深月を切り上げさせて冒険者ギルドへと行こうと計画を立てていると、空き家から深月がホクホク顔の良い笑顔で出て来た

 

「お嬢様、とても良い情報を得られました」

 

「カム達の居場所が分かったのかしら?」

 

「正解です。少しばかりオモテナシしましたら快くお教え頂きました」

 

「おもてなしは大事よね。・・・うん」

 

深月がどの様にして情報を得たのかは理解出来た。帝国兵の皆さんに南無南無してカム達の救出は深夜に行う事となった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月日が辺りを照らす中、物陰に潜む影―――――ハジメ達である。因みに、勇者(笑)パーティーと遠藤も付いて来ていたりする

 

「おいお前等、正直言って邪魔だからここに居ろ」

 

「邪魔だと!?俺達はシアさんの家族を助ける為に此処に来たんだぞ!」

 

「気配を消せない、声が一々大きい。邪魔でどうしようもないんだけど・・・」

 

「あ、遠藤さんは別ですよ?私が先行しますので、その動きを見ていて下さいね」

 

「あ、うん。分かった」

 

深月は気配を透過して、足音を立てず正門から堂々と入って行った

 

「さて、遠藤・・・準備は良いか?」

 

「南雲・・・もしかしてあの警備を真正面から突撃しろと?」

 

「大丈夫よ遠藤君。少しの間だけでも、深月に鍛えてもらった気配遮断で行ける筈よ」

 

「うぅ、自信が無いんだけど」

 

「大丈夫だ遠藤、こういう時の為に用意した物がある」

 

ハジメが宝物庫から取り出したのは、木製の籠だった

 

「・・・どうしろと?」

 

「深月が言っていたんだが・・・とある蛇?は段ボールで敵陣深くまで潜入したとの事だ。だったら、この世界観に合った木製の籠なら大丈夫だろ」

 

「待って・・・俺そんな人知らないし、潜入の技能なんて無いんだけど!?」

 

「遠藤――――自分が信じられないってんなら、深月を信じろ。あいつが入って行く所を見ただろ?深月はお前をかなり評価しているし、信じてもいるんだ。お前が信じるあいつを信じろ。あいつが信じるお前を信じろ」

 

「あれ?それって熱血アニメの―――」

 

「シャラップ!それ以上はいけない!」

 

結局、遠藤はハジメに渡された籠を被って真正面から潜入する事にした。だが――――

 

「ん?何だこの籠?」

 

「どうした?」

 

「いや・・・いつの間にこの籠あったんだ?って」

 

「・・・一応中を確認するぞ。危険物だったら大変だからな」

 

「だな」

 

遠藤が被っている籠に近づく兵士達を見て、ハジメは「あれ?待って・・・ヤベェ」と口漏らし、助けに入る間もなく籠が持ち上げられた。これで遠藤は終わりだなと悟ったが

 

「誰も居ない」

 

「って事は忘れものか?」

 

「落とし物の可能性もあるな」

 

「一応預かっておくか」

 

なんと、遠藤は見つからなかった。実は、兵士が籠を持ち上げる際、死角にゆっくりと移動して背後に周り城へと入ったのだった。それをどうにか見たハジメと皐月の感想は唯一つ

 

「遠藤がどんどんと人間離れしていってる件について」

 

「流石ね。自動ドアにすら反応されない影の薄さは凄かった」

 

こうして、遠藤は潜入に成功し、中で待機していた深月と合流して地下牢へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

暗い地下牢――――光一つ存在しない闇の中に格子のはめ込まれた無数の小部屋がある。その格子は特殊な金属製でちょっとやそっとじゃ壊れず、地面に刻まれた魔法陣と相まって誰も逃がさないと言わんばかりの存在だ

 

潜入開始です。いや~、光が全く無いのはとても良いですね。罠も存在していますが、魔力操作出来る者からすればザル以外の何物でもありませんね。というよりも、罠が仕掛けられている場所がありきたり過ぎます。予想した場所に在ったり無かったり・・・手ぬるいですね

 

深月は、罠が仕掛けられている場所のおおよその所を決めて感知系魔法を使って調べていたりする。結果―――予想した場所以外に罠が仕掛けられていなかった。ただ単に、深月の経験則の方が濃いと言うだけだ

汚物や血の匂いの悪臭の中進んで行くと、一際汚れた場所を発見。恐らく懲罰室か何かと判断した深月は、扉に手を付けて中の様子を伺う。そこから聞こえた声は、男の声の罵声。しかも、聞いた事のある声だった

 

『何だ、その腑抜けた拳は!それでも貴様、帝国兵かっ!もっと腰を入れろ、この"ピー"するしか能のない"ピー"野郎め!まるで"ピー"している"ピー"のようだぞ!生まれたての子猫の方がまだマシな拳を放てる! どうしたっ!悔しければ、せめて骨の一本でも砕いて見せろ!出来なければ、所詮貴様は"ピー"ということだ!』

 

『う、うるせぇ! 何でてめぇにそんな事言われなきゃいけねぇんだ!』

 

『口を動かす暇があったら手を動かせ!貴様のその手は"ピー"しか出来ない恋人か何かか?ああ、実際の恋人も所詮"ピー"なのだろう?"ピー"なお前にはお似合いの"ピー"だ!』

 

『て、てめぇ!ナターシャはそんな女じゃねぇ!』

 

『よ、よせヨハン!それはダメだ!こいつ死んじまうぞ!』

 

『ふん、そっちのお前もやはり"ピー"か。帝国兵はどいつこいつも"ピー"ばっかりだな!いっそのこと"ピー"と改名でもしたらどうだ!この"ピー"共め!御託並べてないで、殺意の一つでも見せてみろ!』

 

『なんだよぉ!こいつ、ホントに何なんだよぉ!こんなの兎人族じゃねぇだろぉ!誰か尋問代われよぉ!』

 

『もう嫌だぁ!こいつ等と話してると頭がおかしくなっちまうよぉ!』

 

かなりカオスな叫びが聞こえ、深月は頭が痛そうにこめかみをグニグニと押さえていた。遠藤に関してはドン引きしていた

 

「えぇ・・・これ・・・助けなくても良いんじゃ?」

 

「いえ、これ以上は死ぬと言っているので救出しなければいけません。ハードマン方式の良し悪しを合わせた状態ですか・・・

 

深月は、某蛇の如く音を立てずに扉を開けて中に居た兵士達に襲い掛かった。急所を的確に捉えてCQCの一撃を入れて倒す。一人倒れた音を聞いて兵士達が振り返るが、気配を透過させて襲い掛かり全員を打ち倒した。カムは、透過を解除しての自身の前に立っていた深月を見て驚愕をしている

 

「み、深月殿?何故この様な場所に」

 

「それよりも怪我の具合はどうですか――――と言いたいですが、危険な状態ですね。お嬢様達を呼びますので少々お待ち下さい」

 

「え?ボス達も居るんですか?」

 

カムを無視して、深月は宝物庫から扉程の大きさの枠のアーティファクトを設置する

 

(お嬢様、現在地の兵士は全て倒しました。ゲートキーでの転移をお願いします)

 

(了解、何か必要な物はある?)

 

(カムさんが兵士達に尋問されていました。恐らく気合で耐えているので再生と治療が優先です)

 

(OK、香織の出番ね)

 

念話を終えると、深月が設置したアーティファクトの枠内がグニャリと歪み、そこからハジメ達が現れる

 

「ご苦労様、深月」

 

「兵士達は生きているな。これで面倒事にならずに済んだぜ」

 

「・・・それよりも生きてる?」

 

「ボス、お嬢、ユエ殿・・・」

 

カムはどうしてこの場所にボス達が居るのか理解していない様子だ

 

「父様!?」

 

「酷い怪我じゃな」

 

「シアさん待ってて、私が治すから!」

 

香織がカムを再生魔法と回復魔法で全快にまで回復させていると、ハジメの背からこの場に相応しくない者の声が聞こえた

 

「同じ人同士でなんて酷い事をするんだ!」

 

勇者(笑)の天之河である。ハジメ達が、「どうして来やがった!」と言いたげな表情をしていたので、深月がヤクザキックで向こう側へと返却した。天之河が返却された隙を逃さず、ゲートホールを閉じた。これで勇者(笑)パーティーはこちらへ来れない

 

「さ~て、面倒な奴も居なくなった事だし・・・手早く他の奴等も救出するか」

 

「ボス、お嬢、あいつらが居る場所までの案内を致します」

 

「罠は大丈夫なの?」

 

「私が先行して解除してきます。兵士が居れば、同じ様に対処するだけです」

 

「任せたわ」

 

「かしこまりました」

 

いつも通りの気配遮断でその場を離れた深月とそれを追う遠藤

 

「ボス、お嬢、こちらです」

 

ハジメ達はカムの案内の元、地下牢の道を進む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

小声ながらも、情報共有をしながら移動するハジメ達。深月が先行しているとはいえ、この場所は帝国の城の中――――何時、何処から兵士が現れても不思議ではないので慎重に移動をする

 

「しかし、深月殿がいきなり現れた時はビックリしましたよ」

 

「深月のあれに関しては本当に恐ろしいぞ?一瞬でも意識を逸らしたら消えやがる」

 

「なんと!それは是非ともご教授願いたいですな」

 

「あ~・・・それに関しては分からないわ。里に残っていたイオ達は駄目駄目って評価されちゃってたし」

 

「雷刃のイオルニクス達が駄目でしたか。・・・しかし、奴はハウリア古参組の中でも中の下、俺達にもチャンスはあるという事」

 

「・・・まぁ、頑張れ」

 

絶対に無理だな。ってか、フラグを立てやがって。・・・案外、今捕まっている奴らもそんな感じになるのか?いや、それは無いと言いたい・・・多分

 

暗闇の中歩いて目的地手前に到着すると、目頭を押さえている深月を発見。どうしたのかと尋ねようとすると、牢の中から話し声が聞こえた

 

「おい、今日は何本逝った?」

 

「指全部と、アバラが二本だな・・・お前は?」

 

「へへっ、俺の勝ちだな。指全部とアバラ三本だぜ?」

 

「はっ、その程度か?俺はアバラ七本と頬骨・・・それにウサミミを片方だ」

 

「マジかよっ?お前一体何言ったんだ?あいつ等俺達が使えるかもってんでウサミミには手を出さなかったのに・・・」

 

「な~に、いつものように、背後にいる者は誰だ?なんて、見当違いの質問を延々と繰り返しやがるからさ。・・・言ってやったんだよ。"お前の母親だ。俺は息子の様子を見に来ただけの新しい親父だぞ?"ってな」

 

「うわぁ~、そりゃあキレるわ・・・」

 

「でも、あいつら、ウサミミ落とすなって、たぶん命令受けてるだろ?それに背いたって事は・・・」

 

「ああ、確実に処分が下るな。ケケケ、ざまぁ~ねぇぜ!」

 

聞こえてきたのは、誰が一番酷い怪我を負ったのかという賭け事の話だ。敵に情報を漏らさず、死ぬ覚悟もして、敵に一矢報いようとする態度から来るものだった。本来なら、彼等に待っているのは奴隷か死の二択のみ。奴隷になれば最後、同族との戦いに駆り出されてしまう。それだけは避けたかったらしい

重傷ではあるものの、死なない程度で治療されている事から、帝国の主は彼等を死なせるには惜しいと考えているのだろう

 

「今頃は、族長も盛大に煽ってんだろうな・・・」

 

「そうだな。・・・なぁ、せっかくだし族長の怪我の具合で勝負しねぇか?」

 

「お?いいねぇ。じゃあ、俺はウサミミ全損で」

 

「いや、お前、大穴すぎるだろ?」

 

「いや、最近の族長、ますます言動がボスに似てきたからなぁ。・・・特に新兵の訓練している時とか・・・」

 

「ああ、まるでボスが乗り移ったみたいだよな。あんな罵詈雑言を浴びせられたら・・・有り得るな・・・」

 

「まぁ、ボスやお嬢ならそもそも捕まらねぇし、捕まっても今度は内部から何もかも破壊して普通に出てきそうだけどな!」

 

「むしろ、帝都涙目って感じだろ?きっと、地図から消えるぜ」

 

「ボスやお嬢は、容赦ないからな!」

 

「むしろ鬼だからな!」

 

「いや、悪魔だろ?」

 

「なら、魔王の方が似合う」

 

「おいおい、それじゃあ魔人族の魔王と同列みたいじゃないか。ボスに比べたら、あちらさんの魔王なんて虫だよ。虫」

 

「なら・・・悪魔的で神懸かってるってことで魔神とか?」

 

「「「「「「「「「それだ!」」」」」」」」」

 

「・・・随分と元気だな?この"ピー"共・・・久しぶりだってのに中々言うじゃないか?えぇ?」

 

「余裕のある会話をしているわね?ちょっと私も混ぜてもらおうかしら―――ねぇ?」

 

「「「「「「「「「・・・・・」」」」」」」」」

 

怒気の孕んだ声が二つ響き、ハウリア達は凍りついたかの様に硬まった。ありえない・・・いや?幻聴か?と遂に自分達は壊れてしまったのかと疑いたくもなる声が聞こえたからだ

 

「おい、こら。なに黙り込んでやがる。誰が鬼で悪魔で魔王すら霞む魔神だって?うん?」

 

「ハハハ、わりぃ、みんな。俺、どうやらここまでのようだ。・・・遂に幻聴が聞こえ始めやがった・・・」

 

「安心しろよ、逝くのはお前一人じゃない。・・・俺もダメみたいだ」

 

「そうか・・・お前らもか・・・でも最後に聞く声がボスとお嬢の怒り声とか・・・」

 

「せめて最後くらい可愛い女の子の声が良かったよな・・・」

 

「へぇ~、私は可愛い女の子に分類されないって言いたいのね?」

 

真っ暗闇を解決させる為に、ユエが光の球を生み出して周囲を照らす。そして、帝城の地下牢にハジメ達の姿が露となる

 

「「「「「「「「「げぇ、ボスぅ、お嬢ぅーーーー!!?」」」」」」」」」

 

「静かにしろ、ド阿呆共」

 

「・・・意外に元気?」

 

「見た目、かなり酷いんですが・・・心配する気が失せてきました」

 

ハウリア達は、かなり酷い怪我を負いながらも、素っ頓狂な声を上げた

 

「静かにしなさい」

 

『あっ、はい・・・ごめんなさい』

 

ハウリア達は皐月の怒気に当てられながら素直に従う。彼等を知っているハジメ、皐月、深月、ユエ、シアは、呆れ顔をしていた

 

「な、なぜ、こんなところにボスとお嬢が・・・」

 

「詳しい話は後だ。取り敢えず、助けに来てやったんだよ。・・・ったく、ボロボロなくせにはしゃぎやがって。どんだけタフになってんだよ」

 

「は、はは、そりゃ、ボスとお嬢に鍛えられましたから」

 

「ボスとお嬢の訓練に比べれば、帝国兵の拷問なんてお遊戯ですよ」

 

「殺気がまるで足りないよな?温すぎて、介護でもされてるのかと思ったぜ」

 

「まぁ、ボスとお嬢の殺気は、数百通りの死の瞬間を幻視できるレベルだから仕方ないけどな」

 

血を吐きながらも、軽口を叩いているハウリア達を、ハジメが咳払いで中断させて牢の開錠を行う。罠が存在していようが、魔力操作が出来るハジメ達の前では無意味。次々と解除されて、錬成で次々と格子を開けて行く。あっという間に全員分の開錠が終わり、ユエの再生魔法と香織の回復魔法で全快した

 

「はぁ、相変わらずとんでもないですね。取り敢えず、ボス・・・」

 

「「「「「「「「「助けて頂き有難うございましたぁ!」」」」」」」」」

 

「おう。まぁ、シアのためだ。気にすんな」

 

「ボス、族長は?」

 

「もう助けている」

 

「流石です」

 

ハジメはゲートホールをパルの居る場所へと繋ぎ、ハウリア達を送った。もうこの帝城には用は無いが、深月はもう少しこの帝国の情報を収集するとの事で、別行動を執る事にした。ハジメは、ゲートキーとゲートホールを深月が持っているかどうかを再確認して転移した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

ハジメ達と別れ、一人帝国内で行動する深月。各重要拠点の場所に潜り込み、亜人族達の情報を徹底的に収集しているのだ

 

フェアベルゲンに襲撃した事から、大量の亜人族達が奴隷にされていますね。貴族間では愛玩奴隷、兵士間では女性が性欲のはけ口、男性がストレス解消と言う名のサンドバッグと樹海への道案内。弱肉強食の世界なのでとやかくは言いませんが、これはこれでつけ入れそうですね。助けてからのカムさんの様子を観察していて気付いたのですが、あれは戦争を仕掛ける覚悟をした目をしていました。今頃ハジメさんに宣誓しているのでしょうね。ハジメさんも情が深いので戦争には参加しないけれど、その足掛かりとなる土台を作るつもりでしょう

 

深月の予想は当たっており、カムはハジメに、帝国へ戦争を仕掛けると宣誓をしていた。そして、ハジメは戦争に参加はしないが、少しばかり手助けをすると宣言していた

 

戦争してもしないでも、情報は命です。とはいえ、帝国は力ある者が偉い至上主義・・・ハウリア達が戦うならば、トップを暗殺するか脅迫以外に手はありません。重要拠点の場所の把握は重要、人数差がある事から爆発物を使用する可能性もありますし・・・やはり、亜人族の人数も必要ですね

 

ハウリアは約百人程と考えれば、広い帝国の各所を叩き潰す方が効率的なのだ。汚い?戦争に綺麗も汚いのへったくれも無い。いや、意地汚い方が生き延びる可能性が大きい

深月はそのまま帝城内へと侵入して情報を収集して分かった事は、一番大きな行事はリリアーナと皇太子の婚約パーティーだ。帝国の主要人物が一同に集まり、ありえない事をして一番大きなダメージが与えられる最高のタイミングである

 

さて、少しばかり引っ掻き回しましょう。"人族"が手を取り合わなければいけない事を大々的に知らしめましょう。メイド服は宝物庫に仕舞って・・・魔力糸で再現して―――――出来上がりです。さぁ、踊って頂きましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

茶番の始まりです♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

透過させていた気配を解いて、周囲に威圧を巻き散らした深月。いきなり帝城の中に現れた強大な気配に感付いた者達が駆け足でその場へと向かっていた。現れたのは、皇帝ガハルドとその側近の兵士、後はガハルドと一緒に居たであろうリリアーナとメイドのヘリーナ。そして、遅れる形でゾロゾロと一般兵士達が雪崩れ込んで来た

 

「おい、俺の帝国に一人で仕掛けてきたのは良い度胸だ。だが、この人数差を理解しての行為か?」

 

「・・・」

 

「だんまりか。・・・何処の誰かは知らねぇが、おいたが過ぎたな」

 

「えっ・・・嘘・・・・・」

 

「おい、リリアーナ姫。あいつを知っているのなら教えろ。何処のどいつだ?」

 

「そ、それは――――」

 

深月の顔を知っているリリアーナは一瞬だけ戸惑いを見せたが、深月が先に動いた。左手に魔力糸を集中させて、顔上半分が覆われる仮面を作り出して装着した

 

「失策でした。まさか王国の姫である貴女がここに居るとは思っていませんでした。少しばかり計算外ですね。最初からこれを付けていた方が良かった。さて、私が何故ここに居るのかですが、実力主義の帝国の兵士達の練度を観察する為です」

 

「あ"ぁ"?」

 

深月の事を知らないガハルドは怒気を孕んだ声を上げながら、一挙一動を注視する

 

「では、弱い貴方方に自己紹介を致しましょう。私の名はティフモンド――――本当の神の使徒です」

 

「本当の神の使徒だと?どういう事だリリアーナ姫」

 

「うっ、あっ・・・」

 

そう・・・現在深月の姿はメイド服ではなく、神の先兵が身に着けていた防具を再現した魔力糸で包まれている。ピエロを演じているのだ

聡明なリリアーナでも怒涛の展開に頭が追い付いていないのか、しどろもどろになっている。困りに困っているリリアーナを見て、深月が特定念話でリリアーナへとパスを繋いで一方的に提案をする

 

(リリアーナ様、私の事は王国を襲った神の使徒と説明して下さい。その方が交渉が手早く済みます)

 

ハッと我に戻ったリリアーナは、ガハルドに王国を襲った神の使徒であると伝えた。ガハルドは、頭の上に「?」を浮かべていたが、何かしらの事情があると踏まえて追及は後に回した

 

「本当の神の使徒ねぇ。だったら仮面はもう必要ないんじゃねぇか?素顔はもう見ちまったからな」

 

「素顔ですか・・・あまり意味を成さないですが、今回は良い意味で成した様ですね。ですが、この仮面は少々お気に入りですので付けたままにさせて頂きます」

 

「勝手にしてろ」

 

ガハルドは、態勢を低くして飛び掛かる準備をした時、彼の背から聞こえる声に注意が逸れてしまった。それは、まだ帝国に居た勇者(笑)パーティーの面々であった

 

「リリィ、助けに来たぞ!」

 

「えっ、光輝さん?どうして此処に!?」

 

「君が危険だから助けに来たんだ。俺は勇者だ!この世界の人々を無理やり殺し合いをさせる邪神の手先は俺が倒す!」

 

「は?邪神?どういう事だ?」

 

「すみません・・・本当は二人きりの時にお話ししたかったのですが、エヒト神は我々を裏から操り戦争をさせていたのです」

 

「イシュタルの爺は知ってるのか?」

 

「いえ、その事実を知る前に亡くなりました」

 

「はっ!いけ好かねぇ爺はくたばったか!だが、それはある意味良かったかもな」

 

「相談は終わりましたか?今回は練度を調べる為に来ただけですので、そろそろ帰らせて頂きましょう」

 

これ以上の滞在は面倒になると判断した深月は、このまま帰ろうとした。だが、そうは問屋が卸さない

 

「帰れるとでも思ってんのか?」

 

ガハルド達帝国兵がやる気になっている中、リリアーナが戦う事に反対する

 

「駄目です!絶対に手を出さないで下さい!彼女は・・・途方もない力を有しています!それこそ、帝国を一夜の内に壊滅させる事も可能です!」

 

「・・・冗談を言っている訳でもなさそうだな。全員手を出すなよ!リリアーナ姫の忠告を無視したらこの場で叩き斬るぞ!」

 

ガハルドの言葉に帝国兵達全員が止まり、警戒しながらも手を出す気配はない。しかし、現実をよく理解していない馬鹿が飛び出した

 

「大丈夫だ。勇者の俺が居る間はそんな事させない!行くぞ!うぉおおおおおおおおおおお!!」

 

聖剣を光らせて深月に攻撃を仕掛ける天之河。何も知ろうとしない、理解していない彼は突撃する

 

「ちょ、光輝さん!?」

 

「は?クソ野郎が!」

 

リリアーナとガハルドの表情が引き攣る。リリアーナは深月の心配、ガハルドは帝国の心配といった感じだ。深月は、魔力糸で作った大剣で聖剣を受け止めて武器だけを弾き飛ばして隙だらけとなった天之河の首を掴んで持ち上げる。そして、壁に叩き付けて気絶させた

 

「これが勇者の力ですか。・・・いえ、勇者(笑)と言っても過言ではないでしょう。この程度の力なら慢心していても殺されないでしょう」

 

深月は天之河を石ころ同然の様に見て、さっさと帰る為に跳躍して天井を突き破り撤退した。リリアーナは、ガハルドにフォローを入れながら深月の事を悟らせない様に説明を追加した

 

「ガハルド陛下、あの神の使徒の素顔ですが・・・あれは他人に似せた顔です。王国を救ってくれた者の顔なのです」

 

「・・・そういう事か。リリアーナ姫の恩人の顔にする事で俺達の間に不和を持ち込み、戦力を低下させる事を目論んでいたか。強い癖に意地汚え戦法をするじゃねぇか」

 

「そうですね。それと、この度は光輝さんの暴走に大変ご迷惑をおかけしました」

 

「全く、肝が冷えたぞ。交渉の際はある程度は覚悟しておくんだな」

 

「・・・分かりました」

 

ガハルドは兵士達を持ち場へと帰らせて、警備の強化をする様に指示をする。そして、勇者(笑)達はリリアーナの傍に置く事を条件として帝国に滞在する事を許した

神の使徒姿からメイド姿へと変わった深月は、遠目からリリアーナの様子を見て下準備が完了した事を確信した

 

リリアーナ様には酷な交渉となりましたが、我慢して頂きましょう。そろそろ彼等には自覚をして頂かなければいけませんし、足手纏いを背負う王国にはなって欲しくはありません。お嬢様の後ろ盾になるのなら、十全に動いてもらわねば意味もありません

 

暗躍する深月―――帝国のHPが0になる日は着々と近づいている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「まさかど腐れ野郎の邪魔が入るとは・・・」
布団「お姫様涙目ですぅ!」
深月「ですが、帝国の情報は沢山仕入れる事が出来たので良しとしましょう!」
布団「流石メイドさんと言ったところか」
深月「メイドとして当然の勤めです」







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メイドの率直な感想、お姫様は不幸です

深月「さぁ、始めましょう」
布団「県越えのお仕事ツライ・・・」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」













~深月side~

 

深月が情報収集を終えると、外は朝日がこんにちわをする手前だった。かなり時間が掛かってしまったが、十分すぎる程の物が集まった。深月は気配を透過させたまま帝城へと入り、リリアーナが滞在している部屋へと侵入する。中に入ると、リリアーナは着替えの真っ最中だった。深月は、透過を解除してリリアーナに声を掛ける

 

「リリアーナ様、おはようございます」

 

「ひゃい!?って、神楽さんでしたか・・・驚かさないで下さい」

 

「先日のあれにつきましては申し訳ありません。まさか・・・ど腐れ野郎が突撃して来るとは思いませんでした」

 

「あはははは・・・どうしてこうなったのですか!」

 

「あれが無ければ、帝国との同盟を有利に進める事が出来たのですが・・・本当に運が悪いです」

 

「本当に悲しいです」

 

「さて、本題なのですが・・・招待状をお願いしたいのですが、宜しいですか?」

 

「はぁ、分かりました。南雲さん達に宛てて一筆入れますので少々お待ち下さい」

 

リリアーナは机に座り、ハジメ達が違和感無く帝城に入れる様に招待状を書いて深月に手渡す

 

「有難う御座います。それと、帝国との同盟についてですが、運が良ければ対等に持って行く事が出来そうです」

 

「本当ですか!?」

 

「その為にも、あのど腐れ野郎に首輪でも着けておいて下さい」

 

「・・・八重樫さんにお願いしましょう」

 

結局、天之河の手綱を握るのは八重樫となった

深月はリリアーナに別れの挨拶を一言入れて、透過でその場から離れてゲートホールを通ってハジメ達の元へと帰還した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国が陥落するまで残り半日―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ達と合流した深月は、別れてからの事の顛末を報告した

 

「――――という事です」

 

「あんの脳内お花畑め!」

 

皐月はウガーっと地団太を踏んで怒りを露にしている。一踏み毎に深くなる地面を見たハウリア達は、「お嬢が怒ってる・・・ヤベェ」と口漏らす。しかし、ハジメのフォローとキスで皐月は元通りになった

 

「ん・・・ちゅ。もっと欲しいけど・・・それはまた今度でね?」

 

「・・・お、おう」

 

ディープなキスをした皐月を見て、「良いなぁ」と口漏らしながら自分もして欲しいと内心で思っているシアとティオと香織に、ユエがジト―っと睨みながら一言

 

「・・・皐月は特別」

 

「うぅ、そうですよね。我慢しますぅ!」

 

シアはハジメのハーレムに入る事が出来たので我慢できたが、ハーレム入りをしていない二人は文句を垂れていた

 

「妾もご主人様からのあつ~いキスが欲しいのじゃ!」

 

「わ、私も欲しいかな!皐月だけズルイよ!」

 

話は戻り、ハジメ達の後ろ盾となる王国が帝国の属国になる可能性が高くなってしまった事にどうしようかと頭を悩ませる皐月。しかし、只では終わらないのが深月クオリティー

 

「リリアーナ様についてはこの辺りで止めましょう。今はハウリア達についてです。帝国に戦争を仕掛ける事は決定なのですか?」

 

深月に尋ねられたハジメは、カムの方に視線を向けた。カムもハジメの視線の意味を理解して、深月の前に立って宣誓する

 

「深月殿、我々ハウリアは帝国に戦争を仕掛けます。しかし、ボスやお嬢を戦争に参加させる事は絶対にしません。これは、帝国と亜人族との楔を断ち切る為の戦い―――手出しは無用です!」

 

「お嬢様、私達は戦争には参加しない―――で間違いありませんか?」

 

「これはカム達の戦いなの。参加はしないわ」

 

「なるほど・・・では、お膳立ては大丈夫ですね?」

 

「ん?あ、あぁ。俺達はあくまでも傍観者だ」

 

「あわわわ、重要書類が落ちてしまいましたー(棒」

 

深月はわざとらしく、手に持った紙束をバサッとカムの前に落とした

 

「大丈夫ですか?こちらが拾いましょ――――」

 

「あららー、書類が無くなってしまいましたー。いえ、もう私達には必要無い物なので放置しましょう(棒」

 

ハジメと皐月は内心で「深月のわざとらしい演技下手すぎぃ!」とツッコミを入れた。一方、カムは手に持った書類を拾う時に見て、切り返した

 

「あぁ!こんな所に書類がぁ!?これは天からの贈り物にちがいない!」

 

カムもカムで何やってんだ!とツッコミを入れつつ、ハジメと皐月はカムが手に持っていた書類に書かれた物を見て頬を引き攣らせた。書類に書かれていたのは帝国の地図と、皇族の行動予定表、兵の配置人数、交代時間、重要拠点、亜人族が捕らわれている場所等々、帝国に関する情報のほぼ全てだった。これを見た二人の反応は、帝国が不憫でならなかった

 

「コレハキットイイモノダー」

 

「アジンゾクハセカイニミマモラレテイタノネー」

 

どうやって此処までの情報を半日で入手した!という叫びたい衝動を抑える事に成功。一番渡しちゃいけない物をハウリアに渡してしまったのだ。・・・カムは目を閉じて深月を祈り、他のハウリア達と情報を共有すべく一ヵ所に集まって作戦を練る

 

「・・・何が書いてあった?」

 

「父様達の表情が怖いのですが・・・」

 

「嬉々として作戦を立てておるのう」

 

「何を見たらあそこまで変わるの・・・」

 

カム達の変貌にユエ達がハジメと皐月に尋ね、二人は顔を見合わせて短期決戦に重要な物は何かと尋ねる

 

「いいか?カム達が行うのは短期決戦だ。それに必要なのは何だと思う?」

 

「・・・力?」

 

「違うわよ」

 

「あっ、情報ですか?」

 

「正解だシア。深月が落とした書類に書いてたのは・・・姫さんの婚約パーティーが終わるまでの皇族の予定表、兵士の情報、捕らわれている亜人族の情報と様々だ」

 

ハジメの言葉を聞いてユエ達は、もしも自分が帝国の立場だと考えたらゾッとした

 

「ヤバイのじゃ。・・・戦力もそうじゃが、行動の詳細まで把握されてしもうたら何も出来んぞ」

 

「プライバシーが無いね」

 

「・・・今のハウリア達には一番必要」

 

「もしかして・・・帝国陥落しちゃいます?」

 

そう、今のハウリア達に必要なのは情報だ。ある程度の誤差はあるだろうが、婚約パーティーで警備兵達が警戒する場所は決まっている。それに伴い、薄くなる場所がある。どれ程の人数で制圧できるか、予定外にも対処出来るかも分かる。過剰な人数にならず、帝国の要所に事を致せるのだ

 

「帝国は終わったな」

 

「あっ、王国の後ろ盾もしっかりとした物になるわね。亜人族に倒される程度の帝国と思わせれたら万々歳ね」

 

「だけど皇族の一人と婚約だろ?政略結婚って嫌らしいな」

 

「そうなのよ・・・。海外でパーティーに参加した時に近寄って来た奴等なんて、全員がお父さんのお金目当てなの。お父さんがね?「娘と結婚する相手の条件は、会社を立ち上げて世界有数企業の社長になれ」―――ってね?これを聞いた奴らは一斉に解散したわ。ホント、何を見ているか分かるわよ」

 

「な、生々しいよ・・・」

 

「愛が一欠片も無いのじゃ・・・」

 

「・・・もしくは体」

 

「うわぁ~、絶対に嫌ですねぇ」

 

皐月が体験した生々しい話にユエ達はドン引きして、ハジメは皐月の肩を持って抱き寄せている

 

「皐月は既に俺の女だ。もしも向こうで同じことをする様な奴らが居れば・・・躊躇い無くあそこを潰す」

 

「いえいえ、その様な輩は社会から抹消する方が一番です」

 

ハジメは何処を潰すのかは大体は予想が出来る。しかし、深月の言う社会から抹消の意味は想像出来ない。物理的にその生を終わらせるか、社会に出れない様に徹底的にゴミの様な人間として紹介するか・・・いや、後者よりも酷い可能性もあるだろう

 

「さて、パーティーの参加についての問題は解決済みです。リリアーナ様に招待状を一筆して頂きましたので、正規に参加する事が出来ます」

 

「ん?一枚しかないが大丈夫なのか?」

 

「招待人数分の手紙があるのが普通なのだけど・・・本当に大丈夫なの?」

 

「リリアーナ様専用のハンコを押されていますから大丈夫です」

 

深月は、リリアーナが執筆している内容も見ているのでその点は抜かりない。カム達へのお膳立てはこれで最後―――後は自分たちの手で自由を掴み取れだ。ハジメはカム達に一言入れてから、ゲートホールで帝国内へと移動した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

帝国へと移動したハジメ達は、そのまま帝城へと真っ直ぐに歩いて行く。このパーティーには、決められた者もしくは招待された者だけしか入れない特別な催しだ。これに参加する為、長い列に並んで詰所へと向かう

詰所近くまで来ると、遠目から見て兵士達は厳重な警備をしている。正規の手続きで不備が無いか、持ち込み物の一つ一つ精査してようやく入れるという事だ。だが、宝物庫を持っているハジメ達からすれば、この程度の検査はザル同然だ。そして、ようやくハジメ達の出番となった

 

「招待状は?」

 

「此方です」

 

「ん?人数分無い―――んなっ!?リリアーナ姫直筆の招待状だと!?」

 

「不備はないとは思いますが、内容の確認もお願いします」

 

「・・・少しだけ待ってもらおう。一応リリアーナ姫の確認を取らせて頂く間に検査をする。検査が終わっても確認が未だな場合は、列を外れて待ってもらおう」

 

「警備は重要だ。その程度待つさ」

 

「よし―――至急リリアーナ姫に確認を取って来い!」

 

ハジメ達を確認していた兵士は、詰所で手の空いていた兵士に命令を出して確認に向かわせる。その間、手荷物検査を厳重に行った。ハジメ達全員分の検査も終わり、列から外して待機させていると、リリアーナに確認に行っていた一人の兵士が帰って来て本物の招待状である事を伝えられた

 

「よし、確認も取れた。お前達は行っていいぞ」

 

ハジメ達が帝城へと入ろうとした時、一人の兵士が近付きシアに声を掛けた

 

「ちょっと待ちな。よぉ、ウサギの嬢ちゃん。ちょっと聞きてぇんだけどよ。・・・俺の部下はどうしたんだ?」

 

「部下?・・・っ・・・あなたは・・・」

 

最初は分からなかったシアだが、直ぐに察して驚愕の表情を浮かべていた。かの兵士は、樹海を出たばかりの頃のシア達を散々追い詰めた連中の一人だった

 

「おかしいよな?俺の部下は誰一人戻って来なかったってぇのに、何で、お前は生きていて、こんな場所にいるんだ?あぁ?」

 

「ぅあ・・・」

 

シアをジリジリと追い詰める兵士。シアにとって一番嫌な記憶がフラッシュバックを起こし、気圧されてしまう。だが、そんなシアの頬を摘まんで緊張感をぶち壊した皐月が彼に言い放つ

 

「貴方が誰か知らないけど、シアは私達の仲間よ。部下が戻って来なかったのはお前のせいだって言いたそうだけれど、それはお門違いよ。シアに聞いたわよ?ライセン大峡谷へと追いやられたって。大方、目先の欲に駆られて奥深くまで入り込んで魔物に食べられでもしたのでしょ?この世は弱肉強食、弱者は強者に従う―――帰って来なかった部下は魔物に敗れたという事よ。帝国の兵士なのにそんな事も理解していないなら、帝国に相応しくない考えの持ち主ね」

 

「ガキが粋がってんじゃねぇぞ!」

 

彼は激情に駆られて腰に下げていた剣を掴んで引き抜こうとしたが、深月の寸止めの目潰しに動きを止めた

 

「リリアーナ様に招待されている身分とはいえ、お嬢様方に危害を加えるのであれば――――殺しますよ?」

 

「ッ!?・・・・・チッ、案内係!とっとと連れて行け!」

 

「はっ、はい!」

 

彼は目を血走らせながらも、何かを我慢して凶悪な視線を向けながらも案内係に誘導を指示した。恐らくだが、このパーティーでは手を出さないという事だろう。詰所を離れ、案内されるまま歩きながら先程の話を蒸し返す

 

「やれやれ、躾けのなっていない奴だったな」

 

「帝国の弱肉強食を分かっていない馬鹿よね」

 

「・・・パーティーが終われば手を出してきそう」

 

「粘着な人ですねぇ」

 

「情けない男じゃのう」

 

「何と言うか・・・いかにも小物って感じだったね」

 

本人が居ない事を良しとして、ハジメ達は思った事を言いたい放題言っていた

ハジメ達は帝城の奥へと進み、大きな扉の一つに案内された。ハジメ達の待機室はこの場所なのだろう。扉を開けると、花嫁衣装を着たリリアーナとメイドのヘリーナ。そして、ついでの勇者(笑)パーティーの面々達も居た

 

「おっす、姫さん。どんな感じだ?」

 

「政略結婚ですよ?どんなも何もありません。私は、無事に同盟が結べるかを心配しているだけです」

 

「ふ~ん、何処の世界でも結婚衣装は白なのね」

 

「いえ・・・私のこの衣装が白いだけですよ?他の方達は目立ちやすい赤等が多いです。私がこの色にした理由は、汚れを知らないという意味を込めての色です」

 

白=誰にも手を付けられていないという事で、自分の価値を少しでも上げて帝国と良い関係を築こうとしているのだ。しかし、現時点ではとても厳しい

 

「なるほどねぇ~。確かに、事を致していないアピールをして自分の価値を上げるのは良い手ね。でも・・・深月から聞いたわよ?帝国が有利になる材料を作ったって――――ねぇ?お花畑勇者さんと愉快な仲間達?」

 

「お、お花畑勇者?」

 

「愉快な仲間って?」

 

「ムツ〇ロウじゃないわよ!」

 

「し、シズシズ落ち着いて!?」

 

八重樫は頭に血が登っているが、谷口が諫めに掛かった事で冷静さを徐々に取り戻した

 

「・・・・・はぁっ、どうして私が愉快な仲間の一人に入っているのよ」

 

「そこのお花畑勇者のストッパー係をしているから」

 

「そんな係なんて手放したいわよ!」

 

「雫、落ち着くんだ!俺は誰も困らせないし、この世界の人達を助ける為に俺達は行動しているから大丈夫だ!」

 

何処がどう大丈夫なのかが全く分からない。皐月は顔に手を当てて空を見上げて現実逃避した後、リリアーナとこれからの事について話す

 

「もう・・・あれはどうでもいいわ。よく聞いてリリィ、今は受けの状態かもしれない。だけど、強気で攻める事を諦めちゃ駄目よ。引いたら最後、ズブズブとつけ込まれるわよ」

 

「分かっています。ガハルド陛下に隙を見せればあっという間に奪われてしまいます。いえ、殆ど奪われている状態から奪い返す事に注力したいと思います」

 

「どれぐらい不利?」

 

「今で8:2です」

 

「はぁ~~~~、本当にどうしてこうなったのやら・・・」

 

「神楽さんのあの行動は、私の交渉を有利に進める為に行った事ですよね?」

 

「そう言ってたわ。でも、お花畑勇者が介入しても攻撃しないと想定していたらしいわ」

 

「ですよね。・・・光輝さんの行動はどことなくおかしいのです。まるで第三者からの目線で見ているかの様な行動―――操られていませんよね?」

 

「前に言ったでしょ?人間は正しい事しかしない性善説を信じているのよ。そして、気に入らない者は無意識に否定する。理想ばかり振りかざして、周囲の人間を殺すタイプな奴よ。今からでも遅くないから、信頼せず只の道具として見なさい。八重樫さんは優柔不断だから、ズルズルと引き摺られてあの有様よ」

 

「・・・ですが、それは出来ません。私達の都合で彼等を呼んでしまったのです。・・・帰る目戸が立つまでは保護しなければいけません」

 

リリアーナの目は力強く、これだけはやらなければいけないという使命感を帯びた物だった。皐月はこれ以上の強制は良くないと分かり、これ以上は何も言わずに傍観者へと徹した

 

「リリィ、大丈夫だ。俺が皆を守る!そして、無理な結婚も取り止められるようにする!それまで我慢していてくれ!」

 

リリアーナは、苦笑いで天之河とのやり取りを流す。それからは、昨日の出来事の話に移る

 

「それよりも、地下牢に居たハウリア達を脱走させたのは南雲さん達ですよね?」

 

「いやいや、こんな厳重な警備の中を潜り込むなんて出来ねぇぞ」

 

「絶対に嘘ですよね!?」

 

「まぁまぁ、夜を楽しみに待とうぜ?パーティーの主役なんだからもっとリラックスしろよ」

 

「リラックス出来ると思っていますか?私が来てから問題続きで関係者じゃないかと疑われているのですよ!?」

 

「これを舐めて落ち着いて下さい」

 

深月がリリアーナに手渡した薄黄色の玉。リリアーナは不思議に思いつつ、新しい煮凝りか何かと思いながら口に含むと、蜂蜜の風味が口全体に広がる。これは深月お手製の蜂蜜飴である

 

「・・・美味しいです」

 

モゴモゴと蜂蜜飴を舐めるリリアーナ。それに一早く反応したのは、食に飢えているハジメだった

 

「おいこら深月ぃ!姫さんに食べさせたやつは何だ!」

 

「飴玉です」

 

「砂糖菓子!?リリィだけズルい!私にも食べさせて!」

 

「残り一個しかありませんので、お嬢様にお渡しします」

 

ハジメ残念。仮初の主と本来の主となれば、優先順位は皐月となる。ハジメは四つん這いとなって落ち込み、皐月は早速口に入れて味わう様に舐める

 

「おいしぃ~♪」

 

「また作れよ!絶対だぞ!!」

 

「ハジメさんにはこちらです」

 

深月はスティック状の物をハジメの口に突っ込む。ハジメは戸惑いながらそれを舐めると、柑橘の爽やかな風味が広がる

 

「・・・美味ぇじゃねぇか」

 

これも深月が作った砂糖菓子である。砂糖そのものが高い為、数量は少ないのが難点だ

 

「・・・二人だけズルい」

 

「わたしにも下さい!いえ、食べさせて下さい!」

 

「わ、妾も欲しぃのじゃあ~!」

 

「砂糖菓子・・・ゴクリ。私も欲しい!」

 

深月に群がるユエ達の口に一本ずつ突っ込む様子は、まるで親鳥が雛鳥に餌を与えている光景を錯覚させる。ユエ達にも餌を与え終え、食べ終える頃に扉がノックされた

 

「誰ですか?」

 

『リリアーナ姫が招待された者達はこちらにいらっしゃいますか?皇帝陛下がお会いになれたいとの事です』

 

「南雲さん達を?」

 

恐らくハウリア達の事を聞くのだろう。リリアーナはハジメ達に視線を向けると、「ヤレヤレ仕方が無ぇな」と肩を竦めていた

 

「えっと・・・大丈夫ですよね?」

 

「バカな事をしなかったら大丈夫よ」

 

「先に言っておきますが、ガハルド陛下は気に入ったら手に入れる人です。十分注意して下さい」

 

「会っても何も渡さないから大丈夫よ」

 

「分かりました。南雲さんはあれですので・・・皐月に判断を任せます」

 

「手加減はするわ」

 

皐月とのやり取りを終え、リリアーナは入室の許可を出す

 

「急な要件に失礼致します。ガハルド陛下が応接室でお待ちです。リリアーナ姫や勇者達もご同行出来ますが・・・如何されますか?」

 

「行きます。この呼び出しは私が招待した事が切っ掛け―――ならば、私も同行しなければなりません」

 

「では、そちらの勇者様もご同行して頂きます」

 

「リリィが行くなら俺が護ってみせる!」

 

天之河の事は放置して、リリアーナとハジメと皐月を先頭に一行は応接室へと向かう

ハジメ達が通された部屋は、数十人くらいは座れる縦長いテーブルが簡素に置かれた一室だった。そして、上座に位置する場所で、頬杖をついて不敵な笑みを浮かべる男――――ヘルシャー帝国皇帝ガハルド・D・ヘルシャーがいた。彼の背中に二人、見るからに"出来る"オーラを纏った男二人が控えていた

 

「お前が、南雲ハジメと高坂皐月と神楽深月か?」

 

ハジメ達が入室するなり、リリアーナによる紹介や勇者に対する挨拶をすっ飛ばして、ガハルドの鋭い眼光が突き刺さる。同じ王族であるリリアーナは息苦しそうに小さな呻き声を上げ、天之河達は思わず後退りする。しかし、視線を向けられた等の本人達は、「どうした?」とどこ吹く風だ

全く変化の無いハジメ達を見て、ガハルドはますます面白げに口元を吊り上げ、三人は返事を返す

 

「ええ、俺が南雲ハジメですよ。御目に掛かれて光栄です、皇帝陛下」

 

「「「「「!?」」」」」

 

「皇帝陛下の仰られた通り、私は高坂皐月です。実力主義の陛下にお目をかけて頂けるとは光栄です」

 

「私は神楽深月、高坂皐月お嬢様の忠実なるメイド()でございます」

 

皐月や深月はともかく、ちゃんとTPOをしているハジメを見た天之河達の眼が、「お前、誰だよっ!」と物語っていた。特にリリアーナの動揺が酷く、「えっ?えっ?えぇ!?」と愕然とした表情でハジメを凝視している。一応リリアーナから招待されているとはいえ、今夜のパーティーに用事があるハジメとしては帝城から追い出されるわけにもいかない

 

「ククク・・・思ってもいない事を。普段の傍若無人な態度はどうしたんだ?ん?何処かの王女様が対応の違いに泣いちまうぞ?」

 

ハジメはリリアーナをジロリと見るが、リリアーナはプイッとソッポを向いて無視した

 

「似合わねぇ喋り方してぇねぇで、普段通り話しな。俺は、素のお前達に興味があるんだ」

 

「・・・はぁ、そうかい。んじゃ、普段通りで」

 

「普段通りで良いなら楽出来るわね」

 

「くく、それでいい」

 

ハジメ達は席へと座り、ガハルドは意味深めにシアを見た後、八重樫の方へと視線を向ける

 

「雫、久しいな。俺の妻になる決心は付いたか?」

 

「お、おい!雫は、既に断っただろう!」

 

「子供が一々茶々入れるなよ。俺は雫本人に聞いているんだぜ?」

 

八重樫は溜息を吐きながら、澄まし顔で拒否する

 

「前言を撤回する気は全くありません。陛下の申し出はお断りさせて頂きます」

 

「つれないな。だが、そうでなくては面白くない。元の世界より、俺がいいと言わせてやろう。その澄まし顔が俺への慕情で赤く染まる日が楽しみだ」

 

「そんな日は永遠に来ませんよ。・・・というか、皇后様がいらっしゃるでしょう?」

 

「それがどうした?側室では不満か?ふむ、正妻にするとなると色々面倒が・・・」

 

「そういう意味ではありません!皇后様がいるのに他の女に手を出すとか・・・」

 

「何を言っている?俺は皇帝だぞ?側室の十や二十、いて当たり前だろう」

 

「ぐっ・・・そうだったわ。と、とにかく、私は陛下のものにはなりません。諦めて下さい」

 

「まぁ、神による帰還が叶わない以上、まだまだこの世界にいるのだろうし、時間をかけて口説かせてもらうとしようか。クク、覚悟しろよ、雫」

 

ガハルドにすっかりと気に入られている八重樫に、ハジメと皐月は、「苦労人だ(ね)」と明らかに面白がっていた。二人のその反応にイラっとした八重樫は、紅茶に付いて来た角砂糖二つを二人の顔面に弾き飛ばす。しかし、ハジメは難無く口でキャッチし、皐月に向かって来たのは深月の弾いた角砂糖に迎撃されて八重樫の紅茶の中へ入った。八重樫の表情は悔し気に、ハジメと皐月の二人は澄まし顔だ。一連のやり取りを見ていたガハルドは、改めてハジメに鋭い視線を向ける

 

「ふん、面白くない状況だな。・・・南雲ハジメ。お前には聞きたいことが山ほどあるんだが、まず、これだけ聞かせろ」

 

「ああ?なんだ・・・」

 

「お前、俺の雫はもう抱いたのか?」

 

「「「「ぶふぅーー!?」」」」

 

ガハルドの唐突な発言に、八重樫を含めた数人が紅茶を噴き出した。そして、彼の背に控えている護衛達も、「陛下・・・最初に聞くのがそれですか・・・」と頭が痛そうな表情をしていた

 

「ちょっ、陛下!いきなり何をっ・・・」

 

「雫、お前は黙っていろ。俺は、南雲ハジメに聞いてんだよ」

 

「何をどうしたらそんな発想に辿り着くんだよ」

 

「どうやら、雫はお前に心を許しているようだからな・・・態度から見て、ないとは思うが、念のためだ」

 

「はぁ、あるわけないだろ」

 

「・・・ふむ、嘘はついてないな。では、雫のことはどう思っている?」

 

ガハルドの質問に、この部屋に居る皐月と深月以外の皆の視線がハジメに集まる。ユエ達や天之河達も様々な意味を込めている視線を向けていた。当の本人は顔を赤らめているが、ハジメが八重樫に対して思っている事は唯一つ―――

 

「・・・オカンみたいな奴」

 

「OK、その喧嘩買ったわ。表に出なさい、南雲君」

 

未だ成人もしていない女性に向けての、"オカンみたい"というのは酷い感想だ。無謀にもハジメに掴みかかろうとしていた八重樫は、天之河達に宥められていた

 

「・・・まさかの回答だが・・・まぁ、いい。雫、うっかり惚れたりするなよ?お前は俺のものなのだからな」

 

「だから、陛下のものではありませんし、南雲君に惚れるとかありませんから!いい加減、この話題から離れて下さい!」

 

「分かった、分かった。そうムキになるな。過剰な否定は肯定と取られるぞ?」

 

「ぬっぐぅ・・・」

 

八重樫は椅子にドカッと座り、苦笑いする坂上と谷口。それと、何故かハジメを睨む天之河だった

 

「南雲ハジメ。お前も、雫に手を出すなよ?」

 

「興味の欠片もねぇから、安心しろ。つか、ホント無駄話しかしないなら、もう退出したいんだが?」

 

「無駄話とは心外だな。新たな側室・・・あるいは皇后が誕生するかもしれない話だぞ?帝国の未来に関わるというのに・・・まぁ、話したかったのは確かに雫の事ではない。分かっているだろう?お前達の異常性についてだ」

 

ガハルドは、「おふざけもここまでと」態度を切り替えてハジメ達を見ながら話を変える。彼がリリアーナに招待されたハジメ達を呼んだのはこの事についてだ

 

「リリアーナ姫からある程度は聞いている。お前が、大迷宮攻略者であり、そこで得た力でアーティファクトを創り出せると・・・魔人族の軍を一蹴し、二ヶ月かかる道程を僅か二日足らずで走破する、そんなアーティファクトを。真か?」

 

「ああ」

 

「そして、そのアーティファクトを王国や帝国に供与する意思がないというのも?」

 

「ああ」

 

「ふん、一個人が、それだけの力を独占か・・・そんな事が許されると思っているのか?」

 

「誰の許しがいるんだ?許さなかったとして、何が出来るんだ?」

 

ハジメの簡素な返しに、ガハルドは視線を更に鋭くさせて睨む。周りの控え達も続く様に殺気を混ぜて威圧する。リリアーナは相当苦しそうに歯を食いしばって耐え、天之河達は顔を強張らせて戦闘態勢に入った。しかし、皐月がスッと視線をあちらこちらに向けた。それに気付かない馬鹿でないガハルドは、威圧を霧散させる

 

「はっはっは、止めだ止め。ばっちりバレてやがる。こいつ等は正真正銘の化け物だ。今やり合えば皆殺しにされちまうな!」

 

「なんで、そんな楽しそうなんだよ?」

 

「おいおい、俺は"帝国"の頭だぞ?強い奴を見て、心が踊らなきゃ嘘ってもんだろ?」

 

「戦闘狂ねぇ~・・・めんどくさ」

 

天之河達は訳も分からず、空気が元に戻った事に安堵する一方で、ガハルドに呆れるハジメと皐月

 

「それにしても、お前が侍らしている女達もとんでもないな。おい、どこで見つけてきた? こんな女共がいるとわかってりゃあ、俺が直接口説きに行ったってぇのに・・・一人ぐらい寄越せよ、南雲ハジメ」

 

「馬鹿言うな。ド頭カチ割るぞ・・・・・いや、ティオならいいか」

 

「っ!?な、なんじゃと・・・ご、ご主人様め、さり気なく妾を他の男に売りおったな!はぁはぁ、何という仕打ち・・・たまらん!はぁはぁ」

 

「ちょっと問題あるが、いい女だろ、外見は」

 

「すまんが、皇帝にも限界はある。そのヨダレ垂らしている変態は流石に無理だ」

 

「こ、こやつら、本人を目の前にして好き勝手言いおって! くぅうう、んっ、んっ、きっと、このあと陛下に無理矢理連れて行かれて、ご主人様の目の前で嫌がる妾を無理やりぃ・・・ハァハァ、んっーー・・・下着替えねば」

 

皐月は深月に向けて、指で首を掻き切る合図を送った

 

「少しばかり調教が必要の様ですね?」

 

「・・・すまんかったのじゃ。だから~・・・ゆ、許してくれんか・・・の?」

 

「大丈夫ですよ?破裂したら香織さんの再生魔法で元通りになるだけです♪」

 

「ヒィッ!?」

 

ティオの怯え様を見たリリアーナ達が「破裂?」と口漏らす中、深月はティオの片腕を掴んだ

 

「一本程度なら良いですよね?」

 

「駄目なのじゃああああ!例え元に戻るとはいえ痛みはあるのじゃぞ!?」

 

「淑女としての再教育を施したのにも関わらず、権力者の前でのこの暴走―――今なら、腕部、脚部、内臓の三種類のどれかを選べますよ?」

 

「嫌じゃああああ!どれもヤバイ場所なのじゃあああああ!」

 

「私のオススメは、フルコースですよ?」

 

「即死の間違いじゃ!」

 

深月の目の前で必死に土下座をするティオ。恥も外聞も全てを投げ捨ててでも行わなければ、この場であろうと実行する。実際、再教育中に暴走した際、手加減した発勁をねじ込まれて悶絶したのは真新しい記憶なのだ。痛みを快感へと変換の技能を貫通しての一撃は、ティオにトラウマを植え付けていたりする

 

「・・・さて、話を戻そう。俺としては、そちらの兎人族の方が気になるがね?そんな髪色の兎人族など見た事がない上に、俺の気当たりにもまるで動じない。その気構え、最近捕まえた玩具を思い起こさせるんだが、そこのところどうよ?」

 

「玩具なんて言われてもな・・・」

 

「心当たりがないってか?何なら、後で見るか?実は、何匹かまだ・・・いてな、女と子供なんだが、これが中々――」

 

「興味ないな」

 

「ほぉ。そいつらは、超一流レベルの特殊なショートソードや装備も持っていたんだが、それでも興味ないか、錬成師?」

 

「ないな」

 

「・・・そうかい。ところで、昨日、地下牢から脱獄した奴等がいるんだが、この帝城へ易々と侵入し脱出する、そんな真似が出来るアーティファクトや特殊・・な魔法は知らないか?」

 

「知らないな」

 

「・・・はぁ・・・ならいい。聞きたい事はこれで最後だ・・・神についてどう思う?」

 

「ぶち殺す」

 

「あ~、もう、分かった分かった。ったく、最後のはともかく、愛想のねぇガキめ」

 

ガハルドはガリガリと頭を掻きながら悪態をつく。予想としては、ハジメと皐月の作ったアーティファクトでハウリア達を逃したと思っていたが、返って来たのはこの世界の問題はどうでもいいと言った具合だ。だが、最後のエヒト関連については殺気が少し漏れ出ていた事から、ハジメの仲間の誰かを襲う可能性があると予想した

 

「しっかし、俺の威圧や殺気に無反応ってのはどういう事だ?何かしらの反応位はさせようとしたんだが」

 

「はっ!あの程度そよ風みたいなもんだよ。・・・・・深月が本気でキレた時の殺意の方がヤバイ」

 

「同感、深月が本気を出したら国落とし出来・・・あれ?本気じゃなくても余裕で出来そう・・・」

 

「流石に国落としをしようとは思いませんよ」

 

「しようとは思わない―――か。俺の下でその力を存分に振るわないか?」

 

「冗談でもブッ飛ばすぞ?」

 

「深月は私のメイド、誰にも渡さないわよ」

 

「私はお嬢様と将来の旦那様になられる予定のハジメさん以外の人の下では働きません」

 

ハジメと皐月は威圧を込めた視線をガハルドに、深月は全く興味が無い素っ気ない返事を返す

 

「つれない事言うなよ。数日の間だけリリアーナ姫の下で働いたのは知ってるんだぞ?」

 

「あれは、王国とリリアーナ姫個人の後ろ盾を手に入れる為にしたのよ。何でもかんでも奪う帝国よりも信頼出来るの――――ハウリア程度に逃げられる帝国の後ろ盾を作ってもねぇ?」

 

「ありゃあ誰かの手助けがあったから逃げられただけだ」

 

「運も実力の内よ。深月の件は主として認可出来ないから諦めなさい。もし、実力行使してきたら――――深月単独で帝国を蹂躙するように命令するわよ」

 

「そりゃあ勘弁だな。まぁ、最低限、聞きたい事は聞けた・・・というより分かったから良しとしよう。ああ、そうだ。今夜、リリアーナ姫の歓迎パーティーを開く。是非、出席してくれ。姫と息子の婚約パーティーも兼ねているからな。真実は異なっていても、それを知らないのなら、"勇者"や"神の使徒"の祝福は外聞がいい。頼んだぞ?形だけの勇者君?」

 

「なんだと!」

 

「勇者パーティーは理解出来ていなさそうだからハッキリと言っておいてやる。お前が本当の神の使徒に攻撃してくれたお陰で王国に色々と吹っ掛けられたぜ。その一点だけには感謝しているさ。ハッハッハハハハ!」

 

捨て台詞を残し、ガハルドは応接室を出て行った。ハジメ達は俯いているリリアーナを見て、内心で「色々大変だなぁ」と思い、ガハルドの言葉をよく理解していない天之河と坂上は首を傾げている

 

「ね、ねぇリリィ・・・ガハルド陛下の言っていた事って」

 

「えっと~・・・ヤバい感じなの?」

 

八重樫は事の大変さを理解し、谷口は少しだけ大変そうだと感じている模様。そんな彼等を見て、皐月はほんとうに残念な子供を見るみたいに溜息を吐く。深月に関しては彼等は既に理解していたと思っており、予想外の回答に表情は崩さずに驚愕していた

 

「うっわ~、リリィ、本当にご愁傷様としか言えないわ。帝国に何を要求されると思う?私は戦後の統治権についてだと思うわ」

 

「いえ・・・国家間の上下関係についてかもしれません」

 

「そりゃあ終わったな」

 

「南雲さん達からすれば他人事ですからね!くぅっ、考えて動いた結果がこんな事になるなんて・・・何故私ばかりこんな思いをしなければいけないんですかぁ!」

 

「・・・ストレスハゲ」

 

「ハゲませんよ!ユエさん、何気に酷すぎません!?」

 

ハジメ達は所詮他人事なので、お気楽に楽しみながらリリアーナと話しているが、その様子が気に入らない天之河が割って入る

 

「南雲、いい加減にしろ!リリィが困っているじゃないか!」

 

いやいや、リリアーナが困っている原因を作ったのはお前だろ―――と心の中でツッコミを入れて、面白半分で天之河の言い分を聞く

 

「なんて酷い奴なんだ。好きでもない人と結婚するリリィを笑うなんて人として最悪だ!お前は困っているリリィを助ける事なんて何もしない。大丈夫だよリリィ、この世界を平和にした暁には俺が開放してみせる!」

 

天之河自身は、気付かない特大ブーメランが突き刺さる。そもそも、リリアーナが困っている原因を作り出したのは天之河の行いのせいだ。確かにリリアーナの不幸を笑うのは趣味が悪いが、それは不器用なハジメなりの気遣いでもある

 

「ハジメ、早くこの部屋から出たいわ。パーティーの主役であるリリィも、そろそろ最終準備に取り掛かるだろうから会場に行きましょ」

 

「確かにそうだな。んじゃあ姫さん、俺達は一足先に会場に向かうぜ」

 

「待て南雲、話は終わってないぞ!」

 

ハジメ達は天之河を無視して部屋を退室して会場へと向かった。少しして、リリアーナも最終準備という事で、天之河達を連れて元の部屋へと帰って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「メイドさんは狙われたが、お嬢様達は絶対に手放さない」
深月「メイド冥利に尽きます」
布団「これからも頑張ってメイドメイドしましょう!」
深月「全力全開でお嬢様にお仕えする事こそ、メイドの勤めで御座います」
布団「話は変わって報告です。pixivの方でもお話を投稿しています。これに関してはフォント変換をしない形で一日毎の投稿になります。執筆しながら手を加えているのでご了承下さい」
深月「メイド成分を拡散していますね?」
布団「それと、帝国のお話は難産なのでお時間頂きます。と言っても、週一で書けそうなので変わらないと思われ」





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メイド成分が無くなった

布団「タイトル通りメイド成分が無くなるお話だよ!」
深月「えっ、私が居なくなると?」
布団「大丈夫、メイド服成分が無くなるだけさ!」
深月「それは・・・大丈夫と言えるのでしょうか・・・」
布団「帝国のお話はあと少し・・・あと少しで終わる筈だ。それが終われば大迷宮~」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」







~深月side~

 

リリアーナと別れて様子見で会場入りしたハジメ達は、周囲の者達から注目を集めていた。綺麗な女性が多い為致し方が無いとはいえ、皐月達を舐める様に見ている視線ばかりだったので少しだけ威圧を込めて睨む。ハジメから発せられた圧に顔を青褪めさせた者達はサッと視線を外す

 

「俺の皐月を舐め回す様に見やがって」

 

「パーティーではよくある事だからあまり気にしていないわよ」

 

「俺が嫌だからな」

 

「私がハジメの女という事を宣言してくれてとっても嬉しいわ」

 

公の場でイチャイチャする二人を見て、羨ましそうに見るユエ達。だが、この場では一番優先されるのは皐月に他ならない。ハーレムを容認するだけに止まらず、しっかりとそれぞれの時間を与えている事から、ユエとシアは諦められるのだ。しかし、未だにハーレムの条件を達成していない二人は空振りするばかりである

 

お嬢様はハジメさんが相手をしてくれていますので行動に移りましょう

 

深月はハジメと皐月に一言入れて、小さなアーティファクトを受け取ってその場から離れる。深月の行く先はリリアーナの待機室で、時間的に丁度だろうと予測したのだ。待機室前に辿り着くと、見慣れない男が天之河達やメイドを外に出して入ろうとしていた。深月はそのまま音を立てずに男と共に待機室へ侵入に成功し、二人から渡された二匹のアーティファクトを解き放ち観察する事にした

 

「ふん、飼い犬の躾くらい、しっかりやっておけ」

 

「・・・飼い犬ではありません。大切な臣下ですわ」

 

「・・・相変わらず反抗的だな?クク、まだ十にも届かないガキの分際で、いっちょ前に俺を睨んだだけのことはある。あの時からな、いつか俺のものにしてやろうと思っていたんだ」

 

あぁ、なるほど・・・味見をするつもりなのですね。流石にそれはドン引きですよ

 

待機室へ入った男の正体は、リリアーナの結婚相手のバイアスという男だ。顔を強ばらせながらリリアーナを見ている事と、人となりの情報を収集した事からこれから起こる事を予測出来たのだ。そして、深月の予測通りバイアスはいやらしい笑みを浮かべながら、強引にリリアーナの胸を鷲掴んだ

 

「っ!?いやぁ!痛っ!」

 

「それなりに育ってんな。まだまだ足りねぇが、それなりに美味そうだ」

 

「や、やめっ」

 

乱暴にされ、痛みに表情を歪ませながら外に助けを求める様に声を上げる

 

残念ですが防音仕様のこの部屋では無意味です。しかし、常人よりもステータスが上である筈の八重樫さん達は例外では?お嬢様からの忠告もあった筈ですし・・・平和すぎる日本の常識が思考を邪魔しているのでしょうか?

 

深月が色々と考えている間にも状況は動く。リリアーナはバイアスによって床に押し倒されている

 

「いくらでも泣き叫んでいいぞ?この部屋は特殊な仕掛けがしてあるから、外には一切、音が漏れない。まぁ、仮に飼い犬共が入ってきても、皇太子である俺に何が出来るわけでもないからな。何なら、処女を散らすところ、奴等に見てもらうか?くっ、はははっ」

 

「どうして・・・こんな・・・」

 

「その眼だ。反抗的なその眼を、苦痛に、絶望に、快楽に染め上げてやりたいのさ。俺はな、自分に盾突く奴を嬲って屈服させるのが何より好きなんだ。必死に足掻いていた奴等が、結局何もできなかったと頭を垂れて跪く姿を見ること以上に気持ちのいいことなどない。この快感を一度でも味わえば、もう病みつきだ。リリアーナ。初めて会ったとき、品定めする俺を気丈に睨み返してきた時から、いつか滅茶苦茶にしてやりたいと思っていたんだ」

 

「あなたという人はっ・・・」

 

「なぁ、リリアーナ。結婚どころか、婚約パーティーの前に純潔を散らしたお前は、どんな顔でパーティーに出るんだ?股の痛みに耐えながら、どんな表情で奴等の前に立つんだ?あぁ、楽しみで仕方がねぇよ」

 

リリアーナは涙を堪え、それを見ているバイアスはニヤニヤとしている。これが帝国皇太子として本来の姿なのだろう。相手に恥をかかせない様に選んだドレスは引き千切られ、シミ一つ無い綺麗な肌が露になり羞恥で顔が真っ赤になる。はだけた場所を隠そうにも両手は押さえられ、両足の間にも膝を入れられて隠す事が出来ない

 

リリアーナ様、諦めては駄目ですよ!金的して物理的に不能にしてしまえば大丈夫です!

 

だが、恐怖で強張ったリリアーナはなす術も無くドレスの全てを剥がされてしまった。リリアーナは、政略結婚とは理解していた

恐怖と嫌悪で誰も助けに来てくれない現実に、リリアーナは絶望した。メイドのヘリーナも、護衛の騎士も、護ると豪語する天之河も助けに来ない。例え政略結婚をしても、将来的には幸せになりたかった―――笑いあって支える存在となりたかったと心が叫ぶ。そんな中ふと思い出した事、香織と八重樫に何時か聞かされた話―――ピンチの時に颯爽と現れて救う者のおとぎ話。王女としての場合なら、現実味を帯びない話に笑っていただろうが、今は一人の女としての願いで―――――心の中で「助けて!」と叫んだ

すると、バイアスの肩の上に二匹の蜘蛛が降り立った。それを見たリリアーナが、驚きで目を見開いて見ていると、一匹の蜘蛛が足の一本をバイアスの首筋にプスリと突き刺した

 

「いつっ!なんだ?」

 

首筋に痛みを感じたバイアスは、リリアーナにキスをしようとした寸前で顔を離して刺された首筋を押さえる。そして、もう片方の肩に乗っていた蜘蛛が反対側の首筋に片足をプスリと突き刺す

 

「いっ!?・・・く、くびびびびびびびびび!?」

 

バイアスはリリアーナの横に倒れ伏し、痙攣して意識を失った。二匹の蜘蛛は、地面を走って白い布に登り、ポケットの中へと入って行った

 

「へっ?」

 

「ようやくお気付きですか?」

 

「か、かっ、かっ、神楽さん!?一体何時の間に!?貴女は皐月と一緒に居たのでは!?」

 

「お嬢様はハジメさんとラブラブしています。それと、私はそこの皇太子と一緒に入りましたよ」

 

「最初から居たのですね!?だったら助けて下さいよ!」

 

「いえいえ、私はリリアーナ様が攻撃に転じたのであれば手を貸すつもりでしたよ?」

 

「帝国との同盟が失敗したら何もかもが終わるので無理ですよ!」

 

リリアーナは深月にツッコミを入れているが、重要な事を忘れているので深月がその事について尋ねる

 

「私にツッコミを入れるのは構いませんが・・・見えてますよ?」

 

「え?」

 

深月が指差すはリリアーナで、体の部分を指されている。リリアーナは、指差された先を見ようと視線を下ろすと、パンツ以外何も身に着けていない自分の姿を見て顔を真っ赤にした

 

「・・・教えて下さいよ」

 

「えっ・・・ドレスが引き千切られた事は理解していましたよね?・・・今の状況で私のせいにするのは如何なものかと」

 

「蜘蛛と深月さんが居た事実に忘れてしまっていたんですよ!」

 

「引き千切られたドレスは勿体無いですね。修復するにも時間が掛かりますし・・・新しいドレスを着るというのは如何ですか?」

 

「そう・・・ですね・・・漆黒のドレスでお願いします」

 

「なるほど、少々お待ち下さい」

 

深月は、部屋の中にあった黒いドレスを手に取って糸状に分解する

 

黒でフワフワフリフリのドレスは誰も着ないと思うのですが・・・そこは放置しましょう。レースアップのロングマーメイドにアームカバーが良いですね。鎖骨のラインと二の腕だけの露出で注目も集まるでしょうし、政略結婚の為とアピールも出来ますので最高です。金色の糸は無いので魔力糸で代用。模様の装飾をして、ブローチはサファイアで引き立てましょう!リリアーナ様は「誠実」「慈愛」「徳望」の三点にピッタリですし、これから起こる事を考えれば"幸運"がリリアーナ様に降りますから

 

深月の手が動き、残像を生み出しながら形作られるドレスは肩端を隠し、肩から鎖骨ラインを露にしつつも体のラインがクッキリと出るマーメイドドレスが仕立てられた。本来は膝下部分で波打たせているのだが、これに関しては足首部分まで伸ばしつつ、ダンスに差し支えない様に大きく流れる様な布仕立てにした。アームカバーは、指先まで包まれつつも、伸縮性のある魔力糸を混合した布でズレる事の無い一品と仕上がった

リリアーナは深月が仕立てたドレスを身に着け、アームカバーを装着してブローチを付けて完成した

 

「・・・神楽さんに出来ない事ってあるのですか?あの短時間でドレスを仕立てるなんて・・・専門職の方でも出来ませんよ?」

 

「技能で裁縫を持っていますので」

 

リリアーナは、これ以上はツッコミを入れても無駄だと悟った。この場でやるべき事は全て終えた深月は、皐月達のドレスを用意しようとこの場を離れる。扉が開かれて普通に出て行った。しかし、表に居る者達は何も気付いていないのか、入ってくる様子が無かったのでリリアーナから扉を開け、バイアスが急に倒れたという事にして部屋を移動した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

深月が皐月達と合流してユエ達女性陣がドレスへと着飾る。ユエ達は帝国で予め用意されていたドレスを着た。元の素材が良い為目を引く存在なのだが、今回も相手が悪かった。皐月のドレスは、深月が一から仕立てたドレスで、デザインはハジメが考えたものだった

↑(※ネロブライドの第二再臨のドレスだと思って下さい)

オタク知識全開で深月に注文したハジメは、皐月の姿を見た瞬間コロンビアポーズで喜びを露にした。深月はやり切ったと言わんばかりに額に流れる汗を拭っていた。ティオと香織が深月にドレスを仕立ててもらおうと突撃しようとしたが、ユエとシアの二人に止められて諦めたのだった

さて、改めて皐月達のドレス姿を確認しよう。今回の主役はリリアーナとバイアスの二人だが、その立場を奪う程の華がある皐月達の事を考えるとやり過ぎた感が否めない。だが、ハジメに後悔はなく、深月に至っては興奮しすぎてうっかりと鼻血を垂れ流してしまっていた程だ

 

「フヘヘヘ、お嬢様お美しい~!」

 

「深月、かなり危ない絵面になっているから気を付けろ」

 

「ハジメさんはお嬢様のお姿を見て興奮しないのですか!?」

 

「興奮するに決まってるだろ!それより深月も着替えろよ。パーティー参加者はドレス必須だぞ?」

 

「私はメイドです!」

 

深月は頑なにメイド服から着替えるつもりはないらしく、今は皐月の姿を多くでも脳内保存している。テコでも動きそうにない深月を前に、ハジメは最終兵器を投入する事にした

 

「お~い皐月~、深月にもドレス着させようぜ?」

 

「え"っ!?」

 

「深月、ステーイ。一緒にドレスを着ましょう?拒否は認めないわ。さぁ、行くわよ!」

 

「め、メイドですので・・・私は別に・・・」

 

「却下」

 

「そ、そんな・・・バカな・・・」

 

深月に逃げ場はなく、おとなしくドレスを着る他ない。皐月は深月を試着室へと連行して行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――十分後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメはお酒を飲もうとグラスを取ろうとした時、会場の一角が騒めきだした。「姫さんが来たのか?」とそちらへ視線を向けると、皐月と同色の白いドレスを纏った白銀の美女が居た

↑(※英霊祭装:アナスタシアのドレスと思って下さい)

無意識なのか、見惚れているハジメに気付いたユエが肘打ちをして目で「この場で皐月以外に見惚れるな」と警告を込めた視線を向けていた。ハジメは、ハッと気付き気持ちを切り替えて心の中で「皐月は最高」と呟き、先程の姿を思い出して落ち着きを取り戻した

しかし、事態は急変する。なんと、ハジメが見惚れていた白銀の美女がこちらへと近づいて来ていたのだ。一直線にハジメの元へと歩み寄って来ている。ハジメも驚いているが、ユエ達はもっと驚いている。彼女達は、見知らぬ美女とハジメに「接点があった?」と疑いの眼差しを向けると、ハジメは首を横にブンブンと激しく横に振り否定している。だが、彼女は歩みを止めずハジメの前へと到着した。修羅場な雰囲気に、周囲の者も天之河達も全員が沈黙する。中々切り出せない中、ハジメは表情に出さず恐る恐ると尋ねる

 

「あ、あ~・・・初対面なんだが・・・俺に何か用・・・か?」

 

ハジメの率直な言葉だった。ハジメの言葉を聞いた彼女は、驚愕した表情を浮かべていた

 

ハァ?何で相手が驚いているんだよ!?これじゃあ俺が悪いみたいな雰囲気じゃねぇか!知らねぇ奴を見てどうしろと!?俺の反応は正しいだろ!

 

パーティー会場に居る女性陣は冷ややかな目でハジメを見て、天之河だけは「あの女性が可愛そうじゃないか!南雲は酷い奴だ!勇者である俺がどうにかしないと!」と言って白銀の美女に近づいた

 

「そこに居る男は出会った人を忘れる様な酷い奴だよ。君は俺が案内するから心配しなくても大丈夫だよ」

 

天之河はハジメをディスりつつ、自分の元へ連れて行こうとする。しかし、返ってきた答えは予想外な一言だった

 

「ど腐れ野郎は関係ないので元居た場所へ帰って下さい」

 

ドギツ~イ一言だった。仮にも勇者である天之河に向けて言っていい言葉ではなく、パーティー会場に居た淑女達が彼女に殺気を込めた視線を向けようとした

 

「は?・・・え?・・・冗談だろ?」

 

ハジメの呟きが会場に響く事で、彼女達の殺気は霧散してハジメの方へと向き直る。ユエ達はハジメの目の前に居る女性に視線を向けており、ハジメの次の言葉に驚愕する

 

「お前、深月か!?」

 

『えっ?』

 

先程まで話していたメイドの名前が深月と呼ばれている事は分かっていた。そして、ハジメが言った言葉も深月という名前――――全員が目を点にした後、驚愕の声が広がった

 

『はぁああああああああああああ!?』

 

ユエ達も驚愕しており、記憶にあるメイド姿の深月を思い出すかの様に見比べているのだろう。まるで目が飛び出したかの様な驚き具合と言ったらいいだろう

 

「あれが・・・深月?・・・嘘、あれは別人!」

 

「変わり過ぎですぅ!確かに深月さんは綺麗でしたが、あの化け具合は異常です!」

 

「何・・・じゃと!?あれは変装ではないか!」

 

「あれが深月さん?劇的ビ〇ォーアフターだよ!?」

 

「嘘でしょ?あれが神楽さんって嘘でしょ!?」

 

「ミヅ・・・キン?待って、あれはミヅキンじゃない。深月さんじゃん!」

 

ユエ達女性陣は変わり様に驚いて混乱している。ハジメは深月だと確信したが、まさかここまで変身するとは思ってもみなかった。取り敢えず、気になる事だけを聞く事にした

 

「えっとな・・・それは変装か?」

 

「変装ではありません!少しだけメイクを入れただけですよ!」

 

「じゃ、じゃあ美貌のツボを突いて変化させたとかじゃないんだよな?」

 

「どんな化物なのですか・・・。そんなツボがあればお嬢様を今以上に綺麗にしていますよ!」

 

あぁ・・・これは深月だわ

 

取り敢えず、ハジメはどうしてこんな大変身をしたのかを聞こうとすると、仕掛け人の皐月が帰って来た

 

「クッ、フフフフフフ!深月が分からないっておかしいわ!みんなメイド服で判断し過ぎでしょ」

 

「仕方がねぇだろ。深月がメイド服以外の服を着ているの初めて見たんだからな」

 

「それでも、体の情報からある程度は分かるでしょ?白銀の髪なんて一番目立つでしょ」

 

「そ、染めたら分からねぇだろ?」

 

「こんなに綺麗な白銀に染められないわよ!」

 

ハジメの言い分は全て叩き落され、結局分からなかったハジメが悪いという事になった。深月もドレスを着て参加した事で、周囲の貴族や有権者達からのお誘いが凄いのなんの

 

「それにしても、南雲殿のお連れは美しい方ばかりですな」

 

「全くだ。このあとのダンスでは是非一曲お相手願いたいものだ」

 

――HQ、こちらデルタ。全ポイント爆破準備完了

 

――HQ、こちらインディア。Mポイント制圧完了

 

とにかく愛想笑いでその場を凌いでいると、会場入り口辺りが騒がしくなった。どうやら、主役のリリアーナとバイアスの入場だろう。扉が開き主役が入ってくると、会場の人々が困惑と驚きの混じった声を上げる

それは、リリアーナの衣装の事だろう。当初の予定は白の綺麗さを売りにだしたドレスだが、今着ているのは深月が仕立て直した漆黒のドレス。如何にも「政略結婚の義務としています」と言わんばかりの澄まし顔と合わさって、鉄壁の手出しする事が出来ない様な雰囲気を醸し出しており、一緒に入場して来たバイアスは苦虫を潰した表情をしていた。微妙な空気の中、拍手の雨を迎えながら壇上へと上がりリリアーナの挨拶回りとダンスパーティーが開催された

リリアーナとバイアスのダンスは見事の一言。とはいえ、この見事というのはリリアーナがバイアスとの一定距離を離している事だ。音楽の旋律に合わせてバイアスが近づくも、気付かぬ内にリリアーナと離れるからだ。そして、ダンスも終わり挨拶回りをしに行くリリアーナを見て、バイアスは苛立ちを抑えながらも追従していった。そのリリアーナの様子を見た香織は、違和感を感じていた

 

――HQ、こちらロメオ。Pポイント制圧完了

 

――HQ、こちらタンゴ。Rポイント制圧完了

 

「何て言うか、リリィらしくないね。いつもなら、内心を悟らせるような態度は取らないのに・・・」

 

「まぁ、あんな事があればそうなるわよ」

 

「・・・あんな事?」

 

ユエ達が首を傾げてハジメと皐月を見る

 

「南雲君、高坂さん、一体何をしたの?」

 

「おいおい、それはどういう意味だ」

 

「どういう意味って・・・貴方達が動いたという事は、何か非常事態が起こったという事でしょう?大体何かが変わる時って、貴方達のせいでしょ。実際に何か知っているみたいだし」

 

「チッ、・・・まぁ別に言っても良いか。つっても、これは深月の予測で助けたってだけだからな」

 

「ああいうタイプの人間はどうするか分かりやすいって言ってたわね」

 

「だ・か・ら、何が起きたの」

 

「「レイプされかけた」」

 

「そう、リリィがレイ・・・ナンデスッテ?」

 

「ちょっと、ハジメくん、皐月!?今、なんて!?」

 

ハジメと皐月に詰め寄る二人を見て、言うんじゃなかったと後悔した二人はうってつけの避難場所へと移動する事にした

 

「あ~、うん、だから・・・・・皐月、一曲踊らないか?」

 

「良いわね。私はダンスをした事があるからリードしてあげるわ♪」

 

「あ、ちょっと、南雲君!高坂さん!面倒になったからって逃げないで!きちんと説明してちょうだい!」

 

「そ、そうだよ!重大事だよ!ちゃんと説明して!」

 

ハジメは皐月の手を取ってダンスホールへと逃亡、タキシード姿のハジメと花嫁衣装(擬き)の皐月が場に出た事で、注目が集まる。元々お金持ちのパーティーでダンスをした事がある皐月がハジメをリードして、ハジメは技能の瞬光をフル活用して一緒に踊る。今までダンスを観察していた事で十分様になっているし、時々ミスをする事もあるが、その都度皐月のフォローが入る事で外見からは完璧過ぎるダンスだ

やがて演奏も終わり、軽いキスを交わした二人に帝国貴族達から盛大な拍手が贈られた。それは、純粋な賞賛の気持ちで、帝国貴族の淑女達も見惚れていた

 

皐月がダンスをした事があるって分かっていたが・・・フォローがすげぇ。地球に帰ったら本格的に練習しないとな

 

拍手に一礼して元居た所に戻ると、何故かフフンと胸を張っているティオが居た。恐らく二番目に踊る地位を賭けて勝負して見事勝ち取ったのだろう

 

「さぁご主人様!次は妾とおd――――」

 

しかし、ティオの期待はあっさりと裏切られた

 

「南雲ハジメ様、一曲踊って頂けませんか?」

 

ハジメに声を掛けたのはリリアーナだった。このパーティーの主役からのお誘い・・・ティオが勝てるわけがなかった

 

「姫さん・・・主役がパートナーと離れて、いきなりどうした?」

 

「あら、その主役の座を奪っておいて、その言い方は酷くありませんか?」

 

「あんな仕事顔してるからだろ?っていうか皇太子は放っておいていいのか?」

 

「挨拶回りなら大体終わりましたし、今は、パーティーを楽しむ時間ですよ。もともと、何曲かは他の人と踊るものです。ほら、皇太子様も愛人の一人と踊っていらっしゃいますし」

 

「愛人って・・・あっけらかんとしてんなぁ」

 

「ふふ。それより、そろそろ手を取って頂きたいのですが・・・踊っては頂けないのですか?」

 

ハジメが躊躇していると、皐月に背を押されてしまった。振り向いて皐月を見ると、その眼は「リリィに恥をかかせるな」と言っていた

 

「あ~、分かったよ。・・・喜んでお相手致します。姫」

 

「・・・はぃ」

 

注目を集めている事も相まって、いつものハジメとは考えられない程恭しくリリアーナの手を取り、ダンスホールの中央に導いた。先程の皐月とのダンスを見て、リリアーナは少しばかり恥ずかしがっているので注目度が更に高くなっていた。因みに、ティオは公衆の面前で変態化する寸前で深月に肩を掴まれる事でおとなしく見る側へと周った

ゆっくりとした旋律が流れ始め、合わせる様にゆったりとしつつ流れる様なダンスを始める。リリアーナは、ハジメの肩口に顔を寄せて囁く様に話す

 

「・・・先程は有難うございました」

 

「そりゃあ分かるわな」

 

「あんな非常識な物といい、神楽さんといい・・・貴方方以外にはいないでしょう?それに、お二人の"紅"はとても綺麗ですから・・・見間違いません」

 

「そうか。まぁ、帝国の皇子筆頭があれじゃ、その場凌ぎだがな。遅かれ早かれだろ」

 

「はっきり言いますね。・・・でも、例えそうでも嬉しかったですよ。香織から貴方に助けられた時の事を聞いて、少し憧れていたのです」

 

「それで、色々吹っ切れてあの態度とそのドレスか?」

 

「似合いませんか?」

 

「似合ってるさ。だが、やはりあの白色のドレスの方が合ってる。真逆にしたのは当てつけか?」

 

「ええ、妻を暴行するような夫にはこの程度で十分ですから・・・それより・・・やっぱりあの蜘蛛を通して見えていたのですね。・・・私のあられもない姿も・・・あぁ、もうお嫁にいけません」

 

「小声とは言え、こんな場所で滅多なこと言うんじゃねぇよ。というか、さっきから密着しすぎだろ?皇太子が何やらすごい形相になってんぞ?」

 

「いいじゃないですか。今夜が終われば私は皇太子妃です。今くらい、女の子で居させて下さい。それとも、近いうちに暴行されて、愛人達に苛められる哀れな姫の些細なわがままも聞いてくれないのですか?」

 

「暴行されて、苛められるのは確定なのか・・・」

 

「確定ですよ・・・」

 

リリアーナは一拍置き、一度ハジメに表情を隠しながら抱き着いて姫ではなく、一人の少女としての一言が零れ落ちる

 

「・・・もし・・・もし、"助けて"と言ったらどうしますか?」

 

深月から可能性の話をもたらされたとはいえ、本当にそうなるかなんて分からない。だが、それはあくまでも交渉が有利になるというだけで結婚後の夫婦生活については何も触れていない。だからハジメにこんな事を聞いたのだった。厄介事を嫌う性格である事を知っているからこそ、諦める為に弱音を吐いたのだ。否定されてようやく諦めがつくというもの――――だが、ハジメの返答はリリアーナの予想斜め上のものだった

 

「まぁ、俺がどうこうする前に、結果的に助かるんじゃね?場合によっちゃあ、今夜で今の帝国は終わるかも知れないし・・・少なくとも、皇太子はダメだろうなぁ」

 

「・・・はい?」

 

――HQ、こちらヴィクター。Sポイント制圧完了

 

――HQ、こちらイクスレイ。Yポイント制圧完了

 

何故確信出来るのかが分からず、リリアーナは目を点にしてハジメの顔を見ると、ハジメがニヤリと口元を吊り上げていた。激しく嫌な予感がしたリリアーナは、頬を引き攣らせながらも一途の期待を寄せる。恐らくこれが深月の言っていた事だろう。そして、皐月が言った押して押しまくれという事だと理解した

 

「それとな、甘えるならもう少し分かりやすくしろ。俺は、察しが悪いからさ、うっかり何かしちまうかもしれない」

 

「っ・・・」

 

ハジメとリリアーナのやり取りを見ていた皐月は何処か悟った表情をしていた

 

「姫さんが不幸だと、悲しむ奴等がいるからな」

 

「そこは、嘘でもお前の為だと言うべきじゃありませんか?私、きっと落ちていましたよ?」

 

「落としてどうする。まぁ、取り敢えず、姫さんにとっての最悪だけは起こらないと思ってればいいさ。あいつらの大切な友人である限り、な」

 

「・・・ぶれないですね、南雲さんは・・・本当、皐月が羨ましい・・・」

 

「おっと、皐月に見られてるな。案外この事も全て聞かれているかもな」

 

「ッ!?」

 

リリアーナは顔を真っ赤にして皐月の方に振り向くと、右手をヒラヒラと振っていた。これだけで何がどうなったか分かっただろう

そして、音楽も終わりダンスが終了した。ハジメは元居た場所に帰る際、リリアーナから別れ際に「ありがとう」と感謝の言葉を言われた。そのまま振り返らずに片手を上げるだけの返事を返して帰ると、皐月を除いた女性陣がジト目でハジメを見ていた

 

「・・・流石ハジメ。そして、またやらかした」

 

「ハジメくんの女ったらし・・・」

 

「・・・ハジメさん、一体いつの間に・・・油断も隙もないですぅ」

 

「のぉ、ご主人様よ。放置プレイで少し濡れてしまったのじゃが、下着を替えてきてもよいかの?」

 

「さっきの暴行発言と関係あるわね。・・・リリィが危ないところを助けたって言っていたし、今のダンスで止めを刺したってところかしら?ねぇ、一体、何を囁いていたの?一応、リリィは人妻なのよ?分かってる?ねぇ、分かっているの?南雲君?」

 

「はわわ、南雲君、遂にNETORI属性まで・・・大人過ぎるよ。鈴のキャパを超えてるよぉ」

 

ハジメは、ただ単に皐月や香織と仲が良いリリアーナだから助けただけで下心は一切ない。相手が惚れようが「関係ねぇ!」とソッポを向いたが、その視線の先にはニコニコ顔の皐月が居た

 

「ねぇハジメ、私言ったよね?」

 

「・・・下心は無いぞ」

 

「反省しない様なら、深月に言ってご飯を抜かせるわよ?」

 

「すいません」

 

「無自覚が一番困るのよ。分かっているの?期待させておいて興味なしなんて酷い男だと思わない?」

 

「仰る通りです」

 

「まぁいいわ。例え増えようとも、私の方針は変えないから」

 

――HQ、こちらズールー。Zポイント制圧完了

 

――全隊へ通達。こちらHQ、全ての配置が完了した。カウントダウンを開始します

 

シアと香織の表情が少しだけ強張った。そして、周りは婚約パーティーのカウントダウンに入った

 

「さて、まずは、リリアーナ姫の我が国訪問と息子との正式な婚約を祝うパーティーに集まってもらった事を感謝させてもらおう。色々とサプライズがあって実に面白い催しとなった」

 

ガハルドがハジメの方を見るが、当の本人は知らんぷりを決め込む

 

――全隊へ。こちらアルファワン。これより我等は、数百年に及ぶ迫害に終止符を打ち、この世界の歴史に名を刻む。恐怖の代名詞となる名だ。この場所は運命の交差点。地獄へ落ちるか未来へ進むか、全てはこの一戦にかかっている。遠慮容赦は一切無用。さぁ、最弱の爪牙がどれほどのものか見せてやろう

 

――十、九、八・・・

 

――ボス、お嬢。この戦場へ導いて下さった事、感謝します

 

「パーティーはまだまだ始まったばかりだ。今宵は、大いに食べ、大いに飲み、大いに踊って心ゆくまで楽しんでくれ。それが、息子と義理の娘の門出に対する何よりの祝福となる。さぁ、杯を掲げろ!」

 

ガハルドは会場の全員が杯を掲げた事を確認した後、ワインの入った自身の杯を掲げて覇気に満ちた声で音頭を取った

 

それは亜人族も同様であった

 

――気合を入れろ! ゆくぞ!!!

 

――「「「「「「「「「「おうっ!!!」」」」」」」」」」

 

――四、三、二、一・・・

 

カウントダウンが始まり・・・

 

「この婚姻により人間族の結束はより強固となった!恐れるものなど何もない!我等、人間族に栄光あれ!」

 

「「「「「「「「「「栄光あれ!!」」」」」」」」」」

 

――ゼロ。ご武運を

 

その瞬間、会場の全ての光が消え失せて暗闇が広がった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「メイドさんは衣装チェンジしますた」
深月「・・・お嬢様の命令がなければこんな事には」
布団「女性のおめかしって凄いよね。変貌レベルだわ」
深月「いや・・・私のこれは髪型とアイラインと口紅だけですよ!?」
布団「おめかしを理解していない男はこれだけで分からなくなるのさ」
深月「えぇ・・・」







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人質・・・メイドには関係無し

布団「おまちどう!それでは―――」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」














~深月side~

 

会場が暗闇になり、この場に居る参加者達の悲鳴が上がる。そんな中、深月はハウリア達の動きを観察する。暗闇の中で光を灯そうとする者を第一として狩って行く

 

襲撃タイミングは上々ですね。光源となる者を優先的に狩り、混乱の声に乗じて兵士の場所を割り出していますか・・・。ですが、帝国の者もそう易々と殺られはしませんよ?

 

ハウリアがもう一人の帝国兵の首を飛ばそうとした時、兵士達が一斉に背を預ける様に三人組となって防ぎに回る。ハウリアは止まらずに攻撃をすると、三人同時に動いてハウリアの退路を絶つ様に攻撃した。恐らく、先日の出来事から訓練の一つとして提案されたのだろう

深月のもたらした情報以外の攻撃に咄嗟に対処が遅れたハウリアは斬られてしまう。バックステップで死ぬ事はなかったが、重症である。トドメを刺そうとした兵士だが、死角から現れたハウリア達に首を跳ねられる

一方、皇帝のガハルドは矢の攻撃を前に動けず防戦一方となり中々指揮を出せないでいた

 

「っ!?ちっ!こそこそと鬱陶しい!」

 

急所をワザと外して防ぎづらい所を攻撃―――足止めと冷静な判断力を奪うには良いですね。しかし、単調過ぎる攻撃ですね。間髪を入れない事を前提で動いているなら間違いではありませんが、相手が並みの者でなかったら早々に対処されていますよ。しかし、今回は大丈夫ですね

 

粗方の兵士の対処が終わった後は、貴族達の逃亡を防ぐ為に手足の腱を切断している。すると、カバルドの方で動きがあった。素早い詠唱で、十程の光源を生み出して放つ。会場が光が灯り闇を払った所で、反撃開始と息巻く。直後、兵士達の目の前に金属の塊が転がって来たのだ

 

「何だ?これは・・・」

 

「よせ!近づくなっ!」

 

不用意に近づく兵士。嫌な予感がしたガハルドが制止するが、ほんの少しだけ遅かった

 

カッ!

 

キィイイイイイン!!

 

突如金属の塊が爆ぜ、凄まじい光と爆音が無差別に響き渡った

 

「ぐぁあ!?」

 

「ぐぅうう!」

 

「何がァ!?」

 

咄嗟に腕で視界を庇ったガハルドは無事だったが、聴覚がイカれてしまった。側近達は間に合わず、視覚も聴覚もやられてしまっていた。そんな大きな隙を逃すハウリアではなく、魔法を主として使う者だけを首を撥ね飛ばして、残りは手足の腱を切った後、念には念を入れて舌を切る。これでまともに動けるのはガハルドだけとなり、ハウリア達が一斉に襲い掛かる

 

「散らせぇ!"風壁"! 撃ち抜けぇ!"炎弾"!」

 

襲い来る矢の軌道をずらし、火球よりも威力の高い炎弾で悉くを破壊する。死角から気配を現わせて攻撃しようとするハウリアや、上部で狙撃するハウリアの足場を破壊したりと様々だ。ハウリア達へと殺到した炎弾は爆発し、衝撃を受けたハウリア達は攻撃の手が一瞬止まる

 

「舞い踊る風よ!我が意思を疾く運べ"風音"!」

 

本来の用途は遠くの小さな音を聞く為なのだが、聴力を補助する為の魔法だった。視界も回復し、音は魔法で補った。これでガハルドは十分に動けるが、それ以外の者達は全滅している。ハウリア達の獰猛な視線と殺気を受け、ガハルドの目はギラギラと滾っている。彼の本質は、強者と戦う事に喜びを見出すのだ

 

「ククク、心地いい殺気を放つじゃねぇか!なぁ、ハウリアぁ!ビビって声も出せねぇのか!?」

 

ガハルドの叫びにハウリア達が殺気を振り撒き――――カムが小太刀を二刀構えながら、殺気はそのままに無機質に返答する

 

「戦場に言葉は無粋。切り抜けてみろ」

 

「っ!はっ、上等ぉ!」

 

カムが真正面からガハルドに襲い掛かり、二人を中心に剣戟は嵐が巻き起こり火花を散らす。しかし、双方共に体に刃は届かない。会場で意識がある者達は、何故この様な状況になっても助けが来ないのかと状況に苛立ちを感じつつも、体が動かないのでガハルドの勝利を祈る

しかし、状況は一変した。ハウリアの攻撃が届いていないのにも関わらず、ガハルドの体がふらつき始めた

 

「っ!なんだっ?体が・・・」

 

その状況を、「待ってました!」と言わんばかりにハウリア達が四方から殺到する。体が鈍いながらも、ガハルドは襲い来るハウリア達を迎撃しようとするが、今まで隠れて攻撃しなかったハウリアの矢がふくらはぎに突き刺さる

 

「ぐぁ!」

 

膝が折れるガハルドにカムが小太刀を振るう。一刀は防がれたが、反対側の一刀はしっかりと腕の腱を切って剣を落とさせる

ガハルドは剣を落とされた瞬間、魔法を発動するも追撃のハウリア二人が装飾品を切って弾き飛ばし、手足の腱を切って動けなくする

 

「ッ――」

 

魔法陣を描いていた布は破れ、アーティファクトは弾かれた――――ガハルドが何かする手は残されておらず、迸る激痛に襲われながらも悲鳴を上げずに堪えながら地に倒れ伏した

ヘルシャー帝国皇帝の敗北――――その事実は、この場に居る殆どの者達から言葉を奪った。そして、ハウリアの一人が倒れ伏したガハルドに近づいて聴力を回復させる薬を施した。これからの交渉に必要だからだ

 

「ふん、魔物用の麻痺毒を散布してここまで保つとはな」

 

「くそがっ、最初からそれが狙いだったか・・・」

 

暗闇の中、ガハルドの頭上から光が降り注ぐ。暗闇で現実味がなかったが、光照らされる事で彼等にこれが現実のものだと理解させる

 

『どどどどど、どういうことですか!?ここここ、これは!?にゃにゃにゃ、にゃぐもさん!いいい、一体ぃ!!』

 

『いいから、ちょっと落ち着け姫さん。今、クライマックスなんだから』

 

光照らされ、組み伏せられているガハルドを見たリリアーナは物凄く動揺しており、皐月に羽交い締めされ、ハジメに手で口を閉じられていた。ハウリア達の襲撃の際、リリアーナはバイアスの近くに居たのだが、ハジメ達に連れられて会場の端っこへと退避させられていたのだ

帝国貴族が幾人も殺された事に天之河は盛大に顔をしかめている。八重樫や谷口、坂上も難しい表情で黙り込んでいた。これは亜人族の待遇改善を行う為の最大のチャンスであり、文字通り今後の種族の生末を左右する戦いを理解していても尚、目の前で繰り広げられた惨劇を見てあっさりと割り切る事なんて出来ないのだろう。八重樫は、自分が何をしなければいけないのかを理解して行動する。飛び出そうとした天之河の肩を強く掴んで飛び出さない様にさせる

 

「さて、ガハルド・D・ヘルシャーよ。今生かされている理由は分かるな?」

 

「ふん、要求があるんだろ?言ってみろ、聞いてやる」

 

「・・・減点だ。ガハルド。立場を弁えろ」

 

カムの姿は見えないが、パーティー会場全体に響き渡る声だ。這い蹲るガハルドに声を掛けるも、ガハルドの横柄な態度に、一拍置いて機械の様な声で忠告を発した。そして、これは忠告だけではなく合図でもあった。光がもう一つ現れてガハルドとは別の場所を照らすと、魔法を封じる為に舌を切られた者が膝立ちにさせられていた。ガハルドがその姿を確認すると同時に、その男の首があっさりと斬り飛ばされた

 

「てめぇ!」

 

「減点」

 

思わず怒声を上げるガハルド。しかし、次は別の男の元に光が当てられ、膝立ちにさせられて一拍置いた後に切り飛ばされる

 

「ベスタぁ!このっ、調子にのっ――」

 

「減点」

 

再び別の場所に光が照らされ首が跳ね飛ばされる

 

「・・・」

 

ガハルドは歯軋りしながらも押し黙り、前方の闇に向けて殺気を込めて睨む。そんなガハルドに対し、カムは淡々と話し掛ける

 

「そうだ、自分が地を舐めている意味を理解しろ。判断は素早く、言葉は慎重に選べ。今、この会場で生き残っている者達の命は、お前の言動一つにかかっている」

 

その言葉と同時に、ガハルドの首にネックレスが掛けられた

 

「それは"誓約の首輪"。ガハルド、貴様が口にした誓約を、命を持って遵守させるアーティファクトだ。一度発動すれば貴様だけでなく、貴様に連なる魂を持つ者は生涯身に着けていなければ死ぬ。誓いを違えても、当然、死ぬ」

 

そして、帝室の人間も確保しており、同じアーティファクトが掛けられている事を伝えると、ガハルドは苦虫を万匹くらい噛み潰した表情になる

 

「誓約・・・だと?」

 

「誓約の内容は四つだ。一つ、現奴隷の解放、二つ、樹海への不可侵・不干渉の確約、三つ、亜人族の奴隷化・迫害の禁止、四つ、その法定化と法の遵守。わかったか? わかったのなら、"ヘルシャーを代表してここに誓う"と言え。それで発動する」

 

「呑まなければ?」

 

「今日を以て帝室は終わり、帝国が体制を整えるまで将校の首が飛び続け、その後においても泥沼の暗殺劇が延々と繰り返される。我等ハウリア族が全滅するまで、帝国の夜に安全の二文字はなくなる。帝国の将校達は、帰宅したとき妻子の首に出迎えられることになるだろう」

 

「帝国を舐めるなよ。俺達が死んでも、そう簡単に瓦解などするものか。確実に万軍を率いて樹海へ侵攻し、今度こそフェアベルゲンを滅ぼすだろう。わかっているはずだ。奴隷を使えば樹海の霧を抜けることは難しくない。戦闘は難しいが、それも数で押すか、樹海そのものを端から潰して行けば問題ない。今まで、フェアベルゲンを落とさなかったのは・・・」

 

「畑を潰しては収穫が出来なくなるから・・・か?」

 

「わかってるじゃねぇか。今なら、まだ間に合う。たとえ、奴の力を借りたのだとしても、この短時間で帝城を落とした手際、そしてさっきの戦闘・・・やはり貴様等を失うのは惜しい。奴隷が不満なら俺直属の一部隊として優遇してやるぞ?」

 

「論外。貴様等が今まで亜人にしてきた所業を思えば信じるに値しない。それこそ"誓約"してもらわねばな」

 

「だったら、戦争だな。俺は絶対、誓約など口にしない」

 

口元を歪めるガハルドに、カムはどこまでも機械的に接する

 

「そうか。・・・減点だ、ガハルド」

 

再度、"減点"と言葉が発せられ、光で照らされた先に居たのは・・・

 

「離せェ!俺を誰だと思ってやがる!この薄汚い獣風情がァ!皆殺しだァ!お前ら全員殺してやる!一人一人、家族の目の前で拷問して殺し尽くしてやるぞ!女は全員、ぶっ壊れるまでぇぐぇ――」

 

皇太子バイアスだった。彼が照らされた時に息を呑む声がそこかしこから聞こえ、銀線が翻って帝国皇太子の首はあっさりと跳ね飛ばされた

 

「・・・」

 

「あれが次期皇帝。お前の後釜か・・・見るに堪えん、聞くに堪えん、全く酷いものだ」

 

「・・・言ったはずだ。皆殺しにされても、誓約などしねぇ。怒り狂った帝国に押し潰されろ」

 

「息子が死んでもその態度か。まぁ、元より、貴様に子への愛情などないのだろうな。何せ、皇帝の座すら実力で決め、その為なら身内同士の殺し合いを推奨するくらいだ」

 

帝国は強者にこそ従う。それは皇帝の跡継ぎにも適応され、決闘に勝利したバイアスがそれに適応したのだ。例え家族であろうとも、皇帝の跡継ぎを争うなら戦わせる。正に、実力至上主義―――そのせいか、ガハルドの表情に変化は無かった

 

「わかってんなら無駄なことは止めるんだな」

 

「そう焦るな。どうしても誓約はしないか?これからも亜人を苦しめ続けるか?我等ハウリア族を追い続けるか?」

 

「くどい」

 

「そうか・・・出来ればこれは使いたくなかったのだがな・・・。"デルタワン、こちらアルファワン、やれ"」

 

――アルファワン、こちらデルタワン。了解

 

突如、ガハルドには分からない事を発したカム。訝しそうな表情になるガハルドだったが、腹の底に響くような大爆発の轟音が響き渡り、顔色を変える

 

「っ。なんだ、今のは!」

 

「なに、大したことではない。奴隷の監視用兵舎を爆破しただけだ」

 

「爆破だと?まさか・・・」

 

「ふむ、中には何人いたか・・・取り敢えず数百単位の兵士が死んだ。ガハルド、お前のせいでな」

 

「貴様のやったことだろうが!」

 

「いいや、お前が殺ったのだ、ガハルド。お前の決断が兵士の命を奪った。そして・・・"デルタワン、こちらアルファワン、やれ"」

 

「おい!ハウリアっ」

 

ガハルドの制止の声が掛かるも、二度目の轟音が響き渡る。今度は帝城ではなく、帝都から聞こえた

感情を押し殺したこえで、ガハルドがカムに尋ねる

 

「・・・どこを爆破した?」

 

「治療院だ」

 

「なっ、てめぇ!」

 

「安心しろ。爆破したのは軍の治療院だ。死んだのは兵士と軍医達だけ・・・もっとも、一般の治療院、宿、娼館、住宅街、先の魔人族襲撃で住宅を失った者達の仮設住宅区にも仕掛けはしてあるが、リクエストはあるか?」

 

「一般人に手を出してんじゃねぇぞ!堕ちるところまで堕ちたかハウリア!」

 

「・・・貴様等は、亜人というだけで迫害してきただろうに。立場が変わればその言い様か・・・"デルタ、やれ"」

 

「待てっ!」

 

カム達からすれば、帝国は亜人族というだけの理由で迫害を続けてきたのに何を今さらと呆れている。故に、三度目の轟音が響き渡る。しかし、それは脅す為のブラフだったので、帝城へと繋がる橋が爆発した音だった

ガハルドからは爆発が見えないが、ハウリア達の行動から本気のそれだと理解する

 

「貴様が誓約しないというのなら、仕方あるまい。帝都に仕掛けた全ての爆弾を起爆させ、貴様等帝室とこの場の重鎮達への手向けとしてやろう。数千人規模の民が死出の旅に付き合うのだ。悪くない最後だろう?」

 

臆病で温厚だったハウリアが何故これ程までに変貌したのか・・・。ガハルドはハジメ達を睨む。この中で表情変化が乏しく、一番怪しいのだ。等の本人達は何処吹く風だ

ガハルドのは冷や汗を流し、巡るましく変化する現状をどうやって切り抜けようと模索しているのだろう。しかし、ハウリア達は待つ道理はない

 

「"デルタへ、こちらアルファワン・・・や"」

 

「待てっ!」

 

カムが良い終える前にガハルドは制止の声を上げ、苛立ちと悔しさを発散する様に地面に頭を数度叩きつけて吹っ切った顔をして返答する

 

「かぁーー、ちくしょうが!わーたよっ!俺の負けだ!要求を呑む!だから、これ以上、無差別に爆破すんのは止めろ!」

 

「それは重畳。では誓約の言葉を」

 

要求が通ったとしても淡々と答えるカムに対し、ガハルドは苦笑いしていた。肩の力を抜き、この場に残っている生き残りに向けて語る

 

「はぁ、くそ、お前等、すまんな。今回ばかりはしてやられた。・・・帝国は強さこそが至上。こいつら兎人族ハウリアは、それを"帝城を落とす"事で示した。民の命も握られている。故に、"ヘルシャーを代表してここに誓う!全ての亜人奴隷を解放する!ハルツィナ樹海には一切干渉しない!今、この時より亜人に対する奴隷化と迫害を禁止する!これを破った者には帝国が厳罰に処す!その旨を帝国の新たな法として制定する!"文句がある奴は、俺の所に来い!俺に勝てば、後は好きにしろ!」

 

これで帝国は亜人族・・・いや、ハルツィナ樹海に干渉しないという法が施行された

 

「ふむ、正しく発動した様だ」

 

その言葉と同時に、光が皇帝の一族達に降り注ぐ。その場には本来居る筈のない幼児までも居り、皆が首からネックレスを吊り下げていた

 

「ヘルシャーの血を絶やしたくなければ、誓約は違えないことだ」

 

「分かっている」

 

「明日には誓約の内容を公表し、少なくとも帝都にいる奴隷は明日中に全て解放しろ」

 

「明日中だと?一体、帝都にどれだけの奴隷がいると思って・・・」

 

「やれ」

 

「くそったれ!やりゃあいいんだろう、やりゃあ!」

 

「解放した奴隷は樹海へ向かわせる。ガハルド。貴様はフェアベルゲンまで同行しろ。そして、長老衆の眼前にて誓約を復唱しろ」

 

「一人でか?普通に殺されるんじゃねぇのか?」

 

「我等が無事に送り返す。貴様が死んでは色々と面倒だろう?」

 

「はぁ~、わかったよ。お前等が脱獄した時から何となく嫌な予感はしてたんだ。それが、ここまでいいようにやられるとはな。・・・なぁ、俺に、あるいは帝国に、何か恨みでもあったのかよ、南雲ハジメ、高坂皐月」

 

ハジメが居る暗闇に向けてガハルドが問い掛けるも、ハジメは傍観者を徹している為に何も答えない。そんなハジメに、ガハルドは舌打ちをする

 

「ガハルド、警告しておこう。確かに我等は、我等を変えてくれた恩人から助力を得た。しかし、その力は既に我等専用として掌握している。やろうと思えば、何時でも帝城内の情報を探れるし侵入もできる。寝首を掻くことなど容易い。法の網を掻い潜ろうものなら、御仁の力なくとも我等の刃が貴様等の首を刈ると思え」

 

「専用かよ。羨ましいこって。魔力のない亜人にどうやって大層なアーティファクトを使わせてんだか・・・」

 

ガハルドは、「大変な時期に何て事をしてくれたんだ!」と叫びたかったが、それは口にしない

「これにて終了」とカム達ハウリアが引き上げようとした時、カム達の腰が引っ張られる

 

『!?』

 

気配も無く引き摺られた事に驚愕したが、その後に何かを殴る鈍い音が鳴り響く。予想外の緊急事態に傍観者を決め込んでいたハジメは、天井へ光源を照らす鉱石が装備されたビットを飛ばして皆が見える様に照らすと、先程までカムが立っていた場所にドレスを血に染めた深月が女性を殴っていたのだ。皆が皆、急すぎる展開に困惑している中で、ハジメと皐月がいち早く気づいた

 

「おいおい・・・まさかこんな時に仕掛けてくるとは思ってもみなかったぜ」

 

「あれって神の先兵よね?」

 

皐月の言葉にガハルドやリリアーナ、本当の神の使徒を知っている者達の顔が強ばった。しかし、リリアーナは王国で畑山救出時の事を聞いていたのでハジメ達を信じる事にした。今回の数は前以上で、十人もの先兵が居た。皐月はユエ達に指示を出す

 

「ユエ達は生きている者達を連れて下がって!私とハジメと深月で迎撃するわ!」

 

「「「「了解(ですぅ)(じゃ)!」」」」

 

「ボ、ボス、お嬢!我らも「邪魔だからとっとと連れて下がれ」ッ―――!了解しました」

 

カム達も重要人物を連れて下がろうとした時、深月から念話が飛んでくる

 

(殺気で一時動きを止めます)

 

「全員、深月の殺気に耐えろ!」

 

ハジメが警告したと同時に、深月から殺気が撒き散らされる

 

「ッグゥ!」

 

「こ、これ程とはっ・・・」

 

「あの時の神の使徒が幼児に感じるぞ・・・」

 

『ウッ、オエ"ッ、オロロロロロロ』

 

ハジメ達ですら圧倒されるそれは、常人である者達からすれば兵器に他ならない。香織に傷を癒されて意識があった者にとっては地獄そのものだ。体験した事のない殺気がを全身に浴びて嘔吐する者が殆どだ。唯一吐かなかったのはハウリア達とガハルドだけだったが、体を震わせながらも体に鞭を入れて撤退した

 

「これで邪魔者は居なくなりました。帝城が無くなるかもしれませんが、その辺りは気にせず殺りましょう」

 

冷や汗を大量に流す神の先兵達。今回の割り当ては、ハジメと皐月で四体、深月が六体となっている

黒刀で割当てを分ける様に斬撃を放つと解散され、丁度になる様に分断出来た。そして、避けられた斬撃はそのまま壁を切り裂いて破壊する。ハジメ達の二度目の神の先兵との戦いが始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

皐月のドンナー・シュラークが火を噴いて先兵を攻撃するが、ハジメと同じ様に斬り落とされる。しかし、徐々に反応出来なくなってかすり傷を負っている

 

聞いてはいたけど・・・スペックがかなり高いわね。でも、相手取れない程じゃないわ!

 

皐月は、ビットとチャクラムを利用してオールレンジ攻撃をしている。そして、この戦いを前に武器の改修で戦力増強が丁度良かった

ドンナー・シュラーク改とシュラーゲン改は、深月のハーゼン・ハウンドと似た性質の魔力を込めた分だけ弾速が早くなるか改修を施したのだ。とはいえ、皐月の魔力も無尽蔵ではない。だが、その問題を解決したのは深月であった

 

「死になさいイレギュラー!」

 

先兵の分解魔法が真正面から皐月を襲ったが、皐月が左腕を盾にし、魔法が当たる直前で装備していたミサンガに吸収された

 

「なっ!?」

 

これには先兵もビックリ仰天

このミサンガは深月お手製である。実は、深月は生成魔法で魔力糸に技能を付与してアーティファクトを作ったのだ。最初は魔力糸を物質化する為の生成魔法だと思っていたのだが、それは誤りであった。深月は錬成師ではない為、鉱石に付与する事は出来ない。ならば魔力糸ならどうなるのだろう?とお試し気分で試した結果、ある程度の技能を付与する事に成功したのだ。こうなってしまったら、深月の暴走は目に見えており、皐月を守る為の御守りとしてミサンガを贈った。プレゼントされた皐月は喜んだのだが、ミサンガに付与されている技能を聞いた時にはドン引きしていた

それは―――――魔力濾過、魔力濾過吸引、超高速体力回復、超高速魔力回復、魔力変換―――計六つのぶっ壊れ技能だった。因みに、ハジメにも贈られているのでチートがさらに進んでいたりする。尚、ユエ達分も作ってはいるが、時間がない為今は持っていない

話は戻り、分解魔法を吸収された先兵は隙が出来た為、先程吸収した魔力を全て使ってシュラーゲンで胸部に風穴を開けた。ハジメも同じ様に、武器ごと頭部を粉砕した

 

これでノルマは二人―――その先兵達を皐月考案の新型ビットで足止めしていた

とこぞの私設武装組織の兵器と酷似したライフルビットを作ったのだ。第一弾目は実弾となれば、第二弾がビームになるのは必然である

 

「っく、死角ばかり!」

 

「これでは―――っ!?」

 

先兵が最後に見たのは、目の前を紅一色が埋め尽くした光景だった。ハジメと皐月の放ったシュラーゲンの極光が先兵を飲み込み、肉片一つ残さずに消し去った

 

「ふぃ~、終わった終わった。しっかし、深月が作ったミサンガの効果ヤベェな」

 

「私達が作る武器も大概だけど・・・それ以上の性能よね」

 

「それよりも深月の方は終わったか?」

 

ハジメ達が深月の方を見ると―――倒れ伏した天之川と坂上、そして人質とされた八重樫が居た

 

「「何でやねん・・・」」

 

思わずハジメと皐月は関西弁でツッコんだ。それは事を少しだけ遡る―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

皐月達が上空で先兵と戦う最中、深月は既に三人の先兵の首の骨を折って心臓を抉り出していた。深月を一瞬だけ見失ったら、三人殺られた事に苦虫を噛み潰した様な表情をしていた

 

「・・・後三体」

 

「イレギュラーッ!」

 

「おやおや、統一された造形人形に感情を与えたのですか。・・・以前とは違い感情起伏が豊かです―――ねっ!」

 

幻歩で相手の距離感歪ませて、一気に懐に入り込んで首に向かって手刀を一刺し。首を貫通して脊髄もろとも粉砕する

 

「カヒュッ―――」

 

「スクルト!?」

 

深月は手を引き抜こうとしたが、即死していなかったスクルトが深月の片腕を掴んで離すまいとしがみついていた

 

「今ッ!」

 

「確実にッ!」

 

左右から襲い掛かるが、深月は死して尚手を離さないスクルトを使って振り回す事で血を撒き散らせる。残りの先兵―――ラーズとグリーズに血が叩きつけられるが、両腕と羽で目に入らない様にして防ぐ。大量の血を浴びた二人は、分解魔法が付与されている鎧と羽は綺麗になった。しかし、防いだ四肢は血に塗れていた

 

「目潰しは外れてしまいましたね」

 

「ッ!」

 

グリーズは、咄嗟にバックステップしたと同時に頭部に鈍い衝撃を受けて壁際まで吹き飛んで瓦礫に埋もれる。深月は舌打ちしつつ、孤立したラーズを慢心無く処理を開始した

吹き飛ばされたグリーズは、瓦礫をかき分けて立ち上がる。急ぎラーズの支援をと思ったが、視界の端から振り下ろされた剣を受け止めた

 

「これ以上はやらせないぞ!」

 

「邪魔です。駒は駒らしく動きなさい」

 

「俺は勇者だ!悪神エヒトを倒すのは俺の使命、俺がこの戦いを終わらせてみせる!」

 

グリーズに攻撃を仕掛けたのは天之河だったのだ。何故ここに居るのか―――深月の殺気を全身に浴びて嘔吐して動けなくなった所をハウリア達が避難させたのだが、如何せん人数が多く、全員を監視する事は出来ない。その隙を見て勝手に戻って来たのである

 

「ちょ!?早く戻りなさい光輝!」

 

「光輝戻れ!」

 

グリーズは状況を把握した。無鉄砲な勇者を連れ戻しに来た仲間―――イレギュラーも少なからず気に留めている事から、人質に有効な者を選択した

 

「勇者もやる時はやりますね」

 

「俺はお前を倒す。うぉおおおおおおおおお!」

 

覇潰を使って短期決戦を試みる天之河。しかし、完全武装した神の先兵の一人であるグリーズのステータスは、およそ20000である。分解魔法等の技能も含めると、技術の引き出しの少ない天之河が勝てる可能性は皆無だった。振り下ろした聖剣は片手で受け止め、天之河の顔を掴んで坂上へと突進。早すぎて反応出来なかった坂上は、天之河と一緒に顎を打ち上げられ倒れ伏した

 

「では、有効活用させて頂きましょう」

 

「いっ!?ぐぅっ!」

 

八重樫は、肩の関節を外され、グリーズに背から首を掴み上げられた。痛みと息苦しさに涙目になり、八重樫は心の中でハジメ達に謝罪する

 

(本当にごめんなさい・・・光輝を止められなかったわ)

 

グリーズは、八重樫が抵抗する事も出来ないと確信して深月に警告を送る

 

「そこまでですイレギュラー、攻撃の手を止めないのであればこの女性を分解します」

 

グリーズの言葉を聞き、深月は動きを止めた。グリーズの位置からでは、土煙が足場を隠してラーズの状態は把握出来ず、自身とその場から離れる様に命令する。しかし、返ってきた答えはグリーズにとって最悪のものだった

 

「・・・現状を理解していますか?残りは貴方だけです」

 

「何を?ラーズの足は未だ動いています」

 

「経験の差がものを言いましたね。人は死んでも偶に動くのですよ?スペックの高い貴女達の体なら説明は不要でしょう?」

 

「ッ!?な―――」

 

土煙が晴れ、グリーズが目にしたのはラーズのもがれた足だった。血が噴き出る動きに合わせて筋肉が動いており、つい先程の出来事だと理解したグリーズが深月の足元を見ると、四肢をもがれたラーズがハイライトを失った目で涙を流しながら口から血を零している姿だった。しかも、深月の足が胸部を踏み潰しており、完全に機能を停止している

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時は戻る―――

残りは自分だけとなり、八重樫の首を掴んでいる手に力が入って呻き声が聞こえたがそれどころではない状況に腕が震えていた

 

「貴女はどの様に殺されたいですか?即死で楽に死ぬ、いたぶられて死ぬ、絶望と後悔の念を抱いて死ぬ―――今なら選びたい放題ですよ♪」

 

「・・・人質の命は惜しくないのですか?」

 

「私からすれば、死地に自ら飛び込んだ責任と割り切って行動しますが・・・お嬢様達の返答待ちです。如何されますか?」

 

深月の質問と同時に空から降りて来たハジメと皐月は、どうしようかと頭を悩ませる

 

「ほんとどうするよ?狙撃しようとしたら壁にされるか衝撃で死ぬぞ・・・」

 

「何でここに来たのかは・・・暴走したお花畑を止めようとしたからでしょうね」

 

対処法が思いつかない二人が頭を悩ませている時、ようやく気絶した二人が目を覚ます

 

「うっ・・・一体何が起きたんだ」

 

「光輝大丈夫か?」

 

「龍太郎こそ無事か?」

 

「あぁ。だがよぉ、雫が人質に取られてやがる・・・どうすりゃあいいんだ」

 

「クソッ、人質なんて卑怯だぞ!」

 

グリーズを睨む二人だが、赤子が見ている程度にしか感じない為動揺する素振りもない

 

「南雲、攻撃するな!雫は仲間なんだ!」

 

「まぁ攻撃は出来ないな。・・・だが、こうなったのは他でもないお前のせいだぞ?―――天之河」

 

「なっ!?俺のせいだと?俺は間違った事はしていない!勇者として彼女を倒そうとしただけだ!」

 

己のせいでこの状況になった事を否定する天之河。この場面であろうとご都合解釈は、彼女が人質という卑怯な事をしたからいけないと結論付けているのだ。ハジメ達が迷っていると、八重樫が覚悟をした目で掠れた声で叫んだ

 

「わ――たしの事はいいから・・・攻撃して!」

 

『なっ!?』

 

なるほど、そういう事なら仕方がありませんね。お嬢様の友達という事もありますので香織さんを呼んでおきましょう

 

グリーズを含めハジメ達が驚愕する中、深月だけが微笑みながら香織へ念話でこちらへ来るように指示を出す

 

「それでは遠慮なく行かせて頂きます」

 

残像を残して深月が一気に八重樫の懐まで飛び込み、貫手を心臓へと穿つ。八重樫の体を貫通した深月の貫手が奥に居るグリーズへと迫ったが、グリーズは咄嗟に八重樫を放す事で難を逃れた。しかし、八重樫を貫いた深月の姿は無く、いきなり視界が反転した。落下する最中、首から上が無い体と手を振り切っている深月の姿を最後にグリーズの意識は無くなった

 

「雫ちゃん! 絶象!」

 

香織が行使した再生魔法が八重樫の体を元の状態まで再生させるが、心臓は動いていないので皐月が微力な纏雷で簡易AEDの様に刺激して動かした。すると、八重樫は咳き込みながら酸素を求めて呼吸した。自分の胸に手を当てて傷跡が無い事を確認し、少し遅れれば死んでいた事に体を震わせ涙ぐんでいた

 

「雫!大丈『メキィ』ブッ!?」

 

八重樫を心配して近づこうとした天之河の頬に拳が直撃―――天之河を殴ったのは香織だった。天之河は、どうして香織が己を殴ったのかが分からない事に呆気に取られていると、ニコニコと笑っているが目が笑っていない香織に胸倉を掴まれた

 

「どうして此処に天之河くんが居るのかな?かな?

 

「か、香織?」

 

「名前を呼ばないでくれるかな?天之河く―――うううん、お花畑くん?」

 

「お、お花畑?」

 

幼馴染である香織からのお花畑呼びにより一層と混乱する天之河。香織はそんな天之河に追撃を加える

 

「雫ちゃんを危険に冒した張本人だからだよ」

 

「あれは彼女が人質として雫を捉えたのがいけないんだ!」

 

「ねぇ、この世界に来た時に皆を護るって言ってたよね?お花畑くんは今までに誰かを護った?」

 

「沢山護って来たじゃないか!」

 

天之河の言う護った―――これは魔物を倒す事で襲われる人が少なくなったという意味での護ったと言う事と解釈しているのだ。全くもってお話しにならない

 

「全然護っていないよ?皆を死なせないって言ったのにハジメくんを最初に死亡扱いにしたのは誰?お花畑くんだよね?先生が攫われた時は?王都での襲撃は?この襲撃は?・・・何もやっていないし、足を引っ張ったよね?」

 

「違う!それは知らなかっただけだ!」

 

「この世界に来た時ばかりの私なら、同じ様に言い訳していたと思うよ。でも、今は違うよ。知らないからなんてただの言い訳・・・知ろうとしなかっただけだよ。私は考えの甘さという現実を叩きつけられたの」

 

「知っていたなら教え―――」

 

「何故教えないといけないの?少し調べれば分かる事だよ?帝国に来た時だって驚いていたけど・・・奴隷が居るって教えられたよね?」

 

「あ、あれは子供が奴隷として働かされていたからだ!」

 

「もういいよ、これ以上は誰のためにもならないし平行線だよ」

 

香織の価値観はハジメと一緒に行動してからガラリと変わった。現実はどれも酷く、誰もが必死に生きている。強者が弱者を挫くのは当たり前で、その日その日を生きるだけで精一杯なのだ。ハジメは沢山の人達を助けているが、それはあくまでも副次的やついででの事ばかり。助けても、これ以降は自分達の力でどうにかしろといった物ばかり・・・ハジメ達も余裕が無いのだ。神から狙われた状態では自分の周りだけしか守れない事を理解しているからだ

 

「雫ちゃん・・・本当に大丈夫?違和感ない?何処か怪我をしているかもって場所は?」

 

「大丈夫よ。香織のお陰で体に違和感もないししっかりと動けるわ」

 

「・・・それならいいけど」

 

「言いたい事があるんでしょ?」

 

「お花畑くんと何時まで一緒に行動するの?」

 

「それは・・・」

 

「私、嫌だよ・・・。今回みたいに雫ちゃんが人質に取られちゃったらと思うと心配ばっかりだよ。深月さんと私が居たから切り抜けられただけなんだよ?分解されちゃったら私でも元に戻せない・・・だから、もう・・・同門だからって理由だけで一緒に居るのは止めて」

 

「香織・・・」

 

香織な純粋な心配に八重樫は心苦しそうに名前だけを口にするが、答えを返そうにも優柔不断で直ぐには答えられなかった

 

「雫ちゃんの事だから迷っているのは分かるよ。でも・・・それでも早く決めてね?皐月も心配しているからこそ雫ちゃんに警告を言ったの。だから決めたら迷わないで」

 

香織は八重樫から離れてハジメ達の元に合流した

 

「どうすれば良いのかしらね・・・」

 

「切り捨てた方が長生きしますよ?」

 

「・・・何時から聞いていたの?」

 

「最初からですよ?」

 

「気配を消す理由なんてあったかしら?」

 

深月は「いいえ」と断りながら天之河をゴミ屑の様な目で見て離れて行った

 

「・・・分かっているわよ。私の優柔不断がいけなかった―――今の光輝を作り上げた責任が私にもあるのよ」

 

八重樫はハジメ達の方を無意識に羨ましそうに見ていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「八重樫さんの評価改めです」
布団「覚悟を決めたの凄いっす」
深月「しかし、お嬢様の御活躍が少ないです。もう少し多くを希望します!」
布団「大迷宮まで待ってくだしぃ」





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メイドは飛空艇の甲板でトレーニングです

布団「待たせてしまいすまない。どうしてもやらなければいけないイベントと作業と仕事で時間を奪われていた。本当にすまない」
深月「生産者は大変ですね」
布団「そしてまだまだ続く作業にまたしても時間を取られそうなんだ・・・すまないとしか言えない作者を赦して欲しい」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」














~深月side~

 

神の先兵の撃退から翌日―――帝国上層部はドタバタと急いで動き回っていた。それは、カム達の亜人族開放とその為の法案の設立の為だ。その際、奴隷商等の亜人族の解放を渋った者達は首だけとなっていたりした。そして、帝国の市民に説明する際には、エヒト様の神託と宣言し、香織の神々しい登場であっさりと納得させたりした

 

信仰心高いとチョロいですね~。たったあれだけで信じるとは・・・

 

解放された亜人族は、何処か不安そうな顔をしている。いきなり奴隷から解放されて、見たことのない物体に運ばれるので仕方がないだろう。シアが「大丈夫ですよ~!」と大きな声で安心させようとしている

 

「亜人族達は解放されたな。だが、永久の平和は存在しない」

 

「カムもそこら辺りは理解している筈よ。案外、独立を提案するかもしれないわね」

 

「まぁ、ハウリアを見下したりしていたからそうなるだろうな」

 

独立―――今でもヒャッハーしている彼等がとなると・・・頭が痛いです

 

深月は彼等が独立した際の問題事が此方に及ばないかどうかを心配していた。しかし、時すでに遅しなので被害に遭わない様祈るしかないのだ

 

「深月もそこの所どう思う?」

 

皐月に話題を振られて、深月は言おうかどうかを迷う。主に、ハジメのダメージ的にだ

 

「ぶっちゃけて言えよ。深月の予測は大体当たるからな」

 

「本当の事を申し上げますが・・・時すでに遅しですので諦めて下さいね?」

 

「「?」」

 

ハジメと皐月は未だに理解していないのか、頭の上に?を浮かべる

 

「彼等ハウリアの頂点に位置するのはお二人です」

 

「「ん?」」

 

「子孫まで伝えられるお二人の武勇に、ハートマン訓練、厨二病」

 

「ゲハァッ!」

 

「ハジメ!?」

 

「長い時を経る事で尾ひれがついて二つ名が沢山増えるでしょう。そして、ハウリアに訓練を請う亜人族が居る可能性が高く、全体に蔓延・・・亜人族全てにお二人の名が一生残る事間違いなしです」

 

ポクポクポク・・・チーン

 

「よし、カムの所に行って阻止して来る」

 

「自由を掴み取ったのはハウリア自身ですよ?傍観者となっていた私達は介入出来ません」

 

「チックショオオオオオオオオオオオオオ!」

 

避けられない運命にハジメは四つん這いになって絶望した。そして、深月は更に追撃を加える

 

「そして、ハジメさんはシアさんをハーレムに入れた事でカムさん達をご両親に会わせる事になります。後は・・・お分かりですよね?」

 

「やめろぉおおおおおお!現実味を帯びた話をするんじゃなぁああい!」

 

「カムさん達に私達の出会いから全てを語られる事は覚悟しておきましょう」

 

「 」チーン

 

ハジメの口から再びエクトプラズムが流れ出た。会わせたくないと思っても、両家ご両親にはご挨拶は必須。現実から目を背けるも、やがて訪れるそれの威力は計り知れなかった

 

ハジメさんの精神に絶大なダメージを与え終えたので今の現状を再確認しましょう。帝国に居る亜人族は解放され、渋る者はハウリアに狩られ、民には神託という事で纏めました。フェアベルゲンへ向かうにはフェルニルに装着されるゴンドラ状の乗り物に乗せて一斉に運ぶ。その際、ガハルド様とリリアーナ様お二人を連れて行き法案の確認と宣言ですね

流石に人数が多いので搭乗に時間が掛かりますが、もうそろそろ終わりそうですね。私は甲板に出て警備をしましょう。先兵が襲って来る可能性もありますから

 

亜人族全員が乗り込み終えた辺りでハジメのダメージも回復し、深月は外で警戒との事でハジメと皐月は一緒に空の旅を楽しむ事にした。皐月の膝に頭を乗せるハジメと、そのハジメの頭を撫でる皐月―――とても甘ったるい空気を生み出していたりする

甲板に出た深月は、警戒しながら王国でも行っていたシャドートレーニングをする。神の先兵を倒した直後とはいえ、油断する事も出来ないし、エヒトが改良して投入する可能性もある。フェルニルに乗っていた奴隷だった亜人族と、艦内を探索していたガハルドと、それを見張る天之河と坂上と谷口の三人が見ていた。特に見られても困るなんて事は無いので続ける

そして、深月のシャドートレーニングを見たガハルドは何をしているのか理解していた

 

「ほぉ~、あのメイドが強い理由の一端があれか。そりゃあ強いわな」

 

「どういう事だ?」

 

「ゆっくり動いているだけだぜ?」

 

「あんなにゆっくり動いても意味ないんじゃ?」

 

「・・・あれが理解出来ないお前等はそれまでって事だよ」

 

深月を観察していたガハルドは見えていた。深月の戦っている影の相手は、己自身―――同じ技量での捌き合いは平行線だが、相手は疲れを知らずという条件が付く。各部の動きを最小限に、無駄なく効率的に動かす事を確認する様なゆっくりとした動きも分かる。もしも、深月が行っているシャドートレーニングを自分が出来るかと問われれば出来ると答えるだろう。しかし、それは短い時間だけだ。深月は休みなく数時間動き続けている事を考えると、絶対に真似出来ない

人間は普通の速さの動作とゆっくりとした動作ならどちらが楽かと問われれば、何も考えずにゆっくりの方が楽だと答えるだろう。だが、考えてみて欲しい。拳を突き出すだけなら確かに簡単だが、蹴り上げる動作をゆっくりとするのはどうだろうか?―――答えは物凄く疲れる。体幹を常に意識して重い足を徐々に上げていく事を想像するだけでも厳しいのだ。それを理解していないから天之河達は駄目で、所詮素人に毛が生えた程度という事だ

 

「深月の動きはゆっくりで簡単じゃないか」

 

「あれじゃあ攻撃して下さいって言っている様なもんだろ?」

 

「ゆっくりは楽だからね~」

 

「だったら自分達で体験してみな。あれがどれ程地獄か分かるぜ?」

 

天之河達は頭の上に?を思い浮かべながらガハルドが言った様に深月の動きを真似る

 

「こんな事したって意味なんて無いじゃないか」

 

「普段の動きをゆっくりするだけだからな」

 

「鈴でも余裕で出来るよ~」

 

「その余裕が直ぐに崩れ去るだろうがな」

 

「「「?」」」

 

すると、深月の動きが変わった。ゆっくりとスタンスを広げて地面スレスレまでしゃがみ込み、その間にも上半身は動いている。そして、ここからが本当の地獄の始まりだった。深月が片手を地面につけると、片手だけで体をゆっくりと持ち上げてムーンサルトをする。この時点で天之河達は背中から地面に落ちている。あっけなく落ちた天之河達に向けて、ガハルドは淡々とした口調で事実を述べる

 

「これでお前等は死んだも同然だな」

 

「まだだ!地面に倒れただけだ!」

 

「殺し合いをしている時にそうやって言い訳するのか?相手はお前の体勢が整うのを待つ程馬鹿じゃねえぞ」

 

「ぐっ!だが、次は倒れない!」

 

「・・・へいへい、勇者様には何を言っても無駄だな。俺はもうちょっと近くで見学させてもらうぜ」

 

「ま、待て!」

 

天之河達は動きを止めてガハルドの後を追う

 

此方に来るのですか。・・・一旦切り上げましょう

 

近くまで来たガハルド達は深月だけを見ているので、気付かせる様に声を掛ける

 

「遠藤さん、一度休憩を入れましょう」

 

「や、やっと休憩・・・」

 

深月だけしか目に入っていなかったガハルド達は、いきなり現れた遠藤の声に驚きながらそちらへ振り返った

 

「ど腐れ野郎はともかく、ガハルド様まで見失うとは・・・ハウリア達に暗殺されても仕方がありませんね」

 

「ちっ、そいつの影の薄さが異常なんだよ。おおよそ天職も暗殺者で、気配遮断を持っているだろ?だったら中々気付かないのは仕方がねぇだろ」

 

「空気の振動を感知すれば見失う事はございませんよ?」

 

「そんな事が出来るのは恐らくお前だけだろうよ」

 

「人間死ぬ気で訓練すれば大丈夫です」

 

「実体験かよ・・・。それとして話は変わるんだが、このアーティファクトが欲しい。個人用とか無いのか?」

 

「メイドとはいえ、お二人が制作したアーティファクトを全て知っているわけではありません。そして、お二人はアーティファクトを売るつもりはないと思います。例え個人で使用するとしても帝国の第一印象が悪いのが原因でしょう。言葉だけとはいえ、お嬢様達を犯すと発言されましたので」

 

「帝国の在り方が駄目だったって事か~」

 

戦争に利用されるという事もあるのだが、最大の理由は深月が言った通り帝国の第一印象からだった。それはもう最悪の一言だったのは真新しい記憶でもある

 

「私個人の意見では、帝国を滅ぼしたかったですよ」

 

「それは・・・主が危険に晒されたからか?」

 

「お嬢様の敵は私の敵です。しかし、滅ぼした後の厄介事というデメリットがありましたのでやりませんよ」

 

「お前を敵に回す奴らは不憫だろうな」

 

「私よりスペックの高い者は居ますよ?」

 

「・・・冗談だろ?」

 

「王国襲撃の際は体に馴染んでいなかった為に撃退が出来ただけですので・・・次は分かりません」

 

「なるほど、運が傾いていただけか。どれ程痛めつけた?」

 

「片腕を切断しましたが、恐らく再生しているでしょうね」

 

「かぁ~・・・どんな化物だよ。そんな奴らが敵ってのがヤバイな」

 

「次の相対で接戦する様であれば、後遺症が残る事を覚悟で殺すつもりです」

 

「それが良いだろうな。一度逃げられたって事は、相手に学習させる時間を与えたって事だからな」

 

中村と相対する時は必ず来る。しかし、その時までに中村がどれ程成長しているかが問題なのだ。王国での戦闘は、覇潰を使用していたからだ。手札を見せすぎていないので有利かもしれないが、結局はステータスの上昇系の技能である。どちらかと言うと、深月は技で圧倒する傾向が強く、王国の際はブチ切れた状態だったので力任せだった

深月とガハルドが中村を殺す算段を立てていると、横から天之河と谷口が割って入る

 

「恵理はエヒトに操られているんだ。だから殺してはいけない!」

 

「待って!恵理は鈴が説得するから殺さないで!」

 

深月は、この二人はふざけているとしか思えなかった。まだこの世界に来た時の姿であればやぶさかでもなかったが、中村は力でどうとでも出来る存在まで強くなっているのだ。それこそ、片手で天之河達を殺す事なんて余裕である

 

「平和ボケもその程度にして頂けませんか?中村さんを殺す―――これは確定事項です。人間のままなら説得等ご自由にと放り投げていました。ですが、今の彼女はどうですか?ステータス平均100000の化物スペックです。貴方達程度片手で殺す事など容易でしょう」

 

「今の所関係ない俺が言うのもなんだが・・・敵なら躊躇わず殺せ。一度でも裏切ったならそいつは何度でも裏切るぞ」

 

「恵理は操られているだけだ!自ら敵になんてならない!俺が止めてみせる!」

 

「そうだよ!鈴達で絶対に説得するから殺さないで!」

 

「私としては、説得に行かれるのは構いません。しかし、操られて貴方方が敵となるなら躊躇わずに殺しますが―――構いませんよね?」

 

まず間違いなく中村は深月を攻撃してくるだろう。それを説得?その程度の為だけに深月の命を天秤にかけるのは如何なものか・・・。そこで、普段思いつかない馬鹿がその疑問に行き着いた

 

「ん?なぁ、中村が神楽を狙っているんだったら、結局意味ねえんじゃないか?」

 

坂上の言う通りである。それに気づいた天之河達は、それでも諦めないと豪語する

 

「貴方達は、説得の為に私に死ねと言っているのと同じですよ?それを私が了承するとでも?」

 

「で、でも、ミヅキンなら恵里と戦っても無事だったじゃん!」

 

「先程も言いましたが、あれは運が良かっただけ。肉親ならいざ知らず、所詮は他人―――命を懸けるに値しません」

 

「うぅ」

 

「なら、どうして南雲を護っているんだ!」

 

深月は天之河の言葉に盛大な溜め息吐く

 

「普通は男が女を守るだろう!南雲は、女であれ戦場に立たせる酷い奴なんだぞ!」

 

深月は頭が痛くなり、こめかみを押さえる。天之河の解釈は、女を戦場に立たせる悪い奴と言う事だ

 

「・・・貴方がそれを言うのですか?クラスメイト達を戦争参加に導いた張本人さんが・・・」

 

「俺は皆を戦争に参加させた事はない!」

 

深月が天之河はクラスメイト達を戦争に参加させたと指摘するが、当の本人はそれを否定する。どこまでも無責任だ

 

「畑山さんは戦う事を否定していました。しかし、それを無視してイシュタルという汚物の言葉に従いましたよね?」

 

「イシュタルさんは酷い人じゃない!」

 

「畑山さんを監禁したのは教会、そのトップであるからこそ汚物なのですよ。それに、汚物は畑山さんの怒りによって爆殺されました。貴方の何も知ろうとしなかった責任を背負ったのです。畑山さんが誘拐された時、誰を一番最初に疑いましたか?きっとハジメさんなのでしょう?」

 

実際は違いますが、ど腐れ野郎に言うだけならこの程度で大丈夫でしょうね

 

深月の言葉に、天之河は図星を言い当てられた様に反応する

 

「ちっ、違う!」

 

「ダウト、目が泳いでいますよ。大方、ハジメさんが気に入らないのですよね?美しい女性が傍に居る事が気に食わないのでしょう?己の隣に居る事こそ幸せであると」

 

「南雲は当たり前の様に人を殺すんだぞ!沢山侍らせる事が当たり前と思っている男の隣に居るよりも、俺の傍に居た方が安全なんだ!」

 

「そこに女性の意思はあるのですか?」

 

「え?いや・・・人殺しの男の傍に居るより―――」

 

「女性の本当の想いを真っ向から否定する。粘着質な男ですね」

 

天之河を汚物を見る様な視線を向け、数歩離れる。ついでに、先程の天之河の答えに遠藤とガハルドも数歩離れる

 

「あいつ・・・マジかぁ~。ある意味男として屑だな」

 

「薄々は感じていたけど・・・改めて聞くと最悪だ」

 

二人の率直な感想に天之河がキッと睨みつけて怒ろうとしたが、深月に言葉に遮られる

 

「女性の想いを殺し、己が隣こそ最高の至福と解釈するその頭・・・本当にぶっ壊したいです。以前言われていた事ですが、ハジメさんは女性をコレクションにしていると叫ばれていましたね?」

 

「そうだ!南雲は女性をコレクションとして侍らせているんだ!」

 

「ハッキリ言いますが、貴方の方が女性をコレクションと認識しています」

 

「俺はそんな事していない!」

 

「なら、どうして香織さんの行動を否定したのですか?」

 

「南雲が洗脳したからだ」

 

「どうやって?」

 

「魔法で洗脳したに違いない!」

 

深月は、坂上と谷口に視線を向けて一つ問う

 

「魔法の勉強はしましたか?」

 

「やったが・・・正直分からなかった!」

 

「基礎から各属性の性質を習ったけど?」

 

遠藤にも視線を向けると、習っていると首を縦に振っていた

 

「洗脳に長けた魔法とは、闇属性魔法です。人一人を操るとなると、天職がその魔法に特化した者だけです。ハジメさんの天職は錬成師―――魔法適正無しですよ?どの様な根拠から洗脳と言う言葉が出たのか教えて頂けませんか?」

 

「だ、だがっ!」

 

「くどい。現実を受け入れられないから言い訳をするのは幼い子供と一緒です」

 

深月に続く様に、遠藤とガハルドが追撃を加える

 

「俺は人を好きになった事がないから説得力が欠けるけど、天之河が言っている事は、女性をコレクションにしているって事だって思う」

 

「俺にも側室は居る。だが、ちゃんと愛してやってるんだぞ?何もせずに隣に置くって事は、そいつの未来を真っ暗闇にしたまま奪うって事だ。勇者が言っている事は正にこの事だ」

 

「だ、だがっ!南雲は人殺しなんだぞ!?そんな奴と一緒に居ても幸せである筈がない!」

 

「今思ったんだが、何故勇者は南雲ハジメだけを否定しているんだ?俺はあいつよりも側室が多く、人殺しもしているんだが否定の声が上がっていないぞ?」

 

「側室の人達が納得しているならそれは仕方が無いんだ。だが、香織は納得していない!」

 

「いや、天之河さぁ・・・白崎さん自身にその事を聞いたの?」

 

遠藤の指摘に天之河がピタッと止まった。またしてもご都合解釈で、香織が無理矢理ハジメと行動させられていると思っていたのだろう

 

「さて遠藤さん、続きをしますよ。今回はマンツーマンで動きの再確認を致しましょう。それが終われば、新しい切り返しを伝授します」

 

「やってやるさ!」

 

今までの遠慮する考えがなくなり、心機一転とした遠藤は生き生きしながら深月にCQCを教わり始めた。受け入れられない現実に苦悶する天之河を、ガハルドが無理矢理連れて行く形でこの場から立ち去った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠藤の特訓は厳しいの一言。倒れて起き上がっても、直ぐに倒され起きて倒され起きての繰り返しだ。それでも、遠藤は必死になって体を動かして流そうとするが、その全てを倒されてしまう。例えるなら、詰み上げ様とする石が毎回蹴り飛ばされていると言ったらいいだろう。いつ終わるか分からない苦痛だが、遠藤は徐々にではあるが、自分が強くなっている確信を得ていた。新しい技術を手に入れた時の感覚は心を震わせ、自然に笑みを零す程だった

 

早い―――CQCに関しての技術だけではありますが、成長速度が段違いです。一戦力として十分機能する事が出来ます。パーティーに入れて行動する手も一考した方が良いでしょう。私はワザと動きを遅くしていますが、追い付いて来ています。・・・それこそ、今日の間で追い付くかもしれませんね

 

深月の技が遠藤を倒そうとした瞬間、遠藤が手を弾き攻撃して来た。遠藤の伸ばされた手を掴んで投げたが、腕に圧し掛かる重さは無かったのだ。それは、遠藤は投げられると感じた瞬間に、自ら体を投げたのだ。しかし、着地からの攻撃で再び倒された。大の字で肩を大きく動かして呼吸しているが、遠藤は確かな手応えと実感に歓喜した

 

「やった・・・やった。やっと分かった!CQCってこういう事だったのか!」

 

完璧とまではいかないが、遠藤はCQCの基礎的な動き方を理解した

 

「投げて、防いで、堪えるだけじゃなかった。流される事も必要だったんだ!」

 

「ようやく気づかれた様ですね。では、今回はこれで切り上げましょう。復習は、無理をしない程度で忘れずに行ってください」

 

遠藤の訓練が終わったら、ユエ達四人に連れられる形で八重樫と谷口が甲板に出てきた。しかも、ユエと香織に関しては、背後に龍と般若を顕現させていた

深月が事の経緯をシアに聞くと、それはものすごく単純な事だった。ハジメに膝枕をしていた皐月を見て、ティオと香織がしつこく羨ましがっていた。そこでユエは、二人を引き剥がす為に事実を突きつけた後に喧嘩を売り、二人がそれを買ったという流れだ。しかも、道連れで八重樫と谷口も居た

 

「喧嘩をするのであれば、私と組手は如何ですか?」

 

「「「「「「いいえ、結構です」」」」」」

 

「残念です。・・・それでは、甲板の警戒は皆さんにお任せします」

 

深月は甲板の警備から外れて艦内の調理室へ向かい、皆(勇者パーティー除く)にお菓子を作りに行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

皐月はハジメに膝枕をしながら、外の景色を楽しむ様にフェルニルを操船している。途中でユエ達のひと悶着があったが、外で喧嘩をするという事なので二人きりでのんびりしている

 

「亜人族達をフェアベルゲンに送り届けたら、いよいよ大迷宮の攻略ね」

 

「寄り道したが、概ね順調だな」

 

「今の間だけは平和ね」

 

「・・・だな」

 

激甘な空気を大量生産する二人を見て、リリアーナとヘリーナの口の中はジャリジャリしている。二人が、誰かこの空気をぶち破れ!と思っていると、艦内探検が終わったガハルドが艦橋に戻って来た

 

「あ~、艦内探検は終わったのか?」

 

「おう、とんでもないな。何故、こんな金属の塊が飛ぶのかさっぱりわからん。だが、最高に面白いな!おい、南雲ハジメ。俺用に一機用意してくれ。言い値を払うぞ」

 

「どうせ深月にも聞いてんだろ?だったら諦めな」

 

「そういうなよ。な?一機だけ、小さいのでいいんだ」

 

「俺に何のメリットもないだろうが」

 

「ぬぐぅ、金がダメなら女だ!娘の一人にちょうどいい年の奴がいる。ちょっと気位は高いが見た目は上玉だぞ。お前のハーレムに加えてやるから、な?いいだろう?」

 

「ハーレムを加えるかどうかは私次第よ。娘を道具として扱うなんて酷い親よね」

 

「いいや、娘もちゃんと将来を見据えて行動するぜ?」

 

「いやいや・・・深月に教育されて帝国を内部崩壊させちゃうかもしれないわよ?」

 

「・・・おいやめろ、物凄く容易に想像出来ちまっただろ!」

 

深月の教育を受けた者がどうなるかは分からない。しかし、お話しだけで変貌したヘリーナという証人が居るのでとてつもなく不安に思うのだ。皇帝こそ一番とする帝国が女帝が支配する国となり、女帝は深月が忠誠を誓う皐月の部下となる。そうなってしまえば、皐月とガハルドの胃が直接攻撃されるのは目に見えている

リリアーナは、「流石にないですよね~?」と呟きながらヘリーナに深月の事を尋ねる。そして、返ってきた言葉に頭を抱えた

 

「深月様ですか?とても素晴らしいメイド長で御座います。遠藤様と御一緒させてもらい短剣術を学んでおります。次回はCQCなるものの訓練です」

 

これにはハジメ達も含め、全員が頭を抱えてしまった。「何やってんだ深月ぃいいいい!」と叫びたい心を抑えて苦笑いをしていると、噂をすれば影とやら―――深月がカートを押しながら艦橋へやって来た

 

「皆様頭を抱えられていますが・・・如何されましたか?」

 

噂の本人は、皐月達が何故頭を抱えているのかは分からない

 

「深月・・・貴女ねぇ・・・。リリィ御付きのメイドに何しちゃっているのよ」

 

「これと言った事はしていないのですが・・・何か不手際が御座いましたか?」

 

「いや、・・・不手際はなかったわ。・・・だけど、だ・け・ど!どうして戦闘能力を付けようと思ったの!?」

 

「一番身近に居る存在だからこそ、何かあった時の為の戦闘要員です。近衛騎士が常に傍に居るとは限りませんよ?」

 

深月の言う事は正論だ。今回の一件から、ヘリーナも己の判断力と力の無さを悔いているからこそ強くなりたいと願った。バイアスの様な男が現れない可能性はゼロではない

 

「リリアーナ様は警戒心はあっても、最悪の場合の想定が甘いのでそれを防ぐ為です」

 

「神楽様の言う通りです。あの一件で私の甘さがあの様な悲劇を生んだとなれば、二度と起こらない為にあらゆる手段を用いる事は当たり前で御座います」

 

「ヘリーナがここまで変わったのは神楽さんのせいですよね!?」

 

「主に忠誠を誓う事の大切さを説いただけです」

 

「事実だけに言い返せない!」

 

結局、深月によるヘリーナ微改造は行われる事となった。話は戻り、深月が押してきたカートに乗っているのはパンケーキだった。微かに香る甘い匂いと、熱量操作で温かさを保たれた一品だ

 

「あぁ~、この匂いは駄目なやつ~」

 

「この瞬間を待っていたんだ!」

 

「神楽さんの作ったお菓子・・・ゴクリ」

 

「リリアーナ様、はしたないですよ?」

 

「そう言うヘリーナこそ、涎が垂れていますよ?」

 

「・・・これは失礼」

 

匂いに釣られて、食に飢えた者達が口から涎を垂らす

 

「ほぉ~、甘いやつをあまり食わないが、匂いだけでこれは絶対に美味いと分かるな。俺の分もあるか?」

 

「ご用意しております」

 

「ちっ!それもよこせよ」

 

「おいおい、それはいくらなんでも横暴すぎるだろ南雲ハジメ。自分がされたら嫌な事を相手にするなよ」

 

「こういう時だけ人間味溢れる綺麗事言うなよ。帝国らしく強者に従えよ」

 

「飯の時だけはそんな事してねぇよ!」

 

「ハジメさん?」

 

「・・・ごめんなさい」

 

深月に睨まれて素直に土下座するハジメを見て、ガハルドは笑った

 

「ガハルド様の分もお下げしましょうか?」

 

「・・・すまん」

 

この場で勝てるのは皐月以外誰一人居ない。姫?皇帝?国を亡ぼす事の出来る先兵を一人で倒せる者達が言う事を聞く可能性は皆無である。要するに、この場で正しい行動は皐月に媚を売るしかないのだ

 

「あ~・・・高坂皐月。これ以上アーティファクトに関する事は言わねぇから食わせてくれ。な?良いだろ?」

 

「これ以上言わないなら別に良いわよ。そ・れ・と、ハジメも飢えているのは分かるけど少しは自重して」

 

「・・・はい」

 

皐月は二人を落ち着かせた後、深月に目配せして各自に配膳していく。すると、ユエ達が急ぎ艦橋へと戻り、少し遅れて

 

「私も!」

 

「ずるいですぅ!」

 

「良い匂いが漂ってきたのじゃ!」

 

「私の分もあるよね?」

 

「香織達がいきなり手を止めたから何かと思ったけど・・・こういう事だったのね」

 

「鈴も食べたい!」

 

八重樫はこの後の展開に溜息を吐き、谷口はパンケーキを頂こうとしている。しかし、虚しきかな。勇者(笑)パーティーの分は用意されていなかった。リリアーナは苦笑いしつつ、何故用意されていないのかを尋ねる

 

「尋ねるのは無粋ですが・・・何故天之河さん達の分が無いのでしょうか?」

 

「リリィ、勇者(笑)パーティーが帝国で何をしたか分かっているでしょ。それに、帝国と亜人族の間に結ばれる法案に勇者(笑)は必要ないのよ。必要なのは第三者の国家の重要人―――この世界に留まらない私達は駄目って事よ」

 

「それは・・・仕方がないですね」

 

リリアーナは、帝国に来てからの天之河の行動に頭を悩まされていたので食べさせない事で少しばかりの仕返しをする事にした。そして、当たり前の様に食べれると思っていた天之河達は反発する

 

「勇者の俺が立ち会った方がいいだろう?」

 

「光輝、止めなさい」

 

「雫止めるな。俺は南雲の様な人殺しを強要させる奴を立ち会わせない方が良いと思っているから、俺が代わりにするんだ。勇者じゃない南雲よりも、勇者である俺の立ち合いなら後の世代にもしっかりと伝わるんだ」

 

本当に・・・本当に意味を理解していない。勇者?そんな者は居ても居なくても変わらない。大して活躍をしていない勇者が立ち合い―――無名の自称勇者が立ち合ったと認識されてしまう。そんなものは邪魔でしかない。それならば、王国と帝国を襲撃した神の先兵を打ち倒した超メイドとその主の方がまだマシだ。所詮立ち合いというのは飾りである

 

「立ち合いなら勝手にすればいいわ。但し、このパンケーキは食べさせない。材料はあるから自分で作れば?」

 

「食べるなら美味しい方が良いだろ?南雲はいつも食べているから俺達に譲るのは当たり前だろう」

 

要するに、深月が作ったパンケーキを自分が食べる事が正しいと解釈しているのだ。だが、ハジメは天之河を無視して食べる

 

「うめぇ~、やっぱり深月が作る料理は最高だな!」

 

「無視するな!」

 

「はぁ?どうしてお前の言う事を聞かなきゃいけねぇんだよ。ハッキリ言うがな、タダ飯食らいなんてさせねぇぞ?ガハルドは・・・まぁ、あれだ・・・一応皇帝だからな」

 

「俺は勇者だぞ?」

 

「勇者だからどうした?魔人族の一人も殺せない様な奴が偉いとでも思ってんのか?」

 

「人殺しは悪だ!勇者である俺は、絶対に人を殺さない!皆は俺がみちb―――」

 

「光輝、いい加減にしなさい。それ以上言うなら私は貴方との縁を切るわよ?」

 

「くっ!」

 

天之河はハジメを一睨みして艦橋を出て行き、坂上は放っておけなさそうな様子で後を追って行った。空気が悪くなったが、深月はそんな事は気にせずに皐月達にパンケーキと紅茶を配膳した

そして、食べ終えた頃にフェアベルゲンの上空へと到着。ハジメは、フェルニルをフェアベルゲンのど真ん中に着陸させた。ゴンドラに乗った亜人族達が故郷に降り立ち、涙を流しながら、もう会えないと思っていた家族や友人達と抱き締め合っていた。これからは亜人族と帝国との法案の確認―――一応証人として赴くが、重要人物ではない。まるでガハルドを連行する様な形で族長達が集まっている場所へと移動した

ハジメ達のハルツィナ樹海の攻略は翌日になりそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「続き書かなきゃ・・・でも展開に迷う」
深月「息抜きで何かを書かれるのも一考ですよ?」
布団「どうにかして頑張る('ω')」


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メイドは白いものを手に入れた

布団「大変お待たせしました。少しだけお休みが出来たので急ぎ執筆!」
深月「頑張って下さいね」
布団「いつもより短めだけど許してね?」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」








~ハジメside~

 

フェアベルゲンに帰還した亜人族達。その後、アルフレリックを中心とした族長との会議で帝国との誓約を取り決め、ガハルドを転移門で強制帰宅させた。そして、深月の予想通りカム達はフェアベルゲンから独立―――ハウリア達専用の集落を作る事となった。一応、カムにハウリア代表としての権限を持たせる事で族長会議に参加出来る様になった

その夜、亜人族達に混ざって宴会を楽しむハジメ達。深月に関しては亜人族達が作る料理の観察をしていたりする。皆が静かになった後、皐月に促されてハジメとシアの二人きりの時間を用意され色々と話した

そして翌日、体に纏わる濃霧をかき分けながら大樹の元へと進むハジメ達と天之河達。道中、襲い来る魔物達を弱い天之河達と未だに体に慣れていない香織に任せて進む。そんな香織の様子を見ていたハジメは、中々様になって来ていると思った

 

「大分、慣れてきたみたいだな。毎日、ユエと喧嘩しているだけの事はある」

 

「・・・スペックが異常。うかうかしていられない」

 

「そんな事ないよ。魔法はまだ実戦だと使い物にならないし、分解も集中しないと発動しないし……ユエからは一本も取れないし」

 

香織がノイントの体になってから約十日―――これを思うと十分過ぎる成長速度である。しかし、前線で自ら戦う事に不慣れな為にユエ達には勝てないでいた

 

「・・・香織。あなた何を言ってるのよ。軽く私達を上回る身体能力に、銀翼と分解なんていう凶悪な能力、魔法は全属性に適性があって無詠唱・魔法陣無しで発動可能。剣術も冗談みたいに上達して上限は未だ見えず、ただでさえ要塞みたいな防御能力なのに傷を負わせても回復魔法の練度はそのまま継承しているから即時に治癒して・・・もうチートなんて評価じゃ足りない、バグキャラと言うべきよ。なのに、まだ不満なの?」

 

八重樫から呆れた様に、客観的な意見を言われ「そうかな~?」と本人はあまり自覚していない模様だ

 

「もうちょっと考えなさいよ。深月は除いて、分解魔法の前では相手は回避一択しか行動出来ない事のメリットは何?それだけなら何も言わないけど、ステータスは私とハジメとほぼ同等で回復魔法まで使える事を。固定ヒーラーじゃないのよ?攻防両立の移動ヒーラーなのよ」

 

「うっ、・・・ちゃんと自覚していくよ」

 

「比較対象を深月にしちゃいけないわよ?永遠に自分のスペックを正しく理解出来ないわ」

 

今の深月が成長限界とはいえ、それでも意味不明な強さは健在なのだ。高すぎる壁は乗り越えようとする意欲すら粉々に打ち砕く

 

「でも、ユエやシアにも勝てないし・・・私がバグキャラなら、ハジメくん達は?」

 

「・・・名状しがたい何か・・・としか・・・」

 

香織は、ノイントの身体でもユエやシアに勝てない。しかし、それは戦いに一日の長があるだけだ。何事も経験が一番である

 

「大丈夫だ、雫。大迷宮さえクリアできれば、俺達だって南雲くらい強くなれる。いや、南雲が非戦系天職であることを考えれば、きっと、もっと強くなれるはずだ」

 

「だな。どんな魔法が手に入るのか楽しみだぜ」

 

「うん、頑張ろうね!」

 

そして、大迷宮攻略に相応しくない面子の天之河達。何故彼等がこの場に居るのかというと、畑山に懇願されたからだ。何時?―――王国でハジメと畑山のふたりだけの時にお願いされたのだ。ハジメも最初は否定していたのだが、渋々ながら折れる事で同行させる事を許可した。しかし、天之河達を護る事はしないが命の保証を最低限という事を条件にした

当然この同行に反発したのは深月である。大迷宮で足手纏いの御守りをしながら攻略はそんなに甘くないと口酸っぱく言っている。ハジメも深月の言う事は全部正論で間違っていないと分かっているが、畑山にお願いされた旨を伝え、皐月の命令という形で反対はしなくなった。しかし、それは口だけで嫌悪感を滲み出させている事は言うまでもない

 

(皐月・・・深月の機嫌を取り戻す為にはどうすればいい?)

