ブリッジ・イン・ザ・セイバー (鷹雪)
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再会

デス・ストランディング発売記念。
もうすでにハマってるので発売日当日の更新を忘れてた、という。ウッカリを炸裂させてしまってますが、まぁね。皆で喜びましょうよ(話をそらしていく)

タイトルは滅茶苦茶なので突っ込まないでほしい。

さて、この連載は特殊ルールで進めようと思っています。後半に詳しく説明してますのでこの話の「続きが読みたい」「気になる」という人だけ目を通しておいてください。

それでは短いかもしれませんがよろしくお願いします。


 暗闇の草原を駆け抜けるのは、自分を獣に。例えば高ぶる灰色狼になったような気分にさせる。

 視線は獲物を探して興奮を覚え、逆に自分の姿を捕らえようとしているかもしれない誰かの視線に恐怖でおびえる。

 

 だが妙に生暖かい風が今日はあった。こういうのは嫌いだ。

 嵐は去り。雨はなく、風も穏やかになったが。今夜の月は雲に隠れてまだ確認できない……。

 

 

 アウロア諸島、●月×日午後10:51――。

 俺、ノマドはただひとりのゴーストで、目的の場所から300メートルほど手前に到着した。

 

 簡単にここまでの事情を説明するとこうだ。

 今夜、島に何かが空から降ってきた。で、”仕方なく”ゴースト部隊の俺はただひとり。それが何かを確認するために落下物に近づいている。そこには俺と同じように、空から落ちてきたものに興味を持っている敵も集まっている可能性があった。

 

 数十分前、この方角からわずかの時間であったが戦闘音らしい騒ぎが間違いなくあったことに俺は気が付いていた。運のいい敵が俺より先に目標に近づいて、とても不幸なものに出会ってしまったのだろうと思う。

 敵が本当に運が良かったら今頃ここにはライトがあちこちに置かれ、ドローンが空を飛び回り。とてもここまでは近づけなかったはずだ。

 で、そんなトラブルがあった場所にこれから俺も奴らに続いて見に行かなくちゃならない。

 

「レッドホーン、こちらノマド。

 今、目標の300メートル手前に到着。少し前、この方角から戦闘音が聞こえたが……どうやらここでなにかがあったことは間違いないようだ」

 

 無線機の向こうでは息を殺してこの報告を聞いている仲間たちがいる。

 だが彼らからは返答はない。前もってそうするように俺が彼らに言い残してきたからだ。敵に聞かれたとしてもこちらの情報を少しでも与えたくない。

 

「では行ってくるぞ。詳しい報告は戻って……」

 

 最悪、俺がここで倒れれば彼らはここに危険なものがあるという情報を知ることが出来るというわけだ。

 だが俺としては生きて帰りたい。そのための努力は惜しまないつもりだ。

 

 

 とはいえ状況は良くないことは近づくにつれて理解する。

 本道から外れてやってきたと思われる戦闘車両は草原の中に3台、うち1台は煙を噴き、ひっくり返っている。

 草原の放つ自然の匂いの中に、焦げた鋼、火の熱、血と火薬の匂いが混ざってる。それなのに音がまったくないのは、ここに生きている奴は誰もいないって事だ。

 

 ナイト・スコープなどないから正しい数は数えられないが。

 ここにやってきた兵士は8人よりも少なかったとは思えない。それがあのわずかのあいだに沈黙した?

 どうやらただのトラブルじゃなかったのだろう。

 

「参ったね」

 

 停止した車両の影まで来て、思わず口に出してしまった。

 島に来るなり歓迎を受けてからまだ24時間もたっていないのに、ここまで最悪が続くと、1度くらいぼやかずにはやってられない。

 M4カービンからM1911ピストルに変えて車体から離れる。

 

 まず確認するのは落下物からだ。

 移動中、何度か足の裏に不愉快な感触があったが、踏まれた方からの反応はなにもない。こいつらが何と出会い、どうしやってこうなったのか。

 その疑問が俺をさらに緊張させていく――。

 

「着地に失敗した?いや、これは――グライダー?」

 

 落下物はいくつかにバラバラになって飛び散ってはいたものの。妙に”そうなるように”設計されたとしか思えない壊れ方を見た俺の感想だ。

 船体から”切り離された”かのような左の翼のそばにしゃがみこむと俺は手袋を脱いで素手でその表面をなでてみる。

 

(熱がない。普通の材質でもない。このグライダーで落下してきたというのか?どうしてこの島に?)

 

 ここはアウロア諸島、大海に囲まれた孤島だ。コロラドに広がる砂漠じゃない。

 動力のない飛行物体が飛ぶのに最適な場所では決してない。

 俺は自分で出した結論――というよりも最悪のジョークのようなそれにおかしくなってしまい。苦笑いを浮かべ――ながらクルリと体を入れ替えて真後ろにピストルをいきなり向ける。

 

 信じたくはなかったが、夜空を背に立ってこちらを見下ろす人の姿があった。

 

「誰だ!?」

「……」

「答えろ!こいつらをやったのはお前か?何者だ?」

 

 自分で口にしておきながら、しかしそのおかしさを、じわじわと感じる違和感に戸惑う。集中だ。相手を前に俺は何をやってるんだ、しっかりしろ!

 

「ダンマリか!?自己紹介は苦手らしいな」

「フッ。元気そうだ、ノマド」

 

――ウォーカー!

 

 名前を呼ばれ、反射的にその男の姿が脳裏に浮かんだ。が、俺はどうやら冷静ではなかったらしい。声も姿も明らかに別人だった。

 そもそもこんな暗がりで、ゴーストである俺ですら判別できない相手の顔を相手がなぜわかったのか。そこを見落としていた。

 

「落ち着け、ノマド。銃はおろせ、他人が構える銃口を見つめるのは好きじゃない」

「お前はッ!」

 

 誰だ、そう続くはずだった。

 ところが今日のお空は気分屋だ。怯える俺をとことんまでコケにしようというのだろうか、わざわざ隠していた月の光はこのタイミングで地上を照らし出して見せたのだ。

 

 これ以上、相手の正体を問う声は出せなかった。

 

 流れる銀髪、引き締まった体格。

 口元に浮かべる微笑は俺という男を知っている安心感なのか。

 戦場の闇の中でも容易にこちらを捉えるが、向こうは逆に理解を超える技術で翻弄してみせる。

 俺はその男の名前をすでに知っていた。

 

「雷電っ――!?」

「ああ……7年、いや6年ぶりだな。ノマド」

 

 コードネーム、雷電。

 現在、不正規作戦の世界で伝説となったフリーのサイボーグ傭兵。

 俺はこの最悪のアウロアの島で、この最悪の男と再会した。




(特殊ルール)
筆者には過去の連載からストーリー長い長い病の気があるようなので、今回は――。

筆者やる気+読者の反応+アクセス状況=連載を続ける

という方式をとろうと決めました。
まずは第5回までの反応を見てその後を決めようと思います。よろしくご理解の上、お付き合いしていただけると幸いです。


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ワイルドランズ

雷電と”再会”したノマド。彼らの間には何があったのか――。過去と現在が入り混じる。

この連載が続くかどうかは第5回投稿までの様子で決めるという特別ルールでおこなっております。よろしくお願いします。


――もう一度。なにがあった?

 

 通信機の向こうからの声に増援部隊は「またかよ」とつぶやきながら同じ報告を繰り返す。

 

「どうやら新たな侵入者のようです。巡回班複数、ここに到着したようですが全滅してます。ほとんどが銃でやられてますが、何人かは体術かなにかで殴られた形跡が見られます。これ以上はラボで調べてみませんと――」

 

――追跡できそうか?どうだ?

 

 同僚と顔を見合わせ、やってられるかと首を横に振る。

 CIAが送り込んだのはゴーストとかいう部隊は、侵入と同時にシステム迎撃され、全滅しようとしている。それで満足しないって言うのか。

 やっかいだった嵐が去ったとはいえ、まだ湿り気の残る草原を這いずりまわって泥だらけになりながらの追跡劇なんてセンティネルの兵士たちはお断りだった。

 

「無理ですね。戻ります――」

 

 通信を切ると、現場に散らばった残骸をかき集めるぞとその場にいる全員に声をかけた。

 

 

>>>>>>>>>>

 

 

 あまり楽しくも愉快でもない再会から日をまたいで数時間後。俺と雷電はようやく丘の上で休憩することにした。

 暗闇の中だが、普通にビバーク(緊急避難的野宿)をする。といっても奴は腰を下ろして休めても。俺は気が立っていて座ることがまだできないでいた。

 

「なんだ、休むんじゃないのか。座れよ」

「のん気なもんだな、お前!」

「怒ってるのか?落ち着け、ノマド」

「落ち着けだって……?」

 

 褒められた話ではないが、この時の俺はちょっとおかしくなっていた。

 当然だろう。この24時間は大混乱のピンチの連続だったのだ。それを必死に生き延びたと思ったら、いきなりこいつ。雷電だ、どう考えたらいい?

 

 挑発されたように感じた俺は思わず腰の拳銃に手を置いたが、もちろんそれを雷電のヤツにむけて抜くつもりはなかった――多分。だが頭に来るのは、チラとこちらを見ても雷電はそれに身の危険を感じていないようで。まったく表情も態度も変わらないでいることだ。

 俺を見抜いている?とにかく何もかもが腹立たしい。

 

「撃つのか?本気か?」

「撃たれないと思っているのか?お前、なんでここにいる。ここは太平洋に浮かぶ島なんだぞっ」

「理由か?お前達を助けに来たんだ」

「ふざけるなっ!」

「追手はないみたいだが、だからってここで怒鳴るのはマズいだろ」

「うるさい、ヒステリー女を扱うみたいな態度はやめろっ」

 

 ハッとなって声を潜めながら、冷静になろうと努めて銃からも手を離した。

 まったく食えないサイボーグだ。

 

「お前を、貴様を。どうするかまた考えてる」

「なぜだ?」

「このまま俺達の隠れ家に連れて行っていいものかどうか!そういうことだ」

「なんだ、冷たいな。一緒に困難な仕事をした仲間じゃないか」

「ああ、そうだ。フリーの、傭兵としてな」

「――それが問題か?」

「ああ、俺には問題だ」

 

 俺、いや俺の率いるゴースト部隊はこの雷電と共に仕事をした。

 数年前の、過去の話だ。

 それは到底不可能な任務、だと思っていたが。結末は全く予想外のものとなった。

 

「の二の舞は御免だ」

「ノマド、まだ拗ねているのか」

 

 夜の暗闇と静寂、その中に輝く小さな焚火は2人の戦士を同じ過去の記憶へと素直に導いていく――。

 

 

 

 2000年期の最後に始まった偉大な英雄にして最悪のテロリスト、ビッグボスの反乱は。彼の死後にもその遺志を継ぐものによって戦いは続いた。

 その最後は2014年、戦場で急成長を遂げるPMCトップ5すべてが結託。秘密結社アウターヘブンを名乗って行動を開始すると。世界はビッグボスの意思による3度目の恐怖に震えた。

 

 この戦いの後、規範による支配を目論んだ愛国者は消滅。事件の全容解明はFBIが「全力をもって」捜査すると宣言はしたものの。情報は時間がたつごとに泡と消え、迷宮入りは確実となった今でも捜査は続いている――らしい。

 

 

 一方、ホワイトハウスはこの世界規模の混乱から立ち上がるべく。新たな政治キャンペーンを必要としていた。

 そこにはもう強いアメリカはどこにもなかった。弱く、己の巨体を維持するだけの怪物は、昔の力強い姿を再び取り戻せと叫んでいた。

 

 彼らが目を付けたのが、南米から流れてくる麻薬である。

 

 国連は新世紀に入ると、1961年に定められた麻薬単一条約によって世界規模で危険な薬物の規制を目指しはしたものの、その消費量は増大する一方で事実上の敗北宣言を発表せざるをえない。そんな厳しい現実にさらされていた。

 彼らが屈辱的な例としてわざわざあげたのが北米のデータであった。効果のない麻薬対策の現実を知ると、これがもとでいくつかの州があろうことか医療薬物の元に規制解除の運動がひろまっていった。

 

 アヘン戦争を見れば麻薬による堕落の恐ろしさなど許せるはずもない。

 政府はこの流れを決して許すつもりはなかった。

 

 新たな大統領は恐れることなくこの間違いを正さんと決断を下したが、その命令は恐ろしく過激なものとなった。

 麻薬に深く関係する南米5ヵ国への攻撃――それぞれにやり方は違ったが。なかでもゴースト部隊、つまりノマドの率いるチームはそのうちの1国。ボリビア攻略を担当し、キングスレイヤー作戦の実行を求められたのだった。

 

 

 2019年、南米はボリビア。この時も嵐の中での強引なヘリでの移動だった。

 キングスレイヤー作戦開始まであと3時間。

 

 アメリカで解散した部隊はここ、ボリビアで予定通り再結集していた。。ボリビア――この国は「黄金の玉座に座る乞食」と呼ばれている。豊かな天然資源を持つのに貧乏に苦しんでいるからだ。

 

 要するにウォール街で札束を数字に置き換えてゲームをしている金持ち共がこういう場所にやってきて、素朴なこの国に住む彼らを食い物にしている。

 慎み深い人々にとって強欲な連中は悪魔のようなものだ。不幸と、トラブルを彼らの土地にふやしてくれる。

 

 集結した仲間達――ノマドの部下は、この国に来てどんなことを感じているのだろうか?

