青年の異世界戦記〜ありふれた職業で世界最強〜 (クロイツヴァルト)
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プロローグ

えー、今回もまた他の作品が完結しないまま投稿する形になりましたが、Web版を読んでいたのですがアニメ版を一気見してテンションのままに書いたので不定期更新となるかもですがご容赦ください。主人公の設定はそろそろ詳しく書こうと思いますがそれまでは他の小説を見て補完してくださいm(_ _)m


 ある教室の中で大勢いる生徒がある2人の生徒を遠巻きに見ていた。

 

 「おい、檜山またハジメをいじめているのか?」

 

 「御坂何の事だよ⁉︎」

 

 「あいも変わらずつまらん男だな。自分よりも弱い者にしか威張れぬ小物が」

 

 赤茶の髪の不良の生徒は金髪で目付きの悪い生徒に詰め寄られている

 

 「テメッ!」

 

 「ほぅ、やるか?この俺と?」

 

 睨み拳を握る檜山と呼ばれた生徒に御坂と呼ばれた生徒は不敵に笑う。

 

 「もう!止めなさいよ二人とも!」

 

 藍色の髪の女生徒はそんな二人の間に入り仲裁をする。

 

 「なんだ白崎、俺はこのバカに教育的指導をしてやる所だったのだが?」

 

 白崎と呼ばれた女生徒は御坂に体ごと向き直り   

 

 「御坂くんも弱い者イジメはダメだよ!」

 

 「っぐ!」

 

 白崎に弱い者とされた檜山は苦虫を噛み潰したような表情になり御坂はそれを見て笑いを堪えるのに必死であった。

 

 「ククックハハハハ!無様だな檜山よ!貴様の嫌う弱者と見られるとは滑稽よなぁ。」

 

 「御坂、テメェ!」

 

 歯を剥き出しにして尚も睨む檜山に対して御坂はこのクラスの担任である畑山愛子を見るが今の現状にアタフタと右往左往しているのであった。

 

 「はわわッ!け、喧嘩はいけませんよ!」

 

 「ん?」

 

 そんな時に御坂のいや、教室の床全体が光り始める。

 

 「これは!?」

 

 「皆!教室から出て!」

 

 誰かが叫び愛子が生徒に呼び掛けるが虚しく光が強まり次の瞬間には教室の中は文具やお昼の時間であったのであろうか床には弁当が落ちているのみであった。

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 「…ここは?」

 

 御坂が目を覚ますとそこはどこかの祭壇か大広間の様な作りをした所であり周囲を見れば等間隔に跪き祈りを捧げる人々がいた。そして、周囲の状況が分からずに困惑する生徒の中で未だに気絶をして彼の足元で気絶している南雲に御坂は戸惑いも無く足で南雲の腹を踏むのであった。『外道だ⁉️』

 

 「ゴッフッ⁉︎」

 

 「目が覚めたか、ハジメ?」

 

 この男踏んだ相手にしれっとそんな言葉をかけるのである。

 

 「か、戒翔もう少し起こし方ってものが無かったのかな?」

 

 「ふん、野郎を優しく起こすだと?そんな事をこの俺がするものか。 それよりも周りを見てみろ貴様の好きそうな状況だぞ?」

 

 「これは」

 

 「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎いたしますぞ。私は、聖教会に置いて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルトと申す者。以後、宜しくお願いいたしますぞ」

 

 そう告げたのは周囲の跪く人と同じく白の法衣でありながら一際豪華な造りをした法衣を着た老人であったが身に纏う雰囲気だけは老人らしからぬものであった。

 

 「ふん、好好爺の様な雰囲気だが胡散臭さが滲み出ているな。」

 

 「か、戒翔、なにを言ってるの?」

 

 「…まぁいい。他の者達も移動する様だから俺たちも移動するぞ」

 

 「あ、待ってよ!」

 

 戒翔が歩いて行くのをハジメは慌てて追い掛けるのであった。そして現在はどこかの城の様な造りでとても大きなテーブルが幾つも並び傍目からも調度品や絵画など素人目から見ても価値がありそうな物が並んでいた。おそらくは晩餐会などの行事に使われる部屋である事が見て取れた。

 

 道中で教皇イシュタルが後ほど説明すると告げた事や、突然訳も分からずにこの様な所に連れて来られて騒がないのは未だに現実として受け止め切れていないのとクラスメイトの中で持ち前のリーダーシップを天之河光輝が遺憾無く発揮してクラスメイトを落ち着けたからである。これには一緒に連れて来られた担任の愛子先生も涙目である。

 

 「ふぅん、それなりの物が置いてあるのだな」

 

 「か、戒翔、そんな事言って大丈夫なの?」

 

 「お前は気が弱すぎる。そんな事ではこの先やっていけるかどうか分からんな。」

 

 「それはどう言う」

 

 戒翔の言葉にハジメが聞き返すがその最中にこの大広間に大小様々なカートを押しながらメイド達が入室した事によって場の雰囲気が変わる。クラスの男子の大半がその入ってきた美人美少女と呼ばれる部類に入るであろうメイドを食い入る様に見る中で対照的に女子の視線が絶対零度をもって男子達を見る。

 

 「さて、あなた方においてははさぞ混乱している事でしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞きくだされ」

 

 イシュタルはそう告げる中、戒翔はそうそうに興味を無くし背もたれに背を預け自身の中に語りかけ始めるのであった。

 

 《ナハト、現在の状態で起動は出来るか?》

 

 《問題なし、いつでもイケるよ?》

 

 《そうか、今はまだ経過観察で静観するが話の内容が胡散臭過ぎる》

 

 《だよね、っとなんか周りが騒ぎ始めたけど?》

 

 《まぁ、連中も何も知らずに平和な国から無理矢理連れて来られた訳だし帰れないとか言われたらそりゃ文句も出るわな》

 

 「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味が無い。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺には出来ない。それに、人を救う為に召喚されたのなら、それが終われば返してくれるかもしれない。………イシュタルさん? その所はどうなんですか?」

 

 「そうですな。 エヒト様も救世主の願いは無下にはしますまい。」

 

 「そうですか。それなら」

 

 イシュタルと光輝の話の中を割る様に突然手を打ち鳴らす者がいた。それは

 

 「か、戒翔急にどうしたの⁉︎」

 

 「いやはや結構な御高説をどうも、自分に酔っている野郎の言葉のなんと胸糞の悪くなる話なもんでな。」

 

 「御坂くん、僕のどこが自分に酔っていると言うんだ?」

 

 「全部だ全部。 貴様は戦うと言ったな? では何処で? 誰と?魔物か?それとも襲ってくる魔族とやらか? そも俺達は戦争を映像としてしか知らんくせにその悲惨さも知らぬくせによく言えた物だな? 爺さん、その所はどうなんだ? 戦う術を教えるのは良いが対人戦となればこの場の俺たちはどうしようもないと思うが?」

 

 光輝の言葉を真っ向から叩き潰す様に告げる戒翔は続いてその場を静観していた老人にその矛先を向ける。

 

 「あなたの言いたい事はわかりましたが、これはどうしようもない事なのです。」

 

 「違う、俺が聞きたいのはそう言う事では無いわ。 現状をどう説明された所で覆しようが無いのは一目瞭然であろう、ならば改善する為の次善策がある筈であろう? それを早く提示すればこの様な茶番をせずに済んだであろう?」

 

 戒翔の言葉にイシュタルは一瞬だが忌々しい表情をするがそれもほんの一瞬での事で戒翔以外はそれに気付く者はいなかった。

 

 「確かにそうですな、わたしの話が長すぎてその事を告げる前に話が逸れてしまって申し訳ない。 勿論、皆様にはこのハイリヒ王国の選りすぐりの騎士団と騎士団長が直々に訓練をつけて下さいます。 それに皆様方には素晴らしい我々には想像もつかない御力をお持ちの筈です。 彼の国では既に勇者様方の受け入れが整っておる筈です。 この教会には移動する為の転移の術式がありますのでそれで移動してもらう事になりますな。」

 

 そう告げるイシュタルだが、戒翔を見る目だけがまるで怨敵を見るかの様な目付きであった。

 



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第一話

 

 クラスメイト達はイシュタル先導の下で本山を出る正面の門は荘厳な造りをしており皆がその凱旋門もかくやと言った門をくぐりながら外に出ると目の前に広がる雲海、そしてその上を照らす太陽の光に反射してその雲海がキラキラと輝く。その光景にもまたため息を吐きたくなるほどに幻想的であった。

 

 そして歩いた先にあったの柵に囲まれた巨大な円形の白い台座であり彼らが召喚された時にあった物よりもなお大きく、その台座には同じく巨大な魔法陣が刻まれていた。その中で生徒達はその台座に乗るが柵の向こう側は一面が雲海の為にもしもの為に中央に寄り集まる。それを見たイシュタルは何やら唱えはじめるのである。

 

 「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれんーー〝天道〟」

 

 その瞬間、足下の魔法陣が光り輝きだしそのまま台座がまるでロープウェイの様に滑り出し、地上に向けて斜めに下っていく。

 

 「行き先は先ほど言っていたハイリヒ王国だったか…さてさて何があるやら」

 

 周りが初めて見る魔法に騒ぐ中で雲海に入れば更に騒ぎ出す。

 

 やがて雲海を抜けると目の前には地上が見えてきた街に、いや国が見える。山肌から迫り出す様に作られた国はそのまま城に始まりそのまま放射状に城下町が作られている。これが先ほど説明があり戒翔達が今から赴くハイリヒ王国なのである。そして戒翔達が乗る台座は王国の城の宮殿の中で一際高い塔と山の教会を繋ぐ空中回廊でその塔に繋がっているのである。

 

 「…下らんな、教会の威光を保つ為の演出か。」

 

 その情景を見て戒翔はそう断じた。 あからさまなその演出は他の生徒は感動している中で戒翔の様な感想を持つ者は皆無であった。

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 王宮に着くと、すぐに戒翔達生徒と担任の愛子は玉座の間に通されるのであった。