 

(諦めて)

 

かくいう皐月もあまりいい気分ではなかった。これはハジメにお願いされた事で、仕方なしに了承しただけに過ぎない。そして、現在進行形でイラつかせている理由は樹海の魔物に手を焼いている事と、大迷宮を攻略しただけで強くなれると思っている事だ。シアは、少しイラついている皐月にビクビクしながら道案内終了の声が上げる

 

「みなさ~ん、着きましたよぉ~」

 

濃霧を抜けて晴れた場所に出ると、以前と変わらない姿の大樹が姿を現した

 

「これが・・・大樹・・・」

 

「でけぇ・・・」

 

「すごく・・・大きいね・・・」

 

頭上を見上げ、大樹の天辺を見ようとするが見えず、横幅があり過ぎて壁に見間違う程の圧巻に口をポカンと開けて唖然とする初見組。ハジメは唖然としている彼等を放置して、大樹の根元にある石板のもとへ近づく。石板の方も前回と変わらず七角形の頂点に七つの各大迷宮を示す紋様が描かれており、その裏側には証をはめ込む窪みがあった

 

「カム、何が起こるかわからないからハウリア族は離れておけ」

 

「了解です、ボス。ご武運を」

 

これから先は魔境―――ハジメの言葉にハウリア達は少し残念そうな表情をしているが、それでも一斉にビシッと敬礼を決めて散開していった

ハジメは、石板に従ってオルクスの指輪、ライセンの指輪、グリューエンのペンダント、メルジーネのコインをはめ込んでいくと、徐々に強くなっていた光が解き放たれたように地面を這って大樹に向かい、今度は大樹そのものを盛大に輝かせた

 

「む? 大樹にも紋様が出たのじゃ」

 

「・・・次は、再生の力?」

 

ティオが興味深げに呟いた通り、大樹の幹に七角形の紋様が浮き出ていた。ユエが紋様に近づいて再生魔法を行使すると、今までにない光が大樹を包み込み、ユエの手が触れている場所から波紋の様に何度も光の波が天辺に向かって走り始めた

大きくとも瑞々しさ失っていた大樹が、根から水分を吸収する様にあるべき状態へと元通りに復活していく

 

「あ、葉が・・・」

 

「再生魔法で若かりし頃の大樹に戻ったのかしら?」

 

ぽつりぽつりと葉が大きくなり、それを皮切りに大樹に葉が生い茂って鮮やかな緑を取り戻した。風が大樹をざわめかせた瞬間、突如、正面の幹が裂けるように左右に分かれ大樹に洞が出来上がった

 

「迷宮の入口御開帳~、ってな」

 

「懸念していた事は外れたわね」

 

ハジメと皐月が懸念していた事とは、攻略条件を満たしていない者達が入れるかどうかという事だ

条件を満たしていないシア、ティオ、香織―――ついでの天之河達だ。恐らくだが、迷宮の解放条件があれだったのだろう。迷宮に挑戦する者は拒まず、生死を決めるのは己次第という事だ

 

「んじゃあ、行くか」

 

「そういえば、この迷宮は昇華魔法だったわね。・・・試練がさっぱり分からないわ」

 

「・・・入れば分かる」

 

「いつだってぶっつけ本番ですぅ!」

 

「炎は厳禁じゃの」

 

「頑張るよ!」

 

ハジメパーティーの意気込みは十分で、天之河達の勇者(笑)はというと―――

 

「攻略してみせる!」

 

「やってやるぜ!」

 

「頑張るよ~!」

 

「・・・はぁ、胃が痛い」

 

三人気合十分で、一人は考えの甘さに胃を痛めている

 

「それでは大迷宮に入りますが、覚悟は良いですか?」

 

「俺は強くなるんだ・・・身近な人を護る為に強くなるんだ!」

 

「「「「「「「「「「遠藤(さん)(くん)居たの!?」」」」」」」」」」

 

遠藤の影の薄さはいつも通り。足手纏いが多く、危険な攻略が開始された

ハジメ達は、大樹の洞の中へ入って進んで行くとただ大きな空間がドーム状に広がっていた

 

「行き止まりなのか?」

 

天之河が訝しそうにポツリと呟くと同時に、洞の入口が逆再生でもしているように閉じ始めた

 

「あっ、あぁ~・・・こういう事か」

 

「ボスが来る?それとも転移?・・・なるようになれとしか言えないわね」

 

徐々に外の光が細くなっていき、入口が完全に閉じ暗闇に包まれた。ユエが光源を確保しようとした瞬間、足元に大きな魔法陣が出現し強烈な光を発した

 

「こっ、これは一体なんだ!?」

 

「うわっ、なんだこりゃ!」

 

「なになに!なんなのっ!」

 

「騒ぐな!転移系の魔法陣だ!転移先で呆けるなよ!」

 

動揺する天之河と坂上と谷口にハジメが注意した直後、彼等の視界は暗転した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

強い光が徐々に弱まり、ハジメ達が目を開けると木々の生い茂る樹海が視界に映っていた

 

「・・・ここは」

 

複雑怪奇の一言に尽きる

 

「みんな、無事か?」

 

天之河が周囲の状況確認をし仲間の安否を確認する。八重樫達は「大丈夫」と返事をする

 

「ユエ達も無事ね。私達だけ転移だったようね」

 

皐月がユエ達に点呼を呼び掛けようとした瞬間

 

ドパンッ!

 

ハジメの撃った弾丸が皐月の左腕を吹き飛ばした

 

「ハジメ、どうして!?」

 

「皐月さん大丈夫ですか!?」

 

「ご主人様!?」

 

「ハジメくん!?」

 

「ちょ、嘘でしょ!?」

 

「南雲お前っ!?」

 

「何やってんだ!?」

 

「南雲っち!?」

 

「南雲!?」

 

いきなりの出来事に、深月以外のこの場に居る皆が驚愕してハジメを止め様とするが、ハジメの殺気が普段とは比べ物にならない程だった

 

「やってくれたな大迷宮。おい深月、ちゃんと縛ってるよな?」

 

「言われずとも」

 

ユエ達はハジメと深月が何を言っているのかよく分からなかったが、ハジメが吹き飛ばした皐月の左腕を見ている事に気付いた。釣られる様に皐月の左腕に視線を向けると、吹き飛ばされた筈の腕から血が噴き出ていない事に驚愕した

 

「さてと―――おい、偽物。紛い物の分際で皐月の声を真似てんじゃねぇよ。次に、その声で俺の名を呼んでみろ。手足の端から削り落とすぞ」

 

「擬態が不十分です。お嬢様成分が全くありませんよ?」

 

「これ以上問答するのも時間の無駄だ。深月、殺れ」

 

ハジメの言葉を聞き、深月が右手を握りしめたと同時に、皐月、ティオ、坂上の三人の身体がバラバラになった。つい先程まで違和感無く溶け込んでいたティオと坂上がバラバラにされた事で天之河が斬り掛かろうとしたが、八重樫が肩を掴んで止めてバラバラにされた二人の場所を確認させる事で落ち着きを取り戻させた

 

スライムですか。・・・このハルツィナ樹海の昇華魔法からなる試練のコンセプトが全く分かりません。バラバラの転移による状況把握の確認を試す事は却下。擬態・・・この先もお嬢様達を模した魔物が現れる可能性は大きいでしょうね

 

深月は、冷静に状況を把握していく事で最悪の仮定を予測する

 

「深月、この大迷宮のコンセプトについてだが」

 

「恐らく信頼関係でしょう。仲間割れを起こす事が目的かと思われます」

 

「この先皐月達を模した敵が現れる可能性があるな」

 

「普段の仕草で判断する他ないでしょう」

 

「チッ。流石大迷宮だ。いきなりやってくれる・・・」

 

ハジメは、ドンナーをホルスターに仕舞いながらこの先へと続く通路を睨む

 

「ハジメさん・・・皐月さんとティオさんは・・・」

 

「転移の際、別の場所に飛ばされたんだろうな。僅かに、神代魔法を取得する時の記憶を探られる感覚があった。あの擬態能力を持っている赤錆色のスライムに記憶でも植え付けて成り済まさせ、隙を見て背後からって感じじゃないか?」

 

最愛の皐月に擬態された事で不機嫌そうに表情を歪ませる。そんなハジメの予測を聞いた八重樫と谷口が感心した様に頷く

 

「なるほどね。・・・それにしてもよく分かったわね」

 

「うんうん、鈴には見分けがつかなかったよ。どうやって気がついたの?」

 

八重樫と谷口は、どうやって見分けがついたのかコツをハジメに聞く。何故深月ではないのかと言うと、参考にならないと判断したからだ。しかし、ハジメから帰ってきた答えもとても参考になるものではなかった

 

「どうって言われてもな。・・・見た瞬間、分かったとしか言いようがない。目の前のこいつは"俺の皐月じゃない"って」

 

「「「「「「「・・・」」」」」」」

 

惚気ともいえる回答に深月以外の全員がガクッと脱力した

 

「じゃあ、龍太郎君とティオさんは?」

 

「一度、偽者がいるって分かれば、後は注意して見れば"魔眼石"で違和感を見抜くことは出来るんだよ。だから、今後は俺といる限り心配無用だ」

 

天之河達は、そうですかぁ~と呆れた様子だった。一方、シアと香織はどこかモジモジしながら期待した眼差しでハジメに質問した

 

「あの、ハジメさん・・・私でも、見た瞬間に気づいてくれますか?」

 

「シアと同じく私は?」

 

微妙に甘酸っぱい雰囲気の中ハジメに視線が集まるが、ハジメは特に気にする事無くありのままを答える

 

「ん~・・・無理だな。この中だと、ユエと深月だけだな」

 

「「・・・」」

 

普通は空気を読んで「分かる」と言って欲しかった。しかし、そこはハジメクオリティーなので仕方がなしと言ったところだ。思わずジト目になる二人を無視して、ハジメとユエと深月は樹海の奥へスタスタと進み始めてしまった

 

「神経が太すぎるのも考えものね・・・」

 

「あぅ、カオリン、シアシア、元気だして!」

 

「香織は本当に、何だってあんな奴を・・・」

 

「はぁ・・・」

 

頬を膨らませ不機嫌さをアピールしている香織とシアをチラ見しながら、一行は樹海の中へと足を踏み入れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

樹海へと足を踏み入れた一行に待っていたのは、昆虫型の魔物の群れだった

 

ブゥヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!

 

「うぅ~、キモイよぉ~、"天絶ぅ"!」

 

「泣き言いわないの!鈴、そっち行ったわよ!」

 

「くっ、素早い!"天翔剣"!」

 

「魔物は人間と違うから戦いにくい!」

 

おおよそ幼児程の大きさの蜂の魔物がおびただしい数で攻めてきたのだ。顎をギチギチと鳴らし、針部分からは緑色の液体が溢れている事もあって嫌悪感が凄まじい。しかも、この蜂型魔物の厄介な所は、針を飛ばせるという所だ。しかも飛ばした針は直ぐに補充されるという中距離からマシンガンを撃たれる様なものだ

谷口が障壁で防ぎ、八重樫がヒットアンドアウェイで陣形を乱した所に天之河の高火力で薙ぎ倒すというゴリ押し戦術を駆使するが、視界を埋め尽くす蜂の群れは一向に減った様子がなかった

 

「くそぉ、こいつら、まるで魔人族の魔物みたいだ!」

 

「いや、逆だろう?奴らの魔物が大迷宮の魔物に近いんだ」

 

天之河は、大迷宮で少し前に経験した修羅場を思い出して思わず悪態を吐き、ハジメは必死に聖剣を振るう天之河を後ろから襲おうとするカマキリの魔物をハジメが難なく撃ち殺す。ユエは羽を凍柩で凍らせて地に落とし、シアはドリュッケンで蟻を土ごと粉砕し、香織は銀羽で蜂型の魔物を撃ち落とす。深月は気配を透過させて気付かれずに首を跳ね飛ばしながら奥へと進んで行った

 

「"天絶ぅ""天絶ぅ"!もう、ダメだよっ。押し切られちゃう!」

 

谷口の障壁が壊され、張り直し、壊され、張り直しを繰り返し、魔力を削り取って行く。少しずつ障壁を超えて自分に近づく光景は、まるで真綿で首を絞めるかのように鈴の精神にもダメージを与えていた

 

「奔れ、"雷華"!刻め、"爪閃"!」

 

八重樫の詠唱と共に、黒刀の性能が遺憾なく発揮され迫り来る蜂型の魔物を屠る。確実に、一体一体を倒すが、量が多く戦局が徐々に押され始めており、それに気がついている雫の表情は苦々しい

 

「刃の如き意志よ、光に宿りて敵を切り裂け!"光刃"!」

 

天之河が、八重樫のお陰で出来た隙に詠唱し、聖剣に光の刃が覆われ、約二メートルにまで延長された刀身を体を回転させてコマの様に薙ぎ払う。しかし、大振りの攻撃は攻撃後の隙が大きく、技後硬直を狙われ魔物が殺到する

 

「くっ、このっ!」

 

「光輝!」

 

再び聖剣を光らせて攻撃をするも、魔物の体当たりで体制が崩されてしまった。それからは、魔物達が待ってましたと言わんばかりに天之河に殺到する。八重樫が援護に向かおうとするが、魔物がさせまいと攻撃をして隙を与えない。そして、遂に魔物の一帯が聖剣を掻い潜り天之河の背中にガッチリと組み付き、凶悪な顎で光輝の首筋を噛み千切ろうとした

 

「ッ!?」

 

声にならない悲鳴を上げる天之河。その刹那

 

ドパンッ!

 

ハジメのドンナーが火を噴いて、天之河の背中に組み付いていた魔物を粉砕する

 

「動くなよ、天之河」

 

ドォオパン! ドォオパン! ドォオパン! ドォオパン! ドォオパン!

 

クイックドロウが炸裂、六条の光の槍が射線上の魔物を奥まで粉砕する。更に、奥へと突き進んだ弾丸と弾丸がぶつかり合って複雑に跳弾して進路上の敵を一気に殲滅する。天之河達が苦戦していた蜂型の魔物は、ハジメの手で一分も経たずに全滅された

全ての敵が倒されたと判断したハジメは、ホルスターにドンナー・シュラークを仕舞って、呆然とする天之河達を無視して倒した魔物に近づく

 

「ちっ、喰っても意味なさそうだな・・・」

 

「く、喰う?えっ、南雲くん、これを食べるつもりだったの?本気で?」

 

先の蹂躙劇を忘れ、ドン引きする天之河達

 

「言ってなかったか?・・・自分と同等以上の魔物を喰うとな、相手の固有魔法を自分の物に出来る事があるんだよ。奈落の底じゃあ、喰うものなんて魔物くらいしか無かったからな。あぁ、お前らは真似するなよ。まず間違いなく死ぬから」

 

「頼まれたってしないわよ。改めて聞くと本当に壮絶ね・・・」

 

「で、でも、じゃあ何でこれは食べないの?いや、鈴としては、そんな捕食シーンは見たくないから食べないにこしたことはないんだけど・・・」

 

「今、言っただろう?自分と同等以上じゃないと意味ないって。この辺の奴等じゃあ雑魚すぎるんだよ」

 

「・・・そっかぁ~。南雲くんにとって、この魔物は雑魚なんだぁ~。そっかぁ~、アハハ」

 

「鈴、気持ちはわかるから壊れないで。戻ってきなさい」

 

若干、壊れ気味に乾いた笑い声を上げる谷口を、八重樫が溜息を吐きながら正気に戻す。そんな中、天之河だけがハジメが殲滅した魔物を見てギュッと拳を握りながら見つめていた。天之河は、苦戦していた魔物を涼し気に余裕たっぷりで倒していたハジメに嫉妬。最初は無能だったのにいきなり強くなった―――何かズルをしているに違いないと、どす黒い感情が溢れているのだ

 

「・・・天之河」

 

「っ。な、何だ?」

 

「今は、お前の幼馴染を探し出すことだけ考えとけ。あれこれ悩むのは、やることやってからで十分だろ」

 

「あ、ああ。そうだな、早く龍太郎達を見つけないとな・・・」

 

ハジメの言葉に我に返った天之河は、行方不明の坂上を思って気を引き締めた

 

「・・・殲滅完了」

 

「ハジメさん、向こうは掃討しましたよぉ~」

 

「ふぅ、こっちも終わったよ」

 

ユエとシアと香織も魔物を倒し終え集まり状況把握をしていると、この場には深月だけが居ない

 

「深月は?」

 

「魔物を一撃で倒していましたけど・・・奥の方へ行ったのでしょうか?」

 

「私も魔物を倒す姿を見たよ。暗殺者の様に一撃で首を跳ねて消えたけど」

 

天之河達も一緒に周りを見渡すが、見つける事は出来ない。そん中、ハジメの眼帯に熱源感知が引っ掛かった。そこは、蜂型の魔物が沢山現れていた道の奥だった

 

(深月、蜂型の魔物が通っていた通路の奥に居るのか?)

 

(はい。通り道を辿って元を断つのは基本ですから)

 

(皐月達を探しに行くから早く戻って来い)

 

(かしこまりました。それと、お宝を発見しましたよ)

 

「ん?・・・お宝って何だ?」

 

深月の言うお宝が全く分からず、つい口漏らす

 

「宝石?」

 

「装飾品ですか?」

 

「武器かな?」

 

「まるでダンジョンね」

 

「トレジャーハンターミヅキン!」

 

言いたい放題である。光物にワクワクとする女性陣と、ファンタジーな世界のお宝に興味をそそられる男性陣。ハジメが視線を向けている方を見ていると、傷付いた様子のない深月を発見。その手には白い物体が抱えられていた事で、テンションが爆上がりする。しかし、近づくにつれ、白い物体が動いている事に気付く

 

「おい・・・何を持っている」

 

ハジメは、率直に深月が持っている物を尋ねる

 

「蜂の子です♪」

 

両手で持ち上げている蜂の子をハジメ達の前に出すと、ウネウネと体がよく動いていた。・・・目の前で動く蜂の子を見たユエとシアとティオは頬を引き攣らせ、香織と八重樫と谷口は顔を青褪めさせて深月から離れた

 

「何故離れるのですか?」

 

「・・・デカい幼虫は気持ち悪いからだろ?」

 

深月が手に持つ蜂の子を見て、ハジメですら少しだけ引いている

 

「蜂の子は栄養満点ですよ?」

 

『食べるの!?』

 

「えっ、食べないのですか?」

 

『絶対に嫌(ですぅ)!』

 

女性陣と遠藤と天之河と坂上も同じく拒否するが、ハジメだけはどうしようかと悩んでいた

 

「・・・ハジメ?」

 

「もしかしなくても・・・」

 

「蜂の子だよ?」

 

食に飢えているハジメでも食べないだろうと思っていたユエ達だが、本気で悩んでいる様子だ

 

「・・・なぁ、美味いのか?」

 

「未だ食べた事が無いので確証はありませんが、美味しいと思いますよ?」

 

「深月の腕次第って事か」

 

「調理は移動しながらでも大丈夫です」

 

「了解だ。皐月とティオを早く見つけないとな。あぁ、ついでに坂上もな」

 

「龍太郎の扱いが雑すぎない?でも、やっぱり恋人が大事なのね」

 

「恋人じゃねぇ。正妻だ」

 

「ハイハイ、お熱い事で」

 

一行は樹海奥地へと進む。尚、深月は料理をしながら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「ど腐れ野郎達は要らないです。あっ、遠藤さんは別ですよ?」
布団「主人公の優柔不断がいけなかったんや」
深月「はぁ・・・諦める他ありませんね」




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とても良い笑顔のメイド

布団「予定外のお休み来たので急ぎ執筆からの投稿です」
深月「早くお嬢様と合流したいので、よく頑張りましたの花丸を差し上げましょう」
布団「ワーイ」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」











~ハジメside~

 

樹海の奥へと進む一行は警戒しながら進むが、後ろから漂う良い匂いが邪魔をする

 

集中しないといけないんだが・・・無理だ!焦がし醤油で絡められた肉厚の輪切り肉は、初見だと蜂の子には見えない!

 

「クッ、虫なのに!」

 

「あのー、深月さん?匂いで集中出来ないですぅ」

 

「飯テロだよ・・・」

 

ハジメ達は、甘い匂いが漂う中迫り来る虫型の魔物を排除している。匂いに釣られて魔物が寄ってきているのだが、それらは香織が殆どを迎撃。時々深月の指摘が入ったりしている

 

「香織さん、量が多い虫型の魔物に対して大振りの攻撃はいけません。一番重要なのは切り返しの速さです。腕を内側に回す事で素早い斬り返しが出来ますよ」

 

「えっ、腰じゃないの?」

 

「腰の回転は攻撃速度です。普通の対人戦なら重要視されますが、手練れは攻撃の隙につけ込みますよ」

 

「難しいよぉ~」

 

「何事も経験です。シアさん、この程度で集中力が削がれるのであれば追加訓練が必要ですね」

 

「オワタ」

 

シアは深月の追加訓練が決定した事に絶望し、香織は試行錯誤しながら少しづつ土台を作り、深月はソテーされた蜂の子の肉を味見で食べていた

 

「・・・蜂の子の肉質ではありませんね」

 

「不味いのか?」

 

「分厚くも柔らかく、油がしつこくない豚ロースと言えば分かり易いかと」

 

「丼が欲しくなるな」

 

「パンで我慢して下さい」

 

「サンドもありだな」

 

深月はハジメの言葉を待たず、宝物庫からパンを取り出して一枚分切る。その一枚の真ん中に切れ目を入れて、キャベツの千切りと蜂の子のソテーをパンで挟んで出来上がり。予想外の肉質に味付けが変だろうと思われるが、そこは深月クオリティー。焦がし醤油から砂糖とみりんと刻み唐辛子を加えた甘辛ダレへと変化させていたのだ。しかも、片手でも食べ易い様に半分に切ってお皿に乗せている

ハジメは周囲を警戒しつつもその一つを手に取って匂いから堪能し、躊躇いなく一口食べる

 

うめぇ・・・深月から聞いてはいたが、先入観で蜂の子はクリーミーな食感だと決めつけていた。だが、これは違うと断言出来る!豚ロースの様な歯応えと言うのも納得だ。安い豚肉の油は癖のある味があるんだが、こいつには全く無い。一噛みしただけで口内で爆発したかと錯覚させる大量の油はサラサラ。し・か・も・!焦がし甘醤油がこの肉の味を強調し、間隔を空けて散りばめられた唐辛子がアクセントとなり味をリセットしている!

 

脳内で食レポをするハジメ。その間僅かゼロコンマ二秒―――サンドイッチを食べた感想は判り切っている

 

「うーまーいーぞー!」

 

「正直な感想有難う御座います」

 

ハジメは、手に持ったサンドウィッチをパクパクと食べ進めもう一つも手に取って食べる。一方ユエ達は、巨大蜂の子の肉を美味しそうに食べているハジメを見てそれを食べてみたいと思うが、蜂の子だと知っているからこそ踏ん切りがつかなく、結局は食べない事にした

 

しっかし皐月が見つからねぇな。これだけ良い匂いを周囲一帯に充満させていたら来ると思ったんだが・・・これは何かしらのトラブルが起こったと見て間違いないな。捕らわれている可能性は極僅かだと思いたい

 

一抹の不安を抱えるが、皐月なら機転を利かせて切り抜けるだろうと判断して捜索を再開した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

皐月達の捜索を再開して数刻後―――、大迷宮内でハジメの怒声が響き渡る

 

「オラァ!!死ねやァ、ドカス共がァ!!全部見つけ出してその眉間にド弾ぶち込んでやらァ!!」

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

ドンナー・シュラークの発砲音が響き渡り

 

「一分一秒でも早く絶滅させましょう。えぇ、害悪な魔物は滅ぶべきです」

 

メキィッ!バキッ!ゴキュッ!

 

猿型の魔物を片手で持ち上げて殴りつける鈍い音と、骨が折れる等の音が響き渡る

 

「あ、あの、ハジメさん、深月さん、もうそれくらいで・・・」

 

「そ、そうだよ、ハジメくん、深月さん。きっとあの魔物も、もう死んじゃってると思うし・・・」

 

大量の死体を量産するハジメと深月の二人を見てオロオロしながらシアと香織が制止の声を掛けるが

 

「あ"ぁ"?」

 

「ナニカ?」

 

「いえ、何でもないです」

 

「うん、邪魔してごめんなさい」

 

血走った目のハジメと狂気を孕んだ目の深月の圧に、二人は即行で前言撤回をして諦めた

 

「・・・あれは死すべき存在」

 

ユエは二人と違ってかなりご立腹の様子だが、二人に比べると優しい部類である

 

「うぅ・・・怖いよぉ。シズシズぅ、止めてよぉ~」

 

「無茶言わないで、鈴。私だってまだ死にたくないわ。まぁ、彼等が怒るのも無理はないと思うけど・・・」

 

八重樫は、二人に恐怖を抱きガクブルしながらしがみ付く谷口を宥めながら深い溜息を吐いた。そして、視界の端には、ハジメに目潰しをされて目を抑えてうずくまっている天之河の姿があった

 

「目がぁ~、目がぁ~。ちくしょう、南雲の奴めぇ!いきなり、何すんだよぉ!」

 

まるで何処ぞの大佐の様に苦悶の声を上げていた。ハジメにチョキでブスリと突き刺されれてしまったのでこの様な姿となっているのだ

そして、何故ハジメと深月がこれ程まで怒っているかというと―――猿型の魔物のせいである。その猿型の魔物は群れでハジメ達に襲い掛かって来たのだが、案の定ハジメ達によって苦もなく次々と数を減らしてしまった。だが、猿型の魔物がどうやっても敵わない相手だと気付くと、技能の擬態によって最悪な選択を取った。最初の転移陣によって逸れた仲間の情報を読み取り、相手が動揺する形の展開をもって擬態をする事にしたのだ

隠れていた仲間が皐月に擬態してあられもない姿で人質に~という計画だった。ハジメは、ズタボロにされた姿で擬態して仲間に引き摺られる形でハジメの前に出て来た皐月が本物でない事に気付いていたが、最愛の者のあられもない姿を見て、いの一番に振り返ろうとした天之河の目を潰したのだ。深月は遠藤の視界を防ぐ様に、粘着質の魔力糸の束を貼り付けて一言脅しを入れる事で男性陣に見られる事はなかった。この状態でかなりキレかかっていたハジメと深月は、一旦心を落ち着かせようと深呼吸をしたが魔物の行動が先だった。とっても空気の読めない魔物達である。皐月(擬態)を下卑た笑みを浮かべながら殴り、更に擬態した魔物がハジメと深月に向け皐月の声で「・・・ハジメ、深月助けて」等と言って、特大の爆弾を落としたのだ

その瞬間、誰もが聞いた事のあるブチッと切れる音が聞こえた。ハジメは宝物庫から広範囲殲滅武器を取り出したが、深月がハジメに念話で注意を入れる事でそれらを撃つ事は無く、宝物庫へと戻した。一方、深月は拳を鳴らしながら目が笑っていない笑みを浮かべながら特大の殺気を溢れ出させた。その瞬間、この迷宮の魔物達が一斉に深月から逃げる為に避難をした。だが、目の前の猿型の魔物だけは逃さず魔力糸で固定して逃がさない様に貼り付けにした。後はリンチの時間である

そして時は戻る――――

 

フハッ、フハハハハハハ。絶対に絶滅させます。サーチアンドデストロイ、サーチアンドデストロイです!え?お嬢様に擬態出来るのだから捕獲はしないのかですか?紛い物に興味はありません

 

殆どの猿型の魔物を捕獲し終えた深月は、ハジメの元に戻り一体ずつ地獄の苦しみを与える様に痛みを与えて行く。深月は空中でオラオラオラオラオラオラオラオラ!をして、魔物をミンチに変えている

八重樫は、流石にここで足止めを食っている場合では無いと止めようとしたシア達にハジメを止める様に説得を試みる

 

「ほら、二人共、諦めないで!シアと香織以外に誰が南雲くんと神楽さんを止められるというの!」

 

「「でも・・・」」

 

「でもじゃないわ。どうしてそこで諦めるの!諦めたらそこで終わりよ!ほら、頑張れ!頑張れ!出来る、出来る!恋する乙女は無敵よ!」

 

二人を鼓舞する八重樫。ぶっちゃけて言うと、あの状態の二人に何かを物申すのは絶対にやりたくないからである

 

「ハジメさん!深月さん!もう、これくらいにっ、これくらいにしときましょう!」

 

「そうだよ、ハジメくん!深月さん!早く本物の皐月達を見つける方が先決だよ!」

 

まだ殺り足りない二人は、攻撃を止めた

 

「そうだな、早く本物の皐月を見付けないとな」

 

「この魔物は殺処分しましょう」

 

猿型の魔物は、深月の言葉を最後に細切れにされて絶命した。二人はかなり熱くなった心を落ち着かせる

 

「当たり散らして悪かったな」

 

「殺気を漏らしてしまい申し訳ありません」

 

「二人が怒るのは仕方がない」

 

「いえ、あいつらのやり方は私も頭に来ましたし。仕方ありませんよ」

 

「うん、ホント、最低だったね。・・・ある意味、流石大迷宮って感じだよ」

 

女性として魔物がした事に嫌悪感はあった。だが、それは自分が対象になっていなかったから多少マシだ。もしも、これが自分―――将来を誓い合った恋人以外の男に裸を見られる事を思うとその者を半殺しするかもしれない程の怒りが沸く

 

「南雲くん。落ち着いたのなら、そろそろ光輝を何とかしてあげて欲しいのだけど・・・」

 

八重樫の言葉に、ハジメが「あぁ、そういや目潰ししたんだったな」と思い出し、香織に目配せして回復させる様に促す。香織はハジメの目配せを理解して、心の内では嫌々ながらも仕方なく回復をさせる

 

「うっ、この感じ。回復魔法か?あ、光が見える・・・」

 

天之河は、目の痛みが徐々に引いて開けられる位まで回復。そして、その元凶のハジメを睨み付ける。八重樫が事情を説明しても納得がいかない様子だった

 

「あのなぁ、天之河。手加減が下手だったのは悪かったが、自分の将来の妻のあられもない姿を他の男に見られるか否かの瀬戸際だったんだ。男なら・・・目を潰すだろ?」

 

「なに、『常識だろ?』みたいな口調で同意を求めているんだ。危うく失明するかと思ったぞ。大体、偽物だって分かっていたんだろ? 本物ならともかく、偽者のためにあの痛みを味わったかと思うと・・・すごく腹が立つんだが」

 

「馬鹿だなぁ。お前の視力とたとえ偽物でも皐月の全裸・・・路傍の石と最高級の宝石を天秤にかける奴がいるか?」

 

「俺の目は路傍の石かっ!」

 

ハジメの物言いに憤りを露にする天之河。だが、ハジメが女性陣に答えを求める様に目配せして全員がそれに賛同する

 

「裸を見る・・・極刑」

 

「模したとはいえ、殆ど同じなので嫌ですぅ」

 

「例え仲の良かった友達でも見せるのは嫌だよ?」

 

「こればかりは仕方がないわ」

 

「鈴も関係ない人に見せるのは遠慮したいよ」

 

そして、最後の深月の答えはとても酷い

 

「将来を誓い合った者同士ならばまだしも、無関係の者が見たのならば・・・殺したいと思いますよ?」

 

誰もがハジメの味方をする事に、天之河がハジメを睨み付ける。だが、これはハジメの行為が必ずしも正しいと言っている事ではない

 

「南雲君もね・・・目潰しは流石にやり過ぎだとは思ったわよ?」

 

「ミヅキンみたいに何かを覆うとかしてもと思ったよ?」

 

「足手纏いがより足手纏いになる行為はあまりお勧め出来ません」

 

「ですねぇ~、深月さんみたいに覆って動かす方が楽ですよねぇ」

 

「目潰ししたら動かない」

 

「どちらが良いかと選ぶなら、深月さんの方だよね」

 

両方とも「それはちょっと・・・」と思った女性陣。もしも自分がその当事者となれば目潰しよりも、粘着質の糸の束で目を覆われる方が良いからだ

 

「ほら見ろ南雲!雫達もこう言っているだろ!目潰しはやり過ぎだ!」

 

「だが、俺の手持ちに深月の様なやつは無い。運が悪かったと割り切れ」

 

「納得出来るか!」

 

どこ吹く風で無視するハジメとその態度に憤る天之河の二人の様子を見ていた遠藤は、深月に目を覆われた事は運が良かったと安心出来た。しかし、呟かれた一言は「見たら殺す」という簡素な言葉だが、確実に実行をすると分からせる力強さがあった

 

(本当に目を開けなくてよかった)

 

何処かホッとした様子の遠藤を他所に、不意にハジメと深月の気配感知に何かが引っ掛かった

 

「こっちに近づいて来ているな」

 

「人型特有の移動音ではありません」

 

深月の言に全員が臨戦態勢へと移行し、やって来るであろう魔物を警戒する。近づくにつれて音が聞こえ、ポヨンポヨンと何かがバウンドしている音だった。これだけでハッキリした。やって来る相手はスライム系―――擬態をする魔物

 

「この弾む様な音・・・スライムかしら?」

 

「最初にサッツン達に擬態していたあれだよね。ぎったんぎったんにするよ~!」

 

「・・・」

 

「深月さん、考え込んでいるけど何かあった?」

 

「いえ、先程の殺気を放ったのにも関わらず近づいて来るというのはおかしいと思うのです」

 

「あ~、そうですよね。深月さんの殺気で全ての魔物が逃げていましたね」

 

「って事は―――」

 

ハジメが言い終わる前に、予想通りのスライムが皆の前に現れ少しの間だけ微動だにしなかったが、途中からプルプルと震えて何かを伝えようとしていた

 

「これ以上擬態させてたまるか!」

 

天之河は魔物=悪と決めつけている為、これ以上惑わされない様に先手必勝で聖剣をスライムに振り下ろす

 

「何してくれてんだ、ボケェ!」

 

「死ね、ど腐れ野郎!」

 

「んなっぶべらっ!?」

 

ハジメのローリングソバットが天之河を吹き飛ばし、深月が素早く下に潜り込んで吊り天井固め(ロメロ・スペシャル)を行使する。メシメシと骨が軋む音が聞こえそうな程、綺麗な吊り天井固めだった

 

「ぐあああああああああああ!?」

 

「このど腐れ脳!斬ろうとした罪を身を以って思い知りなさい!」

 

八重樫と谷口は、どんどんと力を入れて締められている天之河を見て「よかった・・・攻撃しなくて本当によかった」と自分もあり得たかもしれない光景を回避する事が出来て安堵する。そして、ハジメが先程のスライムを優しく抱きかかえる様子を見たユエ達が理由を尋ねる

 

「このスライム・・・敵じゃない?」

 

「同じスライムですが・・・敵意が全く感じられません」

 

「うわ~、プニプニだよ~」

 

ハジメが持っていても暴れない事から敵ではないと観察をするユエとシア。一方で、スライムの触感を楽しむ様に指先でツンツンと触る香織。だが、スライムがイラっとしたのか触手を伸ばして香織の頬をペシペシと叩いている

 

「香織・・・そのスライムに叩かれているけど大丈夫なの?」

 

「大丈夫だよ。ひんやりしてて柔らかいから気持ちいいよ」

 

「じゃあ~、鈴もさわ――――らないです!ごめんなさい!気の迷いなんです!」

 

「ど、どうしたの鈴ちゃん!?」

 

谷口が香織から離れてビクビクと体を震わせる。何故か―――全てを察した八重樫が、苦笑いを浮かべながら一言

 

「香織、う・し・ろ」

 

「え?」

 

香織が振り返ると、深月が無言で佇んでいたのだ。今の状況は正に、蛇に睨まれた蛙である。スライムを突っつく事を止めて冷や汗を大量に流す

 

「香織さんは良い度胸ですね。少しばかりOHANASHIしましょうか」

 

深月は香織の返事を待たずスープレックスで脳天から地面へと叩き落し、うつ伏せとなった香織に畳み掛ける様に逆エビ反り固めで背骨を曲げていく

 

「痛い!?いたたたたたたた、痛いよ!ストップストップ!これ以上は曲がらないから!?ギブアップ!ギブアップ!!」

 

香織は、バンバンと地を叩いて降参アピールをするが深月は無視してどんどん曲げていく

 

「ぎひぃいいいいいい!限界だから!もう限界だから赦してよ!?」

 

「は?お嬢様が嫌がっているのにも関わらず突っついていたでしょう!」

 

深月が限界以上に技を極めて香織を痛めつける。先程の天之河とは違い、ギシギシと骨が軋む音が聞こえており八重樫と谷口は耳を塞いで「聞こえない・・・骨が軋む音なんて聞こえない」と現実逃避している。ユエとシアに至っては、自業自得という眼差しで香織を見ており止めようとはしない。因みにハジメは、スライムを愛おしそうに撫でている。そこで、ようやく違和感に気付いた八重樫がツッコミを入れる

 

「ちょっと待って神楽さん。貴女・・・このスライムがお嬢様―――高坂さんって言った?」

 

「えぇ、このスライムはお嬢様で間違いありません」

 

「おい八重樫、この愛くるしいリアクションをするスライムは皐月だけだぞ?」

 

「『プルプル、私悪いスライムじゃないよ』と伝えていました」

 

「後は、『ツンツンするな。ウザイ、っていうか気付きなさい』だろ?」

 

「流石ハジメさん。正解です」

 

「何で分かるのよ・・・」

 

「ん?何々・・・『愛さえあれば伝わるのよ』だってよ。正しくその通りだ」

 

「愛・・・ねぇ・・・」

 

八重樫は、即答するハジメと皐月を前に「この二人には常識は通用しないわね」と小さく口漏らし何処か諦めた様に溜息を吐いた。皐月はスライムとなって合流を果たしたのは良いのだが、イヤリング型の念話石を装着する事は出来ない。持ち物も無し、ステータスも大幅に低下しているこの状態の皐月はとにかく危険である。よって、この中で一番戦闘能力が高く、即時対応と遠距離で攻撃する事も出来る深月が抱く事となった

 

お嬢様がスライムに・・・・・。もの凄く柔らかく、私のイライラが抑制されていきます。しかし、抱くならば本来のお姿が一番です

 

「皐月が無事で安心したわ。最弱のスライムの姿はかなり危ういからな」

 

「・・・一瞬でやられる」

 

「それにしても、流石皐月さんですね!傷一つ無く合流する事なんてかなり難しいですよ」

 

皐月がスライムボディをプルプルと震わせて、深月が翻訳をする

 

「『それに関しては運が良かったとしか言えないわ。肝が冷えたのは大量の魔物が私が通って来た道に向かって来た事よ。まぁ、膨大な殺気が深月の物だと分かったから多分逃げていると予測出来たの。後は静かになってから向かって行っただけよ』との事です。お嬢様・・・魔物に関しては申し訳御座いません」

 

「だが、本当に無事でよかった」

 

皐月は触手を伸ばしてハジメの手に触れる。この動作から『心配させてごめんね』と伝えたい事は誰の目から見ても分かった。そして、気付けば桃色な空気を生み出す二人だった

 

「ウォッホンッ!そろそろいいかな?皐月、無事で良かったよ」

 

「皐月を元に戻す。何が何でも絶対に」

 

「皐月さん・・・私、何だってしちゃいますからいっぱい頼って下さい!」

 

「『ありがとう、ユエ、シア、香織』との事です」

 

取り敢えず桃色の空間を元に戻し、皐月を元に戻す為意気込む。そして、自分の仕出かした事の重大さにようやく気付いた天之河が謝罪を入れようと近づく

 

「皐月、その、さっきは済まなかった。君だと気が付かなく―――ブベッ!?」

 

天之河の謝罪中に割り込んで来た物は、深月の超・超手加減した拳だ。天之河は何故殴られたのか理解しておらず、きょとんと呆けていた

 

「一体、何時、お嬢様の名前を呼んで良いと許可が出ましたか?鳥頭のその頭をかち割ますよ?」

 

「うっ・・・す、すまない」

 

深月の怒気に圧倒されて、天之河はタジタジになりながらも謝罪をした

 

「いつも通りのお約束はそれまでにして、早く皐月を元に戻す為にもティオと坂上を見つけて、さっさと攻略を進めるぞ」

 

ハジメの号令と共に、一行は再び樹海の奥深くへと歩みを進める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ハジメさん、今度は私にも分かりますよ。あれがティオさんだって」

 

「私も分かる。どうみてもティオだよ」

 

「『あの変態度・・・何処からどう見てもティオしかありえない』との事です。再び淑女教育を徹底的に叩き込むべきでしょうか?」

 

「満場一致で、あれがティオだな」

 

ハジメ達は汚物を見る様な目で目の前の光景を見ている。それは、集団のゴブリン達が一体のゴブリンを攻撃している場面なのだが、攻撃を受けているゴブリンが恍惚な表情をしているのだ

 

「恍惚としてる・・・わよね?どう見ても・・・」

 

「ただでさえ顔がゴブリンなのに・・・あれは放送禁止レベルだよ」

 

「南雲・・・お前はあんな人まで・・・懐の広さでは勝てる気がしない」

 

「よせ、天之河。俺があの変態を許容しているみたいな言い方は心外だ。仲間ではあるが・・・諦めているだけなんだ・・・。もういいや、ティオの事は放っておいて坂上の方を探すぞ」

 

ハジメは一早くティオを助ける選択を放棄して坂上を探す事にした。踵を返してさっさと移動するハジメを追って深月達も追随し、八重樫達はどうしたらいいのか視線を行ったり来たりと「えっ?本当に見捨てるの?」と言いた気にしていた

 

「グ?ギャギャ!」

 

すると、攻撃していたゴブリンの一体がハジメ達に気が付き声を上げた。それにより、攻撃していたゴブリン達もハジメ達に気付き攻撃を一旦止めて声を上げる。攻撃が止まった事に気付いた変態ゴブリンもハジメ達の存在に気が付いたのか、ガバッと頭を上げると大きく目を見開き、ハジメに向かって今まで暴行を受けていたとは思えない素早さで突進して来た。まるで虫の様にカサカサと高速移動する変態ゴブリンを見て、攻撃していたゴブリン達はドン引きして後退った。彼等も何かおかしいと薄々感じていたのだろう・・・それが確信に変わった瞬間だとよく分かる反応だった

 

「グギャギャギャ!!」

 

そうこうしている内に、変態ゴブリンはトップスピードに乗って某大泥棒ダイブの姿勢で一直線にハジメへと飛び掛かった。ゴブリンの言葉なので分からないが、恐らく「ご主人様よぉ~、会いたかったのじゃ~!」等と言っていると簡単に予想出来た。変態ゴブリンに向けてのハジメの反応は決まっており―――

 

「寄るな、このド変態がっ!」

 

罵りと義手のアッパーカットだった。メキョと鳴ってはいけない様な音を響かせながら、変態ゴブリンは綺麗なバク宙を決めながら奥の茂みへと墜落した

 

「・・・死んだ?」

 

ユエが墜落した場所へと向かい、倒れ伏す変態ゴブリンを木の枝でツンツンと突いている。時折、体をビクンッビクンッと痙攣をさせつつもしぶとくと生きていた

 

「ギャギャギャ!ゴゴ、グゲ!グギャ!」

 

少しして回復したのか、変態ゴブリンが興奮した様に鳴きながら頬を両手で挟み、身を捩らせながら熱を帯びた視線をハジメに向けていた。その姿を見たハジメは、無表情でドンナーを取り出そうとした所をシアと香織が宥める。ユエは、手に持った念話石をティオへ渡す事で会話が可能となった

 

『む、念話石じゃな。・・・どうじゃ、ご主人様よ、聞こえるかの?再会して初めての言動が罵倒と拳だった我が愛しのご主人様よ』

 

「チッ。体は変わってもしぶとさは変わらねぇのか。そのまま果てればいいものを・・・」

 

『っ!?あぁ、愛しいご主人様よ。その容赦の無さ、たまらんよぉ。ハァハァ。やはり、妾はご主人様でなければだめじゃ。さぁ、ご主人様の愛する下僕が帰って来たぞ。醜く成り下がった妾を存分に攻め立てるがいい!!』

 

自分の姿が変わった事すら快感に変換するティオは、大の字で地面へと寝転び「さぁっ、来るのじゃ!」と期待の眼差しを送っている。ハジメはそんなティオを無視して、呆然としているゴブリン達を瞬殺して無言のまま探索を再開した。他の者達もティオを見ない様にハジメの後を追随する

 

『ほ、放置プレイかの? 全く、ご主人様は仕方ないのぉ~。って、本当に置いていく気かえ!?待って欲しいのじゃ~、さっきの一撃で視界がまだ揺れておるのじゃ~』

 

ティオの念話も空しく、そのまま放置された。そして、回復したティオはハジメ達の後を追って合流したのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷宮を探索する事少し―――オーガに似た二体が死闘を繰り広げていた。しかも、そのうちの一体が洗練された武術を使っており直ぐに坂上である事が分かった。死闘は天之河達が助太刀する事で坂上は助かり合流、再び探索する事数十分。周囲の巨木とは異なる程大きな木が進路上に立ち塞がり、「この先に通りたければ我を倒していけ!」とでも言うように暴れ始めた

以前、ハジメ達がオルクス迷宮で見たトレント擬きよりも段違いに大きく、直径十メートル高さ三十メートル程の巨体だった。しかも、今の所何も成果を上げていない天之河達が「こいつは俺達で倒す!」と飛び出し、ハジメ達は呑気に見学する。しかし、勇者パーティーは案の定窮地に追いやられていた

 

「くっ、切っても切っても再生する!」

 

「私達に手傷を負わせて徐々に力を削ぐなんて・・・それ程までの知性があるというの!?」

 

「結界を張れる回数が後僅かだよ!?」

 

『くそったれ!』

 

「あぁもう、下がれ!敵の出方を見ずに攻撃とかふざけているのかよ。ちぃっ!こっちにも狙いを定めて来た―――けど、この程度なら捌ける!神楽さんの格闘術の方がえげつなかったし・・・」

 

徐々に傷を負って動きが鈍くなり、再び傷を負う―――八方塞がりのこの状況を見てハジメは溜息を吐き、深月は舌打ちをする程イライラとしていた

 

何が自分達で倒すですか。相手の情報が無い中で無策に突っ込み手傷を負う事がどれ程危険かも理解していない。この程度の力で表層とはいえオルクス迷宮の九十層辺りまで来れた?運が良かっただけでしょうね。しかし、勇者パーティーの面々とは違い遠藤さんは的確に捌いていますね。・・・私がえげつない?あれは必要だからしていただけの事なので問題なしです。谷口さんの結界は限界―――下地が全くもってなっていませんね。体力、魔力共に枯渇寸前で実質戦闘不能。ど腐れ野郎とのうk・・・坂上さんはゴリ押し戦術ですので技術も何もありません。このパーティーが崩壊しない理由は、八重樫さんの技術と遠藤さんの気配の出し引きのお陰ですか・・・

 

ざっと見て戦闘能力を把握した深月は、迷宮攻略に未熟過ぎる面子を今直ぐにでも追い払いたいと考えていた。だが、中々上手くは行かない。彼等の同行は畑山の懇願に折れたハジメのせいでもあるので、それを否定する事はハジメの決定を拒否するのと同義。将来の主となるハジメの決定を拒否する事はメイドとしてあってはならない。幸い皐月がかなり嫌そうにしていたので、深月が表情に出しても何も文句は言われる事はないのである

話は戻り、勇者パーティーはあっという間に窮地へと追い込まれてしまった。いや、天之河が長い詠唱をしているので未だゲームオーバーにはなっておらず、ラストアタックという感じだ

 

「――――みんな、行くぞ!"神威ッ"!!」

 

聖剣から放たれた光がトレント擬きに直撃し、光が爆ぜて周囲を白一色に染めた

 

「やったか!」

 

盛大なフラグを立てましたね。ハジメさんも口漏らす程ですし・・・どうぞ回収をして下さい

 

光が収まり、土煙が晴れた先には無傷のトレント擬きの姿があった

 

「うそ、だろ・・・」

 

天之河の呆然とした呟きが虚空に響く。他三人も無傷のトレント擬きを見て呆然としていたが、八重樫が一早く原因を把握した

 

「光輝、あれを見て!直撃していなかったのよ!」

 

「えっ?」

 

天之河が八重樫の視線の先を見ると、粉々に粉砕された大量の樹木を発見した。トレント擬きが無傷な理由がようやく理解出来た。聖剣から放たれた光と自分の間に大量の樹木を生やし、極厚な壁を生成したのだ。どうやって生やしたのか・・・それは、トレント擬きが大地に根を張っている場所から新しく樹木を伸ばしていたからだった。この光景を見てようやく理解した彼等は、王国で学んだ魔物の能力を思い出した

 

「・・・固有魔法」

 

谷口が思い出した様に口漏らし、殺意マシマシのトレント擬きからの攻撃に一早く気付いて障壁を展開する。しかし、先程とは違っていやらしい攻撃が無く、確実に殺すといった攻撃の前ではあっという間に障壁がひび割れていく。彼等とは別行動で死角から攻撃をしていた遠藤がヘイトを向けようと攻撃するが樹木の壁に邪魔をされてしまう。死を錯覚させる光を放出した天之河達を最初に排除すると決めたトレント擬きの攻撃が激しさを増す

 

「うわあああああ!聖絶、聖絶、聖絶ぅうううう!」

 

しかし、あっという間に破壊されていく障壁を見て天之河達は明確な死を感じた

 

「はぁ・・・深月、助けてやれ」

 

「お嬢様をお願い致します」

 

抱いていた皐月をハジメに渡し、魔力糸で攻撃している枝を輪切りにする。一瞬で、たった一回の攻撃でトレント擬きが攻撃していた枝が潰された事に、トレント擬きは攻撃を一旦止めて深月の方を向いた

 

「みづk―――ブアッ!?」

 

天之河が深月の名前を言い終える前に、指弾で弾き飛ばした小石を額に当てて中断させる

 

「神楽さんが出たって事は・・・私達は駄目だったという事ね」

 

「た、助かった?」

 

『俺達じゃあ駄目って事かよ・・・くそっ!』

 

勇者(笑)パーティーが一ヵ所に固まっている事を確認し終えた深月は、ゆっくりと黒刀を抜き放ちぶら下げる様に構えた。その佇まいは、見かけによっては無防備。しかし、トレント擬きは深月を警戒して直ぐには攻撃せず、ゆっくりと全方位に枝を配置して全てを同時に深月へと突いた

 

「―――遅い」

 

斬撃を飛ばして前方の枝の根っこ部分を切り飛ばし、体を支点にして回転して斬撃を放つ

 

「烈風!」

 

先程の一撃とは違い、巨大な斬撃の層が残りの枝全てを粉々に粉砕する。特性で言うなら、薄い刃を飛ばす斬撃と大砲の様に押し砕く斬撃の二種類だ。深月なら斬撃を飛ばす事は出来るが、広範囲となると不可能。これを可能とするのは魔力圧縮と魔力放射の二つだ。後ろを切り払う際、刀身を包む様に魔力を圧縮して振り抜くと同時に放つ、これだけだ

話は戻り、烈風―――斬撃の大砲が放たれた先には天之河達が居た所の真横・・・少しでも手元が狂っていたら大惨事どころではない強烈な攻撃に、勇者(笑)パーティーの面々は顔を青褪めさせ頬が引き攣る

 

「あら、申し訳御座いません。次は気を付けます」

 

表面は謝っているものの、彼等は深月の様子から絶対ワザと隣に撃ち込んだと理解した

 

「ちょっと、もう少しで直撃する所じゃない!っていうか絶対にワザとでしょう!?」

 

「八重樫さん、被害妄想が凄まじいですよ?」

 

「嘘よ!イライラしてこっちに撃ったわよね!?」

 

「ワタクシシリマセーン」

 

「片言になっているわよ!」

 

天之河達は、八重樫が問い詰めようにも深月は茶目っ気を入れて返事をする光景を見て悔しそうな表情をしている。自分達を追い詰めたトレント擬き相手に、八重樫とふざけたお返しをしつつも攻撃を防いでいる光景はそれだけで戦闘能力の違いを再度認識させる

 

それにしても疲弊する様子もありませんね。デメリット無しの再生が妥当・・・切った枝が邪魔ですね。・・・・・んん?何も変化なく残る?

 

その考えに至った瞬間、深月の顔がニチャアと笑みを浮かべた。あまりの不気味さにトレント擬きの動きが止まり、ハジメ達も硬直して念話で話す

 

(やばいって!深月がやると物凄くヤバイって!?)

 

(うわぁ~・・・あの顔は怖いわ)

 

(南無)

 

(ピィッ!?笑顔で訓練してた時よりも怖いですぅ!)

 

(おっと、この様な粘っこい視線で見られると濡れるのじゃ)

 

(あわわわわ!?何か嫌な予感がするよ!)

 

笑みを浮かべたままトレント擬きに近づき、胴体を横に両断する。だが、トレント擬きには固有魔法の再生が備わっている為、あっという間に完全回復して深月を攻撃に移―――

 

「ふ、フフフフフフフフ♪アハハハハハハ!」

 

自身の再生能力が予想以上で狂ったのかと思い笑みを浮かべようとした。しかし、深月の言葉によってそれは恐怖へと変わった

 

「木材―――木材を置いてけ!」

 

またも胴体を輪切りにされたトレントは、より硬い木材へと生まれ変わる。しかし、それでも防ぐ事が出来ずより硬くと変化させたが

 

「色違いの木材!良いです、良いですよ。それでこその大迷宮!木材不足の補給に丁度良いです!!」

 

これを聞いたハジメ達は、トレント擬きに合掌。これから始まるのは、トレント擬きからすれば地獄以外に他ならない

トレント擬きは、嬉々として己を斬る深月が何を望んでいるのかをようやく理解した。目の前にいるのは捕食者で自分は獲物だと―――逃げようとするが、魔力糸で雁字搦めにされて動けない。蜘蛛に捉えられた餌の様である。深月は笑顔のままトレント擬きを輪切りにして乾燥を繰り返す

 

「硬くできるのでしょう?その木材も寄こしなさい」

 

深月は、黒刀でトレント擬きの腹?辺りを突き刺してグリグリと抉り再生と種類変化を急かす

 

「あかん・・・完全に悪役のセリフだろ」

 

「魔物に人権が無いのは分かるけど・・・あれを見てると可哀想に思えるわ」

 

意思疎通は出来なくとも、求めている物と違えばめった刺しにされ、合っていたら笑顔で輪切りにされる。トレント擬きはハジメ達に視線を向けて、「早く殺してくれ」と訴えかける。しかし、全員が視線を逸らした事から生きる事を諦めた様に只々黙って深月が満足するまで斬られた

大量の木材を手に入れてホクホク顔の深月は、トレント擬きを固定していた魔力糸を外して解放した。いきなり動ける様になったトレント擬きは、ザザザと深月から距離を取ってガタガタと震えていた

 

「お嬢様、開通です。あれは恐らく襲って来ないでしょう。いえ、襲って来たのであれば―――再び木材収集を行いますがね?」

 

チラリとトレント擬きを一睨みする事で大きくビクッと体を震わせ、枝で奥へどうぞどうぞと道を譲る様に従っていた

 

『えぇ』

 

どこか納得いかないが、ハジメ達は「深月だから仕方がないよね」と迷う事無く奥へと続く道を進んで行く。天之河達もトレント擬きを警戒しながら奥へと続く道を進んだ。しかし、少し進んだ所で迷宮に入った時の様に地面に魔法陣が現れて眩い光が埋め尽くした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「勇者(笑)パーティーぇ・・・」
深月「実力不足ですね。ですが、トレント擬きはナイスです!」
布団「まぁ~た小物を作るメイドさんですよ」
深月「木はとても貴重な資源なのですよ?直ぐには育たず、強度が高い=頑丈。分かりますね?」
布団「正直、家でも作るのかと思ってた」
深月「・・・もう一度狩った方が良さそうですね」
布団「( ゚Д゚)」








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メイドの辛辣な言葉はド正論

布団「投稿じゃ~」
深月「ゲームをされていたのですか?」
布団「ゲームはしていないよ。冬野菜の第一陣が全滅したので、その補給を急ぎ行っていたの・・・」
深月「それはまた・・・大変ですね」
布団「読者達には申し訳ありませんでした!」
深月「それでは、毎回ご恒例を行いましょう。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」







~深月side~

 

朝日が部屋を照らす前、いつも通り起床。一伸びして精神統一、意識をしっかりと目覚めさせ終えるとテキパキとメイド服を着用し鏡の前で調整する

 

さぁ、今日もお嬢様の為に全力でお仕えです。体調よし、手入れよし、外見よし、清掃行きます!

 

屋敷に居る使用人達全員が起床し、なるべく音を立てない様に掃除をあっという間に終わらせる。掃除が終わる頃には日も照り、朝食までもう少し。深月は、厨房で紅茶を入れる道具をカートに乗せて皐月の部屋へ移動。いつもポケットに入れている懐中時計で時間を確認して、いつも通りの時間で部屋に入る。カーテンを開けて部屋全体に非の光を入れると、ベッドで寝ている皐月が日の眩しさに身動ぎする

 

「うにゅう・・・眩しい」

 

「おはようございます、お嬢様。朝食まで後少しですので眠気覚ましの紅茶は如何されますか?」

 

「・・・飲む」

 

皐月は深月が淹れた紅茶を飲み、眠気を覚ましながら美味しい紅茶一杯を堪能した

 

「ふぅ、深月が淹れる紅茶はいつも美味しいわね」

 

「ありがとうございます」

 

「ちょっと遅れたけど、おはよう深月」

 

「はい、おはようございますお嬢様」

 

しっかりと起きた皐月は、ドレッサーに移動して髪を梳かす。後ろの見えない所は深月が梳かす事で完璧に仕上がる

 

お嬢様のサラサラ髪きもちぃいいいいいいいい!クンカクンカしたいですが、しっかりと自重していますよ?後はお着換えです。お嬢様が起きる前にアイロンがけしたシャツと、制服のスカートを履いてリビングへと移動です。旦那様と奥様は早く起きられており、食卓の椅子へ座られています

 

「「皐月、おはよう」」

 

「おはよう、お父さん、お母さん」

 

「深月ちゃんも皐月の事をありがとう」

 

「メイドとして当然の勤めです」

 

「さて、皆で朝食にしよう。―――――いただきます」

 

『いただきます』

 

高坂家の食事は、主と一緒に使用人も食べるという特殊な行いである。当主の薫曰く、「皆で美味しく食べる事が重要」という方針だ

トースト、ベーコンエッグ、サラダ、コーンスープのありふれた朝食を食べて、各自の予定確認を行う

 

「僕の予定はスポンサー会議をする予定だ」

 

「私も新衣装の会議よ」

 

「私は学校で勉強。ハジメ達と一緒にお昼を食べる予定かな?」

 

あぁ・・・なるほど、こういう事でしたか。確かにこれは気付くまでに多少なりとも時間が必要ですね

 

最初から何か違和感を感じていた。だが、深月は先程の皐月の言葉で確信に至り溜息を吐く。その様子に気が付いた皆が深月を心配そうに見ていた

 

「深月、疲れたのなら休みなさい」

 

「そうよ、深月ちゃんは無理しがちだから要注意よ?」

 

「えっと、本当に無理は駄目よ?」

 

全員が深月を心配して声を掛ける。だが、この夢の様な時間はいつまでも居るのはいけない。己のやるべき事を再認識させる

 

「本当に―――本当にありがとうございます。ひと時とはいえ、私の理想とする日常を体験させて頂いた事には感謝いたします」

 

「どうしたの?深月、どこかおかしいわよ?」

 

「無理は駄目だよ?」

 

「今日は休みがいいわね」

 

この理想の世界の誘惑は本当に・・・私からすれば本当に危険です。一瞬で堕落し、それを求め続けてしまいます。だからこそ拒絶し、本来の世界に戻らなければいけません

 

深月は皐月の手を包む様に優しく握り、目を真っ直ぐ見つめながら告げる

 

「この世界が作り物とはいえ、私が信奉するお嬢様の言葉を拒絶する事をお許しください」

 

「・・・ここは理想郷なのよ?一緒に楽しい日々を楽しみましょう?」

 

「私の最優先目標はお嬢様の幸せです。私の理想のお嬢様と主のお嬢様・・・・・後者が一番です」

 

「・・・私じゃ不満?」

 

深月の願い全てを尊重する皐月なら不満処はない。だが、それは人形に近い存在だ。時には否定し、導き、お願いされたりするのが本来の主である皐月の姿だ

 

「不満はありません。私の願いを汲み取られるお嬢様は大変素晴らしく思いますが、何でもというのはありえません。私はお嬢様のメイド―――僕として時には導き、時には導かれる存在です。いつの日かこの光景が現実となる様、私は進みます」

 

深月が言い終わると同時に、世界にヒビが入りガラスの様にバラバラと砕け落ちる。深月は皐月の手を離し、背を向けて歩く

 

「・・・そう。やっぱり深月は強いわね」

 

「僕達が深月の理想の姿とはいえ、さようならは悲しいね」

 

「深月ちゃん、行くのね?」

 

皐月、薫、癒理の三人の言葉を背に受け歩みが一瞬止まり、再度振り返って崩壊する世界の皆に別れの礼と言葉を送る

 

「必ず、必ずお嬢様達と地球へ戻ります。―――有難う御座いました」

 

背を向け再び歩き始めたと同時に、世界が一気に砕けた

 

「・・・合格だよ。甘く優しいだけのものに価値はない。与えられるだけじゃ意味がない。たとえ辛くとも苦しくとも、現実で積み重ね紡いだものこそが君を幸せにするんだ。忘れないでね」

 

皐月達とは違う声が響き渡る。中世的な声と霞んだ人影は、最後には優しい微笑みを浮かべていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深月は、目を覚まして周囲を確認する。暗闇が支配する中、夜目で問題なく見えるのでこの空間の様子を見ていると、ドーム状の空間に一定の間隔で置かれている長方形型の物体で透明感のある黄褐色。おおよそ人一人分入る事が出来る程の大きさで、個数もこの迷宮に入った人数分だった。自分が居た場所も同じ物があり、抜け出た様な形だった

 

これは・・・先程の理想郷を見ている者が入っているという事ですか。あのトレント擬きが居た空間から少し進んだ場所で転移、試練を受けるといった流れですね。不意打ちには警戒をしていたのですがまだまだでしたね。精進せねば!

 

己の未熟さを恥じて次への教訓に活かす事を決めていると、二つに変化があった。琥珀の光が灯り、徐々に薄くなっている。およそ五分―――琥珀が溶けて出て来たのはハジメと皐月だった。スライムボディから元の身体に戻った事に安堵し、目覚めるまで傍で待機する

 

「っ・・・ここは・・・」

 

「・・・うぅん・・・ここはどこ?」

 

深月は、二人が目覚めるタイミングも同じな事を見て「お二人は運命の赤い糸で繋がれていますね」と呟きつつ目覚ましの紅茶を一杯ずつ手渡す

 

「うぉっ!?・・・・・深月か、びっくりさせるなよ」

 

「深月が一番だったのね。二人の理想の世界はどんな感じだった?因みに、私はハジメと結婚して自分とユエ達の子供と仲良く暮らしていた光景だったわ」

 

皐月が理想とする世界は、皆仲良く穏やかな日常という事だった

 

「俺は皆で学校で暮らす日常だったな。皐月達と同棲生活で充実していた」

 

「私は朝の時点で気付きましたので・・・お嬢様以外の方達を見ていませんね」

 

「・・・だよなぁ」

 

深月の"一瞬で見抜きました"の一言でガックリと項垂れながら溜息を吐くハジメ。それを見ていた皐月はジーっとその様子を伺う様に見つめていた

 

(ハジメは無自覚ながら深月を落とそうとするけど、深月も無自覚な返しで撃墜しているのよね。・・・これは大変そうね)

 

二人は深月の淹れた紅茶を飲みながら皆を待っていると、一つ、また一つと琥珀が溶けていく。ユエ、シア、ティオ、香織の順で目覚めた。四人の理想の世界はというと、ユエとシアは皐月と似た世界で、ティオは・・・いうまでもなく変態な世界、香織はハジメを見て顔を赤くしていたので恐らくエッチな世界だったのだろう

 

「ユエとシアの世界が私と殆ど同じなのは良い事ね。ティオと香織は・・・なんとなくそうだろうとは思っていたわ」

 

「・・・変態とむっつりスケベ」

 

「ティオさんはすでに手遅れですが、香織さんも少しは自重を覚えた方が良いですよ?」

 

「あふんっ!その冷ややかな視線がたま「再度教育が必要ですね?」・・・嫌じゃあ!妾の自由を奪う行為はもう嫌じゃ!!」

 

「むっつりじゃないもん!それよりも、シアも酷くない!?これでも自重している方だよ!?」

 

「スケベである事は否定しないのね・・・」

 

「ハッ!?」

 

「・・・マヌケ」

 

「ユ~エ~!」

 

「エロ香織」

 

「今日という今日こそは許さないよ!」

 

「受けて立つ!」

 

売り言葉に買い言葉でユエと香織のキャットファイトが開始し、ティオは深月にネチネチとお説教されている

 

「見慣れた光景だな」

 

「ですねぇ~」

 

「・・・見慣れたくないわよ」

 

ハジメと皐月とシアは、残りの琥珀に視線を向ける事で無視。話を強引に切り替える事にした

 

「俺達は余裕だったが、あいつらの中で真っ先にクリア出来るのは誰だと思う?」

 

「八重樫さんでしたっけ?あの人だけだと思いますよ」

 

「私個人としては遠藤君も付け足したいわ」

 

「案外、迷宮の試練にも忘れられたりしてな」

 

「「それはないでしょ(ですよ)」」

 

「あいつの影の薄さ知ってるだろ?」

 

ハジメの言葉を聞いて、皐月とシアが思い出した様に考え込んだ末に導き出した答えの一つの可能性として選択肢に出た

 

「深月が認める程の気配遮断よね。・・・どうしよう、否定出来ないわ」

 

「気配に敏感な私も気付く事が出来ませんでしたし、深月さんに一目置かれているとなると可能性としてはありですよね」

 

もしこれを遠藤が聞いていたなら泣いても良いだろう。二人の素直な感想は悪意が無い分余計に質の悪い言葉だからだ。そして、噂をすれば影とやら―――琥珀の一つが溶けつつあった

 

「お、誰が目を覚ますんだ?」

 

「賭けをやりませんか?深月さんの料理一品で」

 

「良いわね。なら、私は遠藤君で」

 

「八重樫もありだと思ったんだが、此処は皐月と同じ遠藤にするか」

 

「えぇ~、八重樫さんは私だけですかぁ?あの人って結構現実を見ているから早くクリア出来る筈ですよ。あっ、気配感知とか使っていませんよね?」

 

「大丈夫よ。勇者(笑)パーティーは興味が無かったから確認すらしていないわ」

 

皐月は元々勇者(笑)達を連れて行く事を反対しているので、本当に興味が無かった。唯一興味があるとすれば、深月が期待している遠藤がどの様に化けるかだけだ。

 

「・・・すまん」

 

「皐月さん自身は気にしていないつもりでも、心の奥底では気にしているんですね」

 

皐月だけでなく、深月に関してもストレスを量産する勇者(笑)パーティーと同行という事が一番の心労なのだ。そんな彼等を待つ事おおよそ三十分後に一つの琥珀が溶け始めた。キャットファイトしていたユエと香織は中断し、OHANASHIをしていた深月とティオも切り上げてハジメ達の傍へと集まる

 

「遠藤来い。八重樫よりも後だったらブッ飛ばす」

 

「深月の麻婆を食べさせましょう。麻婆を布教出来るわよ?」

 

「ここは八重樫さんですよ!私の夕ご飯の一品を賭けているんですから!」

 

琥珀が完全に溶け、中から現れたのは遠藤だった。だが、他の者達とは様子が違っており目が開いていたのだ。深月でさえ琥珀が溶けてから目覚めたのに対して遠藤だけが違う異常を警戒し、ハジメと皐月はドンナーを突き付けた

 

「え?ちょっと待って。何で二人は俺に銃口向けてるんだよ!?」

 

皐月が魔眼の感知技能をフルに使って本人かどうかをチェックするも、魔物の反応ではなく本物の人間の反応が返って来た。皐月がハジメに目配せをして銃口を下げた事で、ハジメも眼帯の情報が騙されていない事を理解して銃口を下げて疑問を問う

 

「おい遠藤、俺達でさえあの琥珀が溶けてから目を覚ましたのに何故お前だけは違っていた?」

 

「何故って・・・俺にもさっぱり分からない。あの光の後はずっと真っ暗だった。・・・でも、しばらくして日常の光景が映ったんだ。だけどさ、俺が無視されない違和感に気付いてツッコミ入れてたら世界が硝子の様に砕け散ったんだ。それで目が覚めると狭くて動けないし・・・南雲達が俺を賭けにしている声が聞こえた瞬間に溶け始めた感じだよ」

 

ハジメ達は遠藤の試練に付いて何がどうなっているのかが分からない表情をしており、色々と推測を立てていると遠藤が言った言葉の一つに違和感を感じた

 

「ちょっと待って。ねぇ、光の後にずっと真っ暗って言ってたわよね?どのくらいの長さか分かる?」

 

「かなり長かったんだよ。あ、真っ暗って言うのは目隠しや睡眠みたいなのとは違う感じだった。無重力の真っ暗な部屋に入れられた感じだったよ」

 

ハジメ達は気になった部分が更に複雑になった事に頭を悩ませていると、深月から冷静な一言が告げられた

 

「大迷宮そのものが遠藤さんの存在を忘れていたのでは?」

 

ハジメ達は沈黙し、遠藤は「えっ?・・・え?」と真顔で戸惑っている。そして、ハジメ達が出した答えは

 

『流石影の薄さ第一位』

 

「ちくしょう・・・ちくしょう!」

 

「大丈夫ですよ、私はちゃんと認識していますから」

 

「・・・神楽さんの優しさが心に染み渡る」

 

素直な感想に傷付く遠藤をフォロー?し終えた深月は、ハジメ達にとって重要な事を告げる。いや、告げなくとも気付くのだが、念には念を入れてである

 

「遠藤さんが一番先に目覚めたという事ですので、賭けの勝利者はハジメさんとお嬢様のお二人ですね。では、食事を御作り致します」

 

「へっへっへ―――覚悟しろよシア」

 

「こればかりは譲れないから覚悟してね?」

 

「ぬぐぐぐぅ!約束とはいえあげたくないです!!」

 

「「抵抗するなら深月に飯抜きを―――」」

 

「それだけは勘弁して下さい」

 

シアの品を二つ奪われる事は決定した。だが、シアはここは迷宮内だという事を踏まえると手の込んだ物は出来ないだろうと踏んでいた。だが、深月が宝物庫から簡易キッチンを取り出し、食材を色々と乗せている所を見てガックリと項垂れた

 

さて、何を御作り致しましょうか。・・・ハジメさんは蜂の子サンドを食べているとはいえ、普通に食べそうですね。腹持ちが良く、満腹感を与え、いざという時に対処出来る物と言えば―――サンド系しかありませんね。蜂の子は肉系の味でしたが、女性受けはしなかったので却下。お肉は変わり映えが無いので魚でいきましょう

 

先ずはパンからだが、これは大量に焼いた物を宝物庫から取り出して横真っ二つにする。続いてエリセンで手に入れた処理済みの鮫形の魔物の大きな切り身一ブロックに清潔を行使。その後手早くステーキ状にカット、小麦粉、溶き卵、パン粉の順番につける。この準備の間に並列思考で魔力糸や重力魔法を駆使して二つの鍋に水と油を注ぎ、熱量操作で180℃まで熱し終えた油のプールに切り身を入れてフライを作る

火が完全に通るまでに時間に新鮮な状態で冷凍処理したレタス擬きを手で割いて熱量操作で解凍、沸騰したお湯の中にサッと潜らせて冷たい水へ投入して清潔済みの魔物の卵を投入。レタス擬きが完全に冷えたら取り出して適度に水切りをする。そうこうしている内に第一陣のフライが出来たので取り出し、第二陣を投入。次はソース。これは先程の茹で卵にタマネギ擬きをみじん切り刻み、塩、胡椒、砂糖、酢を良くかき混ぜる事でタルタルソースの完成である。すると、料理中の深月の感知に一つの琥珀の変化が反応した

 

「これは八重樫さんですね。近々目覚めるので一応作っておきましょう。あ、ど腐れ野郎とのうk―――坂上さんと谷口さんは無理そうなので無視です」

 

この試練をクリアするならば食べさせる事は吝かではないと思っている深月。だが、勇者(笑)三人に関しては期待薄なので作る事はない

第一陣のフィッシュバーガーを作り終えると同時に第二陣のフライが完成したので、急ぎ追加の第三陣を準備して投入。第二陣の盛り付けが終わると同時に、琥珀が完全に溶けて八重樫が目を覚ました。しかし、深月から見て少しだけ様子がおかしく、ハジメを見て皆に見られず悟られない様に悶々としていた

 

八重樫さんがどういった夢を見ていたのか想像できますね。少女漫画の様に自分を助ける主人公の姿に惚れた感じですね。その主人公はハジメさんで確定―――ハジメさんも罪作りな人ですね

 

深月の最後の感想についてはハジメのせいではない。だが、ハジメは無自覚に好意をばら蒔いているから何も言えない。そのせいでリリアーナ然り、畑山然り

取り敢えず第三陣のフィッシュバーガーも完成し、全てが準備完了である

 

「皆様方、お食事の御用意が出来ました」

 

深月の言葉を聞いたハジメ達は、簡易キッチンの傍までダッシュ。そして、「いただきます!」と感謝の言葉を告げて暖かさを保ったフィッシュバーガーを手に持ってガブリッ。鮫のフライという初めての味と触感を堪能しつつ、一口、また一口と黙々と食べ進める

遠藤と八重樫は、自分は勇者(笑)パーティーと判断しているので匂いだけでもと思っていた。しかし、深月が「試練の一つをクリアおめでとう記念です」という事でフィッシュバーガーを食べる権利を得ることが出来た

 

「うっめ~、鮫はアンモニア臭が凄まじくて食えたもんじゃないって聞いてたがこいつは別物だな」

 

「一度湯通しをした事で野菜のシャキシャキ感と風味が強調されているわ。でも、お互いを支え合う様に味が損なわれていない」

 

「美味、深月の料理は世界一」

 

「深月さんの料理は麻薬ですね。無いと絶望しますよ」

 

「表面が程よくこんがりと焼けたパンの風味、ソースのピリ甘、鮫のプリップリの肉、野菜の損なわれない歯応え―――その全てが存在感を出しておる!これが一番!という強調ではなくとも、混ざり合った場合でも素材の一つ一つが感じられるバランスは神がかっておる!」

 

「おいしい~、そして深月さんと自分の調理スキルの差に絶望したよ・・・」

 

「美味い、美味いよ。流石神楽さんが作った料理だ!すき焼きを食べた時から物足りない充実感はこれだったんだな」

 

「遠藤君の言う通りね。王国の料理も美味しいのだけれど、差が大きすぎて落胆しちゃったのよね。料理人の人達は悪くないのに・・・贅沢な舌になってごめんなさい・・・・・」

 

あっという間にフィッシュバーガーが無くなり、満足したハジメ達がお腹をポンポンと叩く

 

「食った食った~♪ちょい食い過ぎ気味だが、待つ間に良い感じで消化されてるだろうな」

 

「美味しいのは同意するけど、ハジメは食べ過ぎよ」

 

皐月の指摘にハジメは「ウッ!」と痛い所を突かれて言い訳をするが、その全てをド正論で言い返されてしまい少しだけ落ち込む。正に皐月の尻に敷かれている状態である

食事を終えたハジメ達が待つ事一時間、琥珀の変化がないので香織の分解魔法で琥珀を消して天之河、坂上、谷口を強引に目を覚まさせる

 

「・・・あ?あれ、香織?雫?ここは?俺は、二人と・・・」

 

「んあ?どこだ、ここは?俺は、確か・・・」

 

「え?そんな、恵里はっ、恵里・・・」

 

三人の内、天之河と谷口が見ていた世界はおおよそ予想出来、深月は忌々し気に小さく舌打ちを鳴らした

 

チッ、ど腐れ野郎はお花畑の脳みそで香織さんと八重樫さんの二人を侍らしていたのですね。・・・気持ち悪い。谷口さんも諦めきれないのでしょうが、あれの改心など到底不可能です。脳き・・・坂上さんは自分の力を求める何かだったのでしょう

 

深月は三人に何も期待していない目を向けている事に気付かない天之河と谷口。坂上は野生の本能か何かで、バッと深月の方を見て悔し気に表情を歪めた。すると、全員が琥珀から解放された事で部屋の中央に魔法陣が出現。強制的に次の試練へと送られるらしい

 

「天之河、谷口、省みている時間はないぞ。備えろ。でないと、お前らの望みは本当の意味で潰えることになる」

 

「っ・・・ああ、分かってる」

 

「う、うん。そうだね!」

 

光が爆ぜ、再びハジメ達を飲み込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

光が収まると、最初の転移場所と同じ樹海の中だった。しかし、天井の高さと進むべき方向が決められている点が違っていた。皐月は直ぐに魔眼で全員をチェックし、何も問題がない事に取り敢えず安心した

 

「・・・皐月、偽物居る?」

 

「居ないわ。目で確認したけど全員本物よ」

 

「皐月さんがそう言うなら大丈夫ですね!」

 

皐月は先の道を見据えて警戒をしている最中、先程の試練をクリア出来なかった天之河と谷口の二人の表情が未だに暗かった。敢えて理想の世界の内容を掘り返す事はしないが此処は大迷宮、一瞬の油断で命が尽き果てる。ハジメはわざとらしく舌打ちを鳴らして二人に警告する

 

「天之河、谷口。お前等やる気あんのか?」

 

「なっ、あ、あるに決まってるだろ!」

 

「え?あ、あるよ!」

 

ハジメの辛辣な言葉に、仲間思いの坂上が異を唱えようとするがその前に言葉を続ける

 

「ここは大迷宮だ。一歩踏み込んだ先、一秒後の未来、そこに死が手ぐすね引いて待っているような場所だ。集中出来ねぇなら、攻略は今ここで諦めろ。無駄死にするだけだ」

 

「ま、まて、俺は・・・」

 

「何をどう言い訳したところで、さっきの試練をお前がクリア出来なかったという事実は変わらない。なら、最低でも必要なのは残りの全てを踏み越えてやるという決意だ。今のお前等にはそれが見えない。気概のない奴はただの足手纏いより質が悪い」

 

「・・・俺は」

 

天之河は、己よりも強いハジメ達の傍で甘えている事実に憤りそうになる。しかし、それは己自身に対しての怒りだ。今まで培った経験はどれもがお遊びとも言える程の物―――認めたくはない事実に更に怒りが募る。谷口も意気消沈している事に後ろめたさを感じていているが、中々振りほどけていない様子だ。そんな二人に、深月がありのままを宣告する

 

「邪魔ですのでゲートで出口に送りましょう。私とて人間ですのでその感情を引き摺るなとは言いませんが、体に表すのであれば足手纏い以上です。ハジメさんは甘いので畑山さんの願いに折れてしまいましたが、私にその様な甘さはありませんよ?死ぬのならば勝手に死んで下さい。こちらに被害を及ぼさないで下さい」

 

やる気の無さに呆れるわ・・・深月の言う通りさっさと退場してもらおうかしら?先生も厄介な頼み事をしたものね

 

冷ややかな目で天之河と谷口を一見し、深月と同様に皐月は呆れ果て蜘蛛型ゴーレムを散らばらせて情報を収集する事を第一優先とした。ハジメは二人を見据えて再度辛辣な言葉を投げつける

 

「深月の言う通りだ。お前達が俺達に同行出来ている理由は、先生が懇願したからという事を忘れるな」

 

「なぁ南雲、俺もその内に入ってるのか?」

 

勇者(笑)パーティーの面子の一人である遠藤の最もな疑問。オルクス襲撃の際、四人に比べて力が弱い遠藤の疑問はそれだ

 

「遠藤、お前は別だ。飛空艇でのあの言葉と、深月に喰らい付こうとする姿勢はこいつら以上だから大丈夫だ。なぁお前等、飛空艇に乗った辺りからどうしていた?」

 

遠藤は勇者(笑)パーティーとは違って迷宮に連れて行く事に不満はないと宣言したハジメに対し、八重樫以外の三人がムッと腹をたてる。しかし、ハジメはしっかりと見ていたのだ。真剣ではあるものの日課の様な素振りをしている天之河達と、疲れ果てても体に鞭を入れて訓練をする八重樫と遠藤。連れて行くならば後者の二名だ

 

「俺が皐月達と一緒に居てお前らの事を見ていないと思っていたか?本当にやる気があるのは誰から見てもたった二人だけだ。天之河、坂上、谷口、いつも通りの日課をこなして疲れたら休むお前らと、日課+応用、疲れた状態でも体に鞭を打って動かす八重樫と遠藤。誰からどう見たって後者の方が努力しているし、気合も違うって言えるだろ?」

 

「俺達も努力し―――」

 

「ハジメさんが仰る努力とは、死ぬ気であるか否かどうかです。訓練で筋肉が断裂しましたか?体が熱く、これ以上は苦しい、痛い、止めたい―――その本能を押し殺してでも鍛えていましたか?遠藤さんは筋肉が断裂しても、回復された直ぐ後に訓練をしていましたよ?苦手だから、これが一番だから、自分にはこれが合っていると言って惰性で鍛えていませんか?」

 

深月が言っているのはとても重要な事で、生存率を上げる為のものだ。以前、香織に課していた深月監修のブートキャンプ(地獄の訓練)は、天職が後衛職であろうと近接格闘術・・・いや、護身術という身を護る事を重点に行っていたのだ。このお陰で、王都襲撃の際に咄嗟に体が動いて命を取られる事はなかったという実績証明がある

前衛職は、魔法が苦手でも魔法の性質について知っておかなければ危険である。オルクス襲撃の際に、もしも前衛職と後衛職が分断されてしまい、石化魔法を行使されたならば被害は甚大だっただろう。魔法の詠唱とトリガーからどういった性質の魔法が放たれるかを予想すればいい

天之河達は深月に努力不足を指摘されて押し黙る。魔法が苦手の前衛だから攻撃技能を磨くだけ、後衛だから前衛が護ってくれるなんていうのは無意味だ。敵だって後衛が厄介だと感じたら即座に潰しに掛かる。その様な前提など有って無い様なものだ

 

「魔法や技能はあって便利というだけで、それが必ずしもアドバンテージには成り得ません。相手に考える時間を少しだけ増やす程度です。一度見せれば対応は当たり前、技能の中断や複合を試してみようとは思わなかったのですか?」

 

うわぁ・・・深月がああ言うって事は、既に自分の物として安全に使えるって事よね。私も出来るけど、キャンセルで偶に頭痛が襲う事があるから実践では中々使えないけどね。リスク無しで使えるにはやっぱり回数が重要という事かしら?

 

深月にコンコンと説教をされて、何も言えずに体を縮ませる三人。・・・いや、四人―――八重樫も流れ弾で直撃している。遠藤に関しては、深月との特訓でしつこく言われていたので、「俺より酷くないけど、同じ様な事を言われたなぁ」とウンウンと顔を縦に振り過去を振り返っていた

説教を終えた深月は、「今までの鬱憤をぶつけてやったぜ!」といわんばかりにやり切った表情をして皐月の傍へと移動した。ハジメは、気落ちしている三人にありのままを伝える

 

「あの程度の説教で気落ちしてんじゃねぇよ。あれでも幾分かマシな方なんだぞ?遠藤なんて・・・いや、今はそんな事はどうでもいいか。こいつ等のメンタル貧弱だな。こちとらこれ以上待つ気はないからな?」

 

坂上は、「事実だから仕方がねぇな」と割り切って気持ちを切り替えているが、天之河と谷口は引き摺っていた。そんな二人を見たハジメが舌打ちを鳴らしながら宝物庫からゲートキーを取り出した事で、ハジメの本気さを感じた二人は気持ちを切り替える

 

「南雲。もう大丈夫だ。俺は先に進む!」

 

「鈴も行く。やる気十分だよ!」

 

「そうか。ならいい。集中を切らせるなよ」

 

気合を入れさせてハジメ達は奥へと続く道を進み始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「本当にど腐れ野郎達は邪魔ですね。返品したいです」
布団「仕方ないんや。我慢して下しい」
深月「いざという時には、肉壁として活躍していただきましょう」
布団「次回、メイドさん絶望!絶対見てくれよな!」
深月「嘘予告は入れないでください。私はお嬢様に嫌われない限り絶望しませんよ!」
布団「頑張れ~」フレッフレ♪


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特攻対象、メイド

布団「ステンバーイ、レディ」
深月「ゴー!です」
布団「悪魔が襲来するぞー!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」










~深月side~

 

ハジメ達は警戒をしながら迷宮を進んでいる。だが、今現在居る場所は物凄く不気味で、風で葉が騒めいたり、虫が鳴いたりの音が無いのだ。例えるなら、嵐の前の静けさだ

 

「う~む、何だか嫌な感じじゃの」

 

「うん。何だか、オルクスで待ち伏せされた時みたい」

 

「確かに・・・魔物の気配も全くないものね」

 

龍の本能的な機微が反応したのか、初めにティオが口漏らし、香織と八重樫が魔人族と初めて出会った時と似ている雰囲気の事を思い出しながら周辺の環境に注視する

 

「蜘蛛型ゴーレムを先行させて索敵させているのだけれど・・・全く成果がないわね。特に変化がある場所も無いし、警戒を厳にしたまま進むしかないわ」

 

「いっその事、周囲一帯を燃やすか?」

 

「え?燃やす?」

 

「ハジメ、それは駄目よ。この大迷宮にある空気の流れが分からないのよ?酸欠になって死ぬ可能性も否めないわ」

 

皐月の懸念は、この樹海の中で燃やした際の空気・・・酸素の確保についてだった。結界内部に空気を残したまま遮断する事が出来るのは理解している。だが、空気の確保と結界を解いた後に起こりうる可能性を危惧しているのだ

 

「瞬間的に燃やすから時間は掛からないぞ?」

 

ハジメは、危険性についてある程度は理解しているので大丈夫だろうと高を括っている。だが、深月の指摘で燃やす事を躊躇った

 

「もし、炎が少しでも残っている状態で結界を解いてしまえば・・・バックドラフト現象とは違いますが、連鎖爆発しますよ?酸素が炎の方へと奪われてしまうので、低酸素障害に陥ってしまう可能性―――」

 

「分かった!分かったから最悪の事を想像させるな!爆破はロマンだが、自分から受けに行く事はしたくないからな。だが、燃やすのは最終手段として考えておいてくれ」

 

「まぁ、その際はユエを酷使するから注意してよね。ユエ、氷血晶のストックは大丈夫?」

 

「攻略前に深月から渡された五つ全てがあるから大丈夫」

 

さて、この氷結血晶についてだが、これは深月が作った血の結晶の事だ。重力魔法で圧縮した血を、乾燥と熱量操作で小さなブロック状にして、氷の中に閉じ込めた物だ。神水に次ぐ、ユエ専用の即時魔力回復薬。戦闘の際に吸血する暇がない場合もあるので、これならばユエの判断次第で飲む事が出来る

 

「なら大丈夫ね。些細な環境変化も見逃さずに進むわよ」

 

ハジメ達は再び歩みを進める。すると、ポツ、ポツと雨が降り始めた

 

「・・・ん?雨か?」

 

「ほんとだ。ポツポツ来てるね」

 

最初の違和感は天之河からだった。この時、先を行くハジメ達には降り注いでおらず反応が僅かに遅れた。直ぐにこのありえない現象に顔を見合わせたハジメと皐月とユエ。深月に関しては、魔力糸で作った大きめの傘で皐月の頭上を隠している。それと同時に、スコールの様に大量の雨が降り注ぎ全員を襲う

 

「チッ、ユエ!」

 

「・・・んっ、聖絶!」

 

ユエが障壁を展開すると同時に、ドロリとした白い液体が障壁沿いに流れ落ちる。この空の無い空間で雨、そしてドロリとした液体―――正体がスライムであると直ぐに理解する事が出来た

 

「南雲くん、周りがッ」

 

降りそそぐスライムの液体を浴びずに済んだ事に一瞬だけ安堵したが、一瞬で周囲の木々や地面から白い液体が滲み出てきた事に香織が一早く気付いた

 

「魔眼石に感知されないスライムって、隠密性が高すぎるでしょ。あぁ深月、持ち上げなくても大丈夫よ。にじみ出て来た時に鉄鉱石を投げて確認したけど、溶けなかったから酸性ではないわ」

 

「いいえ、絵面が大変な事になりますので持ち上げます」

 

深月は皐月の言を無視して持ち上げてスライムに濡れない様にする。その間にもスライムがどんどんと溢れ出て辺りを埋め尽くす

 

このスライムは、白くてドロッとした液体・・・・・あれに似ています。お嬢様に触れさせないで良かった。地面にせり上がって来るスライム達は香織さんの分解で対処されています。しかし、動きにくくなる程度の試練なのでしょうか?いえ、それはありえません。何かしらの副作用、毒素が含まれている筈です

 

深月は、スライムを焼却処分する為にクロスビットを上に飛ばすハジメを観察しつつ、これから来るであろう試練の可能性を考える

 

これまでの試練を思い出しましょう。猿型の魔物は姿や記憶をコピーしてこちらを騙し、琥珀は理想の世界という心に来る何かの試練でした。ならば、これも心に来る何かである事は確実―――喜怒哀楽といった人間の感情を試す試練?いえ、それだと四つ全てが埋まってしまいます。ならば三大欲求?・・・これはいけません!毒耐性があるハジメさんとお嬢様は大丈夫ですが、それ以外が全員駄目です!

 

深月は、ドロリとした白い液体を浴びた絵面が大変な事になった八重樫達を見て、この試練が何なのか思い至った

 

「ハジメさん、お嬢様、男性陣の拘束をお願いします!」

 

「何?・・・いや、深月が言うならそうした方が良さそうだな」

 

「拘束?・・・絵面・・・そういう事!?」

 

ハジメと全てを察した皐月は、宝物庫から拘束アーティファクトのボーラを取り出して天之河と坂上を拘束する。深月は、スライムの全てを処理し終えた地面に皐月を下ろして遠藤を拘束した。普段の天之河達なら怒る処置の仕方だが、正気を失ったような目と血走った目で女性陣を見て手を伸ばしていた。取り敢えず、襲われていないのでギリギリセーフと言ったところだろう

因みにハジメの方は、身悶えながら息の荒くなったユエとシアに体を押し付けられたりしている

 

「はぁはぁ・・・ハジメ、何か変・・・はぁはぁ、すごく・・・ハジメが欲しい」

 

「ハジメさん・・・私・・・私、もうっ・・・はぁはぁ」

 

ティオは何処かボーっとした様子で、香織は四つん這いになって体を悶えながら少しずつハジメににじり寄っている。明らかに様子がおかしく、発情している事に気が付いたハジメは、この試練の内容にようやく気付いた

 

「くそったれ。これがあのスライムの真髄かっ!」

 

「その様ね。私とハジメと深月は毒耐性を持っているから効かないけど、それ以外はどうにかして乗り切らないと駄目よ」

 

「八重樫さんと遠藤さんは・・・精神統一で落ち着かせていますね。ですが、谷口さんは失格です」

 

深月が魔力糸を伸ばして、八重樫へと手を伸ばそうとしていた谷口を縛り身動き出来ない様に雁字搦めにした。その顔は、恋人だけに見せた方が良いという崩れた顔だった

ハジメは、右手にユエ、背中にシアを引っ付けながら左手に抱き着こうとしている香織を引っぺがしていると、ティオがしっかりとした足取りでハジメの方へと近づく

 

「むぅ、ご主人様達よ、無事かの?どうやら、あの魔物の粘液が強力な媚薬になっておった様じゃな」

 

「あれ?ティオってスライムの液体に大量に直撃していた筈じゃ・・・」

 

ハジメと皐月は思わず目を丸くしている。そんな二人に気付かずティオは言葉を続ける

 

「強烈な快楽で魔法行使すら阻害しておる。時間が経てば経つほど正気を失って快楽のまま性に溺れることになるじゃろうな。厄介なこと極まりないのぅ。あの物量で襲われては、全く飛沫を浴びないなど不可能じゃろう。戦闘が長引けばそれだけで全滅じゃ。生き残っても仲間がおれば交わらずにはおられんじゃろうから、その後の関係はかなり危うくなりそうじゃしの」

 

「あ、ああ、そうだな・・・」

 

「うむ。おそらく、それが狙いじゃろう。快楽に耐えて仲間と共に困難を乗り越えられるか……あるいは快楽に負けても絆を保てるか・・・いずれにしろ性格の悪いことじゃ。"解放者"というのは本当に厄介な連中じゃの。もっとも、それもご主人様の毒耐性には敵わんかったようじゃが」

 

「・・・ねぇ、ティオ」

 

「む?何じゃ、ご主人様達よ」

 

ハジメと皐月はユエ達を見ながら、一番の疑問点をハジメが尋ねた

 

「あの粘液がこの事態を引き起こしているという推測は納得できる。俺もそう思うからな・・・だが、だがな。何でお前は平然としてるんだ?」

 

「確かに、妾の体も粘液の効果が発揮されておる。事実、体を駆け巡る快楽に邪魔されて魔法がまともに使えんからの。じゃがのぅ、舐めてくれるなよ、ご主人様達よ。妾を誰だと思っておる」

 

「ティオ・・・」

 

二人は、長く生きる竜人族として快楽に侵されながらも誇りで耐えているものかと思った。変態が変態をしていない事実に、「これからは見方を変えて接しよう」と思ったら、深月が核心を突く

 

「お嬢様、ハジメさん、お二人の認識は間違っております。ティオさんの変態具合はお二人の想像を上回っているのです。大方、ハジメさん達から受ける攻撃―――体を突き抜ける痛みの方が快感が勝っていると思われます」

 

二人は、「まっさか~、そんなに残念じゃないだろう」と思った。だが、深月の言葉に直ぐ反応したティオの言葉を聞いてドン引きした

 

「妾はご主人様の下僕ぞ!この程度の快楽、ご主人様達から与えられる痛みという名の快楽に比べれば生温いにも程があるわ!妾をご主人様達以外に尻を振る軽い女と思うてくれるなよぉ!!」

 

「「そっすか」」

 

二人は、拳を天に掲げて力強く宣言する変態龍を汚物を見る様な眼差しを向けた。ティオは、二人が汚物を見る様な眼差しの視線を浴びて、スライム粘液の快楽を退ける体をゾクリと震わせる

 

「あっふぅうううん!その視線が堪らんっ!!い、いかんのじゃ!これ以上の視線を受けてしもうたら妾・・・自我をなくしちゃうのじゃああああ!」

 

二人は、更に気持ち悪い奴を見る眼差しを向けようとした時、ティオの肩にポンっと手が乗せられた。ティオがゆっくりと振り返ると、笑顔の深月がティオを見据えていたのだ。流石のティオもこの視線には耐えられず、体をガタガタと震わせ、冷や汗を大量に流し始めた

 

「さぁ、淑女としての教育をしましょうね」

 

「ヒィッ!?ご、ご主人様達、た、助けてたもう!お願いじゃ、助けてたもう!!」

 

二人の答えは決まっており、明後日の方向を向く事で"我関せず"とした。首根っこを掴まれて、ユエが炎もろとも氷魔法で鎮火した道を飛ばされた地点に戻る深月とティオ。その様子を身悶えしていたユエ達も見ており、深月達が見えなくなるまでじっと見ている事しか出来なかった。その間、快楽がどうのこうのなんて考える事が出来なかった。深月による淑女になる為の強制的な"教育"。何も起きない訳がないと思っていると、姿が見えなくなったティオの悲鳴がハジメ達の所まで響いた

 

『や、やめてたもう!黒刀を取り出してどうするつもりじゃ!?』

 

『片手程度再生出来ますよね?今までの教育は温いと感じましたので、腕の一本をと思いまして』

 

『い、あっ、や、やめてえええええええ!?――――――ぎゃああああああああああ!』

 

その直後に響き渡る破裂音―――。生々しくティオの悲鳴が聞こえる中の破裂音・・・ハジメ達は、今まで実行に移していなかった事が実行されていると理解した。

 

「・・・ユエ、シア、香織、お前達は快楽に敗ける程精神が軟じゃない筈だ。俺は・・・耐えろとしか言えない」

 

「三人共、気合を入れなさい。あの変態でも耐えれた試練よ?敗けたら・・・変態に敗けたというレッテルが貼り付くわよ。その後は、深月のOHANASHIが待っていそうね」

 

遠い目をした皐月が元来た道を見ている中、未だに聞こえるティオの悲鳴。肉体言語で矯正しているのだろうと容易に理解出来た。そして、もしもこの試練を突破出来なかった場合の事を思うと後が大変怖い。三人は気合を入れ直して、深呼吸した後に真面目な顔で二人の言葉に応える

 

「・・・大丈夫、変態には敗けない。敗けたら一生の恥」

 

「深月さんのOHANASHIは受けたくないですし、変態に後れを取るなんて死んでも御免です」

 

「敗けない。私は敗けない!」

 

言葉はしっかりとしているのだが、体は正直者なので膝がガックガクに震えながらも必死に耐える。その間も聞こえるティオの悲鳴と深月の怒号に、ハジメと皐月は、「自業自得だな(ね)。淑女になる事を祈る(わ)」と口漏らして、毒が抜けきるまで待つ事となった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

深月がティオを引き摺って戻って来たんだが・・・ティオの目が死んでやがる。まぁ、変態を淑女に更生する為の犠牲と割り切るしかないな。十回近くやっても治そうともしなかったティオに対して限界が来たんだろうな~。俺も飯を食べる時にはセーブしないとヤバイかもな・・・

 

深月とティオが帰って来る前まで膝を震わせていた三人だが、帰って来ると同時に快楽の波が無くなり普通の状態へと戻った

 

「・・・ん?」

 

「あらら?」

 

「あれ?」

 

あまりにもいきなりの出来事に不思議に思いつつも、体を動かして体調を調べている。三人の変化に気付いたハジメと皐月は、少し心配そうな声音で尋ねる。ユエ達は、ついさっきまでの異常を確かめ合い結果に至る

 

「・・・ん、耐え切ったみたい」

 

「はい。湧き出していた快楽が綺麗さっぱり消えました」

 

「もう何ともないよ。・・・うん、感覚も戻ってきた」

 

「そう、・・・それなら良かったわ」

 

三人が元に戻った事に安堵する皐月。だが、意識がしっかりとしている彼等の目を引いているのは、機械の様に、「妾は誇り高き竜人族。妾は誇り高き竜人族。妾は誇り高き竜人族」と呟き、ハイライトがお亡くなりになったティオだ。深月がチラリとティオを見ると、体をビクッと大きく跳ねてガクガクと震えながら、「嫌なのじゃ嫌なのじゃ嫌なのじゃ」と恐怖する始末

自業自得とはいえ地獄のOHANASHIを終えたティオを見たハジメは、頬をポリポリと掻きつつティオを慰める

 

「まぁ・・・なんだ・・・よく頑張ったなティオ。淑女らしさを見れて嬉しいぞ」

 

ハジメの言葉に、ティオはガバッと顔を上げて涙目でハジメの腹に引っ付いた

 

「妾頑張ったのじゃ!もう変な事は言わんから、ご主人様達は妾を見捨てないでおくれ!」

 

ハジメの腹に顔を埋めて泣き続けるティオを見て、皆がドン引きしつつ深月が行った教育に恐怖する

 

「お、おう・・・」

 

「うわぁ・・・ティオが滅茶苦茶怯えてる」

 

「容赦のない・・・」

 

「深月さんがトラウマを量産していますね」

 

「あのティオがこんなになるなんて・・・深月さん怖いよ」

 

まぁ、ティオについては自業自得として割り切り、ハジメは耐えきった三人に賞賛を送る

 

「流石だ。三人共、よく頑張ったな。お前等なら大丈夫だと確信していたが・・・それでも、うん、本当に流石だよ」

 

「んっ・・・くふふ」

 

「えへへ、そう正面から言われると照れますね~」

 

「うふふ、ありがと、ハジメくん。ハジメくんが支えてくれていたから頑張れたんだよ」

 

理性のある熱の籠った視線をハジメに向ける三人に、皐月が、「なるほど」と呟いた後にハジメの援護を行う

 

「それじゃあ、三人共もう少し自重する事が出来ると考えても良いのよね?」

 

皐月の言葉に、ハジメに体を押し付けようとした三人の動きがピタリと止り抗議の声を上げようとするが

 

「今は強くならないといけないわ。それこそ、夜の営みの時間を無くして特訓する程切迫している状況という事を理解しているわよね?」

 

皐月に現状を突き付けられユエとシアがショボンと気を落とす。香織は羨ましそうに頬を膨らませており、ティオに関しては、「妾頑張る。ワラワガンバル。ワラワガンバル」と繰り返し呟いていた

 

「ゴホンッ!・・・お邪魔して悪いのだけど、そういうのは全部終わってからにしてもらえるかしら?あと、光輝達の拘束も解いてあげて欲しいのだけど」

 

「あ?あ~、八重樫か・・・お前もすげぇな。よく自力で耐えたよ。流石、剣士。精神統一はお手のものか」

 

「あ、ありがとう。まぁ、剣術を習う上で、父から心を静める方法はみっちり叩き込まれているからね。少し危ないところだったけれど・・・というか、光輝達が拘束されているのは私を守るためかしら?瞑想に集中して他に対応する余裕はなかったから助かったわ。ありがとう、南雲くん」

 

「ああ、それくらいはいいさ。天之河達は・・・気絶中か。快楽の苦痛に耐え切れなくて意識を落としたんだな。八重樫・・・衣服と土壁は用意してやるから、そいつら叩き起してフォローは頼むぞ」

 

「・・・衣服?土壁? ・・・っ・・・え、ええ。わ、わかったわ」

 

八重樫は、ようやく自分の変化に気が付いた。スライムに汚された絵面は、R-18に引っ掛かる程大変な姿だ。ハジメが土壁を錬成している間に、皐月は簡易風呂を宝物庫から取り出して汚れた女子だけ洗わせる

 

「南雲、俺にも何か拭く物をくれないか?」

 

「あ・・・遠藤も無事だったのか。すっかり忘れていたぜ」

 

「・・・もう慣れたよ」

 

ハジメは、未だに気絶している天之河と坂上は放置して遠藤にタオルを放り渡す。遠藤だけは、勇者(笑)パーティーの面々とは違ってスライムを浴びた範囲は足と顔に少々程度で済んでいたのだ。遠藤は、拭き終わったタオルを深月が用意した洗濯籠に入れて、未だに目覚めない天之河と坂上を見て溜息を吐いた

 

(俺も何もしていなかったら、完全に足手纏いになってたんだろうな。・・・絶対に試練っていうのをクリアして強くなる。まぁ、神代魔法が手に入った=強くなるなんてありえない事位分かってるけどな)

 

遠藤は、何はともあれこの大迷宮をクリアして神代魔法を手に入れたいと考えている。だが、神代魔法が扱える様になったからと言って飛躍的に強くなるなんて無理だと理解している。深月の訓練を受けているからこそ分かるのだ。無能と呼ばれていたハジメ達があそこまで強くなったのは、基礎がしっかりと出来ているから―――体の動かし方に無駄が無いのだ。素人目から見れば技能に頼っているチート野郎と思われがちであるが、そう見えるだけだ。基礎のなっていない技能任せの動きだったら、隙が大きく付け込まれる事は確実なのだ

例えるなら、基礎を齧っている程度で技能頼りにしているのが天之河と坂上と谷口で、基礎と技能をしっかりと使いこなしているだけが八重樫と遠藤、基礎と技能と応用を十全に使えているのがハジメ達。深月に関しては人間という枠組みに極まった存在と認識した方がとても分かり易い

 

(神楽さんが南雲達の技能の使い方がパターン化しつつあるって言ってたよな?って事は、技能の使い方次第で引き出しが多くなるって事か。俺は引きつけ位しか出来てないからなぁ)

 

技能の使い方―――技能を持っているから100だけの力を使っているのを例えるなら、天之河達勇者(笑)パーティーの面々だ。技能をフルに使える者は強い。だが、0~100を調整出来る者と対峙してしまえば瞬く間に劣勢になってしまう。何事も使い方が一番重要で、八重樫と遠藤の二人は少しずつながらも制御しつつある

簡易風呂で汚れを落とした八重樫は、さっぱりした様子で簡易更衣室を出た。そして、意識を取り戻した天之河と坂上と谷口の三人は落ち込んでいた。発情効果の間の記憶はばっちり残っていたらしく、己が何をしようとしたのかに暗い表情をしながらギクシャクしていた。八重樫はともかく、遠藤ですら耐えることが出来たこの快楽の試練に呆気なく敗北した事にショックを受けていた。特に、谷口に関しては八重樫に手を出す寸前という痴態をさらしてしまった為に、精神ダメージが大きかった

 

「鈴・・・忘れましょう? あればっかりは仕方ないもの。最後の一線は越えなかったのだし、あんなの忘れてしまうに限るわ。誰だって、思い出したくない思い出の一つや二つあるわけだし・・・」

 

「・・・シズシズ」

 

「ほら!私なんて、そうとは気づかずにエッチなゲームコーナーを彷徨ったあげく、商品を物色してしまった事があるのよ?それはもう真剣に!周囲の男性客が、あの時、私をどんな目で見ていたのか・・・思い出しただけで欝になるわ・・・」

 

「・・・シズシズ、エッチなゲームに興味があるの?」

 

「ないわよ!あれは、そう、不幸な事故だったのよ」

 

「・・・ふ、くふふ、真剣な顔でエッチなゲームを吟味するシズシズ・・・ぷくく」

 

「鈴、笑うのは流石に酷いわ・・・」

 

黒歴史を量産する大迷宮。互いに自虐する事で少しでもダメージを減らす為に、忘れたい過去を掘り起こす八重樫は正に天晴と言っても良いだろう

 

「・・・南雲、その、面倒を掛けた。止めてくれて感謝するよ」

 

「ああ、そうだった。助かったぜ、南雲。マジでありがとよ」

 

気まずい空気がだが、強姦する事態を防いでくれたハジメに天之河と坂上が感謝する。だが、そこで「気にするな」とは言わないのがハジメクオリティー

 

「ああ、たっぷり感謝しろ。恩に着まくれ。借りを常に意識しろ。そして、いざという時は肉壁になる覚悟で俺に返せ。間違っても踏み倒すなよ?地の果てまで追って返済させるからな」

 

天之河と坂上の二人の頬が引き攣る。まるでヤの付く人の如く威圧感のある言葉は、それだけマジだと理解させる

 

「ハジメさんは生温いですね。私の場合は、死んでも生き返らせて十倍の利子を付けて返済させますよ」

 

「・・・再生魔法と魂魄魔法があれば死んだ直後なら復活が可能だな。深月の案を採用でいくか!」

 

ハジメ達は無限の肉壁を手に入れた!天之河と坂上は顔を青褪めて冷や汗を大量に流している!

そして、ハジメ達の視線は二人だけではなく、その後ろに居る八重樫、谷口、遠藤にも向けられている。魔王とメイドに目を付けられたが最後、彼等も気を付けなければならない

全員の処理が済んだ事で、一行は再び迷宮を進む。巨樹の傍へと辿り着き、奥へと続く洞の中へ入ると、転移の魔法陣が再び現れて一行を新たな場所へと跳ばした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

転移によって跳ばされた場所は同じ様に洞の中だった。しかし、今回は外へ繋がっている出入り口が存在していた

皐月は、魔眼石で周囲を見て本人であるか確認をし終えた後ハジメに視線を向けて問題ない事を伝える。全員が大丈夫と確認し終えたハジメ達は、光が差し込む出口に向かって進んだ

 

「これは・・・まるでフェアベルゲンだな」

 

「似ているわね。でも、こっちの方が正に大自然って感じがするわ」

 

洞の先はそのまま通路になっていたのだが、その通路は枝だったのだ。幅広い枝が天然の通り道となり、周囲の数多くの巨樹から出ている枝達が空中回廊の様に続いていた

 

「・・・大樹?」

 

「そういう事になりますよね。ここは大樹の真下の空間って事ですか」

 

「でもそれだと、地上に見えてた大樹って・・・」

 

「ふむ、地下の幹から枝が生えているという事は、本当の根はもっとずっと地下深くという事じゃ。ならば、地上に見えていた部分は大樹の先端部分という事になりそうじゃの?いやはや、大樹の存在は知っておったが、まさかあれがほんの一部だったとは」

 

「本当の大きさはどれくらいになるんだ?」

 

皆が改めて大樹の凄まじさに圧倒される中、深月は周囲一帯を確認していると

 

えっ?私の見間違いでしょうか?・・・・・間違いではなかったのですね・・・頭が痛い。私は見ても何とも思わないのですが、お嬢様達は絶対に駄目ですよね

 

深月がげんなりとしている様子に気付いた皐月が尋ねようとしたと同時に、シアのウサミミが何かに反応した。カサカサという微かに聞こえる生理的嫌悪する音―――シアは知らぬ間に鳥肌が立っていた肌をさすりながら、音の発生源の下を覗き込んだ

 

「ん~?暗くてよく見えないです。・・・あの、ハジメさん皐月さん」

 

「どうした?」

 

「何か感じたの?」

 

「下から嫌な感じの音が聞こえてくるんです。でも私の目じゃ暗くて正体が・・・」

 

「ああ、俺達に確認しろってことか」

 

「はい、お願いします。何か、蠢いてる?そんな感じの音です」

 

「・・・嫌な音だってことはよくわかった」

 

ハジメと皐月が確認しようとしたが、深月が手で制する。二人は深月の方を見て、何が居るのかを尋ねる

 

「何が居たか分かったか?」

 

「どんな魔物?」

 

皆の視線が深月に集まる中、当の本人は少し悩みつつも先に忠告を入れる事にした

 

「取り敢えず、叫ばないで下さいね?」

 

深月からの忠告が入った事にハジメ達は真剣な表情で覚悟を決めた。天之河達も覚悟を決めたのだろうが、それでもハジメ達に比べたら危機感は足りていない。そして、深月が告げた言葉はこの場に居る全員の背筋を凍らせた

 

「ゴキブリです」

 

『   』

 

「この下には大量のゴキブリが居ます。万単位・・・いえ、億単位で景色を黒く染め上げています」

 

『ゴッ、ゴキブリ!?』

 

ハジメと皐月は、「深月の言葉は冗談!」と思いつつ下を覗き込んで、悲鳴を上げずに顔を青褪めて深月の傍に避難した。そして、「お前らも道連れだぁ!」といわんばかりに宝物庫からクロスビットを下に飛ばして映像を見せる

 

「うえっ・・・気持ち悪いよ」

 

「な、なんてもの見せるのよ・・・」

 

「うぇ、GがGがあんなにいっぱい、いっぱいぃ~」

 

皆が皆気持ち悪くて嫌悪感丸出しの表情をする中、音に敏感なシアが特に酷く、ウサミミを垂らせて手で必死に押さえつけて体をガクガクと震わせていた

 

「・・・ハジメ、焼き払おう」

 

ユエが焼却処分をしようと物騒な事を提案し、ティオと香織も賛同する

 

「止めた方が良いわ。もし・・・もし撃ち漏らしがあればどうするつもり?こっちたくさん飛んで来る可能性が特大なのよ?」

 

「「「・・・」」」

 

最初は皐月も焼却処分を考えたのだが、深月の、「焼いても撃ち漏らしが絶対に出ますね。・・・いえ、燃えながらもこちらに飛んでくる可能性が大きいですね」という言葉を聞いて想像してしまったのだ。SAN値がゴリゴリと削られるのは目に見えているし、それならば隠密行動でやり過ごすしかないと結論を出したのだ

 

「とにかく、落ちなきゃ大丈夫だ・・・と思う。先に進んで、さっさと攻略しちまおう。ここに止まっていたら、それこそ襲われるかもしれないしな」

 

ハジメの言葉に全員が普段以上に真剣な表情となって行動に移る。なるべく大きな音を立てずに、太い枝通路を進み、登り、遠くの枝通路が四つ合流している大きな足場に辿り着きどうしようかと考えていると、遂に恐れていた事態が起きた

 

ウ゛ゥ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛ウ゛!!!

 

悪魔の羽音―――それも大量と来た

 

『っ!?』

 

ハジメ達は頬を引き攣らせながら慌てて眼下を確認する。恐れていたゴキブリ達の大移動―――ハジメ達が登っていた場所を一気に染め上げる。こうなれば迎撃するしか手は残されていない。宝物庫からオルカンを取り出そうとしたハジメと皐月だが、ここで力強い味方が名乗りを上げる

 

「ゴキブリを一掃しましょう!」

 

深月は、事もあろうか足場から飛び降りて迎撃に行った。皆が、「やった!深月が駆逐してくれる!」と歓喜に震えた。超広範囲の拡散型の魔力砲を撃ち込んだのは良かった。下から這い上がって来るゴキブリ達の一部があっという間に駆逐されたのだが―――

 

「うぅおおおおおお!!」

 

「やぁあああああ!!」

 

「ひぃいいい!!」

 

「くるなぁあああ!!」

 

「ッ――――!!」

 

深月が対処したのは下から這い上がって来るゴキブリ達だけで、巨樹の裏側から回り込んで上から襲って来るゴキブリ達は対象外だった。それも、這い上がって来るゴキブリ達よりも大量のゴキブリがハジメ達の周りから波の様に襲い掛かって来たのだ

ハジメと皐月はオルカンを、ユエは雷龍を、シアはドリュッケンの炸裂スラッグ弾を、ティオはブレスを、香織は分解の砲撃を、天之河達も持ちうる遠距離攻撃を一斉にぶっ放す

 

物量が少ない?何故?・・・これでは下から這い上がるゴキブリ達は完全に抑える事が出来てしまいま―――

 

ドゴォオオオオン!

 

深月の上部から聞こえる大きな破壊音に一瞬だけ見上げると、下とは比べ物にならない程の大量のゴキブリ達が蠢いていた

 

「下は囮という事ですか!」

 

爆発等の轟音で皐月達の声が聞き取れないが、間違いなく悲鳴を上げながら戦っていると分かった。だが、下方に見えたゴキブリ達が上がって来ず、何やら形を作っている事に気が付いた。深月の勘が最大級の警報を鳴らし、早急に対処すべくハーゼンに魔力を集中して発射。巨樹の裏側に居たゴキブリ達が壁となって下方のゴキブリ達を護ろうとするが、ゴキブリ達の抵抗虚しく足止めすら出来ずに着弾した

 

チュゴオオオオオオオオン!

 

大きな爆発の衝撃は、下方に居たゴキブリの群れを一掃した。だが、巨樹の後ろに隠れているゴキブリ達に被害は無く、皆が深月を無視して一斉に上層へと移動してしまった

 

「決着は屋上という事ですね。絶対に一掃します!」

 

上は黒一色に染まっており、離れた所ではハジメ達の様子が分からなかった。だが、深月が中心部へと近づくとゴキブリ達はモーゼの様に道を開けた。深月はそのまま道を進んで行き聖絶をドーム状に張っている場所まで辿り着く。障壁越しからではあるが、ハジメ達が無事である事に安堵しつつ、深月は皐月に状況を尋ねた

 

「お嬢様大丈夫ですか?私がこの害虫を殲滅するまでもうしばらくお待」

 

だが、皐月が深月に向けた表情は嫌悪で、深月特攻の攻撃が直撃した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ?害虫は貴女でしょ。気分が悪くなるから顔を見せないでよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲハァッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深月は吐血し、四つん這いに崩れ落ちた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「はい、皆の予想通りの展開となりました!」
深月「 」チーン
布団「メイドさんは真っ白に燃え尽きているのでこのまま進めます。何故、メイドさんだけが影響がないのかと言いますと、状態異常完全無効の技能のお陰です。皆が反転する中、一人だけが正常。しかし、大切な大切なお嬢様からの拒絶の言葉を受けてしまったメイドさんの精神ダメージは計り知れなかった!頑張れメイドさん!と言いたかったが、ざまぁねぇぜ!」



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メイドには癒しが必要です

布団「正月に向けての準備が忙しぃ( ;∀;)」
深月「買えば済みますよ?」
布団「節約って大事。そして、何事も手作りが一番なのさ。・・・まぁ、毎年恒例ってやつさ」
深月「餅つきですか?」
布団「Yes!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」






~深月side~

 

死が・・・私に死が押し寄せてくりゅううううううう!?ゲフッ!

 

皐月による、「気持ち悪い」の核爆弾級の口撃が深月の心をへし折った。四つん這いに崩れて吐血、誰から見ても隙だらけの深月なのだが、ゴキブリ達は虫の知らせか何かで近付こうとはしていない

 

「愛らしい奴等にも無視されるか。それだけ人望が無いって事だな―――ざまぁねぇぜ」

 

「・・・中二野郎と一緒なのは不服だけど、いい気味」

 

「ア"ァン?うるせぇぞチビッ子」

 

「・・・蒼龍」

 

ユエの魔法が襲うが、ハジメは悠々と回避して煽る。そこから周囲全てを巻き込む形で乱戦となった。時々深月にも攻撃が向けられるが、全てを難無く受け流す

 

「受け流すなよ」

 

ユエ達も深月に対して厳しい言葉を言い放つが、それらはどうでもいいと割り切れる。しかし、特攻兵器は健在なので―――

 

「クソメイド、動かないでよ。動いていたら殺せないわ」

 

オッフゥ・・・もう嫌です。私耐えれません―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんな世界は絶望しかありません・・・・・死にましょう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて・・・何故深月がこれ程まで憎まれているかというと、ハジメ達が深月に依存している事が原因だった。料理が美味しいからだけではなく、戦闘、生活、アフターケア等々かなり頼り過ぎている信頼関係なのだ。愛情も良いのだが、依存の方が感情反転の幅が大きい

話は戻り、感情反転といえども拒絶の言葉がグサグサと突き刺さり耐えきれなくなった深月は、夫婦剣を一刀持って首に押し当てた

 

ブシャッ

 

躊躇なく頸動脈を切り裂いて地に崩れ落ちる。その瞬間を見たハジメと皐月は、目を見開いたと同時にオルカンとブラストモードのミーティアで周囲のゴキブリを、シュラーゲンの炸裂弾で巨大ゴキブリを大量に葬る。それと同時に、反転した感情が一気に和らいだ事に気付いた。それはユエ達も同様で、香織以外は持ちうる最大火力の攻撃を叩き込んでゴキブリ達を殲滅した。一方、香織は急ぎ深月の傷の回復を行う。進化した回復魔法の刻永は、最大十秒の間ならばどれだけ酷くとも完全まで回復させる事が出来るのだ。例えるなら、失った筈の血も補充されると言う事だ

深月の回復も終え、ゴキブリ達も殲滅し終えたハジメ達の行動はただ一つ

 

『深月(さん)、ごめんなさあああああい!』

 

反転した間の記憶は鮮明に覚えており、もしかしたら自分の言葉で傷付いたのではないかと罪悪感がとてつもなかった。特に皐月が酷く、深月をギュ~ッと強く抱きしめている

 

「・・・ごめんね深月ぃ」

 

皐月の胸に顔を埋められて皆からは見えないが、( ˘ω˘)スヤァと良い笑顔で眠っている深月を見れば心配した事が損だと思ってしまうだろう。色んな意味で戦闘不能の深月をハジメが背負い、奥へと続く転移の魔法陣へと歩を進める。尚、深月の安らかな表情が一瞬だけ歪んだ事は敢えて伏せておこう

一行が魔法陣の上に立つと、今までと同じ様に光って転移。そして、目の前に広がっていたのは庭園だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

庭園の広さはおおよそ学校の体育館程で、いろんな場所からチョロチョロと水が流れ、芝生があり、あちこちから伸び生えている小さな樹木と、白亜の小さな建物だった。そして、一番奥にある円形の水路に囲まれた小島の中心に立つ樹木と、伸びた枝が絡みついている石板があった。ティオが周囲の様子を確認する為に、庭園の端に行き眼下を覗きこむ

 

「ご主人様達よ。どうやらここは大樹の天辺付近みたいじゃぞ?」

 

ティオの言葉に他の者達も庭園の端から眼下を覗くと、広大な雲海と見間違える様な濃霧の海が広がっていた

 

「空が近いから標高が高い場所だと思ってはいたけど・・・フェルニルに乗っている時には見当たらなかったわ。どうなっているのかしら?神代魔法?」

 

「フェルニルはかなり高い場所を飛んでいたからな。それでも見えなかったって事は・・・魔法かアーティファクトで隠匿されているのか?」

 

ハジメと皐月は、魔法に長けたユエに視線を向けて尋ねる

 

「闇系統にそういう魔法はある・・・魂魄魔法ならもっと・・・あるいは空間をずらしてる?」

 

ビンゴ!予想が当たっていた。しかし、ユエは違和感を感じさせない程の力の行使は無理だという事だった。これを聞いたハジメ達は、ここの解放者の認識を改めた。嫌がらせばかりをする陰湿者でも実力はあると

 

「ここが、ゴールね」

 

「あぁ、試練はどれもこれもが嫌らしい物だったがな」

 

二人の呟きに天之河達がハッとした表情になり独り言を漏す姿を尻目に、ハジメ達は石板の傍まで歩いて行く。ある程度の距離にハジメ達が入った事で、周囲の水路に若草色の魔力が巡った。この水路そのものが魔法陣となっているようだ。そして、いつもと同じ様に記憶を探られる感覚の後に、無理やり刻み込まれる感覚。ハジメ達は慣れているが、二人だけが衝撃と違和感に「うっ」と呻き声を上げている

皐月が神代魔法の名前を口に出そうとした瞬間、石板に絡みついていた枝がグネグネと動き始めた。いきなりの出来事にハジメ達は身構えたが、枝が集まっていき、人の顔を作り始めた。それから肩から上までの部分が作られ、女性の容姿が作られ色が着く。そして完全に人型が出来ると、その女性は目を開けて口を開く

 

「まずは、おめでとうと言わせてもらうわ。よく、数々の大迷宮とわたくしの、このリューティリス・ハルツィナの用意した試練を乗り越えたわね。あなた達に最大限の敬意を表し、ひどく辛い試練を仕掛けたことを深くお詫び致します」

 

オスカー達と同様にリューティリスも記憶映像を作っていたのだろうと分かってはいたが、まさか樹木が形となって伝えるとは思ってもみなかった

話は戻り、リューティリスはリリアーナの王族に似た気品と威厳があるように感じる

 

「しかし、これもまた必要な事。他の大迷宮を乗り越えて来たあなた方ならば、神々と我々の関係、過去の悲劇、そして今、起きている何か・・・全て把握しているはずね?それ故に、揺るがぬ絆と、揺らぎ得る心というものを知って欲しかったのよ。きっと、ここまでたどり着いたあなた達なら、心の強さというものも、逆に、弱さというものも理解したと思う。それが、この先の未来で、あなた達の力になる事を切に願っているわ」

 

ユエ達が神妙な顔で話を聞く中、ハジメは焦れて物色を開始。一方、皐月は左手をグッパグッパと広げて閉じてを繰り返しながら、掌をジッと見つめている

 

ミレディが言った通り、昇華魔法だったわね。知識には無いけれど、感じる―――ステータスだけじゃない。技能も進化している。より高性能のアーティファクトを作る事も夢じゃないわ

 

「あなた達が、どんな目的の為に、私の魔法―――"昇華魔法"を得ようとしたのかは分からない。どう使おうとも、あなた達の自由だわ。でも。どうか力に溺れることだけはなく、そうなりそうな時は絆の標に縋りなさい」

 

これで伝える事は終わったのだろうと判断したハジメが石板から攻略の証を勝手に取り出そうとする姿を見た皐月は、ハジメの頬を抓って引き寄せる

 

「痛ぇ!痛ぇって皐月!!」

 

「話が終わっていないのに勝手な事しないの!」

 

ハジメを庇う者は誰もおらず、ハジメは皐月におとなしく従う

 

「わたくしの与えた神代の魔法"昇華"は、全ての"力"を最低でも一段進化させる。与えた知識の通りに。けれど、この魔法の真価は、もっと別の所にあるわ」

 

ハジメの眼がクワッと見開かれるが、皐月は予想していたのでさして驚きはしない。ハジメは、つい「それを先に教えろや!」と口漏らす

 

「昇華魔法は、文字通り全ての"力"を昇華させる。それは神代魔法も例外じゃない。生成魔法、重力魔法、魂魄魔法、変成魔法、空間魔法、再生魔法・・・これらは理の根幹に作用する強大な力。その全てが一段進化し、更に組み合わさる事で神代魔法を超える魔法に至る。神の御業とも言うべき魔法―――"概念魔法"に」

 

リューティリスの言う概念魔法という単語を聞いた皐月は、ある可能性を思い至り手を握る力が強くなる

 

概念魔法・・・神の御業と言うべき魔法―――なら、地球に帰る事が出来る転移魔法も使えるかもしれないわ。でも、解放者達が求める物とは根幹が違うかもしれない。空間魔法と昇華魔法で別次元へ転移?いえ、何も知らない場所を切り開くならより細やかな情報・・・座標が必要となるわ。・・・もしかしてアーティファクト?

 

「概念魔法―――そのままの意味よ。あらゆる概念をこの世に顕現・作用させる魔法。ただし、この魔法は全ての神代魔法を手に入れたとしても容易に修得する事は出来ないわ。何故なら、概念魔法は理論ではなく極限の意志によって生み出されるものだから」

 

知識に刷り込まれなかった理由を聞いたハジメは、極限の意思というフワッとした説明に理解出来なかった

 

「わたくし達、解放者のメンバーでも七人掛りで何十年かけても、たった三つの概念魔法しか生み出す事が出来なかったわ。もっとも、わたくし達にはそれで十分ではあったのだけれど・・・。その内の一つをあなた達に」

 

リューティリスが言い終えたと同時に、石板の中央がスライドして懐中時計の様な物が出てきた。それを手に取ったハジメと一緒に皐月もそれを見て考察する

 

これ・・・真ん中に針?が中央に固定されているわね。羅針盤みたいな形・・・・・ちょっと待って、さっき言っていた概念魔法の一つがこれで、それで十分という事は

 

予想が段々と確信に変わり、皐月はハジメの腕を掴む力が徐々に強くなる

 

「さ、皐月大丈夫か?」

 

皐月の様子が変わった事に気付いたハジメは、呼び掛けるが返答が無い事に戸惑った。声では気付かない皐月の額を軽くデコピンする事で現実に引き戻す

 

「あっ・・・ごめんね。このアーティファクトが私達に必要な物だと分かって・・・つい」

 

「何?俺達に必要な物って―――まさか!?」

 

ハジメも何かに気付いた瞬間、リューティリスが説明を再開した

 

「名を"導越の羅針盤"―――込められた概念は"望んだ場所を指し示す"よ」

 

二人は確信した。これは自分達が探し求めたものの一つだと

 

「どこでも、何にでも、望めばその場所へと導いてくれるわ。それが隠されたものでもあっても、あるいは―――別の世界であっても」

 

『っ・・・』

 

思わず地球組のメンバーが息を呑み、一途の期待が生まれる。解放者達の使い方はエヒトの場所まで繋げる事だと分かった。無論、ハジメ達もエヒトを倒す為に必要な物だ

故郷へと帰る為の一手が手に入った事に、心の中で歓喜する二人を見たユエが二人の手を掴んで優しげな眼差しを送る

 

「全ての神代魔法を手に入れ、そこに確かな意志があるのなら、あなた達はどこにでも行ける。自由な意志のもと、あなた達の進む未来に幸多からん事を祈っているわ」

 

伝える事を終えたリューティリスは、石板に絡みついた状態へと元通りとなった

 

「ユエ、念の為に聞くが・・・昇華魔法を使えば・・・空間魔法で・・・・・世界を越えられるか?」

 

ハジメの言葉に皐月を除く地球組がハッと気分が上昇するが、ユエは間をおいて返答する

 

「・・・ごめんなさい」

 

「そうか・・・」

 

ある程度は予想していた。解放者達が作ったアーティファクトは三つ―――エヒトを倒すために作ったのだから、一つだけでは無理だという事を

 

「ユエ、気にしなくても良いわ。解放者達が作った概念魔法は三つ。一つではクソ神が居る場所へは辿り着けない事が分かっていたから故郷へ帰れるとは思っていないわ」

 

「皐月の言う通りだ。故郷へ帰る為のアイテムの一つが手に入っただけでもマシだ」

 

「・・・ん!」

 

出来無いなら、もう一つの神代魔法を手に入れれば万事解決。神を倒す意志もそうだが、故郷へ帰るという意志に比べたら低い。奈落に落ちてから、ハジメと皐月の意志はただ一つ―――地球へ帰る。ただそれだけだ

 

「ハジメさん、皐月さん、下に降りるショートカットの道も出現しましたよ」

 

シアの指差す先を見れば、庭園の一角に転移の魔法陣が出現していた。ハジメと皐月は、一早く気付いたシアによくやったと褒める様に頭を撫でつつ、魔法陣を詳しく調べていると天之河が声を掛けてきた

 

「な、なぁ、南雲。さっきの話・・・その概念魔法が使えるようになれば・・・」

 

「ああ、帰れるだろうな。少なくとも、転移先はこの羅針盤が教えてくれるだろう」

 

「そう・・・か・・・」

 

天之河は希望が湧いてきた表情になり、他の三人も同じ様な表情をする。しかし、八重樫は少しして冷静になって重要な事を尋ねる

 

「自分でもかなり身勝手だとは思うけれど、南雲君は・・・帰る時に私達も一緒でも・・・大丈夫なの?」

 

転移直後からハジメと皐月の事を陰ながら無能と呼び、子悪党共を助長させる言動もあった。後ろめたさが大きく、一緒に連れて帰れなんて言えないのだ。魔人族の襲撃から助けられ、王都襲撃で助けられ、迷宮で助けられ―――と返しきれない恩が積み重なっているので下手に出る他ない

 

「安心しろ。定員制限やらデメリットでもない限り、ついでに全員連れ帰ってやるよ」

 

「そ、そっか、えへへ。ありがとう、南雲君」

 

「・・・三人は駄目だったのね」

 

「「「うっ!?」」」

 

皐月は周囲を見て反応を伺う中、八重樫だけが違っていた。恐らく昇華魔法を手に入れ、その力に戸惑いを感じているのだろう

 

「八重樫・・・お前は攻略を認められたみたいだな」

 

「!・・・えっと、ええ、使えるみたい」

 

「ほ、ほんとか雫!」

 

「マジかっ!やったじゃねぇか!」

 

「流石、シズシズ!鈴の嫁!」

 

ハジメと皐月は、勇者(笑)パーティー達は誰一人攻略出来ないだろうと予想していた。しかし、一人とはいえ八重樫がクリアしている事に少しばかり感心した

戦闘力はクリア出来なかったものの、精神面ではしっかりとクリア出来ていたので神代魔法を手に入れる事が出来たのだ。試練をクリアした八重樫に喜ぶ谷口、悔しがる坂上、笑顔で称賛しつつも表情に影を落とす天之河

 

「とにかく、一度フェアベルゲンに戻って、少しゆっくりしよう。ゴキブリの大群は軽くトラウマだ。精神ダメージがヤバイ・・・皐月に癒されたい」

 

「膝枕なら良いわよ」

 

「皐月の膝枕を私も堪能したい」

 

「わ、私も堪能したいですぅ!」

 

「私だって膝枕出来るよ!何でも出来るよ!大切なことだから二度言うよ!」

 

「ふむ、ご主人様は疲れておるのじゃな。物があれば扇ぐのも良いのう」

 

皆がそのまま転移魔法陣へ移動しようとした

 

「な、なぁ・・・神楽さんを起こさなくても大丈夫なのか?」

 

ハジメ達が声の先に振り返るが、そこには誰も居らずキョロキョロと周囲を確認している

 

「な、なぁ。皆してどうしたんだよ?目の前に居るだろ?」

 

ハジメ達は真正面に視線を向けるが、何も見えない。ただ、声だけが聞こえる事態に臨戦態勢に移行する

 

「ワザとか!?俺だよ!遠藤だよ!」

 

「遠藤?・・・・・そこに居るのか?」

 

皆がようやく気付くが、本人の姿が全く見えない状況に戸惑う

 

「ちくしょう・・・ちくしょう!」

 

今までの遠藤ならばようやく気付くレベルなのだが、昇華魔法を手に入れた事で影の薄さがワンランクアップしたのだ。声は聞こえても姿が見えない・・・ステルス迷彩を使用している様なものだ。いや、景色に違和感なく溶け込んでいるので性能的にはこちらが格段に上だ

 

「ちっ、本当に姿が見えねぇな。遠藤の影の薄さをワンランク上げる昇華魔法・・・凶悪コンボだな」

 

「意識していないと存在を忘れてしまいそうで怖いわ。・・・流石、天職が暗殺者ね」

 

「皆嘘だろ!?な、なぁ?俺見えてるよな?」

 

遠藤が「冗談だろ?」と真剣になって皆に尋ねるが、誰もが姿が見えないとの回答に落ち込んだ。取り敢えず、姿も見えないので、最終兵器の深月を起こして見つけてもらおうという結果に至った

ハジメは背に乗せている深月を下ろし、皐月が深月の頬をペチペチと叩いて起こそうとするが全く起きない。焦れた皐月は、深月の精神に追い打ちする事にした

 

「嫌いになるわよ?」

 

「グブッ!」

 

「今起きたら―――――私の抱き枕にしてあげるわ」

 

深月の眼はゆっくり開き、ブツブツと独り言を口漏らす

 

「そう・・・私はお嬢様に嫌われた。なら、物としてお役立ちする他ありません。たとえ焼かれようとも笑顔で・・・吐血しようとも笑顔で・・・笑顔で笑顔で笑顔でエガオデエガオデエガオデ―――etc」

 

皐月の言葉は逆効果だった!メンタルをへし折られた深月を回復させるには至らず、徐々に腐食させる口撃だった。ハジメ達は、ヤバイと感じて一斉に皐月へと視線を向けて、「どうするんだよ!?」と状況改善を促す念を込めていた

 

「ちょちょちょちょ!?深月カムバーック!あれは試練で感情が反転した事が原因なの!大嫌いの反対は大好き!深月が居ないと私達全員が駄目になるから戻って来なさい!!」

 

皐月が深月に抱き付いて説得する事一時間。ようやく立ち直った深月だが、未だに表情は暗く気落ちしている事がありありと出ていた

 

「あ、あ~・・・うん、すまん。これだけしか言えねぇわ」

 

皆が後ろめたさを感じながら深月に謝罪するが、深月は特に気にしていない

 

「大丈夫です。・・・お嬢様以外のダメージは殆どありません」

 

「お・・・おう」

 

ハジメ達は、皐月以外の言葉は特に何も感じないという事にちょっとだけムッとする。少しくらい何かしらの反応があるのが普通ではないのかと思うが、逆を言えば皐月至上主義の深月らしいので何も言わない

 

「それで・・・何用ですか?」

 

「えっとね、遠藤君って今何処に居るか分かる?ほら、深月は今まで遠藤君を見失った事無いでしょ?」

 

「ハジメさんの斜め後ろに立っていますよ?」

 

「よかった・・・よかったっ!!」

 

深月は問題なく遠藤を捉えており、当の本人は感動に打ち震えていた。誰からも見つけられない中、一人だけはしっかりと己の存在を忘れない人・・・感謝感激雨あられである

 

「後で一杯抱き締めるから赦してね?」

 

「はい、大丈夫です(よしゃあああああ!クンカクンカ出来ますよおおおお!!)」

 

深月は、暴走する理性を抑えて表情に出さない様にすることに成功―――これで超が付くご褒美が確定した。いきなり全開状態で動いてしまえば感付かれてしまうので、徐々に回復する演技をしつつハジメ達の後ろを追いかける様にハルツィナ樹海を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

ハルツィナ樹海を攻略したハジメ達は、フェアベルゲンへと帰還してメンタルを癒している最中だ。ハジメとユエが皐月の膝枕券を獲得していたのだが、深月の気落ちでご飯のクオリティ低下を危惧したので入れ替える事にしたのだ

 

本当に良い笑顔で横になっているわね・・・。ハジメ達が傍に居る事分かっているのかしら?

 

現在、皐月の膝枕を堪能している深月は、( ˘ω˘)スヤァと良い笑顔で寝ているのはいつも通りだ。だが、この場にはハジメ達(勇者パーティー除く)が居るので、深月の寝顔が皆に見られているという事だ

 

「・・・深月の表情があれだな」

 

「ん。だらしない笑顔」

 

「幸せそうですねぇ~」

 

「あの深ヅゥアアアアアアアアア!?駄目なのじゃ!妾の腕を落とさないで!痛いのはもう嫌じゃああああああ!」

 

「・・・深月さんってこんな顔も出来たんだね」

 

一人だけ反応が違う事はスルーして、皐月は自由な手で頭を撫で、頬を突いて、かなり成長している胸を揉んだりと色々と弄っているが一向に起きない

 

ここまでしても起きないのね。・・・いえ、起きようとしないの間違いかもしれないわ

 

皐月の予想通り、深月は無意識下でどうでもいい情報を聞き流して起きないのだ。皐月の言葉も取捨選択するこの状態は色々と手がつけられない。かなり長い間膝枕をしており、夕食の時間が近付いているので強制的に起こす事にした

 

「起きないと―――命令するわよ?」

 

「バッチコ・・・・・いえ、嘘です。起きます」

 

チッ!ハーレムに加えようと思っているのに上手く行かないわね!・・・まぁ、嫌々は好きじゃないから強引にはしないけどね

 

ハジメハーレム強制加入の難を逃れた深月は、スッと立ち上がってストレッチしている。恐らく動作チェックをしているのだろうと皐月は予想する

 

動きを見るに大丈夫だと思うのだけれど・・・問題は精神面よね。原因は私なのが余計に質が悪いわ。溜め込まなければ良いのだけれど、それは追々様子を見て判断するしかないわね

 

深月を観察していた皐月はハジメ達の様子を見ると、彼等も皐月同様に追及はせずに経過観察で判断する様子だ。いつまでも悪い事ばかり考えても仕方がないので、気分を切り替えて夕食の話題へと移行する事にした

 

「深月、夕食の献立だけど・・・何を作るの?」

 

「そうですね・・・。今日は精神的に疲れたご様子ですので、うどんを作る予定です」

 

ユエ達は「うどん?」と首を傾げる中、ハジメ達はコロンビアポーズで歓喜を露にした。トータスに来てからは、エネルギー消費が激しいので麺類は避けていたのだ。だが、今回の迷宮はスタミナよりも精神をゴリゴリと削る試練ばかりだったので、あっさりしつつホッと落ち着きを取り戻させる理由がある

 

「うどんだと!?ヒャッハー!今日はうどんフィーバーだ!!」

 

「うどん、食べたい!きつねうどん?たぬき?天ぷら?それとも肉?・・・どれも食べたいっ!」

 

「二人共、食べ過ぎは駄目よ?」

 

「大丈夫だ。十玉だけに抑える!」

 

「常人の五倍ちょっとを抑えているなんて言えないわよ!多くても五玉にしなさい!!」

 

「皐月駄目だよ!うどんは日本人のソウルフードなの!抑えるなんて無理だよ!!」

 

「香織―――太るわよ?」

 

「はうっ!?・・・はい、多くても五玉にします」

 

「ハジメも今日ばかりは少なくしなさい。私と合流する前にサンドイッチを食べたってユエ達から聞いたわよ?」

 

「うぐっ!?・・・で、でもなぁ?」

 

「もう一回作ってもらえば良いだけでしょ。次はシュネー雪原にある氷雪洞窟よ?暖を取るには相性も良いでしょ」

 

「・・・仕方がねぇか」

 

皐月に正論を突き付けられ、二人は大人しく引っ込んだ。一方、ユエ達はうどんに興味津々でソワソワしている。深月は簡易キッチンを取り出して材料をポンポンと乗せて準備に取り掛かる中、ソワソワしているシアが深月に近づいて尋ねる

 

「あの~深月さん、私も何か手伝えますか?」

 

純粋な善意と、深月から教えられたチャレンジ精神からの言葉だ

 

「後程単純な力作業を任せます。調理の過程の際、私の手の動きを観察していて下さい。細やかな分量等に関してはその日その日で変わってきます。ですが、それは繊細。シアさんはおおよその分量比だけを覚えて頂ければ大丈夫です」

 

「了解です~!」

 

シアの様子を見た皐月は、つい想像してしまった。もしも自分に子供が出来、料理を作ってとせがまれたらどうなるのかを―――。小、中学校では家庭科の調理実習では問題なく作れはした。だが、それが美味しいかと言われれば微妙だったのだ

 

あれ?私ヤバくない?料理出来たとしても、自分の子供に「おいしくない」と言われたら私立ち直れなくない?シアに倣って、私も料理の勉強をしなければいけないかも・・・

 

何時かは訪れる現実にげんなりしつつ、深月達の調理風景を間近で観察する為にキッチン近くまで移動する。皐月が移動した事で、ハジメ達も移動。結果、キッチン周りに全員が集まり料理風景を見る事になった

 

ボウルに入った小麦粉に塩水を加えながら混ぜるのね。えっと・・・一気に入れないのはどうし、「小麦粉がだまになるといけないからです」あっ、はい。・・・まるで粘土ね。まん丸になったわ

 

皐月の解説通り―――ボウルに入れた小麦粉に、シアが塩水を少量加えつつ深月が混ぜ捏ねて一塊になるまで続けられた。何事もやりながら学ぶ事が重要だ。ボウルに小麦粉がへばり付かなくなったら、まな板の上に打ち粉(小麦粉)を敷き掌で押しつぶす様に捏ねる作業を途中からシアに交代。耳たぶ程の硬さになり、表面が滑らかになったら魔力糸で作った布で包んで生地を休ませる

生地を休ませている間に、うどん汁を作る。今回は進化したオアシスの水を使用するのだが、念の為"清潔"を行使して雑菌等を取り除いた後、乾燥昆布、乾燥トビウオ擬き(清潔済み)を投入してじっくりと出汁を取る間に、休ませたうどんを布から取り出して、打ち粉が敷かれたまな板の上に取り出す。その後、伸ばし棒で均一の太さになる様に少しずつ伸ばし、折り畳み準備完了

深月がうどんを切ろうとしたら、ハジメと皐月がうどん包丁を深月に進呈した。トントントンとリズム良く、迷い無く均等の幅に切る。全てを切り終えたタイミングで丁度良く出汁も出切ったので、お湯を沸かしていた別の鍋にうどんを投入。裏漉しで出汁を取り、醤油で味を調えながら沸騰しない程度で温める。うどんを投入して、十分辺りで一本取り出し食べて火が通っているか確認した後、うどんを湯切りざるに入れ―――

 

ジャッ!

 

勢いよく湯切りした後、器に入れて醤油出汁を入れて青ネギを入れて完成。シンプルイズベスト、最初の出来立ては主である皐月からで、ハジメが羨ましそうにジーッと見ているが気にせずに食べる

 

チュルチュルチュル

 

出来立てのうどんを食べ、魚介ベースの醤油出汁を飲んで一言

 

「はぁ~~~。美味しい」

 

皐月がホッと息を吐いていると

 

ズゾゾゾゾゾゾ!

 

ハジメの豪快な啜りが響き渡る。皐月がジト目でハジメを見るが、当の本人はこれが通な食べ方だと言わんばかりに堂々としている。流石にハジメみたいな音を立てて食べるのははしたないと感じたユエ達は、皐月と同じ様に出来るだけ音を立てずに食べる

 

「チュルチュル―――ゴクンッ・・・・美味しいのは分かるけど、もう少し落ち着いて食べれば?」

 

「無理だ!俺はいろんな種類のうどんを食べたいんだ!!」

 

深月が用意している色々な具材を自分好みに組み合わせる。どれもこれも美味しいので無限に広がるレパートリーに、ハジメは次はどれにしようかな~と口ずさみつつ深月にお代わりを要求している

 

「フハハハハ!次はどれを入れてやろう。肉も良いし、野菜も、海藻も良いな!」

 

ハジメは、五玉で抑えると宣言していたのだが今は六玉目のお代わりをしている。流石に無限のレパートリーがあるとはいえ、限られた種類の薬味なので味が変わらない。何かめぼしい物がないかと探していると、"餅巾着の様な物"が一つだけ置かれていた。ハジメは、お代わりのうどんが入った器の中に"それ"を入れて出汁とネギをトッピングして自分の場所へ戻る。すると、この騒ぎを聞きつけたであろうハウリア達と勇者(笑)パーティーが参戦

 

「ボスが良い物を食ってるぞぉおおお!」

 

「ボスゥ!お嬢ゥ!俺達にも恵んでくだせぇ!」

 

「シア、ズルいわよ!ボス、お嬢、私達にもそれをぉおおお!」

 

「南雲ずるいぞ!」

 

「うどん食わせてくれ!」

 

「鈴も食べたい~!」

 

「本っ当にごめん!止められなかったわ・・・」

 

ハジメはうっとおしいと感じつつ、彼等の方に向き直って一言

 

「俺達のうどんはやらん!」

 

だが、不平不満は大きくなり、皆が実力行使に及ぼうとした時

 

「遠藤さんの分です。大丼の器ですが食べれますか?」

 

「神楽さんありがとう」

 

「いえ、出汁も丁度ですので有難いです」

 

深月の方を見ると、遠藤に普通に手渡している。しかも、うどんに欠かせない出汁も最後という事実に、遠藤を倒してでも奪い取ろうとしたのだが、ここで救いの手が差し伸べられた

 

「太麺のうどんを新しく作りましたが・・・食べたいですか?」

 

『食べる!』

 

「出汁は時間が掛かりますので、調理済みの物を使用しますが・・・かまいませんか?」

 

『大丈夫だ。問題ない』

 

皆が食べる事と宣言するが、ここでぶった切るのが深月クオリティー

 

「あぁ、ど腐れ野郎達は八重樫さんを除いては駄目です。・・・強姦未遂の者達には贅沢品だと思いますので」

 

「「「ぐはっ!?」」」

 

大迷宮の試練とはいえ、遠藤よりも耐性の高いステータスを持っている三人はクリア出来なかったのだ。最低限でも、あの程度の試練をクリア出来なかった者に食べさせるのは嫌との事だ。ハウリア達に関しては、革命大成功記念として食べさせるとの事だ

 

「はぁ・・・私の分を譲るから三人でジャンケンして食べていいわよ」

 

三人はやる気満々で、蹴落としてでも手に入れると意気込んでいる

 

「龍太郎、鈴、俺がみづ―――グハァッ!?・・・神楽のうどんを食べる」

 

「悪いが、お前のお願いだろうとこればかりは聞けねぇな」

 

「二人には負けないよ!」

 

天之河の額にゴム弾が直撃したが、全員スルーしてジャンケンに臨む

 

「「「せーの、―――――ジャンケンポン!」」」

 

結果、坂上が勝利して深月のうどんを獲得した

 

「よっしゃああああああ!うどんは俺の物だ!!」

 

「くっ!」

 

「ぬあああああああ!?あそこでパーを出していたらっ!」

 

坂上のグーに敗れた二人は、もの凄く悔しがっていた。その様子を見ていた八重樫は、ため息を吐きつつ心の中で黙祷した

 

(龍太郎、貴方はこれから地獄を見るわよ。いえ、地獄なんて生温いわ・・・。神楽さんが言った事を、ちゃんと理解していなかったのがいけなかったのよ)

 

八重樫は、フェアベルゲンに住む亜人族達が用意した夕食を食べる事にした。そして、ハウリア達の争いも収まった。闘争に勝利したのは、カムとパルとラナの三人チームだった

 

「何事もバランスの良いチームが勝つ。後は技量差だ」

 

「深月殿のうどんは私達が頂く!」

 

「へっ!悔しがっても一つたりともやらねぇぞ!」

 

だが、勝者四人の絶望はこれから始まる

深月が四つの器にうどんを入れて、汁の代わりに"カレー"を投入した。カレーうどんを見た坂上はガッツポーズを、ハウリア三人は、初めて見るカレーに期待する

 

「いただきます!」

 

先行は坂上で、箸を使って豪快に啜った。いや、啜ってしまったと言った方が良いだろう

 

グゲギャアアアアアアアアア!