 ウィーバー、ミダス、ホルト。

 彼らとは少なくない厳しい戦場をこれまでも渡ってきた。彼らがいれば誰が相手でも恐れはしないが、それでもこの任務はあまりにも馬鹿げている。

 

「うわさは聞いてるわよ、モスクワの一件。見事なものだって」

「ん?」

「あなたの部隊なんでしょ?だから今回も――」

「そりゃ別の部隊だろう。ゴーストは俺達だけじゃないしな」

 

 未来もそうであるように、過去でも不正規任務については何も話すことはない。

 

「挨拶しないとね。私はカレン・ボウマン。

 CIAからの出向してここで5年ほど活動しているわ。

 今回はCIAを含めてアメリカが中心となったいろいろな組織からの合同部隊ってことになってる。私はあなた達に指示を出す常駐担当官ね。ようこそ、キングスレイヤー作戦へ」

 

 短く「どうも」と返す。

 ヘリに乗っていた女がまさかCIAからのお目付け役とは思わなかったが。ありがたいことに今のところこちらを立ててくれているようだ。これがあるのとないのでは、仕事のやりやすさが違う。

 

「ついでに聞くが――この作戦のきっかけになったと聞いている死んだ捜査官というのはあんたの相棒か?」

「友人よ」

「そうか……残念だったな、お悔やみを」

 

 このボリビアで作戦が実行される理由に、アメリカの米大使館爆破とひとりの捜査官が行方不明となったことが関係しているとノマドは聞いていた。

 

「これから反乱軍のリーダーと会ってもらうわ。カタリス26、今のリーダーはパック・カタリよ」

「それが現地部隊なのか」

「といっても彼らもボリビア人、アメリカが好きってわけじゃない。握手はしても、笑顔を交わしても。決して背中は見せたくはないわね」

「まぁ、そういうことはよくあるさ」

 

 パイロットが着陸まで10分と知らせてきた。

 

「ターゲットはファイルで一通り目を通したが、アンタの口からも聞かせてほしい」

「存在していない人間、失うものがない人間。そういう連中がどれほど残酷になれるか、なんて私が改めて説明するまでもないでしょうよ」

「ああ、だが聞かせてくれ」

「わかったわ――今回の作戦は麻薬組織サンタブランカと首領エル・スエ―ニョがターゲットになる。組織の力はここでは絶対よ、地元の警察はまったく役に立たなくされてしまってる。法律なんてないも同然、好き勝手にふるまってるわ。

 

 その最大の理由がボスのエル・スエ―ニョ。

 こいつの思考はサイコパスそのもの。金、力、そして女。

 全てが手に入るけど、本人は質素と貞操の誓いを立ててるらしい。周囲もそれを認めてる」

「ほう」

「でもまともでは決してないわね。権力欲が強い、なによりも自分の考えや欲求が通ることが重要みたいね」

 

 ヘリがゆっくりと着陸する。

 風と雨が強いからやさしいものではなかった。やれやれ、部下たちはそう言いながらヘリを降りるとこちらに目配せをし、荷物を下ろす方に回ると合図を送ってきた。

 どうやら楽しくない握手の現場に部下達は近づきたくないようだ。

 

「たった兵士が4人?これがあんたが約束したアメリカからの支援というわけかよ」

 

 反乱軍のリーダーは俺達を見て不機嫌そのものだった。

 挨拶以外の会話の一切をボウマンに任せたが、すると小屋の中から誰かが出てくるのを見て、俺は目を丸くした。

 

(サイボーグか)

 

 プラチナブロンドのフェミニンな色男は。

 その顔に似合わぬ凶悪な強化外骨格に身を包み、手にはSMGを握っていた。

 

「ああ――それとノマド。彼があなた達の部隊のサポート兼チームメンバーに加わるわ」

「よろしく」

 

 サイボーグは落ち着いた態度だった。

 それが鼻についた。

 

 この頃、戦場には兵士の価値をないがしろにし。大量のサイボーグ兵士が入ってきていた。経験からこういう奴らはトラブルの元だと当時は学んでいた。

 それでも最低限の礼儀としてノマドは差し出された機械の手を握り返す。

 

「ブリキのロボットが俺達のサポートか。失礼だがどこの工場で作られたのか教えてくれ」

「ちょっと!ノマド、仲良くしてよ」

「――いいんだ。彼のようなプロは、俺のようなサイボーグをどう思っているかは知っている」

「ならわかるだろ?戦場に便利になるからと肉体をブリキ缶にぶち込んでやってくる奴らがなにをするかをな。お前らの同類はどいつも同じ、大抵がロクなもんじゃないんだぜ」

「ああ、知ってる」

「ノマド、彼の名前は――」

「もういい、知ってる。ブリキ缶だ。よろしくな、ブリキ缶」

「ああ、ノマド」

 

 俺達、ゴーストと雷電の最初の出会いだった。

 この時、俺はボウマンの言葉に従って彼の名前を聞いていればよかったんだ。この有名人の名前は知っていたが、顔を知らなかったのだ。

 

 愛国者たちと戦ったひとりのサイボーグ。雷電を。



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アウロア諸島、今

南米で出会っていたゴーストと雷電。だが彼らは何故、再び戦場で出会ったのか――?


この連載は特別ルールとして、第5回投降後にそれまでのもろもろの反応を見て続行するかを決めることになっております。感想やログなど、よろしくお願いします。


 2025年、米軍輸送艦シーイが撃沈――太平洋、アウロア諸島近海で起きたこの事件に合衆国は緊張した。

 アウロア諸島には今、天才たちが集まる企業スケルテックが存在し。事件後から島との連絡がとれなくなったからだ。あきらかに緊急に対処しなくてはならない異常事態である。

 

 CIAはグリーンストーン作戦の発動を宣言、現地の調査と通信の復旧を速やかに図るため32名ものゴースト隊員をアウロアへ送り込む。

 精兵部隊をこれほど大量に動員したことで、あとは事件が解決するのを待つだけだと彼らは安心したのかもしれない。

 

 しかし部隊が乗り込むヘリ4機は、島へ潜入を試みると同時に全機が墜落した――。

 

 

 こうしてノマドの話を聞いても雷電は顔色一つ変えることはなかった。

 

「ここはだいぶ厳しい状況らしいな」

「――知ってたな!?なんで情報統制がされているものをお前が知っているんだ」

「この業界はあんたも知っての通り、とても狭い。俺のような有名人の耳には、仕事になりそうだと思う奴がいるとすぐにも情報は入ってくるのさ」

 

 有名税というわけか。

 

「それで?傭兵らしくまたアメリカでひと稼ぎしてやろうというわけか、雷電」

「それについてはもう答えた。お前を助けようと思ったからここに来た」

「白々しいにもほどがある。雷電!お前はあの時、キングスレイヤー作戦でも――」

「ふゥ、またか」

(当たり前だ、忘れるわけがないだろう!!)

 

 俺は煮えたぎる思いを飲み込む。

 実行不可能、そう呼ばれたキングスレイヤー作戦はいくつかの偶然と奇跡が重なり。信じられないほどの悲劇と惨劇を重ねて終了した。

 

 任務成功はした、少なくとも俺達のアメリカ合衆国はそう言っている。

 その栄誉を手にしようと送り出された俺の部隊は。新たな時代の伝説となったサイボーグ傭兵と力を合わせて困難を最後まで乗り越え――るとあの時は思っていた。信じていた。

 

 だが――。

 

「何度も説明はしたぞ。俺とお前たちでは立場が違う。俺は傭兵だ、依頼主の。合衆国からの要望を無視するわけにはいかない」

「そうらしいな」

「またそれか……」

「俺も何度も言ったぞ。お前は仲間だった。あの戦いで、俺のチーム全員が間違いなくそう思っていた。命を預けられたし、お前を守るためならなんだってできた」

「なのに裏切った、か?」

「俺の記憶違いじゃなければ、握手でニッコリ再会を願う別れ方じゃなかった」

「お前たちが怒っていただけだ。その責任は俺にはない。文句はあんたの雇い主に言ってくれ」

 

――アメリカ合衆国にCIAに

 

「ああ、お前はあの時もそう言ったな」

「ノマド。確かに以前もこうなって俺達は別れた、それは覚えている。

 だが今は冷静になるべきだろう?ここまでの24時間ほど、お前は泥にまみれて死に物狂いで逃げ回ってたはずだ」

「誰の事だ?まさか俺か?」

「そう、お前。お前たちゴースト部隊のことだ。

 ここに来る前、最後に聞いた情報じゃ。潜入に失敗。さらに手ぐすね引いて待ち構えていた追撃部隊が迫っていた」

「……」

「過去のことで俺達にすれ違うものがあったのは確かだが。本当にそこから動くつもりはないのか?本気でお前がそうだと言うなら――俺もおせっかいを焼くつもりはない。

 たとえお前が自分達の無様な状況に腹を立てていて。その怒りを過去にトラブルがあった俺に今でもすべて向けていたとしても」

「……俺をヒステリー女呼ばわりするな。わからないのか?」

「なら、冷静になってそれを証明しろ。ゴースト隊長」

 

 目を閉じて大きく息を鼻から吸い上げる。腹立たしいことに、奴が持ち込んだコーヒーのよい香りが、怒る俺の頭蓋の中に入り込んで違うものを引き出そうと誘ってくれた。

 

「――わかった。殺すのはやめることにする。しばらくはな」

「やれやれ」

「だがお前も承知しているらしいがこんな状況だ、説明が必要だ。お前の場合は特にな」

「だからそれは――」

「お前は傭兵だ、今だってそうだろ?ここに来た理由が、昔の友人たちのため、だとか誰が信じる」

「なるほど。ハリウッドで俺達の映画が作られないわけだ」

「ふざけるな!――まず説明しろ。お前のその姿」

「ん?」

「いくらサイボーグとはいえ変わりすぎだ。まるで別人だぞ」

 

 強化外骨格を装着していないだけ――それだけでは説明できないものがあった。

 今の彼はメタルフレームはどこにもない。ただの人間、分厚い鋼の胸板もない。迸る光をまとわりつかせ躍動する脚も身体もない。

 

 普通だった、ラフすぎる格好だった。

 ジーンズにタン色のスポーツシューズ。チープな迷彩柄のシャツの上には革ジャン。武装と言えばナイフ一本、あとは大したものが入っていない軽そうなザックだけ。

 

「俺はサイボーグの専門家じゃないが――」

「もう強化外骨格は使ってない。あれを使うのは不便なことも多いんだ」

「ああ、だがそれでも説明が必要だ」

「といってもな――」

「なら目的を話せ。なにもなしじゃ信用できない」

 

 雷電は少し考え込む。

 自身のザックからアルミのカップを2つ取り出すと湧き立ったコーヒーをそこに注ぎ。ひとつをこちらに差し出した。

 こちらがそれを受け取るのを確認すると、雷電は口を開く。

 

「俺の認識では、あの時も今も変わっていることはない。

 助けに来たというのは嘘じゃない。それをいらないというなら、俺はただここで”やるべきこと”をするだけだ」

「ハァ、やはりそういうことか。誰だ、依頼主は?」

「ノマド。立場が違う、いい加減に理解しろ。俺はお前を助けることが出来ると思ったからここにいて、協力できるかを話しているにすぎない。

 ただ必要なのは――」

「お前を信じろと?疑うな?」

「考えて、覚悟を決めて。どうするのか言えばいい。

 また一緒に戦える。握手することは出来る。だがやっぱりお前はゴーストで、俺は傭兵のままだ」

 

 コーヒーの味は控えめに言っても、最高だった。

 人心地つけたのだろうか。しばらくは暗闇とわずかな明かりに照らされた中で、男が2人みみっちくコーヒーを無言ですすっていた。

 

 そうだ、確かに雷電の言う通りだ。

 アイツは傭兵のままで、俺は今もゴースト。

 苦い思い出は色あせなくても、すでにあれから5年以上の時間がたっていた。

 

「もう一杯もらおう」

「ん」

「――手を貸してくれるというなら雷電、お前には知ってもらう必要がある」

「なんだ?」

「俺達の部隊は壊滅状態にある。不時着後の追撃がヤバかった。

 俺は運よく別の仲間と合流できたが――できなかった奴のほうが遥かに多いのが現状だ」

「そうか」

「俺の部隊も――終わったらしい。ミダスは行方不明、ウィーバーは死んだ。ホルトは命はとりとめたが……」

「そうか、残念だ」

「この島は現在セキュリティーの手で警戒態勢のまま。俺はお前がのん気に墜落する前、援軍を求めて海岸まで行ったがこの島からの脱出は無理だとわかっただけだった」

「ドローンだな?」

「そのようだ。島の住人達が船で脱出しようとして海上に出たところで攻撃された。

 俺がそこで出来たことと言えば、その場で泣き叫ぶ子供と大人たちを逃がしてやることぐらいだった」

「彼らは逃げられたのか?」

「おそらくは――追ってきたセキュリティーは黙らせた」

「この後の計画は?」

「ない……だがなんとかする。そのためにも一度戻らなきゃならない」

 

 冷静になった。覚悟も決まった。

 この男、雷電を連れて戻る。エイホンへ――。

 