 

 道中では騎士らしき者やメイド達とすれ違うが、彼らの目は一様に期待や或いは畏敬の念が篭った目で一同を見ているのであった。 城の者達は彼らが何者なのかをある程度知っているのだろう。 一部の生徒は居心地の悪そうな表情をする中で天之河等は得意げに先頭を歩いている。ハジメは目立たない様に最後尾におり戒翔はそんなハジメの横に並んで歩いていた。

 

 そして案内された先には美しい意匠の凝らされた巨大な両開きの扉の前に二人の門番であろう兵士がイシュタル並びに勇者一行が到着した事を大声で告げて、中の返事も待たずにそのまま扉を開く。

 

 そして始まる国王の紹介から始まり重鎮達の紹介も始まる。国王の名はエリヒドと

言い、王妃はルルアリアである。 そして王子の名はランデル、王女のリリアーナと呼ばれた。

 

 そして自己紹介が終わるとそのまま晩餐会の流れとなり戒翔達はその異世界の料理に舌鼓を打つのである。時折出てくる異色のソースや飲み物はその見た目に反して中々の美味であり戒翔の中ではかなりの衝撃であった様である。

 

 そして、晩餐会が終わり解散となるがここでも皆が驚いたのは各々に個室が与えられる事でこれには女子のメンバーがとても喜んでいたのはやはり年頃なこともあるのだろう。そんな中で戒翔は早速部屋に戻ると胸元から龍の意匠がされたペンダントを取り出し備え付けの机に置きそこに向けて話しかけるのであった。まるでそこに誰かがいるかの様に。

 

 「無事にあの場所から出たのは良いがどうもまだ先が見えんな。」

 

 「今回は休暇も兼ねての世界移動だったから誰も知らないから助っ人も 期待出来ないしね?」

 

 机に置いたペンダントの龍の眼の部分に当たる藍色の宝石が明滅しながらそう答える。その声は少年の様であり青年の様にも聞こえた。。

 

 「現状は様子見のままで行くしかあるまい。この世界は俺も知らん事が多過ぎるし無闇に動いて何か起きては後手に回る事があるかも知れん。」

 

 「そうだね、確かに現状では出来る事は無いからそれしか無いけどどうするの?」

 

 「それを決めるのは明日行われる事次第だな。彼らに力があると言われているし明日はその力の確認だろうからそれ次第かな?じゃ、俺はもう休む。ナハトも周囲の警戒もしても良いが極力バレない様にしろよ?」

 

 「そっか、まぁ戒翔の場合はまた規格外な内容だろうけどね。お休み、マスター。」

 

 戒翔の言葉にそう楽しげに返すナハトと呼ばれた存在はそのまま眠る戒翔を見守る様に静かに明滅するのであった。そして翌日……

 

 訓練と座学が始まりそれにあたって生徒達及び愛子にはやや小さめのカードの様な物が渡される。それを不思議そうに見る生徒達に騎士団長であるメルド・ロギンスが直々に説明を始めるのである。

 

 それを見て戒翔は雑事に団長が来ても大丈夫なのか思ったのだがそれを他の生徒が聞いたが本人は気にした風もなく面倒事は副団長に押し付けもとい任せる事が出来ると豪快に笑いながら言っている位である。それを聞いて

 

 (副長は苦労人か、団長は豪放磊落といった感じの人間の様だし副長も大変だなぁ)

 

 そんな事を戒翔は考えている様だが彼が引き起こした面倒事もまた周りの者達の尽力もあり解決しているので彼も人の事は言えないのである。

 

 「よし、皆に配ったこのプレートはステータスプレートと呼ばれている。これは文字通り自身のステータスを数値化して見る為のであり身分を証明する為の物でもある。決してなくすんじゃ無いぞ?」

 

 やたらとフレンドリーな喋り方をする団長だがこれから一緒に戦う仲なのだから他人行儀な話し方など出来るかと言い他の団員にも普通に接する様にするほどであり、彼の人望が伺える一面であった。

 

 「プレートの一面には魔法陣が刻まれていてな、先程一緒に渡した針で指に傷を作り血を一滴、魔法陣に垂らせばそのプレートは君達の物と認識される。そして〝ステータスオープン〟と唱えれば表の面に自身のステータスが現れる筈だ。原理とか聞かれても分からんから聞くなよ?原理とかそんな物は知らんからな。神代の頃からあるアーティファクトの類だからな。」

 

 「様はマジックアイテムの部類か」

 

 メルドの説明に戒翔はそう呟き自身の血をそのプレートに垂らし浮かび上がってくる文字を見てやっぱりかと言うくらいに苦笑する。そこに記されていたのは

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 御坂戒翔 17歳 男 レベル ???

 

 天職 練装士

 筋力 error

 体力 error

 耐性 error

 敏捷 error

 魔力 error

 魔耐 error

 技能 宝具生成+真名開放・荒神化+部分変化・複合魔法・錬成・対魔力・魔力操作 ・自在法・言語理解・龍化+部分変化・換装魔法+装備登録・自己再生・不老不死・神霊召喚・聖霊魔法・雷化・炎化・合成魔法・感化法・空想具現化・複合型魔眼(直死・龍・解析・改変・歪曲・威圧・未来視)王の財宝・闇の魔法

 

 (これでも結構簡略化されている訳だが、不味い技能が目白押しだな。)

 

 そう判断した戒翔は苦笑を零し他の生徒を見る。様々な表情の中でこの世界に来てから何かと親交のあるハジメが浮かない顔をしている事に気づくと直ぐに移動を始める。その中でメルドが全員に聞こえる様に話し始める。

 

 「全員見れたか?説明を始めるぞ?先ず、最初にレベルがあるだろ?それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりそれはその人間の限界を示す。つまりレベルはその人間が到達出来る領域の現在値を示しレベル100と言うのは人間とししての潜在能力の全てを発揮した極地ということだ。ま、そんな奴は早々いないがな。」

 

 そう言ってメルドは笑う。

 

 「ステータスは日々の鍛錬で当然だが上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることも出来る。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる傾向にある。これは詳しい事が分かっていないが、魔力が保持者本人が無意識に補助しているのでは無いかと考えられている。それとお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけよ!なんせ救国の勇者一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

 メルド団長の話を聞いて魔物等を倒して成長するのがまるでゲームの様だと戒翔は感じていた。

 

 「次に〝天職〟についてだが、それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していてな?その天職の領分であれば無類の才能を発揮する。天職持ち少ない戦闘系天職と非戦闘系天職の二つに分類されるんだが、戦闘系は千人に一人の割合だ。でだ、非戦闘系も少ないは少ないが……百人に一人の割合だ。十人に一人という珍しくもないものも結構多くある。生産職は持っている奴が多いな。」

 

 そこで戒翔は再びステータスプレートに視線を移せばそこには練装士と記されておりどう見ても生産職では無かった。が、練装士とは何だろうと考える。

 

 「後は参考までに言っておくが、大体がレベル1の平均は10くらいだな。まぁ、勇者一行であるお前達ならその数倍や数十倍はいってるだろうががな!全く羨ましい限りだ!あ、ステータスプレートの内容は報告してくれよ?今後の訓練の為の参考にしなければならんからな。」

 

 メルドの言葉に戒翔は自身のステータスをどうしたものかと思案していたが不意にどうにか操作出来るのが分かった途端に色々と修正を始める。…そして

 

 「こんな物かな?」

 

 そう言う戒翔のステータスは以下の通りである。

 

 御坂戒翔 17歳 男 レベル1

 天職練装士

 筋力100

 体力150

 耐性100

 敏捷200

 魔力200

 魔耐100

 技能 言語理解・複合魔法・錬成・換装魔法+装備登録・雷化・自己再生・感化法・歪曲の魔眼・闇の魔法

 

 色々と弄った結果がこの通りである。 一応これを記録しておき、信頼出来る者には正式なものを見せてそれ以外には偽の情報を公開する事に決めた戒翔であった。その間に他の生徒達のステータス確認が終わり残すは戒翔とハジメの二人だけとなる。

 

 「後はお前達二人だけだな。先ずはそっちの背の高い坊主からだ。」

 

 そう言ってメルドは戒翔を呼ぶ。戒翔はとりあえずこのステータスで大丈夫だと思いそのままメルドに差し出す。

 

 「練装士?見たことも聞いた事も無い職業だな。未発見の新職なのかも知れんな。さて、ステータスがは……なんともはや一部は勇者に優っている上で俺の知らない技能もあるし魔眼持ちか。どんな魔眼なんだ?」

 

 「歪曲とある通り何かを歪めたりするのに使うのでしょう。」

 

 「なるほど、他にも聞きたい事があるが…また機会があれば聞きたいな。………教えていない改竄もしている様だからな。」

 

 「えぇ、それはもう是非。」

 

 そう言ってメルドは戒翔にプレートを手渡し戒翔も真剣な表情でそう答える。改竄した事には流石は騎士団長というだけあり直ぐに気付くが察してなのかその場では言わずに戒翔を生徒達の下へと帰す。

 

 そして戒翔が周囲の観察をしていると戒翔の下に凛とした雰囲気のポニーテールの少女が近づいて来る。

 

 「戒翔、どうだったの?」

 

 「雫か、なに。団長殿も知らない職業の様だから時間が出来れば書物庫に行って調べようと思うがもしなければ手探りで鍛錬方法を模索しなければならないな。それよりもハジメの事だから大丈夫だと思うが、あの檜山には気を付けておいた方が良い。ああ言う輩は力を持った瞬間には何をしでかすか分からん。イジメがさらに過激になる恐れもある。まぁ、そこは俺も監視するから雫はあの無自覚ナルシストのストッパー役は頼むぞ。」

 

 「おいおい、南雲。もしかして非戦闘職か?鍛治職でどうやって戦うんだよ?」

 