 

手で喉を抑えながら地面にのたうち回り、少しして体を弓なりに逸らしながら、「グイェアアアアアアアアアア!」と叫びながら気絶した。ハウリア三人組は、これはヤバイ!と感じて逃げようとした。だが、他のハウリア達が三人の四肢を拘束して逃げられない様にする

 

「さあ族長、カレーうどんですよ!あまりの美味しさに震えあがりましょう!!」

 

「ヤメロオハナセェ!」

 

「疾影のラナインフェリナ、その名の如く素早く食べるのが得策よ!」

 

「シニタクナイ!シニタクナーイ!」

 

「必滅のバルトフェルド・・・お前自身が滅される運命を呪うがいい!」

 

「貴様等・・・貴様等!バカヤロォオオオオオオオオ!」

 

食べようとしない三人の口を強制的にこじ開けた瞬間に流し込み、鼻を掴み口を閉じて顔を上に向けさせて飲み込ませる。口を閉じられている為、「ン"ン"ン~~~~~!?」としか叫べないのだが、どれ程辛いかは容易に想像出来る

ハジメは、そんな彼等を観戦しつつ笑いながら自分のうどんを啜った。その瞬間、口と喉と胃に強烈な刺激が炸裂しハジメの意識を強制的に奪った。意識を失ったハジメは、うどんの海に顔から突っ込み沈んだ

 

「・・・あれ?ハジメのうどんってふつうだった筈だけど?」

 

皐月の言う通り、ハジメのうどんの出汁はカレーではない

 

オギャアアアアアア!眼がッ!鼻ガッ!グォオオオオオオオオオオ!?

 

地面にのたうち回るハジメを他所に皐月達は、うどんの中を見ると魚介ベースの醤油出汁が濁った赤色に染め上げられていた。頬を引き攣らせながらも、ハジメの箸でそれを掴み上げると・・・ドロドロとした麻婆が滴り落ちていた。そう、原因は巾着―――深月は、冷やし固めていた麻婆を巾着の中に入れていたのだ。要するに、深月専用の食べ物という事だ

 

「もしや、ハジメさんが私の麻婆巾着を取ったのですか?せっかく麻婆うどん専用味に調えていたのに・・・残念です」

 

深月は、麻婆うどんをチュルチュルと食べ進めながら麻婆スープを飲んでいた。深月が自分専用で用意した麻婆巾着だと知った皐月達は、ハジメに残念な眼差しを向けて一言

 

「自業自得よ。他人の食べ物にまで手を出したのがいけないわ。ちゃんと全部食べなさい」

 

「深月の食べ物を奪った罰」

 

「食い意地の張り過ぎですぅ」

 

「麻婆・・・うっ、頭が・・・」

 

「ヒェッ!・・・深月さんの麻婆を食べちゃ駄目だよ?」

 

ハジメに味方は居らず、残された道はただ一つ

 

「俺は逃げるぞぉおおお!」

 

「逃がしませんよ」

 

悲しきかな―――麻婆巾着を奪われた深月がハジメを拘束する

 

「ハ、ハナセェ!」

 

「麻婆巾着を取ったのなら、全部食べて下さい!」

 

「深月が俺の分を食べればすべて解決だろぉ?」

 

「辛さが薄まった麻婆を食べるのは邪道です。麻婆の辛さを損なわず調和された麻婆のダブルパンチは食欲を刺激するのです。あ、一つでもしっかりと美味しいですよ?麻婆を混ぜる事自体が邪道と思われがちですが、二つを合わせる事で味・旨味・辛さの段階を引き上げるのであれば、それは進化というのです!進化した麻婆を食べつつ、混ぜる前の麻婆を食べて味の懐かしさを思い出すのもまた堪りません。調味料の種類や分量で様々な味を生み出す麻婆は広大な海と等しく、未だ未開の地なのです!ですから―――etc」

 

とうとう深月が暴走した。麻婆について語られる何たるかは色々と置いておいて、ユエ達はハジメの四肢をガッチリと固定して皐月がうどんの器を手に取ってハジメの目の前に立った

 

「深月の麻婆うんちくについては置いておいて、ハジメは責任を取って食べましょう?大丈夫、気絶したら・・・流し込んであげるわ」

 

うどんを乗せたレンゲがゆっくりとハジメに近づく

 

「俺に死ねと申すか!?」

 

「ハジメ・・・頑張って!」

 

「口を開けるのは任せて下さい!」

 

「ゴホンッ・・・ご主人様、頑張るのじゃ」

 

「回復魔法なら任せて!」

 

シアの身体強化が昇華魔法によってバグレベルと化し、ハジメの口を開く程度なら余裕なのだ。ハウリア達と同じ様に、ギギギッとこじ開けられた口の中に皐月が素早く投入。辛さの暴力がハジメを襲い、体が痙攣する。だが、ここで止めてしまえば辛さが残るので、心を鬼にして皐月は一気に流し込んだ

ハジメが全て食べ終えた事を確認し終えた皐月は、ユエ達に目配せをして解放させる。気絶したものの、粗相はしていないので大丈夫と判断した。尚、ハウリア三人組は股下を濡らしている。何で濡らしたのかは読者のご想像通りだろう。そして坂上に関しては、「こんなうどん食えねぇ!」と口漏らしてしまった

 

「食べると豪語しておきながら食べないと仰いましたか?」

 

坂上の背後に冷徹な眼差しを向けている深月が立っていた。坂上は深月に臆する事なく「無理だ!」と言おうとした瞬間、周りのハウリア達に拘束された

 

「な、何するんだ!?」

 

「筋肉野郎、深月殿が用意した食べ物を食わないだと?」

 

「セレブ野郎、無理矢理だろうと食わせる」

 

「気の小さい男ね」

 

「族長達も逃げようとしたが、口に出してまで拒否はしていないぞ?」

 

「なっ!?や、止め―――グボボボボボ!?」

 

ハウリア達のチームワークによって、坂上はカレーうどんを全て飲み込み再び気絶した

 

「食べ物を粗末にする奴はクソのする事だ」

 

「好き嫌いは駄目だぜ」

 

一仕事終えたハウリア達は解散し、自分達で用意したご飯を食べ始める。天之河は、坂上が気絶したのにも関わらずどうとも思っていない皆に怒ろうとしたが、八重樫が冷静な一言でピシャリと止める

 

「この結果は龍太郎の不注意が原因よ。私が遠慮した事に疑問に思わなかった?神楽さんは、"調理済み"と言ったのよ?恐らく自分の食べる何かのストック分を使うと判断したのよ。王国に居た時に何を食べていたのか見ていたでしょ。・・・・・あの麻婆は食べたくなかったのよ」

 

そう、王国でも深月が麻婆を食べている姿は目撃した。しかも、厚かましくも一口貰った女生徒がトラウマになった事も

 

「南雲が作らせたに違いない!」

 

「なら、あれを見てそう断言出来る?」

 

八重樫が指差す方を見れば、麻婆巾着入りうどんを食べさせられたハジメが気絶している光景だった。自分で首を絞める馬鹿が居るなんて事はありえないので、ハジメが深月にワザと作らせた可能性はゼロである

 

「それとね光輝、何かあったらすぐ南雲君のせいにする事は止めなさい。見ていて腹が立つわ」

 

「なっ!?」

 

「先に言っておくけれど、これは南雲君の為じゃないわ。貴方の将来を思って言っているの。疑う事を覚えなさい。これから先、疑わずに進んだら高確率で死ぬわ」

 

「俺は死なない!」

 

「物理的な死も、社会的な死もあるという事よ」

 

「・・・だけど」

 

「前も言ったけれど、幼馴染でもずっと一緒に居るという事はないわ。ガハルド皇帝も言っていたでしょ?なにもしない束縛は相手の将来を真っ暗闇にしたまま進ませると。皇帝は私達よりも年上、人生の先輩なのよ。まぁ、だからと言って好意なんてこれっぽちも無いけど」

 

「・・・俺は」

 

「だから、私に見切りを付けさせないで。同門といってもずっとフォローし続ける事なんて出来ないわ。もう少し自分で判断して、責任を持った行動をしてちょうだい」

 

八重樫は天之河から離れて、月夜が広く照らす広場の隅へ移動。丁度良い切り株を椅子にして、試練の事を思い出しつつどうする事が正しいのかを苦悶していた

 

「私がクリアして、三人は出来なかった。光輝達は手に入れれば強くなるとは言っていたけど・・・これはそんな生温いものじゃないわね。使い手の技量次第の魔法・・・ね」

 

八重樫が見つめる先は、ハジメ達。特に皐月を見ており、錬成の技術を見て驚きの声を上げているユエ達の様子から、昇華魔法をさっそく使いこなしている様子に己の未熟さが浮き彫りになってくる

 

「高坂さんは凄いわね・・・もう使いこなしてるわ。どんな使い方をしているか聞いてみるのも参考になるかもしれないわね」

 

一度心の中を整理し終えた八重樫は、皐月達に昇華魔法をどの様に使っているかを尋ねに行く

迷宮の試練は、ある者には達成感を、ある者には落胆を、ある者には心に影を、ある者には心にしこりを残した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「治癒師さんがどんどん進化している件について一言」
深月「癒す際のイメージ力が大事なのです!」
布団「まぁそれはいいとして、問題は影薄い君ですよ」
深月「昇華魔法で取り柄が更に進化しましたね。これでON,OFFの切り替えが出来れば、更に戦闘力が上がります」
布団「最早、自動ドアが絶対に反応しない位になりそう」






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氷雪洞窟と魔人族
メイドは生物兵器を開発しました


布団「お待たせいたしましたぁあああ!忙しい時期が落ち着いた。そして、イベントは放り出して執筆したのでユルシテ」
深月「もう少し頑張りましょう」
布団「最近PCの調子がおかしいの。・・・買い換えようにもお金がね?」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」






~深月side~

 

食事も終わり皆が寝静まった後、月明かりが周囲を照らす。その中に居る深月は、手に持ったステータスプレートを見て落ち込んでいた

 

はぁ・・・昇華魔法が手に入ったは良いのですが、この表記だと使えないという事で間違いないでしょうね。そして、技能が劣化しましたね

 

深月は昇華魔法を手に入れているのだが、ステータスプレートにはこう表記されている

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:???

天職:メイド

筋力:43500

体力:80000

耐性:50500

敏捷:75000

魔力:47000

魔耐:45000

技能:生活魔法[+完全清潔][+瞬間清潔][+清潔操作][+範囲清潔][+清潔進化][+清潔鑑定] 熱量操作[+蒸発][+乾燥][+瞬間放熱][+放熱持続][+冷蔵][+冷凍] 超高速思考[+予測][+並列思考] 精神統一[+明鏡止水] 身体強化[+魔力吸引補強][+全属性補強][+全属性性能向上] 魔気力制御[+放射][+圧縮][+遠隔操作][+複合][+憑依][+魔気力展開] 気配感知[+特定感知] 魔力感知[+特定感知] 熱源感知[+特定感知] 気配遮断[+透化][+断絶] 家事[+熟成短縮][+発酵][+魔力濾過][+魔力濾過吸引] 節約[+気力][+魔力] 裁縫[+速度上昇][+精密裁縫] 交渉 戦術顧問[+メイド] 纏雷[+電磁波操作] 天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光][+無音加速][+音越え][+無間] 幻歩[+幻影][+認識移動] 風爪 衝撃波[+収束][+拡散][+並列] 夜目 遠見 魔力糸[+伸縮自在][+硬度変更][+粘度変更][+着色][+物質化][+振動伝達] 胃酸強化 超直感[+瞬間反射][+未来予測] 状態異常耐性 金剛[+超硬化] 威圧 念話[+特定念話] 追跡[+敵影補足][+識別] 超高速体力回復 超高速魔力回復 魔力変換[+体力][+治癒力] 心眼[+見極め][+観察眼] 極致[+武神][+絶剣][+絶拳] 限界突破[+覇潰][+極限突破] 生成魔法 重力魔法 再生魔法 魂魄魔法 昇華魔法 忠誠補正[+成長補正][+技能獲得補正] 言語理解

称号:メイドの極致に至る者

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

昇華魔法の部分だけに線が引かれているのだ。そして、更なる特異な部分―――状態異常完全無効の技能が耐性にまで低下したのだ。深月に下がる要因を思い出すのだが、何が原因なのかは不明だ

 

死にかけで技能が劣化するかもと予測しましたが、それは絶対にありえません。もしそうであれば、王都襲撃の際、死にかけた香織さんのステータスの一部が変化する筈です。ですが、その様な事は見受けられなかった。・・・何が原因なのかさっぱりです

 

だが、どうこう言っている暇はない。気持ちを切り替え、弱点が広くなった事による弊害と動作の再確認を行う。相手が何かしらの状態異常攻撃を行った場合の回避訓練だ。耐性は無効とは別物で、許容限界以上の状態異常攻撃となれば耐性は無意味に等しい。良くて影響の軽減だろう

 

自身の耐性のステータスと技能の耐性の二乗効果で並のデバフは無効化出来ますが、重ね掛けされたデバフの前では効力を十全に発揮出来ないでしょう。お嬢様達は、昇華魔法でステータスや技能も向上しているのに対して私は変動なし。技能に関しても影響を及んでいないので、条件を満たせば解放される形での習得になるのでしょう

 

打つ、避ける、避ける、打つ、打つ、打つ―――しかし、以前みたく深くねじ込む攻撃が少ない。ヒットアンドアウェイの一瞬だけ目を眩ませる様な打撃が多くなってしまう

 

これは・・・・・もの凄くヤバいですね。銃や魔力糸を中心とするスタイルでしたが、早急に近接格闘能力を向上させなければいけませんね。ここ最近使用していない黒刀と夫婦剣の技術を増やさないと

 

深月は、静かな広場でただ一人剣を振るって新しい技術を手に入れる為に試行錯誤する。秘剣の斬撃を増やしたり、魔力糸で三刀流風に使ってみたりとするが、既に生み出している技の数増やしや二番煎じ等が殆どだ

 

ふぅ、これは酷い。既に有している技術の派生だけとは・・・。もっと柔軟に、今まで戦闘で使っていた技能を新しくした物はないのでしょうか?えぇい!前世の私の記憶の中に良さげな物は無いのですか!?

 

今では霞んで見えにくくなった記憶を必死に掘り起こすが、肝心な所がノイズが掛かった様に見えない

 

駄目ですね。再生魔法で前世の記憶を掘り起こす事は危険が伴いますので禁止。では発想を変えてみますか。ロボットアニメ系の打撃技なら・・・輻〇波動、魔力糸をグローブ状にして振動させたピンポ〇ントパンチも有効ですかね。特に、後者に関しては无二打の威力増幅としての相性も良いでしょう

 

それからはアイディアがポンポンと出て来る様になり、オタクが見れば興奮間違いなしの技が出来上がった

弱点を補う事よりも、攻撃力を更に尖らせる事で相手を確実に怯ませて命を刈り取る事を優先とした特訓となった。周囲に影響を及ぼす様な強力な攻撃はしないが、問題なく使用出来る様に威力を最低限に留めて反復練習で粗を探して消してを繰り返す

 

さて、お次は前々から気になっていた所に対する処置ですね。こればかりは絶対に対策を立てておかねば

 

一人隠れて最悪に備えて準備を着々と進め、気が付けば空がうっすらと明るくなっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

深月が着々と仕込みをしている事を知らず、リフレッシュを終えた皐月達はフェルニルを取り出して、次の大迷宮―――シュネー雪原へと向けて出発準備をしていた

 

「シュネー雪原、氷雪洞窟・・・暖房はしっかりしないと凍死しそうよね。はい、炬燵の出来上がり」

 

「今回も深月の熱量操作で~といきたかったが、昇華魔法でレベルが上がった錬成の練習にはもってこいだからな。簡易カイロ出来たぜ」

 

テキパキと暖房道具の準備を進めるハジメと皐月の様子を見守るユエ達。そして、隣では高速で保温能力に長けたインナーを深月が作っている

 

「流石ハジメと皐月。昇華魔法を使いこなしている」

 

「今まで以上の速度と精密さですねぇ~」

 

「しかし、意外じゃったのは深月じゃな」

 

「手に入れたけど、斜線を引かれていたのは予想外だったね」

 

「でも、今でも群を抜いている」

 

「インナーでしたっけ?伸び縮みして体にピッタリですね!」

 

深月が作ったインナーをいち早く着たシアは、動いて耐久性を調べる。どれだけ激しく動いても破れる気配のないインナーに、シアは虜になっていた。しかも、魔力糸によって作られているから鎧と遜色がない程の硬さを持っている。伸び縮みする硬いインナー・・・敵側からすれば、「ふざけるな!」と声を大にして叫ぶ一品となっている

 

「シアさん、そのインナーは貴女のではありませんよ?」

 

「これ以外にもあるんですか?」

 

「タイツです」

 

「・・・私こっちがいいですぅ」

 

「シアさんに合う様に調整したのですが・・・そうですか。先兵から剥ぎ取った防具も付いてくるというのに」

 

「えぇ!?だったら、それを下さい!!」

 

何とも現金な奴だった。ユエ達はシアだけ狡いと文句を言うが、試作装備という点と後衛職が装備するには邪魔でしかないという

 

「シアが更に近接お化けになったわね。分解魔法が付与された防具に身を包んだパワーウサギ。そして、何より重要なのが傷付けようが永久的に回復するとい点ね。うん、これぞチートね」

 

「あの・・・先兵から剥ぎ取った防具ですが、分解魔法は付与されていませんよ?あれは、自身の技能を防具に反映させる事が出来るだけですので」

 

「そうなの?」

 

「ですが、防御力は折り紙付きです。私の打撃でも二発まで耐えることが出来ました」

 

それは高いのか低いのかがよく分からないと感じた。だが、深月の打撃を間近で見ていたからこそ分かる。貫通能力に特化した打撃でも、二発ならば耐えれると

 

「深月の打撃を二発も耐えるのか。アザンチウムより強度は低いが、防具としては優秀の部類に入るな」

 

「シュラーゲンじゃないと貫通出来ないと考えると、ゴリ押しするシアには丁度良いわ」

 

深月と模擬戦しているので、シアも技術面は成長している。しかし、未来視が使えるとはいえ駆け引きが弱いのが現状だ。何故弱いのかと言うと、未来視を多用している弊害でもある。確実に訪れる未来を見る事が出来るのは良い事なのだが、予想外の攻撃に弱い。ハジメ達もシアにしつこい程危機管理が足りていないと言っているのだ

 

「私・・・咄嗟の対処が出来ていませんからね」

 

「シアも頑張っているけど、予想外の攻撃には特に脆い」

 

「後は、表情に出やすいという点もじゃな」

 

「あれ?シアに敗け越してる私って、そこら辺りが駄目なの?」

 

言わずもながな―――香織はハジメ達の中で一番弱い。ステータスでは勝っているのだが、模擬戦で勝利した事がない

 

「香織は顔に出ているからな」

 

「次の行動が手に取る様に分かるわ」

 

「カモ」

 

「未来視を使うまでもないですぅ」

 

「経験の差じゃの」

 

香織は、皆からボロクソの評価を受けて気落ちする

 

「うぅ・・・私だって頑張っているもん。深月さん、何か良い方法ないかな?」

 

「それならば、一時凌ぎとして罠を二重、三重と張る事をお勧めします。後は、普段の生活でポーカーフェイスを意識すれば宜しいかと」

 

「私、頑張るよ!」

 

深月にアドバイスを貰い、嬉しそうに意気込む香織を見て皐月が補足する

 

「香織、ポーカーフェイスは何処に行ったの?」

 

「・・・あっ!?」

 

「・・・バカ織」

 

「ユ~エ~?」

 

「香織さんのポーカーフェイスが苦手という事は、短所であり、長所でもあります。ただ・・・短所が大き過ぎるのが欠点ですね」

 

深月のフォローの様に見える事実の突き付けを食らい、香織は余計に気落ちする

 

「気落ちするのは良いけれど、短所を小さくして長所を伸ばすのは自分自身よ。深月から感情制御を教えられたでしょ?」

 

「う、うん」

 

「本当の意味で冷静さを失えば、誰であれ勝てる戦いに勝てないわ。猪突猛進―――小細工もない大振りするだけ相手は格好の獲物よ」

 

「香織さんの場合は、技量が最優先です。下地が無ければ防ぐ事も至難ですから・・・後程、私とマンツーマンで底上げしましょう」

 

香織は頬を引き攣らせ、ハジメ達はこればかりは仕方がないと納得してうんうんと首を縦に振り、技術を上げる為のブートキャンプが始まった。ハジメ達が暖房アーティファクトを揃えるまで永遠と扱かれ、ゆっくりではあるが技量が上昇したのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

アーティファクトの準備も終えたハジメ達は、次の大迷宮―――氷雪洞窟に向けてフェルニルを発進させようとしていた

 

「よし、ここでお前等とはお別れだな。頑張って王国に帰れよ」

 

「南雲、ありがとうな」

 

「しっかし、遠藤・・・頑張れよ。俺はそう簡単にやらせはしないぞ?」

 

「そっちこそ、油断してやられました~―――なんてなるなよ?」

 

うん?ハジメと遠藤君の間で何かあったのかしら?二人共なんだか落ち着かない様子だし・・・どういう事?

 

皐月は、ハジメと遠藤の様子がいつもとは違う事に気付き、何があったかを予想するが心当たりが全然ない

 

「俺を誰だと思っている。深月の地獄の訓練を最初に挑んで生還した男だぞ?」

 

「俺だってそうだよ。・・・・・絶対に一撃入れてやるからな」

 

「大きく出たな。一人の軟な訓練でどうにか出来るとでも思うか?」

 

遠藤君、ハジメと模擬戦したのね。それで敗けたと・・・。意地の張り合い―――男の子だからよね

 

ハジメと遠藤は、拳と拳を合わせて別れの挨拶を告げる。転移門で王国へ繋いだハジメは、遠藤に「とっとと行け」と急かす。だが、遠藤は去り際に大声で宣言した

 

「神楽さん!俺―――南雲に一撃でも入れれる様に強くなるから!入れれたら、買い物に付き合って!!」

 

「買い物ですか?別に構いませんが」

 

「それじゃあな!」

 

遠藤は顔を赤くさせつつ早足で転移門を潜って王国へと帰還し、その間深月を除いたハジメ達は呆然としていた

 

え?遠藤君マジなの?

 

女性陣の殆どは、遠藤が深月にほの字な事に気付いた。そして、ハーレム要員に入っているユエとシアは皐月に「どうするの?」と心配の眼差しを送る

 

「えっと・・・深月、分かってるわよね?」

 

「何がでしょうか?」

 

「いや、・・・遠藤君の事だけど」

 

「ハジメさんに一撃入れれる位強くなっら、ご褒美として買い物に付き合うだけですよ?何か心配事でもありますか?」

 

この言葉を聞いた皐月達は、取り敢えず安堵して、遠藤に同情の気持ちで一杯だった。だが、自分の事に鈍感な深月とはいえ、陥落したらそのまま付き合う事を思うと不安でもある

 

「・・・」

 

ハジメは転移門の先を黙ったまま睨みつつ、残りの四人を急かせる

 

「おい、天之河。お前らもとっとと帰れ」

 

「なっ!?俺達は次の大迷宮も一緒に行くぞ!?」

 

「邪魔だ。帰れ」

 

「足手纏いは要らないわ」

 

「ぐっ・・・」

 

ハジメと皐月の言葉に言い返せず、天之河は悔しそうな表情をする。だが、ハジメ達の言っている事は事実だ

 

「八重樫と遠藤は神代魔法を手に入れたから挑戦権はあると言ってもいい。だが、お前達三人はどうだ?魔物に苦戦し、試練もクリア出来ない。それに、連れて行くメリットが何一つ無いだろう?」

 

「連れて行ってもいいけれど、死ぬ可能性は極めて高いわよ?もし、死にたくなかった際は対価を事前に用意しなさいよ?生半可な物じゃ不釣り合いだという事を理解して提示しなさい。人生をベッドするのが良いかもね?あ、連れて行く事にも対価は必要よ。お金なんて要らない。食べ物も自分達で持っているし、手に入れられるから除外ね」

 

皐月の提案する人生をベッドにするという事は、体だけのお返しではなく行動全てによるものだ。上司と部下の関係となり、迷惑をかけない事は必須である。何より、ハジメみたいな絶対な取り立てとは違い、皐月の方は契約書にサインしてきっちりと自己責任を負わせる事を重視している。命を大事に思っている時なら皐月の方が優しいと思うだろうが、実はハジメよりも厳しい事が確約されているのだ。逃げたり、放棄してしまえば・・・全員に攻められる事間違いなしなのだ

 

「俺は強くならなきゃいけない!だから、覚悟はある!」

 

「光輝の言う通りだぜ!俺もやるぞ!」

 

「鈴もやるよ!恵理を何としてでも連れ戻すもん!」

 

目先の事だけしか考えていない天之河と坂上と谷口が、強くなりたい一心だけで悪魔の契約にサインをしてしまった。八重樫は、特大の溜息を吐いた

 

「ねぇ、高坂さん。二人だけで話したいのだけど・・・いいかしら?」

 

「へぇ~・・・何を考えているか手に取る様に分かるけど、深月は連れて行くわよ。ガードマンも必要でしょう?

 

皆から離れ、深月に周囲を警戒させて八重樫の交渉が始まる

 

「人生をベッドするって言っていたけど、それは地球に帰ってからなの?」

 

「勿論よ」

 

「先ずは、高坂さんは帰ってから何をするつもりなのか聞かせてもらってもいいかしら?」

 

「隠す様な事でもないから大丈夫よ。私は、特殊な教育場を作るつもりよ」

 

八重樫は少し考えて、自分が出来る範囲での条件を提示する

 

「私が警備の一人に入るのはどう?」

 

「ん~、まぁ良いわよ。じゃあ書類にサインをしてもらうわよ」

 

新しい書類を取り出して一文を書いて差し出す。だが、八重樫は受け取らずにさらに細かく提示する

 

「本当に油断ならないわね。働く期間や時間や休日もしっかりと決めさせてもらうわよ」

 

「ちっ!」

 

「本当に怖いわよ」

 

「使えなかったら強制下請けで働かせるわ」

 

「強くなって生き残る為には仕方がないと割り切るわよ」

 

八重樫は、条件の詳細を追記した書類にサインした。これで天之河達よりも好条件が確約された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

フェルニルを発進させ、手に入れた羅針盤の試運転がてら望む場所へ導かれる様に進む。冷暖房完備のフェルニルは、氷雪洞窟に辿り着くまでの雪原の雲海をものともせず突き進む。ハジメ達は艦橋でのんびりとしており、天之河達はハジメの手によって魔改造されたアーティファクトを使いこなす為に訓練している。深月は一人厨房で仕込みをしていた

 

冷暖房が完備されているので寒さを感じませんが、外は極寒なのでしょうね。ですが!私はグリューエン火山での失敗を繰り返しません!お嬢様達に渡したインナー全てに熱量操作の断層を施しているのです!ふっ、これで勝利は確定しています

さて、仕込みは全て終わりましたので軽食でも作りましょう。とはいえ、朝食は済ませているので重たいのはいけませんね。・・・ピザにしましょう

 

宝物庫から小麦粉、酵母小麦、塩、砂糖を取り出し、アンカジ印の進化した水を少しずつ注ぎながら混ぜて捏ねる。形を整えたらしばらく休ませ、その間に自作チーズを薄い棒状に切る。野菜と肉も同様に細かく切り、自作ソースを準備する

そして、休ませた生地を再び捏ねて休ませる。もうひと手間を加え、ジャガイモ擬きを薄い小さな棒状にスライスしてフライパンに敷き詰める。その上に、チーズとハムを乗せ、再びジャガイモ擬きを被せて火を入れる

そうこうしている間に生地の方も準備完了。真ん中の空気を抜く様に、裏、表、裏、表と遠心力を利用して薄く伸ばす。大きく伸ばした後、手早くソースを均一に塗り、具材を手早く乗せる。石板の上に三枚のピザを乗せ、熱量操作で高温にしたドーム状の魔力糸を被せてジャガイモ擬きの作業に戻ると、ちょど良く片面が焼けて上も解けたチーズにくっついていた。バラバラにならない様に、手早くひっくり返して焼いていない面を焼く

 

自分で作っておいてあれですが・・・ジャンクフードばかりですね。ま、まぁ迷宮を攻略するので体を沢山動かすので大丈夫でしょう!

 

少し待っていると、ピザが焼ける匂いが漂う。木製お盆の上に熱量操作で温めた皿を置き、焼けたピザを置いて蓋をする。隣のチーズ・イン・ポテトサンドも焼けたので、ピザ同様皿にのせて蓋をする。カートに乗せて艦橋へ運ぶと、タイミングが悪く、訓練を終えた天之河達も合流していた

 

本当に邪魔ですね。今回も何かしら言ってきそうなので簀巻きにしてフェルニルに吊り下げたいです

 

深月は嫌そうにするが、諦めて表情を正して艦橋へ入室。そして、艦橋の中に充満するジャンク特有の匂いに全員が入り口に視線を向け、深月がカート乗せている物を凝視する

 

「深月、貴女・・・何てものを作ったのよ」

 

「ヒャッハー!ジャンクな匂いはたまらねえぜ!」

 

「美味しいと断言出来る匂い!」

 

「あの野菜ソースが焼けた独特の匂いがっ!」

 

「これは駄目!お腹を空かせる匂いなのじゃあああ!!」

 

「えへへへ、食べちゃうよぉ~♪」

 

皐月は、「やりやがったこいつ」と諦め、ハジメ達は歓喜する

 

「お、俺達にも食べさせてくれないか?」

 

「南雲達だけズルイじゃねえか!俺達にも少し位恵んでくれよ。な?いいだろ?」

 

「鈴、お腹減った。食べたい」

 

「・・・ほんっとうにこの馬鹿達は」

 

今までの流れから、何も分かっていないのか!と言いたげに八重樫は頭を抱える

 

「お前等も食べたら俺達の食べる分が少なくなるだろ。却下だ。頭に風穴開けられたいなら別だがな」

 

「厚かましい」

 

「甘えないでくださいです」

 

「これらはやらんぞ」

 

「取ったら―――なます切りにしようかな」

 

特にハジメと香織が物騒だ。人は時々ジャンクフードを食べたい欲求がある。異世界に来てからはそれが顕著で、目の前にあるそれらをタダであげる程心の優しさは持ち合わせていない。ハジメと香織威圧に、タジタジになり何も言えなくなり引き下がった。八重樫は、そんな三人を見ながら自分で作ったサンドイッチを食べており、三人がそれに気づいた

 

「し、雫!俺にも分けてくれないか?」

 

「一口、ほんの一口だけでいいから!」

 

「シズシズのサンドイッチ欲しいなぁ~」

 

三人が八重樫に強請るも、冷ややかな眼差しで否定する

 

「嫌よ。このサンドイッチは私が自分で食べる分だけを作ったのよ。いい加減自分で用意しなさい。王国で食事を用意されたのは、あくまで私達が戦うから衣食住が保証されていただけなのよ。ここは王国ではないのよ?私達は先生の懇願と人生の対価を支払ってこの場に居る事が出来てるのよ。南雲君達が許可している部分は、迷宮に連れて行って試練を受けさせてくれる形なの。神楽さんも前々から言っているけど、これ以上強請るのは厚かましいにも程があるわよ」

 

八重樫の言葉の槍が三人の心にグサグサと刺さり、正論過ぎて何も言い返せなかった。

 

「そんな出来る八重樫さんにはピザを一枚恵んであげるけど―――いる?」

 

「あら、この程度で恵んでくれるの?ありがとう高坂さん。遠慮なく一切れいただくわ」

 

皐月にピザが一枚乗った皿を差し出されたが、八重樫は一切れだけ手に取った

 

(本当に隙あらばつけ込もうとしているわね。でも、その好意は受け取っておくわ)

 

(クフフフ、針に付けた餌だけを持って行かれちゃったわね。それでこそ、釣りがいがある!)

 

皐月は背後に死神を、八重樫は侍を顕現させて誰にもバレない様に駆け引きを行う。ハジメ達は気付いていないが、深月は目を光らせて八重樫を観察する

 

お嬢様が八重樫さんを釣ろうと躍起になっていますね。将来はボディーガードの一人として行動させるつもりでしょうか?脅迫ではなく、既成事実を作って逃げられなくする手はありです!八重樫さんはお嬢様を警戒しているので針には中々掛かりませんよ?

 

深月はお馬鹿三人組以外の分のコップを取り出して一人一人に手渡してから水を注ぐ。優先順位は皐月を最初に、パーティーに加入した順番だ。最後は八重樫で、深月が淹れようとすると警戒をして中々コップを出そうとしなかった。ハジメはそんな事はつゆ知れず、アンカジ印の進化した水を飲んだ

 

「プッハァ~~、進化したオアシス水は格別だな!」

 

「・・・ジュースが欲しかった」

 

「ですねぇ~」

 

「ジュースで下が緩くなる可能性を防ぐ為よ。我慢しなさい」

 

「迷宮の中かつ、極寒の中での事を思うと至極当然じゃの」

 

「常温なのはそれを踏まえているからなんだね」

 

「八重樫さんも如何ですか?」

 

「そう・・・ね、それを貰うわ」

 

安全も確約されたので、八重樫は水が注がれたコップを手に持って一口―――普通の水ではなく、少しだけ柑橘の風味が感じられた瞬間、頭の中に声が届く

 

(どっきり大成功~ドンドンパフパフ~♪見事に引っ掛かった八重樫さん、心の中で感想をどうぞ)

 

(こっんのクソメイド!!)

 

(それを貰うとは、どれを貰うのでしょうか?カートに乗せているのは二つですよ?もう少し周りのチェックもしましょう。それと、これは悪戯ですのであれこれは言わないのでご心配なく)

 

確かに、八重樫はそれを貰うと言った。だが、ハジメ達が飲んでいる水とは指定されていなかったので引っ掛かっただけである。とっても理不尽で、八重樫はつい口が悪くなる

 

(ほんとっ!貴女って性格悪いわね!!高坂さんに知られたらどうするつもりだったのよ!?)

 

(お嬢様は今気付きましたよ。私が悪戯で引っ掛けたと説明しておきましたので、要求される事は一つもありません)

 

皐月は、八重樫が深月によって釣られた事に気付いたが、「あぁ、これは気付かないわ」と改めて思い、次の策略に活かす手本を手に入れた。八重樫も、いい教訓になっただろう。嘘じゃないけど、本当の事でもないとはこの事だろう

八重樫はドスを利かせて深月を睨み、軽食を全て食べ終えてコップの水を一息に呑む。当の本人は飄々としており、音を立てずに残像を残す速さで片付けを行っていた

 

「さて、そろそろ到着するわね」

 

「ふぅ~、間食も済んだから激しい運動はドンと来いだぜ」

 

「ジャンクフードはカロリーが高く、太りやすいので動いて下さいね」

 

ピザとチーズ・イン・ポテトサンドのカロリー等のジャンクフードは太りやすい事実を深月はユエ達に告げる

 

「なん・・・だと!?」

 

「もしかしなくても、お腹がタプタプになっちゃうんですか?」

 

「妾達女性にとって天敵ではないか!」

 

「でも、美味しいから食べちゃう」

 

フェルニルの中からでもヤバイと感じる程の強風と豪雪を見て、ハジメと皐月はアーティファクトを各自に渡していく。ユエとシアにはネックレスや腕輪で、綺麗な装飾を施された物。ティオと香織は、可愛らしい雪だるまの耳飾りだ。尚、八重樫達にはただの石ころだった

 

「・・・シズシズ。鈴達のなんか作った感すらないよね。どう見ても唯の石ころだよ。これなら、まだ雪だるまの方がいいよ」

 

「言わないで鈴。扱いの歴然とした差に悲しくなるから・・・」

 

「そうかぁ?別に唯の石ころでも効果があるんならいいじゃねぇか」

 

「・・・龍太郎。そういうことじゃないと思うぞ」

 

そして、肝心の皐月は雪の結晶の中心に鉱石を付けられた髪飾りだ。かなり格差がある事に気付いた皐月は、それとなく注意しようとしたが

 

「あまり二人だけの時間を作れていなかっただろ?皐月が正妻なんだから当然だ」

 

「皐月は特別」

 

「器が違います」

 

ユエとシアは、ハジメと皐月の二人きりの時間があまり取れていない事に気付いており、これは当然の権利だと主張する

 

「・・・やはり、そういう事かのぉ」

 

「え?どういう事!?」

 

「こればかりは己で気付かねば駄目じゃな」

 

ティオは深月の強制淑女教育で全てを理解し、未だに正妻の位置を狙っている香織は気付かなかった

フェルニルを進め、本来は通るであろう深い谷底を大幅にショートカットして進むが、峡谷の終わりが見えたのにも関わらず氷雪洞窟の入り口が見当たらない

 

「ん?ここで終わりか?羅針盤はもっと先だと示しているんだが・・・」

 

「そうね。・・・待って、これを見て」

 

「どうした?」

 

目視ではなく水晶から見える風景の一部をズームすると、峡谷の幅が狭まり上に雪が降り積もってドーム状の通路が出来ていた。フェルニルでは行けない小さな入り口を見て、これからは歩きで移動する事にした

 

「しょうがない。ここからは地上を行くか。洞窟までは一キロもないようだし、問題ないだろう」

 

「いよいよお外に出るんですね。私、雪って初めてです。ちょっと楽しみかもです」

 

「はしゃいじゃ駄目と言いたいけど、初めて見るのなら仕方がないわよね。でも、警戒はしなさいよ?クレバスって言う底が抜けている場所もある可能性が大きいわ」

 

皐月の言葉を聞いたシアは、一瞬だけビクッと体を震わせて頬が引き攣る

 

「・・・そんな怖い罠があるんですか」

 

「可能性があるだけよ。怪我とかは大丈夫だと思うけど、落ちてから引き上げるのに時間が掛かるの」

 

「じゃあ、気を付けて行動するですぅ!」

 

ハジメはフェルニルを峡谷の上に着陸させた。下部ハッチを開いた途端、大量の吹雪が顔面を襲った。ハジメと皐月お手製の防寒用アーティファクトは、以前深月が使っていた熱断層をアイディアを元にした一定範囲内の温度を適温に保つ物だ。だが、壁は無いので大量の吹雪が入り込んでくるのが欠点だ

 

「簡易壁を作りましょう」

 

『壁?』

 

深月は、無色透明魔力糸をドーム状に展開して吹雪をシャットアウトした。問題の温度もアーティファクトで適温を保っているので大丈夫だ

 

「これっていつまで展開出来るの?」

 

「物質化していますので壊れるか、私が消さなければ残ったままなので実質無限です」

 

無限大の可能性を秘めた魔力糸に、ハジメ達はつい本音が漏れる

 

「俺も魔力糸欲しいな」

 

「私も欲しいわ」

 

しかし、強くなり過ぎたハジメと皐月が対象の魔物を食べた所で技能を得られないのは確実だ。げんなりしつつも、気持ちを切り替えて峡谷を降りる為に端っこまで来た。天之河達もハジメ達の後を付いて来るが、これから先の移動方法は決まっている

 

「いっち番槍、いっきますですぅ~!」

 

シアが何の躊躇いもなく谷底へとダイブした。どんどんとシアの身体は小さくなり、見えなくなった

 

「そして、そのまま奈落の底まで落ちていった・・・」

 

天之河達は呆然として口が開いたままとなっていたが、一早く現実に戻った八重樫と谷口がシアを心配してパニックになりながらハジメに詰め寄る

 

「いやいやいや、なに落ち着いているの!?シアさんが死んじゃうわ!」

 

「ひぃいい、シアシアぁ~~~~!!」

 

「落ち着くのはお前らだ。高いところから落ちたくらいでシアがどうこうなるわけないだろう?それより、俺達も下に降りるぞ」

 

「アイ、キャン、フラーイ!」

 

皐月が飛び降り、ハジメとユエも続く様に飛び降りる

 

「私もいっくよ~!」

 

香織もまた躊躇なく飛び降り、残された天之河達はゴクリと喉を鳴らす。底の見えない峡谷を飛び降りる事自体が初めてで、もしも墜落したら死ぬ光景が頭に過る。だが、天之河達には空力を付与したアーティファクトを渡しているので、万が一の可能性は限りなく低い。谷口は涙目で崖端から遠ざかる様に離れる

 

「これくらいで躊躇していてどうするのじゃ。お主等がやろうとしている事は崖から飛び降りる事より遥かに困難な事ではないのかのぅ?震えている暇はなかろう?瞳に力を入れて気張らんか」

 

見かねたティオが精神的に、物理的に谷口の背中を押す。グイグイと容赦の欠片なく崖端へ押される恐怖に、谷口は必死に抵抗する

 

「ま、待ってぇ!行く、行きますから!鈴は、やれば出来る子だからぁ!せめて、自分のタイミングでぇ!」

 

「そんな事言っておったら日が暮れるじゃろ。ほ~れ、逝ってこぉ~い!」

 

「やっ、ま、待ってっ、持ち上げないでよぉ!自分で、自分で行くからぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」

 

谷口はティオに谷底へ放り投げられ、特大の悲鳴が木霊しつつ小さくなっていった

 

「さて、次は―――」

 

「ど腐れ野郎と脳筋の男性ペアで行きましょう」

 

「「っ!?」」

 

深月がティオと同じ様に躊躇なく背中を強く押して突き落とした

 

「うわぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・」

 

「ちょまっ!?ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁ・・・・・」

 

残りは八重樫だけで、深月とティオが揃って見つめる

 

「や、八重樫雫!い、行きますっ!」

 

全てを察して、押されて落ちるのは御免被る八重樫は自ら飛び降りた

 

「では、ティオさんは八重樫さんが魔物に襲わない様に気を付けて下さいね?」

 

「・・・魔物居るの?」

 

「居ますよ?」

 

「行って来るのじゃ!」

 

八重樫の後を追う様にティオも飛び降り、深月は皆が飛び降りた場所から少し横にズレて飛び降りる

 

「スーパー、イ〇ズマキィイイイイイック!」

 

足に一点集中させた纏雷を込め、重力魔法と魔力放出で驚異的な加速で一気に峡谷を下った

 

ズギャアアアアアアアアアン!

 

その最中に、落下中の天之河達を食べようとしていた魔物達全てを轢き殺して盛大な音を立てて着地した。衝撃はすさまじく、先に降り立っていたシアの身体を飲み込む様に雪が覆い被さった。そして、深月に遅れる様にハジメ達も難無く降り立ち、上から見ていた被害に対してシアに同情した

 

「ぶっはぁあああ!深月さん、私を殺すつもりですか!?」

 

身体強化で圧し掛かった雪を全て吹き飛ばしてシアが這い出てきた

 

「お馬鹿トリオの一人が魔物に食べられそうになっていたので蹴り殺したのです。つい減速出来ませんでした」

 

「嘘ですよね!?」

 

「ホントウデスヨ?」

 

シアはバレバレの嘘を吐く深月に襲い掛かる。昇華魔法でバグウサギと化したシアは、力ではハジメ達をも上回る。だが、相手が悪すぎた

 

「ウッシャオラアアアアアですぅううう!」

 

悠々と回避した深月は、シアの口目掛けて生物兵器を放り込んだ

 

「っ!生臭っ!?うっぷ!?――――オロロロロロロロロ」

 

シアは口の中に入ったそれに耐えきれず吐き、深月の魔力糸で虹色モザイクが被せられる。そして、その被害はシアだけには留まらず、風下に居たユエにも直撃した

 

「うぐっ!?おえっ―――オロロロロロロロロ」

 

一度は我慢したのだろうが、とんでもない威力の前に耐えられなかった。その被害はさらに広がり、着地したばかりの香織も巻き込んだ

 

「うぶっ!?――――オロロロロロロロロ」

 

運良く風上に居たハジメと皐月は被害無く、敵の攻撃かと疑った。だが、シアが吐き出した物を見てその場からソソクサと離れた。深月がシアの口に放り込んだのは、塩漬けされた鮫肉だった。ただでさえアンモニア臭が酷くなる鮫肉に発酵させた塩漬けなのだ。世界一臭いシュールストレミングも生物兵器だが、深月が作ったこれはそれを遥かに凌駕しているのだ。そんな代物を放り込まれたシアは泣いてもいいだろう

 

「深月・・・お前、これはテロだろ!?人間のする事じゃねえっ!」

 

「迷宮に挑む前にこの所業は悪魔の仕業よ!?」

 

深月はジト目でハジメを見ており、核爆弾級の事実を告げた

 

「お嬢様が夜の行為を自重する様に宣言したのに対して、二人は自重せず、一人は出歯亀していましたので―――ね?」

 

その言葉を聞いた瞬間、ハジメの背中を押して風下へ送り出した

 

「ちょっ!?俺は襲われただ―――うっ!?――――オロロロロロロロロ」

 

色々と強くなったハジメでもこの匂いだけは耐えきれず、膝を付いて虹色加工された。遅れる形でティオと天之河達も風下に降り立ち、生物兵器の餌食となった

 

『オロロロロロロロ』

 

とてつもない被害を出しつつ、ハジメ達を冷ややかな眼差しを送る皐月と、一仕事終えた様に深月は笑顔なのに目が笑っていなかった。自力で風下から脱出したハジメ達を見送った後、深月は清潔で全てを片付けた。・・・迷宮攻略はもう少し待つ時間が掛かる模様だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「メイドさんが弱体化したよ!理由はもう少ししたら分かるんだよ~」
深月「耐性にまで下がったのは残念ですが、それを補うのが人間なのですよ」
布団「そうなのか~」(フラグを建ててくれてありがとう)
深月「攻撃特化にすれば、多少はマシになります!」
布団「しかし・・・生物兵器を作ったらいけないでしょう。主人公達に甚大な被害ガガガガ」
深月「自業自得です」


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メイドが超危険な攻撃を放ちます

布団「おまたせぇ~。仕事が一段落ぅ」
深月「無用な掛け合いは無しでいきましょう」
布団「(´・ω・`)」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」










~皐月side~

 

深月の生物兵器の効果範囲から逃れた一行の内、谷口は嘔吐しながら涙目で犯人を恨めしそうに睨む。しかし、悪臭と落下の恐怖で体をプルプルと震わせているので逆にほっこりする

 

「す、鈴ちゃん。そんなにぷるぷるして・・・可愛い」

 

「一応慰めたら?」

 

「とはいえ、自分のタイミングだったら確実に飛び降りなかっただろ。ティオの行為は正解だな」

 

ほのぼのとしていると、谷底の壁の一角から「うりゃあああ!」という声と共に、ドゴンッ!ドゴンッ!と衝撃音が響き始めた。谷底の壁が破壊され、ドリュッケンを肩に担いだシアが戻って来た

 

「いやぁ~、深月さんの無慈悲な攻撃で溜まった鬱憤を晴らせて爽快ですぅ!」

 

「アホか。まだ大迷宮じゃないが、ここが危険地帯であることに変わりはないんだぞ。気を抜くな」

 

「あぅ~、すみません。・・・ちょっと調子に乗りましたぁ」

 

「まぁ・・・シアの気持ちも良く分かるわ。後で私からあれを食べさせるから、これ以上どうこうするのは止めなさい」

 

「!?」

 

シアは、「それなら大丈夫ですね!」と嬉々とした表情を浮かべ、深月はギョッとした表情で目を剥いていた。深月の後々の処刑を提案して、皐月は手に持った羅針盤を確認して道筋を確認する。目の前には枝分かれの道があるが、羅針盤が指し示す一本の道を選び進む

 

「それじゃあ、バカをやってないで行くわよ」

 

「いつまでも吐くなよ?一々立ち止まるなんてしねぇぞ」

 

つい先程まで吐いていた天之河達は、覚悟を決めた表情で嘔吐感を我慢してハジメ達の後ろをついて行く。氷の峡谷は、水すら流れていない。いや、凍っていると言った方が合っているだろう。谷の上は吹雪が酷いが、ハジメ達が居る谷底は冷気が吹き抜けるのでもっと寒い。もしも、身に着けているアーティファクトが無ければ、どれ程厚着をしていても凍死するレベルだ

 

「深月の簡易壁が便利すぎるぅ~」

 

「邪魔をする氷柱を溶かしながら進む事も出来るって便利の一言よね」

 

ドーム状の魔力糸を展開し、進行先を邪魔する氷柱達は熱量操作で高温にした壁でドロリと溶ける。風で舞い上がっている雪も、触れた瞬間に溶けている

 

「・・・結界師の鈴の出番がないよ」

 

ハジメによって魔改造されたアーティファクトを装備している谷口がげんなりしている。深月の魔力糸の壁は物質化しているので魔力消費が殆どなく、唯一持続させているのは熱量操作の魔力だけだ。だが、これも技能の節約で消費軽減されているのである。谷口の結界は、広範囲で持続させなければいけないので適材適所である。・・・深月がかなり幅広い適応能力があるだけだ

 

「お前達が深月相手に張り合おうとする事自体が間違っているぞ」

 

「月とスッポン位の差があるから無駄よ」

 

「月ぃっ!?―――スッポーン・・・」

 

ハジメと皐月の言葉の矢が心に突き刺さり、谷口は物凄く落ち込む。八重樫は、「何もそこまで現実を突き付けなくても・・・」と口漏らした

 

「シズシズぅ、慰めて~」

 

「余計な物がこっちに来るから止めなさい」

 

「辛辣ぅ!?」

 

しばらく歩くと、行き止まりだが奥へと続く穴が開いていた。羅針盤はその先を指しており、通り道だと分かった

 

「到着ですね」

 

「えっと・・・来てますよね?」

 

「あぁ、来てるわね」

 

「お前等、準備しろよ」

 

深月は、魔力糸を解いて周囲の環境を確認しつつ夫婦剣を持つ。いきなり深月が武器を持った事で、天之河達は魔物が近付いていると理解して臨戦態勢に入る。尚、ハジメ達は自然体で警戒をしていると

 

「「「「「ギギギギギィ!!」」」」」

 

奇怪な雄叫びを上げながら五体の魔物が現れた。全身を白い体毛で覆われたゴリラの様な魔物―――しかも、身長は三メートル越えで二足歩行だ

 

「ビッグフットか?」

 

「ハジメもそう思う?」

 

初めて見るビッグフットに、ハジメと皐月は少しだけワクワクしている

 

「地球のビッグフットよりも筋肉がありますね」

 

「「「見た事あるの!?」」」

 

「私を発見した瞬間逃げてしまいました」

 

「「野生の本能が恐怖したのか(ね)!」」

 

深月が地球でビッグフットを見た事がある話は置いておいて、天之河達が五体のビッグフットと戦っている。しかし、相手の魔物は頭が良いのか直線的な攻撃ばかり繰り返す天之河と坂上の攻撃を派手に避けておちょくっている

 

「こっ、この野郎っ!!」

 

「くそっ、何で当たらない!」

 

あ~あ、直線的な攻撃ばっかりだから避けられるのよ。本当に戦い方を学んでいるのかしら?もしかして舐めプしているの?

 

皐月が酷く思うのも無理はない。それ程までに素直な攻撃をする二人なのだ

 

「鈴にまっかせて!地を這え、"聖絶・重"!」

 

以前、王都襲撃の際に見せた香織の聖絶の応用を真似して、谷口は相手を閉じ込める結界を展開。もう一体のビッグフットが、隙だらけの谷口に飛び掛かった。だが、それも想定済みだった

 

「呑み込め、"聖絶・爆"!!」

 

自身と飛び掛かって来るビックフットの間に、障壁を一枚挟んだ。ビッグフットがその障壁に触れた瞬間、障壁が爆発した

 

ドゴォオオン!

 

指向性を持たせていた事で谷口に衝撃は来ず、ビッグフットだけが吹き飛ばされただけだった。体中血だらけになりながらも着地して、充血した目で谷口を睨むも直ぐには飛び掛からなかった。素直な突進ではあの障壁を攻略出来ないと判断したのだろう

 

「ふっふ~ん、鈴だけに警戒してていいのかなぁ~?」

 

谷口がニヤリと笑ったと同時に、ビッグフットの後ろから爆発の煙をかき分けて八重樫が襲撃。妖怪首置いてけと同じ様に、首を斬り飛ばして再び煙の中に身を隠す。一体の仲間がやられた事で、八重樫を警戒してしまった瞬間

 

「縛れ、"聖絶・縛"」

 

谷口が鎖状の結界でビッグフットの両手両足を縛った。それと同時に、八重樫が煙から飛び出して黒刀のトリガーを引く

 

「――"起きなさい、黒刀"!切り裂け、"飛爪"!!」

 

横一閃、飛ぶ風爪が身動きの取れない二体のビッグフットの首を斬り離し、ビッグフットは死体となって崩れ落ちた。これで残るは二体―――天之河と坂上が相手をしているビッグフットだけとなった

 

「こっちは終わったわよ」

 

「援護するよ~」

 

それからは一方的だった。谷口に拘束され、他がトドメを刺すだけ

 

「翔けろ、"天翔剣・震"!!」

 

「打ち砕け、"重拳"!!」

 

明らかにオーバーキルな攻撃を繰り出そうとするお馬鹿二人に、八重樫が素早く黒刀の鞘で脳天を叩いて中断させる

 

「こっんのお馬鹿共!ここは屋外じゃない事を理解しているの!?最初のオルクスの遠征の時に、メルド団長から崩落の恐れを考えなさいと教えられたでしょうが!!」

 

「「うっ!?」」

 

怒髪天の八重樫の圧に、二人は委縮してコンコンと叱られる

 

あの馬鹿達は本当に学んでいないわね。警備ではなく、反勢力に突撃させる当て馬にする方が良いわね

 

皐月が将来無償下働きが確定している三人のスケジュールを立てていると、彼等を見ていたユエ達がダメ出しをしていた

 

「・・・バカばっかり」

 

「ですね~」

 

「男は脳筋ばかりじゃな」

 

「雫ちゃんや鈴ちゃんはしっかりしてるのに駄目だね」

 

あぁ、深月がシアをジト目で見てるわ・・・。ちゃんと叱らないといけないわよね

 

つい先程、八つ当たりでハンマーでドッカンドッカンしていたシアは二人に対して何か言うのは出来ないのだ

 

「シア、さっきの八つ当たりを忘れているのかしら?此処みたいな閉鎖空間じゃないけど、峡谷の一部が崩壊すれば雪崩も起こるし岩雪崩の可能性もあったのよ?ちゃんと最悪の場合何が起きるか想定して動きなさい」

 

「うっ!?・・・すみません」

 

「シア、これは庇えない」

 

「あれを口に入れられたのは同情するがのぅ」

 

「と、取り敢えず次から注意しよう。気持ちを切り替えよう!」

 

シアは「うぅ~!」と唸りながら、ハッと思いついて深月を見て巻き込もうと追撃する

 

「そ、それなら深月さんも同じじゃないですか!ここまで来るのに魔力糸で氷柱とか溶かしていましたよね!!」

 

皐月は溜息を吐きながらシアに後ろに振り返ってどうなっているかを確認させると、所々狭まったり歪な通り道となっていた

 

「あっれ~?」

 

どうして?とシアは理由が分からなさそうにしていると、深月からお返しが返ってきた

 

「何も考えずに進んでいたとでも思いましたか?出来得る限り環境を変えず、対処しても問題ない障害物は溶かし、怪しい場所は少しだけ余裕をもって切断していたのです。溶かしてしまえば脆くなってしまいます」

 

「真っ直ぐ進んでいると感じたと思うけれど、時々は後ろの確認もしなさい」

 

「気を付けますぅ!」

 

天之河はそのまま心臓に聖剣を刺し、坂上は内部から破壊する破拳で止めを刺した。だが、最後の一体が絶命の雄叫びを上げてしまった。ハジメ達は、只うるさいとしか感じなかった。しかし、深月は頭に手を当てて残念な奴を見るジト目で天之河達を見ていた

 

「・・・深月、何か問題?」

 

皐月の言葉に全員が深月の方を見る。しかし、寸前でシアはウサミミを忙しなく動かす

 

「いえ・・・あの絶命の雄叫びが仲間を呼ぶ合図だったのです」

 

「「「「え"っ!?」」」」

 

その直後、遠くから響く雄叫びと足音に天之河達は頬を引き攣らせた

 

「数は・・・数百程度ですね。新技のお試しにも丁度良いのでお掃除してきましょう」

 

「新技?夜にゴソゴソとしていたのはそれ?」

 

「少しばかり創作物から引用しました」

 

「何ィ!だったら俺は見るぞ!!」

 

深月の創作物を参考にした新技に興味津々なハジメは物凄く食いついた。ハジメが見るなら私もとユエ達も着いて行こうとし、更には天之河達も一緒にとなった

深月が軽くストレッチをしている内に響く音が大きくなり、天之河達が先程以上に顔を青褪めている

 

「ユエ、障壁は大丈夫か?」

 

「ばっちり!」

 

「深月の蹂躙劇場の始まり始まり~」

 

「つい先程、深月さんからおつまみを渡されましたよ~」

 

「なっ!?ポップコーンだとっ!」

 

「しかも、普通の塩味と蜂蜜を焦がしたキャラメル味ね」

 

「用意周到じゃのう」

 

「美味しい~♪」

 

天之河達は、美味しいそうにポップコーンを食べているハジメ達を羨ましそうに見ているが、この事態を引き起こしたのは油断していた自分達なので欲しいとは言わずに見るだけに留める

すると、深月が宝物庫から某ソルジャーバイクを取り出して格納されていた六本のバスターソードを取り出して合体させる。身の丈に合わない大剣を持って試し振りしても深月の重心はズレる事はない

 

「さて、お掃除の時間です」

 

深月の言葉と同時に、大量のビッグフットが深月へ突撃する。深月が振るうバスターソードの力は強く、刀身の腹に当たって吹き飛ばされたり、両断されたりと様々だ。しかし、仲間の一体を犠牲にしてバスターソードに複数のビッグフットが飛びついて斬れない様にするが、深月はそのまま振り回したりせずに手を離して距離を取る

 

ん?やけにあっさりとバスターソードを手放したわね。って事は、ここからが本番?

 

皐月の読みは正しく、無手の深月にビッグフットの凶爪が振り下ろされる。しかし、深月がその凶爪の真正面から殴りかかる。これには八重樫達も目を剥くが、魔力感知があるハジメと皐月は相手に同情した

 

(こりゃあ酷ぇ)

 

(ミンチね)

 

二人の予想通りで、その凶爪が深月の拳に届く前に粉砕されビッグフットの顔面に拳が着弾。頭部がパァンッ!と音を鳴らして破裂して血を巻き散らす。後続で襲い掛かろうとしたビッグフット達は、バスターソードを手放した事で弱くなったと思っていたのだろう。・・・深月の拳で粉砕された仲間を見て突撃を躊躇った

 

「警戒ですか。・・・それは駄目ですよ」

 

深月がパンッと音を立てて手を合わすと、小さな稲妻が全身から迸った。ハジメ達が徐々に大きくなるそれを見ていると、合わせた手を開いた隙間から稲妻が迸る

 

「プラ〇マサンダー!」

 

「ゲ〇ターだと!?」

 

槍を投擲する形と同じ様に放つと、射線上に居たビッグフットの腹を焦がし貫いた。だが、この技は一直線に進むだけではない。軌道を変え、初弾に直撃したビッグフットの周囲をも貫いた。逃げ惑うビッグフットは、特攻を仕掛けた

 

「神風ですか?無意味です。―――プロテクトシ〇ード!」

 

「おおっ!勇者王の盾(゚∀゚)キタコレ!!」

 

左手を突き出し、纏雷と重力魔法と空間魔法の反発防御空間を生成して敵の進行を防ぐ。一方、ロボットアニメを網羅しているハジメは興奮しており、自分でも使える可能性を発見して嬉しそうにしている。だが、攻撃しているビッグフットからすれば冗談ではない。攻撃が通らず、どうする事も出来ないのだ。深月は、魔力糸でバスターソードを手元に戻して力を一拍溜める

 

「少しばかり派手に行きましょう。これは神へと至りし大英雄の一撃です―――――射殺す百頭(ナインライブス)!!」

 

この技は本来であれば弓なのだが、周囲の被害を考慮しての近接だ。深月の場合、その場で振るうのではなく踏み込んで振るった。結果、バスターソードの暴風がビッグフット達を全て飲み込んで粉々にした。流石のハジメも神速の連撃を見て、「あっ、これ訓練で使ったらいけないやつだわ」と口漏らした

 

うわぁ~、あの連撃?はヤバイわね・・・私達でも対処出来ない・・・。メイドがME☆I☆DO☆になってるわ

 

ビッグフットが全滅し、ハジメ達が深月に「お疲れさま」と言おうとしたが、当の本人は何処か満足出来ていない様子だった

 

「深月、さっきの技に不満な所でもあった?」

 

「あっ、いえ・・・もう少し試したい技があったのですが、敵は全部お亡くなりになりましたので」

 

「そっちかよ。相手に同情するぜ・・・凶悪で回避不可能な新技の犠牲になるんだからな」

 

「・・・最後が全く見えなかった」

 

「絶対に訓練で使わないで下さいよ。絶対にですよ!振りじゃないですよ!!」

 

「最後の技もそうじゃが、あの追尾する稲妻も危険じゃのう」

 

「ん~、私的には盾がいいかなぁ~?」

 

ハジメ達は、自分達でも再現出来る可能性がある技を深月が開発しているので色んな期待が高まる。一方、天之河達は呆然としていた

 

「み―――神楽は何であんなに強いんだ」

 

「す、すげぇ」

 

「ミヅキンヤバイ、超ヤバイ」

 

新技をポンポンと出している事に凄い凄いとしか言えない三人を見て、八重樫は溜息交じりで当たり前の事を教える

 

「あのねぇ、あんた達は凄い凄いって言ってるけどそれは神楽さんが努力をしているからよ。才能もそうだろうけれど、その下地が出来ているからやれているのよ」

 

「だったら俺達もでき「無理に決まってるでしょ!」な、何故だ雫!俺達はちゃんと努力をしているんだぞ!?」

 

「俺達もあいつ等と同じ様に技能を磨いてんだぞ?」

 

「す、鈴も頑張っているよ!」

 

「本当に馬鹿」と本音を漏らしてありのまま・・・八重樫は自身が知っている事だけを話す

 

「私達の努力ってちっぽけなものよね。・・・当たり前の様に寝て、食べて、訓練を繰り返す。王国の襲撃から少しだけ改善されたとはいえ、それでもまだまだよ。簡単な事だけど、三人の睡眠時間はどの程度か聞いてもいいかしら?」

 

八重樫の質問に、三人は七時間と答える。ハジメ達も同様にそれに近い睡眠を取っているのだが、如何せん深月は常識の範囲外だ

 

「これはメルド団長から聞いたのだけれど、神楽さんは私達が寝静まった後も訓練しているわ。訓練、瞑想、訓練―――恐らくだけど、瞑想と見せかけた睡眠じゃないかと思っているわ。その時間は日によって違うけれど、一時間か二時間程度よ」

 

「「「いっ、一時間!?」」」

 

驚異の睡眠時間に三人が「ありえない!」と現実を受け入れない目をしていたが、ハジメ達が居る方から聞こえた声で現実味を帯びた

 

「なぁなぁ深月、お前って何時新技を編み出してんだ?本番の前には試運転はしているだろ?」

 

「皆さんが寝てからですよ」

 

「・・・ちょっと待ちなさい。深月、睡眠時間を削っているでしょ?」

 

「お嬢様、大丈夫ですよ―――一時間も寝ていますから!」

 

この場に居る皆が固まった。「あっ、これはガチで言ってる」と確信した瞬間だった

 

「ちゃんと寝ろ!」

 

「過労駄目!」

 

「最低でも五時間は寝ましょう!」

 

「人間とは思えんぞ!?」

 

「一日だけだよね!?・・・えっ、今ではほぼ毎日?駄目だよ!!」

 

ハジメ達も深月を心配して、強制的に睡眠時間を長くする様に皐月に眼で合図を送った

 

「はぁ・・・、私達が狙われて危険な事だと分かるわ。だからと言っても、戦闘に支障をきたす可能性を作らないの!いい?今日からはちゃんと寝るのよ」

 

「で、ですが・・・食事の御用意等が遅れ「寝なさい」お、おく「ね・な・さ・い」・・・はい」

 

皐月の圧に屈した深月は、気を落とした

 

「深月が心配するのも分かるわ。だから、私達も睡眠時間を少し削って一緒に寝れば良いのよ。そうね・・・五時間が良いわね」

 

「ん?って事は」

 

「・・・皐月、ハジメと一緒の時間が減る」

 

「そんな事は先刻承知よ。話は変わって、帝国で先兵が襲撃した時に相対して分かった事だけど、彼女等は体の動きに慣れていない様子だったわ」

 

皐月の言葉に、ハジメ達と八重樫は一気に注意深く気を張り詰める。天之河達は全然理解していない様子だ

 

「ちょっと待て。って事は何か?エヒトの野郎が先兵の身体を弄って強化しているのか?」

 

「あ・・・あぁ、なるほど。それで動きがちぐはぐだったのですね。ようやく合点がいきました」

 

皐月の言葉を聞いた深月は、帝国で先兵との戦闘を振り返ってようやく納得した。深月が六人もの先兵と相対したのはいいのだが、その時は分解魔法の装填を行っておらず、素手で殲滅出来ていたからだ。やけに弱いと感じつつ、王国で戦った先兵の方がエリートだったのではないかと結論付けていた

 

「いや・・・んん?・・・そう・・・なのか?だが、確かに王国で戦った先兵の方が強かった様な気が・・・する?」

 

ハジメは王国で先兵の一人と戦ったのだが、深月特製アーティファクトが有ったらそこまで苦戦はしなかったのではないか?と思っている

 

「ハジメ、深月お手製のアーティファクトの有無は要らないわよ」

 

「・・・何故分かったんだ」

 

「顔に出ているわよ」

 

「・・・そうか」

 

皐月の前ではハジメの考えている事などお見通しである。皐月は、表情に出ているから分かったと言っていた。しかし、長い間一緒に行動していたユエでさえ気付かなかった些細な変化に気付く―――正妻故の理解力だ

 

「何にしても、先兵が強くなっている事実よりも私達が気を付けるのは、目先の事。大迷宮の攻略に集中するわよ」

 

「・・・だな。問題は山積みだが、大迷宮が危険である事に変わりはない」

 

先程までの気の抜けた雰囲気を止めて、迷宮攻略の注意深い目で探索を再開した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

ハジメ達が進んだ先は、透明な氷が壁となりミラーハウスの中に居ると同じ様相だ。そして、横一列で十人程並べる程の広さを持った通路なので、酷い場合は方向感覚を狂わされ迷子になるだろう

 

「あぁ~、深月チートで楽だわ~」

 

「いざという時の魔力が温存出来るから安心」

 

「そうですねぇ~、深月さんの魔力糸が無くてこの壁の向こうの吹雪に直撃すると思うと最悪ですぅ」

 

「雪一つで凍傷は厳し過ぎるのじゃ」

 

「深月さんが咄嗟に防いでくれた事に感謝だね!」

 

深月の魔力糸の壁向こうの環境は過酷の一言だった。深月が咄嗟に壁を作ったとはいえ、少量の雪を被ったハジメの肌が赤くなっていたのだ。雪一つがドライアイスの様に極めて低い温度で出来ているのだ

 

「氷で出来た洞窟に、凍傷を起こす雪・・・氷雪洞窟とは的を射たネーミングね。このアーティファクトが無かったらと思うとゾッとするわね」

 

「飲み水もままならないもんね」

 

八重樫が渡された防寒アーティファクトをまじまじと見る中、香織は同意しながら魔力糸の壁の外側に魔法を行使して水を生み出す。だが、その水は十秒も経たないうちに凍って地に落ちる。水を確保できなければ生き物は死ぬ。一応炎で氷を溶かす事は出来るのだが

 

「確かにのぅ。その辺の氷を削って溶かせば水自体は確保できるが、どうもこの空間では炎系の魔法行使が阻害されるようじゃし・・・飲み水のために一々上級レベルの魔法を消費するのは痛いのぅ」

 

「・・・でも、私達には関係ない」

 

ティオの言う通り、この氷雪洞窟内部では炎系魔法の威力が減退してしまう。例えるなら、初級魔法を行使する際に必要な魔力量が上級魔法並みになるという事だ。しかし、ハジメ達にはその心配は無い。アーティファクトで防寒、宝物庫で飲食物を保管しているので、過酷な環境の弊害はない

 

「本当にアーティファクトが創れて良かったわ」

 

「だな。・・・ああ成りたくはないもんな」

 

ハジメと皐月がユエ達の言葉に相槌を打ちながら、奥の方に視線を向ける。ユエ達がハジメと皐月が見ている方に視線を向けると、壁の氷の中に埋まっている男が居た。その姿はまるで疲れ果てて壁に背中を預ける様にしていた。そして、そのまま寒さにやられて死亡したのだろう

 

「・・・ハジメさん、皐月さん。何だか、あの死体・・・おかしくないですか?」

 

「ん?・・・そういえば、随分綺麗に壁の中に埋まっているな」

 

「はい。まるで座り込んでいた場所まで氷の壁がせり出てきたか、座ったままの状態で壁の中に取り込まれたみたいな・・・」

 

「壁に埋まるとしても凹凸があるのが自然よね?」

 

シアが気付いた様に、男が死亡して氷の壁の中に入っている事は不思議ではない。だが、それは直通のこの道ではあまりにも不自然なのだ。氷の壁が男を取り込んだか何かしなければこういう風にはならない

 

「・・・魔力の反応は氷壁にも死体にも見えない。まぁ、念の為、殺って・・・いや、壊しておくか」

 

「そうね・・・魔眼石の方にも反応は無いから大丈夫だと思うわ」

 

念には念を入れて皐月が確認しても何も問題はなかった。よって、此処は破壊する事を選んだ

 

ドパンッ!ドパンッ!

 

昇華魔法により再設計されたドンナー・シュラークで、男の額と心臓部を撃ち貫く。天之河が死者に対して鞭打つ行為に眉をしかめるが、一々文句を言う不毛さを学んだのか、半開きの口を閉じた。数秒経っても壁と死体に変化がなく、杞憂だったとハジメはホルスターに仕舞って先へと促す

男の死体から先に進み、幾つも枝分かれした迷路のような通路を羅針盤が指し示す方向に歩く。道中、氷壁に埋まった死体やトラップ等がそれなりにあったが、魔物の襲撃は全くなかった。そして、羅針盤によれば既に三分の一は進んだようだ

 

「ん?・・・またか」

 

ハジメ達が、またしても通路の氷壁に埋まった死体を発見した。浅黒い肌に尖った耳・・・魔人族だ。それが三人固まって眠る様に目を閉じている

 

「・・・これで五十人。ほとんど魔人族」

 

「恐らく、魔人族の中に迷宮攻略者が居たのね。フリードは攻略したかどうか分からないけど、仲間が攻略した事で自分も大丈夫と過信した結果だと思うわ」

 

「ふむ。攻略情報があれば行けると踏んだのじゃろうが・・・やはり、そう簡単にはいかなかったようじゃのう。他のルートのことも考えると、どれだけの者が挑んだのやら」

 

「でも、国を挙げて挑んだのなら、そのフリードっていう人以外にも攻略できた人がいる可能性はあるよね。もしそうなら、魔物の軍団が再編されるのも時間の問題かも・・・」

 

香織は王国に居る者達を心配する。襲撃の際は無力だった自分だが、今は力がある。しかし、遠い場所だと思うと介入する事も出来ない事に不安なのだ

 

「大丈夫よ、香織。少なくとも直ぐに攻められることはないと思うわ。内通者の可能性は徹底的に潰したし、大結界も完全に修復されているもの。大結界を警備する兵士達も、一度内側から破られているせいで高い危機意識を持っている。それに向こうは、あのレーザー兵器が損壊していることを知らない。戦力が揃っても安易には動かないはずよ」

 

「雫ちゃん・・・うん、そうだね」

 

「王国ですか。・・・戦力として十分な力を持っているのは遠藤さんだけですね。人質を取られてしまえばそこで終了―――空間魔法の転移で結界をすり抜ける可能性もありますね」

 

八重樫が良い感じに締め括ろうとするが、深月がその全てを台無しにする。だが、深月の言は最もである為にジト目で睨み返すしか出来なかった

 

「・・・安心してくれ、香織。力を手に入れて狂った神を倒し、人間も魔人も皆、俺が救って見せる。ここに残ってリリアーナ達も俺が守る。全ての神代魔法を手に入れれば、いずれ自力で帰れるからな。俺は、誰も見捨てない」

 

「お花畑くんは黙っててよ」

 

香織の小さな辛辣の言葉は聞こえておらず、勇者(笑)らしい発言だ。しかし、その言葉とは裏腹に、天之河の視線は香織にではなくハジメに向いていた。今の天之河の目には、嫉妬、疑念、焦燥、苛立ち、もどかしさ等、負の感情が盛り沢山含まれている。まるで、「悪であるハジメにどうしてそんな力がある!」、「卑怯な手で力を手に入れたに違いない!」等と考えていると簡単に予想出来る

そんな視線を向けられている事に気付いているハジメは、一度天之河を見て肩を竦めるだけしてスルーした。その行為に余計に腹が立ち眉を吊り上げる天之河だが、双方の意思が平行線を辿る事は分かり切っているので言葉には出さなかった

 

「まぁ、知らない仲でもないし・・・頼まれたのなら、帰る前に姫さんへ贈り物くらいはしてやるさ。ヒュベリオンとか、大陸間弾道ミサイルとか、高速軌道型戦車とか、慣性と重力を無視した戦闘機とか・・・」

 

「ちょっ、な、南雲くん?女性への贈り物にしては物騒すぎないかしら?この世界のパワーバランスが崩壊するわよ」

 

「知った事じゃないなぁ。まぁ、一応、使用者制限はかけてやるさ。王族と王族が許可した奴だけ使えるみたいにな。なんなら王都を要塞化でもするか。ノイントレベルが来ても撃退できるレベ・・・皐月、痛いんだが?」

 

物騒な事をポンポンと言葉に出すハジメに、皐月が頬を抓って中断させる

 

「そんな贈り物をされた女性がどういう風に受け取るか分かって言っているの?」

 

皐月の言葉を皮切りに、ユエ達のジト目がハジメに突き刺さる

 

「・・・ハジメ」

 

「手を出し過ぎです」

 

「無自覚にも程があるじゃ」

 

「リリィも参加するの?」

 

そして、肝心の深月はと言うと

 

「"ハーレム王に俺はなる!"という事でしょうか?流石に手当たり次第は酷いと思われますよ」

 

「ならねぇから!!」

 

「ハーレムは全男性の夢というのは理解しております。えぇ、大丈夫です」

 

「絶対に心の中でドン引きしているだろ!」

 

ハジメが更に追及しようとした所で、深月は気配を溶け込ませて姿を消した事に舌打ちしつつ八重樫達に身の振りを考えさせる

 

「八重樫達も、魔人領から帰った後、どうするのかきちんと決めておけよ。この世界に残るか、俺らと共に帰るか。待ったはなしだからな」

 

「・・・ええ。わかってるわ」

 

「うん。決めるのは恵里と話してからだけど・・・」

 

「俺は光輝に付き合うぜ」

 

ハジメの言葉に三人が頷き、少しだけ妙な空気の中通路を進むと、大きな四辻に出た。他の通路も辿って来た通路同様に大きく、縦横十メートル程の広さがある。皐月が羅針盤で進路を確認しようとした時、深月の呟きが聞こえた

 

「おや、リアルバイオ〇ザードですか?」

 

「え?」

 

深月の言葉に遅れ、シアのウサミミが忙しなく動いた

 

「ハジメさん・・・何か来ます」

 

「魔物か?ようやく出て来たな。どこからだ?」

 

「・・・四方向、全部からです」

 

「なに?後ろからもか?」

 

シアの警告に全員が戦闘態勢に移り、自分達が通って来た道からも敵が来ている事に緊張する

 

「ねぇ、ハジメ」

 

「何だ?」

 

「ついさっき深月が漏らした言葉なんだけど―――――リアルバイ〇ハザードって言えば分かるわよね」

 

皐月の言葉を聞いた地球組は頬が引き攣り、トータス組は?を思い浮かべた

 

「敵は凍死死体という事です」

 

深月の確信めいた言葉に、トータス組も頬が引き攣ると同時に響く声

 

ヴァア"ア"ア"ア"

 

雰囲気的に暗くなる通路から、軍服を着た特徴ある耳の男が全身にびっしりと霜を貼り付けた状態で走り近づいて来た

 

「深月の予想通りか!」

 

「死体が相手なら、粉砕する他ないわよ!」

 

深月が魔力糸の壁を作っているのは良いのだが、こちらから攻撃する手段がない為にユエが結界を張って吹雪を防ぐ事にした

 

「結界を張る」

 

ユエが結界を張った事を確認した深月は、魔力糸を解除して迎撃準備に入る

 

「何にせよ、やる事に変わりはないわ。・・・敵であるなら、死体であろうと容赦はしないわ」

 

皐月の言葉を皮切りに、四方の通路から一気に溢れ出るフロストゾンビ

 

ヴァア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!

 

不愉快極まりない声が洞窟内に響き渡る。フロストゾンビはこちらを喰おうとしているのか、大口を開けて歯を剝き出しにして突撃する様はリアルバイオ〇ザードである。凍っていたので肉が腐ってはいなかったのだが、醜悪である事に変わりはない

 

「や、やぁ、来ないでぇ!"聖絶・爆"!!」

 

リアルバイ〇ハザードに恐怖した谷口が、パニックになりつつもバリアバーストを行使、迫り来るフロストゾンビを爆殺した。まるで液体窒素で凍らされた金属を粉々に砕いた様な有様だ

ハジメ達も攻撃してフロストゾンビをバラバラにしたり、切り飛ばしたり、分解したりと様々だ。それで終わりだと良かったのだが、バラバラにした肉片がくっついて元通りになり、分解された体は氷の壁から補う様に元通りになる

 

「魔石が無いわね。・・・でもうっすらと魔力反応はあるわ」

 

「えぇ~!それって、まさかメルジーネの時の悪食みたいな太古の魔物って事ですか!?」

 

「あんなのがわんさか居たら、この世界は既に滅亡してるぞ。何か仕掛けがある筈だ」

 

皐月は魔眼石でも探り当てられない魔石を探そうと羅針盤を使おうとする

 

「似た体験はありますよ。オルクス大迷宮のあれをお忘れですか?」

 

深月の言葉を聞いた皐月は、エセアルラウネの事を思い出した。周囲の環境は吹雪、何かしらの異物が混入している事はない現状にホッとしつつ、フロストゾンビにうっすらと反応する魔力の元となる魔石を探る。すると、ここから数百メートル離れた場所に反応があった

 

「なるほど、深月の言った通りね。あのエセアルラウネの時と似ているわ」

 

「魔物がこの死体を操っているって事か!」

 

「ふむ。とにかく、その魔石をどうにかしなければ、延々と戦い続けなければならんというわけか」

 

「なら、行くしかありませんね!」

 

皐月の推測に従う他ないと感じた皆は、元凶の魔物を倒すべく行動を起こす

 

「深月、殲滅攻撃を開発してないのか?」

 

「ありますが・・・威力が不明です」

 

「威力不明かよ!?ちぃっ、崩落の危険性もあるがそれよりかはマシだな。ミサイルぶっ放すから遅れんなよ!」

 

ハジメは宝物庫からオルカンを取り出して、皐月が指定する四辻の一角目掛けて発射

 

バシュウウウウウッ!!―――――ドゴォオオオオオン!!!!

 

凄まじい轟音が響き、進路上のフロストゾンビを爆殺。その隙に、一気に通路を一気に駆け抜ける。後に続くユエ達が再生するフロストゾンビに追撃をかけて、再生しきる前に再び肉片に変える。何発も連射して爆殺して通路を作り、駆け抜けた後には再生したフロストゾンビたちが雄叫びを上げながら迫って来る。特に、皐月と深月とユエとティオ以外の女性陣の表情は引き攣っている

 

「ふぇええ~、リアルバイオハザードはやだよぉ~」

 

「す、鈴、気をしっかり!腐敗してないだけマシな絵面よ!ほら、よく見れば愛嬌がないことも……」

 

「微塵もないよっ!愛嬌なんてっ!うわぁああん!来ないでぇ、"聖絶・爆ぅ爆ぅ爆ぅうううう"!!」

 

「鈴ちゃん!乱心しないでぇ!魔力が保たないよっ!きゃぁ、腕投げて来たぁ!しかも、腕だけ動いてるぅうう!!カサカサ這って来てるぅううう!!」

 

「ひぃいいい!香織さん、ちゃんと狙って下さいぃいい!!今、飛んできた腕にシッポ触られたじゃないですかぁ!!」

 

まるでホラーハウスに挑んだ様に悲鳴を上げる四人に対し、皐月達は平然としていた

 

「う~む、若いのぅ。ただの魔物にああまで騒げるとは・・・」

 

「・・・ティオ、ババくさい」

 

「ふぉ!?ひ、酷い言い草じゃ。まぁ、実際、年上じゃから、ついつい微笑ましく思ってしまうことはあるが・・・ユエもあるじゃろう?」

 

「・・・ない。私は永遠の十七歳」

 

「地球でそんな事を言った方がババくさく感じられるわよ」

 

「!?」

 

「精神年齢が十七歳で良いのでは?」

 

「あぁ、そうよね。封印されていたから、その方が誰もが納得するわね」

 

反応する魔石に繋がる通路を駆け抜けながら、深月は一人ある事を振り返った

 

今振り返ったのですが、この通路・・・昇華魔法で破壊力が増したオルカンの爆発にも耐えましたね。これはあれでしょうか?私の新技を披露しろと言っているのですね!

 

ニヤリと笑みを浮かべた深月を見たハジメは、今までにない悪寒に襲われた。それと同時に深月が足を止めてフロストゾンビ達を睨み付け、手と手の間から凄まじい魔力の波動が集束していた

 

「ス〇ナァァァァァァ――――」

 

「全員死ぬ気で走れぇええええ!!」

 

深月の言葉を聞いたハジメは、全員に全力疾走を促し走りながら右手にオルカン、左手にメツェライを構えて撃ちまくる。途中で再生しようとしているゾンビ達を無視して一気に走り抜けるハジメを見た皐月達も続く。皐月が一瞬深月の方に振り返ると、莫大な魔力が球体を模っていた

 

「ヒィッ!?あれはヤバイって!!」

 

皐月の悲鳴を聞いたユエ達も一瞬だけ振り返り、ヤバイ事を感じ取った。冷や汗を流しながら、再生しようとする肉片を無視して全力疾走。そして遂に―――超危険な技が放たれてしまった

 

「サァァァァン〇ャイン!!」

 

深月へと襲い掛かる大量のフロストゾンビの足元に着弾―――爆発する魔力。フロストゾンビの肉片を粉々にするどころか蒸発させ、爆発範囲がどんどんと広がる

 

「ギャアアアアアア!深月さんどんだけですかあああああああああ!?」

 

「死ぬ!死んじゃうのじゃ!!」

 

「ひぃいいいい!?」

 

「せ、聖絶!!」

 

このまま走っても巻き込まれる事を感じ取ったユエは、何重にも張った聖絶で防ごうとする。だが、そんな事よりも走れと言いたげに、舌打ちをしながらユエを皐月が抱えて走る

 

「いやあああああああ!?ありえないでしょおおおおお!」

 

「ミヅキィィィィン!鈴達死んじゃうよぉおおおお!?」

 

「うわぁあああああああああ!?」

 

「ぎゃあああああああああ!やめろぉおおおおお!?」

 

天之河達も死を錯覚させる魔力エネルギーの奔流に、涙目になりながら足を動かす。しかし、全員の希望を粉々に粉砕するかの如く、徐々に広がるエネルギーが一瞬で距離を埋めた

 

『あっ、これ死んだ』

 

全員の心の声が合わさった。しかし、爆発のエネルギーに飲み込まれる直前、氷の壁の中に入る様に全員が連れ込まれ爆発のエネルギーが通り過ぎた。壁越しでもビリビリと響く音と振動に、生きている事を実感して大きな溜息が吐き出された

実は、ストナーサ〇シャインを放った深月が着弾を確認せずにハジメ達の傍まで一瞬で追い付き、氷壁を高熱の魔力糸で溶かして大きなスペースを取り、全員の腰に魔力糸を結んで引き摺り入れて蓋をしたのだ。一応くり抜く形で氷の壁の中に入ったとはいえ、爆発のエネルギーで氷が耐える事が出来ない可能性も踏まえて最大硬度の魔力糸でドーム状で覆う事も忘れていない

 

「い、生きてるぅ~」

 

ハジメの本心に全員が同意し、元凶の深月を睨む。しかし、当の本人はあまり納得のいかない表情をしていた

 

「むぅ・・・もう少し破壊力が欲しい所ですね」

 

「これで足りてないの!?十分過ぎるでしょ!!」

 

「中村さんを消滅させる為には威力不足ですよ!」

 

「エリリンにこれぶつけたら死んじゃう!?」

 

「殺す為に開発した技ですので当たり前でしょう?ようやく試射が出来たのが良かったです。これで足りない部分を補えます」

 

「嫌だぁ!殺さないでぇ・・・」

 

何も知らない第三者から見れば、全ての人が深月が悪いと感じる光景だ。メイドのスカートを掴んで必死に止めようとする子供・・・。絵面的にアウトである

 

「なぁ・・・そんな事よりもさっさと先に行くぞ」

 

「あぁ、そうですね。入り口を開けます」

 

ハジメ達は、死体を操っている魔物が増援を寄こす可能性を考えて皆を急かす。深月が入り口の蓋を解除すると、目の前に広がっていた光景は壮絶―――氷の壁が爆発の影響で削られていたのだ。通路と天井は更に広く、高くなっていた

 

「うわぁ~お・・・こりゃあ酷ぇや」

 

「あのまま巻き込まれてたら確実に死んでたわね。・・・深月、あの技は最終兵器として使いなさい!」

 

皐月がストナー〇ンシャインを普段使わない様に制限をする様に厳命。しかし、ここでも深月クオリティーが炸裂する

 

「グラビ〇ィブラスト、ヘルアン〇ヘヴン、冥〇攻撃、石破〇驚拳も開発出来ていましたのに・・・残念です」

 

ハジメは内心で「見たいっ!超見たい!!」と思ったが、皐月が居るので敢えて言葉には出さない。しかし、ハジメの考えている事などお見通しである皐月の前では意味がない。気を取り直して、ハジメ達は深月の放ったストナー〇ンシャインで拡張された通路を進んで行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「メイドさんの新技はどうしようか迷ってたんだけど、ヨウツベで懐かしい物をリスペクトォッ!冥王さんについては難しいけど、再現だから!完璧ではないのさ」
深月「スパ〇ボMXで調べて頂けたら結構ヒットしますよ?」
布団「ぶっ壊れ兵器の一つだからねぇ~」
深月「・・・重力魔法で押しつぶした空間を連鎖爆発で再現できるかも?」
布団「( ゚Д゚)」





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囁きはメイドをイラつかせる

布団「めっちゃくちゃお待たせして申し訳ない」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」











~皐月side~

 

ハジメ達は魔石の反応を辿って通路を進む。しかし、深月のストナーサ〇シャインの影響なのか魔物が全く現れない現状に、「また深月がやっちゃった」と魔物に哀れみを送った

 

「魔物・・・出ないな」

 

「・・・爆風で蒸発したのね」

 

「あれは危険。私の最上級魔法よりも強い」

 

「あれに直撃した魔物には同情したくなるのう」

 

「物理特化の私に天敵ですぅ」

 

「分解って出来るかな?」

 

唯一、この中で抑える事が出来そうな香織の分解でワンチャンと思ったが、深月が対策していない筈もない

 

「大丈夫です。私の任意起爆も出来ますので分解される前に爆発して蒸発出来ますよ♪」

 

「OH・・・」

 

「これは酷い」

 

あくまで、分解は砲撃か羽で行う。従って、翼で包んで防御しても高温で焼き殺され、砲撃では全体攻撃のエネルギーを防ぐ術がない。これを防ぐには、深月の魔力糸の壁か同威力の攻撃をぶつける位しか残されていない

話は大迷宮攻略に戻り、ハジメ達がフロストゾンビを操る魔物の場所へと近づくと広い空間に出た。おおよそ東京ドーム程の大きさの場所に一体―――魔人族の襲撃に居た障壁を張る亀形の魔物だ。しかし、体は氷で出来ていた

 

「あいつが大元か」

 

「羅針盤もあいつを指示しているわ」

 

「でも~・・・動きませんよ?」

 

シアの言う通り亀形の魔物の魔石の反応はあるのだが、ハジメ達が少しずつ近づいても反応せず甲羅に籠ったままだ。いや、よく観察するとプルプルと少しばかり揺れている

 

「震えている?」

 

「魔物に恐怖を与えたという事じゃな」

 

「可哀想だね・・・」

 

「縁日の景品の亀を彷彿させるわね」

 

「シズシズ・・・これはあの亀の比じゃない位大きいから」

 

縁日の景品の亀と比べるのは止めよう。しかし、ハジメ達よりも図体が大きい亀が縮籠っている光景はシュールだ

 

「甲羅まで氷で出来ているのですか。・・・亀鍋の器にも出来ませんね」

 

もしも、この亀が普通の肉付きだったら、「食べる」という選択肢が出て来る事に天之河達はドン引きする。しかし、ハジメ達は深月が調理すれば大抵の物は美味しく食べれる事を知っているので落ち込んだ

 

「うぅ・・・さっきよりもプルプルと震えてるよ~」

 

「くっ!で、でも倒さないといけないのね」

 

結局、無抵抗の状態で天之河達全員の攻撃を四方から受けて絶命した。しかし、トドメを刺した四人の表情はあまりよくはなかった

 

「・・・なんか後味悪いな」

 

「・・・だけど、魔物なんだ」

 

「・・・今までで一番心に来たわ」

 

「ごめんね・・・亀さん。縁日ではちゃんと育てるから赦して」

 

落ち込んでいる天之河達に対し、ハジメ達はこの程度で何を言っているのかと呆れていた

 

「とっとと進むぞ」

 

奥へと続く道を進み下って行く。どんどんと下に降りて行くと、眼下に広大な迷路がそびえ立っていた

 

「ん~・・・雪煙で奥の方が見えないな。何キロあるんだ?」

 

ハジメ達が通っている通路は、迷路のアーチ状の入口まで続いている。おそらく、第二の試練はこの迷路の走破なのだろう

 

「なんだよ。こんな馬鹿でかい迷路を通れってか?うざってぇなぁ」

 

「龍太郎。しょうがないだろう。これも試練だ」

 

「だがよぉ」

 

細かい事が大っ嫌いな坂上は、心底面倒そうに表情を歪ませる。しかし、何かを思いついたのかニヤリと口元を歪めた

 

「ああ、いいこと思いついたぜ。折角、上が開けてんだ。だったら、そこを跳んでいきゃあいいじゃねぇか!」

 

坂上が空力で空から攻略しようと飛び出した

 

「深月~」

 

「当身!」

 

「グブァッ!?」

 

しかし、深月の肘打ちが鳩尾に綺麗に入って落下した

 

「いってぇ~・・・何すんだ!!」

 

「黙りなさい」

 

パァンッ!

 

「グベラァッ!?」

 

皐月の張り手が坂上の左頬にシュートォオオオ!―――地面にゴロゴロと転がり壁に激突してようやく止まる。皐月の容赦のない所業に、天之河達は慌てる

 

「その中身が詰まっていない脳みそをフル稼働して理解しなさい。何も考えずに即実行・・・死にたいのかしら?深月みたいな超チートステータスじゃない限り警戒は当たり前よ」

 

「うっ!?」

 

「私でも警戒はしますよ?」

 

「ぐぅっ!」

 

「対価で迷宮に挑む際に死なせないとサインした事忘れてるの?自分勝手に行動させるわけないでしょ」

 

「そ、それだったら神楽のあの攻撃は」

 

坂上は深月へとヘイトを変更しようとしたが、皐月はその悉くを正論でシャットアウトする

 

「最初は私もあの攻撃は無計画と判断したわ。だけど、その後の色々を考えられていたわ」

 

深月は、只無計画にストナー〇ンシャインを放ったわけではない。大量に魔物が沸き、肉片になっても再生する現状を打破する為の大火力の一撃だ。攻撃の余波を防げる事を確信しているので、多少の恐怖は致し方が無い犠牲である

 

「あの攻撃のお陰で通路の拡張で空力で空中に回避可能、私達の行動を幅広くする事を考えればお釣りがくるわ」

 

皐月の言に四つん這いで落ち込む坂上を天之河が慰め、八重樫と谷口はフォローを入れる。四人を放置し、皐月は上の吹き抜けを魔眼石で調べる

 

魔力の流れが分からないわね・・・。上の吹き抜けが罠である可能性は九割―――だけど、どういった部類なのかが不明ときた。あの通路での試練は、あの冷たい雪とゾンビの二つ。移動障害は前者とくれば、此処の罠もその類で確定ね

 

皐月は仮説を立てて、錬成で作った球を放り投げて様子を見る。しかし、罠は発動せず

 

「なるほど、熱を持たせた無機物は反応しないのね。罠があれば、上から攻略しようとすれば発動する可能性は絶対ね。深月、行ける?」

 

皐月は天之河達が、「え?あそこに行かせるの?」と頬を引き攣らせていたが無視する

 

「そうですね。・・・これまでの試練や障害は移動阻害と考えるとここもそうなのでしょう。凍る可能性はありますが、問題ありません」

 

「もの凄く分厚い氷の中に閉じ込められたら?」

 

「无二打の衝撃を体の中に循環させているので、それを放出して砕きます」

 

「魔力の流れと此処の試練の予測を立てたいから」

 

「行ってきます」

 

深月は躊躇い無く空力で吹き抜けへと跳んで行った。すると、その途中で空気がたわむ様な音が響いて深月が消えた

 

「神楽さんっ!?」

 

「ミヅキン!?」

 

八重樫と谷口はとても焦っている様子だが、皐月は魔眼石で深月の反応を辿って見つける

 

「あそこね」

 

ハジメ達は焦る様子なく皐月が見上げた先を見て、天之河達もそちらへ見上げると、巨大な氷の中に深月が閉じ込められていた。焦った表情も無く、こうなる程度予測の範囲内といった表情だった

 

(意識は?)

 

(問題ありません。恐らく、窒息させるつもりかと)

 

(窒息ねぇ・・・周りから氷柱がせり出ているから、念には念を押してかしら?・・・氷を砕けばどうなると思う?)

 

(氷柱が伸びて押し潰すか、刺し貫くかのどちらかでしょう)

 

(ふむ・・・罠の起動は一瞬のテレポート系、駄目押しの追撃・・・ね。これ以上の情報は無さそうだから、砕いて戻って来なさい。それで変化もあるでしょ)

 

(かしこまりました)

 

皐月と深月が念話で罠の性能と試練の予測をし終え、深月は体内に循環させていた衝撃を両手から放出

 

ドガァアアアン!

 

天之河達はハジメ達が何もしていないのにも関わらず氷が砕けた事に驚愕。氷の中から出て来た深月は、黒刀を片手に持って押し迫る氷柱を粉々に切り伏せ、もう片方はハーゼンの魔力砲で氷を蒸発させる。そして、難無く着地して追撃が来ない事を確認してから武器を収める

 

「只今戻りました」

 

まるで何事もなかったかの様にハジメ達の元へ帰り、情報の整理をする

 

「俺の眼帯の反応は皐月と同じだ。試練は襲撃系だと思う」

 

「そう・・・ね、私もハジメと同意見よ。敵は転移系の襲撃、もしくは死角からの襲撃の二択ね」

 

「手前の通路はミラーハウスでしたので、この迷路も同じだと思います」

 

「・・・常時障壁で防ぐ?」

 

「ですが、魔力効率が悪い場所でしたら駄目ですよ?」

 

「此処までの道のりは炎系の魔法の阻害と考えると、シアの言う魔力効率を悪くさせる可能性もあるのじゃ」

 

「物理で砕いても、あのゾンビみたいに再生しちゃったら面倒だね」

 

冷静に試練の事を考えているハジメ達を見て、天之河達は呆然としており、坂上はもしも自分がああなっていたらと思うとゾッとした

 

「俺・・・ああなってたら死んでたかも」

 

「あれで死なないのはみづ―――ブアッ!?・・・神楽だけだと思うぞ?」

 

「・・・神楽さんのステータスって今どうなっているのかしら」

 

「きっとバグレベルだよ。・・・氷を中から砕くって普通出来ないよ」

 

天之河は名前呼びをしようとした所に皐月が指弾で放った氷の礫で中断し、八重樫と谷口は深月のステータスを見てみたいような見たくないようなと躊躇いがあった

 

「恐らく、この壁は修復能力が備わっている筈よ。だから、それは止めなさい」

 

皐月がハジメの頬を抓ってドンナー・シュラークを下げさせ、深月にはジト目で注意する

 

「・・・先に確かめておいた方がいいだろ?」

 

「出口から撃っても意味無いわよ。やるなら入って安全確認してからよ」

 

迷路の入口を潜って直ぐの場所で止まり、壁の厚さを確認。ドンナーで一発撃つが、弾丸は貫通しなかった。次はチャージしたシュラーゲンを発射―――人一人通れる程の大きさの穴が開いたのは良かった。しかし、壁は直ぐに修復されてしまう

 

「・・・どうやら壁を壊して一直線にゴールへ向かうという手も無理なようだな」

 

ハジメ達は警戒するが、迷宮からの仕掛けは無い。これは正攻法しかないと感じた皐月は、羅針盤を取り出して先頭に立って進む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

羅針盤が指し示す方向へ迷路を順調に進んでいると、壁から魔物が現れ戦闘に突入。だが、ここで良い意味での問題が発生した。それは、魔物が深月を除いた皆にしか襲わないという珍事だった。深月本人は、はて?と不思議に首を傾げていたが、ハジメ達は深月が放ったストナーサ〇シャイン事件が切っ掛けだと予想した。魔力の残滓に敏感な魔物は、何かしらの方法で危険だと察知したのだろう

 

私だけ魔物の攻撃が来ないですね。何故でしょう?特に怖がられる様な事はしていない筈ですが・・・

 

頑強で再生する氷壁を、只の魔力だけで削って再生させない事自体が異常。迷宮そのものがあのぶっこわれ技をこれ以上放たせてはいけないと何処かで判断しているのだ。深月は襲撃されないので、敢えて皐月の傍に行き天然の魔物避けとなり皆を観察する

 

「うりゃぁあああああ!!」

 

シアの蹴り上げが魔物達を直撃して上空へと打ち上げる。そして、その場でグルグルと回転して遠心力を利用してハンマーの回転速度を上げ、そのまま落下してくる魔物達を攻撃する。まるでダルマ落としの様に吹き飛ばされた魔物達は、氷壁にぶつかって粉々に砕け散った

 

「鈴ね。帰ったらウサギさんに優しくするんだ。絶対に怒らせないように、優しくするんだ・・・」

 

「鈴・・・気持ちは分かるわ」

 

谷口はバグウサギの容赦の無さに恐怖し、これからは怒らせない様に慎重に行動しようと決意した瞬間だった

 

「強さは大したことないな。氷壁の何処から現れるか分からない奇襲性くらいだが・・・まぁ、深月みたいに消える事はないから注意すれば大丈夫だろう」

 

「・・・あれは鬼畜の技」

 

「見ていましたけど・・・一瞬で見失いましたし」

 

「技能じゃなくて技術なんだよね・・・。私も使いたいけど無理だよ」

 

「そうじゃ・・・あぎゃあああ!?それ以上は無理なのじゃ!妾爆散したくないのじゃああああ!!」

 

一人だけはトラウマスイッチを押されて発狂しているがそれは放置。ハジメ達は、無慈悲な襲撃を身をもって体験しているのでこの程度どうとでもないのだ。そして、魔物を難無く倒したハジメ達は天之河達の様子を観戦する

 

「・・・連れて来たのを後悔し始めたわ」

 

「皐月でも判断ミスがあるんだな」

 

「私も人間よ?予想以上に弱い勇者(笑)達に頭を悩ませているだけなの」

 

そうこうしていると、八重樫が一体倒した。それからは、相手の行動パターンをある程度把握した八重樫が翻弄して各自が止めを刺して倒し終えた

 

「ようやく倒したか」

 

「この先に広場があるからそこで一度休憩するわよ。危なっかしくて見てられないわ」

 

皐月が言う通り、一行が少し進んだ先にはそこそこ広い場所があった

 

「お前ら、壁際は止めとけ。奇襲されるかもしれないからな。休むなら部屋の中央に来い」

 

「深月、壁をお願い」

 

「かしこまりました」

 

ハジメは、宝物庫からホットカーペットと炬燵を、皐月はストーブを、深月は魔力糸で編んだもこもこ敷き毛布を出して設置。あっという間に暖房完備の無敵結界が完成した。魔力糸の壁はアザンチウム製の武器じゃないと傷つける事が出来ない利点が物凄く大きい

 

「いやぁ~、温まる。炬燵は最高だな」

 

「深月が編んだもこもこな毛布が反則よ。・・・油断していると寝てしまうわ」

 

「・・・ぬくぬく」

 

「あ"ぁ"~、生き返るですぅ~」

 

「これ、はしたないぞシア」

 

「でも、シアの様になるのも分かるよ~」

 

ユエ達は炬燵の上に頭を置き、お餅の様に頬を緩ませている。残念美人とはこう言う事だろう

 

「それにしても、大きな扉に四つの鍵穴・・・。この広大な迷路の何処かに置かれているのね」

 

「クロスビットで回収―――」

 

「大丈夫です。既に四つ確保しました」

 

『・・・・・』

 

深月の周りにフヨフヨと漂っている四つの鍵を見て、全員が呆気に取られていた。深月が何もせずに迷路の中を歩く事はなく、魔力糸を迷路に張り巡らせていたのだ。魔力がある限り無限に伸び、動かす事が出来るのだ

 

「深月だから仕方がない」

 

「流石深月」

 

「・・・魔力糸は何処まで広がっているのか聞いても良い?」

 

「全て網羅しています!」

 

「あぁ・・・やっぱりそうよね・・・深月は凄いわね」

 

皐月は、この迷路を作ったであろう解放者の者には大変申し訳ないと心の中で謝罪した。自分達もクロスビットで楽して回収しようとは思っていた。何の苦労もなく全体を探索する深月が異常なだけだ。そして、今の深月の心の中はフィーバータイムである

 

お嬢様に褒められましたよ!さぁ、次の試練は何ですか?私は一瞬でクリアしてみせますよ!!

 

特大なフラグを建てつつ、もう一度皐月に褒めて貰える様にテンション上げ上げ状態なのだ

深月の内心状態は置いておき、しばらくの間大きな炬燵に入り込んで眠るユエ達と、小さい炬燵に身を縮こませながら入っている天之河達

 

「この迷宮の試練・・・一体何かs―――」

 

皐月が考察していると、隣に入っていたハジメが肩を持って抱き寄せる

 

「皐月、休憩の時まで考えるのは止めろ。いつまでも気を張り詰めるのは逆効果だぞ」

 

「・・・そうね。気疲れしてもいけないわね」

 

そのまま自然な流れでハジメは皐月を撫で、皐月はハジメに甘えて桃色の空間を大量生産する

 

「いいなぁ~」

 

香織はそこに自分が~と思っているが、ユエとシアの二人にジト目で睨まれて羨まし気に見るだけとなっていた

 

「最近の皐月は張り詰め過ぎている。ハジメに甘えるのは当然」

 

「私達よりも桃色ですぅ~。流石正妻の皐月さんですね!」

 

ティオは炬燵に置かれた果物を食べながら、内心で色々と考察する

 

(うむ、やはりそういう事か。いやはや・・・長生きしているのにも関わらず気付かんとはな。ご主人様は皆に平等の機会を与え、それをものに出来るかどうかが重要という事かの?いや、これは器の違いじゃな。ご主人様は複数の伴侶に寛容、香織は己一人だけ―――うむ、凄いのじゃ。妾がご主人様の立場でもあそこまでの気遣いは出来んの)

 

遂にティオはハーレム加入条件の入口に辿り着いたのだ。変態のままでは気付かず、淑女になってからようやく気付いたのだ。これもある意味深月の思惑通りである

 

ティオさんはようやくですか。香織さんは・・・駄目ですね。冷静になって全体を見れば直ぐ気づく筈ですし・・・あぁ、八重樫さんが香織さんを残念な子を見る様な眼で見ています。という事は、八重樫さんもハーレム加入条件を知ったのでしょうね

 

二人は互いに食べさせ合いをしたり、キスをしたりとタガを外してイチャイチャする。微笑ましく見る者や、羨ましそうに見る者、ゲッソリと迷惑そうに見る者と三者三様だ。二人のイチャつきを見た谷口は本音を口漏らす

 

「・・・独り者には癒されない空間になりそうだよ」

 

見慣れていない天之河達は激しく同意した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休息を取っているハジメ達。炬燵で暖を取っているのだが、今は体の中から温まる鍋を食べている

 

「はいハジメ、あ~ん♪」

 

「あむっ、良い出汁が染みてるぜ。皐月、あ~ん」

 

「はむっ、やっぱりいい味が出てるわ」

 

「皐月、あ~ん」

 

「ん、ユエもあ~ん」

 

「私もお願いしますぅ!」

 

「シアはちょっと待ってね?」

 

ハジメと皐月とユエとシアは互いに食べさせ合いで、激しくイチャイチャし始める。それを羨ましそうに見ていた香織が恥ずかしそうに突撃する

 

「は、ハジメくん。私も食べさせて欲しいな~?」

 

「ハジメさんの両手は塞がっているので私が食べさせましょう。良い色でしょう?」

 

「それ劇物ぅ!私は激辛苦手どころか嫌いなの!食べさせないでぇええええ!?」

 

「心外ですね。赤ですが、香辛料が全く入っていないので辛くはありませんよ」

 

「えっ、そうなの?」

 

予想外―――深月が作る赤い料理に香辛料が全く入っていない事に驚きつつ、恐々としながら目の前の野菜を一口食べる。その瞬間、旨味のスタンピードが香織の口内を襲った。濃厚な味と言うよりも、素材そのものの濃い味が広がる。そこで香織の意識は途切れた

 

パタッ

 

皆は地面に倒れた香織に驚愕したが、香織の顔を見て何やってんだ?と不思議そうに首を傾げる

 

「・・・香織、笑顔で倒れる。深月、私にも頂戴」

 

「ユエさん、あ~んです」

 

香織に続いてユエも深月の料理を口にしてしまった。ユエが今まで体験した事のない旨味の暴力が口内で暴れる。一噛みしただけでも、某星の白銀の如くオラオラオラオラオラオラオラオラ!の圧倒的暴力が脳に響き意識が途切れた

 

パタッ

 

ユエも香織同様幸せそうな笑顔のまま倒れた事で、深月以外の皆が警戒する

 

「ユエまでも倒れただと!?クソッ、どこからの攻撃だ?」

 

「幻惑魔法だとすれば・・・全員が厳しいわね。深月は状態異常耐性があるから大丈夫だとは思うけど」

 

しかし、何も起こらない。しばらく警戒が続いていると、数十分程で香織が目覚める

 

「うぅん・・・私寝てたの?」

 

「香織大丈夫?」

 

「う、うん。大丈夫だよ」

 

「何か見せられましたか?」

 

「見せられる?」

 

皐月とシアが何を言っているのか理解出来ていない様子だった。すると、ユエも目覚める

 

「不覚、・・・あれは予想外」

 

「どういう事?」

 

「原因・・・深月の料理」

 

皆が「お前は激辛で何をした」とジト目で見ているが、香織が予想外の言葉を告げる

 

「人間って本当に美味しい物を食べると気絶するんだね」

 

「「「「「「「「は?」」」」」」」」

 

「こればかりは香織と同意見。深月の料理は美味しいけど、あれは抜きん出ている!口の中で最上級魔法が炸裂した!」

 

「爆弾の様に広がる旨味の暴力・・・駄目、お母さんが作った料理の味が分からなくなったよ。ごめんね、お母さん」

 

ここで、気になったハジメがその料理を食べようとすると二人に全力で止められる

 

「ハジメ、駄目!あれは危険物!旨味が暴力に変わって口内にスタンピードが起こる!!」

 

「駄目だよ!実家の味が分からなくなる位危険な凶器なの!ううん、あれは麻薬だよ!!」

 

ハジメは二人の静止を振り切って深月の料理を口へ運ぶ

 

「「駄目ぇえええ!」」

 

ハジメの口内にスタンピードが発生した

 

パタッ

 

二人と同じ様に幸せそうな笑顔で気絶してしまった。皐月以外でここまで表情が崩壊したハジメの顔をユエ達は見た。普段の暴虐な感じが一切見当たらない笑顔に、心がキュンキュンしている

 

「ヤバイ、ハジメの笑顔だけでご飯沢山食べれる」

 

「はうっ!キュンキュンしますぅ」

 

「良い笑顔じゃな」

 

「ぐへへ、ハジメ君の笑顔良いよ」

 

ゴスッ!

 

「グエッ!?」

 

皐月は、一人だけ危ない顔をしている香織の頭にチョップして正気に戻す

 

「お馬鹿な香織は無視してユエ、深月の料理ってそんなに危険なの?」

 

「皐月、甘く見てはいけない。あれは深月以外の料理の殆どが豚の餌と錯覚してしまう」

 

「なるほど・・・。食べ慣れている私じゃないと耐えられなさそうね」

 

「え?皐月さん、二人のあれを聞いたのにも関わらず食べるんですか?」

 

「深月の限界を知るいい機会なのよ」

 

「なら私も食べますぅ!遥か彼方の頂をこの舌で体験するです!」

 

「準備は出来ていますよ?」

 

深月は容易万端で、皐月はそこそこ入った器、シアは一口分だけの器だ。深月は皐月に遠回しで、「気絶しないで下さいね?」とプレッシャーをかけている。尚、本人にその自覚はなく、美味しく食べて下さいと思っているだけなのだ

 

「いただくわ」

 

皐月が一口―――口内に旨味のスタンピードが起こり、脳を殴られた様な衝撃に足元がふらつくも耐える

 

「ぐっ!・・・何て旨味なの。素材そのものの味だけと思いきや、混ざり合う事で最大級の威力に変化だなんて」

 

パタッ

 

皐月の隣に居たシアが倒れてしまった。とても良い笑顔である

 

「・・・『美味しいには勝てなかったですぅ』と言ってそう」

 

「仕方がないよ・・・美味しいのがいけないんだもん」

 

「それならば、お代わりは不要という事ですね?」

 

「「お代わりをお願いします」」

 

二人はお代わりして無言で食べる

 

「それにしても・・・一体何時の間に作ったの?」

 

「エリセンで滞在している時から煮込んでいました。熱して凍らせを繰り返し、魔力糸に技能を付与出来るようになってからはずっと煮込んでいますね」

 

これを聞いた皐月は、「そりゃあ美味しいに決まってるわ」と納得した。少ししてハジメとシアが起き、お代わりを強請ったのは言うまでもないだろう。ハジメ達が美味しいご飯を食べていると、四方の通路から巨大な魔物がいきなり現れた

 

「グルァアアアアアアアッ!!!」

 

五メートル越えのフロストオーガが現れた瞬間、天之河達は食材だけ分けて貰い自分達で作った鍋の汁を噴き出した。あまりにもいきなりの出来事に咄嗟に動けなかったが、ハジメ達は「あっ」と口漏らして魔物達に黙祷した

 

「邪魔です」

 

深月の魔力糸で足元を縛られたフロストオーガ達は、一ヵ所に集められて雁字搦めで身動きを取れなくされる

 

梵天よ、我を呪え(ブラフマーストラ・クンダーラ)!」

 

遂に〇を付けて伏せる事をしなくなった。ハジメと皐月は、めんどくさくなった為に付ける事を諦めたのであろうと理解した

 

魔力糸の槍が投擲され、真っ赤に染まって――――着弾

 

ドッグォォォォオオオン!

 

衝撃は凄まじく、炬燵がガタガタと揺れる。しかし、深月が魔力糸で鍋を持ち上げているので零れる心配は皆無である。天之河達の鍋?そんな物はどうでもいいので持ち上げていない

爆発の煙が晴れ、フロストオーガ達が居た場所には巨大なクレータだけが残っていた。

 

「南無」

 

「可哀想に・・・開幕2コマで殺られる敵の様だったわ」

 

「安らかに眠れ」

 

「木っ端微塵ですぅ」

 

「妾達の攻撃でもびくともせん氷を一撃で砕くとはのう」

 

「やっぱり深月さんって規格外だよね~」

 

ハジメ達は魔物に同情するが鍋を食べる手を止めず、天之河達は道中で相手をした魔物より強いと分かる相手を片手間で殺しきる深月に呆然として口が開いたまま塞がらない

鍋を食べ終え、十全に動けるまで休んだハジメ達は迷宮の攻略を再開する

 

「この鍵を入れればいいんだな」

 

深月が回収した鍵を嵌めると、大きな扉がゴゴゴッとゆっくりと開いて奥へと続く道が現れた。そして案の定、通路は透明度の高い氷の壁だった。またしてもミラーハウスの攻略に、少しだけ溜息を吐きつつ攻略を開始する

 

「さて、それじゃあ行くか」

 

「またミラーハウス・・・ね。芸がないわ」

 

氷壁から冷気が漏れていなければ氷だとは気付かない程の鏡の様な壁に、ハジメ達が歩く音が響く。コツコツと足音が鳴り、反響―――そして、合わせ鏡の様に永遠と続く世界を見たユエがポツリと呟く

 

「・・・何だか吸い込まれてしまいそう」

 

鏡面世界が不気味に感じたのか、少しだけ体を震わせた。そんなユエをハジメと皐月が手を握って落ち着かせる

 

「大丈夫よ。吸い込まれそうになったら引っ張るわ」

 

「俺達が行かせないから大丈夫だ」

 

「・・・んっ」

 

「貴方達、いちいちイチャつかないと気が済まないの?」

 

微笑み合うハジメと皐月とユエに八重樫がジト目でツッコミを入れる。互いに好感度がカンストしているので、その程度の口撃では痛くも痒くもない

ハジメ達は罠もなく、魔物も出ず、不気味な静けさのこの通路に少しずつ警戒度を上げていると、不意に天之河がキョロキョロと辺りを見回し始めた

 

「光輝?どうしたの?」

 

「あ、いや、今、何か聞こえなかったか?人の声みたいな。こう囁く感じで・・・」

 

「・・・そういうのはメルジーネで十分だよ」

 

ハジメ達は足を止めて警戒をする。皐月達に聞いても今の所違和感を感じているのは天之河だけだと分かり、警戒を更に強める

 

―――本当にこの関係が続くとでも?

 

煩い

 

―――あぁ、これが自分の声だと分かっている。だからこれは自身にしか聞こえないから安心しましょう

 

煩い

 

―――おっとっと、そう邪険にするのは良くない。お嬢様にバレたらどうなる事か

 

ドゴンッ!

 

『・・・・・』

 

深月が氷壁を殴り砕いた。これだけでも分かる通り違和感は天之河だけでなく深月も感じているという事だ

 

「皆、試練は始まっているわ。深月のあんな表情初めて見たわよ」

 

深月の顔は特に変化はないのだが、一緒に居た時間が長い皐月が言うのであれば間違いない。しかも、小声で伝えた事から極めて重要かつ危険だと判断した。それから少しずつ進む毎に深月が徐々にオーラが漏れ始める。本人は気付いていない様で、殺意がマシマシの危険なオーラである

 

(ヤバイな・・・進む毎に深月の殺意のオーラが漏れてるぞ)

 

(本人に自覚はないけれど、溜め込む癖があるのよ。それを思うと危険ね)

 

(俺・・・物凄く背筋が寒いんだが)

 

(私もよ。・・・理由は分かるでしょ?)

 

(皐月、どうにかしてくれ)

 

(諦めて)

 

ハジメが後ろをチラ見すると、ユエ達も顔を青褪めつつも何も言わず歩いている。突けば破裂するものに触れたくないのだ

 

―――これ以上成長しない私を見たお嬢様はどうするか

 

黙れ

 

―――お~ぉ、怖い怖い

 

我慢して進んで行くと、遂にハジメ達にも天之河が言う囁き声が聞こえ始めた。自分を追い詰める様な、傷を抉る様な言葉を何度も何度も囁かれる。何処か聞いた事のある声なのに思い出せないでいると、ハジメがこの囁き声の正体を突き止めた

 

「ああ、そうか。これ自分の声だな」

 

徐々に囁き声に意識を割かれたユエ達が、ハジメの声にハッと我を取り戻した

 

「そう言われれば、確かに自分の声ね。違和感があったのも納得したわ」

 

ようやく答えを知った皐月は少しだけ晴れやかな表情をした。解けない事による煩わしさからようやく解放された感じだ

 

「皆、囁き声に聞き覚えがあるって言ってたろ?俺もそうだったんだが、この声、俺の声だわ。親父の手伝いでゲーム制作に関わった時に、ボイステストで何度も自分の声を聞く機会があってな。自分の声って自分で聞くと意外に違和感があるもんだから気が付きにくいけど、確かに、その時何度も聞いた俺自身の声だよ、これ」

 

立ち止まって違和感の正体を説明し、考察をするハジメ達。しかし、今の深月にはこの言葉を聞く余裕は全くなかった

 

―――おっと、お嬢様達の考察タイムが始まったぞ?良いのか聞かなくて?いや、聞く耳持てないと言った方が良いのか?

 

・・・・・

 

―――遂にだんまり?

 

・・・・・

 

―――いやぁ~、私だけズルイじゃない。私もお嬢様と一緒に過ごしたいな~

 

・・・・・

 

―――だから、交代しない?

 

は?

 

その瞬間、深月の足元だけが光った。魔法陣がいきなり現れた事に考察をしていたハジメ達も驚愕、皐月が咄嗟に手を伸ばすが間に合わず深月だけが転移した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転移した先は、中央に天井と地面を結ぶ巨大な氷柱のある大きな広場だった

 

「此処は・・・」

 

深月が周囲を警戒しつつ、目の前にある氷柱の鏡を見る。見たくないが、見ないといけない現実。そして、氷柱の鏡の中から、真っ黒な人影が出て来た

 

『さぁ、これで邪魔者は居ない』

 

「えぇ、邪魔者は居ませんね」

 

両者睨み合い

 

「ですが」『でも』

 

その言葉を皮切りに、両者から膨大な殺意が溢れ出し

 

不要な()が居る」『不要な()が居る

 

女と男が激突した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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私は・・・メイド。・・・でも

布団「予定外のお休みに作者の筆がホ~、アタタタタタタタ!と乗りました。無計画であるが、後悔はしていない。そして、遂にメイドさんを攻略する主人公!話が強引過ぎる?こまけぇ事は気にしないで読んでね。 それでは読者の皆、ごゆっくり」



~皐月side~

 

何で深月だけなのよ・・・。普通は全員が転移するのが定番でしょ!

 

深月だけが転移した事に慌てる天之河達を他所に、ハジメ達は一度深呼吸して落ち着きを取り戻す

 

「深月なら大丈夫だと思うんだが・・・」

 

「早く合流するわよ。ヒシヒシと嫌な予感が強くなっているわ」

 

「急がないと!」

 

「皐月さんの直感がそれならば急いだほうが良いですね!」

 

「妾達よりも囁き声が聞こえていた様じゃしのう・・・。ちと危うい感じがしたのじゃ」

 

「殺意のオーラが漏れてたもんね・・・」

 

だが、試練はもう始まっている。もしかしたら、一人、また一人と転移してしまう可能性がある

 

「予定だと天之河達に魔物を殺させるつもりだったが、それは変更だ。天之河達は後を付いてこい」

 

「なっ!?俺達は戦えるぞ!」

 

「なら、秒で殺せるんだな?」

 

「いや・・・それは・・・」

 

「出来ないなら却下だ」

 

「私が書かせた契約書をしっかりと確認したのかしら?有事の際は指示に従う事を明記していたのよ?」

 

天之河と坂上と谷口は、「え?」とそんな事書いていたっけ?と首を傾げる。そんな三人を見た八重樫は、「この馬鹿達は・・・」と呆れていた

 

「唯一目を通していたのは八重樫さんだけね・・・。まぁ、今はどうでもいいわ。早足で付いて来なければ置いて行くから気合を入れて付いて来なさい。皆、行くわよ」

 

ハジメ達は早足で移動をし始め、天之河達は慌ててその後を追う。道中で襲い来る魔物は、メツェライとミーティアで粉微塵に瞬殺して奥へと進む。奥へ進む毎に囁き声は多くなり、皆の精神を揺さぶる

 

「囁き声で精神を揺さぶられるのは良いけど、判断を鈍らせないでよ?」

 

皐月がジト目で後ろの天之河達を睨み、当人達はビクッと肩を震わせて視線を逸らす。明らかに精神的に参っていると感じたティオが魂魄魔法で天之河達の落ち着きを取り戻させる

 

「さて、どうじゃ?多少はマシになったかの?」

 

「ええ。ありがとうティオ。頭の中がクリアになった気がするわ」

 

「うん。体も少し軽くなったかも・・・」

 

先程よりも顔色が良くなっている事から、ティオの魂魄魔法の行使は最適だった。とはいえ、囁き声が聞こえなくなるわけではないので、そこら辺は当人の精神力次第という事だ。たが、それでもあまり効かない者も居る

 

「ああ。ありがとう、ティオさん。楽になったよ」

 

天之河が薄らと微笑み返すが、声が重く、表情も暗いままだった

 

「なに礼には及ばんよ。それより、さっさとこの迷路から出てしまわんとな。ご主人様よ。あと、どれくらいじゃ?」

 

「後一キロもないから・・・恐らく残り二つ三つで最終試練と考えて間違いないわ。気合入れなさいよ?」

 

早歩きから少しだけゆっくりとした警戒態勢で進む。何事も問題がない現状に嫌な予感がした時―――

 

「うわぁあああっ!?」

 

「こ、光輝!?どうしたの!?」

 

「大丈夫か、光輝!」

 

天之河が奇声を上げながら氷壁から飛び退き、八重樫と坂上が慌てて呼び掛ける。ハジメ達も何事かと振り返って目を丸くする。しばらくの間氷壁に映っている自身の姿をジッと警戒して睨んでいる

 

「光輝?」

 

「・・・壁に、壁に映った俺が笑ったんだ。俺は笑ってないのに・・・まるで別の誰かみたいに・・・」

 

「見間違いじゃないのね?」

 

ふ~ん、なるほど・・・。試練の最後は、己の影に打ち勝つ事かもしれないわね

 

皐月は魔眼石で氷壁に映る全てを調べるが反応は無く、そのまま天之河達をスルーして先に進む。しばらく歩くと、通路の先に巨大な空間を発見。部屋の奥には意匠の凝らされた巨大な門が見え、先の門の様な鍵を嵌める場所はない。羅針盤もこの先を指しているのでゴールで間違いないだろう

 

「ふぅ、ようやく着いたようだな。あの門がゴールだ。だが・・・」

 

「ん・・・見るからに怪しい」

 

「ですねぇ。大きい空間に出たら大抵は襲われますもんねぇ」

 

当然、今まで同様魔眼石にも反応は無い。その場に立ってからの試練が始まるのだろう

 

「何にせよ進まなければ分からないわ。深月が転移した事から、個人の試練と考えた方が良いわ。バラバラに転移される可能性は極めて高いから注意しなさい」

 

ハジメと皐月を先頭に、ユエ達も続いて進む。そして、部屋の中央まで来たら案の定変化が起こった

 

「あ?・・・太陽?」

 

突然頭上に降り注いだ光は熱を持っており、太陽と錯覚させる程だ

 

「・・・ハジメ、皐月。周りが」

 

疑似太陽に視線を捕らわれた二人に、ユエが周囲の環境変化を注意する

 

「ダイヤモンドダスト?」

 

皐月の言葉通り、頭上から降り注ぐ光が氷に乱反射して視界を徐々に奪う。だが、天然物なら今現在体験している光量より少ない筈だ。徐々に光を強めるそれに対し、ハジメが全員に注意を促す

 

「・・・ダイヤモンドダストと称するには少々危険な香りがするな。全員、防御を固めろっ!」

 

皆が一塊に集まり、ユエと谷口が聖絶を展開した瞬間に閃光が駆け巡った

 

「うわぁ・・・まるでレーザー兵器ね」

 

「ライ〇ルビットの製作者、感想を一言」

 

「避けるのってめんどそう」

 

「それだけで済むのね・・・」

 

皐月の言う通り、宙に浮く小さな氷片が光を溜め込んでレーザーの様な熱線を放ったのだ。個人を狙う様な鬼畜な攻撃ではないものの、完全なランダム攻撃で結界を解除するわけにもいかない。状況は刻一刻と変化し、上空を覆う雪煙が徐々に降りてきており、ハルツィナ樹海の様に霧が視界を塞ぐ可能性も出て来たのだ

 

「チッ、煙に包まれるのは面倒だ。一気に駆け抜けるぞ」

 

「ん・・・鈴、合わせて」

 

「は、はい、お姉様!」

 

今までは出番がなかった谷口だが、ユエに結界の防御の一部を任されて気合が入る

ハジメの声に合わせて全員が何時でもかける準備をし、熱線が飛んでこない一瞬を狙って聖絶を盾状に変形させて皆の周囲に展開する

 

「行くぞ!」

 

ハジメの合図に合わせて皆が駆ける。出口がある門まで約数百メートル―――走る抜ける間に襲い来る熱線が障壁の壁を削るが、ユエと谷口が削られた傍から修復する。すると、前方に大型トラック大の氷塊が落ちる

 

ズズゥン!

 

落ちた氷塊は形を変え横一列で通せんぼする形となる。大きなタワーシールドを持ち、ハルバードを持った番人となりハジメ達を迎え撃つ

 

「定番っちゃ定番だな!」

 

ハジメがドンナー・シュラークで胸元の赤黒い部分を狙撃するが、タワーシールドで防がれる。昇華した力でさえ貫通しない事から頑強な盾である事が分かる。しかし、こちらにはチートが勢揃いしている

 

「うっりゃああああーーーーーーですぅううううう!」

 

「蹴散らしてくれるのじゃ!」

 

シアの炸裂スラッグ弾とティオのブレスで一体を撃破。防御を担っているユエと谷口は攻撃出来ないが、残りの者達も攻撃する。天之河の天翔剣・震を、香織が分解の砲撃を、雫が飛ぶ斬撃を、龍太郎が衝撃波を―――味方であるハジメと皐月に向けて

 

「「っ!?」」

 

天之河と坂上の攻撃はハジメへ、香織と八重樫の攻撃は皐月へと向かうが、二人は飛び退く形で攻撃を回避。尚、皐月は回避しつつシュラーゲンでお邪魔虫のゴーレムを粉砕する

 

「「・・・何のつもり(だ)?」」

 

地響きを立てて近づいて来るゴーレム達を放置する訳にはいかないが、皐月は宝物庫からフラッシュストライクの銃身に切り替えて撃ち振るってゴーレム達を切断して足止め。これでじっくりとお話しする事が出来る。尚、攻撃を放った当人達は呆然としており、我を取り戻すと同時に激しく動揺する

 

「ち、違う!俺は、そんなつもりなくて・・・気がついたら・・・ホントなんだっ!」

 

「あ、ああ、そうだぜ!南雲を攻撃するつもりなんてなかったんだっ!信じてくれ!」

 

「そ、そうなの!本当に気がついたら皐月に・・・何で私・・・あんな・・・」

 

「ごめんなさい、高坂さん!でも、自分でもわけが分からないのよ。敵を斬るつもりだったのに・・・」

 

必死に弁解する四人を見て、いつ間にか・・・それこそ無意識に誘導されたかの様な感じだった。しかし、これはあっさり解明された

 

「無意識化の干渉ね・・・。ゴーレムに攻撃しようとした時に何かが聞こえた様な気がする?からかもしれないわ。香織、回復魔法はどうなの?」

 

「わ、分かんない・・・」

 

「ユエは?」

 

「皐月、無意識化の解除はかなり難しい」

 

皐月が対策を考えていると、切断した筈のゴーレムが徐々に再生する

 

「回復が駄目、干渉も無理と考えれば・・・どうしようもないわね。でも、私とハジメだけが狙われているなら対処は簡単よ。これも試練なら、ノルマを倒して援護に徹すれば良いだけよ」

 

「全員死ぬ一歩手前までド突き回したらどうだ?」

 

「足手纏いが増えるから駄目よ」

 

古いテレビを直すかの如く提案するハジメに、四人の顔が青ざめるが皐月が却下する事で危機を回避する事が出来た。だが、皐月の案は今の状況下では最適だ。雪煙で完全に互いが見えなくなる事も考慮したとしても、ハジメと皐月ならフレンドリーファイア程度あしらう事が出来る

 

「ま、俺達以外に誘導されたら・・・ご愁傷様って事で」

 

雪煙も完全に降りて互いが見えない状態となるが、ハジメと皐月は背を合わせて一緒に行動する。途中でゴーレムが襲って来るが、シュラーゲンの一撃であっさりと倒して流れ弾を悠々と回避する。すると、目の前の雪煙が渦巻き始めて一つの通路が出来る。その先にはゴールの扉だった

 

「呆気ないわね」

 

「オルクスがそれだけ鬼畜って事だな」

 

時々来る流れ弾を撃ち払いつつ扉の前までゆっくりと歩いて行った

ハジメ達は全員ゴーレムを倒し終え、ゴールの扉前で天之河達を待つ。一番は八重樫で、残りの三人が続く様に倒し終えて香織の治療を受けた

 

「全員治療が終わったわね?とっとと行くわよ」

 

「お、おう。・・・だけど・・・なぁ?」

 

皐月の言葉に少々躊躇いながら返事を返すハジメだが、それには理由があった。試練を終え、光る扉の前で回復している最中に響く音と振動が気になっているのだ。恐らく深月が暴れた影響がここまで届いていると理解出来るのだが、何度も何度も響いているので少しばかり怖いのだ

 

「・・・コワイ・・・深月コワイ」

 

「あわわわわ!?どれだけの威力で攻撃してるんですか~」

 

「妾・・・あれでも手加減されていたのじゃな」

 

「王国の時よりも凄い轟音だよ・・・」

 

「覚悟決めて行くわよ。深月なら無意識化でも私に攻撃する事はありえないわ」

 

皐月はこの先の試練について予測は出来ている。恐らく転移させられ、自分自身の何かと戦うと推測する。だが、それを事前に伝える事は、試練とは言えない。特に、天之河達はこれといった活躍はしていないのだ

 

「・・・皐月の言う通り覚悟を決めるか」

 

ハジメが皐月の隣に並んで光る扉を潜る。ユエ達も覚悟を決めた表情で潜り、天之河達も潜った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界一杯に広がった光が収まり、皐月が目を開くと一人だけだった

 

「予想通り個別の試練。ご丁寧に通路まで用意されている事からこの先でしょうね」

 

しばらく警戒しながら進むと、大きな広場と天井と地面に一本の氷柱が繋がっている部屋に到着した

 

「さて、問答している時間も惜しいからさっさと始めましょう?」

 

『もう少し時間を頂戴よ。何せ私自身のお披露目なのよ?』

 

「・・・確かにドレスを着る時間は必要ね」

 

ドンナーはホルスターに収めて自身の影が出て来るまで宝物庫から出した椅子を二つ用意して座る。すると、氷柱から一つの影が出て皐月が用意した椅子に座る

 

『椅子をありがとう、私』

 

「自分の事だから直ぐに分かるわ」

 

『この試練の内容も把握している様ね』

 

「"己に打ち勝つ"だけなら簡単すぎるわ。大方、自分の負の感情に打ち勝てるかどうかでしょう?色々と目を逸らしていた私としては良い機会なだけよ」

 

皐月と影の皐月は、己を察してホルスターに収めているドンナー・シュラークを椅子の背に掛ける

 

『そう。私なら手を出すより言葉だと思っていたわ』

 

「深月から口酸っぱく言われているからよ。・・・この振動を聞いていると深月は地雷を踏まれたと分かるけどね」

 

『・・・この迷宮消滅しないわよね?』

 

二人の心配事は深月がこの迷宮をどれだけ破壊するかどうかだった

 

「取り敢えずこの話は置いておきましょう。話がズレるのは駄目よ」

 

『それじゃあ、本題に移りましょう。人間の皮を被った化物になったわね、私?』

 

「否定しないどころか否定なんて出来ないわ。ほら・・・魔物の肉を食べたり価値観がガラリと変わっちゃったからね。あの時は死と隣り合わせ、少しでも足を踏み外せば死―――そう成らざる得なかったわ」

 

オルクス大迷宮の奈落で生き抜く為には仕方がなかったと皐月自身思っている。そして、それからの在り方も後悔はしていない

 

『あぁ~あ、私だからこれを言った所で意味がないとは分かっているけど言わせてもらうわ。人殺しに忌避感を抱かなくなった私を見て、お父さんとお母さんや使用人達はどの様に思うかしら。明るく、誰とでも接していた頃の私とは違い過ぎる今の私。きっと化物と呼ばれ拒絶されるでしょうね』

 

優しい両親を思い起こしつつ皐月の答えは決まっていた

 

「拒絶されたら・・・まぁ、悲しいわ。世界中で拒絶されるかもしれないし、陰口を叩かれるかもしれない。でもね、そんな事で自分の人生を拒絶しないわ。以前の私も、変わった私もひっくるめて今の私の根幹なのよ。どれかが一つでも欠ければ今の私はないわ。今となってはたらればだけど、奈落に落ちたのが私一人だけで仲間が誰一人居なかったら・・・私は獣に堕ちていたわ」

 

『・・・正直、この試練って私は既にクリアしているわよね~』

 

「まぁまぁ、ここは全てを吐き出すには丁度良い場所だから付き合ってもらうわよ」

 

『ここは相談室じゃないのだけれど。・・・まぁ、私だからその程度問題ないわ』

 

ハジメが居たからこそ精神が完全に壊れなかった。深月が自分の事よりも己を心配して単身で探すという安心。ユエが居たから変わった価値観。最初はウザかったシアがどんどん変わる事の嬉しさ。ミュウが居たから己に子供が居たらこんな風に親馬鹿になるだろうと分かった。レミアから時折感じる両親の親心。変態龍と突撃娘も今は置いておく

皆が居たからこそ、注意したり注意されたり気付き合った事が何度もあった。それらを否定する事は、今までの人生全てを否定する事だ。皆が根幹に携わっているからこそ、今の皐月があるのだ

 

「私が拒絶される事も仕方がないわ。価値観は人それぞれ―――でも、その人の人生を馬鹿にする事は私が赦さない。それは人を拒絶する事、「自分ならこうする」なんて言う輩は経験した事が無いから言えるだけ。価値観の押し付けはその人を拒絶し、相手を想わない馬鹿と一緒よ。脳内お花畑が一番いい例よね。・・・あっ、もの凄く長く話しちゃったわね。ごめんね、私」

 

『まぁ、不満を溜め込む私としては吐き出す事が出来る場所の一つと言う事だから気にしていないわ』

 

肩を竦めた影の皐月は椅子から立ち上がり、出て来た氷柱へと戻る手前で止まって一言だけ忠告を送った

 

『言葉だけでの試練突破おめでとう、私。だから報酬として一つだけ忠告よ。深月の抱えている闇は私が思っているよりも大きく、ほんの少しの手違いで心が砕けるわ。皆と合流した後、光の先に居るから皆で受け止めなさい』

 

「・・・ありがと」

 

奥へと続く道を皐月は進み、影の皐月は氷柱へと帰った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

深月と影の男の拳がぶつかり、衝撃で氷壁にヒビが入る。常人がこの場に入れば吹き飛ぶ事間違いなしの災害の風が巻き起こっている

 

『その程度か?それではお嬢様は護れないぞ』

 

深月が魔力糸で男の手足の一部を縛ろうとするが、絶妙な角度で魔力をぶつけられてしまい当てる事すら困難。ハーゼン・ハウンドを抜こうとした瞬間には一瞬で懐に入られてしまう瞬発力。一撃一撃が重く、普通に受け止めてしまえば骨が砕ける威力だ。掠るだけでもヒビが入るが、それは再生魔法の常時再生で手一杯だ

 

『黙れば追及は無いと思っているのか?やはり、TS転生者とバレる事が嫌か』

 

魔力糸の槍を投擲。これも常人なら気付かない内に殺される凶悪な速さだが、影の男は手刀で真っ二つにする。手刀だけで真っ二つにした事に深月は驚愕したが、タネを理解した。薄く、頑丈、鋭いの三点特化の魔力糸の刃を作っていたのだ。自分よりも高精度に作られたそれが、より一層苛立ちを掻き立てる

 

『いや、案外気付いているかもしれないぞ?お嬢様を見てハァハァしたり鼻血を流したりと・・・自分で言っていて変態だこいつと思ってしまった』

 

お前は()ではない!

 

『おいおい、試練の内容は推測しているだろ?自分の負の感情、後ろめたさに打ち勝つ。そうだろう?現実を受け入れられないお前よりも()の方がよく働ける。僕としては()が優秀だ』

 

死ね

 

『おっと、その程度が予想出来ないとでも思っているのか?お前は()だぞ?』

 

いづっ!?

 

深月は、ハーゼンを取り出すと見せかけて無間と無音加速で一瞬で踏み込んで発勁を叩き込もうとしたが、影の男はひらりと躱した瞬間に膝と肘でプレスする様に深月の伸びきった腕に叩き込む。しかも、関節の肘を完全に破壊されただけに留まらず、再生阻害の為に関節の間に魔力糸の針を埋め込まれてしまった。深月は切り捨てて再生魔法をと思ったが、鳩尾に発勁をねじ込まれて視界がブレる

 

『教えはどうした?"心は熱く、頭は冷静に"―――今のお前とはかけ離れているぞ。あぁそうか、合流するかもしれないお嬢様に秘密をばらされたくないもんな?自分自身に勝てると思っていたか?仮想訓練で自分自身と戦ったつもりか?』

 

ダマレェエエエエエエ!!

 

深月は限界突破でステータスを上昇させる。しかし、相手は自分自身

 

『おいおい、こんな事で限界突破を使うのか?怒りっぽいなぁ』

 

深月は、憤怒を孕んだ眼で影の男に突撃する。熱量操作の電子レンジ掌底で相手を吹き飛ばそうとするが、相手も熱量操作で深月の手に干渉して無効化する。普段の深月なら対処される前提で動いているのだろうが、頭に血が上った状態ではそこまでの考えはなかった

 

『だが、弱い。弱すぎる』

 

陰の男は深月の右手を打ち払い、足の甲の骨を踏み砕き、頭を持って地面に叩き付ける。そして、そのまま氷壁へ投げ飛ばす

 

ガハッ!

 

深月は陰の男の迎撃一つで必ず何処かを壊される。それは容赦せず、相手を確実に仕留める為の行いだ。地面に足が着くと、衝撃を逃す事が出来ない体制での无二打が胸部に突き刺さる。胸骨を粉砕し、内臓をメチャクチャに破壊され、氷壁を砕いて広い場所へと吹き飛ばされた。薄れる意識の中、奥歯に仕込んだ神水の容器を噛み砕いて全回復する。怪我が完全に治るのは良いが、内臓を破壊された時の血は口の中に残り吐き出す

 

う"ぉえ

 

足元に血溜まりが出来るが、鈍い思考のまま横に転がる事で踵落としをすんでの所で躱す

 

『内臓のほぼ全てを潰したが、神水を使ったか。これで回復アイテムは無くなったぞ?』

 

陰の男はゆっくりと深月に近づく。しかし、深月とて黙ってやられているわけではなく、吹き飛ばされたこの広場全体に魔力糸を張り巡らせて罠を仕掛けている

 

ゲホッゲホッ!・・・・・絶対に殺すっ!!

 

陰の男が一歩一歩近づき、罠の起点に踏み入った。直ぐに罠を起動して極細の強靭な針を全方位から射出と、束縛の糸が殺到する。自身が流した血には魔力を流し込んで魔力糸の偽装をしているので確実に掛かったと確信があった。影だから血が出ない事、偽装が完璧だった事、油断を誘う為の仕草―――全てはこの時の為だったが、深月はある一点を忘れていた。この影は自分自身である事、感情と体力が違うだけなので同じ考えを持っている。つまり―――

 

『流石()だ』

 

その声と同時に激痛―――。影の男の腕が背後から胸部を穿ち、重要器官である心臓が掴まれていた

 

「な・・・ぜ?」

 

深月は息が出来ない中、血を噴き出す自分の心臓を見ながら罠が通用しなかった事だけが疑問をぶつける

 

()()だ。無限の体力と感情が違うだけのコピーに考えが見抜けないと何時から錯覚していた?()は頭に血が上って思いつきもしなかっただろう?』

 

「わた・・・し・・は・・・」

 

深月は薄れゆく意識の中、完全に手も足も出なかった事が悔しかった。徐々に冷える体でようやく自分が掌の上で踊らされた人形だった事に気付いた

 

あぁ・・・暗い。あの時と同じ・・・お嬢様と出会う前と・・・。そうか・・・()()に殺されたのか

 

目の前が真っ暗になり、薄れ行く意識の中で声が聞こえるが誰の声なのかも忘れて何も聞こえなくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

皐月は試練をクリアし、何故か争っているユエとシアと香織の三人に拳骨を落として説教。ティオと坂上と谷口と合流して、何故かハジメを襲っている天之河を見て盛大な溜息を吐いた

 

「うわぁ・・・駄々っ子じゃない」

 

頭が痛いとこめかみを指でグリグリとマッサージをして現実逃避をする。しかも、影と融合する馬鹿さが頭痛に拍車をかける

 

「みんな、来てたんだな。少し待っていてくれ。今、こいつを倒してみんなを解放してみせるから」

 

「なに言ってんだよ、光輝!どうしちまったんだ!正気に戻れよ!」

 

「光輝くん、しっかりして!倒さなきゃならないのは南雲君じゃなくて、自分自身だよ!」

 

「・・・南雲。まさか、既に龍太郎と鈴まで洗脳してるなんて。どこまで腐っているんだ。どこまで俺から奪えば気が済むんだ!あぁ、そうか。今、分かったよ。恵里の事も・・・お前の仕業なんだな?あんな風に豹変するなんておかしいと思っていたんだ。でも、お前が洗脳したんだとすれば全ての辻褄が合う」

 

「―――と、子供の様にハジメに八つ当たりをする脳内お花畑です。今から男の象徴を撃ち抜きま~す。大丈夫、香織の回復魔法で治療体制は万全よ!」

 

「止めろぉおおお!マジで止めろおおお!衝撃で死んじまうだろ!?」

 

男にとって一番物騒な事を実行しようとする皐月に、坂上が待ったをかける。流石に象徴潰しの死亡は洒落にならないし、想像してしまい危ないと感じたのだろう

 

「えぇ~、私はハジメの正妻なのにも関わらず自分の物にしようとするNTRお花畑を攻撃するだけよ?当然の反撃よ。それとも何、坂上君はNTRが正しいと言うの?」

 

「そんな事は言ってねぇよ!?ただ単にあそこを攻撃するのは勘弁してやってくれってだけだよ!」

 

そんなこんなしていると、ハジメが天之河の胸倉を掴み上げてグーパンで殴って気絶させた。ハジメには一切外傷無く、天之河はズタボロである。相手の力を理解しない者の末路のいい例だ

 

「ふぅ・・・、どうやら深月以外は全員無事だな」

 

「さて、脳内お花畑の治療は最低限で先に行くわよ」

 

「・・・待って、深月は?」

 

ユエの疑問も最もだ。試練の場所は此処で、先は出口だけだ

 

「実は言うと、私は影と戦闘をしていないのよ。お話しだけで済んだご褒美として、深月が居る場所を教えてくれたの」

 

「えっ!?あの影を口撃だけで退けたんですか!?」

 

「いやいや、口撃していないわよ。今の私は皆が居たから!拒絶?否定?それは私の人生だけでなく、皆も否定する事になるのよ。両親に拒絶されるかもしれない、周囲から否定されるかもしれない。・・・でも、後悔何てしない。今を全力で生きる事が歪んでいる?それは価値観の違いだけよ。体験した者と体験しない者の差だから、押し付けなんてしないし、押し付けられる事もしないわ」

 

「そ、そうか。・・・皐月は凄ぇな。俺でも少しは気にしているぞ」

 

「令嬢ともなると、人間の闇の一端を垣間見る事があるのよ。だから価値観が違うのよ。学校での私はかなりはっ茶けていたのよ?息苦しいあんな場所よりも一息付けるの。・・・・・それよりもさっさと行くわよ」

 

皐月を先頭に、遅れてハジメ達が潜る。そして、最初に目に入った光景の輪郭はメイド服だった

 

流石深月、もう終わらせたのね

 

徐々に眼が慣れるが、皐月は違和感を感じた。それは、深月の足元を中心に広がる何か

 

何・・・この違和感?深月は先回りして試練をクリアしたのよね?闇で弱った心を私達が受け止めるだけじゃないの?

 

皐月は影が言っていた事を振り返る。光の奥に深月が居ると言っていた。徐々に色付く光景に最悪の事態を想定しておらず、一瞬硬直してしまった

 

「え?」

 

深月は皐月達の方に向いているのは分かっていた。だが、胸部を穿たれ血だらけとなったメイド服と、地面に広がる大量の血に理解が追い付かなかった。思考が正常に動き始めたのは、後からハジメが潜り出て皐月にぶつかった時だった

 

「深月を放せええええええ!!」

 

いつもなら冷静な皐月がいきなり叫ぶ雄叫びと、殺気がハジメ達に伝わった。明らかに異常事態だと理解したハジメ達が急いで光を潜り出ると、赤いオーラを迸らせた皐月が飛び出す姿と、胸部を穿たれて血まみれの深月の姿だった

 

「クソッタレッ!!」

 

深月なら、規格外だから、強いから―――なんて油断していた己に舌打ちしながら、ハジメはドンナー・シュラークを構えて影の頭に向けて撃つ

 

ドパンッ!

 

計十二発の弾丸が跳弾して全方位から襲うが、弾は着弾する手前でピタリと止まった

 

『放せと命令されてしまえば、そうせざる得ないです』

 

影は皐月の言う通り、素直に腕を引き抜いて深月を開放する。皐月は血溜まりに倒れ伏した深月を抱き起して神水を飲ませ、穿たれた胸部に掛けて治療する。損傷は治ったが、心臓が動いていないので纏雷の電気ショックと人工呼吸で蘇生を試みるも目を覚まさない

 

『羨ましい。お嬢様の人工呼吸とか最高だな~』

 

ジーっと見つめて羨ましがる影の男に苛立つが、深月の蘇生させる為に手を止めず無視する

 

「深月しっかりしろ!」

 

「深月!」

 

「死んじゃ駄目ですよ深月さん!」

 

「目を覚ますのじゃ!」

 

「早く起きて!」

 

ユエとティオが魂魄魔法で深月の魂が体の外に出ようとするのを防ぎ、香織は回復魔法を、シアは心臓マッサージ、皐月が人工呼吸、ハジメが影の男に銃口を向けて警戒をする

 

「てめぇ、何者だ?解放者の影か?」

 

ハジメが影の男に殺気をぶつけるも全く動じておらず、むしろどこ吹く風の様な態度に苛立ちが募る

 

「ごほっ」

 

深月の口から大量の血が零れ、小さな呼吸で徐々に回復している事が分かった。皐月はドッと疲れた様子で地面に座り込んでいた。だが、殺意は男の影に向けたままだ

 

『さて、今ならどんな質問にも答えちゃうよ!さぁお嬢様、どんどんと疑問をぶつけて下さい!』

 

ハイテンションな影の男に警戒しつつ、影の自分から教えてもらった情報を元に問う

 

「深月の闇は大きいって私の影から聞いたけど・・・それはどういう事?」

 

『う、う~ん・・・いきなり核心に迫っちゃうのか。でも答えちゃう!お嬢様だから仕方がないよね!』

 

ハジメ達は警戒を緩めず、一々オーバーリアクションをする影の男の一挙一動にイラつく

 

()()()()。DNAは違えど魂は同一人物―――故に、影の深月である!』

 

「よし、嘘吐くあんたは死ね」

 

()は嘘つかなーい。お嬢様相手に嘘つくなら首吊りまーす。でも、欲望に忠実な影なので自殺は拒否します』

 

ハジメ達は、「こいつはうぜぇ」と口漏らす

 

『ユエは他所様のお家で意味深な事をする痴女ですねぇ』

 

「コロス」

 

『シアは・・・時々うっかりをやらかすポンコツ臭ウサギですぅ』

 

「ツブス」

 

『変態は変態である。淑女になろうとも、陰では変態。―――フッ』

 

「ナンジャト?」

 

『むっつりスケベな突撃娘は・・・うん、もうちょっと周りを気にしようか』

 

「ナマスギリヲゴショモウカナ?」

 

ミレディ以上に煽る影の男に、ユエ達が戦闘態勢に移行する。しかし、ハジメが深月の試練だからと言って中断させようと制そうとしたが

 

『ハジメは中二病を再び煩わせた最強の自分を体現した格好で恥ずかしくないの?「くっ、静まれ俺の左腕!」「我が邪眼を封印する眼帯を開放する時が来たか」―――どう?痛すぎる!痛すぎて自分で精神ダメージを負うとか恥ずかしい!いつか、「俺は容赦はしない・・・魔王だからな」とか言ってそう!そして、子供に自慢して被虐するぅ~』

 

「ウボァ」

 

ハジメは、殺気を叩き付ける事も出来ない程の口撃に四つん這いでエクトプラズムしてしまった

 

『八重樫さんは勇者として活動したら、吐血勇者の称号を得るのに』

 

「吹っ飛ばすわよ?」

 

『のうき―――坂上は脳筋』

 

「うっせえ!」

 

『谷口さんは・・・お友達を見捨てよう!』

 

「見捨てないよ!」

 

これで唯一被害を逃れているのは皐月だけとなった。尚、天之河は気絶しているので何も言われていない。冷静な皐月は、影の男が言った事が理解出来ておらず考察に必死だ

 

私は俺で俺は私?どういう事なの・・・。二重人格?幼少の頃に人格が現れた?でも、それなら影が深月でないとおかしいわ。あれは男・・・、女ではない。意味が分からないわ

 

皐月が頭を悩ませていると、ハジメがようやく回復して立ち治った

 

「くそっ、とんでもない口撃してきやがって!」

 

『思った事を述べただけですー。良識なお嬢様は何時だって最高ぅ~!それすなわち愛です!!―――あ、敬愛ですよ?』

 

ハジメ達は手を出さず影の男が出したヒントを元に推測をする。しかし、殆どが二重人格であると推測する。だが、それならば男の影なのが矛盾する

 

『全く、誰も分からないのですか?』

 

影の男は影の女・・・深月へと変化する。その瞬間、ハジメはこの疑問のピースがピタリと嵌った。それはファンタジー小説では定番の事だった

 

「・・・おい、お前は深月で間違いないんだな」

 

『そうですよ?』

 

影の深月は男に戻った。これでハジメは影の正体を確信した

 

「性転換手術なんてちゃちなもんじゃねぇ。性転換だな?もしくは、TS転生か?」

 

「え?」

 

皐月は理解したが、ユエ達は理解していない様子だった

 

『大正解!いやはや、流石オタクのハジメですねぇ。あ、お嬢様一言感想をお願いします―――の前に、絶望した()の表情。秘密にしていた事をバラされてどんな感じ?声を出せず、動く事も出来ない状態で元男とバラされてどんな感じ?』

 

ハジメ達が深月を見ると、顔を真っ青にして過呼吸に陥っていた。影の男は再び影の深月に戻り、へし折った深月の心に追い打ちをかける

 

『気持ち悪いよね?元男が必死に女を演じ、完璧なメイドとして本性を出さない様にして頑張った。でも、大事なお嬢様にバレてしまった。仲間にもバレてしまった。あぁ、哀れな()はもう離れるしかない。そう、ハジメさんにはお嬢様と言う特別が居るし、お嬢様にはハジメさんと言う特別が居る。大量殺人者かつ、TS転生者の気持ち悪い私は不要です。心に決めていたでしょう?バレたら嫌われ者になって一人で死ぬと。さぁ、死にましょう!』

 

拙い・・・深月の闇がここまで大きいなんて予想外だったわ

 

皐月は深月の秘密を知り、一人だけの問題では済まない事に少しだけ表情を曇らせてしまった

 

『お嬢様の表情が曇ったよね?嫌われちゃったよね?だから、自分の手で幕を引くか()で引くか選ばせてあげる』

 

皐月はギョッとして深月の顔を見ると、蒼白な深月が全てを諦めていた。生きる事も、拒絶する事も、何もかもだ

 

「み、深月・・・。大丈夫よ?私はちゃんと受け入れ―――」

 

『でも、お嬢様は答えを詰まらせた。心の何処かで拒絶しているかもしれない』

 

「ちが―――」

 

()なら分かるだろう?お嬢様が冷や汗を流して表情を歪ませた事を』

 

「違うって言ってるでしょうが!!」

 

スガンッ!