 

 気が付くと地平線に太陽が顔をのぞかせようとしていた。

 俺達は火元を踏み消し、その場から立ち去っていく。

 

「しばらくは山を歩く。昼過ぎまでには目的地には到着したい」

「わかった」

「質問しないのか?」

「こういう状況でお前たちがなにを頼るかは、だいたい想像がつく」

「だといいがな」

 

 M4カービンの調子を確認する。

 

「戦闘は回避、追跡されるのもお断りだ。これから行くところにいる人たちを困らせたくない」

「なるほど、肩身が狭いんだな」

「まぁ、島の外から転がり込んできた厄介者って立場にあるのは事実だ。憎まれても、助けてくれる彼らの心の広さに感謝しかないさ」

 

 

 嵐は本当に去ったようだ。

 真っ青な空が広がり、アウロアの大地は自然は豊かだった。

 この美しい自然が広がる島で天才とよばれた男は人類の未来を創ろうと呼び掛けた。ここだけに存在する人類の未来の社会。

 

 しかし今、そこで始まる戦争に俺はサイボーグと共にこうして力強く一歩を踏み出す。

 

 

>>>>>>>>>>

 

 

 気が付くと木の葉の間から太陽の光が見えた。

 身体を動かす気にもなれず。かといってなぜ自分が外で泥まみれで眠っていたのかしばし忘れていることに気がつく。

 

――で、次の瞬間全てを思い出し。飛び起きた。

 

 そんなこっちの様子を見て、ヴァシリーのトンマはニヤニヤと笑み浮かべてみせた。どうやらこっちの慌てぶりが大変に面白かったらしい。

 

「お目覚めですかな、女王様」

「ちょっと!?朝じゃない、なんで起こさない」

「俺がずっと見張っていたからだよ。こっちは傷が痛んでね。お前みたいに大いびきでは眠れなかったのさ」

「そうじゃなくて――」

「落ち着けって、どうせ動けなかったんだよ。出来たら起こしてたさ。それでもやつら、朝が来てようやく帰った。だからそのままにしたんだ」

 

 そういうことじゃないって言いたいが。こっちに気を使ってくれたのだろう。

 あまり愉快な気分ではないから礼は言わないことにした。

 

 ゴースト部隊は、自分たちを含めた仲間たちは悲惨な状況にあった。

 島には何とか全機が不時着できたことは確認した。それでも墜落直後に攻撃にさらされると、必死になって怪我人と装備を引っ張り出している多くの兵士たちにできることはなかった。

 だがそれでも全滅はしなかったはずだ。

 自分たちのように、追手から逃げきったゴーストは必ずいたはず。

 

「それじゃ今度はちゃんと確認しましょ。あんたはなにを持ち出せた?」

「お前のライフルと俺のSMG。どちらもマグは4本だけ。救急セットはどちらもロスト。でも水筒はひとつあるな」

「穴が開いてないといいけど……」

「それより問題は無線も地図もないって事だ。現在地も何もわからない」

「地形は頭に叩き込んであるでしょ、なんとかなる」

 

 私の言葉は強がりもいいところだ、なんの慰めにもならない。

 アウロア島は様々な環境を内包する小さくない島だ。草原や森林が広がる一方、雪山に雪景色の広がる地域もあると聞いている。

 

「恐らく俺達は島の東側にいるはずだ」

「そうね。それだけは確か」

「名案があるか?」

「――山を登る。どう?できそう?」

「やるさ。だがなんで山なんだ」

 

 ろっ骨を何本か、さらに数か所から出血しているヴァシリーには厳しいとは思うが。

 自分も考えつくとしたらこれだけだ。

 

「平地にあるスケルテックの施設にはセキュリティーが多く配置されてる。でもスケルテックは高所にも施設を大量に持ってたわ。平地とは違って小さな施設が。そこから少しずつ――」

「足りないものを回収するわけか。なるほど」

「まぁ、簡単な話では――」

 

 シッ、どちらでもなく緊張から口が閉じる。

 車のエンジン音が近づいてきて……通り過ぎると離れていく。

 

 

「車道?」

「少し降りたところにあるな、そういえば」

 

 夜では怯えて身を隠すだけで、近くに何があるかなんてさっぱりわからなかった。

 なるほど。なら行動開始といこう。

 

「ちょっと銃を変えて。ライフルとそれ、交換」

「なんだなんだ」

「車を奪う」

「マジかよ。追手が来るぞ?」

「そうかもしれないけれど。あんたは傷だらけで、私は空腹」

「こんな時に飯のハナシかよ」

「歩きは見つかったら終わるわ。あいつら手練れだった。次は抵抗できないと思う」

「――そうだな。

 ならここは強気でいくか」

「あんたは路辺でライフルで援護。私がSMGでドライヴァーを――」

「お前、出来るのか?」

 

 私は不安そうな相棒にフフンと鼻で笑ってやる。

 

「ここは太平洋上でもアメリカよ?車上強盗くらい、お手のものよ」

「マジかよ。女王様の正体はポニーだったわけか」

「じゃ、あんたがクライド?そんなにいい男とは思わなかったわ」

 

 蛇のように静かに草むらの中から2人で並んで出ていく。

 どのみちこのままでは何もできなくなってしまう。動けるうちに、生き延びるための最善手と思われることをやっていくしかなかった。



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隠れ里

過去の因縁はとりあえず、ノマドと雷電は行動を共にする。一方ではなお苦境に立つゴースト部隊の生き残りたちが必死に生き延びるすべを探していた――。

この連載が続くかどうかは第5回投稿までの様子で決めるという特別ルールでおこなっております。反応などが重要になりますのでご協力をお願いします。


 こうして俺はノマドに導かれ、彼と彼の仲間たちが拠点にしている場所。

 エイホンへとやってきた。

 

 森林が茂るうっそうとした山間部にある巨大な洞穴がエイホンの正体だった。

 テクノロジーの監視の中で、かなり大胆なやり方だと思う一方。理にかなっているのだなと感心もする。、

 ただ外からは全く気が付かなかったことだが。ここにはかなりの島で暮らしていた大勢の人々が住んでいた場所を追われ、匿われていたのは驚きだった。

 

「――そう。俺達もそのひとりってわけだ」

「なるほど」

「雷電、お前もこれからそうなる。ようこそエイホンへ」

 

 入り口に設置された最先端の偽装カーテンを簡単に抜けると、そこに門番たちが銃を持って出迎えてきた。彼らの目を見ればすぐにわかる。

 戦場に投げ込まれ、恐怖や不振にしばられ。少し前の生活を捨てねばならなくなった、苦痛に耐えている人々の姿。これはどこも変わらない。

 

「それで、先輩にはここを案内はしてもらえるのか?」

「どうかな――考えてる」

「まさかここでサイボーグの俺をひとり放り出すのか?冷たいな」

「うるさい。まず俺は仲間と夕べの……お前の間抜けな墜落を含めて話をしてこなくちゃならない」

「生き残りがいるんだな。何人だ?」

「――2人。動けるのはな」

 

 そうか、答えながら俺は内心。ノマドを気の毒に思った。

 ゴースト部隊、彼とチームがおこなうミッションではなによりも心強いものであっただろうに。今は半数以上がすでに倒れ、他の部隊も同じように壊滅へと転がり続けているところなのだ。つらくないはずがない。

 

「それじゃ、俺はどうしたらいい?」

「ホルトと会ってやってくれ。医務室にいる。彼は――怪我をした。だからこの任務はもう無理だ」「……了解」

「そのあとでここの代表に会いに行く。それは一緒に会ってやる」

 

 そうしてノマドとは一旦そこで別れる。

 

 

 女性たちに場所を聞いて医務室の場所はすぐに分かった。

 医師も看護師も姿は見えなかったが、奥のベットには確かに人がいた。

 

 俺の知る最高のゴーストチーム。情報データ解析のエキスパートだった男はそこで眠っていた。

 左手は包帯で見えなくなるほどしっかり固定され、右手は手首から先を失っている。毛布で隠されてはいるが、両足からは何か良くない匂いが空気に交じって漂っているのが分かる。

 

 友人――いや、知人のこういう姿を見るのは戦場に立つ俺でもなれることはない。思わず深く息を吐き出すと、脇にあったパイプ椅子に腰を下ろす。驚いたことに患者はそれで目を覚ました。

 

「……嘘だろ、オイ」

「やぁ、ホルト。久しぶりだな」

「ああ……でも最悪だ。よりにもよってこの世で最後に見るのがお前の顔なんてな」

「ん?」

「せめてエロい下着が見える、ドレス姿のマイシャ・サーヤがよかった。そのくらいはサービスされてもいいだろうに」

 

 男のユーモアと皮肉は健在だったとわかり、俺は苦さの入る笑い声をあげる。

 

「自分の年齢を考えろ。それはハリウッド期待の若手女優だろ。美人だよな、彼女」「ああ、そうだよ死神野郎。生きて彼女のベットシーンは瞼に焼き付けておきたかった。こういう時のために」「それなら安心しろ。俺は死神じゃないし、お前はまだ死なないみたいだぞ」

 

 フン、と相手は鼻を鳴らすが。すぐに顔をしかめる。

 意識が戻ってきて、体の苦痛も理解できるようになったのだろう。話せる時間は少ない。

 

「本当にあのクソ野郎の雷電なのか?」「そうみたいだな」「なんでアウロア島にいるんだ?」「……お前たちを助けに来た、そう言ったらノマドに嘘吐きと早速罵られたよ」

「ああ、ノマドの言う通り。お前はクソ野郎だ」「マジかよ」

 

 テントの外から慌てた様子の女性が入ってきて、患者と長く会話しないようにと注意を受け、理解したと頷いた。

 

「待てよ雷電……助けに来たっていうのは本当なのか、それ?」

「ああ、もちろんだ。あの時だってそうだったじゃないか」

「――そうだな。俺のことはいいから、ノマドの事を。仲間を頼んだぜ」

「まかせろ」

「な……なァ、ウィーバーが死んだ」

「聞いてる。残念だ」

「誰が、殺したと、思う?」

「知っているのか!?」

「ああ、お前も知ってる。あいつ、ウォーカー」

 

 ウォーカー、その名前を口の中で繰り返す。

 だが聞くと逆に驚きはなくなった。”そうでなければいい”と思っていた。

 

「驚いてないな。知ってたか?」

「寝てろ。兵士が戦場で怪我と病気を相手にする時は体力と気力がいる」

「ああ、ここで一生懸命だらけているよ……」

 

 彼が眠りに入るのを確認し、女性たちにあとは任せて医務室から俺は立ち去っていく。

 

 

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 雷電が動けない仲間と会っている頃、ノマドは最悪の報告と、最悪の返答を残っていた部隊の仲間達から聞いていた。

 自分が港で逃がした家族の一部がまだここにきてないらしい――。

 

「それとノマド、お前が連れてきたアイツは?」

「知り合いだ。元軍人で――」

「傭兵か?スケルのセンティネルとは関係ないだろうな?」

 

 ドキリ、とした。

 可能性はまったくないわけじゃないと今更にして気が付いた。しかし――。

 

「大丈夫だ、と思う」

「思う?おいっ!」「ノマド!?」

 

 医務室に向かって背中を向けていった奴の後ろ姿を思い浮かべる。

 

「言い変えよう。大丈夫だ、安心しろ」

「なぜ!?」

「あれは――ビッグネームだからさ」

 

 言いながら顔を歪める。

 そう、有名人だ。もはや伝説の人物、自分達と比べるまでもない。

 雷電――あれがこちらの敵になるなら、とっくにここに兵士達が殺到しているはずだし。俺も生きてはいない。

 

「知り合いだと言ったろ。お前たちも名前くらいは聞いてるはずだ」

「?」

「雷電」

 

――!?

 

 その一言で説明は必要なくなったようだ。「あいつか」「あのボリビアの」と2人は信じられないものが近くに存在しているのだと理解しようとしつつ、混乱と敬意。恐れにもにたものを持っているのを感じる。

 

 ワンマン・アーミー。

 それを戦場で文字通り実現できる男。

 その伝説の始まりは、愛国者達と呼ばれる全容の把握不可能とされた組織との戦いに生き延び、勝ったことだ。

 

 

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 患者を見舞った後、俺は再びノマドと合流する。

 

 彼の説明で、このエイホンを管理しているのはマッズ・シュルツという元軍人だと聞かされていた。

 曰く、スケルテックの暴走から外からやってきた余所者が増えたことでここ数日、すこぶる機嫌が悪いらしい。

 

 実際、新しい余所者の登場に彼は不機嫌さを全く隠そうとしなかった。握手は交わしてくれたが――。

 

「ノマドから聞いたよ。あんたも余所者だって?」

「ああ、そうなる。

 彼が余所者その1とするなら、おれはその2ってところかな」

「つまりどちらもここじゃやっかいな邪魔者ってわけだ」

「……あんたのような立場の人が。俺達のような存在をどう考えているのかはちゃんとわかってる。だがノマドや俺のような人間はこういう時にこそ役に立つスキルを持っているのも事実だ。

 もう少しお手柔らかにやっていけないかな?」

「協力ってやつのことか?