 雫と呼ばれた女生徒と話をしている時に檜山が声をわざと大きく聞こえる様に声を張りあげる。それを聞いて戒翔はため息を吐き

 

 「雫、少しあの阿呆を止めて来る。」

 

 「あ、戒翔」

 

 雫が止める隙も無く戒翔は檜山の首に手刀を打ち込み意識を刈り取りその足で取り巻きをしている男子生徒が持っている南雲のプレートを取り上げる。

 

 「あ、何すん……」

 

 不満の声をあげようとした男子は戒翔の睨みつける様な目を見て言葉が出ずに後退りする。そしてその一部始終を見ていたメルドも戒翔の動きに目を見張る。召喚されたばかりの人間の動きでは無く無駄が一切無く他の生徒達には一瞬のことで何が起きたか認識すら出来ていなかった。

 

 「貴様等は阿呆か、こんな所まで来て他人をそれも気が弱い者を標的に選び蔑むなど程度が知れるわ!文句があるのならこの俺にも同じ事をしてみろ」

 

 笑って見ていた生徒をぐるりと見渡して戒翔は怒気を抑える事もせずにそう叫ぶ。するとバツが悪い様に笑っていた生徒…主に男子だが戒翔の目を見ないように一様に逸らすのを見て戒翔はアホらしかったのかため息を吐き

 

 「睨み返すくらいも出来ないくせにみみっちい事をしおってからに…おい、そこのバカの取り巻き一号」

 

 「い、一号って俺のことか!?」

 

 「それ以外に誰がいる?」

 

 「俺には斎藤って名前があるんだ!一号って名前じゃ無い!」

 

 「あのバカに同調してイジメをしている時点で俺は貴様の名を呼ぶ気はさらさら無いわ。呼んで欲しければ自身でどうすれば良いのか振り返るのだな。それとそこでのびてるバカを連れて行くんだな。」

 

 「くっ、お前達行くぞ!」

 

 そう言って斎藤は他の取り巻きに声を掛けて檜山の肩を両方から支えて一番後ろの方まで下がり戒翔の視界に入らないように消える。

 

 「ほれ、ハジメ。お前のプレートなんだから簡単に取られてどうする。」

 

 「あはは、戒翔ありがとう。だけど僕はああいった連中って苦手で」

 

 「それもそろそろ改善せんといかんぞ。もう俺達の常識で考えていては足下を救われるばかりか下手をすれば死ぬ事も有り得るのだからな」

 

 ハジメの言葉に戒翔は厳しい表情で厳しいことをハジメに告げる。

 

 「そもそも後方支援だからと安易に考えているのなら改めろ。戦争ではむしろその後方支援の部隊から叩かれるのは定石なのだからな。お前の好きなゲームでもそうであろう?」

 

 「確かに…でもどうすれば良いの?」

 

 「それはこれから話があるだろう。その為にあの男が説明をしているのだからな。基本的に素人のお前達ではどう逆立ちしてもいきなり戦争してくれと言われてはい分かりましたといかんだろう。」

 

 「そうだね。」

 

 「なに、安心しろ。いざとなれば俺が貴様に死なない程度には戦闘技術を叩き込んでやる。こう見えて俺はそれなりの場数を踏んでいるからなぁ。」

 

 そう言って獲物を見る様な戒翔の視線を受けてハジメはこの世界に来て初めて不安を覚えるのであった。

 



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第二話

 

 

 「ふむ、訓練として行くダンジョンというのは百層からなる大迷宮か…」

 

 戒翔はあの後書庫に案内してもらい色々とこの世界に対する知識を身につける為に行動をしていた。そして戒翔達はメルド団長率いる数名の騎士と共に冒険者の集まる街【ホルアド】に到着しその日はそのまま宿に泊まり翌日から迷宮に潜る流れとなった。そして戒翔達が泊まる宿は新兵の訓練ににも使われる国直轄の直営店である。

 

 《オルクス大迷宮》

 全百層からなる巨大な大迷宮と言われこの世界にある七大迷宮の一つで階層が深くなればなる程その中に 存在する魔物の強さも比例する様に強力になる。しかし、そんな所であるがこの迷宮は冒険者や傭兵に新兵等の訓練に非常に人気である。その理由が浅い階層であればそこまで強力な魔物が存在しない上にその階層毎の魔物の強さを計る事も出来る為に対策が立てやすいい事も挙げられ、迷宮と外の魔物との大きな差であるのが魔物が内包する魔石の質である。魔石とは魔物を魔物たらしめる代物で人類に対しては魔法具や魔法陣を描く際に使用されとても重宝されているのである。

 

 「国の方針としては浅い階層から戦いに慣らしてあわよくば最深部まで攻略させようって所か。」

 

 戒翔は目の前に浮かべたホロウィンドウに先ほど調べた本の写しを流し見しながらそんな感想をこぼす。

 

 「それにしても…他の迷宮は他の国や地域にあるからなのかそこまで詳しい情報があるわけでも無かったな。他にも胡散臭い伝承の様なものまである始末……聖教会といい世界の伝承といい何かを隠しているのは確定だな。だが、そのかくしているのが何かって

所だな。正直なにを隠しているのかすら判断が出来ないからな。ま、そこはこれから調べるしかなさそうだが」

 

 そう独り言をこぼしていると部屋の入り口の方から誰かがノックする音が響く。

 

 「…開いてるぞ。」

 

 戒翔はまるで誰かが来るのをわかっていた様に目の前の画面を消して告げると扉を開けたのは

 

 「こんばんわ、夜分にごめんなさい。」

 

 そう言って入って来たのは純白のネグリジェに薄いカーディガンを羽織った雫が立っていた。

 

 「いや、大丈夫だ。それで、どうした?そんな薄手の格好で危ないだろうが」

 

 「ちょっとね、戒翔と話がしたくて」

 

 「どうした、不安か?」

 

 不安そうな表情の雫に戒翔は椅子から立ち上がり雫に近寄り自身より頭一つ低い雫の頭を撫で不安に押し潰されそうな雫を落ち着かせる様に撫でながらそう聞く。

 

 「えぇ、本当に私たちでこの国を救うことができるか分からないわ。」

 

 「そんな事は実際にやって見なければ分からんさ。実際に道中の魔物との戦闘も苦戦せずに出来ていたじゃ無いか。」

 

 「確かに苦戦はしなかったけどそれはメルド団長達騎士団の助けがあってこそよ。実際にはほとんどのクラスメイトはそこまで戦えていないわ。」

 

 雫の脳裏には先日の戦いの中で震えるばかりのクラスメイトの中で突出して戦闘に出ていた戒翔の姿が過ぎる。勇者である天之河よりも前に出て武器を使わずに己の四肢でおそいくる魔物を屠る姿に雫は己を奮い立たせ、そして自身の道場で培った技術をなんとか発揮して自分に迫る魔物を倒しているのを思い出す。

 

 「当たりまえだ。最初から上手く戦おうなんて考えている自体傲慢だ。新人や新兵が最初に覚えることはいかに生き抜くことだ。確かに国や時代が違えば誇りある死とか名誉のとか言うがそんな物は綺麗事だ。死は死だ。死んではそこで終わり残された者が哀しむだけだ。」

 

 「…それは戒翔も…よね?」

 

 「雫?」

 

 戒翔の制服を弱々しく雫が掴み戒翔を見上げる雫

 

 「この世界に来た時から時々感じるのよ。戒翔がどこか遠くに行ってしまうんじゃ無いかって」

 

 「そんなことは無い。俺には護りたいものがあるからな。それに俺は死なんよ、ハジメや白崎に雫。お前達を無事に元の世界に帰すまではな。」

 

 そう言って雫の手に自身の手を重ねて優しく包む様に握る戒翔。そして雫が見上げたまま何かを期待している様に見上げるが

 

 「この続きは迷宮の攻略が終わってからだ。…だから今はこれで我慢してくれ。」

 

 そう言って戒翔は少しだけ屈み雫の額に唇を落とす。

 

 「……何かやたらと慣れているのが気になるけど確かにそうよね。 愚痴に付き合わせてごめんなさい。それとお休みなさい。」

 

 僅かに頬を赤くした雫はジト目で戒翔を見上げながら言うが早いか足早に部屋を後にする。

 

 「そうさ、この世界の中でなにが起ころうと立ち止まるわけにはいかん。それが他の人間を殺める事になろうとも。」

 

 窓の前に立ち夜空に浮かぶ月を見上げながら雫の言葉を思い出し、改めて決意するのであった。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「ここが迷宮の入り口だ。」

 

 翌日メルド団長の先導の下、一同が辿り着いたのは迷宮というのだから洞窟の様な物を想像していたが想像を超えて現れたのはまるで博物館の入り口の様な扉であった。そこでは何人かの冒険者が門の近くの受付でプレートを出して受付口の仕事用の制服を着た女性に渡している。

 

 「あそこでは迷宮に入った者や帰ってきた者のプレートを確認し記録する所だ。万が一のトラブルが起きた時にすぐに動ける様にというのと不必要な死者を出さないことが目的だ。さ、俺達も受付で記録を取ってもらったら早速潜るぞ。」

 

 そう言ったメルド団長に続く様にクラス全員が受付に向かう。

 

 「中はそこそこの広さだな。」

 

 「うぅ、大丈夫かな?」

 

 「なにを気後している。貴様も男ならもう少しシャキッとせぬか。」

 

 中に入ると外の喧騒が嘘の様に無く縦横が五メートル以上ある中で通路には松明等の光源がないにも関わらず薄ぼんやりと光っており松明や発光用の魔道具が無くともある程度の視覚の確保が出来る様になっていた。

 

 「…これは周囲の壁や地面に魔力が流れているのか?」

 

 不思議そうに周囲を見ながら全員で移動しつつ戦闘も交代で行うが、この町に着く道中で触りだけとはいえ魔物と遭遇し戦闘をした数名は難なく熟す事が出来ていた。そして特に目立ったトラブルも無く一同は交代を繰り返しながら戦闘をして行く。流石に非戦闘職のハジメは敵の足止めがメインだが要所要所で的確に敵の動きを地面を錬成する事で阻害し身動きの取れない所へ後衛組の魔法等で倒していた。