 

シュラーゲンの最大威力で影の男を撃つが、片手で軌道を逸らすというぶっ壊れ技で無傷で対処されてしまった

 

『びっくりしましたよ』

 

「軌道を逸らすって・・・どんなぶっ壊れよ」

 

『お嬢様、()は死んだ方が良いですか?その場合、()は殺しますがね?』

 

「はっ!殺させるわけないでしょ」

 

『首筋に手刀を当てているのに?』

 

気付けば、気配の無い影の深月が深月の首筋に手刀を突き付けていた

 

()だけずるいですよね。お嬢様にクンカクンカスーハースーハー出来て羨ましい』

 

いきなり現れた声に、皐月を除いたハジメパーティーの全員が攻撃しようとしたが、体の四肢を無色透明の魔力糸で拘束されて動かす事も出来なかった

 

「うっしゃおらあああですぅううううう!」

 

しかし、バグウサギになったシアだけは常人程度の早さではあるがドリュッケンで叩き潰そうとする

 

『ウサギは人参を食べてお寝んねしようね?』

 

「ッ!?しま―――ウゴゥェッ!?ンゴォオ!オ、オゴォ・・・」

 

ご丁寧に氷で出来た人参を口に突っ込まれて気絶してしまった。酷過ぎる所業にハジメ達は心の中で黙祷する。しかし、これで終わらないのが深月クオリティー

 

『さぁ、三人も一緒にどうぞ』

 

『影とはいえ、渾身の出来の麻婆です』

 

「やめろぉおおお!んぐっ!?」

 

「麻婆・・・うっ、あた―――おぶっ!?」

 

「シニタクナイ!シニタク―――もごっ!?」

 

拘束されて動けないユエとティオと香織の口に突っ込まれた影で再現された劇物の麻婆が意識を強制的に奪った

 

『さぁ、次はハジメとお嬢様以外のお三方です』

 

『大丈夫ですよ?美味し過ぎて気を失うだけです』

 

気付いたが、時すでに遅し―――少しだけ開いた口の中に麻婆を放り入れられてしまった。これで残りはハジメと皐月だけとなった

 

『麻婆は良いですよ?』

 

『ハジメさんも麻婆の海に浸かりましょう』

 

「常人にそんな劇物を食わせるな!」

 

『とまぁ、おふざけもこの辺りにしておきましょう』

 

()を殺せないから離れて下さい』

 

先程までと打って変わり、冷徹な殺気が二人を襲う。今まで深月の殺気を感じた事はあるが、ここまで冷たい殺気は初めてだ。皐月は危機的状況を打破しようにも、深月と同性能の影二体を相手すると思うと勝利への道筋が完全に断たれている事に苦虫を嚙み潰した様な表情をする。しかし、そんな皐月を置いてハジメは冷静だった

 

「・・・どうしてそんなに必死で深月を殺そうとする」

 

『拒絶されたから死ぬだけ』

 

『気持ち悪いから死ぬだけです』

 

どうしよう・・・手詰まりのこの状況をどうやって打破すればいいの?逃走しようにも出来ないし、戦力が私とハジメだけなのも駄目よ。深月が二人と考えると可能性が限りなく0%じゃない

 

皐月が色々考えていると、ハジメが動いた

 

「・・・そうか」

 

『ハジメも気持ち悪いと感じているだろう?』

 

『変態だと思っているでしょう?』

 

ハジメは深月の傍に移動し、丁度良く皆の意識がようやく戻った

 

「酷い目に遭った・・・」

 

「ウサギでも普通のご飯を食べますよ」

 

「もう麻婆は勘弁なのじゃ」

 

「一度だけ食べてて良かったよ・・・」

 

「油断していなかったけど・・・少量で意識が飛ぶとは思っていなかったわ」

 

坂上と谷口を除いた皆が意識を取り戻しても、直ぐには動けない程の重傷となっていた

話は戻り、深月の隣に膝立ちしたハジメは、皐月に断りを入れずにそのまま深月を抱き締めた

 

「深月、お前は本当に自分が要らないと思っているのか?」

 

「・・・私は隠し事をしてました。溝が出来るなら私は・・・」

 

ハジメは、初めて出会ってから今まで泣いた事が無い深月が泣いていると肩越しからでも感じる事が出来た。奈落の底で皐月と合流した時から、何かしらの出来事で離れる事を嫌うと分かった。最近はすっかりと形を潜めていたのでそう思わなかったが、それはブレずに綱渡りが出来ていたからだった。先入観で深月はアザンチウム製のメンタルだと思っていたが、蓋を開けてみればそんな事はなかった。地雷と言う部分を突かれてしまえばヒビが入り、綱から落ちてしまうと分かったのだ

ハジメは深月の肩を掴んで一度真正面から向かい合うと、その表情はズタボロで、ボロボロと涙を零していた

 

『ほら、ハジメも()の肩を掴んで離し―――』

 

「皐月」

 

「了解!」

 

ズガンッ!

 

皐月はハジメとのアイコンタクトでシュラーゲンを二体の影に放って深月の心を腐食させようとする言葉を塞ぐ

 

「深月、―――好きだ!

 

「・・・え?」

 

皐月以外の全員が( ゚д゚)ポカーンと、ハジメのいきなりの告白に着いて行けなかった。ハジメは周囲なんてお構いなしで深月にキスをするという追撃を行う。普通の浅いキスではなく、大人の深いキス―――流石の深月も思考がショートしてなされるがままだ

 

「チュ、ジュル、プハァ―――」

 

これには泣き顔だった深月もオロオロとして新鮮な光景だ

 

おぉう、分かってはいたけどいきなりディープキスなのね。深月は・・・オロオロしてるわ。あそこまでテンパっているのは初めて見るわ

 

『お、あわわわわわ!?()がディープキス?元男ですよ?えっ、正気?』

 

『いえいえいえいえいえいえ!これは夢ですよね?(ヾノ・∀・`)ナイナイ、惚れる要素が一欠けらも無いんですよ?・・・えっ?マジですか!?』

 

「俺の告白に茶々入れるんじゃねえ!」

 

『『あっ、はい。すいません』』

 

深月の負の影なのに聞き分け良いわね!

 

「えっと・・・あの・・・」

 

もの凄くオロオロとしている深月に、ハジメは怒涛の如く攻め立てる

 

「深月がいけないんだからな!俺がメイドスキーなのを知ってて誘ってるだろ!一つ一つの動作がエロいんだよ!俺のデザインしたメイド服を躊躇い無く着るのもそうだし、俺が近くに居るにも拘らず着替えるとか生殺しだろ!」

 

「え・・・いや・・・着替える場所が無かったのですが」

 

「シャラップ!深月の場合は素かもしれないが、気付いていない所で遠藤の好感度を爆上げしてんだぞ!?深月に褒められるとか羨ましいんだよ!俺だって深月という完全無欠のメイドに褒められてぇんだよ!皐月じゃなくて俺のメイドになって欲しい位だよ!!」

 

「ちょっとハジメ!深月は私の僕なのよ!?引き抜き駄目、絶対!」

 

「ちょっと位良いだろ?メイドの膝枕にメイドの耳搔きとか体験したいんだよ!

 

「欲望駄々洩れ!私じゃいけないの!?」

 

「皐月も良いが、深月みたいなエロさが見え隠れするメイドにしてもらいたいんだ」

 

『『へ、変態だー!?』』

 

影の二人がハジメの欲望に素のツッコミを入れるが、ハジメは見逃してはいない所にツッコミを入れる

 

「お前等も欲望まみれだろ!口では膝枕が羨ましいとか言ってたくせに、皐月のお尻とか胸とか髪を見て内心興奮していただろ!」

 

ハジメのこの言葉に、影二体は明らかに動揺した

 

『な、何を言っているのかな~?そ、そそそんな不敬な事オモッテナイヨー』

 

『そうですよ!お尻(お胸)に顔を埋めたいなんて思っていないですよ!』

 

「おい、本音も建前も煩悩まみれだぞ」

 

『・・・そ、そう!これは本人の欲望を曝け出しているだけです!』

 

「明らかに一つの人格と確立してるのにそれを信じろと?はっ!影の深月ならその程度の常識をぶっ壊すだろうな」

 

ハジメの言葉を聞いた皐月達は、「あぁ、確かにそれはありそう」とジト目を向ける

 

「まぁ、そう簡単に死を選ぶなって事だよ。皆だって深月が死ぬのは悲しいもんな?元男?今は女だし、そんな事気にしねぇよ」

 

ハジメがユエ達に問いかけ、皆が微笑みで応える

 

「深月が元男。でも今は女。全部をひっくるめて深月だから問題なし」

 

「そうですよ~。深月さんが居なければ・・・その先は地獄です」

 

「人によって価値観は違うのじゃ。しかし、深月は深月じゃろ?男の感情があろうが無かろうが関係ないのじゃ」

 

「男の人の感情があっても、今は女の人だから何も問題ないよ?」

 

「香織はいつも通りの残念として、神楽さんがそんな事で迷っているなんて意外だったわ。前世持ちの現代人も居るでしょ?少しばかり価値観が違うだけでしょ」

 

ユエ達は全く気にしておらず、肝心の皐月はと言うと

 

「えっとね、私が答えが詰まらせた理由は・・・影が酷い事ばっかり言うろくでなしと感じたからよ?」

 

『『よし、オリジナルはブチコロス。その次はもう一人の影でろくでなしも合わせて二人だ(です)』』

 

影の殺意がマシマシとなり、ユエ達は何やってるの!?と皐月にツッコミを入れたかった。皐月本人は相手を怒らせる事はしていない筈だと思っていた

 

「ほらな?深月の前世が男だろうと、皆は今の深月を見ているんだよ。だからとっとと終わらせて来い。俺達は深月を信じているからな!」

 

「ぷっ、今まで悩んでいた私が馬鹿みたいですね。―――しかし、今はその馬鹿になる方が良さそうですね」

 

うん、吹っ切れたわね。だったら、私が言う事はただ一つ

 

皐月は深月に命令を下す

 

「深月、命令よ。主は私とハジメの二人よ。あんな影なんて撃滅しなさい!」

 

「あの変態のろくでなしの影二体をぶっ潰せ!」

 

「はい!」

 

涙目は消え、呪縛と受難から解放された深月は、己の影二体と真正面から向き合い相対する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「遂にメイドさんを縛る鎖が弾け飛びました!限界を超えた先の更なる限界へいざ行かん!」





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影とお別れ。メイドはいつも通りです

布団「お待たせしましたぁ。メイドさんが無意識でチートを覚醒します」
深月「限界突破以上の強さを手に入れますよ!」
布団「知ってる人は多いと思うの。でも、深いツッコミは入れないでね?」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」





~深月side~

 

己の影二体と相対する深月の心境は、晴れ晴れとしていた。長年の憑き物が落ち、縛られた精神が解放されたのだ

 

ふふふ、前世と今世を含めて告白されたのは初めてですね。しかも、私が今まで気にしていた事も全て無駄になりました。本当の仲間とはこういう者なのですね

 

コツコツと歩いて近づく深月を見て、ハジメ達は少しだけ心配する。闇が晴れたとはいえ、自分を圧倒していた影が二体。絶望的状況なのだが、どことなく今の深月ならどうにか出来ると思っている

 

『はぁ・・・皆が()を受け入れても、他の者達まで受け入れてくれる可能性は低いんだぞ?』

 

『それに、先程まで手も足も出なかったのに勝てるとお思いですか?』

 

影の二体の言う通りだが、全てが軽くなった深月は影が己にどうにか出来るイメージが湧かなかった。初めての感覚に戸惑うが、いい意味の戸惑いだった

 

「そうですね、確かに私は影一人相手にするだけでも手も足も出ませんでした。ですが、今は何と言ったらいいのでしょう・・・負けるイメージがまるで湧かない。今までは可能性が限りなく0でも湧いていたのにも関わらず、今は湧かない。私自身も戸惑っています」

 

『矛盾は!』

 

『意味がありません!』

 

影の身体がブレた瞬間、深月の両端から无二打が迫る。そんな中、深月は目を閉じて慌てた様子もなく佇んでおり、ハジメ達はつい援護をしようとした

 

『な!?』

 

『に!?』

 

影のが放った无二打は、深月が"ゆっくり"と拳の横に手を添えて軌道を逸らす。直後、流れる形で片足を軸に90度回転して膝高に片足を上げる事で影二体の水面蹴りを受け止める。そこから深月は猛攻を防ぐ

 

「皐月!」

 

「ハジメさん!」

 

咄嗟にユエとシアが援護をしようと二人に声を掛けるが、当の二人は深月の動きが明らかに異常であると気付いた

 

「いいや、援護は要らない」

 

「あ、ははは・・・ここまで違うの?」

 

「「「「?」」」」

 

ユエ達は、「あれを見て援護が要らないの?」と疑問に思っていると、八重樫が食い入る様に深月の動きを見て呟いた

 

「ほんと・・・才能に恵まれているわ」

 

「雫ちゃん、どういう事?」

 

香織が答えを知っていそうな八重樫に尋ねる。ハジメと皐月も異常ではあるが、理由が分からない為耳を傾ける

 

「私のお祖父ちゃんが言っていたわ。技術があるに越した事はないが、真に強いのは考えるよりも先に最適解を導いて動く体だと」

 

「???・・・つまりどういう事?」

 

流石の皐月も八重樫が言っている事が理解出来ず、頭で?が大量生産されていた

 

「私だってそこまで知らないわ。だけど、神楽さんは間違いなくその領域に居るという事よ」

 

「取り敢えず、いつでも援護が出来る様に戦闘態勢のままにしておくぞ」

 

踊る様に避け、受け流し、逸らしと直撃を防ぐ深月

 

『何故当たらないのですか!』

 

「何となく分かるのです。と言っても、気付いたのは攻撃された後ですがね?」

 

『後から気付く?・・・・・身勝〇の極意か!』

 

「・・・・・あぁ、そういえばそんな状態の名前がありましたね」

 

ハジメ達は身勝手〇極意って何?と意味が分からず首を傾げている

 

『この熱量に攻撃出来ずとも防ぐ・・・兆の状態ですか!』

 

「深い・・・落ちる・・・感じる・・・」

 

『っ!?完成形に移行するのか!?早過ぎるぞ!』

 

影が焦りで攻撃の密度を上げるが、深月はその全てを悉く防ぎ、更に感覚は鋭くなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

底無しの海に沈むかの如く、雑音が消え、必要最低限の動きだけを導く。感知系の技能だけで防ぎ、より深く落ちる。すると、底に着いたのか、分厚い板の目の前に立ち止まる

 

行き止まり?でも、違う?分からないけれど・・・ここが行き止まりではないとどことなく感じる。周りには・・・誰でしょうか?影・・・自分ではない誰かの影。分からない、誰なのか分からない。会った事があるのに思い出せない。貴方は誰?

 

板の隣に居る影は、深月を見つめたまま何もしない

 

あぁ、このままここに居たい。けれど、お嬢様達が待ってい・・・る?

 

深月は再び影を見ると、影の人数が増えていた。一人だったのが八人まで増えていたのだ

 

・・・あぁ、そういう事なのですね。では、行きましょう!

 

深月が一歩近づいた瞬間、板が開く。いや、板は扉だった。そして、肝心の影の正体は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

影と深月の攻防は永遠の如く続き、痺れを切らした影が一度後退する

 

『こうなれば・・・諸共に粉砕する!』

 

『・・・お嬢様には当ててはいけませんよ?』

 

『当たり前だろう?』

 

この時、ハジメ達に悪寒が走った。あのストナー〇ンシャイン事件と同じ部類だった。一塊になろうとしたが、相手の一手の方が早かった

 

『この勝利はお嬢様の力の為に!』

 

『この手が真っ黒に染まり、勝利を捥ぎ取る』

 

深月の手を引こうとも間に合わない距離に、ハジメは舌打ちをした

 

『『暗黒―――石破〇驚拳!!』』

 

滅茶苦茶な名前だが、威力は絶大なそれが二つ放たれ融合。一つのどす黒い大きな拳となって一直線に深月へと襲い掛かる

 

「「「「「「深月!」」」」」」

 

ハジメ達が深月の名前を呼び、どす黒い大きな拳が深月に着弾すると思った。だが、結果とは違いそれは掻き消えたかと思ったら、二体の影の後ろに銀色に輝く人影の手に掴まれていた。少しの衝撃だけで爆発するだろうそれは、銀色に輝く人影が指でトンと叩いただけで消失した

 

『このっ!』

 

『なめるな!』

 

影の拳が銀色に輝く人影に放たれるが、直撃する瞬間に避けられた。しかし、それだけには留まらず、複数の打撃音と共に二体の影が大きく仰け反った

 

『『ぐはっ!』』

 

ハジメ達は何が起きているのかが分からず、ただ茫然と見ているだけだ。銀色に輝く人影に変化が訪れ、体に纏わりついていた光が剝げ、深月が姿を現した

 

「私は心の何処かで、仲間は必要ないと思っていたのです。ですが、今なら―――今だからこそ分かる。仲間は共に支え合い、共に生きる大切な者達だと。そして、私の仲間を殺そうとした私の影。遺言は聞きませんし、いたぶろうともしません。ただ一つ、一撃必殺を持ちまして終わらせます」

 

『調子に乗るなオリジナル!』

 

「先ずは一人」

 

空間魔法と重力魔法で圧縮した空間同士を連鎖爆発させようとした影の男に一瞬で近付いて頭部を粉砕

 

『それを待っていました!』

 

影は深月の勢いが死んでいない状態でピンポイントバリアパンチ(魔力最大出力)を放つ。しかし、両手で防がれたかと思うと、左右に弾かれて魔力そのものが消失した。その瞬間、深月の膝から魔力糸で作られたドリルで真っ二つに抉り飛ばされた

 

『・・・あぁ、勝てなかったのですか。オリジナル、貴女の勝ちですよ』

 

影は霧の様に消えた。完全勝利―――凄まじい力での圧勝に、ハジメ達はまるで自分が勝利した様に喜んだ

 

「あっ、いっづぅ!」

 

直後、銀色の光が霧散した深月に待っていたのは魔物肉を食べた時以上の激痛だった。まるで溜まりに溜まった衝撃が濁流の様に体中を駆け巡る。今まで体験した事のない領域での短時間戦闘でも、これ程まで体を酷使している事を考えれば多用する事は出来ない。いや、そもそももう一度この領域に入る事が出来るとは言い難かった

皆が深月に駆け寄りったハジメは、何も言わずに肩に手を回して深月を支えてユエの再生魔法と香織の回復魔法の二重の治療が行われる

 

「・・・皐月、氷血晶を取り出して。再生に集中する」

 

「どうして・・・回復魔法でも直ぐに治せないなんて」

 

「二人の再生と回復合わせてすぐに治療出来ないって嘘でしょ!?」

 

二人の治療でも直ぐには回復しない状態の深月に皐月は驚愕する。しかし、あの戦闘をほんの少しでも見ていたからこそ分かる。見えない速度での移動と攻撃、最低限の動作での回避等々。ハジメ達が相手の攻撃一つでも直撃してしまえば最後と言っていい程の攻撃。深月がどうやって捌いていたのかは当の本人以外は不明である

 

「あの身勝手〇極意?という状態からの積もりに積もった疲労が一気に圧し掛かったというところね」

 

「あぁ、あれを見てたら絶対に相手したくねぇと思ったな。衝撃だけで骨が折れる可能性があり、ロングショットでも捉えられない動きは無理だ。限界突破状態ならなんとか見える程度だろうな」

 

「私も身体強化と再生魔法で底無しで動けますが、あの攻撃を直撃したらと思うと・・・流石にお陀仏ですぅ」

 

シアも物理オンリーのチートだが、その耐久値を軽々超える攻撃の嵐には絶対に耐えられないと口漏らす

話は戻り、数十分に及ぶ治療で深月はようやく回復した

 

「さて、深月も試練をクリアしたから先に行きましょう。―――――と言いたかったけど、皆まで言わなくても分かってるわよね?」

 

「余裕」

 

「当たり前です!」

 

「こればかりはのう・・・」

 

「仕方がないよね」

 

「自業自得としか言えないわ」

 

深月と気絶している谷口を除く女性陣がハジメをジト目で睨む

 

「・・・どうかしたのか?」

 

ハジメはどこ吹く風のご様子でスルーするが、欲望駄々洩らしたハジメに味方は居ない

 

「深月を支えたのは紳士よね」

 

「仲間だから当然―――」

 

「でもね?内心で、「メイドを支える俺、マジ主人の鏡。後でご奉仕をしてもらおうか」というのは最低よ?」

 

「言い掛かり―――『メイドのご奉仕を想像しつつ興奮したからな』・・・・・待て、何で俺の影が居る!?」

 

皐月達女性陣の後ろに居た影がいきなり現れている事にハジメは驚愕する。しかし、影はハジメだけではなく、皐月の影も勿論の事、ユエ、シア、ティオ、香織の影達も居た

 

『確かに試練は終わったわ。でも、もう現れないと何時から錯覚していたのかしら?そして、ユエ達の影が居るのは私が誘ったの。因みに、ハジメの影を連れてきた理由は、面白そうだったからよ!』

 

もの凄くマズイと感じたハジメは、もう一度影をぶちのめそうと駆け出す。しかし、ユエ達の連携によって拘束され、宝物庫までも没収されてしまった

 

「さて、ハジメは深月にどんなご奉仕をさせるつもりだったのかしら?」

 

「ごらあ!喋んじゃねえ!!」

 

『すまないな、俺。影とはいえ、こっちも脅されているんだ。ありのままを伝える他ない』

 

「俺の影だろ!?抵抗しろよ!!」

 

『はっはー!俺には悪いが暴露してやるぜ!―――メイドのご奉仕なんて決まってるだろ?意味深だ!あわよくばスカートの中に頭を突っ込―――』

 

最後を言い終える前に、ハジメの影は皐月達の影にタコ殴りされて消えた。この場に残ったのは両方を合わせた重圧だった

 

「そ、そうだ!これは罠だ!試練の罠だ!!」

 

ハジメは必死になって周囲を説得する。だが現実は無慈悲だ

 

「ハジメの判決は」

 

『ギルティ』

 

何処で何をされるかは分からないが、ハジメは酷い目に遭う事が確定した

 

「ハジメのあれについては置いておくわ。早く奥に進むわよ」

 

皐月が皆を促して奥へと続くであろう光を潜ろうとする

 

「ご主人様達よ、少しだけ待ってくれんかの?」

 

「私もティオと同じだよ皐月それとハジメくん。ちょっと待って」

 

ハジメと皐月が振り返ってティオと香織の顔を見ると、とても真面目な表情をして一世一代の告白をする眼をしていた

 

「それで?何が言いたいの?」

 

皐月の念話が飛んで来たと同時に、二人は仲良く奇麗な土下座をして額を地面に擦り付けた。この様子を見たユエ達はギョッと目を剥いて驚いた

 

「ご主人様達、妾は間違っておった。すまなかったのじゃ」

 

「今まで本当にごめんなさい」

 

「何について謝っているのかしら?身に覚えが多すぎてどれがどれか分からないわ」

 

変態による後処理と突撃娘の弊害のフォローに奔走する事多々あった。本当に多すぎて分からないのだ

 

「出会った後からの問題行動全てじゃ」

 

「私は・・・高校に入ってからの事全てです」

 

ティオはともかく、香織は高校に入ってからという事に八重樫は物凄く驚いていた。あの突撃娘が反省と言う言葉を遂にと言った感じだ

 

「そ、それでなのじゃがな?」

 

「これから先は念話でも良いかな?」

 

「ちゃちゃっと終わらせてよね」

 

(その・・・今まで気づかなくてすまなかったのじゃ)

 

(自分の事ばかり考えていてごめん)

 

(・・・それで?何を言いたいの?)

 

ティオと香織からの謝罪の言葉ばかりに、皐月は溜息を吐いて本題に切り替える

 

((側室でハーレムに入れて下さい))

 

真っ直ぐな答えだ。最近まで、「正妻になる!」と言っていた二人がここまで落ち着いている事に皐月は疑問を覚える。誰かが告げ口した可能性があるのだが、ユエとシアと八重樫に釘を刺しているし、他人にはバレる可能性は限りなく少ない

 

(どうして急に心境を変えたのかしら)

 

(香織よ、先ずは妾からじゃ)

 

(どうぞ)

 

皐月の問いに、ティオから答える

 

(変態の時の妾は自分だけしか見ておらなんだ。しかし、深月の淑女教育を経て全体を見渡してからようやく気付けたのじゃ。ご主人様は妾達にもチャンスを与え、それを物に出来るかだけじゃった。気付くまでには空回りしておっただけじゃがな)

 

(次は私だよ!えっとね、空振りしていく内に何となくこうなのかな?って思い始めたの。特にフェアベルゲンの迷宮を攻略していた辺りからが疑問に思い始めたの。そして、影との戦いでようやく気付いたの。・・・私って自分ばっかりだなって。皐月みたいに皆にチャンスを与えるなんて出来ないし、その発想すら思いつかなかった。だけど、ハジメくんだけが好きだから、皐月が与えてくれるチャンスを側室としてものにしたい!)

 

ようやくだが、ティオと香織の二人は自分のどこが駄目だったのかを理解して側室としてハーレム入りの条件の一つをクリアした。だが、条件はもう一つある事を忘れてはいけない

 

(ふ~ん、今までの残念がようやく無くなったと言えば良いのかしら?)

 

((その節は大変申し訳ございません))

 

(でも、それに気付いたとはいえハーレムに入る為の条件はまだあるわよ)

 

皐月は、恐らく二人はまだ理解していない残念が残っている前提での言葉だった

 

(それは大体予想出来るのじゃ)

 

(だよね。それって深月さん関係だよね?)

 

しかし、二人は残念が完全に消えていた!流石の皐月も、「うっそぉ」と口漏らす程だった

 

(酷いのじゃ。・・・とはいえ、あの頃の妾じゃとそう言われても不思議ではないのう)

 

(うぅ・・・皐月がどれだけ私が残念なのかを理解したよ)

 

(それは仕方がないでしょ。・・・さて、分かっているなら言うわ。最終条件は、深月を第二婦人にする事よ)

 

これを聞いた二人は、少しだけ悩みつつも答える

 

(それは良いのじゃが・・・・・大丈夫なのかの?)

 

(文句はないけど・・・深月さんはハジメくんの告白に応えてないんだよ?)

 

(恐らくだけど、内心で揺れ動いているから大丈夫よ。後はハジメが何処まで攻め込めるかよ)

 

(深月さんって押しに弱そうだよね)

 

(今ならば攻略出来るのではないか?)

 

実はこの場に居る殆どがハジメの事を見ており、「やれ!突撃して陥落させろ!」と心の中で叫んでいるのだ

 

「あぁ、そういや俺の告白の返事を聞いていなかったな。どうなんだ?」

 

皐月達は、「やれ!もっとやれ!」とニヤニヤしながら深月を見ると、不思議そうに首を傾げていた

 

「?」

 

「何首を傾げてんだよ!俺の告白の答えは!?」

 

「お付き合いは出来ませんよ?将来の主となられるハジメさんの側室でも不可能です。現主のお嬢様が正妻とはいえ、立場的に流石にそれは駄目です。それとも、性処理係としてお仕えするのでしょうか?」

 

「阿保かあああああ!俺をどういう目で見てんの?それだと鬼畜男子だろ!?」

 

「夜戦で皆を屈服させる魔王では?マジカルな下半身の猛威はどれ程まで拡大するのでしょう・・・。第三者観点から見ても、多人数相手でもハジメさんが勝ちますよ?」

 

「そっち方面に話を逸らすな!答えは!?」

 

「そもそも、私は心に決めた人は誰一人居ませんよ?」

 

「深月、妥協点はどうなの?」

 

皐月はこれ以上深月の口を開けば、ハジメが立ち直れなくなるまで口撃される可能性があると判断して流れをぶった切る事にした。深月がお付き合いしても良いと思う妥協点―――これならハジメが目指す事が出来る

 

「私に勝つ事が出来る男性ですかね」

 

この即答に皐月達が頭を抱えた。戦闘力Max、生活スキルMax、交渉術Maxとほぼ全てをカンストさせている超人をどの様に倒すのかを思うと全てが無理だ。しかし、ハジメはこんな事で諦めない。影との戦闘を見て、ハジメは絶対に勝てないと悟ったが、抜け道がある事に気付いた。普段の深月なら差し押さえるだろう指定が無い事をチャンスだと感付いた

 

「深月・・・・・本当にお前に勝てば良いんだな?」

 

「そうですが?」

 

「だったら、後で一対一の勝負だ。内容は完全に公平になる様に皐月が主に決めるから絶対に逃げるなよ?」

 

「お嬢様が決められるのであれば問題はありませんね。基本的にお嬢様の命令は絶対ですので」

 

皐月は、深月が"基本的には"という言葉を付けた事に舌打ちする

 

(チッ!あの言葉が無ければ命令でハーレム入りさせたのに!)

 

と、お嬢様は思っているのでしょうね。ですが、私に隙はありませんよ。全てに対策をした今の私にハジメさんは絶対に勝てないです!

 

深月が内心で勝利を確信し、ハジメ達がどうやって攻略をしようかと相談しようとした時、八重樫が一大決心をした顔でハジメに近づいてガシッと顔を掴んでキスをした。怒涛の連続に、ユエ達と目を覚ました坂上と谷口は( ゚д゚)ポカーンとして、皐月と深月は何となく察していた

 

フラグを建てたどころか攻略しましたか。・・・流石、夜の魔王と言うべきでしょうか。今は居ないレミアさんがハーレム入り確定。リリアーナ様は攻略一歩手前、畑山先生は候補、園部さんは・・・何となく愛人枠に収まりそうですね。しかし、お嬢様の事ですからハーレムメンバーに加える可能性が高そうですね

 

「私は南雲君が好きよ」

 

「い、いや・・・だがなぁ?」

 

「あぁ、正妻は高坂さんでしょう?そこら辺は把握済みだから問題ないわ」

 

「ならウェルカムね」

 

「皐月!?」

 

「ぶっちゃけ言うと、ハジメが気になっている女性は残り三人よ。ハウリア女性陣は除外するから気にしないでね?」

 

「え?」

 

自分が知らない間に大勢の女性陣を攻略している事実に、ハジメは硬直してしまった。自分がやってしまった可能性があるのは二人だけ。しかし、残り一人は完全に分からなかったのだ

 

「えっと、皐月?もう一人って誰なのかな?」

 

「個人情報だから公にはしないわよ」

 

「私達には知る権利があると思うのですぅ」

 

「知りたい」

 

「誰なのじゃ?」

 

「・・・あぁ、なるほど。確かに気にしていたわね」

 

知らない候補の一人に気付いたのはハーレム新参の雫(※これより雫と表記します)だった。ユエ達は雫にズイズイと近づいて圧を掛けるが、深月が更なる爆弾をぶちまける

 

「私個人の見解は、愛人枠に収まりそうな雰囲気ですね」

 

「「「「「「愛人ッ!?」」」」」」

 

「あ、あ~・・・何となくその雰囲気があるわね」

 

「そ、そうね。・・・高坂さんはどうするつもり?」

 

「愛人枠は無粋よ。それならハーレムに入れた方が良いわ。それと、ハーレムに入るのなら皐月で良いわよ。私も雫って呼ぶわ」

 

「そう。・・・なら皐月、これからもよろしく頼むわ」

 

皐月と雫が握手してすんなりとハーレムメンバーに加わった

 

「ちょっと待って!雫ちゃんはどうして条件が分かったの!?」

 

「・・・香織、皐月を見ていれば普通に気付くわよ。香織が南雲君と一緒に行動する時には既に分かっていたわ」

 

「私って残念だったんだね。ふっ、フフフ―――悲しい(´;ω;`)」

 

親友の雫は一日も経たずに気付いたのに、己はかなりの間気付かなかった事に自虐する。それを見たティオが香織の肩にポンと手を乗せて、「妾も香織と同じで気付かなかった」と同じ心情同士で慰め合う

 

「と、ところでよぉ・・・先には進まないのか?」

 

桃色な雰囲気の中、坂上は雰囲気がぶち壊れるだろうなぁと思いつつ本題を呟いた

 

「そうだったわ。こんな所で立ち止まっている場合じゃないわね」

 

「んじゃあ、行くか」

 

ハジメと皐月を先頭に皆が光の扉を潜り、視界が白から徐々に晴れると大きな空間に出た

 

「・・・どうやら、今度は分断されなかったみたいだな」

 

「・・・ん。それにあれ」

 

「ふむ、どうやら、ようやく辿り着いたようじゃの」

 

「綺麗な神殿ですねぇ」

 

「ゴールにたどり着いたわね」

 

透き通った純氷で出来た氷壁と氷柱があり、地面から水が溢れ出ていた。恐らく、解放者の拠点だから極寒ではないのだろうと予測する事が出来た。水は小さな噴水の様にいくつか噴き出ており、溢れ出た水は湖を作り、湖面に飛び石状の床が浮いていた。そして、その向こう側に氷で出来た神殿が建っていた

 

「・・・攻略・・・したんだ・・・ぐすっ」

 

「鈴ちゃん・・・やったね」

 

「・・・やったわね」

 

「おうよ。本当に何回か死にかけたがな」

 

「龍太郎は避ける事をしないからでしょ?これで皐月が止めなかったらもっと多かったでしょうね」

 

「いやぁ、ははっ、まぁ、結果オーライってことでいいじゃねぇか」

 

ハジメと皐月を先頭に、氷の足場を使って神殿へと進む。特に何事もなく進み、神殿の大きな両扉の前で立ち止まる。扉には雪の結晶を模した紋章が描かれていた。特に封印など厄介な仕掛けも仕組まれておらず、念の為に深月が扉を開けて罠をチェックするが、すんなりと開いた

 

「見た目は神殿なのに、中身は住居だな」

 

「オスカーの所と似ているわね」

 

調度品の全てが氷で出来ているが、触っても涼しいと感じる程度の温度だった。恐らく何かしらのアーティファクトで維持されているのだろう

皐月は、羅針盤を使って魔法陣を探す。調べると一階の正面通路奥に反応があり、行く途中にあった部屋は少しだけ覗いて目当ての魔法陣がある重厚な扉を深月が押し開ける

 

「ここだな」

 

ハジメがそう呟き、全員が魔法陣の上に立つ。そして、試練の内容を調べられ脳内に直接神代魔法が刻まれる。最後の神代魔法、変成魔法を習得したシア達が喜びを露にしようとした時

 

「ぐぅ!?がぁああっ!!」

 

「あづっ!?うぁああああっ!」

 

「・・・っ、うぅううううっ!!」

 

「イタタタタタ!痛いです・・・」

 

いきなりハジメ、皐月、ユエの頭に激痛が走り、頭を抱えながら膝を付く。深月は、身勝〇の極意の反動よりもマシな痛みだったので手で頭を抑える程度で済んでいる

 

「ハジメさん!?皐月さん!?ユエさん!?・・・深月さんはデスヨネー」

 

「どうしたの、三人共!!」

 

「落ち着かんか!香織!呆けるでない!」

 

「え?あっ、うん、直ぐに診るから!」

 

突然の変化に、ティオがシアと雫に一喝入れ、香織も叱咤されてようやく起動した。直ぐにハジメ達の様子を見ようとすると

 

「っぁ・・・」

 

「んくぅ・・・」

 

「・・・んっ」

 

脂汗を大量に浮かべたハジメと皐月とユエは、頭痛から解放され体の力がガクッと抜けて地面に倒れるが、深月とシアと雫の三人が倒れる前に支える。様子を見ると、三人共気絶していた

 

「み、深月さん。一体何があったんですか?」

 

「それよりも休ませましょう。情報量が多すぎて私も未だに頭痛が・・・」

 

「よく我慢出来るのう」

 

深月は宝物庫からベッドを取り出して三人を川の字に寝かせた

 

「はぁ・・・神代魔法とは凄まじいですね」

 

「それで何が分かったの?」

 

意識がある皆が深月を見て、この謎の痛みの原因を聞く

 

「生成魔法、重力魔法、空間魔法、再生魔法、魂魄魔法、昇華魔法、変成魔法―――全てを手に入れた瞬間に膨大な情報が溢れたのです。その情報とは概念魔法と呼ばれるものです」

 

「あっ、ハルツィナ樹海の解放者が言っていたあれですか?」

 

「そうです。究極の意思によって魔法を作り出す―――しかし、この意思の力が全てに物を言うのです。半端な意思では作る事すら不可能なのです」

 

「え?こんなのあったらいいな~じゃ駄目なの?」

 

「魔力を消費するだけですね」

 

「そ、それは何とも微妙な魔法じゃな」

 

生半可な意思では魔法を作れない事を教えられたシア達は、ハズレじゃないの?と言いたげな表情をしていた

 

「本当に微妙だと思いますか?」

 

「だって・・・究極の意思ですよ?」

 

「ぱっと思い浮かばないのじゃ」

 

シアとティオは想像力は乏しい様だ

 

「ねぇ深月さん、概念魔法なら地球に帰れるかな?」

 

香織の言葉に、雫と坂上と谷口の肩をビクッと震わせる。もし・・・もしも帰ることが出来るのならと思うとドキドキする

 

「そうですね、多分大丈夫だと思います・・・よ?」

 

「「「「何故疑問形!?」」」」

 

「いえ・・・私の行動理念はお嬢様の幸せの為だけですよ?地球であろうと、トータスであろうとご満足いただける様にサポートする事こそメイドの勤めです。ですので、私は地球に帰りたいな~という意志が弱いのです」

 

「これはハジメくんと皐月に任せるしかないのかな?」

 

「大丈夫よ香織、皐月が深月に命令すれば一発よ」

 

「そうだね!・・・・・あれ?雫ちゃんはさん付けじゃないの?」

 

「意地汚いメイドにさん付け?精神年齢が年上でもさん付けしなくてもいいでしょ。意地悪だから、意地悪だから!」

 

雫は、今までの深月の悪戯の被害者であると言ってさん付けをしないつもりだ。そして、ここぞとばかりに鬱憤を吐き出す

 

「ほっほ~う?意地悪メイドと言うなら、雫さんだけ質素な食事で―――」

 

「ごめんなさい」

 

「雫ちゃん陥落早くないかな!?」

 

「香織、美味しいは正義なのよ。我慢なんて出来るとでも思う?」

 

「そうだよね。・・・ごめんね」

 

「食を豊かにする為なら・・・私は深月さんにすり寄るわ」

 

見事な掌クルックル~だった。一度でもあの味を知ってしまえば・・・意気消沈の食事を摂るのは嫌なのだ

 

「話を戻しましょう。この変成魔法、皆さんはどの様な魔法と定義していますか?」

 

「え?え~と、そうね。刻まれた知識からすると、普通の生き物を魔物に作り替えてしまう魔法ね。術者の魔力と対象の生き物の魔力を使って体内に魔石を生成し、それを核として肉体を作り替えることが出来る」

 

「うん。私も、そう理解してるよ。それに、既にいる魔物の魔石に干渉して自分の魔力を交えることで強化したり、服従させたりすることも出来るみたいだね」

 

雫と香織の理解は大体合っている。しかし、それは変成魔法の三割程度の恩恵だ

 

「この変成魔法とは、有機的な物質に干渉する魔法です。良いですか?有機物=人体にも作用する魔法なのです。ティオさんの竜化の原点かもしれません」

 

「ほほう、竜化の大本が変成魔法とな」

 

「そうです。竜人族のティオさんだと変成魔法で背中に竜翼を出せるかもしれません」

 

「何と!?そ、それでは空を飛ぶ時に竜化せずとも飛べるという事か!」

 

「慣れも必要かもしれませんが、恐らく飛べるでしょう」

 

深月の述べる可能性に、ティオはテンションを上げて早速変成魔法を使って竜翼を生やそうとしている

 

「攻撃が当たる場所だけを竜化・・・いえ、甲殻や鱗で覆う事で防御力を底上げするという事も出来ますね」

 

「テンション上がって来るのじゃーーーー!」

 

「み、深月さん!私は!?私はどんな可能性があるんですか!?」

 

「シアさんですか?・・・・・ウサミミをもっとモフモフに出来る程度じゃないですか?」

 

「戦闘面じゃないですぅ!?」

 

「頑強な敵が現れたら、ハンマーで叩いた部分を歪にして機動力を割くとか?」

 

「いいですねぇ~!深月さん覚悟ですぅ!」

 

「正直言いますと・・・・・猪突猛進なシアさんには不得手な魔法ですよ?動いている相手を前に出来るのですか?」

 

「・・・できないです」

 

シアは少し考えた結果、変成魔法を使う事は諦めた。物体の情報を読み取り、魔力の流れを掴み、上書きや変更する繊細な操作。ゴリ押しオンリーの脳筋バグウサギには過ぎたる魔法である。一方、深月の助言を受けたティオに関しては、竜翼を出したり腕に鱗や甲殻を纏わせたり出来ていた。だが、飛ぶ事は未だに出来ない模様

 

「それじゃあ、深月さんは変成魔法をどう使うの?」

 

「そうですね・・・使い処は変装でしょうか?」

 

「あまり実用性が無さそうね」

 

「もの凄く良いですよ?魔人族に変装してフリードを暗殺するつもりでしたのに」

 

これを聞いたシア達は、想像した。深月が変装し、魔力糸で服を作って敵陣深く潜入して敵将の首を討ち取る―――もしも地球でこれが出来るのであれば、完全犯罪が出来るだろう。魂は同じでも、DNAまで変える事が出来たらと思うと物騒極まりない魔法の一つだ

 

「皆さんが何を考えているか分かりますが、必要になればやりますよ?」

 

「「「「「「やるんかい!」」」」」」

 

皆がツッコミを入れる中、深月は変成魔法を行使。干渉するのは己の身体―――胸部を小さくするという世の女性陣が聞いたら悲鳴を上げる代物だ。ほんの少しだけ小さくする事に成功した深月は、「ふむ」と呟いて元に戻す

 

「素晴らしいですね。これ以上胸のサイズが大きくならない様に変える事が出来ます」

 

「何それ羨ましい!」

 

「という事は・・・深月さんは適正があるという事なのですね」

 

「あくまで体系を少し変える程度です」

 

「もしかして・・・太ったら痩せる事が出来る?」

 

「出来ますよ?」

 

これを聞いたシア達は、絶対に極めてみせると気合を入れて変成魔法の練習を開始した。未だに目覚めないハジメ達に、深月は軽食を用意する為に外にキッチンを取り出して料理をするのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「メイドさんは身勝〇の極意を習得しました。しかし、その状態になろうとしてもなれないのである」
深月「あの感覚は凄まじいです。攻撃が分かると言ったらいいのでしょうか?・・・うん、説明出来ません」
布団「何にせよ、一皮剝けたメイドさんなのです。次回はステータスプレートを見るよ!バグレベルの進化に恐れる主人公とお嬢様」


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メイドは概念魔法を創ります

布団「メイドさんが概念魔法を創る回です」
深月「読者の皆様なら予想出来る筈ですよ!」
布団「オッ、ソウダナー(絶対に無理だろうな)」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」








~皐月side~

 

うっ・・・ここはどこ?天井が氷・・・はっ!気を失ってた!?

 

皐月は目を覚まし、バッと上体を起こして周囲を見る。横にはハジメとユエが横になっており、気を失って眠っている事が分かり、一時ホッとした

 

「そう・・・これが概念魔法なのね」

 

変成魔法を獲得したと同時に、新たな魔法―――概念魔法の情報量の多さに脳がシャットダウンしてしまったのだ。しかし、落ち着いた今だからこそ分かる。この概念魔法ならば地球へ帰る事が出来ると

 

「・・・ん」

 

「ユエ起きた?」

 

「おはよう皐月。概念魔法凄い」

 

「そうね・・・私はもうしばらく横になって情報を整理するわ」

 

「・・・私は外に出る。だから、皐月はごゆっくり」

 

ユエはテキパキと身だしなみを整えて部屋から退室した。要するにハジメと二人っきりでゆっくりして下さいという気遣いだ

 

「ユエの気遣いに感謝してゆっくりとさせてもらうわ」

 

皐月はハジメの隣に寝そべり、抱き枕にして変成魔法と概念魔法の使い方を模索する

 

変成魔法は丁度良いわ。有機的な物に干渉する事が出来るから、錬成師でも適性があるわ。鉱石で出来た魔物を創ったり出来そうだし、自立したゴーレムも出来そう♪

でも、概念魔法は正直きついわね。一番の地球に帰るという意思も足りていない事から人数不足か魔力不足である事が分かったわ。解放者が作った概念魔法は二つだけど、それ相応の魔力が必要・・・複数人の極限の意思と魔力で作ったのでしょうね

 

皐月の予測は当たっていた。極限の意思とはいえ、一人だけの意思では弱い。地球に帰るという意思は一人でも足りうるかもしれないが、魔力が絶対的に足りないのだ。だが、複数人なら魔力不足も解決出来ると分かった

感慨深そうに皐月が微笑みながら抱き締めていると、抱き締められた。ようやくハジメも起きたので、皐月も起きようとしたが強く抱きしめられる

 

「おはよう、ハジメ」

 

「あぁ、おはよう、皐月」

 

「そろそろ起きないとユエ達が拗ねるわよ?」

 

「もう少しこのままでも良いだろ?ここ最近は疎かになっていたからな」

 

ハジメは皐月にゆっくりと深いキスをして、皐月もそれに応える様に互いに求めあう。普通の人達よりも長い長いキスを終えたハジメと皐月は、身だしなみを整えて部屋の外に居るユエ達と合流した

 

「皆、おはよう」

 

「心配かけてすまなかったな」

 

ハジメ達が部屋を出ると、ユエ達が物凄く真剣に変成魔法について語り合っていた。神代魔法を行使するならば、特性をしっかりと理解しなければならないので勉強熱心だなと感じる。だが、一人蚊帳の外で考え込んでいる坂上を見たハジメと皐月はこの状況が理解出来ず、?を量産している所でユエ達がハジメと皐月が起きた事に気付いた

 

「・・・ハジメ目が覚めた?」

 

「いきなりでビックリしましたよ~」

 

「皐月も大丈夫?頭痛くない?」

 

「無理は禁物よ?」

 

「あ、なぐもん、サッツン、おはよ~」

 

「あ、あぁ・・・それは良いんだが・・・」

 

「一人だけはぶられる様に訓練しているのはどうしてなの?」

 

ハジメと皐月の疑問にユエ達は視線を合わせた後、皐月だけを手招きして耳打ちする

 

「深月曰く、変成魔法で体重を変化出来るらしい」

 

「・・・続けて」

 

「太ったら痩せる事が出来ると言っていました」

 

「バストサイズも自由自在って言っていたよ」

 

「深月さんの料理は美味しい。後は分かるわよね?」

 

「これはハジメが深く追求したら駄目な案件ね。後で私も試すからね?絶対よ?絶対だからね?」

 

ユエ達が必死になっている所で皐月も加わり、概念魔法をそっちのけで研究し始めたのだった。ハジメが居ても二の次と言わんばかりに必死の形相だ

 

「南雲、深く聞くのは止めておけ。・・・俺はそれで地獄を体験した」

 

「坂上・・・その、なんだ。立派な紅葉だな」

 

「あぁ、何を必死になっているか分かんねえが・・・理不尽だった」

 

男二人はこれ以上藪を突くのは危険だと判断して深く追求する事はなかった。だが、坂上が食べている物を見たハジメはそれを奪おうとジリジリと距離を詰める

 

「・・・何を食べてる」

 

「こ、これは俺が作った鍋だぞ!?食料は・・・分けてもらったがよぉ」

 

「無駄飯喰らいか?良い度胸だな」

 

ハジメが威圧を掛けて坂上に近づくが、その手前で頭部をコツンと叩かれる。後ろを振り返ればお盆を持った深月が居り、手にはお玉を持っていた

 

「私は叶いもしないしつこいお願いが嫌だったので食材等を分けただけです。そして、これがハジメさんのご飯です」

 

お盆の上に置かれたお椀に入っていたのは、卵粥だった。ハジメとしては濃い料理でも良かったのだが、そこは深月が体調管理をしているので文句は言わない

 

「うん、ほんのり効いた塩味と卵がうまいな」

 

ハジメは卵粥をゆっくりと食べ、用意されたアンカジ印の水を飲む。そして、深月は皐月に卵粥を渡して傍に待機する

 

「あ、お粥?深月、ありがとう。そっちはどうだったの?」

 

「頭痛は治まりました。問題は概念魔法をどの様に創るかです」

 

「成程ね。・・・ステータスはどうなの?昇華魔法の所に引かれていた線は消えた?」

 

「・・・確認していませんね」

 

深月はステータスプレートを取り出して昇華魔法が手に入ったのかを確認すると、何とも言えない表情で無言でステータスプレートを皐月に提示した

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

神楽深月 17歳 女 レベル:???

天職:メイド

筋力:105000

体力:150000

耐性:130000

敏捷:170000

魔力:95000

魔耐:95000

技能:生活魔法[+完全清潔][+瞬間清潔][+清潔操作][+範囲清潔][+清潔進化][+清潔鑑定] 熱量操作[+蒸発][+乾燥][+瞬間放熱][+放熱持続][+冷蔵][+冷凍] 超高速思考[+予測][+並列思考][+二重思考] 精神統一[+明鏡止水] 身体強化[+魔力吸引補強][+全属性補強][+全属性性能向上][+強化レベルⅠ~Ⅹ] 魔気力制御[+放射][+圧縮][+遠隔操作][+複合][+憑依][+魔気力展開] 気配感知[+特定感知] 魔力感知[+特定感知] 熱源感知[+特定感知] 気配遮断[+透化][+断絶] 家事[+熟成短縮][+発酵][+魔力濾過][+魔力濾過吸引] 節約[+気力][+魔力] 裁縫[+速度上昇][+精密裁縫] 交渉 戦術顧問[+メイド] 纏雷[+電磁波操作] 天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光][+無音加速][+音越え][+無間] 幻歩[+幻影][+認識移動] 風爪 衝撃波[+収束][+拡散][+並列] 夜目 千里眼 魔力糸[+伸縮自在][+硬度変更][+粘度変更][+着色][+物質化][+振動伝達] 胃酸強化 超直感[+瞬間反射][+未来予測] 状態異常完全無効 金剛[+超硬化] 威圧 念話[+特定念話] 追跡[+敵影補足][+識別] 超高速体力回復 超高速魔力回復 魔力変換[+体力][+治癒力] 心眼[+見極め][+観察眼] 極意 限界突破[+覇潰][+極限突破] 生成魔法 重力魔法 再生魔法 魂魄魔法 昇華魔法 変成魔法 概念魔法 忠誠補正[+成長補正][+技能獲得補正] 言語理解

称号:メイドの極地を超えし者

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

これを見た皐月の感想はただ一言だった

 

「・・・・・なぁにこれ」

 

元々がバグレベルのステータスが更に強くなり、技能が追加されたり統合されたりといった化け具合だった。しかも、称号に至っては、"メイドの極致に至る者"から"メイドの極致を超えし者"という枠組み超えちゃったぜ!みたいな意味不明の表記なのだ。皐月が目頭を押さえていると、気になったユエ達が覗き込んで納得した

 

「深月が更に強くなった」

 

「ちょっと待って下さい。身体強化のレベルがヤバくないですか?私でもⅥが限界ですよ!?Ⅹって何ですか!?」

 

「おっと、これはヤバいのじゃ。・・・淑女に戻れて良かったのじゃ」

 

「うわぁ・・・何と言うか・・・うわぁ・・・・・」

 

「これって嘘よね?冗談よね?こんな数値と技能の数なんて見た事ないわよ!?」

 

「ミヅキン・・・ごめんなさい。これからは深月さんって呼びます」

 

この女性陣の反応に気になったハジメと坂上が覗こうとするが、遠くて見れない。そんな二人に、皐月がハジメにステータスプレートを手渡して現実を逃避する様に窓の外に見える景色に視線を移した。そして、受け取ったハジメと坂上がステータスプレートを覗き、深い深い溜息を吐くハジメと、余りにも規格外の強さに呆然とする坂上であった

 

「・・・本当に何だよこれ」

 

「このステータスで影に倒されたって事は・・・あれ?試練はクリアしてる?じゃあ、格上を倒したってのか!?」

 

ハジメは、想定以上に強くなっていた深月に頭を抱える。そう、ハジメは深月をハーレムに加えるのであれば勝利しなければいけないのだ。恨めしそうに深月の方に視線を移すと、当人は(`・∀・´)エッヘン!!と胸を張って勝利を確信していた

 

どうしよう。・・・ハジメが深月に勝つにはどうすればいいの?五倍近いステータス差をどうやって打ち負かせばいいのよ!あぁ、本当にどうするつもりなのよ。・・・・・はっ!?今はそんなことしている暇はなかったわ!

 

当初の目的を大幅に脱線した状況に、皐月は現実にいち早く戻る

 

「さて、変成魔法の研究も進めたいけれど、今は概念魔法についてよ」

 

「どうしてハジメくん達が倒れたのかは深月さんから聞いたよ」

 

「情報量が多すぎて受け止めきれなかったと言っていたけど・・・概念魔法ってそこまで凄い物なの?」

 

香織と雫の疑問もあるが、神代魔法一つ習得するだけでもかなり頭が痛くなるので可能性としてはありえるだろうと思っていた。しかし、深月から大雑把に聞き、新しい魔法を創るのにそんなに多くの情報が要るのか?と疑問に思っていたのだ

 

「凄いってレベルじゃないわよ。一人では足りないかもしれないけど、ハジメも居るから地球に帰る為の概念魔法は絶対に創れるわ」

 

「だな。そして、クソ神をぶち殺す為の入口も開ける。俺の女に手を出した事を後悔させてやるよ」

 

皐月の言葉を聞いた香織達は、「良かった。帰る事が出来る」と感激し、ハジメの言葉については地球に手出しする可能性があるエヒトとは何が何でも戦わなければいけないという事なので敢えて何も反応はしない

ハジメは皐月と深月とユエに目配せをして立ち上がる

 

「さっそく挑戦するのかの?」

 

「ああ。話しているうちに知識の整理も出来た。まるで、ニンジンを目の前にぶら下げられた馬みたいな気持ちなんだ。試さずにはいられない」

 

「要らぬちょっかいが入らない今しかないのよね。エヒトが存在していたら絶対に邪魔して来るわよ」

 

ハジメと皐月とユエは、神代魔法の魔法陣があった部屋で概念魔法を創る為に移動する。しかし、深月は一緒に着いて行く事はなかった

 

「ん?深月?一緒に概念魔法を創るわよ」

 

「あぁ、申し訳御座いません。私は除外して下さい。私の極限の意思とはお嬢様の幸せの一点限りなのです。命令されたのなら付き従うのがメイドとして当たり前なのですが、今回ばかりはこれが邪魔する可能性が高いです」

 

「あ・・・あぁ、そうだな。深月はこの部屋に誰も入って来れない様に―――」

 

「いえ、私の方も個人的な概念魔法を創りたいのです。保険には保険を兼ねてです」

 

「・・・ハジメ、皐月。深月は何か考えがあっての提案だと思う」

 

ハジメと皐月が深月は必要だと思っていると、ユエは二人と違って深月は何かしらの考えがあって一人で挑戦したいとの事に納得している。この世界の事に一早く気付いた深月なら、この後待ち構えるエヒトとの戦いに役立つ何かを創る可能性が大きいと判断したのだ

 

「深月、本当に創った方が良い魔法なの?」

 

「ほ、保険ですよ?使わない事に越した事はない魔法です!あ、一応秘密ですよ?」

 

「・・・なら、深くは聞かないわ。これでもし、禄でもない魔法だったら―――有無を言わさないわよ?」

 

深月へ忠告をした皐月はハジメとユエを連れて奥の部屋へと入って行った

 

「さて、私も概念魔法を作りましょう!」

 

そして、深月も別室へと移動して概念魔法の制作へと移った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

部屋に入り、深呼吸。そのまま座禅して瞑想を始める

 

概念魔法―――私が最も必要なそれは唯一つ。お嬢様を護るという思いのみ!魔力はたっぷりとありますので納得出来るまでつぎ込みます!敵意を持った攻撃を弾く―――いえ、逸らす概念。影との戦闘で学んだ受け流しを付与する感じでしょうか?とにかく、イメージは一つ

お嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護るお嬢様を護る

 

常人が深月の思考を見たら発狂するレベルの重く、硬い意志だった。魔力をゴリゴリと削りながら、魔力糸で作った御守りに全力を注ぐ。膨大な魔力が渦巻きながら御守りに注入され、過剰魔力が漏れるが圧縮して限界以上に込める。遂に限界レベルまで注ぎ込まれた御守りが光を爆発させた

 

「あっ」

 

皐月を護る事だけを考えていた為、この光の爆発に飲まれて視界が一時的にお亡くなりになった

 

「め、目が~、目がぁああああ!」

 

ついつい前世のネタを口走り、それが聞こえて心配したシアが部屋に押し入った

 

「深月さん大丈夫ですか!?」

 

地面をゴロゴロと転がり、目を抑えている深月を心配したシアが声を掛ける

 

「光の爆発が直撃しました・・・。前が見えません」

 

「あっ、それなら大丈夫ですね~。私は戻りますぅ」

 

視界が潰れた程度では深月の強さは不変だと分かっていたシアは、何事も無かったかの様に自然に退室した。視界が白一色になったので再生魔法で元に戻して御守りを見ると、深月の髪色と同じ白銀に染まっていた

 

「ふむ?これは成功なのでしょうか?」

 

自分では会心の出来だと思っているが、実際に効果があるかどうかは不明である。何せ、皐月に対する悪意を逸らすだけという条件下で発動するので確認のしようがないのだ

 

お嬢様に身につけて頂いて攻撃?・・・駄目です。絶対に駄目です!確認する為とはいえ攻撃なんて許しません!さて、私の方は済みましたので後はお嬢様達の頑張り次第と言った所でしょうね。ですが、お嬢様達の意思は強いので心配は要りませんね。さて、最後の仕込みをしておきましょう

 

最終的な保険を処置した深月は、御守りを手に取って部屋から出ると天之河が起きており、つい舌打ちをした

 

「深月さん。・・・舌打ちは止めてあげましょう?」

 

「変な妄想に取り憑かれた勇者(笑)はもう大丈夫だと思っているのですか?ハッキリ言わせていただきますが、考えは変わっていないですよ」

 

「ち、違う!俺はあの時はおかしかったんだ」

 

「そして、雫さんがハジメさんLOVEと知って負の感情を抱いたと―――。ハジメさんが洗脳していなかったとしても、人を殺し、人を見捨てる事に納得していないのでしょうね。しかし、ハジメさんは言っていたでしょう?奈落に落ちてから培った価値観で、それを他人に押し付ける事はしないと。今の勇者(笑)は己の価値観を人に押し付けているのです。どちらが良いかなんて分かり切っているでしょう?流石、人の運命をぶち壊した人ですね。あっ、私も人の事は言えませんね。失礼しました」

 

「俺は壊してい―――」

 

天之河がそんな事は無いと言おうとしたが、ここで香織が事実をぶつけた

 

「お花畑くんはさ、中学の時に他校の生徒に暴力を振るったよね?彼等があの後どうなったか知っているの?知った上でそんな事を言っているなら狂ってるよ」

 

「えっ?香織どういう事?そんな事があったの!?」

 

流石に雫も知らなかった様で、香織の方に視線を向けた。谷口も坂上も香織の言葉を黙って聞く

 

「私も最初に深月さんに聞いただけだったから否定したかったよ。でも、再生魔法で過去に見た光景を見れるようになってからこれが事実なんだって分かった。だから、本当に何が起こったのかを知らなければいけないし、その行動の責任感を理解しなきゃいけない。帝国の先兵襲撃の前までは幼馴染だから治させようと思っていたけど、雫ちゃんの一件で完全に諦めたんだよ」

 

「それでは、鑑賞会をしましょう」

 

深月が手を合わせて開くと、そこから空中に映像が投影される。そこには、トータスに来て当時の皆が映っていた。しかも、音声付きである

 

「こ、これってトータスに来た時のじゃねえか!」

 

「あっ、深月さんがメイドさん達に叱った。なるほど、確かにこれは物的証拠になるわね。でも、証拠ってどう見せるの?」

 

「もうしばらくお待ち下さい。それと、皆さんはトータスに転移した日にパーティーがあった事を覚えていますか?」

 

地球組は当時のパーティーについて思い出していた。豪勢な食事だが、場違い感があるあの日は決して忘れはしない。それ程印象深い一日だった

 

「これは当時私が収集した情報です」

 

映像が切り替わり、パーティー会場から厨房へ行き、途中でイシュタルの後を追っている映像だった。教会の者達しか居ない場所でのやり取りは酷いの一言で、戦争参加に反対した皐月に対する罵詈雑言と戦争に参加すると言った者達の利用方法だった。思考誘導して神の為に働かせ、自分達は楽して戦争に勝つという物だった。これを改めて知った香織達は只々沈黙するだけだった

 

「まぁ、今はイシュタルと言う汚物は存在しないのでどうでもいいです。しかし、理解しましたか?戦争に気軽に参加するという気軽さと警戒心の無さ。周囲を巻き込んだ責任感の無さを。それではテキパキと次に行きましょう。当時の会話が丁度良いでしょうね」

 

そして、映像は再び映り替わる。そこは二人の男性が座って話をしている映像で、部屋は現代風―――地球の一室だった。この室内の様子を見た八重樫は、一早く何処だったのか気付いた

 

「ちょ!?これって私達の中学校の校長室じゃない!?」

 

「あっ!確かにそうだ!」

 

雫と坂上は気付き、遅れる様に天之河も気付いた。そして、そこで話される内容はとても酷い物だった。『暴力は良くなかったが結果は良かった』『悪人に仕立て上げる事に成功した』『不登校になった?我が校が優秀と知らしめるには仕方がない犠牲だ』『あちらの学校もこちらの学校もwin-winだ』等と言った人間の欲望の悪が詰め込まれた内容だった

お通夜並みの空気を気にせず、映像は再び映り替わって一人の女子生徒を多人数の女子生徒が虐めている映像だった。『あんなイケメンに助けられて何様だ!』『どうせ泣きついたんでしょ?』『イモ女のくせに生意気よ!』等と言われて心が傷付き、水を被せられ、髪を切られ等される酷い物だった。これを見た皆が「酷過ぎる」と口を揃える

 

「さて、最後の女生徒についてですが見覚えがありますよね?」

 

「お、俺は・・・知らなかったんだ。知っていたらこんな・・・」

 

「これが私が皆に言う所の責任感の無さですよ。きっと中村さんもこの様に助けられ、放置されて歪んだ結果なのでしょう。そして、女性だけが傷付いたとでも思っているのですか?男子生徒は?学校の大人達に悪であると言われて逆らえなかった彼は?」

 

「っ!?」

 

「も、もういいだろ!これ以上は光輝が傷付いちまう!」

 

坂上が痛々しい天之河を見て、これ以上の口撃は止めてくれと説得する。しかし、深月の口撃は止まらない

 

「いいえ、止めません。大多数の運命を捻じ曲げたその事実から目を逸らすのですか?勇者(笑)が声高らかに明言する正義とは、この様な悪を放置する正義なのです。表面だけで人を助け、裏側は知らなかったから、教えられなかったからと逃げるなんて最低最悪な人の言い逃れに過ぎません」

 

「えっと・・・、深月さん?流石に私も言い過ぎだと思うのですけど・・・」

 

「駄目ですよシアさん。この勇者(笑)は貴女に奴隷の首輪を外すと言っていましたよね?絶対に後の被害を考えていませんよ」

 

「うっそですよ~。流石に分かっている筈ですぅ~」

 

「さぁ、勇者(笑)はどの様に考えていたのですか?奴隷を開放したらどうするつもりだったのですか?俺が守る!なんてありきたりで曖昧な答えは聞きませんよ」

 

「そ、それは・・・皆を説得したら」

 

「いやいやいや、香織さんから聞いていますよ?帝国の在り方や仕組みは学んだって言っていましたよ?説得で解決するのでしたら亜人族の奴隷を誰よりも先に開放していますよね?」

 

天之河の心にシアの正論のバリスタの矢が突き刺さった

 

「因みに、奴隷の首輪を身に着けているシアさんが攫われる可能性は何十回もありましたよ?言葉巧みに騙して手に入れようとする輩、数の暴力を頼りに攫う輩、教会の名利用して攫う輩―――本当に護れたのですか?畑山先生が爆散させる前の教会信者は亜人族の事を薄汚い等と言って公衆の面前で排除する者達ですよ?そもそも、イシュタルと言う汚物の言葉を真に受けていた頃では無理ですね。いえ、今でも無理じゃないですか?もし、見目麗しくか弱く足手纏いな奴隷が居て、大迷宮に挑むとなればどうしますか?」

 

「・・・安全な宿に泊まらせる」

 

「皆さん分かりましたか?最悪を想定していないからこそ出てくる言葉ですよ」

 

シアとティオと香織と雫以外は分かっていない様子だ。「どういう事?」と天之河の言った言葉が正解ではないのかと不思議そうに思っている

 

「私が先程も言いましたが、一人にした瞬間に攫われますよ。正解は、足手纏いを脱却させる為にスパルタ訓練をして戦力の一人とする事です。難しい事ではないでしょう?奴隷、か弱いの二点からレベルは低い事が確定しています。もし、レベルが高くて、何もかも戦力にならなければ奴隷商の元に返却すれば良いだけです。最低限の衣食住は保証されますから」

 

「何で・・・何でそこまで割り切れるんだ」

 

「割り切る事の何がいけないのですか?」

 

「奴隷は開放すれば自由になる」

 

「自由になりますね。襲ったり、攫ったり、殺したり、強姦したりと様々ですよ。法的措置が機能しにくいこの世界で一番危険なのは自由なのです。誰に何をされようと皆が見て見ぬふりをする事が当たり前なのです。シアさんが攫われそうになった理由は、兎人族で珍しい髪色とスタイルの良さですから。兎人族でなくとも攫われる理由としては十分ですね」

 

「本当に申し訳ございません!」

 

シアは深月に土下座で謝罪した。過去に戻れるなら自分をぶん殴ってでも価値観を徹底的に教えたいという程、能天気だった自分は黒歴史物だ

 

「シアって物凄く狙われていたんだね・・・」

 

「犯罪組織を三十は潰しましたからね」

 

「さっ!?えっ?嘘よね?」

 

「全員に物理でお話ししたので狙う輩は居なくなりましたね」

 

この話を聞いた雫は、王国に居た時に聞いた一つの噂を思い出した。いきなり現れて全員を叩き潰し、幽霊の様に消える白い何かの事を

 

「もしかして・・・噂の白の霧って・・・深月さんなの?」

 

「白の霧?」

 

「え、えぇ。犯罪組織の悉くを潰し、生き残りはただ一人だけ。その人物に何があったのかを聞こうとしても発狂して何も聞けないって噂だったの」

 

「私で間違いないですね。まさか、シアさんを攫おうとする犯罪組織を壊滅させただけで二つ名を拝命するとは・・・」

 

「人を殺したのか!?」

 

深月がただ一人だけを残して全てを壊滅させた事に天之河が驚愕する

 

「最初の方は見逃していましたよ?まぁ、私なりの慈悲ですね。ですが、仏の顔は三度まで―――同じ人物が企てたそれを見逃す道理はありません。ですので、それからは一人だけ残して徹底的に狩る事にしたのです。この世界で見逃しは何の意味もなく、次があってもチャンスがあると勘違いする馬鹿が居るだけです」

 

シアとティオと香織は深月が最初の方は見逃した事に驚愕し、反省の余地なしと決めたら徹底的に処分すると聞いてホッとした。深月が犯罪組織を潰し回る事で、抑止力となる現状が一番効果があると理解しているのだ

 

「さっすが深月さんですぅ。チャンスを与えて物に出来なかった馬鹿達の哀れな末路ですぅ!」

 

「そうじゃのう。抑止力として最高じゃの」

 

「最初は見逃していた事に驚いたよ。でも、反省してなかったから処分は間違いじゃないよね!」

 

「三回も見逃したのにも関わらず攫おうとしたのね。殺されるのも仕方がないし、犯罪組織の者達を全滅させる事も不思議ではないわね」

 

シアとティオと香織と雫は、そこまで見逃してもやらかすなら処罰しても当然だと割り切った。しかし、それでも人殺しをする事に抵抗がある天之河と坂上と谷口だった。かなり重苦しい空気が場を支配していると、かなり強い衝撃が駆け抜けた

 

「これは・・・ハジメさん!皐月さん!ユエさん!」

 

「少々お待ち下さい。様子を見に行きます」

 

深月は強い衝撃を真正面から受けても悠々と歩を進めて確認した

 

ドアが開いて・・・そこから魔力が溢れているのですね。閉じれば爆発する可能性もありますので、外で待機するだけですね。さて、戻りましょう

 

深月はシア達の元に戻り、問題なしと伝えたと同時に室内に映像が溢れた

 

「これって・・・」

 

「え、映像?」

 

「暗い・・・洞窟?」

 

魔力の霧がスクリーンとなって映像を映す。断片的であるが、異常な光景に見入る。その時、谷口が何処を映しているのか気付いた

 

「何だか、オルクスみたい・・・」

 

「正解です。そして、これは奈落に落ちてからの出来事ですか・・・。これは私も見た事が無い情報です」

 

谷口の推測に深月が肯定する。しかし、皆が見ているのは今まで見た事のない緑光石の色と、大自然の様な洞窟だった。天之河達が居た場所のオルクス迷宮は表層で、人が作った構造物みたいな体裁があったからだ。さらに映像が映り替わり、まるで人の目線で移動していた。大岩の陰に隠れて赤黒い線の入った魔物達の戦闘を映し、そこから伝わる魔力の変化

 

「これは、不安?・・・それに焦り」

 

「恐怖も感じるわ。・・・記憶、なのね。この映像は」

 

「おそらくご主人様じゃな。話に聞いていた"奈落"という場所の記憶というわけじゃの」

 

二つ尾狼達を余裕で倒す蹴りウサギに恐怖し、逃げようとした時に小石を蹴ってしまった焦燥。走って逃げ、錬成で作った土壁は一蹴りで貫通して腕諸共粉砕されて地面に転げる。死を悟り目を瞑ったのか、映像が暗くなる。しかし、目を開けば恐怖で震える蹴りウサギを見て驚愕と焦りが生まれた

岩陰から現れた白い巨体―――爪熊だ。ハジメ達の目の前で蹴りウサギが一瞬で絶命し、離れた位置から爪を振るった。そして襲い来る痛みと叫び。一つは己の腕を咀嚼している爪熊に恐怖し、もう一つは生きたい一心で壁に穴を開けた映像だった。そして、ハジメの手を引いて穴の奥へと移動しようとした所で映像は途切れ、もう一つも生きたい一心で奥へ、奥へと進み映像が途切れた

 

「ハジ、メさん・・・皐月さん・・・」

 

シアが涙を流し、香織と雫と谷口は口元を手で覆っている

途切れた映像が再び映り、生きていた理由と神結晶と神水に出会った。それからは壮絶の一言に尽きる。二人は助けを求めながら神水を飲み、幻肢痛に耐え、空腹に耐え、憎しみを募らせる。何故?どうして?が塗りつぶされ―――コロシテヤルの一言だけになり、遂には全てがどうでもよくなって生きたいとなり、最後は生きて帰るだけとなった。それからはハジメと皐月の愛の告白があり、二人が生きる為に手を取って生きて帰るという意志だった

生きる為だけに動き、敵を喰らう。殺意をばら蒔きながら愛する人と生きる為、返る為と肉を食べ、血を啜った

 

「っ・・・これが、あの姿の・・・」

 

「聞いてはいたけどよぉ・・・こいつは強烈だな・・・」

 

そして、再び伝わる絶叫。地面にのたうち回り、互いに愛する者を見れば骨や肉がゴリゴリと動いている生々しい光景だ。崩壊と再生の末に手に入れた力と試行錯誤を繰り返して、異世界産の火薬を作って今のドンナーを作った。そして、己が傷付く可能性があっても魔物と戦い力を手に入れて爪熊と戦う為に準備万端。しかし、爪熊を発見した先に見つけたのは深月だった。その姿は酷くやせ細っているにも関わらず爪熊と対峙していたという事だった

 

「いやいやいや!?深月さん何やってるんですか!?あれはハジメさんと皐月さんの獲物ですよ!?」

 

「しかも冷静でないぞ!?」

 

「いえ・・・お嬢様が身に着けていた服の一部がありましたので・・・暴走しちゃいました♪」

 

絶不調にも関わらず戦っていたが、戦闘中に吐血して押し倒され、頭を喰われようとした所で片方の目玉を潰すという咄嗟に動けない筈の事を平然とやってのける。腹部に爪が貫通していようとも、何が何でも殺す殺意に二人は思わずたじろぐ。しかし、深月が吹き飛ばされて壁面に叩き付けられ、爪熊は両目を潰され、何とも言えない感じで頭をドパンッ!して救出。しばらくして目を覚ました深月の取り乱しを見た後、何が何でも帰るという意思がより強くなった

 

「深月さんでも動揺するんだね」

 

「お嬢様に捨てられたら即首を吊りますよ?」

 

「その忠誠心は流石と言うべきか・・・残念と言うべきか分からないわね」

 

―――帰りたい。愛する人と一緒に帰りたい

 

魔力に乗って言葉が聞こえ、周囲一帯に散らばった魔力が吸収される様にハジメ達が居る室内へと移動する

 

「・・・概念魔法が出来る一歩手前ですね。さて、そこで違うといった負の感情を溜めている勇者(笑)はどうしましょう」

 

深月がいきなり指摘し、天之河はビクッと体を震わせた。その顔は何処か納得していない表情をしていた

 

「光輝、いい加減にしなさいよ。私が誰を好きになろうとそれは私の自由よ」

 

「・・・あ、あぁ」

 

雫の指摘を受けた天之河は目に見えて気落ちしていた。しかし、それを女性陣は庇う事はしない。共に良い気持ちで人生を歩むなら少しは援護するが、天之河の考えは自分だけしか考えていないだ。そうこうしていると、奥の部屋からハジメ達が帰って来た

 

「何だこの空気?」

 

「深月何かやった?」

 

「またぶっ壊れ性能?」

 

ハジメ達は深月が創った概念魔法がぶっ壊れの性能でドン引きしているのかと思っていたが、よくよく周囲を見ていると天之河が暗い表情をしていた

 

「あぁ・・・何となく分かった」

 

「・・・ざまぁ」

 

「ユエ、そんな事言っちゃ駄目よ。こういう時は、愉悦wよ」

 

「勉強になる」

 

「間違った知識を植え付けるなよ」

 

「!?」

 

ハジメのツッコミでユエが驚いた表情で皐月を見て、皐月は微笑んでいた。確かにこの状況でざまぁ!は間違いではない。愉悦は・・・他人の不幸でご飯がンビャアアアアアウンマァアアアイ!なのだ。いや、どちらも当て嵌まっていると言った方が正しいだろう

 

「それはそれとして、お嬢様達の方は如何でしたか?」

 

深月の言葉にハッと気づいた皆がハジメ達を見る。そして、ハジメは手に持った鍵状のアーティファクトを見せる

 

「こいつはゲートキーとは違う・・・その性能からクリスタルキーと名付けた。望む場所へ扉を開く概念を付与した最高の一品だ」

 

「検証はしていないけど、皆で確認するなら丁度良いでしょ」

 

ハジメは、「取り敢えず起動させるぞ」と言ってクリスタルキーに魔力を注ぎ捻った。すると、目の前の空間が揺らぎ、楕円形の穴が開き始めた

それだけなら良かったのだが、その穴の奥からビシッバシッという打撃音と「あぁん!」という艶かしい女の声音が聞こえ、完全に開き終えたゲートの奥には鞭を持ったカムと恍惚な表情で鞭に打たれるアルテナの姿だった

 

「この恥知らずのメス豚がぁっ。昇天させてやる!」

 

「あぁ!カム様ぁ! 流石、シアのお父様ですわぁ!すんごいぃいい!!」

 

いきなり出現した凄い光景に、ハジメと皐月と深月とユエとティオ以外の皆があんぐりを口を開けて呆然とする。そして、カムはいきなり現れた気配に気付いて振り返ってハジメと皐月が見ていた事に、目を見開いた

 

「ボ、ボスぅ!?お嬢ぅ!?な、なぜこんな場所に、ボスのゲートが!」

 

「ぇ?って、シア!それにハジメ様達まで!」

 

驚愕するカムとアルテナに、ハジメと皐月が冷めた声で言葉を掛け、ユエはシアを慰める

 

「・・・よぉ。何かお楽しみの最中に邪魔したな」

 

「・・・二人は凄い関係になったのね。修羅場は避けなさいよ?」

 

「・・・シア、気をしっかり」

 

「これが黒歴史なのじゃな・・・過去の妾痛すぎるのじゃ」

 

ハジメと皐月の物言いに、「ご、ごごごごご、誤解ですボスぅ!お嬢ぅ!」とシアとそっくりな口調で弁明する。しかし、ゆらぁと立ち上がりハイライトが消えた目でドリュッケンを担ぎ、ゲート越しのカムとアルテナを睥睨すると、ジャキ!と砲撃モードのドリュッケンを構えた

 

「ま、待て、シア!お前は猛烈に誤解をしている!父は決してっ」

 

「シア!カム殿は素晴らしい御人ですね!流石、シアのお父様ですわ!ちょっとシアの私物を拝見しようとしただけの私に、あんなに激しく!しかも力加減が絶妙ですの!」

 

カムの必死な弁明もアルテナの暴露によって全てが台無しになり、実の父と一応?が付く友人がアブノーマルな事をしている事情を見たシアは

 

「いっぺん死んでこいですっ、この変態共がっ!」

 

躊躇う事無く引き金を引き、炸裂スラッグ弾が発射された。ハジメは、黙祷しながら弾丸が通った瞬間にゲートを閉じた。完全に閉じる前に、「ぎゃあああああああ!」やら「あぁあああん!!」なんて聞こえていない。聞こえていないったら聞こえていない

 

「・・・ん。シア、元気出して」

 

「大丈夫だよ、シア。あれは・・・そう、ちょっとした気の迷いだよ。きっと、さっきの一撃でお父さんも目を覚ましてるはずだよ」

 

「・・・ぐすっ、ユエさん、香織さん、お気遣いありがとうございますぅ。でも、あれくらいじゃ家の父様は死んでないでしょうから、ハジメさんの世界に行く前に息の根を止めておきますぅ・・・うぅ、ミンチにしてやるですぅ」

 

「ミンチはいけませんよ。永続的な痛みを教える為にボコボコに殴る程度に済ませましょう」

 

「そ、そうですよね!流石深月さんですぅ!ケツに手を突っ込んで奥歯をガタガタ言わせてやるですよぉ!」

 

取り敢えず、カムの運命はシアによってタコ殴りにされる事が決定した

 

「試運転はある意味失敗したが、これで確信した。地球に帰れる事が分かっただけでも良しとするか!」

 

ようやく手段を得たハジメと皐月は喜び、香織と雫と谷口は歓喜の涙を流し、坂上は雄叫びを上げ、天之河は暗い表情で微笑みを浮かべた。しかし、只一人・・・深月だけはあまり良くない表情をしていた

 

ここは魔人族の領域となれば、出口がバレていますね。そして、中村さんも居て神の先兵も居るでしょう。総力戦としてはいまいち・・・となれば、人質でしょうか。こればかりは流れでどうにかする他ありませんね

 

一人だけこの先に待ち受ける事態を予測し、打つ手なし状況に小さなため息を吐き、ハジメ達がどの様な決断をしてもそれに備える事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「答えは―――お嬢様に対する悪意を持った攻撃を逸らす概念魔法でした!私は良い魔法を創りました」
布団「メイドさん自身の強化は考えなかったの?」
深月「いざという時に間に合わないかもしれない可能性があるでしょう!」
布団「という事は、お嬢様は鉄壁になったと?」
深月「悪意が無ければ触れますよ?親愛ならば大丈夫なのです!!」
布団「うわぁ~、これは酷い効果だ」


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メイドはいつも物騒です

布団「どっせい!と言う訳でどーぞ。今回だけはFGOのイベントに集中します」
深月「はぁ・・・。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」







~深月side~

 

クリスタルキーによって地球へと帰還の一歩が踏み出せた事で気分を上げながらこれからどうするのかを個人で相談し終えた

 

「じゃあ、鈴達は変成魔法で魔物を従えたいかな。今のままじゃ戦力不足で魔人領を進む事すら出来ないし」

 

「まぁ、俺も付き合ってやるよ。谷口だけじゃ心配だからな」

 

「俺も恵理と話さなきゃいけないから付いて行くよ。それに、龍太郎だけに行かせるわけにもいかないからな」

 

「・・・・・」

 

天之河達が計画を立てている中、雫は黙って何かを必死に悩んでいた

 

雫さんは悩んでいますね。力が無い事に悩む・・・ですか。ですが、そう簡単に力を手に入れる事は出来ませんよ

 

深月が黙って雫を見ていると、その視線に気付いた雫が深月を見る。そして、意を決した表情と迷い無い目で近付き言葉を掛ける

 

「ねぇ、深月さん。貴女が持っている宝物庫って魔物の肉が入っているのよね?」

 

ハジメ達はいきなりそんな事を聞いた雫に、「ご飯を食べたいのか?」と不思議そうに思っていた。しかし、深月だけは雫の眼を見て、「あぁ、なるほど」と呟き肯定する

 

「私の持つ宝物庫の中には色々な魔物肉が入っています。それで?」

 

だからこそ改めて問う。その覚悟は出来ているのか、賭けをするのかを

 

「えぇ、覚悟は決めたわ。誰が止めようと私は強くなるわ!」

 

「良い眼ですね。さて、初級のウサギにしましょう」

 

深月の言葉を聞いた皐月は、ギョッと目を剥いて待ったを掛ける

 

「ちょちょちょ!?ストップ!スト~~~ップ!雫は何を言っているのか理解しているの!?」

 

「皐月、私は本気よ。少しだけ感化されたというのもあるけど、私は死にたくないのよ。あんな事は二度とやられたくないのよ」

 

「・・・死ぬかもしれないのよ?」

 

皐月のこの言葉で、ハジメ達も雫が何をするのか理解した

 

「無理は駄目!」

 

「そ、そうですよ雫さん!命大事にが一番ですよ!」

 

「今の雫は無謀の一言じゃぞ!?」

 

だからこそユエ達も否定する。だが、雫は譲らない。このままでも良いかもしれないが、確実に足手纏いで生き残れる可能性が低いのだ。ならば、少しでも可能性を上げる為にならば地獄を進む事を決意した

 

「・・・雫ちゃん」

 

「香織、これは私の初めての我儘よ。だから、止めないで」

 

「おい八重樫「雫。そう呼んで」やえ「雫」や「雫」・・・雫、そこから先は地獄だぞ」

 

「神との戦争という地獄を生き抜くには、地獄を歩くしかないのよ」

 

「はい、お待たせしました。一口サイズですので食べやすいですよ?」

 

深月が皿に乗せた肉。それは異臭を放ち、食欲を減退させる代物だった

 

「・・・ちっ、分かったよ。いくら言っても変わらないんだったらこれ以上は何も言わねぇよ」

 

「私からはただ耐えろとだけしか言えないわ」

 

「神水は私が使わなかったストック分から出しましょう。食べてから飲むのではなく、流し込む形で飲んで下さい。そうすれば恐らく大丈夫でしょう」

 

「・・・いただくわ」

 

雫は深月から手渡される試験管を手に持ち、魔物肉を口に含んで神水で流し込んだ。直ぐには変化が訪れない事に天之河達は失敗だと思った。しかし、変化は直ぐに訪れた

 

「ぎっ!あがああああああああああああああ!!」

 

「し、雫!だいじ―――」

 

天之河が近付こうとしたが、深月が足を引っかけて転ばせて魔力糸で簀巻きにして猿轡をして雑音をシャットアウトする。体を弓なりにして体中に訪れる細胞一つ一つを造り替える激痛を必死に耐え、何処かで内臓が損傷したのか大量の血を吐き、骨がゴリゴリと音を鳴らしながら動く。それを見たユエ達は、大丈夫?本当に大丈夫?とハジメ達の方を見る

 

「・・・第三者目線で見るとヤバイな」

 

「明るいから余計にグロく感じるわ」

 

「進化していますね」

 

違う、そんな感想を聞きたいんじゃないとドン引きしつつ、雫の変化が終えるまで黙って見続ける。すると、骨がゴリゴリする音が聞こえなくなり、絶叫もなくなって雫は地面に大の字になる

 

「し、雫ちゃん!」

 

変化が終わった事に気付いた香織が雫の傍に行き体を起こさせようとするが、雫はその手を払って自力で起き上がった直後の第一声は

 

「追加を持って・・・来て」

 

「えっ!?」

 

あの地獄をまだ体験するという言葉に香織が待ったを掛けようとするが、深月が追加の二つ尾狼の肉を口に放り込む。そして再び絶叫を上げ、それからは繰り返しだった。魔物肉を食べ、絶叫、魔物肉を食べ、絶叫、神水飲み、魔物肉を食べ、絶叫――――幾度も繰り返す痛みの地獄と吐き出される血は凄まじかった。血の海が出来ているのではないかと思う程の大量の吐血だった

全てを食べ終え、全身血だらけとなった雫の変化はあまり変わっていなかった。髪は当然の様に白くなり、目は赤くなっていたのだが、身長は変わらず、胸の大きさも変わらずだ。しかし、お尻はむっちりの安産型となっていた

 

「ゼェッ、ゼェッ、ゼェッ・・・死ぬ。もう二度と体験したくないわ」

 

「さて、血で汚れた所を綺麗にしましょう」

 

清潔で雫の血まみれをキレイキレイし、床もキレイキレイして元通りの清潔な床へとお掃除が完了。テキパキと動いて、雫のご褒美として海鮮丼を目の前に置いた。雫は目をまん丸にして驚き、深月の「雫さんだけのご褒美ですよ」という言葉を聞いて遠慮なく食べる。脂が良く乗った刺身に醤油が乗り、整えられた味に頬が餅の様に溶ける

 

「おいしぃ」

 

雫は涙を流しながら食べ、ハジメ達はもっとお食べと促す。これで深月の料理に堕とされた被害者が増えた。ハジメが、「一口だけ」とおねだりをするが、深月の指弾で吹っ飛ばされた

こうして、雫も魔物肉を食べてドーピングされた。ステータスは10000越えで、俊敏がおよそ15000近くある

 

「な、なぁ。俺も魔物肉を食べたら強くなるのか?」

 

坂上と天之河もドーピングに興味が出たのか、ハジメに尋ねる。しかし、その眼には雫程の覚悟も宿されていない目だった。正直、この状態で食べたらショック死するだろう

 

「やえ・・・雫程の覚悟も無い奴に食べさせるわけにはいかない」

 

ハジメはついいつもの癖で苗字を呼びそうになったが、雫の一睨みに折れて名前で呼んで天之河達に覚悟が出来ていないから食べさせる事はしないと告げる

 

「光輝、龍太郎。二人はどうして強くなりたいの?・・・護る、強くなりたい程度なら食べない方が良いわ。正直、生半可な覚悟だと死ぬわ。私は何度か走馬灯が過った。いえ、本当は死んだんじゃないかと錯覚したわ」

 

雫が力強い眼力を二人に向けると、たじろいでいたので覚悟は不十分だと判断した。死にたくない、生きたいという強固な意志を持っていても死ぬ寸前の激痛と衝撃だったのだ。雫は、全ての魔物肉を食べ終えたからこそ理解した。奈落に落ちた当初のハジメと皐月よりも遥かに強い今の身体ですらこの痛み、そう思うと二人が食べた時の激痛に比べればマシだと思った

 

「ご褒美も食べ終えた事だし・・・体の調子はどう?」

 

「ぶっちゃけて言うと不思議よ。体の動きに脳が着いて行けていないと言えば良いのかしら?」

 

「なら、早急に解決するしかないわね。深月と模擬戦して強制的に嚙み合わせましょう」

 

「深月さん、お願い出来るかしら?」

 

「難易度はどうされますか?normal、hard、verryHard、lunatic―――四種類です」

 

「・・・hardでお願いするわ。lunaticを要求するのは怖いわ」

 

雫は深月の難易度選択でhardを選んだ。しかし、そこで皐月が一つ気付いた

 

「あれ?私達の時は三択だったわよね?」

 

「お嬢様、影との戦闘で私は進化したのですよ?技能の使い方も新しく学んだ私に不可能は無いのです!」

 

「あぁ・・・そう、分かったわ」

 

要するに、ハジメ達が訓練していた頃の深月は一皮剥けて強くなった・・・進化したという事だ。以前の深月ですら技術のオンパレードで圧倒されていたのだが、今回の深月は技能の応用と使い方の幅が増えてステータスも増加しているのだ。行動パターンが多岐なのにも関わらず更に増える―――対応策が初期化されたと捉えて良いのだ

深月と雫は外に出て、距離を取り目を閉じて瞑想をする。これからどう行動するのか、どう動こうかと考えているのだろう。魔物の肉を喰らい技能を獲得した雫は、再びステータスプレートを見て確認した

 

「それじゃあ―――――始めっ!」

 

ハジメ達は雫が開幕速攻の縮地で深月に突撃するだろうと思っていたが、雫はすり足で円を描く様に距離を保ったまま警戒する。深月に関しては未だに眼を閉じたまま瞑想をしている。素人目からは隙だらけに見えるのか、坂上が「何で縮地で近付かねえんだ?」と疑問を口にする

 

「スーハースーハー、・・・はぁっ!!」

 

雫は手に持った黒刀を深月の胸部に向けて放った。黒刀が物凄い勢いで赤い軌跡を描いて深月に飛ぶが、深月が左手の人差し指を黒刀の先端に突き出す事で止まる

 

「まだっ!」

 

雫は黒刀の下を潜り抜けて深月の懐に一瞬で飛び込む。これは技能の縮地が無間に進化した力だ。黒刀を拾わなかったのは素手では攻撃しないという固定観念を潰す為、そのまま右拳を腹部にぶち込もうとした所で影―――深月が右手でカウンターの一撃を振り下ろす拳の影だった。攻撃は中断し、地面にスライディングする形で避ける。ついでに足首を掴んで体勢を崩そうとしたのだが、嫌な予感がした為抜ける事だけに全力を注いだ。その予感は正しく、掴もうとしていた足は上げられたのだ

 

「危なかったわね。あそこで掴んでいたら即終了だったわ」

 

「ふむ、対人経験が一番多い事から気付かれましたか。もしこれが香織さんならば終わっていましたね」

 

標的が雫から香織に移り、当の本人は図星を突かれたのかビクッと跳ねていた。恐らく、「私はあそこで掴むよ!」等と言っていたのだろう

 

「これは返却します」

 

深月は左手で遊んでいた黒刀を雫に放り一瞬視線を上にずらした。咄嗟の事で視線をずらした雫は、くの字に折れて後ろに跳んだ。その選択は正しく、先程まで体を置いていた場所丁度の所に拳が突き出されていたのだ

 

「くっ!?」

 

「足元がお留守ですよ」

 

後ろに跳ぶ選択は良かった。だが、隙が大きいこの一瞬を深月が見逃す事はない。跳び退く形で伸びたつま先の横を蹴られて地面に転ばされる。しかし、片手で地面を叩いてその場から緊急退避する

 

「それも予測していました」

 

「なっ!?」

 

雫が体勢を整えようとした瞬間、黒刀が落ちて来た。咄嗟に白刃取りで防ぐが、深月が黒刀の柄を持った事で勝敗が決した。手を離せば唐竹割、逸らそうとしても出来ない事から逃げ場が無くなったのだ

 

「これから逆転する手立てはありますか?」

 

「知ってて言ってるでしょ?無理よ。動かす事も出来ないし、手を離す事も出来ないわ」

 

「さて、これで雫さんがどの程度動けるのか把握しましたので次のレッスンと参りましょう!」

 

「・・・さっきのが訓練じゃなかったの?」

 

「技能が多いに越した事はありません。しかし、私が口酸っぱく言っている通り、技能を十全に活かせなければ豚に真珠、活かせる事が出来れば戦いの選択肢が増えるのです。だからこそ、一通りの技能の発動を確認し、復習し、理解する。先程の動きは今までの戦い方の延長線上、黒刀を飛ばしたのはハジメさん達の銃のレールガンを再現―――自分のオリジナルがありません」

 

雫は深月の言葉を聞き、取り敢えず技能の確認を先決する事にした。オリジナルの技術を確立するのであれば、技能がどういった物なのかをしっかりと把握しておかなければいけないのだ。魔物肉を食べる前の状態では技能が上手く使える程度なので、今から技能の確認と応用をするにはかなり時間を掛けなければいけない。しかし、それを解決するのがオリジナルの技術。易々と手に入れる事は出来ないが、手に入れた暁にはその武器を主軸に多岐に渡る戦闘が出来る事が確定している。そして、雫の技能確認と相談が始まった

 

「短時間で技能全てを把握する事は困難です。ですが、確認はしておきましょう。状況打破が出来ず、ばくちしか出来ない状況ではその引き出し有無で大きく変わります」

 

一つ一つを確かめる様に技能を行使し終えた雫は、自分にプラスとなる技能を選別する

 

「天歩、幻歩が主軸になりそうね。歩法で相手を迎え撃つ感じかしら?」

 

「気配感知、魔力感知、気配遮断については前者二つが最優先事項です。歩法を学んだとしても攻撃の感知を出来るか出来ないかでは違います。後手に回る事が駄目なのです」

 

「・・・そう。瞑想して感知を今以上に鋭くしないといけないわね」

 

「後は日常生活の中で歩法を変えてみましょう。自然と出る様にする事も大事です」

 

「なるほど。それじゃあ今から瞑想するわ」

 

「ただ魔力を感じるのはいけませんよ?流れや発生元を辿ればより一層良いです」

 

そして雫の訓練が再開した。ハジメと皐月とユエは魔力回復に努めているが、初心に帰って雫が行っている訓練を見る事にした。最近はゴリ押しが殆どの戦法が多いと感じたのだろう

雫の訓練は順調の一言で、下地が出来ていたお陰で感知系は十分使いこなせるまでに至った。瞑想している雫に深月が時折手加減した攻撃を行い、雫はそれを手で払ったり黒刀で弾いたりと防いでいた。着々と感知して防ぐ技術が向上する雫を見た香織は危機感を抱いた。「あれ?もしかして私より凄い速さで強くなってない?」と感じ、途中から混ざって訓練をするが付いて行けなかった。途中で深月から「邪魔するなら回復魔法の長所を伸ばして下さい」の一言で心を折られていたりした。そして、深月曰く雫の感知系の才能は元々備わっていたとの事だ

 

「雫がメキメキと強くなってるわね。私達よりも成長速度早くない?」

 

「元々何かを早々に察したり気付いたりとしていたからな。感受性が高いからか?」

 

「・・・一種の才能」

 

「うわぁ~、成長速度凄すぎませんか?」

 

「下地は出来ておったのじゃ。慣れるまで少し時間を要したのだけの筈じゃ」

 

ハジメ達は雫の成長速度に驚いていた。ステータスがいきなり上昇し、理解しきれていない技能を手に入れた直ぐにああも動ける事は中々ない

 

「雫ちゃんがどんどん強くなっているのに比べて私は・・・弱いなぁ」

 

一方、チート級のステータスと技能を持つノイントの身体を使っている香織は、自分よりもあっという間に力を使いこなしていく雫を見て落ち込んでいた

 

「何言ってるのよ。香織は回復職よ?戦闘職と一緒にしたら駄目よ」

 

「で、でも・・・」

 

香織としては自分も魔物肉を食べた方がいいのではと思っているのだろう。しかし、香織よりも丈夫な雫ですら死にかけるのだ。精神や覚悟が固く、仲間の為、足手纏いにならない為という不純な理由ではない。生への執着が強かったからこそ何とか堪え切れたのであって、そうでなかったらショック死していただろう

雫が訓練をする中、手持無沙汰の天之河と坂上は谷口が言う戦力不足を補う為にゲートキーを借りてハルツィナ樹海の魔物をテイムしに行っており、所々傷付きながら帰って来た。魔力が十分に回復したハジメ達は、神結晶の魔力タンクに補給している。その間、天之河達は雫の訓練風景をただ茫然と見ているしか出来ない程驚いていた

 

「そこっ!」

 

「ふっ!」

 

雫が遠慮なく深月の急所に向けて黒刀を振り下ろすが、深月は刀身の腹を叩いて軌道を逸らして回避する

 

「まだまだっ!」

 

「型を破りましたね」

 

叩かれてずらされた事を重く捉えず、振り切る手前で刃を上になる様に黒刀を回して切り上げる。これは深月が高頻度で使用する高速二連斬撃の技術の一つだ。雫が見た事があるのは樹海での戦闘で少しだけだったのだが、それを物の見事に自分の技へと取得していたのだ。これには深月もほんの少しだけ驚いた。しかし、だからと言って対処が出来ない訳ではない。所詮通り過ぎた斬撃が斬り返してくるだけなのだ

 

「ぜあぁあああっ!」

 

「ふむ、これならば85点でしょうか」

 

雫は、切り上げながら片足を軸に回転して横なぎで攻撃する。流れる動作での攻撃についハジメ達も驚くが、深月は横なぎの黒刀の刀身を肘と膝でプレスして受け止めた。普通ではない受け止め方に目を剥いた雫は隙だらけで、深月の空いている拳が頭部目掛けて放たれる。つい反射的に頭をずらして回避したが、仕舞う深月の拳が開かれて首を軽く掴まれた

 

「・・・参りました」

 

雫の敗北、これで全戦全敗―――当然の結果だ。しかし、徐々にではあるが戦闘時間が伸びているので確実に強くなっている事が分かる。ハジメ達よりも手加減されているとはいえこれだけの耐久・・・神の先兵と戦っても勝てる程の実力を手に入れたのだ

 

「さて、先程の横なぎは良い攻撃です」

 

「・・・完全に防がれた身としては何とも言えないわよ」

 

「あれは私でなくとも防げますが、反撃には転じる事は出来無いでしょう。ハジメさんとお嬢様が反撃するとならばドンナー・シュラーク位ですから対処法が分かる筈です。それに、私があのまま攻撃を避けたら奥の手を切るつもりだったのでしょう?」

 

「・・・奥の手バレてた?」

 

雫が既に奥の手を開発している事にハジメ達は驚く。この短時間で最大威力の技を作っている事の異常さ、アーティファクトをポンポンと作る自分も十分チートであると思うが、それは数を沢山作って経験を積んだからだ。雫みたいに一日程で出来る物ではないのだ

 

「私の私見では、反動が大きい攻撃だと思うのですが―――どうですか?」

 

「もうね、深月さんに勝てる存在っているの?どうして見せていない奥の手の反動が大きいと分かるの!?」

 

「と言われましても・・・虎視眈々と度肝を抜かせようとするその目と、最初の黒刀を飛ばしたあれを見て推測しただけですよ。恐らく、王国襲撃の際に見せた電磁抜刀"禍"を真似たかヒントを得たのでしょう。ですが、あれは繊細な電圧操作で肉体の負荷を最低限に抑えているのです。私の身体能力ですら操作を誤ればどこかを痛めるので、未熟な雫さんは無理だと判断しました」

 

「ねえ皐月、深月さんって予知能力あるの?そうじゃないとおかしいわよね!?」

 

雫が皐月に問うが、皐月は諦めた様に首を横に振る。既に皐月も、「深月だから」という理由だけで逃避しているのだ。いや、深月が言っている予測は当たっているし、ハジメ達でも深く考えれば思い至る。しかし、戦闘中にそこまで考え抜く事は出来ない

 

「今のハジメさん達に足りないのは思考力です。神水があるから、いざという時は大丈夫と考えていませんか?技能の先読で咄嗟に考えるから、相手の動きを見極めながらと放置していませんか?」

 

『うっ!?』

 

深月の言葉を聞いたハジメ達は、正論の矢が胸に突き刺さった。事実だけに痛く、改善しなければいけない部分でもある

 

「マルチタスクの数を増やせとは言いますが、三つ四つまでで十分です。私でも五つが限界ですので」

 

「あら、深月だったら十は出来てそうなのに」

 

「普段は出来ますよ?戦闘中は閉じているだけです。マルチタスクの弊害は注意力が散漫になり、手を抜いても勝てる相手に手傷を負わされたりする可能性があるのです。諸刃の剣でもありますが、咄嗟の場面で大活躍します。勝てる道筋を多く組み立て、戦闘を長引かせ、相手を疲弊させたりと予測を立てれます」

 

普通は出来ない・・・とはいえ、ハジメ達は強くならなければいけない。エヒトの力が未知数な上、チートスペックの中村、めんどい魔人族の三段構えだ。中村に関しては、皐月か深月に狙いを付けて攻撃する可能性が高い事から、お亡くなりになる可能性は極大。現在の深月のスペックならば十分倒せる範囲内だ

 

「よし!魔力も回復したからそろそろここから出るとするか」

 

ハジメの号令を聞き、皐月達は立ち上がる。オルクス迷宮の時よりとはいかないが、それなりの間滞在した拠点を深月がキレイキレイして氷の家から出た所で深月が攻略の証を皐月に手渡す。それは氷の様な青みがかった透明な石で、中に紋章が彫られていた

ハジメ達は、攻略の証を持ったまま魔法陣の所まで移動すると泉が凍てついた。そして、泉が徐々に盛り上がって十メートル程の大きさとなった氷の塊が割れて、氷で出来た竜が生まれた。氷竜は、ハジメ達の前に首を垂らす

 

「これまたファンタジーなショートカットだな」

 

「・・・ん。ご褒美?」

 

「試練の内容の嫌らしさとはかけ離れた心遣いですね」

 

それぞれ感想を呟きつつ、鱗で出来た階段を上り首の上を渡って背中に乗り込んだ。その直後、氷の翼を広げて一気に上昇。天井がみるみる近付くが、氷に穴が開いてその中を駆け抜ける。あっという間に地上へ出ると、そのまま雲の上まで昇り飛翔する

 

「太陽の位置からすると北西に向かってるのか。・・・どうやら、親切なことに雪原の境界まで送ってくれるらしいな」

 

「・・・ん。ミレディとメイルは見習うべき」

 

「私、解放者って女性の方が悪辣な気がします」

 

「やっぱり解放者達が居た時代は図太くないと生きていけない程なのかしら?」

 

「・・・・・」

 

ハジメ達は今までの女性陣の解放者を思い出しつつ辛辣な言葉を投げる中、深月は氷竜が飛翔する先を見据える

 

やっぱり居ますね。・・・魔人族、中村さん、先兵とごちゃ混ぜです。さてはて、彼等はどの様に私達を止めるのか見物ですね。定番の人質でしょうか?そうだとしたら・・・悪手ですね。それこそ、魔人族の種を絶滅させる為に動くでしょう。相手はそこまでの考えに至ってはいないでしょう

 

そうこうしている内に、氷竜は高度を下げて雪原の境界辺りで着地した。ハジメ達が下りたのを確認した氷竜は、そのまま来た道を引き返して行った。吹雪く中、深月の魔力糸の壁で何ともないがうっとおしいので早足で境界を抜けようとした時、ハジメと皐月とシアが感付いた

 

「これは・・・待ち伏せされているな」

 

「数は・・・かなり居るわね」

 

ハジメと皐月の警告に、全員が武器に手を掛けて警戒しながら吹雪の向こう側へと出た

 

「やはりここに出て来たか。私のときと同じだな。・・・それで、全員攻略したのか?白髪の少年少女よ」

 

「ふふ、光輝くん、久しぶり~。元気だった?」

 

そこには二回り程大きくなった白竜の上に騎乗するフリードと、灰竜を主とした大多数の魔物と、銀翼の先兵達と、切られた腕が再生していた中村が待ち構えていた

優に数百体の敵が大地と空を埋め尽くしている光景に、天之河達は冷や汗を流している。流石にこの量の敵が居るとは想定していなかったらしい。殺意を高めたハジメ達は、開戦の一発を放ってやろうと皆に目配せした

 

「逸るな。今は、貴様等と殺し合いに耽るつもりはない。地に這い蹲らせ、許しを乞わせたいのは山々だがな」

 

「へぇ、じゃあ、何をしに来たんだ?駄々を捏ねるしか能のない神に絶望でもして、自殺しに来たのかと思ったんだが?」

 

深月の予想を聞き、魔人族の神はエヒトの眷属である事を前提として言葉を投げる

 

「・・・挑発には乗らん。これも全ては我が主が私にお与え下さった命。私はただ、それを遂行するのみだ」

 

「で?忠犬フリードは、どんなご褒美を貰ったのかしら?」

 

「・・・寛容なる我が主は、貴様等の厚顔無恥な言動にも目を瞑り、居城へと招いて下さっている。我等は、その迎えだ。あの御方に拝謁できるなど有り得ない幸運。感動に打ち震えるがいい」

 

「「はぁ?」」

 

本当に意味が分からない。何故敵である自分達を拠点に案内するのだろうとツッコミを入れても不思議ではないだろう

 

「エヒトやら、アルヴとやらは神なんだろ?なんで城にいるんだよ」

 

「アルヴ様は確かに神――エヒト様の眷属であらせられるが・・・同時に、我等魔人族の王――魔王様でもあるのだ。神界よりこの汚れた地上へ顕現なされ、長きに渡り、偉大なる目的のため我等魔人族を導いて下さっていたのだよ」

 

ハジメは取り敢えず一番疑問に感じた事を尋ねる。フリードは、淡々とした口調かつ両手を広げて喜悦な説明をした。恐らく、ごく最近した事である事が感じ取れた。そして、何処となく深月の影と似ているなと思った

 

「・・・偉大なる目的、ね。さて、魔人族はどこまで踊らされているんだろうな」

 

「なにか言ったか?」

 

「いや?魔王様ご立派ご立派と褒めていたところだよ」

 

「・・・」

 

「それで?ご自慢の魔王様の説明を終えたのだからもう始めても良いわよね?」

 

フリードは、「話をちゃんと聞いていたのか?」と言いたげに青筋を浮かべていた。そこで、ハジメ達よりも軽い口調で中村が口を開く

 

「ちょっと、フリード。ペチャクチャ喋ってないで、さっさと済ませてよ。ボクは、早く光輝くんとあま~い時間を過ごしたいんだからさぁ」

 

「・・・分かっている」

 

フリードは中村とは協定仲間というだけなので余り快く思っていないが、舌打ちをしつつ気を取り直す。そして、再び口を開こうとした瞬間谷口の声に遮られる

 

「恵里っ!鈴はっ・・・恵里とっ、そのっ」

 

「ん?なぁに、鈴?相変わらず能天気な・・・って感じでもないかな?なに?恨み辛みでも吐きたいのかな?まぁ、喚きたければ好きに喚けばいいんじゃない?ボクにとってはどうでもいいことだけどぉ」

 

「ち、違うよっ。鈴はただ、恵里ともう一度話したくて!」

 

中村は谷口をウザそうな犬を追い払う様に手をシッシッと振る。谷口は、いきなりの展開で何を言ったらいいのかうまく言葉に表せなかった

 

「取り敢えず、皆殺しでOKだろ?」

 

「そうね。ユエ達は先兵と初めて戦うのだから気を付けてね?」

 

「・・・ん。それに招きに応じる理由もない」

 

「ぶっ飛ばして終わりですぅ!」

 

「・・・流石に、こんなに同じ顔が揃うと、自分じゃないと分かっていても不気味だね」

 

「そも、招き方もなっとらんのじゃ。礼儀知らずには、ちと、お灸を据えてやらねばいかんのぅ」

 

ハジメ達は、めんどくさいからとっとと終わらせる為に殺意を高める。引き金を引こうとした時、中村とフリードの前に巨大な鏡が出現。訝しむハジメ達の前で、それが一瞬だけノイズを走らせると何処かの風景を映し出した

空間魔法の一つ、仙鏡と言う遠見の魔法と言えば分かり易いだろう。仙鏡が映し出した光景は、壮大な柱とレッドカーペットだった。これに一早く気付いたのは深月だった

 

「これは王国と似た場所・・・何処かの城ですね。恐らく人質でしょう」

 

「・・・平然としているが、まぁその通りだ」

 

グルッと回転する様に光景が移動すると、鈍色の金属と輝く赤黒い魔力光で包まれた巨大な檻にハイリヒ王国に居たクラスメイト達とリリアーナの姿があった。しかも、抵抗したらしく永山パーティーが倒れ伏し、愛ちゃん親衛隊の園部達も怪我をしている様子だった。特に酷い怪我だったのは遠藤で、四肢の骨を折られていた

 

「・・・クソが」

 

「人質・・・ねぇ」

 

ハジメが思わず汚い言葉を吐き出す。皐月達も苦虫を噛み潰した様な表情をしており、特に動揺が酷かったのは天之河達地球組だった

 

「みんな・・・先生っ!」

 

「リリィまでっ」

 

香織と雫が焦燥とした声を漏らす。皐月は羅針盤を手に取ってその映像が本物であるかを調べると、魔人族の領地の先に居る事が分かった

 

「チッ、本物ね・・・」

 

「ほぅ、随分と面白い物を持っているな、少女。探査用のアーティファクトにしては、随分と強力な力を感じるぞ?それで大切な仲間の所在は確かめられたか?」

 

フリード達はさぞ嬉しいのだろう・・・優越感で表情を緩ませている。そして、この中で真っ先に吠えるのが天之河だ

 

「卑怯だぞっ!仲間を人質に取っておいてなにが招待だっ!今すぐ、みんなを返せっ!」

 

「アハハッ、流石、光輝くん!真っ直ぐで優しいねぇ~。ゴミ相手にもそんな真剣になっちゃって、惚れ直しちゃったよぉ」

 

「恵里、ふざけるなっ。こんなことをしたって何にもならない!みんなを返して、君も戻って来るんだ!」

 

「やぁ~ん、戻って来いとか言われちゃったよぉ。ボクを悶え殺す気だね?」

 

「恵里っ」

 

「くふふ、待っててねぇ。すぅ~ぐに、光輝くんをボクだけの光輝くんにしてあげるからねぇ~」

 

天之河は自分の言葉が中村に届いていない事に歯噛みし、フリードに視線を戻して更に言い募ろうとした瞬間、ドパンッ!が二発

 

「ッ!?」

 

中村とフリードの頭目掛けて放たれた弾丸。赤い軌跡を描いて吸い込まれたが、先兵の一人が大剣でフリードを守り、中村は鬱陶しそうに銀翼でガードする。弾丸一発だけで先兵の大剣はヒビが入る。それじゃあもう一発と放とうとしたハジメに谷口が腕に飛びついて邪魔をする

 

「ダ、ダメ!待って!お願い、待って、南雲君っ」

 

その隙に、フリードが冷や汗を流しながらも辛うじて表情は変えずに口を開いた

 

「・・・この狂人が。仲間の命が惜しくないのか」

 

「はっ、前に同じ状況でご自慢の仲間が吹き飛んだのを忘れたのか?大人しくついて行ったところで、全員まとめて殺されるのがオチだろうが。なにせ、自称神とやらは、俺が苦しみながら死ぬ姿をご所望らしいからな」

 

「それなら、仲間を見捨てても己だけは生き残ると?」

 

「何度も言わせるな。あいつらは仲間でもなんでもない。それに・・・お前等を皆殺しにしてから招かれても、問題はないだろう?」

 

ハジメが首を掻っ切るジェスチャーをし、会いに行く為の手土産はお前達の首だと言い表す。天之河達は、魔王よりも魔王しているなと思った

 

「威勢のいいことだ。これだけの使徒様を前にして正気とは思えんが・・・ここは、もう一枚、カードを切らせてもらおうか」

 

「なるほど、ここで本当の人質になり得るであろうレミアさんとミュウさんを映すのですね」

 

この中で何事もなく見ていた深月が淡々とした口調でツッコミを入れたと同時に、仙鏡が映し出す光景。レミアとミュウが捕らえられている映像だった

 

「へぇ~、魔人族は絶滅したいようね?」

 

ハジメと皐月の殺意が頂点に達し、周囲の弱い魔物達を気絶させた。ハジメの腕にしがみ付いていた谷口は後退り、唇を噛んで気絶する事だけは防いだが腰が抜けて立てない様子だ

 

「っ――っ――き、貴様等、あの魚モドキ共がどうなっても、いいのかっ」

 

予想とは裏腹の反応にフリードが慌てる。ミュウ達が捕らわれた理由はただ一つ。攫った人物はただ一人

 

「あはっ♪ここまで怒るなんて予想外だったよ~。あ、死なせたくなかったら大人しく武器を置いて大人しく付いて来る事だよ?プププッ!自慢の玩具を渡していたのにも関わらず攫われて残念だったね♪」

 

中村は煽る。ブチブチィッ!と堪忍袋の緒が切れる音が聞こえるが、深月がハジメと皐月の頭をハリセンで軽く叩く事で正気に戻させる

 

「おい、深月何しやがる!」

 

「そうよ!あいつらをぶっ殺せないじゃない!」

 

「ならば一旦落ち着いて下さい」

 

「「うっ!?」」

 

さて、この中で一番落ち着いているのは誰か―――深月だけだ。深月はハジメ達の隣に立ち、中村とフリードに忠告を入れる

 

「一つ言いますが、この場合での人質は危険ですよ?」

 

「ほう?貴様たちが手を出せば人質の命はないぞ?」

 

「・・・これは本当に無知ですね。良いですか?人質は最終手段かつ、相手が己よりも弱く、己に護る者も居ない時にだけ最大限に効果が発揮するのです」

 

「クソメイドの分際で指図するつもり?」

 

「いえいえ、レミアさんとミュウさんに手を掛けたが最後です。魔人族という種族は絶滅しますよ?特にフリード、貴方は同胞が一人一人泣き叫びながら死ぬ光景を見せられて殺されるでしょう。そして中村さんですが、勇者(笑)を細胞一つ残さずに殺せばどうされるおつもりですか?正直言いますと、私は貴女よりも早く動いて仕留めれます。これは脅迫です。貴方方が取れる選択は武装解除すらさせずに案内する事だけなのですよ。いえ、武装解除しても魔力の爆発で大量虐殺は可能ですね。あっ、魔人族の住まう領地全てを二度と住めない様に有害物質で汚染する事も一考ですね」

 

笑顔でハジメ達よりも物騒極まりない事を言い出し始める深月に、二人は頬が引き攣った。大迷宮を攻略したという事は、メイドもその魔法を手に入れたという事だ。そして、己がクリアしていない大迷宮の魔法も加わるとなれば未知数―――少しでも扱いを間違えば暴発する爆弾を抱えるのだ。安全のマージンを確保するには安全装置と言う名の武装や魔力を持たせるべきである。特にメイド・・・暴れたら半日で一国を殲滅する事が容易なのだ

 

「・・・招待を受けてやろう」

 

「な、なに?」

 

「深月が言った通りだ。武装解除はしない。それが通らなければ魔人族という種は滅ぼす。例え女子供であろうと例外なくだ」

 

「――っ」

 

ハジメと皐月の威圧に、フリードは一瞬でも感じ取った。"守らねば確実に実行する"と

 

「何が目的で招待なんぞしようとしているのか知らないが、敵の本拠地に丸腰で乗り込むつもりはない。それではなにも出来ずに全て終わってしまうかもしれないからな。そんな事になるくらいなら、イチかバチか暴れた方がまだマシだ」

 

「・・・あの母娘を見捨てるというのか」

 

「見捨てないさ。ただ、ここで武器を失う方が、見捨てる事に繋がると考えているだけだ」

 

「―――ちっ」

 

「聞こえていますよ?今直ぐ案内しなければ・・・子供からと言う手もありですね」

 

ハジメの言う事はブラフを含んでいるのだが、深月の場合は確実に実行するという事だ。しかし、どちらも実行できる程の実力を持っている

 

「・・・フリード。不毛なことは止めなさい。あの御方は、このような些事を気にしません。むしろ良い余興とさえ思うでしょう。また、我等が控えている限り、万が一はありません。イレギュラーへの拘束は我等の存在そのもので足ります」

 

「むっ、しかし・・・」

 

「そうですね。先兵全てが一斉攻撃を仕掛けてきたのならば足止めされてしまいますね。ですが安心して下さい!私達が生き残れば、全ての種を滅ぼせば何も問題ありません!」

 

「この人数の中生き残れるとでも?」

 

「相手の力量すらデータでしか把握出来ていない人形には理解出来ないでしょうね」

 

煽り、煽り返すの板挟みとなっているフリードは泣いて良いだろう。どちらも己よりも絶対強者故に恐ろしい。魔人族の為行動しているが、一つ間違えば己の目の前で殺される事を思えばだ。フリードはゲートを開き、案内する様に潜り、ハジメ達も後に続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「ポニテ少女が強くなったよ!これで完全な足手纏いから脱却!!」
深月「魔物肉を食べる事は、生半可な気持ちでは死に直結しますから」
布団「しかし・・・メイドさんは人質に対して厳しい意見ですねぇ」
深月「助けないという選択肢は選びませんが、助けれなかった場合の先を考慮するのであれば強気に出ても良いのですよ。相手側に護る者が居なければですが・・・」



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うっそだろ!?メイドさんが・・・

布団「FGOイベントも終わり、一発目!」
深月「ゲームの話は置いておきましょう」
布団「今話は急展開!敵陣に乗り込む主人公達。だが、待っていたのは罠ばかり!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」





~深月side~

 

一行がゲートを潜った先は巨大なテラスだった。学校の屋上程の広さがあり全員が入っても余りある程のスペースで、ハジメ達を監視する先兵達は空を飛ぶ者と傍で監視する者と別れている。フリードはゲートを閉じ、ハジメ達を促して付いて来させる

 

「光輝く~ん、あのクソメイド、酷いよね~。クラスメイト達を人質に取られているのにあんな事言うんだよ?」

 

「え、恵里っ、君はっ」

 

中村は天之河の片腕に抱き着いて、悪びれもない様子でニタニタと嗤いながら体を摺り寄せる

 

「早くそのど腐れ野郎を引き取ってくれませんか?既成事実を作って言い逃れ出来ない様にして欲しいです」

 

「あぁん?クソメイドは立場分かってるの?この距離なら光輝君を護れるんだよ?」

 

一触即発な空気に皆がピリピリする。特にフリードは、胸を抑えている事から胃痛案件なのだろう

長い石造りの廊下を進み、魔王城の謁見の間に相応しい威容の扉の前に到着。フリードが扉の番人をしている魔人族の仲間に視線を送り魔人族が扉に手をかざすと、重厚そうな扉がギギギッと音を立てながらゆっくりと開く。扉の奥には仙鏡で見た光景があり、そのまま入室して玉座の前まで歩いていると檻に入れられたクラスメイト達や畑山とリリアーナが居た。向こうもハジメ達が来た事に気付き、皆が驚いた表情をして涙ぐむ。更に、ハジメ達よりもチートな存在の深月が居る事でこれで助かると思ったクラスメイト達が名前を呼ぼうとした時―――

 

「パパぁーー!!皐月ママーー!!」

 

「あなた!!皐月さん!!」

 

何も知らなかった者達・・・特に男子達が"どういう事だ!?"と驚愕の表情をしていた。

 

「ミュウ、レミア。すまない、巻き込んじまったな。待ってろ。直ぐに出してやる」

 

「こればかりは私達の想定外だったわ。ごめんね?」

 

「パパ、皐月ママ・・・ミュウは大丈夫なの。信じて待ってたの。だから、わるものに負けないで!」

 

「あらあら、ミュウったら・・・ハジメさん、皐月さん。私達は大丈夫ですから、どうかお気を付けて」

 

先程まで不安だったのにも関わらず、ハジメ達が現れた途端笑みを浮かべて安心するミュウと、落ち着いた雰囲気を纏ったレミアが逆にハジメ達を気遣う。フリードが「騒ぐな」と口を挟む前に、玉座の背後から声が聞こえた

 

「いつの時代も、いいものだね。親子の絆というものは。私にも経験があるから分かるよ。もっとも、私の場合、姪と叔父という関係だったけれどね」

 

玉座の後ろの壁がスライドし、金髪紅眼の美丈夫が現れた。年は初老の頃辺りで、金の刺繍が施された衣服とマントを着て、オールバックの髪型をしていた。少しだけ垂れた髪と胸元を少しだけ開いた格好は色気がありつつ、力強さと魔王としての重圧もあった。十中八九あの男がアルヴ神である事に違いない。穏やかな笑みを浮かべながら近づく魔王に、ハジメと皐月は目を細める

 

「・・・う、そ・・・どう、して・・・」

 

「「ユエ?」」

 

動揺しているユエに二人が声を掛けるも聞こえていない様子で、ありえない者を見ているかの様な反応だ

 

「なるほど、貴方がユエさんを閉じ込めた張本人なのですね」

 

「ここは私が答えるまで待つのが定番な筈だが・・・まあいい。やぁ、アレーティア。久しぶりだね。相変わらず、君は小さく可愛らしい」

 

「・・・叔父、さま・・・」

 

「そうだ、私だよ。アレーティア。驚いているようだね。・・・無理もない。だが、そんな姿も懐かしく愛らしい。三百年前から変わっていないね」

 

叔父と呼ばれる彼は玉座の祭壇から降りながらフリード達へ手をかざすと、床に倒れ伏した。余りにもいきなりの出来事に皆が驚く中、彼はゆっくりとユエの前に立ち止まってハジメ達を包む様に障壁を展開しようとするが、深月の黒刀が首筋に添えられた事で動きを止める

 

「私とアレーティアの再会を邪魔しないでくれるかな?このままだと喋りにくい」

 

「深月、下がりなさい」

 

彼は冷や汗を流し、皐月が深月を命令で下げさせる。これで話し合いをする事が出来る

 

「ふぅ・・・かなり危険なメイドだね。でも、アレーティアを想って護ってくれた事を思うと良い仲間を手に入れたね。でも、一応障壁を張らせてもらうよ。これは音と姿を誤認させる障壁だから安心して欲しい」

 

「・・・どういうつもり?」

 

「高坂皐月君、といったね。君の警戒心はもっともだ。だから、回りくどいのは無しにして、単刀直入に言おう。私、ガーランド魔王国の現魔王にして、元吸血鬼の国アヴァタール王国の宰相――ディンリード・ガルディア・ウェスペリティリオ・アヴァタールは・・・神に反逆する者だ」

 

ハジメと皐月と深月以外は驚愕した。仮にも魔族の長である者が神に反逆する者の一人である事実に息を呑む。そんな中、谷口が中村を心配して近づこうとするのを天之河が手で制して脈があるかをどうかを確認して小さく微笑む。彼等は仮死状態となっており、谷口はホッと胸を撫で下ろす

 

「心配させてすまないね。でも、こうでもしないと話し合いは出来ないからね」

 

深月は手の出せない状況に不機嫌になりつつ、一度冷静になってディーンリードが話す物事の整理を開始する

 

ここで一度復習をしましょう

・ユエさんを奈落に閉じ込めた人物があのディンリードである事

・およそ三百年の間封印

・先祖返りではないのに生きている事

そして、追加の情報

・変成魔法の使い手

・生成魔法を手に入れたが適正無し

・アルヴがエヒトに反逆

・アルヴがディーンリードの身体を使っている

・信仰を持っていないユエさんはイレギュラー

う~ん、これだけ条件が揃っているとツッコミ所満載ですね。違和感多すぎて馬鹿じゃないかと思いますよ。さてと・・・嘘は言っていないこの状況で皆を護るのは厳しいときました。保険が機能してくれたら良いのですが、こればっかりはぶっつけ本番以外どうする事も出来ませんね。あっ、やはりお嬢様とハジメさんは気付きましたね

 

ハジメが周囲の使徒を潰し、皐月がディーンリードを撃ったりとしていたのだ。まぁ、その行いに皆はビックリ仰天で慌てて止めに入ったりしている

 

「いや、全く、多少の不自然さがあっても、溺愛する恋人の父親も同然の相手となれば、少しは鈍ると思っていたのだがね。まさか、そんな理由でいきなり攻撃するとは・・・人間の矮小さというものを読み違えていたようだ」

 

パチパチと手を叩きながら、何事もなかったかの様に振る舞うディーンリード―――いや、アルヴだ。衣服の乱れも無く、本当に撃たれたのかと錯覚する程の無傷だ

 

「せっかく、こちら側に傾きかけた精神まで立て直させてしまいよって。次善策に移らねばならんとは・・・あの御方に面目が立たないではないか」

 

「・・・叔父様じゃない」

 

「ふん、お前の言う叔父様だとも。但し、この肉体はというべきだがね」

 

「・・・それは乗っ取ったということ?」

 

ユエは手に蒼炎を浮かべながら尋問する。そんなユエを見ながらアルヴはニヤニヤと口元を裂きながら嗤う

 

「人聞きの悪いことを。有効な再利用と言って欲しいものだ。このエヒト様の眷属神たるアルヴが、死んだ後も肉体を使ってやっているのだ。選ばれたのだぞ?身に余る栄誉だと感動の一つでもしてはどうかね?全く、この男も、死ぬ前にお前を隠したときの記憶も神代魔法の知識も消してしまうとは肉体以外は使えない男よ。生きていると知っていれば、なんとしても引きずり出してやったものを」

 

「・・・お前が叔父様を殺したの?」

 

「ふふ、どうだろうな?」

 

「・・・答えろ」

 

「ほぅ、いいのかね?実は、今の言葉も嘘で、ディンリードは生きているかもしれんぞ?この身の内の深奥に隠されてな?」

 

「っ・・・」

 

深月はアルヴを見て違和感を感じた。戦場で感じた事のある感覚―――はったりと事実を交えながら時間を延ばす事。時間稼ぎを。急ぎ感知技能を最大限に引き上げるも、反応が無い

 

やはり壊しておくべきでした!

 

アルヴがユエに何かを言い残す前に、深月は一瞬で障壁に発勁を叩き込んで粉々に破壊する。だが、ユエはアルヴが残した置き土産に心を揺らされてしまっていた。障壁の破壊と同時に全部が一斉に動く

 

「――"堕識"」

 

中村の闇系統魔法の標的は皐月かと思いきや狙いはユエで、フリードの攻撃がミュウやレミアに攻撃が向かい、アルヴの攻撃がハジメに、周囲から数十体の先兵が躍り出る。タイミングを見計らった同時攻撃―――この時、深月は先兵が皐月を攫う可能性を危惧して護衛に集中した

 

「舐めんじゃないわよ!」

 

ハジメはミュウとレミアを護りに行き、皐月の乱れ撃ちがハジメ達に飛んで来る魔弾の全てを横っ飛びで迎撃し、襲い掛かる先兵は深月が拳で粉砕し、シアは畑山達を護る様にスラッグ弾を手前に撃ち込んで衝撃で吹き飛ばす。ヘイトを取ろる為に、アルヴとフリードに向けてブレスを打ち込もうとしたティオと我を取り戻した香織と雫が他の先兵を攻撃しようとした瞬間

 

「――"堕識"」

 

中村の魔法が三人に放たれ、一瞬だけ意識が飛んでしまった。中村はその隙を見逃さず、三人の後ろに回り込んで衝撃波を放って吹き飛ばす。全員が手一杯な所で、皐月と同じ様に魔弾の迎撃で動けなかったユエが光の柱に飲み込まれた

 

「ユエッ!」

 

「ユエさんっ!」

 

「深月っ!」

 

皐月が先兵の殆どを粉砕し終えた深月に光の柱をぶち壊せと命令しようとした

 

「さっせないよ~!」

 

「邪魔ですねっ!」

 

中村が皐月に攻撃を仕掛け、深月がその全てを防ぐ。中村は意地汚く、ハジメと皐月と深月が動けない様に密集した面での攻撃を手当たり次第に行っていた。周囲の被害なんてどうでもいい、足止めだけを目的としたそれだった

 

「お嬢様は動かないで下さい。ハジメさん!」

 

深月はハジメに一瞬だけ目配せして、黒刀を中村に放り気配遮断。技術が昇華魔法でより一層凶悪になったミスディレクションで一瞬で背後に回ってジャーマンスープレックスをぶちかまし中村を犬神家にする

特大な隙を得たハジメは、レミアとミュウにビットの障壁を展開して戦線を一気に駆け抜けてユエの元へ向かう。そんなハジメを攻撃しようとするお邪魔虫は、深月のハーゼン・ハウンドで撃ち落としたり牽制したりする

 

「ぶち壊してやるっ」

 

光の柱の傍まで近づいたハジメがパイルバンカーで柱を打ち貫く姿を見た皐月達は、ユエが窮地を脱した事に一安心しつつも猛攻を防ぎ、切り崩しと後の為の退路を切り開く

 

「っ、ユエ!」

 

光の柱が粉々になって一瞬だけユエの姿が見えなくなるが、変わらずその場所に居た事にハジメは安堵する

 

「ユエっ」

 

「・・・ここにいる」

 

ユエが問題無いと返事を返した瞬間、深月はなんとなく違和感を感じた。気配、声、心拍、魂―――全てが変わらないのにも関わらず、戦場で培った勘が大音量で警告を鳴らした

 

これは・・・ハジメさんが危険です。回収!

 

ハジメがユエを心配して話し掛けているが、深月は有無を言わさずにハジメの腰に魔力糸を巻き付けて引っ張る

 

「どわぁっ!?」

 

「深月何やってるの!?」

 

皆が深月の行動に驚愕する。ユエを置いてハジメだけを回収する事がありえないと。ハジメは皐月の傍まで回収される

 

「おい深月、ユエも回収しないといけないだろ!」

 

「二人回収するのは無理じゃないでしょ!?」

 

二人が深月に怒るが、深月の一言で硬直する

 

「あれはユエさんではありません!あれは・・・あれはエヒトです!」

 

「ふふふふ、本当にいい気分だよ、イレギュラー。現界したのは一体、いつぶりだろうか・・・。だが、そこまで予測を立てていたとは予想外だよ」

 

『なっ!?』

 

ユエとはかけ離れた言葉遣いと、深月の言葉で誰もが理解した。あの光の柱はエヒトがユエに憑依する為の一手だと。しかも、ユエの身体なので無茶な攻撃も出来ないという八方塞がりの展開だ。あまりにも危険な状況と、ユエからエヒトを引き剥がす為の武器も無い事から一度撤退しようと考える。しかし、それはエヒトの一言で敵わなくなった

 

「エヒトの名において命ずる――"動くな"」

 

『ッ!?』

 

ハジメ達の身体がまるで標本の様に固まってしまった。エヒトはゆっくりとハジメと皐月に近づき、手刀で腹部を貫こうとする

 

「さて、これでお前達を弄びながら殺そうかびゅっ!?」

 

だが、無防備なエヒトに深月のボディーブローが突き刺さる

 

「がはっ!?何故だ!何故神言が効かない!?」

 

「は?お嬢様以外の命令を私は受け付けませんよ!!」

 

「くっ!?お前達やれ!!」

 

エヒトは飛び退いて距離を置き、周囲の使徒達に命令を下す。その言葉と同時に全員の攻撃がハジメ達に殺到するが、物理は黒刀で防ぎ、魔力の攻撃は深月に吸収されたりと全てを防ぎきる

 

「流石、イレギュラーといったところか。―――だが、殺到している魔法の全てを防ぎきれるかな?――"四方の震天"――"螺旋描く禍天"」

 

「その程度っ!」

 

無色透明の魔力糸をドーム状に展開し、当たった傍から吸収する。どんな魔力攻撃も吸収され、物理攻撃は弾かれと頑強過ぎる防御壁だ

 

「ほう?魔力を吸収しているのか。どれ、最大火力を味わってもらおうか―――"五天龍"」

 

エヒトはユエのオリジナル魔法を放つ。しかし、その威力は絶大。ユエが放つよりも数倍の大きさの龍が深月に襲い掛かる。前方の視界を潰す程の魔法だが、それも深月の前では無力。深月は片手をかざし、装填で絶大の魔力を自身に取り込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

「ぐっ、ハジメ動ける?」

 

「限界突破で何とか破ったがな」

 

「深月が居たからどうにか無事だけど、ユエをどうやって取り戻す?」

 

「・・・悔しいが、方法が思いつかねぇ」

 

深月が猛攻を防いでいる間、二人は限界突破で神言を破る。それと同時に、エヒトが放つ巨大な五天龍が深月に放たれる。しかし、その攻撃は装填されて無効化された。ハジメ達は宝物庫から武装を取り出し、邪魔な周囲を殲滅しようとした時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「"平伏せよ"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユエとは違う声―――慣れ親しんだ声色・・・深月の声だった。その声を聞いたハジメ達は、限界突破をして自由となった体でも逆らう事が出来ずに全員が地面に倒れ伏した。これだけで理解した。エヒトの本当の目的とは

 

「ふっ、目当ての身体は手に入った。流石はイレギュラーだ。いや、この身体だけが異常個体なのだろう。最も優れた身体を手に入れる為とはいえ、そこの吸血鬼の身体に入った事は業腹だな」

 

「おっ、まええええええええ!!」

 

「"伏して静かに拝聴せよ"」

 

口が閉ざされ、何も言えなくなる。ハジメと皐月は覇潰を使用して体を動かそうと試みるも、先程の神言よりも強力なのか体がピクリとも動かない

 

「ふむ、良い眺めだ。全てが我の前で平伏し、言う事を聞く駒のこれこそあるべき姿なのだ。あぁ、先程の吸血鬼も目を覚ましたか」

 

エヒトが振り返った先には、地面に倒れ伏したユエの姿だ。既に目を覚ましており、この現状に混乱している様子だ

 

「ありえない、ありえない!深月は状態異常完全無効の技能があった!憑依なんて出来ない!!」

 

そう、ハジメ達の疑問もそれだ。憑依状態もこの技能の対象であると思っているのだ。しかし、現にエヒトは憑依しており、この矛盾が理解出来なかった

 

「脆弱な貴様達では本当の意味を理解出来ていないのだろう。だが、今の我は気分が良いから教えてやろう。あの技能は身体の異常を無効にする―――が、それは普通にしていればだ。我は魔法に魂を乗せてイレギュラーに放ったのだ」

 

これを聞いた皐月は目を見開いた。可能性としてはありえなくもないが、唯一考えられるのは装填

 

「気付いた様だな?このイレギュラーが魔法を取り込んで纏う姿を見た時には感動に打ち震えた。新たなる魔法の可能性に付け加え、魂までも変質させるその技術。分かるか?魂まで魔法の属性に切り替えるのだ。そこに我の魂が乗せられたらどうなると思う?上書きされるのだよ」

 

深月が装填を見せたのは奈落の拠点と、王国襲撃の際の二回だけだ。エヒトが見る事が出来たのは一度―――だが、そのたった一度で全てを見極めたのだ

 

「さて、この身体と魂が混じるまでには少しばかり時間が掛かる。だが、その前にお前達に絶望を味わわせようか。動けぬ身体でどこまで抵抗出来るか楽しみだ」

 

エヒトはハジメと皐月に向き直り、指パッチンを一度。たったそれだけでユエ達も身に着けていた宝物庫が回収されたのだ。普通では破壊出来ないそれを、手を握っただけで粉々の砂状に変えた。そして、ハジメと皐月が装備していたドンナー・シュラークも回収して手で弄る

 

「よいアーティファクトだ。この中に収められているアーティファクトの数々も、中々に興味深かった。イレギュラーの世界は、それなりに愉快な場所のようだ。ふふ、この世界での戯れにも飽いていたところ。魂だけの存在では、異世界への転移は難行であったが・・・我の器も手に入れたことであるし、今度は異世界で遊んでみようか」

 

今度は手を握り締める動作もせず、手の上にあったドンナー・シュラークが砂に変わった

 

「おっと、忘れるところであった」

 

ワザとらしい笑みを浮かべながらもう一度指パッチン。すると、ハジメの義手が粉々に破壊された

 

「くそったれがぁああああ!!」

 

「よく足掻くものだな。しかし、何故貴様の方は破壊されない。どんなアーティファクトを身に着けているのか気になるぞ」

 

エヒトがもう一度指パッチンして、深月が皐月に渡した御守りが取り上げられる。しかし、エヒトがじっくり手に取って調べるも"皐月の元に戻るだけ"の効果に興味を失くして地面に放り捨てると消える。それならば直接破壊しようと近付き、義手の右手に手を出して触ろうとした瞬間、バチィッ!と何かに弾かれる様に手が肘の部分まで崩れ落ちる

 

「何?」

 

『えっ?』

 

この場に居る全ての者達が何が起こっているのかが理解出来なかった。だが、皐月に手を掛けようとしたエヒトにハジメがブチ切れ、皐月は深月の身体で隙勝手するエヒトにブチ切れて徐々に体を動かし始めた。これぞ火事場の馬鹿力?で動こうとする二人を見て、少し離れた場所でエヒトの降臨に恍惚の表情を浮かべながら涙していたアルヴが、ハッと我に返り戦慄の表情を浮かべた。ハジメ達の力が徐々に大きくなり、己と同等にまで成長した力に驚いているのだ

 

「我が主!」

 

「よい、アルヴヘイト。所詮、羽虫の足掻きだ。エヒトルジュエの名において命ずる――"鎮まれ"」

 

エヒトの神言が二人の覇潰を自分の意思で解除させようとする。だが、ハジメと皐月の身体を纏う紅い魔力は点滅し、必死に足掻いている

 

「があああああああああ!!」

 

「ぅああああああああああ!!」

 

その様子を見たエヒトは、深月の顔を邪悪に歪めて余興を見ている様子だ

 

「ほぅ、まさか我が真名を用いた"神言"にすら抗うとはな。・・・中々、楽しませてくれる。仲間は倒れ、最愛の従者は奪われ、頼みのアーティファクトも潰えた。これでもまだ、絶望が足りないというか」

 

「・・・当たり、前だ。てめぇは・・・殺すっ。深月は・・・取り戻すっ。・・・それで終わりだっ」

 

「クックックッ、そうかそうか。ならば、そろそろ仕上げと行こうか。一思いに殲滅しなかった理由を披露できて我も嬉しい限りだ」

 

「コロス、コロスコロスコロス!エヒトは絶対に私の手でコロス!!」

 

ここでエヒトは満面の笑みを浮かべて、敢えて深月が再現した技でハジメ達は勿論、その後ろに居るレミアやミュウ達にも標的に加える

 

「ストナー〇ンシャインと言っていたか?太陽という名を付けられているだけの威力があるな。これを放ってやろう。例え、イレギュラーの高坂皐月だけが死ななくとも、我に挑もうと足掻く姿も見物だ」

 

大切な仲間の姿で殺し、例え何かしらの方法で生き残るであろう皐月の抗う姿を見ながら楽しむという腹積もりだ。とても趣味の悪いエヒトに舌打ちをしつつ、皐月は叫んだ

 

「深月、目を覚ましなさい!私の声が聞こえるなら抗いなさい!!」

 

「ふふ、遂に従者頼りか?無駄な事。これは既に我のものだ。それとも時間稼ぎか?今こうしている間も、お前への戒めは解けてきているからな。全く、大したものだ。・・・だが、所詮は矮小な人間よ」

 

「深月!俺達の声が聞こえる筈だ!敗けるな!!」

 

片手に巨大な魔力の塊を放り投げようとしたエヒトだが、その手がピクリと震えて魔力が霧散した

 

「ッ!?何だ・・・魔力が・・・体が・・・まさかっ、有り得んっ」

 

エヒトが頭を押さえて膝を付く。いきなりの事にアルヴが咄嗟に体を支えようとするが、その手は振り払われる

 

「ぐっ、イレギュラァアアアア!「わ、たしの身体で!」黙れっ!「お嬢様に」無駄な足掻きを「手を出すなぁああああ!」ありえん!ありぇえええん!」

 

両手で頭を押さえ、ブンブンと頭を振って何かに抵抗している。だが、所々に出て来る声は深月の意思だと理解出来た

 

『深月(さん)!!』

 

助けようと動く事も出来ず、ただ言葉を投げる事しか出来ない現状に歯噛みしつつ手を伸ばす

 

「くっ、図に乗るな、人如きが。エヒトルジュエの名において命ずる! ――"神楽深月は黙れ"!」

 

脂汗を流しながらエヒトの真名による神言が放たれる。これには深月も少しばかり影響があった。いや、深月の魂だけに直接干渉する効果にエヒトは息を荒げながら平静さを取り戻す

 

「・・・アルヴヘイト。我は一度、神域へ戻る。イレギュラーの魂を見誤り万全とはいかなかったようだ。我を相手に、信じられん事だが、未だに抵抗している。調整が必要だ」

 

「わ、我が主。申し訳ございません・・・」

 

「良い、これは我の予想外の出来事だ。三、四日は調整が必要とする。その間はお前に任せる。フリード、恵里、共に来るがいい。お前達の望み、我が叶えてやろう」

 

「はっ、主の御心のままに」

 

「はいはぁ~い。光輝くんと二人っきりの世界をくれるんでしょ?なら、なんでもしちゃいますよぉ~と」

 

エヒトが手を頭上に広げると、ユエが捕らわれてた様な光の柱が降りてエヒト達を包む。そして、そのままゆっくりとエレベーターの様に天に昇って行く。恐らく、あれがエヒト達が言う神域への入口なのだろう

 

「イレギュラー諸君。我は、ここで失礼させてもらおう。激しく抵抗をしている魂に、身の程というものを分からせてやらねばならんのでね。それと、三日後にはこの世界に花を咲かせようと思う。人で作る真っ赤な花で世界を埋め尽くす。最後の遊戯だ。その後は、是非、異世界で遊んでみようと思っている。もっとも、この場で死ぬお前達には関係のない事だがね」

 

エヒトがこの世界に興味を失くし、地球へと標的を変えた。最後の盛大なパーティーでこの世界を滅ぼし、新天地へ赴く為に肉体を万全にするつもりだ

 

「く、っそたれ!深月を、返しやがれっ!!」

 

「待ちなさいっ・・・深月を返せ!!」

 

ハジメと皐月は、地面に縛られる力を振りほどきながら深月に向けて手を伸ばす。しかし、アルヴの何かしらの力によって動かす身体を固められ、先兵達によって取り押さえられる。纏っていた魔力、仕込んでいた魔法陣共に分解されて手も足も出せない状況にさせられる。しかし、それでも尚足掻きながら深月を取り戻そうと近付くハジメと皐月に、エヒトは一瞥して口元を歪めて嗤う。

エヒトが神域へと消え、フリードや中村、天之河、先兵、魔物、傀儡兵も浮かび上がり、その半数程が天へと上っていく。魔王城の外でも大規模の先兵と魔人族と魔物が神域へと繋がるゲートへ目指す。神域から見るエヒトは彼等を迎え入れる様に手を広げており、何処かで見た絵の如く全ては自分の物であるとでも言う様相だ。魔人族達は大歓声を上げ、エヒトは艶然と微笑んで光に溶ける様に消えて行った

 

「「深月ぃいいいいいいいっ!」」

 

ハジメと皐月の絶叫が虚しく木霊する。伸ばした手は掴む事なく、大切な存在が居なくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「メイドさんがクソ神の標的だった!だが、メイドさんの魂は頑丈。とはいえ、完全に掌握されるまでには時間が掛かる。何としてもその前に取り戻さなければいけない!次回、メイドさん危機一髪!―――偽予告だよ」




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メイドはやっぱりメイドだった

布団「投稿だよ!雨が降れば執筆に時間を割けれる!!という訳で、読者の皆様方ごゆっくり」





それはそうと、たくさんの誤字報告ありがとうございます。投稿した時に言おうと思っていたのを長々と忘れてました。・・・ユルシテ





~皐月side~

 

エヒトが神域へと戻った。深月が連れ去られた。いきなり失った最強戦力かつ、依存に近い状況の皐月に生まれた虚無。殺意云々よりも虚無が皐月の心を支配していた

 

深月が居ない・・・?どうして?何故?あぁ、弱いからだ。弱いから奪われるんだ

 

弱者は淘汰される。この世界では当たり前な事で、自分達がその弱者に部類される事が少なかったので自覚が足りなかった。奈落から這い上がり、他者を圧倒出来る力故の慢心が原因だ

 

「我が主は神域に戻られたので我も戻ろう。だが、その体は新しい依り代としよう」

 

アルヴが地面に伏しているユエに標的を変えた。深月の次はユエ―――、アルヴがユエの頭に手を乗せようとした瞬間、アルヴの両腕が切り落とされた。しかも、切り落とされた腕は無かった

 

「ぐぎゃあああああああ!?」

 

紐程の極細の鎖が皐月を中心に渦巻いていた。皐月を取り押さえようとしていた先兵は、その鎖に触れただけで分解された様に存在がごっそりと削り取られる

 

「"全てを無に帰せ(消えて無くなれ)"」

 

深月を失った喪失感故の感情。敵は全て消えて無くなれという意志だけの魔法に、相手は手も足も出ずに削られる

 

「イレギュラーは、我々、使徒が。これ以上、御身に傷がつく前に――」

 

「ひぃっ」

 

アルヴを護ろうとした先兵が、一センチ角の賽の目切りにされた後全てを消した。自慢の先兵が秒殺された光景に、アルヴから情けない悲鳴が上がる。皐月はエヒトの神言を跳ね除けて立ち上がり、ゆっくりと一歩一歩近づく

殺意の重圧にアルヴが背を向けて逃走しようとするものの、一歩を踏み出す前に両足を削り取られてダルマにされる

 

「・・・どこへ行く気?」

 

「っ・・・」

 

これで行動する事が出来なくなったとハジメ達は判断して警戒をしつつ他の者達に気を気張ろうとした瞬間、先兵の一人がアルヴの傍に立ってボロボロと粉になって消える。それと同時にアルヴの手足が再生し、火炎弾を放ち目くらましをする

 

「その身体を寄こせ!」

 

「っ!?」

 

ユエとの距離が指一本分程だった。ユエは、触られたが最後、アルヴに身体を乗っ取られる事に硬直してしまった。アルヴは勝ったと確信にニヤついた

 

ズッドンッ!『グエッ!?』プチッ

 

しかし、突如頭上から降ってきた者に潰されて地面のシミとなった。土煙が舞い、ハジメ達は傷だらけの体をなんとか起こして皐月の傍へと移動する。これは護られるという事もあるが、それ以上に皐月が暴走する事を防ぐ為だ。土煙が晴れた先には―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメデザインのメイド服を着た深月が居た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありえない現状に、皆が目を剥いて深月を凝視する。深月の身体はエヒトに奪われたのに、寸分違わない体の深月がそこにあるからだ

 

「さぁ、只今帰還しましたよお嬢―――『ジャララララ』ッ!?」

 

深月の帰還の報告が皐月に告げられるが、皐月の返答は全てを無に帰す鎖の一撃だった

 

「クソ神も余程私を怒らせたいのね。深月の姿でもう一度姿を現すなんて・・・・・死ね」

 

「ストーップ!私は神楽深月です!クソ神ではありませんよ!!」

 

「なら、どう証明出来ると?エヒトは深月の身体を乗っ取った=深月が体験した記憶もそのままという過程も成り立つ筈よ。それに、先兵を大量生産したエヒトが模して創った仮説の方が説得力があるわ」

 

皐月は冷静じゃないとハジメ達は思っていたが、冷静だからこその仮説が成り立っているこの状況―――皆がより一層警戒する

 

「憑依はあくまでも精神だけに作用するだけです!私の魂には影響ありません!!」

 

「それを断言すると言う事は、クソ神の当事者だけよ。消えなさい」

 

鎖が深月?に向けて殺到するが、ひらりひらりと舞う様に躱す姿に余計に皐月はいら立ちが募る

 

「話を聞いて下さいっ!」

 

「却下よ」

 

深月?の言葉に皐月は即答する。只でさえチートスペックな深月の身体を使っているので時間稼ぎでも危険な状況なのだ。つべこべ言わず、敵は排除するの一言だ

 

「な、なぁ皐月。ちょっと位話を聞いても良いんじゃねぇか?」

 

「ん・・・攻撃していない」

 

「そうですよ。クソ神だったら、深月さんの身体で人質を殺そうとする筈ですぅ」

 

確かにハジメ達の言う通り攻撃して来ないし、シアの言う事も一理あるわね。クソ神は陰湿で殺したいと思う程のアクションを起こす筈ね

 

取り敢えず攻撃を止め、鎖を出したままの臨戦態勢で待機して深月?の言葉を聞く事にした

 

「それで?どうやって自分だと証明するのかしら?」

 

「それはお嬢様の愛を語れば良いだけです!」

 

語られる皐月への親愛の言葉。ハジメ達は、「あ~、これは深月だなぁ~」と思いつつ苦笑いしているが、当の本人は真顔で酷く冷たい視線を送りながら

 

「よし、殺そう」

 

「何故に!?」

 

愛を語るなとは言わないが、皐月が何時トイレに行ったのか、あの時の下着は~等々と言わなくてもいい情報を発する口を封じなければより酷い何かを発する可能性が極めて高い

 

「さ、皐月。こ、これは必要な事だったから!大丈夫、途中で男子達の耳は女子が塞いでいるから!」

 

「・・・これだけでは駄目なのですか?」

 

「駄目よ」

 

「雫さんが隠れて購入した書籍は『君を想うあ「よし皐月、殺るわよ」・・・酷くないですか?」

 

「プライバシーの侵害って理解してる?ストーカー行為じゃない!」

 

これは酷い。対象が皐月から雫に変わり、誰にも知られたくなかった秘密が暴露されようとしていたのだ

 

「えぇ~、では雫さんの家は忍者屋敷と言った方が良いですか?」

 

そして、深月はもっと核心に迫った実話なら大丈夫だろうと思い言葉にしたが・・・

 

「・・・え?」

 

「え?」

 

深月は、雫は知っているだろうと思い告げたのだが、当の本人は何も知らないご様子だった

 

「じゃ、じゃあハジメさんがコスプレして欲しいランキング一位は―――」

 

「止めろ!それ以上カオスな空気にするな!!」

 

『いや、メイドでしょ?』

 

哀れ―――行動時間が短い雫ですら気付いたハジメの性癖。しかも、クラスメイト達の前で暴露されるというおまけ付きだ

 

「お嬢様達も鬼畜ですね。ハジメさんの性癖を皆の前で暴露するとは・・・」

 

『あっ!』

 

今更気付いたのか皐月達はハジメの方を見ると、「うぼぁ」と膝を付いてエクトプラズムが出ていた

 

「って乱されているじゃない!意識誘導もするという鬼畜さもクソ神そのものね」

 

「待って下さい!本当に待って下さい!ほ、ほら・・・私の手にはアルヴの魂が握られているでしょう?砕ける寸前ですが」

 

「あのクソ神なら眷属程度捨てるでしょ」

 

「・・・私の信用無くないですか!?」

 

「だったら、その手の魂を砕けば良いでしょう?そうすれば多少は信じ『やめろぉおおおイレギュラー如きが神に逆ら―――「ヒャッハー!汚物はキレイキレイします!」グァアアアアア』・・・・・・」

 

深月?が嬉々としてアルヴの魂を握り砕き、高密度の魔力で塵一つ残さず消滅させた後、清潔でその手を消毒した。皐月に信用を勝ち取る為ならば即実行する姿は深月その者で、これで多少なりとも信用された筈だろう

 

「次の命令はそのメイド服脱ぎなさい」

 

「えっ?その程度で良いのですか?」

 

「はいストップッ!!」

 

迷い無くメイド服を脱ぎ始めた深月?を見て中止の命令をする

 

「・・・深月である前提で話を進めるわ。あのクソ神が深月の体を乗っ取ったのにも関わらず、何故体があるの?」

 

そう、最もな疑問は其処なのだ。エヒトに乗っ取られた体は?今目の前にある体は?と皆が混乱している

 

「私は魂魄魔法を得た際に気付いたのです。体は器であると―――ならば、器を量産して破損しても新しい器に変えれば何も問題は無いと!」

 

『いや、その発想自体がおかしい』

 

倫理観ガン無視の頭おかしい発想に皆が頭を抱えた。永遠の命?無ければ作れば良いだけ!とゴリ押しの理論だ

 

「名案なのですが・・・何か問題でもありましたか?」

 

「いやいやいや!それが本当だとしてもどうやって新しい体を手に入れるんですか!?」

 

シアの言う事も最もだが、そんな問題を解決するのが神代魔法である

 

「腕一本切り落として再生魔法を行使すれば良いだけですよ♪」

 

『うわぁ・・・』

 

ハジメ達は思い出した。深月が分解魔法で消滅した拳をほんの数秒で再生させた事を。恐らく、深月は一日に一体ペースで作っているだろうと思い至った。そもそもの問題として腕を切り落とす事自体体験したくない痛みがあるし、そんな事をすれば痛みによる叫びは必ずある。だが、ハジメ達の耳にそんな音は入って来なかった=深月は叫ばなかったという理論が完成する。薬中であろうとその様な発想に至らない考えだ

 

「そして、変成魔法を手に入れる過程で派生した二重思考か鍵となります!エヒトに乗っ取られるまでは体担当と精神担当の私が居ました。簡単に説明するならば、魂が二つある様なものですね。だがしかし!乗っ取られたのは精神担当の魂です。今の私は体担当の魂なのです!」

 

「あ、あぁ~・・・精神担当の魂が体担当の魂を蹴飛ばして一時退避させたという事ね」

 

「流石お嬢様です!」

 

皐月は、取り敢えず深月が無事である事に安心しつつもう一人の深月を救出しなければいけないと考えていると

 

「後はエヒトの神言に対策してぶっ殺すだけですよ!」

 

「ちょいまてぇい!精神担当の深月が居るだろ!?」

 

「お嬢様の幸せの為に死ねるのなら本望でしょう」

 

「物騒っ!深月さんの考えが物騒過ぎる!?」

 

皐月の為ならば迷わず死を選ぶ深月だからこその選択肢だろう。だがしかし、皐月の辞書に手があるのにも関わらず深月を殺すという事は却下だ

 

「はぁ・・・こっち来なさい」

 

「膝枕ですか?添い寝ですか?」

 

「普通に来なさい!っていうか願望駄々洩れじゃない!!」

 

「コホンッ・・・失礼しました。体担当なので本能が溢れ出ているのです。精神担当がブレーキ役ですので」

 

皐月愛に溢れる深月の構造―――体担当は本能のままに皐月を求め、精神担当がそれに待ったを掛けるブレーキ役。普段から出来てはいたのだが、二重思考になってからはどうやって皐月と~をしようかと考え耽っているので危ない状態なのだ

 

「全く、油断も隙も無いわね。・・・・・深月の馬鹿」

 

「ご心配をおかけして申し訳ございません」

 

こうして深月が合流し、これからの事について話し合う事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

いやはや・・・まさか私の体が狙われていたとは驚きでした。予測で中村さん+何かしらの戦力で使い物にならなくなるかもしれないと用意していた事が幸いしました。しかし、私に隙はありませんよ?エヒトというクソ野郎には死を送り届けてやります

 

エヒト達が通った神門は何かしらの力を失ったのか、光が消えて誰も入れない状況になっていた。魔人族達は神域へ入れなかった事に絶望し、アルヴに助力を請おうとした。しかし、アルヴは存在して居ない状況に混乱し、最終手段のエヒト様と呼びながら深月に助けを請うた。まぁ、そんな状況を深月が逃す筈もなく、魔人族達を先導する事にしたのだ

 

「良いですか?私は貴方達魔人族の言うエヒトではありません。先程まで顕現していたエヒトとは邪神のエヒトルジュエと言います。己をエヒト神と偽ってこの世界の者達を騙していた。さて、何故私がそれを知っているのかと言う疑問についてですが、貴方方も見たでしょう?私の体を乗っ取って勝手にした邪神を。邪神の魂が私の身体に入った事で私の記憶が覗かれた=私も相手の記憶を覗いたという事です。魔人族の長だったアルヴは邪神の眷属―――邪神は、人族と魔人族を争わせ絶望を悦として愉快に楽しんでいるのです。ですが、遂に邪神はこの世界に興味を失い、全てを絶滅、破壊して新たなる世界へ標的を変えています。この世界に残された者達の手はただ一つです。人族と亜人族と魔人族が手を取り合って生きる世界を望んだエヒト神を滅ぼした邪神に抗うのです。それが生きる為の道であり、エヒト神が望んだ本当の真実なのです!立ち上がりなさい!天職が勇者?そんな事は関係ない!邪神に抗う為に立ち上がり、抗う者達全てが勇者なのです!」

 

エヒト=邪神だが、彼等が信奉しているエヒトとは全貌が違うので、意識誘導は容易い。嘘と事実を織り交ぜながら真実めいた事を述べて魔人族達を戦力の一部として取り込もうとする深月だった。だが、一人の魔人族が、「仲間を人間に殺された!」と大きな声で反発する

 

「仲間が人間に殺されたですか・・・人間も魔人族に殺されています。―――それがどうかしましたか?全ては邪神がそう仕向けたのです。そして、これから見せるのは反逆者と呼ばれた者が残した映像」

 

深月が空中に投影した映像は、メルジーネ海底遺跡で体験した事だ。人族と魔人族が争い、調和へと歩もうとした瞬間に人族が裏切る光景だ。魔人族の男は、「ほら見た事か!人間は裏切る!」と言って周りを同調させようとする。そこに深月は待ったを掛けて映像の一部を拡大させる

 

「さて、ここでおさらいです。この人間の王の傍に居る銀髪の整った顔に見覚えはありませんか?これは貴方達が使徒様と呼んでいた者の一人。邪神の手先の一人なのです」

 

魔人族達は驚き、近くにいる香織に憎しみの眼を向けるが、これも深月の待ったが掛かる

 

「この場に使徒が居る事がおかしいでしょう?しかし、彼女は原初の使徒です。エヒト神が健在だった時に作られた最初の一人―――何故人間達が裏切ったのか考えた事がありますか?いきなりの意識改変・・・・・似た魔法がありますよね?」

 

この言葉に、魔法を良く知っている魔人族達は気付いてハッとした表情をしていた

 

「お気付きの方も多いでしょう。あれは魅了魔法です。しかも、ステータスが軒並み高い使徒が使えば耐性の低い者達等ひとたまりもない。では、ここで話を戻しましょう。この映像で疑問に思う事は一つ。何故、誰も異変に気付かなかったという事です。その答えは原初の使徒です。彼女はエヒト神の為に戦い、敗れ、邪神の遊び道具として利用されました。おや?一部の方達はお気付きになられましたね」

 

魔人族達の中に、表情が険しくなった者達がちらほらと現れ、深月が彼等を指す。気付かない者達は、「どういう事だ!?」と矢継ぎ早に質問している所で深月が答えを告げる

 

「邪神の遊び道具となる=言い伝えられたエヒト神の使徒を瓜二つの存在を作った。瓜二つの存在ならば、怪しまれず、堂々と歩き、魔法を掛けれる。何せ彼女等は信奉するエヒト神の使徒だと疑われずに済むからです。そして、お嬢様の隣に居る彼女は原初の使徒―――とはいえ、邪神に弄られてただ動くだけの人形となってしまいました。最初は敵対しましたが、彼女の遺言、「彼女の為に体を」を聞いて使わせていただきました。原初の使徒の体ではありますが、仲間の魂を入れています」

 

邪神によってこの世界に転移させられ、帰る為に戦う者と他の手段を探す者、それを邪神が面白くないから排除する選択をし、この世界は飽きたので転移させられた者達の世界へ干渉するという内容だ

 

「皆が邪神の被害者です。とは言え、直ぐに信頼しろ等とは言いません。自分達が生き残る為には種族全体が手を取り合って抗う他ないのです。それを理解せず、自分以外は殺してでも生き永らえるという選択をする馬鹿が居ますが、その者達は永遠に邪神の駒となります。飽きれば殺されるのです。後者の方が生きるというメリットが大きいですが、何時殺されるか分からない。それならば、邪神の眷属とはいえ殺す事が出来る我々と一緒に抗い、後世に語り継がれる人になりませんか?邪神に立ち向かった英雄、勇者と呼ばれる事は間違いありません!長い時を反逆者と呼ばれた彼等も未だに呼ばれているでしょう?彼等もまた英雄、勇者なのです!家族を、友を、恋人を護りたいと言うならば抗え!では、私からは以上です。・・・・・あぁ、言うのを忘れていました。抗うのであれば、それ相応の力を持たせるのは当たり前ですよ?」

 

深月の演説も終わり皐月達の元に戻ると、魔人族の青年の一人がハジメ達に近づき声を掛ける

 

「・・・あんた達は抗うのか?」

 

「当たり前だ。ぶっ飛んだ考えで一人は大丈夫だったが、もう一人が捕らわれているんだ。邪神を倒して取り戻す―――それだけだ」

 

「この世界の次は私達の世界・・・逃げられないのであれば、戦闘能力の高いこの世界の方が良いわ。それに、貴方達も英雄や勇者として語り継がれる方が良いでしょう?」

 

嘘も方便・・・地球の方が色々と戦力が高いが、アーティファクトを渡した後を考えると面倒くさい事この上ない。だったら、この世界でブッ倒して神殺しの偉業として称えられ、人族、亜人族、魔人族の平和の架け橋をするのも悪くない

 

「なら、俺は抗おう。邪神に抗う為の力をくれるのなら多少の危険も承知しよう」

 

その青年に続き、また一人、また一人と魔人族の者が志願する。そして遂には絶対に戦えないであろう子供や老人は参加しない方向へと話が纏まった。そして、人族であり、王族のリリィが魔人族と共闘して邪神を打ち倒す為の架け橋をするという宣言をする

 

「さて、先ずは現状の再確認だ」

 

「邪神がもう一人の深月を乗っ取った。そして、この世界には飽きたので全てを破壊して絶滅させた後、地球へ標的を変えるという事で間違いないわ」

 

「恐らく、地球で最初のターゲットとなるのは私達の親族でしょう」

 

ハジメ達は深月の予測を黙って聞く。いつも的中させているので今回も外れる事がないと理解している。それを知らないクラスメイト達と畑山がどうしてなのかと理由を尋ねる

 

「邪神は絶望させて悦に浸る。地球の親族たちを集め、「保護をしておいたぞ」と御託を言い、死体を並べて絶望させ、地上に戻して反乱を待ち構えるでしょう」

 

『うわぁ・・・』

 

またしても皆の声が重なる。あのエヒトが顕現し、話し方や佇まいや様子を見ても分かり易い。クラスメイト達の重苦しい雰囲気が漂う中、シアは気にせず発言する

 

「もう一人の深月さんを取り戻すには、あの神域に行かなければいけません。そして、魔人族さん達は神域へ繋がる門に入れなかったと言っています。これはどうやって辿り着いたらいいのでしょうか?」

 

「そうね。・・・こっちで神域へ行く手段を別に手に入れるか、あるいは、三日後の大侵攻のときに出現すると予想される神門を突破出来る手段が必要だわ」

 

「ふむ、直接行く方法としては・・・ご主人様よ。やはり、クリスタルキーは・・・」

 

ティオがハジメに尋ねると、ハジメは溜息を吐きながら首を振る

 

「ダメだ。宝物庫と一緒に、な。確かに、あれがあれば神域へ直接乗り込むことは出来るだろうが・・・この三日で万全の体調を整える事がキツイな。人族、亜人族、魔人族の兵士全てにアーティファクトを作らないといけないから駄目だな」

 

「あ、それなら良い方法があるよ!刹破っていう時間を引き延ばす魔法が使えるよ!」

 

「時間を引き延ばすのね。・・・深月、どう?」

 

「あ、私じゃなくて深月さんに聞いちゃうんだ」

 

香織は出来ると意気込むが、魔力量が桁違いに多い深月なら引き延ばせる時間がより長いと考えて尋ねる

 

「そう・・・ですね。一ヵ月程伸ばせるかもしれませんね」

 

「よっしゃ!やるぞ!!」

 

「そうなると、各自別れて事に当たった方が良いわね」

 

「ティオ、竜人族の里へ行って戦力補充だ」

 

「了解じゃ!この世界の命運が掛かっているとなれば必ず動くのじゃ!」

 

「シアはミレディの協力を取り付けて」

 

「合点承知ですぅ!」

 

「ユエは私達と一緒にクリスタルキーを作るわよ。もし直接乗り込めないのであれば、門を開けるだけでも十分よ」

 

「ん、頑張る!」

 

ハジメ達は一分一秒も惜しいのでさっそく行動を開始する。だが、それに待ったを掛けるクラスメイト達

 

「ちょ、ま、待って!私達も戦うの!?」

 

「嘘だろ南雲?嘘だよな?」

 

「死ぬかもしれないんだぞ!?」

 

「地球で戦った方が勝ち目があるだろ!?」

 

皆が地球の方が技術力が優れているのでそっちが良いだろうと言うが、皐月がそれを封殺する前に畑山が待ったを掛ける

 

「皆さん、静かに!騒がないで下さい!落ち着いて!」

 

「で、でも愛ちゃん先生・・・」

 

「いいですか、皆さん。気持ちは凄く分かりますが、落ち着いて下さい。邪神が言っていた事が本当なら、地球で戦った方が危険です!」

 

皆がどうして?と理解していない様子に深月が追加を述べる

 

「エヒトはこの世界で先兵を下ろす場所を神山に指定しました。これは現状で神山のみが愉悦になる事を述べているのです」

 

「神楽さんの言う通りです。拡大する可能性も否めませんが、地球では人口密集地域からと言う訳ではありません。いきなり全土を対象にする可能性が極めて高いのです。そして何より、南雲君と高坂さんが作るアーティファクトを行き渡せる事が出来ません!それに、いきなり渡されてもそれを解析しようとするでしょう。それは時間の無駄です。ならば、アーティファクトの扱いに長けたこの世界の人達が何手先も行けます。空を飛ぶ敵に対しては厳しいですが、落ちた兵士を処理するなら対人戦闘に長けているのも長所なのです」

 

「さて、ここで追加です。もし、地球で邪神を倒せたとしましょう。しかし、その場合はアーティファクトを狙った出来事―――戦争、テロ、人体実験等様々です。歴史上最悪の技術を広めた者達として語り継がれ、事件が横行します。そんな中心人物になりたいですか?」

 

「神楽さんの言っている事は可能性ではありますが、必ず起こるでしょう。只でさえ異世界から帰って来たというファンタジーな体験をした私達を世界が放っておく事はありません」

 

「監視・・・もしくは拉致の危険性があります。帰還だけでこれだけの問題が起こりうるのです。アーティファクトを広めただけで世界中でどれだけの被害者が出るのかは予測出来ません。それこそ、世界最後の日と言われても納得出来ます」

 

「えっと~、もの凄く現実味を帯びた事を言わないで下さい・・・」

 

「こうでも言っておかなければ覚悟が決まらないでしょう?幸い南雲さんとお嬢様以外のクラスメイトは全員が戦闘職。しかも、流されたとはいえ全員が戦争に参加すると言っていますので覚悟を決めなさい」

 

今なら私の宝物庫に先兵の死体が二体入っているので武器を刺すサンドバックにしましょう。人形相手なら多少の忌避感を麻痺させる事が出来ますしね?