 それなら俺にも言い分がある。そんな考えに希望を感じていたのは半日前の事だが、どうやらここに戻ってきた厄介者その1は。俺のわずかな希望を叩き壊すような、期待とは違う答えを持ってきたらしいな」

 

 嫌味がノマドの方に向かうと、彼は言いにくそうに説明を始めた。

 

「お前と出会う前。俺はこの島を脱出して、沖にいる味方の元に戻ろうと考えていた。ここに海兵隊を山のように連れてこようと思ったんだ」

「そうだ。そして俺は取引を持ち掛けた。

 ここから逃げ出したがっている連中を軍のほうで保護してほしいってな」

「だが島から出ることが出来ないと、はっきりわかっただけだった。島から離れるか近づくかすると、スケルテックのドローンが攻撃する。どうやら相手は誰でも構わないらしい。

 避けることのできない戦艦の主砲のような攻撃にさらされるんだ、当分脱出は出来そうにない」

「な?お前らは再びただの役立たずに戻ったわけさ」

 

 間髪入る代表の皮肉が特にきいていた現状説明だった。

 

 

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 2019年、ボリビア――。

 

 出迎えた反乱軍たちの反応は最悪だった。

 CIAが送り込んだのがたった数人のアメリカ人。自分たちは馬鹿にされたのだとでも思ったのかもしれない。

 ボウマンの言葉も聞かず、偉そうにこちらに一方的に条件を突き付けてきた。

 

――政府に逮捕された我々の指導者を救出してこい

 

 アメリカ最高のチームだというなら軽いモノだろう。そういうことらしい。

 ふざけた言い草に俺達はウンザリさせられたが。ボウマンやCIAはこうなることを見越していたようだ。奴らの要求をかなえるべく、ちゃんと準備がなされていた。

 

「それじゃ兵士諸君。さっそくだけどお願いよ、あいつらを納得させて」

「お安い御用だ」

 

 見るからに怪しすぎる缶詰男を無視して俺はそう請け負った。

 

 そう、俺はまだ。俺達のチームはまだこのボリビアを。缶詰男を。

 到着してまだ間もないこの国を全くに知らな過ぎたのだ。

 

 

 狙撃ポイントからこちらを見ていたウィーバーから無線越しに畜生、の呟きを聞くと。ホルトにミダス、俺は容赦なくライフルを発射する。

 CIAは――いや、DEAか?

 とにかくどちらかか、どっちもか。とんだ間抜け野郎だったと言わざるを得ない。

 

 情報屋として来た現地警察官は、指導者の囚われている場所の情報を引き渡す現場のそばに武装した馬鹿どもをひそませていた。何を考えていたのか、詳しい理由を聞く気にはならなかった。

 奴らは話しているこっちを半包囲する体制で展開していたとわかれば、特に。

 

 戦いは起こらなかった。

 俺達に危険はなかったが、路地裏に死体がさっそく転がってしまった。

 情報屋に鉛をプレゼントして黙らせ、すぐに車へと飛び乗った。作戦は失敗の危機にさらされていたからだ。

 

 わかっていることは2つ。 

 俺達はいきなりこの国の敵として誰かに売られた。目標の位置情報は手に入ったものの、囚われた指導者の命は秒刻みでこの世から飛んでいってしまう危険にさらされていた。

 

 みっともない話だが、メンツを守るために俺達は焦っていた――。

 

「ボウマン、水漏れだぞ!」

『え?』

「情報屋は俺達を売った。相手は知らん、だが目標がヤバい」

『――どうするの?』

「やるしかない。位置はつかんだ、あとは強行突入で目標を救出する」

『わかった。気を付けてね、サポートの彼も――』

「奴はいらん!!」

 

 無線を強引に切った。

 サイボーグの助けなど、どれほどのものか。雷電を知らなかった俺達は奴はいないものと考えようとしていた。

 

 多くの戦場で、サイボーグのようなオモチャが。殺人マシーンとしてもてはやされた時代だった。

 保守的な軍ではこの技術を用いる兵士は表向き忌避されていたが。裏では色々やっていたことは知っている。

 

 だがゴーストは、俺のチームには大した相手ではないと思っていた。

 実際、そういうのはいくつかの状況で対処してきたし。ずっと勝ち続けて、機械の体に貼り付けた価格表と宣伝文句を嗤っていたのは事実だ。

 

 土と埃をまき上げ、悪路を必死に乗りこなす俺に仲間が聞いてくる。

 

「それで作戦は?隊長」

「選択肢はないからな。このまま強引に突入し、目についた奴から片付けていくしかない」

「ヤバいだろ、それ」

「教会が目印だ。目標がそこから連れ出されるか、撃たれる前に決着をつけなきゃならん」

「村の中をお掃除しましょ、ってわけにゃいかないのか」

「3分でいい、誰も俺達に近づけるな。こっちを見た奴は撃て」

 

――!?

 

 不愉快だったが、この任務で与えられた殺人許可証を俺達はいきなり振り回すことになりそうだ。

 だがやりすぎない程度に処理しろ――殺人鬼ではないんだ。言葉では言えないことだ、これから起きることは簡単な事ではないのだから。

 

 そうやって静かな町にやかましく突入したのは俺達だったが。そこにいるはずの兵士達は沈黙していた。

 かわりに教会から、老人を担ぎ上げたサイボーグが俺達を出迎えた。全て終わっていたのだ。

 

「ちょうどいい、出よう」

「……どういうことだ?」

 

 そこは確かに小さな村ではあったが。

 わずか1.2分の間で問題となるものを騒ぎを起こさずに排除したというのは神業も同然だった。

 

 雷電――。

 俺と俺のゴースト達は彼の名前をようやく知り。本物を知った。

 

 これが真に恐るべき新たなテクノロジーで武装した次の時代の兵士。

 それが雷電という男だった。



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裏切り者の名は

エイホンで雷電は改めて、ノマドらゴースト部隊の苦しい状況を知る――。

この連載が続くかどうかは第5回投稿までの様子で決めるという特別ルールでおこなっております。続きに興味がある場合、ログ、感想、その他が影響します。よろしくご協力ください。


 新たなプログラムが始まった――。

 

 けたたましいオーケストラの、そして安心のショーの始まりを告げるオーケストラの合奏が流れる中。

 笑顔の中年白人男性が出てきて、目の前の客席とカメラの向こうの視聴者にその輝く笑顔を振りまいてみせる。

 

「こんばんは、こんばんは。本日もハーモン・”ラッシュ”・ハモンドのショーへようこそ!」

 

 そこで過去の番組のシーンが次々と割って入る演出が入る。

 

「このマシンガン・ラッシュのトーク番組にはこれまで多くのゲストをお招きしてきましたが、今日はいつもと一味違います。本当ならすでにゲストに出てきてもらい。あとはずっとラッシュのトークが始まるわけですが――今日は、今日だけは違います」

 

 ライトが消され、シリアスな雰囲気に一変する。

 

「テレビ業界ではこの数年、ひとつのタブーがありました。

 それはこのアメリカを守り、このアメリカを強さを証明していた軍……この話題を避けていました。

 

 なぜ?

 

 答えは簡単、それこそ新たな千年紀の始まりから呪われたような苦々しい体験が。この国の国民として、何度も何度もかみしめて来たからに他なりません。

 そしてそれがもっとも恐れる形で我々の前に何度も立ち上がってきたから、とも。

 

 2014年――そうあの恐怖は今もまだ我々の中に残っています。

 

 世界の軍事力に深く関係していた業界トップ5のPMCが結託。秘密結社アウターヘブンを自称し、数日にわたって世界に攻撃を加えたのです。

 彼らの宣言を前に世界は文字通り沈黙した……〇×ビューグルのカレント記者は当時をそう振り返っています。

 

 この恐ろしい事件はその後、奇跡的に終わりはしましたが、ご存知でしょうか。FBIは未だに事件の全容をつかみきれておらず、捜査中と言い続けてる。

 とはいえ我々は前に進みます。国も、新しい戦いも、ビジネスも」

 

 ライトが戻り、シリアスさが払われていく。

 

「そう、そしてようやく本日のゲストがご紹介できます。

 先頃、軍と正式に契約を交わしたことで件の業界トップ3に入ったセンティネル社CEOに今日は来てもらいました。。

 

 皆さん、敬意をもって拍手でお迎えください。トレイ・ストーン氏です!」

 

 再び起こる賑やかな音楽が始まる。画面には自信に満ちてはいたがどこか卑屈そうなスーツ姿の痩身のせむし男が姿を現した。

 トレイ・ストーン。

 

 彼はこの後、軍との契約の一環として。アウロア諸島に作られた、スケルテック社保安部門を一手に引き受ける。

 

 

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 シュルツ代表との話も終わり、俺は店の女主人から説明を受けていた。

 

「――そうか、武器も含めて色々と揃っているんだな」

「まぁね。元々はセンティネルの連中の求めに応じて、スケルテックが用意したものだからね。彼らが使うような身の回りのものは一通りは揃ってるわ」

「払うものを払えば、だろ?」

「もちろん!資本主義でガッポリ稼いだ企業のおこぼれなんだから、こっちも稼がないと」

「そういえば、ここではデジタル通貨も使ってると聞いた」

「ああ、スケルのことね。元々はスケルテック内でのキャッシュレス化のために用意されたらしいけど。実際悪くはないわ、便利だもの」

 

 主人の言葉にうなづきつつ、俺は多機能携帯タブレットをとりだし。レジに近づけて見せた。

 

「あら?3.600スケルだって、持ってるんじゃない」

「文無しじゃないってのは安心だ」

「そうね。逆にあなたのお友達は苦労してたわよ」

 

 ということはノマドはオケラだったということか。ま、任務中ならそうだろうな。

 それじゃ、と続けて店頭に並ぶ銃を確認した。こちらは問題だとすぐにわかった、どれも中古品なのに割高なものばかりだ。

 

「――これで戦うのは厳しい」

「らしいわね。でもないものはないの」

「なんとかならないかな?」

「あの人と同じこと言うのね。なら教えてあげるけど、方法ならいくつもある。でもどれも簡単じゃない」

「おススメを教えてくれ」

「このアウロアはね、改めて言うけど今はスケルテックそのものなのよ。ほとんど自給自足ができて、言い出せばある程度は軍のものでもこっそり用意できるくらいにね。つまりとんでもない場所ってこと。

 センティネルもそれを知ってよからぬことを持ち掛けてたって噂があるから、これを利用するのがいいかもね」

「具体的には?」

「あいつら、自分達が使う武器をここで作ろうとしてたっていうわ。詳しいことはスケルの技術者に聞いてみるのが早いわね。彼らが使う武器と同じものをどうしたら用意できるのか。

 彼らならすぐに考えてくれる気がする、天才ばかりだから」

「なるほど」

 

 言いつつ、ガラクタの山からMP7とSVDを特に調べ始めた。

 

 MP7はPDWという戦場で使うマシンピストル。ライフルほどの威力や射程は期待できないが、状況を利用すれば十分以上の力を発揮してくれる。

 SVDはロシア製のオートマチック狙撃銃だが、これは他のに比べて少し状態がよさそうに見えただけだ。

 

「他はどう?デザートイーグルにいいのがあるわよ?」

「はは、大砲を持ち歩く趣味はないんだ」

 

 M9ピストルを早々に選び出す。

 

「あなた、狙撃手なの?」

「いや……狙撃は得意じゃないが、出来ないわけじゃない」

「そんなので大丈夫?」

「ああ」

 

 弾丸を含め、初回サービスよ。そういって2.000ちょうどを要求された。商売上手な女性らしい。

 

 

 ノマドの元に行き、今後の話をしようとした。

 

「なにか考えは?」

「――まだなんともいえない」

「いいんだ、ノマド。まだ任務よりも仲間の安全の方が気になるんだろ?」

「……30名をこえる全てが優秀な兵士だった!それが、それがこんなことで――」

 

 ノマドは何かに耐えるようにそれだけを言った。

 軍では部下をもって戦う経験は自分にはなかった。彼が今、感じているものを俺は完全には理解できないだろう。

 

「で、ゴースト達の捜索ってことでいいか?」

「――いくつか心当たりがある。これは俺自身だけでやるつもりだ」

「ノマド」

「大丈夫だ。馬鹿はやらない。フォックスという親子を港から逃がした。だが彼らはここに到着していないらしい。少しのんびりとしたオヤジと娘だったから気になってる。俺は彼らを迎えに行く。そのついでだ」

 

 ということは、しばらくは俺も単独行動になるのか。自分で仕事を探さないと。

 

「シュルツ代表が確か、助けがいると言ってたし。それに俺も今、思い出したことがある」

「なんだ?」

「落とし物さ。ここに持ち込もうと思ったんだが、着陸の直前に地上へ落としてしまった。時間があるようだからそいつを回収してくるよ」

「何を持ってきた?それを敵に回収される可能性は?」

「まだないだろう。多分、”大丈夫”だ」

「――そうか。それじゃそういうことで」

 

 そういうとノマドは先に行く、と言葉を残し。エイホンから去っていってしまった。

 残された俺は、同じくここに残っているゴースト部隊の2人の力を借りて。だいたいの目標地点のあたりをつけた。

 

「――という事はやはりスマグラーコーヴスの中央部あたりでしょう」

「わかった。さっそく行ってみるよ」

「はっ……あの、雷電」

「ん?」

「その、思いもかけない縁ではありますが。こうしてご一緒出来る事、光栄です」

「お、俺もっ。光栄でありますっ」

「ああ、ありがとう。こっちは一匹狼だが、君達の足を引っ張らないように頑張るよ。よろしく」

 