 

 そして、一行は一流の冒険者か否かを判断する為の階層である二十階層に辿り着く。現在の最高到達階層は六十五階層であり百年以上前の冒険者が成した偉業であるがそれ以降を攻略できた者はおらず…今では超一流と呼ばれる者は現在の階層よりも倍近く超えて四十層を超え、ニ十層を超えた者は十分に一流と呼べるだろう。

 

 そしてそんな中で戒翔達は召喚された者として反則じみた能力がある為にあっさりとこの二十階層まで下りる事が出来たのであった。

 

 しかし、迷宮の恐ろしい所は魔物だけでは無い。一番に怖いのは罠である。嫌がらせ程度の物があれば酷い所だと致死性の物が多数存在する場所もあるというのだ。その対策として〝フェアスコープ〟という物が存在しこれにより魔力の流れなどを見て罠の存在を見抜く事が可能で便利な反面、索敵範囲が狭くスムーズに進む為にも使用者の経験がものをいうのである。

 

 そして二十階層から二十一階層に下りる為の階段が存在するフロアの近くまで来た時

 

 「付近に擬態した魔物がいるぞ!周囲をよ〜く注意しておけ!」

 

 メルド団長の忠告が一同に届くのと同時に前方の壁のせり出して一部が突如変色しながら起き上がる同化していた灰色だった体は今や変色が終わると褐色色の二足歩行のゴリラの様な姿の魔物となり胸を叩きドラミングをしてここちらを威嚇するのである。タコやカメレオンの様な擬態能力を持った魔物のようでりメルド団長の警告が無ければ大半の生徒はとても慌てていたであろう。

 

 「ロックマウントだ!奴の両腕には気を付けろ!とても豪腕だからな!」

 

 迫るロックマウントに対して勇者一向のタンクの様な役割を持つ龍太郎が迫る豪腕を自身の拳で弾く。その隙に天之河や八重樫が囲もうと動くが地形的に動きがスムーズとは言えず中々思うように囲む事が出来ないでいた。そうこうしている間にロックマウントは目の前の相手である龍太郎を抜けないと感じたのか大きく息を吸い込むと

 

 「グゥガガガァァァァーーーー!!!」

 

 部屋全体に響く様な大音量の咆吼が響き渡る。

 

 その叫び自体に攻撃力はないもののその咆哮は聞いた者を硬直させてしまうロックマウントの固有魔法〝威圧の咆吼〟であった。

 

 そしてそれをまともに浴びた最前線にいる天之河達は一時的にだが動く事が出来ずにロックマウントに次の行動を許す結果となってしまった。

 

 ロックマウントが起こしたのは付近にある自身と同じ位の大岩を持ち上げると後衛組にむけてそれを思い切り投げつけるのであった。それをみて後衛組にいる白崎達が防御の為に魔法を唱え発動させようとした時である。

 

 「ヒィッ!」

 

 投げられた大岩もまたロックマウントであったのである。擬態を解いたロックマウントは大きく腕を広げて白崎達のいる後衛組に向けて。さながらそれは某大泥棒の有名なダイブでありロックマウントの目が血走り、鼻息も荒いという表情が尚の事少女達には恐怖を想起させるものであった。

 

 「やれやれ、この位で動揺してどうするんだか。」

 

 後衛組の護衛に立っていた戒翔はそう言うやいなや軽く飛び上がると迫るロックマウントに対して

 

 「気持ち悪い格好で来るな、この変態が!」

 

 見事な空中回し蹴りをロックマウントの胴体に叩き込みロックマウントは真横に吹き飛ぶと壁に激突してそのまま動かなくなる。

 

 「おい、そこの三人!みっともない格好を見せるのなら下がっていろ!」

 

 続いて戒翔は余計な仕事を増やすなとばかりに投げ手であるロックマウントの胴体に目掛けて片手に生成した魔力弾を先ほどのお返しとばかりに砲丸投げのフォームで投げ込み見事な風穴が開くのと同時にロックマウントは仰向けに倒れて絶命する。

 

 「ふぅ、とりあえずここでの戦闘はここまでかな?」

 

 そう呟いても戒翔は警戒を解かずに周囲の索敵をする。

 

 「……あれ、何かな?キラキラしてる…」

 

 その最中に戒翔の後ろにいた白崎が先ほど戒翔が蹴り倒したロックマウントがいる方で何かが光るのを見つける。

 

 白崎の見つめる先には純白のまるで花が開いたかのような鉱石が生えていた。その美しさにこの殺伐とした空間の中なのに白崎を初めとした女子達がうっとりとするほどであった。

 

 「ほぅ、あれはグランツ鉱石だ。しかも中々に大きい奴だ。珍しいな?」

 

 メルド団長が告げたグランツ鉱石とは宝石の原石の様なもので特にこれといった効果があるわけでは無いが、その神秘的で煌びやかな輝きが貴族のご婦人やご令嬢にとても人気があり、加工して指輪にして贈るととても大変に喜ばれる。そして婚約指輪に選ばれる宝石としても三本の指に入るほどの人気ぶりである。

 

 「素敵…」

 

 メルド団長の簡単な説明を聞き、それを改めて見てウットリする白崎を見て雫もグランツ鉱石を見てから頬を赤くしながら戒翔を見る。そのせいかある生徒の軽はずみな行動に気付くのも遅れてしまう。

 

 「だったら俺達で回収しようぜ!」

 

 そしてその軽はずみな行動をしたのはハジメを虐める檜山がグランツ鉱石のある岩肌をよじ登りながらそんな事をいう。何度でも言うがここは迷宮であり危険な物は魔物だけでは無い。罠だって十分に危険である。そして統率が取れていない者が比較的にパーティーを危険に晒すのである。

 

 「待て、勝手な事をするな!まだ安全確認も終わっていないんだぞ!」

 

 しかし、檜山はその声を聞こえていないフリをして鉱石のある所まで辿り着く。たとえ手遅れでもメルドは檜山を連れ戻そうと動くが

 

 「団長、罠です!」

 

 「ッ!?」

 

 メルドの動きも虚しく団員の声により止めざる終えなく。檜山が鉱石に触れるのと同時に鉱石を中心とした魔法陣がフロア全体を覆い尽くす。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に近付いた者への罠である。どの様な美味い話には裏がある様にこの様に貴重な物に仕込まれている罠もまた存在するのである。

 

 「くそッ!撤退だ!早くこの部屋から出るんだ!」

 

 メルドの言葉に生徒達は急いで部屋を出ようとするがその行動も虚しく部屋が一際強い光に包まれ、 次の瞬間にはそのフロアにいたメルド団長を含めた勇者一行の姿はどこにも確認することは出来なかったのである。

 



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第三話

 

 

 「ここは」

 

 光が収まり目の前に広がるのは先ほどとは違う景色であり全員が同じ場所に転移したようで巨大な石造りの橋でザッとみて凡そ百メートル以上あり戒翔達はその橋の真ん中に転移していた。

 

 「な、何なんだよこれ!」

 

 そう叫ぶのは先ほどグランツ鉱石を触って罠を発動させていた檜山が未だに立ち上がらずに尻餅をついた状態で周りを見ながら狼狽えていた。一部の前衛職やメルド団長や他の騎士達は既に立ち上がり周囲の警戒をしていた。橋は百メートルを超え、天井は先ほどまでいたフロアよりも高く数十メートルはあるようにうかがえる。そして橋の下は地面や川等が見えるはずも無く何も見えない真っ暗闇……落ちれば奈落の底という様相で落ちれば飛べない人間などただでは済まないだろう。

 

 「全員、直ぐに立ち上がって、あの上り階段の場所まで急いで移動しろ!」

 

 見れば橋の幅は約二十メートル程はあるが手摺りや縁石もなく足を滑らせたら一巻の終わりである。そんな橋の両橋には下に下りる階段と上に上がる為の階段が存在しておりメルドは大きな声で上層に上がる為の階段を指しながら全員に聞こえるように 号令する。それに慌てて生徒達はワタワタとしながらも動き出す。しかし、迷宮の罠が転移トラップだけという甘い物では無い。退避しようとする生徒と騎士団を挟む様に巨大な魔法陣が両端に現れるとそこから夥しい数の魔物が現れる。上層に向かう為の場所には大量の骸骨の魔物が、そして下層に続く通路の先には二本の角を持った四足獣の様な大型の魔物が現れる。そして大型の魔物が現れるのと同時にその大きな口から大音量の雄叫びを上げる。

 

 「ま、まさか………べへモス……なのか?」

 

 後方には夥しい数の骨格標本の様な姿に剣と盾を持った魔物〝トラウムソルジャー〟が、そして前方は巨大な魔物〝べへモス〟

 

 「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァル、ベイルは全力で障壁をはれ!奴をこの場に釘付けにする!光輝、お前達は生徒達と一緒に階段に向かえ!」

 

 「待って下さい!俺達もやります!あの恐竜みたいなのが一番ヤバそうです、だから!」

 

 「馬鹿野郎!もしあの魔物が本当に〝あの〟べへモスなら、今現在のお前達では敵わん!奴がいる場所は六十五階層の魔物だ。かつて〝最強〟と言わしめた冒険者ですら歯が立たなかった正真正銘の化物だ!分かったならさっさと行け!俺はお前達を死なせる訳にはいかんのだ!」

 

 瞬時に状況を判断して指示を飛ばすメルドに対して近くにいた光輝は直ぐに反論するがメルドに叱責される。しかし光輝はそんなメルドの言葉に見捨てては行けないと踏み止まる。そんな光輝に対してどうにか撤退させようとするメルドだが、そんな悠長な事をしているとべへモスが自身の角を赤熱させながら突き出して突進してくる。

 

 「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さずーー〝聖絶〟‼︎」」」

 