 

モブ生徒達も戦闘に強制参加させる事が決定し、ハジメ達も何かしらの宣言をして気合を入れていた

 

「あぁ、そういや先生。いっちょ頼みがあるんだ」

 

「えっ?た、頼みですか!?」

 

ハジメの指名に畑山がビックリしつつ何処か期待している様子を見て、クラスメイト達は「マジかよ・・・愛ちゃん先生までだと!?」やら「ドンファンよ!リアルドンファン!!」等々と口漏らす

 

「あぁ、扇動ですね」

 

「せ、扇動!?」

 

「豊穣の女神として事実を述べたら良いの。クソ神の記憶を覗いたという深月の証言を確証に変える事が出来るわ」

 

「さぁ、立ち上がれ人々よ!善なるエヒト様を騙り、偽使徒を操り、今、この世界を蹂躙せんとする悪しき偽エヒトの野望を打ち砕くのだ!この神の御使い豊穣の女神と共に!って感じでな。頑張れ」

 

「頑張れ、じゃあないですよ!なんですか、その演説!よくそんな言葉がスラスラと・・・南雲君の方が余程扇動家じゃないですか」

 

「いやいや、短時間で魔人族達を纏めた深月よりかマシだって。それに、撒き散らした種が芽吹きそうなんだ。なら、水をやって成長させて、うまうまと刈り取ってやればいいじゃないか。作農師だけに」

 

「誰が上手い事言えと・・・」

 

「いいじゃない、散々甘い蜜を吸って来たこの世界の住人達を利用出来るチャンスよ。ありのままの事実を伝えて支持される―――フフフ、一大宗教の出来上がりね!」

 

「高坂さんまで!!」

 

ハジメはともかく、皐月も畑山の豊穣の女神として祀り上げ様とする。発言力もあり、信頼高く、信憑性を確固たるものにする為ならば致し方ない事なのだ。戦力は多ければ多い方が良い

 

「人類総力戦となるべき戦いだ。戦力を集めても烏合の衆じゃ意味がない。強力な旗頭が必要なんだ。それには一国の王くらいじゃ格が足りない。出来るのは愛子先生だけなんだ。いっちょ頼むよ」

 

「・・・」

 

「・・・ハジメ、後でお話ししましょうね?」

 

「マジか?」

 

ハジメが無自覚で畑山を口説いた事に反応した皐月が、後程お話しと言う名のお説教をする事が決定した。そして、口説かれた本人はと言うと、何処かソワソワしながらハジメに再度尋ねる

 

「な、南雲君。今、最後の方、なんて言いました?」

 

「ん?いっちょ頼むって・・・」

 

「い、いえ、そうではなく・・・私の事、あ、愛子先生と呼びませんでした?」

 

「・・・何か、問題が?」

 

「い、いえ。南雲君は、いつも"先生"とだけ呼ぶので・・・」

 

「そうだったか?」

 

首を傾げるハジメと、何かを強請る様な畑山を見た者達は、何を期待しているのか理解した

 

無自覚にフラグを建築するハジメさんはプレイボーイですね。夜の魔王は流石と言うべきか予想通りと言うべきか・・・節操なしと言うべきでしょうか・・・」

 

「うぉい!」

 

暖かい空気が一気に冷め、歯軋りする愛ちゃん親衛隊

 

「南雲君、もう一度お願いします」

 

「・・・愛子、頼む」

 

「っ!!はい!任せて下さい!もうバンバン扇動しちゃいますよ!社会科教師の本領発揮です!」

 

もの凄く張り切っている畑山を見て、ハジメは溜息を吐きながら項垂れる。要するに、ハーレムを作るのは良いが、ちゃんと条件を見つけさせる事が大事・・・後腐れが無い様にアフターケアもハジメ次第という事だ。これで曖昧なままの関係を続けたのなら、皐月の雷がハジメに落ちるだろう

 

「ご、ごほんっ!な、南雲さん・・・わ、私も頑張りますね!」

 

リリアーナも畑山同様、期待した様子で目をキラキラさせている

 

「・・・ああ、頑張ってくれ、姫さん」

 

「・・・頑張りますね!」

 

「ああ」

 

「頑張りますね!」

 

「・・・」

 

「頑張りますね!」

 

「・・・」

 

「が、頑張ります、ね、ぐすっ」

 

「・・・・・頼んだ、リリアーナ」

 

「・・・リリィ」

 

「ぐぅ・・・頼んだ、リリィ」

 

「はい!頼まれました!王女の権力と人気を見ていて下さい!民衆なんてイチコロですよ!」

 

王女としてそれはどうなのかと言いたいが、もっと民達を大切にしろよとツッコミたい。教師の次は王女か!とクラスメイト達はザワザワとしており、彼等がハジメを見る目が畏怖に満ちたものだ

 

「目下の最優先事項は・・・オリジナルの深月を取り戻す事だな」

 

「中村さんとお花畑はやっちゃっても問題ないわね」

 

「いやいや!光輝達は俺達がどうにかするから待ってくれ!」

 

「鈴も恵理をどうにかするから待って!」

 

坂上と谷口は待ったをかける。しかし、この現状でこちらに引き込める可能性はゼロに等しいだろう。とはいえ、それは中村が居たらの話である

 

「勇者(笑)については・・・まぁ、それでもいいでしょう。ですが、中村さんについては論外です。説得するのであればして下さい。しかし、今まで散々見逃がしたのですから決裂したのであれば殺す覚悟を決めなさい」

 

「・・・うん」

 

流石の谷口も深月の命令に渋々了承した。寝返ってからの中村の行動はとても赦されるものではない。クラスメイトを殺し、王族、騎士、メイドを手にかけ、人質にしたりユエ達に攻撃したりと取り返しのつかない事を沢山しているのだ

 

「役割分担だが・・・クソ神は俺、皐月、深月の三人。フリードは、ユエ、シア、ティオの三人。中村と天之川が坂上と谷口だが・・・・・どうやってもやられる未来しか見えねぇな」

 

「少し失礼します。神域へ突入する者としない者の選別なのですが、香織さんと雫さんは地上でしょうか?」

 

「困ったわね。敵に高ステータス持ちが二人だから戦力を分散しなければいけないわ」

 

「香織が神域に入るのは止めておいた方がいいだろう。あそこはクソ神が支配する空間―――どうされるか分からねぇ」

 

香織の身体は先兵であったノイントの身体だ。遠隔操作で活動停止に陥るかもしれない事から却下で、回復要員が抜ける事もあるので無茶が出来ない。それに、地上での移動回復要員として活動した方が良い印象+相手に膨大な貸を作る事も出来るのだ

 

「雫はどうする?香織と一緒に地上班で行く?」

 

「いいえ、私は光輝の馬鹿をぶん殴りに行くわ。あのご都合解釈を育てた事に私自身の負い目があるの。それに、私はハジメの女だと理解させるわ」

 

「・・・ま、まぁ頑張れ?」

 

「ふむ、雫さんがそちらに行くのでしたら私もそちらの方が良いでしょうか?」

 

「深月さんは刹破?でおおよそ一か月程伸ばせると言ったわ。なら、その場所に私も行って深月さんとマンツーマンでステータスの底上げをしたいわ。私の取り柄は速さと剣術―――となれば、中村さんを相手にするわ」

 

「おいおい、中村のステータスは100000だぞ?」

 

中村のチートスペックに比べ、雫のステータスはその十分の一・・・あっという間に倒されるだろう。現に、先の乱戦で時間稼ぎすら出来なかったのだ

 

「確かに、私はさっきの攻防で手も足も出なかったわ。でも、深月さんとマンツーマンで特訓していたからか動きだけは見えていたのよ。後の問題は体が追い付くかだけなのよ」

 

「いや、それでも無謀に近いだろ。却下だ却下」

 

「これは深月をそちらに向かわせた方が良さげね」

 

ハジメと皐月は雫が中村と相対する事は無謀だという事で却下するが、ここで深月が手をポンと叩いて妙案を思いついた

 

「私が使っている装填をすればいけるかもしれませんね」

 

これを聞いたハジメ達は、「それは流石に無理だろ」と突っ込みを入れて作戦を立てようとする

 

「深月さん。その装填というのは王国で使った技能?」

 

「技能もそうですが、これは雫さんだからこそです」

 

「・・・深月、それは雫が装填を出来るという事?」

 

「可能性は低いですが、この場にいる者の中で一番高いという事です」

 

「それなら身体能力の高いシアは?」

 

「大雑把なので却下です。あれは少しでも扱いを間違えば反動が大きく、動けなくなります」

 

装填はハイリターン、ハイリスクの諸刃の剣でもある。しかし、完全に使いこなせたら最強に近いブーストでもある。そして、何故シアが出来ないかという点だが、それは普段の特訓で観察しているから出来ないと分かっているのだ

 

「感度が高い雫さんだからこそ提案しているのです。ハジメさんとお嬢様とは違い、あの短時間で魔力の流れ、発生源の探知が出来ていますよね?」

 

「・・・確実にとは言えないわ。ただ、なんとなくそこにある?と疑問に思う程度よ」

 

「魔力の掴みは上々、残るは気力・・・気功術ですね。雫さんに関しては、栓を引き抜いても大丈夫だと判断しました。よって、装填が出来る可能性があります」

 

「と、いう訳よ。無謀かもしれないけれど、可能性があるならやるわ」

 

「中村さんは絶対に装填は出来ないので安心して下さい。気功術の栓抜きを強引にすれば確実に何処かが壊れます。修復すら不可能、魂に消えない傷を負わせるような物です。それに、知識だけのエヒトにそれは無理です」

 

「どういう事?エヒトは深月の記憶を覗き見ているのよ?可能性がなくはないでしょ」

 

「知識と体験は違いますから」

 

これに疑問を覚えたのはもちろん皐月である。記憶を覗き見る事で、こういった事が出来ると理解をしているエヒトなら可能だと思う。だが、それは知識だけであって体験ではない。完成後の料理絵を見ず、材料を用意されただけでそれが出来る事はほぼ不可能。魂に刻まれた体験だからこその技である。しかも、体担当の魂がこちらにあるので確実だと断言出来るのだ

 

「ってことは、知っているだけで教える事は出来ないのか」

 

「そして、序盤でエヒトと相対するのはハジメさんとお嬢様のお二人だけでも十分だと思います。慢心しているからこそ付け入る隙があり、攻撃も弱く、力だけで解決しようとする。技はありません」

 

「・・・なるほどね。もし、そうでない場合も対処法は幾らでもあるし、深月の予想通りなら十分ね」

 

先ほども言った通り、知識と体験は違う。深月の技能の殆どは技に真価があり、力だけで言うなら限られた物だ。深月は魔力糸を中心に戦っていた事から、強く、手っ取り早いと思う者が殆どだろう。だが、それを操作し、戦況によって使い分けるのは技術だ。力だけの技能なんて0と100の両極端な使い方―――以前も説明した通り、技能を使っているだけである。引き出しを多くするのは理解していなければいけない

 

「クソ神は、俺と皐月が対処する」

 

「フリードは、ユエとシアとティオに任せるわ」

 

「中村と天之川は、深月と雫と坂上と谷口の四人だ」

 

「香織さんは地上で攻撃も出来る移動ヒーラーとして活躍して下さい」

 

他のクラスメイト達は地上担当。役職も決まり、ハジメ達はそれぞれ行動を開始した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「倫理観ぶち壊しです」
深月「残機は沢山あった方が安心出来ます。マリ「アウト!」・・・ん"んっ!配管工さんと同じ様なものです」
布団「とはいえ、今のメイドさんの残機は0です」
深月「氷雪洞窟で魔法が一段階昇華した事で出来ただけですからね?そんな・・・魂魄魔法を手に入れてからはしませんよ~」
布団「決戦に向けてはするんでしょ?」
深月「当り前じゃないですか♪とはいえ、精神担当が居ないので無理ですが・・・」
布団「よかった・・・そこまではぶっ壊れじゃなかった」


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最終決戦
メイドは限界の更にその先を求める


布団「お待たせしました」
深月「もうそろそろ本格的に執筆してくださいね?」
布団「がんばりゅ」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」






~深月side~

 

緑光石が照らす洞窟―――ハジメ達はオルクス迷宮へ来ていた。道中に採れる素材を出来るだけ沢山採取して、来る決戦の日に向けて準備を始めた

 

「ここが皐月達が挑戦した本当のオルクス迷宮・・・表層が可愛く見えるわ」

 

襲い掛かる魔物を冷静に対処する雫が口漏らす。魔物肉を食べてドーピングした体の本格調整にはもってこいの場所だ。雫が魔物を屠る中、深月はピッケルを片手にてきぱきと鉱石を掘り集める。およそ一時間で宝物庫二個分の素材を回収し終え、ゲートホールで解放者の拠点へと帰還する

 

「深月達も帰ってきたわね。素材はどれ程採れたの?」

 

「宝物庫二つ分です」

 

「上出来よ深月」

 

ハジメの宝物庫の素材を合わせると、合計三つの宝物庫の中にぎっしりと素材が入っている事になる。大量の武器を作るならこれでも足りないかもしれないが、追加で採ればいいだけの事だ。深月ならば半日あれば三つの宝物庫を満タンにする事も不可能ではない

 

「それじゃあ香織、刹破をお願い。魔力タンクの深月が居るから時間はかなり延ばせる筈よ」

 

「わ、分かった。やってみるよ!」

 

香織が詠唱しようとするが、深月がそれに待ったをかける

 

「駄目ですよ。一部屋だけに魔法を使うよりも、この拠点全てにしましょう。衣食住が充実し、モチベーションの維持は重要です。些細なミスも発生せず、何かしらのヒントが浮かんでくるかもしれませんし、雫さんの強化も広い場所で行いたいです」

 

これを聞いて、香織の頬が引き攣る。初めて使う魔法を広範囲でとなるとかなり厳しいが、それゆえのメリットも有り、プレッシャーが掛かる。そして何よりも、深月の笑顔で全てを察した。失敗すればデスマーチの如く成功するまで何度もやり直しがあると

 

「ぜ、全力でやるよ!!」

 

「それじゃあ、私とハジメは付与先の製作だけど・・・これは砂時計風にする?」

 

「砂時計の形は壊れる可能性もあるから、正八面体でいいんじゃねぇか?台座を作って嵌めれば落下する心配も無いし、取り外しも簡単だ」

 

「後の再利用を考えたらそれも良いわね」

 

ハジメは神結晶を正八面体に加工し、皐月は台座を製作する。互いに確認しあうまでもなく、ぴったりと嵌る技術は凄い。互いが何をどう思っているのかをよく理解しているから出来る芸当だ

 

「それでは香織さん、準備は出来ましたか?私が中継役になる事で香織さんの刹破を受け止め増幅させてます。香織さんがイメージするのはこの空間全てを包む事です」

 

「スゥー、ハァー。―――刹破!」

 

香織の魔力はチート級にあるが、深月に言われるままのイメージで刹破を行使すると魔力が一気に八割消費して、限界ギリギリまで時間を延ばす。しかし、魔法を行使して感じるのは時間がさほど伸びていないのだ。ギリギリ限界まで魔力を注ぎ込んだにも拘わらず、延びた時間は感覚で一日程度・・・歯がゆさを感じつつ、香織は深月に全てを託す

 

「ごめん!多分私だと一日が限界っ!」

 

「限界まで注ぎます」

 

香織に渡された刹破に深月が魔力を込める。ぶっ壊れの魔力量とチート技能の節約で消費量が軽減しているとはいえ、深月の魔力はゴリゴリと削られる。魔力枯渇寸前まで注がれた魔法は、まるで嵐の様に粗ぶっている

 

「限界です・・・。当初は一か月と言いましたが、それ以上に引き延ばせたと思います」

 

「時間は長ければ長い方が良いわ。どれだけ延びた?」

 

「倍の2ヶ月です」

 

「最高だな」

 

「アーティファクトを作るだけでなく、修行に時間を割く事が出来るわね」

 

刹破を付与した神結晶は淡く輝き、拠点を何かが包み込んだ事に何となくではあるが分かる。ハジメ達は拠点の中心地に神結晶を設置し、壁端まで移動して効果があるかどうかを確認しても何かから出た感覚はない。念の為に皐月の魔眼で確認をしても問題無しの保証もある

 

「時間が延びたとはいえ侵攻の時間が短くなる可能性もあるから迅速に量産するぞ」

 

「対空迎撃装置の製作が急務ね。弾丸は一発作れば複製錬成をすれば時間ロスも少なくなるから・・・地上班の戦力上昇が必要ね」

 

「それでは、ゲートホールをお借りして調達しましょう」

 

『え?』

 

ハジメ達が、「どうやって?」と質問する前に深月はゲートホールで転移する。ここでハジメ達の思った事はただ一つ

 

『・・・何を調達するんだ?』

 

少ししてゲートホールが開き、深月が現れる。そして、その後ろからぞろぞろと王国で働く若いメイド達が連行されてきた。これを見たハジメ達は、手を叩いて思い出した

深月の技能の一つ―――戦術顧問。派生技能でメイドと出ている事から、一番効果が出る者達が選ばれたのだろう。何故若いメイドが多いのかという点だが、これは戦闘をする為の人員なので高齢のメイドは厳しい事から除外したのだろう

 

「さて、これから貴女達には戦争に向けて戦闘能力を身に付けて頂きます」

 

いきなり連行されたメイド達は見知らぬ場所に連れられた事にオロオロしているが、その中の一人が深月に、「天職はありません」と告白する。しかし、そんな事はどうでもいいと深月は宣言する

 

「天職の有無は関係なく貴女達に拒否権はありません。それに、私の天職はメイドです」

 

連れてこられたメイドの皆が驚愕する。王国襲撃の際に戦っていた姿を見ていたからこそ、天職は戦闘職だと思っていたのだ。そんな彼女達に深月はステータスプレートを見せると、皆がガン見する

 

「あ、あの・・・このステータスプレートは壊れていますよね?そうですよね!?」

 

深月はにっこりと微笑み、メイド達の逃げ道を塞ぐ

 

「逃げたければご自由にどうぞ?ですが、ここは前人未到のオルクス迷宮の最深部です」

 

これを聞いたメイド達はゴクリと喉を鳴らす。逃げ道は最初から用意されておらず、生きる為には戦闘能力を付ける他ないとようやく理解する。そんなメイド達の中に、一人だけ―――覚悟を決めている者が居た。それはリリアーナ付きのメイドのヘリーナだ

 

「貴女達、覚悟を決めなさい。神楽様のステータスは異常ですが、これは確信に変わりました。非戦闘職であろうと、努力次第で戦闘職よりも強くなれると言う事です。恐らく、技能の戦術顧問に派生技能としてメイドがある事から選別されたのでしょう。この場にいるメイドの私達ならという事です。最近私が一般兵士よりも強いと噂で知っていると思いますが、それは神楽様の訓練を少しだけ受けたからです。分かりますか?たった数日で、ですよ?」

 

「この空間は特殊で、外の一日がここでは二ヵ月です。メイドの一人一人が帝国の皇帝以上の戦闘力を持てます。もし、この戦争に勝利すれば、王国でメイドを続けても良し、他国でメイドをしても良し、冒険者になっても良しと選択肢は広がります」

 

深月とヘリーナの言葉を聞いたメイド達は、戸惑いつつも徐々に覚悟を決めつつあった。これには二人もにっこりしていた

 

「・・・俺、このメイド達がどこまで進化するのか気になるな」

 

「・・・私もよ」

 

「・・・きっと超人メイドになる」

 

「・・・戦闘メイドだよ」

 

「・・・私達より強くならないわよね?」

 

深月が本格的に指導するメイドがどれだけ強くなるかは不明だが、短期間でも成長した人物が二人・・・遠藤とヘリーナである。遠藤は元々が原石だった為、戦闘能力が向上するのは当たり前だ。しかし、ヘリーナに関しては0からのスタートだが、王国の一般兵士よりも強くなっているという事だ。これは深月が言う通り、メイドの一人一人がガハルド並みの力を有する可能性もあるだろう

 

「先ずは雫さんからです。栓を外しますので激痛が伴いますが、直ぐに収まります。では、いきますよ」

 

「えっ!?ちょっとま―――」

 

深月は雫の返事を待たずに針を腕に刺して抜いた。雫は、針に刺された時は全然痛くなかったのだが、針が抜かれたと同時に全身に電気ショックを浴びせられたかの様な痛みが襲い、床にのたうち回る。魔物肉を食べた時の激痛に比べればマシな部類だが、それでも痛い

 

「いっぎぃいいいい!」

 

「歯を食いしばってファイトファイト、数分もすれば痛みは無くなりますので大丈夫ですよ」

 

香織が、「せめて待ってあげようよ」と言うが、深月は、「過度に力が入っていない方が痛み少ないのです」の言葉にそれなら仕方がないと言いくるめられた。およそ五分―――痛みがようやく収まったのか、雫は大の字になったまま深月にジト目を向ける

 

「待ってって言ったでしょ」

 

「早く習得するならばあれが最適です。余計な力が入っている程激痛の時間は長く、雫さんに割く時間がもったいないです。さて、次は気を感じる所から入りましょう。座禅をして瞑想します。体の中から熱を持った何かを感じれば上々です。こればかりは個人の感覚なので時間が掛かります。その間、私はメイド達をlunaticで指導します」

 

これを聞いたハジメ達は、メイド達に黙祷した。自分達ですら受けた事がない難易度lunatic―――常人レベルの難易度設定だと思うが、それでもキツイ事に変わりはないだろう

 

「先ずは体力測定として、走りましょう。後ろから黒刀を持って追いかけますので全力でお願いしますね?」

 

「全員走りなさい!!」

 

ヘリーナの合図と共に、深月も行動開始。取り合えず、メイド達でも動きがギリギリ見える範囲で一閃。攻撃対象となったメイドは、悲鳴を漏らしながら手で頭を押さえながらしゃがむ事で攻撃は当たらなかったが、髪がほんの少し切られていた

 

「は・し・り・な・さ・い」

 

『ヒィッ!?』

 

メイド達は蜘蛛の子を散らす様にバラバラに逃げるが、深月は全力で逃げないと攻撃が当たる範囲で近づいて攻撃する。悲鳴が至る所で上がる光景を見たミュウは、「深月お姉ちゃんコワイ・・・」と口漏らす程だ

 

「ミュウさんも良い子に育ちましょうね?でなければ、長いなが~いお説教をしますよ」

 

そんなミュウに追い打ちを仕掛けるのも深月クオリティー。メイド達にやっている事はしないが、こんこんと叱られるのは目に見えて分かる。ハジメ達に涙目で訴えるも、逆に頭を撫でられて、「良い子にしていたら大丈夫だ」との事だった。ハジメ達も深月のお説教されるのは嫌で、無視しようものなら首根っこを掴んで強制的に回収―――もしくは、ごはん抜きという可能性もある。色々と握られている状態の皆には逆らう術は殆ど無い

深月とメイド達の危機一髪鬼ごっこは終わり、バケツに胃の中身をぶちまけている者や大の字で倒れ伏している者達と様々だ。特に、ヘリーナは他のメイド達よりも強くなっているので、徹底的に追い回されたのは言うまでもないだろう。深月は、メイド達のステータスプレートを見ながら強化する部分をメモする

 

「なるほど・・・全体的にスタミナが第一優先ですか。デスマーチ近接格闘術が近道ですね」

 

メイド達は深月が何を言っているのか分からないが、絶対にヤバイ事を口にしているとだけ分かり顔が青褪める

 

「それでは、全員立ちなさい」

 

深月の威圧を込めた睨みにメイド達は反応し、痛む体に鞭を入れて立ち上がる。生まれたての小鹿の様に足がプルプルと震えており、まともに動く事が出来ない。そんなメイド達を見つつ、深月は香織に回復魔法を頼んだ。回復とは言え、それは筋肉の回復―――超再生を狙った回復行為だ。体の痛みは取れないが、動かす事に問題はない

 

「それでは、このまま近接格闘術を仕込みます。これから私はヘリーナさんとマンツーマンで行うので、他の者達はそれをしっかりと見学しましょう。そうする事で、何がどうなっているのかを少しばかり理解する事が可能です。では、始めましょう」

 

「神楽様、よろしくお願いします」

 

深月は無手の自然体で、ヘリーナはナイフを片手に構える。表情は真剣で、すり足で横に移動したり、ナイフの持ち方を変えたりとしている。戦闘経験皆無のメイド達はヘリーナが何故そういった事をしているのかを理解出来ず、首を傾げている。その反応は当然で、戦いにおいて一動作で隙を生み出すのは危険行為だが、対処出来るだけの力があればそれはアドバンテージである。そして、逆にその動作で相手の動きを乱す事も出来るのだ

 

「・・・むぅ、なかなか踏み込まない。でも、私でもそうする」

 

「うぅ・・・私は魔法で牽制攻撃しちゃうな」

 

ハジメと皐月はアーティファクト製作で部屋の中に籠っており、手持無沙汰のユエと香織が二人の様子を見て自分ならどうするかを呟く。ユエと香織は強力な魔法を行使出来るので、それで自分に有利な駒の動かし方をする事を学んでいる。何故攻撃せずに様子を見たり牽制程度で留めるかというと、進化した深月の動きをしっかりと見ていないからだ。たとえゆっくりでも、第三者目線からであれば体の動かし方で可動域や反応速度を見る事が出来るからだ

 

「ユエ、香織、そろそろヘリーナさんが動くわよ」

 

瞑想で目を閉じているのにも関わらず、雫はヘリーナが動くと告げる。二人は目を開けてる?と思いつつ振り向くが、雫は背を向けていて完全に見る事は出来ない。二人は勘で告げたのかと思ったが、雫の言葉から少ししてヘリーナが大きく動いた

 

「ハァッ!」

 

ベタ足から一瞬で深月に肉薄するヘリーナを見て、二人は普通の兵士よりも早く動いているヘリーナに驚愕した

縮地―――戦闘職が重宝する技能を何故ヘリーナが使えるのかと言うと、深月との訓練をした際に一度だけやり方を教わって自分の技術まで昇華させたのだ。努力が実を結んだというのはこの事だ。だが、如何せん相手は深月であり、その程度はお見通しだ

 

「縮地を自分の努力だけで身に付けましたか」

 

ヘリーナは深月の肩に向けて刺突を放った。片腕で軌道を逸らされるが、それを見越して手首を曲げて頸動脈を狙った切り返しへ変更。これならば片腕の邪魔は入らないので弧を描く様にナイフの刃が通るが、深月は軌道を逸らした腕をヘリーナの肩に振り下ろす。・・・所謂空手チョップだ

 

「い"っ!?」

 

関節部を狙い撃ちされたヘリーナは、痛みで一瞬だけ動きが鈍る。深月は、その隙に半歩後退してナイフをやり過ごし、狙い撃ちした肩を掴んでヘリーナを90度回転させて膝の後ろを蹴って体勢を崩させて右腕で首を絞め、左手でナイフを持っている手を掴んで完全拘束した

 

「終わりです。これで右腕に力を入れれば絞め落とされるか、首の骨を折るの二択があります」

 

「・・・ありがとうございました」

 

深月とヘリーナの訓練が終了し、メイド達はヘリーナの強さに呆然としていた。だからこそ、自分達が強くなれる可能性が大きいと確信に変わった

 

「さて、先程の動きを観察した貴女達に基礎を教えます。ちなみに、応用は基礎がしっかりと出来るまでは教えません」

 

深月はメイドを一人一人呼んで動きや姿勢を体験させた後、一度だけマンツーマンを行った後、次は彼女達自身でマンツーマンの訓練をさせる。そして、次は雫についてだ。先程のヘリーナが攻撃を仕掛けると気付いた言葉を聞いた時に、気の流れが変わった事を感じたのだろう

 

「次は雫さんです。気の流れはおおよそ理解しましたね?」

 

「これが神楽さんが見て、感じている世界なのね。集中すればする程、分かる・・・と言っても、気功が分からない人からすれば何を言っているの?って思われちゃうわね」

 

「そんなに凄いの?」

 

「そうね・・・香織、髪の毛にゴミが付いているわよ」

 

「え、ほんと?し―――」

 

香織は雫にゴミを取ってもらおうと頼む前に、雫はゴミを取った

 

「香織、取れたわよ。・・・しかし、本当に便利ね。集中するだけで相手の感情がオーラで見えるなんて・・・深月さんが鋭いと言われる所以はこれなのね」

 

「ふむ、その様子なら限界突破を取得する時間を省けますね」

 

「そうなの?」

 

「限界突破が要らないって凄いね!」

 

「気力操作と魔力操作の二つが両立している事が大前提の技です。名は咸卦法(かんかほう)です」

 

ハジメと皐月は、「あぁ~、マギア〇レベア使える深月なら習得していても不思議じゃないな」と納得しており、遂に伏字をしなくなった。しかし、この咸卦法についてだが・・・この世界に来て直ぐに使えていたのだ。魔力操作が無いと無理だと思われるが、深月には魔力操作の上位版の魔力制御があったので問題が無かったのだ

 

「気と魔を融合させ、体の中と外に纏い戦闘能力を向上させるのです。筋力は勿論の事、体が思考に追い付きます。これならば、中村さんの攻撃を回避する事も出来るでしょう」

 

「言葉から察するに、今までの訓練はお遊びレベルなのね」

 

「そうです。本当にお遊びレベルで、この咸卦法から発展させたのが私が使う装填です。自身のエネルギーだけでなく、相手のエネルギーをも利用するまでが最終目標です」

 

見える場所にあるが、ぼやける程遠い道のりに雫はため息を吐き、直ぐに気持ちを切り替える

 

「この咸卦法は気と魔力の量が同じでなければ正常に発動しません。失敗すれば消費するだけです。ですので、練習あるのみです」

 

「これも個人の感覚なのね・・・」

 

深月は雫に一度だけ咸卦法の成功状態を見せ、メイド達の訓練へと移動した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もう駄目ですぅううう!?体痛くて死んじゃう!』

 

「人間はこの程度では死にません!」

 

メイド達の悲鳴と深月のスパルタ訓練を見て、香織は懐かしく思った

 

「私もあんな感じだったなぁ~」

 

「では、香織さんもご一緒に訓練をしましょう」

 

「い、いや~・・・私は素材を収集して来るよ」

 

香織は早足で拠点から出て素材を採りに行き、手持無沙汰となった深月は新たな技能を得る為に今の自分が出来る限りの全力を尽くす事にした

 

現状でも問題は無いとは思いますが、敗北する可能性を低くする為には更なる向上が必要ですね。新しい技?それとも概念魔法?・・・いえ、ありましたね。完全習得していないあの領域―――身勝手〇極意を

 

影との戦いのみでしか発動しなかったあの領域―――もし、あの状態を自分の意志だけで切り替えが出来るとなればと思うと必ず手に入れたい。そして、身体強化がⅠ~Ⅹと調整も必要となってくるのでそちらにも時間を割かなければいけない。深月が考えた結果、重力魔法と身体強化と限界突破を行使してあの領域のヒントを得たらいいじゃないかというごり押しで訓練を行う事にした

 

全ての神代魔法を手に入れた事によって重力魔法の強さが以前よりも強くなりましたね。これならばもっと体に負荷を掛けられます。身体強化を最大、限界突破、重力魔法を日常生活でギリギリ動ける程度で行使!

 

相変わらず無茶し過ぎの異常な訓練だが、この向上心が深月の強さの一端である。身体強化は持続力と調整を、限界突破はステータス上昇の底上げを狙っている

 

あっ、これはヤバイですね。気を抜けば潰れてしまいます。ですが、止めません!限界を超えた更にその先の限界を手に入れる為ならば必要な犠牲です

 

深月は普段行っているシャドートレーニングで現状の確認作業を開始する。対戦相手は自分自身なのは勿論の事、素早さは一番早くの最高難易度を想定する。とはいえ、常人の速さでしか動けないので直ぐにゲームオーバーとなってしまうが、もう一度リトライする事で徐々に先読みや予測の精度を上げていく

そんな深月のシャドートレーニングを見ていたヘリーナ達は、あれこそが深月の強さであると理解出来た。見えなくても分かる。深月が対峙しているのは己自身で、枷を開放した影と戦っている事が分かった

 

「神楽様は凄まじいですね。私達ではあそこまで出来ませんが、それに倣う事は出来ます。皆、やりますよ!」

 

ヘリーナはメイド達に喝を入れて、今まで以上の気合いを入れて訓練を始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~皐月side~

 

ハジメ達は深月から渡される食事を食べながら大量のアーティファクトを作る。先兵を打倒出来る様に、兵士の力の底上げが出来るアーティファクトを量産する。只の丸い鉱石に限界突破を付与し、吊り下げる為の紐に超高速体力回復、超高速魔力回復を付与する。これで限界突破の制限時間が延び、戦闘持続力が格段に上がる

 

「はぁ~、疲れたぜ。だが、これで兵士達の強化は十分だな。対空兵装も充実し、弾丸も自動的に生成している―――後は俺達の修行だな」

 

「神言は精神や魂に作用するだけとはいえ、それ以外にも備えておいた方が良いわね。体が動かなくなってしまえば駄目だから・・・状態異常を無効化する能力が要るわね。これは深月の状態異常完全無効を付与してもらいましょう」

 

「だが、エヒトの言っていた様に万能の技能じゃないって事をどう理解するかだな。今現在確認出来ているのは、体に直接影響のあるデバフと、精神か?」

 

オルクス大迷宮での毒や麻痺は効かず、ハルツィナ樹海の媚薬や感情反転も効かなかった。但し、エヒトの憑依に関しては別だった

 

「あれは私達の油断よ。深月の装填は魔法を取り込んで纏うのではなく変質させる・・・深月がこの魔法は大丈夫と判断した事が駄目だった筈よ。私達はお酒を飲んでも毒耐性で酔わないでしょ?それは常時発動しているからと言うのもあるけど、その耐性という壁を無くせば酔うわ。常時閉じている蓋が装填で外れ、その隙に入れ物に入るという過程が成り立つわ」

 

「お、おう。言われてみればそうだな」

 

「一度でも染まれば元に戻るのは難しいわ」

 

「・・・それだと精神担当の深月をエヒトから引き剝がすのは難しいという事か」

 

混ざっている可能性はあるが、混ざっていない可能性もある。先ずはそのどちらかを見分けなければならない

 

「そこは賭けと言いたいところだけど、恐らく精神担当の深月は最終的には殻に籠る筈よ。ギリギリ限界まで粘り相手を疲弊させ、自分達に有利な状況を作る可能性が大きいわ」

 

「・・・だが、不安な点もあるんだろ?」

 

「そう・・・ね。最悪の場合は精神担当の深月の自己犠牲という選択を採用した場合よ。内容は変わらないように見えても、中身がまるで違うわ。全力で抗い、魂が壊れるかもしれない。そうなればクソ神が枷が完全に無くなるという事なの」

 

「それはヤバイな。不確定要素は出来るだけ排除したい」

 

「戦う時にクソ神が深月の体を完全に掌握、深月の魂が砕けないの二つ。後者の可能性が一番高いとなれば、それ専用のアーティファクトを作るわ。魂を補強、回復、保護の三点が必要+クソ神に抗える魔法」

 

「これも概念魔法か」

 

皐月のプラン―――深月の身体を乗っ取ったエヒトを物理的に追い出す為には精神担当の深月の魂を強くする事で、エヒトに抗い、体から追い出せる可能性を高くする予定だ

 

「先ずはハジメと私とユエで神域へ通るゲートキーを作るわよ。ここで重要事項は、直接クソ神の元までじゃなく扉を開ける事だけよ。相手は先兵を除いての戦力は、クソ神、フリード、ヤンデレ、お花畑の合計四人だけよ。クソ神は己の慢心で首を絞めてもらわないとね」

 

皐月に油断は無い。敵が多くなる可能性も考慮しての分散が限りなく勝率が高いと判断した。ユエとシアとティオの三人とエヒトに挑んでも問題は無いだろうが、エヒトが慢心せずに潰しにかかる可能性が高い。ならば、敢えて仲間を少なくして慢心する様に誘う事が一番だ

ハジメと皐月とユエは、神域へと繋げる事が出来るゲートキーを作り、その次はハジメと皐月で深月からエヒトを引き剥がす為の武器を、最後はエヒトを滅する武器を作るという流れだ。こうして怒涛の延長した一日が終了した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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雑兵はメイドの敵ではありません!

布団「忙ちぃ!!でも頑張る!!」
深月「きりきりと書きましょう」
布団「畑、田んぼ、仕事の三連コンボなりぃ!・・・いきなりの猛暑は体が溶けるぅ」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」





~皐月side~

 

アーティファクトを限界まで量産し、全てを行き渡らせ、作戦も練った。後は開戦の時を刻一刻と待つだけだ。このトータスに住まう多種多様の種族が奮い立ち、覚悟を決めた表情で待機している

 

「・・・壮観だな」

 

「これも蒔いた種のお陰ね。先生、王女、皇帝、ギルドマスターとつながっていたからこそ出来た様な物よ」

 

「だな。全員にアーティファクトも配り終えたし、もうそろそろだろうな」

 

「舞台は整ったわ。いつでもかかって来なさい―――ってね」

 

ハジメと皐月が空を見上げて開戦の合図を待つ。緊張で張りつめていると、突如空がひび割れる様に空間が歪んだ。そこから現れる大量の先兵。赤黒く染まった空は、人々に不安や恐怖を与える嫌悪感がある

 

「気を抜くなっ!敵が来るぞ!」

 

「ッ、総員っ!戦闘態勢っ!」

 

メルドとガハルドが叱咤を含む命令を下す。王国騎士団団長、帝国の皇帝の一早く冷静さを取り戻した取り戻したからこその賜物だ

 

「あの落ちてくる黒は魔物か」

 

「先兵の数も半端じゃねぇ・・・」

 

険しい表情をしたメルドとガハルドが舞台の前面に立つと、連合総司令官であるリリアーナから念話が届く

 

『メルド、ガハルド陛下。余り突出はなさらぬよう。あなた達が死んでいいのは、戦いが終わった後だけです』

 

『申し訳ありません。これ程の緊張は初めてで判断能力が低下していました』

 

『ハッ、言ってくれるじゃねぇか。だが、連合軍で一番強い男が一番先頭で戦わなくてどうすんだ。俺が死んだら死んだで、それを怒りにでも変えりゃあいいんだよ。そのための女神様と総司令様だろうが』

 

『全く・・・メルド、陛下、女神と剣が出ます。作戦通り、お願いしますね』

 

『了解しました!』

 

『応っ、任せな!』

 

現場指揮官は本来ならガハルドが一番だろう。しかし、一戦力である為に視野を広く確保出来ない。よって、王族であり、本来は魔人族と戦う為に学んだ兵法をこの場で活かす事が出来るのは後方に居るリリアーナだけだ。畑山は豊穣の女神という旗印で兵法は全くの無知、カリスマと冷静さを持つリリアーナが適任なのだ。とはいえ、畑山も別の方面で言うならリリアーナよりもカリスマがある

 

「連合軍の皆さんっ。世界の危機に立ち上がった勇気ある戦士の皆さん!恐れないで下さい!神のご加護は私達にあります!神を騙り、今、まさに人類へと牙を剥いた邪神から、全てを守るのですっ。この場に武器を取って立った時点で、皆さんは既に勇者です!一人一人が、神の戦士です!さぁっ、この神の使徒である豊穣の女神と共に、叫びましょう!私達は決して悪意に負けはしないっ。私達が掴み取るのは勝利のみですっ!!」

 

この時の為に築いた要塞の頂上から畑山の言葉を聞いた兵士達は、怯えから一転して希望を見つけたかの様に目を輝かす。そして、己を鼓舞する様に足を踏み鳴らす

ドンッ、ドンッ、ドンッと一定のリズムを刻みながら約八十万の軍勢がが雄叫びを上げる

 

「「「「「「「「「「勝利!勝利!!勝利!!!」」」」」」」」」」

 

「邪神に滅びを!人類に栄光を!」

 

「「「「「「「「「「邪神に滅びをっ!!人類に栄光をっ!!」」」」」」」」」」

 

大量の先兵と魔物が連合軍に襲い掛かろうと前進している光景は恐怖だろう。だが、それを打ち破る為の言葉が発せられる

 

「悪しき神の下僕など恐れるに足りません!我が剣よ!その証を見せてやるのです!」

 

「仰せの通りに、我が女神」

 

「深月―――やってしまいなさい」

 

『かしこまりました』

 

その直後、巨大な魔力が神山の空から落ちた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

『深月―――やってしまいなさい』

 

『かしこまりました』

 

深月が皐月の命令を受け、巨大で、腕が入る穴があり、専用グローブを着けた腕を機械的なそれに迷いなく突っ込んで魔力を解放する

 

「ゴルデ〇オン、クラッシャァアアアアアアアアアア!」

 

もう伏字だろうとお分かりだろう。どこぞの勇者王の最終兵器が成層圏に打ち上げられ、それを起動して扱っているのだ。擬きであるが、分解魔法を付与された超巨大兵器はとても強く、五十万近い先兵と魔物を蒸発させたのは最高の出来だろう。連合軍から見れば、邪神の手先を屠る神の一撃と捉えられても不思議ではない。敵の出現場所である神山ごと押し潰し分解―――真っ平らな大地となった

 

『・・・やりすぎてしまいましたか?』

 

『まぁ・・・やりすぎではあるが、兵士達の鼓舞には充分過ぎる一撃だったから問題はない』

 

『私達はこれから神域へ突入するわ。深月は地上でメイドとハウリアの指揮をした後神域へ突入よ。最終兵器は最後まで取っておく―――単身で突入する事になるけど、行ける?』

 

『問題ありません。ユエさんが創られた神域へと繋げる鍵がありますから』

 

ユエの機転―――それは突入する時間をずらすという事だ。最初は、深月を除くハジメ達、そして最終兵器の深月という事だ。地上は広く、被害を最小限に抑えるならこれが一番であり、エヒトが慢心する可能性も大きくなると二重の効果があると予測している

 

『俺達は先に行く。キリが良い所でこっちに来てくれ』

 

深月は成層圏から地上へ降下して、自陣の要塞上に着地する。作戦を指揮していたリリアーナと旗印の畑山は、いきなり降り立った深月に驚く

 

「か、神楽さん!?え?神域へ突入したのではないのですか!?」

 

「・・・もしや、地上の間引きですか?」

 

「先兵の数が予想よりも多いというのもありますが、クソ神を慢心させる狙いも含まれています」

 

深月は宝物庫から五十mm対戦車ライフル―――"グランイビル"を取り出す。深月のリクエストに応えた理不尽極まりない凶悪ライフルである。当たっても即死、掠っても即死、紙一重で避けても即死のトリプルコンボである。レールガン+ハーゼン・ハウンドと同様に魔力使用量で弾速が上がるという物だ。弾丸と魔力砲と切り替える事が出来る優れ物と一押し出来るが、こんなロマン砲を試射したハジメは反動で空を飛んだという事だけ付け加えておこう

 

「私の射程距離は視界に映る全てです」

 

ズゴンッ!

 

初撃の一発は複数の先兵を貫き、周りを衝撃で地に落とす。地に落ちた先兵は、連合軍の兵士達に討ち取られたりする

 

「それでは、遊撃に加わりますので指揮の継続をお願いします」

 

物凄く重い筈の対戦車ライフルをもう一つ取り出し、脇に抱えて大地を疾走する。砦に居る者達は、時々地上から放たれる太い紅い軌跡は深月の物だろうと把握しつつ連合軍に追加情報を送る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズゴンッ!ズゴンッ!ズゴンッ!ズゴンッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

両脇に抱えた対戦車ライフルが火を噴き、先兵を貫き、魔物を蒸発させる。連合軍の兵士達は、リリアーナから追加された情報を聞き歓声を上げる。魔王夫婦のメイドというネームバリューだけでも自分達よりも強いと分かるし、目の前で苦戦していた敵を屠る姿は正に戦闘メイドだ

 

「メイド長、こちらは私達にお任せ下さい」

 

「メイド隊はハウリアと共闘して散開、対空兵器の守護を最低数に留め遊撃しなさい。魔法に長けた魔人族は近接戦闘が苦手な者が多く、逆に亜人族は魔法を使えませんのでそちらに戦力を割きなさい。"あれ"も今が使い時です」

 

「了解しました。メイド長は何時頃まで地上に留まるのですか?」

 

「半数以上は初撃で滅したとはいえ、連合軍の総力の十倍近く―――先程とは違いますが、広範囲攻撃を行います」

 

メイド達が全員深月の元に合流し、各自命令を受諾。今までのメイド達の活躍はハウリアと同じ様に気配を殺して首を刈り取る攻撃ばかりだった。しかし、ここで深月はメイド達に仕込んだ奥の手を一手切る事にした

深月も含めメイド達は、腕に着けていたリストバンドを外す。その腕には拘束具の様な物が光っていた。まんま某霊界探偵が装着していたあれである。とはいえ、開錠の言葉は特別でも何でもない

 

解放(リリース)

 

その瞬間、メイド達の戦闘力が激増。感知系の技能を持つ先兵達は、この変化に一瞬だけ視線をずらしてしまい、数多くが地面へと落とされる。この程度ならばどうとでもないし、ステータス的にも不利になるわけでもない。しかし、深月の仕込みはこの一手だけではない

 

『咸卦法!』

 

実は、メイド達の近接格闘術の詰込みが予想よりも早く終わったので、更なる戦力アップとして咸卦法を習得させたのだ。勿論、メイド達は深月が選別した事もあり、全員が気を取得出来る人材だったのだ。最初はガス欠になる事が多かったが、それでも十分マシなレベルで運用する事が出来る状態となった。尚、ヘリーナだけはメイド達の中で抜きん出た才能を開花させていたりする

深月は対戦車ライフルを宝物庫に戻し、黒い西洋剣を取り出して魔力を込める。それに呼応する様に剣がどす黒く染まり、魔力の本流が徐々に漏れ出す

 

「エクス〇リバー・モルガァァァァアアアアアン!」

 

これも深月がパクった技だが、拘束具を一つ解除した状態で本物に遜色ない威力だった。薙ぎ払いで放たれたビームは空の敵を飲み込み、蒸発させた

 

「では、私は神域へと突入します。後は任せましたよ?」

 

深月はユエから手渡された神域へと繋げるゲートキーを手に持ち、神域の門へと一気に突入する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何と言いますか・・・つまらない入り口ですね。もっと絢爛豪華な造りだと思っていたのですが期待外れです」

 

神域の入り口に到着した深月の感想は、とてもがっかりしたものだった。ほぼ白一色、距離感を掴みにくい道があるだけ―――という神が住まうには期待外れな物だった

 

「くっ、またしてもイレギュラーがっ!」

 

どうやらお嬢様達に多くの先兵が倒され、今は補充をしているという事ですか。おや?ここで根絶やしにすれば地上に行く先兵も少なくなるという事でしょうか?広いけれどほぼ一直線の道となれば一つですね

 

「ヘル・ア〇ド・ヘヴン!」

 

深月は両手に専用グローブを装着し、魔力と気の混合エネルギーを集約させる

 

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ・・・」

 

魔力放出・纏雷・重力魔法・空間魔法・再生魔法―――進路上の敵が逃げられない様に電磁フィールドをイメージして放つ。エネルギーの渦が先兵達の周囲を覆った事を確認した深月は、無間の一歩を踏み出して背中から魔力を放出

 

「ウィィィィタァァァッ!!」

 

とてつもない重圧に先兵達は体を硬直させるが、直ぐに深月の突進を止めようと分解魔法を斉射する。専用グローブに分解魔法が直撃するも、減速する事なく加速する。分解魔法がいかにチート級であろうとも、一人でも概念魔法を創れる強さとなった深月の再生魔法の速度が勝っている為無駄である

深月が近づくにつれエネルギーの渦が狭まり、先兵達を強制的に一列にさせる。そして、先頭の一人の先兵の胸部に一撃が当たった瞬間に身体が弾け肉片になった。障害物である先兵に当たろうとも速度は衰えず更に加速して次の場所へと繋がっているであろう波紋を打つ極彩色の壁へと突入した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~雫side~

 

深月が神域へと突入する数十分前―――

ハジメ達と共に神域へと突入した元勇者(笑)パーティーの面々は、荒れ果てた都市の一角で待ち構えていた天之河と中村と戦っている

 

「光輝!目を覚ませよっ!!」

 

「目を覚ますのは龍太郎の方だ。南雲は皆の優しさを利用し洗脳する悪だ」

 

「ここまで酷いのか・・・厄介だな!」

 

坂上は天之河と一対一で戦い、谷口は中村の手で再度量産された傀儡兵と戦い、雫は中村と戦っていた

 

「どう、鈴?神様の失敗作の人形でも強いでしょ~♪結界があっという間に破壊される気分はどうかな?」

 

「にゃめんな!鈴は・・・鈴は諦めないんだから!」

 

「恵理っ!」

 

「おやおや~?雫は僕を殺す気満々なの?ぷっ、倒せるわけないじゃん」

 

中村は慢心している。あの一瞬の戦闘で自分が格上で、手も足も出せなかった事を理解しているからこその余裕。だからこそつけ入る隙がある。虎視眈々と狙いながら、中村が絶対に気付かないレベルまで戦闘力の制限を掛けた状態で戦う。もの凄く危険な行為だが魔物肉を食べてステータスが跳ね上がった雫ならば、少し当たっても耐えられる

 

「・・・恵理、本当にこうしなきゃいけないの?」

 

「鈴は、なぁにお花畑な事を言ってるのかな?僕と光輝君の二人だけの世界を作る為にはこれが一番なんだよ。光輝君の周りに集まる害虫は排除しても排除しても湧いて出てくるじゃん。だったら、二人っきりの世界が必要なんだよ」

 

中村の言う天之河と二人きりの世界・・・創られた世界でなければ不可能だろう。その世界を既に持っているエヒトの元に就くという事は、地球とトータスに混沌をもたらす存在となる。深月が言う最後の説得もこれで潰えたも同然だ

 

「恵理、鈴は・・・ううん、私は恵理をここで殺すよ」

 

「出来ると思って言ってるの?力もないただの結界師程度の羽虫がよく言うね」

 

「だから―――シズシズ、力を貸して!」

 

「トータスはともかく、地球に・・・家族が殺されるかもしれない可能性があるから―――恵理、ここで貴女を確実に仕留めるわ」

 

「ふぅ~ん。・・・光輝く~ん、雫と鈴が僕を殺すって言ってるから助けて~♪」

 

恵理のSOSに気付いたのか、天之河は坂上相手に容赦なく大技を放って吹き飛ばして駆けつける

 

「恵理、大丈夫か?雫、鈴、南雲の洗脳を今すぐ解いてあげるから少しばかり痛くする。だが、安心してくれ!南雲は俺が倒すから大丈夫だ!」

 

「光輝、今まで散々甘やかしていた私も悪かったと理解しているわ。でもね、いい加減我慢の限界なのよ」

 

雫は額に青筋を浮かべ、天之河を睨む

 

「だから―――あんたは龍太郎にもぶっ飛ばされなさい!!

 

縮地ではなく、無間で天之河の目の前に一気に近づいて背負い投げで坂上の方へと投げ飛ばす。慢心していた中村は、少しだけ驚いたが強化している天之河なので余裕で任せる事にして雫の警戒レベルを上げた

 

「ちょっと油断してたけど、あの脳筋が光輝君に勝てる可能性はゼロだよ。でも、光輝君を投げ飛ばした雫は苦しめて殺してあげるよ」

 

中村は体のスペックをフルに利用して初っ端から分解の翼を展開し、雫の四肢の一部を狙って分解魔法の極光を放つ。だが、観察眼に優れた雫はそれを悠々と回避して黒刀で切りつけるものの二本の指で挟んで受け止められた

 

「雫が何かしらの方法でステータスが伸びたのは分かってたよ。でも、そんな程度で僕に勝てるとでも思った?」

 

中村は、そのままアッパーを雫の腹に打ち込もうとした。だが、手を打つ直前に首に大きな衝撃を受けて吹き飛んだ。ずっしりと重く、芯まで響く力強さ・・・何が起きたのか理解出来なかった。だが、分かる事は一つだけ―――雫の攻撃が直撃したのだと

 

「ぐっ、この―――」

 

「悪いわね、ここからは一方的よ」

 

背後からの奇襲ではなく真正面からの強襲。雫は、姿勢を低く中村の脇腹を穿つ。骨にひびまでは入らないものの、一瞬感じる痛みの硬直を見逃さず左腕に組み付いて肩と肘の関節を破壊した

 

「ぎっ!?」

 

左腕をだらりとさせた中村は、雫を睨みながら魔法を行使する

 

「邪纏!」

 

「やらせないよ!聖絶・乱鏡!」

 

谷口は絶妙なタイミングで雫と中村の中間に魔法を放つ。この技は雫を直接狙う類の魔法を阻害させる魔法・・・数多くの鏡の乱反射―――氷雪洞窟のミラーハウスのヒントから開発した魔法だ。相手との距離、方向が分からない様に妨害すれば、対象を一人とした状態異常系列の魔法は防ぐ事が出来ると判断したのだ。何より、中村は相手の精神や魂に干渉する魔法を多用するからだ

 

「鈴ぅぅうううう!!」

 

中村は雫の突進速度や反応速度を鑑みて、先に谷口を脱落させる方が得策だと判断して分解魔法の極光を放とうとした。だが、谷口に向けた手は雫に蹴り上げられてあらぬ方向へとずらされた

 

「鈴は殺せないわよ」

 

「なっ!?その姿っ!」

 

雫の身体は稲妻が迸っており、似た姿を見た事がある中村は驚愕している

 

「あぁ、深月さんが使う装填じゃないわよ?これは咸卦法という限界突破に近い技術よ。それにアレンジを加えた私だけの強化なのよ」

 

「くそっ!またあのクソメイドが邪魔しているのか!」

 

中村は憎らし気に深月を罵倒するが本人はここには居ないし、居ても、「邪魔しているのはそちらでしょう?」といって煽り返すのは目に見えている

 

「だけど、その程度で僕を殺せると思わない事だね」

 

「殺すには足りないでしょうね。でも、深月さんが来ればどうする?私も合わせた二対一の戦闘になるわよ」

 

「その前に殺すだけだよ!」

 

恵理は雫が絶対に避ける事の出来ない攻撃を選択、雫を全方位からの分解魔法の檻の中に閉じ込め、破壊力に特化させた魔力の大剣を形成する

 

「檻・・・ね」

 

「動けないところを狙われるってどんな気持ちかな?フフフ、慢心しているからこうなるんだよ!」

 

中村は雫をなぶり殺す事を中止して一撃で殺す事にしたのだ。勝利を確信し、肉片一つ残らずにバラバラにしてやろうと魔力の大剣を全力の魔力放出で放つ準備をする

 

「シズシズ!」

 

「雫、何か遺言はあるかな?」

 

「中村さんって中途半端よね」

 

「死ね」

 

中村は、大剣を放った。衝撃で檻は弾け飛び、回避する事は出来るが絶対に間に合わない。谷口が雫のピンチに障壁を張って防ごうとするも、紙の様に楽々と貫かれて雫に直撃した

 

「ごちそうさま」

 

「へ?」

 

中村の放った攻撃は雫に直撃した筈だ。だが、爆発しないし貫通もしていない。何より、雫言っている事が疑問だった。何故?どうして?―――と。呆気にとられた返事の瞬間、雫を中心に広大な魔方陣が展開した

 

「な、何なんだよこれ!?」

 

大きく広がった魔法陣は、狭まり、魔力の大剣が光の粒子となって掻き消え、魔法陣が雫の元まで辿り着いた。その瞬間、雫から強大な魔力の波が周囲に襲う

 

「何をしたんだよっ!?」

 

「あら、見て分からない?装填しただけよ」

 

「あ、あれは魔法の属性に変質するだけじゃないか!」

 

エヒトからも教えられた装填の仕組み。魔法を吸収し、魂レベルで変質させて身体能力の向上と特性を生む。だから、目の前で起きている事が理解出来ないのだ

 

「という事は、エヒトは深月さんの記憶を見ていないし理解していないという事ね」

 

「で、でも、その程度の強化で―――――え?」

 

中村が雫の姿を見失い、気づいた瞬間には右腕を切断されていた

 

「あっ、があああああああああ!?」

 

襲い来る痛みでようやく理解した。今の雫は己よりも遥か上の頂に居るという事を。あっという間に追い抜かす原因は、魔力剣だろうとは予測出来るが肝心の理論が分からなかった

 

「っ!?」

 

首筋に感じる悪寒を回避する為に大きく体をずらすが、切られたのは両足。翼を展開しているから落ちはしなかったが、中村に残された攻撃手段は魔法だけとなった

 

「何で・・・何で左腕が治らないんだよ!超高速体力回復があるだろう!!」

 

中村は大きな勘違いをしている。超高速体力回復は、ゲーム設定で言うならHPの回復・・・傷も治るという定義だ。しかし、ここは現実。体力回復はスタミナであり、傷は一切治らない。いや、例え治るとしても左腕は治らない。あれは、関節を外すだけであり、外傷ではないからだ。氷雪洞窟で、深月が影と殺りあった際に再生疎外の為の針を仕込まれた事を思い出して欲しい。内部に異物があれば、それだけでも直りが遅くなり、治ったとしても依然と全く同じ様に動かす事は困難だろう

 

「ここは現実よ。ファンタジーな世界でも、ゲームじゃないのよ。その技能はスタミナ回復だけだし、再生の技能は外傷や、破壊系―――関節を外すのは対象外なのよ。と言っても、これは受け売りだけど」

 

「くそっ!くそっ!くそっ!くそぉおおおおおおおお!あのクソメイドはどこまで僕の邪魔をすれば気が済むんだよ!!」

 

「貴女が深月さんに喧嘩を売っただけでしょ」

 

「クソメイドが邪魔しなければ何もかも上手くいったのに!」

 

「雫さんの言う通りですよ。私は敵対した相手に手加減はしませんよ」

 

中村が一番聞きたくない声・・・雫の後ろから深月の声が聞こえたのだ

 

「取り敢えず、その翼は不必要ですね」

 

雫よりも静かに一瞬で中村の背後に回り込んだ深月は、中村の銀翼を掴み引き千切る。分解魔法が付与されている銀翼を引き千切る事が出来る=分解魔法を無効化もしくは再生速度が異常なだけだ。これは後者で、グローブを着けているからこそ出来る芸当だ

 

「中村さん、これでチェックメイトよ」

 

地面へと叩き付けられた中村を見下ろす深月と雫と谷口。そして、坂上とボコられて目を覚ました天之河が合流した。中村は、策が全て失敗した事に絶望しただただ彼等を見上げるだけだ

 

「えりりん・・・恵理、もう終わりだよ」

 

谷口は中村に馬乗りになり短剣を構える。その表情は苦痛に歪み、己の手で友人を殺す事に涙していた

 

「す、鈴。殺さなくても」

 

「光輝、見たくないのなら眠らせてあげるわよ?」

 

雫の睨みで天之河は何も言えなくなり、押し黙った。谷口は、短剣を振りかぶり中村の胸部に向けて振り下ろす

 

「・・・鈴、助けて」

 

「っ!?」

 

上段での一瞬の硬直と同時に、中村は狂気に歪んだ笑みを浮かべて谷口の喉元に狙いをつけて噛みつく

 

「鈴、避けろお!!」

 

死なば諸共の攻撃、雫は谷口と中村の身体が近く反応が出来ても抜刀出来ず、坂上は声を出すだけで、天之河は驚愕の表情をしていた。だが、中村の攻撃を想定していた深月は、冷静に谷口に嚙みつこうとする中村の首を掴んで吊り上げる

 

「ぐっ、があっ!」

 

「み、ミヅキン・・・私は・・・」

 

「私が居なければ、あの躊躇いで死んでいましたよ。さて、テンプレでは"遺言は?"と聞きますが、私にそんな甘さはありませんよ」

 

深月は空いた片手に夫婦剣の一刀を中村の心臓に突き刺して確実に心臓を潰す。普通ならば、それだけで放置してで終わりだろう。だが、念には念を入れて徹底的に殺すのに躊躇しない深月は首もへし折り、脳にもう一刀を突き刺した。完全に事切れた中村を遠くに投げ、スト〇ーサンシャインをノーモーションで放ち肉片一つ残さず完全消滅させた

 

「これで大丈夫でしょう。自爆する暇もなく殺しきれたので問題ありませんね」

 

「深月さんがあそこまでやったのなら死んだでしょ」

 

「・・・」

 

「谷口・・・」

 

谷口は自分の手を見ながら震えていた。本当の命の取り合いで、一瞬の躊躇が死を招く事に恐怖したが、自分の手でと覚悟していたのに足りておらず、尻拭いをさせた事・・・様々な感情が谷口を襲っているのだ

 

「雫さん達はこのまま地上へと降りて下さい。ここから先の戦闘は足手まといですし、地上の戦力が今どうなっているかも不明です」

 

「分かったわ。但し、光輝は縛っておくわ。戦場に出せば背後から切られるでしょうし」

 

「お、俺は・・・」

 

「ま、まぁ、そんだけの事をしたって事だ。だが、皆を説得するのを手伝ってやるからいつまでも落ち込むなよ。谷口の気持ちも分かるが、ずるずる引きずるのは止めちまえ。いつも通り笑ってる方がいいぜ」

 

深月は雫にユエが創った神域を行き来する鍵を手渡し、ハジメ達が通った場所を追いかけて壁を潜った

 

「さて、私達は地上へ行くわよ。香織が強いとはいえ、いつまでも一人にするのは心配だわ」

 

雫達は通ってきた道を辿り地上へと帰る。虹の壁を潜ると、大量の肉片と先兵が十体程生き残っていた

 

「龍太郎、私が敵の目を引くから全力疾走で走り抜きなさい」

 

「お、おう!そっちの鍵が無いと出れねぇんだが・・・それはどうするんだ?」

 

「出口に近づいたのを確認したらパパっと移動するから大丈夫よ。貴方達は脆いんだから気を付けなさいよ」

 

雫は生き残りの先兵達へと真正面から衝突。それを確認した坂上は谷口と天之河を抱えて出口へと走り、出口へ着く頃には雫が先兵の全てを倒し終えていた。その後、雫は坂上達と合流してアーティファクトを使って地上へと帰還した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「メイドさん強い!そして、侍女子つよすぎぃ!」
深月「上から叩き潰す攻撃は中々出来ない体験です。気持ちいいです」
布団「あれでも加減してるんでしょ?」
深月「当り前です。全魔力を注ぎ込めばトータス滅びますよ?」
布団「よい子の皆はマネしないでね♪」


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メイドではなく地上がメインです

布団「お待たせしました。コロナワクチンの副反応が通常よりも長引いてしまった。腕が全く上がらないのもう嫌ですぅ!でも、来年も打たないといけないと思うと・・・鬱になりそう」
深月「ワクチンを接種したとはいえ、無用な外出は控えて下さいね?」
布団「さて、話は戻ります。今回は神域の話はほんの少しで、地上戦が主な話となります」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」






~皐月side~

 

ハジメ達は雫達と別れ、試練の様な障害を排除して進む。改良したシュラーゲンA・A(アハト・アハト)で狙撃して排除し、オルクス最下層に居たヒュドラよりも生命力の高い神獣と戦ったが逃げられたりと苦も無く突破する。そして、エヒトとの前哨戦であろうフリードと沢山の魔物と再会した

 

「しつこいわね。でも、ようやく殺す事が出来るわ」

 

「私とてエヒト様に仇なす貴様達を殺してやりたいが、ここまで来たらイレギュラー二人を通せと仰せつかっている。もし、これを破れば従者の肉体は粉々に破壊して作り変えるとも仰られていた。私としては是非とも抵抗して欲しい」

 

「かぁ~、つまらねぇ脅しだな。とはいえ、深月の身体を作り変えるなんてご法度だ。クソ神の好みに作り替えられるなんて反吐が出る」

 

「ユエ、シア、ティオ。こいつ等をギッタギタのメッタメタにぶっ殺してね」

 

「・・・当たり前」

 

「撲殺ですぅ!」

 

「所詮は前座、格の違いを見せつけてやるのじゃ」

 

ユエ、シア、ティオの三人とフリードと魔物の大群が激突した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エヒトが居るであろう最奥のフロアへ到着したハジメと皐月は、周囲を警戒しながらも一本道を進む

 

「罠が無いか・・・」

 

「ラスボスの様に悠々と待ち構えているという事かしら」

 

一本道を普通に進む二人だが、足音が鳴らない。いや、この空間では音が鳴らないと言った方が良いのだろうか。だが、二人の歩みには躊躇いはなく、上部が霞掛かった白い階段を登る。霞を進むと視界は白く染まり、抜けた先には白一色の世界だった

 

「ようこそ、我が領域、その最奥へ」

 

周囲に視線を巡らせていた二人に聞こえた聞きなれたしっかりとした声色のそれは愛する人の声。だが、その声に混じる小汚い感じに苛立つ。二人が声がした方向に視線を向けると、舞台の幕が開く様に空間が歪み十メートル程の雛壇が出現し、その天辺に設置された玉座に妙齢の美女が座っていた

その服装は己の肉体美を釘付けにする様なチラ見せの妖艶さを強調する黒いドレスだった。並みの人間なら足を止めてガン見する程の美しさだが、今のハジメにはそんな感情は一ミリたりとも存在しない。それはこちらを見る眼とクツクツと笑っている表情の裏に隠された嫌らしさと醜さを感じさせられたからだ

 

「どうかね?この肉体を掌握したついでに少々成長させてみたのだ。中々のものだと自負しているのだが?うん?」

 

「あんた馬鹿ァ?深月の身体を成長させたところで、中に入ってる汚物を煮込んだ様な魂が入っていたら減点一万どころじゃないわよ」

 

「誰がどう見たって気持ち悪い笑みを浮かべているって分かるぜ。鏡貸してやろうか?」

 

「ふふふ、減らず口を。だが、我には分かるぞ? お前の内面が見た目ほど穏やかでないことを。恋人を好き勝手に弄られて腸が煮え繰り返っているのだろう?」

 

「当然だろ。なにを賢しらに語ってんだ?忠告してやるよ。お前は余り口を開かない方がいい。話せば話すほど程度の低さが露呈するからな」

 

二人の毒舌は感じた事をそのまま言葉にしただけで感情の起伏はなく、エヒトはそんな二人を見てピクリと反応した。そして、笑顔の仮面を貼り付けたまま万能の言葉を口にする

 

「エヒトルジュエの名において命ずる―――平伏せ」

 

ごく自然に放たれた神言、問答無用で相手を従わせる神意。かつてハジメ達を縛った言葉

 

ドパンッ!

 

「ッ!?」

 

だが、二人が返した答えは銃撃だった。銃弾はエヒトの障壁によって防がれたものの、当の本人は何故神言が防がれたのかが理解出来ていないのか首を傾げていた

 

「・・・神言が僅かにも影響しない?」

 

「俺達の前で何度それを使ったと思ってる。ちゃちな手品なんざ何度も効くかよ」

 

「変化もない単調なそれを防ぐ術を開発する程度造作もないわ」

 

「・・・」

 

エヒトは無言のまま指パッチンをして二人のアーティファクトを破壊しようと試みたのだろうが、空間の歪みによるそれはパチンッと弾かれて正常な空間に戻る

 

「・・・なるほど。対策はしてきたというわけか」

 

「むしろ、していないと思う方がどうかしている」

 

「調子に乗っているなイレギュラー共。神言や天在を防いだだけで、随分と不遜を見せる」

 

「あんたからどう見えるかなんてどうでもいいわ。クソ神、あの時の言葉をもう一度言ってあげるわ」

 

「・・・」

 

「「深月は取り戻す。クソ神は殺す。それで終わりだ(よ)」」

 

二人の硬い言霊が響き、エヒトはいつも通り踏みつぶして絶望させて殺す事に決めた。王様の様に組んでいた足を解き、頬杖を外して立ち上がる。そして、玉座から極大のプレッシャーを放つ

 

「よかろう。この世界の最後の余興だ。少し、遊んでやろうではないか」

 

ふわりと宙に浮き、白銀の髪を波打たせ、黒いドレスをの裾をなびかせる。同時に、エヒトを中心に白銀の魔力が渦巻き、無数の煌めく光球がゆらりと生み出されていく。その数は星の様に輝き、一つだけでも直撃すれば消えかけない威力が内包されている事が感じられる。その輝きは正に神の如く―――。それに対するハジメと皐月は

 

「「出し惜しみは無しだ(よ)。――全力でいく」」

 

宝物庫からクロスビットやライフルビットよりもコンパクトなビットが出された。小型かつ、大量のビットは合計が千を超える数だ。それを背後に浮かばせてエヒトを睨む

 

「さぁ、遊戯の始まりだ。まずは―――踊りたまえ!」

 

ハジメと皐月Vsエヒトの戦いが始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~香織side~

 

所変わって地上―――深月の初撃で半分近くの先兵は排除、その後突入前に減らし、神域の入り口で殲滅したりと地上の兵力はかなり削がれたのだが、それでも連合の兵士達よりも数が多い。一人一人にアーティファクトを行き渡らせているとはいえ、ステータス差がありすぎる

 

「怯えるな!真正面を向けっ!守れ―――友を、戦友を、家族を、恋人を、子供を!魔人族だろうと亜人族だろうと関係ない!一人が欠けるだけでも戦線は崩れるぞ!気合いを入れろ!!」

 

「長年の恨みもあるだろうが、それはこの場では無意味だ!恨みの矛先は全てを操っていた邪神に向けろ!何の為の戦いか思い出せ!」

 

切り殺されようとした人族を魔人族の魔法が助け、殺されそうになった魔人族を人族が助けと今までの恨みつらみの戦争なんて関係ない。今この場に居る者は全員が戦友であり、皆に護る者がある。奮闘する戦士達の中でも戦果を挙げているのはメルド、ガハルドと言った名のある者だ。カリスマもあり、周囲を引っ張りながら前線を駆け抜けるその姿は皆を奮い立たせる

そして、彼等以上に戦果を挙げているのは地上に残った香織を筆頭としたハジメ達関係者である。ハウリア、メイド達が居るからこそ戦線が持ちこたえているのだ。だが、消耗戦で有利なのは数が多い方である

 

「ノイントの身体を使っているようですが、これで終わりです」

 

大量の先兵に囲まれ休みなく攻撃を向けられた香織は、体中に傷を作りながらも生き残る

 

「まだ、まだだよ。私が倒れたら皆が殺される・・・そんな事はさせない!」

 

とはいえ、四面楚歌に近い状況は絶体絶命だ。後方で援護しているクラスメイトや、ハウリア、メイド達ですら分解魔法の砲撃には避ける事しか出来ないでいた。攻撃は全て分解され、無暗に近付こうとしたら分解と不可能なのだ。ただでさえエヒトに追加強化をされた先兵は香織よりもステータスを圧倒しているという点もあるのだ

 

「これで終わりです」

 

前後左右、頭上から巨大な分解魔法のビームを放たれようとした香織は、走馬灯が脳裏を過った。だが、イレギュラーは別の所にも存在する。香織に分解魔法を放とうとした二十人の先兵は、同時に首が飛んだ

 

『えっ?』

 

全員が何が起こったのか理解出来なかった。目に見えないスピードで首狩りされたのならば理解出来るが、それが可能なのは深月のみだ。ハジメ達でも首狩り出来るが、深月の訓練を受けた者達ならば体を認識する程度ならばかろうじて出来る。だが、これは全く見えない

 

「私は疾影のラナインフェリナ・ハウリア。君は何者?」

 

「えっ、遠藤浩介・・・です」

 

『そこに居るのか遠藤!?』

 

いつもは誰にも認識されない事に涙する遠藤だが、自分を見つけている存在・・・ラナに心惹かれたが、自分の頬を殴って意識を変える

 

「私は疾風のように駆け、影のように忍び寄り、致命の一撃をプレゼントする、ハウリア族一の忍び手!・・・でも、君を見ていたら、この二つ名を名乗るのが恥ずかしくなっちゃたわ。だから、悔しいけど"疾影"の二つ名は君に譲るわ。だから、君は今日から"疾影"・・・ううん、私を超えているのだから・・・"疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート"と名乗るといいわ!悔しいけどね!」

 

「いえ、結構―――」

 

「それじゃ、お互い死なないように、でも全力で首刈りしましょ♪じゃあね!疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート!」

 

「・・・」

 

ラナ達ハウリアは、更なる戦果を挙げる為に気配を殺して先兵を倒す為に散らばる。そして、遠藤とラナのやり取りを聞いていたメイド達は何も言わずにハウリアと同じ様に散らばって行った

 

「・・・白崎さん。これは内緒で」

 

「か、かっこいいよ?疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲートくん」

 

「ぐぁあああああああああ!?」

 

中二病全開の名前を撤回するのはよくないと思った香織は、フォローのつもりだったのだろうが、要らぬ気遣いだった。心に特大のダメージを与えられた遠藤は、少しの間膝を付いて絶望していた。とはいえ、直ぐに立ち直り?先兵を倒しに向かった

もし、ハジメがこの場に居たら遠藤に同情していただろう。それ程の破壊力を秘めた二つ名と中二病と要らぬ気遣いのコンボが直撃したとなると、ハジメだったら口からエクトプラズムが出るだろう

 

「香織、味方に精神攻撃するのはよくないわよ?」

 

「雫ちゃん!」

 

「私の手持ちの神水が残っているから使って。でも、無茶し過ぎよ。後方で移動ヒーラーを命令されていたのにどうして前線に出ているの?」

 

「そ、それは・・・」

 

「どうせ、南雲君に良い所見せたかったんでしょ?」

 

「うっ!?」

 

「はぁ・・・・・こんのっお馬鹿!!

 

雫は香織の頭にチョップを落としてこんこんと説教をする

 

「深月さんが言っていたわよね?心は熱く頭は冷静にって!味方が瓦解する恐れがあるから前線に出る、これは分からなくもないわ。でも、離れ過ぎよ!遠藤君が居なかったら死んでたのよ!?それをしっかりと理解しなさい!」

 

「ご、ごめんなさい・・・」

 

雫に気圧されて土下座で謝罪するが、雫は香織を直ぐに立たせた

 

「今は謝罪の言葉だけで良いわ。今は反省しつつ味方を援護する事よ。香織、付いて来れるかしら?」

 

「頑張るもん!」

 

雫は黒刀を抜刀し、香織は大剣を構えて同時に駆け出す。雫は技、香織は力で互いをサポートする様に立ち回る。ステータス差はあるが、先兵といえど首を断たれれば死ぬ。一撃必殺を狙い、妖怪首置いてけと化した二人は凄まじい勢いで先兵達を屠る。地上に戦力が増えた事でギリギリの均衡が傾いたのだ

 

『我が深淵を覗きし時には骸となる』

 

特に戦果を挙げているのは遠藤だ。香織や雫も強いのだが、先兵を多く倒しているのは遠藤なのだ。自分自身の影の薄さを利用しているというのもあるが、一番の強みは影分身の一体一体も本体並みに影が薄い事だ。要するに、遠藤本人よりも少しだけ存在感?がある影分身なのだ

ただでさえ遠藤本人の姿が見えないのに、影分身の姿も捉える事が出来るのは少数だろう。その少数の中に入っているのはハジメ達とハウリア達とメイド達だけだ。しかし、遠藤本人を常時見えているのは深月とラナだけだ

 

『深淵の奥底に眠る疾風よ、敵を覆い尽くせ』

 

遠藤の分身が全方位から先兵に襲い掛かり、その首を切り飛ばす

 

『俺が見えるか?だが、深淵は全てに存在する。一人だけ見えたところで晩餐の鐘は止まらんよ』

 

先兵達が一人の遠藤を視認してしまったらそれは好機、全てが遠藤のテリトリーで標的だ。またしても首を切り飛ばした

 

『血が噴き出そうと、所詮は人形―――首を落とせばどうという事は無い。だが、流石に多いな。普通の状態ならば被害が多かっただろう。だが、深淵は貴様達が全滅するまで覗いているぞ』

 

再び遠藤が戦場を駆けて先兵達を倒していく。分身を見ていた香織達は、ただただ呆然としていた

 

「・・・もしかして遠藤君が一番強い?」

 

「天職が暗殺者なのに正面から堂々と殺しているって・・・どんだけよ」

 

「流石遠藤様、メイド長の一番弟子は格が違いますね」

 

「なにぃ!?深月殿の一番弟子だとぉ!ウラヤマウラヤマウラヤマウラヤマシィイイイイイイイ!」

 

ハウリア達は地団太する。深月と約束していたのは自分達が先だと宣言するが、それは深月が使えると判断した者―――選別に特に引っ掛からなかったからだ。何故かというと、ハウリア達は気功術を扱える者が居なかったというだけだ。しかし、それを言うなら遠藤もなのだが、遠藤は気功術よりも特異な影の薄さが武器なので新たな物を習うより、今ある長所をさらに伸ばして尖らせるという方針だ

 

「うわぁああああ!?」

 

先兵の猛攻にある部隊が瓦解しようとした瞬間

 

『待てえいっ!』

 

戦場に大きく響く声―――それは遠藤の声だ

 

「何処に居る!」

 

「司令塔に男は居ない筈だぞ」

 

敵味方問わず、その声の主を探し始める者達。だが、声が聞こえた司令塔の方を見ても姿が見えない。しかし、陽炎の様にゆらりと姿が現れる

 

『限界を超え、体が壊れる恐れを乗り越えし者、人それを―――超人と呼ぶ。守る為に種族を問わず共に戦う兵士、人それを―――戦友と呼ぶ。天に群れ、地を覆い、暗雲立ち込める戦場の中、敵に抗い打ち倒す、人それを―――勇者と言う』

 

「貴様は誰だ!」

 

先兵の一人が司令塔へ突撃して遠藤に襲い掛かるが、遠藤は恐怖にやられる事もなくただ一点を見据える

 

『深淵より参りし影―――疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲート!貴様達を倒す者だ!!』

 

その名乗りと同時に、突撃して来た先兵の四肢が切り落とされ、最後に首が飛んだ。目に見えない攻撃―――超常の力を使ったかの様に錯覚する攻撃。それを見ていた連合軍はやる気を滾らせ、敵は畏怖した。ステータスでは圧倒的有利な先兵達ですら知覚出来ない攻撃の効果は凄まじかった

 

「野郎共、ここが正念場だ!もう一度限界を超えろ!!」

 

『おおっ!!』

 

限界突破(覇潰)っ!」

 

限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」「限界突破(覇潰)っ!」

 

兵士達の二度目の限界突破を見た先兵は、今以上の劣勢になる可能性を危惧して神域に待機している仲間を派遣しようと念話を行使するが、相手の方はうんともすんとも返事が無い

 

「敵を目の前にボサッとしているのは殺して下さいと同義だぜ!」

 

ガハルドの一閃が先兵の首を飛ばし、戸惑っている先兵達へと突撃する

 

「突撃、突撃ぃいいいいい!隙を逃すなっ!!」

 

「王国騎士団、突撃ぃいいいい!」

 

メルド達王国騎士も続く様に突撃して戦局を一気に塗り返す。先兵の一瞬の油断を突いて押し返し、それを援護する様にハウリア達の狙撃、魔人族達の魔法が放たれる

 

「くっ!調子付く―――」

 

迎撃しようとした先兵達をメイド達が背後から首を跳ね飛ばし、頭をボールの様に別の先兵へと蹴り飛ばして攻撃準備時間を稼ぐ。ほんの少しだけ稼げた時間で香織と雫で倒す

 

「援軍はどうしたのですか!」

 

先兵の一人が空に向かって吠えるが、神域の入り口から増援は来ない。明らかな異常事態に舌打ちをして、空から分解魔法を合わせて貫通力を高める事にした。先兵は三人一組となり、分解魔法の魔力砲を一斉射。巨大で貫通力のあるそれは、対空砲なんて紙屑の様に威力が弱まる事もなく地面に降り注ぎ爆発。爆発のエネルギーにも分解魔法が付与されている為、多くの兵士達が殺されてしまった

 

「あれを防げ!ありったけをぶち込めっ!!」

 

全兵士達が三人一組の先兵達に撃ち込むが、相手の魔法の方が早い。しかも単体の先兵が隙間を埋める様に分解魔法を置く事で、香織達が空に跳ぶ事が防がれている。といっても、それは化け物程度であればだ

 

『地へ堕ちろ―――空蝉爆散!』

 

化け物よりつよいキチガイである遠藤には少しの隙間があれば潜り込む事が出来る。自身の分身全てが三人一組の先兵達にしがみ付いて魔力を暴走させて自爆する―――某型月の壊れた〇想より威力は格段に劣るが、TNTよりも火力のあるそれは反則級の破壊力だ。因みに、この鬼畜な技を教えたのは深月である

 

遠藤の分身特攻によって出来た隙を見逃さず、香織と雫は空に上がって先兵達に突っ込む。時間を稼ぐのではなく、地上に向けて撃たせる事を防ぎつつ二つに注意を向ける為だ

 

「白崎と八重樫はこのまま敵を攪乱してくれ。その間に俺と分身で数を減らす」

 

「こっちに注意を引き付けたら良いんだね!遠藤くんが何処に居るかは分からないけど頑張るよ!」

 

「姿は見えないけど任せたわよ遠藤君」

 

「・・・デスヨネー」

 

香織と雫は目立つ様に攻撃をして先兵達の目を引き付ける。先兵が真っ向から向かってきたら香織が前面に、分解魔法が放たれたら雫が前面にと適材適所で攻撃を無力化して敵を一体一体確実に倒す。盛大に目が引き付ける事が出来ると、地上からの攻撃が再開して先程のチームを組ませない様に攻撃する。射程から逃れようとした先兵達は、遠藤によって倒される

 

ズガァァァン!

 

戦闘中に神域へと繋がる空間から巨大な爆発音と振動が発生。皆がそちらへ視線を向けると、神域の入り口からゴミの様に何かが放り出された。地上に近付くにつれてはっきりと見えるそれは、粉々に砕かれた先兵達の肉片だった。皆が疑問に思っていると、香織と雫が身に着けている念話石から深月の声が届いた

 

(地上の戦況はどうなりましたか?)

 

「え、えっと・・・連合軍に傾いているかな?」

 

(上々ですね。こちらは道中に発見した先兵の生産工場的な場所を破壊しましたのでそちらに先兵の援軍は殆ど無いと思って下さい)

 

「流石の一言ね。これなら勝てるわ」

 

深月との念話が終了すると同時に、神域の入り口から数百人程度の先兵が援軍として現れた。連合軍は先兵の援軍に歯噛みするが、雫はこれがかき集められた援軍だと確信した。そして、案の定援軍の先兵からの報告に驚愕の表情を見せている先兵達だった

 

「先兵の援軍はこれが最後よ!」

 

雫の凛とした声が戦場に響き、連合軍の士気は高まる

 

『足を止めたな?貴様達全員落ちろ!』

 

遠藤とハウリアとメイド達の一斉攻撃は、先兵達の翼を射抜き地に叩き落とす。これで空の有利は無くなった

 

「ヒャッハー!首寄越せぇええええ!!」

 

「危なっかしいウサミミ達ですね」

 

カムが先兵に突撃して首を狩ろうとする中、冷静なヘリーナが暗器ナイフを投擲した。先兵の一人が死角から飛来するナイフを弾いた瞬間、同じ軌道で放たれていた第二のナイフに腕の筋繊維を切断されて動けない所を近付いたカムが倒す

 

「お礼は言わんぞ?」

 

「不必要です。流石、メイド長に訓練をつけられなかった残念ウサギの長ですね。自信過剰のその性格を少しでも改善した方が身の為と助言しておきましょう」

 

「・・・人形を倒した数は私が多いぞ?」

 

「殺した数だけを戦果として評価するのは凡骨のする事です。メイド長ならば多岐に評価するでしょうね」

 

互いに煽りつつ、先頭に立って先兵を倒していく。地に落ちた先兵は空を飛ぶという長所を削がれた強敵と言うだけの存在だ。強者と戦い慣れたメイド達が牽制をしてヘイトを稼ぐ

 

「メイド長に比べたら遅すぎます」

 

「もっと鬼畜な攻撃すら出来ないとは・・・所詮は戦闘が出来るだけの人形です」

 

メイドが二人揃えば、先兵の一人を確実に殺す事が出来る技量を持っている。アーティファクトの恩恵が大きいとはいえ、それを出来る技量がある。まぁ、それはブートキャンプと名付けられた地獄の追い駆けっこで身に着いただけだ。戦局も一気に連合軍側に傾き、雫が最後の一人を殺して地上の決戦は終了した

 

「終わったわね。・・・後は南雲君達がエヒトを倒すだけ」

 

「そうだね雫ちゃん。でも、ハジメくんの傍には皐月も居るし、深月さんも合流するから大丈夫だよ!」

 

まるで天変地異の前触れかの様に歪む空間と、轟音。大丈夫なのか、倒せるのか等の不安を隠せない兵士達

 

『あっれぇ~、もう終わっちゃった?』

 

戦場に不釣り合いな陽気?で明るい声が響き、皆がそちらを見ると一体のゴーレムが居た

 

『それにしても、あそこまで空間が歪んじゃったら出るに出れないねぇ~。まぁ、それを解決するのがスーパー美少女のミレディちゃんなのだ!あ、と言う事で行ってくるよ~♪』

 

ゴーレムはそのまま空を飛んで神域へと繋がる空間へ姿を消した

 

「・・・さっきのゴーレムって、南雲君達が言ってたミレディ・ライセン?」

 

「・・・た、多分?」

 

香織と雫は呆然としつつ、神域で戦っているハジメ達が勝利する事を祈った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「・・・影薄い人がやばい位にチートしている件について」
深月「空蝉爆弾はハジメさん風に言うならば、ロマンです。実用性のある技ですよ?」
布団「魔力のある限り分身を出せる=沢山爆発・・・どこぞのマイクロミサイルですか?」
深月「戦略兵器+技術―――諜報+発見されたら自爆と言う流れです」
布団「影薄い人って世界征服出来るんじゃないですか?」
深月「事後処理が大変ですのでしないでしょう」
布団「出来ないって言わないんですねー」


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危機にメイドは現れる

布団「さあ始まるでざます!」
深月「フンガー」
布団「ノリノリでっす!」
深月「メイドのお茶目もこれで終わりです・・・さて、読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」









~ユエside~

 

ハジメと皐月を先に行かせ、先兵とフリードと大量の魔物と戦うユエとシアとティオ。中々に強力で、特に先兵は今までとは比較にならない存在感を醸し出していた。そこで、戦力の分散―――ユエとシアのタッグで先兵達を、ティオはフリードと魔物をと言う流れだ

 

「今まで戦った先兵と比べ物にならない位強いです―――ねっ!」

 

「予想を遥かに上回る成長を確認。レベルⅡの限定解除」

 

「なっ!?」

 

シアと戦っている先兵が呟くと同時に翼の数と魔力が増加し、武器も大剣から細身のレイピアに変わっていた。だが、これは一体の先兵であり、他は槍やハンマー、双剣等々を装備した

 

「シアっ!」

 

ユエがシアの頭上に氷壁を作ると同時に、ハンマーを持った先兵の一人が氷壁を攻撃。並大抵では破壊されない自信のある氷壁は、ガラスの様にあっさりと粉々に砕かれた

 

「どっせえええい!」

 

「ふっ!」

 

シアのハンマーと先兵のハンマーがぶつかり、周囲に衝撃波が走る。シアは、鍔迫り合いをしながらスラッグ弾を発射して一人を倒そうとするも失敗。光の幕の様な障壁と分解魔法の障壁に防がれたのだ。とはいえ、その障壁は自身の前面だけにしか展開出来ない様子だ

 

「蒼龍!」

 

炎の龍が先兵達に突撃するが、これも分解魔法でかき消されてしまった

 

「流石は元器と言ったところです。その全魔法適正が厄介と言えば厄介ですが、分解魔法の前では無駄にも等しい」

 

周囲に浮かぶ先兵達がユエに突撃する瞬間、オリジナル魔法の火光で目潰しをしながら一定距離を保つ。魔法の攻守攻防はユエが若干劣勢だ。有限の魔力と無限の魔力の差は大きく、節約しながらでないと直ぐにお陀仏になってしまう

 

「・・・分解魔法は卑怯」

 

「ホントですよ!攻撃がかき消されたら手出しが出来ないじゃないですか!」

 

「所詮は弱者、主の駒として動かなかった事を悔やみながら死になさい」

 

しかし、ユエ達の目には諦めの感情は無い。あるのは、敵を倒す事だけだ

 

「・・・やっぱり深月の言う通りだった。今のままじゃ駄目」

 

「やっぱり深月さんは凄いですよね~」

 

「?」

 

ユエとシアは切り札の一つを切る事にした。といっても、この一つだけでも十分効果を発揮して打ち倒せる位の能力を秘めているのだ。それはハジメと皐月の二人に渡していたミサンガだ。しかも性能も前回の者と比べても比較にならない程の性能を誇っている

既存の六つの技能に、身体強化とその派生技能+精神統一とその派生技能+状態異常完全無効が付与されているのだ。現在の状況―――二対多数の数の不利を考慮しての精神統一系の技能を入れているのだ。咄嗟の状況でも冷静に判断出来るようにしている

 

「ん!・・・魔力効率が段違い」

 

「身体中に力が漲ってくるのですぅうううう!」

 

ユエの場合は魔力系、シアの場合は身体強化系と長所をより伸ばす事が出来た。まだ先兵に有利な状況であるが、シアの身体がブレた瞬間に先兵の一人にハンマーが直撃した。そして、ゼロ距離のスラッグ弾をお見舞いする事で体に風穴が開いて絶命する。しかも、先程までユエに攻撃した一人の双剣を使っていた先兵だ

 

「早いっ!?」

 

「・・・シアを見すぎ。冥刀(めいとう)

 

その詠唱の後に先兵の首が飛んだ。このオリジナル魔法は、不可視の魔力を刃にして振るう魔法だ。この魔法のメリットは手に持たず操作出来るという事だ。手に持つ動作をしたかと思えば背後からスパッと斬ったり、そのまま手の位置から刀の刀身を伸ばして攻撃したり等、魔力感知技能を持っていない者に対して絶対優位となる

先兵にも魔力感知は備わっている。だが、ユエが魔法を連発した事で空中に漂う魔力の残滓に紛れ込ませる事で魔力の刀身が自身の背後にあるとは思わないだろう

 

「魔力が感じられない!?」

 

「・・・隠しているのに気付けないお前達の方が無能」

 

ユエはもう一体の先兵の首を飛ばして残りの先兵達を挑発すると、案の定返答として分解魔法のビームが放たれる。だが、それはミサンガを盾にして吸収して自身の魔力として変換する

 

「あのイレギュラーと同様の吸収ですかっ!」

 

「・・・ごちそうさま」

 

そして、また一人がユエの刃にて命を刈り取られた。この無双はユエだけでなくシアもそうだ

 

「遅いですぅ!どっりゃあああああああああ!!」

 

「あぎっ!?」

 

ハンマーに強化スラスターを取り付ける事で威力と移動範囲の増大、強固な防壁の破壊を目的としている。そして、スラスターで変則軌道をしながら相手を翻弄して後ろから殴るだけだ。先兵も咄嗟に防御障壁を張ったのは優秀なのだが、想定を超えた破壊力の前ではガラス程度の盾だ。障壁は突破され、完全に振り返っていない状態での側面から抉る様な攻撃は内臓と背骨を破壊。完全に機能を停止させる事に成功

先兵を全て倒し終えたユエとシアはハイタッチ。その後、二人はティオの方に目を向けると東洋龍に変化したティオがフリードと魔物達を一掃している光景だった。これの変化は二人も知っており、ティオが奥の手を切る必要があった事に驚きつつ観戦する

 

「・・・流石ティオ」

 

「いやぁ~、あらかじめ聞いてはいましたが、あの状態のティオさんって強いですねぇ~」

 

あっという間に全ての敵を灰燼に帰したティオが元の姿に戻り、二人の場所へ合流する

 

「待たせたのじゃ」

 

「・・・待ってない」

 

「そうですよ~。私達以上の魔物達全てを殺し尽くしたティオさん流石ですぅ!」

 

「そうじゃろうそうじゃろう♪これが竜人族の力じゃ!」

 

「後はクソ神だけですね!」

 

「・・・私達も行く」

 

三人がハジメ達が進んだ先へと歩く。増援に三人が来ればエヒトは焦って、ミスを誘発するだろうと確信しているので光の先へ進もうとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一~十までもが殺られましたか。・・・この程度のイレギュラーに敗れるとは何とも情けない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背後から声が聞こえ、三人が振り返る。そこには先兵達の亡骸を山にした一人の先兵だった。三人は、「一人増えただけじゃん」とため息ながら口漏らしつつ先制攻撃を仕掛ける。ユエの魔法とシアのハンマーとティオのブレス―――逃げ場の無い攻撃を前にしてもその先兵の表情は変わらなかった。分解魔法でユエとティオの攻撃をかき消し、シアのハンマーを"片手"で受け止めた

 

「なっ!?」

 

「シア下がるのじゃ!」

 

「極・五天龍!!」

 

この先兵は今までとは違う事を理解したユエは、自身の最高火力である五天龍に全魔力を注ぐ事で発動するそれを放つ。これは分解魔法でも相殺する事も出来ない火力だ

五つの巨大な龍が先兵を飲み込み、土煙が舞い上がる。ユエはその間に血結晶を嚙み砕いて魔力を完全に回復させて二発目を準備しようとするが、土煙が晴れた先には無傷の先兵が佇んでいた

 

「温い、この程度で私を殺せたとでも思いましたか?」

 

「シア、ティオ!」

 

「合点承知ですぅ!」

 

「あい分かったっ!」

 

この段階で三人は、奥の手を切る事にした

ユエは、魔法を自身の周りに常時浮かばせて貫通力に優れたそれを連続で発射するという物だ。これにはミサンガの精神統一があるからこそ出来る攻撃だ。もし、これをミサンガ無しでしようものなら情報量が多すぎて脳がパンクして動けなくなる

シアは、ミサンガの身体強化Ⅹを使用。再生魔法で体を常時再生出来るものの、その速度を上回る反動と激痛が襲う。我慢強いシアだからこその最後の切り札である

ティオは、先程の神龍化という東洋龍に変化する事が出来る代物を今の身体の大きさまで力を圧縮する事で、耐久力を持ちつつ破壊力もある龍人化である

だが、それでも目の前の先兵から感じるオーラは途方もない力を持っている。いや、最初に見た時以上の力が宿っていると思っても不思議ではない程だ

 

「援護する!」

 

「防御は妾に任せるのじゃ!」

 

「ぶっ潰すですっ!」

 

ユエが二人に当たらない様に魔法を斉射して逃げ道を塞ぎ、シアとティオが突撃する。だが、ここでシアの未来視が発動し、殴り飛ばされる自身とティオの姿を確認した

 

「うそっ―――ガフッ!?」

 

「何じゃとっ!?―――がはぁっ!?」

 

だが、その未来視が発動した次の瞬間に衝撃―――シアは咄嗟にドリュッケンの柄を盾に、ティオは甲殻に覆われた腕でガードするが、先兵の拳一発で破壊され腹部にめり込む。途方もない衝撃に身体が吹き飛び大地を跳ねる様に吹き飛んだ。ユエは二人が飛ばされた瞬間に、最高貫通力を誇るオリジナル魔法の"螺旋槍"という魔法を放つが、それも拳で軽々と砕かれて接近を許してしまった

 

「先ずは厄介な魔法を使う貴女からです」

 

ユエは咄嗟に身体強化を使って顔面に迫る拳を首を捻ってギリギリで避けたものの、先兵が空いた片手でユエの足を掴んで地面に叩き付ける

 

「ぐっ、がはっ!?」

 

先兵のユエ棍棒の一発一発がクレーターを生み出し、ユエを助けようと立ち上がったシアに向けてユエを全力で投擲されてボーリングのピンの様に二人が吹き飛んだ

 

「次は妙な技を使う貴女です」

 

「ガボッ!?」

 

先兵は一人で孤立したティオを襲う。ティオも負けじと反撃に転じようとするが、手を出す全てがカウンターで急所に直撃して口から血を漏らす。これでは直ぐに殺られると判断したティオは、自身が持てる全ての力で鱗と甲殻の強度を高めて防御だけする。急所はなるべく避け、どうしても避けれない攻撃だけを防ぐ亀作戦に切り替える

 

「耐久勝負―――竜人族風情がどれだけ持つのか試してみましょう」

 

「ぐっ、ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

今まで大振りだった先兵の攻撃がコンパクトの回転重視となるが、一発一発に腰が入っており大振りよりも威力の高い連打となり悪手となった。五発もガードすれば骨が砕け、再生魔法で回復させる事でどうにか間に合う程度だ

 

「耐えますか。・・・これならどうですか?」

 

両腕で胸から上を防いでいたが、先兵はここで腹部に切り替え掌底をねじ込んだ。上の連打から、いきなりの下という伏線を張られた攻撃にもろに直撃して、ティオは膝から崩れ落ち思い出す

 

「こ、この・・・攻撃はっ!」

 

「我が主の器の戦闘技術は素晴らしいです。たった一つの工夫でこれ程の効果を生み出す―――あれぞ知識の極致・・・いや、殺しの極みです」

 

今まで深月と行ってきた地獄の訓練の中で何度も撃ち込まれた浸透系の打撃。強固なガードを内部から破壊する技術に、幾度となく倒れたからこそこの技が厄介であり、次の攻撃を防ぐ事も出来ずに直撃するのだ

 

「でっりゃああああああああ!」

 

先兵の後ろから殴り掛かったシアの一撃は軽々と避けられ、打ち上げる様に掌底を腹部にねじ込まれる。だが、シアは歯を食いしばって耐えながら先兵の両手を掴む

 

「無駄な足掻きです」

 

だが、先兵が上から押し込む形で力を加えるとシアは膝を付いて沈み込む。先兵はそのまま手を掴んだまま両足を地から離してシアの上に逆立ちをする形で立ったと同時に、シアと先兵の頭上にユエの螺旋槍が通過する。先兵は、逆立ちの体勢から腰を回してティオの側頭部を蹴って脳震盪を起こさせ、シアの頭に両足を着いて両腕を引っ張る

 

「あっ!?いっぎぃいいいいいいいいいいいい!」

 

「後衛のイレギュラー、魔法を使えばこれの腕を引き千切りますがどうしますか?」

 

「くっ!?」

 

これで迂闊に攻撃出来なくなったユエは発動しようとしていた魔法を中断する。この先兵はティオを攻撃していたらシアが突っ込んでくる事を理解し、尚且つ素手で来るとも予想していたのだ。後は、現状に至る様にゲームメイクをするだけという簡単な作業だ

 

「その魔法、かなり便利ですね。逃げる相手を追い込みつつ、逃げ道を防ぐ―――ふむ、こんな感じでしょうか」

 

すると、先程のユエと同じ様に先兵の周囲に大量の魔法の弾が浮かび、その一つがユエの頬を掠めて飛んできた。これだけでも理解した。この先兵は見ただけで魔法を理解し、技を盗む技術を持っていると

先程と立場が逆転し、ユエは飛来する魔法を避ける。咄嗟に魔法で迎撃をしようとしたら、先兵がシアの腕を引っ張って関節を外す。助ける事も出来ず、ひたすらに避けるだけ。しかし、一つの魔法がユエを掠めた時、体がズシリと鉛の重りを装着されたかのように手足の動きが鈍った

 

「あぁ、言い忘れていました。私の魔力に掠りでもしたら重しを付けられたかの様になりますよ。最も、この忠告は既に理解しているでしょう」

 

「・・・うぅ」

 

最初の掠めた攻撃を皮切りに、大量の攻撃を掠めてしまったユエにはどうする事も出来ない程の重しが付けられている状況となった

 

「さて、貴女達イレギュラーを排除した後は地上に残る駒を排除しなければなりません。故に、大火力で肉片一つ残さずに殺します」

 

先兵の頭上に生成される巨大な魔力の玉―――その玉は、一発が地上にでも落ちたら連合軍の半数近くが蒸発する程の威力を内包している。絶体絶命どころか完全に詰んだこの状況に苦虫を噛んだかの様な表情をしつつ、先兵に向けて言葉を投げる

 

「・・・私達は諦めない。まだ生きている!」

 

「んぎぎぎぎぎぃいいいいい!舐めないで下さいよっ!」

 

「舐める等とんでもない思い違いです。貴女達こそ私を舐めないで頂きたい」

 

先兵は冷酷な表情でユエを睨み、頭上に生成した玉をおと―――

 

「いいえ、貴女のそれは慢心です」

 

「っ!?」

 

先兵は咄嗟にシアの手を放そうとしたが、シアが全力で握り込んでいるので直ぐには振り解けなかった。たった少しの抵抗は無駄ではない。ユエ達も強いが、それ以上に強い頼りになる存在は後からやってくるのだから

 

「无二打ッ!」

 

「かはあっ!」

 

先兵の背後から背骨に凶悪な一撃が直撃した。先兵は咄嗟に防御障壁を展開する事で、100の力を軽減する事が出来た。しかし、80以上の力でも凶悪なそれが背骨に直撃したのは最悪の一言。先兵は吹き飛び、地面に一回二回三回と転びつつ巨大な岩も砕いて吹き飛ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

「危機一髪ですね」

 

「流石深月、ナイスタイミング」

 

「だずがりまじだあああああ!」

 

「それよりも、ユエさん達は気絶しているティオさんを連れて離れて下さい。あの先兵は通常個体とは違って異質です。造形が少しばかり違う事から、急造された先兵かオリジンの先兵のどちらかです」

 

「我が主の器が何故もう一つ居る!?」

 

吹き飛ばされた先兵は立ち上がっており、所々に土埃が付いているがこれといった怪我を負っていなかった。深月の疑問点のその一、中村の身体でも何処かしらを破壊出来る威力を内包した无二打にも拘らず怪我の無い体。もう一つ、身体強化Ⅹのシアならパワーだけなら中村に劣らない強さを誇っている

この上記の二つでも分かる通り、この先兵は異常で想定外の敵だ。とはいえ、深月は仮説の一つが思い浮かんだ

 

「私の事はどうでもいいですが・・・ふむ、オリジンの先兵と考えていいですね。体から発するオーラが異常で、一つではなく十一種のオーラですか」

 

「十一・・・まさか!?」

 

ユエは深月の仮説を聞いて気付いた。自分達が倒した先兵の数は十体。同じか少しだけ力の差がある先兵がこれほどまで強くなっている事と、アルヴが先兵の一人を取り込んで手足を復活させた事を

 

「・・・吸収した?」

 

「ちょっ!?ユエさんそれ本当ですか!?た、確かにあの強さの裏付けに納得できますね」

 

先兵は深月の言葉から答えを導き出したユエに賞賛の拍手を送り、深月を指さしながら答えを述べる

 

「よく理解出来ました。私は原初の使徒、ゼロ。そして、貴女達が倒した一~十の使徒を取り込み、イレギュラーの知識を入れました」

 

ユエ達はこの先兵が深月の格闘術のノウハウを理解している事は知っていたが、深月本人は知らない。だが、こうも敵に情報をあっさり教える所は生みの親であるエヒトそっくりに深月はついつい笑ってしまう

 

「ふふふっ、生みの親が馬鹿ならその子である貴女も馬鹿ですね。いえ、これは一般論ではなくエヒトに限定した言葉ですね。敵に対して簡単に情報を渡す―――本当に馬鹿でくだらない」

 

「理解しているからこそ、ステータスで勝っている私の動きの方が強いという事です」

 

「ブフッ!」

 

深月は笑わない様に注意してはいたものの、堪えきれずに吹き出してしまった。一方、ユエ達は少しだけ心配そうに深月を見ていた。ステータス差があって動きを理解しているという事は、知っているのではないと分かっているので深月が不利であると思っているのだ

 

「んん・・・深月が来たのかのぅ?」

 

「あっ、ティオさん目覚めましたか?」

 

「ティオ、ボロボロ」

 

「仕方がないじゃろ。とはいえ、あの先兵は深月の動きを理解しているのじゃぞ?不利ではないか!」

 

「・・・ですよね」

 

やはりティオもユエ達と同様に、理解しているからこそどういった反撃があるか等を知っている事を危惧する。先兵も同様の様子で、「理解させるにはその身で体験が良いでしょう」等と言いたい放題である

 

「それでは、その言葉をそっくりと貴女に返しましょう」

 

「戯言をっ!」

 

先兵は背から魔力放出で一気に近づく。これもまた深月の記憶から得た情報の一つかつ、先手を取るに有利な手だ。深月は、音速を超えた速度で懐に飛び込んで来た先兵の顔面に向けて拳を放つ。それを予想していた先兵は両手で魔力放出をする事で避けつつ、遠心力で速度と破壊力を持った一撃を深月の側頭部に叩き込む

 

「だからこそ甘い」

 

「ぐっ!」

 

深月が放った拳が軌道をいきなり変えて先兵の顔面に飛んで来る。勿論、カウンターで直撃して攻撃が中断される。この深月の反撃に、ユエ達は目を真ん丸にした。「えっ、何が起きたの?」と口漏らしつつ深月の攻撃を見る

 

「ぜぁあっ!」

 

今度は手刀が脇腹目掛けて放たれる。しかし、それは深月の拳で指が砕かれて攻撃そのものを潰される。先兵は飛び退いて一度距離を取る。その間に指も治り元通りである

 

「何故・・・動きが見えない」

 

「あのですね・・・貴女が知識を得て、理解して自身の力にしたのは分かりました。ですが、その間に私が強くなっていないとでも思っていましたか?」

 

「な・・・に?」

 

これを聞いたユエ達は、手を叩いて理解した。この先兵は知識を理解して自身の物に出来た。だが、それはエヒトが深月の身体を乗っ取ってからまでであり、それから先の事は何一つ知らない。エヒトはハジメ達が三日で決戦の準備をして来たと思っているのだろうがそれは違う。刹破によって引き延ばされた二ヵ月の成長率を全くもって想定していないのだ

 

「それに、理解したとしてもそれは私だけの知識でしょう?その先の知識は知らないのであれば、所詮はその程度だけです」

 

深月は先兵にゆっくり近づいてゆっくりと拳を突き出す。先兵は両手で防御した瞬間、全体に走る衝撃は凄まじく、骨がへし折れて宙に飛んだ。先兵が地に着く時には両腕の骨は元通りになっている。しかし、それと同時に理解が出来なかった。力みがない攻撃なのに異常なまでの威力

 

「理解出来ないご様子ですね。一度しか説明しませんが、これは消力(シャオリー)という技術です。究極の脱力から放たれるそれは、直撃の瞬間に力を入れる事で威力を増大させるという事です」

 

「・・・成程。ですがよろしかったのですか?それ程丁寧に説明されては私は出来ますよ」

 

「はっ!武を学んで数日程度の輩に消力は取得出来ませんよ」

 

互いにゆっくりと近付き、ゆっくりと拳を出してぶつける

 

「づぅっ!?馬鹿な・・・どうして!」

 

吹き飛んだのは先兵の方だった。深月の方を見ても痛がっている素振りも見せていない事から、大したダメージを負っていない事が分かる

 

「究極の脱力の意味と直撃の瞬間に力の意味を理解しても、本当の意味では理解出来ない――――これが武です」

 

敢えて教え、それを真っ向から打ち破った深月を見たユエ達の感想

 

「「「深月(さん)ヤベェ(です)」」」

 

ステータスが上の相手を掌の上で操っている策、それを行使する技術。どれを取っても凄いとしか言葉に出来なかった。だが、これで先兵が慢心する事は無くなったという事が懸念点である

 

「成程・・・本当の意味で理解して体験しなければ発揮出来ないという事ですか。ですが、これならどうでしょう」

 

次の瞬間、先兵の魔力量が五倍近くまで増大した。それと同時に感じるプレッシャーは、今までの戦闘がお遊びレベルと感じる程のものだ

 

「限界突破の派生技能、覇潰ですか。そして、欠点と思われる魔力漏れは無し。これはデメリット無しで永久と想定してよいでしょう」

 

「これも貴女の知識と技術です。ですが、私は既に自分の物にしていますので先程の失態は致しません」

 

「はぁ・・・もう何を言っても駄目ですね。ならば、言葉は不要」

 

深月は何時でも迎撃出来る様に構えると同時に先兵は突撃する。先兵が崩拳を放ち、深月はその攻撃を紙一重で避ける。流れる形で顎へカウンターを叩き込もうとしたが、中断して側面から襲い来る蹴りを避ける。その際に、相手の足首に手を添え、動きの流れを阻害しない様に流して払う。そうする事で、重心が体から足に変わり、先兵はクルクルと回転しながら宙を舞い、深月がお返しの崩拳を腹部に放った

 

「はっ!」

 

「ガフッ!」

 

鈍器に殴られたような音が鳴り、深月はそこから更に力を解放する。消力という脱力からの攻撃は遅いと判断していた先兵の裏をかく攻撃、いつも通りの速さで攻撃かつ強力な打撃だ

先兵は再び吹き飛び口から血を吐きながら体勢を整え、ユエのオリジナル魔法の螺旋槍の超強化版のそれを無数に展開して連続で放つ。これは分解魔法も付与されて殺傷力が高く、少しの足止めを目的とした攻撃だ

 

「装填」

 

ユエ達は深月の勝利を確信した。分解魔法を装填してしまえば、物理、魔法の攻撃は素通りしてダメージを与える事は不可能だからだ。だが、深月は装填した魔力を放出して元の状態に戻った

 

「・・・意識誘導の魔法を上乗せしていましたか。状態異常を貫くというよりも、こちらの方がより良いと錯覚させる魔法は厄介ですね」

 

「それをいち早く見抜き捨てる―――ですが、これであの技術は封じました。貴女相手に勝率を少しでも上げる為に不要と判断した魔法を発掘して解析したのです」

 

「これは意外です。やはり、オリジンの先兵となるとそうやすやすとは殺せませんか」

 

「私は時間を稼ぐだけです。貴女はお気付きでしょう?私の身は残り数十分の命―――イレギュラーを諸共に道連れにするのですから」

 

「「「じ、自爆!?」」」

 

先兵の口から自爆と言うとんでもない事が発せられた。深月は先兵の魔力が徐々に大きくなっている事から大体は予想出来ていたが、これで呑気に平行線の戦いをしていたらお陀仏になるとはっきりと分かった。とはいえ、傷が直ぐに治る先兵相手となると生半可な攻撃は通じず、破壊力に特化した攻撃をする必要がある

 

「溜める隙は与えません」

 

先兵は己を消し飛ばす事が出来るであろう攻撃は、どれも溜めが必要であると想定して動く。射程圏内ギリギリを見極め、決して近付かず牽制する。遠距離からの攻撃はどれも防がれ、下手すれば順応して力に変換して対処される危険性があると判断した。先兵の予想は当たっており、今の深月が先兵を倒す為の攻撃には溜めが必要だった

深月は先兵の攻撃を対処しながらこの状況に一度舌打ちをして冷静に物事を判断する事にした

 

攻撃の一つ一つは左程の脅威は無し。ですが、近付けない様にしつつ搔い潜れば退避出来る距離を保っている。クソ神の前座としては優秀です。いえ、もしかしたらクソ神よりも立ち位置を理解していると想定してもいいでしょう。さて、相手の傷は骨折や内臓破裂でも回復するレベルとなれば、欠損でも治る可能性がありますね

 

深月は、武器を放り投げて先兵の視線をずらした隙を逃さず懐に飛び込み、魔力糸の刃を熱量操作で高温に高めたそれを振り抜く。先兵も直ぐに罠だと気付き腕を盾にしつつ後ろ跳びに避けて致命傷を避ける。高温で焼き斬ったので、切断面は火傷で出血もしていない。だが、切断した腕から新しい腕が生えてきた

 

「火傷で再生阻害は無意味・・・アニメ知識も無駄ですね」

 

「付け加えるなら、私は首を落とされても脳を破壊されても再生します」

 

「・・・厄介な再生ですね」

 

休む事のない攻撃を対処しつつ、一つ一つの条件を埋める

 

再生は恐らく細胞単位でしょう。並みの火力では不可能、効果的な攻撃はスト〇ーサンシャイン等の広範囲限定。しかし、この場にはユエさん達が居るので迂闊には出来ない事から、前方だけに放射する攻撃に縛られてしまいます。グラビ〇ィブラストは長時間の溜めが必要な事から却下―――短時間で新技を作るしかありませんね!

 

並列思考で記憶にある技を検索―――該当技複数。後方被害無しを検索―――該当技複数。両方の条件を満たす技―――該当複数

 

どれもこれもが一直線の攻撃ばかりですね!分解魔法の餌食となって攻撃力低下が駄目ですね。操作系の技は・・・ありましたが・・・えぇ、これやるのですか?私が?絶対に似合わないです。ヤダナーヤリタクナイナー

 

本家よりも威力が格段に上なのは確実だが、本家の映像を思い出してしまい、そのキャラの位置を自分に置き換えてみると・・・恥ずかしさがある。とはいえ、今まで散々アニメやゲーム技を再現しているので今更である

 

「深月、頑張れ!」

 

「深月さん、頼みますですぅ!」

 

「深月、頼むのじゃ!」

 

・・・・・やぁああってやるよっ!

 

覚悟を決めた深月は、魔力糸で杖を作成。何事も形から入る事でイメージを明確にして、威力を底上げする事が目的だ。先端に薔薇の様な花弁が付いた杖だ。本来この技は溜めが必要だが、深月の場合はそれが必要ではない

 

「世界を分かつ極光っ!ディバインレ〇ーン!」

 

杖の先端から魔力のレーザーが先兵に向かって放たれた。先兵は分解魔法の障壁を張って防ごうとしたが、放たれたレーザーの軌道が曲がり側面や背後から襲い掛かった

 

「なっ!?」

 

咄嗟に障壁を移動させて防ぐが、数発が直撃する。しかし、威力はそこまで大きくなかった。先兵は直ぐに深月へと視線を向けると、大量のレーザーが自身へ伸びている光景だった。全方位から襲い来るそれを動いて回避しようとしたら、足が空間に固定されたかの様に動かなかった。下を見ると光の輪が足首に着いており、その魔力反応は深月からの物ではなく、ユエのものだった

 

「イレギュラアアアアアアアアアアアアアッ!」

 

深月だけを見ていたが故の失敗、魔法のスペシャリストはユエである。先兵は障壁と己の拳で迫り来るレーザーを防ぎ、砕く。だが、それでも防げないものもあり直撃してしまう。そして何より厄介なのは、威力が上がっている事だった。魔法の威力が上昇する事=手加減されていると思うが、深月が使う魔法は初めてだという事もある。慣れれば徐々に威力を上げるのも当然だ

一発受ける毎に何処かが傷付き、拳の皮膚が抉れる。再生力をも上回る速度と威力で放たれる魔法が、遂に先兵の腕一本を蒸発させた。そこからはあっという間で、もう片方の腕、頭、足を消し飛ばしたら、とどめの極光が先兵の身体を飲み込み、完全に消滅させた

 

「深月さんの魔法えっぐいです」

 

「ん。・・・一度でも当たれば即終わり」

 

「徐々に威力が上がるのは想定外じゃな」

 

「それはどうでもいいのです。ユエさん達は自力で地上へ帰る事が出来ますか?」

 

傷だらけの身体で深月の魔法について語る三人に、深月は質問する。だが、返ってきた答えは無理の一言だった。帰る為のアーティファクトが無い事と、この空間自体が歪に変化し始めているとの事だ

 

「それならば、私が持っている鍵を渡しますのでこれでどうにか地上へと帰還をお願いします。私はこれからお嬢様達と合流しますので、この空間もどうなるかが不明ですのでご注意を」

 

深月はユエに鍵を渡し、ハジメ達が進んだ先へと突入した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「あのビームを放つ人物をメイドさんに置き換えてみましょう!」
深月「絶対に黒歴史になります!イヤダーイヤダー!!」
布団「世界を分かつ極光っ!ディバインレ〇ーン!」
深月「ぐはっ!?」
布団「メイドさんの中二病黒歴史が出来ちゃったよ♪」


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メイドは更に覚醒する

布団「台風で予定ズレるぅ!」
深月「予定外の仕事は大変ですね」
布団「それと、野菜の高騰ヤバイ。冬野菜が順調に育つか怖い・・・」
深月「時の運もありますので断言はできませんね」
布団「暗い話もやめて、一気に執筆したよ!ゲームのイベントなんていつも通り放置してやっちゃったぜ!」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」








~ハジメside~

 

エヒトが住む最深部、宇宙とも言えるそこでは両者の攻撃が激突していた。降り注ぐ白い流星群を、赤い魔力光が迎撃している。千を超える数の一斉攻撃は、拮抗する

 

「クハハハ!こちらは小さじ程の力しか解放していないぞ?もっと踊れ、イレギュラー共!」

 

「ちぃっ!」

 

「めんどいっ!」

 

しかし、その拮抗は力を少しだけ解放したエヒトによって崩される。一割も引き出していない力の解放でも強力で、両手を合わせて広げた掌から白く輝く粒子が煌めく。その一つ一つがハジメ達に近付き、盾として召喚したゴーレム達を崩壊させて素材となる鉱石に戻す。再生魔法の応用だろうか、時間の逆行とも言えるその魔法は、触れれば最後だ

 

「だが、この程度の事も対処出来ない様じゃ挑まねえよ!」

 

巨大チャクラムの円月輪・対を飛ばし、下方へと転移させてやり過ごしドンナー・シュラークでエヒトの急所へ迷いなく撃ち込む。だが、それらの攻撃は全て障壁によって阻まれて攻撃すら通らない

 

「心臓を躊躇いなく狙うその性根・・・楽しませてくれるな、イレギュラー」

 

「深月の身体でも、撃つ時は撃つわよ」

 

手加減は出来ない。手加減をして攻撃すれば、圧倒的なステータス差で殺される可能性があるからだ。それに加え、エヒトが面白がって絶対に軽傷を負う攻撃を与えてくる事が目に見えている

 

「そうかそうか。では、徐々に開放してゆくぞ。イレギュラーの手持ちが無くなるまで遊ばせてもらおう」

 

「消耗戦に持ち込む気か、数は俺達に分があるぜ?」

 

「これを見てそう言えるかな?」

 

エヒトが片手を挙げると、光が収束して形成される

 

「なっ!?」

 

「噓でしょ!?」

 

エヒトが作ったのは近代兵器で、ミニガンに近い形だ。だが、それは自動照準みたく銃口を自動でハジメ達に向けている。ハジメは、宝物庫Ⅱから六連ガトリングガンを取り出すと、光のミニガンが形状変化して同じ六連ガトリングガンへと変貌する

ハジメが光のガトリングガンに向けて弾丸を放つと、あちらもハジメに向けて迎撃を開始。皐月が間を縫う様にして、ドンナーで狙撃して破壊する。だが、光は霧散しただけで、追加と言わんばかりに周囲にライフルが三丁追加された

 

「っこの!」

 

「踊れ踊れ!もっと我を愉しませろ!」

 

エヒトはクツクツと笑みを浮かべながら、わざと同じ土俵で立って戦いを愉しむ。ハジメ達が武器を出せば、同じ武器を作って迎撃し、どの様に戦うかを観察するのだ。自分から動く事はしない

代り映えのしない迎撃、いちいちイラつく笑いと言葉を口に出すエヒト。だが、ハジメと皐月は舌打ちをしつつこの現状を打開する一手の作戦を構築していく

 

「そういう事か。だったら、もっと派手に愉しませてやるよ!」

 

「我の力を引き出してみろ、イレギュラー。この身体、究極の肉体を堪能させてやろう!」

 

「てめぇに堪能されたって嬉しくもなんともねえ!」

 

ハジメは、改良したシュラーゲンに強化パーツを取り付ける。それは大砲の様な大型な筒だ

 

「ぶっとべ」

 

ガゴンッ!

 

「ほう?」

 

放たれた砲弾は相手の攻撃を弾き、エヒトの障壁に直撃した。大きな砲弾は、衝撃が分散して貫通力は無い。だが、それを補う破壊力がある。障壁を張ったエヒトを少しだけ後ろへと押し込む事が出来たのだ

 

「大した破壊力だ。だが、見るからに一発一発しか放てないであろう?」

 

「おいおい、一体誰がこれで終わりだって言った?」

 

エヒトの背後から弾丸が襲う。しかし、それも予見していたのか障壁で防がれる

 

「これで終わりか?」

 

背後の奇襲はあくまで囮で、本命は

 

「捻れ狂う―――偽・螺旋剣(カラドボルグ)!」

 

右手の義手が弓の形状に展開した皐月がエヒトを見据え、先端が捻れた矢を放った。その矢はエヒトの障壁を貫くが、少しだけ軌道が逸れて右手に突き刺さった

 

「この身体に傷を負わせるか。なるほど、その矢が切り札という訳か。だが、次に当たる事は無い」

 

ハジメが偽・螺旋剣を放つが、エヒトはそれを少しだけ体をずらして悠々と回避する。この矢に付与した概念は、周囲を抉りながら貫通するという大雑把でありながら効果範囲が限られている。その周囲を抉るという概念を付与したやにも拘わらず、紙一重で避けても傷が付いていないのだ。その事から、概念魔法の威力が身体強度を上回っていないという結果になる

 

「とはいえ、我が体を傷付けた功績は認め―――片腕を使ってやろう」

 

「何?―――ガアッ!?」

 

エヒトが左腕を動かし、人差し指をハジメに向ける。その瞬間、ハジメに悪寒を感じて盾を展開する。例え先兵の分解魔法でも貫通する事のない盾だが、それを貫通してハジメの腹部を貫く

感知技能に引っ掛からずの攻撃を受けた事に驚愕したが、盾を陰にして表情を悟らせない様にする。だが、それもエヒトは勘づいていた

 

「感知技能を持っていながら感知出来なかった事に驚愕している様子だな。だが、イレギュラーでは成し得ぬ事だ。気力操作―――万能の力ではないか!あぁ、魔力とは別側面の力は馴染む、実に馴染む!」

 

「喋りがキモイ!」

 

ズギュゥゥゥウウウウン!

 

皐月がシュラーゲンA・Aで攻撃。皐月のシュラーゲンも強化パーツを装着しており、弾丸が発射されるのではなく、ヒュベリオンのレーザーを集約して放つ高火力の小型ヒュベリオンと思ってくれれば分かりやすいだろう

障壁は破れ、エヒトの左腕を炭化させる。しかし、炭化した部分が削げ落ち元の綺麗な腕へと再生した。攻撃が通るだけましだと思いたいが、直ぐに再生されるのて厄介だ

 

「再生という事は、再生魔法も難無く使えるという事ね」

 

「大なり小なり神代魔法の全てを扱えるこの身体は素晴らしい。正に、我の為の身体と言っても過言ではない」

 

エヒトは、皐月の方へと指を向けてハジメを攻撃した物と同じ攻撃を放つ。皐月は、直感で射撃線の予測をして回避する。だが、エヒトの攻撃は早く少しして皐月の腕に直撃しようとした攻撃は、直撃する手前で軌道を変えて直撃を免れた

 

「・・・どういう事だ」

 

「私には手加減って事?舐められたものね!」

 

皐月はミーティアの改良版―――ミーティア・ティアーズを取り出し、エヒトに向けて撃つ。魔力弾は棘の様に鋭く細い形となって襲い、一転に魔力弾が重なった場所は障壁を貫通してダメージを与える。とはいえ、致命傷を負わせる事はなかった

 

「煩わしい」

 

エヒトが指パッチンすると、鋭い剣が頭上に現れて武器目掛けて降り注ぐ。アザンチウム鉱石をコーティングしている武器なので傷付かない筈の武器は、バターの様に切り裂かれる。恐らく、剣には分解魔法が付与されているのだろう。皐月は、武器を宝物庫に回収して、攻撃を偽・螺旋剣に切り替える

 

「スイッチ!」

 

ハジメが後退し、皐月が前衛を務める。これで後ろから攻撃されない限りは大丈夫だ。あの早い攻撃はエヒトから直線状に放たれ、皐月に直撃する事がない。理想の配置である

エヒトはその後も攻撃を行うが、その全てが直撃手前で逸れて当たらない。原因は不明だった。だが、エヒトはしばらく攻撃を続けた事によってその原因を突き止めた

 

「やはり神楽深月というイレギュラーは予想外な事ばかりを引き起こす。この身体に概念魔法を根付かせていたとはな。しかも、主を傷付けないという制約とは、何とも忠義の厚い者だ。我の物になれば寵愛を授けていたものを」

 

シュネーの解放者の拠点で概念魔法を創った際、自身を対象とした概念魔法を創っていたのだ。主である皐月に危害を加えないという物だ。これはもしもという時に発動する概念で、深月の攻撃が流れ弾として直撃する事を避けるという物だ。限界を超えた深月の攻撃は、一つ一つが強力となり周囲に被害を及ぼす可能性を考慮しての措置だったのだ

 

「深月の用心深い保険が良い方向に作用したって事か!」

 

「良い仕事をしてくれるわ!」

 

だが、その状態が続くとは思わない。現状では攻撃が当たらなくとも、後半では対処をして当ててくる可能性があるのだ。攻撃できるチャンスは少ないし、それでも相手の攻撃を確実に捌きながらと条件が厳しい

 

「少しばかり解析に時間が掛かるが、それまでの愉しみとして踊れ」

 

エヒトの攻撃がより激しさを増し、皐月はまだしもハジメは迂闊に攻撃が出来なくなった。攻撃の密度が段違いになったせいで皐月のサポートだけしか出来ず、作戦を立てる

 

どうする?今は皐月のお陰で凌げているが、それでも危険な事には変わりない。何か決定的な一撃を入れる方法はないか?・・・そういや皐月のドンナーのレーザーは攻撃が通ったな。あの障壁は完璧だと思ったが、腕が炭化していた。まさか、そういう事なのか?だったら、速攻で作り上げるしかねぇ!

 

ハジメは宝物庫から素材を取り出して新しいアーティファクトを作る。それは手榴弾の形をしているが、中身は別物だ

 

「皐月!」

 

「分かったわ!」

 

皐月は円月輪・対を操作し、速い攻撃の一つを選びエヒトに向けて通し返す。ハジメは目の前に円月輪・対の一つを浮かべて、手榴弾を全力で投球する。通し返した攻撃はエヒトの障壁に直撃して攻撃が一旦止み、ハジメの投げた手榴弾がその攻撃の後を追って障壁に直撃して割れる。その中身は黒いタール状の液体―――フラム鉱石だ

皐月は間髪入れずにレールガンを放つ。結果、レールガンによる発火が起こり、障壁にこびり付いたタールが燃える

 

「イレギュラーが噛みつくか!」

 

エヒトは障壁で燃える事はないが、その熱量だけは別だ。肌を焦がす熱量にエヒトはすぐさま対応するが、それでも手足が直ぐに動かす事は出来ない程のダメージを与える事が出来た。それだけでも十分な時間だ

 

「これは今までの攻撃とは比較にならねぇぞ?」

 

「ある意味攻撃の概念を矛盾させるのよ」

 

宝物庫から巨大なライフルを取り出し、二人で協力する形で心臓部に向けて銃弾を放つ

 

「「照準クリア―――――ブラックバレル発射!」」

 

これがハジメ達の概念武装の名前だ。まんまパクリであり、神に使用するという点も同じだ

 

「ぐっ、ぬぅうううううううう!」

 

エヒトは力一杯障壁を張るが、障壁を削りながらも威力は衰えない黒い弾丸に冷や汗をかく。遂に障壁を破った黒い弾丸はエヒトの心臓部を貫いた。確実にエヒトを捉えて殺したと思ったが、エヒトは再生魔法で即時再生しながら危機をやり過ごした

 

「一体何時ぶりだろうか、我が焦るとはな。だが、惜しかったぞ?この身体と我の魔法の前には通用しなかったがな」

 

「けっ!ならもう一発お見舞いするだけだ」

 

「では、そろそろ終いにしよう」

 

ハジメは弾丸を装填しようとしたが、エヒトがその場から動かずハジメの義手を捥ぎ取った

 

「っが!?」

 

痛みで一瞬だけ硬直した体に、硬いハンマーで全体を連打で殴られたと錯覚する程の痛みが来た。エヒトが動いた様子もないが、恐らく気功の硬質化によって威力を底上げした攻撃であろうと理解は出来た。咄嗟に皐月がハジメの前に立とうとしたが、ハジメと皐月の間に障壁が張られていた。いや、障壁は皐月の周囲に張られているのだ

鳥籠の中に入った皐月は、パイルバンカーを取り出して障壁に攻撃するが貫く事が出来なかった。皐月は驚愕した表情でエヒトを見ると、ハジメに攻撃しながら笑みを浮かべていた。今までの障壁はあくまでもエヒトが愉しむ為の弱い代物であり、獲物を逃さない頑丈な籠を作ったのだと理解した

 

「ハジメ、私の周りには障壁が張ってるわ!」

 

「行かせるとでも思っているか?」

 

「クソッタレ!」

 

ただでさえ片手というハンデを負ってしまったハジメに余裕はない。徐々に体に打ち付けられる攻撃が威力を上げている事に気付きながら、なぶり殺しにするつもりなのだ。ハジメが予測だけで避けていると、背後からも衝撃があった。だが、背後には誰も居ないし武器も存在していない

 

「・・・どういう事だ」

 

「クハハハハ!もっと踊れイレギュラー。我はまだまだ余裕があるぞ?この空間を支配しているのは我だぞ?全方位から攻撃を与える程度造作もない」

 

ハジメは、この状況はどうしようもない程手詰まりであると理解した。そもそも、感知技能を持っているハジメでは避ける事が出来ない気力の攻撃が全方位となれば、亀の様に固まる他ない

 

「さて、終幕だ。この映像はイレギュラーの仲間や地上にも見せてやろう」

 

エヒトは手を振って、ユエ達や地上に居る者達にハジメ達の現状を見せる

 

「神たる我に歯向かう愚か者共よ。貴様達が望みを託したイレギュラーの処刑を見せてやろう。なぁに、心配する事はない。後程我手ずから貴様達も殺される栄誉を与えてやろう」

 

ハジメは逃れようとしたが、手足に光の鎖が巻き着いて身動きする事が出来なくなった。ハジメの方からもユエ達の様子を見る事が出来る様にしており、皆が絶望しようとしていた

 

「我を愉しませたイレギュラーよ、さらばだ」

 

エヒトは光の大剣を顕現させハジメの首に振り下ろし―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギュベッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメへと大剣を振り下ろそうとしたエヒトは、人身事故の様に遠くへ吹き飛んだ

 

「へっ、全く遅えよ」

 

「これでも早く来ましたよ?」

 

エヒトを殴り飛ばしたのは、ハジメ達の元へと合流した深月だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

深月はエヒトが居る場所へと侵入し気配を溶け込ませてハジメを探して発見すると、皐月が身動きを取れずハジメが一方的に攻撃されている光景だった。これを見たら、深月は突撃して強襲するだろう。だが、それをすぐにしないのは作戦の一つだからだ

 

お嬢様の傍まで近づいて色々と観察しましたが、ブラックバレルをエヒトへ撃ち込まれた様子ですね。となれば、作戦は順調、後は私がタイミング良く介入する。それはクソ神が勝ち誇った顔へと拳をねじ込むだけです

 

そして、深月は作戦通りエヒトが勝ち誇った笑みを浮かべながらハジメへと大剣を振り下ろしたと同時にピンポイントバリアパンチをねじ込んだという事だ

 

「さて、お嬢様を囲うこれも邪魔です―――ねっ!」

 

深月が掌底を叩き込むだけで、皐月の周囲を囲んでいた障壁は砕けた

 

「ハジメ!」

 

「・・・おっふ」

 

深月の予定では皐月は感謝してからハジメの所に行くと思っていたが、深月を素通りしてハジメへと一直線に行ったのだ。主として従者を信頼して無事であると確信しているからこその行動だろうが、それでも深月にとっては悲しいのだ

 

「馬鹿なっ!?何故器であるイレギュラーがここに居る!」

 

「気付かなかったという事は、地上等碌に見ていなかったという事ですね。いやはや、上で驚愕させて正面からぶち壊して進んだ意味がないではありませんか」

 

因みに、この会話も全て地上へと流れている。知らない者が見れば、同一人物が敵対している様に見えるだろう

 

「何もかも計算外となるか。だが、それでこそ面白い。我の計画を悉く邪魔するイレギュラーの貴様を躍らせ―――」

 

「隙だらけですね」

 

「ぐはっ!?」

 

喋っていても攻撃するのは当たり前だが、地上に居る兵士達は、「せめて最後まで聞いてあげなよ」と思っていたりする。エヒトは腹部を押さえながら深月を見据える

 

「貴様・・・神である我の言葉を遮るか」

 

「神だからどうしたのですか?戦いの最中無駄に喋る事は不必要、言葉遊びをするのであれば戦いながらでも十分ではないですか。それとも、その余裕もないと?」

 

「粋がるなよ?所詮は人間の枠組みに居るイレギュラー共には我に攻撃は届かぬ」

 

いや、さっきは殴られたじゃんと思いつつ敢えてそれは口にしない。口撃しても逆上させてトータスを崩壊させる可能性がある。とはいえ、それが出来るかは分からない

 

「人は醜い故に、我を愉しませる駒だ。その駒が主である我に歯向かう事自体烏滸がましい!」

 

「・・・はぁ・・・で?」

 

「貴様等イレギュラーは我の手で裁きを下す。特に貴様達は我に傷を付けたのだ。楽には殺さぬぞ」

 

「あ、ハジメさんとお嬢様は離れて下さい。あれには少々鬱憤が溜まっていますので」

 

深月はハジメと皐月の手握って離れる様に促し、二人はそれに従って離れる

 

「忘れたのかイレギュラー、この空間は我の手中にある」

 

エヒトはハジメに攻撃をするが、ハジメはそれを首を傾けるだけで回避した。まるで来ると分かっている様子での回避に、エヒトは疑問に思った。だからこそ、隙が生まれる

 

「考え事とは余裕ですね」

 

エヒトはハジメ達から視線を戻して正面を見ると、既に深月が懐に飛び込んでいたのだ。障壁を張っていたのにも拘らず潜り込まれた

 

「鉄山靠ッ!」

 

「ガッ!?」

 

鉄山靠で胸部から下に衝撃が走り神経系の反応速度を遅らせ、裏拳、肘打ち、フック、アッパーとコンパクトな連打を繋げて再び吹き飛ばす。だが、エヒトは吹き飛ばされながら深月に全包囲攻撃を行う

 

「技能頼りの攻撃を技術を使う私に通用するとでも思っているのですか?」

 

「馬鹿なっ!?」

 

エヒトは再び驚愕する。全方位からの攻撃を深月は見えているかの様に悠々と避けて接近する。エヒトは上体を起こして防御態勢に移るが、深月は改良版のハーゼン・B(ブラック)を構えて頭部目掛けて射撃。エヒトは頭をずらして回避する事が出来たが、深月は攻撃と同時に気配を溶け込ませて一瞬で背後に回り込んだ

 

「无二打!」

 

「ぐがあああああああああああああ!」

 

もろに背骨に直撃し、深月の拳には背骨を粉々に粉砕する手応えを感じた。だが、エヒトもまた再生魔法で元に戻して深月に近接戦闘に持ち込んだ。これには深月もにっこりである

 

「イレギュラー、貴様はこの神の手で直接殺してやろう」

 

深月が攻めの消力でエヒトの拳を迎撃した瞬間、拳が粉砕された。これには深月もびっくりだ。ゼロに言った知識の理解では武を発揮出来ないという根底が覆ったのだ。しかし、深月はこの根底は間違ってはいないと予想しており、エヒトの攻撃には何かしらの要因が含まれていると推測した

 

「所詮は人間、我の前に平伏せよ!」

 

深月は攻撃から防御に移り、エヒトの攻撃を敢えて受ける事にした。すると、貫通力のある拳ではあるが威力は深月が攻撃するものより少し上程度だった

 

攻撃すれば衝撃が強く、防御では衝撃が少ない―――考えられる事は二つ。万象〇杖による衝撃内包を即時放出もしくは、衝撃反転という概念か何かを作ったという事でしょう。私の身体を狙っていた事からこういう使い方を想像していたのでしょう。なるほど、引き出しはまだまだありそうですね

 

深月は防御から攻撃に切り替え、わざと真正面から拳と拳をぶつける。最初の攻めと同じ様に大きな衝撃が深月の手に直撃するが、その衝撃を取り込み無害化させる。エヒトが深月の拳が砕けていない事を疑問に思っている瞬間に、膝にローキックして衝撃をそちらに放出する。攻撃に、エヒトは膝を破壊されて足を捥がれた

 

「ぎぃいいいいい!貴様貴様貴様キサマァアアアアアアア!!」

 

「はあっ!」

 

深月の気合砲がエヒトを弾き飛ばす。大地を転がる様に回転しながら急停止して深月だけを見据える。人間に手も足も出ない現状に怒り狂っており、額に青筋を何本も浮かべていた

 

(ハジメさん、お嬢様、準備は如何程でしょうか?)

 

深月がハジメと皐月に念話を送る。恐らくユエ達や地上に居る者達は、オシオシで深月がエヒトを倒すと思っているだろう。だが、ハジメ達の目的を思い出して欲しい。これはオリジンの深月の身体からエヒトを引き剥がし、ついでにエヒトを殺す戦いなのだ

 

(ああ、深月が時間を稼いでくれたお陰で何時でも行けるぜ!)

 

(お嬢様、任せましたよ?)

 

(責任重大ね。でも、深月なら帰ってくるでしょう?)