 彼らほど精兵であっても、こうしてこちらを尊重してくれるのは自分が元は彼らと同じ場所に所属してくれたという過去があるだけなのに。

 俺の知るあの古い友人もこのような困惑を持っていたのだろうか?もしかしてあの頃の俺とも、そんなことを考えながら接してくれていたのだろうか。こんな時は必ずそれを思い返してしまう。

 

 

>>>>>>>>>>

 

 

 雷電を振り払うようにしてエイホンを出た俺は、しかしすぐに親子の捜索を開始したわけではなかった。

 逆に彼ら親子から聞かせてもらった、俺と出会う前に彼らを助けてくれたいかつい兵士――俺はそいつに会いに向かったのだった。

 

 林とそこに流れる小川のそばにある小さな小屋。そこに近づくと、静かではあるが確かに中に誰かがいる気配をわずかに感じた。

 

――いる。

 

 扉を静かにあけ、ゆっくりと忍び足で体を中へと滑り込ませる。

 部屋の中はがらんとして誰もいない。先ほどの感覚が間違っていたのではないか?そんな風に思ってしまうほどに、ここは静かだ。

 だが俺は自分の勘を信じていた。

 

「おい!レッドクイーン、いるのか?お前なのか?」

「ホワイトラビット……ノマドなのか?」

「ジョサイア、やれやれお前が生きてて何よりだ」

 

 安堵しつつ体を見せると、奥の小さな部屋の暗がりからぬっと自分にまけない黒い肌の大男が片足をわずかに引きずりながらも笑顔を浮かべて出てきてくれた。互いに握手を交わし、固く抱きしめ無事を喜びあった。

 

「無事なのは俺だけ。チームはダメだった、お前の方は?」

「俺も――似たようなものさ。俺達だけじゃない、恐らくゴースト全てが総崩れになってる」

「ああ、何人かは見つけた。ジョンソン、レダ、ジョッシュ、ドワイト、カミ―」

「ひどいな」

「……お前のところのウィーバーもだ。知ってたか?」

 

 恐らく倒されたゴーストたちはそのままにしているのだろう。逃げた俺達が戻って遺体を埋葬しようと近づくのを待っている、だから地元の住人達もウッカリ近づけない。しばらくはそのまま野ざらしにされる。

 

「俺は見ているしかなかった、ウィーバーが。奴が撃たれるところを」

「なんだって?」

「墜落後、ヘリから這い出して捜索に来た奴から聞き出した。近くに落ちたヘリの情報を。

 なんとか駆けつけようと思ったが、遅かったんだ――俺がたどり着いた時にはもう攻撃を受けていた。半包囲されて、どうにもならなかった。まだウィーバーは残ってた。

 

 ジョサイア、俺は願ったよ。ウィーバーの奴にすぐに投降しろって、それしか生き延びる道はないって」

「ノマド……」

「追手は普通の奴らじゃなかった。どうにかなる状況じゃなかった。だが――」

「駄目だったんだな」

「そうだ!ウォーカーだ、奴が直接、俺の部下をやった!」

「ウォーカー?おい、それはひょっとしてコール・ウォーカー?ウォーカー中佐の事か?」

「奴がいた。奴が俺達の部隊を攻撃した。裏切ったんだ」

 

 頼れる仲間との再会が俺を安心させていたらしい。それまでは辛く、火を噴くような怒りを伴っていたことで誰にも見せられなかったものをここでは口にすることが出来た。憎悪の塊だった。

 だがなぜかジョサイアの表情は懐疑的なままだ。

 

「ノマド、正直信じられない。本当に彼だと断言できるのか?」

「悩む必要もないんだよ。はっきりしている。俺は見たんだ。奴はここにいて、敵に回った。裏切った、それで俺達の仲間は死んだんだ」

「だがあいつは軍をやめた後。南米で傭兵になったんじゃなかったのか?」

「今はここにいる。俺は奴の顔をはっきりと見たんだっ!」

 

 あの瞬間からまだ数日もたっていない。

 だがすでに過去のことでも恐らくこの先、あの場面を忘れることは出来ないだろう。

 

「それにしちゃ、ウォーカーの目的がわからない。俺はここの天才が船を沈めたという証拠を見つけた」「ああ」そんな気分じゃなかったが、データを見るとたしかにスケルテックが輸送船を攻撃させた。

 そんな表現がそこから読み取れた。

 

「ということは、この事件のそもそもの発端である輸送艦沈没はジェイス・スケイルがやった?」

「ああ、そういうことだ。この事件、そいつが原因に違いないんだ!」

「それがウォーカーとどう繋がる?」

「まだわからない……あいつはここで何をやってるんだ」

 

 どうにもわからないことが多すぎた。

 地元の住人達の話も少し聞いていたが、こちらの認識ともかなり大きなずれを感じている。整理と、新しい情報が必要に感じた。

 

「状況は最悪だが、俺達が坂をまだ転がり落ちているのは間違いない。

 生きのびている仲間もいるだろうが、身動きが取れない現状では彼らの捜索は時間の無駄になりかねない」

「ノマド、仲間を見捨てるつもりか?」

「違う、問題は俺達も自分の心配をする時だと言いたいんだ。外に連絡は送れないし、中に援軍を呼び込むわけにもいかない。艦長は優秀な人だ、むやみに犠牲を増やすような決断はしないだろう。

 なら俺達はここで次の行動に移るべきだ。戦況に変化を生まないと援軍は永遠に来ることはない」

「――そうだな。確かにそうだ」

「ヒル、ここからは一緒にやろう。俺はスケルを追おうと考えてる。お前がいれば、心強い」

「……悪いがノマド、断る」

「おいおい」

「お前の言い分は正しいと思う。だが俺はさまよってる仲間とウォーカーの目的の方が気になるんだ。

 なに、2人いるんだ。別れて動いた方が情報も多く手に入り、有利になることもあるかもしれないだろ」

 

 彼には考え直すように言うべきだったが、その意志の固さを感じて諦めることにした。

 仕方なく俺は新しい水筒と持っていた弾丸をジョサイアに差し出す。

 

「ほら、これを持っていけ」

「いいのか?」

「ああ……ウォーカーの部隊は凄腕だ。ヤツの話を聞きたいならお前の方が危険だしな」

「大丈夫さ。また会える」

「ああ。ここでまた会おう」

 

 後になっても、この時の俺はとにかく不自然だったと認めないわけにはいかない。

 素直にエイホンの事を彼に話しておくべきだったが――なぜかそれをあえて避けていた。だから考えてしまう。

 

 俺はウォーカーの裏切りを知り。

 薄々とではあったが、このジョサイアに対しても疑いの目を向けていたのかもしれない、と。 



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人物紹介

今回はこの物語の人物紹介をやります。
次回第6回の更新は来週月曜日。いつもの時間になります。

予定通り5回を終えて今後の計画を深考中。


『ブリッジ・イン・ザ・セイバー ここまでの登場人物は』

 

・雷電

俺達のジャック、ことMGSのもう一人の主人公。フリーのサイボーグ傭兵。彼の経歴はこんな感じ。

 

2014年 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット

2018年 ワールドマーシャル社による大統領暗殺未遂事件

2019年 キングスレイヤー作戦

 

2025年 アウロア諸島に上陸

 

以前、世話になっていたマヴェリック・セキュリティ・コンサルティング社とはつかず離れずの関係をまだ保っている。

ただ本人が有名になりすぎたため、各国の情報機関からもマークされるようになったせいで深い関係が結びづらくなったという事情がある。

 

以前は燃費最悪、高出力の強化外骨格を用いていたが。今はもう使っていない。

とはいえ定期的に身体は最新のパーツにアップデートし、改良にも手を出している。

 

家族は今も元気にしている。ただ息子が大学からイギリスに留学してしまい。最近は妻からの「さびしいの」「こっちはずっとたえてるんですけど、なにか?」コールで帰宅恐怖症の初期症状がちらほらと。だが相変わらず離婚の話が全くでないあたり、この夫婦の業は深い。

 

とにかく遂に雷電も引退の2文字を考える年齢になったという事かもしれない。

 

アウロア諸島にはなにか”仕事”があってやってきたようだが。ノマドらゴーストを助けることを今は中心に動く。

装備はSMGと侍ブレード、ナイフ。

 

 

『ゴースト関係』

・ノマド

ゴースト部隊隊長、ハゲの筋肉ゴリラ。嫁と子がいたようだ。恐らくもう夫婦ではない。経歴はこんな感じ。

 

2019年 キングスレイヤー作戦

2025年 グリーンストーン作戦

 

いわゆるゴリゴリの愛国者の塊で長くゴースト部隊に所属している。ゴーストリーダー。

過去に実施されたキングスレイヤー作戦の成功という大変な栄誉を手にしたが、その記憶はかなり不愉快なものとして残っているようだ。その後、フォースエシュロンなる怪しげな部隊に勧誘を受けたが断っている。

 

今回の任務では部隊のほとんどを失うという厳しい状況に叩き込まれ。また自身の最高の部隊も崩壊、ほぼ単身丸裸の状態で敵中に取り残されてしまった。その怒りとストレスはすでに相当のものとなっている。

かつての仲間の裏切りにわずかに戸惑いながらも、それ以上に怒りをうまく処理できずに苦しむ。

 

装備はSC-20K(実銃のF2000)を好んで使ってる。誰かの影響らしい。

 

 

・ウォーカー

元ゴースト。自分と同じく元ゴーストの傭兵たちを集めてウルブスを結成した。

アウロア諸島でセンティネルと手を組み、島を占拠している。

 

 

・ジョサイア・ヒル

ゴーストリーダーのひとり。ノマドと共にアウロアへ乗り込んだが自分の部隊を失った。

 

 

・ヴァイパー

ゴースト隊員のひとり、女性。

そこそこ美人のはずだがまったくそうみられていないのは漢らしすぎるから、と言われてる。筋肉フェチで、女性人気も高く。私生活では、よく同性からの告白を受けて困ってる。性癖はバイだと噂されている。

酒に強くないが、酒癖が悪く、酒場に行くと必ずよその男ともめて血だるまにしてしまうため部隊の仲間と一緒でない限り出入り禁止をノマドから命令されていた。

 

ヘリ墜落後の追撃から逃れるものの、アウロアに放り出され苦境から脱しきれない。

 

装備はAUG。

 

 

・ヴァシリー

ゴースト隊員のひとり、男性。

ボクシングとラグビーが好きだった少年は、色々あって軍にはいる。その後も色々あって気が付くとゴーストに。

190センチをこえ、幹の如く太い体格はまさに戦士のそれである。

 

アウロアへの不時着で大けがを負い、それを隠していた。混乱の中で運よくヴァイパーと出会い、共に行動するも。次第に怪我人である自分が重荷になっていく状況に苦しんでいた。

 

 

『アウロア関係』

・マッズ・シュルツ

エイホン代表、元軍人。奥方のマリアがそこで店をやっている。

厳しい状況が長期戦の様相を見せはじめる中、軍がまったく役に立たず。スケルの技術による脅威への対策に頭を悩ませている。

 

 

・フォックス

ノマドが島の港で助けた。家族は娘だけである。スケルテックの社員でジョイスの友人でもある。

 

 

・ジョイス・スケル

スケルテックCEOにして天才。ワールド2.0を掲げて世界の天才たちを自分の企業へとかき集めていた。

今回の騒ぎのキーと思われたが――。

 

 

『その他』

・エル・スエ―ニョ

キングスレイヤー作戦の最終目標とされたカルテル、サンタ・ブランカのボス。その力はボリビアでは圧倒的であり、絶大の一言に尽きた。犯罪者にもかかわらず、英雄と呼ばれ。またそうなるようにしむけてもいた。

ただの暗黒街の帝王でいることに飽き足らず、自らの存在を表にだして国を手に入れようと野心をたぎらせていた。

 

CIAは南米のカルテルでここを一番に危険視し、キングスレイヤー作戦を立案する。作戦は2019年のうちに終了した。

 

 

・トレイ・ストーン

2025年、突如としてアウロア諸島を占拠したセンティネルのCEO。

その目的、計画は不明。今はシタデル作戦を利用して島の中に閉じこもり、支配を完了させようと動いている。

 

野心にあふれ、軍が要求するであろういかなる依頼もこなせる幅広い人材の確保している。

占拠側の戦力の大部分がこのセンティネルの兵士であるが。質において元ゴースト、およびそのレベルの兵士を揃えているウルブスとはなにかとうまくいっていない模様。

 



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苦しい状況の中、ノマドはついにつらい決断を下した。しかしその結果、友人とは意見が分かれ。再びひとりでそれを始めなくてはいけなくなってしまった。
一方、雷電は――。


デス・ストランディング発売記念として特別ルールでやってます。
やる気が尽きたら終了、となってます。反応をください、皆様のご協力をお願いします。


 2時間ばかり車道を見張って車を1台。

 そこからは道なき山道を自ら作る勢いでかなり強引に進み、スケルテックの用意したと思われる小さな無人の小屋を見つけることができた。

 多少の傷薬と食事、水。そして地図を手に入れられた。

 