 二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣に四節も使った詠唱に加えての三人同時発動による防御結界の構築。一回きりのしかもたった一分間だけの害意を持ったモノを退ける為の不可侵領域が出来上がる。突撃してきたべへモスは関係ないとばかりに突っ込むが壁を破る事は叶わなかったがその衝撃までは防ぎ切れず、べへモスの足下の石畳は粉砕され、橋全体が大きく揺れて 生徒達の中でも運悪く体勢を崩してよろけて倒れる生徒が出てしまう。そんな生徒に対して目の前に骸骨の魔物〝トラウムソルジャー〟が大きく剣を振りかぶる。

 

 「あッ!」

 

 目の前で振りかぶる剣を見て絶望の声を上げる生徒だが、次の瞬間

 

 「ハジメ、ナイスアシストだ!」

 

 生徒の目の前の地面が突如隆起するのと同時に戒翔が倒れた生徒の目の前の骸骨を殴り飛ばして橋の上から真下の奈落の底へと叩き落とす。そして地面を隆起させたハジメはそのまま周囲の地面を一部隆起させ続けて滑り台を滑る様に多くの骸骨の魔物を奈落の底へと落とすのであった。当初、ハジメは錬成をここまで連続でする事は出来なかったが、錬成の練度が上がって肩で息をするが連続で錬成をし、範囲も多少だが広くなっている。

 

 「はぁはぁ!」

 

 恐怖と緊張で喉の奥がカラカラになるハジメだが魔力回復薬で魔力を回復しつつ喉も潤すと戒翔の方を見て大きく肯き次の現場へと急ぐ。そんなハジメを他所に戒翔は倒れ込んだ生徒の腕を取り引っ張り上げる。そんな様子を茫然としながらもされるがままに生徒は立ち上がる。

 

 「早く前へ行け。冷静になればあの程度の魔物なら簡単に対処出来る。このクラスは全員が反則じみた能力を持っているのだからな。」

 

 「うん、ありがとう!」

 

 そう言って生徒の背を優しく押して告げて振り返って他の魔物を倒しに行く戒翔に向けて感謝の言葉を言って上層に向かう為の階段の方に駆け出す。

 

 「ったく、このパニックを抑えるのは骨が折れるがそれをするのはあの阿呆にやらせた方がいいか。ちょうどハジメも同じ事を考えていた様だし」

 

 戒翔の視線の先には依然、障壁に突撃を繰り返すべへモスが見えておりその下では言い争うハジメと天之河が見える。

 

 「アレが見えないのか!皆、パニックになっている!リーダーがいないからだ!」

 

 天乃河の胸倉を掴みハジメが指差した先にはトラウムソルジャーに囲まれて右往左往する生徒達の姿があった。パニックになっている事もあり、訓練で教わった動きなど忘れて剣や魔法をやたらめったらに使う。そんな様子を見て天之河は迷いを断つ様にかぶりを振る。

 

 「メルド団長!すいませ 「下がれぇーーー!」

 

 天之河の声を遮る様に焦ったメルドの言葉が響くのと同時に硝子が砕ける様な音と共に自分たちとべへモスを遮る壁が砕け散る。砕けた衝撃なのか物凄い衝撃と風がハジメ達を襲い吹き飛ばされる。障壁により多少の威力は殺す事が出来たが、もしその衝撃が殺し切れていなかったらーーー

 

 舞い上がる砂塵はべへモスの咆吼により一気に吹き飛ばされる。そして砂塵の晴れた先には呻き声を上げて倒れ伏す団長に三人の騎士も倒れていた。

 

 「ぐッ……!雫、龍太郎、時間をかせげ「その必要は無い。」んなッ!御坂!?」

 

 「雫はそこの騎士を頼む。脳筋は二人、天之河は団長を担いで行け。」

 

 剣を支えに立ち上がった天之河の前には悠然と立つ戒翔がおり、天之河を横目に確認すると戒翔はそう指示する。

 

 「なんでお前に指図されないとならない!僕はまだ戦える!」

 

 「はッ!そんなボロボロの癖に何を言っている?いいから団長達を起こして後方まで下がれいい加減鬱陶しいんだよ。」

 

 そんな天之河に冷たい目で見ながら戒翔はそう言い放つ。

 

 「お前!」

 

 「光輝、ここは戒翔に任せて私達は団長を助けて下がりましょう。」

 

 「雫、君まで」

 

 「いい加減にして!今ここでやらなければいけないのは戦う事じゃなくて生き残る事よ!退路も無いまま戦って疲弊したまま撤退出来ると本気で思ってるの!」

 

 雫の物言いに反論しようとする天之河だがそれ以上の剣幕で雫が告げるとその気勢を削がれ、また考えなしだったのが図星でもあるのだろう天之河は目を逸らして弱々しく肯く。

 

 「くッ!……分かった、俺達は下がる。だが一人では」

 

 「誰が一人だ、最高のサポート役がそこにいるじゃ無いか。」

 

 そう言って戒翔が見た先にはこちらを茫然と見ていたハジメだが戒翔の言葉と視線に自身だと気付いた時には決意の篭った目で戒翔を見て軽く肯くと前に出る。

 

 「戒翔、僕は何をすれば良い?」

 

 「やつの注意を逸らすから奴がまた角を地面に突き刺した瞬間に奴の周辺を錬成して足止めだ。だが、奴の目の前で錬成し続けるのはかなり至難だ……出来るか?」

 

 ハジメを見て驚く天之河を尻目に戒翔はハジメに作戦を伝える。

 

 「分かった。やれるだけやってみる。」

 

 「そういう事だからお前達は団長達を連れて後方の退路の確保を頼んだぞ。いざ逃げようって時に退路がなければ死ぬだけだからな。」

 

 ハジメと一緒に今も地面から己の角を抜こうと格闘するべへモスの前で戒翔はそう天之河達に言う。

 

 「戒翔、絶対に戻ってきてなさいよ?」

 

 「当たり前だ。可愛い幼馴染を残して死ねるか。」

 

 「もう………バカ」

 

 心配する雫の言葉に戒翔は揶揄う様に笑って告げる。こんな殺伐とした場所で無ければ赤面してしまう雫だが今この場所が戦場である事を意識しているのか真面目な表情のまま小声で誰にも聞こえない様に悪態を吐くと天之河を急かしながら雫もまた騎士の一人の肩を担いで白崎の回復魔法を受けながら後方へと向かう。

 

 「さて、ハジメ。死ぬなよ?」

 

 「それはこっちのセリフって言いたいけど実際に僕は弱いからね。死なない様に努力するよ。」

 

 漸く角が抜けたべへモスは立ち塞がる自身よりも幾分も小さい存在である二人に対して威嚇の咆吼を上げる。

 



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第四話

今回はちょっと短いです。


 

 「ハジメは奴の動きを阻害しろ!その間に俺が奴をなんとかする!」

 

 「わ、分かった!」

 

 巨大な魔物〝べへモス〟の前に立つ戒翔は少し後ろにいるハジメに指示を出す。

 

 「グルゥアァァァッ‼︎‼︎」

 

 己の前に立つ戒翔に対してべへモスは天に向けて咆吼すると先程の結界に突撃した時と同じ前傾姿勢の状態で突撃をしてくる。

 

 「その図体で迫られると中々に怖いな」

 

 言葉とは裏腹に戒翔は一切恐怖しておらず涼しい顔でべへモスに対して中腰で構える

 

 「しかし、踏み込みがまだまだ甘いわ‼︎‼︎」

 

 「グギャァァアァアアァッ!!!!」

 

 裂帛の声を上げて戒翔は迫るべへモスの顎下に移動して氣を込めた掌底をべへモスの顎目掛けて打ち込み、拍子でべへモスの頭がカチ上げを喰らう。自身よりも小さい存在に攻撃をされ、更には感じた事のない痛みに思わずといった風に痛みと怒りの声を上げるべへモス。

 

 「いまだ、ハジメ!」

 

 「うん!〝錬成〟!」

 

 カチ上げを喰らいタタラを踏んだ様に後ずさるべへモスの足下の地面を錬成する。するとべへモスの周囲の足下の石畳が変質しべへモスの四肢を絡めとる。

 

 「クッ!戒翔、長くはもたないよ!」

 

 「一瞬あれば十分!」

 

  四肢を絡め取られたべへモスは必死で拘束から逃れようとそちらに意識を取られた隙を逃さずに戒翔はそのべへモスの腹の下に潜り込むと

 

 「生き物なら内臓に響く一撃はさぞ効くだろうな!変則式〝桜花崩拳〟!」

 

 魔力と氣の力を拳に纏わせた一撃を腹部に喰らいその衝撃は十数メートルはあるべへモスが橋の上から数メートル浮くことからもその威力が窺えるものであった。

 

 「戒翔、メルド団長から撤退完了の合図だよ!」

 

 浮いたべへモスの下から退避した戒翔にハジメは近付きながらそう告げる。

 

 「了解だ。なら急ぐぞ!」

 

 ふらつきながら立ち上がるべへモスに対してメルド団長の号令の下色取り取りの魔法が放たれ、戒翔達の撤退の支援をする。

 

 「よし、ここまで来れば」

 

 近くまで来たハジメが安堵の息を溢すが次の瞬間

 

 「え……」

 

 「ハジメぇッ!」

 

 弾道から逸れた一発の炎弾がハジメの足下に落ち、その衝撃で激しい戦闘で脆くなっていた石畳が崩れて足下が崩れてハジメが落ち、戒翔は叫びながらハジメの後を追う様になおも崩れる橋を飛び降りる。

 

 「南雲くん!?イヤアアアァァーーーッ!」

 

 「戒翔!嘘でしょう……約束したじゃない絶対に戻るって!嘘よこんなの…絶対に嘘よぉッ‼︎‼︎」

 

 「香織行くな!君まで死ぬ気か!雫もだ。二人はもうダメだ!これ以上無理をすれば壊れてしまうぞ!」

 