 

(まぁ、私ですから確実でしょう)

 

エヒトは体から大量の熱気を放ち光が迸る。その光は神の気―――普通の気ではない特別なそれは深月でも確実に感じ取る事は出来ない。明らかにパワーアップしているエヒトが深月に殺意を向けながら突撃して来た。深月も迎撃しようとしたが、想定していたよりも遥かに早いスピードで近付き攻撃された

 

「っこれは!?」

 

深月は限界突破の最終派生の極限突破を使用しているにも拘らず、その衝撃全てを受け止める事も出来ず吹き飛ばされる。エヒトは猛追し、深月の頬に一撃を入れた

 

「がっ!?」

 

たった一発で頭蓋骨全体にに罅が入った。再生魔法で即時回復して次の攻撃を防ぐ事に全力を注ぐ。光の軌跡の中に存在するエヒトは見えるが、攻撃のモーションが見えにくく回避出来たり出来なかったりする。明らかに劣勢だが、深月は痛みを気にする事もなく集中力を高める

 

集中集中集中集中―――無駄な思考は取り除け。目の前の事だけを考えろ

 

マルチタスクを消していき、徹底的に目の前の事だけに対処出来る様に集中力を上げる。周りの音が聞こえにくくなるが、感知がより鋭くなり体を最短距離で動かす

 

「死ね、イレギュラー!!」

 

エヒトの回し蹴りを受け流し、掌底を叩き込み深月も反撃に移る。両社は激突し、周囲に衝撃を放ちながら攻防を続ける。聞こえだけは対等と感じるが、この攻防は深月が劣勢で防御する回数が圧倒的に多い

 

「は、ハハハハハ!やはり神である我はこうあるべきだ!人という駒は力で操るべきである!!」

 

ハジメと皐月の目でも追いきれない速度の攻防は想定よりも悪い。とはいえ、最悪の想定ではないので作戦は続行―――今は全てが深月頼りになる。この局面を乗り越えなければ攻略出来ない

 

「我が威光に平伏せ、イレギュラー。神の拳で死ねる栄誉を授けよう!」

 

「神神神とやかましいっ!」

 

エヒトの乱打が深月を襲い、完全には防ぎきれないが急所だけは防ぐ

 

「無駄な抵抗をせず頭を垂れ運命を受け入れよ!」

 

深月は弾き飛ばされ、エヒトの追撃の気弾が襲う。もし、ハジメ達が気弾を一発でも直撃すれば即死する程の威力が迫った時、深月の集中力が極限突破を超えた。その瞬間、体が全ての気弾を最小限の動きで回避した。傍から見れば、攻撃が深月を避けて通過したと思われる。それ程早い動きで、エヒトもその動きを捉える事が出来なかった

 

「・・・何をした?」

 

エヒトは何が起きたか分からず、深月に攻撃する為に構えを取る。一歩―――少しだけ足を動かして近付こうとした瞬間、胸部に衝撃が走った

 

「なにいっ!?」

 

エヒトは吹き飛ばされながら体勢を整え、再び深月へと突撃しようとした時に肌に熱を感じた。ハジメと皐月と戦っていた時のタールが燃える熱量ではなく、もっと違う熱量だ。それがどういった熱なのかは言葉に出来ないが、深月を中心に発生する熱を感じていた

 

「うぉおおおおおあああああああああああーーーーーーーーーーーー!」

 

深月の雄叫びは、男が吠える様な力強い厚みがあった。その雄叫びを上げたと同時に、深月を中心に広がる熱と白銀の宇宙が広がった。その輝きは誰もが見惚れる美しさがあり、どこか安心させる輝きだ。だが、エヒトからは理解出来ないイレギュラーな事ばかりが起こり、苛立ちが募る

深月は深呼吸をして、力を蓄えているのか落ち着きを取り戻しているのか分からない。だが、間違いなく良い事が起きているという事だけは分かる。ハジメと皐月はようやく待ち望んだ展開に、いつでも仕掛けを発動できる準備を開始した

 

「イレギュラーめ、何度我の計画を乱すつもりだ。どれ程の力を蓄えようと、人間の貴様は神たる我には一生届かぬ!」

 

エヒトは、片手を挙げて手に気力と魔力を混合させたエネルギーの玉を生成。もし、地上に落とせば塵一つ残さずに消滅するのではないかと錯覚するエネルギーだ。そんな玉をたった一人を葬る為だけに作って落とした。深月に逃げ場はなく、受け止める位しか考えつかない

深月は、足に力を入れてエネルギーの玉に突き進んだ。これを見たハジメ達以外の者達は、終わったと思った。だが、深月が突き進んだと同時に、エネルギーの玉はかき分けられたかの様に力が霧散して消えた。そして、エヒトの頭上に佇み見下ろす深月は、影の深月と戦った時と同じ様に・・・いや、あの時は銀色だったが今は深月の髪色と同じ白銀色で変化が分かりにくいが、光の粒子が炎の様に深月を包み込んで舞い上がっている。その変化がどういった物かを理解したのはエヒトだけだった

 

「ば・・・かな!?ただの人が神気を纏うだと!?」

 

「「!?」」

 

ハジメと皐月は驚愕した。深月の生まれは平凡な地球で、両親も普通の人間。いや、深月の両親は屑親である

それでも分かる事は、深月は人から神の領域へと入り込んだという事だ。人間の究極―――生まれた時代を間違えたのではないかと思う程の覚醒だ。影との戦いで身勝〇の極意を偶然にも習得したのは分かっていたが、それを意図的に引き出す事は難しい事も分かっていた。だが、それを通り越しての覚醒はいい意味での予想外だ

 

「終わりにします」

 

「イレギュラーが大言を吐くか。その自信を打ち砕いてやろう!」

 

身勝手〇極意・白銀へと覚醒した深月と、フルパワーでオーラを増したエヒトが激突した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「メイドさんのオリジナルの覚醒―――白銀という名にしたのは、メイドさんの見た目から取っています」
深月「ネーミングセンス・・・」
布団「同じ名前だと、白銀の粒子が燃え上がる様に巻き上がらないし・・・」
深月「・・・仕方がありませんね」
布団「取り敢えず、次回はメイドさんとエヒトの戦い!とはいえ、一方的になります。この覚醒メイドさんには勝てません」


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メイドの秘策と決着と勝利






深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」









~深月side~

 

拳と拳がぶつかり、ハジメ達の居る空間を震わせ、エヒトは四肢を、深月は片手と片足で攻防を繰り広げる。エヒトが放つ気弾は、弾かれ、流されて直撃を許さない。エヒトは、当たったら爆発する筈の気弾が爆発しない事に苛立つ

 

「何故だ!何故爆発しない!?」

 

エヒトは何度も驚愕する。繰り出した一撃必殺の拳は受け流され、空を切り、深月の攻撃だけが急所を鋭く抉る。深月は、即効性、遅効性の攻撃を巧みに繰り出す事でエヒトの動きを鈍重にしていく

 

「でやあっ!!」

 

空手で言う正拳突きを放つと、衝撃波がエヒトの腕を弾いて無防備な体を晒す。そこに深月が急接近して攻撃といった流れがずっと続いている。一方、深月とエヒトの攻防を見ていたハジメと皐月は、ただただ呆然となっていた。あまりにもレベルが違う戦いは、例え覇墜と身体強化を使用したとしても届く事が出来ない境地だった。あの中に混じれば、余波だけで吹き飛ばされる事は確実だ

 

「・・・とんでもねぇな」

 

「そうね・・・、あの戦いに混じるなんて出来ないわ。クソ神の動きは何とか目で追えるけど、深月の方は完全に理解出来ないわ。直撃する筈の攻撃が逸れると言ったらいいのかしら。・・・本当に今、目の前で起こっている事が分からない」

 

「理解出来ないのはいつもの事だ」

 

ハジメ達から戦いの様子を見れば、ゆっくりと動く深月に攻撃を当てる事が出来ていないエヒトという構図だ

エヒトは攻撃が当たらない事に相当苛立ったのか、一度離れて手をかざす。すると、魔力の塊が生成される。とはいえ、身勝〇の極意を発動した時と同様に散らされれば無意味だ。だが、エヒトはその魔力の塊をハジメ達の方へ投げた

エヒトは、深月がハジメ達を護る為に魔力の塊の進路上へと姿を現すであろうと想定していた。だが、その想定すら甘い。深月は、腕を一閃―――すると、魔力の塊は半分に切れてハジメ達の左右へ通り過ぎ、魔力の塊は霧散した

 

「かき消しただと!?」

 

エヒトはもう一度攻撃を放とうと腕を突き出し、深月はその腕を持って背負い投げた。縦横無尽に駆け回れるこの空間では意味のない筈の背負い投げは、エヒトにダメージを与えた。背中に走る衝撃と、腹部に浸透する衝撃―――深月は、魔力で簡易的な地面を創って叩き付けて掌底を叩き下ろしたのだ。ダメージを受け流す事が出来ない状態での掌底+身勝〇の極意による力の底上げは、エヒトの動きを更に重くさせる一撃だった

 

「馬鹿なっ!?完全な体を持つ我が手も足も出ぬだとぉおおおおおおお!?」

 

「流〇岩砕拳!」

 

深月の流れる川の如し拳がエヒトの攻撃を流し弾き返し、骨を砕く連撃を叩き込む

 

「ぐっ、ぬぉおおおおおおお!」

 

だが、エヒトもただただやられっぱなしではなく、周囲に結界を張って一時的に攻撃を防いで再生魔法で傷を治す。だが、深月は貫き手が結界を貫通してエヒトの胸部を刺し貫く一歩手前で止まった。下手に手を出せば攻撃される可能性がある為、エヒトは体に膜の障壁を張り外側から攻撃を放つ

 

「離れろっ!」

 

全方位からの攻撃は避けられるのは先刻承知―――目的は深月を結界から引き離す事だ。一度体勢を整える事が出来れば、再び万全の状態で攻撃する事が出来るのだ。深月はエヒトの予想通り、結界から離れる。だが、その結界内には置き土産に設置されたストナーサンシャインのエネルギーだった。しかも、任意起爆型の一番質の悪い代物だ。それを見たエヒトは、咄嗟に結界を張ろうとするが、自身を覆い囲む結界と膜の様に包んだ障壁という繊細な魔法を行使している為に対応が遅れて爆発に吞み込まれた

 

「ぐあああああああああああ!?」

 

「まだです―――ヘル・ア〇ド・ヘヴン!!」

 

エヒトは爆発の影響で体が傷だらけになり、爆発した魔力の煙で深月の正確な位置が把握できず、攻撃をどのようにして防ぐかだけが精一杯の抵抗になる

 

「ゲム・ギル・ガン・ゴー・グフォ―――――――ウィィィィタァァァッ!!」

 

神域に入った時の技と同じだが、専用グローブを着けていない状態でも出来たのだ。しかも、拳は光り輝き、背からは翼の様に白銀の粒子が収束と放出されていた。第三者から見れば、まるで神の一撃だ

 

「ぐぅぉおおおおおおお!?グッハァアアアアッ!?」

 

エヒトに直撃したが体は粉砕されず、深月の拳が胸部に直撃してそのまま直進した後天高く吹き飛ばされた。しかし、エヒトは吹き飛ばされた時に目に入った。ハジメと皐月の二人の距離は近く、深月が対応出来る距離から離れた事を―――

 

「油断したなイレギュラー共、これが神たる我の絶対なる導き出した解だ!」

 

エヒトは二人に襲い掛かり、深月が勢いのままエヒトに追いかけるが間に合わない。だが、エヒトはハジメ達の事をしっかりと見ていなかった。体がそこにある程度の事、絶対に追い付かれない等の要因もあったのかもしれない。だからこそ、エヒトはハジメ達が合わせるのに我慢していた罠という釣り針に引っ掛かった

 

「我の勝―――」

 

「いいや、俺達の作戦勝ちだ」

 

「深月の身体を返してもらうわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドキュッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エヒトの手がハジメに触れようとした直前、エヒトの胸部から黒い楔が出現した。それと同時に、エヒトの身体は時間が停止した様にピクリとも動かなくなった

 

「な・・・にが・・・?」

 

「いつもの俺ならご丁寧に説明してやるんだが、今回はそんな事はしねえよ。なんたって深月が目的だからな」

 

深月も追い付き、動けないエヒトを睨みつける。少しでも動けば深月が対処出来る位置に着くと、ハジメと皐月はドンナーに一発の弾丸を装填した。そして、エヒトの額と心臓に向けて発射。二つの弾丸は同時に着弾してゴム弾の様に弾け落ちる

 

「フハハハハ!お遊びか?偉くなったものだなイレギュラー!」

 

「ブラックバレル―――――限定解除、拘束術式発動!」

 

「ガハァッ!?」

 

楔の色が徐々に黒くなる以外目に見える変化がないにも拘らず、エヒトが苦痛の声を上げる

ハジメと皐月がエヒトに撃ち込んだブラックバレルの効果は、エヒトの魂を拘束する効果だけだ。しかし、単一の対象のみに限定した効果は凄まじく、一度でも魂を拘束したら外す事は叶わない

 

「対象を確認した!皐月!!」

 

「待て、何だそれは!?止めろ!止めろぉおおおおお!!」

 

皐月が義手に取り付けたグローブを見て、エヒトの勘が警邏を鳴らした。あれに当たればただでは済まない、最悪の場合は死に至ると

 

「戻って来なさい深月ぃいいいい!」

 

ガッツン!

 

グローブにありったけの魔力を注ぎ込んで全力でエヒトを殴った。その瞬間、胸部の楔が抜けて漆黒の鎖が音を鳴らしながら光る玉をエヒトの身体から引きずり出した。それと同時に漆黒の楔と鎖は砕け散り、光の玉は天高く飛んだ

 

「皐月、やったか?」

 

「手ごたえはばっちりだったけど・・・如何せん意識が戻らない限りは分からないわ」

 

皐月がエヒトを殴ったのは三点の概念魔法を同時発動するトリガーだ。額の弾丸は精神担当の深月の魂を揺さぶる為、心臓部は体にへばり憑いているエヒトの根を枯らせる為、グローブは精神担当の深月を完全覚醒させる為だ

 

「お嬢様、大丈夫です。こういう時の私は、お嬢様の愛の囁きで起きます」

 

「そ、そう?――――ねぇ、起きて深月。キスしてあげるわよ?」

 

「お・・・お嬢様の・・・・・キスですと!?」

 

「あ、マジで起きた。とんでもない愛の忠誠だな」

 

「復活しましたね。では、とっとと傷を癒して戦力になりなさい」

 

「はっ!お嬢様に触れない事を嫉妬ですか?体担当の私は欲望に忠実ですね」

 

「ヤロウブッコロシテヤアアアアアアアル!」

 

二人の深月が取っ組み合いを始めた。シリアスな展開から一転してギャグにも見えるそれは、ハジメと皐月の空気を和らげる

 

「何と言うか・・・カオスだな」

 

「学生深月と大人深月による取っ組み合い。普通なら底上げされている学生深月が勝つのだけれど・・・、身勝〇の極意を発動してないのに同レベルとは・・・流石、深月ね」

 

二人の深月がキャットファイトをしていると、空間が轟き天が光り輝いた。一体何事だろう?とハジメ達が空を見上げて様子を見る。そこには、光が人の顔を模っていた

 

『よくもやってくれたなイレギュラー共!もはや器はどうでもよい!我に歯向かう全ての駒達は殺し尽くしてくれる!!』

 

それは、魂だけのエヒトだった

深月の身体からエヒトの魂を引っこ抜いただけで、殺しきっていないので生きているのは当然だ。だが、今は魂だけだからこそ滅する事が出来る。手加減無しで全員で戦えば何も問題はない

 

『落ちろ、堕ちろ―――星よ、惑星よ―――仇成す全てを灰燼に帰せ』

 

ハジメ達の頭上から、超巨大な物体が降り注ぐ。動いて回避する事は不可能なレベルのそれは、流石に危険の一言に尽きる。ハジメと皐月が宝物庫からヒュベリオンを五十基出して一点集中で撃つ。だが、その巨大な物体はヒュベリオンのレーザーを分散させて大した傷を負わせる事も出来なかった

 

「なにぃっ!?」

 

「ヒュベリオン五十基の攻撃よ!?」

 

ヤバイ、マジでヤバイと冷や汗が流れる二人は、一番頼りになる深月の方へと視線を向ける。そこには、腰溜めに構えた両手から物凄いエネルギーの波動を感じる玉が出来ていた。そして、腰溜めのそれを突き出してエネルギーを一気に放出する

 

「「かめ〇め波ァーーーー!」」

 

二人の深月が放ったか〇はめ波は、巨大な物体に直撃。しかし、その攻撃も空しく、ヒュベリオンの時と同様に分散して傷を与えられなかった

 

「クソッタレ!」

 

「あれでも駄目なの!?」

 

ハジメと皐月は、諦めずに手持ちのアーティファクトを総動員して撃ちまくる。物凄い弾幕だが、落下の速度も、傷も何も変わらない。それどころか、落ちてくる物体が徐々に大きく見える。その違いに気付いたハジメと皐月は、ある可能性に頬を引き攣らせた

 

「あっんのクソ神!月みたいな超巨大の星を降らせたのか!」

 

「質量が違い過ぎる!こんな所じゃ終われないっての!!」

 

最後まで諦めない―――生きて仲間の元に戻り、地球へと帰る。今出来うる事を全て必死になって考えていると、体担当の深月が深呼吸をして宝物庫から最終兵器の一つを取り出す

 

「ハジメさん、お嬢様、お下がりください!」

 

精神担当の深月はハジメと皐月を抱えて後方へ退避し、体担当の深月が何をするのかを見る。そこには、開戦に使用された戦略巨大兵器だった。あれには分解魔法も付与されているので、傷を付ける事も出来るだろう。だが、問題はそこではない。いくら分解魔法が付与されているとはいえ、質量の差が大きすぎる

 

「ゴル〇ィオン、クラッシャァァァァァアアアアアアア!!」

 

本日二回目の登場の勇者王の兵器擬き。オリジナルは恒星を破壊出来る威力を有しているが、これは劣化版―――落ちてくる星を消滅させる程の威力は無い

 

「ぐっ!だっりゃああああああああああ!!」

 

圧し掛かる重量に筋繊維や骨が壊れるが、即時再生し破壊されを繰り返す。激痛を伴いながらも、攻撃をする意思は見事だ。だが、それでは星を砕くには不十分だ。いや、それどころかゴルディ〇ンクラッシャーの大本の武器そのものに皹が少しずつ入り始めた。アザンチウム鉱石をふんだんに使ったのにも拘らず、ぶつかる威力に先に悲鳴を上げた

 

「ハジメさん、今すぐアザンチウム鉱石の刀を作ってください。純度は百でお願いします!」

 

「っ!任せろ!!」

 

「ただ作るだけじゃ駄目よ。本当の一撃―――深月の想いを増幅させる!」

 

ハジメと皐月は、今出来るうる全ての力を注ぎ込む。アザンチウム鉱石は日本刀は深月の髪色と同じ白銀に染まり輝く。その光は、まるで命の鼓動の如く波がある

 

「「深月、頼んだぞ(わよ)」」

 

「はい、ありがたく頂戴致します」

 

深月が刃を手に取ると、光はより一層輝く。精神担当の深月は、身勝手〇極意を完全に自分のものにしていないので発動する事は叶わずだが、それを補うだけの身体能力は有している

 

想いに応える刃、私の想いは一つ―――障害を取り除く事だけ。なれば、何が邪魔をしている?クソ神と星だ。一切合切を切り払う。因果を断ち、宿命を断ち、概念すらも断ち切る

 

精神担当の深月は、目を瞑り想いをただ一つにして概念を付与する。無用な物は要らず、ただ必要なのは断ち切る事。断ち切った後には何も残らず、それは残る事を赦さない

 

イメージしろ、常にイメージするは最強の自分

 

『潰れて居なくなれ、イレギュラーーーーッ!』

 

「潰させてたまるかぁあああああああああ!!」

 

雑音を拾うな、神経を研ぎ澄ませ―――

 

バキッ!

 

「しまっ!?」

 

『我が計画は遂に完遂するのだ!そこにイレギュラーは必要ない!!』

 

遂にゴルディ〇ンクラッシャーは折れてしまった。もう抵抗は無意味と勝利を確信したエヒトは笑う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が()が求めるは、縁を切り、定めを切り、業を切る―――それ即ち。運命を解き放つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精神担当の深月が持つ刃がどんどん光り輝き、星の、惑星の息吹の様な力が纏う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・其処に至は数多の研鑽。千の刃、万の刃、人と物の想いはただ一つ。其処に辿るあらゆる宿命。其処に示すはあらゆる宿願。業を築きに築いた邪神を断つ刃―――縁起を以て宿業を絶つ。冥土の土産に拝め!これが、これこそが人の願いの刀なり!」

 

『何だあの光は!?何だあの力は!?』

 

深月は刀を両手で握り、上段に構える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宿業一閃!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上段に構えた刀を振り下ろした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、星を両断し、光の顔のエヒトも両断した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

『ば、馬鹿なぁあああああああ!?この我が、神である我がぁあああああああ!?』

 

切られた星はバラバラに砕け粉になり消えた。エヒトも星と同じ様に真っ二つに切れ、必死に再生しようとしているのだろう。何度もくっ付いたり離れたりを繰り返している

 

ビキッ―――バリィィィンッ!

 

精神担当の深月が持っていた刀は粉々に砕け散り粉となった。必要な一振りが終わった事で、刀の仕事が終わり星に還ったのだ

 

『ギィイイイイイイイイイ!ユルサヌ、ユルサヌゾイレギュラーーーーーーーッッ!!』

 

未だに生きている事に関しては流石の一言だ。だが、終わりは確実に近づいている。エヒトは、光から毒々しい色に変わり人型へと姿を変え、その全容は気持ち悪いの一言に尽きる。体全体が徐々に溶けて膿が噴き出しているのだ。正直言って触りたくもない

 

『ゴロズゥ、ゴロズゥーーーーーー!』

 

シュラーゲンやヒュベリオンで攻撃するが、噴き出る膿に弾丸が止まり、ヒュベリオンは表面を焼く程度だ。火力が未だに足りておらず、精神担当の深月が接近戦を試みるも膿の弾力によって打撃があまり通じていない。それならばと、気力や魔力の攻撃を行うも効果は著しくない

 

「くっ!?この手応えでは殺せない!」

 

深月が焦っている理由は、ゼロの時と似た様にエヒトの身体が膨張しながら魔力が巨大になっている。自爆まで残り数分―――

 

「ちょちょちょっと待って!あの魔力量何なの!?」

 

「・・・まさか、自爆か!?」

 

またしても道連れ自爆に嫌になる。もしも爆発すればこの空間は勿論、地上も蒸発してしまうだろう。体担当の深月も攻撃に加わるが、それでも有効打を与えるまでには至らなかった。身勝手〇極意を使用していても突破出来るだけの地力が足りない

 

「あの深月でさえ駄目なのか・・・?」

 

ハジメと皐月が打てる手は全て打った。届かないと心が折れそうに―――

 

「体担当の私、今のままでは勝てないのは明白です。なら、何をするかは理解していますね?」

 

「元は一つだったので問題はないでしょう。ちゃんと覚えていますか?」

 

ならなかった。深月は冷静にこの状況を打開しようとしているし、何やら秘策がある様子だ

 

「当然、前世で何度も極みのごっこ遊びをしていたでしょう?」

 

「気はこちらで合わせます。動作スピードはそちらに任せますよ?」

 

二人は横に並んで立ち距離を取る。ハジメ達は何が起きるのかさっぱり分からないが、取り敢えずとんでもない事が起きるのは間違いないと思った

二人の深月は両腕を同時に平衡に上げ―――動き、速度全てが左右対称に動く。物凄くダサくて、「こんな時にふざけるな!!」とハジメと皐月の突っ込みを入るが、そんな言葉に気にしない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「フューーーージョン!         ハァッ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後に人差し指の先端を寸分違わず合わせると同時に、深月を中心に膨大なエネルギーの本流が溢れ光り輝く。光が徐々に収まり、姿を現したのはメイド服から一転して特殊な胴着を身に着けていた深月だ

深月の身体からエヒトが出た時点で地上に映す魔法が切れているから結果としては良かった。何故なら、上半身は肩と胸を隠す程度の服だからだ。服を留めるボタンやチャックも無く、開いているのだ。しかし、深月の胸はスイカ並みの大きさなので、殆ど隠れていなかった

 

「ちょぉおおおっと!?合体した!?なにアレ・・・なにアレ!?」

 

「はああああああ!?なんだそりゃああああああああ!?」

 

まさか合体するとは思いもしなかった二人は、物凄く驚愕してテンパっていた

 

「「これからクソ神を殺します。――――――――――はああああああああああああ!!」」

 

驚愕している二人の反応は無視して、深月は全神経を集中して身勝〇の極意の領域へと再び踏み込んだ。どちらの深月も一回以上身勝○の極意に入り込んでいるからこそ、己の意思だけで入る事が可能となったのだ

 

「「さぁ、決着をつけます!」」

 

白銀の粒子が爆発し、深月の拳がエヒトの体に直撃。音を置き去りにする速度と、たったの一撃の衝撃が波紋の様に広がり爆音が響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

「「だらあああああ!」」

 

深月のラッシュの嵐に、エヒトの肉は削がれる。だが、削がれた肉は再生を繰り返して膨張している。それを見た深月は、削がれるよりも早く再生して膨張する肉が衝撃を吸収している事にいち早く気付く

 

「「衝撃の内包はさせません!」」

 

乱打から、浸透系と貫通系の融合打撃に切り替えて一撃を放つ。エヒトの腹部に拳が当たり、衝撃が背中から抜けて膿が飛散する

 

「うげぇ・・・」

 

「・・・気持ち悪い」

 

血に染まった膿が飛び散る光景を見て、ハジメと皐月は頬を引き攣らせる。血等が飛散するならまだ普通だが、べっとりとした膿に関しては別だ。あんなものに触れたくもないし、当たりたくもないと思い深月から離れる

 

『ギザマァ、ギザマァガアアアアアアアアアアアア!』

 

「「てりゃあああああーーーーー!」」

 

エヒトは、肥大化した腕で深月に殴り掛かるも腕に手が添えられて軌道をずらされてカウンターで膝蹴りが顎に直撃する。深月は、膝蹴りをもう一撃、もう一撃と計三回を打ち込みサマーソルトキックでエヒトを吹き飛ばした

深月が体勢を整えて片手を掲げると、掌に白銀の粒子が集まり虹の輝きを放つ玉となった。誰もが見惚れる玉のそれは、対エヒト用の攻撃だと分かる。エヒトの体勢は整っておらず、深月はその無防備な体に向けて放った。玉はエヒトの胸部に吸い込まれて動きが止まった

 

『ギァアアアアアアアアアーーーーーー!?』

 

エヒトの身体はグズグズに崩壊し始めた。確実にエヒトの死を与える攻撃を放った深月は、両手を突き出していた。両手の間には巨大な熱を持ったエネルギーが鎮座しており、いつでも攻撃出来る状態に移っていた

 

「「ビックバンか〇はめ波ァーーーーーーーーー!!」」

 

先程の玉よりも強大なエネルギーの本流は、エヒトが悲鳴を上げるよりも早くその全てを吞み込み細胞一つ残さず消し去った。それと同時に、合体していた深月が二人に戻った

 

「は?」

 

「え?」

 

二人の深月は手を握ったり開いたりして調子を確かめているが、これといった違和感や不調は感じられなかった。深月は、何故フュージョンが解けたのかが分からなかった。だが、よくよく考えればそれは仕方のない事だ。身勝〇の極意の領域入り、普段では絶対に出来ない攻撃をポンポンと放っていたから仕方がない

 

「「深月が勝った!」」

 

ハジメと皐月は、ハイタッチをしてこの勝利に喜んでいる。すると、この空間が鈍い音を鳴らしながら至る所に亀裂が入った。この空間―――いや、神域を作ったのはエヒトであり、その場所を維持する者が居なくなれば崩壊するのは当然の結末だ

 

「さっさと帰るぞ!」

 

「出口は―――っ!?」

 

皐月が出入り口の方を見ると、光が砕け散っていた。その場所に行っても何も変わらず、出入り口が完全に潰されてしまっていた

 

「ハジメ、深月!ゲートキーは!?」

 

「・・・すまん。クソ神に宝物庫諸共粉々にされた」

 

「こちらはユエさん達の脱出用に渡してしまいました。申し訳ございません。合体していたら出口を作れると思っていたのですが・・・」

 

「そう・・・想定以上の早さで戻ったという事ね。なら、概念魔法でゲートキーを―――」

 

「・・・魔力が足りません」

 

皐月が深月に概念魔法でゲートキーを作成を頼もうとするが、深月の方も概念魔法でゲートキーを作成する程の魔力が残されていなかった。この空間から脱出する術が無く、ひび割れた空間の隙間から時折地上の様子が見えているので一か八かで飛び込む事も一考しなければならない

 

「・・・八方塞がり、だ。後は、賭けるしか・・・ない」

 

「不確定要素満載な賭けに命を預ける・・・でも、これしか方法がないわ」

 

ハジメは皐月を抱きしめ、覚悟を決めた表情をして飛び降りる事を選択した

 

「「・・・行くぞ(わよ)」」

 

ハジメと皐月は抱きしめ合い、深月は二人を挟んで護る様にして飛び込もうとした瞬間―――

 

『ちょあーーー!絶妙なタイミングで現れるぅ、美少女戦士、ミレディ・ライセンたん☆ここに参上!私を呼んだのは君達かなっ?かなっ?』

 

「「「「・・・・・」」」」

 

何かが現れた。・・・いや、野生のミレディが現れた!

流石に予想していない登場に、四人の目が点になる。しかし、ミレディはいつも通りのウザったい言葉でハジメ達に突っ込みを入れる

 

『なんだよぉ~、せっかくピンチっぽいから助けに来てあげたのにぃ~、ノーリアクションかよぉ~。ミレディちゃん泣いちゃうぞ!シクシク、チラチラッてしちゃうぞぉ?』

 

「・・・うぜぇ」

 

「・・・潰されたいのかしら?」

 

二人は、思わずついつい本音を漏らす。しかし、それと同時に周囲に違和感を感じた。それは、先程まで空間にひびが入ったり、変わる景色等の全てが停止しているのだ

 

「これ・・・お前、か?」

 

『ふふん、まぁね。このくらい解放者たるミレディちゃんには容易いことさぁ~。といっても、あと数分も保たないけどね☆』

 

「もしかして・・・脱出出来るの?」

 

『もっちろんだよぉ!既にお仲間ちゃん達も地上に投げ捨てて来たからね☆後は四人だけだよん!流石、私!出来る女だっ!はい、拍手ぅ拍手ぅ!・・・あれ?メイドって二人居たっけ?』

 

「あぁ、クソ神は引っぺがしてぶっ殺した。まぁ、トドメは深月が殆どだったがな」

 

『そっかそっか~、ウサちゃんの言っていた依り代にされたメイドは解放出来たんだね!それに二重人格?いや、魂の分裂?・・・まぁ、その辺は気にしないでおくよ♪』

 

出会った当初のミレディとはかけ離れた気遣いと処置に感謝しかない。とはいえ、自分達に出来ない事をやってのけるその技術には悔しい思いが一杯だ

 

『ほい、これ【劣化版界越の矢】、最後の一本ね。こんな不安定な空間でないと碌に使えない不良品だけど脱出には十分なはずだから。後、サービスで回復薬だ!矢の能力を発動させるくらいには回復するはずだよん!それ飲んだら四人共さっさとゴー!ゴー!あとはお姉さんにまっかせなさ~い☆』

 

「・・・お前は?一緒に、出るんじゃないのか」

 

「ハジメさん、ミレディさんは自己犠牲・・・いえ、本当の意味での後片づけをするだけです」

 

ハジメと皐月は、深月が言う自己犠牲という言葉を聞いてミレディが何をするか理解した。この崩壊する世界を一時的にとはいえ維持出来るのであれば、いずれ来る崩壊に関してもどうにかする術を持っている。だが、それにはミレディがこの空間に居なければならない

 

『私は、残るよぉ~。こんなデタラメな空間を放置したら地上も巻き込んで連鎖崩壊しちゃいそうだからね』

 

「・・・そう」

 

ミレディが言うには、自身のゴーレム本体と魂を魔力に変換して崩壊する空間を圧縮してゴミ箱へとシュート!する予定との事だ

 

『これは私の自己満足さぁ。仲間との、私の大切な人達との約束―――"悪い神を倒して世界を救おう!"な~んて御伽噺みたいな、馬鹿げてるけど本気で交わし合った約束を果たしたいだけだよん。あのとき、なにも出来ずに負けて、みんなバラバラになって、それでもって大迷宮なんて作って・・・ずっと、この時を待ってた。今、この時、この場所で、人々の為に全力を振るうことが、ここまで私が生き長らえた理由なんだもん』

 

長い時を経て、ミレディ―――いや、解放者達の願いが達成されたのだ。そして、エヒトの居ない世界を望む為に、崩壊の衝撃で世界諸共破壊されるのは絶対に避けたい。その為ならば、魂を燃やしてでも守り世界を託す事を望む

 

『ありがとうね、南雲ハジメくん、高坂皐月ちゃん、神楽深月ちゃん。私達の悲願を叶えてくれて。私達の魔法を正しく使ってくれて』

 

「私は自分の為だけに使いました。しかし、ミレディさんの重力魔法は一番お世話になりました。この魔法がなければ、クソ神を殺す事すら叶わなかったでしょう」

 

『いや~、ホント私の重力魔法が最強だね!なにせ私だからね!前に言ったこともその通りだったでしょ?"君が君である限り、必ず神殺しを為す"って』

 

「・・・"思う通りに生きればいい。君達の選択が、きっとこの世界にとっての最良だから"とも言っていたな。俺達の選択は最良だったか?」

 

『もっちろん! 現に、あのクソ野郎はあの世の彼方までぶっ飛んで、私はここにいるからね!この残りカスみたいな命を誓い通りに人々の為に使える。・・・やっと、安心して皆のところに逝ける』

 

ミレディの表情はゴーレムなので分かり難いが、涙を流しているかもしれないと想像出来る程感慨深い言葉だった

 

『さぁ、四人とも。そろそろ崩壊を抑えるのも限界だよん。君達は待ってくれている人達の所へ戻らなきゃね。私も、待ってくれている人達の所へ行くから』

 

回復薬を飲み、魔力を回復したハジメ達は精神担当の深月の手に握られた劣化版界越の矢を発動させながら真っ直ぐにミレディを見つめ返した

 

「・・・ミレディ・ライセン。あなたに敬意を。幾星霜の時を経て、尚、傷一つないその意志の強さ、紛れもなく天下一品だ。オスカー・オルクス。ナイズ・グリューエン。メイル・メルジーネ。ラウス・バーン。リューティリス・ハルツィナ。ヴァンドゥル・シュネー。あなたの大切な人達共々、俺達は決して忘れない」

 

「解放者達の行動は無駄じゃなかった。必ず、後世に伝えていくわ」

 

『二人共・・・な、なんだよぉ~。なんか、もうっ、なにも言えないでしょ!そんなこと言われたら!ほら、本当に限界だから!さっさと帰れ、帰れ!』

 

ミレディは照れた様な表情をしているのか、そっぽを向いてシッシッとハジメ達を追い払う

 

「ミレディさんが仲間達の元へと送られますように」

 

体担当の深月が小さな気と魔力の混合弾をミレディの頭上に放ち弾ける。それは虹色の粒子となり、ミレディを祝福する様な演出をした

 

「じゃあな、世界の守護者」

 

「仲間達と平和な世界を見守ってね」

 

ハジメと皐月もミレディとの別れの挨拶を言い、精神担当の深月は劣化版界越の矢を起動させて、四人は深淵の様な崩壊した空間へと飛び降りて行った

 

『世界の守護者、ね。むず痒いなぁ。最後の最後にあの演出と言葉、あれは反則。・・・報われた、なんて思っちゃったじゃんか』

 

ミレディは独り言を漏らしながら、その身を中心に黒く渦巻く球体を作り出した。黒い球体はスパークを発しながら徐々に膨らんでいく。ミレディが上へと見上げると、走馬灯の様に解放者達の姿が見えた

 

『みんな・・・。なんだ、迎えに来てくれたんだ。えへへ、じゃあ、言っちゃおうかな。遂に、言っちゃおうかな!』

 

周囲を呑み込み己の身体も塵の様に粉々になる中、ミレディは天真爛漫を絵に描いたような表情で叫んだ

 

『みんなぁ、たっだいまぁーー!!』

 

黒は白を呑み込み、爆発―――。神域全てを呑み込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ達とエヒトの戦いを映していた物は消え、赤黒い空が未だに地上を覆っている。先兵を倒し終えたとはいえ、地上の者達は空から鳴り響く轟音や突風にまともに立っていられない。遠く離れた場所でも戦いの余波が及ぶこの状況は、戦場に居る者だけでなく避難している一般人の耳にも音だけが聞こえていた。いつ終わるか分からない生存か絶滅の二つに一つ―――誰もが精神をゴリゴリと削られていた

 

『皆さん、絶望する必要などありません!あそこには、あの人達がいるのです!今、この瞬間も、あそこで悪しき神と戦っているはずです!先兵が堕ちたのも、空の世界が壊れていくのも、悪しき神が苦しんでいる証拠です!だからっ、祈りましょう!あの人達の勝利を!人の勝利をっ!さぁ、声を揃えて!私達の意志を示しましょう!』

 

畑山が皆の精神が壊れない様に奮い立たせる。それに応える様に、リリアーナが、メルドが、ガハルドが、カムが、ヘリーナが声を上げる

 

『勝利をっ!!』

 

それぞれ先陣切って戦っていた者達が叫ぶ事で、周囲の兵士達もそれに呼応する

 

―――勝利をっ! 勝利をっ! 勝利をっ! 勝利をっ! 勝利をっ! 勝利をっ! 勝利をっ! 勝利をっ! 勝利をっ! 勝利をっ! 勝利をっ! 勝利をっ!

 

戦場に大合唱が響く。人族、亜人族、魔人族全ての者達が勝利を信じて雄叫びを上げる。そんな中、ただ静かに空を見上げる二人―――香織と雫だ。崩れ行く神域を見つめながら皆の帰還を信じていると、神域の入り口付近くに空間の歪みが現れた

 

「んーーー、出たーーー!」

 

「ちょっユエさん!?ここ空ですよ!」

 

「流石に妾とてこの高さからの墜落は死ぬのじゃ!」

 

「・・・失敗した」

 

「ひぇええええええ!?誰か助けて下さいですぅううううううううう!」

 

ユエとシアとティオが現れた。しかし、色々と怪我をしているのかそのまま墜落する様に降って来た光景を見て、香織と雫が駆け出して三人をキャッチしてゆっくりと地上へと下ろす

 

「ユエ、シア、ティオ!お帰りなさい!!」

 

「三人共物凄くボロボロね。香織、早く治療しなさい」

 

「あっ、そうだよね。ちょっと待っててね」

 

ゼロの攻撃は三人に途方もないダメージを与えていた。体の芯までボロボロにされて、魔法のエキスパートなユエですら正確な魔力コントロールすら覚束なかった。それにより、地上の地面の傍に繋いだ筈なのにスカイダイビングする羽目となった

 

「ねぇ、ハジメくんと皐月と深月さんは?」

 

香織は、この場に現れていない三人がこの場に居ない事を心配する

 

「香織さん、ハジメさん達は私達とは違う所で戦ったんです」

 

「・・・先兵のオリジン強すぎ」

 

「そうじゃのう・・・妾は傷が癒えても当分動けぬぞ」

 

「ティオさんが一番執拗に攻撃されていましたからね」

 

ユエ達から色々聞くと、深月がユエに渡したゲートキーは使えても神域を出るには出力不足との事だった。出口も分からなくなったユエ達は、どうしようかと考えている所にミレディが現れて劣化版界越の矢を使って地上へ飛び出たとの事だ

ミレディがハジメ達の元へ向かう事を聞いたユエ達は、「自分達も連れて行け」と言ったが、その全てを却下された。もし、向こうで戦闘が続いていたら足手纏いになるし、そうでなくても劣化版界越の矢で全員外に出る事が出来なくなる可能性があると言われた。梃子でも動きそうになかった三人は、ミレディの、「絶対に彼等を地上へ戻す」の言葉を信じて託す事にした

 

「・・・あの時のミレディは、ふざけた事をしている時の目とは違っていた」

 

「何処か覚悟がある人の雰囲気をしていたので託す事にしました」

 

一通りの説明も終わったが、戦場の方では未だに雄叫びは続いている。ユエ達が地上に帰ってきてから数十分後、ユエ達が出た場所に同じ様な空間が割れて白銀の光の柱が降り注ぐ。その柱は、赤黒く染まった空を浄化するかの様にかき消して元の青空へと戻した。そして、その柱の上から降りてくる四つの人影―――それを確認したユエ達は、支えられながらも降りてくるであろう場所へと歩いて行った

ハジメは大人深月に俵抱えされ、皐月は学生深月にお姫様抱っこされて危なげなく降り立ち帰還した

 

『わ、私達の、勝利ですっ!』

 

畑山の感極まった勝利の声から一拍―――

 

――ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

こうして決戦は終了、人類が勝利を勝ち取った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「決戦終了~。人類の勝利である!!」
深月「フュージョン出来て何よりです」
布団「普通は出来ないからね?」
深月「身勝〇の極意に覚醒してから・・・何となく出来ると感じましたから」
布団「・・・さて、次回はエピローグだよ。と言っても、大雑把な流れと地球に帰還という流れになります。長さは・・・微妙かな?」


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メイド達の帰還とエピローグ

布団「書いてたら普通に長かった。文字数一万超えっちゃってた(^_-)-☆」
深月「まぁまぁいいではありませんか。読者の皆様もほんの少しだけ期待している筈です」
布団「おっしゃーいっくぞー!!」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」







~皐月side~

 

「ハジメ、遂にこの時が来たわね」

 

「あぁ。俺達の本当の願いが遂に叶う」

 

エヒトとの戦いを終えたハジメ達は、勝利の宴を開いた。そこに種族のわだかまりは無く、皆が宴を楽しんだ。これが・・・この光景こそ、解放者達が目指した光景なのだろう。ハジメ達は、改めて解放者達の目的を話し、ゴーレムとなってまで生き続けたミレディが神域の崩壊に地上を巻き込まない様にその全てを使って守った事を伝えた。これにより、トータスに住まう全ての人達は、解放者達の迷宮がある地域に立派な墓を作った。そして、文献にはこれまでの誤った情報を訂正する様に解放者達の真の目的等を記す事にした

話は戻り、ハジメと皐月は手に持ったクリスタルキーを見つめていた。このクリスタルキーは、精神担当の深月の宝物庫に入っていた空っぽの神結晶だ。ハジメと皐月の持っていた神結晶は、ブラックバレルや弾丸で全てを使い切っていた。だからこそ、深月の宝物庫が無事だった事を喜んだ

 

「しっかし、深月が身に着けていた宝物庫が無事でよかったぜ。もし駄目だったら、どうにかして神結晶を生成しなきゃいけなかったからな」

 

「長年の魔力溜まりに出来るのは分かっていたけど、それを実現する為のアーティファクトは作れても時間が分からなかったわ。本当にホッとしたわね」

 

「だな。だが、念の為に人工で作れる事も確認出来たからな。深月並みの魔力量が無けりゃ一ヵ月か二ヵ月程は待たなきゃ出来ないな」

 

「深月の全魔力を注いでも三日かかるのは予想外だったわ」

 

ハジメ達が作らなければいけなかった導越の羅針盤とクリスタルキーに必要な神結晶の量は足りていたのだが、不測の事態に遭った時に壊れてしまえば取り返しのつかない事になりかねなかったので人工でも作れるかと試したのだ。その結果―――成功。ぶっ壊れステータスの深月頼りとなったが、時間をかけて魔力を圧縮して貯蓄すればハジメ達でも作れる事が分かっただけでも十分な収穫だった

予備の導越の羅針盤とクリスタルキーも作り、天然の神結晶と遜色ない出来だ。なので、天然神結晶で作った方を予備にして、人工神結晶で作った方で起動する予定だ

 

「それじゃあ、いくぞ」

 

ハジメは手に持った導越の羅針盤とクリスタルキーを起動させて、地球へと繋がる道を念じる。羅針盤に導かれ、鍵が扉を開き、脳内でカチリと何かが嵌った。それは地球への座標であり、転移出来る事を理解出来た

クラスメイト達がハラハラと見守る中、ハジメは彼等に視線を向けて無言のサムズアップをした。それを見て、皆は歓喜に沸いた

 

「よっしゃーーー!!」

 

「やったぁ!!」

 

「うぉおおおおっ、帰れる!マジで帰れるぅ!!」

 

「南雲ぉ、いや、もう南雲様!ほんとありがとう!」

 

「ふぇええええん、良かったよぉ~。南雲くぅん、皐月さぁん、ありがとう!」

 

「ハジメ様ぁ、奴隷にして下さいぃいいい~!」

 

「皐月さん、俺(私)を下僕にして!!」

 

感謝の言葉が尽きず、時には危ない言葉が出てくる者もいるがその者は後にハジメから拳骨が振り下ろされる事は言うまでもない。取り敢えず、地球に還れる事を確信したハジメは今までの苦労がようやく実を結んだ事による疲れがどっと溢れて地面に座る

 

「長かったようで短かったな」

 

「激動の体験だったわね」

 

「お嬢様、紅茶のご用意が出来ました」

 

「クッキーもいかかですか?」

 

しかし、クラスメイト達は慣れない事が一つだけある。それは、深月が二人居る事だ。大人Ver,と学生Ver,の二人は、顔の輪郭等は変わらないものの身体つきが違う。スラっとしたモデル体型と、大人特有の母性を感じさせる体型の二パターンだ

 

「少しだけ落ち着いたら地球に帰ってみて、トータスに繋げる事が出来るかを確認しないといけないわね」

 

「だな、シアとティオとレミアも実家に帰省する事も考えないといけないしな」

 

皐月がハジメの隣に座って紅茶を飲んでいると、遠くからパタパタとミュウが走ってきた

 

「パパぁー!ママぁー!」

 

皐月は、紅茶を深月に預けてミュウをキャッチする。ごく自然にミュウの頭を撫でていると、ふと疑問に思った

 

「あれ?皐月ママじゃ・・・」

 

「ママ!」

 

「えっと・・・」

 

「ママがママで良いって言ってたもん!」

 

流石に差別化をするべきだと思っていた皐月だが、レミアによる先手が打たれておりどうする事も出来ずただただミュウのお願いを受け入れる事となった

 

レミア・・・本当に大丈夫なの?ミュウが私とレミアをママ呼びとなるとかなり厳しいけど・・・いや、もう何も言うまい。ま、幸せだからこれもこれでありかな?

 

ミュウは皐月に抱き着き、ユエ達も便乗する様にハジメと皐月の周りに擦り寄る

 

「・・・ハジメ達の言う地球、楽しみ」

 

「ほんっと~に楽しみですね!」

 

「こことは文化が違うとも言っていた事から、生活の水準が高い筈じゃな」

 

「地球からトータスを見ればファンタジー、トータスから地球を見ればSFって感じがするわね」

 

「この世界には科学技術が発展していないからな」

 

ハジメと皐月は、トータス組にトータスと地球ではどのような違いがあるのか、どういった発展を遂げているかを少しずつ説明していく。全て理解していなくても、ある程度こうなんだろうな~程度でも知っていた方が色々と都合がいい

 

「な、なぁ南雲。地球に帰らないのか?」

 

クラスメイトの一人が地球に帰ろうと声を上げ、周りもそれに釣られる様に帰ろうと言う

 

「お前等なぁ・・・、今すぐ帰りたい気持ちは分かる。俺だってそうだ。だがな、俺が先程確認した時間帯は昼だった」

 

「昼は人が多く、帰ってきた瞬間質問攻めという身の拘束が必然よ。先に家に帰りたいのなら深夜になって静かにしつつ急いで帰る―――これだけよ」

 

ここでハジメと皐月の冷静な予想を聞いたクラスメイト達は、ようやく事の大きさを理解した様子だ

 

「考えが甘すぎますね。地球に帰ってからは色々と質問攻めされる事は覚悟してください。ただし、安易に情報をぺらぺらと喋るなら―――分かっていますね?」

 

深月の鋭い視線がクラスメイト達を射抜く。彼等は思わずたじろぎ、どうすればいいのかが分からず頭を抱える。だが、情報の開示は絶対に必要となってくる

 

「そこら辺は安心しなさい。私とハジメが異世界に行き来する道具を作って、それに便乗する形で帰れたと言ったらいいだけよ。そして、先程深月が言った通りむやみやたらに話さない事と、身体能力を常人程度まで抑える事をしなければいけないわ」

 

『身体能力?抑える?』

 

「お前等馬鹿か?前線組じゃないやつでもアスリート並みの身体能力になってんだぞ。もし、これでスポーツ競技に出ようもんなら却下だ。絶対にトータスに連れて行けやらなんやらの不平不満が出る。ただでさえ帰ってから最初に要求される事が異世界の行き来についてだ。それは対処出来るが、もう一度対処するなんてのは面倒だ」

 

ハジメ達が懸念している事は、地球の国々がトータスの資源を貪り食うという可能性もあったので却下。そもそも、行き来させるつもりもないし、アーティファクトを奪ったり家族に手を出そうものなら一切容赦しない。いや、少しばかりの温情は残すつもりだ

 

「命があり、地球に帰れるだけでも十分でしょう。運動選手にならずとも、地球では生活出来るだけの幅があります。職は多様―――一時の栄光を求めるよりも長く安定して稼げる方が有意義の筈です」

 

「そもそも、このアーティファクトを作ったのはお嬢様達であって、貴方達が地球に帰れるのは慈悲があっての事です。多少の諦めは許容しなさい」

 

深月の言った事は正論である。何も難しい事を言っているわけじゃない。身体能力を活かして大目立ちする事を避けろと言うだけであって、重い物を運送する様な仕事をするなとは言っていない

皐月と畑山が主軸となってこれからの事について沢山説明し、深月がこれから起こりうる可能性を全て算出してどう対処するべきなのかを話し合った。かなり精神が削れる話し合いだったが、これは絶対にしておかなければならない。地球に戻ったりトータスに留まったりする事で、身の振り方を考えなければいけないのだ

 

「さて、私からの注意点はこの程度ですね」

 

『お、多すぎぃ・・・』

 

時間も経ち、ハジメが地球の時間帯を再確認すると深夜となっていた。これならば目立つ可能性は少なくなる

ハジメははやる気持ちを落ち着かせ、クリスタルキーを使い地球への扉を開いた。場所は学校の屋上―――ちゃんと繋がった事を確信したハジメは、皐月とアイコンタクトをして深月を先行させる。もし、これで間違った場所に出たとしても、膨大な魔力とクリスタルキーと羅針盤の予備を持っているので危なげなく帰還出来るという寸法だ

 

「おめでとうございます。間違いなく地球の私達の学校の屋上です」

 

「よし、ずっと開きっぱなしも良くないからとっとと帰るぞ!」

 

ハジメの号令と共に、皆が意気揚々とゲートを潜って学校の屋上へと出た。慣れ親しんだ空に見える月と夜中でも都市部が輝いている光景を見て、クラスメイト達は涙を流していた

 

「それじゃあ、今日の所は解散よ。一日は休んで再び学校に集合という事にしましょう」

 

「私は教師なので色々と追及をされそうですね・・・・・。今でも気が滅入りそうです」

 

「畑山さんは大人ですから仕方がありませんね」

 

この中で唯一大人である畑山には同情しなければならないだろうが、それは仕方がない事だろう。何事も諦めと覚悟が必要である。クラスメイト達は、早く家に帰りたいが故に家の屋根伝いに移動しようとするが、全員深月に捕縛されて地上からちゃんと帰るように説教をされた

ハジメと皐月も家に帰って生存の報告や結婚前提でお付き合いしているという事を伝える為、後日顔見せする予定だ。ユエ達はかなり目立つので、互いの両親に報告後にハジメの家に宿泊する段取りとなっている。皐月は深月に抱えてもらい空を跳んで家へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山の上に建つ大きな屋敷―――その一室にて、主である男女と使用人達が集まっていた。しかし、皆の表情は暗く、精神的に疲れている様子だった。

 

「・・・あなた、皐月と深月ちゃんの捜索に進捗はあった?」

 

「・・・すまない」

 

「奥様、テロリストに誘拐された可能性も考慮して捜索も行いましたが・・・全く情報が集まっていません」

 

「皐月・・・深月ちゃん・・・」

 

転移当時、謎の光と共に一クラスの生徒達が消えるというメアリー・セレスト号事件みたいなミステリーに記者達がこぞってある事ない事を予想して報道したりと世間を大騒がせした。しかし、それも一時であり、情報や証拠が全くないという事で警察の捜索は終了し、報道の熱もなくなった。しかし、転移した者達の保護者は薫と癒理が立ち上げた捜索会に集まり、各々が集めた情報を頼りに話し合ったりしていた

だが、どれも嘘の情報だったりと伸ばした手が空を切るばかりだった。そして、薫の知人であるアメリカに居る元帥さんにも協力を仰ぎ、情報を回してもらっていたが皐月達に繋がる情報が入って来なかった

 

「旦那様、奥様・・・これ以上は今以上に体調を崩されます。・・・どうか、お体を大事になさって下さい」

 

「・・・分かっている。だが、眠れないんだ」

 

「夢で見るの・・・皐月と深月ちゃんが血濡れで助けてって叫んでるのよ」

 

薫は癒理を抱いて落ち着かせようとするが、癒理は涙を流しながら震えている。特に癒理は、薫との間に子供が中々出来なかった末に生まれた皐月を溺愛しているのだ。怒る時は怒るが、皐月が可愛くてどうしても甘くなる事が多い。そんな大切な我が子が行方不明になり、心身共に疲弊して高頻度で体調を崩すようになったのだ

癒理の体調が崩れる事で使用人達も慌ただしくなり、何時もいる筈の子達が居ない事がどうしても頭から離れず皆が精神を擦り減らしている

 

「癒理、大丈夫とは言えないけど例え時間が掛かろうとも絶対に二人は見つけ出す」

 

「でも・・・でもっ!」

 

分かっている。誘拐する際に証拠も痕跡も無いという事は不可能に近い―――。例え新兵器を用いようとも周囲に被害が出ていない事がおかしいし、姿が消える前に教室が光り輝いていたという点も不可思議だった。何かしらの科学とは違う何かが動いていてもおかしくないし、最近見つけた西洋のオカルト染みたテロリストが居るとの報告もあった。だからこそ、薫はそのテロリストの殲滅で証拠も何も出てこなかったと思うと本当にどん詰まりになる事が心労を更に加速させている

皆の空気が重く暗くなっていると、インターホンの音が響いた。こんな夜遅くにインターホンを鳴らす事は普通ではありえないが、時折ここまで来て顔を合わせる南雲夫妻の姿が思い浮かぶ。今日も進捗がなかったとしか言えず、互いに暗くなる話をしなければならないという事を思うが癒理と南雲母の菫の話し合いで少しばかり精神的に楽になる様になって欲しいと思っていると、メイドの一人がインターホンの受話器を取り落とした

 

「だっ、旦那様っ!奥様っ!お、お、お嬢様がっ!お嬢様が!!」

 

その声を聞いた薫と癒理は、バッと顔を上げて走って外に出た。入り口の柵越しに見える姿はかなり変わっているが、長年過ごした家族の絆は間違える事はない。大切で愛してやまない愛娘だと

 

「ただいま。お父さん、お母さん」

 

「「皐月っ!!」」

 

薫と癒理は皐月をもう二度と離さないと言わんばかりに強く抱きしめている。皐月は、若干息苦しいと感じるがこれは今まで心配をかけてきたから仕方がないとして受け入れる。使用人達も合流して数十分の間ずっと抱きしめられた後、薫と癒理は当時何があったかを尋ねる

 

「皐月、あの時一体何があったんだい?」

 

「正直に答えて、皐月にとって辛いかもしれないけど必要な事なの」

 

「えっと・・・信じてくれるかは分からないけど・・・異世界に召喚されたの」

 

『・・・異世界に召喚?』

 

あまりにも突拍子もない話に疑うが、それが本当なら証拠や違和感等にも辻褄が合う

 

「異世界の話については取り敢えず置いておいて、最重要なのは深月の事なの」

 

「はっ!深月ちゃんは何処にいるの!?」

 

「ちょっと待ってて。深月、来て」

 

皐月が手招きして深月を呼ぶと、一人は少しだけ背丈が伸びて女の魅力がアップした深月。これに関しては、行方不明の間で成長したと理解出来た。だが、後に続く様に現れた母性溢れる女性―――いや、深月が更に大人へと成長した姿を現した事で一同はもの凄く動揺してプチパニック状態に陥った

 

「ど!?どどどどいう事!?み、深月ちゃんが二人居る!?え?どうして!?」

 

特に癒理がもの凄くアワアワしており、薫と皐月が落ち着かせようとするが中々冷静な状態に戻らなかった

 

「山の上で人の目が殆どないとはいえ、外で話すよりも屋敷の中で事の説明をした方が良いかと思います。幸いにも、証拠となる映像諸々が手元にありますので」

 

「そ、そうだな。うん、深月ちゃんの言う通りだ。先ずは椅子に座って落ち着いてから話そう」

 

薫が未だにアワアワしている癒理を支え引きながら屋敷の中へ入り、いつも皆が集まってゆっくり出来るリビングへと移動した。大きなソファーに薫と癒理が座り、対面のソファーに皐月が座り深月は立っている

 

「・・・深月ちゃんがメイドという事は分かっているが、今は座りなさい。立って報告よりも座って色々と説明をして欲しい」

 

「「かしこまりました」」

 

深月は皐月を挟む様にして座り、どんな事があっても護れる状態にする。ここはトータスではないので危険は少ない―――と言いたいが、あの日以降の高坂家の状況がどうなっているか分からないので警戒は怠らない

 

「それじゃあ、あの日・・・何があったのかを説明するわ」

 

皐月から語られた失踪後の出来事―――

トータスに転移し、魔人族を殺す為に戦え。そして、戦いが終わればエヒトに願えば帰してもらえるかもしれない。現実逃避ともいえる流されるがままに戦争の参加表明、ステータス、転職、訓練・・・そして、迷宮。一通り話し終えた所で休憩を挟むが、薫と癒理は集団催眠を掛けられているのではないかと疑い始める

 

「ここ最近分かった事だが、おかしなカルト集団が催眠紛いな事で信者を増やすと言った報告を受けていてね。・・・正直、そっちではないかと疑いを持っているんだ」

 

「皐月が嘘を言っている何て事はないと分かっているの。でも、突拍子もなさ過ぎて色々と追い付いていないの」

 

皐月は、「これは困った」と呟く。これで再生魔法の映像を見せたとしても本当かどうかが疑われるし、むしろ創り物じゃないか?と言われるかもしれない。うんうんと頭を捻っていると、ふとした打開方法を思い付いた。証人を増やせばいいと

皐月は、心苦しいが念話でハジメと話す事にした。誰も質問もしていないのにあらぬ事を話し出す皐月を見た薫と癒理は、「やはりカルト集団が原因だ」やら「洗脳されている」やらと慌てるが無視する。そして、ハジメから帰ってきた返答は、「両親も連れてそちらに行く」と伝えられた

 

「ハジメ、深月が迎えに行くからゲートの位置情報はどの辺りが都合がいいか教えて」

 

(そうだな・・・俺の右隣二メートル範囲なら大丈夫だ。こっちも未だユエ達を呼んでいないから早めに頼む)

 

「深月、ハジメの右隣二メートルなら大丈夫らしいわ。ゲートで繋いで」

 

「げ、ゲート?右隣二メートル?」

 

「・・・ハジメ君か。皐月に相応しいかこの目で確かm「あ・な・た・?」・・・すみません」

 

癒理の威圧に薫がタジタジになっている姿は無視して、大人深月がハジメ宅へとゲートを繋ぐ。ゲートキーを差し込まれた空間はぐにゃりと歪み、摩訶不思議なそれを見た皆が騒めく。そして、数十秒経った所でハジメとハジメの両親の南雲愁と南雲菫の二人が現れた。ハジメはゲートの移動に慣れているが、南雲夫妻に至ってはファンタジー体験に大興奮していた

 

「おい、息子よ、これは凄いな!どこ〇もドアじゃないか!!」

 

「ちょっと愁、先ずはご挨拶よ!ハジメ、後で私の分のどこで〇ドアを作って!」

 

「ずるいぞぅ!俺も欲しい!!」

 

「・・・お騒がせして申し訳ございません」

 

テンションMAXな南雲夫妻に、ハジメが薫と癒理に謝罪する。夜中なのにうるさくし過ぎるなと言いたいが、オタクなので仕方がなしと諦めた。そして、南雲宅から高坂宅までの距離を考えた上で一瞬で来た事と、執事長が歪みの中を覗くと南雲宅の中だという事だった。これで現実味を帯びる話だが、未だ超能力を手に入れたから出来たと言われた方が納得出来る為、早計な判断をする事はしない

 

「ハジメ、私の両親は頭が固いわ。説明しても集団催眠やら超能力を手に入れた何て判断されちゃう。もういっその事ユエ達を呼んだ方が良いかしら?」

 

「あ・・・あ~、そうだな。ユエ達には異世界言語を付与したアーティファクトを身に着けているからそれを外して喋ってもらえば良いだろうな」

 

「深月、次はユエ達の所に繋いで。こうなったら強引にでも納得してもらう他ないわ」

 

「ユエさん、左隣にゲートを開きますので開けて下さい。本来は南雲家で宿泊をと思いましたが、こちらでまとめて説明する事になりました。ハジメさんのご両親も来ておりますので、挨拶もよろしくお願いします」

 

深月がユエに念話を送り、三十秒程してからゲートを開いた

 

「・・・ん」

 

「彼女の名はユエ。異世界人で、吸血鬼で、元お姫様だ」

 

「「っ、テンプレ属性!?」」

 

「きゅ、吸血鬼だとっ!?」

 

「・・・はじめまして、ハジメのお父様、お母様。皐月のお父様、お母様。ユエと申します。末永く、よろしくお願い致します」

 

「え、お、おう。いえ、これはご丁寧に。こちらこそよろしくお願いしますです?」

 

「よ、よろしくお願いします、ですわ?」

 

「とても品のある女性だ。素晴らしい仲間だね」

 

「あらあら、可愛らしい上に作法も綺麗ね。よろしくお願い致します」

 

互いの両親はビスクドールの如き美貌の少女に見惚れつつ、挨拶を交わす。特に南雲夫妻の反応は物珍しいが、「これはハジメの両親だ」と一瞬で分かるリアクションだった。尚、高坂夫妻の薫に関しては要注意人物だと確信した

 

「シア、来なさい!」

 

「はいですぅ!義父様、義母様、私はシアと言います!よろしくお願いしますですぅ!」

 

「「ウサミミぃ、キタッー!?」」

 

「う、ウサギの耳?」

 

「シアちゃん、その耳を触ってもいいかしら?」

 

シアに関しては予想通りだろう。皆の視線はシアの頭上にある耳に向いていた。モフモフな縦長耳―――癒理は欲望がうっかりそのまま口に出ていた。ウサミミの魅力は強し!

 

「ティオ、来い!」

 

「うむ。お初にお目にかかるのじゃ、義父上殿、義母上殿。ご主人様の愛人にして、竜人ティオ・クラルスと申す。幾久しく、よろしくお願いするのじゃ」

 

「竜人族の姫でしょ」

 

「姫が抜けてるぞ」

 

「ティオ姫」

 

「ぬぁああああああああーーーー!!姫を付けるでないっ!むず痒いのじゃ!!」

 

「竜に人!」

 

「変身できるのか!?」

 

「竜人じゃから竜化できるぞ?」

 

「「我が世の春が来たーーーーーー!!」」

 

「乗せて飛んでもらえるかしら~?」

 

「・・・・・」

 

自分が竜である事を誇示する為に翼を出して登場したのは良いが、見栄の張り過ぎである。ハジメと皐月だけに留まらず、ユエ達もティオが竜人族のお姫様である事をついついネタにして弄っている。当の本人は、姫扱いされるのは里の者達だけで十分であり、仲間であり家族でもあるハジメ達にはされて欲しくない様子だ

 

「レミア、ミュウ!」

 

「はい、あなた。はじめまして、レミアと申します。娘共々、よろしくお願い致します」

 

「え、えっと、えっと・・・パ、パパとママの娘のミュウです!おじいちゃん、おばあちゃん、よろしくお願いしますなの!」

 

「お、おじいちゃん!?」

 

「む、むすめぇ!?」

 

「      」

 

「あら~、可愛いわね。飴ちゃん舐める?」

 

「舐める!!」

 

流石に子持ちの女性をハーレムに入れてくるのは予想外だったらしく、癒理以外はもの凄く驚いている。特に、薫に至っては白目になっている

 

「ミュウは俺と皐月の娘で、ユエ達も全員、俺の嫁だ。まぁ、よろしく頼むよ」

 

「「軽ぅ!?」」

 

「あ、ちなみに、あと四人程嫁がいるから、また後日挨拶してもらうよ」

 

「「リアルチーレムぅ!?」」

 

「あらあらあら~」

 

怒涛の展開に困惑していると、薫がバンッと机を叩いて立ち上がり人を殺しそうな目でハジメを見ていた

 

「ハーレムだと?ハジメ君はふざけてそんな事を言っているのか?日本は一夫一妻だ。私はその様な事は認めない」

 

薫が激怒している事は明らかだ。これは、純粋に皐月の幸せを願っているからであり、ハーレムを築いた者の末路の大体が身内による崩壊。それは皐月の幸せをぶち壊す事だと決めつけている

皐月は癒理を連れて小声で相談する事にした。父が駄目なら母を説得しよう!尻に敷かれているので大丈夫だろうという事だ

 

「ねぇねぇ、お母さん。お母さんもハーレムは容認出来ない?」

 

「そうねぇ・・・皐月には悪いけれど流石に駄目よ。だって、それだと皆を平等に愛するなんて出来ないでしょう?」

 

「あ、それについては大丈夫。お父さんには悪いけど、私はハジメとやったの」

 

「それについては顔を見た時から分かっていたわ。でも、それだと―――」

 

「ここからが本題、私一人だと無理。死んじゃう・・・だから増やして皆と幸せになったらいいじゃないかと」

 

「えっ?」

 

ハジメの息子は魔王だ。未だに皐月とユエとシアとしかまともに肌を重ねていないが、その全てはハジメの圧勝であった。これでは本当に危険と判断し、ハーレムに入る為の条件を厳しく設けている事も説明した。中途半端は絶対に駄目、尊重し合いがとても重要だ。まぁ、このハーレムに入っている者達全員がこの条件はクリアしている

 

「・・・それ程までにあそこが強いのね?」

 

「うん」

 

これを聞いた癒理は、しばらく考え込みつつハジメを睨む薫の様子を見る。一方、薫はハジメにプレッシャーを掛けているのだろうが、本人は何のその―――全く動じていない

 

「君は皐月に相応しくない。おとなしく別れて二度と近付かないでm「あ・な・た・?」―――ヒェッ!?」

 

癒理が後ろから薫の肩に手を置き、穏やかな声がとてつもない無の圧力を含んだものに変わっていた。薫はガクガクと震え、癒理はそのまま薫を部屋の中央に連行した

 

「正座」

 

「い、いやしかし!」

 

「せ・い・ざ」

 

「・・・はい」

 

薫はおとなしく正座をして、癒理は笑顔だが目が笑っていない状態で「何で?」「どうして?」「皐月の意志は?」と質問をした。そして、最後のトドメとなる言葉を突き付ける

 

「ハジメくんのあそこが異常に強いと皐月から聞いたわ。三人を相手にしても余裕で勝ち、まだまだ衰える様子もないわ。そして、ハジメくんに愛されたいと思う女性には、それ相応の条件を設ける事によって平等にするという事よ。下手に性欲を暴発させるのは危険なら、条件をクリアした者と致す方が良いわ」

 

「正妻は私だけど、皆平等に愛される為に互いを尊重する。そして、この条件を教える事は絶対に駄目。教えたら両者共にハーレムから除外、ちゃんと自分から気付く事で成り立つの」

 

「なるほど、それなら・・・・・・・・・・皐月の処女を奪ったのかぁあああああーーーーーーー!赦さんぞぉおおおおおおおおおおおお!!」

 

「いい加減子離れしなさい!!」

 

「アブシッ!?」

 

薫はハジメに殴り掛かろうとしたが、癒理の平手打ちが直撃。薫は頬を手で抑えながら癒理を見るが、先程以上に怒っている癒理にタジタジとなっている。そして、説教が再開した。正論を並べて薫が言い訳をする隙を与えず、時にはユエ達を使って何も言わせない

 

「分かった?皐月が異世界での事が正しければ、もう身寄りがないユエちゃん、家族に背中を押して貰ったシアちゃん、心惹かれて里に帰る事が出来なくなる可能性があってもこちらに来たティオちゃん、子持ちだからこそ子の幸せを考えて決心したレミアちゃん―――彼女達が一番幸せに感じているのはハジメくんの傍に居る事よ。見なさい、あの表情を。ちゃんと幸せな顔をしているでしょう?」

 

「う・・・た、確かにそうだが」

 

薫の陥落にはあと少し足りないと感じた皐月は、抱っこしているミュウにトドメの一撃をお願いする事にした。ミュウは、今も正座している薫の傍に近付いて破壊力満載の言葉を投げた

 

「おじいちゃん、・・・ミュウ達じゃダメ?」

 

涙でウルウルした目の上目遣いでという超コンボと、癒理と皐月のジト目を受けた薫は遂に折れた

 

「・・・うん、ごめんね。大丈夫、私はミュウちゃんのおじいちゃんだよ」

 

「ほんと!ヤッター!!」

 

ミュウは薫に抱き着きいた。これで両親公認のハーレムとなったので、皐月はニコニコである

それからは、再生魔法で決戦の光景を観戦した。特にハジメ夫妻のテンションが更にアゲアゲとなり、「うぉおおおっ、すっげぇええ!知っているか、知ってますかぁ!?これ、俺の息子です!ありがとうございます!」とか、「きゃぁあああっ、聞いた!?今、すんごいこと言ったわよ!やばいわ!この子、マジ魔王様よ!そして、魔王様は私の息子です!ありがとうございます!」と言って、ハジメは纏雷アババで二人を落ち着かせた

そして何より驚かれたのは、深月が二人に別れた経緯とエヒトとの戦いである。人知を超えた戦いに皆が呆然としており、ハジメと皐月は「そりゃあそうなるわな」と本音を口漏らす。尚、最後の合体シーンを見た南雲夫妻は、そのポーズをマネして合体が出来るかを試したが無理だった事に落ち込んだりした

 

「本当に帰って来れたって実感したわね」

 

「ああ、こんな平和な光景はずっと見たいな」

 

「「障害が現れたら私が排除しますので安心して下さい」」

 

「「頼りになるわ~」」

 

こうして上映会も終わり、各家の両親とユエ達がお話ししてテンションが上がったりアーティファクトを見せてみたりと時間はあっという間に過ぎて行った。その後、深月同士の組手の観戦をしてお開きとなった。これから大変忙しくなるが、これから来る幸せの事を思うとさっさと終わらせようと意気込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「深月、平和って楽しいわね」

 

「そうですね。平和が一番です」

 

「心身落ち着きますね」

 

「それじゃあ、今日も一日頑張っていくわよ!」

 

「「かしこまりました」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平和な日常を謳歌する為、時には走り、時には休憩したりとメイドとその主は今日も変わらず動き、後の歴史に名前を残す―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「遂に本編が完結しました。ですが、終わりませんよね?」
布団「まぁ、アフターエピソードを書く予定です」
深月「ですが、それに関しては少々お待ちください。一息入れましょう」
布団「もう一つの息抜きも書いてますからねぇ・・・。頑張る!」
深月「長々と応援していただきありがとうございます。今後もよろしくお願いします―――で良いのでしょうか?」
布団「アフター頑張るのぉおおおおおおおお!!」


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アフター
お嬢様のミスはメイドも予測不能


深月「読者の皆様、お久しぶりです」
布団「オリジナル的な何かを書いたよ。ある意味クロスオーバーだけどね!」
深月「生暖かい目で見て下さいね。構成が未だに煮詰まっていないので次も遅いでしょう」
布団「ワクワクはもう少しお待ちください(´-ω-`)」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」












布団「このやり取り久しぶりに感じる( *´艸`)」
















~深月side~

 

ハジメ達が地球へ帰って来てから半月―――怒涛の日々の連続だった。しかし、そこは高坂家の発言力の高さ故に、国が表立って事を荒立てる事自体を厳罰化した。それでも裏では良からぬ事を企んだり、秘密裏に接触しようとしたり、精神的に追い詰めようとネット社会である事ない事噂を広めようとしたりと様々だ。どれもが最初はお祭り騒ぎとなるが、数日後には沈静化してしまう

 

「アメリカ軍司令部の元帥とパイプを持っていた事が幸運だった。表で抑えてくれたお陰で、裏だけ対処―――人的疲労も少なくて済む」

 

「しかし、これも縁なのでしょう。まさか、薫殿達の子と家の雫が一人の男に好意を持つとは・・・。これでより頻繁に動きやすくなりますな」

 

「しかも、アメリカの特殊部隊とも訓練出来る環境も用意していただける。持ちつ持たれつです」

 

今話しているのは皐月の父、高坂薫と、雫の祖父と父の三人だ。薫は幾度か八重樫家に護衛依頼していた事がきっかけで、そこそこの頻度で交流をしていた。そして、あの異世界転移から薫の仕入れる情報源と八重樫家が動く事で日本国内は全て調査し尽くしたという経緯があった

 

「まさか、お父さんが雫の家族と裏で交流があったなんて知らなかったわ」

 

「私もよ。それよりも、自分の家が忍者屋敷なんて知りたくもなかったわ」

 

現在、高坂家は八重樫家に訪問している。傍では裏で繋がっていた事が聞こえ、逃避しようと道場の方へ視線を向けると、裏の八重樫の者達と学生深月が何でもありの組手をしている。まぁ、分かり切っている事だが、深月が圧勝している。枷をしている状態だが、それでもかすり傷一つ負う事なく余裕で対処しているのだ

 

「クナイや手裏剣で攻撃されているのに素手で軌道を逸らすなんて・・・一般人が見れば軌道を変える様に投げていると錯覚するでしょうね」

 

「深月が言うには、枷をしている状態でマシンガンで撃たれても全て逸らす事が出来るって言っていたわ」

 

「武器を持ってたら叩き切る事は出来るけど・・・素手は無理ね」

 

「あらあら、雫は銃弾を切り伏せる事が出来る強い子になったのねぇ~。はい、お茶請けよ」

 

雫の母親である八重樫霧乃が二人にお茶と羊羹を出す。二人は一口サイズに切りって食べ、温かい緑茶を飲んで一息入れる。縁側に座りぽかぽかと温かい日差しに寒くない風―――、皐月が望む平和な日常の一幕だ

 

「平和って良いわね」

 

「本当ね。あの約一年は激動の日々だったし、何時死んでも不思議じゃなかったわ」

 

トータスでの出来事を回想していると、深月がようやく動いて八重樫の門下生達を全員打ち倒した。最小限の動きで攻撃を回避し、縮地で一気に近づいて手刀で気絶させるを繰り返して勝った。魔力は使っていないので、戦闘能力はかなり制限されていても強い

深月は門下生達に一礼して皐月の傍へ戻り、床に置いていたカバンから数枚の書類を取り出す。その書類の内容は、皐月が将来立ち上げるメイド育成学校の内容諸々だ。メイドの仕事は割り振られているのが基本なのでその場合の授業内容をどうするか迷っているのだ。ある程度の案は絞り出したとはいえ、その全てを網羅しているわけではない

 

「はぁ~、自分で言った事だけど・・・学校を作るのって難しいのね」

 

「皐月に関しては規模が違うでしょう?」

 

「雫は警備員と思ったけど、護身の講師として招く方が適切ね」

 

「そして完璧超人とはいかないけれど、戦闘メイドが生まれるのね」

 

「あらあら、もう将来設計が決まっているのね。とても優秀なメイドさんが量産されるという事かしら?」

 

「いえ、これは推薦制にするべきでしょう。気軽に試した先には後悔が生まれます。メイドとして生きていくという心構えがある者だけを入れる方が良いでしょう」

 

しかし、どうしても学校の運営費用等が足りなくなってしまうのでこれが一番難しいところだ

 

「取り敢えず、この案はもう一考するという形で保留よ。少しだけ落ち着いたからハジメとアーティファクトを作って遊んでいるの」

 

「アーティファクトね。・・・どんな効果があるの?」

 

「ゲートやクリスタルキーと同じ代物よ。だけど、これは繋いだ先の探知に引っ掛かる事なく潜り込めるの。例えば、誰かの後ろに転移したいと念じれば、相手は気付く事が出来ないという性能よ」

 

「悪戯専用じゃない」

 

「遊び心は大事でしょ?・・・それじゃあ早速性能テストするわよ!行先は雫の後ろに設定するわ」

 

性能テストするには丁度よく、距離が遠いわけじゃないので咄嗟に対処する事が出来るのだ。皐月は鍵を回してアーティファクトを起動した瞬間、三人の真下に黒い渦が出現した

 

「「「!?」」」

 

三人はそのまま黒い渦へと落ちた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人が降り立った場所は先程まで居た縁側である。起動実験は成功したという事だ

 

「ちょっと皐月!絶対にワザとでしょ!!」

 

「ワザとじゃないわよ!おかしいわね・・・ちゃんと雫の後ろで開く様に調整したのに」

 

「・・・お嬢様、とんでもないアーティファクトを作られましたね。これはサプライズなのでしょうか?」

 

「「?」」

 

深月が指差す先には、黒い髪の雫がどら焼きを食べようとして零している姿だった。目が点になっており、この状況を理解出来ていない様子だ。皐月達は咄嗟に頭上を見るが、黒い渦は小さくなって消えた

 

「えっ、これやばくない?」

 

「ちょっ、どうするのよ!?トータスで死に物狂いで戦った直ぐ後の平和な日常を返しなさいよ!!」

 

「こ、この世界も平和かもしれないでしょ?」

 

深月は溜息を吐き、周囲の気配を把握する。一応いきなり襲い掛かってくるわけでもないので、手を出す事はしない。だが、皐月に手を上げようとする者が居れば別だ

 

「おい雫、目が点になっているが・・・俺がトイレに行っている間に何かあったのか?」

 

屋敷の奥から姿を現したのはハジメとほとんど似た容姿をした男だった

 

「は、は、ハジメ・・・私は幻覚を見ているのよね?・・・そうよね?」

 

「あぁん?どういう事―――誰だお前等?」

 

ハジメと呼ばれた男は、指輪を光らせて一丁の拳銃を取り出して首謀者と思われる皐月に向けてしまった。その瞬間、深月の殺気が溢れ出た。ハジメと呼ばれた男は拳銃の先を深月に変更して威嚇発砲をする。しかも、それは直撃コースだ

 

「ゴム弾ですか」

 

だが、深月は難なく指先で摘み取って弾丸を観察していた。相手は驚愕の表情をしてもう一丁を取り出そうとした瞬間、深月が背後に回り込んで手刀を首筋に突き立てる

 

「これ以上攻撃するのであればこちらも本格的に迎撃しますが―――いかがされますか?」

 

「・・・最初に殺気を漏らしたのはお前だろ」

 

「私の主であるお嬢様に銃口を向けられたので変更させる為ですよ」

 

「・・・分かった。手じゃなく話し合いをしよう」

 

しばし沈黙して相手は両手を上げて降参、これで武力という名の話し合いのテーブルに着く事が出来た。皐月は宝物庫から椅子とテーブルを人数分出し、深月は紅茶を淹れてクッキーを取り出して置く

 

「・・・さて、一体どこから話したらいいのかしら」

 

「そ、そんな事よりも・・・その白髪の貴女って・・・嘘よね?」

 

黒髪の雫が白髪の雫を指さしてプルプルと震えている。ドッペルゲンガーが現れた!と言っても過言ではないそっくりさん―――誰だって怖いだろう

 

「皐月、これはどう言ったらいいのかしら?」

 

「私達の現状説明をしてからの方が良いかもしれないわね」

 

皐月は、今回の経緯についてを説明する。自作アーティファクトの故障?何かしらのバグでこんな事になったのかは不明、いきなり足元に黒い渦が出現して落っこちて今に至る

 

「そして、ハジメが私と深月を知らない事を鑑みてこの世界は並行世界の可能性が高いわ。どんな第二魔法よ・・・。たまたまでも頭が痛くなるわ」

 

「並行世界って事はあれか・・・たられば世界って事だな。そうなると、嫁が増えたって事か。今でもかなり大変なのに、向こうの俺はさぞ大変だろうな」

 

皐月はここで一考する―――確かにハジメは色々と大変だ。会社を立ち上げたり、トータス組に地球のあれこれを教えたり、嫁家族の挨拶やら何やらで追われている。だが、それは何時か解消する話であって永久ではない。いや、もしかしたら向こうのハジメは皐月が居ない分の労力を割いているという可能性が否めない

 

「大変そうよね。各家庭への報告と会社の立ち上げとトータス組の教師役・・・私達で分担しているからそこまで大変という事でもないわ」

 

「地球でのマナーを教えるのは私と香織と先生で行っているから良い具合よね?」

 

「何だと?」

 

向こうのハジメと雫はこちらとの違いに気付いたのか、驚愕の表情をしている。一方、皐月達は、「え?何か難しい事あったの?」と不思議そうにしていた

 

「お嬢様、恐らくですが向こうのトータス組は地球でのマナーの講師は一人だけの可能性があります」

 

皐月と雫はジト目で二人を見るとしどろもどろしており、これで皐月は確信した。この世界の嫁達はハジメの傍にいる事が一番の幸せだと感じているだろうと推測、ならば講師としての畑山に頼むのではなくハジメに教えてもらう事で忙しいという事だろう

 

「この世界に私が居ない事は分かったわ。その上で聞くけれど、正妻は誰?」

 

「ユエだ。そっちにも居るのか?」

 

「ユエが正妻なのね。雫、ここってヤバイわね」

 

「皐月が何を言いたいのか分かったわ。恐らくだけど・・・ユエと香織の関係はこちらよりも悪いでしょうね」

 

「偶にキャットファイトしますね。まぁ、これはじゃれ合い程度なのでそこまで酷くはないでしょう」

 

「「じゃ、じゃれ合い!?」」

 

「どこに驚く要素があるの?嫁だから普通でしょ」

 

向こうのハジメと雫は、頭を抱えてありえない光景を思い浮かべている様子だ。きっと、二人の頭の中では争いをしているのが日常的なのだろう

 

「やべぇよ・・・やべぇよ・・・。並行世界ってだけでここまで違うのかよ」

 

「ユエ・・・香織・・・本当に見習った方が良いわよ」

 

向こうのハジメは、この問題は大きすぎると判断して嫁-ズを招集する事にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

向こう側のユエ達や各親達が集まり、各々でこの現状についてのすり合わせをする。尚、向こうの嫁-ズ達はこちらのハジメについてやら居ない二人についてを根掘り葉掘り尋ねる。そして、こちらも同じ様に向こうのトータスでの出来事を聞いたりして違いを聞く

 

「・・・やっぱりあれね。深月が最大のイレギュラーだったのね」

 

「皐月、それは仕方がないわ。こんな究極完全体チートメイドなんて何処を探しても一人だけよ」

 

向こうのユエ達は深月を見て、「どこが強いの?」と強者のオーラを何一つ感じ取る事が出来ていない様子だ。当の本人はというと、人数分の紅茶淹れ、宝物庫に入れてある調理器具を使ってクッキーを作っている。何処に居ても変わらない様子に皐月と雫は安心する

 

「・・・この紅茶今までで一番美味しい」

 

「私もこれほどまでに美味しい紅茶は初めてです」

 

向こうのユエとリリアーナが紅茶を一口飲んだだけで絶賛する。高級な紅茶を飲んだ事がないハジメ達は、ただただ美味しいとしか言えないが二人の反応から見て凄いという事だけは分かった。そして、手際よくクッキー生地を作って焼いている姿は完璧と言ってもいい。現に、向こうのハジメは深月を目で追っている

 

「・・・ハジメ?」

 

「ハジメさん?」

 

「ご主人様?」

 

「あ・な・た・?」

 

「ハジメくん?」

 

「ハジメ?」

 

「ハジメさん?」

 

「ハジメくん?」

 

向こうの嫁ーズの重圧が凄かったのか、ハジメは冷や汗を垂らしながら視線を逸らす。だが、それでも分かる事はただ一つ

 

「こっちのハジメもそうだけど、向こうのハジメもメイドスキーなのね。後から聞いたけど、容姿ドストライクって言ってたわね」

 

皐月がニヤニヤと笑みを浮かべながらこっちのハジメの情報という餌を撒くと、向こうの嫁ーズはとても面白い反応だった。こっちでもあまり変わらない嫁ーズの圧力にタジタジとなり、必死に弁解しようとするも南雲夫妻によって事実をさらけ出されて縮こまっている

これを見た皐月は、向こうとこちらの嫁ーズの反応が僅かながら違う事を見抜く。しかし、これはこれで成り立っているのかハジメの甲斐性のお陰なのかは分からないのでツッコミは入れない。今は元の世界に戻る手立てを考える事が重要であるが、少しぐらいのんびりしてもハジメが発見してくれるであろうと確信をもって言える

 

「酷い目に遭ったぜ・・・」

 

「同じハジメでも深月をじっとりと見ていいのはこっちのハジメだけよ。後、深月に対して嫉妬の混じりの視線を向けるのは見苦しいとだけ言っておくわ。自分を見て欲しいのなら、冷静になってハジメの好みを研究して自分なりに着飾ることをしなさい」

 

『・・・はい、仰る通りです』

 

「流石皐月ね。改善点まで教えてあげるなんて優しいわね」

 

「そりゃあ、正妻として皆を幸せに導かないといけないでしょう?」

 

ここで、向こう嫁ーズがユエと皐月に視線を交互する

 

「ユエはもう少し高坂さんを見習った方が良いと思うよ?あっ、ユエみたいな高齢は優しくないよね!」

 

「・・・バ香織、覚悟しろ」

 

「「やってやるよぉおおおおお!」」

 

向こうのユエと香織の殴り合いが始まり、向こうの皆が止めようとするが争いの範囲が深月の方に移動したのを見た皐月と雫は合掌する

向こうの二人は気付かずに深月のテリトリーに入った瞬間、ぴたりと動きが止まった。いつでもどこでも万能な魔力糸の拘束力は伊達ではない。二人は何かに干渉されている事に気付き、それぞれ対処をしようと動くが

 

「お二方にはクッキー没収です。そして、しばらくの間、体を封じさせていただきます」

 

深月はシュタル鉱石印の針を二人の身体に刺して完全に動きを封じ、俵が抱えにして椅子に座らせる。二人は、意識があるのに体が全く動かせないこの状況に困惑している様子だ

 

「ふむ、見事な秘孔刺しだ。正確に刺されているので後遺症も何もないだろう」

 

「親父、あの年であの技術をどう見る?」

 

「逸材としか言えぬな。それも百年に一度どころではないだろう。裏に欲しいな」

 

向こうの雫の祖父と父が深月を欲しがるが、これはこっちでも同様な反応があったのである意味変わっていない事を安心したらいいのだろうか・・・。それはともかく、大量に作られたクッキーを各々が一枚食べると動きが止まったが、少しして争奪戦が開始された

 

「このクッキーは俺のだ!」

 

「ハジメさんズルいですぅ!ティオさん、私がハジメさんを拘束するので確保お願いするのですう!」

 

「合点承知なのじゃ!」

 

「ミュウ、確保しなさい!」

 

「りょうかいなの!」

 

「あら、美味しい」

 

皐月と雫は、自分のクッキーを食べながらクッキー争奪戦を観戦する。戦果は、向こうの男性陣は一枚だけで女性陣は五枚近くだ。何時の世も男性は女性にある意味弱い。そんなこんなしていると、皐月の隣に黒い渦が生まれ、そこからこちらのハジメ達が雪崩れ込んで来た

 

「皐月、雫、大丈夫か!?」

 

「・・・無事?」

 

「鷲三さんと虎一さんと霧乃さんが緊急で知らせていただきましたが、びっくりですよ!」

 

「ママー!雫お姉ちゃん!」

 

「皐月さん、雫さん、大丈夫!?」

 

「皐月、雫ちゃん!」

 

さて、ここで気付いている人も居るだろう。皆は皐月と雫の二人を心配しており、深月に関しては触れていない。限界を超えた極限の深月なら、神であろうと相対する事が出来るので無事であると確信を持っているのだ。だが、深月と言えど心配されていない事には溜息を吐きたくもなる

 

「おいおい・・・メイドの方も心配してやれよ」

 

「神気を纏える深月が死ぬって余程の事がなければ大丈夫=信頼しているという事よ」

 

「深月を倒す=神級の敵だからな?そんな奴がうじゃうじゃ居る世界なんて殆ど無いだろ」

 

「・・・少しでも心配してくれてもいいじゃないですか」

 

ぶっちゃけ言うと、深月はかなり凹んでいた。信頼される事は悪くないが、精神が体に引っ張られている事とハジメと意味深な事をしているので少しばかり心境の変化があったからだ。恋をすれば人が変わるというのはこの事だろう

 

「まぁ、いいです。それではご主人s「ご主人様言うな。旦那様もなしだ。ハジメで固定しろ」・・・ハジメさん、私達の居た地球への行き来は確立されていますか?」

 

念の為の確認だ。もし、これで一方通行だとしたら大変処の騒ぎではなくなるし、概念魔法を創るにも時間が掛かるだろう

 

「向こうにアンテナを立てて来たから大丈夫だ。後はアンテナ先へと繋がるクリスタルキーと魔力があれば行き来出来るからな。もう一度異世界に召喚なんてされても帰れる様にしているのさ」

 

ハジメはこちら側に来る前に、座標を固定する為のアンテナを立てていたのだ。どんな場所であろうと、アンテナの立つそこに辿り着く事が出来る便利アーティファクトだ。尚、このアンテナは皐月宅の一室に設置されており、人工神結晶製である

 

「そういや深月、向こうの俺はどうだ?」

 

どうやらこちらのハジメは優越感を感じたいのか、ニヤニヤ笑みを浮かべながら深月に尋ねる。深月は、深いため息を吐きながら感じた事を素直に告げる

 

「どちらのハジメさんもメイドスキーの変態紳士です」

 

「「違う、そうじゃない」」

 

二人の息の合ったツッコミに思わず苦笑いする

 

「この程度の茶目っ気は置いておきましょう。どちらが強いのかですよね?」

 

「当然だな。正直、向こうの俺を含めたユエ達の方もどうなのか知りたい」

 

「分かり切った事を・・・向こうはこちらに比べて弱々です。歩き方やオーラを探った事にも気付いていませんから」

 

深月の言葉を聞いた向こう側は、少しだけ怒っている様子だ。青筋までとはいかないものの、頬をヒクヒクと引き攣らせながら憤怒のオーラを漏らしていた。一般人が受ければ失禁間違いなしのプレッシャーだが、こちらのハジメ達にとってはそよ風である

 

「おいおい、その程度の情報で俺達の方が弱いって言いたいのか?」

 

「・・・良い度胸」

 

「そちらのメイドさんについては強いかもしれませんが、私達はあの戦いから成長しているのですよ!」

 

向こうはかなり自信満々な様子だが、ハジメ達はこれは勝てると確信した。そして、脳裏に過る深月の地獄の特訓の数々―――攻撃が当たらないのは当たり前で、避けた筈なのに攻撃が当たっているという理不尽極まりない事を

 

「成長ですか?きっと深月さんの地獄の訓練より数百倍軽い内容の筈ですね」

 

「・・・シア、思い出させないで」

 

「そうzy――ぬわあああああああ!もう嫌なのじゃ!破裂はもう嫌なのじゃ!?」

 

「ティオのトラウマスイッチ踏んじゃった!?」

 

「ティオ落ち着いて!」

 

すかさずユエと香織が魂魄魔法でティオの精神を落ち着かせ、どうにか戻ってくることに成功した

 

「・・・二人共、すまんかったのじゃ」

 

冷や汗をかいて青い表情をしているこちらのティオを見た向こう側は、「何があった!?」ととても驚愕の表情をして深月を見ている。神域での戦いを知っているからこそ、トラウマを生産している事がありえないと思っているのだろう

一方、こちら側の反応は、「あれをやられたらそりゃあトラウマにもなる」と遠い目をしていた

 

「トラウマになるまでの一部始終を見てみますか?その場合は、R-18ですので子供のミュウさんとこちら側のティオさんは眠らせます。注意しておきますが、かなりグロい映像となります」

 

「ヒェッ!?」

 

特にこちら側のティオはガクガクと体を震わせていた為、深月がすぐに当身で気絶させた。これで当の本人が見る事も聞く事も出来ない状態となったので大丈夫である。向こう側はもの凄く気になるのか、目配せして見る事にした。こちらのミュウは聞き分け良く魂魄魔法で静かに眠ったが、向こう側のミュウは好奇心旺盛なのか「絶対に見るの!」と譲らない様子だったので強制的に魂魄魔法で眠らせた

 

「ユエさん、防音の障壁は大丈夫ですか?」

 

「・・・ばっちり」

 

全て準備万端となり、深月は再生魔法でトラウマの光景を再生した。周囲は凍った樹木―――ハルツィナ樹海の中の光景だ

 

『ティオさん?今まで散々の淑女教育を行いましたが、いつもいつも暴走してお嬢様の精神に多大なストレスを与えた為武力による矯正を行います。覚悟してくださいね?』

 

『い、嫌じゃ!武力だけは嫌じゃあああああああ!?』

 

必死に逃げようとするティオを縛り、黒刀をゆっくりと抜刀する深月の眼は冷徹な物だった。その眼を見た向こう側は、体を一震わせして何をされるのかを見ているとティオの腕がぽとりと落ちていた

 

『いぎゃあああああああ!?妾の腕ぇええええええええ!?』

 

『ただただ切り落としただけですよ』

 

その後、深月が切り落とした腕を持ってティオの目の前で破裂させた。血肉がティオに飛び散り全身を真っ赤に染まった。これだけでヤバイと感じた向こう側は、「そりゃああんな事されたらトラウマになる」と頬を引き攣らせていたのだがそれは甘々だ

 

『再生』

 

深月の再生魔法がティオの腕を再生して元に戻し、再び切り落とし破裂という行為を何度も何度も繰り返した。あまりの惨さに、体をガックガクと震わせながら深月を見る向こう側―――

 

「あ~、俺的には腕だけじゃなく足もかと思っていたぜ」

 

「あの時の悲鳴はもの凄かったわ」

 

「・・・これはヤバイ」

 

「深月さんが本気で怒るともっとヤバいですぅ」

 

「これはティオがトラウマになるわけだよ」

 

「よくトラウマだけで済んだわね。普通は深月さんを見ただけで発狂するレベルよ?」

 

こうしてトラウマ上映会は終わり、向こう側のハジメはつい言ってしまった

 

「なぁ、こっちのティオは未だにドMなんだが・・・矯正出来るか?」

 

「ご主人様ぁあああああ!?見捨てないで!あれは絶対に耐える事は出来ん!?死ぬ!死んじゃうのじゃ!妾死んじゃうのっじゃああああああ!」

 

向こうのティオはもの凄く必死な形相で向こうのハジメを掴んで懇願していた。とはいえ、こちらにメリットがあるわけでもないので深月が拒否して事なきを得た向こう側のティオはユエ達に慰められていた。やはりと言うか、ものすごく怖かったのだろうという事が伝わり、向こう側のハジメはある事に気付いた

 

「ん?さっきメイドの訓練がって言ったよな?」

 

「そうだな」

 

「あれより酷くはないと思うが・・・地獄見たか?」

 

向こう側はようやく気付いたのか、こちら側をありえない人を見る目をしていた。尚、こちらは全員遠い目をしていた事で全てを察した様子だ

 

「地獄という名のブートキャンプだったぜ・・・お前等も体験するか?因みにだが、俺達七人とまとめて戦っても勝つんだからな?何でもありで分殺だぜ・・・。ほら、笑えよ。メイドにやられる弱い奴ってよ」

 

『すまんかった!』

 

向こう側は全員土下座謝罪してブートキャンプ体験を回避。そして、深月の再生魔法による七人まとめての戦いの映像を見て絶句していた。そして―――

 

『メイドって何だっけ?』

 

メイドの定義が完全に分からなくなった。いや、向こう側のハジメは何やら考え事をしている様子だ。何かしら思う所があるのだろうが、それはどうでもいい。そんなこんなしていると、再び皐月の隣に黒い渦が生まれ大人深月が登場。ドッペルゲンガーよりも恐ろしい光景を目にした向こう側は、物凄い形相で頬を引き攣らせていた

 

「お嬢様のピンチに私参上―――そちらは何をしているのですか!この様なイレギュラー防ぐ事はメイドとしての役割を怠っている証拠ですよ!」

 

「足元が一瞬で無くなり、魔力が一切行使出来ない状況では傍に居る事こそ一番の安全です」

 

「はぁ~?その様な時は放り投げてでも回避させる事が最善手でしょう」

 

「お嬢様が怪我をする可能性があるではありませんか!」

 

「「あ"ぁ"ん?」」

 

二人の深月の眼力は凄まじく、周囲が軋んでいるかと錯覚する程の圧力を持っている為大変危険な状態だ。一触即発は遂に破られ、二人のメイドが激突する

 

「「死に腐れやああああああーーーー!!」」

 

身体がブレた瞬間に周囲に走る衝撃波は凄まじく、ユエが張っていた防音の障壁が一発でひびが入る。キャットファイトというレベルを超え、本当の殺し合いレベルの戦いだ。向こう側のハジメ達は勿論の事、こちらのハジメ達も深月の動きは完全に捉える事が出来ない

 

「ストーーーーーーーーーップ!止めなさいっ!!」

 

皐月の号令が発せられたと同時に拳と拳がぶつかる直前で二人の深月は動きを止めた。ほんの数秒の攻防だが、それだけでも向こう側の全員に逆らってはいけない事を悟らせるには充分過ぎる働きだった。尚、障壁を張ってもなお貫通した衝撃が八重樫家の屋根の瓦をひび割れさせたりしたのは流石というべきかやり過ぎというべきか・・・

 

「深月ぃ~?今回の事はしっかりとお仕置きを受けてもらうわよ~」

 

「「お嬢様からのお仕置きならバッチコイです!」」

 

「なら、ハジメと本気の3Pして逝きなさい」

 

「「    」」

 

その言葉を聞いたこちらのハジメはガッツポーズで喜びを露にし、向こう側のハジメは何故か知らないが物凄く落ち込んでいたりする。こちら側のユエ達は深月を見て合掌し、当の本人達は速攻で土下座をして命乞いをする

 

「お嬢様後生です!二人だけだと死んでしまいます!!」

 

「何卒・・・何卒それだけはご勘弁してください!!」

 

悲しき事かな―――皐月はこの決定を撤回する事はなく、潔く逝ってこいとのお達しとなった。そして、時間も夕食時に近くなったのでこれでお別れとなる。向こう側のハジメはこちら側のハジメと話し、向こう側の嫁ーズはこちら側の嫁ーズとお話をして帰還する事となった

 

「羨ましい・・・俺も自由に出来るメイドが欲しいぜ」

 

「無けりゃあ作ればいいだろ」

 

「簡単に言ってくれるな―――と言いたいが、ナイスアドバイスだな。戦闘メイド部隊を作ってやるさ」

 

「ふっ、こちらは既に戦闘メイドが完成しているからな。監督は深月だから強いぜ?」

 

「今度ユエ達にメイド服着させるわ」

 

メイド談義をするハジメ達と違い、嫁ーズは夜のあれこれについての生々しいお話をしていたりする

 

「深月のお仕置きはやっぱりこの手に限るわ」

 

「・・・そっちのハジメは夜凄いの?」

 

「全員相手にしても蹴散らされるし、深月が居てもそれは変わらないわ。フフフ、一人で体が持つわけがない」

 

『・・・ゴクリ』

 

「とまぁそういう感じよ。そっちも襲われるぐらい魅力的になればいいだけよ」

 

『・・・これが勝者の余裕』

 

皐月は向こうのユエ達にアンテナを渡し、こちらから何時でも移動出来るように向こうのハジメ宅の地下へと立てる事となった。向こうのハジメは、最初は渋っていたのだが・・・皐月が遊びに来る=深月が来るという事に気付いて速攻で増改築した

たらればの世界―――一日を楽しく過ごしたハジメ達は、元の世界へと帰還した。尚、皐月が薫と癒理にとても心配されたのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




本当の原作に介入していくスタイル
布団「構成を考えるのにちょっと楽な方向を・・・モウシワケナイ」
深月「並行世界は作者さん的にはある意味楽ですよね?」
布団「キツイお言葉でございます(´-ω-`)でも、こういうのも悪くないと思うの」
深月「まぁ・・・違う作品のアフターでは並行世界を移動するというのは見ないですから」
布団「先陣切って何が悪いっ!みんなも真似すればいいやん!!」


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メイドさん無双、はっじまっるよ~

深月「後日談かつ、新たなイベント発生ですね」
布団「皆メイドが見たいんや。そして、初めて掲示板を入れてみました」
深月「何故入れようとしたのですか・・・」
布団「何気に人気あるから!―――とだけ言っておこう」
深月「これは反省しませんね。という訳で読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」


2022/03/18追記
タグに掲示板形式を追加したので見やすくなりました








~皐月side~

 

ハジメ達が地球に帰還してからの日々は怒涛の連続。各国の重鎮達からの異世界資源を~やら、マスゴミから突撃取材~やらと盛り沢山だ。しかし、これらは世界有数の資産家でもあり大企業でもある高坂家の力もあり、徐々に形を潜めるが完全に無くなったという訳でもない。影で接触したり、誘拐しようとする輩も居た

それ等も置いておき、ハジメ達は未だに学生という立場である事から学業についても一年遅れという現状は些かどころかかなり不味い状況である。とはいえ、異世界に強制召喚という事もあってか特例として"帰還者"という名を持って新たな校舎で勉強をさせるという形となった。尚、教師であり大人の畑山がその他諸々の仕事を引き受けなければならなかったりする

 

「・・・はい、今日も一日頑張っていきましょう」

 

「愛ちゃん先生ー、俺達勉強したくねぇよ~。トータスでめっちゃ頑張ったから宿題忘れたの許して♪」

 

「駄目です。本来なら学生である皆さんは勉強しなければいけません。私としてもトータスの事を思うと少なくしたいですが、皆さんは将来が決まっていない人が殆どでしょう?立派な社会人になる為に、出来なかった事を取り戻しましょう!」

 

『嫌だー!やりたくねぇー!!』

 

「ちなみに、高坂さんと神楽さんのお二人に関しては飛び級していますので、宿題というよりも学期末毎で学校での出来事という名の監視レポートの提出でお願いします」

 

学生の本分は勉強。だが、皐月と深月は既に飛び級をしているので問題ない。登校している理由は社会勉強なのだ

 

「しっかり頑張りなさい。特に男子!その身体能力で犯罪なんてしようものなら深月との地獄のブートキャンプを一年間やらせるわよ」

 

「ぬいぐるみハンマーではなく、黒刀片手に追いかけましょう」

 

『誠心誠意勉強を頑張ります!』

 

トータスでの戦いが終わった滞在一ヵ月の間、皐月はクラスメイト全員に深月との鬼ごっこを強制参加させてスタミナを底上げさせていたのだ。その際、深月の片手に絶対に壊れないぬいぐるみハンマーを持たせて、捕まれば尻を打たれるという罰ゲームありをしたのだ。最初の犠牲者は野村という男子生徒であり、王都襲撃の際に「皐月をエヒトに捧げれば」という言葉を根に持った深月の標的となってしまったのだ

皆、最初はぬいぐるみハンマーという事で痛くはないと高を括っていたのだ。しかし、深月が野村の尻をぬいぐるみハンマーで殴ると十メートル程飛んでシャチホコダイブをした事によって阿鼻叫喚となってしまったのだ。全員もれなく最低一発打たれ、深月が特に根に持つ天之河と坂上が十回以上吹き飛んだのは言うまでもないだろう

 

「お前等、その程度頑張れよ。こちとら経営学も学ばなきゃいけないんだぞ?」

 

「ご主「私的ならハジメで固定しろよ!」・・・ハジメさんは会社を立ち上げる事が最低限ですからね」

 

「唯一の救いはこじんまりでも良いという事か」

 

「お嬢様が大旦那様を説得されたからです。何も一人だけとは制限もかけられていませんよ」

 

「ティオとレミアにも頑張ってもらうしかないか」

 

成人しているのは、大人深月とティオとレミアだけだ。畑山は・・・大人には見えないので除外するという流れだ。そして、大人深月は気配を溶け込ませて皐月の傍にいるのでそちらも除外。となれば、二人だけしか残らないのである

授業は始まり、皆真面目に内容を頭に詰め込んだりノートに書いたりしている。静かに、真面目に授業を受けている帰還組だが、学校の教師・・・特に英語の教師は今までの自信がボッキボキにへし折られたりした。言語理解はとても便利の一言だ。帰還組を快く思っていない教師は、自慢気にしながら「この程度の問題も解けないのか?」と挑発したりするが、そのこと如くを皐月と深月が解説して答えを出し、お返しとして超難解な問題を問いかけてプライドをへし折ったりと倍返しをした

午前の授業も終わり個別の進路相談や昼食を食べたりしていると、携帯の着信音が鳴り響く。その持ち主は深月で、プライベート用ではなく仕事用の方だ。普段鳴らないそれが鳴る=何かしらの異常や緊急事態というのは目に見えている為、両方の深月は警戒度を引き上げて電話に出る

 

「はい、こちら深月です。執事長、此度の要件は如何されましたか?」

 

『テレビニュースを見なさい』

 

一先ず執事長の言う通りプライベート用の携帯でテレビニュースを見ると、緊急ニュースを流していた。しかも、何処の局も同じ内容だ。このニュースの音を聞いたクラスの皆は、集まって情報を聞く事になった

 

「緊急ニュースって・・・テロか何かあったの?」

 

「いや、テロなら俺達の携帯にも緊急連絡が入る筈だ。大事にはなっているが、そこまで危険という訳でもないのか?」

 

未だにニュースの内容が分からないのでそのまま局を変えずに見ていると、映像が移り変わって市街地を映しながらアナウンサーが詳細を説明する

 

『突如現れた正体不明生物達による被害は増え続けています。近隣住民は絶対に外に出ないで下さい。もう一度申し上げます、外出してはいけません!』

 

正体不明生物と聞いたハジメ達は、「UMAか!?捕まえれば幾らで売れるかな?」と不謹慎な事を呟いている。カメラに映る戦車や装甲車から察するにかなりの巨体の持ち主であると推測出来る。そして、現れた正体不明生物達は、絶滅動物やまるでキメラの様な複数の動物が混合された姿をしていた

 

(あら、これはあの島の・・・)

 

深月にはもの凄く心当たりがあった。幼少期に執事長に連れていかれた謎の巨大島に存在していた生物と似通ったものばかりで、何故執事長が深月に電話したのかがようやく理解出来た

しかし、これについて知っているのはごくごく少数。知らない周囲のクラスメイト達は驚愕しており、魔物ではないかと憶測が飛び交っている

 

『私が言いたい事は理解していますか?幸いな事に人的被害は未だありません。ですが、何処かの馬鹿が興味本位で近づく可能性もあるので早急に対処をして下さい。これは国から高坂家に依頼された仕事でもありますので拒否権はありませんよ』

 

「それは帰還者に向けての依頼ですか?」

 

『十中八九そうでしょう。しかし、これで国に貸しを作る事が出来ます』

 

「・・・分かりました、私が対処します。変装は?」

 

『メイド専門学校の足掛かりとして仕事を全う出来るので不必要です。それに、各国に対して牽制も出来ます』

 

「それは上々ですね。宣伝としての足掛かりに丁度いい依頼です」

 

このやり取りはスピーカーで行っており、クラスメイト達はこれから何が起きるのか容易に想像が出来た。そして、正体不明生物達に対して黙祷する事にした

 

「私達も行った方が良いわね」

 

「だな」

 

「いえ、それには及びません。私だけで対処します」

 

だが、それに深月は待ったを告げる

 

「お嬢様も聞いていた通り、私だけが出る事で後々の学校建設がスムーズになりますのでこちらで優雅にお待ち下さい。護衛は任せましたよ?」

 

「勿論です。障害が現れたなら排除します」

 

学生深月は依頼通り現場へと向かい、大人深月は皐月の護衛をする事となった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

深月は、転移門を使って現場に赴くと、遠く離れた所にバリケードが設置されていた。そして、案の定野次馬やマスゴミがたむろして、避難を促している自衛隊員を困らせていた

 

彼等はニュースを見なかったのでしょうか?屋内に避難する様に指示が出されているにも拘らずこの行動力・・・命知らずの愚か者ですね

 

そんな命知らず達は、自衛隊員達の制止を聞かずにバリケードをよじ登り中へと入る猛者が現れ始めた

 

「危険だ!戻れ!!」

 

「へっ、マスコミは何時だって命がけなんだよ!こんな特ダネを近くで撮らなきゃどやされるんだよ!!」

 

「自衛隊員乙w、自分の命は自分で護るんだよww」

 

遂にはバリケードが破壊されて中へと流れ込み始めた光景を見て、深月は溜息を吐く。もし、これで彼等に何かあれば、あの自衛隊員達に非難が殺到する事は目に見えている

 

「くそっ!帰還者はまだなのか!?」

 

一人の自衛隊員がマスゴミの特ダネ情報となる言葉を吐いてしまった。これにより、野次馬達が更にヒートアップして誰一人この場から離れようとしない。深月は自衛隊員達を不憫に思って行こうとした時、路地裏から巨大な羽の無い鳥が現れてマスゴミの一人を丸呑みにした。あまりにも唐突な出来事に周囲は固まったが、巨大な鳥はその隙を見逃さず、近くにいた野次馬の一人も丸呑みにした。それを皮切りに、周囲の者達は大パニックに陥った

自衛隊員達は、周囲に被害が出る可能性がある為に銃で撃つ事が出来ず八方塞の状態だ。唯一出来る事は戦車や装甲車で壁となる位だが、それらも野次馬達が居る為に動かす事も出来なかった

 

己の命を捧げてまで情報を発信しようとする心意気は素晴らしいですね。もし、これで自衛隊員等に文句を言わないのであれば、こちらで雇い入れても良さそうですね。さて、そんな事よりも救出しましょう

 

深月は透過させていた気配を解き、巨大な生き物達にだけ殺気を向ける。巨大な生き物達は、深月の殺気を受けた事により動きを止めて威嚇をする。深月の殺気を全力だと勘違いしている奴等は、頭の良くない奴等なのだろう

 

「高坂家の使用人の神楽深月、此度の依頼を受諾いたします」

 

「帰還者ではないのか!?」

 

「いえ、私は帰還者です。そこの鳥の排除を致しますが、宜しいですか?」

 

「やってくれ!俺達ではどうする事も出来んっ!」

 

「それでは、失礼します」

 

その言葉と同時に深月は足に力を入れて急加速。アスファルトは陥没し、野次馬達の隙間を縫う様に走り鳥の首に回し蹴りを叩き込む。深月なりに手加減した一撃だったのだが、スペックが尋常ではない為に鳥の首は千切れ飛んで野次馬達の目の前に落ちた

 

「先ずは一匹」

 

仲間が一瞬で殺された事を理解した巨大な生き物達は、背を向けて逃走を図るも深月が一動作する毎に確実に一体は殺されているのだ。合計十体居た生き物達は首をへし折られたり、貫き手で眼球から脳を貫通されたり、即死攻撃ばかりだ

深月が全て倒し終えるまで三十秒も掛からなかったが、周囲の者達からすれば一分以上の殺戮劇を見たかの様な反応だ。特に、テレビカメラを構えていた男性は、「・・・マジかよ」とばかり口漏らしていた。無理もないだろう、ここに居る者達の殆どは生き物の殺生を生で見た事も無いし、自分よりも大きい奴等が一撃必殺で倒されているなんて夢を見ていると言いたい程現実離れした光景だ

 

「すみませんが、ナイフを貸していただけますか?」

 

「えっ?ナイフ?」

 

「丸呑みにされた人を救出したいのですが・・・」

 

「急げっ!丸呑みにされた者達を救出するぞ!!」

 

自衛隊員達は、装備したコンバットナイフで鳥を中心に解体して胃袋から救出する。救出された者達は、丸呑みにされたにもかかわらず生きて救出された事に号泣していた。だが、中には自衛隊員達が無能だと非難する声も上がる

 

「何の為の自衛隊だ!俺達の税金で護らないとか職務怠慢だろ!」

 

「銃があるのに何で撃たないんだよ!それは飾りか!!」

 

うわぁ・・・言いたい放題ですね。これは少々お説教が必要ですね

 

一体何処からこんな悪口が吐けるのかと思うような罵倒もちらほらあり、自衛隊員達には本当に気の毒でしかないと思いつつ、罵倒している者達の襟首を掴んで引き離す

 

「「「「ぐえっ!?」」」」

 

いきなりの事で困惑しているのだろうが、そんな事は気にせずに血溜まりの上に放り投げる。罵倒していた者達は尻餅をついて血でベトベトになるが知った事ではない

 

「何故、貴方達はその様な罵倒ばかり口にされるのですか?自衛隊員の指示に従わず、自分の命は自分で護ると豪語しておきながらこの体たらく。恥を知りなさい!」

 

「なっ!?恥だと!?子供には分からないだろうが、自衛隊とは市民を護る義務があるのだ!」

 

「それでもジャーナリストですか?所詮口だけの俗に言うマスゴミですね。ある事ない事を捏造して人を陥れたお金でご飯を食べる畜生です。とっととこの手の仕事から足を洗って農村で働いた方がいいですよ」

 

深月は、煽る煽る。彼等の悪感情の殆どが深月に向けられた事を確認し終え、マスゴミが脅し文句を言う

 

「発言には気を付けたほうがいいぞ?我々は正しい情報をもたらす正義だ。君の様な世間知らずの子供には少し痛い目を見てもらった方が良い社会体験が出来るよ?お友達にも気を付けた方がっ!?オロロロロロロッ」

 

先程まで強気に出ていたマスゴミがいきなり膝を付いて嘔吐したのだ。周囲は何が起きたのかさっぱり分からなかった。だが、これさえもマスゴミは自分の武器にしようとする

 

「ざっ、流石帰還者というべきか・・・。私だけに嘔吐を促す魔法をかけるとは」

 

「妄想でここまで下品な魔法を想像する貴方は汚いですね。それと、気付いていない様ですが・・・このやり取りは全国で生中継されていますよ?」

 

「は?」

 

マスゴミが周囲を見ると、テレビカメラが深月と彼の方に向いていた。その事実に気付いたマスゴミは表情が青褪める

 

「脅迫罪であなたの会社を訴えさせていただきます。勿論、高坂家からの訴えとなりますのでご了承ください」

 

周囲の者達もようやく冷静になって気付いたのだ。深月がこの場に来ての第一声に含まれていた"高坂家の使用人"―――日本に住んでいる者なら殆どが知っている超大企業+資産家。真正面から訴えられてしまえば勝ち目のない勝負だ

 

「我々は権力に屈しはしない!」

 

マスゴミは力強く宣言するも、周囲の者達は、「こっちを巻き込むな!」と言いたげな表情をしている

 

「そうですか・・・では、貴方達は頑張ってください。自衛隊の皆さんは付いて来て下さい。深部には取り残された民間人が多く居るとお聞きしたので、各所に数人は必要な筈です」

 

「行くのは賛成なのだが、部下達の命を天秤に乗せる事は・・・」

 

彼が心配しているのは深部に潜るには襲撃に遭うリスクがあり、先程の巨大生物だったのなら犠牲者が出る可能性があるのだ

 

「その為に私が居ます。一緒に行動する事で護り、各所に数人ずつ配置させるだけです。とにかく、今はスピードが命です。早急に決断をお願いします」

 

彼は険しい表情で考えた後、覚悟を決めた様子だ

 

「案内をお願いします。俺達は市民を護る自衛隊、覚悟を決めろ!」

 

『はっ!』

 

「この区画に巨大生物は居ませんので、マスゴミはそこらにある建物に隠れて下さいね?私が護るのは市民を護る者達だけです。では、駆け足でお願いします。現れる巨大生物に攻撃はせず、銃弾の節約の為に全て私にお任せ下さい」

 

深月は、肩にかけていた竹刀袋から日本刀を取り出す。勿論本物だ

 

「日本刀で倒すのか?」

 

「首を斬り落とせばいいだけですから」

 

腰に専用のベルトを着けて刀を差して準備が完了した。深月は自衛隊員達が付いて来れる程度のスピードで走り出し、自衛隊員達も駆け出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深月は持ち前の気配感知で襲撃してくる巨大生物達の首を斬り飛ばす。紙一重で躱し、一撃の攻撃―――刀身を気と魔力でコーティングしている為欠ける事はないが、不自然に思われない様にしなければいけないという事もある

尚、深月の無双を見ている自衛隊員達は唖然としつつ足は止めない。深部に行くにつれて巨大なサーベールタイガーや巨大なワニが居たりと、かなり青ざめた表情を浮かべている

 

「マジかよ・・・。帰還者ってこんなに強いのか?」

 

「最初はメイドさんなんて場違いと思っていた自分を殴りたい」

 

「・・・お前の思っている事は間違いじゃないと思う」

 

「回避もそうだが、一振りだけで殺しているのも凄すぎるだろ」

 

一体どんな修羅場を潜って来たのか疑問に思う所もあるが、自衛隊員達は今やるべき事に集中する。時々止まり、深月が案内する建物に別れて市民達を少しでも安心させる

一通りの建物に自衛隊員達を送り届けた深月は、ようやく自分の仕事に戻る事が出来る。自衛隊員の一人から借りたトランシーバーで、これから本格的な狩りを開始する事を伝える。その際、援護等は不必要である事も付け加えて伝えた

 

「ようやく自由に動けますね。所々に危機感の無い市民が録画をしていますが・・・まぁいいでしょう。では、鬱憤晴らしにお付き合いしていただきます」

 

深月が視線をある方向に移すと、巨大生物が群れを成して深月に向かっていた。ビルの窓から見える人達は何かを叫んでいる。深月に逃げろと言っているのだろうが、彼等は未だ知らない

深月は向かってくる大群に向けて真正面から突っ込んだ。鋭い爪や牙―――コンバットナイフよりも切れ味のありそうなそれらが襲うが、深月は先頭を踏み台にして上から脳天を一突き。そのまま両断する勢いで走って正面だけの敵を切り殺す。横から飛んで来る攻撃は、生物の肌部分を殴ったり蹴ったりして中断させる

真ん中の列を全滅させると、反転して後ろから食い殺す勢いで片方を潰す。そうなれば残りは片方となり、逃げ惑う残党を殲滅するだけだ。たった数分で大群を全て殺し尽くした光景を見た市民達は、とても大喜びをしていた

 

『ガァオオオオオオオオオオオーーーーーーーンッ!!』

 

だが、その喜びをかき消す咆哮が聞こえたのだ。ビルの中にいるにもかかわらず、しっかりと聞こえたその咆哮に市民達が聞こえた方向を見ると、アフリカゾウよりも大きいキメラの様な巨大生物が現れた。市民達は言葉に出来なかった。目の前にあるのは絶望そのものと錯覚する程の凶悪な生物。もしかしたら自分達も危ないのではないかと危機感を覚える力強さを身に纏っていた

巨大なキメラは周囲の様子を気にする事なく深月に向って走った。これは死んだと皆が感じた時、キメラは深月の目の前で止まって犬の様に腹を見せて屈服の姿をした

 

『ええええぇぇぇぇぇぇっ!?』

 

最早ツッコミどころ満載の光景だが、深月は周囲を気にせずキメラのお腹をなでなでしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日本の首都圏カオスな動物園になった件

 

46:名無しの市民

ヤベェよ・・・ヤベェよ・・・。誰か助けてくりぇ

 

47:名無しの市民

おう、涙拭けよ(´-ω-`)つ

 

48:名無しの市民

いや・・・そりゃああんな化け物が居たらそう思うだろうな

 

49:名無しの市民

今のところ被害という被害は聞いてないが、何時何処で何が起ころうと不思議じゃない

 

50:名無しの市民

絶対に家から出るなよ!いいな!絶対だぞ!!

 

51:名無しの市民

こんな昼間から見ているニートに言ってもなぁ・・・。外出しないし

 

52:名無しの市民

ヤメロー!こっちに刺さるだろうが!!

 

53:名無しの市民

それよか自衛隊まだ?

 

54:名無しの市民

テレビニュース〇〇局の方写してみな。本当に自衛隊の人が不憫だわ

 

55:名無しの市民

バリケード張ってるね

 

56:名無しの市民

そして、自衛隊の制止を振り切って登ってぇ・・・?馬鹿じゃねぇの?

 

57:名無しの市民

うっわぁ~、これで何かあったら自衛隊の人に文句言うんだろ?

 

58:名無しの市民

かぁ~っ、ペッ!こいつらはマスゴミの味だぁ!

 

59:名無しの市民

マスゴミに天罰下らないかな

 

60:名無しの市民

それいいよ――――あっ!?

 

61:名無しの市民

 

62:名無しの市民

 

63:名無しの市民

 

64:名無しの市民

 

65:名無しの市民

 

66:名無しの市民

 

67:名無しの市民

喰われたぁーーーーーーー!?

 

68:名無しの市民

丸呑みかよ・・・グッロ

 

69:名無しの市民

紅茶噴き出しちまったじゃねぇか!

 

70:名無しの市民

>>59 本当に天罰下ったな。成仏してクレメンス

 

71:名無しの市民

>>70 いやいやいや!?冗談でもヤバイだろ!?

 

72:名無しの市民

うっわぁ・・・カオスだ

 

73:名無しの市民

野次馬やマスゴミが邪魔で撃てなくて困ってるな

 

74:名無しの市民

まぁ、しゃあない

 

75:名無しの市民

・・・すまん、昼飯が食えなくなった

 

76:名無しの市民

そりゃあ当たり前だ。って言うか放送中止にならねぇ・・・

 

77:名無しの市民

〇〇局っていい噂聞かない。悪い噂ばっかりだよ

 

78:名無しの市民

ん?

 

79:名無しの市民

どうし・・・

 

80:名無しの市民

え?

 

81:名無しの市民

動きが止まった?

 

82:名無しの市民

誰、この声?

 

83:名無しの市民

うぅ~ん、この感じは美少女だ!

 

84:名無しの市民

カメラが向いた!

 

85:名無しの市民

メイドさんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

86:名無しの市民

メイドキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

87:名無しの市民

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 

88:名無しの市民

も、もちつけおまいら!?

 

89:名無しの市民

そうだそうだ!メイドが来たところで変わらないって!?

 

90:名無しの市民

ふぅ~ん、神楽深月ちゃんね

 

91:名無しの市民

きゃわわ

 

92:名無しの市民

ちょ!?帰還者!?

 

93:名無しの市民

巷で噂の異世界から帰ってきた学生達か!

 

94:名無しの市民

魔物倒しているから来たって事?

 

95:名無しの市民

いや、依頼って言ってたぞ

 

96:名無しの市民

いやいやいや!?高坂家の使用人ってマジかよ!

 

97:名無しの市民

大企業の資産家ならメイドさんは居るのか

 

98:名無しの市民

リアルメイド裏山

 

99:名無しの市民

あれ?消えた

 

100:名無しの市民

なんか鈍い音聞こえてね?

 

101:名無しの市民

先ずは一匹?

 

102:名無しの市民

カメラが振り向い――――え?

 

103:名無しの市民

首が・・・

 

104:名無しの市民

ウエッ!?

 

105:名無しの市民

リアル血の噴水・・・

 

106:名無しの市民

ギャアアアアアアアアア!?

 

107:名無しの市民

鳥が逃げ・・・逃げ?

 

108:名無しの市民

何これ、速くね?

 

109:名無しの市民

加速装置か!?

 

110:名無しの市民

!?地面が陥没してるぞ!

 

111:名無しの市民

どんな脚力してるんですかねぇ

 

112:名無しの市民

>>111 アスファルトを粉砕するぐらい

 

113:名無しの市民

>>111 巨大鳥を殺せるぐらい

 

114:名無しの市民

わけわかんねぇよ

 

115:名無しの市民

それよりもパンツを!メイドぱんちゅを!!

 

116:名無しの市民

>>115 なんだぁ、てめぇ・・・

 

117:名無しの市民

>>116 独歩さんはお帰りになって

 

118:名無しの市民

>>117 (´・ω・`)ソンナー

 

119:名無しの市民

って、こんな事をやってる間に全部倒してる!

 

120:名無しの市民

戦闘メイドですね

 

121:名無しの市民

超戦闘メイドだろ

 

122:名無しの市民

メイドの定義が崩れちゃう~w

 

123:名無しの市民

ナイフを借りようとしてる

 

124:名無しの市民

あっ!呑み込まれたからまだ生きてるんだ!

 

125:名無しの市民

自衛隊急いで!!

 

126:名無しの市民

どうだ?どうだ!?

 

127:名無しの市民

出て来た

 

128:名無しの市民

溶けた様子はない・・・って事は?

 

129:名無しの市民

生きてるぅ~!

 

130:名無しの市民

あ~あ~、泣いちゃったよ

 

131:名無しの市民

そりゃ泣くだろ。一生のトラウマもんだぞ

 

132:名無しの市民

>>131 いや、トラウマになるけどあんな巨大な鳥は居ないからな?

 

133:名無しの市民

ん、助かった奴がなんか言ってる

 

134:名無しの市民

( ゚Д゚)はぁ?

 

135:名無しの市民

( ゚Д゚)はぁ?

 

136:名無しの市民

( ゚Д゚)はぁ?

 

137:名無しの市民

( ゚Д゚)はぁ?

 

138:名無しの市民

( ゚Д゚)はぁ?

 

139:名無しの市民

( ゚Д゚)はぁ?

 

140:名無しの市民

( ゚Д゚)はぁ?

 

141:名無しの市民

( ゚Д゚)はぁ?

 

142:名無しの市民

こいつ・・・職務怠慢ってふざけてんのか?

 

143:名無しの市民

テメェ等のせいで自衛隊は銃が撃てなかったんだぞ?

 

144:名無しの市民

やっぱマスゴミはマスゴミですわ

 

145:名無しの市民

自衛隊の人達が不憫でならねぇ・・・

 

146:名無しの市民

あっ

 

147:名無しの市民

メイドさんが

 

148:名無しの市民

マスゴミを血溜まりの上に投げたー!

 

149:名無しの市民

ナイッスゥッ!

 

150:名無しの市民

ざまぁ!

 

151:名無しの市民

テメェ等はマスゴミなんだよ!

 

152:名無しの市民

助けた人に文句を言う奴はどいつも屑だな

 

153:名無しの市民

待ちに待った時が来たのだ、メイドに叱られる絶好の機会を逃してたまるか!!

 

154:名無しの市民

>>153 お前はちょっと黙れ

 

155:名無しの市民

ブフッw

 

156:名無しの市民

そりゃあそうでしょう

 

157:名無しの市民

恥を知りなさい!

 

158:名無しの市民

いいですねぇ

 

159:名無しの市民

本当に恥知らずなマスゴミだぁ

 

160:名無しの市民

畜生w農村で働いた方がいいwww

 

161:名無しの市民

このマスゴミが農村で働いたら雑草が生えるだろww

 

162:名無しの市民

>>161 雑草にwを生やすなww

 

163:名無しの市民

>>162 お前もなw

 

164:名無しの市民

こいつ馬鹿じゃね?なぁ~にが「我々は正しい情報をもたらす正義だ」だよ

 

165:名無しの市民

 

166:名無しの市民

吐いた

 

167:名無しの市民

皆見てるぅ~?これ全国生放送ですよぉ~!

 

168:名無しの市民

汚物記者ですわ

 

169:名無しの市民

ちょw

 

170:名無しの市民

馬鹿かこいつw

 

171:名無しの市民

妄想が凄すぎるw

 

172:名無しの市民

嘔吐を促す魔法!・・・そんな魔法誰が使うんだよw

 

173:名無しの市民

汚物記者が自分で使う用じゃね?

 

174:名無しの市民

それで相手に責任を擦り付けるのか

 

175:名無しの市民

カァ~、ペッ!ドブの匂いがするぜぇ

 

176:名無しの市民

あら、ネタバラシ早w

 

177:名無しの市民

おっす~見てるぅ~?

 

178:名無しの市民

マヌケ顔w

 

179:名無しの市民

あぁ~あ、会社が訴えられるw

 

180:名無しの市民

国ですら頭を下げる高坂家から訴えられる会社か。終わったな

 

181:名無しの市民

しっぽ切しても無駄じゃ!

 

182:名無しの市民

天誅ゥ!

 

183:名無しの市民

周りの奴等がw

 

184:名無しの市民

巻き込むなって表情してるわw

 

185:名無しの市民

後でこいつ炎上するな

 

186:名無しの市民

いや、もう炎上してる

 

187:名無しの市民

顔が映ってるから住所までバレテーラw

 

188:名無しの市民

特定班早すぎぃ!

 

189:名無しの市民

そこに痺れる憧れない!

 

190:名無しの市民

>>189 憧れろよ

 

191:名無しの市民

>>190 今は色々と厳しいじゃん?

 

192:名無しの市民

メイドさんが話をぶった切ったな

 

193:名無しの市民

そりゃあ、救出優先ですしおすし?

 

194:名無しの市民

恐らくビルの中に逃げ込んでいるから大丈夫な筈

 

195:名無しの市民

俺氏会社の上階から地上の様子を見ているけど、正直ヤバイ。メイドさんヤバイ

 

196:名無しの市民

戦闘メイドが殺戮してるんか?

 

197:名無しの市民

自衛隊も銃撃てるようになってる筈だから蹂躙だな

 

198:名無しの市民

>>196 そうだ

>>197 メイド一人が無双してるんだよ

 

199:名無しの市民

( ゚Д゚)

 

200:名無しの市民

( ゚Д゚)

 

201:名無しの市民

( ゚Д゚)

 

202:名無しの市民

( ゚Д゚)

 

203:名無しの市民

正直何が起きているのかさっぱり分からねぇ。メイドが動けば確実に一体がタヒんでいる

 

204:名無しの市民

う~ん、何で銃を撃たないのだろうか?

 

205:名無しの市民

節約か?

 

206:名無しの市民

マガジンはあるだろ

 

207:名無しの市民

>>206 本でどうやって戦えと?

 

208:名無しの市民

>>207 そっちじゃねぇ!

 

209:名無しの市民

取り敢えず、録画したのうぷするわ

http://meido.musou//?movie

 

210:名無しの市民

助かる

 

211:名無しの市民

パンチラを期待

 

212:名無しの市民

>>211 上から撮ってるから期待すんな

 

213:名無しの市民

っていうか救援に来た帰還者ってあのメイドさんだけ?他の奴等って薄情者じゃね?

 

214:名無しの市民

どうなんだろう?

 

215:名無しの市民

ツ〇ッター情報だけど、国が高坂家に依頼したって

 

216:名無しの市民

依頼か・・・。高坂家は何を考えてんだ?

 

217:名無しの市民

当主のツ〇ッター炎上してると思ったら鎮火した

 

218:名無しの市民

>>217 どんな高性能消火器を使ったんだよ

 

219:名無しの市民

帰還者の中で一番強いのがあのメイドさんなんだって。他の帰還者全員がメイドと戦っても倒されるほど強いらしい

 

220:名無しの市民

チートじゃん

 

221:名無しの市民

高坂家が開示している情報によると、異世界ではステータスプレートに天職なる物が書いてるらしい

 

222:名無しの市民

いいなぁ、俺も異世界行きたい

 

223:名無しの市民

そんな願望なんて捨てろ。話を戻して、あのメイドさんの天職なんだけど

 

224:名無しの市民

>>223 格闘家だろ

 

225:名無しの市民

>>223 剣士だって

 

226:名無しの市民

>>223 勇者だったりしてw

 

227:名無しの市民

>>224>>225>>226 全部違う!天職はメイドだってよ

 

228:名無しの市民

うそん・・・

 

229:名無しの市民

メイドって何だっけ(すっとぼけ

 

230:名無しの市民

普通じゃないって!?

 

231:名無しの市民

>>229 戦闘が出来るメイド

 

232:名無しの市民

メイドの仕事内容が全部物騒になっちまうだろ

 

233:名無しの市民

緊急!ヤバすぎるって!?

 

234:名無しの市民

>>233 どうした?

 

235:名無しの市民

>>234 またメイドが何かしたか?

 

236:名無しの市民

>>234>>235 どれも違う!市街地に居た巨大生物達が群れを成してメイドさんに向かってる!この物量差はどうやっても無理だ!逃げろ!!

 

237:名無しの市民

http:Live./meido//battle!

ライブ放送している所があったから貼ったぞ

 

238:名無しの市民

>>237 サンキュー!

 

239:名無しの市民

>>237 有能!

 

240:名無しの市民

>>237 ありがたや

 

241:名無しの市民

って!?多すぎぃ!?

 

242:名無しの市民

砂糖に群がる蟻の大群かよ!?

 

243:名無しの市民

これは無理!逃げていい!

 

244:名無しの市民

メイドさん逃げて!?

 

245:名無しの市民

えっ!?

 

246:名無しの市民

ちょ!?

 

247:名無しの市民

突っ込んだ!?

 

248:名無しの市民

それはアカン!!

 

249:名無しの市民

ひょ?

 

250:名無しの市民

・・・うそん

 

251:名無しの市民

これはヤバイですね☆

 

252:名無しの市民

真正面から切り裂く!

 

253:名無しの市民

これが!俺達の!メイドだ!!

 

254:名無しの市民

本当に武力介入しそうで怖い

 

255:名無しの市民

冗談じゃ済まされねぇぞ

 

256:名無しの市民

真ん中食い破った!そしてもう片方を後ろから襲撃!

 

257:名無しの市民

おお~、みるみる減っていく

 

258:名無しの市民

それよか、血糊で切れ味落ちないの?普通は落ちるし、あれだけ斬ってたら刃こぼれするぞ?

 

259:名無しの市民

戦闘メイドは何でも出来るんです!

 

260:名無しの市民

全てが達人級!

 

261:名無しの市民

どんなエ〇ゲで登場するメイドだよ

 

262:名無しの市民

オンリーワンのメイドさん

 

263:名無しの市民

こんなメイドさん増えないかなぁ~。そして、あわよくばお世話して欲しい

 

264:名無しの市民

バブゥ~

 

265:名無しの市民

オギャア~

 

266:名無しの市民

幼児退行するなw

まぁ、バブバブしたいのは否定しない

 

267:名無しの市民

あのたわわなおっ〇いに埋もれたい

 

268:名無しの市民

>>267 通報したわ

 

269:名無しの市民

そう言いつつも本音では埋もれたいでしょ?

 

270:名無しの市民

当然!

 

271:名無しの市民

当たり前だ!

 

272:名無しの市民

柔らかいんだろうなぁ

 

273:名無しの市民

もちもちかも

 

274:名無しの市民

マシュマロの様な柔らかさかも

 

275:名無しの市民

そんなこんなしている内に全滅

 

276:名無しの市民

もうメイドさん一人でよかったわ

 

277:名無しの市民

でも、まだ安全じゃない

 

278:名無しの市民

隠れているかもしれないからなぁ

 

279:名無しの市民

ひぇっ!?

 

280:名無しの市民

何だこの声!?

 

281:名無しの市民

咆哮!?

 

282:名無しの市民

映像越しでもビクッとなった

 

283:名無しの市民

俺は体が震えてる

 

284:名無しの市民

現場にいる俺は足に力が入らないよ。怖すぎる

 

285:名無しの市民

一体何処か・・・マジかよ

 

286:名無しの市民

・・・あんなの勝てっこねぇよ

 

287:名無しの市民

逃げて!これはもう逃げて!

 

288:名無しの市民

デカ過ぎるだろ!?

 

289:名無しの市民

ちびりそう

 

290:名無しの市民

あぁ!?

 

291:名無しの市民

走り出した!

 

292:名無しの市民

メイドさん逃げてーーー!

 

293:名無しの市民

逃げろーーー!

 

294:名無しの市民

逃げても誰も怒らないから逃げて!

 

295:名無しの市民

逃げ―――( ゚Д゚)はぁ?

 

296:名無しの市民

( ゚Д゚)はぁ?

 

297:名無しの市民

( ゚Д゚)はぁ?

 

298:名無しの市民

( ゚Д゚)はぁ?

 

299:名無しの市民

( ゚Д゚)ファ!?

 

300:名無しの市民

・・・どういうことだってばよ

 

301:名無しの市民

う~ん、お腹出してるって事は・・・降参って事だよな?

 

302:名無しの市民

いやいやいや!?体格差からしてありえないだろ!?

 

303:名無しの市民

いや、もしかしたら勝てないと本能で悟ったとか

 

304:名無しの市民

あんな巨体が勝てない?冗談もほどほどに

 

305:名無しの市民

でもさ、あのメイドさんが敗けるイメージ思い浮かぶ?

 

306:名無しの市民

・・・不思議だな。思い浮かばねぇや

 

307:名無しの市民

俺もだよ

 

308:名無しの市民

私も

 

309:名無しの市民

僕も

 

310:名無しの市民

儂もじゃ

 

311:名無しの市民

お爺ちゃんは心臓に悪いのでテレビを見ないで

 

312:名無しの市民

しっかし・・・完全に服従してるっていうより懐いてない?

 

313:名無しの市民

顔を摺り寄せてるな

 

314:名無しの市民

メイドのたわわなお〇ぱいに顔を埋めるな!うらやまけしからん!

 

315:名無しの市民

ほんそれ

 

316:名無しの市民

例え窒息死しても一片の悔いはない

 

317:名無しの市民

>>314>>315>>316 欲望まみれで草w

 

318:名無しの市民

>>317 草に草を生やすな

 

319:名無しの市民

これはもう事件を解決したと言っても過言ではない

 

320:名無しの市民

ハイ閉廷ー

 

321:名無しの市民

あの巨大なキメラどうするんだろ?

 

322:名無しの市民

殺処分するだろ

 

323:名無しの市民

あそこまで懐いてるのに?かわいそうじゃね?

 

324:名無しの市民

いや・・・暴れたら大変な事になりそう

 

325:名無しの市民

そこはほら・・・メイドさんが躾て番犬代わりに

 

326:名無しの市民

戦車よりも強そうな番犬w

 

327:名無しの市民

高坂家が更に強くなりますねぇ

 

328:名無しの市民

高坂家には逆らわないように!

 

329:名無しの市民

アンチも駄目だぞ!

 

330:名無しの市民

これを見て文句言う奴は凸されそう

 

331:名無しの市民

この番犬に凸されたらタヒねる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皐月は、学校に持ち込んだパソコンで掲示板を覗くと深月についてあれこれと書かれていたが、反応的にはどれもこれもいい感じだ。負の感情はほとんど見えなかった

 

「やっぱりメイドスキーは多いな」

 

「そう・・・なの?」

 

「現実ではまずお目にかかれないからな」

 

「私の感覚が麻痺してるのね」

 

「まぁ、これで掴みは上々だ。皐月の予定しているメイド育成学校の足掛かりが出来たも同然だ」

 

「後はこの事件を深月が解決したら何も問題はないわね」

 

この事件は市街地に巨大生物が現れたとと言う情報だけだ。何処で何が起きてこうなったかは不明―――、その全てを解き明かして対処する事で解決となる。この事件の元凶は、意外と身近にありつつ遠い場所でもある事に誰も気付いていない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「いやぁ~、掲示板ってむっずい!」
深月「板を覗かない作者さんですからこうなる運命だったのです」
布団「でも面白かった」
深月「読者の皆様方は「つまらねぇ!」と思われていますよ?」
布団「辛辣( ;∀;)」


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メイドは慕われている?黒幕排除と新たな厄介事

布団「おまちどうっ!」
深月「遅いですね」
布団「いやぁ~、雀魂とプロセカにハマりまして遅れました。弁解もございません」
深月「それでは皆様方、ごゆるりとどうぞ!」
布団「ツッコミさえない」
















~???side~

 

暗い室内に研究服を着た男性や女性達が映像を見てかなり慌てていた。その映像とは、ニュースや実況アプリ等様々だ。彼等が慌てている理由とは―――

 

「どういう事だ!何故あれ等が流出している!?」

 

「どうやら機密ブロックの防壁を破ったとの事です。生き残りは監視室に居た数名だけです」

 

「ちいっ、これだから日本で研究なぞするなと言ったんだ!それを欲深な奴がこちらの弱みを握っているから・・・。おい、こちらの情報が洩れる様な文章や資料は送っていないだろうな?」

 

「それについては問題ありません。古い方法ではありますが、情報はモールス信号で簡潔にしております」

 

「ふっ、それならば履歴を見ようとしても無駄だな」

 

研究者は再び流れる映像を見て、次の手をどうするかを画策する

 

「所長、これとは関係ありませんが高坂家がこちらの尻尾を掴みました」

 

「トカゲの尻尾切りとはいい言葉だな。実にいいカモフラージュだよ」

 

所長と呼ばれた男性がスイッチを押して対処が完了した

 

「全く、爆破ではなく毒による集団自殺とは恐ろしいですね」

 

「事前に"我が教団は不滅"という文字を大きく描かせ、施設はここよりも重厚に繊細にを心遣いしてやったのだ。誰もが本丸だと思うさ」

 

「・・・米国の変態集団対策は出来ていますか?」

 

助手の女性の言葉を聞いた所長は、額に手を当てて溜息を吐く

 

「あれはある時期から低迷している。全くもって問題ない―――とは言えん。一度奴等の狂気を見せつけられた身としてはアンタッチャブルだ」

 

「触るべからず・・・ですか」

 

「あれを理解しようとするな。奴等の出鼻を挫くには、先制爆破意外には思い付かん」

 

米国には特殊部隊が居り、その中でも一際目立つ変態な隊がある。普通ではない直感と統率と援護により、味方になれば心強く、敵に回れば厄介極まりない者達なのだ。狂信者とまではいかないものの、それに準ずる何かを持っていると言った方が正しい

 

「これからどうしますか?」

 

「実験は続ける・・・が、今は隠れる事が先決だ。何事にも機を見なければならん―――――ひぎゃああああああ!?」

 

所長は、新たな情報を得る為に映像を切り替えた瞬間悲鳴を上げた

 

「しょ、所長!?どうされたのですか!?」

 

「・・・に」

 

「に?」

 

「逃げるぞ!今すぐ此処を放棄して国外へ退避する!」

 

「え?いや、いきなりどうして・・・」

 

「貴様にはあれが見えんのか!」

 

副所長や他の研究者達が所長が見ていた映像を見ると、一人のメイドが産物達を蹂躙する映像だった

 

「いや、凄いですね。こんな達人が居ようとは・・・」

 

「馬鹿もん!」

 

「うっわ、逸らしてますよ。あれ本当に人間?ちょっと遺伝子欲しいわね」

 

「あほぉおおおーーー!」

 

「さっきから五月蠅いですよ所長。あの遺伝子、絶対に欲しくないですか?」

 

所長以外の研究者達全員が、深月の遺伝子が欲しいと言っている。しかし、所長はそれどころではなかった

 

「貴様等は知らなさすぎる!あ、あれは化け物だ。しかも進化している・・・。もう駄目だぁお終いだぁ。勝てるわけがない」

 

所長は膝から崩れ落ち、体を震わせながら絶望していた。流石にここまで怯えている所長を初めて見た研究者達は、何があったのかを聞き出す

 

「あれは・・・あの米国の変態共の隊に居た子供だ。齢十歳にも満たない少女が戦場に出て変態達を鼓舞して蹂躙するあれは恐怖以外の何物でもない。援護の狙撃は例え数キロ先でもヘッドショットを決めて敵の士気を低下させ、近接戦を試みた熟練兵士はすれ違いざまに喉を切られて死んだんだぞ!?」

 

『え?何その化け物・・・』

 

「だから急げ!ここにある資料は燃やし、コンピューターのデータは破壊だ!物理で完璧に修復出来ない様に破壊しろ!」

 

『りょ、了解しました!』

 

命令を速やかに実行する研究者を他所に、所長は冷や汗を垂れ流していた

 

(何故だ!何故だ何故だ何故だ!?あの悪魔の子供が何故居るのだ!?いや・・・待て、ニュース報道で帰還者と言っていた―――――ふざけるなっ!ふざけるなぁーーーー!あの化け物は未知の力を得ているというのか!?)

 

所長のストレスは天元突破して髪の毛が少し抜けた。それだけ深月の存在は敵にとって恐怖の象徴であり、厄介極まりない存在なのだ。本人の知らぬ所でこの所長と同じ様にストレスマッハな者達は色々と居るが、それは活動に戦場を主としている傭兵達だ。ただただテレビに出ただけでこの打撃・・・最早兵器と言っても過言ではない

 

「終わったな!?急いで逃げるぞ!」

 

所長や研究者達は手持ちを最小限に逃亡。いざという時の為の秘密の通路を使って逃亡するのは見事だと言えるだろう。そして、彼等は一般人の格好になり人込みに紛れて次の集合地点へと向かうのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

あの時に調教したトラの形をしたキメラがここまで大きくなっているとは思いませんでしたね。あぁ~、癒されます。これは是非とも高坂家のペットとして大旦那様に進言しなくては!