 どうやら自分達はフェンホッグという土地の北西部にいることがわかったが。次を考えるには情報があまりにも足りない。

 深夜になると人の気配がこちらの方角に迫ってくるのを感じ。怪我をしている相棒と相談してこのまま強引にとなりのエリアへと入ることにした。

 

 ヴァシリーも自分も次第に口数が少なくなっていた。

 自分たちを狩ろうとする存在が、まだ諦めずに匂いを辿ろうとしているのだとわかっていた。プロは追跡するのに獲物の地と苦痛を敏感にかぎ取ることができる。手負いを逃すことは期待できない。だが戦えば、恐らく結果は――。

 

 4WDの運転席側に空いている小さな2つの穴。その向こう側を眺めて悪路を運転する私に、うめき声をあげまいとしている相棒は「やれやれ、お前の運転はやっぱりご機嫌なサウンドがないと拷問だな」と憎まれ口をたたいて気をまぎらわそうとしていた。

 無言で睨むと、今度は苦笑いを浮かべながら可愛い声で「ママ、ごめんなさい」と言って両手を上げた。これには思わず私も噴き出してしまう。

 

 彼の状態はあまり良くない。車の移動が始まってたった一晩で2度も傷口が開いていた。

 ヘリから持ち出せなかった軍の救急キットがないのがくやまれる。できればやりたくなかったが、大草原の中で針と糸で処置することにする。

 

「それでこの後は?」

 

 不愉快な痛みに耐えつつ、彼はそう聞いてきた。

 地図は手に入ったが、自分達が望む状況にほど遠いことはすでに確認していた。アウロアの東部は開けていて、山は西側に集中していたのだ。

 

「墓場峰ってのを目指そうと思ってる。どうかな?」

「嫌なネーミングだな」

「同感だけど、誰かの頭に穴をあけて手にいれた車じゃ、いつまでもは使えない」

(それにこのまま出血が続くと、あんたは身動き取れなくなる)

 

 車を捨て、山に入ればどこかで落ち着ける。ヴァシリーの傷の経過を見ながら、あとは自分が地元の人間らと接触を図っていければいい。かなり現実を無視している楽観論だが、そもそも真面目に考えたらお互いさっさと銃口を加えて処理した方がいい。だが諦めないなら――今くらいがちょうどいいのだ。

 

「山に入ったら俺とお前で楽しい穴倉生活か。夢がないな」

「なによ。きっと楽しいって色々試しましょ」

「えっ、おい。いやいや、待てよ。そりゃまさか――」

「男断ち出来ない女盛りだから当然でしょ。喜びなさい」

 

 相棒を元気にするためなら多少はエロ話もやってやる。

 

「カッ、カハハハハッ、カハッ。やめてくれ、ないない。それはないよ」

「あんた変な笑い声ね。それにないってのはなんだよ」

「お誘いは嬉しいけどな。俺、女房以外とは寝ないって誓ったんだ」

「……」

 

 思った以上に真面目で重い言葉に絶句してしまった。

 ゴーストは表向きは死者として扱われる。つまり帰る日常はないのだ。愛した人は、自分とのことを過去として未来に向かって歩き出すが。そこに自分はいられない。

 

「面倒な奴!こっちは面倒な女じゃないのに」

「人はそれぞれなのさ。相棒」

 

 そういえばこいつとは2年の付き合いだな。

 余計なことを考える自分に、泣きわめくつもりかバカ女!と内心で叱咤し車に乗り込んだ。

 

 とにかくこれまでは運が良かった。

 これからも運がいい、はず。

 

 

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 ボリビアでおこなわれたキングスレイヤー作戦の1年前。

 やはり(雷電)は戦場にいた。

 

 2018年、パキスタンはシャバッサバート空軍基地。

 ここで雷電という男は”伝説の傭兵”と呼ばれることになる事件を終わらせた。この時はアメリカ大統領襲撃の情報を入手、因縁からこれを阻止しようと動いたのだ。

 それは同時に、愛国者達と呼ばれた幻を利用する。新しい時代の悪との決着となった。

 

 

 最期の時は迫っている。

 雷電の鋭い一撃は、血塗られた暴力の夢を紡ごうとしたバカ騒ぎの命脈を断ち切っていた。

 

 これで雷電は、かつてはソリッド・スネークがそうであったように。

 彼が望まなくとも、人々は彼を新しい時代の”伝説の傭兵”として認識するようになる……。

 

 だが先人たちがそうであったように。

 この戦場から彼の耳元に毒のこもった囁きが、記憶が。雷電の中に残され、感染し、生き延びる(サヴァイヴ)――。

 

 スティーヴン・アームストロング。

 当時のコロラド州上院議員にして、次回大統領候補のひとりと目された男。

 政治家という大変な職に就いていながら、秘かに自らをサイボーグへと改造を果たしていた狂人。

 

 その彼が、雷電に負けた。

 

「敗れはした。だが短くとも俺達のこの闘争は、実に素晴らしいものだった。そうは思わないか、雷電?」

「……その夢は潰えた。俺が終わらせた」

「お前はそれでいい。この俺が、お前が倒した俺達全員が敗北と共に認めようじゃないか。

 雷電、お前はこれからもその力で……力いっぱい、気に入らない相手を。クズども、ムカつく奴らを。思いっきりぶちのめしてやればいい。

 それこそが、俺達の新しい時代の、俺達が夢にみていた新たな闘争に、生き生きとした彩を――」

 

 もはや人間の眼球ではないそれは冷たく輝き、雷電は容赦なく分厚い敵の胸板を貫く刀をひねり上げ。呪いと共に紡がれていた思いの詰まった言葉を最後まで言わせまいとした……。

 

 こうして新たな伝説は闇の中を輝き、走り続けていくことになる。

 

 

 時を経て2025年――作戦開始直後。

 マレーシアにある小さな発着場に、中国系でオールバックのホワイトカラーが無表情に誰かを待ち続けていた。

 リムジンが乗り付け、そこに客人を下ろす。姿を見せたのは雷電だ。

 ビジネスマンの表情が初めて驚きのそれに代わる。

 

 伝説の傭兵、雷電の姿は今ではどこの国でも姿はあの強化外骨格で重武装されたサイボーグと認識されている。

 だが今、目の前に立つのは気軽に旅を楽しむようなバックパッカーのような。普通の人――に見える。

 

「あんたが紹介してもらったミスター・リン?違ったかな」

「いいえ、そうです。待ってました、ミスター・ライトニングボルト」

 

 事務的に交わされる挨拶の間も雷電は笑みを浮かべている。

 

「紹介者の話じゃ、あんたにまかせたら俺を好きなところに放り込んでくれるという話だったが」

「ええ、お望みは聞いています。アウロア諸島への片道切符、フライトの準備も完了、出発時刻はあなたにあわせて始められます」

「それは凄いな――それじゃすぐにでも?」

「ええ、それがお望みなら。到着までは4時間ほど、片道なので着陸は期待しないでください。飛行中のアナウンスはございません。ブザー音の後は重力が機嫌を損ねてないことだけをお祈りください」

「わかった。サイボーグでも落下死はしたくない」

 

 2人は並んで飛行物隊に向かって歩き出す。

 

「情報が入ってます。最新のものです」

「ああ」

「作戦本部は計画の発動を早めたようですよ。すでに秘密部隊(ゴースト)はアウロア諸島へ侵入――」

「へぇ」

「ええ、全機が撃墜された模様。搭乗者の生死は不明、だそうですよ」

「……マズいな、古い友人たちは無事だといいが」

(そうですね。でないとあなたの任務もやりずらくなるでしょうから)

「他には?」

「おそらくですが依頼人からのメッセージと思われるものもあります」

「ああ」

「読みます。『雷電、魂を失った亡者(ゴースト)と戯れすぎて戻れなくならないように』だそうですよ」

「老人が良く言うなぁ」

 

 雷電にはそのメッセージの主がだれかわかってるのか、皮肉な笑みを張り付かせていた。

 

「そうそう、前もってお預かりしていた品はもう乗せてあります」

「よかった」

「ただ重量の問題が――なので別にポッドをつけてそこに積み込みました。島には運び込めますが、恐らく現地で探してもらう必要があります。あ、探しやすいようあなたの情報端末にツールを入れてあります。それをお使いください」

「誰かにとられたりしないかな?」

 

 雷電は不安からそう口にしたのだろうが。ビジネスマンはそれをジョークと受け取ったようだ。

 笑い声をあげると

 

「アレを欲しがるなんて、そんなまさか。ただの人間にはあれは刃物が付いた鈍器でしかありません」

「だからこそ欲しくならないか?」

「なりません。なったとしても、持ち運びには苦労するでしょうね」

 

 20分後、空の彼方へと消えていく飛行物体をビジネスマンは彼にしては珍しく。感傷的な気持ちで見送っていた。

 

 

 アウロア諸島北西部、白十字山。

 雪が凍り付く斜面を昇りつめ、俺は頂を目指していた。

 先程も確認のために起動した端末によれば、目的のものはよりにもよって頂上付近にあるとわかっている。

 

 ノマドはずっと疑っていたが、奴の言う通り。

 俺には俺で目的があってここにやってきた。その任務はゴーストの誰にも伝えるつもりはない。

 

 だがアウロア諸島の中で騒ぎが起きていることだけは理解していたし、ウォーカー元中佐がいることも知っていた。

 でも今の状況はそれ以上に悪いのだと、漂う空気の匂いと経験からひしひしと感じられる。

 

 とりあえず計画は立てた、即興だったが。

 当分は地元の住人達とノマドに力を貸すことが近道だろうと思ってる。恐らくはノマドも、自分と別れての単独行動を希望したのはこちらには知らせたくないなんらかの考えがあってのことだと思う。

 まぁ、それについては戻ったときにでも話せばいいか。

 

 

 苦笑いを浮かべつつ、雷電はついに頂上にたどり着く。

 なんとも絵になる光景だった。

 雪の中、まるでゲームか映画の世界のように。そこに自分を使える選ばれたものが来るのを待っていたかのように。

 ひと振りの日本刀めいたそれは大地に突き立っていた――。

 

 雷電はそれに手を伸ばすとアッサリ引き抜いて見せる。

 

 手に取って鞘のまま、軽く振る。

 全長、約115㎝は打刀と呼ばれる一般的なものと比べるとやや長めで。並べてみれば、刃の長さだけでこちらは15㎝は長さが違うと目でわかる。

 普通の刀のように鍔はないが、鯉口と”はばき”にあたる構造が残され。刀身と柄の違いを示している。

 

 使われている合金は確かに重さはあるが、ミスター・リンが言うような「ただの人間には刃のついた鈍器」というほどではない……はずだ。少なくともそういう注文で作らせたのだから。

 

「勇者の剣、冗談だろ」

 

 背嚢にそれを”装着”させると、立ち上がっていきなり今度はそれの抜き、構え、戻しを一動作でおこなってみる。

 達人のようなその正確な動きに空気が次々と切断され、音を立てることなく刀は元のさやに戻っていく。

 

 満足そうな笑みを浮かべる雷電であったが。

 ふと、どこからか騒ぎのような音を聞いた気がした。

 軽く周囲を見回すが、なにかあるわけでもなく。だが確かに特定の一方向から妙に気になるものを感じる。

 

「――見てみるか」

 

 雷電はその方角を向いて腰を下ろすと、片手でのぞき穴を作り。それを目に当ててみた。

 人口の眼球はそれに反応し、遠景を見つめる倍率を跳ね上げてくれる。

 

 爆発音や何かがあったわけではないが。

 しかしそこの木々から”何かの騒ぎ”によって慌てて逃げようと飛び立っていく鳥たちの姿が確認できた。

 

――何だろうな

 

 興味がわいてきた、トラブルの匂いがした。

 目を閉じたまま立ち上がり、山頂で軽くストレッチした後。一回だけジャンプする。

 

 薄い空気と浮遊感、それが自由だと感じさせてくれる一方。脳内のスイッチを切り替える。

 

 そこから始まったことはあまりにも現実離れしていた。

 サイボーグは着地からグラリとその不安定な足場にもかかわらず前傾になり、そして爆発的なスピードで走り出した。まるでオリンピックの短距離走、そのスタートで見ることのできるそのままの勢いで――しかしここは高山の山頂、斜面は転がり落ちれば怪我では済まないかもしれないというのに!

 

 雷電は斜面を足から迸る光をまとわせ、駆け下りてみせた。

 

 

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 運のよい時間はとうとう終わりを告げてきた。

 

 山道を走って山に入ると、しばらくして突然にうっそうとした木々の中にスケルテックのものらしき電波塔に出くわしたのだ。

 それを気にせずに通り抜ければよかった。

 だがこちらは物資に乏しく、情報も又乏しかった。それが何なのかを知らなかった。

 

 無人の気配だったことから、軽い気持ちで車を降り。それでも静かに電波塔らしきそれに近づこうとした。

 いきなり響く警告音は体の中と外で一斉に鳴り響く!