 落ちる戒翔達に向けて駆けようとする白崎達に天之河が言うが錯乱する二人にその言葉は今言うべき言葉では無かった。

 

 「無理って何!南雲くんは死んでない!行かないと、きっと助けを待っているわ!」

 

 「戒翔もよ。アイツは私に嘘を言った事はないわ!絶対に生きているわ。だから今から助けに」

 

 興奮する二人の後ろからメルド団長が近づき無言で首に手刀を振り下ろし、衝撃で一瞬だけ痙攣して二人は力なく意識を失う。

 

 「メルド団長、ありがとうございます。それとすみません」

 

 「礼などいらん………。もう誰一人として死なせるわけには行かない。この後は全力で迷宮から脱出する。……彼女達を頼む」

 

 「言われなくても二人は俺が護りますよ。」

 

 そう言って天之河と近くにいた龍太郎を呼び、二人を背負って迷宮の階段を上っていく。

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 「痛ッ!……ここはあの橋の底か?」

 

 痛みで起きた戒翔は起き上がると辺りを見回す

 

 「一緒にハジメも落ちているはずだが……ハジメぇ!無事か!何処にいる!」

 

 周囲を警戒しながらハジメの名を呼ぶが辺りに人の気配はなく逆に戒翔の声に引き寄せられて魔物の気配が戒翔のいる場所に近づいて来る。

 

 「今は貴様達に構っている暇はないんだ。ハジメを探さなきゃならんからな!」

 

 近づいて来る様々な魔物を前に戒翔はそう叫びハジメを捜すために行動を開始するのであった。



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第五話

時間が少ししか取れず、短めですが次回はもう少し頑張りたいと思います>_<


 

 「だぁー、邪魔クセェ!纏めて吹き飛べ!トライデントスマッシャー!」

 

 あれから戒翔は橋の崩落で落ちてきた奈落の底で休む間もなくハジメを探しながら襲いくる魔物を体術や魔法を使い文字通り蹂躙していた。

 

 「上層の魔物に比べてかなり強力だな………ハジメは大丈夫だろうな?」

 

 ここに来てから何日経ったのかは分からないが数日は過ぎていると体内時間で感じていた戒翔は焦燥を感じる。ハジメのステータスはお世辞にも高いとは言えず戒翔との特訓も対人戦を意識した物が殆どでハジメは魔物戦に関してはまだまだな所が多い。しかもこの奈落の底の存在する魔物はどれも強力で上層の魔物との格が違い様々な能力を持っている。尻尾が二本生えた狼〝二尾狼〟は帯電を行い、兎の様な魔物はその姿から想像できない様な脚力を持ち大岩を爆砕させる程の威力をみせて戒翔を驚かせていた。そんな魔物達が跋扈する所でハジメと未だに合流出来ていない戒翔は焦りからか此処に来てから抑えていた能力を惜し気もなく使っていく。

 

 「ナハト、ハジメの魔力反応は何処だ?」

 

 「このダンジョン自体が魔力を帯びていてジャミングされている様な状況だから遠くまでは探知できないよ。ただ、この世界の魔力パターンの解析が済めば何とかなるけど数日で出来る様な事じゃないしそれまでそのハジメって子が生き残っている可能性は低いんでしょ?」

 

 「……可能性ではな。何かしらのイレギュラーがあればまだ生きている可能性もあるんだ。白崎にハジメを連れて帰ってやらんといかんしな。」

 

 胸元のペンダント〝バハムート・ナハト〟と会話していると微かに銃声の様な音が戒翔の向かう先から聞こえて来る。

 

 「ナハト!」

 

 「音の届き方と反響から計算して距離は約十キロって所だね。どうする?」

 

 「決まっている。ハジメが戦っているかも知れんのだ。急ぐぞ!〝雷化〟」

 

 ナハトの言葉に戒翔はスキルの名を告げるのと同時にその場に放電現象を残して消えたと錯覚するほどの速度で音の聞こえた場所に急ぐ。そして其処で見たのは

 

 「お前……ハジメか?」

 

 「戒翔か?そういえばお前も俺と一緒にこの奈落の底に落ちてきたんだったな。」

 

 「ハジメ、お前色々と変わりすぎて一目じゃわからないぞ?」

 

 そこで会った人物は戒翔が探していた人物である南雲ハジメだが、その容姿は豹変と呼べるレベルである。大きな変化と言えるのは先ず左腕が無くなり、顔付きも変わり目は釣り上がり元は黒髪だった髪はどういった訳か白髪となり残っている右手には戒翔が聞いた銃声の元となるこの世界には似つかわしくない銃を持っていた。

 

 「俺の方も色々とあったんだよ。それで戒翔、お前は俺の敵か?敵なら殺す」

 

 ハジメの言葉に最初はその変わりように驚いていたが苦笑しながら戒翔は

 

 「んな事聞いてどうする?俺はお前の味方だよ。そもそも親友を助けないで何が親友だよ。そうじゃ無ければそうじゃない奴がわざわざこの危険な奈落の底まで来て捜すわけないだろ?」

 

 戒翔の言葉にハジメも最初は険しかった表情を幾分か柔らかくし、銃を腰のホルスターに収める。

 

 「悪い、ここまで一人きりだったからか多少だけども気が立っていたみたいだ。」

 

 空いた右手で頬を掻きながら苦笑いするハジメである。

 

 「……取り敢えず俺の拠点に行こう。そこなら多少は安全だからな。」

 

 ハジメはそう言って足下にある魔物の死骸を肩に担ぐと拠点があると言ってその先に戒翔を伴って歩いて行く。



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第六話

 

 

 「此処がハジメの拠点か。」

 

 「死に物狂いで錬成したただの穴蔵だけどよ、奥にとんでもないのがあるから驚くなよ?」

 

 ハジメに案内された場所は壁の近くに出来た横穴のような場所である。訝しげな表情の戒翔に悪戯をする子供の様な表情のハジメに益々訝しむが洞穴の奥に行くとその言葉の意味を知る。

 

 「これは……神結晶か!しかもこんなに巨大な物は地上でも知らないぞ…!?」

 

 「だろうな。俺も最初に気付いた時には驚いたさ。だけどこれで俺が此処を拠点にしている理由が分かったか?」

 

 「当たり前だ。これで分からんと言える訳がないだろう。貯蔵は出来るのか?」

 

 「一応アンプルの容器で保存しているよ。何かあったらすぐに飲める様にだけどな。」

 

 そう言ってハジメは腰にあるポーチから中身の液体薄く光る青い色に輝くアンプルを見せる。

 

 「……確かにそれならば大丈夫だろうな。それにハジメの無事とはいえないが生存も確認できたしもう少し準備したら移動を始めよう。ずっと此処にって訳にも行かんしな。」

 

 「あぁ、周辺を探しても上に行く為の階段は見つからないが下へ行く階段は見つかったんだ。」

 

 「なら十分に準備をしなければならんな。特にハジメだがな。」

 

 「確かにそうだが戒翔は大丈夫なのか?言っちゃなんだがここの階層ですら俺達のいた階層の魔物に比べて段違いの強さだぞ?」

 

 「……そういえばハジメには俺のステータスを見せていなかったな。」

 

 そう言って戒翔は隠蔽無しのプレートをハジメに渡す。ハジメもまたこの階層に落ちてから得た能力を記したプレートを戒翔に渡す。

 

 「…………ナニコレ」

 

 「ほぅ、かなり強くなったじゃないか。最初に見せてもらった時に比べて雲泥の差だな。」

 

 「なぁ、戒翔。俺の見間違いじゃ無ければスキルってこの世界に来てから発現する物なんだよな?天之河のステータスが可愛く見えるし、俺のステータスですら霞むぞ。」

 

 「当たり前だ。そもそもこんな物をそのまま見せれば問題にしかならんわ。だから速攻で隠蔽及び改竄したんだよ。」

 

 「マジかよ……。でもこれならある程度の安全の確保がしやすくなるな。」

 

 戒翔の言葉にハジメは呆れた表情をしつつも安堵する。

 

 「何を安心している。確かに二人で協力するのは当然だがおんぶに抱っこでは困るからな。ここから脱出する迄にある程度戦闘もこなせる様に訓練するぞ?ハジメの持つ銃は強力だがそれ以上に近接が弱いからな。ミッチリとやるからな。」

 

 「………マジ?」

 

 「当たり前だ。確かに俺が近接をやれば事が済むが俺は基本的に遠近中距離と選ばない戦いが出来るからな。出来ればハジメもそう言った戦いが出来るようになって欲しいが先ずは接近されない様に訓練だな。」

 

 ハジメの安堵の言葉に戒翔は呆れた表情のままにハジメに厳しいことを言う。

 

 「当たり前だ。先ずは相手の動き出しを見極める所からだな。その要がお前のスキルになった〝纏雷〟だな。」

 

 「なんで〝纏雷〟なんだ?」

 

 「気付かないのか?人間の反射神経ってのは体の微弱な電気信号なんだよ。なら字的に雷を纏うって事はそれに伴う行動に補正が入る筈だ。」

 

 「考えもしなかったな。戒翔、お前ってやっぱりすごいな。」

 

 「こんな事はある程度勉強をしていればわかる事だ。しかし雷を身に纏うなんて事は現実には起こり得ないから考えもしないだろうな。」

 

 戒翔の言葉にハジメは驚きのあまりに目を大きく開く。

 

 「まぁ、俺のスキルの〝雷化〟の場合はもっと反則だがな。」

 

 「どういう事だ?」

 

 「それはな、文字通りの事だよ。自身の体を雷そのものに変えるんだよ。」

 

 話をしながらも銃の整備及び錬成をしていたハジメは戒翔のその言葉に錬成の手を止めて戒翔の事をマジマジと見る。

 

 「……はい?」

 

 「んで、その状態だと雷と同じ速度で移動し、高速思考に反射神経や動体視力の超強化に加えて触れたものに雷に触れたのと同じ状態にしつつ物理攻撃は完全無効になる。」

 