 

現在、深月はキメラを高坂家へと誘導している。まぁ、深月が歩けば歩き、深月が止まれば止まる等のしっかりとした知能を持っている事が分かった為、安全に誘導する事が出来ている。歩いて高坂宅へ帰宅すると、空はすっかりと夕暮れになっていた

そして、高坂宅には現在の嫁~ズが勢揃いして出迎えをしてくれた。そして、キメラは執事長を見た瞬間飛び掛かり怪我がない程度の力でじゃれていた。あっという間の出来事に皆が困惑していると、執事長は既視感を思い出した

 

「・・・これ、あの時のですか?」

 

「そうですね。あの時のトラさんです」

 

「・・・成長しましたね」

 

「毛並みはとてもいいですよ。大奥様、触ってみますか?」

 

「あら、いいの?それじゃあ触るわね」

 

癒理が座ったキメラのお腹を触り、顔を埋めて体を預けた。これだけでも分る通り、モフモフを堪能している

 

「これは癒されるわ。あなた、私が言いたい事は分かるわよね?」

 

「いや・・・流石にそれは・・・はい、ガンバリマス」

 

癒理の眼光が薫に突き刺さり、色々な所への根回しを済ませるのは並みの苦労ではないだろう

 

「癒理おばあちゃん!ミュウも!ミュウも!!」

 

年相応の子供ならこのトラ型のキメラを見ただけで悲鳴を上げるのだろうが、ミュウは直感でこのトラ型のキメラは意味もなく襲わないと感じた。癒理に抱かれてキメラの背中に乗り移り、普通よりも高い景色を見てきゃっきゃとはしゃぐ

トラ型キメラのモコモコに癒されている女性陣を他所に、薫を中心とした男性陣+深月が集まり今回の事件について仮説を立てる

 

「以前から足取りを掴んでいた欧州にあるオカルト組織を潰したのだが、その中で遺伝子工学の資料や培養槽が発見された。そして、組織の主要人物達は全員自殺していた」

 

「更なる報告によりますと"我が教団は不滅"と書かれた血文字が発見されています。恐らく、本体を潰しても尻尾が生きていると思われます。しかし、その尻尾はお嬢様方がこちらに帰られる前に潰したので問題はないかと思われます」

 

「そうなんですか?俺達が拉致られた後って結構物騒な事が起きていたんですね」

 

「ハジメ君、私達は自分達の子供が拉致されたんだ。怪しい組織は徹底的に排除するのは当然だよ?」

 

「あっ、はい」

 

ハジメは、薫はやる時は絶対にやる覚悟があると理解した。しかも、皐月が関係する事なら徹底的に―――それこそ皐月の幸せを邪魔する輩は全て排除する可能性が恐ろしく、そして頼もしく思えた。ハジメも嫁達に手を出す輩が居たら全力で対処するが、排除まではしようとはしないのである意味後ろ盾が出来た様なものだ

 

「・・・・・」

 

そんな中、大人深月は怪訝な表情をして世界地図と睨めっこしていた

 

「・・・深月どうした?」

 

「いえ、敵の尻尾や本体を潰したと言われればそうなのでしょうが・・・何処かしら違和感があって・・・」

 

「深月ちゃん、違和感があるなら是非言ってくれ」

 

「そうですな。大人の方の深月は直感能力に長けているので多少の違和感は何かしらの意味があるでしょう」

 

体担当の学生深月とは違い、精神担当の大人深月だからこそ事の引っ掛かりを感じているのだ

 

「・・・少し試したい事があります」

 

大人深月はそう言うと、トラ型のキメラの元に行き額をくっつけて目を閉じる。そして、大人深月から発する強大な魔力が屋敷を駆け巡る

 

「ちょ!?概念魔法を創ってるの!?」

 

「概念魔法・・・か。皐月達から説明されたがこれが作られる瞬間・・・深月ちゃんは大丈夫なのか?」

 

「あ、はい。深月なら十中八九大丈夫です。一人でニ~三個の概念魔法を創る事が出来る魔力量を持っています」

 

「・・・ハジメ君、深月ちゃんを便利道具扱いしてはいけないよ?」

 

「絶対にしません。というより、目を離すと色々と創っていてそれを把握するのが大変なんです。これでも皐月が見張っているから酷くはありませんが、深月一人の時だとこれがあったらいいな感覚で作るので薫さんの方でも注意して下さい。いや、本当にお願いします」

 

「おい修治(しゅうじ)(※執事長の名前)、お前深月ちゃんに要らない事言っていないよな?」

 

「・・・・・」

 

「ハジメ君、執事長を縛り上げてくれ」

 

「了解です!」

 

「私は悪くない!私は悪くないぞぉぉーーーーー!!」

 

執事長はハジメに縛られ正座させられ、薫が何処からともなく取り出した石板を足の上に置いた

 

「知っている事を全て話せ。なぁに、ちょっとばかりハジメ君の作ったアーティファクトの体験者第一号になればいいだけだ。安全を確認している上での事なので大丈夫だろう?」

 

「・・・高坂家に仕える者としてありとあらゆる事に対処するのは当然でございます」

 

「取り敢えず三ヵ月給料を五割カット+体験者一号だ」

 

「薫さん、足りませんよ。あのトラと一緒に遊ぶ事を義務付けましょう」

 

「!?」

 

「おお、それはいい考えだ!ハジメ君の案も追加しようじゃないか!」

 

執事長の罰は決まり、深月がこちらに帰って来た。その表情はとても良い笑顔で、何かしらの証拠を掴んだ事を意味している

 

「あのキメラ・・・名前はポチにしましょう。記憶を覗く概念魔法を創りポチの記憶を見た結果、色々な情報が得られました。取り敢えず似顔絵を描きましょう」

 

ポチが見たであろう重要人物達を紙に書き起こし終えた深月は、薫にその情報を手渡した。その資料を見た薫は、額に手を当てながら八重樫家の鷲三お祖父さんと虎徹さんに渡して結果を伝える

 

「この主要人物達だが、今回の自殺した一味の中に誰一人入っていない」

 

「これは尻尾切りという事ですね」

 

「私達が掴まされた情報は表層だったという事か」

 

これでは見つけるのに苦労すると思った男性陣達を他所に、深月が世界地図に一つ一つマークを付けていた。場所はバラバラで、気になる所にチェックを入れているのかと思っていると

 

「千里眼で覗いた結果、このチェックをした場所が会合する拠点です」

 

「もうさ・・・深月無双じゃねぇか。敵には憐れみすら感じる」

 

「よし、早速人員を送ろう。米国の彼等に連絡を取ろう。深月ちゃんも久しぶりに彼等と会いたいだろう?」

 

「ふふっ、私の変わり様に驚愕する姿が容易に想像出来ます」

 

最初は深月だけで行く予定だったが、安全を兼ねてハジメも付いていく事となった。転移門は使わず、飛行機を使っての移動だ。深月はいつものメイド服ではなく私服で、ハジメは内心でコロンビアしていたのは言うまでもないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

欧州に入国した二人が最初にした事は観光だ。深月の装備は熟練のカメラマンが使う様なゴツイカメラが数個―――周囲の景色や料理を撮影している。ハジメとしては深月と二人きりのデートは初めてだが、これまでの皐月達とのデートで培った経験を活かしてアクセサリーを買ったり撮影スポットの情報を収集したりしていた

おおよそ一日観光をした後、人が疎らの公園に集合の情報を元に向かう。遠目から見ればカメラを片手に景色を撮影していた米国人達を発見

 

「それでは合流しましょう」

 

「いや・・・何となく分かっていたがあいつ等?二十代が殆ど居ねえぞ。むしろ三~四十代が沢山居るんだが」

 

「私が訓練を受けた年齢は一桁の時ですから」

 

ハジメは深月の後に付いて行き、同行する米国人達を見ながら足手纏いは要らないんだがなぁと心の中で愚痴を漏らす。しかし、ここは何も言う訳にはいかないと思いつつ普通に近付き―――

 

「ッ!?」

 

咄嗟に身体が反応して死角から飛んできた飛来物をキャッチする。義手の方の手で取ったそれを見ると、小さな針が付いてあるゴム弾だった。尚、深月は常人では目視出来ない速さで弾丸をナイフで叩き落としている

 

「ほう、それに咄嗟に反応出来るか。深月ちゃんと男が来るから試してみたが、そこそこってところか」

 

「・・・いきなり喧嘩売ってんのか?」

 

「おおう怖い怖い。だが、警戒心が薄いんじゃねぇか?もう既に敵の胃袋の中に居ると思って行動しろ。異世界で濃ゆい生活を送っていたとはいえ、こっちみたく銃弾飛び交う場所じゃねえだろ?」

 

「ちっ!忠告感謝するよ」

 

ハジメは、平和な日常を謳歌していて少しだけ油断していた事に舌打ちしつつ切り替えた

 

「ひゅぅ~!いい集中力じゃねぇか」

 

「隊長~、この二人って使えるんっすか?」

 

この中に居る一番若い者が尋ね、ハジメに注意をした隊長が溜息を吐きつつ憐れみの視線を向ける

 

「新兵、ここは普通の隊じゃねぇ。自分の力量はともかく、相手の力量すら測れないなら辞めちまえ」

 

「隊長優しぃ~」

 

「逆にこいつが足手纏いじゃね?」

 

「お前等もしただろう?この中の新兵達は拠点守備だ」

 

この隊長の決定に腹が立ったのか、新兵達が動こうとした。しかし、体は動かなかった

 

『っ!?』

 

「お~、久しぶりに見たなぁ。深月の秘孔刺し」

 

「打ち込まれた事にすら気付いていない様じゃ駄目だぜ?しっかし、深月ちゃん大きくなったなぁ~。俺も年だなぁ」

 

「子供が成長するってこんな感じなんですね」

 

深月と久しぶりに会った隊員達は、過去の事を思い出しつつそれを懐かしんでいる。そして自分達が年老いたと実感させる。そんな中、変わらない隊員も居たりする

 

「み、深月ちゃん。この作戦が終わったら膝枕を」

 

「ずるいぞぅ!俺は一緒にお買い物!!」

 

「頭をなでなでしたい!」

 

「おうこらお前等!久しぶりの再会だからってはしゃぐんじゃねぇ!」

 

隊長が部下達に喝を入れて元の調子に戻していく。それを見ていたハジメは、「俺の深月にそんな事させるわけないだろ」と口漏らしてしまい深月にチョップされて悶絶しているのは言うまでもない

 

「うわぁ~、深月ちゃん強くなりすぎぃ」

 

「見ろよ、ただのチョップで足元が陥没してるぞ」

 

「尻に敷かれる男だな」

 

ハジメを見てケラケラと笑う隊員達だが、隊長が全員にアルバムを手渡したと同時にそのふざけた様子もすっかりと形を潜める

 

「現物は各所に隠してある。それと、坊主はご自慢のアーティファクトやらを使うなよ?ここは地球で異世界じゃねえんだ。未知の力にはそれ相応の隠匿が必要になる。今回は都内の戦いとなるから違和感のない様に立ち回れ」

 

「ハジメさんは単独行動厳禁です。敵が混乱している中の鎮圧係と言った方が分かり易いですね?」

 

「それはいいんだが・・・深月の立ち位置はどうなるんだ?いつもみたく先行するのか?」

 

「あ~、坊主が知らねぇのは当たり前か。深月ちゃんはスナイパーだ」

 

隊長が指差す先には大きなバイオリンケースが置かれていた。深月がウキウキでそのケースを開けると、当時愛用していたライフルが形を変えて収められていた

 

「こいつは高坂家と元帥達の合同チームによって作られた対物ライフルだ。誰にも扱えないとお蔵行きになった代物だが、深月ちゃんなら余裕だろ?高坂の旦那には色々と教えてもらってるぜ」

 

「うっわ、隊長マジっすか?これって超重くて誰にも扱えないって言ってたのを深月ちゃんが扱えるってやっぱ流石だわ」

 

「ふむ、お嬢様に作っていただいた五十mm対戦車ライフルよりも幾分か小さいですが、問題なく扱えます。ふふふっ、昔を思い出しますね」

 

深月の呟きを聞いた隊長を含めた隊員達は、笑顔で固まっていた。それもそうだろう、五十mmの対戦車ライフルなんて聞いた事がなく、破壊力がどれだけあるのかも想像すら出来ない

 

「さ、さぁ~て、やるぞお前等~。これが終わればバーベキューを奢ってもらえるぞ」

 

「よっしゃあ!高坂家がスポンサーだから良い肉が食えるぜ!」

 

「俺は深月ちゃんの手料理を食べたい」

 

「後で頼もうぜ!」

 

彼等は作戦後のバーベキューを楽しみに各々持ち場へ向かう。ハジメも手渡されたアルバムに偽装された情報資料を頼りに一般人を装いつつ手慣れた感じで荷物を受け取った。尚、深月は町を見下ろせる山に赴いた

 

ふむ、弾丸も特別製ですね。貫通力と破壊力を両立させた逸品は流石プロフェッショナルと言うべきでしょう。飛距離は約五km―――かなり飛びますね。今日は無風ですのでもう少しだけ伸ばす事も出来ますね

 

ケースから対物ライフルを取り出して組み立て専用のスコープを着けようとしたが、身体強化を眼に集中させる事で遠くまで見る事が出来たので付けるのは止めた。メリットは狙撃位置を変えられるという事だ

インカムを装着し終えた深月は、強化した視力で目標のアジトの様子を窺う。そこに気配感知と熱量感知を用いる事で正確な位置が割り出す事が出来た

 

『こちらメイド、ロングショットの準備完了しました。そちらの用意は如何ですか?』

 

『こちらアルファ、ロングショットは何時でもいいぞ。但し、枚数は言ってくれよ?』

 

『そうですね・・・予備の為に十枚いきます』

 

『こちらベータ、了解した』

 

深月は狙撃準備が完了したので、開幕の一発―――窓際に居る男に狙撃。弾丸は真っ直ぐ頭部に吸い込まれて相手を即死させた。それと同時に、アジトの中に居る気配が慌ただしく動き盾になるであろう物置等を背にした。さて、ここで普通なら攻撃を止めるが深月の場合はちょっとしたズルでこの問題も解決してしまう

 

気と魔を螺旋コーティングしてシュートッ!はい、もう一人やりました

 

深月の感知先には盾にしていた障害物諸共爆砕して体をミンチにされた者だった。また一人、また一人と殺され、残りは三十人ほどまでに減った。それと同時に全隊が突入した

 

「ひゃっはー!深月ちゃんの洗礼はどうだぁ!」

 

「首置いてけぇ!」

 

「武器を置いて投降は却下だぜ!」

 

「おっと、逃げても無駄だぜ。なんせ、こちらには凄腕のスナイパー様が居るからなぁ!」

 

深月が爆砕した壁から突入する班と正規の扉から突入する班に分かれて行動しており、敵はみるみると減った。しかし、その敵の中にはリストアップされた重要人物は居なかった。敵もよくやるが、最早詰みなのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(馬鹿な馬鹿な馬鹿なぁああああ!何故あの変態共が居る!?何故このアジトがバレたのだ!?くそっ!逃げ出せたのは私一人だけだとは・・・。しかし、この通路は私以外誰も知らない脱出経路だ)

 

たった一人の生き残りである所長は必死に足を動かして出口へと走る。時々後ろから聞こえる足音に恐怖しつつ逃げる。曲がり角にぶつかりながらも、走る勢いを殆ど削らない様に逃亡するその姿はとても醜悪だ。そして、遂に出口の一歩手前まで辿り着いた所長は安堵の笑みを浮かべながらその扉に手を掛けて開いた

 

「私は勝った!私はかっ―――」

 

「ご苦労様でした」

 

所長が扉を開けた先には、深月が立っていた。その時点で所長の頭の中には宇宙猫が沸いて現状を何一つ理解出来ないでいた。そして、ようやく理解が追い付き

 

「ぎゃああああああ!?助けっ、助けてくれぇ!?」

 

来た道を戻り、鉢合わせた隊長達に蜂の巣にされたのだった。黒幕の悲しき最後―――、ハジメとしては捕まえて情報を取り出す方が良かったのではないか?と提案したがそれは却下された

 

「坊主の言う通り情報は貴重だ。だが、こいつのパイプは国の裏とも繋がっている。切り捨てられる事がない人材というのは、引き抜かれるという事だ。何処の国もこいつの身柄を欲していると言った方が分かり易いか?」

 

要するに生きているだけで有害な人物なのだ。国からは裏の取引で保護される可能性もあり、それは彼等の国でも起こりうる可能性も無きにしも非ず。次の機会は与えない事が重要なのだ

 

「やっぱり裏で買収があるのか」

 

「こっちでは日常茶飯事だが、元帥が睨んでいるから易々とは出来ねぇさ。もし悪の重要人物を引き抜きを発見した際、俺達全員高坂家の私設傭兵になるのが決まってるからな!元帥も俺達同様で、「引き抜きしてくれないかな~」ってぼやく程だ。俺達は元帥の命令でさっきの奴は必ず殺せって命令されてるから殺したんだが・・・正直言うと拘束して持ち帰りたかったぜ。ほぼ確実に高坂家に移動できるかもしれなかったのによぉ~」

 

「それだけあの馬鹿は価値があったと?」

 

「遺伝子系で右に出る者はいないって聞く程だからな。どうせ重要人物達の寿命を伸ばせやらクローンを作れやらと言われるんじゃねぇか?そういう点で言うなら坊主達も気を付けろよ」

 

隊長はハジメの背を軽く叩き、部下達と共に事後処理に向かった

 

「人生経験が違うな」

 

「あれでも彼等は最前線で戦う特殊部隊ですから当然です。ささっ、早急に撤収準備をしてください」

 

深月は、話しながらライフルを全て片付けて周囲に痕跡が残らない様にキレイキレイし終え彼等の後を追った。ハジメも深月の後を追って秘密の通路の前を通り過ぎた際、微かな振動の音が聞こえた。しかし、それは一瞬だった

 

「・・・気のせいか?」

 

ハジメはジッと通路の奥を見るが、怪しい所はなかったので心の隅に置いて皆と合流した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒幕の研究者達を全て排除し終えた皆は、高坂家が所有する別荘に訪れていた。そして、いつの間にか別荘へと訪れていた嫁-ズとその両親と元帥がBBQを楽しんでいた

 

「パパー、お帰りなの!」

 

ミュウが駆け寄り、ハジメが高い高いしてしっかりと父親をしている。その様子を見た隊員達は、BBQを楽しんでいるハジメの嫁達を見てハジメに舌打ちをする

 

『チッ!』

 

ハジメはゲスい笑みを浮かべながら隊員達を見ていると、皐月が後ろからハリセンで頭を叩き彼らに謝罪した。その後、ハジメは深月にジト目で睨まれてタジタジになり彼等に謝罪した。その様子を見ていた彼等は、嫁の尻に敷かれている旦那だと理解した

 

「さて、隊長報告をしてくれ」

 

「分かりました。資料に書かれていた者は全て排除、念には念を入れて頭部と心臓に一発撃ち確実に殺しました。そして、最重要である黒幕の研究者は蜂の巣にしたので生きてはいません。脈もない事も確認しました」

 

「資料に書かれていない者はどうした?」

 

「その場所に居た者達は全員です」

 

「分かった。これで全て解決した。皆は存分に英気を養ってくれ」

 

元帥の一声で隊員達は歓声を上げながら肉へと群がった。ハジメも彼等に肉が奪われないように走って向かおうとした時、ふと深月が一点を見ている事に気付き立ち止まる。深月が見ている先は山―――秘密の通路の出口があった場所だ

 

「深月、山奥を見つめているがどうした?」

 

「・・・嫌な予感がします」

 

「おいおいマジかよ。嫌な予感ってどんな風だ?」

 

「えぇっと・・・気が山奥に流れていると言えばいいのでしょうか。・・・いえ、これは吸い取られている?」

 

「薫さんヤバイですっ!深月が嫌な予感するって言ってます!!」

 

ハジメの声を聞いた皆の動きはピタリと止まり、明るい空気から一変して重苦しい空気に変わる。皆が深月の元に集まり、視線の先の山を見る。しかし、深月以外の者は何がおかしいのかが分からなった

しかし、変化は一瞬で起きた。森に住んでいるであろう鳥や動物達が一斉に逃げ出した。その先には街がありかなり危険だと思われるが、町の方も野生動物達が逃げていた。特に、飼い犬は山に向かって何度も吠えたりしていた

 

「来ます」

 

「かなり地中深くに眠っていたのですね」

 

深月は地中深くから何かが出てくる事に気付き、皆に見える様に指をさす。皆がその先を見ていると、地面が隆起して爆発したかの様に土が飛び散る。そして、現れたものを見たハジメがありのままを呟く

 

「おいおい、地球はいつからこんなファンタジー世界の仲間入りになってんだ?"ゲームで言うならアースドラゴン"か」

 

翼は無いが、強靭な四肢と長い首に大きな頭―――遠目からでも分る甲殻。山と見間違う程の大きさの巨大なドラゴンが姿を現したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「最後のあれ何ですか?」
布団「何ですかねぇ~?」
深月「全く・・・どうしてこうも厄介な事ばかり起きるのですか!」
布団「それは運だよ」


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アースドラゴン?トカゲはメイドには素材に見える

深月「更新です」
布団「まぁ、皆予想通りの展開でございます」
深月「アースドラゴン?の肉質はどの様な感じなのでしょう?」
布団(ターゲットロックオン・・・メイドを発射)
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」







~深月side~

 

山を崩して現れたアースドラゴン?を見た皆が思った事はただ一つ―――、あれ何?という一言だけだ。もっとも、深月と執事長だけはあんなのまで培養したの?という疑問。深月は嫌な予感がした。アースドラゴン?は咆哮して深月達が居る場所に向けてゆっくりと歩き始めた。遠目からでも分る重量感、歩く度に地面が抉れて大きなクレーターが出来ている。そして、深月に遅れる様にハジメ達は気付いた

 

「おい、あのアースドラゴンこっちに来てねぇか?」

 

「奇遇ね。私もそう思うわ」

 

「・・・やる?」

 

「いやいやユエさん、あれはやらなきゃいけないですよぉ~」

 

「同族の気配ではないのう。この地に住む固有種かもしれぬの」

 

トータス組の戦闘出来るユエとシアとティオは迎撃するき満々だ。その様子は、何処かストレスを発散したい様子だ。だが、薫がこれに待ったをかける

 

「待ってくれ。流石に日本ではない所で暴れてしまうと色々と事後処理が・・・」

 

「それをどうにかするのが貴方の仕事でしょう?」

 

「そうだけど・・・とにかく女王陛下に連絡の一つでも入れないと」

 

「薫さん、こういう時に便利なアーティファクトを作っています。M〇Bのニューラ〇イザーを作りました」

 

ハジメが懐から取り出したのはMI〇でエージェントが使っているピカッと記憶消去の便利道具と酷似したアーティファクトだった

 

「個人的に欲しいが、今回はそれすら意味がないだろう。あの街に居る住民達が既に情報共有で録画したり配信したりしている筈だ。そして、だからこそ女王陛下にも既に情報が上がっている筈だよ」

 

薫が懐から携帯を取り出して連絡を取る。勿論、この国のトップである女王陛下直通の個人電話だ。相手と繋がったのか薫は現状を報告して深月に視線を向け、深月は首を縦に振り反応を送る

 

『確実性に欠ける重兵器による広範囲の環境破壊と確実に殺せる事が出来る帰還者―――高坂家使用人の神楽深月の二択。どちらが宜しいですか?あぁ、勿論巨大生物はこちらで全部回収してそちらに加工品を送るという形でお願いします。今回の巨大生物の事件が今回潰した組織の副産物であれば研究するのは危険です』

 

薫が女王陛下に無茶を言っているのは分かるが、確実性に欠ける作戦と必ず大丈夫な作戦なら後者を選択するのは国の長の判断としては普通だ。逃げ道を用意し、相手にもメリットを提示しつつデメリットが大きい事をワザと伝える。腹黒とまではいかないが、かなりマシな落としどころだ

 

『はい、・・・はい。ではその様に対処します。メディアに高坂家の名前を出して頂いて構いません。彼等に情報を与える前に軍の派遣による予測被害とその損失を説明した後でお願いします。では、その様に』

 

薫は電話を切り、ハジメ達に分かり易く説明する

 

「さて、時間も惜しいので簡潔に説明するよ?先に言っておくけど、皐月は危ないのでお留守番だよ?」

 

「えぇ~、私はあのアースドラゴンを調べたい!お父さん、私も現場に行っても良いでしょ!?」

 

「駄目よ。皐月はここでお留守番ね」

 

皐月はあのアースドラゴン?にとても興味を示しており、直で調べるつもりだったのだが両親に止められて渋々ながら諦める形となった

 

「大丈夫ですお嬢様、私が手早く処理して全て持ち帰るのでゆったりとお待ちください!というわけで、今回活躍した精神担当はお休みですよ?」

 

「はぁ?ポチの時に蹂躙したでしょう?今日は全て私の仕事です。これは絶対に譲りません!」

 

互いが睨み合いどちらも譲らない状況に周囲が苦笑していたが、皐月が手を叩いて間を取り持ち命令を出す事にした

 

「いがみ合いもその程度にして協力して倒しなさい。そして、死体は大容量宝物庫に収納してきなさい」

 

皐月が深月に手渡した腕輪―――指輪型の宝物庫よりも数百倍の量を収納する事が出来る優れ物だ。大型タンカー船であろうと余裕で入る程大きい。とはいえ、アースドラゴン?を丸々一体は厳しいので解体してとなるだろう

 

「血は大樽五個分で良いわ。それ以外は清潔で全て掃除しなさい」

 

素材は一切残すなという普通では厳しい条件だが、深月ならば清潔で全て事が済むという事だ。爆発でもしてしまえば血が吹き散るのでそれはあまりよくない

 

「・・・どうすればいいのか少し悩みますね」

 

「では、こうしましょう。打撃で肉叩きです」

 

「確かに、それならば下処理の時短が出来ますね」

 

これを聞いた皆は、「えっ、あれ食べるつもり?」と内心で思いつつハジメは味について興味津々だ。とはいえ、全ては倒してからの判断となるので少しばかり先の話だ

 

「計画は決まりました」

 

「それでは、お嬢様達は少しばかりお待ちください」

 

二人はアースドラゴン?に向けて駆けて行った

山の木々を隙間を縫う様に疾走する深月。森を抜けると、広い草原に出て遠くの方でアースドラゴンの巨体がどれ程の物かが分かる。小山一つ分の大きさで、竜化したティオよりも遥かに大きいだろう。だが、如何せん翼が生えていない事もあってドラゴンだと思えない

だが、周囲の被害は甚大だ。現れた事により野生動物が逃げ惑い都市部に入り住民を混乱させた挙句外には巨大なアースドラゴンとなれば大混乱だ。それでも、こちらには来ないと思っている住民の中には避難せずに動画を撮っている。戦いの余波が及ぶ可能性を全く考慮していない愚者だ

 

「住民の避難が遅いですね。危機感が足りないのでしょうか」

 

「少しばかりの演出が必要ですね。しかし、あのトカゲにその様な力があると思いますか?」

 

「物理で物を飛ばす程度でしょうね」

 

深月は、本当にどうしようかと悩んでいるとアースドラゴンが動いた。口を大きく開き、口内に気の流れが集中していた。このままでは少し不味いと感じた学生深月は、取り敢えず後ろに余波が行ったとしても問題ない空中へと駆け上がる。アースドラゴンの口は深月を追う様に移動したので、狙いは深月である事が確実だ

 

『ゴガァァァーーーーーーーーー!』

 

光の本流が口から吐き出され深月を襲うが、深月は黒刀を縦一閃に振るい身を置く場所だけを切り伏せる。光の本流は縦半分に切り裂かれ、一筋の斬撃がアースドラゴンの顎を浅く切る。深月が全力を出していないとはいえ、光の本流を切り裂く程の斬撃の威力ですら浅く切るだけとなるとかなり頑丈である事が分かる

 

あれを覆っている甲殻は中々良い素材ですね。加工が出来ればお嬢様が行きたいと仰られていたコミケのコスプレの材料にしましょう。有害物質が常時生成されていなければ、私の清潔でイチコロです!

 

もう既にアースドラゴンは深月にとって動く素材と認識されてしまった。大人深月が力強く大地を蹴ってアースドラゴンの胸部に飛び込んで鉄山靠を放ち、体勢を大きくのけ反らせた隙をついて学生深月が宙を掛けてアースドラゴンの首に回し蹴りを叩き込む

よろけて地面に倒れたアースドラゴンは、怒って暴れようとした。だが、遅すぎた

 

「素材!素材全部置いてけ!」

 

「肉叩きですよ!余すことなく食べますので安らかに逝かせて差し上げます!」

 

アースドラゴンは泣いてもいいだろう。これから行われるのはただの蹂躙という名のリンチである。内部浸透系の打撃技を中心に甲殻に覆われていない場所が打ち込まれ、重要器官を麻痺させていく。その時間を徐々に長くなっていく事で行動時間を奪う

 

「斬艦刀っ!」

 

大人深月が宝物庫から取り出した巨大な剣―――対艦刀だ。それを地面に叩き付けて投擲する様に上に振り上げる事で遠心力で空を飛びながら魔力放出で更に加速、流星の様な軌跡で昇り、その勢いを殺さずにアースドラゴンの首目掛けて急降下

 

「チェェェェストォォォォーーーーーッ!」

 

全ての力を削ぎ落さずに放たれた一刀がアースドラゴンの首を容易く両断した。遅れて噴き出る血は樽に入れたり瓶に入れたりして十分な量を確保した後、清潔でいつも通り血抜きしてテキパキと動く。宝物庫にアースドラゴンを入れ終えて全てが完了

 

「さて、次はこれが起きた原因を調べる必要がありますね」

 

「取り敢えず先に冷凍保存しましょう。新鮮な素材が駄目になってします」

 

深月は皐月達の元に帰り、町に居た住民達は何かに攻撃されていたアースドラゴンが姿を消した事に困惑したりと翌日のニュースで大騒ぎとなったのは言うまでもない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

欧州から帰国したハジメ達は、高坂家の地下に増設された倉庫に来ていた。そこは空間を拡張された広大な資材置き場や遊び場ともなっているのだが、今回の出番はアースドラゴンの解体場所となっている。如何せん巨大過ぎるので、国土の狭い日本では出来ない。しかし、空間魔法を使った特殊な地下室ならアースドラゴンが余裕で入るのだ

 

「あ"ぁ"~、この解体は大変だなぁっ!」

 

「ヒュドラよりも大きいこれは中々に疲れるわね」

 

「まぁ、深月さんが血抜きしてくれているからそこまで酷くないのが幸いですよねぇ~」

 

「・・・あの血は結晶のストック代わりにする」

 

「ユエよ、地球ではあまり魔力は使わない筈じゃぞ?」

 

「・・・念の為。前みたいに皐月達が飛ばされる可能性があるからいざという時の回復薬」

 

事故で並行世界へと繋がってしまった事による警戒は当然だ。一応全員に宝物庫を持たせ、その中には人工神結晶の魔力タンクとアンテナが入っているので座標を発信する事が可能となっている

 

「ねぇねぇユエ、このアースドラゴン?の血でも魔力が回復するの?ここは地球だからトータスと違って魔力が無いよ?」

 

「香織の疑問は正しいわ。でも、このアースドラゴンの血には何故か魔力が感じられるのよ。どういう事なのかしら?」

 

雫は、採取した血に魔力が宿っている事に気付いていたからこそ不思議なのだ

 

「香織や雫の懸念も分かるが、これも深月に探らせるしかねぇな。千里眼で縁を辿るのは出来るか?」

 

「縁って・・・それって千里眼の範疇に入っているの?」

 

「深月ならいけると思ったからだ!」

 

薫に便利道具扱いしてはいけないよと忠告をされているにも拘らず、この様に信頼して「出来る!お前なら出来る!」と言っているハジメはある意味駄目だろう

 

「ハジメは深月に頼り過ぎよ。その位の概念魔法なら私達で創って今あるアンテナの改良に役立てた方が効率いいでしょ」

 

「私が創るのは構いませんが?」

 

深月からすれば切り札が増える事に越した事はないと考えているので、創れと言われたのなら早速創ろうとするのだがそれは一時中止する

 

「ちょっと嫌な予感がするからね?」

 

皐月の直感が、この件は危険があるかもしれないと警邏を鳴らしていたのだ。生死に関する程大きなものではないが、要らぬ厄介事が舞い込む可能性が高いと予感している

 

「皐月の直感が働いているのか。それならいざという時の深月は温存しておくべきだな」

 

「・・・皐月の直感は未来予知レベル」

 

「わ、私だって未来視出来ますよ!?」

 

「シアの未来視と皐月の直感は別物じゃぞ?」

 

皐月の直感に関しては自身の嫌悪に反応するだけなのでシア程万能なものでもないが、今まで百発百中の発動率なのでどちらも優れていると言える

それはさておき、皐月は縁を辿る概念魔法を創る。効果は単純故に、皐月一人だけの魔力量で事足りた。概念魔法を創り終えた皐月は人工神結晶で魔力を回復してからアーティファクトの製作に取り掛かる。それは現代機器のモニターで、付与する概念魔法は先程作った縁を辿る+千里眼の二つだ。効果は縁を辿った先の景色を映すというシンプルでありながら最強の情報収集兵器だ

 

「ハジメは枠組みをお願い。深月は千里眼を付与した魔力糸を束ねたケーブルを作って」

 

「一応映像を映すモニターカバーとケーブルカバーも作っておくぜ」

 

「取り敢えず束ねまます。百本束の二メートルが良いでしょう」

 

それから十分も掛からずにモニターが完成し、高坂家に設置しているアンテナに増設した。これでクリスタルキーを使った際に、行先の映像を映す事が出来るという事だ

 

「作っててなんだが・・・最強の情報収集装置が出来たな」

 

「・・・衛星カメラが玩具になるわね」

 

「まぁまぁまぁ、備えあれば患いなしと言うではありませんか。悪用をしないのであれば、防衛や捜索の為の設備と言う事で話が付きます」

 

悪用しなければ最強の情報収集設備が完成し、今回の騒動の本当の黒幕が誰なのかを探る。映像に一瞬ノイズが走り少しして景色が見え始めたのだが、其処は地獄の様な暗い景色に赤色の世界だった

 

「何だこりゃ?」

 

「夕暮れの赤色じゃないわね。地下施設か何かなの?」

 

ハジメ達が「これは一体どういう事か」と疑問に思っていると、突然シアの隣の景色が歪んで、其処から黒色の肌と頭に角と羽―――ゲームでお馴染みの悪魔が現れた

 

「ヒャハハハハハ!久々の現実世界だなぁおい!と言うわけでその体を寄越せやぁ!」

 

悪魔がシアの頭を掴みかかった。恐らく、掴まれたら憑依なりされるであろう。だが、トータスの最終決戦が終わっても尚深月によるブートキャンプが続いていたので、この程度の不意打ち等は容易に予測出来るのだった

 

「何ですか貴方?」

 

悪魔の掴みは失敗に終わり、逆にシアのアイアンクローが悪魔を締め上げる。深月に次ぐ怪力のシアの絞めは、油圧プレス機を遥かに越えている。結果はというと

 

「ぎぃゃぁぁぁぁーーーーーー!?」

 

なす術もなく拘束されるだけだった

 

「およ?結構力を入れて絞めているのに潰れねぇです」

 

取り敢えずシアだけの拘束だと取り逃がす可能性もあるので、大人深月が悪魔を探知して拘束に有効な純粋な魔力の糸で雁字搦めにした

 

「アストラルボディですか。魔力を伴う攻撃なら有効打になります」

 

「クソッ!だが、お前等は俺を殺すことはできねぇぜ。何せ暗黒界がある限り何度でも甦るからなぁ!」

 

恐らくと言うよりも確実に悪魔はこの個体だけではないだろう。この現実世界が割り出せたのなら、其処に雪崩れ込んで来るのが目に見えている。だが、忘れてはいけない。此方には相応の武器が開発されている

 

「皐月、縮退炉を使うぞ」

 

「オッケー。深月、魔力の注入お願い♪」

 

「まっくろくろすけお玉に注入します」

 

学生深月が魔力を注入している様子を見た悪魔は、顔を青褪めて震えていた

 

「ば、馬鹿な!?何故人間が魔力を持っている!?」

 

「それを馬鹿正直に答える奴なんて居ねぇよ」

 

縮退炉に魔力が完了。後はこの縮退炉を爆破させたら、超お手軽ブラックホール爆弾と化すのだ。例え悪魔達が住む世界が広大であれ、何でもかんでも潰しながら吸い込むこれには手も足も出ない

 

「縮退炉の暴走まで三十秒にセット!」

 

「転移門を暗黒界へ繋げました!」

 

「ピッチャー、第一球投げますっ!」

 

深月が手に持つ縮退炉はどんどん熱を帯び、魔力糸で作った専用グローブが徐々に溶け始める。カウントを三十秒にセットしてあるとはいえ、丁度で閉じるなんて馬鹿な事はせずに放り込んだ時点で閉じた。モニターで向こう側の様子を観察していると、カウント丁度で黒一色となり観測不可能となりモニター本体が爆発した

 

「・・・ブラックホールって怖いわね」

 

「・・・だな。観測していたモニターがぶっ壊れるとは予想していなかったぜ」

 

さて、暗黒界も滅ぼした事で後々現れる悪魔は存在しなくなった。そして、雫がハジメ達の目の前で拘束されている悪魔の首筋に黒刀を沿えた

 

「それじゃあ、さようなら」

 

「待って待ってk―――」

 

悪魔が命乞いをするが雫は黒刀を振り下ろして首を刎ね、悪魔の身体は透き通る様に消えた。しばらく様子を見ても悪魔が蘇生する様子がない事から警戒を緩め、大元の目的であるアースドラゴンの解体を再開した。甲殻や鱗を丁寧に剥ぎ取りつつ、手早く解体していく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解体作業を一日で全てをする事が出来なかったハジメ達はかなり疲労困憊していた。ある程度の部位で切り分けていたからこそ、各々分担して無駄のない作業がスムーズに出来ているのも大きいだろう。尚、深月は一番の大物である胴体を二人で作業していたりする

 

「まさか解体でここまで時間が掛かるとは・・・」

 

「使用人のサポートがあってもここまで大変だなんてねぇ・・・」

 

「だが・・・俺達はまだマシなんだよなぁ」

 

「・・・深月のあれを見るとね」

 

解体が終わったハジメ達が見つめる先は、未だに解体が終わっていない胴体部分を担当している深月だ。大きな甲殻が沢山+鱗沢山+内臓沢山のてんこ盛り作業はかなり苦労する。いや、こればかりは深月だけしか出来ない点も遅い理由の一つだ

アザンチウムを錬成した背の高い柱を複数本設置して、魔力糸のロープで体を浮かす様に吊るして解体している。最初はユエが重力魔法で浮かそうかと提案したが、超重量の前にはせいぜい数分持ち上げる事しか出来なかった。そして、消去法として鎖状のアザンチウムよりも、ロープの様に張りがあり柔軟かつアザンチウム並みの硬度を持つ魔力糸で作業をするという事だ。ハジメ達も最初は手伝おうとしたのだが、もしもの可能性がある為待機しているのだ

 

「シアさん、心臓を渡しますよ」

 

「バッチこいですぅ!」

 

そして、唯一深月の手伝いが出来るのはシアだけだった。シアの身体強化は、最大まで引き上げると身体強化をしている深月よりも馬力が少しばかり上になるというゴリラの如く進化しているのだ。このお陰でシアは解体した四肢の一本を持ち運べる程強くなっており、内臓程度ならば運ぶ事が容易という事だ。そして、保険としての未来視を持っているので事故に遭う確率はかなり低い

深月がアースドラゴンの中に入って解体しながら各部位を引き摺り出すが、先に血抜きをしているので血濡れる事はないのが救いだろう。アースドラゴンの中から次々と内臓を出し終えた深月は、背骨の一関節ずつに分けて輪切りにして切り分ける

 

「おぉ~、さっすが深月さん。あの大きい体を一刀両断ですぅ!あ、斬艦刀?を使わないのはなんでですか?」

 

「斬艦刀は引き斬るというよりも叩き切りますので、肉質を損なわない様にするには引き切るのが一番です」

 

「なるほどなるほど、料理と一緒ですねぇ~」

 

「では、切った輪切り胴体を転がして別々に広げ置いて下さい」

 

「了解ですぅ~。ハジメさ~ん、テーブルか何かを作ってください」

 

シアは輪切りされた胴体を転がし運び、ハジメは輪切り胴体が乗る様なテーブルを錬成したりと馬車馬の如く働かせる。現在、輪切りにしているのは学生深月で、大人深月は内臓諸々をキレイキレイして必要分以外を切り分けて冷凍して巨大冷凍庫に放り込んでいる。

この巨大冷凍庫についてだが、これはシュネー雪原の大迷宮からヒントを得て急速冷凍が出来る様に超強力な性能でポチの食糧庫として活用する事にしているのだ

 

「ふむ・・・なるほど。・・・後は毒見を誰にしていただくか」

 

大人深月は、輪切りで整えられた肉の塊を受け取って小さく切って焼いて食べた。しかし、清潔で毒素を抜いたとはいえ常人に与えても大丈夫かどうかが分からない為に皆で食べる事を躊躇っており、何処かに実験体が居ないか探していると薫や元帥等の今回の作戦に携わった関係者が入って来た

 

「あれが深月ちゃんが仕留めたドラゴンだよ」

 

「えっ?あの巨体を倒したの?現代兵器使わずに?」

 

「俺達も見てたぜ。山みたいな大きさのドラゴンが吹っ飛ばされる光景なんて見られねぇよ」

 

「そ、そうか・・・。はぁ、胃が痛くなる」

 

因みにこの元帥さんについてだが、米国の大統領等を中心としたトップから帰還者を拉致しろと命令を受けていたがそれは全て却下したり説得して止めさせたりと大忙しな状態だったのだ。そして、ようやく落ち着いたと言う所でアースドラゴンを撃退した帰還者―――となれば、再び説得したりと動き回る羽目となったのだ

 

「もうヤダ。仕事辞めたい」

 

「もう辞めちまいましょうよ。俺達にもクソ命令来始めてるんですよ?」

 

「一斉退職・・・責任・・・うっ、頭が」

 

「退職したらこちらに来てね?」

 

元帥は更に項垂れて疲れが浮き彫りになっている。普通ならここで相談する事ではないのだが、事が事なので尋ねるのは仕方がない。深月は薫にアースドラゴンの肉について分かった部分を簡潔に書面に記して判断を窺う

 

「大旦那様、こちらが知り得たお肉の情報です。一応食用可なのですが、それはあくまで私達・・・ハジメさんとお嬢様と雫さんと私の四名ならばとなります。マウスの毒見も済みましたが、人限定に副反応がある可能性も否めません」

 

「・・・ふむ、修冶に食べさせよう」

 

「!?」

 

「安心して下さい。いざとなれば香織さんに治療をしていただきます」

 

「深月さん、呼んだ?」

 

香織を呼んだ深月は執事長を捕縛して椅子に縛り付けた。スピーディーな捕縛に感嘆しつつ、深月が持つ皿に乗せられた一片のブロック肉

 

「ささ、お食べ下さい。例え死んだとしても、数分以内なら蘇生出来ますのでご安心ください」

 

「ヤメローシニタクナーイ!」

 

執事長の抵抗は空しく、深月によって口をこじ開けられて肉を放り込まれて飲み込んだ。待つ事数分―――、執事長の体調の変化はなく、深月と香織の鑑定結果から無問題であるという事が分かった

 

「食用可ですね。しかし、私が清潔を行使した場合ですので食べる際にはここだけ注意ですね」

 

「ふむ、先に全ての肉に出来るかい?」

 

「冷凍保存なので解凍時に菌が繁殖する可能性もあるので念には念を入れてが一番かと」

 

「なるほど。では、使用する場合は決められた曜日にしよう。予めに決めていたら解凍する時間も計算する事が出来る」

 

「かしこまりました。本日は解体日という事もありますので新鮮な内に皆でそれなりに食べましょう」

 

深月が解体中の肉を切り分ける仕事に移るが、その前に薫から今まで誰も言わなかった重要な事が告げられる

 

「ところで・・・このドラゴンと悪魔の関係はどういったものだったんだい?」

 

いや、忘れていたと言った方が正しい。しかし、これはアースドラゴンを討伐した深月はおおよその検討はついていた

 

「悪魔なのですが、恐らくこちらに顕現する為のエネルギーを回収する為だと思われます。そして、あのアースドラゴンは通常のトカゲが進化したものです」

 

『・・・え?』

 

誰も予想出来ていなかったのだろう。皆が固まっても解体を続ける深月に、ハジメがツッコミを入れる

 

「いやいやいやいや!?あのアースドラゴンが元トカゲ!?嘘だっ!地球でもファンタジーな生き物は居るんだっ!!」

 

どうやら、ハジメは夢を諦めきれないのだろう。地球にアースドラゴンが居たのなら、何処かにファンタジー生物が存在する可能性が高いと予想していたので探検する予定を立てていたのだろう

 

「悪魔による魔力の影響で幻想回帰の進化―――、応用すれば他の生物も進化するかもしれませんよ?」

 

「天然物が見たいんだ!俺は諦めねぇ!諦めねぇぞ!!」

 

深月は溜息を吐きながら現実を突きつける

 

「UMAのイエティや猿人は居ますが、天然物でファンタジーな生物は存在しませんよ。千里眼で全て確認したので間違いありません」

 

「居ないの?」

 

これがハジメの夢だけならば傷は浅かったのだが、ここには一番夢見る子供が居るのだ。深月が声が聞こえた方に振り返ると、涙を流しているミュウの姿があった。しかも、深月以外の女性陣に慰められているという特大のおまけ付きでだ

 

「深月、ちょっと来なさい」

 

「・・・はい」

 

皐月はそのまま深月をドナドナして別室へと連れて行き説教をしに行き、残った学生深月は気まずい空気をスルーして解体を続けた。だが、他の皆からの冷たい視線がグサグサと突き刺さる

 

「これ絶対どっちも知ってるよな?」

 

「・・・空気読めない」

 

「ミュウちゃんが可哀相です」

 

「幼子のミュウにあの仕打ちは酷いのう」

 

「深月さんって何時もは空気読めるのに、肝心な時って空気読めないよね」

 

「香織、あれは無自覚よ。皐月以外には思った事を口に出す厄介な性格なのよ」

 

正に言いたい放題だ。地球に帰って来てからも時々行われるブートキャンプにストレスが溜まり、それを発散したいが為にネチネチと言っている。しかし、これは悪循環である事をハジメ達は気付いていない。深月のストレスが溜まったらより一層厳しいものに変わるというのに・・・

そんなこんなしていると、皐月達が戻り解体作業の再開となった。尚、深月への罰は後々決めるという事で話が決定している。断じてハジメ相手にシロとは言わない。皐月がそれでは罰にならないと判断しているので、恐らく皐月関連で一時供給を断つという地獄に変更するという可能性が濃厚となった。後に、深月は「・・・解せぬ」と不満そうにしていたが、ミュウの夢の一つを潰した責任は大きい

こうして高坂家の力が世界中に発信され、家に突撃して来たマスゴミはポチにドナドナされて追い出されて行き、世界中のセレブ達は深月を一時的に貸してくれないかと打診が来たりと様々だ。後者に関しては、皐月が計画するメイド専門学校の設立の為に資金提供を呼びかけ、快く賛成されてスポンサーになったりと優先権が与えられたりと今回の件で色々と楽になった事が多かった。まぁ、一番凄いのは欧州の女王陛下が育成した最優秀のメイドを数人欲しいと言った事だろう。これは深月達による教育も捗る事は必須=教え子達はある意味で地獄を体験するのであった

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「いや~、呆気ない最期だった」
深月「納得がいきません!」
布団「子供の夢をぶち壊した責任は大きいのですじゃ」
深月「叶わない夢を追い続けるよりも、叶う夢を追い続ける事が良いではありませんか」
布団「だから空気が読めないって言われるんですよ~」
深月「解せぬ」


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影の薄い人はメイドに告白するが・・・・・

布団「仕事がいきなり入ったので更新が遅れました」
深月「・・・大変ですね」
布団「それでは、どうぞ!」
深月「読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」





 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはハジメ達が地球に帰る前の戦いの記録である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

人工神結晶を作成しているハジメは、基本的に暇を持て余している。よって、何をするかというと―――解放者の拠点で嫁達とイチャイチャである。勿論意味深な事も含まれており、とても幸福な時を過ごしていた。だが、そんな時間を破る報せが入った。その内容は、遠藤が大怪我をしてフェアベルゲンで治療中との事だった。あの大戦で多大な戦果を挙げた遠藤が大怪我を負った!?と驚き、転移門で早速移動して香織の治療で遠藤は回復する事が出来た

 

「南雲、助かったよ」

 

「あぁ・・・。だが、一体何があった?お前に大怪我させる奴なんて何処のどいつだ?」

 

ハジメ達の疑問点はそこだ。遠藤の実力は皆が認めており、条件付きならば雫相手でも生き延びる程の強さを持つ=敵は雫並みという事が確定する

 

「何処のどいつって言うよりも・・・あれだ・・・試練でこうなったんだ」

 

「ん?試練?」

 

「オルクス・・・は六つをクリアしていないと入れない筈よ?」

 

『あぁ・・・あれか・・・・・』

 

試練と言う言葉を聞いたユエ達は心当たりがあった。それは、大戦が終わった時の話に遡る

ミレディは神域の崩壊エネルギーを地上に影響が出ない為にその身で防いだ。当然、ミレディは死んだ事になる。それによりライセン大迷宮の最後の関門であるミレディとの戦いがなくなる為、神代魔法の取得が容易になってしまう。それを防ぐ為、ハジメと皐月によるミレディゴーレムに代るゴーレムが作られたのだ。ふんだんに使われる鉱石と、ロマン兵器満載の鬼畜仕様―――。もう、神代魔法を取得させる気ゼロだろ!と叫び声を上げる程の強々ゴーレムだ

主兵装はガトリングゴム弾―――。しかし、腕の中に隠された放電鞭による範囲攻撃と接近を許さない近接武器とミサイルの二段構え。それだけでは飽き足らず、足には重力石による縦横無尽に駆ける事が出来る靴とスカートに隠された隠し腕のビームサーベル。背には百基のガトリングビットと十基のシールド+バズーカ。ロマン武器としてロケットパンチ、胸部装甲を開いて非殺傷の大型レーザー、頭部モノアイから目潰しフラッシュ等を搭載している

これを作っている二人に、ユエ達は何度も「そこまでしなくても」と言っていたが、二人の溢れる愛によって押し切られてしまった。ついでに、ボス部屋の壁や障害物全てをアザンチウム加工する事で、破壊される事はなくなったので生き埋めの心配もない

 

「これでようやく南雲に挑戦できるな」

 

「何?」

 

「ハウリア達が言ってたんだ。南雲に挑むなら、先ずはライセン大迷宮をクリアしてみせろ―――ってなっ!」

 

「あいつ等そんな事言いやがったのか!?」

 

おい、俺のバカンスタイムを返せ!とハジメはハウリアを睨みつけると、皐月がハウリア達を拘束していた。流石手が早い。ハジメの考える事をいち早く理解して行動する姿は正に正妻として成せる業だ

 

「俺はやらねえぞ」

 

「何言ってんだ。前に言ってたよな?神楽さんと一緒に出掛けるには南雲に一撃入れなきゃいけないんだ」

 

皐月達は、「あぁ~、そんな事も言ってたな~」と思い出した。遠藤は心を燃やしてハジメに挑戦するつもりで、一撃を入れる策もあるだろう。しかし、皆お忘れではないだろうか・・・・・あの大戦が終わっている=

 

「えっ、深月さんとデートですかぁ?ハジメさんと結婚するんですよぉ?」

 

「あっ、おいシア!」

 

「何・・・だと・・・・・っ!?」

 

ここでシアが言ってはならない事実を口から漏らしてしまった。皐月達が急いでシアの口を塞いだものの、完全に全部聞こえていた遠藤はただただ呆然としていた

 

「・・・南雲」

 

「お・・・おう?」

 

「・・・俺が言った事、男のお前なら分かってたよな?」

 

「・・・否定はしない」

 

「ヤロウブッコロシテヤアアアアアアアル!!」

 

血涙を流しながら遠藤がハジメに襲い掛かった。フェアベルゲンの中?そんな事知ったこっちゃねえ!俺は絶対にお前を許さねえ!とばかりに、怒りに呑まれた遠藤を止めようと皐月達が取り押さえようとするが気配透過で認識をずらしてそのまますり抜ける

 

「ちょ!?」

 

「・・・嘘」

 

「深月さん並みですかぁ!?」

 

「何という覚醒じゃ!」

 

「遠藤くん止まって!」

 

「ハジメに挑んだら死んじゃうわよ!?」

 

皆が止まれというが、遠藤は止まらない。ハジメは舌打ちをして、見晴らしの良い広場への後退と同時にドンナーでゴム弾を発射する。しかし、遠藤は飛び掛かりながらゴム弾をナイフで切断して吹き矢で反撃した

 

「うおっ!?吹き矢で攻撃とか必殺〇事人かよ・・・」

 

「ナァァァァァアアアグモォォォォオオオオオオオーーーーー!!」

 

何時ぞやの正常な判断が出来なくなった勇者(笑)よりも圧倒的に殺意がある攻撃を仕掛ける遠藤。失恋ではなく、もはやNTRに近い行為をされたのだから第三者の男性陣も遠藤の気持も分からなくはない

 

「空蝉爆弾っ!」

 

遠藤の分身が百体現れ、全方位からハジメに向けて特攻を仕掛けた。ハジメはその攻撃の威力は知らないが、香織や雫から聞いた話から予想して絶対に当たらないようにしないといけないと判断して、宝物庫からビットを百基出して迎撃する。ビットの弾幕が遠藤の分身に直撃した瞬間大爆発。煙が舞い視界が悪くなった事で、遠藤が優勢となる

 

「ちっ!少しは落ち着けよ遠藤」

 

「クルルルルルゥゥゥゥァァァアアアアアアアーーーーーー!!」

 

遠藤は、某吸血鬼アニメで出てくる神父さんの様な奇声を上げながら複雑怪奇な動きでドンナーの照準から外れ、糸付き投げナイフで攻撃を仕掛けてくる。ハジメとて何もしないままという訳にもいかず、ナイフを狙い撃ちしようとした

 

「キィィィェェェェエエエエエエエーーーーーーーーー!!」

 

ハジメの両斜め後ろから分身体がナイフで攻撃する。しかし、ハジメはこの攻撃を予測済みだ。懐から取り出したチャクラムにピンを抜いた手榴弾を落とし、遠藤の頭上へ投下。遠藤の分身は手榴弾を自分の武器として手に取ろうとした瞬間、ハジメのヤクザキックで吹き飛ばされてしまった。遠藤本体は、手榴弾に警戒をして突撃しなかったが、ハジメの狙いはこれだ。手榴弾の正体は玩具―――精巧に出来たそれは本物の手榴弾と遜色ない色と形と重量なのに爆発しないという威嚇武器だ

 

「理性が完全に飛んでいるってわけでもないか」

 

ハジメは、間髪入れずにビットで遠藤に集中砲火して接近を許さない。真正面からの斉射は大きな幕となって遠藤に直撃すると思った瞬間、遠藤は空を跳んだ。ハジメ達がよく使う空力―――それをこの状況で発現させたのだ。弾幕は回避され、稲妻の如きキレのある動きで一気にハジメに追いすがる

 

「おまっ!?魔力操作もないのにどういう事だ!?」

 

魔物が使う空力を使いこなす遠藤を見て驚愕するハジメは、咄嗟に撃とうとしたドンナーを引っ込めてガトリングガンを取り出して遠藤に向けて全弾叩き込む。常人では反応する事すら出来ないレールガンのガトリング弾は、あろうことか遠藤は両手に持ったナイフで全てを切り刻む

 

「ホワァァァァァァァタァァァァアアアアアアアアアーーーーー!」

 

「なんじゃそりゃあ!?」

 

「嘘っ!?メツェライの弾幕全てを切り落としているの!?」

 

「・・・あれ本当に人間?」

 

「やっべぇです。もう一回言いますがやっべぇです・・・」

 

「め、目が追い付かんぞ!」

 

「雫ちゃん、あれ出来る?」

 

「黒刀では無理ね。ナイフなら・・・たぶん出来るかも?というぐらい確約は出来ないわ」

 

深月の次に近接戦が強い雫ですらメツェライの弾幕を全て切り伏せる事は出来ないかも?というのに、遠藤はそれを可能にしている。何かしらの種があるのは確実だが、それが何をどうしているのかは不明だ。面制圧武器をふんだんに使って遠藤の接近を阻止しているハジメだが、遠藤が遂にその攻撃に慣れた。回避不可能な弾丸はナイフで切り落とし、爆風は突撃の加速剤として利用して距離を詰める。そして、遠藤の手に持つナイフがハジメの頬を薄く切った

 

「マダダァアアアアアアアアアアア!」

 

「いい気になってんじゃねえぞ遠藤っ!」

 

ハジメの震脚が大地を割り、つんのめった遠藤の腹に向けてヤクザキックを叩き込もうとしたハジメだが、途中で止めて背後に発砲して分身の遠藤を潰してビットの体当たりで本体を遠くへと弾き飛ばす

 

「オレハオマエヲユルサナイゾナグモォォォォオオオオオーーーーーーーーーー!!」

 

「俺がどうこうする前に深月に告白でも何なりすればいいじゃねえか!!」

 

「何か呼びましたか?」

 

王国に居た深月がゲートでフェアベルゲンに丁度到着してハジメの声に反応したのだ。かなりの修羅場に深月本人という劇物が投下された事により、皆がピタリと固まった

 

「えっと・・・何用ですか?」

 

「あ、あぁ・・・ちょっと遠藤と模擬戦をしててな」

 

「遠藤さんがおかしくなっているので模擬戦というのは無理があるかと」

 

ハジメは深月に嘘を告げるが、遠藤の様子が普通とは違うのであっさりと看破される

 

「神楽さん!俺とつき合って下さいっ!」

 

理性を取り戻した遠藤が深月に告白するが、悲しきかな

 

「・・・申し訳ございません。私はハジメさんと結婚する事になっております」

 

遠藤は膝から崩れ落ちて絶望し、ハジメは取り敢えず一息入れる事が出来るとホッと溜息を吐き―――

 

「既に上と下の初めても強引に散らされましたし・・・」

 

「  」

 

『・・・・・』

 

遠藤は燃え尽き真っ白になっており、その姿が痛ましく皆が憐れみの視線を向けていた

 

「ゆ・・・・んぞ。よ・・くも、ヨクモ」

 

遠藤のブツブツと呟く声が徐々に大きくなる

 

「俺はぶっちギレタゾォォーーーーー!!」

 

突如、遠藤の身体から黒いモヤが溢れ出た。その瞬間を見た皆―――特に雫は、ハルツィナ樹海のGの大群の黒を思い出して悲鳴を上げた。いや・・・本当にもうそっくりなのだ。巨木の裏から溢れ出たGの大群と黒いモヤが被って見える

 

「うおっ!?なんだこりゃあ!?」

 

遠藤を中心に魔力の圧が波紋状に広がり不気味な感覚を皆に襲い掛かる。まるで底なし沼に足を沈ませたかの様に動きが鈍くなった。唯一被害が無かったのは深月なのは言うまでもないだろう

 

「■■■■■■■ーーーーーー!」

 

某汎用人型決戦兵器の初号機の様にゆらゆらと歩き近付く遠藤を前にハジメは冷や汗を流し、手加減をして相手取る事は不可能と判断した。香織が居たら殺してすぐなら生き返らせる事が出来るので遠慮はしない。実弾で遠藤の急所に狙いを定めて撃つ

 

ドパンッ!

 

見事遠藤の急所に直撃かと思ったが、黒いモヤが形を変えて弾丸を払いのけて軌道を逸らした。普通では衝撃波で魔力の塊であろうと散らす事が出来るのだが、遠藤から出ている黒いモヤ相手には傷を与える事すら出来なかった

 

「どんな覚醒だよ!」

 

ドンナーで駄目ならシュラーゲンで狙撃するが、これもドンナーと同様に軌道を逸らされて無傷。流石のハジメもイラついたのか、宝物庫からパイルバンカーを取り出した

 

「ハジメさん!?」

 

「・・・殺す気満々」

 

ユエとシアが驚愕しているが、そんな事は無視して地面を掘り進めていたチャクラムを起動。遠藤を取り囲む様に飛び出したチャクラムの円から鎖が飛び出して黒いモヤと遠藤をまとめて捕縛、遠藤は無抵抗だが嫌な予感がひしひしと感じるハジメは止まらずにパイルバンカーの杭を発射。杭が黒いモヤ諸共遠藤に穴を開けた瞬間、遠藤の身体がタールの様にドロリと溶けて地面に染みを作った

 

「■■■■■■■■ーーーーーーー!!」

 

「なっ!?」

 

死角からではなく地面から飛び出す様に攻撃してきた遠藤の一撃を皮一枚で回避したハジメは、義手に搭載されたショットガンで容赦なく遠藤を撃つ。だがその遠藤も先程と同様に溶けて染みとなる。武器のナイフも溶けているから傷は付かないと思ったが、ハジメの頬には一筋の切れ目が入っていた

 

「・・・分身体の武器も本物と遜色ないって事か」

 

これはいよいよなりふり構わず攻撃しなければ危ないと感じたハジメは、上空に飛ばしていたヒュベリオンを自身にロックオン。遠藤の分身体が襲い掛かったと同時に発射し、自身は盾を上部に展開。以前作った核弾頭すら防ぐ事が出来る盾がハジメを護り、離れて警戒していた遠藤の分身体は蒸発する

 

・・・消えたって事は残る攻撃手段は一つ

 

ハジメが構える盾の内側とその影から遠藤本体と分身体が現れ

 

「はぁい遠藤、おねんねの時間だオラァ!!」

 

ハジメは盾を解除、そのまま金剛でヒュベリオンの光線を耐える事にした。結果―――、耐久力のない遠藤は焼け焦げ、ハジメは所々火傷を負った

だが、ハジメは焼け焦げて動けなくなった遠藤の胸ぐらを掴んで義手から捕縛アンカーを打ち出して完全に拘束した。義手の締め付けとアンカーによる簀巻きで遠藤が動かせる部分は限られるので、ハジメは顔以外の動く部分にアザンチウム製の杭を打ち込み、それ等を鎖で連結させて完全に動きを封じた

 

「取り敢えず一回死ね」

 

ドパンッ!!

 

ハジメは遠藤を撃ち殺し、香織とユエに視線を向けて再生と魂魄の保護を頼んだ。遠藤の体は再生されて元通りとなり、魂を保護しているユエは少しだけ苦しい様子だ

 

「ユエ?」

 

「・・・ごめん。抵抗が激しい」

 

ユエが保護している遠藤の魂は暴れており、魂を保護している入れ物が壊されかねないとの事だったのでティオと香織のダブル魂魄魔法で強引に落ち着きを取り戻させた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――数十分後

 

「俺だって・・・俺だって告白したかったんだよ!バッカヤロォオオオオオオオオオーーーーーーーーー!!」

 

それはもうフェアベルゲン全体に聞こえる大きな声で嗚咽を漏らしながら叫ぶ遠藤を見ている皐月達女性陣は、とても不憫で不幸な男だなぁと心の底から思った。とはいえ、告白した早さが物を言うのであればハジメの勝利?ともいえるだろう。色んな意味で・・・

 

「遠藤さんは何故叫ばれているのですか?」

 

「深月・・・遠藤君から話しかけられるのは良いけど、深月からは話し掛けたら駄目よ」

 

「精神担当の私、失恋の叫びです。対象は私達のどちらかですがね」

 

「・・・・・傷口に塩を塗り込むのはいただけませんね」

 

深月は速足でその場から離れた。彼女居ない歴年齢の元男だが、そこら辺りの感性はしっかりと弁えている。だが、それを守るかどうかは気分次第というのもあるのが難点だ

 

「あ、あの~・・・ボス、お嬢、少しいいですか?」

 

「あん?」

 

「何かしら?」

 

ハジメと皐月に声を掛けて来たのは女性ハウリアのラナ―――決戦での遠藤を見つける事が出来た凄腕?の一人だ。その様子はどこかおかしく、ソワソワしている。ハジメは全く気付かないが、皐月はいち早く気付いてラナと嫁-ズを連れて少し離れた所に避難する。ハジメからも、遠藤からも聞こえない様にユエに防音の結界を張ってもらい準備が完了

 

「さて、ラナ。どうして遠藤君が好きになったのか聞かせてもらうわよ?」

 

「えぇっ!?ラナさんって遠藤さんの事が好きなんですかぁ!?」

 

「し、シア!いいじゃない別に!!そりゃあ勿論、最初会った時は何も感じなかったけど・・・その・・・決戦で敵を倒しているかっこいい姿を見て///」

 

「・・・これは恋した女の目」

 

「失恋での傷心か~ら~の、励ましの言葉から外堀を埋めよう!」

 

「・・・香織、それはちょっと」

 

「香織の天然は未だに健在なのね」

 

「「「・・・むっつり(ですぅ)(じゃの)」」」

 

「皆酷い!?」

 

まぁ、香織の言い分も最もである。失恋傷心中の男子に包容力のあるお姉さんの癒しなら、遠藤も少しばかりは意識するだろう

 

「えぇ!えぇ!もう好きなんです!!でもライバルが沢山居て気が気じゃないんです!!」

 

「えっ?ライバル居るの?」

 

「そりゃあ居ますよ!王国の戦闘メイド、帝国の皇帝の娘・・・どれも私より強く手強い女達です。正直、今の内に唾をつけておかないと美味しく頂かれそうな気配がプンプンしているんです!」

 

「・・・ちょっと深月を召喚」

 

「呼びましたか?」

 

相変わらず呼ばれて即参上の如く、お早い深月の登場である。皐月はラナの証言を交えて深月に情報収集してもらおうかと頼もうとすると

 

「・・・成程、合点がいきました。あの一人のメイドが私に嫉妬と諦めの感情を混ぜた視線を向けていた理由はこれだったのですね」

 

「ま、まさか!?」

 

「戦闘メイド部隊の暗器を最も得意とするNo.2のリリア―――確かに、ラナさんよりも強いのは確実でしょう。そして、皇帝の娘はトレイシー皇女殿下ですね。戦闘狂で有名ですよ?」

 

深月が一から育てた戦闘メイド部隊の一人と、皇女殿下と、ハウリア・・・。今の所ラナが勝っている部分は、年齢というだけだ。それ以外は全て張り合う事すら出来ない

 

「王城に居たメイドだから貴族の可能性があり、戦闘能力もある。皇女殿下は戦闘能力以外はメイドに勝っている一方、ラナは・・・その・・・・・お姉さんとしての包容力でどうにかするしかないわ。正直言って、この後すぐに行動しないと掻っ攫われるのは確実ね」

 

「お嬢、どうにかして下さい!」

 

「と言われてもねぇ~。ラナが自分で考えて遠藤君を慰めたりして距離を一気に縮めない事には何とも言えないわ」

 

「そ、そんな・・・」

 

「唯一の解決策はあr「本当ですか!?」・・・まぁ、あるわ」

 

ラナが、「流石お嬢!」と期待満点の目を向ける

 

「ハーレム作っちゃえ」

 

「  」

 

「聞いた限りだと二人は絶対に諦めないし、力づくでどうにかする可能性もあるわ。だから、泥沼になる前に妥協しなさい。平等に愛してもらったらいいだけでしょ?」

 

「で、ですが・・・」

 

ラナの思う気持も分からなくもない。自分だけ愛されたいという気持ちは誰だって持っている。だが、ここは地球ではなくトータスという弱者は強者に淘汰されるのが当たり前の世界。だからこそ、ラナは焦っているし危険を避ける事も難しい

 

「ラナさん、皐月さんの言う通りにハーレム認知しましょうよ。皇女殿下についてはこちらが圧力掛けたら大丈夫かもしれませんが、メイドさんについては手足も出ませんよ」

 

「み、深月殿ならっ!」

 

「何も言いませんよ?」

 

「ガッデムッ!」

 

ラナの頼みの綱である深月は、彼女達に何かを言う事はないと告げてラナは膝から崩れ落ちる。すると、深月が身に着けている腕輪が光り、それに魔力を流す

 

「何用ですか?」

 

『メイド長聞こえますか?』

 

「ヘリーナさんですか。どうされましたか?」

 

あの決戦から使用していた通信のアーティファクトをメイド達だけに渡していたので全員が逐一報告する事が出来る状態となっており、深月に相談するのは特殊な事情という事だ

 

『リリアが突然仕事を辞めて旅に出たのでこのアーティファクトを回収する事が出来ませんでした。教えがあるので売却したり譲る事はないと思いますが、一応念の為に知らせておきます』

 

「では、手放していない事を前提でこちらから聞き出しておきましょう」

 

深月が通信を切ろうとした時、ヘリーナが気になる事を告げる

 

『そう言えばリリアがあの決戦が終わってから口が悪くなっています。それこそ、皇女殿下を射殺す様な目をしていました。時折、雌兎やら発情兎やらと・・・特に最近多く八つ当たりで誰かを傷付ける可能性もあります。これで通信を終了します』

 

これを聞いた全員は、「あっ、これは勘付いた」と理解した。ヘリーナとの通信が終了したと同時に、再び腕輪が光ったので、追加の連絡かと思って出ると

 

『メイド長!遠藤様は今どちらに居られますか!』

 

「・・・切りますよ?」

 

リリアからの通信でかなり興奮して焦っている様子だったので、問答無用で切ろうとしたがリリアは必死に謝って繋いだ状態にしてもらった

 

「先程ヘリーナさんから連絡がありましたよ。このアーティファクトはメイドを辞めるなら返却する事が必須という事を忘れましたか?」

 

『うっ!?わ、忘れていません。ですが、これは今絶対に必要なんです!』

 

「それで?遠藤さんがどうされましたか?」

 

『メイド長!遠藤様とお付き合いはしていませんよね!?』

 

「していませんね。告白前に玉砕で傷心しています」

 

『よっし!』

 

何がよしなのかツッコミを入れたいが、それは無粋なので追及はしない

 

『今近くに居るのは間違いありませんか?もし居るならその場所に留まる様にして下さい!』

 

「フェアベルゲンに居ますが・・・私達もしばらくは滞在するので移動する可能性は極めて低いでしょう」

 

『チッ、よりにもよって雌兎の本拠地ですかっ!』

 

「・・・遠藤さんに離れる様に告げ口しますよ?」

 

『あ、あ、あっ!?ち、違うんです!く、口が勝手に動いて・・・。申し訳ございません!』

 

「手に入れるなら自力でどうにかしなさい。それでは、後程合流の際にアーティファクトは回収します」

 

リリアとの通信が終わり、さてどうしようかと判断を仰ごうとした深月だが、もう既にラナは皐月達の傍には居らず、遠藤の方へと駆けて行く姿が見えた

 

「ラナさんの恋は実りますかねぇ~」

 

「そう・・・ですね・・・。リリアの気配が近くに感じられましたので出会っているのではないでしょうか?」

 

『えっ?』

 

皐月達が深月に視線を向けた時、ラナが走り去って行った方向から木が倒れる音と女性達の声が聞こえた。これは修羅場っていると判断した皐月達は、その場へ向かった。まぁ、案の定修羅場の修羅場

 

「遠藤様と私の邪魔をする雌達はキ・エ・ロ・!」

 

「彼と付き合うのは私よ!お子ちゃまはどっか行ってなさい!」

 

「この戦いは亜人族を奴隷にするのではありませんわっ!これは女の尊厳を掛けた戦い・・・誰にも邪魔はさせませんわ!」

 

そこには三つ巴の戦いが繰り広げられていた。リリアの持つ小刀とラナの持つナイフとトレイシーの持つ禍々しい大鎌による武器の攻防―――。皐月は、ハジメお手製の小刀とナイフと拮抗するあの大鎌に少し興味があるが今はこの修羅場をどうにかして収めなければいけない

 

「おいおい、ちょっと大きな音が聞こえたから遠藤と来てみたが・・・どういう状況だ?」

 

「えっ、どうして女性三人が争ってるの?」

 

把握出来ていない二人に、皐月達女性陣は遠藤をジト目で睨んだ。流石の遠藤もこの視線には耐えきれなかった

 

「あ、あの~・・・どうして俺が睨まれてる・・・の?」

 

「ハジメと同様に天然なタラシね」

 

「タラシ!?」

 

遠藤の驚愕の声が聞こえたのか、争っていた三人の動きがピタリと止み視線が遠藤の方に向く。しかも、三人同時というオマケ付きなので、遠藤は何処かしか恐ろしいと感じている。そして、三人はじりじりとすり足で遠藤に近付いており、嫌な予感が激増した遠藤は遂に耐えきれず逃げ出した

 

「捕まえるわよ!」

 

「「勿論!」」

 

ラナを先頭にトレイシーとリリアが駆け出す。そして、数時間後に遠藤は三人に抱き締められる形で帰って来た

 

「・・・・・三人と付き合う事になりました」

 

「お、おう・・・。頑張って幸せにしてやれよ?」

 

こうして遠藤は、失恋と女性の捕食を一日で体験した。とはいえ、遠藤も男なので腹を括って彼女達を幸せにする為に努力する様になり、正妻は誰も居らず皆が平等という形で落ち着いたのだった

尚、後日三人と婚約した事をクラスの皆に打ち明けた遠藤は、殆どの男子達に血涙を流させたのは言うまでもないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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メイドは並行世界?へ転移しました~Fate編~

布団「さぁさぁ、始まりますよ~。皆大好き型月作品への進出だ~!」
深月「後々隠さない伏線はこの為だったのです」
布団「いやぁ~、メイドさんのぶっ壊れを魅せるならこれが一番かな?と思いまして」
深月「・・・それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」











~深月side~

 

・・・何故この様な不運に見舞われるのでしょう。私トラブルに引っ掛かり過ぎでは?とツッコミたいです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「目撃者は消す―――これは聖杯戦争では当たり前なの。だから、殺っちゃえバーサーカー!」

 

「■■■■ッーーーーーー!」

 

深月の目の前に居る巨大な男が咆哮を上げて襲い掛かった。これは深月が大男に襲われる数分前の出来事に遡る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も元気にお仕事頑張る深月は、ある実験を行っていた。今まで誰もツッコミを入れなかった深月が二人いる問題についてだ。二人の状態でもチートなのだが、体一つの方が一対一の戦いが強い。何故なら、マルチタスクの管理をもう一人が行う事により行動選択肢が沢山取れる+未来予知レベルの予想する事が出来るという利点がある

そんなこんなで実験していた深月は、遂に行動に支障が出ない完璧な状態で体一つに戻る事が出来た。久しぶりの一つの身体に最初はぎこちない動きをすると思っていたが、その問題はなく自然に動く事が出来た。いや、予想以上に滑らかに動く体に不思議に思っていた。だが、問題ないどころか利点しかない為に深く追求する事を止めた。今するべき事は、この朗報を皐月に一早く伝える事だ。ここしばらくは問題という問題が起きていない為、ハジメと一緒に便利なアーティファクト作りをしているので作業部屋へと直行した

 

「失礼します。お嬢様、ハジメさん、一度ご休憩を挟まれてはどうですか?」

 

「ッ!?・・・・・深月か」

 

「今の間はどういう事ですか」

 

作業部屋には皐月が居らず、ハジメだけだった。しかも、便利なアーティファクト作りとは関係なさそうな形をした起動系の物・・・。明らかに好奇心だけで作ったアーティファクトであると感づいた深月は、速攻で回収しようとしたがハジメが背に隠す

 

「・・・回収出来ないのでどいて下さい」

 

「断る。これは・・・これはオタク達の希望だ!これだけは死んでも護るぞ!」

 

この言葉を聞いた深月は、可能性の模索をした。色々考えたが、つい最近の出来事を考えるとある一つだけしか思いつかなかった

 

「ガチャの排出確率を上げる装置ですか?」

 

「お、おう・・・。別にいいだろ?皐月がガチャで絶望しかけたからそれをどうにかするのがサプライズプレゼントってやつだ」

 

「ふむ、それなら確かに必要ですね」

 

深月は、以前にソシャゲのガチャで爆死していた皐月を傍で見ていたから確率を上げるアーティファクトは必要であると結論付けた。それが後の後悔となる。ハジメがテーブルの上のアーティファクトについて語っていると、誰も触れていないのにも拘わらず起動し始めた

 

「はぁ・・・ハジメさん、今はお嬢様が居ないのでアーティファクトを起動されても関係ありませんよ?」

 

「は?何言って―――」

 

ハジメがアーティファクトの方を見ると、地球儀の様な形をしたパーツが高速回転していた

 

「なっ、何で起動してんだよ!?」

 

「自動で起動するのではないのですか?」

 

「これはクリスタルキーが無いと起動しないんだよ!?」

 

「・・・・・は?」

 

「あっ・・・」

 

ハジメは口が滑った。クリスタルキーによる起動=転移系のアーティファクトという事だ。先程言っていた確率を上げるアーティファクトとは無関係=嘘を吐いていたという事が確定した

 

「ちょ、ちょっと待て深月!そ、その右拳を下ろせ!な?ちょっとした嘘だ!」

 

「なら、さっさと止めて下さい」

 

ハジメが深月の言葉に従ってアーティファクトを止めようとしたが、動きは止まらない処か早く激しくなった

 

「ふぉぉおおっ!?」

 

「ちょっ!?」

 

そして、アーティファクトは暴走する形で起動して部屋中に光が溢れ、光が収まったらハジメと深月の姿はなく、問題のアーティファクトは粉々に砂状に壊れていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメと深月を包む光が晴れ、二人の目の前には夜の墓地が広がっていた

 

「ハ・ジ・メ・さ・ん・?」

 

「正直、すまんかった」

 

「はぁ~・・・早く帰りましょう。転移前は朝で今は夜となれば、時間経過があるという事です。とはいえ、厄介事は現在進行形でこちらに到着しましたが」

 

「ん?」

 

ハジメは深月が視線を向けている方を見ると、人影が森から後退する様に現れた。外見は西洋騎士かつ女性というオタクに火を着ける属性が満載だが、ハジメはその女性の顔や服装を見て頬を引き攣らせた

 

(おいおい・・・一体どういう事だよ!?)

 

「なっ!一般人!?」

 

西洋騎士の女性もハジメ達に気付いたのか、驚愕を表情を浮かべて避難を促した

 

「そこのお二方、今すぐ此処から離れて下さい!早く!!」

 

女性の忠告を聞きハジメ達は避難しようとしたが一足遅く、森の木々を跳躍で飛び超えて現れた大男が目の前に現れた。ハジメは、「やっべっ!」と本音が出て、深月は、「あぁ・・・ゲームの世界なのですね」と何処か達観しつつ呆れた表情を浮かべていた

 

「遅かったか・・・。お二人共、その場から動かないで下さい!」

 

「いや・・・流石に動かなきゃあぶねぇだろ。っていうか前、前!!」

 

「ちぃっ!」

 

「■■■■ーーーーーーーーー!!」

 

大男はハジメ達を無視して女性に突撃する。まるでラッセル車の如く地面を抉りながらすっ飛んで来る光景は普通では見る事すら出来ないだろう。そして、普通なら女性は無残にも引き飛ばされるが、大男の持つ大剣を不可視の何かで受け止めた

 

(ひゃ~、生のFa〇eのバトルシーンってこんななのか。・・・アーティファクトをフルに使って倒せるぐらいか?)

 

ハジメは、もし戦闘に巻き込まれた際の対処方法を考えていると遠くから二つの人の気配を感知した。一人はその場に留まっているのか隠れているのか分からないが動かず、もう一人はゆっくりとこちらに近付いて来ていた

 

「へぇ~、一般人が居たんだ。セイバーはそんなお荷物を護っていながら私のバーサーカーを相手に出来るとでも思っているの?だったら、本気になれる様にそのお荷物から殺ってあげる。そして、目撃者は消す―――これは聖杯戦争では当たり前なの。だから、殺っちゃえバーサーカー!」

 

「■■■■ッーーーーーー!」

 

大男がハジメと深月から殺そうと女性を無視して突撃する。女性はこちらを護ろうと大男に向かって行ったが、少し傷を与える程度で終わり深月へと襲い掛かる。だが、それは大男にとって大きなミスだ

 

「ちょ!?何で一般人がこんな所に居るのよ!?」

 

隠れていたであろうもう一人の人間と、傍に立つ白髪の男が居た。その二人もこちらを見て驚いており、本当に想定外な事が起きている事が分かる

そんな二人を置いておき、深月は行動する。振り下ろされる大剣の腹に発勁を叩き込んで少しだけ軌道をずらし、そのまま体を回転させて肘打ちを鳩尾に入れようとしたが飛び退きで回避された

 

「高い身体能力+野生の鋭い勘・・・いざ対面すると中々に難しいですね」

 

「何で?ねぇ、どうして避けたのバーサーカー?バーサーカーなら当たっても平気だよね?」

 

「・・・・・・」

 

大男は片手を前に付き出す様にしてに警戒をしている。最も、その警戒をしている事に気付いているのはこの場に三人だけだ。西洋騎士の女性と、白髪の男と、ハジメの三人だ

 

「何故バーサーカーは警戒している。肘打ち程度ならば驚異ではない筈だ」

 

「アーチャー、バーサーカーがどうしてすぐに攻撃しないか分かる?」

 

「種は分からないが、触れた瞬間に何かが起動する魔術が仕込まれているのだろう。しかし、私の矢を防御する姿勢すら見せなかったあのバーサーカーが警戒となれば、それ以上の破壊力を秘めているのは確実だろう」

 

(やっぱり深月の攻撃は神話の世界でも有効なのか。・・・どの程度の威力だったんだ?)

 

肘打ちの構えを解いた深月は、陸上選手のクラウチングスタートよりも低い姿勢を取り、大男に向かって疾走した。地面は大男の時以上に爆発して大地を揺らし一瞬で大男の懐に入り、宝物庫から取り出した黒刀ですれ違い様に抜刀して腰から上を切り飛ばした

 

『は?』

 

(やっぱりそうだよなぁ・・・)

 

皆が驚愕する中、ハジメは何処となくこうなる運命を感じ取っていたのだ。どの強さかは分からないが、分類上神?であるエヒトを打ち倒す事が出来た時点で、大男を超える力を持っている可能性もあった

 

「へぇ、ただの人間がサーヴァントを倒すなんて余程の規格外ね。でも、所詮は人間。私のバーサーカーには勝てないんだから!」

 

「■■■■■ーーーーー!」

 

なんと、切り飛ばされた大男の上半身は時間が巻き戻る形で再生したのだ。死からの蘇生―――ハジメ達も死亡直後の蘇生は出来るが、それはユエ達が居てこそ出来るのだ。一人で蘇生する事は不可能という点では大男に分がある

 

「死からの蘇生。お守りか何かの効果でしょうか?」

 

(ん?もしかして深月はこの世界についてはかじりで知っている程度か?)

 

ハジメの予想は当たっており、深月は"もう一度"黒刀で大男に切り掛かった。先程とは違った歩法による急加速後の急反転による幻術めいた飛び込みは、見事に大男の迎撃を回避して上段の振り下ろす。深月の予想では、そのまま唐竹割による両断のイメージがあった

 

「深月、後ろに跳べ!」

 

「なっ!?」

 

ハジメの忠告は遅く、既に振り下ろされた後だった。大男を両断する筈の黒刀は、甲高い音を鳴らして弾かれ深月の腕に鈍い感触を伝えると同時に驚愕も与えた。弾かれた隙は大きく、大男のボディブローが鳩尾に直撃して深月は大きく吹き飛ばされた。障害物の墓石を砕きながら地面に数回バウンドして木々の手前で止まった

 

「ゲホゴホッ!・・・・・私でなければ死んでいますね」

 

深月は再生魔法で潰された臓器を一瞬で回復させ、完全回復。とはいえ、完全な直撃なのでかなり痛く動きが多少鈍くなっている。それでも対処の方法は幾らでもあるのは深月ならではという事だ

 

「ねぇ、アーチャー。バーサーカーの攻撃は直撃したわよね?」

 

「そうだな。あの弾かれた仰け反りの状態からでは跳び下がる事も不可能となれば、確実に直撃している」

 

「・・・どうして立てるか分かる?」

 

「分かるわけないだろう。それこそ、バーサーカーの様な蘇生魔術を行使出来ると言われた方がまだ納得がいく。もし、私があの状態で攻撃を受けたら再起不能となるだろう」

 

遠くで二人の正直な感想が述べられている。そして、深月と大男・・・いや、バーサーカーと呼ぼう。深月とバーサーカーの戦闘を見ていた女性騎士は本当に呆然として、膝を着いている深月に対しバーサーカーは突撃してこない状況に周りは不思議に思っていた

 

(何故だ・・・彼女は隙だらけなのに何故襲わない。あの状態で何か罠があるというのか?)

 

バーサーカーはゆっくり歩いて深月に近付いていく最中に急に立ち止まり、何かを拾う動作をした。それと同時にわずかに光る線は、深月の魔力糸だった。周囲の墓石や木々に張り巡らされたそれら全てを見た者達全員が更に驚愕していた

 

「糸のトラップ!?一体何時の間に仕込んだのだ!?」

 

「あれほど張り巡らされたとなれば、バーサーカーであろうと直ぐに動く事は出来なかっただろう」

 

糸は空気に溶ける様に霧散し、罠が解除された。しかし、バーサーカーは深月が完全回復している事を理解しているから突撃しない。互いが睨み合う中、森の奥からガサガサという音が聞こえ一人の少年が姿を現した

 

「セイバー!」

 

「士郎、駄目だっ!」

 

「え」

 

セイバーと呼ばれた女性の声も空しく、バーサーカーは標的を少年に変えて強襲。左肩から右腹部をなぞる様に切り裂かれ青年は地面に倒れると同時にセイバーがバーサーカーに攻撃して退ける

 

「・・・つまんない。せっかくのショーが一気に白けちゃった。お兄ちゃんもあっけなかったし・・・バーサーカー、もう帰りましょう」

 

バーサーカーは少女の傍に戻り、肩に乗せて森の奥へと消えて行った。場の緊張が解け、少女が少年に駆け寄り色々と手を施している。白髪の青年はハジメと深月を警戒しており、双剣を手に持っている

 

「おいおい、どうするよ?」

 

「この場から離れましょう」

 

「あんた達待ちなさい!」

 

面倒事が去った今、二人はこの場から離れようとしたが、少女が呼び止める。なにやら怒っている様子だ

 

「一体何者なの?サーヴァントを圧倒しうる力を持っている人間なんて聞いた事ないわ。一から説明してもらうわよ!」

 

「こんな場所でか?」

 

「落ち着けマスター、形勢的にはこちらが不利だ。話し合いをするにしても高圧的では印象が最悪と思われるぞ」

 

「うっ!・・・分かってるわよ。でもね、普通は動揺するでしょ!?」

 

「確かに動揺するのは仕方がない。だが、だからと言ってこちらよりも戦闘能力が高い者達に対して使うなど言語道断だ」

 

「私が悪いって言うの!?」

 

白髪の男・・・アーチャーがマスター?である少女に忠告を入れるが、少女はかなりご立腹の様子だ。取り敢えず二人は、彼等が落ち着くのを待つ間に少年の方の様子を見る。少女の救護が良かったのか、少年の身体の傷が治りつつあった

しかし、少年が目覚めるまでには時間が掛かるという事なので少女に案内される形で少年の自宅へと付いていく事となった。少年の自宅に到着したら西洋騎士の女性が担いでいた少年を布団の上に降ろし、居間のテーブル席へと付く

 

「さて、何処から話したらいいのやら・・・」

 

「何よ、そんなに複雑な事情だとでも言いたいのかしら?でも、ご生憎様。私は遠坂凛、この土地のセカンドオーナーだから事細かく聞くわよ」

 

「・・・まぁ、良いだろう」

 

そして、ハジメの口から語られる出来事―――。トータスうんぬんかんぬんは説明せず、簡単に並行世界へと飛ばされたという事にした。これを聞かされた遠坂やサーヴァント達は頭を抱えた

 

「よりにもよって並行世界からの転移ですって?もっとマシな嘘を吐きなさいよ!」

 

「それが本当なんだなぁ~。取り敢えず証拠となりそうな鉱石を出すわ」

 

ハジメは宝物庫からトータス産の緑光石をテーブルの上に出す。電気程ではないにしろ光を発するその鉱石を見た少女は、食い入る様に手に取って観察する

 

「・・・こんな鉱石見た事ないわ。一体どういう理屈で発光しているのか分からない。これ貰ってもいいかしら?」

 

「やるわけねぇだろ」

 

「あぁ・・・お金になると思ったのに」

 

ハジメは緑光石を回収して宝物庫戻し、これからの計画を深月と相談する。この緊急時とはいえハジメ達は野宿する事も可能なのだが、この戦いに巻き込まれた事から野宿は危険だ。遠坂から説明されたサーヴァントは、クラスが七つあり、セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、キャスター、アサシン、バーサーカーとそれぞれのスペシャリストという事だ

 

「そして、俺達の目の前に居る二人がセイバーとアーチャーという事か」

 

「私が戦った大男がバーサーカーという事ですね」

 

「ホント、あのバーサーカーって何なの?理性が無くなっていないんじゃないのって言う位の身の熟しだったわよ!」

 

それはハジメも思った。バーサーカーの身の熟しは逸話通りの物であると予測出来るものの、狂化された状態でとなると些か疑問が残る

 

「あの・・・先程からバーサーカーには理性が無いと仰られていますがそれは恐らくないと思います」

 

「あん?どういう事だ?」

 

「皆が言うバーサーカーとは狂化により正常な判断がしにくいと分かりましたが・・・彼は最適解の迎撃と無駄が一切ない動きをしていたので狂化はしていないのではないのでしょうか?」

 

『・・・・・』

 

これを聞いた皆が、あの墓地での戦闘を振り返る。特に、直接戦っていたセイバーは何処かしか納得出来た表情をしていた

 

「確かに・・・言われてみればそう思います。如何に体に染み付いた動きであろうと、本能だけではあそこまで繊細な動きは不可能な筈だ」

 

「セイバーもこれって事は、狂化を掛けていない状態であのスペックという事なのね。殆どAランク越えのステータスなのに更に上乗せで蘇生もするとかインチキにも程があるでしょ!」

 

「まぁまぁ、お茶でも飲んで落ち着けよ」

 

「落ち着けるかっ!!」

 

ハジメが手渡したコップが叩き落とされテーブルにお茶がこぼれ落ちる。そんな彼女の姿を皆が残念な子を見る目をしていた

 

「なっ、何よ皆して・・・」

 

「マスター、あまり感情的になり過ぎるな。あの話をするのであれば、もっと冷静になれ」

 

「っ!・・・そうね。みっともない姿を見せたわね」

 

遠坂は息を吐いて精神を落ち着かせ、ハジメ達にある提案を持ちかける

 

「貴方達はこれから聖杯戦争の目撃者として確実に巻き込まれるわ。この冬木から出ても記憶があるだけで魔術師から狙われるの。でも、ここに居てもあのバーサーカーのマスターが放置する事はあり得ないわ。だから、同盟を組まない?セイバーも私達との同盟について考えてちょうだい」

 

「ほ~ん、良いんじゃね?」

 

「対価としてお金を要求しましょう。衣・食・住の全てを支えますので・・・一日平均二万で如何ですか?」

 

「ちょっと待ちなさいよ!一ヶ月三十日と考えたら六十万よ!?一人頭でそれと計算したら百二十万じゃない!!高すぎるでしょ!?」

 

「流石に日当二万はやり過ぎじゃねえか?」

 

ハジメは遠坂に同情する様に深月にツッコミを入れるが、これは計算あっての事

 

「ハジメさんが所持する武器はどれも消耗品です。こちらでは補給手段がない事から、ここで何かしらの素材を手に入れなければなりません。火薬は中々手に入る物ではありませんよ?」

 

「あぁ、確かにそうだな。俺達が持っている素材は有限だから補給ルートを確保するのが先決だ」

 

「うぅ・・・お金が・・・お金が足りないわ・・・・・」

 

結局のところはお金が重要という事実に打ちのめされる彼女の姿は哀れだ。だが、同情はしない

 

「絞り出しなさい。そもそも、サーヴァントと同格程の戦力がたったの二万で雇える事を幸運に思うべきではありませんか?」

 

「はっ!そ、そうだったわね。よくよく考えたら宝石買うよりも断然お得じゃない!」

 

「それでは、契約を結びますか?」

 

「あったり前よ!こうなったらこの聖杯戦争が終わるまではこき使ってやるから覚悟しなさいよね!」

 

遠坂は深月がスッと差し出した契約書に迷わずサインした。内容は深月が言った様に、マスターが危なくなれば助けると言ったものだ。だが、お忘れだろうか?深月がそんな甘い言葉で契約を結ばせようとしている事がどれ程悪質かというのか・・・。遠坂のサインも終わったので写しを確認して複写の書類を渡して本契約書は宝物庫に保管する。これで準備万端―――

 

「それでは、これより同盟開始です。遠坂様は、こちらに生活費として一人頭二万円を毎日手渡しでお願い致します。戦力補充の為に資金が必要になりましたらこちらからお声を掛けさせていただきますね♪」

 

「「「「         」」」」

 

これには皆が呆然としており、遠坂は顔を青褪めながら書類の複写を確認。書かれている内容は変わりなく、一体何処にそんな事を書いているの!?と言いたげな表情で深月を睨む

 

「おや・・・私は言いましたし、その契約書にも書いてありますよ?"一人頭平均二万"――――と」

 

これで内容を理解したハジメとアーチャーは、遠坂を残念な子を見る様な目をしていた。いや、実際問題残念な子だ。深月が甘~い言葉を垂れ流して契約を迫るのは、それ相応の対価が陰に隠れて潜まされているという事だ。平均二万と言えど、多少の上乗せ等は勿論許容するという事・・・とんだ狸である

 

「ですが、安心して下さい。平均二万という事は、請求額が二万よりも下回る可能性があるという事です」

 

「っ!」

 

「無駄な出費を抑えるなら、オーナーとして多少の横流しは仕方がありませんよね?それが叶わない場合はどんどんと資金が膨れ上がりますね♪」

 

下げて、上げて、突き落とすとは正にこの事だ。まるで一日の利息十割並みのとんでもない契約をしたという事に、遠坂は項垂れる他なかった

 

「・・・君は策士と思っていたが訂正しよう。腹黒なんて生温い・・・最早外道悪魔だ」

 

「あらあら、"この程度"の内容にお気付きになられなかった主に対して矢を射抜くとは正に弓兵。正確無比ですね」

 

「そうか。・・・・・地獄に堕ちろ」

 

「私が死んだ際には地獄行きは確定していますので大丈夫です」

 

アーチャーの本音に対し肯定する深月だが、正直言うと深月に寿命という概念は存在しない。そもそも、腕を切り落として体全てを再生させてストックを作っている時点で狂気とも言える行いにプラスして、死んだ際に魂の置換の魔法も施しているので深月が自分で判断するまでは死なないという事だ。バーサーカーよりもチートである事は確実だが、これを相手に伝える事はしない。この方法は最後の切り札として懐に残しておく為で、使う必要性が無いのであれば絶対に使わない様にする為だ

 

「んじゃあまぁ、俺達はこの家に住むわ。何事もビギナーには優しく―――ってな」

 

「狙われた場合は即脱落するでしょうね」

 

「~~~~っ!分かったわよ!それなら私もここに住むわ!その方がもっと安全でしょ!」

 

一体何を張り合っているのか不明だが、まぁ言い分は理解出来るし危険度を下げるにももってこいだろう。少しすると、家主が登場

 

「えっと・・・どうしてみんなが家に居るんだ?」

 

おいおい、こいつ何も分かっていないのか?と疑問に思いつつ溜息を一つ。取り敢えず時間も遅く、夕食を食べるというよりも夜食を食べる位の時間帯である。お腹が減っているのは皆同じだった

 

「それを話しながら飯にしねぇか?いきなりドタバタした事ばかりだから飯でも食べながらゆっくりと説明したんで構わないだろ」

 

「あっ、あぁそれでいいか。待っててくれ今人数分作るから」

 

「病人は大人しく座って下さいませ」

 

衛宮の肩を掴み、強制的に椅子に座らせる。本当は居間の畳上に座らせた方がいいのだが、台所が見える場所に居た方が何かと心配事も少ないだろうという配慮を込めている

 

「冷蔵庫の中身は・・・流石に使うのも躊躇いますので手持ちの食材を使います。調理器具は一通り揃っているので使用させて頂きます。あぁ、包丁は手持ちの分がありますのでお気になさらなくて結構です」

 

宝物庫から包丁と食材を取り出した深月は、ごく自然に調理を開始する。丁度食べ盛りの年代と言う事もあるので、シンプルなステーキにする。先程冷蔵庫の中身を覗いた時、安いお肉やタイムセールの食材があったのを確認していたのでプチご褒美だ。これから苦難と言う名の地獄が待っているのであれば、多少高価な食材を使おうとも痛くもない

手間暇掛けて作る方がとても美味しいのは確実だが、短縮出来るならすっ飛ばす。かなり使用頻度が少ない技能の清潔進化がここで輝く。安いお肉だろうと1~2ランク上昇するぶっ壊れのこの清潔なら、美味しいお肉を更に美味しくする事も造作ない。肉だけの味でも濃厚となれば、ソースはさっぱりとした和風が最適だ。優しい味をお届けし、一噛みするだけで肉の存在感を強調しつつ調和の取れた一品となる。スープはシンプルなコンソメスープだが、侮るなかれ―――。最初の一口はホッとする様な柔らかな安心感を与える味わいから、二口目からもう一口もう一口と飽きが来ない味わいをお送りする。そして、最後はデザートのゼリー。どこぞのグルメ漫画の如く味のデパートなそれを作る。とはいえ、食材からして違うので擬きとなるのは仕方のない事だ

完成した品をテーブルの上に置き、ドリンクの烏龍茶を注いで完成。ステーキの熱によって蒸発するソースの香りが食欲を増進させるスパイスとなり、空腹を誘う。それは、本来は食事すら必要としないサーヴァントである彼等も同様にゴクリと喉を鳴らす

 

「シンプルな内容ですが、牛肉の和風ソースとコンソメスープ―――食後にデザートのゼリーが御座います。食べ過ぎには注意して下さい」

 

しかも、ごく自然にサーヴァント二人の分も用意されているので食べないという選択肢は料理人に失礼なのでありがたく頂く事にする

 

「えっと・・・それじゃあ、いただきます」

 

「「「「いただきます」」」」

 

ステーキをナイフで切るのだが、筋を切る様に力を籠めずとも切れるステーキ肉はまるで角煮の様だ。この時、衛宮の頭の中では肉の価値について一杯だった。それは遠坂も同じ様で、食べるのを少しだけ躊躇っている。だが、そんな事を気にしないのは深月に胃袋を掴まれている我らがハジメ只一人

 

「うんめぇええええーー!いやぁ~、何時食べても深月の料理は最っ高だな!」

 

深月以外の皆が、「もうちょっと躊躇いながら食えよ」と心の中でツッコミを入れながら一口―――。口の中でうまみの暴力が広がり至福の一時が訪れる。まるで自身と野菜と肉が手を取り合ってスキップしている様な錯覚を引き起こす

 

「なっ、何これぇ・・・。こんなの美味しすぎるでしょ~!こっちのスープも美味しい!あぁ、手も口も止まらない!?自然とご飯が進んじゃう!!」

 

「この肉一体何十万するんだ・・・もし請求されたら払えないぞ・・・・・」

 

「っ!っ!っ!?」

 

「この優しい味わい・・・ふっ、そうか。俺は間違っていたという事か」

 

何やらサーヴァント組は色々と反応が面白く、つい苦笑してしまう。特に、セイバーは表情をコロコロと変えながらもっきゅもっきゅと食べ進め、明らかに周りよりも食べるスピードが速い

 

「あの・・・セイバー様。私の分のステーキをお譲りしましょうか?」

 

「宜しいのですか!?」

 

目をキラキラと輝かせながら期待の表情を見ていると、動物に餌を与えているような感じがする。一枚丸ごと渡すと、もっとキラキラと輝かせて一口一口を笑顔で食べていく

 

「セイバー貴女ねぇ・・・。美味しいのは分かるけど、食い意地張り過ぎでしょ。そんなに当時のご飯は美味しくなかったの?」

 

「・・・・・あれは豚の餌です」

 

遠坂の率直な疑問にセイバーは食べる手を止め、思い出す様に不満気な答えを告げる

 

「芋を潰しただけの食べ物ばかりで、稀に食べれる肉は固いし臭いし不味いの三拍子です。瘦せ細った地に出来る麦もパサパサで腹を満たせない有様でしたね」

 

「・・・ごめんなさい」

 

流石の遠坂もこればかりは謝罪した。もし、セイバーの様な食文化の時代を思うと気落ちするのは当然だろう。と言うか、よくそんな食事で士気が落ちなかったと褒めてやりたい気分だ

 

「しかし、現代の食事は良いですね。もっともっと食べたいです!」

 

「・・・あのなぁ、深月が作るからこんなに美味いんだぞ?それこそ、高級料亭でもこの味を超えろって言うのは無理難題だ。だから、今回の料理はこの聖杯戦争を戦う為のご褒美みたいなもんだ。毎日は無理だぞ?」

 

その瞬間、セイバーの表情は能面の様に暗くなった。恐らくこの様な美味な食事が日本の基準だろうと思っていたのだろうが、残念な事に深月だからこそ作れるのだ。過度な期待は注意しろというだけだ

 

「し、シロウ!お願いです!この様な美味しい食事を作って下さい!」

 

「い、いや無理ぃ!?こんなに美味しい料理を作る技術は俺には無いんだ・・・ごめんなセイバー」

 

「そんな・・・馬鹿な・・・」

 

流石に救いがなさすぎるという事なので、救済措置を提案する事にした

 

「流石に食材を毎日出すという事は出来ません。ですので、食材をそちらでご用意されるのであれば一緒に作る事は構いません」

 

「本当ですか!」

 

「でも良いのか?メイドさんは主人を優先するものだろ?流石に無理してまでは頼めないけど・・・」

 

「御心配には及びません。こちらに住まわせて頂く対価として料理を教えると言う名目なら問題ありません。・・・何せハジメさんはよく食べますから」

 

「・・・あぁ、うん。納得した」

 

衛宮がスッと目を逸らす様にハジメの方に向けると、深月の分のゼリーを食べようとしていたセイバーの頭をハリセンで叩き、強奪して食べるという暴君の如き絵面を見た。・・・うん、食は人を変えるとはこの事だ

こうして、ゲームの中の世界へと迷い込んだハジメ達は聖杯戦争に巻き込まれる事になった。取り敢えず、色々な事をぶち壊している時点で原作を壊している。正直言うと、何かしらの修正力が働くのでは?と不安に思う深月であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「最近のメイドさんは飯テロ回が出て来ていなかったので、これはもうぶち込むしかないと思いました。いいよね、飯テロって。想像するだけなら無料!という訳で、次回も食事シーンが入ります」


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メイドでも緊張します~Fate編~

布団「もういっちょ~!」
深月「飯テロ飯テロ!」
布団「飯テロ飯テロ!」
深月「はい。読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」







~深月side~

 

ふぅ・・・次から次へと運が悪いですね。えっ?何故運が悪いのかですか?いやぁ~、これには私もビックリです。まるで狙い澄ましたかの様に出会ったのは故意ですよね・・・・・

 

これは同盟が成り立った翌日の出来事――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてさて、商店街でお買い物お買い物~♪あの冷蔵庫の中身を見て気付きましたが、タイムセールの値引きはこちら以上ですね!家計にも優しく大量に作れるとは最高です。おや、お野菜も新鮮でお値打ち価格・・・即買いですね。えっ、そのお魚を捨てるのですか?駄目です駄目です!私が買います!普通は売ってはいけないお魚なのは理解しています。で・す・が・!美味しく食べられるのであれば食べてこその食材です。この世に食べれない物等、少しだけなのです!

 

こうして、深月は商店街を散策して捨てちゃう素材を大量に引き取り、ウッキウキで足取り軽く帰宅して差しあたって必要のない物を冷蔵庫へ入れ、自転車に乗って港へ移動。魔力糸を海に垂らして魚介を釣り上げて瞬きの内に三枚下ろしにして身と骨を分別する

かなり長々と同じ事をしている為か、近所の子供達が興味本位で集まって覗きに来ている。子供達は、「メイドスゲー!」やら「食べていい?」等々自由気ままで、注意するよりも興味を持たせる方が一番良い事を理解しているので即席釣り竿を作成。スカートの中から手品の様に長い釣竿を出しているので物凄く驚いていたりした。尚、これは全て魔力糸を編んだ物なので軽くて丈夫な一品である

 

「それでは、お魚が釣れましたらこちらのトレーの上に置きましょうね?そうすれば、私が目にも止まらない速さで捌いちゃいますよ!」

 

『釣るぞーーーー!』

 

釣り餌は傷んだ魚の切り身で、捨てちゃう素材だったものだ。そして、この場所は穴場だったのかかなりいいサイズの魚が釣れる釣れる。子供の力だけでは引き上げる事の出来ない魚に関しては、即席タモで確保したりする

 

「あっ!エビが釣れた!」

 

「お~、スッゲェ!」

 

「エビ食べたい!」

 

あぁ~っと、ここで釣っては駄目な生き物が釣れてしまった。完全な事故です

 

「はいはい子供達、このエビさんは逃がしましょうね?」

 

『えぇ~、何でぇ!』

 

かなりご機嫌斜めな様子だ。だが、法律上決まっている事なので諦めて頂く他ない。エビを釣った子供は周囲の子供達に自慢しているのか、皆がいいないいなと羨ましがっている。その隣には丁度魚を釣った子供が一人おり、エビを自慢している子供が鼻を伸ばして見下している。これはよくない

 

「は~い、そこでお魚を釣ったお嬢さん。こちらに来てくださ~い」

 

少女はエビ自慢の子供を無視して深月の元に行き、魚を渡す

 

ほう、まさかまさかのキスですか!ふぅ、こんな高級魚がこの様な場所に生息しているとは・・・侮れませんね!

 

大きさ的に高級料亭で出る様な丁度いいサイズだったので、ババっと下処理を施して簡易キッチンを設置している場所へ移動。丁度、天ぷらをしようと油を温めていた為丁度良い温度―――。ならばここで清潔進化で鮮度を底上げしてうま味を凝縮させて小麦粉にダイブ!そして油へ投下!

・・・・・こうして美味しく揚げられたキスの油を落とす為に網の上に置き、天つゆを作っていると―――

 

「あぁぁーーーーーー!私の魚ぁぁぁーーーーーー!!」

 

「ふむ、良いぞ。庶民の味にしては中々の美味。褒めつかわ「何やってるんですか!」ぶべらっ!?」

 

深月の迷いない拳が金髪の男の頬に直撃。流石に手加減はしてあるので大丈夫だが、とても痛そうにしてらっしゃる。顔を上げた金髪の男の表情は怒りに満ちていた

 

「使用人の分際で俺を殴るとは・・・ばんs「うぇぇぇぇぇーーーーーん」・・・・・」

 

初めて自分の力だけで釣ったお魚が見知らずの男に取って食われたのだ・・・それはもう泣くだろう。周りの子供達も不快感を露にしており、ジト目で金髪の男を睨む

 

「にいちゃんサイテーだ!」

 

「そうだそうだ!」

 

「わだじがはじめでづっだざがななのにぃぃぃーーーーーー!」

 

「うわ~・・・大人として最低です。どなたかご存じありませんが人としてのモラルが欠如しています。まるで暴君・・・・・いえ、暴君よりも酷いです。あらあら、泣き止んでください。あんなDQN男は海に落として皆で美味しいバーベキューをしましょうね?」

 

「・・・う"ん"」

 

「ということですので、落ちて下さい」

 

「ふざけるなっ!この我を海に落ちろだt「サイクロンドライバー!」ぉぉぉぉぉーーーー!?」

 

縮地を超えた無間で背後に瞬時に移動した深月は、男の腰を持って自分ごとドリルの様に回転しながら海に落とす。その衝撃は凄まじく、水柱が立った。男は犬神家となっていたが、深月が回収して近くの浜辺へと放り投げて子供達とバーベキューをする。尚、男が勝手に行動しない様に魔力糸でグルグル巻きにしている

 

「ねーちゃんが用意した肉うっめぇぇぇぇーーーーー!」

 

「え~?私達が釣った魚も美味しいよ?」

 

「刺身うっま!」

 

「こらー男子達、野菜も食べなさいよ!」

 

「野菜は嫌だ!男は肉だ!!」

 

「こらこら、好き嫌いせずに食べませんと背が伸びませんよ?ちなみに、夜更かしも成長を阻害しますよ」

 

とはいえ、子供達は素直に野菜を食べないので挽肉に混ぜてハンバーグを作ったり餃子を作ったりと色々を手間を掛けて食べやすい様に工夫して食べさせる。そうこうしていると男も目が覚めた様だ

 

「この紐を解け雑種!」

 

「子供達の成長を妨げる人を解放するとでもお思いですか?」

 

「・・・チッ、いいだろう。しばらくの間は黙るとしよう」

 

流石に男も子供達の事を思うと後味が悪そうにしていたので鬼畜や外道ではないのだろう。深月は男を縛っている紐を解き回収していると―――

 

「子が居るこの場では何もせんが、後で覚悟しろよ・・・混ざり者」

 

深月はほんの少し硬直したが、子供達が居る手前では何もしない確約がされているので気にしない事にした。だが、油断はしない。子供達が居なくなった後に殺しに来るかもしれないし、何より男が纏うオーラが尋常ではない事には気付いている

 

「あー!泥棒の兄ちゃんが起きて来た!」

 

「俺達の肉も奪うつもりか!絶対にやらねぇぞ!!」

 

「お魚の弁償もしなさいよね!」

 

「・・・私の天ぷら」

 

「ええい、黙れ!貴様達にはこの我の力の一端を見せてやろう!」

 

男が言うと、空間が光り黄金の釣り竿が出てくる。深月は、頭が痛くなった。こんな子供達が居る前で異能を使う事がどれだけ危険であり、異端者に狙われる可能性がある。この世界にずっと留まる事の出来ない深月にとってかなり拙い事だが、男は何一つ気にしない様子で竿を次々と出している

 

「今宵は大盤振る舞いだ!お前達は今日だけ特別にそれに触り使う事を許す!」

 

「マジで!」

 

「最初はズルい兄ちゃんだと思ってたけど良い兄ちゃんだな!」

 

「・・・まぁ、赦してあげるわ」

 

「うわぁ、きれいな竿・・・」

 

黄金で出来た竿かと思いきや、通常の竿よりも軽いのか子供達でも軽々と持ち上げ投げる事が出来ている。しかも、大人並みに遠くに飛ばす事が出来ている。一体何がどうなっているのかツッコミたいが、何かしらの補助効果があるのだろうと無視する事にした。そして、爆釣だった。色んな大きな魚が釣れ、1m近くのヒラメ、巨大タコ、巨大イカ、ブリ、エイ等々が釣れた。小型の高級魚もそれなりに釣れており、深月は釣れたもの全てを神経絞めをして内臓を取り出して下処理の後氷がたくさん入った巨大なクーラーボックスを荷車に積み、子供を各家庭に送り届けて釣った魚を渡していると日が暮れていた

 

「子供は活発ですね。あの子供達は良い思い出が出来たでしょう」

 

「ふっ、当然だな。この我が貸した釣り竿を使ってこその釣果だ」

 

「それよりも、何時まで着いて来るつもりですか?」

 

「貴様は我に不敬を働いた。本来は直ぐ殺すのだが、気が変わった。庶民の食べ物とはいえ、味はそこそこ良かった。ならば、不敬を帳消しにする為にはどうするべきか分かるな?」

 

「かしこまりました。調理場所は私達の仮住まいとなりますが、宜しいでしょうか?」

 

「・・・ふむ、いいだろう。だが、我を満足させろよ?出来なければその首を我の手で直接刎ねてやろう。光栄に思えよ?」

 

深月は溜息を吐きながらどうするべきか悩む。正直言うと、めんどくさい。だが、下手に手を出すと何が出てくるか分からないので要求を呑むしかない。食べ物を要求するだけならどうとでも出来るし、衛宮宅には戦力がたんまり居るので多対一となり自身にヘイトが集中し過ぎるという事にはならないと踏んでの事だ。深月は男を連れて帰宅する

 

「ただいま戻りました」

 

「神楽さんお帰り。えっと・・・後ろの人はお客さん?」

 

「外出先で色々とやらかしたお詫びという形で夕食をご馳走する形になりました」

 

「そうなのか。えっと・・・名前は?」

 

「不敬であろう。我に頭を垂れ謝罪して疾くしn「あぁ、この方は自己顕示欲の高いお兄さん程度の扱いでお願いします」なにぃっ!?」

 

「これから夕食を作るのです。時間が掛かりますので揉め事を起こさず、静かにお待ちください。衛宮様、貴方も未だ本調子ではないご様子ですので今日も私が夕食をお作りさせていただきます」

 

「え・・・あぁ、分かった」

 

衛宮は深月の言葉遣いに少しだけ違和感を感じたが、何処かしらのお偉いさんを招いての言葉遣いだと思った。この予想は正しくもあり、衛宮を庇った形でもある。男が不機嫌になれば本当に首を刎ねられていたが、言葉を遮ってまで急かす事で多少は大目に見させるのだ。だが、それをした事による不都合―――夕食のランクを大幅に跳ね上げねばならなくなった

深月は男をリビングへと案内し、そこに居たハジメを含む全員がいきなりの来客に驚く

 

「おう、深月おかえ・・・・・マジか・・・・・」

 

「ミヅキ帰りましたか!早く夕食―――」

 

「さぁて、今日も美味しい物を食べさせて・・・あんた誰?」

 

「・・・凛、来客なのだから失礼のないようにしたまえ」

 

深月が作る夕食という癒しのオアシスに知らない誰かの参入という事に遠坂が不機嫌そうにするが、アーチャーに窘められて深月からハリセンで頭を叩かれるという連係プレー。物凄く残念な子である

 

「何故だ!何故貴様がここに居るアーチャー!!」

 

「セイバー、アーチャーってどういう事!?」

 

「彼は前回の聖杯戦争でアーチャーとして召喚されていました!」

 

「はぁ!?そんなの初耳よ!」

 

流石にこの事態を重く見たセイバー達は戦闘態勢を取ろうとしたが、もれなく全員にハリセンが叩かれる

 

「彼は夕食を食べに来ただけです。聖杯戦争が夜は活発化するとはいえ、ここは食事を摂る場―――。武器は己の歯とお箸やナイフやフォークだけです。それ以上を持ち出すのであれば何もお出ししません」

 

一人一人を射抜く深月の殺気は尋常ではなく、サーヴァントですら冷や汗を流す程に強烈だ。しかし、男はその殺気をそよ風の様に口角を僅かに上げて笑っている

 

「我は不敬を働いたこの召使に対価として食事を所望しただけに過ぎん」

 

「おい深月、不敬って何をどうやったんだよ・・・」

 

そこには皆も気になっており、深月は基本的には手を出す事は少ない。そして、目上の者に対してもそれ相応の対応をするので問題となる様な行動は慎む筈なのだ

 

「子供達が初めて自分で釣った魚を調理したのですが・・・この方に食べられましたのでグーで殴りました。そして、子供達の目の前で武器を取り出そうとしたので追加で海に叩き落としただけです。まぁ、食べられた事に悲しんで泣いてしまった子が居まして・・・」

 

もし、自分が子供の立場だとすれば物凄く怒るだろう。それに、気が弱い子ならば泣いてしまうのは当然だ。正直言うと、大人が子供にしていい行いではない

 

「それは・・・流石に擁護出来ねぇ」

 

「えぇ、少年少女が初めて己の手で釣った魚を勝手に食べるのは例え王であろうとしてはいけない」

 

「あ奴等にはこの我の道具を特別に貸し与えて大物を釣らせた事で帳消しだ。ならば、後は言葉よりも手を出したその召使を裁かねばなるまいよ。セイバーよ、お前も王なら分かるであろう?王に手を出す事は死罪も同然である。だが、我はその法を特別に軽くしただけだ。これの何処に問題がある?」

 

男の言う事は正に特別である事が分かる。暴君でなくとも、王に手を出せば死罪は免れない

 

「マジかよ。深月の料理は王様の舌を唸らせたって事か?」

 

「雑種、貴様はこの召使の仮の主であろう?王の言葉を遮る事がこやつの足を引っ張ると理解しているか?」

 

ハジメは目を見開いて深月の方に視線を向けると、頭が痛そうにしていた。ハジメは、「どこに問題があった・・・」と思っているのだろう。必死になって何処の足を引っ張ているのかを理解しようとしたが心当たりが何一つない

 

「その様子から何も理解しておらぬようだな」

 

男はハジメに興味を失くしたのか、指を鳴らす。何もない空間から金色の玉座が現れると同時に、深月が指を動かして下敷きにされそうになった家具を退避させる。これだけでも男の口角は上がりニヤける。深月はハジメの肩を掴み、睨みながら小声でありながらどすの利いた声で告げる

 

「これ以上不用意に発言はしないで下さい。衛宮様達にもこの事をしっかりと念押しして下さい」

 

深月はそのまま玉座の前に魔力糸で編んだテーブルを出す。シンプルながらもテーブルの脚や側面には美しい花の絵を彫りこんでいる。白いテーブルだが、掘り込み部分だけほんの少しだけ色を付ける事で華やかさを備える

 

「ほう、魔力を質量に変えたか。贋作者の真似事も出来るがお前の場合は模倣者・・・いや、昇華させているな。これだけでも殺すには惜しい」

 

「それはとても嬉しゅうございます。ですが、今はその様な考察を止めて下さいませ」

 

「その発言を赦す。確かに、貴様の言う通りこの場は食事をする場であるが故にな」

 

深月は宝物庫から包丁を入れているケースを取り出し開けると、使い込まれていようと美しさを持っている。男はその包丁に興味を持ったのか、少しだけ身を乗り出して観察していると深月は魔力糸の布を作り包丁の持ち手部分に乗せて男の前へと寄せる。それを察したのか、持ち手に布を巻いて包丁を手に取り刃を見る。時折角度を変えて光を反射させたりとして戻し、全種類の包丁を見終えたら深月に視線を向ける

 

「それでは、只今から調理を始めさせていただきます」

 

「我を愉しませろよ?」

 

「では、王様自ら食材を選ばれて頂きましょう」

 

「ほう、よいのか?今更後戻りは出来ぬぞ?」

 

深月は、宝物庫に入れていた"トータス産の魔物の肉"を含めた各種材料をテーブルの上に乗せていく。そして、明らかに普通とは違う反応が返って来た。そう、これは好奇心―――。この王様は表情や仕草には出していないが、心拍や眼の輝きが少しだけ変わったのだ。深月はそれを絶対に見逃さない

 

「色々とあるが・・・そうだな。そこの"肉"と牛の肉を使え。後は貴様の判断で"主役"を損なわずとも存在を大きく出す"従来の野"と"肉よりも力強く舌に残るスープ"だ。これらを実現する時間は本来であれば一月程掛かるが、貴様なら出来るであろう」

 

「かしこまりました。"それぞれ調和と強調"を兼ね備えた料理をご用意致します」

 

王様が指定した二種類の肉を残して他の肉類は収納し、手早く下処理を開始する。"魔物肉"をサイコロ状にカットし、牛肉は薄くスライス。手の温度でも肉は焼けてしまうので手に魔力糸のグローブをして冷たい状態を維持しつつカットしているので味の低下はありえない。

野菜は家庭菜園で採れた野菜達だ。空間魔法による施設の拡張のお陰で自家栽培で自給自足並みの生産力を手に入れており、深月の手で大地の栄養をたっぷり吸収した無農薬の野菜達がある。地球産の香辛料とトータス産の香辛料を配合して世界でただ一つのオリジナルの味付けを完成させている。その香辛料を使い、シンプルな野菜サラダを作る

そして最後はスープだが、実はこれが一番厄介で時間が掛かる。これは完全に技能頼りの調理となるが、王様は大まかではあるが深月の事を理解しているので全てを任せているのが救いだ。そして、スープはというと実は完成していたりもする。だが、このスープは全力の遊びによる奇跡とも呼べる逸品なのだ。最初は皐月にと思っていたのだが、このお題をクリアするのはこれしかなかった。首からチェーンの紐を通した指輪型の特別製の宝物庫から大鍋を取り出した

その瞬間、深月と王様以外の皆の口から涎が垂れる。香りの暴力―――、嗅いだ事のある匂いなのに脳が理解する事が出来ないという判断を狂わせるようなそれが部屋に充満する。大鍋からお玉一杯分のスープを小さな鍋に移し、沸騰しない程度で温め終わったら薄くスライスした牛肉をそのスープにさっと潜らせて冷水で一気に冷やす事でうま味を閉じ込める。これを見た皆は、「何て贅沢な!」とツッコミを入れたかったが口から垂れる涎で声に出なかった

 

「な、何て匂いだ・・・。これは麻薬にも等しい。いや、このスープの為だけに戦争が始まってもおかしくない」

 

牛肉をサイコロ状に切った魔物肉を包む様に巻き、その上に先程のスープを煮立たせて濃厚にしたソースとして全体を覆う。そして、ここからが全員に衝撃を与える物が出た。それは、テープによって隙間を閉じているのにも拘らず鎖をグルグル巻きにしていたのだ。あまりに異様―――まるで封印しているかの様なそれを出した深月が鎖を解き終わると、珍しく表情を強張らせながら注意点を告げる

 

「ここで皆様には注意点が御座います」

 

「よい、許す」

 

王様の許可も得た事で、深月はブルーシートを広げて全員をその上へと移動させる。これには皆も戸惑う

 

「王であるこの我もだと?」

 

「私は貴方の正体を存じません。ですが、高潔な王である事は理解しております」

 

「では、その理由を聞こう」

 

深月は少しだけ後ろめたさを感じさせつつも正直な感想を口に出す

 

「王様、先程取り出したスープについて何か感想は御座いますか?」

 

「そうだな。あのスープは、我が今まで食べた中でも最上位に匹敵するだろう」

 

「それはとても光栄で御座います。ですが――――あれは未完成です」

 

これを聞いた瞬間、ハジメ達は今までにない驚愕の表情で反応した。一方、王様も深月の言葉に驚いたのか眼を見開いた後に獰猛な笑みを浮かべる

 

「く、ふ、フハハハハハハハ!ハーッハハハハハハハハハハ!あれは未完成で、それを用いた肉料理を出そうとしていたのか?本来は不敬として許されぬ行為だが、それは違っていたか!あれを超える完成系となれば、肉を超えるのは必然というものだ」

 

王様はクツクツと笑みを浮かべている様子は、まるで純粋な子供みたいだ。本来であれば、王という体裁を持つが故に毅然としたカリスマ溢れる状態でなければならない。だが、己の知らぬ未知の体験を個人でするのであればそれは必要ではない。寧ろ心躍り自然に笑みが零れるものだ。全員をブルーシートの上に移動させた後、いよいよ開封される

密閉するテープにカッターの先端が入った瞬間、先程のスープと比較する事すら烏滸がましいレベルの匂いが噴出。深月と王様以外の皆は足に力が抜ける様な形で膝を着いて口から洪水の如く涎な流れ落ちる。かろうじて大丈夫だった王様もこの威力の前には涎を零してしまった。深月自身も涎を零しているが、構わずに作業を続ける。開封した箱の中には更に箱が入っており、それも開封する事でようやく本命の大鍋が姿を現した。しかし、不思議な事に本命の大鍋を出した瞬間に嵐の様な匂いが収束した

 

「な、何だ・・・?匂いが消えた?」

 

「一体どういう事だ・・・。今までのは錯覚だったのか?」

 

深月は黙ったままハジメ達にタオルを投げ、王様には畳んでいる最高品質のタオルを手渡した。各々タオルで汚れた場所を拭いて清潔さを取り戻させる

 

「では、メインディッシュのスープ以外の物をお出しいたします」

 

食材達は未だ皿の上にすら乗っていないのだ。各々の種類に合う色の皿を取り出し、見目麗しく盛り付けていく。王様は目の前で形作られる料理の様子を真剣な表情をして黙って見ている事に気付いたハジメ達は、少なからず驚愕の表情が浮かび上がっていた

ソースで覆われた肉の皿の端には色の違う三つのソースが彩を豊かにする形で乗せられており、肉に掛かっているソースと混ざり合っていない

 

「料理に名前はありませんが―――『ヒュドラ肉の牛肉包み、変幻多彩のテーマパーク』で御座います」

 

「現代にヒュドラは居ないが・・・そういう事か」

 

王様は深月の手を注視しており、何かを感じ取っていたのか何やら嬉しそうにしている。そんな静かな場をぶち壊したのは遠坂とセイバーの二人だった

 

「ちょっと待ちなさい!ヒュドラ!?今ヒュドラって言ったわよね!?」

 

「ミヅキ、ヒュドラは猛毒を持つ伝説の魔獣です!そんな危険な物は食べられません!」

 

「いやいや、お前等ちょっと黙ってろって。王様はヒュドラを知っている様子だから落ち着いて続きを聞こうな?」

 

二人は、押し黙る様に静かになった事でようやく説明する事が出来る

 

「毒は無効化していますので食べても大丈夫です。お出しする前に動物に食べさせているので確認済みです」

 

「だ、そうだ。セイバーよ、自らを王と謳うならこの程度の事で動揺するなど王にあるまじき反応だ」

 

「なっ!?ぐっ・・・!」

 

何も言い返せない様子のセイバーを見た深月は驚愕していた

 

「えっ?あの・・・彼女が王だったのですか?何かの間違いでは?」

 

「こ奴は騎士王だ」

 

「・・・まともな料理人が居なかったのですね。では、お話を戻させていただきます。王様、何か必要なご質問は御座いませんか?」

 

「いや、何もない。次を何時でも出せる様にしておけ」

 

深月は黙って次のサラダの準備に取り掛かり、王様は金色のナイフとフォークを取り出して肉を切る。スッと抵抗なく切り分けられた肉の断面は、表面はじっくとと程よい加減で焼かれ中はレア状態。これだけでも腕がいい事が分かる。先ずは何も付けず気品ある静かな動きで肉を口の中へ入れ一噛み―――ヒュドラ肉を包む牛肉がスープの風味を溢れさせヒュドラ肉に薄く広がる。多すぎない旨味とヒュドラ肉の旨味の対比が丁度良く、噛む度に肉の味を変化させていくこれは正にテーマパークだ。たった一口でこの飽きの来ない味わいなのに、皿の端には三種類のソースが乗っているのだ

数があった肉は一つ一つのソースを付けて食べても全くの別物で、ソースは混ぜて付けても味わいが違うこの技術は熟練者が使う手の一つだ。手を止める事なく噛み締める様に食べた後、少しだけ顔を上に向けて口から鼻にかけて出て行く匂いも堪能する。正に至福の一時であるが、すぐに顔を下ろして次のサラダへと移る

 

「サラダに関しましては・・・申し訳御座いません。何分と手を加えるよりも生で食べる方が素材そのものの味を楽しめるかと思い切っただけとなります。ですが、味付けは自分好みの調味料を探して頂ければ幸いです」

 

王様は何も言わずサラダに手を付ける。少しだけ落胆した様子だったが、最初は何も付けずに一口入れるとうんうんと一人で頷いていた

 

「この世界に受肉してから早十年と少し・・・神代からどれ程の進化を遂げたのか気になった今の時代、そのどれもが劣る物だった。しかし、よくぞここまで近づけたものよ。明らかに現代の野菜でありながら、神代の物よりは少しだけ劣るが十分な味わいだ。そして、この調味料もいい味を出しておる」

 

王様はただそれだけを言い残して用意したサラダを全て食べ切った。そして、遂にメインディッシュのスープが登場する。白い皿を出した深月だが、ここで王様以外が違和感を持った。あの皿には何も入っていない事に気付き深月に注意を発そうとするが、王様の声がそれを遮った

 

「くっ、クハハハハハハ!フハハハハハハハハ!!」

 

ハジメ達は何を笑っているのか疑問に思っていると、王様が空っぽの筈の皿にスプーンをゆっくりと一掬いしてようやく気付いた。水が滴る音―――、それはスープに他ならない

 

「これ程までに透明なスープは今までに見た事もない。しかし、スプーンを更に近づけた事でようやくその姿が見え隠れする。ここまでの情報量ならばそのまま手を止めなかったが、掬った瞬間に手に圧し掛かるこの重みは・・・そうさな、食材の意思の重みと言った所か。凝縮された食材達が調和しつつも、各々を主張するかの様な激しい争い。これは料理世界の革命と言えるな。このスープ一杯だけで我の最上級の宝物を幾つか手放しても惜しくない代物だ」

 

王様はスプーンをゆらゆらと揺らし、あらゆる情報を体感してから最初の一口を口に含み一噛みして硬直した。まるで自分の動作が信じられないかの様に驚きつつ、飲み込み王様の動きが完全に止まった。まるで息をするのも忘れるかの様に静かで、しばらくその状態が続き不審に思った深月が顔色を窺うと慌てて王様の頬をビンタする

 

「ちょ、深月止めろ!それ絶対不敬なやつだって!?」

 

ハジメが止めようとするも深月がビンタを続けるが王様が一向に目を覚まさず、深月は最終手段として掌底を鳩尾に容赦なく叩き付ける

 

「グハアッ!?」

 

そこまでするとようやく目覚めたのか、王様は咽る。ハジメは、痛そうだなぁ~と思いつつとても心配していた。もし、アニメ通りの設定ならば処刑される可能性もある

 

「王様、此処が何処か分かりますか?」

 

「ぬ?此処は・・・いや、そうか。スープを飲んだだけで気絶するとは迂闊だったな」

 

「あの・・・気絶ではなく心肺停止されていたので気功を打ち込みました。体に変調等はありませんか?」

 

「心肺停止だと?・・・・・くっ、フハハハハハハハハ!そうかそうか!我はスープにやられたのか!だが、二度はない」

 

王様は再びスープを飲む。今度は気絶する事なくじっくりと味わいを楽しみつつ一口、また一口と手が進み全てを飲み終えた

 

「よし、此度の不敬は無しとしよう。そして、そのスープを鍋ごと献上しろ」

 

「封は如何されますか?」

 

「施せ。そのスープを一滴たりとも零すな」

 

「かしこまりました。少々お待ちください」

 

「貴様には後程我の宝物から褒賞を与えよう。何が良いかは考えておけ」

 

この場に居る全員が、「えっ!?」と驚愕の声を上げる。深月は片付けながらセイバーの方に視線を向けると、まるで絶望した様な表情をしていた。恐らく、このスープを飲めるとでも思っていたのだろう。しかし、出会ってからのセイバーの食欲等を観察していたからこそ、このスープを飲ませるわけにはいかない

 

「処理も完了いたしました。後は王様のご判断にお任せ致します」

 

「褒めて遣わそう。そして、貴様は何を欲する?」

 

「今よりも繊細な料理をする為に包丁を望みます」

 

「・・・無欲だな。今は無き鉱石を所望し、そこの仮初の主に作らせても良いのだぞ?あの包丁もそ奴が作り、特殊な鉱石を使用している一点物だろう?」

 

王様の言う事は最もであり、ハジメや皐月に頼めば深月にピッタリな包丁を作ってくれる事間違いなし。だが、それだけは頑なに否定する

 

「報奨を加工したくはありません。ならば、特別な日に使用する実用性のある記念品を望みます」

 

「流石だな。そこなうっかり小娘の俗物的な欲とは違う」

 

「にゃっ!?」

 

遠坂が怒って立ち上がろうとしたが、ハジメが頭を押さえて立ち上がらない様に防ぐ。流石にこの状況で横やりを入れる事は危険だという事を理解している。王様が指を鳴らすと、深月の目の前の空間が揺らいで金色の大きなケースがゆっくりと姿を現し、両手で繊細に支える事でその全体の重みが伝わる

 

「有難き幸せで御座います」

 

深月はケースを開ける事なく魔力糸の布を被せて覆う

 

「確認はせぬのか?」

 

「王様が報奨を騙す事は国の品性を欠如させる愚行―――、高潔な王であらせられる貴方がそれをする事は天地がひっくり返ってもありえません」

 

「そうか。・・・・・貴様とそ奴は世界の異物として認識されている事は知っているな?」

 

王様の言葉にハジメと深月は頷く。何処かしらで世界の修正力が働き、消される可能性もあり得る。しかし、その場合は全力で抵抗する

 

「ならばよい。派手に動く事がなければ抑止が動く事はないだろう。この聖杯戦争が終わる時には帰還の目途も立つ。それに、最早此度の聖杯戦争なぞどうでもよい。我は召使が作る料理を食べながら雑種共の戯れを眺めるだけだ」

 

「王様はこの地に存在する聖杯についてご存じでありながら、もう手を出さないという事でしょうか?」

 

「然り。―――だが、我の食事を邪魔する輩はこの手で屠るというのも一興か」

 

まさかまさか、深月の料理で王様がある意味味方になってしまった。正直言うと、防衛では勝ったも同然である。すると、ピンポーンと呼び鈴が鳴り来客がある事を知らせる

 

「チッ、駄犬か。言峰の命令か?」

 

「てめぇ、殺されてぇのか?」

 

衛宮が玄関先に行くよりも先に、室内にいきなり現れる青い男

 

「ランサー!」

 

「一体何時の間に!?」

 

「令呪による転移か!」

 

今回は流石に襲撃だと判断したセイバー達は、武器を構える。しかし、彼等の首筋ピッタリに武器の刃が押し当てられる事で動きを止めた。王様の武器だと理解したハジメと深月は拍手した

 

「あんたらどっちの味方よ!?」

 

「あん?深月が言ってただろ?此処は料理を食べる場所ってな。きっと王様はその思いを汲んでお前達を止めたんだよ。ってか、室内で武器を振り回そうとすんなよ。何かが割れて食材に混じったら危ねえだろうが!」

 

「そうです。ガラスの破片が野菜に付着したらどうするおつもりですか!知らずに食べたら口の中を切ってしまいます」

 

実際、ハジメ達は遠坂達を裏切ってはいない。今は武器を収めろというだけだ

不満気にしつつも武器を下ろした順から王様の武器が姿を消し、全員が無手になった事でようやく話し合いが出来る。そして、玄関先から戸を引く音が聞こえそちらに目をやると神父が立っていた

 

「これはどういうつもりだ?ギルガメッシュ」

 

「ギルガメッシュって事はバビロニアの英雄王!?」

 

「ようやく気付いたのか、このうっかり娘は。まぁいい、所で何用だ言峰」

 

「貴様は聖杯を完成させるつもりだったのではないか?」

 

「泥を観察するよりも美を食す事の方が有益なのでな」

 

「そうか―――令呪を持っt「无二打」ぐ、ガハァッ!」

 

深月の拳が神父の胸部に突き刺さり、衝撃が背を伝う。一応殺しはしていないが、骨を粉砕する威力は秘められているので神父は地面に倒れる。床に血だまりが出来るが、せっせとビニールシートの上に運んで畳を清潔でキレイキレイする

 

「これで一安心ですね」

 

『いやいやいやいや、何をあっさりと!?』

 

「フハハハハハハハ!言峰綺礼をキレイキレイとは我を笑い殺す気か!」

 

「取り敢えず治療はしますのでお待ちください」

 

再生魔法で神父の身体を再生し、元通りにする。これで神父も深月の戦闘能力が自身よりも遥かに上である事が理解出来たであろう。少しだけ睨むが、諦めたのか溜息を吐いて力を抜いた

 

「それで?今は聖杯戦争の最中だが、お前達はどうするつもりだ?」

 

それは遠坂達に向けての言葉だった。この場には三騎士が集い、前回の聖杯戦争の勝利者のギルガメッシュも居るとなれば、何かしらのアクションを起こすのが普通だ

 

「私達は同盟を結んだのよ。そして、そこに居る中二病とメイドの二人は傭兵という形で雇ったわ」

 

「ほう・・・無関係な者まで巻き込むとは」

 

「と言いながら、ギルガメッシュ王に私達の事を告げ口したのは貴方でしょう?」

 

「・・・・・バレていたか」

 

「バレバレですね」

 

「あんたが黒幕だって言われても不思議じゃねぇ面だな」

 

「ならば、お前達二人は聖杯に何を望む?もし、凛が勝者となったとしてもお前達にも願望を望む権利がある」

 

ハジメはアニメやゲームの知識で色々知っているが、深月は皐月がこのゲームをしているという位しか知らない。だが、そんな深月でもこの地に眠る聖杯が危険物である事を降り立った時点で感じていた

 

「いやいやいや、俺等は日雇いのバイトみたいなもんだから願望なんて何もないな」

 

「まるで汚物の塊と称しても不思議ではないのが聖杯なのですね。願えば破壊一択の願望器を誰が欲しがるのですか?」

 

「深月の清潔で綺麗にはならないのか?」

 

「ハジメさんは誰とも知らぬ汚物の塊に手を突っ込んでまで清潔にしたいとお思いですか?」

 

「・・・・・そりゃあ嫌だな」

 

「結果、誰も欲しがりません。以上で御座います」

 

この聖杯戦争に参加した者達は、深月の言う事を聞いて呆然としたのは言うまでもない。それでも未だ夜は続く―――

 

 

 

 

 

 

 




飯テロ回は筆が乗りますねぇ!
それはそれとして、王様がメイドさんが作る食事を摂る事が決定しました!ドンドンパフパフー
そして、これは"同盟の翌日の出来事"です。あまりにも急展開な出来事は正にイレギュラー!FGOで言うなら特異点発生と捉えられてもおかしくないだろうなぁ






英雄王の舌を唸らせ虜にしたメイドさんの料理。誰もがそこで終わると思っていたが、余計な茶々を入れる黒幕こと言峰綺麗と幸運Eランクのランサーが現れた。しかし、メイドさんの華麗なる無駄のない攻撃により言峰は倒れ伏し降伏した!
メイドさん動きを見た戦闘狂のランサーは心躍るぅーーーー!だが、悪魔が出現し次々と犠牲者が出始めてしまった!唯一倒れなかったのは言峰と主人公だけだった!
次回、悪魔の襲来―――メイドと槍兵の激突!!


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メイドのフラグクラッシャー!~Fate編~

布団「メイドさんの攻撃、それは飯テロ!」
深月「夜食は如何ですか?」
布団「ヤメローシニタクナーイ!」
深月「読者の皆様方、作者に美味しい麻婆を食べさせますのでごゆるりとどうぞ」
布団「ヴェアアアアアアアアアアアア!」







~深月side~

 

聖杯戦争の監督役の言峰綺礼が色々と情報をゲロった今、戦う意味が殆どなくなった。聖杯はアンリ・マユにより汚染されて大量破壊兵器の願望器と成り果て、厄災以外何も生まないという事が分かった為皆が処分について話し合う事となった

 

「取り敢えず、聖杯は破壊って方針でいいんだな?」

 

「そうね・・・十年前の大災害を知っているからこそ、完成された呪いを振り撒くなんて事は絶対に防ぐわ」

 

「って事は、残りのマスター達にも状況を知らせた方が楽だな」

 

計画は後日、日を改めて全マスター達に伝え、それまでは一時停戦という流れだ。だが、従わないマスターが居る可能性もあるのでその場合はフルボッコで戦う事になるので数の有利が取れる

 

「なぁ、金ぴかアーチャーは飯を食ったんだろ?俺にも食わせてくれよ」

 

「ランサー、あんた図々しいわね」

 

「戦わねぇんだろ?だったら、何かしらで発散する他ねぇ。嬢ちゃん達とイチャコラするにしても、もうちっと歳を取ってもらわねぇと俺の好みには合わねぇな」

 

遠坂は、額に青筋を浮かべてランサーを叩き出そうとしたが、この場で臨戦態勢を取った瞬間に深月のハリセンが飛んで来る事を理解していたので留まる

 

「まぁ・・・食事を望まれるのであればご用意しますが、食べたい物はありますか?」

 

「ん?嬢ちゃんのお任せで頼むわ。食えれば何でも御座れだぜ!」

 

「なら、私達もランサーと同じ物を所望します」

 

「そうね、悪いけど私達全員分を用意してくれるかしら?」

 

これには全員がランサーに相乗りする形で晩御飯を要求し、深月としては何も問題がないので了承する

 

「・・・あ、深月。俺には釣った魚を使った日本食で頼む」

 

少しだけこの流れを不安に思ったハジメは、深月が釣りに行った事を踏まえて日本食を注文した。深月は台所に移動して調理を開始、取り出すは"冷凍されて固められた"物だ。中華鍋に入れて十分に温まったら、ギルガメッシュが食べた野菜を少々と"香辛料等"を追加投入する。その作業と並行して行っていた、ラーメン作り。一から作るそれは縮れ麵と、釣り場で三枚下ろしにした魚の骨をベースにしたスープが完成。だが、これで終わりではなく、中華鍋に入ったそれと、魚介スープを混ぜて麺を投入してネギとゆで卵を投入して完成した。尚、ハジメの分は刺身と味噌汁と漬物と白ご飯というシンプルな一品だ

そして、各々の前に運ぶ料理を見たハジメは、達観した目で明後日の方向に向く。深月が用意するご飯は美味しい―――が、"麻婆等の刺激物"に関してはそれに含まれない。事前に察知しなければ後日の排泄に多大なる影響を及ぼすのだ

 

「ハジメさん以外は、麻婆ラーメンです。辛くて美味しいですよ♪」

 

「何で麻婆豆腐とラーメンを混ぜてんの!?」

 

遠坂のツッコミは最もだ。しかし、このラーメンに違和感を持つ事なく、逆に興味を惹かれているのは言峰だった

 

「ほう、私は麻婆にはうるさいぞ?」

 

「私自身が作って美味しいと感じるので大丈夫です!」

 

あまりにも深月が自信満々に宣言するものだからか、ハジメは少しだけ席を外してギルガメッシュに告げ口して絶対に食べない様に注意する。流石のギルガメッシュも普通の色をしている筈の麻婆が劇物に見えているのだろうか、つまみ食いをしようともしないし興味すら湧いていない様子だ

 

「ふむ、確かに美味いな。魚介出汁とは合わないと思ったが、案外相性が良い」

 

「麻婆は美味しいです。ラーメンに合う様に配合を変えたのもいい塩梅ですね」

 

二人が美味しいと言いながら食べている姿を見た皆は、それに何も思わずに啜って口に入れた瞬間、顔面から麻婆の海にダイブして沈む。その光景を見たハジメは、彼等の冥福を祈るかの様に南無と言った。尚、ギルガメッシュは爆笑していた

 

『辛っら!?痛い!!水、水、水ぅぅぅぅーーーーー!げはぁっ!?しみるぅ!?』

 

超激辛料理を食べた芸人の様な反応をする彼等を見る深月は、不満気な反応だ。こんなに美味しいのにと口漏らす程・・・

 

「こればっかりは食えねぇ!ゲッシュで縛られてるが、そんなもん破ってでも食わねえ!」

 

ハジメは天を見仰ぎ、これ以上ない残念な子を見る様な憐れみの視線を向ける。例えサーヴァントがアストラル体で構築されていようとも、サーヴァント並の力を有する魔術師と同等かそれ以上の深月に捕らえられない者は殆どない

 

「聞き捨てなりませんね。この美味しい麻婆を食べれないと?私にお任せと言いながら食べないという事は料理人への冒涜・・・いえ、食材への冒頭です。手足を縛ってでも、皆様に食べさせていただきます」

 

ランサーの肩に乗せられた深月の手の圧力が凄まじく、嫌な予感がしたランサーがブリキの人形の様に顔を後ろに向ける。笑顔なのに目が全くと言っていい程笑っていない深月は、手始めにランサーの手足を縛った。蓑虫の様にグルグル巻きにされたランサーは、表情を引き攣らせ必死に逃れようと体を動かすが必殺仕事人の如くの秘孔刺しが決まり体の自由を完全に奪われた

 

「さぁさぁ、食べましょうね~♪」

 

「そう嫌がるな。麻婆は美味だぞ?初めて食べたから辛いと感じているだけで、慣れれば病み付きになる美味さだ。香辛料もそうだが、野菜の旨味も感じられる逸品は中々に無いぞ?」

 

「止めろー!笑顔でそれが入った物を突き出s「今です♪」ゴァァァァァァァァァーーーーーーー!?」

 

ランサーが叫ぶと同時に、目にも止まらぬスムーズな動きでレンゲを口の中へ突っ込む。痙攣しているかの様にビックンビックンしているが、ゆっくりと一口ずつ口の中へと居れるその姿はまるで拷問管だ。ランサーが自身の麻婆を食べ終える頃には、真っ白に燃え尽きたかの様だ。遠坂達もランサーに気を取られている間に逃げようと試みたが、既に魔力糸によって絡め捕られていた

 

「イヤァァァーーーーーーー!?」

 

「なんでさぁぁぁーーーーーーー!?」

 

「やめろぉぉぉぉーーーーーーー!?」

 

「ぐはぁぁぁぁぁーーーーーーー!?」

 

全員に麻婆を完食させた深月と言峰は、やり切った汗を拭って次の標的に移行する。それは、ハジメとギルガメッシュの二人だ。ハジメが一目散に逃亡するが、事前に逃れようとするのを防ぐ為に逃げれば束縛するトラップにより足首を掴まれて終了。尚、ギルガメッシュも逃亡しようと迎撃を試みたが宝物庫から顔を覗かせた武器達は魔力糸の雁字搦めにより射出すら不可能となった

 

「令呪を持って命ずる。ギルガメッシュよ、私達と共に心行くまで麻婆を食べろ」

 

「おのれおのれおのれおのれぇぇぇぇぇーーーーーーーーーー!」

 

結果―――麻婆に撃沈されなかったのは麻婆大好きな深月と言峰を除いてハジメだけだった。何かと深月の麻婆を食べていたせいなのか、耐性が上がっていた事が幸いした。とはいえ、おかわりは絶対にしない

 

『麻婆・・・まーぼ・・・マーボ・・・・・』

 

壊れたレコーダーの様に無意識で麻婆を呟く彼等の姿は哀れで、言峰はそんな皆を見てこれ以上ない笑みを浮かべる。少しして目をカッと見開いて何かを思い付いたようだ

 

「なるほど、これはギルガメッシュの言う通りだな。聖杯の完成は食の前には無価値・・・ふむ、麻婆を広めて愉悦を見出す事の方が私の幸だな」

 

「麻婆は悪を淘汰し、全を救う最高で最強の料理です!麻婆の沼に浸からせましょう!」

 

「この世を麻婆で染め上げるという事か。麻婆の沼に引きずり込んだ者を媒介として世界中に広がり、支配する。ふっ、これ程までに愉快な事はない!」

 

「では、こちらの香辛料全てをお渡しします。香辛料を一から育てる事によって、より深い愛情を込めて作れます。それを食す事で麻婆信者を増やすのです。最初はそこそこ辛い程度にして、徐々に徐々に辛みを増して病み付きになるように侵食させるのです」

 

「ほう、君は私の愉悦の何たるかを理解しているか。少し前までは他者の苦痛に愉悦を見出していたが、それを破壊という方向に舵を取ればいつか無に帰する。しかし、己が手で三大欲求である食に手を加え永遠の愉悦を見出す。これぞ本物の愉悦!あぁ、そうだ!私は聖職者でありながら他者の不幸を望む異端者だ!だが!だが!!表では相手に手を差し伸べ、裏では愉悦を味わう最高の連鎖ではないか!!少女よ、感謝する」

 

「いえいえ、麻婆を愛する人には手を差し伸べるのは当然の事です。そして、こちらのノートが効率と味を両立させた香辛料の栽培方法を記しています。世界を麻婆に染め上げる先駆者である貴方を応援しています」

 

深月と言峰は、ガッシリと力強い握手をする

 

「対価としては些か不釣り合いだが、この黒鍵と元ランサーのマスターから強奪した現代に残る宝具を授けよう」

 

「ありがとうございます♪」

 

ハジメは表情を引き攣らせた。黒鍵だけでも深月にとって最強の暗器となり、それを複製する事が出来たら・・・大量に持つだろう。黒鍵の無限に近い投擲を思うとゾッとするし、何よりヤバイのは宝具だ

斬り抉る戦神の剣(フラガラック)―――、迎撃礼装と呼ばれる宝具だ。物凄く簡単に説明すると、相手の攻撃を無かった事にしてこちらの攻撃を通すという事・・・とはいえ、これでも分かりにくい。後出しジャンケンに例えた方が分かり易いだろうか・・・。要するに、防御側にとって無敵カウンター攻撃だ

深月の手にフラガラックが手に渡った事で、先程まで麻婆の海に沈んでいたランサーが目覚めた

 

「おい、嬢ちゃん。そいつは俺の元マスターの所有物だ。タダで貰えると思うなよ?」

 

「令呪を持っt「何をどうすればいいのですか?」・・・・・良いのかね?」

 

「しぶとい事で有名な光の御子であるクーフーリン様と手合わせする事で手に入れれるのなら安い物です」

 

急遽決定した深月対ランサーの戦い。これには先程まで倒れていた遠坂達も必死に起き上がり観戦する事にした。場を移動し、衛宮宅の広い庭での戦い。お互いある程度の距離を取って自身の得物を手に持つ

 

「んじゃあ、いっちょ殺るか!」

 

「聖杯が汚物にまみれていますので程々にして下さいね?」

 

ランサーが槍を構えたと同時に目つきが変わった。獰猛な獣の様なそれは、ハジメの背筋を寒くさせるには充分だった。これが本当の英雄との対峙―――。しかも、相手はケルトで大有名な英雄だ

 

「おらあっ!あんな物を喰わせられた恨みだ!」

 

皆が、「あぁそうだよね」と心の中で同じ思いを抱く。如何な英雄であろうと、何でも分解するトータスのクリオネですら暴れてしまう程の代物の前に胃の耐久力が持たない

 

「あんな物ですって!?こうなれば、私が勝てば麻婆丼を食べさせます!」

 

「ふざけんなっ!」

 

ランサーの目にも止まらない連続の突きを、黒刀で槍の切っ先を逸らす事でかすり傷付かず対処する

 

「ひゅう!現代の使用人はここまで強いのか?」

 

「それは深月だけだ!」

 

「そりゃあ惜しいな。後十歳ぐらい歳取ってたら口説いてたのに――――よぉ!」

 

「幸運Eクラスの人に口説かれても断りますよ!」

 

深月とランサーの攻撃の応酬は更に過激さを増すが、どちらも傷付かない。いや、深月が攻撃を流しているだけなのでランサーに傷は付かない

 

「そらそらそらあっ!そっちは攻撃しねえのか!」

 

「もう少し・・・もう少し・・・」

 

ランサーはノリに乗っているのか、攻撃の早さと重さが増していく。遠坂達はランサーの強さに険しい表情をするが、ギルガメッシュだけが笑みを浮かべている

 

「・・・そろそろか」

 

ギルガメッシュの言葉と同時に、深月が持っていた黒刀は弾き飛ばされる。そして、ランサーの突きが深月の心臓目掛けて襲い掛かる。ハジメでさえもヤバイと思い割って入ろうとしたが、槍が胸に当たる寸前で止まる

 

「っ!?テメエ、わざとか!?」

 

「えぇ、単純な突きでしたので掴ませていただきました」

 

ランサーの槍は、刃のない上部を掴まれる事で止まったのだ。ランサーは剛腕であるが、山程の大きさがあるドラゴンを拳一つで浮き上がらせる力をすぐには出せない。一方、先程まで受けだけをして事前準備をしていた深月ならば造作もない事だ

 

「鉄山靠!」

 

「ぐっ!」

 

槍を手放した深月のノーモーション鉄山靠がランサーに襲い掛かるが、流石と言うべきかすぐに槍で防御する。だが、姿勢が悪い為に踏み止まれず数メートル地面を削りながら下がりそこから深月の強襲が始まる。片足のムーンサルトキックでランサーの顎を狙うが、これは槍の持ち手部分でしっかりと抑えられる。視線は深月の攻撃した足だけに集中している事で、支えている足を支点としてスケート選手の様に回転して脇下から黒刀を滑らす

 

「どわぁっ!?なんつー曲芸っ、っ、つうっ、の!?」

 

「まだまだ!」

 

黒刀を上体逸らしでギリギリ躱したランサーは無防備。支点にした足に力を入れて縮地で黒刀を持つ腕を曲げて肘打ちを狙うがランサーの野生的な反射で足で防御される。しかし、防御した事で浸透系打撃による足の筋肉の動きを一時の間鈍らせる事が出来るのだ

 

「槍兵にとって命綱の足を一時的に封じましたよ!」

 

「おいおいおい!どんな観察眼してやがんだ!!」

 

今は黒刀を上に放り投げて視線を逸らさせ、気配を透過と同時に掌底を鳩尾に入れる。横隔膜を麻痺させた事で、ランサーの呼吸まで一時的に封じた。そうすると、ランサーの思考は深月を至近距離から放そうとする

 

「武器使えやぁ!」

 

「私は体術が一番ですから」

 

ランサーは、槍を横に大振りしながらバックステップで距離を取ろうとするが深月の震脚が地面を砕きバックステップを封じる。つんのめったランサーの顔は深月の膝上に丁度よく、膝蹴りで持ち上げて再び鳩尾に正拳突きを叩き込まれた。その速さは音速を超えた拳―――、周囲に波紋の衝撃波を生み出してランサーを吹き飛ばしたのだ。これには流石のランサーも腹に手を当てて痛みを露にしている

 

「何つー拳だよそりゃあ・・・。岩ででも出来てんのか?」

 

「いやですねぇ。私人間ですよ?」

 

皆が、「いやいやいや!?」とツッコミを入れる中、ギルガメッシュは遂に堪え切れられなくなったのか大爆笑してある真実を突き付ける事にした

 

「クハハハハハハハハ!犬は未だ気づかぬか!」

 

「あ"ぁ"?」

 

「クックック、そ奴は神を殺しているのだ。神殺しの武器は見た事はあるが、素手で神を殺す者が居るとは予想出来んか!流石の我も最初に見た時は驚いたがな」

 

「神殺しの拳だと!?」

 

「えっ?私の手は神殺しかの恩恵があるのですか?」

 

「ブッ、クハハハハハハハ!ハーッハハハハハハハハ!己で神を殺しておいてそんな事にも気付いておらんとは愉快よな!まぁ、所詮は下級の神だ。信仰心により神格を得ただけだが、それでも神は神―――。我等神性を持つ者には特段に効くだろうよ」

 

ハジメ以外は、特に驚いていた。しかし、トータスで信仰されていたエヒトは仮とはいえ神の枠組みに入っていた事により、深月が素手で圧倒したりしていた事から概念が付与されたのだ。普通であれば概念に肉体が耐えきれずに自壊するのだが、神代の英雄に匹敵する身体能力を有しているからこそ得る事が出来た力だ

 

「そうか・・・・・嬢ちゃん、名前は何だ」

 

「神楽深月です」

 

「神楽深月、現代に生まれし神殺しの英雄よ。今この時を持ってお前にこの呪槍を放つ」

 

ランサーは槍を構えると同時に槍に魔力を込める。赤い槍から炎の様に迸る魔力は濃密で、何物が邪魔しようと貫くという意思すら感じられる圧を放っている

 

「さぁ、現代に生まれし英雄よ。ランサーの攻撃が試練の一つだ。お前はどこまで乗り越えられる?」

 

先程よりも興が乗っているのか、ギルガメッシュはニヤニヤと笑みを浮かべる。ハジメ達は苦虫を潰した様な表情をしており、試合を止めるタイミングを誤ってしまった事に後悔する。今からでも遅くはないだろうが、それをしたらギルガメッシュからの攻撃が放たれる可能性が大いにあるので見守る他ない

 

光の御子、ランサーの正体はクーフーリン、獲物はゲイ・ボルク。お嬢様が爆死したキャラがこの方の御師匠様でしたね。因果逆転の呪いの槍―――防御しようともそれを避けて心臓を必ず穿つ攻撃・・・厄介どころか死地ですね。ふむ、どうしましょう?・・・方法はあるのですが、これは大丈夫なのでしょうかねぇ?

 

深月はこの攻撃を防ぐ案はある。しかし、それをすれば戦いの名に傷を付ける行為の可能性もあるので容易に決断する事も出来ないでいた。だが、時は待ってくれない

 

「ふぅーーーーー、覚悟完了致しました」

 

「行くぞ」

 

両者共に真正面から踏み込んだ。ランサーは槍を構え、深月は無手のまま

 

「その心臓貰い受ける―――刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

赤い呪槍が深月の心臓目掛けて襲い掛かる。この槍の神髄は心臓を必ず穿つ事もそうだが、一番厄介な点は刃で付けられた傷口が治癒出来ない所だ。心臓を貫かれてもしばらく息をする程度なら生きている人間も居るだろうが、治す事が出来なければ死ぬ。一応の補足としてだが、宝具を展開していなければ傷の治りがかなり遅い程度で済む

 

「それを待っていました!」

 

深月は右手で自分の胸を貫き、心臓を抉り出す。あまりにも常軌を逸したこの行為だが、これでも理に適った対処法でもある。抉り取られた心臓を上に投げる事で、呪槍の軌道は大きくそれて心臓に刺さる。ランサー自身であろうと、一度開放した宝具の効果を捻じ曲げてでも止める事は出来ない。周りは驚愕し、ハジメは「やりやがった!?」と頭を抱え、ギルガメッシュは笑っていた

 

「无二打!」

 

この一撃に全てを注ぎ込んでいたランサーに深月の攻撃を避ける事は叶わず、右肩の骨を粉砕した。深月は心臓が貫かれている事を確認し終えた後、再生魔法で全快して勝負の決着がついた

 

「クーフーリン様はお気付きになられましたか?」

 

「・・・・・あぁ、俺の負けだ。言い訳なんてしねぇよ」

 

ケルト神話で有名なクーフーリンが敗北を認めた。この事実に驚きと喜びを露にする遠坂達と、ますます気に入ったのか笑みを零しながら品定めの様な目をするギルガメッシュ。ハジメは、勝てるだろうとは思っていたが強引過ぎる勝ち方に難色を示されないかが心配だったがそれは杞憂だとちょっと安心した

 

「令呪を持って命じる。ランサー、神楽深月が提供する麻婆丼を完食せよ」

 

「ッ!?」

 

皆がこの戦いに感服する中、言峰による令呪の強制命令が下された。もちろん、逃げる事は出来ないし約束を必ず守らせるという目的もあるが、言峰自身の愉悦を得る為の命令でもある

 

「では、早速作りますね!」

 

速足で台所へと消えた深月を見ながら、言峰以外の全員がランサーに同情する。数分後―――、戦闘の後という事もあってお腹が空いているだろうという深月の心遣いにより、巨大丼に山盛りになっている麻婆丼を見たランサーは、膝を着いて絶望した

 

「さぁさぁ!今回は、"ある程度普通の麻婆丼"ですよ!」

 

「・・・いっそ殺せ」

 

皆が同意見する中、ハジメはある事に気付いた。深月は極端に辛い料理を作るが、常人に合わせた辛さに調整する事も可能。そして、ある程度普通の麻婆丼となれば、地獄の様な辛い麻婆丼ではないだろうとも捉えられる

ランサーは、令呪の縛りもあるせいで逃げられない事に歯ぎしりする。だが、少しして意を決した様に巨大な丼とレンゲを持ち震える手を抑えながら一口―――

 

「何だこりゃ?美味えじゃねぇか!?」

 

皆が驚き言峰は少し残念そうにしていたが深月からすればドッキリ大成功である。夕食で頼む際に、深月のお任せを選んでしまえば最後―――、地獄の様な麻婆が出てくるのは決定している。そして、ランサーにとって幸運だったのは戦闘後すぐだったという事もある。浸透系打撃を腹部に当てた事で、胃にダメージが入っている事は確実だったのでランサーを気遣っての普通の辛さだったのだ

 

「あれ物凄く赤いわよ?辛くないの?」

 

麻婆丼の色は灼熱の様な真っ赤、遠坂が疑問をぶつけるのは必然とも言える

 

「ん?辛いっちゃ辛いが、食べられねぇ辛さじゃねぇよ。寧ろ、もっと食べたいって思う辛さだぜ!」

 

ランサーはガツガツと食べ進め、味が気になったセイバーが横からスプーンを突っ込んで一口食べようとする

 

「おいセイバー、俺の飯だぞ!」

 

「一人だけ美味しい物を食べるのは卑怯です。つまみ食いなら良いでしょう!」

 

セイバーは、強引に掻っ攫った一口を食べた

 

「   」

 

口に入れた瞬間、セイバーは倒れ体を痙攣させて動かなくなった事でランサーの食べる手も止まった

 

「なぁ、普通の辛さって言ってなかったか?」

 

ランサー以外も深月を見て訴えるので、正直にありのままを告げる事にした

 

「"ある程度普通の麻婆丼"と言いましたよ?」

 

「外は普通の辛さでありながら、食べ進めていく事で辛さに慣れた所で、ガツンと響く一品という事か。なるほど、甘い蜜には毒がある。正にその通りだ。ランサー、"手を止めず食べろ"」

 

「ちょ待っ!?ぐぇぁぁぁぁーーーーーーーーー!?」

 

ランサーの手は令呪の命令に逆らえず、止まる事なくランサーの口に麻婆を運ぶ。そして、ランサーも徐々に辛さに慣れてきたという事もあってか、気絶する事が出来ずに悲鳴を上げながら食べ進めるしかなかった

 

「あ、悪魔だ・・・」

 

「ランサーはともかく、セイバーは自業自得よね」

 

こうして怒涛の一日が過ぎ、ランサーが味方になった!

 

「・・・・・どうしてこうなった」

 

ハジメは、アニメ通りの展開にはならなくなった事に頭を抱える。転移した当初はアニメ通りの流れだったが、明らかにおかしくなったのは深月が出かけてからだ。今、この世界の特異点は深月を中心としている事に気付くも、手遅れな状態が胃に痛みを与える

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麻婆事件の翌日、早朝から賑やかな衛宮宅に訪れる人が二人居た

 

「おっはよ~士郎!今日もお姉さんのご飯を準備するんだぞ!」

 

「先輩、おはようございます。・・・・・えっ、どうして遠坂先輩がここに

 

「藤姉、桜おはよう」

 

訪れた二人の名は、藤村大河、間桐桜と呼ばれる二人だった。どちらも衛宮と関係者である為、この家に訪れるのは必然とも言える

 

「それよりも士郎~、どうして美少女が三人も家に居るのかな~?お姉さんに素直に教えなさい!」

 

「えっと・・・「初めまして、私の名は神楽深月と申します」」

 

「礼儀正しいわね~。貴女が神楽深月ちゃんね!それt「俺の名前は南雲ハジメ。深月の仮の主だ。まぁ、少しすれば正式な主にもなるがな」はいはい、なるほど!それと、そちらは遠坂さんよね?でも、もう一人の金髪の人は」

 

「私の本名は伏せます。仮名としてセイバーとお呼び下さい」

 

「ふむふむ、訳ありなのね!よし!お姉さんは許す!」

 

「別に藤姉の許可は要らないだろ?」

 

「士郎、甘い!今は詐欺をする人達だって居るのよ?安易に家に滞在を許すのはお勧めできないわ!」

 

藤村の言う事は正しい。この世の中、人の優しさを無慈悲に踏み躙る危ない者も居るのだ。衛宮にはそこら辺の危機感が少ない事にかなり心配する。深月とハジメの自己紹介は自然に終わった為、あまり不自然には思われていないが警戒心は持たれている

 

「衛宮様、こちらは本日の宿泊料金です。食費や生活維持費としてお使い下さい」

 

「えっ!?一人頭一万て・・・一週間って事か?」

 

「いいえ、一日です」

 

「流石に貰い過ぎだろ」

 

「士郎!貰っておきなさい!そして、そのお金で美味しい物を作って!」

 

なんとも食欲に傾いている女性だ。将来が心配になるが、こちらには関係ないので冷ややかな顔でスルーしてもう一人に視線を向けて直ぐに逸らす

 

何か嫌な感じがすると思えばそういう事ですか。心臓付近に異物が住み着き、心臓には汚物の一部がありしたね。これはササっと解決する方が良さそうですね。どうにも、あの女性は衛宮様に好意を抱いているのでwinーwinです

 

深月は台所に戻り、全員分の朝食を用意する。勿論、深月専用のスープも用意し配膳が完了。この時、遠坂は未だ寝ているので起こす事はない

 

「お~!メイドさんが作る料理は洋食ばかりかと思ったけど、立派な和食も作れるのね~!これは味わって食べるしかないわね!!」

 

「いや、藤姉は教師だからあまり時間がないだろ」

 

「はっ!?時間がギリギリ!?くぅ~!急いで食べたくないのに急がないといけないなんてっ!いっただきま~うっま!」

 

「せめてちゃんと言い終わってから食べなよ」

 

藤村は朝食を凄い勢いで食べ終えるとあっという間に出て行った。正に嵐の様に早いそれを見送りつつ、皆も食事を摂る。深月が作る美味しい朝食を食べ進めていると、いきなり間桐が倒れ皆が驚愕する

 

「桜っ!?」

 

「ていっ!」

 

「痛あっ!?」

 

衛宮が慌てて駆け寄ろうとする前に深月が頭上にチョップして動きを封じ、テーブル上の朝食を全て処分してブルーシートを敷いて間桐をその上に移動させる

 

「何するんだ!桜が気絶したんだぞ!」

 

「そうなる様に仕向けたのですよ」

 

「なっ!?」

 

深月は当たり前の様に間桐が着ている制服を脱がしていき、衛宮が視線を逸らそうとしたがハジメが肘打ちして様子を見守らせる事に留める。そんなこんなしていると、遠坂が起きて来たのか、パジャマ姿で登場したが間桐が下着一枚で横になっている事態に一気に目が覚める

 

「な、何で桜が裸になってるの!?」

 

「あら、遠坂様おはようございます」

 

「え、えぇおはよう・・・・・って、そうじゃなくて!どうして桜が下着一枚なの!?それとそこ男子二人見るな!!」

 

衛宮が目を逸らそうとしたが、その前に深月がツッコミを入れる

 

「もしや気付いておられませんか?」

 

「「え?」」

 

衛宮と遠坂の声が被る。何を気付く?間桐に何かが起きているのか?そんな疑問が頭の中でグルグルと回る中、深月がありのままの事実を突きつける

 

「誰かは存じませんが、彼女の神経の一部と心臓は最早人の物ではありません」

 

「どういう事なんだ!?」

 

「先程の言葉の通りです」

 

深月は作業を続ける。間桐の腹部を触診し、針を数か所刺して一息つく

 

「麻酔完了」

 

どこぞの格闘漫画の天才ドクターと同じ事をしている深月にツッコミを入れたいが、今はそれどころではなかった。これから間桐に何をするか分からない二人は深月に注視する

 

「さて、これで汚物の廃棄が出来ますね」

 

「・・・一つ聞くけど、何をするつもりなの」

 

「簡単ですよ?異常のある神経と心臓を抉り出すだけです」

 

深月の言葉を聞いた遠坂は、手を銃口に見立てて深月に狙いを定める

 

「させないわ。桜は魔術師でも、聖杯戦争参加者じゃないわ。それに、人を殺すなんてさせると思う?」

 

「おやおや?まさかとは思いますが彼女が普通の状態とでもお思いなのでしたらとんだお花畑な頭ですね」

 

「なんですって?」

 

一触即発―――火を近付けただけで大爆発しそうなこの雰囲気の中でも構わずツッコミを入れるのがハジメクオリティ

 

「おい、雇い主さんよ。お前はこいつの身体を本当の意味で見た事あんのか?もし、この状況で見ているのにも拘らずその発言をする様なら同盟は破棄したいぜ」

 

まさかの追撃に、遠坂は苦虫を噛み潰したような表情になる。今の状況で安易な考えは身の危険なこの状況を冷静に理解し、溜息を一つ吐いて手を下ろして間桐の身体に目を向ける

 

「分かったわ。少しだけ話を聞いてあげるわ」

 

「話を聞く前提かよ・・・。ちっとは自分で見て判断しろってんだよ」

 

「うぐっ!」

 

ハジメの率直な愚痴は図星であり、遠坂は間桐の身体を見てもあまり違和感を感じていない様子だ

 

「さて、もう芝居はここら辺りでいいでしょう?―――害虫」

 

『ほう、儂に勘付くか。只の人ではないな?』

 

深月がゴミを見る目で間桐を見た時、間桐の口が動いていないのにも拘らず渋く低い声が響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フラグ―――、建設しても壊す。それが麻婆!
この世全ての悪の泥?麻婆の海に勝てると何時から錯覚していた?
言峰の心臓?麻婆で侵食した後に再生魔法で治療すれば一発よ!
麻婆の海に沈めるって最高の愉悦だよね!