 

 そばに転がっていた岩場の影からそれを警告音をがなり立てて勢いよく飛び出してきた。自動車のようだが、動き方がおかしい。

 こちらもそれを確認しないまま、それでもスイッチが入って動き出した。それが命を救った。

 

――ベヒモス

 

 スケルテックが開発、緊急配備しようと開発中だったAI搭載型の大型の攻撃ドローン。

 その圧倒的な火力と防御力は、私たちの今の火力ではどうにもならない相手だった。

 

「隠れてた!?」「よせっ、逃げろ!」

 

 ヴァシリーは足を止めるなと言っている。

 足を引きずりつつも、信じられない速さで前を行く彼についていく。わめき散らす後方のロボットは、激しく左右に運動したと思ったらいきなり攻撃を仕掛けてきた。

 

 ミサイルらしい発射音が続き、それが終わると聞きなれたマシンガンの発射音が鳴り響く。

 

――嘘でショ!?

 

 森の木々はマシンガンによって幹を砕かれ、穴を作って崩れていくのを近くで感じた。

 そして木々の上から降り注ぐそれは、斜面を駆け下りる私たちに向かってきて。命中はしなかったがその爆発の衝撃で互いにバランスを崩すと、斜面に体は投げ出されていた――。

 

 

 そういえば昔、聞いたことがある。

 クマの巣穴を見つけ、使い古したものに見えたからと中に入ってみる。

 だが曲がりくねった巣穴の最深部が見えてくると、そこから入っていくコチラを見つめる目があった――。そんな嫌な逸話のことだ。

 

 母は嫌っていたが、カナダに一時期住んでいた父は銃と猟を愛していた。

 人が持つ原初の衝動が猟であり、人が持つ知恵がもたらせた道具が銃だと語っていた。

 父はこの話で私が怖がることを期待していたようだが。困った娘はいつだって賢いふりをしてそんなバカはしないと切り捨てていたっけ。

 

 彼らが生きていて、もし運よく生き延びれたら私は間違いなく話していただろう。

 あんなに賢かった娘も、大人になったら結局クマの巣穴に潜り込むような真似を普通にやっていたって……。

 

「……パー。ヴァ……っ!しっかりしろよ、起きろ!」

「ん?あっ、滅茶苦茶痛い」

「馬鹿野郎!状況を考えろ、何変な声上げてんだよっ」

 

 焦っている相棒の声に、自分達の状況を思い出してきた。

 歯を食いしばりながら体を起こし、周囲を確認する。とくにない、何も追手は来ない。

 

「アレは?いないの?」「ああ、あそこ守ってたようだ。俺達はウッカリそこに足を踏み入れちまったらしい」

「あれはクマの巣穴だったか……」「あ、なに!?」「なんでもない」

 

 ライフルを構えながら立ち上がろうとするが、なぜか相棒はいきなりこちらの足を払って再び引き倒す。

 思わずカッとなり怪我人を怒鳴りつけた。

 

「なにするんだよ、このクソ野郎!盛ってここでヤリたいってか!?」

「そうじゃない、顔を低くしろ。チクショウ!」

 

 何なんだよ――そう思いつつ、相棒が覆いかぶさってこないって理由だけで体の力を抜き。仰向けになった上空を見上げてみた。

 その時、自分達の真上にある空を横切っていくなにかを見た。

 あまりにもそれは高いところにいたので本当に肉眼で見えたはずはないかもしれないが、その”機体”から何かが地上へと投下される瞬間も確認した。

 

 死んだ、そう思った。

 

 それは最初、爆撃機から投下する10トン爆弾を連想したからだ。

 地上でちょうど寝っ転がっているこちらは避けることも出来ずに綺麗に吹き飛ばされるはず――。

 

 だがそんな嬉しくない予想は外れてくれた。

 それは普通に地上にまで落ちてきて、転がる2人のそばで転がっただけだった。不発弾?違う。

 

 いきなりだった。

 激しい頭痛とギィーンと頭蓋を震わす音に顔をしかめ、うめいてしまう。

 一瞬の不愉快な苦痛が消えていくと、落下物はいつの間にか赤い閃光と共にモクモクとピンク色の煙を吐き出してそこにいる。

 

「――なんだ?」

「マズい、マズッ!見つかった!!」

 

 恐怖が思い出された。

 あの夜、必死に逃げ回るこちらを狩ろうとした部隊。上空を通り過ぎたあれは無人偵察機で、そいつが残していったこれは奴らにエモノの位置を知らせる事。

 

 そう、まさに運はこの瞬間に尽きたのだ。

 

 

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 その夜の呼集は、まさに運命の夜だったといえるだろう。

 この新しい部隊の新しいリーダーの前に整列する彼らは、どれも最新鋭の装備に身を固め。時が満ちるのを期待と興奮で待ち構えている。

 

「戦士の価値はどう確かめたらいい?答えは簡単だ、戦えばいい」

 

 そう、彼らは現代の戦士。

 暴力は使うが。それは狩りをするため、獲物の血を流し、その命を喰らうため。

 

「もうすぐ戦いが始まる。ここにいる狼達がそこで目にするのは、かつての自分達の姿、亡霊だ。

 にっこり微笑んでやって、握手をして抱き合うなんてことは起こらない。決してな。

 

 そこにはかつての自分はいたが。戦友も仲間も、今はいない。

 何かを感じたとしても、お互いが感じるのは自分の飢えだけだ。弱さはすぐに結果に出る、強い奴が勝つからだ」

 

 本当の戦士は今はここにいて、隣にいる。

 亡霊は狼ではない。生きてすらいない。

 

「ゴーストにも輝かしい歴史はあった――だが、その古いやり方が時代から見放された。取り残された!

 戦士の価値を見ることはなくなり。つまらない理由と政治で、誇り高い戦士が立つ戦場を遊び場にしてしまった……あいつらにはなにも期待は出来ない。

 

 だが俺達は違う!

 ここにいる者は全て己の使命を理解している。真の戦士に必要なのは過去じゃない、未来の栄光だ。

 優れたテクノロジーを使い、わめいて声が大きいだけの羊の群れを囲い。俺達はようやくふさわしい、今の姿を。この姿を手に入れることが出来た。

 

――それが狼だ。それが俺達だ。

 

 お前たちを見て、俺は誇りに思う。

 正しくあるべき姿をもって、強いアメリカの未来を再び実現させる強い部隊がここにはある。

 今夜を過ぎれば、世界は俺達の存在を知る。戦いはようやく表に出てくる、あとは結果が俺達の価値を証明してくれるだろう」

 

 誰も何も口にしない。

 ただその言葉に入る熱が、大きくうねりをもって彼らの中を駆け回っていた。

 

「世界は俺達を必要という。だから勝利を掴む!勝利は、俺達に新しい歴史を与える。

 それはつねに後ろに、過去にあるものじゃない。前、俺達の前に存在する。俺達は甘いことは考えない。だから時に勝利が難しいことも知っている。

 

 だが心配はいらない。

 お前たちには勇気がある、未来を見つめる目がある――それが俺達が歴史に刻まれる理由となる!

 

 狼になれ、友よ!戦場に飢え続ければ、お前たちは狼となれる。人は捨てろ、狼になれ」

 

 コール・ウォーカー元中佐が率いる部隊の名はウルブス。

 誇り高い狼たちの軍団、その正体は彼と同じ元はゴースト出身者たちで構成されているという。

 その名前と経歴は伊達ではない。それぞれが高い技術と経験は戦場では大きな武器となる。さらに今の彼らにはスケルテックの最新技術を用いた最高の装備がある。

 

 腹のふくれた狼は決して無駄な殺しはしない。だが飢えている限りは、その視線にはいる獲物を襲うことに何のためらいもない。そして狼は終わらない上の中、最初の獲物を追い始めようとしていた。



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回転

ゴースト部隊の2人はウルブスに発見され、追撃を受ける――。

次回より当連載は不定期更新となります。
ご協力ありがとうございました。


 3:2の追跡は長くは続かなかった。

 

 追い立てられ続けた獲物は本人が思っている以上にボロボロにされていて、再び距離をとりたいのにそれが出来なくなっていたからだ。2人に出来る事と言えば距離が縮まるのをどれだけ遅らせられるのか……終わりは見えていた。

 

 後方から飛んでくる火線は私に集中していた。

 屈辱と怒りから下唇を噛むが、だからって取り乱したりはしない。私にはわかっている、あいつらの考えは”まったく正しい”のだから。

 

 逃げている女だから、弱いから狙っているわけじゃない。

 片方が大きな体の男で、もうひとりが小さいというただそれだけの理由なのだ。

 ウルブスにとって――あいつらにとってヴァシリーはもう仕留めたも同然で、元気な私が逃げられないようにすることを考えているから、撃ってくるに違いないのだ。

 

 そうしていれば必ず彼らの前に――。

 

 自分のそばをヒュンヒュンと弾丸がかすめて飛んでくる恐怖、精神的な重圧。それらに潰されまいと必死になるのに、どうしても「ぐっ」「うっ」と口から小さくても声が漏れ出てしまう。荒い息にそれが混ざってしまうのだ。

 血が出るほど噛みたくても、長くは出来ない。死が迫っている、それどころじゃないんだ!

 

 私は決して弱くはない。厳しい訓練と実戦も経験した。

 今の相棒も、ヴァシリーだってそれは理解している。私に女としての気づかいはいらない。

 だが”私達”のような兵士は簡単に決めてしまうことが出来る。仲間のため、任務のために。それがもしかしたら希望となるかもしれない、と。

 巨体を小さくしながら足を引きずっている彼が、私の後ろにつく体制にはいると。そこから徐々にその体が浮き上がっていく。

 

 それを見た狼たちの牙が鋭さを増す。

 もういい頃合いだ、仕留めるのに十分だ。必死に逃げていた私は気が付けなかった。

 

 ひとりのウルブスが明らかに異常な加速を始めた。

 捕食動物が時折、獲物を使って遊んで見せる残虐性があるように。ウルブスたちの動きに変化が生まれた。

 

 グングンと距離を詰めてくるとそれに気が付いたヴァシリーはたまらず足を止め振り返ろうとした。バランスを崩しながらの疾走中では銃の引き金に力を、もう彼は込める力が残っていなかった。

 

「畜生!くらえよっ」

 

 最後だと向けようとした銃口は、火を噴くことはなかった。後ろから追ってきたウルヴス達の正確な射撃が始まってヴァシリーはついに呻きながら膝をついたからだ。その横を突出したウルブスは通り過ぎると、ようやく後方の異変に気が付いた私の足下にとびつき、転がしてきた。

 

 私は転がりながらナイフを抜くが、立ち上がった時にはもう3人に囲まれて――。

 

 

 にらみ合いは短く、冷静になった私はすぐに降参した。他にできることはなかった。

 ナイフで決着付けようと飛び掛かってもまだ2人残ってる。いまの私とヴァシリーに格闘して3人を殺す力はない。

 

「――班です、ゴースト残党らしき2名を確保。指示を」

『本当にゴーストか?』

「部隊章がバラバラですが、連携はしっかりしてた。間違いないです」

『わかった。すぐに処分しろ――遊ぶなよ?仕事はまだ残ってる』

「残念、でも了解」

 

 私たちの運命はすぐに決まった。

 

「よーし、でかいの。最後は仲良く並んで終わらせてやる。立てよ、頑張りな。お嬢様のいるあっちまでな」

「……人質にもとらないとはな。お前ら、アメリカ軍を相手にするなんてな。正気か?」

「俺達が仕留めたのは弱くて役立たずのゴースト(幽霊)だ。誰も気にしやしないさ」

「そんな理屈――」

「いいから立て!歩けよ!」

(ヴァシリー!?)

「生憎とボロボロでね、もう動けない。肩を貸してくれないか?」

「……ふざけてんのか?」

 

 あがくにしたってこれは最悪だ。ギャングの私刑じゃないんだ。

 背中を向けて膝をつき、手を頭の後ろにやっていた私にはごねる相棒の顔も姿も見えなかった。

 

「もういい」

 

 BANG!BANG!

 唐突な終わりは何が起きたたのか。後ろを向いて確かめようとする私を、敵のひとりは許さなかった。

 

「おい!なんでいきなりヤったんだよォ」

「遊ぶな、と指示を受けてる。ゴーストはこいつらだけじゃない、島にはまだ数人くらいコソコソやってるんだ。ここでノロノロやってたら。戻ってウォーカーにどやされる。俺は御免だからな」

「チッ、つまらねぇの」

 

 私は小さく息を吐いた。恐怖で喉を締め上げられている感覚だ。

 アウロア諸島のポニーとクライドは。オリジナルと似た最期を迎えそうだった。

 

 ポニー&クライドか……。

 彼らは逃げようとして追ってきたテキサスレンジャー4名と警官の銃火にさらされた。

 追ってきた方は犯人を生かすつもりは最初からなくて、戦争を始める気で武装していた。マシンガンやライフルが並び。そこから150発以上が2人に発射され、半分以上の弾丸が2人の身体を引き裂いた――ああ、こっちは恐らくそれよりも少ない弾数で決着するだろうけど。

 

「女もやるのか?」

「違う!そいつは女じゃない、ゴーストだ。つまらないことを考え――」

 

――遅かったか

 

 音もなく雷が太陽に下にある草原の中を走り。誰か、男の声が聞こえた気がした。

 自分を迎えに来た死神にしては、随分といい男だった。新しい登場人物、彼を見た最初の感想。

 

 銀髪で、線が細い――でもどこにでもいるようなイイ男。

 なぜか彼の周りでパリパリとしびれるような音と、光が――電気が走っているように見えた。幻覚だろうか?