 「……それってなんてチートだよ。」

 

 「速度なんかが上がる反面に一撃の威力が下がるがそこは工夫をすれば克服できるから問題ないが。つまりはそういうことだ。言い方は悪いが俺の〝雷化〟はハジメの〝纏雷〟の上位互換の様な物だ。」

 

 「つまりこのスキルを使い熟すことが出来れば」

 

 「大幅の戦力の幅が広がるって事だ。分かったら少し休んでから魔物で実戦訓練するからな。危ないと思ったら俺が助けるから安心しろ。」

 

 「安心しろって」

 

 「生きるか死ぬかの境目はしっかりと把握しているからな。」

 

 「それは安心できる要素が何一つ安心できねぇよ!」

 

 戒翔の言葉にハジメはこれから始まる地獄の様な訓練に悲鳴を上げる。

 

 「大丈夫だろ。実際にハジメは死ぬ思いでこの力を手に入れたんだ。それに元の世界いに帰りたいって思いがあるんだろ?人間ってのは想いが強ければ強い程強くなれる生き物だ。」

 

 戒翔の何処か重みのある言葉にハジメは知らず知らずのうちに真面目な表情になる。

 

 「分かった。戒翔の言う通りだな。俺ももっと強くなって無事に元の世界に帰りたいからな。」

 

 「ではでは、南雲ハジメの魔改造計画の始動だな!」

 

 「今の一言でメチャメチャ不安になってきたぞ……!?」

 

 戒翔の言葉にハジメが一気に青褪める。ハジメの明日はどうなる。

 



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第七話

 

 「まだ下に下りるのか」

 

 「どのくらいだろうな。ハジメを見つけた場所から大体五十階層って所だな。」

 

 戒翔とハジメは魔物が出ない安全領域らしき所でハジメは弾丸の作成を戒翔は安全領域と見られる所で周囲の警戒をしていた。

 

 「さてと、ハジメ。俺の能力はステータスを見て分かったと思うが、それが俺の能力の全部じゃないんだよ。」

 

 「どう言う事だ?」

 

 「つまりこう言う事だ。〝ナハト〟セットアップ」

 

 《OK、standby ready》

 

 「んなッ!?」

 

 作業の手を止めてハジメは戒翔の方を見ると戒翔は首に下げたペンダントを頭上に掲げ、一言告げるとその掲げたペンダントから電子音声が響くと戒翔の足下から黒い極光が迸り戒翔の身を覆う。その眩い光にハジメは腕で顔を庇いながら想定外の光景に言葉を失う。

 

 「コレが俺の持つ表記されていない能力の一つだ。」

 

 光が徐々に収まり見えるようになった所で戒翔の姿にハジメは

 

 「なんだよ、それ」

 

 「元時空管理局局長としての正装だ。ハジメには言ってもいいが、俺は俗に言う転生者って奴だ。」

 

 光が収まった先にいたのは漆黒の西洋鎧を彷彿とさせる物であったが、しかし服のような物で腕や足周りに装甲の様な物が装着されていた。その姿を見てハジメは言葉少なく呟くと戒翔は簡単に説明をする。

 

 「転生者って二次元の話」

 

 「今現在の俺達の状況こそが二次元の様な物だがな。まぁ、そこはいいが俺がハジメに隠していた秘密ってのはこれの事も含む。」

 

 「…含むって事は」

 

 「まだあるが、今の現場では話す事はできない。」

 

 「なんでだ?今は俺達だけなんだろ?」

 

 「確かにそうだが、仮にお前が洗脳なり記憶を読まれたりした場合に此方のアドバンテージを失う可能性もある。〝ナハト〟単体ならそこまで問題じゃないからな。」

 

 ハジメの疑問に戒翔はそう言って締め括る。

 

 「お前がそう言うならそうなんだろうが、俺だってそう簡単にやられる程弱くはないぞ。」

 

 「まぁ、今のステータスなら生半可な連中なら負けはしないだろうが個が群に勝てるのは一部のイレギュラーだからだ。並の奴なら擦り潰されて終わりだ。だけど、ハジメお前は違う。お前のその錬成は群に勝てる要素を備えている。その証拠がお前が作り出したその銃が証拠だ。」

 

 不服そうなハジメに苦笑しながら戒翔はハジメが手に持つ〝ドンナー〟を指し示す。

 

 「この世界は基本的に魔法やスキルに頼った戦闘スタイルだ。そして遠距離の攻撃は個人なら魔法か弓矢で軍等ならバリスタや大砲があるだろうが、個人で携行出来る銃火器を作って使用できるのは…ハジメ、お前だけだ。その強みをどこまで活かせるかが今後のお前を決めると言っても過言では無い。」

 

 「そこまでなのか?」

 

 「この俺が地上で何も調べていないとでも思ったか?見知らぬ土地でなんの情報も無しに動けばどうなる?情報収集は必須項目と言ってもいい。コレからの冒険でも先ずは情報を集めて吟味して自分の中に落とし込めばいい。」

 

 「あぁ、分かった。」

 

 「情報収集の仕方ならお前もわかるだろうが念の為に地上に出られたら一から教えるからな。銃を使った戦術に情報収集の仕方に近接格闘の訓練と目白押しだ。しっかりと指導してやるから楽しみにしておけよ?」

 

 「前にもこんな事があったなぁ」

 

 戒翔のイイ笑顔にハジメは頬を痙攣らせて遠い目をする。

 

 「さて、話はこんな所で終わらしてあのいかにもな扉を見に行くか。ハジメ、ドンナーの整備はどんな感じだ?」

 

 「後は弾薬の補充って所だ。」

 

 ハジメの言葉になにか納得したのか戒翔は肯くと

 

 「では、ハジメはそのまま補充の方を続けてくれて構わない。俺は先にあの扉を調べる。」

 

 「それはいいけど大丈夫なのか?」

 

 「なに、何かあっても俺が負ける事はないよ。それに今の俺のこの力のお披露目でもあるからな。簡単に殺される様な魔物では困るがな。」

 

 疑う様な眼差しに戒翔は挑発的に笑い、作業をしているハジメをそのままにして奥の大扉の所まで移動する。

 

 「コレは…特殊な鍵が必要なタイプの扉か…で、コレに触ると」

 

 大扉に軽く触れ、魔力を流して調べようとしたところ、両隣に立つ巨人の石像が反応する。

 

 「侵入者対策か…この先にはよほど見せたくないモノでもあるのかな?まぁ、此奴らを潰せば邪魔は入らんか。」

 

 まるで皮が剥がれる様に表面の石肌が剥がれると緑色の肌に腰蓑を履き、片手に一撃で普通の人間なら簡単に挽肉にできそうな巨大な棍棒…戒翔達からすれば巨木をそのまま武器にした様な物を持った魔物〝サイクロプス〟が二体、戒翔の前に立ち塞がる。

 

 「さぁ、始めようか。せいぜい少しは俺を楽しませてくれよ?先ずは弾幕だ。〝ナハト〟威力を抑えて様子見だ。」

 

 《OK、darkbaretto》

 

 「穿て!」

 

 戒翔のその言葉と同時に周囲に浮かべた無数の黒色の魔弾が二体のサイクロプスに殺到する。

 

 「「ガアアアァァァァッッ!!!!」」

 

 機関銃の様な速度で撃たれる魔弾の凄まじさに悲鳴の様な怒号の声を上げる。

 

 「流石にその図体ならではのタフさだな。ではもう少し威力を上げていくぞ?」

 

 《genocideshift》

 

 戒翔の側に展開していた魔弾だったが、戒翔の言葉にナハトが応えるようにその電子音声が流れるのと同時に二体のサイクロプスをグルリと囲むように魔弾が配置される。

 

 「正面からの攻撃と逃げ場の無い攻撃どちらが効くかな?」

 

 そう言って戒翔は

 

 「撃ち尽くせ!」

 

 そして、先程の攻撃が生温いと感じるほどの衝撃と音が響く。先の攻撃が機関銃ならば今の攻撃は爆撃かと思えるような攻撃である。そして囲むようにしているためにサイクロプスは逃げる事もできずにその場に張り付けるようにして不出来なダンスを踊るようにその身に魔弾を受け続ける。

 

 「ガアァッ!!!!」

 

 しかし、サイクロプスもやられるままではいられないとばかりに手に持った棍棒を目の前の戒翔に振り下ろす。

 

 「ほぉ、反撃をするか。だが…無駄だ。」

 

 《protection》

 

 戒翔の頭上に黒い円形の魔法陣が形成されるとそのままサイクロプスの棍棒の振り下ろしを受け、凄まじい音がするものの微動だにせずにその重量級の攻撃を受け切る。

 

 「…守護系統の魔物だが知能が低すぎるな。この程度なのか」

 

 攻撃を防がれた事に戸惑うサイクロプスを尻目に戒翔はその様子をみて落胆の表情を見せ

 

 「もう終わりにしよう。」

 

 《Buster mode》

 

 戒翔の声に呼応して〝ナハト〟は戒翔の後ろに無数の極小の魔力球を生成する。

 

 「撃ち滅ぼせ」

 

 《thousand razor》

 

 戒翔の背後に待機している魔力球が輝きを増すのと同時に二体のサイクロプスが瞬く間に蜂の巣の様に穴だらけにされ一瞬で絶命する。

 

 「この世界の魔物はこの程度なのか?それともこの大迷宮がこの位なのかまだまだ判断材料が少ないか」

 

 そうして魔物の死体を前に戒翔が考察をしていると銃を整備していたハジメが近づいて来る。

 

 「戒翔ってここまで強かったのかよ。」

 

 「他の連中の前だと余計な事が起きそうだったし誰かに見られているって気配もあったからある程度強いって位に調整だけはしてたからなぁ。次いでにあの時のステータス開示の時にも改竄してたし」

 

 ハジメの言葉に戒翔は苦笑しながらその時の種明かしをする。

 

 「まじかよ。流石は戒翔って所だな。」

 