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メイドは綺麗好きです。何事もキレイキレイ!~Fate編~

布団「飯テロが無いので少々手こずりました」
深月「汚物は消毒ですよ~」
布団「そして、メイドさんによる被害者が増えました」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」






~深月side~

 

渋く低い声が聞こえた事に衛宮達は動揺しているが、深月とハジメは全く驚かない。深月は間桐の身体を調べ尽くして理解し、ハジメは原作知識があるからだ

 

「まぁ、臭い臭い。バルサンでも焚けば虫は死ぬのですか?」

 

『カッカッカッカッ!只の人間がよく吠える。一体何時儂が本体だと言った?』

 

「千里眼」

 

『・・・・・』

 

長い時を生きる輩だからこそ駆け引きが上手でもあるので、深月は事実と嘘を混ぜて相手に動揺をさせる。しかし、相手も相当な輩なのか、少しだけ沈黙するだけだ

 

『ふむ、なるほどと言いたいが、現代を生きる人間がその様な眼を持っていたら生きていられるとでも?』

 

これを聞いた遠坂は、「・・・確かに」と呟き今までで得た情報を整理していく

 

「どの様な理由で彼女に住み着いているかは分かりません。しかし、この場に居る時点で駆除の対象です。汚物に塗れた臓物と虫に情けなど要りませんよね?」

 

深月は宝物庫からアイスピックを取り出す。刃はアザンチウム、柄はトレント擬きの木に宝石を埋め込んだキラキラした一品だ。しかも、柄についている宝石は外す事も出来る優れ物となっている

深月は、黒刀を取り出して間桐の腕を切断。何の躊躇いもないその行いに、衛宮が鬼の様な形相で殴り掛かろうとしたがハジメが首根っこを掴んで止める。遠坂の方も深月に攻撃しようとしていたが、いつの間にか合流したアーチャーが制止させていた。邪魔が入らない事で作業も進み、アイスピックを心臓に突き刺す

 

『儂には当たっていないぞ?』

 

「いいえ、これで全ての準備が完了しました」

 

間桐からアイスピックを抜いて柄に付いていた宝石を丁寧に外す

 

「その本体はもう要りません」

 

ハジメにアイコンタクトを送り、それに応じる形で宝物庫からシュタル鉱石製の棺桶を取り出し間桐をその中へ入れて封をする。これで中の虫と汚物の両方を封印した

 

「面倒事は早々に解決しましょう」

 

深月は切り落とした間桐の腕に再生魔法を使う。異物が無い状態を強く念じながらの再生魔法なのでかなりの魔力消費だが、保有魔力が桁外れに高い深月なら余裕だ。腕の切断面から肉が生え、あっという間に人間の姿になる。だが、髪色だけが黒色だ

 

「これに宝石の中に封じ込めた魂を元に戻して・・・・・簡易AEDで心肺機能を取り戻させて終わりですね」

 

そう、間桐を刺したアイスピックはアーティファクトだ。柄に宝石を嵌め込み、その宝石内に魂を移動させるという乗っ取り防止の為に生み出したのだ。もし、最大戦力の深月が乗っ取られたらという最悪を考慮してのアーティファクトであり、他の効果は普通の意味の無敵貫通だけだ。アイスピックという急所以外は致命傷になる可能性が低い武器ならば相手に油断を誘い、皮一枚でも掠る事が出来るだろう

 

「ちょっと待って!?魂を封じ込めた宝石!?それを移す!?しかも四肢の破片から体までの再構成に蘇生ってどんな魔法よ!?」

 

「そりゃあ異世界の魔法だからな。こっちでは見ないだろ?」

 

「寿命の概念が消し飛ぶじゃない。こんなの絶対に知られたらアウトよ!?」

 

遠坂の叫びをスルーして魂魄魔法で魂を体に移し、纏雷と気功打ちの簡易AEDで心肺機能を取り戻させて全ての処置が完了した。残る問題は廃棄物についてだ

 

「この棺桶の中に入っている汚物はどうしましょう?」

 

正直言うと、誰も触りたがらない。虫が寄生している肉体が入っている箱なんて気持ち悪いの一言である

 

「深月のストナー〇ンシャインで蒸発させりゃあ問題ねぇだろ?」

 

「「「「?ストナー?」」」」

 

誰もゲッ〇ーネタは知らない様子なのでスルーして深月の様子を窺うが、当の本人は手で×を作り拒否する

 

「山一つを軽々消し飛ばせるあれを放てば被害が計り知れませんので却下です」

 

「山!?えっ?その技って山一つを消し飛ばせるの!?」

 

遠坂のツッコミが入るが、深月は無視して棺桶に入っているこれをどう処理するか決めた。汚物は焼却に限る

 

「溶鉱炉を作ってそこに放り込みましょう」

 

「流石にI'll be backなんてしないよな?」

 

「もし駄目でしたら、成層圏を出て太陽に向けての全力投擲とブースターでどうにかなりませんか?」

 

「太陽には悪いが、それは最終手段としておこう」

 

ハジメは、宝物庫からアザンチウム鉱石を使った超頑丈のプールを作って実験で駄目になった鉱石や金属を大量に放り込む。そんな作業をしていると、ギルガメッシュと言峰とランサーが訪ねて来た。どうやら暇を持て余しているとの事で、愉快な光景を見れると感じたので来たという次第らしい

 

「深月、廃材を投入し終えたからこれらをよろしく頼むぜ」

 

「私は二人から一人に戻った事で出来る事が大幅に広がりましたので、出来ない事は殆どありませんよ!」

 

「えっ?大人深月は?」

 

ハジメとしては、学生の深月も魅力的だが大人の深月もまた魅力的なのだ。だが、今ここで追及する事ではないので熱量操作で高温になるまで熱する。廃材が熱で赤くなり、かなり柔らかくなっている

 

「タウル鉱石を入れたカプセルを十個程投入して下さい」

 

「あいよ」

 

ハジメが事前に用意していたタウル鉱石入りのカプセルを放り込むと、一気に燃焼して赤くなった廃材が更なる高温によってドロドロと溶ける。後は魔力糸で作ったかき混ぜ棒で塊の部分を解す事で、汚物の焼却場が完成した

 

「さて、中でゴソゴソと暴れているからさっさと済ませようぜ」

 

『待っ――――』

 

「えいっ!」

 

深月が返答を待たずに棺桶を放り投げた。ドロドロな粘性・・・マグマのそれに投入された棺桶は、底なし沼に引きずり込まれる様に徐々に沈み溶けていく

 

『ギィィァァァァァァァァ!』

 

スピーディーな展開はお約束の如く、あっという間に燃え溶けて何も残らなかった。一人の少女を地獄に落とした元凶は駆逐された。元凶が死んだからか、間桐が目を覚まして自身が裸になっている事に赤面するが何処かしら憑き物が落ちたかのような反応だ

 

「え?お爺様が居ない?それに髪が黒に戻ってる?」

 

「桜、大丈夫か!?」

 

「せ、先輩・・・や、嫌っ!私・・・私はっ!」

 

「おいちょっと待て。もう少し考える時間を与えろ」

 

ハジメが衛宮の首根っこを掴み止め、いつの間にか衛宮宅からバスタオルやら衣服を持って来た深月が間桐に渡して着替えを促す。間桐はいきなりの出来事ばかりで頭が混乱しているが、衣服を渡されたのでおとなしく着替える

 

「さて、着替え中に何をしたか簡潔に説明します。貴女の心臓に寄生していた害虫と汚物の聖杯の破片はまとめて焼却処分しました。そう、あそこでグツグツと煮えているマグマに放り込みました。そして、貴女の身体についてですが、腕を切り落として清潔した後に再生させました。勿論、全てが正常で機能不全を起こしていない状態にです。これからはかなり厄介事に巻き込まれる恐れがありますが、後はご自身の力で振り払って下さい。とはいえ、何もしないまま放り出すには心許ないので師と呼べるスペシャリストを勧誘しましょう」

 

今回の聖杯戦争は既に破綻しており、誰も聖杯を欲さない所が良い点だ。敵対サーヴァントはバーサーカーが確定で、残りのライダー、アサシン、キャスターの三騎は出会ってもいないので不明だ。そして、こちらの戦力はセイバー、アーチャー、ランサー、ハジメ、深月の計五人。近接最高峰のセイバー、ランサー、深月と遠距離攻撃手段を豊富に持つアーチャーとハジメとなれば、とてもバランスの良いチームだ

 

「あぁ、そういやアサシンは知ってるぜ。侍の服装で寺の門から離れられない縛りを受けているんだが、あいつはヤベエぜ?真正面から正直に相手する方がしんどいぜ」

 

「侍?」

 

「名は?」

 

「何だったかなぁ~?なんとか次郎?」

 

「全然分かんないわね。本当に使えないわ」

 

深月は、ランサーからの情報で有名人を絞ろうとするが多すぎてこれと確信する事すら出来ない

 

「武器は何だったんだ?」

 

「アサシンって言ったら普通は暗器の類だろ?だが、あいつの得物は長刀だ」

 

「あの・・・目測で二メートル近くありました?」

 

「そんぐらいあったな。武器のリーチを長くすればする程扱い辛く、じゃじゃ馬なもんだ。だが、あれは完璧に使いこなしていた」

 

「あ、あぁ~・・・・・いや、でも・・・まさか・・・。う~ん?」

 

深月はアサシンの真名に偽名であろうともおおよその人物を把握した

 

「長刀の侍っていや佐々木小次郎だろ」

 

「えっ!?いやいやいや、佐々木小次郎だったらセイバーになるでしょ!」

 

こればかりは埒が明かない。取り敢えず、出会えば名乗りはしてくれる可能性が大なのでこれは二の次に置いておく。次の問題はキャスターで、何処に居るかは不明。お次はライダーについて話し合っていると間桐が心苦しそうに横から発言する

 

「あの・・・非常に言いにくいのですが、ライダーのマスターは兄さんです。いえ、本来のマスターは私です」

 

「はあっ!?一体どういう事よ!?何で桜が聖杯戦争に参加してんのよ!?」

 

「非常にうるさいので少しだけ黙っていただけませんか?」

 

さっきから混乱してヒステリックを起こしている遠坂に深月の冷たい眼差しが直撃した事で、遠坂は体を震わせて黙り込む。何事も冷静に物事を聞かなければ正常な判断は出来ない

 

「さて、間桐様。貴女がマスターであるならば、今此処にライダーをお呼びする事は出来ますか?」

 

「・・・令呪は全て兄さんが持っています。なので私がどうこうする事は出来ません」

 

「では、ライダーも後回しにしましょう」

 

「んじゃあ夜にでも寺の門に居たアサシンを見に行くか」

 

思い立ったが吉日即行動

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、全員でアサシンが居た寺前の門に続く階段を登る。ざわざわと風に揺られて木々から枯葉が落ちる。街灯も無く、月明かりだけが目印の階段を登っていくと目的の人物と出会う。風が青い髪を揺らし、階段の上段に座りこちらを見る侍はまるで吹けば飛ぶかの様に曖昧な存在感だ。それこそ、侍のコスプレイヤーと言われても納得する程の不気味さがある

 

「ふむ、これはまた大層なお客人だな。一応聞くが、何用だ?」

 

「ちゃんと聞くの!?」

 

「女子よ、用がなければ問答無用に斬るというのは殺人鬼だ。アサシンのサーヴァントとはいえ、今は門番。なら、どの様に対処するのかもこちらの判断になる」

 

目の前のアサシンは、話をちゃんと聞くという事に違いない。話を聞き終えてからの言及はしていないので何かしらのアクションを起こす可能性があるが、この少しの話し合いだけで見えてくるものがある

 

「門番・・・寺の住職様がマスターと思いましたが、違いますね。寺の中に強大な魔力反応、マスターかキャスターが居ますね。となれば、同盟ですか?」

 

「ふっ、少しばかり惜しいな。私は女狐に召喚された只の亡霊だ」

 

「サーヴァント自体が亡霊の様なものですから・・・」

 

「そうだな。・・・・・さて、そなた等の目的は聞いた。だが、ここから何もせず通すというのは門番にあるまじき行為。故に、そちらの中で代表を一人選び、勝利すれば皆を通すというのはどうだろうか?」

 

強き者が全て―――。戦いにおいての条件で言うならば一番手っ取り早く、これ程信頼出来る約束はない。だが、誰が出るかについて話をしようとした時

 

「召使、貴様が行け」

 

「デスヨネー」

 

この暴君!と皆が心の中でツッコミを入れる中、深月は宝物庫から黒刀を取り出して刃先を階段の石畳に少しだけ打ち付ける。甲高いぶつかり合う音が木々のざわめく音を黙らせ、アサシンもまた長刀を石畳にぶつけてその音をかき消す

 

「こちらには居ませんが、仮初の主のメイド―――神楽深月」

 

「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎」

 

ギルガメッシュが宝物庫から金貨を取り出して上に弾く

 

「いざ―――」

 

「尋常に―――」

 

金貨が重力に引かれて石畳に落ち、甲高い音を鳴らす

 

「「勝負!」」

 

アサシンは上段で陣取っており、深月は下段と不利な場所だがこの勝負にはそんな言い訳は関係ない。互いの得物をぶつけ合い語り合うだけだ

深月の黒刀が最短距離を滑りアサシンの喉元に迫るが、長刀にも拘わらず刃先で深月の黒刀の腹に当てて流して返しの攻撃が首に迫る。だが、黒刀の持ち方を変えて首筋と長刀の間に刃を割り込ませて防ぎ、今度は剛力を持って相手の長刀事叩き切る様にするが、それも受け流されて再び首筋に攻撃が迫るもまた防ぐ。この攻防の速度は徐々に上がり、普通の人間が刃を目視する事すら不可能な程の早さで火花が飛び散る

深月とアサシンの両名共その場から動かずに、刀だけで対処する。そして、遂に両者共少しだけ動く。体を最小限にずらして回避し、静かな足運びで相手に音の情報を与えずに有利になる様に動く。だが、このどれもが相手が最も得意とする技術故に決め手がない

 

「ふっ、これは心躍る。剣戟の音、鍔迫り合い、視線、足運び、どれもが互いが得意としている」

 

「しかし、私達のそれは全くの別物。大変学び概があるというものです」

 

「そうさな。今は心行くまで月夜に奏でよう」

 

ここからは両者共に何でもありの攻撃を始めた。石蹴り、針飛ばし、武器掴み、死角作り等々、殺し合いに必要な全てをここに凝縮する。尚、それを見ていたサーヴァント達は唖然としていた。騎士道では邪道、戦士としては汚い等々の技術故に手を出さない。だが、二人の攻防を見ていると不思議な事にこの戦いを美しくさせ見る者を魅了する。剣戟の劇場―――、永遠に続くかと思えるそれだがどうしても不利な点が出てくるのはアサシンの方だった

 

「うむ!これは拙いな。最初の数回の斬り合いで気付いていたが、その黒い刀はただ頑丈な武器ではないな。不壊と言えばよいのか・・・。何とも面妖な素材で作られた刀よの。私の物干し竿もその素材で作られていればもっと長く踊れただろう。流石にこれ以上の打ち合いは心が曲がってしまう」

 

「まさか、逃がすとでも?」

 

「いいや、逃げぬさ」

 

アサシンは上段の有利を捨て深月と同じ高さまで降り、先程まで浮かべていた笑みを消す。相手に背を向ける様に長刀を構え、途方もない殺気が放たれる。佐々木小次郎と言えば、燕返しという必殺技。だが、魔力反応は何一つない

 

「今宵、この一刀にて証を示す。――――――秘剣」

 

「ッ!」

 

深月が未来予測の如く自身に起こる事を感じ取り、黒刀を上段の攻撃を遅延させる為だけに受け止めようとする。残りの軌道は回避出来ると思っていた。だが、唐竹割をされるイメージが消えなかった。アザンチウム鉱石で作られた黒刀であっても、死のビジョンが一向に消えない。だからこそ、犠牲を払う事を選んだ

 

「―――燕返し」

 

斬撃は、どうしても連撃となる。だが、この佐々木はクラス詐欺の如く軽い動作で即死級の絶技を放った。上中下の三段の全くの同時攻撃―――。相手が一刀であろうと、二刀であろうとも関係なしの防御不可能の絶技が襲い掛かり、攻撃が放たれる前に回避行動をとっていた深月の急所は外すも黒刀を持っていた腕を見事に両断した

深月は、飛び退きの回避で階段を転がるように落ちたが直ぐに体勢を立て直すのは見事という他ないだろう。もし、あの絶技がポンポンと繰り出されたとしたら回避しても次の回避は難しいか不可能だろう

 

「避けたのか!私の秘剣を!!」

 

「完全に避ける事は出来ませんが、この程度は私にとって軽傷です」

 

腕一つ駄目にされている深月だが、再生魔法で全快して元通りになる。だが、宝物庫から予備の黒刀を出していない深月にハジメが疑問に思った

 

(深月には予備の黒刀を五つ渡したんだが・・・何で出さないんだ?)

 

「フハハハハハ!よい、よいぞ!暗殺者だからと期待はしていなかったが、これ程までに掴み処がなく馬鹿を突き抜けた雑種は初めて見るぞ」

 

「ふむ・・・漂う気品と圧力は、まさしく国の天に立つお方とお見受けする。只の農民の棒振りとはいえ、少しでも楽しみを与えられたのならこの棒振りは無駄ではなかった」

 

「よく喋る口よな。だが、貴様のその戦い方は対人戦において極みに位置する。肉達磨の様な特殊な造りでなければ、貴様は勝者になれただろうに。その召使の刀を両断する器量、この英雄王が認めよう。しかし、貴様は未だ召使の本当の力を引き出していないのだ。こ奴は武器を使うよりも素手の方が本領だぞ?」

 

「それは良い事を聞いた!ならば、我が秘剣を存分に振るうとしよう!」

 

アサシンの表情は嬉々として輝き、まるで玩具を初めて与えられた子供みたいだ。いや、遊びを知らない者だからこそ喜ぶのは当然の反応だろう

 

「私は完全な本調子ではないのですが・・・」

 

「今この場で適応しておくのだな。どうやら、お前達二人の中でも召使は世界に異物だと認識され始めている。掃除屋が出てこない現状だが、この聖杯戦争のサーヴァント達に介入しているだけでもマシだという事だ」

 

「えぇ・・・?私何もしていないのですが?」

 

「阿呆、本来なら人ならざるモノとし判別されるが貴様は人だ。世界に矛盾が生じて抑止力が混乱しているだけだ。其処な仮初の主の雑種よりも強く、神霊級のサーヴァント相手でも引けを取らぬ貴様だからこそ目を付けられたのだ」

 

「それ矛盾ではありませんか?私が本調子になればなる程目を付けられるのでは?」

 

「既に目を付けられておる。ならば、抑止が我に判断を仰ごうとする段階に至れば何も問題はない」

 

ギルガメッシュは英雄王、サーヴァントとしてこの地に降り立っていても強い。だからこそ、抑止力があらゆる手段で殺す方法を考察し、一番身近で強いサーヴァントであるギルガメッシュに力を送り込む。其処が狙い処である。ギルガメッシュは抑止力という強制力が働こうとも、その程度どうとでも出来る。そして、ギルガメッシュの目に付いたからこそ直ぐには殺せないという仮定も成り立つ。下手に掃除屋を送り込んだとしても、ギルガメッシュが気に入らなければ排除する可能性は大。ならば、この聖杯戦争というルールに従って違和感無く殺す為に深月が戦うサーヴァントを強化するだけだ

 

「・・・貴方には悪い事をしますが、私の全力を取り戻す為に利用させて頂きます」

 

「応とも!外から要らぬ力が送り込まれているのは正直不快だが、この亡霊の身であっても成長する事が出来る程度なら必要な力だ。お主を斬り伏せるにはいささか心許ないがな」

 

深月は、四肢に付けている重りを外して落とす。少ししかない高さから落としたのにも拘らず、小さなクレーターを作る重さは最早常軌を逸している

 

「・・・正直に言おう。その重りを付けてよくもまぁあれほどまで動けていたものよ」

 

アサシンの心境は、「こいつ本当に人間?」という思いで一杯だ。勿論、ギルガメッシュ以外のサーヴァント達も冷や汗を流している

 

「素で忘れていたというのもありますが、これで大分動きやすくなりました」

 

「いやいやいや、忘れていたんかい!?」

 

「・・・慣れると違和感がありませんから」

 

改めて、アサシンの一挙一動に注意しつつすり足で距離を近づけていく。物干し竿の射程圏内に入って尚、アサシンからの攻撃はなくさざ波の如く静かなものだ。一歩、また一歩と近付く深月がようやく手の届く範囲内に入った

それを皮切りに、アサシンの神速の一振りが放たれる。たった一振りだが、その軌跡には幾つもの斬撃が内包されている。当たれば絶対切断が確約されたその攻撃に対し深月は、いつも通りに刃に手を添えて軌道を逸らす。その攻防を幾度か繰り返し、アサシンが深月の動きに慣れて猛追しようとした時に変化が現れる

 

「っ!?これは!?」

 

深月の全身が白銀に染まり刃に手を添えて軌道を逸らしていた動作が無くなり完璧に見切ったのだ。何度も刀を振ろうとその全てが避けられ、燕返しを放っても完璧に避けられるのだ。アサシンが抑止力のバックアップを受けて成長するとはいえ、身勝〇の極意を発動した深月には追い付くどころか離されている

 

「ほぅ、只の人の身でありながら神の領域へと踏み入るか。我は神というものを殺したい程嫌悪しているが、これは愉快よな。見ているか神々共?お前達が矮小だと決めつけていた人間はここまで進化するのだ。だからこそ、我は神と決別し人を選んだのだ」

 

人は神を超える事が出来る―――。ギルガメッシュが言うそれは、人の手で作られるものである。だが、深月は物理的に神の領域に踏み込んでいる。人と神の身体の造りは別物だが、体を動かすという点では殆ど同じだ。人が信仰する神の殆どは人型であり、神であろうとその領域に踏み込む事が出来ない所に深月は到達している。故に、神を乗り越えている

 

「はあっ!」

 

「な、グハァッ!?」

 

深月とアサシンの距離が少し離れた瞬間に深月の正拳突きが放たれ、音速を超えた空気の打撃がアサシンの身体中に当る。たった一度の正拳突きから、数十もの打撃―――。常人ではそう見えるだけで、真の強者である者にはようやく目で捉えられる程の連打だ

 

「妖の類の攻撃かと思ったが、成程。サーヴァントの身でありながらも殆ど捉える事の出来ぬ超連打。私の燕返しは並行世界からの攻撃を持って来るものだが、いやはや・・・素早いだけでこうも違うとはな」

 

アサシンは膝を着いてボロボロになっていた。音速を超えた拳が体の至る所に直撃したのだ。頑丈な体ではないアサシンが敗れるのは必然だった

 

「この勝負、私の負けだ。女狐も見ていたであろう?敵対は避ける事だな。・・・私はしばらく動けぬ」

 

『分かったわ。話を聞きましょう。しかし、武力行為を見せるのは禁止よ』

 

何もない所から女性の声が響き、こちらを迎え入れる事に決定。アサシンは寺の門前の階段に座って英気を養っており、案内人は一人の男性が現れた

 

「葛城先生!?」

 

「嘘っ!なんで葛城先生が!?」

 

「衛宮と遠坂か。私が此処に来るという事は分かるだろう?」

 

「・・・キャスターのマスターなのか」

 

「ああ、そうだ。色々聞きたい事があるだろうが、話をするには寒いだろう。ついて来い」

 

葛城と呼ばれた男性の後を追って寺の中へと案内された一行は、人が居ない一室へと入った。その和室には不釣り合いなフード付きのローブを身に着けた如何にも魔女な女性が一人佇んでいる

 

「・・・貴方達の事は使い魔越しに見ていたわ。正直言って敵対は絶対にしないわ。それに、そのメイドは人間でしょう?サーヴァントなら再契約なりと色々と出来たのだけれどね」

 

「それで?話し合いに応じたのは戦力的に分が悪いと感じたからかしら?」

 

遠坂の言葉は事実であり、例えキャスターとアサシンが纏めて相手になろうと深月だけでアサシンを足止めしてセイバーとアーチャーでキャスターとなれば何をどうしても勝つ事すら出来ない。いや、先程キャスターが告げた再契約によってマスターから離れたとしても、セイバーとアーチャーは深月に勝てる確率は殆ど無いに等しい

 

「ええ、分が悪いわ。でも、私がこの聖杯戦争の仕組みについて何も理解していないとでも思っているのかしら?こんな醜悪で吐き気がする儀式を完成させろだなんてするわけないじゃない。あれが完成する先は破滅、生産性も何もない素材なんて誰も欲しがらないわ。それとも、お嬢さんはそんな物を欲しがるの?」

 

「そんな物ですって?まぁ、遠坂家の魔術の根幹は根源へ至る事だけだけど、それは私自身の力で到達しなければ意味もないわ。そして、聖杯は参加トロフィーみたいなもんよ」

 

「いや・・・遠坂様、ちゃんと聞いて理解しているのですか?」

 

「深月の言う通りだ。あんなヤベェ代物をトロフィーにしたいとか頭のネジが数本ぶっ飛んでるのか?」

 

遠坂は怪訝そうな表情をしており、聖杯の状態を完璧に把握出来ていない様子だ。そして、その事についてしっかりと理解しているこちら側はハジメと深月とアーチャーとギルガメッシュの四人だけだった。他は、遠坂と同様に本当の意味を理解しきれていない様子だ

 

「そちら側で把握している人数は四人・・・他は知らないのね。現代の魔術師ってほとんどが馬鹿なのかしら?」

 

「はぁっ!?魔術のプロとはいえ聞き捨てならないわっきゅんっ!?」

 

遠坂が言い終わる直前にハジメがハリセンで頭を一叩きした。とても煽りに弱いおつむにホトホト困るが、聖杯のヤバさをしっかりと理解させるには口を塞ぐのが手っ取り早い。遠坂がこれ以上叫ぶ前に、深月が遠坂に魔力糸製のボールギャグを噛ませて亀甲縛りで完全拘束する

 

「ン"ー!ン"ー!!」

 

「さて、深月が馬鹿を黙らせたから現状を分かっている範囲で良いから説明して欲しい。俺は、理解しているとはいえ魔術師じゃねえ。最悪の想定が出来ない点でキャスター、あんたに助力を頼みたい」

 

「あら、坊やはお利口ね。其処のお馬鹿さんよりも話が通じ易くて助かるわ」

 

「魔力の可視化で聖杯の現状と最悪の場合の表現って出来るか?」

 

「その程度余裕よ」

 

全員床に座り、キャスター解説の「なぜなに聖杯戦争」が始まった

 

「この聖杯戦争は最初から破綻しているわ。サーヴァントが残りの一人になるまで戦い願いを叶える。これだけ聞けばそこそこよく出来た魔術儀式ね。でも、聖杯の燃料となるサーヴァントの魂は全部で七つ必要なのよ。要するに、聖杯戦争に生き残ったとしても最終的に自害させる事でようやく聖杯の本来の力が発揮するの。其処にサーヴァントの願いも何もない。マスターの願いの為に死ねというものよ」

 

「詐欺ですね」

 

「あぁ、詐欺だな」

 

「そこの二人の言う通り、詐欺よ。私は召喚されてから聖杯を調べて分かった事だから願いなんて早々に諦めたわ。そして、ここからが重要よ。何処の馬鹿か知らないけど、聖杯に異物が混入しているの。本来は無色透明の願望器なのだろうけど、とんでもない悪性のサーヴァントの魂が捧げられた事で聖杯が悪性に変質したのよ。願いを叶える力はあるけれど、それは破壊という願い。戦争を止めてなんて願ったら、人類皆殺しで戦争は起きないという事実に置き換わるわ。そこのお嬢さんが言うトロフィーはもっての外よ。完成させた聖杯は、溢れる寸前の入れ物。ほんの僅かな衝撃で中身が零れるのよ」

 

キャスターが魔力で器に見立てた容器にどす黒い魔力をギリギリ限界まで注ぎ、後一滴でも入れれば零れる様に再現する。とても分かり易く、馬鹿でも理解出来る

 

「悪性で破壊という事は、中身に入っている代物は呪詛ですね」

 

「簡単に言えばそうよ。でも、聖杯のそれはそんな生易しい物ではないわ」

 

「現段階の状態でもいい。暴発した際の被害範囲を教えてくれ」

 

「地図はある?」

 

「こちらに」

 

「大本の聖杯はこの山中の洞窟の奥にあるけれど、今は核が入っていないわ。核となる聖杯は、山奥のお城に居るわ。バーサーカーのマスターの心臓がその核なのよ。・・・話が逸れたわね。貴方達がアサシンを脱落させなかった事は故意よね?」

 

聖杯戦争参加者にとっては、サーヴァントの脱落は必須。だが、傭兵の立ち位置であり自身の安全を考慮するハジメ達は、より酷い未来になる可能性を回避するのは当然だ

 

「まぁ、なんとなく嫌な予感がしていたからな」

 

「儀式戦争ですので、それに関連する何かを排除するのは危険だと判断しました」

 

「坊やのその直感は嘘ね。可愛いお嬢さんはありのままね。さて、坊や?嘘は無しにして知っている事を全て話しなさい。そうしなければ同盟なんてしないわ」

 

「・・・・・勘弁してくれよ」

 

「ふむ、取り敢えずギルガメッシュ様とキャスター様以外は退席して頂く他ありませんね」

 

「当然だ。こ奴等二人は漂流者、この世界とは違う世界から訪れた者だからな。その召使は我の気を惹いたのだ。当然、真の王たる我がその席に同伴するのは必然でもある」

 

「・・・・・ねぇ、坊や。私の聞き間違いかしら?聖杯戦争では七騎のサーヴァントが召喚される筈なのにイレギュラーがここに居る英雄王?どういう事なの?」

 

「あ、あぁ~・・・。ギルガメッシュ王は前回の聖杯戦争の勝利者だから!」

 

「嘘仰いっ!その陳腐な嘘で騙せるとでも思っているの?」

 

「遠坂様は煽り耐性がゼロですね。つい絞め落としてしまいました」

 

ハジメがどうしようかと考えていた時、深月が一仕事終えた様子だ。遠坂については・・・どんどん残念な子になっているが放置する

 

「さて、雑種。自らの口で全てを話せ」

 

「逃げるのは無しよ」

 

「私はそこまで詳しく理解していないのでご説明をお願いします」

 

ハジメは、とても気が重くなった。だが、ようやく踏ん切りをつけて説明する事にした。この世界はハジメ達の世界で言う所のゲームの世界。恐らくの世界線と聖杯戦争についての原作知識を分かり易く説明する事で精一杯だった。これを聞いたギルガメッシュは少しだけ興味が湧いた様子で、キャスターは頭を抱えていた

 

「坊や達はとんでもない事故に遭ったのね。創作の世界線に入るという事は、異物が紛れ込むという事。アサシンのスペックが文字化けしているのにもこれで納得したわ。現代で抑止力が動く事なんて普通はありえないわよ?」

 

「ふむ、抑止力は遂に我に判断を仰ぐ事にしたか」

 

「マジで、命だけは勘弁して下さい」

 

ハジメの綺麗な土下座だった。英雄王に挑む?ハジメは死ぬ事になってしまうので命乞いは当たり前だ

 

「帰る術はあるのか?」

 

「深月、どうしよう?」

 

「そこで私に振りますか?概念魔法を創って帰るだけですよね?」

 

深月は、正直言うと何故ハジメが帰還用のアーティファクトを作らないのか不思議に思っていた。創作の世界に紛れ込む事はオタクの夢だから、しばらく滞在するのかと決めつけていた。だが、本当に成す術が無いという事でもあった

 

「そ、その・・・怒らないで聞いてくれよ?」

 

「取り敢えず拳骨は勘弁してあげます」

 

「ほ、宝物庫はあるんだ。だけどな、それは武器と少量の素材だけ入れている方だったんだ。素材だけを入れた宝物庫はテーブルの上に置きっぱなしで」

 

「ヘル・アンド・ヘ〇ンで逝きますか?」

 

「それは駄目だぁ!俺が粉砕される未来しかないじゃん!?」

 

「ここは私のプライベートルームだからあまり暴れないちょうだい」

 

取り敢えず深月のヘル・アンド・ヘ〇ンを回避する事が出来たハジメは安堵する。だが、その直後にチョークスリーパーを仕掛けられて悶絶しているのは言うまでもない

 

「バーサーカーが襲い掛かった場合にはどう致しましょう?真名はヘラクレスです」

 

「へ、ヘラクレスゥ!?嘘でしょ・・・あの筋肉達磨がバーサーカーなの!?」

 

「キャスター様はバーサーカーをご存じで?」

 

「あ・・・えぇ、そうね。貴女は知らないのね。私の真名はメディア、同じ時代に生きていたのよ」

 

「メディア様ですね。ヘラクレスの弱点か情報等、何かありませんか?」

 

キャスターはまたしても頭を抱え、全てを察して諦めたかの様な表情をしていた

 

「現代風に言うならチートよ。己を傷付けた武器による耐性を付け、魔力も効き辛い・・・お手上げよ」

 

「ふむふむ、黒刀が弾かれた原因はそれだったのですね」

 

「普通は切り飛ばす事は出来ねぇからな?」

 

「・・・はい?」

 

キャスターは呆然としており、ハジメが述べた事実を受け止めきれなかった。当時を知る者だからこそ、理解するのに時間が必要だった

 

「・・・ねぇ、そのお嬢さんはヘラクレスの腕を切り飛ばしたの?」

 

「いや、上半身と下半身を切り飛ばしたんだ」

 

「・・・それは異物として認識されて英雄王にまで判断を仰ぐ始末になるのは当たり前でしょうね」

 

「くっ、フハハハハハハ!不細工筋肉達磨を両断したか!しかも、雑種が作った武器で―――か!気が変わった。雑種、その宝物庫と呼ばれるアーティファクトの中に入っている武器を献上せよ」

 

「いいっ!?」

 

「早くしろ。首を刎ねられたいか?」

 

「どうせロマン武器ばかり作っているのでしょう?また作れば事足りるので献上しても問題ないのでは?」

 

「ふぅ~ん、坊やが作った武器ね。私も興味が湧いたわ」

 

「この暴君っ!」

 

ハジメに味方は居らず、大人しく宝物庫に入れていた武器を全て出してギルガメッシュに献上した。ギルガメッシュは上機嫌で、キャスターは素材について気になっていたので宝物庫に残っていた素材も全て徴収された。物剥ぎに遭ったハジメに残されたのは、空の宝物庫だけだ

 

「不細工筋肉達磨についてはどうとでもなろう。召使の拳は神殺しの概念を持っている。素手ならば何も問題はない」

 

「はぁっ!?お嬢さん神殺しなんてしたの!?現代人がどうやって!?えっ?貴方達の住む世界ってそんなに歪なの?」

 

「阿呆、信仰により神の枠組みに入った者を殺した事で神殺しの概念を得たのだ」

 

「・・・それだけでは足りなくないかしら?」

 

「普通では貴様の言う通りだが、召使は神ですら到達が困難な境地に人の身で入ったのだ。ならば、世界が神を殺す事が出来ると認識した。ただ、それだけよ」

 

「あら~。だったら、バーサーカーと戦う時は私がお嬢さんに付与を掛ければ問題なくなるわね!」

 

「神代に生きた有名なお方の能力向上の付与は楽しみです!これで再現する事も出来る可能性がありますね!」

 

「フハハハハハ!いいぞ、不細工筋肉達磨がどの様に倒されるかが見物よな!その時は新作の料理で我をもてなせ!」

 

「私もご相伴に預かろうかしら?」

 

「では、皆で衛宮様のお宅に住んでバーサーカーを待ちましょう」

 

「アサシンはそのまま門番をさせておくわ。あんなひねくれ貧乏侍にご飯は贅沢よ」

 

「・・・・・あかん、こいつら混ぜちゃ駄目だろ」

 

こうしてキャスターと同盟を組み、アサシンとバーサーカー以外のサーヴァントが衛宮宅に住む事が決定した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




我等が主人公は暴君王ギルガメッシュの追剥ぎに遭い、キャスターも便乗した事で宝物庫が空になった!仕方がないよね・・・暴君ですから
そして、ギルガメッシュは内心で良い拾い物をしたとニヤニヤして気分が上がっています


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メイドさんの攻撃、ワカメ散るっ!~Fate編~

布団「ワカメェッ!お前にはお似合いの罰を用意してやった!」
深月「後程麻婆を食べさせましょう」
布団「・・・メイドさんに人の心はないのですか?」
深月「布教です。それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」






~ハジメside~

 

・・・あぁ、最悪だ。鬱になりそうだ。オタクの夢見た世界に迷い込んだ先に待っていたのは理不尽な事ばっかりだよ。父さん、母さん、俺は心が折れちまう

 

さて、ハジメが途方に暮れてボーっと眺めている先は、深月とアーチャーの模擬戦の真っ最中だ。深月が一番不安に思っている事は、同盟相手の戦力不足について。セイバーとアーチャーとランサーの三人は戦闘能力は高いが、バーサーカーと一対一で戦う事になれば脱落するだろう。だからこそ、最低限の動きを把握しておく必要があった

 

「ふっ!」

 

「アーチャー様は弓を使わないのですか?」

 

「確かに私は弓兵だが、最も慣れ親しんだ武器はこの双剣だ。弓だけに頼る弓兵程狩りやすい者はない」

 

「それはそうですね。ですが、アーチャー様の動きは捉え易い事が欠点です。戦場に身を長く置いたからこそ、無意識に安全圏へと移動しています。例えば、この様な動きには―――咄嗟に反応出来ませんよね?」

 

「いいや、保険は掛ける事は出来る」

 

深月が予測不能の動きでアーチャーの背後に回り込んで首筋に刃を当てる直前に、アーチャーの持つ双剣が弧を描く様に深月の背後から襲い掛かる

 

「相手が私だからと思っての攻撃ですか?この程度では肌に傷一つ付けれませんよ」

 

深月の不可視の魔力糸の布が背中を守り双剣を弾き落とす

 

「・・・ふぅ、君は本当に人間かと不思議に思うよ。サーヴァントとして召喚される我々は、最も強いとされる姿だ」

 

「人間死ぬ気になればどうとでも出来ます」

 

「アーチャー、お前情けなさすぎるだろ。嬢ちゃんが強いのは分かるが、早々に降参するのはいただけねぇ。もし、この場に師匠が居たら禄でもない地獄を見るぜ?あぁ~あ、嬢ちゃんと師匠が戦ったらどっちが勝つんだろうねぇ~」

 

「ランサー様の御師匠様ですか?流石に長く生きる年長者の方に分がある気がするのですが・・・」

 

「いやいや、嬢ちゃんなら食らいつける筈だ。そんで気に入られて地獄の鬼ごっこ・・・駄目だ、もう思い出したくねぇ」

 

ランサーはトラウマを思い出したのか、青褪めた表情を浮かべて室内へと戻って行った。キャスターと同盟して数日が経過し、同盟者全員が衛宮宅で過ごす事によって広々とした部屋はかなり窮屈となっていた。だが、そこはハジメが空間魔法で地下室を作って各々の部屋を用意する事で解決した

 

「ほら、お嬢ちゃん。貴女の属性は希少なのだからもっと厳しく教えるわよ。何時聖杯戦争が終わって退去するか分からないのに休む暇はないわよ。色々と酷い目に遭ったのは分かるけど、過去より未来を見て行動しなさい」

 

「は、はい!!」

 

「良いお返事ね。次は自動迎撃の魔術よ」

 

キャスターは間桐に魔術の手解きをして自衛出来る力を身に付けさせている最中だ。対価は、キャスターの作製した可愛い洋服を着たり料理を教えたりと様々だ

 

「セイバー様は働かれないのですか?」

 

「み、ミヅキ!?私はこの家を警護する仕事をしていますよ!?」

 

「昼食を作るので下拵えのお手伝いをお願いします」

 

「わ、私は騎士です。・・・包丁は持てても料理をした事がありません」

 

「残念な腹ペコ騎士様ですね。せめて食料を調達して下されば御の字だったのですが」

 

セイバーの女子力の無さにホトホト呆れ果てていると、金ぴかのバイクに乗ったギルガメッシュが衛宮宅の庭に入って来た

 

「喜べ召使!此度の昼食は、我が大間とやらで一本釣りしたマグロである!」

 

「マグロ!・・・ハッ!?素材が無いから包丁が作れねぇ・・・」

 

ハジメは、ギルガメッシュが大間のマグロを一本釣りした事に疑問は抱く事はなく、専用の解体包丁を作らねばと思った。だが、宝物庫は空っぽな事に気付いて項垂れる。だが、其処で救いを差し伸べたのはギルガメッシュだった

 

「雑種、我の宝物庫から素材を幾つかくれてやる。後は分かるな?」

 

「ハハアッ!有難き幸せっ!」

 

ハジメの目の前に置かれた素材は、そのどれもが最高級だ。しかも、玉鋼という包丁にとって最重要な素材をポンッと渡されたのなら直ぐに作業に取り掛かる。本来必要な過程をすっ飛ばして作る事が出来るのは錬成師の良い所で、そのまま実戦の武器として使っても問題がない切れ味と頑強さを両立させた包丁を五つ程製作。持ち手の木材は神代の木を使っており、この世で一番と称しても問題のないマグロ解体用包丁が作られた

 

「さて、この我が釣ったマグロだ。その眼でとくと見よ!」

 

続けて、ハジメが速攻で作った解体用の木製テーブルの上に乗せた

 

「・・・マジかよ」

 

「流石ギルガメッシュ様、ギネス記録を優に超える大きさで御座います!」

 

「あの巨大さに身体の太さ・・・、大間の黒マグロというブランドも付けるとどれ程の値段がするのだ!?」

 

それは、大きな漁船の半分近くの長さとずんぐりむっくりとした巨体。尚、ギルガメッシュは漁船から道具まで自分で用意して釣り、ギルガメッシュが漁港の人間達に自慢したのは言うまでもない。だが、そのマグロは全て自分用という事でセリに出される事は無かった

 

「フハハハハハ!偶にはこの我の手で釣り上げるのも一興、これで王の度量も図れる。そこな腹ペコ騎士王なる王を称する小娘には格の違いを見せれたであろう!」

 

「      」

 

王の風格の違いはこんな所で現れた。王の食事を用意するのは民達だが、時には王がその食料を得て民に還元する事でカリスマの格差が生まれるのだろう。セイバーはギルガメッシュをありえないという目で見ており、ギルガメッシュはそんなセイバーを鼻で笑った

 

「セイバー様は邪魔ですのでテーブルから離れて下さい」

 

終いには深月からの邪魔という言葉のバリスタの矢が心臓に突き刺さり膝から崩れ落ちたので、衛宮が介抱する形で避難させて何かと標的にされる事を回避した

 

「いや・・・これどうしましょう?生魚は鮮度が命ですが食べ切るには些か大きすぎます」

 

「なぁに、今の我は気分が良い。以前釣りをした子供等に格の違いと我の凄さを教えようではないか!では行くぞ言峰!」

 

「ふっ、危うく空気になるところだったぞ」

 

ギルガメッシュは言峰を連れて、以前釣りをした子供達を衛宮宅に招待してマグロの解体ショーを開始した。子供達のテンションは爆上がりし、ギルガメッシュが釣った事を知ると尊敬の眼差しを送った

 

「兄ちゃんが釣ったのか!?すっげぇ!」

 

「何キロあるの?」

 

「うっそだー。漁師のおっちゃんよりも腕が細いのに釣り上げる事なんて出来ねぇ!」

 

「あっ、録画されてる」

 

「マジか・・・」

 

「かっこいいー!」

 

「フハハハハ!よい、よいぞ。もっと我を褒め称えろ!そうすれば大トロを食す権利をやろうではないか!」

 

子供達は大トロという餌を吊り下げられた事でギルガメッシュを褒め称える。最初の一口はギルガメッシュからで、次は子供達だ。ハジメ達青年組とセイバー達大人組はお預けだ

 

『マグロ・・・食べたい・・・』

 

だが、ここで欲に敗けて食べる事は許されない。マグロの解体もほぼ終わり、骨の間の身もこそぎ落として残るは頭と骨だけだ。子供達は腹一杯食べ、次回ギルガメッシュと一緒に釣りをする約束をして帰って行った

 

「これで食べれますね!」

 

セイバーの表情が明るくなり、刺身に手を伸ばそうとしたが深月によって叩き落とされる

 

「何食べようとしているのですか?」

 

「え?」

 

「このマグロはギルガメッシュ様がお釣りされた物ですよ?許可を取る相手が違いますよ」

 

セイバーが驚愕した表情でギルガメッシュに視線を向けると、深月が言う事が正しいと言いたげな表情をしている。尚、ハジメは包丁を製作した上で許可を取った事でようやくありつけていたりする。美味しそうに食べているその姿は羨ましくもあり、自身では到底叶う事はない事実に項垂れる

 

「深月、おかわり!」

 

「食べ過ぎですっ!」

 

つい食べ過ぎなハジメは深月にツッコミを入れられて制限を掛けられている姿は当然だ。だが、セイバーの目には何故かキャスターもマグロにありついている事が納得出来なかった

 

「何故キャスターは食べれているのですか!彼女は何も手伝っていないでしょう!?」

 

「我が許可した。雑種の作る包丁を保管する為の術式を開発させ付与させたのだ。セイバー、贋作者、狗等はサーヴァントでありながら何の役に立っていないであろう?」

 

「っておい!?俺達も食えないってのかよ!?」

 

「貴様達は言峰の作る物を食べればよい」

 

「試作段階の麻婆だ。食うか?」

 

「「「食べません(ん)(ねえ)!」」」

 

言峰は少し残念そうにしていたが、自ら作る麻婆を食べて機嫌を戻す

 

「なら、私は宝石をあげるわ!それなら対価として文句ないでしょ!?」

 

「いや・・・宝石貰ってもなぁ?」

 

「ギルガメッシュ様は欲されませんね」

 

「品質が悪い。却下だ」

 

遠坂の手持ちの宝石もギルガメッシュの宝物庫にある宝石と比較すれば月とスッポン、彼等がマグロを食するのならば交渉するしか方法がない

 

「さて、粗方の身は解体し終えたな?それ等は我の宝物庫に仕舞い、残りは召使にやろう」

 

「えっ?これを貰ってもいいのですか?」

 

「構わん。解体の手間賃として受け取れ」

 

「喜んでいただきます♪」

 

深月はとても嬉しそうにニコニコとしており、残っている頭と骨と尻尾をより深く観察している

 

「調理するのか?」

 

ハジメは未だ食べ足りなかったのか、追加で調理されると思っている

 

「駄目ですよ?頭はお嬢様の為に使いますので凍らせて宝物庫で保管します」

 

「・・・・・皐月の為なら仕方がねぇな。ギルガメッシュ王、釣った動画のデータをコピーしてもよろしいですか?」

 

「・・・ふむ、我の偉大さを伝えるには良い手だ。よかろう、特別に許す」

 

ハジメはコロンビアポーズで喜びを露にして感謝の言葉を告げ、ウッキウキで動画のデータをコピーし始めた。そして、深月はマグロの尻尾を持ってキャスターにお願いをした

 

「調理を教えますのでバーサーカーとの戦いではバフをお願いします」

 

「あら、対価無しでもバフを掛けてあげようかと思ったけどしっかりしているわね~♪」

 

「実践前に調節もしておきたいのでそれも含めてです」

 

「いいわよ。私もお嬢さんに興味があったから適切なバフを模索したかったから丁度いいわ」

 

「マグロのテール煮にしましょう。骨ごと食べられる様に出来ますし、キャスター様の料理スキルが上達します♪」

 

「ほう、骨ごとだと?此度は見逃すが、次回は食べさせよ。食材についてはまた我が用意する」

 

「という事ですので、私はマグロの角煮を並行して作ります」

 

「角煮!?」

 

「ギルガメッシュ様の分だけですよ?」

 

「そんな!?」

 

ハジメの絶望は本日何回目だ?と疑問に思う。賑やかな昼食も終わり、残りのサーヴァントのライダーとバーサーカーをどの様におびき出すかを考える。とはいえ、出来る事は限られている

 

「バーサーカーのマスターはアインツベルン、ライダーのマスターは間桐の兄ねぇ」

 

「バーサーカーは待機で良いのでは?」

 

「イリヤスフィールはシロウが狙いです。昼は仕掛けないと宣言していますので夜に襲撃は確実でしょう」

 

「問題はライダーのマスターね。お嬢ちゃん、お兄さんの性格はどうなの?」

 

「・・・自信過剰です」

 

「そう。なら、誘き寄せるのは簡単ね。突けば出てくる動物と何ら変わりないわ」

 

「今夜はライダー捕獲作戦ですね」

 

「・・・お嬢さんがそう言うと虫捕りみたいに聞こえるわね」

 

一部のサーヴァントの士気が低いものの、ライダー捕獲作戦が始まった。標的のマスターをアーチャーが探し、ランサーが追跡してセイバーが強襲してサーヴァントをマスターから引き離す。その後、深月達が捕獲して全て達成という流れである

 

「私が探すのは構わんが、些か時間が掛かるな」

 

「せめて顔写真があれば千里眼で辿る事が出来るのですがそう上手くいきませんね」

 

「千里眼って・・・はぁ、性能はどうなの?」

 

「縁を辿り、外国在住であろうと見つける事が出来ます」

 

「・・・本当に何でもありね」

 

アーチャーがくまなく探しているが、何処にも見当たらない。未だ夕方にもなっていないので活動していない可能性が大きいが、間桐が言うには学校を休んでいるから何処かには居るのだろう

 

「マスター、間桐兄の髪色は青で間違いないか?」

 

「見つかったの?」

 

「補足した。だが、人通りの少ない裏路地へ入って行った」

 

「狙撃しますか?」

 

「いいえ、出来ればライダーを確保したいわ。アーチャー、当てない様に威嚇攻撃出来る?」

 

「その程度容易い」

 

アーチャーは弓を取り出して単調な矢を一本だけ発射。その攻撃は当たらないとはいえ、敵マスターをビビらせるには充分であり深月が補足するには充分過ぎる情報だ

 

「間桐兄ですが・・・本当にマスターですか?衛宮様みたく巻き込まれて参加ならばあの反応は理解出来るのですが、ゴミ箱に頭から突っ込むという芸人の様な動きは正に道化です。演技ではないのですか?」

 

「・・・恐らく素であれなのだろう」

 

「ゴミ箱に頭から突っ込むってどんなモブキャラの反応だよ」

 

ハジメは、遠目でもいいからその様子を見てみたいと思った。リアクション芸人並みのそれがリアルで起こっているのなら見る価値は十分にある

 

「遠坂様、相手は挑発に乗るタイプの人間でしょうか?」

 

「そうね・・・格下に見ている相手からの呼び出しなら確実に乗るわね」

 

「衛宮様名義でこの場所を指定して呼び出すというのは?」

 

「アーチャー、もう一射お願い。矢文は大丈夫?」

 

「その程度朝飯前だ」

 

衛宮に事の詳細を指示して文を書かせたら、アーチャーに矢文を渡して射ってもらった。今度はリアクション芸人張りの反応は無かったが、多少ビビっていた。そして、矢文の内容を見て地団太を踏んだとのこと

 

「衛宮君とセイバーは慎二をおびき出して。私とアーチャーは遠くに離れて狙撃の用意、ランサーは様子見の斥候として遠くから監視、キャスターは地下室で待機という形で良いかしら?」

 

「・・・遠坂様はキャスター様と一緒に地下室で待機しましょう。もし、バーサーカーが奇襲した場合は逃げきれないでしょう」

 

「そ、そうね・・・。なら、アーチャーは単体行動で狙撃を任せるわ」

 

「了解した。では、早速移動するとしよう」

 

アーチャーは霊体化して消え、ランサーも続く様に家から出た。全員の配置が整った数十分後、青い髪の少年が怒りの形相で衛宮宅に怒鳴り込んで来た

 

「おい衛宮ァッ!僕に対して来いの一言の命令するんじゃねえ!いいかよく聞け。僕は少しだけ気分が悪いけど、土下座して謝るなら特別に赦してやるよ」

 

「慎二、お前は何をやっているのか分かってるのか!学校にあんな危険な物を仕込むなんてどうかしてるぞ!」

 

「はぁ~あ?どうして衛宮にそんな事言われなきゃいけないわけ?サーヴァントを強くする為に、致し方のない犠牲ってやつだよ。僕の為に役立つなら本望だろうさ!」

 

これはキャスターによって知り得た事で、間桐兄は己のサーヴァントを強くする為に学校関係者全員を対象に魔力をかき集める儀式の準備をしていた。一般人に被害を及ぼさないというルールを足蹴にするその行いは、聞いていて胸糞悪いものだ

 

「だったら、お前を止める!」

 

「ヒャハハハハハ!え、衛宮が僕を止めるだって?やれるもんならやってみろよ!ライダー、衛宮が後悔する位に痛めつけてやれ!」

 

「・・・少々心苦しいですがマスターの指示です」

 

間桐兄はライダーに指示を出し、自分は高みの見物をするつもりなのだろう。だが、この指示を待っていた者達が複数いる事には気付いていない。ライダーが手に持つ武器で衛宮に攻撃をしようと投擲する溜めの硬直を逃さず、アサシン並みの気配透過で懐に忍び込んでいた深月の餌食となった

 

「鉄山靠!」

 

「なっ!?―――グハァッ!」

 

ライダーは深月の鉄山靠が直撃して吹き飛ぶ。しかし、深月は吹き飛ぶ直前にライダーの足を掴んで引き寄せて顎先に狙いを定めて打撃を放つ。それはもうキレイに入り、ライダーを脳震盪させて動きを止めた。時間にしておおよそ一秒の出来事だった

 

「へ?」

 

何とも現実を受け入れ難い場面に直面した間桐兄は、間抜け面を晒して呆然としている。そんな馬鹿を深月は逃がさないし、なによりハジメが動いて金的を蹴る

 

「ヒャオゥッ!?」

 

間桐兄は股間を手で抑えて地面に転がり悶絶している。男にとって禁断の一撃を放つハジメは鬼畜の一言に尽きるが、相手を逃がさない事を思うと最善の一手だ

 

「取り敢えず、椅子に縛り付けるか」

 

「ボールギャグを噛ませますか?」

 

「それ良いな。採用だ!」

 

間桐兄が逃げようとするが、深月の華麗なる手刀で意識を飛ばされて人形の如く縛り付けられた。正直、誰かが救援するまでもない。間桐兄と拘束したライダーを地下室へと連行し、キャスターの宝具の歪な形をした短剣―――破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)による魔術の初期化による契約解除を執り行い、本来の召喚者である間桐妹に再契約させた。これで間桐兄の手持ちのカードは何一つ無くなり、刑罰を受けるだけだ。深月が間桐兄に軽い力でデコピンして目を覚まさせる

 

「おい、衛宮ァ!どういうつもりだお前っ!僕にこんな事をしておいてタダで済むと思ってないだろうな!!」

 

「うっせぇな、今の自分の状況を見てみな」

 

ハジメが凄んで間桐兄を睨みつけると、「ひぃっ!」という悲鳴を漏らし周囲を見渡す。自分のサーヴァントであるライダーは捕縛され、サーヴァントが複数居る事から自身が罠に嵌められたのを理解した

 

「ぼ、僕を罠に嵌めやがったな!おい、ライダー!そんな拘束なんて解いて僕を助けろ!」

 

間桐兄がライダーに命令をするが、彼は一番重要な事に気が付いていない

 

「マスターでもない貴方にサーヴァントが従うとでも思っているのかしら?」

 

「へ?」

 

「貴方とライダーの契約を解除しただけよ。こんな自尊心を満たすだけに行動して利用されるなんてかわいそうですもの」

 

「なっ!?」

 

「取り敢えず、この愉快なリアクション芸人さんには仕置きが必要です。学校に人を溶かす可能性のある危険物を仕込む―――これだけで極刑ものです」

 

深月が間桐兄の髪を掴み、開いた片手にバリカンを持つ

 

「嘘を吐いたらバリカンで髪を剃ります。ハゲになりたくなければ素直に全てを吐きなさい」

 

「ふ、ふんっ!誰がお前等なんかに罠の在りかを言うもんか!知りたきゃ土下座して解放すれば教えてやらない事もないけどな!」

 

「減点」

 

ジョリッ

 

深月は、間桐兄の額から頭頂部にかけて真っ直ぐに剃る

 

「おい聞いてんのか!!」

 

「減点」

 

ジョリッ

 

次は右側の側頭部を剃る。これで右側の髪は斜めに残り、左は丸々残っている。どこでも剃る事が出来るのはとてもいい気分だ

 

「おい桜!僕を助けろ!!聞いてるのか!!」

 

「減点」

 

ジョリッ

 

右側に残った髪が全て剃られ、残りは左側だけとなった。あまりにも不格好で雑に剃った間桐の髪型は、誰が見ても笑ってしまう程だ。まるで、岩の壁面に自生したワカメの様に垂れ下がっている

 

「・・・・・」

 

「貴方が選ぶ事が出来る選択肢はたった一つ―――学校に仕掛けた魔法陣の場所を全て吐くだけです」

 

「ヒィッ!?」

 

ようやく自身の立場を理解したのか、間桐兄は強い者に媚びて生き残る選択肢を選んだ。その情報を元に、学校に仕掛けられている魔法陣を地図に印して日が降りていない今日中に処理する事が決定した

 

「では、後は髪型を整えるだけですね」

 

「へぁ?」

 

深月は、間桐兄に手刀を落として気絶させる。そして、気を失っている間に髪を全て剃る。さらに手を加えて小さな剃り残しも許さずに頭部が周囲の景色を反射する様にピカピカにして、剃った髪を使ったカツラを作り頭に被せて全てが完了した

 

「ふぅ、突風が吹く事で露になる綺麗な坊主頭がキラリと光り相手を怯ませる。少しでも生き残れる為の渾身の仕掛けが出来ました!」

 

「ぶふっw、鏡を見ても普通は気付かねえだろうな!」

 

「慎二・・・坊主にされたのか」

 

「罰としてはもの凄く軽いけど・・・ぷっw、お腹が痛いw」

 

「あはは・・・、無駄に髪を整えていた兄さんには丁度いい罰ですね」

 

ライダーのマスターだった間桐兄はマスター権を剥奪された事により脱落し、ライダーが間桐妹のサーヴァントになった事で本来の力を取り戻しつつ戦力補強という最高の戦果だった。残るはバーサーカーただ一人であるが、ヘラクレスという超有名でありギルガメッシュが大英雄と認めるのもあり油断や慢心する事なく何時でも襲い掛かって来ても良いように準備する

 

「それにしても・・・来ると思うか?俺はぶっちゃけていうと来ないと思うんだが」

 

ハジメの感想には誰もが頷く。バーサーカー以外のサーヴァントが同盟している事を知らずとも、サーヴァントが争わずに一ヶ所に集まっているので襲撃する事自体無謀というものだ。だが、只一人静かに黙り込んでいるギルガメッシュが不気味だった

 

「ギルガメッシュ様、長く手を止めていますが角煮が口に合いませんでしたか?」

 

そして、深月はバーサーカーの襲撃を心配するよりもギルガメッシュの食事の手が止まっている事の方が気になっていた。ハジメ達は、ある意味平常運転の深月に苦笑する

 

「いや、美味い。・・・だが、抑止が本格的に茶々を入れて来ただけだ。召使、油断するなよ?」

 

「油断はしません。何故なら、既にこちらに到着しているのにも拘らずお待ち頂いていますから」

 

深月の言葉が終わると、衛宮宅の門の方向から足音が二つ聞こえてきた。本命のお客様の登場である

 

「こんばんわ。お兄ちゃん、約束通り皆殺しにしに来たわ。何せ、サーヴァントが一ヶ所に集まっているのだから手間が省けるわ」

 

「・・・・・」

 

バーサーカーとマスターの少女が正面から堂々と乗り込んで来た。普通なら誰しも無謀だと呆れ果てるのだが、バーサーカーの威圧感が前回とは比較にならない事に気付く

 

「本当はお兄ちゃんからと言いたかったけど、目撃者で無関係な傭兵の立ち位置の貴方達から殺すわ。バーサーカー、どう?」

 

「少年の方は容易ですが、召使の少女は厳しいでしょう」

 

何と、バーサーカーというクラスで付与される狂化という特性があるのにも拘らず言葉を発しているのだ。ありえない光景に皆が黙っている中、この変化をいち早く理解したのはハジメだった

 

「馬鹿正直に質問するが、抑止力がアンタに力を与えたと判断していいか?」

 

「そうだ」

 

あっさり答えるんかい!とツッコミを入れたかったが、今のこちら側にそんな余裕はない

 

「一人の少女を倒す為に抑止力が動く事がありえないと思ったが、そちらには英雄王が居るのならば納得がいく」

 

「ほう?我の事を知って尚挑むか大英雄」

 

「必要ならば挑むだけだ。だが、今の私が全てを注いで倒すべき相手は英雄王ではない」

 

バーサーカーは手に持った石斧の刃先と視線を深月だけに向けた

 

「サーヴァントが相手なら敗ける可能性は万に一つもない。だが、今残る命を全てを引き換えにようやく討つ事が出来る相手となると、お嬢様の護りが疎かになってしまいます」

 

「・・・あのメイドそんなに強いの?」

 

「彼女は神殺しを成し得ております。そして、抑止から与えられた情報では異世界からの漂流者であります」

 

「・・・そう。貴方達には理不尽かもしれないけど、抑止力からのバックアップを受けているなら排除しなければいけないわ。だから、全力で殺しなさいバーサーカー!」

 

その言葉と同時に、深月とバーサーカーが動いた。深月は黒刀を、バーサーカーは石斧を足手纏いであろうハジメとバーサーカーのマスターに投擲された。音速を超えたそれ等は、互いの手により命を刈り取る寸前で止められた

 

「やっべぇ・・・助かったぜ深月」

 

「ありがとう、バーサーカー」

 

両者は自身が足手纏いである事を自覚しており、攻撃の手札が全力を出せる命令を出す

 

「「俺(私)を攻撃せず、バーサーカー(メイド)と全力で戦え(戦いなさい)!」」

 

深月は、自身の四肢に装着した重りを外して黒刀を叩き付けようとするバーサーカーの一撃を白刃取りで受け止めたと同時に、襲い掛かる蹴りをワザと受けて消力でその全てを受け流す。両者の武器が手元に戻り、深月は黒刀を宝物庫に入れて何時でも迎撃出来る構えを取り、バーサーカーは石斧を片手に構える

たった一度の攻防だが、両者の技量をはっきりと理解するには充分な手合わせだ。最終局面―――深月とバーサーカーことヘラクレスの戦いの火蓋が切って落とされた

 

 

 

 




布団「抑止力が余計な事をした!?」
深月「酷くないですか?」
布団「(´-ω-`)シカタナイ」
深月「エヒトを殺しただけではないですか!?」
布団「それでも神殺し。神造兵装よりも神性に対して特化した概念をお持ちですから・・・」


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世界観をメイドがぶっ壊す~Fate編~

布団「身内の体調不良等々かなり慌ただしい日々でしたが、ようやく落ち着きました」
深月「麻婆です!」
布団「本編の後書きの伏線をようやく回収する事が出来る('ω')」
深月「麻婆!」
布団「・・・はい、戦闘シーンなんてほぼ無いに等しいです」
深月「それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ!」






~追伸~
人によっては他原作の設定守れうんぬんかんぬん感想で書かれていますが、嫌ならブラックリストに入れるなりしてこの作品を見ないようにして下さい。ハーメルンを運営する管理者に迷惑です







~深月side~

 

深月とバーサーカーの戦いは正に神話の戦いと言っても不思議ではない様相だ。キャスターが結界を張って周囲の被害を抑えるが、数回のぶつかり合いで壊れるので疲労困憊している。そこで、ギルガメッシュが結界を張り続けさせる為に必要な補助の道具を渡してやらせている

 

「何という技量、未だ二十歳にも満たぬ少女がこれ程の力を有しているとは・・・末恐ろしいな」

 

「私としては何もせずに投降して頂きたいのですが?」

 

「それは出来ぬ提案だ。お嬢様の命令は絶対であり、抑止の介入もされている。理性のあるこの状態は何時まで続くか分からぬが、お前を倒すまではサーヴァントとしての制限はないと思え」

 

バーサーカーの武器は石斧、石で出来ているからと侮るなかれ。一振りの風圧で大地を抉り、直撃は巨大なクレーターを生む。前回戦った際に得た情報は全て不要、並みの英雄では一撃が即死級の攻撃だがそれ等は全て巧みな歩法ですり抜けて避ける。しかし、如何に上手く攻撃を避けたとしても衝撃波で肌に薄い切り傷が付く

 

射殺す百頭(ナインライブズ)!」

 

超高速の連撃が叩き込まれる寸前に、深月が崩拳を石斧を持つ手に当てて武器の持ち手を両手で掴んで止めた

 

「ぐっ!重いっ!」

 

「何という膂力!ネメアーの獅子を絞殺した当時よりも力がある状態でこれとは!!」

 

徐々に深月がバーサーカーの力に押されていくが、如何せん相手は片手で石斧を持っているので片方は空いている。ヘラクレスの左手が深月の首を掴み、そのままへし折ろうとした。しかし、バーサーカーが力を入れようとした時に左腕に僅かな痺れを感じた

 

「む?」

 

「ようやく捕まえました」

 

バーサーカーは、掴んだ手がこれ以上握り込めない異常に気付き離れようとするのだが、それは叶わなかった。いや、それどころか身体中に超巨大な重しを乗せられたかの様に体を動かせなくなった。腕の痺れは徐々に広がり、足にまで到達して膝が折れて地面に着く

 

「な・・・にが・・・?」

 

「バーサーカー!?」

 

優位なのは己だと確信していたバーサーカーの思考は、困惑だけだった。身に覚えのない毒か?と疑問に思ったが、痛みが来ない事自体がありえない。己が師であるケイローンから教わったパンクラチオンとも違う何か―――、まるで地面から這い出た土の手が地面へと引きずり込むかの様な不気味さだ

 

「・・・ほう、パンクラチオンとはまた違う。魔術かと思いきや魔力反応が一切ない事から技で封じられているという事か。しかし、私を侮るな」

 

「グッ!?」

 

合気はバーサーカー相手に通用して動きを封じた―――が、バーサーカーとはいえヘラクレスであり抑止からのバックアップが想定を遥かに上回っていた。膝を着いていたバーサーカーが少しだけ足の位置を変えた事により、合気の力の流れがほんの僅かに乱れた所で首を掴んでいる手の握り力が強まった

本来は理解出来ない筈の合気を直感と剛力で打ち破ろうとしていた。超硬化と無色透明の魔力糸のインナーを着ているから直ぐに潰される事態は回避する事が出来た。例え大英雄の握力であろうとアザンチウム並みに硬くなったインナーを潰す事は出来ない。だが、バーサーカーが掴んだ手はこれ以上握り込めないが故に脱出する事が出来る。深月は、周囲一帯に伸ばした魔力糸をバーサーカーの手首の関節に巻いて自身の両手も関節に食い込ませる

 

「ふんっ!」

 

「何と面妖な技術か!」

 

深月がした事は、人体構造の把握と超接近した場合にのみ出来る技だ。人に限らず動物も対象のそれは、筋肉の筋を絞めるというごく単純な技だ。力を入れると筋肉の筋が伸びるのは当然であり、関節部を絞めると筋肉の筋が限界を超えて伸びる事を防衛して拘束力がほんの僅かながら緩むという事だ。バーサーカーの筋力の前では普通の圧では不可能だが、魔力糸の束の伸縮性と深月の力の二つが加われば可能だ。そもそも、小型版とはいえ勇〇王の最終兵器を振り回す腕力や握力があるという事を忘れてはいけない

だが、少し緩まるだけで脱出出来るかと問われると「いいえ」だ。だから、防御ではなく攻撃に転じる。深月が抵抗した瞬間にバーサーカーは直ぐに石斧を手にして振り下ろそうとした。直ぐに攻撃に転じたのは理解出来るが、この場合は最適解ではなく悪手だ。石斧は大きく、それでけでも視野を大きく塞ぎ深月の身体の後ろの情報まで正確に把握する事が難しく、男性には最強かつ最悪の一手が放たれた

 

「ぜあっ!」

 

「ゴアァァァァァアアアア!?」

 

皆もお分かりだろう。深月が放った蹴り―――金的が容赦なくバーサーカーの大事なアソコに直撃。ただでさえ神殺しの概念を持つ深月の攻撃は、神性を持つ者には攻撃力が増加する=金的の痛みは想像を絶する。これにはバーサーカーも攻撃の軌道が大きく逸れて力を入れる事すら出来ずに地面に膝を着いて出来た隙に深月は脱出して首を抑えながら距離を置く

これには男性陣全員が顔を青くしてバーサーカーへ同情の視線を送った

 

「おいおい・・・バーサーカーの金〇潰れたんじゃねぇか?」

 

「・・・男にとってあそこは硝子だぞ」

 

「勝負の世界にはどの様な手を使おうと勝者が称えられる―――が、あれは些か卑怯という他あるまい。しかし、大英雄には抑止の力の後押しがある故、相殺と言う所か」

 

深月の男性特攻の凶悪な攻撃は卑怯な手だと判断されたが、ギルガメッシュだけは抑止の介入が余程気に入らなかったのか辛辣なコメントだ。さて、ここまでなら皆は仕方がないと終わらせる。だが、命を狙われる当の本人はここで手を緩める選択肢はない

 

「私は!」

 

「グォウッ!?」

 

「自身より強い!」

 

「グハァッ!?」

 

「男性には!」

 

「  」

 

「急所だけを攻めます!」

 

「          」

 

理性があろうとなかろうと、連続の金的は男にとって意識を断ち切るには充分な攻撃だ。サーヴァント相手に金的という発想自体が想定外だ。時折ビクンッ!ビクンッ!と痙攣しているバーサーカーを死体打ちする深月は悪魔に他ならない

 

「もうやめてぇ!バーサーカーをこれ以上攻撃しないで!?」

 

バーサーカーのマスターは、痙攣して動かなくなったバーサーカーを見てこのままでは何かが駄目になると悟ったのか、深月のメイド服を掴んで必死に止めようとする。しかし、その力は微々たるものなので攻撃は止まらない

 

「令呪による戦闘の停止命令を実行してください。それまで私は―――や・め・ま・せ・ん・!」

 

執拗に蹴り続ける深月は、言われた通りにしなければ必ず続けると理解したバーサーカーのマスターは遂に折れた

 

「止まりなさい、バーサーカー!」

 

すると、令呪の効果によってバーサーカーは縛る事が完了。だが、完全に制御出来たのか?という不安が残るのでマスターを連れて距離を取り様子を窺う

 

「・・・・・」

 

バーサーカーの様子は先程とは違い、押し黙ったままだ。いや、正確に言うならばまともに喋れないと言ったところだ

 

「バーサーカーを止めるのに令呪を三画使って縛ったわ。バーサーカー、こいつ等に手は出さない?うん、これで満足?」

 

バーサーカーはマスターの問いに首を縦に振り肯定する。これ以上暴れたりはせず、完全に投降する意思を見せていた

 

「ふぅ、格上の男性殺しには急所の金的が一番でしたね」

 

「・・・バーサーカーは大丈夫なのか?ほら・・・深月の攻撃って神殺しの概念が付いているんだろ?」

 

「大丈夫じゃないですか?あそこで腰をトントンと叩いていますし」

 

巨体のバーサーカーが自分で腰を叩いたり見えない様にあそこに手を当てる等して優しく回復に努めていた。これには他の男性サーヴァント達もバーサーカーに同情してあれこれと応急処置を施して早急に回復するように努めている

真面目な戦闘のせの字もなく停戦へと持ち込んだ皆は、現状況の報連相をする。聖杯はアンリ・マユと呼ばれる邪悪な存在により呪いの願望器と変化し、本来の聖杯戦争とはかけ離れた結果を生み出すという事だ。ギルガメッシュは、始めは進化処か退化している人類に呆れ果て聖杯の呪いで人類の間引きという考えを持っていた。だが、深月の天然ファインプレーの軌道変更により難を逃れた。この時、抑止力が深月というイレギュラーどころかバランスブレイカー度合いを脅威として聖杯戦争のサーヴァントによる排除を試みる。しかし、その試みは全て跳ね除けられ、ギルガメッシュの判断に委ねられた結果―――違う世界とはいえ、どん底人生から這い上がり良縁を結ぶ事が出来て尚、腐らずに己を磨き続ける者を殺す事自体が人類の進化を止める事と同義とされ却下された

 

「はぁ・・・並行世界の住人というより、架空の世界の迷い人が二人なのね」

 

バーサーカーのマスターことイリヤスフィール・フォン・アインツベルンがいつかの遠坂同様に頭を抱え、現状の異常性を理解してどうこうする手立てが無い事が更に頭を痛めている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ハジメside~

 

停戦から数時間後―――

 

「信仰による神性を得た神を殺したメイドなんて予想外過ぎるわ。低ランクの攻撃とか高ランクの攻撃のカテゴリに入らないからバーサーカーが飛び込まないのがよく理解出来たわ。神殺しの概念を持った人間が存在する事がありえないし、普通だったら器が耐えきれず木っ端微塵になっているわ」

 

「誰だってそう思うわ。それに・・・その・・・、男性の急所をああも遠慮なく執拗に攻撃なんてしようとも思わないどころか出来ないわ」

 

「・・・そうよね。普通はそうよね」

 

「ええ、普通はね」

 

遠坂とアインツベルンの両名がキチガイを見る様な目で深月を見つめる。そして、当の本人は野外用のキッチンにて言峰と共に新作麻婆を作っていた。二人して怖い笑みを浮かべながら嬉々として香辛料を砕いてオリジナルの配合を模索している。二人が作る麻婆が劇物だと理解している面々は遠く離れたり、夕食用の食材を確保しに行ったりと様々だ。この場に居るのは各マスター達とセイバーとキャスターとバーサーカーだ

 

「ハバネロも良いが、それではただ辛いだけか・・・。山椒の風味を活かした味付けには少し刺激が強すぎる」

 

「カレーに使う香辛料を少し加えて辛味のダブルパンチを」

 

「ならば、此度は肉を贅沢に使おう。解毒したヒュドラ肉を肉団子にし、その中にドロリとしたホウレン草のペーストにブートジョロキアを少量と青唐辛子と赤唐辛子をふんだんに使った特製ペーストを入れてみよう」

 

「水抜きした豆腐はハバネロ、ブートジョロキア、キャロナイラ・リーパーを混ぜ合わせた漬け込み汁で水気を戻して辛みを奥底まで染み込ませています」

 

「漬け込みとは美味しそうだ」

 

「魚介スープと混ぜ合わせた漬け込み汁なので風味も良しです」

 

「フフフ、完成が楽しみだ」

 

もうこれ以上何も聞きたくないと手で耳を塞ぎたいが、二人の口の動きで幻聴の様に笑い声が聞こえていたりするので完全に諦めている。だが、麻婆の被害に遭わない様に衛宮が夕食を作ると告げるがギルガメッシュが「雑種が作る料理を食べろだと?貴様は召使の調理技術を見て学び腕を磨かぬ限り厨房に入る事を禁ずる!」という正に暴君の如く禁止された。とはいえ、学ぶ為に見学は良いという事だ。だが、麻婆を作る二人の見学をしようとする気は全く起きない

 

「ねぇ、南雲君は何処に行ったの?」

 

遠坂の疑問は、深月の主であるハジメがこの場に居ないという事だ。危険を察知して逃げたのでは?と思っていたが、特別な用事が無い限りは深月と離れるのはデメリットが多い。抑止が介入しなくなったのは良い結果だが、もう二度とという事はない。それこそ、仮初の主であるハジメを人質に捕る事もありえるのだ

 

「あの坊やなら私が借りてるわよ。素材の魔物の特徴を知るには必要不可欠ですもの」

 

神代の魔獣も魔力を持っているが、ほぼ野生動物と変わらない。トータスみたいに特殊な技能を持つ個体というのは希少価値があり研究の対象となるが、そんな魔獣は殆ど見ない。幻想種ならば似た事が出来るが、それでも数が少ない。トータスの様に全ての魔物に特殊技能があるとは限らない

 

「絵と特徴を私の座に記録出来るように実験しているのよ。魔術的価値は幻想種並みなの」

 

ハジメはキャスターに連行されてスケッチと特徴を出来るだけ詳細に記録する仕事をしており、ひと段落付き伸びていた。キャスターの好奇心を刺激+言い知れぬ圧によるそれに抗う術が思いつかなかったというのもある

 

「それって見せてもr「見せないわよ」分かってたわよチクショウ!」

 

遠坂の行動はこの聖杯戦争が始まってから後手に回るばっかりだ。悪運は強くとも、この手の絶好の機会を手にする運はゼロに近しいだろう

 

「やりました!これで麻婆の完成です!」

 

「早速食べ比べをしようではないか!」

 

彼方は麻婆を美味しそうに食べているが、見た目がマグマみたいに煮え滾っていると錯覚する程の言い知れぬ熱量を感じ取れる。あれは最早人間が食べる食材ではない―――標的はこの場に居る皆だが、初めて食べる者を沼に引きずり込む為に三名をロックオン。だが、キャスターは自室という名の研究部屋に籠る事で奇跡的に助かる。アインツベルンも遠坂達に言われて距離を取っていたので食する事は無かったが・・・

 

「ささ、バーサーカー様も一口どうですか?」

 

「体に活力が湧く香辛料も入っているぞ?ピリリとした辛みが食欲をそそる品だ」

 

「・・・・・」

 

「あっ!?バーサーカーだm」

 

アインツベルンが二人の標的となったバーサーカーに麻婆を食べるのを止めようとするが一足遅かった。大きな手で小さいレンゲを持つ姿はシュールで、二人が美味しそうに麻婆を食べている事と狂化により正常な判断が出来なかった事が麻婆に対する警戒心を失くす後押しがあったのだ。結果――――

 

「■■■■■ーーーーーー!?」

 

両手で喉を抑え、弓の様に体が反り脱力して地面に大の字で倒れた。その光景を見ていた皆は悲鳴を漏らし、元凶の二名はとても残念そうにしていた。気絶してしまえば麻婆の沼に引きずり込むのは難しいという結果が生まれた

しばらくすると、バーサーカーが気絶から覚醒しての第一声が漏れた

 

「し、死ぬ・・・ヒュドラの毒より耐え難い劇物だっ!」

 

『えっ!?』

 

バーサーカーの狂化のレベルは高く、まともな言葉すら発する事が出来ない筈だが今は違う。しっかりとした言葉を発している

 

「イリヤ・・・バーサーカーって狂化で喋れなかったんじゃないの?」

 

「待って。今ステータスを・・・・・狂化が無くなってる!?」

 

「はぁっ!?麻婆食べただけよね!?」

 

麻婆で狂化が破壊された・・・・・。例え大英雄がほぼ不死身とはいえ、死なないレベルで胃に激辛というスリップダメージを与え続けるだけ。トータスの何でも分解する悪食をも悶絶させる深月特製麻婆は進化しており、今回は麻婆を愛する同志と共に研究に研究を重ねて生まれたヒュドラの毒が生易しいレベルとなっている

そして、何より深月が麻婆に賭ける情熱―――『麻婆による癒しをここに』という想いが強すぎて概念魔法が生まれたのだ。一人だけでは到達出来なかったが、同志による共同作業という工程が奇跡(※他人からは地獄)が成せる業だ。麻婆による癒しとは、麻婆を食べた者のバッドステータスを治療するという馬鹿げた概念食品である

 

「意味わかんねぇよ!?概念食品って何だよ!?」

 

ようやく合流して復活したハジメのツッコミは皆の気持ちを代弁した

 

「少年、疲れているのか?この麻婆を食べると元気になるぞ?」

 

「あ~んしてあげますよ?」

 

「ヒェッ!?」

 

ハジメは逃げようとしたが、リビン〇デッドの呼び声な手が自身の身体を掴んだと錯覚した事で避難が遅れて二人に捕獲され麻婆に引きずり込まれた

 

「    」

 

深月の麻婆を事故で何度も口にしている事で耐性が付いていたハジメですら、二人の合作麻婆の前には声も出す暇なく意識を刈り取られた

 

「むぅ・・・このレベルの辛さは同志以外に食べさせる事が出来ませんね」

 

「非常に残念だ。だが、少年が起きた時の体調次第では治療食品として広める手も一考だな」

 

「流石に傷の癒しまでは出来ませんね。しかし、内臓治療―――癌を癒す力があるとしたら」

 

「売れるな。そして、麻婆の素晴らしさを広める事も出来る」

 

皆が「誰かこの二人を止めてくれ」と心の中で叫んでいると、深月と言峰が歓喜の声を上げていた

 

「素晴らしい!実に素晴らしい!同志が増えたぞ!」

 

「まだまだありますよ!もっと食べますか?」

 

『食』

 

何処から湧いたのか、神秘的な少女が二人が作った麻婆を食べているではないか。目を宝石の様に輝かせながら食べるその様子はとても気に入っているようだ。アインツベルンよりも幼い少女が美味しそうに食べる光景は良かっただろう。それが"ただの少女"であればだ

 

「シロウ!」

 

「凛!」

 

「桜!」

 

「お嬢様!」

 

各サーヴァントが己のマスターを背に隠し、少女に向けて武器を構えた。しかし、少女は嬉々としてお代わりの麻婆を作っている二人の手元を覗き込んでいる。サーヴァントが武器を構えていても興味が一かけらも無いのか、無防備な状態だ

 

「召使!言峰!貴様等は何をしているのか分かっているのか!!」

 

頭上から聞こえた声はギルガメッシュだ。黄金の空飛ぶ船から降り立ったギルガメッシュは、深月と言峰を掴もうとした。だが、途中で手を止めてサーヴァントの皆が集まっている場所へと歩きながら胃の付近を手で押さえていた

 

「王様、どうかされましたか?」

 

ハジメが宝物庫から薬を服用しているギルガメッシュに率直な疑問を問う。あの少女が何なのか分からないのは皆が理解しているからこそ、正体を知っているであろうギルガメッシュに頼る事にした

 

「ちょっとどういう状況なの!?」

 

「おいおい、何が起きてんだ?」

 

アサシン以外のサーヴァントも集結し、この異常を尋ねる

 

「雑種、貴様の召使と言峰はとんでもない事をしてくれたな」

 

「えぇ・・・?」

 

「抑止すらどうする事も出来ぬ。最早、未来は蜘蛛の気分次第という事だ」

 

『蜘蛛?』

 

これを聞いた遠坂とアインツベルンは、心当たりがあり絶望した。そして、ハジメもまた絶望した

蜘蛛―――ギルガメッシュの告げた言葉は、あの少女について・・・ORTと呼称される型月最強の生物?だ

本来は巨大な蜘蛛の姿なのだが、どういう訳か今は少女だ。だが、姿を変えているだけで機能については変わらない

 

「だが、本来なら侵食固有結界によりこの一帯は結晶化するところがそうではない。つまり、蜘蛛にとって興味が惹かれる何かがあったという事だ。・・・まぁ、恐らくあの劇物がそうだろう」

 

ギルガメッシュですら劇物扱いする麻婆が、ORTの興味を惹いてしまったという事だ。何とも傍迷惑であり、核兵器や神造兵装すらも霞み抑止力が悲鳴を上げる事件だ

 

「そ、そんな・・・ORTって勝てるわけないじゃない!?」

 

「り、凛声量を落として。もし何かあったら標的になるわよ」

 

「うっ!そ、そうよね・・・。もう祈りましょう」

 

全ては深月と言峰が作る麻婆に託される事となった。もし、ORTの機嫌を損なえば人類抹殺コースが確定する。例えギルガメッシュの乖離剣であろうと無力化されるとなれば打つ手もない

 

「む?調理に興味があるか?」

 

『是』

 

「なら包丁を扱うよりも簡単な香辛料砕きを手伝っていただけませんか?こうしてすり鉢に入れてetc―――」

 

深月が少女もといORTに香辛料を砕く手順を説明する姿を見た皆は、接待しろよ!と声に上げたかったが黙って見守る

 

『工程把握 試行 効率化 成功』

 

香辛料を砕く手順を教えたら、機械で粉砕するのと同等かそれ以上の繊細さで細かくしていく。次から次へと粉砕していると、途中で言峰が手を出して制止させる

 

「ストップだ。この香辛料は、今までよりも荒く大きめにする事で食べた際に風味に変化が出る。一定の味を求めるのも吝かではないが、規則性なく当りを引くかの様な幸福を得る事もまた食の醍醐味だ」

 

『荒く・・・? 不明 理解不能』

 

「では、この二つの味見をしてみると良い。違いが分かる」

 

ORTが細かく砕いた香辛料を舐めた後、深月がお手本として砕いていた香辛料を舐めた

 

『不可解 目標到達に及ばず』

 

「そこまで深く考えず数回程度軽く叩いて砕けば良いだけですよ」

 

『了』

 

深月の言う通りほんの数回叩いて砕いた香辛料を舐めると、お手本よりも風味が飛んでいるがほぼ近しくなっていた

 

『摩訶不思議 工程手抜き』

 

「それよりも会話はどうにかなりませんか?」

 

「うむ、意見は多い方がより味の広がりを見出す。どの様にして知識を得るのかを知りたい」

 

『捕食』

 

これを聞いた二人は、少し難しい顔をして悩む。言語を話すなら人間が一番だが、捕食される事で情報を得るのであれば避けたい。少しだけ悩んだが、ここで深月は廃棄に困っていたある者を思い出した

 

「これの捕食は如何ですか?」

 

深月が取り出したのは、先兵の死体二つだった。神山での戦い以降、何かしらの役に立つと思っていたそれはメイド達の戦闘訓練で的当てにした程度だ。損傷は酷いが言語の情報を得て会話をする事が出来るなら有効活用するべきだ

 

「後は言語理解ですが、これはミサンガに付与するだけで問題ないですね」

 

ORTは先兵の死体に手で触れると死体が結晶化した。そして、結晶化した死体をそのまま齧って食べた。血が出ないのでスプラッタではないが、少女が成人女性を食べる構図は不気味だ。結晶化した死体を全て食べ終えたORTは、深月の言語理解が付与されたミサンガを付けて全ての処置が完了した

 

「声帯調整完了―――情報整理―――この香辛料は地球以外の物が含まれています。栽培方法は確立されているのですか?」

 

「そちらは言峰様に渡してあるノートに記しています」

 

「了解。引き続き香辛料を砕きます」

 

「香辛料の砕き方はお任せしよう。己が手で加工した物を食す事こそ、本当の美味を知る事が出来る」

 

こうしてORTが香辛料を砕き、配合し、言峰が炒め、深月が調理をする連携作業だ。次から次へと作る麻婆を食べては意見を出し合い、改良したり好みを探ったりしてノートに記していく。そうこうしていると日も暮れて夕食時に近くなる

 

「む?そろそろ夕食の時間か。同志はどうする?私がよく通う泰山という中華料理専門のお店があるのだが、来るかね?」

 

「そうしたいのですが・・・彼方にお腹を空かせている人達が居ますのでご一緒する事は出来ません」

 

「ふむ、少し残念だがまた出直すとしよう」

 

「私は同志深月の作る料理に興味があります」

 

言峰は少し残念そうにしながらも衛宮宅を去り泰山へと向かい、深月は通常の料理を作る。一方、ORTは深月に言われたままにハジメ達が集まるテーブルの椅子に座り、深月の方をじっと見つめている。だが、ORTの行動におっかなびっくりしているのは当人以外の者達だけだ

 

「蜘蛛よ、貴様は戦闘の意思は無いのか?」

 

「無い。同志深月の作る料理に興味がある」

 

ギルガメッシュの問いにORTは素直に答えた。そして、逆に言い換えれば深月を排除しようものならガチギレ案件まったなしという単純な反応が返ってくるという事が分かった。これで深月の後ろ盾にORTが付いたも同然である

 

「・・・これどうすればいい?」

 

ハジメが物凄く頭の痛い現状を鑑みて皆に問う。ORTが少し力を解放しただけで周囲が結晶化する=触るな厳禁という危険物をどう処理するかを悩んでいた

 

「・・・持ち帰れ」

 

「仮の主なら責任取りなさい」

 

「メイドが居なくなったら暴れるわね」

 

「嫌だぁっ!こんなのどうしろってんだ!?」

 

遠坂とアインツベルンからは責任を取れと告げられ、頼みの綱であるギルガメッシュからはお持ち帰りしろというありがたい?お言葉を貰ったハジメだった

 

「皐月・・・俺の胃はもうボロボロだぁ」

 

もう少しで真っ白になるかもしれないハジメの心労はとてつもないだろう。冷静に転移してからの事を考えてみて欲しい

「アニメの世界に入ったぞー!」とウキウキしたのもつかの間、「うっそだろ?王様がこんなに早く介入してくるのかよ?まぁ、生王見れたからテンション上げていくぜぇ!」かーらーの、宝物庫に入れていたアーティファクト全没収と、ついでで魔物の素材も没収。自身が思っていた以上の暴君っぷりにテンションが下がり、何時も予想外な事ばかりする深月が王様に気に入られる←そらそうだ

だが、深月の存在が抑止に目を付けられ排除されそうになるが、想定を上回る行動でそれ等を撃退。深月にとって癒しの麻婆を愉悦神父と共に作っていると人類即殺マシーンことORTが麻婆に惹かれて来日して麻婆の同志となり、麻婆の魅力に捕らわれたというよりも深月に胃袋?をがっちりと掴まれた事で責任を取って連れて帰れ←フッザケルナ!フザケルナ!バカヤロォォォーーーーー!!

元の世界に核兵器がミジンコ並みに感じる危険物を傍に置く←ヤメロォォーーーーシニタクナーーーーイ!

 

お、俺の責任なのか?どちらかというと深月の責任じゃねぇのか?そ、そうだ!深月の責任に決まっている!!

 

「雑種、この世界に流れ着いた原因は貴様のアーティファクトだと聞いたぞ?」

 

チクショウメェェェェェ!深月のやつ王様にチクりやがったなぁぁぁぁ!?

 

これでハジメの退路は全て絶たれ、引き取る選択肢だけとなった。深月は麻婆の同志が出来るという事で心労は何一つないだろうが、心労が酷くなるのは皐月だ

 

やべぇ・・・これって俺が責められるのか?言い訳無用のド正論武装した皐月の説教・・・あかん、終わった

 

「ふむ、ようやく本当の主が来るか」

 

ギルガメッシュが呟き、ハジメの数メートル隣の空間が虹色に輝き歪む。これを見たマスターやサーヴァントが臨戦態勢に移るが、ギルガメッシュが玉座で品定めをする様な目をしているので直ぐに敵対するという事はないだろう

 

「ぷはぁっ!魔力どんだけ食うのよ!?人工神結晶バッテリーを五つも使ってようやく起動するなんて冗談じゃないわよ!ハジメ、大丈夫!?」

 

「あ、おう・・・大丈夫。一応は・・・大丈夫・・・うん・・・」

 

歪んだ空間から現れたのは皐月で、続く形でユエ、シア、ティオ、香織、雫―――という戦闘が出来るメンバー達が流れ込んで来た。これを理解したハジメは、どうやって許しを乞おうか必死に思案した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




布団「いや、ねぇ・・・。麻婆の同志を増やすなら、手出し不可能な奴を仲間にするしかないでしょ」
深月「麻婆美味しいですよねぇ~♪」
布団「蜘蛛ゲットだぜ!」


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メイドの主は大変~Fate編~

布団「投稿しまする」
深月「麻婆は世界を救うのでs―――」
布団「今はそれどころじゃない!」
深月「・・・それでは読者の皆様方、ごゆるりとどうぞ」












~皐月side~

 

これはハジメと深月が別世界へと転移した日まで遡る―――

この日、皐月は自室にてティオ達の書類仕事を手伝っていた。ハジメが立ち上げた通販限定装飾品販売会社を運営する際、大人の社会人として品性ある振る舞いが出来る女社長という形でティオとレミアが代表となっている。だが、どちらもトータス生まれなので地球のルールを覚えるのには一苦労した。それを補う形で皐月が補助をしている

 

「ティオ、レミア、丁度切りの良い所まで進める事が出来たから一度休憩しましょう」

 

「うむ、いつ見てもご主・・・ゴホン、皐月の手際は素晴らしいのじゃ」

 

「いっその事、皐月さんが社長の椅子に座っていただければ仕事が早く終わりそうなのですね」

 

「ヤメテ。私はメイド育成学校を立ち上げるスポンサー獲得でちょっと忙しいの」

 

皐月は子供の頃から両親と一緒にパーティーでセレブや国のお偉い方やその子供達と出会っているので、その伝を活かして"王宮で働いても違和感のない家のメイド達"を引き出しとして例を出す事で助力を得ようとしている。高坂家に配属している使用人達は、王室のプロまでとは言わないがプロから見ても相応の技量があるのでセレブ達が常時抱えるメイドとしてなら十分だろうと思っている

 

「深月みたいに戦闘メイドを育てる事も出来るけど・・・それはちょっとね」

 

「深月さんが主体となって教育すると思ったら大変ですね」

 

「こちらで言う所のパワハラに抵触するのう」

 

「まぁ、オールワークスの進化系であるという説明を添えて誓約書にサインが必須になるわ。まぁ、こんな酔狂なメイドを欲しがる所なんて・・・・・イギリス王室かしらねぇ~」

 

皐月は少しだけ遠い目をしていた。実は、トータスから帰還する前から女王から深月を引き抜き出来ないか?という手紙が毎年届いていたが、トータスから帰還してからは引き抜きよりも深月が徹底的に育成したメイドを紹介してくれないか?という内容に変わっているのだ。皐月が両親に相談していたメイド育成学校の話が女王にも伝わっていた事に頭を抱えたくなるが、過ぎた事を何時までも引きずるのはよくないと思い後ろ盾として利用してやろうとも考えている。というよりも考えた方が幾らか気が楽だったりする

 

「女王が深月を欲しがるとはのぉ~。観察眼は伊達ではないという事じゃな」

 

「中学の時から手紙が送られて来るのよ?あの時は生きた心地がしなかったわ」

 

一応青春真っ只中の学生にその様な手紙を送るのは冗談か何かだと思いたいが、悲しい現実を突きつけられた皐月に出来る事はやんわりと断る事だけだった

 

「はい、やめっ!もうこの話は終わり!という事で、深月を召喚してティータイムにしましょう」

 

「今日のおやつは一体なんじゃろうなぁ~♪」

 

「そういえば、深月さんはハジメさんの所に行きましたね。なんでも休憩を挟む様にと」

 

「あっ!そう言えばハジメと一緒にアーティファクト作ってたのを忘れてたわ」

 

アーティファクトを一緒に作っていた皐月だったが、書類の束を抱えていたティオをレミアを見て手伝いをする事でアーティファクト作りを完全に忘れていたのだ

 

「なぬ?どの様な効果があるアーティファクトなのじゃ?」

 

「加湿器よ。深月の清潔を付与したフィルターを通す事で、室内を定期的に除菌する効果があるわ」

 

「それは良いですね。密閉した部屋でのインフルエンザウィルスの拡大が危険ですので、その加湿器があるだけで予防が出来る事を思うと少し安心しますね」

 

「とは言っても、室内感染を防ぐというだけだから予防程度と思ってくれればいいわ」

 

皐月は加湿器の説明をしながら、深月を呼び出すベルを鳴らした。しかし、いつもなら数秒もしない内にノックされる筈の音が無い

 

「ん?おかしいわね・・・」

 

「もう一度鳴らせばいいだけじゃ」

 

皐月がもう一度ベルを鳴らして呼ぶが、一向に深月が来ない。常時二人体制の深月が現れない事に違和感を感じた皐月は嫌な予感がした

 

「・・・ちょっと待って」

 

魔力感知で深月の魔力を探るが何処にも居らず、外出かな?と思いハジメの魔力を探るが何処にも居ない。皐月は、急いでハジメが作業していた部屋へと入り違和感を探す

 

「これって・・・」

 

テーブルの上には粉が積もっていた。その粉の正体は、シュタル鉱石とアザンチウム鉱石と神結晶が粉状になった物だった。ハジメが何かしらの作業で鉱石を粉状にして使うかと思ったが、それだと神結晶が混ざっている事が不自然だ

 

「ティオはユエ達に緊急連絡。レミアは至急通販の一時停止措置と通知をして」

 

「あい分かった!」

 

「分かりました」

 

二人は部屋を出て行動に出た。皐月は現場の証拠が失われない様に粉状の鉱石を袋に入れ、机の上に置かれた宝物庫の指輪を確認する。掘り込まれたHの文字―――ハジメの宝物庫で、中には鉱石や魔物の素材が入っている方だった

 

最悪、素材の方の宝物庫が置かれてるならハジメ達の方からの帰還は不可能になるわね。武器が入っている宝物庫にはアンテナは入れていないし、深月の方は食料品や調理道具一式という生活専用だけとなると・・・サバイバルする分には問題はないという事ね

 

そうすると、転移門で来たのかユエ達も合流する。皆で作業部屋に違和感がないかを確認するが、何かしらの魔法が発動したという事以外には分からなかった。ユエが言うには「魔力濃度が高いから転移系の魔法が発動した可能性が高い」、という事が分かっただけでも良しとする

 

「ユエ・・・じゃなくて香織、再生魔法でこの数時間前の出来事を再生出来る?」

 

「任せて!」

 

「私は何をしたらいいの?」

 

「この粉状になっている物の再生をお願い。過負荷で自壊した可能性が高いし、錬成で直すよりも再生魔法で付与された魔法も知りたいから」

 

「復活させる」

 

ユエが再生魔法で粉状の物を復元すると、地球儀の様な形に復元された。そして、皐月が手に取って調べると驚愕の結果を知る事になった

 

「はぁっ!?並行世界へ干渉の魔法!?一体何時の間にそんなのを創ったのよ!?」

 

「・・・二人きりのデート」

 

ユエが青筋を浮かべながら理解した事を告げた瞬間、部屋の気温が氷点下にまで下がったかの様に凍り付いた

 

「へぇ~、深月さんからならともかくハジメさんからとなると~」

 

「許せんのう」

 

「ちょっと拘束しないといけないわね」

 

シアとティオと雫がハジメの処罰について話し合っていると、香織が再生魔法で現場の状況を知る準備が出来たとの事だ

 

「再生するよ!」

 

そして、上映される映像と音声を理解した結果―――

 

「ハジメはお説教ね」

 

「どうします?」

 

「正座させて石板を置く?」

 

「これは深月さんにお願いして一週間黒パン生活をさせるのは?」

 

「雫さんは甘いですね。深月さんに黒パンを作らせるのではなく、私達が作ればいいのですよ」

 

「ものすごく硬くした黒パンを作るという手もありじゃな!」

 

ハジメの罰は決まり、皐月が問題となったアーティファクトの耐久性を底上げする事となった。一度バラし、各鉱石を重ねて層にして壊れる原因となる可能性を一つ一つ潰しながら二日程度で完成した。そして、いざ起動しようとなったが起動させる事が出来なかった

 

「・・・皐月、これ魔力不足」

 

「ちょっと待って。ここに居る皆の魔力を使ってるのよ?どんだけ魔力食いなの!?」

 

「これは人工神結晶の出番ですね!」

 

「行きと帰りの分を確保しないといけないから二つは確実ね」

 

「大丈夫よ。いざという時の為に二個は常備してあるわ」

 

「流石皐月さんです。これで問題解決ですね」

 

皐月が人工神結晶のバッテリーを一つ取り出してクリスタルキーの接続部に繋げて魔法を発動する―――――事が出来なかった

 

「皐月・・・・・魔力不足」

 

「ねぇ本当に待って!人工神結晶一つで足りないってどういうことなの!?」

 

「皐月、人工神結晶バッテリー生成装置を持って来たよ!」

 

「香織ナイス!二つなら流石に大丈夫でしょ」

 

人工神結晶のバッテリーをもう一つ直結させて魔法を発動する―――事が出来なかった

 

「どんだけなのよっ!この人工神結晶のバッテリーはオリジナルよりも魔力を貯蔵する性能なのよ!?」

 

「皐月さん・・・嫌な予感がするんですが・・・」

 

「・・・何個かバッテリーを作る必要があるという事ね」

 

人工神結晶のバッテリーを一つ作る事が出来る時間はおおよそ二ヵ月。深月が魔力を込めると一週間まで短縮する事が出来るが、この場に深月は居ない。よって、自然エネルギーで溜めるのは却下だ。風力発電や太陽光発電は自然に左右されるが、ここで一つだけ案がある。しかし、これは深月が必要だと常々思っているので行いたくはない

 

「皐月、大丈夫。代案がある!」

 

「ユエさんどうするんですか?」

 

「少し前に暗黒界に捨てた縮退炉。あれを使う」

 

「ヤメテ。あれは試作だからすぐに暴走するの」

 

「・・・むぅ、私も使ってみたかったのに」

 

「本音はそっちなの!?」

 

改めて、代案を探す事にした。魔法を使う手もあるが、それなら直接魔力を注ぎ込んだ方が効率が良いのだ。要は効率の問題である。一の力で十・・・いや、最低でも百は欲しい。欲を言うなら千が一番だ。深月でも一週間掛かる代物を皐月達の力で短縮しなければならない

こういう時は、オタクの知識が役に立つ―――という訳で南雲家に行ってマンガやアニメから案を募ろう作戦だ。だが、それでも手掛かりは無かった

 

「これ本当にどうしよう・・・。一応深月も一緒だから数ヵ月のサバイバルに耐えれるとしてもねぇ・・・」

 

「それを言わないで下さい。これでも頑張っているんですよ?」

 

「シアの手料理も美味しい。だけど、深月の料理が恋しい」

 

「深月の料理は極まっておるから、それと同等を食べるとなるととんでもない金額が必要なのじゃ」

 

「スイーツ食べたい」

 

「和食食べたい」

 

まるで屍の様だ。胃袋をがっちりと掴まれており、無駄に清潔進化というぶっ壊れ技能のせいで贅沢を知ってしまっている状態なのだ。毎日が超高級な素材を使った家庭料理となると絶望するには充分だ

食のストレスもあってやる気が向上しないが、無理矢理にでも体を奮い立たせて情報を集める他ない。皐月達はどん詰まり状態に気が重くなり、モフモフに癒されようと中庭に出てポチに埋もれようとした

 

「ポチ~癒して~」

 

「ワン!」

 

超巨大なキメラが「ワン!」と犬の様に鳴くのはツッコミ所満載だが、今はそれが癒しでもある。日の光を浴びながら埋もれていたらいつの間にか寝ていた事に皐月は驚いたが、もっと驚いた事はいつの間にか手に見た事のない色の水晶が手に収まっていた

 

「・・・・・何これ」

 

見る角度を少し変えただけでオーロラの様に色が変幻自在。この様な水晶は見た事も聞いた事も無く、触れる手から伝わる魔力の反応。どう見てもオーパーツな水晶が何故寝ている間に手に収まっていたのかすら疑問だ。だが、この水晶の魔力量はバッテリーよりも多く感じ取れる

 

「天からの贈り物?・・・いや、使うけど・・・。使っていいのよね?」

 

この水晶が誰の物かも分からないし、使用時のデメリットも不明だ。しかし、この水晶の魔力をバッテリーに充電する事を決めた。それと、何故かこの水晶は壊したくないとも思った

急ぎ作業部屋に置いてある人工神結晶バッテリー生成装置に魔力を流し、魔力の流れを確認して異常が無いかどうかを確認して試験用バッテリーをセットして水晶を魔力伝道機に設置した。魔力感知で水晶が持つ魔力の充填が正常か確認し、試験用のバッテリーを外して魔道オルゴールにセット。魔道オルゴールは正常に動き、過負荷が掛かっていないかどうかを確認する為にしばらく放置しても問題はなかった

 

「よしっ!」

 

水晶の魔力をバッテリーに充填を開始する。この充填機ならばバッテリーに適合する魔力に変換しながら無駄なく充填出来るが、それでも時間は掛かる。皐月の見立てでは一個につき二日程掛かる推測だ

なので、生成装置を一つ増設する事にした。水晶が貯蓄する魔力は底が見えず、まるで無限のエネルギーを秘めたオーパーツか何かだと確信する。しかし、環境被害がないのなら早急に充填する

 

「並列による魔力の分散は見られない。神結晶みたいな無色の魔力ではないのにも拘わらずにほぼ無変換で充填出来ているというのが気になるけど、今はそんな事を気にしている場合じゃないわよね」

 

気になる点は沢山あるが、問題ないならその先を見据える。並行世界へ行くにはバッテリーがどれだけ必要か不明だが、水晶を手に取ってからはこれで足りうると勘が囁いている。バッテリーは十個の蓄えとなり、再びユエ達を招集してクリスタルキーの並行世界への移動準備に入る

 

「クリスタルキーが行先、地球儀のアーティファクトが並行世界。でも、それだけでは情報が足りないから皆でハジメと深月の事を強く念じるわよ。意志が強ければ強い程魔法の発動による消費魔力が減らせるわ」

 

「それじゃあハジメ君の写真と使用済みのシャ「それは洗濯しなさい!」ああ!?放り投げないでよ!?」

 

「香織・・・それはストーカーと同じよ」

 

「むっつりどころじゃないですぅ。ある種の狂気を感じます」

 

一応皆にも宝物庫を与えているのでその中に入れているのだろうがこれはいただけないと判断した皐月は、ハジメと深月を回収した後に香織の宝物庫の中身を確認する事にした

話を戻し、バッテリーを三個、四個と一つずつ増やして魔法を行使する。そして、切りの言い五個でようやく発動した。クリスタルキーの輝きが凄まじく、何処となく熱量を感じる

 

「繋げたわ。皆行くわよ!レミア、ミュウとお留守番頼むわ。ハジメの罰を書いたクジを作ってね」

 

「分かりました。ハジメさんをよろしくお願いします」

 

「ママ、行ってらっしゃいなの!」

 

非戦闘員であるレミアとミュウは安全な場所・・・ポチの傍でお留守番という形だ。ハジメと深月が迷い込んだ並行世界がどういったものかも不明となれば戦闘職と回復職である面子で迎えに行くのが一番安全とも言える。皐月達は、虹色に輝く歪んだ空間を抜けた

 

「ぷはぁっ!魔力どんだけ食うのよ!?人工神結晶バッテリーを五つも使ってようやく起動するなんて冗談じゃないわよ!ハジメ、大丈夫!?」

 

「あ、おう・・・大丈夫。一応は・・・大丈夫・・・うん・・・」

 

皐月達が空間から出て真っ先にハジメの事を心配するが、何故か当の本人は気難しい顔をしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~深月side~

 

お嬢様の匂いがします!半月は会えなかった分の匂いをここで補給しなければ!

 

深月の内心は色々とヤバイが、決して表には出さずに調理を一旦切り上げてハジメの首根っこを捕まえた

 

「さぁ、ハジメさん。存分にお説教をされましょうね?」

 

「・・・不幸だ」

 

「ハ・ジ・メ・?一体どの口が不幸って言っているの?私に内緒で並行世界を観測するアーティファクトを作っておきながら暴走させ、挙句の果てには深月を巻き込む。おいたが過ぎるわよ?」

 

「ごめんなさい」

 

皐月がもっと追及してお説教をしようとしたが、周囲を見れば誰かの住宅の庭だと気付いたのでお説教は後回しにして家主にお包みを渡す事を決めた。そして、人の気配が多い場所に視線を移して絶句

 

「え・・・あ・・・」

 

「・・・皐月、どうしたの?」

 

「大丈夫ですか?」

 

ユエとシアが皐月の様子がおかしい事にいち早く気付き声を掛けるが、皐月は目にした先の光景の情報量が膨大過ぎて思考停止寸前となっていた

 

「おい、召使の本来の主よ。王たる我の前に挨拶も無しか?その不敬b「きゅう」・・・む?」

 

遂には圧倒的なカリスマを放つギルガメッシュが傍に居る事に気付いて情報量がパンクして気絶してしまった。これにはギルガメッシュも予想外だったのか、少し考えて後に挨拶をさせる事を決めた。そして、皐月が持つ宝物庫の中身が気になりかなりご機嫌な様子だ。深月は気絶した皐月を支え、宝物庫からベッドを取り出してその上に寝かせた

 

「ハジメさん、何故お嬢様は気絶されたのでしょうか?」

 

「あぁ・・・最推しが目の前に居たからだろうな。皐月は王様を最強にする為に・・・いや、何でもない」

 

これ以上事細かに説明すれば、皐月は深月に説教をされるのだ。皐月の最推しのギルガメッシュを全てカンストさせる為に貯めていたお小遣いをリンゴカードに変えてガチャを回していた。ストーリーやイベントのボスはクラス相性が悪くなければごり押して倒す位に入れ込んでいる

皐月の表情は、それはもう安らかなものでしばらくは起きられないだろう。取り敢えず、深月は一時中断していた調理を再開する事にした

 

「さて、俺は―――」

 

「ハジメ君は何処に行くつもりなのかな?かなぁ?」

 

ハジメがこの場を離れようと振り返ると香織が鎖を持ち、香織の後ろには雫とティオが待機してユエとシアがハジメの背後に回り込んで香織が鎖を持って待ち構えていた

 

「・・・逃げるn「捕まえたですぅ!」なにぃっ!?」

 

ハジメは全力で空中へ逃走しようとしたが、シアが即座に反応してハジメの足首を掴んで地面に叩きつけ地に落とす。その瞬間、ユエが重力魔法でハジメの体の動きを鈍らせて香織は持っていた鎖をハジメに巻きつける。圧倒的な捕縛技術だ。その後、石の波板の上にハジメを正座で乗せて石板を一枚乗せる。言い訳をしたらもう一枚、黙り込んでももう一枚という逃走経路も何もない拷問が続けられた

 

「ハジメ君だけが巻き込まれるならまだマシだったよ?」

 

「・・・でも」

 

「深月さんを巻き込んだのはいただけないですぅ」

 

「もう一枚追加じゃな」

 

「一枚は生温いから二枚にするわ」

 

どんどんと積まれる石板の重みと脛に食い込む波板が非常に痛々しい。だが、ユエ達が怒る原因が深月の料理が食べられなかった事による恨みから来ているので仕方がない

 

「ハジメさんは自力で抜け出せない様にして食器や下拵えの手伝いをお願いします」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

胃袋をがっちり掴まれているユエ達は素直に深月に従う

一方、遠坂達マスターやそのサーヴァント達は呆然としている。空間が虹色に輝いて歪んだかと思ったら、現れたのは女性ばかりな点にツッコミを入れなかったが特に驚愕したのはウサミミのシア以外の保有魔力量が桁外れに多いのだ。分かり易く例えるなら、アインツベルンが最低でも五人分だ

 

「あっちの世界の人間は化け物ばかりなの?」

 

「あ~・・・凛の言いたい事は分かるわ。私よりも魔力が多いのは人間辞めてると思うわ」

 

「あ、あの・・・それよりもあのウサギの耳の女性に目が行きますね」

 

「ウサミミってどんなファンタジー生物なのよ!」

 

「魔術を使う時点で一般人からすればファンタジーですよ?」

 

深月の冷静なツッコミが突き刺さり、遠坂達は何処か諦めた様子だ

増えた人数分も追加となると食材の数が増える。よって、ギルガメッシュと皐月とORTの三人以外は手抜き料理で済ます事にした。とはいえ、各種調味料の配合や下拵えの素材の旨味の底上げ等はする。ただ、食材その物の品質が段違いで処理を普段より繊細にする事によって味を飛躍的に向上させるだけだ

 

「・・・深月、私達の料理手抜き?」

 

「酷いですぅ!深月さんの美味しい手料理を食べたいですぅ!」

 

「私の視点での序列が御二方が最上となります。そして、同志おーちゃんには美味しい料理を食べてもらいたいという私的な思いがあるだけです」

 

「嘘だっ!」

 

「えっ?あの麻婆を食べて平気なの!?嘘でしょ?」

 

ユエ達も深月の麻婆を劇物扱いしており、人の食べる物じゃねぇ!と食べる事を拒絶している物を美味しく食べるORTに引いた

 

「麻婆は美味、同志深月が作る他の料理も興味がある。わくわく」

 

「あ、あの~。不躾な質問ですが貴女のお名前は?」

 

「同志深月から名付けられたおーちゃんです」

 

『・・・・・』

 

これを聞いたユエ達は、深月のネーミングセンスの無さに頭を抱えた

 

「・・・深月、ネーミングセンスない」

 

「そうですよぉ~。流石におーちゃんは可哀相です」

 

「え?可愛いではありませんか」

 

どうやら深月は、可愛い名前だと思っていたらしい。この時、ユエ達の思考は宇宙になっていただろう。深月のネーミングセンスの無さを修正するのは諦めるしかない

 

「う、うぅん・・・お、推しの声が聞こえた?」

 

どうやら皐月が目を覚ました様子で、深月は再度手を止めて皐月に紅茶を持って行く

 

「お嬢様、お目覚めの一杯は如何ですか?」

 

「ありがと、いただくわ」

 

温かい紅茶を一口飲んで―――

 

「さて、召使の主よ。我に挨拶をせよ」

 

「・・・待って。ねぇ待って」

 

皐月は声が聞こえた方へ顔を向けるが、視線は下にしたまま変な汗を搔いている

 

「お嬢様?如何されましたか?」

 

「面を挙げよ。そして、我の問いに応えろ」

 

しかし、皐月は視線を下に向けたまま固まっている。深月は、皐月が頑なにギルガメッシュに視線を向けない理由が思いつかず、首を傾げて原因を探るが身体の障害等はなかった

 

「お、王様。一つ宜しいですか?」

 

其処に助け舟を出したのはハジメだった。今の皐月の状態をよく知るのは、この中でもハジメだけだが波板の上に正座で座らされて石板を乗せられている姿はあまりにも酷い

 

「ほう?雑種はこやつが面を挙げぬ意思を知っているという事か?」

 

「はい。皐月は、王様の大ファンです」

 

「ファン?それが何故面を挙げぬ理由なのだ」

 

「私達がこの世界に転移した理由はご存じの筈―――」

 

「言われずとも理解しておる。雑種共の世界では我等の住むこの世界が創作の世界だという事を」

 

「私達の世界では王様が様々な形で人気を博しています。それにより、王様のグッズも出ているのです」

 

「それの何処が関係がある。我の玩具を崇めるなら、本人であるこの我こそ崇めるべきであろう」

 

王様は聖杯から現代の知識を与えられているとはいえ、それは事細かくではなく常識程度の知識だけだ。オタクという者をよく理解していない

 

「王様を模した玩具とはいえ、毎日懇切丁寧に己の手で綺麗にして埃が付かない様にケースに入れて笑みを零す。それが皐月のオタク魂であり、今この場に居る王様に対し尊死しない為の行動なのです。どうか、皐月が慣れるまでもうしばらく寛容な心でお待ち下さい。流石に王様を前にして鼻血を流してしまうのは不敬になります」

 

「ほう、我を視界に入れる事で鼻血を流すと?」

 

ギルガメッシュは何やら良い笑顔を浮かべて皐月の前まで近づき手で顎を挙げて強制的に視界に入れさせた

 

「我を崇めるのは良い心がけだ」

 

「   」

 

皐月の時が止まり、アドレナリンが限界量を超えて生成され脳に過負荷が掛かる。そして、案の定鼻血を噴出してしまい深月がギルガメッシュに血が付かない様に布で防ぐが、鼻血の量が少しづつ増えて布が真っ赤に染まる

 

「ふっ、我のこの姿を見ただけでそれ程の血を流すか。よい、本来なら不敬とする所だが気が変わった。これからも我を崇め続けよ。貴様は元居た世界で誇れよ?この我に顎を上げさせたのだ。そして、脳に我の威光を存分に刻み広めよ」

 

「ひゃい・・・ひろめましゅ」

 

「そして、元の世界に帰還する為に必要なアーティファクト以外を我に献上せよ」

 

「しましゅ、こちらからおねがいしましゅ」

 

呂律が怪しくもどうにか尊死する事なく、この場を切り抜ける事が出来た皐月はギルガメッシュ限定の限界オタクとして頑張っただろう

 

「しかし、これでは少々我が貰い過ぎというものだ。何か欲するものはあるか?」

 

皐月はビクッと震えたが、少し冷静になってどうしても叶わなかった願いを告げる事にした

 

「欲する"物"は御座いません。ですが、ですが!ガチャでエルキドゥ様を引いて下さい!!」

 

「はぁ?」

 

これには流石のギルガメッシュも呆然とするが、少しして額に青筋を浮かべた

 

「貴様、よもやこの我の親友(トモ)を強請るだと!」

 

「王様!それはゲームの話です!」

 

「貴様は阿呆か!この我を持ちながら親友を持たないとは万死に値する!!」

 

「フィギュアやグッズは持っています。でも、ゲームの方で出ないんです!」

 

ギルガメッシュはずっ親友であるエルキドゥを持っていない皐月に怒りを露にするが、ここで深月がふとした疑問をぶつけた

 

「お・嬢・様・?一体どれ程課金しましたか?」

 

深月の圧をぶつけられた皐月は蒼褪めて視線を逸らした

 

「我が親友を持つ為には限界まで絞ったか?そうでなければこの場で殺す」

 

どちらにしても退路が無くなった皐月は、大人しく深月に説教される事を選んだ

 

「今は怒らない?」

 

「金額次第です」

 

「・・・ゴジュウマン」

 

「王様、少々お待ち下さい」

 

深月はギルガメッシュにニッコリと笑顔を送るが、目が笑っていない事を理解したのか止めはしなかった。深月は皐月を持ち上げてハジメの隣に正座で座らせ、説教を小一時間程絶え間なく続けた

 

「ユルシテ、モウユルシテ」

 

「どうして俺まで」

 

「課金履歴を見ましたよ。同時期に課金していたのなら、一緒にしていたのでしょう?止めなかったハジメさんも同罪です」

 

深月は溜息を吐き、いっその事数ヵ月の間スマホの没収を考えたがそれはあまりにも不便な事と、息抜きのリフレッシュがない事による弊害を懸念して諦めた

 

「ふむ、ゲームか。ならば、この我が一発で引いてやろう」

 

「こちらで起動するのでしょうか?」

 

「アンテナを立てたから大丈夫!」

 

「・・・一体何処にその行動力があるのですか」

 

深月は、皐月のスマホを手に取ってアプリを起動してガチャ画面へと切り替える。しかし、ピックアップはされていない闇鍋ガチャで当てようという危険極まりないもので、召喚に必要な石も十一連分しかなかった

 

「これ以上の課金は駄目ですよ?」

 

「で、でもっ!?パーフェクトエルキドゥ様にするには最低六人必要なのよ!?」

 

「戯けっ!この俺を甘く見るな!」

 

ギルガメッシュが深月からスマホを奪い、躊躇う事なく十一連召喚のボタンをタップ。画面は切り替わり、初手から虹色の回転が出現した

 

「ほう?帯が虹色に輝いたぞ。これはどういうものだ?」

 

「レアリティは☆4から☆5のキャラクターの筈です」

 

「ならば、我が親友で確定だ」

 

クラスはランサーで、ギルガメッシュの予言通りエルキドゥだった

 

「フハハハハハハ!やはり我の元には親友が当然だ!」

 

「あら、次は金ですね。これも先程同様です」

 

「ふむ、ならば親友だな」

 

そしてギルガメッシュの言う通りエルキドゥだった。それから続く召喚も全てエルキドゥというチートだと疑いたくなる様なガチャ結果となった

 

「貴様はこれより我が親友を我の隣に立たせよ!分かったか?」

 

「王様ありがとうございますっ!」

 

先程までの意気消沈は何だったのかと疑いたくなる様なテンションの変化に遠くから見ていた遠坂達はドン引きしていた

 

「同志深月、料理は大丈夫?」

 

「あら、いけませんね。すぐに戻り再開しましょう」

 

ORTに促され、深月は調理を始めた。作る料理はフィッシュ・アンド・チップス。揚げるだけの簡単な料理と思うなかれ―――。魚の下処理や素材の良し悪しで味が変わり、油の汚れ具合で雑味等が変わってくる。とはいえ、これはあくまで手抜き料理の方である

皐月とギルガメッシュとORTには、高坂家がお世話になっている牧場から送られる最高級の黒毛和牛の丸々一頭分の肉を使う事にした。深月の手に掛かれば残る素材は何一つなく、今まで取得した技能をフルに活かせるのだ。他にもスープや野菜にソース等も作り、デザートのパフェを用意する事にしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




深月「おーちゃんが楽しく美味しそうに食べて下さるので作り甲斐があります」
布団「そうですねぇ~。麻婆が普通の辛さだったら文句は無かったけど」
深月「作者さんの分もちゃんとありますよ?」
麻婆神父「食うか?」
ORT「食べる?」
布団「ウワァァァァァァァ!」


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メイドと同志による終結と帰還~Fate編~

布団「正直・・・すまんかった」
深月「言い訳ですか?」
布団「据え置きゲーム機買って色々遊んでました!」
深月「腹を切りなさい」
布団「( ゚Д゚)」
深月「でなければ折檻部屋へ連行です」
布団「ふっ、やってやろうじゃねぇか!」
深月「読者の皆様方、この数ヵ月執筆を怠った作者様にガツンと入れます♪それではごゆるりと」













~皐月side~

 

皐月達が合流した際に色々と事故があったが、それを殆ど忘れる様に皆が楽しく食事を摂っている。ユエ達はフィッシュ・アンド・チップスを食べ、「イギリス料理ってこんな味なんだ」と思っていたのだが深月が日本人の舌に合う様に出汁や隠し包丁をしているとの事だ。そのままの丸揚げだとエグ味で料理が残念になるのだ

 

「召使、この肉はそこそこだな」

 

「魔物肉の方が美味しいのでしょうか?」

 

「それを調理せよ」

 

「同志深月、私も魔物肉を食べたい」

 

ギルガメッシュとORTが強請り、深月はミノタウロスの肉とタール鮫の肉を使って清潔進化でランクを上げ、生でも食べれる刺身を造る

ミノタウロスの肉は生とレアとミディアムの三種類と、タール鮫の肉は刺身と天ぷらにする。柑橘ベースのさっぱりさと、ワサビと黒毛和牛の骨を長時間煮込んだ出汁を使った濃厚ソースを合わせたツンと鼻に刺激を与えつつ下に残る二種類の特製ソースを添える。タール鮫肉は、トータスのエリセンから収穫した藻から煮詰めた藻塩一つだ

 

「ふむ、良い味だ。この天ぷらに塩だけと侮っていたが、中々に深い味わいがある」

 

「モッキュモッキュ―――同志深月が作る料理はどれも美味しい」

 

二人が食べ進める中、皐月はおーちゃんの事が気になりハジメに正体を尋ねる事にした

 

「ねぇ、ハジメ。おーちゃんって一体何者?」

 

「・・・正直すまなかった。俺では止める事が出なかった」

 

「???」

 

「おーちゃんはORTだ」

 

「オルト?」

 

「O・R・T―――だ」

 

「ッスゥーーーーー」

 

あまりにも膨大な情報量かつ受け入れがたい現実を突きつけられた皐月は、夕暮れを前に真っ白に燃え尽きたかの様に心労でふらついた

 

「王様がお持ち帰りしろって言うんだ。どうすればいい?」

 

「ッスゥーーーーーーーーーー」

 

どういう状態のORTなのかも分からないが、ORTを中心として発せられる熱量が感じ取れない事から抑え込んでいるかもしれないという事だけは分かった

さて、ここで一区切り―――。王様命令によってORTをお持ち帰りしたと仮定しよう。あちらの地球でORTは生存可能かどうかで言うと問題はないのだろうが、一般市民の安全保障はされておらず危機的状況だ。ORTに深月をぶつけるか?とハジメは思案したが、ORTを倒すなんて絶対に不可能だと思い溜息を吐く。ハジメと皐月が溜息を吐いている様子を心配したユエ達がどういう問題事か説明を求めたので、あくまでも自分が分かる範囲で教えた

 

「・・・何その化け物」

 

「やっべぇです・・・やっべぇです!?」

 

「そ、その様な生き物が存在するじゃとぉ?」

 

「ぶ、分解なら・・・」

 

「香織、学習能力が高いと説明されたでしょ。例え分解出来たとしても、二回目なんて存在しないも同じよ。それよりも、宇宙線放射物質も分からないし、100万℃の熱線に超重力場なんて理解が追い付かないわ」

 

ORTの異常性能にドン引きして顔を青褪めているユエ達に更なる追撃の情報がハジメの口から告げられた

 

「深月がな・・・ORTに言語理解をさせるが為だけに先兵の死体を使ったんだよ」

 

「えっ?ちょっと待って。ORTって取り込んで情報を解析するのよね?」

 

「肯定。私はトータスと呼ばれる世界の魔法を理解した。そして、先程設置したアンテナの構造と理論により並行世界への移動を理解した」

 

皐月が頬を引き攣らせると同時に、ORTが皐月の服のポケットに手を入れてここへ辿り着く為に使用した水晶を手に取って食べた

 

「――――解析完了。未来線の私の一部と断定」

 

「・・・・・待って、ちょっと待って。本当に待って!?えっ、私が寝てた時にORTがやって来て水晶を置いて行ったって事!?」

 

「―――是。先の解析した未来線の私の情報から今後の行動指針が決定。同志言峰と共に麻婆を世界に広め、並行世界へと進出する」

 

「ちょっと待てぇいっ!」

 

流石のギルガメッシュもこのORTが言峰と共に麻婆を広める為に一緒に行動するという状況に待ったを入れる。だが、ORTがギルガメッシュを睨むと黙った。しかし、ここで何もしないのは愚策で法を定める事にした

 

「蜘蛛よ、言峰と共にげきb「麻婆」・・・麻婆を広めると言ったな?そこに力の暴力による拡大は人類を滅亡させる。だからこそ、此処で契約しろ。己を攻撃する者だけに対しては迎撃するのは構わぬが、周囲に住まう民を巻き込むな」

 

「同志言峰も保護対象」

 

「・・・・・まぁ、仕方がない。それで手を打とう。くれぐれも人類を滅ぼすなよ?それ以外であれば止めぬがな」

 

「契約に了承。―――受信。未来線の私より人理が焼却する異常事態が発生。直ちに並行世界線に"私達"を導入して人理を復活させる。受諾―――同志深月から与えられた技能情報の千里眼を解析。成功―――未来視に更新。未来視の情報により異星の神と称する者による介入を確認。人理の白紙化を計画予定。―――介入、該当の魔術師を蘇生―――完了。該当魔術師達の特異点へ移動を確認」

 

\(^o^)/オワタ

 

ギルガメッシュとハジメと皐月の心境は正にこれだ。未然に防げなくとも、並行世界線から送られるORT達が麻婆を広める為に人理を修復し、異文帯の発生を阻止した瞬間だった

 

「並行世界の人理を修復作業に移行」

 

「おーちゃん、ご飯が出来ましたよ?」

 

「・・・・・」

 

「躊躇うんかいっ!」

 

「同志深月が作った出来立て麻婆が食べれないのは受け入れ難い。情h;:gjぱ@h@0おいあなldhgrわえ:mp!?」

 

まさかの麻婆が出て来た事による躊躇い。そして、ビクビクビクッ!と体を震わせて色々とエラーが発生したかの様に震えている

 

「作り置きですが温めたら食べれる麻婆パックとカレーパックが一年分あるのでお弁当として持って行かれますか?」

 

その瞬間、ORTの震えは止まり深月の傍までダッシュで移動して両パックが保存されているミサンガ形宝物庫の使用法や注意点を聞いて転移で消え去った

 

「・・・同志おーちゃんはお仕事に行かれましたね」

 

「深月お前ぇ・・・」

 

ハジメと皐月は、原作を完全に崩壊させた事に頭を悩ませる。特異点として観測されないよね?大丈夫だよね?とハラハラしていると

 

「諦めろ。既に此処は特異点だ。雑種共だけなら秘匿するだけで事が済む筈だったが、蜘蛛が動く時点でその前提が崩壊する。だが、特に心配する事は無い。特異点の中心である貴様等が帰る事で人類滅亡の危険度が下がる」

 

「なるほど、王様の仰る通りORTは契約により人類を滅亡させる事が不可能+言峰神父が生きている限りはその危険性も無くなると」

 

「恐らく言峰は蜘蛛の水晶を与えられ長い時を生きる事が出来る身体となり、蜘蛛の身体の構成と似た感じになるだろう」

 

「・・・最強無敵のマジカル八極拳な麻婆神父の誕生ですか」

 

それを想像したハジメ達は、全てを諦めた。転移から半月程で原作を崩壊させる云々のレベルを超えている中心人物に深月が深く関わっている。もし、カルデアの者達が来たらどうしたらいいのかだが、ギルガメッシュが言う通りに何もしないで帰還する他ないだろう

 

「む?捕捉したか。しかし、何故此処だ?」

 

ギルガメッシュが視線を向けた後に他の皆も向けると、大量の魔力が収束して人が現れる。その殆どがぴっちりとしたボディースーツを着ており、あまりにも特異で遠坂達は警戒しサーヴァント達が武器を構えて臨戦態勢となった

 

「・・・・・これは危機的状況だね」

 

「ふざけんじゃないわよ!どういう事か説明しなさいロマン!」

 

『えぇっ!?僕のせい!?』

 

「目標地点に大幅にズレているわよ。そのせいで現地民に見られたわ」

 

「おい、キリシュタリア。あれはサーヴァントとマスターだ」

 

「あらら~?私達敵陣の中に居るというわけね!」

 

何だこいつ等?と、遠坂達は不審者として下手な動きを見せた際に己のサーヴァントに待機を命じる。しかし、向こうは好戦的なサーヴァントが居るのだろうか、殺気がひしひしと突き刺さる

 

「ただ今帰った。同志深月」

 

「あら、おーちゃん。お仕事は終わったのですか?」

 

「是」

 

ORTが深月の傍に無警戒に近付いた事に向こう側は驚愕の表情をしている

 

「"私達"は終えた。ソロモンから切り離された情報体は全て解析し取り込んだ」

 

『私達?』

 

「だから、皆が同志深月の麻婆を欲する」

 

ORTから麻婆と言う言葉が発せられた瞬間、向こう側の反応は手で口を覆い顔が青褪めている。それはマスターとサーヴァント両方だ

 

「・・・一年分はあった筈ですが?」

 

「食べ切った」

 

何という事でしょう。麻婆とカレーを合わせた二年分があっという間になくなった。いや、ORTが言うには特異点でも食べていた事と、休息時も食べていたという事らしい

 

「同志深月、私も食べたい」

 

「同志深月、出来立ての麻婆を所望する」

 

「同志深月、香辛料の配分を変えたカレーを作って」

 

『etc――――』

 

そして、ORTの背後から同じ姿をしたORT達がぞろぞろと現れた。・・・この世界というよりも、カルデア自体が特異点ではないだろうかと心配する位ヤバイ

 

「おーちゃん達、メイドさんにご迷惑を掛けちゃ駄目だよ~!?」

 

『おーちゃんさん、とにかく今は待ちましょう。作る作らないにしろ時間が必要です』

 

「立華、マシュ。同志深月が作る麻婆はこの世で一番の美味。人理を修復した今の最優先事項は同志深月の麻婆を食べる事」

 

『食べるー!食べるー!』

 

『あわわわわわ!?どうしましょう先輩!?おーちゃんさん達がメイドさんに群がっています!』

 

「ストップストップストーップ!?」

 

オレンジ髪の少女こと立華と腕輪から声が聞こえ、深月は一度ORT達を手で静止させて来訪者に用件を尋ねる事にした。如何せん、この状況を作り出したのはORTであるが、一番の元凶は深月でもあるので仕方がない

 

「貴方方も並行世界からの迷い人なのでしょうか?」

 

「迷い人?」

 

「後輩は黙ってなさい」

 

「ぐっちゃん先輩酷い~!」

 

「ぐっちゃん言うなっ!」

 

眼鏡を掛けた少女のツッコミに立華と呼ばれる少女が不貞腐れているが、満更でもなさそうなので彼等のコミュニケーションの一種だろう

 

『ちょっと待ちなさい!貴方方って言ったわよね!?どういう事か説明しなさい!!』

 

彼等が腕に着けているリストバンド?から声が聞こえる。恐らく通信装置か何かだろう

 

「後ろでふんぞり返る事しか出来ぬ雑種は黙れ。おい、カルデアのマスター達よ。貴様等は何用でこの地に降りた」

 

ギルガメッシュの睨みが効いたのか、カルデアのマスターと呼ばれた彼等のサーヴァントが武器を構えて臨戦態勢に移るが、その動きを見たギルガメッシュが宝物庫から武器の先端を覗かせる。その数は千を超え、彼等の目的がギルガメッシュを不機嫌にさせたら開戦という流れだ

 

「ギルガメッシュ王、私は人理継続保障機関フィニス・カルデアのAチームのリーダーを担当するキリシュタリア・ウォーダイムと申します。此度はこの地が特異点として観測され、私達はその大本を修正しに来ました」

 

「・・・特異点の中心であるこ奴等は元の世界へ帰る。何も修正せんでもよい」

 

「しかs『同志深月を消す?』――――ッスゥーーーーーーーー」

 

キリシュタリアが言い淀む。この場に居る全ORTが、瞳のハイライトを消して首を傾げてキリシュタリアや他マスター達に視線を向けているからだ。中には、手を鎌にして臨戦態勢に移っている者も居る。返答次第では敵対するという事だ

 

「ちょっとキリシュタリア!ギルガメッシュ王が修正しなくても大丈夫という保証があるのよ?そんな事より、並行世界からの漂流者という事は―――――新しいファッションが根付いている可能性があるかもしれないわ!」

 

「ぺぺ、お前の目的はそっちか」

 

「あ~ら、素晴らしい目的だとは思わない?」

 

「ああっもうっ!あんた等はこの後輩に毒され過ぎよ!!私達は特異点を修復もしくは解決しに来たのよ。ペペの言う通り、英雄王が修正しなくても大丈夫というなら彼等が元の世界に帰るのを見届ける事で修復されると同じよ」

 

「私のせい!?」

 

「ぐだぐだなんて変な特異点を作った原因の一人でしょうが!!」

 

深月は彼等が言っている特異点については詳しく理解していないが、些細な行動で特異点が生まれるという事を理解。そして、ORT達が麻婆を強請る・・・

 

「特異点は私なのですか?」

 

「召使・・・今更気付いたのか?」

 

「・・・私はより良い生活の為に行動していただけです」

 

『同志深月、麻婆を所望するー』

 

「・・・材料が足りませんね」

 

深月が宝物庫から食材を全部出しての感想―――圧倒的に足りない。麻婆やカレーの材料となる素材が一人分程しかないのだ。これを知ったORT達は、両手を鎌の様に掲げて互いに威嚇し始めた

 

「麻婆を食べる権利があるのは私」

 

「この世界の私は何度も食べている。よって、ここは未来で布教している私に譲るべき」

 

「未だ作り立てを食べていない私に権利がある」

 

『etc――――』

 

ORT対ORTという地獄しか生まない戦いが始まろうとしていた。カルデアのマスター達が他の食べ物で興味を惹こうとするが、そのどれもが深月が作る麻婆やカレーに対する食欲には敵わなかった

 

「おーちゃんストップストップっ!?」

 

「ええいっ、召使どうにかせよ!!」

 

「食材が無い事にはどうする事も・・・」

 

未だにORTがどれ程の脅威があるのか理解していない深月は、とても困った表情で苦笑を浮かべている

 

『先輩、カルデアにある食材を送るのでそれで調理出来ないかどうかを尋ねて下さい!』

 

通信機の向こうではかなり騒ぎになっているらしく、ドタバタと足音が聞こえる

 

「すいません!食材はこちらで用意するのでおーちゃん達に作る事は出来ますか!?」

 

立華の問いに深月は少しだけ考え込み、必要な食材達をメモ帳に書き記す。そして、最後はORT達がどれ程食べるかが疑問だ。恐らく沢山食べるという事だけは理解出来る

 

「では、メモに記入した食材をお渡しして頂ければお作りさせて頂きます」

 

「ダ・ヴィンチちゃん!」

 

『まっかせてー!・・・ふむふむ、世間一般で使う食材が殆どだね。香辛料は既存の物の備蓄が少ないから、言峰君の判断で使えそうな香辛料を送るよ』

 

『任せ給え。新たなる麻婆の可能性を生み出すのは同志である彼女の役目でもあり望みでもある。己が手で新たな道を開拓―――、この私もこれまでの特異点で収穫して栽培している香辛料の配合を研究しているのだ。同志ORTにこう伝えて欲しい。同志深月が作る新たなる麻婆達が完成するのを大人しく待っていろとな。こう見えて同志ORTは調理に時間が掛かるのを理解している』

 

カルデアに居る言峰のファインプレーにより、ORT達に待機させる事が出来る

 

「おーちゃん、メイドさんが調理してくれるって言ったから待とう!―――ね?」

 

『!』

 

臨戦態勢だったORT達は立華の言葉を聞いた直後に互いにぶつけあっていた殺気を引っ込めて大人しくなった。深月が麻婆を作る事が出来るというだけで、直ぐに変わる様にカルデア側のマスター達はハラハラする

 

「メイドさーん!食材を持ってきましたー!」

 

カルデアから送られた食材が野外テーブルの上にどんどんと出されているので、食材が圧し潰れて傷ませない為に宝物庫に次から次へと回収していく。カルデアからの転送が終わり、調理を開始するのだが

 

「お嬢様、以前作られた疑似精神と〇の部屋にするアーティファクトを使用させてください」

 

「あ・・・あぁ~、普段使わないから忘れてたわ。魔力を込めないと起動出来ないけど、深月が込めるの?」

 

『私がやる』

 

「・・・おっふぅ」

 

ここには魔力お化けなORT達が居るので、魔力の問題は余裕で解決する。しかし、ORT達の様相は互いの睨み合いが勃発している。これは、どの個体のORTが魔力を込めた事によって麻婆を最初に食する権利を決めようとしているのだ。他の者からすればどうでもいい事なのだ

 

「同志深月の主、私にアーティファクトを解析させて」

 

「より高性能で安全な術式を開発する」

 

『etc――――』

 

「えっ、あっ・・・ちょっと待って!」

 

皐月はORT達によって包囲され追剥ぎに遭う未来が見えたので、宝物庫から素早く疑似精神と〇の部屋にするアーティファクトを出した。そのアーティファクトにORT達が群れて集まり、手で触って情報を解析していく

 

『解析完了―――。魔力量による日数増加―――――成功。魔力濃度による影響―――――有。人体崩壊を確認。問題修正―――不可―――。付与された魔法の解析からアーティファクトの解析に移行―――成功。魔力溜まりで形成された鉱物による魔法の干渉を確認。代案検討―――』

 

先程までアーティファクトをべたべた触っていたORT達が一斉に皐月の方に視線を向けて群がった。目が普通の人の物ではない何とも言えぬそれを向けられても失神しなかったのはある意味よくやったとも言えるが、ORTの脅威を知っている者達からすれば憐れみの視線を向けられるのは当然とも言えるだろう

 

『―――未来線の私の一部を確認。解析―――――魔力の性質が通常から変質確認。―――性質変換完了』

 

これでORTは、アーティファクトに適した魔力の変換技術を獲得して早々に充填を開始する。アーティファクトは十秒も経たずに魔力が満タンになり何時でも使用出来る状態となった

 

「それでは、おーちゃんは麻婆とカレーが出来るのを待っててくださいね?」

 

『待つ』

 

衛宮宅の地下の一室を丸々借りて調理をする深月。とはいえ、大食漢であろうORT達の腹を満足させるには大量に仕込まなければならない

 

「・・・あの量を調理するのって大変よね」

 

皐月のしみじみとした感想はその一言に尽きる。衛宮宅の敷地が埋もれる程の食糧を調理するのだ。深月の負担がどれ程の物か計り知れない

 

『ふむ、同志ORT。君は同志深月と一緒に調理しないのかね?』

 

「私が加わる事で味が損なう可能性がある」

 

『味が落ちるのは嫌』

 

ORT達の言う事も理解出来るが、言峰は淡々と事実を突きつける

 

『それは同志深月を道具として見ているという事だ。同志とは同じ志を持つ者、君達の言う同志とはかけ離れている』

 

『!?』

 

ここでORT達が驚愕で目を剥いて頭を抱えた

 

「ち、違う!同志深月は道具ではない!!」

 

『いいや、君達は些か暴走し過ぎだ。これでは人間性が欠如している。いや、人間ではないからこそ気付かなかったと言うべきか・・・。いや、これは私のミスでもある』

 

言峰は淡々と事実を告げる。皆は、「おい、言峰何やっている!?」とツッコミを入れたかったが、ORTの動きが不明な為に動く事すら出来ない

 

『もし、これからも同志でありたいのなら相手の事を考えるべきだ。最初は誰でも失敗し、学び、次に活かすものだ』

 

ORT達は膝を地面について己の行動を振り返りながら気落ちしていた。これには向こうに居る言峰はあくどい笑みを浮かべていたりする。例え同志であろうと、間違った道を進むなら厳しい現実を突きつけて正す―――そして、己の悪行を振り返り自身を責めて気落ちする者を見る事で、言峰は愉悦を見出すのだ。それが例え仲間であろうと

数時間が経過し、周りはすっかりと暗くなり時間も深夜に突入した。その間もORT達は気落ちしていたりする。後数分で日付が変わろうとした時、衛宮宅の地下室から良い匂いが漂った事を察知してORT達は一斉に匂いの元へとダッシュして階段を上がってくる深月の目の前で土下座をした

 

『同志深月申し訳ありません!』

 

「・・・?」

 

しかし、当の本人はORT達を謝罪させる理由が思い浮かばなかったが、ORTの腕に着けられていた通信機から言峰がかいつまんで説明する。無意識のワーカーホリックな深月は、「よくよく考えればそうですね・・・?」と腑に落ちなかったが、深月を皐月にORTを深月に置き換えると――――メイドが主の手料理を食べたいので懇願するという事だ

 

「これは確かにいけませんね」

 

『だろう?同志深月は働き過ぎだ。偶には己一人だけの時間を作ると見える物もある』

 

「・・・そうですね。今後は自由時間を確保する事も視野に入れてみます」

 

今後の視野を広める為に人生の先輩である言峰のアドバイスを聞き終えた深月は、作り終えた麻婆とカレーを長テーブルの上に配膳していく。そして、深夜でも皆が起きている前提で作ったフルーツ特盛ビッグパフェを各自に配る

 

「・・・ごくり」

 

「私達も食べていいの?」

 

「貰えるなら有難く頂くけど・・・」

 

これにはカルデアのマスター達も若干戸惑いがあるが、夕飯時に現れた事による飯テロでお腹が空いていると思っての善意な行動でもある。そして、一番の理由として皐月達が長い間深月が作ったデザートを食べる事が出来なかった為のついでだ

 

「・・・俺達にも配られたがこの大きさか」

 

「あ~ら、カドック。食べれないのなら余った分を私が食べてもいいのよ?」

 

「私にも分けてくれないだろうか?美味しすぎて幾らでも食べられる」

 

カドックがペペにツッコミを入れようとしたが、配られて直ぐに躊躇いなく食べているキリシュタリアの感想にタイミングが大きくズレて何も言えなくなった

 

「・・・美味しいわね」

 

「そうね。今まで食べてきたどのスイーツよりも美味しいわ」

 

「でもね、今深夜よ。これを全部食べちゃったら・・・確実に太るわよね」

 

「うっ!?」

 

女性マスター達の中の眼帯を付けたオフェリアがこの後に待ち受ける絶望を述べた事で立華の食べる手が止まる

 

「後輩、食べないなら私が貰ってあげるわよ?」

 

「ぐっちゃん先輩は太らないですもんね!」

 

「羨ましいわね。・・・えっ?ちょっと待って。このパフェに魔力を感じるのだけど食べて大丈夫なのよね?」

 

そう、このパフェの素材は全て普通ではない。素材全てがトータスで得た物なので魔力を保有しているのは当然なのだが、ORT達によって解析され魔力を充填した事によるアーティファクトの中での調理という事もあってとてもヤバイ代物となっている

 

「ふむ、この美味しいパフェ一つ食べただけで魔力回路が少し増えたようだ。美味しいデザートを用意してくれてありがとう」

 

「お嬢様だけの一人分を作るよりも、大人数分を作り保存する事を考えていましたので何も問題はありません」

 

「へぇ~、このパフェを食べるだけで魔力回路が増えるんだ。私はこの中で一番少ないから食べなきゃいけないね!」

 

カルデアのマスター達がパフェを美味しそうに食べているが、ここで深月が爆弾を落とした

 

「このパフェは魔力の貯蓄量を増やす効果があります。その分、体重も増加するので体の動きに些細な変化があると思いますので注意して下さい」

 

その爆弾と同時に女性マスター達の食べる手がピタリと止まった。女性のタブーの一つである体重の増加―――太るという事だ

 

「し、脂肪がつくの?」

 

「当り前です」

 

『イヤァァァァァァァーーーーーーー!?』

 

既に八割以上食べているので確実に太る事が確定している。どうやって体重を落とそうか考えているが、深月が更なる追い打ちをかける

 

「貯蓄量が増えるので増えた分は戻る事はありませんよ?」

 

『     』

 

全員が地面に手を付いて絶望していた。一方、皐月達も被害があるのだがそこまで慌てふためく事は無い。変成魔法による体型維持が出来る様になっているので体重が増える程度ならまだ許容範囲内だ。外見は変わらず体重が少し増加するというのなら、筋肉量が増えたと言い訳すれば丸く収まる

 

「変成魔法って便利よね」

 

「・・・でもたくさん食べれない」

 

「ですですぅ」

 

「美味しいのにたくさん食べられないって辛いよね」

 

皐月達も深月が作るデザートを沢山食べたい欲求があるのだが、如何せん体重が増えてしまう事が厄介で我慢しているのだ

 

「皐月達ってデザートをそんなに食べていないなんて勿体ないわよ」

 

「えぇ・・・太るんだよ?雫ちゃんは体重が増えるのは嫌じゃないの?」

 

「私は変成魔法の使い方を改良したから体重の増加もないわよ」

 

雫の言葉に皐月達は目を剥いてどうすればいいのか助言を乞うが、雫は悩んだ末にヒントを与える事にした

 

「深月さんのデザートを遠慮なく食べる為にアレンジしたというのもあるけれど、私にとって変成魔法はとても相性が良いから出来たと言っても過言ではないわ。パフェの魔力増加は咸卦法と装填の二つから発想を得ているの。そして、ヒントもここまでよ」

 

「そんなぁ~」

 

「香織はもう少し自分で考えなきゃ駄目よ?ティオは龍化からヒントを得ている筈よね?」

 

「うむ、相性が良かったからこそ出来たのじゃ」

 

パフェのお代わりをして食べながら胸を張っているティオに皐月達は少しだけイラッとした。これ見よがしに堂々と食べる姿は羨ましくもあり、何とも言い難い屈辱感もあった

 

「・・・変態だったティオに出来るなら」

 

「私達も」

 

「出来る筈ですぅ!」

 

「妾の扱いが酷いのじゃ!?」

 

「「「「「矯正されるまではドМだったから」」」」」

 

満場一致のこの回答―――、何気に雫もツッコミを入れていたりもする

各々美味しいものを食べて満足したところでお別れの時だ。ギルガメッシュが抑止からの介入はこれ以上無いと説明されているが、それでも異物である事を理解しているので出来るだけ早急に立ち去らなければならない

 

「王様、この聖杯戦争の大本となる聖杯は如何されますか?」

 

「汚物は早急に葬る。召使一人に任せても問題は無いが」

 

『そこまでだギルガメッシュ。同志深月が聖杯を破壊する事が出来たとしても、その事後処理をする過去の私が苦労する。よって、同志ORTに聖杯の破壊をしてもらおう。頼めるかな?』

 

「山の中にあるドロドロ?」

 

『そうだ』

 

「砕くー!」

 

『おーーー!!』

 

ORT達の足元に魔法陣が浮かび一瞬で姿を消した。どうやらトータスの魔法を解析した事で神代魔法の情報についても解析したのだろう。これで「ぼくがかんがえたさいきょうのORT」が爆誕したのはいうまでもない

ORT達が転移して一分も経たずに遠くから感じていた汚い気配が消えたと同時に、ORT達が帰って来た

 

「処理完了。水晶にして砕いた後に、超高温の空間を作って全部を燃やし尽くした」

 

『うわぁ・・・』

 

設定では100万℃と表記されているが、実際に蓋を開ければそれ以上の火力が出るというのだ。そんな超高温の前には汚物の聖杯も形を保つ事は出来ない

 

「さて、聖杯戦争っていうゲームも無くなったから傭兵という立場も解約だ。というわけで、俺達は元居た世界に帰るぜ」

 

「ハジメは帰ったら罰として質素な食事生活にするから覚悟してね?」

 

「・・・マジ?」

 

「逃がさないわよ?」

 

皐月の言い知れぬ圧だけでなく、ユエ達からも睨みつける形となっているのでハジメは縮こまった。逃げる事すら出来ず、拒否する事も出来ない八方塞がりだ

 

「名刺等は渡した方が良いのかしら?」

 

「えっ!いるいr「たわけ、縁を無理矢理繋ごうとするな」・・・はい」

 

只でさえ出会っただけで縁が結ばれているのにも拘らず、名刺等の個人を表記する物を手に取れば触媒となる。イレギュラーを召喚するのは通常は無理なのだが、神殺しをしている深月の主となれば拉致する形での転移の可能性も無きにしも非ず

 

「それじゃあ、名残惜しいけれど帰ります。王様、色々ありがとうございました!」

 

「では、優秀な召使の主には記念品としてこれをやろう」

 

ギルガメッシュが宝物庫から取り出したのは金のネックレスだ。皐月は即行で保管する箱を作り、深月が魔力糸で編んだ布を敷いてその上に形よく置いて宝物庫へ入れた

 

「王様ありがとうございます!」

 

皐月は勿論ハジメ達もギルガメッシュの大盤振る舞いに目を輝かせている中、深月だけはギルガメッシュの眼が笑みを含んでいる事に気付いた

 

(お嬢様達は気付かれていないご様子・・・。実害は余り無いのでツッコミは要りませんね)

 

深月はギルガメッシュに一礼して感謝を伝え、皐月達に見えない位置で苦笑した。そんなこんなで個人的な縁を繋がった事が頭から抜け落ちている皐月達は、特に違和感を感じる事もなく元の世界へと帰る事に成功した。尚、帰る時にハジメに首輪と拘束具を付けて万が一にでも逃げられない様に連行する形となった

 

「あ、パパおかえりなのー!」

 

「皐月さん、ミュウと一緒に罰ゲーム内容を書いた箱を作りました♪」

 

「というわけで、引きなさいハジメ」

 

「・・・お、おう」

 

ハジメは周囲の圧に敗けて大人しく箱に入った複数の棒の内一つを選んで箱から引くと―――"一ヶ月黒パンと水だけ生活"と書かれた立札が付いていた。文字は子供が書く様な拙いものだが、えげつない罰ゲームの内容だった

 

「ミュウが書いたやつ!」

 

「・・・ミュウ、パパを殺す気か?」

 

「あのね、パパが深月お姉ちゃんを連れ去った罰なの。ミュウ達深月お姉ちゃんが作ってくれるご飯もお菓子も食べれなかったの!ミュウもママも皆も怒ってるの!!」

 

いつの間にか部屋の扉の外から視線を感じ、ハジメに味方する人は誰一人いない現状を受け入れる他なかった。皐月が中心に動き、各種関係全てに連絡を入れて事情を説明。もし、ハジメが逃亡しようものなら深月を差し向け捕まえ、罰の期限を倍に増やすという条件を付け加えた

 

「・・・俺が悪かった。だけど、オタクの夢は消しちゃいけねぇんだ!!」

 

ハジメの心意気は良いが、速攻で深月に叩かれて監禁生活を余儀なくされたのはいうまでもないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ゲーム買った作者が浮気したのがいけませんでした。でも、気になるゲームが多いので仕方がないよね♪
お次の予定は勇者(笑)が遂に謝罪する話の予定です


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