 

 でもここになぜいるのかがわからない。

 なぜこの死神は平然と、それも「遅かった」なんて口にしたのか?それはわからなかった。

 

「――撃てっ!」

 

 ウルブス3人が素早く動きを見せたが、銀髪男の動きの方が速くて――まさに雷だった。

 聞いたことのない空気が避ける音。空間に走る、幾条もの銀線。いつのまにか彼の姿勢は変わり、その手には日本の侍ブレードのような武器が握られていた。

 

 映画でも見ているのだろうか?

 サムライマスターがそうしたと演出があるように、わずかな静寂と間に刺激的な匂いが漂う。

 それが血の匂いだと理解した時。勝者と敗者がはっきりと表れる。

 

 相棒は死に、私は助かった。

 そして銀髪の死神は狼たちの躯の前で笑顔を浮かべて立っていた……。

 

 

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 エイホンへ戻るとマッズが待っていて、俺に聞いてきた「で、次はどうする?」と。

 もう、仲間を探しに行くなどと答えるわけにはいかない。俺は未練を断ち切るため、はっきりと口に出していった。

 

「新しい情報が手に入った。俺はこれからジェイス・スケルを追う。話によると奴はセンティネルに追われて――」

「ちょっと待ってくれ!

 まさかとは思うが、君たちはこの騒ぎがジェイスの責任だと、そう考えているって言うのかい!?」

 

 いきなり脇から声がして驚いた。

 みれば浜辺で救った親子――オヤジのほうのフォックスが声を上げていた。

 思わずマッズに(彼は何故ここに?)とジェスチャーで問うが。よくわからないというような首を振るだけの返事が返ってくる。

 

「違う、違うんだよ。彼は良い奴なんだ、悪者なんかじゃない。

 島を乗っ取ったのはセンティネル。あとウォーカーという男がやったんだ。その証拠もある、見ればわかる。いや、ぜひ見てほしい」

 

 やはり齟齬(そご)がまだあるというのか。

 この混乱の中では正確な情報はのぞめないのだろうが、それでも動くなら出来る限り確実な線で動かないと余計な仕事を増やすことになる。フォックスは興奮したまま勢いよく「来てくれ」とだけ言い残して立ち去っていってしまう。

 こっちはまだ話し終わってないんだが。

 

「あんたはこのままあれを追いたいんだろうが、もう少し待って――」

 

 マッズがそう言いかけると入り口の方が騒がしくなった。会話をまたも切り上げてマッズとノマドは並んで入り口に向かう。

 そこでは雷電が喜びと悲しみを携えて立っていた……。

 

「くそっ、雷電め。なんだよ、ヴァイパー!それにそいつはヴァシリーか?」

「ノマド……みんな」

 

 エイホンで仲間に迎えられたヴァイパー達の様子はひどいものだった。

 あの夜からずっと逃げ回っていたのだろう。ボロボロになった姿が痛々しい。だが――。

 

「おい、ヴァシリーは?そいつはなんで……」

「残念だ、ノマド。助けられなかった」

 

 答える雷電の肩に担がれ、物言わぬ死体となったヴァシリーがそこにいた。

 

「よし、もういいだろう。みんな、戻ってくれ!――ノマド、彼らはとりあえず医務室へ。騒ぎを鎮めたい。それと、話しはまだ残ってる」

「ああ」

 

 雷電の担ぐヴァシリーは留守番組に後を頼み、ヴァイパーと共に医務室へと向かってもらう。心が揺れる、まだあんな仲間が島にいるかもしれない。感情を殺す、そうしなければならない。そもそも出来る事がないのだから。

 

 そして俺は雷電とマッズの元に向かった。

 

「よし、話は逸れたが――とりあえずお前の仲間については残念だったと思う」

「ありがとう」

「だが、言わなくちゃならない。はっきりとな。

 死体はここには置けない。保管できる環境ではそもそもないし、子供や老人だっている。衛生に気を付けないわけにはいかないんだ。早急に遺体は何とかしてもらわなきゃならん」

「俺も仲間をあのままにはしたくない。できればアンタの方で――」

「いや、それは断る」「なに?」「あんたとあんたの部隊は追われてる。これでハッキリしたんだ。だとすれば気軽に引き受けられる問題じゃない」思考が停止した。感情が爆発しそうで、どうしたらいいのかわからなくなりそうだった。

 

 そこに雷電が割って入ってくる。

 

「落ち着け、ノマド。ここは俺が代わりに話そう」

「雷電――」

「なァ、シュルツ代表。あんたの言いたいことはこっちもだいたいわかってる。だが彼の仲間だった兵士だ、ここで殺された。任務中の死亡とはいえ、多くは望めないとしても。それが他人の手でもせめて尊厳をもって――」

「サイボーグ野郎、俺だって元兵士だ。そんなことは言われなくてもわかって言ってるんだ!

 

 冷酷だと罵りたいのか?好きにしろ、だが感情だけではダメなんだ!

 ここにいるのは、大半が俺のように地元にいてセンティネルに目をつけられた奴。それにスケルテックの研究者とその家族達だ。奴らは言いなりになれと家族を使う。それを守るためにここに逃げてきているんだぞ!

 

 でもまだ全員じゃない。

 今も奴らにとってどうでもいい住人達は自分のいるべき場所にとどまっていられるが。それは見張られてもいるってことだ。そこでいきなり葬式なんてやってみろ、誰が死んだのかと聞きに来るぞ。死体が本物かを調べだってするかもしれない。アンタらの仲間だとばれたらそいつらはどうなると思う?

 そうなったらアンタら、必ず救出してやるから大丈夫だとでも言うつもりか!?」

「――いや、出来ない」

「なら理解してくれ。俺はもう十分に出来る事はしてやってる。それ以上は求めるな」

「じゃ、知恵を貸してほしい。

 センティネルに気づかれず遺体を埋葬できる方法を」

「それについちゃ、聞く相手を間違ってるかもしれないぞ。

 ノマド、お前がさっき言ってたろ。ジェイス・スケルを追うって。奴に聞くといい考えがあるかもしれない」

「ジェイス・スケル?なんのことだ」「マッズ、奴は何を知ってる?」雷電の疑問をノマドは無視する。

「スケルの連中はこの島にハイテク施設をいくつも建てたんだ。色々なところに施設を作ったから、島のどこなら施設を占拠したセンティネルの目が届かないのか。それこそ地元の住人よりもくわしく知っているんじゃないか?」

 

 会話はもう十分だった。ノマドは黙ったままフォックスのところへ向かう。

 ジェイスは確かに誰にとっても必要だ。それも今、すぐにでも!

 

 

>>>>>>>>>>>

 

 

 フォックスの前に立ち、ノマドは「それで?」とだけ問う。

 てっきりついてきてくれると思ったら間を外されてしまい、さらにあらわれたと思ったらさっきとは逆に意気込む兵士にフォックスは困惑と弱気でタジタジとなっていた。

 

「えっと、とにかくジェイスじゃないんだよ。証明する証拠がある。内通者、だと思う。島内の回線を使って情報を発信している人がいるんだけど。これはその映像のひとつだよ。

 そこにセンティネルのトップが映って、信じられないことを言っているんだ」

 

 そういうと目の前の端末を操作した。

 

 

 映像は数分のもので、確かにスケルテック社内での映像のようだった。

 

 トレイ・ストーン。

 センティネル社CEOは、自分の部下に今後の島内での方針を命じていた。先程見せたマッツズの危機感はオーバーなものではないようだ。

 彼らは攻撃の対象を目障りになりつつある無害なはずの島民にまで拡大しようとし。その方法では収容所など作るつもりはないと、平然と言い放っている。

 

 つまり虐殺がお望みというわけだ。

 ノマドは状況がさらに深刻になっていくのを知って喉の奥で唸り声のようなうめきをあげてしまう。

 

「どうだい?ひどいだろ?こんなこと。だから絶対にジェイスの訳がないんだって」

 

 フォックスの言い分もわかるような気がする。

 自分の会社に集めた天才たちと住人を攻撃するようなこの指示は理性的とは言えない。ハリウッドのアクション映画のようなボス気取りが世紀の天才などとよばれるだろうか?現実味がない。

 

 とはいえノマド――いや、ゴーストにも言い分はあった。

 

「……いいか?あんたはそう言うが、俺は奴が事件に関与したと示す証拠を見てる。ジェイスは米軍の輸送艦を沈めた、他にも聞きたいことは山ほどある。あんたが保証すると言っても、簡単には信じられない」

「こんな状況になるまで放っておいた。そのことだけでも彼には責められる責任があるはずだ。ノマドが言うようにそれを無視はできないんじゃないか?」

「君達は――それじゃ約束してくれるだけでいい。せめて彼の話も、ちゃんと聞いてやるって」

 

 本当は会うなり殴り倒して引きずり回し、血を吐く想いをさせた後でたっぷり話を聞いてやりたかったが。

 フォックスがここまで擁護する相手となれば、こっちのやり方を譲歩した方がいいのだろう。

 

「わかった約束する。その代わり情報をくれ。彼はセンティネルからも逃げていると聞いている」

「それじゃ、彼の家に行ってみたらいいと思う。ここからだと丘の向こうにあるよ。彼なら誰かに知らせようとそこに手掛かりを残していると思うんだ。

 セキュリティは生きているから解除コードも教えるよ。利用してくれ」

「よし、それで手を打とう」

 

 フォックスに背を向けると目の前に雷電が立っていた。

 奴は何も言わず「いくぞ、ノマド」と言っているようにみえた。まるであの時の、俺達のように――。

 

 

>>>>>>>>>>

 

 

 カタリス26、我らの予備戦力は囚われていたリーダー復活と共にキングスレイヤー作戦は開始された。

 雷電の存在は当初こそ問題になるように思えたが、そんなことはなかった。

 

 指揮系統はボウマン、俺達、雷電の順であると明言され、本人もそれを了承していると口にしたからだ。

 そして実際、奴は飼われた犬のようにこちらの考えに特には意見を口にすることはなかった。

 

 だが安心はできなかった。作戦中、奴が何を考えているのかわからない。時に暴走したかのような態度をとると。信じられない曲芸をやって見せ、俺の考えた以上の結果を導き出すことが何度もあった。自分は飼い犬とは違う、そんな緊張感はいつもあったと思う。

 

 あれはボウマンの指示で奴らのプロパガンダ部門を攻撃した時のことだ。

 

 スエ―ニョは自身と自身の組織の悪評をとにかく嫌っていた。

 そこで自分が望む情報(英雄と讃えられる)を発信するため、多くの方法を持っていたが。その中で特に重要だったのが彼らカルテルが信仰する新興宗教である。

 

 ボウマンとノマドは当然これも叩き潰すことは決めていた。

 目を付けたのはセイントメーカーと呼ばれた女だった。

 

 彼女の役目は教会に属するカルテルのメンバーの憧れとして、組織に縛り付けるための忠誠心を植え付けさせることにあったと考えられていた。だが所詮はカルテルに雇われ、ボスであるスエ―ニョと同じく麻薬の金で作られたヒロインに過ぎない。彼女の説教から良く使われる単語として金に関係するワードをボウマンが見つけ出してきた。

 

 ノマドはカタリスの情報で金の関係する取引を中心に襲撃を繰り返した。

 組織が攻撃されていることを知っていたスエ―ニョはこれに期待通り敏感に反応する。組織への憎悪、とくにセイントメーカーに向けたと思われるこの一連の攻撃から。スエ―ニョは彼女に責任を取らせることを要求した、予想通りに。

 だがそれは無駄な事だ。なにせその時の彼女はすでにゴースト達によって丸裸の状態にされ、妄想にすがるただの無力な女性になっていたのだから。問題を解決できないと知って怒れるボスが、無能な部下を粛正するのは避けられない状況へと追い込まれていく。。

 

 だがここで内部で意見が分かれる――。

 ノマドはこのままスエ―ニョの手でセイントメーカーを殺させようと主張したが。CIAのボウマンは強くこれに抵抗し。最終的に上官の立場からゴーストと雷電に命令は下された。処刑されるセイントメーカーを確保せよ、と。CIAは彼女を組織壊滅の情報屋として使うつもりなのだ。

 

 

 しかしここにひとつ誤算が生まれていた。

 雷電が作戦が下される直前に別のファイルに目を通していたことを誰も知らなかったこと――。それは政府の内部文書であり、作戦に携わるものなら全員が目を通していたものの。ただひとり部外者の立場(よそもの)だった雷電だけは知らなかった。ただそれだけの、はずだった。

 

『スエ―ニョの犯罪記録:殺人7.000件、行方不明17.000件、誘拐 及び 児童誘拐……12.000件』

 

 ぼそり、感情の消滅した声で雷電は呟く「児童誘拐、だと?」と。機械の体の奥底で燃え上がる真っ赤な炎が生まれた瞬間だった。

  

 戦場では時折、そこに白髪の夜叉があらわれると兵士達は噂している。夜叉とは悪魔とは違うのだそうだ。

 それは(デーモン)でもあるが、(ゴッド)でもある。よくわからない存在。

 

 だが俺達はこの白夜叉が誰かは知っている。そいつは間違いなく怒り狂っていた。

 続く任務で、俺達はそれを目の当たりにした。太陽の下だろうと、闇の中であろうとそれは関係なかった。血の雨が降り続け、なのにジャングルの草木が哀れなシカリオ達の躯を覆い隠してしまった。



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