 「さ、後はこの魔物を調べるだけだな。この大扉を開くための鍵か何かを持っているはずだが、俺の魔法でそれごと消し飛んでいなければ良いが」

 

 「一々不安になる事言わないでくれよ。」

 

 そして戒翔とハジメは魔物の死体を調べ、鍵の様な球を見つけ出す。

 

 「魔物の肉体に鍵を仕込んでいるとかベターだな。」

 

 「これであの扉の先に行けるな。」

 

 手に入れた宝玉の様な形の鍵を扉にある二つの窪みに嵌めると大きな音を立てて大扉がゆっくりと開く。

 

 「さて、奈落の底の先にはなにが待っているのやら」

 

 そう言って戒翔とハジメは扉の先の暗い空間に歩き始めるのであった。

 



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第八話

 

 「……だれ?」

 

 「これはなんとも」

 

  「人…なのか?」

 

 扉の先にいた存在に戒翔とハジメは困惑する。それは巨大な立方体に下半身と両手を中に埋められた年端も行かない様な少女であり見事な長いブロンドの髪がかのホラー映画で有名な幽霊の様に垂れ下がり、そのストロベリームーンを思わせる瞳が二人を見る。

 

 ハジメはそれを見て踵を返そうとするが、その襟首を戒翔に掴まれる。

 

 「離せ、俺は他の道を探して来る。」

 

 「まぁ待て。先ずはこの子の話を聞いてからでも問題ないだろう?」

 

 「……お願い、助けて……」

 

 とてつもなく嫌な表情のハジメに戒翔は真面目な表情で項垂れていた少女を見ると、少女は憔悴しきっているのか掠れた声で助けを求めていた。

 

 「そもそも、こんな奈落の底で明かに封印されている様な奴を助けて何になる?絶対にヤバイだろ?それに此処には迷宮を脱出する為の手がかりもない様だしな」

 

 「ハジメはホンットに奈落に落ちてから変わっちまったな。香織が見たら怒りそうだな。」

 

 「なんで此処で白崎さんが」

 

 「それで、君はなんでこんな怪物が跳梁跋扈する奈落の底で封印の様な事になっているんだ?」

 

 呆れ顔の戒翔に不満げな表情のハジメだが、そんなハジメをよそに戒翔は磔の様な状態の少女に近付きながら質問をする。

 

 「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる…だから皆の為に頑張った。でも…ある時に……家臣の皆がお前は必要無いって……おじ様……これからは自分が王様だって……私はそれでも良かった……でも、私、すごい力あるから危険だって…殺せないなら……封印するしか無いって……それで、ここに」

 

 ほとんど枯れた喉で懸命に言葉を紡ぐ少女の言葉に驚くハジメとやはりなとばかりに思案顔の戒翔

 

 「君は王族…しかも女王の様な立場で、家臣に裏切られたって事か」

 

 「殺せないってどういう事だ?」

 

 「……勝手に治る。怪我しても直ぐに治る。首を落とされてもその内に治る」

 

 戒翔とハジメの質問に少女が語った事にハジメは目を見開く

 

 「…そ、そいつは凄まじいな。すごい力ってのはそれの事か?」

 

 「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

 

 二人はなるほどと納得する。ハジメは魔物を食べて直接魔力を扱える様になったが、依然として大掛かりな物に関しては陣が必要であり、碌に魔法が使えない事には変わりは無い。しかし、少女の様に魔法の適性がある人物が魔力操作を覚えると話は違う。周りが詠唱や魔法陣で準備している中で無詠唱で魔力が続く限り撃てるのだからその反則具合は分かるはずである。そして、不死。絶対的では無いのであろうが、勇者を凌ぐ様な力である事は明白である。

 

 「……たすけて……」

 

 「どうする、ハジメ?」

 

 「お前はどうなんだよ?」

 

 懇願する少女を前にハジメに問うが、ハジメは逆に戒翔に問う。

 

 「…俺か?俺は助けようと思うが?」

 

 そう言って戒翔は少女の体を拘束している立方体に触れる。

 

 「俺でもコレは解除ないし破壊は出来るだろうけど、ハジメの職業ならこれを解析して分解するなんて簡単だろ?だからハジメの協力が必要なんだよ。」

 

 戒翔の言葉にしばし葛藤するハジメだが、遂には観念したのか頭をガシガシと掻き

 

 「だー、分かったよ!ただし、そいつの面倒は戒翔、お前が見ろよ!」

 

 そう告げてハジメは立方体に触れて錬成士の能力を使い少女を閉じ込めていた立方体を分解する。最初は立方体は抵抗するかの様にハジメの赤黒い魔力を弾いていたが、ハジメも負けじと注ぐ魔力を増やし対抗する。

 

 「意外としぶとい様だな…ハジメ、俺の魔力も使え〝トランスファー〟」

 

 「これは…コレなら!」

 

 戒翔から流れて来る魔力はハジメをして驚くほど力強い物で先ほどまで強い抵抗感を感じていた立方体の力が弱く感じるほどであり、徐々に空気に溶ける様にして消えて行く。そして長い間少女を閉じ込めていた物体が消え、少女はその場に一糸纏わぬ姿で地面にペタリと座り、ハジメと戒翔を見上げる。ハジメもまた普通であれば無理な魔力運用で疲労してもおかしく無いが、戒翔から流された尋常では無い魔力によりそこまでの負担にはならずに済んだが、それでも疲労しており肩で息をしていた。

 

 「はー…はー…コレで文句ないだろ?」

 

 「あぁ、上出来だ。流石はハジメだな。」

 

 「はっ、皮肉か?戒翔の魔力なきゃもっと手間取ってたのは確実だったぜ?」

 

 荒い息を吐くハジメは隣に立つ戒翔を見上げながら告げると戒翔は満足げな表情で告げる。ハジメはそれを聞きながら地面に腰を下ろしながらニヒルに笑う。

 

 「さて…と、お嬢ちゃんもそんな格好だと色々とまずいしな…このマントでも羽織っておくといい」

 

 そう言って戒翔は何処からともなく真紅のファー付きのマントを取り出すと少女にかぶせる様にかける。

 

 「……あ、ありがとう」

 

 戒翔から渡されたマントに身を包みながら少女は頬を少し紅くしながら弱々しく戒翔の手を握りお礼を言う。握って繋がった手はそのままに戒翔は無表情な少女の目を見る。表情が動かなくともその瞳が彼女の気持ちを雄弁に語る様に宿っていた。

 

 戒翔は以前、城の資料庫で見た吸血鬼についての記述は数百年も前のことだと記憶していた。そしてそんな永劫とも呼べる時を孤独に過ごしていた少女は既に声の出し方や表情の動かし方を忘れるほどであると理解もしていた。そんな戒翔は先祖返りとはいえただの少女がよくもまぁ発狂しないものだと感心もしていた。そんな少女を見ながら戒翔は空いた手でその頭にポンと手を置く

 

 「よく頑張ったな。」

 

 「……あなたたち…名前、なに?」

 

 「俺は戒翔だ。御坂戒翔。で、そっちで座ってんのが南雲ハジメだ」

 

 少女は二人の名前を呟く様にまるで自身に刻み込むかの様にしていた。そして、自身の名を告げようとするが急に噤み、

戒翔を見上げ

 

 「……名前、付けて」

 

 「は?」

 

 「ハジメ、察しろ。以前の名前は使いたくないんだろう?」

 

 「うん。もう、前の名前はいらない。……ハジメとカイトの考えた名前がいい」

 

 「とは言ってもな…戒翔は何か案はあるか…?」

 

 「急に言われてもな……〝ユエ〟ってのはどうだ?お嬢ちゃんのその紅い瞳に月の様な色の髪を見て思いついた。俺達のいた故郷では〝月〟って意味なんだよ。」

 

 「ユエ?……ユエ……ユエ」

 

 「どうだ?」

 

 少女は戒翔の言葉に驚いた様にパチパチと瞬きし、相変わらずの無表情だが、どこか嬉しげに瞳を輝かせ

 

 「……んっ。今日から私はユエ。ありがとう」

 

 「さて、挨拶や紹介そのた諸々が終わった所で邪魔者の排除をしようかね」

 

 「は……ッ!?」

 

 お礼を言う少女に満足げな顔で戒翔はそう呟き、少女の手をやんわりと解き頭上を見上げながら告げ、そんな戒翔にハジメは訝しむが直ぐにスキルである〝気配察知〟を使い絶句する。今までに感じたことのない様な化け物の気配を感じた。そしてその気配はそう…戒翔がちょうど見上げる先のこの部屋の真上にある天井だ。

 

 ハジメが気がつくのと同時に魔物が天井から落ちて来るのは同時であった。

 

 「くっ!」

 

 「ハジメ、ユエを抱えて離れていろ。」

 

 咄嗟にハジメはユエを抱えて〝縮地〟を使う。その際に隣にいた戒翔の言葉に目をコレでもかと見開きながらも声を出す余裕もなく離れる事しか出来なかった。

 

 「ユエと話している最中に襲ってこなかったのは様子を見ていたからなのか、それとも別の要因があったのか知らんが……彼女をこれ以上苦しめるのは見過ごせんなぁ!」

 

 べへモスに負けず劣らずの図体をした魔物は四本の長い腕に二本のデカい鋏を持ち、八本の大きな足を忙しなくワシャワシャと動かし、二本の尻尾が生えておりその尻尾の先端には鋭い針が付いていた。その姿は簡単に言えば巨大なサソリである。そんなサソリを前にしても戒翔は不敵な、そして獰猛な笑みを浮かべて腰を少し沈める様にして半身の構えを取る。

 

 「俺達の邪魔をするモノは誰であろうと……殺すだけだ!」




と、言うわけで作者の好みによりハジメハーレムからユエも離脱となりました。他にも何人か戒翔につけようと思いますが、ハジメ君のヒロインは早めの参入を視野に入れているのですが…期待しないで待っていてください。


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